真夜中0時、あんていくにて (黒プー)
しおりを挟む

本編
真夜中0時、ここではないどこかで


消しちゃってすみません…ちょっと後で見直してみたら一人称のミスとか結構見つかっちゃったので一旦書き直ししました。それに合わせて内容もちょっと変えております。それではどうぞ。

…あ、主人公がタキオンっぽいのは変わってないです。性癖なので。


ザーザーと雨が降る。

雨は東京全体まで広がっており、血濡れた地面を流していく。

本来は人で賑わっているであろうスクランブル交差点の血から、逆に人なんて誰もいない路地裏まで。

しかし人から流れ出る血を止めてくれるわけではない。

…ある女が、自らから流れ出る血と、地面に溜まった雨に足を取られ、転ぶ。

 

血が止まらない。

最悪だ。まさか普段通り狩りをしていただけなのに、特等に見つかるとは。

まだ、私ではあの化け物どもには敵わない。やはり力をつけなくては。

だが…もう、無理かもな。

 

「…ぐっ」

 

体に大穴が空いている。いくら喰種であろうと、流石にこの怪我を何も無しに治すことはできない。

しかし彼女は孤高の存在だった。頼るあてもなく、ただ死を待つ他なかった。

そんな彼女の前に一人の人物が立つ。

 

「…はは、どうやら、天すらも私のことを見放したらしい、な。…隻眼の梟。」

「…」

 

彼女の前に降り立ったのは、喰種の中でも恐れられ、最強と名高い喰種、隻眼の梟であった。

彼女に怪我を負わせた特等。彼らですら複数人相手でないと押し負けてしまう化け物が、目の前に立っているのだ。

 

「もう、私は、逃げも隠れもできない、よ。食うなら食いたまえ。…贅沢を、言うなら、せめて死んでから…食われたいものだが、ね。」

「…」

「黙ってては…何もわからない、だろう。せめて、何か話し、たまえよ。」

「…では。」

 

ずっと黙っていた梟が、まともに体を起こせすらしない彼女の前でしゃがむ。

そして言った。

 

「A級喰種、ドクター。私は君を勧誘しに来た。」

「は、あ…? …珍しいことも、あるものだ。君、ならば…仲間なぞ、いらない、だろう…?」

「…今、決めろ。ここで死ぬか…私とともに行くか。」

「…はは、手厳しい、ね。」

 

彼女はぼやけて見えないフクロウの顔を見上げ、そして言った。

 

「まだ、生きていたい、ね。生きれる、ならば。」

「…そうか。」

 

梟が何故か彼女の体を持ち上げ、どこかに向かっていく。

 

「どこに、連れていく気、だい?」

「…君は、妻と似ている。」

「…はは、面白い…冗談、だ。」

 

そこで、彼女は意識を失った。

 

 

「…それで? 梟…いや、店長。これはどう言うことなのかな。」

「似合っている、と思うんだがね?」

「いや、そうではなくてだね。」

 

1週間後。彼女は今、新品の店の前に梟とともに立っていた。

 

「君が私を生かしていることでさえおかしいと言うのに、何故私は君を店長と呼び、こんな制服を着ているんだ、と聞いているんだ。」

「…実は、妻の夢でね。いつかカフェをやりたいと言っていたんだ。」

 

そう言った梟は、どこか寂しそうに笑う。

その寂しそうな笑顔を見た彼女は、少し付き合ってやってもいいな、と思った。

 

「…ふむ。君はいつも私を君の妻と重ねてみるな。」

「…すまないね。君はあまりに似ている。」

「ま、付き合ってやらんこともない。私も狩りには疲れてしまったからね。コーヒーでも飲んで、ゆっくり過ごす時間も、いいだろう。」

 

そう言った彼女は、梟の前に振り返りながら立ち、そして言った。

 

「せいぜいよろしく頼むよ? 店長。」

「…ああ、よろしく。」

「では私は一足先に新築の匂いを嗅ぐとしよう。」

 

そう言って彼女は、新築のカフェの中へと入っていった。

 

 

 




プロローグってやつですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11時、あんていくにて

ここから消す前と同じ箇所のアニメ1話部分になります。ではどうぞ。


私が芳村…店長とともにここを経営し始めて数年。

なんだかんだ客も仕事も仲間も増え、それなりに広いコミュニティが出来上がっていた。

一般の客も何人か来ており、それなりに繁盛しているだろう。

私の趣味は、そんな客たちの観察をすることになっていた。

 

「ふむ。気弱そうだが真面目。好きな人がいる。趣味は小説を読むこと。好きな食べ物は…ハンバーグ、と言ったところか。実に普通の人らしい。」

「ドクター…何やってるんですか。」

「なに、コーヒーを挽きながら、初来店からそう時間は経っていないのにすでに常連となりかけているそこの学生2名を観察しているだけだ。ほら、彼らがいつも頼んでいるコーヒー。持っていってやりたまえよ。」

「…注文渡してないのになんでわかるんですか。」

「観察だよ、トーカ君。観察眼というものは大事だ、鍛えておきたまえ。」

「…そうしておきます。」

 

そう言って今日のウェイトレス担当のトーカ君は、コーヒーを持っていった。

彼女もずいぶん馴染んだものだ、入ってきたばかりの頃はかなり私を警戒していたというのに。

…おや、あの学生君、私の完璧な注文に驚いているな。

…ん? トーカ君が何か囁いたな。彼もこちらを見ている。

 

気弱そうな彼に手を軽く振ってやると、彼は顔を赤くしながら目を背ける。

…ふむ、私のような女に恋心を抱くとは。全く、若いとはいいものだな。

 

彼のウブな反応に笑いつつ、いつも通り豆を挽く作業に戻ると、またもう一人客が来店する。

 

「…おや、リゼくん。昨日はだいぶ暴れたらしいじゃないか。」

「こんにちは、ドクター。いつものお願いしても?」

「わかった。…警告しておくが、あまり面倒ごとを起こさないでくれよ? ことによっては私が君を殺さなければならない。」

「あら、怖いですね。気をつけておきます。」

 

私の警告に、リゼは笑いながら返す。

全く、面倒な女め。後始末する羽目になるこちらのみにもなって欲しいものだ。

少し不満を覚えつつ、カウンター席に座る彼女の持ち物に目を落とす。

..ふむ?

 

「高槻作品か。珍しいものを読むね。」

「そうですか? 私、それなりに本は読みますよ?」

「私の君に対する印象は狙いの男によって好きなものを変える女狐だ。違うかい?」

「…ふふ、そうかもしれませんね。」

 

この女、やはりすでに狙いをつけているな。

ざっと辺りを見回す…と。

先ほどの学生の彼が、リゼと同じ本を読みつつも、彼女のことを横目で見ていた。

 

「なるほど、彼が狙いか。」

「…」

「図星か。…構わんが、店の近くでことを大きくするなよ。芋のようにまとめて掘り起こされたら叶わんのでな。」

「…わかっていますよ。」

 

彼女は飲み終わったカップをテーブルに置くと、代金を置き、本をしまって店を出ていった。

 

「ごちそうさまでした。」

「…ああ。」

 

それに釣られるように、学生の彼も立ち上がり、荷物を持って出ていった。

…おや、代金を忘れているね。

 

「そこの学生君。相方の彼の代金も。」

「あっ!? あー…くっそ…金木め…」

 

金髪の彼を呼び止め、黒髪の子の分も払っていってもらう。

懐が痛むように財布を抱えている彼を見て、思わず笑ってしまう。

 

「ど、どしたんすか…?」

「いや、なに。甘酸っぱい青春に飲まれてしまった君が面白くてねぇ。」

「あー…何も楽しくねえっすよ…」

「あっはっは! 君にとってはそうだろうねぇ! …ま、君にもいい出会いがあるように祈っておこう。」

 

そう言ってやると、金髪の彼は覚悟を決めたようにして、私に顔を近づけながら行った。

 

「…店員さんが、俺の出会いでも…いいっすよ?」

「…ぷっ」

 

思わずその場で爆笑してしまった。

周りの視線が痛い。特にトーカ君の。

 

「ちょっ…俺は本気ですからね!?」

「いや…失礼…、何しろ私はもう26とかそこらだからねえ…まさか学生に告白されるとは…」

「…えっ、嘘でしょ?」

「本当だとも。ほら、お友達に置いていかれる前に帰りなさい。お釣り。」

「あっ…あざす。」

 

お釣りをもらった金髪少年は、そのまま帰っていった。

入れ替わるようにトーカ君がやってくる。

 

「…何笑ってんすか。」

「いや、若いっていいなと思ってねぇ。」

「はぁ?」

「しかし高槻作品か。久しぶりに読んでみるとするか。」

「…?」

 

全くもって何を言っているのかわからないという顔をしているトーカ君を置いて、私はバックヤードの入っていく。

確かロッカーに何か入っていたな。

 

数日後の夜。私はトーカ君と、喰場の確認をしていた。

ここ20区は数日前の事件のせいで鳩が多くなってきていた。なので見回りの頻度を上げていたのだ。問題を起こされないようにね。

しかしここ何日かは特に問題は起きていない。

 

「…ふむ。ここも問題なさそうだ。次に向かうとしようか。」

「了解。」

 

トーカ君を連れ、ビルからビルを飛び移りながら移動する。すると。

 

「…」

「何かあった?」

「次の狩場だ。殴り合いの音。喰種同士か。」

「チッ、面倒な。」

「止めに行くとしよう。あそこは鳩の巡回ルートに近い。」

 

私たちは急いで狩場に向かうことにした。

 

 

上から路地裏を見下ろすと、どうやらニシキくんが弱い喰種に絡んでいるらしかった。

彼、結構怒りっぽいところがあるからね。仲裁に入ったほうが良さそうだ。

 

「…だから殺す。俺の喰場を荒らした罰だ。」

「いつからここは君の食い場になったんだい。ニシキ君。」

「…チッ」

 

錦君に声をかけながら、路地裏に着地する。

ふむ、やはりなかなか身長があるな。体術だけで止めるのは面倒くさそうだ。

 

「なんでよりにもよっててめえが来るんだよ…面倒くせえな。」

「見回りでね。鳩を呼び寄せる餌になっては困るよ? ニシキくん。」

「あいっ変わらずビビリだなぁ婆さん? 歳食ってビビってんのか? 鳩がそんくらいでよってくるわけねえだろ。バカじゃねえの?」

「鳥というものは基本的に目がいいものだ。案外すぐによってくるものだよ。」

 

はぁ…と、ニシキ君はため息を吐き、被害者の彼を投げ捨てて言葉を続ける。

 

「鳩鳩鳩っていっつもビビりやがって…んなもん殺して黙らせりゃあいいだけだろうがよ…」

「それができるなら苦労はしないね。やれるならぜひやってみたまえ。君程度でできるならばね。」

「いっつもいっつも邪魔しやがって…いい加減どっか行ってくれよ…なぁ!」

 

そう言いながら、彼は赫子を出す。

…ふむ、やり合うきか。

 

「おや。それは困ると言ったのだがね。警告しよう。君の右足を吹き飛ばされたくなかったらその赫子をしまってくれたまえ。」

「ビビってんじゃねえぞクソババア!」

 

叫びながら、ニシキ君は無策に突撃してくる。

全く、単調だ。

 

「警告はした。では君の右足とはさよならしてもらおう。まあ我々は喰種だ。お別れは2、3日で済むだろうさ。」

 

私は一瞬で尾赫を出し、最速で彼の右足を吹き飛ばす。

 

「がっ!?」

「予告通りだ。次はその頭を吹き飛ばす。喰種でも頭を吹き飛ばされてはどうしようもないだろう?」

「…チッ!」

 

ニシキはそのまま、路地裏の闇へと消えていってしまった。

 

「…さて。大丈夫かね、黒髪君。」

「あ…う…うぐう…っ!」

「ふむ、片目だけか。リゼと一緒にいて生きているあたり…リゼの体でも移植されてしまったパターンかね? 不幸だったね。」

 

黒髪の少年はしゃがんでいた私の足首を掴みながら言う

 

「助けて…ください…っ!僕は…人間なんだ…! なのにそれを…食べたくて、仕方がなくて…っ!」

「…無理だね。」

「なっ…」

「喰種を人に戻す手段はない。なってしまった以上諦めたまえよ。郷に入っては郷に従え、と言う言葉もあるだろう?」

「でも…っ!」

 

こう言う抵抗は人から喰種に変わってしまった人にはよくあるものだ。

だが、現実は受け入れるしかない。変えようがないのだからね。

しかしどうしたものか。無理やり食べさせようにも筋力じゃ勝てないだろうし、赫子では怪我をさせてしまう。どうしたものか。

 

そう考えていると、ずっと後ろで黙っていたトーカ君が言った。

 

「…バッカじゃないの」

「…えっ」

「さっさと諦めたらいいのに。」

「…おや。」

「食べる勇気がないならさぁ…」

 

そう言いながらトーカは死体の一部を剥ぎ取り、そして。

 

「私が…手伝ってやるよ…っ!」

 

少年の口に突っ込んだ。

うーむ、少しやりすぎなような気がするのだがね。

それを飲み込んでしまった少年は、すぐに吐き出そうとする。

しかしそれが出てくるはずもなく。

吐き出そうとしながら、少年は言う。

 

「なんでこんなことすんだよ…僕は人間なんだ…お前ら化け物とは…違うんだ…っ!」

 

おや。それは彼女の地雷なのでは?

