流れ者の考察記録 (sesamer)
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1. 念能力×流星街×幻影旅団


 本小説は考察メインな為予めご注意下さい。
 本誌のネタバレもあるのでそこもご注意下さい。



 

ーーーCASE1 念能力ーーー

 

 

 

 俺が創作上の特殊能力のシステムで1番好きなのがハンターハンターの念能力だ。作者がゲーム好きなのも相まってこのシステムにはゲーム的な要素がたくさんある。

 

 例えば系統だ。念能力とは生き物が持つ生命エネルギーをオーラとして扱う技術なのだが、そのオーラの使い方には種類がありその系統は人それぞれ得意分野が違う。

 

 具体的に説明すると系統は6つ存在し、オーラで肉体を強化する強化系、オーラに様々な特性を付与する変化系、オーラで物質を実体化させる具現化系、オーラで物や生物を操作する操作系、オーラを肉体から切り離す放出系、5つのどれにも当てはまらない特質系がある。面白いのはこの6つの系統には順番があり、隣り合った能力ほど相性が良く、離れるほど扱うのが苦手になるのだ。

 

 だから基本的には各種個人の得意分野を伸ばしつつ鍛えるのが1番強くなる……のだが、ハンターハンターの世界はそんな単純な話ではない。この強さとは絶対的なものではあらず、敢えて苦手な他の系統を組み合わせることで敵を倒す為の能力、目的を達成する為の能力としての完成度を上げるという選択肢もあるのだ。

 

 そして個人的に念能力が面白いと思うポイントはもう一つある。それは制約と誓約だ。これは格闘ゲーム等における必殺技という概念を上手く漫画の設定として落とし込んだものだ。

 

 例えば格闘ゲームのキャラは様々な技を持つが、強力なものほど当たりにくかったり外した時の代償が重かったりする。その理由としては強力な技に代償がなければそれだけを撃てばいいわけで、それ以外の技の存在価値がなくなるから、というものが考えられる(そのようなゲームが無いわけではないが……)

 

 念の話に戻すと、この制約と誓約はルールを決めてそれを遵守すると誓うことで能力の効果を上げるというものだ。このルールというのは多種多様で、能力の発動条件を制約として決める場合が多い。この制約が厳しくなればなるほど能力の効果も上がり、ゲームでいうデメリットのある強力な技へと変貌する。オーラは感情によって増減する為、制約を定めて自身に覚悟を強いることで出力を上げるという寸法だ。

 

 

 

 だから読者が念能力について妄想する時、まず6つの系統から自分に合ったものを選び、更に制約と誓約を考え、効果を考える、という三重の楽しみがあるのだ。

 

 そしてこの系統を判別するのには方法があり、名を水見式と呼ばれる、コップに水を入れてその上に葉っぱを乗せてそこで発動したオーラによってコップに引き起こされる現象で系統を判別するというものだ。

 

 

 

 だから俺がハンターハンターの世界に転生したと気づいたときに真っ先に試したのがその水見式だった。水見式は念を習得してからじゃないと何も起きない為空振りに終わったのだが、こうして説明すると、自分がなんでハンターハンターの世界に転生したと気づいたかが気になることだろう。

 

 ハンターハンターの世界はパッと見は現実世界と同じ世界観(時代は少し前だが技術文化は現代相応)なので普通に生活したままでは気づかない可能性も高いのだが、自分は生まれた場所が場所だった為すぐ気づくことができた。

 

「流星街じゃねぇか……転生させるならもっと別の場所にしてくれよ……」

 

 

 

ーーーCASE2 流星街ーーー

 

 

 

 流星街についての説明をざっっっくりと説明すると、めちゃくちゃデカいスラム街である、説明おわり。

 

「しかもサラサ死んだ後っていうね。詰みすぎててこんな所さっさと出たいんだが」

 

「ステラ、何してるの?」

 

 黒髪の幼女が隣の椅子に座る。一応自分も幼女なんだが隣の本物の幼女と比べると自分のようなエセ幼女とは雰囲気が全然違う。

 

「修行だよ修行。ほら、マチさんが変な能力使ってたじゃん。それを使えるようになりたいの」

 

「へぇ〜、じゃあ私も修行する」

 

「えっ、シズクが?(いやでも最終的には目覚めるわけだし今からやっても別におかしくはないか)」

 

 それに目の前の幼女はちょっと……というかかなりの天然が入っている。原作でも数日前の出来事を忘れるほどうっかりしてるからな。

 

 隣に座った幼女の名前はシズクといい、原作では幻影旅団という名の盗賊団の一味になる女だ。幻影旅団は流星街出身のクロロをリーダーにした組織で、その目的は色々あるがざっくり説明すると超極悪の犯罪者集団だ。というか流星街という環境自体が犯罪者を育てる温床と言っても良い。だからさっさと抜け出したいんだけどなぁ……

 

 その後一緒に修行し始めたのだが予想通りシズクは3日坊主で終わり、俺の修行は1年後にようやく実を結ぶのであった。

 

 

 

 流星街は長老と呼ばれる長達による議会によって統治されているが、その方針に大きな変化をもたらしたのが幻影旅団と、それを率いる団長クロロ=ルシルフルだった。彼らは犯罪の温床となっていた流星街の現状を変える為動き始め、まずはマフィアに人材を派遣することでマフィアに後ろ盾になって貰うという方針を立てた。

 

 それはクロロに取っては単なる布石でしかなかったが、長老達にとっては流星街を守る為の新たな一手であり、クロロのことを幻影旅団を結成する前から目を掛けていた長老達は、彼のような才能ある子供から意見を聞くのが流星街をより良くする為の手段だと認識した。そして同じように目を掛けている少女を招こうとする意見が出る流れになるのもそう遅くなかった。

 

 

 

ーーーCASE3 水見式ーーーー

 

 

 

 流星街がそんなことになってるのもつゆ知らず、俺は相変わらず念の世界にどっぷりとハマっていた。1年の修行期間を経て俺は纏と練を習得することができた。それが分かると俺は早速水見式の準備をする。

 

 いや〜、俺って何の系統なんだろうな〜???性格でいうなら強化系か放出系かな?けどアレってヒソカの独断と偏見であって血液型診断みたいなものだからなぁ……

 

 そうやってウキウキしながら準備していると、シズクが興味深そうに近寄ってくる。

 

「何してるの?」

 

「おぉ、シズクも見ていくか?念はこんなこともできるんだぞっと……練!」

 

 俺がコップにオーラを流すと……なんとコップには変化が……

 

「あり?」

 

「なんもないけど」

 

 はあ!?いや嘘だ!特質系でない限り必ずコップには系統に沿った変化が現れるはずだし、その特質系に関しても変化の仕方が定まっていないというだけで必ず変化は現れるはずだ。

 

 特質系の水見式に関しては5系統以外の変化が発現するというざっくりとした説明だが、これに関しては特質系の念能力者について考えることでなんとなく類推することができる。

 

 特質系の念能力者の能力は基本的に自分で能力を作ろうとして作るのではなく、気づいたらできていた(ツェリードニヒ)、或いは衝動的に能力が発現した(ピトー)パターンが多い。これは特質系の能力の本質が他の系統とは関係なくその人個人によるものであるからだろう。

 

 そして個人による能力の本質が水見式に関係していると考えれば説明がつく。例えばクラピカの水見式は葉っぱが回り出し水の色が変化するが、これはクラピカの絶対時間が操作系や放出系など他の系統の適正を目覚めさせるものだからだろう。作中で確認されなかっただけで恐らく水の増加や水の味の変化もあったと思われる。ツェリードニヒの水見式ではコップの中身が腐るという現象が起きたが、これは彼の念能力が未来予知という時間に関係するものの可能性がある。コップの中の時間が経過したことで結果的にコップが腐ったということだ。

 

 

 

 そんなことを考えて現実逃避をしつつも何度か練を繰り返すと、コップの中が僅かに濁ってきた。

 

「あっ、コップの中身が濁ってる……」

 

「ふぅ、疲れた……なるほど具現化系か。まだオーラが少なかったから目に見えにくい微細なゴミしか具現化できなかったわけだ」

 

 そう考えると今回のケースは俺の練が未熟だったってだけだな。1年間修行したとはいえ、俺には師匠なんかいないし(辻褄合わせとしてマチから修行の方法だけは聞いてる)それは間違いなく修行効率の低下に繋がってるだろう。

 

 

 

 普通の人間が1年間修行すると今の俺と大体同じレベルまで念を使えるようになるわけだが、それは基本の話であり念の習得期間には様々な要素が絡む。

 

 まず1番大きいのは才能だ。主人公であるゴンとその仲間のキルアは外法と呼ばれる念の攻撃(便宜上攻撃という名前であってダメージはない)を受けることによって念を習得したが、本来のように人が少しずつ出している生命エネルギーを感知する方法でも1週間あれば習得できるという見立てであった。それ以前からゴン達の師匠であるウイングから修行を受けていたズシという少年は半年の期間を掛けてその段階にいたわけで、それらをウイングはズシが10万人に1人の才能でゴン達は1000万人に1人の才能を持っていたと表現していた。

 

 ……まあ世の中にはそれすらも上回る人間はいる。継承戦においてカキン王国第四王子であるツェリードニヒはオーラを感知して纏をする段階を一瞬でスキップした。比喩ではなく本当に一瞬なので、彼の才能はゴン達を遥かに超えるだろう。

 

 

 

 ただ、才能だけが修行期間に関わるというわけではない。ウイングは才能ある人間であるズシに半年間掛けて纏を習得させたわけだが、ビスケは2ヶ月間あれば筋のある人間の身体能力を倍以上にできると言い切っている。ビスケはある程度才能がある人間なら2ヶ月以内で纏を習得させることができるということであり、教える人によっても念の習得期間に差が出ることは明白である。

 

 それを踏まえると俺が師匠の手を借りず1年間で練まで習得できたのはとても才能があるのではないかとまで思える。まあ皆が遊んでる間もずっと修行していたから掛けた時間でいうと2、3年くらいの密度になるんだが……

 

 

 

ーーーCASE4 具現化系ーーー

 

 

 

「へぇ……他人の水見式は初めて見た。それ何系?」

 

「あ、お久しぶりですマチさん。これは具現化系です。コップに不純物が混ざってますので」

 

 シズクは暫くの間コップの変化を不思議がり、自分がやっても何も起こらないのを知るとつまらなさそうに別のところに遊びに行ったが、そこに一応の師匠ということになっているマチが来た。俺はマチにコップの地味な変化を主張しながら言う。

 

「それにしても具現化かぁ。よかったぁ」

 

「そういえばアンタ前に1番なりたいのは具現化だって言ってたわね」

 

「そうですよ!念で物を実体化させるなんて素晴らしいと思いませんか?まさしく生命の神秘!って感じで」

 

「うーん、相変わらずアンタの価値観はよく分かんないわ」

 

 具現化系の魅力についてマチに力説するが袖にされる。まあ具現化の真の魅力は他人に説明できるものじゃないから分かってもらえなくても仕方ないんだが。

 

 

 

 ハンターハンターにおける戦闘はこの念能力を使った殴り合いが基本になる。なぜなら遠距離の戦闘になると防御側に対して攻撃側が念を使う利点が薄くなるからだ。

 

 例えば放出系は念を体から切り離すのが得意であり、遠距離の戦いも得意なのだがそれはあくまでも他の系統が苦手である為相対的に得意になる、という話で遠くに飛ばせば飛ばすほど弱くなっていくのは放出系も同じだ。

 

 そういうわけで、相手が同レベルの念の防御ができるという前提ならパワーを落として遠距離攻撃をするよりもそのパワーで直接攻撃するのが1番効果的なのだ。勿論例外も多々あるが。

 

 

 

 そして念で殴り合いをする上で重要なのは強化系の素養がどれだけあるかだ。例えば強化系と具現化系、お互いに同程度の肉体強度と同程度のオーラ量を持つ能力者のパンチがぶつかったとする。一見すると威力は同じだが、ここでお互いが拳を強化していたとすると話は全く別になる。

 

 拳の強化に100のオーラを使って100の強化ができる強化系の能力者と拳の強化に100のオーラを使っても60の強化になってしまう具現化系の能力者では拳の強度が全く違うからだ。

 

 勿論話はそう簡単ではないが、強化系の素養の有無が単純な殴り合いにおいて重要なファクターになるのは分かるだろう。そして、その一点において強化系と相性の悪い具現化系と操作系の能力者が不利を負っているのは否定できない事実だ。

 

 

 

 だが、操作系と具現化系にはそのハンデを背負ってでも尚有り余る長所がある。操作系は人を操作できる為、殴り合いの途中でその条件を満たせば敵を倒す必要すらない。具現化系は具現化した物に特殊なルールを付与することができる為、それで殴り合いを拒否することができる。

 

 更にこれは自分の考察なのだが、この具現化は一種のブラックボックスなのではないかと思っている。なんでも切れる刀という人間の想像力の限界があるものは具現化できないことは広く知れ渡っているが、具現化した物に付与されたルールを用いてならこれに限りなく近いものを再現することだって不可能ではない……と思う。

 

 つまるところ、ルールさえ工夫すれば操作系より更に満たしやすい条件で敵に勝つ能力を作るのも不可能ではないのだ。

 

 

 

ーーーCASE5 分身ーーー

 

 

 

「それで、何を具現化しようと思ってるの?」

 

「……分身、ですかね」

 

「分身?使うの難しそう」

 

 マチの率直な感想は正しい。作中において分身の能力は複数出てくるが、1つは想定通りの運用をするのに致命的なエラーがあり、他の能力も制約が厳しく汎用性は低い。

 

 特に前者の例はハンターハンターの読者はすぐに分かるだろう。ヒソカの「メモリのムダ遣い❤︎」という名言を生み出したカストロのダブルだ。

 

 彼は優れた才能を持つ強化系でありながら、本人と瓜二つな分身を作りそれを自在に操作するという無茶をした結果、分身の具現化と操作に意識とオーラを持っていかれてしまうという致命的なミスを犯した。

 

 結果として本人の防御も凝をする余裕もなくなり、ヒソカの術中にまんまとハマってしまった(カストロは独力で念を習ったから凝はできないのでは?という意見もあるが、カストロはキルアの絶について正式名称である絶を使っていたので四大行は確実に知っており、優秀かどうかはともかく師匠の存在自体はいたと自分は思っている)

 

 

 

 だが、カストロは決して最初の方針から間違っていたわけではない。念で具現化した物を強化して殴るのは強化系の得意分野だし、やっていること自体は作中でも最強と謳われるネテロの百式観音とほぼ同じなのだ。

 

 百式観音に関しては裏技があるとはいえ、念で具現化した物を操作、強化して殴るという方針は間違ってない。

 

 では何が間違っていたのかというと、それは「自分の精巧な分身を作る」という相性の悪い具現化系の難度の高い技に挑戦したことと、「分身を自在にリモート操作し複雑な動きをさせる」というこれまた相性の悪い操作系の難度の高い技に挑戦したことだ。

 

 ヒソカはこの能力について、ダブルを使うのは大変すぎて他の能力を使えなくなることを指して「メモリのムダ遣い」と言ったのであって、やることのレベルを落として大変でなくすれば決してムダ遣いにはならなかったのだ。ヒソカがあそこまでガッカリしたのも分からなくもない。

 

 

 

 そして分身を戦闘に使うのにも色々な問題がある。まず分身を使うにしても使えるオーラ量は1人の時と変わらないという問題だ。分身にオーラを割いて攻撃力や防御力を上げたとして、その分だけ本人の攻撃力や防御力が下がってしまう。

 

 そして分身で攻撃するにしてもきちんと強化しなければ念で防御を固めた敵にダメージを通すことはできない。この辺は念を飛ばして攻撃するのと同じ理屈だ。

 

 分身を操作するのも難しい。オート操作で戦わせるとトチーノのように簡素な動きしかさせられないし、かと言ってリモート操作で戦わせるのはカストロやゴレイヌのように本人の意識状態が操作に反映されてしまう。

 

 

 

 だが、それらの問題を解決しつつ分身を使って戦う手段は存在する。

 

 要は戦わせなければいいのだ。トンチに聞こえるが、具現化系能力者であれば難しい話ではない。例えば、具現化した分身に触れることを条件に特殊なルールを発動すればいい。これなら分身には難しい操作なんて要らずただ「相手に触れろ」と命令すればいいし、敵に攻撃を通す為に強化にオーラを費やす必要もない。

 

 

 

ーーーCASE6 具現化系と放出系ーーー

 

 

 

 だがそれでも解決できない問題はある。それは放出系との兼ね合いだ。

 

 オーラを切り離して運用することには放出系の能力が必要である。この放出系と具現化系は系統図での距離が最も離れており、運用する能力の技術力と出力の両方ともに4割にまで減少する。

 

 だからといって具現化系能力者が放出系を全く扱えないわけではない。作中の具現化系能力者で具現化したものを手放さない能力者はむしろ少ない方で(絶対時間抜きのクラピカとシズクくらい)作中の具現化系能力者の多くが当たり前のように自分から離して運用している。

 

 これに対して自分は1つの仮説を立てている。それは、具現化したものが特殊な能力を持たない場合は自らと離しても問題は無いということだ。

 

 例えばコルトピの場合、「神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)」の能力でフェイクを作った後24時間はどれだけ自分から離れても消失しないが、これはフェイクに搭載された特殊能力は位置のサーチのみであり、更に具現化したモノの位置のサーチは難しくないと考えればそこまで無理のある能力ではない。

 

 ゲンスルーなんかもそうだ。「命の音(カウントダウン)」は一見複雑な能力のように見えるが、その実態は時限爆弾の具現化とその時間を数える為のカウンターだ。特殊能力はそのカウンターだけだと考えれば10人以上に取り付けた爆弾を爆発させるのも可能であると思う。(ゲンスルーの場合は複数人で能力を発動するジョイント能力者である為放出系や操作系を無視できるという考察もあるが、自分はジョイント能力はカウントを無視して起爆させる解放(リリース)だけであると考えている為、具現化系能力者として再現可能であるかどうかを考察した)

 

 極め付けは継承戦編に出てくるヒンリギだ。彼は「てのひらを太陽に(バイオハザード)」という能力を使って機械や武器を元の機能を残しつつ生き物に変えて操作することができるが、遠隔から蛇と化した銃を操って暴発させたり猫に変えたビデオカメラを残して監視したりと一見すると放出系と操作系を無視したような挙動をしている。だが、特殊な能力を載せているかや複雑な操作をしているかを焦点に置けばこの能力もそこまで無理のある能力ではない。具現化したものに載せた特殊な能力は無いし(元々持っている機能のみ)機械を仕様上の範囲内で動かすのは人間などを動かすよりもよっぽど簡単だからだ。

 

 つまるところ、具現化したものに特殊な能力を載せなければ距離を離して運用しても破綻は起きないのだと考えられる。クラピカの鎖が弱くなるのは強制絶という強力な特殊能力を有してるからであろう。

 

 

 

 だが、これではせっかくの具現化の醍醐味である特殊ルールとは共存できないのだが……まあ仕方ない。俺はメモリの無駄遣いだとバカにされがちな分身能力の真髄はあんなものではないと証明したいのだ。できることならこの分身能力でヒソカに勝ちたい。

 

 だから、今の俺がすべきことは自分のイメージを明確にすることだ。幸運なことに転生して見た目が変わったこともあって自分のイメージ修行が楽しい。これも今は亡きカストロの恨みを晴らしてくれと神様が言ってるに違いない!

 

 

 

 そう思いながら俺は1ヶ月間自分の体を触り続け、シズクに変質者だと誤解されるのであった。

 

 

 

ーーーCASE7 流星街の掟ーーー

 

 

 

 司祭の人に呼び止められ、長老会議に招かれたのは能力が一応の完成を迎えてから数日後だった。どうやら流星街でも珍しい念能力を6歳という若さで身に付けた自分に意見を聞き、念能力者をもっと増やす為にどうしたらいいかを会議する為だったらしい。らしい……のだが、

 

「クロロ様はどうでしたか?」

 

「俺の場合はマチから念の存在を聞き、約1年半を掛けて念の習得と今の能力の開発をした。その間することが多く修行に専念することはできなかったが、修行を続ければ念能力を身に付けることは難しくない」

 

「では、やはりその修行の難易度がネックになってきますな」

 

「子供が続けるには単調でつまらない。大人が続けるには費やす時間が多い。老人が始めるには集中力の低下が厳しい。何か良い手はないだろうか……」

 

 こんなところでクロロと遭遇するとは思わなかった。マチは割と頻繁に流星街に帰ってくるから慣れたし、シズクはそもそも旅団に入ってないから怖くもなんともないが、クロロは一度も会ったことがないレアキャラだ。

 

 あと単純に物凄い怖い。マチも雰囲気は怖いが顔は美人だし身長もそこまで高くないので怖さが和らぐところはあるが、長身のイケメンが怖い雰囲気出しても怖さは全く薄れないんよ……

 

「ステラはどう思うかの?君が念能力を獲得したのは類稀なる集中力を発揮したからだと聞いているが」

 

「ハ、ハイ。私はあんまり他の子と遊ぶのが好きじゃなかったので……その分修行にのめり込んだのだと思いマス……」

 

「では、普通の子供が念能力を身につけるのはやはり難しいか……」

 

 だが意見を聞くといっても、幼女である自分にそこまで求める人間も多くない。だから自分なりの見解を述べれば、後は空気と化して乗り切れると思ってたのだが……

 

「ステラと言ったか?」

 

「は、ハイ!」

 

「君の念能力を見せて欲しい。君が発まで習得したことはマチから聞いている」

 

 え?コレってまさか……狙われてる!?

 

 

 

ーーーCASE8 盗賊の極意ーーー

 

 

 

 そして俺は長老達とクロロの目の前で能力のお披露目をすることになった。学芸会ちゃうんやぞ!とは叫びたかったが、今の弱い立場の俺にそんなことはできない。

 

「……ではいきます。当然な風船人形(ワンダーバルーン)!」

 

 俺が手を前に突き出すと、その先から俺そっくりな念人形が現れる。人形を数回ジャンプさせ、近くにあった木にぶつける。

 

 パァン!という音と共に念人形は破裂した。その間長老達は俺の能力に対して驚嘆の声を上げ、クロロはじっと俺のことを見ていた。だから怖いって!

 

「……えー、私の能力は風船のような中身のない私そっくりな人形を具現化し、それを操作するというものです」

 

「ほぉ……これはこれは……」

 

「念能力では分身を作ることもできるのか……」

 

 能力の見た目こそはトチーノの能力である「縁の下の11人(イレブンブラックチルドレン)」とそっくりだが、やっていることはほとんど真逆だ。あちらは現実にある風船にオーラの塊を入れて操作する、というものだが俺の能力は風船人形を具現化してそれを操作する、トチーノの場合は放出系能力者が苦手な具現化系を省略する為に風船を利用したという形であり、俺は放出系が苦手な為に最初から戦わせる為ではなく撹乱に重きを置いた風船人形を具現化したというわけだ。

 

 徹底的にコストを下げたこの能力でも操れる範囲はトチーノと同じくらいの射程範囲しかない。だが、それはあくまで自動操作では操作能力の限界が来るからであり、自分が動けないことを制約として手動操作の人形を作ることで動ける範囲を飛躍的に拡大させることができる。

 

 

 

「1つ聞いてもいいか?」

 

「っ!……何でしょうか?」

 

「その分身、どのくらいの精度で操作できる?先程のが限界の距離か?」

 

 2つじゃねぇか!……というツッコミを飲み込んでクロロへの質問に冷や汗を流して逡巡する。だが悲しいかな、ここで答えない選択肢はない。

 

「いえ、もっと離して高精度の操作はできます……が、制約としてその間私は動くことができません」

 

「なるほどな……」

 

 そう言ってクロロは顎に手を当てて考え出す。いやコエーよ!今頃どうやってコイツの能力奪おうかな……とか考えてるよ絶対!

 

 長老達もしばらくクロロが何を言いたいのか図りかねていたが、クロロが相変わらず何も言わないのを確認すると、念能力がどのようなことができるかを俺を交えて話し出す。

 

 そしてクロロが爆弾を投下するのは会議の議題も終わるかという頃だった。

 

 

 

「少々実験をしたい。長老、ステラ。力を借りてもいいか?」

 

 

 

 そして会議は終わり、俺はやっちまったという表情をしながら集落への道を歩く。その途中に現れたのがクロロだった。

 

 あー、そりゃ盗むよなぁ……せっかくのコンボパーツだもん。今後の流星街の方針には必要不可欠だよなぁ……

 

「ステラ、君にして欲しいことがある」

 

「…はい……なんでしょうか……」

 

 実験というのは俺のワンダーバルーンと長老の持つ念能力である「番いの破壊者(サンアンドムーン)」を組み合わせて自立型の爆弾人形を作る、というものだった。ハイ、どう見ても流星街の掟に使われる爆弾人形ですありがとうございました。

 

 恐らく俺はここでクロロに能力を奪われるのだろう。クロロの能力である「盗賊の極意(スキルハンター)」は条件を満たした相手の能力を盗み具現化した本の中に封じ込めるというものだ。条件は4個で、一つ目は念能力を実際に見ること、二つ目は能力について相手に質問しそれに答えてもらうこと、三つ目は本の表紙と相手の手のひらに合わせること、四つ目はそれらを1時間内に遂行するというものだ。

 

 俺は会議の間にクロロに能力を見せ、クロロに能力の質問をされ回答し、そして1時間も経たない内に今この場にいる。つまりここでクロロに攻撃されて倒されれば、後はクロロが俺の手を本と合わせるだけで能力を盗まれてしまうのだ。

 

 そんな絶体絶命のピンチにいる俺だが、意外なことにもう諦めてる。え?全然意外じゃないって?まあ6歳の幼女が15歳くらいの青年に勝てるわけないからねしょうがないね。

 

 

 

 そんな絶賛諦めムードの俺に対してクロロが言ったのは意外な言葉だった。

 

「蜘蛛の仲間になって欲しい」

 

「……え?」

 

 ファッ!?俺くんがあの幻影旅団のメンバーに!?

 

「俺達は流星街を外の社会から守る為に恐ろしい流星街という偶像を作り上げようとしている。その為に君の力を借りたい」

 

「……」

 

「君の力で君の友達を助けることができるんだ」

 

 そう語るクロロには人を従えるオーラがあった。まるで生まれながらにして人の上に立つと決められていたかのような。

 

 それに対して俺は……

 

 

 

 

ーーーCASE OF QUWROFーーー

 

 

 

「よかったの?団長」

 

 徐々に小さくなっていく背中を見送っていると、気配を消していたマチが聞いてくる。どうやら戦闘が始まるとでも思ったのか待機していたらしい。仮にそうなってもこっちは傷つけずに終わらせるくらい余裕なんだが。

 

「あの子は流星街や俺達の下に居るべき存在ではない。爆弾人形の仕掛けのヒントになってくれただけで十分俺達の為に働いてくれた」

 

 俺はステラの言葉を思い出しながら話す。

 

(わ、悪いことをするのはいけないと思います!私は貴方達に協力することはできません!)

 

「悪いことはするのはダメ、か……もし彼女がいたら、同じ言葉で説教してくれたのかもな」

 

「クロロ……」

 

「だが、流星街にいてもどうせ長老達に使われているのは目に見えていた。外の世界は危険だが、彼女が彼女らしくある為にはこの世界にいてはいけなかった」

 

 だから、ステラを流星街の外へと連れ出した。6歳の子供が生きていくには危険な外の世界だが、あの子は覚悟を持って外の世界へと出て行った。ヒントのお代として結構な路銀も渡したから、これで俺達とあの子の関係もお終いだ。

 

 

 

 俺達は善人じゃない。だから良い子の味方にはなれないし、なってはいけない。そして悪人には悪人のすることがある。

 

「マチ、シャルに伝えてくれ。具現化系に属し人間を具現化できる能力者を探せとな」

 

「分かったよ、団長」

 

 

 




 念能力者の系統については冨樫展のメモを参考にしている為ガイドブックと合わない部分があるかもしれません。
 というかなんでガイドブックと作者のメモが矛盾してるんですかね……


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2. 実戦×気狂いピエロ×GI


 考察部分が長すぎてリハンみたいになってます。



 

ーーーCASE1 流星街ーーー

 

 

 

 流星街から抜け出した俺は現在、どこかのスラム街で野垂れ死にかかっていた。流星街の頃と変わってねぇじゃねぇかと思われるかもしれないが、これでもゴミから孤児にランクアップしてるのだ。

 

 流星街の成り立ちはどこかの国の独裁者の人種隔離政策だ。それによって被差別階級が隔離され、他の国からもその存在を認められていない空白地帯に人々が人や物をゴミとして捨て、捨てられた人が捨てられた物を使って生活するようになったのが始まりだ。

 

 未だに事実上は存在しない扱いとなっており、当然そこに住んでいる人間に戸籍のようなものはない。ハンターハンターの世界の人間は生まれてすぐ生体データを登録する義務がありこれが戸籍として扱われるのだが、流星街に捨てられた人間にその義務は発生しない。何故なら流星街は存在しないという扱いであり、またそこに住む人間も存在しないという扱いだからだ。そして生体データがなければ身元も保証されないわけで……

 

「まあ仮に戸籍があっても6歳の幼女が仕事になんて就けるはずもなかったんだが……」

 

 そんな感じでごく一般的な孤児としてスラム街に住み着き、朝と夕方の炊き出しと雨風を凌げる場所を恵んでもらっている。なんなら流星街に住んでた時と比べて生活がランクダウンしてる気さえするが、ぶっちゃけ俺としてはそこまで不満がある生活でもない。

 

 何故なら俺は念能力者で、纏を維持するだけでも常人より遥かに燃費良く動けるからだ。

 

 

 

ーーーCASE2 オーラーーー

 

 

 

 念能力が生命エネルギーをオーラとして操る技術であることは前にも説明しただろう。その内の纏は基本技術であり、基本の四大行として教えられる。その内容は普通の人間は少しずつ垂れ流している生命エネルギーを垂れ流さずにとどめることでエネルギーの無駄をなくすというものだ。

 

 垂れ流している分を纏うようにするだけでも肉体の頑健さは常人の2倍以上になるし、何より垂れ流している生命力を減らせるので老化等も遅くなる。

 

 だからこんな不衛生な場所にいても病気になる危険性は少ないし、日に2度の炊き出しだけで満足できるくらい燃費も良いのだ(こっちは俺が6歳の幼女だからかもしれない)

 

 そんな感じで俺は念の修行をしながら平和な日々を過ごしていた。だがその生活に慣れて一年ほど経ったある日、強い気配を持った人間がスラム街に現れた。

 

 

 

 これは念能力者に限らず鍛えた人間になら可能になる技術であるが、この世界ではオーラを気配として察知する技術が存在する。そして、それは円のような念の修得を必要とするものではない。

 

 例えばカストロはキルアの絶に気づいたことから、しばしば彼が円を使えるのだと勘違いされがちだが、あれは気配察知の応用である。キルアが絶をしたのはカストロと同じ階に来てからであり、それまでのキルアの気配をカストロは察知できたわけだ。カストロのセリフからもそういう原理だったのは分かる。

 

 

 

 それでその強い気配を持った人間に対して、俺は何をしたのかというと、咄嗟に絶をしてしまった。俺の周囲にはスラム街の住人がいたため、俺の気配は彼らの気配に紛れてなんらおかしいものではなかったのだが、ついついビビって絶をしてしまったことで逆に不審な気配になってしまったのだ。こちらが気配を察知できるということはあちら側からも同じことができるわけで、急に消えた気配を不審に思って近づくのは当然の行動だろう。

 

 そして現れた人物を見て、俺は自分がツイているのかツイていないのか複雑な気分になった。その人物は間違いなく善人なのだが、その人物が自分にもたらす影響がどうなるか分からないからである。

 

「こんな場所に念能力者のガキがいるとは……」

 

 そこにいたのは白髪を腰まで伸ばし目深に帽子を被った青年だった。

 

「っ!?」

 

「おい、お前なんて名前だ?」

 

 要は原作キャラだということだ。しかも死亡予定の。

 

 

 

 

 

ーーーCASE OF KITEーーー

 

 

 

 俺の師匠であるジン・フリークスは俺の命の恩人とも言える方だ。彼が俺を拾ってくれなければ今頃俺はこの場所で死んでいた。だから俺はジンさんと俺を出会わせてくれたこの街を嫌いになれない。

 

 そんな感慨に耽りながら俺はかつてのスラム街を歩いていたのだが、不自然な気配の動きを捉えたのはその時だった。突然気配が消えるというのは普段の生活では見られない動きであり、考えられるのはその瞬間に気配の持ち主が死んだか、絶や隠などをして気配を絶ったかのどちらかだ。俺は状況を鑑みて前者だとアタリをつけ、餓死か病気かでこの瞬間野垂れ死んでしまった人間がいたのだろうと思った。

 

 

 

 俺はまだ一人前のハンターだとジンさんに認められておらず、そんな俺が人を拾って教育するなんてのは烏滸がましいことだ。だからここに寄ったのもただの感傷でしかなく、そんな俺がここで死んでしまった人間を悼んだとしても本当に供養になるのかは分からない。だが、それでも俺はかつての自分が歩んだかもしれない末路を迎えた人を弔ってやりたいと思った。

 

 だが、そこで見たものは予想とは違う光景だった。

 

「こんな場所に念能力者のガキがいるとは……」

 

 俺の言葉に反応を示したのは拾われた時の自分より遥かに歳下でありながら、明らかにオーラを扱っている謎の少女だった。

 

 今は動揺により絶は途切れているが、先ほどの絶は完璧だった。だからこそ自分はここに足を運んだのだ。目の前の少女に興味が湧いてきて俺は名前を尋ねる。

 

「おい、お前なんて名前だ?」

 

「……ステラ」

 

 目の前の少女は俺を警戒していつでも逃げられるように構える。そんな少女の境遇に同情し、俺は師匠に許されないかもしれないとは思いながら誘ってしまった。

 

「ステラ、お前には才能がある。こんなところで燻ってないでハンターにならないか?」

 

「………」

 

 ステラはしばらくの間考え込んでいたが、腰を低くして臨戦態勢になりながら答えた。

 

「私が負けたらそうしよう」

 

 下手したら俺より10歳も下の子供の強気すぎる言葉に俺は内心呆れながら構える。怪我させないようにしないといけないな……

 

 

 

 

 

ーーーCASE3 体術ーーー

 

 

 

 カイトが子供に危害を加えるわけないし、せっかくの機会だから今の自分がどれだけ戦えるのかをカイトとの手合わせで確認しようとしたのだが、

 

「っ!」

 

「軽いな、それにオーラの流れもお粗末だ」

 

 俺の攻撃は全く効いていなかった。まあ当たり前だ、念能力を習得したからといって戦えるようになるわけではない。念能力によって肉体の強度は遥かに頑丈になるがそれで動きが俊敏になったりする効果はなく、そして戦いにおいて最重要なのはスピードだ。

 

 6つの系統のうち強化系が1番殴り合いに向いているということは広く知れ渡っているが、かといって強化系だから操作系や具現化系の能力者相手に殴り合いで勝てるという単純な話ではない。作中でも強化系のゴンは具現化系のゲンスルーやナックルに対して後手に回っていた。

 

 また強化系が1番相性の悪い特質系能力者であっても殴り合いを拒否する能力者は少ない。強化系が得意になるクラピカやキメラアントとしての肉体の頑丈さが強く影響するネフェルピトーは例外としても、ゼノとシルバを同時に相手取りながら互角の戦いを繰り広げたクロロや、GIに入ったゴンとキルアの最初の壁になったビノールトなど、強化が苦手な特質系でも体術や流の出来次第では殴り合いで優位を取ることが可能なのだ。

 

 

 

「殴り合いでは勝ち目が無い、なら……ワンダーバルーン!」

 

「!!まさか発を覚えてるのか!?」

 

 一旦下がって分身を呼び出す。カイトは分身に紛れて攻撃する俺の攻撃を掻い潜る。何度かの攻防を経て、大きく後ろに下がったカイトは俺の能力を看破する。

 

「片方の動きがもう片方に比べてお粗末だ、そっちが分身だな?」

 

「……凄い、これだけの攻防で見分けるとは」

 

 これは仕方のないことだ。どれだけ分身と自分の姿を似せたところで戦闘中の自分に起きた変化までは再現できないので自分と分身を似せる努力をするのは無駄である、だから手動操作にして本物そっくりの動きにするより、自動操作にして分身の使い勝手を上げる方向性にしたのだ。

 

「だけど私の能力はこういう戦いの為のものだ!」

 

 そう言って俺の周囲に分身を5体召喚する。ワンダーバルーンには基本的に召喚する数に制限は無い。最初から数撃ちゃ当たる戦法なのだ。

 

「ちっ、厄介だな」

 

「いくぞっ!」

 

 私の体術は拙いし私の分身の体術は更にお粗末な出来だが、それでも7人で囲めば当てることは可能なわけで、

 

「!?」

 

 パァン!という音と共にカイトを殴った風船人形が破裂する。攻撃を防御しようとしたカイトはその音と衝撃に隙を晒す。俺が狙っていたのはこの瞬間だった。

 

「食らえっ!」

 

「ぐおっ!」

 

 

 

 風船が破裂する時に発生する音は約120〜150デシベルであり、特に風船を限界まで膨らませて破裂させた場合168デシベルになる。これは人間の可聴音量である100デシベルを大きく超えており、耳鳴りやめまい・頭痛を発生させ最悪の場合永続的な聴覚障害を引き起こす。

 

 現実世界においてもLRADと呼ばれる音響兵器が世界各地の軍や警察の間で非致死性兵器としてしばしば使われるが、その音の大きさが最大で150デシベルであるのを考えれば風船の割れる音が如何に危険かが分かるだろう。

 

 それが間近で鳴って無防備にならない人間はいない。しかもただ風船が割れる場合と違い、カイトは念人形からの攻撃を防御しようとしていて突然の爆音が鳴ることなど全く予想していなかったのだ。俺の攻撃をモロに食らったカイトは片膝をついて耳を押さえながら叫ぶ。

 

「チィッ!やけに攻撃動作が軽すぎると思ったら、こいつら全部風船か!」

 

「すみません、耳栓してるのでよく聞こえないです」

 

「小憎たらしいガキだなっ!」

 

 当然俺は耳栓をしている。だが敵であるカイトはそんな便利なものは持っておらず、これから分身の攻撃を食らう度に耳を塞がなければいけない。だがそれは自ら動きを制限するということであり、俺の攻撃チャンスでもある。

 

「自律する音響兵器の大群、耳を塞げば本体の攻撃か……!厄介だな!」

 

 カイトは腰に差していた刀を抜き、俺の下に瞬時に移動し分身をまとめて薙ぎ払う。盛大な音が鳴り響くが、片耳を塞ぐことでなんとか耐えたようだった。俺にはなんとか避けることができるが分身には対応できない速さか。

 

 ……というか、俺としても能力がある程度格上にも通用することが分かったから後は流れで負けても良いのだが、思った以上にカイトの方がやる気を出したようだった。

 

「子供だからって発を見せて加減してもらえると思うなよ……ちょっと本気でいくぞ」

 

「……マジかぁ」

 

 

 

ーーーCASE4 空中移動ーーー

 

 

 

 後は一方的な展開だった。俺が分身を作ってもカイトはそれを瞬時に破壊し、数の利を形成するのを許さなかった。そうなると俺としては攻める余裕などなくてただただ逃げ続けるしかなく、時々分身を置きながらカイトの攻撃の隙を作って逃げるだけであった。

 

「どうした!逃げるので精一杯か!?」

 

「アンタもよくやるよ!」

 

 分身を破壊するたびに耐えきれない爆音が流れているが、マスクのように布を巻いて耳を保護したカイトが突っ込んでいく。あの程度の耳栓だと大した軽減にはならず鳴るたびに頭にダメージが入るはずだが、それも気合いで乗り切っているのだろう。

 

 だが、その攻防も終わりを迎える。というかカイトによって迎えさせられてしまった。

 

「っ!誘い込まれたっ!」

 

「そら逃げ場は無いぞ!」

 

 カイトに追い立てられた俺はカイトの攻撃の緩い方向へと逃げていたが、それは餌だったようで俺は壁を背にカイトに追い詰められる。

 

「うわっ!」

 

 飛んでくるカイトの一閃を辛うじて跳躍することで避ける。

 

 だが、それまでもカイトの想定通りだったらしい。カイトの左手には刀の鞘が握られており、それが一直線に俺の方へと飛んでくる。

 

 

 

 その攻撃を前に俺は思わずニヤリと笑った。

 

 

 

 ハンターハンターにおける念能力は多種多様だ。その中でも俺が個人的に完成度が1番高いと思うのはヒソカの「伸縮自在の愛(バンジーガム)」だ。読者なら皆知っていると思うが、この能力はオーラを粘着性(ガム性)と伸縮性(ゴム性)の2つの性質を持つものに変化させるというもので、これを利用してヒソカは相手につけたガムを縮めて攻撃したり物と相手をガムで結んで遠隔攻撃をしたりしている。

 

 だが、個人的に1番完成度が高いと思う部分はバンジーガムの攻撃性能ではなく防御性能だ。クロロVSヒソカにおいて、ヒソカは左手から伸ばしたガムを天井に付けることでどんな状況からでも即座に回避行動を取れるようにしていた。それはクロロによって妨害されるのだが、その状況でも足からゴムを伸ばすことで空中を移動していた。

 

 

 

 ハンターハンターの世界では基本的に人が空中を自由に移動することはできない。だから飛ぶという行動にはその後の移動ができないというリスクがあるし、その行動を相手が狩ろうとするのは当然である。

 

 だから、俺は空中移動ができるバンジーガムが1番完成度の高い能力だと思っているし、念能力を覚える上で空中移動ができるかどうかを1つの判断基準とした。

 

 

 

 分身を作ると即座に足蹴にし、カイトの攻撃を側転の要領で回避する。そして俺は、その勢いのままカイトの顔面に飛び蹴りをぶち込んだ。

 

 

 

 念での戦いは基本的にリスクとリターンだ。使えるオーラの量は決まっている為、反撃の可能性がある内は攻撃にばかり意識を取られるとその分の防御が疎かになってリスクが跳ね上がる。ゲンスルーはゴンに対して両手に凝をすることで両腕を爆破しようとしたが、ゴンは両腕を捨てて蹴り上げることでゲンスルーに大ダメージを与えた(尤も、これは反撃の選択肢を取ったゴンがおかしいだけで、普通の人間であれば防御一択の場面なのでゲンスルーを一概には責められない)

 

 そして、反撃のリスクがない場合に防御に意識を割くのはリターンの薄い行動だ。その場合は攻撃に全ての意識を注いで相手の打倒という最大のリターンを目指すのが基本だ。

 

 だからこそ、身動きが取れないという最大のピンチを最大のチャンスに変えられる可能性のある空中移動に対して俺は最上の評価を送っているのだ。反撃できない体勢の敵にトドメを刺そうとするタイミングは、戦闘を通して最も防御の意識が欠ける時だ。そこを攻撃できればその一撃で戦闘を終わらせることだって不可能ではない。

 

 

 

 全力の飛び蹴りによって吹っ飛ばされたカイトは膝をつきながら着地する。その後しばらくお互いに見合っていたのだが、カイトの無反応がおかしいと感じた俺はようやくそのことに気づいた。

 

「し、失神してる……」

 

 ワンダーバルーンの音響攻撃を受けていたことでカイトの脳にたまっていたダメージは大きかったのだろう。そこを全力の蹴りで脳を揺さぶられた結果、蹴り自体は防御できたものの脳へのダメージが許容範囲を超えて失神してしまった、というところだろう。

 

 

 

「さて、どうすっかなぁ……」

 

 問題はこの後、カイトを倒した俺はどうすればいいか、ということだった。ワンダーバルーンの有効性さえ分かれば後は適当に負けるつもりだったからさ……

 

 

 

ーーーCASE5 ジンーーー

 

 

 

「ぷふっ!じゃあお前、こんな年端も行かない女の子に伸されちまったのか!その上で情けをかけられてついてこられたって!はははっ!」

 

「笑わないでくださいっ!ステラの発はそれだけ優秀でした!それに俺だって発を覚えればなんとかできたはずです!」

 

 ジンに笑われるカイトを横目に見ながら、俺はここまで凄いスムーズに原作主人公であるゴンが30巻掛けてようやく会えたジンとエンカウントしたことに拍子抜けしていた。というか、それ以上に衝撃的な出来事を前に俺は動揺を隠せていなかった。

 

「そんなことより、ジンさんが抱えている赤ん坊はなんですかっ!どっかから拾ってきたんですか?」

 

「ああ、こいつは正真正銘オレの子だ」

 

 その言葉にカイトは絶句する。ついでに俺も衝撃を受けていた。確かに俺やクロロ達の年齢から逆算すると今頃ゴンが生まれているはずだが、こんな場所で出会うとは全く思ってなかった。

 

「えっ、マジですか?」

 

「マジマジ、超マジ」

 

「なっ!一体どこで作ってきたんですか!?お相手は!?」

 

「うっせーな、お前はオレのお袋かよ」

 

 ジンの言葉がカイトに刺さってしまったのか、カイトは見るからに凹んでしまった。どうやらちょっとはその自覚があったらしい。

 

「それにしても、お前もその歳でカイトを倒すとは中々やるな。ああ見えてカイトは俺が隙無く育てたつもりだったんだが……」

 

「私がカイトを倒せたのは私の発が初見の相手を倒すのに特化していたからです。予め能力が分かってれば耳栓を用意するだけで私の能力の殆どを無力化できる」

 

「へぇ……それも自分で理解してるか。こりゃカイトが勝つのも時間が掛かりそうだ」

 

 俺としてはカイトが耳栓を持ってきて今第2ラウンドを開始したら100%負けると思ってるのだが、ジンはそう思ってないようだ。

 

 ジンは一度赤ん坊のゴンを俺に預けると、メモになにかを書いてカイトに手渡した。

 

「カイト、次の試験はここに書いてある武器を全て使い熟せるようになることだ。分かってると思うが妥協はナシだぞ、どの武器も得意だと胸を張って言えるようになるのがスタートラインだ」

 

「え……こんなにですか!?」

 

「ハンターたるもの得物は選ばず、だ。どんな状況どんな武器でも生き残ってこそのハンター、特にお前は真面目なんだから色んな状況に対応できるよう今から想定していた方がいいだろ」

 

「た、確かに……」

 

 カイトの手元を横から覗くと、ジンに渡されたメモには数十に及ぶ武器種がずらっと並んでおり、これらを使い熟せるようになるだけでも俺なら人生を一度使い切るだろうと断言できる量だった。

 

「ステラのことは俺に任せろ、お前は他人の面倒を見ながら自分のことに集中できるほど器用じゃない」

 

「あ、ありがとうございます!では今から行っていいですか?」

 

「ああ」

 

「では行ってきます!」

 

 

 

 カイトは休む暇もなく行ってしまった。多分だけど俺に負けたのが相当なショックだったのだろう。それにしてもあれほどの武器を使えるようになるなんて相当な無茶振りだと思うんだが……

 

 

 

 あっ

 

「あの……さっきの試験の目的って、どこまで本気なんですか?」

 

「え?いったい何のことだ?」

 

 ジンはニヤニヤとしながら俺の問いにすっとぼける。コイツ……やっぱりさっきのは方便だな!カイトに「気狂いピエロ(クレイジースロット)」を習得させる為の嘘だ!

 

 

 

ーーーCASE6 気狂いピエローーー

 

 

 

 カイトが後に身につける能力である「気狂いピエロ(クレイジースロット)」は、ジンがカイトに教えたものであり、その内容は能力発動の際にルーレットが始まり、出た目に応じた武器を具現化する能力だ。数字は1〜9であり、カイト本人はなんの武器を具現化するか決められないしルーレットの数字が決まるまで分からない。その上一度出した武器はちゃんと使わないと他の武器に変えられないし、消すこともできない。

 

 だがこんだけクソみたいな制約がある分、具現化された武器はとてつもない力を持つ。頑丈なキメラアント複数をまとめて切断できる切れ味を持つ大鎌、ゴン達ですら気づかない静けさで射撃することができる銃、死んでたまるかと思った時にだけ発動し奇跡を起こすバトン、どの武器も具現化系能力者が普通に具現化しても到底作れないだろう。

 

 

 

 ジンは恐らく今回の試験の名目でカイトに色々な武器を教え、それを元にクレイジースロットを作らせようとしているのだろう。全く性格の悪い師匠だ。使いにくい発を覚えさせられるカイトかわいそ……

 

「安心しろ、最初から自分だけの武器を持ってるお前みたいな人間にあんな教え方はしない。カイトは俺と同じく万能型だから覚えれば覚えるだけ強くなるのさ」

 

「まあそれならいいですが……」

 

「というかお前の場合は俺が教える必要性をあんまり感じねぇんだよな……後は適当に実戦積ませるだけで伸びそうというか」

 

「えっ、じゃあさっきの任せろってのは何だったんですか!?」

 

 俺はてっきりジンに修行をつけてもらえると思ったんだがそうじゃないらしい。まあ確かにトリプル目前のハンターに修行つけてもらえるほどの価値が俺にあるとは流石に自分でも思わんわ。

 

「そうだな……そういえば、ちょうどいい場所があるんだ。ついてこい」

 

 ジンは逡巡すると、なにか良いことを思いついたかのような顔をして俺を先導する。言いようもしれぬ不安を抱えながら俺はジンの後を追うのだった。

 

 

 

ーーーCASE7 グリードアイランドーーー

 

 

 

 その場所とはグリードアイランドだった。そういえばグリードアイランドが発売されたのもこの時期だっけか?

 

「久しぶりだなイータ」

 

「グリードアイランドへようこそ……って、何しにきたのさ」

 

「カイトが拾ってきたガキが結構やる奴でな、ここに放流しようと思ってんだ」

 

 その言葉で初めて受付のお姉さんは俺の存在に気づいたようだった。まあ身長ちっさいからな……台の上に座ってるお姉さんからは見えなくても仕方ないよな……

 

「あら、可愛い子ね〜。カイトも師匠に似てきたってところかしら」

 

「はぁ?俺が誰それ構わず拾うようなお節介みたいな言い方はよせよ。全然違うだろ」

 

 ジンの言葉には全く説得力がなかった。

 

「……まぁいい、それよりコイツに指輪渡せ」

 

「ハイハイ」

 

 お姉さんから指輪を貰う。確かこの指輪を用いてカードを収納するバインダーを呼び出すんだったよな……

 

 そういえばグリードアイランドと言えば、製作者11人によるジョイントタイプ(相互協力型)の念によって実現されているという定説があるが、俺は継承戦編から新たに出てきた概念から、グリードアイランドは制作者11人とプレイヤー全体で作り上げている念能力なのではないかと推測している。

 

 カキン国第9王子ハルケンブルクの守護念獣の能力に近いシステムだと言うと分かりやすいだろう。あれは念獣がハルケンブルクに忠誠を誓う部下達に羽の刻印を付け、その部下を要請型の操作状態にしてオーラを徴収して練り上げるというものだ。要請型というのは操作系が人を操作する場合のタイプのひとつで、対象に選択の余地を与えつつ能力者の為に動いてもらうという形のものである。

 

 それと同じように受付のお姉さんがゲームの説明をしつつプレイヤーに指輪を渡し、それをプレイヤーが了承して付けることで要請型の操作状態になり、プレイヤーのオーラが知らず知らずのうちに徴収されるのではないか、という推測だ。

 

 これならグリードアイランドの中の超常的な力を持つアイテムの数々や、島中の人間や怪物を具現化して操作するというあまりにも難易度が高い技巧に説明がつくのだ。これらをたった11人の念能力者が作り上げるのはいくら凄腕でも難しいと思うのだが、数十人や数百人規模の念能力者によるジョイントだと考えれば恐らく不可能なものはないだろう。放出担当などと役割が分かれていたのはその巨大なオーラをどのように扱うかの役割であり、ゲームスタート時のお姉さんとゲーム離脱のお姉さんが違う人間なのも、前者が操作系能力者で後者が除念の役割を持った能力者である……という推測だ。

 

 まあだからといってそれを確かめるなんて無粋な真似はしないんだけど。

 

 

 

「説明はいいだろ、ほらほらさっさといけ」

 

「はぁ!?説明しないと何も分かんないよ!」

 

「あぁ、とにかくブックとゲインだけ覚えろ。後はその2つで何とかなるし」

 

「そんな適当な……」

 

「アンタねぇ……」

 

 

 

ーーーCASE8 同行ーーー

 

 

 

 あんまりにもあんまりなジンの説明を受けて塔の階段を降りる。ジンは残って受付のお姉さんと話すみたいだったが、一体なんの話をしているんだろうか。

 

 というかジンはいつまでゴンを背負ってるんだろうか……このままだと子連れ狼ならぬ子連れ狩人になりそうだ。

 

 

 

 いや、待てよ……

 

 そういえばゴンは確かジンに連れられてGIに来たんだっけか?そしてそこでジンは先の未来でゴンがGIのクリア報酬に「磁力(マグネティックフォース)」を選んでジンに会おうとした場合にはジンに、「同行(アカンパニー)」でジンに会おうとした時はカイトに飛ぶように設定したはず……

 

 

 

 もしもそのタイミングが今だったとしたら?

 

 本来はカイトとゴンをGIの中に連れて行ってその設定をするはずだったが、俺が介入したことでカイトは既に修行に旅立っており、その代わりに俺がジンに連れられてGIに来てしまったとしたら?

 

 焦りで塔を駆け下りる足が早くなる。もしもだ……もしもそうだとしたら、決定的な証拠が残るはずだ!それを見るまではまだ俺がカイトの代わりになったと確定したわけではない!

 

 塔を駆け下りて平原に着いた俺は「ブック」と唱える。出てきたバインダーをすぐさま広げ、自分のプレイヤーネームを確認する。

 

 そこにはこう書かれていた。

 

 

 

 プレイヤー名: ニッグ

 

「終わりだ……」

 

 俺は平原の真ん中で崩れ落ちた。




ステラの念能力
当然な風船人形(ワンダーバルーン)
風船でできたステラそっくりな人形を具現化して操作する能力
基本的に分身の数に制限はないが、操作範囲は数メートルなので数十体やそのレベルの規模で大量に生み出す意味はあまりない
自身が動かないことを制約に射程範囲の長い人形一体を作り出すこともできる(通常のは自動操作だがこちらは手動操作)
風船人形は相手に接触するか、ある程度のダメージを受けることで破裂する。足蹴にしても破壊されないくらいの耐久力はある。
破裂すると爆音が発生する。


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3. 死亡フラグ×厄災×天空闘技場


 考察しないところはどんどん飛ばします。



 

ーーーCASE1 NIGGーーー

 

 

 

 ニッグ(NIGG)とはジン(GING)のアナグラムである。ジンはゴンがこのアナグラムに気づいて3枚のうち2枚のカード報酬の権利を捨てて移動系の呪文を行使するのなら会ってやろう、というメッセージをゲームに隠していたのだ。

 

 それだけならまだどんだけ息子に会いたくないんだよクソ親父!で済むのだが、ジンのジンたる所以は違う。彼は同じ移動系の呪文でも、自分1人だけが発動する「磁力(マグネティックフォース)」と仲間と一緒に発動する「同行(アカンパニー)」で行き先を変えたのだ。

 

 彼からすれば仲間を引き連れて会いに来る根性なしとは会わないらしいが、どう見ても捨てた子供の友人から白けた目で見られるのを耐えられないだけだぞ絶対。

 

 つまるところ、ゴンがそこで同行を選んだ場合俺の下に来るように設定されていて(原作ではこの役はカイト)磁力を選んだ場合にのみジンに辿り着くように設定したのだ。

 

 このことを念頭に置いてグリードアイランドの魔法カードを見ていくと面白いことに気付く。磁力のランクがCなのに対して同行のランクはFなのだ。効果だけ見ると同行は磁力の上位互換と言っても良いのにこれだけのランク差があるということから、もしかしたらジンは同行ではなく磁力を使えと伝えたかったのかもしれない。全く以って女々しい奴だ。

 

 

 

 そして、原作ではゴンは友達であるキルアを紹介したいという一心で同行を選びカイトの下へ向かうのだが、そこからが問題なのだ。

 

 その時カイトはカキン国からの依頼で生物調査をしていてゴン達もそれを手伝うのだが、とある流れで大型キメラアントの女王の一部を発見し、その調査を始める。これがキメラアント編の大まかな流れだ。

 

 つまり、ゴン達が地獄のキメラアント編に合流する為には同行によって飛んできたゴン達を誘導しなければいけないのだ。それをいったい誰がするのかって?俺みたいですね……

 

 

 

 ただぶっちゃけると、キメラアント編にゴン達が必要かと言われると必ずしもそういうわけではない。勿論原作の流れが最善の形である可能性が高いのは確かだし、ゴン達が行かないことで犠牲者が増える可能性もある。だが、王とコムギが出会う、ネテロが薔薇を埋め込む、ネテロがゼノに応援を依頼する、この3つの条件にゴンとキルアが関わらない以上は最終的に王と護衛軍は薔薇の毒で死ぬ運命なのだ。

 

 だったらキメラアント編なんて危険なことに関わらせない方がいいじゃんとなるのだが、長期的な視点で見るとゴンとキルアを蟻編に関わらせることが人類の存続に必要不可欠になるかもしれないのだ。

 

 

 

ーーーCASE2 厄災ーーー

 

 

 

 ゴンとキルアに限った話で、蟻編による1番大きい影響とはなんだろうか。カイトが死んで転生したことや、ネテロ会長が死んだことなどゴン達の人間関係も蟻編では大きく変化するが、個人的な影響だけを考えるなら、ゴンはゴンさんとなって再起不能となりキルアはイルミの呪縛である針を取った、というのがそれぞれで最も大きな変化だ。

 

 そして、その変化はその次の選挙編に大きく影響する。再起不能になったゴンを巡る策謀が選挙編のキモだからだ。レオリオはゴンを見舞いに行かないジンを殴り飛ばすことで一躍会長候補になり、それを利用してパリストンはハンター協会第13代会長に就任した。

 

 だがこれもゴンがいなくても大した影響はない。ジンが選挙を降りる時点でパリストンの勝利は決まっているし、仮にパリストンが敗北したとしても原作との相違点はチードルが第14代会長から第13代会長に変化するだけだ。

 

 レオリオが選挙編で活躍しないことで彼が十二支ん入りせず、その影響でクラピカが十二支ん入りしないなどの多数の影響も予測されるが、結局のところその話は暗黒大陸での話であり、極端な話、仮に暗黒大陸を旅したハンター達全員が暗黒大陸の厄災によって死んだところでこの世界への影響はほぼない。

 

 

 

 だが、この世界に既に存在する厄災に関しては話は別だ。暗黒大陸から持ち帰られた5つの厄災はそれぞれ「人類が滅亡していないのはたまたま」とジンに言わしめるほど危険なものであり、これらに対するバタフライエフェクトは慎重に懸念しなければならない。

 

 そしてその厄災の内のひとつが大きく関わるのがこの選挙編だ。「ガス生命体アイ」はキルアの妹アルカである可能性が高く、そうでなくてもアルカが暗黒大陸の出身であり5大厄災の内のひとつであるのは確定している。

 

 

 

 選挙編はこのアルカを巡ってゾルディック家での抗争が起きるのだが、その結果としてゾルディック家に封印されていたアルカはキルアによって連れ出されることになる。アルカの能力は文字通りなんでも願いを叶えることとその代償として願いの大きさに比例したおねだりをするというものだ。だがもしそのおねだりが1人の人間には払いきれないものでおねだりを払うのに失敗した場合、失敗した人間に関わる多くの人間が願いの規模に応じて死亡する。

 

 この存在をゾルディック家は管理、利用しようと企んでおり、それを良しとしないキルアがアルカを連れ出したのが選挙編のキルアの物語だ。

 

 

 

 結局はそのことをゾルディック家は認めて丸く収まるのだが、この時この状況でなければ話がどう転がっていたかは分からない。まずゴンを治すという目的がなければキルアは強い意志でアルカを連れ出そうとはしなかったかもしれないし、針を抜いた直後でなければ新たにイルミから呪縛を掛けられていたかもしれない。キメラアント編を経て新たに能力を身に付けたキルアだからイルミに対抗できたかもしれないし、少しでも時期がズレるとキルアの詳細な能力をゾルディック家に把握され対策されていたかもしれない。

 

 そうなればアルカは一生ゾルディック家の物のままか、どこかのタイミングでイルミに殺されてしまう。前者はゾルディック家の野望次第で世界に混乱を招くかもしれないし、後者の場合アルカに取り憑いている厄災がどうなるか誰にも分からない。

 

 

 

 

 つまり、アルカにまつわる問題を平和に着地させるためにはゴン達をキメラアント編に介入させることが必要不可欠なのである。

 

「ということで私は今の時点より蟻編強制参加になりました……はぁ……憂鬱だ……」

 

 何が憂鬱かって蟻編の中でも特に危険な先遣隊の役割をこなさなきゃならないところだ。自然な流れでゴン達をキメラアント編に介入させるには俺がカイトの生態調査に同行すればいいだけなのだが、その場合キメラアント編で俺がどう巻き込まれるのかが分からない。カイト達に不信感を与えない為に気を遣ってたら気づいたら女王の巣付近に1人取り残されていました、なんてことになっても全然おかしくはない。

 

 

 

「今できるのは備えるだけ、か……幸い環境には恵まれているし頑張るしかないか」

 

 

 

ーーーCASE3 GIプレイヤーの強さーーー

 

 

 

 グリードアイランドの岩山地帯にて作中でのビスケの修行を思い出しながらトンネルを掘り進める。今までの俺は念の修行そのものはしてきたが、肉体のトレーニングはやってこなかった。だからカイトと戦った時も碌な攻撃を与えられなかったのだが、今までは成長してもっと筋肉がついてからでも遅くないと思ってやってこなかった。

 

 だがそんな悠長な言葉を言っている場合ではない。少なくとも5年以内にはグリードアイランドのモンスターを一蹴できるようにならなければお話にならない。

 

 

 

 グリードアイランドの難易度についてだが、俺は一人前のプロハンターならクリアするのはそこまで難しくないと思っている。だが、それはあくまで仕様上の話であり原作での複雑な状況に陥ってしまったグリードアイランドのことではない。

 

 原作でゴン達がグリードアイランドを探す何年も前からバッテラはクリアしたプレイヤーに500億の報酬を渡すと約束しておりそれでプレイヤーは増加した。ゲンスルー達も元はバッテラに雇われた人間であり、バッテラの存在がグリードアイランドの難易度を高くした可能性は高い。

 

 

 

 元々はどのくらいの難易度だったのかを考えると、ゲーム内のAランクのモンスターを討伐できるラインが指標なのではないかと考えられる。Sランク以上のモンスターはおらず、そこから先のカードを手に入れるには強さよりも運や洞察力を必要とするからだ。

 

 一応レイザーっていうめちゃくちゃ強い敵キャラもいるが、このイベントは敗北しても再戦可能なので何度も挑戦してクリアしてもらう高難易度イベントという位置付けなのだろう。

 

 そして修行後のゴンとキルアも恐らくAランク相当の指標に到達しているはずだ。同じくツェズゲラやゴレイヌなど攻略組もそのくらいの強さを持っているだろう。

 

 

 

 だが、キメラアント編でゴン達はカイトやナックルから半人前扱いされていた。特にナックルからは具体的にオーラ量ならプロの中堅だが経験が足りないとまで言われていた。

 

 つまり、強さではプロクラスに劣っていても十分にクリア可能なのがグリードアイランドだということなのだろう。ツェズゲラも修練不足で体が鈍っていると言ってたし。

 

 

 

 だから、こんな場所で尻込みしている場合ではない。原作までの時間はおよそ10年、それまでにゴン達が駆け上がって行った強さの階段を登り詰める必要がある!

 

 俺はゴンとキルアやクラピカなどといった主要人物ほど才能があるとは思わない。カイトに勝ったのだって発ありきで体術では全く勝負にならなかったし、その点グリードアイランドに来た時点のゴンとキルアよりも弱い可能性まである。

 

 だから5年、それまでにここのモンスターは余裕で狩れるようにする!

