アレクシア様を分からせたくて! (ゆっくり妹紅)
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1冊目

初めましての方は初めまして。

カゲマスの広告で見たアレクシア王女がどストライクだったのでアニメとかを見た上で見切り発車致しました。


 

「……し……ね……!」

 

気がつけば体が動いていた、と言えばいいだろうか。倒したはずの魔王が起き上がり魔法をこのパーティのリーダーと言える彼女に当てるつもりだと分かった瞬間、彼女を突き飛ばしていた。

 

直後に飛んできた魔力のビーム。体が貫かれ焼かれる不快な感覚と重い吐き気、そして体が別の何かで蝕まれるような感覚。それで、放たれたものがただの魔力砲ではなく、何かしらの呪い──それも魔法に耐性がある自分でさえ防ぎきれない強力なものが付与された魔法だと分かり、背筋がゾッとすると同時に、彼女を庇えてよかったと安堵する。

 

「いった……ユウト!いきなりなにす……!?」

 

「しぶ、とい……やつだ、な……」

 

先程の魔法の影響か、魔力をたくさん収束することが出来なかったものの、込めれるだけだけ込めて放った俺の魔力弾は魔王にあたりその体を完璧に吹き飛ばした。そして同時に自分の中の何かが切れた様な感覚がし、地面に倒れ込んだ。

 

「「「ユウト!」」」

 

暗くなっていく視界の中、あの無表情な武闘派聖女であるマリアが、毎回俺をからかっては倍返しにされて半べそかくシーフのユラが、そして聖剣に選ばれた勇者のレイが泣きながら駆け寄ってくる。

良かった、思いっきり突き飛ばしたから怪我してないか不安だったんだけど……走って来れるぐらいなら大丈夫かな。

 

そう安堵した瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

☆月☆日

 

てな感じで死んだはずだったのに、何故か俺はまた転生していた。いや、なんでやねん。転生1人1回までとかルールで決まってないんですか?

……まあ、これは今更言っても仕方ないので現状の整理だ。まず、俺が転生した世界は1度目の転生先同様中世風のファンタジー世界であり、加えて俺は今年で10歳になる。まあ、そんな世界だが前の転生先と違うところは魔力関連のところだろうか。まず、この世界でも魔力自体は存在する。しかし魔法と言う概念は存在せず、魔力自体の使い道は身体と武器の強化がメインとなっている。更にこの世界の魔力は自分の体から離れると途端に制御が効かずに霧散するといった性質があるせいで実戦での遠距離攻撃手段としては実用化されてない。そのせいか、魔力伝導率が高い剣が戦闘の主流となっており、近接戦闘が基本的な戦闘手段として成立し、それを駆使して戦うものたちを『魔剣士』と呼び、これが最もポピュラーな戦闘職だ。

 

……脳筋かな?

 

まあ、それは置いといて。次の違いは物質の魔力の通りがめちゃくちゃ悪いことだ。比較的魔力を通しやすいと言われるミスリル、その中でも最高品質なものでも伝達率は50%ぐらいしかない。

 

……バグかな?

 

いや、これで一体どうやって戦えばいいんだって思うほどにこの世界の魔力関連の事情は酷い。前の転生……もう前世でいっか。前世の魔法が恋しい……。

 

まあ、取り敢えず今は前世の魔王を討伐しに行ったのと同じレベルの魔力操作と剣技及び身体能力にすることだ。幸い、うちの家の庭はまあまあ広いし、魔力操作の方は魔力弾を出すのは相変わらずだが、切り札である時限式の身体強化のように前世の技術の方も幾つか再現出来た。剣の鍛錬も順調だし、前世の全盛期に戻れるのもそんな遠くはないだろう。

 

俺の3度目の人生はここからだ!!

 

……そういえば、息子さんのシドくんが頻繁に夜中どっか出かけているのが最近再現出来た魔力探知で分かったけど、何やってるんだろ?

気になるしちょっとついて行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

☆月♪日

 

色々ありすぎて考えをまとめたい。

 

 

 

 

☆月→日

 

これからも頑張ろう+シドくん追跡してみようと思った昨夜、色んなことがあった。箇条書きでまとめると。

 

・シドくんは転生者だった。

・彼がかなりの実力者だった。

・彼は『陰の実力者』に憧れる厨二病だった(重要)

・とんでもない発明品を作っていた。

・そして昨日はその発明品のテストとして盗賊団を襲った

 

はい、という訳で中々濃い時間を過ごしちまったよ。因みに彼には俺の経歴……つまり2回転生していることを伝えており、一応協力関係を結ぶことになった。彼からしたら俺が転生者であること、現段階では俺の方が彼より魔力操作や剣技といった部分は勝っている、というのが理由だろう。

 

さて、そんなことがあったのだが今俺らはとあることをしている。

それは昨日倒した盗賊団に襲われた商人の馬車にあった『悪魔憑き』と呼ばれている肉塊──元人間を使った実験だ。

まず、この『悪魔憑き』というのはどういったものなのかを簡単に纏めると、突然体が腐り出して死に至る不治の病、と言ったところだろうか。そしてその名前から分かるように、『悪魔憑き』になってしまった者は教会が引き取って虐殺している、という話まである。流石中世、ここは前世と変わらんな()

 

話を戻して、俺ら……というかシドが行っているのは魔力制御の練習だ。そもそもな話、この世界では魔力関連の技術は自己流で何とかしていくのが常識みたいなところがある。一応、俺のやり方をシドに教えてもいいのだが、あくまでそれは俺の感覚であってシドがそれに合うかは別の話。極端な話になるが相性が最悪で進歩が全く見れないということも有り得る。そのため、この『悪魔憑き』には悪いけどシドの練習の被検体になってもらった。

普段であればこういったことは効率的でもやらせないけど、俺の予想だけど上手く行けば……

 

 

1ヶ月ほどシドの魔力操作に関してや再現出来た技術に関しての内容が続く。

 

 

♪月→日

 

あれから1ヶ月が経った。まず結論から言うとシドの魔力暴走を完全に制御すること出来、そして予想通り「悪魔憑き」の肉塊は元の姿であろうエルフの少女になった。そしてシドは後からそれに気が付き驚いていたが、そこでエルフの少女が目を覚ましかけ、2人して慌てたがなにか閃いたのかシドが「僕に任せて」と自信ありげに言い、いきなり距離を取って木箱の上に片膝を立てて座った。俺はとりあえずシドを信じて彼の言った通りに腕を組んで壁にもたれかかった。──もし時を巻き戻せるなら、俺はシドの言うことを聞かずに自分から説明すべきだった。

 

──そんな後悔は置いといて、シドは目を覚ました少女に説明した。

箇条書きでまとめると。

 

・教典に記された三人の英雄が『魔神ディアボロス』を倒し、世界を救ったお伽噺は本当だった(大嘘)

・魔神は死の間際、その英雄達に呪いをかけた(大嘘)

・結果として『英雄の子孫』はその呪いの影響で腐りかけの肉塊になり、何者かの陰謀で『悪魔憑き』と呼ばれ始めた(大嘘)

・『ディアボロス教団』が黒幕(大嘘)

 

──なんということでしょう。

聞いたこともない話をまるであったかのように話すこのアホを見て俺は白目を剥きかけた。いや、こんなん誰だって分かる作り話だ、と思い少女の方を見ると、ガッツリ信じてしまっていた。

 

──なんということでしょう。

そしてここで俺の存在に気がついた少女に「あなたは?」と聞かれ、答えようとした瞬間、シド──『シャドウ』と名乗った──は俺のことを自分の相棒の『エル』と紹介しやがった!

そしてシドは『ディアボロス教団』に立ち向かう組織として『シャドウガーデン』と名付け、完全に乗り気になった少女──アルファと名付けられた──はノリノリで組織の資金稼ぎやら人員の確保とか考え出してしまった……

 

とりあえず、癖が強い!シドもそうだし、コロッと騙されてるアルファも!!こんなことで頭抱えたの前世のパーティ以来だわ……頼むからこれ以上癖が強い人間には会いたくない……神様、マジでお願いします。

 

そういや、父さんが大事な話があると言っていたがなんだろうか?

 

♪月°日

 

父さんの話を一言で纏めると「王都に行ってアレクシア王女の従者として働け」だった。

え?10歳なのに労働強いられるの?この世界の労働基準法はどうなってんだ、労働基準法は!

 

因みに理由としては王国の騎士である父さんが王都にいる友人に俺の事をべた褒めした手紙をしょっちゅう送っていたらしく、そこから「そんな優秀なら」という訳で護衛兼従者兼友人としてアレクシア様に仕えろ、ということになった。

父さん騎士だったのかよとか、なんで田舎の方にいんのとか、色々聞きたいことはあるが、謝ってくる父さんを見ると怒りたい気持ちは無くなった。まあ、行くのは1週間後と猶予を持たせてくれたのは幸いだった。とりあえず王都に行くまでにアルファには自分が教えられる技術は全て教えておこう。特にアルファは自衛のために力を身につけるのは間違いでは無いはずだ。シドは……まあ、あいつ個人に教えてなくても俺の動きやアルファに教えてるところを見て勝手に自分のモノにしていくだろうから放置だ。あいつは努力家だし、俺の事を追い越すのもそんな遠くない未来だろう。

 

そして、それが楽しみな自分がいる。

 




アレクシア出てないのは自分のガバが原因です。

キャラ紹介

ルイス・エア
本作のオリ主。既に1度転生を経験している稀有な転生者であり、何の因果かシャドウガーデンの一員+アレクシアの従者になってしまった。これ以上癖がある人と関わりたくないと思っているが、そんな願いは儚くも崩れさる。アレクシア分からせ思考になるまであと○○日。
なお、この段階では魔力制御及び戦闘技能はシャドウよりまだ上。転生2度目の肩書きは伊達じゃない!(戦闘技能は今世込で35年、魔力制御は25年ほどやってる)

ユウト
本作オリ主の1度目の転生をした世界での名前。勇者パーティで唯一まともに魔法を使えるものであり、イメージ的にはffでいう赤魔道士と魔法戦士をミックスした感じ。白魔法が苦手なせいでモーニングスターを前線で振り回す脳筋聖女、聖剣と巧みな剣技でごり押す勇者、背後からブスッ☆を得意とするシーフと誰も魔法を使えないせいで、遠距離攻撃やバフ、回復は基本的に彼一人で回してた。そして3人も彼のことを高く評価しており、唯一無二な仲間として大事に想っていた。なお、魔力量は凡人の中ではトップクラスだった。凡人の中では。

アレクシア・ミドガル
ミドガル王国の第2王女。「陰の実力者になりたくて!」で見た目が性癖どストライクで、めんどくさい女臭がしてるのもどストライクだったせいで創作意欲が爆発。これから彼女にはルイスによって分からされたり、曇ってもらいます。

シド・カゲノー(シャドウ)
原作主人公。陰の実力者になるために全てをかけたやべーやつ。彼のやばさは原作見た方が早い。因みに近いうちにオリ主を追い越す。

アルファ
金髪美少女エルフ。めちゃくちゃ強く、シャドウガーデンの実質的なトップになる。



ルイスの秘密:1
実は前前世、前世、今世込でも卒業出来ていない。


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2冊目

流石にアレクシア様出てないのはまずいと思ったので初投稿です。


 

 

♪月×日

 

ついに王都へ行く日となった。

お見送りとしてうちの家の執事やメイドたちを初めに、カゲノー一家の皆様が来てくれた。アルファは来てないことにちょっとだけ落ち込んだが、馬車の中で1冊目の日記帳を読み返していたら手紙が入っており、そこに自身を助けてくれたこと、再会を約束することが書かれていたことで俺は思い出した。

俺、一年に一度はこっちに戻ってこれること言ってなかったじゃん。

 

……とりあえず次アルファに会ったら謝り倒すしかないな。

あー、悩みの種が新たにできたせいで明日にはアレクシア王女に会うってことなのにもうお腹痛い。頼むからシドみたいな癖が凄いやつじゃありませんように!これ以上増えたら俺の胃が死ぬから……マジで頼む。

 

 

 

 

 

 

 

 

♪月÷日

 

 

ただのクソガキじゃねぇか!!

 

 

 

 

 

 

 

♪月<日

 

アレクシアの従者生活2日目。

アレクシアのクソガキぶりに我慢できなくて思わず昨日の日記に、クソデカ文字で汚いことを書いてしまったが、これは仕方ない。

いやね、顔合わせした時はなんか取り繕ってるような気はしたけども、普通に礼儀正しい子だなーって思ったんだ。これなら胃が爆発せずに済むと思ったんだ。

 

でも悲しいかな、俺のそんな考えは2人きりになった瞬間ぶっ壊れた。

彼女の本性は腹黒かつ性悪で、目つき悪いやら、身長低いやら、笑顔が下手くそやら、めちゃくちゃボロクソ言われた。一体どんな日々を送ったらあの歳であそこまでひねくれるんだ、ってぐらいやばかった。

そしてこの本性について他人にバラすな、と言われた時に思わず口を滑らしてしまい、笑顔のグーパンを有難く貰った。美少女のグーパンはご褒美って前世で聞いたけどそんなことは無かった。というか王家の教育はどうなってんだ、教育は!

 

……まさかアレクシアも転生者じゃないだろうな?

 

 

♪月=日

 

アレクシア様の従者生活3日目。今日はアレクシア様の剣の稽古に付き合う羽目になった。一応彼女の剣を見させてもらったが……はっきり言って俺よりはあるとは思うけど、平均的に見たら才能はないと思う。けど、努力を積み重ねた真っ直ぐなもので、俺自身もさらに研鑽を積もうと感じたほど、彼女の剣は個人的に好きなものだった。ちょっとだけ見直したよ。

 

あと今回のことで確信したけど、この世界の剣術……というか武術と言うべきものは前世、前々世と比べるとまだ未熟なところがある。これは最終的に魔力量によるゴリ押しが出来てしまうからというのがあるが、これってやっぱり脳筋じゃ……

まあ、それはともかく模擬戦の時に抜刀術のようなものは変に使えなくなったということは確かだろう。その剣技をどこで教わったって聞かれても返答に困るし。

というわけでここで俺の数少ない切り札が使えなくなるのはかなり痛いところではあるが……まあ、割り切るしかないか。模擬戦で使う事態にならなければいいわけだし。

 

よし、明日も張り切ってこー!

 

 

 

 

 

暫くアレクシアのことや彼女のからかいに関する内容が続く

 

 

 

 

 

♪月〆日

アレクシア様の従者生活10日目。何となく彼女の人となりが分かってきたかなーと思っていたのだが、そんな主は何が面白いのか、今日も俺の休憩時間にやって来ては性懲りも無く俺の目つきの悪さについてめっちゃ貶してきた。

仕方ないだろ!!この死んだ魚のような目つきの悪さは生まれつきなんだよ!!前々世からの呪縛は2回転生しても解けないんだよ!!これも全部前世の魔王が悪い!……いや、流石に可哀想だな。やめておこう。

 

いやでもね?俺は思うんだよ。余計目つきが悪くなってるのはクソガキアレクシア様やうちの親のせいもあると思うのよ。

 

まず、この従者の仕事めちゃくちゃブラックなんだよ。拘束時間がなんと朝5時から夜の9時までと脅威の16時間!そしてさっき書いたように休憩時間の合間にアレクシア様がからかいに来るから実質休憩時間はなし!!こんなん大人でも体と心が壊れるだろ。前世の寝ずの張り込みを3日やったとか、魔族の精神攻撃で廃人になりかけたといった極限状態と比べたらマシだけどさ……。あれ、前世でもろくな目にあってない?

 

……これ以上考えると悲しくなってくるからもうやめよう。

とりあえず休憩時間の時に見つからないような場所を複数見つけておくか……。

 

 

 

☆月#日

 

(ミミズがのたくったような字が書かれていているが、なんて書いてあるか分からない)

 

 

☆月○日

 

昨日の日記が謎の暗号みたいな感じで終わってしまっていたがこればっかりは仕方ないと思う。昨日、休憩時間中に突如現れたミドガル王国の第一王女であるアイリス様から模擬戦の誘いを受けた。アレクシア様のちょっかいよりは100%マシだと思った俺は了承し、お互い木剣を使った模擬戦をやったのだが。

 

アイリス様、歳の割には強すぎ+体力ありすぎ。

 

あの年齢であそこまでの強さとか、ヤバいだろ。才能が大きな要因だとは思えるが、それに驕ることなく研鑽を積み重ねて得た剣、つまりレイと同じタイプだ。結果としては今のアイリス様よりももっと上の存在を知っていたこと、前世の戦闘経験のおかげで何とか全部引き分けまで持ち込めたが、時間や体力を気にせずドンドンせがんできたのは末恐ろしい。そしてそれを見ていた執事長の計らいでその日は早上がり出来たが子供の体で全盛期と同じ動きをしたせいで、部屋に着いてからはすぐに眠ってしまったという訳だった。

 

後、昨日のことでわかったけど前世の頃と同じように、常に2手先を予測しながら戦うというのはこの体ではキツイみたいだ。結果としては課題点が見つかったことが分かったことは大きい。とりあえずマルチタスクの練習も追加しないとなぁ……あれ苦手だから気乗りしないけど。

 

因みにアレクシア様のちょっかいの方が1000倍マシだと思った模擬戦だったのだが、今日会ったアイリス様から「これからもよろしく頼む」と言われてしまった。

 

どうやら神は俺に死ねと言っているらしい。

 

そして何故か不機嫌なアレクシア様から「タマ」と呼ばれ、投げたお金を咥えて拾ってこいというまさかの犬扱いを受けた。

 

うん。

 

 

 

 

 

あのクソガキ、絶対分からせてやる!!

 

 

 

 

****

 

 

「初めまして、今日からアレクシア様の従者となりましたルイス・エアです。よろしくお願いします」

 

ルイスの第一印象はパッとしないやつだった。死んだ魚のような目のせいでお世辞にもカッコイイとは言えない容姿。

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

と、そんな風に彼とコンタクトを交わしてから少し話してみるとルイスは反応が中々面白い。試しにちょっとからかってみると口調こそ丁寧ではあるものの、口元が思いっきり引き攣っていて、その様子が面白くてつい笑ってしまった。そして今の私のことを誰にも言わないように命令したら「性格ブサイクかよ」と真正面から言われ、思わず手が出てしまったのは仕方ないと思う。

 

彼が従者になって7日目、今日も彼が()()()()()()()()()()()()ためそれを止めさせる為にからかう。これを見つけたのはたまたまで、彼にとっての休憩時間と呼ばれる時間帯はいつも私の前からコソコソ隠れながらどこか行くものだから、何か弱みでも握ってそれでからかおうと思って探し、そして見つけたと思ったら1人で剣を振るうルイスの姿。私が初めて見つけた時は、仮想の敵でも想像しながら戦っていたのかとても素振りとは思えない剣の振りや身のこなしをしていた。

素直に凄いと思った。どれだけ努力をすればそこまでいけるのか分からないけれど、想像できないほどの研鑽を重ねてきたのは分かった。

でも、この調子で休憩時間も潰してまで鍛錬なんてしたらルイスの体は壊れてしまう。そう思った私は彼をからかって鍛錬を止めさせるといったことをしている。……無論、そこに彼の面白い反応を見たいというのもあるが。

 

「ルイスの目つきって本当に悪いわよねぇ。ただでさえ愛嬌ないのに余計に無愛想に感じるわ」

 

「あんまり言わないでくださいよ、気にしてることなんですから……」

 

「そしたらムスッとせずに笑顔見せればいいじゃない」

 

「人の気にしてるところを突いてくる人に見せる笑顔はないです」

 

「……あんた、いい度胸してるじゃない?」

 

自分が誰の従者なのか分かってるのかしら?

 

 

 

そして次の日、また私の目を盗んでどっかで鍛錬しているであろうバカ従者を探していたところ、激しく何かをぶつけ合う音が聞こえたためそこの方へ行ってみると。

 

「はああああっ!!」

 

「ふっ!」

 

お姉様と木剣で打ち合っているルイスの姿。恐らく模擬戦をしているのだと思うが、私が驚いたのはあのルイスがお姉様相手に引けを取らない試合をしていることだった

こう言っては失礼だと思うが、ルイスの剣は基礎に忠実な剣だ。だからこそお姉様相手にはすぐ負けるだろうと思っていたのだが、現実はお姉様の攻撃をルイスは全て防ぐだけではなく、反撃までしていた。

 

そしていつまで続くか攻防は唐突に終わりを向けた。

 

「せあっ!」

 

「はあっ!」

 

──バキッ!!

 

互いに持っていた木剣が折れた。鍛錬用の木剣が折れるなんて聞いたことないけど、それほど2人の剣戟が凄まじかったということなのだろうか。だが、私はこの後さらに驚くことになる。

 

「……また折れましたね」

 

「そうですね、これで3本目ですか」

 

3本目。2人は確かにそう言った。つまり、あの二人は先程のような激しい戦いを3回もしていたことになる。だが、そんなことよりも。

 

「アイリス様はお強いですね」

 

「ふふっ、貴方の方こそ見事な剣でしたよ」

 

なんで、なんでお姉様とそんな仲良く話しているんだ。ルイスは私の従者じゃないのか。なんでお姉様はルイスとそんな楽しそうに話すんだ。

 

──なんでお姉様に対してはそんな笑顔を向けるんだ。

 

何故だか分からないけどそんな想いが込み上げ、胸が苦しくなるような感覚に襲われた私はその場を走り去った。

 

 

 

 

──次の日、何ともない顔で現れたルイスがムカついたから「タマ」と呼んで、投げた金貨を犬のように拾ってくるように命じ、そしてそれを実行した彼を見たらなんか満足出来た。




多分(続か)ないです。

キャラ紹介

ルイス
本作オリ主。分からせ思考に至るまでたったの12日というRTAを走った。アレクシアのことはクソガキだと思ってはいるが、努力を怠らないところは好感持てるし、分かりづらいが気遣いできる優しさがあるところから、認めているし忠誠心もある。どんぐらいかと言うと、彼女に凶刃が飛んできた際は反射的に庇えるぐらい。どんな風に分からせようか考え中。現段階ではアレクシアより3cm低い。
現段階での疲れの溜まりやすさ
アイリスの模擬戦>>越えられない壁>>アレクシアの相手>>越えられない壁>>鍛錬(寧ろストレス発散になり回復してる気分になってる)

アレクシア・ミドガル
突如来た従者ことルイスのことは、王女である自分に対しても素直な反応を返してくれるため+ありのままの自分を見て離れないことから面白い男認定している。が、次の日姉と楽しそうにしてる所を見せられて脳みそを破壊された。

アイリス・ミドガル
アレクシアの姉で所謂天才。アイリスがルイス相手に善戦できたのはルイスの体が本来の戦闘スタイルができるほどまで完成してない+武器がないこと、ルイスがアレクシアのような天才の剣が苦手だからというのがある。
なぜならルイスは天才の剣を理解できなかったから





ルイスの秘密:2
実は作り笑顔が大の苦手


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3冊目

誤字脱字報告してくださった方、ありがとうございます。
こんな作品を見てくださってる方が居るんだな、ということが分かりやる気が出てきましたので頑張りました。

補足:この段階ではまだシャドウガーデン設立から半年しか経っていません(アニメ的には2話のアルファ救出からクレア誘拐までの空白期間のところをやっています)


 

%月☆日

 

俺がタマと呼ばれて約半年がたった。あの日から俺は人目がないところでは犬扱いされており、段々とストレスが溜まって行ったのだが、今日ふとアレクシア様の方を見た結果とあることに気がついてしまった。

 

──あの王女、人をペット扱いすることに愉悦を見出し始めてる!

 

いや、何で10歳で性癖を開拓してるんだよ。確かにアレクシア様は王女だが、あっちの意味での女王になっちゃマズイだろ。こんなのが王族、特にシスコンのアイリス様にバレたら凄い飛んだ話だとは思うけど、最悪その原因であろう俺の首が飛んでしまう可能性がある。いや、素質はあったと思うけどさ?

とりあえず性癖だけはノーマルのままにしてもらう為に、何とかしないといけない。でもどうしたらいいのか分からないのも事実であり、あの腹黒性悪王女様の実態は言わないようにご本人から命令されているから周りに相談もできない。しかしこのまま放置したらそれはそれで問題になるわけで……分からせの方もどうすればいいか全く思いつかないし……正に八方塞がりだ。

 

早く地元に帰りてぇ~

 

 

%月♪日

 

ついに出来た!アレクシア様に見つからないように隠れて練習していた魔力の斬撃が出せるようになった!──有効射程は10mだけど!

前世の経験ありでその体たらくかよ、とツッコミが入りそうだが言い訳をさせて欲しい。いやね?最初の日記に書いたようにこの世界の魔力って、人体から少しでも離れると途端に制御が効かずに霧散しちゃうっていうバグみてえな性質しちゃってるんだよ。前世ではそんなことが無かったから、剣から魔力の斬撃出すためには剣に魔力を圧縮させて纏わせた後に剣を振って振り終わりと同時に魔力を止める、というふうにすれば良かった。……こっちはこっちで習得するのに10年かかったし、バカみたいに難しかったけど。

 

まあ、それは置いといてこちらの世界で再現出来たのは大きな進歩だ。射程こそ今は短いものの、あとは細かい調整や考察を重ねて将来的には50mぐらいにはしたい所だ。

斬撃ですらこんなに時間かかってるのに魔力弾や魔力砲はいつになったら実現できるのか、正直不安ではあるけども焦らずゆっくり確実に行こう。焦ったところですぐに上達するわけじゃないしね。

 

 

 

 

%月→日

 

今日はシドとアルファから手紙が届いた。それを知ったのが今日のお昼あたりで、しかも休憩時間の終わり間際だったせいで読むのは仕事が終わってからになった。

癖が強いとは思っても数少ない友人からの手紙というのはやはり嬉しいもので、そしてそれが顔に出ていたのかアレクシア様に理由を聞かれた。素直に答えたらなんか考えるような素振り見せてたが……まあ俺の主様のことだし、どうせ幼少期の弱みでも聞こうと思っているのだろう。というか日に日にドS王女の階段を昇っている気がする。俺が金貨を咥えて持ってくる度に顔を赤らめて笑みを浮かべるのはやめて欲しい、マジで頼むから。

 

まあ、それは置いといて2人からの手紙だ。

シドの方からは、どうやら俺がこっちに来てからも『悪魔憑き』の人たちを見つけては治していたこと、遊びとして作った『シャドウガーデン』を心を休めるための拠り所の場所としてそのままにしとくということ、ついでに彼の前世の武術とかを教えているということが。

アルファの方は『シャドウガーデン』の人員確保が順調であること、そして新しく加わった仲間たちのこと、いつか俺に会わせたいということが書かれていた。

元気にやっているようで安心したけど、ふと『悪魔憑き』のことが気になった。俺はアルファの一件があるまで『悪魔憑き』というのは知識としては治せない病、というふうに解釈していたが実態は魔力暴走によるもので、それを制御できるほどの魔力操作が出来れば治すことが出来るということであり、この長い歴史の中で誰も治療法を出せなかったとは考えづらい。それに、教会が積極的に『悪魔憑き』を集めているというのも今思えば何かきな臭く感じる。

 

……少し調べてみた方がいいかもしれない。こういうのは前世の経験上、特に教会関連は裏があることが殆どなわけだし、手紙で感じたシドとアルファの『シャドウガーデン』に対する熱量の違いももしかしたら関係しているかもしれない。

 

 

 

 

%月○日

 

1週間ほど日記を書くのが空いてしまったが、その成果はあった。結論から言うとシドのホラ話は全て事実である可能性が高い。この結論に至った時は信じられなくて読んだ文献の重要な部分を書いたメモを何度も見直したり、考察をやり直したりもした。それでも間違いである確率は低かった。

 

……正直頭が痛い。アルファは恐らく独自に調べた結果シドの話が本当だと確信し、あれほど積極的に動いているのだろう。じゃないと手紙に『シャドウガーデン』に関することがあんなに書かれている理由が分からない。あと、シドが自分の話したことが本当だというのは分かってないと思う。もし分かってたらもっと色々書くと思うし。

 

さて、問題はこのことをシドに伝えるかだが……恐らく放っておいていいだろう。これがまだ少人数だったら良かったのだが、それなりの数になっていることがアルファの手紙から分かるし、何よりシドに救われた人達があいつのことで幻滅して欲しくないというのがある。もし、バレたらその時は俺からも説明して何とかするしかない。

とりあえず、俺の方でも組織の運営とかで手伝えることがあったら手伝うようにしよう。今の労働環境でやれるかは別として、だけど。

 

 

 

%月*日

 

今日アレクシア様の稽古に付き合ってる最中にぶっ倒れてしまった。

医者からは疲労が原因と言われた。従者兼護衛としての激務、親元を離れて知り合いがいない所で働いている精神的疲労が主な所だろうと診断されたが、最近は寝る間を惜しんで書物を漁っていたことがあるから恐らくそれもあるだろう。つい、全盛期と同じ感覚でやってしまっていた……

これからは自身の体力をしっかり把握した上で動かないと。

 

そして執事長がそんな俺の事を気遣ってくれて、明日から暫く地元に帰って休むように言い、馬車の手配までしてくれた。本当は断りたかったのだが、上司命令となったら従う他なく、先程荷造りを終えて日記を書いている。

 

俺の帰省のことはアイリス様がアレクシア様に伝えてくれるらしいので、そこは安心していいだろう。それに休みを出してくれた執事長には申し訳ないけども、『シャドウガーデン』の新しい仲間やシドたちに会えるのは楽しみではある。

 

……でも、アレクシア様のことがやっぱり気になってしまうあたり、俺の中では彼女の存在がかなり大きくなっているんだろう。朝一で出るから一言言えないのもちょっと寂しいところではある。1週間後には戻れるようにしたいところだな。

 

 

 

****

 

 

 

──ここ一週間、ルイスの様子がどこかおかしかったのは気づいていた。休憩時間中に鍛錬をせずに色んな本を読み込んではメモをしていたからだ。最初は気まぐれかと思っていたけど、5日間も本に穴が空くような気迫で読み込んでいて、目にクマが出来ているのを見れば流石に違和感を抱く。勉強なら邪魔するのは悪いだろうとちょっかいをかけるのを止めてはいたものの、流石に気になってしまい声をかけてみた。しかし返ってきたのは「ちょっと気になることがあって調べ物してるだけですよ」の一辺倒で、それならば一緒に調べ物を手伝ってあげると言っても「自分のことにアレクシア様を巻き込むことは出来ません」と断られてしまった。

そのこっちの気遣いを無にするような態度にムッとしてその日からあいつの休憩時間の時に探しに行くのを止めた。──止めてしまった。

 

そして昨日、ルイスは私との剣の稽古の途中にふらついたかと思ったらその場で倒れ込んでしまった。

──あの時のことを思い返すと、今でも背筋が凍る。どんなに大声で呼びかけても、どんなに体を揺すっても全く反応しないルイス。幸い、その時居合わせていた師範代のお陰ですぐに適切な処置をとることが出来、医者の診断でも大きな怪我などはなく、疲労が原因ということで他の人たちは一安心していた。

 

が、私はそうでは無かった。私は今回ルイスが倒れた原因に心当たりがあったからだ。普段から休憩時間中に剣の稽古をしていること、最近はクマが出来るほどに何かを調べていたこと。これらが原因というのはすぐに分かった。

 

──もし、私が意地を張らずにしつこくルイスに手伝うことを、もしくは休養をとることを伝えていたらこんなことにはならなかったんじゃないか。

無論、ルイスが自身の体調管理を怠っていたことも問題ではあると思うが、主である私が気づいていたのにも関わらず何もしなかったのは問題だ。

 

あいつのことだから私が謝っても「悪くない」と言うだろうが、気づいていたのにも関わらず放置していたケジメをつける必要がある。

そのため、朝起きてルイスに謝罪と労いの言葉をかけるために彼を探している私の元にお姉様がやってきて。

 

「ルイスなら早朝にもうここを出て、地元に帰ったわよ」

 

「え──」

 

頭が真っ白になった。




アレクシア様ってこんなに丸かったっけ……?(にわか)

キャラ紹介+補足

ルイス
本作主人公。つい前世のノリであれこれしてたらぶっ倒れたが、結果として『ディアボロス教団』の話が事実っぽいことに気がつけた。帰省期間は無期限ではあるものの、1週間後には戻れたらいいなーと呑気に考えている。

アレクシア様
分からせ&曇らせ対象で、やっと曇らせることが出来た。ルイスがありのままの自分を見てくれてるからそれなりに気に入ってはいて、だからこそこちらの心配を無碍にされたことで意地張ったらあんなんになっちゃって落ち込んでるところに、「ルイス帰ったよ(直球)」という知らせでトドメを刺された。アレクシアからみたら自分のことが嫌になる心当たりありまくりだし、それが原因で帰ったみたいにも取れちゃうからね。
ちなみにルイスが犬のようなことをするのを見る度に、背筋がゾクゾクするような未知の感覚が最近の悩みでもあった。

アイリス様
言葉不足。

ルイスの秘密:3
実はペット扱いに段々抵抗がなくなってきている。


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4冊目

あけましておめでとうございます。

これからも早めの投稿できるように頑張りたいと思います。
(不定期投稿のタグつけ忘れたので付けておきます)

1/1 1:07 後書きにポチすけの説明を追加


 

%月>日

 

今日やっと実家に着いた。父さんや執事長達は俺が帰ってきた理由を手紙で知っていたらしく、泣きながら俺の事を抱きしめてくれた。

……それで俺も涙腺が緩んで泣いてしまったのはちょっと恥ずかしいし、何としてもアレクシア様にバレないようにしなければ。

 

あ、そのアレクシア様で思い出したけど、父さんは従者の件を辞めてもいいと言ってくれた。俺の事を気遣ってくれての提案だとは思うけど、断った。なんやかんやアレクシア様の従者として過ごしてきた期間が楽しかったのは勿論ある。が、一番の理由はアレクシア様の性癖をノーマルに留める使命が俺にあるからだ。今の状態のまま成長したら未来の旦那様が可哀想だし、俺の精神衛生上宜しくない。

まあ、こんなこと言う訳にはいかないので、アレクシア様の従者として過ごす日々が楽しいこと、色んな学びがあるから続けたいという旨を熱弁したら、無理しないことを条件に続けることを許してくれた。とりあえず一安心だな。

 

ちなみにシドとクレアさんにも会ったけど、シドと仲がいいからってことで俺のことを敵対視しているあのクレアさんが不器用な言葉ながらも心配してくれたことはすごい驚いた。なお、それが表に出ていたのかその後めちゃくちゃ怒られ、シドのやつは笑っていやがった。とりあえずあいつは後ではっ倒──(なにかに驚いたのか、文字が乱れている)

 

今日帰ってくるって伝えた記憶ないのに、アルファが日記書いてる最中に来ててびっくりした。まあ、自力でしかも早い段階で『ディアボロス教団』の存在を突き止めていたことを考えたら俺の帰省を把握していてもおかしくないだろう、別に思考を放棄したわけじゃない。

そんな彼女とも少し会話したが、どうやらとある獣人の子の教育……と言ったら聞こえが悪いが、どう教えたらいいか難儀しているようだ。

まあ、前世ではとあることが原因で一時期王都の騎士団の指南役として働いていたことがあったし、教えるということに関してはアルファやシドよりもノウハウは分かってるし、明日見てみるか。

 

 

 

%月「日

 

えー、件の子になんか懐かれました。

まず、昨日の流れとしては新しく入った『シャドウガーデン』のメンバーの子達と顔合わせしたのだが、全員女性+美人だらけで驚いた。そして自己紹介したのだが、向こうからしたらアルファやシドから話を聞いていたとはいえ、この半年以上1回も姿を見せなかったやつがいきなり現れても困惑するというもの。まあ、こういうのは非常に脳筋思考であんまり気が進まないけども、実際に自身の力を見せつけるのが手っ取り早い。

 

という訳で1番強いと感じた獣人の女の子──デルタを指名し模擬戦をしたのだが……多分このデルタがアルファが言っていた問題の子なんだろう。言い方は失礼ではあるが、彼女は頭を使わずに野生の勘と才能をフル活用して戦うタイプの子であり、こういうタイプは何も教えずにひたすら数をこなした方が実力が伸びる、ということを模擬戦終了後アルファとシドに伝えたらデルタの専任指南役になった。

個人的には他の子の方も見てあげたかったが、シドですらお手上げ状態なため明確に方針が立てられる俺が適任ということでそのまま押し切られた。

 

まあ、そんな訳でデルタとは模擬戦しつつ休憩時間で色々話してたらなんか懐かれた、というわけだ。

 

どうして(電話猫)

 

 

 

%月」日

 

今日は家でやることもないので厨房を借りて軽食を作ってから散歩しに行ってくると親に伝えて、隠れ家に行った。

 

作ってきた軽食を振舞ったところ、皆からは絶賛されデルタからは「もっと食べたいですー!」とせがまれたためつい自分の分を分けてしまった。お陰でその後は空腹に少し悩まされたが、美味しそうに食べる彼女の姿に満足感を得られたので結果オーライだろう……次からはもう少し多めに作ってこようかな。

そしてその後はデルタと模擬戦をする。彼女の戦闘センスは正に天才だ。単純な才能であれば前世で人類側最強と呼ばれたレイよりある。が、問題はその分頭があまり宜しくないことがある。そのせいで彼女は搦手といったものには比較的弱い。これの克服方法は俺が知る限り2つ。1つは頭を良くすること。もう1つは勘を極限まで鋭くすること、だ。

デルタの場合では後者の方で実力を上げることにするため、ひたすら模擬戦だ。そしていい動きが出来たら終わったあとにそこを褒めて伸ばしていく。基本的にはこれの繰り返しだ。

 

それにしても……本人言ったら失礼ではあるがデルタはまるで人懐っこい大型犬みたいな感じがする。だからだろうか、この子の近くにいるとなんか癒されるんだよな……そのせいか、気が緩んでいたのもあって褒める時に思わず頭を撫でてしまった。やっちまったと思ったけど、当の撫でられたデルタは「エル様の撫で方、気持ちいいのです~」と受け入れていた。その様子が前世使役していた狼型モンスターのポチすけを彷彿させたけど……いくら何でも無防備すぎやしませんかねぇ……でも可愛いし、癒されたからその点について言及できなかったけど。

 

……アレクシア様もデルタみたいになれとは言わないけど、少しは見習って欲しいとは思う。具体的には人を貶すの止めてくれ、特に目つき。

 

 

 

 

*****

 

 

 

「こうして会うのは初めてだね。シャドウの相棒のエルだ。基本的には王都にいるから皆と会う機会は少ないと思うけど、よろしくね」

 

アルファ様とボスから聞いていた、『シャドウガーデン』創設時から所属しているコサン?の1人であるエル様を初めて見た時の印象は「弱そう」の一言に尽きたのです。目つきはなんか死んでるような感じで、覇気もあまり感じないし、そもそも全くデルタたちの前に姿を表さなかったから疑いの目線を向けていたのです。それは他のみんなも同じようで、ベータに至っては凄い目で見ていたのです。

 

「……貴方たち、エルになんて態度を──」

 

「アルファ、彼女たちは何も悪くないから何も言わなくていいよ。俺だって同じ立場だったら同じこと考えるからね」

 

そしてそんな雰囲気を察したアルファ様がデルタたちに一喝しようとしたのをエル様は止めて、寧ろ私達を庇うような発言をしたのです。そして続けて。

 

「本当だったら言葉を尽くして俺の事を認めて欲しいところではあるけど、俺もいつまでもここに残る訳には行かないし、手っ取り早く実力で信じてもらうことにするよ。そうだな……そこの獣人の子、多分君が1番強いと思うんだけど、相手してもらってもいいかな?」

 

「へ?」

 

「デルタを指名するとは、流石我が相棒といったところだな」

 

「お前やアルファでもいいんだけど、手を抜かれてるって思われる可能性を少しでも減らしたいからね。という訳でデルタ……だよね?手合わせお願いしてもいいかな?」

 

「は、はいなのです!」

 

「うん、よろしくね。あ、そうそう──」

 

 

 

 

 

「全力で殺しにきなよ。じゃないとキミは俺に勝つことは出来ない」

 

「──っ!」

 

1拍置かれてエル様が言った言葉にはとてつもないプレッシャーみたいのがあったのです。そして同時にわかりました──この人は、デルタより上にいる存在だと。

 

そうして始まった模擬戦だったのですが、結果は──

 

「なるほど。確かにこれはシャドウ達が悩むわけだね」

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

完敗なのでした。デルタは疲れて全然動けないのに、エル様は汗を軽くかいている程度で息切れなんてしておらず、何かを別のことを考えている程の余裕がありました。

 

「さて、エルのことを認められない者はいるかしら?」

 

『……』

 

「……いないみたいね。お疲れ様、エル」

 

「ありがとう、アルファ。あ、デルタも水飲みな」

 

「あ、ありがとうなのです……」

 

「そういえば、アルファが昨日話してた子って──」

 

エル様から貰った水を飲んでいる中、アルファ様とボス、エル様の3人でなんか話していたのですがそこまで聞く余裕はなかったのです。

 

「シャドウ、アルファと話した結果、君の修行相手は俺が専門で見ることになったからよろしくね」

 

「え!?」

 

「時間もあんまりないから早速始めるよ。ほら構えて」

 

「は、はいなのです!」

 

そのことをいきなり伝えられて驚いたけど、すぐに模擬戦をやりました。エル様の修行はアルファ様やボスがやるような型を練習するようなことはなく、ひたすら模擬戦をやりまくるものでした。悔しいですが、攻撃を掠らせることも出来ずに完敗してしまうのですが、エル様はデルタがいい動きをした時は褒めてくれたのです。そのせいか、修行はいつもよりとても楽しかったのです!エル様は良い人なのです!

 

その次の日、エル様がやってきて「お腹すいてるだろうから」ということでサンドイッチとかを持ってきてくれたのです!しかも、エル様自ら作ったものでとても美味しかったのです!でも、もっと食べたくてエル様の分まで食べてしまったのは反省なのです。

 

そして模擬戦をまた何度もやったのですが、褒められていた時に頭を急に撫でられました。最初はちょっと驚いたのですが、とても気持ちよくて凄い良かったのです!

 

でも……

 

「アレクシア様もこんぐらい愛嬌があればなぁ……」

 

 

 

 

 

アレクシア様って誰なのです?

 

 

 

 




七陰の中では一番デルタが好きです。めんどくさい系もいいですが、ワンコ系もいいよねってことっす。

キャラ紹介+補足

ルイス(エル)
本作オリ主。『シャドウガーデン』の最古参としてアルファから他のものに説明されていたが、全く姿をみせないこと+やっと見せたと思ったら死んだ魚のような目つきの悪さをもったパッとしない男の子だったせいで疑いの目線を向けられたが、実力を見せつけて認めてもらった。
デルタは癒し成分を出す何かしらを持ってるんじゃないか?とふと寝る前に思った。

デルタ
『シャドウガーデン』の幹部である『七陰』の第4席。狼型の獣人で戦闘力は『七陰』の中でも突出しているものの、戦い方が技術なんかない野生の勘と強大な膂力に任せたものであるため、建物をよく壊してしまう。ルイスのことは最初こそ認めていなかったが、その実力を身に染みて分かったこと+鍛錬方針をデルタ専用に切り替えたこと+胃袋掴まれたことで懐いている。
ただ、ルイスがよく分からない表情と共に呟いた「アレクシア」という人物が気になった。

アレクシア様
お留守番

ポチすけ
ルイスが前世のユウトの時に使役していた狼型モンスターでメス。正体はフェンリルの子供で、拾った当初性別が分からなかったため、ユウトのネーミングセンスが炸裂。ポチすけ(♀)となった。かなり甘えん坊で、ユウトに対してはただの犬となっていた。最終決戦前にこれからの戦いには着いて来れないとユウトが判断し、王都で信頼出来る友人に預けられた。その時、ポチすけは遠くなっていくユウトを引き止めるかのように何回も鳴いていたという。


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5冊目

アンケートが凄いことになってるので投稿しました。




 

%月:日

 

今日も今日とてデルタと模擬戦をしたが、やはり成長が凄まじい。始めて3日目だというのに攻撃が当たりそうな場面がもう増えてきた。どうやら俺は彼女の成長力をちゃんと見極めきれていなかったみたいだな、反省しないと。

 

模擬戦終了後、いつものように褒めていたんだけど撫でなかったことを不満に思ったのか、デルタがこちらに頭をグリグリと押し付けてくるという行動を取った。

 

何故か脳内で宇宙に猫が浮かんだ。

 

アルファが気づいて注意してくれたものの主人に怒られた犬のようにしょんぼりしていたデルタを見ていると何か申し訳なくなりこっそり撫でてあげた。かなり喜んでくれたが、やはり犬のようにしか思えない。

というか、考えてみたら3日とも模擬戦ばっかだったな……ずっと鍛錬ばっかりやるのは効率が悪い、というのは前世の師匠から身をもって教わったし、デルタのお陰で鈍っていた前世の勘とかも戻り始めてるからそのお礼も兼ねてピクニックでもしよう。デルタのことだから沢山食べるだろうし、ちょっと多めに作っておこう。あとはほかのメンバーのためにも色々作っておこうかな。

 

そういえばポチすけは元気にしているだろうか。あいつを置いていく前に、もっと撫でてあげればよかったなぁ……

 

 

 

%月〒日

 

宣言通り今日はピクニックに行ってきた。肝心のお弁当に関しては流石に家で作ると色々言われそうなので、材料を買ってから隠れ家に行き、そこで作ってからピクニックに行った。お金に関してはアレクシア様が投げた金貨を咥えて持ってきてたのをご褒美()として貰っていた+従者として働いて手に入れた給料もあるので問題はなかった。

隠れ家で料理をする、と言っても設備が揃ってる訳では無いのでサンドウィッチや卵焼き、簡単なサラダしか作れなかった。本当であれば、スープとかも作って持ってきたかったんだけど、入れる容器がないので泣く泣く断念。ちなみに「デルタも手伝う!」と彼女も手伝ってはくれたが……まあ、彼女が作ったものは少し不格好なものになってしまった。その事でデルタは落ち込んでいたが、料理というのは経験が大事だ。最初から全て思い通りのままに出来る人なんていない、ということと、暇さえあれば教えると言って励ました。

 

そんなこともあってから始まったピクニックは中々有意義な時間だった。デルタはやはりと言うべきか、美味しそうに沢山食べてその後は眠くなったのか眠ってしまった……俺の膝の上で。

絶対寝心地悪いだろ、と思ったが気持ちよさそうに寝ている彼女を起こすのは気が引けたため起きるまで頭を撫でていた。

 

思えば、この世界に転生してからずっとああいった時間を取ってなかった。こんなん師匠に見られたらまた怒られるな……あの人の背中はやはりまだ遠い。

 

ちなみにデルタの作ったサンドウィッチは美味しかった。その事を伝えたら「本当なのです?」と不安そうに聞いてきたため、目をしっかり見て嘘では無いことを伝えると、尻尾を振って凄い嬉しそうにしてた。やはり狼というより、大型犬では……

 

 

暫く、『シャドウガーデン』のメンバーとの交流やデルタとの模擬戦、家族と過ごしたことを記した内容が続く。

 

 

%月〆日

 

明日でもう1週間になるし、そろそろ仕事の方に戻ることを親に伝えたら心配そうな様子ではあったが、無理をしないことを念押しで言われただけで終わった。そしていつ戻るかに関しては、丁度明後日に王都行きの馬車があるみたいなのでそれに乗って行こうと考えている。

 

という訳で、明日はその準備で来れないこととまた暫く会えなくなることを『シャドウガーデン』のメンバーにも伝えに行ったのだが、デルタが「嫌なのです!エル様行っちゃ嫌なのですー!」とめちゃくちゃ駄々を捏ねた。これにはアルファを含めた他のメンバーも苦笑しており、シャドウに関しては「慕われてて良かったじゃないか」といい笑顔で言ってくる始末。とりあえずデルタには次帰ってきたら何でも言うことを聞く、というのを条件に何とか宥めた。

今思うと結構やべー約束をしたと思うが、デルタなら微笑ましい感じで収まるだろう。ちなみにこれがアレクシア様だった場合、恐らく俺の人権はなくなると思われる。やはりアレクシア様は性悪腹黒王女、はっきりわかんだね。

 

……それはともかく、デルタがあそこまで俺に心を開いてくれているとは思わなかった。半年に1度は帰って来れるとは思うけど、うーん、なんかしてあげたいところだなぁ……

 

 

%月^日

 

着替え等は向こうにもあるため荷造り事態はすぐに終わった。

だからデルタのことで何か出来ることは無いかと思い街へ出た。いや、その前に家の人たちにも聞いてみたんだけど「坊ちゃんに春が!?」とあらぬ方向へ勘違いしだしたので誤解を何とか解いてから聞いてみると、あるメイドさんから「街に出てこれだ!って思ったやつを買えばいいと思います」と言う意見が出てそれを実行すべく行ったのだが……めちゃくちゃ時間がかかった。

なんせ、これまでの人生において女性に贈り物とかそういうのをした事がなかったため、どういった物が好まれ、逆に何がダメなのか分からなかった。

結局、何となくピンと来たチョーカーを買ったんだけど……これって大丈夫なの───(文字が激しく乱れている)

 

アルファは人の部屋に音もなく入るのが趣味にでもなったのだろうか。でも、タイミング的には正にベストだったためアルファからの意見を聞いてみたところ、「貴方から貰った物ならあの子はなんでも喜ぶと思うわよ」と言ってくれた。それに感謝しつつも、朝一で出るためデルタにこれを届けるように頼んだ。(直接渡した方がいい、と粘られたが流石に時間が無いため何度もお願いしたら折れてくれた)

 

さて、明日も早い今日は寝よう。次帰ってくるのはまた半年後ぐらいだ。

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

今日はエル様が「いつも修行ばっかだと効率が悪いからピクニックでもしよう」とデルタのことを誘ってくれたのです!たくさんお弁当を作りたいからってことで隠れ家で作ることになったのですが、大変そうだったのでデルタも手伝ったのです!でも、中々上手く出来なくてデルタが作ったサンドウィッチはあまり美味しくなさそうな見た目になってしまったのです……でも、エル様は「料理というのは積み重ねだからね。これから練習すれば美味しそうな物を作れるようになるよ。俺も時間がある時は教えてあげるからさ」と頭を撫でながら言ってくれたのは嬉しかったのです。

 

その後はデルタのお気に入りの場所でお弁当を食べたのですが、エル様が作ってくれた料理は全部美味しかったのです!その後、デルタはお日様が暖かくてそのまま寝てしまったのですが、とても心地よかったのです!

