ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ (れいが)
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P'lofyrew

原作と設定(ステイタス、容姿、年齢ect)が異なる登場人物のみ

この世界線ではプレデターと関わるとレベルが2、3上がるのはざらです


 ベル・クラネル

 

 所属:ネフテュス・ファミリア

 

 年齢:21

 身長:190C

 

 ステイタス

 

 潜在能力:覚醒

     ・知能向上

     ・五感強化

     ・透視

     ・エコーロケーション

     ・身体能力増強

     ・再生能力

     ・人体変化

     ・生体電気操作

     ・無酸素呼吸

 

 容姿

 ・白髪ドレッドヘアー

 ・筋骨隆々

 ・長身

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ティオナ・ヒリュテ

 

 所属:ロキ・ファミリア

 

 年齢17

 身長:190C

 

 ステイタス

  

 ・LV 50

 ・力  SSSSS 2022 

 ・耐久 SSSSS 2018

 ・器用 SSSSS 1990

 ・敏速 SSSSS 2010

 ・魔力 SSSSS 1987

 

 アビリティ

 

 ・拳打 :SS

 ・潜水 :S

 ・耐異常 :S

 ・破砕 :S

 ・狩人:S

 ・治力 :S

 ・不屈 :SS

 ・俊足 :S

 ・視力 :S  

 ・洞察 :S

 

 魔法:Die set down

 

 スキル

 

 ・バーサーカー

 ・インテンスヒート

 ・プレデター・リアリス

 ・コング・フィジカル  

 

 ・黒髪ポニーテール

 ・B99・W60・H85

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 アーディ・ヴァルマ

 

 所属:ガネーシャ・ファミリア

 

 年齢22 

 身長:170C

 

 ステイタス

 

 ・LV 4

 ・力  F 380

 ・耐久 E 402

 ・器用 D 595

 ・敏捷 C 696

 ・魔力 B 709

 

 アビリティ

 

 ・耐異常 H

 ・治癒 I

 

 魔法:ガーナ・アヴィムサ

    ディア・カウムディ

 

 スキル

 

 ・ガナバディ・ブラッド

 ・ダルマス・アルゴ

 

 容姿

 ・セミロング

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 フィルヴィス・シャリア

 

 所属:ディオニュソス・ファミリア

 

 身長:170

 

 ・LV 4

 

 魔法:ディオ・テュルソス

    ディオ・グレイル

    エインセル

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 リュー・リオン

 

 所属:アストレア・ファミリア

 

 ステイタス

  

 ・LV 5

 ・力  E 518 

 ・耐久 E 400

 ・器用 B 798

 ・敏速 B 799

 ・魔力 A 801

 

 アビリティ

 

 ・狩人 F

 ・耐異常 G

 ・魔防 I

 

 魔法:ルミノス・ウィンド

    ノア・ヒール

 

 スキル

 

 ・フェアリー・セレナード

 ・マインド・ロード

 ・エアロ・マナ  

 

 ・金髪ロング

 ・B90

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 アリーゼ・ローヴェル

 

 所属:アストレア・ファミリア

 

 年齢21

 

 ステイタス

  

 ・LV 5

 ・力  C 603 

 ・耐久 G 201

 ・器用 S 850

 ・敏速 B 775

 ・魔力 F 351

 

 アビリティ

 

 ・狩人 H

 ・耐異常 F

 ・火閃 H

 

 魔法:アガリス・アルヴェシンス

 

 スキル

 

 ・ルブルード・べギア  

 ・バトレアテ・アシラス

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ゴジョウノ・輝夜

 

 所属:アストレア・ファミリア

 

 年齢22

 

 ステイタス

  

 ・LV 5

 ・力  B 905 

 ・耐久 F 359

 ・器用 A 980

 ・敏速 A 864

 ・魔力 E 415

 

 アビリティ

 

 ・夜争 G

 ・耐異常 F

 

 スキル

 

 ・カイナ・ブラッド  

 ・サキベニ

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ライラ

 

 所属:アストレア・ファミリア

 

 年齢21

 

 ステイタス

  

 ・LV 5

 ・力  D 520 

 ・耐久 H 150

 ・器用 S 980

 ・敏速 E 486

 ・魔力 G 340

 

 アビリティ

 

 ・耐異常 G

 

 魔法:ムース・マイン

    ウィングス・スマイト

 

 スキル

 

 ・ラットス・フィール  

 ・アジャイル・ソルト

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 キング・コング

 

 LV 100

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 リド

 

 LV 7

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 レイ

 

 LV 7

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 グロス

 

 LV 7

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ラーニェ

 

 LV 7 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 アイシャ・ベルカ

 

 所属:イシュタル・ファミリア

 

 ステイタス

  

 ・LV 4

 ・力  G 290 

 ・耐久 G 201

 ・器用 H 105

 ・敏速 H 155

 ・魔力 H 103

 

 アビリティ

 

 ・狩人 H

 ・耐異常 I

 ・拳打 H

 

 魔法:ヘル・カイオス

 

 ・黒髪ドレッドヘアー

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ナァーザ・エリスイス

 

 所属:ミアハ・ファミリア

 

 ステイタス

 

 ・LV 4

 ・力  H 109 

 ・耐久 H 250

 ・器用 E 430

 ・敏速 F 393

 ・魔力 H 105

 

 アビリティ

 

 ・調合 G

 

 魔法:ダルウ・ダオル

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ショーティ(?)

 

 年齢1027

 身長:115C

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ルノア・ファウスト

 

 所属:ネフテュス・ファミリア→デメテル・ファミリア

 

 年齢31

 身長:175C

 

 ステイタス

  

 ・LV 5

 ・力  S 990

 ・耐久 S 960

 ・器用 S 910

 ・敏速 S 930

 ・魔力 S 900

 

 アビリティ

 

 ・拳打 S

 ・狩人 S

 ・破砕 S

 ・拳士 S

 ・闘心 S

 ・剛体 S

 ・耐異常 S

 

 魔法:アサルトストライク

    ディテクトデンジャー

    

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ダフネ・ラウロス

 

 所属:ネフテュス・ファミリア→アポロン・ファミリア

 

 年齢18

 身長:175C

 

 ステイタス

  

 ・LV 5

 ・力  S 990

 ・耐久 S 960

 ・器用 S 910

 ・敏速 S 930

 ・魔力 S 900

 

 ・再生能力

 ・リミッター解除

 ・多種生物能力肉体付与

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 カサンドラ・イリオン

 

 所属:アポロン・ファミリア

 

 ステイタス

  

 ・LV 4

 ・力  I 50

 ・耐久 H 153

 ・器用 E 480

 ・敏速 E 499

 ・魔力 C 699

 

 アビリティ

 

 ・治療 G

 

 魔法:ソールライト

    キュア・エフィアルティス

 

 スキル

 

 ・ファイブ・ディメンション・トロイア

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 アレクサ・ウッズ(レックス)

 

 所属:オシリス・ファミリア→ネフテュス・ファミリア

    アイソレート・クラン

 

 年齢:33

 身長:170C

 

 ステイタス

 

 ・Lv.9

 ・力  SSS 1537

 ・耐久 SSS 1241

 ・器用 SSS 1840

 ・敏速 SSS 1687

 ・魔力 SSS 1211

 

 アビリティ

 

 ・狩人 S

 ・耐異常 S

 ・槍撃

 ・知的

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 スカー

 

 所属:ネフテュス・ファミリア

    アイソレート・クラン

 

 年齢4010

 身長:216C

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ケルティック

 

 所属:ネフテュス・ファミリア

    アイソレート・クラン

 

 年齢4015

 身長:255C

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 チョッパー

 

 所属:ネフテュス・ファミリア

    アイソレート・クラン

 

 年齢4000

 身長:220C

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ウルフ

 

 所属:ネフテュス・ファミリア

    アイソレート・クラン

 

 年齢6014

 身長:225C

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ヴァルキリー

 

 所属:ネフテュス・ファミリア

    アイソレート・クラン

 

 年齢4000

 身長:245C




お待たせ致しました。2期開始です。

第1部で読み難いという指摘がありましたので、今回から文章を改良いたします。


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R'ewtlac onew's pusuto
EX>∟ ⊦ 修練| アラクニド・バグズ


 大規模な爆破によって、聖地はこの地から存在が消え去った。

 エルダー様達よりも太古の昔からそうしているので、悲しむと

 いった感情は芽生えはしない。

 

 オラリオへ戻り、マザーシップに帰艦した僕は待機していた皆から

 称賛された。

 聖地で浴びた咆哮などではなく、跪いて頭を垂れていた。

 新たな長となった事の祝福も込められているのだと感じた。

 

 通路を歩いている際に突然、強烈な睡魔に襲われた。

 覚醒を使用した副作用なのかわからないが、とにかく瞼が強制的に

 閉じられそうになる。 

 何とか自室へ辿り着き、ベッドに寝転ぼうとしたが爪先が段差に

 引っ掛かってしまい倒れる。

 その瞬間、僕の意識は途絶えた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 パラレルバース。

 僕らが住まうこの時空と連なって存在する別の時空の総称だ。

 

 特徴としてはその時空に僕が居るとしても、その僕自身は全く異なる

 人格、人種、人生となっている事があったり、元から存在しないという

 事もある。

 

 どのようにして別の時空へ移動し発見出来たのか。

 それはとあるクランが開発した技術によるものだ。

 

 スペース・ローグ・クラン。 

 構成はリーダーであるボーグ、別名はロスト。他にレーザーショット、

 スパイクドテールと2名が属している。

 

 ボーグはロスト・クランの初期メンバーであったが、後に独立し自身の

 クランを創立した方だ。

 その技術を利用して種族から依頼を請け負い、時空を超えて狩りをする

 クランであり謂わば傭兵として活動している。

 

 彼らの技術によって、パラレルバースを行き来する事が可能となり

 様々な時空での狩りを行えるようになった。

 そうした経緯の元、僕はその時空に居る獲物を狩り、今以上に

 強くなろうと修練を始めた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 最初に訪れたのはパラレル1997117。

 この時空に存在する地球から離れて位置する連星クレンダスの惑星へ

 着陸する。 

 

 スカウト・シップを下りて早々に生体感知センサーが多数の反応を

 示す。

 僕は銀の槍を手に取る。成人の儀で使用する予行として使おうと 

 思ったからだ。

 

 それはべスカーと呼称される金属で、非合法に製造された槍であり

 僕らの武器の素材となる鉱石のべリタニウムと同等の硬質さを備えた

 武器だ。

 

 反応が急接近してくる。

 そして、姿を現したのは全身が黒く体の至る所がオレンジ色の模様に

 染まっている昆虫型生物。

 鋭く尖った大顎状関節を巨大に発達させた頭部の下部からそのまま

 節足が生えた様な外見をしている。

 

 1匹が僕を発見するなり奇声を上げながら、大群を引き連れ向かって

 きた。

 

 ウ゛オ゙オ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!

 

 僕は向かって来る昆虫型生物の大群に吼え返し、勢いよく跳び上がって

 銀の槍を投擲する。

 一直線に飛んでいった先を進んでいた1匹を貫き、動けなくさせると

 降下していきながら、その個体に飛び乗った。

 飛び乗ったと同時に銀の槍をより深く押し込んで息の根を止める。

  

 銀の槍を引き抜き全方位を見渡すと、昆虫型生物だらけだった。

 よし...全て狩ってやる...!

 

 フォシュンッ! フォシュンッ!

 

 プラズマバレットで1体ずつ胴体に命中させ、体内で爆発させる。

 虫並の耐久性は持ち合わせていないらしく、一発で死ぬならこの数でも

 脅威じゃないな。

  

 1匹が接近し、大顎状関節の両側にある鎌状の節足を横向きに振るって

 くる。

 僕は銀の槍で弾き返し、隙を狙って大顎状関節の根元である口の中に

 穂先を突き入れた。

 そのまま振り払い、遠心力で向かってくる個体に向け投げ飛ばす。 

 投げ飛ばした死骸と衝突した昆虫型生物は同等の質量を持っている

 死骸に押し潰される。

 

 また前方から1匹が大顎状関節で噛み付こうとしてきた。

 更に背後からも強襲を仕掛けて来るのに気付く。

 噛み付こうとしてくる1匹と対峙したままバーナーの向きを背後に

 向けてオートエイムにより照準を合わせた。

 

 フォシュンッ!

 ガシュッ! バシュッ! ザシュッ! 

 

 背後から迫ってきていた昆虫型生物を殺し、対峙した1匹は先制して

 鎌状の節足を節目から斬り落としたと同時にリスト・ブレイドを

 目元付近に突き刺して体内を抉り仕留める。

 

 それから何十、何百匹もの昆虫型生物を狩った。

 やがてポツポツと数匹だけになってきた所で、一息つく。

 しかし、突如として地響きが聞こえくると頭上から流星群の様な、

 青い発光体が幾つも降り注いできていた。

 僕は一度その場から跳び上がって退避する。

 

 その青い発光体が落下した途端に地面が陥没しながら焼け焦げ、

 周囲に居た昆虫型生物を消し炭にしてしまった。

 丘の上に着地し、ゴーグルの視野を拡大させて遠方を確認した。

 そこに居たのは巨大な鞘翅目の生物で、突き上げた腹部の先端から

 あの青い発光体を放っているのが見える。

 

 あれだけの熱量と威力を持つエネルギーを体内でどの様にして

 生み出しているのかと僕は興味を持った。

 鞘翅目の生物の所へ向かうべく、クローキング機能で姿を消して

 その場から移動する。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 草木や水源が全く無いほとんどが岩盤である乾燥地帯を進んでいく。

 途中、昆虫型生物と類似した緑色の飛翔する生物と遭遇した。

 飛翔というよりも滑空しているようで、僕には気付いていなかった。

 襲って来ないのなら目標である鞘翅目の生物の所へ向かおうと、

 そのまま狩らずに素通りする。

 

 鞘翅目の生物が居る地点から10M付近の岩陰でゴーグルを通し、

 情報分析装置で生体を調べ始める。

 ...驚いた。体内器官で熱プラズマを生成する事であの青い発光体を

 放っているのか。

 図体がデカい分のだから熱量と威力も凄まじいのだと頷ける。

 この情報は記録しておこう。新たな技術開発に役立つだろうから。

 よし...狩るか。

 

 概ねあの腹部が弱点だと思い、ハンドプラズマキャノンを手に取って

 狙いを定める間もなく砲撃した。

 砲撃を察知した鞘翅目の生物だが、既に遅い。

 

 ド ガ ァ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ンッ!!

 

 やはり予想通りだった。

 腹部に命中すると誘爆して他の個体や昆虫型生物も巻き添えにしながら

 爆発四散した。

 

 カカカカカカ...

 

 僕は鳴き声を上げ、余韻に浸っていると足元が揺れ動くのに気付く。

 背後から轟音が聞こえたので振り返って見てみると、地面を突き破って

 先程と同様に巨大な昆虫型生物が出現した。

 全体的に丸みを帯びており見てわかる通りの重量級だ。

 

 巨大な昆虫型生物は僕を見つけると、頭部の触覚から稲妻を発生させて

 口を開き、オレンジ色の何かを吐き出してきた。

 僕は跳び上がって回避し、岩の上に着地するとそれが何かを確認する。

 見た目では火炎放射をしている様に見えるが、実際には噴霧状にした

 液体を吐き出しているのだとわかった。

 加えて、その液体は強烈な腐食性有機酸であるともわかった。

 その辺を徘徊していた別の昆虫型生物が浴びせられて融解してしまった

 からだ。 

 

 僕は虫の代わりになると思い、狩る事にした。

 巨大な昆虫型生物が前脚を振り下ろしてきたので、僕は最小限の動きで

 回避する。

 前脚に近付いてリスト・ブレイドを関節部に突き刺す。

 虫の強酸性対策は施してあるが、万が一を考えて予備もあるこれで

 どうなるかを試してみた。

 引き抜いてみると、有機酸と同じ色の血液が付着していたが刃が

 溶けてはいない。

 どうやら、吐き出すあの液体のみが融解するようだ。

 

 それを理解した僕は巨大な昆虫型生物の胴体の下から抜け出し、

 その先に見つけた岩山の上に飛び移る。

 巨大な昆虫型生物は首をこちらに向けようとしている。

 しかし、可動範囲が狭いようで巨体を動かさないと無理なようだった。

 僕は跳び上がって、巨大な昆虫型生物の背中に乗った。

 

 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!

 

 溶けないとわかったので銀の槍を背中に突き刺す。

 巨大な昆虫型生物は僕を振り落とそうとしているが、ブーツの機能で

 背中に貼り付いているため落ちはしない。

 やがて、空洞が出来る程の穴を開けるとプラズマ・グレネードを

 取り出す。

 

 カチッ 

 ピッ ピピッ ピッ ピピッ ピッ...

 

 それを空洞に投げ込み、即座に背中から飛び上って再び岩山の上に

 着地する。

 ...デカブツにはこの手が一番だ。

 

 ド ガ ァ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ンッ!!

 

 プラズマ・グレネードが起爆し、巨大な昆虫型生物の背中に体内を

 覗かせた大穴が開く。

 オレンジ色の血液や肉片を辺りに飛び散らせ、巨大な昆虫型生物は

 力無くその場に崩れ落ちた。

 ...大した事もなかったが、まぁ...記念の戦利品としよう。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「あれだけの数を殲滅したなんて...一体どこの誰なんだろう」

 「さぁな。調査班も徹夜して調べたらしいが、無駄骨だったみたいだ」

 「気の毒に...」

 「ああ...おっ、来たぞ。おーい!こっちだ!」

 「整列ッ!」

 「ヴェルフ、彼らは?」

 「補充兵だ。...新米揃いのな」

 「僕達も年って事か...」

 「まだ20前半だろ。ほら、何か言ってやっとけよ、伍長」

 「うん。...新入りの皆、隊のルールは1つ。

  全員が戦う。決して逃げるな。それが出来ない奴は撃ち殺す。

  わかったか!」

 「「「「「We get you,sir!」」」」」

 「...愚連隊へようこそ」

 「クラネル愚連隊...で、覚えてくれ」




パラレル1997117はスターシップ・トゥルーパーズの世界戦でした。

幼少期の頃に見た覚え(訓練中のあのシーン)があって、作品自体は忘れてましたが今になって思い出しました。

過去回想はベルの夢なので、本編と繋がりはないです。
よって断片的に投稿していきます。
今回は1話と同等ですので、こちらからお読みください。


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EX>'<、⊦ 修練| ターミネーター

 連星クレンダスを離れ、パラレル1997117からもそのまま

 時空移動する事にした。数千匹は狩って満足したからだ。

 

 外気圏に到達し、宇宙空間まで上昇。

 それと同時にワープドライビングサークルを射出し、次なる時空へ

 移動した。

 

 パラレル19972029。

 その宇宙空間を飛行していると、右斜め前方の8光年先に惑星を

 観測した。

 その惑星の外気圏までワープドライブし、眼を疑った。

 灰色に染まった地表の至る所が赤く燃えており、弧を描く閃光も

 見えている。

 明らかに惑星規模での争いが起きているようだった。

 

 これだけ規模が大きければ僕が求める獲物も居ないだろうと思い、

 別の時空へ移動しようと考えた。

 しかし、ワープドライブを設定している際、ある事に気付く。

 太陽と月、そして惑星の位置からして...それが地球なのだと。

  

 最初こそは自分の答えに疑心を抱いたものの、本当に違うのかと

 気掛かりとなったので着陸する事にした。

 止め処なく弧を描く閃光を確認しながら、なるべく攻撃されていない

 地点へ降下していく。

 

 上空まで降りると、そこから見える荒廃した世界に唖然とした。 

 瓦礫と化した多くの建物の残骸、灰混じりの白濁とした風。

 本当にここが地球なのか、疑心がまた膨らむ。

 

 少なからず原型を留めている建物の屋上に着陸し、ハッチから外へ

 出ると屋上の縁から周囲を改めて見渡してみた。

 争いの

 

 パラレルバースに存在する各地球に訪れた事は幾度かある。

 僕の生まれ故郷よりも目覚ましく文明が発展した地球もあれば、反対に

 退化して人類が滅亡しかけている地球を目にしてきた。

 建物の構造や降り積もった灰から覗く黒い物体がアスファルトで

 舗装された地面であると考察して、この地球は文明が発展しているの

 だと察した。

 

 ...ギュ ラ ラ ラッ!

 

 建物の縁から飛び降りた直後に、鈍く重たい銃声が聞こえた。

 どうやら付近で戦闘しているらしい。

 クローキング機能で姿を消してあるので、銃声が聞こえた方へ

 向かっていると、前方から黒い物体が僕の真横をすり抜ける。

 

 ブ ロ ロ ロ ロ ォ ォ オッ...!

 

 誰かが乗っている2輪走行車だ。

 猛スピードで加速していき、あっという間に地平の彼方へと消えて

 いった。

 その正体はわからないまま、見送って間もなく今度は人影が近付いて

 きているのに気付く。

 シルエットからしてボロボロの服を着た人間だと思った。

 

 ...ギュオン ギュオン...

 

 ...いや、違う。人間じゃない...

 機械の体...アンドロイドだ。 

 人間の骨格を模した姿で右腕に小型ガトリング砲、左腕には砲身のみの

 グレネードランチャーを装備している。

 

 先程の2輪走行車を操縦していた人物はこいつから逃げていた事、

 更にこの地球が荒廃したのも大方、理解した。

 人工知能が人類に反旗を翻すというのは、あり得なくもないが...

 地球規模で襲い掛かるのは想像し難い。

 ...まぁ、それはともかくとして...

 故郷とは違えと、別の意味では同じ故郷だ。こいつは狩ってやる。

 

 アンドロイドの背後にある瓦礫の山に向けてオーディオデコイから

 音波を放射し、ぶつかると設定していた音声が響き渡る。

 

 『I'll be back』

 

 ドシュンッ!

 ド ガ ァ ァ ァ ア ア ア ア ンッ!! 

 

 音声を聞くや否やアンドロイドは振り返ってグレネードを瓦礫の山に

 向け、発射する。

 グレネードの爆発によって瓦礫の山は崩れ落ち、地面に大量の瓦礫が

 転がった。

 アンドロイドは声がしたと思っている場所に近付いて行く。

 僕は背後から近付き、項から制御系機能の一部が露出しているのに

 気付いた。

 

 『Hasta La Vista Baby』

 

 ドシュッ!

 バチバチバチィッ! バチィンッ! プシューッ...

  

 リスト・ブレイドでそこを深くまで突き刺し、破壊する。

 膝から崩れ落ちたアンドロイドは両目のライトを点滅させ、内部では

 電気回路がショートしながら火花を散らす。

 リスト・ブレイドを引き抜いてから肩を持ちながら脊椎部分に当たる

 機構を掴み、強引に引き千切った。

 

 ...見れば見る程、人間の頭蓋骨のそれだと思った。

 もしかするとこの上に人工皮膚を被せていたのかもしれない。

 持ち帰って解析してみるのも面白そうだ。 

 その戦利品を腰のベルトに固定し、周辺を探索しようと考えた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 実弾式の武器を主流としていると思っていたが、どうやらあの個体と

 同型のアンドロイドのみが使っているとわかった。

 他にも見つけた類似するアンドロイドは高エネルギー照射型の武器を

 しようしていたからだ。

 射程距離400Mのバーナーと同じ仕組みでプラズマエネルギーを

 収束し、発射するライフル銃。

 文明が発展しているとはいえ、ここまで最新鋭の武器を作り出したのは

 どこの誰なのか...

 その答えを今、知った。

 

 『...敵...有効距離は...強力だが、T-600は重いため、動きが遅い。

  初...の...デルだ

 

 その辺でラジオ受信機を拾い、回線をガントレットに繋ぐ事で電源を

 入れた。

 スピーカーから流れる音声は途切れ途切れだが内容は大方把握した。

 この世界における今から32年前の8月29日2時5分。

 スカイネットと呼ばれるAIコンピューターが自己学習の果てに自我を

 得た事で人類を根絶すべく、機械が戦いを起こし地球は焦土と化した。

 生き残った人類は数十年に渡って現在、反撃すべく抵抗軍を結成して

 機械軍に対抗しているそうだ。

 その機械軍のターミネーターこそがあのアンドロイドで、僕が最初に

 狩ったのはT-600、その後に狩ったのがT-800と呼ばれるモデルだ。

 

 『わた...は、ヴェ...ロッゾ...

  こ...を聴い...る君は...抵抗軍の一員だ

 

 ...しかし、この声に聞き覚えがあるような気がするのは何故だろう。

 この地球における僕の知人だったのか...?

 ともかくだ、この地球から早く去る事にしよう。

 僕が機械軍との争いに関わる理由も無ければ、協力してほしいと

 頼まれてもいない。

 それに最終決戦の真っ只中らしいので手助けも必要ないだろう。

 僕は夜となっている今ならターミネーターに気付かれず、地球から

 出られると判断し、スカウト・シップを置いてきた場所へ向かおうと

 した。

 

 ド ゴ ォ オ オ オ オ オ オ オ ンッ!!

 

 所が、横を振り向いた先を見ると今にも崩れ落ちそうだった建物を

 薙ぎ倒して巨大な影が闇夜に浮かび上がる。

 頭部は無く、両脚が逆関節となっている全高凡そ25Mはある巨大な 

 ロボット。

 仲間が死んだ...いや、破壊されたのを感知したのか不明だが、周囲を

 両肩のライトで照らしながら見渡して何かを探している。

 きっと人間に違いない。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 僕はその場から離れ、同様に崩れ落ちそうな建物の窓の縁や外壁の穴に

 手を掛けながら登っていく。 

 登り切って屋上を走りながらエネルギー・ボアを手に取し、その勢いを

 助走にして飛び上がった。

 

 巨大なロボットの背中に向かってエネルギー・ボアの先端刃を

 投げ飛ばし、突き刺さると当時に伸びている鎖を収納していく。

 そうする事で僕は巨大なロボットの背中に辿り着き、足で着地すると

 エネルギー・ボアを右手で握りながら左手にウォー・クラブを取った。

 勢いをつけて機械の隙間に引っ掛け、エネルギー・ボアの先端刃を

 引き抜いてから今度は視線の先に見えた武装と思われる物体に、輪へと

 変更した先端を投げ飛ばす。

 突起した箇所に上手く引っ掛ける事に成功したので同じ様に鎖を

 収納していき、巨大なロボットの腰に乗った。

 

 グオォォオン...! ズオォオオッ...!

 

 すると、巨大なロボットは姿が見えない僕が乗った事に違和感を

 感知したのか上半身を激しく左右に振るい始めた。

 僕は銀の槍を肩の装甲に突き刺す事で振り落とされないようにすると、

 情報分析装置で内部構造を調べる。

 生体だけでなく機械も解析は可能であり、弱点を見つけ出せる。

 

 ピピピピッ... ピピッ ピピッ

 

 ...見つけた。すぐそこの中央より前か...!

 巨大なロボットの動きが一瞬だけ止まったのを見計らい、銀の槍を

 装甲から引き抜くと弱点とされる場所に移動した。

 そこにあったのは巨大なロボットの眼となるカメラ。

 僕は銀の槍でそこを一突きする。

 

 バヂィッ! バチバチバチッ...!

   

 油が切れた様な動きで藻掻き始める巨大なロボット。

 僕を掴もうと腕を上げてくるが体格の構造上、届かないらしく

 開閉させる指が空を切っていた。

 やがて姿勢を崩した巨大なロボットが倒れていく中、飛び降りて

 距離を取る。

 

 ガッ!シャァァァァアアアアアンッ!!

 

 砂埃を巻き上げ、地面に倒れた巨大なロボットは動力系統などの機能を

 停止した。

 動かなくなった巨大なロボットを観察し、仕留めたと確認したので

 僕はその場を離れようとした。

 ...念のためだ。再起動したり修復されないようにしておこう。

 そう考えた僕は残骸に近付いていき、カメラのあった破損箇所に

 プラズマを充填させたプロミキシティ・マインを放り込む。

 

 カカカカカカ...