 

 

 

ーーーCASE4 修行内容は原作を読んでねーーー

 

 

 

 そして5年が経ち、グリードアイランドの全てのモンスターを狩れるようになった俺はログアウトすることにした。これまでずっと島の中にいたから久々のシャバだ。ジョネスもこんな気分だったのかな。

 

 ちなみにカードも集めずに島から出られなくなった人を島から出られるよう手助けをしたり、モンスターに追われている人を助けたり(こっちは修行のついでだったけど)してるうちに俺はグリードアイランドの名物プレイヤーになっていたようだった。サインねだられた時にはニッグの名前どう書くのか一瞬戸惑ったわ。

 

「いらっしゃいませ、ニッグ様」

 

「……その名前で呼ばれたくなかったから島の出入りをしないようにしてたんだった……」

 

「本当にごめんなさい、ジンにやれって言われたから……」

 

「いや、そこまで気にしてないからいいですよ」

 

 ここでキレてもかえってお姉さん達を困らせるだけだからなぁ……そもそも俺が分かってるはずの情報なら偽名で登録するくらいでそんなに怒る要素でもないし。

 

「もう帰ってくる予定ないから指輪返していい?」

 

「そうですか?なら預かりましょうか」

 

 そう言ってお姉さんに指輪を返す。ジンのイニシャルに気づかせるなら下手にニッグの名前を残すのは良くないからな、ちょっと手遅れな気がしないでもないけど。

 

「それでは、お疲れ様でした」

 

「お世話になりました」

 

 ぺこりと挨拶して視界が変化する。取り敢えずヨルビアン大陸の適当な街に飛んできたが、これからどうしようかな。原作までは5年の時間があるが、まだ自分の力量がキメラアントに対抗できるレベルではないのを考えればうかうかしてられない。

 

 とりあえずジンとカイトに連絡するか。

 

 ……あ、連絡手段なんて俺持ってなかった。

 

 

 

 そういうわけで俺は途方に暮れていた。もちろん、うかうかしてられないなどと言った手前、ジンとカイトとの連絡がつかないくらいで足を止めるのは良くないことなのだが(そもそも正式に師弟関係になった覚えもないし)、俺としても今まで目標に向けて頑張ってたので短期的な目標を達成した今はそこまで物事に真面目に取り組む気力がないのだ。

 

 お金に関しては結構な余裕がある。グリードアイランドで帰還できない人の案内をした際に報酬として割と貰っていたからだ。グリードアイランドでは現実世界のカード化されていないお金は使えないし、だからといってモンスターも倒せない人達には島で金を稼ぐ手段がほとんどない。結果的に彼らが俺に差し出せるものは現実世界のお金くらいしかなかったということだ。いや別にお金が欲しくてやったわけじゃないんだけども。

 

 取り敢えず世界各地を回って旅しつつ鍛えるか、アマチュアとしてハンターの仕事をしつつ鍛えるか、ハンター試験を受けてプロになるか、はたまた天空闘技場に行って戦いながら強くなるか……取り敢えずやることはやっておこうと、俺は天空闘技場のあるパドキア共和国の方へと向かった。

 

 

 

ーーーCASE5 天空闘技場ーーー

 

 

 

 天空闘技場とは地上251階、高さ991mで、世界第4位の高さを誇る建物である(ただし暗黒大陸を除く)。ここは世界中の腕自慢が集う場所(ただし必ずしも強者が集うわけではない)であり、1階から始まって試合を勝つごとに上に登っていくシステムだ。

 

 つまり強い者ほど上に登れるわけなのだが、この世界の凄腕に分類されるプロハンターの多くはこの塔には見向きもしていない。

 

 なんなら200階クラスには上がらないように150階クラスで止まるだけでも一度勝つだけで1000万ジェニーの報酬が支払われる。200階に行くまでは念能力者など皆無だと言っていいし、200階以降の能力者もある程度実力があれば余裕で勝てる人間が多い。

 

 

 

 プロハンターにも金を目的としたハンターが多いのはグリードアイランドがバッテラの報酬によってプレイヤーが増えたのが証明しているだろう。ではなぜそういうハンター達が天空闘技場で金稼ぎをしなかったのかは結構な謎である。

 

 ただ、臆病者である自分の視点であればある程度の推測はできる。天空闘技場は数多くの観客がおり、その試合も映像として記録される。その中で念能力者がいたとして、同じ念能力者がその試合を見ればすぐバレるだろう。例え発を見せなくてもオーラの大きさや滑らかさなどで能力者としての強さを測ることは可能である。そして自分より強い念能力者に目を付けられた人間がどうなるかは想像に難くない。つまり、小市民程度の強さしか持たない念能力者が天空闘技場に通って金を稼ごうとするのは却って危険かもしれない、というのが俺の見解だ。

 

 

 

「まあ俺はそんな天空闘技場に通おうとしてるんだが……」

 

 そう思いながら天空闘技場の受付に並ぼうとしたのだが、その前に何やらどことなく見覚えのある姿の人達が話してるのを見て俺は動揺した。

 

「キル、約束事は覚えているか?」

 

「だいじょうぶだって。200階には行かずに降りる、だろ?」

 

「そうだ。200階から上に行けば今後もう一度上がることはできなくなる。手っ取り早く金を稼ぐ手段として残しておいた方がいい」

 

「殺しで稼ぐしそんな心配ないと思うけどなぁ……」

 

 白髪の親子が話し合っていたのだ。その会話内容からこの親子の正体に気づいた俺はそれはもうビビった。ビビりすぎてつい絶をしてしまった。癖になってんのかなぁ、強者の気配にビビって絶するの……

 

 だが前にも言った通り、気配を捉えられている場合に急に絶をするのは却って怪しまれる行為なのだ。俺は背中から声を掛けられて肩に手を置かれる。その瞬間まで俺は後ろの気配に気づかなかったということが、俺の後ろにいる人物が誰であるかを物語っている気がした。

 

「ねぇ君、お願いがあるんだけどいいかな?」

 

 ギギギ、という音を鳴らしながら俺が振り向いた先にいたのは黒い長髪をたなびかせた暗殺一家の長男だった。

 

 

 

ーーーCASE6 ゾルディック家ーーー

 

 

 

 俺はビビって絶をする癖を絶対治そうと心に強く誓った。

 

「君、能力者だよね?だったらお願いがあるんだけど」

 

「はい!大丈夫です!心配しないでください!」

 

「まだ何も言ってないんだけど、まあいいや、今君が見ている子供はオレの弟でね?」

 

 イルミに首を掴まれて強制的に前を向かされる。大丈夫?これ針刺されてないよね?

 

「キルは大丈夫だって言ってるし、親父達も可愛い子供には旅をさせる方針だから監視もつけないんだけどさ、オレとしては可愛い弟分がもし能力者の毒牙に掛かってしまったら……と考えるとさ、心配で仕方ないんだよねぇ」

 

「はい!弟さんのご安全は私が守ります!念能力のことも一切教えません!」

 

 俺の即答に満足したのか、イルミは首を掴んでいた手を離す。ひええ、マジで死ぬかと思った。

 

「うん、それなら心配いらないね。良かった〜、俺としては保険はいくつあっても足りないって思うからさぁ」

 

 後ろから聞こえる声が急に近くなる。

 

「お前のこと、見てるからね?」

 

 そう言い残して背後の気配は消えた。俺は冷や汗を流しながら、行列の最後尾にいたキルアの後ろに並んだ。ブラコン野郎め……

 

 

 

ーーーCASE7 キルア・ゾルディックーーー

 

 

 

「へぇ、お姉さんもここでお金稼ぎするんだ?」

 

「まあそんなところかな……ついさっき他にやることができたけど」

 

「俺も親父に無一文でここに放り出されてさぁ、今のファイトマネーじゃチョコロボくんも買えないんだけど、大丈夫なの?って感じ」

 

「大丈夫だよ、100階くらいまで行けば一回勝つだけで100万ジェニーも貰えるから」

 

「ひゃっ、100万ジェニー!?それってチョコロボくんが何個買えるんだ……!?」

 

 必死に指で四桁の計算を頑張ろうとしているキルアを横目に今後の方針を考える。ちなみに今は一階のリングの相手を楽々倒したところだ。俺もキルアも流石にこんなところでつまずきはしない。

 

 

 

 だが俺としてはこの状況自体が思わぬつまずきとなってしまった。修行は諦めて6歳のキルアが1人で生活するのをサポートしなければならない。

 

 冷静に考えたら暗殺一家の天才息子を雑に放り込むわけはなく、今もこの状況を執事か誰かが監視しているはずなのだが、1人で来ていると思い込んでるキルアが執事がいることを知ったら間違いなく不機嫌になるだろう。イルミが俺にキルアのことを頼んだ?のも念能力者である俺を警戒するというより単純に俺を執事代わりにキルアの手伝いをさせる意味合いが大きいと思う。

 

 そんな中で俺だけが早々に200階に行って念能力者達と戦うわけにはいかない。間違いなくキルアは対抗心を燃やして200階に上がろうとするし、念能力のことを知れば覚えたがるに決まってる。

 

 

 

 キルアの弟?のカルトは10歳にも満たない段階で発まで習得しているのに11歳になってもなお念能力を秘匿されていたキルアだが、天才と期待されておきながら念については全く教えないというゾルディック家の方針は少し不思議だ。

 

 念能力は基本的にコツコツ鍛えることが1番強くなるもので、才能だけでゴリ押しできるものではない。むしろ原作のゴン達は有り余る才能でゴリ押ししていた側だったが、作中でも度々壁に阻まれておりそれらから生き延びて強くなれたのは才能よりも運の部分が大きい。

 

 だからこそ才能に期待して強く育てるのなら子供の頃から念を教えてコツコツと鍛えるのが1番強くなると思うのだが、今隣にいるキルアを見ているとそう簡単に済む話でもないと思えてきた。

 

 

 

 ミルキはキルアについて精神的には暗殺者失格、とまで言っていたが、その根拠はムラっけがある、友達を作る、精神的に弱虫という内容だった。友達を作るということに関してはキルアの父親であるシルバも否定するどころか応援してたし、弱虫であることはむしろ失敗を何よりも恐れる暗殺者としてなら正解であると思う。

 

 だが、最初に言ったムラっけがあるというのは否定できない。原作ではそれ以上の不安定さを発揮するゴンと比較されて安定していると扱われるが、キルア自身も割と調子に乗るところがある。というか調子に乗る場面だけならゴンよりも多い。

 

 調子に乗ること自体は悪いわけではない。念はその時の感情によって左右されるので戦闘毎に調子のブレを合わせれば普段以上の力を発揮できるわけだが、今のキルアにそのようなことはできないだろう。

 

 それと無意識に相手の強さを低く見誤る癖もある。もちろんキルアの眼は凄いと思うし敵味方のステータスをほぼ正しく測ることができるだろう。だが実際の戦闘はそのステータスだけで決まるものではない。そういう意味でもイルミの呪縛には敵の能力を高く設定して自分が敗北する可能性が少しでもあれば逃げの選択肢を選ぶようにしていたのだ。

 

 

 

 そんな幼いキルアが念能力を知ったら考えなしに発を作る可能性が高い。なにせキルアは天才だ。天才だからそれまでに挫折せず念と出会う可能性は高いし、天才だから少しの知識と努力で念を修めることもできるだろう。

 

 だからゾルディック家は過保護ともいえるほど慎重に、キルアに対して念の存在を秘匿したのだ。なんなら今のキルアが念なんて教わったらチョコロボくん具現化する馬鹿をしてもおかしくはない。

 

 

 

 そんなキルアと関わりながら念の修行を並行して行うのは難しいし、もし見つかったらキルアに質問責めにされた上でイルミに殺される。そうなると素直に筋力でも鍛えるしかないか……

 

 それならいっそのことキルアから色々聞くってのもアリだな。暗殺一家の天才息子であるキルアなら6歳にして天空闘技場を念なしで勝ち上がれるくらいに強いし、人を殺す技術や知恵も豊富だ。現状俺の能力は殺傷性が皆無だから、殺すとまでは言わなくてもある程度肉体的なダメージを与えられるようにしたい。

 

 

 

ーーーCASE8 ミルキ・ゾルディックーーー

 

 

 

 そんなわけで俺は、キルアのペースに合わせて天空闘技場を登りながらキルアとの親交を深めていた。今はある程度親しくなって呼び捨てで呼ぶことを許可されたところだ。普通に考えたら俺の方がさん付けされる立場なのだが、原作以上のワガママ坊やなのだからこちらの方が譲歩するしかない。

 

 天空闘技場の階層も150階に到達した。原作だと確か6歳のキルアはここに来るまでに2ヶ月は掛けたはずだったが、ここに来るまで1ヶ月しか経っていない。ライバルの存在が身近にいることでキルアのやる気も引き出されているのだろう。恐ろしいとも言える成長速度だった。

 

 俺の方は絶をしながら戦うことで少しでも肉体の修行になるかなど試行錯誤はしているのだが、あまり成果は感じられない。まあ天空闘技場編の念を覚えてないゴン達がワンパンでKOできる相手だ。今の俺が絶で相手したところで縛りプレイにすらならない。

 

 

 

 やはり地道に鍛えるしかないか、と思いながらキルアに暗殺技術について聞く。守秘義務など存在しないのかキルアは色々なことを話してくれた。

 

「離れた人間を殺す方法?うーん、銃で撃つのが1番手っ取り早いと思うけど」

 

「いやまぁ確かにそれで大体解決できるけども……実際は銃火器なんてそうそう持ち込めないでしょ?」

 

 銃火器が解禁されるなら俺は人形10体くらいにマシンガン持たせて集中砲火するぞ。それだけで大半の能力者はミンチだろう。だがそれをしてしまうのは流石に反則だと思うし、何よりキメラアント編では銃火器は持ち込めない。

 

「俺は親父達みたいに体を凶器として扱うからさぁ、そっちの方は兄貴の得意分野なんだよね」

 

「えーっと、確かお兄さんが2人いるんだっけ?」

 

「そうそう。その下の方の兄貴が遠隔操作とか詳しいんだよね」

 

 ゾルディック家の次男、ミルキ・ゾルディックは暗殺一家とは思えない肥えた腹が特徴の引きこもりだ。インターネットや機械に強く、小型化した爆弾を蚊に搭載したり特注の合金で50kgのヨーヨーを作成したりする器用な奴だ。

 

 

 

 確かに、ミルキを参考にすれば能力の強化になるかもしれないな。俺の分身は射程距離が短いとはいえ、分類として遠距離攻撃に相当する。であれば、通常の兵器やミルキの作るようなトンデモ兵器が発想の種になるだろう。

 

 

 

ーーーCASE9 2つ目の能力ーーー

 

 

 

 1番最初に思いつくのは分身に爆弾を搭載することだ。これは能力が発現してからずっと考えてきたことだし、実際にクロロが爆弾を作る能力と組み合わせて爆弾人形にする実演も見せてもらった。

 

 だが、それを真似するとなると自分には無理だ。爆弾を具現化するというのは自分のイメージでは難しいのだ。俺は爆弾なんか一度も扱ったことないし、自分では爆弾の見た目だけ具現化するのが限界で爆発までは再現できないだろうというのがなんとなく分かるのだ。

 

 むしろゲンスルーに尊敬の念を抱いてしまう。爆弾を具現化することなんてどんな生き方すればできるようになるのか、日常が爆弾だったはず……だとしても全然おかしくないのだ。

 

 

 

 では風船人形に実物の爆弾を搭載するのはどうか?という話になるのだがこれも難しい。そもそも爆弾を入手するツテが俺にはないし、キメラアント編に持ち込まないため目的と合わない。

 

 実物の爆弾を搭載するにしても爆弾を具現化して搭載するにしても俺の能力の場合は重量の問題がある。軽い風船人形だから動かせていたものに爆弾を乗せて動かそうとすると、今より操作が難しくなるかもしれない。最悪の場合新たな制約を入れて能力の調整をすることになる。

 

 

 

 それで今まで困ってたのだ。直接攻撃のできない分身に攻撃能力を持たせるのがこんなに難しいとは……

 

「あー、それならガスは?最近毒ガスの拷問受けてたんだけど、普通の人間ならちょっと吸い込むだけで死ぬぜ?」

 

「いやいや、そんなことしたら俺も死んじゃうし……いや待てよ、ガスなら……」

 

 ガスは風船と1番相性が良い組み合わせなのではないか?銃火器や爆弾は分身が重くなるが、ガスの場合は普段入れている空気の代わりにガスを入れるだけで普段と変わらず動かせる。

 

 風船が破裂することで中に入っているガスも飛散するわけだが、これは相手に接触することで破裂する俺のワンダーバルーンと相性が良いのだ。

 

 それにガスを中に入れて運用するとなると、ガスの種類によっては攻撃だけでなく補助としての性能も期待できる。

 

 

 

 今までなんで気づかなかったのだろうか!こんなに相性の良い組み合わせが他にはない!

 

「それだ!ガスだ!ガスしかない!」

 

「お、おう?」

 

 なんだかついていけてない反応をするキルアに対して俺はこのアイデアを実現する方法を調べる。

 

「その毒ガス拷問ってどういう風にやったの!?」

 

「え、うちはガス室を持ってるからさ。それに丸一日入れられてって感じだったけど……」

 

「なるほどなるほど……」

 

 ではキルアのお守りというイルミの依頼を達成した報酬として、ガス室送りにして貰おう!そこで今後使うであろうガスを浴びまくってガスを具現化か変化させられるようにしよう!

 

 

 

「ありがとうキルア!君のお陰でやるべきことが分かったよ!」

 

「お、おう。それはなによりだ」

 

 そうと決まればさっさとキルアと200階を目指そう!目指せガス室送り!

 

「……変なヤツ」

 

 トレーニングに燃える俺にはキルアの呟きは聞こえなかった。

 




 ビビると絶をする、というステラの癖は多分ですがかなり珍しいです。キメラアント編の蟻パームのところを読む限り、咄嗟に反応する時にはオーラで防御反応をするのが普通っぽいですからね。
一般的な反応がを驚いた時に体が硬直することだとすると、ステラの反応は驚くと死んだふりをするようなものです。小動物かな?


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4. Uターン×ゾルディック家×共闘説


 これ小説で大丈夫?後半完全な考察になってない?



 

ーーーCASE1 イルミーーー

 

 

 

 キルアからヒントを貰ってから1年後、俺たちは天空闘技場を後にした。キルアは原作より1年早く200階へと到達したのだ。これも俺が地道にキルアの対抗心を刺激し続けた甲斐あってのものだ。

 

「結局ステラも兄貴に言われての見張りだったのかよ」

 

 キルアが不満そうにぼやく。結局、俺はキルアに自分がどういう立場の人間だったかを明かした。キルアも薄々勘付いていたのだろう、その態度には驚愕は含まれていなかった。まあ冷静に考えたら自分が天空闘技場に来たのと同じタイミングで自分と実力が近い子供が現れるのは偶然にしては都合が良すぎる。

 

 それを言ったのは190階クラスで勝利した直後だった。1年前のキルアならもっとわがままな態度を突き通しただろうが、この場所で自分がまだまだ未熟なことを自覚したキルアは自分に監視の存在があったことに納得していた。まぁ監視と言ってもキルアを監視する俺を執事が監視するっていう二重体制なわけだけど……

 

「俺も脅されてただけだから…少なくとも天空闘技場に来るまではこんなことするとは思わなかったし」

 

「…なら、仕方ないか……」

 

 そう言うキルアの背中は少し寂しげに見えた。俺はあまり口出ししてはいけないと感じつつも思わずフォローする。

 

「確かに俺はキルアの求めるものじゃなかったかもな。けど、キルアならいつかそれも手に入れられるよ。共に1年間過ごした俺が保証する」

 

「……分かるの?」

 

「悪いけど俺の方が歳上なんでね、キルアが何が欲しいのか丸分かりなんだよ」

 

 

 

 キルアは甘ちゃんだ。だから妹には優しいし、友達も欲しがっている。そんなキルアがゴンと初めての友達になるからこそ、原作の友情劇が生まれるのだと自分は思っている。そんな既知の未来に辿り着くために幼いキルアの心を利用することに罪悪感を感じないのかと言われたら嘘になる。

 

 けどこればかりは譲れない。俺はこの世界が好きだ。キルアがゴンと歩む過程で何度傷付くとしても、俺はキルアとこの世界を天秤に掛けて世界の方を取る。他の皆もそうだ。俺はこの世界に住む皆が好きだから、世界のためなら誰であろうが切り捨てる。その覚悟は5年前に決めたのだ。

 

 だけど願わくば、その既知の道中を歩むキルアに幸福があることを祈りながら、俺はキルアを見送り……気配を感じて背後を振り返る。

 

 

 

「流石に2度目ともなると背後は取られないぞ」

 

「ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだけど」

 

 そこには1年前と同じようにイルミが立っていた。どうやらキルアを迎えに来たついでで俺に礼を言いに来たようだ。と言っても彼からすれば、脅して使った後の人間を処理しにきただけかもしれないが。

 

「いやぁ、結構君には感謝してるんだよオレもさ。オレたちの想定以上のスピードでキルアは強くなれたし、そのお膳立てをしてくれたのが君だってこともオレは気づいてる」

 

「だったらご褒美でも欲しいもんだな」

 

 俺の皮肉は通じなかったようで、イルミはそんなことで良かったのかと言いたげな態度を取る。

 

「ご褒美?いいよ、今回の件は取り引きだったことにしよう。殺しでも金でも、オレにできることなら一個だけ聞いてあげる」

 

「なら……俺が欲しいのは知恵だ」

 

「知恵?」

 

 首を傾げたイルミに対して説明を続ける。

 

「今ちょっと能力の開発の方で難航しててね、その時にキルアからヒントを貰ったんだ。ミルキ・ゾルディックの知恵を借りたい」

 

「……へぇ、君はオレにミルキに借りを作らせろ、と言いたいわけだ」

 

 イルミの口調に怒気が混ざる。彼の怒りも当然だろう、自分にできることを報酬の条件としたにも関わらず報酬に他人を要求したのだ。これがちゃんとした契約だったら即座に切り捨てられていただろう。

 

 だが、こちらも引いてはいられない。色々考えたが、ガス室に入って日常をガスにするのはちょっと無理がある。有毒なガスを実現しようと思えば死んでもおかしくないイメージ修行をしなきゃいけないし、そもそもゾルディック家のセキュリティに他人が入る余地がないというのを失念していた。

 

 だがガスという選択肢自体は間違ってないのも恐らく事実だ。そこで今の俺にはキルア以上にその手の分野に詳しい専門家の知識が要る。

 

 

 

 それに、報酬の条件を無視したのは俺だがそもそもこれは正当な依頼ではない。

 

「貸しがあるのは俺とお前のどっちだ?俺としてはこの報酬はお前じゃなくゾルディック家に要求したっていいんだぞ?」

 

「……」

 

 イルミの顔は相変わらずポーカーフェイスでよく分からなかったが、俺の予測が正しければ痛いところを突かれたという顔をしているはずだ。

 

「キルアは父親のことをよく信頼していた。この監視はそんな信頼を置かれる父親の指示によるものだとは思えない。大方、お前の独断かなんかだろ?」

 

 

 

ーーーCASE2 家族内指令ーーー

 

 

 

 ゾルディック家は単なる家族ではない。それぞれが家族でありながら一端の暗殺者という仕事仲間でもあり、彼らが自分の立場や関係によって対立するのは珍しくない。

 

 だが彼らも家族であり、お互いに殺し殺されを忌避するくらいの情は待ち合わせている。そこでゾルディック家には「家族内指令(インナーミッション)」というシステムが取られる。

 

 これは家族間での意見や方針の対立が起きた時、無理にそれを合わせようとせず「家族を殺さないこと」を条件にそれぞれで目的の為に動くことを認めるというものだ。選挙編においては、アルカという「物」を巡ってこの家族内指令が発動した。

 

 

 

 今の話もそうなのだろう。幼いキルアを天空闘技場に無一文で放り出す、というのは作中におけるキルアへの手厚い保護を考えればあり得ないものだ。当然そのことでキルアを溺愛しているキルアの母キキョウやイルミは反対しただろうし、そこで家族内指令が発動したと考えるのは自然だろう。

 

 もしかしたらキルアの監視は全員一致した上での方針だった可能性も考えられる。だが、それでも恐らく俺の存在はその方針とは関係ないだろう。知らない人間を脅して巻き込むというやり方はゾルディック家の父側(シルバ、ゼノ)のイメージには反する。恐らく母側(キキョウ、イルミ)の動きによるものだ。

 

「俺がキルアに監視の役割をバラしたのは何の為だったと思う?」

 

「……なるほど、自分がどのような立場かをよく弁えてると思ったら、チクるためだったわけだ」

 

「厳密に言えばまだそのつもりはないな。俺としてはお前との取り引きで話が済むならそれでいい。キルアが他の家族に俺の存在を告げるのは、俺からの連絡があった時だけだ」

 

 

 

 キルアに自分がキルアの友達ではないことをアピールする為に俺が監視であることを明かしたのは本当だ。この時点でキルアが友達を作って満足してしまうと原作の流れに沿って進むかは非常に怪しくなる。

 

 だが、それが思いもよらぬ場面で切り札になった。キルアに連絡してチクらせるというのは完全な嘘でありブラフなわけだが、執事からの監視しかない状況であればそれを掻い潜って密告の構図を作るのはそこまで難しいことではない。可能性としては十分あり得る話だ。

 

 

 

 しばらくの膠着の後、イルミは観念したかのように両手を上げた。

 

「オーケー、そこを突かれるとオレも痛い。オレからミルキに繋げよう」

 

「交渉成立ね、キルアには俺が監視だということは他の人には教えないように言っておくよ」

 

 実は最初に監視だと明かした時点でそのことはそれとなく伝えていたのだが、間接的な監視ではそこに気づくのは難しいだろう。

 

 ミルキへと連絡を繋いだイルミの携帯電話を受け取りながら、俺は話がなんとか上手くまとまったことに胸を撫で下ろしたのだった。

 

 

 

ーーーCASE OF ILLUMIーーー

 

 

 

 オレはミルキと電話をしているステラを見ながら、1年前の自分の早計な判断を少し後悔していた。確かに、オレ達のことを知っている念能力者がいたとして、そいつらがゾルディック家の敵意を買う可能性は低い。もしキルアを人質に取ることに成功したとしても、その後に暗殺される可能性を考えれば碌な手段ではないのは誰でも分かるはずだ。

 

 二重監視を付けるのだって最初は考えていなかった。天空闘技場なら小さな子供であっても強ければ万全なサポートを受けられるし、そこで執事が割り込まなければいけない状況になる可能性は低かった。

 

 

 

 だが、ステラの反応はそれらの可能性を切って捨てるには怪しすぎた。前方にいたのが暗殺者として有名なゾルディック家だということに勘付いたとして、そこで絶で気配を断つという行為を選択する人間は暗殺者に狙われるだけの後ろめたい事情を抱えているはずの人間だ。

 

 だからこそ脅して弱みを握れば傀儡として操れるかと思ったのだが、ステラという人物にそのようなものはなかった。結果として、俺は脅しから交渉に切り替えざるを得なくなった。

 

 だからこそステラの絶が疑問に残る。あの状況で絶をした理由は何だ?わざわざ自分がゾルディック家に警戒されて狙われるかもしれない状況を作って、彼女は一体何がしたかったのだ?

 

 

 

 まさかこの状況を作るため……?いや、そんなはずはない。オレがステラを脅すかどうかなどあちら側の視点では分からないことだし、最初の反応を見るに彼女はオレの存在にすら気づいていなかった。

 

「………」

 

 考えたところで彼女の目的は分からなかった。俺は観念してミルキとの連絡を終え携帯電話を返してきたステラに思い切って尋ねることにした。

 

「…君は何を考えてあの時気配を消したの?」

 

「え?あぁ……」

 

 ステラは一瞬首を傾げると、オレの言葉に思い当たるものがあったのか、顔を赤らめて小さく言った。

 

「…癖になってんだ。強い人に会うと絶しちゃうの」

 

「…そう……」

 

 どうやらオレの完敗だったらしい。

 

 

 

ーーーCASE3 カイトーーー

 

 

 

 ミルキにアドバイスを貰って能力の練習をしながらカイトを探したら2年が過ぎた。アドバイスの内容はぶっ飛んだ暗殺者らしからぬ現実的なものだったが、だからこそ自分にとっては実現しやすいアイデアだった。イメージ修行の為にスーパーマーケットやネット通販で色々買う必要があったが、それでもゾルディック家のガス室を目指すよりはよっぽど安易だった。

 

 

 

 結局2年の間にカイトは見つからなかったわけだが、俺には切り札が残っていた。それは原作イベントだ。ゴンは原作開始時点の3年前に森に入って熊に襲われた時にカイトに助けられている。つまり、その時期にくじら島に行けば必ずカイトと出会うことができるわけだ。そういうワケで俺はくじら島に向かった。

 

 

 

 ゴンがあまりにも異常な才能や思考回路をしているためにしばしばゴンは未開の地で育てられたというような印象を持たれるが、ゴンの住んでいたくじら島は地方の離島みたいなものだ。島民が少ない為に学校や都会にあるようなお店は存在せず、島の子供もゴンの他に女の子が1人しかいない。

 

 だが、ゴンもその女の子もきちんと通信教育ではあるものの学校の教育は受けている。異常な才能や思考回路を除けばゴンも普通の島育ちの子供なのだ。

 

 

 

 そういえばめちゃくちゃ今更だけど俺、学校に行ってないな……現実世界では教育課程は終えたものの、この世界での学歴は無に等しい。こういう場合って今からでも学校通う必要があるのだろうか。

 

「必要ないよな…?キルアとかジンも学校行ってないし…」

 

 

 

 ハンターになるのに学歴は要らないし、ハンターになれば学歴よりよっぽど就職で有利になるから、学校行かなくてもいいよなぁ!

 

 というかハンター試験受けるのとかも合わせてカイトに相談しないとな……

 

 

 

「まだダメだ!」

 

「えー、なんでさー」

 

 ようやく会えたカイトは俺がハンター試験を受けるのを反対していた。まだってなんだよまだって、俺ももう15歳でハンター試験受けてもいい年齢だろ、ジンは12歳で受けてるじゃねぇか。

 

「せめて後2年、いや1年待ってくれ!それまでに必ず……ゴホン!」

 

「それまでに必ず……?」

 

 カイトのよく分からない言葉から状況を整理する。そういえば、カイトがこの島に来たのはジンを探して彼の最終試験に合格する為だ。ということは、彼はまだジンから一人前のハンターとして認められていないわけで……

 

「もしかしてカイト、プロハンターじゃない?」

 

「ハンター試験は合格した!ライセンスも持ってる!……だが」

 

「ジンからの合格は貰ってないわけね」

 

「うぐっ」

 

 カイトは肩を落とした。まあジンからの試験だし他の試験なんかよりよっぽど難しいだろうから合格できなくても仕方ないよなぁ。

 

「そういえば、ステラの方はどうなんだ?ここに来るってことは、もしかしてお前もジンさんからの試験か?」

 

「いや、俺の方は単純にジンの連絡先知らないから探してるだけ。というかカイトも探してた」

 

「ええ……なんでそうなってんだ?」

 

 カイトの困惑も当然だろう。俺は渋々説明する。

 

「ジンのやつ、俺は実戦だけで強くなるだろ、って言ってゲームの中に放り込んだんだぞ!」

 

「ゲーム?」

 

「グリードアイランドってやつ。この大陸のどこかにある島に飛ばしてカードを集めるって内容のゲーム。製作者はジン」

 

「ヘぇ〜、ジンさんそんなものまで作ってたのか」

 

 興味深そうに聞くカイトに釘を刺しておく。ここでカイトがグリードアイランドにうつつを抜かしたりなんかしたら、俺のハンター試験がどんどん遠ざかってしまう。

 

「言っとくけどジンはいないからな。カイトが別れた日には俺をそこに放り出してどっか行きやがった!」

 

「マジか……けど、実際そこでステラは鍛えられたんだろ?」

 

「あ、分かる?」

 

 まあグリードアイランドでの5年間とその後の3年間で、一端のプロハンター並みには肉体的にも強くなっただろうからな。発まで含めればある程度格上も食えるし。

 

「あの時とは見違えるほど強くなっている。……どうやら口調も荒くなったようだが」

 

「むっ、昔も猫被ってただけなの!」

 

 恥ずかしい黒歴史を晒されて慌てて否定する。なんで私口調だったんだろうな……。イメージ修行で幼女の体を意識しすぎて無意識に幼女になりきってたのかもしれない。いや、なりきりとかじゃなくて実際そうなんだけど。

 

 

 

ーーーCASE4 ハンター試験ーーー

 

 

 

「じゃあカイトもさっさとジン見つけなよ」

 

「大丈夫だ、候補は徐々に減っている。後1年くらいあれば見つけられるだろう」

 

 カイトと連絡先を交換した俺は今後どうするかを考えた。カイトの予測を信用すれば今より1年後には俺はハンター試験を受けられるわけだが、1年後の今日だとその年のハンター試験はとっくに過ぎている(ハンター試験の試験日は1月1日だから)そうなると最速で受けても原作開始の1年前のハンター試験しかないってことだ。

 

 できるならその年で1発合格したいところだが(ゴン達と一緒に受けて脱落したら恥ずかしいし)、正直なところ今の俺が1人でハンター試験を受けて合格できるかは自信ない。

 

 さっき俺はプロハンタークラスだって言ってたじゃん!と皆さんは思われるかもしれないが、それはあくまで肉体的な強さでありハンターに必要な知識の方は全く無いと自信を持って言える。

 

 特にハンター試験には試験場に辿り着くまでにそういった内面での優秀さを必要とする場合が多く、俺の場合肉体的な強さを必要とする後半の試験は余裕だが、試験場にまで辿り着くことや知識や思考力を必要とする前半の試験は全く受かる気がしない。なんならカンニング済みであるゴン達の代の試験でも100%受かる保証はない。

 

 仮にキルアが合格した年のハンター試験なら試験場にさえ辿り着ければ余裕かもしれない。だが、キルアがあそこで合格したのは決して受験者を無双したことが理由ではなく、前年に最後の最後で精神的なものを理由に失格となったキルアがそれを克服したからである。ネテロ会長もキルアの成長を理由に合格の判断を下した。

 

 

 

 だったら今後はハンター試験に合格する為のお勉強をするのか、という話になるのだが、現状の鍛えた自分でもキメラアント編で厳しい状況に置かれたと想定すると生き延びるのは不可能だ。そんな中で勉強を優先した結果、その実力が身に付きませんでしたじゃ悔いしか残らない。

 

 まあ単純に勉強は嫌なのもある。むしろこっちがメインだな……

 

 

 

 とにかく、勉強して次のハンター試験に臨むよりももっと手っ取り早く、尚且つ自分の実力も鍛えられる素晴らしい手段が存在するのだ!

 

 

 

ーーーCASE5 200階クラスーーー

 

 

 

 というわけで2年ぶりに戻って来ました天空闘技場。1階クラスを瞬殺して50階へと行く。最初から180階に行く選択肢もあったが、ちょっと資金が心許なかったため稼ぎつつゆっくり上がるとする。

 

 

 

 その手段とはヒソカだ。彼は前年のハンター試験を失格になっており、その裏を返せば試験場までは辿り着いていることになる。彼自身ハンターの素質があり(素質だけで言うならゴンやクラピカに並ぶトップ)快楽殺人者というのを除けば優秀なハンターなのだ。

 

 そしてそんなヒソカは今より半年後、カストロと戦い洗礼を受けさせる。洗礼とは、200階に上がったばかりの念について全く知らない人を200階の念能力者がカモにすることなのだが、念を身につけてない人間が念による攻撃を食らうのは死ぬ危険性がものすごく高く生き残っても心身に障害が残るのは確実だ。恐らくヒソカはカストロの才能を見込んだ為、カストロに後遺症が残らないように優しく洗礼したのだろう。

 

 それにしてもこの洗礼というシステムは最悪だ。200階クラスに上がっただけでもその人が才能ある格闘家なのは確実なのに、その人の未来を奪うような卑怯な念能力者がいて、そこで生き残った可哀想な人は才能を奪われた理不尽を受け入れて自分も奪う側になってしまう。

 

 人材ハンターとかやってる場合ならここを是正するべきだと思うのだがどうなってんだろうな?それらも含めて興行だから手出しできないのかな……

 

 

 

 話を俺の考えた手段の方に戻すと、天空闘技場の200階クラスに行ってヒソカと接触し、その後はヒソカを利用してハンター試験を攻略する、というのが俺の考えた手段だ。

 

 ヒソカは快楽殺人者という危険人物ではあるが、ぶっちゃけこの作品はそれ以上の危険人物の方が多く、対応をミスらなければ殺されるようなことにはならないだろう。

 

 それに、ヒソカを利用できる関係になるのもそんな難しい話ではない。戦ってその強さを認めさせればいいのである。ヒソカと戦うなんて自殺行為だろ、と思われる人もいるかもしれないが、ああ見えてちゃんとルールには従う意外と律儀な奴だ。こちらのルールを認めさせれば死なない程度の戦いをできるだろう。

 

 

 

 それに、以前分身能力を作ると決めた時にヒソカと戦うのは決めていたのだ。今は亡きカストロさんの無念を晴らすと!

 

 しかも格上との戦いで経験も学べる、一石三鳥の手だ。この方法に比べたらハンター試験に向けて勉強することのなんたる効率の悪さか、捨てちまえそんなもの。

 

 

 

ーーーCASE6 戦は舞ーーー

 

 

 

 約2週間掛けて、俺は200階クラスに上がった。こちらの様子を窺う洗礼組を横目に俺は参戦の申し込みはせず、自分に割り当てられた個室に向かう。

 

 取り敢えず200階に着いたわけだが、俺の方針としてはまず1番目はヒソカとの戦いを取り付けることだ。そして2番目としては可哀想な新人が洗礼を受けるのを止めてあげることだ。流石に人が半身不随になったりするのは見てられない。

 

 2番目に関してはそこまで難しい話ではない。手動操作にした「当然な風船人形(ワンダーバルーン)」を使えば遠距離から監視することができるからな。具現化したものは隠で見えなくすることができるので、手動操作にした風船人形を隠で見えなくし、新人を監視してその人が決めた対戦日時に俺が合わせれば良い。

 

 1番目に関してはある程度仕込みをする必要がある。単にヒソカと戦うだけだと生死は問わずとなり、ヒソカに殺される可能性が高くなる。ゴン達のような才能溢れる未熟な人間は見逃すヒソカだが、自分がそこに当てはまるかはちょっと微妙なところである。

 

 

 

 まあ、ヒソカを誘導する方法も難しくはないだろう。エンターテイナーの気質とバトルマニアの気質、双方共に重視するのは戦いの楽しさだ。つまり、そうした方が戦いが楽しくなるのなら喜んで自分に不利な行動もするし、戦いがつまらなくなる行動をされると不快になるのだ。

 

 その要素が1番に出ているシーンがクロロvsヒソカだ。ヒソカは自分の使う能力を明かしたクロロに不快感と怒りを露わにした。これは能力を晒してわざと不利な状況を作ろうとするのが戦いをつまらなくする行為だからである。逆にその行為がクロロにとって勝つ為のものであると説明されるとヒソカはやり方として認めた。

 

 

 

ーーーCASE7 共闘説?ーーー

 

 

 

 因みにファンの間では有名な話だが、この戦闘には共闘説という面白い考察がある。クロロはヒソカとタイマンで勝ったのではなく団員と協力してヒソカをハメ殺したのではないか、という仮説だ。クロロvsヒソカには作中で明かされてない不自然な謎がいくつもあり、それを説明する上で共闘説はかなり説得力が高い仮説だ。

 

 自分はこの仮説について、8:2で共闘説が正しいのではないかと思っている。ハウダニット(証拠)よりもホワイダニット(動機)に比重を置いた推測なので確証はあまりないが。

 

 

 

 まずあの戦いにおける1番の謎は「何故クロロは能力を説明したのか?」だ。念能力を用いた戦闘において発は重要であり、強さの格の違いなどいくらでも凌駕しうる要素だ。これが分からない内はありとあらゆる可能性を頭に入れ、必然的に守りに入った戦い方をしなければならない。そして以前説明したように、相手が守りに入ってる場合には反撃されるリスクは低く、その分こちらは攻めを維持することができる。逆に能力を明かしてしまうと相手はその能力の対策だけを頭に入れて動くため、能力を食らわない範囲で攻められてしまう。

 

 クロロは天空闘技場の観客を大量の爆弾人形にして戦ったわけだが、もしヒソカが爆弾人形を作る仕組みを知らなければ、本体であるクロロを探して倒すという行動にももっと慎重にならざるを得なかっただろう。結果として安全に殺せた可能性が高い。

 

 そのデメリットを払ってまで得られるリターンは何なのか?ということを考えると、共闘説はしっくりくる。共闘説の場合、クロロが1番気を付けるべきなのは味方の存在を気取らせないことだ。ヒソカをタイマンで殺すという構図がヒソカを囲んで殺すという構図に変化すれば、ヒソカも手段を選ばず逃げようとするだろう。その最中で大事な仲間が死んでしまったりなどしたらヒソカを殺しても戦果としては最悪だ。

 

 先程は相手の能力が分からなければ守りに入った戦い方になると言ったが、守りに入った戦い方の強みは視野を広く持って何が起きても大丈夫なようにすることだ。当然攻めているよりも周囲を見渡すことができ、クロロの味方に気付ける可能性も高い。クロロは能力の説明をすることで駆け引きという土俵に誘い、ヒソカの周囲への警戒を下げさせて味方と協力してハメた、というのが能力説明の真相だったとするとこれは能力の説明のリスクに見合うリターンであると自分は納得する。

 

 ちなみに、能力の説明は能力発動のための制約だろうという考察があるが、自分はこれは微妙な線だと思っている。能力の説明が制約だとすれば、その制約も説明しなければ説明にならないと思うからである。実際ゲンスルーはハメ組やゴン相手に「命の音(カウントダウン)」について説明した時には制約についても説明していた。

 

 

 

 さて、ここからは作中の描写を根拠とするのではなく、クロロの動機から共闘説について考察をしよう。クロロvsヒソカはヒソカがクロロの除念を手伝ったことの報酬として実現したものだったが、クロロからしたらヒソカは裏切り者だ。クラピカに仲間の情報を教えたのも彼であり、仲間を殺し自身が除念する羽目になった間接的な要因と言っても過言ではない。そんなヒソカに対して約束事を履行するという義理が果たしてあるだろうか?むしろ報復の機会として報酬を餌に罠に掛けて殺すのが自然だろう。

 

 それとクロロの戦い方に関してだが、クロロ本人は確実に勝てる条件を揃えるまで待つと言っている。だが俺はそれに加えて、クロロは勝ち方も選ばないタイプの人間だと思っている。

 

 

 

 クロロの戦闘シーンと言えば有名なものはもうひとつある。それはキルアのお爺ちゃんであるゼノ・ゾルディックと同じくキルアの父親であるシルバ・ゾルディックを同時に相手にしたシーンだ。この結果はゼノとシルバがクロロを暗殺するより早くイルミ達がゼノ達の雇い主である十老頭を暗殺したことで終わった。つまりクロロが対抗暗殺の依頼を出したというわけだが、これはクロロが戦闘をただの過程としか思っておらず、盤外戦術上等の勝ち方を選ばない人間であることを示している。

 

 対してヒソカは勝ち方を選ぶタイプの人間だ。それは「カンペキに勝つ♣︎だろ?ゴン❤︎」という作中屈指の名言からも明らかだろう。

 

 

 

 そんな人間を確実に殺すために「タイマンに見せかけたリンチ」を用意する、というのは俺の持っているクロロに対するイメージ像にピタリと一致する。

 

 ヒソカの悪癖とクロロの戦術、あの戦いはどちらが悪いとかそういうものではなく、2人の人格の違いが表れた勝負だと思う。

 

 

 

ーーーCASE8 公平性ーーー

 

 

 

 話を戻そう。…元は何の話をしてたんだっけ……?

 

 そうそう、ヒソカは分かりやすく誘導もしやすいという話だった。行動原理が面白い戦いをしたい、エンターテイメントな勝ち方をしたいで一貫しているのでこちらは逃げより攻めの姿勢の方が喜ばれるし、こちらが戦いの準備をするなら喜んで乗ってくるタイプだ。

 

 だから今回俺はヒソカと戦う為の準備をするわけだが、その内容を簡潔に説明すると「試合前に手札を見せ合う」ことだ。ヒソカのバンジーガムは知らなければ対策の難しい能力であり、最悪戦闘開始時点でこれを知らなければ戦いにならないとまで思える。というか今回は俺の方が一方的にヒソカの能力を知ってるから、俺がヒソカに教える意味合いの方が強いわけだが。

 

 能力を教えるなんてリスクに見合うリターンがなければ……とか散々言った上で何やってんだコイツ?と思われても仕方ないが、今回は殺しではなく力試しだ。ある程度条件を同じにした方が良いし、俺には隠し札の存在もある。ヒソカの隠し札とは違って戦闘向きな分、手札を見せた上で俺の方が有利なはずだ。

 

 

 

 そんなことを考えつつ190階クラスの戦いを観戦していると、丁度200階クラスへの切符を手に入れた人間が出てきたようだった。俺は部屋を出て計画を実行する。

 

「ヒソカは俺の戦い見に来てくれるかな?」

 

 




 自分は考察に対する批判や指摘はなんでも受け付けております。
 自分がエタる理由の大半は単純なモチベの低下なので、自分の考えと違う意見はむしろモチベ源です。

 ただその上で本小説は独自解釈なので、解釈を変える可能性が低いことも明記しておきます。
 …この言い分卑怯すぎるな?


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5. 挑戦×伸縮自在の愛×切り札


 多分これ以上の戦闘描写は書けません。



 

ーーーCASE OF HISOKAーーー

 

 

 

「さぁ、200階に上がってきた若き闘士は彼女を止めることができるのか!注目の一戦です!」

 

 ステージには若い男女が立っていた。そこは戦う為の場所であり、決してダンスをする為の場所でも音楽を演奏する為の場所でもスピーチをする為の場所でもない。だが彼女はそこで明確なメッセージを発していた。

 

「おーっと!やはり出ましたステラ選手の魔法!彼女が指を鳴らすと破裂音と共に対戦相手は気絶します!一体どうすれば彼女を止められるというのかーっ!?」

 

 巧みな隠によって普通の人間には勿論、この200階クラスでも見破れない人がいるほどに精巧に隠された人形が対戦相手の真横で破裂する。突然の大音で相手を瞬殺する手際はまさに完成された戦術。

 

 

 

「最近は獲物に困らないな…♠︎」

 

 だけど彼女の魅力はそこだけじゃない。今まで彼女が相手した人は200階クラスへ登ってきたばかりの新人、わざわざ発を曝け出してでも瞬殺する価値はない。そこに彼女の優しさが詰まっている。

 

 この200階クラスには洗礼という文化があり念を知らない新人は洗礼によって大きなダメージを受ける。だが、彼女の能力は彼らを念に目覚めさせながらもダメージを最小限にとどめている。ボクも愛せる才能を持つ相手には似たようなことをするケド、彼女のそれは万人に対する愛だ。

 

 

 

 彼女は優しいだけでなく、同時に高潔な精神も持ち合わせている。新人相手に発を見せる理由が優しさなのは説明したが、それだけであれば隠を使う理由にはならない。

 

 確かに隠をすることで観客やライバル相手に能力を秘匿することができる。だが、隠が通じる相手に隠をする戦略的な意味は薄いのだ。念の秘匿なんて今更だし、ここまで堂々と隠を使ったところで、ここで警戒すべき実力者相手には凝をして下さいと言っているようなものだ。

 

 

 

 だからこれは挑戦状だ。「この隠を見破れない人間とは戦うつもりはない。中途半端な実力の人間を相手するくらいなら私は新人の保護を優先する」と、恐らく彼女はステージでそう言いたいのだ。

 

「フフフ……」

 

 素晴らしい人間性だ。ここまで高潔な人間となると、ボクとしてもとても好感が持てる。ああ、食べちゃいたいくらいに……

 

 

 

「!」

 

 そしてボクの発する気配に反応したのか、彼女はボクの方を見た。一瞬の視線の交差を経て、ボクらは通じ合った。

 

「クックック……!」

 

 彼女が出した挑戦状にはボクも応えなきゃいけない。ボクはケータイを出して参戦の申請をした。

 

 

 

ーーーCASE1 戦い方ーーー

 

 

 

 200階に来て3人目の新人を気絶させた後、異常な気配を察知して俺はそこを見た。

 

「(掛かった!ヒソカだ!)」

 

 奇抜なメイクとファッションを携え金髪を後ろに流した青年は、禍々しいオーラを明らかに下半身に集中させていた。

 

 やめろバカ!今の俺の性別考えたらただの変態だぞ!ただの変態だった!

 

 変態なのは知ってたけど、実際に見るとキツイものがあるな……俺コイツと一緒に行動しなきゃいけないのか……

 

 自分の判断に後悔を抱きつつ、会場を後にする。恐らく俺の予想が正しければ、彼は公平を期するために俺と似たようなことをするだろう。だがそれはヒソカがフェアプレイを重視するような良心があるからではない。

 

 

 

「おーっと!ヒソカ選手が指を鳴らした瞬間、彼がばら撒いたトランプが選手を斬り刻んだーっ!?これはステラ選手の魔法の再現でしょうか!?」

 

 ヒソカが重んじるのは楽しい戦いと面白い勝ち方だ。ヒソカのバトルマニアとしての部分は最初から自分が有利な状態で始まる戦いを好まないし、エンターテイナーとしての部分は周囲を驚かせる為に奇抜な勝ち方を望む。ついでに変態な部分は敵を心身共に屈服させようとする。

 

 だからヒソカは相手の戦い方に合わせる。本来なら相手の戦い方に合わせて戦うなど自殺行為だ。念能力はありとあらゆる可能性をもたらし、これらにその場その場で適切な攻略法を導くなんてできっこない。それをヒソカは自らの性癖の為に迷わず突っ込む、これをできる度胸とイカれ具合がヒソカのヒソカ足る所以なのだ。

 

 

 

 例えば、以前俺は最も完成度の高い能力としてヒソカの「伸縮自在の愛(バンジーガム)」を挙げたが、敵を倒すという点に限って見ればこれよりも有用な能力は存在する。ネテロの「百式観音」は究極の速さを実現したもので先の先で敵を叩き潰す最強の能力だし、クロロの「盗賊の極意(スキルハンター)」は使える能力を増やして敵を確殺できるコンボを揃えてから勝負を挑めば誰にでも勝てる能力だ。これらに比べたら、ヒソカの能力は敵を倒すことのみの視点で見ると無駄が多い。

 

 だがヒソカにとっての戦いが「相手の戦い方に合わせて対応し自分のペースに持ち込んで相手を屈服させること」であるのを踏まえると、これ以上の能力は存在しない。

 

 

 

 俺はヒソカの戦い方はバカのすることだと思っている。だけど、そのバカを100%勝つ気でやるのがとても恐ろしい。自分が最強であるという揺るぎない自信がなければこんなことはできない。

 

 念能力者はその時の感情によってオーラが増減することは話しただろう。これに関連して、モラウはピトーから逃げたキルアに対して「100%勝つ気で闘るのが念使いの気概」であると説いた。念での戦闘に戦う前から勝ち負けを決められるものなんてない。勝敗など戦ってみないと分からない。その上で自分が100%勝つ気でいることが最重要だと。

 

 だからこそ彼らには彼らの戦い方がある。100%勝つ気でいる為にそれぞれの戦い方を貫くのだ。根拠のない自信など蛮勇でしかない、彼らが自分が勝てると信じる根拠には彼らなりの戦い方があるのだ。

 

 それを加味するとヒソカの化け物さが分かるのではないか?例え相手がどんな相手でもその相手の戦い方に合わせ心身共に屈服させるつもりでいる、こんな人間が死なずに今も生きているのがまずおかしいのだ。

 

 

 

ーーーCASE2 伸縮自在の愛ーーー

 

 

 

「さぁー!いよいよ始まります!世紀の第一戦!!戦績は4勝0敗!その全ての試合を一瞬で終わらせた大魔法の使い手、ステラ選手の入場です!」

 

 大歓声を受けながら入場する。それにしてもなんなんだよ大魔法の使い手って。そりゃ確かに念について知らない人間からすりゃ魔法にしか見えないけどさ。

 

「そして反対側からはヒソカ選手の入場だぁー!!戦績は2勝0敗!その試合内容はステラ選手を彷彿とさせる瞬殺!今最も勢いのある奇術師です!」

 

 反対側からヒソカが現れる。俺は積極的に新人を狩ってる(保護してる)から戦績が伸びているが、どうやらヒソカはそこまで天空闘技場で戦いの日々を繰り返しているわけではなかった。恐らく楽しめそうな相手とだけ戦えるように日時を合わせて戦おうとしているのだろう。

 

 

 

「最低限の準備はしてきたか?」

 

「耳栓のことかい?持ってきたよ♠︎ボクもできるだけ長くキミと愛を語り合いたいからねぇ……♦︎」

 

「ケッ、何が愛だ」

 

「君こそ、ボクの能力は分かったかい?」

 

「散らせたトランプと相手をオーラで結んで引き寄せる。あそこまでオーラを自在に操れるのは変化系だ。オーラを物に付けて引き寄せることができるようなものに変化させてるんだろ」

 

「正解❤︎ ボクのオーラはガムとゴム、両方の性質を併せ持つ♠︎」

 

 お互いの手札の見せ合いを終えると構えを取る。こちらは発を習得する段階でバンジーガムにどうやったら勝てるかを考えながら作ってたんだ。殺し合いに持ち込んでも7割くらいの勝率はあると思う。だが、ヒソカは圧倒的不利な状況ほど燃え上がるタイプであり、恐らく実戦ならその3割を確実に引いてくる人間だ。それが怖いからこそ、俺はヒソカに能力を明かし俺の流儀に合わせてくれるように誘導した。

 

 

 

「一撃与えた方の勝ちだ。異存は?」

 

「無いよ❤︎」

 

 天空闘技場の戦闘は原則的にはポイント&KO制という、攻撃やダウンを取ってポイントを貯めて先に10ポイントを取るか、対戦相手を気絶させた方が勝利するという方式を取っている。だが、200階クラスより上では選手同士の合意の上であれば対戦方式を変更できる。

 

 原作ではフロアマスター戦であるクロロとヒソカの戦いで判明したことだが、フロアマスター戦でも他の試合と同じく審判が存在することから死闘が解禁される200階でも同様の様式だと思い、事前に確認を取っていた。

 

「始めっ!」

 

「当然な風船人形(ワンダーバルーン)!」

 

 審判の合図と共に俺は周囲に5体の分身を召喚して突進する。ヒソカはそれらの動きを見切りながら分身の一体に手を伸ばすと、能力を発動する。

 

「伸縮自在な愛(バンジーガム)」

 

 ガムによって引き寄せられた分身は別の分身に向かって飛んでいき、2体の分身はぶつかると大きな音を出して破裂した。

 

 その隙に俺はヒソカに攻撃を加えようとするが、ガムが飛来するのを見ると眼前に分身を出して盾にする。

 

 盾にした分身にガムが付着するが、俺はその分身が利用される前にヒソカの方へと蹴り飛ばす。ヒソカは飛んできた分身を見て後ろに避け、そのまま地面に激突した分身は付着したガムごと破裂した。

 

「な、何が起きてるのでしょうか!?今の一瞬の攻防で不思議なことが起きすぎて実況を挟む隙もありません!」

 

「どうやら嬢ちゃんは自分の体を模した風船を操るようだ。それに対してヒソカは……風船を引き寄せてぶつける、念動力のようなものを使っているな」

 

「なっ、なるほど。彼らはそのようなことができるのですか。…で、アンタ誰?」

 

 

 

「ふぅん……分身を出すのは一瞬でその数も大量に展開可能、ただし分身自体は攻撃力は持たない烏合の衆ってところかな?」

 

「烏合の衆か、まさしく言い得て妙だな」

 

「ふふふ、冗談だよ❤︎ その分身が真価を発揮するのは撹乱と防御♠︎」

 

 

 

 バンジーガムはとても厄介な能力だ。一度つけられてしまうと逃げることはできなくなるし、その付け方もオーラを飛ばして付着させる以外に殴り合いのついでで付着させることができる。このバンジーガムから逃れる為には常に盾となるものを用意するしかない。だが、ただの盾ではすぐにガムによって没収されてしまう。

 

 そこでワンダーバルーンがガムの対策になる。ガムを飛ばすにも分身に紛れた俺に正確に狙いをつけるのは難しいし、俺は常にヒソカとの間に分身を置くことを意識すればガムが付くのも防げる。

 

 

 

「だけど分身を使うならキミ自身が突っ込んでくる必要はないよね♦︎ 操作できる限界距離はそこまで広くないのかな♣︎」

 

「どうかな?俺の分身に攻撃性能はないから、仕方なく俺が攻めてるだけかもしれないぞ?」

 

「そうだとしてもキミの狙いは同じだ♣︎ 分身で死角を作ってボクに攻撃すること……だろ?」

 

 流石に読まれてるか。まあ音響兵器としての部分が封じられれば、ワンダーバルーンの役割は撹乱のみだ。

 

「そうだな。勝敗条件を変更するか?確かにこの条件だと俺に有利だし」

 

「まさか❤︎ 」

 

 自分の敗北を全く考えてないような笑顔に俺も釣られて口角が上がる。俺としてもお前の驚く顔を見たいが為にここに来たんだ、100%勝つ気なのは決してお前だけじゃない!

 

 

 

ーーーCASE OF HISOKAーーー

 

 

 

 ああ、彼女の能力は素晴らしい。予め能力を知って対策しなければ分身一体一体の脅威が跳ね上がり、その対策をした上でも撹乱としての役割に切り替えられるだけの汎用性がある。

 

 周で強化したトランプで分身を処理していくが一向に分身は減らない。破壊と生産のペースではこちらの方が間に合ってないようだ。

 

 だが、それは関係ない。なんなら破壊よりも生産の方が早いと分かった今、攻撃性を持たない分身に無駄な攻撃をして隙を晒せばステラの攻撃を受ける危険性が上がる。

 

 ではこのまま包囲され続けるのを許容するのかという話になるが、それもあまり良くない選択だ。何故なら、分身の作る死角に乗じての不意打ちに反応できるかどうかは分からないからだ。ステラが隠を使えることが分かっている以上、気配に反応して防御するのでは不十分であり、円を展開してもこの大量の分身達も円の中に入る為にその中に紛れた本物を見つけ出すのは難しい。

 

 

 

 だとすればこの包囲網から抜け出すのが1番良い手なのかもしれないが、包囲網の一点から逃れようとしても分身の消滅によってボクの行動が彼女に感知されてしまう。安全に逃れられる場所は上しかない。

 

 だからこそ、彼女はそこを張っているはずだ。言うなればボクは穴の中に投げ込まれたネズミ、出口は一ヶ所しかなく、その出口には怖い猫が待ち構えている。どうすれば生き残られるかは中のネズミには分からない。

 

 

 

 だけどひとつだけ言えることは、ボクはネズミじゃないということだ。

 

 

 

 ボクは分身の包囲網から抜け出す為に高く飛び上がる。この隙を見逃すかどうかは彼女次第だった。

 

「やっぱり来たか❤︎」

 

 明らかに他の分身より動きの速い気配がボクの背後を取る。その反応速度は素晴らしいものだったが、その判断は甘かった。

 

 彼女はハッタリで乗り切ろうとしたが、彼女の分身の操作範囲が狭いのは彼女が恐らく具現化系に属する能力者だからだろう。強化系と操作系と放出系が苦手な為に強度のない分身を狭い範囲で操るという能力を作ったに違いない。

 

 そんな彼女が分身を置いて突撃するのは危険な行動だ。分身の1番の利点は本物と見分けがつかないことであり、本物が「分身と距離を離して行動する」という分身では不可能な挙動をしている時点でその利点は失われる。

 

 

 

 天井と左手を結んでいたガムを一気に縮めて加速し、ステラの攻撃を避ける。それと同時に右手でガムを飛ばしステラを引き寄せる。

 

「まだまだキミも青い♠︎」

 

 ボクに釣られて飛び上がったこと自体は悪くない。あそこで勝負を決め切れるのならそれに越したことはないし、基本的に戦いは長引けば長引くほど不確定要素は増える。

 

 だけど彼女の能力は守りに偏重していて、無理に攻めるよりは守り続ける方が戦いを有利に運ぶことができるだろう。動かないという選択肢を選べるほど彼女は熟してはいなかったが、まだまだ未熟な彼女の戦い方はそれはそれでボクの好みだった。

 

 引き寄せたステラを殴り抜ける。

 

 

 

 パァン!

 

 

 

 破裂音と共に拳が空を切った。

 

 ……分身!?本物は!?

