お前(アンタ)と出会ったのが運の尽き (死神作者)
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プロローグ

ある日の朝。

 

とあるアパートの屋根の上で雀が鳴き、朝の到来を告げていた。

 

「ん……朝か」

 

そんな小鳥たちの鳴き声によって目を覚ました少年は、眠たそうに瞼をこすりながらゆっくりと体を起こす。

 

そして寝ぼけ眼で周囲を見回すと――

 

「えっ?」

 

そこにある光景を見て、戦慄した。

 

そこには、焼け焦げた跡と破壊された目覚まし時計の残骸があった。

 

「まさか……!」

 

嫌な予感がし、携帯で時間を確認する。

 

そこに書いてある時刻は、8:20

 

「遅刻じゃねぇか!」

 

少年は立ち上がると、ハンガーに掛けてある制服を2つ手に取り、1つをベッドで寝ている少女へと投げつける。

 

「ぶっ!ちょっと何すんのよ!?」

 

「何すんのよじゃねぇよ!時間見ろ!遅刻だ!」

 

「あーもう、うるさいわね……ってやばっ!」

 

そこでようやく少女も今の状況を把握したのか、慌てて起き上がる。

 

2人は急いで寝間着を脱ぎ捨て、制服を着る。

 

そして、寸分狂わないタイミングで部屋の扉を勢い良く開ける。

 

アパートの階段を慌てて駆け降りると、2人は高校に向かって走り出す。

 

「なんですぐに起こさなかったのよ!?」

 

「起きれなかったんだよ!お前が目覚まし時計破壊した所為でな!ふざけるなよ!今月これで何個目だと思ってやがる!」

 

「知らないわよ、そんなこと!簡単に壊れる目覚まし時計が悪い!」

 

「爆発に耐えきれる目覚まし時計があって堪るか!」

 

そんな言い争いをしながら、2人の男女が街中を走り抜ける。

 

その速度は尋常ではなく、周りの通行人を次々と追い抜いていく。

 

本来なら高校まで30分かかる距離を、2人は驚異の10分で辿り着いた。

 

時刻は8:30

 

今はホームルームの時間だ。

 

2人は上履きに履き替えると、全速力で教室を目指す。

 

「すみません!遅くなりました!」

 

「ちょっ!?急に止まるな!」

 

少年は扉を開けて、ホームルームをしている担任に謝罪をするも、後から来た少女にぶつかられ、そのまま教室内に突き飛ばされる形で中に入る。

 

「いてぇ……」

 

少年は頭を押さえて、ぶつかって来た少女を見る。

 

「行き成りぶつかって来るんじゃねぇよ!」

 

「はぁっ!?そっちが急に止まるのが悪いんじゃない!」

 

少年の言葉に対して、少女は反論する。

 

ギャアギャアと言い合ってると、そんな2人に近付く影が居た。

 

「元気があって随分とよろしいなぁ?」

 

「「げっ!?」」

 

2人はゆっくりとを顔を、声がした方へと向ける。

 

そこには、静かに怒気を放つ担任が居た。

 

「急いで来たみたいだし、特別に遅刻にはしないでやる。だがな………」

 

そう言うと、担任は親指で廊下を指差す。

 

「騒ぐとなると、話は別だ。ホームルームが終わるまでの間、廊下に立ってろ」

 

その言葉を聞いて、2人は廊下へと立たされた。

 

「お前の責任だぞ……」

 

「あんたが止まらなかったから悪いんでしょ……」

 

お互いに責任を押しつけ合いながら、廊下に立つ二人。

 

「たっく……お前と出会っちまったのが俺の運の尽きだよ………」

 

「こっちだって、アンタと出会ったのが運の尽きよ………」

 

そして、同時に深いため息をつく。

 

「あーあ……護廷十三隊が懐かしい……」

 

「“見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)”が懐かしい……」

 

そう呟き、少年こと”元”護廷十三隊“元”十三番隊副隊長の《阿由葉 伊武紀》と、少女こと“元”見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)“元”星十字騎士団(シュテルンリッター)の《バンビエッタ・バスターバイン》は、また深くため息をついた。



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第1話 仲が良くて悪い2人

「たっく……朝から酷い目にあった……」

 

授業を終え、昼休みの時間。

 

伊武紀は教科書やノートを片付けながら、溜息を吐く。

 

「それはこっちの台詞だっての……」

 

バンビエッタが、隣の席でブツブツと文句を言う。

 

「アンタの所為で、あたしまで怒られたじゃない」

 

「何が俺の所為だ!そもそもの話、お前が目覚まし時計を壊さなきゃ良かったんだよ!」

 

「あー!はいはい!聞こえない聞こえない!」

 

耳を塞ぎ、そっぽを向くバンビエッタ。

 

その態度に、伊武紀は怒りを通り越して呆れてしまう。

 

(ったく……相変わらず、可愛げのない奴だよ。まぁ、慣れたけどな)

 

「相変わらずだな」

 

そんな伊武紀とバンビエッタに、ある少年が声を掛ける。

 

オレンジ色の髪(地毛)とブラウンの瞳の少年の名は《黒崎一護》

 

伊武紀とバンビエッタの友人だ。

 

「よぉ、一護」

 

「何よ、一護」

 

一護の登場に、伊武紀とバンビエッタは不機嫌そうな顔を向ける。

 

「ホント仲良いなお前ら」

 

「冗談じゃねぇぞ?俺はこんな女願い下げだっつーの」

 

「こっちこそごめんねー。あたしだってアンタには興味ないし?」

 

バチバチと火花を散らす2人。

 

「喧嘩すんのはいいけどよ、それより飯にしようぜ?」

 

「ああ、そうだなって、今日弁当ねぇじゃん………」

 

「そうじゃない……あ~、お腹空いた」

 

「てか、今日の弁当はお前の担当だろ!それなのに、目覚まし時計ぶっ壊して優雅に二度寝か!?」

 

「うわっ、キレるとか最悪。マジウザッ……」

 

「正当な怒りだろうが!」

 

ギャアギャアと言い合う2人を見て、一護は苦笑する。

 

「仕方ねぇし、飯奢ってやるよ……啓吾が」

 

「えっ!?俺なの!?」

 

一護の背後で、昼食の準備をしている浅野啓吾が驚く。

 

「悪いな、啓吾。ご馳走になる。卵サンドと焼きそばパン、後コーヒー牛乳な」

 

「あたしカツサンドとメロンパン、それにいちご牛乳」

 

「奢るのは決定なの!?」

 

啓吾は泣きながら購買まで走って行き、伊武紀とバンビエッタの要望の品を買ってきた。

 

無事昼食が届き、伊武紀とバンビエッタは一護と啓吾、そして、もう1人の友人“小島水色”と昼食を摂る。

 

「ところで、伊武紀くん」

 

ふと、水色が伊武紀に声をかける。

 

「なんだ、水色?」

 

「今更なんだけど、伊武紀君とバンビさんって、どうして一緒に暮らしてるの?」

 

水色の言葉に、伊武紀とバンビエッタの動きが止まる。

 

「なんでまたそんなことを?」

 

「いや、ちょっと気になってね」

 

「そう言えばそうだな。なんでなんだ?」

 

水色と一護の2人から尋ねられ、伊武紀は口の中のパンを飲み込む。

 

「別に大したことじゃないけどな……」

 

伊武紀はバンビエッタの方を見る。

 

バンビエッタは黙って、カツサンドを食べている。

 

伊武紀はそのまま話を続けた。

 

「バンビの両親が海外に赴任することになったんだよ。それで、両親と一緒に行くかどうか聞かれたらしいんだが、バンビの奴『面倒だから行かない』とか言って断ったらしくてさ」

 

「へぇ、バンビさんらしいと言えばバンビさんらしいね」

 

「それどういう意味よ?」

 

水色の言葉に、バンビエッタはムッとする。

 

「そう言う意味だろ?で、バンビの両親が1人で暮らさせるのは不安があるからって事で、従兄弟の俺と一緒に暮らすことになったんだよ」

 

「へぇ~、そうだったのか」

 

勿論嘘だ。

 

そもそも、死神である伊武紀と、滅却師(クインシー)のバンビエッタに血縁関係などない。

 

だが、そんなことは一護達には分からないし、一護達も納得したので、伊武紀とバンビエッタは良しとした。

 

「まぁ、そんな感じ」

 

「でも、いいよなぁ~」

 

すると、パンを食べていた啓吾がそう言う。

 

「経緯はどうあれ、可愛い子と同棲なんて羨ましい!」

 

「はっ!見た目はともかく、性格の所為で帳消しの様な女だぞ?性格がありとあらゆる+要素を打ち消して0にしてるコイツのどこがいいんだよ?」

 

「そりゃあ、胸が大きいところだろ!」

 

「死ねばいいのに……」

 

「その一点に関しては激しく同意だ」

 

バンビエッタの呟きに、伊武紀も同意した。

 

「なにおう!男ならみんな大きいの好きだろ!」

 

「お前は本当に最低だよな……」

 

「うん……僕も同意見だね」

 

一護、水色の2人が啓吾に軽蔑の眼を向け、啓吾は落ち込んでしまった。

 

「……少しくらい夢見させてくれたっていいじゃねぇかよ……」

 

「夢見る暇あったら現実見ろ、現実」

 

「そんなに夢見たかったら、家に帰ってベットの中でどうぞ」

 

冷たく言う伊武紀とバンビエッタに、啓吾はメソメソと泣き出す。

 

「ひでぇよぉ~……」

 

「おい、泣くな鬱陶しい」

 

「急に泣き出すとかウザッ」

 

「うぅ~……」

 

啓吾の泣き声を無視し、伊武紀とバンビエッタはコーヒー牛乳といちご牛乳を飲み干す。

 

「2人っていっつも口喧嘩してるけど、本当に仲いいよね」

 

「仲良い過ぎて口撃力がエグイけどな……」

 

「はぁ?冗談じゃねぇぞ?こんな女と仲良い訳ないだろ?」

 

「それはこっちの台詞だっての」

 

「ほれみろ。息ピッタリじゃねぇか」

 

「「全然違う!!」」

 

一護の指摘に、伊武紀とバンビエッタは同時に否定した。



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第2話 仲が良くて悪い2人の共同生活

授業を終え、伊武紀とバンビエッタは一緒に帰宅していた。

 

「目覚まし時計買って、今日の晩飯の材料買ったら、今月使える金が残り3万ぐらいしかない………」

 

「あと半月、どうすんのよ?」

 

「そもそもの話、お前が目覚まし時計壊さなければいい話だろ」

 

「なに言ってるの? あれは事故よ、事故でしょ?」

 

「ああ、事故だな。バンビエッタと言う名の事故だな」

 

「何、人の名前を事故の名称にしてんのよ?」

 

「お前の名前、事故みたいなもんだからなぁ」

 

「言ってくれるわね……滅してあげようか?」

 

「やってみろよ。返り討ちにしてやる」

 

火花を散らし合いながら、帰路に着いてると見知った背中を見つける。

 

「あれ?一護じゃね?」

 

「本当ね」

 

何故か不良数人に囲まれている一護を見つけ、伊武紀とバンビエッタは近付く。

 

「一護、何してんだ?」

 

「喧嘩?」

 

「おお、伊武紀とバンビ。いや、こいつらがアレ倒したから説教してた」

 

そう言って、一護が指さす先には倒れた瓶と散らばった花があった。

 

「なるほどな。大方、そこの不良共が蹴っ倒したかしたのか」

 

「で、それを注意したら逆ギレされて、こんな状況になったわけね」

 

「そういうことだ」

 

「アレの何処が注意だよ!?」

 

すると、不良の1人が叫んだ。

 

「行き成り出て来て、ヤマちゃん蹴り倒して、挙句俺らにここ退けって注意になってねぇよ!」

てねぇよ!」

 

「一護、そんなことしたのか?」

 

「斬新な注意ね」

 

「それは悪いと思ってるが、俺はただあいつらを蹴り飛ばしただけだぞ?」

 

「それが注意じゃねぇって言ってんだよ!」

 

不良は堪忍袋の緒が切れたのか、一護に襲い掛かろうとする。

 

が、一護はカウンターで蹴りを不良の顔に叩き込む。

 

「ごふぅ!?」

 

「ああっ!トシりーん!」

 

「トシりんがやられた!」

 

不良たちが騒ぎ始め、とうとう不良全員が襲い掛かって来た。

 

「あれ?これ、俺達も巻き込まれるんじゃね?」

 

「本当ね。完全に、あたしらも標的じゃない」

 

一護と親し気に話す、伊武紀とバンビエッタも標的にされ始める。

 

だが、2人は特に焦ること無く構えた。

 

「ちょうどいい。巻き込まれた代償として、一週間コーヒー牛乳奢れよ、一護」

 

「いちご牛乳もね」

 

2人の要求を聞きながらも、一護は不良たちを相手にしていた。

 

「分かった、分かった」

 

そう言いながら、一護は不良たちの相手をしていく。

 

伊武紀とバンビエッタはお互いに顔を見合わせ笑みを浮かべると、それぞれ拳と脚を振り上げた。

を振り上げた。

 

その後、3人で不良たちを全員ボコボコにしたのだった。

 

全員を倒し終えると、一護は1人の不良に近付く。

 

「いいか、お前ら。ここはな、子供が交通事故で亡くなった場所だ。あの花は、その子供への供え物。それをお前たちが倒した」

 