 

また行きたい!と思っていたのですが……

 

 

「え……エル様行っちゃうのですか……?」

 

「うん、これ以上休む訳にもいかないからね」

 

次の日、エル様が王都に行ってしまうという話を聞いて、デルタは足元が崩れるような感覚に襲われたのです。

エル様は王族の従者になって王都で色々情報を集めている、とアルファ様から聞いていたのでいつかは戻ってしまうというのは分かっていたのですが、いきなりすぎなのです。

 

──まだエル様とたくさん修行したい。

──エル様にたくさん褒められたい。

 

 

 

──エル様とまたピクニックに行きたい。

 

 

そんな想いがどんどん込み上げてエル様にしがみついて「行って欲しくない」と駄々を捏ねてしまったのです。エル様はそんなデルタのわがままに呆れる様子もなく、頭を撫でながら「今度戻ってきたらデルタの言うこと何でもしてあげるから、それまで我慢できる?」と優しい声で言われて、それでやっと落ち着くことが出来てデルタはエル様から離れました。

エル様は小指を出して「約束しよう」ということでゆびきりげんまん?っていうのを教えてデルタとやってくれたのですが、流石に針を千本もエル様には飲ませたくなかったので、そこのところを「沢山遊んでもらう」に変えたのです!エル様は驚いた顔をしてましたけど、すぐに笑みを浮かべて「デルタらしいね」と言って約束を交わしてくれたのです。

 

その日は笑顔でエル様と別れることが出来たのですが、段々寂しくなってエル様が王都に戻る日にはつい泣いてしまったのです。

でもその時丁度アルファ様がやってきて、「エルから貴方にプレゼントよ」と紙袋に入ったものをデルタに渡してくれました。

 

エル様からのプレゼントと聞いてすぐに開けてみると、そこには首輪があってちょっと不思議に思ってると、アルファ様が説明してくれたのです。

この首輪みたいなものはチョーカーというアクセサリーのもので、エル様がデルタが寂しくないようにと街でたくさん時間をかけて考えて買ってくれたもの、というのを教えてくれたのです。

 

エル様は優しくて温かい人ですが、なんかずるいです。

 

デルタは今日もエル様のチョーカーを付けて修行を頑張るのです!!

 

 

 

*****

 

 

 

一方でルイスは仕事先で自分に宛てがわれた部屋にて。

 

あ、アレクシア様……?

 

「あっ……」

 

い、一体何を……?

 

自分のベッドの上で布団にくるまる主を見てドン引きしかけていた。

 




やりたいことリスト
・アレクシア様をガンガン曇らせて愉悦部員を増やす
・アレクシア様をガンガン分からせて愉悦部員を増やす
・とりあえずルイスにはある花を咲かせてもらう

結論:お前も愉悦部に入らないか?

キャラ紹介

ルイス(エル)
デルタのお陰で完全復活!パーフェクトルイス様だぜ!
プレゼントのセンスのなさはこれまでの人生の年数=彼女いない歴なので救いようがない。
本当はもうちょっといいものを送りたかったが、デルタの性格とかを考えるとブレスレットは邪魔になりそうだし、ネックレスもなんか邪魔そう、と悩んでいたところチョーカーが目に入り、なんとなく購入という経緯がある。
帰ってきたら主が奇行に走っててガチ困惑中。

デルタ
ルイスのことをめちゃくちゃ慕っているワンコ系女子。
ピクニックの件で料理を練習することを決意し、頭に?マークを浮かべたり、やりすぎて怒られたりしつつも諦めず特訓中。周りも経緯を知っているため協力している。
最近、首元のチョーカーを触って幸せそうにする姿がよく見かけられる。
ルイスの膝枕は彼女曰く「凄い寝心地良かったのです!」とのこと。

アレクシア様
帰ってくるとは思ってなかった従者が帰ってきて混乱している。

師匠
ルイスがユウトの時、つまり前世で彼に戦いを教えた師匠。彼の戦闘技術はこの師匠の教えが基本となっており、もしこの人が師匠でなかったら自分はすぐに死んでいた、と言うほど。

最終的にユウトは魔族側の幹部である半人半魔の彼女と死闘を演じる。結果的に勇者パーティとポチすけの助力もあって彼女の願い通りユウトは自身の手で彼女を殺した。


p.s.スラムダンクの映画見たのですが、めちゃくちゃ良かったです。久しぶりにバスケしたくなってきましたよ……(万年ベンチウォーマー)


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番外編:アレクシア・ミドガルの日記

というわけで書きました。

一応プロット事態は用意してたので、出来たのですがくどい部分があったため削ったらこんなに短く……ユルシテ


 

%月・日

 

ルイスが無期限の休養の為にここを出てから一日が経った。ルイスがここを出たとお姉さまからか聞いた時、辞めてしまったのかと思ったが、執事長が、あくまで体調と心が休まるまで実家に帰らせた、と説明してくれたためちょっとだけ安心した。

それでも、最初は驚いて中々受け入れられなかった。けど別に私はあいつが居なくても普段通り生活できる、と思っていた。

 

気がついたら私はあいつが休憩時間に入ってる時間帯にあいつを探しに行こうとしてしまったり、勉強中に分からないところがあった時あいつに聞こうとしてしまったりと無意識にあいつがいることを前提に生活してしまっていた。

 

多分あいつが居ないことにまだ慣れていないだけなのだろう。大丈夫、暫くすれば普通に生活できる。だから、寂しいなんてことは無い。あいつはただの従者で、彼の年齢を考えれば長期の帰省だって有り得る話。それが急に来ただけだ。

 

 

%月>日

 

日記を書こうとするとどうしてもあいつのことが浮かんでしまい、書いていなかった。でも、あのバカがいないという違和感が日に日に増していき、ついに我慢できなくて書いてしまった。

 

ルイスは今何をしているのだろうか。もう家に着いて休んでいるのだろうか、それとも性懲りも無く鍛錬でもしてるのだろうか。

そういえば、ルイスは何故あそこまで鍛錬をしていたのだろうか。父親が魔剣士騎士団に所属している、というのを聞いてはいるがそれに憧れて鍛錬しているのだろうか。でも、あそこまで鍛錬する理由にしてはちょっと薄い気がする。

 

……私、ルイスのこと知ってるようであまり知ってないのね。

あいつは、私の本性を知っても主として、一人の人間として見てくれていたのに。

 

 

%月「日

 

やってしまった。

 

 

 

%月」日

 

昨日、つい我慢できなくてルイスが使っていた部屋に入ってしまった。あいつがここを出てから1週間以上経っているはずなのに、ほんのりあいつの匂いがした。

実を言うと、私はあいつの匂いが嫌いじゃない。認めるのは癪だけどあいつの匂いを嗅ぐと何だか心が落ち着く感じがする。他の男性の匂いはあまり好きにはなれないのに、なんでかしらね。

 

そうして部屋の中を見ていく中で特になんの意識もなく、彼が使っていたであろうベッドに腰かけた瞬間、比較的濃い匂いが私の鼻を通った。

今考えてみれば、ベッドというのは寝る場所であってその人の匂いが1番つきやすいところだ。でも、あの時の私はそこまで考えを巡らせることが出来ず、その匂いを嗅いでしまった。

 

そして──(ここから先は黒く塗りつぶされている)

 

 

%月:日

 

一昨日から調子が少し良い。お姉様も「アレクシアが元気になってよかった」と安心したように言っていたけど、そこまで表情や態度に出ていたかしら。

 

今日は特にこれと言って変わったことはなく、ルイスがいないのを除けばいつも通りだった。

 

そういえばルイスの部屋はかなり味気ない部屋だった。生活に必要な最低限のものしかなく、本棚にあった本も歴史学や戦術学といった面白みのないものばかり。あのバカは私が思っていた以上にバカ真面目で、休むことを知らない根っからの仕事人間なのかもしれないわね。

 

……もし、次会うことが会ったらあいつの趣味探しでもしてあげようかしら。そうすれば愛嬌も着くだろうし、何よりあいつの鍛錬癖も直せる可能性があるかもしれないから。

 

早く会いたい

 

 

 

*****

 

 

 

アレクシアはその日、人の目を盗んでまたルイスの部屋に行っていた。ルイスの部屋は定期的に掃除されているため、匂いは殆ど残っていないがそれでも彼女からしたらこの部屋に来ること自体が安らぎとなっていた。

そしてアレクシアはいつも通り部屋にやってきて、少しでもルイスのことを知ろうと本棚にある戦術学の本や歴史学の本を読んでいたが、いくら歳の割には聡明な彼女でもつまらなくなり、読むのを辞める。

 

その後、彼女は決まってベッドの中に入り布団にくるまる。ルイスの匂いはないものの、彼が寝ていたベッドというのもあって安らぎを得ることが出来ていた。

それでも、まだ齢10の子供であるアレクシアにとっては、親しい友人みたいな存在でありながら、ありのままの自分を受け入れてくれたルイスがまだいないという事実はまだ重かった。

 

「早く帰ってきなさいよ……バカ」

 

目頭が熱くなるのをこらえるように、早く彼に会いたいという願いを込めた言葉を呟いたその直後──

 

──ガチャ

 

「え……!?」

 

ドアが開く音がし、その音にびっくりした思わずアレクシアが飛び上がりながらドアの方を向くと。

 

「あー、流石にずっと座りっぱなしは堪え……た……」

 

「え……」

 

待ち人であるルイスの姿があったが、その当の本人は目を丸くして固まっていて、アレクシアもまだ帰ってくるとは思ってなかったため固まる。

 

──ドサッ。

 

あ、アレクシア様……?

 

ルイスが手に持っていた鞄が落ちると、先に動いたのはその鞄を落とした本人であり、引きつった声を出す。

 

「あっ……」

 

アレクシアはそれで今の自分の状態を思い出し、その瞬間体が物凄く熱くなるような感覚を覚える。

 

い、一体何を……?

 

ルイスが口元を引き攣らせながら一歩下がった瞬間、アレクシアは滲む視界の中全力で彼の方へ接近し──

 

 

「忘れろぉぉぉぉ!!」

 

 

その顔面に今の自分が持てる力を最大に込めた一撃を思いっきり叩き込んだのだった。

 






キャラ紹介

アレクシア
ルイスが他の女とイチャコラしてる一方でノーマル路線から外れかかってる。ルイスのことをもっと知ろうと思い始め、お忍びで一緒に王都をまわろうかとも考えている。
ちょい補足:アレクシアがここまでヘラったのは、彼女がまだ幼いということ+自分のことをしっかり見てくれているルイスが自分には何も言わずに(寄りにもよって言ったのは姉)帰ったこと+自分のせいでルイスが倒れたのではという罪悪感、といったコンボを食らっているからです。結論言うと、アレクシアの事を理解しきれてなかったルイスが全部悪いです。

ルイス(エル)
自分の主人が苦労している一方で美少女とイチャコラしてた女の敵。アレクシアのパンチをモロで食らったのは唐突すぎた+顔を真っ赤に涙目で来たことに動揺してたから。乙女の秘密を覗いたからには、とりあえずその腕1本をモギモギさせてもらおうかな。デルタとアレクシア様の前で(愉悦)
あ、一応生きてます。

デルタ
実はエルの匂いを完全に覚えている。


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6冊目

石が……石が……たり……ない……(満身創痍)




 

%月&日

 

ありのままに今日起こったことを書く。

俺は職場に戻って執事長に挨拶をした後、部屋に戻る途中にあったアイリス様と「貴方がいなくなってからアレクシア、ちょっと元気なかったのよ」という信じ難い話を聞いてからフォローでも入れておくか、と思って部屋のドアを開けた直後からの記憶が無い。そして気がついたら、アレクシア様に膝枕されていた。

夢かと思ってもう一度寝ようとしたら「あら、そこまで私の膝枕が気持ちいいのかしら、タマァ?」という嬉しそうな声が上から聞こえてきて、現実だと分かると同時に急いで頭をどかして謝った。

普通に考えてみて主人、しかも王族に膝枕させるとか流石に不敬すぎる。そう思って謝罪をしたのだが、当の本人はちょっと残念そうな様子であった。恐らくもう少し寝ていたらそれを使って無茶ぶりしようと考えていたのだろう、油断も隙もねえなこの王女。

 

とりあえず帰省することを直接報告できなかったことへの謝罪をすると、「誰が主か分かってないようねぇ……罰として明後日私と付き合ってもらうわよ」というありがたいお言葉をいい笑顔で告げられた。

 

俺明後日何をされるんだ……マジで怖すぎる。

 

そういえば、去り際に「部屋に入る時のこと覚えてる?」って聞かれたけど……その時の記憶が無いのはアレクシア様が関連してるってことだよな。気にはなるけど、俺がその考えに至るリスクを考慮した上で聞いたはずだし、その上で聞いてきたということはそれほど思い出して欲しくないことなのかもしれない。

部屋の中を調べた感じからしても、変わったところとかは無かったし聞かなくてもいいか。本人が嫌がるのを分かってるのに聞くほど心狭いわけじゃないし。

 

 

 

°月☆日

 

アレクシア様の従者としての生活がまた再始動した訳だけど、あの人何となく優しくなった気がする。いや、人をペット扱いするのは変わらないのだが、こう言葉の棘と言えばいいだろうか?それが柔らかくなった気がする。

もしかして、俺が倒れたのが影響してる?いや、でも俺がぶっ倒れたのは俺の自業自得だし、アレクシア様が気にする必要ないはずだし……考えるだけ無駄か。

 

そして明日のことなのだが、どうやらお忍びで街に出るとのこと。そして俺はその付き添いという形らしいんだが何でGOサイン出したねん、と思い執事長に聞いたところ、騎士団の何人かは遠くから見守る形で出しておくから安心していいと言われた。

 

うーん、まあそういうことなら大丈夫なのかもしれないけど……念の為スライムスーツとスライムソードを持っていくか?いや、それでシャドウガーデンのことバレたらまずいし……うーん、どうするべきか。

 

 

 

 

****

 

 

 

(結局、何もいい考えが思い浮かばなかった……)

 

そして来てしまった当日、ルイスはアレクシアから指定された集合場所で、寝不足で上手く回らない思考の中ぼーっとしていた。結局、ルイスはシャドウガーデンのことがバレるリスクの方を重視し、スライムスーツとスライムソードを持ってくることは無かった。何処にディアボロス教団の目があるかが分からない現状、持ってくるのを諦めざる負えなかった。

 

もっといい手段があったんじゃないか、とドツボにハマっていたルイスであったが、突如背後から肩を叩かれ反射的に後ろを向こうとした瞬間、頬に何かが当たる。

 

「引っかかったわね?ふふ、こんな単純なことに引っかかるなんて鈍感じゃないかしら?」

 

「はあ。やっぱり、アレクシア様でし……た……?」

 

「どう?似合ってるかしら?」

 

頬に当たったのがアレクシアの指であり、そして古典的なイタズラに引っかかったことをルイスは把握すると同時に、ウィンクを飛ばしてきた主の姿……厳密に言えば服装を見て固まった。

 

端的に言ってしまうと、アレクシアは疎いルイスですら察するほど気合いの入ったオシャレをしていた。

ベストとプリーツスカートを合わせたフレッピースタイルというものを彼女は着ており。色は暗色系の色ではあるもののそれが逆にアレクシアの美しい銀髪を際立たせていた。前世で王族や貴族のパーティーに強制参加させられて華美なドレスを身にまとった美女達を見てきたルイスですら見惚れるほど美しく、そういうのにあまり免疫がない彼はそのまま固まっていた。

 

「……ちょっと、何か言いなさいよ」

 

そしてそれに対して内心穏やかではないのがアレクシアだ。ルイスにデートの約束を取り付けてから、侍女に相談して色々試した上で1番自信が持てた服を着てきた。それなのにその相手は無言でこちらをじっと見てくるだけ。

 

(まさか、似合ってない?いやでも一緒に考えてくれた侍女は似合ってる、って言ってたし……もしかしたらルイスはこういう服装あんまり好きじゃないのかしら……)

 

どんどん悪い方向へ思考が飛んでいき、段々空回りしてしまったのかと不安になったところで、やっとルイスが動いた。

 

「あ、その、ごめん。あまりにも綺麗で、見とれてた……」

 

が、少し吃りながら出た言葉は陳腐な物な上に動揺しすぎて敬語ではないという始末。様子を陰ながら見守っていた魔剣士騎士団の面々も「あちゃー」と言わんばかりに額に顔を当てたり、ため息を吐いて呆れていた。

 

だが──

 

「そ、そう。それならいいのよ。ほら、さっさと行くわよ」

 

「あ、アレクシア様!?」

 

少女にとってはとても嬉しいもので、褒められた恥ずかしさを誤魔化すように彼女はルイスの手を取って歩き出した直後、止まる。そしてルイスの方へ顔を向けると。

 

「今日だけ敬語禁止よ。いいわね?」

 

「え、それは流石にまずいで──」

 

「い い わ ね !」

 

「わ、分かった……」

 

アレクシアの圧に思わず了承の返事をしたルイスはそこではっと気がつくも時すでに遅く、期待した目でこちらを見てくるアレクシアを見て、少しだけ考え──

 

「アレクシア、今日は改めてよろしく」

 

「ええ、よろしく」

 

開き直って彼女の名前を呼び捨てで呼び、呼ばれた当人は純粋な笑顔でそれを受け取って歩き出した──手を繋いだまま。

 

 

 

 

****

 

 

 

それからルイスとアレクシアは王都の街を散策した。ルイスは事前に地図を読んで王都の街をある程度把握はしていたものの、実際に見たことは殆どなく、逆にアレクシアは何度か出たこともあったため、結果的にはアレクシアがいろんな所へ連れていき、それをルイスが見て色んな感想を持つという感じになっていた。

そして、それは普段は主従として過ごしている2人にとっては何のしがらみもなくただの子供として過ごせた珍しい時間でもあった。

 

だからこそ時間が経つのは早い。

 

「もう、夕方なのね……」

 

陽の光は沈みかけ、街並みをオレンジ色に染める。それは夢のような時間が終わることを2人に告げていた。

 

「……アレクシア、そろそろ帰らないと」

 

「……そう、ね」

 

ルイスが控えめに言った言葉にアレクシアは名残惜しそうに答える。元はと言えば、仕事人間なルイスが少しでも楽しく過ごせれば、疲れているのを知っていたのに止められなかったことへのケジメとして思いついたこと。それでも、アレクシアはルイスの色んな表情を、ファッションセンスが残念なこと、実は紳士的なところと多くのことを知れたこの時間は楽しいものだった。

 

本音を言えばまだ帰りたくない。ここで帰ってしまえば本来の関係に戻り、今日みたいに近い距離で雑談できる機会はほぼ無くなるだろう。頭では分かっていても、理解してそれを飲み込めるほどアレクシアはまだ大人ではなかった。

そしてその想いが彼女の足を鈍らせ、表情にも出させた。ルイスはそんなアレクシアの様子を見て前世で出会ったとある国のお姫様を思い出した。魔物と心を通わせることが出来、同時に賢者に到れるほどの頭脳と魔力、そして王族という地位のせいで同年代の子供のような遊びや友人が出来ずに大人になった少女のことを。

 

──ユウトさん……一人の友人として、また私と一緒に遊んで、下さいますか…?

 

同じだ、ルイスはそう思った。あの時、叶わない願いだと決めつけて諦めるように言葉を紡いだ彼女と同じだ。転生しても大人になりきれなかった自分は間違いだと分かりつつもそれを了承し、実際にバレた時はかなり面倒なことになった。そして、今世でも同じことをすればバレた時あの時と同じレベル、もしくはそれ以上に大変な目に遭うのは分かっていた。だとしても──

 

「アレクシア。一つだけ言わせてくれ」

 

「……何?」

 

「確かに今日みたいな日は中々ない、もしかすると一生来ないかもしれない」

 

「……っ」

 

ルイスの現実を突きつける言葉に俯くアレクシア。

 

「でも、だからと言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!」

 

──本当は心優しい少女を自らの保身の為に悲しませる選択肢は取れない。それが、ルイス・エアという人間であった。

 

「あとは誰もいない二人きりの時は今日みたいな感じに接する、とかもいいとは思うけどな」

 

「……ふん、ルイスの癖に生意気よ……ありがとう

 

珍しく生意気な笑顔と共に小声で不敬な提案をしたルイスにアレクシアはいつものような調子で言葉を返し、そして噛み締めるように聞こえないようにお礼を言う。

 

「それじゃ、帰ろっか。遅くなって怒られるのはごめんだしさ」

 

「あ、ちょっと待って。最後に寄りたいところがあるの」

 

「え、マジ?」

 

「マジよ」

 

「えぇ……」

 

時間がもうやばいのを分かってるのか?とルイスが心配になり始め、止めようかどうか悩んでいるところにアレクシアは振り返って。

 

「今日という時間を過ごした証みたいな物を買いましょう?」

 

楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

──その後、門限を少し過ぎてから戻ってきた少年と少女の首元に淡く光るネックレスがかかっていた。

 

 




こういう日常回もいいよね、って話(愉悦部員の皆さんはなんとなく分かってそう)

キャラ紹介

ルイス
前世でも色んな美女とかに会っているのにも関わらず、女性への免疫があんまりない。お出かけの服装は色々察した執事長が用意したものを着ていたため、実はこちらも気合いが入っているような感じだった。ペアルックのアクセサリーを貰ったという事実にあとから戦慄したものの、頑張って軽く流した。

アレクシア様
多分幼い頃はまだ純粋な部分があったと自己解釈したため、まだ原作ほど腹黒性悪要素が出ていない。まるでメインヒロインのようなムーブ……妙だな。ペアルックのアクセサリーを買って貰った事実に帰ってから恥ずかしくなったらしく、ベッドで悶えていた。

魔剣士騎士団の皆さん
今回の犠牲者。目の前でアオハル見せられた彼らは泣いていい。

とある国のお姫様
ルイスがユウトの時に知り合ったお姫様。本文でも会ったように、魔物と意思疎通が出来る上に賢者にもなれるほどの才能を持っており、そのせいで城の外には出ずに英才教育を施されていた。ユウトとは彼ら勇者パーティがその国の王に化けていた魔物を討伐する際に協力し、ユウトとはポチすけを通して仲良くなった。
実は、一人の人間として接してくれたユウトに対して淡い想いを抱いており魔王を倒したあとは想いを告げようとしていた。

ルイスの秘密:4
実はポチすけを預けたのは件のお姫様


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7冊目

レポートと試験勉強で追われてたはずなのに、何で投稿してるんだろう……

それは置いといて、誤字脱字の報告をしてくださった皆様、評価やお気に入り登録、感想をつけて下さった皆様、本当にありがとうございます。


 

°月♪日

 

今日のお出かけは凄かった。

まず、アレクシアがめちゃくちゃ綺麗だった。いや、いつも綺麗だとは思うけど服装も相まって思わず見惚れてしまった。そのせいで感想を言うのが遅れた挙句、敬語が抜けるという大失態を犯してしまったがアレクシアはそれを許してくれて、尚且つ今日だけは敬語はやめて、と頼まれた。めちゃくちゃ不敬だとは思うけど、押し切られて今日1日タメ口で話していた。

 

そこからはアレクシアがいろんな所へ俺を連れて行ってくれた。思えば王都の街並みを今日みたいにゆっくり見たのは初めてだったせいで、子供みたいな反応をしてしまった。今思うとちょっと恥ずかしいが、アレクシアはそれを見て満足そうな笑みを浮かべていたからいいだろう。

 

……そして帰り際、アレクシアの表情を見て俺は前世と同じことを選んだ。よく考えてみれば、どんなに性格が悪くても彼女だってまだ子供であり、今日みたいに同年代の子供と街並みを歩くことなんて今まで経験したことがなかったのだろう。

 

改めて、俺は彼女の友として支えていこうと思う。従者としては勿論だけど、今日アレクシアと一緒に過ごしてこの思いは固まった。元勇者パーティの一員なら心優しい少女一人ぐらい支えてみせないとな。

 

……そういえば、ペアルックのネックレスってよくよく考えてみたらやばくね?

 

 

 

 

°月→日

 

今日の朝、買ってもらったネックレスを付けるべきかめちゃくちゃ迷い、最終的にパッと見では分からないように服の下にしまうような形で身につけた。お陰でアイリス様といった他の人達にはバレなかったまでは良かった。問題はアレクシアと会った時だった。

何と向こうはネックレスをガッツリ見えるように付けていたのだ!そして俺が付けてないように見えたアレクシアは少し落ち込んだ表情を浮かべ、ちょっと目元がうるうるし始めた所で彼女だけに見えるようにネックレスを出して付けているところを見せ、なんで隠しているのかも説明した。

そしたら分かってくれたのか、ほっとしたような表情を浮かべて「隠すのはいいけど、ちゃんと毎日つけなさい」という命令を頂いた。

どうやらアレクシアにとって昨日の時間の証であるネックレスはかなり大事なものみたいだ、これからはしっかり付けておこう。

 

なお、2人きりの時でも敢えて敬語で話していたら、なにか言いたそうにモジモジしているアレクシアは結構可愛く、ついからかってしまった。結果として顔を赤くしながら「タメ口で話しなさいよ!」と怒られてしまったが、普段からあれぐらい愛嬌あればなぁ……

 

 

°月¥日

 

アレクシアとアイリス様の剣は対極にあるものだ。アレクシアは才能がないなりに努力を積み重ねた努力の剣で、アイリス様は才能を存分に活かした才能の剣。

誤解しないで欲しいのは、アイリス様が才能にかまけて努力をしていない訳では無いということで、むしろ常人以上に鍛錬をしている。その賜物か、今の段階で彼女は並の魔剣士程度なら年上でもコテンパンに出来るほどの実力を持っている。

 

だからこそ、あの二人は比べられている。

今日の剣の稽古で俺が忘れ物を取りに行ってる最中の廊下で、使用人たちがアレクシアのことをアイリス様と比べて蔑んでいたのを聞いてしまった。もしかしなくても、アレクシアの性格があの歳で捻り曲がっているのはこれが原因なのではないかと思う。本当であれば、実際に聞いてみることなのだがこれはかなりデリケートなところだ。変に踏み込んで彼女を傷つける訳にはいかない。

 

今、俺に出来ることは彼女のガス抜きに付き合うことぐらいしかない。まあ、それは別としてあの使用人たちには腰が抜けるほどの殺気をすれ違いざまにぶつけてやった。()()()()をバカにされて大人しくできるほど俺は我慢強くないんで。

 

 

1週間ほどアレクシアとどんな話をしたのかというのを中心とした内容が続く。

 

 

°月$日

 

今日はアレクシアが風邪を引いたのでその看病をずっとしていた。

朝になっても起きてこないのが不安で周りが止めるのを聞かずに部屋を開けてみれば、咳をして寝込んでいるアレクシアの姿。すぐに彼女のおでこに手を当ててみれば、熱が出ているとすぐに判断できる程に熱く後を追ってきたメイドさんに急いで医者を呼ぶように指示を出し、その間に俺は執事長に事情を説明、水が入った桶とタオルを準備してもらって医者が来るまで水を絞ったタオルを彼女の額に置き、熱くなったらまた水につけて絞ったら額に置くを繰り返した。

 

数十分後にはかかりつけの医者が来てくれ、診断結果は季節の変わり目が原因と思われるただの風邪だった。それにほっとしつつも基本的な世話は俺がすることになった。流石に着替えや体を拭くのはメイドさんに任せたが。

そして本来は部屋に戻っている時間にも関わらず俺はまだアレクシアの部屋にいる。何故かと言うと、日記を書く1時間前に起きた彼女が小さい声で「おいていかないで」と言って俺の服の端を掴んでいるからだ。

 

……あの「おいていかないで」は恐らく俺に対してではなく、アイリス様に対してだと思う。2人は仲のいい姉妹で、楽しそうに話しているところや剣の稽古をしているところを見たことがある。でも、才能という不公平な物が2人の距離を少しずつ離していて、それが先程の言葉となって出たのだろう。そして、その気持ちは俺もある程度は分かる。

 

先程様子を見に来た執事長に事情を説明してここで一晩過ごす許可は出たので、今日はこの状態で寝ようと思う。俺が傍にいるだけでも多少マシにはなると信じて。

 

 

 

……ちなみに、ご飯を食べさせている時のアレクシアはかなり可愛かった。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

「待って!お姉様、待って!!」

 

───少女はひたすら走っていた。遠くなっていく、尊敬していて大好きな姉の後ろ姿に追いつきたくて必死に手を伸ばし、声を出しながら走っていた。しかし、姉は止まることも無ければ振り返ることすらせずどんどん進んでいき、距離はさらに離れていく。

 

「待って……きゃっ!」

 

それが嫌で少女は足をもっと動かそうとするも疲れで足の動きは鈍く、遂には転んでその場に倒れてしまった。痛みに顔を顰めながら前の方を見ると、そこに先程まで追っていた姉の背中は豆粒のように遠く追いつけないことが嫌でもわかった。

 

「お姉様……」

 

何で私はお姉様に追いつけないのだろう、どうして私に才能がないのか、どうして周りは自分と姉を比較してくるのか、そんな想いが彼女を蝕んでいく。そして口から弱々しく───

 

「おいていかないで……」

 

諦め半分でその言葉を出した時、急にその腕を掴まれたかのような感覚をした。驚いてそちらを見れば、自身の従者である少年が心配そうな目付きで立っていた。

 

「あっ……」

 

───立てるか。と言われたかのような感覚を覚えながらも、少女は彼の手を借りて立ち上がる。少年はそれを確認すると彼女の方にいつの日か見せた優しい笑みを向けながらゆっくりと歩き出す。

 

それが、少女───アレクシアにとってはとても心地よく、そして少年の顔を見ながら隣に立つように歩き出し───

 

 

「………」

 

アレクシアは気がついたら起きたらいつも見る天井を見ていた。何か大事な夢を見ていたような気がするが、どんな内容だったかは思い出せない。

 

(……そういえば、風邪を引いて寝てたんだっけ)

 

アレクシアは朧気に覚えている記憶を手繰り寄せて自身の状態を思い出す。今は風邪特有のだるさや喉の痛みなどはまだ残っているものの、かなりマシになっている。とりあえず、体を起こそうとして自身の右手を誰かが握っていることに気がついた。誰なのだろう、と思い右側を見ると。

 

「ルイス……?」

 

「スー……スー……」

 

静かな寝息を立てながら椅子に座っている大事な従者の姿。自分のおでこにタオルが置いてあることから、ずっと自分のことを看病してくれていたのだろう。その事にアレクシアはバカ真面目な彼に呆れると共に、仕事だとしてもずっと傍にいてくれたことに嬉しさを感じ笑みを零す。

 

「本当、バカなやつね……」

 

アレクシアは嬉しそうに呟きながら、滅多に見ることの無いルイスの無防備な寝顔を彼が起きるまで見ていたり、頬をつついたりと好き放題するのだった。

 

……なお、この後ルイスにも自分の寝顔を見られていたということに気が付き、恥ずかしさで赤面するまであと1時間。




まだアレクシアの脳みそを破壊するタイミングじゃない……だから我慢しろ、ワイの指……!

Q.アレクシアは装飾品を付けるのを好まないのになんで付けてるの?
A.幼少期の段階ではまだそこまでストイックじゃないのでは?と思ったため。

キャラ紹介

ルイス
実は我慢弱い男であることが判明。アレクシアのことは分からせ対象とは思いつつも、彼女のことは大事な人認定している。ちなみに2人きりの時になると、決まって最初は敬語で話してアレクシアが恥ずかしそうにタメ口で話せ、と言うまでからかうのが最近のマイブーム。

アレクシア様
ルイスのことを夢で見ちゃうぐらいには彼のことを意識しているのが現状。なお、彼女の中ではまだ彼のことを異性としては意識していない、異性としては。でも見られて恥ずかしいものは恥ずかしい。ルイスの頬は思ったよりつつきがいがあったとのこと。


ルイスの秘密:5
実はずっと乙女座。


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8冊目



お気に入りがとんでもねえことになってたので気合い入れて頑張りました。ストックもうないけど頑張るしかねえよな!?愉悦を届けるために俺は止まらねえからよ……


 

°月・日

 

アレクシアが風邪をひいてから1週間経ったが、今日でようやく本調子になったみたいで久しぶりのペット扱いに安心感すら覚えた。まあ、そんな彼女だがなんか距離が近くなった気がする。

こう、なんて言えばいいのだろうか……ボディタッチが増えた感じもするし、話してる時も前より遠慮が無くなった、はなんか違う。本当に上手く表現出来ないんだけど、とにかく距離が近くなった気がする。しかも顔がいいせいでちょっとドキドキする。もし、分かった上でやってるとしたらとんでもねえ奴だ。勘違い少年が大量発生して、そこから万が一が起きる前に男は怖いってことを分からせておくべきか?

 

そういえば、アイリス様とも話す機会が増えた。何でもアレクシアの本性を知っているのにも関わらず、普通に接している俺のことが気になった、ということなのだが……何故だろう、クレアさんと同じ気配がした。どうか、これが気の所為であって欲しい。頼む、シスコンは2人も要らない。

 

 

°月+日

 

思い立ったが吉日、というわけで早速アレクシアに男は狼になる怖い生き物ってことを分からせるために頑張った。とは言っても、異性にモテたことが無ければ、そういった雰囲気になったことも無かったためとりあえずそれっぽいことをしてみた。

具体的には距離を詰めて何か言い出したら誰もいないのを確認した上で、壁ドンして耳元で「そういう思わせぶりな態度は勘違いされるぞ?」っていう感じのことをめちゃくちゃ恥ずかしかったが囁いてやった。が、「勘違いって何かしら?」とからかいとかそういうの無しでの純粋な疑問が飛んできたため、教えてやったらニヤニヤして「ルイスったらそんな目で私のことを~」と小馬鹿にする感じで言い出したので、「それはない」と即答したらグーパンが飛んできた。女子って分からねぇ……。

 

まあ、とりあえず当初の目的である勘違い云々は分かってくれたと思うし、大丈夫だろう。アレクシアは性悪ではあるが、馬鹿じゃないからな!

 

 

°月×日

 

どうして効果が全くないんですか?というか、寧ろ余計に悪化したと思う。あれか、俺が即答したのがそこまでムカついたのか?乙女のプライドが許さない的なアレか?

一体俺はどうすればいいんだ……

 

まあ、これに関しては未来の俺がどうにかしてくれると信じて別のことを書こう。

実は、今日シドからの手紙と共にデルタからの手紙が届いたのだ。文字はちょっと乱雑で読みづらかったけど、内容を読まなくても元気そうということが分かった。

内容としてはアルファに手伝ってもらいながらこの手紙を書いたこと、俺との修行を参考に休む日をちゃんと入れていること、料理は難しくて大変だけど俺に美味しい物を食べて欲しくて頑張っていること、そしてチョーカーは毎日つけて大事にしているというものだった。

本当に元気そうで安心したし、料理を学ぼうと頑張っていることは驚いたし、調味料とかを入れすぎてアルファにため息をつかれているところがありありと浮かぶ。何より、チョーカーを気に入ってくれたようで本当に良かった。

そういえば、前世でもあの姫やユラはネックレスとか首に付けるものを買おうってよく言ってたな。もしかして女性って首元のアクセサリー類を好む傾向にあるのだろうか?アレクシアもネックレスだったし……いや、もしかしたら俺の周りにたまたまそういう人が揃ってるだけかもしれない。

今度、アレクシアにでも聞いてみるか。

とりあえず返事の手紙はこっちも元気にやれていることと、王都をアレクシアと回った時に連れていきたいと思ったところがあったから機会があれば行こう、って感じにするか。シドの方は……乙女心分かるかどうかって感じにするか。もし分かるならぜひご教授して欲しいし。

 

……アレクシア、途中から様子がおかしかったけど大丈夫だろうか。聞いて欲しくなさそうだったからあの時は聞かないでおいたけど、強引に聞くべきだっただろうか。

 

 

 

****

 

 

 

私はお姉様のことが好きだ。でも……

 

「ルイス、最近アレクシアと仲がいいようだが詳しく聞いてもいいかな?」

 

「あの、アイリス様?なんで腕をがっちりと掴んで……距離が近いです!」

 

ルイスと仲良くしてるのを見ると胸がムカムカしている気分になる。いや、お姉様に対してデレデレしているルイスもルイスだ。あのバカは私の従者っていうのを分かっていないのかしら?

それがムカついたため腕を掴んでみたり、ちょっとした時に体を寄せてみたりしてみたが、当の本人は「アレクシア様、はしたないですよ」だの「アレクシア様、もしかして熱でもあります?」と言う始末。

 

……決めた、あいつが私にデレデレするまで色々試してやる。

 

そう決意した次の日、早速周りに誰もいないタイミングでルイスの腕に自身の腕を絡ませた。すると、ルイスは周りを少し見渡したあと私のことをぐいっと引っ張って壁に優しく私を寄りかかせると、壁に手を当てた。

 

「へ?」

 

突然のことに目を白黒させていると急にルイスの顔が近づいてきた。え?ちょっと待って、これってもしかして……!?

 

「アレクシア。そういう思わせぶりな態度は男を勘違いさせるからもうやめておけ」

 

「!?」

 

耳元で囁かれるように言われたことに驚き、思わず体が強ばる。想像したこととは違ったけど、ルイスを犬扱いしてる時とはまた別の感覚が走って困ったけど……男を勘違い?

 

「ねぇ……その男を勘違いってどういうことなの?」

 

「は?」

 

「いや、だからルイスが言っていることの意味がわからないのよ」

 

「……マジ?」

 

「マジ」

 

私の反応が予想していたものと違ったのか、ルイスは急にうんうん唸り出して説明を始めた。曰く、私がとっていた行動は「自分って実は好かれてるのでは?」と男性側が勘違いしてしまうようなものばかりで、将来的にややこしい事態になるのを防ぐためにもやめた方がいい、ということ。

最初は何を言っているんだ、と思ったがやけに真剣な表情で言われたためとりあえず頷いてはいたんだけど、そこでふと思う。態々注意してきたということは、ルイスはもしかして私のことをそういう目で見ているんだろうか。

興味も湧いたし、上手く行けばこれでルイスをからかえると思い私は自分でも分かるぐらい口元が緩んだのを自覚しながら。

 

「ルイスったらそんな目で私のことを見てた───」

 

「いや、それはない」

 

言い切る前に断言しやがったことにムカついたので、思いっきり殴ってやった。

 

 

そして次の日。

 

「……なあ、アレクシア。昨日話したこと覚えてないのか?」

 

「覚えてるわよ。あなたが私のことを全く意識してすらないってこともねぇ?」

 

私はルイスとの距離を改めなかった。ここであいつの言う通りにしたら、なんか負けた気分になるし、何より自分のことを意識してない事実がとてつもなく腹が立ったのであいつが反応するまで続けてやることにした。

 

「……頼むから離れてくれ。手紙が読めないんだ」

 

「何?私よりも優先するの?」

 

「はいはい、分かったよ……」

 

自分でも理不尽だと思う発言をルイスは軽く流しながら、手紙を懐にしまう。そういえば、こいつと手紙をやり取りしている人物は誰なのだろうか。幼馴染とは聞いていたが、性別までは聞いていない。ここまでこいつが嬉しそうにするってことは、さぞ仲良しな───

 

 

 

 

 

ズキン

 

 

 

 

「……っ」

 

「?アレクシア、どうかしたのか?」

 

「い、いや。なんでもないわよ」

 

突然胸に鈍い痛みが走った。それで思わず声が出てしまったのか、ルイスがすぐに私の心配をしてくれたものの、反射的になんでもないと返してしまう。念の為、胸を触ってみるがどこも痛みを感じない。それじゃあ今の痛みは一体……?

 

「……ならいいけど、あんまり溜め込むなよ?話ならお前が話したいと思ったタイミングが来たら聞くからさ」

 

「……ええ、そうするわ」

 

ルイスがこう言う時は、大抵気づいていながら私が話したくないのを察してくれたことを意味している。本人は意識してないのだろうけど、話したい時は強引にでも聞いてきてくれるし、逆に話したくない時はすぐに引いてくれている。半年もいればこれぐらいのことは分かる。これに関しては向こうも同じことだろうけども。

 

結局、その日はあの痛みの原因は全く分からなかった。

そしてルイスがあの手紙を読んで私が見たことない表情を浮かべているところ、私やお姉様以外の女子と楽しそうにしている想像が頭から離れず、胸がただ痛くて、私は滲む視界の中一緒に買ったお揃いのペンダントを胸に抱えこむように握りながらベッドの中で丸くなった。

 




泣いちゃった!!

キャラ紹介

ルイス
女の敵。羞恥心は人並み以上にちゃんとあるし、性欲とかもちゃんとある。ロリコンになりかけているがまだ耐えている。主人が泣いている一方でデルタと次に会うのを楽しみにしているアホ。

アレクシア
恋というのをよく分かってないからそれに翻弄されている。苦しいよね?大丈夫、将来的にはその苦しさの方が良かったと思うほどの絶望が待ってるから楽しみにしててクレメンス。

アイリス
一方その頃、彼女は下手すると自分よりも妹と親しくしているルイスに嫉妬していた。

シド
ルイスからの切実な返事を見る+死んだ目で手紙を書いているルイスの様子が唐突に浮かんで腹を抱えて笑うことになる。

デルタ
待て!をずっと言われ続けてる状態。

ルイスの女性への知識:前前世がほぼ皆無なため、前世の知識で構成されている。

実はお姫様とシーフのユラに折角だからとお手製のネックレスをお守りとして作って渡していた。そのネックレスには強力では無いものの、魔除けや対呪いの効果がある魔法が込められていた。



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9冊目

日間ランキングに入りました。これも読んでくださったり、誤字脱字報告をしてくださる皆様のお陰です、本当にありがとうございます!

お礼として出来ることはせいぜい早く投稿するぐらいしかできないのですが……これからもよろしくお願いします。

あと時が飛びます。時系列的にはクレアさん誘拐事件発生約1年前ぐらいです。


 

・月÷日

 

デルタからの初めての手紙に返事を出してから4ヶ月程が経った。

あの子はどうやら俺との文通にハマったらしく、月に2回の頻度で手紙を出すようになった。それ自体は個人的には喜ばしいことだし、デルタからの手紙は読んでいる身としては微笑ましく感じる。

しかし、問題はアレクシアが俺が手紙を受け取る度に傷ついているかのような表情を浮かべることだ。気がついたのは2ヶ月前に手紙が来たことをメイドさんから教えて貰った時、メイドさんの後ろで目を見開いて茫然としているアレクシアを見たからだ。以来、なるべく彼女の前では手紙の話をしないように気をつけてはいるのだが、運悪く聞かれてしまうことがあり……といった感じだ。

 

色々考えたが、もしかしたらアレクシアは自分以外で俺と親しくしている人物がいることにショックを受けているのかもしれない。いや、自分でもかなり自意識過剰な考えだとは思うが、俺という存在はアレクシアからしたら初めて出来た同年代の友人ということを考えるとあながち間違いではない気がする。

 

だからといって俺が出来ることが思いつかないのも事実。手っ取り早いのは、シドやデルタ達のことを紹介することなのだが、これをやってシャドウガーデンのことが世間に露見したら色々と面倒くさいことになるのは明白だ。

 

……だめだな、今もこうして考えているがいい案が出ない。アイリス様に相談してみるのも手かもしれないな。

 

 

・月<日

 

アイリス様とアレクシアを比較して、アレクシアを蔑むようにコソコソ言う奴らは結構いる。これに関しては腹立たしいと感じるし、陰口を叩くのも許せないがまだ分かる。だが、あの野郎共アレクシアが近くにいるのにも関わらず言いやがって!

あいつは気にしてない様にしていたけど、肩が震えていたのを俺は見逃せず、本当はあの馬鹿共にそれ相応のことをしようと思ったがそれを抑えて彼女の手を取って、今となってはお約束の場所となった俺らだけの隠れ場所に連れていった。

 

突然のことにアレクシアは驚いていたし、途中どこに行くのか聞かれても俺が無言だったせいで怖がらせてしまったのか少し怯えてしまっていた。それに申し訳ないと思いつつも、彼女を抱きしめ優しく背中を叩いた。アレクシアは普段の言動から発散出来る側の人間だと勘違いされがちだが、本当は溜め込みやすい。そして少しでもそれを何とかしたいと思って、つい前世でレイにやったことをやってしまったが、アレクシアは「バカね」と言いつつも声を押し殺して泣いた。

 

泣ける時に泣いた方がいい。泣くことは決して悪いことじゃないから。

 

 

 

・月=日

 

今日何とか時間を見つけてアイリス様と話すことが出来た。が、あの王女様もどうしたらいいか分からないということで2人でうんうん唸る羽目になった。結局、もう1回2人でお出かけとかしてみたらどうだろうか?という話になったのだが、自分はともかくアレクシアは王族だ。そんな簡単にホイホイ外に出ることが出来る訳では無い。しかし、これ以外思いつく手段がないのも事実。

 

帰省するまであんまり時間ないし、マジでどうしたものか。

 

それはそれとして、なんかアレクシアが俺と顔を合わせる度プイッと顔を背けていた。うーん、やはり前世と同じ感覚でやったのが間違いだったか……?いやでも、あそこで何もしないなんてことは出来なかったし……

 

まあ、未来のことは未来の俺に任せよう!今日は寝る!!

 

 

 

****

 

 

アレクシアにとってルイスという人間は、姉以外に初めて出来た「素」をさらけ出せる人物でありながら、自分を『アイリス王女の妹』としてではなく『アレクシア・ミドガル』という一人の人間として見てくれた、初めての友人である。そう至るまでにアレクシアはルイスの色んな表情や性格を知り、自分だけが彼のことを沢山知っていると思っていた。

 

───しかし。

 

「ルイスくん。またお友達からお手紙が届いているわよ」

 

「態々ありがとうございます。全く、結構な頻度で送ってきて……」

 

自分には向けられたことの無い、別の優しい笑みを浮かべるルイスを見てアレクシアは前に感じたような痛みとともに胸に穴が空いたかのような感覚に襲われた。恐らく、いや確実にその人物は自分が知らないルイスを知っている。下手をすれば、自分だけが知っていたと思っていた彼を既に知っている可能性だってある。

そのことにアレクシアは毎回胸に走る鈍痛を無視して、ルイスの前では普段通りに接していた。

 

だが、ある日アレクシアは自身に向けられている悪口をルイスにも聞かれてしまった。普段であれば思うところはあっても聞き流せていたのに、それをルイスにまで聞かれてしまったこと、そして今まで耐えていた分が積み重なっていてそれが無意識に体に出てしまっていた。

 

「アレクシア、ちょっと来て」

 

「は?ちょっ、ルイス?」

 

アレクシアは人がいる前にも関わらず、敬語で話さなかった上に自分の手を力強く握って強引に歩き出したルイスに困惑した。

 

「ちょっと!いきなりどうし───」

 

「……」

 

「……っ」

 

ルイスに行動の意図を聞こうとしたところで、怒りの感情を隠しきれていない彼の目を見て思わず息を飲む。無論、アレクシアとてルイスに怒られたことはあるが、必ず柔らかい部分は残っていたし、寧ろ温かさがあった。

それが今はどうか、まるで鋭利な剣を連想させるかのように鋭く、そして冷たい目をしているルイスは初めてだ。アレクシアはその事に少し恐怖を覚えていると、急にルイスは立ち止まった。

 

ここが目的地なのだろうか、と思い周りを見渡すとそこはルイスが休憩時間に鍛錬をしているところで、ここはアレクシアを除いて知ってる人はいない正に秘密の場所だった。

 

「……ルイス、私をここに連れてきて一体何を───」

 

言葉は続かなかった。何故なら急にルイスがアレクシアを優しく抱きしめたからだ。突然のことにアレクシアは戸惑うと共に、このままではまずいと感じルイスから離れようと彼の肩に手を当てようとする。

 

「アレクシア、我慢しなくていいんだ」

 

「……っ!」

 

その前にアレクシアを労わるような優しい声が彼女の鼓膜を揺るがす。息が詰まりそうになったところでルイスは彼女の背中を優しく叩き始める。

 

「辛いなら泣いていいんだ。じゃないとアンタの心が保たなくなっちまう……ここの周りはあまり人が来ないし、音も聞かれづらい。だから今だけは我慢するな」

 

「……バカな、やつね……」

 

限界だった。

 

「……うん」

 

「ほかに、ひとが、いるのに……よびすてで、よんで」

 

「……うん」

 

「あげく、ごうい、んに、つれだして」

 

「……うん」

 

「あとさき、かんがえ、なさいよ……このバカ……!」

 

アレクシアは精一杯の抵抗としてルイスに悪態をつきながら静かに涙を流した。そして同時に、ルイスという人間の長所(短所)がわかった気がした。

 

そしてその夜。

 

(もしかして、私って結構凄いことされたんじゃ……!?)

 

ベッドの中で今日ルイスにやられたことを冷静に思い返したせいで、恥ずかしくなって悶える羽目になった第2王女の姿があった。

 




(あれ、これキャラ崩壊してね……?)

