やんでれ・ざ・ろっく! (郷音)
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うぉっち・を・るっく!

思い付きで書くにしては闇深そう。

でも一応コメディです。


 

 

「ひーくん……」

「うん?どうした?ひとり」

 

ことの始まりは、少女が珍しくはっきりとした口調で真剣な眼差しを少年に向けているところから始まる。

 

そしてこの時口にしたのだ。

 

全てが始まり、狂ってしまうことになる言葉を。

 

「わたし、バンド……やります。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか」

 

 

まあそんな重苦しいことはないです。はい。

 

目の前の少女の言葉に平仮名三文字であっけない相槌をうつ黒髪の少年。

そんな僕の名は 小鳥遊 響 (たかなし ひびき)。

 

僕がこのような返事をするには理由があった。

 

 

「んで?なんで君が僕の部屋にいるのか理由を聞かせてもらおうか?」

 

「うっ」

 

僕は意識が朦朧としたまま問いかける。

その様子に桃色髪の少女は狼狽える。

それもそのはず。現在時刻はなんと深夜の3時を過ぎているのだ。

 

要は睡眠妨害を食らったのだ。

他でもないこの少女、 後藤(ごとう) ひとりに。

 

「ごめん……」ひとりは小声でそう溢す。

 

「いや、まぁいいけどさ。とりあえずはおめでとうなのかな?おめでとう。」

 

後藤ひとりという少女はその言葉にすこし明るい表情になる。

いくら深夜に起こされたとしても、吉報だというのであればお祝いの気持ちを言葉にするのが筋だろうと僕は思い直す。

 

だが深夜は深夜。それどころか後二時間も経てば日も昇り始める。

自分自身が深夜に起こされたこともだが、目の前にいる少女も現在進行形で深夜に起きているのだ。

 

「……ところであのー、後藤さんや?君はちゃんと寝たのかい?」

 

「え?寝てない……」

 

「寝てないのかぁ……」

 

やれやれと頭を横に振りながらため息混じりに言葉を続ける。

 

「電話でとかメッセージでいくらでもやり取りできるだろう……」

 

いや、それどころかひとりにとってはそういうコミュニケーションの方が気楽だろうと僕は心のなかで呟く。

 

そう。

 

何を隠そうこの少女、後藤ひとりは究極的なコミュ障なのである。

 

「えっと、こういう大切なことは直接言った方が良いかなと思って…」

 

「にしたって時間が……ん?」

 

目が覚め少しだけ思考がはっきりとしたとき、

僕はひとりの言動に違和感を感じた。

いくらコミュニケーションを取るのが苦手だとしても、まさか深夜に部屋に押し掛け、絶賛就寝中の人間を起こすようなことをするような子ではない。

 

ここでひとつの確信めいた疑問が浮かんだ。

 

(あれ?ひとりって今の時間分かってるのか?)と。

 

まさかそんなことはないだろう。

と考えていたが念には念のためという言葉を心に思い浮かべて、

僕はひとりに質問する。

 

「ごめんひとり。今って何時だっけ?」

 

無論、僕は現在時刻を把握している。

しかしそれを問い詰める形でひとりに聞いたとしたら、

彼女は申し訳無さでいっぱいになるのは明確。

自分が無知であることを装えば、ひとりは時間の確認をする。そして迷惑を掛けたと思い僕に謝るだろう。

その際に自分にも落ち度があると言えば、すこしはひとりの罪悪感も紛らわすこともできるだろう。

 

「ん?あれ、何時だろ……」

 

僕の部屋の時計を見た瞬間。

 

「あ、あぁああっ………ごめんなさいっ……ご、ごめん…なさいっ…」

 

顔面蒼白というのはこういうことを言うのだろうと僕は彼女を見てそう思った。

 

「大丈夫だよ。気にしなくていいよ、また後で寝れるからさ。」

 

ギュッとひとりの身体を正面から抱き締める。

左手で背中を支え、右手で頭を撫でる。

彼女が精神的に不安になった時はいつもこうして宥めている。

 

「僕もしっかりひとりに事前に伝えておけば良かったね。ごめんね。」

 

「ううん……わたしもごめんね…」グス

 

「大丈夫。君のためなら苦じゃないよ。」

 

「ハミュ」

 

ひとりが変な声を出して顔を赤くする。

ひとりはこうやってたまに突拍子もなく奇声や奇行に走るときがある。彼女のコンプレックスを刺激することがあるとなってしまうようで。彼女の頭を優しく撫でながら落ち着かせる。

すると先程までの身体の震えはなくなった。

良かった、どうやら元気は取り戻してくれたようだ。

 

「ひとり」

 

「………?」

 

「バンド、頑張ってね。」

 

「………うんっ……!」

 

微かな笑顔を思い浮かべながらひとりは

 

こうしてひとりはバンドを始めた。

 

そして僕は─────

 

「もっかい寝るか。」

 

 

ひとりが一歩進んで青春の道を歩み始めたことを心の底から喜びながら、二度目の睡眠を始めた。

 

眠れなかったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あったかかったなぁ、ひーくん」

 

こんな私なんかの身体を抱き締めて、頭を撫でてくれるひーくん。

優しい言葉で励ましてくれるひーくん。

あ、ダメだ。

また頭のなかが彼でいっぱいになる。

 

ずっと、ひとりぼっちだった私の側にいてくれた私のヒーロー。

 

全身に残る抱き締められた時の温もり。

それを濁さないように、逃がさないように自分の身体全部を布団に潜らせる。

 

今は少しでも彼を感じていたい。

 

 

「ひーくん………うへ……うへへえへ……」

 

 

 




ぼっち・ざ・ろっく!風のタイトルを考えてたんですけど、
思い付いてる最中にびっち・ざ・ろっくとか頭の中に出てきちゃったんで自分の頬を叩いて戒めた後、単純なタイトルにしました。

誰か俺を殺してくれ。


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いもうと・は・どらまー!

朝が目が覚めて真っ先に思い浮かぶ~
ハーメルンのこと~
思いきってサイトを開いた
評価を見たくて~

お 気 に 入 り の 数

!?

まさかこんなにお気に入りされてるとは!!!
やはり流行りの作品を手掛けてるからなんですかね。
めちゃめちゃ嬉しくてパリピぼっちちゃんみたいなテンションになりました。

バイブスあげてこ~!




 

 

 

ひとりは家に帰っていき、僕は結局寝ることもなく朝まで起きていた。

ひとりはちゃんと寝られたのだろうか等と考えながらも、出掛ける準備をする。

 

ふと頭のなかで深夜のことを思い返す。

 

あの日、僕は学校から帰ったあと、家事などを済ませた後はずっと部屋で寝ていた。

 

……しかもだ。

 

戸締まりは何処の戸もしっかりしていたはずだ。

 

単純に考えると、ピッキングだったり窓ガラスを割るようなことをしなければ外部からの侵入は不可能な状態なわけで。

 

そんななか、ひとりは僕の部屋にいた。

 

それもあんな深夜に。

 

「窓のは締まってるか……」

 

気になったのですべての窓を見てみたが

無理矢理こじ開けたような形跡もなく、無論ガラスは割れていない。

それにこの窓は内側からでしかロックすることはできないため、窓を割らなければ入れない構造となっている。

 

「…………あっ」

 

玄関からピッキングしたかもと思えなくもないが、そもそもひとりはピッキングなんてことは出来ない。

 

そんなことを考えているうちにひとつの仮説が出来た。

この仮説通りなら、彼女が僕の部屋に入れたことにも辻褄が合う。

 

それは────────

 

 

「既に居たのか。僕が帰って来る前から」

 

 

うーんと唸る。悩むためではなく思考を巡らせるために。

なぜ、どのような理由や意図で僕の部屋に来ていたのか。

 

あのときひとりはバンドを始めた報告をと言っていたがそれだけではない気がする。

 

「………まっいいか。とにかくめでたいことなんだ、それでいいじゃないか」

 

些細な悩みを振り払い、登校の支度を済ませる。

 

そもそもの話、ひとりが僕の部屋に居て何の問題がある?

窃盗などをするのであれば良くないが、ひとりはそんなことをするような人じゃない。

それにわざわざ僕みたいなやつに報告をしてくれるなんて喜びはしても怒ることなど愚かすぎる。

 

「よし、今日も一日頑張るぞい!」

 

学校で授業を受けて、その後は家に帰り、家事をこなし、風呂に入り布団に潜り、眠って起きて、ご飯を済ませ、登校して授業を受ける、それが僕の日常。

 

そして最近また始めたバイトをこなすのもこれからの日常に追加される。

 

今日は記念すべきバイト初日なのだから張り切らなければ!

 

久しぶりにあの娘とも出会えることを楽しみにしながら、遠い学校を目指し歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は彼がバイトにやってくる日だ。

心がなんだかざわついている。

これから一緒にバイトをしたり、曲を聞いてもらったりするんだろうなと、予想ではなくほぼ期待のようなものだけど、そんなことを考えてしまう。

 

あの時、彼と。

 

「響くん……」

 

私の大好きな人と出会ってから、私は変わった。

変わるきっかけをくれたお姉ちゃんと

過去を乗り越え進むための力をくれた響くん。

 

「ふふっ、早く来ないかなー?」

 

思わず笑みがこぼれてしまう。

彼の姿を見るのを今か今かと待ち望んでいる。

 

 

 

「早く、会いたいな……」

 

 

 

 

私は伊地知 虹夏(いじち にじか)は想いを馳せる。

今日はいつもより張り切らなければ!

そんなことを考える私なのでした。

 

 




ぬいぐるみ抱き締めてる店長を抱き締めたい。

てかほんとにお気に入り数がヤバオくん!!
狂喜乱舞です本当にありがとうございます!!
感想とか誤字脱字報告なども気軽に書いてくれると嬉しいです!

生まれてしまう!承認欲求モンスター!イイネクレー!



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べーしすと・は・くず?

かつてないほどのお気に入りの数に戦慄しております。
無事脱帽です。

それに感想ももらって感謝感謝でございます!!ありがとうございますっ!!

それではどうぞ!

あと見返したときに、二話のタイトルが話にそぐわないなと思い変更させて頂きました。
しすたーっていってんのにおねえちゃんいないやん登場してないやんどつくぞわれ(自分)



 

バイト先にて

 

 

「ありがとうございましたー」ニコッ

 

お客様が店から出ていくのを笑顔で見送り、一息つける。

 

「ふぅ、客も少なくなってきたかな。」

 

「響くん」

 

「あっ、店長」

 

「よく覚えてるもんだね、業務内容とか、いろいろ。」

 

「あの時から一年は経ちましたけど、思い入れのある仕事ですから。」

 

「………元気にしてた?」

 

この人は伊地知 星歌(いじち せいか)さん。

ここ「STARRY(スターリー)」というライブハウスの店長だ。

僕はちょうど一年前、ここでバイトしていたことがある。

 

しかし、諸事情によってバイトを一度辞めなくてはならなくなり、

そして今同じ場所でまたバイトをしている。

一度辞めたバイト先でまた働くなんてこと、普通じゃあり得ないのだろうか?

同級生に話したときに変な顔をされたが、そこまでおかしなことだろうか?

実際ここは自分の家と言っても……いやそれは過言だな。

とにかく、とても楽しい職場だから事情が片付いたらもう一度ここで働くつもりだったんだ。

 

 

「久しぶりに会ったような言い方ですね」

 

「久しぶりに会ったんだよ今日」

 

「あはは、そうですね。大丈夫ですよ元気にやってます」

 

「………そっか、ならいい」

 

今日はもう上がっていいと言われたので、軽い近況報告を済ませた後帰る支度をする。

 

「あっ!響くん!」

 

「ん?あっ、虹夏。」

 

「久しぶりだねー!元気にしてた?最近調子どう?」ズイ

 

「うおっ、ち、近いよ虹夏、それに元気にやってるから!」

 

「自分から近づいてるんだもん、それに久しぶりに会えて嬉しいしさ!」

 

元気にやってるなら良かった!

そう言って彼女は笑顔を向けてくれる。

彼女は伊地知 虹夏(いじち にじか)。

店長の妹だ。

 

この瞬間まで話しかけられることもなかったのだが仕事が終わったときに話しかけてくるとは。

まぁ仕事に私情を持ち込まないのは良いことだからなにも不自然なことはない。

 

「………」

 

うん?どうしたんだろう。

突如として虹夏は口を閉じてこちらを見つめた。

じっくり、僕の目を見つめてくる。

 

「……虹夏?」

 

「響くんさ」

 

「ん?うん。」

 

「最近、悩みとかない?」

 

「悩み?」

 

「さっきお姉ちゃんと話してるときも元気にやってるって言ってたけど本当は悩みとかあったりしない?嫌なことがあったとか、上手く行かなくて落ち込んでるとかシャンプーを変えなくちゃ行けなくなったとかなんでもいいんだよ?相談して?私たちならちゃんと力になるからさ我慢しないで全部吐き出していいんだからね?響くんが辛いと私たちも辛いからだから苦しくなったら私たちに────」

 

「別にないぞ?」

 

「……へ?」

 

捲し立てるように言葉を連ねる虹夏を遮るように言葉を出す。

 

虹夏は少し、というかかなり心配性なのだ。

こんな僕に対しても隔てなく優しくしてくれている。

悩みはないかと聞いてくれるのも、優しさから来るものだ。

 

だが幸いなことに、今の僕に悩みは一切ないので虹夏を僕のことで悩ませることもない。

 

「それどころか毎日充実してて楽しいんだ。あっ強いて悩みを言うなら」

 

「っ!?何かあるの!?」

 

「幸せすぎて困ってるっていうのが悩みだな!」

 

「……はぁ…」

 

「あっごめん、気に触るようなこと言っちゃったか?」

 

「それは贅沢な悩みってやつだよエジソンくん」

 

「誰がエジソンじゃ」

 

「あははは!……うん、でもそっか大丈夫かー」

 

「なんでちょっと残念そうなの」

 

「ううん、嬉しいよ?さて!ジェイソンくん、もう君は帰りたまえ~!」

 

「僕を13日の金曜日にだけ現れる殺人鬼と一緒にしないでくれ僕の名前は小鳥遊だ。」

 

「あははは!やっぱり響くんツッコミが冴えてるねー」

 

「なんで僕がいるときはボケに回るんだ虹夏さんや……それじゃ今日は話せて良かった。じゃあ、お疲れさまでした!」

 

「おつかれさまー!」

 

「私が……助けたかったんだけどな…………」

 

 

 

 

 

 

 

店から出て、家に帰る準備をする。

あー、楽しかった。

これからこれが毎週続くのかと思うと心が踊る。

にしても虹夏は星歌さんと僕の会話を聞いていたんだな。

視線が幾つか感じると思っていたけど、そのうちのひとつは彼女のものだったか。

 

それじゃ、もうひとつの目線は誰なのかというと。

心当たりは既にある。

 

「ヒビキ、待ってた。」

 

「あはは……お待たせしました」

 

どうやらだいぶ待たせてしまっていたようだ。

この人は山田リョウ。

虹夏の幼馴染みで虹夏と「結束バンド」というバンドを組んでいる。そしてそこのベーシスト。

 

裕福な家庭で親の愛情を心と金で受けてきながらも金遣いの荒いせいか彼女はいつも金欠になってしまっている。

 

「既に1分は待ってた」

 

 

 

 

「待ったうちに入らないねそれ」

 

どうやらそんなに待たせてる訳じゃなかったようだ。

 

「私はヒビキのことを考えると1分が一時間に感じる特殊能力があるから」

 

「君の嘘は自動照準なの?」

 

時となんちゃらというかへっちゃらみたいな部屋だな、と心の中でツッコミながら

 

「早く帰ろ、私たちの家に」

 

「おそらく君が指差す方面は僕の家だね。君の家じゃないよ安心して」

 

「なんで?あそこが私の家じゃないなんて不安でしかない」

 

「自動照準の上にマシンガンときたか」

 

「私はヒビキ無しじゃ生きられない身体にされたから」

 

「言い方やめてね」

 

こんな風にお互い冗談を言い合うが無論同居はしてない。

でも基本1人暮らしな自分にとっては、こんな自分のことを必要としてくれる人がいるだけでも嬉しいものだ。

 

そう、彼女は僕の家に来ようとしている。

 

それもご飯を食べるためだけに。

 

僕はそんな彼女、リョウのことを心から受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘じゃないよ。

 

私がヒビキと出会って救われてからずっと。

ヒビキはどんなに軽口を叩いても我が儘を言ってもご飯をねだっても全部受け入れてくれた。

 

でも一度、ヒビキはバイトをやめて私のもとから離れていった。 

事情を聞いて仕方がないと納得したけれど、本心のどこかでずっと悩んでた。

 

これからどうしようってなった。

でも案外簡単に思い付いたし悩みも晴れた。

離れたなら離さなければよかったんだと。

 

そして今、私のとなりにヒビキがいる。

戻ってきてくれた、約束通り、私のために。

 

ヒビキなしでは生きていけないのは本当。そういう身体にされたのも本当。

 

内側から外側まで、全部ヒビキがいなきゃダメ。

 

だからヒビキ───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうはなさない

 

 

 




丸わかりなヤンデレ感をようやっと出せた気がする。

ヤンデレはイイゾ~。

誤字脱字報告や感想などくれると喜びすぎて溶けます!!
物語のネタバレを含むような表現は出来ませんが可能な限り質問にも答えていきたいと思います!


君たちの応援が亀の足を早くするんだ!
みんなープリキュアに応援してー!



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きた・いず・いくよ!

明けましておめでとうございます!
年明けに皆さん初夢等は見ることが出来ましたでしょうか?

今年もよろしくお願いします!


 

以前に彼女、山田リョウと出会ってからしばらくこうやってバイト帰りや休日等に僕の家でご飯を食べさせることがあった。

しかしそれもここ一年なかったのだが、またスターリーでバイトを始めたことでそれも再開した。

 

自分の作った料理を食べてくれる彼女には感謝しかない。

自分の料理を食べてくれる人は基本いないものだから食べて感想をくれると心の底から嬉しくなる。

 

いつの日か虹夏はベーシストは信用ならないと言っていたけれど、

リョウに関してはその問題はないと思う。

僕がベーシストという生き物を理解していないからかもしれないがそれでも僕の前での彼女はベーシストとしての山田リョウではなく、僕と共に料理を食べてくれる心優しい女の子、

山田リョウなのだ。

 

「ヒビキのご飯食べたい。」

 

突如、山田リョウは呟く。

どうやら先程から僕の料理する姿を眺めて暇を潰しているようだ。

 

「全然リビングで待っててもいいんだよ?見ててもつまんないでしょ」

 

「ヒビキのご飯食べたい。」

 

腹が減っているから早くしてくれってことだろうか。

それこそリビングで待っていた方が身体も休めるから寛げるだろうに。

 

「ヒビキの料理してるとこ、見てるの好きだから」

 

そんな僕の心の言葉を察したかのようにリョウは話す。

その事に少し驚きながらも、気を遣ってくれたことに微笑む。

 

「そっか、あはは、ありがとな」

 

「ヒビキのご飯食べたい。」

 

「あっはい」

 

早くしろってことですねわかりました。

 

 

 

 

食後にて、

 

「ご馳走さまでした。」

 

「はい、お粗末様でした。食べてくれてありがとな」

 

ご飯を食べてくれたリョウに感謝をしつつ食器を片付ける。

すると─────

 

 

「リョウさんや、食器を片付けるだけなのになんでついてくるのかね?」

 

「ヒビキの手際を見ていたいから」

 

「なんか、変わってるね」

 

「照れる……」

 

「照れる要素あった?」

 

いつもこのような感じでリョウと漫才のような軽口を言いながら

リョウのお腹は満ち足りて、僕の退屈も紛れる。

お互いウィンウィンな間柄なのである。

自分と彼女の関係性に誇りを持ちながら、食器の片付けを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の日───

 

 

 

「はぁ~………」

 

私の名前は喜多…郁代(きた いくよ)。

ただいま絶賛落ち込み中である。

 

ため息を吐いてしまう。

 

公園のブランコに座り、一つのことを考える。

 

私は以前まで結束バンドに入っていた。

そのきっかけは至極単純なもので山田リョウという憧れのセンパイが居たからというもので。

 

しかもギターも弾けないのに出来るなんて言ってしまって。

 

そんななかライブなんて出来るわけもなく、私は逃げ出してしまった。

 

あの時、大切なことから逃げてしまってから私の日常は青く暗いまま落ち込んでいる。

先輩たちのライブを台無しにしてしまった私に、今さら会わせる顔なんてない。

 

それでも、みんなに償えたら。

そんなことしても許されない、私にもう、ギターを握る資格なんて無いのは分かってる。それでも─────

 

「喜多」

 

「え?あっ!?」

 

そこには、私が償いたいといっていたうちの1人、

小鳥遊センパイが立っていた。

 

私が逃げてしまったにも関わらず、

 

『何か理由があるからだよね。』

 

そういって私の気持ちを肯定して受け止めてくれた人。

正直怒るのが普通というか、てっきり怒られるものだと思っていたから驚いていたけど。

とても優しい人なんだなってことは話してるときもずっと思ってた。

 

「こんなとこで会うなんて久しぶりだな、今帰りなのか?」

 

気さくに話しかけてくれる彼の右肩には学校の補助バッグがある。

私と同じ学校のバッグだ。

 

「はい、今帰りなんです。でも、なんだかあの時のこと思い出しちゃって。」

 

「………そっか」

 

センパイは優しそうな声で相槌を返してくれる。

彼の声は透き通ったような声でとても落ち着く。聞いてて気持ちが全部洗い流されるような、そんな気分になる。

 

「ベンチにでも座ろうか。」

 

「え?」

 

「子供たちの遊具を独占するわけにもいかないしね。」

 

冗談交じりに言う彼の目線の先には男の子と女の子がいた。

 

「あっ、そ、そうですね!ごめんね二人とも!」

 

「ううん!」

 

「おねえちゃん!おにいちゃん!ありがとうございます!」

 

「いえいえ、仲良く遊ぶんだよ」

 

「「はーーい!」」

 

 

彼の言葉を聞いた子供たちはブランコで遊び始めた。

 

「それじゃ、ベンチに行こっか。」ギュッ

 

「あ………///」

 

そう言って、センパイは私の手を握る。

そしてベンチに座らせる。

 

「僕も隣、いいか?」

 

「ど、どうぞ!」

 

ありがとう、といって私のとなりに座るセンパイ。

 

手を握ってきたことと言い、隣に座ったことと言い、彼が近くに居るだけで心が高鳴っていく。

 

「僕さ、またスターリーでバイトを始めたんだ。」

 

「そうなんですね!おめでとうございます!」

 

「うん、ありがとう。それでなんだけど、喜多。」

 

「はい?」

 

「喜多も、またバンドに戻ってこないか?」

 

「………………え?」

 

 

 

 

 

 

先程まで火照っていた身体が急に冷えるように─────

 

 

 

 

頭が真っ白になった。

 

 






祝え!結束バンド誕生の瞬間である!(速すぎ)


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ふほう・しん・にゅう!


感想を書いてくれた人たちの殆どが感想と応援をしてくれる人たちばかりで感動しました。
誠にありがとうございます!

ちなみに余談ですが。
この世界の登場人物は全員がヤンデレになる素質があります。
可能性もあります。やったー。



 

 

「わ……私がですか…?」

 

「他にいないよ」

 

「い、いやでも私は……」

 

「わかってる、一度逃げ出してしまったことに負い目を感じて引きずってしまってるんだよね。」

 

「…………」

 

こくんと頭を縦に振る彼女の表情は暗く、とても落ち込んでいることがわかる。

 

きっと、これまでも思い出して俯いてしまうことがあったのだろう。

そしてその度に忘れるように、逃げれるように、立ち直れるように元気に過ごすフリ等もしてきたのかもしれない。

 

普段は人のことを誉めたり、自分のやりたいことに真っ直ぐでも人の嫌がるようなことに気付かないような女の子ではないのだ。

それこそ、ブランコに乗りたがっている子供の視線にすら気付かないなんてこともかつての彼女ならなかった。

 

一体どれだけ苛まれたのだろう、どれだけ悪意無く騙して偽った自分を戒めたのだろう。

 

逃げてしまったという罪悪感。

謝らなければという使命感。

それすら逃げてしまう自分への嫌悪感。

 

一体……どれだけ………

 

 

 

いや、僕が悔やんでどうするというのか。

僕のやるべきことは隣でただ同情することだけでなく、

彼女がまた心の底から笑顔に立ち直れるように全力で支えること。

 

これは彼女が解決すべきものであったとしても、

過程で助け船があったっていいはずだ。

 

きっかけ、きっかけを作るんだ。

 

そのきっかけとして、再加入を勧めたわけだが……

 

「私、怖いんです……」

 

「………」

 

そう……だよな。

 

簡単な話じゃないのはわかっている。

それでも僕は知っている。

そのことで彼女が前を向こうと頑張り始めたのも、それがこの子が逃げたことがきっかけで生まれた奇跡だということも。

 

「簡単には決められないよな、わかった。無理に誘ってごめん」

 

「っ………」

 

「答えが出来たら、入るでも入らないでもいいから僕にまた相談してほしい。」

 

「え?」

 

「え?」

 

「………諦めたって感じじゃないんですか?」

 

「なんで?君がいっぱい悩んで苦しんでるのに、それを突き放すようなヤツがどこにいるんだ?」

 

「っ!」

 

「君の心の底からの答えを聞けるまで、いや違うな。」

 

彼女の心を落ち着かせるように、頭を撫でる。

 

「あっ………////」

 

「例え答えが変わったとしても、僕はそれを聞き続けるよ。」

 

「小鳥遊センパイ………」グス

 

 

彼女を横から抱き締め、彼女の頭を胸にうずめさせる。

 

刹那────

 

「せんぱいぃ゛……ごめんなさい゛ぃぃ……!」

 

ぽろぽろと、ぽろぽろと。

 

彼女の痛みに痛んだ心のガラスから、眼を通して雫が零れてくる。

 

それは、きっと本人ですら気付かなかった程の小さな本音。

 

彼女は心の中で何度も謝り続けたのだろう。

そして快く許して貰えることを何度も望んでいたのだろう。

でもそんなことはあり得ないのだと、何度も戒めたのだろう。

 

それが積もりに積もって、募りに募って、自分の心を希望と絶望で埋め尽くすようになってしまって、彼女にとって大きく、深く染み付いた鎖になった。

 

「いいんだよ、喜多。これから考えればいいんだ。」

 

「はい…っ…」

 

「僕も一緒に悩むよ。一緒に悩んで君の求めてるものを一緒に探して、君の答えを一緒に考えよう。」

 

「グス……はいっ!ありがとうございます!」

 

ならいくらでも優しくしよう。

彼女の望むことを手伝おう。

 

それが彼女のためになるならば…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅────

 

「……ただいま」ガチャ

 

ん?鍵が開いてる?