 

 咄嗟に堅で防御を固めるが、本物がすぐに追撃してくるようなことはなかった。だったら一体今のは…?と思いながら分身達のいた場所を見下ろす。

 

 

 

 そこにいたのは動かない分身に紛れてなにかを投げつけるステラの姿だった。その投げ込んだものが火のついたマッチであるのを確認すると、ボクは足と床に結んでいたガムを一気に縮める。

 

 

 

 爆発が起こった。

 

 

 

ーーーCASE3 イメージーーー

 

 

 

 ミルキから得たアドバイスは水素だった。可燃性のガスである水素なら風船人形が相手に当たって破裂した後に火種を投げ込めばボカン!だし、イメージ修行に必要な水素はいくらでも入手方法があるので調達にも困らない。

 

 自爆の危険性が低いのも有用だった。例えば、世の中には空気と混ざるだけで発火するガスも存在するが、それを使う場合分身を作った直後に破壊されてしまうと俺諸共自爆してしまう。破壊されるだけでは脅威はないというのは俺のリスクを考える上で重要だった。

 

 そしてイメージ修行にも危険性がない。勿論可燃性ガスであるので火元には細心の注意が必要だが、毒ガスを死なない範囲で取り込むことなんかと比べたら圧倒的に無害だ。むしろ水素吸入器で水素を吸うのは健康に良いくらいだ。

 

 

 

 だがイメージ修行自体の難易度はとても高く、修行は難航した。もともと目に見えず触れられない気体の具現化や変化がそう簡単にできるとは思ってなかったが、思ってた以上にガスのイメージが掴めなかった。

 

 だから俺は能力を妥協した。元々は水素が中に入った風船人形を具現化するつもりだったが、それを具現化した風船人形の中に水素を入れるという形を目指した。これなら水素吸入器をイメージすれば可能だと思ったからだ。

 

 だがそれすらも難しかった。いや、やろうと思えば多分できたかもしれない。例えばキルアは決して無条件でオーラを電気へと変えられるわけではなく、その前に体に電気を取り入れることでオーラを電気に変えるイメージを強化している。それと同じように俺も水素を体内に取り入れて、それを取り出すイメージをすればその形も実現できたかもしれない。だがその方法は電気以上に現地調達の難しいものを制約とするわけで、長期遠征であるキメラアント編で使うには厳しい。

 

 

 

 そういうわけで俺がどういう形で水素を具現化したかというと「水素吸入器を普通に使う」という日常的な行動を念で再現することにした。単なる水素では目に見えず触れられない為にイメージしにくいが、俺自身が体内に取り入れた水素というのはイメージしやすかった。

 

 つまるところ俺の二つ目の能力は「体内で水素を生成する」というものだ。地味すぎて名前はまだない。

 

 

 

 だがそんな普段は健康法にしか使えないような能力も、ワンダーバルーンと組み合わせることで爆弾人形を作ることができる。

 

 普段のワンダーバルーンは自動操作に設定しているが、俺自身が動けなくなることを制約として手動操作にすることもできる。この手動操作というのは自分の場合、自分の意識が分身の方に入っているパターンだ。ハンゾーの「分身の術(ハンゾースキル4)」と似たようなものだと思ってくれればいい。

 

 

 

 だからこそ「体内で水素を生成する能力」を発動した時に、体内の定義が本体と分身のどちらかにあるかで能力の挙動が変わってくる。

 

 もちろんだが手動操作の分身を出してない状態でこの能力を発動しても他の分身に水素を送ることはできない。それができるなら最初から水素を送り込む能力を作ってたよぉ……

 

 だが、意識が手動操作中の分身に寄っている状態でこの能力を発動した場合にのみ、水素が手動操作中の分身の中に入るのだ。これに気づいたのは「体内で水素を生成する能力」を習得した後の話なのだが、気づいた時は超安心した。なんせ役立たずの能力を作ってしまったとばかり思い込んでたからな……

 

 

 

ーーーCASE4 切り札と罠ーーー

 

 

 

 俺がヒソカに隠していた切り札はこの二つだ。手動操作の分身を普段の分身より長い範囲内で動かせることと、その分身の中に水素を詰められるということ。どちらも戦術を前提から覆すもので、ワンダーバルーンを用いた駆け引きの中でこの2つの切り札を切るのが俺の勝ち筋だった。

 

 一見すると分身を用いた攻防でも俺が押していたように思えるが、結局のところ本体である俺がヒソカにダメージを与えることに成功しない限り俺の勝ちはない。

 

 そして、死角からの攻撃がヒソカに通るかどうかは非常に怪しい。普通ならそこを通すための分身なのだが、ギアを上げまくったヒソカの反応速度を前に死角から攻撃したくらいで攻撃を通せる自信はなかった。

 

 もし俺の不意打ちがガードされてしまえば、待っているのはガムだ。その時点で俺の敗北は確定事項となる。

 

 

 

 だからこそ俺は状況を作った。分身の動きなど度外視してとにかく大量の分身を作る。ヒソカが分身を消すよりも早く分身を作り出せば、彼は分身を消すのではなく本体の攻撃を待つ形になるだろう。

 

 仮にこれが普通の戦闘であれば、ヒソカは周囲を分身が囲む中でも平気で俺のことを待ち構えていたに違いない。いくら俺が相応の実力を持っているといっても、死角からの攻撃で自分より実力のある相手を殺し切るまでには持っていけない。

 

 その為のルールだ。一撃でも食らったら終了、というルールであれば死角からの攻撃は脅威だ。ヒソカは決められたルールにはきちんと向き合うし、そのルールで勝つ為に最善の選択肢を取るだろう。

 

 結果としてヒソカは跳んだ。それは決して安易な跳びではなく俺への罠だったのだが、この状況まで辿り着いた時点で俺の罠は完成していたのだ。

 

 

 

「素晴らしい……❤︎ ボクの負けだよ♠︎」

 

 体中を焼かれたヒソカが煙から出てくる。オーラの防御自体は間に合ったみたいだが、軽傷を負っていた。俺は感慨に耽るのを抑えて告げる。

 

「ああ……俺の勝ちだ」

 

 俺たちの言葉を皮切りに審判が決着を告げる。その瞬間会場に割れんばかりの声が上がった。

 

 

 

ーーーCASE5 ハンター試験への道ーーー

 

 

 

 それから2年後、カイトからジンを見つけて一人前になれた報告を聞いた俺はハンター試験を受けることにした。なんの偶然か、俺の知人であるヒソカという奴もハンター試験を受けたいらしく俺はそいつについて行った。いやぁ〜ぐうぜんもあるもんだ。

 

 いや……この言い方には語弊があるな。実際はヒソカにストーカーされている、というのが正しい。

 

 

 

「お前らはなんでハンターになりたいんだ?」

 

「ボクは別にハンターになりたいわけじゃないな♦︎ハンター資格を持ってるとなにかと便利だから欲しいだけ♣︎あと彼女の付き添い❤︎ 」

 

「彼女言うな!…俺も似たようなもんだ、ハンターになれば身元も保証されるし就職で有利だからな……」

 

 俺の遠い目に面接官の人は同情の目を向けたが、俺達の発言内容を振り返ると露骨に不機嫌になる。

 

「ちっ、お前らは大した理由もなくハンターを目指すタイプか!こんな奴らほど実力はあるんだからやってられねぇぜ!」

 

 面接官の人はため息を吐くと、俺達に忠告なのか負け惜しみなのかよく分からないことを言ってくる。

 

「いいか!ハンターになる為に必要なのは腕っぷしだけじゃねぇ!そんな適当な奴らがハンターになれると思ったら大間違いだぞ!!」

 

 

 

 

 

「(そんなの分かってるからこんなヤツについてきたんだよ!!!)」

 

「何か言った?」

 

「なんでも!」

 

 面接官の人がしぶしぶ教えてくれた目安の場所を目指して歩く。その道中で寂れた街を歩いていると、目の前に仮面を被った集団を引き連れた老婆が現れた。

 

「ドキドキ2択クイ〜〜〜ズ!!!」

 

「クイズ?」

 

 後ろの仮面の人たちがうすーい拍手をする中、老婆は説明する。コイツら何の為にいるんだろうか。

 

「お前の母親と恋人が悪党に捕まり、1人しか助けられない。母親と恋人のどちらを助ける?」

 

 それにしてもドキドキ2択クイズか……

 

 

 

「恋人かな❤︎」

 

「理由は?」

 

「恋人ってことはその時点で1番大切な人ってこと♣︎ 既に大切じゃなくなった人になんか興味ない♦︎」

 

「なるほど、分かった」

 

 まあヒソカならそんな答えだよな……もしかしたら俺という存在がヒソカに恋人と答えさせたのかもしれないが(想像するだけで吐きそう)それでもヒソカが答えは沈黙、なんていう殊勝な回答するとは思えない。「答えはお死枚♠︎」とかいうクソつまんないことは言うけど。

 

「アンタは?」

 

「俺は……」

 

 だが、ここでヒソカが試験を脱落するのはあり得ない。何故ならヒソカは今年の試験は試験官を半殺しにしたことで失格するからだ。だから必然的にこのクイズは正解するはずだ。

 

 そこで原作の流れを思い返す。確かゴン達より先に受けた人は母親と答えて通された道を歩いていったが、その道には危険な魔獣が沢山いてそいつに襲われた。それを指して正しくない道だと言ったわけだが、別にその道自体がゴールに繋がっていないとは言われていない。

 

 だとしたら「ゴールには繋がっているが危険な魔獣がいる道」である可能性はあるのだ。むしろ、ヒソカやイルミなどの危険人物が受かるということは、選択肢を間違えても乗り越えられるだけの腕があれば問題ないという可能性が高い。

 

 

 

「俺も恋人だ。理由は隣と同じ」

 

「ではこの道を通れ」

 

 老婆が指す道を通る。途中で危険な魔獣とやらも現れたが、俺達に喧嘩を売ることはなかった。魔獣って確か頭が良い設定だったからな、わざわざ自殺行為なんてしないだろう。

 

「なんだ♣︎ ボク達は両想いだったのかい❤︎」

 

「死ね」

 

 

 

 …あれ……これもしかしてヒソカと知り合わなくてもなんとかなった可能性ある……?いや、よそう……余計なことに気がついて発狂なんてのはごめんだ……

 

 

 

ーーーCASE6 無限四刀流の人ーーー

 

 

 

「おい、キサマら!試験官であるこのオレに対して喧嘩を売ってるのか!?」

 

 結局無事にハンター試験に辿り着き、試験が開始されて一安心した俺とヒソカだったが(ヒソカは別に安心してない)、新たな試練が立ち塞がっていた。試験官の人に絡まれたのである。

 

 いや、それは念を使えない人にはそう見えるのかもしれない。だが気配をオーラとして捉えられる俺の視点では明らかにヒソカの方が喧嘩を売っていた。

 

 ヒソカは殺気を試験官の人に向けていたのである。うーわ、と思いながら俺はヒソカから離れようとしたのだが、敢えなく俺も巻き込まれてしまった。

 

 

 

 これでもし俺が念を覚えていなければ試験官の人も俺のことを無関係な受験者だと思っただろう。だが俺は念を使える人間で、現に俺はヒソカの出す殺気が気持ち悪すぎたためにこっちもオーラで防御していた。

 

 それを試験官から見て生意気な念使いの受験者がいると思われたのかもしれない。俺は受験者を掻き分けてこちらに歩いてくる試験官を見ながらヒソカに強く言い含める。

 

「絶対手を出したら駄目だぞ!いいか、絶対だぞ!」

 

「分かってるよぉ♠︎」

 

 コイツ分かってないよ絶対!

 

 俺達の目の前に試験官の人は現れた。片手には曲刀が握られており、やる気満々というオーラを出していた。その人の顔を見て俺はピンとくる。

 

 

 

 ああ、この人が無限四刀流の人か。この人も念能力者だったんだなぁ……

 

 考えてみれば当たり前だ。ハンターの試験官はプロハンターの仕事(ボランティアではあるが)であり、そのハンターの仕事をする為には裏試験の合格は前提である。そして裏試験の内容が念能力の習得だ。必然的に無限四刀流の人も念を習得してたことになる。

 

 だとしたら系統はなんだったのだろうか?刀を投げて操ることから操作系かもしれないが、セリフ的にはそっちはただの投擲技術であり普通に刀を強化してるだけの強化系な可能性もある。

 

 

 

「俺は試験官だぞ!俺がお前らを不合格だと言えばお前達は不合格なんだ!」

 

 それにしても無限四刀流の人は小物くさいな……こんな人間がヒソカの挑発を受け流せるわけない。

 

「キミが試験官なんだ♦︎ じゃあハンターになるのに強さは要らないのかな♣︎」

 

「ッ!!テメェ!!!」

 

 あっ、と思った時には遅かった。無限四刀流の人が曲刀でヒソカに斬りかかるが、その曲刀がヒソカに到達する前に曲刀は床へと落ちた。

 

「ぐわぁぁぁあああ!!!」

 

「うわぁ……」

 

 無限四刀流の人の顔面は血だらけだった。顔を斜めに切り裂かれており、その痛みで悶絶していた。いや、そんなことより……

 

「手出すなって言ったじゃん!!」

 

「ボクからは手を出してないよ♣︎これは正当防衛♠︎」

 

「ぶっ飛ばすぞお前!」

 

 

 

 結局俺とヒソカは試験を失格になってしまった。こんなヤツと知り合わずちゃんとハンター試験の勉強しとけば良かった……

 




 ハンター試験編でのステラの大体のポジションが見えてきましたね……


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6. 原作開始×試験×魔術師


 プロット無しで書いてるので書き始めた時はここまでヒソカの存在感が大きくなるとは思いませんでした。まだ6話やぞ。



 

ーーーCASE1 魔法ーーー

 

 

 

「ぎゃぁぁぁあああ!!!」

 

「アーラ不思議❤︎ 腕が消えてしまいました♠︎」

 

「お、おれ、のぉぉ!」

 

 両腕を切断された男が叫ぶ。まあ自業自得だ、ハンター試験の会場に着くほど優秀な人ならヒソカとの格の違いに気づいても良いのにね。

 

「あーあ、ダメだよ人にぶつかったのなら謝らないとな。特に快楽殺人鬼相手には、さ……」

 

「な、なんだコイツ……!宙に浮いてるぞ!!」

 

 俺はヒソカの後ろから現れる。その姿は黒いローブと黒い帽子を身に付けていて、何も見えない人には空を飛ぶ魔法使いのように見えるだろう。

 

 

 

 端的に言うと、俺は天空闘技場で魔術師と呼ばれているうちにこの称号を気に入ってしまった。いやまあただのごっこ遊びではなく実用性を加味してのロールプレイなのだが……

 

 前年の試験で気づいたのだが、ヒソカの隣にいるとヒソカに殺される人間が沢山出てくる。いやまあ流石にヒソカに喧嘩を売って死ぬヤツは自業自得だと思うが、中には逃げようとしてるのに殺される人間もいる。そんな人間を見て俺の良心が痛まないかというとめちゃくちゃ痛い。そりゃ選挙編到達の為に見捨てる人は見捨てると言ったものの、ヒソカに殺される有象無象なんて原作にはなんら関わらないし。

 

 そんな人を助けるには能力を解禁するしかない。ヒソカに先んじて殺される人を峰打ちで気絶させる、なんてことをするには俺の体が幾つあっても足りない。だが、都合の良いことに俺の手にはその人手を増やす手段と楽に人を無力化させる手段が存在した。

 

 流石のヒソカも気絶した人を殺すほど落ちぶれてはいないし(というかつまんないだろう)能力を使って先手を取ればヒソカに狙われた人をある程度助けることだってできる。

 

 

 

 だが、1番のネックは念能力を堂々と使ったら確実に目立つということだ。天空闘技場に出といて今更かよ、とは思われるかもしれないがあの世界はあの世界で日頃から念能力が飛び交ってるので慣れたものだと思われる。だが、そんなのを全く知らない人間が念能力を目の当たりにすれば驚くしその秘密に迫ろうとするだろう。

 

 だから俺は開き直った。魔術師だから魔法を使うのは当然だよね!とゴリ押すことにした。今も宙に浮いているのは隠で見えなくした分身に担いでもらってるからだし、魔法使いのような衣装もただのオシャレだ。一応ヒラヒラしたローブで見た目を誤魔化す狙いもなくはないけど。

 

 

 

 それよりも気になるのはゴン達からの評価だ。俺は目を閉じて新たに分身を召喚する。この分身に担がせるという方法は何も演出の為だけのものではない。

 

 俺のワンダーバルーンは手動操作で動く分身を召喚することができるが、その制約として俺は動けなくなる。だが、動けなくなるといってもピトーの「玩具修理者(ドクターブライス)」のように本人が縛られて移動することができなくなるわけでも、ハンゾーの「分身の術(ハンゾースキル4)」のように声を掛けられたり触れられると強制解除されるわけでもない。

 

 だから俺の動けなくなるという制約も分身に動かしてもらうということである程度カバーできるのだ。まあ制約の抜け道を見つけたせいでちょっと分身の仕様が変わっちゃったんだけど……

 

 

 

ーーーCASE2 制約と誓約ーーー

 

 

 

 以前念能力は制約(発動条件など)を定めることで能力の出力を上げることができる、と説明したがこの制約にはどんな制約がどの程度の出力になるのかという基準が統一されていない。全てはその人がその制約をどこまで厳しいと思うかに懸かっているのだ。

 

 例えば、2人の念能力者が「この能力は宇宙では使えない」という制約を定めるとしよう。そのうちの1人は宇宙と全く関わりのない人で特に宇宙で能力を使えないことをなんの障害とも思ってないのなら、その人の能力の出力が増加することはない。だが、もう1人が現役の宇宙飛行士であり生活の大半が宇宙の中であるのなら、この制約はとても重い障害となりその分その人の能力の出力も増加するのだ。

 

 逆に言えば、重い制約というのは自身が重いと思わなければ機能しない。そして、本人が重い制約だと思っている時点でその能力はどこかで使いにくくなっているはずなのだ。

 

 例えば、継承戦においてクラピカは「絶対時間(エンペラータイム)」にヨークシン編ではなかった「エンペラータイムの発動時間1秒につき寿命が1時間削れる」という重い制約(誓約かも)を設けたのだが、それで体力の消耗などそれまでのエンペラータイムの弱点がなくなったわけではなかった。常人にとっては重すぎる寿命消費のデメリットは、緋の眼の全回収が目前に迫りいよいよ自分の生きる意味を見失いつつあるクラピカには全く重くなかったのだ。

 

 

 

 俺のワンダーバルーンの制約も、制約を無視して動けるじゃん!と思い付いた結果制約が制約として機能しなくなったわけである。まあ制約が今でもある程度機能してると思ってるからこそ、能力の仕様変更も軽微だったのかもしれないが。

 

 仕様変更は分身の挙動だ。今までのワンダーバルーンは敵に接触したら破裂する、というあやふやな認識のまま成立していたが、今回の仕様変更にあたり分身を召喚する前に敵役を設定する必要が出てきた。それ以外の人や物に触れても破裂しないし、発動する前に俺自身が敵のことを認識する必要がある。

 

 ちなみに今の敵役はヒソカだ。敵役とはいったがヒソカが分身を触ってこない限りは破裂しないし、敵役に設定したからといって分身がヒソカを襲い始めるわけではない。

 

 

 

ーーーCASE3 奇術師と魔術師ーーー

 

 

 

 そういうわけで、俺は分身を手動操作してトンパとゴン達が俺のことをなんといってるのか聞きに行く。こういうの超気になるんだよ去年かなり暴れちゃったしさ…

 

 

 

「どうかしたのかゴン?」

 

 もちろん分身は隠で見えなくして気配を隠したのだが、それでもゴンが一瞬こちらの方を見たのにはびっくりした。流石野生児だ、他者の視線には敏感だということか。

 

「…ううん、気のせいみたい。それでトンパさん、そのアブない人って?」

 

「…44番、奇術師ヒソカ。去年合格確実だと言われながら気に入らない試験官を半殺しにして失格した奴だ」

 

「そんな奴が今年も堂々と試験を受けれんのかよ…!?」

 

「当然さ。ハンター試験は毎年別の試験官が担当し、その試験官次第で試験内容と合否が変わる。例え悪魔だって試験官次第で合格するのがハンター試験さ」

 

 その壮絶な内容を聞いた一同は冷や汗を流す。だがヒソカのやらかしはそれだけじゃない。

 

「奴は去年、試験官の他に10人の受験者を再起不能にしている。極力近づかない方がいいぜ」

 

 さて、ここまではヒソカのやらかしだ。ここからは多分俺の話になるのだが……ちょっと緊張してきたな、まだ試験も始まってないのに……

 

 

 

「ヒソカの後をついていくあの宙に浮いている女の人は?」

 

「何を言ってるんだゴン、人が宙に浮くわけ……浮いてる!?」

 

「なんだありぁ!?ハンター試験にはあんなバケモノまでいんのかよ!?」

 

 常識を外れた光景に思わず二度見するクラピカにバケモノ呼ばわりするレオリオ。まあバケモノ呼ばわりも仕方ないな、俺だってあんなの見たらバケモノって言うよ。

 

「…45番、魔術師ステラだ。奴もヒソカと同じで試験官を半殺しにして失格になったんだが、奴はヒソカ以上にやばいぞ。アイツが指を鳴らすとそれだけで人が倒れていくんだ……」

 

「そ、そんな魔法みたいなことできるわけ……!」

 

「本当だ、俺はその光景を見たんだ。ヒソカが受験者を斬り進むのを横目にアイツは指を鳴らすだけで、ヒソカが斬り捨てたのと同じ数の受験者を倒したんだ」

 

「奴みたいな人間を遥かに超えたバケモノもハンター試験にはたまに現れる。その中でもステラはトップクラスのイカれ女だ……!」

 

 

 

 え?ちょっと待ってなんで俺がヒソカ以上の危険人物扱いされなきゃいけないの?

 

 百歩譲ってヒソカと同じレベルの危険人物扱いされるのはいいよ、ぶっちゃけやってることそんなに変わらないしさ。けどわざわざ受験者がヒソカに殺されないように守ってあげてる俺がそんな謂れを受けるのは理不尽じゃない?

 

 ……まあいいや、実際ヒソカに比べたら念能力をバリバリ使ってる俺は目立つだろう。そしてヒソカの横にいるというそれだけで色眼鏡で見られるのも仕方ない。決して俺が悪いのではなくヒソカが悪い!

 

 

 

「なんか怒ってる?」

 

「怒ってないよ、今年こそは大人しくしてくんないかなって思ってるだけ」

 

「うーんそれは難しいかも❤︎ 今年は特に美味しそうな果実が並んでるし♠︎」

 

 ヒソカの問いに俺は項垂れながら答える。最近はヒソカが俺の反応と対応を見たくて殺してる気さえしてくるのだが、流石に自意識過剰だろう。自意識過剰であってくれ……!

 

 

 

ーーーCASE4 ギタラクルーーー

 

 

 

 ちょっと精神的にしんどくなったのでヒソカの隣を離れて別の場所に向かったのだが、懐かしい声に話しかけられて足を止める。

 

「おっ、ステラじゃん久しぶり!なにその格好イメチェン?」

 

「久しぶりキルア、魔術師ステラとは俺のことよ!ってね」

 

「全然口調合ってないぜそれ」

 

「うっさいな、キルアこそどうしたのよ。お父さんに今度はハンター資格取れって言われたのか?」

 

 俺の問いにキルアは逡巡し、それをなんでもないように感じさせる声で答える。

 

「ああね、最近は親父達もアレコレうるさくってさぁ……ミルキと母さん刺して今家出中」

 

「…ミルキかわいそ……今頃みんな心配してるんじゃない?」

 

 恐らくキルアはイルミには逆らえない妹達には手を出さないの消去法でミルキにナイフを刺したんだろう。俺はアイツこそ家出するべきだと思うんだが……

 

「はっ、関係ないね!俺はハンターになってアイツらとっ捕まえてやるんだから!」

 

 その後ドリンクをご馳走してくれるおじさんがいるとキルアに誘われたのだが、俺は丁重にお断りした。俺だって下剤入りドリンクはごめんだ。

 

 

 

 そろそろ試験も始まるということでヒソカの下に戻ると、ヒソカは顔中体中に針を刺された複雑怪奇な人間と親しく話していた。

 

「お、どこいってたのさ♠︎」

 

「随分とキルと親しげに話してるね」

 

「げっ、見てたのか」

 

 そのビックリ針人間の正体はイルミだ。彼はハンター試験を受けるに当たってギタラクルという容姿と名前を用意して受験しているのだ。まあゾルディック家は暗殺者として有名だし、ハンターサイトに名前が載る以上は本来なら気をつけるべきだわな。本名で登録するヒソカとキルアのせいでいまいち重要に感じないけど。

 

「ま、付き合い程度なら許すよ」

 

「ゆ、許された」

 

「キミもあの子に執着するねぇ♣︎」

 

「例えヒソカとステラでもキルに手を出すなら殺すからね」

 

「いやぁ、怖い怖い❤︎ 」

 

「頼むから手を出さないでくれよヒソカ……」

 

 常人が受けたら気絶するであろう殺気を受けながら喜ぶ変態に忠告する。というかここの犯罪係数やばいな?俺以外のやつ失格にした方がいいんじゃないか?(ブシドラ並感)

 

 

 

 そして今年のハンター試験の一次試験の試験官であるサトツさんが現れて説明を終えると、試験は始まった。

 

 その試験内容とは二次試験の会場までサトツさんについていくことだ。

 

 俺は隠で隠した分身に自分を運ばせながら移動する。めちゃくちゃ卑怯だし念能力を知らない人達の前で堂々と能力使って恥ずかしくないのか、と思われるだろうがこれは魔法だから仕方ない、仕方ないんだ。

 

「ねぇステラ、それ一体どうやってんの?」

 

「魔法だよ魔法、キルアだって魔法の存在を信じればできるようになるさ」

 

「嘘くせー」

 

 

 

 スケボーに乗って移動するキルアと会話しながら集団を追い抜いていると、その光景を見たレオリオに非難される。

 

「おいお前ら汚ねぇぞ!ちゃんと走りやがれ!!」

 

「なんで?」

 

「だってこれは持久力のテストだぜ!」

 

 そのレオリオの批判に今度はレオリオの両側からツッコミが入る。

 

「そんなこと試験官の人は言ってないよ」

 

「テストは原則持ち込み自由なのだよ、君もその鞄を持ってるのなら分かるだろう」

 

 そんな3人の様子を見てキルアはスケボーを降りてゴンに並んで走る。2人はお互いに自己紹介をして、そこで初めてゴンとキルアの物語が幕を開けるのだった。

 

 

 

「ステラさんは何歳なの?」

 

「ゴン、無闇に女性に年齢を尋ねるのは……」

 

「ふっふっふ……俺は魔法使いだぞ、年齢なんて100を超えてからは数えてな」

 

「俺が6歳の時13歳つってたし18歳くらいだろ」

 

「…なんで本当のこと言うの……」

 

「(…ひょっとして、そこまで危険人物じゃないのか……?)」

 

 

 

ーーーCASE5 ヌメーレ湿原ーーー

 

 

 

 長い通路と高い階段を乗り越えた先にあったのは広い湿原だった。この湿原はヌメーレ湿原といい、人を騙して餌にする生物が生息する場所だ。そう説明するサトツさんだったが、人に扮した人面猿が自身が本物の試験官だと偽りサトツさんのことを人面猿が扮した偽物であると糾弾する。

 

 その時、ヒソカの投げたトランプが人面猿とサトツさんに襲い掛かり、トランプを受け止められなかった人面猿はそのまま死んだ。

 

 投げた当人であるヒソカ曰く、ハンターの試験官はこの程度の攻撃で死ぬわけないからサトツさんの方が本物である、と。

 

 

 

 いやお前普通に殺すつもりだったよね?殺すとまではいかなくとも去年みたいに試験官半殺しにするつもりだったろ。周によって切れ味を強化されたトランプを受け止めながら内心でツッコむ。

 

 何故か俺にまでトランプを投げられたが、この程度のイタズラは些細なものだ。とうとう100を超えたイタズラポイントを計上するだけで我慢する。このポイントどっかで使えねぇかな……

 

 

 

 ヌメーレ湿原は霧が深く、更に人間に化けた生物が撹乱する為に後続の受験者は試験官を見失って迷ってしまう。俺は手動操作の分身に試験官を追跡させ、自分は自動操作の分身に抱えてもらってヒソカを追跡していた。

 

 前方にいる俺(手動分身)からは既に後方からまばらに悲鳴が聞こえ始めており、ヒソカの試験官ごっこが始まったのは明らかだった。

 

 

 

 だが、ここで彼らを助けるかどうか迷う。もちろん気持ち的には助けたいのだが、後方の俺(本体with自動分身)には意識がなくヒソカを止められる戦力ではない。だが、前方の俺(手動分身)を消してしまうと今度は俺が2次試験会場を見失ってしまう。

 

 ヒソカやイルミに助けてもらえるならこんなことは考えなくてもいいのだが、俺達の関係はそう単純な話ではない。

 

 

 

ーーーCASE6 目的と手段と結果ーーー

 

 

 

 今の俺とヒソカの関係は危うい薄氷の上にある。俺の殺人を見たくないという要求とヒソカの人殺しをしたいという要求をお互いに折衷して成り立つギリギリのバランス。

 

 もちろん気持ち的には俺の方が大いに譲歩している。俺はヒソカの殺しにも俺に対するイタズラにも強く言えない。何故ならヒソカからしたら俺との殺し合いは望むところであり、俺の方が一方的に衝突を避けているからだ。

 

 俺とヒソカの関係は例えると、不良の暴力を恐れて本気で止めることができない学級委員長とそれを気に入ってある程度は学級委員長に譲歩してる不良だ。不良が学級委員長を気に入るのは自由にやらせてもらってるからであり、それを学級委員長の方から崩してしまえばどうなるかは自明の理である。

 

 

 

 なんでそんな奴と付き合ってんだよ…と他の人は思われるかもしれないが、他の奴に至ってはもっと酷いのだ。

 

 例えば、普通の人間にとっての殺しは目的だ。その人が憎いから殺す、その人が死ぬことで得られるものが欲しくて殺す、色々な理由があるが基本的に殺すには殺すだけの理由があり、手段としての殺しだとしても最終手段であり目的と殺しが深く関わっている。だから他人から妬みや恨みを買わなければ普通の人には殺されることはない。

 

 だが、この世界の悪党である幻影旅団やゾルディック家は違う。彼らにとって殺しは手段だ、それもとってもお手軽な。金や物を手に入れる過程で殺した、邪魔だから殺した。彼らの殺しに正当性はなくても目的がある。彼らと距離を詰めればその目的にいつ自分が絡んでもおかしくはない。

 

 そしてヒソカの場合の殺しは結果だ。戦いを楽しむ上で1番なのが殺し合いであり、その結果として人が死ぬ。つまり殺し合い以外で楽しい戦いをするという目的を満たせるなら殺しをする必要はないし、殺そうとしても目的である楽しい戦いができないのなら殺さない。ヒソカが殺しに来た時の唯一の正解は抵抗せずに大人しく殺されようとすることなのだ(ヒソカの方に最低限の理性があることが前提だが……)

 

 

 

 だからこそ、俺はゾルディック家や幻影旅団なんかよりもヒソカの方がよっぽど安全だと思っており、それでもそのバランスを崩すのを恐れている。そもそもヒソカが2次試験会場にたどり着けるのはイルミの協力あってのことだから、ヒソカに助けてもらうのは間接的にイルミに借り作ることになるし、その前にヒソカに殺されてしまえば借りどころの話じゃない。

 

 だからここでの最良の選択肢は無視一択なのだが、そう簡単に納得できるほど俺は冷静でもなかった。

 

 

 

ーーーCASE7 試験官ごっこーーー

 

 

 

 霧の向こうからのレオリオの悲鳴を聞いた俺は急ぐ。近づくほどに濃くなる最早日常的になった血の匂いを辿り俺はその場所へと着く。

 

「あーっはっはっはァーーーァ!!」

 

「うわぁーっ!!!」

 

 ヒソカは逃げ惑う受験者を追いかけて殺していた。この状況を見て真っ先に俺の言い分が通るかどうかを考える俺の醜さに若干憂鬱になりながら、俺はヒソカを止める算段を立てる。

 

 

 

「止まれ!!」

 

 ヒソカのトランプを受け止める。オーラによって強化されていないトランプは簡単に止まった。まあここで念使ってたらトランプで裂かれたレオリオが念目覚めるし、クラピカの刀なんぞで止められるわけないからな。

 

「おやステラじゃないか❤︎ 一次試験はいいのかい♣︎」

 

「誰のせいでこーなってんのか…!ワンダーバルーン!!」

 

 俺がヒソカを食い止めたのを見て逃げようとする受験生の側で風船人形を破裂させる。そのままぶつけたらその人が念に目覚めてしまうので、わざわざ2体出して同士討ちさせる。耳へのダメージも2倍だが、ヒソカに殺されるかヌメーレ湿原の生き物に食われるよりは遥かにマシだろう。

 

 ただ、クラピカとレオリオには何もしなかった。どうせ2人はヒソカに殺されることはないし湿原の生き物に食われることもないだろう。

 

「逃げる人間を殺るのを止めるのは俺の自由だろ?」

 

「うーん♦︎けどそいつらは僕に襲いかかってきたからなぁ♠︎」

 

 まあそんなことだろうとは分かってるが、重要なのは俺はその場面は見ていないことだ。

 

「嘘つきの言葉なんて信用に当たらないぜ」

 

 俺の言葉にヒソカはハッとして、そうだったとでも言いたげに笑みを浮かべる。

 

「確かに❤︎ じゃあそこの2人に聞いてみようか♣︎」

 

「レオリオ、クラピカ。コイツらはヒソカに攻撃したのか?」

 

 確かにその2人は一部始終を目撃しており事実を証言されると俺の言い分は通らないだろう。だがレオリオもクラピカも他人の命を尊ぶ人間だ。

 

 彼らの答えは残酷な真実ではなく優しい嘘だった。

 

「いや、私にはヒソカの方から攻撃しているように見えた」

 

「ああ、俺もそう思った」

 

 2人の即答に対して、ヒソカは一瞬の空白の後に笑い出した。

 

「クックック!!!2人が言うのならそうなんだろうね❤︎ ボクの嘘だよ♠︎」

 

「…だろうと思った」

 

「ああ、僕はもう満足したよ❤︎ 手助けは必要かい?」

 

「いらねぇ」

 

「じゃあね、ステラ❤︎ 」

 

 

 

 ヒソカが霧の向こうへと一歩を踏み出す瞬間、その奥から主人公が遅れてやってきた。

 

「ゴン!どうしてここに!?」

 

「バカヤロウ!逃げろゴン!!」

 

 ヒソカの奥からやってきたゴンを守ろうとしても、俺では届かないだろう。だが、俺は最初から助ける気はなかった。

 

「仲間を助けに来たのかい?イイコだねぇ〜〜〜♣︎」

 

 動かなくなったゴンにヒソカはしゃがんで目線を合わせると、その目をじっと見つめる。助けに行こうとするクラピカとレオリオを俺が抑えていると、しばらくゴンを見つめていたヒソカは立ち上がる。

 

「うん!合格❤︎ ここに立っている子は皆合格だよ、ステラ♦︎」

 

「分かってるさ、気絶した奴はもうハンターになる気はないだろう。もしなろうとするなら俺が止める」

 

「やっぱりキミは優しいねぇ❤︎ 」

 

 そう言ってヒソカは霧の向こうへと消えた。ハートマーク多すぎだろ……

 

 

 

 俺は隠で見えなくした分身達に気絶させた受験者達を運ばせながら、ヒソカを類稀なる嗅覚で追いかけるゴンをクラピカレオリオと一緒に追う。

 

「助かったぜゴン、お前が来てくれなきゃ2次試験会場には辿り着けなかった」

 

「俺の方こそごめん!助けになろうとしたのに……」

 

「いや……私とレオリオだって何もできなかった。生き延びられたのはステラのお陰だ」

 

 俺はクラピカの言葉に反論する。決してあれは俺がヒソカを追い返したわけじゃない。

 

「違う、クラピカとレオリオがあそこで嘘をつかなければ、最悪全滅まで見えていた。そうでなくとも間違いなく後ろの人は誰も助からなかったろう。お前達2人が彼らを救ったんだ」

 

「俺たちが……?」

 

 

 

 そう断言する俺に対して、クラピカは尤もな疑問を投げかける。

 

「ステラ、貴女はヒソカとどういう関係なのか?2人の距離の近さとその殺伐さが私には理解できない」

 

「そうだぜ!俺にはお前さんがトンパの言うような危険人物には思えねぇ!」

 

 その質問に対してどう答えるべきか迷っていると、無言を保っていたゴンのことを考えて質問を投げる。

 

「ゴン、キミはヒソカのことをどう思う?今後一生顔も見たくないと思うかい?」

 

 ゴンはゆっくりと、自分の言葉を探すかのように話し出す。

 

「…いや、オレはヒソカがなんでオレたちが合格と言ったのかを知りたい。もう一度会うのがオレの死を意味することだとしても、オレはヒソカに会いたい」

 

「そういうことだ。人には善悪や好き嫌いや生死では語れない関係もあるってことだ」

 

 

 

「そうか……すまない、聞き辛いことを聞いてしまった」

 

 申し訳なさそうに謝罪するクラピカに対して、俺は逆にビックリした。

 

「俺とヒソカの関係はただの腐れ縁だよ。特にそんなドラマがあるわけじゃないが……」

 

 

 

「紛らわしい!!!」

 

 クラピカとレオリオはずっこけた。

 

 

 

ーーーCASE8 二次試験ーーー

 

 

 

 とりあえず無事に一次試験が終わったことに安堵していると、隣に不思議そうな顔をしたキルアがやってきた。

 

「ステラ、突然消えたけどどこ行ってたんだ?」

 

「あっ、そういえばオレの方がステラより早くレオリオ達の方に向かったのに、なんでステラの方が先に着いてたの?」

 

 ゴンとキルアの問いに答える。

 

「ふむ、魔法だな。魔法を使えば瞬時に場所を移動することだって不可能ではない」

 

「ちぇっ、また魔法かよ」

 

「まあ魔法を使えばなんでもできるからな!魔術師に不可能はない!」

 

 ガッハッハ!と俺が笑っていると、クラピカが揚げ足を取る。

 

「ヒソカを追いかけることはできなかったようだが……」

 

「ヒ、ヒソカは俺と同格以上の奇術師だから……」

 

 

 

 そんな感じで雑談していると、二次試験会場の扉が開き若い女性と大きく太った男性のコンビが現れる。

 

 彼らはメンチとブハラといい、美食ハンターの2人が二次試験の試験官なのだが、この試験が毎年のように存在するハンター試験のガバの今年分だった。ちなみに去年の分は無限四刀流の人な!

 

 前半であるブハラの試験はグレイトスタンプという凶暴な大豚を仕留めて丸焼きにする、という簡単なものだったが、後半のメンチの試験が問題だった。

 

 

 

「二次試験後半、あたしのメニューは、スシよ!!」

 

 原作において合格者0人を叩き出した試験。寿司について全く知らない状況から数少ない情報だけで推理し美食ハンターが美味しいと感じる寿司を作れ、という前半だけでも難易度が高すぎるこの試験は作中のハンター試験の中でもトップオブトップのクソ試験である。

 

 まあ一応擁護しておくと、最初はそれっぽい寿司の形さえできてれば合格のはずだったのだ。それがヒソカがメンチに殺気を出して喧嘩を売り、ハンゾーが料理の作り方をバラし、合格者を絞るために味で判断することになった結果、メンチが腹いっぱいになって試験続行不可になったのだ。

 

 …うん、クソ試験だね。

 

 

 

 あまりにも情報が少なすぎなのである。原作ではクラピカが文献として知っていた情報をレオリオが言いふらすことで材料が魚であることが分かるのだが、それがなければまず魚料理かどうかすら分からないのである。

 

 メンチが出している(と思われる)ヒントは

・握るという工程が必要なこと

・箸で掴む料理だということ

・小皿の調味料(醤油)につけて食べる料理ということ

・ご飯を使った料理だということ

・固形の料理だということ

・定番の形がある料理だということ

 

 こんだけである。材料に魚を使うのも、酢飯を作るのに調味料の酢が必要なのも全く分からないのだ。特に下の2つなんかはヒントとしての価値がほぼない。

 

 

 

 では、逆にこれだけのヒントしか出てこない試験が逆に試験として認められた理由について考えてみよう。ブハラのセリフから元々はヒントを見逃さない注意力さえあれば十分合格できるはずの試験だと考えられる。

 

 だとすれば魚料理という説明がなかったのはハンバーグ寿司や焼肉寿司など、いわゆる変わり種の寿司を作っても問題なかったからだという可能性は高い。それならまだワンチャン、クソ試験じゃなかった可能性もあったかもしれない。いやそれでもクソ試験かな……

 

 

 

 結局のところ、原作通りにヒソカはメンチに殺気を向け(一応止めたけども)ハンゾーの寿司をメンチは味の問題で落とし、ハンゾーがキレて寿司の作り方をバラし、受験者達が正しい形の寿司を作り、メンチが味で合否を判定することになり、誰も合格者が出ないままメンチが満腹になった。

 

 うーん、これはクソ試験!w

 

 




 いやぁステラちゃんはまだハンター試験編なのにバンバン念能力使ってチートしてますなぁ…チートタグも必要とちゃうんか?


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7. トリックタワー×クルタ族虐殺×魔法の正体


 ワンダーバルーンとバンジーガムの名前の響きが似ていることに今更気づいて動揺してます。多分ステラは戦慄か恐怖してます。
 


 

ーーーCASE1 ゾルディックの呪縛ーーー

 

 

 

 結局二次試験後半のメンチの出すメニューはクモワシのタマゴを獲るための紐なしバンジージャンプに変更され、俺は無事二次試験を通過することができた。

 

 ちなみにここでノータイムでバンジーを決行するレオリオは大分イメージに合わないところがあるが、4人の中では地味なレオリオも他の受験者に比べたら十分怪物の領域ということなんだろうな。スタミナはあんまないけど。

 

 そして二次試験に合格した俺達は、メンチを説得してクソ試験からちゃんとした試験に変えてくださったハンター協会の会長、アイザック・ネテロを同伴者として第三次試験の会場へと飛行船で移動することになった。

 

 

 

 俺は個室のシャワーを浴びながら今頃ネテロと遊んでいるだろうゴンとキルアのことを考えていた。

 

 ネテロは暇つぶしとしてハンター資格を餌にゴンとキルアをゲームに誘うのだが、後に他のハンター達から意地の悪いとか散々に言われるネテロのゲームをまだまだひよっこの2人がクリアできるわけもなく、キルアはその難易度の高さに諦めて離脱しゴンはなんとかネテロに右手を使わせようと粘る。だがここで事件が起きる。

 

 ネテロとのゲームで気が昂っていたキルアは船内でぶつかった受験者をバラバラに殺してしまうのだ。

 

 

 

 このシーンはキルアが実は人を殺したくなかったという内心とは遠くかけ離れたもので、しばしばイルミによって操作されていた説やあれはただのイメージ説などが挙げられるが、俺はあれはキルア自身が誰に操作されることなくやったことであり、だからこそゾルディック家の呪縛が深く染み付いているのだと思っている。

 

 この世界の悪党にとって、殺しが気軽に使える手段であることは以前も説明したが、ゾルディック家も金や依頼の為に殺しを苦もなく実行する悪党達だ。そんな中でキルアは性格は甘いが才能はトップクラスという評価を受けて小さな頃から教育されてきた。11歳の時点でも数多くの殺しをしており、彼にとっての殺しというのは気が昂るとつい暴力を振るってしまうような気軽さで出てくるほど身近なものなのだ。

 

 そもそも殺そうとする前にネテロとゴンから離れようとしてる時点で彼は自分で人を殺すのを抑えようとしており、それが子供であったために自分の限界を見極められず2人の受験者がその被害者となってしまったのである。

 

 

 

 こんなのは誰も救われない殺しだ。最近は笑いながら殺しをする誰かさんのせいで自分の感覚が徐々に麻痺しつつある自覚はあるが、それでもこの殺しだけは止めたい。

 

 だって虚しいんだ。キルアにとってはゴンと一緒に遊んだ楽しい記憶なのに、それが直後に自分がした悪癖のせいで思い出したくないものになるのかもしれないのだから。

 

「よう、キルア」

 

「あ、ステラ」

 

 …これがただの自己満足なのも分かってる。キルアはとっくの昔から数え切れないほどの命を奪っていて、ここで殺しを止めたとしてもその罪が軽くなることなんかない。決して俺の行動はキルアを救う為のものではない。

 

「それでさぁ、あのネテロってジジイが強いのなんの!しかもゴンなんかボールを奪うって趣旨放って右手使わせるってよ!」

 

「キルアはゴンと一緒に会長に右手使わせようとしなかったのか?」

 

「え、ああ、だってそんなこと目指してもハンター資格は手に入らないんだぜ?逆になんでゴンはそんな無駄なことに体力使うんだか……」

 

「…意地が強いんだろうなぁ」

 

 しばらく2人で何も言わずに歩いていたが、唐突にキルアが俺に問いかけた。

 

「…ステラはさ、なんでアイツといるの?」

 

「アイツ?ヒソカのこと?」

 

「うん、だってステラは殺すのは嫌いなんでしょ?」

 

「まあそうだね」

 

「だったらさ、なんで俺はダメでアイツは良かったの?」

 

 

 

 そうか……キルアからすれば、殺しが嫌だから暗殺者である自分と友達にならなかったと思ってたのに、自分以上に殺しが大好きなヒソカと俺が一緒にいるのか。そりゃ理不尽に思うだろうな……

 

 だけど俺とヒソカだってただの友人関係というには大分複雑だしなぁ……俺がキルアと友達にならなかったのだって複雑な事情があるし。

 

「俺はさ、魔法使いなんだ」

 

「知ってる」

 

 とりあえずいつもの調子で語るが全く相手にされなかった。

 

「違う違う、本当に魔法使いなの。キルアの未来だって読み取れる、これはいつもの嘘じゃないよ」

 

「…いつものは嘘なの?」

 

「あっヤベっ」

 

 キルアの卑劣な誘導尋問にも負けずに、俺はキルアに語る。

 

「キルアには俺なんかよりももっと素晴らしい友達ができるよ、これは俺の予言さ」

 

「なんかそれ前にも言ってなかった?」

 

「そうだよ、俺はあの時から魔法使いだったのさ。キルアこそ、今はそんな予感はあるんだろ?」

 

 俺の言葉にキルアは立ち止まる。きっと彼の中にはゴンのことが浮かんでいるに違いない。

 

「俺なんかよりソイツのことを信じてやってくれよ、ついでに自分のこともさ」

 

 キルアの手を握る。その手は決して人を殺す為の凶器ではなく、他人と手を繋ぐ為の柔らかくて温かい手だった。

 

 

 

 ちなみに例の受験者2人は俺の顔を見た瞬間に脱兎の如く逃げ出した。…そりゃキルアの殺しがなくなったのはいいことだけどさぁ!

 

 

 

ーーーCASE2 三次試験ーーー

 

 

 

 三次試験の会場はトリックタワーと呼ばれる塔だった。これを72時間以内に降りるのが三次試験の内容だった。

 

「バンジーガムなら足にガム仕込んで塔を駆け下りることできるんじゃないの?」

 

「それで青い果実達が真似したら勿体無いからね♣︎ 」

 

「ああなるほど、確かにそうだわ。そんな視点はなかった」

 

 落ちたら落下死が確定するような高い場所でも誰か1人が飛び降りるとその人の安全に関わらず安心して飛び降りる人が出てくるみたいな事例をどっかで見た気がするな。その辺の集団心理を知ってるのは流石に奇術師というだけはある。

 

「まあ1番はこの気配の持ち主が気になるから……だけど❤︎ 」

 

「…そうなんだろうとは思ってたけどさ」

 

 その気配の持ち主は恐らく無限四刀流の人だろう。彼が俺達にしか分からないように殺気を飛ばしているに違いない。俺としても死んで欲しくない人ではあるが、残念ながらヒソカに喧嘩を売った時点で擁護する気は皆無だ。

 

 

 

 無限四刀流の人の殺気を無視して適当に床の隠し扉を開ける。落ちた先は四方を壁に囲まれた部屋だった。そして部屋の隅には台の上に置かれた5つの腕時計型のタイマーがあった。

 

 原作でも見たトリックタワーの配置だ。俺はタイマーを見ながらちょっと思いついたことがあった。

 

 

 

 分身を使えば、5人の協力が必要なトリックタワーを1人で攻略することができるんじゃないか……?

 

 まさに悪魔的な発想だった。流石にそれをするのは躊躇われたが、それでも試すだけならセーフだよね!と俺は分身を4体出してそれぞれにタイマーに付けさせた。ちなみに今回の分身の敵役は俺自身だ。俺が分身に触れると自動的に破裂する。

 

 結果として扉は出現しなかった。よく考えたら当たり前だ、5人いるかどうかの判定はタイマーだけではなく隠し扉の方にもあるだろうし、そもそもこの試験は監視されていたんだった。

 

 

 

 だったらヒソカにも協力してもらってドッキリテクスチャーで分身を他の受験者へと変装させ、5人で隠し扉を通ればワンチャン1人で攻略可能だったのかもしれないな……と、思いながら分身を消そうとしていると、突然上から人の気配が現れた。

 

「ヤベっ!」

 

 慌てて分身を消して誤魔化す。幸い、隠し床を通ってこの部屋に人が来る前には分身を消すことは間に合った。

 

「あっステラじゃん」

 

「4つの扉のどこを選んでも同じ部屋にたどり着くようになってたのか」

 

「ステラは俺達より先に隠し扉を見つけてたんだな」

 

「この部屋、出口がないね」

 

 次々と現れた主人公4人組を前に、俺は先ほどの悪魔的発想が実現しなかったことに安堵していた。主人公全員ハンター試験脱落なんていう大ボケやらかすところだった……

 

 

 

「ステラの足元に落ちているのはタイマーか?」

 

「そうそう!そこの台の上にあったんだよね!!」

 

 クラピカの質問に答えつつ4人にタイマーを配る。もしタイマーが着脱不可なんてことになってたら致命的なガバだったのかもしれなかったが、無事4人がタイマーを着用できたのを見て安心した。全く、思い付きなんかで行動するもんじゃないな……

 

 

 

ーーーCASE3 デスマッチーーー

 

 

 

 多数決の道は原作では足並みを乱そうとしていたトンパが俺と交代したことでサクサクと進んだ。途中クラピカ理論が右と左どっちだったかうろ覚えだった事案が発生したが(行動学では左を選ぶ人間が多いから罠を警戒して右を選ぶという内容だった)それでも無事ハンターによって雇われた長期刑の受刑者達が試練官を務める場所へ辿り着くことができた。

 

 ここでは試練官がハンター試験の受験者をどれだけ足止めできるかどうかで恩赦を貰えるというシステムになっており、俺達は試練官のそれぞれ5人とゲームをして先に俺達のうち3人が勝つと先に通れるようになっている。

 

 

 

「先手は俺がいくよ」

 

「ステラが行くなら安心だな」

 

 原作ではトンパがゲーム開始早々に降参することで一敗してからのスタートだった。その結果勝負が5戦目までもつれ込み、キルアはジョネスを殺してしまう。勿論ただの大量殺人鬼であるジョネスに愛着なんかないし、キルアがジョネスを殺すこと自体には何の不満もない。

 

 だけど、それをゴン達の目の前でやるのだけは止めたい。それは決してキルアの為でもゴン達の為ではなく俺の自己満足に過ぎない。そもそも俺がゴン達と一緒にトリックタワーに降りることになったのは偶然だ。ただ単に俺が見たくないという自分勝手でしかない。

 

 だが、キルアが殺しから離れて友人達と過ごせるのを見たいという勝手はそんなに悪いことなのだろうか?

 

 

 

「勝負の方法を決めようか、オレはデスマッチを提案する!」

 

 男の発言に場に緊張がもたらされる。俺としては念使いでもない相手に負けるわけないから特に緊張はしてないが、他の人はこれから命を賭けたゲームが行われることに動揺しているのだろう。

 

「一方が負けを認めるか、または死ぬかするまで戦いを続ける!」

 

「気絶した場合はどうする?それも負けでいいだろ」

 

「駄目だ、それではデスマッチの意味がない」

 

 この後発生するマジタニの狸寝入りを防ぐために気絶させた時点で負けなルールを提案したが、これは受けいれられなかった。まあそれも相手側からしたら立派な戦術だしな……

 

 

 

「分かった、その勝負受けて立とう」

 

「ではいざ尋常に……勝負っ!」

 

 男が俺の方へと一直線に突進してくる。気絶ありのルールならそのままワンダーバルーンを鳴らして瞬殺といったのだろうが、そうはいかない以上気は乗らないがいじめるしかない。

 

 俺は指を鳴らすと同時に隠で見えなくした分身で男の足を引っ掛ける。男は突進の勢いのままに転び回り、俺の足元へと倒れた。

 

 俺は男の頭に足を乗せて力を込める。ミシミシという音に男の顔が青くなる。

 

「どうだ?力の差が分かったか?お前が降参しないのならこのままお前の頭を踏み潰す」

 

「わ、分かった!俺の負けだ!」

 

 男は無事降参してくれた。まあこんなヤツが死んでも敗北を認めないなんて高潔な人間なわけはないだろう。そうであればこんな場所にいないはずだ。

 

 

 

「今のステラがあの男を転かしたのか?」

 

「…恐らくは……」

 

「凄いねステラ!」

 

「あれも魔法とか言うつもりかよ!」

 

「魔法です」

 

 キルアの詰問に答えるが、相変わらず胡散臭いとしか思われていなかった。まあ実際魔法じゃないしな……

 

 そうこうしている内に次の挑戦者であるゴンは機転を利かせて勝利し、次のゲームはクラピカが挑戦することになったのだが……

 

 

 

「あとは何かあるか?なければさっさと始めたいのだが」

 

「…あ、ああ……」

 

 次の試練官であるマジタニは、まさに見掛け倒しという名に相応しい見た目と実力を有した男であり、これをクラピカは瞬殺する……のだが、マジタニ選手はハッタリの為に自分のことを幻影旅団に所属するだの旅団四天王だのを言い出し、クラピカの逆鱗に触れる。

 

 

 

 クラピカの一族であるクルタ族は幻影旅団によって虐殺されており、クラピカは幻影旅団に強い憎悪を抱いているのだ。その憎悪にクルタ族の身体的特徴も併せ、幻影旅団やそのトレードマークである蜘蛛を見たクラピカは緋の眼を発現し凶暴性が増すのだ。

 

 クルタ族は、ルクソ地方の奥地に隠れ住む少数部族だった。彼らの眼は緋の眼という、世界で最も美しい色に変化する瞳でありそれを狙われるのを恐れて隠れ住んでいた。

 

 だがクラピカがクルタ族の住む村から外の世界へと旅に出た半年後、彼以外のクルタ族は幻影旅団によって1人残らず殺されてしまう。死体からは残らず眼球を取り出されていたことから、これは幻影旅団が緋の眼を狙った犯行であるという風に作中では言われている。

 

 

 

ーーーCASE4 クルタ族虐殺の謎ーーー

 

 

 

 しかし、この事件にはひとつの謎が残されている。クルタ族の殺害現場には「我々は何ものも拒まない、だから我々から何も奪うな」というメッセージが残されていたのだ。

 

 これは流星街が残すメッセージであり、同様のものがクルタ族虐殺の1年前に起きた、流星街出身の浮浪者に掛けられた冤罪の報復として31人を自爆に巻き込んだ事件にも残されていた。

 

 この謎に読者達は色々な考察を掻き立てられた。メッセージが報復事件と同様なものであることから元々事件の引き鉄はクルタ族の方が引いたのではないか?という仮説や、中には今の継承戦の流れと絡めてカキン国第四王子ツェリードニヒ王子が絡んでいるのではないか?という仮説まで飛び交っている。

 

 

 

 この謎について俺は、幻影旅団がクルタ族を虐殺しその現場に流星街を示すメッセージを残したのだと思っている。この仮説は共闘説の時と同じく証拠より動機に比重を置いた推測であり確証はないことを予め明記しておく。

 

 

 

 幻影旅団が結成された目的は最近明かされたのだが、それはクロロ達の幼馴染であったサラサを殺した犯人に復讐するという目的と、サラサのような犠牲を2度と生まないよう流星街と幻影旅団を恐怖の象徴にするという目的の二つだ。

 

 そしてこの二つの目的においてクルタ族の虐殺は一定の役割があるのだ。

 

 

 

 まず一つ目の復讐に関してだが、クロロ達は回想の時点ではサラサを殺した犯人が分からなかった。そこでクロロはその犯行が劇場型の犯人によるもの、つまり犯人はその犯行を誇示していることに着目し、ネット上にそのような悪事を見せ合える場所を作れば犯人を特定できるのではないかと考えた。

 

 その悪事を見せ合える場所、というのは闇サイトのようなものだと考えられる。だが、ただそのような場所を作ったところですぐに全ての犯罪者がそこを利用するわけではない。

 

 多くの犯罪者を集客する為に必要なものはどういうものか?ということを考えるとクルタ族虐殺に辿り着く。

 

 世界7大美色に数えられ世界的に有名でありながらそれを持つ当人達が隠れ住む為に入手難易度Aに指定された緋の眼。そんなものが闇サイトで取り引きされれば人体蒐集家や犯罪者達は食いつくに違いない。実際、継承戦においてカキン国第四王子ツェリードニヒは緋の眼を映した動画を闇サイトに投稿していた。緋の眼と闇サイトの相性は抜群なのだ。

 

 

 

 そして二つ目の目的は流星街を恐怖の象徴にするというものだが、これは恐らく先述した報復事件などのことであろう。ヨークシン編で流星街の流儀について説明される時の事例が原作開始の7年前の最近の事件であることから、流星街の報復というのは大昔からの歴史ではなく最近始まった流星街の示威行為の一環だった可能性が高い。

 

 それを踏まえると、クルタ族はどうなのだろうか?先程も言った通り、クルタ族は世界中からその価値を狙われながらも生き延びてきた民族だ。緋の眼の入手難易度がAな通り、虐殺しようとして簡単に虐殺できるわけではないだろう。

 

 そんな彼らを虐殺したのが流星街だとするとこれは流星街の力を示すのにピッタリなのではないか?ちなみにこの事件は報復事件の一年後の出来事であり、この期間に幻影旅団は流星街の示威行為をしていたと推測できる。

 

 仮にこの虐殺がクルタ族への報復を目的のものだったとするなら、そもそもメッセージを残す意味が全くないのだ。メッセージを見るはずのクルタ族は既に全員殺しており、そのメッセージはクルタ族ではなく他の者に向けたものだと考えるのが当然の帰結だろう。それは世間への示威行為だったとすると納得がいく。

 

 

 

 それらを踏まえた上で、クルタ族虐殺を巡る謎には大きな謎が残されている。それは何故クラピカはクルタ族虐殺の犯行を幻影旅団によるものだと断定しているのか?ということだ。

 

 クルタ族虐殺は流星街の示威行為の一環、仮にそれが間違っていたとしてもまるで流星街がクルタ族を殺したかのような殺害現場になっているわけで、クラピカはまずクルタ族虐殺には流星街が関わっていると思うはずである。

 

 そして流星街と幻影旅団は大きく関係しているわけだが、あくまでそれは流星街の中にいる人間にしか分からないことで、ヨークシン編で世界的なマフィアが徹底的に調べ上げた結果その時初めて消去法で幻影旅団と流星街の関わりが挙げられるほどには徹底的にこの関係は秘匿されている。

 

 まとめると、

・殺害現場を見る限り流星街がクルタ族虐殺の犯人である

・流星街と幻影旅団の関係性は秘匿されている

・クラピカは犯人は幻影旅団だと断定している

 

 これらが同時に成立するのはおかしいのだ。そして上の二つは描写的には疑いにくいものであり、最後のクラピカが幻影旅団の犯行だと断定していることに謎があると考えるのが妥当だろう。

 

 

 

 俺は一応、この人が関わっているのではないか?というなんとなくの予想はあるのだが……いや、よそう、俺の勝手な推測でみんなを混乱させたくない……

 

 

 

ーーーCASE5 決着ーーー

 

 

 

 結局、蜘蛛を騙ったマジタニはクラピカによって地面に叩き付けられて失神するのだが、クラピカとマジタニのルールが降参か死かのデスマッチであった為にクラピカは途中退場したことになる。

 

 流石にクラピカの失格負け、なんてことにはならなかったが、勝敗を決めて次の勝負に入る為にはマジタニが起き上がって降参するかクラピカがマジタニを殺すかの2択しかなかった。

 

「ちっ、屁理屈抜かしやがって。オイクラピカ!」

 

「断る。彼は降参しようとしていた、それを私は怒りに身を任せて殴ってしまった。これ以上彼に危害を加えるつもりはない」

 

「ざけんなよ!じゃ一体どうするつもりだ!?」

 

「彼に任せる。彼が目覚めれば自ずと答えが出るはずだ。私から何かする気はない!」

 

 レオリオがクラピカに吠えるもクラピカは一切動じなかった。うんうん、やはりそれくらい殺しには否定的であるべきだよね!!!ヒソカもクラピカの爪の垢を煎じて飲んどけ!!!

 

 

 

「アンタが嫌なら俺が殺そうか?殺しが怖いんでしょ?」

 

「…殺しを怖い怖くないで考えたことはない。それにこれは1対1の勝負であり手出しは無用だ」

 

「そうだよ、相手の人もオレの負けって言いかけてたんだし起きるまで待とうよ」

 

 キルアは挑発するがクラピカはそれを受け流し、ゴンもクラピカに同調してマジタニの復帰を待とうと提案する。

 

 レオリオとキルアの目がこちらを向いた。…あー、俺に意見を聞く流れね……

 

「…いや、まあさ……いくら犯罪者って言っても殺すのは良くないよな、うん……」

 

「全く説得力がねぇぞその言葉……」

 

「ステラが普段隣にいるヤツに言いなよそれ」

 

 正論だった。

 

 

 

 いくら俺の言葉に説得力がないとしても、一応3対2で俺達はマジタニの復帰を待つことになった。だが、数時間経ってもマジタニが身動きひとつ取らないことにキルアは不審に思う。

 

「もしかしてあいつ、もう死んでるんじゃないの?」

 

 マジタニの狸寝入りを疑った俺達に対し、次の試練官はお互いに問題を出し合って俺達のトリックタワーの攻略時間の50時間と相手の刑期50年をチップに賭けを出し合うことを勝負とした。それをレオリオは承諾して勝負開始となる。

 

 そこで医者としての知識を活かしてマジタニの狸寝入りを看破したレオリオはそれを問題にすることでチップを犠牲にクラピカの勝利を確定させる。

 

「これで俺達の勝ちだ。そこを通して貰うぜ!」

 

 

 

 レオリオは俺とゴンとクラピカの3勝でこちらの勝ちを宣言してここを通ろうとするが、そこは相手の方が一枚上手だった。

 

「でも貴方はさっき私の勝負に乗ったわけでしょ?この勝負までは受けてもらうわよ」

 

「ちっ、まあいい。後は俺が勝つだけでいいんだしな」

 

 相手は自分達が負けることを踏まえて自分の刑期を少しでも減らそうと賭け勝負に持ち込んだのだ。マジタニの狸寝入りがバレるのにも時間の問題はあるだろうしかなり狡猾な奴だ。

 

 そしてそんな狡猾な奴を相手にレオリオが勝てるわけもなく……

 

 

 

「すまねぇ!博打には自信があったんだが……」

 

「クラピカが勝ったのはレオリオのお陰なんだし気にしないでよ」

 

「そうだな、私の尻拭いをしたことは感謝する」

 

「50時間ちゃんと休憩を取れば後の10時間フルで動けるわけだし、そこまで絶望的でもないな」

 

「…まあでもレオリオはギャンブルしない方がいいと思うぜ」

 

「…ハイ、肝に銘じます……」

 

 キルアの忠告にレオリオは部屋の隅に籠る。俺達は先にある空き部屋で50時間を過ごすことになった。

 

 

 

ーーーCASE6 魔法の正体ーーー

 

 

 

「ステラ、私に魔法を見せてくれないか?」

 

「え?いいけど……」

 

「あ、オレ達も見たい!」

 

 なんとかキルアのジョネス殺害を食い止めた俺はホッと一息ついていたのだが、そこにクラピカから魔法を見せるようにお願いされる。そこに欲求不満そうなキルアや興味ありそうなゴンとレオリオも混ざり、俺は4人の前で魔法を見せることになった。学芸会ちゃうんやぞ!(12年ぶり2度目)

 

 

 

「これでどうだ!」

 

「うわっ、あんな遠いところからコップに水を注いでる!」

 

「こんなこともできるぞ!」

 

「そのコップを触れずに移動させやがった!」

 

 俺は4人の前でとりあえず物体を浮遊させたり(隠をした分身に持たせただけ)離れた物体を移動させたり(隠をした分身に持って来させただけ)したのだが、しばらくするとクラピカは、

 

「礼を言う、これでおおよそ分かった」

 

「おおよそ分かった……って、一体何が分かったんだよクラピカ」

 

「ああ、ステラの魔法の正体について推測がついた」

 

「え?」

 

「凄いやクラピカ!そんなことが分かるの!?」

 

「確証はないがな」

 

「えーオレも知りたい!アイツ何言っても魔法としか言わないしさ!」

 

「いや……流石に本人の同意なしにそういうのを言うには……」

 

 え?

 

 

 

 いやいやいや流石に念使いでもない人間に能力分かるなんてことあり得ないって!まず俺の具現化した分身は隠で見えなくしてるから念使いじゃない人には絶対に見えないし、気配だって俺自身が分身を通して視線を送ってようやく野生児のゴンが気づくか気づかないかだぞ!まずその存在を気取られることはあり得ない!!!

 

「ステラ、よろしいか?」

 

「え?あ、ああ。いいよ?だって魔法だし?正体なんかないし?余裕だし?」

 

「(露骨に動揺してる……!!!)」

 

 だがこの時俺は忘れていたのだ。作中のクラピカの行動を仲間としての視点で見た場合、彼がどれだけ有能であるのかを……

 

 

 

「まず最初に私が推測に至った根拠は4つあり、私とレオリオしか知らない情報があることを言っておく」

 

「え?オレも知ってるのか!?」

 

「まずは遠くにいる人を同時に一瞬で倒す魔法だ。これに関する根拠が2つある。1つはその時に発生する破裂音や発射音に似た音だ。これを聞いた時には私は彼女が銃かなにかを使ったのかと思ったが、彼女にはそんな様子はなかった。もう1つはレオリオと一緒にヒソカに巻き込まれた時に聞いた、ワンダーバルーンという単語だ。これは恐らく魔法の名前かその詠唱であると推測でき、バルーンという名前から風船が関係していると私は思った」

 

 や、やばい。

 

「つまり、彼女が一瞬で人を倒した原理はこうだ。他人のすぐ横に人間には見えない風船を発生させ、それを破裂させる。その音にビックリした人間はショックで気絶する。音の大きさは周囲に分散するうちに小さくなるため、私たちにとっては風船の破裂音は気絶するほどのものではなかった」

 

「ふ、風船だぁ!?」

 

「けど、それじゃさっきの空中浮遊はどう説明するわけ?まさか風船に吊るして浮かせたとは言わないよな?」

 

「それも説明する。彼女が物体や人を浮遊させていたのは私達も何度も見たわけだが、明確な根拠を得たのはこのトリックルームの隠し扉に入った直後のことだ。彼女の足元に落ちていた私達の分のタイマー、あれは嵌められた状態のままだった。腕時計型のタイマーを5つも嵌めるには彼女の腕だけでは足りないだろう。また彼女が全てのタイマーを付け外ししていたとしても、タイマーを外してもう一度タイマーを嵌められた状態にするという不可解な行動をしていたことになる」

 

「あー、よく分かんねぇよ!結論だけ言ってくれ!」

 

「つまり、彼女は人間の形をした風船を操ることができるのだ。だから人や物を持ち上げられるし、腕時計型のタイマーを身に付けることができる。そしてその風船はタイマーを身につけたまま消えたことで、タイマーは嵌められた状態で彼女の足元に落ちていたのだろう」

 

「そして最後の根拠はキルアとゴンとの会話だった」

 

「ま、まだあんの!!?勘弁して〜」

 

「一次試験が終わった時、キルアとゴンは途中まで一緒にいたはずのステラが消えて瞬時に私とレオリオの場所に移動したことを不思議に思っていた。それに対して彼女は瞬間移動だと言ったわけだが、私は彼女が走ってあの場所に着いたのを見ている。私はそこで瞬間移動以外の方法かつ、今までの人間の形をした風船を操るというやり方でこれを再現できるか考えたのだが、ひとつだけ存在した。それは風船の見た目だ」

 

「風船の見た目?」

 

「そうだ。もし、風船の見た目がステラ自身にそっくりであり、それをキルアとゴンがステラ本人だと勘違いしていたとしたら?あの時の霧は濃く周囲の様子を見ることは難しかったし、他人をじっくりと観察できるような状況でもなかった」

 

「確かに……あの時のオレとキルアはそこまでステラを見たわけじゃない、そうだよねキルア?」

 

「ああ、オレ達は隣にいるのが当然ステラだと思っていたし、アイツの服は全身を隠しているから違いにも気づきにくい。声だって風船にスピーカーでも仕込めば誤魔化すことも可能だ!」

 

 

 

「つまり魔法の正体とは、ステラとそっくりな風船でできた人形を動かしそれを見えなくすることもできる、というものだと私は思ったのだが……どうだステラ?合っていたか?」

 

「………」

 

「ステラ?」

 

「し、失神してる……」

 

 

 

 念使いでもない人間に発見破られる念能力者いる?