キャラ紹介

ルイス
主君であるアレクシアを別方面で分からせかけてる罪深い男。少しでも自分がアレクシアの支えになれれば、と日々色々考えている。何がとは言わんが、いい匂いはするが、柔らかいわであんまり眠れなかった。もうすぐ帰省予定。

アレクシア
ルイスのせいでタカが外れかけてきている。段々自分がルイスに抱いている気持ちがなんなのか無意識ながら分かりかけてきている。羞恥心で暫くルイスの顔をまともに見れなくなる。


勇者としてのプレッシャー+魔法が苦手なことで周りから心無い言葉を投げかけれていたことで潰れかけていたレイをアレクシアにやっていたようによく慰めていた。だからこそルイスは今のアレクシアを放っておくなんてことは出来なかった


ルイスの秘密:6
実は感情を抑えるのが苦手。

そろそろ我らが第4席が再登場です。


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10冊目

愉悦部の入部した人はどれだけ増えたんでしょうか。

そして誤字脱字報告して下さり本当にありがとうございます。


 

・月々日

 

アレクシアの調子がおかしくなってから4日経ったが、一応完全にとは言えないが元に戻った。これに関しては良かったが、何故か休憩時間中に例の場所で恒例の金貨投げをやった後にハグを要求してきた。

 

どうして……

 

まあ、息抜きになるならいっかということでハグをしたのだが……そのアレクシアって結構な美人だし、めっちゃいい匂いするし、なんか柔らかい。前やった時はそういうの全く意識なんてしてなかったから、自分でも分かるくらい心臓の音がやばかった。そしてそれが密着しているせいもあって向こうに伝わっていたらしく、途端にアレクシアはニヤニヤしだして「心臓の音がすごいわよ?まさか私の事意識して~」とからかい出した。ちょっとイラッとしたので耳元に息を吹きかけてやったら可愛い悲鳴を出してくれたので、それでからかい返して分からせてやった。お陰で「何すんのよ!この変態!!」という有難くとも何ともない言葉を頂いたが。

 

てか、今思ったけどアレクシアを分からせたのって今回のが初めてな気がする。まあ、これまでを考えると分からせるタイミングもなければ隙もなかったから仕方ないのかもしれない。次はどうやって分からせようか……思いつかないし、暫くはハグした時にカウンターする感じでいっか。

 

 

・月〆日

 

明後日には朝一でここを出て実家に帰ることをアレクシアに伝えるのを忘れていたため、話したのだがそれ以降彼女は何かを考えるように黙り込むことが多かった。教えるの遅かったと思い謝ったのだが、反応的に恐らくそれが原因では無いのが確かだ。

そうすると何を考えていたのか、もしくは何が原因だったのかということになるのだが……さっぱり分からなかった。

 

ただ今日もハグはした。3度目の人生だというのに女性への耐性がないことに色々悲しくなる。本当に顔がいいって卑怯だと思うし、何でアレクシアは何ともないんだよ!俺は相変わらず心臓バクバクだっていうのに!!

あと人の匂い嗅ぐのはやめてくれませんかね?気づかれてないと思ってるだろうけど、「スーハースーハー」めっちゃ聞こえてるんだよ。言ったらろくでもないことになるのが何となく予想出来たからスルーしたけど、注意した方がいいのかな。未来の旦那様相手にそんな事して引かれたりしたら目も当てられんし……うーん。

 

とりあえず暫く様子みて、あまりにも酷そうだったら覚悟を決めて直しに行くしかない。アレクシアをノーマルのままに留められるかは俺にかかってるわけだし、頑張らんと。

 

・月^日

 

今日はいつになくアレクシアとの距離が近かった気がする。ハグの時間もなんかいつもより長かったし、俺がもう離していいかって聞いても「まだ」と言われて休憩時間終わるギリギリまで粘られた時は死ぬかと思った。

理由を聞いても「別にいいでしょ」と一蹴され教えて貰えなかった……アルファあたりに聞けば分かるだろうか?いや、アルファとアレクシアの思考回路とか感じ方は違うだろうから一概にそうとは言えないな。

 

考えても仕方ないし、これは未来の俺が何とかすると信じて今日は寝よう。明日は朝イチで出ることになってるし。

 

 

 

****

 

 

 

コンコン

 

「ん?」

 

日記を書き終わったところでノック音が部屋に響きわたる。時刻は21時を回った頃で今までの経験上、尋ねてきた人物が誰なのか、そしてその理由は分からなかった。だが分からないにしてもすぐに対応しないのは流石にまずいと思い、ルイスは日記を閉じてからドアを開けに行った。

 

「はい、どなたです──」

 

「こんばんは、ルイス」

 

「……」

 

──バタン

 

ルイスはドアを閉めた。多分これは夢であるか、もしくは疲れて幻覚を見ているかのどちらかだろう。ルイスはそう思ってベッドに向かおうとしたが、念の為もう一度ドアを開けた。

 

「………」

 

「ルイス?私の顔を見た瞬間閉めるなんて──」

 

──バタン

 

──バン!!

 

「あんた……いい度胸してるわねぇ……?」

 

──あ、俺死んだかも。

 

開かれたドアの先で青筋を浮かべながら笑う主を見てルイスは他人事のようにそんなことを思った。

 

 

──そしてその数分後。

 

「…………」

 

「…………」

 

同じベッドで背中合わせの状態で寝ているルイスとアレクシアの姿がそこにあった。

 

(いや、こうはならんやろ!!)

 

ルイスは現状に対してそう思いつつも何でこうなったのかを改めて考える。並々ならぬ怒気を伴いながら入ってきた、と思いきや「眠れないから一緒に寝させて」と唖然とするルイスを無視して堂々とベッドに入るアレクシア。そんな彼女は現実を受け入れられずに固まるルイスを見て「早く入りなさいよ」と声をかけ、そしてそれでやっと気がついたルイスは言われるがままにベッドの中に入った。

 

(流石に今から追い返すのはまずいし、とりあえずなんで来たのか理由聞くべきか?)

 

「……何も聞かないで」

 

ルイスがアレクシアの不可解な行動の理由だけでも聞こうと思ったところで、彼の後ろから震える手が回されてそのまま抱きつくような体勢になったと同時に弱々しい声が聞こえてきた。

 

「アレクシア?」

 

「…………」

 

どういうことか、という意味で名前を呼ぶも帰ってくるのは無音。それが意味することにルイスは軽く息を吐いてから体勢をアレクシアの方に体を向けるように変えて片手は彼女の背中に回し、残った手は彼女の頭を優しく撫でた。

 

ルイスはアレクシアが何故来たのか、というのをもう聞かないことにした。彼女が言いたくないというのなら無理に聞きたくは無いし、こうすることで彼女の心が安らぐならいいだろうと思っていた。

そして同時に、本当に彼女のことを支えられる存在が出来るまでだろうとも考えていた。従者である自分はいつまでもアレクシアの隣にいられる保証は無いし、それに将来的にふさわしい男と彼女は人生を共にすることになる。それにシャドウガーデンのことやディアボロス教団のことを考えると、表の世界から姿を消して裏の世界へこの身を入れる可能性だってある。だからこそ、ルイスはアレクシアのことを支えられる人物が早く現れることを祈り。

 

「……大丈夫だアレクシア。俺はずっとお前の味方であり続けるから、今だけは何も考えずゆっくり休め」

 

心優しい彼女が報われるようにと願った。

 

 

 

 

****

 

 

 

「~♪」

 

「……なあ、なんでデルタのやつあんなに嬉しそうなんだ?」

 

一方その頃、隠れ家にて首のチョーカーを触りながら鼻歌を歌うほどにテンションが高いデルタを見てゼータが若干引き気味に近くにいたガンマに聞く。ゼータが今まで見てきた中で、デルタがあそこまで元気なのは初めてであり気になってしまっていた。そしてそれを察したのかガンマは少し笑みをこぼした。

 

「エル様にそろそろ会えるからだと思うわよ?」

 

「あー……」

 

ガンマの言うことを聞いたゼータは納得したかのような表情と共に、額に手を当てた。デルタがルイスに対してかなり慕っているのは新規に入った者以外のシャドウガーデンのメンバーは周知の事実であり、そしてルイスの為に手紙を送るためにアルファにお願いして手伝ってもらったり、料理をやってみたりとあれこれやっているのもあってどれだけ慕われているのかというのも知られていた。

 

「それにしてもエル様って凄いよな。あの人はあの人で第2王女の従者として働きながら情報を集めてるんだから」

 

ゼータは感心を込めてそう言う。しかし、実態としてルイスはディアボロス教団に関しての手がかりに関しては調べているものの全くないのが現状であり、最近に至ってはもう諦めている。尤も、王都での彼を見ていない彼女らはそのことを知らないのだが。

 

「もうすぐエル様会える~♪」

 

「……重症じゃないか、これ」

 

「……私もそう思うわ」

 

鼻歌では収まらず、ついには実際に歌いながら尻尾を振っているデルタを見てゼータとガンマは同じ感想を抱き、そしてそんな彼女をここまで落としたルイスを色んな意味ですごいと感じ、同時にゼータは何となく嫌な予感がしていた。

 

(……気のせいだといいんだけど)

 

そんなことを思いながら、いつまでも寝る気配のないデルタに痺れを切らしたアルファが彼女を叱るのを見て、ゼータは何事も起こらないことを祈りつつ眠るのだった。





キャラ紹介

ルイス
アレクシアの男性像をぶち壊しているのに気がついていないアホ。アレクシアの行動に戸惑いつつも、中々突き放すことが出来ず甘やかしてしまっている。デルタに迫られるまであと○日。

アレクシア
ルイスのせいで色々壊れちゃってる王女。部屋に来ちゃったのはルイスとまた暫く会えなくなるのが寂しすぎたため。次の日、自分の行動に羞恥心を覚え、ルイスがのお見送りの際まともに顔が見れなかった。

デルタ
脳みそ破壊寸前になるまであと○日。


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11冊目

レポートと試験に追い込まれてて苦しんでいる自分からも愉悦を摂取出来るようになりたいこの頃。




 

・月^日

 

こっちの地元まで鉄道の線が通ってくれたお陰で一日で着くことが出来た。馬車だと5日かかることを考えたら人類の発明というのは正に凄いの一言に尽きる。家に着いたのは夜だったが父さんたちは快く俺を出迎えてくれ、労いの言葉をかけてくれた。そして夕食をとって軽く汗を流したあとこうして日記を書いている訳だけど、これを書き終わったあとは隠れ家に行ってデルタたちに会いに行く予定だ。

当初は明日の昼の予定だったんだけど、シドは夜に会いに行ってることが多い+デルタが手紙で俺と会うのが楽しみということを書いてくれていたというわけで、サプライズとして驚かせるのもありかと思って決めた。

 

あまり書くと時間が無くなるからここまでにしよう。デルタたちに会うのが楽しみだ。

 

 

 

・月|日

 

つかれた

 

 

・月\日

 

昨日の日記が一言で終わってしまったがこればっかりは許して欲しい。色々整理したいから日記に書きながら一昨日の夜からの出来事を記していく。

 

まず、俺はスライムスーツを着た状態で家をこっそり出て隠れ家の方に向かい、デルタ達に会いに行ったのだがなんと普通に出迎えられた。誰にも伝えていなかったため驚いたが、アルファが言うには「エル様がもうすぐやってくる!」とデルタが騒ぎ出し、アルファが何度注意しても頑なに譲らなかったため半信半疑で準備をしていたとのこと。うーん、ますますポチすけを思い出すような事をするね。

 

まあ、ここまでは良かったのだが問題は再会した際に飛び込んできたデルタが俺の体にグリグリ頭を押し付けたと思った瞬間、急に固まった。それに嫌な予感を感じた時には既に遅く、デルタは顔を上げると「エル様、この匂いなに?」と酷く冷たい声で聞いてきた。汗臭かったのかと思い謝罪したが、どうやら違ったらしく「エル様以外の匂いがした……誰?」と無表情で聞いてきていた。敬語が抜けているあたりよっぽどそれが嫌だったのだろうか。とりあえず本当に心当たりがないこと、体を洗ってくることをデルタ達に告げ、めちゃくちゃ寒かったが近くの川に行ってめっちゃ体を洗った。それから戻ってきたあとは、落ち込んではいるもののいつもの調子に戻ったデルタがそこにおり、「困らせてごめんなさいなのです」としょぼんとした感じで頭を下げて謝ってきた。正直、デルタに落ち度はないと思っていた俺はすぐに頭をあげるように言って、この前した約束とは別で言うことを聞く、と言った。こんなんでデルタの機嫌を取ろうとしているあたり、俺自身ですら不誠実だと思うがこれ以外彼女に対してしてやれることがないのも事実だった。

結果としてデルタはそれを了承してくれた。が、それをすぐ行使してきた。内容は「王都に戻るまで夜は一緒に寝て欲しい」っていう形で。

 

うん、マジで思考が止まった。なお、それを聞いていたアルファは目を丸くして驚いたような表情を浮かべ、シドは親指を俺に向けて立て、ゼータは額に手を当て「嫌な予感の正体はこれもだったか」と呟き、他の面々は目を丸くしていた。

とりあえずここまでが一昨日の夜の出来事。

 

そして昨日、デルタに言うことを聞くと言ってしまった以上、俺は何とかしなければならなくなったのだが、最終的に俺が父さんにデルタを街で知り合った友人ということにして、訳ありなため暫く泊めてあげて欲しいという形でゴリ押した。自分でも苦しい言い訳だったのだが、父さんは特に深追いはせず了承してくれ、使用人の皆も考える人は何人かいたが納得してくれたため彼女を堂々とウチに招き入れることが出来た。

 

だが流石にデルタのことをそのまま呼ぶわけにはいかないので、急遽ユウナと呼ぶことにし一緒にご飯を食べたまでは良かったのだが、なんと俺がお風呂はいっているところに乱入してきたのだ!まだ幼いとはいえ、デルタは美少女だ。そんな子が全裸でいつもの様に抱きついて体を擦り寄せて来るのだ。これは女の子としてまずいと思ったので、ちゃんと注意したのだが珍しく強情で、説得している間に湯冷めして風邪をひきそうだと思いその場での説得は諦めて一緒に入り、頭を洗ってあげた。てか、使用人の皆は気づかなかったのかよ……。

 

そしてその後一緒のベッドに潜り込んで「エル様、暖かいのです~」と呑気に言いながら抱きついてきたデルタのことを意識しないように頑張ったのだが、悲しいかな女性特有の不快にならない程度のいい匂いと柔らかさ、そして幸せそうに寝ている彼女のお陰で俺はあんまり寝れなかった。

 

んで今日は冬の割には暖かく、日差しも良かったのでデルタの提案もあってピクニックに行ってきた。お弁当に関しては「デルタが作る!」と言っていたので後ろから見守る形でその様子を見ていたのだが、以前一緒に作った時と比べると当たり前と言ったらそこでおしまいだとは思うがかなり上達していた。まあ、それでもまだぎこちない部分や失敗してしまったところはあった訳だが、そこは勿論フォローしたし、上達しているところも褒めた。

味の方も良く、彼女が沢山努力したというのも分かるし、それを考えると自分が作った物よりも何十倍も美味しく感じた。そのことを褒めたら尻尾を振りながら喜んで俺の体にグリグリと頭を押し付けてきたのだが。

 

その後はお互い眠くなってきたのでお昼寝をすることになり、彼女は俺の腕を枕にしてすやすやと眠り始め、俺も彼女に上着をかけてから寝た。

 

それで今日は夕方になる前に起きてウチに帰り、案の定お風呂に突撃してきたデルタに説教するのを諦めて一緒に入り、今は日記を書いている。デルタは先にベッドに入っており、「早く寝ないの?」と言わんばかりに布団の隙間から顔だけを出してこちらを見つめている。

 

とりあえずある程度整理は出来たので書くのはこれぐらいでいいだろう。明日はどうやって過ごそうかな。

 

 

 

 

*****

 

 

 

その日、根拠は無いけれどエル様が会いに来るというのをデルタは確信した。だから出迎えの準備をするべきだと皆に言っていたのですが、アルファ様が「エルが来るっていう話は聞いてない」「迷惑をかけるのはやめなさい」と怒られたのですが、デルタは諦めずに言い続けたら折れてくれたのです。

それでエル様が来てくれて、デルタは我慢できずに飛びついて大好きなエル様の匂いを嗅いだ瞬間、別の雌の匂いがしました。

それも、ただすれ違ったりや数分話した程度ではつかないって確信を持って言えるぐらいにはべったりと付いてた。

 

なんで?

 

デルタ、良い子にして待ってたのに。

 

なんでエル様から別の雌の匂いがこんなにするの?

 

デルタ、エル様に喜んで欲しくていっぱい頑張ったのに。

 

なんで──

 

 

 

 

──こんなに匂いが付くくらいその雌と近くにいたの?

 

気がついたらエル様は居なくなってて、それでデルタは見捨てられたのかと思ったのですがアルファ様たちが言うにはこんな寒いのに川まで体を洗いに行ったと聞いて反省しました。その後、エル様に謝ったのですがエル様は「デルタに落ち度はないはずだから頭を上げて欲しい」と言ってくれただけではなく。

 

「俺のせいで不快な思いをさせてすまない。代わりと言ってはすごい不誠実だと思うけど、この前の約束とは別で何でも言う事を聞くよ」

 

といつもの優しい声で言ってくれたのです。悪いのはデルタのはずなのに、エル様は本当にお人好しなのです。最初はピクニックでいいかな、と思ったのですがさっきのことを思い出すと、胸がムカムカしてきたというのと、またエル様に会えなくなるのを考えると凄い嫌だったので、「王都に戻るまでは一緒にいて欲しい」ってお願いしたのです。エル様は暫く固まっていましたが「何とかしてみせる」と言って下さり、その日はそれで解散してしまいました。

 

 

次の日、エル様はデルタのことを街で知り合った友人、ということで家族の人を説得してくださったのです!そして名前はデルタではなく「ユウナ」という名で通すこと、エル様のことは「ルイス」と呼ぶようにお願いされたのです。

そして早速エル様の家に入ったのですが、皆さん良い人でした!でも、髪の毛が凄い白くて黒い服を着たおじいちゃんが「これでエア家は安泰です……」と泣いていたのはなんでなんだろ?あと、エル様のお父さんともお話したのですが最後に「ルイスのことをよろしくね」と言ってたのですが……なんであんな何かを思い出すような顔をしてたのか不思議です。

 

その後はエル様と一緒にお風呂に入りました!メイド?の人もデルタが一緒に入るのを応援してくれたのでエル様と頭を洗いっこ出来たのです!でもエル様は次からはやらないように言われて、ちょっと寂しかったのですがここで引いたら後悔するような気がして最後まで譲らなかったのです。

そしてエル様と一緒のベッドで寝たのですが、やっぱりエル様の近くは胸がポカポカして暖かったのです!えへへ。

 

次の日はデルタの特訓の成果を診てもらうためにピクニックに行くことにして貰ったのです!ちょっと失敗しちゃったところもあったのですが、エル様は手際が良くなっていること、頑張ったことを頭を撫でて褒めてくれて凄い嬉しかったのです!

肝心のピクニックは天気が悪くなることもなかったのですが、お昼寝した際にエル様より先に起きてエル様の寝顔を見れたのです。いつもどこか遠くにいるような感覚があるのですが、この顔を見ると近くにいると再認識できて安心できたのです。あ、上着からはエル様だけの匂いがして安心したのです。

 

帰ってからはまた一緒にお風呂に入って、今ベッドに先に入っているのですがエル様は何か書いていて全く来てくれないのです。でも、エル様の匂いが付いてるベッドから出るのも嫌でじーっと見ていたら、気がついたのかデルタの方を見て「今いくよ」と言ってすぐに来てくれたのです。

 

エル様はやっぱり優しい人なのです。

 

 

 

 

だから、他のメスが近寄ってきちゃう。強い雄に雌が集まるのは、前にいた集落でもあったし、デルタもそういう環境で暮らしてきたから分かることではあるのです。エル様の場合は、強いし、優しいし、お日様のように暖かいから余計にそうなるのは想像がつくのです。

でも、デルタはそれが嫌なのです。エル様の良さを知ってるのはデルタだけでいい。だから……

 

「エル様の隣はデルタのもの、ってことを残してやるのです」

 

デルタは寝ているエル様の体にしがみついてしっかり匂いを付けるのです。




そういえばスプ○3でポチすけという方とトリカラで味方としてマッチングした時、なんか運命を感じました。

キャラ紹介

ルイス
アレクシアと寝たというのを忘れているアホ。だが、真冬の川で体を洗うという苦行をやってのけたあたり男は見せた。デルタのお風呂突撃の自分の口から辞めさせるのはもう諦めて、アルファにお願いしようと思っている。

デルタ
慕っている人が帰ってくるのを健気に待ってた+来るのを勘で察知したのにも関わらず、自分やシャドウガーデンのメンバー以外の女の匂いがして脳みそを破壊された。最初は錯乱していたものの、落ち着きを取り戻してからは王都に戻るまで一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たり、果てにはマーキングするという行動に出る。アレクシアよりも完全に先を進んでいる。

エア家の皆さん
ルイスくんが仲のいい異性を連れてきたことでお祭り騒ぎ。
ルイスが女の子連れてきた>>>>越えられない壁>>>>突然のことによる怪しさ









──ザッザッ

自身が住んでいる屋敷の裏を帯剣している男は1人歩いていた。その男は片手に花束を持ちながら、ただ真っ直ぐ歩く。

「……こんばんは」

男は目的地に着くと一言そう告げる。彼は花束をそこに置いてから服が汚れるのを気にせず地面に座り、独り話し始めた。

「昨日、あの子が獣人の女の子を連れてきたんだ。その女の子は街で知り合った子なんだけど訳ありだから、自分が王都に行くまで家に泊めていいかってお願いしてきたんだ。……そう、今までお願いなんてことあまりしなかったあの子がね」

男は寂しそうに、そして嬉しそうに笑みを零す。

「その子会って話してみたんだけど、ルイスのことをかなり慕っているみたいで、しかも素直な良い子だったよ。名前もユウナって言うらしくて、なんか色々驚いちゃったよ」

男はそこまで話すと口を閉じ、夜空を見上げる。

「……多分、ユウナって名前は嘘であの子はルイスが夜中にこそこそ出かけるようになってから知り合った子なんだと思うんだ。そしてやっぱりルイスは僕らが想像していないことをやっているんだと思う」

男はそう言いながら花束を置いたところ──最愛の人が眠っている場所を見る。

「……僕はルイスが本当のことを話すまで見守ることにしたよ。あの子の事だからいつ話すのか分からないけどね」

そういって男──アイク・エアは立ち上がる。

「これ以上はセバスチャンに怒られるから戻るね……おやすみ、クライネ」

アイクは名残惜しげに立ってその場を去る。

残ったのは置かれた花束と「我が最愛の妻クライネ・エアここに眠る」と記された墓石のみだった。



キャラ紹介
アイク・エア
ルイスの実父。かつては有力な魔剣騎士として名を馳せていたらしいが……


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12冊目

前回のあらすじ
アレクシアとデルタの脳破壊永久機関が完成。
今回はちょっと短めです。


追記:一応ヤンデレのタグを追加しました。


 

☆月☆日

 

デルタとピクニックに行ってから3日が経ち、今日は年始とは言っても特にやることは変わらない。強いて言えばカゲノー一家のところにご挨拶しに行ったぐらいだ。

ご飯とかもお雑煮とかおせち料理みたいなものはなく、ちょっと豪勢になる程度。デルタは目を輝かせて美味しそうに食べていたけど。

 

そういえば、アレクシアは大丈夫だろうか。こっちに来るまでは結構俺に甘え…いや、甘えてはないか。こう頼ってきてた感じだったし、無理はしてないか心配なんだよなぁ。アイリス様がいるから大丈夫だと信じたいところなんだけど……うーん、なんか怖いん(文字が乱れている)

 

日記書いてる途中にデルタが後ろから思いっきり抱きついてきたせいで文字が乱れてしまった。内容の方も少し見られてしまい、「アレクシアって誰なのです?」と聞かれたため、俺が今仕えている人であること、性格は悪いが根は優しいこと、そしてデルタたちと同じぐらい大事な人であることを伝えた。そしたらデルタは何か考え始めてしまったが、頭を撫でてあげたら嬉しそうに笑みを浮かべ、今は先にベッドに入ってもらってる。

 

それにしても……布団から顔だけ出してるデルタはなんか本当に犬っぽいな……

 

 

 

☆月♪日

 

今日は隠れ家にてアルファと情報の共有を行った。とは言ってもアルファの方もまだ有力な手がかりは集めきれておらず、難儀している感じだ。長年世界の裏にいた、というだけあって一筋縄では行かないというのが改めて認識され、同時に俺の実力不足を痛感した。俺がユラ並の情報収集能力があれば、いや無い物ねだりをするのはやめよう。

 

とりあえず方針としては変わらずディアボロス教団を探ることになり、そして俺はこっちに戻っている間はデルタ以外のメンバーも指導することになった。

しかし、デルタからしたら頭では分かってても納得は出来なかったみたいで俺と鍛錬をしている子に対して唸っていた。まさかここまで懐かれるとは思ってなかったが、これに関しては俺の方からケアをしてあげるべきだろう。実際にお風呂に入った時は頭だけではなく背中も流したし、彼女の提案で尻尾のブラッシングもやったし。そんなブラッシングは大好評であったが、「他の雌にやった事あるの?」と聞かれた。これに関しては前世でポチすけのお世話でよくやっていたから、というのがあるのだが、バカ正直に「ある」と答えたら何となくダメな気がしたので申し訳ないけど経験はない、という形で押し通らせて貰った。

……明後日には戻ることになってることを考えると、明日はなんか特別なことしてあげよう。プランは全くないけどなるようになれ、てね。

 

あと、ガンマに関しては俺もお手上げです。

 

 

 

 

☆月→日

 

今日の鍛錬で嬉しいことがあった。

デルタが今日の模擬戦で1度だけだったけど、俺に攻撃を掠らせることが出来た!成長速度は前にやった時から修正したはずなのに、それを更に超える程に実力が伸びてきている。勿論、悔しいと思うところはあるけどもそれ以上に自分が付きっきりで見ていた子の成長に嬉しさを感じている。

恐らくデルタは俺が予想出来ないほどにその実力を伸ばしていくと思うから、本当にこれからが楽しみだ。

 

それはそれとして、俺の方も鍛錬をもっと積まないと。まだ勝ちを譲るわけにはいかないし、俺はシャドウガーデンのトップ2らしいからその威厳を守るためにも頑張らないとね。

 

明日は朝一で出ることになるから日記はここまでにして寝ることにする。

 

あー、あとそうだ。明日着いたらすぐにアレクシアのところに行かないと。絶対来いって言われてたの思い出せたし、忘れないように日記にこうして書いておいた。忘れたらどんな目にあうか分からんしな。

 

 

 

 

*****

 

 

 

「ルイス様ー!やっぱり行っちゃ嫌なのですー!!」

 

早朝、デルタの叫びが木霊した。今回カゲノー一家はおらず、デルタの叫びはシドに見られることは無かったが、エア家の者たちはルイスにがっしりとしがみついて引き留めようとするデルタを見て苦笑いを浮かべていた。自分らが仕えている主人の息子にここまで想いを寄せてくれているのは嬉しいことなのだが、これ以上は列車に乗り遅れてしまうため引き剥がそうとしたところで、ルイスが動いた。

 

「ユウナ、これが一生の別れになるわけじゃないし、ちょっと離れた程度で俺らの関係が変わることはないでしょ?」

 

「そう、だけど……」

 

敬語が抜けるほど余裕が無いデルタにルイスは苦笑いを浮かべそうになるのを抑えて、彼女の頭を思いっ切りわしゃわしゃと撫で回した後、彼女の体を抱き寄せて今度は壊れ物を扱うかのように優しく頭を撫でる。

 

「え、エルさ……」

 

「デルタが俺より強くなるの、楽しみに待ってる」

 

「!!」

 

「だからそれまではお互い頑張ろう……ね?」

 

「……分かった、のです」

 

彼女にだけ聞こえるようにルイスはそう小声で伝えると、デルタは渋々といった様子で自ら離れてルイスの顔を見つめる。その表情は寂しそうではあるものの、どこか覚悟を決めているものであった。ルイスはそれを見て笑みを浮かべてからデルタの頭を軽く撫で、それから列車の中へ入った。

 

そして、汽笛を盛大に鳴らしながら走り去っていく列車を見つめながらデルタは首元のチョーカーを触り遠くなっていく列車を見つめていた。それを見ていたアイクはデルタの方に近寄ると彼女を肩を優しく叩いて、帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

その日、アレクシアはいつになく落ち着いていなかった。それを姉であるアイリスに指摘されるほど、と言えばどれくらい分かりやすかったがわかるだろうか。しかし、アレクシアがそうなるのも無理はない。何故ならルイスが帰ってくる日だったからだ。本当は着いていきたかったが、お互いの立場的な問題もあれば、ルイスが本当の意味で休めないと判断したため断念したことを考えれば仕方の無いことだろう。

そしてルイスが帰ってくるのを今か今かと待ちわび──

 

──コンコン

 

(やっと帰ってきたわね…!)

 

ノックの音を聞いてアレクシアはルイスが帰ってきたのだと確信し、ドアを開く。

 

「ルイス遅いわ──」

 

「アレクシア、残念だけど私よ」

 

「え、お姉様?」

 

しかしそこに居たのは待ち人であるルイスではなく若干呆れ気味のアイリス。それを見てアレクシアは急激に嫌な予感がし始めた。しかし、アイリスはそんなアレクシアに気づかず先程使用人から聞いた情報を伝える。

 

「列車の方でトラブルがあったらしくてね。場所的には王都まであともうちょっとって所らしいんだけど、ルイスは早くても明日の昼に着くことになったらしいわ」

 

「──」

 

またこれか、とアレクシアは何処か他人事のように思いつつ、胸に伝わる冷たさを紛らわすように無意識にネックレスを掴んだ。





キャラ紹介

ルイス
色んな女を泣かしている女の敵。デルタとの距離がかなり近くなっているが、その弊害でデルタがお風呂に突撃してくることや一緒に寝ることに抵抗が薄れ始めてる。距離感は間違いなく周りの2人のせいでぶち壊されてる被害者でもある。

デルタ
しっかりマーキングしたため他のメスは寄り付かないはずだと確信しているが……アイクからとある提案をされそれを受け入れた。

アレクシア
外的要因で脳みそを破壊されている。

アイリス
この後、姉妹で一緒に寝た。


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13冊目

前回のあらすじ
アレクシアとデルタのせいで距離感壊されてるルイスくん&外的要因で脳みそ破壊されるアレクシア


あと、定期試験の勉強のため投稿スピード落ちます。ユルシテ....ユルシテ...


 

☆月$日

昨日は酷い目にあった。まさか、燃料関係のトラブルで王都に付けないなんていう羽目になり宿を探したのだが、見た目が子供なせいで中々泊まり先が見つからず何とか21時にやっと見つかり精神的に疲れていたのもあって日記すら書けずに寝てしまった。そして何が酷いってお風呂がなかったところから凄い気持ち悪くてあんまり眠れなかった。

 

そして今日、トラブルの方が最短で解決したため昼前に王都につき執事長たちに挨拶をしたんだけど……先にお風呂入って来いって言われた時は遠回しで匂いがきついのかと思って泣きそうになった。そして途中で会ったアレクシアからは案の定「酷い匂いね」と言われてガチ泣きしかけた。お風呂でめちゃくちゃ体を洗った後は軽く引き継ぎをして、明日から業務開始ということになったので今日は鍛錬だけしようかと思っていたのだが、アレクシアに絡まれた。

とは言っても剣の稽古に付き合った後にまたハグを要求されただけだった。それにしても、アレクシアも段々と実力をつけ始めている。型の確認の後に軽く模擬戦をやったのだが、技のキレや剣の速度が前にやった時よりも上がっていた。でも、どこか不安と焦りを感じたのは少し不安だ。アイリス様との差がどんどん出てきてしまっていること、周りからの評価が主な原因だと考えられるけど……アイリス様との仲が悪化しなければいいんだけど。

 

俺に出来ることはそんなアレクシアの傍にいてやれるぐらいしかない。

 

 

 

☆月€日

 

執事長から明日騎士団に招集を受けた人物がくるということ、その人が子供を連れてくるためそのお相手をしろと話を受けた。アレクシアの方はいいのか、と思ったがアレクシアは別件があるのでいいとのこと。そしてその事にアレクシアは反対していたが、いくら王族と言えど子供の意見が通るはずもなく、そのお陰で今日のハグはいつもより長かった。

そして案の定心臓バクバク鳴ってるのがバレてからかわれたので、また息を耳にふきかけてやったがアレクシアは耐えやがった。そして「馬鹿の一つ覚えね~」と小馬鹿にした感じで煽ってきたんだけど、仕返しが何も思いつかなかったので抱きしめる腕の力をちょっとだけ強めるしか出来んかった。

 

それはそれとして誰が来るんだろうか。めっちゃ気になるわ。

 

 

☆月%日

 

来たのは父さんとデルタだった。何でも父さんは魔剣士騎士団の元副団長でそして次期団長だとも言われていた凄腕だったんだけど、私事でそれを蹴って今俺らが住んでいるところに引っ越したらしい。今日はそろそろ復帰しないか、ということで呼ばれたらしいがまーたそれを蹴飛ばしたらしい。まあ、母さんがあそこにいるから離れたくないっていうのはわかるけどさ。

そしてデルタの方は俺が列車に乗り込んだ後に父さんから「王都に行く時着いてくるか?」と聞かれたらしくそれをすぐに「行く!」と即答、そして今日は1日中王都の街並みを歩き回った。地元とは違ってかなり賑わっている街はデルタからするとかなり新鮮だったらしく、本当に色々なところを回った。帰る時間になった時はまた駄々をこねるのかなーって思っていたがそんなことはなく、素直に帰ろうとしてたので成長を感じていた直後、急にこちらに走ってきたかと思ったら飛び込んだ後に俺の頬にキスして「またね!ルイス様!」と爆弾を投下して帰って行った。

 

まあ、その後はそれを見ていたメイドさん達にあれこれ聞かれ大変だった。デルタは俺よりいい人捕まえられるだろうし、そもそも俺なんかがデルタの相手だなんてあまりにも向こうに失礼すぎる。そのことを言ったら「クソボケ」やら「女の敵」やら散々な評価を頂いた。どうして。

 

あ、そういえばアレクシアなんか元気なかったけどどうしたんだろうか。明日辺り聞いてみるか。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

──嫌な匂いだった。

 

アレクシアは肩を震わせながらトボトボ歩いていくルイスを見ながら先程自身の鼻を通った匂いを思い出す。先に言うと、アレクシアはルイスの汗の匂いを臭いと思ったことは無い。寧ろ体臭に関しては好きな部類であるため、帰ってきたルイスの匂いを軽く嗅いだ瞬間、違和感を感じた。殆どはルイスの匂いであるはずなのに、ほんの少しだけ彼以外の匂いがしたのだ。

アレクシアはそれが嫌で反射的に酷い匂いだと言い放ってしまい、それに気がついた時にはルイスはもう背中を向けて歩き始めていたところだった。

 

(でも、なんで嫌な匂いだと感じたのかしら?)

 

それが正にアレクシアの頭を悩ませていた。激臭というほどの匂いではなかったことや不快に感じたとはいえど気分が悪くなるほどではなかったことを考えると、余計に分からなかった。

 

(これ以上考えるのは無駄ね)

 

アレクシアは思考を一旦止めた。そしてふとルイスと剣の稽古を最近してないことに気がついた。ルイスの剣は才能がない者が愚直に基本を積み重ね続けた「凡人の剣」だ。アレクシアの憧れは姉であるアイリスのような王道の剣ではあるが、ルイスの剣も参考にしている。そのため、久しぶりにルイスと稽古をやろうと考えたアレクシアは早速稽古着に着替えに行くのだった。

 

 

そして1時間後。

 

「ふっ!」

 

「はっ!」

 

木剣を手に模擬戦をしているアレクシアとルイスの姿があった。2人の実力を比べると、前世で勇者パーティの1人として多くの修羅場をくぐり抜けてきたルイスの方が上である。しかし、同じ凡人の剣でも何故ここまで差があるのか分からないアレクシアは余計に焦りを募らす。

──姉だけではなく、ルイスも自分から離れてしまうのではないかと。

 

「っ!はあっ!」

 

「っ」

 

アレクシアはそんな不安を振り払うかのように剣を振るい続ける。そしてルイスはそんな彼女の様子を察してほんの一瞬だけ表情を歪ませるも、気取られる訳にはいかないと気を引き締めて模擬戦に集中する。

 

──結局、アレクシアはその不安と焦りを振り払うことが出来ずその日は終わりを迎えた。

 

 

 

*****

 

 

 

(まさか、ルイスの親があのアイク元副団長だなんて)

 

それから2日後、アレクシアは王都に来た客人が自分と話したいという理由でルイスとは別行動でありそれに不満を零しまくったのだが、その客人がその従者の父親、しかも元副団長だとは思わず肝を抜かしていた。そのため思わず身構えていたのだが、当のアイクは子供である自分に対しても心から敬っているような態度を取り、終始柔らかい姿勢で話を続けていたためちょっとだけ拍子抜けしていた。

 

(でも、なんか胡散臭い気がするのよねぇ……)

 

しかし、アレクシアからしたら長所はいくらでもとり繕えるという考えがあるため、いくら自身が大事にしている従者の親だとしても疑惑の念はなかなか晴れなかった。

 

「そういえば、アレクシア様から見て息子のルイスはどう見えますか?」

 

「え?」

 

ふと、アイクは何かを思い出したかのようにアレクシアにそんなことを聞いてきた。アレクシアは部屋に自分たちだけではなく、護衛の騎士や執事がいるのにも関わらずかなり個人的な質問が飛んできたことに驚き詰まるも、当たり障りのない返答を考えた。

 

「そう、ですね。ルイスはかなり優秀な従者だと思います。私の剣の稽古にも付き合ってくれますし、勉強中にお茶を入れるタイミングも完璧ですからかなり助かっています」

 

「なるほど……それを聞けて少しだけ安心しました……ところで、ルイスとは遊んだりすることはありますか?」

 

アレクシアはアイクの追撃に思わずお茶を吹き出しそうになった。まさかお宅の息子さんに金貨を口で拾わすペットごっこをやっていますなんて言う訳にもいかず、かといって二人で王都の街並みに出て遊んだということも言うのは何故か恥ずかしく言う気になれなかった。

 

「そ、そうですね……仲はいいとは思いますが、互いの立場的にそういうことは中々出来ないかと……」

 

「そうですか……やはり難しいですよね……」

 

声が震えていないか不安になりつつも何とか当たり障りのない答えを返したアレクシアは、それに気がついた様子のないアイクを見て心底安心していた。

 

「従者という立場である私から言うのはおかしいと思いますが、どうか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……?それはどういう……?」

 

「アイク殿、そろそろ時間です」

 

「これは失礼致しました。アレクシア様も態々時間をとっていただきありがとうございます」

 

「え、ええ……」

 

アレクシアはアイクの突拍子のない発言に驚き戸惑いの声を上げるも、護衛の騎士が時計を見てから会話の時間が終了したことを告げる。アイクはそれに対して謝罪をしつつ、アレクシアに対しては時間を取ったことに感謝を伝える。アレクシアはそれに対して戸惑いつつも、アイクを見送るため席を立つ。

 

「それでは今回はありがとうございました。恐らく王都に来ることはもうないと思いますが、次会えましたらその時はよろしくお願いします」

 

「ええ、その時はよろしくお願いします」

 

そうしてアレクシアはアイクを見送り、その後街に出ていったというルイスがもう帰ってきても良い時刻ということに気が付き、護衛の騎士に一言告げてから彼の姿を探しに行き──見つけた。

 

「ルイス、そんなところに──」

 

「ルイス様!」

 

「ユウナ?一体何を──」

 

ルイスがユウナと呼んだ獣人の少女から頬にキスされたところを。

 

アレクシアはそれを見てからの記憶はなく、気がついたら自室のベッドの中で丸くなっており、その時には胸にぽっかり穴が空いたかのような感覚に耐えるのに精一杯で、アイクから言われたルイスのことを頼むという話は完全に頭から抜けていた。

 




まーたおうにょが一方的に脳みそ破壊されてる……

キャラ紹介

ルイス
アレクシアから「酷い匂い」と言われてガチ泣きしかけた中身大人。アレクシアのことに気にしながらも、デルタからの頬キス食らって色々考えてる。なお、使用人たちに対して言ったことは本音。自分の価値は無いに等しいと思ってる。

アレクシア
僅かに残っていたデルタの匂いに対して反応はしたものの、それが何故かが分かってない状態なのにミサイルぶち込まれて可哀想な感じになってる。

デルタ
やりたいことやれてご満悦。なお頬キスはエア家のメイドさん(彼氏募集中)のアドバイスで、意味はよくわかってない。

アイク
実は凄腕。急に辺境行きますと行って後任やら引き継ぎを完璧にしてからガチで辺境に行った際は、「何やってんだよ副団長!」という声が上がったとか上がらなかったとか。
何やら意味深な感じを醸し出しているが……?


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14冊目

今回めっちゃ時を飛ばします。理由は流石にそろそろ進めないといつまで経っても話が進まないからです。というか私が早くルイスをボロボロにしたくて我慢できません

時系列としてはクレア誘拐事件から1年後でアレクシアが武神祭で……というところです。


 

°月☆日

 

クレアさんが誘拐されたあの事件から1年が経った。あの時は王都の方にいたから駆けつけるのが出来なかったとはいえ、何も出来なかった自分に対して腹が立つ。結果として、シドやアルファたちの活躍によってその事件に関わったディアボロス教団のメンバーは倒すことが出来、クレアさんも怪我こそ負ってはいたもののそこまで重くなかったのが幸いだった。それからアルファたちは勢力拡大のため世界のあちこちに散り、順調にメンバーを増やし、シドがボコして認めさせた霧の龍が守る古の都アレクサンドリアを本拠地として魔道具の開発やメンバーの強化をしているとの事。

そしてガンマを主導に『ミツゴシ商会』を立ち上げてシャドウガーデンの財源を担っているというのをアレクサンドリアに行った時に本人から聞いた。まあ、連絡役でゼータをよこすのはやめて欲しい。日記書いてる時に急に窓から入ってくるから心臓に悪いから。

そんな『ミツゴシ商会』は俺も何度か寄ったことがあるけども、品質がとてもよく、あと前世では結局完璧に味を再現できなかった某ハンバーガーチェーン店のハンバーガーが試作段階とはいえ食べれたあの感動は今でも覚えている。シドの話を聞いてそれを再現したガンマたちは本当にすごいと思う。今度、レシピとか聞こうかな……

 

それはそれとして、武神祭がもうすぐ始まる。何でも2年に1度行われる大会みたいなもので、刃を潰した剣で戦うというのがざっくりとした内容。ここで良い成績を収められれば色々と優遇がある、とも聞いた。アレクシアやアイリス様から俺も出るように言われたけど今回は断った。理由としては彼女のサポートに全力を注ぎたいということもあるが、一番の理由は自分がある意味ズルをしているような気がして出る気が無くなったからだ。

 

いや自分でも慢心な考えだとは思うけど、俺の戦闘技術は今世も含めれば人生を3回過ごした上で培われたものであり、同じ条件下であれば才能が皆無な俺は誰にも勝てるわけが無い。それを自覚しているからこそ、俺は断った。アレクシアとアイリス様は残念そうにしていたけど、こればっかりは譲れない。

 

その代わり、大会本番でも2人が後悔のない武神祭で終われるように精一杯サポートしていくつもりだ。

 

 

°月♪日

 

今日アレクシアに何故俺の剣がこんなに強いのか聞かれた。夢で前世で過ごした皆のことを見てしまったのもあって、前世のことは伏せたけどつい色々話してしまった。アレクシアは俺の答えを聞いて暫く考え込んでいたが、その後はいつもと変わらない様子だったし多分大丈夫だろう。

 

今日はもうこれ以上書きたいこともないし、書く気も起きないからこれで終わりにする。もう、皆には会えないのにあんな夢を今になって見るなんて

 

 

暫くアレクシアとの鍛錬や相手選手の情報集めの内容が続く。

 

 

 

☆月○日

 

最悪だ、よりによってやらかした。

今日が武神祭当日であったが、アレクシアは負けてしまった。前々から今のアレクシアでは勝つのが難しいとマークしていた選手の1人だったため、仕方ないことではある。けど気持ちはそう簡単に割り切れる話じゃないのは身をもって知っている。だからこそ、アイリス様にはアレクシアが気持ちを切り替えられるまで自分らは黙って支えることを伝えようとしたのだが、タイミング悪く俺は別のスタッフが倒れたせいでその穴を埋めるためにアイリス様に伝えられなかった。

 

その結果、アイリス様に何か言われたのかアレクシアは自身の剣に対して不信感、そして嫌悪感を抱いてしまっていた。武神祭が終わったあと急に稽古に付き合って欲しいと言われて打ち合った時に、それが伝わってきた。そして俺はそんな彼女に対して何も出来なかった。

 

俺はどうすればよかった?俺はどういう言葉を彼女に投げかければよかった?

 

俺は、彼女のために何が出来たんだ?

 

師匠ならどうしていた?何も出来ない自分が本当に嫌いだ。

 

 

 

 

****

 

 

 

──ルイスの剣は守りに特化した剣だ。

 

アレクシアはルイスと剣を打ち合いながらそう思う。

ルイスの剣は全くとは言わないが自分から攻め込むことはしない。基本的に相手が攻めてくるのを待ち、それを的確に防いでいきカウンターを入れる、というものでありかなりやりづらい。かと言ってこちらが待ちの姿勢を見せれば自ら攻め込んだり、フェイントを仕掛けてこちらの攻めを誘ったりと相手をしていてかなり厄介であり、アイリスもルイスの剣を賞賛していた。

 

だからこそアレクシアはルイスに武神祭に出てもらい、その剣を周りに見せつけて欲しかったのだが──

 

「私はアレクシア様とアイリス様のサポートに徹したいので遠慮させていただきます」

 

アレクシアの頼みはバッサリと斬り捨てられ、それを誰から聞いたのかアイリスもルイスに出るよう言ったのだが結果は同じであり、アレクシアはそれだけ彼が出たくないというのを察し、出場するように言うのをやめた。

 

「そういえば、ルイスの剣って何でそんなに強いの?」

 

「え?──あいたぁ!?」

 

「あっ、ちょ、大丈夫!?」

 

だが、次の日になってアレクシアはふと気になっていたことを稽古中にルイスに聞いた。そして聞かれた本人は聞かれるとは思わなかったのか、一瞬固まってしまったせいでアレクシアが放った縦振りを木剣で防げず頭に当たった。

その事にアレクシアは驚きつつも、頭を抑えるルイスに近寄る。幸いそこまで勢いよく振ってなかったことが幸いし、たんこぶが出来たりなどといったことは無さそうだった。だが、同時に稽古を続ける雰囲気でも無くなったため、休憩をとることになり2人は日陰に移動して腰を下ろした。無論、ルイスは急いで用意した氷袋を頭にあてながら。

 

「いてて……そういえば俺の剣がなんで強いか、だっけ」

 

「あ、うん。ちょっと純粋に気になったのよね。アイリスお姉様とも打ち合える秘密とかあったら聞きたいし」

 

「あー……」

 

アレクシアが聞いてきた理由を聞いてルイスはどう答えるか迷う。流石に前世のことを話す訳にはいかないので適当に誤魔化そうと思い──

 

──『私にもユウト様を守れるほどの実力があればよかったのに……』

 

「……守りたいものがあったから」

 

「え?」

 

「才能がない、って言われたけどそれでも守りたいものがあったから、俺は剣を振るい続けられたんだ」

 

気がつけば、ルイスは話していた。脳裏に自身が今の剣を目指そうと思ったきっかけをくれたとある姫の言葉を思い出したからだろうか。ルイスは自分ですら気が付かないほど懐かしむようにそう話し、アレクシアは1度も見せたこともなければ聞いたこともない顔と声を出すルイスを見て呆然としていた。

 

「……さて!痛みは引いたし、稽古の続きやろうか!」

 

「え、ええ。そうね……」

 

急にいつもの雰囲気に戻ったルイスにアレクシアは驚きつつも、腰を上げて日陰から出て再度木剣で打ち合った。

 

──そしてその日からルイスは宣言していた通り、アレクシアのサポートに徹しており模擬戦の相手を始めに、注意すべき相手の偵察や解析、鍛錬後のマッサージなど彼女がベストを尽くせるように多くのことをした。アレクシア自身それに対して過保護過ぎるとは思ったものの、自分のためにあれこれ手を尽くしてくれるルイスに対して感謝はしていた。事実、模擬戦の方はかなりタメになったこと、マッサージに関しても変な声を出して聞かれたことに目を瞑ればかなり良かったと言える。

 

 

「勝者、──!」

 

そしてそこまでされた上で挑んだ武神祭でアレクシアは負けた。

ルイスの事前情報で今の段階では勝てる可能性が低い相手というのはわかっていたが、それでも負けた事をすぐに割り切れる人間は中々居ない。アレクシアもその1人であり、気がつけば控え室で1人で蹲っていた。

 

「アレクシア……!」

 

そしてアレクシアの敗北を聞いてすぐに来たアイリスはそんな妹の姿を見て、何か言わなければと直感した。このままでは大事な妹が「凡人の剣」を嫌いになってしまう。

 

──なんて言えばいい?なんて励ませばいい?