外に出るときは閉めた筈なんだけどな。

 

まさか空き巣?こんな僕の家に?

空き巣するにしてももっと金目のあるところを狙うだろうに。

自分で下調べとかしてるとか聞いたことあるし。

 

もし下調べしてるなら僕の家は外れだとすぐにわかるだろう。

 

何故なら

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

両親が残してくれたこの部屋で。

そんな高校生一人しかいないようなところにわざわざ空き巣をするだろうか。

 

いやまぁ空き巣する人たちの気持ちも考え方も分からないから、もしかしたらする人もいるのかもしれないが………

 

まっいいか。

 

だとすると、他に考えられる可能性は()()()だろうな。

 

「ははっ、別に隠れなくてもいいのに」

 

玄関の靴を並び直したあと、部屋を散策する。

 

そして一つの部屋のドアが僅かに開いてるのを見つけた。

 

僕の部屋だ。

 

「………」

 

そこを開くと─────

 

「あっ」

 

「やっぱり居たんだね。ひとり、いらっしゃい。」

 

「…ぁ……あ……」ガクガク

 

 

 

またもや顔面蒼白なひとりの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 




この作品のひとりちゃん普通にお縄にかかりそうなことしてるが主人公も主人公で変なヤツですので、ひとりちゃんが警察のお世話になることはありません。やったー。

あとこの作品原作ストーリーに準拠していくので安心してください!


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ひとり・と・ひびき


ひとりちゃんの奇行って意外と的確に表現するの難しい。
でも書いてると楽しい。


 

 

「アババババババ」

 

「落ち着いてひとり、深刻なエラーが発生してる。」

 

「キュッ」ポン

 

「ひとり!?ブルースクリーンになってるぞ!?」

 

「 よ う こ そ 」

 

「一昔前のWindowsだからそれ!できればただいまって言ってほしかったかな!」

 

突如としてブルースクリーンとなってしまったひとりを見て。

慌てて彼女を介抱する。

 

「私は不法院 侵入です。年齢は16歳です」

 

「罪状のこと人の名前みたいに言わないで」

 

しかも名字はちょっとカッコいいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はっ……」

 

「やっと戻ってきたか」

 

「……ぁ……あ…」ガクガク

 

「落ち着いてひとり、無限ループになっちゃうから。」

 

「……ご、ご……ごめんなさ────」

 

「あー待って謝らないでくれ」

 

「い………え?」

 

最後の一文字言っちゃってる。

まあいいや

 

「……別に僕は怒ってないからさ、それに悪いことしたわけでもないのに謝るもんじゃないよ。」

 

まぁ赤の他人の家でやったらそりゃ悪いことだけど、ひとりは僕の大切な友人だ。ほぼ顔パスみたいなものだし、僕自身なんとも思ってないのにそのことで謝られるのは気分が悪い。

 

「でも、そういうことしたらダメって分かっててやっちゃったから………」

 

「うーん、……別にいいんだけどなー」

 

「………え?」

 

「僕は構わないよ?ひとりが家に来てても」

 

「…………え?」

 

「え?疑問bot?」

 

まるでピンと来てないような顔だ。鳩が豆鉄砲を食ったような。

いや、鳩が豆鉄砲を食った姿を見た訳じゃないけど。

 

「な、なんで……なの?」

 

「なんでって、言われてもな……友人とか、幼馴染みとか、そういう人たちって僕からすれば家族みたいなものなんだよ。」

 

「………」

 

「……いつのまにかのっぺらぼうになってる……」

 

「はっ!」

 

「おかえり」

 

「あっ、ただいまです」

 

今度は何に反応したのだろうか。友人ってワード?

いやそれは違うか。

 

「まぁ何はともあれだ、これからも暇なときとか用事があるときとか、僕の家は幾らでも来てくれていいってこと。」

 

「えっ!?い…いいの…?」

 

「多分今、今日一声だしたでしょ」

 

もちろん。

 

そう答えると彼女は安心したかのように微笑む。

 

不安になる要素なんて何一つ無いのに。

まぁそんなところも彼女の良いところでもあるのだが。

 

「あっでも、他の人の迷惑になる行為はダメだからな、僕は全然構わないけどそうじゃない人が大半だから。やるなら僕だけにしてね。あと、両親の迷惑になるようなこともダメだからね。」

 

「う、うん、それはわかってる」

 

「ならよかった」ニコッ

 

そう聞いて僕も安心したのか、気付いたら彼女の頭を撫でていた。

 

「うぅ……////」

 

「あっ、ごめん。恥ずかしかったかな。」

 

「あ、えっと、そんなことない…ょ……」

 

「そっか」

 

もっとしてほしい…………///」

 

「そう?なら。」ナデナデ

 

「……えへ…うへえへへ///」

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「ところでさ」

 

「……?」

 

「今まで僕にバレずに家に入ってたけど、どうやって入ってたの?合鍵とか作ったとか?」

 

一応戸締まりとかしてたし、他の方法が思い浮かばないし現実的に可能な方法を考えるとそこが一番無難な線だ。

 

「あっはい、合鍵作ってました。」

 

「ですよねー」

 

「……怒らないの?」

 

「怒らないさ。犯罪に手染めてる訳じゃないし。」

 

「あの……思いきり染めてます私」

 

「あっ」

 

「どうも小鳥遊 侵入ですほんとにすいません。」

 

「僕の名字使わないで侵入さん」

 

「侵入さん、へ、へへ……ひたりさん……へへ」

 

「それ部首間違ってますひたりさん」

 

そんなこんなで主にひとりが乱舞していただけのいつもの日常を過ごす。

 

最近はとても幸せだ。

 

虹夏や星歌さん、リョウとも再会出来て。

またやりたかったバイトを始められて。

喜多の思いの丈も聞いて、立ち直るきっかけを作ることも出来た。

 

こんなに充実していて良いのだろうか。

 

 

僕にはまだ、家族と呼べる人がいる。

 

僕は、そんな家族と呼べる皆のためにいる。

 

その人たちのためにも頑張ろう。

 

心の中でそう呟きながら、僕はひとりの頭を撫で続けた。

 

 

 

 




主人公君?あんまり甘やかしたらヤンデレになっちゃうよその子達。(作者)


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こっから・が・ほんぺん!

そのまんまの意味ですね!

今までのは四人と響くんの掛け合いを描いて、
こっからは本格的にヤンデレしていきます!
精神力の貯蔵は充分か?


 

 

 

 

数日後。

 

「うぅん……」ムク

 

ジリリリリリリリリ!!

 

「うおっうるせっ」カチ

 

目覚まし時計が騒がしくなる直前に起き、目覚まし時計の音で強制的に覚醒させられた僕、小鳥遊 響は、気を取り直してベッドから出て起き上がる。

 

学校へと行く準備を黙々と始める。

 

その時だった。

 

ヴーーー、ヴーーー。

 

「………なんだ?」

 

電源を落とし先程まで無音だった僕のスマホがやかましくバイブレーションを始める。

 

「そんな通知が鳴るようなことあったか?」

 

寝ていたのは6時間程度、その6時間、スマホは電源を落とし電池を節約している。

もちろん充電機器もあるのだからそれを使えば良いと言う話だが、充電しながら電源を入れっぱなしにすると、電池の持ちが悪くなり、長続きしないとどこかで聞いたことがある。

それに影響され、長続きするに越したことはないと考え、

寝る際は電源を落とすことにしている。

 

話は脱線したが本題だ。

止めたばかりの目覚まし時計に目をやる。

時針は6を、秒針は12を指している。

つまり自分は6時ぴったりに起きたということ。

 

つまり、つまりだ。

ひとりの時のように、深夜に誰かが僕に連絡を寄越したということである。

 

誰からの着信だろうか。

それにしても僕に連絡をくれる人など自慢ではないが多くはない。

後藤一家や伊地知姉妹、リョウなどとは連絡先を交換してはいるが、それでもこちらから連絡をしなければこのように通知がこれでもかと言うほど来ることはない。

 

「だとすると候補はたった一人だな」

 

正直、臆せずに通知の中身さえ見てしまえば何処からの着信なのかは一目瞭然なのだが……

 

もしそれで変なサイトに飛ばされたら?

 

とか。

 

スパムメールとかが届いていたら?

 

とか。

 

そんなことを考えてしまうせいで、中身を見るのが少し怖い。

 

「よ、よし!見るぞ………」

 

覚悟を決めて、

重い腰を上げるならぬ、重い目蓋を開く。

 

そこには─────────

 

「……………え?」

 

喜多郁代という名前が写されていた。

 

通知は約三分置きに繰り返されている。

アプリのメッセージ、通話のどちらも相当な数送られてきている。

 

履歴をスクロールしながらざっと数えても200は優に越えている。

 

………取りあえず詐欺やスパムの類いでないことには安心できたかな

 

「にしてもなんでこんな数の通知が……さてさて、どんな内容だ?」

 

メッセージを開き文を見てみる。

 

ダイジェスト的にまとめると────

 

『センパイ、今日用事ありますか?出来れば二人で遊びに出掛けたいなと思ってるんですけど』

 

『センパイ?さっきから既読になってないですけどなにか用事中でしたか?』

 

『すいません、私、邪魔してばかりで』

 

『でも私、センパイと一緒に居たいんです』

 

『不在着信』

 

『不在着信』

 

『不在着信』

 

『センパイ、会いたいです』

 

『もしかして、私なにか気に障ることしちゃいましたか?』

 

『私直しますから、見捨てないでお願いします』

 

『私、センパイの為だったらなんでもしますから』

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ───』

 

「呪詛っ!!!」

 

本当はこれだけではなく、数えるだけでも気が遠くなる程のメッセージが送られてきている。

 

え?これほんとに喜多か?

喜多に成り済ましてる新手のスパムじゃないだろうな!?

 

恐ろしいものの一端を垣間見えた気がする。

てか大事なのそこよりも喜多の精神状態だろ。

 

こんなことなら電源を消しとくんじゃなかった。

聞いた話を実践しようとしてタイミングが噛み合わなかったんだな。今度からは電源を落とさないでおこう。

 

僕は慌てながらも何とか平静を装い返信を送る。

装うと言っても本人が僕の姿を見ている訳じゃないが。

 

『大丈夫だよ喜多。悪いことなんてなにもしてないから。

寝る前にスマホの電源を落としてて、通知に気付かなかったんだ。

ごめんな』既読

 

 

はえーよホセ。

 

おっと失礼、俺の中のオタクが出てきてしまった。

 

直ぐ様既読になった……だと………

 

ま、まぁ?スマホ開きながら寝落ちる人もいるだろうしそういう時もあるよねうん。

 

『そういうことだったんですね!よかったー嫌われたかと思っちゃいました』

 

嫌うわけないだろ。てか起きてたんだ、え?今の今までずっと?

 

いや、どこかで仮眠はしてるだろう。

たまたま今、偶然起きてて既読をしてくれただけで。

 

一応念のために、何の念を押すのかわからないが、先程のメッセージたちを見返す。

 

メッセージの横に送られてきた時間帯があるが、全て1時間ごとにあの強烈なワードがある。

 

あっそうだ、と思い付いた僕は彼女に提案する。

 

『遊びに出掛けたいと言ってもメッセージの量的に寝てないだろ』

 

『そうですね……』

 

『待ち合わせしようか、今から。』

 

『待ち合わせですか?何処かで食べたりするんですか?』

 

『それは後で。まずは会おう、そんで寝よう』

 

メッセージ内で会いたいと言ってくれていたのならその気持ちを無下にして寝て休んでろなんて言えない。

罪悪感は安眠とか気力とか色々妨害するし

休めというのなら、そう言った本人が見守らなければならないのが僕のポリシーだからな。

 

『案内するから、僕の家に。』

 

『わかりました』

 

『それじゃ、待ち合わせは喜多の家の近くで良いかな?』

 

『わかりました』

 

『よし!なら今から行くよ』

 

『わかりました』

 

…………ん?

 

『今日って何曜日だっけ?』

 

『わかりました』

 

『そんな曜日はない』

 

てかあれ?日曜日?

 

 

…あっぶね、休日に学校行くところだった。

 

 




感想とかお気に入りが物凄いモチベに繋がっております。
最高です。


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へや・で・おねんね。

悪魔でコメディです。

コメディ書いてるときが一番輝いてる気がするやもしれん。
ヤンデレもすこです。


 

喜多と待ち合わせをし、僕の家に案内する為に待ち合わせ場所にやってきた。

 

 

 

心配で寝かしつけようと思っていたのだが、正直な話自分の家に女子を呼ぶことが最近多くなった気がする。

 

昔、母が言っていたことを思い出す───

 

 

 

 

 

「女の子をいっぱい家に呼ぶような男の子になっちゃダメよ?ベーシストくらいしかそんなのやらないんだから」

 

「うぐっ、やめてくれよ……」

 

────今思うと母さんはベーシストというものに対してかなりの悪口を言っていた気がする。

 

ベーシストと聞いて真っ先に思い浮かぶのはリョウだが、

別に悪口を言われるようなことはしていないようなことはしてない筈──────

 

「虹夏、1000円ちょうだい」

 

「ダメ。てかなんであげる前提なの!?」

 

「今月もきつくて」

 

「毎月きついでしょリョウ」

 

「地獄の沙汰も金次第」

 

「そのお金がないんでしょうが!」

 

「山田」

 

「なに?」

 

「ほら、これで腹の足しにしてくれ」

 

「小鳥遊、あいらぶゆぅ」

 

「おー、あいうぉんちゅぅ」

 

ガシッ

 

「固い握手交わさなーいの!ヒビキくんもリョウのこと甘やかさない!」

 

「え?別にいいだろ?」

 

「良くないよ!ベーシストに金を貸すなんて!パチンコにお金を費やすのと一緒だから!」

 

「偏見がひでえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────いやまぁ。

 

虹夏にお金を集ろうとしていたのは良くないけれど、結局僕の自己満足でリョウも満足してたんだからそれでいい筈なんだ。

 

信頼に足りないような人間じゃない。はず。

 

ね?

 

そんなことを考えていると、目の前に見覚えのある面影ががやってきた。

 

「小鳥遊センパイ!お待たせしました!」

 

「大丈夫、そんなに待ってないよ。そっちこそ眠気大丈夫?」

 

「なんとか!でもなんで急にセンパイの家に?」

 

「いやだって眠いんだろ?だったら少しでも寝よう。じゃないと遊びに行っても辛いだけだしさ。」

 

「でも…」

 

「あんな真夜中に連絡するってことはさ、寝れなかったんだろ?もしかしたら寂しかったのかなとか思ってさ。」

 

「…センパイにはなんでもお見通しなんですね」

 

「なんでもって訳にはいかないけれど、理解はしようとしてるよ」

 

「………センパイの言う通りです。」

 

当たっていたか。

以前に喜多は、人と関わるのが好きと言っていた。

それはつまり逆を返せば、人と関われない時間を嫌っているということでもある。

そして一人の部屋にいる時は基本的に誰もが人と関わらない。

孤独な時間を過ごすことになる。

 

喜多は人との関わりを重んじるならば、人より寂しがりなのかも知れないと思っていたが………

心配していた部分が当たっていたのなら彼女ここに呼んで正解だったな。

 

「それじゃ、行くよ」

 

「…………ふぇ!?///」

 

「え?いやだから僕の家に行くよって」

 

「え、あ、あー!なるほど!そっちですよね!」

 

急に顔の色が髪の色と同化するかのごとく真っ赤になったんだが。

大丈夫なんだろうか、心配だ。

 

「大丈夫?熱っぽいならおぶっていくけど。」

 

「だだだだだ大丈夫です!歩けます!歩けますから!!///」

 

「そ、そうか?ならいいけど、無理はしないでくれよ?」

 

「いえすまむ!!!」

 

「誰がマムじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家についた。

 

「お邪魔します!」

 

「あいいらっしゃい。部屋は2階にあるから、ちょっと待っててね」

 

「あ、お気になさらず~」ウトウト

 

「使う場面間違ってるねそれ。さてはもう限界だな?」

 

早く寝かしつけてあげないと、体に悪い。

夜更かしするのは女性にとっても美容にも悪いとも聞いたし。

控えめに言っても美少女な彼女の肌を荒れさせるのはよろしくない。

 

「こっちだよ。」

 

「はい~」ポワポワ

 

 

 

部屋

 

 

 

 

「横になって、ほら布団かぶって」

 

「うわぁ~あったかいですぅ」

 

「そりゃよかった」

 

「センパイ」

 

「ん?どうかした?」

 

「センパイってカッコいいですね」

 

「え?…あはは…ありがとう」

 

「手、握っててくれますか?」

 

「あ、うん。もちろん。」

 

「………よかったです、安心しました」

 

「ん?」

 

「怒らせたんじゃないかって、嫌われちゃったんじゃないかってずっと不安だったんです。

それで辛くなっちゃって、寂しくなっちゃって、寝れなかったんです。なのに……センパイはそんな私を怒らなくて…」

 

「あんなことで嫌いにならないさ。それに寂しくて何かに温もりを求めるのは当たり前の感情だ。むしろ少し嬉しくも感じたよ。」

 

「嬉しい……?」

 

「寂しいと思って頼ったのが僕だった。それが嬉しかったんだ。」

 

「セン…パイ……」

 

「ほら、今日は僕と遊ぶんだろ?だったら今は寝るんだ。そして起きたあとに元気な姿で遊ぼう。」

 

「………はい。」

 

 

その一言で喜多は眠りについた。

 

現在の時刻は午前9時あたりか。

 

「僕も仮眠するか」

 

喜多と休日を共に楽しむのだから体調は念を押して気遣う必要がある。

そして僕は喜多がベッドで寝ているそばで、

寄り添うように眠りについた。

 

 

 

 




主人公の設定とかそう言うのって
目次作ったりとかして乗せておくべきですかね?


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ひびき・の・はーと。


主人公よ!お前寝かせてから集合でもいいだろうよ!
ってコメントで言われてたぞ!
その通りだろうよ!何考えてんだぁ!?

ということで。

今回はそれに対する回答みたいなものなんですけど、予想通りの疑問を投げ掛けてくれて少し嬉しかったです。

あとちなみになんですけど自分はしっかりとストーリーやシナリオが完全に詳細に決まってるわけではないので、意外とその場の勢いで書いたりしてます。コメディなので自由に書いたりしてます。(まだコメディ部分少ないけど)

と言っても超テキトーに書いてるわけではないのでそこは信じてくださいお願いしますなんでも島風。




 

昼1時

 

「……」

 

喜多より2時間近く早く起きた僕は喜多の姿を見る。

先程からずっとこれで良かったのかと頭のなかで考える。

()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

そんな思考も彼女の起床により遮り、彼女の方へと意識を向ける。

 

「んぅ……」

 

「あ、起きたか?」

 

「あ……センパイ…おはようございます…」

 

「おはよう。よく眠れた?」

 

どうやらまだ眠そうな顔をしている。

それもそうだ。寝てからまだ4時間程度しか経っていない。

6時間が平均的な睡眠時間と言われてるしまだ休むべきだろうか。

 

「はい、お陰様で。」

 

「そう?まだ眠いとかないか?4時間しか寝ていないし、なにか必要なものとか───」

 

「大丈夫ですから!そんなに心配しないで下さい!」

 

「………わかった」

 

「はい…あ、あの」

 

「ん?」

 

喜多が目を腕で擦りながら、僕に対して質問を投げ掛ける。

 

「なんで…私を家に誘ったんですか…?」

 

「え?」

 

「家で寝てから待ち合わせでも良かったと思うんです。

来たうえに寝てから言うのも変だとは思うんですけど……

  しかも条件反射で………

ただどんな理由で私をここに呼んだのか気になって。」

 

「たし…かにそうだね……

喜多ってさ、『寝る』ことにどんな意味があると思う?」

 

「え?それは一日の疲れとかを取るために寝るんじゃ……」

 

「それはそうだね。

でも身体の疲労は取れても心の苦しみが取れる訳じゃない。

それこそ喜多のように自分に責任を感じやすい人は特に、

辛いときに一人でいればいるほどさらに辛くなる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。」

 

「っ………」

 

表情が曇る。自分の過去を思い出しているのかもしれない。

 

「違うんだ、君を困らせようと思ってる訳じゃないんだ。

 

ただ心も身体も同時に休められるようにしないといけないんだ。

その為にも『寝る』ってのはあるんだと思う。」

 

「……確かにそうなのかも」

 

「僕さ、昔お母さんに言われたことがあったんだ。

 

『本当に大切な人には、どんなことがあったとしても苦しんでるなら寄り添ってあげなさい』って。

 

それで、なんとか喜多にとって心も身体も休められる環境を与えたかった。

 

喜多は寂しくて辛くて、それで寝れなかったんだろ?なら寂しいまま寝たって起きたあとまた寂しくなって苦しくなる。だったら最初から誰かに寄り添われて寝た方が安らかに寝られる筈だと思ったんだ。」

 

「センパイ……そこまで…」

 

「……でもその分無理させちゃったんだよな……ごめん…」

 

「い、いえ!謝らないでください!私のためにと思ってやってくれたなら嬉しいですし!センパイの家にも来れましたし!」

 

「ありがとう。

……喜多が寝ている間に冷静になって考えたんだ。

休めるっていうなら別に同時じゃなくても寝てから集合でよかったんじゃないかって。

 

……昔からこういう奴なんだ。友達とか家族とかが悩んでると、居ても経ってもいられなくなって突っ走っちゃうような奴なんだ。

でも誰でも気付けるようなことを後から気付いて嫌な気持ちにさせちゃうんだ。

君の体調とか事情とか気持ちとかちゃんと聞いてからにしとけばよかった……

今度から気を付けるよ。本当にごめん……」

 

深々と頭を下げて謝罪する。

 

いつもこうだった。

猪突猛進に突っ走って、いつも後から悔やんで。

人の為にと言っていながら空回りしてしまう。

思いやりと言いながら、独善的になってしまう。

それでも止められなくて、何度もお節介をやりすぎる。

 

ここ最近はこの悪い癖も出なくなったと思ってたのにな─────

 

「………センパイ」ギュ

 

「っ!」

 

その時、

喜多の温かい掌が僕の両手を包み込んだ。

それはまるで身体全体を抱き締めるかのように。

 

「私は嬉しかったんです。

センパイが私のことを理解してくれて。

センパイの優しさに触れられて。

センパイが寂しさに気付いてくれて。」

 

「喜多───」

 

「だから、これからも想いやってください。

嫌なことは言いますから!嬉しいことも言いますから!

甘えたいときには甘えますから!頼りたいときに頼りますから!

それでもずっと支えますから。」

 

そうか、僕は彼女の思いを理解することが出来ていんだな。

 

 

「………はは」

 

「センパイ?」

 

「あはは、慰めるつもりが逆に慰められちゃったな。ほんとごめん」

 

「もうセンパイ!さっきから謝りすぎですよ!そういうのは違う言葉で伝えてほしいです!」

 

「あー……うん、そうだね───

 

 

 

──────ありがとう」

 

 

 

「はいっ!

こちらこそ心配してくれてありがとうございますっ!」

 

「喜多、今から遊びに行こうって行ったら遊んでくれるか?」

 

「勿論です!私から言ったんですから!」

 

「そうだったな。ならお昼ごはんでも食べに行こう!」

 

「はい!良い一日にしましょうね!響センパイ!」

 

「…っ……」

 

振り返り微笑む彼女の目を見る。

その目は何よりも赤く煌めいていて。

何もかもを飲み込むように歪んでいた。

 

僕はそんな彼女の目を見て、思わず────

 

 

 

 

 

 

 

 

────綺麗な瞳だ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思った。

 

 

 

 




これからはネタバレにならない範囲で気付いた感想があったら反応しようかなと思います。
いかんせん駄文しか作れないダメ作者ですのでわかりづらいところもあると思いますがマリアナ海溝のように深く太平洋のように広き心で見てくれると大変メンタルが安定します。

ですがモラルのないコメント等をされたら
ナウシカのトラウマ曲を流しながら人の家で野球するくらいの勢いで発狂します。
気持ち悪いね。

これからもよろしくお願いいたします。


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きた・と・でーと!

やっと喜多ちゃんとのデート回!
どうやって書こうかなとか悩んでました。
はい。すいません。


 

二人で外に出て遊ぶ。

と言っても昼御飯を食べていないのだからささまずは腹ごしらえだ。

 

「喜多、なにか食べたいのある?昼ご飯食ってないしさ。」

 

「え?センパイとなら何処でも良いですよ!