 

 数十M離れた所でガントレットを操作し、プロミキシティ・マインを

 起爆する。

 内部から破裂するように残骸は爆発し、跡形もなく吹き飛んだ。

 僕は今度こそ仕留めたのを見届けてその場を去った。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...ベル、どうなってるの...?」

 「わからない...けど、抵抗軍の誰かが倒したんだよ...!

  レフィ、本当に終わるんだ!ターミネーターとの戦いが...」 

 「...うん」




パラレル19972029はターミネーター4の世界線でした。

設定の配役はヴェルフ→ジョン
      リヴェリア→サラ
      ベル→カイル
      レフィーヤ→スター
      
当然ながらT800シリーズはシュワちゃんです。

ちなみに前話でレーザー・ショットもこの世界に来て狩ってたりしてます。


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EX ̄、⊦ 修練| エイリアン:ID4

 パラレル19962016。

 

 ワープドライビングサークルを潜り抜けた宇宙空間を飛行中に

 謎の物体を探知した。

 センサーを見るとこちらへ近付いて来ている。

 この時空では宇宙飛行技術が発達している文明があるのか...?

 

 僕はコミュニケーション・シグナルを発信し、相手に敵意は無い事を

 知らせようとする。

 シグナルの内容はヤウージャ語や様々な語源による素数であり、意思の

 疎通が可能な知的生命体であるとアピールするものだ。

 科学や理論など文明を発達させた生命体が存在するという前提では、

 どの時空においても通用するはずなので、この様な事態の時には必ず

 実行している。

 そして今回の相手は...

 問答無用で攻撃してきた。淡い緑色に発光するレーザーを。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 バリアを張っておいて正解だった...馬鹿正直にスカウト・シップの

 機体を晒していたら死んでいたに違いない。

 再びレーザーを発射してきたため、僕はスカウト・シップを左へ

 傾けると回避する。

 

 後方へ移動しながら攻撃してきた敵機を目視で確認した。

 本体は丸みを帯びた楕円形をしており、コックピットと思われる部位の

 上には楕円形となっている部分がある。

 兵装は下面にある二門のレーザーキャノンで、威力はこちらの機体が

 揺れる程度には強いが連射性は低いようだ。

 

 僕は仕返しにプラズマシェルを発射する。

 通常なら1発で撃破出来ると思っていたのだが、敵機にも同じ様な

 シールドがあり、防がれてしまった。

 着弾した際に可視化したのを確認したのですぐに気づけた。

 

 敵機は攻撃を続行してきて僕も応戦する。

 円を描くように飛行しながら、なるべく攻撃を受けないように回避して

 プラズマシェルを発射。

 命中するも、やはりシールドで防がれて撃ち落とせない。

 

 やがて、攻撃が通じないとお互い理解した事で膠着状態が続いた。

 周波数を合わせたプラズマシェルで攻撃する手もあるが、それが

 適性なのか時間が掛かるだろうな...

 ここで逃げるという選択肢は断固として取らない。

 先にやられてやり返さずに逃げるなど、掟以前に僕自身のプライドが

 許さない。

 もしそんな事をしてしまえば、ノースハンマーでケルティックに

 強打され...。...強打?

 ...やるか。

 

 敵の下後方へワープドライビングサークルを発射し、接近しながら

 上昇すると急降下して敵機に突撃した。

 反応が遅れた敵機はレーザー砲を放つ間もなく衝突し、そのまま一緒に

 ワープドライビングサークルを潜り抜けていく。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ワープドライビングサークルを潜り抜けた先はこの時空に存在する

 地球。場所は砂漠地帯だ。

 無重力空間から重力がある惑星に突入した事で急激な荷重が掛かり、

 敵機もスカウト・シップも地面に向かって落下していっている。

 

 このまま落下していけば2機とも墜落するが重力制御システムにより

 こちらは上空で停止し、敵機は地面を抉りながら不時着した。

 動かなくなってからしばらくして着陸する。

 

 スカウト・シップから降り、破損したと思われる箇所から白煙を噴く

 敵機に近付いていく。

 機体上面を登り、ハッチを開けると機内は白煙で満ちており、内部の

 構造がよく見えない。

 

 ギ ニャ ァ ァ ア ア アッ!

 

 次の瞬間、白煙に紛れて飛び出してくる搭乗者。

 どうやらまだ戦意を持っているようなので、僕はその顔に一発拳を

 叩き込んでから外へ投げ捨てた。

 

 搭乗者は俯せに倒れ、背部の触手を蠢かしながら藻掻いている。

 僕は機体から降り、肩に足を引っ掛けつつ正面を向かせるとどこが

 弱点かわからないが、直感的に額だと思いそこをエルダー・ソードで

 突き刺す。

 

 すると、激しく暴れ始めて僕を退かそうとしてくるが、胸部辺りに

 膝をついて落ちない体勢を取る。

 やがて動かなくなるのを確認してから深々と突き刺さっていた

 エルダー・ソードを引き抜いて、搭乗者を観察する。

 

 長い両腕に脚部は逆関節で異様に細い腰部から盛り上がっている胸部の

 上に繋がる頭部は、菱形に広がった皮膜が付いている。

 情報分析装置で調べてみると、頭部の奥にもう1つの顔が見えた。

 

 ...なるほど、有機体で構成されたバイオ・メカニカル・スーツなのか。

 それで本体はこの奥に見える顔がそうなんだ。

 僕は顔面の中央にある筋にエルダー・ソードを浅く刺し、それに沿って

 斬り裂いた。 

 

 グパァッ...!

 

 顔が真っ二つに割れ、紫がかった白い中身が露出する。

 そこに手を捻じ込んで奥にある顔を探り当て、皮膚を剥がすとその顔を

 引っ張り出す。

 口が無く後頭部には平たい突起物があり、とても小柄な生命体。

 エルダー・ソードが胸部を貫いたらしく、既に絶命していた。

 

 ザシュッ!

 ドチャッ...

 

 戦利品に値しないがこの時空における未確認の生体として調べるため、

 持ち帰ろう。バイオ・メカニカル・スーツもだ。

 酷く臭うようだが、ヘルメットの脱臭機能で気にはならないだろう。

 僕は戦利品を腰に引っ提げ、ズルズルとバイオ・メカニカル・スーツを

 引き摺りながらスカウト・シップへと向かった。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 「2体は既に墜落で死んでいましたが、もう1体はまだ生きています」

 「だが、数週間しか保たないだろうな...」

 「ええ...しかし、上空から落下してきたはずなのに、何故誰も気付かなかったのでしょうか?」 

 「さぁ?全く予想もつかないがそんな事よりも、早くこいつはエリア51へ運ぶぞ」

 「はい」




インデペンデンスデイの宇宙人との宇宙戦でした。
あの戦闘機が生物の外殻と知った時は驚きましたね。


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Maine Episode
>∟ ⊦ 領域


 「...っ...?」

 「あっ...!ティオナさん、大丈夫ですカ?」

 「...レイ?」

 

 体を起こしたティオナは辺りを見渡して、そこが洞窟であると気付く。

 自分が敷かれている葉っぱの上に寝かされていた事にも。 

 

 「(あれ?何があったんだっけ...?)」

 

 記憶が曖昧になっている、ティオナがそう思っていると洞窟の入口から

 誰かが入って来るのに気付く。

 ナルヴィだ。あの時の様な異形の姿ではなく、最初に出会った時と

 同じ姿となっている。

 

 「起きた?大丈夫?」 

 「え?あ、う、うん。大丈夫だけど...

  あたし、ナルヴィと勝負をしてたよね?それで...あ、そっか...」

 「そう、ちょっと力加減を誤っちゃって...ごめんね?」

 「...ううん。始まってからすぐに敵わないってわかってたから」

 

 開始してから僅か5分も経過しない内に、ティオナはその圧倒的な

 力の差に打ち負けたのだ。

 神の分身である精霊の力を侮ってなどいなかったが、あんなにまで

 吹き飛ばされるなんて、と思い返す。

 

 しかし、ふと自身の体を見て違和感を覚えた。

 どこにも傷跡が無い。それどこか洗ったかの様に綺麗となっている。

 加えて疲労感も一切せず、体力が戻っているように思えた。

 

 「もしかして、ナルヴィが治してくれたの?」

 「うん。傷の手当てはお手の物だからね」

 「かなり傷が酷かったのデ、ティオナさんが死んでしまうと思ってしまいましタ...」

 「あはは...まぁ、あたしも途中から勝てないってわかったから、守りに入って正解だったのかもね」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 しばらくしてティオナは洞窟から出ると、軽やかなフットワークで

 鋭く突き出した拳打が空を切った。

 体長面にも支障はないようで、これならすぐにでも動けると確信する。

 しかし、ナルヴィから話があると言われて聴く事にした。

 キングコングはどこかへ行っているらしく、その場には居なかった。

 

 「ティオナ、私見として...貴女はとっても強いよ。

  私の魔法を何回も耐えたんだから、それだけでもすごいと思う。

  だけど...やっぱり使える力の限界を超えるのが難しいみたいだね」

 「力の限界...?」

 「恩恵のおかげで基本的な力は底上げされるけど、本当はもっとすごい力が人間にはあるんだよ?

  他の動物には無い...人間だけに宿っている力が。

  それを物にしたら、神々も知り得ない人間の可能性を超える事が出来るんだよ」

 

 ナルヴィの言葉にティオナは疑う余地など無かった。

 何故ならその目で目撃して鮮明に覚えているからだ。

 

 「(あの時、ネフテュス様も人間の可能性を超えたって言ってたけど...

  どういう意味なんだろ?)」

 「ナルヴィ、超える事が出来たら斬り落とされた腕をくっ付けたり、すごい力持ちになるの?」

 「うん。だけど、最も重要な真価は精神かな。

  精神は人間の何もかもにとって必要不可欠で、可能性を超えた人間の精神は無限となってティオナが言った通りの事が可能になるよ。

  ...もしかして、見た事あるの?」 

 「...うん、実はね...」

  

 ティオナはベルの事について自分が知る限りの事を話した。

 話を聞いている内にナルヴィは口元に手を当て、首を傾げ始める。  

 

 「どうかしたの?」

 「うーん...その子は思いっきりイレギュラーな方法で超えたんだなぁって思っただけだよ。

  だって、私が話してた事は神の恩恵を授かった前提だったから...

  ちょっとビックリしちゃった」

 「...そう、なんだ...」

 「...ティオナさン?」

 

 俯いたティオナを見て、レイは心配そうに見つめる。

 やはりベルと再戦を挑んでも今のままでは一生勝てない。

 何度挑んだとしても結果は同じままだと、ティオナの頭の中は

 そんな考えでいっぱいになっていた。

 

 「(だけど...逃げたりなんてしない。

  ベルに気持ちを伝えるんだって決めたんだからっ)」

 

 それなら...と、ナルヴィに問いかける。

 

 「ナルヴィ。あたしも...あたしも可能性を超えたい。

  どうすれば超えられるの?」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ナルヴィはその瞳に迷いは全く無いと理解し、徐に両手を胸の前に

 重ねた。

 唇を僅かに動かして何かを呟いていると重ねている両手から光が

 溢れてくる。

 

 驚くティオナとレイを余所にナルヴィはその光を手で包み込みながら

 前に出し、手を広げてそれを見せた。

 真っ赤に発光しており、まるで炎の様な揺らめきが見える光。

 ティオナとレイはそれに釘付けになっていた。

 

 「これは精霊が人間に与える加護となる力の源。

  ティオナ、触ってみて?」

 

 ナルヴィはに言われ、ティオナはその光に触れる。

 その途端に全身を何かが駆け巡った。

 但し何も感じない。熱くも冷たくも、痺れや空気抵抗で肌に何かを

 感じるといった具体的なものでもない。

 

 光に触れてから数秒もしない内に、ティオナは素早く手を離して

 しまった。

 激しく動いたかの様に息を荒くしつつ全身から汗を流しており、

 見開かれた瞳は焦点が定まっておらず、揺れ動いている。

 更には両方の鼻腔から鼻血が垂れ始める。

 

 「んっぐ、ぁぅ...!」

 「ティオナさン!?」

 

 その場に蹲るティオナにレイは背中を擦りながら安否を気遣う。

 一方でナルヴィは構わず、話し始めた。

 

 「人間の可能性を超える...つまりは神智を超越した精神の領域へ辿り着かないといけない。

  この力の源に触れる事で、貴女はその領域に少しだけ踏み込めたの」

 「っ...こんな...っ、こんな...苦しいなんて...」

 「そう。ティオナは耐えるのでやっとだけど、並みの冒険者ならとっくに魂の抜けた人形になってる所だよ。

  ベルは死を克服して...その領域に辿り着いたんだと思うな」

 

 ナルヴィの予想にティオナは何も言えなかった。

 ベルは常識を覆して強くなったのだと頭では理解しているつもりだが、

 どうすればそんな事が出来るのかが理解出来なかった。

 死ぬ時は必ず死ぬ。それが普通だと思っていた事も含めて。

 

 「ティオナ。精神を強くしましょう?

  そうすれば...可能性を超える事が出来るはずだから」

 「...うん。今すぐに始めよ」

 

 ティオナは鼻血を手の甲で拭い、立ち上がってナルヴィと向き合った。

 付いてくるように言われ、ティオナはレイと共にどこかへと向かうの

 だった。




ここからが本編です。


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>'<、⊦ 絵

 移動先はナルヴィと最初に出会ったあの場所だった。 

 

 少し待つように言われ、しばらくすると何かを持ってナルヴィは

 戻ってくる。

 手製の細いブラシと窪んだ箇所に黄色い液体が溜まっている石の皿で、

 それをティオナは受け取った。

 

 「それじゃあ、まずは...ティオナ。そこの花を描いてみて?」

 「え?花?...あの花?」

 「うん、描くだけでいいよ」

 「わ、わかった...」

  

 頷くと岩の表面に花を描き始める。

 表面が粗いため上手く筆先が進まず、本来は柔らかな曲線になるはずの

 花弁がカクついた線となってしまっている。

 更には黄色い液体の大量に筆先に染み込ませているので、描いた線から

 雫が垂れていく。

  

 やがて、描き終えたティオナは息をついてナルヴィとレイに見せる。

 外見が美女であるのに対しての差異が凄まじい花の絵。

 本人としては力作らしく、したり顔で鼻を鳴らした。 

 

 「どうかな?」

 「そ、そノ...えっト...」

 「...うん。個性的だね」

 「は、はイ!個性的、ですネ!」

 「...それ、褒めてる?」

 「も、もちろん褒めてますヨ!?」

   

 ジト目で問いかけられたレイは慌てふためきながら肯定する。

 一方でナルヴィは気にせず、ティオナが描いた絵の横に何かを

 描き始めた。

 それに気付いた2人は視線をそちらに移す。

 

 鼻歌を歌いながら表面が粗いのにも関わらず、まるでキャンバスに

 描いているかの様にブラシを走らせた。

 滑らかな曲線から雫が滴る事もなく、適量である事がわかる。

 

 「...こんな感じかな」  

 「わぁ...」

 「...すご...」

 

 その美しい花の絵に、2人は感想を述べられなかった。

 色付けもされていない黄色い線のみで描かれているが、芸術家に

 見せてみれば、素晴らしい作品だと評価されるに違いない。

 それほど美しいとティオナは思った。

 

 「これを目標に描いてみて」

 「え゛っ?...す、すっごく難しいし時間が掛かるような...」

 「継続は力なりって知ってる?

  集中して描いていけば自然と精神も鍛えられるんだよ。

  ほら、描いてみなよ」

 「わ、わかった...」

 

 そうしてティオナはもう一度、花の絵を描き始めた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ナルヴィはロキの事知ってるの?」

 「うん。というか、私はロキの分身だよ」

 「ふーん...んぇっ!?ロ、ロキの!?...いやいやいや!

  うっそだ~。髪の色は似てるけど...」

  

 ティオナの視線の先はドレスから除くふくよかな谷間。

 どう見てもロキの分身だとは思えないので、ティオナは断固として

 否定する他ない。

 

 「...あぁ、ティオナの言いたい事はわかるよ。

  分身はその神の心が反映して創り出されるから、ロキの願望でこうなってるの」

 「あ、そういう事...でも、何かロキ自身が虚しくなりそうだよね...」

 「実際なってたよ。揉み続けながら、ちくしょう~!って泣いてた」

 「あはは...。...地上に戻ろうと思わなかったの?」

 「うん。もう役目も終わったんだし、後は気楽に過ごしたいと思ってたから...

  ここに居る事にしたの」

 

 すぐそばの岩壁を撫でながら歩く。

 何千もの描かれた壁画で埋め尽くされており、ナルヴィが100階層で

 長らく過ごしてきた事がわかる。

 

 「まぁ...地上に戻ったら扱き使われるだろうし、それが嫌だからっていうのもあるんだけどね」

 「そっか...じゃあ、ナルヴィの事も皆には秘密にしておくね」

 「ありがとう。そうしてもらえると助かるかな」

 「うん。...っと、どうかな?」

 「ダメ。また量が多すぎて垂れてきてるよ」

 「あ...」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 数十回描き続けた結果、最初よりは進歩したものの集中力が切れた

 途端にティオナは仰向けに倒れてしまった。

 視界が歪み、空腹で立っていられないとの事。

 

 そのため休憩をとる事にした。ナルヴィがどこかへ行っている間、

 レイにティオナは膝枕をしてもらっている。

 フサフサとした羽毛に覆われた太腿の柔らかさにティオナは

 安らいでいた。

 

 「絵を描くだけであんなに疲れるなんて思わなかったなぁ...」

 「そうですカ...ですガ、一生懸命ティオナさんは頑張っていテ、とても偉いですヨ」

 「えへへ~。ありがと、レイ」

 

 自分の頑張りを褒めてもらった事にティオナは喜ぶ。

 その様子を見て嬉しそうに微笑むレイ。その姿は親子そのものだ。

 ふと、レイはティオナの家族について興味を持ち、問いかける。

 

 「...ティオナさんの母...いエ、家族はどんな方々なんですカ?」

 「ん~...お母さんとお父さんはわかんない。会ったが事ないから」

 「え?あ...そうなんですカ...」

 「うん。お父さんはそもそも誰かわからないし、お母さんとは産まれてすぐ離れ離れにされちゃうんだ。

  姉妹も同じ様にね。

  だから...ティオネと会えたのは本当にラッキーだったからなんだよね」

 「でハ、お母さんに会いたいと思った事ハ?」

 

 その問いかけにティオネは首を横に振った。

 肉親に対しての想いはとうに薄れており、たとえ会えるとしても

 会おうという気持ちは芽生えなかった。

 けれど、幼き頃に唯一1人の姉であるティオネと出会った事で絆の

 ようなものを感じていた。

  

 そのおかげでティオナと殺し合う事を拒否出来たのだ。

 もしも出会っていなければ...そう思うと、ティオナは最悪の事に

 なっていた可能性を思い浮かべ、目を瞑り顔を顰めた。

 

 「(...ベルはどうなんだろ?本当の家族は...居ないのかな...)」

 

 そう考えていると、ナルヴィが戻って来た。

 両手には乾燥させた丸い木の実を持っており、それを渡してきたので

 ティオナとレイはそれを受け取ると重みがあるのに気付く。

 中には焦げ茶色の液体がなみなみと入っていて、湯気を立てながら

 甘い香りが鼻孔を擽ってきた。

 

 「これって...」

 「チョコレート。溶かして飲めるようにしてたよ」

 「えぇ!?」

 「チョコレート...?」

 「な、何でチョコがダンジョンにあるの...?」

 「原料の豆に似たような木の実と甘い蜜から砂糖を採れば作れるからね。

  これでも神の分身だから考え付いた方法で何とかなるものだよ」

 

 得意気に鼻を鳴らすナルヴィにティオナは苦笑いを浮かべつつ、

 ホット・チョコレートの香りをもう一度嗅いだ。

 その柔らかな香りで心が落ち着く。

 

 熱いと思われるのでしっかりと息を吹き掛け、唇を縁に付けると

 少しだけ啜る。

 

 「...っんん~~~!甘んまい!それに美味しい!」

 「よかった~。心身を落ち着かせるには甘い物が一番だよね!

  レイも飲んでみて?」

 「は、はイ...あっ...とても美味しいです...!」

 

 ホット・チョコレートの美味しさに舌鼓を打つ2人にナルヴィは

 微笑みを浮かべ、満足そうにした。

 

 その後、糖分補給を行なった事でティオナは再び花の絵を描き始めた。

 自分で参考となる絵を見比べてみて、納得出来ない仕上がりになると

 別の場所でやり直す。その繰り返しを続けるのだった。

 

 レイはナルヴィにチョコレートの作り方を教えてもらい、ゼノス達に

 食べてもらおうとティオナと同じく努力した。



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 ̄、⊦ Curanw

 カカカカカカ...

 

 「大丈夫。疲れて寝てるだけみたい」

 

 レックス達を含め、スカー達がベルの自室に居て容態を気にしていた。

 長となったベルに祝言を伝えに来た所、倒れているのを見つけたので

 ダフネとヴァルキリーに診断してもらっていた。

 

 外傷は無く、内臓器官などに異常は診られないとの事だった。

 それを聞いてその場に居る全員は安堵する。

 

 「もう...心配させるんだから...」

 「まぁ、あんな力を使ったのに疲労だけで済んでるのはすごいわよ」

 「ああ。ゆっくり寝かせておこうぜ」

 「そうしとこっか...お疲れ様、ベル。

  クイーンを1人で狩るなんてやるじゃん」

 

 ルノアは眠っているベルの頭を撫でながら称賛した。

 クイーンを倒した事のあるスカーも同様に。

 

 初対面でいきなり泣き喚いていた幼き頃の面影はもう残っていない。

 けれど、あどげない顔立ちはあまり変っておらず、共に狩りをしてきた

 弟のような存在である事に変わりはないとルノアは思った。

 

 そうしてスカー達はベルの自室から出ると、オープンスペースへ

 赴いた。

 玉座に座っているネフテュスは何かをしていたが、スカー達が来た事に

 気付くと手を止めて話しを聞く姿勢となる。

 

 『ベルは眠っているだけなので、心配はご無用です。

  しばくすれば目を覚まします』

 「そう...それなら安心したわ。よかった...」

 

 目を伏せつつネフテュスはベルの安否にほっとした様子だった。

 死の淵まで魂が堕ちていたものの、アルフィアの叱咤によってベルは

 生還し、覚醒する事が出来た。

 これ以上になく嬉々たる子供の成し遂げた偉業。

 

 神々に自慢したいという気持ちは大いにあるが、まだ抑えなければ

 ならない。

 2日後に行なわれるデナトゥスで集まった神々の驚愕する顔をその目で

 見るためだ。 

 

 「(ん~...でも、アストレアには見せてあげたいわね。

   もちろんアリーゼ達も居たなら...

   ベルが起きたら一緒にホームへ行きましょうか)」

 「ネフテュス様、気になったんですけど...

  長になったらベルは狩りが出来なくなるんじゃないですか?」

 

 その質問をしたのはショーティだった。

 スカー達の中では最古参であるため、ヤウージャ達の文化には

 精通しているので誰よりも気になったのだろう。

 

 ベルが任命された氏族の長とはクランリーダーとも呼び、クランを

 形成するメンバーの最高指揮者である。

 本来ならパックリーダーというクランリーダーの代行指揮者が

 選ばれる事もあるのだが、今回はとにかく異例だ。

 

 覚醒という人間を捨てた事でクイーンを狩る事に成功した、ベルの

 実力が認められたからこそ選ばれたという事なのだろう。

 

 しかし、クランリーダーは狩りをしてはならないという暗黙の了解が

 あると聞いた事がある。

 なので、その事を踏まえてショーティはネフテュスに聞いたのだ。

 

 尚、そのパックリーダーの立ち位置にケルティックが就いており、

 その次のランクにはエリートというパックリーダーと同位のランクで

 実質的に実力はパックリーダーよりも上のヤウージャが就いている。

 

 そのエリートがウルフだ。実はメンバーの中でショーティの次に

 古参なのである。

 

 「...何だか皆、勘違いしているようね。

  してはいけない、って決め付けてはいないのだから問題はないわ。

  そもそも違反になってるならトップノットやヴァイパーだって罰してるはずでしょう?」

 「それもそうでしたね。野暮な事聞いてすみません」

 

 謝罪するショーティにネフテュスは微笑んで許した。

 これで誤認が解かれただろうと期待したからだろう。

 

 スカー達がオープンスペースを後にして、座ったままのネフテュスは

 肘掛けにあるタッチパネルを操作する。

 映し出されたのはベルが自らに刻み込んだ刻印。

 それを見つめ、顎に手を添えると

 

 「クランの名前も考えないといけないわね。まぁ、妥当に考えたら...」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 通路を歩きながら、これからスカー達はどうするかを話していた。

 既に午前を回っており、太陽が昇った外は明るくなっている。

 

 「ウチは明日まで戻らないって言っといたから...アップグレードでもしとこうかな」

 「それなら付き合うわよ。

  ベルが色々新種の生物を持って帰ってきたから教えてあげる」

 「じゃあ、私も明日は休暇にしてもらってるし、一緒に行くとするか」

 「ん~...俺はアイツに会ってくるかな。ウルフ、お前らは?」

 

 カカカカカカ...

 

 「そうか。じゃ、またな」

 

 話し合いが終わると各自別々に移動していく。



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,、 ̄、⊦ Up-dewto

 かつてからヤウージャは自身の遺伝子を組み替えながら進化を遂げて

 きた。

 それがアップグレードである。

 多種多様な生物の遺伝子を戦利品から入手した脊髄液を元に身体能力や

 臓器などを強化する事でヤウージャは強くなり、危険な獲物との狩りを

 行えるのだ。

 

 冒険者で言えばステイタスの更新と似た様なもので、それを行うのは

 マザー・シップ内にある研究室である。

 

 研究室にて冷たい無機質な手術台の上にダフネは寝かされていた。

 衣類は全て脱いで、薄い布状の物を体に巻いているだけとなっており

 拘束もされず、ただジッと身動きせず天井を一点に見つめて何かを

 待っている。

  

 「お待たせ。始めましょうか」

 「うん、お願いね」

 

 レックスが手術台に設置されているコンソールパネルを操作した。

 先端が様々な器具となっている装置がアームを曲げながら展開して

 ダフネを囲う。

 

 ズズズッ... グチュ...

 

 最初に大型の注射器がダフネの頭部へ運ばれ、眉間に狙いを定めると

 一直線に注射針が深々と刺さった。

 刺さる速度は変わらず、止まった時点で注射針は脳まで達しているのが

 見て取れる。

 

 常人でなく神からの恩恵を与えられた冒険者であっても激痛で

 気絶するような行為だが、ダフネは目を開けたまま堪えているようにも

 見えない。 

 

 「...やっぱり慣れないわー。あれ見るの」

 

 キュイィィィン... 

 

 ルノアが不快感を覚えている中、シリンジに満たされている液体が

 プランジャーの圧縮によって注射針の無数の穴から、ダフネの脳全体に

 直接注入されていく。

 大脳皮質、大脳辺縁系、大脳基底核、間脳、脳幹、小脳など運動神経や

 五感、知能を司る部位。

 

 ピピピッ... ピピピッ...