そう言い、一護は倒れている不良たちに獰猛な笑みを向ける。

 

「そんなことしたら、どうなると思う?」

 

「ど、どうなるんです……?」

 

「決まってるだろ…………祟られたりするんだよ!」

 

 

そう言い、後ろを指差す。

 

その指の先には、血塗れの女の子の幽霊が居た。

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

「もう二度しませんからあああああ!」

 

「ごめんなさあああああああい!!」

 

不良たちは、少女の幽霊を見るや否や慌てて逃げ去って行く。

 

「よし、これで大丈夫だろう」

 

「大丈夫そうか?」

 

「ああ。あんだけ脅しとけば、もう来ないだろう」

 

一護はそう言うと、少女の幽霊を見る。

 

「悪かったな、こんな風に使って」

 

『ううん、あの人たち追っ払ってって言ったの私だもん。ありがとう、お兄ちゃん』

 

「おう。近いうちに新しい花持ってきてやるよ。それじゃあな、早めに成仏しろよ」

 

少女にそう言うと、今度は伊武紀とバンビエッタの方を見る。

 

「2人もありがとうな。助かったぜ」

 

「気にすんな。巻き込まれそうになったから対処しただけだ」

 

「ちゃんと明日からのいちご牛乳忘れないでよね」

 

「分かってるって。じゃあ、また明日な」

 

2人に別れを告げ、一護はその場を去った。

 

「俺らも帰るか」

 

「そうね。だけど、最悪。あの不良蹴った時、唇が脚に当たった………」

 

「帰ったら直ぐ風呂入ればいいだろ」

 

「当たり前よ!あいつらの唾液が付いたままなんて耐えられないわ」

 

そうして、伊武紀とバンビエッタも帰路に着いた。

 

帰るや否や、バンビエッタはすぐに風呂場に向かう。

 

それを横目に、伊武紀は服を着替え、晩飯の準備を始める。

 

家では、伊武紀とバンビエッタは交代制で、家事を行っている。

 

「てか、今日の朝、弁当準備しなかったくせに、晩飯は俺に作らせるのかよ」

 

そう愚痴りながら、伊武紀は調理を続ける。

 

「ねぇ、伊武紀?」

 

調理をしていると、風呂場兼洗面所の扉が開き、バンビエッタが顔を出す。

 

「なんだ?」

 

「シャンプー切れてるんだけど、買い置きってあった?」

 

「補充用の洗面台の下に無かったか?」

 

「なかったわよ。だから聞いてるんでしょ」

 

「マジかよ……ちょっと待ってろ」

 

伊武紀は一旦料理の手を止め、棚に置いてある、詰め替え用のシャンプーを手に取り、脱衣所に向かう。

 

「ほらよ」

 

「あと、ついでにタオルも取ってくれない?」

 

「はいよ」

 

言われた通り、伊武紀はバスタオルを取り出し、バンビエッタに手渡す。

 

「ありがと」

 

「おう」

 

バンビエッタはお礼を言うと、そのまま風呂場に入り、伊武紀は料理の続きを再開する。

 

15分程料理を続けてると、風呂場のドアが開き、バスタオルを身体に巻いただけのバンビエッタが出て来る。

 

「おい、バンビ。服ぐらい着てから出て来い」

 

「別にいいじゃない。風呂出たばっかで暑いのよ」

 

そう言い、髪を乾かし始める。

 

伊武紀はため息をつくと、出来上がった料理を盛り付け始める。

 

「飯出来たから、髪乾かし終えたら服着替えて、運ぶの手伝え」

 

「はいはーい」

 

バンビエッタは返事をしながら、ドライヤーのスイッチを切る。

 

その後、2人は晩御飯を食べ始めた。

 

「たっく、目覚まし時計壊すわ、それで弁当作らないわ……少しは決めたルールを守ってくれないか?」

 

「うるさいわね……これでも努力してるっての」

 

「まぁ、それは知ってるが……」

 

「なら、文句言うんじゃないわよ」

 

「努力してるのは認めるが、それは別の話だ」

 

「相変わらず、小姑みたいね」

 

「お前がしっかりしてくれれば、俺は小言言わなくて済むんだが?」

 

「はいはいわかったわかった」

 

「お前なぁ……」

 

「分かったって言ってるでしょ?」

 

「そのセリフ、同居してから何度聞いたと思ってる……」

 

「アンタがしつこいのが悪いのよ」

 

「お前が適当過ぎるのが問題なんだよ」

 

「はいはい、分かりました」

 

「全く……」

 

伊武紀は呆れた様にため息を吐き、ご飯を口に運んだ。

 

「………その割には、出て行けとか言わないわよね」

 

すると、バンビエッタはボソッとそう言った。

 

「なんだよ?出て行けって言ったら素直に出て行くのか?」

 

「さあね?」

 

「なんだよ、その答え」

 

伊武紀は息を吐くと、箸を置いてバンビエッタを見る。

 

「そりゃ、色々適当なお前と居てイラっとすることもあるけどよ。それでも、お前と一緒に暮らすって提案したのは俺だ。そして、お前はそれを受け入れた。なら、俺は自分の発言に責任を持つだけだ。それに、ここでお前を追い出したら後味悪そうだしな」

 

そう言い切ると、伊武紀は再び食事を始めた。

 

そんな伊武紀を見て、バンビエッタはクスリと笑う。

 

「何だよ?」

 

「なんでも」

 

「……そうか」

 

「そうよ。あ、伊武紀」

 

「なんだよ?」

 

「おかわり」

 

「自分でやれ」

 

伊武紀はそう言いながらも、バンビエッタにお代わりを渡す。

 

そのまま食事を続け、食事を終えると、2人は洗い物を始める。

 

伊武紀が洗い、バンビエッタが拭く。

 

それを繰り返していく。

 

「ほら、最後の一枚」

 

「ん」

 

最後の一枚を渡そうとしたその時だった。

 

突如、伊武紀は強力な霊圧反応を感じ取った。

 

それはバンビエッタも同じだった。

 

「今の!」

 

「ああ、(ホロウ)だ!」

 

「場所は?」

 

「ここから近い」

 

そう言い、伊武紀は《義魂丸》と呼ばれる丸薬を取り出し、それを口に入れる。

 

そして、伊武紀の身体から黒い着物を着て、腰に刀を差した《死神》の伊武紀が現れる。

 

「少し様子見て来る。バンビはここに居てくれ!」

 

それだけを言い残し、伊武紀は窓から飛び出した。

 

(久々に死神の姿になったな……取り敢えず、ここの地域の担当死神に見つからない様に様子だけ確認して、問題なさそうなら引き上げるか)

 

伊武紀はそう考えながら、(ホロウ)の霊圧を感じ取った場所に向かった。




バンビエッタの性格が優しいと思ったそこの貴方。

これは、一護と関わったことで、バンビエッタの性格がチョコラテしたからです。


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第3話 死神になった親友と力を失った元部下

(ホロウ)の霊圧反応は……あっちか!」

 

伊武紀は瞬歩を使い、一瞬で(ホロウ)の霊圧反応の場所へと移動した。

 

そこは一護と共に不良共を蹴散らした道路だった。

 

そして、伊武紀はあの少女の幽霊が(ホロウ)に襲われているのを目撃する。

 

「危ないっ!!」

 

伊武紀は咄嵯に斬魄刀を抜刀し、少女の前に躍り出た。

 

(ホロウ)の攻撃を受け止め、弾き、一閃。

 

(ホロウ)の腕に真一文字の傷をつける。

 

「大丈夫か!?」

 

『さ、さっきのお兄ちゃん………』

 

少女は現れた伊武紀を見て、驚いた様子を見せた。

 

その隙を突いて、(ホロウ)が攻撃してこようとするが、伊武紀はそれを許さず、再び斬りつける。

 

「女の子相手に襲い掛かるなんて、良い度胸してるな」

 

伊武紀は不敵に笑い、斬魄刀の切っ先を、(ホロウ)に向ける。

 

「悪いが、他の死神が来る前に倒させてもらうぞ」

 

そう言い、伊武紀は始解を使おうと、解号を唱えようとする。

 

『……近い』

 

「ん?」

 

『濃い魂の匂い……近い……』

 

(ホロウ)はそう言うと、何処かへと去って行く。

 

「なっ!?待て!」

 

伊武紀は(ホロウ)を追おうとするも、突然、自身の死覇装を何者かに引っ張られる。

 

見ると、少女の幽霊が不安げに、そして、泣きそうな顔で伊武紀の死覇装を掴んでいた。

 

「えっと……」

 

伊武紀は困ったように頭を掻き、少女に目線を合わせる。

 

「大丈夫。もう安心しろ」

 

『で、でも………』

 

「そんな顔するなって。お兄さんは、君を助けに来たんだ」

 

そう言い、伊武紀は斬魄刀の柄尻を少女の額に押し当てる。

 

すると、少女の額には『死生』の判が押される。

 

「これから君が向かうのは、尸魂界(ソウル・ソサエティ)って所だ。少なくとも、こっちよりは過ごしやすいはずだ。安心して、行くと良い」

 

伊武紀の言葉を聞きながら、少女は次第に透けていき、やがて消えた。

 

それを確認すると、伊武紀は大きく息を吐き、立ち上がる。

 

「時間食っちまった!急いで、(ホロウ)を追わないと!」

 

伊武紀は再び走り出し、(ホロウ)の後を追った。

 

(ホロウ)の後を追い、街中を移動してると、あることに気づく。

 

「この辺……確か、一護の家が近かったはず………嫌な予感がする………!」

 

伊武紀は予感が外れることを祈りながら、更に後を追う。

 

だが、伊武紀の予感は的中し、一護の実家《クロサキ医院》の壁には大きな穴が居ていた。

 

そして、先程の(ホロウ)と一護、一護の前で血塗れ手座り込み、伊武紀と同じ黒い死覇装を来た女性の死神がいた。

 

その死神を伊武紀は知っている。

 

名前は“朽木ルキア”

 

護廷十三隊十三番隊所属の死神で、伊武紀の元部下だ。

 

その光景から、伊武紀はルキアが何をしようとしてるのか察した。

 

「待て!」

 

慌ててそれを止めようとする。

 

だが、伊武紀の叫びも空しく、ルキアの持つ斬魄刀が一護の胸へと刺さる。

 

次の瞬間、一護から光が溢れ、光が収まると、そこには死覇装を纏い、身の丈程ある巨大な斬魄刀を持った一護が居た。

 

(今のは死神の能力の譲渡………恐らく、(ホロウ)との戦闘で朽木が負傷して、一護が代わりに死神の力を借りて倒すって事だろうけど………くそっ!俺がもう少し早く来てれば!)

 

自身の不甲斐なさに、伊武紀は思わず拳を握り締める。

 

その間にも、一護の攻撃は凄まじかった。

 

巨大な斬魄刀を振り回し、手足を両断、そして、止めの一撃を顔面に叩き込んだ。

 

しかし、それでも(ホロウ)はまだ動く。

 

「なっ!?まだ動くのか!?」

 

「踏み込みが浅かったか!いかん、逃げろ!」

 

ルキアは一護にそう叫ぶ。

 

大振りの一撃を撃った後の為、一護は回避が間に合わなかった。

 

(ホロウ)の一撃が一護を襲う。

 

その瞬間、伊武紀が動いた。

 

瞬歩で(ホロウ)に接近し、それと同時に斬魄刀を抜刀する。

 

伊武紀が(ホロウ)の前に現れた瞬間、(ホロウ)の顔は斬られ、昇華した。

 

「大丈夫か、一護。それに、朽木」

 

斬魄刀を鞘に収め、伊武紀は尋ねる。

 

伊武紀の登場に、一護とルキアは驚き、瞬きする。

 

そして…………

 

「「はああああああああああああああ!!?」」

 

叫んだ。

 

「伊武紀!お前、その恰好……!まさか、お前も死神なのか!?」

 

「あ、阿由葉副隊長!?なぜここに!?と言うより、今まで何処へ!?」

 

「一気にしゃべるな!うるさい!2人とも色々聞きたいことはあるだろうけど、後でまとめて話すから」

 

そう言い、伊武紀は2人を見る。

 

死神の力を譲渡され、死神になった親友“黒崎一護”、そして、元部下で力を失った死神“朽木ルキア”

 

「はぁ~………これからどうなるんだ………」

 

伊武紀は溜息を吐き、思わず夜空を見上げた。



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第4話 かつての部下との語らい

「で、どういう事?」

 

(ホロウ)を倒し、一護の家族に今夜の記憶を消し、代替記憶を与え、一護には後日説明をすると告げ、伊武紀はその場をルキアと共に後にした。

 

そして、アパートに戻り、バンビエッタに事の詳細を説明をした。

 

「どうもこうも、言った通りだよ。一護と一護の家族が(ホロウ)に襲われて、一護がコイツ、朽木の力を受け取って倒した」

 

バンビエッタの視線がルキアに注がれている。

 

「……死神になるとか、一護も数奇な出会いをするわね」

 

「その……阿由葉副隊長……この者は?」

 

ルキアは、バンビエッタを見て、伊武紀に尋ねる。

 

「ああ、こいつはバンビエッタ。訳合って、今一緒に暮らしてる」

 

「そうですか……」

 

ルキアは、何故一緒に暮らしてるのか聞かず、ただ納得した。

 