 

 いねぇよなぁ!!?

 

 

 




 ステラがクラピカとクルタ族の謎を考察し、クラピカがステラの能力の謎を考察する、これもう相思相愛ですね。


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8. ゼビル島×円の弱点×ゴン・フリークス


 なんかこの主人公気軽にヤッてんだかヤッてないんだかよく分からないライン往復してくるな……



 

ーーーCASE1 最後の別れ道ーーー

 

 

 

 試練官とのゲームによって50時間もの時間を消費させられた俺達は、残りの時間で急いでトリックタワーの攻略を目指した。

 

 え?魔法?なんのことっスかね……?

 

 

 

「あっ!最後の別れ道って書いてある!」

 

「どうやら出口は近いみたいだな」

 

 そして俺達は大きな石像に装飾された最後の別れ道まで辿り着くことができた。

 

「はぁ〜、いい加減機嫌直せよステラ」

 

「すまない……安易に人の秘密を探ろうなどと浅はかな真似をしてしまった。本当に申し訳ない……」

 

「え?なんですか秘密って?私そんなもの知りませんね。機嫌も悪くないです」

 

 誰の負傷もなく無事出口に近づいて心に余裕を見せる俺達だったが、その石像から宣告される衝撃的な内容に一同は固まる。

 

 

 

 その内容は、この先の扉の片方の道は全員通れるが通過に45時間以上掛かり、もう片方の道は3分でゴールに辿り着ける代わりに通過するためにこの部屋に2人を置いていかなければならない、というものだった。

 

 俺達の今の残り時間は既に1時間を切っていた。つまりここで仲良く全員失格するか、ここで2人を蹴落としてこの試験を合格するか、今の俺達はその2択に迫られたのである。

 

「俺はなんとしても合格するぜ。どんな方法を使ってでもな」

 

 レオリオは部屋の周囲を見ながら言う。そこには古今東西ありとあらゆる武器が並べてあった。この部屋で殺し合ってでも落ちる2人を決めろ、ということなのだろう。

 

「オレは5人で通過したい。せっかくここまで皆で来れたんだしさ、イチかバチかの可能性でもオレはそっちに賭けたい」

 

「おいおい、イチかバチかじゃないぜ。長い道を選んでも1時間を切った状態で45時間も掛かる道を通過すんのは不可能、合格したいのならオレ達はここで戦ってでも短い道を選ぶしかないよ」

 

 ゴンは全員で合格する道を選ぼうとするが、それをキルアはそもそも全員で合格する道自体が無いのだと却下する。そんな流れでクラピカが俺にある提案をする。

 

 

 

「ステラ、ちょっと頼みたいことがあるのだが……貴女の魔法を使ってここに残る2人を作り出すことはできないだろうか?」

 

「そうか!ステラの分身を使えば5人で短い道を通過することができるかもしれねぇ!!」

 

 クラピカの思いつきにレオリオが興奮するが俺はそれを却下する。

 

「ダーメ。だって俺の魔法の正体も所詮はトリックなんだもん」

 

「おいステラ、この期に及んで拗ねてる場合かよ!」

 

 キルアが俺のことを叱るが、クラピカはやはりと言った表情で納得する。

 

「…私達が4人で降りてくる前に試していたんだな?」

 

「そうだよ、タイマーを分身含めた5人で装着したけど前に進むことはできなかった。この塔は至る所にあるカメラによって監視されてるから下手なトリックは通じない」

 

「くっ、そうだったか!じゃあやっぱり戦うしか……!」

 

 俺の魔法も封じられ、いよいよ方法のなくなった俺達は選択を迫られるが、そこでゴンが口を開く。

 

「一個思いついたことがあるんだ」

 

「…ゴン?」

 

 

 

ーーーCASE2 ゴン・フリークスーーー

 

 

 

 ゴンのアイデアとはまず全員で長い方の道に入り、そこから壁を壊して短い方の道に侵入する、というものだった。それなら残りの1時間で壁を壊すことに成功すれば全員で合格できるし、壁を破壊するための道具も部屋にいくらでも用意されていた。

 

 ゴンの恐ろしいところはここだ。極限状態で提示された2択、普通の人間ならその2択を選ばないといけないという強迫観念に駆られる中、平然とその選択肢を無視して自分の答えを導くことができる能力。

 

 

 

 俺はゴンのスペックはあまり高くないと思っている。もちろん才能が素晴らしいということは作中で何度も描写されており、俺もそこを疑う気は全くない。

 

 だけどこの世界の戦いは年季が全てであり、ゴンの戦いの年季は皆無だ。原作開始の3年前からハンターに憧れた彼は山で自身を鍛えた。確かに山育ちゆえの勘やパワーは優れているし、そこはゴンが高く評価される一因だ。だけどその戦いには技術がない。ゴンの体術レベルはほぼ皆無だと言っていいのだ。

 

 作中での実力者相手に彼の体術は全く通用していないし、なんなら天空闘技場でヒソカと戦った時に初めてフェイントというものを知る始末だ。彼の体術、絶対的な指標としての強さはまだまだスタート地点に立ったばかりなのだ。

 

 

 

 だが彼はそこから数年の間にゲンスルーを倒し、ナックルを追い詰め、キメラアントの兵隊達を倒す実力を身に付ける。それはただ単に彼の才能が素晴らしいもので一瞬で誰も彼もを追い越したからかもしれない。だが、俺はそれでもゴンがそこまで強くなったのだとは思わない。

 

 もちろん相応の実力は身につけたであろう。キメラアントの兵隊達を倒せるようなったのはゴンの実力だと言ってもいいかもしれない。だが、俺はゴンが劇中であそこまで活躍できた理由は単純な強さではないと思っている。

 

 

 

 ゴンの発といえばジャジャン拳だ。これに対して読者の中には使いづらい技だと思ったり、素でパワーに優れる強化系がリスクを冒して火力を上げることの無意味さを感じたりする人もいるだろう。だが、俺はこの技がゴンに1番相応しいものであり、この技がなければ彼が多くの強敵と戦い抜くことはできなかっただろうなと思う。

 

 その理由は火力だ。念を習ってからまだ間もないゴンは攻撃力を意味するオーラ量も攻撃性能を意味する体術や流のレベルもまだまだであり、単純な殴り合いでは具現化系のゲンスルーやナックル相手に一方的にボコられる始末だ。まだまだ経験値が足りない。

 

 そこでジャジャン拳という一発逆転の切り札だ。これを当てれば格上相手にも勝敗を決めるほどの大ダメージを与えることができる。ただ一つ問題なのは、ジャジャン拳には多数の制約がありまともに戦えば当てることなど到底できない。

 

 

 

 だが、ゴンはまともじゃない。まともじゃないから極限状態の2択を前に誰も思いつかないような3択目を選べるし、その戦い方は当てさえすれば勝利確定のジャジャン拳と相性抜群の能力だ。俺はゴンの1番の強みはそこにあると思っている。

 

 しかしそれは単純な強さとして現れるものではない。ステータスとして見ればゴンのステータスは暗殺者として長い時間を鍛錬に費やしたキルアに二歩も三歩も劣るだろう。なんなら主人公4人組の実力という観点で見るならクラピカに次いでレオリオよりは強いくらいの3番目ではないかと俺は思っている。

 

 

 

 それでもゴンは実戦において格上を相手した時に飛躍的に強くなり、格上殺しのジャジャン拳とその技を通す為の機転とイカれ具合を以って作中の強敵達と渡り合うことができるのだ。フリークスの名に相応しい、主人公とは思えない戦い方である。

 

 いや、主人公に求められる能力が状況を打開する力であるとするなら、ゴンの戦い方は最も主人公に向いているとすら言えるかもしれない。

 

 

 

ーーーCASE3 硬ーーー

 

 

 

「なるほど……それなら5人全員で合格することができるかもしれない!」

 

「よし、それならさっさと壁を壊そうぜ!」

 

 ゴンの意見に全員が賛成し、壁を壊すことになったのだが……俺は周囲の武器を取りに行く4人とは逆に一直線に壁の方に向かう。

 

「ここまで皆に助けてもらったお礼だ。とっておきの魔法、見せてあげるよ」

 

 右の拳にオーラを集中する。オーラを体の一部分に集中する技術は凝と呼ばれるのだが(ただ単に凝とだけ言えば眼に集中してオーラを集めることなのだが)これだけでは体全身のオーラを全て集めることはできない。体全身から絶えずオーラは流れておりそれを止めなければならないからだ。

 

 だから凝で体の一部にオーラを集めた後に他の部分を絶でオーラを止める。これで体から放出してるオーラの全てが集中していることになる。

 

 その時点でも既に恐ろしいくらいのオーラが一点に集まるのだが、これをオーラを増幅させる練をした状態で行うのが硬だ。硬による攻撃はその人間が普通の手段で出せる全力の攻撃であり、これが最強の攻撃である念能力者も少なくない。

 

 

 

 ただこの攻撃にはリスクしかない。オーラを一点に集めるということはそれ以外の部位は劇的に防御力が減少する。当てれば大幅なリターンは見込めるが、反撃を受ければ致命傷を負う確率も高い。

 

 作中ではキメラアント編にてフェイタンが硬で変身したザザンを攻撃したのだが、それは防御されてフェイタンは反撃を受ける。その反撃はオーラを飛ばすという放出系以外の能力者なら途端に威力の落ちる攻撃だったが、それでもフェイタンは大ダメージを受けてしまった。

 

 ゴンが当たり前のようにジャジャン拳を振るうせいで印象は薄れるが、硬はそれ単体で超ハイリスク超ハイリターンの奥義なのである。ゴンがナックル戦でジャジャン拳を気軽に振るえたのは偏に強化系と具現化系で攻防力に大きな差があり、具現化系のナックルが硬の隙を狙おうとしても大したダメージが与えられなかったからに過ぎない。

 

 

 

「どっせい!!!」

 

 硬のパンチによって壁が粉砕される。具現化系であり本質的に肉体の強化が苦手な俺ではあるが、硬で壁を破壊するくらいのことならGIにやってくる前のひよっこのゴンにでもできる技だ。強化系の苦手な能力者が戦闘で硬をしないのは威力の問題ではなくリスクの問題が大きいわけで、こんな場所なら有用な手段だ。

 

 

 

「な、石でできた壁をパンチ1発で破壊しやがった……」

 

「はぁ!?ゴリラかよ!?」

 

「ふふ、これのトリックは見破れるかい?クラピカ!」

 

「…いや、今の技にはなんの仕掛けも見られなかった、正真正銘の魔法だ……」

 

 俺の渾身のドヤ顔に冷や汗を浮かべるクラピカ。念使いでない人間相手にすることがダサいし、そもそも手段と目的が逆転してしまっている気がするが、俺としても魔術師としての意地はあった。

 

 先述した通り俺の魔術師のロールプレイはまず人前で念を使うことの方便としての理由が先にあり、言ってしまえば俺の能力がどのようなものかバレてしまっても、そこから誰にでも使える念という概念に行き着かなければそれだけで俺の目的は達成していると言えるのだ。

 

 だが、今の硬は明らかにその目的から反していた。念を習得し修行を続けさえすれば誰にでも使えるようになる硬を披露することは、俺の魔法が他人にも使えるものであるということに繋がりかねないものだった。

 

 …まあぶっちゃけると、ここにいる4人はどうせ後一年も経たずに念を習得するのだ。念の秘匿は念を知るべきでない人間にその存在を教えない為のものであり、逆に言えば念を知ってもいいと思える人間になら秘匿せずとも問題ないのである。

 

 

 

「今のってどうやってやったの?オレ達でもできる?」

 

「魔法だ」

 

 まあ今の俺には師匠なんかやってる暇などないのだから、念の存在を教えることはあっても念を教えることはないのだが……

 

 

 

ーーーCASE4 四次試験ーーー

 

 

 

 トリックタワーを無事攻略した俺達は試験官によってクジを引かされた。引いた番号はそれぞれの受験者の試験番号になっており、四次試験の内容は受験者番号の控えとなっているプレートを互いに奪い合うというものだった。自分のプレートとクジによって引いた番号のプレートはそれぞれ3点その他の番号は1点ずつとし、合計6点を試験終了時に持っておけば合格だ。

 

 つまり、自分のプレートを保持しつつターゲットのプレートを奪えばそれで合格、ターゲットは分からなくても3人狩ればそれで合格、まああり得ないと思うが自分のプレートを奪われてターゲットが分からなくても6人狩れば合格になるのである。

 

 船で2時間ほど揺られて、俺達は試験会場であるゼビル島へと到着した。ここで制限時間である1週間、俺達はプレートの奪い合いをするってわけだ。普通に死人が出るから自分としてはあまり好ましくない試験である。

 

 

 

 試験が始まりトリックタワーを攻略した順番にゼビル島に上陸する。このタイムラグで試験開始直後の衝突を抑えているわけだ。それでもやろうと思えば1番最初のヒソカがスタート地点に居座って他の受験者を全員殺すとかもできるんだけど……

 

 ちなみに三次試験をクリアした時点で来年度の試験会場への招待券が贈呈されるのだが、原作ではキルアはそれを使わずに試験会場探しをした。多分招待券は実家のゾルディック家に送られたから取りに行くのが手間だったんだと思う。

 

 

 

 俺はとりあえずトリックタワーの攻略で汚れた体を水浴びで清めながらどうするかを考える。考えると言っても四次試験自体は楽勝だ。その辺にいる奴らから手当たり次第に狩れば合格は余裕なのだが、俺としてはまあ手が余ってるのなら余計な人死には食い止めたいと思うのが一般的な人間の心情なわけで…

 

 水浴びを終えた俺はとりあえずヒソカのもとへと向かうことした。

 

 

 

ーーーCASE5 自動操作の弱点ーーー

 

 

 

「ようヒソカ」

 

「おやステラじゃないか♠︎ プレートはもう集めたのかい?」

 

「まだ2日目だぜ、そんな早く終わらせようとするほど俺はせっかちじゃないよ。同じ理由で俺のターゲットはお前じゃない」

 

「なぁんだ♦︎ デートのお誘いかと思ったのに♣︎ 」

 

 ヒソカも俺が自分を狩ろうとするとは思ってないのだろう。全くの無警戒で俺のことを迎えていた。まあ俺もヒソカを狩るくらいなら適当な受験者3人狩るし。

 

 

 

「デートをするつもりは一生ないけどショーになら招待しようと思ってな」

 

「…なるほど、今の状況はアレをするのにピッタリだね❤︎ 」

 

 ヒソカの前で座って目を閉じる。俺は手動操作の分身を出すと、二つ目の能力で分身の中に水素を生成した。

 

 俺の「体内で水素を生成する能力」だが、厳密にはこの能力の原理は体内の空気を水素へと変化させるというものだ。変化させる空気の量も自由に調節できる為、普通に自分の体に使っても俺の体が破裂することはないし酸素欠乏症によって倒れることもない。

 

 

 

 だからこんなこともできる。水素で満たされた風船の分身は徐々に地面から離れて空へと飛んでいく。

 

「そういうわけで俺の体のこと見張っといてよ。セクハラすんなよ」

 

「…まあボクもすることないし、キミを視姦しつつ暇を潰すことにするよ❤︎ 」

 

「きっしょ」

 

 俺はヒソカに注意しつつゼビル島の上空へと飛んでいく。上昇が止まったところで俺は空の上から受験者の様子を監視する。

 

 手動分身で見張りをするというのはハンター試験の会場や一次試験の時でも行ったのだが、その時のように俺の本体を自動分身で別に行動させるというのは難しい。

 

 可能か不可能かと言われると可能なのだが、この四次試験という状況がそうさせることを難しくしていた。

 

 

 

 例えばこの状況で俺自身を自動操作の分身に守らせる場合、「近づく人間を攻撃しろ」か「近づく人間から逃げろ」という命令になるだろう。お互いに狩るという目的な以上俺を狩りに来る受験者もいるからだ。

 

 だが、それに対して俺の分身が攻撃した場合、その人は大きなダメージを受けてしまう。自動操作の分身では事前に破裂するよう敵役として設定しなければ「念を持たない人間がダメージを受けないように気絶させろ」という命令は行えないからだ。仮にダメージは少なくても高い確率で念に目覚めてしまうだろう。

 

 であるならば近づく人間からは逃げるという命令を選ぶしかないわけだが、その場合は監視を終えて本体に戻った時によく分からない場所に辿り着いている可能性がある。上空から島を見下ろしてるのに何故か自分の位置が分からなくなった、なんていう間抜けは晒したくない。

 

 

 

 だからこそ今回は分身を使わずにヒソカに頼んで俺の本体を守ってもらうことにした。ヒソカの態度はキモいがまあそのくらいなら大した被害じゃない。アイツ変態だけど強姦魔ではないし……多分。

 

 

 

ーーーCASE6 円の弱点ーーー

 

 

 

 単純に監視するなら円でもいいんじゃないか?と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、円にはリスクがあるということを忘れてはいけない。ちなみに俺も円を少しはできるが、後述の弱点と俺のスタイルが合わない為に円を伸ばそうと思ったことがない。

 

 円とは四大行のうちの纏と練を複合した高等技術であり、オーラを薄く伸ばしつつ自分の周囲に広く覆う技術である。その説明の印象から放出系の得意分野のように聞こえるが、放出系はオーラと自分を切り離すのが得意であって円は体と切り離す技術ではないので円と放出系は無関係である(ただ、覚醒メルエムの円は微小なオーラの粒子を飛ばすという形である為、あれには放出系の才能が必要なのかもしれない)。

 

 

 

 円によって伸ばされたオーラの中にあるものを円の術者は動きや形として肌で感じ取ることができるようになるわけだが、円は一方的に位置を探れるような万能性はなく、お互いに位置を知るというものだ。

 

 念能力者であれば他の念能力者の円に入った時点でそのオーラを感じ取れるわけだし、円に入らなかったとしてもオーラを見れる念能力者からしたら円は視認できる。

 

 だから円を伸ばして相手の位置を探ったところで相手側からもそれが探知されるのだ。自分が相手を追いかける時に円を使うというのははっきり言って愚策の部類に入る。

 

 じゃあヨークシン編でゼノとシルバがクロロを追い詰めるために円を使ったのが愚策だってのかよ、という話になるのだが、あれはまずクロロがオークション会場に立て籠っているという前提があり、袋の中のネズミだから追い立てて狩るという手段が取れたのだ。

 

 基本的に円が有効に働く場面とは、他を寄せ付けない圧倒的な強者が格下の相手の攻めを待つ時だけだ。そんな機会は俺にはないだろう。

 

 

 

 念能力者じゃない人間に円を使うなら効果的かもしれない。念を使えない人間にはオーラは見えないし、念を使えない人間が円を使える念能力者に勝てるわけはないからだ。

 

 そういう意味では今回は円を有効に使える場面ではあるが、問題は念使いでもない人間にもオーラを感じ取れる人間がいることだ。例えばキルアやゴンはイルミの出すオーラに気づいて警戒している描写がある。ある程度の才能か実力のある人間には円を伸ばしても気づかれるだろう。四次試験まで残った面子が誰も彼も無能揃いだとは考えにくい。

 

 

 

 そこで上空からの監視というわけだ。ここからならオーラから追跡がバレることはないし、隠をすれば念能力者非念能力者問わず気づかれることはないだろう。常識的に上空からの監視を恐れて普段から凝で空を見上げるような念能力者はいないし。

 

 こっちからもかなり離れてるし、隠をしてるから凝を併用して目を凝らしてオーラから敵を見つけるなんて芸当はできないが、人間にできないことなら道具に頼ればいいだけだ。

 

 スコープを使って大まかな受験者の位置を確認する。その中にある人物がいるのを見つけてそいつの行動を追う。

 

 

 

「あ、いた」

 

 その人はスナイパーライフルを構えた女性だ。名前は忘れたが、少なくとも今その女が紛れもない自殺行為をしていることだけは確かだった。

 

「死ぬかもしれないけど確定で死ぬよりはマシ、お前もそう思うだろっ!」

 

 俺はもう片方の手に持っていた石を女の方へ投げる。石は重力の影響も受けて徐々に加速し、女が登っていた大木を粉砕する。キャー!という悲鳴と大木が薙ぎ倒される大音を残して俺は分身を解除する。

 

 

 

「安全確認ヨシ!」

 

「今のはステラの仕業かい?」

 

「そうそう、空から石投げつけた。直接当ててないから多分死んでないと思うけど。つーわけでもう一回行くけど、次ケツ触ったら怒るからな!」

 

「バレてたか♣︎」

 

「分身の感触が無い分本体の感触は残ったままなんだよ!」

 

 もし分身の感触やダメージがこっちにもフィードバックされるとすると俺は自分が破裂するような感触を受けてしまう。五感の中でも触覚と味覚は本体のままなので自分の体に異常を感じた時には戻りやすいのは利点だ。ダメージ食らった後に戻ったとしても多分もう手遅れだろうけど。

 

 

 

 今度は空を飛ばずに女のもとへと走っていく。女は幸運にも当たりどころが良かったらしく、脚を負傷して動けなくなっていたところだった。俺は観念したように項垂れている女性からプレートを頂き、ヒソカの下へと戻った。

 

 ちなみにこの女性は原作では確かイルミを暗殺しようとして死ぬ人だ。というか原作とか関係なくイルミに喧嘩売るなんて止めるしかないわ。ヒソカと違ってイルミ相手だと死ぬしかないし。ヒソカ相手でも8割くらいの確率で死ぬけどさ……

 

 

 

ーーーCASE7 絶ーーー

 

 

 ヒソカの所に戻ると、ヤツは槍使いの人と一戦交えていた。槍使いの渾身の攻撃を避け続けるヒソカを見ながら、俺は今この場に同席してるはずのゴンの気配が全く感じ取れないことに戦慄を抱いていた。

 

 念能力者が絶で気配を完璧に消すのは簡単だ。絶というのはオーラを体外に出さないようにする技術であり、これによって気配を消したり体力を回復したりできる基礎的な技術だ。念能力者なのに絶が完璧ではないとしたら残念ながらもう一度修行し直せとしか言えない。

 

 

 

 だが、念能力者でもない人間にも絶を使える人間はいる。ゴンとキルアはそういう人間だ。キルアは暗殺者として何年間も鍛え続けていたから気配の消し方が完璧でも全く不思議ではない。だがゴンは一般的な山育ちの子供であり、ハンターを志して鍛え始めたのは原作の3年前からだ。キルアは少なくとも6年以上ゴンより遥かに厳しい訓練を行ってきたので、キルアと同じ年齢でありながらキルアと同じレベルの絶ができるゴンが如何に凄まじい才能を持っているかが分かる。

 

 

 

 そして絶を維持するにも高い集中力が必要だ。継承戦においてカキン国第四王子ツェリードニヒが絶の修行をするシーンがあるが、彼は纏を一瞬で覚えた凄まじい才能を持つにもかかわらず、絶の修行ではコップを割った音や声掛けによって集中を乱されて絶の維持を失敗していた。

 

 そんな中でゴンは、隣で死闘が起きても集中を乱さずに丸一日絶を維持させることに成功したのである。一口に念の才能と言ってもオーラを扱う技術に関してはゴンやキルアよりツェリードニヒに軍配が上がるかもしれないが、気配の消し方や集中力の維持などより実戦的な念の才能に関してはゴンとキルアの方がずっと優れているのかもしれない。

 

 

 

 俺としても槍使いの人はよく頑張ったと思ってたのだが、既にイルミによって致命傷を負わされた体は疾うに限界に達しており、ヒソカには相手にされずイルミにトドメを刺されて息絶えた。ハンター試験編で可哀想な死に方ランキングを付けるとしたらこの人は堂々の一位だと思う。二位はヒソカかキルアどっちに殺されてるかな……

 

「ゴメンゴメン、つい油断して逃しちゃったよ」

 

「ウソばっかり♦︎ 死にゆくオレの最期の願いをとか泣きつかれたんだろ?どうでもいい敵に情けをかけるのやめなよ♠︎」

 

「だって可哀想じゃん、どうせ本当に死ぬ人だし」

 

「まあ恐怖の針人間に致命傷負わされて戦いの中で死にたかったのにピエロに無視されて結局針人間に殺されるのは可哀想以外の何者でもないな……」

 

「じゃあステラが相手してあげれば良かったじゃん。ヒソカだってたまに似たようなことするしさ」

 

「俺は殺したくないし……」

 

「ボクは殺すに惜しい人を殺さないだけ♣︎」

 

「よく君たち友人やれてるよね」

 

 この中で1番イカれてる奴にツッコミ入れられるのは屈辱的な気分だった。まあ俺も四六時中そんな疑問抱えてるけどさ。

 

 

 

「で、2人はプレートは?」

 

「オレは6点分揃った」

 

「俺もイルミ狙ってる奴倒して6点」

 

「あれキミの仕業だったのね」

 

「え〜、じゃあ残りはボクだけ?」

 

 そりゃゲーム開始から全く動いてなかったしなお前。まあ今回は世話になったから手伝うけども。

 

「俺のこと見張ってくれた礼に1点分は稼いでくるよ」

 

「ついでにあと2点分稼いできてよ❤︎」

 

「甘えんなよそんくらい自分でやれ」

 

 

 

 俺達が言い合ってるうちにイルミは顔に刺さっている針を取ることでギタラクルからイルミに顔を変形させる。何度見てもキモいなこれ……

 

「じゃ、オレ期日まで寝るから。頑張ってねー」

 

 そう言うとイルミは素手で掘り進んだ穴に潜って冬眠?した。つくづく不思議生物だなゾルディック家という奴らは……

 

「俺も探しに行くか……」

 

 ヒソカのターゲットはゴンのことを狙っていてゴンの成長イベントに必要不可欠だ。だから俺はヒソカの1点分のプレートがどこかにないか探すことにした。

 

 

 

ーーーCASE8 ボドローーー

 

 

 

「むっ!なにやつ!」

 

 そんな中で遭遇したのは最終試験でキルアに殺されるボドロ氏だった。あー、そういやこの人も殺されるな。今のうちに狩っとくか。

 

 そんな風に思っていたらボドロ氏の方が先に口を開いた。

 

「私は君のような女子供とは戦いたくない。ここは収めてくれないか?」

 

「は?」

 

「プレートが足りないのであれば私も協力する。3点欲しいのであれば私と協力してその分を稼げば良いだろう?もし足りなかったらその時に私のプレートをあげよう」

 

「何言ってんのお前」

 

 これが挑発のつもりなら相当だ。しかしボドロは実に本気な姿勢で俺に説得を続ける。

 

「私は君のような人を傷つけたくないのだ。できることなら戦いたくは…」

 

 

 

「とんだ馬鹿だよお前」

 

 いよいよ堪忍袋の緒が切れた俺は男の背後に回って地面へと投げ飛ばす。うつ伏せに倒れた男の首を掴むと俺は説得する。

 

「お前ハンター向いてないよ。実力差を理解してないのはまあ仕方ない、俺とお前の間には途方もない差があるわけだし。だけど人を見た目だけで判断するのはダメだよ、そんなんでハンターやってたらいつか死ぬよ」

 

「ぐっ、ぐぉお」

 

「あ、でも別にライセンス目的なら別にいいと思うよ。実際俺と会わなきゃ最終試験までは辿り着けたわけだし、また来年…いや再来年……?いやその時は試験も様変わりするしな……まあ次回以降のハンター試験に賭ければいいよ」

 

 ただし、と言いながら俺は首を締め上げる。

 

「今回みたいな舐めた真似してたら近いうちに痛い目に遭うよ、この世界にはお前が侮る女子供の形をしたバケモノが沢山いるんだから」

 

 この世界で子供だから女だからと紳士ぶったところで長生きはできない。そんな生き方を貫くなら最低でもヒソカくらいの力を身に付けてから言って欲しいものだ。

 

 

 

 俺は2点分のプレートを手にヒソカのもとへ帰っていった。既に太陽は沈み辺りはピエロの跋扈する恐ろしい闇の世界になっていた。

 




 ヒソカの前で完全に無防備になるのはヤッてるよなぁ…けどセクハラにはキレてるしなぁ…けどそれも一種のプレイかもしれないしなぁ…


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9. 慰め×操作系能力者×キメラアント編の陰謀


 なんか途中から発狂ダイスロール振ってない?



 

ーーーCASE OF GONーーー

 

 

 

 オレのターゲットはヒソカだった。

 

 

 

 一次試験でオレがレオリオ達を助けに行った時、オレはヒソカと目が合った瞬間に動けなくなった。その時に初めてオレはこの世界にはあのような人間がいることを知った。圧倒的な強者、それでいて森の捕食者達とも違う全く分からない行動原理で動く人間。

 

 そんな人間を狩らなければいけないということに対してキルアは同情してくれたけど、オレは恐怖を抱くと同時にワクワクしていた。オレの力がアイツに届いたらどんなに嬉しいかって考えたら、ヒソカを避けて3点を稼ぐなんてことは考えられなくなった。

 

 

 

 けれどオレだってそこでヒソカに殴り掛かろうとするほど考えなしでも命知らずでもない。オレは戦わずにヒソカのプレートを奪うことだけを考えて釣竿を使ってその練習をした。

 

 相手の行動を予測してそこを狩る。口に出すだけなら簡単だったがいざ狙ってみるとそんなことは全くなく、その難易度の高さにオレは諦めかけた。だが、その時相手が獲物を狙う瞬間が1番の狙い目であることに気づき、無事に技を習得することができた。その後は血に惹かれる蝶を利用してヒソカに近づき、オレはその技を振るうチャンスを待ち続けた。

 

 ヒソカが槍を携えた男と戦っている時もステラやギタラクルと会話している時もクラピカが交渉している時も待ち続け、ついにそのチャンスは来た。

 

 

 

 オレはヒソカが他の受験者に襲いかかるその瞬間を狙った。そしてその結果は……

 

 

 

「驚いたよ♦︎ ずっと気配を絶ってチャンスを窺ってたのかい?」

 

 他の受験者によって毒矢を撃たれ動けなくなったオレのもとへとヒソカが歩いてくる。その手にはオレに毒矢を撃った受験者の首が握られていた。

 

「気配の消し方、攻撃のタイミング、全て見事だった」

 

 そう言うとヒソカはほんの一瞬だけオレが奪うことに成功したそのプレートをまるでオレにあげるかのようにオレの側に投げ落とした。

 

「そのプレートはあげる♠︎ コレが僕のターゲットだったからそれはもう要らない❤︎」

 

「オレも要らない…!!」

 

「そう言うなよ♠︎ それは貸しだ♣︎ いつか返してくれればいい❤︎」

 

 その言葉にオレは全身に回る神経毒を無視して立ち上がる。立ち向かった強者に見逃され恩まで与えられる。オレはそんな無様を絶対に認めたくなかった。

 

「借りなんかまっぴらゴメンだ…今返す……!」

 

「くくく、断る♠︎」

 

 笑みを浮かべたヒソカがオレの方に歩いてくる。オレは辛うじて反撃する為の構えを取る。

 

「今のキミはボクに生かされている♣︎ キミがもっと殺し甲斐のある使い手に育つまでキミはずっとボクに生かされているのだよ♠︎」

 

 そう言うとヒソカは構えたまま動けないオレの頬をぶん殴る。パンチの衝撃で吹っ飛んでいくオレに対してヒソカはその場から立ち去りながらその言葉を残した。

 

「そのプレートは預けよう♠︎ 今みたいに1発ぶち込むことができたら受け取るよ♦︎」

 

 

 

「おっ、いたいた。やれやれ本当に気配を消すのが上手いな君は」

 

「…ステラ」

 

 動かない体を引きずって森に隠れていたオレは声を掛けられる。彼女は手に持っていたプレートを投げて遊びながら近づき、オレの隣に座る。

 

「プレート、1点分余っちゃってね。いる?」

 

「要らない。オレはもう6点分集まった」

 

「…そっか。そうそう!ヒソカが褒めてたよ、あんな褒め方をするのは俺が見たのでも初めて……」

 

「………」

 

「ま、そんな慰めも逆効果だよな……」

 

 頬を掻きながら困ったように笑うステラにオレは今の気持ちを吐露する。

 

 

 

「悔しかった。プレートを与えられて、それを返せなかった自分が情けなくて……ヒソカやステラ達に比べて如何に自分が弱い存在なのかって痛感して……」

 

 話してるうちに思わず悔し涙を浮かべるオレにステラは背を向けて話し始める。

 

「確かに今のゴンは弱いよ、ヒソカのような強者に与えられないと生きることのできない弱者だ。でもね、俺はゴンの強さが羨ましい」

 

「…え?」

 

「今の君はそんな強者に負けることを悔しいと感じている。ヒソカに借りを返す気でいる。それは紛れもない君の強さだ。それに比べたら、今の君に力が足りないなんて些細なことでしかない」

 

 そんな屁理屈みたいなことを言うステラにオレの怒りが募る。その影響でオレの言葉もつい強い口調になってしまった。

 

「どうせステラみたいな強い人には分からないよ!」

 

 

 

 オレの言葉を聞いたステラは衝撃を受けた様子でオレに問いかける。

 

「そっか…今の俺はそう見えるか……なあゴン、オレとヒソカの関係はどう見える?」

 

「えっと、友達?」

 

「…まあそうなるよな。実はさ、俺も今のお前と同じなんだよ。いや、俺はお前よりもダメな人間だ」

 

 そう言って振り向くステラの顔は悲しげだった。

 

「アイツが俺に多少の友情を感じてるのは確かかもしれない。だけど、俺がアイツに狩られていないのは生かされてるからだ」

 

「で、でも!ステラはあんなに強いのに!」

 

「…アイツは何よりも強い奴との戦いを望む男だ。ゴンみたいな才能のある弱者を気に入って見逃すのは珍しいことではない。そしてそんな気に入った人間には甘い対応をするのがアイツの特徴だ」

 

 

 

 だから俺は……とステラの声が震える。

 

「だから俺は、わざとアイツに気に入られるようにしたんだよ。最初から白旗を上げて強者に媚びへつらう、まるで弱者の戦い方だ!」

 

 それはまるで罪人が神に赦しを請うための懺悔のようで、オレはその姿から目を離せなくなった。

 

「多分ヒソカだって気付いてる……その上でいつか、全てを振り払って成長した俺と戦えるようになるのを待ってるんだ」

 

 その顔はオレが今抱えている悔しさよりも長い期間熟成され、最早別物となっていた苦悩だった。

 

「そして1番の間抜けはこの状況を狙い通りだとほくそ笑んでる俺がいることだ!気持ちで言うのなら、俺は最初からヒソカにもゴンにも負けてるんだ……」

 

 多分オレはその涙を一生忘れないだろう。自分より遥かに強いと思っていた人の弱み、それは今のオレにも理解できるもので、下手したらオレには一生掛けても理解できないようなものだった。

 

 

 

ーーーCASE1 プライドーーー

 

 

 

 ゴンを慰めようとするあまり、ついつい言わなくていいことまで喋ってしまった!!!俺のバカ!

 

 

 

 …この世界に余計なプライドを持ち込むのは死を招くことだというのは分かってる。ゴンがその意地を貫けるのは彼に類い稀なる才能と仲間に恵まれる天運があってのもので、そんなものを持たない俺には俺相応の生き方しかできないのだということも。

 

 けれど頭ではそう分かっていても、心から納得できるようなものではなかった。俺だって正面からヒソカに挑んでぶっ飛ばしたい。

 

 だけどそんなこと俺にはできないから、俺はゴンに嫉妬を抱いてしまうのだ。たった一年で驚くほど成長し、そのプライドを貫き通せる資格と強さを持つ彼に。

 

 

 

「オレが強いのならステラだって強いよ」

 

「ゴン?」

 

「だってステラはその悔しさを今でも感じてるんでしょ。悔しさを感じるのはその人の強さだって言ったのはステラ自身だよ?」

 

「い、いや……だって俺はそれで満足するような奴だし……」

 

 ゴンの真っ直ぐな視線に俺は耐えられなくなる。あれ?なんで俺がゴンを慰めるつもりが俺がゴンに慰められる流れになってるの???

 

「けれどそれで悔しさを感じられなくなったわけじゃない。ステラの気持ちはまだ負けたわけじゃ…」

 

「分かった!も、もうやめよう!!これ以上は恥ずかしい!!!」

 

 大人のお姉さんらしくゴンのことを導こうと思ったのに!ゴンのコミュ力を舐めていた!

 

「えー、でもステラは本当に…」

 

「分かったから!俺はまだ負けてない!俺いつかヒソカ倒す!!!」

 

 …よく考えたらコイツお姉さん特攻持ってたんだったな……毒牙に掛からないように注意しないと……

 

 

 

 純真そうな主人公の見た目をしているゴンだが、彼はくじら島に漁に来る海女さん達と頻繁にデートをしているのだ。原作ではキメラアント編で成り行きでパームという女性とデートをすることになったのだが、彼の様子はそれはもう手慣れたものだった。多分俺より経験豊富だぞ、そもそも俺の経験は皆無に等しいけども。

 

 ちなみにその事実は長年のファン達にも衝撃的なもので、彼らの間でしばしばゴンは童貞なのか非童貞なのか熱く議論されるほどだった。流石に11歳で非童貞はマズイって!!

 

 

 

ーーーCASE2 蛇使いの罠ーーー

 

 

 

 ゴンの毒が癒えてから俺達はクラピカ達がまだプレートを持ってなければその手助けをしようという話になった。ちなみにゴンに撃たれた毒は筋弛緩剤で通常の人間なら10日で回復するというものだったが、ゴンはそれを3日で回復させた。強化系の人間は回復力にも優れているのである。ゴンはまだ念能力者ではないけど。

 

 

 

 そして四次試験最終日、俺達はクラピカとレオリオと合流してレオリオのターゲットであるポンズという女性を探すことになった。ゴンの嗅覚を利用して薬品使いである彼女を探知した俺達は彼女の隠れる洞穴へと行くレオリオを見送ったのだが……

 

「みんな来るな!ヘビだ!!!」

 

「レオリオ!」

 

 洞穴の中へと急いだ俺達が見たのは倒れるレオリオとそれを離れた場所から座って見ているポンズ、そして1番奥に座るターバンを頭に巻いた男だった。

 

「バカ…ヤロ…なんで入ってきやが……」

 

 レオリオの足元にはヘビの死体が散乱しており、それはレオリオがヘビの大群に襲われたのだということを物語っていた。

 

 レオリオを連れて洞穴から抜け出そうとする俺達だったが、その行手を大量のヘビが阻む。その様子を見たポンズは現状を教える。

 

 

 

「蛇使いバーボンの罠よ。一度この洞穴に入ってきた人間は蛇に阻まれて逃げられない。一度でも咬まれたらその男みたいに倒れるわ」

 

「バーボン!プレートなら全て渡す!だから今すぐ私達をここから出せ!」

 

「無駄よ」

 

 クラピカの懇願に反応しないバーボンを見ながらポンズはこの状況が手詰まりであることを教える。

 

「彼はもう死んでいるわ。私が殺った、方法は企業ヒミツ」

 

 クラピカがバーボンのもとへ近づこうとするも、途中で蛇が行手を阻む。

 

「…なるほど。この部屋から出ようとすることと、バーボンの体に触れようとすること。この二つが蛇が攻撃する条件ってこと」

 

「多分ね。私も彼の体を調べようとしたんだけど……」

 

「蛇に襲われて蜂を解き放った。バーボンはアナフィラキシーショックにより死亡……か」

 

「…まいったわ。ご名答よ」

 

 クラピカがバーボンの傷口から死因が蜂による殺害だと気づき、状況を考察する。バーボンが死んでも命令が解かれないという状況、まさに八方塞がりとでも言うべきものだった。

 

 

 

ーーーCASE3 操作系能力者?ーーー

 

 

 

 ここでポンズとバーボンはそれぞれ一種の動物や昆虫に命令を与えてそれを実行させているわけだが、これは念能力の内の操作系に属する能力による動物の操作であるのではないか?という疑問がある。

 

 動物を使役するにしても、知能の高いとは言えない動物に細かい条件を設けてそれを忠実に実行させるというのは個人の技能を逸脱しているように感じる。それを念能力によるものだと考えるのは至極当然な考え方だ。

 

 念能力者には念を習った上で念能力者になった人間の他に無意識の内に念能力者になった天然の念能力者がいると考えられている。前者は大抵の念能力者がそうであり、例えば直接念を習っていない天空闘技場の洗礼組も他者から念の存在を教わり使えるようになったと考えると念を習った念能力者に該当する。

 

 ここでいう天然の念能力者とは念の存在を知らずに発を使えるようになる人間を指す。作中ではネオン・ノストラードがそうじゃないかと言われる他、最近判明した中ではコムギが天然の念能力者であった。

 

 

 

 ポンズやバーボンも知らず知らずのうちに念能力を発現した可能性は十分に考えられる。一応念を知った上で習得したパターンも考えられるが、纏を覚えた時点で通常の人間より遥かに頑丈になる人間がトンパに取っ組み合いになれば勝てると評されるとは思えない。少なくともこの時点でのポンズが純正の念能力者である可能性は低いように思える。

 

 作中ではウイングは「念能力を一部でも使いこなせる者」を指しこれらの人間が天才や超能力者などと呼ばれると説明した。恐らくこの人間が天然の念能力者に該当すると思われる。ハンター試験を最後半まで残れる人間であればこのカテゴリに該当しても不思議ではない。

 

 

 

 彼らが操作系の念能力者だとするとポンズは自分に対する攻撃に反撃するよう蜂を操作し、バーボンの場合はそれに加えて洞穴から逃げようとする人間を攻撃するような命令を蛇に下しているのだと考えられるが、ひとつだけ気にかかることはバーボンが死後に強まる念を発動しているということだ。

 

 

 

ーーーCASE4 死後に強まる念ーーー

 

 

 

 死後の念、死後に強まる念などと言われるこの現象は、念能力者が能力の発動中に死んだ場合に術者の死後に能力が消失するのではなく却って強まるという内容の現象である。作中での発動シーンはピトーの「黒子無想(テレプシコーラ)」やヒソカの「伸縮自在の愛(バンジーガム)」などがある。

 

 バーボンが死んだならその念が死後に強まる念となり蛇を操作し続けたと考えても不思議ではないのだが、気になることというのは死後に強まる念の発動条件である。

 

 死後に強まる念の発動条件は術者が強い執着や怨恨を抱えたまま死ぬことである。ピトーはメルエムに対する思いが心残りとなり、ヒソカは自分が死ぬことで戦いが終わってしまうことを心残りとして発動した(ヒソカ無敵かよ)。

 

 念能力者が死ぬ場合のほとんどが殺されることなのだが、殺される直前になってそれらを思い残すのは中々珍しいと思う、普通の人間が殺される時には死に対する恐怖を浮かべるのが大半だろう。そういう理由で死後の念を発動するケースは珍しいはずだ。

 

 

 

 では、バーボンの死亡状況はどうだったであろうか?ポンズの説明では彼女がバーボンの潜む洞穴に催眠ガスを送り込み、バーボンが眠った隙に彼女がプレートを奪おうとした結果、蛇と蜂が互いに反応してバーボンは殺された。

 

 つまりバーボンは眠ったまま殺された可能性が高いのだ。説明は不要だと思うが眠ったままの状態で強い執着や怨恨を残していたとは考えにくく、あのケースで死後の念が発動した可能性は低いと思う。

 

 

 

 死後の念が発動していないのに蛇が死後も命令を実行していたということは、バーボンは純正の念能力者でも天然の念能力者でもなくただの凄腕の蛇使いだった、ということになる。

 

 まあこの辺りは死後の念についての詳細な説明がないために現時点で正しい答えは出せない問題だ。

 

 ただ一つだけ言えることは、この世界には念能力関係なく広い空間を呼吸だけで二酸化炭素で埋め尽くすという頭のおかしい特技を持った人間もいるので、非現実的な特技を全て念能力だと解釈するのは早計なのは確かである。

 

 

 

ーーーCASE5 最終試験ーーー

 

 

 

 窮地に追い込まれた俺達だったが、致死性の毒を使う人間ならばプレートを手に入れる駆け引きに利用するための解毒剤を持っているはずだと考えたゴンはバーボンへと突貫する。無事解毒剤を入手したクラピカがゴンとレオリオに解毒剤を投与することでレオリオの死は回避することはできた。

 

 バーボンの罠もゴンが機転と肺活量を活かして突破することができた。ポンズの持ってる催眠ガスを洞穴に散布し、蛇が眠った後に長時間息を止めることで催眠ガスを無効化したゴンが皆を運んだのだった。

 

 そして俺達は無事四次試験を合格し、最終試験へと歩を進めたのである。

 

 

 

「失礼します」

 

「座りなさい。最終試験の参考にキミに質問したくてのう」

 

「了解です」

 

 後ろに「心」と書かれた掛け軸のある和室に俺は招かれた。和室ってことはネテロはジャポンの出身なのかねぇ……スシの知名度の低さを考えるとどっちかというと和室等の現実世界の一部の日本文化がこの世界でのジャポン由来ではない可能性の方が高い気がするけど。

 

 まあこの辺は考えるだけ無駄だろう。思考の隅に追いやってネテロの質問に答える。

 

 

 

「まずは、なぜ君はハンターになりたいのかな?」

 

「1番は身分の証明の為ですね。流星街生まれなので」

 

「なるほどのう、ではお主以外の8人の中で1番注目してるのは?」

 

「えっ1番?1番か〜、1番だと誰なんだろうなぁ〜」

 

「1人じゃなくてもよいぞ」

 

「なら99番と403番と404番と405番だなぁ。あとついでに44番と301番も」

 

「多いのぉ」

 

 呆れたように呟くネテロに苦笑する。まあ俺としてはこの辺のメインキャラは嫌でも注目せざるを得ないからな。

 

「では8人の中で今1番戦いたくないのは?」

 

「99番と403番と404番と405番かなぁ。44番と301番は殺し無しならやってもいいけど」

 

「殺しは嫌なのかい?」

 

「まあそうですねぇ。絶対に殺したくないとまで頑なな思いではないですが、できるだけ人が死ぬのは見たくありませんね……」

 

「うむ、ご苦労じゃった。さがってよいぞよ」

 

「失礼しました」

 

 

 

 部屋を退室しながらネテロの顔を拝む。原作通りに行くなら多分この邂逅が俺とネテロに会う最期の機会だろう。1年後に訪れるキメラアント編のことを考えつつ、俺は自室へと戻る。

 

 

 

 そんな中、俺はある可能性に気づいた。

 

 あくまで気のせいなのかもしれない。ただ全体を通して見た時に僅かに感じる違和感、普通ならただの陰謀論として切り捨てるべき可能性。だけどその一致を全て偶然と済ませるほど俺は楽観的な人間ではなく、そして俺はその戦いが作中で最高の戦いだからと言ってその戦いが必ずしも有意義なものであったとは限らないと考えるような卑屈な人間だった。

 

 

 

 もしかしたらキメラアント編、そしてその戦いによるネテロの自爆はカキン国或いはビヨンド・ネテロによる盛大な茶番劇だったのかもしれないという可能性である。

 

 

 

ーーーCASE6 死闘に隠された陰謀ーーー

 

 

 

 劇中におけるキメラアント編はカイトがとある流れで女王蟻の体の一部を入手することから始まり、その結果は東ゴルトーの国民約500万人とハンター数人の死亡で終わる。

 

 その被害が多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだが、少なくとも五大国から見たらその被害は皆無と言っても良い。元々キメラアント討伐は五大国がハンター協会に丸投げしたものであり、人的被害も討伐までに被る汚名も全てハンター協会が背負うものである。

 

 そしてキメラアントと人間が本気で戦争した場合にキメラアントに軍配が上がる可能性は皆無だ。つまり、人間(五大国)はキメラアントの脅威を大したものではないと判断し、その全てをハンター協会が解決できるだろうと予測し、実際その通りにハンター協会は事態の収拾に成功したのである。人類規模という観点においてキメラアントの脅威は全くない。

 

 

 

 だが、それでもネテロは死んでしまった。それはメルエムを始めとした人間を食ったキメラアントが人間の予想以上に強かったからかもしれない。けれど、1番の理由としてはハンター協会も一枚岩ではなくその皺寄せが全てネテロに行ったから、が大きいだろうと俺は考えている。

 

 ハンター協会はトップであるネテロが会長を務める組織だが、それに次ぐナンバーツーとしてパリストンが副会長を務める。このパリストンというヤツは作中のほぼ全員から「荒らし・嫌がらせ・混乱の元」として扱われており、ネテロが彼を副会長に指名したのもその方が面白そうだから、という組織としては身も蓋もない理由である。

 

 そして実際にパリストンはハンター協会に混乱をもたらした。ハンター協会の斡旋する仕事だけを請け負う協専ハンター関連の人事を担当し、キメラアント討伐任務の意図的な失敗(推測)、行方不明のハンター数の急増など黒い部分を見せており、彼が暗躍しているというのは紛れもない事実だ。

 

 

 

 実際ハンター十二支んと呼ばれる、ネテロに信頼を置かれたハンター達(この中にパリストンもいる)の中には、キメラアント討伐にネテロの他にモラウとノヴしか同行しなかったのを不満に思っていた者もいた。

 

 これに対してネテロは「中途半端な戦力では蟻に吸収されるから」十二支んのチードルは「自分で狩りたかったから」という風に述べているが、俺は副会長パリストンの妨害によってネテロは任務達成できるギリギリの人材しか使えなかった可能性があると思っている。

 

 特にネテロの言ったセリフはキルア達を焚き付ける為の方便にしか聞こえない。確かに下手な戦力は無駄である可能性が高いが、蟻に吸収されるというのは原作のようにスローペースで討伐した場合の話だ。最初から戦力を集中し、最速で叩けば吸収されてキメラアントに改造される隙なんてものはない。

 

 むしろパリストンの妨害によってネテロは戦力を連れ出すことができず、その妨害にネテロはむしろ喜んでネテロ自身が蟻を狩るためにモラウとノヴを連れて行った、と考える方が自然である。

 

 

 

 ちなみにパリストンはキメラアント討伐後、東ゴルトーに向かいキメラアント達を回収している。それだけ討伐組の動きを詳細に把握できたパリストンが討伐組に何も手出しできなかったとは考えにくいし、パリストンの性格で何も手出ししなかったとも考えにくい。

 

 そして、パリストンがどの勢力に属しているかを考えると、キメラアント編は途端にきな臭いものになるのである。

 

 

 

ーーーCASE7 ネテロへの贈り物ーーー

 

 

 

 先程はパリストンがハンター協会の副会長であることは説明したが、彼は同時に別の組織のナンバーツーも務めていた。それはネテロの息子ビヨンド・ネテロをトップとする組織である。この組織は暗黒大陸の冒険を目的としたものであり、構成員のほとんどは協専ハンターである。つまり、パリストンはハンター協会から人員をビヨンドへと横流ししていたのである。

 

 彼らはネテロの死後にカキン国の支援を受けて暗黒大陸の冒険に乗り出す。それは次のハンター協会の会長がチードルに決まってすぐ後であり、余りにもタイミングが良すぎることからこれはビヨンド側からもハンター協会の動向が握られていたのだろう。まあ普通に考えたら当たり前だ、ナンバーツーとその他大勢の構成員は元々ハンター協会に所属しているのだから。

 

 劇中ではそれ以上ビヨンド一派がハンター協会に関わっているとは描かれていないが、先程のパリストンの妨害を合わせると良くないものが見えてくるのではないか?

 

 

 

 それは「ネテロチームの出撃はビヨンド側からの工作によるものである」という可能性だ。ネテロの死後にすぐビヨンドが現れたということはビヨンドはネテロによって抑えられていたと考えられる。そしてビヨンドはそのネテロを抹殺して暗黒大陸へと行く為にパリストンを使って妨害をした、ということだ。

 

 これだけ聞くと、ビヨンドとパリストンはなんたる外道なのかと思われるが、恐らくネテロも喜んでその挑戦を受けたのであろう。長い間格下からの挑戦しか受けてこなかった人類最強にとってはキメラアントという格上に対して心躍ったに違いない。

 

 俺の希望的観測なら、ビヨンドとパリストンは暗黒大陸への準備が整いこれ以上はネテロの存在が邪魔になるという組織としての理由と、老い先短い?ネテロに武闘家としての素晴らしい最期を用意したいという個人的な理由からネテロvsキメラアントという舞台を用意したのではないか?というのがこの考察のひとつの答えだ。

 

 

 

 これ自体は確証はなくとも状況から考えて可能性は高いと思っている。キメラアント討伐を五大国から無茶振りされるという状況もビヨンド達からすれば都合が良い。恐らくキメラアント騒動の事態が発生してから大分早い段階でこの計画が立てられたのだろう。

 

 そして、俺があり得ないと警鐘を鳴らしているのはここからの話だ。ここから先の話はあまりにも醜悪で、これが真実だとしたら俺は所謂「知るべきではない真実」に辿り着いた人間だ。

 

 

 

ーーーCASE8 キメラアント騒動の原因ーーー

 

 

 

 その可能性とは「ビヨンド達は女王蟻をわざとこの世界へと流し、キメラアント騒動を発生させた」というものである。

 

 

 

 キメラアント騒動があそこまで大規模になった大きな理由として環境が挙げられる。

 

 女王蟻が打ち上げられた場所であるNGLは特殊な国だ。ネオグリーンライフ略してNGLと呼ばれるこの国は、機械文明を全て捨てて自然の中で暮らすという理念の自然保護団体によって統治されている。それはあくまで表の顔で裏で麻薬を生産し世界中にばら撒く為のダミーなのだが、ここではありとあらゆる文明の持ち込みを禁止しており国民が伝染病や危険な魔獣によって殺されても自然な成り行きであり、キメラアントが隠れて力を付けるには絶好の場所なのである。

 

 そんな場所に女王蟻が打ち上げられるなどあまりにも偶然が過ぎるのではないか?恐らくその場所以外に女王蟻が打ち上げられていればまず間違いなく女王蟻はメルエムを産む前に討伐されていただろう。よりによってそうじゃないNGLに辿り着くというのに俺はなんらかの作為を感じざるを得ない。

 

 もちろん漫画の展開だから、と言われればそれで終わりだ。敵のご都合主義だろうが味方のご都合主義だろうが創作の中では珍しい話ではなく、その一点で疑うには材料が足りなさすぎる。

 

 

 

 だけどただでさえキメラアントによる騒動を利用した陰謀があった可能性が疑われる中、キメラアントが着いた場所がこの世界で最もキメラアントにとって都合の良い場所である、というのはあまりにも出来すぎた話ではないだろうか?

 

 

 

 キメラアントが発生したことを利用してネテロに最期の場を与えて謀殺する。その内容自体は酷いとは思うが、この話が組織争いとするとそこまで珍しくもない話だ。

 

 だが、そのキメラアントですら人為的に仕組まれていたとすると、それはもう組織の動き、人類の動きとして絶対に認めてはならないものだ。人類を守護する組織(厳密にはそんな組織じゃないけど)に影響を及ぼす為に意図的に人類の敵を生み出す……それは最早ただの人類の敵だ。

 

 

 

 だけどその敵に対して俺ができることは何もない。なにせ敵が大きすぎる。協専ハンターだけでも100名以上、パリストンに味方する勢力まで敵に数えるとプロハンターのほぼ半数以上が敵になるのだ。それに対してまだハンターですらない人間が立ち向かおうとしたところで消されるだけだ。

 

 だから俺はこの妄想じみた考察が正真正銘の妄想であることを祈ってこのことを忘れるしかないのだ。

 

 

 

 俺は震える体を抑えて布団を頭から被った。なんにせよ、今後俺は絶対に協専ハンター及びパリストン一派に近づかないことを心に強く刻んだのだった。

 

 

 




 唐突にアイデア振って発狂するとかクトゥルフじゃないんだからさ…


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10. 最終試験×ハンターの資質×クラピカ


 予め言っておきますが作者がハンターハンターで1番好きなキャラはクラピカです。ウボォーギン戦の考察だけでも多分5話くらいは書けます。



 

ーーーCASE1 ハンターの資質ーーー

 

 

 

「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。組み合わせはこうじゃ」

 

 ネテロはそう言いながらホワイトボードに掛けてあった布を払いトーナメントの対戦表を見せる。四次試験は勝ち抜け制のトーナメントだった。

 

「組み合わせが公平でない理由はなんでしょうか?」

 

「うむ、当然の質問じゃな」

 

 俺の質問にネテロが答える。確かこのセリフは今は亡きボドロ氏のセリフだったよな……

 

「この審査は今までの試験の成績を加味した上でのものじゃ。それだけ成績の高い者ほど合格のチャンスが残されているということ」

 

「それって納得できないな。詳しい点数の付け方を教えてよ」

 

 自分の位置に納得いかないキルアが対戦表の不服を申し出る。対戦表の位置はゴンとハンゾーが1番成績が良いという結果を示していた。ドベから3番目のキルアはゴンに嫉妬してるらしい。まあ俺はドベから2番目なんだがな!

 

「採点内容は教えるわけにはいかんが、まあ審査のやり方くらいなら教えてやろう」

 

「審査基準は身体能力値、精神能力値、そして印象値の3つじゃ。だが我々は最終試験まで残れた諸君の身体能力と精神能力を疑うつもりはない」

 

「して重要なのが印象値じゃ。これは前の2つでは測ることのできないなにか!言うなればハンターの資質といったところじゃ」

 

 この言い分は多分合っている。身体能力値や精神能力値を考えればイルミと俺が底辺争いをするはずがない。ハンターの資質という点で言えばイルミと俺はハンターに向いていないということなのだろう。

 

 

 

 そうなるとハンターの資質とはなんぞやという話になるのだが、この辺は原作での活躍を考えると分かるだろう。例えばこの成績の順番はハンゾー、ゴン、クラピカ、ヒソカ、ポックル、レオリオ、キルア、俺(原作ではボドロ)、イルミという順番なのだが、ハンター活動を全くしてないイルミや常にゴンの付き添いで自分からの活動は皆無のキルアとは違ってゴンとクラピカとヒソカの成績は素晴らしい(ハンゾーは描写が無いので省略)。

 

 原作でのゴンの目標はジンを探すのが大目標、その間にヒソカにプレートを返すことやカイトを助けることの中目標が挟まるのだが、それらをゴンは概ね達成している(カイトを助けられたかそうでないかは微妙だけど)。

 

 次点のクラピカの成績はもっと凄まじい。彼の目標は幻影旅団への復讐と緋の眼の回収なのだが、A級賞金首である幻影旅団のメンバー2人を殺し、更に入手難易度Aである緋の眼36対のうち10対を残し全てを回収している。そのどちらも並のハンターには不可能だ。それを2年も掛けずにやってんだからコイツの周りだけ時間の進みが早すぎると思う。俺がクラピカのことをヤバイと思う理由の1つだ。

 

 ヒソカの成績やそもそもヒソカの目標がなんなのかはちょっと意味不明だが、彼も幻影旅団のメンバー2人の殺害に成功している。なんか幻影旅団がハンター活動の指標扱いされてんな……

 

 

 

 それらに比べるとキルアとイルミが自分の目標に沿って行動したのは家族喧嘩くらいだ。その家族喧嘩の規模が大きすぎるのは別として、ハンターの活動として見ると微妙なところだろう。

 

 要は行動原理の問題だ。ハンターとはなにかを追い求める者の総称であり、ジンや緋の眼、強者とのバトルを目的とする上位勢とは違いキルアとイルミの行動原理はハンターらしくない。俺も他人のこと言えたもんじゃないけども。

 

 

 

「戦い方は単純明快、武器OK反則なし。相手にまいったと言わせれば勝ち!…なのじゃが、相手を死に至らせてしまった場合は即失格でその時点で試験は終了じゃ」

 

「それでは最終試験を開始する!第一試合はハンゾー対ゴン!」

 

 部屋の中央に2人が進むとその片方であるハンゾーは決闘の立会人である試験官に確認する。

 

「勝つ条件は相手にまいったと言わせるしかないんだな?」

 

「その通りです」

 

「そいつはちと厄介かもな……」

 

 裏を返せばこの試験はただの戦いではなく、相手にまいったと言わせなければ勝てないルールなのである。要は意地の張り合いだ。そしてその意地の張り合いでなら絶対に負けないのがゴンという主人公で……

 

 

 

「要するにだ、俺はもう負ける気満々だが、もう一度勝つつもりで真剣に勝負をしろと。その上でお前が気持ちよく勝てる方法を一緒に考えろと。こーゆーことか!?」

 

「うん!!」

 

「アホかー!!!」

 

 腕を折られるどころか死んでも降参する気のないゴンにハンゾーの方が折れてしまい、更なるゴンのアホな追い討ちに呆れたハンゾーは降参する。

 

 その場の勝負に勝つ為には命ですら投げ出す、例え腕を折られても恨みや怒りどころか恐怖すら抱かない。その上で自分が気持ちよく勝つのを望む。GI編から目立ち始めるゴンの異常性はこの時点でその兆候が見えていたのだ。

 

 

 

ーーーCASE2 クラピカの強さーーー

 

 

 

 次の対戦はクラピカ対ヒソカだった。結果的に言うと、彼らはしばらく戦った後にヒソカの方がクラピカに幻影旅団に関することを耳打ちして降参するのだが、ひとつだけ思ったことは……

 

「クラピカ強すぎだろ」

 

 である。

 

 

 

 原作におけるクラピカの戦闘描写は少ない。それはまあただでさえ戦闘の少ないハンターハンターで更に主人公との別行動が多いキャラなのだから当然と言えば当然なのだが、それで困るのがその強さを測りにくいことだ。

 

 例えば、念を覚えてから初めてのクラピカの戦闘描写というのがクラピカvsウボォーギンだ。そして作中においてこのウボォーギンを超える強化系の人間は思いつくだけでは1人しかいない。更にその1人も肉体の強度という点でウボォーギンに勝てるかどうかは微妙だ。

 

 そんな奴に念を覚えて半年未満のクラピカは勝負を挑み、そして勝ったのである。ハッキリ言ってめちゃくちゃだ。この世界での戦いは年季が全てだって言ってんのに何してんだお前!