 

アイリスの思考はどんどんドツボにハマっていく。最適だと思いついた言葉が逆に傷つけそうな気がしては頭から無くす、を繰り返した果てに彼女が言った言葉──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、アレクシアの剣が好きよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルイス、ちょっと付き合いなさい」

 

アレクシアに呼び出されたルイスはこちらの返答を待たずに木剣を投げてきた彼女に困惑する。こちらの都合を考えずに付き合わせるいつもの感じとは違うことに、ルイスは嫌な予感がしつつも木剣を構える。

 

そして──

 

「はあっ──!」

 

「!!」

 

全力でこちらに向かってきたアレクシアの剣を見て、すぐに察してしまった。その剣が自分が彼女を見直したきっかけでもある「アレクシア・ミドガルの剣」ではなく、「アイリス・ミドガルの剣」の模倣であることに。

 

「──くっ!」

 

そしてそれに気を取られたせいでルイスは反応が一瞬遅れ、その事に気がついたアレクシアは「アレクシア・ミドガル(凡人)の剣」では、ルイス(大事な人)に追いつけない可能性があると思ってしまった。

 

(……凡人()の剣じゃ、ルイスの隣にすらいられない)

 

アレクシアはその考えにたどり着いてしまったことに喪失感を抱きつつも、これまでを捨て去る勢いで剣を振るい続け、その頃にはルイスが自身に語っていた「強さの理由」など頭から抜けていた。





キャラ紹介

ルイス
前世の師匠から手ほどきを受けた際に「お前に戦う才能ない」と断言され、そしてそれを嫌というほど体感してきたため乗り越えたように思っているが実は拗らせてる。そんなルイスだからこそアレクシアの苦悩は全部とはいえなくても分かるし、自分のような挫折と絶望を味わって欲しくなかったが結果はコレ。お前のせいでアレクシアは原作通り「凡人の剣」嫌いになっちゃったよ、あーあ。因みにやろうと思えば攻め寄りの剣も出来る。

アレクシア
原作同様アイリスの発言のせいで「凡人の剣」が嫌いになった。ルイスが普段から本気を見せていた上で、今回アレクシアに話したことをはなしていたらこうはならなかった。つまり実質ルイスのせい。でも前世のルイスの絶望や挫折と比べたらまだマシだから頑張れ♡頑張れ♡

アイリス
ルイスのガバのせいで妹にトドメをさしちゃった。なお、ルイスが最初から本気だった場合先にこっちがメンタルやられる。どっちにせよ姉妹のメンタルを壊すからルイスは悪。

ルイスは前世の師と初めて戦った際、初めて一緒に仲間になった者たちを目の前で殺されている。その際に「お前の力では誰も守れない」と言われ絶望。それから鍛錬を重ねてかつての幼馴染の誘いで入った勇者パーティの一員として再度その師と戦った際は他のメンツがクソ強だったこと、その師がルイス達に自分の剣の「極地」を見せつけるだけだったこともあって、誰も死にはしなかったが、結局ルイス自身の力ではその師に対して出来たことはほとんど無く、剣を見るだけでかつてのトラウマと自身の無力さで吐くほど弱ってしまい挫折。が、レイたちの励まし(一部物理)によって吹っ切れ、更にとある姫の何気ない一言で「全てを防ぐ守りの剣」が自分が目指すべきものだと分かり、レイたちの稽古もあって「予備動作がなく殺意も、淀みも、力もなく、ただ自然のままに振るわれる剣すらも防ぎ切る守るための剣」を師が見せた剣と教えてくれた基礎をもとに習得。3度目の最後の師との戦いで「自分の剣」で「師の剣」を防いだ後にレイたちの奇襲で体勢を崩した師に自身の剣を突き立て、師の目的や過去、そして願いを聞いたルイスは周りの意見を蹴って、滲む視界の中、感謝の言葉を一言言って自身の手で引導を渡した

エアリアルのフレッシュトマト味、美味しいですね。(訳:3番目に書きたかったところ書けて満足)


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15冊目

というわけで更に時をすっ飛ばして、シドのポチ化もといアレクシア誘拐事件編です。ここら辺の話を書きたくてこの小説を執筆した迄あります。


 

€月$日

 

武神祭から2年が経ち、俺らが15歳になったことでミドガル魔剣士学園に入学してから2ヶ月が過ぎた。アレクシアはあの日からアイリス様の剣にまだ囚われている。本音を言えば俺が正してあげるべきなのかもしれないけど、今の彼女に俺の剣は嫌悪感を抱く対象なのだ。事実、あれ以来彼女と剣の鍛錬をしたことはない。

 

結局、どこかぎこちないところが治らないまま時が過ぎて行き、今や彼女には婚約者候補が現れるほどの年齢となった。まあ、その婚約者候補のゼノンって人は短所が見当たらなさすぎて警戒対象ではあるのだが。前世でもそんな感じの人がいてホイホイ着いて行ったら貞操の危機にあうのはまだマシな方で、ガチで死にかけたこともあったなぁ……貞操の危機の方に関しては今思うとそのまま卒業してしまえば良かったと思ってはいる。

いや人生2回連続卒業出来ぬまま死んでるって結構やばい気がする。流石に3度目の人生では卒業してから死にたい。でも、俺みたいな一般従者に対して「OK!!」と言ってくれる心広い女性はいないと思うし……。

 

そんな事よりアレクシアの方だが、色んな人から告白されている。有力貴族のイケメン息子からもあれば、騎士団で有力視されている期待大なイケメン男子学生と多くの男から告白されているのだが、「興味無い」の一言で散っている。そしてその事を振った本人から直接聞かされるのだが、反応に困る。強いて言えるのが、「モテますね」とか「ゼノン様のことを考えてて偉い」ぐらいしかない。なお、それ言ったら言ったらで不機嫌になって拳が飛んでくるか、椅子にされるし、無言を貫き通しても同じ目に遭う。

 

俺に一体どうしろと?デルタに聞いたら……いや、流石に分からなそう。今度ゼータが来た時に聞いてみるか……

 

 

€月€日

 

アレクシアに彼氏が出来た。それ自体は喜ばしいのだが、問題がいくつか出てきたせいで頭とお腹が既に痛い。

 

まず1つ目。相手が我らがシャドウガーデンの盟主であるシド・カゲノーであることだ。なんとこのアホあろうことか自身をモブっぽくするためだけに、わざわざアレクシアに嘘告をしやがったのだ。告白内容は……まあ、中々面白かったがアレクシアはそれをあっさりと了承。マジで何が狙いで彼と付き合い始めたのか分からないのもある。

 

2つ目。アレクシアが自身の本性を見せた時のフォローをどうするか。ないとは思いたいけど、万が一アレクシアが本性を露わにして自分にやってるようなポチ扱いをシドにしたら俺はどんな顔でシドやアルファたちに会えばいいのだろうか。

取り敢えずそんなことになった場合は俺からフォロー出来ることはフォローしないと……頭痛い。

 

3つ目。暫く従者として動くな、と言われたこと。恋人としてシドと過ごすというのに男の俺がいつまでもいたらおかしい、ということで言われたという命令されたのだが仕事が無くなる。一応速達で執事長に判断を仰いでいるのだが、まじでどうしよ。というか友人がシドとそのつるんでる2人ぐらいなんだよなぁ……他の人とも話はするけど何か見下してきて嫌だし。

 

他にも幾つかあるが考えるだけでお腹が痛くなるのでこれ以上はやめよう。胃薬あとで買いに行くか……

 

 

€月%日

 

はい、早速やらかしてくれました。執事長からの返事がまだ来てなかったから今日1日影ながら見守っていたんだけど、放課後にアレクシアが金貨をばらまいてそれをシドが地面を這いつくばって拾っているの見てしまったからだ。

うん、膝から崩れ落ちたね。このせいでシドへのフォローという仕事が追加されました、クソが。

そしてシドと付き合い始めた理由も婚約者候補のゼノンに対する当て馬というのが分かったのも頭痛いポイントだ。いや、ゼノンを婚約者にするというのは胡散臭いから反対なのは俺も同意見なのだが、もう少しやり方は無かったのだろうかと思ってしまう。見た感じゼノンの方は軽く流してるし……うーん、この。

 

そして帰ってきたら執事長からの返事が届いていたため、早速読んでみると陰ながら見守るようにとの事。

はい。というわけで暫く隠密行動することになりました、クソが。俺そこまで隠密行動得意じゃないってのに……

 

あと、俺が隠密してない時に限って行く先々でアレクシアがシドと仲良さそうにしてるところを見かけるのはなんでなんだろ。

 

 

 

 

****それから2週間ほどシドへのフォローやアレクシアからの話を聞いたりしたこと、胃薬が増えたことに関する内容が続く。****

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

王都の人通りがほぼない路地裏にてフードを被り、気を失っているアレクシアを担ぎながら音もなく移動する集団があった。彼らは少女を攫い、王都にある自分たちの隠れ家にその少女を連れていくのが任務であった。その少女の恋人とされているシド・カゲノーと別れるのが案外早かったため、当初より少し早くなったもののこうして無事に彼女を気絶させることが出来、任務は順調かと思えたが。

 

「ちょっと待ってもらおうか」

 

「!」

 

隠れ家に向かう途中で帯剣している少年が1人で立っているのを見て先頭を走っていた男は止まる。男はその少年の顔を見て、作戦前に要注意人物として挙げられていた人物──ルイス・エアであることを認識し、内心舌打ちしていた。

 

ルイス・エアは当初幹部も含め取るに足らない存在だと結論づけていたが、自分たちが属する組織で『最強』と言われている女性が口を出し、シド・カゲノー同様に最も注意すべき人物だと断言したのだ。そしてその話は下っ端である彼らにも伝えられており、男は汗をかく。

 

「うちの主がいつまで門限過ぎても帰ってないから急いで探してみたら、あんたらが見つけてくれてたとはな……取り敢えずアレクシアを返してもらおうか?」

 

「っ!!」

 

話口調自体は軽いものの、同時に放たれた殺気と圧は凄まじいものだった。男たちは無意識に膝を地面につけようとし、ルイスもそれを見てすぐに踏み込んで男たちを半殺しにしようと剣の柄に手をかけ──

 

──その瞬間、ルイスは自分の首が飛ぶ姿を幻視した。

 

「っ!!」

 

反射的にその場から離れるように転がる。その刹那ルイスの首があった所を白い閃光が横切り、それを見たルイスは少しでも反応が遅ければ先程感じた光景が現実になっていた事実に冷や汗をかき、同時に驚愕していた。

 

(()()()()()()()()()()()()()()……!?)

 

そう剣を振るえば普通は生じるはずの気配が全くなかったことにルイスは驚いていた。それに反応できたのは彼が守りの剣の極地に至っていたこと、その『最強』の剣を何度も体感していたからだ。

 

「ほう?やはり反応してきたか……」

 

影より現れたのは全身を黒に染めたロングコートを身にまとい、片手に白銀に輝く片刃の刀を持った細身の人物だった。顔はフードを深く被り口元も隠しているせいで分からないものの、声の高さ的に女性だとルイスは考えた。

 

「ほら、お前たちいつまで休んでいる。早くその王女をつれていけ」

 

「っ!」

 

「行かせると思って──っ!?」

 

女性の言葉に気がついたその集団は急いで走り去ろうとし、それをルイスが阻もうと接近しようとした瞬間、視界に女性が自分に向けて刀を振り下ろすのが見えて反射的に剣を抜刀、それを弾いた。

 

「そんな玩具の剣で私と戦う気か?」

 

「はっ、逃がす気なんかないくせによく言うよ」

 

「そりゃあ、私たちのこと見られたからにはな?悪いけど死んでもらおう」

 

その言葉を契機に2人は一斉に動き出した。女性は流れる水を彷彿させるかのように剣を振るい、ルイスは自身の全神経を集中させて飛んでくる全てが必殺と言える斬撃を全てを防いでいく。

だが、ルイスは前世で魔王と戦った時のような身体能力をまだ手に入れておらず、体も全盛期には遠い。そのため徐々に防ぎきれなくなり初め、所々にかすり傷が出来始めた。

 

「ちぃ──!」

 

「ふむ、予想通りやるな……」

 

(こいつ……!)

 

女性はルイスの剣を通して懐かしむような声を出し、そしてルイスは打ち合う度に彼女の剣がますますとある人物に似ていることに焦りを感じ始めていた。しかし、そこで女性はルイスの剣を懐かしむ方に僅かながら意識が逸れてしまい、ルイスはその一瞬を見逃さなかった。

 

「せあっ!」

 

「むっ?」

 

ルイスからすれば千載一遇のチャンスでもあった渾身の突きは女性の頬を僅かに掠める程度で終わり、それを受けた女性はすぐに後ろに下がって距離を取り血が流れる頬を指で触る。

 

「女性の顔に傷をつけるとは、随分なことをするじゃないか」

 

「……」

 

「だんまり?つれないな……まあ、これ以上やってるとそろそろ人が集まってくるからな──」

 

 

 

──これで終わらせるぞ?

 

「っ!!」

 

 

反射だった。ルイスは女性の姿が見えなくなった瞬間自身の体と剣にありったけの魔力を流し、自身の本能が言うがままに剣を構えて防御の姿勢を取った。

そしてその直後──

 

「なっ──!?」

 

凄まじい衝撃が手に伝わると同時にルイスの体は吹き飛んでおり、構えていたはずの剣の刀身は粉々に砕け散っており、それを見て彼は先程の一撃の威力をまともに受けていたらどうなっていたかを想像し背筋を凍らせると同時に地面に転がった。

 

(なんて強さだ……まるで師匠と戦って──)

 

そう考えた瞬間、胸が焼けるような感覚がし視線を下に移すとそこには横に切り裂かれたのように傷が開き、血が吹きでている自身の体。それを見てルイスは完全に防ぎきれてなかったことを悟り、同時に応戦するために手に魔力を集めて魔力の剣を作ろうとして──

 

 

 

 

──ドスッ

 

 

 

「がはっ……」

 

ルイスの腹部を刀が貫いた。

 

「……中々強かったぞ、坊や。正直私以外で勝てる人間はいない、と思えるぐらいには楽しめた」

 

女性は刀を抜くと、血を吐きながら地面に倒れ込むルイスを見下ろす。万が一魔力を使って回復されないように腹部に刀を突刺す直前に、魔力操作がおぼつかなくなる誰にも教えていない特製の毒を刀に塗っていた。そのためこの少年が助かる可能性はかなり低いだろう。

 

「欲を言えば、周りのことや時間など気にせず、ちゃんとした武器を持ったお前と戦いたかったものだがな…」

 

女性は名残惜しそうにそう呟くと、ルイスが()()()()()()()()()()()()を引きちぎって懐にしまうと、彼の体を抱えて周りに人がいないかを確認しつつ近くの水路にやって来て。

 

「アレクシア・ミドガルの従者、ルイス・エアは行方不明……事件はシド・カゲノーを容疑者として進む……ふん、くだらん茶番だな」

 

僅かながら息をしているルイスを川に投げ捨て、興味なさげにその場を去った。

 

 

 

 

それから数分後、何かが水に飛び込む音が誰もいない空間の中響き渡った。




急展開だけどユルシテ....ユルシテ...

キャラ紹介

ルイス
アレクシアのネックレス奪われた挙句投げ捨てられた。おお、ルイスよ負けてしまうとは情けない!!正直な話、スライムスーツかスライムソード持ってれば負けることは無かった。

アレクシア
ルイスがそんな目にあってるとは知らずアジトに連行中

シド
自分が認めた相棒がそんな目にあってるとは知らない

デルタ
え?

謎の女性
アレクシアを攫った集団の関係者。その実力は前世で勇者パーティとして魔王を倒したルイスすら圧倒したが、その正体は……?


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16冊目

前回の話から低評価がついたり、お気に入りが減ったりして「まあ、そうなるよな」と思いました。展開が急でしたし、急にアホみたいに強い変なオリキャラ出ましたからね。展開に関しては私の想像不足のせいですので、本当に申し訳ないです。オリキャラが出た理由に関しては察してくださると幸いです……。

そして誤字脱字報告して下さりいつもありがとうございます。

そして今回、キリのいいところがなくて最長の7439文字になってしまいました。本当に申し訳ない。


 

 

『私をついに超えたか……』

 

地面に倒れ伏す自分の師である人物を見て青年は剣を下ろす。仲間を殺したこの人物に恨みがあったはずなのに、今の彼はそんな気が起きなかった。それよりも知りたいことがあった。

 

『師匠、何故魔族側に寝返ったんですか?最初に現れた魔王を討伐した勇者パーティの1人にして、救世主と呼ばれた貴方が、何故……』

 

『それは──』

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

€月\日

アレクシアを助けることが出来なかった日から4日が過ぎた。安静をアルファから言われているためやることがなく、別の日記帳に状況を纏めるために書いている。

 

まずあの日俺が女性に刀を刺されて意識を失ってからのことなのだが、どうやら俺は証拠隠滅のために水路に落とされたらしく、普通であれば誰も気づかず死んでいた筈だった。しかし、寝ていたデルタが「エル様が死んじゃう!」と突然叫んで、アルファたちの止める声を振り切って王都の隠れ家から飛び出し、水路でプカプカと浮きながら流れている俺を見つけて急いで助けてくれた、とのこと。

マジで死にかけだったらしく、こうして生きているのが不思議なぐらいだとアルファから言われた。一応傷は魔力を使って怪しまれない程度には治したから、この騒動を終わらせた後に学園生活に戻ることは可能だ。なお、スライムスーツとスライムソードは常に持っておきなさい、とアルファに怒られた。本当にすみません……

 

そして次に学園ではどうなっているのか。これに関してはゼータなどが収集した情報だと、アレクシアとその従者である俺が行方不明なのはシドが関係しているとして騎士団が彼を尋問している、との事だった。だが、話によれば俺の父親がシドのことを弁護してくれているらしく、明日には開放されるだろうとのこと。

そして、その明日がシャドウガーデンが動く日だということも教えて貰い、俺も動くと言ったらめちゃくちゃ反対された。特にデルタ。だが、あの女性とまともにやり合えるのは俺かシドぐらいしかいない。デルタもやり合えるとは思うが、それでも勝率はかなり低いことを考えると、保険も兼ねて俺が出るべきだろう。……本当の理由を言うと早くアレクシアを助けたいというのがあるけど。

 

と言ったのが今の現状だ。そして現在、付きっきりで看病してくれたデルタのお願いで彼女は俺の隣でスヤスヤ寝ている。看病した見返りとしては安すぎると思うんだけど……まあいっか。

 

それにしてもシドには本当に悪いことしたな……俺がこうなっていなければあいつの無実を晴らせたというのに。

 

いや、それよりも気になるのはアレクシアとあの女性だ。恐らくアレクシアの命は無事とみていい。黒幕はディアボロス教団ということから、身代金の要求はないだろうし、彼女を殺すならわざわざ誘拐するわけが無いというのを考えれば、アレクシアの何か……例えば血が必要なのかもしれない。前世でも勇者の子孫だ!って自慢してた男を誘拐してその血で強くなろうとしたやべーやつもいた訳だし。だが、だからといって彼女の精神が無事かはまた別だ。手遅れになる前に助けられればいいんだけど……

 

そしてあの女性。気配も何もかも感じれなかったけど、あの剣は師匠が振るっていた「攻めの剣の極致の一つ」だ。シドもあの剣を習得しているから、別の人が出来ても何らおかしい話ではないけどあまりにも師匠に似すぎていた。でも、師匠はあの時確かに俺が殺したはずだ。いや、まさか俺と同じように……?

 

ダメだ、これ以上は完全に空想の域だ。どちらにせよ、あの女性がまた出た時は刺し違える覚悟で殺しにいかないといけないだろう。

 

……ネックレス、マジでどこ行ったんだろう。

 

 

 

 

****

 

 

 

──あれからどれぐらい日が過ぎたのだろうか。

 

アレクシアは化け物が壊した壁の先にあった薄暗い廊下を歩いている中、ふとそんなことを考えた。最初今の状況に気がついた時は隣にいる化け物に驚いたり、気味の悪い白衣を着た男に血を抜かれたりと色々思うところがあったが、それでも彼女の心が折れなかったのは首にかけているネックレスと大事な従者であるルイスの存在があったからだ。

 

武神祭以来、少々関係がぎこちなくなったもののアレクシアはルイスのことをずっと想っていたし、彼の気を引くために彼と幼馴染というシド・カゲノーと付き合ってみたし、なんならシドから幼い頃のルイスの話を金を払って聞いた。それでも、あの日ルイスの頬にキスした憎き獣人の正体は分からなかったのだが。

監禁生活に心が挫けそうになる度にネックレスを見ては自身を奮い立たせ、同時にルイスに会ったらなんて文句を言ってやろうかとあれこれ考えていたのもあって、頭がおかしくなるほどストレスが溜まるということにはならなかった。

 

そしてつい先程、元から錯乱していた様子であった白衣の男が発狂した様子で化け物に何かを注入し、その結果更に体がでかくなった化け物に男は殺され、自身はその化け物が拘束台を破壊してくれたお陰でこうして脱出に向けて足を動かすことが出来ている。

 

(本当、ルイスに会ったらなんて言ってやろうかしら)

 

アレクシアはそんなことを思いながら廊下の角を曲がった瞬間。

 

「勝手に逃げられては困るな」

 

「あ、あなた、どうしてここに……」

 

アレクシアは驚愕に目を見開いた。

 

「なぜって、ここは私の施設だからだよ。私があの男に投資した。それだけのことさ」

 

金髪に端正な顔立ちで自信に満ちあふれた笑みを浮かべる、ミドガル魔剣士学園の剣術指南役であるゼノンがそこに立っていたからだ。

アレクシアはゼノンがいることに驚愕で流されそうになる思考を繋ぎ止めて、ゼノンの発言を思い返す。そしてこの男が自身を攫った黒幕ということに気がつき、冷や汗を流す。

 

「よかった。私とルイス、あなたのこと頭おかしい狂人なんじゃないかってずっと思ってたのよ。私たちの予想通りやっぱりおかしかったのね」

 

アレクシアは一歩、二歩、後ろへ下がりながら気丈に言いながら目だけを動かして周囲を確認する。横は壁しかないものの、ゼノンの後ろには階段があり恐らく出口に繋がると見ていいだろう。

 

「そうかな。どうでもいいさ。君の血があれば」

 

「どいつもこいつも血の話ばっか。吸血鬼の研究でもしてるの?」

 

「君にとっては似たようなものかもしれないな」

 

「説明はいらないわ、オカルトには興味ないもの」

 

「だろうね」

 

「分かっていると思うけど、もうじき騎士団と私の従者が来るわ。あなたも終わりよ」

 

「終わり?いったい私の何が終わるんだ」

 

変わらぬ笑みで、僅かに嘲笑するようにゼノンが言った。

 

「地位も名誉も剥奪、そして当然処刑。ギロチンは私自ら下ろしてあげるわ」

 

「そうはならないさ。私は君と隠し通路から脱出する」

 

「ロマンチックな誘いだけど、私あなたのこと大嫌いなの」

 

「来てもらうさ。君の血と、研究があれば私はラウンズの第12席に内定する。剣術指南役などというくだらない地位ともおさらばだ」

 

「ラウンズ? 狂人の集まりか何かかしら」

 

また分からない単語が出てきた、とアレクシアは内心ため息を吐いた。

 

「教団の選び抜かれた12人の騎士ナイツ・オブ・ラウンズ。地位も名誉も富も、これまでとは比べ物にならないほど手に入る。私は既に実力を認められている。後必要なのは実績だけだが、それも君の血と研究成果で満たされる」 

 

ゼノンは大仰に手を広げて笑うのを他所にアレクシアは必死にゼノンが言っていることを頭に刻み込む。もしこれがゼノンの狂言や妄言でないのならば、とんでもない組織が王国にいるということになるからだ。

 

(少しでも情報を覚えて持ち帰らないと。それに隠し通路があるならそこを探しながらの逃亡も視野に──)

 

「本当はアイリス王女の方が良かったが、君で我慢するさ」

 

「ぶっ殺す」

 

冷静に脱出の算段を考えていたアレクシアはゼノンの言葉で一瞬で冷静さをなくした。ゼノンはアレクシアが激昂する言葉を敢えて言ったのだが、予想通りにことが進み内心ほくそ笑む。

 

「失礼、君は姉と比べられるのが嫌いだったね」

 

「……ッ!」

 

怒りが籠ったアレクシアの気迫の一撃が戦闘開始の合図となった。

 

「恐い恐い」

 

アレクシアのとてつもない殺意が込められた一撃をゼノンは寸前で弾き返し、そして一撃目を防がれる前提で振るわれていたアレクシアの追撃も難なく受け止める。剣が衝突し空中で何度も火花を散らす。

 

何度目かの剣戟の果てにアレクシアは幾分か冷静になり、これ以上は分が悪いと判断すると、仕切り直しと言わんばかりに後ろに下がって距離をとる。

 

「しばらく見ないうちに、随分と安物の剣を使うようになったね」

 

ゼノンの発言にアレクシアは小さく舌打ちをする。戦いが始まって数分も経っていないと言うのに、アレクシアの剣には既に無数の刃こぼれが出来ていた。

脱出する際に丸腰は心もとなかったため、見張り兵と思しき死体から拝借した低品質のミスリルの剣では実力者と打ち合えば剣がすぐにボロボロになるのは明白だった。

 

「達人は剣を選ばないって言うでしょ」

 

しかし、ここで動揺しているところを晒せばそこを突かれて負けに繋がる、というのをルイスから嫌という程教わったアレクシアは何ともないと言わんばかりに口を動かす。

 

「なるほど。達人ならそうだろうけど、残念ながら君は凡人だ。それは剣術指南役の私が保証するよ」

 

その一言でアレクシアの顔が一目で分かるほど歪んだ。

 

「だったら見てなさい。本当に私が凡人かどうか……!」

 

そして、猛者であるはずのゼノンでさえ僅かに竦むような気迫を伴って仕掛けた。

 

アレクシアは知っていた。自身の実力では普通に戦ってもゼノンには勝てないということを。しかも今使っているのは安物の剣で、保ってあと3回、下手するとこの一撃で壊れる可能性があることを彼女は予想していた。

 

だが、アレクシアは日々何も考えず剣を振ってきたわけではない。(憧れ)を目標に自分に足りないものを理解し、それを埋める努力をしてきた。そして誰よりも(憧れ)の剣を間近に見てきた。

アレクシアは多くの研鑽を積んだ成果として、既に(最強)の剣を寸分の狂い無く思い描く事が出来るまでになっていた。 

 

ならば、それを振るのは容易い。

 

「ハアアァァァッァ!!」

 

その剣はまさしくアイリス王女(最強の剣)を彷彿させた。

 

「ッ……!」

 

ゼノンの顔から初めて笑みが消え、その一撃を迎え撃つために自身の剣に魔力を込めて剣を振るう。

 

(ダメだ、このままだと防がれてこいつを倒すことが出来ない)

 

そしてアレクシアは剣を振りかぶっている最中、このままでは負けるのを予期した。この一撃で仕留めなければこちらの剣が打ち合いの果てに先に壊れ敗北する。だから何としてもこれで仕留めなければならなかったが。

 

(どうする!?一体どうすればこの剣を当てられ──)

 

『なんで俺の剣が防げないか、って?』

 

──その瞬間、思い出したのはまだルイスと剣の稽古が出来ていたある日のこと。どうしても防ぐことが出来ないルイスの剣が疑問で聞いた時の事だった。

 

『あんたの剣が来るって思った方向に剣を構えたはずなのに、攻撃当たってるのはなんでよ?』

 

『あー、それはちょっとした小細工でさ。俺の目線だったり、剣を振り下ろす時だったり、あとは殺気とかそういうのを囮にしてるんだよ』

 

『はぁ?そんなこと出来るわけ──』

 

『まあ、すぐには無理だろうね。けど、俺の知ってるアレクシアはすぐには出来ないからって諦めるたまじゃないでしょ?』

 

『……そう。なら教えなさい』

 

『はいはい、それじゃあ──』

 

──それを思い出したアレクシアは、正に彼が言っていた条件が揃っていることに気がついた。ならばと彼女は自身の剣とゼノンの剣がぶつかるほんのちょっと前に、剣をそのまま振り下ろさずに腕を畳み姿勢を低くしゼノンの懐に潜り込んだ。

 

「何──!?」

 

「はああああっ!!」

 

ゼノンは自身の読みが外れたことに驚き、アレクシアはそれを見逃さずに自身の全てを込めた一撃を斜め下から上へ斬りあげるようにゼノンの体に叩き込んだ。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「……まさか、そんなことが出来るとは思わなかったよ」

 

「はぁ……はぁ……くっ……」

 

ゼノンは胸に刻まれた浅い傷を見て何の含みもなく呟く。アレクシアの渾身の一撃は、ゼノンが反射的にバックステップをしたことにより完全に捉え切る事が出来ず彼を倒すには至らなかった。

そしてその結果を見てアレクシアは悔しそうに顔を歪ませるも、再度剣を構える。その目はまだ諦めておらず、それがゼノンにとってはイラつくものであった。

 

──茶番はここまでにするか。

 

ゼノンはそう結論づけると無言で剣を構え、魔力の質を更に高め、先程とは比べ物にならないほど濃密で鋭利な刃物を連想させるかのように鋭くさせていく。

 

「……っ!」

 

「一つ言っておこう」

 

ゼノンの変わりように息を飲んだアレクシアに特に驚くことも無く、ゼノンは淡々と言葉を続ける。

 

「私は今まで一度も部外者の前で本気を出したことはない。これから見せる剣こそが、正真正銘の私の剣であり、次期ラウンズの剣だ」

 

 

「くっ!」

 

反射だった。長年の鍛錬の成果か、アレクシアは自身の命を刈り取らんとばかりに迫ってきた刃をボロボロの剣で防いだ。しかし、予想していた衝撃はなく、視界に映るのはついに耐えきれなくなったのか、刃が粉々になって砕け散るミスリルの剣。

 

それは凡人では一生天才に辿り着くことが出来ないと暗喩しているようで、アレクシアは自身ではどうにもならない、姉には一生追いつくことが出来ない、と視線を下に向けて諦め──

 

「……あっ」

 

視界にネックレスが入った。どんなに屈辱的な扱いを受けようとも、姉と比較されてバカにされるアレクシアを見ても、情緒不安定なアレクシアを見ても、ずっと支え続けてくれた従者の事を彼女は思い出した。

 

──本当は分かっていた。

 

諦めて冷えかけていた心が再度熱をともす。

 

──自分があいつに対して向けている想いが何なのかぐらい。

 

刃が砕け散った剣を持つ。

 

──でも、それを自分から告げると自身の弱さを認めてしまうような気もして。

 

体の節々は痛むが、まだ動ける。

 

──だからあいつから想いを告げてくるように回りくどいことをやった。それでもあいつは自分に対して告白とかしなかった。

 

「まだ、諦めないのか?」

 

「当たり前でしょ……!」

 

だからこそ──!

 

 

 

 

 

「ルイスに私の想いを伝えるまで諦めない──!」

 

 

 

 

アレクシアの決意が空間にこだます。

 

そしてそれを聞いたゼノンは嘲笑を浮かべてから懐に手を入れると。

 

「そういえば渡すのを忘れていたよ」

 

──カシャン

 

アレクシアの方へ無造作に投げられた物が彼女の足元に音を立てて落ちた瞬間、彼女は目を見開いた。

 

「え……?」

 

血が固まって変色したのか赤黒いものが付着しているのを除けば、自分が着けているのに酷似しているペンダント。

 

──嘘だ。

 

「実はね、君の従者のルイスくんに君を連れて行ってるところを目撃された挙句妨害されてね」

 

──聞きたくない。

 

「見られたからには生かす訳にはいかないだろう?」

 

──まだ、何も伝えられてないのに。

 

「抵抗されたけど、まあ我々の敵ではなかったわけだ」

 

──一緒にやりたいこと、沢山あったのに。

 

「彼の死体を持ってくる訳にはいかなかったから、代わりにということでそれを持ってきてあげたよ……彼も君が持っていた方が嬉しいだろうからね?」

 

──気がつけば、剣を離してそのペンダントを持っていた。

 

あ、……ああ……」

 

 

 

 

 

 

「ああああああぁァァァァァッッッ!!」

 

 

 

 

少女の号哭が一筋の雫が落ちると共に薄暗い廊下に響き渡った。

 

 


 

 

キャラ紹介

 

ルイス

デルタのファインプレーで一命を取り留めた。今回の件で常にスライムスーツとスライムソードを持つことを決意する。体の方は最初こそ魔力操作が上手くいかず苦戦したが、学園に戻った際に怪しまれない程度には傷を治している。ネックレスがどこにいったのかガチで分からず困惑中。なお、ゼノンのアレクシアに対する発言を全部聞いていた場合、後先考えずゼノンの首を斬り飛ばしている。

 

 

デルタ

ルイスが死ぬ夢を見て、それがただの夢じゃない予感がして急いで匂いをたどったら水路を赤く染めてドンブラコしてるルイスを発見し、すぐに飛び込んで救出、息がなかったことからルイスから教わった人工呼吸と心臓マッサージを急いで行った結果無事に成功。それから目を覚ますまで付きっきりで看病し、治ってからはルイスの横で寝れてご満悦。

──大丈夫、冷たくない。──大丈夫、動いてる。

 

 

シド

描写少なくてすまん。今回はアレクシアだけではなくルイスも行方不明なため、本来より拘束時間が長いことになっていたが、ルイスパパことアイクの弁護による原作通り5日目で釈放された。

 

 

アレクシア

ルイスとの教えが活きたり、ネックレスのお陰で折れなかったのに血だらけのルイスのネックレスを見て絶望。心が死にかける寸前。あーあ、ルイスが負けた挙句ネックレス奪われたせいで原作より酷くなっちゃった。

 

 

ゼノン

ルイスとシドのことは下に見ている。次期ラウンズだからちょっと調子に乗ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──やけにあっさり壊れたな。

 

ゼノンは未だに血だらけのネックレスを抱えて蹲るアレクシアを見て、他人事のようにそんな感想を抱いた。

彼女が従者であるルイスに並々ならぬ想いを持っていたのは、日々の生活で彼女がルイスに向けて熱い視線を向けているのに気づいていたから知ってはいたが、まさか彼の死後が分かっただけでこんなことになるとは思わなかった。

 

(人の想い、というのは儚いものだ)

 

ゼノンは剣を鞘にしまい、アレクシアの腕を掴もうとした瞬間。

 

──とてつもない悪寒を感じた。

 

「!!」

 

ゼノンは躊躇なく体を低くしその場から転がるように離れる。その刹那、自身が立っていたところに2つの漆黒が立っていた。

 

「エル……急いでいるからって、僕の腕を掴んで跳ぶのはやりすぎじゃない?」

 

「……悪い、冷静じゃなかった」

 

1人は漆黒のロングコートを身にまといフードを深く被り片手に漆黒の剣を、もう1人は同じく漆黒のロングコートを身にまといフードを深く被っているが、更に口元を布で覆って漆黒の刀を持っていた。

 

「漆黒を纏いし者……。君が近ごろ教団に噛み付いてくる野良犬か」

 

ゼノンは2人の姿を見て鋭い眼光と共に剣を構える。

 

「我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者……」

 

「我が名はエル。同じく陰に潜み、影を狩る者」

 

対して2人から出たのは深く、低く、深淵から発せられたような声だった。




キャラ紹介

エル
アレクシアの号哭を聞いてシャドウの静止の声も聞かずに彼を掴んで全力であの場に割り込んだ。流石にアレクシアにリアルアンパンマンを見せる訳にはいかないため、敢えて特大の殺意をぶつけてゼノンが躱すように仕向けた。

シャドウ
エルから大体の話を聞いて「主人公っぽいことに巻き込まれてるなー」と思いつつ、相棒を傷つけた落とし前ぐらいはつけさせてもらおうと内心張り切ってる。


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17冊目

時間帯的にはちょっと微妙ですが、補足回のためにこの時間に投稿です。






 

「ぐはッ!」

 

剣を弾かれて隙ができた胴体を蹴られ、壁に叩きつけられたゼノンは痛みで顔を歪ませながらも目の前の男を睨む。

 

「この程度なのか?」

 

相対するのはエルと名乗った男。見下ろす形のせいかゼノンから見えた男の目は拍子抜けしたとでも言わんばかりに呆れていた。エルからすれば戦う前に「次期ラウンズの第12席」とゼノンが自信満々に名乗っていたため、自分を倒した女性と同レベルを警戒して剣を交わせてみれば拍子抜けもいい所だった。

それに何より、剣に込められてる想いが軽い。アレクシアと最後に手合わせした時の剣の方が何百倍も、いや比べるのが失礼なぐらい重かった。エルはそんな男がディアボロス教団の幹部と思われる地位に入れるとは到底思えなかった。

 

しかし、そんなエルの心情などゼノンからすれば知ったことでは無い。

 

「キサマァァァァァァ!!」

 

ゼノンは叫びながら魔力を更に濃密に練ってエルに斬り掛かり、対してエルは剣道で言う正眼の構えを取って迎撃しようとした瞬間。

 

──ガキン!

 

「なっ……!?」

 

その間にシャドウが割り込みゼノンの剣を容易く弾いた。ゼノンはシャドウが間に入ったことを認識すら出来ていなかったことに、エルはシャドウがいきなり割り込んできたことに驚いた。

 

「シャドウ。お前……」

 

エルがシャドウの真意を問いただそうとした瞬間、彼は首を僅かに後ろに向けてエルの後ろに目を動かす。そしてそれに釣られてエルが目を向けると、そこには。

 

「ルイス……」

 

エルたちがゼノンと戦いを始めてから数分経過しているというのに、まだ赤黒く汚れたネックレスを両手に蹲っているアレクシアの姿。シャドウは最初こそ、陰の実力者的なムーブ出来るんじゃね?と思って声をかけようとしたが、彼女の絶望に染まった光のない目を見てこれは自分が何を言っても無駄だと判断し、自分より適している人物にその役を譲ることにした。──言ってしまえばエルに丸投げした感じなのだが。

 

シャドウはエルが自身の意図を理解したのを察すると、左手の三本の指を立てる。その意味は3分だけ時間を作ってやる、というものでシャドウは「あ、仲間のために後から出てきて時間作るってなんか陰の実力者っぽいかも!」と内心満足し、エルはそんなこと露知らず純粋にその厚意を受け取るとアレクシアの傍へ近づき──

 

(……なんて説明しよう)

 

状況に似合わずそんなことを考えた。アレクシアの手にある無くしたと思っていたネックレス──血と思しきものが付着──を見ればゼノンが彼女になんて言って渡したのか何となく察することが出来る。自惚れだとは思うが、恐らく自分が死んだと聞いてこうなっていると予想しているため自分が生きていることを伝えればいいのだが。

 

(ここで正体明かす訳にはいかないし……)

 

1番手っ取り早い方法ではシャドウガーデンのことを話さざるを得ないこと、そうなった場合自分はシャドウガーデンの秘匿のために表世界から姿を消さないといかないだろうし、父親にも迷惑をかける。それを考慮すると正体を明かして生存を伝えるのは却下。

そうするとあと残るのはシャドウガーデンで瀕死のルイスを保護した形で伝えることなのだが、どうやって帰るかや追求をどう逃れるのかの問題になる。

 

(本当になんて説明すべきだ?時間もあと2分ぐらいだし……仕方ない、もうなるようになるしかない)

 

エルは考えをまとめるとアレクシアの肩に手を置いて自分に意識を向けさせる。アレクシアは光のない瞳でエルの方を一瞬見やり、目を見開く。

 

「……ルイス?」

 

「……人違いだ。だが、私が話そうとしていた話題ではあるがな」

 

顔を隠してる+声の高さ+口調まで変えているというのに一目見ただけで自分の正体に勘づいたアレクシアに息が詰まりそうになったが、それを悟られない内に話題を提供する。

すると──

 

「ルイスのこと!?教えて、ルイスは生きてるの!?無事なの!?」

 

「……すぐ話すから落ち着いてくれ」

 

目に僅かながら光が戻り、勢いよくエルの襟首を掴み思いっきり揺さぶりながら催促するアレクシアに気圧されながらもエルは自身の正体がバレてないことにほっとしつつ、冷静そうな声で抑えるように言い、彼女が若干落ち着いたのを見て話し出す。

 

「結論から言うと、彼は生きている。たまたま水路で流れているのを見つけてな。まだ意識は戻っていないが、命に別状はない」

 

「……本当よね?」

 

「ここで嘘をつくメリットがないだろう。明日の朝には彼の寮のベッドに寝かせておくよう手配してある」

 

「……良かった」

 

エルの言葉が嘘でない、と確信したアレクシアは涙を流しながら安堵したような声を出す。エルはここまで心配させてしまったのか、と改めて自分があの女性に対して負けたことへ怒りを持ちつつも、ゼノンとシャドウの戦いの方へ視線を向ける。そしてアレクシアもそれに習い視線を向けると。

 

「クッソォォォォォ!!」

 

「……」

 

ゼノンの猛攻をいとも簡単に防いでいくシャドウの姿。自分が追いつけないと諦めかけた天才の剣を圧倒していたのは凡人の剣。力が、速さが、才能がなくとも諦めずに基礎をひたすら積み重ね続けた果てにある、幼い頃に見た理想だった。

 

──その人の剣を見れば、少なくとも打ち合えばその人が積み重ねてきたものがいずれはなんとなくでも分かるようになるよ。

 

初めて稽古した時にルイスが言っていたことを思い出す。あの時のアレクシアは彼の言っていることがよく分からなかったが、長く鍛錬を積んだ今の彼女は理解できた。

シャドウと名乗った男の剣は、諦めずに前を見て、ただ真っ直ぐに積み重ね続けたものだった。そこでふと、アレクシアは姉が自分が無様に負けたあの日にかけた言葉を思い出す。

 

『私、アレクシアの剣が好きよ』

 

あの言葉はアイリスから見たアレクシアの剣が、今自分がシャドウの剣を見て思ったのと同じ感想から出た言葉ではないか。今になってアレクシアはアイリスが何故あのようなことを言ったのか何となく分かった気がした。

 

「想いなき剣に、斬れる物なし」

 

「…え?」

 

「私の師の教えだ、アレクシア・ミドガル。君は何のために剣を振るうのか、どんな譲れない想いがあるのか、それをよく考えろ。その答えが出た時、君の剣はもっと強くなるはずだ」

 

エルのやけに実感の籠った言葉は、アレクシアの胸に重く、そして大きく響き渡った。

 

 

 

 

****

 

 

 

「はぁ……はぁ…… き、貴様、いったい何者だ……! それだけの強さがありながら何故正体を隠す!?」

 

ゼノンは切り傷だらけの体を起こしながら、目の前のシャドウに対して叫ぶように質問を投げかける。ディアボロス教団の次期ラウンズの1人として実力を認められているゼノンだからこそ、シャドウがなぜ正体を隠すのかが分からなかった。彼ほどの実力があれば、富や地位を得ることは簡単なはずなのだ。

 

「我らシャドウガーデンは陰に潜み、陰を狩る者。我らはただ、それだけの為にある……」

 

「正気かッ……!」

 

ディアボロス教団の規模を知っているゼノンは、それに立ち向かうと暗に言っているシャドウに狂人を見るかのような目を向けるも、当の本人はそれに対してなんら気にした素振りを見せない。そしてそれがゼノンの怒りを更に増幅させた。

 

「いいだろう……貴様が本気だと言うのなら、私もそれに応えようじゃないか!!」

 

ゼノンはそう言って懐から赤い錠剤を取り出すと。

 

「この錠剤によって、人間は人を超えた覚醒者となる。しかし常人ではその力を扱いきれず、やがて自滅し死に至る。だがラウンズは違う。その圧倒的な力を制御できる者だけが、ラウンズになる権利を得るのだ」

 

その錠剤を一気に飲み込んだ。

 

その直後。

 

「覚醒者3rd」

 

先程ゼノンが出していたものとは桁違いな濃い魔力が、災害を思わせるような暴風となって吹きあられ壁と床を揺らす。

変化はそれだけではなく、アイリス、エル、シャドウの3人によって傷つけられた傷が瞬く間もなく治癒されていき、筋肉は膨張し、目は赤く充血、更に毛細血管が浮き出た。

 

「貴様らに最強の力というのを見せつけ、絶望を与えてやろう」

 

そのプレッシャーは最強の騎士として名高いアイリスをも超えている。ゼノンは確実にシャドウたちを超えたと確信し、笑みを浮かべ余裕を持った態度で圧倒的な力の前に絶望しているであろう3人を見やる。

 

「……醜いな」

 

「……醜いわね」

 

「……哀れだな」

 

シャドウとアレクシアは軽蔑を持って、エルは心から哀れむような声で異形と化したゼノンに向けて呟いた。

 

「醜いだと……?哀れだと……!?」

 

3人の反応に対してゼノンは笑みを消し、3人、特に哀れだと言ったエルに向けて怒りの視線を向ける。

 

「あんた程の才能があればそんなドーピングなんかしなくても自力でその域に辿り着けることが出来たはずだから、哀れだと言った」

 

「なんだと……!」

 

「加えてその程度で最強を騙るな。それは最強というものへの冒涜だ……そもそも借り物の力で最強に至る道などない」

 

「貴様ら……!」

 

エルとシャドウの言葉にゼノンは顔を怒りで更に歪ませる。

 

「せめてもの手向けだ。貴様の最期に最強の力を見せてやろう」

 

シャドウの魔力がこの日初めて高まった。これまで彼は殆どその魔力を使っておらず、素の身体能力だけでゼノンの相手をしていた。

 

その高まった魔力は青紫の線となって姿を現した。細い幾筋もの線。その線が体に張り巡らされている血管のように、シャドウを取り巻き、美しき光の紋様を描いていく。

 

「凄い……」

 

「……」

 

アレクシアはシャドウの綿密な魔力操作、そしてその操作によって練られた魔力に感動し、エルも内心でシャドウの魔力操作の精度がここまで上がっていることに内心驚愕していた。

 

「な、なんだこれは……?」

 

そして驚愕しているのはゼノンも同じだった。ディアボロス教団の中でも上位の実力にいる彼ですら魔力をこのような形に出来た者を知らなかったからだ。

 

「真の最強とは何か……その体に刻め」

 

漆黒の刃に魔力が螺旋を描きながら集約されていく。それはまるで全てを吸い込むかのように美しく、そして畏怖を感じさせるものであった。

 

「う、うあああぁぁぁぁ!!」

 

せめてもの抵抗としてヤケクソ気味に振るわれたゼノンの剣はシャドウを捉えるも、体を切り裂くことなく刃が砕け散る。

 

「ひっ、ひいっ!!」

 

「これが我が最強」

 

「ま、待ってくれ……!」

 

大気をも震わせるシャドウの魔力にゼノンは恐怖で震えながら静止の声あげる。だが、それは無慈悲にも振るわれた。

 

「アイ・アム──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アトミック」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放たれたソレは光とともに音をも飲み込んだ。

 

 

その光はアレクシア以外のものを全てを飲み込んだ後、爆発した。

 

王都の闇を照らすかのように青紫色の光が夜空を駆け巡った。

 

アレクシアが気がついた時には、ゼノンの姿はもちろんの事、シャドウとエルの姿もなく、あるのはシャドウが残した爪痕のみだった。

 

「…………」

 

アレクシアはふと下を見ると刃がまだ残っている剣が落ちているのに気がついた。彼女は持っていたネックレスを腕に結び、剣を拾い目を閉じて想像する。

 

想像するのはシャドウが見せた凡人の剣。彼が振っていた通りに剣をアレクシアは振る。

 

自分の剣にするために、ただひたすらにシャドウの剣を振るう。

 

(私は何のために剣を振るうのか。譲れない想いは何なのか……)

 

そして頭の中ではエルが自分に言ったあの言葉を受け止め、自身が剣を振るう理由を考えていた。




次回、各視点での補足

キャラ紹介

エル
シャドウの剣を通してアレクシアが何かに気がついたのを察し、自分からはその後押しとして今でも守り続けている師の言葉を彼女に送った。この後アルファに一言告げたあと急いで寮へ戻った。

シャドウ
満足

アレクシア
エルの正体に勘づいたものの、誤魔化されたせいで結局気づけなかった。原作通りシャドウの剣を通して自身が目指す剣を定め、なぜ剣を振るうのか考えている。

ゼノン
エルとシャドウの手によって分からされた(誰得)


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17冊目(裏)

ルイスの視点だけでは分からない部分が多かったのでその補足です。





その1:デルタが見た夢

 

デルタにとってエルという存在は大きかった。ボスと慕うシャドウとほぼ同等の強さを持ちながら、自分のことをずっと見てくれた太陽のように温かい人。

デルタは気がつけばエルという人間のことを愛しており、彼女自身それを自覚していた。だからこそ会えた時は沢山一緒にいれるようにしていたし、一緒に寝ていたりもした。

 

ディアボロス教団を倒すのが目的とはいえ、デルタはエルとのそんな日々がいつまでも続くと思っていた。

 

だからこそ──

 

「エルが死んだわ」

 

突然アルファが言ったことをすぐに認識できなかった。

 

「……あ、アルファ様?何を言ってるんです?エル様が死んだ……?そんな訳あるはずがないのです!!いくら何でも言っていいことと悪いことがあるのです!」

 

怒りを滲ませながらもそんなはずがない、と言うデルタを見てアルファは表情を一瞬だけ歪ませ、だが次の瞬間には無表情に戻す。

 

「事実よ、デルタ。受け入れられないとは思うけど……」

 

「聞きたくない!!」

 

「………」

 

「そんなの嘘だ!エル様が死ぬわけない!!だって、デルタ、まだエル様との約束まだ残ってる!!」

 

遠い昔の約束だった。デルタがエルと最初に会い、そして彼が王都に戻ることになった時に約束したあの内容を彼女はまだ覚えていた。次に彼が帰ってきた時にお願いした内容はまた別物で、あの時の約束はまだ果たしてもらってない。エルが自分との約束を破るわけない、とエルを信じているからこそ出た必死の言葉。

 

「……デルタ、来なさい」

 

アルファはそんなデルタの服の襟を掴むとそのまま強引に引き摺っていこうとする。

 

「嫌!行きたくない、離して!!」

 

デルタは嫌な予感がし、アルファの手から離れようと何度ももがくも魔力で身体能力を強化しているのか、全く離れることが出来ず、そしてデルタ自身どこか全力で抵抗できずにいた。

 

そしてアルファはとある部屋の前で止まると息を吐いてからドアを開ける。

 

「デルタ、これが現実よ」

 

「あっ……」

 

そうして連れてこられた部屋の真ん中には、簡素な台の上で目を閉じて横たわっている大好きな人の姿。

デルタは彼が本当に死んでいると──

 

「嘘だ」

 

フラフラした足取りで横たわるエルの元へ向かう。

 

「デルタのことを驚かそうとしてるだけなのです」

 

自らに言い聞かせるようにデルタは言葉を紡ぐ。

 

「前にデルタのことを驚かして、楽しそうにしてたの覚えてるのです」

 

そうして辿り着いたエルの顔にデルタは手を伸ばす。

 

「エル様、早く起きるので──」

 

──自身の指先で触れたエルの頬は冷たかった。

 

「……今回はかなり手が込んでるのです」

 

デルタはエルの心音を聞くために彼の胸元に耳を付ける。

 

──心音は鳴っておらず心臓は動いていなかった。

 

「エル様が、やくそく、やぶ、るわけ、ない……おきてよ、えるさま……」

 

どうしよもない事実だった。シャドウガーデンのNo.2であるエルことルイス・エアは死んだ。

 

「うわああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

 

*****

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

デルタは飛び起きた。心臓が破裂しそうな勢いで鼓動し、体は汗まみれだ。

 

(……夢?)