センパイの好きな場所に連れてって下さい!」

 

「じゃあ近くのラーメン屋とかどうかな。ヘビーかな?」

 

「いえ!ラーメン美味しいですよね!」

 

僕の問いに喜多は笑顔のまま答える。

 

そう

 

僕は実は麺類が好きなのだ。

うどん、ラーメン、蕎麦、スパゲッティ等々。

麺類を食べるのは実はかなり好きだ。

 

その中でも特にラーメンは大好物。

 

中学の頃、

好きすぎて毎日麺類で固めた結果、栄養が偏りすぎて病院に運ばれたことがあったなぁ。いやぁ懐かしい。

 

「それじゃおすすめのラーメン屋があるんだ。そこに行こう。」

 

「はい!センパイとラーメン食べてみたかったんです!!」

 

「そうなの?」

 

「だってセンパイ、スターリーにいた頃毎日休憩でカップ麺食べてましたから!そんなに好きなのかなって」

 

「そういえばそうだったな……」

 

 

あの頃、高校に入り一人暮らしを初めて間もない僕は、食費を無駄に使えないということで、一日一食のみにして、バイトの時間に店長から許可を頂いて、休憩中にコンビニで買ったもので腹を埋めている毎日だったからなぁ。

 

そのようなことをしたとしても生活は厳しくなってしまうのが高校生の一人暮らしというものだ。

 

それでも楽しく生活できているのは、ひとりや虹夏、リョウや喜多。そして店長の助力や助言があったからだ。

 

もし僕が彼女たちと出会えていなかったら──────

 

 

 

 

 

 

 

青い空、白い雲。

 

「あぁ、空は青いな。」

 

一人で生きることを決めてはや数ヶ月、身体が限界を迎え、生きる気力すらも今は薄れていく。

 

「それでもいい。いまはただ休みたい……」

 

こうして僕は目を閉じる。

 

今はもう眠ろう。

 

かつて見た夢の続きを見るために……。

 

 

おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

─────なんてことになっていたに違いない。

かつて見た夢の続きってなんだ。

そんな夢ないよ僕。

 

まぁでも心から皆との出会いに感謝しなければな。

 

 

「本当にありがとうございます……」

 

「センパイ!?急にどうしたんですか!?」

 

普通に心配された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご飯を食べたあと、近くの公園でベンチに座る。

 

「すみません、奢ってもらっちゃって。いつか返しますから!」

 

「いいって。奢った意味なくなっちゃうだろ?それにセンパイだからカッコつけたかったし。」

 

「………そんなことしなくてもカッコいいですよ」

 

「……ありがとう」

 

「え!?聞こえてました!?」

 

「知ってたか?僕って実は結構耳良いんだよ?」

 

「恥ずかしいぃ!!///」

 

「あはは!」

 

「もう!笑わないでくださいセンパイ!」

 

「ごめんごめん!」

 

「もーっ!」ポカポカ

 

何度も僕の胸に腕を振るって叩く。

 

「いてっ、いてて、ちょっとポカポカしないで」

 

「センパイ」

 

「ん?」

 

だが突然、喜多は額を僕の胸に当てて、まるで何かに縋るかのようなか細い声をか弱く漏らす。

 

「これからもセンパイに頼っても良いですか?」

 

「勿論いいよ。」

 

「……私、まだ怖いです。償わないとって思ってるのに、どうしても足が動かなくなるんです。」

 

踏み込むのは怖い。

自分に落ち度があると分かっていても軽蔑されるのが怖いから、どうしても逃げ腰になってしまう。

僕はそんな人を他にも知っているから、気持ちはわかる。

 

でも気持ちを知ることは出来ても、理解することが出来ても、

解決策を知ってる訳じゃない。

 

ここで僕が『何か行動を起こせ』と言ったら、彼女の負担になるのではないか。僕の言う通りに動いたら、彼女は人の指示がないと動けない人間になってしまうのではないか。

 

それは良くない、絶対にだ。

 

なら考えろ、突っ走るな、小鳥遊 響。

 

そうだ。

 

もっと考えろ、喜多は何を求めてるか、僕のやるべきことはただ慰めることなのか?寄り添うってのはそんな簡単なことじゃないはずだ。

喜多が言っていた、寂しいという事実。

それは紛れもないのだろう。だが引っ掛かる。

頼りにされた喜びから気が付かなかったが、寂しいというのなら家族はどうしたのだろう。

 

喜多の家庭環境を知る訳じゃないから考察のしようがないが、

家族とも仲の良いイメージを抱いている僕としては不自然に感じてしまう。

ふと彼女の手を見る。

そこには見慣れた少女の手と同じものがあった。

 

そうか、そういうことか。

だから喜多は夜寝れなかった、いや。

 

寝なかったのか。

 

「……なぁ喜多、僕の思い込みだったら申し訳ないが、

君は本当に寂しいだけで寝れなかったのか?」

 

「………」

 

「寂しいだけだったら、僕よりも家族に相談したりする手もあったと思うんだ。でも僕に頼ったのは、お前の事情を詳細に知ってる僕が一番身近に相談に乗ってくれるからと思ったから。お前がライブ当日に逃げたことを知っていて、そんな今でも関わっている僕が適任だった。」

 

「それは………」

 

「手、見せてみて。」ギュ

 

「ひゃっ////」

 

「やっぱり………お前の手を見て気づいた。この手、明らかに普通に日常生活を過ごしてるだけでたまたまなるような状態じゃない。

 

………徹夜して、練習してたんだろ。」

 

「っ………!」

 

「僕の知り合いに、ずっとギターの練習に没頭していた人がいたんだ。他人と関わる時間を全部投げ捨てて、自分の理想のために努力し続けた人がいるんだ。そいつもこんな指してたんだ。」

 

「……すごいですね…」

 

「だから分かる、これは喜多が努力をしていた証だってこと」

 

「……でも…どれだけ時間をかけても上手くならなかったんです。結局逃げたことに変わりないですし、」

 

「上手くなるとかならないの話じゃない。喜多が自分の失敗に気付いてそこから努力した。そこが大事だろ。」

 

「それと一緒だ。逃げてしまって後悔したなら挑むというのもひとつの手だ。

逃げるにしても挑むにしても、兆しはあるはずだろ。」

 

「私は、どうしたら良いんでしょうか。」

 

「僕にはわからない、喜多がどうすべきなのかは喜多が決めろ。ただひとつ言えることは─────

 

 

 

────後悔しない道を選べ。」

 

「……はい…はいっ!」

 

今日一日の中で一番の笑顔だった。

 

この後も僕たちは楽しく遊んだ。

 

服を見たり、ゲームセンターに行ったり。

休日をこれでもかというほどに遊んだ。

 

 

 

────いつもと変わらない、幸せな日常。

ひとつ変わったことを言えば。

 

「センパイ!今日は本当にありがとうございました!」

 

 

君がまた心の底から笑えるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

センパイ───

 

私を理解してくれる、私の恩人。

 

 

本当のことを言えば嫌われると思ってた。

無責任だって、怒られると思ってた。

 

あの時、私がライブから逃げたとき、センパイは怒らなかった。

その優しさがあの時は怖かった。

 

だから隠してたのに、結局センパイは見破った。

私の努力も、怠惰も、恐怖も。

 

センパイは、何処か歪んでいる。

 

でも、今はもう怖いと思えない。

 

 

 

彼の優しさは、毒だ。

 

どんどん自分が染まっていくのがわかる。

 

話せば話すほど、見れば見るほど、自分の根底が彼に染まっていく。

 

もっと、もっと彼に染まりたい。

 

彼のことを想っていると、ひとつの疑問が浮かんでいた。

いや、これは────

 

 

 

 

「そういえばセンパイ、二人称が変わっていたような?」

 

 

 

 

 

─────違和感だ。

 

 

 

 

 

「でもいいわ!ああいうセンパイも好きだもの」

 

 

 

 




喜多回はこれにて落着。

主人公はあくまでもきっかけを与えるだけ!原作準拠だから!



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がっこう・で・ぼっち

ようやっと本編と繋げることが出来る!!

ていうかさぁ!お気に入りの数さぁ!マジでさぁ!

最高かよぉ!!

登録してくれた方々本当にありがとうございます!

こんな駄文の作品に3桁もお気に入りしていただけることが嬉しくて狂喜乱舞です!

これからも駄文なりにも頑張って作品を書いていきますのでよろしくお願いいたします!


 

ここは秀華高校……僕が通う学校だ。

 

僕はここの2年生であり、ひとりと喜多の先輩にあたる。

とはいっても年齢の差なんて意識は無いんだが。

 

そんな僕の隣にいるのは、後藤ひとり。

彼女が僕の腕にしがみつき、僕のことを引き戻すかのように立ち止まる。

腕痛い。

 

「ほらひとり、学校着いたよ」

 

「学校行きたくない……」

 

「もう校門前だよ」

 

「あぅ……」サラサラ

 

「粉にならないでー。ここまで来たんだし行くしかないんじゃない?」

 

「じゃ、じゃあひーくん授業終わったら教室に来て……!」

 

「え?まぁ別に良いけど……なんで?」

 

「ひーくんイケメンだし客寄せになるかなって……」

 

「扱いがパンダだぁ」

 

僕の役割は動物園のパンダかなにかなのだろうか?

だとしたらきっと名前も変わるんだろうな

小鳥遊だけに、チュンチュンだろうか。おもんな。

 

「てかイケメンって、そんな訳ないじゃん。ていうか顔立ちだけで目立つならひとりだけでも充分だろ。」

 

「…ほわぁ…」///

 

「急に赤りんご見たいに赤くなってる!どうした!?」

 

「ハッ!チョウシニノッチャダメチョウシニノッチャダメチョウシニノッチャダメチョウシニノッチャダメ」

 

「今度は青リンゴみたいに!?しっかりしてくれひとりぃぃぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、約束通り授業終わったら行くから、また後でね。」

 

「あっ、うん……またね……」

 

手を小さく振るひとりに背を向けて自分の教室へと向かう。

 

(そういえば)

 

心のなかで呟き、過去のことを思い出す。

 

喜多がライブから逃げた日、つまりひとりがバンドの一員となったあの日、僕はひとりたちの演奏を聞いていなかった。

 

それも当たり前な話で、僕はその場に居合わせていない。

 

当時、虹夏からも

 

『喜多ちゃんと連絡つかないんだけど、そっちに来てない?』

 

とロインが来ていてかなり困ってる様子だったのを覚えている。

 

『来ていない、こっちでも探してみる』

 

と返し、喜多を探すために外を歩き続けて。

夜までずっと探し続けたな。

 

今思うと、深夜に外に出ていることにも違和感があるし、もし見つけたとしてもライブが終わってる時間にバンドに戻れなんて言ったって手遅れだし。

 

考え無しに行動する癖、直さないとな。

 

ていうかそこじゃない。気になるところはそこじゃない。

 

ひとりはあのコミュ障ぶりで、どのようにして即興バンドをやり過ごしたのだろうか。虹夏やリョウあたりがフォローしてくれていたのだろうか。

 

「うーん……」

 

「深々と溜め息ついてどうかしたんですか?センパイ」

 

「セバスチャン!!」ビクゥ!

 

「セバ……え?」

 

廊下を歩いて一人で考え事をしていると、後ろから突如として話しかけられる。そこには喜多とそのクラスメートであろう女子二人がいた。

 

「ご、ごめんビックリして変な声出ただけだから。

特に悩みって訳じゃないよ、心配してくれてありがとうな、喜多」

 

「ならよかったです!」

 

「あの!小鳥遊 響先輩ですよね!?」

 

突如として喜多の隣にいた女子二人に話しかけられる。

うっ……僕、初対面の人と話すの苦手なんだよなぁ。

なんというか、肩身が狭くなる感覚に陥る。

 

実際虹夏やリョウと初めて出会ったときもこれ以上に窮屈に感じたくらいだ。

 

「え?あーうん、そうだね、初めまして。」

 

「私、去年の文化祭の先輩の弾き語りに感動して!今年もやるんですか?」

 

「っ…あーどうだろ…気が向いたらやるかもね。」

 

「楽しみにしてます!」

 

「ありがとね」

 

「「は、はい!///」」

 

「………それじゃセンパイ!私たち、教室に行きます、引き止めてすみません」

 

「いやいいよ、授業頑張ってね」

 

「はい!」

 

喜多と他二名が歩いて会話をしながら去っていく。

自分も教室へと向かおうとするが、

三人の会話がたまたま聞こえてしまった。

 

「喜多ちゃん、やっぱあの人イケメンなんだけど!」

 

「ねぇねぇ、仲良いんでしょ!連絡先教えてよ!」

 

「だーめ!そういうのは自分で聞くのが良いと思うわよ?」

 

「ちぇー、後で聞こうっと!」

 

「あっ、抜け駆けズルい!私も聞く!」

 

 

自分の地獄耳を恨んだのは久し振りだ。

彼女たちの声が距離が開いても聞こえてきてしまう。

あの子達が連絡先を聞いてきても、理由をつけて断ろう……

関わりが薄い人とのコミュニケーションは避けたい。

 

なぜかって?

 

何を隠そう。

 

僕はコミュ症なのだ。

 

 

………いやさすがにひとりほどではないが。

それでも初対面の相手には緊張が勝ってしまい、ついつい無愛想な対応になってしまう。

 

もしそんな姿を見せたら失望されてしまうだろうし。

 

なにより喜多にそんな無愛想なやつと絡んでるなんていう風にも思われてほしくない。

だったら最初から関わりを多くも深くも持たなければ良い。

適度な距離を保つのが一番良い。

あくまでも顔見知り以外はだが。

 

(イケメンねぇ…)

 

ふと窓を鏡代わりに見立てて自分の顔を見つめる。

 

なぜこの顔でイケメンだと思われているのだろうか。

何処にでもいる普通の顔立ちで、身長がかなり高いわけでもない。

髪も癖毛で、髪型などのセットをしているわけでもない。

この黒がかった茶髪も地毛だし。

服だって、テレビに出る俳優とかを見て思うが、特段とセンスがあるわけでもない。

 

全部、そんなわけもないのだ。

 

もし、万が一、いや億が一世間的に見て僕がイケメンだとしたら。

それはもう社会が間違っている。

もはや自分自身で世界を壊すまである。壊しちゃうのかよ。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

(あっ早く行かないと)

 

考えに浸りすぎて、時間を潰していたようだ。

すぐさま教室に入り自分の席に着く。

なんとか間に合った。

 

ホームルームを右から左へ聞き流し、

一足先に授業の準備をしておく。

 

 

(さてと、今日も一日頑張るか)

 

 

 

気合いを入れて、勉学に勤しむ僕なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

~放課後~

 

 

ホームルームが終わり、席を立つ。

 

何度席を立っただろうか。

 

これで6回は授業後に席を早々に立って下の階に行くという行程を繰り返してるぞ。

だが、他の誰でもないひとりが『授業が終わったら来て』と言っていたのだから無下にするわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室に着いたはいいが。

 

肝心のひとりがいない。

 

トイレにでも行ったのだろうか。

 

ロイン送ってみるか。

 

 

~10分後~

 

 

戻ってこない。ロインにも返信など着いていない。

普段なら数秒で返信が来るようなものなのに。

 

トイレにでも行っているのかな。

 

廊下で待ってみるか。

 

 

 

~更に10分後~

 

 

「遅いな……」

 

まさか何かトラブルが?

心配だな。

 

そう思い2階への階段を降りていく。

 

その時だった。

 

 

 

「すみませぇ~~ん!」

 

 

 

見慣れた少女の聞き慣れない大声が駆け抜けていった。

 

「あっちょっと!?」

 

 

(………なにがあった)

 

 

瞬く間に消えていく少女の姿を見て最初に思ったことは

たったそれだけだった。

 

ほんとなにがあった

 

 

 

 

 




主人公は基本的に学校では無言です。

喜多とひとり以外に普段通りに話せる相手がいません。


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あこがれの・ひと・です

こんばんは!

この作品物語事態は原作準拠とはいえ、主人公の裏でぼっちちゃんたちが頑張る構図だったりするので必然的に主人公とヒロインの掛け合いを延々と書く感じになってますね。

まぁ大事なシーンは書きたいけれどもね!


 

「あっ、センパイ」

 

暴走族のバイクのように駆け抜けていったひとりの後に喜多がやってきた。

 

「喜多、なにがあった?」

 

「私もわかりません、突然のヒューマンビートボックスを披露したかと思えば顔を真っ赤にして走っていっちゃったんですよね」

 

「あー……」

 

ひとりは喜多に何か話しかけたかったのかもしれない。

 

でも思いきりコミュ症炸裂してますねはい。

何か言いかけたけどダメだったパターンかもしれない。

 

今頃ひとり、自分を卑下してるだろうな。

奇行をした後は大体そうなる。

 

にしてもヒューマンビートボックスって、何を言い間違えたらそんなことになるんだ?

 

「後を追うか」

 

「確かに気になりますよね」

 

「というより心配だ、ひとりの考えも聴きたいしな」

 

「え…名前呼び…?センパイお知り合いなんですか!?」

 

「知り合いもなにも幼馴染だしね」

 

「幼馴染なんですか!?」

 

「凄い驚くじゃん」

 

僕に幼馴染がいることがそこまで驚くことなのか?

 

 

 

あっ、同級生に友達いないから……

幼馴染なんていないって思われて………

 

『センパイ友達いたんですか?』

 

って思われてるんだ………

 

あっ……(察し)

 

 

「いいんだ、俺には片手の指で数えるだけの友達が居てくれればそれでいいんだ皆が居てくれればそれでいいんだそもそもそんなに友達多くてなんになるんですかね卒業後そいつら俺のこと覚えていてくれるんですかね楽しかった運動会?ハッこちとら雨天決行だったし苦しかった拷問会だったよそういえば人生初のリバーシブルって大体赤白帽だよね文化祭だって大体面白くないしさ得体の知れないパリピたちが派手なこと考えるくせしてレベルの低いクオリティで収まるし仕事大体他人に押し付けてるしでマジでアレなんなんだよレベル10のコイキングでチャンピオンに挑む時点でダメだってわかんないのかなそれが出来んのはホントにセンスに満ち溢れたやつだけだってそういうの全部俺に任せてくれよ頑張るからさ────」

 

 

「呪詛っ!呪詛出てますセンパイ!あと序盤は私にも刺さりますから!」

 

「ハッ」

 

「センパイ顔が夢の国のネズミみたいになってます。」

 

「ハハッ」

 

「乾いた笑いが……もうっ!センパイ!後を追うんですよね!

しっかりしてください!」

 

「ごめん、取り乱した」

 

「よかった!いつものセンパイに戻ってくれた!」

 

「よし、行くか──」

 

ピロン

 

僕の意思を遮るかのようにスマホの着信音が鳴る。

 

こんなときに誰だろう。

どうしようもない内容だったら無視していいか。

 

それはある人からのロイン。

 

内容はただ一言。

 

『たすけて』

 

それを見てからの俺の行動は速かった。

 

「ごめん喜多、先に行っててくれないか。」

 

ここは喜多に任せても大丈夫そうだし、僕がここにいなくても大丈夫か。喜多のコミュニケーション能力ならひとりを支えることも出来るかもしれないし、ひとりは優しい子だし、喜多の悩みにも気づくかもしれない。

 

ここで下手に僕が動いて、状況が拗れてしまってもダメだろう。

 

喜多もそろそろ切っ掛けと踏み切るための後押しさえあれば、

僕以外にも本音で喋れるかもしれない。

 

それに今日バイトのシフトも入ってないし、バイトの時間のことも気にしなくて大丈夫そうだし、自由に動けるな。

 

「え?センパイどうかしたんですか?」

 

「人に呼ばれたんだ。ひとりには先に帰ってしまってごめんって後で謝らないとな、あと喜多!」

 

「は、はい!」

 

「ひとりは喜多にとって良い刺激になるはずだから。それじゃまた明日!」ダッ!

 

「…え?それって………行っちゃった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が駆け出していったあと、

 

「ひーくんの呪詛が久し振りに聞こえた気が……ていうか何も言わずに逃げちゃったし怒ってるかも……ひーくんに言わないで勝手に動いちゃったし……あぁやだぁ…ひーくんにだけは怒られるのやだぁ……」

 

「へー後藤さんギター上手いのね!」

 

「あっ、え?」

 

こんなやり取りがあったことをあとからひとりから聞かされるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません!お待たせしましたぁ!」

 

「もー!びっきーくんおそーい!」

 

「ほ、ホントにごめんなさい、何があったんですか?きくりさん」

 

そう、あの時ロインを寄越していたのはSICK HACKのベーシスト廣井きくりさんだった。

自称誰よりもベースを愛するベーシストであり、

 

僕の憧れの人でもある。

 

「いやー、それがねー居酒屋に忘れてきちゃってさー」

 

「ベースをもっと愛しましょうよ」

 

「たははー、胃が痛いね!」

 

「耳が痛いんじゃないのかよ、食べすぎましたか?」

 

「あれ?言葉違ったっけ?」

 

この人はたまに、いやかなりの頻度でベースを忘れる。

その時は大体僕が付き添って取りに行くのだが、毎回緊急事態のように僕を呼びつけるから、毎度心配になる。

 

「耳が痛いって言うんですよ、そういうとき。でも心配しましたよ、事件とかに巻き込まれてるんじゃないかって。それも的外れでよかったけど。」

 

「心配してくれたのー?なんだよ私のこと好きかよー!私も好きー!」ギュウ

 

コンビニで売られているかのようなラブコールをきくりさんはよく口にする。

 

「酒臭いですよ………立てますか?」

 

「無理!おぶって!」

 

「はい、分かりましたよ。」

 

きくりさんを背中に乗せて、居酒屋の場所を教えてもらい歩き出す。

 

「………びっきーくん」

 

「はい、なんですか?」

 

「なんかあった?」

 

「え?」

 

「昔のびっきーくんはもっとなんか違ったじゃん?なんというか容赦がなかったって感じ?」

 

「………そうですね。」

 

「私のロインなんて最初は一杯無視されたもんねー」

 

「うぐっ、それは、ごめんなさい……」

 

「あははっ!びっきーくんの困った顔久し振りに見たー!」

 

「あはは……」

 

「んで?なんかあった?」

 

「特に何もないですよ。強いて言うなら僕のことじゃないですけど幼馴染がバンドを始めましたね。」

 

「へー!そうなんだ!楽器はなに?ベース!?」

 

「ギターですね」

 

「そっかー、いつかあってみたいねー」

 

「機会があったら紹介しますね」

 

「あんがとー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここですか?」

 

「うん、ここだよ」

 

「それじゃ、返してもらってきますから、店の前で待っててください。あっ道路で座ったりしたらダメですからね。他の人に迷惑になるので。すぐ戻ってきますから」

 

「いやー悪いねー!」

 

「いえいえ」スタスタ

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

びっきーくん変わった気がするなぁ、それも多分良くない意味で

 

(何があったんだろ)

 

ガラララ

 

 

心のなかで呟く。人のために動くということは決して悪いことではないんだけど、どうしても彼の言動に違和感を覚える。

 

小鳥遊 響という少年との出会いは彼が中学生の頃に遡る。

いつものように居酒屋で酒を飲んで家に帰る途中だった。

その時飲みすぎたせいで泥酔してしまって、その時に彼と出会って───

 

「お待たせしました、店員さんも『またかよ』って呆れてましたよ」

 

「あーうん、わざわざごめんねー」

 

「いえいえ、これくらいきくりさんの為ならお安いご用ですよ」

 

「口説くなよー!」テレテレ

 

「帰り、送りますよ」

 

あーやっぱそうだ。

 

 

 

目だ。

 

 

 

違和感を感じる部分、言動じゃなくて目が違うんだ。

なんか昔と違う。

昔はもっと暗い目をしてた。何もかもに絶望しているかのような、それでも自分の気持ちだけは曲げない強い目をしてた。

 

でも今は逆で、明るい。明るすぎるほどに。

 

その明るさが違和感の正体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()─────

 

 

 

 

 

────────何が君を変えたの?

 

 

 





一足先にきくりさん登場!

てかお気に入りの数がとんでもねぇことになってやがる!
人気な作品と比べるとまだまだだけど、自分にとっては目茶苦茶ありがたい数字に見えてくる。

評価もありがとうございます!


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にげた・ぎたー・です

どもー、郷音でございます!

世間は色々な出来事で渦巻いていますがわたくしはなにも変わらない生活を過ごしておりますサザエでございます。




 

 

きくりさんのベースを取り戻し、帰るのを見送ったあと。

 

「まだ時間は残ってるな、連絡してスターリーにでも寄ろうかな。」

 

そう思い立った僕はスマホをポケットから取りだし虹夏にロインを送る。

星歌さんのロインは登録していないので虹夏経由じゃないと許可をもらえない。

 

『虹夏、そっちの様子気になるから今からそっち行ってもいいか?』

 

『お姉ちゃんに聞いてみるね!』

 

その文面の後ろに可愛らしい絵文字が写る。

虹夏らしさのある顔文字だ。

 

『ありがとう、頼むよ』

 

『おっけーだって!来て来て!』

 

『分かった、今すぐ行く』

 

(喜多のときも思ったけど、返信するの速くね?)

 

逆に僕が遅いのだろうかと思いながら足を動かす。

 

(よし、行くか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(着いた)

 

虹夏からの許可も得てスターリーにやってきた。

 

(ひとり……大丈夫かな、ちゃんと接客できてるかな)

 

結束バンドに入ったときにバイトもすることになったそうでひとりはスターリーで働いている。

そのこともあってか最近は僕の部屋にも来る頻度は減った。

 

娘が自立して嬉しいけれど寂しい……

みたいな感情はこういう感覚のことを言うのだろうか。

 

それに喜多ともコミュニケーションが増えればお互いの思いも尊重し合えるはず。

 

二人が持っていないものを二人は持っているのだから。

 

ガチャ

 

スターリーのドアを開くとそこには喜多を引き留めている、黒カーテンに身を包んだひとりの姿があった。

 

 

「連行でもされんのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「センパイ!?」

 

「おっ、響くん待ってたよー!」

 

「なんか取り込み中だった?」

 

「えっと、き、喜多さんのことで!」

 

虹夏から話を聞いた後、ひとりが声を出す。

 

「き、喜多さんの左手、指の先の皮が固くて……そ、それは……!」

 

そうだ、それは。

 

「「かなりギター練習してないとならない」」

 

ひとりの言葉の後に俺とリョウの言葉が重なる。

ひとりも喜多の状態に気づいたようだ。

 

良く見るとひとりの左手がハンカチで包まれている。

あのハンカチは確か喜多のだったはず。

 

まるでやけどを負ったときに対処をしたかのようだ。

いやもしかしたらまるでではなく、本当になにかしら怪我をしたのかもしれない。

 

「喜多ちゃんも、これから結束バンド盛り上げてほしいな!」

 

「え?なんで私にそんな……」

 

「え?だって喜多ちゃんが逃げ出してなかったらぼっちちゃんとも会えてなかったよ?」

 

「で、でも……」

 

「虹夏の言葉は単なる結果論にしか過ぎないのかもしれない。」

 

「え?」

 

「喜多が逃げて虹夏が代わりになる人を探して、たまたまひとりを見つけて。

たまたまやり過ごすことができただけなのかもしれない。

それでも、事実としてひとりは結束バンドに入ることができた。ひとりに連れられ喜多もここにやってきた。

ちゃんと謝った。許してもらった。ならそれでいいと俺は思う。逃げても兆しはあったんだよ、喜多。」

 

「センパイ……」

 

「それに、あたしもずっとバンドやりたかったからさー、

引け目感じちゃうのも、でもまだ憧れちゃうのも気持ちわかるんだよね。」

 

「わ、私もでぇす!!」

 

急なひとりの心の叫びに驚く三人。

 

「ご、ごめんなさい、思ったより声出ちゃってぇ……」

 

「リョウも戻ってきてくれたら嬉しいよねー?」

 

「スタジオ代もノルマも四分割」

 

「素直な言い方しなよー!」

 

「本当変わってるねリョウ」

 

「んふふー」

 

「照れるな」

 

「センパイ分のノルマ、貢ぎたい……!」

 

「お前はやめとけ」

 

「爛れた関係が爆誕しそうなんだけど」

 

爆誕していいのはルギアだけって相場が決まってんだよ。

ルギアになら貢ぐよ俺なら。

 

「でも、私ギター弾けないし……」

 

「大丈夫、ぼっちちゃんが先生してくれるよー!」

 

「え?」

 

「うんうん」

 

「えぇ!?」

 

「大役だね、ひとり。」

 

「えぇぇ!?」

 

「いいの……?」

 

「は、はい!」

 

(この流れ、断れるわけ無いっ……)

 

 

 

 

 

 

「ありがとう……私、頑張るっ!結束バンドのギターとしてっ……」

 

喜多の思いがようやく晴れてみんなに伝わって、喜多は結束バンドに入ることができた。

 

(良かったな、喜多)

 

「あっ、でもセンパイ達今のパリピバンド路線はやめた方がいいですよ?毎晩踊り狂ってるんですよね?」

 

「「それどこ情報!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、じゃあお先に失礼しまーす……」

 

「それじゃ、僕も帰るかな。」

 

「あーぼっちちゃん待ってよー!今日一番の功労者なのにー!響くんも帰ろうとしないで!?」

 

「響、こっち来て。ぼっちのお陰で復活できた」

 

「後藤さんありがとう!」

 

虹夏とリョウに引き留められ戻る。

 

距離は近いが、遠目のつもりで四人を眺める。

 

 

二人がひとりのことを絶賛している。

喜多がひとりに笑顔で感謝している。

ひとりがそれに反応して喜んでいる。

 

 

 

 

 

あぁ、良かった。

 

本当に、良かった。

 

心配だった。不安だった。心の底から、怖かった。

 

喜多が孤独に苦しむんじゃないかって思って、喜多にとって人と関わると言う大好きな事を突き放してしまうんじゃないかって不安だった。

でも、ひとりが声をかけて引き留めて、虹夏が共感していることを伝えて、リョウの事を憧れているままでいて。

 

積み重ねてきた心の重荷を全部下ろすことが出来た。

 

本当に──────

 

 

 

 

「良かったな。喜多」ナデナデ

 

「………///」

 

「ちょ、響くん?」

 

「……………」

 

「ひ、ひーくん……」

 

 

 

 

 

ん?三人の顔がなんだか変だ。

 

まぁいいや、今はただ、喜多を労おう。

 

 

 

 




如何だったでしょうか!