やはりその言葉に怒ったのか、彼女は少年を無理やり起こし、パンチを顔に浴びせ、また押し倒す。

押し倒された彼についた傷は、当然喰種としての能力で一瞬で治ってしまう。

…ふむ。半喰種でも再生能力は同じか。興味深い。

 

「私が化け物なら、お前はなんなんだよ。」

「お願いします…っ! 教えてください…! 僕はどうしたらいいんですか…! あの日から全部が最悪なんです! 」

「…最悪、か。私だって教えて欲しいよ。」

 

そう言うとトーカ君は少年を殴るのをやめ、死体の方に向かって行く。

 

「…ねえ、ケーキってどんな味なの。吐くほどまずいからわからないんだけどさ。あれ、人間は美味しそうに食べるじゃない。」

 

彼女は死体のそばにしゃがみ込みながら言葉を続ける。

…何をする気なのかなんとなくわかってしまったな。割と悪趣味だ。

 

「平和な生活はどうだった? CCGや喰種に怯える必要のない日々は。」

 

言いながら彼女は死体の首を引きちぎり、持ち上げる。

…うわぁ。言葉が出ないね。

 

「全部が最悪? …ふざけんなよ。だったら私は生まれた時から最悪ってわけ?...なああんた。教えろよ…っ!」

 

そう言って彼女は、生首を少年に向かって投げた。

もちろん人間だった少年がそれに耐えられるわけもなく。

彼は思いっきり叫びながらそれを退けてしまう。

 

「…僕は…僕は! 人間なんだ!」

「…っ!」

 

そう叫ぶ少年の頭をトーカ君は再び掴み、そして思いっきり投げ飛ばす。

吹き飛ばした少年を壁に押し付けつつ、再びトーカ君は話す。

 

「…確かにあんたは喰種じゃない。でも人間でもない。…半端者のあんたの居場所なんて…もうないんだよ!」

 

まるでヤクザだねぇ。全く、怖いったらありゃしない。

…しかし確かに、彼の匂いは人間でも喰種でもない。綺麗に混ざったような匂いだ。どうしてこうなったんだろうか、興味深いね。

 

「僕は…僕は…っ!」

「そんなに人間でいたいなら一度限界まで飢えてみたら?...言っとくけど、喰種の飢えはマジで地獄だから。」

 

まあ、確かにそうだ。あれは私も二度と経験したくないね。

…おや。この匂いは。

 

「店長かい?」

「…流石の嗅覚だね、ドクター。」

「はは、君とは長年一緒だからね。気づかないはずがないだろう?」

「それもそうだね。…トーカちゃん。そのぐらいにしてあげなさい。彼も苦しんでいるんだから。」

「…チッ」

 

流石のトーカ君も店長は怖いのか、すぐに足を離す。

 

「…苦しかっただろうね。ついてきなさい。」

 

そう言って店長は、少年を案内するように路地裏の外へと歩いていく。

 

「店長!? なんで…!」

「トーカちゃん。…喰種同士助け合うのが私たちの方針だよ。」

 

一瞬だが、彼によって殺気が走る。

やはり恐ろしいな、彼のは。昔と変わりない。

 

「ドクターも。一度店に戻ってきてくれ。報告は後で。」

「コーヒーかい? 任せてくれたまえ。」

「ありがとう。…では、行くとしよう。」

 

そう言って、私たちは店長を先頭に、少年を連れて帰路についた。

…後で彼を診せてもらえないか、店長に聞いてみるとしよう。




ちなみにドクターと呼ばれていますが、本名がわからないためCCGに追われていた時のあだ名を名前がわりに呼んでいます。当時のマスクがペスト医師のそれだったことが由来です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12時、あんていくにて

ドクターの口癖は「さて」かもしれない


「ほれ、コーヒー。」

「ああ、私のも頼めるかな。」

「…店長。カップは自分で洗ってくれよ?」

「わかっているとも。」

 

少年の分のカップを置いてやり、店長の分のコーヒーも入れる。

 

「…」

「コーヒーは嫌いかね?」

 

私の出してやったコーヒーに手を出さない少年に店長が問いかける。

むむ? 記憶違いでなければ彼は別にコーヒーが嫌いなわけではなかったと思うが。

…ああ、なるほど。

 

「コーヒーの味は変わらないはずだぞ? 少年。」

「えっ…?」

「まーまー、一度騙されたと思って。」

 

私は自分の分のコーヒーを、彼の目の前で飲んでやる。

集団心理というやつだ、これで少しは飲みやすくなるだろう。

それをみた少年は、意を決してコーヒーに口をつけた。

 

「…美味しい…!」

「ふふ、そうだろうそうだろう。もっと褒めてくれたまえ。」

「昔の彼女のコーヒーは不味かったがね。」

「店長は黙っていてくれたまえ。印象が悪くなるじゃないか。」

 

全く、今入れたら美味しいのができるわけだし別にいいじゃないか。

そんな他愛もない話をしていると、少年が泣き出してしまう。

…え、本当はまずかったとかないだろうね?

 

「何を食べても…ひどい味だったのに…!」

「…喰種は昔からコーヒーだけは美味しく味わえるんだよ。人間のようにね。」

「私ですら解き明かせない謎だ。全くなぜだろうねぇ。」

 

私の予想ではコーヒーの苦味が喰種の強すぎる味覚を潰しているから美味しく味わえるというものがある。…まあ今はどうでもいいがね。

 

店長が自分の飲み終わったコップを洗いつつ、言葉を続ける。

 

「でも、これだけでは飢えを満たすことはできない。だから。」

 

そう言って彼は一つの包みを渡す。

おや、それは私が開発した成り立て喰種向けの食べやすい人肉じゃないか。

まあ人肉であるのは変わりないからやはり食べる難易度は高いがね。

 

「必要になったらまた来なさい。遠慮はいらないから。」

「…は、い。」

 

少年はその包みを取ると、席を立ち上がる。

…あ、そうだ。忘れていたことが。

 

「待ちたまえ少年。」

「はい...?」

「名前。そういえば聞いていなかった。」

「ああ…金木研、です。」

「ふむ。金木君。私はドクター。ま、よろしく頼むよ。」

「…はい。」

 

短い自己紹介を済ませると、金木少年は今度こそ店を出て行く。

しかし、大丈夫かねぇ。 まだ精神的に安定していないようだ。

 

「彼なら大丈夫だろう。」

 

店長が声をかけてくる。

 

「おや。また声に出ていたかい?」

「ああ。…確かに彼は未熟だ。だがすぐに成長するだろうさ。」

「君がいうなら間違い無いんだろうね。人を見る目はすごいだろう?」

「はは、そうかもしれないな。」

 

========================

 

「…さて。あとは豆を買い足さなければだねぇ。」

 

そう呟きつつ、私は商店街を出る。豆を売っている珈琲店はなぜか商店街の外にある。

全く、商店街の中にしてくれると助かるんだが。

 

珈琲店に向かう道のりを歩いていると、正面で何やらまた殴り合いの音がする。

 

「…デジャヴ、というやつかな。」

 

喰種同士の殴り合いの音。結構激しそうだ。

 

「仕方ない、止めるとするか。」

 

愛用のマスクを顔につけつつ、音のする方へと私は向かう。

 

 

「…おやまあ、本当にデジャヴというやつだったのか。…全く、またかい?ニシキくん。」

「…それはこっちのセリフだ。なんで毎回お前と出くわすハメになるんだよ。」

 

橋の下の資材置き場らしい場所に入ると、なんの偶然かまたもやニシキ君が金木君をいじめていた。

弱いものいじめなんてして何が楽しいんだろうねぇ。そんなんだから強い相手には勝てないんだよ。

 

「ああ? てめえ…」

「おや、また口に出ていたか。悪い癖だ、さっさと治さなければね。」

 

またキレているニシキ君は放置しつつ、倒れている金木君の様子を見る。

 

「金木君。おーい、大丈夫かい?」

「…だ」

「…おや?」

「いや…だ…!」

 

突然そう言ったかと思うと、金木君の背中から赫子が生えてくる。

種類は…鱗赫か。なるほど、リゼのものを受け継いだと言ったところか。

 

「…どうやら私の助けは要らなそうだね。」

「そんなの…許せないんだ…っ!」

 

私の姿が見えていないかのように、金木君はニシキ君に突撃していく。

無策だが鱗赫を使える今であれば、ニシキ君では対応しきれないだろう。

…さて、それでは私はそこで倒れている友人君を助けるとしよう。

 

「おい、君。聞こえているかい?」

「…」

 

ふむ。意識飛んでいるみたいだね。

これはよろしくない。

私は彼を背負いつつ、資材置き場の出口へと向かう。

 

「えっほ、えっほ...全く、無駄に体格がいいから背負いにくいじゃないか。もっと縮みたまえ…」

 

運び終わると同時に、資材置き場にニシキ君の断末魔が聞こえる。

どうやら終わったらしい。ニシキ君が負けたんだろう。

 

「…ま、彼の赫子ではあれには勝てないだろうねぇ。何せリゼの鱗赫だ。」

 

しかし鱗赫を出したということは消費も激しいだろう。

飢えがきていないか心配だな。

金木君をどうするべきかと悩んでいると、ちょうどトーカ君がやってくる。

ふむ、ちょうど一人らしい。

 

「おーいトーカ君。」

「…っ!? 何やってんですかこんなところで!」

 

トーカ君を呼び止めると、彼女は私の仮面姿を見て、慌てて駆け寄ってくる。

 

「いやぁ、中で金木君がまーた襲われててねぇ。あ、背中の彼は巻き込まれたお友達。」

「はぁ…?」

「偶然っていうものは意外とあるものだねぇ。…それでだ、おそらく金木君が中にまだいるだろう。彼、鱗赫を出していたし、飢えがきているかもしれない。」

「…チッ、面倒な…」

「そ。私が止めた方がいいだろう。だから背中の彼を頼めるかな?」

「…了解。」

「あ、家の場所知らないからとりあえずお店に。」

「はいはい。」

 

トーカ君に背中の彼を渡す。

明らかに不機嫌そうだが、友達君を受け取り、そのまま店に向かって走って行った。

…今度何か買ってあげるとしよう。

 

「…さて。」

 

改めて中に聞き耳を立てると…やはりというか、人間のものでは無いような唸り声が聞こえる。

 

「…怪我をさせてしまったらまずいだろうねぇ。…まあ今の彼であれば私でもなんとかなるか。」

 

私の赫子を出しつつ、天井に向かってジャンプし、張り付く。

無傷で無力化なら奇襲が一番手っ取り早い。

 

天井に沿って中まで歩いていくと、暴れ狂う金木君が見えた。

 

「…さて。悪いけど、少し眠ってもらうよ。」

 

私の尾赫は特殊なものだ。私の体内で作られた特殊なRC細胞を、尾赫の先にある針から出すことができる。

まあ要するに注射針だ。

 

「少し傷ができてしまうが…ま、許容範囲だ、許してくれたまえ…金木君。」

 

天井から飛び降り、赫子を一瞬で彼の体に突き刺す。

 

『あ…ガ…ガあ…』

 

すると10秒も経たないうちに、彼は眠るように倒れてしまった。

それに伴い赫子も消えて、いつも通りの金木君に戻る。

…ふむ。もう大丈夫だろう。

 

金木君を背中に担ぎ上げ、出口に向かう。

 

「…ふむ、少々軽いな。やはり肉はあまり食べないようにしていたか。」

 

トーカ君では少し荷が重かったかもしれないな。やはり私が行って正解だった。

彼の家に行ってもいいのだが…場所がわからないのでとりあえず店に運ぶとしよう。

 

「…あ。買い物バッグ。…どこに置いたっけなぁ…」

 

 

無事に見つけた買い物バッグの中身を取り出しつつ、店長に金木君の様子を聞く。

 

「で、どうだった? 彼は。」

「君の予想通りだった。金木君、肉を食っていなかったようだ。」

「うーん、そうだろうねぇ。食わせたかい?」

「ああ。」

「怒りそうだけど…まあ仕方ないねぇ。」

 

買ってきた豆を保管場所に置き、他のものも出しながら話を続ける。

 

「彼をどうする気だい?」

「店の一員に加えようかと思っていてね。」

「そりゃあいい。トーカちゃん以来の新人だ。期待が持てるねぇ。」

「ああ。」

 

買ってきたものをそれぞれの保管場所に置き終わり、コーヒーでも淹れようかと二人で話をしていると、奥の部屋から呻き声が少し聞こえる。

 

「おや、起きたようだね。」

「流石の耳だな、ドクター。」

「お褒めに預かり光栄だ。コーヒー、三人分にしておこうか。」

「頼む。」

 

そういうと店長は、金木君が寝ている部屋に向かって行った。

…さて。

 

「期待の新人だねぇ。これからどうなるか…楽しみだ。」

 




序盤場面転換多い…多くない? ちょっと書きにくかったです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13時、あんていくにて

オーバーロードⅣ面白いっすね(無関係)


「で、あのシーンがめっちゃよくて!...って、聞いてます?」

「…ん?ああ。聞いてる。聞いているとも。」

「嘘つけ絶対聞いてないじゃないですかぁ!」

「やかましいなぁ…本に集中できないじゃないか。」

「ほらぁ!」

 

全く、カウンター役を代わってもらうべきだったか。

なんで今日に限ってこの金木君の友人がやってくるんだろうか。流石にうるさくて本に集中できないねぇ。

 

相手するのも面倒なので、視界に映らないように本を顔の位置に持って行く。

 

「だからさっき名前教えたでしょ!? 永近英良ですって! その友人っていうのやめてくださいよ!?」

「…ああ、すまない。声にまた出ていた。友人Aくん。」

「それわざとですよね!? てかせめてこっち見てよ!?」

 

ふむ。叩けばよく響くな。からかって遊ぶのは楽しいねぇ。

 

「ちょっとー!」

「その人興味ない話は徹底的に聞かないタイプだから気にしない方がいいよー。」

「ええ!? マジでトーカちゃん!? じゃあ今の話興味ないってこと!?」

 