 

先程見た思い出したくもない悪夢をデルタはそう結論づけようとして、直ぐにやめた。

エルとの特訓で更に磨かれたデルタの直感が囁いていた。

 

──あれは近い未来に起こるものだと。

 

 

「──ッ!!」

 

「ふぁぁぁ……デルタ?こんな時間にどこに──」

 

エル様が死んじゃう!!」

 

「は?ちょ、ちょっと!?」

 

たまたま起きていたイプシロンに対して悲鳴にも近い叫びを上げながらデルタは、静止の声をかけるイプシロンを無視して外へ飛び出す。

 

幸いにもデルタはエルの匂いがどんなに薄くても追跡できるほどに覚えており、彼女は自身の嗅覚と勘を頼りにエルを探す。

そして──

 

「エル様!!」

 

水路で力なく浮いて流されているエルを見つけた。

 

「!!」

 

デルタは躊躇せず水路に飛び込んだ。彼女がエルから泳ぎも教わっていること、並外れた腕力を持っていることが重なり彼女はエルを何の苦労もなく陸に連れてくることに成功した。

 

「エル様!しっかりして!エル様!!」

 

「……」

 

デルタは胸と腹部に怪我をしているエルに驚愕しながらも、彼から教わった魔力操作で止血する形で応急処置を施してから、頬を叩いて必死に呼びかけるも帰ってくるのは無言。それに嫌な予感がしてデルタは胸に耳を当て、目を見開く。

 

「いや、まだ!!」

 

デルタは諦めそうになる心を奮い立たせて、かつてエルに教わった蘇生処置を思い出しながら行う。胸の傷が再度開かないように注意しつつ心臓部分を口に出して数えながら30回押し、エルの口に自身の口を合わせ2回息を吹きかけ、起きる気配がないのを見て再度同じように行動する。

 

(エル様、デルタを置いていかないで──!)

 

デルタは祈りながら何度も心肺蘇生法を行い続けた。

 

「ごほっ!がはっ!」

 

「!!」

 

そして祈りは通じ、エルは息を吹き返した。急いでデルタはエルの胸元に耳を当てると弱々しいもののしっかりと動いている心臓。それにデルタは安心し腰が抜けそうになるも、すぐに気を引きしめる。

 

「待ってて、エル様。すぐにちゃんと治すから!!」

 

デルタはエルを背負うと王都にある隠れ家に向けて全速で走っていったのだった。

 

 

 

 

その2:ルイスが救助されてから治療まで

 

「ルイスの様態は?」

 

「胸を斬られた上にお腹を刺された挙句、水路に落とされて血が沢山出ていたはずなのに生きているのが不思議なくらいです。デルタ様が咄嗟に傷を塞いで心肺蘇生をしたとはいえ、奇跡ですよ」

 

アルファは医療方面に詳しいメンバーから聞いた情報に頷きつつ、思考する。ルイスことエルの実力はアルファもよく知っている。単純な剣技だけならあのシャドウより上ということもあって、その彼がここまでボロボロにされるとは思っていなかった。

教団からこちらに寝返った元ラウンズからそれ程の手練がいたという話は聞いておらず、アルファの思考は更に深くなる。

 

(それに、エルはシャドウより上手くないとはいえ魔力操作による治癒はかなり得意はず。それなのにすぐに治療できてないのは何故?)

 

アルファが疑問に思っていたのはそこだ。仮にエルがすぐに水路に落とされたとしても、傷を治せない理由にはならない。そうすると考えられるのは腹部を刺された時点、もしくは腹部を刺されたと同時に水路に落ちた時点で気を失っていたか、あるいは魔力操作に支障が出る何かがあったかのどちらかだろう。

 

(……前者ならともかく、もし後者であった場合は対策を立てる必要があるわね)

 

微量ながら彼から血を抜き、イータに毒かなにかが混入してないか解明する手筈はもう取ってあり真相が分かるのもそんなに遠くないだろう。

 

(……今はエルが早く起きてくれることを祈るしかない、か)

 

アルファは盟友でありながら大切な幼馴染でもあるエルが早く目を覚ますことを祈るのだった。

 

 

 

 

その3:謎の女性

 

「……シャドウガーデン、どのくらいかと思ってはいたが思ったよりやるな」

 

シャドウの放った『アイ・アムアトミック』を見ていたその女性は少し感心したように呟く。自分にあれと同じぐらいの芸当ができるか、と言われればあそこまで加減できず更に周りを破壊していただろう。

 

「しかしたかが次期12席程度では相手にならないか」

 

女性はため息混じりにそう漏らす。自身の記憶の中でもゼノンの才能はかなりあった。前世と言うべきあの世界で生まれていれば、剣聖と呼ばれるほどの剣の使い手になれるほどの可能性があった。少なくとも、自身が最後に取った弟子と比べれば圧倒的であったが。

 

「……いや、よそう。私を殺した英雄(救った弟子)はいないのだから」

 

女性は首を振って思考をおいやる。それよりも考えるべきことがあったのだ。

 

「ルイス・エアの死体が見つかったという情報が出ていない……あの状況から助かるとはあの男、よっぽど運が良かったと見える」

 

ある弟子と酷似した剣をしていた少年、ルイスを落とした水路は遅くとも流した半日後には人目に着くように水が流れている。そのため、数日間経過した今もその情報がないということはあの状況から一命を取り留めたということになる。

 

(前世で使っていた毒の再現に時間がかかり、即効性だけを重視して持続性が3時間程度であったのが仇となったか。いや、あの剣を通して感じた懐かしさに流され首を取らなかったのがそもそもの失態か)

 

課題はまだ沢山あるな、と女性は考えると即効性もあり持続性も最低半日はある毒のレシピを頭の片隅で考えながらその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

──その胸に、僅かな期待を持って。




細かい補足

ルイス(エア)の傷について
→まずデルタの応急処置は止血する程度で傷自体は完全には塞がっていなかった。その後ルイスが起きたあとは彼自身で傷をある程度治した、という感じ。(昔読んだ本で止血はできたが傷は完全に治ってない、と記されていた描写があったのでそれをそのまま活用しました)

女性が利用した毒について
即効性を重視したせいで持続性がない+刃に濡れたのも少量+最後に水路にドボンされたせいで元々少なかった毒が水路に落ちたことである程度流され、持続性がない(段々弱くなっていく感じ)こともあって起きた時にはほとんど残ってない感じに。

*毒の解釈については元々無知であったため、フグ毒を参考に。フグ毒は摂取量や適切な処置が出来たかによるものの8時間で分解されて体外に放出される、フグ毒の効果が出るのに最短でも20分ということから、斬られてから効果が1秒出る代わりに持続性も短くすると考えて単純計算すると持続性24秒という短すぎる感じになってしまったため、色々考えて3時間ほどに設定。フグ毒に後遺症は無いものの、それだと味気がないと感じたため若干操作しずらい、程度にしました。

今思えばスズメバチやマムシの毒を参考にすればよかったと反省しています……


中々納得できないところがあると思いますが、そこは目をつぶって頂けると幸いです。
この度は作者の甘い考えのせいで楽しく読んでいた読者の皆様に不快な思いや不信感を持たせてしまい、大変申し訳ございませんでした。

これからについてですが、プロットを再度見直し急な展開がないかどうかの確認、あった場合それの修正を行うため投稿はしばらくお休みさせて頂きます。


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18冊目

修正が終わったので投稿を開始します。

ただ、アレクシアを誘拐された挙句自分は行方不明ということになったルイスくんの処遇に関してはご都合主義になってしまいます。本当に申し訳ありません……


 

€月…日

昨日はゼノンをシャドウがぶちのめした後すぐに自分が休んでいる寮にこっそり戻って寝たフリをしていたため日記が書けなかったが、今日は大丈夫そうなので書いてる。

とりあえず、今日聞いた話やあった事を整理がてら書いていこうと思う。

 

まず、アレクシア誘拐事件はアイリス様がアレクシアを見つけたことにより一旦は解決した。しかし、今回の騒動でアレクシアを通じてディアボロス教団のこと、その教団と敵対しているシャドウガーデンという2つの組織があることが遂に王都側にもバレてしまった。これに関してはアレクシアが誘拐されてしまった時点でこうなるのは察してはいた。アルファたちも覚悟していたらしく、これからは王都側とも場合によっては争うことになるのも視野に入れておくべきだろう。

 

次にアレクシアの容態に関してなのだが、見舞いに来てくれたアイリス様たちの話によれば擦り傷などはあるものの軽傷であり、少々体の線が細くなったが明後日辺りにはいつも通り過ごせるようになるだろうとのこと。

これを聞けて本当に安心した。ただ、今回の件は俺の油断と実力不足のせいで攫われてしまったのに相違ないから鍛錬の時間も増やし、アルファたちにも言われた通りスライムスーツとスライムソードも常時持つようにしないと。

 

そしてその次に俺が事情聴取で話したことついてだが……これは俺があの女性に負けてからこの部屋にいるのを見つけた人が起こすまで意識がなかった形、つまりシャドウガーデンに救われた記憶は無いという形で押し通した。ただ、交戦したあの女性に関してはきっちり開示。とてつもない剣の使い手だということ、魔力操作に支障をきたす毒のようなものを持っている可能性があることを全部伝えた。尤も、後者に関してはアルファから教えてもらったものだけど、アイリス様やアレクシアに死んで欲しくないから開示させてもらった。

最初こそ、アイリス様の近くにいたお付の騎士の人は信じられないと言った様子であったが、アイリス様が俺のことは信頼出来ることをフォローして下さりそこは一応何とかなった。

 

そして最後に俺についてなのだが……3日間は安静するだけになった。アレクシアの誘拐を未然に防げなかった挙句行方不明になるという大失態をしたのにも関わらず、お咎めなしというご都合主義を疑う結果だったのだが、これはアイリス様とアレクシアが弁護してくれたのと、ゼノンという実力者が敵にいたことから一介の魔剣士が負けても仕方ない、ということがあったかららしい。

あと安静期間が3日なのは傷自体はほぼ治ってるため経過観察としてということからとの事だった。

 

以上が今日あったことだ。因みにアイリス様からは「無茶しないように」やら「しっかり安静にすること」やら色々言われた。が、1番応えたのは「私はあなたのことを弟のように思っているからすごい心配だった」だろう。

正直そんなふうに思われているとは思わなかったし、そもそも接点もあまり無かったのだ。それでもアイリス様はそうは思っていなかったらしく、剣の相手を初めに話し相手、果てにはアレクシアのことで俺が相談しに来たことなどが積み重なって弟のように思うようになったとのこと。

 

……とりあえず無茶はしないように気をつけようとは思う。無理はすると思うけど。

 

 

€月&日

 

デルタが父さんからの手紙を持って訪ねてきた。直接父さんが来ればいいのにと最初は思ったが、どうやらあの事件の事後処理が忙しいせいで時間が作れず、たまたま父さんを見つけて話しかけてきたデルタにこれ幸いとばかりに手紙を書いて頼んだ、という経緯があるみたいだ。

 

これを聞いた時思ったのが本当にデルタは()()父さんを見つけたのか、という事だったのだが……楽しそうにこちらに話しかけてくる彼女を見ていたら言う気も無くなり、水に流して話していたところアイリス様がやってきた。

ぶっちゃけ問題はここからだった。アイリス様はドアの外に「面会謝絶」と書いておいた貼り紙を貼っておいたらしいのだが、それを無視して入ってきたデルタのことを警戒し始め、一方でデルタもアイリス様を見た途端に敵意むき出しで唸り始めたから生きた心地がしなかった。

とりあえず体を起こして2人の間に入って落ち着くように何とか説得し、一旦落ち着いたところでデルタのことを「幼馴染みのユウナ」として紹介し、彼女が来た理由も父さんからの手紙を預かったからと説明したところ、アイリス様が「私の早とちりでした」と謝罪して下さり、そしてデルタには初対面の人に敵意を出さないこと、と俺から言ってその場は納まった。

 

その後は俺とデルタの馴れ初めをアイリス様から聞かれたので、前々から打ち合わせしていた通りに説明した。地元の街で1人で歩いていたところを俺が声をかけたら親がいないという事だったので、家に招待してそれからの付き合い、という内容だったけど普通に納得してもらったので結果オーライだ。

あ、あと俺とデルタが互いのことどう思ってるか聞かれたな……俺は「大事な幼なじみ」って答えて、デルタは「大好きな人なのです!」って答えた瞬間、アイリス様が額に手を当ててため息吐いてたけどどうしたんだろうか。あと、デルタの大好きは友愛的な方だとは分かってるが、勘違いしかけた自分が本当になぁ……非リアを拗らせるとこんなことになるって身をもって体感したくなかった。

 

なんか悲しくなってきたのでもう寝よう。

 

ちなみに父さんからの手紙の内容は例の事件の後処理で暫くこちらにいるから、何かあったら直接言いに来る、またはユウナに頼んで手紙を出してくれというものだった。

 

……副団長の座を蹴飛ばした理由、書類仕事が嫌だからとかじゃないよな?

 

 

%月☆日

 

今日はアレクシアが訪ねてきた。来るとは思ってなかった+部屋に入れたら嫌な予感がしたのでドアを直ぐに閉めたら「ルイスが私に酷いことをしたってアイリスお姉様に言いつけるわ」というとんでもない脅迫が飛んできたため部屋に入れてしまった。

 

その後は紅茶を出して暫く雑談していたのだが、シドと別れたこと、自分が目指す剣が見つかったこと、自分が剣を振る理由が見つかったことをアレクシアは話してくれた。特に目指す剣が見つかったことを話していた時は、憑き物が取れたかのようにスッキリした様子で話してたからとりあえず安心した。……シドと別れた理由に関してはゼノンがいなくなったからとしか話してくれなかったし、剣を振る理由に関しても「まだ秘密よ」とウィンク飛ばされて誤魔化されたし、ちょっとモヤッとだけど。

 

そしてそんなアレクシアだが、明日が休みというのを利用して俺の部屋で一夜を明かすつもり満々みたいで1人用のベッドにもう入ってこちらをジーッと見ている。俺の嫌な予感の正体はこれだったのかもしれないな。つーか、前とは色々違うのに一緒に寝る気満々なの本当にどうなんだ?異性との距離感間違えてない?デルタもそうだけど今どきの子の距離間分からねぇ……アイリス様に聞いたらなんか酷い目に合いそうな気がするし、シドに聞くのはなんかおかしい気がするから、アルファやガンマ、ゼータ辺りに今度聞いてみるか。

 

 

 

*****

 

 

 

「すー……すー……」

 

「全く……よくこの状況で寝れるわね……」

 

互いの体が密着出来るほど距離が近いというのに、呑気に寝息を立てて寝ているルイスにアレクシアはため息を吐きながら答えた。

1人用のベッドに2人、しかも15歳とそれなりに成長している人間が2人も入っているのだ、普通に考えて狭くないわけが無い。事実アレクシアの胸がルイスの背中に思いっきり当たっていた。

尤も、アレクシアはこの状況を最初から狙っていた訳なのだが。

 

(……これで少しは意識させることが出来るかと思ってたけど、そう甘くは無いみたいね)

 

アレクシアは昨日姉のアイリスから「ユウナ」という獣人の少女がルイスとの距離がかなり近いこと、そして異性としての好意を持っている可能性があると聞き、危機感を募らせてこうして行動に出た訳だが、当のルイスは普通に寝ている始末。

 

「んっ……んん……」

 

「ちょっ……!?」

 

そんな中ルイスはモゾモゾと動いて寝返りを打ち、アレクシアと真正面から向かい合うような形になった。

アレクシアは急に目の前にルイスの顔が来たことに驚き、それで早く鼓動している自身の心臓を気にしないように意識したところで、ふとルイスの心臓辺りに自身の耳を当てる。

 

──トクンッ、トクンッ……

 

一定のリズムで鳴る心臓にほっとし、そのままルイスの背中に腕を回すと彼の体温をより強く感じるために思いっきり抱きしめる。

アレクシアは確認したかった。ルイスが生きていること、そして彼が自分の傍から居なくなっていないことを。エルと呼ばれていたルイスにどこか似ているような気がする男と姉であるアイリスからルイスの生存を聞いていたとはいえ、この目と手で触って確かめるまでは完全に安心出来ていなかった。本当であれば直ぐに会いに行きたかったのだが、囚われの身であったことや少なからず怪我をしているせいでそれは叶わなかった。

 

(大丈夫、ルイスは生きてる。でも……)

 

アレクシアは不安だった。アレクシアはルイスという人間をずっと近くで見てきたからこそ分かる。もし、目の前でルイスにとって大事な人が危険な目に合いそうな場合彼は自分の身を投げ出してでも首を突っ込むだろうと。

そして実際にルイスは攫われたアレクシアを助けるために戦闘を行い、返り討ちにあっている。

 

結果論ではあるが、もしアレクシアが誘拐されるほど弱くなければルイスが怪我を負うことはなかった。その考えが最初、頭によぎった時はアレクシアは自身の無力さが悔しくて力をもっとつけねばと思い、そしてかつてルイスが言っていたことを思い出した。

 

「『才能がない、って言われたけどそれでも守りたいものがあったから、俺は剣を振るい続けられたんだ』……本当に私は貴方に救われてばっかりね」

 

アレクシアはその言葉を思い出した時、あっさりと胸の内にあったモヤモヤが消え去っていた感覚がした。そしてその言葉のお陰でアレクシアは自分にとって譲れない想いが何なのかを定めることが出来た。

 

 

「ルイス。私はね──」

 

少女の決意はそのまま月の光が照らす夜の中へ入っていった。




次回はデート回です。

キャラ紹介

ルイス
大失態犯してるのにお咎めなし。なお、アレクシアがベッド・インしてるのに普通に寝れてるのはとあるワンコ系獣人のせい。

アレクシア
メインヒロイン。ルイスのせいで覚悟きまちまった。それはそれとしてライバルが出てきたことで若干焦ってもいる。

デルタ
アピールしてるのに気がついてくれないルイスに対して不満はあるが、頭を撫でられたり、一緒に過ごすと直ぐに忘れる。

アイリス
色々な問題が出てきて頭を抱えていた矢先、とんでもねえやつが出てきてアレクシアが無事にルイスと付き合えるか不安になってきた。なおルイスのことは1人の剣士としても人間としても認めている。そろそろ呼び捨てでも……

アイク
ルイスのお父さん。久しぶりの膨大な書類を目の前に苦笑いを浮かべている。書類仕事はどちらかというと好きでは無い。


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19冊目

という訳でデート回です。





 

%月♪日

 

朝アレクシアの髪を整えて見送ったあと、今日は休日ということもあってかシドが俺の部屋に珍しくやってきた。最初は他愛もない話をしていたのだが、途中でアレクシアにぶった斬られたという話を聞いた時はショックで気絶しかけた。

それでそうなったわけを聞いてみたら、「これからも友人として付き合ってくれないかしら?」と聞かれた際に親指を下に向けて断ったらブチ切れられて笑顔と共に斬られた、というのが流れだった。

 

うん、これに関しては今思ってもアレクシアの方が悪い。無論、シドも煽るようなことをしたからアレクシアだけが悪いとは言えないけども、こればっかりは流石になぁ。

 

という訳でこれまでの詫びも兼ねてシドに色々奢ることが決定し、早速明日2人で王都を色々回ることになった。そしてその話を戻ってきたアレクシアに話したところ「あなたの主は私よね?」と圧をかけられたが、これまでシドに迷惑をかけてたことを盾に説得し、無理やり納得してもらった。代わりに今日も一緒に寝る羽目になったんだけど……女子ってよく分からん。

 

もうちょっと愚痴とか書きたいけどアレクシアからの視線が凄いので、ここまでにして寝よう。てか、暑苦しくないのだろうか。俺は暑いのはまだ耐えられるからいいんだけども。

 

 

%月→日

 

久しぶりにお互いの事情を知ってるシドと2人でゆっくり過ごした気がする。

シドとは朝から待ち合わせをし、そこから骨董品店を回って「陰の実力者がもってそうな物」を探したりそれで意見を交わしたり、昼はまぐろなるどに寄って昼飯を奢り、そこからは適当にブラブラしながら雑談をした。

ただ俺の前世の話をする時は街の外に出て誰もいなそうなところでした。

 

シドは俺の前世の話を聞くこと、特に魔王軍幹部の話が色々想像をかきたてられるから特に興味があるらしく、今日は俺がとある貴族の令嬢にハジメテを奪われそうになったところから、魔王軍幹部の1人でありながら四天王の1人である【魔将】と戦ったところまでを話した。今思えばよくユラとポチすけは俺らがバラバラにされた時倒せたな。あの【魔将】は如何にも魔法使いです、って感じの風貌で実際に魔法の腕も一流と表現することすらおごがましいぐらい凄まじいくせして、槍の扱いも一流ととんでもないやつだった。

タイマンだと全盛期なら苦戦はすると思うが倒せるとは思う。代わりに腕1本は覚悟した方がするべきなのだが。

 

そんなこんなで今日は中々楽しかったし、アレクシアには迷惑をかけたし、デルタには命を助けて貰ったからその礼としてミツゴシ商会や商店街で色々買った。

アレクシアには鍛錬用のヘアゴムを買った。ちょっと前に古くなってきたから買い替えようかな的なことも言ってたし、失敗は無いと思う。そしてデルタに関しては……これまでの傾向からして一緒に料理するか、俺が手料理を振舞った方が物をあげるより喜ぶので、今回は今頃書類で埋もれているであろう父さんへの労い弁当も兼ねて材料を多めに買った。

作るのは夏も近づいてきたわけだし、おにぎり、卵焼き、唐揚げとマリネ、後は父さんの好物でもあるきんぴらごぼうにする予定だ。料理する場所についてはシドと別れた後に学園に行き、その学園で授業の時に使う調理室を利用する申請を出して、許可も貰ったから大丈夫だろう。

 

本当は一緒に作りたいところだけど、流石に場所が場所なため今回は断念。やるとしたら実家になるかなぁ……。

 

あと、デルタには学園からの帰りに会ってその時に集合場所と時間を伝えれたのは本当に運が良かった。本当はゼータとかに伝えようと思ってたから良かった。

 

 

 

%月¥日

 

今日は朝から忙しかった。

まず5時に起きて材料をスーツケースにぶち込んでから急いで学園の調理室に行って、弁当を父さんと手紙で知った父さんの小隊の皆さん、そしてデルタと俺の分を作った。ただ、父さんとデルタはよく食べるので2人だけで6人前、小隊の人たちで6人分、そして俺の分が2人前という訳で合計14人前分作る羽目になってちょっと大変だったのだが、料理自体は前々世の頃からの趣味だったから苦ではなかった。後は自分の分を弁当箱にしまってから急いでデルタとの待ち合わせ場所に移動。デルタにお父さんの弁当を彼女の分のお弁当を渡し、父さんたちに届けるようにお願いした。その際に彼女に頭を撫でて欲しいと言われて頭を撫でたわけだけど……やっぱり狼と言うより犬だよなぁ……

 

その後はアレクシアと一緒に登校するために、彼女のところまでまた急いで行き、そのまま学校へ……とはならず弁当箱から匂いが出ていたのか色々問い質されてしまい、デルタにも作ったというのは言わずに白状したところ何故かそれを昼に二人で食べることになった。

それでお昼になって2人だけで食べれる場所に行こうとしたのだが、何故か食堂で堂々と食べる派目になり、周りの視線が痛かった。そして肝心のアレクシアの感想は「すごい美味しかった」と悔しそうに言っていた。てか今思ったけど、これは分からせを遂行できたのでは?やったぜ。

 

ちなみに今日はアレクシアの命令で別々に帰ることになったんだけど、また誘拐事件起きたら元も子もないので、影ながら見守っていた。それでアレクシアは本屋によって熱心に料理本を読んだ後、何冊か買ってたけど、まさか俺に対抗してなんか作ろうとしてるのかな?

……一応明日それとなく聞いてみるか。

 

あ、ヘアゴム渡すの忘れてたわ。

 

 

 

*****

 

 

 

 

アレクシアは激怒した。必ずかのクソボケ唐変木従者のルイスを分からせてやると決意した。アレクシアにはルイスの交友関係が分からぬ。アレクシアはミドガル王国の第二王女である。王女として勉学に励み、姉に憧れ剣を振ってきた。けれどもルイスに向ける想いは人一倍重かった。

 

(だからルイスのカバンからいい匂いしてる理由を聞くのは何らおかしくないわ)

 

アレクシアは自分を正当化しつつ、目の前で目を逸らしているルイスに笑顔で圧をかける。本音を言えば昨日のシドとのお出かけについても小一時間ほど問いただしたいところではあるが、まずはルイスのカバンから出ている唐揚げの匂いの方が先決だ。

唐揚げの匂いがカバンからしているということは、十中八九カバンの中に唐揚げが入っているというのは容易に予想がつく。問題は何故唐揚げがルイスのカバンの中に入っているのか、ということだ。

 

まずアレクシアがこの段階で予想出来たことは2つ。

 

1つはルイスが誰かにあげるために唐揚げを作ってカバンの中に入れている。

 

もう1つは誰かから唐揚げを貰った。

 

正直どれであってもアレクシアの精神衛生上よろしくない。具体的には、前者だった場合は自分ですら食べたことの無いルイスの手作り料理を食べた人間への怒りで、そして後者に関してはルイスは一体誰の従者なのか忘れたのかという怒りで彼女の胸中は荒れ狂う。

 

(それにしても一体誰なのかしら……まさか例のユウナって泥棒猫?いや、もしかしたらシド・カゲノーの可能性もあるわね……どっちであっても許さないけど)

 

「……はあ、分かったよ。話すからその笑顔やめてくれ、ちょっと怖いから」

 

「あ″んっ?」

 

「なんでもないです」

 

アレクシアが相手が誰なのか、あれこれ予想している中ルイスが遂に折れ、一悶着起こりかけたが事情を話し出した。

 

「今頃書類仕事で疲れてる父さんにお弁当作ったんだよ。それで父さんの分を作るついでに自分の分も作ったから、カバンの中からする匂いは俺の分だと思う」

 

「ふーん……貴方、料理できたのね」

 

「まあ、こっちで働く前から料理をやらせてもらってたし、なんならアレクシアの従者になってからもたまに厨房借りて料理してたぞ」

 

「へ、へぇ……ちなみに誰に作ったのかしら……?」

 

「執事長さんや他の使用人さんたちだな。賄い飯ってことで作らせてもらってたし」

 

「そ、そうなの……」

 

アレクシアは声の震えを出来るだけ抑えつつ会話を続ける。まさか使用人たちにすら先を越されていたというとんでもない事実に、彼女は動揺しまくっていた。と、同時にふとルイスの料理の腕が気になった。ルイスの口ぶりからして使用人たちに振舞ったのは1度だけでは無いのは確かであり、そして何度も作るのを許されるほどとはどれくらいなのか。

 

「それなら、そのお弁当私にも頂戴」

 

「え」

 

「貴方が料理出来るの初めて知ったんだし、自分の従者がどれ程の腕前か主として把握しておくべきでしょ?」

 

アレクシアは堂々とルイスにそんなことを宣い──

 

 

 

 

 

(な、なにこれ……すごい美味しい……!)

 

 

 

お昼の時間帯でルイスが作ったおかずを食べて完全敗北していた。少しでもダメなところがあったらダメだししてやろう、と思っていたのにも関わらずルイスの弁当は彩りやおかずの置き方など全てが完璧だった。味は少々濃いめではあるものの、昼前に行ったのが剣の稽古だったことから寧ろ味の濃さが好ましく感じる。おにぎりや唐揚げ、マリネ、卵焼きも美味しかったが特にきんぴらごぼうは味がしっかり染み込んでいながら、唐辛子のピリッとした感じがさらに食欲をそそり、アレクシアは気がついたら完食していた。

 

「…………」

 

「どうでしたか?」

 

(っ、ルイス……!)

 

人前ということもあり敬語ではあるものの、少しニヤついているルイスを見てアレクシアは少しだけイラッとしたものの、ここで言わないのは流石に失礼なため正直に感想を述べることにした。

 

「凄い美味しかったわよ……悔しくなるぐらいに」

 

「お口にあったなら何よりです」

 

最後に呟いた言葉は聞こえていなかったのか、柔らかい笑みを浮かべるルイスからアレクシアは視線を外し、とあることに気がついた。

 

(待って。私、ルイスを堕とす計画のうちに料理も入れてたけど……あれ以上に美味しい物を作らないといけないわけ……?)

 

ダラダラと背中で汗が流れる。アレクシアは王女という立場上料理をしたことはあまりない。というよりしようとしたら周りにとめられた。今では物を壊すことは無くなったものの、ルイスレベルの物を作れるかと聞かれたら悔しいが否定しかできない。

 

(……料理本買って、練習するしかないわね)

 

アレクシアはそう判断すると、目の前で呑気にお茶を飲んでいる従者に対して放課後は自由にするように命じるのだった。

 

 

 


という訳でシドくんとのデート回でした。

 

キャラ紹介

 

ルイス

我らがクソボケ。シドとは男同士+転生者同士というのもあって仲は良好。料理に関しては前々世からやっていた+前世ではパーティの皆がよく食べるため大量に作るのに慣れているため、その腕前はかなり高い。だが、お菓子作りに関してはイプシロンと比べると劣る。久しぶりにアレクシアを分からせた。ちなみに前世では勇者が4人前分、聖女が5人前分、シーフが3人前分、ポチすけが3人前分と装備よりも食費関連がかなり大変だった模様。

 

一応勇者パーティの面々も手伝いはしていた時期があったが、3人とも料理スキルがお世辞にもそこまで高くなかったため、ルイスへの負担がかなり多かった。なんならポチすけの方が念力で火加減調整や次の調味料などを最適なタイミングで渡すなど出来たため脳筋三人衆よりも役に立ってた。

 

シド

我らが原作主人公。ルイスの前世話はかなり有用。それはそれとしてアレクシアとデルタ、ルイスをギャルゲーのヒロインと主人公に見立て、自分はモブっぽい動きができるよう考えてる。どちらかというとデルタ派。

 

アレクシア

ルイスを堕とす作戦の内1つがかなりの難易度になってしまい困ってる。ちなみに描写外でルイスとシドのデートを尾行しようとしたが、察知したアイリスに捕まって失敗に終わった。

 

デルタ

ルイスの手作りお弁当貰って喜んでる。本人いわく、「エル様が作ったのはずっと食べれる」とのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

*オマケ*

 

 

 

「ふぅ……久しぶりの書類仕事は疲れるね……」

 

アイク・エアは自分らの小隊に与えられた部屋の中で終わる気配のない書類の山と死んだ目で作業をしている部下たちを見て、少し疲れたように呟く。アレクシアが誘拐された事件と王都で起こった強力な魔力の爆発による被害、そしてディアボロス教団という組織が使っていたとされる施設から押収した証拠品を集めていた倉庫の火事の後処理に関する書類のせいで全く終わる気配がなかった。

 

(元々、書類仕事は好きじゃなかったけど余計嫌いになりそうだな……)

 

アイクは疲れた目元を揉みながら息を吐く。

今回の件で息子であるルイスが行方不明になったこと、ルイスの幼馴染であるシドが容疑者として尋問されているという情報を聞いたアイクは、直ぐに王都に行きシドの弁護をし、さらに今回の事件の捜査に加えて欲しいと直談判。結果としてアイクの騎士団復帰を条件に特例として認められたまでは良かったが、小隊の隊長というそれなりの責任のある立場になったせいで業務に殺されかけている。

 

そんな中、ふと時計に目を向けると時刻は丁度お昼時であった。普段であればそのまま食堂に言ってご飯を沢山食べたいところではあるが、アイクはそこまでお腹が空いていないこと、部下達を置いて自分だけ食べに行くのは憚れたため、今日も昼抜きで良いかと思った時、ノック音が部屋の中に響いた。

 

「どうぞ」

 

「失礼します、ご主人様」

 

アイク隊の部屋に入ってきたのはエア家から代表してやってきた使用人の1人であるアイネだった。それだけだったなら別になんとも思わないが、手に3つ持っている長方形のものを包んだと思われる風呂敷の存在感がアイクの意識を割いた。

 

「アイネ、それは……?」

 

「こちらはルイス様が作ったお弁当です。ユウナ様が朝方に私に届けに来てくれましたので、只今お持ちしました」

 

「ルイスが……?」

 

アイネから聞いた話を聞いてアイクは目を見開く。アイネはそんな彼を他所に風呂敷を空いている机に置くと、風呂敷を開いた。中からは3段積みの重箱が現れ、それを順に開けて行くと1番上には所狭しと置かれたおにぎり、2段目には卵焼きや唐揚げ、そして3段目にはマリネときんぴらごぼうが入っていた。

部屋には唐揚げの美味しそうな匂いが漂い始め、書類仕事で食欲が無かった全員の空腹を誘う。

 

「そしてこちらのもう2つの分はご主人様がお世話になっている、ということで小隊の皆様の分でございます」

 

「え、自分たちにもですか!?」

 

まさか自分たちの分もあるとは思っていなかった小隊のメンバーも驚きの声を上げる。

それを見たアイクはふっ、と微笑むとペンを置いて立ち上がった。

 

「よし、皆書類は一旦そこまでにしてお昼にしよう。まずは英気を養うところからだ」

 

『はい!』

 

アイクの号令を聞いた騎士たちは一斉にペンを置くと、机の上を片付け始める。

 

これはとある騎士小隊のお昼の出来事であった。

 

 

 

「この唐揚げ美味しい……!どんどん食べれるぞ……!」

 

「おにぎりの塩加減も丁度いい……久しぶりにこんなに美味しいおにぎり食べたな……」

 

「卵焼きは少し甘めだけど、なんか疲れが取れる気がするなぁ……」

 

「アイク隊長!きんぴらごぼうすごい美味いです!」

 

「そうだろう?なんたって僕の息子が作ったんだから、美味しいに決まってるさ(……料理が得意なところも、察しが良かったり気配りができるのも妻に似ているな)」

 

 

こうしてアレクシアの知らぬところでルイスの手料理を食べた人物は増えていくのだった。




キャラ紹介

アイク
きんぴらごぼうが好物なお父さん。息子の行動や弁当から自身の妻の面影を見ていた。それはそれとしてお弁当は3人前分ペロリと平らげた。

アイクの部下の皆さん
ルイスによって胃袋を掴まれた。


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20冊目

おまたせしました。

今回は愉悦要素がないため、代わりに自分がドラク○10で泣きながらレベル上げをしたっていうのをここで言っておきます。レベル100にしないといけないのあと14職も残ってる……(殆どレベル40止まり)





 

 

%月$日

今日の朝早速アレクシアに料理本を買った理由をすったもんだの末に聞いてみたところ、俺に対抗心を抱いて買ったとのことらしい。

なんか照れ気味で言われたから不覚にもちょっと可愛いと思ったし、キュンとしてしまった。デルタのわんこっぷりを思い出せなければ死んでいたと思う。

その後色々話した結果、俺が料理を教えることになった……というか味見役に任命された。具体的に何をするのかというと、基本的に俺は作ってもらう料理を指定し、アレクシアが料理している間はあまり口を出さず、味見の時だけ指導しろ、ということだ。うーん、なんか不安だけど……まあ大丈夫だと信じたい。

 

因みに今日アイネさんを通して昨日の弁当はかなり好評だったことが分かった。ただ話によるとかなり辛い状況だったらしいから、毎日は無理だけど週一でお弁当作ろうかな?

 

あ、あとなんか最近通り魔事件が起きてるっていうのを聞いたけど、どの世界でもそんな輩はいるんだなって思った。

 

 

 

*それから暫くアレクシアの料理指導が主な内容が続く。

 

 

%月・日

 

今日帰りにミドガル学術学園の生徒がシャドウガーデンを名乗る人物に襲われているところに介入した。

 

そうなった経緯を書くと、あの時俺はアレクシアに次の料理を指定するにあたって道具の準備や何を作らせるか考えて商店街を歩き回っていた。それであれこれ考えながら歩いていた結果、辺りが暗くなる時刻になったのに気がつくのが後れ、近道で路地裏を通っていたら悲鳴が聞こえ、急いでそこに向かったら、黒い外套を来て片手に剣を持った人物に襲われているのを発見。すぐに声を上げて注意をこちらに向けさせて、剣を叩き込んだがすぐに逃げられてしまった。

追えなくはなかったが、襲われていた人を置いていくのは流石に出来なかったのでその人の護衛も兼ねて騎士団の詰所に行き、先程のことを話した。その中で、あの外套を羽織った人物が「我らはシャドウガーデン」と言っていたこと、そしてその人物による通り魔事件が出ているという情報を聞いたため、帰ってきた今少し頭を悩ませている。

 

さて、あの人物がシャドウガーデンのメンバーである可能性に関してはほぼ無いとみていい。単純に俺らが一般人を襲うメリットがないのが1つ、次にシャドウガーデンのメンバーに俺とシドを除いたら男性はいないというのがあるからだ。

この2つから考えられるのは恐らく相手はディアボロス教団のメンバーと考えられる。向こうの目的は全ての責任をシャドウガーデンに擦り付けて有耶無耶にしようとしている、もしくは俺らがシャドウガーデンが動くのを誘っていると言ったところか。

 

これは明日辺りガンマの所に行って色々情報を聞く必要があるかもしれない。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「アイリス様、大変申し訳ないのですが私も『紅の騎士団』に入らせて頂けないでしょうか」

 

「……ルイスもですか」

 

学園にある自身に与えられた部屋の中でアイリスはため息を吐いた。

この結果が、シェリー・バーネットにとあるアーティファクトの解読を頼みに行く時にアレクシアとルイスの同伴を許してしまったからというのをアイリスは分かったからだ。

アーティファクトの解読を承諾を貰ったまでは良かったのだが、あろうことかアイリスの妹であるアレクシアがシャドウガーデンやディアボロス教団に対抗するために、調査団を兼ねた独自の騎士団「紅の騎士団」に入らせるように言い出したところで流れは怪しくなった。

アイリスとしてはアレクシアがこれ以上危険な目にあって欲しく無かったのだが、彼女の覚悟は本物であり最終的にアイリスの方が折れてアレクシアの加入を認めた。

 

そしてシェリーとの会談が終わった後、アレクシアの従者であるルイスから「後でお話があるのですが、いつ頃なら空いていますか?」と聞かれ、嫌な予感がしつつも時間帯的に放課後になっている15時を指定した訳なのだが。

 

「……ルイス、私としては貴方には入ってもらいたくないです」

 

「心配かけたことに関しましては本当に申し訳ございません。ですが、私の主を守るためでもあります。私では力不足かもしれませんが、アレクシア様のことが私も心配なのです。どうか、お許しください」

 

「…………」

 

アイリスの否定に対して、ルイスは彼女を真っ直ぐ見すえて自身の想いを言う。アイリスは暫くルイスの事を黙って睨みつけたが、ルイスは全く動じずにアイリスのことを見つめる。

二人の間にどれくらい沈黙が流れていたのか分からないほど重い雰囲気の中、先に言葉を出したのはアイリスだった。

 

「……分かりました。あなたの加入を認めます」

 

「アイリス様、ありがとうございま──」

 

「ただし、条件があります」

 

「条件、ですか」

 

やはりそうなるか、とルイスは考える。ルイスはアイリスが自身の加入に対して否定的なのは予想通りであったし、彼女が王女という立場を使って問答無用に入団の拒否をしてこないことも予想通りであった。だからこそ、アイリスが条件を付けて入団させないようにするか、自分の動きを制限してくることは予想出来ていた。

 

(さて、どんな条件が──)

 

「絶対にアレクシアと一緒に生きて帰って来てください」

 

「……はい?」

 

ルイスはアイリスが出した条件に思わず間抜けな声が出てしまった。ルイスは達成するのが困難なものが来ると思っていたのもあって、彼はアレクシアですら数えるぐらいにしか見たことがない程間抜けな顔をしていた。

アイリスはそれにクスリと笑みを零すも、すぐに真剣な表情に戻る。

 

「これが条件です。これが守れるというならば、あなたの加入を認めましょう」

 

「……分かりました。必ず生きて帰ってくることをここに誓います」

 

ルイスは少し思案した後、頬をかきながらアイリスの出した条件を飲み、そしてそれを受けたアイリスは軽くため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

****

 

 

 

時刻は日が暮れ、街灯が街を照らす中スライムスーツを身にまとったルイスは屋根の上を音を立てずに走っていた。

アイリスとの会話の後、ルイスは「紅の騎士団」のメンバーであるグレンとマルコに挨拶しに行ったのだが、自分の父親であるアイクの元部下だったというグレンの会話が長引いてしまった。そのせいで門限前までにガンマの所へ話を聞きに行けなかったルイスは寮長と軽く談笑してから寮を抜け出し、ガンマがいるミツゴシ商会の所へ向かっていた。

次の日に聞きに行く、というのも選択肢の一つとしてはあったものの、今回は早めに情報を入手したかっためルイスはこのような行動をとっていた。

 

(それにしてもアレクシアのやつ、俺とアイリスの言葉を振り切ってまで騎士団に入るなんて……心配するこっちに身にもなって欲しいよ)

 

ルイスがそう内心で主へ文句を言っている中、彼の耳に剣と剣がぶつかりあう音が入った。

 

(誰かが戦闘してる?……昨日のこともあるし、もしかしたら今度は魔剣士学園の生徒が襲われてる可能性もあるし介入するか)

 

ルイスはそう結論付けると音がした方へ移動を開始するのだった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

「はあっ!!」

 

アレクシアの振った剣が黒い外套を羽織った男の剣を弾き飛ばした。

カランと乾いた音を立てて転がる剣を尻目にアレクシアは剣を男に突きつけた。

 

「貴方は何者?何故こんなことをするの?」

 

「我らはシャドウガーデン……」

 

「さっきからそればっかりね……」

 

アレクシアはため息を吐く。とりあえず拘束して目の前の男を騎士団の駐屯所に連れていこうとしたところで、後ろから気配がしすぐに振り返った。

 

「……なるほど、お仲間さんの登場ってわけね」

 

同じ服装の男が剣を持って3人立っており、アレクシアに向けて明確な殺意を向けていた。1対4という圧倒的な人数不利を背負ったことにアレクシアは冷や汗を流す。

 

一人一人の実力に関してはアレクシアの敵ではない。だが、4人を同時に相手にするとなればいくら彼女でも苦戦は避けられない。

 

(……4人全員を倒すのはほぼ不可能と見ていい。そしてこの時間で手に入れられた情報はそこまで有益では無いけど、ここで死んでその情報すら共有できないのが1番最悪なパターン。ここは何としても逃げなきゃダメね)

 

アレクシアは冷静に状況とこれからすべき事をまとめると息を吐いて剣を構える。

 

「っ!」

 

それと同時に男達が一斉に動いた。

 

アレクシアはまず1人目の刺突を身体をずらして躱しつつ足をひっかけてバランスを崩させる。次に自身の回避先に振り下ろされた2人目の男の剣を受け流して位置を変える。

そして3人目の男の一撃を躱すのも受け流すのも難しいと即座に判断し、剣で受け止め力づくで押し込まれる前に相手の力を利用して受け流し、無防備な背中に一撃を加えようとして、それを援護するかのように既に別の男が剣を振り上げて接近しているのが目に入った。

 

「ちっ!」

 

剣を頭上に掲げるように横にして男の縦振りを防ぐも、その直後に別の男の蹴りがアレクシアの腹に放たれた。

 

「ぐうっ!?」

 

アレクシアは蹴りの衝撃を少しでも防ぐために体のくの字にするも、殺し切ることが出来ず後方へバランスを崩し、そしてその隙を逃さなさ買った3人目の男がトドメと言わんばかりにアレクシアの心臓へ突きを放つ。

 

「ぁぐぅっ……!」

 

彼女の心臓を貫くはずだった一撃は直前に体を逸らしたことで、心臓ではなく脇腹を貫いた。アレクシアはその痛みを押し殺して、カウンター気味に男に向かって剣を振るって男の胸を軽く斬り裂いた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

アレクシアは血が流れる脇腹を抑えながら状況が更に悪くなったことに内心舌打ちする。敵側の1人だけ負傷してるものの3人は無傷、こちらは脇腹を刺され重傷。幸いなのは行き止まりの方へ追い込まれていないことであるが、今の状態で4人から逃げ切れるかと言われたらそれはかなり難しいところではあった。

 

(……遠距離から攻撃出来る手段があれば、逃げ切れる確率あがるのだけれど)

 

アレクシアの脳裏にその考えが浮かぶも、彼女はそれを直ぐに除外し鞘を投げつけて牽制でもしようかと考えたその直後だった。

 

「よく1人で持ち堪えた、強き女剣士よ」

 

その言葉ともに黒い影が2つその場に舞い降り、そして同時に先程までアレクシアを襲っていた男たちのうち2人の体が2つに分かれ鮮血の花を咲かせた。

 

「シャドウに、エル……!?」

 

「お前のおかげで我らの名を騙る愚か者を見つけることが出来た……感謝する」

 

「我らの名を騙った罪、その命で贖うがいい」

 

(どういうこと……?この2人はシャドウガーデンと名乗ったあの男たちと敵対している?それに名を騙る……?ということは今回の事件の黒幕はシャドウガーデンではないってこと……?)

 

「く……」

 

アレクシアはシャドウとエルの登場とこの2人が男達と対立していることに困惑している中、残った二人の男はすぐに上へ跳びその場を離脱した。

 

「……エル、行くぞ」

 

「ま、待ちなさい!」

 

男たちの後を追おうとするシャドウとエルはアレクシアの声を聞いて止まった。二人はアレクシアの方へ向き彼女をとてつもないプレッシャーを与えながら見据える。

 

アレクシアはその圧に屈しそうになった。膝は震え、いつ殺されてもおかしくないという恐怖心が彼女の中でピークに達し、更に先程貫かれた脇腹の痛みで気を失いそうになるも、首に掛けているネックレスを握りしめて自身の意識を繋ぎ、覚悟を決める。

 

「私はアレクシア・ミドガル。この国の王女よ」

 

シャドウとエルはただアレクシアを見据えていた。

アレクシアは自身の命を刈り取る死神の鎌が自分の首に添えられているような錯覚に陥るも、それに抗うようにネックレスを握りしめる力をさらに強める。

 

「あなたの目的を教えなさい。その力を何のために振るうのか、何と戦っているのか、そして……この国に牙を剥くつもりなのか」

 

「関わるな。その方が幸せだ」

 

「っ!まちな……さ……っ」

 

シャドウがアレクシアの質問を斬り捨てその場を去ろうとし、アレクシアは呼び止めようとするもついに限界がきて彼女の視界は暗くなり意識が無くなる直前。

 

「ア…ク……!」

 

ここに居るはずのない従者に似た声がアレクシアの耳に入った。

 

 

 

この後、アレクシアは騎士団の駐屯所の外で壁によりかかって気絶しているところを発見された。

制服の脇腹付近が血で染っていたことからすぐに医者を呼び治療を開始したのだが、ほぼ完璧と言えるレベルで応急処置が施されており、これは新たな謎として残ったのだった。

 




番外編でバレンタイン編書こうか迷ってたり。
あとルイスの前世の一幕とか需要あります?