アニメでいうと3話が終わりました!

次からはサブタイトルが一気に変わります。
それではっ!
「面白かった」みたいな感想とかあれば嬉しくてトライピオです!是非是非ドシドシお願いします!


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けっそく・ばんど・です!

活動報告の方でも書いておりますが、
個別ルートと共通ルートでは、それぞれ命名ルール的なものがあります。

それではどうぞ!


 

 

喜多が結束バンドに再加入して、ひとりは結束バンドで上手くやれている。

リョウの夢も虹夏の夢も再出発を迎えたところだ。

全てが順調だ。

 

だが、問題は残っている。

 

それは勿論というかなんというか、

喜多のギターの実力。

 

相当練習しているとはいえ、決して上手いと誉めることは出来ないものだった。

 

逆にここまで練習をしておいて、アマチュアの領域にすら踏み込めていないのなら他の楽器に変更するというのも手だ。

 

だが、一番の問題は彼女の実力不足ではなく、

彼女の持っている楽器にあった。

 

彼女の持っていたものは多弦ベース。

 

ベースでギターの練習をしていたのだからたゆまぬ努力も水の泡になってしまうのは当たり前だ。

 

例えるなら、バク転の練習をしようとして跳び箱を飛び続けているようなものだ。

 

同じ身体を動かす行為だとしても、身体や関節の動かし方のコツがまるで違うのと同じように。

 

ギターでの弾き方のコツを、ベースに当ててしまっても良い音が出るはずがないのだ。

 

もしそれで出たのなら連絡ください。

 

 

まぁなにはともあれ、

喜多はリョウからギターを借りて練習することになった。

 

本当は僕がお金を出して買おうと思っていたんだけど、

それは喜多本人に断られた。

 

あとリョウが

 

「だったらそのお金でご飯奢って」

 

といって

 

「だったらじゃないよ!てか響くんも財布しまって!ダメだからね!」

 

といっていたな。

 

別に僕としては全然良いんだけど、リョウもそれ以上言ってこなかったし、いつもの冗談として言っていたのかなと自分の中で整理した。

 

そしてその日は解散して、ひとりと一緒に家に帰った。

 

 

 

~響の家~

 

「ひとり、ありがとね」

 

「えっ、あっ…なにか……した?」

 

「うん、喜多を引き留めてくれたじゃないか、虹夏も今日一番の功労者って褒めてたろ?」

 

「うっ、うん……うへへ、そうかなうへへ」

 

「喜多も諦めかけていたけど、ひとりのおかげで向き合うことを始めたんだ、誰がなんと言おうとひとりが頑張ったからだよ。」ナデナデ

 

「ハミュ」カァァァァァ

 

頭を撫でられた瞬間顔が赤くなるひとり。

しまった、こんな道中で撫でられたら恥ずかしいか。

 

「ごめん、恥ずかしかった?」パッ

 

「えっ、あっいや大丈夫っていうか…もっとして欲しいっていうか…」ボソボソ

 

顔を手で隠しながら何かを呟くひとり。

車が横切り言葉がかき消されてしまう。

 

「ん?ごめん聞き取れなかった。なんだって?」

 

「あっ、いえなんでもないです」

 

「そ、そっか」

 

すこしばかりの沈黙が訪れる。

 

ひとりはなんだか話したそうにしているが、

切り出すことをしない。

ここで今、僕が聞こうと尋ねようとして、そのタイミングでひとりも話しかけてきたらひとりは遠慮してしまうかもしれない。

 

ここはしばらく、ひとりの反応を待ってみるか。

 

ゾクッ

 

そう思い待つことを決めた直後に背中に悪寒を感じた。

 

「……そういえば……ひーくん?」

 

その寒さを誤魔化すように後ろに振り返る。

 

「………どうした?」

 

「喜多さんとリョウさんと虹夏ちゃん、皆と知り合い……だったんだね」

 

「あーそういえば、言ってなかったね」

 

「…うん…言って……ない…」

 

「実はそうなんだ、前に虹夏たちといた時に知り合ってさ」

 

「わたし、ひーくんの最近の話、聞いてない…よ…?」

 

「ひとり……?」

 

「ひーくん、なんだかすごく変わったよ」

 

「…………」

 

「あの時からっ、ひーくんのお母さんが─────」

 

「ひとり」

 

「っ!?」

 

「ごめん、そのことは……」

 

「…ぁ……ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!ひーくんっごめんなさいっ!ごめんなさい嫌いにならないで!」ガシッ

 

「ならない!ならないから落ち着いて!」

 

「はぁ…はぁ…っ…は、はい…」ギュッ

 

ひとりが腕に抱き付いてくる。

 

身体が震えている。

 

「ひとり、僕は君のそばにいる、嫌いになんてなりやしないさ。だから安心してくれ。」

 

「…うん…ねぇひーくん」

 

「どうした?」

 

「今日、泊まってっていい……?」

 

「勿論だよ」

 

「あっ、ありがとう……えへへへえへへえへ」

 

なんとか震えが止まったようだ。

 

ひとりは僕の過去を知っている。

僕がその過去をあまり人に話したがらないことも。

 

「ひーくん、私、バンドするよ」

 

「うん」

 

「今でも、ちやほやされたいって気持ちは変わらないよ」

 

「うん」

 

「でもそれは私一人じゃなくて、結束バンドの皆でちやほやされたい」

 

「うん」

 

「だから、その、あの、え、えっと……」

 

「……………」

 

「私たちのこと、一番にちやほやして……欲しい…」

 

「当たり前だよ」

 

「ほんと………?」

 

「本当」

 

「うふ、てへ、でへへえへ///」

 

ひとりたちは結束バンドという名でバンドを始めた。

 

きっとこれから、成功だけじゃなくて失敗を積み重ねていくのだろう。

 

それでも彼女たちが挫けてしまわぬように、後悔も残らないように。

成功を喜べるように、皆で寄り添いあえるように。

 

俺が、彼女たちの支えになろう。

 

 

 

その日はひとりは僕を離さず眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いーい?響?』

 

『貴方は人の心に響ける人間になりなさい』

 

『人を救える人になりなさい』

 

『救われない人になりなさい』

 

『見返りを求めないで生きなさい』

 

『求められたものを返せる人になりなさい』

 

『大切な人が喜んだら喜びなさい』

 

『大切な人が悲しんだら悲しみなさい』

 

『自分の悲しみは人には見せないで生きなさい』

 

『自分の喜びなんて取るに足らないものと思わせなさい』

 

『それが、寄り添うってことなのだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『寄り添わせず、寄り添いなさい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(分かってるよ、お母さん)

 

 

 




その言葉はまるで、複雑に束ね結ばれたバンドのように。


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てんちょう・は・つんでれ?

店長回でっす!!!

この作品コンセプトがある癖して
原作通りにストーリー進めるとなるとどういう場面でヤンデレ発動させるか悩ましくなるんですよねぇ

主人公もなかなかやばいやつなので尚更ねw

あとコメディ色がまだ薄い気がする。



 

「響くん、ちょっと」

 

ある日、清掃中に店長に手招きをされた。

 

一体何の用事だろうか。

 

「どうかしました、店長?」

 

まだしっかりと掃除できていないところでもあったのだろうか。

だとしたら迂闊だったな。

手を抜いたつもりはないけど。

 

「…ここ、洗えてないぞ」

 

「え?あっすいません!」フキフキ

 

やっぱり見落としがあったのか。

反省しないと。

店長にも確認を取ろう。

 

「後はなにかないですか?」

 

「あーうん、大丈夫。」

 

「いえ、それでは────」

 

「あ、ちょっと待って」

 

「は、はい!」

 

「あー、そのー……」

 

店長は言葉を切り出そうとしては引っ込めてを繰り返して

話せずにいるようだ。

 

そして───

 

「ごめん、何でもない……」

 

「そ、そうですか……」

 

「聞けるわけねえよなぁ…………」

 

その言葉と共に店長さんは項垂れている。

 

僕に何を聞きたかったのだろう?

 

そのあとも、何度か呼ばれたりしたが、何か喋ろうとすると口を閉ざし

 

「なんでもない」

 

そう言っては戻っていっての繰り返し。

 

何か気になることでもあるとは思うのだが、その内容に心当たりはない。

 

『聞けるわけない』

 

店長がそう言っていたということは、何かしら聞きにくいようなことを聞こうとしているのか。

だが店長から気まずいことを聞かれるだなんて想像も見当もつかない。

 

僕の過失ならそれは詫びなければならないが、起こってるようにも見えないし。

 

……案外些細なものだったりするのではないだろうか。

 

『深刻な話でなければ良いな』と思いながらも

些細なものだったとして何があるのかを想像してみる。

 

例えば気になる男性かいるから男性の好みの参考にしたいとか。

急にそんなことを年下の男に聞くだなんて気まずいって思って、

 

『聞けるわけない』

 

などと言ったのではないのだろうか。

 

(全然聞いてくれてもいいんだけどな、参考になるかはわからないけど)

 

そう思いながらも仕事を怠るわけにもいかないので、

しっかりと働いた。

 

 

 

 

 

そしてバイトが終わり。

 

「もう上がって良いから、気をつけて帰れよー」

 

「お、お疲れさまでした……」

 

「お疲れさまでした」

 

「あっ……響くんは残って。」

 

「?……はい」

 

ひとりと一緒に帰ろうとしたところで、星歌さんに呼び止められる。

 

やはりバイト中に話そうとしていたことだろうか。

どうやら話すことを決意したような目をしていた。

 

「ひーくん?な、なにかあったの?」

 

「響、なにをしたの」

 

「リョウ人聞き悪すぎ!」

 

「おかしいな、似てる言葉なのに聞こえ方が全然違うね」

 

「虹夏、先に戻ってて、三人も遅くならないうちに帰れよ」

 

「え?あっ…はい…一緒に帰りたかった…」シュン

 

ひとりがぼそぼそと言うのを聞き逃さなかった僕は

すかさずひとりのフォローをする。

 

「ひとり、話が終わったらロインするから、先に帰っててくれ」

 

「じゃあね響、来世で会おう」

 

「また明日ね、リョウ」

 

「それじゃセンパイ!また明日!」

 

「うん、また明日」

 

こうしてひとり、喜多、リョウと別れた。

虹夏に袖を掴まれ、振り返る。

 

「……響くん、どんな話するの?」

 

「……いや、それがわからないんだよなぁ」

 

どうやら虹夏は星歌さんから話を聞いてないようだ。

てっきり虹夏になら話していると思っていたのだが、姉妹にそういったことを話すのは恥ずかしいのだろうか。

 

しかし、どんな話をするのかは自分の想像でしか語れない。

適当なことは言えないし、ここは、はぐらかしておくか。

 

そんなこと思っている矢先に

 

「ねぇ響くん、私からさ、謝っておくから帰っちゃわない?」

 

「え……な、なんで?」

 

「いやぁ、そのーもしかしたら、響くんにとってあんまり良い話じゃないかもだし…さ…」

 

良い話じゃない。

 

その言葉の真意はわからないが虹夏は星歌さんが僕に気分を害するような話題を振るうと考えているのか。

 

だが、星歌さんが僕に対して何の話題を振るかなんてわからない。

それを無視して帰るだなんてことは出来ない。

 

それに言うことを聴いたら虹夏と星歌さんの喧嘩にも発展してしまうかもしれない。

仲睦まじい二人がギクシャクする火種になんか、なってたまるか。

 

「聞くよ、相手が話したいって言ってるのに、それを無視して帰るだなんて出来ないし。だから心配いらないよ。」

 

「…っ…そうだよねぇー……響くんならそういうと思ってたなー!

 

…………よし決めた!」

 

「……虹夏?」

 

「響くん」

 

ギュッ

 

「え」

 

突然、虹夏に抱き締められる。

 

何故だ、何故抱き締められてる。

 

それにこの感じ……

 

「なに、してん───」

 

「私は絶対に、響くんの味方だから。辛いことがあっても、苦しいことがあっても、悲しいことがあっても、痛い思いをしても、絶対に。

 

どんなものでも全部受け止めてあげるから…

どんなときでも私が響くんを助けてあげるから……

 

 

だから──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──私を頼ってね?」

 

ゾクッ

 

「……………ありがとう」

 

「うん!絶対だよ!!それじゃあね!」

 

「うん、じゃあね……」

 

ひとりの時にも感じた、あの感覚。

 

いや、もっと前から感じていた、あの目

 

昔から苦手な、あの目。

 

お母さんの……目。

 

どくんと、一度。心臓が跳ねる。

 

(俺の目、節穴になっちまったな)

 

何故ひとりの目が、虹夏の目が。

 

母の目と同じように見えるんだ。

論外だ。あり得ない。有り得てなるものか。

せっかく、ようやく。

幸せになれたんだ、笑顔になれたんだ。

 

 

父さんと、同じになれたんだ。

 

 

(失わせやしない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は虹夏の姉、伊地知 星歌。

 

最近、虹夏はバンドを組んで。

響くんがスターリーに戻ってきて、毎日が楽しそうに見える。

 

いや虹夏だけじゃない。

 

山田リョウという少女も響くんが来てから口数が増えたし。

新しくバイトに入ったぼっちちゃんこと後藤ひとりも響くんの幼馴染だからか彼に引っ付いてることが多い。

 

喜多郁代という少女は特に、顕著に彼のことを頼りにしている。

私に人を見る目があるかどうかはわからないが。

 

素人目で見ても『絶対好きだろお前』と言いたくなるようなくらいには分かりやすい。

 

(自分の後輩とも仲良いしなあいつ)

 

酒に溺れてるのが通常運転な後輩の顔を思い浮かべながら

声に出さずに愚痴る。

 

そんな中心人物である、小鳥遊 響はというと。

 

毎日幸せそうな顔をしている。

 

(あの時、どんな気持ちでバイトやめたんだよ)

 

一年くらい経った後にまたここでバイトさせてくれって頭下げに来て。

 

(頭下げてまでここに居たいなら、なんであの時バイトやめたんだよ)

 

分かっている、彼にも事情があったのだろうと。

自分の友達にも言えないような深刻な事情が。

嫌みっぽくはなってしまうが、きっとそうなのだろうと本気で思う。

 

だけど、それでも、腑に落ちない。

 

(なんであの時死にそうな顔で辞めていって、なんで今幸せそうな顔をしてんだよ)

 

昔の私は虹夏の口からでしか彼のことを知らなかった。

でも実際に虹夏に連れられバイトに来て、実際に見て、聞いて、話しててわかる。

 

『こいつ、お人好しだな』と。

 

当時はかなり表情が固く、受け答えは出来ても目を合わせることがあまりなかった。

 

(だってのに)

 

今は、見違えるくらい幸せそうで。

 

あの時の死にそうな顔を正面で見たからこそ。

不思議で、不可解だった。

 

「店長として……」

 

そう、これは店長として聞くんだ。

決して年下の男子に興味が湧いたとか、保護者面して心配したとか。

そんなものじゃない。

 

「そうだ、あくまで店長としてだから……」

 

そして私は彼に目線を送り──────

 

「響くん、ちょっと」

 

 

彼を手招いた。

 

 

 




星歌さぁぁぁぁん!

あなたも病んで☆(鬼畜)

ヒロインたちがどんどんヤンデレになっていく。
スターリー以外の人ももしかしたら……


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ひびき・と・いじち

とうとう!お気に入りの数が!!
900を越えました!!!マジで感謝っ!!(イナズマイレブン)
まさかここまで伸びるとは思っても居なかったもので大変驚いております。
そのお陰もあってか不定期とはいえ楽しく執筆させて頂いております。
とはいっても趣味の一環なので優しい言葉で包んで頂けたら僕の中の承認欲求モンスターに「シン」って名前がつくのを未然に防げますので、そこら辺何卒、何卒!よろしくお願いいたしますw

P,Sぼざろヤンデレカテゴリーもっと増えろ。

増えろ。



 

ガチャ

 

「来たか」

 

「遅れてすいません」

 

虹夏と別れた後、星歌さんとスターリーに戻っていき、

普段客が使うテーブルのところに座っていた。

 

「まぁ……まずは座れよ、なんか飲む?」

 

「店のですよね?客以外飲んじゃダメでは?」

 

「店長だからいいんだよ」

 

「横暴」

 

ていうかそれだと僕が飲んでいいことにはならないと思うのだが……

まぁでも、そこも店長の権限でごり押すのかもしれないな。

 

 

それにしても今日の星歌さんはいつものクールな雰囲気とは程遠く、

まるでなにか焦っているような、そしてそれを必死に隠してるような雰囲気だ。

 

今日は店内で歩き回ることが多かったのも、視線をこちらに向けていたことも、ずっと目が泳いでいるのも。普段とは違う星歌さんの姿だった。

 

もしかしたら虹夏は、誰よりも先に気づいていたのかもしれない。

だから、それを心配して僕に話しかけたのかも。

 

いつもみているクールな姉のいつもと違う仕草を見ていれば、虹夏なら気にかけるはずだし、その話し相手に事情を聞き出したくなるのも頷ける。

 

だが───

 

 

『あんまり良い話じゃない』

 

 

あの時の虹夏の言葉が今でも頭のなかで再生される。

 

『星歌さんの様子が変だった』というならわかる。

自分の姉の様子がいつもと違うのだから心配して僕に話を聞こうとしたと解釈できる。

 

ただ、あのときの虹夏の言葉と表情は明らかに僕に向けての言葉だった。

 

目の前に居たのだし当然かもしれないが、虹夏はその場に居ない人のことも考えるような責任感の強い女の子だ。

よくひとりのことも気にかけてくれている。

 

じゃあそんな彼女が誰よりも付き合いの長い、ましてや姉妹の星歌さんを気にかけていないとでもいうのだろうか。

 

答えは疑う余地もなく否だろう。

 

……わからないことが多いな。

 

星歌さんは僕に何を聞こうとしてるのだろう。

ずっと『気になる男性が出来たからアドバイスを聞こうとしてる』

と自己解釈してるが、それは結局なんの根拠もないただの憶測であって星歌さんが既に発言したわけでもない。

 

ほぼほぼ妄想に近い予想だ。

 

じゃああえて、内容を変えてみたらどうなる。

単なるバイトである僕に聞きたいことがあって、店長として聞かなければならないようなこと。

それでいて聞きづらいような、『聞けるわけない』と項垂れるようなこと………………

 

………まさか

 

いや、()()()()()は……

 

「店長」

 

「仕事していないんだから、名前でいいぞ」

 

「それじゃあ星歌さん、今日はどうかしたんですか」

 

「は?」

 

「自意識過剰だったら謝りますけど、なんだか様子が変だなって思って。いつもより呼ばれる回数も多かったなぁって」

 

「……はぁ~…」

 

え?溜め息?

何か気に障るようなことを言ってしまったか?

 

まさか本当に自意識過剰だった?

……そうであって欲しいが。

そろそろ話題を変えないといけない気がする。

 

「あー、そんな顔すんな。ただの深呼吸だから」

 

「そ、そうですか、あっ、そういえばぼ────」

 

「結構前から気になってたんだけど」

 

誤魔化そうとした刹那に星歌さんが話しかける、まるで誤魔化そうとしてる僕の魂胆を見透かしてるかのごとく。

いや、実際に見透かしているのだろう。

 

「ぁ…はい」

 

お願いします星歌さん。

それを考えないでください。

大丈夫、僕は大丈夫ですから。

あなたは優しい人だから、それを知ったらきっとあなたは悲しむから。きっと僕を慰めるから。

だから、気づかないでください。気にかけないでください、気にしないでください。

 

頼むから、頼むから、頼むから頼むから頼むから頼むから。

 

「響くんの両親…最近どうしてるの?」

 

「…………………………………」

 

あぁ、虹夏。

 

 

「全然話も聞かなくなったしさ、いつもこっちから電話かけるとき響くんが出るし。まぁそれはまだ普通なんだけど」

 

「………………………」

 

「なにか、隠してるだろ」

 

 

君の言う通りだったよ。

これは僕にとって良くない話だったよ。

 

 

「…………」

 

「話せ、何があった。」

 

「何もありませんよ」

 

「嘘つけ、店長としてもほっとけないんだよ、ほら話せ」

 

「両親は出張続きでほとんど家に帰ってこれないって以前に言いましたよ。だから───」

 

「虹夏が言っていたぞ、お前の家の玄関、お前の靴以外何もないんだってな」

 

「出張してるんですから当たり前じゃないですか」

 

「それがほんとの話ならな、もしそうなら職場教えろ、連絡するから。」

 

「…………」

 

「やっぱ、嘘か…」

 

「……ごめんなさい」

 

「……お前、お父さんのこと話していたよな、趣味で靴を集めてる人だって。父親の靴が玄関に無い日はなかったって自慢げに。」

 

「そ…れは…」

 

「なぁ、お願いだよ響くん」

 

「っ…ぉ…おね…がい…………」

 

「何があったのか、話してくれ」

 

「わかり……ました。」

 

 

そして俺は話し始める。

 

()が、()になった時のことを。

 

 

 

 

 

服に取り付けられた、盗聴気にも気付かずに。

 

 

 

 

 

 




人のお願いって断りづらいですよねぇ。

追記
響君の過去は『過去編』という章にて公開中です。
よろしければそちらを見てから本編に来ると話の内容が分かったり分からなかったりします。


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にじ・と・ほし

ようやく書き終えた感じです。


 

 

「いや長いわ」

 

「へ?」

 

「響君の回想長すぎ。もっと簡潔にまとめろバカ。」

 

「そ、そうですか……すみません…」

 

「いや、別に謝ることでもないんだけどさ、結局なに?」

 

「え?何って──」

 

「バイトを辞めた理由だって。過去話聞かされてるだけでなんも大事なところが答えられてないし。」

 

「えっと…両親が死んで、ここでバイトするのが難しくなったんです。警察の人達に事情を話さなくちゃ行けなかったし、職場にまで警察に来てほしくなかったので。迷惑になるのも嫌だったし。」

 

「……………は?」

 

私が呆気にとられているというのに、響君あっけなく告げた。

 

いや、予想はしてた。

両親がなにか重いものを患っていて、それで死んでしまったのかとか……事故に巻き込まれて………とか。

 

でも、引っ掛かる言葉があった。

呆気にとられた理由がたった二文字にあった。

 

なんで警察なんだ?事故とかなら警察よりも先に救急車を呼ぶようなものじゃないのか?

 

それじゃまるで両親が事故ではなく────

 

「警察?医者じゃなくて?」

 

頭で最悪の答えが浮かんだと同時に、私はいつの間にか疑問をぶつけていた。

 

「え?あ、はい。」

 

『何を言ってるんだこいつは』というようなキョトンとした顔で私を見つめる響君。

 

いやお前がなに言ってるんだよふざけんな。

 

「なんで警察?」

 

「え、いやだから両親が死んだから──」

 

「だからっ、なんで警察が先に来たんだよ。救急車呼べよ!」

 

考えてはいけないと頭で思ってても。

 

目の前にいるのが単なるバイトで働くだけの少年だと分かってても。

 

妹の、想い人だとしても。

 

踏み込んじゃならないはずなのに、口が止まらなくなる。

だがそれもに次の響君の言葉で終わる。

 

「警察は僕が呼んだんです、両親が殺されたから」

 

「………………………」

 

最悪の形で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さんが、母さんを殺したんです。」

 

「母さんは凄く嬉しそうでした。」

 

「苦しそうに涙を流しながら、嬉しそうに笑顔を浮かべて。」

 

「父さんはそれを見て悲しそうでした。」

 

「悲痛な表情浮かべてて、それが嫌だったんです。」

 

「俺は警察を呼んで、来るまでの間に二人を止めようとしました。」

 

「止めようとしたんですが、逆に父さんに組み敷かれて、手足を縛られて動けなくされて。」

 

「何度も叫びました。何度も何度も」

 

「やめてくれ、やめてくれって。」

 

「なのに、父さんはやめなくて。ただ『これが響のためなんだ、母さんの望むことなんだ』って言い続けて。」

 

「そして母さんが死んだあとは、僕を殺そうとしました。」

 

「でも、その最中に警察が来て、父さんは焦りはじめて。」

 

「目の前にあった包丁で自分の首を切って。」

 

「それで、死んだんです。」

 

「警察を呼ばなければ、父さんは自分で自分を殺さなかったかもしれない。」

 

「あの時僕が一人暮らしなんて望まなければ、両親は愛し合っていたかもしれない」

 

「俺が、殺したようなものなんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ…」

 

言葉が出てこない。

 

何を言えば良い?果たして正解なんて物はあるのか?