 

 それらにその液体が浸透していくと、脳内全てのニューロンが一斉に

 肥大化して夥しい棘が突き出す様子がモニターに映し出される。

 レックスはそれを確認すると、眉間から注射針を抜くように装置の

 アームを動かして収納した。

 

 次に鋭い医療用メスで肩部と太腿の内側に切れ目を入れると、黄緑色の

 血が白い肌を伝う。

 先程より小型の注射器が固定され、注射針を切れ目から覗く筋肉組織に

 刺さっていき、同じ要領で液体を注入していった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...ダフネ。終わったから起きなよ」

 「...ん...」

 

 アップグレードが終わった事を告げられ、寝そべっていたダフネは

 目覚めると上半身を起こして手術台の縁で座る姿勢になった。

 医療用ナイフによる裂傷部は既に塞がっており、自身のバイタルに

 問題は無い事も確認する。

 目を瞑ると、今回自身に取り入れた遺伝子情報を脳内で詳しく調べる。

 

 「(ポイズン・ウェルミスの体液。これで毒を浴びても平気になってる。

   2種類の昆虫型生命体の遺伝子...腐食性有機酸を生成出来て、宇宙空間での活動も可能。

   高知能生命体の遺伝子...テレパシーしか使えない道がない。

   生物学的にはヒトデに近い地球外生命体...俊敏さを兼ね揃えた四肢での切断したり刺突の攻撃が可能。それから地中での移動も...

   ...なるほどね。テレパシーはあんまり使い道が...いや、そうでもないかな?)」

 「こっちの片付けはやっておくから、試しに使ってみてきたら?」

 「どう?久しぶりに相手してあげよっか?」

 「...うん、お願い」

 

 立ち上がるとワゴンに入れてあった衣類を着込み始める。

 アポロン・ファミリア指定の制服ではなく、ヤウージャ文明の物を。

 胸に茶色い布、下半身には腰巻きを身に付けて両腕にガントレット、

 腰に腰当てを装着し、最後にヘルメットを被った。

 

 視線を前後左右に動かし、正常に機能していると確認したダフネは

 ルノアと共に訓練所へ向かう。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ゴキッ...! バキッ! ゴチャッ!

 

 「っ!...プッ...」

 「ほらほら。どうしたの?」

  

 頬裏の切れた箇所から滲み出る黄緑色の血を床に吐き、ダフネは

 構え直す。両腕をハの字にした構えである。

 対峙するルノアは余裕そうな笑みを浮かべつつ、左手を顔の前にして

 右腕は突き出す構えを取った。

 

 熱気が籠もっているので全身に塗っている油と汗が混じり合い、肌を

 伝っていく。

 どちらもヘルメットやガントレット、鎧などは外して衣類のみとなって

 いる。

 

 2人が行なっているのはアハ。

 打撃技、蹴り技、組み技、頭突き、噛み付き、投げ技、関節技を

 組み合わせた武術で、目潰し以外に四肢や腰を折ろうと、鼻や内臓を

 潰そうと、相手がギブアップするか、気絶するかまでどんな攻撃を

 してもいいとされているのだ。

 但し、目潰しは禁じられている。

  

 「(やっぱり素の状態じゃ、敵いっこないか...

   なら...さっき組み込んだあれ、使っちゃおうかな...!)」 

 

 アップグレードによって得た遺伝情報から全身の細胞を変異させ始める

 ダフネ。

 すると、両手足が無機質な黒い皮膚となって鋭く尖った指先に変った。

 それを見てルノアは戯けた表情で口笛を短く吹いて、どんな能力を

 見せてくれるのかと楽しげにした。

 目を閉じたダフネは深呼吸をして、瞼を開けると白目の部分が血走り、

 黄色い瞳は赤黒く変色する。 

  

 「ヴオォオアアアアアアアアッ!!

 

 咆哮を上げるや否や、ほんの数歩でルノアとの間合いを縮めたダフネ。

 ルノアは咄嗟に身を屈めるとすぐに上体を突き上げるようにして、

 突進する。

 ダフネを離し、そこからアッパーカットで顎を狙おうとした。

 

 ガッ...! ゴヅッ!

 

 「ィ゙ッ...!?」

 

 しかし、拳を突き上げる前に頭部を鷲掴みにされてしまい、頭突きを

 額に叩き込まれてしまう。続け様に肘打ちも鼻に打ち込まれる。

 一瞬だけ怯むルノアだが、仕返しにとダフネの喉を掴み上げてから

 拳の小指球側で鼻を叩く。

 

 レベル5にして肉弾戦に特化している彼女の拳打であれば、鼻血を

 噴くのは当然として頭部が弾かれるのは明白だ。

 ところが、ダフネは前者の通り鼻血は出ているものの顔は微動だにせず

 ルノアと視線をぶつける。

 

 「っ!こん...のっ!」

 「ガァァァアアアッ!!

  

 ガブッ! ガプッ!

 ギリリリッ... グチャッ...

  

 互いに犬歯が深く刺さる位置の首元へ噛み付き、取っ組み合う。

 肩と肩を掴みながら押し倒そうと踏ん張っていると、ダフネは指先を

 立てた。

 ルノアの肩には計6本の引っ搔き傷ができ、大量の血が滴る。

 

 「グゥウウッ...!」

 「グルルルッ...!

 

 激痛に顔を顰めながらもルノアは怯もうとはせず、ダフネの肩部分の

 筋肉を噛み千切らんばかりに更に下顎に力を入れた。

 ダフネもそれを察知すると負けじとブチブチという食感を感じながら

 下顎に力を入れる。

 

 やがて、どちらともなく肩から口を離し、喉元に手を突き出して 

 押し退けた。

 肩に残った歯形からは泡立った唾液と混じった血が滲み、胸元を

 伝っていく。

 

 「そろそろ、ギブしたら?」

 「...やだっての...!」

 「でしょうねっ!」




ザ・プレデターでの治療シーンを参考にして描写しました。

ダフネに組み込んだ遺伝子
アラクニド・バグズのウォリアーとタンク
オール・ユー・ニード・イズ・キル(トム主演)のギタイ


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>'、,< lavwr’s sputo

 「ついに中層へ行けるのか。よかったな」

 「はい、ヴェルフ様と一緒にタケミカヅチ・ファミリアの皆さんをしっかりサポートしてみせますよ。

  ...緊張してしまわないようにしないといけませんが...」

 「頼れる仲間が居るんだ。それに経験値だってお前の方が高いみたいだしな。

  自信を持ってやればいいさ、リリ」

 「...ありがとうございます。ルアン様」

 「へへっ」

 

 ルアンは照れ笑いを浮かべて、注文したミルクティーを啜る。

 穏やかな日差しの元、リリルカを誘って喫茶店に来店してからお互いに

 近況を話したり、話題になっている噂話の真偽を問答したりなど

 楽し気な雰囲気を漂わせた。

 

 「どう思いますか?仮に冒険者様が下層まで降りてたとして、何で歌う必要があるのかと思うんですよ」

 「冒険者だってのなら、ダンジョンでしか味わえない声の響きとかが好きなナルシストが正体かもしれないぜ?」

 「あ~...ん~...確かに居そうなのが何とも...」

 「ま、オイラはモンスターが誘き寄せるための歌声だと思うぞ?

  そいつは逃れてラッキーだったな」

 「やっぱりそうですか。では、ヴェルフ様を言い負かしてやりましょう」

 

 ふふ~んと悪巧みを考えている様な笑みを浮かべつつ、そう答える。

 その様子を見てルアンは面白そうに微笑んだ。

 ハッと自身の見せてはならない姿を見せてしまったと、乙女心が

 湧き上がってきて、顔を赤くしながら恥ずかしがるリリルカ。

 

 「おーおー?ルアン。見せつけてくれるじゃないかよ」

 「今朝か見ねえと思ったらそういう事かよ」

 

 その声を聞いた瞬間、ルアンは笑みを消す。

 完全に冷え切った心情を表わす様な表情となり、声の主の方をジロリと

 流し目で見た。

 

 茶髪をしたキャットピープルと黒い短髪の男2人組がニヤつきながら

 近付いて来てルアンとリリルカが座っている席のテーブルに肘を付き、

 揶揄い始めた。

 

 「お前にこんな可愛い彼女が居たなんてな~?かぁ~羨ましいもんだ」

 「...ははは、そうか。羨ましいか?」

 「ああ、俺達の方がルックスは良いってのに...お前には勿体ねえよ」

 「なっ...!」

 

 リリルカが反論しようとするも、指で軽くトントンとテーブルを叩く

 ルアンに気付いて2人組の男達から視線を反らす。

 額を掻くフリをしている手で右目を隠しながらウインクをしていた。

 何も言うな、と指示をしているのだと察してリリルカは俯きながら

 口を紡ぐ。

 

 「確かにオイラには勿体ないくらいこいつは可愛いよなぁ~?

  ...で、お前らみたいなヒュアキントスの腰巾着には尚更見てくれるのも勿体ないし、とっとと失せたらどうだ?」

 「あぁ!?なんだとこのチビガキっ!」

 

 ルアンの煽りに激怒した黒い短髪の男が胸倉を掴み、そのままルアンを

 持ち上げた。

 ルアンの体がテーブルにぶつかった際、カップが傾いてミルクティーが

 溢れてしまい天板を汚す。

 リリルカは突然の事に戸惑うも、止めようと声を上げる。

 

 「や、やめてくださいっ!ルアン様を離して」

 「おーおーおー?いいのか?こんな公の場で手を上げるなんてよ?

  たとえ所属が同じだからって言っても暴力沙汰でアポロン・ファミリアの名前を汚すのは...

  オイラかお前、どっちだろうな?」

 「テメェっ...!」

 「おい、止せ。くそ腹立つがこいつの言う通りだ。

  もう行こうぜ」

 「...ちっ!」

 

 黒い短髪の男はルアンを突き放して強引に椅子へ座らせた。

 

 「覚えとけよ、クソパルゥムが...」

 

 黒い短髪の男はそう吐き捨てると、茶髪をしたキャットピープルの

 男とどこかへ行ってしまった。

 ルアンは痛がる素振りも見せず、乱れた前髪と服を整える。

 

 「...やれやれ。ったく、皺になっちまうての」

 「だ、大丈夫ですか?ルアン様...」

 「ああ、ビックリさせてごめんな?」

 

 謝りながらリリルカの頭をルアンは撫でていると、目を伏せて肩を

 震わせているのに気付く。

 どうかしたのかと思い、顔を覗き込むとその瞳が潤んでいるのだと

 わかり、リリルカの心境を察した。

 何も出来なかった自分の事を責めているのだと。 

 

 「...ありがとな、リリ」

 「え...?...な、何がですか...?」

 「オイラのために止めようとしてくれただろ?

  危ないとは思ったけどさ...お前に惚れ直したよ。

  すっげぇ好きになった」

 「...~~~っ!」

 

 そう言い切ったと同時にリリルカはポカポカとルアンを叩き始める。

 励まそうとしていた当人は驚きながらも両腕で防ぐ。

 

 「ちょっ、なんっ、リ、リリルカ!?な、何で叩くんだよっ!?」

 「リリは本気心配してたんですからからかわないでください~!」

 「か、からかってなんか、って、や、やめろっておい!」

 

 先程までの険悪感はどこへ行ったのか、ルアンとリリルカの痴話喧嘩で

 和やかな雰囲気へと変ってしまうのだった。

 その後、パフェを奢った事でリリルカのご機嫌は取れたという。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「あっ、やっと来ましたね。もうっ...」

 「悪い悪い。込んでたもんだからさ」

 「...それなら仕方ありませんね。

  さっ、それじゃあ、行きましょう」

 

 トイレから戻って来たルアンと共にリリルカは喫茶店を後にする。    

 事前にデートをすると決めていた訳でもなかったので、2人は行く宛も

 なく、付近を歩いていた。

 

 すると、少し離れた場所で人集りが出来ているのに気付く。

 狭い路地なので群がる人々により、その先で何があるのかは見えず、

 リリルカは気にし始める。

 

 「何かあったんでしょうか?」

 「あっちに店なんかは無いし、喧嘩でも見てるんだろ」 

 「そうですか...では、気にするだけ無駄ですね」

 「ああ」

 

 興味を無くしたリリルカはそのまま進もうとしていた道へ向き直って

 ルアンの手を引く。

 

 「...L'ekto」

 

 歩み出す際、ルアンはチラリと人集りが出来ている方を見たがすぐに

 前を向いてリリルカの隣に立って歩いて行った。

 

 「こいつら...喧嘩するにしても加減ってもんはあるだろ」

 「ああ。どっちも男前が台無しだな」

 「エンブレムは...アポロン・ファミリアだな。

  誰かこいつらの事、伝えに行ってくれるか?」




さてはて、一体誰がルアン君に突っかかった野郎2人をボコボコにしたんでしょう。
ちなみにルアン君ではありません。ショーティでもありません。
もっと言えば彼はルアン君ではありません。


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,、、,< 捧呈

 フォシュンッ!

 

 『ッヅゥ...!』

 

 プラズマバレットを発射した反動で、アイシャは体を仰け反らせる。

 

 狙っていた的である手頃な壺に命中する事はなく、プラズマバレットは

 そのまま進行方向にある建物の外壁に被弾した。

 場所はベーレト・バビリの2つ離れた空き地。

 そこに隣接している宿なので、壊れても問題はないとの事だ。

 

 爆発の威力で被弾箇所はコンクリートの破片が飛び散り、窪んでいた。

 その窪みが至る所に見受けられる所からして、これまでにアイシャが

 狙いを外してしまっている事が伺える。

 

 鈍い痺れを感じる肩を装甲越しに擦りながら、顔を顰めつつアイシャは

 背後に居るケルティックに苦言を呈した。

 

 『やっぱりあたしには向いてないよ、この武器は...

  よくもまぁアンタ達は使い熟してるね』

 

 カカカカカカ...

 

 『別に褒めてるんじゃ...まぁ、いいや』

 

 呆れているとは言えず、アイシャはため息をつきながら左肩の装甲ごと

 プラズマ・キャスターを外した。

 

 左肩の装甲とプラズマ・キャスターはケルティックがアイシャのために

 用意した装備であり、彼女の体格にフィットするよう調整されている

 そうだ。

 

 普及されている物との違いとして、上部に三角形の機械が付いている。

 それはヘルメットに搭載されているレーザーサイトであり、エルダーが

 使用している物と同じモデルなのだ。

 

 最初こそはプレゼントという形で貰い受け、普段では見られない様な

 笑みを浮かべつつ、アイシャは嬉しそうにしていた。

 が、いざ使用してみると一番初めに砲撃した際は肩が脱臼してしまう

 という事態に。

 ケルティックが外れた肩を戻した事で治ったものの、アイシャは既に

 プラズマ・キャスターを使い熟す事に困難を極めると察していた。

 

 「(あたしの戦闘スタイルに飛び道具は必要ないし...

  このヘルメットと肩当ては貰うとして、これだけは返しておこうかな)」

 「アイシャ~。どうどう?上手く使えてる?」

 

 コップを2つ運んできたレナがそう問いかけてきて、アイシャは

 振り返ると肩を竦めて見せる。

 

 それにレナはそっか、とだけ呟いてコップをアイシャとケルティックに

 差し出した。

 最初に砲撃した時、彼女もその衝撃を目の当たりにしているので色々と

 察しているようだ。

 

 余程、喉が渇いていたのかアイシャは受け取るなりヘルメットを少し

 ズラして一気にコップの中の水を飲み干す。

 ケルティックも同じ様にズラして、飲み干した。

 

 2人同時にコップを返すと、アイシャは息をつきながらその場に胡座を

 掻いて座り、ケルティックに先程まで考えていた事を話そうとしたが、

 ふと思い留まる。

 

 「(でも...お揃いって考えたら、返すのもねぇ。

   ケルティックだってあたしのために見繕ってくれたんだし...

   うーん...もう少し頑張ってみるか)」

 「うひゃ~!こんなに穴開けちゃったの?

  中がまる見えだし、ホントに使い物にならなくなっちゃったね。

 『まぁ...新しく立てるのを考えたら壊す方が手っ取り早いさ。

  ほら、また始めるから離れてなよ』 

 「頑張って~。あたしはチョッパーと愉しんでくるから~」

 

 空になったコップを手にルンルン気分でレナはその場を去って行く。

 若干、呆れているアイシャだったが、レナを見送ると左肩の装甲を

 装着して再び立ち上がると壺を狙い始める。

 

 「(柄じゃないけど...もう少しだけ意地になってみるかね。

   情け無いって思われるのは嫌だから)」

 

 出来ない事をやっても意味がないという意識は誰にでもある事だ。

 しかし、意中の相手に意識されるとなれば俄然誰しも意欲的となって

 それを成し遂げようという気になるしかない。 

 

 なので、ケルティックに愛想を尽かしてほしくないとアイシャも

 その通りの事をしているのだ。

 

 ケルティックはその懸命な姿を見つめるのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ゴォーーーンッ...

 

 夕暮れに染まったオラリオに鐘の音が響き渡り、夜になる事を告げる。  

 数時間が経ち、狙撃を続けた結果として建物の外壁は消滅し、半壊して

 しまっていた。

 

 それを気にする事なくアイシャは額の汗を手で拭う。

 

 ピ ピ ピ ピ ピッ...

 

 赤い三点のレーザーが壺に照射される。しかし、すぐには砲撃しない。

 未だに反動で体が振り回されるため、少し下へ動かしながら発射される

 プラズマバレットの軌道を考えなければならないからだ。

  

 「(この辺りで...いけっ!)」

 

 フォシュンッ! 

 

 『っぐ!』

 

 やはり反動が凄まじく、足腰に力を入れて身構えているはずである

 アイシャは吹き飛ばされそうになる。

 しかし、すぐに体勢を立て直すとプラズマバレットが命中するか、

 成否を見届けた。

 

 ...ガシャーンッ!

 

 一直線に飛んで行ったプラズマバレットは壺を粉々に砕く。

 青白い残り火が土台にしていた木版の上でメラメラと燃えている。

 

 その光景を見てアイシャは目を瞑りながら天を仰ぐ。

 これまでにない達成感。初めて両親に褒められた時以来だった。

 男を喜ばせた時よりも、モンスターを倒した時よりも。

 

 カカカカカカ...

 

 『ああ。手間取ったけど...やってやったよ』

 

 肩に手を乗せて称賛してくれているケルティックにアイシャは微笑む。

 いつもなら蛇の如くその巨体に纏わり付く抱擁をする彼女だが、今は

 腰に腕を回しているだけだった。

 

 ケルティックが嫌がって離れはしないという信頼の表れだ。

 対する彼もまたアイシャの背中に両腕を回している。

 

 『...頑張ったあたしにご褒美をくれるかい?』

 

 カカカカカカ...

 

 『ふふっ...ありがとう。ケルティック」

 

 ヘルメットを脱ぎながらアイシャはお礼を述べる。

 そして、手を少し上に動かし、背中に移すと上半身を引き寄せようと

 した。

 ケルティックがそれに従って前屈みになり、アイシャは爪先立ちと

 なって背伸びをしながら顔を近付け、ヘルメットに口付けを落とす。

 それに満足そうな低い顫動音を鳴らすケルティックなのだった。




尚、ナァーザさんも初めて使った際には同じく脱臼してます。


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>'、< Y'angu Brado

 「じゃあ、いくよ?」

 「ゔん゙...」

 

 筒状に丸めた皮革を咥えるルノアが頷いたのを確認してから、ダフネは

 彼女の背中と向き合った。

 

 表皮が捲れ上がった首元の裂傷部に、躊躇なくあの青く発光する

 焼灼剤を押し当てようとする。

 ヤウージャ達が最も苦手とされる治療法を行うようだ。

 

 ジュウゥゥゥウッ...

 

 「ヴグゥ゙ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!

 

 皮革を噛み千切らんばかりに歯を食い縛って激痛に耐える。

 口内にジワリと鉄錆を舐めた様な味が広がるが、歯を食い縛らなければ

 耐え切れない程、激痛が走っているのだ。

 

 自身の皮膚が焼ける臭いが鼻腔を劈き、継続して激痛は続く。

 どれだけ鍛え抜いた心身であっても神経が鈍くなっていない限りは

 痛覚は鮮明なため、慣れる事はない。

 

 「はい、終わり」

 

 耐えに耐えて焼灼剤が裂傷部を覆い隠す様に塗り終えられると、皮革を

 吐き捨ててルノアは息を整え始めた。

 それを気にする事なく、ダフネは使用したヘラを受け皿に投げ捨てて

 椅子を少し離してから座り直す。

 

 「...ったく!アンタがギブしないからこれする羽目になったじゃないのっ!」

 「別にウチは悪くないし」

 「こんの...アンタは自力で治せるけど私は治癒とかのスキルがないんだからね!?

  こんな所に傷が付いてたら変に気を遣わされるじゃないの!」

 

 包帯で隠すとはいえ、首元となると襟元から覗くため意味がない。

 なのでルノアは不機嫌となっている。

 ダフネは悪気があった訳ではない、と反論しようとしたが火に油を

 注ぐ事になると察知し、静かに謝るのだった。

  

 ダフネは機嫌を取ろうと、傍に置いてあったスキットルを手に取って

 差し出した。

 

 「ほら、一杯やりなよ。故郷の味だよ」

 「私の故郷はここなんだけど」

 

 腑に落ちなさそうになりつつもルノアは手渡されたスキットルを

 受け取る。

 飲み口を下唇に乗せて底を上に向けると、中身の液体が口内に注がれて

 満杯になった所でスキットルを離した。

 

 舌が痺れる感覚に包まれ、液体を飲み込むと喉を引っ掻く様に食道へ

 流れ落ちていくのを感じてルノアは軽く咽せた。

 

 「っかぁ!...いつ飲んでみてもドワーフの火酒が甘く感じるわね」

 「初めて飲んだ時、胃の中が空になるまで吐いてたっけ」

 「そうそう。目が回って立ってられなかったわよ...」

 

 ルノアは遠い目になりつつ、その時の情景を思い浮かべて辟易しそうに

 なる。 

 スキットルをダフネに返すと、彼女もまた中の液体を飲んだ。

 

 彼女達が飲んでいるのはカントリップというアルコール飲料。

 即ち酒である。

 風味は辛く、喉が燃える様な刺激を持っており、ヤウージャ達が

 飲料するのでかなりの度数があり、火を近付ければ当然、燃え上がって

 しまうそうだ。

 

 なので、飲む際には気化したアルコールに引火しないよう火元は絶対に

 置いてはならない事と、室内で飲む際には液体を密封する容器に入れて

 飲む事が決められている。

  

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 「...他の長や故郷の皆はベルを長として認めてくれるのかな?」

 

 暫くして、ルノアが包帯を巻き終えた所でダフネがそう問いかけた。

 なるべく目立たないように巻いた包帯の箇所を確認しつつ、ルノアは

 自身の予想を答える。

 

 「大丈夫でしょ。儀式の規定通りに7匹を狩って、おまけに単独でクイーンも狩る事が出来たんだから。

  族長評議会で異議が出るとも思えないし」

 「そっか...まぁ、その時はネフテュス様が何とかするよね」

 

 記録映像はあるので、それを見せさえすれば反対する者も黙るだろうと

 思うダフネ。

 異例とはいえ、成人の儀を成し遂げたベルに対して喜びは当然あり、

 これまで戦い方を教えてきた甲斐があったとも思っている。

 

 まだ血を見ぬ者。狩りの未経験者である、アン・ブラッド。

 血塗られた者。成人の儀で狩る事に成功した獲物の血で自らに刻印を

 刻んだ者である、ブラッド。

 そのブラッドはクランの傘下に居るまではヤングブラッドと呼ばれる。

  

 9年前。幼き頃のベルに格闘術を学ぶために相手をしたのがダフネと

 ルノアだった。

 狩りを始める前にアン・ブラッドは格闘術を学ぶ事から始まる。 

 なので、基本的な訓練はヤングブラッド以上の経験豊富なヤウージャが

 教えるのだが、ネフテュスの指名で2人を教育係に任命していた。

 

 幼いヤウージャと訓練をするのは親のどちらかが行う習わしがあり、

 人間であるベルに合わせて選ばれたのだと、ダフネは思っている。

 最もヤウージャの相手をしてしまえば、死んでしまう事を考慮した上で

 そうしたのだろうとも。

 

 格闘術の訓練は主に丸腰のルノアとダフネに攻撃をして、傷を1つでも

 付ければ最良。

 傷を付けなくても最後まで立ち続けていれば良好。

 どちらもダメであれば最悪とされる。

 

 ベルの場合は無論、最後の方だった。

 それも殴る殴らない以前に、やりたくないという精神面での問題に

 ぶつかったのだ。

 5歳児の虫も殺せない未熟な少年にとっては酷な事だとわかっている

 つもりだったが、いざそんな事になった時はどちらも困り果てたのは

 言うまでもない。

 

 訓練はアン・ブラッドの進歩に満足するまで続けられる。

 クランリーダーを目標とするアン・ブラッドの闘志を洗練する事も 

 訓練の一環である。

 成人の儀を迎えるまでに、強くならなければ簡単に死ぬからだ。

 

 尚、進歩するまでにアン・ブラッドが生きて無事に終えられる訳では

 なく、訓練中に命を落とす事も多々あるそうだ。

 

 始まらなければどうしようにもないと2人はショーティに相談した所、

 慣れてもらう事から始めた。

 どうしたかといえば、打ち解け合うために2人の格闘術や狩りを見せ、

 ベルが興味を持った事を噛み砕いて説明をしたりなど様々だ。

 

 半年がたった頃、ベルが遂に戦闘術を学ぼうという意識を持ったので

 特訓を開始した。

 拳打、蹴りの基本動作を徹底的に肉体で覚えさせ、次の段階である

 リスト・ブレイドの使い方を学ばせた。

 

 戦闘術の訓練が完了した後、ベルは他のアン・ブラッドと共に

 意図的にヤウージャの故郷に生息する在来動物を繁殖させた惑星へ

 向かわされた。

 必要最低限の武器を備え与えられたアン・ブラッドは各パックとして

 集まり、その中で選抜されたリーダーに従って狩りを始めるのだ。

 

 その時、ベルが組み込まれたパックにてスカー達と出会ったそうだ。

 ウルフは当時、成人の儀を行っている最中だったとか。 

 

 狩りの期間は2年間。

 それまでに多くの獲物を狩り続けられたパックが、その年の最高名誉に

 選ばれる。

 2年後、見事にベル達が最高名誉を獲得した。

 

 しかし、瀕死だったためにベルはメディカプセルに放り込まれていた。

 

 ともあれ、そうした経緯があってこそベルが成人の儀を成し遂げ、

 長へと栄進した喜びは本物だ。

 ダフネは何か不都合があるとされたなら、手助けをしようと誓うの 

 だった。

 

 すると、誰かが訓練所の入り口から入ってきたのに気付く。

 1人は老躯した片目を失っているヤウージャで、その背後には

 3体の影が見える。

 ダフネは眼の中の水晶体を薄くして、誰なのかを確認する。

 

 「トリウコップ。シュリークにタロガとカタヌも」

 

 見知った顔だとわかると、手を軽く上げて親しげにする。

 ルノアも親しい仲らしく笑みを浮かべていた。

 

 「今から訓練するの?よかったら相手してあげるけど?」

 

 トリウコップは既に傷だらけになっているルノアを見て、少しだけ

 悩んでいたが、大丈夫だろうと思い眉に拳を当てて承諾した。

 シュリーク達もやる気があるようで、低い顫動音を鳴らしている。

 

 「よーしっ。3人まとめて掛かって来なさい!」

 「無理しない方がいいよ。というか加減してあげなよ?」

 「アンタじゃないんだから大丈夫だっての」

 「はいはい...」




トリウコップは元エリートでヤングブラッド達の教官を務めてます。
シュリーク、タロガ、カタヌはこちら側で言えばショタ(180cm越え)


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>'<、⊦ A'wewkewnynwgu

 「タナトス様、ロキ・ファミリアは現在39階層に居るようです。

  こちらの存在には一切気付いてはいません」

 「もうそんな所まで潜ってるのかぁー...

