東方妹紅譚~蓬莱人と幽霊~ (さうと)
しおりを挟む

第一話

ハーメルンでは初投稿になります。
東方二次創作の小説は初作成なので、うまくできているか心配ですが、
読んでいただけると嬉しいです。

全4話で毎日更新の予定です。

7/18 誤字修正


「あーもーもうだめ疲れた!」

肩で息をしながら妹紅は天を仰いだ。

「じゃ、今回は私の勝ちね」

輝夜の勝ち誇った声とともに五色の閃光が妹紅の全身を貫く。

「ぅぐっ……ちっ」

妹紅は舌打ちしてその場に倒れこんだ。

それを見た輝夜はため息をついて座り込む。

「やーっと終わったぁ!」

「今日は長かったですね姫様」

観戦していた永琳が声をかける。

「まったくよ。昼間から始めてもう朝じゃない。あー疲れた」

「向こうは体力が尽きてましたね」

「妖術は体力を使うのよ。それをあんなバカスカ撃ったらああなるに決まってるわ」

ホコリまみれの服をはたきながら、輝夜が呆れたように言う。

「月の術は体力消耗がありませんからね。運動不足の姫様にはちょうどいいでしょう」

「姫が運動不足で何が悪いのよ。といってもやっぱり疲れたわね」

「休まれてはいかがですか。お布団は敷いてあります」

「あら、ありがと。じゃ3日ぐらい寝てくるわ。おやすみー」

おかしな単位の睡眠時間を宣言して輝夜は奥に消えて行った。

「あのー、師匠。妹紅さんはどうしましょうか?」

一緒に見ていた鈴仙が亡骸の処遇を聞く。

「そうね……姫様の安眠のために幻想郷の外への遺棄を命じます」

「分かりました。捨ててきます」

「なーんて、あ、ちょ……」

言うが早いか物言わぬ藤原妹紅を抱えて鈴仙は走り去っていった。

「……冗談だったんだけど」

 

 

「ん……ぐ」

うめき声を上げながら妹紅は立ち上がった。

「あーあ、死んだ死んだ。調子に乗って飛ばしすぎたわ」

と、ズボンについた泥をパンパンとはたきながら言った。

「にしても遺棄だなんて。ひとを死体扱いしないでよね!……事実だけど」

さっきまで死体だったとは思えない元気さで恨み言を吐いた。

そして、ひとしきりあたりを見回して、

「で、ここはどこかしらね。街道みたいだけど」

妹紅は黒く舗装された道の真ん中に立っていた。

「とりあえず適当に歩いて――」

ぶぅー……

かすかだが、低いうなるような音が聞こえてきた。

「ん、何の音?虫かしら?」

低い音はだんだんと迫ってくるようだった。

「……何あれ。こっちくる。」

中に人の入ったメタリックな塊が勢いよく近づいてきた。

現代の人間ならばすぐさま脇に飛び退くだろうが、彼女は幻想郷の人間だった。

車を知らなかったのだ。

「ギャーッ!」

ゴンという衝突音とともに、中空へ舞い上がった彼女はそのままきりもみ落下して鈍い音を響かせた。

その音に驚いたように車は停止する。

「いったー……!」

常人ならまともに動けない傷を負っていただろうが、

そこは髪の毛一本からでも再生できる彼女のこと。

すぐに立ち上がる。

バンパーがひしゃげた車の中からのそりと男が出てきた。

青ざめた顔でうつろな目を妹紅に向けると、

「あの、大丈夫……ですか」

覇気のない声で呼びかける。

「大丈夫だけど大丈夫じゃない!いったい!マジ痛いっ!」

妹紅が口から滝のように血を流しながら叫ぶ。

「と、と、とりあえず、家で手当てを……」

普通なら救急車を呼ぶところだが、尋常じゃない量の吐血を見て気が動転しているのか男は手当てを申し出た。

「あーいや、それには及ばないよ」

妹紅は血をぬぐいながら男の申し出を断り、立ち去ろうとする。

(この世界で不死の躰がバレるとまずそうだし……)