そんな臆病なことを考えながら、どうにか紡ぎだそうとするが、

頭に言葉が浮かばない。

 

ようやっと絞り出した言葉は

 

「……なにそれ」

 

それだけだった

 

「じゃあ私たちに迷惑を掛けたくないから、あの時事情も話さずバイト辞めたってこと?」

 

「そう……です、黙ってたことはすみません。」

 

「謝んなっ!なんで響君が謝るんだよ。」

 

私が大人だからと、店長だからと割り切って彼と関わっている中で、

彼は誰にも話さず、独りで苦しんでいたんだな。

自分が苦しんでいるだなんて、微塵たりとも見せるつもりもないのかもしれないが。

 

「事情を知られたら心配されそうで、気を遣われてしまう気がして。それが嫌でっていうただのエゴなんです。

それで結局心配されてしまうなら意味がないんですけど。」

 

やっぱり。

見ていて分かる、彼は病的なまでにお節介だ。

あのリョウにでさえ、見返りも求めず平気でお金を渡そうとするくらい。

虹夏のバント活動もサポートしている。

今はギターを使っていないらしく、口頭でのアドバイスになってるけど。

 

「星歌さん?」

 

リョウの事もあってちょっと行きすぎなお人好しだがそれでも悪い噂は聞かない。

誰よりも人助けをしてるような奴だった。

そんな響君がなんでこんな目に………

 

あっ、ダメだ。

 

「まぁ色々分かったから、今日はもう帰って良いよ、ごめんね引き止めたうえに聞きづらいこと聞いて。」

 

「いえ…あの……どうかしました…?」

 

「どうもしない…っ…お疲れ様っ」

 

ガチャン

 

ドアを閉める。

 

彼に顔を見せるわけには行かない。

私の顔を見たらきっとこの子は心配する。

彼は酷く優しいから。

 

そうしたら『話したから涙を流した』なんて後悔するんだ。

そう私は今、泣いている。

 

彼の境遇を聞いて、想像して。

そして、泣いている。

 

「お姉ちゃん、泣いてるの?」

 

「うっさい…っ…」

 

「あーもうまたそうやってツンツンするー」

 

「…………」

 

「………なんであの時、響くんがバイト辞めたのか。

私なんとなく気づいてたんだ。」

 

「…っ………」

 

「この前、響くんと話してるときにね、両親の話をしたときに響くん、『そういう人だった』って言ってたの。」

 

「……だった?」

 

「うん、その後に口を押さえて『しまった』ってかんじの顔してさ」

 

「それは………」

 

「バイトを辞める一週間前だったんだよ、その話したの。」

 

「だから、響くんと響くんの両親の間に何かあったんじゃないかって思ってた。でもまさかそんなことになってたなんて…………」

 

「え、なに聞いてたの?」

 

「……ゴメンお姉ちゃん!扉越しに聞こえたからさ、盗み聞きしちゃってた!」

 

「はぁ、お前趣味悪いぞ」

 

「……晩御飯、出来てるよ」

 

「おう」

 

虹夏も、響君の事をしっかり考えてたんだな。

 

私たちが、響君のことをしっかり見てやらないと。

いつ響君が立ち直れなくなっても支えられるように私たちがちゃんとそばに居てやらないとな。

 

なんだか、弟が出来た気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「響君のこと、ちゃんと見てるからな」フフッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




星歌さんが堕ちた!!この人でなしぃ!

ということで、主人公の過去は最後は朧気ながらですが明らかになりました。

過去編にて主人公の過去がありますのでそちらもお楽しみくださいな!


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ギターと・こどくと・あおいほし!

原神が楽しすぎて、かなり更新が遅くなりました。
申し訳ねぇ。

元々亀更新で気まぐれに投稿するってスタイルではありましたが、まさかこんなにハマるとは思ってなかった。

そういえば虹夏の声優さんのキャラクターが出ているんです。いやっほー!


名前は綺良々(きらら)ですって!
きららですって!!まんがタイム!!!




 

 

「ん………」

 

起きた。

 

先日、星歌さんに自分のことを喋った日から、喉が痛い。

普段あんなに会話することが少なかったから、疲れたんだな。

 

あとなんか頭も痛い。

 

高校に入ってから最近は人と話すことも増えてきたから、

慣れたものだと思ったが。

 

まだまだ父さんや母さんのようにはなれないな。

 

 

星歌さんに話を打ち明けたあの日から、だいぶ時間がたった。

 

みんながそれぞれ練習しているのを見ているとこっちまで心が踊る。

 

特に喜多とひとりの成長には目を見張るものがあった。

といっても虹夏とリョウが成長していないわけでもなく、二人は先輩として、二人に対する()()()()の教えが上手くなっている。

 

そもそも人に教えるという行為が、人に()()()()技術がなければ伝わらないものだというのに、それを虹夏とリョウは自然体でこなしていた。

 

自分も二人を見習い、教えられるように頑張らなければ。

 

そして今日はみんなの晴れ舞台の日。

 

(だって言うのに………)

 

空は雨。しかも結構な降りだ。

窓に張り付いた水滴の量がそれを物語っている。

 

晴れ舞台に立つのだから、どうせなら晴れて欲しかったが。

この前、ひとりからチケットを貰って欲しいと言われたが、たまたま通りかかった星歌さんにストップをかけられた。

 

『当日バイトで来るんだから渡したって意味ないぞ』

 

だそうだ。こもっともである。

 

目の前でひとりが涙目になっていたのを見て

当日休んで客として行こうかなとか思っていたのだが

そんな浅はかな考えは即座に遮断された。

 

『サボるなよ』

 

たった五文字で人を黙らせるのヤバイって。

 

ひとりの場合、チケット渡せなくて落ち込んでいたのではなく、

チケットを知らない人に売らなくてはならないことに落ち込んでいたのだろう。

 

売れているといいんだけど。

 

まぁ何はともあれ、

 

せっかく結束バンドの晴れやかなライブの日なんだ。

こうしちゃいられない、準備をして出発しよう。

 

クラッ

 

「……?」

 

ベッドから起き上がり立とうとすると、自分への違和感を感じた。

 

なんだか、視界がくらくらする。

 

まるで熱でもひいたかのような。

 

「ぁ………」

 

バタン

 

体のバランスがとれず片膝をつく。

 

 

 

あっ、これ。

 

「ような」じゃない。

 

ほんとうにねつだこれ。

 

まずい。

 

 

あぁ、

 

ライブ

 

 

いかなきゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響くん、遅いなぁ………」

 

「センパイ、何かあったんでしょうか」

 

「ひーくん………」

 

「………」

 

あたしがそういうと、喜多ちゃんとぼっちちゃんは心配の表紙を浮かべる。

リョウは無言で冷静を装ってるけど、その表情には動揺が伺える。

 

「だ、大丈夫なんでしょうかっ!?」

 

ぼっちちゃんがいつもなら出さない声量で、しかもすごい剣幕であたしに聞いてくる。

 

「まだ時間はあるしきっと大丈夫だよ!響くんなら来てくれるよ!」

 

ぼっちちゃんは響くんの話になると明らかに雰囲気が変わる。

 

「そ、そうですか………」

 

 

………やっぱり好きなんだろうなぁ、響くんのこと。

 

「ほらほら!みんな元気だして!お姉ちゃんも!」

 

「別に落ち込んでないって」

 

嘘だ。

 

響くんのあの話を聴いてから明らかに響くんのことを心配してる。

あたしも気持ちは同じだけど、今はバンドに集中しないといけない。

せっかく夢を叶える第一歩なんだ。

 

結束バンドのリーダーとして。

ここで諦めるわけにはいかない。

 

「どうかした?」

 

「あっ、ううん!なんでもないっ」

 

「……ふぅん」

 

思わずリョウに心配される。

まったくこういうときは鋭いんだからなぁ。

 

ピト

 

「うわぁ、もう緊張感ないなー」

 

あたしの表情を見たぼっちちゃんは急になぜか星形のサングラスとオモチャの髭を着けてふざけだした。

 

ふざける要素なかったよね?

 

「ぼっちちゃん、今日は真面目な日だからふざけちゃだめだよ」

 

「それ気に入ってるんですねー!」

 

「あっ、はい………」

 

ガチャ

 

「あ~凄い雨~!あーぼっちちゃーんきたよぉー」

 

「あっ、お姉さん」

 

「え、お前ぼっちちゃん目当てで来たの?」

 

「そうだよ~?いえ~い!」

 

「えっ、お知り合いなんですか?」

 

あたしとしてはこの人とぼっちちゃんが知り合ってることに驚きなんだけど。

 

「…私の大学の時と後輩」

 

少しだけめんどくさそうにお姉ちゃんが答える。

 

「あれ?ビッキーくんまだ来てないの?」

 

「あ?ビッキー?まだ連絡は来てない……」

 

「びっきー?誰の事────

 

バタン

 

「遅れてすいませんっ!!その……バスが少し遅くなりまして!」

 

「あ~!ビッキーくぅぅん!!」ダキッ

 

「酒!!酒臭いですよきくりさん!?来る前に飲んだでしょ!!」

 

「えへへ~、幸せだぁ~」

 

「聴いちゃいない……」

 

「……あれ?」

 

ん?いまきくりさんの目が開いたような……

 

「すぐに着替えて準備します!本当にすいませんでした!」

 

「おういいからはやく着替えてこい」

 

「はい!」

 

でも良かったー!なにかあったのかなって思ってたけど、何もなくて安心したよ。

 

でも今日の響くん、なんだか妙に明るいな。

私たちが始めてライブするから、響くんも嬉しいのかな?

なんちゃって。

 

「よーし!響くんも来てくれたし、今日は張り切ろうねっ」

 

「はっはい!私たちの演奏を待ってくれる人がいるんだからー!!」

 

「それ絶対やめてー!ちょっと進化してるし」

 

 

 

 

 

 

 

 

「聴いてください!私たちのオリジナル曲で、ギターと孤独と蒼い惑星!」

 

ライブが始まり、それぞれの演奏をする結束バンド。

 

 

 

でも聴いていると、調子が悪そうだ。

 

(みんな、焦っているな。)

 

バラバラになっている。まるで同じ場所にいるのに、それぞれ違うところで演奏しているかのように。

 

今日は始めてライブで緊張しているのに、その上で雨が降って客足も少ないせいで、それがさらにみんなのプレッシャーになっているんだろう。

 

(頑張れっ………)

 

フラついていた身体は今はまだ不安定なままだ。

でも、フラついているのは俺だけじゃなくて。

 

 

 

本来だったら、もっと上手くいってる筈なんだ。

モチベーションが下がる要因がなければ、上手くいってる筈なんだ。

 

でも俺が遅れたことで、みんなが心配して、それでモチベーションが下がってるとしたら?

 

みんなは、優しいから充分にあり得る話だ。

 

(僕のせいだ)

 

熱なんて引かなければ。

遅刻さえしなければ。

心配をかけなければ。

 

 

 

一曲目が終わる。

みんなの表情は硬く暗いままだ。

 

ごめん、みんな………

 

俺がもっと寄り添えていれば。

 

 

 

 

 

 

 

罪悪感に押し潰され目を瞑ると、目を無理矢理開けさせるかのようにギターの音が鳴った

 

目を開けるとそこには────

 

(ひとりの目が、変わった?)

 

ひとりがギターを弾いている姿があった。

 

場の空気が、変わった。

 

みんながタイミングを合わせて、演奏を始める。

 

2曲目が──────

 

 

『あのバンド』が

 

 

──────────始まる。

 

紆余曲折ありながらも、みんなこれまで頑張ってきた。

 

決して綺麗事だけで得られるものではなかったはずだ。

努力をしてきたものが、お天道様の機嫌一つで流されていくだなんて理不尽も起きた。

 

それでもみんな苦労を積み重ねた。

 

それが今ここにいるお客さんたちに伝われば良いんだ。

第一歩を踏むのは、ここだ。

 

 

虹夏のドラムが鳴り響く。

 

力強いのに、繊細さも感じられる音で。

 

 

リョウのベースが鳴り響く。

 

気だるげなのに、とても丁寧な音で。

 

 

喜多のボーカルとギターが鳴り響く。

 

賑やかのに、心が落ち着く音と声で。

 

 

ひとりのギターが鳴り響く。

 

俯いてるのに、前向きな音で。

 

 

 

 

(これが…結束バンド………)

 

 

 

 

 

 

 

このライブが失敗なのか成功なのか。

 

そんなことは、みんなの心からの笑顔を見れば

 

 

一目瞭然だった。

 

 

 

 




めっちゃ久しぶりに投稿しました。

ゲームにハマると亀ですらゴールしてるくらい遅く更新してしまいますね。


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うそは・どろぼうの・はじまり

嘘と言ったら推しの子思い出す人もいるかもしれませんが、
この作品とは一切関係ありません。




P.S 暑くね?


 

バンドも成功で終わり、みんなで打ち上げに行く話になり。

 

今はみんなで好きなものを食べて、飲んでいる。

 

そんな中、僕はというと。

 

 

「はぁ…っ…はぁっ…」

 

今にも倒れそうになっていた。

 

星歌さんにトイレに行く許可をもらい、トイレの個室の便座に座り今に至る。

 

(僕が女の子じゃなくてよかった……)

 

もし僕が女の子だったら、きっとあの子達は心配してわざわざここに来ていただろう。

恐らく虹夏当たりが

 

『大丈夫?具合悪いの?』

 

って聞きに来るとか、充分にあり得る。

 

例え心配をしたとしても、男子トイレに入ろうとする女の人はいないだろう。

 

ロインで聞いてくるかもしれないので、今の僕はスマホを家に置いてきてある。

これに関しては純粋に忘れたのが原因だが。

 

まあそのおかげで言い訳はいくらでも効くようになってくれた。

 

バイトへ向かう時も、フラついていた身体を何とか動かしてスターリーへと向かい、

そこに着く頃には自分の身体を無理矢理元気にした。

 

空元気というものだが。

 

 

でも、空元気でも良い。

あと少し、あと少し、あと少しなんだ。

 

 

あとほんの数時間たてば、この打ち上げも終わる。

 

それまでの辛抱だ。

 

いや違うか、帰りはひとりと一緒にいるから、ひとりを家に入るのを見届けて、そして家に帰るまでの辛抱だな。

 

(………できる)

 

 

彼女たちは今日はかなり頑張っていた。

それは微々たる結果になったかもしれないけれど、0から1を生み出すことには成功した。

ならばいつまでも0でしかない僕が彼女たちの歩みを止める要因になってはならない。

 

彼女たちの足枷にはなりたくない。

だから、心配をかけさせない。

その為にまず、重い腰を無理矢理にでも軽い腰にする必要がある。

 

(よしっ)

 

バシッ!!!

 

強く自分の腰を殴る。

 

みんなが元気で居るなら自分も体調不良に負けてはならない。

笑顔を作れ、顔色を変えろ、明るく振る舞え。

 

心配をかけさせるな、自分は皆のために居るのだから。

それが寄り添うってことなんだから。

 

それ以外のお前に価値はない。

 

生きてる意味も、存在する理由も、なにもかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響くん遅いね」

 

「そ、そうですね……」

 

「いやぁ、ごめんごめん!長くなっちゃって」

 

「響、おそい」

 

「どしたのー?お腹でも痛い?」

 

「いえ、大丈夫ですよ!」

 

「……ふーん…そっか」

 

 

嘘を、吐いている。

 

響くんの顔を、いや目を見てるとわかる。

あれは、そう。

 

小鳥遊 響子(たかなし きょうこ)の……

 

いや、彼の母であり、私の姉である

 

廣井 響子(ひろい きょうこ)と同じ目だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が生まれた頃、姉はまだ中学三年生だった。

ちなみに私はまだ中学一年生、ピチピチの13歳だった。

 

姉の妊娠が発覚したとき、これから高校の受験があるというのに何てことをと、父にこっぴどく叱られ、母は声にもならない絶叫をしていた。

 

自分の家族が人生のどん底に立っているというのに、わたしの心は酷く冷静だった。

昔から姉のことは好きじゃなかったから特になんの感情も湧かなかったからだ。

 

ただどうでもいいと思いながらも、ひとつだけ怖かったことがある。

 

それは、怒鳴る父でもなく

「産まれてくる子は何も悪くない」とか細い声で話す母でもなく。

 

一番危ない場所に立っているはずの姉が

 

「大丈夫!わたしには白馬の王子様が居るんだから!」と、

 

誰よりもいきいきとした目をしていたことだ。

 

 

 

その日からわたしは姉と喋らなくなった。

 

 

 

高校をすぐに退学した姉は、ある男性と一緒に暮らすことを考えたらしい、

 

「この人はね、私の王子様なの!!」

 

姉が自慢げに両親に彼氏を紹介する。

 

それを聴いた瞬間、父がその彼氏をボコボコにぶん殴った。

母は止めた、けど母だってきっと男に対して許せない気持ちがいっぱいあったんだろう。

 

彼を睨む目は相当な憎悪を孕んでいた

 

でも私にとっては、どうでも良かった。

そのときはずっと独りでいたから、

その孤独感を紛らわせることしか考えていなかったから。

 

 

後から知らされた事実を聞いて、両親は後に後悔をした。

 

彼は姉を孕ませた張本人では無かった。

張本人は姉が妊娠したという事実に怯え、責任を取らない道を選んだという。

 

流石にこれには私も腹を立てた。

 

そして、以前から姉を好きでいた彼が支えることを決意したのだという。

あれのどこが好きなのか微塵もわからなかったけど。

 

その事実を姉から知らされた両親は、本気で謝っていた。

 

しかしもちろん親は反対した。

未成年が二人暮らしで育児をするなんて了承出来るはずがないと。

 

 

ひどい話だね。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしました?ボーッとしちゃって」

 

「え?んーん!なんでもなーい!」

 

「飲み過ぎだろ……そんなもんにしとけ」

 

PAさんと先輩に心配をされる。

私はあえてその言葉をスルーする。

親切心で言われたことには申し訳なくも嬉しく思う。

 

けど今は酒を飲まなきゃやってられない。

 

いやいつものことだけど。

 

「さー!パーッと飲むぞー!びっきーくん!酒をいれたまえー!」

 

「ははぁー!」

 

「言ったそばから……って!未成年に注がせんな!」

 

「響くんも恐ろしく早い対応……私なら見逃しちゃいますね」

 

「見逃すのかよ」

 

近くに来た彼の顔をじっと見る。

あっ、やっばりそうだ。

彼の目を見て思った。

 

彼は嘘を吐くとき、いつも姉のような目をする。

 

私はそんな彼のことが嫌い。

 

今の彼は常に『誰か』という()()をつけて過ごしている。

 

誰にも気づかれないように、誰も傷つけないように嘘を吐く。

本心にも思ってないことでも、それで他人が喜ぶなら万々歳だと彼は言う。

 

彼は本気で誰かに心配されることを恐れてる。

 

だから平気なフリをして平気な嘘を吐く。

 

そんな嘘を吐く時、彼はいきいきとした目をする。

 

そんな彼のことが嫌い。

 

 

 

誰にも頼らない彼が嫌い。

 

痛いのを我慢する彼が嫌い。

 

それでも誰かを心配する彼が嫌い。

 

自分は寄り添うのに、人から寄り添われる事を拒む彼が嫌い。

 

嫌い。嫌い。嫌い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、好き。

それ以上に、好き。

 

 

 

 

私にはため息を吐いてくれる。

 

私には本音を話してくれる。

 

毒舌も、悪口も、本気で言ってくれる。

 

私がそばにいるから、彼は()()を外してくれる。

 

私の前では死んだ魚のような目をしてくれる。

 

 

 

好き。好き。好き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響くん、嘘は泥棒の始まりってよく言うでしょ?

 

「嘘つき」ボソッ

 

「っ…!?」

 

驚いた顔をする響くん。

気づかないとでも思ってた?残念!気づいてるんだな~これが。

でも、今はその嘘を暴かないでおいてあげるよ。

 

 

 

私の心を奪った責任、チャントトッテモラウカラネ?

 

 

 

 

 




お久しぶりです。

思い切りオリジナル設定ぶちこみました。(もはや捏造)
ちなみに主人公のお母さんはきくりさんの姉ってことが発覚しました。

思い切り衝動で書いてるんで違和感を見つけ次第修正していきます。


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じごう・じとく・です

きくりさんにバレとるやんけ

というわけで、体を無理させまくったツケが帰ってきます。
自業自得ですね。


 

 

(帰って……これた………)

 

ガチャン

 

飲み会が終わり、ひとりと帰路を歩き、家の前で別れ。

 

そうしてようやく玄関のドアにもたれ掛かる。

 

(頭がクラクラする……タオル…いや、ここは氷を用意して……ちがうちがう…帰ってきてるんだし風呂を……)

 

 

(あれ、今日は何日だっけ?何曜日?今は何時だ?あれ?ひとりがいない……あっ、さっき帰って………)

 

(とりあえず部屋に……いかなきゃ………)

 

 

(い か 

 

 

        なき ゃ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だ めだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

「先輩、連絡つかないなぁ………」

 

「郁代、どうしたの」

 

「あっ!先輩」

 

「ごめん、ロインしてた?」

 

「いえ、先輩じゃなくて先輩のことで」

 

「ぼっち、なんか私試されてる?」

 

「えっ」

 

「そういうんじゃないでしょ絶対。喜多ちゃん、響くんなら今日休みだよ」

 

「そうなんですか?まさか体調不良とかで………」

 

「あーうん、たぶんそんな感じ!」

 

「………」

 

「私、ひーくんのところに」

 

「私も…!」

 

「あー私が行くから大丈夫だよー!二人はそれより練習練習!」

 

「え、でも」

 

「……郁代、私が教えてあげる」

 

「え!?先輩がですか!!?嬉しい!!」キャー

 

「ひーくん……」

 

 

 

結局その日私はバイトを休んだ。

 

私とお姉ちゃんが二人で響くんの家に向かうからだ。

 

私が前に仕掛けた盗聴機が衝撃音を拾ったのを今日になって気付き、急いで支度をしてお姉ちゃんに相談して私が彼の家に行くことになった。場所なら既にリョウから聞いてるし大丈夫!

 

「響くん、隠してたのか………」

 

「……うん…やっぱり、見てるだけじゃダメだったんだ」

 

「仕方がないよね、これは響くんが悪いよ。」

 

 

そうだ。

 

無理をした響くんが悪いんだ。

 

悟らせないように、触れないようにしていた響くんが悪いんだ。

 

でも、私も悪い。

 

もっと気にかけていたら、バンドに成功したからって浮かれてなかったから……

 

響くんの異常に気づけていたのかな。

 

自責の念に駆られながら響くんの家のインターホンを鳴らす。

 

 

ピンポーン

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

「……出ないなー」

 

いつもの響くんなら10秒もしないで出てくれるけど、

今日は遅い、もう1分も経ってる。いや10秒で来る響くんがおかしいのか

他の人なら1分とかが常識的だけど、響くんは異常なまでに早いから。

 

(もしかしたら出迎えることが出来ない程酷い状態なのかも?)

 

そう思った途端に不安に駆られ、ドアノブに手を掛ける。

 

ガチャ

 

「開いてる…」

 

体調不良で一人で家にいるのに鍵が掛かってない。

無用心だとは思うけど鍵を閉めないで出掛ける人もいるって聞くし、響くんもそういうタイプなのかも?

 

それでも体調不良の時ぐらいは鍵を閉めて安静にした方がいいと思う。

 

「お邪魔しまーす……」

 

忍び足で入っていく。

まるで不法侵入している空き巣みたい……

 

いや、不法侵入であることには変わりないんだけど。

 

 

 

響くんの部屋の前に来た。

 

意を決してドアを開ける。

 

「響くーん…って…」

 

「…あっ………虹…夏…」

 

ベッドに横たわった響くんが、

 

私に濁りのない目を向けていた。

 

倒れてたんじゃなかったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、あの」

 

「なに?」

 

「ごめん!バイトを休んでしまって………」

 

「それは仕方がないよ。でも他にも、謝ることあると思うな?」

 

「う…うん…」

 

「何を、隠してるの?」

 

「それは……」

 

 

 

結局のところ、誰かがお見舞いに来ても心配させないように治っているフリをしようとしていたらしい。

 

だけど私が

 

「本当のこと言って?」

 

「ハイ」

 

これで全部白状した。

 

最近の響くんは変わった。

 

前までの響くんは他人の言うことをなんでも素直に聞くタイプじゃなかった。

自分にとっての得にならないこととかは極力避けるような人だった。

なのに、今はいろんな人のお願いを損得に囚われずに手伝っている。

本来ならすごくいいことの筈なのに、それを響くんがしていることに違和感を持ってしまう。

 

でも響くんが変わってしまった理由を私達は知っている。

私が彼に着けたもので知ったから。

 

バイトをまた一緒に出来るとか。

バンドの話が出来るとか。

私が一人で舞い上がってる中で、響くんは言葉では表現できないほど残酷な現実と直面してた。

 

響くんは今もなおその現実と向き合っている。

 

前までの響くんはドライな雰囲気で嫌なことは嫌だって言う人だった。喋り方もなんだか今は爽やかな感じで。

まぁ、そんな響くんもカッコよくて好きだけど……

 

でも、なんだか今は、無理してる感じがする。

 

 

自然と棘のある言葉が出てしまう。

 

違う、こんなこと言いたいんじゃない。

 

まだ病み上がりかどうかもわからない人にこんなことを言いたい訳じゃない……

 

 

 

筈なのに。

 

 

 

 

 

 

心配よりも、怒りや悲しみが湧き出てしまう。

 

なんで、私を頼らなかったの?

なんで、休まなかったの?

なんで、秘密にしてたの?

なんで?

 

なんで?

 

 

 

 

そんな分かりきってることなのに

 

『心配をかけないように彼が隠した』ことなんて分かってるのに。

 

『迷惑をかけないように嘘を吐いた』ことも分かってるのに。

 

『救いようのないほどに彼が私を必要としていない』ことも分かってるのに。

 

それでも自分を頼らなかったことへの悲しみと

 

頼る価値がないと判断された自分への怒りが、

どうしようもなく頭からこびりついてはなれない。

 

でもそんな私の感情は消えることになる。

 

 

 

「結局みんなに迷惑も心配もかけたことも申し訳ないと思ってる、ごめん。それに嘘を吐いてまで」

 

「ほんとだよー!これからは私をちゃんと頼るよう────」

 

「今度からはこんなことは二度と無いようにするよ」

 

「に……って、え?」

 

「まだまだだな、僕も。こんなことも出来ないだなんて」

 

ちょっと待って、なんか

 

「これじゃまた、母さんや父さんのようにはなれないな」

 

「でも僕のことは気にしないでくれ。一人欠席したからって虹夏まで休んだらダメだと思うし」

 

なんか、響くん……

 

「明日はなにがなんでも行くからさ!」

 

 

 

 

壊……れてる?

 

そうだよ、なんでこんなに体調悪そうなのに元気な顔が出来るの?

屈託のない表情を、眼差しを向けられるの?