「で、バンビ。こいつは朽木ルキア。俺が護廷に居た頃の、部下だ。もっとも部下だったのは数年程度だけどな」

 

今度は、バンビエッタにルキアを紹介する。

 

「護廷十三隊十三番隊所属、朽木ルキアです」

 

「ふ~ん、あっそ」

 

バンビエッタは、ルキアに興味無さげに、そう言う。

 

「で………朽木、お前、これからどうするんだ?」

 

伊武紀は改めて、ルキアに問う。

 

「どうっと言われましても………」

 

「お前も知ってるはずだ。人間へ無断での死神の力の譲渡は、重罪。流石に死罪とまでは行かないが、百数年は投獄される可能性がある」

 

「そうですね……」

 

ルキアもそれは知っていた。

 

だが、あの時はそうするしかなかったのも事実。

 

伊武紀が近くに居たとは言え、それそ知らなかったルキアは、あの場を切り抜ける為にも、一護に死神の力を譲渡する必要があった。

 

「四十六室は、自身の保身しか頭に無い老人共しかいない。どんな事情があるにせよ、お前には重い刑罰が科せられるはずだ」

 

「でしょうね………しかし、四十六室相手にそのような言い方は…………」

 

「良いんだよ。俺はもう、護廷を抜けた身なんだからな」

 

「あ、そうです!」

 

伊武紀の言葉に、ルキアは何かを思い出したかのように声を上げる。

 

「どうした? なんか思い出したのか?」

 

「どうしたじゃありません!阿由葉副隊長!何故、何も言わず居なくなってしまったのですか!」

 

ルキアの言葉に、伊武紀は僅かに目を細める。

 

「5年前、突如何も言わず十三番隊から消え、浮竹隊長もひどく心配していたのです!一体、何があったのです?」

 

ルキアの言葉を聞きながら、伊武紀は何も答えない。

 

そんな伊武紀を見て、バンビエッタは小さく溜息をつく。

 

「朽木って言ったっけ?コイツはもう十三番隊の副隊長じゃない。ただの死神よ」

 

「だ、だが……!」

 

「これ以上詮索するって言うなら、それ相応の覚悟をしなさいよね?」

 

バンビエッタはギロリとルキアを見る。

 

その瞳を見ただけで、ルキアは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

「落ち着け、バンビ」

 

だが、伊武紀がバンビエッタを宥めるように言葉をかける。

 

「朽木、正直な所、浮竹隊長には申し訳ない事をしたと思ってる。志波副隊長亡き後、新たに副隊長の座に就いたってのに、副隊長の責務を果たせず、浮竹隊長の気持ちを裏切る様な事をしちまった。浮竹隊長だけじゃない、朽木や小椿に虎徹、多くの十三番隊隊士の気持ちもだ。お前らには本当に悪いと思っている。すまなかった」

 

伊武紀は頭を下げ、謝罪した。。

 

「阿由葉副隊長……」

 

「俺だって好きで護廷を去った訳じゃないんだ。でも、去らざるを得ない事情があったんだ」

 

「……その理由を聞いても良いですか?」

 

「………悪いが、今は言えない」

 

ルキアの問いに、伊武紀は首を横に振る。

 

「そうですか……。では、仕方がないですね」

 

ルキアは残念そうな表情を浮かべるが、それ以上追求する事は無かった。

 

「すまない。それと、俺の事は他言無用で頼む。勿論、浮竹隊長にも、他の隊士、ましてや総隊長にだって言うな」

 

「総隊長にもですか?」

 

「ああ、そうだ。理由は言えないがいずれは話そう」

 

「分かりました。約束します」

 

ルキアの言葉に伊武紀は静かに笑うと、「ありがとうな」と言う。

 

「それで、朽木はこれからどうするんだ?死神の力を失った以上、尸魂界(ソウル・ソサエティ)には帰れないだろ?」

 

「それについては色々考えがありますので、ご心配には及びません」

 

ルキアはそう言うと、夜も遅いからと伊武紀とバンビエッタの家を後にした。

 

伊武紀は、遅いから泊って行けばと誘ったが、ルキアはそれを断り、去って行った。

 

ルキアを見送った二人は、家の中へと入ると、バンビエッタが口を開く。

 

「あの子、大丈夫なの?」

 

「さぁな。ま、朽木なら大丈夫だろう。ああ見えて、意外とタフだからな」

 

「そっちじゃないわよ」

 

そう言うと、バンビエッタは伊武紀に指を突き付ける。

 

「あの女が、チクったりしたらどうするつもりよ?」

 

「そんなことか。それなら大丈夫だ。朽木は、易々と約束を破る奴でもなければ、人を売る様な奴でもない」

 

「……随分と信頼してるのね」

 

「まぁな………アイツとの付き合いは、僅か数年程度でしかないけど、それでも信頼出来る奴だと俺は思ってるよ」

 

伊武紀はどこか懐かしむような目をしながら、笑みを見せる。

 

その笑顔は、かつて共に戦った仲間に向けられた物だった。

 

その伊武紀の笑顔に、バンビエッタは少しだけモヤっとした。

 

(いい笑顔しちゃって……そんな笑顔、一度も見せたことないのに……なんかムカつく)

 

モヤッとしたと思った瞬間に、イラっとし、バンビエッタは思わず伊武紀の尻に蹴りを入れる。

 

「いってぇ!何するんだよ!?」

 

「別にぃ~。ただ、なんとなく蹴っただけだから」

 

「なんだよ、その理不尽な理由……!」

 

「なんか疲れたし、もう寝るから」

 

そう言うと、バンビエッタはベッドに入り、布団を被る。

 

「変な奴だな………」

 

唐突な理不尽な暴力に、ぶつくさと文句を言いながらも伊武紀はそれ以上何も言わず、自身も布団を轢き、部屋の電気を消す。

 

「明日は目覚まし時計壊すなよ……おやすみ」

 

「うっさい。アンタこそ、あたしより先に起きなさいよね……おやすみ」

 

互いに挨拶を交わした後、部屋の中には静寂が訪れた。




オリ主の伊武紀は、海淵殿の後任の副隊長設定です。

海淵殿が亡くなったのがいつなのか、調べてもよく分からなかったので、一心が十番隊隊長をしている頃にはもう亡くなってると考え、オリ主が副隊長をしていた時期は比較的短い設定です


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第5話 死神代行となった親友

翌朝、なんとか目覚まし時計の破壊を回避し、時間通りに起きた伊武紀は寝てるバンビエッタを起こさない様に、服を着替える。

 

制服に着替え終えると、台所に向かい弁当を作り始める。

 

昨日のうちに下準備をしておいたので、弁当箱に詰めていくだけだ。

 

「よし……」

 

弁当作りを終えた伊武紀は、バンビエッタを起こしに行く。

 

「おい、起きろ」

 

伊武紀が声をかけると、バンビエッタは布団の中でごそつく。

 

「聞こえなかったのか?さっさと起きろ」

 

「ん~……後5分………」

 

「そう言って起きた奴を俺は知らないんだよ。いいから起きろ」

 

ベッドから引きずり下ろし、洗面所に放り込む。

 

その間に朝食の準備をする。

 

準備を進めていると、ようやく制服に着替えたバンビエッタが出てきた。

 

「ふぁ~……おはよ……」

 

「おはよう。さっさと席に座れ。朝飯だ」

 

伊武紀の言葉に従い、椅子に座りテーブルに着くバンビエッタ。

 

「いただきます」

 

手を合わせ、食事を開始する二人。

 

食べながら、伊武紀は口を開く。

 

「今日の放課後、一護に色々説明するつもりだ」

 

「ふ~ん、あっそ」

 

「他人事だな。お前にも関係ない話じゃないぞ」

 

「はっ?なんでよ?アンタが死神だとかの説明するのに、アタシは関係ないじゃない」

 

「いや、お前にも関係あるだろ。同居してる以上、お前が俺を死神だって知らないってのは無理がある。なら、いっそのこと最初から全部話しちまった方がいいだろ」

 

「………はぁ、面倒ね……」

 

バンビエッタは溜息を吐き、憂鬱そうに味噌汁を啜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよ─う!伊武紀にバンビ!」

 

教室に着くと、啓吾がハイテンションで挨拶をしてくる。

 

「朝っぱらからテンション高い挨拶してくんな」

 

「朝からアンタの相手したくないのよ。ウザいから黙ってて」

 

「辛辣!?」

 

二人の反応にショックを覚える啓吾だが、すぐに立ち直る。

 

「まあいいか!それより聞いたか!?今日、転校生が来るってよ!」

 

「「転校生?」」

 

首を傾げる伊武紀達を見て、水色が補足説明をする

 

「なんでも、職員室でそう言う話を通りすがりに聞いたそうでさ」

 

「なんでも女子らしいぜ!いや~、楽しみだよな!どんな子が来るのかな~♪」

 

暢気にそう言う啓吾に、伊武紀とバンビエッタは嫌な予感がした。

 

「ねぇ、伊武紀、アタシ、なんか凄く嫌な予感がするんだけど……」

 

「奇遇だな……俺もだ………」

 

そんな2人の不安をよそに、チャイムが鳴ると同時に担任の教師“越智”が入ってきた。

 

「はいはい、静かにしろー。ホームルーム始めるぞ」

 

越智先生の言葉を聞いて、生徒達は自分の席に戻る。

 

全員が着席すると、越智先生は教壇に立つ。

 

「えーと、黒崎は欠席か。まぁ、アイツなら大丈夫でしょ。間違っても問題は起きないだろうし」

 

そう言って、越智先生は雑に出欠確認を終わらせる。

 

「じゃあ、転校生の紹介するぞ」

 

そして、転校生が教室に入って来る。

 

その人物を見て、伊武紀とバンビエッタは絶句した。

 

「朽木ルキアと申します。家庭の都合で、この様な中途半端な時期転校してきました。皆様、どうかよろしくお願いいたします」

 

転校生はルキアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームルームが終わり、授業が始まる僅かの時間。

 

ルキアの周りには、大勢の生徒が詰めて来た。

 

その様子を見ながら、伊武紀とバンビエッタは小声で話す。

 

「……どうなってんだ……?なんで、朽木がここにいる……?」

 

「……知らないわよ……ていうか、なんであの女は学校に来れるのよ……」

 

「それはこっちの台詞だ……」

 

伊武紀達の疑問を余所に、クラスメートに囲まれていたルキアは、伊武紀の姿を見つける。

 

「阿由葉くんと、バスターバインさんですね?越智先生から、何か困ったことがあれば貴方達に聞くようにと言われましたの。どうか、よろしく」

 

そう言って、ルキアは手を差し出す。

 

その掌には、文字が書かれていた。

 

『騒いだら殺す』

 

その文面に、伊武紀とバンビエッタは戦慄する。

 

((マジだ……))

 

2人は、ルキアが本気で言っていることを察し、何も言わずに席に戻った。

 

それから時間が経ち、3限が始まる直前に一護がやって来た。

 

「一護、遅かったな」

 

「何かあったの?」

 

「ああ、家にトラックが突っ込んだ」

 

「は?一護、お前何言って……」

 

伊武紀は一護が変なことを言うので何かと思うも、すぐに理解した。

 

今はバンビエッタが近くに居る。

 

少なくとも、今の一護はバンビエッタが死神の話を知らないと思っているので、家族に与えられた代替記憶通りにトラックが突っ込んだと説明した。

 

「それより、3限目ってなんだ?」

 

「現国だぞ」

 

「なら、越智サンか。なら、ごちゃごちゃ聞いて来ねぇな」

 

自分の席に着き、一息入れようとする一護。

 

「貴方が黒崎くん?」

 

そんな一護に、隣の席のルキアが声を掛ける。

 

「なっ!?おまっ!なんっ!」

 

一護は驚き、叫びそうになる。

 

「初めまして。私、朽木ルキアと言います。それと、初対面で申し訳ないんですけど、私、まだ教科書とかないの。貴さ……貴方のを見せてもらってもいいかしら?」

 

そう言いルキアは、伊武紀とバンビエッタにしたように掌を見せる。

 

そして、一護もまた戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりだよ!」

 

授業が終わるなり、一護はルキアを連れて校舎裏に移動する

 

「まぁ怖いー私何かされるのかしらー」

 

「うるせぇ!ていうかまずはその気色悪い喋り方を何とかしろ!」

 

「失礼だな。一晩で習得したにしては上出来だろう?」

 

「とにかく!どういうつもりか説明しろ!」

 

「説明?」

 

「そうだ!お前の仕事はもう済んだんだろ!なら、尸魂界(ソウル・ソサエティ)ってとこに帰ればいいだろ!なんでここにいるんだ!」

 

「朽木は帰らないんじゃない。帰れないんだ」

 

一護の疑問に答える様に、伊武紀がバンビエッタと共に現れる。

 

「伊武紀……それに、バンビまで!?伊武紀、なんでバンビまで一緒なんだよ!」

 

「その事も含めて、全部説明する」

 

伊武紀は一呼吸の間を置いて、話をする。

 

「まず、俺の説明からだな。護廷十三隊十三番隊副隊長、それが俺の5年前までの肩書だ」

 

「5年前って……つまり、今は違うのか?」

 

「ああ。ちょっと複雑な事情があってな。簡単には説明できない。取り合えず、現在の俺は尸魂界(ソウル・ソサエティ)を追放された哀れな死神って覚えておけ」

 