まあ少なくとも私には響かない内容だったかねぇ。

そんなことを考えつつ次のページを開く。

 

「ウッソでしょ!? 何なら興味あるんですか!?」

「ああ、また声に出てたか…」

「少しは隠す努力してくださいよ。」

「すまないねぇ。どうも無意識のうちに声が漏れてしまうんだ。」

 

店長にもしょっちゅう怒られてしまうしねぇ。流石に隠す努力をしなければ。

 

そんなふうに考えていると、上から降りてくる音が聞こえる。

…ふむ。

 

「永近くん。お待ちかねの人が降りてきたらしい。」

 

私の声と同時に、スタッフルームのドアが開き、店長と金木君が降りてきた。

 

「おっ! よお金木!」

「ヒデ! なんでここに?」

「ばーか、トーカちゃんとドクターさんにお礼言いにきただけだっての。」

「お礼…?」

「事故に巻き込まれた俺たちを助けてくれたんだろ?」

「ええ?」

 

金木君がつぶやいた瞬間、彼の脛が蹴り上げられる音が聞こえる。

痛そうだねぇ。やはり彼女の前で失言をするのはやめた方がいいね。

 

「どうした?」

「ごめん、まだ怪我が治ってないみたいで。」

「おいおい大丈夫か?」

「だ、大丈夫…」

 

そんな金木君を見たヒデ君は、どこか心配そうな表情を見せる。が、それも一瞬で隠すと、笑顔に戻りながら話を続ける。

 

「…そっか。…西尾先輩はまだ入院してるみたいだからあれだけどさ、俺たちがかすり傷で済んだのは二人のおかげだよ。ありがとう!」

 

そう言いつつ、彼はリュックを背負い、「またな!」と言って店を出て行った。

 

「うん、また!」

「ありがとうございました。」

「また来たまえよ〜。」

 

そんなふうにヒデ君を見送る。

彼は暖かいねぇ。金木君はいい友達を持ったようだ。

 

「…ま、彼のためにもバレないようにしなければね。金木君。そうしなければいらない心配をさせてしまう。」

「…わかってます。」

「…すまないね、雰囲気を台無しにしてしまった。これだから店長に口下手だと言われてしまうんだ。」

「あはは…」

 

軽く冗談を言って金木君をほぐしておく。

口下手なのは事実だがね。

そんなふうに話していると、また店のドアが開く。

 

「いらっしゃいませー…おや。」

「…ドクターさん…トーカちゃん…」

「リョーコさん!?」

 

お店の常連のリョーコ君が、娘のヒナミ君を連れてやってくる。

何やら急いでいたらしく、ずいぶんびしょ濡れだった。

 

「金木君。タオル持ってきてくれ。」

「は、はい!」

「やれやれ。何があったかは店長君に言ってくれたまえ、面倒ごとは責任者にってやつだ。」

 

リョーコ君にそう言っておき、二人ようにコーヒーを淹れてやりながら、ヒナミ君に声をかける

 

「ヒナミ君もずいぶん久しぶりだねぇ。調子はどうだい?」

 

しかし彼女はそのまま母親に顔を埋めてしまう。

 

「…ふむ。襲われたと言ったところかねぇ。…奥に行きたまえ、後からコーヒーを持っていこう。」

「ありがとうございます…」

 

二人を奥に案内してやりつつ、濡れた店の床を拭く。

 

「二人は喰種…なんですか?」

「そうだねぇ。」

「今日から面倒見ることになった笛口さん。」

 

トーカ君が二人を拭いたタオルを投げ渡しつつそう言った。

ふむ。そういえば今朝店長が言っていたか。

 

「面倒を見る…?」

 

金木君は聞いていなかったようだ。

彼のことだから聞いていなかったということはないだろうが…。

 

「事情があるんだよ。」

「事情...って?」

「あー、金木君。それ以上はやめた方が…」

 

面倒くさそうなことになりそうなので止めに入る…が。

 

「にゃーにゃーにゃーにゃーうっせえんだよ! なんもできねえくせに!」

 

うーんどうやら間に合わなかったようだね。

まあ手が出なければいいか。

 

「そ、そんなこと…」

「…そうだ。あんた、店長からちゃんと聞いてる? 箱持ちのこと。」

「箱持ち…?」

「大きなアタッシュケース持った連中のこと。あんた、今朝何聞いてたの?」

「う…」

 

ふむ。迷える子羊金木君のために説明をしてあげようかね。

 

「箱持ちというのはね、クインケという喰種の赫子を使った強力な武器を装備しているCCG捜査官だ。だいたい変人か化け物しかいないからね、君のような力無い喰種は気をつけたまえよ?」

「は、はい。」

 

最近は本当に巡回が多くなってきたからね。私たちも気をつけなければ。

しかし笛口君たちは捜査官に襲われてしまったのか? そうであれば…

 

「少し、面倒なことになりそうだねぇ。」

「…? 何か言いました?」

「ああいや、なんでもない。それよりも後片付けをしなければね。」




アマプラとネットフリックス両方入会しとくのが一番ですねぇ。
ちょっと短めで申し訳ナスです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14時、あんていくにて

「ドクター。…ドクター?聞いているかい?」

「…ん、ああ。店長。どうかしたかい?」

 

いけない。まだ仕事中だというのに本に集中していたようだ。

しかし高槻作品、久しぶりに読んでいるが存外面白いものだな。

 

「明日、金木君のマスク作りに付き合ってあげてくれないか。」

「ほう。それはまた突然な。」

 

マスクは喰種として活動する際、人間としての顔を隠すために必須級のアイテムだ。だが鳩と交戦でもしない限り必要ないと思うが…。

 

「ということはやはり…鳩かい?」

「…ああ。二人だ。すでに犠牲者が。」

「ふむ。なるほどねぇ…。わかった、ちょうど明日は予定もなかったところだ…。」

 

だがただ作りにいくだけではつまらないね。ここは少し…。

本を閉じながら金木君に声をかける。

 

「金木君。明日2時から駅前に来てくれたまえ。」

「あ、はい。」

「おしゃれもきちんとしてきてくれたまえよ? 何せデートというやつだ。身なりはきちんと頼むよ。」

「はい…って!? な、なんでそうなるんですか!?」

「そりゃあ男女二人きりで出かけるなんて、いわゆるデートじゃないかね?」

「ち、ちちち違うと思いますけど!?」

 

ははは、やはり彼の反応は面白いねぇ。

私の言葉にあわてている金木君を放置し、閉じていた本をまた開きながら続きを読む。

…さて。忘れないうちにメモをしておいた方がいいかねぇ。

 

========================

 

3時30分ちょうど。私は駅前で最もわかりやすい待ち合わせ場所に向かっていた。

それなりに洒落た服を着てきたつもりだが…どうだろうかねぇ。

っと。あそこにいる青シャツくんは…

 

「金木君。すまないね、待たせてしまったかな?」

「いっいえ! 僕も今来たところです!」

 

私服姿の金木君と合流する。

ざっと見た感じはまあ最低限の格好といったところか。

トーカ君に見せたら「ダサ」と言いそうな実に普通な格好だ。

ま、私も大概だろうがね。

 

「ふふ、それはよかった。…では行こうか。」

「は、はい!」

 

というわけで金木君を連れて駅前から離れる。

目的のウタ君の店はそれなりに遠いし危ない場所だ。まあ気をつけていくとしよう。

 

 

 

「…ほ、本当にこんな場所に仮面屋さんが…?」

「まあ喰種専用のものだからね。バレたらまずいしこういう場所にあるのだろうさ。」

 

少しビビっている様子の金木君。

まあキャバクラだったり女の叫び声だったり危なそうな事務所だったりが道中にあればそりゃあビビりもするだろう。

若干躊躇している金木君のためにドアを開けてやる。

 

「さ、入りたまえ。」

「は、はい。」

 

中に入ると、そこはさまざまな仮面が安置されている場所だった。

ふむ、久しぶりにきたが…変な仮面が多いね。注文したやつのセンスを疑いたくなる。

奥に布をかぶっている奴があるが…まあ十中八九ウタ君だろう。面白いから黙っておくか。

 

「…ふむ。ウタ君いないねぇ。」

「ウタ…?」

「ここの店長だよ。仮面を作ってくれる職人だ。まあその辺にいるだろうし探してみようかね。」

「あ、はい。」

 

私はあえて白い布がかかっているテーブルから離れてみる。

もちろん金木君はそちら側を探してくれるだろうさ。

 

「うわああっ!?」

「ばあ。」

 

案の定ウタ君がいたらしく、金木君は驚いていた。

うーむ予想通りだ。

 

「やあウタくん。やっぱりそこにいたか。」

「おや、バレていたか。」

「き、気づいてたなら教えてくださいよ!?」

「面白そうだったからねぇ。」

「そちらが金木君かな。さ、奥へどうぞ。」

 

マスクを作るため、奥の部屋へ通される。

彼のマスク、どうなるかねえ。気になるし一緒に行くとしよう。

 

「…さ、こちらがマスク職人のウタくんだ。私のアレも彼に作ってもらったものさ。」

「ウタでーす。」

「よ、よろしくお願いします。」

 

軽く自己紹介を済ませると、やはり彼の匂いが気になるのかウタ君は匂いを嗅ぎ始める。

 

「…匂い変わってるね。…ドクター。鳩がうろついてるって話だったね。」

「ああ。」

「20区はおとなしいから、あの人たちも放置気味だったのに。…やっぱりリゼさんの影響かな。」

「うーん。近頃は月山君も暴れ出しているし、それだけではないだろうねぇ。」

「…ああ、彼ね。」

 

近況を話しつつ、ウタ君は相変わらず金木君の匂いを嗅いでいた。

しかし、少々月山君はやり過ぎだねぇ。いつかお灸を据えてやるとするか。

そんなふうに考えていると、金木君が質問してくる。

 

「…あの、20区って平和な方なんですか? 僕にはとても…」

「20はそうだね。あんていくがあったり、前までだけどリゼさんがいたし、なんならドクターもいる。暴れようにも暴れられないよ。」

「そうなんですね…?」

 

おや、どうやらあんまり信じていないみたいだね。ちょっと脅してみるか。

 

「ふむ、金木君。君だって一度こっちで暮らせばわかるだろうさ。何せ共食いがしょっちゅう見れるからねぇ。」

「なんなら泊まっていくかい?」

「えっ…遠慮しときます…。」

 

ふふ、やはり面白い反応をするねえ。

近況報告もほどほどに、ウタ君が金木君を台に案内する。

 

「そこ座って。サイズ測るから。」

「あ、はい。」

 

あとは手早くサイズを測って終わりだろうね。

私は持ってきた本を開き、昨日の続きを読み進めることにした。

…が。

 

「君はアレだね。同世代より年上のお姉さんとかに可愛がられそう。ドクターとか。」

 

…興味深い話が聞こえてきたな。一応釘を刺しておくか。

 

「私は別に可愛がってないぞう。ただ彼が興味深いだけだぞう。」

「ほら。可愛がってる。」

「あはは…」

 

全く。私は可愛がっているわけじゃないというのに。

私は今度こそ本の続きを読み進めることにした。

 

 

帰り道。

いやー、案外さっくり終わったねぇ。ウタ君のモチベがそれなりにあったようだ。

人によっては丸一日かかったりするからね。それに比べたら今日は十分早い方だろう。

さて、近くの珈琲店でも見ていくとしようかねぇ。

 

とりあえず駅前に行くために歩を進めていくと、金木君に呼び止められる。

 

「あ、あの!」

「おや。何かな金木君。」

「ひ、ヒナミちゃん…何が、あったんですか…?」

 

…ふむ。

彼の目を見ると、何やら覚悟を決めたような目をしていた。

…何を決めたんだか知らないが、今の彼なら教えてもなんとかなるだろうね。

 

「ふむ。どうやらお父さんに何かあったみたいでねぇ。お父さんと離れて暮らすことになったそうだ。

私は普段あのこと接しないからわからないが…やはり不安なんだろうねぇ。」

「…そう、ですか…」

「…忠告しておくが、彼女の父は間違いなく何かに巻き込まれてる。決して解決しようだなんて思うんじゃないぞ。」

「っ……はい。」

 

金木君はそういったきり特に何も言わない。

…困ったな、こういう空気は苦手なんだが。

そんなふうに思ってると、金木君はすぐに話を変えて質問をしてくる。

 

「あ、あの…ところであのマスクって何に使うんですか?」

 

…えっ。

思わず驚いてしまう。

 

「て、てっきり知っているものだと思ったんだが?」

「す、すみません…」

「はぁ…いいさ、店長から何も聞いていないんだろう…」

 

体の向きを戻し、駅に向かって歩きながら続ける。

 

「あれは鳩…つまり捜査官に、人間としての顔がバレないようにするためにつけるマスクだ。」

「つ、つまり…?」

「素顔がバレないようにするためのマスクさ。一生追われかねない。この国の捜査官の執念はすごいからねぇ。 」

「な、なるほど…」

 

まあ、捜査官とはなるべくやり合わないのが吉だがね。

一人いたら包囲されてると思え、といったところか。

そんなもん逃げた方が早いからね。

 

「ま、やり合わないのが一番さ。…それはそうと金木君。私はコーヒー豆を買ってから帰る。こっちから行くから君はもう帰ってくれても問題ないよ。」

「あ、はい。」

「道順はわかるね?」

「大丈夫です。」

 

とまあ、金木君とは一旦別れることにした。

では珈琲店に向かうとするか。

 

 

 

 

 

 

 




評価一切ついてないのがちょっと怖いけど面白いですかねこの作品…?
ノリと勢い100ぱーで始まってるからわからんのじゃ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15時、あんていくにて。