  とりあえず、アイツらが居る間は誰も出ないように言っておいて」

 「はっ。かしこまりました」

 

 「タナトス」

 「おーっと?これはこれはエニュオ~...何か用?」

 「ロキ・ファミリアをここで潰す。

  ネフテュスは後回しだ。先に目先の邪魔なモノを排除する」

 「んー...どうやって?まさかアレ使うの?」

 「無論。ヴィルガとヴィオラス...デミ・スピリットも使ってな」

 「マジ?あー、うーん...じゃ、乗るしかないね。

  準備はこっちでやっとくから」

 「...頼んだぞ」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...」

 

 目を開くと、見知った天井であると気付く。

 長い長い夢を見ていたのだと実感し、深く息を吸ってゆっくりを肺の

 空気を吐き出した。

 

 どれくらい眠ってたんだろう...?

 左腕のガントレットを開いて時計を見ると、丸一日眠っていた事が

 わかった。

 

 僕は両手を見て、拳をつくり握り締めてみる。

 しっかりと指先から手首、肘から肩まで力は入る。

 上半身を起こしてベッドの縁に座り、足も前後左右に動かしてみて

 体のどこかに異常は無いと確認した。

 

 ふと、デスクの上に置かれている物が目に入った。

 ベッドから立ち上がり、近付いて見てみる。

 

 ...僕のヘルメットだ。

 誰かが外してからここに置いてくれたのか。

 クイーンに踏み付けられた事によって外装が破損し、ゴーグル部分に

 亀裂が入っている。

 予備はあるが...折角、刻印を刻んだのだから修理をして、まだまだ

 使っていこう。

 

 亀裂をなぞってそうしようと思いながら、破損したヘルメットを

 一度デスクに置く。

 

 クローゼットの前に移動すると装着しているガントレットやバーナーと

 アーマーを全て外し、フックに掛けていく。

 ...よく見れば、胸部のアーマーも破損している。

 あれだけ踏まれたのだから、無傷で済む訳もないか...

 

 ジャラララ...

 

 それから、着ているネットメイルも脱ぎ捨てた。

 これもボロボロになっているので新しい物に替えよう。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ピッ ピッ キュリリリリ...

 ジャキンッ

 

 左腕にガントレット、右腕にリスト・ブレイドを装着する。

 どちらも破損はしていないが、ビッグママに点検してもらおう。

 次に胸部のアーマーを除いて肩の装甲を装着し、ブーツを履いた。

 

 ガチャンッ

 キュインッ キュインッ...

 

 最後にヘルメットを被り、起動させてみるがやはり視界に亀裂が

 入っていて視界不良となっている。

 仕方ないが、今日だけはこれで過ごすしかないな...

 

 胸部のアーマーを持ち、自室から出る。

 

 通路を歩いている際に通り掛かったアン・ブラッドのヤウージャ達が

 僕を見て立ち止まり、肩に手を置いた。

 本来は挨拶を交わす時に使うボディランゲージだが、彼らの場合は

 敬意を込めての辞儀だ。

 

 僕は同じ様に肩に手を置いて、彼らの前を通り過ぎていく。

 

 鍛冶場に着いてすぐにビッグママが出てきた。

 僕はアーマーの修理とガントレットとリスト・ブレイドの点検を頼んで

 ヘルメットの方は、また後日という事にしてもらった。

 ビッグママは3つを受け取り、すぐに作業へ取り掛かる。

 

 完了するその間に、我が主神の元へ向かうと伝えて僕は鍛冶場を

 後にした。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「おはよう、ベル。2日ぶりね」

 『申し訳ございません』

 「いいのよ、疲れていたのだから。

  ...さて、色々と話さなければならないわね」

 

 そうして我が主神からこれからの事について聞かされた。

 まず1つ目は母星へ戻り、族長評議会に出席する。

 他の長の方々に認めてもらわなければならないからだ。

 

 2つ目は長になるに当たって僕が持つクランの命名。

 当然ながら僕自身が決めなければならない。 

 

 3つ目はクランメンバーの構成。

 まだ1人も居ないので、無所属の者を探す必要がある。

 

 4つ目は僕が長になる事に関してではなく、僕らの存在を

 オラリオに居る神々に知らしめるという事だった。

 

 『到頭、明かしてしまうのですか。

  ...面倒な神々に目を付けられない事を望みましょう』

 「そうね...まぁ、その時はその時で...ね?」

 

 僕は我が主神が何を伝えているのか、すぐに理解する。

 潰せ、と慈悲も已む無しに徹底しろと言っているんだ。

 すると、我が主神は玉座から立ち上がり、微笑みながら何かしらの

 準備を始める。

 

 「話はこれくらいにして、アストレアの所へ行きましょうか。

  皆に貴方のすごさを早く見せてあげたいから」 

 

 と、失礼だとは思うがまるで幼女の様に胸を躍らせていらした。

 そより、いきなりそう言われてしまっては、僕自身も準備をしないと。

 僕は立ち上がって、オープンスペースから立ち去るとビッグママの元へ

 急ぐ。

 点検と修理も終わっているはずだ。



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>'<、,< R'ewanyonw

 星屑の庭の広間にて4名の来客がアリーゼ達と談笑していた。

 アスフィ、フィルヴィス、ナァーザ、そしてレイ。

 

 3人はともかく、ダンジョンに居るはずのレイが何故地上へ出ているの

 かというと、通信機を持っているリドを経由してネフテュスから

 呼び立てられたからだ。アスフィ達も同様である。

 ちなみに地上へ向かう際にはアスフィが迎えに来てくれていたという。

 

 「でも、レイまで呼ぶなんて...何かあったのかな?」

 

 アリーゼの問いかけに、レイはある可能性が浮上してきてしまい不安を

 過ぎらせた。

 

 「まさカ、私達の存在がバレてしまったのでしょうカ...?」

 「いえ、そういった話題が出回っていませんので...

  別の理由で呼ばれたのだと思います」

 「ギルドも言葉を話すモンスターを見つけたって情報は流していないから、大丈夫だと思うよ」

 

 それを聞いたレイは、そうですか、と安堵して紅茶を啜る。

 

 仮にゼノスの存在を知られてしまったとしても、ウラノスが情報規制を

 行うはずなので一方的に深刻な事態にはならないはずだ。

 

 「もしかしたら...捕食者に関する話しがあるのかもしれないな」

 「修練から戻って来たという事ですか?」

 『正解よ。フィルヴィス、リュー』

 

 突然、返答されたのに驚くフィルヴィスとリュー。

 

 その場に居る誰かの声ではないので、余計に驚いたのだろう。

 輝夜とライラは面白おかしそうに笑いを堪えているが、2人は

 そんな事も気にする余裕もないようだ。

 

 しかし、アストレアはその声の主を一番に知っているので、椅子から

 立ち上がると嬉しそうに呼び掛けた。

 アスフィとフィルヴィスもアストレアの反応を見て、正体に気付いた

 らしく立ち上がっていた。

 

 「ネフテュス様」

 

 ...ヴゥウン...

 

 「こんにちは、アストレア。それに皆も」

 

 ピピッ ピピッ ピッ

 ピッピッピッピッ

 

 最初にネフテュスがクローキングを解除して姿を見せ、次にベルも姿を

 現す。

 返答してきた正体に気付いた2人は恥ずかしさからか、咳払いをして

 先程の驚きようを誤魔化そうとした。

 

 その様子にまた輝夜とライラは笑いそうになる。

 しかし、ベルの姿を改めて見ると息を呑んで笑みを消した。

 彼女達だけでなく他の全員もそんな様子だ。

 

 身形こそ変っていないが、一番に目に付いたのは当然ヘルメット。

 目元部分に亀裂が入っている上、体の至る所に傷跡があり、猛者と

 認識されている彼がどんな相手と激戦を繰り広げてきたのか、誰にも

 想像出来なかった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 どうやら今の僕の姿を見て、彼女達は酷く驚いているようだった。

 目立った傷は応急処置として塗り付けた焼灼剤で隠しているのだが、

 反ってそれが目を引いてしまっているか...

 

 そう思っていると、アリーゼという女性が前に出て来た。

 いつも見せる屈託のない笑みを浮かべながら。 

 

 「お帰りなさい!捕食者君!長旅ご苦労様だった、みたいだね」

 「あ、ああ。よく戻って来たな...大変だったんだろう」

 

 アリーゼという女性の後に続いてフィルヴィスという少女が僕に

 労いの言葉を掛けてくれた。

 

 「死にかけたくらいには大変だったのよね。

  でも...そのおかげで強くなって名誉ある狩り人にもなれたのよ」 

 

 我が主神の言う通りだ。

 死から生還して、彼女達が知る僕の時よりもより強くなった。

 何より...我が主神が望む力を手に入れた事を嬉しく思う。

 

 「彼が死にかけるとは...一体、どんな強敵だったのでしょうか...」

 「確かに気になる所ですね。

  あの怪物すら一瞬で倒した彼を追い込む程の怪物なんて...」

 「大丈夫?今、ポーション持ってるからあげるよ...?」

 

 アスフィという女性とリューという女性が考察している中、心配そうな

 面持ちのナァーザは腰に掛けているポーチを開けようとしているのを

 見て、僕は首を横に振り、制止させる。

 深い傷は既に治ってきているので、しばらくすれば焼灼剤も剥がして

 問題ないだろう。

 

 そもそもポーションを使う事は掟に反する。

 使えるのはヘルスシャードだけだ。

 

 「あ、あノ、捕食者さン。目の方は大丈夫なんですカ...?」

 「そのヘルメットもアダマンタイト並に硬かったよな?

  それに亀裂が入ってるなんて...かなりやばかったって事か」 

 「というより、見せてはならないお顔が見えてしまうのでは?」

 

 ...輝夜という女性はとにかく僕の顔が気になるのか?

 まぁ、それは置いておくとしてレイというゼノスとライラという少女は

 ヘルメットの亀裂を見てそれぞれがそう答える。

 僕は頷いて、大丈夫な事をレイに伝えた。彼女は疑念を残している様な

 表情のままだが頷き返してくれた。

 

 確かにヘルメットだけでなく、胸部のアーマーも破損したのだから

 クイーンとの戦いは言った通り死にかける程の死闘だった。

 それでも僕は狩る事が出来た。それに伴って長になる事も認められた。

 

 「さて、皆の考えている事をこれから教えてあげる...

  前に嬉しいお知らせがあるわ」

 「おっ?何ですか?捕食者君の顔を見せてもらえるとか?」

 「それ以外でしたら、あまり興味が湧かないのですが」

 「アリーゼ、輝夜...いい加減に彼の顔の事は」

 「ええ、見せてあげるわ」

 

 素っ気なくお答えした我が主神にリューという女性は二度見して

 呆気にとられた。

 彼女だけでなく、アリーゼという女性と輝夜という女性も...

 いや、この場に居る全員が驚いていた。

 

 それを気にせず我が主神はアイコンタクトで外すよう、僕に指示を

 出してくださった。

 

 カチッ

 プシューッ...

 

 頷くと、僕は左側前頭部に接続されているパイプを引き抜いて両手を 

 ヘルメットに掛けつつロックを解除し、顔から引き剥がす様に外した。



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>∟ ⊦' Y'dewnwtyti

 その場に居る誰もが目を見張った。

 普段、落ち着いた立ち振る舞いをしているアストレアや輝夜でさえ。

  

 今まで誰にも見せる事もなく、ヘルメットに隠されていた素顔。 

 穏やかな顔立ちでありながらも捕食者の如く真っ赤な鋭い眼光。

 

 その眼光に思わずレイは本能的に危険だと思ってしまっている。

 それは彼女だけでなく、冒険者として養われた勘でアスフィや

 リュー、ライラも警戒心を抱いていた。

 

 沈黙がしばらく続いたが、それを破るかのようにベルが咳払いをする。

 

 「...改めて名乗らせてもらう。僕の名はベル・クラネル。

  我が主神、ネフテュスに誓いを立てた狩り人だ。

  ...そちらが良ければ、今後ともよろしく頼む」

 

 そう名乗り終えたベル。すると、すぐにアリーゼが答えた。

 その第一声が...

 

 「思ってたより、声が低いんだね」 

 「「「...そこ(ですか/かよ)!?」」」

 「私も顔立ちからして、てっきり高い声かと思っていましたよ」

 「し、失礼ながら私もだ...」

 「左右に同じく」

 

 先程までの真剣な雰囲気はアリーゼの発言によって一変し、警戒心を

 抱いていたレイ達は気が抜けてしまう。

 その様子を見てネフテュスは可笑しそうにクスクスと笑っており、

 アストレアは苦笑いを浮かべていた。

 

 「まぁ、それはそれとして...

  こちらこそ改めてよろしくね!ベル!」

 「カカカカカカ...」

 「ホントそれどうやってるの?」

 

 初対面の時と同様にアリーゼはベルと握手を交わすのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...やはり彼女の性格は、ずば抜けて天真爛漫だと思った。

 それ故に遠慮が無い...いや、無さすぎるという事も。

 らしいと言えばらしい、のかもしれない。

 

 そう思っている中、フィルヴィスとアスフィ、ナァーザとレイが

 近寄ってくる。

 先程まで警戒していたようだが、今はそうではないみたいだった。

 

 「私もアリーゼ同様によろしく頼む、ベル」

 

 彼女も握手を求めてきたので、その細く白い手を握った。

 

 「...っ」

 「...?」

 

 しかし、妙な事に彼女は顔を逸らし、慌てるように手を離した。

 何か不都合な事をしてしまったのか...?

 それを問いかける前にアスフィ達に話しかけられた。

 

 「こうして貴方と顔を見合わせるのは、何というか...

  不思議に感じますね。ですが、嬉しくも思います。クラネルさん」

 「うん。ずっと顔は見れなかったからね...

  やっと見る事が出来て、よかった」

 「リド達より先に見てしまいましたガ...そノ...

  私もベルさんの顔を見られテ、嬉しいでス!」

 

 ...そんなに、皆は僕の顔を見たかったのか。

 確かに隠し続けていたとはいえ...嬉しく思う事なのか、僕には

 理解が及ばない。

 

 ただ、輝夜は面白がって質の悪い方法で脱がそうとした事が幾度も

 あるが、アスフィ達は純粋に見てみたかったというのはわかる。

 

 その輝夜とライラがいつの間にか僕の前に立ち、顔をマジマジと

 覗き込んできていた。

 

 「...んー?...よくよく見ると...貴様の顔、どこかで...」

 「奇遇だな。あたしも何か引っ掛かる気がしてならないんだ」

 

 ...きっと、アルフィアさんと重なって見えてるんだ。

 近親者でいえば伯母という、血がとても濃い血縁関係なので顔が

 似るのは不思議ではない。特に母さんは双子だったらしいから。

 

 両親には似ず、別の血縁者と似る事は遺伝子上十分にあり得る事だ。

 

 今ここで僕がアルフィアさんの事を言えば、色々と厄介な事になるのは

 明白だろうな... 

 それなら...一番認めたくない事だが、この際仕方ない。

 

 「...兎のモンスターか?」

 「「...あぁ、アルミラージか」」

  

 納得したような様子の2人だが、僕は念のため我が主神に確認して 

 いただこうとアイコンタクトを取った。

 

 すると、我が主神は頷いて嘘はついていないと教えてくださった。

 ...よかったと言えばよかったが、どうにも苛立ちそうだ。

 

 「か、輝夜、ライラ。クラネルさんに失礼ではありませんかっ」

 

 僕の機嫌が悪くなったのを察したのかリューがそう指摘する。

 

 自ら気に食わない事を言ったのだから、気にする事はないんだが...

 彼女なりの気遣いんだろう。

 

 「...確かにそれもそうだな。申し訳ない」

 「ああ、悪かったよ。...けどよ、リオン。

  お前も謝っとけよ?何にどう似てると思ってたのか」

 

 僕は2人が浮かべているにやけ面を見て、何か企んでいると察知する。

 大方、彼女をからかうつもりなんだと。

 

 「え?は、はい。アルミラージに似ていると思い、申し訳ございませんでした」

 「おやおやおや?このポンコツエルフときたら私達の命の恩人に何と失礼極まりない事を」

 「お前、酷いな」

 

 理不尽にも程がある...

 

 「なっ!?ふ、2人に言われる筋合いは!」

 「はぁ?あたしら似てる、なんて一言も言ってないだろ」

 「ええ、似てると言ったのは貴様だけだぞ?」

 

 リューは悔しがって何も言い返せずにいた。

 彼女は純粋に謝罪したのだから反論はいくらでもしていいというのに。

 

 ...僕がフォローしないといけないか。  

 

 「気にしなくていい、仲間にもよく兎だとからかわれるんだ。

  ...それとクラネルではなく、ベルと呼んでくれていい」

 「あ...そ、そうですか。わかりました、ベル」

 

 リューが名前で呼んだ後、輝夜は意外そうな顔をしていた。

 さん付けをしていない事が予想外だったのかと思ったが、どうやら

 そうではなく...

 

 「おやまぁ、何とも...アリーゼ並に寛大な事」

 「フフーン♪ベルは何も言わずとも察してくれるイケメンだもんね!」

 「何故、貴女が得意気に言ってるんですか...」

 

 全くだ。...そろそろ話の本題へ移ってもらおう。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「それじゃあ、彼がこれまでどんな修練をしてきたのか...

  皆にも見せてあげるわね」

 

 ネフテュスはテーブルの上に小型のスクリーンデバイスを設置し、

 ベルが被っているヘルメットにワイヤレスコネクトをガントレットで

 操作する。

 

 そうする事でヘルメットに記録された映像をスクリーンデバイスに

 直接送信する事が可能となるのだ。

 

 ソファに座り、期待を膨らませてソワソワしているアリーゼと

 フィルヴィス、そしてレイ。

 輝夜、ライラ、ナァーザは無表情ながら椅子に座って、見る気は

 あるようだった。

 一方、何を見せられるのか少し不安げになっているアスフィとリュー。 

  

 やがて、スクリーンデバイスの中央にあるレンズが点滅すると放射光を

 照らし、立体映像が映し出される。

  

 最初に映し出されたのは暗闇に点々と小さな光が輝く光景だった。

 その光景を見て、アスフィがネフテュスに問いかける。

 

 「これって...星空ですか?」

 「んー...正確に言うと難しいから詩的に言えば、星空の中よ。

  別の言い方では宇宙空間という名称になるわ。

  神々はこの空間の遥か向こう側から流れ星となって、この大地へ降りたってくるの」

 「へぇ~、星空の中ってこんな感じなんだ」

 

 映像は進んでいき、突如として赤い球体が出現する。

 

 「あ、今見えてるこの...

  何かすっごく大きい赤いボールみたいなのは何ですか?」

 「これが星そのものよ。遠くから見ると輝いて見えるけれど、近くではこんな風に見えるの」

 

 その赤い星へ近付いていき、映像の視点からでは地表が見え始める。

 着陸すると同時に、今度はベルのヘルメットの映像へと切り替わって

 一人称視点となる。

 

 「これはベルから見えている視点よ。

  臨場感たっぷりだから、楽しんでね」



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>∟ ⊦>∟ ⊦ R'ewvyew

 「うわぁ!うわぁ!気持ち悪い虫が来てる!沢山来てるわよ!

  何か光ってるのもうわぁ!危ない危ない!」

 

 「これはまた図体のデカい。いや、デカ過ぎる...

  ゴライアスよりも巨大な化け物か」

 

 「うお、これ見てるだけで目が回ってくるな。

  ...てか、緑の変なモン撃たれてるのに大丈夫なのか?」

 

 「は、速い...!何という動きをするんだ、この黒い生き物は...

  しかし、それを上回るベルも凄まじいですね...」

 

 「これはターミネーターとは違う類いのロボットなのですか?

  ...ディセプティコンと名乗る金属生命体?」

 

 「何故、真正面に居てこの化け物は気付いていなかったんだ?

  ...なるほど。確かに目があれだけ離れていれば、死角になるな」

 

 「危険な生き物が沢山居ますが...

  とても美しい星なのですネ。パンドラという星ハ」

 

 記録映像を1つずつ鑑賞し、アリーゼ達は異なる世界の見た事もない

 風景、生物、文明に舌を巻いた。

 何もかもが自分達の居るこの世界とはかけ離れているからだ。

 

 魔石産業の利益によって一国をも上回る発展を遂げているオラリオは

 世界の中心とされる都市と称されている。

 だが、そんな敬称など異なる世界では極小さな街のあだ名程度にしか

 感じられない。

 

 尚、ベルが同一個体と遭遇したというパラレルバースでの記録映像は

 見せなかった。

 混乱を招かないようにするためでもあり、アリーゼが会ってみたいと

 言いかねないのをベルが危惧したからだ。

 

 曰わく、自分の同一個体の存在しないパラレルバースなら未だしも

 同一個体と会ったがために迷惑を掛けてしまってはならない、との事。

 恩義を重んじる男、それがベル・クラネルなのである。

 

 やがて、記録映像が途絶えて何も移らなくなった。

 

 「あ、終わりですか?」

 「いいえ、ここからが本番よ。 

  聖地で執り行った成人の儀での雄姿を見せてあげるわ」

 

 そう告げたネフテュスはガントレットを操作し、続きとなる記録映像を

 流し始めた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 最初の映像はベルが砂漠を進んでる途中でサンド・ワームを瞬殺し、

 坑道を進んで行って聖地へ辿り着く所だった。

 

 不思議な事にハラム又はピラミッドを見て、誰もそれが何なのかを

 問いかけなかった。

 先程まで見ていた記録映像のせいか、聞く必要が無いと思ったのかも

 しれない。

 

 聖地へ入り、立体映像の後を追って行くと成人の儀が開始するまでに

 待機する部屋へ入った。

 その部屋の奥に設置されている石製の正方形な箱の前に立つ。

 

 その中に収められていたコンビスティックを手に取り、固定器具が

 閉じた事で別の入口が出現した。

 

 「何故、槍が収められていたのですか?」

 「要約すると、ベル達にとって槍は神聖且つ狩人の象徴的な武器なの。

  一から手作りして成人の儀で使う...太古からの伝統みたいなものね」

 「槍かぁ...アイツなら食いつきそうだな。

  魔剣並みに色々ぶっ飛んだ仕掛けがありそうだしよ」

 

 ライラの予想は正しく的中している。

 しかし、説明してしまっては楽しみが減ると思ったようでネフテュスは

 微笑みを浮かべるだけで話そうとしなかった。

 

 別の入口である階段を降りていき、最下部に到達すると目の前の通路を

 進んで行く。

 左右の石像を見渡していると、生体感知センサーが反応した。

 その瞬間、黒い2つの影が飛び掛かってくる。

 

 『ギ ビャ ァ ア ア アッ!!』

 『ギ シャ ァ ア ア ア ア アッ!!』

 

 「キャァッ!...あ...」

 「...どうした?シャリア?私達は見てはおりませんが?」

 「ああ。めちゃくちゃビビって何も聞こえなかったぞ。なぁ?リオン」

 「え?...は、はい。貴女の悲鳴も何も聞いていません」

 

 何故、誰のと言ってしまったのか、墓穴を掘ったリューに迫る

 フィルヴィス。

 驚く間もなくリューは自身の耳に走る感触で背筋に悪寒が走った。

 

 「聞いてるじゃないか...!ハッキリとこの耳で聞いてるじゃないか!」

 「ひぃあ!?み、耳を引っ張らないでください!シャリア~!」

 「ちょっと2人とも静かにして!聞こえないから!」

 

 珍しくアリーゼが真剣な表情となって叱咤する。

 それに驚いてリューとフィルヴィスは静かに頷き、座り直すのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 最初に狩った虫との戦いは狩りの基礎基本を思い出すに丁度良かった。

 ケルティック達からの教訓も活かす事が出来て、尚且つ緊張感を持って

 士気を上げられたのも経験になった。

 

 僕自身の体感時間では5分間、虫と殺し合っていた様に思えていたが

 記録映像ではたったの2分で仕留めていた。

 

 興奮していたからズレていたんだろうか...

 

 「おいおい...死骸からブチ撒かれた変な液体で壁とか床が溶けてるぞ」

 「そういう体液なのよ、この...ゼノモーフという生物は。

  エイリアンとも呼称していいわ」

 「エイリアン...名前の由来はどういった意味があるのですか?」

 「そのままの意味では異邦人ね。

  この星には本来存在してはならないという旨趣もあるわ」

 

 つまり大まかに引っくるめれば僕や純粋な人間であるルノア達を除いて

 ヤウージャの皆もエイリアンと呼べる。

 但し、ヤウージャという固有名があるのでエイリアンと呼ぶのは

 不敬だ。

 

 そう思っていると次に犬の虫を狩る場面が映し出される。

 この虫も素早いだけで、そう手子摺らなかったな...



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>∟ ⊦>'<、⊦ 称賛

1ヶ月ぶりです。
何とか落ち着いて来たので再開したく存じます。


 『グォ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!』

 

 「...うぶっ」

 「おい、リオン吐くなよ?」

 「い、いえ、これは流石に...」

 

 吐き気に襲われ、思わず口を押さえながら目を背けるリュー。

 ゼノモーフ・バトル、ドッグからスネーク、バット、ブルとの狩猟を 

 終えたベルが治療する場面が映し出されたからだ。

 

 リューだけでなくアスフィやその場に居る全員も、その光景には顔を

 青ざめさせている。

 自分達もダンジョンで負った深い傷の痛みを忘れてはいない。

 だが、そんな痛みなど今、映し出されているベルの治療と比べてみれば

 生易しいものだと思えた。

 

 治療が済み、凭れている壁が壊れるまで叩く姿も彼女達からすれば

 想像だに出来ない様子だった。

 

 「...その、ポーションは持ってなかったの?」

 「ポーションを使う事は許されない。応急処置としてあれを使う」

 「そ、それにしても...よく意識を保っていられたな...」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 『ギ シャ ァ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア アッ!!』

 『...Nain-desintye-de』

 

 死闘の末、ゼノモーフ・アルビノを見事に仕留め、7匹を狩る事に

 成功したベル。

 アリーゼ達は脱力してため息をつくも、次の瞬間に映像が乱れて

 驚愕した。

 

 『ギ シ ャ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア...!』

 

 これまでベルが狩ったゼノモーフの産みの親であるクイーンが姿を

 現した。

 4Mを優に超える体高、尻尾を含めると全長は10Mにもなる異形の

 怪物だとアリーゼ達は思った。

 

 ベルとクイーンとの戦いの火蓋が切られ、想像を絶する戦いが映像の

 中で繰り広げられていく。

 

 戦いの中盤、クイーンを倒したかと思えばそれが擬死であり不意を

 突かれたベルは腕を落とされてしまった。

 

 その光景を目の当たりにしてフィルヴィスとレイは口元を押さえ、

 悲鳴を上げるのを必死に堪える。

 

 アリーゼ達も少しだけ顔が蒼褪めていて小刻みに震えていた。

 

 斬り落とされた尻尾に巻き付かれ、倒れているベルを何度も踏み付ける

 クイーン。

 ヘルメットに亀裂が入り、怯ませて何とか抜け出したものの巻き付いて

 いる尻尾を勢いよく振るい回され、最後には壊そうとしていた箇所が

 千切れて尻尾が解けるとベルはそのまま投げ飛ばされてしまった。

 

 壁の最上部にある観戦室の窓を突き破り、ベルの姿は見えなくなる。

 我が子の仇を討ったとクイーンは咆哮を上げると出口となる扉に

 近付いて行った。

 

 「...ネフテュス様よ。アンタ...ベルを助けようとしなかったのか?」

 「ええ。手出しは無用と、皆にも伝えておいたわ」

 「っ!何でだよっ!?どう見ても死にかけてるってのにっ...