「お、おう………なぁ、バンビの前で説明するって事は。もしかしてバンビも……」

 

「いや、バンビは死神じゃない。だが、俺の正体については知ってるし、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の事も多少は知ってる」

 

「そ、そうなのか……なら、一体………」

 

一護はバンビを見る。

 

「アタシの正体が気になるんでしょうけど、今は話す気ないから。ま、気が向いたら教えてあげるわ」

 

「そ、そうか……」

 

バンビにそう言われ、一護はそれ以上追求できなかった。

 

「それで、朽木の話に戻るが」

 

「そうだ!帰れないってどういう事だよ!」

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)に帰れるのは死神だけだ。今の私は、死神の力を全て失ってる」

 

「はぁ!?」

 

ルキアから語られた言葉に、一護は驚く。

 

「昨日、朽木から死神の力を受け取って(ホロウ)を倒しただろ?あの時、半分だけ渡されるはずだった力は、殆どお前に吸い取られたんだよ」

 

「な、なにぃ!?」

 

「今のお前は、私から殆ど吸い取った死神の力によって、魂が死神化している。お陰で、今の私には鬼道を使う程度の力しか残されていない。今もこうして、義骸に頼らねばならない程だ」

 

「ギガイ?」

 

「力が弱まった死神が緊急時に入る仮初の身体の事だ。弱くなった死神は、これに入って力を回復させるんだよ」

 

伊武紀からの説明を聞き、一護は納得する。

 

「なるほどな………それで、弱り切った死神サマが俺に何の用だ?」

 

「決まっている!貴様には、これから私の力が戻るまで、死神の仕事を手伝って貰う!」

 

「…………はぁ!?」

 

「当然だろ?今、死神の力を持っているのは貴様なんだ。勿論、私も補助はする。言っておくが断る権利は貴様には「断る!」………なんだと?」

 

一護が即決で断ると言ったため、ルキアは驚く。

 

「昨日の事は感謝してる。死神の力が無ければ、家族を守れなかったからな。だが、ソレとコレは別だ!昨日は、自分の家族が襲われたから、あんなのと戦えた。だけどな、見ず知らずの他人の為にあんな化け物なんかと戦えねぇ!俺はそこまでやれる程、できた人間じゃねぇんだ!期待を裏切るようで悪いけどな」

 

そう言い残し、一護はその場を去ろうとする。

 

「………ならば、仕方がない」

 

するとルキアは、捂魂手甲と言う、肉体から魂を抜く指ぬきグローブを取り出し、一護の身体に触れる。

 

一護の魂は、一護の肉体から抜け出し、死神の一護が現れる。

 

「うをっ!?何だこりゃ!?魂が抜かれてる!?」

 

「おい、ついて来い」

 

驚く一護を他所に、ルキアはそう言う。

 

「はあ!?なんでだよ!?」

 

行き成りの事に、一護は反抗的になるが、それを伊武紀が宥める。

 

「まぁ、取り敢えず行って来いって」

 

「伊武紀……でもなぁ」

 

「良いから行け。その上で、どうするかお前が決めろ。仮に、お前が死神の仕事を代行しないとしても、俺が代わりにするだけだ。だから、気楽に考えとけ」

 

そう言って伊武紀が背中を押し出すと、一護は渋々ながらも付いて行くことにした。

 

「で、これどうすんのよ?」

 

バンビエッタは、地面に転がる魂抜きの一護の身体を足で突っつく。

 

「取り敢えず、俺達で確保しとくか。こんな所に置いといたら、事件騒ぎになる」

 

一先ず、一護の身体を回収し、一目の付かない所で一護の帰りを待つ。

 

一時間程度で一護たちは帰って来て、一護の顔を見て伊武紀はふっと笑う。

 

「決まったみたいだな」

 

「ああ。死神の覚悟だとか使命だとか、そんなの分かんねぇ。でも、受けた恩を返さない程、俺はクズじゃねぇからな。あいつの力が戻るまで、死神代行として手を貸してやるよ」

 

「流石は一護だな。ま、俺も手伝ってやるよ。これでも、元副隊長。それなりの腕だから期待してくれ」

 

「頼りにしてるぜ伊武紀!」



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第6話 同居人の居ない日

一護が死神代行として活動を開始した。

 

日中は高校に通い、夜は尸魂界(ソウル・ソサエティ)から来る(ホロウ)の知らせを受け、討伐に向かう。

 

そして、その討伐には伊武紀も同行している。

 

基本的には、伊武紀が(ホロウ)に対する囮をし、それを一護が倒す。

 

伊武紀は護廷十三隊もとい尸魂界(ソウル・ソサエティ)を追放となってる身。

 

その為、あまり目立つ行動は控え、直接的な戦闘は一護がしている。

 

今日は休日。

 

一護はルキアに連れられ、公園で対(ホロウ)戦の特訓を行い、伊武紀もそれに付き添っている。

 

その為、折角の休日だというのに、バンビエッタは1人自宅で過ごしていた。

 

(あ~暇……)

 

そんな事を考えながらベッドの上でゴロゴロとしている。

 

いつもなら、伊武紀と口喧嘩しているか、映画を見てるか、ゲームをしてるか………どちらにしろ伊武紀と過ごしている。

 

しかし、今日はその伊武紀がいない為、何もする事がないのだ。

 

「アタシ……1人の時って何して過ごしてたっけ?」

 

伊武紀と出会って5年。

 

もう、伊武紀と一緒に居る事がバンビエッタの中では当たり前となっていた。

 

「まぁ……アイツが居ない方が静かだし良いんだけどね」

 

そう呟きながらも、どこか寂しさを感じる。

 

今まではずっと伊武紀と2人で生活してきた。

 

1日だけとはいえ、こんなにも静かな空間は初めてだ。

 

(そう言えば、心なしか伊武紀の奴なんか楽しそうだったわね)

 

ここ数日の伊武紀はと言うと、「あまり死神の姿にはなりたくない」と言いつつも、何処か楽し気だった。

 

「たっく……早く帰ってきなさいよ………」

 

思わず本音が漏れてしまう。

 

別に伊武紀に対して何か特別な感情がある訳ではない。

 

ただ、なんとなく傍にいて欲しかった。

 

「あー!もう!!腹立つ!!」

 

抱き締めていたクッションを投げつけ、八つ当たりをする。

 

だが、そのクッションは虚しくも壁にぶつかっただけで終わった。

 

すると、バンビエッタの携帯が鳴った。

 

「誰よ?」

 

と思いつつ画面を見るとそこには『井上織姫』の文字があった。

 

井上織姫はクラスメイトだ。

 

一護の幼馴染の“有沢竜貴”の親友で、一護と連む以上、竜貴とも知り合うし、その結果、織姫とも知り合った。

 

最初は織姫の事をウザいと思いながらも、バンビエッタは気付けばウザいという気持ちは無くなり、友人として普通に接していた。

 

「もしもし?どうしたの?」

 

『あっ、バンビちゃん!今から、たつきちゃんとウチでご飯食べるんだけど、バンビちゃんも来ない?』

 

「たつきが?そうね………」

 

バンビエッタは時間を見る。

 

時刻は夕方。

 

今日の夕飯準備は伊武紀なので、バンビエッタが家に居なくても問題はない。

 

「いいわよ、丁度暇してたし」

 

そう伝え、織姫との電話を終えるとバンビエッタは出掛ける準備をする。

 

「あ、伊武紀に連絡………書き置きでいいか」

 

伊武紀への書き置きを残し、家を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったぞ」

 

バンビエッタが家を出て1時間後、伊武紀が帰宅した。

 

リビングに行き、部屋を見渡すがそこにバンビエッタはいない。

 

キッチンや洗面所等を確認するも、やはりいない。

 

(どこ行ったんだ?)

 

そんな疑問を抱きながら伊武紀が部屋に入ると机の上に一枚の紙が置かれていた。

 

「ん?なんだこれ?」

 

手に取って見るとそこには一言、『ご飯に誘われたから、織姫の家に行ってくる』と書かれていた。

 

「井上の家に行ったのか。それならそうと、連絡の1つでもしろって」

 

ブツブツと文句を言いながら伊武紀は夕食の準備を始める。

 

「やらかしたな…………」

 

伊武紀は目の前の料理を見て、思わず呟く。

 

そこには、2人分の夕食が作られていた。

 

「ついバンビの分まで作っちまった………」

 

バンビエッタと暮らし始めてからはずっと2人分を作っていた為、癖で2人分作ってしまったのだ。

 

「仕方ねぇ……冷蔵庫に入れとけば明日食えるだろう」

 

伊武紀は作った食事をラップで包み、冷蔵庫に入れると、自分の分だけを食べ始める。

 

しかし、いつもより味気のない食事に感じた。

 

バンビエッタと出会ってからというものの、ほぼ毎日のように一緒に食べている為、1人での食事に違和感を感じてしまった。

 

「アイツ……いつ帰ってくるんだよ……」

 

伊武紀は無意識にそんな言葉を漏らす。

 

そして、ハッと我に返り、首を横に振るう。

 

「何を言ってるんだ俺は……」

 

伊武紀は自分が言った言葉を否定するように呟いた。

 

1人での食事を終え、後片付けをし、風呂に入る。

 

後はもう寝るだけだ。

 

「帰って来ねぇな……泊りか?」

 

伊武紀は時計を見ながら、バンビエッタの事を考える。

 

「一応確認するか?………いや、別にそこまでする関係でもないしな。それに、ガキじゃないんだ。心配する必要もないだろ」

 

伊武紀は自分に言い聞かせるように言うと、携帯が鳴る。

 

「誰だよ?」

 

携帯を手に取ると、そこには『黒崎一護』と表示されていた。

 

「一護か……」

 

伊武紀は小さく呟き、電話に出る。

 

「一護、どうした?(ホロウ)か?」

 

『伊武紀!大変だ!井上が危ねぇ!』

 

「井上が?どういうことだ?」

 

『とにかく急いで井上の家に向かってくれ!井上が(ホロウ)に狙われてるんだ!』

 

何故、(ホロウ)が織姫を狙うのか。

 

その理由を問い質す前に、伊武紀は動いた。

 

義魂丸を飲み、死神となり部屋を飛び出す。

 

(井上の家にはバンビが居る!)

 

そう思うと自然と足が速くなる。

 

滅却師(クインシー)であるバンビエッタに限って、(ホロウ)に後れを取るなど、伊武紀は思っていなかった。

 

むしろ、バンビエッタがいるなら安全だろうとすら思っていた。

 

それでも、伊武紀は1分1秒早く向かいたかった。

 

「無事でいろよ………!」



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第7話 救いに現れる死神

「バンビって伊武紀のこと好きなの?」

 

織姫の家で夕食を食べ、食後にお茶を飲みながら話をしていると、たつきがそう尋ねてきた。

 

紅茶を飲んでいたバンビエッタは思わず、紅茶を吹き出しそうになったが、何とか耐える。

 

「なんでそうなるのよ?」

 

「いや、だってアンタたち常に一緒じゃない。登校も下校も、昼休みも。挙句、休日も一緒に過ごすとか、どう考えてもおかしいじゃん」

 

「別におかしくないでしょ?一緒に暮らしてるんだから」

 

「だとしても、昼休みや休日も一緒に過ごすのはおかしくない?」

 

「それは……まあ、いろいろあってね」

 

「ふーん……」

 

「何よその目は?」

 

「べっつに~」

 

たつきがニヤリとした顔を浮かべると、バンビエッタは不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。

 

その様子を見ていた織姫は笑う。

 

「でも、仲が良いのはいいことだよね」

 

「はっ?別に仲良くないわよ、あんな奴と」

 

「またまたぁ。素直になりなよぉ」

 

「うるさい!」

 

たつきにそう言い、バンビエッタは紅茶を飲み干し、席を立つ。

 

「織姫、ちょっとトイレ借りるわよ」

 

「うん、どうぞー」

 

バンビエッタはリビングを出ていき、廊下を歩いていく。

 

(全く、変なこと言わないで欲しいわね)

 

そんなことを思いながらトイレに入ったバンビエッタは、便座に座ってため息をつく。

 

(あいつと一緒にいる時間が多いのは事実だけど……別に好きとかそういう感情はないっての)

 

心の中でそう呟くと、少しだけ胸の奥が痛くなるような気がした。

 

(……気のせいかしら?)

 

首を傾げながらも、バンビエッタは再びため息をつく。

 

そして、織姫とたつきのところに戻ろうとした、その時だった。

 

「!?嘘っ……(ホロウ)の霊圧……!近い……!っていうか、こっちに向かってる!?」

 

バンビエッタは慌ててリビングに戻る。

 

「織姫!たつき!」

 

だが、戻って来て目に入ったのは気を失っているたつきと、(ホロウ)に捕まっている織姫の魂だった。

 

「織姫!?」

 

バンビエッタは驚くも、すぐに冷静さを取り戻す。

 

すぐさま霊子兵装の剣を出し、織姫を助けようと動く。

 

『なんだお前は……お前も俺と織姫の仲を裂くのか……なら邪魔だ!』

 

(ホロウ)は生えている尾を使い、バンビエッタを横から攻撃する。

 

「まずっ!」

 

バンビエッタは咄嗟に、《血装(ブルート)》の《静血装(ブルート・ヴェーネ)》を使い、防御する。

 

「うぐっ!」

 

その衝撃で壁に叩きつけられてしまうが、すぐに体勢を立て直す。

 

だが、その隙を狙っていたかのように、(ホロウ)は再度、尾による攻撃を行う。

 

頭上から尾を叩きつけられそうになるが、間一髪で避けることに成功する。

 

『避けたか……』

 

「当たり前でしょ……!あんな攻撃、何度も食わらないっつーの!」

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)》のお陰で、怪我は無いものの衝撃はあったようで、身体中に鈍い痛みを感じる。

 

しかし、そんなことは気にせず、バンビエッタは織姫とたつきの方を見る。

 

(たつきは気絶してるだけ………一番危険なのは織姫ね。でも、まだ“因果の鎖”は繋がってる………あれならまだ助かる!)