無理してる感じが、しない。

 

まるで自分の身体の異常を、本人が実感も自覚もしてないかのような………

 

いや、そんな生易しいものじゃないと思う。

 

「ダメ」

 

「え?」

 

「次からは上手くやる、なんて思ってるんでしょ?そんなのダメ」

 

「い、いや」

 

「ダメっ!!」

 

「次なんてないよ、そんな無理して自分のことなんかどうでもいいみたいな顔なんかもうさせない!!」

 

気づけば勝手に声を張り上げて言葉を紡いでた。

 

「に、虹夏」

 

「うるさい!」ポロポロ

 

涙も、流れてた。

 

「心配なんていらないよ」

 

「っ……」ポロポロ

 

「君が心配する必要はないんだ、虹夏。」

 

「僕がみんなを支えたいんだよ、例えこんなことがあったとしても」

 

「僕の生き甲斐なんだよ。もう生きる理由が、これしかないんだ」

 

「みんなのお願いを聞きたいんだ、そして叶えたいんだ」

 

「もう、これしかないんだ……」

 

「寄り添うってこういうことだろ」

 

「ちがっ………!」

 

言葉が詰まる、彼にとっての生き甲斐を否定してしまうと思ったから。

両親のせいで両親を失くし、それをきっと響くんは自分のために生きてきた末の惨劇だと思ってる。

 

そして今誰かのために生きていることを目指してるのに、それを私が否定したら

 

「っ……それでもっ!」

 

「………」

 

「響くんは私たちの心配をしていいのに、私たちは響くんの心配をしちゃいけないなんてダメ!」

 

「……それは…」

 

「だから!私も!多分みんなも!これから響くんのこと助けるから!!とくに私!!」

 

「え?なんでみんなまで────」

 

「うるさぁい!とにかく看病されなさーい!」

 

 

自分が今言えることを全部言ったその時には

流れていた涙も止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




自業自得って悪い意味で使われるイメージの多い言葉ですが本来の意味は善悪関係なく、

「やってきたことが自分に返ってくる」

って意味なんですよね。
主人公のこれまでの行いが主人公自信の身体に返ってきた分
主人公へのこれまでの好意が看病という形で返ってきたって訳です。


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かんびょう・する・にじか!


どうも、不定期すぎて失踪してた郷音です。

リアルの仕事が忙しいのとゲームに勤しみまくってたので思い切り遠ざかっていました。
もともと趣味の範囲かつ亀更新であることは言ってはいたのですが気づいたらこんなに既婚が経っていました。

作品を心待ちにしてくれている方が居ましたら申し訳ない限りです。


 

「はい、あーん」

 

「え、あ、あーん」パク

 

「どうかな?おいしい?」

 

「う、うん……美味しいよ」

 

今僕は、虹夏になぜか看病をされている。

 

いや何故なのかは分かっているし僕が悪いことだったんだけど……

 

バレないようにしているつもりではいた。

いたんだが、自分の意思とは関係なく身体の方が限界を迎えてたようで、結局のところ体調不良のままバイトに来たことがバレた。

 

虹夏にバレてる理由は想像がつく。

万が一にも違ったら切腹モノだが。

 

それにしてもなんて役に立たない身体なんだ。

これほどまでに、自分の身体の脆弱さを悔やんだことはない。

 

風邪なんて引かない身体であれば、

もしくはどれだけ倒れても周りがそれに気づかないような能力でもあればよかった。

 

こんなのは机上の空論だってことは分かっている。

それでも、今は自分自身に怒りをぶつけることでしか、

悔やむことでしか、戒めることでしか、理性を保っていられないのだ。

 

気づけば茶碗に入っているお粥は全て平らげていた。

どうやら空腹であることは確かなようで、夢中で食べていたようだ。

虹夏は既に台所に食器を置いている。

そしてベッドのそばに来て、真剣な表情で、それでいて悲しそうな顔で僕の手を握りながらこう問いかける。

 

「響くん」

 

「ん?どうかした?」

 

「前みたいに……話さない?」

 

そこには先程までの怒りを見せていた彼女の表情はなかった。

そこには、少しの焦りと慰めの感情が見てとれた。

 

「え?いつも話してるだろ?」

 

「そうじゃなくてさ、」

 

でも。

その優しさには触れてはいけない。

 

良いわけがない。

 

わけがない……のに

 

「今の響くん、なんだか前と違うよ。昔はもっとドライだったというかさ、そんなに爽やかな感じじゃなかったもん」

 

「………君がそれを望むなら…」

 

僕が、()であることはいけないことなのに─────

 

「私が望むとかじゃなくて!ただ、聞きたいの。」

 

「聞きたい?」

 

「そう、聞きたい!今の響くんが本当の響くんなのか、それとも前のあの姿が響くんなのか」

 

 

心臓が跳ね上がるような音がした。

 

彼女はなにも一人称や口調の話だけをしている訳ではないのだろう。

これまでの俺の言動や仕草。

 

それらが変化した切っ掛けは、俺にも虹夏にも明白で確かなものだ。

 

そう……父さんが母さんを殺したあの時。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あの時から俺は変わった。

俺は(父さんや母さんのよう)になろうとしている。

 

分かっているんだ、彼女は。

 

いや、彼女もというべきか。

 

俺が親のように、あの二人の生き様に染まろうとしているのも。

 

俺自身を、捨てようとしていること。

 

だけど俺は─────

 

「嘘は、吐かないでね…」ギュッ

 

悲しそうな顔をしながら、彼女は包み込む両手に力を込めていく。

 

そんなにも俺を気にかける必要なんて無いはずだ。

俺を見放す理由なんていくらでもあるだろ。

 

俺は………

 

「…わからない…」

 

「えっ?」

 

「なんでそんなにも僕を気にかけるんだ………」

 

「なんでって……そんなの簡単じゃんっ!」

 

「え?」

 

「響くんが、大切だからだよっ!」

 

「っ!!」

 

「あんなに辛い目に遭ってさっ!私に助けを求めないなんておかしいじゃんっ!!!慰めることも励ますことも出来ないなんてっ!!私、なんでもするよ!!響くんのためならなんでも!

傷ついたら癒してあげる!悲しんだら慰めてあげる!だから私を─────」

 

「だから、俺の服に盗聴気をつけたのか」

 

ヒートアップしていく虹夏。

その言葉の節々に違和感を感じながら、言葉の意味を噛み締める。

わかるのはただ、心配をかけていたこと、心配をさせてしまったこと。

心配を、してくれたことだけだった。

 

だからなのか反射的に言葉が出てしまった。

 

「……………え?」

 

案の定、虹夏は硬直する。

 

ヒートアップした虹夏を落ち着かせるにはこれが一番効き目のある言葉だ。

そんなこと言って、結局は踏み込まれたくないから突き放してるだけだ。

 

「店長に話した俺の過去。他のやつには話してない俺の話。

あの場面であの場所にいなくて、でも近くに残ってるやつなんてお前しかいない」

 

「い、いやー盗聴機だなんて私知らないなー?」

 

「相変わらず嘘が下手くそだなお前」

 

「……」

 

「……これ。」

 

「その服は…」

 

「やっぱりな、ここにあった。」

 

「なんで……私だと思ったの?」

 

「さっきも言ったが、可能性として一番あり得るのは虹夏なんだ。

でもこれだけだとただの可能性の話でしかない。

証拠がないこと言われたらなんも返せないしな。」

 

「じゃあっ!」

 

「でもこれでそれを百パーセントにできる。」

 

「……?」

 

「家から出るときは特になんも付いてなかった俺の服が、

なぜお前に抱き締められた日の帰りに盗聴機が付いていたのか。」

 

「あっ……」

 

「ちなみに、その日他の奴らは俺に指一本触れていなかったぞ。

………なぁ、頼む虹夏。本当のことを言ってくれ。」

 

「……ごめんなさい…全部響くんの言う通りだよ…」ポロ

 

「…そっか。でもなんでこんなこと……とは流石に言えないかな」

 

「えっ?」

 

結局彼女が俺にここまでのことをしたのは簡単な理由から来るものだったんだ。

彼女は彼女なりに気持ちをぶつけてくれた。

なら俺も偽ることのない本心で彼女に打ち明けよう。

 

「大切に、思ってくれてたんだよな……」

 

自覚は出来た……と言えば正直まだ嘘になる。

まだ実感も理解も納得も出来ていないけれど、

それでも事実として彼女は俺のことを友達として心配してくれたのは事実なのだ。

盗聴機を仕掛けるなんて犯罪紛いのことをして、俺の状況を把握したかった程にまで心配してくれた。

 

そのハイリスクでローリターンな行動を起こすことは取り繕った善意で出来ることじゃない。

 

「……うん」///

 

彼女は肯定した、その赤らめた表情は羞恥の感情を分かりやすく表していた。

ならば、俺も『俺』として語る必要がある。

いや語らなければならないだろう。

せめて危険な道を歩んでまで、俺の心に歩み寄ってくれた彼女に報いるために。

 

「………少し、俺の話を聞いてくれるか?」

 

「…っ!うんっ!聞く!」

 

「ありがとな……」

 

ただ淡々と語る。

言葉はスムーズにだけど気持ちは重苦しく。

 

そこからは彼女は一言も喋らず

ただただ、俺の言葉を聞いてくれた。

 

俺が『聞いてくれ』とお願いしたからなのか、

それとも自分で『聞くべき』と判断したからなのか、

どちらかはわからない。

だが今の俺にとってそれは心地よいものだった。

 

故に、次から次へと言葉を紡ぐ。

 

「分からないんだ……俺が誰かに大切に想われる意味とか、理由とか。分からないというよりは納得がいかないんだと思う。」

 

「友達を大切にすることとか、家族を愛することとか。

そういう想いはあるんだ。実際皆のことは好きだし、これからも助けたいし、支えたいと思ってる。」

 

「でもいざそれを受ける側になると、想われるとか愛されるってなると……

一気に嫌な気持ちになってしまうんだ。」

 

「母さんには、見返りを求めない人間になれって育てられた。

それが寄り添うってことだからって。」

 

「父さんは最期には過ちを犯したけど、それでも誰かの為に生きていることを生き甲斐に感じていた人だった。」

 

「そんな二人の姿を見て俺は困ってる人は見過ごさない、

完全無欠のヒーローになりたいって思ったんだ。」

 

「でも、案外難しいもんなんだな、誰かを救うだけの存在ってのは」

 

「これが俺なんだ。人に寄り添ってもボロが出る。

人に寄り添えなければただの出来損ない。」

 

「だから、もうこんな生き方しかわからない。

出来ない。選べないんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、みんなは感謝なんてしなくて良いんだよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公の心を誰より最初に打ち明けさせるのは虹夏だった。

看病とはなにも肉体だけ看ればいい訳じゃない。
心も看てあげるのもひとつの「看病」なのでは?

と思いまして今回このようなタイトルになりました。


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ぼっち・ざ・ぼっち!

やぁ!僕ミッキーじゃないです!


 

『俺』としての感情を思い付く限り虹夏に話し、

時間はもうだいぶ遅くなっていて、日は暮れかけていた。

 

「……うん、だいぶ熱も収まってきたね!ちゃんと安静にしとくんだよ?」

 

「うん……ありがとう。」

 

「私、ちゃんと相談しないで無理したの、まだちょっと怒ってるんだからね」

 

「ご、ごめん…本当に…」

 

「…………今回のこと、他の人は知ってるの?」

 

「虹夏とひとりだけだと思う。他の人には話してないから……」

 

「ぼっちちゃんも知ってるんだ……まっ、そりゃそうか幼馴染みだもんね」

 

「虹夏、今日は本当にありがとう」

 

「ふふっ、どういたしましてっ!また前みたいにいっぱい話そ?」

 

「ぜ、善処するよ……」

 

「よろしい!善処したまえ~」

 

 

軽く雑談を交わし、虹夏は帰っていく。

 

ドアが閉まり、完全に一人になった自分の家。

 

なんの音もしない、他に誰もいない、見慣れた光景。

 

そこにただ、立ち尽くす。

 

 

 

今までは家で一人だなんて当たり前になっていたから、

この空気に、慣れていたはずなのに……

 

あんなに虹夏やひとりに支えてもらって。

リョウや喜多に慕ってもらって。

星歌さんやきくりさんに心配をしてもらって。

 

 

俺しかいないという孤独感が、俺の中のみっともなく、情けなく、女々しい感情を呼び起こす。

 

親が生きていた頃にずっと感じていた、

ひとりと離れ離れになった時にも感じていた──────

 

あの感情だ。

 

 

「寂しい…のか…」

 

そう、寂しいんだ。

 

 

俺が抱くには反吐が出るほど気持ち悪い感情だ。

そんな感情を抱く資格なんて俺にはないのは分かっているのだ。

 

普段から人を突き放してきた人間が優しくしてもらったからってこんなことを考えるのは良くないんだ。

 

でも、でも。

 

『頼って』

 

虹夏の言葉が頭の中で反復される。

 

誰かに甘えてもらうのは嬉しかった。自分の行動が誰かのためになるかもしれないから。

頼られるのも、パシられることさえ、都合が良いやつと思われることさえ。

 

俺にとっては心地良いものだった。

 

 

でもそれは、俺自身が大切に思ってる人のみに抱いていた感情だ。

だから別に見返りなんて求めていない。

 

『ありがとう』

 

この言葉でさえ俺には似合わないのだと思っている。

 

それでも虹夏は『頼って』と言った。

きっとそれは、お返しとか同情とか、そんな感情も含まれていたのだろう。

 

それほど、俺の姿は痛ましいものということの証明で。

 

 

 

「結局、俺はどうしたいんだ……………」

 

みっともなく誰かに甘えるのか?

それとも虹夏に嘘をついて平気な素振りを見せるのか?

 

そんなの、今回の二の舞になるだけだ。

 

決めることが出来ない。

今感じている寂しさが『寄り添ってほしい』という感情を表しているからだ。

それでも自分のやり方を根底から崩すのが怖くて不安になるからだ。

 

でもこれは俺の心の問題だから、いつかは答えを、結果を出さなければならない。

 

「今ここで甘えるわけには、いかないんだ。」

 

そういえば独り言なんて最近してなかったなと、

いつもならしない独り言をしている自分がなんだか笑えてくる。

 

この言葉を返す人はいないのだと。

それでも自己暗示する手段としては活用できるものなのだと。

結局手段としてしか見ていない利己的な自分が滑稽なものだとも。

 

 

いろんな感情が渦巻いているにも関わらず頭はクリアで、

答えを決めることすら出来ていないのに、心地よく感じていた。

 

 

「今日は、もう寝よう。」

 

わざとらしく独り言を放つ。

 

どうやら俺は言わずにやるよりも、なにか発言をした後に行動した方がやる気が出るみたいだ。

 

長いこと自分の特技も趣味も分からなかったからか、

自分にはこの発見は大きなものだった。

 

だから、またわざとらしく独り言をしてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、自分と向き合おう───────

 

 

 

 

 

 

 

 

───きっとそれが、寄り添うことになるのだから。」

 

 

 

 

 

 




今日は大分短めですが、
次の話では、きくり姉さんが出てきます。


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きくり・の・ひみつ

きくり姉さん!!

何か秘密を知ってるであろうきくり姉さんじゃないっすか!!!


 

あの日から少したった。

 

部屋でベッドに横になった後、そのまま寝てしまっていたようだ。

 

 

身体も随分と良くなり、いつものように朝の支度を済ませる。

 

「…………」

 

久しぶりに自分のことを他人に話した。

 

胸の辺りがざわついている。

本当に話してよかったのだろうかと。

結局のところ、心配される羽目になった訳だが、

これからあの心優しき姉妹にどう顔を合わせれば良いのか………

 

いや、ダメだ。

 

例えどんな言いづらいことだとしても話してしまったのであれば、

打ち明けて気を遣われたのなら、これ以上変に気を遣わせるわけにはいかない。

 

 

僕は大丈夫だということを、証明したい。

自分にも、皆にも。

 

今日は幸いスターリーでのバイトが無い。

その代わり違う場所での用事があるが。

 

ピンポーン

 

朝の支度をちょうど済ませた頃、インターホンが家のなかに鳴り響く。

 

(もう来たのか、早いな。)

 

何もない休日になると必ずあの人がやってくる。

 

ガチャ

 

「おっはようっ!ビッキーくん!」

 

「おはようございます、きくりさん」

 

そう、きくりさんだ。

 

「朝ごはん!」

 

「これがファストフードってやつか、注文が速すぎて混乱しそうだ」

 

「何いってんの?」

 

「なんでもないでーす」

 

きくりさんが乱雑に脱ぎ捨てた靴を並び直す。

昔からきくりさんはこういうだらしない一面をもっている。

まぁ酒を飲んでいないときは身だしなみとか、素行とか気にしてるみたいだが、周囲の関係者達でさえ、この酔っているきくりさんがデフォルトだと思うくらいには普段から酒に溺れているのだ。

 

決して悪い人ではないのだが、その性格上誰かに迷惑をかけることがある。

まぁ決して、悪い人では、ないのだが。

 

これが不良を見守る教師の気持ちかと謎の感慨に耽りながら、

リビングに招きそのままキッチンでご飯を作り始める。

 

「あ、味噌汁!ビッキーくんの味噌汁食べたい!」

 

「もとから作るつもりでしたよ、きくりさん好きですもんね、あったかい味噌汁。」

 

「え?毎日味噌汁作るって?」

 

「言ってねえよ」

 

「…ふふ……」

 

「不適な笑みを浮かべんな」

 

思わず、素のツッコミが出てしまった。

 

いや、でも自分の素を出すにはきくりさんのようなフリーダムな人の方が距離感を深く考えなくても良い分、やりやすいのかもしれない。

 

「響くん、風邪治ったー?」

 

「………知ってたんですね」

 

「うん!今知った!」

 

「………カマかけたなあんた……」

 

「もうやめんのー?」

 

「やめるって?」

 

なんのことかわからずにいたが、きくりさんが言葉を紡ぐ直前で思い付く。

これはおそらく…

 

「ヒーローになんのだよ。言ってたじゃん」

 

そう、これだ。

他の誰にも打ち明けていなかった夢をきくりさんにはじめて打ち明けた時のだ。

中学を卒業する時、誰にも言わなかった『僕の馬鹿げた夢』を微笑みながらも決して嘲笑うことなく聴いてくれた。

 

「……そうですね……」

 

この人はホントに酒が入ると容赦がなくなるな。

 

昨日今日で頭を抱えた問題に直感だけで踏み込んでくる。

まあこういう人の方が案外内気な人間にとっては必要なのかもしれない。

事実としてひとりも一度助けられてるらしいし。

 

「その夢を、諦めたわけではありません。

だけど、ヒーローぶる相手を選ぼうとは思い始めたんです。」

 

「えー?人によって顔色変えるってこと?」

 

「人聞きが悪すぎるんだよなぁ」

 

「あははー冗談冗談!それって、あたしも含まれてんの?」

 

「もちろん」

 

「………そっかー」///

 

ヒーローぶるという言葉の意味を理解してくれたようで、

きくりさんが顔を赤くする。

 

昨日の俺なら、無駄にカッコつけて寄り添った気になって結局コケることになったと思う。

昔の俺なら『普段の行いを正せ』とか言って偉そうに突き放していたんだろう。

でも確かにお酒を飲むのは程々にしてほしいとは思うし、周りに迷惑を掛けてしまうのはしっかり反省してほしい。

酒に溺れて体調が崩れてこんなに優しくて楽しい人が早死にするだなんて見てられない。

 

本人曰く、『酒がないとやってられない』らしいのだが、

未成年の俺に酒の魅力はわからないのだが、嫌なことは大体なんとかなるらしい。

 

そもそも本人でもないから感覚を知ることはできないんだが。

 

「他の人には話せた?」

 

「………はい」

 

「よかったよかったー……」

 

ガタッ

 

イスを退かす音が聞こえる。

俺の背後から足音が近づく。

 

そして、きくりさんが料理を作る俺の背中に抱きつく。

 

 

酒の匂い、というやつなのだろうか。

少しだけ甘い匂いがきくりさんからする。

だが、それ以上に人肌を感じて、意識が料理に集中出来なくなる。

 

女性に抱きつかれるのをこんな短期間に味わって良いのだろうか。

男冥利には尽きるのだろうが、ファンにバレたら殺されるなこれ。

オイオイオイ死んだわ俺。

 

「危ないですよ、料理中なんですから。」

 

「一回火止めてー?」///

 

必死に理性を絞り出した結果の常識的な言葉がきくりさんによって踏みにじられた。

 

「え、なんでですか?」

 

「むふふー……」///

 

無言の圧力。

 

「…………」カチ

 

コンロの火を止める。

 

料理に支障が生じる段階ではないから良いが、

料理の手を止めさせてまでしたいことってなんだ?

 

「こっち向いてー?」

 

「はい………?」クルッ

 

「よしよしー」ナデナデ

 

「………え?」

 

頭を、撫でられている。

きくりさんに、頭を撫でられている。

正面から抱き締められ、頭を撫でられている。

 

身長に差があるのに、きくりさんがつま先立ちをして、

背伸びしてまで、俺を、俺の頭を、撫でている。

 

「ようやっと、誰かに言えたんだねー」

 

「いままで抑えて抑えてってしてたもんね」

 

「そう……なんでしょうか」

 

「ありゃ、自覚なし?」

 

「まだ……迷ってるんです、女々しい話ではあるけれど……」

 

「ビッキーくんってちょっとめんどくさいよねー」

 

「うっ」

 

「でも私、そのめんどくささ好きだな」

 

「え?」

 

「自分がそういうめんどくさいことを考えるのは嫌なんだけどねー酒飲んで逃げてるくらいだし」

 

「自覚はあったんですね」

 

「でも、私と同じでめんどくさいこと考えて悩んでる人見ると、ちょっと安心する、将来の悩みとかを抱えてるのは私だけじゃないんだなって」

 

「………」

 

自分より下の人間を見て安心するのとは違う。

自分と似たような境遇、心境等を知って、傷を舐め合う感覚に一人で耽っているのだ。

 

でも、確かに似てる。

 

俺も、いや。

 

『僕』だった頃、心のどこかで同じように思っていたのかもしれない。

いやそれよりどす黒い醜くて気持ちの悪いエゴだったんだ。

 

無償のヒーローを演じて、目の前にいるヒロインを助ける。

 

そんな自分がどうしてもかっこいいと思っていたのかもしれない。

 

 

あぁ反吐が出る。

そんなおこがましくて、図々しくて、身の程知らずな自分に身の毛もよだつ。

 

でも、それでもそんな『僕』で寄り添うことが出来たのは事実で、

曲がっていたとしてもそんな僕を慕ってくれる友達がいてくれたのも事実で。

 

だから、その在り方を否定していいのかがわからない。

 

「わからないままで良いと思うよ」

 

少し俯いていた顔をあげきくりさんに顔を会わせる。

そこにいたのは酔っているきくりさんではなく。

 

そこには、俺の知らないきくりさんがいた。

 

「自分の考え方の否定とかなにげに一番難しいしさー、私の弟みたいなもんだしー」

 

年も離れていて、手の掛かる弟みたいな存在ってことだろうか。

それにしたって

 

「脈略が無さすぎる……」

 

「家族の在り方を否定はできないでしょー?」

 

「………はい?」

 

一瞬、時が止まった気がした。

 

きくりさんが何を言っているのかがわからない。

急に家族のことを話すこともそうだが、なんだか前振りもなく話をしている気がした。

だが、脈略がないにも関わらず、俺と無関係な話にも思えなかった。

 

家族って、誰のことを?

 

そんなの────

 

このタイミングで、この人が、この目をしながら話している時点で明白だ。

 

「……ふふ」

 

きくりさんが目を開く。

 

さっきまで瞑っていた目を。

 

「やっぱり、そうだよね……わかるわけないよねー……」

 

「え……ぁ…」

 

気にかけたことはある。

 

なんだか、似ていると。

 

いま目を開いているこの人の目は、

目付きは、目の色は。

 

 

 

 

 

 

 

 

母さんにひどく似ていると。

 

 

 

 

 

 

 

 




明るく振る舞っている人が病んでるのもよきじゃね?


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しまい・は・たにん

響くんのお母さんはヤバイ人定期。

あと多分設定捏造があります。


 

思えば、私の姉は昔から笑顔が絶えない人だった。

恵まれた家庭と、才能と、容姿。

 

どんなときも笑って、色んな人に尽くす献身的な性格。

私はそんな姉のことを尊敬していた。

 

しかし、嫉妬というのは理不尽なものなんだね。

 

小学生の頃にいじめにあって、その笑顔には段々と影が見えてきた。

 

『大丈夫?』

 

なんて言えなかった。

 

いじめられて大丈夫なわけ無いもん。

だから、姉のことを傷つけた人たちを許せなかった。

 

「私のことを愛してくれてる人がいるから!」

 

『なんて強い姉なんだろう』と。

そんなことを思ってた。

 

自分の姉は強い人なんだという些細な自慢と、

自分はそんなに強くなれないという自虐を。

同時に感じていた。

 

でも自分のことを自虐は出来ても

姉のことを自分のことのように自慢なんて出来るはずか無かった。

 

本人自身じゃないからとか、そういう理由もあるけれど。

 

 

 

とっくのとうに。

 

 

 

 

廣井響子は壊れていたのだから。

 

 

 

 

 

「母さんが、きくりさんの姉……」

 

彼は私の言葉を噛み締める。苦虫を噛み潰したかのような彼の顔を見ると、事実を受け入れきれていないのがわかる。

 

嫌がっているとかなのかな。

ただ突然に明かされたものだから混乱してるだけなのかな。

 

我ながら酷なことだと思うんだけど、もし彼がここで立ち直れなかったら、

また、偽物のヒーローを演じるだけのつまんない人間になっちゃう。

 

それは嫌だ。

彼は周りの言葉に流されるようになっている。

昔の彼は目は死んでいたけれど、心は生き生きとしていた。

 

敵と味方を見誤らない。

見定めて、見極めて、自分自自身と自分の大切なもののために生きていた。。

 

今の彼は生きたフリをしているゾンビのようで。

 

 

キミだけが幽霊のようで。

 

見ていたくなかった。目をそらしたかった。

でも、姉の負の遺産と自虐して、自覚している彼から目を離せなかった。

罪悪感なんて耳障りの素晴らしいものじゃなく。

 

私も、寄り添いたかったんだ。

 

 

酒に溺れて不幸から逃げている自分を更に慰めるためなのかもしれない。

 

それでも、自分よりも不幸になっている彼を見過ごせなかった。

彼は、何も悪くないのに。

 

だからこそ、明かした。

 

 

秘密にするほどのことでもなかったのかもしれないけれど。

あんな母の妹って知ったら嫌われるかなって。

 

でも今だけは……逃げない。

逃げたいけど、逃げない。

 

どうせなら、響くんと一緒に逃げようって思うから。

 

ワタシタチダケ、ユウレイニ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えたことがない訳じゃなかった。

 

心のどこかで理解することを拒んでいたのだろう。

 

 

どこか似ているなんて、思いたくなかったのかもしれない。

 

 

あれ?