無事赤評価になりました。皆さんに楽しんでもらえているようで何よりです。
なるべく評価落とさないように頑張りますが、なにぶん妄想を書き殴っているだけなのでそのうち面白く無くなるかもしれません。お許しを。


「ただいま〜。ウタ君の所に寄ったついでに駅前で豆を買ってきたよ。」

「ああ、ありがとう。…ふむ、なかなかいい豆だ、やはりたまには遠出するべきかな。」

「そっちの方がいいかもねぇ。」

 

少々豆を吟味しすぎたせいで帰ってくるのが遅れてしまったな。

…金木君は帰ってるみたい…って。

 

「金木くーん。そこを開けるのは今はやめておきたまえよ〜。」

「へ? なんでですか?」

「まーまー、それより豆の移し替えを手伝ってくれないかい。」

「あ、はい。」

 

ヒナミ君が中で食事をしているであろうドアから金木君を遠ざけておく。

覚悟を決めたのはいいが、少しタイミングが悪かったね。

 

「いや〜若い手は助かるね。何せもう年だしねぇ。」

「君はまだ大丈夫だろうよ、ドクター。」

「そりゃ当然じゃないか。私が心配しているのは店長の方だ。」

「…私も、大丈夫だ。」

「あっはっは」

 

いかんいかん、店長の目がガチだ。これ以上この話題はやめておくか。

豆の数もそこまで多くはなく、すぐに選別作業は終わった。

 

「よし。これで終わりだ。助かったよ金木君。」

「いえ、大丈夫です。」

「ふむ、そのコーヒーも冷めてしまってるようだ。新しいのを入れてあげよう。」

「ありがとうございます。」

 

彼がヒナミ君に渡そうとしていたであろうコーヒーを入れ直しつつ、話を続ける。

 

「金木君。なぜ私が君を止めたのかわかるかい。」

「え? いえ…」

「だろうねぇ。ま、喰種初心者の君ではわからないか。」

 

金木君に軽く喰種の食事について話してやる。

喰種の食事というのは、相当飢えていなければ見られるのが恥ずかしいと思う人が大半だ。

特に女性はね。

 

「…要するに人間の性行為に匹敵するような恥ずかしさかねぇ。君も男なら経験あるだろう? 性欲を…」

「わあああ! わかりましたからっ!」

「ならよろしい。…そろそろ食べ終わる頃だ、コーヒーを渡しにいってあげなさい。」

「…はい。」

 

金木君に入れ直したコーヒーを渡してやる。

彼はそれを受け取り、そのままヒナミ君がいる部屋に向かっていった。

これで仲良くなれるといいねぇ。

…私もコーヒーが飲みたくなってきたな。

 

隣でコーヒーを入れている古間君に声をかける。

 

「おうい、私の分も頼むよう。」

「さっき自分で入れてたじゃないですか…」

「アレはヒナミ君の分だよう。」

「自分で入れてくださいよ…」

「面倒臭いじゃないかあ。なあ頼むよー、ついでだろう?」

「はぁ…」

 

仕方ないなと言わんばかりの表情で、彼はもう一つのコーヒーを入れに行った。

やったぜ。

私は手元の本を開く。もう少しで読み切りそうだ。

 

「…新しい本でも買うか。」

 

=======================

 

次の日。

 

「皆さんおはようございますっ!」

「ああ、おはよう。元気になったようで何よりだ。」

「はいっ!」

 

すっかり元気になったようなひなみ君を迎え入れる。

おそらく金木君の影響か。やるねぇ。

 

ヒナミ君たちに挨拶をしている金木君を横目に、読み終わった本を閉じる。

確か店長の部屋に本がいくつかあったはずだ…

カウンターを立って部屋に向かおうとすると、ヒナミ君に呼び止められる。

 

「あ、その本って…」

「おや、君もこれを知っているのかい。」

「わ、私も読みました!」

「ほう、まだ小さいのにこれを読むとはね。なかなか通じゃないか。」

「通…って…?」

 

ヒナミ君が金木君を見上げる。

なるほど。言葉を教えてあげていたのか、そりゃ懐かれるわけだ。

 

「ふーむ、これが人たらしか…なかなか。」

「へ? 何か言いました?」

「なんでもないさ。…悪いのに好かれないようにしたまえよ。」

 

ヒナミ君に意味を教えている金木君をおいて、店長の部屋に本を探しにいく。

 

 

新しい本を手にカウンターに戻ってくると、珍しい客が来ていた。

 

「おや。月山君。ずいぶん久しぶりじゃないかね。」

「ああ、これはどうもドクター。…霧島さんも、久しぶりだね。」

 

トーカ君が警戒するように少し距離を置く。

 

「…なんの用。」

「うーん、相変わらず冷たいね。…まあそんなところが君の魅力なんだけれど。」

「気持ち悪いんだよキザ野郎。」

 

ははは、シンプルな罵倒だねぇ。まあ事実か。

月山君は辺りを見廻し、奥にいた金木君を見つける。

 

「おや? 眼帯の彼…新入りだね?」

 

そう言いつつ、金木君近づき、匂いを嗅ぐ。

まあ確かに珍しい匂いではあるけれど、流石にみんな嗅ぎすぎじゃないかな。

 

「あ、あの…」

 

まあ突然そんなことをされたら困惑するだろうねぇ。

止めたいが、一応最低限のモラルはある客だ。警戒するくらいにしておくか。

 

「名前は?」

「か、金木です。」

「ふーん?」

 

月山は彼の首元に鼻を近づけ、匂いを深く嗅ぐ。

 

「ヒッ!?」

「…不思議な香りだ。」

 

…匂いを嗅いだ後、月山はそうポツリと呟いた。

流石に気持ち悪すぎるね。

トーカ君もそう思ったのか、月山を追い払う様に声をかける。

 

「おいテメエ、仕事の邪魔だし気持ち悪いからとっとと帰れ。」

「…全く無粋だね、君は。」

 

呆れた様にトーカ君を見やり、それから金木君に視線を戻す。

 

「今度ゆっくりコーヒーでも飲みにくるよ。芳村氏がいるときにね。」

「あ…はい…」

 

ふむ。流石に釘を刺しておいた方がいいか。

 

「月山君。あんまりうちの店員に迷惑をかける様なら、出禁にさせてもらうよ?」

「迷惑だなんて。少し匂いを嗅いだだけじゃないですか、ドクター。」

「彼は人間から変わったばかりだ、彼にとっては間違いなく迷惑だろうさ。」

「…なるほど、あの不思議な匂いは…」

 

…あちゃー、余計なことを言ってしまったか。

まだ何か考えている月山君に、今度こそ釘を刺す。

 

「…あまり店に迷惑をかける様なことをするなら、本気で潰しに行くよ。」

「はは、それはどちらについてでしょうね。…なるべく店に迷惑をかけない様にするとしましょう。では、私はこれで。」

「ああ。次入れてやれるかはわからないがね。」

「ご冗談を。」

 

それを最後に彼は、店から出て行った。

全く、迷惑な客だ。

 

「あの…誰だったんですか?」

 

金木君は彼について知らなかったようで、私に彼について聞いてくる。

 

「ふむ。20区の厄介者、と言っておこうかな。まあおそらく君は狙われるかもねぇ。…君は騙されやすい。警戒しておくことをお勧めするよ。」

「あ、はい。」

 

ふーむ、面倒ごとが増えたな…

だがなんとかしておかないとさらに増えそうだ。対策を考えておくかねぇ。




そろそろ更新ペース落ちそう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16時、あんていくにて

だんだん日が傾いてきましたね。


…間違いなく、何か企んでいるだろうねぇ。そろそろやらかしそうだ。

 

金木君とアフタヌーンティーの時間を楽しんでいる月山君を見ながら考える。

彼にしては堪えている方だが、流石に限界が来ていそうだね。彼としては少しでも早く金木君を攫いたいだろう。

…そういえば今夜、月山家がバックにいる催しが開かれるとかいう話を聞いたな。

 

「…これはやらかしそうか。」

 

楽しそうに会話をしている金木君をみる。

油断していそうだ。…全く、警告したというのに。

 

「やはり彼は優しすぎるなぁ。ま、それが魅力でもあるんだが。」

「…あの、ドクター? 少し出かけてきます。夜には多分戻ると思うので…」

 

おや。

気がつくと金木君が私に話しかけてきていた。思考に耽りすぎたか。いかんいかん。

 

「…月山君とかい?」

「あ、はい。」

「…わかった。そもそも今日も君は非番だろう? 私に縛る権利はないさ。いってきたまえ。」

「あ、ありがとうございます。それじゃあ。」

 

そう言って金木君は、月山君と一緒に店を出て行った。

…さて。

 

「私も久しぶりにがっつり動くとするかねぇ。」

 

 

『皆さん、お待たせしました! 本日のメインディッシュです!』

「…やっとか。」

 

ここまで悪趣味な催しを見せられたが、ようやく出られそうだ。

私は人垣をかき分け、なるべく前の方に出る。

2階にいるからか、真下のステージがよく見えた。

 

『本日のメインは変わった食肉…なんと、喰種です!』

「喰種?」

「私、共食いはちょっと…」

 

周りから気持ち悪い声が聞こえてくる。

はあ。共食いじゃなければいいのか。やはり悪趣味だねぇ、あんていくに長いこといたせいで不快感が凄まじいよ。

 

『提供は…MM氏です!』

「ふむ。当然だが彼も来ているか。…しかしセンスないねぇ。」

 

偽名にしてももう少しいい名前があるだろうと思ってしまう。

とりあえずずっと2階にいても仕方がない。再び人だかりをかき分け、1階に降りる階段へと向かう。

 

 

 

「…全く、人が多いねぇ。」

 

人だかりが大きすぎて階段から降りるのでさえ一苦労だった。

全く、こんな悪趣味な会なのになぜこんなに人が来るんだか。上流階級とやらにはバカがずいぶん多いようだ。

 

「…いけない、すでに始まっていたか。」

 

何やら武器を持ったデカブツが、金木君を追い回していた。

赫子を出さないあたり喰種ではないのか? よくわからんな。

 

「…まあいいか。助けてから考えればいい。」

 

私は懐からお気に入りのペストマスクを取り出し、それをつけ、手すりから一気にステージへと飛び出す。

 

 

「やれぇ! 締め上げろ!」

「内臓をぶちまけておくれ!」

 

周りから歓声が聞こえる。

ああ、最悪だ。なんでこんなことに…

 

「たの…たのじい…?」

 

一気に強く首を絞められる。

まず…い…、意識…が…

走馬灯のように、ドクターさんの言葉を思い出す。

 

『…あまり彼を信用しない方がいい。彼は20区の厄介者だ。』

 

ああ、その言葉に従っておけば。

月山さんを信用せずに距離を置いておけば。

 

「あ…が…」

 

もうダメだと思った。けれど。

 

「ぐぼぉ!?」

「…少しおいたがすぎるな。…しかし君、何者なんだ? 喰種の匂いのくせに赫子がないとは。」

 

僕を締め上げていた大男がなぜか倒れ、僕は解放される。

 

「ゲホッ、ゲホッゲホッ…」

「やあ金木君。大丈夫かね? いくら喰種とはいえ締め上げられたら辛いだろう?」

 

見上げると、中世のマスク…いわゆるペストマスクに、白衣を着た小さな女性が立っていた。

もしかして…

 

「ドクター、さん?」

「せいかーい。全く、やっぱりこうなったか。だからあれを信用するなと言っただろう?」

 

あれっ…月山さんか。

僕はあの人をもう信用しないと、心に誓う。

 

「う…げ…」

「おや。まだ生きていたか。」

「べっ!?」

 

先ほどの大男がまだ生きていたらしく、ドクターはさらに彼の頭を踏み潰した。

 

「タロちゃーん!?...この、役立たずがぁ!」

「あれが飼い主か。全く、冷たいねぇ。彼は頑張っていただろうに。」

 

ドクターはそういうと徐に倒れた大男の体によじ登り、そして全員に聞こえる様な大声で言った。

 

「…諸君。久しぶりだね。私を覚えているかな?」

 

その言葉に、会場が少しざわつく。

「…まさか、あのマスク…」「バカな、奴は殺したはずだ!」などと。

…ドクターって、昔は有名だったのだろうか。

 

「そうだ。君たちが寄ってたかって殺そうとした私だよ。残念だけど、私は戻ってきてしまったんだ。…今私はあんていくにいる。そしてこの彼は、私の大事な部下だ。」

 

彼女は一度そこで言葉を切る。そして大男の死体を一撃で踏み抜き、その影響で地面にヒビが入る。

 

「…これ以上私の大事な部下をおもちゃにしようというなら、君たちにはもう一度地獄を見せてあげよう。されたくなかったら、私たちに関わらないことをお勧めするよ。」

 

彼女はそういうと、死体の上から降りてきて、僕を抱える。

…お姫様抱っこに。

 

「ちょっ、ドクターさん!?」

「こらこら。あんまり無理をするんじゃないよ。君、さっき死にかけたんだからね? …後これは、私の忠告を守らなかった罰だ。甘んじて受け入れたまえよ。」

 

そういうと彼女は堂々と観客席へとジャンプする。

 

「ほら君たち。どきたまえ。こっちは怪我人がいるんだ。」

 

人だかりが綺麗に別れ、彼女に道を作っていく。

彼女を見る視線は、どれもこれも恐れだった。

…いったい何をしたんだろうか。

 

そして彼女は出入り口に辿り着くと振り返り、

 

「では。二度と会わないことを祈るよ。」

 

と言ってドアを開いた。

 

 

ふー、やれやれ。あんな大立ち回りは久しぶりだ。

しかしこのマスク、残しておいて正解だったな。まだ私のことを忘れていないやつばかりだった。

 

「さ、では帰ろう。」

 

お姫様抱っこで抱えている金木君に声をかけつつ、帰り道の裏路地を駆け抜ける。

そんな最中、金木君が質問してくる。

 

「…ドクターって、なんであんなに怖がられてたんですか?」

「ん? ああ。 あんていくに来る前少しやんちゃをしていてね。彼らとは敵対してたのさ。」

「…そうですか。」

 

走るのをやめ、金木君を下ろしてやって、問いかける。

 

「怖いかい。」

「…少し。」

 

…まあ、当然か。あの場所から出る時、全員が私に怯えていた。

そんなものを目にしたら、流石の金木君だってわかるだろうね。

…君も、私から離れていくか。

 

「…だけど、僕は…あなたから逃げるつもりはないです。」

「…だろうね。そうした方が……へ?」

 

思わず驚いてしまう。

あれを見たばかりだというのに?