 

そう思い、再び剣を構える。

 

『無駄だ、お前じゃ俺は倒せない』

 

「どうかしら?やってみないと分からないと思うけど?」

 

そう言うと、バンビエッタは駆け出す。

 

(ホロウ)は、向かってくるバンビエッタに、尾で攻撃する。

 

「てやあああああああ!!」

 

バンビエッタは剣を振るい、斬撃を放つ。

 

ただの斬撃ではなく《動血装(ブルート・アルテリエ)》を使い、斬撃の威力を上げている為、(ホロウ)の尾は両断される。

 

『なっ!?』

 

「まだまだぁ!」

 

バンビエッタはさらに加速し、今度は蹴り技を使う。アルテリエ

 

動血装(ブルート・アルテリエ)》を使っているため、脚力が強化されており、強烈な一撃が(ホロウ)に入る。

 

『がっ!!』

 

それにより、(ホロウ)は掴んでいた織姫を離してしまう。

 

「よし!」

 

それを見たバンビエッタはすぐに動き出し、織姫をキャッチする。

 

「大丈夫?織姫」

 

「バンビちゃん……ありがとう……」

 

「いいのよ。それより、下がってて。すぐに終わらせるから」

 

(ホロウ)にとどめを刺そうと、バンビエッタは剣を向ける。

 

だが、その瞬間、(ホロウ)が顔を上げた。

 

仮面の一部を隠していた黒い髪が上がり、仮面の隠れていた部分が割れているのに気づく。

 

「………お兄………ちゃん?」

 

「………え?」

 

織姫の言葉に、バンビエッタは思わず動きを止めてしまう。

 

その隙を逃さず、(ホロウ)はバンビエッタを殴り飛ばす。

 

バンビエッタは勢いよく飛ばされてしまい、壁に激突する。

 

「がっ!?」

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)》を使っていなかった為、かなりのダメージを負ってしまったようだ。

 

そのまま倒れ込み、動けなくなってしまう。

 

(やば……油断した……!)

 

織姫の方に視線を移すと、彼女はいつの間にか(ホロウ)に捕まっていた。

 

『捕まえたぞ、織姫……!』

 

「くっ……!」

 

バンビエッタは必死に立ち上がろうとするも、上手く立ち上がることができない。

 

「本当に……お兄ちゃん……なの……?」

 

『そうだよ、織姫。俺だよ。会いたかったよ……』

 

「なんで……こんなことするの……どうしてたつきちゃんやバンビちゃんを傷つけるの………私の知ってるお兄ちゃんは…………こんなことする人じゃなかったのに……!」

 

『それは……お前が悪いんだぞ、織姫……』

 

「私の……せい……?」

 

『お前が、俺のことを忘れるから……!俺のために祈ることをしなくなったから……!お前が俺をこんな風にしたんだ!」

 

(ホロウ)は腕に力を込め、織姫を握り潰そうとする。

 

「うっ……!がっ……!」

 

『俺はお前のために生きてきた!それなのに、お前は俺のために生きてはくれない!なら、俺のために死んでくれ!』

 

そして、一気に力を込めて織姫の魂を潰そうとする。

 

その瞬間、(ホロウ)の肩に何かが刺さる。

 

それは霊子を固めた矢、《神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)》。

 

放ったのはバンビエッタだった。

 

「させ……ないわよ……!」

 

バンビエッタは痛みに耐えながら、何とか矢を放った。

 

しかし、(ホロウ)は織姫を握ったまま、後ろへ下がる。

 

『ちっ……しぶといな』

 

「アンタなんか……に……織姫を殺させるわけにはいかないのよ……!」

 

バンビエッタはフラつきながらも立ち上がり、剣を構え直す。

 

「友達を……殺させてたまるか!」

 

『そこまでして俺と織姫を引き離そうとするのか………なら、死ね!』

 

バンビエッタは慌てて回避しようとするも、間に合わず、(ホロウ)の拳が直撃する。

 

バンビエッタは殴られた勢いで吹き飛び、壁に激突する。

 

「うぐっ……!」

 

『終わりだ』

 

(ホロウ)は鋭利に尖った爪で、バンビエッタにとどめを刺そうと、手刀を放とうとする。

 

もうバンビエッタには躱すだけの余力は無かった。

 

(ここまで……か………でも、だいぶ時間は稼げた………あとは伊武紀たちが間に合えば………織姫も、たつきも、助かる………)

 

バンビエッタは目を閉じ、覚悟を決める。

 

だが、その時だった。

 

ザシュッ!っと肉を切り裂く音が響いた。

 

その音に、バンビエッタは目を開ける。

 

そこにいたのは、(ホロウ)の手刀を、腕ごと両断して防いだ死神がいた。

 

その後ろ姿に、バンビエッタは見覚えがあった。

 

そして、その人物は振り返り、バンビエッタの方を見る。

 

「悪い、待たせたな」

 

「遅いのよ……バカ」

 

そう言いながらも、バンビエッタの顔は笑っていた。

 

そんなバンビエッタを見て、伊武紀は微笑んだ。



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第8話 背中で眠る滅却師と背負う死神

「傷は大丈夫そうか?」

 

(ホロウ)と対峙しながら、伊武紀はバンビエッタに問う。

 

「見た目ほどじゃないから。安心して」

 

そう言うが、額からは血を流し、左腕もだらりと力なくぶら下げている状態では説得力がない。

 

「そいつはよかったよ。……なら、後は休んでろ」

 

伊武紀は険しい目つきで、(ホロウ)を見据えた。

 

その視線には、はっきりとした敵意と怒りが込められている。

 

「随分とバンビを痛めつけてくれたみたいだな………覚悟しろよ?」

 

バンビエッタの怪我を負わせたことに、彼は静かに怒っていたのだ。

 

「速攻で終わらせてやる」

 

伊武紀は始解を使おうとする。

 

「待ってくれ!伊武紀!」

 

だが、そこに一護とルキアが遅れてやって来た。

 

「一護、それに朽木。待てってどういう事だ?」

 

「その(ホロウ)は、井上の兄貴なんだ!」

 

「井上の?……そうか、だからか」

 

(ホロウ)は、人間の魂魄を主食としている。

 

だが、それは空腹からではなく、苦痛から逃れる為だ。

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)に導かれなかった魂、とりこぼされた魂、(ホロウ)から守ってもらえなかった魂、それらが堕ち、中心(こころ)を亡くして(ホロウ)となる。

 

(ホロウ)の胸辺りに孔が空いてるのは、そう言う意味の現れらしい。

 

そして、(ホロウ)となった魂は、その亡くなった中心(こころ)を埋める為に、生前最も愛した者の魂を求める。

 

今、伊武紀が対峙してる(ホロウ)が、織姫の兄だと言うなら、織姫が襲われた理由も納得だった。

 

「だから、ソイツを斬るのは待ってく「黒崎君?」………え?」

 

一護は、自分の名前を織姫に呼ばれた事に驚いた。

 

今の一護は伊武紀と同じ死神で霊体。

 

普通の人間からは見えない。

 

にも関わらず、織姫から一護の姿は見えていた。

 

「どういう………事だ?なんで、井上に……俺の姿か……?」

 

『決まっているだろう。そいつが、魂だからだ』

 

一護の疑問に、(ホロウ)が答える。

 

『残念だったな。織姫はもう……死んだ!』

 

(ホロウ)の言葉に、一護は呆然とした。

 

そして、そんな一護の隙を(ホロウ)は見逃さなかった。

 

再生した尾を使い、一護を吹き飛ばす。

 

だが、間に伊武紀が入り込み、攻撃を防ぐ。

 

「なにボケっとしてやがる!一護!」

 

「い、伊武紀……!」

 

「安心しろ!井上は無事だ!まだ“因果の鎖”が肉体に繋がってる。その状態ならまだ助けれる!」

 

伊武紀は、そう言って刀を振るう。

 

「だから戦え!戦わないと、井上を救えないぞ!」

 

「ぐっ………分かったよ!」

 

一護は斬魄刀を握り締め、覚悟を決めて立ち向かおうとする。

 

だが、頭の中では分かっていても(ホロウ)が、織姫の兄だと認識すると、どうしても動きが鈍くなる。

 

(くそっ!俺はどうしたらいいんだ!?)

 

そう悩んでいる時だった。

 

『邪魔をするな、黒崎一護!』

 

「!……俺の事を知ってるのか?」

 

『ああ、知ってる………お前の所為で、織姫は俺の為に祈ることを止めた………出掛ける時も、帰って来た時も、いつも俺の前でお前の事を話す………辛かった………織姫の心から、俺の姿が消えて行くのが………!』

 

「ち、違うよお兄ちゃん!それは『俺は淋しくて!』」

 

織姫の言葉も聞かず、叫ぶ。

 

『淋しくて淋しくて!何度も何度も、お前を殺したくなった!』

 

その瞬間、「殺したくなった」と言う言葉を聞いた一護の雰囲気が変わった。

 

『殺してやる殺してやる殺してやる!殺してやる殺してやる殺してやる!殺 し て や る !

 

(ホロウ)は、そう叫びながら織姫に手を伸ばす。

 

「おい」

 

だが、その手は織姫を掴まなかった。

 

一瞬で、一護が斬魄刀を振り、腕を斬り飛ばしたからだ。

 

「兄ってのは、どうして一番最初に生まれるか知ってるか?」

 

一護の声には、静かな怒りが込められている。

 

「それはな………後から生まれて来る妹や弟を守るためだ!」

 

そして、斬魄刀の切っ先を向ける。

 

「兄貴が妹に向かって『殺してやる』なんて……死んでも言うんじゃねぇ!」

 

一護は一気に踏み込んで、(ホロウ)に肉薄する。

 

そして、そのまま袈裟懸けに切り裂いた。

 

『ギャアァァァ!!』

 

その痛みに耐えきれず、(ホロウ)は悲鳴を上げる。

 

一護は更に、返す刃で横薙ぎに払う。

 

『グォッ!』

 

「まだまだぁ!」

 

『何故だ……何故邪魔をする……黒崎一護ォ!!』

 

(ホロウ)は絶叫する。

 

『織姫は、俺の妹だ……!俺の妹なんだ!誰にも渡さない!俺の物だ!』

 

「うるせぇ!井上は井上だ!勝手に所有物にすんな!」

 

『黙れェ!』

 

そう叫んで、(ホロウ)は一護を殴る。

 

一護は防御態勢を取り、衝撃に備えた。

 

だが、一護は殴られなかった。

 

(ホロウ)は一護を殴ると見せかけ、そのまま織姫の方へと向かう。

 

「しまった!?」

 

一護は謀られたと気付き、急いで追いかけようとするが、(ホロウ)の方が速い。

 

口を開き、喰い殺さんと織姫へと迫る。

 

そして、(ホロウ)は織姫に喰いついた。

 

その瞬間、織姫は嫌がることも、拒絶することもしなかった。

 

手を伸ばし、兄だった(ホロウ)を抱きしめた。

 

『織……姫……?』

 

(ホロウ)は織姫が何をしているのか理解できなかった。

 

「ごめんね……お兄ちゃん……」

 

織姫は、(ホロウ)に謝った。

 

(ホロウ)は驚き、その目が揺れ、僅かに光を取り戻す。

 

「あたし、お兄ちゃんに聞いて欲しかったの………学校であった楽しい事、好きなこと、好きな物、好きな人たち…………いつまでもお兄ちゃんの事で悲しんでたら、お兄ちゃんが心配しちゃって安心できないと思って………だから、見せたかったの!あたしは大丈夫って!幸せだから心配しないでって!」

 

織姫は涙を流しながら、(ホロウ)に語りかける。

 

「でも、それがお兄ちゃんを淋しくさせてたなんて………全然気づかなった………ごめんね、お兄ちゃん……大好きだよ………!」

 

そう言うと、織姫は気を失い倒れる。

 

「井上!」

 

一護は斬魄刀を放り捨て、織姫に駆け寄る。

 

「狼狽えるな!まだ助かる!」

 

狼狽える一護に、ルキアがそう言う。

 

「阿由葉副隊長も言っていただろ!“因果の鎖”が肉体に繋がってる内は助けれる!」

 

そう言い、ルキアは鬼道を使い、織姫の魂を、織姫の肉体に戻す作業を始める。

 

その光景を見つめ、(ホロウ)は口を開く。

 

『………本当は分かってたんだ………織姫が祈るのを止めたのは、俺に心配させないためだって………それでも、祈ってて欲しかった………俺の為に祈ってくれている間だけは………俺の事を忘れないでいてくれると思ったから…………』

 

その言葉に、一護も伊武紀も、そして、織姫を治療してるルキアも何も言えなかった。

 