 

なんで、思いたくなかったんだろう。

自分の好きな両親と似ているだなんて考えを拒む必要なんて───

 

 

「うっ」

 

突如として、体内に異物感がした。

吐き気だ。

 

気持ち悪い。なんだか視界と聴覚がぼんやりとする。

 

 

「ちょっ、大丈夫ー?」

 

「…はあっ…はぁっ……だいっ……じょうぶです……」

 

なんとか息を整えると、

そこはきくりさんが俺の身を案じていた。

 

あの不快感はなんだったんだろう。

 

いや、今はそんなことよりも、気になることがある。

 

「本当……なんですよね…」

 

「………そだよ」

 

あぁ、そうか。

 

嘘じゃないんだな。

 

嘘だった方が嘘をついたことを怒って終われるからまだ気が楽だったのだが。

 

 

見ていて、やはり思う。

 

目が、似ている。

 

きくりさんの目が、母さんの目と。

それが、本当に姉妹なのだと再三思い知らされる。

 

 

でもきくりさんの目は嫌いじゃないのに、

はっきりと母さんの目が嫌だと感じたのはなんでだろうか。

 

いや、そんなことは関係ない。

 

 

「それを言って、どうするつもりなんですか」

 

「どうって言われてもな~」

 

「まさか、単純に驚かそうとしてたとか言うんじゃないでしょうね」

 

「……驚かしてやろうって思ったよ」

 

「胸倉掴みますよ」

 

「でもさ、この話はいつか絶対しなきゃなって思ってたんだよねー」

 

「だからってなんでこんな時に──────」

 

「こんな時だからだよ」

 

 

 

「え………?」

 

何を……言っているんだろうか

 

これからの自分のことを見つめ直して、考え直して。

そうやって七転八倒しながらも、四苦八苦しながらも、

自分と周りに向かい合おうと思っていたところに、

 

横槍を入れるかの如く衝撃を与えてくるのが、

果たして本当に正しいことなんだろうか。

 

『こんな時だからだよ』

 

 

まさか、試しているのだろうか。

後々になって見つめ直すのではなく。

 

今、このタイミングで振り切ってしまえと。

過去を振り返ってでも振り切ってしまえと。

 

「………そうか」

 

混乱していた頭を整理して、考えを巡らせる。

 

まずは信じよう、きくりさんが母さんの妹だということを。

そして受け入れよう、その事実も。

 

そして考えよう。

いや、考える必要もないのかもしれない。

 

母さんの妹だから?

だからなんだっていうのか。

 

今まで俺がきくりさんを見てきたのは母さんの妹であることを知らなかったからか?

その事実がわかったら遠ざけるのか。

汚物から遠ざけるように。

 

思い出せ、俺の本性を。

俺はどんなやつだったのかを。

 

人を、立場だけで判断する、バカで、クズで、つまんない人間だったか?

 

俺はそんな両親を反面教師にして生きたいと思っていたんじゃないのか?

 

 

 

 

 

あぁ、そうだ。そうだった。

 

俺は大切な人だけを大切にしていきたいだけだった。

 

押し付けられた大切なものを、大事にしたい訳じゃなかった。

 

 

「あっはは、()()()()()()()()()///」

 

「……人の目が死んで喜ぶな」テシ

 

「うひゃーチョップされたぁー///」

 

「ありがとうございます、きくりさん」

 

「……………いいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、迷わない。

 

俺は、俺であり続ける。

 

知らないやつがなんと言おうと、俺は─────

 

 

俺は、大切なものにだけ、支え続ける。

 

 

 

 

それが、寄り添うってことだから。




はい。

これが主人公の本性です。

今まではいってしまえば究極的な八方美人でした。
でもこれからは彼もいわゆるヤンデレになります。

まぁ、ヤンデレといってもそれが発揮される場面は少ないですけどね。

次回からはまたぼざろのストーリーに入ります。

次回は夏休み編!!


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過去編
ひびき・の・はなし 幼稚園編


合計20話いきましたねですね!リョウルートで三話あるのでメインストーリーは16話ってところですね!
こっから響くんの過去が明らかになります!

それではどうぞ!!!

追記
章として別に置いておいた方が読みやすいとのご意見を貰いましたので
過去編という章に分けました。

別ルートとは違うのでネーミングはそのままです


 

俺の家は、三人家族だった。

 

母親、父親、実子の三人。

 

母親が腹を痛めてでも産んでくれた。

 

父親が腕を痛めてでも支えてくれた。

 

そして俺はそんな二人を愛していた。

 

ごく普通の、何処にでもある幸せな家庭だった。

 

 

 

だけど、そんなことを思っていたのは俺たちだけだった。

 

いや、もしかしたら俺だけだったのかもしれない。

 

子供の頃、両親が周りから目を背けられてたことを未だによく覚えてる。

何て言っていたかはわからない。

でも指をさしてこそこそとなにかを話してるのは、幼いながらにも理解できた。

 

幼稚園に入った頃、俺は周りと仲良くなれた。

でも、それもつかの間で。

 

いつの間にか誰も側に居なくなっていた。

 

両親を見ていたあの時の目も、

可哀想なものを見るような目もあった。

 

「守れなくて…ごめんなさい…!」

 

抱き締められて聞こえる先生が涙を落とす音と謝罪の言葉。

 

「ひびきくんとあそんじゃだめっていわれたから……ごめん……」

 

頭を下げられて聞こえる服が擦れる音と謝罪の言葉。

 

先生に会えば、時に涙を流され。

友達に会えば、時に頭を下げられ。

 

そんなときに、いつも聞こえるあの言葉。

 

 

『ごめん』

 

 

なんで?

 

どうして?

 

なにが?

 

そんな疑問符ばかりが脳ミソの中を埋めていく。

 

この時の僕はなにも分からなかった。

善悪の基準も、その天秤の掛け方も。

あの時、先生は何を守りたかったのかも。

あの時、友達は何故遊んではいけないと言われたのかも。

 

なにもかも。

 

 

家に帰って、その事を母さんに言った。

所謂、泣き言だ。

 

この時の俺は浅はかにも母親は味方をしてくれると思っていた。

何でも慰めてもらえると思っていた。

今になって思う。

悪いことをしているなら怒られて当然なのだ。

そんな当たり前なことをその時の俺は分からなかった。

 

「響?貴方が悪いわ。」

 

「え……?」

 

「いい?涙を流させたのは貴方なのよ?貴方を見て先生は泣いたんだから。友達のこともそうよ、謝るようなことがないんだから、謝らせちゃダメじゃない。」

 

 

でも一つだけ分かったことがある。

 

全て、俺自身に問題があるんだ。

先生が泣いたのも、友達が謝ったのも。

全部、なにもかも。

 

涙を拭えばよかったのではなく。

涙を流すようなことがなければよかったんだ。

 

謝罪を許すのではなく。

謝るようなことがなければよかったんだ。

 

その日は、あまり寝付けることが出来なかったと思う。

 

 

 

 

また別の日その日は幼稚園は休みで、母さんは出掛けると言って外に出ていた。

 

「響、おはよう」

 

外から車の音が鳴り、家のドアが開く

まるで母さんとすれ違うように父さんが家に帰ってきたのだ。

 

「あ!おとうさん!」ダキッ

 

「お~、元気にしてた?」

 

父さんはいつもそう言って身体のあちこちを見て確認する。

 

「うん!元気だよ!」

 

「そっかー元気してたかー!いやぁ~よかった!」ナデナデ

 

そうだ、父さんはよく俺の頭を撫でてくれた。

優しく抱き締めて包み込んで、安心させるかのように。

 

「響、僕は君の味方だからな。何かあったら父さんに何でも言うんだぞ?」

 

「うん!!おとうさん大好き!」ギュ

 

「おーよしよしよし!」ワシャワシャ

 

俺は父さんのことが大好きだった。

抱き締めてくれる、遊んでくれる。

話しもいっぱい聞いてくれる。

 

甘えていたんだ。

 

父さんに。

それに気付くのが、俺は遅かった。

 

 

 

 

 

幼稚園に居るとき、ある少女と出会った。

俺の幼稚園時代の中て一番印象的で。

掛け替えの無い思い出。

 

周りに溶け込めず、ただ周りを見ながら動けずにいる女の子。

その姿は寂しそうで、悲しそうで。

 

だからすかさず、話しかけた。

 

「きみ!ぼくといっしょにやらない?」

 

「…!」パァァ

 

「ぼく、たかなし ひびき!よろしくね!」

 

「ご、ごとう ひとり!です……」

 

それが後藤ひとりとの出会いだった。

 

そしてしばらくして俺とひとりは同じ小学校へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目の前で泣いている人がいたら、抱きしめられるような奴とか、悪いことをしっかり間違ってるって言える奴が一番カッコいいんだ。でもね、響」

 

「わがままで人を叩いたり殴ったりするような奴は一番カッコ悪いんだ、だから、そんな奴にはなるなよ、父さんはずーっと君の味方だからな。」

 

 

 

「わかった!おとうさん!」

 

 

 

 




ヤンデレって何に対してヤンデるのか分からないのがこの作品の怖いところ(自分で言うな)

あっ、安心してくださいヒロインは全員、響くんにヤンデいきますから。


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ひびき・の・はなし 小学校編

闇は深くなっていくばかり。

勢いのままに書いてるので文章変かもしれません。


 

小学生になった。

 

春風が頬を撫でる時期になった頃、俺は特にこれといった学校の行事に参加することもなく、一人で過ごす時間が増えていった。

 

周りからの視線に嫌気がさして、その場から逃げたかったんだと思う。

嫌気を感じ始めたのも、少しずつ自分の考えを持ち始めた頃だった。

どうやら俺は、他の家庭とは違うらしい。

 

授業参観の時にそれがよく分かった。

 

みんなが母親、または父親が見に来てくれている中、俺は両親共々来ることはなかった。

 

それが普通だと思っていたから、休み時間中、気になって廊下でひとりに聞いてみた。

 

「ねぇ、ひとり。なんであんなに大人が並んでるの?」

 

「え?ひーくん、じ、じゅぎょうさんかんだよ?お、おかあさんとか、おとうさんとかがわたしたちをみ、見てくれるんだ」

 

「へぇ~」

 

(おれ、知らない……じゃあ、なんでお父さんもお母さんも来てくれないんだろう)

 

なにも知らない俺はそんなことを心の中で呟く。

 

でも俺が一人でいるのを見かねてひとりはおどおどしながらも話しかけてくれていた。

 

「き、今日、帰ったらあそぼ?」ギュッ

 

服の袖を軽く引っ張って、ひとりは俺に微笑む。

 

ひとりは、優しい。

 

自分が孤独でいることの苦しみや寂しさを、まるで全て知り尽くしているかのように、彼女の言葉は孤独だった俺のことを救ってくれていた。

 

俺の小学校生活はひとりと一緒にいるだけで満足だった。

 

運動会も、学芸会も、遠足も、なにもかも。

親は来てくれなかった。

 

それでも、ひとりがいたから。

 

例えどれだけ孤独でも、ひとりがいたから、寂しさを感じることも少なかった。

 

 

でもそれをよしとしていない人もいた。

 

母だ。

 

 

 

 

小学6年が終わりに向かう頃。

 

「響、後藤さんとは違う中学に進学しなさい。」

 

「は?」

 

「私後藤さん達嫌いなのよね。それに

あんなネガティブなことを言ってる子と遊んじゃダメよ?

響まで暗くなってしまうわ。」

 

「で、でもお母さん────」

 

「なに?口答えするの?」

 

「ぇ………」

 

「私が仲良くしなさいって言った子にだけすればいいの!」

 

「そんなの変だろ!俺はひとりと遊びたいよ!!」

 

「はぁ?ねぇなんで?私が嫌いだって言ってるのよ?貴方も嫌いなさい!」

 

「嫌だ!!嫌いになんてならない!!」

 

「あぁぁもぉぉ!!なんで貴方はそんなにあの人と違うのよっ!!私は貴方に優しい子になってほしいって言ってるだけじゃないっ!!」バシン!!

 

「いった!うぅぅ」ポロポロ

 

「なんで!!貴方が!!泣くのよっ!!!」バシン!!

 

「うぁ!」

 

「泣きたいのは!!こっちなの!!私が悪いみたいじゃない!!」バシン!!

 

「ごぁ!ぅあ!……ごめんなさい!」ポロポロ

 

「泣き止め!!泣き止めっ!!泣き止めって言ってるのよ!!!」ポロポロ

 

「うぐっ!うっ!ぐぇ!」

 

涙を流しながら母さんは俺の頬をはたき、顔を殴り、腹を蹴り。

 

そして最後には。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ…響、痛かったでしょ?私ねぇ、子どもの頃にすごい乱暴されたことあるの。」

 

いつも何度も聞いた不幸を話す。

 

「悲しんでも誰も助けてくれやしないの。

でも悲しんでる人を放っておいたらクズ呼ばわり。

自分の楽しさは誰かに押し付けちゃいけないのに、

周りの楽しみには共感しなくちゃいけない。」

 

「…………」

 

ずっと、俺の見たことのない話だというのに、それが残酷な話だということはしみじみ感じる。

 

だからこそなんだろう、黙って話を聞くことしか出来なかった。

 

「………」

 

「後藤ちゃん、だっけ?今日は特別よ?その子の家に遊びに行きなさい。ご近所さんだもの、その足でも歩けるでしょ?」

 

「う、うん…ありがとうお母さん…!」

 

「わかってくれるって信じてたわ、やっぱりあの人の子ね。

 

あの人と同じ名前にしてよかったわ。」

 

ひとりと遊ぶことが出来る。

そのことの嬉しさのあまり、笑顔になる。

 

どれだけ悪いことをしても、最後には笑って許してくれる。

 

優しいお母さんだ。

母さんが泣くのは、昔のトラウマがそうさせている。

そのトラウマを刺激するようなことを無神経にやってしまったのだから。殴られるだけでは足りない筈なんだ。

 

でも、殴るだけで許してくれる。

優しいお母さんだ。

 

きっと、これからひとりとは遊べなくなるんだろうなと、

子供の僕は考えた。

 

(ごめん……ひとり…)

 

それでも俺は、ひとりのことを嫌いになんてなれやしなかった。

すこしばかりの反抗だけど、嫌いになることなんて出来ないと思ったんだ。

 

「行ってきます!」

 

「はーい」

 

その日を最期に俺はひとりと関わることはなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は中学生になった。

 

 

 

 

 

 

 




マッマやべぇ

追記
授業参観の部分、ひとりちゃんと響くん一個違いなのになんで同じ教室にいるんだよぉ!みたいな矛盾を自分で抱えてもうたぁ!

ので少し編集も加えました。

休み時間中にこの会話を廊下で話してて、
ひとりちゃんは何故か響くんの学年に響くんの両親が来ていないことを知っているって感じです。

ひとりちゃんもやべぇ


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ひびき・の・はなし 中学校編 前

久しぶりにあの人ご登場!!

そしていつも通り勢いで書いてるので読みづらいかもしれません。


 

中学に上がった。

 

小学生の頃よりも考え方や人格が確立してくる時期。

それは俺自身も例に漏れず、人より物静かな性格になっていた。

 

 

まず、独り言をしなくなった。

心の中で思うことは心の中だけで呟くようになった。

 

次に、友達は狭く、深く持つようになった。

中学では親指と人差し指を曲げるだけしか居ないが、

俺にとってはそれが最善だと母さんは言ってくれていた。

 

ならそれがいいんだろう。

 

そして、人助けを積極的に行い始めた。

道に迷ってる人がいれば道案内をして、

迷子は親のところまでつれていき、

友人や先生の頼みはなんでも聞くようになった。

 

そんな中で特に仲良くしてくれていたのが───

 

「いやぁ、やっぱり男手は便りになるねぇ!」

 

「またなんかあったら言ってくれ、手伝う」

 

「ホント!?」

 

伊地知 虹夏だった。

 

「でも、なにもお返しできてないしなぁ」

 

「なにもいらないよ、俺がやりたいからやってるだけだし」

 

「え?そ、そう?」

 

「勿論、だから何かあったら言ってくれよ」

 

「うん!頼りにしてるよー!」

 

快活な性格をしていて、それでいて陽気過ぎない俺の同級生。

 

虹夏とは入学初日に知り合ってから、よく会話をしている。

周りの男子から羨望の眼で焼き付けられそうにもなるのだが、

そこに悪感情を感じることはあまりない。

 

理由は自分では分からないが。

そもそも羨ましいと思われるのも心外なのだが。

 

そう思うなら自分で話しかければ良いのに。

 

 

 

 

 

 

時は少し経ち、ある日の学校の帰り道。

 

「うぅ~~」クラクラ

 

(ん?なんだあれ)

 

そこには、おぼつかない足取りで前方を歩く長髪の女性がいた。

 

(大丈夫じゃ……なさそうだな)

 

「うに」クラッ

 

「危ないっ!大丈夫ですか!?」ガシッ

 

倒れそうになっていた身体の肩を抱え、呼び掛ける。

膝をつきながらお姫様抱っこしてるかのような体勢だが、そんなことを気にしている余裕などお互いになかったと思う。

 

「うっ、うぅぅ……」

 

(目茶苦茶顔色が悪い……)

 

右手には父さんもたまに飲むと言っていた「おにころ」を片手に

今にも死にそうなくらいの顔色をした女性。

 

「し、少年よ………」

 

(なんやねんその呼び方)

 

「は、はい」

 

「なんか、酔いが覚める奴買ってきて……なんでも良いから………」

 

「わかりま─────」

 

「あ、やっぱ水にして……」

 

(一瞬でなんでも良くなくなった)

 

「あと酔い止めも、あと身体に良い物も食べたい、なんでも良いよ、お粥とかでお願いしますぅ……」

 

(なんでも良い割には指名制なんだ)

 

「わかりました、直ぐに買ってきます、このベンチで横になっててください」ダッ

 

「うぅん………」

 

これが僕と先輩、

廣井きくりとの出会いだった。

 

 

 

 

「いやー助かったよ少年!ありがとー」

 

「まぁ無事になったら良かったで────」

 

「ぐびぐび」

 

「ちょっと待て」

 

「ほぇ、どしたの?あ!まさかひとめぼれー?介抱したからって彼氏面ぁ?」

 

「ちげえよ、なんでまたおにころ飲んでるんですか」

 

「え?だってお酒飲んでるときが一番幸せじゃん?嫌なこと全部忘れられるし常に飲んでるよ!」

 

「それに同意していい未成年はいない」

 

「これを私は幸せスパイラルと呼んでいる!」

 

「二つの意味で聞いてない」

 

なんというか変わった人に出会ったな。

というより色々倫理が破綻してる気がするが。

まぁいいだろう、どうせこれから関わることなど無いだろうし適当に受け流して帰るか。

 

 

 

「いやぁこんな優しい人がいるなんて────」

 

「それじゃ俺は帰るんで」

 

「ちょぉ!?」

 

急に腰にしがみついてくる女性。

 

「何ですか!?話してくださいよ!」

 

「これも何かの縁だしさ!ほら!ね!自己紹介でもして仲良くしよ!ね!先っちょ!先っちょだけだから!」

 

「先っちょの意味がわかりません!!!」

 

「なに先っちょとか言ってんの?変態?」

 

「あんたが先に言ったんだろうが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は廣井きくり!バンドやってまーす!」

 

「小鳥遊 響です。中学生です」

 

「おー、よろしくびっきーくん!」

 

(早速あだ名を付けられた)

 

「…ん…?…たかなし……ひびき…?」

 

俺の名前を聞いて少しずつさっきまで酒の影響か赤らめていた頬がみるみる白く戻っていく。

酔い覚める的って意外と早く顔色変わるんだな。

 

「それじゃ」

 

「待って!!?すぐ帰ろうとしないでよー!」

 

「だってめんどくさいし」

 

そう、俺は小学生の頃に学んだことがある。

それは優しくするべきタイミングと、厳しくするべきタイミングはちゃんと分けるべきだということ。

 

そして狭く深く友人関係をもつのなら、それ以外のことは無頓着でいいし、無関心で構わない。

 

自分にとって大切なものにだけ目を向けていれば良いんだ。

この女性、廣井きくりはその中の一人ではない。

だから助けるだけして、関わりは持たないようにしようとしていたのだ。

 

「お話……しようよ……?」

 

「…っ………」

 

(その目はズルいだろ)

 

と直感的に感じてしまった。

懐かしい目だった、だってそれは

 

ひとりと同じ、孤独に怯える目をしてたから。

この人も、もしかしたら孤独に苛まれることが多い人なのかも知れない。

それに俺とは違い大人だ、義務教育の真っ只中の人間よりも悩みが多いのはお母さんやたまに家に帰ってくる父さんを見てれば容易に想像できてしまう。

 

 

「わかりましたよ」

 

「…えへへ…優しいねびっきー……」

 

「……そうですかね」

 

「うん、優しい。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」ゾクッ

 

背筋が凍るような感覚がした。

 

これは恐怖とも言えないなぞの感覚に襲われる。

きくりさんの開かれた目には非難の感情も無ければ怒りも感じられない。

じゃあなんでこんなに鳥肌が立つのか。

 

そう、これは……図星だ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()思ってしまう自分がいる。

 

「なんか見たことあんだよねー、びっきーのその目」

 

「そ、そうなんですか」

 

「ねぇ、びっきー。お母さんの名前ってさ。きょうこって名前じゃない?響く子って書いてきょうこ」

 

「えっ……なんでそれを」

 

きょうこ。

母さんの名前は小鳥遊 響子。

 

合ってる。偶然なのだろうかとも考えるが、『僕の目を見たことある』と言っていたが。

 

それは雰囲気が似ている人がいたのだろうか。

 

 

「まだあの人、『人に優しくしろっ!』って言ってる感じ?

良いんだよ?びっきー、私には無理に優しくしなくても。

自然体でいこうよー」

 

「な、なにを言って」

 

「ほーれお姉さんが頭を撫でてやろう」ナデナデ

 

「恥ずかしいですよ…」

 

「えーなにー可愛いとこあんじゃん!」

 

ポタッ

 

「え?びっきー……?」

 

「……え?」ポロポロ

 

「どうしたー?なんか辛い?…ほら」ギュウッ

 

「あっ……」

 

気付けば俺はきくりさんに抱き締められていた。

 

まるで子供をあやすように。

家族を励ますように。

 

 

 

 

「俺、母さんにこんなことされたことありませんでしたから。多分………嬉しかったんだと思います」

 

「……そっかー…」ギュッ

 

少しばかり、抱き締めている腕の力が強くなった気がした。

 

「ごめんなさい、心配かけてしまって。人に心配されちゃダメなのに俺が助けるつもりが逆に救われてしまいました。」

 

「ん?違うよ?助けられたから、これはお礼だよ」

 

「それでいいんてすか」

 

「普通そんなもんだよ」

 

「そうなんですか……」

 

他の人の普通を俺は知らない。

だから、自分の普通しか語れない。

常識とか道徳とか倫理とか、それらの言葉も結局、俺の価値観でしかないし、千差万別だと思う。

 

人に寄り添うのであれば、自分とは違う普通も受け入れてみても良いんじゃないだろうか。

 

「ありがとうございます、泣き止みましたから…」

 

「もうちょい抱き締めてたい」

 

「え、あっはい」

 

「……………やっと会えた」ボソッ

 

「え?」

 

「はい!もう大丈夫だよ!!ありがとー!」

 

「い、いえ、こちらこそ?」

 

 

『やっと会えた』の意味は分からないが本人が満足そうにしているし、気にしなくても良いと思い、そこには触れなかった。

 

「ねぇ、びっきーくん」

 

「もうその呼び方で定着してるのか……なんですか…」

 

「高校に上がったら一人暮らしするといいよー!」

 

「え?なんでですか、なんか良いことあるんですか」

 

「私が、困ったとき便利になる」

 

「二日酔いになっちまえ」

 

 

 

 

 

その後は慰めてくれたお礼を言って家に帰っていった。

 

(そういえば、なんで母さんの名前を知ってるのか聞きそびれたな)

 

後ろを振り返ってみても、姿は見えなかった。

 

 

 

 

その日の夜、何故かロインにきくりさんが登録されていた。

 

 

削除した。

 

 




はい!なにか秘密を抱えている世界線のきくりねえさん!

過去の響と現在の響では性格が全然違いますね。
でもちょくちょく一人称が「僕」から「俺」になってるところがあります。

どっちが好みとかあったら感想ほしいです!


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ひびき・の・はなし 中学校編 後

そろそろ今へと繋がっていく。

いつも通りの駄文。


 

廣井きくりという女性の出会い。

 

それは幸か不幸かは分からないが、俺の価値観を大きく見直す要因になったのは間違いなかった。

 

(無理して優しくしなくていい…か…)

 

きくりさんに抱き締められ、頭も撫でられ。

少し恥ずかしい気持ちはあったが、羞恥心よりも安心感というか。

人の温もりに包まれる多幸感が勝っていた。

 

(暖かったな。人に抱き締められるって、あんな感じなんだな)

 

初めての感触だった。

 

そういえば小学生の頃に、俺は一度も母さんに抱き締められることなんて無かったな。

 

父さんは『親は子供を抱き締めるものだ』って言って会うたびに強く抱き締めてくれていたけど。

 

(じゃあ、母さんは───)

 

その後に続く言葉を心の中でも遮る。

 

その後の言葉は、なんだか言ってはいけない気がして。

少しずつ仄暗くなる気持ちを抑え、圧し殺しながら

 

家に帰ってきた。

 

(そうだよ、母さんは家族だ)

 

なにも心配することはないんだ。

不安がることもないんだよ。

だって母さんは家族だ。

俺のことも、父さんのことも愛してくれている。

 

事実、例え周りから嫌な顔をされても、俺を育ててくれてるじゃないか。

それを疑うだなんて愚かなんだ。

 

「ただいまー」

 

「あっ、響!おかえり!」ダキッ

 

「わっ、父さん!仕事はどうしたんだよ?」

 

「今日は仕事が早く片付いてね、帰りも早くなったんだ」

 

「そうなんだ、良かったね」

 

抱き締めている途中で突如、父さんが顔面蒼白といったような顔で俺の首筋を見る。

 

「っ!!なぁ響、最近、誰かに何かされたか?」

 

「え?なんで?」

 

「いやだって………首が」

 

父さん俺の首にある絞められた跡を優しくさする。

 

「あー、なんだそんなことか」

 

あー、なんだそんなことか

 

「友達は母さんが選ぶって言ってくれたんだ」

 

「……は…?」

 

何を言っているのか分からないと言わんばかりの表情をする父さん。

 

「だから、自分で選んじゃいけないって怒られたんだ」

 

「っ……そん…なの…」

 

「父さん?あんまり母さんを怒らないでね」

 

「!?」

 

父さんが何故母さんに怒っているのかは分からないが、

それでもこんな不出来な息子を持って苦労している母さんはなにも悪くない。

そんな母さんが誰かに怒られることなんてあっちゃいけない。

 

苦しみながらも頑張ってる人に石を投げていいことなんてあってはならないんだ。

 

俺が母さんを苦しめる悩みの種だとしても、せめて母さんの負担にならないように生きていたい。

 

いつか小鳥遊 響という足枷から解放されるように。

 

足枷という言葉を思い付いたその瞬間。

きくりさんが言ってたことを思い出す。

 

(一人暮らし……)

 

「響?」

 

心配そうに俺を見つめる父さん。

父さんはよく俺のことを心配してくれる。

 

少々過保護な所もあるのだが、そこも含めて俺は父さんのことが好きだ。

俺も大人になって、恋人が出来て子供もできたら。

父さんのような『強さ』を持って家族を守りたいと思える。

まあ俺にそんな人は現れないと思うけど。

 

「父さん、少し相談があるんだ」

 

「ん?なんだ?なんでも話してごらん?」

 

「うん、実はね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食時

 

「あなたと食べられて嬉しいわ」

 

「僕も嬉しいよ、響子、響。」

 

「うん、俺も家族三人で食卓を囲めて嬉し───」

 

「ほらあなた、あーん」

 

「え、あ、あーん」

 

「………」

 

「どう?美味しい?」

 

「あ、あぁ美味いよ。」

 

「良かったわ」ニコ

 

「ごちそうさまでした」

 

「もう……食べたのか?一杯食べるようになったね、響」

 

「母さんが美味しいご飯を作ってくれるお陰だよ」

 

「はいあなた、あーん」

 

「……あーん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後

 

「なぁ、響子」

 

「なぁに、あなた?」

 

「さっきのは、酷いんじゃないのか」

 

「え?なんの話しかしら?」

 

「だから、まるで響のことを居ない奴みたいに扱って」

 

「貴方はここにいるじゃない」

 

「僕のことじゃない!」

 

「っ!な、なによ……」

 

「響の首を見て気付いたよ、あの首にあった跡、あの縄で絞められたような跡っ!!あれは!」

 

「私がやったのよ、段々と貴方みたいになっていくわね」

 

「なっ!?やっぱりっ……君がやったのか!!」

 

「えぇ、少しでも貴方に近づいてほしくて。貴方になってほしくて。なんであの子に『響』って名前にしたと思う?『貴方』にしたいからよ。」

 

「ふざけるなっ!!!あのときの僕だって自分の人生に嫌気がさして首を括って死のうとしたんだ!苦しかったんだ毎日毎日毎日毎日クズ呼ばわりされて!!しかも親にだっ!!」

 

「そう、だから私が寄り添ったの!」

 

「そうだっ!なのに君はあの子に!あの時の僕と同じような境遇にしようとしてる!!心が痛まないのか!?なんとも思わないのか!!」

 

「はぁ?ねぇ、なんでさっきからあの子の事ばかり見るの!?貴方の妻は私よ!!別にいいじゃない!私のことを褒めてよ!!!」

 

「ひ、酷い、酷すぎる!褒められるか!幾らなんでもそれはあんまりだ!