「いいじゃない。来てよ」

いつのまにか妹紅のそばに少女が立っていた。

「だから別にいいって……」

「お姉さん、死なないんでしょ?」

耳元でそう囁かれて妹紅は少女のほうを振り返る。

少女は少し得意げな表情をしている。

「あなた、どうして……」

「来ないと叫んじゃうよ。ここに化け物がいますよって」

「めんどくさくなるからやめてよ!あーもーわかった行けばいいんでしょ!」

半ばヤケになって叫んだ。

その声に男はビクッと体を震わせ、少し脅えた声で

「そうですか。では後ろに乗ってください」

と言って、後部座席のドアを開けた。

「ささ、乗って乗って」

少女が妹紅の手を取って引っ張る。

「ん?あ、ああ」

少し怪訝な顔をして、妹紅は車の助手席に乗り込んだ。

 

 

特に会話もないまま車は平屋の家屋の前に到着した。

男は先に降りて家の鍵を開けに行ったあと、助手席側のドアを開ける。

どうも、と妹紅は言って車から降りる。

少女は先導するように玄関扉の前に立った。

「散らかってるけど、まあとりあえず入ってよ」

「じゃ、お邪魔するわ」

扉を開けると、生ごみのような臭いと重く澱んだ空気が流れてきた。

「う、これは……」

思わずあとずさりする妹紅。

その脇をすり抜けて男が家に入る。

「どうぞ。今、救急箱を取ってくるのでこの部屋で待っていてください」

男が玄関を入ってすぐの廊下右側のドアを開ける。

「私の部屋だよ」

「いいの、入って?」

「別にいいよ」

「そう」

少女の許諾を取り付けて妹紅は部屋に入った。

そのあとから少女が部屋に入る。

「お姉さん、名前は?私は富士見友子。友子でいいよ」

少女が自分の名前を告げる。

「……藤原妹紅」

警戒しながら妹紅も名乗った。

「それで妹紅さんに聞きたいことが――」

「その前にこっちが訊きたいわ」

早速下の名前で呼ぶフレンドリーさに呆れつつ、妹紅は話を遮る。

部屋の中を見回しながら妹紅は少し小声で言った。

「死人はこの世にいちゃいけないって知ってるかしら?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

少女はちょっと驚いたように、

「……人を死人呼ばわりとは失礼ね。証拠でも?」

「さっき手をつかまれたのに感触がなかった」

「ああやっぱり気づいた?」

少女は少し満足げな顔で自分の手を見つめる。

「っていうか、机の上に遺影あるし」

妹紅は線香が挙げられた写真立てを指さして言った。

「あ、バレた?」

「これで幽霊じゃなかったら逆にびっくりだわ」

「ふふ、さすがにわかるか」

そう笑って少女は妹紅のほうに視線を上げる。

「こっちは私に全く驚かない妹紅さんにびっくりだけどね」

「亡霊だの妖怪だのは慣れっこなんでね」

妹紅は苦笑しながら答えた。

「というか友子も私見て驚かないのね」

「明らかに致命傷なのにピンピンしてたからゾンビ的なものかと思ったの」

「ゾンビは心外ね」

ゾンビ呼ばわりされた妹紅は眉をしかめた。

「じゃあ不死鳥とか?」

「うん、それで」

妹紅は満足そうにうなずいた。

「しかし、普通は打ち所が良かったとか思いそうなもんだけど」

「口から血が大量に出てる人を見たらそうは思わないって」

「そりゃそうね」

口元に手を当てて、ばつが悪そうに笑う妹紅。

「まあ半分ぐらいはそうだったら面白いなって思って訊いたんだけど、

妹紅さんが本気っぽかったからあたりかなって」

「カマかけられたのね……」

自分より千年以上は年下の子供に誘導尋問を決められ、わりと本気で凹む妹紅。

「で、私を脅してまで連れてきたのはなぜかしら?」

気を取り直し、真顔に戻って妹紅は訊いた。

「んー、私、死んだんだろうなーと思うんだけど、死んだことがないからわかんないんだよね」

「まあ、そうでしょうね」

「だから死に慣れてそうな妹紅さんに聞こうと思って。実際どんな感じなの?」

「死に慣れてるって……まぁそうだけど」

直前の輝夜との戦いを思い出して妹紅は遠い目になる。

「まぁ教えるのは構わないけど、実体験じゃないよ。

私には普通の死は存在しない。便宜上の死はあるけど、本来の死後のことは聞いた話になるわ」

「別にいいよ」

少女が頷くのを見て、記憶をたどるように上を向く妹紅。

「えーっとね、まず死ぬと肉体と魂をつなぐ糸みたいなものを死神が断ち切る。

まぁ友子みたいに死神が来る前に切れる場合もあるわね」

「あ、そのへんマンガで読んだ。あれ本当なんだ」

「えっ、なんで現世の人間が知ってるの?」

「いや、地獄について書かれた古書をもとにして書いた人がいるの。

マンガだからフィクションだと思うけど」

「古書か……どっかの死神が漏らしたのかもしれないわね。あいつとか……」

妹紅は誰かを思い出すように呟いた。

「ふーん、糸かぁ。じゃあ私は糸が切れちゃったってわけね。死神とか来てないし」

「ああ、友子の背中から切れた糸が見えるし、今は浮遊霊ってことね」

「へー。で、死神っていつ来るの?」