だが、バンビエッタは違った。

 

ボロボロになった身体を動かし、近付く。

 

「あんた馬ッ鹿じゃないの?」

 

「バンビ!お前、何動いてんだよ!怪我が悪化するぞ!」

 

「平気よ。それより……」

 

伊武紀に答えた後、バンビエッタは(ホロウ)に話しかける。

 

「アンタさっき言ったわよね?祈ってる間だけは自分の事を忘れないでいてくれるって………でもね、織姫は祈ることを止めたとしてもアンタの事忘れないわよ」

 

そう言って、バンビエッタは織姫の髪に付いてるヘアピンを指差す。

 

『このヘアピン……俺が買ったヤツ………』

 

「そう言えば井上の奴、言ってたな。お兄ちゃんがくれた初めてのプレゼントだって。だから毎日付けるんだってな」

 

『そう………だったのか………』

 

「だから、織姫がアンタの事忘れるわけがないでしょ?織姫は、ずっとアンタの事を想ってるのよ。だから、安心しなさい」

 

そう言って、バンビエッタは優しく微笑んだ。

 

『ありがとう……』

 

(ホロウ)はバンビエッタにお礼を言い、伊武紀を見る。

 

『……死神君……頼みがあるんだが……いいかな……?』

 

「………ああ」

 

伊武紀は、優しく笑うと、斬魄刀で(ホロウ)の顔を斬る。

 

仮面が割れ、身体が崩れ始める。

 

「なっ!?伊武紀!何してんだ!」

 

伊武紀の行動に、一護は驚く。

 

「彼の、最後の願いを叶えたまでだ」

 

『ありがとう、死神君。このままでいても、いずれ自分を失って、また織姫を襲う。なら、まだ正気を保っていられる内に消えておきたい………』

 

「だからって!」

 

「いや、その者の判断は正しい。一度、(ホロウ)になった魂は2度と戻らない。そのまま消えさせてやれ」

 

ルキアの言葉に、一護はあまりにも酷だと思った。

 

だが、ルキアはそんな一護の気持ちを察したように、話を続ける。

 

「案ずるな、一護。(ホロウ)を斬ることは、“殺す”のではない。罪を洗い流し、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に行けるようにしてやるのだ。その為に、我々死神がいるのだからな……よし、これでもう大丈夫だ」

 

織姫の治療が終わると、(ホロウ)は身体が崩れ行く中、織姫に近付く。

 

『それじゃ……さよなら……織姫………』

 

織姫に別れを告げ、(ホロウ)は消えて行く。

 

すると、織姫は目を開け、(ホロウ)を……兄の顔を見る。

 

「……お兄ちゃん……いってらっしゃい………」

 

あの日言えなかった言葉。

 

織姫の胸の中でずっと引っ掛かっていた言葉。

 

その言葉が、織姫の口から出た。

 

その言葉を聞き、彼、井上昊は涙を流し、笑顔を浮かべる。

 

『ああ……いってきます、織姫』

 

そして、井上昊は消え、尸魂界(ソウル・ソサエティ)へと送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、色々聞きたそうにしている織姫と、まだ気絶しているたつきに、ルキアは記憶置換を施し、今夜の出来事を別の記憶へと変えた。

 

そして、そのまま解散となり、伊武紀はバンビエッタと共に帰路に着いていた。

 

「あのさ……別に背負わなくても大丈夫なんだけど……」

 

「うるせぇ。怪我人は黙って背負われてろ」

 

バンビエッタは、伊武紀におんぶされていた。

 

一応伊武紀の回道により、ある程度の怪我は治ったが、伊武紀が無茶はさせれないと言い、こうしておんぶして帰路に着いてる。

 

しかも、下手に傷に障らない様に瞬歩は使わず、歩いてアパートに向かっている。

 

「………すまなかった」

 

「え?」

 

「もっと急いでいれば、お前が怪我しなくて済んだのに………すまない」

 

「……本当ね。顔に傷が残ったらどうするのよ」

 

「……すまん」

 

そう言い、伊武紀は歩く。

 

「あーもう!」

 

すると、バンビエッタは自分の頭をかき乱し叫ぶ。

 

「うをっ!?急にどうした?」

 

「少しぐらい反論しなさいよ!いつものアンタはどうしたのよ!」

 

「いや……それは……」

 

「まったく……」

 

そう言って、バンビエッタは伊武紀にしっかりと抱き付き、言う。

 

「さっきのは冗談よ。確かにもう少し早く来てくれれば、あんな怪我せずに済んだけど、アンタは十分速かったわ。だから気にしないで」

 

「……分かった」

 

「それと………ありがとう

 

バンビエッタは小声で、お礼を言った。

 

事実、バンビエッタは死にかけてた所を伊武紀に助けられた。

 

だから、お礼を言うのは当然だった。

 

だが、何故かお礼を言う事に気恥ずかしさを感じ、小さい声になってしまった。

 

「ん?何か言ったか?」

 

「………何でもないわ。ただの独り言」

 

「そうか……」

 

「疲れたからちょっと寝る……着いたら起こして」

 

そう言い、バンビエッタは伊武紀の背中に全体重を預け、目を閉じる。

 

(まったく……お礼の一つも素直に言えないのかしら、あたしは……)

 

バンビエッタは伊武紀の背で眠りにつく。

 

その表情は、どこか幸せそうなものだった。

 

「……おい、本当に寝たのか?」

 

伊武紀が聞くが、返事はなく、代わりに寝息が聞こえた。

 

「ったく……」

 

伊武紀は小さく笑い、ゆっくりと歩き出す。

 

「ゆっくり休めよ……」

 

伊武紀は呟きながら、バンビエッタをおぶったまま帰宅した。



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第9話 強くなりたい滅却師

「伊武紀、悪いけど当分学校行かないから」

 

ある日の夜。

 

唐突にバンビエッタがそう言いだした。

 

いきなりのことに、伊武紀は驚くも、すぐに冷静になり尋ねる。

 

「どうしたんだ? 急に?」

 

「大したことじゃないわよ。ちょっと浦原の奴に頼みごとがあってそれで少しの間、世話になるだけ」

 

「浦原さんに?」

 

浦原とは、伊武紀とバンビエッタがいつも贔屓にしてる店、《浦原商店》の店主“浦原喜助”のことだ。

 

日頃の買い物から、《尸魂界(ソウル・ソサエティ)》の品物の購入などなど、いろいろとお世話になっている。

 

そして、元“護廷十三隊”十二番隊隊長及び技術開発局創設者にして初代局長でもある。

 

伊武紀とバンビエッタにとっては、裏から手を回し、現世で暮らすために必要な手配をしてくれた恩人でもある。

 

「まあ、そんなわけだからしばらく学校は休むわね。じゃ、あたし風呂に入るから」

 

一方的に言うと、バンビエッタはそのまま部屋から出ていった。

 

「……なんだかよくわからねぇな」

 

一人残された伊武紀は、首を傾げるしかなかった。

 

翌日、伊武紀が目を覚ますとバンビエッタはもう《浦原商店》に向かったのか、姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間分の着替えを持ち、バンビエッタは《浦原商店》へと向かった。

 

まだ開店時間前で、店の前では店員の少女“紬屋(ウルル)”と店員の少年“花刈ジン太”が店先を掃除していた。

 

「ジン太ホームラン!」

 

最も、ジン太は掃除せずに箒を振り回して遊んでいた。

 

「ジン太君、ちゃんと掃除しないと怒られるよ……」

 

「うるせぇ!掃除なんて知るか!」

 

注意する雨を無視して、ジン太は叫びながら再び箒を振り回す。

 

そこにバンビエッタが現れた。

 

「あんたたち、何やってんの?」

 

「あっ、おはようございます。バンビエッタさん」

 

バンビエッタに気付いた雨が挨拶をする。

 

「なんだよ?店ならまだ開店してねぇぞ?」

 

「別に買い物しに来たんじゃないわよ。それより、浦原は?」

 

「店長ならまだ寝ていますぞ」

 

店から身長が2mの大男が現れ、答えるのは《浦原商店》の店員で、“元”鬼道衆総帥・大鬼道長“握菱鉄裁”だった。

 

「なら叩き起こしてくれる?こっちは用があるの」

 

「それなら大丈夫っすよ」

 

すると、下駄と帽子、甚平という格好で浦原が現れる。

 

「今しがた、起きましたんで」

 

そう言い、浦原は欠伸をしてバンビエッタを見る。

 

「それで、今日のご用は何ですか、バンビエッタさん?」

 

「実は少しの間、ここに泊めてほしいんだけど」

 

「それは構いませんけど……どうしたんですか、一体?」

 

「まぁ、泊めてほしいって言うかちょっと………」

 

何処か言い辛そうにするバンビエッタに、浦原はピンときた。

 

「ああ、なるほど。わかりました。そういうことならこちらへどうぞ」

 

浦原は店の中に案内する。

 

そして、そのまま店の奥へと行き、地下室へ向かう。

 

「バンビエッタさんがお望みなのは、買い物でも、ましてや当面の寝床なんかじゃない………修行、っすよね?」

 

帽子の下から鋭い視線を投げつけ、浦原が聞く。

 

バンビエッタは無言で、頷く。

 

「理由は察しがつきますけど、一応聞いても?」

 

浦原がそう聞くと、バンビエッタは重い口を開く。

 

「……知ってるでしょ?あたしは、昔より弱くなってる………」

 

バンビエッタは、元は見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)星十字騎士団(シュテルンリッター)滅却師(クインシー)だ。

 

星十字騎士団(シュテルンリッター)は、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)のトップにして滅却師(クインシー)の始祖“ユーハバッハ”より、聖文字(シェリフト)によってユーハバッハの魂から刻み与えられたアルファベットの1文字から連想される能力を与えられる。

 

バンビエッタが与えられた聖文字(シェリフト)は《E》、能力は《爆発(Explode)》。

 

小規模なものから周囲を巻き込む大規模までの爆発を自在に起こし、バンビエッタから発せられた霊子に触れた物体そのものを爆弾に変えて爆破するため、防御自体できない。

 

この能力と、滅却師(クインシー)としての才能があったことで、バンビエッタは星十字騎士団(シュテルンリッター)の中でも上位に位置した。

 

しかし、バンビエッタは《見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)》を追放された。

 

加えて、処刑もされそうになり、元々死ぬのが嫌で戦っていたバンビエッタは、生きるために命からがら見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)から逃げ出したのだ。

 

運よく現世に逃亡成功したものの、追放された際に《E》の聖文字(シェリフト)は剥奪され、バンビエッタは大幅に弱体化された。

 

使えるのは滅却師(クインシー)としては一般的な《大気中に偏在する霊子を自らの霊力で集め、操る技術》と《血装(ブルート)》のみ。

 

おまけに《爆発(Explode)》の能力と、自身の才能に感けて鍛錬を怠っていた為、全盛期には遠く及ばないレベルにまで落ちていた。

 

「この前、織姫が(ホロウ)に襲われた時に実感したのよ。いくらなんでも弱くなりすぎてるって……まぁ、そのお陰で織姫と織姫のお兄さんが無事仲直りできたのかもしれないけど………」

 

「なるほど。それで、修行を?」

 

「そうだけど………嫌なのよ」

 

「何がっすか?」

 

「伊武紀に………心配されるのが」

 

そう言って、バンビエッタは俯いた。

 

ボロボロのバンビエッタを心配し、バンビエッタが怪我したのは自分の所為だと自身を責める伊武紀。

 

そんな伊武紀の姿を思い出し、バンビエッタは胸が痛んだ。

 

「だから、強くなりたいのよ。あいつに心配されないぐらいには」

 

「そうっすねぇ……」

 

バンビエッタの言葉を聞き、浦原は顎に手を当て考える。

 

「わかりました。バンビエッタさんの気持ちは十分伝わりました。そういうことでしたら、しばらくここで修業をしましょう」

 

浦原は、笑顔でバンビエッタを迎え入れることを決める。

 

「ありがとう、浦原」

 

「いいえ、貴女方はうちのお得意さんですからねぇ!これぐらいは当然ですよ!」

 

浦原は、満面の笑みを浮かべた。

 

「頼んどいてなんだけど、アンタが善意でするとは思ってないし、何か裏あるでしょ?」

 

「あ?バレちゃいました?」

 

「やっぱりね。まぁ、どうせすぐにわかるだろうし、別に構わないけど」

 

へらへらと笑う浦原に、バンビエッタは呆れた様子を見せる。

 




次回からバンビエッタの修行回?になります


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第10話 修行をする滅却師

「それでは、バンビエッタさんの修行を始めましょうか」

 

浦原はどこから持ってきたのか、移動式ホワイトボードと机、椅子を用意し、バンビエッタを座らせた。

 

「なんでそんなもん用意してんの?」

 

「いやあ、せっかくですし、こういう機会でもないと使えないかと思いましてね」

 

「ふーん……まあいいわ。早く始めなさいよ」

 

「えっとですね……じゃあ、まずは基本中の基本である事から行きましょうかね」

 

そう言うと、浦原はホワイトボードに「鎖結」と「魄睡」と書く。

 

「「鎖結」と「魄睡」。この2つが何かわかりますか?」

 

「馬鹿にしてるの?魄睡が霊力の発生源で、鎖結がブースター、要は霊力の出力を司る器官でしょ」

 