 

「あの大男を容赦なく潰したりしてるのが、その…少し、怖かっただけで。僕の中では、ドクターはあんていくの副店長なんです。そんな人から逃げるわけないじゃないですか。」

「…」

 

少し涙がこぼれてしまう。

…いけない。彼に見られたら恥ずかしいね。…マスクだからバレないかな?

 

「…あの? ドクター?」

「なんでもない。では帰るとしようか。」

「あ、はい。」

 

金木君を再び抱え、裏路地を走る。

ちなみに今度は普通に背負うだけだ。

…罰を与えるのはまた今度にしてやる。人たらしめ。




絆されるドクター君。可愛いですね。

評価、結局黄色になってしまった…まあ着くだけでもありがたいですがね。おちな様頑張るって言ったばっかりなのに…w
それでついでなんですが、おもんなって思った人はできればここが面白くなかったーとか明確に言ってもらえると大変ありがたいです。感想には全部目を通してますので、その意見をもとになるべく直していこうと思いますんでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17時、あんていくにて

久しぶりに東京喰種見返してるんですが、相変わらずの月山の気狂いっぷりにドン引きしております。
ちなみにこの作品のお気に入り数とか4日で100突破しそうでビビってます。僕も月山みたいになりそうです。


「やあトーカ君。調子はどうだい?」

「ドクターの薬のおかげで。動けるくらいには回復してます。」

「そうかい。」

 

月山君主催のあれから3日後くらい。研究やら読書やらに忙しく、それらが済んで久しぶりに部屋の外に出てみたら、何やらトーカくんが体調を崩したと聞き、私は彼女の部屋に来ていた。

しかし、どうやら私が店の皆に渡していた薬のおかげでそこまで悪化はしなかったらしい。

 

「…だけどねトーカ君。あの薬は痩せ我慢用みたいなものだ。いくら友人関係を維持したいからと言って、あまり飲みすぎない様にしたまえよ。薬品というのは薬にも毒にもなり得るからね。…ほら、補充分。」

「…わかってます。」

 

そう言いつつ、トーカ君は私が渡した薬をしまう。

…あの薬はコーヒーから着想を得て喰種の味覚を鈍くするもの。あまり使いすぎると味覚がなくなってしまう。それは良くないだろう。

 

「ま、君の体調についての話はここまでにしておこう。…何やらお客さんが来そうだしねぇ。」

「お客さん?」

 

私が話を切り上げたタイミングで、扉がノックされる。

 

「あ、はーい。」

 

そのノックを聞きつけ、トーカ君が玄関に向かう。

しかし誰だろうねぇ。足音で誰か来るのはわかったが、流石に誰か特定するのは無理だからね。

トーカ君が淹れてくれたコーヒーを飲みつつ、玄関での話し声に耳を傾ける。

 

「…ふむ。」

 

なになに? …なるほど、リョーコ君か。ヒナミ君を預かっていて欲しいと。

まあ母親らしいことだが、どことなく焦っているような。何かあったのかねぇ。

しかしヒナミ君か、私は少々彼女に嫌われているような気がするんだが。流石に長居しすぎだし、そろそろ帰るべきか…

 

うーむ、と、この後どうするか一人で考えていると、声をかけられる。

 

「あ、あの…何を悩んでるんですか?」

「ふむ、私が邪魔になる前に出て行った方が…って、ヒナミ君か。」

 

声をかけてきたのはヒナミくんだった。

いつの間にか私と向かい合う様に座っており、テーブルには本とノートまで広げてある。

…いつの間に。

 

「ほら、気づいてなかった。やっぱりやったらよかったのに。」

「で、でも、迷惑だっただろうし、邪魔しちゃったら良くないと思うし…」

「大丈夫だよ、ドクターはそんなことで怒ったりしないし。」

「全くトーカ君、何やら企んでいた様だねぇ? ヒナミ君が優しいおかげで助かったが。」

 

別に何も、と少し笑いながら言っているトーカ君を睨んでやりつつ、テーブルに広がっているヒナミ君の私物を見る。

 

「ほう、また本が変わっているねぇ。前回のものは読み終わってしまったのかい?」

「あ、はい。とっても面白かったです。」

「早いねぇ。私ですらあれを読み終えるのに何日か使ったというのに。1日でか。君はすごいねぇ。」

「え、えっと…ありがとうございます。」

 

あれを1日で、と素直に驚いただけなのだが、ヒナミ君は褒められたのが嬉しかったのかくすぐったそうに笑った。

…可愛い。 子供は扱いづらいと近づかない様にしていたが、案外可愛いものだ。

 

「…おや。」

「? どうしたんですか?」

 

リョーコ君とはまた別の足音が聞こえて、思わずつぶやいてしまう。

何やら今日は客人が多いね。それだけトーカ君に人望があるということかな。

 

「なんでもないよ。ただトーカ君の人望に驚いてしまっただけさ。…トーカ君、またお客様だ。」

「人望…って、どういう意味ですか?」

 

…ああ、そういえば言葉の意味を勉強中だったか、彼女は。

人望の意味を教えてやると、玄関にお客を迎えに行っていたトーカ君がその人物を引き連れて戻ってきた。

 

「おや、やっぱり金木君。」

「ど、どうも…」

「わかってたんなら言ってくださいよ、ドア開けなかったのに。」

「あはは…」

 

どうやら金木君がずいぶん嫌いなようで。そんなわけないだろうに。

これはあれか、ツンデレというやつか。

 

「バッ、そんなわけないでしょ!?」

「おや、声に出てたかな? これは失礼。」

「絶対わざとでしょ… それで? 金木は何しにきたの?」

 

トーカ君が金木君に聞く。

まあ彼のことだからお見舞いとかだろう。

 

「えっと、体調崩したって聞いたからお見舞いに。」

「ふーん? 手ぶらで?」

「えっと…」

 

おやまあ、痛いところをつくね。

金木君がどうするのか見守っていると、その恐ろしい空気を突き破るようにヒナミ君が金木君に質問する。

 

「お兄ちゃん、これなんて読むの?」

「えっと…キンモクセイ、だね。」

「これもお花?」

 

それをみたトーカ君は、流石に邪魔するのは気が引けるのか、彼の分のコーヒーも入れる。

よかったねぇ、ボコボコにされずに済んだようで。…それにしても。

 

「いやはや、君たちにはちゃんと友人がいるようで羨ましいね。…私は研究三昧でそんなものいないからねぇ。」

 

…無論、できない理由はそれだけではないのだろうが。

昔は作ろうと努力したものだ。後の祭りだったが。

そんなふうに忘れたい思い出に浸っていると、トーカ君が言った。

 

「私、友達じゃないんですか?」

「…え、っと。」

 

少しその言葉に驚く。…てっきり、友達ではないと思われていたと思ったが。

良くて上司あたりだろう、と。

そう呆けていると、彼女がそのまま言葉を続ける。

 

「お見舞いに来てくれる時点で友達だと思いますよ。」

 

…そう、なのか。

…そうか。

私は一人じゃなかったか。

ふふ、と思わず笑いが溢れる。

 

「…そういえば確かに、もうたくさんの人に囲まれていたな、私は。」

「何を今更言ってるんですか、本当に。」

「すまない、今の言葉は忘れてくれ。」

 

私が少し感傷に浸っていると、再びインターホンが押される。

 

「流石に…君、友達多すぎないかい?」

「こんなに人来るのは予想外です…。」

 

思わずトーカ君に言ってしまう。

本日3度目…私を含めると4人目だ。全く、呆れた人望の強さだ。

また先ほどみたいに廊下に耳を傾けてみると、仲の良い相手のようだ、トーカ君を心配する様な声が聞こえる。

 

「何やら話し込んでいる様だね。」

「そうですね?」

 

トーカ君の中の良い相手ねぇ。ちょっとみてみようか。

リビングから、金木君と共に顔を出してドアの方を見てみる。

そこにはトーカ君と話している少女がいた。話を聞くに、どうやら学校の仲の良い友人らしい。

 

「それでね…って!?」

「…? どしたの?」

 

こちらを見つけたのか、その少女はものすごく驚いた様な声を上げる。

…何に驚いたんだ?

 

「どうしたんでしょう?」

「私に聞かれても困るなぁ。」

 

思わず金木君と顔を見合わせてしまう。

すると彼女はトーカ君に鍋を渡し、無言で親指を立てつつ去っていった。

 

「…何がしたかったんでしょう?」

「私にもわからん。…それより。」

 

トーカ君の持っている鍋の方が良くないだろう。

トーカ君がその鍋を持って行き、そしてそれを台所に置く。

鍋の中身を見ると、やはり食べ物…肉じゃがらしいものだった。

 

「…それ、どうするつもり?」

 

金木君がトーカ君に問う。

金木君も1度人間の食べ物を食べている。どうなるかは想像に難くないんだろう。

 

「食うよ! せっかく依子が作ってくれたんだから!」

 

と、当然のように言って、その肉じゃがを食べ始める。

…見ているとやはり時々吐きそうになっている。が、彼女はそれを吐き出さず、無理やり飲み込んでいる。

…流石にダメだね。

 

「待ちたまえ。流石に医療知識のあるものとしてストップだ。本当に倒れるぞ、トーカ君。」

「…でもっ! これは…依子が作ってくれたものだけは…」

 

トーカ君が悲しそうに言う。…おそらく彼女だってわかってるだろう、自分の体のことだから。

同時に友人として、作ってくれたものも残さず食べたいんだろう。

私としては反対したいが…

 

「…はあ。仕方ない。」

 

そう呟き、私は持ってきていた医療バッグの中から特製の薬を出す。

できればこれに頼り切りになって欲しくないから、出したくはなかったが。

 

「…これを飲んでから食べたまえ。味はなくなるが胃を強くできる薬だ。…これでマシにはなるだろうさ。」

「あ、ありがとうございます!」

「ただし。これを渡すのはこれ一回だけだ。私に頼んでも渡さないからな。」

「はい!」

 

トーカ君は嬉しそうにそれを受け取って飲んだ。

…はあ。医者としてはあまり嬉しくないねぇ…。

 

「…では。私はこの辺でお暇するとしようかね。…薬を飲んだから悪くはならないと思うが、やばそうだったら私の部屋に来ること。いいね?」

「はい。」

「では。」

 

バッグを持ち上げ、私はトーカ君の部屋から出る。

…友人関係が強すぎるのも考えものだな。




ちょっとトーカちゃんのキャラがブレてる感じしますが…まあ依子ちゃんのことだったらこれくらいは…なるかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18時、あんていくにて

投票者20人行ったの初めてですね…皆さんありがとうございます。


「…はっ!?」

 

いけないいけない。まだ薬を全部作り終わっていないのに寝るわけにはいかない。

時計を見ると、いつの間にか真夜中になっていた。…随分集中していたようだ、こんな時間なら眠くもなる。

 

「仕方ない、コーヒーでも飲むか…」

 

部屋を出て、下の店に向かう。

やはりこの時間だから当然だが、店員も含めて誰もいないようだ。

 

「いたら困るし当然だがねぇ。…おや?」

 

大通りに面するように設置されている窓が開いている。

…どうやら泥棒ではなさそうだ。

少し開いた窓のところに置いてあったのは、一つの薔薇と、すでに封を切られた手紙だった。

 

「なになに…? 下記の場所でディナーを? …先に女性を…」

 

ふむ。月山君、どうやら金木君と親しいらしい女性を使って彼を誘い出したようだ。

なかなか頭が回るようだね、ただのグルメバカではないようだ。

 

封を切っているあたり金木君はもうこれを読んだらしい。

…少々まずいかもね。彼のことだから間違いなくこの地図の場所に向かうだろうが…

 

「月山君は案外強い。彼ではまだ無理だろうねぇ…」

 

…仕方がないか。

手紙を懐にしまい、店のドアを開ける。

 

「おや、血が。…匂い的にはニシキ君かな?」

 

彼も巻き込まれたようだね。かわいそうに。

まあどうでもいいか、とりあえず地図の場所に行くとしようか。

仮面を顔につけ、屋根上へと飛び移りつつ、急ぎ目で地図の場所…教会へと向かう。

 

 

 

「…鍵がかかってるじゃないか。面倒臭い…ねっ!」

 

用意周到に鍵がかけられていたので、思いっきり蹴って破壊する。

その衝撃で大きめのこの教会の扉も吹き飛び、いくつかの長椅子を巻き込んで教会の端の方で止まる。

そして中央では、月山君とニシキ君が殴り合いをしていた。

 

「ふむ? …てっきり金木君と月山君が殴り合っているものだと思ったんだが…どういう状況だい?」

 

入口の方にいた金木君とトーカ君に質問する。…なんでトーカ君までいるのかな。

 

「ニシキさんの大事な人が、僕のせいで…」

「ああなるほど、だいたいわかった。つまり月山君の勘違いというわけか。」

 

彼はそういうところあるからね。やっぱり所詮はグルメバカか。

これ以上暴れ回られると鳩が来る。その前にさっさと沈めるとしようか。

 