キャラ紹介

ルイス(エル)
アレクシアに対してキュン死しかけたがデルタのおかげで助かった。最後のは流石に迂闊すぎたと反省している。ちなみに嘘をつく時かなりの頻度でしてしまう癖がある。

アレクシア
4対1という原作より劣勢だったものの何とかなった。これに関してはルイスとも稽古しているから原作より強くなっているからというのがあったり。

シャドウ
最後急に相棒が大声でアレクシアのことを受け止めに行った時はバレるんじゃね?ってちょっと焦った。

アイリス
ルイスは約束を破ることはしないと信用している。


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21冊目

今回読む前に注意出させておきます。

今話でオリキャラの女の子がいきなり出てきます。それがちょっと嫌だな、って方はブラウザバックの方お願いします。




 

 

%月+日

今日はアレクシアがアイリス様の作った「紅の騎士団」に入ると言い出し、俺らの説得も虚しく入るのが決まってしまい、そのアレクシアを守るために俺も入らざるをえなくなった。アレクシア様は俺が入るのも否定的だったけど……まあそこは条件付きだけど入らせてもらったからいいだろう。

 

しかし問題はその後だった。

 

グレンさんと話が長引いたせいで、門限までにガンマから話を聞いて寮に帰れないと判断した俺はスライムスーツを身につけて自室の寮の窓からこっそり外へ出たのだが、途中で剣と剣がぶつかりあう戦闘音が聞こえたためそこへ向かうと、アレクシアがこの前会った通り魔と同じ服装をしている人物4人と戦っているところを見ているシャドウを発見。アレクシアが怪我をしたタイミングでシャドウを説得し、すぐに介入して戦闘を中断させた。

その後アレクシアは気絶してしまい、怪我をそのままにすることなんて出来ず急いで応急処置を施し、近くの騎士団の駐屯所に連れていき彼女を外に下ろしてから窓を叩いて中の騎士に外を見てもらうようにしむけ、彼らがアレクシアを回収したのを見届けてからその場を後にした。

 

この後、本当はシャドウと合流したかったけどあいつの魔力は何故か寮の方へ向かってたし、さっきアレクシアを傷つけたバカの方はシャドウガーデンのメンバーの一人であるニューの魔力が近くにあるのがわかったので、そちらへ向かうと丁度尋問が終わったのかニューの足元には事切れた先程の男の死体があった。

そしてニューから情報は受け取れたのだが、今回こちらの名を騙って通り魔をしていたのはチルドレン3rdという教団側が持つ戦闘員の中でも使い捨て扱いされている雑兵だったせいで情報は特に取れなかったとのこと。今回の事件はこちら側を誘い出すのを目的としたディアボロス教団が関与している可能性が高いこと、そして先日、王都でネームドのチルドレン1st『叛逆遊戯』のレックスが確認され、彼らは何らかの目的をもって集結しているという情報を貰った。

 

かなり有益な情報を貰ったが少し頭が痛いモノでもあった。

チルドレン1stというのはディアボロス教団によって拾われた子供が厳しい訓練と洗脳教育、そして数多の薬剤投与の果てに精神が安定し実力も伴ったエリート兵士だ。実力としては世界規模で見ても上位に位置する程と言われており、その中でもディアボロス教団に貢献した者はネームド・チルドレンと呼ばれている。

今回はそのネームドであるレックスがいるというのだから、明らかにろくでもないことを起こそうとしているのは嫌でも予想できる。

 

ニューには俺の方でも警戒しておくことを伝え、その場は解散することになったがこれは近いうちに向こうは行動を起こしてくるだろう。スライムスーツとソードは寝る間も身につけるようにした方がいいな、これは。

 

 

 

%月×日

 

今日は負傷したアレクシアとずっと過ごした。

応急処置を施したとはいえ浅い傷ではなかったため、暫く安静することになり、今日は学園の方にもアレクシアの方を優先したい旨を告げて休ませてもらった。

 

左脇腹の方を怪我したため左腕を動かすと痛みが走るらしく、左腕を前々世でいう確かアームホルダーだっけ、あんな感じの物を使って吊っていた。

ではそうなるとどうなるのかというとアレクシアは必然的に右腕しか使えなくなる。では片腕しか使えないとどうなるのか、簡単に言ってしまえば色々と不自由になる。じゃあ、そうなると我が主の腹黒ドS王女は何をしてくるのか。

 

知らんのか。俺にあれこれするように命令してくる。

 

ベッドから起きるのに俺の手を借りるのは分かる。片手だけだと意外と難しいし、変にやろうとすると痛いからな。

 

ご飯を食べさせて欲しいは、まあ1万歩譲れば分かる。片手だけだと思ったより食べずらいもんな。でもやる側は恥ずかしいし、夜は料理人さんが気を利かせて片手でも食べれるサンドイッチにしてくれたのにも関わらず要求するのはおかしいと思う。

 

そして、着替え手伝っては一生分かんないねん。頼むから恥じらいを持って欲しい。断ったら断ったで「主の命令に背くのかしら?」とまるで俺が悪いかのように言ってくるし、頭が痛い。昨日応急処置した際に間違えて頭のネジを抜いてしまったのだろうか。結局メイドさん呼んで代わって貰ったけど。

 

とりあえず、この着替えの件はアイリス様にチクるか。あ、でもアイリス様は結構初心ってことをアレクシアから聞いてるし、話している最中でなんかツッコまれそうだな……うーん、どうしたものか。

 

まあ、なるようになるか。アイリス様のことだから大丈夫やろ、うん。

 

 

%月÷日

 

今日は時間を見つけてアイリス様のところに行き、昨日のアレクシアの件で相談したのだが、面白かった。

ベッドから起きる時のことはセーフだった。でも食べさせてあげるところからもうアイリス様からしたらアウトらしい。王族としての意識が云々から始まり、恥じらいが足りないやら、そういうのは恋仲になって2ヶ月経ってからやるべき事やら色々言っていた。

そしてその時俺は興味半分で着替えの話をしてしまった。するとアイリス様は顔を真っ赤に染めて余計に騒ぎ始めたから面白かった。

 

でも今思うとあまりにも耐性無さすぎだろ。これ、アイリス様の旦那になる人めちゃくちゃ苦労するやん。流石に子供はコウノトリが運んでくるとか、キスしたら出来るとかそんなことは思ってないとは思うけど、なんか不安になってきたな……まあ、これは未来の旦那様に全て任せよう、ヨシ。

 

まあ、それはさておき近いうちに開催される選抜大会にエントリーされていることが今日アレクシアと話している時に判明した。そう、人の意見を聞かずに勝手にエントリーしやがったのだ、あの腹黒王女様は。

理由を聞いたら、「私が出れなくなったからその代わりよ。あなたならいい線行けると思ってるから楽しみにしてるわ」と笑顔で言いやがった。

色々言いたい気持ちにはなったが、裏を返せばそれだけ俺の実力を買っているということになる。あまり目立つ訳には行かないから初戦でさっさと負けたかったんだけど、そうもいかなくなったな……クレアと当たった時いい感じに負ける感じで行くしかないな、これ。

 

 

%月<日

 

今日は1人で学校に行った。

本当はアレクシアの看病をしたかったのだが、メイドさんに「勉学を疎かにするな」という旨のありがたい言葉が飛んできたので渋々向かった。

それで登校したらクラスメイトが一斉に集まってきて大変だった。まあ、アレクシアが休んだことが気になって聞いてきた感じだったんだが……まあ、これは知らないを貫き通らせてもらった。シドのモブ友達であるヒョロとジャガも色々聞いてきたが、適当にあしらった。

 

その後、学園に用事があって来ていた父さんと少し話していたところ、この前通り魔に襲われているところを助けた女子生徒の子が「この前のお礼です!」って言ってミツゴシ商会のチョコレートを渡しに来た。

ミツゴシ商会のチョコレートは大人気なため中々買えないことで有名で、いくらお礼といえど貰うのは凄い気が引けたため気持ちだけで十分だということを根気強く言ったのだが、向こうは中々折れてくれずどうしたものかと頭を抱え込んだところ、父さんが「2人で食べたらどうだろう?」と提案したことでそれに決定。その後はその女子生徒───アンナさんと俺の部屋でお茶をすることになった。

 

アンナさんは学術学園の2年生であり、魔力に関することを専門に研究をしているとのこと。話してみた感じ、前々世でいうギャルみたいな雰囲気だったものの、アレクシアの取り入るために近寄ってくる奴らと比べたら下心を感じなかったためかなり話しやすかったし、リラックスして話すことができたと思う。

そして話題は近日行われる選抜大会のことになり、アンナさんから俺は出るのかどうか聞かれ、出るということを答えたところ「応援してるよ!」と激励されてしまった。どっかでわざと負ける予定だから罪悪感で胸が痛い……。まあ、それはそれとして前々世では全く縁のなかったギャル系女子とお近付きになれたのはなんか嬉しい。

 

そういえば、アンナさんとの出来事をアレクシアに話したらティーカップからコーヒーが零れるぐらい震えてたけどどうしたんだろうか。熱はなさそうだったけど、ちょっと心配だなぁ。

 

 

 

*それからアンナと話したことやそのことを話す度にアレクシアが変な挙動を取ったことを書いた内容が続く*

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

選抜大会当日、ルイスは順調に試合を勝ち進んで行っていた。ルイスの実力を考えればこれは当然の結果ではあるが、他の人間からしたらそうはいかない。何故ならルイスは1年生であり、彼の評価はアレクシアの近くにいる従者、人によっては金魚のフンというものであり、学園の稽古の授業でも魔力をそんなに込めずに剣を振っているのを知っている人物からすれば、強いと思う人間はいない。

だが、蓋を開けてみればどうだろうか?ルイスは優勝候補とはいえずとも、学園の中では上位の実力に位置する上級生の魔剣士相手に圧勝とは言わずとも危なげなく勝っている。そのため、生徒たちの中でルイスの評価はだんだんと変わってきていた。

 

「ねえ、ルイスくん凄くない?」

 

「いや、私はルイスくんは凄い人だって思ってたし?それによく見ればイケメンだと思ってたし?」

 

「…………………」

 

が、それを聞いていて面白くないのがルイスの主であるアレクシアだ。本当であれば自室で安静にすべきなのだが、ルイスの晴れ舞台を見ないなんてことはしたくなかったため、無理を言ってこの場に変装して来ていたのだが。

 

「ルイスくんって考えてみたら結構優良物件じゃない?アレクシア様の従者でお父様は騎士団の元副団長らしいし!」

 

「それになんか一途っぽい感じするよね~。ほかの男子みたいに変な目で見てこないし」

 

「…………………」

 

先程から耳に入ってくるのはルイスを賞賛する声。別にルイスのことを褒めるのは悪いことでは無いし、アレクシアとしても自分の従者はすごい人間というのを分かってもらえているのが認識できるから良い。

 

だが、ルイスのことを異性として見て優良物件だのなんだの言っていることが気に食わなかった。

 

───貴方たちはルイスの何を知っているんだ?

 

───貴方たちはルイスと長い時間過ごしてきたのか?

 

───貴方たちはルイスの欠点を知っているのか?

 

アレクシアは好き勝手言う生徒達に色々言いたいのを堪えつつ、準決勝の試合が始まるのをまだかと右手の指で膝を叩きながら待つのだった。

 

 

 

 

****

 

 

 

「ふぅ……疲れた」

 

ルイスは控え室で少し疲れたように息を吐いた。結果を言えばルイスは準決勝であたったシドの姉であるクレアに敗退した。無論、なるべく接戦を演じた上での敗北だったのだが、これがルイスにとってはなかなか難しくクレアの実力もそれなりにあるせいで調整でかなり神経を尖らせていたのだ。最終的にはクレアが自分が敢えて作った隙を突かせて剣を弾き飛ばされる、という形で終わらせたので無様な負けではないだろうと内心思う。

 

そしてその一方で全力で相手をしなかったことに罪悪感も覚えていた。元々、ルイスは手を抜いて何かをやるというのに抵抗を覚える性格をしており、今回は自身の置かれている立場などを考えてやむを得ず手を抜いてわざと負けたのだが、そこで理解はできても納得し、何も感じないか言われたらそれは難しい話であった。

 

(……あれこれ考えるのはよそう。これは俺が自分で選んだ上でやった事なんだから、被害者ぶるのはダメだ)

 

ルイス頭を振って思考を切り替えると、控え室の扉を開け。

 

「やっほー、ルイスくん!お疲れ様~!」

 

「……アンナ先輩?」

 

明るい調子で声をかけてきたアンナが目の前に出てきたことにルイスは目を丸くさせた。

 

「うん、私だよ~。ルイスくん、この後予定ある?」

 

「え?いや、特にないですけど……」

 

「それならこれからお疲れ様会やろー!場所はもう決めてあるからさ、行こ!」

 

「あ、ちょっ!?」

 

ぐいっ、とルイスの手を掴んで強引に歩き出したアンナにルイスは驚きの声をあげるも、抵抗することも出来ずそのまま引きずられて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

それを見ていた人物がいたというのを気づかずに。

 

 

 


 

 

アレクシアやデルタたちにモブ子を庇った結果、血だらけで倒れるルイス見せたいな~(こういうほのぼのラブコメっぽいのいいですよね~)

 

キャラ紹介

 

ルイス

なんか気がついたらフラグを建てていたアホ。シドがローズに全力でボコられにいっているのを見た時はドン引きしていた。ちなみにギャルに対しての耐性はほぼ皆無。自称童○くんさぁ……

 

アンナ

20冊目の%月・日にて通り魔に襲われているところをルイスに助けられた女子生徒。イメージ的にはサイドテールで制服の上着を腰に巻いているギャルっぽい感じ。彼女視点の話は次辺りになる予定。

 

アレクシア

健闘したルイスを褒めようしたらぽっと出の女に連れてかれて思考停止中。

 

 

アイク

息子がモテモテっぽいことにちょっとだけ危機感を募らせている。

 

 

 

次回予告。

 

やめて!アンナと仲良く食事してデレデレしているのをアレクシアやデルタに見られたら、ルイスへの好感度がバグってる2人の手でルイスとアンナが大変な目に遭っちゃう!

 

お願い、デレデレしないでルイス!

 

あんたが今ここでデレデレしたらアレクシアの精神とデルタのまだ残ってるなんでも言うこと聞く約束はどうなるの?

 

猶予はまだある。デレデレしなければ、後日個別でアレクシア、デルタとデートするだけで済むんだから!

 

 

次回「ルイス死す」デュエルスタンバイ!

 

 



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わからせ!(番外編):とある従者のバレンタインデー

アンケートの結果で書けというのが多かったので番外編という形で投稿です。

これから番外編はかげじつ!をリスペクトしてわからせ!でいきます。


 

──バレンタインデー。

 

それはとある日にチョコを親しい友人や恋焦がれている人物に渡すイベントであり、人によっては勝負の日になったり、あるいは血涙を流す日でもある。

 

そして我らがルイスはと言うと。

 

「うーん、何を作ろうかな……」

 

貰う側ではなく渡す側として自室であれこれ考えていた。

 

 

 

*****

 

 

ルイスにとってバレンタインというのは、前前世から自身の日頃の感謝を相手に分かりやすく伝えられるイベントみたいなものであった。

 

そのため、前前世では身内の人間だけではなく学校の先生、前世では勇者パーティのメンバーやお世話になった人々にチョコを使ったお菓子やクッキーなどを作って一言添えた手紙と共に渡していた。

そして今世ではミツゴシ商会がバレンタインというイベントを世の中に浸透させ始めた頃からもやっており、エルとしてはシャドウガーデン構成員全員にというのは流石に無理だったが、七陰とメンバーの育成を担当しているラムダには手作りを渡しており、ルイスとしては実家の使用人たちには手作りを、アレクシアとアイリス、そしてクレアにはミツゴシ商会で売っている物を渡していた。

 

なお、初めて渡した時の一部の人たちの反応を抜粋すると。

 

金髪エルフのαさん

「あなたってお菓子作りも得意なのね。今度教えてもらおうかしら」

 

ワンコ系獣人Δさん

「エル様が作ってくれたものはやっぱり美味しいのです!」

 

とある教官

「エル様が自らの手で作ってくださったものを……?お、恐れ多いです!」(この後渡した本人が落ち込んだ表情を見せたため食べざるをえなくなった)

 

何も無いところで転ぶγさん

「チョコを使ったお菓子でこういうのもあるのですね……差し支えなければレシピをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

アレクシア

「あら、自分の立場をよくわかってるじゃない。ご褒美としてチョコあげる」

 

アイリス

「ありがとうございます。ん?手紙が入って……後で読んで欲しい?ふふ、分かりました」

 

こんな感じであり、ルイスはその手紙を読んだとある王女からは1日中からかわれることになったのだがそれはまた別の話である。

 

閑話休題

 

 

去年も手作りで渡す人と市販の人は分けていたのだが、ひょんなことでルイスは料理が得意というのがアレクシアたちにも露見したことから、クレアを除いた女性陣から「今年は手作りにしてほしい」という意見を貰っていた。そのため、どういうものを作ろうか考えていたのだが。

 

「王族に上げても不敬じゃない手作りお菓子ってなんだ……?」

 

ルイスが材料も買いに行かずに頭を抱えている理由はこれであった。前世では、その王族のとあるお姫様の要望で彼女がリクエストしたものを毎年一緒に作って食べあいをしていたため特に考えていなかったが、今世ではそのようなことは出来ない。

だからこそこうして悩んでいるわけなのだが。

 

(クッキーはなんか違う気がするし、かといってトリュフもなんかダメな気がするし……)

 

これまでここまで悩んだことあったか?というレベルで中々いい案が出ず、ルイスは机に突っ伏す。

幸いなのはデルタたちとアンナに贈る物はもう作ってあることで、もし彼女らの分も決められず作れていなかったらルイスは徹夜する羽目になっていただろう。

 

「……あー、本当にどうしよ」

 

と、ルイスが呟いた直後「ぐ~」という盛大な音が鳴り響いた。ふと時計を見ると時間帯的にお昼時を1時間ほどすぎている時間帯であり、ルイスも空腹を感じていた。

 

「……丁度いいし、ご飯食べに行こうか」

 

ルイスはそう呟くと色々書き込んだノートを閉じてコートを羽織ると部屋のドアを開けて外に出るのだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「そういえば、ルイスくん量が多いの頼んでたけどそんなにお腹空いてたの?」

 

「ええ、朝は紅茶1杯で済ませてしまったので……」

 

「もー、そんな生活しちゃダメだよ?」

 

「はは、善処します……」

 

ルイスは街のレストランでアンナと同席して料理が来るのを待っていた。

何故こうなったのかというと至って単純で、たまには街の外でご飯を食べるのもいいかと思ってブラブラしていたところ、たまたまアンナと会い彼女もご飯を済ませてないとの事でそこから彼女に言いくるめられて一緒に食べることになったのだった。

 

「ところでさ、ルイスくん何か悩んでる感じだったけど大丈夫?」

 

「……よく分かりましたね?」

 

「ふっふー、あまりお姉さんを甘く見ちゃいけないゾ☆」

 

ふとアンナが心配そうに聞いてきたことにルイスは驚く。誤魔化そうかとルイスは一瞬だけ考えたものの、アンナの聞き方はどこか確信を持ったものであり、素直に認めた。アンナが盛大なドヤ顔を決める一方でルイスは「この人相手に隠し事は難しいかもしれないな」と冷や汗を流していたところで、彼の視界に料理を持ってきている店員の姿が入った。

 

「おまたせしました、こちらご注文の──」

 

(あー、タイミング悪いなー)

 

店員が注文した料理を置いていく中、アンナは内心残念に思っていた。彼女としては何かで悩んでいるルイスを助けて自分の評価をあげようと思っていたのだが、完全に聞くタイミングを逃してしまった。食事中に聞こうかともアンナは一瞬考えるも、先程ルイスが朝ご飯を食べていない話をしていたのを思い出し、そこから朝ご飯を食べれなかったのもその悩みが原因ではないかと結論づけて聞くのをやめた。

 

「すっごい美味しそうだね!それじゃあ頂きます!」

 

「頂きます……うん、やっぱりハンバーグは美味いな」

 

「ルイスくんってハンバーグも好きなの?」

 

「ええ、結構好きですよ。アレクシア様には子供舌だとからかわれましたけどね」

 

「へ、へえ~、そうなんだ~」

 

アンナはさらっと出たアレクシアとルイスの話を聞いて少しだけ胸に痛みが走るも、それを堪えて話をしながら食事を続ける。

 

「ルイスくんは今までバレンタインとか沢山貰ってたの?」

 

「そうですね……使用人の皆様から貰ってましたし沢山貰ってましたね。アンナさんの方は?」

 

「私?私も友達から結構貰うね~。でもその分渡すのも大変だったな~」

 

「あー……」

 

「あ、ルイスくん。ハンバーグちょっと貰ってもいい?代わりに私が食べてるやつで食べたいのあったら取っていいからさ」

 

「別にお返しはいいですよ。はい、ハンバーグどうぞ」

 

「ありがと~……って流さないでちゃんと選びな?じゃないとテキトーに選んであーんしちゃうよ?」

 

「それやられると色んな人に殺されそうなので選ばせてもらいますね」

 

「意気地無しだ~」と割と酷いことを言うアンナをスルーしてルイスは彼女が頼んだものを見る。マカロニサラダとムール貝のピラフと女性にしてはまあまあ多い料理を頼んでおり、そこから改めて自分の周りはよく食べる人が多いなと思いながらルイスはどちらを頂こうか考える。

 

(どっちも捨て難いなー……あ、そういえばマカロニって呼ばれてたやつが色々あってマカロンっていうお菓子と呼ばれたって話が──)

 

ルイスがそこまで考えた瞬間、彼の頭の中に電流が走った。これなら王族に渡す物としては不敬では無い。だが、ここでまた別の問題が出てくる。

 

(いや、でも2人とも同じなのは手抜きな気がするし、あと一つなにか……ん?そういや、貝殻みたいな見た目をしたお菓子があったよな。確か──)

 

ルイスはそこまで考えつくと頭の中がスッキリし、同時に偶然とはいえ突破口を出してくれたアンナのてを感極まって突然握る。

 

「へ!?る、ルイスくん!?急に──」

 

「アンナ先輩、ありがとうございます!先輩のおかげで悩みが解決出来ました!」

 

「え?そ、そうなの?ま、まあ役に立てたなら良かったけど……」

 

「本当にありがとうございます!先輩に今日会えて良かったです!」

 

「あ、あはは……さ、流石に恥ずかしいな……」

 

アンナは顔を真っ赤にしながら暫くそのままであったが、途中で我に帰って「先にご飯食べちゃお?」とルイスを促して何とかその場を切り抜けるのであった。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

バレンタイン当日。ルイスは覚悟を決めた表情でアレクシアとアイリスの元へ向かっていた。この時間帯は前から2人とも居ると言っていたため、すれ違いになることは無いし、個別で渡すのはなんか気恥ずかしかったからだ。

ちなみにシャドウガーデンのメンバーには朝に来たゼータに渡してあるため、ルイスはそっちの方の心配はしていなかった。尤も、デルタが明らかにやばいことになるだろうと察していたゼータはルイスに直接渡すよう食い下がっていたのだが。

 

それはさておき、ルイスの方はかなり緊張していた。

アンナとの昼食のお陰で王族に出しても不敬にならないものを作ったはいいが、2人の口に合うかはまた別問題ではある。

 

(味見はしたから多分大丈夫なはず……よし、いくか)

 

ルイスは中にいるであろうアレクシア達に声をかける前にノックを3回する。

 

「アイリス様、アレクシア様失礼します。ルイス・エアです。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「いいわよ、入りなさい」

 

「ありがとうございます」

 

アレクシアが許可を出したのを聞いてからルイスはドアをゆっくりと開ける。

 

「思ったより早かったわね。それで、私には何をくれるのかしら?」

 

部屋の中にはソファーに座って優雅にコーヒーを飲むアレクシアと少したけ申し訳なさそうにしているアイリスの姿。ルイスはアレクシアの態度は予想通りだったものの、アイリスの方は予想してなかったため内心驚く。

そのアイリスはアレクシアの態度を見て顔を顰めた。

 

「アレクシア。ただ貰うだけでは無いのですよ?こちらのわがままでわざわざ手作りにしてもらったのですから……」

 

「アイリス様、気にしないでください。これぐらいは慣れてますから」

 

「……」

 

「姉様、その呆れたような目はなんですか?」

 

「いえ、なにも」

 

「……とりあえず先に渡しますね」

 

このままだと何時になっても渡せそうにないと判断したルイスはカバンから丁寧に装飾された袋を2つ出し、片方をアレクシアに、もう片方をアイリスに渡した。

 

「2人とも同じ物、というのも味気ないと思ったので別の物を作らせて頂きました」

 

「それは気を使わせてしまいましたね……すみませんルイス」

 

「気にしないでください、好きでやった事ですから」

 

アイリスの謝罪に対してルイスは即答する。普段作らないものを作れた楽しみというのもあるし、そもそも大事な人のために作れたのだから彼からしたら大変ではあっても苦には感じなかった。

 

「あ、私達も渡してしまいましょうか。私からはこちらを」

 

「私からはこれをあげる」

 

「ありがとうございます……ん?」

 

アイリス、アレクシアの2人からオシャレに装飾された袋を受け取ったところで──厳密にはアレクシアからのを受け取った時にふと違和感を覚えた。

 

一見見た目はミツゴシ商会で売られているバレンタイン限定のお菓子を包装しているものだ。だが、リボンの結びが少し雑であることにルイスは気がついてしまった。

 

そしてそれだけではなく。

 

(そういえば、ガンマが素直になれない人向けに包装だけのバージョンも売る予定って言ってたな……)

 

そしてその瞬間ルイスは察し、追求するのを辞めた。わざわざここまでして隠そうとしてきたのだ。それならばこの場では気付かないふりを通して、味の感想を言う時にちょっと遠回しに手作りお菓子をくれてありがとうと伝えればいいかと考える。

 

「それでは、私はここで失礼させていただきます」

 

「あら?なにかこの後予定でもあるの?」

 

「ええ、父とその隊員の人達にこれを渡しに行く予定でして」

 

「あー……」

 

ルイスがまだ膨らんでいるカバンを見せるとアレクシアは納得したような、そしてどこか呆れたような表情を向ける。

 

「それでは、失礼します」

 

ルイスはそう言うと、そのまま部屋の外へ出ていった。

 

 

 

 

アレクシアから貰った手作りのカップケーキは甘く、ルイス個人としてはかなり好きな味であった。

 

 

 

 

 


 

バレンタインは自分で買ったものがあるので0じゃないです。ブラックサンダーうめえ。

 

キャラ紹介

 

ルイス

本作オリ主。お菓子作りの腕前もそれなりに高く、子供時代にはイプシロンにお菓子作りを教えたこともあったとか。デルタからはトリュフ、アンナからはバウムクーヘン、アレクシアからはカップケーキを貰った。なお、送るお菓子の意味を全く知らない。

 

アレクシア

分からせ&曇らせ対象。当初はルイスが色んな女性から貰ってるのを見てぐちゃぐちゃにする予定だったが、流石に可哀想だったので没に。ルイスのためだけに2週間前からカップケーキを作ったり、さりげなく渡す練習をした。一応送るお菓子の意味は知っているため、ルイスから送られたお菓子であるマカロンを見て顔を真っ赤にした。

 

デルタ

今回はアプリ版のバレンタインイベの方に行っていたので出番はなし。ルイスから直接もらえると思ってたのにゼータを通して渡されたことで脳みそを破壊された。 ルイスのベッドに潜り込むまで○日。ちなみにルイスからはマフィンを貰った。

 

アイリス

マドレーヌ美味しい。ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"(๑´ㅂ`๑)ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹

 

アンナ

オリキャラ。ルイスと昼食デートできたものの、そのせいで恋敵に塩を送るような形になってしまった。ルイスからはガトーショコラを貰った。基本的にはガンガンいこうぜだが、攻められると弱い。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからおまけです。とある人物の前世に関係する話になってくるので、嫌な方はここでブラウザバックして下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──木漏れ日が差す深い森の中、歴史から抹消された英雄が使ったとされる、翡翠色の刀身を持つ刀が刺さった台座の近くに一人の頭から獣の耳を生やし、腰から尻尾を生やした女性が現れる。

 

その女性は刀の近くによると懐から薄い長方形の箱を取り出し、台座の近くに置く。

 

「……今日、バレンタインデーだったから買ってきたよ。本当は手作りが良かったけど、ボクたちが住んでた屋敷は新しい代の子たちが住んでたからキッチン使えなくてさ……時が経つのって早いよね」

 

女性は寂しそうに笑うと、腰に差していた刀を取ると台座に刺さっている刀を見る。

 

「……もう、ボクが知ってる人間たちはみんないなくなっちゃった。死に目に立ち会えただけマシなのは分かってるけど、やっぱり寂しいよ……!」

 

彼女は自分の中にある全てを絞り出すかのように声を上げていく。

 

『はい、お前らの分のやつね』

 

『わ~!ありがとね!』

 

『ところでさ、こいつにチョコレートが混ざったお菓子ってあげてもいいのか?』

 

『え~?私より年上なのにそんなこと知らn『黙れメスガキ』ふんぎゃろ』

 

『……この子なら大丈夫よ。魔物は普通の狼とは違って有毒にはならないから』

 

『そなの?それならこれ食べていいぞ!』

 

女性の脳裏にはかつて大事な人たちと過ごした暖かい思い出が過ぎっていく。

 

女性は目からポロポロと大きな涙を零す。

 

「ねえ、なんで最後の戦いの時ボクを置いていったの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご主人……!」

 

 

女性の腰のベルトにかかっている「ポチすけ」と書かれたボロボロの首輪が、軽く揺れた。




キャラ紹介

謎の女性
ポチすけと書かれた首輪を持っていた謎の女性。発言や容姿からして人間ではないようだが……?なお、首輪は不朽の魔法がかかっており、魔法を掛けた本人が死んでも誰かが魔力を流す限り魔法がとけることはない。

歴史から抹消された英雄
とある代の勇者パーティにいたはずの「英雄」。彼は魔法を使えないメンバーのために努力を重ね殆どの魔法を覚え、更には魔物と心を通わし、多くの戦場を駆け抜けた。最後には勇者を守った正に「英雄」に相応しい人物であったが、ほとんどの国が出している歴史書では彼はいなかったことにされ、代わりにとある国の姫が魔物を初めて使役した賢者としてその代の勇者パーティに入っている。


需要があるみたいなのでおまけで追加しました。


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22冊目

おまたせしました。

アンナ視点の方は書いてる最中に「学園襲撃編終わってからの方が綺麗では?」と思ったため、急遽変更しました。何のためのプロットなんだか……

そしてラムダ教官実装来ましたね。アレクシア&デルタ貯金全部消えましたし、当たらなかったですが些細な問題です。読者の皆様が祈ってくれれば単発で当たるはずなので。

最後に、誤字脱字報告いつもありがとうございます。

3/2 0:04に後書きのおまけである、ルイスの好感度でクレアを追加しました。


 

%月:日

 

今日は選抜大会当日で準々決勝でクレアと当たったため、そこで敗退した。

ここまでは良かったのだが、俺は控え室から出るところを出待ちしていたアンナ先輩に捕まり、「頑張ったね会」ということでミツゴシ商会が運営している喫茶店でご飯を奢ってもらった。

アンナ先輩とはそこで軽く雑談し、その後はお礼を言って帰ったのだが、何故かアレクシアが不機嫌だった。話しかけてもそっぽ向くし、やっと返事してくれたと思ったら言い方に棘があったし……うーん、女心というのは分からん。

 

とりあえず明日は早くアレクシアの方に向かうか。予定とかも特にないし、アンナ先輩になんか誘われても断るしかないな。凄い申し訳ないけど、アレクシアにあんな態度取られるとやっぱり思うところはある。

何とかなればいいなぁ。

 

 

 

%月〒日

 

今日は色んな人に絡まれた。

原因は昨日の選抜大会でかなりいいところまで行ってしまったのが原因だ。登校した途端、クラスメイトに囲まれて「お前あんな強かったのか!」やら「強さの秘訣は?」やらめちゃくちゃ話しかけられた。

普段から全く話してない訳では無いものの、いつもの倍以上話すことになったからすごい疲れたし、女子からは恋人や婚約者の有無を聞かれたからなんかキツかった。正直、今は色恋沙汰に現を抜かしてられる状況じゃないし、そもそもそんなに親しくない人と付き合う気にはなれない。

 

その後はシェリーさんを護衛しているグレンさんとたまたま会って、選抜大会の事で「真っ直ぐに努力を積み重ね続けた良い剣だった」と言ってくれた上に、頭を撫でられてちょっと照れくさかった。考えてみたら、この世界に来てからああいう風に具体的に褒められたことは無かったような気がする。もし、叔父のような人物が俺にいたとしたらグレンさんがそうなるのだろうか。なんか、話しててすごい落ち着くし、俺は敬語で話してはいるものの距離もそんなに離れてなく、上司ではあるけども親しみやすいところがある。

グレンさんと話してる時間、結構好きだな。

 

まあ、それはそれとして我が主であるアレクシアの方は一応機嫌は治った。代わりに夕飯は暫く一緒+暫く一緒に寝るというとんでも約束を付けられる羽目になったわけだけどなぁ!

距離感バグり散らかしてる気がしてきて、いよいよ本格的にどうにかしないといけなくなった。かといっても、断ろうとしたらなんか寂しそうな雰囲気出すから断れないし、忠告は結構前にしたけど効果なかったし……うーん、どうするか。

 

とりあえずグレンさんに聞いてみようかな。出来たら父さんの話とかも色々聞きたいし。

 

 

 

%月々日

 

アレクシアの部屋から登校するという明らかにイケナイことをしたし、なんなら寮長や先生に見つかったがなんのお咎めもなかったのが凄い怖い。アレクシアさん、まさか賄賂とかやってませんよね?

 

そして登校後は昨日同様また人が沢山集まってきて、今度は昼食の時間ですら集まって話しかけてくるから正直辛かった。別に人と一緒に食べるのが嫌な訳では無いけども、そんなに親しくもない人と一緒にというのは抵抗感がある。

そしてそんな日々が暫く続く可能性を考慮して明日から弁当にすることにした。弁当にすれば食堂でわざわざ食べる必要はなくなるし、人気のないところで隠れて食べることが出来る。そのために、もう学園の調理室を使う許可は取ったし、買い物もしたから明日の準備はもう済んでいる。あとは場所だけど……入学した時に穴場っぽいところ見つけたからそこで食べようかなと思ってる。

 

……さっきからアレクシアの視線が凄い。言葉にこそ出してはいないが、「いつまで日記書いてんのよ」と目が言っている。グレンさんに早く相談したいのに、今日は会えなかったから本当にどうしようか。こうなったらマルコさんに聞いてみるのもありだろうか。

 

とりあえず明日は早起きかな。

 

 

 

%月〆日

 

調理室でお弁当を作ってから教室に行ったが、昨日ほどでは無いがやはりクラスメイトに囲まれた。気持ち女子の方が多かったような気がするけど、多分気のせいだろう。というか俺に話しかける暇あったらほかの仲のいい人と話してればいいと思うんだけど……本当に疲れる。

こう思うと猫被ってるアレクシアの精神力って案外すご(字がかなり乱れている)

 

 

 

 

%月^日

 

昨日は酷い目にあった。日記を書いてる最中にアレクシアが中身を覗き見たせいで、肩を掴まれて思いっきり揺らされたせいで続きを書こうに書けなかった。猫を被ってる云々に関しては事実だろうに……あと、女子生徒に言い寄られてないかとか聞かれたけど、あれは言い寄られてるとカウントしていいのだろうか?正直、ただ勢いで恋人や婚約者の有無を聞いてるような感じがするし。

 

まあ、そんなことは置いといて今日も昼食中に囲まれそうだったため、一瞬の隙を着いて抜け出しそのまま昨日も使った人気のないところで食べようとしたのだが、たまたまアンナ先輩がいたため一緒に食べることになった。

アンナ先輩はクラスメイトの皆と比べるとまだ話しやすい。こっちのペースを考えて話してくれるし、こちらの空気を察して口を噤んでくれたりと気を遣ってくれる。いや、そもそも気を遣わしてる時点でダメなんだけども。

 

そういえばアンナ先輩、俺の弁当に入ってた野菜炒め食べた時固まってたけど……どうしたんだろう。「なんでもないよ~」とは言ってくれたけど、声が凄い震えてたし、大丈夫だろうか。

 

そしてこの話をアレクシアにしたらなんか凄い同情したような目をしてたな。その後、「明日、私の夕食作りなさい」というありがたいご命令も頂いたけども。片手で食えて尚且つがっつりしたものか……明日の放課後までにメニューを決めておかないと。

 

 

%月|日

 

今日もアンナ先輩と昼ご飯を一緒に食べた。

やはりアンナ先輩と食べてる時は全く苦じゃない。見た目がギャルっぽい感じから勘違いされてると思うけど、根は誰よりも優しくて人の事を気遣える人だ。こういう人と結婚出来たら多分楽しく過ごせるんだろうなぁ。

 

そして今日はやっとグレンさんと話せる時間が取れたため、アレクシアやデルタ(彼女は地元の幼馴染という感じで説明した)が自分となんか距離が近いというのを具体例を挙げて相談したところ、なんか困ったような顔をされてしまった。

暫くグレンさんは唸っていたが、「私からは教えることは出来ないな」という否定の言葉だった。疑問に思い理由を聞いたのだが「これはルイスくん、君が自分で気づくべきことだ」と教えてくれなかった。まあ、取り返しのつかない事態になる前にはちゃんと手助けするという言質は貰ったので、その時はちゃんと助けてもらおうと思う。

あとグレンさんから昔の父さんの話も少し聞けたんだけど、どうやら父さんは昔はまあまあヤンチャだったらしく、副団長になる前に後輩をいびっていた上司の人を殴ったこともあったとか。しかも、その件で呼び出されたら、集めていたその上司がこれまでやってきたことの証拠をぶちまけてその上司を左遷させたとのこと。

他にも、とある貴族の令嬢に気に入られて拉致された際はその証拠を集めた後に空き箱に隠れて脱出したり、騎士団内でやった大食い選手権でぶっちぎりの1位をとったりだとか様々な武勇伝……武勇伝?を聞かせてもらった。

今の物腰が柔らかい優男を体現している父さんからはとても想像できない話の数々に驚いていたが、どうやら他にもまだまだあるらしい。昔の父さん、結構ヤンチャというかアグレッシブだったんだなぁ……。

 

そしてその聞いた父さんの昔話をアレクシアにしたらなんか妙に納得した顔をして、「その話を聞いて貴方たちが親子って実感できたわ」とまあまあ失礼なこと言いやがった。

俺は昔の父さんほど直情的なタイプじゃないし、女子にもモテていない。まあ、ご飯に関しては普段はセーブしてるけど食べようと思ったら沢山食べれるからそこは似てるかも、って反論したら呆れたような表情をしながら鼻で笑われた。

 

……近いうちに本気で作ったご飯食べさせて分からせてやるか。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

グレンにとってルイス・エアという少年は尊敬している元上司の息子だ。もし、舐め腐っている態度だったら元上司の息子でも関係なくその性根を叩き直そうと思っていたが、ルイスはかなり礼儀正しい少年で寧ろ年齢の割に大人びているように感じた。

ただ、ルイスの父親であるアイクの若い頃の話をすると言った際には顔を輝かせていたためそこは年相応らしい顔をするのだな、とグレンは思った。

 

そして彼にとってルイスの評価が決定的に変わったきっかけはこの前行われたブシン祭の選抜大会であった。

実を言えばグレンはルイスに剣の才能がないことを最初に会った段階で見抜いており、全く失望しなかったと言ったら嘘になるものの子が親に必ずしも似るという訳では無い、と自身を納得させ、シェリーの護衛も兼ねて見に行った選抜大会でグレンは自分を納得させた考えを後悔した。

ルイスの剣はグレンが予想できないほどに鋭く、そして積み重ねられた凄まじい剣であった。才能がない身なのにも関わらずあれほどの境地に至るのにどれほどの努力を積み重ねてきたのか、グレンには全く想像できなかった。気がつけば、声には出さなかったもののルイスのことを心の底から応援し、彼がクレア・カゲノーに敗れた時は我が身のようにショックであった。

 

「あ、グレンさん。お疲れ様です」

 

「む、ルイスか」

 

次の日、学園でたまたま会ったルイスの挨拶を返してからグレンはふと考える。ルイスのことを褒めながら頭を撫でてみたらどういう反応をするのだろうか。

ルイスの身長は平均よりほんのちょっとだけ低いぐらいで特別低い訳では無いのだが、グレンの身長的にはルイスの頭は撫でるには丁度いい位置にある。昨日の健闘とその努力を称えてあげたい、という想いと少しは子供らしいところを見せるだろうかという期待をもあり。

 

「ルイス。先日の大会で君の試合を見たが、真っ直ぐに努力を積み重ね続けた良い剣だった。久々に心が躍った」

 

「へっ……!?」

 

ルイスの頭にポンと手を乗っけて軽く撫でながら褒めると、当のやられた本人は間抜けな声を出して驚いたような顔をしていた。そして数秒後には顔を赤くして恥ずかしそうに顔を下に背ける。

 

「そ、その。褒めてくださったのは嬉しいのですが……あの、頭を撫でるのは、恥ずかしいので、止めていただけると……幸いなのですが……」

 

(ほう……こういうところは年相応だな)

 

段々と声が小さくなっていくルイスの声を聞いてグレンは少しだけ笑みを浮かべる。無理に振り払おうとせず、チラチラとグレンをみながら早く撫でるのを止めてくれないかと目線で訴えるルイスに対して。

 

「何、君はまだ子供なのだからこういうのは素直に受けとっておきなさい。それに……」

 

「それに……なんですか?」

 

「減るものは無いだろう?」

 

「……私のなけなしのプライドが減ってるんですが?」

 

案外反応がいいルイスはグレンからするとまあまあ面白く、これからも時間があったらこういう風に話すのも有りか、とグレンはそろそろ噴火しそうなルイスを見ながらそう思うのだった。

 

 

 

そしてそれから4日後のこと。

 

 

「グレンさん。今お時間ありますか?」

 

「ルイスか。どうかしたのか」

 

丁度休憩時間の時に悩まし気な表情と共に現れたルイスにグレンは少し目を見開く。かなり短い付き合いではあるものの、グレンの知るルイスからは想像もつかない表情に驚きつつも、かなり重大なことなのだろうとグレンは判断し続きを促す。

 

「実は相談したいことがありまして……」

 

「ほう、アイク殿ではなく私に相談か」

 

「はい、正直父さ……父上には相談しづらいことでして」

 

「ほう?」

 

ルイスの言葉を聞いてグレンは少し眉を動かす。実の父親にすら相談しずらい事とは一体何なのだろうか?それよりも何故自分なのかという疑問は尽きないものの、深刻そうな雰囲気を出しているルイスにそんなことを聞くことは出来なかった。

 

「では、早速聞こうか。どういうことで相談をしに来た?」

 

グレンは軽く息を吐いてから、聞く体勢に入り──

 

 

「──ということなんですけど、どうしたらいいですか?」

 

(とてつもない話を持ってきたな……)

 

滅茶苦茶後悔した。まさか、女性にモテるというところで敬愛している元上司とルイスの血の繋がりがあると実感することになるとは、それなりに生きているグレンでも予想出来なかった。というよりもしかしなくてもアイクよりルイスの方が状況的には酷いだろう。

王族、しかも第2王女に好かれているというのをルイスの話から確信してしまったグレンはかなり困っていた。ルイスの悩みを解決するにはアレクシアと彼の幼馴染が彼に異性に向ける好意を持っているということを伝えなければならないのだが、それを第三者の自分が言ってしまっていいものではない。

 

グレンは思考を重ねに重ねて、最終的に。

 

「……私から教えることは出来んな」

 

「え!?その口ぶりからして何かしら分かってますよね?なんで教えてくれないんですか?」

 

「これはルイスくん、君が気づくべき問題だ」

 

はぐらかす方向に舵を切った。それに対してルイスは少し不満そうな表情をしており、無論グレンもこうなるのは予想していたため次の一手を取る。

 

「なに、本当にどうしようもならない時が来たら助けよう。約束する」

 

「……その時はお願いしますよ?」

 

グレンはちゃんとフォローを入れるということをルイスに伝える。というか、これはフォローいれないと3人のうち誰かの血が飛び散る可能性が高くなるため必須事項ではあるのだが。

そしてグレンはこの場を乗切るための切り札を続けざまに切った。

 

「ついでに君のお父さんである、アイク殿の昔の話を──」

 

「聞かせてください」

 

グレンはちょっとだけルイスのことが心配になった。




今更ですが、アニメ2期制作決定おめでとうございます。

キャラ紹介

ルイス
年上に対してはかなりチョロいことが判明。ん?クレアとアイリス様?知らない人たちですねぇ……。ちなみに何気貴重なデレ。

アレクシア
まさか想い人が年上のオッサン相手にデレを見せているとは思っていない主。正直他の女の子に囲まれている話を聞くのは嫌だが、言葉には中々出来ず態度に出てしまっている多感なお年頃。とりあえずまた料理の腕前の差を分からせられることが確定している。

アンナ
ギャル系先輩。結構気配りができ、見た目の良さもあって男子生徒からの人気が高かったり。ルイスのお弁当で女子としてのプライドが砕け散りそうになった。

グレン
『紅の騎士団』の副団長。ルイスのことはかなり気に入っている。

アイク
息子が元部下に頼ったことを知った場合、ショックで3日は寝込む。


おまけ
ルイスの好感度(高い順)

アイク≧アレクシア=エア家の使用人たち=デルタ=シド=グレン>七陰=ラムダ=アイリス≧シャドウガーデンのメンバー≧アンナ=クレア≧ヒョロ&ガリ>>>>>クラッスメイト


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23冊目

誤字脱字報告、いつも本当にありがとうございます。投稿する前に何度も確認してるのになんでこんなに見逃すのか……(白目)


 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

(き、気まずい……!)

 

揺れる馬車の中、アレクシアは目の前にいるアイク・エアと彼の家の使用人であるアイネを見ながらそんなことを思った。

 

アレクシアは完治こそしてないものの、もう登校してもよいという医者の意見の元学園に登校しようとしたのだが、そこに姉であるアイリスが片腕が使えない状態で1人だけで登校するのは危険だと意見した。最初はルイスを連れていこうとしたのだが、今日に関してはアレクシアは医者からの言葉もあって遅れて登校することになっており、それではルイスを護衛にすることが出来なくなってしまった。しかし、かといってアイリスが護衛になってしまうと色々と問題が出てきしまうのも事実であったのだが、そこにアイクが自ら立候補したのだ。

当初は『紅の騎士団』に関係ない小隊の隊長を護衛にするのはだめではないか、という反対意見もあったが最終的に第2王女のアレクシアの護衛と考えたら適任ということになり、念の為アイク小隊からもう1人騎士を馬車の御者として足し、アイクとはこうして一緒の馬車にいるのだが、何を話せばいいのかアレクシアには全く分からなかった。

 

(何を話せばいいか分からないし、隣の使用人も無言だしなんか怖いのよね……)

 

「アレクシア様、怖がらせてしまい申し訳ございません」

 

(え、バレた!?)

 

「本当は私自身もう少し愛嬌良くしたいのですが、如何せん人と話すのが苦手な上に、笑顔も意識してやろうとすると子供が泣くほど恐ろしいので出来ないのです。どうか、お許しを」

 

「そ、そんな謝らないで下さい。苦労してるのは分かりましたので……」

 

アレクシアはアイネの何処かしょんぼりとした雰囲気を感じ取って慌てて励ましにかかる。なお、この時点でアレクシアから見たアイネのクールな印象は若干剥がれた。

 

「ふふっ……そういえば、息子とはどうですか?」

 

「どう……とは?」

 

アレクシアとアイネの様子を見て軽く笑みを浮かべてから質問でしてきたアイクに対して、アレクシアは意図をあまり理解出来ず聞き返す。

 

「いや、最近息子からアレクシア様に料理を教えている、と聞きましたのでそこまで仲良くなれたなら2人でお忍びでお出かけまでしたのかな、と」

 

「そ、そういうことでしたか……まあ、(今は)そういうお出かけとかはしてないですね」

 

アイクの質問に対して何とか誤魔化すようにアレクシアは答える。実はもう行ったことがある上に、ペアルックのネックレスを買って今もつけてるなんて想い人の父親に向かって口が裂けても言えなかった。

 

「ふふっ、そうですか……おっと、もうすぐ学園に着くみたいですね」

 

「そうですね……(良かった、追求されなくて……)」

 

アレクシアはタイミングよく学園に着いたことに安堵しつつ、同時にようやく(離れてから数時間も経ってないのだが)会えることに内心ワクワクしていた。

 

「どうぞ、アレクシア様」

 

アイクは馬車が止まると扉を開けて外に出て、アレクシア王女へと手を伸ばす。

 

「ありがとうございます」

 

アレクシアは一言お礼を告げてからその手を取って馬車から降り、アイネはアイクの補助なしで危なげなく外に出る。

 

(はあ、自由への道は遠そうね……)

 

「アレクシア様、お待ちを」

 

「え?」

 

アレクシアが腕が満足に使えないことやそのせいで護衛が付けられていることに内心でため息を吐いていると、前にいたアイクが手を出してアレクシアを止めた。心無しかアイクの雰囲気はどこか真剣であり、それを感じたアレクシアはアイクの指示に従い止まり、そして気がついた。

 

「門が閉まってる……?」

 

「……門の管理事務所を見てきます。アレックス、君はアレクシア様の護衛を頼む」

 

「はっ!」

 

「アイネは馬車をいつでも出せるように準備を」

 

「かしこまりました」

 

「アレクシア様、貴方はここで待機を──」

 

「いえ、私も行きます。その方がアレックスさんは馬車の護衛に専念出来ると思いますし、危なくなったら私はすぐに撤退しますから」

 

アイクの指示に割り込むように進言したアレクシアの意見を聞いて、アイクは少し考える。合理的に考えれば、正直アレクシアが来る必要は全くなく、むしろ敵がいた場合は片腕が使えない彼女は足でまといになる。それはアレクシアもよく分かっている。

それでもアレクシアがこの意見を出してきた理由をアイクは何となく察し、同時に彼女の目を見て諦めさせるのは無理だと判断した。

 

「……わかりました。では、アレックスは馬車の護衛を。アレクシア様は私の傍から離れないようにしてください」

 

「はっ!」

 

「アイクさん、ありがとうございます」

 

「いえ、子供の願いを叶えるのは大人の義務ですからね。それと私の指示にはすぐに従うようにしてください、いいですね?」

 

「分かっています」

 

アイクは言葉に対して素直に頷いたアレクシアを見て、満足気に頷くと門の管理事務所へと足を進めて中を覗き見て、内心ため息を吐き、遅れて中の様子を見たアレクシアは顔を青くさせて後ずさる。

 

「アイクさん、こ、これは……」

 

「……最悪の予想が当たりました」

 

管理事務所の中は、駐在員と思われる人物の切り刻まれた死体とその血で赤く染まっており、それは学園が今何者かに襲われていることをアイク達に示唆していた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

アレクシア達が学園の異常に気がついたのと同じ頃、ルイスは授業中の時間であるのにも関わらず、トイレの個室にいた。

ルイスは朝からお腹の調子が悪く、度々トイレに行っていたのだが授業中でも治まらず結局先生に一言言ってから教室を出てトイレにいるのだが中々調子は戻らなかった。

 

(あー、この後生徒会の選挙について話があるのに……クラスメイトに聞くのは避けたいからそれまでに戻りたいんだけど……)

 

それを避けるのは無理そうだな、とルイスが内心でため息を吐いた直後、彼はすぐに違和感に気がついた。

 

(魔力が練れない?いや、これは魔力操作が阻害されているのか?)