「さぁ。ここんとこ忙しいとか言ってたからまだ来ないかも――あ」

妹紅が何かに気づいたように押入れのほうを見やった。

次の瞬間、背丈ほどもある大鎌を背負った赤髪の少女がそこに現れた。

「えーと、ここでいいのかな――ってあっれ。

常連さんじゃん。なにやってんのこんなとこで」

「あっ、死神だ」

「え、なんでわかったの、あたいまだ何も言ってないのに」

「そんなバカでかい鎌もったやつなんか死神ぐらいしか思い当たらないわよ」

「草刈りしにきただけかもしれないじゃん」

「そんな殺意あふれる草刈鎌なんて見たことないわ」

「違いないや」

アハハと陽気そうに死神は笑った。

「妹紅さん死神と知り合いなの?」

「ああ、こいつは死神の小野塚小町。書類書きに行くときによく会うんだ」

「書類って?」

「死んだら裁判受けるんだけど、その前に届を書かないといけないのさ。

あ、そういや妹紅さんまた死んだでしょ。後で書きにきてよ」

小町が思い出したように書類の催促をする。

「うぇ、あれ結構面倒なのよね……。もうちょい簡略化できない?」

「是非曲直庁はガンコだからなぁ。フォーマットいじるのすら怪しいよ」

「あの世でも手続きってあるんだね」

「ま、組織の宿命さね」

小町が諦め顔で呟く。

「で、ここに来たのはこの子のため?」

「そうそう。お迎え担当の死神がいっぱいいっぱいでさー。

あんましほっといたら悪霊化するかもってんであたいが代わりにね」

心底めんどくさそうな顔で小町はため息をつく。

「死神が来たってことはやっぱり私死んだんだね……」

少女が沈んだトーンの声とともにうつむく。

「急にどうしたのよ?」

さっきまでとうって変って沈んだ様子の少女を見て戸惑う妹紅。

「うぅ……」

手をぶらぶらさせ、かすれた低い声で少女がうめく。

「うそだ、うそだ、うっ、ぐ、あああああぁぁぁ!!」

少女は頭を抱え、苦悶の表情を浮かべ絶叫する。

「うわ、ちょ待って!まさかここで悪霊に――」

身構える小町と妹紅。

すると少女は顔を上げて、

「なんちゃって」

思わずひっくり返る妹紅と小町。

「おちょくっとんのか!」

「うん。どうだった悪霊化っぽい演技?」

まったく悪びれず言い放つ少女に呆れ返る二人だった……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

「あの、すごくお待たせしたみたいで、その、すいません……」

いつの間にか部屋の入り口にいた男が、妹紅のツッコミを聞いて怒られたと勘違いし、謝る。

「あー違う違うなんでもないから。あ、それ自分でやるから大丈夫」

冷や汗をかきながら妹紅は救急箱をひったくった。

「そうですか……。では何かあったら呼んでください」

そういって男は部屋から出ていく。

「で、私はこれからどうなるの?」

少女が小町に尋ねる。

「裁判所に行くのさ。」

「ああ、十王の裁判。」

「おや、よくしってるね」

小町は目をパチクリさせ、少し驚いたようだった。

「マンガで読んだんだって」

「へぇー、現世にあの世のことが伝わってるんだ」

「あんたが昔漏らしたんじゃないの?」

「そうかもね。まあ別に機密ってわけでもないし」

特に否定もせず笑う小町。

こいつなら機密でも嬉々として話のタネにしそうだな、と妹紅は思った。

「まあ今は十王じゃなくて閻魔王だけになったけどね」

「あ、そうなの。でも閻魔様のところで天国行きか地獄行きか決められるんだよね」

「天国か地獄か冥界かだね。あんたはたぶん冥界じゃないかなぁ」

「冥界って?」

「あれ、そのへんは伝わってないのか」

「あなたみたいに人をおちょくるやつが行くところよ」

妹紅は憎々しげに少女に皮肉を飛ばす。

「それむしろ地獄だよね。で、実際は?」

それをさらりと受け流して少女は小町に尋ねる。

「えーと、冥界ってのは罪を犯してないやつが成仏か転生するまで過ごす所だよ」

「罪ないなら天国じゃないの?」

「天国は過密状態で今は入れないんだよ」

「地獄が土地不足ってのは読んだけど天国もなんだ」

「今は芋洗い状態のプールみたいだとかなんとか」

「じゃあ冥界でいいや」

およそ天国らしくない情景を想像し、少女は若干がっかりした様子だった。

「さーて、レクチャーも終わったしそろそろ行きますかね」

「うん、いこいこ」

軽く返事をする少女を見て、小町は意外そうな表情をした。

「親に何か言わなくていいのかい?」

「ああ、いいのいいの。ほっときゃ立ち直るでしょ」

「うへぇ」

小町がオーバーに驚いてみせる。

「普通は家族に一言とかゴネるやつが多いんだけど、最近の子はクールだねぇ」

「だって死んじゃったものはしょうがないし」

「そりゃそうだけど……」

「まあどうせ幽霊じゃ生者に話しかけられないんだけどね」

「じゃあなんで聞いたのよ……」

意味のない質問をした小町に妹紅は呆れる。

「二人とも私が居なくなったら抜け殻みたいになっちゃって。

弁当の容器も片付けないし、窓も閉め切っちゃって」

(入ったとき空気が悪かったのはそれのせいか)