 

 

 

 ただ、年季だけで全てが決まる世界でもない。いくらオーラ量が凄まじいからといって毒や電気、念のもたらす特殊効果までは無効化することはできない。実際クラピカがウボォーを倒した手段は彼の「束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)」だ。その効果は捕らえた人間を強制的に絶の状態にすることであり、幻影旅団にしか使えない代わりに絶対に千切れない鎖を制約と誓約によって実現した能力だ。

 

 だから格下が格上を食らうのは容易……とまでは言わないが、いくら強くても決して無敵になることはできないのだ。どんなに強くてもどこかに必ず突くことができる隙は存在し、そしてその隙を突くことができる能力は決して少なくはない。

 

 

 

 だが、それらにも限界がある。そういう能力は大抵の場合、正面からヨーイドンで戦った時にはほぼ無力な能力なのだ。決して無力だとは言わないが、正面から戦う場合では隙は自分が作るものであり格下が格上に対してそれができるかというとちょっと無理がある。

 

 そしてクラピカとウボォーギンの戦いは正面からヨーイドンしての戦いである。だから何してんねん。

 

 クラピカは一応、具現化した鎖を常日頃から出しておくことで実在する鎖を操る操作系の能力者だと偽装して隠で見えなくした鎖を警戒から外すという仕込みをしていたわけだが、恐らくそれが機能したのはその一戦だけであり、予言の無い世界線で追加で4人の旅団メンバーを倒した時には純粋な力で捩じ伏せたのだろう。ウボォーギンが殺された時点でクロロはクラピカが具現化系能力者か操作系能力者だと断定して凝の必要性を説いたわけだからな。

 

 

 

ーーーCASE3 凝と隠ーーー

 

 

 

 ここでひとつ注意しておきたいことは「ウボォーは凝を怠ったから雑魚」という風潮が世の中にはあるが、凝というのは常にするようなものではなくむしろ使い所を考えなければいけないものである、ということだ。

 

 

 

 GI編においてゴンとキルアの師匠となるビスケは戦闘における凝の重要性を説いたわけだが、その言い方は「なにか怪しい雰囲気を感じたらすかさず凝をすること」だった。彼女は常に凝をしながら戦えと言ってるわけではないし、実際そんな能力者は作中でもいない。

 

 まあ凝の役割を考えれば当たり前だ。凝とは目を凝らすことで隠されているオーラを見破るというものであり、隠がなければ本来必要のないものだ。そして個人が使えるオーラ量というのは決まっており、戦闘中に無駄な凝にオーラを使うということはそれだけ戦闘で不利になることを意味する。

 

 

 

 じゃあ具体的にどういう場合に凝を使うのかということについてなのだが、それはキメラアント編のキルアvsシュートの戦闘描写を見れば分かりやすいだろう。キルアはシュートが能力を発動して拳と鳥籠を浮かせた時に凝をし、隠で見えなくされた腕があるかどうかでシュートが操作系能力者か具現化系能力者かを判断した。

 

 相手が操作系の能力者ならそれ以降の戦闘で隠を警戒して凝をする必要はない。確かにこれは効率的な凝の使い方なわけだが、この使い方ならばクラピカの鎖を避けることができるかと言われたらそうではない。

 

 というかそれだと普段から具現化しているクラピカの鎖には気付くことはできない。キルアの戦い方が間違っているとは思えないので、おかしいのはクラピカのやっている「戦闘中に隠を仕込む」という戦い方だと思う。

 

 

 

ーーーCASE4 隠の難易度ーーー

 

 

 

 この戦闘中に隠を仕込む、ということを明確にやっている能力者は作中でも数人しかいない。俺が覚えている範囲だと鎖を見えなくしたクラピカ、バンジーガムを見えなくしたヒソカ、そして土煙を立てながら隠で気配を消すことでステルスしたウボォーの3人だ。

 

 それ以外の戦闘では隠もそれを見破る凝も全く出てこないのである。その理由について、俺は3つの可能性があると考えている。

 

 

 

 まず一つ目、「漫画的な都合で隠は消滅した」ということだ。あまりにも身も蓋もない理由なので俺は却下するが、実際常に隠と凝を描写しなければいけないというのは描いてて労力を使うだろう。

 

 そして二つ目、「戦略上隠を使う意味がない」というパターンだ。隠を使えたとしても使う意味がなければ使わないのは道理だろう。実際、ヨークシン編以降に出てくる具現化系の能力者にはゲンスルーやナックルなどが挙げられるが、彼らが戦闘中に隠をする意味はあまりない。

 

 ゲンスルーの場合は「一握りの火薬(リトルフラワー)」を使う時に隠でオーラを見えなくしても掴んで爆発するという仕様上不意を突くなんてことはできない。「命の音(カウントダウン)」にしても制約で説明をする以上その存在が絶対に知られるわけであり、見えなくしたところで戦略的な意味はないだろう。そもそも相手にカウントを教えるという能力の都合上隠で消せるかも怪しい。それはナックルの「天上不知唯我独損(ハコワレ)」も同様だ。

 

 最後の三つ目は「戦闘中に隠を使えない」というパターンだ。隠とは絶を応用した高等技術であり、高等技術である以上は使える人間が一握りだとしても不思議ではない。同じ高等技術の中でも円は個人によって距離や使えるかどうかが左右される技能であり、隠を実戦的に使えるかどうかも才能によって決まっているかもしれない。

 

 一応俺は隠は使えるのだが、実戦の中で人形を隠で見えなくすることができるかというとちょっと難しい。だけどそれが単純に修練不足なのか才能によるものなのかは分からないのである。だって教えてくれる人いないし……

 

 その中で俺は二つ目と三つ目の説を支持している(まあ一つ目の説は却下するから当たり前なんだけど)。ゲンスルーやナックルのような人間の実力者は二つ目の説、キメラアントや継承戦編に登場する能力者達は三つ目の説に該当すると思っている。

 

 それを考えると半年未満の期間で四大行に加えて円以外の高等技術(流や硬は推測だけど)、更に鎖の具現化に成功したクラピカは尋常ではない才能だと思う。俺がクラピカのことをヤバイと思う理由その2である。

 

 

 

ーーーCASE5 隠の脅威ーーー

 

 

 

 そうやって隠が出てこない理由をあれこれ考えるほどには隠は強力な切り札だ。あまりにも堂々と使えば凝してくれと言ってるようなものだから通用しないが、逆に言えば相手が怪しまないタイミングで使えば絶対に通用するのである。

 

 更に言えば相手が絶対に凝を使わないだろうというタイミングも存在する。それは例えば殴り掛かる場面やそれを防御する場面だ。簡単に言えば殴り合いの最中である。

 

 普通に考えてそんな場面で目を凝らす奴はいないだろう。更に念においては凝をすることで攻防に使えるオーラが減るんだから当然の話である。

 

 

 

 ではクラピカはどのタイミングで隠をしたのか?ということを考えればクラピカのヤバさが分かってくる。

 

 ウボォーギン戦においてクラピカは「お前がつまらん強がりを言いかけた時、既に鎖はお前の体を覆っていたのだよ」と言った。このセリフが事実だとすると、クラピカは半分くらいの力を出したウボォーギンと格闘しながら隠を使ったのだ。

 

 このやり方ではまず間違いなく相手は凝を使えない。少なくとも俺には格闘戦しながら凝を使う余裕などない。そもそもヒソカのバンジーガムみたいに殴りながら鎖で巻かれたら凝を使っても無意味だし。

 

 そして殴り合いの最中で隠を使った人間が他に存在するのかというと……誰もいないのだ。ヒソカですら隠を維持しながらの殴り合いはしているものの殴り合いしながら隠は使ってない。クラピカがヤバイと思う理由その3。

 

 

 

ーーーCASE6 クラピカの体術ーーー

 

 

 

 何がヤバイかってウボォーギンと殴り合うのは片手間でできるということだ。もちろんウボォーの方も半分くらいの力で様子見していたからというのはあるが、それでもウボォーに捉えさせることができなかったのはクラピカの体術がヤバイからだと思っている。

 

 以前俺は強化系だからといって殴り合いに勝てるわけではないと言っただろう。念で強化することで影響があるのは攻撃力と防御力であって、スピードに関しては念での強化ではなく体術の問題である、ということだ。

 

 そしてクラピカの体術がどのくらいなのかという作中の言及は無い。だから俺は作中の描写から判断するしかないし、その描写から推測できるのは「幻影旅団のメンバーであるウボォーを体術で圧倒し、隠による初見殺しが恐らく通じないであろう状況から幻影旅団のメンバーを4人殺害できる」というものなのだ。

 

 

 

 そしてその推測を裏付ける結果が目の前にあった。念無しとはいえヒソカと真正面から小細工なしで戦ってある程度傷を付けることができる、鍛えている俺からしても唖然とするくらい強いのがクラピカなのだ。

 

 でもそれも当然なのかもしれない。生まれてから今まで強くなる理由のないゴンに強さはなくても不思議じゃないし、暗殺者として育てられたという強くなる理由のあるキルアは強くても不思議じゃない。そしてクラピカにそのような強くなる理由があったかを考えると大きな理由が存在するのだ。

 

 

 

 クルタ族が幻影旅団によって滅ぼされたのは6年前である。そこから原作開始まで、クラピカがどのように生きてきたのかは描かれていない。

 

 だが、幻影旅団に復讐する為には命も惜しくないと考えていた彼がその6年間で自身を鍛えていたと考えるのは自然だろう。ただでさえA級賞金首である幻影旅団を相手にするのにクラピカのような人間が楽観的になるはずがなく、念を知ることはできなかったものの彼なりに全力で自身を鍛えたはずだ。

 

 そして先程言っていたようにクラピカの才能は圧倒的だ。圧倒的な才能を持つ人間が6年以上鍛錬し続けたというのを考えると、下手すればキルアを超える実力を持っていたとしても不思議ではないのだ。キルアの鍛錬は単純な戦いよりも殺しの技術の方に比重を置いていただろうし。

 

 

 

「第四試合!ヒソカ対ステラ!」

 

「あっ俺まいった」

 

「え〜、やろうよステラ❤︎」

 

「うるさいな、時々相手してやってんだから我慢しろよ。それに、純粋な体術じゃ俺に勝ち目がないことくらい理解してる」

 

 普段からある程度戦ってるから分かるのだ。強化系の得意不得意関係なく俺ではヒソカに殴り勝つことはできない。念能力まで含めるのなら勝ちの目は見えてくるが、この状況で念能力を使えば恐らく俺の魔法も解けてしまう。

 

 

 

「じゃあ……アリでやる?」

 

「この状況で使わねぇよバカ!」

 

 俺は自分の能力を魔法だと言って誤魔化してるわけだが、これを戦闘で使ってヒソカと戦えばまず間違いなく俺の魔法は戦う為のものであり、ヒソカも同様のものが使えるということが他の受験者にバレるだろう。

 

 俺としてはここにいる奴らはどうせハンターになるのだから念能力を教えても問題ないとは思っているが、協会としては念能力の習得は裏ハンター試験であってそれを監督するハンターもいるらしいから彼らの仕事を奪う形になるし、そもそも念の存在を教えれば高確率で俺が彼らの師匠をする羽目になる。

 

「どうせ近いうちにやるんだから我慢しろ」

 

「しょうがないなぁ♦︎」

 

 

 

 というわけで第四試合は俺の降参で終わった。さて、問題は次以降の試合なのだが……

 

「俺もまいった。悪いけどあんたとは戦う気がしないんでね」

 

 第五試合は試合開始直後にキルアが降参。

 

「じゃあ俺もまいった」

 

「舐めとんのかーっ!」

 

 そして第六試合は試合開始直後に俺の降参だった。レオリオのツッコミを尻目にギャラリーの方に戻る。自分で荒らしといてなんだけども、めちゃくちゃだなこの試験……

 

 

 

「…まさかこんなにまいったを気軽に言える受験者が残るとはのぉ……」

 

「アンタらいい加減にしろぉぉ!!ハンター試験は遊びじゃないのよぉぉ!!!」

 

「どうどう、メンチ落ち着いて……」

 

「すみませんって……次はちゃんとやりますから……」

 

 ブチギレ寸前のメンチにぺこぺこと平謝りをする。…だって実力の離れたレオリオとじゃ戦いにならないし、レオリオをここで負けさせるにもいかないんだもん……

 

 

 

ーーーCASE7 呪いーーー

 

 

 

 続いて始まった第七試合、キルアは当然勝てるものとして前の試合は降参したわけだが、その相手であるギタラクルはそんな生優しいものではなかった。

 

「久しぶりだね、キル」

 

「あ…兄貴!?」

 

 なんとギタラクルの正体とはキルアの兄のイルミであった。ナンダッテー。

 

「お前はハンターに向いてないよ。お前の天職は殺し屋なんだから」

 

 

 

 そしてイルミの説得は始まった。やれ熱を持たない闇人形だの、やれ何も欲しがらず何も望まないだの、やれ唯一の歓びは人の死に触れた時だの……

 

 めちゃくちゃ言ってるけどこれミルキのキルアに対する評価とは全く違うし、どちらかというとイルミの願望が多分に含まれている気がする。

 

 しかしゾルディック家に縛られているキルアはその明らかに間違ってるであろうイルミの言葉も真に受けることしかできないわけで……

 

「そんなお前が何を求めてハンターになると?」

 

「確かに…ハンターになりたいと思ってるわけじゃない。だけど、俺にだって欲しいものくらいはある!」

 

「ないね。試しに言ってごらん?お前が何を望んでいるか」

 

 イルミの問いにキルアは俯く。絞り出されたその言葉は殺し屋が天職の闇人形には出せないものだった。

 

「ゴンと…友達になりたい。もう人殺しなんてうんざりだ。普通に、ゴンと友達になって、普通に遊びたい」

 

 その言葉をイルミは真っ向から否定する。

 

「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ。お前は人を殺せるか殺せないかでしか判断できない」

 

「今のお前はゴンが眩しすぎて測りきれないでいるだけだ。友達になりたいわけじゃない」

 

「彼の側にいればいつかお前は彼を殺したくなるよ。殺せるか殺せないのか、判断したくなる」

 

「なぜなら、お前は根っからの人殺しだから」

 

 

 

 その虐待とも言える光景にレオリオはキレる。

 

「キルア!!そんなバカ野郎でクズ野郎の言葉なんか聞くな!いつもの調子でさっさとぶっ飛ばしちまえ!!」

 

「お前もお前だ!ゴンと友達になりたいだと!?寝ぼけたこと言うな!お前らはもうとっくにダチ同士だろーが!!少なくともゴンはそう思ってるはずだぜ!」

 

 レオリオの言葉にキルアとイルミは衝撃を受ける。今までの人生で友達を作ったことのないキルアはゴンと自分が既に友達であると全く分からなかったのだろう。なんなら初対面の時点でほぼ友達だったよ。

 

「え?そうなの?まいったな、あっちはもう友達のつもりなのか……」

 

 よし、とイルミは悩む素振りも見せずに思いつく。

 

 

 

「ゴンを殺そう、殺し屋に友達なんかいらない。邪魔なだけだから」

 

 そう言うと試合を抜け出してゴンの下へと向かおうとする。立会人であるどこかレオリオに似た試験官の人に針を刺すとゴンの場所を聞き出してこの部屋の出口へと向かう。

 

「そういえば、ここでゴンを殺すとオレが落ちて自動的にキルアが合格しちゃうね。なら合格してからゴンを殺そうか。それならオレは不合格にならないよね?」

 

「うむ、ルール上は問題ない」

 

 ハンター十ヶ条のこと考えれば問題ないわけないだろと思わずツッコミたくなるが、まあこれもネテロの性格なのだろう。であればイルミやヒソカ、幻影旅団のメンバーがハンターになれるわけがない。やっぱりブシドラの言うことは正しいよなぁ……

 

 

 

「聞いたかいキル?お前はオレと戦って倒さないと友達を助けることはできない。だけどお前は友達のためにオレと戦うことはできない」

 

「なぜならお前は友達なんかより、相手を倒せるか倒せないかでしか判断できないから」

 

「そしてその答えもすでに出ている。オレじゃ兄貴は倒せないと」

 

「オレが散々教えたもんね?勝ち目のない相手とは戦うなと」

 

 凶悪なオーラを出しながらキルアの方に歩くイルミ。それにしても酷い誘導だ、友達であるゴンを助ける手段なんて試験でイルミに真正面から勝つ他にもたくさんあるのにそれを一方的な2択として迫る。手慣れた様子を見るに今までもこうしてキルアを支配してきたに違いない。思わず漏れ出す怒りの感情を抑えつつ見守る。

 

 

 

「まいった。オレの…負けだよ……」

 

「はっはっは、ウソだよキル。ゴンを殺すなんてウソ、ちょっとお前を試しただけさ。でもこれでハッキリしたね」

 

「お前に友達をつくる資格なんてない。必要もない。今まで通りオレと親父の言うことを聞いてただ仕事をしていればいい」

 

「ハンター資格も今は取る必要はない。必要になればオレが指示する」

 

 その言葉を最後にキルアは動かなくなっ……

 

 

 

「キルア!じゃあ第八試合は俺が相手だよ!」

 

 俺の言葉に一同は静まり返る。しばらく間を置いてイルミが口を開く。

 

「…ステラ、オレの話聞いてた?今のキルにハンター資格は必要ないんだよ」

 

「聞いてたけどさ、後で必要になるんだったら別に今取っても良くない?ハンター資格取ったところで別にハンター活動をする義務はないんだし、普通に殺し屋続けさせればいいじゃん」

 

「…もしかして、オレに喧嘩売ってる?」

 

 不穏なオーラを出し始めるイルミに俺は首を高速で横に振る。口先だけでなんとかならねぇかなぁ……

 

「全然全然!他所の家庭の事情に首を突っ込むつもりはないよ!…けど、別に試験を放棄する必要はないんじゃないかなって…そう俺は思うわけですよ!」

 

「……」

 

「だってあと一戦して勝つだけだぞ?それだけで今後また数週間掛けてハンター試験受けなくてもよくなるんだぞ?」

 

「でもその相手はステラ、キミのことだよ。少なくとも今のキルアには勝てる相手じゃない」

 

「そうか?それは分かんないぞ。この戦いの勝ち負けはまいったと言わせられるかどうかだ。俺が絶対にまいったと言わないような意思の強い人間に見えるか?」

 

「俺だってキルアと戦いたいんだよ!この2年間で相手したのあの変態ピエロくらいしかいねぇんだよ!」

 

 情けなさすぎて自分で言ってて泣きたくなるが、この状況は最大限利用してやる。ハッキリ言ってゾルディック家編とか俺は無駄だと思っている。あそこで身に付けたものなんて試しの門を開けられる腕力くらいだ。

 

 でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。 重要なことじゃない。腕力なんて後でいくらでも身に付けられるし、そんなことの為にこの状況を見過ごせるものかよ。

 

 

 

「キルアもそう思うだろ?これは天空闘技場で戦った時とおんなじだ。ルールとして殺しが禁じられてる以上、強い人間と戦うのを避ける必要なんか全くない。勝ち負けだって普通の戦いじゃないから勝ち目がどうこう言える勝負じゃない」

 

「……」

 

 キルアは何も言わなかったが、明らかに考え込んでいる様子だった。キルアの頭に刺さっているイルミの針による呪いはキルアの行動を縛っているものだが、俺はある程度自由度のあるものであると思っている。

 

 

 もちろんイルミによるものである以上はイルミに逆らうことはできないのであろう。だが、その命令内容が常に遵守されるかと言われるとそうではない。

 

 イルミによる呪いの内容は大まかに分けると以下の二つだ。一つ目は自分より強い相手とは戦わずに逃げること、そして二つ目は不可解な攻撃を受けたら距離を取ること。前者は主に単純に強い奴から逃げることで生存率を高めるのが狙いで、後者は恐らく念からキルアを守る為のものだろう。念を習得してない段階では他人のオーラに触れるだけでも攻撃と感じるくらいキルアの察知力は高いし、念を覚えた後でもとりあえず距離を取って出方を伺うのは重要だ。一撃必殺がいきなり飛んでくるかもしれないのがこの世界だからな……

 

 

 

 しかし、この呪いが作中において常に発動していたかと問われると微妙なところだ。ヨークシン編で闇に乗じて幻影旅団に攻撃を加えた時やサブを相手した時など同格以上の敵をキルアが相手にしたケースは存在する。

 

 そこで俺は、この呪いはキルア自身がある程度状況を判断した上で敗死の可能性が1%でもあれば逃げるようになる、というものであると推測した。幻影旅団に攻撃した時は闇に紛れて逃げる為のものだからキルアは正常に動けたし、サブ相手に戦った時のキルアは電気とヨーヨーという新たな武器を手にしていた為に状況を優位に想定していたというものだ。

 

 だから俺の言葉はキルアに届くはずだ。先程はイルミに強制されたからキルア自身が考える余地はなかったが、冷静に考えると今この場面は逃げるべき場面ではない。

 

 

 

 キルアは口を開こうとし、その前にイルミに制された。

 

「キル」

 

「っ!…オレは試験を放棄する」

 

 キルアはそう言ってこの部屋の出口に歩いて行く。俺は諦めきれずにその背中に話しかける。

 

「どうした、俺に怖気付いたのか?もしかして女の子相手にビビってんのかぁ?」

 

「自分で女の子とか言ってんじゃねーよ、そんな下手な挑発に乗るか」

 

「こんのヘタレキルア!!前に俺が言ったこと忘れんなよ!!」

 

 その言葉が届いたかは分からなかったが、仮にここでキルアを止められなくても俺はそれだけは言いたかった。

 

 

 

 俺は信じられなくてもゴンと自分自身は信じて欲しい。原作の流れがある以上、俺がキルアにしてやれることなんて少しもないかもしれない。それでも、言葉だけでも掛けてやりたい。俺は選挙編でレオリオが全ハンターを前にして堂々と発言した言葉を思い出していた。

 

 

 




 これにてハンター試験編は終了です。ゾルディック編は飛ばすとして、これ選挙編まで書けるかなぁ……


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11. 挑発×絶での気配察知×ヒソカvsカストロ


 考察することがない…なくない?



 

ーーーCASE1 ゴンの怪力ーーー

 

 

 

 ハンター試験に合格した後に行われる講習を終えた俺は、キルアのもとへ向かおうとするゴン達を見送りながらヒソカ達と話す。

 

「それにしてもとんだ狸だなあのジイさん。洗脳の根拠はないってお前が恐らく操作系の能力者だって分かってただろうに……」

 

「思い切り試験官に針投げて操作してたよね♣︎」

 

「相手は念を知らない人間だからね。あの人も適当に誤魔化したんでしょ」

 

「その念を知らない状態でキミの腕を折るなんてね……♦︎」

 

 ヒソカはイルミの腕を見ながら呟く。その腕は膨れ上がっており、骨折していることが窺えた。

 

「…うん、面白い素材だ。ヒソカとステラが目を掛ける理由も分かるよ」

 

「だろ❤︎」

 

 

 

 ゴンがイルミの腕を折ったのは作中を通して理解の難しいシーンだ。念を習得した人間がそれを覚えてない時と比べて遥かに頑健になるというのは作中でも明らかなことであり、ただでさえゾルディック家の長男として鍛えているはずのイルミが念を覚えていなければ試しの門にも手も足も出ないこの時のゴンに腕を折られるというのは不自然である。

 

 その直後にイルミの発するオーラのようなものを察知して避けたゴンを見るに、ゴンに腕を折られた時のイルミは堅や練で肉体の防御こそはしていなかったものの絶をしていたとは考えにくく、通常状態である纏を維持していたのだろうと推測できる。

 

 だが、その纏の状態でも相当な防御力があるはずだ。ゾルディック家であるイルミの素の肉体が貧弱であるというのは考えにくく、その肉体が纏によって強度が数倍になるだけでもちょっとやそっとの力でダメージを受けるとは思えない。

 

 そんなイルミに対して試しの門の1の門も開けられないゴンの攻撃が何故通ったというのは不思議なことである。だからこそイルミとヒソカはゴンに目を付けたわけだし。

 

 

 

 そこで、俺はゴンの怪力について考えた。先程も言った通り、ゴンは試しの門に手も足も出ないのだが、それが彼のパワーの全てを表すのかと言われたらそれは違う。

 

 例えば門を押す力と門を引く力、その違いだけでも使われる筋肉の部位は若干異なる。試しの門を開けることができないというのが一部の部位の筋肉が弱いことを示しても、全身の筋肉が弱いというのは示していないのだ。

 

 そしてゴンに関してはもっと特殊だ。彼はイルミの腕を握ることで骨折させたのであり、極論を言ってしまえば腕力など全くなくても握力だけあればあの描写は成立するのだ。

 

 

 

 次は「腕力がなくて握力だけあるなんて存在するのか?」ということだが、これはハンター試験を受ける前のゴンのことを考えてみると納得できるかもしれない。

 

 彼は育ての親であるミトさんからハンター試験を受ける為の条件を満たせば受験してもいいと言われていたわけだが、その条件とは「くじら島の沼の主を釣り上げること」だった。

 

 釣りをするのには全身の筋肉を使う為、沼の主と格闘するだけでゴンの筋肉はある程度鍛えられていたのかもしれないが、それはあくまで常人(ほぼ超人かもしれない)としての範疇であり片方2トンという馬鹿げた扉を開ける為のものではない。

 

 

 

 だが、握力という観点で見ると沼の主を釣り上げたゴンの怪力は馬鹿にできないのだ。その時のゴンが使っていた釣り竿はジンの使っていたものであり、数十年も前の産物というのを考えるとその性能はお世辞にも高いとは言えない。実際その釣り竿は木でできたシンプルなものであり、グリップに相当する部分も手作り感溢れるものだった。

 

 更にそれを握っていたゴンは手袋なども着けていない素手だった。そんな装備で沼の主を釣ろうとすれば釣り竿がすっぽ抜けてもおかしくない。その条件を達成した時のゴンは相当な握力があったのだと推測できる。そうなるとゴンは試しの門では測れない怪力でイルミの骨を折ったという話になる。

 

 

 

 そんなゴンのことをイルミは危険視するが、そこをヒソカが忠告する。イルミにとってのキルアが超えてはならないラインであるように、ヒソカにとってのゴンも簡単に手を出してはいけない爆弾であるのだ。

 

「…で、ヒソカはこれからどうするんだい?」

 

「じっと待つよ♦︎ 果実が美味しく実るまで……❤︎」

 

「…そう。ステラは?」

 

「俺は特にすることないし、天空闘技場に戻ろうかなぁ」

 

 あそこ便利すぎるんだよな。200階クラスからは賞金は出ないけど高級ホテル相当の個室と食事が用意されて生活するのには困らないし。

 

「ステラ。分かってると思うけど……」

 

「大丈夫だって、俺の方からキルアに手を出すなんて真似はしないさ。…あっちから動かれたらその限りじゃないけど」

 

「…ま、それでいいや」

 

 ゴン達のストーカーを開始したヒソカを見送りつつ、俺も天空闘技場に帰る。どうせゴンとキルアはここに来るんだし、俺もしばらくは修行に専念しようかな。

 

 

 

ーーーCASE2 念の壁ーーー

 

 

 

「ヒソカ!?どうしてお前がここに!?」

 

「別に不思議じゃないだろ?ボクは戦うのが好きでここは格闘の中心地だ♣︎ ちなみにステラもいるよ♠︎」

 

「…ハイハイ、俺はともかくコイツはお前達のことストーキングしてたぞ。俺とヒソカがここの古株なのは事実だけど」

 

 ヒソカに呼びかけられた俺は手動操作状態の人形の隠を解除し姿を見せる。念も知らなければ凝を使えない今のゴン達にはまるで俺が瞬間移動したかのように見えるだろう。

 

 

 

 そんな俺に対してキルアがキレる。

 

「あっ!ステラお前!その魔法って奴教えろよ!!こっちはそれがネンとやらだって知ってんだぞ!!」

 

「えー、でも俺も忙しいしなぁ……せめてそっちが200階に来れるのなら教えてやってもいいけどさぁ」

 

「でもキミ達がここに足を踏み入れるのは……まだ早い♣︎」

 

 そう言うとヒソカはゴンとキルアの方へオーラを伸ばす。そのオーラがその近くにいた受付のお姉さんには掠りもしてないのは流石ヒソカといったところだろう。

 

 それにしても俺のムーブ、完全にヒソカの手下みたいになってんな……

 

「ここは通さないよ♠︎ というか、通れないだろ?」

 

 念の壁に塞がれて先へ進めないゴンとキルアの下に彼らの師匠となるウイングがやってくる。彼によってゴン達は念について教わることになった。

 

 

 

「いいのかい?キミが彼らに教えなくて♣︎」

 

「俺の念は自己流だ。心源流のちゃんとした師匠に教わるのが1番ゴンとキルアにとっては良いことだろ」

 

 俺の説明にヒソカはそれもそうだと納得する。実際のところ、ゴン達は才能に溢れてるから俺が師匠を務めてもすぐに念を扱えるようになるはずだ。基本の四大行の部分では師匠の差はそこまで現れない。

 

 しかしそれをやってしまうとGI編でのビスケとの関係がどうなるか分からない。ゴン達の師匠であるウイングはビスケの弟子だ。ゴン達が彼女にスムーズに弟子入りする為にはウイングを通した方が良いだろう。そしてビスケの下でゴン達が急成長するのを考えると俺が下手に手出しをするのは避けたいところだ。

 

「じゃあ、ボク達もそろそろ戦る日を決めようよ❤︎」

 

「分かった分かった。…そういえば、俺たちが戦うにあたっていくつか条件を設けたよな?」

 

「そうだね♦︎ 条件は確か…ボクとステラの両方に戦う予定がなく、その上でここの戦闘準備期間である90日を過ぎようとしてる時……あ♣︎」

 

「俺は特に誰と戦いたいとかはないけど、誰かさんは近々戦う予定を作ってた気がするなぁ」

 

 ヒソカのしまったという顔に俺はほくそ笑む。コイツは原作の通り今から約2年前にカストロに洗礼を浴びせ彼と再戦の約束をしていた。そして今度の戦闘準備期間中にその約束の日を迎えるのだ。つまり俺はカストロにヒソカとの戦いを擦り付けたということになる。強く生きろカストロ……

 

「もしかして、ハメた?」

 

「まっさか〜」

 

 ヒソカと戦って死んでしまうカストロには同情するが、ヒソカに喧嘩を売るような奴は死んでも仕方ないと俺は思うのだ。

 

 念がもたらすあらゆる可能性に対してその全てを対策をするのは不可能でありどんなに強くなっても敗北と死の危険性が存在する以上、この世界で長生きする為にはただ強くなることよりも敵を作らないことの方が重要だ。

 

 そんなこの世界でヒソカに喧嘩を売る奴など、幸運にもこの場では生を拾えたとしてもいつかどこかで野垂れ死ぬ運命だ。そんな運命を乗り越えられるのはこの物語の主人公であるゴン達くらいだろう。

 

 え?俺がヒソカに喧嘩売ったのはなんだったのかって?…アレは喧嘩じゃなくて試合だから……

 

 仮にヒソカに殺されないとしても彼を倒せるだけの強さか、殺すには惜しいと感じさせるほどの将来性を見せなければならない。今のカストロではヒソカは殺せないし、その将来性もダブルという能力を選んだ時点で消滅している。来世では頑張れよカストロ……

 

 

 

 そして数時間後、再び現れたゴンとキルアはヒソカの念の壁を突破して無事200階クラスへと進むことができたのだった。

 

「200階クラスにようこそ❤︎ 洗礼は受けずにすみそうだね♦︎」

 

 無言でこちらを睨みつける2人に対してヒソカは言葉を続ける。

 

「キミがここに来た理由はボクと戦う為に鍛える為だろ?」

 

「まさかそっちから来てくれるとは思わなかった。おかげで手間がはぶけた」

 

「くっくっく❤︎ 纏を覚えたくらいでいい気になるなよ♠︎ 念はキミ達が思ってるよりずっと奥が深いのさ♦︎」

 

 そう言うとヒソカは指から発するオーラを操作してスペードとドクロのマークを形作る。オーラの操作という内容からこの技術は操作系の得意分野のように見えるがこれは変化系のものだ。操作系が得意なのはオーラを物に込めて物を操作することであり、オーラを操るのは系統別の修行内容を見るに変化系の分野である。

 

「はっきり言って今のキミと戦う気は全くない♠︎ …だが、このクラスで一度でも勝つことができたらその時は相手になろう❤︎」

 

 ヒソカはそう言い残すとそのまま自室へと戻っていった。

 

「んじゃ、そういうことで俺も帰るわ。ゴンも頑張れよ」

 

「うん!」

 

「ちょっと待てよステラ!」

 

 俺も自室へと帰ろうとしたところ、キルアに呼び止められた。

 

「オレはお前と戦いたい、最終試験での言葉を忘れたわけじゃねぇぜ」

 

「あの時は下手な挑発に乗らないって言ってなかったか?」

 

「挑発に乗るのと挑発を忘れるのは話が別だろ?それに200階クラス同士が戦うのは自然な話だぜ?」

 

 どう考えても屁理屈であるキルアの言葉を聞きながら俺は考える。俺だってキルアと戦うのはやぶさかではない。やぶさかではない…が、ちょっと前にイルミに忠告された通りのことだ。あり得ないとは思うが、もしキルアに致命的なダメージを負わせてしまった場合は俺の首の方が飛ぶ。

 

「それに前にここでオレと戦ってた時はずっと手加減してたんだろ?今のオレなら相手になれる」

 

「…まるで今なら俺の本気を見れるみたいな言い草だな」

 

「へっ、違うのか?オレからすれば今のアンタはビビってるように見えるぜ?」

 

 

 

「…ふふ…はーはっは!!いいだろう!そこまで言うのなら相手してやんよ」

 

「(チョロいヤツ)」

 

「ゴンと同じ条件でいいな?ここで一勝でもすれば受けて立つ」

 

「ああ、首を洗って待ってろよ」

 

 キルアの力強い言葉を背に俺は自室へと帰る。その顔はちょっと他人に見せられないくらいには緩んでいた。

 

 確かにキルアと戦うのはリスクがあるかもしれないが、そんなことがどうでもいいくらい今の俺はキルアの言葉が嬉しかった。

 

 

 

 キルアは基本的に格上との戦いを避けるというのは以前語った通りだ。暗殺者として育てられたキルアにとっては依頼を成功させるのが絶対であり、その為には勝敗の分からない戦いなど絶対に避けるべきである。更に今のキルアにはイルミによる思考矯正が為されており、それによって格上との戦いは避けるようになっている。恐らく今の時点ではキルア自身も俺との実力差は感じ取っているだろう。

 

 それでもキルアは絶対に勝てる条件で行う今までの「暗殺者としての戦い」とは全く異なる、勝敗の分からない「念能力者としての戦い」にその身を置いたのだ。そしてその初めてを務める相手は自分。これが嬉しく思わないわけがない!

 

 ひょっとしたら、ヒソカの隣にいすぎたせいで俺の考え方が歪んでるのかもしれんが…嬉しいものは嬉しい!

 

 ヒソカのようにゴンを導きながら相手するというのは俺には無理かもしれないが、少なくともキルアを失望させる戦いにはしないようにしないとな!!

 

 

 

ーーーCASE3 物を操る強化系能力者ーーー

 

 

 

 念を覚えたゴンはウイングの忠告を無視して早速試合に出る。天性の才能で習得していた絶と外法によって習得した纏しか覚えていない今のゴンが念能力者同士の土俵に上がるのは無茶なことであり、それを証明するかのように今のゴンは追い詰められていた。

 

「攻めは独楽を操作して攻撃する舞踏独楽!守りはオレ自らが独楽となる竜巻独楽!この攻防一体の戦術を前にお前ができることは何もない!」

 

「どうしたらいい…今のオレに何ができる……?」

 

 ゴンの対戦相手であるギドは強化系の使い手でありながら独楽を操作して敵を攻撃するという能力者だった。一見すると、操作系能力者でもないのに物を操作するというのは噛み合ってないのではないか?と思われるのかもしれないがそれは違う。

 

 

 

 物を強化する、という行為だけなら操作系よりも強化系の得意分野となる。そして物を操作する、という行為は当然操作系の得意分野となるわけだが、この場合はギドはどちらを優先すべきか?ということを考えなければならない。

 

 例えば、もしギドが操作系能力者だったとして同じ能力で戦おうとした場合、独楽の操作性は格段に上昇しただろう。強化系の時より当てやすくなったに違いない。だがその威力は劇的に減少するはずだ。もしかしたら念を覚えたばかりのゴンにすらダメージを与えられなかったかもしれない。念能力者の防御力は肉体の硬度×念による強化であり、ゴンの肉体性能を考えれば纏の時点でも相当な防御力を持っているはずだからだ。

 

 その場合、この試合展開は全く違ったものになっていただろう。ギド自身が独楽になる技だって操作系の能力者がやっても大した防御にはならないに違いない。操作系になったからと言って物を利用して攻撃するのが得意になるとは限らないのだ。

 

 物を操作しようが物を具現化しようが、最終的にそれらを使って殴打するのなら結局は強化系が1番強いのである。やっぱ強化系ってズルだよコレ!

 

 

 

 ただ留意点として考えなければいけないことは、操作系能力者ならば愛用の独楽に多くのオーラを込めることで強化系並の破壊力を生み出すことも不可能ではないということだ。

 

 クラピカvsウボォーギンにおいて、ウボォーは「鎖にあれだけのオーラを込めることができるのは物体を操る操作系かオーラを物体化する具現化系」と言った。実際、クラピカの「束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)」は銃弾を受けても無傷なくらい頑丈なウボォーが回避に徹するほどであり、鎖そのものが相当な威力を持っていたと推測できる。

 

 クラピカと同じようにギドが独楽に大量のオーラを込めることで破壊力と操作性を両立させる、というのも不可能な話ではない。

 

 

 

 しかし、通常で念能力者が出せるオーラの量は個人によって決まっており、それを超えるオーラを引き出すには制約と誓約によって技の出力を上昇させなければならない。更にギドの扱う独楽は最大で50を超え、それら全てに大量のオーラを消費するというのは少々現実的ではない。

 

 もしギドが超一流の操作系能力者であればそのようなことも可能だったのかもしれないが、彼の実力は200階クラスで洗礼することでしか勝ちを稼げないだけのものであり、逆に言えばその実力しか持っていなくても強化系能力者ならば威力だけは再現することができるのだ。

 

 ウイングは彼の能力について「操作系との相性が悪く性能は今ひとつ」という評価を下したわけだが、あれは独楽の操作性能が悪いという話であって彼が操作系ならばもっと良かったという話ではないのである。

 

 

 

ーーーCASE4 絶での気配察知ーーー

 

 

 

 そんなギドの戦法に対してゴンがどうしたのか、というと……

 

「ゴン!!なんで念を出してないんだ!?その状態で念の攻撃を受けちまったら生身の体はひとたまりもないんだぞ!!」

 

 彼は敢えて絶をすることでより独楽の出すオーラを感じ取ろうとしたのである。これが如何に馬鹿げた行為であるかについては語るまでもないことだが、実際ゴンはより鋭敏に気配を察知して纏をしながらでは避けられなかった独楽を避け続けることに成功したのである。

 

 基本的に念で扱うオーラと気配は同一のものだ。絶によってオーラを絶つことが気配を絶つことに繋がるし、オーラを感じ取ることは気配を感じ取るのとほぼ同じだ。個人的にはオーラが気配を放出していると俺は考えているが…今はこの話は重要ではない。

 

 

 

 重要なのは、絶は気配を感じ取るのにも向いているということだ。この時点でのゴンは「纏に気を取られている余裕がない」という理屈で絶をしたわけだが、その理由なら普通はオーラを垂れ流す自然の状態になるべきだし後にウイングがその方法を認めているため、ゴンが無意識のうちに自身の取れる正解を出したのだと考えるのが自然だろう。

 

 そして俺は、この仕組みは念が人間へ及ぼす影響力が高いからだと思っている。例えばヒソカは先日念の壁でゴン達に通せんぼをしたわけだが、あれをできたのはオーラを垂れ流しているだけのゴン達にとってヒソカの出す凶悪なオーラに肉体が耐えられなかったからだ。

 

 これは仮に念を習得した人間であっても絶の状態であれば同様のことが起きる。キメラアント編において気配が察知されないように絶で隠密行動をしていたノヴはプフの発するオーラを視認したことで病んでしまった。ゴンとキルアですらオーラを垂れ流していたのに彼はそのオーラを完全に絶った状態で通せんぼのつもりのヒソカより凶悪なオーラ及び気配に直面したのである。ハゲになっただけで済んだのは凄いと思う。

 

 

 

 つまり絶によってオーラの防御を消すことでオーラに敏感になり、その結果より微かなオーラや気配でも察知することができる、というのが今のゴンがやっていることであると俺は推測する。

 

 それを理屈ではなく直感で導き出したのが彼の凄いことだと俺は思う。そんな命知らずを実戦でやったこともだけど……

 

 

 

 まあ結局のところその行動は試合の延長はできても逆転には全く繋がらないものであり、最終的にゴンは全治4ヶ月の重傷を負ったこととウイングから2ヶ月の修行禁止を言い渡されたことでこの試合の幕は閉じたのだった。

 

 この2ヶ月の修行禁止期間のせいでゴンとキルアはヨークシン編でクラピカに大きな遅れを取ったんだと思うんだよな……GI編のビスケとの修行は約3ヶ月でウイングとの修行期間を1ヶ月として足すと大体クラピカの修行期間と一致するし。逆に、ヨークシン編のクラピカは大体GI編修行後のゴンとキルア並の実力だと考えられるわけだ。そりゃ強いわ。

 

 

 

ーーーCASE5 ヒソカvsカストローーー

 

 

 

 そして俺の代わりにヒソカと戦うことになったカストロとヒソカの戦いを一応俺は観戦していたわけだが。

 

「キミの敗因は、容量(メモリ)のムダ使い❤︎」

 

 ヒソカに敗北して死んでいくカストロを見て、とりあえず俺がこの試合に対して率直に思ったことは、

 

「2人とも舐めプしすぎだアホ共!」

 

 だった。

 

 

 

 まずカストロ。彼は自身の能力である「分身(ダブル)」を使うにあたって、分身でできた死角に本体が隠れることで分身という能力の存在自体を隠すことで試合を有利に運び、最終的にヒソカに能力を見破られて敗北した。

 

 その能力を見破られたきっかけはヒソカがカストロの虎口拳に対して自分から左腕を差し出した時に分身を使って背後から右腕を切断したことだ。

 

 カストロはヒソカの行動を罠だと疑い、差し出してない方の腕を取ることで状況の優位性を得ようとしたのは分かる。実際ヒソカの腕を差し出すという行為は怪しいものであったしなんらかの能力を警戒するのは正しい。

 

 だが、自分の能力を見極めようとしている相手に対して隠している能力を堂々と使うのはかなりリスクのある行為だ。特にカストロのダブルのような敵に知られることがマイナスになる能力なら尚更である。

 

 そんな特大のリスクを払って得たものがヒソカが差し出した方とは逆の腕というのは正直言って全く釣り合わない。まあカストロは自分の能力の短所を把握しておらず能力がバレることが敗北に繋がるとは全く考えていなかったため、短慮ではあれど本人視点で失敗とまで言えるものではないのかもしれない。

 

 あとは能力の調整ミスだがこれはもう言わずもがなである。

 

 

 

 問題はヒソカの方だ。この試合の直後に彼を治しに来たマチは「あんたバカでしょ」とざっくり言っているが、コイツマジもんの阿呆だよ。

 

 戦いの前半はお互いに様子見で特におかしなところはなかった。強いて言うならヒソカはこの時全く能力を使っていなかったので、既にこの時から舐めプしていたのだと思われるが、まあこのくらいの舐めプは許容範囲だ。俺としては安直に攻めず慎重に様子を見るのはむしろ評価点だし。

 

 右腕を切断されたのは能力を見破る為であり、実際ヒソカはダブルを見破れたのだから俺としては特に指摘することはない。その後ヒソカは奇術を披露したのだが、それだって隠を仕込む為のミスディレクションであり、場慣れした念能力者には通じないかもしれないが実際にカストロには通用したし、所詮はただの策のひとつなのだからとやかく言うつもりはない。

 

 問題は次のシーンだ。奇術を披露した後にヒソカは残った左腕をカストロへと差し出して切断されたわけだが、これはマジで意味不明な行為だ。ヒソカからしたらカストロや観客を驚かせるとかそういう意味があるのかもしれないが、それは舐めプ以外の何物でもない。

 

 何故なら、奇術を披露し隠の仕込みが完了した時点でヒソカの勝ちはほぼ確定していたからである。ヒソカの能力である「伸縮自在の愛(バンジーガム)」は伸び縮みするオーラを自在に操るというものであり、ヒソカはそれを隠で見えなくしつつ奇術でばら撒いたトランプとカストロを結ぶという仕込みをしていたのだが、その時点でヒソカはカストロに対して四方八方からトランプを飛ばして攻撃することができたのだ。

 

 もちろん単純に攻撃するだけではカストロは防御できただろう。だが、カストロがヒソカの差し出した左腕を攻撃するタイミングで能力を発動すれば恐らくカストロに通用していたはずだ。カストロのダブルは操作するのに集中力を使う為、ヒソカに分身を攻撃させながら同時に周囲からの攻撃に備えるなんて芸当は難しい。オーラに関してもヒソカの腕を切断するだけのオーラを分身に集中させつつ本体が堅或いは練で身を守るというのはまず不可能だ。

 

 それなのにヒソカがその絶好のタイミングでやったことといえば、バンジーガムで既に切断された右腕を引き戻し「薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)」で切断部分をカモフラージュし切断されたはずの右腕が治ったように見せかける手品である。何やってんだか……

 

 そもそもドッキリテクスチャーは戦闘向きじゃないんだから無理に使わなくていいだろ常識的に考えて……

 

 

 

 まあヒソカがちゃんと目的を持ってこのような行動をしたについてもある程度推測はできる。恐らくヒソカはカストロを脳震盪にさせて分身を出さない状況を作り上げたかったのだろう。実際そのような状況を作り上げれば確実に倒せるからな。

 

 そのためにカストロの顎にバンジーガムに飛ばし結んでいた左腕を敢えてカストロに切断させることで、ガムを縮めるだけで切断された左腕がカストロの顎に向かって飛んでいく仕掛けを作ったのだ。後は適当に揺さぶりを掛けて本体が特攻した時に左腕を飛ばしてカウンターすればいい。後は左腕が顎にクリーンヒットし動けなくなったカストロにトドメを刺すだけだ。

 

 だが、わざわざそんな迂遠なやり方を取らずともトランプによる攻撃は通っていた可能性が高いのだ。そもそもヒソカの隠に対して凝で警戒しない時点でカストロの勝ち筋は存在せず、ヒソカはありとあらゆる方法でカストロをハメることができたはずだ。それなのにわざわざ相手を完全に無抵抗にしてトドメを刺すというのは無駄が多すぎる。

 

 

 

 まあそんな指摘はバトルジャンキー且つエンターテイナー且つ変態のヒソカには通じないだろう。ヒソカの流儀はただ単に相手を倒して勝利するのではなく、相手の戦い方に合わせて派手に戦いその上で相手を屈服させるというものだ。

 

 もしかしたらこういうのが「完璧に勝つ♣︎」なのかもしれないな……ヒソカもゴンも勝ち方には拘るし。ただ俺のイメージだとゴンは相手の戦い方に合わせるというよりは相手を自分の戦い方に引き込むって感じがするが。

 

 

 

 まあ死んでしまったカストロには同情するが、俺としてはいつまでもそんなことを気にしている場合でもない。キルアとの戦いの為に色々準備しないとな!

 

 




 キルアの(格上との戦いの)処女を奪うTSオリ主ですって!?


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12.「ハメ」×口止め×ヨークシン行き


 コッソリ投稿すればバレへんか…



 

―――CASE OF KILLUA―――

 

 

 

 天空闘技場を後にしたオレ達はゴンの実家であるくじら島へと向かっていた。

 

「結局2人して負けちまったな」

 

「うん…けど次戦う時は勝てるかもしれない…と思う」

 

「あのバトルでか?それにまたヒソカと戦うつもりなんて命が惜しくないのかよお前…」

 

 オレがゴンの無鉄砲振りにいつものように呆れているとゴンは逃げるように話題を変えた。

 

「ハハハ…それにしても、ステラの能力って優しいよね」

 

「ええ…オレとアイツのバトル見てそんな感想出るかよフツー」

 

「でもウイングさんは褒めてたじゃん。危害を加えず無力化できる良い念能力だって」

 

 話をしながらオレは決戦の前夜、水見式の修行をする際の会話を思い出していた。

 

 

 

「さて、ヒソカの能力は凝を覚える過程で見破りましたが、ステラさんは私達がいる時に試合をしなかったので能力が分かりませんね」

 

「あー師匠、それが……」

 

「実はステラの能力は大体分かってるんだオレ達」

 

「そうなのですか?」

 

 オレはハンター試験の三次試験を思い出す。あの時のクラピカの推理はステラの反応からしても大部分は的を射たものだったはずだ。

 

「ステラの能力はカストロのように念で分身を作るもの、ただし分身は風船でできていて耳元で破裂して爆音を鳴らすことで相手を気絶させることができる…って感じ」

 

「…驚きました。本人から聞いたのですか?」

 

「ううん、クラピカっていうオレ達の友達がステラの能力を当てたんだ」

 

「念知らない時にな」

 

「えぇ……」

 

 困惑するウイングだったが、話を聞きながら聞いた噂と合致したことに納得したようだった。

 

 

 

「…確かにその理屈なら指を鳴らすだけで相手を倒す謎にも説明がつきますね」

 

「恐らく彼女は具現化系の能力者でしょう。分身が風船でできているということは攻撃性はなく、彼女自身は強化系からは遠い位置に属していると考えられます」

 

「カストロと違って選択ミスではないってことか」

 

「その代わり、分身を含めた彼女の攻撃性は低いはずです。ヒソカのゴムと違って能力を発動した際には避けるのではなく積極的に追うべきですね」

 

「音の方も耳を塞げば防げるしね!」

 

「今日のうちに耳栓でも買っておくとするか」

 

 

 

 明日はどういう風に戦っていくかを考えていると、改めて納得したかのようにウイングは話す。

 

「彼女が洗礼狙いの選手として名が挙がっていたことにも納得が行きました」

 

「ステラが洗礼狙い!?」

 

 洗礼とは200階クラスに上がって間もない念を知らない人間を念を使って一方的に攻撃することであり、それはオレ達の知っているステラがやるとは思えない卑怯なものだった。

 

(いや…アイツまあまあ卑怯だしやっててもおかしくないのか…?)

 

 自分はステラについて知ってることが思った以上に少ないことに改めて気づいているとゴンが閃く。

 

「そっか!ステラの能力なら念で攻撃しても傷つかないんだ!」

 

「なるほど、普通の洗礼なら選手に致命的なダメージが入るがステラなら無傷にできる。アイツからすれば洗礼は保護か…相変わらずだなアイツ」

 

「そうです。天空闘技場の現状を憂う者の観点からすると、彼女の能力は他者に危害を加えずに無力化し、同時に念での攻撃を加えることで相手を念に目覚めさせることもできる良い能力です」

 

 ウイングの説明を聞きながら、オレはステラが底抜けのお人好しなんじゃないかと思っていた。

 

(アイツ…能力までお人好しだったりするんじゃないんだろうな……)

 

 

 

 だが、その推測が全くの見当はずれであったことを知るのはその次の日のことだった。

 

 

 

「あの能力が攻撃性は無いなんて話は欺瞞以外の何者でもなかったぞ!攻撃をする方法なんて直接殴る以外にいくらでもあるんだからな!」

 

「…まさかオレみたいに石板を投げるなんてね」

 

「それも分身を利用して何枚もだ。…あの分身の役割は撹乱なんかじゃない。殴って来ないだけの立派な戦力だ!」

 

 

 

 ゴンに説明しながらステラの戦い方を思い出す。アイツは最初、分身でオレを囲み死角から攻撃することでポイントを稼いだ。それ自体は分身を使えるならやって当然な戦術だし、オレも肢曲で似たようなことはできる。

 

 当然それに対する有効策を考えていたオレは敢えて死角を作り出し攻撃を誘発することで反撃をすることに成功した。

 

 だがオレが死角を作るようになって攻撃に対応できるようになると、アイツはそのタイミングで分身で攻撃するようになり、オレは死角を突いてくるステラが本物か分身かを読まないといけなくなった。

 

 既にポイントをリードされていたオレはそのまま攻防を続けるのは不利だと判断し包囲網を抜け出すことを決意する。抜け出すタイミングで攻撃を喰らいポイントを稼がれる可能性はあるが、上手く本物を見つけて反撃すれば逆転できる可能性もある。

 

 オレは素早く耳栓を付け(それまでは破裂させても一度に精々一体二体だったから聴覚を優先していた)一気に分身達を破壊しながら包囲網を破ろうとした。当然それを妨害すべくステラの攻撃が飛んでくるとは思い防御していたがそんなことはなく、驚くほど簡単にオレは脱出することができた。

 

 だがそんなオレの目の前に現れたのは石の壁だった。

 

 オレが包囲網から抜け出そうと判断し耳を塞いだ時にアイツはゴンがやっていたように会場の足場である石板を剥がしオレに投げつけていたのだ。

 

 石板は分身と違って攻撃性を持っている為オレも防御しないといけない。確かにこの方法なら直接攻撃するより安全にオレを足止めし分身による包囲網を再展開できる、と下唇を噛みながら周囲を見渡したオレを待っていたのは石板の山だった。

 

 

 

「もしステラが最初から石板での攻撃を予定してたなら、オレはそれを実況の音声から判断できたはずだ。恐らくアイツはオレが耳栓を使って特攻することまで織り込み済みだった!」

 

「絶対に触らせないという強い意思を感じる……」

 

「あの能力が優しいなんて絶対ありえないね!陰湿で厄介!ヒソカと一緒だよ!」

 

 

 

―――CASE1 「ハメ」―――

 

 

 

「くしゅんっ!…夏風邪でも引いたかな?」

 

 天空闘技場の個室に備わっているお風呂から上がって湯冷めしないように体を乾かしていた俺は、キルアとの試合を思い返していた。

 

 自分でやっておいてなにを言ってんだ、とは思うが今回の試合の率直な感想はキルアかわいそ…だ。

 

 でもまあ自分としてはあの試合は念能力、ひいてはこの世界における戦い方としては理想的なものではあった。

 

 

 

 念能力によって実現可能なことは多岐に渡り、それら全てに対して土壇場で対応するのは不可能であるというのが俺の持論であり、極論を言ってしまえばどんな相手だろうが念能力を使った戦闘を行う時点で絶対に敗北の可能性を消し去ることはできない。

 

 その中で最もその可能性を低くする方法は相手に行動の余地を与えずに一方的に倒す…いわゆる「ハメ」だ。プロレスなら塩試合と呼ばれるものだが、この考えを念頭に置いて作中のバトルを振り返ると面白いことに気づくだろう。

 

 

 

 作中の名勝負と言えば、ゴンVSゲンスルーやネテロVSメルエム、ヒソカVSクロロなどが挙げられるが、これらは全てハメが前提の勝負なのである。

 

 例えばゴンVSゲンスルーの場合、ゲンスルーの能力を事前に知ることができたゴンはその対策をすることで格上であるゲンスルーとの近接戦闘をすることができたわけだが、それ自体はただの茶番であり、真の狙いは落とし穴と実体化させた大岩を用いてゲンスルーを強制的にゴンの元へ移動させ、渾身のジャジャン拳を当てることにあった。

 

 ネテロVSメルエムの場合はネテロの能力である百式観音がまず回避不能のハメ技であり、メルエムにキメラアント特有の防御力がなければ絶対に勝つことはできなかった。更にネテロはメルエムが自身を超えてくる場合に備えて自らの肉体に薔薇を埋め込みメルエム諸共自爆した。

 

 ヒソカVSクロロなんかはその典型だ。クロロはヒソカに100%勝つ為に能力と戦術を用意し、その言葉通りにヒソカをほぼ何もさせずに爆殺することに成功した。

 

 

 

 ヒソカを相手したクロロのように敗北の可能性を消し去る為に戦略や戦術を用意するか、メルエムを相手したネテロのように敗北を想定した上でそれを覆す手段を用意するか、考え方は少し違うが彼らは自分の実力で真正面から敵を打ち破るのではなく、勝負が始まる前から敵がどんな行動を取ろうが必ず倒せるように準備を整えていたのだ。

 

 俺は決して彼らを卑怯者とは呼ばないし呼ばせはしない。真正面から戦って負けたらハイお終いじゃあ命が幾つあっても足りないからだ。実際ヒソカなんかは一回死んでるからな…むしろアイツは死んどけよ。

 

 

 

 …とにかく、この世界における一番理想的な勝ち方は先述したような「ハメ」にあるわけで、今回のキルアとの試合はその点から見るとかなり理想的なものであったわけだ。

 

 薄々勘付かれてるかもしれないが、実は俺の能力もそういう観点で作った能力なのである。

 

 

 

―――CASE2 ハメやすさとハメられにくさ―――

 

 

 

 俺が思うハメやすい能力は先程も挙げたネテロとクロロの能力だ。百式観音は相手に回避も反撃も許さずに一方的に攻撃することができ、盗賊の極意は能力を揃えることで相手をハメる為のコンボを楽に作り出すことができる。

 

 ここに相手は能力を知らないという前提があればハメやすい能力は他にたくさんあるわけだが、俺は敵に能力が知られてもマイナスにならない能力に限定して考えている。

 

 例えばキルアの能力である「神速(カンムル)」の一つ、「疾風迅雷」は相手の攻撃に反応して超高速で攻撃するというもので相手に回避も防御もさせずに一方的に攻撃することができるが、このようなカウンター型の能力は相手が知った場合に直接攻撃しないことでカウンターを喰らわない立ち回りができる為、ハメやすいとは言えない。

 

 そのような観点で言えば、俺の能力は単純に使っただけでは撹乱にしかならないし音による攻撃も敵に知られることで無効化しやすい。だが、分身を手数として使えば話は違ってくる。

 

 今回のように分身を大量に使えば石板のような重い物を次々と投擲することができるし、ここに銃火器があれば1人で軍隊を率いることもできる。

 

 分身に攻撃力はないというのはあくまで分身単体では攻撃能力を持たないという話であって、他の手段で分身に攻撃能力を持たせることは可能なのである。

 

 つまるところ俺の能力でハメるパターンは分身を使って一対多の構図を作ることで数の暴力でゴリ押しするのである。卑怯とは言うまいね?

 

 

 

 また、俺がこの能力を作ったのには「如何に相手をハメやすいか?」に加えて「如何に相手にハメられにくいか?」という観点もある。

 

 これは文字通り相手からのハメに対する耐性である。いざ自分の必勝パターンに移ろうとしても、先に自分がハメられて負けたらお話にならない。

 

 これは対応力と読み替えても良い。この分野においてトップクラスなのはヒソカのバンジーガムであり、攻撃防御移動の全てにおいて高いレベルで応用することができるこの能力以上のものを俺はちょっと思い付かない。

 

 そして俺のワンダーバルーンはこっちの方をより重視している。まずは分身を使って撹乱をすることで相手の攻撃を防ぎ、相手の視界と聴覚を妨害することで攻撃の起点を作りやすくするのがこの能力における必勝パターンだ。

 

 

 

 一見隙のない布陣ではあるが広範囲を攻撃するなど負け筋はいくらでもあり、敵がどのような能力か分からない状態で相手をするのは正直なところ怖い。

 

 だからそのような場合は手動操作による分身を威力偵察とし、自身は自動操作による分身で運んで逃げることで安全に戦うことができるわけだ。卑怯とは言わないでくれ……

 

 

 

―――CASE3 制約の有効活用―――

 

 

 

 あとは自分の能力を作る上で意識したのは制約の少なさくらいだ。以前話をした通り、制約とは基本的に重くすればするほど能力としての取り回しが悪くなり、対応力は低くなるものである。

 

 例えば、先程はハメやすさの点で一番に挙げた盗賊の極意は対応力という観点で見るとあまり高いものではない。何故なら能力を盗むのも保存しておくのも相応の難易度があり、使いたい時に使いたい能力を引き出せるほど万能ではないからだ。予め能力を準備した上で使う場合は無敵の力を誇るがその準備がなければそこまで凶悪ではない。

 

 一方で同じように挙げた百式観音だが、こちらに関しては制約によって対応力を下げている要素は殆どない。精々が攻撃パターンが九十九の有限なことくらいで、その弱点を突くことができる能力者などメルエム以外に存在しないだろう。

 

 むしろ、百式観音に関しては制約を掛けることで能力を強化してるとさえ言えるかもしれない。

 

 

 

 ネテロの能力である百式観音は巨大な観音像を具現化して攻撃する、というものである。そこだけを切り出すと一見強化系が具現化するというメモリの無駄遣いをしているように思われるが、カストロのダブルと違って様々な点で扱い易いものとなっている。

 

 例えば、基本的に精巧な物を具現化するほど具現化として使用するメモリは大きくなるが、百式観音の観音像は精巧には見えても人間と見間違うほどの分身ほど精巧ではない。同じように操作に関しても百式観音の操作は祈りとその後の動作をコマンドとする操作方法である。意識してリモートで動かしたりオートで動かしたりするよりもコスパが良さそうに見えるだろう。

 

 このように様々な点で強化系にも動かしやすいように考えられているのが百式観音なのである。これと比較するとカストロのダブルがカスに見えてしまうのは仕方のないことなのかもしれない……

 

 

 

 それに俺の個人的な考えではあるが、百式観音の妙なる部分は制約にあると思っている。百式観音の操作をコマンド式にすることでコスパを良くしているとは先程述べたが、この部分にあの老獪な爺さんにしか許されない裏技があるのだ。

 

 原作を知っているなら有名な話だが、ネテロは武道への感謝の正拳突きに人生を捧げることで身に付けた「時間を置き去りにした祈り」を特技としている。これは催眠術や超スピードなどチャチなものではない、作中の誰もが捉えることのできない不思議現象なのだが、この祈りが百式観音の操作に関わっているのだ。

 

 早い話、祈りを含めた操作コマンドをネテロは時間を置き去りにして発動することができ、ネテロの動きとリンクする観音像の攻撃も同じ速さになることで結果として異次元の速さの攻撃を可能としているのである。

 

 

 

 この現象は本来念能力にリスクを掛ける為の制約を逆手に取ってノーリスクで二重のリターンを得るという念能力の基本を超越したものであり、そんなのズルじゃん!と俺は思うのだがこれと似たようなケースはもうひとつある。

 

 それはネフェルピトーのドクタープライスだ。キメラアント編においてネテロの百式観音によって彼方へ吹っ飛ばされようとした時、ピトーはドクタープライスの制約である「発動した地点から能力がピトーの尻尾と繋がり移動ができない」を逆手に取って空中で静止することに成功した。

 

 この2つの制約を有効活用した事例を見ていくと、ひとつの仮説が立てられる。

 

 

 

 それは「発動条件として設定した場合の制約は有効活用することができるのではないか?」というものだ。

 

 制約と一口に言っても色んなものがあり、例えば能力を発動する為の条件や解除される条件、能力の挙動も制約によって変わるだろう。例えば俺のワンダーバルーンにも多少の制約があり、分身が破裂する条件は制約として設定されている。

 

 百式観音の操作コマンドは能力の発動条件として設定されている為に制約を利用して不可避の速攻を実現しても制約は変わらず、ピトーの動けないという制約も発動後に動くことで能力が解除されるという解除条件ではなく、能力発動時に能力と身体が繋がって動けなくなるという発動条件であった為に活用することができたのではないのか?というのが俺の考えである。

 

 

 

 この考えを突き詰めていくと意外な所にも制約を活用している事例があった。それはゲンスルーのカウントダウンである。

 

 これはゲンスルーが対象の身体に接触しながら「ボマー」と言うことと、能力の説明と解除条件を口頭で伝えることの2つの条件を満たすことで対象に接触した部分に爆弾を具現化するという能力なのだが、重要なのは1つ目の条件を満たした時点では爆弾が具現化しないことである。

 

 その時点では能力が発動していないのだから当たり前の挙動のようにも思えるが、具現化系の能力者は放出系が苦手であることを考えると、説明をした時点で離れている対象に爆弾を具現化するというのは普通の具現化系能力者には不可能なのである。

 

 つまりカウントダウンは、能力の発動条件に関する制約によって通常では不可能な能力の挙動を実現するという、制約の有効活用だと解釈できるのである。

 

 

 

 ちなみにこの制約の有効活用だが、これをズルいと思ってしまう人間には恐らく利用不可能だと思われる。なんでそう言えるのかって?それはまあ……

 

 

 

―――CASE4 次の目的地―――

 

 

 

 今後の話の方に移るのだが、今回キルアに勝ったことで俺は天空闘技場での10勝を達成しフロアマスターの挑戦権を得た。

 

 しかし天空闘技場をただの修行場兼拠点として利用してきた俺にとってはフロアマスターというのは自由に戦えないなどむしろデメリットの方が大きい。この辺で天空闘技場にもお別れを告げる時が来たようだ。

 

 じゃあどこに行くんだって話ではあるが、とりあえずはカイトと合流しようと今は考えている。今の時期ならカイト達はカキン国の依頼で希少動物の保護をしているはずであり、合流も容易だろう。

 

 

 

 え?ヨークシンには行かないのかって?