「…君たちはちょっと待ってなさい。あのグルメバカにお灸を据えてくる。」

「は、はい…」

「…おや。よく見ると二人とも傷が深いね。…ほら、血液。とりあえず飲んどきなさい。」

「ありがとう…ございます。」

 

二人分の血液が入った小瓶を渡しておく。

…本当は殴り合いでお互い負傷しているであろう金木君と月山君に渡すために持ってきたんだけどね。

…それより今はあっちだな。

 

「…あー、二人とも? 一旦殴り合いはそこまでにしないかい?」

 

…一応声をかけてみるが、応答はなく、相変わらず殴り合っている。

面倒くさいなぁ。

 

「はぁ…じゃ、さっさと止めるとしようかねぇ。」

 

私の赫子を出し、跳躍して一気に二人に近づく。

 

「なっ!? ドクター!? なぜここにっ!?」

「金木君宛の手紙を読んで。彼がそのまま持って行ってなくて助かったよ。」

「がっ!?」

 

殴り合い…というか一方的にニシキ君を殴っていた月山君の甲赫の付け根に向かって赫子を刺す。

 

「…ふふふ、ドクター、忘れたのかい? 僕の赫子は甲赫だ、君の尾赫が通ると思ったのかい?」

「…何か勘違いをしているようだね。私は君の甲赫じゃない、その付け根を狙ったんだ。」

「…それはどういう…っ、赫子が!?」

 

そう。私の赫子は毒液を刺すことに特化した物。今彼の赫子の付け根に、麻痺毒を撃ち込んだ。

赫子というのは肉体の一部、つまり筋肉のような物でできていると考えられる。その付け根を麻痺させるとどうなるか。

 

「赫子が…動かない!?」

「そういうことだ。君はさっき赫子によって強さが決まると言っていたね。今の君は…どのくらいの強さかな?」

「ぬうううう、僕は、まだ諦めるわけにはいかない…そこの女を食べている金木君というトレビアンな味を食べるまで僕は….決してっ!」

 

月山君は諦めず、赫子が動かない状態の拳で立ち向かってくる。

赫子は動かないとはいえ変形した状態。それなりに危険だ。

しかし動かない赫子など、私にとって脅威ですらない。そのことは彼もわかっているはずだが…

…全く、その食への執着はどこからきているんだい。

 

「ま、無駄な足掻きというものさ。」

「が…は…」

 

私の赫子の先端を彼の胸に突き刺す。

私の麻痺毒は少々特殊だ。体の表面に突き刺すとそれなりに奥の方まで浸透していく。

私はそれを胸に打ち込んだ。それ即ち…

 

「心臓が麻痺する、というわけさ。…安心したまえ、麻痺自体は量を調整してすぐ取れるようにしてある、少なくとも死ぬことは…って、聞こえないか。」

 

毒を撃ち込まれた彼は、その場に倒れる。まあ流石にすぐに起きることはないだろうねぇ。

ぶっ倒れた月山君を足蹴にしつつ、余波で吹っ飛んでいた瀕死のニシキ君に近づく。

 

「…ふむ、こっちの方が重症だねぇ…血液分は使い切ってしまったし…仕方ない。」

 

赫子で私の手首を切り、血を溢れさせる。

そしてニシキ君の顎を掴んで口を無理やり開き、私の手首を彼の口に当てる。

 

「ほら、これしかないんだから大人しく飲みたまえ。」

 

喉を見ると、ちゃんと飲み込んでくれたようだ、喉が動いているのが確認できた。

…これだけ飲ませてやればいいか。

彼の口から手首を引き抜き、ハンカチで軽く拭く。

 

「はあ、今日は最悪だな…クソ眠い中コーヒーすら飲めず、戦闘させられ、挙げ句の果てに医療行為まで。私は医者じゃないぞ全く。面倒だからさっさと起きたまえニシキ君。」

 

血を飲ませたからか顔色が良くなったニシキ君の脇腹を爪先でつっつく。

 

「い、痛えよ…くそ、起きてるからやめろバカ医者…」

「医者じゃないと言っているだろう。全く…」

 

流石に痛いのかニシキ君はゆっくりと体を起こす。

そして周りを見渡す。

 

「…月山のやつは。」

「私の足元でぶっ倒れているとも。すぐには目覚めないだろうさ。…それよりそこの彼女をさっさと助けてあげたまえ。」

「…いいのか?」

 

ニシキ君が訪ねてくる。

…はぁ? ここまでお膳立てしてやってるのにまだ疑問が?

 

「いいも悪いもあるか、さっさと助けたまえ、面倒臭い…」

「いやだが…あいつは人間だ、あんたが喰種ってことバレても…」

「どうでもいいだろそんなもの。君と付き合ってる人間だ、周りが喰種だらけでもそんな驚かんだろう? …私は眠いんだ、さっさとうちの店員2名を連れて帰りたいんだよ。」

「…そうか。」

 

ニシキくんは何故だかホッとしたような顔をし、祭壇で目隠しをされている女性の方へ向かい、その目隠しをとった。

…ミッション達成だねぇ。

私は後ろの方にいるであろう店員2名の元へ向かう。

 

「…君たち、さっさと帰るよ全く。君たちが無事に帰ってくれないと私が店長に怒られるんだぞ?」

「えっと、でも…」

「でももだってもあるかっ! さっさと帰るぞっ!」

「す、すみません…」

 

何か言いたそうな金木君を黙らせつつ、さっさと教会を出て店へ戻る。

全く、少し目を覚ますために起きただけだというのにどうしてこうなったんだか…。




帰り道

カネキチ「なんであんなに怒ってるんだろう…」
トーカちゃん「あの人、眠いとすごい機嫌悪くなるんだよ。」
カネキチ「…なるほど。」

ちなみにドクターの赫子が使える毒には複数の種類があります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19時、あんていくにて

更新にちょっと間開いちゃいましてすみません。旅行行ってました。


「ふぁ〜あ…おはよう諸君…」

「あ、おはようございます。」

「…」

「おやおやニシキ君。よく似合っているねぇ?」

「うるせえ…」

 

いつものエプロンをつけつつ下の店まで降りると、金木君とニシキ君の働く姿があった。

うむ、ニシキ君のあくせくと働く姿も見れたことだし、素晴らしい目覚めと言えるだろう。

しかしまさか、店長にまで寝ろと言い出すとは。まだ寝なくても問題ないというのに。所詮は3轍だぞ?

 

「あ、ドクターさん。お邪魔してまーす。」

「おやヒデ君。開店前だというのに堂々と。」

「いーじゃないっすか別に〜。」

 

なぜか開店前にコーヒーを楽しんでいるヒデ君にも挨拶をしておく。

…私は別に客としてくる分には構わないが…

 

「…君、そろそろ授業じゃないのかい?」

「え?...やっべぇ!? ご、ご馳走様です!」

「お粗末さまでした、と言っておこう。走りたまえ〜。」

 

全力疾走で外に出ていったヒデ君を見送っていると、

突然テーブルを叩く音が響き渡る。

 

「ヒナミは…っ、おとうさんといっしょがいいよっ!」

 

テーブルを叩き、そう言い放ったヒナミ君は、店の奥へと走り去ってしまった。

 

「…なんだ?」

「…親の心子知らず、というところかねぇ。」

「…?」

 

不安そうな表情をしているリョーコ君を見つつ、私は言葉を続ける。

 

「最近は鳩だったり、ヤモリだったりが暴れている。ヒナミ君の父がどちらに巻き込まれたかは知らないが、少なくともリョーコ君はそれらに巻き込みたくないんだろう。」

「...ああ、なるほど。」

「そ。まさしくぴったりな言葉だ。…私たちも気をつけねばだよ、ニシキ君。」

「…そう、だな。」

 

ニシキ君は何かを考えるように視線を落とす。

…大方、先日のあの女性のことでも考えているんだろうねぇ。

 

「ま、仲間でいるうちは私が手の届く範囲で守ってやるから。心配せずにさっさと仕事したまえよ。」

「…ああ、ありがとう。」

 

そう言ってやると、彼は安心したのか、また作業を再開した。

しかし、とヒナミ君の走っていったドアを見る。

 

「…子供というのは制御が効かないからねぇ。」

 

どこかに走り出していかないか…少し、心配だ。

 

 

「…やれやれ、降り出してしまったか。急ごうか、金木君。」

「あ、はい。」

 

買い出しの荷物持ちを任せていた金木君と共に急いで走る。

やれやれ、驟雨というやつだったか。今降り出さなくてもいいだろうに。

…ん?

 

「…」

「…どうしたんですか? 突然立ち止まって。」

「妙な匂いが…。」

 

なんだ? ヒナミ君に近く…しかし喰種とはまた違う…武器のような…。

…まさか。

 

「…あ、ヒナミちゃん?」

「…っ!?」

 

思わず振り返って金木君の方を掴む。

 

「金木君! ヒナミちゃんは!?」

「え、っと、そっちに。」

 

金木君の指さす方向…道路の反対側に目を向けると、彼女が走っていくのが見えた。

…クソッ。

 

「金木君。すまないが用事ができた。荷物を頼めるかな。」

「え、あ、はい。」

 

間違いなく重くなるだろうが命優先だ、金木君には我慢してもらわねば。

 

手に持っていた荷物を金木君に全部渡し、急いで横断歩道の方へと向かう。

…クソッ、間に合ってくれっ…!

 

 

 

「…チッ。」

「ど、ドクターさん!?」

「間に合ったようで何より、かな。」

 

横目に彼女の状態を確認する。

…赫子を出しただけか。ヒナミ君はいない。…逃した後か?

 

「…いやあ、私の友人が失礼した、捜査官殿。ここはひとつ見逃してはもらえないかい? なんでもするよ?」

 

一応そう声をかけてみる。汚職に塗れた捜査官ならこれで引いてくれるだろうからね。

 

「ヒヒ…そのマスク、『闇医者』かねぇ? 約五年ぶりか、今まで何をしていたんだね? …君ほどの上物を逃すわけにはいかないのだよ、すまないが…出来ない相談だ。」

「…面倒だねぇ。私としては争いは望まないんだが。」

「これを試すためでもあるんだ。…私としては、むしろ戦いたいところなのさ。」

 

そう言ってその白髪の捜査官は、ケースを開き、中からクインケを取り出す。

…ずいぶん特徴的なクインケだな。鱗赫か?

 

「…そんな。嘘。なんで…?」

「…そういうことか。道理で。」

 

横でリョーコ君が泣き崩れる。

この反応から察するに、間違いなく知り合いの赫子だ。そして私が知り得る中で行方不明のリョーコ君の知り合いといえば。

 

「なかなかいい趣味しているじゃないか、捜査官。…私は君のことが嫌いだよ。」

「ほう? 喰種にそう言ってもらえるとはむしろ名誉だねぇ…っ!」

「…っ。」

 

白髪の捜査官がクインケを思いっきり横振りしてくる。

…なかなか早い振りだ、服の切れ端が少し持っていかれた。

 

「さあさあさあ! どんどん行きましょうねぇ!」

「…っ、流石にっ、早すぎないっ、かなぁ!」

 

やつはその速度を維持したまま何度も縦横関係なく振り上げる。

なかなかの重量のものをこの速度で方向を変えつつか。

 

「...面倒くさいね。」

「ほらほら、避けないで反撃してみろぉ? その程度かね『闇医者』ぁ!」

 

…これは流石に生身だけでは無理か。

私は尾赫を出し、赫子の毒を薬として作り変える。

 

「ようやく出したな? …なかなか独特な形だ、クインケにして使ったらさぞ面白そうだが…パワーはなさそうだ、つまらん。」

「…つまらなくはないさ。確かにパワーはないが…。」

 

私は赫子を…自らに突き刺し、中の液体を注入する。

 

「…ふう、面白い使い方も、できるんだ…よっ!」

「ほう!? 早い!」

 

この赫子はただ毒を打ち込むだけじゃない。

毒は薬としても使えるというのは有名な話だろう。

私の赫子で作られた薬品も中身を少し作り変えて仕舞えば、毒としても薬としても打ち込むことができるのだ。

例えば感覚強化、身体強化などの薬をね。

いわゆるドーピングというやつだ。

私はこれを駆使して今まで戦ってきていた。

 

「っ…、久しぶりだと体が追いつかないね…っ!」

「素早いな! それでこそSレート! やりがいがあるというものだ!」

 

捜査官の武器を振る速度以上の速度で周囲を駆け回る、が。

 

「隙がないね…っ、なかなかの技量と見た!」

「どうした? その速度で私を刈り取って見せてくれないか!」

「なら…少しは隙を見せてくれっ!」

 

一瞬の隙間を見出し、そこに飛び込む。

 

「…っ、そうだっ! それでいい!」

「チッ、腕は持っていけないか!」

「それでこそ…だっ!」

「… っ!?」

 

私がその剣戟の嵐からの離脱を試みるタイミングで、なんとその嵐は勢いを増してしまう。

…流石に避けきれないっ!

 

「があっ…!?」

「キヒヒヒ…やはりこれの性能は素晴らしいな! 私の振りに壊れずについてくるとは!」

「…ぐっ…」

 

頭が…うまく回らん…っ、先程の注射でなんとか持っているが…頭が持っていかれたか…っ?