 

ルイスは常日頃から自分が練るのが難しいぐらいに微量の魔力を練っては流すという訓練をしているのだが、それが急に出来なくなった。この事態にルイスは一瞬驚くも、すぐに魔力を錬れるよう魔力の操作をしながら今の状況を考える。

 

(まず、この魔力を練れない状況に関して考えられるのは2つ。1つはシェリーさんが解析しているアーティファクトが起動したらそういう効果を発揮するもので、偶然にも作動してしまった。もう1つは何者か……ディアボロス教団が学園を襲撃するために魔力操作を封じる道具を使っただけど……まあ、ほぼ後者と見ていい……ってことは!?)

 

ルイスはチルドレン1stのネームドが動いていたということと、シェリーが解析していることからディアボロス教団の仕業だと結論づけ、目的は何かと考えた瞬間、彼はズボンを上げてベルトを締めながら壁に立て掛けていた剣を取ると個室のドアを開けて、廊下に飛び出した。

 

(相手の狙いはシェリーさんが解析しているアーティファクトと見ていい。そうするとシェリーさんだけじゃなく、護衛しているグレンさんやマルコさんも危ない……!)

 

悠長に構えすぎたか、とルイスは自分の見通しの甘さに舌打ちをしたくなるのを堪えながら走る。が、ルイスの耳に大勢の人物が歩く足音が聞こえ、隠れられる場所がないと判断すると、彼は壁際に寄って試行錯誤の末、練れるようになった魔力を使って覗き穴がある空き箱にスライムソードを変形させ、その中に隠れる。

 

するとその10数秒後には、黒い外套を羽織り武装している人物たちに誘導されるように歩いていく生徒や学園の関係者と思われる人達が現れた。

 

(あの服装、やっぱりディアボロス教団の仕業だったか……あの様子だと別の場所に集めるのか?でも理由は?全員殺した方が手っ取り早いし、シャドウガーデンに擦り付けた時のリターンは高いはずなのに……いや、敢えて殺さないことで証人として利用するつもりなのか?)

 

ルイスは箱の中で思考を働かせる。最後に思いついたのが生徒たちを殺さない理由なのだとしたら、少々面倒くさいことになる。しかし、かと言って今取れる対策というのもないためルイスは大人しく人気がなくなるのを待つ。

その最中、ルイスは襲撃者と思しき人物達の話し声が耳に入った。

 

「おい、生徒はこれで全員か?」

 

「いや、話によると男子生徒1人、女子生徒1人が授業中にトイレしに行ったらしい。そのまま帰ってこないってことは多分気取られたな」

 

「そうか……まあ、ガキ2人は見つけ次第講堂に連れていけ。尤も抵抗したら殺して構わんがな」

 

(……こいつら)

 

ルイスは人気が完全になくなったのを確認してからスライムソードを戻し、怒りを鎮めるように息を吐く。

 

(取り敢えず、グレンさんたちとの合流を最優先で行こう。件の女子生徒は見つけることが出来たら保護って感じで……全く、こういう時こそシドがいたら楽なんだけど、こっちも見つけ次第って感じかな)

 

方針をある程度固めたルイスは少しの物音も聞き逃さないよう耳に意識を向けながら、静かに走り出した。

 

 

 

****

 

 

「ぐっ……!」

 

「魔力が使えない状態とはいえ、ここまでやれるとは思ってなかったぜ?『獅子髭』のグレンさんよ」

 

学園にある研究室でグレンは半分ほど刀身が無くなった剣を手に片膝をついた。彼の体にはあちこちに切り傷があり、息も上がっているところから正に満身創痍といった様子であり、後ろにいるマルコは刀身が無くなった剣を手に気絶してしまっている。

対してディアボロス教団のチルドレン1stである『叛逆遊戯』のレックスは傷らしい傷というのは頬にある軽い切り傷しかなく、息も全く上がっていない様子からまだまだ余裕であることが伺えた。

 

「正直、お前ら2人の連携にはヒヤッとしたぜ。だが、後ろで伸びちまってるやつが俺を仕留め損なったのがだめだったな。折角、お前が隙を作ってやったというのになぁ……」

 

「貴様……!」

 

「怒ったか?それは悪かったな。ただ、少なくともあんたは中々歯ごたえのあるやつだったぜ」

 

マルコを貶されたことに対して怒りを募らせるグレンを尻目にレックスは獰猛な笑みを浮かべる。だが、そろそろ頼まれていた仕事の方をやらなければ上司にどやされるため、レックスはグレンに近寄る。

 

「悪いが俺も仕事があるんでな。もう少し喋りたいとこだがここでお別れだ。案外楽しかったぜ、『獅子髭』のグレンさんよ」

 

(これまでか……)

 

グレンは霞む視界の中、自分に向かって振り下ろされる刃を見ながら自身の無力さを恥じた。自分の力が至らないばかりに部下のマルコもこんなところで死なせてしまうということ、そしてこれからが楽しみであったルイスの成長を見守ることが出来なくなる無念が彼の中で広がっていった。

 

そして、レックスの剣がグレンの首を捉えようとしたその時──

 

 

「させるかあぁぁぁぁ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

「アイク……副団長……?」

 

目の前にいたはずのレックスが視界から居なくなり、目の前にはこちらに背を向けて立っている人物の姿。そしてその後ろ姿は今も尊敬し、憧れている人物の背中に似ており、それと同時にグレンの意識は無くなった。

 

 

 

****

 

 

 

「何とか間に合った……」

 

ルイスはほっと息を着く。研究室に着いた瞬間、グレンがレックスに殺されそうになっているのを目撃したルイスは剣を抜く時間も惜しいと判断して、レックスを蹴り飛ばした。しかし、ルイスはあくまでグレンの前から退かす程度の力しか込められなかったため、レックスに大したダメージはなく、彼は自分を蹴飛ばした存在であるルイスのことを睨みつけていた。

 

「不意打ちとはいえ、俺を蹴飛ばすとはやるじゃねえか……」

 

「……直前で俺のことに気がついて咄嗟に防御した人がよく言うよ。流石、ディアボロス教団のチルドレン1stのネームド『叛逆遊戯』のレックスってところかな」

 

少しだけ怒気を含みながら剣を向けるレックスに対して、ルイスは敵意を少しだけ向けながら芝居掛かった口調でレックスの2つ名を言った。

 

「……てめえ、どこでその情報を手に入れた?」

 

「さあ?ああ、一つ言っておくとそんな反応しちゃうと暗に肯定してることになっちゃうから気をつけなよ?」

 

「はっ、別にお前如きにバレても問題ねえよ。何せ、お前はここで死ぬんだからな!」

 

不意打ち気味に放たれたレックスの二刀による攻撃をルイスは危なげなく受け止め、鍔迫り合いの形になった。

 

「へえ?マグレだとは思ったが受け止めたか」

 

「……それ、本気で言ってる?アンタの方が俺より強いって聞こえるんだけど?」

 

「だから、そう言ってるんだよ!」

 

ルイスの何処か小馬鹿にしたような問いかけに対して、レックスはイラつきを隠さずに魔力を込めて押し返してルイスの体勢を崩し、そこから本気で仕留めようと右手の剣で袈裟斬りをしかけるも、ルイスは予め開けていた左手に瞬時にスライムソードを作ると、逆手持ちで剣を振るいレックスの右腕を切り落とした。

 

「は?」

 

右肘から先の感覚が無くなり戸惑うレックスに対して、続けざまにルイスは右手の剣を心臓に突き立てる。

 

「がっ……は……?」

 

「……悪いね、急いでるから不意を打たせてもらったよ」

 

何が起こっているのか分からないまま口から血を吐いたレックスの意識はそこで完全に無くなり、ルイスはレックスの命が尽きたのを確認すると剣を引き抜き鞘にしまい、スライムソードをインナーに戻してグレンたちの方に近寄る。

 

「……グレンさん、必ず貴方の命は助けます」

 

ルイスは自分に言い聞かせるように力強く言いながら、グレンの傷に魔力を流し治療を始めたのだった。




渋い感じのイケおじをすぐに退場させるなんて、とんでもない!!

ちなみに作者はMGSやったことないです。

ルイス
なんか最初だけMGSやってた本作主人公。対レックスでやったことは単純で、右手の剣を意識させつつ鍔迫り合いの時には自分の左手を空けておく→レックスを煽って攻撃を誘う→予想通りレックスが右手の剣で攻撃してしてきたので予め準備しておいたスライムソードを出してカウンター→トドメに心臓グサー

グレン
『紅の騎士団』の副団長のイケおじ……なのだが、原作では登場して早々退場という悲しいことになっている。本作ではアイクがかつて扱いたお陰でレックスに対しても善戦し、ルイスの治療がギリギリ間に合った。

マルコ
『紅の騎士団』の団員。本当はもうちょい出番増やしたかったものの、断念。ユルシテ....ユルシテ...

アイク
ちゃんと騎士っぽい+小隊長っぽいことしてるが、内心ハラハラしてる。

アイネ
クールビューティーの皮を被った中身可愛い人。ちなみに彼女の作り笑顔を見たルイス曰く「何人か殺ってそうな笑顔」とのこと。イメージ的には作り笑顔以外はブルーアーカイ○のトキ。

アレクシア
ルイスがまたやばいことに巻き込まれてることに気がついて気絶しかけた。

レックス
原作でグレンを殺害し、マルコを戦闘不能に追い込んだディアボロス教団の実力者。本作ではルイスの実力を見切れず嘗めてかかった結果瞬殺。ちなみに最初から本気で挑んでいた場合、魔力で身体能力を強化したそれなりに本気のルイスによって首チョンパされ瞬殺される。


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24冊目

遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
今回かなり難産でした……

そして誤字脱字報告ありがとうございます。


 

「人質のためにも今すぐにでも突入すべきです!」

 

「アイリス様、お言葉ですが敵の狙いが分かっていない上に、魔力が扱えない状況では無謀です!」

 

アイリスと増援としてやってきた部隊長の口論を聞いていたアレクシアは、自分でも驚く程に冷静であった。

増援が来るまでは学園内にいるルイスのことで頭がいっぱいになり、パニックを起こしてもおかしくないぐらい頭の中がグチャグチャであったが、焦るアイリスと突入を渋る部隊長の口論を聞いてからは、客観的に自分を見ることが出来、周りの様子を見れる程には落ち着くことが出来た。

 

「この調子だと、突入にはかなり時間がかかりそうだね」

 

そんなアレクシアにどこか疲れたような声でアイクが話しかけた。彼女の記憶が確かであれば、彼は突入部隊の編成を先程アイリスに任されたばかりだったはずである。

疑問には思うものの、まだ不安な気持ちは残っているため、それを少しでも感じないようにとアレクシアはアイクの方へ向き直った。

 

「アイクさん。部隊の編成はもう終わったんですか?」

 

「うん。一応今いる中での精鋭を選んだつもりだけど……魔力が使えないと考えると正直今突入することには不安なところがあるかな」

 

「……小隊長である人がそれ言っていいんですか?」

 

「だからこそだよ。僕は部下を死なせたくないからね」

 

「……」

 

アイクの決意を込めた言葉を聞いたアレクシアが思わず固まった直後。

 

「お取り込み中のところ失礼します!」

 

学園前で様子を伺っていた騎士の1人が飛び込んできた。息が上がっているところから、全力で走ってきたのだろう。ただならぬ雰囲気にアイリスと部隊長は口論を止め、アイリスは走ってきた騎士に続きを促す。

 

「何事だ?」

 

「先程、シャドウガーデンのエルと名乗った人物が──」

 

「そんなに遅くては助けられる命も助けられんぞ」

 

『っ!?』

 

その騎士が話そうとしたタイミングで急に割り込んできた黒ずくめのフードを被った男の姿を見て全員が驚き、そして戦闘態勢に入った。それもそうだろう、なぜならアイリスたちは男の接近にまったく気が付かなかったのだ。それに加えて、男が両肩に担いでいる2人が更にアイリスたちの警戒心を掻き立てた。

 

「グレンにマルコ……あなたがやったの?」

 

「いや、私ではない。それよりもこの2人の治療を早くしろ。応急処置はしたが、早急に本格的に治療しないとダメだ」

 

アイリスの問いに答えながら男はグレンとマルコを丁寧に地面に下ろすと、もう用はないと言わんばかりに背を向けた。

 

「待て!お前の目的はなんだ?学園を占拠したのはお前たちなのか?」

 

「……私らの目的は陰に潜むものを狩ること。そして学園を占拠したのは私たちではない……アイリス王女、敵を見誤るなよ」

 

「っ!話はまだ──!」

 

「時間切れだ。私も忙しいのでな」

 

「ぐっ!?」

 

エルは呼び止めようとするアイリスを軽く一瞥してから、指を鳴らすとそこから強烈な光が放たれ思わずアイリス達は目を閉じてしまった。そして光が収まり目を開けると、そこにはまるで最初から居なかったかのようにエルの姿はなかった。

 

「クソッ!」

 

「アイリス様、今は悔やむよりもグレンさんたちの治療を──」

 

(…………)

 

アイクがアイリスに進言し、それに伴って慌て始める現場の中、アレクシアは1つ気になっていたことがあった。それはエルという青年の存在とその実力の一端を前から知っていたこと、アイリスたちより比較的冷静に周りを見れたことだからこそ、気がついてしまったことであった。

 

(……なんであの人はエルがいきなり現れた時、動揺こそしてたのに──)

 

 

──全く警戒心を抱いていなかったのか。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

「……まだ戻っていないのか」

 

学園の大講堂に出てきた仮面を被った黒ずくめの姿をした男は、部下であるレックスがまだ戻ってこないことに悪態をついた。

経過時間としてはもう戻ってきてもおかしくないというのに、未だに戻ってきて来ないところを見るに道草を食っているのだろう、と男は判断し大講堂の奥にある控え室に戻る。

 

「上の者がそう分かりやすく不満気な雰囲気を出すのはやめておけ。士気に関わるからな」

 

するとそこには入る前には居なかったはずの仮面をつけた黒ずくめの女性がソファーに座っており、コーヒーが入っているカップを片手に寛ぎながら男の態度を指摘した。

男は忌々しそうな目線を向けながら、イラつきを隠さずに問いをかける。

 

「貴様……いつからいた?」

 

「つい先程だ。何となく寄ってみたんだが、面白いことになってるじゃないか」

 

「……茶化しに来たのなら──」

 

「レックスが殺られた」

 

男が言うよりも早くその女性は男にとっては信じ難い情報をなんて事ないように告げる。

 

「……なんだと?」

 

「右腕を斬り落とされてから心臓を一突き。しかも室内の血の量からして殺した相手は騎士団の雑魚2匹ではなく、別の第三者でそいつは無傷と見ていい。相手はそれなりの手練だな……中々楽しめそうだ」

 

「……っ」

 

女性が出した仮面越しからでも伝わる殺気と歓喜の感情に男は動揺した。男は彼女のことを前から知ってはいるものの、ここまで分かりやすく感情を出したことは今まで無かったからだ。

 

「……それで、貴様はこの後どうする?」

 

「レックスを討ったやつと遊ばせてもらう。まあ、さっき講堂にいる奴らを見たからある程度予想は立てられたがな。ああ、それと貴様の計画には干渉はしないつもりだから安心しろ」

 

「……そうか」

 

「では私はもう出る。あと出来たら次来るまでに紅茶の茶葉を置いてくれ、コーヒーはあんまり好きじゃないのでな」

 

女性は言いたいことだけ言うと大講堂の方へ続くドアへと向かい、そのまま部屋を出ていった。それを見届けた男は長いため息を吐く。

先程の女性は実力だけは組織内では最強とも言える人物ではあったが、どこか近寄り難い雰囲気や組織に加入した経緯も相まってあまり会いたくない人物でもあった。そして、何よりも。

 

(あの女、見た目こそ10代後半から20代前半ではあるのに、そう思えないほど人格が完成しきっている)

 

それが不気味であった。

 

 

 

****

 

 

 

(……やっぱりそれなりに親しい人に敵意を向けられると結構堪えるな)

 

グレンとマルコを門にいたアイリスたちに引き渡したルイスは、学園内にある外の倉庫付近で変装を解いてため息を吐いた。前世で精神を乗っ取られ操られた仲間に剣を向けられた経験はあったが、それでもルイスにとっては慣れないものであった。

 

(さてと、とりあえずまだ捕まってないらしい女子生徒の捜索をしつつ敵も減らしてシドと合流。その後は魔力が扱えない原因を解明して、それから事件の解決か……しかも騎士団が動く前に片をつける必要があると……ハードスケジュールだな)

 

「離して!」

 

「………」

 

ルイスはやるべき事の多さに内心でため息を深く吐いていると、ルイスの耳に女性のものと思われる声が聞こえた。しかも内容的に、何者かに対して抵抗していると思われているため、急ぐ必要がある。

ルイスは音を立てないように注意しながら、声がした方向へ全力で走り出す。

その数秒後には見覚えのある女子生徒の腕を掴んで強引に連れていこうとする男と周りを見ている男の姿が入り、ルイスは後先考えず魔力を思いっきり込めて周りを見渡している男に対して強烈な飛び蹴りを浴びせた。

 

「なっ、おま──」

 

「黙れ」

 

「がっ!」

 

「至近距離なら剣より格闘術の方が早い。覚えておけ」

 

飛び蹴りを食らった男は声を出す前に吹き飛ばされ、それを1拍おいて気づいたもう1人が剣に手をかける前にルイスは鳩尾に拳を叩き込み、止めに顎を蹴りあげて気絶させた。

ルイス自身、本当であれば剣を使って確実に仕留めたかったところであるが、血に慣れていないであろう女子生徒にトラウマを植え付ける訳にはいかなかったため、格闘術で倒すことになった。

周囲を見渡し、念には念を込めて魔力探知を行った上で周辺に他の人間が居ないのを確認すると、呆然としている女子生徒──アンナへ声をかける。

 

「大丈夫ですか、アンナ先ぱ……アンナ先輩?」

 

「ひっぐ……ぐすっ……」

 

声をかけた瞬間に抱きつかれたルイスは戸惑いの声をあげるも、アンナが嗚咽を漏らしていたことに気づいた。普通に考えてみれば、アンナは争い事なんかに耐性がない普通の女性であり、しかも先程アンナに対して迫っていた男たちの特徴が前に彼女を殺そうとした人物と同じであれば恐怖を感じるのは当然の事だ。

 

「……大丈夫ですよ、もう怖い人はいませんから」

 

「……ぐすっ」

 

「大丈夫、あなたのことは俺が守りますから……」

 

ルイスはアンナの背に自分の腕を回すと、幼い子供をあやすかのように彼女の背中を優しく叩き、穏やかな口調で話しかけ続けた。

 

 

 

*****

 

 

 

 

「私は後輩に父性を感じたダメな先輩です……」

 

「で、結果ああなったと」

 

「うん……良かれと思ってやったのにどうして……」

 

僕は部屋の隅っこで体育座りして懺悔しているアンナ先輩という女子生徒と、頭を抱えるルイスを見てため息を吐いた。

僕とシェリーが副学園長室に入ってから1分も経たない内にあの二人が入ってきたんだけど、その時からアンナ先輩はあんな感じだった。まあ、理由を聞いたらある程度は分かったけども。というより、僕の相棒ことルイスはやはり主人公ムーブが上手い。知らないうちに新しい女性を堕としてヒロインにするとか、正しく主人公だ。

だから、僕の考えだと今回のイベントも本来はルイスとシェリー、そして恐らくアンナ先輩の3人が進めるべきはず。しかし、アンナ先輩は暫く使えなさそうだし、ちょっと疲れてる感じのルイスに全てを押し付けるのは流石に可哀想だ。

乗り気では無いけど、ここも手伝ってあげるべきなんだろう。あくまでゲームでいうところの名無しのお助けモブって感じで貫かせてもらうけども。

 

「ありました」

 

方針を決めた直後、シェリーが机の向こうから資料を抱えて戻ってきた。因みに彼女はルイスとアンナの事を前から知っていたみたいで、僕が先程の結論に至ったのもこれが理由になってたりする。

 

「えっと……アンナさんはそのままでいいんですか?」

 

「そっとしておいてください」

 

「わ、分かりました……現在学園は『強欲の瞳』という効果範囲にある魔剣士や魔力体から魔力を吸収して、一時的に溜め込むことが出来るアーティファクトの効果を受けています」

 

あ、ルイスが魔力を吸収するって説明聞いて嫌そうな顔した。前世でそれ関連で嫌な思い出あったのかな?

って、それよりも気になることがあったな。

 

「でもさ、黒ずくめの人達は魔力を使ってたよ?」

 

「そういえばそうだったな……シェリー先輩、なんでか分かります?」

 

「吸収させたくない魔力の波長を記憶させることも出来るんです。そうでなくては『強欲の瞳』を使用している本人の魔力まで吸収されてしまいますから」

 

「「なるほど」」

 

「シェリーちゃん、教え方上手いよね……そういえばその説明だと記憶させていない魔力なら何でも吸収しちゃうってことになるの?」

 

おっ、アンナ先輩復活した。

僕も考えていたことを質問したあたり、ただ黙って落ち込んでいたわけでは無かったみたいだ。

 

「どうでしょう……感知出来ない程の微細な魔力や、容量を超える強大な魔力なんかは吸収出来ないと思います。まあ、普通の人間にそんな魔力は使えないので無縁な話ですね」

 

なるほど、だから僕とルイスは魔力を使えるわけか。

 

「次に『強欲の瞳』の厄介なところは、魔力を溜め込むだけ溜め込むと一気に解放してしまう点にあるんです。膨大な魔力は爆弾と同じ、解放されてしまえばこの学園は跡形も無く消えてしまうでしょう」

 

「消える!?え、そんな危険な物を学園を占拠した奴ら使ってるの?」

 

「はい。だからこそお父様は『強欲の瞳』を国に預けて管理をしたのですが……」

 

「盗まれたとか、実はもう1つあったとか?」

 

「いや、今はその話をしたところで意味は無い。それにこれで黒ずくめたちの狙いはハッキリしたな」

 

「魔力を集めるのが狙いなら『強欲の瞳』があるのは皆が集められている大講堂ってことだね……でもなんかおかしい気がする……」

 

アンナ先輩の呟きが耳に入るがそれはスルーしよう。

 

「それで、解決策はあるの?」

 

「あ、はい!あります!」

 

僕の問いに対してシェリーは手を前に出して開く。そこには銀色に輝くペンダントのようなものがあった。

 

「これは『強欲の瞳』の制御装置です。解析した事で分かったんですが、本来『強欲の瞳』はこのアーティファクトを使い、魔力を長期保存するための物だったんです」

 

「「「長期保存?」」」

 

「魔力の解放を止められるってことです。凄いんですよ!この性能を上手く使えば──」

 

「と、取り敢えず!それを使えば魔力を使えない事態を何とかできるってことでいいんだよね?」

 

「あ、はい……」

 

アンナ先輩ナイス。止めなかったら多分シェリーはそのまま延々と話し続けてたと思うからね。

 

「それでは、そのアーティファクトを使って『強欲の瞳』の効果を打ち消し、その後大講堂の生徒と一緒に敵を殲滅という流れでしょうか」

 

「あ、その実はまだ調整が終わってなくて……しかもそれに必要な道具も全部研究室に置いてきてしまっていて……」

 

「そうでしたか……それなら俺とシドで取りに行ってきます」

 

丁度トイレ行きたいと思ってたから僕も一緒に行くことにしてくれるなんて、ルイスはやっぱり頼れる相棒だなぁ。

 

「え、シドくんもですか……?」

 

「その、出来たらどちらか1人は残ってくれた方が安心なんだけど……」

 

おっと、女子2名から反対の意見が出ちゃったか。うーん、これはどうしようかな。

と思っていたらルイスが先に動いた。

 

「確かにそうですね。そしたらシド、お前に道具の回収頼んでもいいか?本当なら俺が行った方がいいとは思うんだが、『紅の騎士団』の1人としてはシェリーさんの身の安全が最優先しないといけないからさ……」

 

「わかった、それなら行ってくるよ。丁度トイレ行きたかったしね」

 

「シドくん……」

 

ルイスのパスのお陰で何とかなったかな。

まあ、シェリーの顔を見た後に僕の方を信じられないものを見るかのように見てきたルイスはスルーしよう。

 

「それでは、お願いしますね。これがメモです」

 

「うん、それじゃあ行ってくるね」

 

 

 

****

 

 

 

「できました!」

 

「「「おお~」」」

 

シドがシェリーからのお使いを済ませ、外が暗い夜に包まれた頃に『強欲の瞳』の制御装置の調整が終わり、それを待っていたルイスたちは感嘆の声をあげる。

これは暗に彼らの作戦が次の段階に入ったことを示しており、次に取る手段も既に打ち合わせていた。

 

「えっと……確かこれとこれ……あとこれだったかな?」

 

シェリーは室内にある本棚の本を数冊抜き取る。するとその本棚は回転し、奥に地下への階段が現れた。

 

「すごいね」

 

「さっき聞いてたけど、こういうの本当にあるんだ……」

 

(……魔王軍の砦にあった隠し通路から雌のオークが飛びかかってきた時のこと思い出しちゃった)

 

「……お父様、必ず助け出してみせます」

 

三者三様の反応をする中、シェリーは決意を込めた様に手にある制御装置を握りしめる。

 

「お父様、ご無事だといいわね」

 

「はい……あの、シドくん道具を持ってきてくれてありがとうございました」

 

「ほんの少し助けただけさ。これ以上はもう僕に手伝えることはない。ここからは君の力で、世界を救ってくれ」

 

「……取り敢えず、シドとアンナ先輩はさっき打ち合わせた通り、これから5分経つまでは動かないで下さい。まあ、トイレは行ってもいいですが5分たったら互いを待たずにさっさと脱出してくださいね?」

 

「うん、分かった」

 

「分かったよ……ルイスくん、どうか無事で……」

 

「ありがとうございます……それではシェリー先輩、行きましょう」

 

「はい。それでは、皆さんまた!」

 

ルイスはシェリーと一緒に隠し通路の奥へと進み、シドとアンナはそれを見送ったのであった。

 

 

 

****

 

 

 

──違和感がある。

 

ルイスとシェリーが隠し通路の奥へと進み、その10数秒後にシドがトイレに行き、1人部屋に残っていたアンナは考え事をしていた。

これまで得た情報を彼女は改めて整理する。

 

(まず、『強欲の瞳』っていうのは元々はシェリーちゃんのお母様が研究していたもので、お母様の死後シェリーちゃんが研究を継いだ。そしてその途中で『強欲の瞳』の性能と危険性に気がついて副学園長に国へ管理するようにお願いし預けたわけだけど……)

 

アンナが引っかかっていることの一つが正にそこだった。

国が管理しているはずの『強欲の瞳』を何故テロリストたちが持っているのか、そのことに異様な違和感を彼女は感じていた。

 

(そんな危険な物が盗まれるほど杜撰な管理はしないはず。そうすると国の内部に協力者がいた事になるけど、それで盗んだとしても騒ぎにはなるはず。少なくともアイリス様が設立した騎士団にいるルイスくんが『強欲の瞳』の存在を知らないはずがないし、もう少し反応するはず。だから盗まれたっていうのはなし。そうすると、同じようなものがあったってことになるけど……)

 

──果たしてそんな都合のいいことがあるのだろうか?

そもそもアーティファクト自体、貴重なものであるため同じような物がたまたまあるという可能性は0では無いがかなり低い。

 

そして仮に同じようなものがあったとしてもまだ疑問は残っていた。

 

(()()()()()が分からない。生徒を人質にして金銭とかを要求するために学園を襲ったなら分かる。でもそんな素振りは無さそうだし、かといって『強欲の瞳』の性能を使って学園を吹き飛ばすのは正直メリットがない。吹き飛ばすにしてもやるなら城とかの方が国を乗っ取るには都合がいい。この、目的さえ分かれば少しは進展するんだけど……ダメだ、分からないや)

 

アンナはため息を吐きながらこめかみを抑える。あと一歩まで来ているような気がするのに、その一歩が遠い。

もう諦めてしまおうか、とアンナは一瞬考えるもそれをすぐに思考から消した。何故なら、漠然とではあるがこの違和感を放っておくととてつもなくまずいことが起こる予感がするからだ。

 

(でもこのまま考えてもなぁ……そういえば『強欲の瞳』は魔力を吸収して溜め込むことができるんだっけ。確かにそれを上手く利用すれば色々と応用できそ……う……)

 

アンナはシェリーの説明を思い出したところで目を見開き、同時に彼女の思考がスムーズに回り出した

 

(もし、今回のテロリストの目的が『強欲の瞳』に()()()()()()()()()()()ならあいつらの行動は納得が行く。それにそもそも最初から『強欲の瞳』が国に預けられてなかったとしたら……!)

 

アンナは最終的に信じたくない答えに辿り着くと、急いで紙にシドへの走り書きをし、カンテラを手にシェリーたちが通って行った隠し通路へと駆け込み全力で走る。

 

(あいつらの本当の目的は『強欲の瞳』に魔力の吸収をさせて、その魔力を制御装置を使って保存すること!学園を襲ったのはそのために魔剣士だけじゃなく大勢の人間がいて、尚且つ制御装置はシェリーちゃんが持っていたからだ!だから首謀者はあの人……!)

 

埃で出来た足跡を見ながらアンナは手遅れになる前に必死に走る。もし、自分の推理が正しければ──

 

「急がないと……!きゃっ!?」

 

自分を友人と読んだ女の子と、想い人のためち足を動かす彼女の耳に突然轟音が聞こえてきた。その音におもわず悲鳴をあげる。

 

「そんなに遠くなかったとは思うけど、一体何が……?」

 

アンナは何が起こっているのかという不安と恐怖に足が震え出すも、意を決して、足跡を頼りにまた走り出すのであった。




キャラ紹介

ルイス
覚悟していたとはいえ、アイリス様達に警戒されてちょっとショック。
また、アンナの目の前でトマトブシャー(意味深)しないように配慮できたのは前世の経験のお陰。
シドが陰の実力者ムーブしたいというのを察知して、それっぽい理由でシドとアンナを副学園長室に残した。ちなみに前世で隠し通路から飛びかかってきた雌オークは軽くトラウマ。

シド
どうして今回のイベントのメインキャラが最初から一緒に行動してないの?それはそれとして、陰の実力者ムーブ出来るようにしてくれたルイスには感謝。その調子で頑張って!

シェリー
ゆるふわ系の人。シドに対して淡い気持ちを抱いており、本人は隠しているつもりだが他人の恋には察しのいいルイスと、普通に察しのいいアンナには即バレした。

アンナ
推理で黒幕やその目的に辿り着けるほど頭の回転は早く、ひらめきもある。探偵になれる。

アレクシア
ルイスのことは心配だけどルイスなら大丈夫だと信じてる(大丈夫だよね?)

アイリス
エルを含めシャドウガーデンの狙いが全く分からない。それはそれとしてグレンとマルコの両名がやられたことを知ったから、未来の義弟候補のルイスのことが心配。


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25冊目

誤字脱字報告ありがとうございます!そして遅くなってしまい、大変すみませんでした!



余談ですがルイスのイメージをキャラメイカーの「はりねず版男子メーカー2」を使用させてもらい作らせて頂きました。
あらすじの方にも載せていますが一応こちらにも載せさせていただきます。


【挿絵表示】




アンナが地下通路にて轟音を聞く前。

その頃にはシェリーが制御装置を講堂に向かって投げ入れ、人質であった生徒たちが反撃し出してから数分も経たぬうちにトイレを理由に上手く抜け出したシャドウに扮したシドが講堂の天井を突破して乱入しており、加えてそれを合図にシャドウガーデンの構成員も中に入りすぐさまディアボロス教団との戦闘という名の蹂躙が始まっていた。

 

(凄いな、うちの子たちは……ここまで強くしてくれたラムダ教官には頭が上がらないな)

 

それを見ていたルイスはここまでシャドウガーデンのメンバーを強くしてくれたラムダに感謝の気持ちを抱いていた。尤もこのことを本人に伝えた場合、「そんな、エル様には指導のことで有意義な意見も貰いましたし、その上手伝ってくださったのですから恐れ多いです!」と慌てて言われるのだが。

 

(それにしても、デルタは相変わらず凄いな……対集団戦の方もある程度は教えてはいたけど、ここまで上手くできるようになってるとは思わなかったな……っ!)

 

ルイスは下で一撃でディアボロス教団の構成員を倒していくデルタを見ながら内心苦笑いを浮かべ、その直後とあることに気がつくと隣で呆然としているシェリーのことを片手で抱えるように持った。

 

「ふぇ!?る、ルイスくん!?」

 

「この場を離れます。口閉じててくださいね」

 

シェリーがどういうことかと聞こうとしたが、どこからか起こった爆発と講堂を包み込むように炎が燃え上がったことによってそれは出来なかった。

ルイスはシェリーを抱えた状態で元の方向へ来た隠し通路へ滑り込み、自分たちを包みこもうとしていた炎から難を逃れた。

 

「た、助かりました……ルイスくん、ありがとうございます!」

 

「いえ、気にしないでください」

 

シェリーのお礼を聞いてルイスは間に合ったことにほっとしつつも、状況があまり好ましくないことになってるのに内心舌打ちをする。

ルイズとしてはなるべく早くシェリーを外にいる騎士団に渡したかった。だが副学園長室まで戻るというのは下策すぎる上、下手すれば今回の事件の黒幕に出会う可能性もある。それに加えて火の回りが予想以上に早そうだったため、ちんたらしてたら火のせいで脱出できませんでしたというオチになりかねない。

 

(仕方ないか)

 

ルイスは内心でレイたちのことを笑えないな、と思いながらシェリーを下ろすと彼女に質問を投げかけた。

 

「シェリー先輩、ここから最短で廊下に出れるところはありますか?」

 

「え?ありますけど……」

 

「ふむ……失礼を承知でもう1つ聞きたいのですが壁などを無視した直線距離だとどの方角ですか?」

 

「それならこちらですけど……」

 

「ありがとうございます。ではシェリー先輩、少し下がっててください」

 

「は、はい……」

 

ルイスはシェリーが下がったのを確認してから魔力を右手に集める。

 

「え?ま、まさかルイスくん!?」

 

そしてそれを見たシェリーはルイスが何をしようとしているのか察し、慌てて止めようとするも──

 

「はあっ!!」

 

その直後にルイスの無駄のないストレートが壁にぶつけられ、轟音ともに壁は吹き飛び人1人なら余裕で通れるほどの穴を空けた。

 

「時間が無い時はこれしかないのがほんとなぁ……シェリー先輩、行きま……シェリー先輩?」

 

「ルイスくんって乱暴な人なんですね……」

 

「心外です」

 

本当に心外だとルイスは思いながらも壁をどんどんぶち抜いていき、そして壊した壁が4枚目になったところで2人は隠し通路から出た。

 

(思っったより壁ありましたね。ここは2階か……火の手は匂いからしてそんなに余裕はない。階段は東口の方が近いしそこからなら出口もそんなに遠くない)

 

「ううっ、お義父様になんて言えば……」

 

「ちゃんと私から説明するので安心してください。さあ、早く脱出しま──っ!」

 

 

ルイスのあんまりな行動によって隠し通路が隠し通路でなくなったことに、義父になんて説明すればいいのかと悩むシェリーに声をかけた直後、ルイスはシェリーを庇うように前に立つと剣を抜いてこちらに猛スピードで迫ってくる黒い影に向かって剣を振るった。

 

その直後、ガキン!という金属と金属がぶつかり合う甲高い音が通路の中を響き、黒い影はそのままルイスを通り過ぎて5m先のところで立ち止まった。

 

「きゃあ!?」

 

「ほう、レックスなら反応できない攻撃を防ぐとはな……」

 

「お前は……!」

 

悲鳴を上げてしゃがむシェリーをよそにルイスは黒い影──否黒ずくめの格好をした人物を見て冷や汗を流した。先程受けた剣と女性の声は忘れたくても忘れられないほどルイスの脳裏に焼き付いている。

 

「久しぶりだな、少年」

 

その人物はまるで最近会った長年の友人のような話し方でルイスに声をかけた。しかし、声をかけられた側のルイスからすれば溜まったものではなかった。

 

「……シェリー先輩、早く逃げてください」

 

「え?」

 

「いいから早く!あいつ相手だと貴方にまで気を配る余裕は無い!!」

 

「は、はい!どうか無事で……!」

 

ルイスはシェリーが慌てて後ろの階段に向かって走っていくのを音で察しつつも、目の前の女性から目を全く逸らさずに注視していた。

 

「まずはよく生きていた、と言うべきか」

 

「……シャドウガーデンっていう組織が運良く助けてくれただけだよ」

 

「ふむ、そしたら私の部下が助けたのかもしれんな」

 

「そしたら笑えない冗談だね、とんだマッチポンプだよ」

 

「そうかもしれんな」

 

二人の会話はそこで止まり、その直後互いの姿が消え1秒も経たぬ間に刀と剣がぶつかりあい、先程消えた2人の姿も現れた。

 

「なるほど、レックスを殺ったのはやはり貴様のようだな」

 

「俺が来た時にはもう死んでた、よっ!」

 

ルイスは女性の言葉を否定し押し返すと、その勢いのまま剣を叩きつけるもそれはあっさりと受け流されお返しと言わんばかりに一瞬のうちに女性の剣が1回振られたが、ルイスの目は斬撃が2つ自分へ迫っているのを捉えていた。

 

「くっ!」

 

ルイスは瞬時に剣を動かして2つの斬撃を防ぐも、その直後に今度は3つの斬撃が放たれたように見えすぐさま防御の構えを取り1つ目の斬撃を受け流し、2つ目を防ぎ、そして最後の3つ目を弾くように防いだ。しかし、その隙を女性が見逃すはずもなく、ルイスの腹に蹴りを入れそのまま隠し通路へ続く穴へと吹き飛ばした。

 

「私の剣を防いだ褒美も兼ねて()()()思惑に乗ってやったが……どう出る?」

 

女性は不敵な笑みを浮かべながら、ルイスがどう出てくるのか楽しみに待った。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

(スライムスーツに加えて魔力の防護すら貫通してくるなんて、パワーもだけど技術もバケモノクラスだな……でも、賭けには勝った)

 

ルイスは傷ついた内臓を魔力を使って癒しながら立ち上がる。

彼は最初からこのような状況になるのを狙っていた。あの女性の実力はルイスの前世込みで考えても、自身の師を除けば、いやその師を入れても1番強い相手と断言出来る。彼女相手にまともに戦えるのは今世だとシドか自分くらいで、七陰でもアルファとデルタなら辛うじて30秒ほど持ち堪えられるかどうか、とルイスは推測していた。

そしてこの推測が当たっていれば、万が一あの女性に会った場合デルタたちは殺されてしまう。

 

故にルイスはここであの女性を全力で討つと決断した。

 

だが、そのために普通の剣では分が悪すぎた。先程まで使っていた剣は以前女性と戦った時より品質は良くなってはいるものの、たった数回受けただけでヒビが入っており、あと2回も受ければ砕け散るだろうとルイスは予想していた。

だからこそ、女性と渡り合うには彼が持つ武器の中で尤も耐久力があるスライムソードが必須であり、それには魔剣士の1人であるルイス・エアではなくシャドウガーデンのエルになる必要があった。だが、あの場面でスライムソードを使うとシェリーに見られてしまう可能性があったため使うことが出来ず、かと言って女性がスライムソードを出す隙を作ってくれる可能性はなかったためこうして姿を1度消す必要があった。

尤もあの女性は自分の考えに気づいていただろうとルイスは考える。それでも彼女なら自分が楽しむためにこちらの考えに乗ってくるだろうと、ルイスはそんな彼女の自信と慢心の2つに賭けた。

 

結果は無事にその賭けに勝ち、気になることはあれど後はインナーとして纏っていたスライムスーツをエルとしての服装にしてあの女性を倒すだけである。

ルイスは早速魔力を操作してスライムスーツを全身に纏い、念の為フードで自身の顔を隠すと手に刀の形をしたスライムソードを作り、足に必要最低限の力を入れて床を蹴る。

女性は突如穴から飛び出してきたエルの攻撃を受け止め鍔迫り合いの状態に持ち込んだ直後、その剣から伝わる本気の殺意を感じ取り笑みを浮かべ、同時にルイスと目の前の男の剣が同一であることを瞬時に理解した。

 

「なるほど、このためにわざわざ蹴飛ばされに来たわけか!いいぞエル、この私……『凶星』ネメシスの渇きを潤してみろ!」

 

漆黒の刀と白銀の刀がぶつかり合い火花を散らす。

とてつもない速さで聞こえる剣戟の音は永遠に続くのではないかと錯覚するぐらい、全く途絶える気配がない。

そしてそれは女性のあらゆる斬撃をエルが全て凌いでいるという事実でもあった。

 

だからこそネメシスはとある違和感に気がついた。

彼女は先程から自分の攻撃が全て防がれているのに気づいてから、所々フェイントを混ぜたり、スピードの緩急や足さばきを絶妙なタイミングでズラしたりしているのだが、自身の刀を異様に刃を通さない黒い外套に刃を当てるのが精々であまり通用していない。

 

(どういうことだ?まるで()()()()()()()()()()、いや()()()()()()()()()()ような感覚だ……ここまで防がれる可能性として挙げられるのいくつかあるが……ふむ、ここは試してみるか)

 

ネメシスはこの違和感を突き止めるために距離を大幅にとった。

これから放つ一撃はまだ教団の人間にすら見せていないものだ。先程感じた違和感から立てた推測が当たっているかどうかを確認するには、これが手っ取り早い。

彼女は左手に魔力を練りながら目の前のエルがどう出るか、楽しみでしょうがなかった。

 

 

 

刀というのは近距離で戦うことを想定されている武器だ。そのためお互いの間合いであった距離を離すというのは仕切り直しとしてはありではある。

しかしエルの長年の戦闘経験と直感がそうではないと警告していた。距離を離すという行為は仕切り直し以外にも取られることがある。

そう、例えば新たな攻撃を加えるために必要だった場合が正にそうだ。

 

(手に魔力を集めてる?……まさか!?)

 

エルはネメシスがしようとしていることをすぐに察知した。何故ならそれは、前世の自分がよく使っていた技の発動準備に酷似していたからだ。

可能であるならば魔力の収束を阻止したいところではあるが、阻止する前に至近距離で放たれたらスライムスーツの防護を貫通するのは必然。

ならば取る手段は回避ではあるが、もしそれが原因で外にいる騎士団やデルタたちが来たらかなり厳しい戦いになるため却下。

回避の手段は取れず、かといって剣を使ってはじき飛ばしてしまえば外にバレてしまう可能性がある。防ぐにしても今から防御の姿勢をとって間に合うかはギリギリだ。

 

ならばこちらも同じもので迎撃するしかない。

 

「ちっ……!」

 

エルは魔力で自身の身体能力と視力をさらに強化し、更に左手とスライムソードに魔力を収束させる。

 

「さあ、どう凌ぐか見せてもらおうか……はっ!」

 

それと同時に紫色の光弾が連続で2つがネメシスの手から放たれ、エルを貫かんと廊下を抉りながら凄まじい速さで迫る。

そしてエルはその光弾2つを見て再度目を見開くもすぐに意識を切り替え、光弾を見据える。

 

一発目。

──左手に溜めていた魔力を4割使って魔力弾を放ち相殺する。

 

二発目。

──先程より大きい光弾のため左手に残っている魔力を全部使って魔力弾を放ち迎撃する。

 

そして三発目。

──予想通りこちらが魔力弾に対応している間に放たれた紫色の魔力の斬撃波を、前世でもやったようにスライムソードを振り下ろし魔力の衝撃波によって打ち消す。

 

「やはりそう対処してきたか……!」

 

ネメシスはエルの対応を見て自身の予想通りだったと獰猛な笑みを浮かべる。

だが一方でエルの表情は強ばっていた。先程の三連撃は前世で自身の手札として多用した技であり、そして嫌という程叩き込まれたものであったせいで、ネメシスが誰なのかはっきりしてしまったからだ。

 

(これを使えるということは、やっぱり……!いや、今は()()()を倒すのが優先だ!)

 

しかしそう考える時間さえ惜しいと言わんばかりにエルは地面を蹴ってネメシスは接近し、強烈な刺突を放つ。ネメシスはそれを体を逸らして回避するも、エルは踏み込んだ片足を軸に回転し横に薙ぎ払う。しかしそれも容易く剣で受け止められ、そのまま鍔迫り合いになる前にネメシスは力任せに刀を振るいエルを吹き飛ばした。地に足をつけた状態で吹き飛ばされながらも、バランスを崩さないように堪えたエルは接近してきたネメシスの嵐のような斬撃を的確に防いではいるものの、内心穏やかではなかった。

力、技共に自分より上の相手ではあるが、彼女の剣技をよく()()()()()というアドバンテージのおかげでこうして互角に持ち込めている。だがそれをもってしても、五分五分に持ち込めるのがやっとというのが現状だ。そしてこの均衡も些細な事でも一瞬で崩れるのを、加えてその要因が起こりやすいのも自分の方だとエルは確信していた。

ただでさえ格上の相手をしているのにも関わらず、向こうはまともに食らえば魔力が練れなくなる毒を使っているためかすり傷を許容することも出来ず、加えて剣技が読めるとは言ってもデタラメな速さとパワーのせいで全神経を注ぐ必要があるため消耗はエルの方が激しい。

さらに付け加えると、この攻防をしている間に今彼らがいる校舎にも火の手が回り始めており、エルが壊した隠し通路の方からとある人物だと思われる魔力反応があることも踏まえると、あまり時間をかける訳にもいかない。

 

だからこそすぐに打開策を考えなければならないわけなのだが、先述したとある人物を巻き込む恐れがあるため思い切った手段が取れず苦戦していた。

 

「どうした、その程度では私を殺すことはできないぞ?」

 

「チッ……!」

 

ネメシスの煽るような発言にエルは舌打ちをつきながらも、意識は彼女の嵐のような斬撃に向けていた。そしてもう何度目かも分からないほどの斬撃を捌いた直後、エルの目は一瞬の隙を捉え勝つための糸筋をすぐに掴んだ。

 

「そこっ!」

 

瞬きする間すらあったか怪しい一瞬の隙に無理やりねじ込んだルイスの斬り上げをネメシスはバックステップで躱そうとしたが、すぐに悪寒を感じ身体を捻った。すると先程ネメシスがいた位置を伸びた漆黒の刃が通り過ぎ回避が間に合わなかった彼女の右腕を斬り飛ばした。

そしてエルはそのままスライムソードを上段に構え振り下ろそうとして──スライムソードを手放し、左肩を突き出すように体当たりを行った。

明らかに虚をついた攻撃であり、体当たりした直後にスライムスーツを変形させ、左肩から剣を出して突き刺す。それがエルがネメシスの隙を捉えてからすぐに導き出した必勝の道筋であった。

 

「お前ならそう来るだろうと思っていた!」

 

「なっ!?」

 

だが、その体当たりを女性はそう来ると知っていたように屈むとエルの襟首を左手で掴み、力任せに投げ飛ばした。

 

「くっ……」

 

エルは空中で体勢を立て直しながら着地する。投げられたせいで距離ができてしまったものの、片腕を切り落としたというのは変わりない。両手で武器を持てないというのは、武器を振るうスピードや威力が落ちる。油断は出来ないものの、状況はエルの方に傾いており彼もそれを理解した上で攻撃を仕掛けようと彼女に視線を向け、舌打ちをした。

 

「あの僅かな隙から勝ち筋を見つけるその目の良さと自身の装備を余すことなく使うその器用さ、賞賛に値する」

 

「……嫌味か?」

 

「まさか、素直に褒めてるだけだ」

 

エルは切り落としたはずのネメシスの右腕があるべき場所に戻っているのを見て、自身の想定が甘かったことを後悔する。魔力制御の練度によっては四肢をくっつけて治すことを彼はシャドウから聞いていたが、ネメシスがその域に達していることを考えていなかった。

 

「私としてはこのまま続けてもいいが……ここで退散するとしよう。この校舎もそろそろ限界みたいだし、『痩騎士』の方も終わったみたいだからな」

 

「……逃がすとでも?」

 

「このままやりあえば自分が負ける、というのを理解していないお前ではないだろう?」

 

「………」

 

それはこのまま戦い続けていた場合起こりうる1番高い可能性であった。そもそも、エルがネメシスの片腕を切り落とせたのはスライムソードという武器の特性を活かした初見殺しのおかげだ。初見殺しの手札が1枚減った上に、体力や集中力を消耗しているのはエルの方なため、このまま続けるのは得策ではない。だが、それでもエルには引けない理由があった。

 

「あなたを野放しにするわけにはいかない」

 

「安心しろ、別にお前の正体は報告せんし、お前の仲間と遭遇しても殺しはしないでおいてやる。それに、考えてみたらここでお前を殺したらまた退屈な日々を過ごす羽目になるからな……そらっ!」

 

「このてい……っ」

 

ネメシスが不意に左手から出された魔力弾。反応が僅かに遅れたエルはそれを躱そうとして、自分の後ろの壁の裏に魔力反応があることに気がついた。もし、エルがこのまま躱してしまえば魔力弾は壁を貫きその後ろにいるであろう人物をも貫くだろう。

だが、エルという人間は助けられる命を見捨てるということを選べない人間であった。彼はすぐさまスライムソードを新たに生成し、込められるだけの魔力を流し込み、魔力の斬撃波を飛ばして相殺することに成功したのだが。

 

「……撤退されたか」

 

魔力弾を飛ばしたネメシスの姿はもうそこにはなく、エルは自身の正体をバラしたのにも関わらず仕留めきれなかったこと悔やんだ。他にも考えるべきことはあるが、まずは壁の裏にいる人物の救出が先だと判断し、そちらの方へ向かおうとして──

 

「誰かいませんかーっ!?」

 

(どうして)

 

アイリスの声が聞こえたと同時に、タイミングの悪さにエルは思わず顔を上に向けて額に手を当てた。本来であれば隠し通路の中にいる人物を回収して外へ出ようと思っていたのだが、今からそんなことをすればアイリスと戦闘になる可能性が高い。

ここから逃走するのもありだが、そうするとルイス・エアとして帰還する方法がかなり限られてくる。

 

(待てよ、考えてみたらルイス・エアっていう人物はそこまで重要な人間じゃないよな?)