と、妹紅は納得する。

「あと、お父さんいつも私をドライブに連れてってくれたんだけど、

その道を独りでドライブしに行ったりとか、私に未練ありすぎ。

挙句の果てにボーッとして事故起こすし」

「あなた、冷たいわねぇ」

「大人なんだからちゃんと立ち直ってくれないと」

きっぱりと言い切る少女に妹紅は辟易する。

「それはそうと小町。ついでに私も連れてってくれるかしら」

小町のほうに向きなおり、妹紅が頼む。

「もとよりそのつもりさ。じゃ、移動するかね」

小町が鎌の持ち手で垂直に床を突くと、あたりに紫色の光が漂い始めた。

そして、光が小町たちの周囲を包むと同時に3人の姿が消えた。




7/29 誤字修正 ×二人ともも ○二人とも


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話

「ほい到着っと」

小町、妹紅、友子の3人がだだっ広いホールに降り立つ。

「本当は三途の川とか渡らなきゃいけないんだけど、

あたい船頭だし、めんどいから特例ってことで。」

「上に怒られても知らないわよ。まぁ楽でいいけど」

「ここが裁判所かー」

ホールの壁際にはいくつものドアがあり、それぞれのドアの前には

おそらく裁判を受けるであろう人が列をなしていた。

「はーい、裁判受ける人はこっち並んでー」

「あ、あなたは1番のドアで、あなたは9番のドアに行ってください」

何人かの死神が大声で呼びかけながら、その列をさばいている。

「なんか裁判所というより学校の予防接種みたいで威厳がないね」

「効率優先したらこうなっちゃったんだよ」

頭をかきながら小町が答える。

「で、どこに並べばいいの?」

数多のドアの前に並ぶ列を指して少女が尋ねる。

「えーと、あんたは2番だね。はい、書類。

それ書きながら並んでてよ。書き方はあたいが付き添ってるから適当に聞いて」

「わかった」

少女は「裁判手続書」と書かれた紙を小町から受け取る。

「妹紅さんはこれね」

「ああ、ありがと。あっちで書いてくるわ」

書類を受け取った妹紅は奥にある記述用の長机に向かう。

「妹紅さんに渡したのって何?」

書類に筆を走らせながら、少女が小町に尋ねる。

「死亡撤回届。本来は死ぬべきじゃない人を間違えて連れてきたとき用のやつなんだけど、

あの人みたいに不死の人が一回死んで再生したときにも書いてもらってるんだ」

「お役所ってめんどくさいことさせるね」

「役所ってのは形式が大事なんだってさ」

「ふーん。はい、できたよ」

「お、早いね」

「だって書くところあんまりないし」

「住所とか現世で必要な記載欄はないからねぇ」

小町が袂からハンコを取り出して押印する。

「はい、ドア入ったらこれを担当の閻魔に出せばいいから」

書類を少女に渡しながら小町が言う。

前に裁判を受けた人がドアから出てくると、

「次の方どうぞー」

ドアの向こうから女性の声で呼びかけられる。

「おや、今の声は……」

ドアを開けて部屋に入る少女に続いて小町も中に入る。

殺風景な部屋の中に学校によくある木目の長机とパイプイスがあった。

そこに片手に板切れを持った緑髪の女性が座っており、

その横には1メートルはあろうかという大鏡が鎮座していた。

「あれ、なんで四季様が。ここ現世の死者の裁判でしょう」

「現世担当の閻魔が多忙なので助っ人に入っています。あなたといっしょですよ」