 

「ふふ…その赫子、ぜひ欲しいところだ。だが我々も捜査官。先に仕事を果たさねばならないのだよ。…そうだろう? 亜門くん。」

「ええ。…足止めはなかなかの効果を発揮したようです。見失ったと。」

「そうか…。」

 

白髪の捜査官はそう呟くと、クインケを収めつつ、私に声をかける。

 

「この仕事が終わったら次はあなただ、『闇医者』。せいぜい次は楽しませてくれると嬉しいのだがね。」

「っ…善処、しよう…。」

「そうか。では我々はこれで。」

 

そう言って二人の捜査官は去っていった。

…私も、ここを、離れると、しよう。

 

 




戦闘シーン難しい…難しくない? ちゃんと書けてますかね?
ちなみに次回からはいつも通りのペースに戻ると思いまする。

よかったら高評価と感想おまちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20時、あんていくにて

今年の書き初めはこれになります。今年もよろしくお願いします。
少し駆け足。タイトル回収しなければですからね。


「…すまない、ね。少し失敗した。」

「…ドクター。無事でよかった。」

「無事に…見えるかい?」

 

頭の傷がこれ以上傷まないよう気をつけながら、近くの席に座る。

意識が飛びそうだ。それが原因で少しイラついているからか、思わず店長の言葉に皮肉で返してしまう。

しかし店長はそれを機にする様子もなく、金木君に包帯を持ってくるよう頼んでいた。

…流石に破いた服で作った包帯をずっとつけるのはまずいだろうからね…。

 

「…四方君。彼女を頼めるかい。」

「ああ。…すまない。」

 

いつの間に話が進んでいたのか、私の体を四方君が抱え上げる。体が小さいからか、すっぽり彼の腕におさまった。

彼はそのまま上の私の部屋へと向かっていく。

…少し、心地いい。

 

「…眠れるなら寝ておけ。」

 

それを察したのか、四方君がそういってくる。

 

「…では、お言葉に甘えると、しようか…。」

 

四方君の言葉に従い。彼に体を預けつつ、睡魔の流れに身を任せた。

 

「…おやすみ。よく頑張った。」

 

最後に何か声が聞こえた気がするが…気のせいだろう。

 

 

真夜中。突然目が覚めてしまう。

 

「…んん。」

 

頭の傷がまだ少し痛む。

もう一眠りしてもいいのだが、今は妙な胸騒ぎがする。…それに。

 

「匂うね…。悪趣味な武器と血の香りが。」

 

開いた窓から強い香りが漂ってくる。

やはり急いで向かうべきだ。

いつもの白衣を羽織り、そのまま店の外へと出る。

外は雨が降っているが…関係ない。急がなくては。

 

 

臭いによってたどり着いたのは、この街の電車路線の一部になっているトンネルであった。

どうやらこの中から匂うようだ。

耳を澄ますと、中からはすでに戦闘音がしていた。

 

「チッ、始まっているか。」

 

持ってきた仮面を付け、中へと走る。

 

少し線路に沿って走っていると、すぐにトーカ君の羽赫と…やはりというべきか、先日の捜査官のクインケが見えた。

どうやら機嫌よく振るっているらしい、崩落など考えず、全力で振るっていた。

 

「…あれは、止めた方がいいだろうねぇ。」

 

どうもあれは執念深い。他の捜査官とは一線を画すほどだ。殺さなければ間違いなく面倒ごとに巻き込まれる。

幸いこちらには気づいていない。一気に懐へ…

 

「おやぁ? 隠れていた獲物もいるようですなぁ!?」

「っっ!?」

 

急に赫子がこちらに向かってくる。

急いで避けたがやはりあれは速い。少し背中を切られた。

 

「ドクターさん!? どうしてここに!」

「妙な胸騒ぎと共に起きてみれば強い血の匂いが漂っているんだ、いやでも止めにくるものさ。しかし君たちこそなぜここに。特にヒナミ君。」

 

そう言いつつヒナミ君に目を向けると…何やら涙の跡が見えた。

これは…釣り上げられたといったところか。

 

「ふむ。クインケの正体を知ってしまった、といったところか。」

 

そういってやると、ヒナミ君の体が大きく揺れ…再び泣き始めてしまった。

…まずい。またやってしまった。

 

「…ドクター。」

「…すまなかった。…ともかくあれを殺さなければね。」

 

トーカ君の鋭い視線を避けつつ、再びあの捜査官に目を向ける。

どうやら見失っているようだ、クインケを振り回すのをやめていた。

 

「…あれは力押しで勝てるようなやつじゃない。やはり一撃で殺すしかないだろうねぇ。」

「…なら。私が気を引きます。」

「ほう?」

 

私は少し驚く。確かに一方が注意を引いてもう一方が裏から奇襲するというのが理想だとは思っていたが、まさか危険な方を志願するとは。

 

「ふむ。君はそれでいいのかね。死ぬかもしれない。」

 

トーカ君に尋ねる。一応聞いておかねばならないだろう。

 

「あの野郎は…絶対に生かして返しちゃいけない。絶対に。」

 

トーカ君はそう言いつつ、自らの羽赫を出す。

…どうやら杞憂だったようだ。これなら任せられるか。

 

「…ふむ。わかった、では任せよう。…いざとなったら私を見捨ててくれても構わないよ?」

「そんな選択肢、あるわけないです。」

「そうか。…よし。行こう。」

 

 

「だあああああっ!」

「ふはははは!」

 

少し離れた位置から、捜査官とトーカ君の戦いを見る。

…ふむ。

 

「やはり射程が長い分潜り込めれば隙は大きいか。そして先端も、強引に壊してはいるが支柱と干渉してる。隙は先日戦った時より大きいか。」

 

武器が今の環境では扱いにくいのは確かだ。ならばいけるか。

赫子の中の薬品を作り替え、先日使ったものと同じにし、それを打ち込む。

 

「…ふう。」

 

あのクインケの先端が支柱に絡みつくタイミングを見計らい…そして。

 

「…ふっ!」

 

一気に捜査官に近づき、赫子で毒を打ち込む。

 

「ぐ…しかし、ただの切り傷のようですな?」

「っ…」

 

ん? 思わず捜査官の反応に驚く。

彼は私のことを知っているように話していたが…。

 

「…何か勘違いしているらしいね。私の毒のレパートリーは麻痺だけじゃない。」

「…ごふ…!?」

「致死性のものもある。…今度から資料はしっかり読みたまえ。」

 

今回使ったものは私の体で作れる薬品の中で最も致死性が高い。

いくら身体能力が高くとも、すぐに毒が回って死ぬことだろう。

私の目論見通り、奴は口から血を吐いており、クインケを振り回す暇はもうなかった。

 

「動きさえ止めて仕舞えば簡単だ。……死ね。」

 

私の赫子を奴の頭に打ち込む。これで即死だ。

赫子を奴の頭から抜き取った時には、すでに物言わぬしたいと化していた。

 

「…さて。君たち。何があったかはゆっくり聞かせてもらおうかねぇ?」

 

そういって後ろを振り返るが。

トーカ君は死体を見下ろし、まるで仇を見るかのように。

ヒナミ君に至っては目にハイライトがなく、今にも死にそうな目をしていた。

…さっさと帰るべきだな。

 

「…さっさと帰ろうか。他の鳩が寄ってくる前に。」

「…」

「…はい。」

 

ヒナミ君を抱っこしてやりつつ、走ってトンネルから抜ける。

走りながらも、ちらりと抱き抱えている少女を見るが、トンネルから何も変わっていなかった。

 

…現実というのは、なかなか残酷なものだな。

少し声をかけてやるべきか、と口をひらこうとするが、その前にヒナミ君が私に問いかけてきた。

 

「…私、生きてて…いいのかな。」

 

…ふむ。

一度走るのをやめ、ヒナミ君をおろして目線を合わせる。

 

「…少なくとも、君が死んで喜ぶ人間はこの中にはいない。君の母親も、ましてや父親もね。」

「…そっか。」

 

そういってやると、彼女の目に少しハイライトが戻る。…よかった。

改めて彼女を抱き上げ、そしてまた走る。

 

帰るとしよう、あんていくに。

 




めちゃくちゃ難産だった。ちなみにお手製包帯はリョーコさん作です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21時、あんていくにて

21時。日は完全に落ちたが、代わりに家々に明かりが灯る。


『昨夜11時ごろ、11区の路上で…』

「いんやぁ〜、平和なもんだねぇ。」

「平和ではないだろ。」

「ん? 店は静かじゃないか。」

「…」

 

あの白髪の捜査官を倒した後、店には一時的に平和が訪れていた。

夜の作業も喰場の見回りをするくらいに落ち着き、普段通りの生活が戻ってきた。

そんなわけでやることのない私とニシキ君も、今はちょいちょい店番として駆り出されている。

 

「ふあ〜…眠いねぇ。」

「あんた普段はこの時間部屋に篭ってるしな。いい薬だろ引きこもり。」

「む、私はただの引きこもりじゃないぞニシキ君。なんせこの血が混ざっている角砂糖も…」

「ばっ、お前今昼間だぞ!?」

 

手に出して紹介していた私お手製の喰種用角砂糖がすぐに奪われる。

むう、別に奪わなくったっていいだろうに。

 

「あのなぁ…」

「ドクターさん!」

「んん?」

 

するとニシキ君の言葉を遮るように…ヒナミ君の背丈くらいの誰かが裏から出てくる。

匂い的には本人のものだが。

 

「…誰?」

「もう! 私だよ錦さん!」

 

錦君の言葉に、彼女はぷりぷりと怒りながらサングラスを外す。

その顔はヒナミ君だった。

 

「…ああ。ヒナミ君か。一瞬誰かと思ってしまった。」

「あんたの場合匂いでわかるんじゃないんですか…?」

「おやニシキ君、君も私について理解度を深めてきているようだねぇ。…それより、どこにいくんだい?」

 

ニシキ君のツッコミを流しつつ、ヒナミ君に問いかける。

変装してるなら間違いなくどこかにいくつもりなんだろう。

 

「あのね! ヘタレのお家を買いに行くの!」

「…ああ、あの鳥か。」

 

少し前にトーカ君とヒナミ君が連れてきた鳥だ。

まあ、少し怪我を治してやっただけだが。

 

「鳥じゃないよー! ヘタレ!」

「…ヒナミ、名前の意味わかってるのか…?」

「…今は黙っておくのが吉だ、ニシキ君。…誰かと一緒に行くのかい?」

「四方さんと!」

「そうか。なら安心だねぇ。行ってらっしゃい。」

「うん!」

 

名前の意味をばらしそうになったニシキ君を止め、嬉しそうに店を出るヒナミ君を見送る。

しかしあのセンスのない名前をつけたのは誰だ…? 四方君あたりか?

 

「…センスがなくて悪かったな、ドクター。」

 

突然声をかけられたと思ったら、いつの間にか四方君が目の前まできていた。

…また声が出ていたかな…。

 

「おや四方君。ヒナミ君はさっき外に出て行ってしまったよ?」

「…はあ。じゃ、いってくる。」

「行ってらっしゃい。」

 

それを聞いた四方君も、すぐに店の扉を開けて出ていく。

…しかしなんだか呆れた顔をしていたが、なんだったんだろうか。

 

 

ピークの時間も過ぎていき、いよいよ本格的にやることがなくなってくる。

こういう時私は堂々とサボると決めているのだ。

 

「…そういうわけで古間くん。コーヒー淹れて。」

「前も言いましたけど自分で入れてください。」

「え〜。」

 

自分で淹れてもいいが、やっぱり面倒なので駄々をこねてみる。

全く、少しくらいいいじゃないか〜。

 

「少しだったら僕だって入れてあげてますよ、ドクター。あなた毎回頼んでくるじゃないですか。」

「そんなことはないと思うんだがね〜。」

「はぁ…」

 

そんなふうに話していると、店内に皿の割れる音が響き渡る。

そしてバイト2名のクソクソ言う声も響き渡る。

 

「…君たち、接客業だからクソクソ言うのはやめようか?」

 

そんな古間君の静止も無視して言い争いを続けるバイト組。

全く、そこで静かに割れた皿の処理をしている金木君を見習いたまえよ〜。

 

「…僕もそろそろ怒るよ? 君たちもこの…魔猿の伝説は知っているだろう?」

「…あ、『まざる』じゃないんだ。」

「…ドクター? 空気ぶっ壊すのやめてくれませんかね。」

 

私がつぶやいたせいか結局言い争うは止まることなく。

てかあれ『まざる』じゃなかったのか。初めて知った。

…とりあえずこれ止めようか。

 

「でた! 出ました馬鹿の一つ覚え! お前そんなんでほんとに受験するつもりかぁ?」

「てめえには関係ねえだろクソニシキ!」

「他に言えることないんですかクソトーカぁ?」

「あー、私が言えたことじゃないが…それ以上騒ぐならグーパンチだよ?」

 

まだ騒いでる二人に対して満面の笑みでそういってやる。

私のグーパンチはまあまあ効くぞう?