「はい正解です!流石バンビエッタさん!」

 

「こんなの、滅却師(クインシー)に限らず、死神も知ってる常識じゃない」

 

「そうっスね。じゃあ、本題に行きましょう」

 

浦原は再びペンを取り、「鎖結」と「魄睡」の文字の隣に上向きの矢印を書き、矢印の下にUPと書く。

 

「早い話、強くなるなら鍛えるのが一番っすね。「鎖結」と「魄睡」、この2つの機能を鍛えれば、自然と霊力は強くなります」

 

「どうやって鍛えるのよ?鍛えようとして鍛えれるものじゃないわよ」

 

「簡単ですよ。「鎖結」と「鎖睡」の機能を上げるには、その機能を使う事が一番いいんです」

 

「どういうことよ?」

 

「例えば、バンビエッタさんは速さを伸ばす時、どうしたらいいと思います?」

 

「そんなの、走ったり、筋トレとかじゃない?」

 

「では、走るにしろ、筋トレするにしろ、何が共通点ですか?」

 

浦原に言われ、バンビエッタは少し考える。

 

「………あ。負荷、とか?」

 

「大正解っす!要は、「鎖結」と「魄睡」の2つに負荷を掛け、強化するというわけです」

 

「へぇ……でも、どうやって負荷を掛けるのよ?」

 

「それは、これっすね」

 

そう言って浦原は、懐からスポーツウェアを出す。

 

「こら、アタシが開発したものでね、「鎖結」と「魄睡」の2つの器官に負荷を掛け、制限するんです」

 

「なるほど……」

 

「まあ、とりあえずやってみてください。最初は軽くやってみましょうか」

 

「わかったわ」

 

バンビエッタはスポーツウェアを受け取り、着替る。

 

「それで、軽くなにをすればいいの?」

 

ストレッチをしながら、バンビエッタは浦原に尋ねる。

 

「簡単ですよ………(ウルル)!」

 

「はい、浦原さん」

 

「え!?ちょっと!?」

 

いつの間にか現れた(ウルル)に驚くバンビエッタ。

 

「バンビエッタさんがする修行その1………今から(ウルル)と鬼ごっこをしてもらいます」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

「大丈夫っスよ。(ウルル)は優しいんで、怪我する事はないっス」

 

「そういう問題じゃなくて!」

 

「じゃあ、頑張って下さい!スタート!」

 

「行きます……」

 

浦原のスタートの合図を聞き、(ウルル)は10mの間合いを一瞬で詰める。

 

「うわっ!?」

 

 

突然目の前に現れた(ウルル)に驚きながらも、バンビエッタは《飛廉脚》を使い、後方に下がる。

 

「ぐっ!?」

 

だが、《飛廉脚》を使った瞬間、バンビエッタの体が重くなり、息苦しさも感じる。

 

「言ったでしょ?負荷を掛けると。そのウェアを着てる間、霊力を使えば使うほど、負荷は増し、動きづらくもなります。まあ、慣れれば平気になると思うんで、頑張ってください」

 

「くそぉ!」

 

バンビエッタは(ウルル)の猛攻を躱し続け、何とか3時間逃げ続けた。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

(ウルル)の攻撃を避け続け、疲労困ぱいのバンビエッタを見て、浦原は声をかける。

 

「お疲れ様です。それでは今日はこの辺にしておきましょうか」

 

「はぁ……はぁ……そうしてもらえると助かる……」

 

「また明日もやりましょうか。今日は初日なんで3時間程度で終了ですけど、明日からは。毎日6時間、間に1時間の休憩を挟んでやりましょう」

 

「は?冗談じゃない!そんなにやってたら、こっちの身が持たないわよ!」

 

「え~……だって、強くなりたいんっすよね?」

 

「ぐっ!」

 

「じゃあ、決まりですね!」

 

「はあ……わかったわよ」

 

「じゃあ、次のステップに行きましょうか。今度の修行は、頭を使う修行っスよ」

 

そう言うと、浦原は再びホワイトボードを取り出し、今度は「死神」と「滅却師」と書く。

 

「バンビエッタさん、「死神」と「滅却師(クインシー)」の違いは何ですか?」

 

「は?そんなの、(ホロウ)を殺すか殺さないかでしょ?」

 

「それもあります。では、戦い方では?」

 

そう聞かれ、今度はすっと答えが出なかった。

 

「簡単に言えば、死神は自身の霊力を、対して滅却師(クインシー)は周囲の霊子を使って戦います」

 

「なるほど………で、それがどうかしたの?」

 

「ここが修行のポイントです。斬魄刀の創り方はご存じで?」

 

バンビエッタは首を横に振る。

 

「斬魄刀は、元は「浅打」と言う無銘の刀です。この刀と寝食を共にし、練磨を重ねることで魂の精髄を刀に写し取ることによって"己の斬魄刀"が創り上げられます。つまり、斬魄刀は文字通り、所有者の魂なんです」

 

「ふむ……で?」

 

「斬魄刀には様々な能力があります。直接攻撃系、鬼道系、炎熱系、氷雪系、流水系等々。ここで注目すべきなのは、何かしらの属性がある斬魄刀、炎熱系や氷雪系、水流系ですね。炎熱系の斬魄刀なら炎を出し、氷雪系なら氷、水流系は水………つまり、死神は己の魂である斬魄刀を介して、無色である霊力もとい霊子に属性を付与してるんです。ここまで言えば、アタシの考える次の修行は、わかりますよね?」

 

「なるほどね……要するに次の修行は霊子に属性を付与するってことね」

 

「ご名答……では、さっそく始めましょう」

 

「いや、ちょっと待ちなさいよ」

 

さっそく、次の修行を始めようとする浦原に、バンビエッタが待ったをかける。

 

「どうしたんっスか?」

 

「霊子に属性を付与するって簡単に言うけど、具体的には何するのよ?」

 

「先ほども言いましたが、霊子には決まった方向性はなく、無色です。バンビエッタさんがするのは、その無色の霊子に属性という色を足す。それだけです」

 

「それが難しいって言ってるの。そもそも、霊子に属性付与とか、やったことないし、できるかも怪しいのよ」

 

「だから、それを可能にする方法があるんっスよ」

 

そう言うと、浦原は仕込み杖から、自身の斬魄刀を抜く。

 

「起きろ『紅姫』」

 

浦原の斬魄刀、紅姫を出す。

 

「何よ?まさか、斬り合って、追い込んで、根性で会得しろとか言うの?」

 

「やりませんよ、そんなこと。やるのは……これです………卍解『観音開紅姫改メ』」

 

なんと浦原は、卍解を発動し、髪の長い巨大な女性が浦原の背後に現れる。

 

「これが、アタシの卍解。能力は、『触れた物を作り変える』です」

 

「はぁ?どういう意味?」

 

「例えば……目などの部位を失った場合でも、その部位を『作り変える』ことで治療できる。また、閉鎖空間の出入り口を作るなどもできます。ただ、これはあくまで卍解を発動してる間しか有効じゃないんです。一時的な強化は出来ても、鍛えることはできない」

 

「それでどうするのよ?」

 

「この能力でバンビエッタさんを、霊子への属性付与が出来る身体へと作り変えます。バンビエッタさんは、アタシが卍解を使ってる間、霊子への属性付与の仕方をその身で覚えてもらいます」

 

「は!?なに言ってんの!?」

 

「大丈夫っス!ちゃんと死なないようにしますから!」

 

「そういう問題じゃなくて!!」

 

「大丈夫っスよ!痛くないっスから!」

 

「そういう問題でもないっつーの!!あーもう!わかったわよ!なんでもやってやるっての!こうなりゃ、とことんやってやるわよ!」

 

こうして、「鎖結」と「魄睡」の強化訓練と、霊子への属性付与の2つの修行が始まった




浦原さんの卍解ってこう言うことでいいのかな?


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第11話 修業した滅却師VS駄菓子屋店主の死神

バンビエッタが浦原の所で修行をして、2週間が経った。

 

当初の予定では、バンビエッタは浦原の所で1週間の修行をして、家に帰るつもりでいた。

 

だが、思いのほか修行が捗り、修業期間は延長した。

 

そして、現在。

 

バンビエッタはあのスポーツウェアによる負荷をものともせず、走り続けていた。

 

(ウルル)との鬼ごっこも、最初こそ追い付かれそうになったものの、今では余裕を持って避ける事ができるようになっていた。

 

なんなら、反撃するぐらいのことはし、鬼ごっこも途中からは組手になっていた。

 

「いや~、修業の成果が出てきたようで何よりっスね」

 

その光景を見て、浦原が言う。

 

それに対し、バンビエッタは呼吸を整えながら答える。

 

「はあ?まだまだこんなもんじゃないわよ」

 

「いやいや、もう十分強くなったと思いますよ?それで……霊子に属性を付与する方はどうです?」

 

浦原がそう尋ねると、バンビエッタは霊子を集め、小さな球体を作る。

 

そして、出来たソレを浦原に向けて、投げつけた。

 

「おっと」

 

浦原はそれを横に飛んで躱す。

 

躱された霊子の弾は、そのまま近くの岩に当たり、爆発した。

 

「ほぉ……提案してなんですけど、いい感じに出来てますね」

 

「ま、アンタの言ってた属性の付与っていうより、霊子の性質を変化させたって方が正しいけどね」

 

「それでも凄いっスよ!これはアタシの予想以上ですね!」

 

「当然でしょ……と言いたいけど、あんたの力がなきゃここまでできなかったし、まぁ感謝しとくわ」

 

バンビエッタの言葉に、浦原は嬉しそうな顔をする。

 

「さて、それじゃあそろそろ最後の修行と行きますか」

 

そう言い、浦原は斬魄刀を抜く。

 

「最後の修業は、アタシと戦ってもらいます。それで、修業は終了です」

 

「へぇ……」

 

バンビエッタはニヤリと笑う。

 

「面白いじゃん。やってやるわよ」

 

バンビエッタは獰猛に笑い、霊子兵装の剣を出す。

 

「起きろ『紅姫』」

 

浦原も始解を使い、斬魄刀を構える。

 

「さぁ、どっからでもかかってきてください」

 

浦原は余裕綽々といった表情で言う。

 

「言われなくても!」

 

バンビエッタは、《動血装(ブルート・アルテリエ)》で脚力を上げ、一気に浦原との距離を詰める。

 

そして、斬撃を放つ。

 

「ふむ……流石に速いですね」

 

だが、浦原はその攻撃を難なく防ぐ。

 

「チッ!」

 

舌打ちをしながらバンビエッタは後ろに飛び退く。

 

「おや?逃げても無駄ですよ?《剃刀紅姫》!」

 

浦原は、剃刀の刃のような鋭い紅い斬撃を飛ばす。

 

「食らうかっての!」

 

バンビエッタは、霊子弾を打ち出し、爆発させて相殺させる。

更に相殺した時の爆発煙を利用し、煙の中から《神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)》を放つ。

 

「おおっと危ない……《血霞の盾》!」

 

だが、《神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)》は、出された血の防壁で防がれる。

 

「油断ならない相手っスねぇ……」

 

「それはこっちのセリフだっつーの」

 

「ま、それもそうっスね……では次はこちらから行かせてもらいましょうかね」

 

そう言い、指先を向ける。

 

「破道の四《白雷》!」

 

指先から貫通力のある光線が放たれる。

 

「あぶなっ!」

 

中々のスピードに驚きながらも、バンビエッタは顔を動かして避ける。

 

「まだまだ行くっスよ。破道の三十一《赤火砲》!」

 

今度は掌から火の玉を放ち、攻撃してくる。

 

「うおっ!?」

 

バンビエッタは、それを咄嵯の判断で回避する。

 

「不意打ちの鬼道を避けるとは……やりますね」

 

「本当にね!鬼道を使うなんて聞いてないわよ!」

 

「そりゃそうっスよ。一応これ、真剣な戦いなんでね」

 

「くそったれが……」

 

バンビエッタは、悪態をつく。

 

しかし、その割には楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「なら、本気で行くしかないわよね」

 

バンビエッタが呟いた瞬間、バンビエッタは剣を振りかぶるように構える。

 

そして、そのまま振る。

 

「ハァアアッ!!」

 

すると、剣から霊子弾がバラまかれ、浦原を襲う。

 

霊子弾は、浦原の周りに落ち、浦原の周りで爆発する。

 

「絨毯爆撃………いいですね、その技」

 

「褒められて悪い気はしないけど、まだ終わりじゃないわよ」

 

バンビエッタは、もう一度剣を振りかぶる。

 

今度は横に一閃。

 

すると、剣から《神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)》が大量に放たれる。

 

「これはまた……凄い数ですね」

 

浦原は、感心したような声を上げる。

 

バンビエッタが行ったのは、浦原の周りを爆撃し、浦原の動きを止め、止まった所で《神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)》での連続攻撃。

 

この連続攻撃に浦原は、流石に捌ききれず、被弾する。

 

そのはずだった。

 

「《血霞の盾》!」

 

だが、浦原は《血霞の盾》を使い、防ごうとする。

 

「無駄よ!いくらなんでも、これだけの量の《神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)》をそんな薄い壁で防げるわけないでしょ!」

 

「ええ、もちろんこれで終わりじゃありません。《切り裂き紅姫》!」

 

すると、《血霞の盾》から無数の刃が連続で発射され、《神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)》を全て撃ち落とす。