「ああ、四季様もサボってたら手を貸せと言われた口ですか」

「前言撤回。それと後で部屋に来なさい」

「うへぇ」

余計なことを言ったという表情を浮かべ肩をすくめる小町。

「これお願いします」

少女は閻魔――四季映姫に書類を手渡す。

「ああ、すみません。では富士見友子さん、早速裁判を始めます」

「はい」

少し緊張した面持ちで少女が答える。

(あの鏡に罪が映し出されるんだよね……マンガだと調整に手間取ってたけど)

四季映姫が右手にリモコンのようなものを持ち、ボタンを操作する。

「今、罪があるところまでスキップしています。これで何もなければ鏡には何も映りません」

「へー、チャプター制なんだ」

意外に現代的な鏡の性能に友子が感心していると、

「はい。とくに罪はありません。というわけであなたは冥界行きになります」

あっさりと判決が下った。

「えっ、もう終わり!?」

あまりのスピード審理に友子が驚くと、

「善人の場合はこんなものですよ。罪を犯していたら

このあと判決文を読み上げて、この悔悟の棒で叩き、それから各種地獄に落とします。

地獄にはいろいろ種類があって……」

「四季様、四季様」

板切れを両手で持って、四季映姫が説明をしだしたところで、小町が呼びかけた。

「失礼、余計な説明でしたね。もう退出なさって結構ですよ」

「あ、はい」

正直もう少し聞いていたかった友子は残念そうな顔で、部屋を出て行った。

 

友子と小町が裁判を終えて部屋を出ると、

「どうだった裁判は?」

死亡撤回届を書き終えて戻ってきた妹紅が尋ねる。

「意外に早かったかな。罪がない人はすぐ終わるんだって」

「ふーん。じゃあ私だったら長引きそうね。10万回以上は殺してるし」

「わあシリアルキラー」

友子が全く信じていない様子の棒読みで驚く。

小町には思い当たる節があるらしく、ああ、と呟いてから

「それって永遠亭の姫様のことかい?」

「そうだよ。あのゾンビ姫のことよ」

憎々しげに妹紅はブーメランな悪態をついた。

「姫?」

「妹紅さんの古い友達さ」

「いつから友達って言葉は殺したい相手という意味になったのかしら?」

思い切り顔をしかめて、不機嫌そうな声で妹紅が言う。

「へへ、冗談冗談」

小町が楽しげに笑ってから、友子に向きなおって、

「さーて、裁判も終わったことだし、冥界に行きますかね」

「冥界ってどんなとこ?」

「静かでいいとこさ。特に昼寝に」

明らかにたびたびサボりに行っている口ぶりで小町が言う。

「冥界に行ったら妹紅さんにはもう会えないの?他にも聞きたいことがあるんだけど」

「最近は冥界と顕界の境があいまいだからね。その気になりゃ会えるさ」

「私も気が向いたら会いに行ってあげるわ」

「本当?うれしいな」

友子は微笑してそう言った。

「じゃあ、案内するからついてきて。ほいじゃ、妹紅さんまたそのうち」

「ああ、友子も元気でね」

「妹紅さんもね」

幽霊に元気も何もないはずだが、友子は特に気にせず返事を返す。

友子と小町を姿が見えなくなるまで見送って、

「さーて、また輝夜を殺しにでも行こうかしら」

そう言って、妹紅は裁判所を後にするのだった。

 

翌日、輝夜のもとに出向いた妹紅は早くも永遠亭で談笑する友子と小町を見てひっくり返るのだが、それはまた別の話――

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。