 

 なんで地獄に行く必要なんかあるんですか(正論)。

 

 

 

 天空闘技場編の次であるヨークシン編はハンターハンターの中でも特に人気なエピソードであり、その理由は魅力的な敵キャラ集団である幻影旅団とそれを追うクラピカを主軸にしたダークなストーリーの中で今までの戦いがお遊びに見えるかのようなガチ戦闘が起きるからである。

 

 そりゃ読者からの人気も高いわっていう要素の数々は実際の登場人物になってみると全て危険要素でしかなく、ただでさえ蟻編に強制参加なのにヨークシンに行くわけねぇだろバーカ!というのが俺の嘘偽りのない意見である。

 

 

 

 単純な戦力として見た場合、俺は幻影旅団の構成員に勝るとも劣らない実力を備えているとは自負している。

 

 仮に俺がクラピカの味方をすれば戦力的にはかなりのプラスになるだろう。なんせクラピカ陣営は念を覚えて数ヶ月のクラピカが最強戦力で次点が四大行しか使えないゴンとキルアだからな……

 

 負けイベかなにかか?

 

 

 

 だが、別に俺がクラピカ達の味方をしなくても上手くいくからわざわざ味方をする必要はないし、戦力とかそんなこと言ってる場合じゃない特大の脅威がヨークシンにはあるのだ。

 

 

 

―――CASE5 記憶を読む念能力者―――

 

 

 

 それは幻影旅団の構成員の1人であるパクノダだ。彼女は特質系の能力者でその能力は対象に接触することでその対象の記憶を読む、というものだ。更に読んだ記憶を具現化した拳銃の弾に込めて放つことで他者にその記憶を読み取らせたり記憶の持ち主に撃ってそれを抹消したりすることができる「記憶弾(メモリーボム)」という能力を持っている。

 

 

 

 賢明な人であれば今の時点で俺が何をそんなに恐れているかが分かっただろう。そう、原作知識という大きなアドバンテージを持つ転生者にとってパクノダは天敵と言っても過言ではない恐ろしい相手なのだ。

 

 触れるだけというあまりにもローリスクな発動条件を考えると俺の原作知識が読み取られる可能性は決して低くなく、そんなものは序の口で俺がメモリーボムに撃たれて原作知識を失くしてしまう可能性があれば、幻影旅団のメンバーに撃ち込んで幻影旅団(原作知識アリ)とかいう最狂集団を生み出す可能性もあるのだ。考えるだけで鬱になってきた……

 

 

 

 記憶や心に干渉できる念能力者は決してパクノダだけではない。例えばヨークシン編だけでもクラピカやセンリツはダウジングチェーンや心音によって嘘を暴くことができるし、キメラアント編にはシャウアプフやモントゥトゥユピーの能力を受け継いだ覚醒メルエムがいる。

 

 だが、ここまで記憶という分野で無法しているのはパクノダだけなのだ。ぶっちぎり最強キャラである覚醒メルエムですら読めるのは感情のみでそこから派生して思考を類推するくらいだ。感情と記憶では少し分野は違うが、情報量とそれを扱う術の多彩さで言うとパクノダの圧勝である。

 

 

 

 ここまで散々パクノダを脅威として語ってきたわけだが、その彼女もヨークシン編が終わる頃には死亡しているので俺がヨークシン編に関わりさえしなければ何の問題もない。

 

「…ん?電話か。…もしもし」

 

「やあステラ❤︎ この後食事でも行かない?」

 

「えぇ…俺もう天空闘技場からは抜ける予定だしお前とも一生会う気はないんだけど……」

 

「まあまあそんな冷たいことは言わずに♣︎ 良い和食のお店を見つけたんだ♠︎」

 

「和食だと……!いや、でも俺としてはさっさと次の目的地に」

 

「奢ってあげるよ♦︎」

 

「しょーがねぇなぁー」

 

 元日本人の転生者としては和食には目がなくても仕方ないだろう。か、勘違いしないでよね!別にヒソカと食事をしたいわけじゃないんだから!(本音)

 

「じゃあ準備ができたらボクの部屋においでよ❤︎」

 

「了解了解…っと、そういえばヒソカ。お前マチさん達に俺のこと喋ってないよな?」

 

 この後幻影旅団の一員であるヒソカもヨークシンへと召集されるのだが、そのメッセンジャーとしてマチが天空闘技場に来ている。当然俺はブッキングしないようにヒソカの試合日時からはずらして自分の試合を入れたので、試合に興味のないあの人が俺の存在に気づくことはないだろう。

 

 ヒソカには俺が流星街の出身でありクロロとも顔見知りくらいの関係性はあると話しているし、彼らに俺のことは教えないように口止めしている。いくらヒソカが旅団の中で浮いているハブられ野郎とは言えど、ちょっとした会話の中から俺の存在が気取られる可能性もあるからだ。

 

 そもそも幻影旅団とそこまで関わりのない俺の存在が気取られたところで彼らが俺に何かするかってのはまずあり得ないだろうし、口止めに大した意味もないのだがこういうのは備えるに越したことはないからな……

 

「大丈夫♠︎ 君が心配することは無いよ♣︎」

 

「そりゃよかった。じゃあ今からそっちに行くわ」

 

 

 

 せっかくの奢りだし、今日はたくさん食べますか!

 

 

 

―――CASE6 タイトルで既にオチてたやつ―――

 

 

 

「テメェ裏切りやがったなぁぁぁ!!!」

 

「まあまあ♦︎君の心配するようなことは起こらないってのは確かさ♣︎」

 

「久しぶりだねステラ」

 

「あっはい、久しぶりですマチさん」

 

 ヒソカの部屋にウキウキで向かっていた俺を出迎えたのはマチだった。これだから変化系は信用できねぇ!

 

 …まあヒソカが俺を裏切ること自体はそんな驚くべきことでもないのだが、わざわざ幻影旅団とそこまで関係あるわけじゃない俺について話すメリットもないから裏切るとは思ってなかったんだけどな…

 

 まあヒソカのことだから俺を困らせたい一心で裏切ってもおかしくないか……どうしてこんなヤツとの人間関係があるんだろう(今更)。

 

「団長がアンタのこと心配してたよ。つかアタシもアンタがこんなのと関わってるとは思ってなかった」

 

「こんなの呼ばわりなんてヒドイなぁ♦︎」

 

「…それは身に沁みて後悔してる最中ですね……」

 

 遠い目をした俺に呆れるような視線を投げたマチはそのまま話を続ける。

 

「まあいいや、団長が久しぶりにアンタと話したいってさ。次のアタシ達の現場がヨークシンだから、アンタにも来て欲しいって」

 

「いや……でも……」

 

「どうせ他に行く所もないんでしょ?」

 

「まあ確かに……」

 

「ボクも寂しいからステラには来て欲しいなァ❤︎」

 

「テメェは殺すぞ」

 

 今なら正真正銘の本気を出してヒソカと殺し合いができるかもしれない。そんな馬鹿なことを考えつつ、先程のヒソカが言った「心配するようなことは起こらない」という言葉の意味も大体分かった。

 

 

 

 要は客人として幻影旅団のもとに行くのだ。先程まで幻影旅団を警戒していたのはパクノダに記憶を読み取られる可能性があることへの警戒であり、俺が団長に招かれた客人であるならそのような手荒な真似はされる可能性は一気に下がる。

 

 この場合の一番の懸念は俺がヨークシン編に関わることで原作の流れが変わるかもしれないことだが、未来を見通す占いがあり幻影旅団側はそれを基に行動する時点で俺が何もしなければ大筋は変わらないと考える。原作以上の最善手は存在しないからクラピカ陣営の動きを変えない限り幻影旅団側の行動は変わらないのだ。

 

「分かりました。俺もヨークシンに行きます」

 

「決定ね。じゃあアタシはもう行くから場所はヒソカに聞いといて」

 

 マチはそう言うとヒソカの部屋を出ていった。

 

 

 

「実は和食のお店っていうのはヨークシンにあってね♣︎」

 

「集合場所を教えろ俺は1人で行く」

 

「えー♦︎ 行かないの?食事?」

 

「逆に今の流れで食事に行けると思った要素ある?」

 

 





 続きを早く書きたかったけど考察することがなくってもう疲れちゃってェ…


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13. ヨークシン観光×腕相撲×幻影旅団の強み


 個人的にはお気に入りや感想以上にここすきがある時が1番嬉しいです。嬉しいというよりもウケを狙ったけどスベッてなくて安心という意味合いですが。



 

ーーーCASE OF QUWROFーーー

 

 

 

「ようこそ俺達のアジトへ。彼らの紹介は必要か?」

 

「い、要らないです。知り合いもいますし…」

 

 アジトに着いたステラは既に集合している面々の中にいたシズクの方を見ながら言った。そう言えば、彼女達の年齢を考えたら丁度知り合いでもおかしくはない。

 

「…? 団長、その子誰?」

 

「…まあ正直予想はしてた」

 

 残念ながらシズクの方は忘れていたようだが。マチはまだ集合していないので、ここにいてステラのことを知っているのは俺の他だとヒソカくらいだろう。

 

「何はともあれ、久しぶりじゃないか。元気だったか?」

 

「ええまあ…。そちらも元気そうで何よりです」

 

 あんまり喜んでなさそうな口調でステラは応える。流石に彼女にとってはここはアウェイすぎたかもしれない。と言っても俺の提案を聞く場所としてならここが1番だから仕方ない部分ではある。

 

「君をここに呼んだのは以前の提案をもう一度したかったからだ」

 

「以前の提案って、まさか……」

 

「ああ。幻影旅団、俺達の仲間にならないか?」

 

 

 

 話はつい先日にまで巻き戻る。普段俺達は3〜4人でチームを組んで仕事をしているのだが、その日俺のチームに入っていたのがヒソカだった。そんなヒソカが唐突に俺に聞いてきたことから始まった。

 

「そうだ♠︎ 団長はステラのこと知ってるの?」

 

 ヒソカから彼女の名前なんて聞くとは全く思ってもいなかった俺は間を空けて答えると共に質問の意図を聞く。

 

「…確かに俺はその名前の少女について知っているが、どうしてそれを?」

 

「最近あの子とは個人的に親しくさせてもらってるんだけどさ❤︎ あの子が団長やマチのことを知ってるから気になったんだ♣︎」

 

 軽薄な笑みを浮かべながら答えるヒソカに俺は少なからず衝撃を受けた。俺の中でのステラは俺達のような悪党とは関わりを持たない人物だったからだ。

 

 

 

(いや、それはもう過去の話だ。あの子もいつまでも子供のままとはいかなかったのだろう)

 

 悲しいことに時間が経つことで純粋だったあの子も様変わりしたのだろう、とその時は落胆しつつも納得したのだが……

 

「あの子可愛いよねぇ❤︎ ボクが隣で人を殺そうとすると必死に止めようとしてくれるんだ♠︎ でも肝心のボクには強く言えないからボクが先に仕留めるかステラが先に保護するかの競争になってさ♦︎」

 

「この前もちょっと体を触ってみたけど強い拒絶はしなかったし、本当に優しくて健気な子だよねぇ❤︎」

 

「ちょっと待て」

 

 

 

 頭の中で色々と思考を巡らせた結果、本人に聞くのが手っ取り早いとマチにステラを呼んでもらい、今に至る。

 

 

 

「で、でも蜘蛛って構成員は13人って決まってるんじゃ」

 

「最近は13人なのが通例だったが結成当初はもっと少なかった。それにメンバーを増やしてはいけないなんて決まりはない」

 

「でも俺としては幻影旅団のお仕事なんてやっていけそうにないし……」

 

「確かに君からしたら俺達の活動は良心に反するかもしれない。だから俺の方からも君の精神的負担にならないようにそこは手は回すつもりだ」

 

 流石に今更彼女を流星街に送り返すなんて無責任なことはできない。10年以上前に彼女を外の世界へ送り出した人間として勝手かもしれないが、それでも外の世界で辛い目に遭うよりは近くに置いて守りたい。

 

 

 

 そんな思いを彼女は察したのか、先程までの遠慮した様子から一変してこちらの目を見ながら答える。

 

「…確かに流星街から出て散々苦労してきましたし、今からも特大の苦労を抱えることが見えてる身ですが、これは俺だけの物です。貴方達やそこの変態とも分かち合うつもりはありません」

 

「もし1人じゃ抱えきれないものがあったとしても、相談する相手は俺が選びます。俺はもうあの時の子供じゃないんです。貴方の世話なんかにはならない」

 

 

 

 その瞳からは俺達とは相容れないという意思がありありと伝わっていた。そういう意味では彼女はあの時の頃からその意思は全く変わっていなかった。だがその熱量、全身から立ち上るオーラが以前の幼いあの子とは完全な別物であるのを示していた。

 

「…確かに、余計なお世話だったな。すまなかった、久しぶりに古い知人と会えたことで舞い上がってたらしい」

 

「俺なんかに気を揉んでくれたのは本当に嬉しかったです。でも、だからこそ貴方とやっていける気がしない」

 

「ふふ、予想以上に嫌われていたらしいな。そういえば、最近はハンターになったらしいな?今俺達のアジトを知ったわけだが、それを誰かに教えれば俺達をハントできるかもしれないぞ?」

 

 それは紛れもない挑発だった。あの時の子供が成長し自分達の敵になるかもしれないということにどうやら自分はワクワクしているらしい。今更ながら、自分の人格は破綻しているとつくづく思った。

 

「俺は自殺志願者を集めるつもりも、俺自身が死ぬつもりもないです」

 

 視界の端でパクノダがその真意を探ろうかとこちらを伺うが首を振って下げさせる。確かに不安要素は摘み取っておくに限るが自分から招いた人間にそんな無粋なことはしたくないし、マチではない俺の勘に過ぎないが彼女の言葉は恐らく真実だろう。

 

 そのままステラは俺に背を向け、アジトを出て行った。

 

 

 

ーーーCASE1 関係ないからーーー

 

 

 

 アジトを出て十分人混みに紛れたのを確認すると心の中で絶叫する。

 

 俺のバカ!なんで余計に火を注ぐようなこと口走ったんだよ!あともう少しでパクノダに捕まって原作ぶっ壊れてたところだったぞ!!!

 

 確かに幻影旅団に入るのは論外だから断るのは前提だったけどさ…あそこまで気合い入れないと断れないのは我ながら断るの下手くそすぎない?

 

 

 

 クロロの勧誘は100%の善意で俺のことを心配して出てきたものだった。俺はそれが凄い嬉しかったし、だからこそムカついた。

 

 なんで俺なんかに優しくすることはできるのに、平気な顔で無関係な人間を殺すことができるのか。原作ではゴンが憤った理不尽を俺も感じていた。

 

 

 

 理屈としては彼らがそうなった理由は分かっている。流星街に住んでるだけで関係もない人間に親しい者を殺された。そんな彼らの理不尽に対する怒りが同じように新たな理不尽を生んでいるだけだ。むしろ話としてはありきたりな話ですらある。

 

 だが気持ち悪いものは気持ち悪い。これなら親しい者だろうが関係ない人間だろうが平等に殺すヒソカの方が余程マシだ。

 

 何故自分達と関わりのない人間達に対して無慈悲になれるのかという問いの答えが「関係ないから」というのは考えてみると当然の話で、むしろそんなことに憤りヒソカの殺人には何とも思わない(わけではないけど)俺やゴンの方が異常なのかもしれない。

 

 

 

 確かに幻影旅団と相容れないのは散々述べた通りだが、だからと言ってヨークシン編に介入するかと言ったら別である。クロロとマチには昔から今まで気にかけてもらったようで敵対行動は取りたくないし、かと言ってクラピカに不利なことしろというのは原作のことを考えても個人的な心情を考えても無理だ。

 

 というわけでこのままヨークシン市内の空港まで行っておさらば…と行きたいところだったが、腹の虫が鳴ったのと同時に俺はあることに気づいた。

 

 

 

ーーーCASE2 ジャポンの知名度ーーー

 

 

 

「あっ!ヒソカから和食屋さんについて聞くの忘れてた!!」

 

 ヒソカの誘いは断ったがそれはそれとして和食を食べたくなった俺はヨークシンを観光しながら件の和食屋を探していた。

 

 一応ヒソカの連絡先は持ってるから今からでも聞こうと思えば聞けるのだが、そんなことの為にヒソカと連絡するというのがもう個人的に嫌なので却下する。

 

 広いヨークシンで一軒の店を探すというのは途方もない作業なわけだが、ヨークシンの和食屋となると俺にはひとつの心当たりがあった。

 

 

 

 それはヨークシン編とGI編の間であるオークションでGIが競られて落札に失敗したミルキがやけ食いして自宅に帰って行った場面だ。食事のコマ自体はなかったが食後の容器から考えるとあれが和食であることは間違いなく、外出することが数年振りになるほどのインドアというミルキの性格を考えると、その店はサザンピースのオークション会場から歩いてそう遠くない場所にあるはず、というのが俺の推測だ。

 

 ヒソカの誘った場所がそこではなかったという可能性はあるが俺としてはそこまで気にする問題ではないし、スシの知名度の低さから考えても本格的な和食を出す店は少ないのだ。豆腐の味噌汁なんかはその辺の店でも食べられるが、生魚を扱う寿司は衛生観念や生食の嫌悪感から全国に流行ることはなかったのがこの世界なのだろう。

 

 以前ネテロとの面接で和室に招待された時はスシの知名度からジャポンの文化の浸透具合を推測したわけだが、これは逆でジャポンの文化が浸透したからこそスシは流行らなかったのである。冷静に考えたらいくら美味しいからって寿司が世界的に流行する方がちょっとおかしいと思う。

 

 いくらだけに(激ウマギャグ)。

 

 

 

 そんなわけで時間は掛かったものの無事夕食の時間までには件の和食屋さんに辿り着き久しぶりのご馳走を頂くことができた俺だったが、ひとつ重大な誤算が生じていた。

 

 原作でミルキはGIを落札できなかった為そのまま食事をして帰ったわけだが、その時の予算は250億前後だと考えれる。流石に250億そのまま使う勢いではないはずだが、落札できないと悟ってから行くと決めた時点でGIを落札しつつここで食べることはできないと思う程度には高級店であったのだ。

 

 つまり何が言いたいのかというと…

 

 

 

「財布の中身がすっからかんだ……」

 

 食事を始めとしたサービスが全て無料で提供される天空闘技場200階に何年も居座り金銭感覚が麻痺していた俺を目覚めさせるにはその店の代金は十分すぎた。

 

「参ったな…ヨークシンを出るにしてもある程度まとまったお金は持っておきたいぞ」

 

 ハンターライセンスがあるから公共の施設は無料で利用可能とはいえ、ハンターであっても金が欲しい場面があるのは原作でGIに参加したプレイヤー達を見れば明らかだ。

 

 

 

 そういう意味ではむしろヨークシンに来たのは幸運だったかもしれない。ここでは今より10日間オークションが開催され街全体が1つの大きな市場を形成する。金稼ぎにはもってこいな場所なのだ。

 

「さぁいらっしゃいいらっしゃい!条件競売が始まるよー!!落札条件は腕相撲!最初にこの少年に腕相撲で勝った人に300万相当のダイヤをプレゼント!」

 

「そうそう、あんな風に自分達の有利なやり方で金を稼ぐことができるんだよな」

 

 聞き覚えのある声を背景に金策の方法を考える。レオリオが思い付いたように売り手側が買い手側に条件を設ける条件競売であれば、条件に合うかどうかを確認する過程で金を取ることで楽に金を稼ぐことはできる。これが現代日本なら賭博や景品表示法違反の罪で逮捕されるところだが、莫大な金が流れるヨークシンではこのようなもの所詮子供の遊びにすぎないのだろう。

 

 まんまレオリオの思い付いたやり方をパクる、というのも一つの手だがあのやり方だとどうしても目立つのが困りものだ。人を集める都合上どうしても想定外が起きる可能性が高くなるからな。

 

 先程はさっぱりと俺のことを忘れていたシズクが腕相撲に参加する様子を見ながらやはりこの方法は無理だと俺は悟った。

 

 

 

ーーーCASE3 腕相撲ーーー

 

 

 

「おーっと!初めての女の子が挑戦だ!!」

 

「頑張れよ嬢ちゃん!」

 

「怪力ボウズ少しは手加減してやれよ!」

 

 騒がしくなったギャラリーに紛れてゴンとシズクの腕相撲対決を見物する。結果としてはゴンの勝ちに終わったが、シズクの方は汗ひとつかいていないことや利き腕ではない右腕で勝負していたのを考えると単純な腕力では彼女の方に軍配が上がっただろう。

 

 

 

 ヨークシン編ではこの腕相撲は1つの大きな要素となっており、後に幻影旅団によってアジトに誘拐されたゴンが腕相撲でノブナガに勝利する他、幻影旅団内での腕相撲ランキングなるものが発表されておりそれが簡易的な旅団内の強さの指標として語られることもある。

 

 そんな腕相撲ではあるが、いくつもの考察しがいのある描写がある。今回の考察のテーマを挙げるとするなら「ノブナガは果たして弱いのか?」だ。

 

 

 

 幻影旅団のNo.1、ノブナガ=ハザマは強化系能力者であり能力は不明だが強化系である以上はそこまで特殊な能力は持ってないと考えられる。

 

 そんな彼だが、先述した通り腕相撲でゴンに負けたことや腕相撲ランキングの中でも下から数えた方が早い9番目に位置していることから、旅団の中でも弱いのではないか?と考察されることが多い。作中でしてやられる場面が多いのもそれに拍車を掛けていると思われる。

 

 そこで腕相撲について考えてみるわけだが、まずゴンに腕相撲に負けた部分でノブナガが純粋にゴンに腕力で負けたかを考えると微妙な所がある。

 

 ノブナガも力を入れていたというのは間違いないだろうが、彼からすれば何度か腕相撲で瞬殺してた相手がいきなり本気を出したわけで、それまでの相手と同じ感覚で無意識に手を緩めていた可能性は否定できない。感情による出力の増減が激しいゴンの特性を考えると怒りの前後でのゴンの腕力はかなり違うはずだ。

 

 

 

 と言ってもゴンには勝ったところで幻影旅団における立ち位置は依然9位のままだ。

 

 仮に腕相撲に念を全く使っていないから強化系であることのアドバンテージは無かった、という風に考えても念を使った戦闘での攻防力は肉体の強さに念での強化を掛け算して算出されるものであり、元の肉体がそれほどではないというのは念能力者として考えても厳しい評価を付けざるを得ない。

 

 

 

 しかし強化系だからといって肉体も強いはず、という計算式には例外があると俺は思っている。

 

 例えば継承戦編に登場するハンターであるビルは拳銃から放たれた弾丸を堅でガードしきれずダメージを受けている様子だった。銃火器が念能力者にとって脅威的であることを踏まえてもビルの頑丈さには強化系にしては…という評価が否めない。

 

 だが彼の場合は特殊な事情がある。彼の能力は「球根(ハルジオン)」という対象の成長を促すというものであり、それに対してクラピカが「男性の強化系能力者は大体は自身の戦闘力を高める方向へ行く為に補助型の能力者は珍しい」と発言している。つまり自己の強化と他者への強化は両立しない可能性が高い。

 

 

 

 そのことからノブナガの能力が自己を強化する方向ではないと仮定すると、あの腕相撲ランキングの低さにもある程度納得できる回答を用意することができる。

 

 ノブナガの武器は刀でありその能力も刀を強化する方向に特化している可能性は十分ある。そして刀を強化している分自己の強化は上手くできず幻影旅団の中で腕力が低くなった、と考えると強化系のノブナガが腕相撲であの位置にいることの合理的な理由になるのではないか。

 

 強化系なのに腕力が低い、のではなく強化系だからこそ腕力が低いというわけだ。

 

 

 

ーーーCASE4 俺の両手は機関銃ーーー

 

 

 

 ダイヤが手に入らず不満そうに去っていくシズク達を見送りながらコイツらがこの後大虐殺することを考えて思わず身震いする。

 

 幻影旅団の半数以上が出動することもあり、彼らの目的地である地下競売場には骨も残らない惨状となる(物理的に)。

 

 骨が残らないのはシズクの能力によるものだが、あの惨状を生み出す1番の立役者はシズクの隣にいた大柄の男、フランクリンだろう。

 

 

 

 彼の能力である「俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)」は念弾を両手から放つ一見なんの変哲もない放出系の能力なのだが、その恐ろしいポイントは偏に攻撃力にある。

 

 彼は両手の指を切り落とすという常人にはできない行動を誓約に捧げることで人間を紙のように千切って貫通するほどの威力を実現しているのだ。

 

 連射するだけで会場の人間は全員瞬殺、一般人より頑丈な念能力者が念で作られた分身を用いて防御しても数秒も経たずに死ぬという意味不明な火力をしており、ぶっちゃけ奇襲であれをぶっぱされて生き残れる保証のある念能力者を俺は思い付かない。

 

 まず念能力でなくても威力の高い銃火器で撃たれれば大抵の念能力者は死ぬのだ。それを機関銃10本で一斉掃射なんてオーバーキルにも程がある。トチーノの発言を信用するなら念弾の威力は機関銃を遥かに超えるみたいだし……

 

 

 

ーーーCASE5 幻影旅団の強みーーー

 

 

 

 以前は俺の実力は旅団の構成員に勝るとも劣らないと言ったが、だからといって幻影旅団に真正面から喧嘩を売るほど馬鹿ではない。

 

 先述したフランクリンのように敵に回したくないほどに恐ろしい奴がいるという理由もあるが1番の理由は別にある。

 

 

 

 幻影旅団はリーダーのクロロが念戦闘のなんたるかを熟知しているのが1番の強みであり、それが俺が彼らを敵に回したくないと思う理由だ。

 

 例えば、念戦闘における原則として「相手が複数の場合は自分も複数で対処する」というのがある。これはクラピカの師匠が語ったもので、能力の相性やコンビでの攻撃は個人の力を凌駕しやすいことにある。

 

 俺の持論は念戦闘においてどんな相手だろうが敗北の可能性が存在するというものだが、その観点で見ても個人で集団を相手するのは馬鹿のやることだと言っていい。

 

 例えば作中ではぶっちぎり最強の覚醒メルエムだが、彼ですらメレオロンとヴェーゼのコンボなど安全に倒すことができる方法はいくらでも思い付く。原作でキメラアントがあそこまで暴れることができたのは協専による妨害によりたった十人に満たない戦力しか連れて行けなかったことが大きい。

 

 

 

 その原則を踏まえてヨークシン編における幻影旅団の立ち回りを見るとクロロは常に複数のメンバーをチームとして運用しているのが分かるだろう。彼らほどの実力者によって組まれたチームは早々に打ち崩せるものではない。

 

 と、同時にウボォーギンやキメラアント編の彼らのようにクロロがいない時は平然と単独行動してしまうのが彼らのダメな所である。

 

 継承戦編ではクロロ直々に単独行動を許しているが、あれは敵がヒソカという個人なのでチームを組まないのも全然アリだろう。ヒソカの能力も(全てじゃないけど)割れているし、本人の強さ以外に不安要素は無い。

 

 

 

 まあその強みが無くとも構成員の一人一人が強いから大抵のことはなんとでもなるし、それが却って油断に繋がってるわけだが……

 

 

 

ーーーCASE6 隠の仕組みーーー

 

 

 

 そんなことを考えながらもう今日はゆっくりホテルに泊まって体を休めていた俺だったが、金を稼ぐ方法を考える上で原作でゴンとキルアが目利きで稼いでたのを思い出す。

 

 物の価値など全く分からない彼らがお宝を見分けた方法は凝だ。優れた芸術家などは知らず知らずのうちに念を使っているケースがあり、その場合は微かなオーラがその作品に宿っているのである。

 

 ゴン達はそれを凝によって見破ることでほぼ無一文の状態から4億近くを稼ぐことができたのだ。

 

 

 

 体の一部分にオーラを集中させる技術のことを凝と呼び、特に集中させる部位の指定がない場合の凝は大抵が目にオーラを集中させて文字通り目を凝らすことで隠を見破る技術である。

 

 だが凝は隠だけではなく物に宿る微かなオーラも見破ることができ、そこから考えると隠の仕組みをなんとなく理解することができる。

 

 隠は絶の高等技術でありオーラを隠す技術であることは作中で説明されているが、凝とは違いどのようにオーラを運用すれば隠を使えるのかは明らかになっていない。

 

 

 

 俺は絶の応用だしなんとなくオーラを出しながら絶できないかなぁと試行錯誤してたらできたのだが、恐らくはオーラの量を限界まで抑えつつ絶にならないレベルを維持することが隠の仕組みなのだろう。微かなオーラが通常は見えず凝で見破る必要があるということは、隠も同じく微かなオーラを運用する技術である可能性が高いというわけだ。

 

 見えないほどに微かなオーラは他人が触れても気付きにくく、隠と具現化系を併用することで見えない触れられないものを具現化することができる無法ギミックが完成する。

 

 だがその状態で能力を十全に使えるかと言ったら恐らくそうではないと思う。クラピカはチェーンジェイルによってウボォーギンを拘束する際、わざわざ隠を解除してから能力を発動した。

 

 オーラを込めずに具現化するということは必然的に具現化した物体の強度は脆くなっており、もしクラピカが隠をしたまま拘束しようとすればウヴォーの怪力で容易に引きちぎられていただろう。

 

 

 

 仮にこの仕組みが合っているなら隠によって隠されたオーラは凝で見破る以外に、絶をした状態で触れることでも分かるはずだ。以前ゴンが絶をすることで周囲の気配をより精密に感知できるようになったように、体を防御するオーラを遮断することはより微かなオーラを感知することに繋がる。

 

 まあ隠を使われる場面のほとんどが戦闘中であるのを考えたら絶をするなんて自殺行為でしかないわけで、やはり凝で見破るのが隠の対策の基本になるだろう。

 

 

 

 そんなわけで翌日値札競売市に来た俺ではあるが、ある程度見回っても大した収穫は無かった。ゴンとキルアがここに来たのは今からちょうど1日後だがたった1日で市場のラインナップが大きく変わるわけもなく、彼らが落札する分を残すと一品しか落札することはできなかった。

 

 ゴン達の分を落札すれば金策に関してはクリアできるがなんか他人の成果を奪っているみたいで気が引けるし、ゴン達の行動が変わってしまう可能性も考えられるので別の金策を考えることにする。

 

 

 

 唯一落札することができた、いい感じの杖の感触を確かめながら歩いていると天啓が舞い降りた。

 

 それは幻影旅団だ。今頃はマフィアに真正面から喧嘩を売っている彼らは暫くはこの街に滞在することになり、その間マフィアがこの街に潜む彼らに莫大な賞金を懸けるのだ。

 

 勿論先程から言っている通り幻影旅団と争うのは避けるべきなのでわざわざ懸賞金目当てに捕まえようとするのは馬鹿馬鹿しいが、何も直接捕まえる以外にも金を稼ぐ方法はある。情報提供者になるのだ。

 

 

 

 原作ではゴン達は幻影旅団を捕まえようとして当初は自分達で街を歩き回って探したがこれは当然失敗に終わった。この広い街で十数名の団体を三人で探すのは難易度が高すぎる。

 

 そこで彼らが次に取った行動は情報提供者から情報を買い取る方法だった。ネットの伝言サイトを利用してそれらしい情報を探すという手だ。この手段だとガセネタや見間違いが厄介なのだが、彼らはサイトの方には幻影旅団がヨークシンにいるという情報を伏せることで情報の信頼性を上げる工夫をした。

 

 

 

 天啓とはその時の情報提供者に回れば楽して1500万をゲット!できる、というものだ。名付けて、蜘蛛湧けば桶屋が儲かる大作戦!(ゴンリスペクト)

 

 

 

 ということで、俺は幻影旅団が寄りそうな場所を前日から押さえておくことにした。特に狙い目はマチとノブナガだ。別に誰であろうがゴンとキルアの尾行は失敗するだろうし、捕まえられれば後の流れも対して変わらないだろうから問題はないだろうが、原作を考えれば彼らを追わせるのがスマートだろう。

 

 1人ではゴン達のように幻影旅団の捜索も失敗するのでは?と思うだろうがそこを補うのが俺の能力だ。

 

 

 

ーーーCASE7 能力の仕様ーーー

 

 

 

 鍛えたことで新技…とはいかないが、分身に新たな仕様を見つけたことで今までにない分身の運用が可能となった。

 

 自身が動かないことを制約に遠距離を遠隔操作できる分身を発動してる時、更に同じ分身を発動することで動けない代わりに遠くから監視ができるビーコンのような役割の分身を複数作ることができるようになったのだ。

 

 同時に全ての分身の視界を共有することはできないが、意識を切り替えて操作する分身を変えることでほぼ同時に色んな場所を観測することができる。

 

 

 

 この裏技とも言うべき仕様だが、元々はリモート操作の分身を解除した場合の分身はどうなるのかを確かめていた時に思いついたものだ。勿論分身が破壊された場合は分身は解除されて意識も本体の下に帰るが、破壊せずに解除した場合は分身はそのまま残り再度発動することでその分身をもう一度動かせるようになるのだ。

 

 これを利用することでタイムラグはあるもののほぼ同時に2人の自分を動かすのを思い付いた俺だったが、更にそこから遠隔操作の分身は意識的には自分を動かすのと大差ないことに着目した。

 

 俺のもうひとつの能力である「体内で水素を生成する能力」だが、これで分身に水素を入れる理屈は遠隔で操作する分身を自分の体と見立てて能力を発動する、というものだ。

 

 ならば同じように分身の発動も可能なのではないか?と思い試してみたところ、実験は成功したわけだ。

 

 

 

 ただ意識的には分身は発動できても、普段使う自動操作の方は制約として射程範囲が本体から数メートルと明確に決まっているのもあって遠隔操作の分身しか使うことはできなかった。まあ当然と言えば当然である。

 

 使いようによってはかなり強力な能力ではあるが、ビーコンとして用いる分身は操作してない間は全く動けない為に破壊されやすい。遠くにある分身を隠で隠すのも自分には不可能なので俺のことを警戒されている場合に使えるものではないだろう。

 

 

 

 俺はこの分身をヨークシンの特に人の往来が多い場所を広く見渡せて且つ人が立ち入らないところに設置した。衝撃を受ければ分身は破裂してしまうが、1日くらいなら破裂せずに保つだろう。

 

 その日はそれで行動を終え、気に入ったいい感じの杖を抱きながら眠りについたのだった。

 

 

 




 なんで作者はミルキの食事シーンなんかの考察してるんだろう…?
 食事にほぼ全財産使っていい感じの棒買ってとまるで男子中学生の修学旅行みたいな内容のステラのヨークシン観光ですが、次は流石にストーリーに関わることができるはずです…多分…


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14. 本心×5本の鎖の目的×渦中へ

 当初はヨークシン編に介入する予定はなかったんですがね…ステラと一緒に頭を抱えてます。



 

ーーーCASE1 警戒網ーーー

 

 

 

「こちらおたずねサイトの者だ。ターゲットは?」

 

「フードコートにいる男女の2人組。男の方は黒い長髪。間違いないですか?」

 

「ああ、間違いなさそうだ。約束の金を振り込むから確認してくれ」

 

 携帯で口座に1500万円が入っているのを確認する。これで金策も片付いたしもうヨークシンに留まる理由は無いだろう。

 

 レオリオとの電話を切り改めてマチとノブナガを観察する。彼らは自分達に莫大な懸賞金が懸かっているにもかかわらず堂々と人の多い場所に出歩いているわけだが、彼らの目的は決して懸賞金目当てのハンター達から逃げることではない。

 

 

 

 彼らの目的、それは旅団の構成員ウボォーギンを倒した鎖野郎ことクラピカを捕えることにある。その為に彼らは敢えて人の多い場所に出向き、鎖野郎の襲撃を待っているのだ。

 

 だから一見隙だらけのように見える彼らに隙なんてものは存在しない。俺のような念能力者が姿を現そうものなら即座に看破されるだろうし、原作でもゴン達の尾行やフィンクス達による二重尾行にも彼らは気付いていた。

 

 彼らは絶賛警戒中なのであり、その警戒網に鎖野郎が引っ掛かるのをまるで蝶が巣に掛かる蜘蛛のように待ち構えているのだ。

 

 

 

「ま、俺やゴン達にとってはそれは好都合なわけなんだがな」

 

 幻影旅団の目的は鎖野郎なわけだが、それは裏を返すと鎖野郎以外の人間に興味はないという意味でもある。原作でも鎖野郎と関係ない(実際は関係あったわけだが)ゴンとキルアを解放しようとしていた。彼らが自分達のアジトを知った上のことである。

 

 当然、そのゴン達に情報提供した俺の存在など彼らは全く気にしないだろう。仮に俺の存在が旅団に捕捉される場面を想定するなら、ゴン達と鎖野郎が関係していることが露見し、その上で情報提供者が一般人ではない可能性を追われた場合である。その場合はゴン達も高確率で死んでそうだが。

 

 まあそんな事態にはならないだろう。クラピカが鎖野郎であることをゴンとキルアは現時点では知らないのでパクノダとの接触でそれが露見することはない。唯一途中で鎖野郎の正体に気づいたキルアからバレる可能性はあるが、彼があの緊迫した状況で下手を打つなどあり得ない。

 

 

 

「そしてそれが露見する頃には俺はヨークシンにはいない…ってね」

 

 金を引き出した口座を抹消しヨークシン発カキン帝国行きの飛行船のチケットを手配しながら、フードコートを離れるマチ達とそれを尾行するゴン達を見送る。

 

 ゴン達と鎖野郎が繋がっていることを幻影旅団が知るのは2度目に彼らが接触するタイミングだ。その時点で鎖野郎の正体であるクラピカのことは幻影旅団に割れ、彼らが俺のことを気にする暇も理由もなくなる。そしてその頃には俺は悠々自適にヨークシンから離脱している、という寸法だ。

 

 心の中でゴンとキルアにエールを送りつつ俺はその場を離れた。

 

 

 

ーーーCASE OF KILLUAーーー

 

 

 

 幻影旅団の一味の尾行は失敗し、オレ達は命からがら奴らのアジトから逃げた所だった。オレなんかあのノブナガとかいう奴から必死に逃げたというのに、隣のゴンは不服そうに口をへの字に曲げる。

 

「ちぇっ、アイツぶっ飛ばしたかったのに」

 

「絶対無理、返り討ちにあってあの世行き!」

 

 ゴンはそれでも納得しないらしく聞き返すが、念を覚えて間もなく基礎しか知らないオレ達では奴らは敵う相手ではないということを説明すると、今度はニッコリと笑ってコチラを見る。

 

「…何だよ?」

 

「ようやくキルアらしくなってきたじゃん。無茶を言うのはオレの役でキルアはクールに止めてくれないとね!」

 

 頼りにしてんだから!と無邪気に言うゴンにオレは照れくささを覚えながら嫌味を返す。その信頼が心地よく、ノブナガと対峙した際に覚えた不安をオレは思考の外に追い出した。

 

 

 

「で、どうするのこれから?」

 

「そりゃ何がしたいかによるさ今後のことは」

 

「アイツらをぶっ飛ばしたい!」

 

「やっぱりか……」

 

 まあゴンがやりたいことなんて聞かなくても分かってたわけで……実際幻影旅団を捕えて賞金を貰えばGIを手に入れるのに一気に近づくわけだからオレ達の基本方針としては合っている。

 

 だが、その為には念能力の向上が不可欠だ。特に四大行の最後である「発」をオレ達は習得していない。天空闘技場でオレがステラに一方的にやられたのも、恐らくクラピカが奴らの1人を倒したのも発が大いに関係しているはず。

 

 そしてそれを知るにはクラピカに聞くのが1番手っ取り早いということをゴンに話すと、オレ達の次の行動はクラピカと連絡を取って会うことに決定した。

 

 

 

 クラピカの説得は一筋縄では行かずなんとかまた連絡を取るという言葉をクラピカから引き出したオレ達だったが、そんな中でゴンが突然言い出した。

 

「そうだ、ステラはどうだろう?あの人ならオレ達に協力してくれるんじゃない?」

 

「ステラか?確かにアイツなら念について教えてくれそうだが……」

 

 だが、彼女が今どこで何をしているのかは分からない。天空闘技場にいた時に交換したから一応連絡先は持っているが、クラピカと違って彼女はヨークシンにいるわけではないだろう。今から連絡して教えに来てくれるか…いやいくらお人好しな彼女でもそこまではしてくれないだろう。

 

「それとも、ゴンはアイツがヨークシンにいるって思うのか?」

 

「うん、なんとなく……だけど」

 

「ま、聞くだけならタダだしな。電話してみる」

 

 あいにく、ゴンが携帯電話を買ったのはヨークシンに着いてからのことだからステラの連絡先を知ってるのはオレだけだ。

 

 クラピカとは違ってステラはオレからの電話にあっさりと出た。

 

 

 

ーーーCASE2 本心ーーー

 

 

 

 ヨークシンの空港に居た俺は携帯電話が鳴るのに気付いて確認する。てっきりカイトにメールで入れておいた、カキン帝国生態調査に加わりたいという要請に対する返事かと思っていたのだがそうではなく、発信元がキルアであることを少々不思議に思いながら俺は電話に出た。

 

「キルアか?どうした?」

 

「いや、こっちの方で色々困ったことがあってさ……ステラは今どこにいんの?」

 

 その言葉に返答する前に俺は思案する。恐らく彼らは俺にヨークシン編の味方となって欲しいのだろう。確かに彼らの立場となって考えれば俺はまあまあ頼れるポジションかもしれない。

 

 だが、そう簡単に返事をするわけにはいかない。俺がヨークシン編に関わりたくないのはこれまで散々語った通りである。

 

 …かと言って彼らを騙すのは気が引けると感じた俺は、ある程度本心で語りつつ彼らを拒否しようと心に決めた。

 

 

 

「俺は今ヨークシンの空港にいる。後1時間後にはここを発つつもりだ」

 

「えっ! マジで!? じゃあもし予定が空いてるなら飛行船はキャンセルしてオレ達に協力してくれないか!?」

 

「…協力か。幻影旅団を捕えること、をか?」

 

「な!?なんで知って……」

 

「俺は彼らと相対する気はない。俺は幻影旅団のメンバーの数人と知り合いなんだ。キルア達と協力して彼らに敵対する気はないし、勿論彼らに協力して非道な行いをするつもりもない」

 

「…そうか、変なこと聞いて悪かった。ゴンがステラと話したいみたいだからゴンと代わる」

 

 キルアと交代してゴンが電話に出てくる。何を言われようが俺の本心は変わらない…つもりだった。

 

 

 

「ステラは何も思わないの?」

 

「え?」

 

「オレは悲しかった。あいつらだって仲間は大切なのに、どうしてあんな酷いことをするんだろうって」

 

「俺は……」

 

「オレはあいつらを止めたい。そして、それは多分ステラも同じことを思ってると思う」

 

 

 

 ゴンの言葉にハッとする自分がいるのは確かだった。それでも、今の俺は……

 

「…そりゃ……止めれるなら止めたいさ。だがアイツらは俺やお前達が止めようとした所で止まんねぇよ」

 

「そして、同じようにお前達も止まんねぇ。俺がお前やクラピカを止めようとしたってお前達は止まんねぇんだろ?」

 

「…俺が止めたいのはお前達もだ、なんで親しい人達と世話になった人達が争うのを見なきゃいけないんだ!」

 

 

 

 確かに幻影旅団は極悪非道で滅ぶべき集団だ。そこに疑う余地はない。

 

 だけどクロロやマチが俺のことを心配してくれたのは事実であり、実際俺には彼らに流星街から外に出して貰った恩義がある。そんな人達に弓引くことなんか俺にはできない。

 

 そして、たとえ彼らへの恩がなかったとしても俺の思いは変わらないだろう。彼らにも人となりがあって魅力的な人達であるなんてことは、俺がこの世界で1番分かってる!

 

「分かったらさっさと電話を切ってくれ。これ以上無駄な問答を続けるつもりはない」

 

 

 

 原作が崩壊するとか、俺自身のリスクがあるとか、そういう懸念を除けば、俺がヨークシン編に介入したくないのはあの結末が旅団とゴン達の双方にとって最良の落とし所であると俺は思ってるからだ。

 

 確かに幻影旅団にとってパクノダを失うのは大きな痛手であろう。除念すれば何の意味もなくなるクロロの無力化だって幻影旅団を止めたいゴンや復讐したいクラピカにとっては成功とは言い難い。

 

 だが仮にお互いがあれ以上の成果を求めたら原作を遥かに超える死者が出るだろう。もしパクノダを生かそうとすればクラピカの目的は完全に失敗するし、かと言ってゴンの囮作戦を完全に成功させて人質交換自体を成立させなくすると旅団の制御が出来ず抗争は激化するに違いない。

 

 人質交換の形に持ち込みクロロを封じつつ生存させること、俺が介入した所であれ以上の成果は出せない。俺がやるべきことは速やかにヨークシンから離脱してあの流れを崩さないこと以外存在しない。

 

 

 

「…ステラは諦めるの?」

 

「……」

 

「それは逃げだよ。ヒソカの時とは違って今のステラは自分のやりたいことから逃げてる」

 

「…自分のやりたいことだと?俺が今1番したいことはこの電話を切ってお前達の見るに堪えない争いからおさらばすることだ!」

 

 電話相手が諦めるように願いながら俺は声を振り絞る。

 

 

 

 俺は忘れていた。俺なんかと違って電話の向こうの声の主は誰よりも諦めが悪い奴であることを。

 

「違う!ステラが本当にオレ達とクモに争って欲しくないんだったら、ステラがやるべきことはそんなことじゃない!」

 

「オレ達とアイツら両方の邪魔をすることだ!」

 

「「はぁ!?」」

 

 

 

 多分その声は俺だけじゃなく電話の向こうにいるキルアからも発せられたものだと思う。俺達の困惑を置き去りにゴンは捲し立てる。その言葉が続くにつれ嫌な予感が膨れ上がる。

 

「それをせずに争いを見たくないから見ないフリをするなんて、俺の知ってるステラのやることじゃない」

 

「やめろ……!」

 

「オレの知ってるステラはあのヒソカに負けることに本気で悔しさを感じる人だった!そんな人が諦める姿なんか、オレは見たくない!」

 

 その説得の仕方は俺にとって最も残酷な形だった。だがゴンが残酷な奴であることなんて、俺にはこの世界に生まれる前から分かっていた。

 

 

 

ーーーCASE2 身勝手ーーー

 

 

 

 ゴンの行動原理は単純明快だ。誰よりも純粋に自分のしたいことをするし他人にも自分の望むことをして欲しい、彼は誰よりも身勝手で自己中心的な人間だ。彼自身に欲が少ないからそうは見えないだけで、もしもゴンの欲望が人並み以上にあったら彼は正真正銘の化物に成り果てていただろう。

 

 だから彼が他人を説得する時は他人の都合なんて考えない。俺を説得しているのも全てはゴン自身が俺にそう期待しているからだ。

 

 

 

「ステラ!」

 

「くっ…!」

 

 もしも俺がこの世界に生まれただけのただの人間なら、たった1人の少年の期待を裏切ろうが気にも留めなかったに違いない。でも俺はその少年がこの世界の主人公であることを知ってて、彼は俺にとってはヒーローの1人なんだ。

 

 彼に失望されることがどんなに恐ろしいことなのか、それを理解できる人が俺以外に存在するとしたら、それは彼の隣にいるキルアだけかもしれない。

 

 

 

 この形に持ち込まれた時点で断ることはできなくなったのを薄々悟った俺は、今度は別の方向から断り方を探す。

 

「…いいのか?俺はお前達にクモの奴らが捕まらないように裏切るかもしれないんだぞ?」

 

「それは困る!……けど実は、オレはそうした方が良いんじゃないかって思ってるんだ」

 

「おい!!」

 

 ゴンの隣からキルアが怒鳴る声が聞こえるが、ゴンは苦笑いしながら続きを話す。

 

「オレだってクラピカがアイツらと殺し合う姿なんて見たくない。もしステラが裏切ってもそれが本心から行動したことなら、その裏切りは皆を止める為に必要なものなんだとオレは思う」

 

 その丸投げとも無責任とも言える言動を、俺は彼からの信頼と捉えてしまい無意識に口元が緩む。

 

「…クソッ、期待だけしといて後は人任せか!つくづく我儘な奴だなお前は!」

 

「ご、ごめん」

 

 やっぱりコイツには勝てない、と思いつつ溜め息を吐く。

 

「はぁ……分かったさ。お前達に協力する」

 

「ホント!?」

 

「だけど忘れるなよ、俺はお前達とは目的が違うんだ。あとお前は一旦キルアに叱られろ」

 

 

 

 電話を切って溜め息を吐きながらこの後何をすべきかを考える。先程も言った通りヨークシン編は原作の結末が最良である、というのが俺の認識だ。

 

 だから俺がやるべきことは最低でも人質交換の形にはしつつ、クラピカと旅団双方のダメージを原作以上に抑えるように立ち回ることだろう。

 

 そうなると俺が介入すべき場面は……

 

 

 

「思い浮かんだはいいけど…もし失敗したらお前を恨むからなゴン……」

 

 気怠げに呟きながら俺は立ち上がった。

 

 

 

ーーーCASE3 5本の鎖の目的ーーー

 

 

 

 ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ついでに俺。数ヶ月前にトリックタワーを攻略した面子での久々の再会だったが、再会を喜んでいる場合ではない俺達は幻影旅団に対抗する手段をクラピカから聞いていた。

 

「制約と誓約…」

 

「念は精神が大きく影響する能力。強い覚悟で念を使えばそれだけ力が上がる」

 

 具現化した鎖に込められた強いオーラを見せながらクラピカはゴン達に語る。一応俺も念の熟練者として彼の説明の補足をする。

 

「だけどそれは本来の力じゃない。覚悟を強いる為に定めたルールは使用者に別のリスクとなって現れる」

 

「そうだ。私は念能力の大半をクモの打倒の為に使うことを誓い、その為のルールも設けた」

 

 そう言いながらクラピカは自分の胸を指す。

 

「私がクモではない者を攻撃した場合、私は命を落とす。そのルールを守る為、今も私の心臓には念の刃が刺さったままだ」

 

「!!」

 

 尋常ではないクラピカの覚悟、それを見た一行は冷や汗をかきながら話の続きを聞く。

 

 

 

 しかし、クラピカの能力を考えたら念能力の大半をクモに費やしたというのは大袈裟な話だ。

 

 彼の能力は右手の指にそれぞれ別の具現化した鎖による能力が備わっている。つまりクラピカには5つの能力がある。

 

 そして、それらの中で幻影旅団にしか使えない能力はというと……

 

 中指の鎖の能力、チェーンジェイルのみである。

 

 つまり、彼が本当にクモの為に費やしたと言えるものは彼の念能力のうちの五分の一なのである。個人的にこれを大半というのは詐欺みたいなものだと思う。

 

 

 

 ただ、クラピカの視点からこの発言の意図を読み取ろうとするなら、恐らくクラピカは中指以外の能力も対旅団を想定して作っており、たまたまその能力が対旅団以外にも汎用性が高かった、ということであると思う。

 

 例えば、小指の鎖の能力である律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)は元々はクモにのみ使う予定だったものの、紆余曲折あってそれ以外の他人にも使えるようになっている。

 

 親指の鎖の能力である癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)もまた、彼ほどの人物が怪我を治癒せざるを得ない状況を想定しているという意味でクモが仮想敵であると判断していいだろう。

 

 クラピカは幻影旅団を相手する上で仲間を必要としていない。だから他人と協力して役割を担うのではなく、自分1人でクモを追い詰め、倒し、情報を引き出し、拘束する為に能力を作った。それらの能力に汎用性があるかどうかなど彼にとっては二の次だったのだろう。

 

 

 

 クラピカの目的は幻影旅団への復讐だけではない。彼は同族を弔う為に世界中の緋の眼を集めており、その為に作ったであろう能力もある。

 

 それが薬指の鎖の能力、導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)だ。この能力はクラピカの集中力を極限まで引き上げて自己認識を超える情報を鎖の振動で捉えるという能力らしい(らしい、というのはクラピカ自身がこの能力の詳細を把握してないからである。この辺は念能力の面白いところだ)。

 

 この能力を使って他人の嘘を暴いたり、人や物の場所をダウジングの名前の通りに探すことができる。

 

 もしクラピカの他の4つの能力が無く、これ一本だけだったとしても余裕でその辺の念能力者を遥かに超える、と言っても過言ではないくらいにはこの能力は優秀な能力だ。ついでのように銃弾も止めやがるし……

 

 ただこの能力が説明の通りだとするなら、これはクラピカの判断力、推理力あってのものだ。彼ほどに優秀な人間が使わない限り嘘を確実に見破ることはできないし探し物もできないはずだ。つくづくチートだなコイツ!

 

 

 

 残る人差し指の能力である奪う人差し指の鎖(スチールチェーン)だが、これが具体的に何のために作られた能力か俺は分からない。この能力は簡単に言えば相手の念を奪って一回だけ自分や他人に使用権を与える能力であり、ヨークシン編を終えて自分に何が不足しているか理解したクラピカがその不足を埋める為に作った能力である。

 

 それにしても、俺だって他人には言えない原作知識があって協力するにしても他人を騙さないといけない都合上1人で行動し1人で戦えるよう能力を作っているわけだが、師匠にあれだけ仲間と協力しろと言われながら1人で戦う為の能力を作るクラピカは本当に筋金入りの頑固者だ。その辺もまた彼の魅力ではあるが。

 

 

 

 まとめると彼の5つの能力とその目的は、

・束縛する中指の鎖(対旅団専用)

・癒す親指の鎖(恐らく対旅団を想定)

・律する小指の鎖(対旅団を想定)

・導く薬指の鎖(恐らく緋の眼を探す為)

・奪う人差し指の鎖(1人で戦う為)

 という感じであると俺は推測している。これなら大半(五分の三)をクモに費やしていると言っても大袈裟ではないだろう。

 

 こうやって見るとさ…やっぱクラピカの能力多すぎだし強すぎんだろ!

 

 

 

ーーーCASE4 偽物の死体ーーー

 

 

 

 クラピカの講義も終わると俺達の議題は今後どうするのかに移る。幻影旅団の偽装死体に騙されたクラピカはリーダーが死んだことでクモへの復讐は置いて仲間の眼を集めることに専念しようとするが……

 

「…どうしたクラピカ?」

 

「ヒソカから?」

 

 動揺するクラピカにキルアが尋ねる。

 

「ああ、…死体はフェイクだと。奴らの中にそういう能力者がいるらしい」

 

「なるほど、分身を作る能力ね。いや分身となると本人に似た形状のはずだから、この場合は他人のコピーが正しいか」

 

 クラピカ達の視線を感じながら敵の能力を推察する。いや、流石に俺じゃないからね?

 

「具現化能力者であればそのようなことができるのはステラが示していたのに…!何故こんなことに頭が回らなかったんだ……!!」

 

 彼らしくもない失態にクラピカは酷く狼狽する。ようやく復讐できると思った矢先の仇の死は、彼にとって冷静でいられない程の衝撃を与えたのだろう。

 

 

 

 クラピカの受難はそれだけではない。偽装死体から幻影旅団が生体データを持たない流星街出身の組織であることが発覚したのだ。流星街を利用するマフィア達にとって流星街との軋轢は避けたいらしく、マフィアンコミュニティは賞金を撤回した。

 

「…実は俺も流星街出身なんだよね。旅団の中には顔見知りもいる」

 

「なんだって!?アイツらについて詳しく知ってるのか!?」

 

 驚くレオリオの問いに首を振って答える。

 

「いや、世代が違うから俺もアイツらが何なのかはよく理解してないんだけど」

 

「…そうか」

 

 クラピカは最初から知っていたかのように頷く。この様子だと多分ヒソカから俺と旅団の繋がりについて聞いていたっぽいな……

 

 

 

「あ!じゃあヒソカも流星街出身ってこと!?」

 

「確かにアイツはステラの知り合いで幻影旅団だな」

 

 ゴンとキルアの言葉を否定する。もしそうだったら話はすこぶる簡単だったんだけどな……

 

「いや…アイツは野生の変態だ。どこ出身かは俺も知らねぇ」

 

「野生の変態」

 

 

 

ーーーCASE5 役割ーーー

 

 

 

 その後は一度マフィア側に連絡を取るクラピカと賞金が撤回されたことでクモを狩る理由が消失したゴンとキルアが席を外すが、結局は仲間が居なくなろうと復讐を続ける以外ないクラピカにクモを止めたいゴン達が協力を申し出ることになる。

 

「私の考えている計画はシンプルだ。撹乱役が奴らの目を盗んだ隙に私がパクノダを捕らえ車で連れ去る。この計画には奴らのアジトを張る中継と撹乱、それと私と行動を共にする運転手が必要だ」

 

「中継はオレがやるよ。この中だとオレが1番その手の経験がある」

 

「ターゲットはパクノダという女のみ。それ以外は無視で気付かれないことを優先に」

 

「OK、無理はしない」

 

 3つの役割の内の中継役においては、キルア以上の適任はいないだろう。そんな中レオリオが意を決して口を開く。

 

「そ、そうなると車の運転手はオレか?ステラは運転できないよな?な?」

 

「俺は撹乱役をやるから安全な運転手はレオリオがやっていいよ」

 

「い、いや別にオレは運転手が1番安全そうだから立候補したわけじゃないぞ!?」

 

「じゃあオレは何をすればいい?」

 

 3つの役割から溢れたゴンがクラピカに尋ねる。クラピカは一瞬だけ俺の方を見て答えた。

 

 

 

「ゴンはステラの監視を頼む」

 

「!?オイそれって……!」

 

「いや、その配慮は当然だレオリオ。俺だってクラピカの立場なら俺なんか信用できない」

 

 敵と知り合いである人間をここに連れている時点でクラピカが俺のことを十分信頼しているのは分かってる。だからこそ、その信頼を裏切ることになることに俺は嫌気が差した。

 

「…監視と言っても、私はステラが奴らの味方とは思ってない。ゴンにやって欲しいことは、ステラの撹乱が上手くいくようにサポートすること、いざという時ステラが躊躇した際に彼女の代わりになること、以上の二つだ」

 

「ステラの代わり……」

 

「ちょっと待った!撹乱役はかなりヤバい役だろ。ステラならともかく、ゴンには危険だ」

 

「それはやり方次第だな、直接対峙しなくても彼らの意識を逸らせばいい。詳しいやり方は2人に任せるが、最低0.5秒、できれば1秒時間を稼いで欲しい」

 

 

 

 ゴンはクモ達から時間を稼ぐことがどんなに難しいことかを知っている。なにせ昨日は一歩も動くことさえできずに捕らえられたくらいだ。

 

 だからなのか、ゴンのその提案は彼らしい常人には思い付かないアイデアでありながら、その本質は失敗した時の保険という彼らしくない後ろ向きなものだった。

 

「クラピカ、俺にも念の刃を刺してよ」

 

「「!?」」

 

「ゴン!!話を聞いてたのか!?旅団以外の者を攻撃したらクラピカは死ぬんだぞ!?」

 

「声がでかい!」

 

 

 

ーーーCASE6 律する小指の鎖ーーー

 

 

 

 先程も説明した通り、ジャッジメントチェーンは元々はクラピカがクモにのみ使用すると決めていた能力だ。それが何故他の人間に使えるようになっているのかというと、クラピカが誓約として自分自身に能力を使おうとした際、それがクモしか攻撃してはいけないという条件を破るかもしれないと懸念したからだ。

 

 クラピカの能力の制約は彼らしく几帳面と言うべきか、自身の能力を使ってでも制約と誓約を履行しようとしている。

 

 普通ならその能力を作る際、例えばチェーンジェイルなら「クモ以外を狙って発動できない」というような発動条件を決めるだろう。それならわざわざジャッジメントチェーンで自分の心臓に念の刃を撃ち込む必要もない。

 

 恐らくそれでは覚悟が足りない、とクラピカは危惧したのだろう。そこで彼は制約を破った時に自らの命も絶たれるようにしたのだと思われる。

 

 

 

 だが、彼の自分で決めたルールを遵守しようとする性格と命さえ惜しまない覚悟は念能力との相性が凄まじい。その制約によるリターンは直接関係しているチェーンジェイル以外にジャッジメントチェーンにも影響している、と俺は思っている。

 

 ジャッジメントチェーンは対象の心臓に鎖のついた剣を刺してルールを宣告しそのルールを破れば鎖が心臓を潰す能力だ。クモ以外に使えるようになる為に、緋の眼の状態となってエンペラータイムを発動することを制約とした。

 

 このルールを定めるというのは具現化系が得意とする分野だ。具体的にはナックルのハコワレやヂートゥの鬼ごっこ空間(仮称)などがあるが、これらの能力は全て自分にもそのルールが適用されることが重要だ。

 

 考えてみればすぐに分かるだろうが、「自分が守る気の無いルールに説得力があるか?」と聞かれたらその答えは否だろう。だからその手の能力のルールには必ず使用者も則らなければならない。でなければルールの拘束力は格段に落ちるはずだ。

 

 そしてクラピカはこのジャッジメントチェーンを使うにあたり、まず自分がその能力を使ってルールを守らなければいけない立場にあるのだ。その覚悟の強さはジャッジメントチェーンそのものにも影響していると俺は考えている。

 

 

 

 ゴンの提案は結局実現しなかった。何故ならパクノダに触れられた時点でゴンが死ぬようにルールを定めるのは戦略的に間違っているからだ。たとえ秘密を握られたとしても後から口を塞げばいい。その為の反撃のチャンスをむざむざ潰すのは間違っている。

 

「…でも、だったらなんでリスクが増すだけの話をオレたちに…?」

 

 ゴンの問いにクラピカは答える。その姿に俺はクルタ族の誇りというべきものを感じた。

 

「これはお前達の覚悟に対する私なりの礼だよ。仮にお前達から秘密が漏れたとしても、私は何一つ後悔しない」

 

 

 

「私はいい仲間を持った」

 

 

 

 彼の心からの信頼に心が張り裂けそうになりながら、俺はゴンと作戦を話し合う為に席を外した。

 

 

 




 ハンターハンターを読んでて個人的に思うのが、主人公達が自身の理屈に沿って行動する中で度々理屈と感情の板挟みに遭ってバグる描写が性へ…魅力的であることですね。


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15. 刻印×神の左手悪魔の右手×暗闇の攻防


 今更ですがハンターの英名ってあの世界独自のものなのか、そうとは読めんやろって名前が多いんですよね。視点変更で英名を使うのは失敗かもしれません。
 今回のはパクノダです。いやそうとは読めんやろ…



 

ーーーCASE1 神の左手悪魔の右手ーーー

 

 

 

 作戦を開始した俺は現在、街を爆走する幻影旅団を追跡していた。

 

 旅団の方は占いの内容から鎖野郎がクルタ族であることに着目し、彼の目的が自分達への復讐以外に同胞の瞳である緋の眼にあると看破。今はコルトピの能力を利用して既に売り払った緋の眼のコピーを追いかけているところだ。

 

 

 

 コルトピの能力であるギャラリーフェイクは左手で触ったもののコピーを右手から具現化するというものである。コピーは24時間で消える、生き物は動かない物体としてしかコピーできない、念能力によってできたものはコピーできないといった制約はあるものの、本物を触ることでコピーの位置を探知できることやコピーの数や大きさの制限がないこともあって具現化系能力として最強と挙げられることも少なくない。

 

 以前はこの能力について具現化系特有の特殊な能力はないと考察したが、それを踏まえても超が付くほど優秀な能力だ。

 

 

 

 具現化したものに特殊な能力がないというのは戦闘面で他の能力に劣るかもしれない。だが念能力者を殺すなら殺傷力のある武器を使えばいいわけで、この能力ならそんな武器を量産して即席の軍事力を作ることだってできる。

 

 その点で言えば即席で大量の人力を生み出せる俺とは相性が良い。これ以上俺と相性の良い能力者を挙げるとするなら選挙編と継承戦編の間に登場した銃を具現化する能力者であるゴレムくらいだろう。

 

 ふつう具現化系能力者がものを具現化する場合、イメージ修行が必要になる。このイメージ修行というのがとても厄介で、たとえば銃を具現化できる人間はそれだけ普段から銃を使い慣れ身近に感じる人間のはずだが、そんな人間がわざわざ普段使う銃を具現化することに利点があるかというと微妙なところだ。そういう点でゴレムと似たような能力者は探しても少ないと俺は思っている。

 

 だが、コルトピはそのイメージ修行を省略することができる。それが制約と誓約による産物なのか、コルトピ自身の特性(たとえば一度見て触れたものを脳内で完全再現できる等)なのか、はたまたそれ以外の要因によるものなのかは分からないが、それは具現化系能力者の中では隔絶した技能だ。