 

「…」

「…」

「そう。それでよろしい。」

 

ようやく黙って掃除を始めた二人を尻目に、私はさらっと古間君が淹れてくれてたコーヒーを飲む。

うーん、気がきく男は私の好みだねぇ。

 




ちょっち短めになってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22時、あんていくにて

すみません、褪せ人になったり某宇宙世紀な超巨大ロボットのパイロットになったり映画見たりしてて更新遅れました。
ここにきてやりたいことが増えてきたので多分更新ちょっと遅くなるかもしれません。
ちなみに今ラニ様とのデート(等身大とは言ってない)に向けてバクシン中です。


「「スリぃ?」」

「はい…」

 

客足も少ない、サボるのにとっておきの昼下がり。

まあサボったら店長に怒られる羽目になるし、いつも通りカウンターを占拠していると、金木君がそんなことを言い始める。

どうやら昨日の夜、イトリ君の店から帰る時に財布を持っていかれたらしい。

 

「珍しいね? 今のご時世でスリなんて。」

「確かにそうっすね…喰種出るわけだし、よっぽど度胸なきゃできないですし。」

 

私の言葉にヒデくんが頷く。

彼のいう通り、夜は喰種の時間だ。人間が出歩こうものなら路地裏に連れ込まれて食われる。

それがたとえ泥棒であろうとも。

だから昔はともかく、最近はそういう事件は減っていたのだが…。

 

「君がピンポイントで狙われるとはねぇ、金木君。運がいいんだか悪いんだか。」

「あはは…」

「そういやなに取られたんだよ。てか警察行かなくていいのか?」

「ああ、そんなに大事なものは言ってなかったからいいかなって。学生証くらいだし。」

「うわー、それ作り直すのめんどいやつじゃん…」

「そうなんだよね…」

 

二人の何気ない会話を聞き流しつつ、少し考える。

捜査官相手に派手にやった直後の金木君がスリにあって学生証を取られる、ねぇ。

 

「…ま、流石に偶然かねぇ。」

「へ? なにがです?」

「ああいや、狙われた理由を考えていただけさ、ヒデ君。君も金木君の二の舞になりたくなかったら気をつけたまえよ。」

「うひぃ、学生証作り直しは勘弁だしなぁ…そうします。」

 

彼の言葉に少し笑いつつ、コーヒーを口に含む。

…うん。やっぱり自分で挽くに限るねぇ。

そんなふうにしていると、気になるニュースが耳に入ってくる。

 

『…和修常吉最高議長の決定により、11区並びに20区の捜査官を増員しました。』

「へぇー。…ここってそんなに物騒なのかねぇ。」

「さっき話したように、喰種が出るのは路地裏だ。見えないところは危険なのかもしれないねぇ。」

「…バランス、崩れちゃったのかな。」

 

そう、ヒデ君がポツリと呟く。

…ほう?

 

「えっ?」

「…ああ、俺、20区には喰種の組織みたいなのがあると思ってたんだよ。」

「…な、なんでそう思うの?」

 

金木君がそう問いかける。

 

「他の区に比べて捕食事件が圧倒的に少ないんだよ、ここ。これって20区の喰種が連携してたからだと思うんだ。…大食いとかグルメも、捕食が活発になった時期に行方不明になってる。ってことはさ、その組織がCCGに睨まれそうなやつを粛清したとも考えられる。」

「ふーむ…確かにそうだねぇ。…ヒデ君、私君を見直してしまったよ。なかなか面白い推理だった。」

「ええ? そうっすかぁ? いやぁ〜、ドクターさんに褒められると嬉しいなぁ〜?」

 

ヒデ君にそう言いつつ、金木君の顔をチラリと見る。

すると彼と目が合った。彼の方はすぐ背けてしまったが、随分青い顔をしていた。

 

「…ん? 金木? なんか顔色悪いぞ?」

「…あ、だ、大丈夫…。…ヒデはその…喰種とか興味あるんだね。」

「…ああ、それはさ…この本が超おもろかったからなんだよネ!!」

 

そう言ってヒデ君が出してきた本は、明らかに都市伝説集とかそっち系の本だった。

………はぁ。

 

「期待した私がバカだったかな。」

「うぐお!? 心に刺さる一言!?」

「あはは…」

 

放心しすぎて落として割れてしまったカップを片付けつつ話を続ける。

 

「いやしかし、その本に20区の話はあったのかい? 私の記憶ではなかったはずだが。」

 

自慢ではないがこの私、結構本を読んでいる方なのだ。もちろん雑食なのであの本も読んでいる。

そしてその本は20区について書かれていたことはなかったとも記憶している。

 

「ドクターさん読んでるんすね…。まあなかったですよ? さっき話したの軽く調べて自分なりに考えてみただけだし。」

「えっ。」

「…ふーん? やっぱり君、地頭はいい方だねぇ。」

「やったぜまた褒められちゃった!」

 

でへへ、と満面の笑みのヒデ君と対照的に、また顔が青くなる金木君。

…何か勘違いしてそうだね?

 

「…ってやば!? そろそろ講義じゃん!? ごちそー様でした!」

「うん、お粗末様。またきたまえよ。」

「うぃっす! そんじゃ金木! じゃあな!」

「…あ、うん…」

 

そう言ってヒデ君はそのまま店から出て行った。

後に残されたのは金木君と私のみだった。

 

「…金木君。」

「…なん、ですか?」

 

金木君に声をかけると、彼は覚悟を決めたようにこちらをみた。

…これは。

 

「…別に彼を殺すか殺さないかなんて考えてないからね?」

「…え?」

 

あー、やっぱりそっちにしこう言ってたかー。

豆を棚にしまいつつ、話を続ける。

 

「あー…大体トーカ君が脅したんだろうが…私たちを喰種だと通報するようなやつでもない限り、一般人は殺さないというのが店長の方針だからね。だから安心したまえ、君のお友達を殺したりしないさ。」

「よ、よかった…」

 

そういうと金木君は、ヘナヘナと床に座り込む。

おいおい、怖がりすぎじゃないかい?

 

「いや…ドクターさんすごい強いじゃないですか…」

「そうかい? 店長の方がよほど強いよ?」

「えっそうなんですか!?」

 

あー、と少し考える。

そういえば金木君はまだみたことないのか。ならまあ…話さなくてもいいか。

 

「伝説になるほど強いのさ、うちの店長は。…さ、それより掃除するよー。」

「あ、はい。」

 

この後サクッと掃除を終わらせた。




ちなみに本来いるはずのニシキSANはこの世界では非番になってます。どーせいちゃついてるんだろうな。リア充爆発しろ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23時、あんていくにて

ようやくエルデの王になれたので初投稿です。
ちなみにマルチで倒しました。あんなの一人で勝てるわけないだろ!いい加減にしろ!


「…ひどいな。」

「…流石の私でも引いてしまうね。ここまでするなんてねぇ。」

「…ああ。」

 

四方くん、店長、私の三人は今、11区にきていた。

理由は、最近幅を利かせているらしい「アオギリの樹」という組織について調べるためだ。

 

「ふーむ、武器は羽赫かねぇ、地面に穴はほとんど空いていない、なかなかの手だれだ。」

「…四方くん。彼らについては?」

 

先に色々調べていたらしい四方くんに店長が尋ねる。

 

「…奴らはアオギリの樹を自称する喰種集団。正確な構成人数は不明ですが…率いているのは、隻眼の王、らしいです。」

「…」

「ふむ、騙っているのか、それとも目指しているのか。どちらだろうねぇ。」

 

間違いなく本物ではないだろう。少なくとも本物は目の前にいる。

そう考えつつ店長を見ると、彼は何やら渋い顔をしていた。

 

「…何か心当たりでもあるのかい?」

「…少しね。」

 

彼はそう言ったあと、何かを思い出すように帽子を触る仕草をする。

だがそれもすぐにやめ、私たちの方へと向き直る。

 

「二人とも、あんていくに帰ろう。」

「ああ。」

「了解、君の意向に従うとも。」

 

 

あんていくに戻ると、中は暗く静かだった。

…これは。

 

「…」

 

四方くんが静かに明かりをつけると、部屋の中を見渡せるようになる。

そこはもはや店とはいえないほどひどい惨状だった。

 

「…店長くん。これ、君狙いだったりしないかい?」

「…彼女の性格的にないだろうさ。私などその辺の木端と同じように思っている。だから私狙いではないだろう。」

「…君が木端ねぇ。」

 

てっきり大ボスの隻眼の梟を名乗る誰かが店長くんに刺客を差し向けたものだと思ったが…。

だとすると何が狙いで襲ったんだろうか。

とりあえず、先に負傷者の治療かねぇ。

 

「四方くん。トーカくんを奥に運んであげられるかい。私が治そう。」

「わかった。」

「他は…。」

 

奥の方にニシキ君。ヒナミ君は奥にいただろうし大丈夫だろう。あとは…

 

「金木君がいない…?」

「連れて行かれたんだろう。おそらくリゼ君が原因で。」

「…なるほど、リゼ君狙いだったわけか。で、金木君は大方巻き込まれただけか。」

 

リゼ君が死んだことを隠したのは失策だったか。まさかここまで面倒なことになるとは。

 

「…ともかく、負傷者の治療が最優先だねぇ。しばらく奥に篭らせてもらうよ。」

「ああ、頼む。」

「任せたまえ、何せ私は医者(ドクター)だからねぇ。」

 

 

========================

 

窓の外を見ると、これからを指し示すような嵐だった。

最悪の結末にならないといいがねぇ。

 

「…」

 

トーカ君もそれを恐れているのか、少し心配そうに窓の外を見ていた。

まさかあの彼女がここまで絆されるとは。彼も捨てたもんじゃないね。

…ま、ここは声をかけておくとしよう。

 

「…彼なら大丈夫だと思うがねぇ。」

「…ドクター。」

「ああ。あいつは見た目ほどヤワなやつじゃねえ。…それ、お前が一番知ってんだろ。」

「ニシキ…」

 

なかなか粋なことを言うねぇ。さすが彼女持ち。

私たちの言葉のおかげか、下がっていたトーカ君の眉が元に戻ってくれた。

そんなふうに話していると、部屋のドアが開き、店長君たちが入ってくる。

 

「…揃っているみたいだね。後から数名くるが、先に始めていよう。」

 

そう言いつつ店長君は帽子をコート掛けに掛け、相手いる椅子に座った。

そして話し始める。

 

「…11区で起きている問題について、あんていくが取るべき対応だが…その前に、連れ去られた金木君について、一つ言っておくことがある。」

「…」

 

店長君は一度言葉を区切り、再度話し始める。

 

「金木君には、もう会えないと思った方がいい。」

「えっ…?」

「…君がそう言うなんて、らしくないねぇ? 店長君。…理由は?」

 

特等に囲まれていた私を救った彼がそう言うとは。私は思わず店長君に聞いてしまった。

 

「…アオギリの木は、戦うために生きてきたような喰種ばかりだ。彼らの根城に潜り込んで、金木君を助け出すのは容易ではない。」

「…」

「それにCCGの動向も無視できない。おそらく、近々アオギリの樹を掃討するための部隊が11区に派遣されるだろう。」

「ふむ。助けに行っても全滅するかも、か。」

 

確かに店長君の言っていることも一理ある。10を活かすために1を消す。よくあることだ。

 

「…オイなんだよ、まさかあいつを見捨てる気か?」

「…私はいく。」

 

店長に食ってかかりそうだったニシキ君の言葉に重ねるように、トーカ君がそういった。

 

「…この店の方針ってなんでしたっけ。店長が行かないなら…一人で行きます。」

 

どうやら随分金木君に惚れ込んだようだ。本当に彼の魅力はすごいねぇ。

そんなふうに考えていると、トーカ君に続いてニシキ君とヒナミ君も立ち上がる。

 

「…俺もいく。」

「えっ…」

「…借りがあんだよ、あいつには。」

「ヒナミも、手伝いたい!...お兄ちゃんには助けてもらってばかりだし…ヒナミにできることならなんでもするから!」

「ヒナミ…」

 

盛り上がっている三人を横目に店長君に声をかける。

 

「…さ、命をかける覚悟がある若者がこんなにいるわけだが?」

「…そうだな。みんなの気持ちはよくわかったよ。そこまでの覚悟があるならば、私も力を貸そう」

「…あ、」

「話を変えるようで悪いが、その前にもう一つ。…入ってきなさい。」

 

店長君がトーカ君の言葉を一度止め、扉の外に声をかける。

すると、部屋の扉がまた開かれ、何人かが入ってくる。そしてその中には…

 

「っ!?」

「てめっ、なんで!?」

「…なるほどねぇ…。」

 

つい最近金木君とニシキ君を殺そうとした月山君の姿があった。

 

「アモーレッ! …ハートブレイクッ…、無二の友人である金木君が訳のわからない連中の手によって危険な目に遭っているなんて…No Kidding(冗談じゃない)…!」

「それは私たちのセリフなんだがね月山くん…。」

「私は反対です店長! こいつに金木を助けさせる気なんて…!」

「いやトーカ君、助ける気はあると思うがねぇ?」

「っ、どういう…」

 

トーカ君が私に問おうとした時、月山くんが大きく手を広げ、そして叫ぶ。

 

とぉんでもないっ!僕が金木くんを見捨てる? そんなこと、天地がひっくり返ってもありえないよ霧島さんっ! 彼の芳醇な香りを僕以外に嗅がせるなんてありえないことだからね! そして願わくば、恩義を感じるであろう彼を僕の元に…」

 

長ったらしく話し始める変態(月山くん)に対して思わず呆れてしまう。相変わらずぶれないねぇ。

トーカくんも同じ気持ちらしく、私と同じような目で彼を見ていた。

 

「…まあ、彼がいればそれだけ金木くんを助けられる可能性は高まる。味方であれば心強い。」

「…でも、私は反対です! こいつ、結局金木を食うつもりですよ!」

「その心配はない。俺が見張る。」

 

そうトーカくんに言いつつ、四方くんも入ってくる。まあ彼もくるだろうとは思っていた。

 

「俺の目が黒いうちは余計な真似はさせん。」

「…四方くん、CCGの動きは?」

「住民の避難が住み次第、攻撃を仕掛けるようです。もう間も無くかと。」

「…わかった。」

 

その言葉を聞いた店長は椅子から立ち上がり、私たちの顔を見る。

 

「…あんていくは、CCGの総攻撃に紛れて金木くんを救出する。異存はないね。」

 

その後依存など出るわけもなく、私たちは戦場になるであろうショッピングモールへと向かった。

…絶対に助け出して見せる。




店長さん「誤解がないように言っておこう」って本編で言ってるんですけど、「もう会えないと思った方がいい」じゃ誤解以外生まないと思うんですよね…。 店長の人物像的にこういう変な言い方は絶対しないだろうし、ちょっとアニメ見てて違和感があったのでちょびっと書き直させていただきました。気づいた人いるかな?w


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。