  ふざけんなっ!」

 「ライラ...っ」

 

 激怒するライラをアストレアがその小柄な肩に手を置いて制止させる。

 手を退かそうとするライラだったが、その表情にはありありとした

 不服の色が見え隠れしていた。

 

 自身の主神も同じ気持ちであると理解し、ライラは悔しそうに

 押し黙りながらも怒りを抑え込んだ。

  

 リューも同様に複雑そうな顔色となっていた。

 が、次の瞬間、映像から流れてきた雄叫びが耳を劈き鼓膜を叩く。

 

 『ヴオ゙オ゙ォォオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!』

 

 それは紛れもなく、ベルの声びだった。

 

 何が起きたのかわからずリューは混乱していると、再び同様の雄叫びが

 聞こえてようやく我に返り、映像を見て唖然とする。 

 今までに感じた事のない威圧感を醸し出し、ヘルメットの亀裂から

 赤い光を溢しつつ下に居るクイーンをベルは見下ろしていた。

 

 闘技場へ降り立つと、足元に転がっていた自身の腕を拾い上げて徐ろに

 上腕部の切断面に重ね合わせた。

 

 「...そんな...」

 

 ナァーザが呟いたのは合わさった部分から大量の血が溢れて、同時に

 接合部の切れ目が消えていく場面だった。

 そして、瞬く間に切断された腕が癒着してしまう。

 

 信じられない光景を目にしてリューだけではなく誰もが驚き、目を

 大きく見開いていた。

 

 それから怒濤の反撃が始った。

 震われて来る手の攻撃を片腕だけで受け止め、槍で突き刺し、仕返しの

 如く右腕を斧で斬り落す。

 そして、最後は青白い光を纏ったダガーによる一閃で斬首した。

 

 「...すごい...」

 

 そう言葉を溢したのはアリーゼだった。 

 リューやアスフィ達もその言葉を聞いて同意見なのか静かに首肯する。

 映像の中ではベルが首の無いクイーンの胴体を祭壇から投げ落とし、

 ダガーに刺した首を高々と掲げるベルの姿が映っていた。

 

 それを最後に立体映像は消え、部屋の中は静寂に包まれる。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「以上の事があって、ベルは見事に立派な狩り人になったのよ。

  それと同時に長としての資格...所謂、団長の地位も得たと言えばいいわね」

 

 その場に居る口を閉ざして呆けていると、突如としてアリーゼがベルに

 抱き着いた。

 それに驚いたのは、ベルとネフテュスを除くリュー達だった。

 

 「ベル...すっごく格好良かったわ!本当に勇敢で...!」

 「...ん」

 「頑張ったご褒美あげないとね!ほらほら、ちょっと目を瞑ってもらって」

 「「また何しでかそうとしてるんですか!」」

 

 ベルからアリーゼを引き離そうとするリューとアスフィ。

 しかし、腰にしがみついて意地でも離そうとしないアリーゼに輝夜と

 ライラはため息を吐いて、フィルヴィスは苦笑いを浮かべ、レイは

 オロオロと戸惑うのだった。 

 

 一方でナァーザは右腕をマジマジと観察し、本当に完治しているのに

 興味津々となっていた。

 

 「...ネフテュス様、ベルは...あの子は一体...」

 「そうね...英雄も神智さえも超越した人間...かしらね」

 

 アストレアはハッとその言葉だけで秘められた意味を察した。

 この世界において有り得ない存在であり、それは神々にとって

 最も恐ろしい存在でもあるのだと。

 だからこそ、それ以上何も言えなくなってしまった。

 

 「じゃあ、お祝いしましょう!それならいいでしょう?」

 「はぁ?おいおい、今から用意するってのか?」

 「当然じゃない!私とリオンは買い出しに行って来るから、皆は他の事お願いね!」

 「な、えっ?ア、アリーゼ!?」

 

 そんなアストレアの心情を気にする事なく、アリーゼはリューを

 引っ張ってどこかへ行くのだった。

 

 「...ロキやヘルメスに知られたら、大変な事になりそうね」

 「いいえ、ロキには既に教えているわ。ベルの事について、何もかもをね」

 「え...?」

 「だって...誰かに言いふらしたりなんてしないわ。

  ロキは賢いから...私を怒らせたくなんてないでしょうし」



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>∟ ⊦ ̄、⊦ C'ewrewlatyonw

 「おじさん、おまけしてくれてありがとう!」

 「ありがとうございました。また購入に来ますので」

 「ああ、いつでもおいで」

 

 商店が建ち並ぶ街角でアリーゼとリューは紙袋一杯に買い詰めた

 食材を持ち、ホームへの帰路を歩いていた。

 女性が持つには量が多い気もするが、そこはファルナを授けられた

 冒険者とだけあって軽々と持っている。

 

 道行く先に見かける人々も慣れているのだろうか、気にせず各々の

 購入したい物を見ていた。

 

 暫く歩いていると、突然2人を呼び止める少女の声が聞こえてきた。 

 2人は振り返ってみれば、そこには見知った顔があった。

 

 リリルカだ。その隣には見知らぬ前髪を切り揃えた少年も居る。

  

 「リリちゃん!久しぶりね!元気にしてた?」

 「はい、おかげさまで。命様やタケミカヅチ・ファミリアの皆様と...

  ヴェルフ様という方とパーティーを組んで頑張っています」

 「それは何よりですね。...ところで、お隣の方は?」

 

 そう言ってリューは隣に立っている少年に視線を向けた。

 中々に端正な顔つきをしており、美女2人を前にしながらも

 緊張している様子をみせず平然と名乗った。

 

 「オイラはルアン・エスペル。見ての通りリリの恋人だ」

 「ル、ルアン様っ、そんな前置きもなく言う事は...」

 「ほほ~~~っ?そっかそっか。年上の私よりも先に甘酸っぱい恋を満喫中だったって事ね...

  羨~~ら~や~ま~し~い~!」

 「ア、アリーゼ。落してしまいますから落ち着いてください...」

 

 地団駄を踏んで荷物を取り落としそうになるアリーゼをリューが宥め、

 リリルカはそんな2人のやり取りに苦笑いを浮かべるのだった。

 

 一方でルアンは2人を観察する様に見ているだけだった。

 やがて落ち着きを取り戻したアリーゼに、どこでどういった出会いを

 したのか問いかけられてリリルカは少し戸惑いつつも正直に答えた。

 

 「そんな事があったのですか...

  ですが、貴女に復讐を考えたゲド・ライッシュを釈放したのはやはり腑に落ちない気も」

 「いえ、リリの自業自得なのですから...

  それにルアン様のおかげで胸の支えが取れましたし、大丈夫ですよ」

 「...そうですか」

 

 その言葉にリューは怒りの表情を潜め、リリルカの意思を尊重する事にしたようだった。

 一方、アリーゼはというとルアンと目線を合わせるべく屈んで

 真っ直ぐに見つめる。

 ルアンは微動だにせず、アリーゼが口を開くのを待った。

 

 「ルアン。リリちゃんを助けてくれて、ありがとう。 

  とても勇気のある男の子なのね。リリちゃんが惚れるのもわかるわ」

 「ア、アリーゼ様...」

 「当然だろ?オイラ以外に惚れさせもしないし、誰にもリリを傷付けさせたりなんかさせないぜ」

 「あははっ!うんうん、それでこそ恋人よね!

  私も欲しいなぁ~、守ってくれる素敵な男の人...」

 「き、きっと...アリーゼ様にも出会いがありますよ。

  とてもお綺麗ですし、歴戦の冒険者様なのですから」

 「ふふ~ん♪それ程でもあるわよ!」

 「(自分であると言うのですか...)」

 

 そうして夜になる事を告げる鐘の音が響き渡ってきたのを境に

 アリーゼとリューはリリルカ達と別れる事となった。

 互いに手を振ってリリルカ達の姿が見えなくなり、再び歩き出す2人。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 先程まで人が行き交っていた道も次第に閑散とし始めてきた頃、

 アリーゼが唐突にリューへ問いかける。

 「リオン、もし恋人にしたいならどんな人が良い?」

 「はい?...申し訳ないですが、私はそのような話に興味はありませんので」

 「え~~~!」

 

 突然の質問に一瞬戸惑うも、すぐに冷静になって返答するリュー。

 だが、不満があるらしくアリーゼは頬を膨らませた。

 しかし、次にアリーゼが放った衝撃的な発言にリューは戸惑う事と

 なる。

 

 「私はベルがいいわね。正直言って、惚れ込んじゃったかもしれないわ!」

 「...え゙?」

 「ん?...はは~ん?さてはリューもベルを狙ってる感じなのね?」

 「は、はい!?い、いえ、そんな違」

 「ならこれからは恋のライバルって事ね!負けないわよ、リオ...

  いいえ、これからは名前で呼ばせてもらうわ、リュー!」

 「...人の話を聞けぇええ!」

 

 リューの叫びが木霊するオラリオの夜は今日も更けていくのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ベルにとって祝いの儀は厳粛なものだとあの頃から教えられていた。

 肉を喰らい、カントリップを煽り、氏族の長としての威厳を示すための

 儀式だと。

 それを覆すクラッカーの破裂音と拍手の音にハッとベルは我に返る。

 

 アリーゼ達が用意してくれた料理を前に、何故か被らされた三角帽子を

 脱ぎながら周りを見渡す。

 自分を祝うかのように全員が笑顔で祝福してくれている光景に若干、

 困惑した。

 こんなにも明るい雰囲気の儀式は今まで体験した事がなかったからだ。

 

 そんなベルを気にする事なくアリーゼは乾杯の音頭を取るのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 星屑の庭へは幾度となく訪れているがネーゼを含めてほとんどの

 団員達とは初対面という事もあり、最初の会話は自己紹介から始った。

 その中でイスカだけは名乗り終えるや否や、そそくさと離れてしまい、

 ベルは首を傾げたものの、気に留めずその後は料理に手を付けた。

 

 料理を作る際に好物が何かを聞かれ、ベルが生肉を主食としていると

 答えた際にはレイを除いて全員が引いていたのは言うまでもない。

 

 しばらく食べ進めて1番気に入ったステーキサンドを頬張っていると

 アリーゼが話しかけてきた。

 ちなみにそれを作ったのは彼女である。

 

 「ねぇ、ベル。ここだけの話なんだけど...

  ティオナの事、どう思ってるの?」

 「...女として好きだ」

 「お~...ドストレートね。

  って事はやっぱりそういう関係になりたいのかしら?」

 「...想像に任せる」

 

 アリーゼは数回頷いて納得したようだが、どこか残念そうな表情を

 浮かべた。

 何か気に障ったのかとベルが問いかける前にアリーゼは向き直った。

 いつも通りの明るい笑み、とは言えない切なさを残していた。

 

 「ティオナともこうして...楽しく食事をしてあげてね?

  もちろん生肉じゃなくて、ちゃんとした料理で」

 「...ああ。そうする」

 

 そう答えたベルはステーキサンドを食べ、味わうのだった。



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>∟ ⊦,、 ̄、⊦ 心情

 「...という訳で、全治1ヶ月くらいは掛かるみたいなの。

  アポロン様とヒュアキントス団長にそう伝えてもらえるかな?」

 「わかった。まぁ、アポロン様はあれがあるから...

  帰って来てから伝えとくね」

 「うん。それじゃあ」

 「ご苦労様」

 

 デナトゥスが開催する当日。

 アポロン・ファミリアのホームに訪れていたアーディ。

 対応していたのはダフネだった。

 

 何をしに来ていたのかと言うと昨日、仲間同士の喧嘩でボロ雑巾の様に

 なってしまっていた団員達の状態を伝えに来ていたのだ。

 

 殴り合いの喧嘩でそこまでの怪我を負う事はオラリオの治安上でも

 珍しくはない。

 そのため優しい性格のアーディも慣れている事もあって、報告を

 終えるとすぐに立ち去って行った。

 

 ダフネもホームの中へ入ると、通路を進んで行き団長室へ向かった。

 

 ノックをして入室すると執務をしていたヒュアキントスに先程聞いた

 アーディからの報告を伝える。

 

 「まったく...我がアポロン・ファミリアの名に泥を塗るとは恥曝しもいいところだ。

  即刻、ファミリアを追放したい所だが...

  生憎アポロン様が許す訳がないだろうな。

  ダフネ、入院費を支払いに行け」

 「うん」

 

 顔を逸らした瞬間にダフネはとてつもなく仏頂面になりながら団長室を

 退室するのだった。

 

 「ん?ダフネ、どっか行くのか?」

 「どこかの誰かにボコられた連中のせいでね」

 「そりゃご苦労さん」

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 「ほな、行って来るで~」

 「はい。お気を付けて行ってください」

 

 移動し始めた馬車の中から門番に手を振るロキ。

 黄昏の館からバベルまでは遠いので馬車を利用するのは、どこの

 ファミリアの主神にとっては当たり前の事だ。

 但し、その当たり前の事が今回は長続きしないとロキは察していた。

 

 デナトゥスでネフテュスが何を話し、何をするのか。

 事前に伝えられた事はイヴィルスの情報を入手した事のみだ。

 それだけでは予測も何も出来ない。

 

 「...ま、ネフテュス先輩が何をしようと...

  ウチらが止めるんは無理やろなぁ...

  それこそ、邪魔しようもんならイヴィルスの巻き添えを喰うかもしれへんし」

 

 そう考えると冷や汗が頬を伝い、背中に悪寒が走った。

 もし仮にだが、ネフテュスの眷族がオラリオを滅ぼす程の力を 

 持っていたらどうなるのか。

 都市の外へ逃げても、他の都市にまで辿り着けるか分からない。

 そもそも他の都市さえも消し去ってしまうかもしれない。

 つまり、逃れるという選択肢そのものが存在しないのだ。

 

 「...うっしゃ!一丁、気ぃ引き締めていかんとな!」

 

 意気込むロキを運ぶ馬車はバベルの影に隠れていった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「じゃあ、リリ君。行って来るよ!」

 「はい、行ってらっしゃいませ。ヘスティア様」

 

 リリルカに見送られてヘスティアはバベルへと向かった。

 道行く人々に挨拶を交わしながら軽やかなスキップをしている理由は

 今、着用している服装がそれである。

 

 以前まで着ていた一張羅と言ってもいい安物の服ではなく、リリルカが

 プレゼントしてくれた青のドレス。

 それを早く神々に見せたくて仕方がなかったのだ。

 やがてバベルの入口まで来ると、タケミカヅチに声を掛けられた。

 極東の神なだけあって黒の羽織を着用している。

 

 「ヘスティア、どうした?そのドレスは。見違えそうだったぞ」

 「ふっふっふっ。これはリリ君からのプレゼントなのさ!

  コツコツと貯めたお金で買ってくれたんだよ...」

 

 そう答えると同時にヘスティアは涙を流し始め、突然の事に

 タケミカヅチは困惑する。

 

 「うぅぅ、思い出すだけで涙が...」

 「ハ、ハハハ...そうか、アイツからか...

  よかったな、良い眷族を持てて。似合ってるぞ」

 「ありがとう、タケ!そう言ってもらえるとボクも嬉しいよ!」

 

 泣いていたかと思えばすぐに嬉しそうな笑みを浮かべるヘスティアを

 見て、微笑んでいたタケミカヅチ。

 

 だが、バベルを見上げると真面目な表情に戻った。

 何故なら、これから行なわれるデナトゥスに来る1柱の女神を

 前にするのだからだ。

 二つ名を決める命名式も命のために良い名前を勝ち取らなければ

 ならない。

 

 だが、それ以上に緊張するであろうとタケミカヅチは思わず固唾を

 飲んだ。 

 しかし、タケミカヅチの心情と打って変わってヘスティアはウキウキと

 楽しげであった。

 それに気付き、タケミカヅチは訝りながら問いかける。

 

 「ヘスティア、お前...緊張してないのか?」

 「え?どうしてだい?」

 「いや...ネフテュス先輩が来るのは知ってるんだよな?」

 「もっちろん!だから楽しみなのさ!このドレスを早く見せてあげたいんだ」

 「...そ、そうか。まぁ...きっと褒めてくれるはずだ...」

 「うん!ほら、早く行こうよ!」

 

 先を行くヘスティアの背を見て、苦笑いになりつつもタケミカヅチは

 後を追うのだった。



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>∟ ⊦>'、,< D'ewnathos

 バベル30階。

 巨大な柱に囲まれた神殿を思わせる巨大な空間に33柱もの神々が 

 一堂に会していた。

 

 いつもであれば和気藹々の雰囲気で不真面目且つふざけた内容の討議を

 行い、命名式ではより面白がって奇抜な二つ名を進呈するような事を

 する流れを見せるはずだが、今回は違っていた。

 

 何故ならフレイヤを拝めたり、イシュタルに踏まれてもらったりなど

 していないからだ。

 頬を染めながら涎を垂らしているアポロンを除いて。

 

 尚、そのイシュタルも化粧をせず素顔で静かに座っていた。

 更に本来、参加が可能性なのはレベル2以上の上級冒険者を眷族に

 持つ主神のみのはずなのに1柱だけ該当しない神物が居た。

 

 眷族がたった1人しか所属していないヘスティアである。

 リリルカはまだレベル1のままであり、二つ名を進呈されない。

 それなのに、何故ここへ呼ばれたのかロキやヘファイストスは疑問を

 抱きながらも沈黙を守っていた。 

 

 しばらくして突如、ガネーシャが沈黙を破った。

 

 「俺はガネーシャだ!」

 「うわもう知っとるわボケアホビックリするやろがい!

  何や急にぃ、ホンマもう~...で、何やねんガネーシャ?」

 「うんっ!間もなく時間なのだが、ネフテュス先輩とアストレアの姿がまだ見えない。

  もしかすると道に迷ってしまっている可能性があるので、迎えに行こうと思う!」

 「...いや、行けるんなら行ってほしいけども...

  アストレアはともかくとしてネフテュス先輩の居場所知っとるん?」

 「いいやっ!全く存じないっ!」

 「ほなら黙って座っといてぇな...」

 

 まだ開始されてもいないのに余計な疲労を溜め込む羽目になったロキ。

 幾柱の神々も同様に項垂れていた。

 その時、ミアハが袖から何かを取り出すとそれを見て、立ち上がると

 手を数回叩き自身に注目させた。

 

 「皆に聞いてほしい。間もなくアストレアを連れてネフテュス氏が来る。

  もう少し待っていてくれとの事だ」

 「...え?ミアハ、何でわかるん?」 

 「それは...ネフテュス氏が来てから詳しく話そう」

 

 その発言に神々はミアハを訝り、困惑するしかなかった。

 そして、待つ事5分後に扉が開かれて神々は一斉に口を閉じる。

  

 ヒタヒタ...

 

 足音が聞こえ始めミアハの言う通り、ネフテュスがアストレアを連れて

 やって来た。

 その瞬間、先程までの空気が一変する。

 冷たい風が吹いている訳でもなく鳥肌が立ち、熱風が吹いている訳でも

 なく汗が垂れた。

 加えて、誰もが身動きが取れなくなっていた。まるで蛇に睨まれた

 蛙の如くである。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ごめんなさいね、遅れてしまって。

  じゃあ...ロキ、司会の挨拶から始めるのかしら?」

 「あ、あぁ、はい。...んんっ!えー、第ン千回、デナトゥスを開かせてもらいます。

  司会進行役はうちことロキや。よろしくなー」

 

 ロキが右腕を上げると神々は拍手を送る。

 少ししてから上げていた右腕を降ろすと拍手は止まった。

 

 「えー...ほんなら、まず何から...話せばええんやろか...」

 「私の事は最後にしてもらえると助かるわね」

 「さいですか...ほなら、何か報告するもんおるかー?」

  

 ネフテュスの事は後回しという事になってロキは少しばかり胸の

 締め付けが緩んだように思えた。

 しかし、この場にはフレイヤとアポロンという問題神が居る。

 

 どちらかが下手な事を言えば、一巻の終わりであるが幸いな事に

 フレイヤはただ見つめているだけで、アポロンもネフテュスを視界に

 捉えた途端に白目を剥いて動かなくなっていた。

 

 「えっと、いいか?ソーマがギルドに警告食らって、唯一のご趣味を没収されたそうです」

 「ソーマの趣味って何だっけ?」

 「全く知らねぇ」

 「何でも今は膝抱えて隅から動かないらしいぞ」

 

 ソーマの話を皮切りに神々がガヤつき始めた中、アストレアが挙手を

 したのを見てロキが手を叩き鎮める。

 アストレアはロキに感謝の意を込めて目を配ると、椅子から

 立ち上がった。

 

 「ソーマの件に関しては私達、アストレア・ファミリアが取り締まったわ。

  彼の趣味は酒造...それが災いして団長であるザニス・ルストラが首謀となって同じ眷族達を争わせていたのよ。

  身勝手に利益を貪るだけに留まらず...彼は犯してはならない事をしてしまった」

 「何をしたと言うのだ?オラリオを脅かす程の事か?」

 「ええ。彼は...あろう事か、イヴィルスに肩入れをしていたのよ」

 

 それを聞いた途端に神々は予想もしていなかった発言にザワついた。

 イヴィルスに加担してしまえばギルドから指名手配され、処刑対象と

 なるのにザニスは自ら愚かな事をしてしまったのだと幾柱の神は

 呆れていた。

 そんな中、ヘルメスがアストレアにソーマについて問いかけた。

 

 「けど、ソーマは酒の事しか興味なかっただろ?

  善神、とも言えないが...どうして彼がイヴィルス何かに肩入れをしたんだ?」

 「いいえ、彼自身は直接関係していない。

  ザニスが彼の酒造にしか興味がない事を利用して...

  ファミリアを意のままに操っていたからイヴィルスと繋がってしまったのでしょうね」

 「...なるほど、そういう事か...」

  

 ヘルメスが納得していると、ネフテュスも口を開いた。

 

 「それだけじゃないわ。

  ダンジョンで捕獲したモンスターをオラリオ外の国々へ密売を手伝っていたのよ」

 「は、はぁ!?モンスターの密売!?」

 「おいおい...そんな事してギルドが黙ってないだろ...」

 

 モンスターをダンジョンから外へ出す事が許されるのは唯一、

 モンスターフィリアでテイムを披露するための時だけだ。

 地上のモンスターと違い、ダンジョンで生まれたモンスターの危険度は

 雲泥の差があって逃がしてしまえば、その被害は想像だに出来ない。

 

 「まぁ、その密売自体は別のファミリアがやっていた事で...

  それにザニスは目が眩んだようね」

 「その別のファミリアというのは...イケロスですか?ネフテュス先輩」

 「ふふっ...正解よ。ヘルメス」

 

 微笑みを浮かべて、ネフテュスはパチンッと指を鳴らす。

 扉が開いたのに気付き、ヘスティアがその方を振り返って驚きの声を

 上げる。

 その声に反応した神々は同じ様に振り返って驚愕した。

  

 件のイケロスとセクメトが宙に浮かぶ檻に閉じ込められたまま、

 運ばれて来たのだ。

 檻の中で口の周りを硬質なマスクのような物で覆われている両神は

 寝転びながら神々に手を軽く振る。

 

 「イ、イケロス...?それにセクメト...?」 

 「お喋りが過ぎ無いように口をチャックしてもらっのよ、セトお兄様。

  さて...まずはイケロスのファミリアが何をしてきたのか、1から話すわね」

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ゼノスの事は伏せたまま、ネフテュスはイケロス・ファミリアの

 実態を暴露した。

 モンスターの密売だけでなく、その密売で手にした金でクノックスを

 拡大しながらイヴィルスがそこを根城にして暗躍している事を。

 ダンジョンを人造的に造っている事に驚いたりして様々な反応を見せる

 神々だったが、またしてもガネーシャが突然テーブルを叩きて、

 イケロスに指を指しながら叫んだ。

 その声色は普段のガネーシャからは想像出来ない程、怒りに満ちて

 いる。

  

 「お前は...!お前という奴は許さん!

  眷族達に犯罪を楽しませるなど言語道断だ!」

  

 神々は押し黙って息を荒くするガネーシャを見る事しか出来なかった。

 イケロスは冷たい目で鼻を鳴らし、そっぽを向いていた。

 大きく息をつき、ガネーシャは座り直してすまん、と一言だけ言い頭を

 下げて謝罪する。

 「...で、イケロスの眷族はそこにまだ居るんか?」

 「...いいえ。というよりも...ネフテュス様の眷族が殺めてしまったわ」

 「あぁ...ほんなら、まぁ...うん...」

 

 実際にあったイヴィルスの異常死体の件よりも先に以前から聞いている

 あの言葉が脳裏を過ぎり、ロキは全てを察していた。

 そうしてイケロス・ファミリアの実態について話が終わると、

 立ち上がったネフテュスは神々の背後を移動しながら話し始めた。

 「皆、何年も前にイヴィルスの死体が見つかった事があったよね?それから少し前にもダンジョンで。

  どちらも私の子供達がやったのよ。

  私達はイヴィルスを見つけ次第、抹殺対象として見ているの。

  もしも...この中にイヴィルスに手を貸している子がいるのなら...」

 

 ネフテュスは瞼を閉じ、ゆっくり見開くと瞳の色を真っ黒に染めた。

 怒りを表わす赤ではなく、無慈悲な殺意しか感じ取れない濁った黒。

 その瞬間、空間が凍てつくような冷気に包まれる。

 神々は言葉を失い、身動きが取れずにただ恐怖するしかなかった。

 あれほど会えるのが楽しみだと呑気にしていたヘスティアでさえも。

 そんな神々を見渡して、フッとネフテュス様が笑みを浮かべると冷気が

 消え去る。

 

 「ギルドに出頭する事。いいわね?

  あぁ、それから...タナトスの他にエニュオと名乗る神も居る事を教えておくわ」

 「エニュオ...?都市の破壊者、って意味でしたよね?

  そんな名前の神なんて...会った事がないですけど...」

 

 ヘファイストスの返答に神々も同じ様に知らない事を告げる。

 移動していたネフテュスは目の前に居たデメテルの背後で足を止め、

 ポンと両肩を添えた。

 隣に座っているディオニュソスは困惑した様子で見ていた。

 

 「当然、それは偽名よ。真名ではないけれど...

  それが手掛かりとなるわね。

  このオラリオを破壊して何を企てているのか、というヒントのね」

  

 その言葉の意味を理解出来ず、神々は顔を見合わせて首を傾げるしか

 なかった。

 ネフテュスはデメテルの肩から手を離し、席へ戻ろうとした際に

 ウインクを見せる。

 それにデメテルは微笑んで頷き、何かを承諾したように見えた。

 

 「以上が私の知っている情報よ。とりあえず...

  イケロスの処罰はガネーシャに任せて、セクメトはファミリアの暗殺稼業を止める事。

  いいわね?」

 

 檻の前で目線を合わせながら諭すネフテュスにセクメトは肩を

 竦めながら頷くのだった。



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>∟ ⊦,、、,< 二つ名

 その後、ニョルズとイシュタルの件についても話した。

 

 イヴィルスに手を貸していた事は確かだが、ネフテュスの説得で

 咎めないという結論に至り、特に何事もなく収まった。

 目の敵にされていたフレイヤも別段、気にしていないのか

 イシュタルに謝罪を要求する事もなかったのだった。

 タケミカヅチも春姫の事に関して、思う所はあったようだが

 同様に何も言わなかった。

 

 「(アカン...やっぱこの方を敵に回したらホンマにアカン...

  牽制どころか皆殺し宣言しとるやん...)」

   

 そんな中、顔を伏せたままロキは恐怖するしかなかった。

 オラリオの二大派閥やガネーシャ・ファミリアの主神に有無を

 言わせず、中小ファミリアを問答無用で忌避させた。

 

 それに伴い、イヴィルスに関わっていると思われる神は内心冷や汗を

 垂れ流してこの場から逃げ出したくなっているはずである。

 

 「(というか、ウチらはイヴィルスと関係なしにネフテュス先輩を怒らせかねんかったんやから...

  幸運なんて甘っちょろい言葉も出んわ...)」

 「ロキ?」

 「はいはいはい!?ど、どないしました?」 

 

 慌てふためくロキの反応にネフテュスは首を傾げながら問いかけた。

 

 「ラキアがオラリオに攻め込む準備をしているって言ってるのだけど...

  それはどこの誰なのかしら?」

 「あ、あー、アレスを崇めとる王国の事です。

  まぁ、アイツが来るんは恒例行事みたいなもんですから、ギルドに報告しときますわ。

  ここにいるもんに召集かけられて侵攻を止めるよう言われるかもなんで」

 「そう...わかったわ」

 「(...あれ?わかったって言うてるけど...