 

ふとエルはそう思った。ミドガル王国内部にも教団の手があるのは分かったが、いくら第2王女のとはいえ一介の従者であるルイスではあまり探りを入れることは出来ない。それにネメシスの言うことがあまり信用出来ないというのもあるし、彼女の言い分を信じたとしても「殺しはしない」という発言は「殺さない程度の怪我は負わせる」という風にも受け取れる。

それならばルイス・エアという人間はここで退場して、シャドウガーデンのエルとしてこの先生きていき、ネメシスの警戒とアルファたちの補助に回った方がいいのではないか。

 

と、エルがそこまで考えて早速死んだように痕跡を残そうとしたその時だった。

 

「ルイスーっ!いるなら返事しなさい!!」

 

「アレクシア……!?」

 

予想していなかった人物の声を聞いてエル(ルイス)は動揺した。後から学校に来る、という話は聞いてはいたもののまさか突撃してくるなんて全く思っていなかったからだ。

だが状況は困惑するエルを置き去りにしていく。

 

「アレクシア!?外で待ってなさいと言ったでしょう!」

 

「そんなことはいいのです!それより早くルイスを助けないと!!」

 

「そんなことって……いい加減にしなさい!ルイスは私が──」

 

「待つのは嫌なんです!それに、まだあいつとやりたいことも伝えたいことも伝えてないんです!」

 

「ちょっと、アレクシア!」

 

(…………)

 

アイリスとアレクシアの口論を聞いたエルはすぐさま近くの空き教室に入り込みスライムスーツを解除、ルイスの姿になると腰からヒビが入った剣を取り出した。

 

「ごめん、シャドウガーデンの皆。次は絶対に仕留めるから……っ!」

 

ルイスは燃える壁の近くで懺悔するように呟くと、手に持っている剣を思いっきり突き刺した。

 




長かった……

キャラ紹介

エル(ルイス)
なんか最後急に切腹しだしたヤベー奴。理由はちゃんと次回で判明します。今回の事件の黒幕に気がついており、取り敢えずシェリーと会わせないように行動したが結果は……
また、今回の戦闘を通してネメシスが誰なのかハッキリとわかった。

『凶星』ネメシス
アレクシア誘拐事件の際にルイスを破り、痩騎士に対してあれこれ意見した女性の名前。今回はエルとして対峙したルイスに片腕を切り落とされるもすぐに修復し、あれこれ理由をつけてそのまま撤退。目的は未だに不明である。
そんな彼女の強さは修行、戦闘経験ともに3桁年数いってる+ライバルと言えるほどの強さを持つ相手とも戦う機会に恵まれていたシドだと思ってくれたらわかりやすいかも?

シド
ルイスもなんかやってるなーと思い、乱入しようとしたところで終わってしまったのでネメシスとはまだ顔を合わしてすらない。ちなみに個人的には、原作のこの話で彼がシェリーの母親も殺した黒幕に対して不快な気持ちを顕にしたところは結構好きです。

隠し通路の中にいた人物
一体どこのアンナ先輩なんだ……


シェリー
どうしてこんな良い子があん酷い現実を味わなきゃならんのだ……

社会人になったので更新はこんな感じでかなり遅くなると思います。大変申し訳ないです……


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26冊目

バニーガールアレクシア当たりました!(4/26での素振り)
てか、ブルア○もだったけどバニーガール多いような気がする。この時期ってうさぎ関連のイベントありましたっけ?

という前書きを残してたら1ヶ月以上投稿できてない経ってる無能です。大変お待たせしました。はい、39度の熱出してぶっ倒れたり、喉が痛すぎて寝れなかったりしてましたが生きてます。コロナじゃなくてもこんなに辛い風邪はハジメテです。皆さんも体調管理にはお気を付けて。


°月☆日

昨日は日記を書く暇がなくて1日空いてしまった。

取り敢えず昨日起きた襲撃事件の分かっている範囲での結末をまとめようと思う。

まず、校舎は火事によって全焼した。そのためまだ発表はされていないけど、早めの夏休みに入るのは確定だろう。

次に被害状況については、学校側の死傷者はやはりそれなりの数にはなってしまった。特に教員や当時警備に入っていた騎士が多く、そちらの補充の目処も少し難航しているらしい。ただ、グレンさんとマルコさんは治療が間に合ったため復帰はまだ目処が立たないものの、一命は取り留めたとの事なので安心している。

そんな中多くの人たちに衝撃が走ったのは死亡者の中にルスラン副学園長がいたことだろうか。見つけたのはシェリー先輩らしく、彼女はシャドウガーデンの主と思われるシャドウによってルスラン副学園長が殺されるのを目撃したとのことだ。これに関して思うところはあるし、何でシャドウがわざわざシェリー先輩のお母さん殺されたのと同じ方法でルスラン副学園長を殺したのか、何故黙ってその場を去ったのかも分かる。

けど、シャドウにこの罪を着せてしまったのは本当に申し訳ないし、自分の力不足が本当にいらただしく感じる。

 

話を戻そう。最後にシャドウガーデンが指名手配犯になった。言ってしまえば今回の騒動全ての責任を押し付けられたのだ。特にシャドウには間違いなく歴史の教科書に乗るレベルの大罪人と言えるぐらい、犯した犯罪が多く記載されていた。ちなみにエルに関しては手配書を出された程度だったけど……正直複雑ではあった。

 

ちなみに俺に関してだが、3日ほどまたベッドの上生活をすることになった。まあ、腹に剣がぶっ刺さっていたのだから寧ろ3日というのが短いぐらいだ。

そう、俺はまだルイス・エアとしても生きることにした。あの時、アレクシアの叫びを聞いて何故か残してしまった前世の勇者パーティやポチすけ、姫さんの事が頭の中に浮かび、気がついたらルイス・エアはどうすれば生きられるかを考え、行動に移していた。

結果として取り敢えず負傷して動けなくなった形を取ったのだが……まあ、大変だった。

俺を見つけてくれたのはアレクシアなんだが……その時の俺の状態ってのが燃える教室の中で腹に剣ぶっ刺さったまま倒れてるって感じだったんだよな。うん、パッと見死んでるって思うよな、俺も同じ状況ならそう思う。

だから「ル……イス?」って目を見開きながらよろよろと歩いてくるアレクシアは本当に見てられなかったし、罪悪感で死ぬかと思った。そして、俺のそばに辿り着いたら「う、そ……よね?ルイス、なに寝てるのよ……早く起きてなさいよ……」って泣き始めたもんだから思わず「勝手に死なせないでくれません?」って言ったらキョトンとした顔になったと思ったら、「このバカっ!紛らわしいわよ!」って罵倒されながら思いっきり抱きつかれた。俺、パッと見は死にかけの重傷者なのに、どうして。

 

その後は隠し通路にいた生徒──予想通りアンナ先輩だった──を連れてやってきたアイリス様の助け(一悶着あったけど)もあって燃える校舎から無事脱出した。

その後直ぐに仮の医務室にぶち込まれて処置を受け、自分の寮に運び込まれたのが昨日の流れだ。

 

そして今日は事情聴取をアイリス様が俺に対して単独で行ったのだが、ルイス・エアとして動いた時の話を主にした。ただグレンさんにはレックスに対して飛び蹴りかましたところをみられているため、そこは少しだけ戦闘したあとレックスに蹴飛ばされて気を失ったことにした。あとはシャドウガーデンとは別の組織がいるかもしれないってことを嘘と事実を混ぜて話した。実際、ディアボロス教団が今回の黒幕だし、エルとネメシスが戦ったのも事実だからそれをあっさり負けたルイスがそれを少しだけ見れたって感じにした。

そしたらアイリス様に「お願いですから無茶をしないでください」と怒られてしまった。いや、仕方ないやん。あの時ネメシスはシェリー先輩のこといつでも殺せたし、外に出たら出たで騎士団への被害がさらに酷くなるし、そもそもスライムソードとスライムスーツないとまともに相手できないし……。

だが、そんなこと言えるわけないので「被害をなるべく抑えたかったんです」って言ったら「そういう問題ではありません!」って怒られてしまった、どうして。その後、アイリス様は「すみません、取り乱しました」って謝ったあと安静にするよう告げてから部屋を出ていった。

 

取り敢えず今日はもう誰も来なさそうだし寝よう。アイリス様には明日謝りに行こう。俺のせいで怒らせてしまったのは事実だからな……なんで怒ったのか正直わからないけども。

 

 

°月♪日

アイリス様に謝るためにこっそり抜け出そうとしたタイミングで、アレクシアに見つかってベッドにぶち込まれた。そしてその後に「あんたは怪我人なんだから休みなさい!」と無理やり寝かされ、何故か俺の看病をしてくれた。具体的に言うとご飯はアレクシアが食べさせてくれたし、トイレ行こうとしたら体を起こすのを手伝ってくれた。

いや俺は要介護者かよ、と思ったのだが「あんたが変なことしないかの監視よ」と言われた。アレクシアから俺への信頼が厚いようで泣きそうになった。というか、あなたもちょっと前までは腕を固定してた怪我人だったはずなんですけどねぇ……てか、今思ったけど腕固定してたやつ外れるの早くね?

 

さて、そんなアレクシアは先程俺の様子を見に来たと思われるアイリス様の手によってドナドナされて行った。何でそんなことになったのかというと、俺の看病が楽しくなったのか調子に乗ったアレクシアが俺の体を拭くと言い始めたのだ。うん、つまり俺はアレクシア相手に上裸になる必要が出てきたのだ。

 

そうなると絵面と俺の首がまずいため、俺は気持ちだけ受け取っておくとやんわりと断ったのだがあの王女、「いいからいいから、遠慮なんていらないのよ♪」とノリッノリでタオル片手に迫ってきやがった。お互い譲らなかったため、結局ベッドの上で取っ組み合いが始まり、僅かな隙をついて俺のバランスを崩して押し倒したアレクシアが俺の服に手をかけ、もう終わったと思った時にアイリス様が訪ねてきてくれたのだ。

まあ、むっつりと思われるアイリス様が俺を押し倒すどころか服を今まさに脱がそうとしているアレクシアを見て爆発するわけがなかった。顔を真っ赤にして「な、なななななななにをしてるの!?」って言った時は思わず笑いそうになって危なかった。

その後はアレクシアが何か言う前に俺が「なにって……ナニですけども」……とは言わずに「無理やり服を脱がされ体を拭かされそうになりました」と言ったので、アレクシアはその場でお説教。その後アイリス様に首根っこ掴まれて連れていかれた。美しい姉妹愛を見れて感動しましたよ、僕は。

 

ちなみにその後窓からデルタが入ってきて「デルタが拭くー!」とタオル片手に言ってきた時は頭を抱えた。まあ、今更デルタに裸見せることに抵抗は無いし、断ると落ち込むのが目に見えていたのでお願いした。ただ、そのまま一緒に寝ようとしたので流石にそれはダメだと諭して帰らせた。

デルタの寂しそうな顔が未だに頭によぎる……今度2人で過ごす時間作ろうかな。それこそ、デルタが好きな狩り(対象は人間じゃない)でもいいかもしれない。

って、今思ったけど「デルタが拭くー!」って言ってたってことはどこかで会話を聞いてたのだろうか?いや、偶然だよな?

俺はデルタを信じるぞ。

 

 

°月→日

今日はアイリス様とアンナ先輩がやってきた。

アイリス様からは先日取り乱してしまったこと、アレクシアの暴走を謝罪されてしまった。無論、どちらに関してもアイリス様は悪くないため俺の方も頭を下げて謝罪しまくったのだが、お互い譲らないため中々シュールな光景になっていたと思う。

結局、お互い何かしら相手に約束を設けるという風に落ち着き、アイリス様から俺へは「絶対に無理はしないこと」を、俺からアイリス様へは「もっと周りを頼ること」というのを約束した。ただ、俺がアイリス様にあの約束を持ちかけた時は「あなたがそれを言いますか……」と呆れられたのは誠に遺憾である。俺は困った時はちゃんと周りに頼ってるのに……。

 

アイリス様が帰って大体1時間くらいだろうか?お昼前にアンナ先輩がバスケットを片手に訪ねてきた。なんでも、助けてくれたお礼とお見舞いも兼ねて態々サンドウィッチを作って持ってきたとのこと。

そこまで気にしなくていい、と言ったものの「まあまあ、そう言わずに受け取って欲しいな」って困った顔で言われてしまったので頂いたのだが……夢中になって食べるぐらい美味しかった。卵サンドは塩コショウの味付けが俺の好みだったし、魚のフライサンドもタルタルソースの味が薄すぎす濃すぎずと絶妙な調整だった。特にそのフライサンドに関してはフライに関しては市販とのことだが、タルタルソースは自分で作ったとのことだから味の調整に苦労かけたと思われる。

まあ、アンナ先輩はそんな俺の様子をニコニコ嬉しそうに見ていたのに気が付いてからは、なんか恥ずかしかった。そして俺が恥ずかしがってるのを分かったアンナ先輩は「可愛いところあるじゃん♪そういうところあたしは好きだよ?」と言ってきた。

 

なんか、俺年上には全然勝てないや。クレアとアイリス様は別枠だけどね。片方はブラコン拗らせてるから寧ろこっちが抑えたりしてる側だし、アイリス様はむっつりだからなぁ。あ、でも権力やたまに見せる不器用な姉みたいなところには勝てないかも。実質年上で負けないのクレアだけじゃん……なんかやだなぁ。

 

と、ここまでなら良かったがこの後は悪い話を聞くことになった。シェリー先輩は学術都市のラワガスに留学することを決めたそうだ。恐らく、ルスラン副学園長の仇を取るために、それに必要な力を得るために決めたのだろう。アンナ先輩もそれを察しており止められなかった、と悔しそうに呟いていた。

 

出来たらその道には行かないで欲しかったけど、本来俺は復讐に関してとやかく言える立場ではない。何故なら少なくとも、俺は復讐を志したから色んなものを得た側の人間だし、結果的には復讐を果たして気持ちを切り替えられた。だから、シェリーさんが選んだ道を否定することは出来ない。

でも、少しでもいい結末になるように動くように手を出したいとは思う。それが、先にこの道を選んだ人間としてやるべき事だと思うから。

 

 

 

 

****

 

 

 

私、アンナにとってルイス・エアという少年は一目惚れした相手だ。フードを被った男に2度も襲われた時、その2回とも颯爽と駆けつけてくれた彼の姿にベタ惚れしてしまった。

彼の気を引き付けたくて、友人に手伝ってもらって彼の好きな食べ物や恋人の有無など調べたし、お礼としてミツゴシ商会のチョコレートを買ってあげようとしたりした。まあ、このチョコレートに関してはルイスくんの部屋で2人っきりで食べるという役得な感じになったけども。

 

そしてルイスくんと交流していく度に、情報には無かった彼の色んなことを知れた。

例えば、落ち着いてるようで子供っぽいところがあったり、本当に嫌な時は目付きがさらに悪くなったり、意外と意地悪だったり、そしてかなりの人たらしの才があることなどだ。

 

いや、最初の2つはギャップ萌えというかそういうのがあっていいと思う。でも人たらしの点に関してはダメだ。ただでさえ、アレクシア王女っていうとんでもないライバル候補がいるのにこれ以上増えたら大惨事になる。

 

──なんて学園が襲われるまでは思っていた。

 

でも今は違う。私はあの日、ルイスくんの秘密を知ってしまってからこの想いは揺らぎつつある。

隠し通路に吹き飛ばされたように入ってきたルイスくんが、制服から黒衣のコートを着るところを私は見てしまった。そして指名手配書を見た時、ルイスくんがシャドウガーデンのメンバーの一人だということに思い至ってしまった。

私は急にルイスくんのことが分からなくなってしまった。彼が私に見せていたものは全て偽っているものなのだろうか?私を助けたのは気まぐれなのだろうか。けど、それ以上に好きな人に対して疑心暗鬼になっている自分に戸惑った。

でも向き合うべき気がして、勇気を出してルイスくんのお見舞いに行った日、彼の笑顔を見た瞬間私の中にあった疑問は一気に吹き飛び、同時に理解してしまった。

 

───ああ、結局私はルイスくんにどうしようもないほど恋してしまってるんだ。

 

考えてみたらベタ惚れしてしまう出来事だらけだったし、仮に彼が何者であっても私のこの気持ちは本物だ。それにどうもルイスくんが悪さをしているテロリストとは思えない。魔剣士だから必要となれば人を殺せる覚悟があるのは当然かもしれないけど、少なくとも進んで悪を成すタイプとは思えないし、するとしてもそうしないといけない時にしかやらない人間のような気がする。

 

だから君が隠していることは私だけの秘密にしておくね。

いつか、君が打ち明けた時に「知ってたよ」って笑いながら言える日が来るのを楽しみにしてるよ。

 




ぴーすぴーす(結果報告)

キャラ紹介

ルイス
ガバのせいで一般人に正体バレした挙句、デルタに裸を見せるのに抵抗がない男。アレクシアがダメなのは相手が王族というのもあるが、なんか恥ずかしいのもある。思ったよりウブ。

シド
誤魔化すために腹に剣刺すなんて流石だなー+強い人とやれたのちょっと羨ましい。

アレクシア
トラウマほじくり返されたが、生きてたので何とか耐えられた。それはそれとしてルイスにはもう無理をして欲しくない。腕のやつが取れたのはルイスが応急処置で回復させた影響。つまりルイスがあんな目にあったのは自業自得。なお、裸を見るのも見せるのもルイス相手なら抵抗どころかバッチコイ。恥じらい?そんなものは置いてきた。なお、そんなことしてる間にも想い人は急に現れたギャルに奪われそうである。

アイリス
剣が腹にぶっ刺さって死んでるようにルイスが見えて血の気が引いたり、ルイスとアレクシアの攻防(意味深)を見て赤面したりと忙しい。多分恐らくムッツリ。

デルタ
実はエルが怪我をした、というのを聞いて暴走すると思いきやそうならず「多分自分から怪我をしたと思うのです」と事実を聞く前に言い当てていた。体を拭くのはもう慣れっこでエルが好きな力加減も完全に体が覚えている。つまり……?

アンナ
良くも悪くもまともなヒロインしてる気がします(小並感)

クレア
幼少期にルイス『も』振り回していたため、彼からの好感度はちょい低め。ただなんやかんや優しい人だとは思われているため嫌われてはいない。


ぶっちゃけ言うとアンナを入れたのは「主人公の秘密を知ってしまった一般人」というのをやりたかったから+2名のヒロインがやべーのでその口直しです。
あと近々現場に配属されるためさらに更新頻度落ちると思います。なので自分の方はあまり期待せず、他の方のめちゃんこ面白い影実の二次創作を追っかけてくださいね!作者との約束です。


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番外編:ユウトが体験したトラウマや日常話 その壱

(この時間帯なら投稿してもバレへんやろ……)

遅くなってすみませんでした()


その1:スパルタ修行(トラウマ)

 

 

「さて、ユウトよ。お前に修行をつけるにあたって1番の課題になるのはお前の魔力量だ。従って今日から魔力量を解決するための修行も行う」

 

「はい、師匠!」

 

「うむ、いい返事だ」

 

とある森にて、中性的な顔立ちをした剣士とユウトと呼ばれた子供(5歳児)の2人がいた。

師匠呼ばれた剣士は真っ直ぐな目で自分を見つめ気合いの入った返事をした子供に笑みを浮かべると、ポケットから腕輪を取り出す。

 

「師匠、それは?」

 

「さっき言っていた魔力量の修行で使う物だ。ユウト、これからお前はこの腕輪を食事や寝る時、そして私が許可した時以外ずっと付けてもらう」

 

「?はい、分かりました……っ!?」

 

ユウトは師匠から渡された腕輪を受け取ると、なんの躊躇いもなく身につける。すると急に何かを抜き取られるような感覚に襲われ、思わず膝をつきそうになるも彼は根性で耐えた。

 

「い、一体何が……?」

 

(ほう……膝をつかないとは大したものだ。流石、私の魔眼と目をもってしても完成形が分からなかっただけのことはあるな)

 

困惑しながら何とか立っているユウトを見て剣士は満足そうに笑みを浮かべる。なぜなら剣士がこれまで取ってきた弟子の中で、あの腕輪を初めて付けて膝をつかなかったのはユウトが初めてだったからだ。早速自分の予想を裏切った新たな弟子に対して、剣士は更に期待を募らせる。

だがユウトはその様子に気づく余裕はなく、絶え間なく続く慣れない感覚を堪えながら声を出す。

 

「師匠、これは……?」

 

「ああ、説明してなかったな。それは『ドレインブレスレット』と呼ばれている魔導具だ。簡単に言うとそれを身につけている間、魔力を吸収される」

 

師匠と呼ぶ剣士からの説明を聞いてユウトは「なるほど」と理解した。先程感じた感覚は魔力を吸い取られる感覚であり、初めて感じたと思ったのはこれまで魔力を使ったことがないからだろう。

 

だが、それはそれとして聞きたくは無いが聞かなければならない質問がユウトに出来た。恐る恐るユウトは質問を投げかける。

 

「師匠、質問なんですけど吸収した魔力はどうなるんですか?」

 

「ん?そんなの魔力はブレスレットを通して外部に出されるだけだが」

 

「デメリットしかないゴミじゃないですか!……あ、あれ?外れない……?」

 

ユウトは衝動的にブレスレットを外して地面に叩きつけようとするも、ブレスレットは何故か手首から離れずどんなに力を入れても、まるで固定されているかのようにビクともしない。

そしてそれを見ていた剣士は「あ、しまった」と呟きながら──

 

「すまん、それ解呪する前のやつだった」

 

「なんでよりによって呪われてる方を弟子に渡すんですか!?というこれ元々は呪いの装備だったんですか!?そもそもなんでそんなん持ってるんですか!!」

 

「まあそう言うな。ほれ、えんがちょ」

 

ギャーギャー喚くユウトを流しながらその剣士はブレスレットにチョップする。するとブレスレットはあっさりと取れたが、ファンタジーにまだ夢を見ていたユウトからしたらとんでもない光景だった。

 

「解呪って物理なんですか!?こう、魔法みたいな詠唱とかないんですか?」

 

「あるにはあるが殴った方が早いし、そもそも詠唱なんてやってたら時間の無駄だ。それに楽できる方でやった方がいいだろう?」

 

「思ったより現実的だった!」

 

「お前が魔法に憧れているのはわかる。だが魔法と剣、どっちも使ってる私からしたら魔法は詠唱破棄出来ないと不便なものだ。だからお前には詠唱破棄の訓練もさせるというのは覚えておけ」

 

(魔法って詠唱破棄が必須レベルなのか……)

 

さらっととんでもないことを言いやがったな、とユウトは思いつつもこれがこの世界の常識ならば仕方ない、と納得した。それよりとりあえず魔力を抜き取られる感覚に慣れようとそちらに意識を向けようとして──

 

「話は置いといて、今から大剣と重りをつけた状態で素振り1000回と筋トレ100回5セットをやってもらう」

 

「……え?」

 

師匠と呼んでいる剣士が投げた指示と足元に転がる木刀を見て固まる。

 

「し、師匠……?今なんて……?」

 

「だから素振り1000回と筋トレ100回5セットだ。ほら、時間は有限なんだからさっさと始めろ」

 

「わ、分かりました……」

 

少し言いたいことはあるものの自分がお願いした結果なため、文句を師匠に言うのは筋違いではある。ユウトはそう自分を納得させていつも通り重りを身につけ、そして鉄製の大剣を持って素振り1000回をこなそうとして──

 

「ちなみに昼前までに2セット終わらなかったらブレスレット追加だ」

 

「それを先に言ってください!!」

 

恐ろしいことを言ってきた師匠にツッコミながらユウトは急いで素振りを開始した。

 

──なおユウトは魔力を吸われているせいですぐに体力が尽きてしまい、そのせいでブレスレットを追加された挙句本当に死ぬかと思うほど魔力を吸われ、走馬灯を見ながら気を失った(本当に死にかけた)

この出来事をきっかけに、ユウトは『ドレインブレスレット』を見る度に体を震わせるようになったとかならなかったとか。

 

なお、その日の師匠特製のご飯はいつもより豪勢だったとか。

 

 

 

****

 

 

 

 

その2:たまにはのんびりと(日常)

 

 

勇者パーティの活躍で魔王軍の前線基地を守っていた魔王軍幹部を撤退させたことにより、彼らは暫し休息の時間を与えられた。

パーティで話し合った結果、各々好きに過ごそうということになり、聖剣の担い手である勇者レイは国から与えられた屋敷で休み、シーフのユラは城下町にある孤児院へと向かった。

そしてユウトとその相棒のポチすけは──

 

「ユウト、エサの付け方教えて」

 

「ん、いいぞー」

 

「ワフゥ……(特別意訳:ご主人に教えて貰えていいなぁ……)」

 

城下町の外にある近くの川で聖女のマリアと魚釣りをしていた。

事の発端はパーティの話し合いが終わったあとにマリアが「何して過ごせばいいか分からない。だから休息の間はユウトについていく」と謎の宣言をユウトにしたからだ。ユウトはマリアからの宣言に困惑した。しかし、とある事情で娯楽をよく知らないマリアの力にはなりたい。

そんな訳でユウト2人と1匹でできることは無いか、と考えた結果自分とポチすけの2人旅でよくしていた釣りならまったり過ごせるだろうと思いつき、現在に至る。

 

「ユウト、魚はいつかかるの?」

 

「それはその時次第だよ。運が良ければすぐかかるし、ダメな時は釣果なしで帰ることもあるから」

 

「そう……そんなのが好きなんてやっぱりユウトは変わり者」

 

「はは、もしかしたらマリアもその変わり者の一員になるかもよ?」

 

「……だといいな」

 

マリアはユウトの返事に対して小さく呟いてからは川に浮かぶウキをじっと見つめ、そんな彼女をユウトは優しく見守る。

 

「………」

 

「…………」

 

「ねえ、ユウト」

 

「んー、なにー?」

 

「無茶してない?」

 

「……別にしてないよ」

 

不意打ち気味に聞かれたマリアの質問に、ユウトは少し間を置いてから答える。確かに開発とまでは言えないものの、自分なりにアレンジしたとある魔法はそれなりのデメリットがある。実際、最初にそれを試しに使った時は吐血した上に全身筋肉痛にもなった。

だが、今ではたまに吐血しかける程度には慣れてきたため、ユウトの中では無茶には入っていなかった。

マリアはこの質問が何となく聞いたということ、間があったとは言えユウトが自分たちに嘘をつくとは思えなかっため納得し、「そう」と言って話を切り上げた。

 

また二人の間に沈黙が流れる。だが、2人にとってこの沈黙は気まずさといったものはない。寧ろたまに吹く風の音やちょうど良い気温も相まって、心地良さを感じていた。

 

「……ねえ、ユウト」

 

「ん、なに?」

 

「こういうのもいいね」

 

「そうでしょ?」

 

「うん。だから次も行く時は誘って欲しい」

 

「ん、いい──あっ、マリア!糸引いてる!!」

 

「あ、本当だ……これは引っ張ればいいの?」

 

「それで大丈夫!俺は網を……」

 

「はあっ!」

 

「ちょっ、マリア!?」

 

 

──この後、マリアは網を使わずに魚を釣り上げるという感覚がクセになったらしく、その日だけに限らず毎回持ち前の馬鹿力を利用して魚を釣りあげまくった。

そしてマリアは後にとある国で行われていた釣り大会で見事1位を取り、大衆の前で満面の笑みでのダブルピース(ユウト基準)をするのだが、この時はそんなそとになるとは誰も思ってはいなかった。

 

 

 

 


 

キャラ紹介

 

ユウト:本作オリ主の前世。幼い頃にドレインブレスレットで何度も死にかけたため、魔力吸収に関しては不快感が出てくる程度には嫌な思い出。

なおこの世界での趣味は釣れればその日の食料にもなる+肉より魚派+なんか落ち着くという理由で釣り。釣り道具はそれなりに凝っているらしく、マリアに買ってあげたのも結構いいもの。

なお自分が吐血する程度は無茶には入らない。

 

師匠:弟子のユウトに解呪されてないブレスレットを渡すというボケをしたり、一歩間違えたら死ぬ鬼畜な修行させたりと結構厳しい一面もあれば、ご飯を豪華にしたりと優しい面もある。なお、魔眼を持っているらしいが……?

 

マリア:勇者パーティの聖女。感情を表に出すことはなく、表情もほとんど出ない。だが勇者パーティのメンバー、特にユウトは彼女の感情や表情には鋭く、またとあることがきっかけでマリアはユウトのことを無自覚ながら恋い慕うようになる。

釣り竿はずっとユウトがくれたものを使っている。

 

ポチすけ:「これ以上のもふもふにはこれから先出会えない」とユウトが自信を持って言うぐらいにはもふっもふ。特殊能力の念力で寄りかかるユウトが心地いいぐらいの温度と湿度の空間、そして最高のモフモフ具合を作ってる。正に特殊能力の無駄使い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その3:とある聖女の誓い

 

──私は孤児だ。

私を拾ってくれた教会の人たちが言うには、雨が降っている日に教会の前に捨てられていたらしい。

 

だが、私の出生なんかは正直どうでもいい。問題なのはその教会が未来の聖女を育成するための教会だということだった。

私は……いや私たちはそこで拷問のような日々を送った。

かつて世界を救った歴代の聖女達のように美しく、そして強くあるために様々なことをやらされた。

 

それこそ聖女らしく傷を癒すための魔法や防御魔法といった白魔法の習得、いざと言う時に前線に出るための戦闘術、そして聖女らしい立ち振る舞いや表情の作り方など色々あった。そして少しでもミスや出来ないことがあれば「禊」という名目でムチで叩かれ、罵詈雑言を浴びせられた。特に私の場合は、子供たちの中ではずっと1番魔法がダメだったから毎日のようにムチで叩かれ、罵倒された。

そんな厳しい日々を送れば、人によっては精神を病んだり、ムチで叩かれた時に死ぬこともある。実際、私より先にいた子、一緒に入った子、後から入った子関係なく居なくなっていったし、ある1人の例外を除けば残っていた子も作った微笑み以外の表情は浮かべることはほぼ無くなった。無論、私も例外なく喜怒哀楽が無くなった。

 

 

いっそ死んだ方がマシだと思えた日々だったのが急に変わったのは、私と一緒の時期に入っていながらも明るかった例外の子が死んだ時の事だった。

あの子はどんなに辛くても作った笑みではない明るい笑みを浮かべて私たちを励まし、誰よりも真面目に魔法や戦闘の訓練を受けていた。だから、聖女になるのはあの子だろうと思っていたし、生き残って欲しいとも思っていた。

そんなあの子が死んだ時、言い表せないような胸の中がぽっかりと空いた痛みを感じそれと同時に私の魔力が体が一気に吹き出した。

 

これは勇者や聖女、もしくは神に選ばれた者のみが起こせる現象らしく、その日を境に私は『白魔法を上手く使えない聖女』になった。

 

 

そしてそれから数年後、私は『勇者』のレイ、『密偵』のユラ、そして偶然仲間になってくれた『魔法戦士』のユウトと『フェンリルの子供』のポチすけと魔王軍を倒す旅に出た。

 

──そう、私が人生でただ1人だけ愛したユウトと出会えたお陰で私は『聖女』ではなく『1人の人間』になれた。

 

───ユウトは私が浮かべる笑みが作っているもの、感情の起伏がないことに誰よりも早く気づき、私のこれまでを聞いてからは私によく話しかけてくれた。

 

───ユウトは魔王軍幹部との戦いであの子の幻影を見せられて折れかけた私を引っ張りあげてくれた。

 

───ユウトのおかげで人と一緒にご飯を食べる温かさを知れた。

 

───そして、ユウトのおかげで私は人を愛することを知れた。

 

他にも私はユウトのおかげで色んなことを知れた。だからこそ、私はユウトと……いや、皆で平和な世界を過ごしたいと心から思っていたし、過ごせるとなんの根拠もない自信を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、ユウトは死んだ。

 

 

 

 

魔王が苦し紛れに放った魔弾からレイを庇ってあっさり死んだ。

 

地面に倒れ込んだユウトは死ぬ間際だというのに、まるで「私たちが無事でよかった」と言わんばかりに優しくて、そして何処か満足したような笑みを浮かべながら死んだ。

 

最初はユウトがいない世界が嫌で死のうと思った。

 

そうすればユウトにも、あの子にも会える気がしたから。

 

でも───

 

『俺は世界をゆっくり見て回りたいかな』

 

『俺が遠慮なく世界一周やれるためにも、レイたち皆無事でこの旅を終わらせよう』

 

いつの日か話した平和になったら何をしたいか、ということでユウトが優しげな表情で言っていたことを自殺する間際に思い出して、死ぬに死ねなかった。

何故ならここでそのまま死んでしまえばユウトがやりたかった夢を踏みにじるような気がしてしまったからだ。

 

そして死のうとしてその度にユウトの夢を思い出しては留まってを数ヶ月繰り返した後、私は教会からの許可を得てから旅に出た。

皮肉にもユウトが死んだあの日に傷を癒す力に目覚めたから、教会は私が1人で旅に出ることを拒むと思っていたけども、予想外にもすぐに承諾の返事が来た。

理由は分からないけども、許可がすぐに出たのは有難かった。ユウトがエンチャントしてくれたモーニングスターとローブ、そして釣竿と冒険用道具を持って襲ってきた魔物や魔族を倒しながら各地を回った。

 

そしたらどうだろうか、皆笑顔で過ごしていた。

 

とある地方の村では子供たちが元気よく広場を走り、夜になれば大人たちが酒を飲みながら楽しそうに話していた。

 

とある国の城下町では子供たちが「勇者ごっこ」をしていて、大人たちは「魔王が倒されて平和になってよかった」と安堵していた。

 

そして私たちが以前魔王軍の魔族たちから助けた村では、私を歓迎してユウトの死を悼んでいた。特にユウトのお陰で命を助けられた見張り兵や、魔族に連れ去られそうになったのを助けられた幼い兄妹はより一層悲しんでくれていた。

 

ここの村だけじゃない。色んなところでユウトの死を悲しむ人が大勢いて、それが何だか嬉しくて同時にここに彼がいないというのが余計に悲しかった。

 

 

 

ユウトは今頃天国で穏やかに過ごせているのだろうか。もしくは生まれ変わって変わらず誰かのために生きているのだろうか。

私には今彼がどうしているのか分からないけども、この旅を通して彼が、私たちと彼が守ってきたものを認識できた。

 

 

 

だからこそユウトに誓おう。

 

 

私は貴方が守ったものを生命尽きるまで守り続けていく。

 

そして何かしらの奇跡が起きてあなたに会えたら───

 

 

 

 




キャラ紹介

マリア:ユウトがいた代の勇者パーティの聖女。生まれが生まれなため表情筋が死んでいたが、ユウトや勇者パーティの面々、そして旅を通して徐々に感情と色んな表情を出せるようになった。ユウトに対しては無自覚な恋心を抱いていたが、ある日のガールズトークで自身の恋心を自覚。それをきっかけにユウトを1人の異性として愛するようになり、平和な世界で穏やかに暮らすことを夢見ていたが……
魔王討伐後はぐちゃぐちゃになりながらも、ユウトの夢のお陰で何とか持ち直し、ユウトが「マリアのために」とエンチャントした武器とくれた釣竿を持って世界を旅し、彼に誓いを立てた。

とある聖女:ある代の勇者パーティの聖女。歴史書では彼女は最初こそ癒しの魔法が苦手だったが、歴代聖女の中で唯一前線で敵を倒し、魔法も戦いの中で覚醒、そして魔王との決戦では仲間を守るために魔王の最期の一撃を受けて瀕死となった勇者の命を救ったとされている。
魔王討伐後は休養後に傷ついた人々を癒すための旅に出たとされている。

才■なき英■:とあ■代の勇■パー■ィにいた■雄。神■選■れた訳もなければ、特■な才■もないただの凡■であった魔■戦■。しかし、彼■旅先で積■的に■助■を行い、時には■を負うことを厭わ■力なき■のためにその身で数■の攻■を受け■めたとされている。
少なくとも彼のその精神は英雄であった。
───とある古文書より。


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27冊目

おまたせしました。まだ一応生きてるので初投稿です。


 

°月¥日

医者からもう日常生活に戻ってもいいというお達しが出たので、早速最近見つけた人目がつかない場所で鍛錬をしていたら、アレクシアに見つかり呆れられた。

だが、ネメシスを討つということを考えれば1日も無駄にしたくない。正直、今の状態で挑んでも良くて勝率は4……いや3割ぐらいだ。少なくとも前世で使っていた身体能力強化の魔術と俺の最大火力技の再現及び質の向上、加えて今より2段階程剣技を高めないと勝率は上げられない。一応ベッドの中でも魔力操作はしていたが、それでも体を実際に動かしながらでやると結構違ったりする。

 

特に身体能力強化の方は動きながらでないと、ちゃんと出来ているのか分からない。まあ、再現しようとしているものが前世で使っていた上にシドが使っているオーバードライブより強力だから人の目があるところで練習はできないのだが。

 

だからこそちょっとした穴場でやろうとしていたのだが、まさか見つかるとは思わなかった。まだウォーミングアップの筋トレの段階で良かったわ。

 

その後は珍しくアレクシアから模擬戦の相手を頼まれ、何試合かしたのだがやはり強くなっている。魔力操作の緻密さやスピード、そして剣の振り方やフェイントが前よりも巧くなった。

 

個人的にはこういう技術の上達というか飲み込みが早いタイプはかなり手強くなる、と見ている。実際シドなんかはそれを体現しているようなもんだしね。

 

だが着実に実力を伸ばしている当のアレクシアは、「逆転の一手になりうる一撃必殺の手段が一個しかない」と気にしていた。これに関しては変に気にしなくていいと思う、とは言ったもののそういう必殺技というか切り札が何個かあるのとないのでは安心感が全く違う。まあ、裏を返せばその技が通用しなかったり、破られた時はかなり精神的に来るわけだし、それなら今あるその技を鍛えるべきとかあるが……個人的には、アレクシアのことも期待してるし明後日実家行きの馬車に乗るまでにそれとなくヒントを出すか。

 

その教えようとしてる技はやる工程だけは単純なのだが、魔力の収束具合や速さ、そして振るう剣のスピードとシンプルな技だからこそ気をつける点が多く、極めようとするとかなり難しい技だ。俺はこの技を自信を持って「切り札の1つ」として完成させるのに5年ほどかかったが、アレクシアなら恐らく遅くて2年ぐらいでモノに出来ると思う。

 

本当に俺の周りは将来有望な子が多い。だからどのくらい強くなるのか楽しみになっている自分がいるのは否定できない。

 

師匠も俺を鍛えてる時はこんな

 

あ、そういえばアイリス様がなんか「ルイスが1番使いやすい剣の形はなんですか?」って聞いてきたな。断っても前世含めてトップクラスの気迫でゴリ押ししてきたから、つい刀って答えちゃったけど……ここからエル=俺ってならないよな?

 

 

°月$日

 

夏休みに入ったため本来なら俺は実家に帰っているのだが、現在王都ミドガルと聖地リンドブルムの間にある宿場町にいる。何故こうなったのかの経緯を簡単にまとめると。

 

1.朝イチに、アレクシアから実家の帰省期間が減ってしまう代わりに、給与を多めにあげるからリンドブルムの大司教の調査に同行して欲しいと頼まれる。

2.特に断る理由無かったし、アレクシアの鍛錬も見たかったため了承。

3.昼からリンドブルム行きの馬車に乗って移動することを告げられる。

4.急いで父さんに手紙を書き、荷物を纏める。

5.時間の15分前には何とか間に合い馬車に乗る。

6.宿場街に着く。←イマココ

 

と言った感じだ。

いや、せめて前日に言ってくれと思った。そうすれば慌ただしく動く必要はなかったし……もしかしたら俺が断りにくいようにいきなり言ったのだろうか。そしたら流石というべきだと褒めるべきなのか、いい性格してると嘆くべきなのか分からねえや。

 

さて現在、今回もアレクシアは部屋にいる。

いやね?普通は王族と一般貴族は分けるべきだと思うんだ。実際王族御用達とそれ以外で宿あったし。

だがこの王女、どんな手段を使ったのか俺を同じ部屋にぶち込みやがった。「護衛も兼ねてるんだから当たり前よね?」じゃねえよ!!普通は護衛でも一緒の部屋で寝ないわ!!部屋の出入口に立って交代で見張るんだよ!!というか不用心すぎるわ!!

 

もうどうすればええんや、この王女……

 

 

°月%日

 

昨日分の日記が空いてしまったが、特に書くことがなかったので書かなかった。強いて言うなら抱き枕にされたぐらいだ。

何がとは言わんが柔らかかった。でも理性が残ったのはデルタのお陰だろう。ありがとう、デルタ。けど布団に潜り込んできたり、裸で風呂に入ってくるのはやめてくれ。最近慣れてきた自分が怖くなってきたから……

 

さて、そんなこんなでリンドブルムに着いたわけなのだが念の為ネメシスがいないか魔力探知を行った結果、魔力的にアルファ、ベータ、デルタ、イプシロンとその他構成員、何故かシドもいるのがわかった。

 

これがわかった時変な声を出さずに冷や汗だけで留めた俺を褒めたい。いや、これ絶対コトを起こすパターンでしょ。七陰のうち4人もいるのはもう「ここでなんかやります」と言っているようなもんだ。

でも俺、報告はおろか相談や連絡も来てないのよね……あれか?敵幹部を何回も逃した無能だから?……書いてる段階で泣きそうになってきた。いや、確かに最初負けたし、2回目は取り逃した上に自分の感情優先してシャドウガーデン1本に絞らなかった……こう書いてるとハブられても仕方ない気がしてき──

 

先程珍しくアルファが窓から入ってきて、なんで俺に話さなかったのか説明してくれた。

とは言っても、アレクシアが来るなら俺も来るはずだと思っていたから着いてから話そうと思っていたらしい。ちなみに来たのがデルタじゃないのは手紙を書く手間を省くためと言ってたけど……流石にデルタのことをアホの子扱いしすぎではないだろうか。

「あの子に任せたら本来の目的忘れると思うし」とも言ってたし、アルファってたまーに辛辣なこと言うよな……天然だとしたらナチュラル畜生の素質あるぞ。

 

それは置いといて、アルファから告げられたのは女神の試練の時に仕掛けるという事、ディアボロス教団と英雄たちの真相をあかしに行くこと、俺はアルファたちの護衛と万が一のためのデルタ抑え役として最初から同行して欲しいということだった。

 

つまり、俺は当日アレクシアの護衛から何とかして外れる必要がある。

 

という訳でそこからアルファとどうやって護衛から抜け出すか話し合い……にはならなかった。

何故なら教会側の精鋭たちがアレクシアを護衛する+女神の試練に出場確定というふうに決まってしまったからだ。尤もアレクシアは何としても俺を傍に置きたかったみたいで色々意見を出していたが、「私たちのことが信用出来ないのですかな?」と大司教代理のハゲおっさん……略して代理ハゲが切り出したため失敗に終わった挙句、「これはあくまで助言ですが、もう少し強い人間を置いたらどうかな?」と挑発されて乗ってしまった、というわけだ。まあ、向こうからしたらメンツを良くしたい+聖騎士の力を信じてる+ちょっとしたからかい、ってところなんだろうが……もう少しこっちに譲歩する形をとっても良かっただろうに。お陰で俺はとばっちりを食らったよ、ちくしょう。

というか大司教が死んだってのも今日の打ち合わせで初めて聞いた。あの大司教に関しては元々黒い噂が結構あった。だからこそ俺らは調査をしに来たわけだし、場合によってはアイリス様も動くという話もあった。

しかし殺害されたというのなら証拠がなくなる前に捜査する必要がある。そのことをアレクシアと俺はかなり丁寧に説明したものの、当の代理ハゲは「調査は許可を取ってからに~」とお前が犯人だろとしか思えないことを言ってのけた。

確実な証拠がないから捕まえることは出来ないが、もしもアレクシアに危害を加えるようならば先にやるしかないだろう。

 

 

そんな訳で明日はごく自然に合流できるだろうし、計画もアルファと話し合って元の計画から変更点が出てしまったが恐らく大丈夫だ。懸念点をあげるとすればシドがやらかす程度だが……まあ、なんやかんやいい方向に向かうだろうし、やばそうになっても俺がカバーすればいい。

とりあえず、今できる準備を軽くしておこう。聖域とかそういうヤバそうなところの内部とかは経験上魔力が使えないだとか、とある条件を満たすまで魔物無限湧きとか面倒な仕掛けがあったことが多かったし。

 

それはそれとして、アレクシアと俺を別部屋にしてくれた点だけは本当に良くやってくれたと心底思う。ナイス、代理ハゲ。

 

 

 

****

 

 

 

「やれやれ……まさかこんなことになるなんて……」

 

エルは女神の試練が行われている会場の屋根から、本来自分が戦うことになっていただろう『災厄の魔女アウロラ』と、漆黒のスライムスーツを身に纏ったシャドウが激しい戦闘をしているの見ていた。

 

元々の計画ではルイスが選手として出る前に自分の姿に変装したニューと入れ替わり、エルとして女神の試練に乱入。そのまま魔人ディアボロスを封印した英雄たちのうち1人か、その魔人ディアボロスを倒す、というものだった。しかしその計画から変更せざるおえない状況になってしまった。

 

というのも──

 

(シドが女神の試練に出場することになってたのは予想外だった……)

 

そう、シドが女神の試練に挑む人間の1人にいたからだ。

エルから見ても出場者の相手として出てきた敵はその出場者の実力に見合ったものがほとんどであり、勝てた者もそこまで多くなかった。それを踏まえると、何で判断しているのかは確証こそもてないもののこの仕掛けはその人物の実力をかなりの精度で読み取れるというのはエルもシドも分かった。だからこそ、シドが普通に出てしまえばかなりの実力を持った敵──それこそディアボロスを封印した英雄の誰か──を召喚しかねない。

そうなってしまえばシドの夢は砕け散る。それを察したエルは計画変更の合図、そしてシドならこちらの意図を察してくれるだろうと祈りながら、目に止まらなぬ早業で上空へ打ち上がってから数秒後に破裂する魔力弾を放った。そして魔力弾が破裂したと同時に魔力の色からルイスだということ、意図を瞬時に察したシドはスライムスーツを纏いシャドウとして乱入した。

 

結果としてそれは正解だった。

 

今シャドウが対峙しているのは、『厄災の魔女アウロラ』という魔人ディアボロスとの戦いより昔に世界を混乱と破滅にもたらしたとされるかなりの実力を持った女性だ。尤も、その情報はディアボロス教団によって抹消されているため、ルイスたちは知る由もない。だが、見ればかの女性の実力はわかる。事実、彼女の攻撃は自身の血を使って大量の杭を形成しシャドウに放っている。そしてその攻撃はかなり精密な魔力操作によって実現しており、エルは内心でアウロラへ賞賛を送ると同時に全力の状態だったらどれくらいの強さなのか、内心冷や汗を流していた。

 

(何故かは分からないけれど彼女は本来の実力を出せていない。もし、本当の実力だったら前世の魔王軍の幹部クラス以上は確定だな……下手すると師匠や魔王レベルであることも視野に入れる必要があるな)

 

また頭を悩ます問題が出てきた、とエルはため息を思わず吐いた。だがすぐさま敵対するということにはならないだろうと判断し、アルファたちと合流するためにその場から離脱した。

 

──この時エルことルイスはあることを失念していた。そしてそれがどう転ぶかも誰にも分からない。




次回予告「あーあ、出会っちまったか」

そういえば新着感想の通知が来てて、それを見にいったら感想がないっていう事態が何度か起こってるのですが、これなんでしょうかね?調べてもなんかよく分からなかったし……うーん。

キャラ紹介

ルイス:刀剣類であれば基本OKだが、ベストは刀。実はナツメに対抗してなんかやってたアレクシアを見て色々複雑な気分になった。

アレクシア:ルイスが目を逸らしたのを感じ取り、後で問いつめるつもりである。ちなみにエルの魔力の色は覚えている。

デルタ:作戦までルイスと居ようとしたが、ルイス本人から「めっ!」されたため泣く泣く断念。デルタはちゃんと我慢できるのです。

アルファ:デルタを行かせたら100%ルイスと一緒に寝ようとして伝え忘れるだろうと予想していたための行動。実際そうしないとデルタはルイスと一緒に寝るだけ寝て帰ってきていた。

ベータ:なんでエルはアレクシアなんかに仕えることが出来ているのか、本当に不思議に思ってる。

代理ハゲ:ルイスとアレクシアの部屋を分けるというファインプレーしたハゲ。ルイスの経験上「あのハゲは胡散臭いハゲの方」のハゲらしい。


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