 

 

 

ーーーCASE2 円の機能ーーー

 

 

 

 そんなギャラリーフェイクだが、特に優秀と言われる部分に具現化したものが円の効果を持つというものがある。ビルのコピーを建ててキルアを撹乱した他、本物の緋の眼を触ることでコピーした緋の眼の位置を探り鎖野郎を探すなど今の展開に彼の能力は大きく関わっている。それはそれだけ能力が及ぼす影響力が高い…端的に言えば有能だという証左でもある。

 

 

 

 この円の機能について個人的に思うのが、具現化したビルに入った侵入者を感知することと、本物を触ることでコピーの位置を探知することは別の能力なのではないか?ということだ。なぜそう思うのかは円がどういうものかを考えると自ずと辿り着く。

 

 

 

 円は体に纏うオーラを広げることでその中にある物や人を探知できるようになる能力だ。1m以上という円の定義を満たせていないキルアもオーラに入ったものを感知できるため、オーラの中に入ったものを感知できるのはオーラそのものが持つ特性だと言える。

 

 コルトピがコピーしたビルは具現化したものであり、当然ビルはオーラを纏っているはずだ。そのビルが入った者を感知するという円の効果を持っているのは、先程のオーラの持つ特性を考えれば当然のように思える。

 

 同じ理屈で、具現化系や放出系の能力者が作るのを得意とする念空間に関してもこのビルと同じで円の効果を持っているはずだと推測できる。

 

 

 

 だが、本物を触ることでコピーの位置を探知する能力に関してはオーラの特性からは説明できない。そして具現化したものを自らと離す能力であるジャッジメントチェーンやカウントダウンはこのような探知能力を持ってないことから、こちらの能力はギャラリーフェイクが持つ固有の能力だと考えられる。こちらの方にだけ本体を触るという発動条件(つまり制約)があるのも能力の一部であるという考えを補強している。

 

 ただ、元々かなり特殊な能力を持つナックルの能力ハコワレも同様の探知能力を持っていることを考えると、探知能力はそこまで実現するのに難しい能力ではなくちょっとした制約で付けられるくらいの能力のはずだ。コストが低いからこそギャラリーフェイクはあれだけ大量、大規模にその能力を行使できるのだろう。

 

 

 

ーーーCASE3 刻印ーーー

 

 

 

 そんな取り止めのないことを考えていたからか、当然のように旅団に捕捉されてしまった。いや俺が捕まることまでは至って計画通りなんだけども。

 

 

 

「あれステラじゃん。まだヨークシンにいたんだ」

 

「ちょっとヒソカに用事がありまして。直接会いたかったんだけどアジトに行くのは怖いし、たまたま会えるかと思ってこの辺を彷徨ってたんです」

 

「ふーん、残念だけど当分はヒソカはアジトから出ないよ」

 

「あらら、このタイミング逃すといつ会えるか分かんないんだよな……」

 

 とりあえずマチの問いに答えながら言い逃れを図るがあんな別れ方をしといてクロロが俺に疑念を持たないわけもなく、鎖野郎との繋がりを疑われて捕まってしまった。いや俺が捕まることまでは至って(以下略)

 

 

 

「マチ、お前の勘だとステラは鎖野郎の味方か?」

 

「団長はステラを疑ってんの?うーん、そう聞かれたら微妙な気もするんだけど」

 

 クロロの問いにマチが曖昧に答える。まあ俺自身クラピカの味方かと聞かれたら微妙としか言えないから……

 

 マチの答えを聞いたクロロは電話でフィンクスを呼び出す。人質を管理する為に新たに人員を配置するのはクロロらしい抜け目ない手腕だ。どうしてこんな優秀なリーダーがいるのに下はチンピラのノリでタイマンとかやってんだ。

 

「フィンクスをベーチタクルホテルに呼んだ。そこを集合場所にする。…だがその前にマチ、シズク」

 

「2人でステラが何か隠してないか調べろ。そのローブも脱がせ」

 

「了解」

 

 

 

「えっ!」

 

 思ってもみなかったクロロの指示に俺は驚く。

 

 だが確かに言われてみれば俺が何か隠してないかを調べるのはクロロからすれば当然だ。アイツは俺の能力でどんなことができるかを知っているわけで、それに対する警戒をして当たり前だわ。

 

「ち、ちょっと待ってくれませんか!?そういうのはせめて、こう、人のいない場所でというか……」

 

「なにバカなこと言ってんのさ。さっさと脱ぐ」

 

 シズクに手足を押さえられながらマチにローブを脱がされる。

 

 

 

 いや別に見られたらマズイものを隠してるわけではないけども!いや見られたらマズイと言われたらマズイかもしれないけど!(混乱)

 

「うわ、なんでアンタローブの下に何も着てないの?」

 

「下着は着てます!むしろこんな夏にクソ暑いローブの下に何枚も着込んだら倒れるもん!」

 

「じゃあそのクソ暑いローブ着なきゃいいじゃん」

 

「うぐっ」

 

 天下の往来でストリップをかましている俺をマチは呆れながら正論で一刀両断する。

 

 でもクロロだって俺と似たような服装じゃん!というツッコミは内心に留めといた。俺だって死にたくないからね。

 

 

 

 クロロの懸念はなんとなく推測できる。俺の能力を知っているアイツは今の俺が分身である可能性に気付いている。そして以前流星街で実演したような他の能力とのコンボによる罠を仕掛けていることを懸念したのだ。

 

 仮にそのような能力が仕掛けられていると考えた時、俺の体にはその能力が発動していることを示すなんらかの印が刻まれている可能性が高い。それで俺の全身を隠しているローブを剥いで体にその印が無いかを確認したのだと思われる。

 

 

 

 この印についてだが、一番分かりやすい例を挙げるならそれはクロロとも関わりの深いサンアンドムーンだろう。この能力で俺を爆弾化した場合、俺の体には起爆のコードとなる太陽と月の刻印が押される。

 

 他の例だとゲンスルーのカウントダウンも分かりやすいだろう。あれは対象に能力を発動した際に発動部位に爆弾とその起爆を予告するタイマーが具現化する。即座に爆弾が出てきて爆発するのではなく、爆弾とタイマーが能力の発動の印となるのだ。

 

 

 

 これは俺の完全な推測になるが、爆発という殺傷能力の高い攻撃をリスクの低い遠距離から行うのに予告や印もなしに発動するのでは制約が足りない。身も蓋もない言い方をするならそれはズルだ。

 

 その条件をできるだけ変えずに能力を実現する上で一番制約として負いやすいリスクが他者に能力の発動を印として教えることなのだろう。継承戦編でクラピカとビルが説明した言い方に則ると、印のない能力は行動制約のリスクが低いと説明できる。

 

 クラピカとビルが説明した時の内容は具現化したものが念能力者以外の人間に見えるかどうかに関するものだった。要は他人に見えないように具現化した能力は能力を行使する上でバレるリスクが低い為、能力の規模も小さくなるはずというものである。

 

 こちらの話に適用すると、そのような印のない仕掛けは威力もたかが知れてるはずだと説明できるわけだ。幻影旅団ほどの猛者達にダメージを与えられるとは思えない。それでクロロも俺の体にそのような印が無いかを確認するだけに終始したのだろう。もちろん俺がなんらかの武器を隠し持ってるかも含めてな。

 

 

 

 気恥ずかしさで熱を帯びた体を夜の風で冷ましながら、ローブを着直した俺はクロロ達によってベーチタクルホテルへと連行される。

 

「ステラ、分かってると思うけど暴れないでよね。アタシだって顔見知りは殺したくない」

 

「大丈夫だって……」

 

 目を閉じて答える。残念だけど暴れるのまで込みで計画なんだよね。

 

 

 

ーーーCASE OF PHALCNOTHDKーーー

 

 

 

 緋の眼を持っていた鎖野郎の仲間であるスクワラという男を殺した私達が集合場所であるベーチタクルホテルへと着いた時、団長達は1人の少女を捕まえていた。

 

 確か数日前に団長がアジトまで招き入れていた子だ。どうやら追手は彼女であり、団長は彼女が鎖野郎と繋がっているかどうかを私に確かめて欲しいようだった。

 

「OK、何を聞けばいい?」

 

 団長は依然として目を瞑り沈黙を保っている少女を見ながら考えて答える。

 

「何を隠しているか? それを聞いてくれ」

 

「確かにその聞き方ならこの子が敵かを判断するのに一番手っ取り早いし、敵であったとしても知りたい情報はほぼ全て手に入るわね」

 

 能力の使い方に我が能力のことながら感心しているとそれまで口を閉ざしていた少女が口を開いた。

 

 

 

「心を読む能力者ですか?対象に尋ねることがトリガーなら相当優秀ですし特質系?でも特質系以外でもどういうイメージで実現するか工夫すれば実現できる範疇なのかな?例えば具現化系能力者ならそのような機械や仕掛けをイメージできれば可能な気もしますし、強化系ならクトゥルフTRPGでいうところの超心理学、放出系なら対象の心の声を放出、操作系なら対象を操作して喋らせるというイメージで……」

 

「…そういえばアンタは昔から念能力のことになると饒舌になる子だったわね」

 

 それまでの沈黙を破って私の能力について考え始めた少女にせっかくだから簡単に自分の能力を教える。どうせ能力を使う以上どんな能力かは自ずと分かるし、特に私の能力を心を読む能力だと誤解する者は読まれないようにと無駄に無心になろうとするから、この手の説明は慣れたものである。

 

 どこかから聞こえてくるラジオの音が7時まであと1分であることを伝えていた。

 

 

 

 

 

 

 罠に嵌められた。少女に能力を使った直後に停電が起きたのだ。

 

 私は判明したその事実に驚きを浮かべることもできずに後頭部に強い衝撃を受けて体勢を崩す。その後突然真横に現れた何者かによる攻撃で私は吹っ飛ばされた。後ろではマチのくぐもった声が聞こえたことから彼女も同様の攻撃を受けたと認識する。

 

 その後、円を使い位置を把握したらしいノブナガが刺客と何合か打ち合うような音が聞こえたが、大きな破裂音の後にはその音も聞こえなくなった。

 

 

 

 暗闇に目が慣れ始めた私達が辺りを見渡すと、そこには今の襲撃などなかったかのように刺客は消え去っていた。しかし、今の襲撃は確かにあったことだと告げるかのように団長も消え去ってしまっていた。

 

 

 

「パク、平気?こっちはアバラ何本か折られたけど」

 

「…ええ、痛むけど行動には支障ないわ。それよりも…」

 

「待て!パクノダ、オメーにだ」

 

 肉体的なダメージと精神的な動揺で痛む頭を押さえながら、私はその事実を皆で共有してどういうことかを考えようとしたが、ノブナガによって止められる。

 

 ノブナガから渡されたメモには少女の記憶を話せば団長を殺す旨の内容が書かれていた。メモの記憶を読み取って鎖野郎が仕掛けた罠について全て分かった私だったが、その一点だけが謎を更に深めてしまった。

 

 その元凶である少女の方を見る。彼女は先程と同じ場所姿勢で依然として拘束されており、停電前から一歩も動かなかったことを示していた。

 

 

 

 少女の記憶が読めなかった。

 

 私の能力は記憶を読むというもので、先程も少女に説明したように無心になることで防げるような代物ではない。私の能力で読めない人間など存在しないと言ってもいい。

 

 だから少女の記憶が読めなかったのには彼女の能力によるなんらかのカラクリがあるはずだ。そのカラクリが何なのかはひとまず置いておくとして、問題は私の能力を少女が対策していたという事実を鎖野郎は知らない可能性があるということだ。それが意味することとは……

 

「パク、これからオメーは一言も話すな」

 

 ノブナガの指示に頷く。メモの中身を見る限り、鎖野郎は記憶が読まれていると思ってるはずだ。だが実際はそうではなく、人質の能力について鎖野郎は知らない…もしくは知っていても能力を使っているか分からない状況にあると考えられる。

 

「…この杖、さっきまでは落ちてなかったよね?」

 

「それは暗闇の時に襲ってきた奴が使ってた武器だ。俺がそれごと奴を斬った瞬間に奴は消えた。恐らくは念能力を使った瞬間移動だろう」

 

 シズクが拾った杖に触れて能力を発動する。勿論先程の推測は鎖野郎のブラフである可能性も十分にある。だからまずは情報を集める必要があった。

 

「瞬間移動ができる能力者ってこと?」

 

「多分な。人質を助けるのが不可能だと悟り自分だけ脱出したわけだ。そして団長を人質にしてトレードに持ち込んだ。そう考えると辻褄が合う」

 

「…アタシはそうは思わないけど」

 

 

 

 杖の記憶を読んだことで暗闇の中で何が起きたのかは分かった。

 

 この杖は停電の直後に以前捕まえた緑服の子供が投げたものだ。彼らも直接の関わりがなかっただけで鎖野郎の味方であることは分かった。だがそんなことより、そこから先に謎の答えが隠されていたことが私には重要だった。

 

「能力がなんであれ、今の俺達にできることはこのまま鎖野郎からの連絡とフィンクス達の到着を待つだけだ」

 

 

 

 私の後頭部へと直撃したその杖を受け取ったのが人質の少女だったのだ。いや、厳密に言えばその少女は偽物…彼女の能力によって作られた分身であり、それは私とマチを薙ぎ払った後にノブナガによって杖ごと斬られて破壊された。大きな破裂音はその時の音だったというわけだ。

 

 分身を作る能力、それなら私の記憶を読む能力をすり抜けたカラクリも説明できる。

 

 

 

 そもそも私達が現在人質に取っている少女そのものが分身なのだ。質問をしてその記憶を読む能力は人にのみ使える能力である。物の記憶を読む場合は質問はせずその物に起きた記憶を読む為、私の中では物として判定された分身の記憶は人のようには読むことができなかった、ということか。

 

 

 

 …もし人質が分身だったとしたら、彼女に人質としての価値など存在しない。つまり暗闇に乗じての奇襲は人質を助ける為ではなく、最初から団長を攫う為のものとなる。

 

 頬を伝う汗を拭う。だとしたらマズイ。人質に価値がない以上、鎖野郎が団長を殺さない理由がない!

 

 だが今それを話したところでどうなる?どちらにしろ鎖野郎は団長を連れ去った以上、今から追いかけたところで団長の死は確実!更に鎖野郎の能力も分からない以上、下手に追っても団長以外にも犠牲者は出てもおかしくはない……

 

 貴方ならどうしますか?団長…!!

 

 

 

「パク!余計なことを考えなくていい」

 

 マチに声を掛けられて思考を中断する。

 

 そうだ、どちらにしろ今は行動する為の判断材料に欠けている。鎖野郎からの連絡を待って、そこで団長の生存を確認すれば憂いはなくなる。

 

 停電から復旧したホテルのロビーは人の流れによって慌ただしくなっていた。

 

 

 

 フィンクス達が来たのとほぼ同じタイミングで鎖野郎からの着信が来た。既に人質に危害を加えたと嘘を吐くフィンクスを殴りつつ電話を代わる。

 

「スクワラという男の記憶を引き出したな?こちらにはセンリツという能力者がいる。偽証は不可能だと思え」

 

 盗聴をされないように私を移動させた後に鎖野郎は私に2つの指示を出した。

 

 ひとつ目は仲間とのコミュニケーションの禁止、ふたつ目はこれから8時までにリンゴーン空港に1人で来ることだった。

 

 

 

 ノブナガにも指示を出した鎖野郎が電話を切る前に私はどうしても気になって団長の安否を尋ねた。

 

「待って。団長が生きてることの証明にせめて声を聞かせて頂戴」

 

「…了解した」

 

 鎖野郎は団長に余計なことを伝えると殺すと脅してから電話を代わる。

 

 

 

「…ヤツを信用しろ」

 

 その声は紛れもなく団長のものだった。

 

 もちろん既に操作系能力者によって操作されている可能性などは存在するが状況的に偽証の可能性は低いと判断し、その上で団長の言葉の意味を探る。

 

 

 

 団長の言うヤツとは普通に考えたら鎖野郎のことだ。鎖野郎は人質交換をするつもりがあるので素直に命令通り人質を連れて行け、という意味だろう。

 

 そもそも私達と対立している軸が鎖野郎しかない以上、ヤツという私達以外を指す言葉は鎖野郎を指していると考える他ない。

 

 

 

 だが、私が手に入れた情報を合わせるとそうではない可能性がひとつだけ存在する。

 

 それは「人質の少女には鎖野郎とは別の思惑があり、ヤツというのは彼女を指している」可能性だ。

 

 彼女の能力は分身で、今現在私達が拘束しているのも本体ではなく分身である。それは私の能力が効かなかったことからして確実だと思う。

 

 だが、それならば人質交換など成立しない。制約の都合で分身が壊されることにデメリットがあるとしても、復讐相手である団長の抹殺に比べたら些細なものだろう。

 

 そしてそんなことは鎖野郎も百も承知のはずだ。それなのに人質交換が成立しているという矛盾、それが鎖野郎は人質が分身であることを知らないということを示している。

 

 何故少女は鎖野郎にその事実を伝えないのか?その問いに対する答えが彼女には別の思惑があり団長もその点で彼女を信用しろ、と言った可能性に繋がるわけだ。

 

 団長と少女は既知の関係にあった。能力について知っていてもおかしくないし、そこから現状の矛盾に気付き私と同じ結論に至るのも不自然な流れではない。

 

 

 

 だったら私の成すべきことはひとつだ。皆には何も言わずに私はリンゴーン空港へと出発した。

 

 

 

ーーーCASE4 修羅場ーーー

 

 

 

 こんにちはステラです……

 

「そんな条件、飲めると思ってんのか?」

 

「場所を言えパクノダ。コイツを殺して鎖野郎を殺しに行く」

 

「場所は言わないし人質を連れて行くのも私だけよ。邪魔しないで」

 

「ジャマ!?そりゃどっちのセリフだコラ!」

 

「行きなよパクノダ。ここはアタシ達が止める」

 

「止める?なめてるか?」

 

 

 

 こちらは現在絶賛修羅場中です……

 

 

 

 旅団は今現在、クラピカの指示に従い人質交換をするのに賛成するパクノダ、マチ、コルトピと、人質交換を放棄して鎖野郎を襲撃しようとするフィンクス、フェイタンに割れ大いに荒れていた。

 

 人数比では賛成派が多数だが、戦力という意味ではサポート役であるパクノダコルトピを抱え本人も若干サポート寄りであるマチが率いる賛成派よりもゴリゴリの武闘派である2人の反対派の方が強いだろう。どちらにしろここで戦闘に発展すれば酷いことになるのは確実だが。

 

「本気かよお前ら…理解できねぇぜ。頭どうかしちまったか!?」

 

「おそらく鎖野郎に操作されてるね。ワタシが吐かせるよ」

 

 互いの陣営の緊張が最大にまでなろうとしている中、俺はクロロのいない幻影旅団は本当にどうしようもない集団だと呆れていた。

 

 

 

「…なに言ってんだか……!」

 

「あぁ?」

 

「そのまま仲間割れすることはクロロが最も忌避していたことでしょう?…掟に囚われすぎてその本質も忘れたんですか!?」

 

「外野の癖に偉そうに言いやがって…文句があるなら来いや。一歩でも動いたらその首へし折ってやる」

 

「そうやってなんでもかんでも暴力で解決しようとするからこうなってるのに……」

 

「……(ビキビキ)」

 

 旅団は決して考え無しの集団ではない。確かに個人個人で見ると脳筋の人間は多いがその本質は組織力だ。彼らがゾルディック家をして手を出すべきでないとまで言われるのは、彼らが個として強いからではなく集団として強いからだ。

 

 

 

「クラピカは貴方達とは違う!たとえ一族の仇を目の前にしても暴力に身を任せて大切な仲間を傷付けたりはしない!パクノダさん達だって仲間が大切だからこうやって必死にクロロを助けようとしてるんだ!それを暴力で否定するのは仲間であることの否定だ!」

 

「いい加減にしろや勝手なことごちゃごちゃ言いやがって……!」

 

「貴方達だって仲間が大切だからこそ死の連鎖を止めようと必死になってるんでしょう!?」

 

「てめぇに何が分かる!」

 

 フィンクスの言葉に気圧される。俺は彼らの仲間ではなく、どこまで行っても所詮は彼らを理解したつもりの部外者でしかない。彼らの苦悩に共感することはできないのだろう。

 

 でも、だからこそ俺は……

 

 

 

ーーーCASE5 第二の頭ーーー

 

 

 

「その辺にしとけフィンクス、パクノダの好きにさせればいいじゃねぇか」

 

「フランクリン!?おめぇまで何言いやがる!?」

 

 俺達の口論に終止符を打ったのがフランクリンだった。彼はその巨体と風貌に似合わず冷静に場をまとめる。

 

「シャル、今の状況から想定される最悪のケースは何だ?」

 

「えーと、団長は死んでてパクノダ達は鎖野郎に操作されてる、鎖野郎の所在は分からず仕舞いで人質にも逃げられる、かな」

 

「それが間違ってんだよお前らは。最悪なのはオレ達全員がやられて蜘蛛が死ぬことだ。それに比べりゃお前の言ったケースなんて屁みてぇなもんだ。違うか?」

 

「確かに…そりゃそうだ」

 

「それを踏まえりゃこのまま仲間割れを起こすのは一番蜘蛛にとっての不都合だろうが。ソイツの台詞は100%正論だ」

 

 フランケンシュタインみたいなイカれた見た目してるのに、能力を強くする為に(しかもなんとなくで)指を切り落とすくらいイカれてるのに、言ってることが余りにも冷静すぎるフランクリンのギャップに俺は若干引きながら彼の言葉を聞く。

 

 

 

「パクノダ達を行かせてもしも団長が戻って来なかったら、その時は操作されてる連中を全員ぶっ殺して蜘蛛再生だ。簡単なことだろうが」

 

「それで気が済むならいいよ。ま、アタシは操作されてないし簡単に殺られもしないけど」

 

 いや、むしろフランクリンはイカれているからこそ、この状況下でも冷静に仲間を殺す判断が下せるのかもしれない。そのクレバーすぎる判断能力は俺にゴンを彷彿とさせた。

 

 どちらにせよ脳筋の多い蜘蛛の中で彼はクロロに次ぐリーダー性を持っていると俺は思う。控えめに言って頭おかしいけど……

 

 

 

 フランクリンについてはまた機会があれば考えるとして…俺は第一の修羅場をなんとか乗り越えることができたことに思わず胸を撫で下ろした。

 

 ここまでは殆ど原作と同じ流れだ。どうしても記憶が読まれるのが嫌だったので分身を使ったのは大きな違いと言ってもいいかもしれないが。

 

 

 

 パクノダの能力は対象に触れながら質問をすることで記憶を読むことができるというものだ。だから分身を遠隔で操作すれば遠く離れた俺自身の記憶までは読み取れないはずだと踏んでいたが、パクノダの様子を見るにその試みは上手くいったのだろう。

 

 人質が分身であることがバレて人質交換が成立しないという流れになるのは俺自身大いに危惧していたことだったが、奇跡的に上手くいったようだ。いやぁマジで良かったぁ……

 

 

 

 だが、言ってしまえばここまでの流れで俺が変えられたことなんて殆どない。クラピカの能力を秘匿できたのは大きな変化と言っても過言ではないだろうが、俺がやりたいことは決してそれだけじゃない。

 

 次に起きるであろう修羅場、俺にとっての分水嶺であろうその事態が近づきつつあることに俺は内心怯えながらパクノダと一緒にアジトを出た。

 

 

 




 今回はいつもの考察が少なめにそれぞれの視点の思考描写を書いたせいかいつもより難産でした。読者の皆様方にちゃんと伝わってるかどうかも不安ですし…
 前半は一瞬で書けたのになぁ…こういうの書ける人ホント憧れる。


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16. 説得×記憶弾×誤解


 コソコソ…



 

ーーーCASE1 説得ーーー

 

 

 

「おいなんでソイツがここにいる?人質交換は失敗したのか?」

 

 幻影旅団のアジト、そこで旅団の面々に囲まれながら俺はフィンクスの問いにパクノダの代わりに答える。

 

「人質交換は終わりました。俺がここにいるのは伝令の為です」

 

「伝令?」

 

「俺が教えられる限りのことを教えます。だからまずは話を聞いてください」

 

 深々と頭を下げて俺はこれからの修羅場に覚悟を決める。

 

 

 

 俺がヨークシン編でやりたいこと…それは「クラピカの能力の詳細が旅団に伝わるのを防ぐこと」と「パクノダを死なせないこと」だ。

 

 クラピカの能力…特にチェーンジェイルが旅団にバレるのは彼にとって致命的だ。そして同じようにパクノダが死んでしまうのも旅団にとっては同じくらい手痛いだろう。

 

 俺としてはクラピカと旅団には争ってほしくないから、できるだけ両方の損害を抑えて情報面でのアドバンテージも無くすことで彼らの間に膠着状態を作ることが一番の目的なのである。

 

 

 

 原作でも膠着状態そのものはクロロに掛けられたジャッジメントチェーンによって作られるが、それはクロロが除念をすれば無くなってしまう程度のものだ。そうなれば後はクラピカの能力を知った旅団は彼を簡単に仕留めるだろう。原作の方でそうなってないのは、単にヒソカが旅団にとってクラピカ以上の敵になってるからに過ぎない。

 

 だから旅団がクラピカの能力を知らない状態を作れば、彼らにとってクラピカは依然として襲撃するにはリスクが高く、予言に沿ってヨークシンから撤退しようとしたようにクラピカに手を出す可能性はほぼ0となるはずだ。

 

 そしてその狙いの半分は成功した。ゴン達の代わりに俺の分身が捕まることでパクノダにクラピカの能力が伝わることを防いだのだ。

 

 

 

 だから後はパクノダが死ぬのを止めるだけだ。そしてその方法は単純明快である。

 

 それは「幻影旅団に今の状況を教える」ことである。それができればパクノダは間違いなく死なないはずだ。

 

 

 

 原作でパクノダが死んだ理由は、人質交換をした筈のパクノダがクロロを連れて来ずにアジトへ帰って来て、それの説明を求めた団員達に対してパクノダが能力を使って全てを教えたからだ。

 

 パクノダはクラピカのジャッジメントチェーンによってクラピカに関する情報を教えることを禁じられていた。その掟を破ったことでジャッジメントチェーンが発動してパクノダは死んだのだ。

 

 だったらパクノダがクラピカのことを教えずに団員達が納得できる説明をできれば死なないと考えられるわけだが、この状況をクラピカの能力を省いて説明するのはとてもじゃないけど不可能だ。仲間割れ直前まで揉めていた彼らがそのような不自然な説明で納得するとは思えない。

 

 だから俺が伝令役となってこの複雑な状況を彼らに説明することができれば、パクノダの死を防ぐことができるはずだ。パクノダだってクラピカのことさえ触れなければ能力も発動しないので普通に活動する上では問題ないし、原作でクロロにやったようにパクノダを除念すれば後は何の憂いも無くなるだろう。クラピカの能力に関しても説明に必要なのはジャッジメントチェーンであり、最大の急所であるチェーンジェイルを隠し通すことは容易い。

 

 

 

 だから俺のやるべきことはひとつ、彼らに全てを教えて現状を理解してもらうのだ。

 

「貴方達が言う所の鎖野郎…クラピカの能力によってクロロは貴方達との接触、パクノダは彼の情報の伝達を禁じられている」

 

「…あぁ、掟の剣ってやつだね。今ヒソカに刺さってるやつ」

 

「え?あ、うん」

 

 シャルナークの確認に対して何故か生返事のヒソカを見て思い出した。今のコイツの中身はイルミだったな……

 

 本物のヒソカは今頃クロロとのデート中だろう。まあそのデートは失敗に終わるんだが。

 

 イルミに頼むから余計な真似はしないでくれよ…と目で訴えながら続きを話す。

 

 

 

ーーーCASE2 掟の剣ーーー

 

 

 

 ちなみにこの掟の剣とは十中八九ジャッジメントチェーンのことなのだが、これについて考えるとひとつ不自然な点がある。

 

 それはヒソカがクラピカの能力を知っていることだ。

 

 確かにクラピカとヒソカはお互いの目的の為に幻影旅団に対して協力関係を築いていた。しかしながらその関係は情報提供を基本としたギブアンドテイクだ。団員についての情報を共有することで蜘蛛の手脚を削りクラピカは復讐を、ヒソカはクロロとのタイマンを実現するのが目的で、クラピカが自分の能力を教える意味は薄い。

 

 だからヒソカがジャッジメントチェーンを知っていたかどうかを考えると、おそらくは知らない可能性の方が高いんじゃないかと思う。

 

 

 

 そうなるとじゃあヒソカが掟の剣を仄めかすことができたのは何故なんだ?という話になるわけだが、これはヒソカが団員の能力を売らざるを得なかったと言いたいが為のでたらめが偶然真実と重なった、ということじゃないかと俺は思う。

 

 もちろん偶然にしては怖いくらい正確に能力のことを言い表しているが、これはヒソカの都合を考えるとそこまで不自然な話でもないと思う。

 

 

 

 この時のヒソカは自身の裏切り行為を書かれた予言を改竄して嘘をつく必要があった。そこで予言にあるクラピカとの密会の内容を能力によって強制されたものだと改竄した。

 

 たとえば、ここで予言の内容をクラピカがヒソカを操作して情報を売らせた、とすればヒソカはどうなるだろうか?

 

 ヒソカがクラピカに仲間の情報を売ったのも彼についての情報を仲間に教えられないのも、全ては彼に操作されているからだとすると説明はつく。

 

 だが人が操作されているか否かを見分ける方法は存在する。考えつくものだと「操作系は早い者勝ち」理論で操作を上書きしようとすることだ。それで操作が失敗したら実際に操作されており、操作が成功した場合は操作されてないことが分かる。仮にそれで真実が露呈するかもしれないことを考えると掟の剣を能力をただの操作能力とするのはリスクが高い。

 

 あくまで「自分の意思で仲間を売ったしそのことも話せないが、それは強制されたものである」とヒソカは示す必要があった。その為には操作系によって操られているのではなくより直接的に脅されていることと、その脅しは現在も機能し続けていることを伝えなければいけない。

 

 そのことを踏まえると、掟の剣という発想に至っても不思議ではない。元々ジャッジメントチェーンも相手を操作するのではなく命を握ることで相手に強制させる能力だ。元となる発想が同じだからこそ、ヒソカも偶然似たような能力を思い付いたのだろう。頭やわらかすぎるとは思うがこの世界の人達みんな賢いからなぁ……

 

 

 

ーーーCASE3 信用ーーー

 

 

 

「だからクロロは貴方達の元に行くわけにはいかないし、パクノダもそれを伝えることが能力の伝達に抵触する為に教えられません」

 

「本当かパク?」

 

 ノブナガの問いにパクノダは頷きで返す。皆がこの説明を受け入れてくれれば万事解決なのだが、それだけで終わるとは到底思ってなかったから俺も気合いを入れてたわけで……

 

「信用できねぇな。その女は鎖野郎の仲間だろ?そいつが親切にも鎖野郎を裏切って親切にも俺達に真実を教えている可能性と、そいつが言っているのは嘘でパクノダも操作されている可能性、どっちの方が高い?」

 

 

 

 フィンクスの正論に俺は閉口する。彼は一見単純そうに見えるがその実論理が一貫しているのは原作の継承戦編でのノブナガとの会話を見ると分かるだろう。話に続くのは旅団において頭脳担当であるシャルナークだった。

 

「まあ考えられるのは断然後者だね。けどその子と団長がなんらかの交友関係にあるのは事実だよ。ここに全員が集合する数日前に団長がその子を招いてたよ」

 

「あとアタシもその子と知り合いね。流星街生まれだったんだけど団長が目を掛けて外に出したんだ」

 

「一応シズクとも仲良かったんだけど……」

 

「???」

 

「へぇ!お前さん同郷だったのか!」

 

 マチのお陰で俺が彼らと関係性があるということが保証されたのは幸運だった。旅団の多くは流星街出身であり彼ら自身が基本的に身内贔屓のスタンスでもあるため、俺の話も少しは耳を傾けてくれるはずだ。

 

 相変わらずシズクが俺について思い出してくれることはなかったが。

 

 

 

「俺にとってはクロロはお世話になった人です。貴方達のやってることに俺は賛同できないけど、かと言って害したい訳じゃない。俺がクラピカに協力したのも、双方のダメージコントロールが目的のひとつでした」

 

「その割には鎖野郎に比べてこちらの被害が大きい気がするがな」

 

「…それに関しては俺も貴方達を止めたいと思ってたから。クロロを無力化すれば貴方達は暫くは動けないはずと判断しました」

 

 フィンクスの追及に答える。鳴らないはずの心臓の音が聞こえるような錯覚に陥りつつ、俺は出来るだけ誠実に説明を続けた。

 

 

 

ーーーCASE4 証拠ーーー

 

 

 

「オーケー、大体の言い分は分かった。話の筋は通ってるし、君の言ってる事がもし本当なら、俺達はそれを証明するのにパクノダを失うことになる」

 

「だが信用するには都合が良すぎるな。証明する手段はあるか?」

 

「えぇ、と言っても俺に出せるのはこれだけですが」

 

 

 

 ノブナガに応じて俺は懐から携帯電話を取り出して渡した。その画面にはどこかの荒野が映っていた。

 

「そこに現在のクロロの姿が映っています。さっきも言った通り彼はクラピカの能力によって旅団との接触や能力の行使を禁じられています。ここには来ないでしょうね」

 

 この画面はキルアにクロロの追跡を頼んで実現したものだ。頼んだ時のキルアがとても怪訝な顔をしながら了承したのが印象に残っている。

 

「これ以上の情報は出せません。クロロと貴方達との接触が禁じられている以上、電話を使って連絡するのは無理です」

 

「だから映像だけで我慢しろってか。シャル、この映像が偽造されてる可能性は?」

 

「ほぼ無いと言っていいよ。確かに画質は粗いけどリアルタイムでフェイクを作るともっと違和感が出る作りになるはずだ。場所もすぐに特定できるよ」

 

 コンピュータを使って映像を解析したシャルナークによって証拠が偽造ではないと証明される。

 

 

 

「じゃあ少なくとも団長が五体満足でいるのは確定ってことか」

 

「団長が無事なら信じてあげても良いんじゃない?アタシ達を嵌めるなら団長は絶対殺してるはずだよ」

 

 話の流れがこちらに傾いてきたのを感じ取った俺は口を開く。

 

「俺は貴方達とは直接関係ないけど、クロロには恩義を感じてます。だから彼と親しい人に死んで欲しくないんです」

 

 

 

「…それで、お前の能力は何だ?」

 

 フィンクスの追及に一瞬呼吸が止まる。

 

 

 

「え?」

 

「人質から解放されたのにわざわざ伝令としてここに戻ってくるということは、この状況から逃げる手段があるんだろ?」

 

「逃亡手段は他の奴が持ってるかもしれないがな。俺達が団長を攫われた時の状況を考えたら、コイツの仲間に瞬間移動を使える奴がいる可能性がある」

 

 フランクリンの言葉を受けてノブナガが自身の推測を話す。だが俺にとってはそんなことより最大級の問題が立ちはだかっていた。

 

「私達に信用して欲しいなら鎖野郎か最低で自分の能力でも吐くね。吐かないのなら体に聞くだけね」

 

 フェイタンが刀を見せながら歩いてくるのを見ながら俺は思考を巡らせていた。

 

 

 

 当然だが、今の俺は分身体である。蜘蛛のアジトに本体で突貫するとかただの自殺だ。

 

 だが、そんなこと伝えると今まで頑張って説得してきたのが無駄になるんじゃないか?

 

 今までのは直接顔を出してお願いしたから聞いてくれたのであって、それがただの分身ともなれば遠隔から口出ししてるのと何の変わりもないじゃないか。

 

 

 

 かと言ってこの場で誤魔化すのが良い手段だとは到底思えない。俺はこの緊迫の状況で彼らを騙し切れるほど賢くもそんな度胸があるわけでもない。同じ状況で騙し切れたヒソカに改めて尊敬の念を感じてしまう。ああはなりたくはないが。

 

 

 

 …だから、最初から俺に出来ることは誠意を持って話すことしかなかった。

 

「…俺の能力は分身です。分身体は風船でできていて、攻撃を受けると破裂する」

 

「成程!あの時は暗闇に乗じて分身を出して襲撃したってことか。便利だな」

 

「じゃあ今のお前も分身体なんだな?」

 

「…はい」

 

「じゃあもう帰っていいぞ。情報は出揃った」

 

 フランクリンが冷淡に告げる。俺は焦燥に駆られるままに言葉を探す。

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい!俺を信じ」

 

「もうお前には用はねぇよ」

 

 俺が最後に見たのは右手を向けたフランクリンの姿だった。

 

 

 

ーーーCASE5 記憶弾ーーー

 

 

 

「大丈夫?ステラ」

 

「…あぁ」

 

 気遣うゴンに答えながら俺はホテルの一部屋で目を覚ました。俺に出来ることはやった。あれ以上俺に彼らを信用させる手段なんてなかった。だから仕方ないんだ。

 

「今更だけど…巻き込んじゃってごめんね」

 

「最終的に俺の意思で参加したんだからゴンが謝ることはないさ。それに、今回やったことが意味の無いことだとは思わない」

 

 

 

 この後は恐らく俺の話の真偽を確かめるためにパクノダのメモリーボムを使うのだろう。そして、パクノダは……

 

 

 

 パクノダの能力のひとつであるメモリーボムは、読んだ記憶を銃弾に込めて撃つことで記憶を読んだ相手にはその記憶を忘れさせ、それ以外の相手には読んだ記憶をそのまま伝えることができる能力だ。その希少性はパクノダの読心能力の高さも併せると恐らくこの世に二つと無い激レアと言って良いだろう。

 

 以前考察した時はパクノダの読心能力に関して随一と評価したが、読心能力に限っては同じレベルの能力者が作中にも存在する。それは継承戦編に登場するリンチという女性だ。

 

 彼女の能力、「体は全部知っている(ボディアンドソウル)」は質問をしながら殴ることで殴った相手の心の声を聞くことができるというものだ。発動条件が触れるパクノダと殴るリンチ、読むものが記憶であるパクノダと直接心の声が聞けるリンチで多少の使用感は異なるだろうがこの2つだけで考えたら殆ど優劣は付かない。

 

 だが、メモリーボムも併せるとパクノダの圧勝だ。リンチは読んだ心の声を他者に伝える能力を持ってないし、相手に心を読む以上の害を能力によって加えることはできない。

 

 この辺りはマフィアのいち構成員と幻影旅団のメンバーの差ということなのだろう。リンチも十分優秀なのは言うまでもないが。

 

 

 

 読んだ記憶を詳細に伝えることができるのはとても優秀だ。作中でノブナガにクラピカの情報を伝えたように口頭では伝わりにくい顔立ちや声といった五感による情報を直接伝えることができる。

 

 また、一度にまとまった情報を送ることができるので、原作での最期のように「クラピカの能力によってクロロが旅団との接触を禁じられた」という複雑な状況を一回の能力行使で伝えることができる。仮にこの能力が無い状況でパクノダがあの状況を説明しようとした場合、全てを伝え切る前に死んでいることだろう。

 

 

 

 メタ的に考えるとパクノダの最期から逆算して作られた能力がメモリーボムであり、だからこそ俺がその説明を肩代わりすることで彼女にメモリーボムを使わせないようにしたのだ。その結果は恐らく失敗だろうが。

 

 

 

 だが、それも当然のことなのかもしれない。元々、彼女を生存させることはヨークシン編に関わることになった時に生まれた、ただの思い付きだ。

 

 俺がこの世界に生まれて本当に彼女を生存させる気だったのなら、俺はクロロの誘いを断らずに旅団に入るべきだった。そしてそれを蹴ったのは俺自身だ。

 

 

 

 これは運命や原作の修正力といった言葉では決して濁してはならない、俺の選択の結果だ。だから俺もその結果を受け入れて前に進むべきなんだ。

 

 

 

「もしもし、カイト?数日後にそっちに着く予定だったけど1週間くらい遅れるから」

 

 カイトとの合流を先延ばしにして俺はゴンとキルアの付き添いでGIが売買されるサザンピースオークションの会場へと向かった。

 

 

 

ーーーCASE OF PHYNKSSーーー

 

 

 

 ヨークシンでのゴタゴタを終えて漸く本業に入ることができた俺とフェイタンは目的である伝説のゲームを盗む為にサザンピースオークションの会場に来ていた。勿論入場に必要である目録は奪ったものだ。俺達は盗賊であり欲しい物は奪うスタイルだからな。

 

 そんな中で見知った顔のガキ共が現れたと思ったら即背中を向いて逃げようとしたので回り込んだ。

 

「つれねーな、逃げることはねぇだろ」

 

「逃げるっつーの……」

 

「安心するね。別にお前達殺る気ないよ」

 

 今の俺達が鎖野郎を殺す訳には行かない理由を女が推測する。てっきり死後の念についてはこのガキ達に既に教えていたものかと思ってたが、俺達に協力したことといいコイツら単なる仲間ってだけではないらしい。

 

「死後の念か」

 

「そうだ」

 

「「死後の念?」」

 

「強い恨みや執着、未練を持った念能力者が死ぬと念は消滅せずにこの世界に留まるんだ。その念は行き場を求め、恨みや執着の元である対象に牙を剥く」

 

「鎖野郎はその典型だな。今ヤツを殺ると死後に強まった念は団長に向くだろう。そうなると念能力の使えない今の団長は邪念をモロに受けて心身をやられちまう。だから鎖野郎を殺るわけにはいかねぇのさ」

 

 話をしている途中にフェイタンの視線に気付いてアイコンタクトを送る。今の話には嘘…正確に言えば本当のことを言ってない部分がある。

 

 それは除念師の存在だ。念能力には他者がかけた念を外す能力者がおり、凄腕の能力者ともなれば死後の念すらも外せる。俺達が鎖野郎に手を出せないのは今だけであり、名のある除念師を探し出して団長を除念してもらうまでの話だ。

 

「……」

 

 そしてそれは、目の前の無言を貫いている女にとっても承知のはずだ。それでも除念師のことについてをこのガキ共に教えないということは、この女からしても俺達が除念師を探すことは問題にならないと考えているはずだ。

 

 本当、何を考えてるんだかよく分からねぇ女だな……

 

「パクノダは……あの人はどうなった?」

 

 その女が意を決した様子で尋ねてきた。その内容はパクが生きてるかどうかだったが、俺はその質問で先日の騒動を思い出し改めて腹が立ってきた。

 

 

 

「生きてるわアホ!テメェ無駄にオレ達を混乱させやがって……!」

 

「……え?」

 

 

 

 話は数日前に遡る。

 

 説得しに来た女を追い出したオレ達は改めて女の話を信用するかどうかを話し合っていた。オレとフェイタンは反対派でその話は平行線の様相だったが、パクが銃を取り出したことでその空気が変わった。

 

「仕方ないわね……」

 

「お、おいまさか…!」

 

「何やってるのさパク!それを撃ったらアンタは…!」

 

 それまで特にオレとマチが意見をぶつけ合っていたが、この時ばかりは2人でパクの静止にかかる。

 

 だが当の本人はあっけからんとした様子で答えた。

 

「あのね、確かに私の能力を使えば鎖野郎の情報を伝えることができる。貴方達の危惧している通りにもなるわ。でも、元々あの子のせいで私は鎖野郎の情報を碌に持ってないのよ。既にノブナガに伝えた以上のものを知らないし、私が貴方達に伝える必要がないのよ」

 

 それより、とパクは続けて言う。

 

「あの子が信頼できるかどうかは、私の記憶を見た方が早いわ。勿論、私の記憶を信頼できるならの話だけど……」

 

 そう言いながらオレ達に向けてパクは銃弾を放った。

 

 

 

 

 

「お願いします!俺に説明をさせて下さい!」

 

「なんで貴女がそんなことをする必要があるの?」

 

「俺はクラピカの復讐を妨害したいんです」

 

「アイツは人を害することに忌避感を覚えるくらい潔癖で、仲間を巻き込むくらいなら1人で戦おうとするくらい繊細なんです。本来ならアイツに復讐は一番向いてないんです」

 

「これはただの自己満足です。クラピカからしたら邪魔以外の何物でもないけど…俺は目の前で友人によって人が殺されるのは見たくない!」

 

「…友人のことを大切にしてるのね、もしかして好きだったりする?」

 

「ち、ちがいますよ、確かにクラピカのことは人間的に尊敬してるし好きだけどそんな風に考えてはいません!」

 

 

 

(私も貴女のように考えられたら、少しは違った今があったかもしれないわね……)

 

 

 

 

ーーーCASE6 誤解ーーー

 

 

 

「あっそうか!その手があったか!」

 

「あったか!…じゃねぇよ。こっちはお前の早とちりのせいで揉めたんだぞ」

 

「フィンクスの焦る顔は傑作だたね」

 

「て…テメェ……」

 

 てっきり俺はパクノダが能力を使うと「クラピカに関する情報を漏らさない」というジャッジメントチェーンの条件に抵触すると思ってばかりだった。

 

 しかしよくよく考えたらメモリーボムの銃弾に込める記憶は自由に選べて、しかもクラピカの能力をパクノダは殆ど知らないとすれば、パクノダにはクラピカに関する記憶を撃つ意味は皆無だ。

 

 原作ではクラピカの能力が現状を説明するのに不可欠だからこそ銃弾にクラピカに関する記憶を撃ち込む必要があったが、その工程は俺が説明したことで省略でき、後はクラピカ以外で取引に関する記憶を撃ち込み実際に取引が存在したということを証明すればいい。

 

 

 

「良かったねステラ」

 

「あ、そういや監視の件の報酬貰ってないんだけど!お菓子1万ジェニー分な!」

 

 …だとしたらやっぱり、俺がしたことに意味はあったんだ。

 

 

 

「…フン、やっぱり気持ち悪い奴だな」

 

 フィンクスとフェイタンは元に座っていた席へと戻って行った。俺はなんだか救われた気持ちになると共に、今後の目標を改めて意識した。

 

 

 

ーーーCASE7 ヨークシン閉幕ーーー

 

 

 

「え?もう行っちゃうの?まだクラピカも起きてないのに……」

 

「仕事があるからな。なんなら最初の予定では今頃は着いてるはずだったんだぞ」

 

「そうだった、オレが電話掛けた時には空港にいたんだよな……」

 

 オークションの翌日、俺はヨークシンを出発する為にゴン達に別れの挨拶をしに来ていた。仕事があるというのは本当だが、大部分はクラピカに後ろめたい気持ちがあるから会いにくいというのが心境だ。

 

「そういうわけだから、修行を見ることはできないということで」

 

「う〜、仕方ないかぁ」

 

 ゴンが意気消沈して項垂れる。現在の彼らはGIのプレイヤー募集審査の合格を目指して修行中だ。特に念の四大行である発、要は必殺技を完成させる段階で、発が思い付かず困っているゴンを尻目にキルアが順調に発を作っているところだ。

 

 できればこのままGI編に混じりたい気持ちもあるが、それを断腸の思いで断ち切る。俺は俺で修行しないといけないし、そもそもGI内ではジンということになっていた俺がGI編に介入したら絶対ややこしいことになるからな。

 

「そういやステラは何の仕事すんのさ」

 

「ん?まあ一言で言えば生物調査だな。もう天空闘技場のお世話になることもできないからなぁ」

 

 なんだかんだでもう5年以上お世話になっていた天空闘技場だが、そろそろ200階クラスに居座るのは厳しくこれ以上はフロアマスターになるか失格になるかの2択しかなかった。

 

 俺自身フロアマスターになるつもりはないので90日間の登録期間を過ぎて失格となった。恐らくヒソカはヨークシンにいる間も登録だけはして不戦敗になっていることだろう。アイツにとっては楽園だろうし。

 

「生物調査かぁ、面白そうだね!」

 

「そうか?なんか地味そーだから俺はヤダね」

 

「まあお前達もこういう仕事を後でやることになるだろうさ」

 

「うげ、ステラのそういう発言って大抵的中するからなぁ」

 

「魔法使いだからな」

 

 というかGI終わったらすぐだぞ。そしてそこがいよいよ俺の生死を分かつ時なんだが。

 

 

 

「ま、2人もGI攻略頑張れよ。俺も先達として応援しとくから」

 

 2人に別れを告げて空港に向かう。その心は数日前にヨークシンを発とうとした時よりも晴れやかだった。




 毎度毎度話の畳み方に苦労しますが、今回の難易度は前半の時点で失踪を決意するほどでした。再び書く気力が湧いたのは今になっても感想を書いて下さった方々のお陰です。感謝を申し上げると共に謝罪を…お待たせしてすみませんでした…

 話の途中で原作の修正力等を軽んじるような発言がありますが筆者自身はそんなこと思っていないので不快にさせてしまった方も何卒お目溢しを…

 筆者は大幅な原作改変を書くのが苦手なんですよね。特にハンターのキャラはセリフや多少の動きを考えるのが限界で…これは作者の知能が冨樫先生及びハンターキャラより大幅に低いせいです。


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17. 白の賢人×黒の賢人×幕間


 GI編の考察をしたいけどステラちゃんがGI編に関われないからね、しょうがないね。
 GI編の考察と言いながらゴレイヌのことしか喋ってねぇぞ!?



 

ーーーCASE1 カキン帝国ーーー

 

 

 

 シカの頭を撃ち抜く音が森に響く。

 

「ふう。こんだけ獲れば夕飯には十分だろ」

 

 分身からライフルを受け取りながらシカの死体を分身に担がせてキャンプに戻る。

 

 

 

 ここはカキン帝国の奥地にあるジャングルだ。カキン帝国は主に継承戦編において出てくる国だが、実は蟻編の導入部分にも登場する。

 

 それがカイトの受けていた生物調査の依頼だ。その時のカイトはカキンのことをカキン国と称したが、単なる呼称揺れでカキン帝国であることは間違いないだろう。

 

 今の俺はその依頼を手伝っている。と言っても、俺がやっているのは専ら飯炊き等の雑用だ。カイトのチームはカイト以外アマチュアのハンターしかいないが、ここに来たばかりの俺よりは調査力もあることだろう。

 

 それに俺自身は調査する気は微塵もない。もし調査が捗ってゴンとキルアが来る前に調査を切り上げることになったら軌道修正が面倒だからな。

 

「いやぁ、いつ見ても壮観ですねぇステラさんの分身は……」

 

「ああスティックさん。調査は今の所どうなってます?」

 

 今日の獲物をキャンプへと分身に運ばせていた俺に声を掛けたのはカイトチームの1人であるスティックさんだった。

 

 ちなみに俺の念についてだが、長い間お世話になる以上は魔法という単語でぼかすにも限界があるし(ハンター試験の時に学習したし)、「プロハンターになれば学べる凄い技術」といった説明で済ましている。嘘はついてない。

 

「ぼちぼち煮詰まってきた感じはあるなぁ」

 

「なるほど…ノルマも既に超えてるしもうそろそろが切り上げ時かもしれませんね」

 

「ま、その辺はカイトの判断次第だねぇ」

 

 俺自身はというと、動物を狩猟する時に分身を使って操作技術の向上を図ったり、カイトの気が向いた時に修行を付けてもらったりして蟻編に向けて鍛えている途中だ。

 

 特に操作技術の方に関しては、俺の分身の基本的な仕様が自動操縦なので慣れない武器や道具を使わせるのが難しい。だからこの機会に銃やナイフなどの道具を使って分身に慣らしているわけだ。

 

 この点を考えるとアドリブで念獣にドッジボールをさせられることすら可能な手動操縦型のゴレイヌの能力が羨ましくなる。

 

 

 

(ゴレイヌといえば、俺もGIに行きたかったなぁ〜〜〜!!)

 

 あくまで個人的な意見ではあるがハンターハンターの中で1番盛り上がる章は何かと聞かれたら俺はGI編を挙げるだろう。特にドッジボールはバトルじゃないのにも関わらず、作中トップクラスに白熱するバトルである(???)。今からドッジボールだけでも観戦できねぇかなぁ……?

 

 そのGI編の中で燻し銀の活躍をするのがゴレイヌさんだ。俺のようなファンの間でもゴレイヌさんは非常に人気なサブキャラのひとりである。

 

 彼は激レアカードである一坪の海岸線を巡る中で活躍するキャラであり、人気の理由には強烈な見た目に似合わぬ優れた洞察力や人間性などがあるが、1番の理由にはその能力の優秀さが挙げられる。

 

 

 

ーーーCASE2 白黒の賢人ーーー

 

 

 

 その能力は「白の賢人(ホワイトゴレイヌ)」と「黒の賢人(ブラックゴレイヌ)」といい、白と黒2体のゴリラの形をした念獣を使役する能力である。この2体のゴリラにはそれぞれ特殊能力があり、白のゴリラは能力の持ち主であるゴレイヌとの位置を入れ替え、黒のゴリラはゴレイヌ以外との位置を入れ替えるワープ能力がある。

 

 また先程言及した通りこの念獣の操作形態はオートで動く自律型ではなく自分で操作する遠隔操縦であり、ゴレイヌのイメージが念獣に反映される他ゴレイヌ自身の気絶によって能力が解除されることもあった。

 

 しかしその点を加味した上でもこの能力の汎用性は素晴らしい。遠隔操縦で精密に動かせるからこそドッジボールという高度なルールの球技を念獣にさせることができたのだと考えられる。

 

 単純な念獣の数や強さだけで見れば敵であるレイザーの「14人の悪魔」の圧勝だが、ゴレイヌの念獣にはレイザーのにはない特殊能力があるし、レイザーに関してはGIのシステムによって強化されてる可能性がある。以前GIについて考えた通りであればゲームマスターであるレイザー達はプレイヤー全員から徴収したオーラを使っており、その理屈ならGI内のNPCの作成と維持をしながら強者であるゴン達6名を一度に相手取るという常人にはどう足掻いても不可能なことも実現可能だろう。

 

 

 

 ゴレイヌとその能力の話に戻すが、この能力の特に凄い所は念能力の異なる系統を非常に高い精度で使い熟している所だ。

 

 基本的に念獣や念人形を扱うにはそれを生み出す具現化系、生み出した人形を自身と離した状態で維持する放出系、そして人形を操作する操作系の3つの系統が必要になる。そして問題となるのは、これらの系統のうち放出系と操作系は隣り合っており相性が良いが、具現化系と放出系は1番離れており両立が難しいということだ。

 

 更にゴレイヌの場合は生み出した念獣と場所を入れ替える能力があり、このような空間を操作する能力は能力の作り方にも依るが具現化系か放出系の高い練度が必要になる。

 

 

 

 そのような事情もあり、ファンの間では「ゴレイヌはいったい何系に属する能力者なのか?」という話題でしばしば盛り上がる。俺としては直接会いに行って確かめたかった所だが、GIに行けない以上は考察するだけで留めておくしかあるまい……

 

 

 

ーーーCASE3 ゴレイヌはいったい何系?ーーー

 

 

 

 そして俺は何系かと思ってるかというと、それは操作系だ。「さっき空間操作は具現化か放出が必要って言ったじゃん嘘つき!」と言いたくなる気持ちは分かるがそれは抑えてもらって、まずはその空間操作についてまとめよう。

 

 この概念は継承戦編に出てきたもので、カキン帝国第13王子の念獣の能力によってハンゾーの本体が念空間に閉じ込められたという状況でクラピカが説明した。空間を区切り遮断する能力は放出系と具現化系の相反する系統の能力者が得意とし、放出系は空間そのものを移動させ具現化系は空間内に様々なルールを作り込むことに長けている。

 

 これを踏まえた上で「念獣と自分や他人の位置を入れ替える」ゴレイヌの能力を上記の放出系か具現化系の2択で考えると、移動を伴う放出系に属した能力だと考えられる。

 

 但し、この念獣との入れ替えというものが基本的な放出系の瞬間移動と比べてどのくらいの難易度かを考えると放出系一択とも限らないと考えられるのだ。

 

 

 

 例えば蟻編に登場するノヴの能力である「4次元マンション(ハイドアンドシーク)」と比較してみよう。これは放出系に属する瞬間移動の能力だ。現実とは異なる空間に念空間であるマンションを作り、そこを出入りするという形で現実の空間を瞬時に移動したり長時間消えたりできる能力だ。

 

 これは出入り口を繋げてさえしまえば何度でも自由に行き来が可能なわけではあるが、ゴレイヌの能力だと念獣との入れ替えという形であるために4次元マンションほど自由に移動が可能なわけではない。これは他の瞬間移動能力者と比較しても同じことが言える。

 

 単なる瞬間移動だと高度過ぎるために放出系でないと出来ないかもしれないが、入れ替えという形を取ることでレベルを下げて他の系統能力者でも運用可能にしている可能性もあるのだ。

 

 

 

 この考え方は念獣の具現化においても同様のことが言える。人間と見間違えるほど精巧な作りをした分身は具現化系能力者でないと扱うのは難しい、というのはカストロという例で理解できるだろう。カストロさん考察でいつもお世話になってます。

 

 だがゴレイヌの念獣のゴリラは実在するゴリラほど精巧に出来ているか聞かれると違うと思う。漫画の表現の問題だからその辺は微妙だけども。

 

 この理屈は先程例に出したノヴの4次元マンションでも同じように考えられる。ただ単に移動させるのとは違い、マンションという念空間を作るのは具現化系の領分だ。しかしながら、Minecraftで初心者が作った豆腐ハウスのような簡素なマンションであれば、これは具現化系からは程遠い放出系能力者が扱えても不思議じゃない。

 

 

 

 そして、その理屈で考えていくと俺が何故ゴレイヌが操作系だと考えたのかに辿り着く。

 

 ゴレイヌの念獣は手動で操作する遠隔操縦であるというのは先に説明した通りである。そして、彼が扱うのは2体の念獣でありこれを同時に操作することも可能であった。

 

 同じように念獣や念人形を遠隔操作する能力は原作で思い付く限りカストロのダブルしか存在しない。ダブルの「人間と見間違えるほど精巧な具現化能力」と「念獣や念人形を遠隔操作で動かす操作能力」は他系統の能力者が使うとパンクするような高レベルの能力だと考えても良いだろう。

 

 それを踏まえると「ゴリラ2体を同時に遠隔操作する」というのは操作系以外には実現不可能のように思えるのである。

 

 

 

ーーーCASE4 ゴリラを具現化した理由ーーー

 

 

 

 この「具現化系と放出系のレベルを落として実現した」説を前提にゴレイヌの能力を考えていくと面白いことに気がつく。それは能力及び念獣の名前である。

 

 2体の念獣の名前はそれぞれブラックゴレイヌとホワイトゴレイヌと、ゴレイヌ自身の名前を冠している。

 

 いくら自身がゴリラと似ているからといってゴリラの念獣に自身の名前を付けるのは、ゴレイヌは余程ゴリラへの愛着があるのだろうな〜とか普段なら考える所だが、これを「具現化系のレベルを下げた結果ゴリラになってしまった」と逆転の発想をすることで彼が本来目指した能力の完成図が見えてくるのだ。

 

 

 

 それは「ゴレイヌそっくりの分身を2体具現化し、自分や他人と場所を自由に入れ替える」という能力である。

 

 これは相当に恐ろしい能力であると考えられるだろう。視覚的な撹乱効果に加えて入れ替え能力による奇襲性と撹乱効果は抜群だ。なんなら普通に俺の能力の上位互換である。

 

 しかしながら、具現化系以外の能力者にとって自身そっくりの念人形を作ることが如何に難しいかはカストロが実証済みだ。煙を媒介にすることで具現化の過程を省いたモラウのような例外もあるが、ゴレイヌを見る限りそのような裏技は使ってはいないはず。

 

 結果として、分身を具現化する予定が自身の名前を冠したゴリラ型の念獣が出来てしまった。彼自身ゴリラに似てることをコンプレックスにしているかどうかは不明だが、もし気にしているのなら誓約による能力の出力上昇にも期待できるであろう。

 

 

 

ーーーCASE5 瞬間移動の2種類のタイプーーー

 

 

 

 話が少々前後してしまうのだが、今度はゴレイヌがどのように入れ替えという能力を実現しているのかについて考察したい。

 

 

 

 継承戦編において明らかにされた設定の中に瞬間移動のタイプというものがある。これは瞬間移動を発動する為のプロセスによって分かれ、結界形式と地雷形式の2種類が存在する。簡潔に纏めると、

 

・結界形式 : 念を込めた補助道具を利用して広い範囲で複数の移動ポイントを作る。

・地雷形式 : 特定の場所に念で直接移動ポイントを設置する。強制力が強いが2〜3ヶ所が限界。

 

 である。結界形式に属する能力者としては、GI編でレイザーの部下としてボクシングを担当した人が挙げられるだろう。彼の能力は神字(念能力の発動をサポートする印)が描かれたリングの上で、自分の拳を瞬間移動させるというものだった。恐らくリングという結界の範囲内であれば、拳以外にも自在に瞬間移動ができたと思われる。

 

 地雷形式に属する能力者といえばノヴが挙げられるだろう。彼の能力であるハイドアンドシークは地雷形式の特徴とほぼ一致する。

 

 強いて言うのなら、この特徴が該当するのはマンションの出口に限ったものであり、入り口に関しては最大で32個増設できたり簡単に作ることができたりと特徴に当て嵌まらない。このことから、同じ瞬間移動でも「現実の空間から念空間に入る」より「念空間から現実の空間に出る」方が難易度が高いのだと推測できる。

 

 

 

 さて、肝心のゴレイヌがこのどちらかに該当するのかという話なのだが、これは地雷形式の方が筋が通っていると考えられる。入れ替えの対象はゴリラ2体と決まっており、強制力の強さも能力の内容と噛み合っている。

 

 だが、ゴレイヌの能力は既存の地雷形式とは異なる。彼は移動ポイントを自在に動かせる念獣とすることで、本来は移動ポイントを設置して地雷の名前の通り運用していた所を、移動ポイントを自在に変更可能にしたのだ。

 

 これは非常に素晴らしいアイディアだ。点Pにしか飛べないのなら点Pを動かせばいい、という発想はまさにコロンブスの卵とでも言うべきだろう。

 

 

 

 ゴレイヌの能力は一見すると素晴らしいものだが、深く考えるほどより素晴らしいことに気付く素晴らしい能力なのである。

 

 

 

ーーーCASE6 気狂いピエローーー

 

 

 

「どうした考え事か?動きが鈍いぞ」

 

「くっ」

 

 それに比べたら自分の能力使いにくくね?と思ってしまうのはどうしても仕方のないことなのかもしれない。

 

「でもそれを言ったらカイトの能力が1番使いにくいじゃん!」

 

「突然人の能力を中傷するんじゃない」

 

 ここに来て何度目かのカイトとの手合わせだったが、ここの所は俺の全敗だった。余計なことを考えてる自覚もあるが、1番の要因は蟻編までのタイムリミットが近づいて焦りが生まれていることなのかもしれない。

 

 休憩に入りながらカイトの持っている大鎌を見ながら話す。

 

「それって他人が持っても使えるの?」

 

「…さっきから攻め方が不自然かと思ったら、武器を奪い取ろうとでもしてたのか?」

 

「…あー、まあそんな感じ」

 

 さっきのは単純に動けてなかっただけだったが、勘違いしてくれるならそれでいいやと苦笑する。

 

「仮に俺以外の誰かがコレを奪い取ったとしても俺が望めばいつでも俺の手元に戻せるし、俺が手を離せばその分能力も弱くなる。この鎌にしても切れ味はなまくら同然にまで落ちるだろうな」

 

「オレ様とカイトは一心同体ってワケさ!」

 

「コイツが喋らなくなるのだけは羨ましいかもしれんな。全くもって鬱陶しい」

 

 得意げに話すのはクレイジースロットのおまけに付いてるピエロだ。それに対してカイトはうんざりとした口調で鎌を消失させる。そんなやり取りを目にしながら俺はなんとなく、カイトのクレイジースロットは思っている程に使いにくい能力ではないのかもしれないと思い始めていた。

 

 

 

ーーーCASE7 ハズレ?ーーー

 

 

 

 以前、カイトのクレイジースロットのことをクソな制約がある分強力な武器を具現化できる能力という風に説明した。実際この説明は間違ってないのはカイトの口調や描写から見ても間違いないのだが、本当に具現化する武器がルーレット通りだとすると幾つかの不自然な点がある。

 

 

 

 まず一つ目は恐らく「3」の出目のバトンで発動する能力だ。これはジン曰く「死んでたまるかと思った時でないと出ない番号」であり、裏を返せば普段は絶対に出ない番号だ。

 

 この時点でクレイジースロットはルーレットで1〜9の中からランダムで選ばれる能力ではなく、1〜2、4〜9の中からランダムで選ばれる能力であると言える。

 

 

 

 そして二つ目は、ルーレットの出目に対するカイトのセリフだ。作中でクレイジースロットの発動機会は3ヶ所あり、最後にピトーを相手にした時以外で、カイトは出た目に対して「ハズレだ」と言っていた。

 

 これだけなら単にカイトは運が悪いんだなとしか言えないが、状況と出た武器を考えると本当にハズレかどうかは非常に怪しいのである。

 

 例えば最初はゴンとキルアとカイトとキメラアント3体でそれぞれ一対一の場面でライフルを具現化し、次はキメラアントの軍勢を相手する時に大鎌を具現化したのだが、これが逆のケースであったと考えるとどうだろうか?