   え?ネフテュス先輩のトコの眷族が来るん?

   それもう始まった直後にその恒例行事が無くなるんちゃう?)」

 

 そう思ったのはロキだけではなかった。

 イヴィルスの使者を数え切れない程葬ってきたネフテュスの眷族が

 来るとなれば、戦場は血の海で真っ赤に染まり、ラキアが滅ぼされて

 しまうのではないかと。

 

 それを危惧したロキは心意を確かめるべく、恐る恐るネフテュスに

 質問した。

 

 「あ、あのー、ネフテュス先輩?それに参加されはるんですか?」

 「そうね...呼ばれたら行くけど、それがどうかしたの?」

 「い、いえ?ただ来はるんかなぁ、と思っただけです。ははは...」

 

 終わったな、と神々はアレスに同情しつつ乾いた笑みを浮かべていた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「えとー、なら次に進もうか」

 

 そうしてロキが仕切り直しをして次の討議へ移る。

 命名式のために用意された資料が行き渡っている事を確認し、最初に

 セトの眷族から決める事となった。

 

 尚、前述でネフテュスが兄様と呼んでいたが、察しの通りセトは

 ネフテュスの兄妹に当たり加えて夫になるはずだった男神でもある。

 はずだったというのはネフテュスが婚約を拒否し、オシリスを選んだ

 ためだ。

 

 その話は天界で知らない神は居ない程であり、セトに同情する神々も

 多かった。

 

 そして、その2柱が顔を見合わせている。

 緊張感が漂う中、称号の候補が幾つか挙がると、その中でネフテュスが

 気に入ったらしき称号を挙げた女神を指した。

 

 ロキは即決し、最も無難且つ捻りも無い二つ名だったのでセトは大いに

 安堵したようだった。

 恐らく、ネフテュスなりのお詫びで決めたのではないだろうか。

 

 その後もいつもであれば、多数決で決まるはずの命名式もネフテュスが

 独断で決めていった。

 発言力の弱いファミリアの神々は痛い名前を回避してくれるネフテュスに

 感謝し、セトと同様に安堵して涙を流していたという。

 

 一方で古参のファミリアは黙って進呈された称号を書き記していた。

 オモチャに出来ない事への文句を言ってしまうという強制送還行為を

 するほどアレスの様な馬鹿ではないようだった。

 

 やがてディオニュソスへと回り、フィルヴィスの二つ名を討議し

 始めた。

 ネフテュスに選ばれるのが楽しくなってきたのであろう神々は幾つも

 候補を挙げていく。

 だが、一向に先程の様に指名してこないネフテュスに神々は困惑した。

 お気に召さなかったのかと不安になっている中、ネフテュスが言った。

 

 「その子の二つ名はそのままが良いわね。似合っているから」

 「え?あ...さ、さいですか。えーっと...ディオニュソス、どうする?」

 「...まぁ、事前にフィルヴィスからも出来れば【白巫女】のままがいいと言われていたんだ。

  ネフテュス先輩もそう言ってくれたのだから、そのままにしよう」

 「ほいほい。じゃー...タケミカヅチのヤマト・命ちゃんにいくでー」

 

 タケミカヅチはここへ来る前までに浮かべていた緊張の面持ちを既に

 消していた。

 何故なら、ネフテュスがまともな二つ名を決めてくれているからだ。

 

 二つ名が挙がる中、ここでネフテュスが挙手して自らが称号を挙げる

 ようだった。

 それに神々は静まり返って、タケミカヅチはどんな称号を授けて

 くれるのか胸を高鳴らせた。

 

 「【絶†影】はどうかしら?」

 「はい!是非お願いします!ありがとうございます!」

 「えーっとじゃあ絶影...極東の文字で書くと絶対の絶に影でええんやろか?」

 「その間に†を入れてね。カッコイイから」

  

 ネフテュスが書類の白紙部分に書いて見せた文字には、しっかりと

 †が書き記されていた。

 

 「...ゑ?」

 「はいはい。じゃあ命ちゃんの称号は【絶†影】に決まりで」

 「ヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱ!?

  いや、待て!待ってくれロキ!頼むから!」

 

 あまりの不意討ちに絶叫して、ロキに抗議の声を上げる

 タケミカヅチ。

 既に二つ名を決められた神々もまさかの事態に困惑し、同情したり

 していた。

 

 必死に変更を求められるロキだが冷や汗を流しながらヒソヒソと

 弁明する。

 

 「しゃーないやんタケミカヅチ。ネフテュス様がそう言うたんやから...

  まぁ、ウチも†が入ってふふふカッコイイと思うで」

 「笑ってるじゃないかよてめぇえ!」

 「ええやん。レベル4になったらまた変わるんやし...

  今回は【絶†影】で堪忍してや。な?...ネフテュス様を怒らせるんだけや絶対アカンから」

 「...ぐぅううううう!」

 

 テーブルに突っ伏して落ち込むタケミカヅチ。

 そんな姿を見ながら、神々は哀れみの視線を送っていた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ロキは咳払いをして仕切り直すと、次はアイシャの二つ名を討議し

 始める。

 が、ここで幾柱の神が首を傾げた。

  

 以前からアイシャはレベル4へとランクアップするだと注目されていて

 今回のデナトゥスではアイシャの名前が挙がるのは明白だった。

 しかし、目を凝らして見ても表記ミスかと思われる程、予想外の

 ステイタスが書かれていた。

  

 レベル4ではなく、レベル5。

 熟練度はトータル5500オーバーと補足されている。

 

 「...イシュタル。ネフテュス先輩の前で堂々と不正をするなんて」

 「ネフテュスの眷族と真剣勝負をしてレベル4となった。 

  団長であるフリュネは手も足も出ず倒されたが、アイシャだけは唯一血を流す程の健闘を見せたぞ?

  ...まぁ、負けてしまったが、おかげでランクアップしたんだ」

  

 ここでロキだけはティオナの成長速度に戦慄した。

 ティオナも勝負をして負けたてしまったそうだが、その時点でレベルは

 確実に上がったとされる。

 それから今の段階まで上がったのは、やはり死に物狂いで追い付こうと

 した直向きさ、基異常なまでの執着心であると。

  

 そんなロキを誰も気にせず、話はアイシャのランクアップした経緯に

 ついて耳を傾けていた。

 

 「あんなガマガエルにご奉仕とか死ねる」

 「ウチの子を怪我させた事あるからザマァみろだな」

 「魔法を力技で粉々にしたとか嘘でしょ?」

 「許嫁になる条件キツ過ぎない?」

 

 と様々な感想が飛び交う中、イシュタルは手を強く鳴らして神々を

 静まり返らせる。

 そうして、フィルヴィス同様に変えなくていいという事になり、

 アイシャの二つなの討議は強制的に終わらされた。

 次に、アイズの二つ名も考えようとしたが、【剣姫】のままで

 討議は終わる。

 

 すると、ページが無くなった事にネフテュスは不思議そうな面持ちで

 ロキに問いかける。

  

 「ロキ?ティオナの名前が無いけど...?」

 「あ、ちょっとお待ちを...

  皆、これ別で用意してたティオナの資料やけど、2枚目をまだ捲らんとってな」

 「何だ?【大切断】もランクアップしてたのか?」

 「まぁ、待て。その...ウチも教えるのに困ってるから、先に資料だけ渡しとくな」

 

 口下手となっているロキに神々は違和感を覚える。

 先程までの威勢で話していたから尚更であった。

 全員に資料が行き渡るとロキは深呼吸をし、意を決して話し始める。

 

 「ええか?せーので捲るで?せーのっ」

 

 ペラッと一斉に表紙を捲る音が鳴り響いてその後暫くの間、静寂が

 その場を支配した。

 

 そして、1番最初にフレイヤが呟いた。

 

 「レベル50...ロキ、詳しく教えてもらえるわよね?」

 「うーん...詳しくって言うても、簡単に言った方がええかなぁ。

  簡単に言うとティオナもネフテュス先輩の眷族と勝負して、それから色々あって強くなったらしいねんな」

 「その色々を教えてほしいのだけど...」

 「私が教えてあげるわ、フレイヤ」

 

 ティオナがしてきたこれまでの活動を唯一知っているネフテュスが

 説明を始める。

 フレイヤ達に語った内容はこうである。

 

 まず、ネフテュスの眷族と勝負をしたが敗北。

 それから同様にゼノスの事を伏せてティオナは未開拓地を発見した事で

 73階層へ到達し、そこで死に物狂いで未知なるモンスターを

 倒し続けた。

 

 そして2週間もの特訓の末、レベル50へランクアップを果たした、と

 いうものだ。

 

 神々はどこから質問をすればいいのか混乱した。

 それを気にせず、ここでイシュタルがネフテュスの支持に入る。

 

 「アイシャも凄まじい成長を遂げたが、1段階レベルが上がっただけだ。

  レベル5に至ったのは実力で成し遂げたと私は誇りに思っている。

  つまり...ロキの眷族は異常なまでに強くなろうとした結果が、これという訳だ」

 「せやな。ぶっちゃけ言うと全部、ネフテュス先輩の眷族に追いつきたい一心やろな。

  見てみ?スキルの最後から上2番目。プレデター・リアリスなんてもうまるわかりやん」

 

 そこにはティオナが得たスキルの名前が記されており、既定していた

 スキルの下に2つレアスキルが追加されていた。

 

 憶測で想定したロキの説明によると上記のスキルがダメージを負う度に

 攻撃力が、窮地に追い込まれる程に戦闘力が上昇するのであれば、

 プレデター・リアリスはネフテュスの眷族が関わる事で力を発揮し、

 コング・フィジカルは闘志が高まると身体能力が凄まじい程に

 向上するのではという事だった。

 

 基本アビリティがとんでもない事になっているのに何故、そこまで

 過剰になるのか神々は理解に苦しんだ。

 

 ふと、フレイヤはネフテュスに眷族の事を問いかけた。

  

 「ネフテュス先輩。今のロキの眷族と貴女の眷族がまた勝負をするとしたら...

  どうなるのかしら?」

 「健闘はするでしょうね。でも...あの子が勝つわ。

  ...あの子は特別、だもの」

 

 意味ありげな言い方をするネフテュスだが、ティオナの事を甘く

 見ているわけではないようだった。

 寧ろ、ティオナなら当然の事だと言わんばかりに自信を持って

 言い切ったのだ。

 

 フレイヤはそれに気付いたのか、それ以上聞く事はなかった。

 

 「1つ質問があるんですが...

  貴女の眷族がティオナ・ヒリュテに勝てるというのなら、レベルは同等かそれ以上...と認識してもいいのですか?ネフテュス先輩」

 「んー...出来れば教えてあげたいのだけど...

  あの子の事を知るのは、もう少し待っててもらえないかしら?」

 「...そうですか。わかりました」

 

 ヘルメスはこれ以上の詮索はしないと言った様に帽子を脱いで頷く。

 

 一旦、落ち着いた所でいよいよ本題へ移る事になった。

 ネフテュスが何時、下界へ降りて来ていたのか。

 徐ろに左腕のガントレットを外すと、テーブルの上に置いて操作する

 ネフテュス。

 表面のタッチパネルから光が放射し、立体映像によって巨大な球体が

 映し出された。

 

 神々が見た事もないその光景に目を疑っていると、ネフテュスは

 語り始める。

 

 「それじゃあ、話しましょうか...私とヤウージャの歴史を」




本当は神話の通りにDV旦那のセトだったからオシリスに浮気したという没ネタもあったり。


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>∟ ⊦>'、< T'luthu

 その種族はヤウージャと呼ばれているが、その呼称よりも

 前にヒッシュ・クー・テンと呼ばれている時代があった。

 

 彼らは地球の銀河系よりも約1000億光年に位置する惑星を故郷と

 している。 

 

 その惑星の原住民であるヒッシュ・クー・テン達は、今のヤウージャと

 同様に名誉と誇りを掛けて狩りをしていたが、突如として異星人による

 侵略を受ける事となった。

 

 侵略者の名はアメンギという昆虫型ヒューマノイドで高度な科学技術を

 持っており、ヒッシュ・クー・テン達は忽ち敗北へ追いやられた。

 

 奴隷となった者達は労働や見世物として同族同士や獰猛な生物と

 格闘する娯楽を強いられ、更には食料にまでされていたと言われる。

 

 そんな苦しみを味わい続けて数十年が経った頃、反逆すべく1人の

 ヒッシュ・クー・テンが立ち上がる。

 

 その名はカーリ。

 ヤウージャ達にとっては伝説の狩人とされ、又の名をアルファと

 呼んでいる。

 

 発端はアルファが自らアメンギ達のために戦闘兵器になると名乗り出て

 それを承諾したアメンギ達は遺伝子交配を行い彼に身体強化を施した。

 

 そして、強靱な肉体へと進化したアルファは力を試すために別の惑星へ

 向かっていた際に油断したクルーのアメンギ達を抹殺し、自ら宇宙船を

 操縦して一度、計画を企てるべく惑星へと向かった。

 

 しかし、その時だった。

 

 虹色の残光を引きながら宇宙船へ向かってくる巨大な光球。

 敵のレーザーキャノンによる砲撃だとアルファは思い、回避しようと

 したが間に合わず、光球は直撃した。

 

 かに思われたが、宇宙船は爆発どころか破損すらしていなかった。

 アルファが疑問に思っていると背後から感じる異質な気配を察知して

 振り返った。

 

 「...あら?ここは...?」

 

 星の様に煌めく長い銀髪、浅黒い艶やかな褐色肌、宝石の様な緑色の瞳。

 包帯で局部と太腿だけを隠した妖艶な女体を持つ女。

 その女の美貌と存在感にアルファは敵意さえも抱かず、寧ろ芽生えて

 いたのは神への信仰心であった。

 

 それこそが、ネフテュスとヤウージャの邂逅である。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 その後、目的の惑星へ辿り着いたアルファとネフテュス。

 自身に何が起きたのか全くわからないネフテュスだが、一先ず色々な

 事をアルファに問いかけた。

 

 知識と言葉の相違点、文明の発達度合いの違い、極めつけはアルファの

 顔を見て、ネフテュスはここがオラリオどころか地球ではない事を 

 察する事が出来た。

 

 しかし、それだけではなかった。

 アルファに地球がどこなのか聞いた所、わからないと返されたのだ。

 そんなはずは、と信じられないネフテュスは頭を抱えた。

 

 アルファは悩んでいるネフテュスに自身の生まれ故郷で起きた事を

 伝えた。

 何年にも渡って奴隷にされた同胞が苦しめられている。

 その話を聞いたネフテュスは自身の現状を後回しにしてアメンギ達への

 報復を手助けする事にした。

 

 アルファは反逆するためにネフテュスの知識を借りて武器を

 自らの手で作り上げた。

 それはアメンギの死骸から内臓を抜き取り、剥ぎ取った外骨格を

 繋ぎ合わせて着込んだ鎧。

 鋭い爪を両腕に身に付け、鋭く尖った部位の骨は宇宙船の予備部品の

 先端に括り付けて槍にした。

 その姿は、アメンギへの示威を表すようであった。

 

 それこそが、これまでにベル達が行なってきた行為の始まりである。

 

 いざ、故郷奪還へ向かおうとした際にネフテュスは恩恵をアルファに

 授けようとした。

 だが、それを丁重に拒否してしまった。

 

 曰わく、知識だけで十分であり力は不要だ、との事だった。

 理由を聞いても答えようとしないアルファにネフテュスは気になる

 ものの、割り切ってアルファと共に向かった。

 

 そして、反逆が始る。

 自分よりも武装したアメンギ達を正しく一騎当千、それ以上の凄まじい

 力を以って葬り去った。

 その光景を目の当たりにしたネフテュスは恩恵が必要ないという事を

 実感したという。

 

 捕えられていた奴隷を解放するとネフテュスは同じ様に鎧と武器の

 作り方を教え、更なる快進撃を見せる。

 

 隷属させていたという傲慢さでアメンギ達は反逆の波に飲まれ続け、

 最後には生きたまま頭蓋骨を脊椎から引き摺り抜かれた首領である

 アメンギが討ち取られ、アルファによるヒッシュ・クー・テンの反逆は

 成し遂げられた。

 

 ヒッシュ・クー・テンは咆哮を上げ、アルファとネフテュスを讃えた。

 その成り行きでネフテュスはヒッシュ・クー・テンに主神へと崇められ

 たのだ。

 地球がどこにあるのかもわからない現状、彼らのお世話になろうと思い

 ネフテュスは留まる事にした。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 それから幾年後の事、様々なハイテクノロジーを学んでネフテュスは

 ようやくアルファや他のヒッシュ・クー・テンが地球の事を知らない

 理由を突き止めた。

 

 それは本来進むべき時間軸上から逆行、所謂タイムスリップをしていた

 ために紀元前よりも、地球歴よりも...

 それ以前の地球が存在する銀河系が誕生するよりも遥か昔の時代へ

 来ていたからだったのだ。

 

 アルファと出会う前の記憶を思い返して、ある出来事が鮮明に蘇った。

 

 それは天界からオラリオへ向かっている途中に目の前の景色が歪み、

 漆黒の球体へ入り込んでしまった。

 かと思えば見知らぬ場所、つまりアルファの乗っていた宇宙船の中に

 居たのだ。

 

 地球が誕生するまで正確に換算すると45億4999万年後、そこから

 更に生命が誕生してピカイアが哺乳類へ、また更に進化し続けて言語や

 文明を発達させる程の知識を身に付ける人類になるまで膨大な時間を

 待たないといけない。

 

 その時代の技術ではまだタイムスリップする事は出来ないので、

 ネフテュスはそれならと、来る時のための準備をする事にした。

 

 天界で見ていた地球の様々な文化と文明よりも格段に進歩する事で、

 その科学力を用いた様々な武器を製造し、地球に辿り着くための

 移動手段を確立させた。

 それが瞬間的に移動出来るシステム、ワープドライブである。

 

 ネフテュスが教えた通りにヒッシュ・クー・テンは文化と文明を

 進歩させ、その功績を認めたネフテュスが改名を提案する。

 そこからヤウージャという名前になったのである。

 

 やがて、漸く人類がモンスターと戦っている時代まで経過すると

 初のワープドライブ試験によって1人のヤウージャが地球へと

 向かった。

 

 数年後に子供を連れて戻ってきたヤウージャから受け取った

 活動記録などをネフテュスは確認して、約1000年後に自身も

 向かう事を告げた。

 

 一方、そのヤウージャはそれから10年後に子供と共に再び地球へ

 向かって数日どころか1日で帰還してきた。

 曰わく、約束を果たすために行っていた、という。

 その手には白く金の模様が描かれている仮面を大事に持っていた

 そうだ。

 

 1000年後、ネフテュスは数人のヤウージャ達と地球へ向い、

 数時間後に今度は少女を連れて帰還してきた。

 

 それから9年後、長らく待ち続けたネフテュスは漸く来進むべき

 時間軸上の地球へ辿り着く事が出来たのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...これが、今まで記録。そして...真実よ」

 

 立体映像が消えてガントレットを左腕に装着するネフテュス。

 神々はあまりに壮大で、あまりに神である自身が理解出来ない概念が

 あるのだという内容に唖然としていた。

 

 その反応を見てネフテュスは可笑しそうに笑みを溢しつつも、

 フォローするべく立ち上がって口を開く。

 

 「私が下界へ降りて来た理由を話していなかったわね。

  ヘルメスが1番気になってたでしょうから、教えるわ」

 「あ...は、はい」

 「...ある母親であった1人の女性の魂と話したの。

  彼女は生まれつき体が弱く、子供を産んですぐに死んでしまって...

  それを後悔して、せめて彼女の分まで我が子が強く、逞しく生きてほしいと私に願って冥界へ去って行った。

  ...その願いこそが、降りてきた理由よ」

 

 その青い瞳は悲しみに潤っており、今にも溢れそうになっていた。

 ヘルメスはネフテュスが邪心を抱いているのではと疑っていた自分に

 苛立ちを感じていた。

 純粋にその女性への慈悲を胸に秘めていただけだというのに。

 

 その時、ヘファイストスが問いかけた。

 

 「オシリスが居なくなった理由もそれと関係があるんですか?」

 「ええ、女の子を連れ帰った時に冥界での役目を交代してもらう事を約束したの。

  それから、ミアハにも接触して今の今まで情報提供をしてもらっていたのよ」

 「そうだったのか!?しかし、何故ミアハに?

  ガネーシャではダメだったのですか!?」

 「んー...一応、貴方も候補にはしてたのだけど...

  すごく忙しそうだったから、断念してしまったの」

 「ううーむ...ガネーシャ納得した!嫌われていなかった事にもホッとした!」

 

 恐らく後者が本音なのだと神々は思った。




 尚、プレデターはコミックでは割とよく(料理になって)喰われてます。


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>∟ ⊦>'<、⊦ 70%

 「最後に...私の眷族はダンジョンで獲物を求めて潜っているけど姿は見えない事は覚えておいてね?

  狩りの邪魔をされたくないから」

 「それと狩りがエグイとか言うのもアカンで。

  ベートもあのアメンギ言う気色悪い虫みたくなるとこやったんやから。ホンマに」

 

 その注意事項を言い終えると、丁度午後3時を回ってデナトゥスは

 終了となった。

 最初こそは緊張感が漂ってまともな会話もままならないと思っていた

 神々だったが漸く終わった事に重いため息を吐いた。

 

 特にロキは机の上に突っ伏し、魂が抜けかけている状態となっていた。

 やがてネフテュスにお疲れ様でしたと挨拶を交わしてから席を立つ神を

 先頭に他の神々も同じ様にして出て行った。

 

 恐れを抱くネフテュスではあるが、それ以上に神望が厚いのを窺える。

 

 「それじゃあ、ネフテュス先輩。失礼させてもらうわね」

 「ええ、気をつけて帰るのよ。フレイヤ」

 「ふふ...ありがとうございます」

 

 嬉しそうな笑みを浮かべて立ち去って行くフレイヤ。

 ロキは妙に大人しかったのが気になったようだが、ふと同じく

 一言も喋っていなかったアポロンを見やる。

 しかし、指定の席にその姿はない。

 

 「へ?...あ、ファイたん?アポロンの奴は?」

 「ついさっきまで座ってたけど、何か動かなくなってたから強引に引き摺られていったわよ」

 「あぁ...せやか。ほなええわ、おおきに」

 「ええ。じゃあね」

 

 ヘファイストスもネフテュスにキチンと挨拶を交わして

 去って行った。

 ずっと座ったままだったからか立ち上がると腰を伸ばして、

 スッキリした面持ちになるとヘスティアはネフテュスに近寄る。

 

 「ネフテュス様、いつもジャガ丸くんを買ってくれてありがとう!

  またいつでも買いに来てほしいよ」

 「ふふ...そうさせてもらうわ。

  ...ヘスティア、少し時間あるかしら?」

 「え?あ、うん。この後は特に用事もないから...」

 「そう。ロキ、貴女もいいかしら?」

 「ウチもですか?...は、はい。ええですけど...」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 そうして3柱が残り、少し椅子を引いてネフテュスはヘスティアと

 ロキの前になるように座った。

 これから何を話し始めるのか、ロキは酷く胸の内が締め付けられる様な

 感覚となった。

 

 「(ずっと気になっとったんや。何でドチビが呼ばれたんか...

  まさか、コイツがイヴィルスに関わってるっちゅう事...)」

 「ネ、ネフテュス先輩?ボク、何かしちゃったのかな?

  はっ!?ま、まさか前に買ってくれたジャガ丸くんの中身が半生だったとか!?」

 「(んな訳あらへんか...というか、何気にネフテュス先輩と会ってたんかいな)」

 

 内心でツッコみ頭を抱えるロキに目もくれず、ヘスティアはオロオロと

 慌てていた。

 そんなヘスティアにネフテュスは微笑み掛けて首を横に振り、

 否定すると話し始めた。

 

 「ロキには既に話してあるけど...

  ヘスティア、貴女にもあの子の事を教えてあげたかったの。

  彼女の...メーテリアの最愛の息子について」

 「え...?」

 「驚くのも無理はないわよね。貴女には無関係かもしれないけど...

  全くそうではないとも言えるの」 

 

 突然の事で呆然とする2柱を前にネフテュスは語り始めた。

 

 「ベル・クラネル...それがあの子の名前よ。

  あの子はこの世界では私の眷族だけど、別の世界のほとんどは貴女の眷族となっているの」

 「べ、別の世界?」

 「そう。パラレルバースという異なる世界がいくつもあるわ。

  さっきも言った通り、ベルが貴女の眷族であったりロキの眷族である場合もある。

  でも、無限に広がるパラレルバースに存在するベルが主神としているのは70%は貴女なのよ」

 「そ、そんなに!?」

 「残り30パーはウチとか別の神っちゅう事ですか?」

 「そうね、貴女の次に多いのはアストレアの場合もあるわ。

  貴女の眷族にならない世界は大抵、ホームに居る門番に門前払いをされる事が多いわね」

 

 ロキは思わず息を呑んだ。

 それはつまり、万が一にその世界に自分が居たとしたら、知らない所で

 ファミリアが危機に陥ってしまうという事である。

 しかし、それを察したのかネフテュスは苦笑しながら口を開く。

 

 「大丈夫よ、ロキ。

  私の眷族のベルだったら終わっていたかもしれないけど...

  その門前払いされるベルはとっても純粋で泣き虫で力が足りない子だから」

 「...そ、そないですか...」

 

 テーブルに背を預けてロキは不安を拭うように天を仰いだ。

 すると、口を閉ざしていたヘスティアが問いかけてくる。

 

 「その、クラネル君は...別の世界のボクと仲良くしてるの?」

 「ええ、それはもう...場合によっては婚約している世界もあるくらいにね」

 「はぁ!?う、嘘やろ...!?」

 「こ、こここ、ここ、婚約ぅ!?い、いや、そんな、ボ、ボボ、ボクが、そんな...」

 

 目を見開いたまま絶句するロキと顔を真っ赤にして慌てふためく

 ヘスティアを見て微笑みを浮かべるネフテュス。

 しかし、すぐに真剣な表情に戻って続きを話し始めるとヘスティアも

 我に返って姿勢を正す。

 

 「70%が貴女の眷族になっているという事は...

  私の眷族のベルは非常に異例と言える。

  つまり...物語の主人公を奪ったと言っても過言ではないの。

  寂しい思いをさせる酷い女神だと思ってくれても...それが正しいわ」

 「そ、そんな事思ってなんかないよ!

  その...えっと、別の世界でそう思われてしまったら、どうしようもないけど...

  この世界の物語ではネフテュス先輩がクラネル君の主神って解釈にすれば、何も問題はないと思うよ?」

 「せやな、ドチビの言う通りやと思います。

  そもそもベルがネフテュス先輩を主神と決めたなら、別の世界の事は余所は余所、こっちはこっちっちゅう事でええんやないです?」

 

 ロキの言葉を聞いて、そう考えた事がなかったのか俯くネフテュスに

 ヘスティアは笑顔のまま、顔を覗き込んで励ました。

 

 「ボクには今、リリ君が居る。 

  寂しくなんてないし、とっても楽しく過してるから...