 

「なっ!?」

 

これに、バンビエッタは驚く。

 

「まさか、防がれると思わなかったって感じっスか?甘いっスね」

 

浦原は掌をバンビエッタに翳す。

 

「破道の五十八《闐嵐》!」

 

掌から竜巻が放たれ、バンビエッタに向かう。

 

「舐めんな!」

 

バンビエッタは、《動血装(ブルート・アルテリエ)》で脚力を上げ、高く飛ぶことでそれを回避する。

 

「空中に逃げても意味ないっスよ?」

 

だが、浦原はニヤリと笑う。

 

「縛道の四《這縄》!」

 

縄状の霊子を放ち、バンビエッタの腕に巻き付く。

 

「何よ、こんな物!」

 

バンビエッタは縄を引き千切ろうと、力を籠める。

 

「破道の十一《綴雷電》!」

 

だが、引き千切る前に《這縄》を伝って、電撃がバンビエッタを襲う。

 

「ぐあっ!?」

 

バンビエッタは、衝撃で地面に叩きつけられる。

 

「ぐぅ……」

 

「おやおや、随分ボロボロになりましたね」

 

「うるさい……まだまだやれるっての」

 

バンビエッタは、ヨロヨロと立ち上がろうとするが、それよりも早く浦原が動く。

 

「《縛り紅姫》!」

 

立ち上がる寸前だったバンビエッタは、《紅姫》の剣先から出た黒紐の網で拘束され、地面に倒れる。

 

「くそ……離せ!」

 

バンビエッタは、何とか抜け出そうとするが、《紅姫》の拘束力は強く、身動きが取れない。

 

「さて……これで終わりです」

 

網に《紅姫》を突き刺す。

 

「《火遊紅姫 数珠繋》」

 

すると、網の繋ぎ目に火が灯り、大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ?」

 

数時間後、バンビエッタは《浦原商店》の客間で布団に寝かされていた。

 

「あたし……なんで寝てるんだっけ?」

 

体を起こすと、鈍い痛みが体を襲う。

 

「そうだ……修行でボコられたんだった……」

 

「おや、起きましたね。体のほうはどうです?」

 

襖が空き、浦原が現れる。

 

「……痛いわよ、アンタのせいでね」

 

「まぁまぁ、そう怒らずに」

 

「ふん……」

 

バンビエッタは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「それより、修行の成果ですけどね」

 

「ああ、そういえばアタシ、負けたのね」

 

「そうっス。それで、結果なんですけどね……合格っス」

 

「………は?」

 

「はい、これで修業は終了っス。お疲れ様でした」

 

「……ねえ、あたし負けたわよね。なんで合格なの?」

 

「別にアタシは負けたら不合格とは言ってませんよ。戦ってもらうって言っただけなので」

 

言われてみれば、そうだと思い、バンビエッタは納得する。

 

「でも、正直ここまで強くなるとは思いませんでした。アタシも教えがいがありました」

 

「そう……まぁいいわ。一応ありがとう」

 

「はい。それと、お迎え来てますよ」

 

そう言い、浦原が振り返る。

 

「よう、目ぇ覚ましたか」

 

そこには伊武紀が立っていた。

 

「伊武紀!?アンタ、なんでここに!?」

 

「浦原さんから連絡もらったんだよ。修業が終わったから迎えに来てくれって」

 

そう言い、伊武紀は用意されたバンビエッタの荷物を手に取る。

 

「歩けるか?なんなら、おぶるぞ?」

 

「大丈夫よ。自分で歩くから」

 

バンビエッタは、立ち上がり、体を軽く動かす。

 

「うん、問題ないみたいね」

 

「そうか、良かったな」

 

「まあね」

 

2人は、店を出る。

 

「じゃ、世話になったわね」

 

「いえいえ、まだなにかありましたら来てください」

 

「はいはい」

 

バンビエッタは、手をヒラヒラさせながら歩き出す。

 

「もう少し感謝しろって。浦原さん、今回はバンビが世話になった。感謝する」

 

「ははは……気にしないでください」

 

「でも………またあんなことしたら容赦しねぇからな」

 

「わかってますよ……アタシもまた脇腹に痣なんて作りたいくないっスからね」

 

そう言い、浦原は自身の脇腹を擦る。

 

服の下で見えないが、そこには痣ができている。

 

伊武紀が付けたものだ。

 

浦原がバンビエッタに使った最後のあの技。

 

あの技でバンビエッタは体に少し火傷を負った。

 

浦原は、その火傷と他の細かな傷を丁寧に手当てし、痕が残らないようにした。

 

だがらと言って、伊武紀は許さず、浦原の脇腹に強い一撃を叩き込んだ

 

浦原も、こればっかは仕方ないと素直に食らい、脇腹に痣を作った。

 

「伊武紀!いつまで話してるのよ!早く帰るわよ!」

 

「わかったよ!……それじゃな、浦原さん。またな」

 

「ええ、さよならっス」

 

少し離れた場所で待ってたバンビエッタに小走りで近づき、浦原に見送られながら伊武紀とバンビエッタの2人は帰っていった。



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第12話 調子の出ない死神

バンビが修行中の話です


「なぁ、伊武紀。バンビの奴、どうしてるんだ?」

 

バンビエッタが浦原と修行を開始して数日が経ったある日。

 

屋上で伊武紀、ルキアの2人と昼食を摂って居た一護が伊武紀に尋ねる。

 

「あ?何が?」

 

「この間から休んでるだろ?何かあったのか?」

 

「何もねぇよ。ちょっとしたアイツ個人の野暮用だ。1週間もすれば戻ってくるよ」

 

「1週間か……長いな」

 

「長くねぇだろ。てか、そんなにバンビに会いたいのか?」

 

「ちげぇよ。むしろ、お前のこと心配してやってんだよ」

 

「は?なんで?」

 

「だって、お前、バンビ居ねぇと調子出ねぇじゃん」

 

一護の言う通り、伊武紀はバンビエッタが一緒にいないと調子が狂う。

 

しかも、これはバンビエッタにも同じことが言える。

 

普段は口喧嘩などして仲が悪いように見えるが、実の所、伊武紀とバンビエッタはお互いに数時間一緒に居ないと調子を悪くする。

 

伊武紀の場合は無気力気味になり、バンビエッタの場合だと不機嫌になる。

 

「別にそんなことないけどな……」

 

「いや、あるだろ?この前だって、バンビが風邪で休んだ時、お前休み時間置きに連絡してたじゃねぇか」

 

「風邪引いて寝てるんだから、安否の確認ぐらいするだろ?」

 

「だからって、何度も連絡する必要なくね?」

 

(そうは言っても、俺が連絡しなくてもあっちから連絡来るし………)

 

バンビエッタからの授業中に来る不在着信履歴を思い出しながら、伊武紀は思う。

 

しかし、それを口に出してしまえば、また面倒なことになると分かっているため、あえて言葉には出さない。

 

「なぁ、一護。このジュースとやらはどうやって飲むのだ?」

 

すると、紙パックのジュースの飲み方がわからないルキアが一護にそう聞いてくる。

 

「どうって、ストロー差してに決まってんだろ」

 

「あれ?また一緒に居る。随分仲が良いんだねぇ」

 

そこに、水色が弁当を持って訪れる。

 

「水色。これが仲良い様に見えるか?」

 

「そう見られたくないなら、もうちょっと周りの目とか気にしなよ」

 

「俺が周りの目気にしてたら、とっくに髪の毛を黒に染めてるっつーの」

 

「それもそうだね」

 

そういい、水色が一護の隣に座り込む。

 

「こんにちは、朽木さん」

 

「あ、こんにちは、えっと……小島くん?」

 

「当たり!名前覚えてくれたんだね。改めて、僕は小島水色15歳。趣味は「女漁りだ」ってちょっと!人聞き悪いこと言わないでよ!」

 

「本当の事だろうが」

 

「失礼な。ちゃんと相手は選んでるよ。それに、僕は年上の女性にしか興味ないの!同年代や年下にとっては安全な子なんだから!」

 

「だからだよ」

 

一護の言う通り、ルキアは一護たちと同年代に見えて、100歳を優に超える年齢だ。

 

「おーす!一緒に飯にしようぜぇ!」

 

すると、そこに啓吾も現れる。

 

「って、ああ!そこに居るのは、転入生の朽木さん!どうしてここに!?」

 

「一護と伊武紀君が口説き落として連れて来たんだよ」

 

「なっ!?ちがっ!」

 

「なんだとぅ!一護、伊武紀!グッジョブ!」

 

「あ……お、おう……?」

 

一護が困惑気味にしていると、突如、啓吾が何者かに蹴られる。

 

「いって!なんだよって………大島!?」

 

突如現れた大島は、舎弟と思われる男子生徒と一緒に一護を見る。

 

「よぉ……黒崎」

 

「大島……お前、停学とけたのか………」

 

「てめーには話してねぇよ」

大島は、啓吾を退かし、一護の前に立つ。

 

「黒崎、いい加減その髪、黒に染めろって言ってんだろ。いつなったら染めてくんだ?俺とキャラが被るんだよ」

 

「被るも何も地毛だって言ったんだろ。第一、被ってもねぇよ。このヒヨコヘッド、雄雌判別されてぇか?」

 

「上等じゃねぇか、コラァッ!!テメーとは決着付けねぇといけねぇって思ってたんだ。今ここで、白黒ハッキリつけてやるれ!」

 

大島は、メリケンサックを付けて、そう叫ぶ。

 

(今、「やるれ」って言った……)

 

(これ、ツッコんだらダメだね………)

 

一護と水色が心の中でそう呟くと、伊武紀が口を開く。

 

「おい、「やるれ」ってなんだ?」

 

((言いやがった!?))

 

あっさりとツッコんだ伊武紀に、一護と水色は心の中でツッコむ。

 

「てめー!バカにしてんのか?ああん?ぶっ殺すぞ!!」

 

「バカにしてねぇよ。ツッコむ所だったから、ツッコんだだけだ」

 

「テメー……阿由葉、テメーも黒崎と一緒に葬ってやる………ぜ?」

 

最期の言葉を言い終えた瞬間、大島は背後に投げ飛ばされ。、屋上の地面を滑りながら倒れる。

 

「レイちゃん!?だから、止めようって言ったのに!」

 

舎弟は、大島ことレイちゃんを抱え、屋上を後にする。

 

「あ、チャド」

 

「よぉ」

 

レイちゃんを投げ飛ばしたのは、茶渡泰虎ことチャドだった。

 

「来るの遅かったな。どうしたんだ?」

 

「ああ、ちょっとな」

 

そう言うチャドは体が怪我していた。

 

「その怪我、どうしたんだ?」

 

「ああ、頭のは昨日、鉄骨が落ちて来て………手とかはさっきパン買いに行った時、オートバイと正面衝突して……」

 

「そ、それは災難だな」

 

「俺は平気だ。それより、バイクの人が重傷だったから病院までおぶって行って、遅くなった……」

 

説明を終え、チャドは背負っていた鳥かごを降ろす。

 

「なんだ、その鳥?」

 

啓吾は、チャドの持ってきたインコに興味を持つ。

 

そんな中、伊武紀と一護、ルキアの3人はそのインコに霊が入っているのに気づく。

 

『コンニチハ ボクハ シバタユウイチ オニイチャン ノ ナマエハ ?』

 

流暢に喋るインコに、全員が驚く。

 

啓吾はもうインコに夢中で、あれこれと話しかけ、水色も興味深そうに見る。

 

「なぁ、チャド……あのインコ、どうしたんだ?」

 

一護は、霊の入ったインコをどうしたのか、チャドに聞く。

 

「昨日………貰った」

 

「お前、面倒だからって説明を省くなよ………」

 

呆れる一護だったが、インコが危険な存在なのではと思い、警戒する。

 

「心配するな」

 

そんな一護にルキアが声を掛ける。

 

「確かに、何か入っているが悪いものではない。大方、寂しがっている霊だろう」

 

「それでも、いつ(ホロウ)になるか分からないからな。今夜あたり、魂葬した方がいいな」

 

「そうか……りょーかい」

 

一護は面倒そうに了承するが、どこか安心した表情になり、昼食を食べ終える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

伊武紀は商店街で買い物をして帰ることにした。

 

贔屓にしてる店に訪れる度に「最近、バンビちゃん見ないけどどうしたの?」「喧嘩でもしたか?」「なんかあったの?」など質問攻めに合い、うんざりしながらも適当に答える。

 

「ただいまー」

 

返事の帰ってこない部屋に向かってそう言い、冷蔵庫に材料を放り込む。

 

「どいつもこいつも、俺がバンビと一緒に居ないと調子が出ねぇっとかそんな訳ねぇだろうが」

 

ぶつぶつと独り言を言い、制服を着替える。

 

「さてと、夕飯作るか」

 

そう言って台所に向かおうとすると、足の小指を何かにぶつける。

 

「いっつ!なんだ?って、ああ、バンビの化粧品セットかよ。おい、バンビ!自分のモノはちゃんと片付けろって………今、居ねぇじゃんか」

 

そういい、伊武紀は溜息をつく。

 

「はぁ……何してんだかなぁ俺」

 

そう呟き、伊武紀は料理を始める。

 

「………調子でねぇなぁ」

 

ふと口から零れたその言葉は、殆ど無意識に発せられた言葉で、伊武紀は気づかなかった。

 



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