 

 ゴンとキルアが自分の戦いに集中している時に大鎌の能力である「死の円舞曲(サイレントワルツ)」など発動してしまえばゴンとキルアは御陀仏だし、逆に多数相手にする時にライフルを具現化しても大鎌ほど簡単に処理することはできなかったであろう。

 

 それを踏まえると、カイトがライフルや大鎌をハズレだと言える理由は彼が全ての出目から現在の出目の良し悪しを判断しているのではなく、もっと良い出目を基準に判断しているからではないかと推測できるのだ。

 

 

 

 つまり何が言いたいかというと、クレイジースロットの出目には状況に応じてある程度都合の良い武器が引けるという有意性があり、完全なハズレを引かされるようなクソ能力ではないんじゃないか、ということである。

 

 

 

 カイトの性格には、具現化系能力者の性格診断や同じ具現化系のクラピカがそうであるように神経質で完璧主義の傾向がある(性格診断に明確な根拠は無いし、シズクや俺みたいな反例もあるけど)。

 

 彼の性格ならルーレットを回す前に理想の出目で想定してもおかしくはない。だからこそハズレと言うほどでもない出目に対してハズレだと言い切ったのでないか。

 

 自分の想定した武器とは違う武器で戦わされるというのはカイトにとってはかなりのストレスだろうし、そうなると出目が完全ランダムでなく有意性はあっても制約的には十分に機能するに違いない。

 

 

 

 そしてこれらのことを考えていると、この能力を教えた張本人であるジンはどこまで考えていたのだろうかと末恐ろしい気持ちになる。案外何も考えずに作っていてもおかしくはないけども。

 

 

 

 いやぁ、それにしても、

 

「ドッジボール見たかったなぁ……」

 

 

 

ーーーCASE OF GONーーー

 

 

 

「勧誘するプレイヤーに心当たりはあるか?」

 

「アンタの方は?」

 

「いたら1人でプレイしてないさ」

 

 オレ達は現在、ソウフラビという街で一坪の海岸線を手に入れる為の仲間を探していた。レイザーと14人の悪魔と呼ばれる海賊達が入江を占拠しており、一坪の海岸線を手に入れるには彼らと対決して追い出す必要があるのだ。

 

 

 

「バインダーで今まで会ったプレイヤーのリストを確認してみろよ。プレイヤーの横のランプが暗くなっている所はそのプレイヤーが現在GIを離れているか、または死んだかだ」

 

 そう言われてリストを確認してみたものの、クロロと名乗ってるプレイヤーの正体が気になるだけで大した収穫はなかった。

 

「んー、わかんないなぁ……」

 

「誰といつ遭遇したのかほとんど忘れてるし、まあ凄そうな奴に出会ったら覚えてるはずだしな」

 

「ツェズゲラさんはどうでしょうか?」

 

「ツェズゲラか…できることなら仲間にしたくはないな」

 

「えっ何で?」

 

 ビスケが今まで会ってないプレイヤーの中で有力な人物を挙げる。ツェズゲラはオレ達がGIをプレイする為の審査員を務めた人物で、星持ちの凄腕のハンターだ。彼ならば実力的には問題無いはずなのに、何故か渋い反応をするゴレイヌに理由を聞く。

 

 

 

「奴らも「爆弾組」と同じくゲームクリアが目前のカード収集率が高いチームだ。オレ達の目的はそいつらの持ってないレアカードを入手してゲームで優位に立つことだから、ツェズゲラを仲間にするのは割に合わない。協力だけしてもらってカードは渡さないって作戦なら話は別だが……」

 

「流石にムシが良すぎるな……」

 

「よっぽどゲーム慣れしてないとかじゃない限り、ゲームクリアを目的とする実力者のカード収集率は高いでしょうからねぇ」

 

 ビスケの言葉は本人の実感もありそうだった。オレ達の場合キルアがいなかったらカード収集は全く進んでいなかっただろう。だけどそんなプレイヤーが多いとはとても思えないし…と悩んでいると、ひとつ閃いたことがあった。

 

 

 

「あ、ゲーム外から協力者を探すってのはどう?」

 

「ゲーム外から…?」

 

「…そうか、今ゲームの中にいる人は大抵がクリア目的のプレイヤーだからカード化限度枚数も含めて協力体制を敷きにくいけど、そうじゃない現実の協力者なら条件はクリアできる!」

 

「なるほどな…だが、現実から協力者を集めるには二つほど問題があるぞ」

 

「何があるんですか?」

 

 ビスケの問いかけにゴレイヌが答える。

 

「一つ目は協力者の条件だな。ゲーム内であればカード報酬という目に見える利点があるから協力関係を築きやすいが、現実で協力者を雇うには金が要る。それも実力者ともなれば相応だな」

 

「進んで協力してくれるようなお知り合いはいませんの?」

 

「生憎だがオレには。居たら2人でプレイしてたさ」

 

「オレ達の場合だとクラピカとレオリオがいるけど……」

 

 キルアの言葉を受けて2人を思い浮かべる。そう言われてみるとあまり良い考えではなかったかもしれない。

 

「クラピカは仕事で忙しそうだし、レオリオも受験勉強するって言ってたもんね」

 

「そもそもレオリオは実力的に足りてねーけどな。後はステラくらいか……」

 

「ステラも仕事があるって言ってたよ。それにヨークシンで迷惑かけちゃったばっかりだし」

 

「…アイツのことだからひょっこり顔を出してきてもおかしくはないけどな」

 

「キルアはステラにどんなイメージを抱いてるのさ」

 

 確かに言われてみると、オレ達が居るところには大体彼女が先回りしてそうな気はするけども。

 

 

 

「二つ目の問題は協力者がGIをプレイする方法だ。前のような選考会が開催されるならともかく、それ以外でGIをプレイするには金銭的ハードルが高すぎる。そんな道楽をできるような奴なら既にこっちの世界に居るだろうさ」

 

「あ、確かに……」

 

「次の選考会が前と同じヨークシンのオークションと同じ日に行われるとしたら半年以上は先だぜ。その頃にはクリア者が出てもおかしくねー」

 

「うーん、良い考えだと思ったんだけどなぁ……」

 

「実際良い考えだったとは思うわよ。カード化限度枚数のシステムを見る限りこっちで協力体制を敷くには限界があるでしょうし」

 

 ひょっとしたらジンも最初からそういう想定でこのようなシステムを作ったのかもしれない。ゲームだけに熱中しているより適度に現実世界で活動の輪を広げた方がクリアしやすい、みたいな感じで…まあ考えすぎかもだけど。

 

 

 

 結局オレの提案したゲーム外から協力者を集める手段にもツェズゲラに話を通す必要があるということで、現状はまずゲーム内で有力な人物を探す所からだった。

 

「このゴレイヌさんの上にある名前の人は誰だろう?オレがGIに来て初めて出会ったのはゴレイヌさんのはずなのに」

 

「ニッグか…オレのリストには無いな」

 

「…ニッグだと?都市伝説の類だと思ってたが実在したのか?」

 

「知っているのゴレイヌさん?」

 

「ああ」

 

 キルアと今まで出会ったプレイヤーのリストを見ながら話しているとゴレイヌさんが食いついてきた。

 

 

 

「5年以上前に流行った都市伝説だ。GIから出られなくて困っているプレイヤーの前に現れてはGIから帰還するのを手伝っていたという。今の古株の中にはニッグのお世話になった人もいるらしい。その正体はゲームマスター或いはそれに近しい人物だとか、NPCに自我が宿ったのだとか色々言われてるな」

 

「へェ〜」

 

「でもそのニッグって人のランプは付いてないから今はGIにはいないみたい」

 

「となると都市伝説は謎のままか」

 

 オレがGIに来る前のプレイヤーということは、これはオレがプレイする前のセーブデータに関する人物なのだろう。そしてニッグという名前から考えると、ニッグの正体はもしかしたらジンだったりするのか?だとしたらゲームマスターに近いという噂にも合致する……

 

「どうしたゴン?」

 

「あ、何でもない!ねぇゴレイヌさん、そのニッグって人の噂は他には残ってないの?」

 

「うーん、オレも他のプレイヤーから聞いたのはこれくらいだからなぁ。古株のプレイヤーの中には面識ある奴もいるかもしれないが、オレの交友関係も広くないし」

 

「うーん、そっかぁ」

 

 まだニッグという人がジンだと決まったわけではないけれど、オレの中ではそのニッグに対する興味が湧いてきた。カードを集める過程でもっと知ることができたらいいんだけど。

 

 

 

「あっでもひとつだけニッグのことで共通してる噂はあるぞ」

 

「それってどんなの?」

 

 キルアの質問にゴレイヌが答える。

 

 

 

「10歳くらいの幼い少女らしい。色んな噂を呼んでるのはその見た目のインパクトもあったからだとか」

 

 

 

「え゛っ……」

 

 




 ゴレイヌの考察長すぎだろと冷静になって数えたら4000字越えてました。
 この小説書いてる人バカです。


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18. 再会×別行動×隠密行動と絶と隠


 もしステラがドッジボールに参加していた場合、分身をゴンの砲台役にすることでキルアの負担を軽減していたと思います。これならノーリスクで撃てますし、ゴンにとって彼女はキルアほどではないとはいえ信頼(無茶振り)足りる相手です。
 でもゴンとキルアの友情のエモさが薄れるため彼女の出番は無いです。

 ということで蟻編突入です。



 

ーーーCASE1 再会ーーー

 

 

 

 それはキャンプの夕食の為に魚を釣っている時のことだった。明るい光が遠くからこちらに飛んでくるのを見た俺はその時が来たのを確信した。

 

「来たか…!」

 

 半年しか経っていないのに見違えるほどに強くなったゴンとキルアを見て才能の違いを痛感しつつも2人を出迎える。

 

「あれ…ステラ!?」

 

「おぉ暫くぶりだな。現実世界でカードを使ってるってことはゲームはクリアしたのか、おめでとう2人とも」

 

「「??????」」

 

 頭に大量のハテナマークを浮かべてるゴンとキルアに種明かしをする。と言っても、原作知識無しに俺が説明できることは俺がジンの弟子(仮)でGIでニッグとして活動したくらいだけど。

 

「はぁ!?オメーがジンの弟子とか、もっと早く言えよ!!!」

 

「仕方ないじゃん!ゴンがジンの息子だってことは後から気付いたんだし、ゴンのフルネームとか聞く機会無かったし(苦しい言い訳)」

 

「いや〜、だけどなんだか安心したよ。ちょっと感情を整理できてなかったから……」

 

 俺に突っかかるキルアの反応は大体予想通りだったが、ゴンの反応が微妙だったのが気になった。

 

 

 

「ジンが幼女になったと思ってたぁ!?」

 

「…うん……」

 

「だーかーらそんなこと有り得ねぇ話だってオレは何度も言ってたじゃねーか」

 

「…でもGIには年齢や性別を変えるアイテムがあったし、ミトさんがよく言ってたジンが父親失格って話、もしかしたらそういう意味かもって……」

 

「プククッ…アーハッハ!流石にそれは考えすぎだって!」

 

 どうやら年若い少女である俺がニッグとしてGIで活動してたことで、ゴンはてっきりジンがTSしたものだと思ってしまったらしい。それで原作と比べてなにやら尻込みしていた様子だったのか。超ウケる。

 

 年齢や性別を変えるアイテムといえば、多分魔女の若返り薬とホルモンクッキーのことだろうな。確かにアレらを使えば外見も自由自在に変えられるだろうが「ジンが女になってる」なんて、ぶっ飛んだ考察動画くらいでしか聞いたことないぞ。

 

 

 

「それはそれとしてステラは自分のこと喋らなさすぎだっての!少しは反省しろ!!」

 

「分かった分かった!痛いから髪引っ張んないで〜」

 

「ったく!せめてGIのプレイヤーだったのならヨークシンの時に教えてくれよ!」

 

「先達として応援してるって言ったし……」

 

「そこで「あっ、既プレイの方だったんですね。」って反応できるわけねーだろーが!」

 

 おっナイスノリツッコミ。

 

「まあまあキルアもその辺に……」

 

「…なんだ騒がしいな客か?…ってお前ゴンか!随分とでっかくなったなー!」

 

「カイト!?」

 

 そこはまさにカオスと言うべき空間だったが、ゴンとカイトが思い出話に興じてる間に、俺はなんとか落ち着きを取り戻したキルアにカイトの紹介をしていた。

 

「へー、ゴンの命の恩人でステラの兄弟子なんだ」

 

「まさかゴンがジンの息子さんだったなんて、カイトから聞くまでは夢にも思ってなかったよ。イヤーセケンハセマイナー」

 

「…お前まだ何か隠してるわけじゃないよな?」

 

「ソンナコトナイヨ」

 

 これで後は俺が持ってる情報は原作知識くらいだし、原作知識は墓場まで抱える所存なので許して欲しい。

 

 

 

ーーーCASE2 東ゴルトーとNGLーーー

 

 

 

 その後はゴンとキルアも生物調査を手伝うことになり、2人はその才覚を活かして調査は大成功に終わるが、ヨークシンのサザンピースに奇妙な生命体の一部が持ち込まれたことから事態は一転する。

 

 その奇妙な生命体の正体こそがキメラアントの女王なのだ。キメラアントは獰猛な上、摂食交配という特殊な産卵形態をとっており食べた生物の遺伝子を取り込み次の世代へと反映させる能力がある。しかも発見した体の一部から推定される大きさは本来のサイズを大きく超えており、人間を喰らって繁殖していてもおかしくはなかった。

 

 大型キメラアントの脅威を危険視した俺達は女王が漂着した場所を世界各地で失踪事件が起きたかどうかから調べ、それらしい記録が見つからなかったことから消去法でNGL(ネオグリーンライフ)自治国と東ゴルトー共和国が怪しいと睨んだ。

 

「NGLって?」

 

「ネオグリーンライフという団体の略称。機械文明を捨てて自然の中で生活しようって連中だ」

 

「伝染病が蔓延しても国際医師団の入国を拒否したくらいだ。人が動物や魔獣に殺される程度なら自然の成り行きとして黙認するだろうね」

 

 カイトの説明を受けて補足する。この広い世界の中でたまたまNGLに紛れ込むのはやはり運命の悪戯的なものを感じてしまう。無論これがただの偶然ならそちらの方が良いのだが。

 

 例えば、キメラアントの女王がもし先程NGLと並べて挙げた東ゴルトー共和国に流れ着いたらスムーズに繁殖できていたとは到底思えないのだ。

 

 東ゴルトーは典型的な独裁国家であり、軍部が非常に強い力を持つ。王が産まれ兵隊蟻の殆どが念を覚えた後ならば取るに足らないが、初期のキメラアントの軍勢が本物の軍隊とやり合えばどうなるかは分からない。

 

 キメラアントの種族的特徴として昆虫としての硬さが挙げられるが、それでも現代兵器に対して無双できるかは非常に怪しい。原作でも師団長クラスが放った念弾で装甲車に傷ひとつ付かなかったり、作中最強を誇るメルエムですら薔薇の爆発で瀕死まで追い込まれたりと、念を覚え勢力を増大させた後半ですら現代兵器相手に対して苦戦すると思わせる描写がある。

 

 NGLにも一応の武装はあったようだが、素人の防衛程度では軍隊とは雲泥の差だろう。なんならその程度の悪知恵は却って逆効果で、NGLが自然文明を傘にして裏で麻薬を生産するような黒い集団だったからこそ、キメラアントは悪党を喰らって効率的に邪悪さを学べたという見方もある。

 

 

 

 NGLの検閲は厳しくカイトのチームと合わせて元々10人居た俺達のうちNGLに入国できたのは6人だけだったが、元より念能力者以外は連絡要員だから問題ない。

 

 NGLから遣わされた監視の目を受けながら進んでいた俺達の元に届いたのは手紙だった。それには血文字でキメラアントの場所が描かれており、それはポックル達先遣隊の全滅を表していた。

 

「かなり危険だが一緒に来るか?」

 

「もちろん!」

 

「オレ達だってプロだぜ」

 

 ここからは本格的に危険の伴う仕事となる。そのことをカイトは言外に伝えながら2人に意思を問う。後発とはいえ最初からカイトのチームの一員である俺には拒否権は無い。

 

「カイト!ワタシ達は?」

 

「2人は国境に戻って他の奴らと合流!協会に最高レベルの危険生物が出たと連絡してくれ!」

 

「了解!」

 

 他のメンバーに連絡を頼んだ俺達は今まで移動に使っていた馬から降りて駆け出す。ここから先は時間との勝負だった。

 

 

 

ーーーCASE3 別行動ーーー

 

 

 

 蟻達と本格的に接敵し捕捉される前に俺にはやるべきことがあった。

 

「ここから先は二手に別れよう。ゴンとキルアを頼む」

 

「…分かった。無茶はするなよ」

 

「それは俺が一番分かってるさ」

 

 それはカイト達と離れることだ。言うなればこれは、俺がピトーに殺されるカイトを見捨てるという選択であるが、他に幾つかの戦略的利点もある。

 

「ちょっと待てよ、流石に1人は危険だろ。せめてオレ達のどっちかが……」

 

「キルア、それは驕りだよ。現状では今の2人じゃ援護になるどころか逆に足手纏いになる確率の方が高い」

 

「なんだって…!」

 

「ステラの言う通りだ。これから想定される戦局に対して今の2人の実力では話にならん。だがそれは今だけの話だ」

 

「2人の才能ならこれからの実戦で幾らでも実力は伸びるさ。だが、その為だけに戦力と時間を割くのは惜しい」

 

 猛るゴンとキルアに対して2人で諭す。仮に俺がこの場所に居なければ3人で進む他になかっただろうが、俺が加わったことで戦力的な余裕が生まれた。

 

 相手がピトーでなければカイトとこの2人なら戦力的には全く問題ない。そして相手がピトーであれば…物語は筋書き通りに進むだろう。そのどちらにしても俺は不要であり、むしろ邪魔とすら思える。

 

「幸いステラの能力は1人で戦うことに向いている…というよりチームで戦うことに向いてない。分身の中に別の人物が混ざってはデコイの役目は果たせないし、戦闘中に鳴り響く音は敵を呼ぶ誘蛾灯になり得る」

 

「……(あんま人のこと言えない癖に…)」

 

 どさくさに紛れてカイトから能力のダメ出しを受けるが事実ではあるので口をつぐむ。

 

 結局の問題はそこだ。タイマンを見据えて一見隙のないように作った俺の能力は、戦術的観点までは数的有利という面で有利に働いても戦略的観点まで行くとメリットよりデメリットの方が目立つ。このような戦局において俺の能力はガバガバな穴だらけである。

 

 しかしそれは別働隊の陽動や生存率の上昇という面では役に立つと言い換えることもできる。流石に1人で大立ち回りする気は皆無だが、俺の能力であれば余程のことがない限り敗北する前に撤退できるし、その余程にあたる不意打ちや狙撃なども分身を使ってリスクを抑えることができる。

 

 俺がこれらのことを見据えて能力を作ったのかと聞かれると全くのNOだが、この重要な局面において俺の能力は非常に都合が良かったのである。

 

「これを渡しておく。俺の能力でこちらからは場所の探知と連絡が取れる。非常事態なら割ればこっちに伝わる」

 

「OKだ。ゴン、キルア、行くぞ」

 

「「分かった!」」

 

 カイトに渡したのは手のひらサイズにまでの小型化に成功し、持ち運びやすくした風船人形だ。これは以前に手動で動かす分身を監視カメラやビーコンとして使用したヤツの発展形である。分身として作る人形のサイズを変更するのはなんとなく難易度が高そうなイメージだったが、小さくする分には問題なかった。逆は無理そうだが。

 

 流石にいつでも場所を探知できるわけではなく、探知している間は分身の操作に意識を奪われ無防備にはなるが、大した時間も掛からないので戦闘中でなければ十分に許容できるデメリットではある。

 

 

 

ーーーCASE4 隠密行動と絶と隠ーーー

 

 

 

「さて、これからどうするべきか……」

 

 3人を見送った後、自分が何をするかを考える。極論を言ってしまうとここで離脱しそのままフェードアウトすれば、大方は俺の望む通りに原作に沿って動くだろう。

 

 だが、不確定要素が無いわけではない。ゴンとキルアの運が悪ければピトーからの逃亡中に他の蟻に襲撃され無傷で帰還することはできなかったかもしれないし、最悪の場合も十分考えられる。

 

 だからこそ人形を渡して不測の事態に備えたわけだし、その方針ならやはり自らの戦力を向上させることは不可欠だった。幸い、銃などの武器は拾えそうだし、麻薬工場まで行けば武装には困らなさそうだ。

 

 

 

 絶の要領で隠を発動する。隠にはオーラを隠して凝以外では見えなくする他に気配を消す効果がある。つまるところ尾行や隠密行動時において隠は絶と同じように使えるのだ。

 

 そして隠と絶のどちらがそれらに相応しいのかの答えは状況によって異なる。各々のリスクの捉え方の問題と考えてもらっても良い。

 

 例えば、蟻編の中盤でノヴが1人で王の住む宮殿内に潜入した際、彼は隠密行動中でも能力を発動していたことから絶ではなく隠を使っていたと考えられる。能力を発動してない状況では絶であった可能性もあるが、接敵時から能力行使までの短さを見るとやはり隠であると考えた方が自然だ。

 

 絶を使った隠密は何より隠密のバレにくさを念頭に置いたものである。気配を隠すのではなく消すことから、円や一部の探知能力以外のオーラを使った手段では隠密を察知することはできない。これは例えば隠れる相手が予め決まっていて、相手がこちらを察知する以外に警戒すべきことがない場合には有効だろう。ゴンとキルアがヨークシン編で行った幻影旅団への尾行がそれに当たる。「バレること」を最大のリスクとした時ならこちらだ。

 

 隠を使った隠密はバレた際のリスク低減が主な目的だ。当然ながら絶の状態では防御力は皆無の為に少しの被弾が命取りとなる。絶を使った隠密は警戒外からの不意打ちや狙撃に対して非常に弱い。ノヴの隠密も「絶対にバレない」というよりは「バレた時にすぐに能力で撤退する」を意識してるように思える(勿論バレないに越したことはないが)。対してパームには逃亡手段が無い=リスク低減の意味が無い為、絶で隠密をしていたのだろう。その結果復活したピトーの円に対する防御反応としてオーラで身を守ったことが裏目になったのだが。

 

 

 

 今回のケースを考えると、どこで察知されるか分からない以上は絶で気配を断つのはリスクが高すぎる。現状の蟻の殆どが念を使えない以上、隠を凝によって見破られるのはほぼあり得ない。むしろ獣と交配した蟻特有の聴覚や嗅覚など念以外で察知される可能性を考えた方が良い。そして俺は交戦自体を避けてるわけではなく囲まれることを避けているわけで、多少察知された所で口封じすればいいだけだ

 

 隠を発動させた俺は麻薬工場を探すことにした。

 

 

 

ーーーCASE5 蟻の弱点ーーー

 

 

 

 途中何体かの蟻の兵士と交戦はしたものの特に苦戦はせず何事もなく処理した俺は麻薬工場の入り口を発見した。

 

 工場内部も蟻に占拠されていて何体かと戦うことになったがこちらも大した苦労はなかった。体感だとここまでで約数時間経過していた。

 

「これで制圧完了かな?武器庫かなんかで使える武装を補充したらカイトに連絡するか」

 

 種族全体として挙げられる蟻の特徴としては昆虫特有の硬さが挙げられ、ゴンの渾身のジャジャン拳グーですら蟻の兵隊であるラモットを死に至らしめることはできなかった。それほどまでに硬い蟻ではあるが決して無敵ではない。強化系の渾身の一撃で死ななかったラモットは一方、念を身につけて一層防御力が高くなったはずなのにキルアの手刀によって一瞬で首を刈られてしまった。

 

 勿論この時のキルアはビスケの修行を受けた上でイルミの呪縛から解かれて絶好調になっており、蟻編開始時のゴンより間違いなく強いのを忘れてはいけないが、それを加味しても変化系であるキルアの手刀が強化系であるゴンのグーより威力で勝るとは思えない。

 

 更に、ラモットをグーで仕留められなかったゴンはその後の戦闘においてチョキで蟻を両断している。戦闘の内容もゴンがグーを出せば耐えられたという旨だった。ゴンの系統は放出よりの強化系で変化系のチョキの威力は低いにも関わらずである。

 

 

 

 つまり一見無敵に見える蟻の防御力も殺傷力の低い攻撃に限った話で、殺傷力の高い攻撃に対する防御は無い。ここで言う殺傷力の高い攻撃とは、関節等の局部を破壊する攻撃や内臓を破壊する攻撃のことである。早い話、口を開かせてそこに銃を撃てば大半の蟻は死ぬだろう。よく蟻編以降のハンターハンターは銃が強すぎるなどと言われるが、それはそれまでの銃の使い方の問題で、使いようによっては蟻だって倒せるのだ。

 

 変身後ザザンのような全身を満遍なく硬化させるような相手は処理しにくくて厳しいかもしれないが、それでも高熱に対しては対抗策はなく現代兵器があれば蟻は問題なく倒せるというのが俺の結論だ。

 

 

 

ーーーCASE6     ーーー

 

 

 

「カイト!」

 

「その声、ステラか?」

 

 カイトのポケットから顔を出して連絡を取り合う。この人形の唯一の弱点、それは俺が小人化することだ。小さな分身に意識を移す必要があるからな。

 

「そっちの戦況はどう?」

 

「今は奴らに囲まれているが、どうやら向こうはタイマンが望みらしく2人の経験値にしてる所だな」

 

 確かに見た所、ゴンがアルマジロ型の蟻と戦っているようだった。原作と相違が無くて何よりである。

 

「こっちは付近の工場を制圧して分身に武装させた所。合流する必要ある?」

 

「そうだな…女王の巣を発見したら一度合流しよう。その時は連絡をくれ」

 

「了解」

 

 

 

「はぁ……」

 

 本体に戻ってため息を吐く。

 

 

 

 ピトーから逃げる最中のゴンとキルアと合流し、2人を無事送り届ければ、俺のやるべき事はもうない。

 

 2人はカイトを取り戻す為に必死に戦い傷付き、戦後キルアは死に瀕したゴンを助け妹を救う為に家族と戦う道を選ぶ……

 

 ゴンを救うまでにおいては恐らくイレギュラーなことは何も起きないだろう。ゾルディック家の家庭内指令がある限りキルアが死ぬことはあり得ないし、そんなキルアがアルカを守る限り彼女が死ぬのはもっとあり得ない。

 

 

 

 

 

 

「俺の戦いは終わった……これで晴れて自由なわけだ」

 

 

 

 本当にそれでいいのか?

 

 このままカイトを見殺しにして???

 

 

 

「だって仕方がないだろう…?そうしなければゴンは復讐の意思を持たずあれほどの無茶を敢行しなかった!何よりカイトは復活する!俺が中途半端に助けに行ったって、原作になかった死者が1人増えるだけだ!」

 

 それで復活したカイトとゴンの前で言ってやるのか?「色々あったけど皆無事で何よりだった」と!?

 

 

 

 ふざけるなよ…!訳知り顔で原作を荒らし回って、味方ヅラしながら大事なことは何も教えず、最後に顔を出してハッピーエンドでも告げるのか?上位者気取りも大概にしやがれ…!

 

「だったらどうするんだ!?このまま介入して俺が死ぬだけなら問題ないさ!だけど俺がカイトを助けに行くことでカイトの心境が変化すれば、最悪カイトの復活すらも無くなるんだぞ!?」

 

 

 

 …ようやく分かった。あの一回を除いて俺がヒソカに勝てない理由、ここに来る前のカイトとの手合わせで勝てなかった理由を。いや、これはもっと前から気づいてたはずだ。

 

 

 

 何故なら、念使いの気概について俺は一度考えたことがあるからだ。

 

「…念での戦闘に戦う前から勝ち負けを決められるものなんてない。勝敗など戦ってみないと分からない。その上で自分が100%勝つ気でいることが最重要」

 

 今の俺はその気概を持ち合わせていない。ピトーを前にして負けのことばかり考えて、ヤツに勝つ気がない。そしてそれはピトーに対してだけの話じゃない。

 

「…ヒソカに対してもそうだった。ヒソカに負けて殺されない為に殺し合いを回避したけど、その時から俺は負けてたのか…っ!」

 

 

 

 ピトーに負けたらどうする?を考えている限り、俺は一生負けたままだ。それが嫌なら…

 

「ピトーに勝つ為にどうする?か。…やっと、ようやく俺が何をすべきなのか分かった気がする」

 

 

 

「ピトーを倒したら当然カイトを助けるし、カイトを助けたらゴンが命を賭ける理由は無くなるし、ゴンが再起不能にならないとアルカを助け出す理由は無くなるし、そうなると厄災であるナニカが世界を襲う可能性がある」

 

 なーんだ、話はシンプルじゃないか。

 

「だったら俺がアルカを助ければいいな、うん。キルアと協力して、ゴンも多分手伝うだろうし、なんだったらここでヒソカもヤっちまうか」

 

 この能力を作った時に俺は一体何を考えてたのか、最近は忘れてたな……

 

 

 

ーーーCASE OF STELLAーーー

 

 

 

 人形を使ってカイト達の位置を探知した俺は、そこへ向かって全速力で駆ける。工場の制圧と先程までの葛藤で随分と時間を無駄にしたようで、合流まではかなり距離があった。

 

 ただし、原作においてカイト達がNGLに突入してからピトーの強襲を受けるまでには一度日が沈んで昇るだけの時間が経過しており、カイト達の進軍速度を考慮しても俺がカイト達と合流してピトーを迎え撃つまでには十分間に合うだろう、というのが俺の見立てだった。

 

 

 

 蟻の襲撃を考えなければ、の話だが。

 

「ホーホッホーッ!また女王様の栄養になりそうなエサを発見したべ!オラはついてるべ!」

 

「ちっ、これまた面倒な奴らと遭遇したな」

 

 それは処理した蟻の数がそろそろ20を超えたかどうかくらいの時だった。人面蜘蛛というべき風貌の蟻と相対した俺は小さく舌打ちをした。

 

 目の前の蟻はパイクといい、先程名前を挙げた蟻の師団長ザザンの側近だ。階級は兵隊長ではあるものの、念を身に付ける前からオーラを視認できるほどの潜在能力を持っており、恐らく作中の兵隊長クラスの中では一番強いと思われる。

 

 そしてコイツがいるということは、近くではザザンが控えていると考えた方がいいだろう。作中でポックルを倒した彼女らの強さは伊達ではないと俺は思っており、幻影旅団の武闘派ともある程度は戦えたことからもパイクのみならずザザン隊自体の強さが他の隊より上であると俺は考えている。流石に新たな女王を名乗るだけのことはある。

 

 

 

「でも今の俺は護衛軍とヤるつもりなんでね!テメェらの相手してる暇は無いんだよ!」

 

「なっ!エサがいきなり増えただ!?」

 

 ワンダーバルーンで分身を召喚して一気に戦線離脱を図る。パイクは4本の手で分身を捕まえようとするが……

 

「このエサ喰えないべ!?はっ!そもそも喰っちゃいけないんだったべ!」

 

 捕まえた分身が破裂したことで大きな衝撃を受ける。そのまま分身達と共に離脱しようとしたが、奴が立ち直る方が早かった。

 

 

 

「数が多いなら一度に全員捕まえればいいんだべ!」

 

 飛び上がったパイクが尻から粘着質の糸を繰り出す。これは後に対峙するシズクを拘束した技「愛の放物線(ラブシャワー)」の原型だろう。今の時点での彼らは念能力は使えないが、それ以前からザザンの尻尾にはポックルを麻痺させた神経毒があったように、パイクが生態特有の能力として蜘蛛の糸を発射しても何らおかしくはない。

 

「うっほーっ!大漁だべーっ!」

 

 大量の分身を捕まえたパイクが糸を手繰ってエサを回収しようとする。

 

 

 

「隙だらけだ」

 

 その隙を狙う者は2人いた。

 

 パイクの背後から現れた俺は手にしたナイフで頸を狙う。

 

 

 

「それはこっちのセリフね」

 

 俺の背後からザザンの声がする。原作でも彼女はパイクをフォローする形でポックルを不意打ちしており、彼を一撃で仕留めた尻尾の針が背後から俺に迫っていた。

 

 

 

 まあその俺は分身なのだが。

 

 最初に分身を召喚した時、本体である俺は大量の分身に紛れて近くの茂みに隠れた。その後手動の分身を召喚し、俺はそれを意識的に動かしていた。勿論気配は消している。

 

 俺は茂みの中からライフルで狙いを付ける。そのターゲットはパイクではなく、ザザンでもなく、俺の分身だった。

 

「またいつか会えたら今度は相手してやるよ!」

 

 

 

 ワンダーバルーンともう一つの能力である「体内に水素を生成する能力」、俺はこれらを使って爆弾人形を作るのだが、その能力の殺傷力はそれほど高いわけではない。

 

 勿論一般人を爆殺するには十分な威力だろう。生半可な念能力者を爆殺するのもタイミングに依るがそこまで難しくはない、どちらも当然やらんが。

 

 だがこのコンボを初披露した際にオーラで防御したヒソカを殺せなかったように、この能力には一定以上の実力者を殺すほどの殺傷力は無い。

 

 そして、このコンボは念能力ではなく物理的、科学的な現象を利用した攻撃なので、オーラを込めれば込めるほど攻撃力が上がるというものではない。大したオーラを使わずに一定の威力の爆破攻撃が行えるのは利点だが、オーラ量や制約を変えてもそれ以上の火力は出せない欠点もあるのだ。

 

 

 

 では、これで殺し切れない相手に対してこのコンボを使う意味が薄いかと言われたらそれは違う。単純なダメージも十分見込めるし、何より爆発時に発生する光と音による視聴覚に対する攻撃は、聴覚のみを考えても風船人形破裂時のそれを大きく超える。

 

 そして俺がこの攻撃を行うタイミングは決まって同じだ。「他の分身と動きの異なる分身が破壊される」時。手動で操作する分身はその操作精度の高さもあり、分身ではなく本体と捉えられる可能性が高い。そしてその分身を破壊しに行くということは、相手は本体と誤認して致命の攻撃を敵である俺へと仕掛けているケースが殆どだ。

 

 そんな時に本体と思われた敵が爆発したらどうなるだろうか?

 

 不意を突くという意図では最大級の効果を発揮するだろう。発生する光と音で目を灼き耳を塞ぐのみならず、発生した熱は本当に目を焼き、音は鼓膜を破壊しても何らおかしくはない。

 

 

 

「ま、再会する可能性なんて無いと思うけど」

 

 地面をのたうち回っているパイクとザザンを尻目に、俺は先を急いだ。

 

 

 

 カイト達と合流する寸前のことだった。俺はカイトに渡した人形の破裂と、そして今までに対峙した誰よりも不吉なものをもたらすオーラを感じた。

 

 

 

「遅かったか!!!」

 

 辿り着いた俺が一番に発した言葉がそれだった。

 

 右肩から先を失ったカイト、気絶したゴンを背負ったキルア。俺はあと少しのタイミングで間に合わなかった。

 

 

 

「いいや、ジャストタイミングさ」

 

「中々盛り上がってきたな!ドゥルルルル…」

 

 だがまだ取り返せる。片腕は失ってもカイトの実力はピトーに惜しまれるほどであり、2人で協力すれば奴に間違いなく勝てる!

 

 

 

 だから、俺が考察すべきは…ピトーに勝つ為にはどうするかだ!!!

 

 

 

「大鎌を出せ!!」

 

「6!期待に沿えなくてワリィな嬢ちゃん!」

 

 ピエロが大鎌ではない出目を宣告するが、それは大して重要じゃない。重要なのは、3以外の出目を宣告したこと。つまり、「カイトはまだ死ぬ気じゃない。生きて勝つ気である」ことだ。

 

 

 

「出るまで回し続けろ!俺一人でコイツの相手をする!!!」

 

 




 ようやく自分が考えていた展開まで来れたな…いやぁ長かった……
 今回の話は自分の性癖を詰めに詰め込んだせいか、後から読み返したら絶対恥ずかしい出来になってると思います。
 具体的には後半のシーンですね。自分の感情と理屈の間挟みに遭ってバグるキャラが本当に本当に大好きで、考察部分が感情を出し始めてステラ自身を責めるという描写はパニック感を出したいという思い付きで書きました。
 ヨークシン編のクラピカと蟻編のキルアいいよね…


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19. VSネフェルピトー


 いつもと違って地の文を三人称視点にしました。蟻編のナレーションのように読んで頂ければ幸いです。



 

 ネフェルピトーは目の前に突如現れたステラの戦力をこの場にいる人間のオーラ量の比較から推定した。カイトは先程の強襲により片腕を失っていることから、ピトーは彼より先に万全の状態のステラの排除を優先すべきだと判断し、目標を彼女へと変更する。

 

「当然な風船人形(ワンダーバルーン)!」

 

「へぇ〜、念ってそんなこともできるんだ」

 

 ステラは能力を使って大量の分身を生成し、同時にローブの中から無数のナイフを取り出してピトーに向かって投擲する。

 

 飛来するナイフをピトーは避けるまでもなく受けるが、その鋼鉄のような皮膚を傷付けるにはナイフでは余りにも不十分だった。

 

 

 

 しかしその程度のことを原作知識を持つステラが予測できないはずがない。彼女の真の狙いはピトーに弾かれ地面へと落ちたナイフにあった。

 

(なるほど…ナイフ投げは攻撃のように見せかけて、分身達にナイフを装備させる布石……)

 

 先程は大したオーラも込められていなかったが、そうでなければ先程の様な無傷とはいかないだろうとピトーは感じ取る。武器にオーラを込めてその攻撃力を飛躍的に増加させる念の高等技術「周」の存在のことをピトーは知っていた。

 

 

 

 分身によって囲まれたピトーはナイフを持って襲ってくる分身達の攻撃を対処する。だが、先程想定した周によって強化された攻撃より余りにも違いすぎる手応えの無さにピトーは困惑し、反撃によって破壊した分身の挙動からワンダーバルーンの仕組みのおおよそを看破した。

 

「ッ!?(うるさいニャ!!この感触と破裂音…分身の正体は風船!攻撃力も皆無!)」

 

(今っ!)

 

 突然の大音に一瞬の隙を見せたピトーに対してステラが強襲する。

 

 

 

 通常の念能力者ならそれだけで致命ともなるはずの不意打ちを、ピトーは野生本能と言うべき察知力を以って凝で防御する。そのたった一度の遣り取りを経て、ピトーはステラの能力とそれを使った戦術を理解するに至った。

 

(大量の分身は全てブラフ…!その中から本体だけが本命の攻撃を仕掛けてくる!)

 

 相手の戦術を理解したピトーは腰を落として周囲の気配をより鋭敏に探ろうとする。ステラはそのピトーの「待ち」の姿勢を見て、自身の作戦が順調に成功していることを確信し、静かにほくそ笑んだ。

 

 

 

(流石にイージーウィンとは行かないか…だが、これで時間を稼ぐ盤面は整った!ネフェルピトーの本領は猫の性質を受け継いだことで手に入れたしなやかな肉体、それを最大限に活かした素早さ!足を止めた時点でカモだ!)

 

 

 

 その考えが余りにも安直すぎたと彼女が後悔するのはその一瞬後、ピトーから発された、この世全ての不吉を込められたと形容するに相応しいオーラに全身を襲われ、僅かに自身の身体が反応したことを自覚した時だった。

 

 

 

「みつけた」

 

 ピトーが円を発動したのは単なる思い付きだった。円なら分身に紛れている本体も見つかるかと思い、そしてその思い付きは不正解でありながらも正解という結果を導いた。

 

 もしピトーが普通の念能力者なら円で本体を見分けることは出来なかっただろう。風船という実体を持つステラの分身は円発動時において本体と同様に感知される為、ただ単に円を発動するだけでは分身と本体の見分けが付かない。

 

 だが、ピトーのオーラは普通の域を遥かに超えた凶悪な物だった。それを受けて一瞬だけ怯んだ彼女を、一体誰が責められるだろうか。

 

 

 

 全ての意識を回避に集中させ、迫り来るピトーの一撃をなんとか躱し、再度分身へ紛れたステラは自分の短慮を責めた。

 

(分かってた!!!ピトーは円を持っていることも!ピトーのオーラがノヴやパームのような実力者達の心を容易に折るほどに凶悪なことも!)

 

(だが理解していなかった!読者として漫画を読んで理解した気になってただけで、大事なことは何も理解できていなかった!)

 

(普段からヒソカの隣で凶悪なオーラを受け慣れてたから、ピトーのオーラも耐えられるはずだった?…なんて甘っちょろい想定だ!ピトーのオーラがヒソカより凶悪なことなど他ならぬキルアが言ってただろうが!)

 

 

 

「…もうちょっとで当たったのに」

 

 攻撃を躱されたピトーはもう一度本体の場所を探ろうと円を発動しようとする。だがその前に分身達の一部が行動を変化させたのを見て行動を改めた。

 

 

 

 ライフルを構えた分身達がピトーへと一斉射撃する。銃弾の一部を避け、一部を腕で受け止めながら、ピトーは円を発動するか否か選択に迫られた。

 

(銃撃から身を守りながら円を使うのはちょっと疲れるかな?さっき円を使って気付いたけど、戦闘中の円はしんどいし、ちゃんと把握できる範囲も通常よりかなり狭いみたいだ。…でもこのまま待ってても、必ずしも本体が仕掛けてくるとは限らない)

 

(クソっ、こんな早くコレを使わされるとは!弾もそんなに持ってないのに!)

 

 

 

 一瞬の思考の後に、ピトーは再度円を発動する。しかしながら先程本体を暴くことのできた円は、今度は正解を導くことはできなかった。

 

(っ!反応したら思う壺だっ!)

 

 ステラは必死に恐怖を堪えながら、分身達と同じように引き金を引く。彼女は機械的にライフルを連射するという行動を取り続けることで、ピトーの凶悪なオーラを受けて自身の行動が変化し本体と察知されるのを防いだのだ。

 

 この時ばかりはステラもヒソカに感謝した。ヒソカよりピトーの方がオーラが凶悪なのは事実だが、それでも普段から凶悪なオーラの下に身を置いたことが、耐えられない恐怖を必死になれば耐えられるくらいの恐怖にまで軽減させた。

 

(ヒソカが居なかったら多分コレに耐えることはできなかった。あんなヤツでも役に立つことがあるんだな……)

 

 

 

 そして訪れた均衡状態は、ステラがライフルの弾を撃ち尽くすまで続いた。時間にするとほんの十数秒だったが、その時間は決して無駄ではなかったことを、ピトーのいる場所とは全く別の場所に居た分身が消滅したことから実感する。

 

(カイトの合図…大鎌の準備ができたんだっ!だったらやることは至ってシンプル!)

 

 

 

 弾切れとなったライフルを捨て、ステラがピトーへと突貫する。その行動を円で察知したピトーは円を解き、迎撃の構えを取る。だが、

 

(フェイント?)

 

 接触するタイミングになっても攻撃は来なかった。

 

 そのことを奇妙に感じながらもピトーはもう一度円を発動する。三度目の円はライフルを連射するという機械的動作を使えなくなったステラを反応させ、その居場所を容易に映し出した。他の分身達がライフルを撃ち切って動かなくなったのも、ピトーにとっては反応した個体との比較がしやすいという追い風に働いた。

 

 

 

「今度は逃がさないよ」

 

「ッ!」

 

 円を解いたピトーは察知した対象へと襲いかかる。

 

 ステラはその攻撃を避けようと全集中を回避に傾けるが、数回の攻撃を避けるのが限界だった。

 

 

 

(仕留めた!)

 

 ステラの心臓に目掛けて手刀を突き入れながら、ピトーは確信する。だがその確信は一瞬後困惑に変わり、そして真っ白な光に変わった。

 

 

 

 爆発音を合図に2人は動いた。

 

 

 

 攻撃を受けた直後にはピトーは己が爆発に巻き込まれたのだと気付いた。ダメージ自体は種族特有の防御力によって抑えられたものの、明滅する視界、脳内に鳴り響くキーンという金属音、焼け焦げた匂い、ピトーは一時的に五感の中で外界の情報を知るのに大きな役割を占める視覚と聴覚と嗅覚を同時に消失した。

 

 

 

 その瞬間こそステラが狙っていた隙だった。

 

 

 

「今だぁーっ!!!」

 

「死神の円舞曲(サイレントワルツ)!」

 

 空中に跳んだステラの叫び声に合わせてカイトがその大鎌を振るう。

 

(たとえ他の攻撃ではピトーを殺せなくても、この攻撃でなら間違いなくヤツを殺せる!師団長を含めた蟻十数体を両断して尚有り余る力!その殺傷力は原作でも恐らくトップクラス!)

 

(…獲った!)

 

 

 

 

 

 

 ステラとカイトが勝利を確信する中、ピトーは真っ白な光の中で濃密な死の気配が自分に迫っていることを悟った。

 

 自身を襲う初めての感覚に対し何よりも先に恐怖を感じたピトーは、その恐怖から逃げようとするべく一心不乱に跳んだ。

 

 

 

 結果として、絶好のタイミングで放ったカイトの一撃は空中へ跳んだピトーによって躱された。

 

 

 

「獲り損ねた!」

 

「まだだ!大鎌を寄越せ!空中で確実に葬る!」

 

 カイトはまだ視界が定まっていないピトーの様子から、依然として今がチャンスであり、大鎌をステラに渡すよりも自分が直接ピトーを攻撃した方が良いのではないかと一瞬思った。

 

 しかし、片腕を失って戦力の下がった自分の代わりにここまでをお膳立てしてくれたステラ自身が要求していること、クレイジースロットを他者に渡すとどうなるのかは以前彼女に説明していたことから、何らかの作戦があるのだと彼女を信じて大鎌を投げ渡す。

 

 

 

 空中で大鎌をキャッチしたステラが分身を発動するのと、未だ不明瞭な視界の代わりに周囲の状況を認識する為にピトーが空中で円を発動したのは同時だった。

 

(アレだけは食らったらマズイ!)

 

 自身を囲む大量の人影達の中で一体だけ、大きな鎌を持った者を認識したピトーは、その鎌こそが先程自身に死の恐怖を刻み付けたものだと瞬時に確信する。

 

(…でも体の制御が利かない空中で鎌による攻撃を回避し続けるのは不可能!だったらこっちから攻撃するしかない!)

 

 

 

 そのピトーの神業というべき技術にステラは驚愕を禁じ得なかった。

 

(空中で円をしながら分身の位置を正確に把握し、それを足場にして飛んできやがった!?こっちだって分身を足場にするのは咄嗟に召喚した奴に限るってのに、なんてふざけた空間把握能力と身体能力だ!)

 

 

 

 次々と破裂する分身を背にこちらへと飛んできたピトーの攻撃を避ける為に分身を出して飛ぶが、ピトーは出現したばかりの分身をステラと同じように足場にして追いかける。

 

(クソっ!鎌一点狙いか!)

 

「だったらこれはどうだっ!」

 

 このままでは追いつかれると思ったステラは、鎌を分身のいる方向に投げ渡し、懐から取り出したナイフで攻撃する。

 

 ピトーはその攻撃を避けながら、ステラを踏み台に鎌を投げた方向に飛ぶ。鎌を受け取った分身はまた別の分身に鎌をパスするが、ピトーはパスした分身を破壊しながら鎌を追いかける。

 

 

 

 ピトーは分身を破壊して空を飛びながらステラから鎌を奪おうとし、ステラもまた分身を出して空を飛びながら鎌を奪われないように逃げる。2人は翼を持たずして空中にて戦いを繰り広げた。

 

 いつまでも終わらないかに思えるその追いかけっこも、分身を足場にするだけのピトーと違って足場にする為の分身を出現させなければいけないステラの一手分の差が、分身が徐々に減っているという目に見える違いとして戦況を変化させていた。

 

 

 

 分身が全て消失し、いよいよ追い込まれたステラは猛スピードで突っ込んでくるピトーを鎌で迎撃しようとする。

 

「くそッ!」

 

 先程までの空中戦でピトーの目は既に回復しており、視界の代わりとして使っていた円も解いてその攻撃に集中する。

 

(無駄ッ!その鎌よりコッチの方が速い!)

 

 リーチの長い大鎌はそれ故に懐に潜られると無力、それを証明するかのようにピトーはステラの攻撃を懐に潜り込んで回避した。そして、

 

 

 

「っ!!!!!」

 

 ステラが声にならない悲鳴をあげる。ピトーの鋭い爪が彼女の胸に突き刺さっていた。

 

 

 

 ピトーは刺さっていた手を引き抜いて地上へと真っ逆さまに落下していくステラを見ながら思案する。

 

(貫通させるつもりで突いたけど浅かった。鎌での攻撃が失敗したのを悟り一瞬で防御に切り替えたか。どちらにしても、鎌を手放した時点でボクの勝ちだ)

 

 

 

 そこまで考えてピトーは致命的な違和感を覚えた。

 

「鎌はどこだ…!?」

 

 

 

 ステラは地上へと落下しながらピトーを睨み続ける。その口元は笑いを湛えていた。

 

(ネフェルピトー、お前の最大の弱点は念の経験不足にある。念の知識の方はポックルの脳クチュでほぼ完璧に仕入れたんだろうが、知識だけでは念は分からないことが沢山ある)

 

(例えば俺の能力を見た時、念での戦闘経験の豊富な能力者なら大量の分身がハリボテである可能性を高くみる。念獣や念人形を扱うのには相当な集中力とオーラが必要であり、それを大量に出して戦わせるなど常識的に考えると不可能だからだ)

 

(だがお前は、俺の分身が振るったナイフをバカ正直に防御し、その手応えの無さから困惑を覚えていた。それはお前がまだ念能力によって何が出来て何が出来ないのかを感覚的に理解できてない証拠だ。まあ当然だ、まだ蟻の中じゃ誰も発を作ってないんだから)

 

(同様に、お前は大鎌を持った俺の姿を見て、大鎌は俺が出したものだと思っただろう。本来なら分身能力に加えてこれほど斬れ味を持った武器を二つ目の能力として持つなどあり得ないが、お前はそれがあり得ないことだとは分かってない)

 

 そしてステラは、ピトーのその先にいる人物を見た。

 

(お前は最初からずっと俺一人と戦ってたつもりだっただろうが、それは俺がカイトを切札として伏せていたからそう見えただけなのさ!)

 

 

 

 ピトーが再び死の恐怖を感じて後ろを振り返るのと、カイトが残った左腕で大鎌を振るうのは同時だった。

 

(俺達の勝ちだ!)

 

(今度こそ獲った!)

 

(…やられた!)

 

 三者はそれぞれ勝利と敗北を確信する。

 

 

 

 

 

 

 カイトの太刀筋には幾つかの理由によって生じた、誤差数ミリ程度の小さな歪みがあった。

 

 それは失った右腕に起因する身体的バランスの問題。それは妹弟子が傷付けられたことに対する心配と怒りの感情。それは勝利を目前にして生まれた、残心を心得る達人にさえ生じるほんの僅かな気の緩み。

 

 もし、それらの内どれかひとつでも欠けていたら、その歪みの誤差はより小さくなりピトーが活路の光を見出すだけの隙間は生じ得なかっただろう。

 

 もし、ピトーが猫の遺伝子を受け継いだキメラアントでなければ、その小さな隙間に活路の光を見出すことはできなかっただろう。

 

 

 

 カイトの振るった致命に至るはずの刃は、斬られる直前に驚異的な身体能力を以って体勢を変えたピトーの右肩から先を斬り飛ばすという結果に終わった。

 

 

 

ーーーCASE1 失敗ーーー

 

 

 

 胸の傷をオーラで止血し、俺は息を切らしながら着地する。

 

 地面に着地した俺とカイトは戦闘続行の意思を見せるべく構えは解いていなかったものの、少なくとも俺の心は折れていた。それは胸から滴り落ちる血だけが原因ではない。

 

「アハっ、これでおあいこニャ〜」

 

 落ちた右腕を拾いながらピトーが笑顔で話す。ピトーの片腕が無いのを考えても今の消耗した俺達では勝つ確率は限りなく低いし、何より先程までで切札は全て使ってしまった。分身爆弾による撹乱も能力の誤認も一度きりの奇術だ。

 

「ヤツを仕留め損なった責任は自分で取る。お前は逃げろ」

 

 カイトは俺が万策を尽くして気力を失っていることに気付いたのか、殿を申し出る。

 

 それを有難く思うと同時に。もしカイトが腕を失っていなかったら、俺がもっと早くカイトの元に辿り着いてたら、俺があの時うじうじしていなければ、こうなった責任はカイトではなく俺にあるのに、責任を取るべきは俺なのに、今それを言っても彼には何ひとつ伝わらないであろうことが何より辛かった。

 

 

 

「…絶対に死ぬなよ」

 

「死なんさ。泣き虫な妹弟子を放っては置けないからな」

 

 

 

ーーーCASE2 逃亡ーーー

 

 

 

 ピトーから逃げたゴンとキルアが無事キメラアントの巣の近くから逃げ切れたのは、決して偶然ではなくひとつの理由がある。その時キメラアント達は念能力を習得する為にラモットが一体ずつ外法(念による攻撃)で目覚めさせていたのだ。

 

 ラモットがゴンのジャジャン拳グーを受けて回復して念能力を獲得するまでにそれほどの時間は経過しなかった。ゴン達がキメラアントと初遭遇した相手こそがラモットであり、撃退された彼が回復したのはゴン達はカイトに見守られながら兵隊長とタイマンしていた時だった。俺が工場を制圧して連絡を入れていた時でもあり、回復と念習得までの時間は精々長くても5時間くらいだと思う。

 

 ラモットが行う念による攻撃はゴンのグーよりは威力は低いのは確実で、そして念を覚える前のラモットはオーラを視認できず彼自身の階級も兵隊長クラスと決して高くはない。

 

 であれば、念を覚える前からオーラを視認していた蟻やラモットより強い師団長クラスの蟻なら彼よりもっと早いペースで念を習得していてもおかしくないのである。

 

 

 

 ピトーとの交戦に時間を費やした俺がNGLから脱出する前に念を習得した蟻に囲まれる。それは俺が蟻編に介入する想定の中で最悪中の最悪と設けたケースであった。

 

 

 

「あらぁ…また会ったわね。女王直属護衛軍が取り逃したニンゲンってアンタでしょ?」

 

「ホホーッ!またレアモノだべーっ!」

 

 数時間前に会った時より明らかに強くなっているパイクとザザンを見ながら俺はどうしようかと途方に暮れていた。

 

 こっちはピトーから受けたダメージもあるし装備も殆ど使い切ったのに、今からが本格的な逃亡戦の始まりらしい。

 

「…勘弁してくれマジ……」

 

 

 

ーーーCASE OF ???ーーー

 

 

 

 いつも上から踏ん反り返ってるより、たまには現地を視察した方が現場の士気も上がる。それがボクが会長の仕事ぶりから学んだ上に立つ者としてのやり方です。それを普段からできてるかどうかは別として、意識だけは持っておきたいですね。

 

「ま、今回はただ単に会長の最後の仕事ぶりを拝見できたらと、足を運んだだけなんですけど」

 

「副会長!」

 

「でも報告では、会長はノヴさんとモラウさんを使うらしいんですよねぇ。おふたりの能力から考えたら、会長の勇姿を見ることは出来ないかもしれないんですねぇ」

 

「副会長!付近で重症のハンターを発見しました。どうやら人型キメラアントとの交戦で負傷しているようです」

 

「あ、すみません聞き逃してました。それでその人はどうしました?」

 

「はい(聞いてるじゃねぇか…)現在は保護、治療中です」

 

「ああ良かった!同士たるハンターが死んでしまったらボクの心は悲しみで張り裂けてしまいますから」

 

 胡散臭いとでも言うかのような部下の視線を受けながら、ボクはそのハンターをキメラアントに食べさせるという考えを却下した。

 

 仮にキメラアントに食べられるとしても今のタイミングは惜しい。何故なら現在はキメラアントの女王が次の王を産もうとしている真っ最中であり、今人間が食べられてもその大部分が王の栄養として使われて、使いやすい兵隊蟻として産まれ直す可能性は薄いからだ。

 

 

 

「それにしても……」

 

 あのキメラアントの巣から単独で脱出するとは、中々優秀なハンターのようですね。ボクの知ってる人でもないみたいだし、機会があれば是非協専にスカウトしたい人材だなぁ。

 

 

 

ーーーCASE3 パリストンーーー

 

 

 

「知らない天井だ……」

 

 どうやら俺は、蟻の巣から逃げる過程で深手を負い、近くにいたハンターによって保護されたらしい。病院に搬送された俺は約2ヶ月もの間昏睡状態だったと。

 

「って2ヶ月!?」

 

 状況を完全に把握した俺は素っ頓狂な声を上げる。

 

 NGL自治国に入国したのが5月の頭だから、その2ヶ月後となると7月だぞ。多分もうゴンとキルアが東ゴルトー共和国入りした頃じゃないか?

 

「…完全に出遅れたか」

 

「というか東ゴルトー入りってことはもう作戦決行中だよな…俺が介入できる余地無くねぇか?」

 

 

 

 ゴンとキルアが討伐隊として東ゴルトー入りするまでの経緯は、ノヴの弟子であるパームとモラウの弟子であるナックル、シュートのどちらかが討伐隊入りできるという話でゴンとキルアはパームの助っ人枠に選ばれ、色々あって最終的に5人全員が討伐隊に選ばれたという流れだ。

 

 その話の流れ的にも、作戦総指揮者であるネテロ会長の方針的にも、今から俺が飛び入りで参加しようとしても拒否される可能性が高い。キメラアント討伐がハンター協会の請け負った仕事(ハント)である以上、指揮系統を乱すような真似は論外だろう。

 

「確かに元々は介入するつもりは無かったけどさ。…あの時ピトーに勝てたら、そのまま今後の流れを変えられたかもしれないけど、負けた俺にはそんな資格はないってことなのかもしれないな……」

 

 はぁ…とため息をつく。

 

 

 

 療養中の俺に客が来たのは目覚めてから数日後のことだった。

 

 瀕死の俺を拾い救ってくれたハンターと聞いて、NGLの近辺に居た生きたハンターはそう多くないはずだと少々不審に思いながらも、俺を助けてくれたのは事実だから感謝の意は伝えないとな、と直前までは思っていたが、病室のドアが開いた瞬間その思考は一変した。

 

「いやぁ〜、目が覚めて大変良かったです!あ失礼、ボクの名前は…」

 

「…ご紹介は不要です、ハンターなら知らない人の方が少ないでしょう。副会長さん…!」

 

 ハンター協会副会長であるパリストン・ヒル。確かにお前なら、キメラアント達やそれと戦うハンター達の状況の把握とコントロールが可能だろうな…!

 

 

 

ーーーCASE4 協専ーーー

 

 

 

「それで、何のご用ですか?普段からお忙しい副会長殿が、自分のような木端ハンターの見舞いに来るなんて滅多にないことでしょう?」

 

「ええそうですね!ボクもそろそろ本格的に忙しくなってお見舞いに行く余裕も無くなるので、貴女が目覚めたのが今で良かったと思ってますよ!」

 

 忙しくなるというのは、十中八九次の会長選挙の準備だろう。蟻編で現会長であるネテロが死んだからこそ始まった第13代ハンター協会会長総選挙だが、蟻によって発生した人的被害の大きさを考えると仮にネテロが死なずとも、責任を問われて会長職を下されていたのは確実だ。

 

「それで貴方の目的は??」

 

「確かにボクは普段から副会長業務で忙しいですが、介抱した人が無事と分かればお見舞いに行くのが人情ってものでしょう?」

 

「目的は???見舞いは本心じゃないでしょう?」

 

「嫌だなぁ、見舞いに来たのは本心ですよ!ついでに、リハビリ中または復帰後の仕事についてはボクに任せてみてはいかがかと思いましてね!ホラ、ボク偉いですから色んなコネもありますし、貴方もプロハンターとしては若手でこういうのは慣れてないでしょう?良い仕事を紹介しますよ」

 

 なるほど。目的は俺に斡旋された仕事を請け負わせる…要は俺を協専ハンターにさせるってのがコイツの腹積もりってわけか。

 

 

 

 協専ハンターというのは協会の斡旋専門の略であり、政府や企業からの依頼を受けたハンター協会がハンター達に仕事を斡旋、その仕事のみを専門として請けるハンターの略称である。

 

 一般的には個人事業となるハンター活動とは異なり、仕事の成否に関わらず報酬を与えられ、これを本業とするハンターは多い。

 

 これの存在自体に関しては俺は肯定している。ハンター協会という組織が政府や企業にとって有益な組織だからこそ、協会の認めたプロハンターに対して大きな権利が認められているだろうし、仕事内容やハンターの状況次第では個人事業の限界が来ることもある。

 

 実際問題、現代日本人的な価値観を持つ俺なら、なりたくないかとだけ聞かれたら間違いなくなりたいと答えるだろう。

 

 しかし協専周りには黒い噂が後を絶たない。その中心人物こそが目の前にいる副会長様なのだ。

 

 

 

ーーーCASE5 副会長の妨害ーーー

 

 

 

 彼が牛耳るのは、仕事に応募したハンターの中から誰に依頼するかの適正審査を行う審査機関だ。つまり、彼の意向によって依頼の成功と失敗をコントロールできるのだ。

 

 原作では、蟻編でヂートゥの討伐を失敗したことの連絡を受けたモラウが副会長が任務を意図的に失敗させていると推測した。

 

「仕事ですか。確かに今の私としてはご紹介頂けるのはありがたいですね」

 

「なにかご要望とかあれば何でも言ってくださいね!」

 

 モラウの推測から考えても、パリストンがキメラアント討伐を協専ハンターに委託できる立場にあるのは確かである。仮にそうでなくても駄目で元々のつもりだった。

 

 

 

 このまま逃げて終わりなんて嫌だ。討伐隊に参加しない以上もうピトーにやり返すのは不可能でも、他の蟻をブッ飛ばすのならまだ手段はある。ただの八つ当たりかもしれないけど。

 

「では、大型キメラアント討伐業務に携わりたいですね。現場に居た個人としては奴らからは放ってはおけない脅威を感じました」

 

「うーん、残念ですが現在その手の依頼は応募が殺到しておりまして。それに目覚めたばかりの貴女の体調も心配です」

 

 …まあ分かってたことだ。会長の妨害を目論むパリストンからしたら優秀なハンターが討伐業務を成功されるのは不本意だし(俺の能力をそこまで高く見積もってるかは別として)、応募が殺到しているのも事実だろう。俺を心配してるのは100%嘘だろうけど。

 

 だったら別の手段を使うまでだ。

 

 

 

「では、大人しく療養していようかと思います。暫くは仕事は要りません」

 

「分かりました!確かに仕事より貴女の健康が第一ですものね!ですがもし気が変わったり仕事が必要なことになれば遠慮なく申し付けを!貴女のようなハンターの皆様を救済するのがボクの使命なので!」

 

 心の底から胡散臭いなと思いつつ、別れの挨拶をする。

 

 

 

「これはただの興味本位なので答えなくても結構ですが、療養中は如何してお過ごしのつもりで?」

 

「ええ、久しぶりに実家に帰省しようかと」

 

 

 

 帰省中に偶然蟻と遭遇し、自衛としてブッ飛ばしたなら何の問題もないもんな。

 

 実家が存在を認められない流星街なら尚更だろう。

 




 ピトー戦は頭の中で構想があったのでサクサク書けました。後半もキャラの動かし方には苦労しましたが喋らせる分には楽でした。
 問題はこの後の構想が全く存在しないことですね…


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