  ネフテュス先輩はクラネル君とこれからも仲良くしてほしいな」

 「...そう...ありがとう、ヘスティア。ロキも...」

 「ええんですって。先輩にはもう感謝してもしきれんくらいの恩があるんですから」

 「ふふ...そうね。ちなみにロキが私に助けてもらう世界は、この世界だけなのよ?」

 「ホンッッッッマに感謝しておりますはい!」

 

 深々と頭を下げるロキにやれやれと言った様に肩を竦めるヘスティア。

 ネフテュスはいいのよ、と微笑みながら許すのだった。




今まで見た小説でのベル君が所属するファミリア(ヘスティア以外)の勝手な比率。

1.ロキ(いっぱい)
2.アストレア(いっぱい)
3.ミアハ(結構ある。でもほとんど無くなった)
4.ゼウス(同上)
5.フレイヤ(他サイト3作品くらい)
6.ヘファイストス(1作品)
7.ガネーシャ(1作品)
8.アポロン(1作品)
9.その他(オリ神、所属してないect)


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>∟ ⊦>'<、,< F'eewrynwgu

 恐らくデナトゥスが終了した頃だろうか、僕はアスフィとナァーザ、

 そしてフィルヴィスと共にレイを隠れ里まで送り届けに来ている。

 数か月ぶりに嗅いだダンジョンの匂いは不思議と落ち着くように

 感じた。

 

 兎のモンスターに対する苛立ちも混じって。

 ···少し、やり過ぎてレイを怖がらせてしまったみたいだ。 

 

 やがて、いつもの道を進んで行き、隠れ里に到着する。

 ゼノス達が歓迎してくれる光景も見慣れているとはいえ、それも

 不思議と嬉しさを覚えながら挨拶に頷いて応えた。

 

 「久しぶりだな、捕食者!何か空の向こうに行ってたらしいけど、元気そうで何よりだ」

 『...ありがとう』

 「いいって事、よ...え?ん?い、今、喋ったか?喋ったよな!?」

 

 驚いているリドに僕はもっと驚かせてみようと、パイプを引き抜いて

 ヘルメットに手を掛けた。

 ゆっくりと外して素顔を晒すとリドは大慌てで他のゼノス達を

 注目させる。

 当然、ゼノス達も僕の顔を見て驚愕し、困惑していているようだった。

 

 「成人の儀を成し遂げた。なので、これからはこうして面と向かって話せる」

 「あ、あぁ!そうだったのか!じゃあ、祝盃しないとな!」

 

 昨日、アリーゼ達としたばかりなんだが...

 まぁ、ここへ来る前から予想していた事だ。付き合ってもいいだろうと

 思い、僕は了承した。

 

 祝盃の用意をするために動き出したゼノス達に僕も協力しようかと

 思ったが、主役にそんな事はさせられないと丁重に断られてしまった。

 見ると、アスフィ達も同様のようだった。

 仕方ないのでアスフィ達と座って待つ事した。

 

 準備が進められていく中、右腕を何かが這う感触がして思わず振るい上げ、リスト・ブレイドを

 伸ばしてしまった。

 しかし、それがナァーザが触診していたのだとわかって僕は右腕を降ろす。

 

 「その、ごめんね...?どうしても気になって...」

 

 どうやら未だに腕がどのようにして綺麗に接合されたのか気になって

 いるようだ。

 僕は先程の行為を詫びるために触診を許した。

 ナァーザは尻尾を振って喜び、右腕を肩から指先まで触ってくる。

 覚醒により治癒力で細胞を活性化させた事で傷跡は一切残っていない。

 

 本来なら掟に沿って残すべきだったが、あの時はそこまで頭が回って

 いなかったから名誉の傷を消してしまったという残念な気持ちになる。

 まぁ...けれど、氏族の長という地位を得たのだから足し引きゼロと

 いう事にしよう。

 

 そんな事を考えている内に準備が終わったようでゼノス達は僕達の前に

 酒の入ったジョッキや木の実を盛りつけた葉っぱを置いていく。

 それに気付いてナァーザはありがとう、と一言お礼を言って右腕を

 離した。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 祝盃が始まって、ゼノス達が僕の所へ一斉に集まり、盃を交わした。

 僕が無事に帰ってきた事を喜んでいるようだったので、僕も素直に

 感謝の言葉を口にする。

 それからは質問攻めにあったりしたが、恐らく言っても理解するのは

 難しいと思ったので強い生き物と戦って勝ち抜いた、とだけ伝えた。

 

 アスフィ達もそれを察してか、もう少し詳しく教えたらどうかと

 言ってはこなかった。

 

 「しっかし、こうも早くベルの顔が見られるなんてな」

 「別ニ気ニスル事デモナカッタダロウ。

  コイツガドンナ面デアッテモナ」

 「おい、それならあの顔は何だ?」

 「グフッ!?ア、アレハ単ナル遊ビデ描イタダケダ!」

 「それにしてハ、色々と私やレットに聞いてきていましたガ...」

 

 ...ゼノスでさえ、僕の素顔が気になっていたのか。

 グロスが描いたと思われる絵を見ると、何とも言えなかった。

 

 暫くしてゼノス達が離れ、酒を煽っているとフィルヴィスが近寄って

 来て隣に座った。

  

 「ベル。改めて、祝福しよう。

  氏族の長になれた事、私も友として誇りに思うぞ」

 「...ああ、ありがとう」

 

 そう言って盃を向けてきたので、僕はそれに応えるように自分の持つ

 盃を差し出す。

 カツンとぶつけ合い、同時に飲み干した。

 ほのかにフィルヴィスの頬が赤くなっていたので、少し酔っているの

 かもしれない。

 周囲の賑やかさに心地良さを感じている際、ふと昨日の事を思い返した。

 

 「フィルヴィス。昨日...手を握った時、嫌な思いをさせたか...?」

 「え...?...あ、い、いや!そうではないっ。

  決してお前が悪い訳ではないんだ...」

 

 フィルヴィスは慌てて否定しているが、それなら何故あの時も慌てて

 いたのか。

 まるで僕に触れられるのを拒否したように見えていたが...

 ...このまま互いに気まずくなるのも良くないな。なら...

 半分以下で覚醒を呼び覚まし、隣に座っているフィルヴィスを見る。

 頭脳が思考を巡らせ始めて様々な心理的行動パターンを浮かべていき、

 最終的に導き出した答えが眼に浮かび上がってくる。 

 

 ...異性として認識する好意の表われ、と最初にティオナに対して

 使った時と同じ答えだった。

 まさか...フィルヴィスが...?

 信じられない、という気持ちがあるが心当たりは1つだけある。

 奴らから助けた、それが理由であるなら...納得はいく。

 しかし、決めつけるには早い。ここは...率直に聞いてみるか...?

 

 「...フィルヴィス。実は僕は...他人の意思を読み取る事が出来るんだ」

 「っ!?な、ん...。...っ...」

 「すまない。ただ...互いに気まずくなるのも良くないと思った、から...」

 

 驚愕して言葉を失っているフィルヴィスに僕は謝る。

 だが、こうする必要はあったはずだ。フィルヴィスを失望させて

 しまったとしても。

 沈黙が続いていたが、目の前に運ばれてきたジョッキを掴み取って

 フィルヴィスは一気に飲み干す。

 そして、息を吐くと僕を見ながら答えた。

 

 「なら、言わせてほしい。...私は...お、お前に好意を抱いている、のかもしれない。

  ...わ、わからないんだ。この気持ちが何なのか...」

 

 フィルヴィスは服の袖を握り締め、下唇を噛みながら目を逸らした。

 

 「...私の主神の戯れを言われた時、そんな訳がないと言ったが...

  けれど、本当だとしたらと思うと気が引ける他なかったんだ。

  その...わ、私よりもお前に釣り合う異性が居るだろうから、な...」

  

 それは...ティオナの事か...?

 何故、その事を知っているのかわからないが...彼女の思いやりに

 僕は嬉しさを感じると同時に、罪悪感に苛まれた。

 

 葛藤をしていた彼女を知らず知らずのうちに傷つけていたんだ。

 指の1本...いや、2本差し出す程の償いをしなければならないと思い、

 僕は口を開きかけた。

 しかし、それよりも早くフィルヴィスが喋り始めたために口を閉じる。

 

 「こうして素直に言えたからか、漸く気付いたよ。

  確かにお前に好意を抱いている...が、それ以上にお前の事を好きでいる女性には到底及ぶはずもない。

  だから...忘れろ、とは言わない。せめて...友人として、これからも接してくれないか...?」

 

 悲痛を含んだ微笑みで見つてくるフィルヴィスに僕は今度こそ口を

 開いて答える。

 

 「それは、僕からも言っておきたい。

  フィルヴィスが僕に好意を抱いているのは、嬉しく思う。

  ...酷いと思われても構わない。僕らは許嫁を複数人娶る事が許されている。

  けれど...僕はティオナを迎え入れたいんだ」

 「...ああ、それでいい。彼女こそが...お前に相応しいのだからな」

  

 フィルヴィスは別のジョッキを手に取り、また差し出してくる。

 

 「お前とティオナに幸があらん事を。...いずれ、可愛らしい子を儲けるといいな」

 「...ああ」

 

 僕は頷いてから、ジョッキをぶつけ合って酒をフィルヴィスはと煽った。

 

 そして、夕暮れ時となる事を告げるアラームが鳴り響き、僕らは地上へ

 戻る事にした。

 隠れ里から去って行く僕らをゼノス達はずっと見送ってくれた。

 

 地上へ出ると、彼女達とはそこで解散する事になった。

 僕はまた会おうと約束し、最後にフィルヴィスと握手を交わしてから

 マザー・シップを目指す。

 握手を交わした時のフィルヴィスの笑みには悲痛さは消えていて、

 僕は安堵した。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...フィルヴィス。ベルと何か話してたみたいだけど...

  何を話してたの?」

 「まぁ...初めて、異性に告白して...失恋した、と言った感じだ」

 「え...?」

 

 予想外の返答にナァーザとアスフィは呆然とする。

 アスフィに至っては眼鏡がずり落ちてしまっていた。

 

 「心配するな。心残りのないよう、ベルに聞かせてもらったからな」

 「な、何をですか...?」

 「ティオナへの想いを、な...」

 

 そう言い残して、フィルヴィは自身のホームへ歩み始める。

 そのしっかりと伸ばした背を見て、アスフィとナァーザは本心で

 言ったのだと思うのだった。




IFルートでハーレムも書こうかと検討してましたが、うーん...
まぁ、期待はしないでください。


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>'<、⊦' 情報公開

 デナトゥス開催後の翌日、朝から掃除に勤しむクロエだったが、

 その女神が目の前に現われて箒を落してしまった。

 

 「やーやー、クロエちゃ~んお久~。元気にしてるっぽいな」

 

 ニョルズ・ファミリアへコンバージョンする前に所属していた

 ファミリアの主神、セクメト。

 背後には懐かしい顔ぶれの眷族が控えていた。

 

 クロエは隠し持っていたナイフを手に取り、眼光を鋭くさせつつ

 セクメトに問いかける。

 

 「セクメト...私を連れ戻しに来たの?」

 「いんや?偶然にもアンタがここに居るって知ったから...

  これ、渡すようにって言われてね」

 

 そう言いながらセクメトの手には一通の封筒が握られていた。

 眷族の1人にそれを渡すと、クロエに近付いて眷族はそれを手渡そうと

 する。

 クロエはバッと奪い取るようにして受け取り、すぐに距離を取った。

 

 「じゃ、それ渡したから私らはお役御免って事で...帰るとしますか。

  クロエちゃん、お達者で~」

 

 セクメトはクロエが封筒を受け取ったのを見て、背を向けると手と 

 尻尾を振りながら眷族を引き連れ、去って行く。

 クロエはその背中をジッと見つめ、セクメト達が人混みに消えいくのを

 最後まで見送った。

 

 周囲を警戒し、油断させて襲撃して来ないかを確認した後にクロエは

 封筒の裏を見て差出人を確認する。

 

 その瞬間、店内へ逃げるように入ると自室へ急いだ。

 シルやアーニャに呼び止められるもその足は止まらない。

 

 自室に飛び込むなりドアの鍵を掛けるとベッドの上に腰掛け、手紙を

 見つめた。

 一体何が書かれているのか、深呼吸をしてから震える手で開けていき、

 1枚だけ入っている便箋を取り出すとゆっくり広げる。

 

 [クロエ、先に逝ってしまってごめんなさい。

  私は母親失格だと自覚しているわ。

  だけど、母親として我が子には愛情が必要だと思ったから、

  この手紙を渡してもらうわ。

  ...そう書いたけど、何を書けばいいのかしらね。

  我ながら失笑してしまうわ。

  でも、これだけは伝えたかったの。

  貴女は愛しい私の子、貴女をずっと見守ってあげるから。

  だから、胸を張って生きていきなさい。

  暗殺家業をやめたなら、そうね...安らぎの居場所を見つける事。

  愛してるわ、クロエ。

                     母より]

 

 読み終えた途端、緑色の瞳から涙が溢れ出てきて便箋を濡らす。

 今まで抑えてきた感情が爆発してしまい、嗚咽しながら泣き続ける

 クロエ。

 ドアの向こうから心配するリューの声が聞こえてくるも答えられ

 なかった。

 

 「...ありがとうっ...ありがとう、お母さん...!」

 

 クロエは便箋を閉じると大事に封筒へ戻し、そっと口付けをした。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 一方その頃、ギルドには大勢の冒険者達が掲示板の前に集っていた。

 それはデナトゥスで決定されたレベル2、レベル4へランクアップした

 冒険者の二つ名を見るため。

 もう1つはこれまで謎とされていたファミリアの情報が公開されたので

 興味本位で知るためだった。

 

 「...何か、案外...」

 「あー、言いたい事は分かるぞ。何つーか、な?」

 

 今回の二つ名の数々は例年よりも至って普通だという感想が多かった。

 ギルドの職員達も最初に確認した際は拍子抜けしたとの事。

 尚、その中で1番に目立っていたのは絶†影だとか。

 

 「いや、それよりも麗傑がレベル5になってるってどういう事だ?」

 「え?レベル4だろ?...は?マジで?」

 

 二つ名を見た冒険者達は次に公開されたファミリアの情報を見る。

 ネフテュス・ファミリア。

 情報はデナトゥスでネフテュスが語った通りの事を包み隠さず提示し、

 活動記録も事細かに記載されていた。

 「...なぁ、これ...どう思う?」

 「どうって言われてもな...

  そもそも惑星とか宇宙って何の事を言ってるんだか...」

 「けど、最近の記録の方で...イヴィルスの使者を討伐したって書いてあるぞ」

 「おいおい、ならこのファミリアがあの時の...」

 

 冒険者達は上記の情報よりも、それ以降の情報に目が行っていた。

 イヴィルスの異常死体が見つかった件はあれ以降、誰もが知っており

 どこのファミリアがした事なのかデタラメな噂話が流れた程だ。

 

 その頃はギルドも情報規制をしてネフテュス・ファミリアの事は

 伏せていたのだが、今回ウラノスからの許可の元、漸く情報の公開を

 決行した。

 エイナはそんな事してしまえばヤウージャ達を見つけ出そうとする

 冒険者が現われそうな予感がすると思っていたが、上記の情報が却って

 胡散臭いと思う意思が強まり、ヤウージャ達の事はあまり話題に

 ならないようであった。

 

 尤も、ネフテュスやベルを含めてヤウージャ達の顔は載せられて

 いないのも大きかった。

 マザー・シップの停泊している森の事もだ。

 

 それにエイナは安堵し気を取り直すと事務処理を再開する。

 

 もうじき担当アドバイザーとして支えているリリルカが

 タケミカヅチ・ファミリアとヘファイストス・ファミリアのスミスと

 中層へ潜る予定日である。

 自分の仕事を熟しつつ、リリルカ達の出発準備の提案すべき事項を

 考えながら羽ペンを走らせた。

 

 やがて、一段落着いた時だった。

 カウンターの前に立つ女性の姿を見てハッと息を呑んだ。

 

 アーディだ。今日は非番なのかラフな格好の私服であった。

 

 「ア、アーディ氏...」

 「どうも、エイナさん。こんにちは。

  ...昨日ね、ガネーシャ様が私の所へ来ていの一番に教えてくれたの。

  彼らの事についてね」

 「...そうでしたか。では、その...」

 「うん。もう大丈夫だよ、彼の事を責めたりしないから」

  

 それを聞いたエイナは頷いて、安堵すると同時にある事を思い出した。

 レックスから教えられたベルの出生についてだ。

 

 「...アーディ氏、少しお話しがあるのですがよろしいでしょうか?」

 「ん?うん。大丈夫だよ」

 「では、あちらに...」

 

 エイナは休止中の札を置くと、アーディを連れて相談室へ消えた。



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>'<、⊦>∟ ⊦ H'dlak

 「では、あの時インファント・ドラゴンから助けてくださったのは...

  ネフテュス・ファミリアの方だったのでしょうか?」

 「姿を見せないという点では合致しますけど...

  憶測でしか決められませんね」

  

 桜花と千草はタケミカヅチの手伝いをするため、今回は命、ヴェルフ、

 春姫の3人でリリルカはダンジョンに潜っていた。

 潜る直前にリリルカ達もネフテュス・ファミリアの情報を見たよう

 である。

 

 ネフテュスに返し切れない恩がある春姫にとっては驚愕する他なかった、

 

 「そういや俺の所にドロップアイテムをタダで置いていく奴が居てよ、そいつがネフテュス・ファミリアの眷属だって言われた事があるな」

 「はぁ?タ、タダって...ちなみにですが、それらの値打ちは如何程の物があったんですか?」

 「まぁ、ウチのテナントで売ってる高い鎧が5、6個は」

 「申し訳ありませんがネフテュス・ファミリアとリリは仲良くなれそうにありませんね」

 「リ、リリ殿...そんな目にならなくても...」

 「そ、そうですよ。ネフテュス様のおかげで...

  私は命ちゃん達の元に来られたのですから、どうか穏便にお願い致します」

 

 死んだ魚の様な目になるリリルカに春姫は焦りながらも宥めた。 

 恩神のネフテュスに失礼があってはならないからという気持ちの

 表れである。

 リリルカはそれを察して、ため息交じりにわかりました、と頷く。

 

 そうして春姫からネフテュスの事について、タケミカヅチ・ファミリアの

 面々と再会した日と同じように改めて話し合いながら進んで行く3人。

 当然、モンスターに出会わす危険を忘れずに。

 

 やがて、7階層へ降りる通路へ入ろうとした時に1人のアマゾネスと

 すれ違った。

 

 「ん?あぁ、春姫じゃないのさ。久しぶりだね」

 「アイシャさん...!ご無沙汰しておりますっ」

 「相変わらずお堅いね、アンタは...そっちの3人は同郷のお仲間かい?」

 「あ、こちらの命ちゃんはそうですが、リリルカさんとヴェルフさんは別のファミリアの方々です。

  いつもパーティーを組んでくださって、お世話になっています」

 

 ふーん、とアイシャは見定めるように3人へ視線を移す。

 その3人はアイシャと目が合って緊張が走った。

 

 提示版でランクアップした冒険者のリストにアイシャが載っていて、

 レベル5に一気にランクアップしたという異例の冒険者だと知って

 いたからである。

 

 しかし、当の本人は特に気にしていないのか3人に話しかけた。

 

 「春姫の世話を見てくれてありがとうね。

  色々ヘマをしてるかもしれないけど、やばくなった時は助けてやってくれるかい?」

 「あ...は、はい。もちろんですとも。

  その...あ、初対面なのですがランクアップ、おめでとうございます」

 「ああ。そっちこそ、レベル2になったんだろう?おめでとさん」

 「私からもご祝福を。おめでとうございます」

 

 リリルカとヴェルフは意外な程、気さくに2人と話しているアイシャに

 キョトンと目を丸くする。

 見た目判断ではもっと荒々しい性格なのかと思っていたからだ。

 

 しかし、先ほどの言葉には確かな感謝が込められていたとわかった。

 

 「ところで、アイシャさん?そちらの肩に乗せている物は一体...?」

 「これかい?プレゼントで貰った武器だよ。

  どんなのかって説明すると...あそこを見てなよ』

 

 ハーレムパンツの裾の金具に引っ掛けていたヘルメットを被ると、

 アイシャは細長い突起している岩を指した。

 

 4人はその岩を見ていると、赤い三点の光が照射されて次の瞬間、

 すぐ横からの突風と眩い光に驚く。 

 

 何が起きたのかと驚いている中、先程まであった突起している岩が

 根元から周囲の地面を含めて粉々に吹き飛んでいた。

  

 『とまぁ、こういった飛び道具でね。

  威力が強過ぎて扱うのに苦労してたけど、やっとこさ慣れてきて今日実践しに来てたって訳よ』

 「...その武器をくれた奴は...まさか、ネフテュス・ファミリアの奴か?」

 『悪いけど、それはちょっと言えないね。ファミリアの決まりなもんで...

  春姫が世話になってるとはいえ、そう簡単にはいかないんだよ」

 「そうか...なら、聞かなかった事にしといてくれ」

 

 ヘルメットを脱ぎ、アイシャはヴェルフを諭しつつ苦笑いを浮かべた。

 ヴェルフは食い下がる事はせずそう言ってアイシャも察すると、頷いて

 肯定する。

 

 そうしてアイシャは地上へ戻る所だったので4人に別れを告げると、

 そのまま通路を進んで行った。

 春姫はお辞儀をして見送り、命も同じようにしていた。

 

 「...ヴェルフ様、あれだけの威力を持つ魔剣をネフテュス・ファミリアが創れるのでしょうか?」

 「そいつは確証を持てないしわからねぇが...

  本当にそうなら俺の故郷も一瞬で無くなっちまうだろうな」

 

 冷静そうなヴェルフの返答にリリルカ固唾を飲む。

 そして、ネフテュス・ファミリアには関わらないでおいた方がいいと

 決めた。

 

 それからリリルカが何とか気を取り直そうと鼓舞して、7階層へ潜るの

 だった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「はぁっ...はぁっ...!」

 

 19階層にて、木々の間を必死に逃げ惑う男の姿があった。

 誰が見ても満身創痍だとわかるくらいに頭から衣服まで血塗れとなって

 片腕が無くなっている。

 

 それでも周囲を見渡し、足がもつれて転ぶもすぐに立ち上がって何かに

 恐れながらある場所を目指す。

 その手にあるのはDの文字が刻まれた球体上の鍵となる魔道具の

 ダイダロス・オーブ。

 男の正体はイヴィルスの使者、タナトスの眷族なのだ。

 

 タナトスの命令に従い、ロキ・ファミリアの動向を探ろうと冒険者の

 恰好でダンジョン内の18階層にある扉から出た。

 下の階層に続く出入口に入ろうとしたその矢先、仲間が何者かに

 殺された。

  

 背中から空いた穴は心臓から肺の一部を削る程の大きさで、即死だと

 わからされた。

 すぐさま他の仲間と通路へ入り、19階層へ逃げ込もうとするも、

 その途中で最後尾だった仲間の悲鳴が聞こえてきたが、既に

 死んだ者だとして見捨てた。

 

 19階層に辿り着くと、急いでその階層にある扉へ急いだ。

 仲間と周囲を警戒しながら進んで行き、モンスターに構わず走った。

 

 しかし、またしても途中で仲間の1人の悲鳴が耳を劈く。

 今度は余裕があったのか、その方を見ると地面に設置されていた円形の

 物体から伸びた刃が足首に食い込んで捉えている。

 罠だとわかり、泣き叫びながら助けを求める仲間も見捨てた。

 

 青黒い視界に映る赤い影は男ともう1人のみ。

 

 階層の壁際までもうすぐだ、と男は喜んだ瞬間。

 風切り音が聞こえたと同時に鋭い痛みが腕に走り、粘り気のある液体が 

 顔面に掛けられる。

 

 その拍子に男は転倒し、顔に付着したその液体を拭おうとしたが、

 ある違和感を覚えた。

 両手で拭いているはずが、片手でしか拭く事が出来ない。

 男は何かを察して、恐る恐る目を開けて見ると右腕が上腕部から

 無くなっている事に気付く。

 

 更に、全身に掛かっていたのは隣を走っていた仲間の鮮血だった。

 斬首された首が足元に転がっている。

 男は発狂し、血を拭うのも忘れて立ち上がり走り出す。

 

 頭上を飛ぶリベルラが飛ばしてきた針が刺さろうが、バクベアーに

 背中を引き裂かれようが、とにかく前へ前へと進んで行った。

 

 そして、扉がある壁際が見えて男は残った左手に握っている

 ダイダロス・オーブを突き出して扉を開けようとした。

 目の前が僅かに人型に歪んでいるのにも気付かず。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ベキッ グチャグチャ... ブチブチッ グチュッ...

 

 樹木が生い茂る中、何かを咀嚼する音が不気味に鳴り響いていた。

 数匹のモンスターが一ヶ所に群がり、地面に血溜まりを形成しながら

 一心不乱に何かを食べている。

 

 ポタ...ポタ...

 

 その頭上からは血溜まりに向かって赤い雫が落ちて来るのだった。

 

 カカカカカカ...




 ちなみにやったのはいぶし銀のウルフ。


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>'<、⊦>'<、⊦ D'ewsygnw

 ...ダメだ。思い浮かばない...

 

 自室で僕はディスプレイを前に頭を抱えていた。

 ヘルメットの修復をしてもらう事にしたのだが、ビッグ・ママに

 新たなデザインにしてみてはどうかと提案された。

 

 僕が使っていたヘルメットは皆からしても一般的且つシンプルな物で

 氏族の長となるのなら、特徴的なデザインにする方がいいとの事だ。

 

 最初こそは僕もやる気があって色々と考えていたけれども...

 何も思い浮かばず、時間だけが経していた。

 

 皆に相談してみるか悩んだが、絶対に兎を連想してからかうのは

 目に見えていたから論外とした。

 

 ...今すぐにとは言われていないんだ。今日は考えるのをやめよう。

 

 ディスプレイを消して就寝しようとしたが、扉がノックされて

 レックスが訪ねて来た。

 どうしたのかと思いつつも、扉を開けて話を聞いた。

 

 「ビッグ・ママにヘルメットの事を聞いたわよ。

  それで、貴方の事だから悩んでいそうだし相談に乗ってあげようと思って」

 

 ...僕の事をよくわかってくれているな、レックスは。

 感心しつつ僕はまだ1本線すら描き始められていない事を

 告げると、流石のレックスも予想外だったのか困惑していた。

 

 「...何かモチーフを思い浮かべてみる所から始めてみたらどう?

  何も無しからじゃ、余計に難しいと思うから」

 

 モチーフか...確かにそれはありかもしれない。

 他にアドバイスはないかと聞いた所、レックスは少し考えた後に答えて

 くれた。

 

 「まずは身近な物を観察して、そこからインスピレーションを受けてみるといいかも。

  ヴァルキリーのヘルメットも、そうして飾り付けをしたらしいわ」

 

 なるほど...確かにあんなにも装飾だらけの奇抜なヘルメットは

 皆の中でも唯一無二と言っても過言では無い。

 僕はそれを覚えておく事にし、レックスにお礼を述べた。

 

 「いいのよ、お安いご用だから。

  あ、それよりもベル。エイナの所にまだ行ってないでしょ?

  早めに会っておきなさい。音信不通で心配してるでしょうから」

 

 ...そう言われてみればそうだ。

 成人の儀が行なわれる日よりも...パラレルバースで鍛練をしに

 行った日よりも前からエイナという女性と会っていない。

 

 「彼女には私から貴方の事を教えておいたわ。ネフテュス様に言われてね。 

  だから、素顔を見せても大丈夫よ」

 

 そうか。それなら...しっかり面と向かって話してみよう。

 僕が明日、会いに行く事を告げるとレックスは頷いておやすみ、と

 言い残し去って行った。

 僕は改めて、ベッドの上へ横になると目を瞑り、意識が落ちていくのを

 薄ら感じながら眠りに就いた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「あら、ウルフ。...今日もお務めご苦労だったようね」

 

 カカカカカカ...

 

 「イヴィルスの巣窟...

  クノッソスの事は誰もまだ知らないけれど、何れバレるでしょうね。

  そうなったら、悪巧みをする連中が現われるかもしれない」

 

 暗黒期を知るレックスだからこそ、そう危惧していた。

 イヴィルスとは別の邪神が現われれば、十分に有り得るからだ。

 

 「そのためにも...早くしないとね。今度、私も一緒に手伝うわ」

 

 カカカカカカ...