最悪だ!最低だっ!惨すぎるだろそんなこと!」

 

「なによ!!貴方は私の夫でしょ!?私を見てよ!!ずっと私を見てよ!常に私の事考えてよ!」

 

「見てたよ!考えてたよ!そのために家に滅多に帰れないくらい仕事もしたよ!!でもその結果がこれじゃあ意味がないだろ!!君だけお洒落な服を着て!!君だけ豪勢なご飯を食べて!君だけ趣味に没頭して!!じゃああの子は!響は一体なにが出来てるんだ!!君が全部奪っているんじゃないか!!」

 

「またあの子あの子あの子あの子あの子って!ふざけな────」

 

「二人ともやめてくれっ!!!!」

 

 

「「っ!?」」

 

「ひび…き…」

 

「父さん、怒らないでって言ったじゃないか」

 

「それは…ごめん…でも…こんなの…って…ないよ」

 

「母さんも、今まで迷惑掛けてごめん」

 

「え……?」

 

「俺、高校から一人で暮らしたいんだ」

 

「響………」

 

「父さんにはもう話してあるけど、これが最後の我が儘だから」

 

「は?なに言ってんのよ、ダメに決まってるじゃない」

 

「そっか……わか───」

 

「っ!もし君がダメだというなら、僕は君のことを嫌いになるし、君と離婚する」

 

「「え?」」

 

「そもそも響が我が儘やお願い事を言うなんて今まで少なかったはずだ。君がその機会を全て壊したからね」

 

「ちょっ──」

 

「父…さん…」

 

「僕はこの子のことを救いたい、今まで仕事やなんやらって言い訳をつけて響のことを守れなかった償いとして。

そしてそれ以前に、父親として!」

 

「ひ、一人暮らしなんて!子供が一人で暮らすなんて無茶よ!

いろんな事で追い詰められるわ!友達と遊ぶ時間も無い!

バイトは掛け持ちしないと生活費も払えない!

青春から程遠い生活になるわ!」

 

「俺はもう働く先をもう決めてるから大丈夫、それに俺にそういうのはいらないから」

 

「っ!」

 

「……響の生活が豊かになるよう、僕は協力する。」

 

「ダメ…よ……あなた…」

 

「母さん……」

 

母さんの言葉を横目に俺を抱き締める父さん。

 

ギュッ

 

「父さん?」

 

「全部僕の自己満足だよ、僕の我が儘。」

 

「……わかったわ…響を一人暮らしさせるから、嫌いにならないでっ!

私の事見捨てないでっ!」ポロポロ

 

 

 

はじめて鮮明に感じる、父さんの温もり。

体はどことなく冷たくて、それでも暖かく包み込んでくれるような安心感があって

そうか、俺はただ。

抱き締められたかっただけなんだな。

 

「ありがとう、お金とかは自分で何とかしてみせるから。

だから、父さんも離婚するなんて言わないで」

 

「ホント!?」

 

「ああ…響……本当にいいんだね…?」

 

「いいんだ、父さん。言ってはいないけれど我が儘を聞いてもらったから」

 

「我が儘?」

 

「うん、秘密だけどね」

 

この日から、父さんは俺のことをいっぱい抱き締めるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響、あぁ、僕の可愛い響」

 

「ごめんね、本当にごめんね」

 

「辛かったよね、母さんに酷いこと言われたし、されたよね」

 

「気付けなくてごめんね、しょうがないじゃ済まされないよね」

 

「でも大丈夫だ、大丈夫だよ響」

 

「これからは僕が何がなんでも守るから、何をしてでも守るから」

 

「絶対に、必ず」

 

「ずっと───────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソバニイルカラネ………」ニコ

 

 

 




パッパ!?お前も堕ちるん!?


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山田 リョウ編
偽りのラブコール


今回からタイトルの形式が変わります!

理由は後程!


P.S お気に入りの数が半端無さすぎて大迫です。
本当にありがとうございます。


 

中学の頃、ある人と出会った。

 

無愛想な表情をしていて、友達と話す所も見たことがない。

常に独りでいて、それでいて─────

 

 

 

────いつも、幸せそうだった。

 

 

 

 

 

私、山田リョウが、小鳥遊 響という人間と関わるようになったのは虹夏が私に紹介してくれたことがきっかけだった。

 

この時から私は、もしかしたら小鳥遊 響という人間に興味を抱いていたのかもしれない。

 

その興味を自覚したのは、私の好きなバンドを彼が聞いていた所からだった。

 

「ねぇ、そのバンド好きなの?」

 

「ん?まぁそうだな」

 

振り替えることもなく無愛想に答える。

最初は「なんだコイツ」くらいにしか思っていなかった。

でも今思えば、響も同じことを思っていたのかもしれない。

 

「俺さ、このバンドの青臭いけど真っ直ぐな歌詞が好きなんだ。」

 

「 わ か る 」

 

わ か る

 

「マジで?」

 

「うんうん」

 

さっきまでの「なんだコイツ」って思ってたのが一気に覆された。

心の底からの言葉だった。

心の底から共感できた。私もバンドを組むとしたら()()()()を作りたいと思っていたから。

 

これが私と響の出会い。

 

他愛の無さすぎる、ごくごく普通の会話だけど。

 

それから、私と響と虹夏の三人で会うことが多くなった。

 

色んな話もしたし、いろんな所にも行った。

 

小鳥遊 響と虹夏が私にとっての居場所だった。

 

 

 

 

 

「いや~響くん歌上手いねー!」

 

「そうか?そう言われると嬉しいけど」

 

「思いきり無表情だよ」

 

三人でカラオケに来て、響が歌う。

 

ジャンルはボーカロイドというもので電子的なボーカルに多種多様なジャンルの曲を歌わせることで独特な雰囲気を醸し出す個性のあるカテゴリーだ。

 

(響、こんなのも聞くんだ。なんか意外)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ほんの少し意表を突かれたような感覚に陥る。

 

響はいつも無表情だ、例え本心で語っていたとしても顔にでないから響の気持ちを理解するのは難しかった。

 

「俺、あんまり顔にでないタイプだから」

 

「確かに!なんだかリョウと響くんって似てるね!」

 

「そうなの?」

 

私は虹夏にそう言われるまで分からなかった。

 

顔が表にでにくいとは言え、さすがに響ほどじゃない。

それでもえもいわれぬ高揚した何かを感じずにはいられなかった。

 

響と、似ている。

 

響と、同じ。

 

響と、一緒。

 

自分の中で虹夏の言葉を咀嚼する。

そして頭に浮かんだその言葉に、思わず顔が赤くなった。

 

でもそれを誤魔化す。

 

「じゃあ響も変人だね、よろしく同志よ」

 

「心の底から嬉しくないし……」

 

「じゃあ男の子が言われたらキュンとする言葉でも投げ掛けてやろう、そして同志になれ。ほれあいらびゅー」

 

「テキトーに言われたら嬉しくないぞ。ならこっちもテキトーに言ってやる。あいうぉんちゅー」

 

「ふふ、変わってるね響」

 

「ふっ、良く言われる」

 

「二人で変な世界作らないでー!私だけ一人にしないでー!」

 

これが私と響のいつものやり取り。

 

私が偽りのラブコールを投げ掛けて、響がそれに答える。

そして虹夏がツッコミを入れる。

本当に他愛の無い、それでいて気楽で。

私はこんな空気が好きだった。

 

ずっとこの気楽な関係が続くんだと夢見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん虹夏、リョウ。僕、バイトを辞めるよ。」

 

まるで当たり前のように笑顔を浮かべる響を見て

 

心にヒビが入るような感覚がした。

 

「なんで、今なの」

 

 

響は私と似ていると思っていた。

家族から愛されているのにその家族の愛に反発してると勝手に思い込んでいたんだ。

 

人と違う感性を持ってるもの同士、私の気持ちを尊重してくれると思っていた。

 

だから。

 

 

なんで、今なの。

 

なんで、今、本性を見せたの?

 

なんで、今、無愛想じゃないの?

 

なんで、今、笑ってるの?

 

 

 

なんで?

 

なんで?

 

なんで?

 

「リョウ」

 

「……なに」

 

「…ごめんね」

 

「っ……」

 

笑顔で答える響。

 

息を呑んで心配そうに見つめる虹夏。

 

「いつか、ご飯奢って。それで許すから」

 

「リョウ……」

 

「…………分かった、ありがとう」

 

嘘だ、許せない。

理由もなく離れてくなんて受け入れられない。

それでも、誤魔化してしまったんだ

 

「虹夏もごめん、急にこんな話。驚いたよね。」

 

「…そりゃあっ…そうだけどさ……なにか事情があるんでしょ?

だったら、強く言えないよ……」

 

「…………」

 

「その事情って、言えないかな……?」

 

「…………ごめん、あんまり人に話したくない」

 

「……そっ…か…」

 

その言葉を聴いて、響を見る。

その時の響はなんだか壊れてて。

目も当てられない程にまで歪んでた。

 

『なにか、あった』と、そう思わせるには充分なくらいに。

 

 

なんで、話したくないの。

 

なんで、言ってくれないの。

 

なんで、あなたが謝るの。

 

 

 

色んな『なんで』が頭を過る。

 

思考は早いのに、心の中がぐちゃぐちゃになっていく。

分からない。

 

今はもう、響が分からない。

 

そういえば、響っていつもなに食べてたっけ。

 

なにが好きだっけ。なにが嫌いだっけ。

 

何にも知らない。

 

 

響、ひびき、ヒビキ………

 

もう、響は私と同じじゃない。

 

そんなの許せない。

私が知らない響がいるなんて嫌だ。

 

 

 

 

これまでの響も。これからの響も。

全部知りたい。知り尽くしたい。

 

好き嫌いも。得意不得意も。些細な癖も。

毎日の習慣も。家族構成も。

仲が良いのか悪いのかも。

学校での成績も。人間関係も。血液型も。

過去にどんな経験をしたのかも。

これからどんなことしたいのかも。

どんな思いで育ってきて。

どんな想いを募らせてるのかも。

どんな環境で過ごしてきたのかも。

どんな環境にしたいのかも。

『あの時は辛かった』みたいなトラウマも。

『あの時は楽しかった』みたいな自慢話も。

 

 

全部、とにかく全部。

 

 

 

 

 

 

 

ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ─────

 

 

 

 

─────独り占めしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、響は私たちの前から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、偽りのラブコールなんてしない。

 

待ってて、響。

 

絶対、私ノモノニスルカラ。

 

 




今回はリョウ目線での話ですが、楽しめたら嬉しいです。
めっちゃヤンヤンしてますが、これを無表情で想い描いてるとしたらどうでしょう?

た ま ん ね ぇ よ な ぁ 。

ということでサブタイトルが変わった説明を。

まず、この作品は響くんと、ヒロイン達の視点がコロコロ変わります。その事もあって、ヒロイン視点がメインの場合はそれぞれのキャラクターにあわせて命名ルール的なものを決めているって感じです。

はい以上っ!説明ムズいからおわりっ!

次回も、よろしくおなしゃす!



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私だけのアンコール

だんだんとリョウが歪んでいく。
それでも、主人公は想いに答える。
なぜなら主人公も歪んでいるから。

そこから得られる栄養素があるんだ。ガンにも効く


 

あ さ 。

 

今日はバイトがないので昨日から夜更かししてゲームをしていたが、どうやら寝落ちしてしまったらしい。

しかしテレビを見て確認するとゲームがセーブされていて、僕が寝落ちしたとは思えないくらいにソフトが綺麗に纏められていた。

 

(……あれ?僕セーブし忘れてた気がするんだけどな…ひとりが整えてくれたのかな)

 

ピロン

 

そんな疑問を遮るかのようにスマホが鳴る、画面には『リョウ』の名前が写されている。ロインだ。

 

 

『今日暇?ご飯食べさせて』

 

『いいよ』

 

『今から行くね』

 

 

『待ってるね』と送り、スマホを机の上に置いた瞬間───

 

 

ピンポーン

 

(誰だろう?こんな時間に)

 

普段こんな昼近くに人が来ることはリョウや喜多以外に来ることは無いのだが、急用で虹夏や一人が来たのだろうか。

リョウのご飯を支度するためにも手短に済ませないとな。

 

ガチャ

 

「はーい?」

 

「ご飯」

 

「………」

 

ガチャ

 

「幻覚かなぁ」

 

え?

 

なんでここにリョウが?

逃げたのかっ、まさか……自力で脱出を!?

 

おっと、また僕の中のアニメオタクが出てしまったようだ。

それにしても本当に何故なのか。

 

ガチャ

 

「なんで閉めるの」

 

「あ、ごめん」

 

「ご飯食べさせて、お邪魔します」

 

「あ、うん、わかった」

 

僕の頭の整理がつかないのを無視して、リョウは玄関の靴を並べ直し、直ぐ様リビングに向かう。

 

出来れば僕の混乱している頭のなかも整理して貰いたい物だ。

 

「響のご飯楽しみだったから、速く来た」

 

………まぁ、いいか。

お腹を空いたまま来たのか、お腹をさすりながら机に座る

 

「なに食べたい?」

 

「なんでもいい」

 

「そういうのが一番悩むんだけど……」

 

「頑張って」

 

「はは…はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ美味いね、響のご飯」

 

「そう?ありがとう」

 

「……今日何してた?」

 

「ん?ほとんど起きたばかりだよ」

 

「じゃあ何時に起きた?」

 

「そうだなぁ、大体10時前後かな?」

 

「だいぶ遅いね、またゲーム?」

 

「うん、またゲーム」

 

「そう」

 

咀嚼して、飲み込んで、質問してを繰り返すリョウ。

 

今日はなんだか随分と質問されるな……

気のせいだろうか。

 

リョウはいつも通りの表情だし、質問の内容も普通だ。

それでもなにか、何故か圧迫されるような感覚がある。

 

「リョウ、今日は随分と質問してくるね、気になることでもあった?」

 

「……そんなことない」

 

「そ、そうか?何もないならいいけれど……」

 

「…………」

 

何もないならいいけれど。

 

そう言って僕はリョウに背を向けることで目を逸らす。

僕が何故リョウから目を逸らしたのか、それは目だ。

 

なんでかあの目は苦手だ。

 

暗く深い目をしてて、見るものをまるで神話のメデューサのように固めてしまうような。

 

「響」

 

「っ…どうした?」

 

「ちょっと来て」

 

「………え?」

 

僕のソファに手をポンポンと叩き隣に来るように促すリョウ。

その目はもう暗くなく、いつものリョウの目だった。

 

今まであったプレッシャーがまるであの目は幻覚だったかのようにスッと抜け落ちていく。

 

「はやく来て」

 

「あっ、うん」

 

どこかさっきまでの違和感が拭えないままリョウの隣に座る。

 

「………」ギュッ

 

「ちょ」

 

突然僕の腕にリョウが腕を絡めてきた。

 

「このままでいさせて」

 

「えっ、あ、わかった…」

 

「……あったかい…響の身体ってこんなに暖かかったんだ」

 

「………なぁ、なんで急に腕絡めたんだ?」

 

「響、愛してるゲームしよ」

 

「え、なにそれ」

 

僕の質問に一切答えず突如ゲームを誘うリョウ。

 

てかなんだそのゲーム、愛してるゲームってなんだ?

 

まさか相手に愛してるだなんて言うゲームなのか?

遊びでやるようなものじゃないと思うんだが。

 

「知らないの?」

 

「う、うん。」

 

「愛してるって言い合って照れたら負けのゲーム」

 

 

やっぱりそうか、ていうか照れたら負けって。

そんなの───

 

 

「速攻で僕負けそうなんだけどそれ」

 

「響」

 

「な、なんでしょうかリョウさん……」

 

「愛してる」

 

「っ!!?」

 

なんだ。なんなんだ。

 

さっきから何がおきてる?

 

今、リョウが僕に抱きついてて、ゲームの一環とはいえ僕に愛してるって言ってきて。

 

起きてから、頭が混乱してばかりだ。

 

 

「あ、愛してるだなんて遊びで言うものじゃ───」

 

「照れた」

 

「え?」

 

「今、私の言葉で照れた」

 

「い、いやぁそれはまぁ照れたけど──」

 

「じゃあ次、響の番」

 

「え!?いや俺負けたんだしもう終わ──」

 

「響の番」

 

「え、あ、いや」

 

「響の番」

 

「だ、だから」

 

「響の番」

 

「は、はぃ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、愛し……てる」

 

「もう一回」

 

「へ!?あぁ、愛して………る」

 

「もう一回、ハッキリ言って?」

 

「………………」プツン

 

「………響?」

 

「リョウ」

 

「……なに?」

 

ギュッ

 

「ぇ」

 

「愛してるよ」ボソッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら言った!よし言った!そんで照れた!明らかに照れてたもんね今!もうこれで終わり!終わりっ!尾張一宮!!」

 

「………………」

 

「俺、食器洗いしてくるから!寛いで待ってろ!」

 

流石にあそこまでやればリョウですら余裕な対応は出来ないだろう。

本屋さんで買った『人を喜ばせるイケメンの100ヶ条!』を買っておいて良かった。

 

見た感じリョウはフリーズしてるな!

でもリョウだってゲームであることを理解していたわけだしこれくらい許容範囲内だよな。うんうん。

 

 

 

 

 

 

 

プツン

 

 

 

 

 

 

 

……………うん。

 

 

 

 

 

(そんなわけないだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

 

何故抱きついた!?何故囁いた!?本に書いてあれば良いってものじゃないだろ!

なんだよイケメンの100ヶ条って!?100もあってたまるかよ!

 

そもそも顔だって普通の奴が!イケメンムーブかましたって気持ち悪いだけだろ!

 

あぁ殴りたいぃ!!愚かな自分を殴りたいぃ!!

 

まただ!また突っ走った!!

 

喜多の時と一緒だ!!

 

人の気持ちを考えず行動してリョウを困らせた!

 

 

「はぁ……………」

 

リョウ、怒ってなければいいんだけど………。

いや、怒ってるよなぁ。

急にどうでもいい男に抱きつかれたら流石に気持ち悪いよなぁ……

 

なんて謝ろう………

 

 

しばらく心の冷や汗が止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

抱きつかれた。

響に。

 

暖かかった。

自分で腕を絡めるよりも、ずっと暖かかった。

 

『これは遊びだ』と頭はわかっていても、

『響が私を抱き締めた』という多幸感がどうしても拭えない。

 

あの時の響は、私を見てた。

響が、私を見てた。

 

 

(愛してる………)

 

 

そう言ったことに変わりはない。これくらいいいよね。

 

ピッ

 

響に気づかれないよう、スイッチを押す。

そのスイッチには『停止』の文字。

 

(家に帰ったらいっぱい聞こう)

 

何度も何度もアンコールして、私だけが聞く。

響のぎこちないラブコールが、私だけのモノ。

 

 

 

その事実にしばらく身体の暖かさは抜けなかった。

 

 

 




【悲報】主人公、また暴走する。

でも何よりヤバイのはさらっと盗聴した山田リョウである。

主人公も他のヒロインも負けず劣らずヤバイですがね


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私へ向けてのモーニングコール


感想助かるぅ!脳が震えるぅ!
最近はマスターデュエルにお熱ぅ!
レイドラプターズ楽しすぎるぅ!

あ、今回は前回と比べると短めです。


 

その日の晩、家に帰っていったリョウからロインが来ていた。

 

『朝になったら電話して』

 

とのことで、朝起きれないからモーニングコールをして欲しいとのこと。

 

(リョウって朝弱かったんだ、知らなかったな)

 

とそう思う。

 

因みに愛してるゲームのあとデリカシーの無いことをしてしまったことで謝ろうと思っていたのだが、

リビングに戻ってきたときには既にリョウは居なかった。

 

ロインで、ただ一言

 

『今日は帰る』

 

とだけ残されていた。

 

「はぁ……」

 

ぜってえ怒ってる。

 

オイオイオイオイ死んだわ俺。

 

 

 

翌日

 

 

昨日から考えている、リョウが何を思ってあんなゲームを、そして帰っていったのか。

 

僕の行動が許せなくて帰っていったのは確実のはず。

それはしっかりと誠心誠意を込めて謝るしか

 

(いや、でも待てよ?)

 

じゃあそんな奴にモーニングコールして欲しいなんて思わないのでは?

 

内心リョウ自身なんとも思ってなくて、あのとき帰ったのも外せない用事が出来たからとかは?

 

 

 

 

 

(あっ…)

 

あんなに朝早く家に来たのはすごく急いでいて、ご飯を食べられる時間がなかったからで!

 

急に僕に愛してるゲームなんてしたのもきっと気まぐれなんかじゃなくて意味があることだったんだ!

 

人に抱き付いたりする必要がある事情があるんだ!

 

例えばなんだろう……そうかっ!!!

 

たしか、リョウのお祖母さんはかなり状態が悪くて、

もう今年だけで何度も峠を迎えてる。

 

だから不安になったんだ!

安心したかったんだ!!

 

普段のように振る舞って心に余裕を持たせたかったんだ!

そして黙って帰っていったのは僕を必要以上に心配させないため!

 

(リョウ……君は………!)

 

「くそっ!!」ダンッ!

 

 

 

 

自分に心底腹が立つ。

 

何故だ、何故彼女の心の傷に気付けなかった!

 

自分が恥ずかしいからどうとか、そんな場合じゃなかっただろ!

 

小鳥遊 響、お前の心はどうでもいいんだ。

 

俺の心は俺自身で決めるもんじゃないんだ。

 

皆が傷ついてるならお前も傷つけ。

皆が喜んでるならお前も喜べ。

 

お前が苦しいと思っても、皆を苦しませるな。

お前が嬉しいと思っても、皆の笑顔を求めるな。

 

それが寄り添うってことなのだから。

 

 

「それがわかったら、早速リョウに電話だっ!」

 

本当は謝った方が良いのかもしれない。

でも、リョウは秘密にしたかったのだから。

だから僕もその秘密を守ることにしよう。

リョウは普段、弱みを見せない。

それなのに僕なんかに抱き付いて不安を何とか落ち着かせようとしてた。

 

それは何よりも弱音を吐いている証拠で。

 

だから、僕が寄り添おう。

 

プル──

ガチャ

 

『はい』

 

「カラオケ10分前の高校生か」

 

物凄く速い受話、俺でも見逃しちゃうね。

 

「おはよう、良く眠れた?」

 

『……………』

 

「?………リョウ?」

 

『眠れた』

 

「そっか、ならよかったよ」

 

『あっ、そういえば』

 

「ん?」

 

『昨日勝手に帰ってごめん』

 

「…え?」

 

「リョウ…君が謝らなくてもいいのに…むしろ俺が謝るべきだったんだしさ。」

 

『なんで?』

 

リョウはキョトンとした声色で僕の聞く。

なんだろう、今日はなんだか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いやだってさ、いくら友達だっていっても恋人でもない男に抱きつかれるのは嫌だろ?そんなことも考えず恥ずかしいからってやり返して。ホントにごめん。

次からは気を付けるから!二度と抱き締めたりしないから!」

 

『いやだ』

 

「……」

 

(やっぱり、許せないよな………)

 

『二度と抱き締めないなんて言わないで』

 

え…………?

 

何故だ、こんな僕に抱き締められて喜ぶなんて───

 

『あの時、すごく暖かかった。

響ってこんな暖かいんだって、こんな匂いするんだって思った。

響のそんな部分も知れて、すごく安心できた。

響の声が耳元で聞こえて、響の声ってこんなに綺麗なんだって思った。』

 

「リョウ……?」

 

僕の疑念を遮り言葉を続けるリョウに違和感を感じる。

リョウの言葉も、声も随分と鮮明に聞こえるものだ。

いや、妙に聞こえやすいと言った方がいいだろう。

 

まさか、今リョウは─────

 

『それは全部、響が私を抱き締めたから知れたものだから。

これからも響の色んなことを知りたいし、教えてもらいたい。

だから───』

 

『「また、私を抱き締めて」』ギュッ

 

俺が感触に気付き後ろを振り向くと、そこには──

 

「おはよう、響」

 

「………あぁ、おはよう。リョウ」

 

僕を背後から抱き付いているリョウがいた。

 

 

 

 




主人公ずっと何言ってんだお前。

こいつはリョウの嘘やひとりの虚言をガチで信じ込むタイプのヤバイ奴です


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