 

 「ええ。それじゃあ、私は寝るわね。

  おやすみなさい」



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>'<、⊦ ̄、⊦ 絆

 ダンジョン100階層。

 ナルヴィが住処としている密林地帯で鋭い風切り音と力強い女性の声、

 それに加えて打撃音が聞こえてくる。

 

 「レイ!もっと勢いよく来ていいよっ!」

 「はイ!行きまスッ!」

 

 何が起きているのか。それは、ティオナとレイが模擬戦を行って

 いるのだ。

 腕を手に入れたので拳打を身に着けたいという事を踏まえ、ベルとの

 再戦に向けての相手になれたらとレイからの申し出をティオナは

 快諾した。

 

 ずっと花の絵を描き続けているので、気分転換をしたいとの事だった。

 

 ティオナなりに腕の動かし方や重心移動と攻撃されてから受け止める

 手段をレイに教えた。

 それからすぐに実戦する事にして今に至る。

 

 キュイィィィィンッ...!

 ドゴォオンッ!!

 

 ティオナのアドバイスでレイが編み出した技は強烈な威力を持ち、

 放つ度に衝撃波が生じるほどだった。

 その技とは周囲を滑空してから急降下し、その勢いのまま相手を

 殴り付けるというもの。

 

 キングコングの門下生でレベル7相当の実力は伊達ではなく、

 音速に匹敵する速度で放たれる拳を受け止めるティオナの足が地面に

 埋め込まれる程である。

 

 その一撃を受ければ並の冒険者ではひとたまりもないだろうが、

 ティオナはそんな攻撃を平然と受け流している。

 ベルに追い付こうと我武者羅になって強さを求める、ティオナの

 本懐に触れた気がしたようにレイは思えた。

 

 暫くして、休憩する事にするとティオナはあの拳打を放つ際に

 注意すべき点を指摘する。

  

 「やっぱり慣れてないから打った時に体勢が崩れてて、ちょっと力が入ってなかったね」

 「そ、そうですカ?全力でいっていたはずなんですガ...

  わかりましタ。もっと上手になるよう、頑張ってみまス」

 「うん。よーしっ!じゃあ、あたしも書き直してみよっと!」

 

 そう言うと、ティオナはレイに岩場まで運んでもらった。

 岩場にはこれまで描いてきたであろう何十、何百もの花の絵が描かれて

 いる。

 全て失敗作なので、それを眺めるティオナは失笑する様に苦笑いを

 浮かべて溜息を吐きつつも筆を手に取って描き始める。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 絵を描いている最中のティオナの顔はとても楽しげであった。

 最初の頃はナルヴィにダメ出しをされ続け、永遠に花の絵を描き続ける

 悪夢さえも見たというのにも関わらず、鼻歌さえ歌っている。

 

 「(凄いですネ、ティオナさン...精神力が強くなっているのがわかりまス)」

 

 確実に精神力が鍛えられている事に感心しつつ、 レイもティオナから

 教わった拳打の練習をひっそりと行うのだった。

 筆先が岩肌を擦れる音、拳が空気を切る音が重なっている最中、唐突に

 ティオナが問いかけてくる。

 

 「ねぇねぇ、レイ」

 「あ、はイ?どうしましたカ?」

 「レイはさー...ベルの事、好きだったりする?あ、番になりないって感じで言うと」

 「...エ!?」

 

 レイは顔を真っ赤にして驚きの声を上げる。

 それに伴って思わず拳を樹木にぶつけてしまい、悶絶するのと同時に

 黙り込んでしまう。

 

 その間にも何故、そんな事を聞いてきたのかティオナの意思を

 汲み取ろうと何とか思考を巡らせる。

 しかし、どうにも答えが出せない。そこで、敢えてレイから問いかけて

 みた。

 

 「ど、どうしテ、その様な事ヲ...?」

 「んー?気付いたんだけどさ、ベルの話をしてる時のレイって...

  何か嬉しそうであたしと同じみたいに感じたんだ。

  だから、好きなのかなって」

 

 ティオナの事を知っている者達なら、頭を打ったか変な物を食べたかと

 上を下への大騒ぎになる程の変貌に思えるだろう。

 それはレイも同じで普段の天真爛漫な彼女とはまるで別人のように

 思えた。

 

 今までの事を思い返しながら、レイはベルの事を思い浮かべる。

 別段、何も無い...と思っていたが、次第に胸の高鳴りを感じ始めて

 自分自身でも困惑した。

 確かにリドやグロスでさえ苦戦したモンスターを相手に一騎当千で

 立ち回った時や、初めて素顔を見た時、握手を交わした時も

 胸が高鳴ったと思える。

 

 「(これガ...番を求めての好意なラ...私ハ...)」

 

 半信半疑から、確信へと変わったレイはベルに対する想いを自覚した。

 しかし、その事をティオナに伝えるべきかと迷う。

 返答次第では今までの信頼関係が崩れ去る可能性もあるに違いないと

 恐れていたからだ。

 

 「(でモ、誤魔化してしまえばそれこそティオナさんに嫌われてしまうかもしれなイ...

   それなラ...ハッキリ言ってしまいましょうっ)」

 

 意を決してティオナにレイは近付き、彼女の隣に立つ。

 そして、真剣な眼差しでティオナを見つめながらゆっくりと自分の

 胸の内を明かす。

 

 「...はイ。ベルさんの事ガ...好き、でス!」

 

 他にも色々な事を交えたかったが、それだけしか言えずにレイは

 俯いてしまった。

 花弁を描き終えた所でティオナは筆を止めて沈黙する。

 数分程度の沈黙だったが、レイにとっては数時間にも感じていた。

 

 「...っ、あははっ!」

 

 その沈黙を破る明るい笑い声。レイは顔を上げてティオナを見る。

 その顔はいつも見せてくれる笑顔を浮かべていて、レイの頬を

 グニッと両手で挟み込んだ。

 

 「ひ、ひほにゃひゃン...?」

 「じゃあさ...一緒に番になるのはどうかな?」

 「ふぇ!?ひょ、ひょうひうひみれひゅふぁ!?」

 「え?許嫁は何人でもいいんだから、レイもって思ったんだけど...

  あ、そっか。勝つのか負けるのかで決まる、しか言ってなかったっけ」

 

 あはは、と能天気に笑うティオナを見てレイは呆気に取られて

 しまった。

 一度、手を離してからティオナはヤウージャの許嫁に関する事を

 説明する。

 話を聞くに連れて、レイは困惑から驚きの顔を浮かべていき、やがて

 再び俯いてしまった。

 

 「レイ?...どうかしたの?」

 「...そノ、私ハ...ベルさんはきっと、ティオナさんだけを選ぶと思いまス。

  あの方は誠実で誇り高イ。だかラ...

  ティオナさんのお気持ちはしっかり受け取らせていただきまス。

  なので...」

 

 レイはティオナの手をそっと握り締め、微笑みかけた。

 

 「私の気持ちの分まデ、ベルさんと...お幸せになってくださイ。

  生きて、沢山子供を産んで...」

 「...っ。...うん!...ありがとう、レイ」

 

 先程までの発言を思い返し、ティオナは自分を殴りそうになった。

 しかし、それではレイを心配させるだけでなくレイ自身が自分を

 貶めるに違いない。

 だからこそ、自らの気持ちを託してくれたレイをティオナは

 抱き締めた。 

 

 そこに気まずさは無い。あるのは純粋な互いの絆だった。

 

 「...ティオナ?レイ?抱き締め合って何してるの?」

 

 キョトンとした表情で話しかけてきたナルヴィに2人は驚き、思わず

 離れてしまった。

 何とか寒かったから、と嘘でしかない言い訳を言って再び筆を掴むと

 ティオナは花を描き始めるのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 その頃、ロキ・ファミリアは50階層に設備した野営地で最後の

 打ち合わせを終え、椿から注文されていた不壊属性の武器を主力となる

 メンバーに渡されていた。 

 シリーズ・ローランと名付けられている武器は全て、フィン達の

 要望通りに作られている。

 

 「ティ、ティオネさん、ハルバードにしたんスか?」

 「まぁね。51階層からの連中相手にはこっちの方がいいかなって。

  ...椿、ティオナの武器はそれだったかしら?」

 「ああ、流石に大双刀のような獲物では全員分が間に合わなくなっていたからな」

 

 ティオネはティオナ用に作られたロングソードを受け取ると、鞘と柄を

 握り締めて椿に言った。

 

 「私に使わせてくれない?あの馬鹿がもし見つかったらこれで頭真っ二つにしてやるから」

 「くふっ、はっはっはっは!ああ、持って行くといい。

  しかし、道中も見つからないとは...お前の妹はどこで何をやっているんだろうな」

 「知ったこっちゃないわよ。ただとにかく怒鳴り散らしてやるんだから...」

 

 怒りを込めながら顔を顰めるティオネだが、それだけでなく少しばかり

 寂しげにも見えた。

 尚、椿が言っていたその道中の各階層でティオネは妹の名前を

 あらん限りの声量で叫んだりしていたのだが、モンスター以外に

 反応はなく、結局、ティオナは50階層に来るまで見つかる事は

 なかったのだった。

 

 その後、パーティーに選ばれたメンバーは解散して各自で明日に

 備える事にした。

 ティオネはハルバードとロングソードを使ってみる事にしようとしたが

 フィンに呼び止められる。

 

 「少しレフィーヤの様子を見に行ってあげてもらえないかな?」

 「え?あの子がどうかしたんですか?」

 「恐らく...ラウル同様に以前の事を思い返してテントの隅で丸くなっているはずなんだ。

  リヴェリアはラウルの方を任せているから、君に任せようと思ってね」

 「そういう事ですか...わかりました。お任せください」

 

 そう言ってティオネは一度、ハルバードとロングソードを置いて

 レフィーヤが入っていったテントへと向かった。

 案の定、テントの隅でレフィーヤは三角座りのままブツブツと顔を

 真っ青になりながら何かを呟いている。

 短く溜息を吐いてティオネはレフィーヤに近寄り、肩にポンと

 手を置いて声を掛けた。

 

 「ひゃあ!?ティ、ティオネさん!?いつの間に!?」

 「あのねぇ...(団長に言われて来てみてよかったわ...)

  まぁ、いいわ。それより何ブツブツ言ってたの?」

 「あっ、その...前回の様な失敗を明日はしないように、って瞑想を...」

 

 そう言って目を逸らしていくレフィーヤの頬を両手で掴むと、

 ティオネは真っ直ぐにその青い瞳を見つめる。

 突然の事に驚くレフィーヤだが、ティオネに呼ばれてすぐに返事を

 した。

 

 「レフィーヤは私達が守る。余裕もってふんぞり返ってなさい。

  それで、今度はレフィーヤが何を以て助けてくれるの?」

 「...私の、魔法でひゅ...!」

 

 レフィーヤの瞳から動揺の色が消え、ティオネを見つめ返した。

 それを見てもう大丈夫だと確信し、ティオネはパッと頬から手を離す。

 

 「あ、あの、そう言えば...ティオナさんの武器を使うそうですけど...」

 「ん?ええ、それがどうかしたの?」

 「...実は、心配で堪らないって、思ってたり...しませんか...?」

 

 レフィーヤの問い掛けにティオネはキョトンとした表情を浮かべた後、

 ぷっと吹き出して笑い出した。

 一頻り笑った後、涙を拭いながら困惑するレフィーヤに答える。

 

 「まぁ...そうね。たった1人の妹なんだもの。

  あの時言ったのは...照れ隠し、かしらね」

 「や、やっぱりそうだったんですか...」

 「...死んでは絶対にない、って思ってるけど...

  どこかで苦しんでいるんじゃないかっとか、どこぞの誰かに捕まったとか色々考えたりしちゃってるのよね...」

 

 苦笑を浮かべながらそう言っているティオネにレフィーヤは何か

 出来る事はないかと考える。

 そうして、思い切ってこう言った。

 

 「あ、あの、ティオネさん。もし...もしよかったら...

  一緒に寝てあげますよ?」

 「え...?」

 「その、心細い思いをしているのに何もしてあげられないなんて...

  同じファミリアの仲間として私に出来る事をさせてくださいっ」

 「レフィーヤ...」

 

 レフィーヤが冗談で言っている訳がないので、ティオネは少し

 照れ臭そうに微笑みを浮かべて頷いた。

 そして、ある提案を言った。

 

 「何だったら団長のテントに忍び込んでみる?

  団長を抱き枕にして寝たら明日は絶好調で戦える気がするのよね~」

 「そ...それは、ちょっと...」

 「でしょうね。ま...ありがとう、レフィーヤ。

  明日は頼りにしてるわよ」

 「はいっ。必ず...皆さんをサポートしてみせます」



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>'<、⊦,、 ̄、⊦ H'anbrew

 「じゃあ、お疲れーエイナ。また今度食事にでも行こうよ」

 「もちろん。お疲れ様でした、マリス。」

 

 夕暮れを告げる鐘の音が鳴り響く中、活動記録の報告に来ていた

 マリスを見送り、エイナは終業間際を迎えた。

 

 定時退勤になる前に簡単な書類作業を片付けていると、ミーシャが

 ちょんちょんと指先で軽く突付いてきて振り返る。

 

 「何?ミーシャ?」

 「...前」

 「?。前...?...!」

 

 カカカカカカ...

 

 指を指している通り前を見ると、少し上の方で発光する2つの

 目が見えた。

 エイナは息を呑んで立ち上がると、慌てながらも書類作業を明日

 する事にして相談室へ案内した。

 

 相談室へ先に入れてから入るとすぐさまドアの鍵を閉める。

 息を整えて、落ち着きつつ振り返るとそこにはベルの姿があった。

 今まで景色と同化していた状態でしか見た事がなかったため、驚きの

 あまり呆然と立ち尽くしてしまう。

 

 そんなエイナを見つめながら、ベルは声を掛ける。

 

 『落ち着くまで深呼吸をするといい。

  心配しなくても、そうなるのはわかっていた』

 「あっ...は、はい...」

 

 ベルの言葉通りに深呼吸をして心を静めようとする。

 目の前にいる存在への緊張の方が少しだけ勝っているが、どうにか

 落ち着いた様だ。

 そうして、ベルに座るよう言ってエイナも対面する形で座った。

 

 『レックスから聞いていると思うが...改めて名乗らせてもらう。

  僕はベル・クラネルだ』

 「...私はエイナ・チュールと申します。

  その...改めて、よろしくお願いします。クラネル氏」

 

 深くお辞儀をしたエイナに対して、ベルは頷く。

 やがてエイナが顔を上げると、徐ろに接続されているパイプを

 引き抜き、ベルはヘルメットを外した。

 その行動にエイナは驚くものの、レックスから聞かされた掟の事を

 思い出して、ベルを見つめた。

 

 そして、ヘルメットに隠されていた素顔を見てより緊張感が増すも

 すぐに平常心を取り戻す。

 眼光の鋭い赤い瞳、ドレッドヘアーに束ねた白い髪、1番の特徴は

 体格とは裏腹に中性的な顔立ちをしているとエイナは思った。

 

 「(これが...クラネル氏の素顔...

  脱いだって事は私を認めてくれてるんだよね...?)」

 

 成人の儀を成し遂げる事でベルがヘルメットを外し、話せるように

 なれるとレックスに教えられた。

 但し、お喋りな性格ではないので基本的に今までと同じ対応には

 なる、と言われてもいる。

 

 一方でベルはヘルメットをテーブルの上に置くと、エイナを

 見つめながら様子を窺っていた。

 

 「...そんなに僕の顔が、珍しく見えるのか?」

 「え?あっ、い、いえ!も、申し訳ございません!

  め、珍しいという訳ではなくて...

  その、レックスさんから掟の事についてお聞きしましたが、私の事を...認めてくださったと、思ってよろしいのでしょうか?」

 「あぁ...その通りだ。エイナ、今までの対応に感謝している」

 「そ、そんな。お礼を言われる程じゃ...

  ...あの、クラネル氏。1つだけお話したい事がありまして...」

 

 おずおずとエイナはベルにある事を話した。

 それはアーディにベルの正体を教えてしまったという事である。

 レックスが他人に教えてはならないと言っていなかったため、

 アーディのネフテュス・ファミリアに対する敵愾心をこれ以上

 募らせる訳にはいかないと独断で判断した結果だった。

 

 エイナはどんな反応を示すのか不安になるものの、黙ってベルからの

 返答を待った。

 やがて、ベルは穏やかとは言い難いもののエイナを気遣ってか声色は

 そのままに答える。

 

 「彼女にはこちらから接触した者としている。なので、重大な問題になるとは思わなくていい。

  但し、全く無関係の者には話さないように頼む」

 「じゅ、重々承知致しました...」

 「それで、彼女は...アーディは僕らに対する敵意を改めてもらえたか?」

 「はい。ですが...何故か、ティオナ・ヒリュテの事を泣かしたら話は別だから、と言っていましたが...」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...その発言からして、アーディは僕がティオナに好意を抱いている

 事を知っているのか...? 

 

 いや、それは有り得ないはずだ。最後に会ってからそれ以降の事は

 知らないのだから。

 それなら、何故...。...あぁ、そうか。

 反対にティオナが僕に好意を抱いている事を知っているんだ。

 

 それで辻褄が合った。と、同時にアーディの発言に対して僕は

 誓ってそんな事はしないと思いつつ、エイナにその言葉の意味を

 伝えた。

 それに伴い、ゼノスに鍛えられている事は伏せてティオナは

 無事である事も。

 当然ながらエイナは驚き、異性の話についてあまり慣れていないのか

 顔を赤くして恥ずかしがっていた。

 

 「そ、そうだったんですか...

  あ、あの、ヴァルマ氏には私の方からお伝え致しましょうか?」

 「...いや、自分の意思で話してみよう。そちらに苦労は掛けさせられない」 

 「!。...わかりました、お気遣いいただきありがとうございます」

 

 僕の返答に少し驚きつつもエイナは微笑んでお辞儀をした。

 いつ話してみればいいのか、エイナと相談した所...

 彼女との再戦の前に言ってみる事にした。その方が説得力もある

 だろうからだ。

 

 僕は感謝の意を込めて、何かお礼の品を渡そうと何か良い物がないか

 自身の体を探り、ペンシルを見つけた。

 

 ...これでいいのか、正直自分では不満だが仕方ない。とりあえず

 渡そう。

 アスフィは喜んでいたようだったから...

 エイナにペンシルを差し出すと不思議そうな面持ちで受け取る彼女に

 僕は紙を取り出して、文字を書いてみるように促す。

 

 「これは...とても書き易くて、使い心地も素晴らしいですね」

 「遠慮せず受け取ってほしい。いくらでも持っているんだ」

 「え?あ...ありがとうございます。クラネル氏」

 「またいつか相応の物を渡すまで待ってもらえると」

 「い、いえいえ!これだけでも十分仕事が捗りそうですので...」

 

 僕はエイナの意思を尊重して、ペンシルを贈呈するだけに留める事と

 した。

 彼女はアミッドの似たように謙虚なんだろう。

 

 そうして、誰かがドアをノックしてきたので僕はヘルメットを被り、

 窓から出ようとする。

 少し狭いため、苦労したが何とか体を外へ出して別れを告げると、

 エイナは見送るために窓際へ近寄ってきていた。

 僕は腕のみを見えるようにして手を差し出し、握手を求める。

 それに気付いてくれたエイナは手を握った。

 

 『助言に感謝する、エイナ。またいつか会おう』

 「はい。お気をつけくださいね、クラネル氏」

 『ああ...それからベルと呼んでくれて構わない』

 

 そう言い残して僕は窓から出てすぐに隣接する建物の屋根へ

 跳び移る。

 

 振り返ってみるとエイナは見えてはいないので、僕が居る方向とは

 違う所に手を振っていた。

 僕はゴーグルを光らせ、居場所を伝えるとエイナはそれに気付き

 慌ててこっちに手を振った。

 それに応えるべく、僕も手を振ってそこから去るのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...そうだ。アミッドに不要な物を贈呈しないといけない。

 僕はベルトに引っ提げている袋の中身を確認して、もう間もなく

 終業となる治療院へ急いだ。

 

 以前の様に、扉の前に置いていくという手もあるが...

 出来る事なら手渡しをしてアミッドと話してみたい気持ちがあった。

 

 治療院の前にある建物の屋根からサーモグラフィーで中の様子を

 窺うと運良くアミッドが外へ出ようとしているのがわかった。

 札を掛けようとしているので、僕はその札にレーザーサイトを照射し

 気付くか試してみる事にした。

 

 すると、最初は凝視して気付いていなかったものの、ハッと後ろを

 振り返ってくれたのでゴーグルを発光させる。

 レーザーサイトをゆっくりと動かしていき、以前に僕が姿を見せた

 建物の影へ誘導して彼女がそこへ行くと、僕も跳び上がって目の前に

 着地した。

 

 クローキング機能を解除し、アミッドに姿を見せつつ近寄ると何故か

 困惑している様に見えた。

 

 「あ、あの...仮面に亀裂が入っていますが、大丈夫なのですか?」

 

 あぁ...これを気にしていたのか。

 ヒーラーのアミッドからして見れば、重傷を負う程の何かがあったの

 ではないかと勘繰ってしまうのは仕方ないか...

 僕は心配させないようにヘルメットを外す事にした。

 

 頭部全体が覆われていたので冷たい空気が流れ込んできて心地良い。

 一方、アミッドは僕の素顔を見て少し驚いた様子を見せた。

 

 ...もう、この顔は誰が見ても珍しいんだと思いながら話しかける。

 

 「ある儀式でヘルメットは破損しているが...見ての通り、怪我はない」

 「!...その様ですね。それなら、安心しました。

  ...ところで、お顔を見せていますが...」

 「ああ...先程言った、儀式を成し遂げる事が出来て外す事を許された。

  改めて名乗らせてもらう。ベル・クラネルだ」

 「私はアミッド・テアサナーレと申します。

  その儀式とはどういったものかわかりませんが...

  貴方とまたこうしてお会い出来て、お名前を教えてくださった事を嬉しく思います」

 

 そう言って頭を下げるアミッド。僕は彼女の謙虚さに改めて感服した。

 一歩近寄ると贈呈する物が入った袋を差し出して、彼女にそれを

 受け取ってもらう。

 アミッドは受け取ると、僕に微笑みかけてお礼を述べた。

 

 直接感謝の意を伝えられて少しむず痒く感じるが...悪くない。

 

 「クラネルさん。以前にお話しした件ですが...

  まだ要望はありませんか?」

 「...そうだな。それ以前に...見てくれた方が早いか」

 

 首を傾げるアミッドを余所に、僕はリスト・ブレイドを伸ばして腕の

 中央辺りに浅く刃を突き刺した。

 浅くと言っても僕の基準なので、血が溢れ出てくる程度には刺さって

 いる。

 

 「な、何を...!?」

 

 アミッドは動揺しているが、僕は構わず続ける。

 

 リスト・ブレイドを引き抜き、少しだけ覚醒を呼び覚ますと細胞分裂を

 促して傷口を急速に塞いでいく。

 

 完治まで3秒足らずと言ったところだ。

 予想通りの反応を見せてくれるアミッドだが、やはり新鮮味があって

 面白いと思った。

  

 僕はナァーザにさせていたように触診させようと腕を差し出す。

 戸惑いながらも、恐る恐るといった様子でアミッドは腕に触ってきて

 僕はされるがままになった。

 

 流血した血が付着しているだけで傷跡は一切残っていない。

 それに驚くアミッドは暫くの間、動かなくなっていた。

 

 「...これは、魔法でもスキルでもなく...

  自力で治したと見て、よろしいのでしょうか...?」

 「少し違う...覚醒という力を手に入れた事で治癒した。

  そちらが混乱するだろうから、詳しい説明は省く」

 「そうですか...あの、クラネルさん。失礼を承知でお願いしたいのですが...

  血液採取をさせて頂いてもよろしいですか?

  覚醒という力によって血液中でどのような変化が起こっているか...

  どうしても確かめてみたいんです」

 

 ...恐らく、分析をしたとしても意味はないとすぐに結論付けた。

 何故なら覚醒している時でないと血液中の成分は活発化しないからだ。

 

 しかし、アミッドの真剣な眼差しに僕は彼女の意思を踏み躙る様な

 事はしたくないと思い、トラッキング・シリンジを手にしてケースから

 血液採取用の針へ交換しながら答える。

 

 「構わない。僕に出来る事であれば協力しよう」

 「クラネルさん...あ、ありがとうございます...!」

 

 なるべく多く取れるよう、肘動脈から採血する事にした。

 

 覚醒しているため動脈の位置を正確に捉え、針を動脈に刺すと

 トラッキング・シリンジが血液を採取して後部のカプセルに鮮血が

 溜まっていく。

 

 「...あの、動脈採血は大抵の方は痛がるのですが...」

 「痛みには慣れてる。尤も、治療の痛みには耐え切れないが」

 「...お察しします」

 

 そうしてカプセルに十分な量の血液を採取し終えて、それをアミッドに

 渡した。

 別の何かを見つけられるといいが...それは彼女自身の運と観察眼に

 任せるしかない。 

 

 「では、ありがたく調べさせていただきます。

  重ね重ねお礼申し上げます」

 「いいんだ。そちらの向上心に見合った成果が出る事を祈ろう」

 

 僕が手を差し出すと、アミッドは握手に応えてくれて頷いた。

 握手を終えてそろそろマザーシップへ戻ろうと思い、僕は

 アミッドに別れを告げて姿を消すとその場から去る。

 

 恐らく、見送っているアミッドは頭を下げていただろう。



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>'<、⊦>'、,< オルナ

 ギャオォアアアァァ!

 グオオオオオ...!

 

 不気味な奇声が鳴り響いてくる。

 正確な位置の判明していない階層の奥地にて、無数のヴィオラスが

 蔓延っていた。

 辺りには逃げない程度に傷付けられたモンスターが捕獲されており、

 大口を開けたヴィオラスに丸呑みにされていく。

 

 ガリッ... ゴリッ ゴリッ...

 

 そんな状況の中でレヴィスは魔石を囓っていた。

 顎の力ではまず削れる事すら出来ないが、前歯を突き立てつつ

 咀嚼して飲み込んだ。

 

 食べ終わると、傍に転がしていた手足の無いバーバリアンに手を

 伸ばした時、黒いローブを被った人物が背後から現われる

 

 「【剣姫】達ハ既ニ深層へ向カッタ。ナノニ、何ヲシテイル?」

 「この体は酷く燃費が悪い。動くためには食事をする必要がある」

 「...ナラバ、何時動クツモリダ?59階層へ【剣姫】達ヨリモ先回リシナケレバナラナインダゾ」

 「勝手にしろ、私も勝手に動くだけだ。

  先に貴様らがロキ・ファミリアを追い詰めておけば【剣姫】も手間取らずに片付く。

  ...話は終わりだ。出ていけ」

 

 レヴィスをその場に置いていき、黒いフードを被った人物は

 その場を後にして去って行くのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ダンジョン59階層。

 凍てつく程の恐ろしい極寒の冷気が漂う氷河の領域と呼ばれ、

 階層の至る所に氷河湖の水流が流れている。

 

 防寒対策を施しているタナトスは眷族を背に何かを一点に

 眺めていた。

 それは階層中央に存在する巨大な氷河湖に浸かっている、

 巨大な影。

 更にはその影を取り巻くヴィルガとヴィオラスも見えた。

 

 「しっかし、ホントここは寒い寒い...これ着てないと凍え死んでしまいそうだ。

  ...で?拘束具は暴れ出したら外せるようにしてあるの?」

 「はい。我々もロキ・ファミリアを討つ手筈は整っています」

 「上々上々...じゃ、どうなるか俺は高みの見物としますか」

 

 そう言い残し、眷族を引き連れてその場を後にするタナトス。

 準備は万全であると勝利を確信した余裕の笑みを浮かべている。

 

 しかし、眷族を含めてタナトスは気付いていなかった。

 黒く揺れるローブが岩陰から見えていた事に。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 その頃、ダンジョン100階層に居るナルヴィは頭上を見上げていた。

 無表情であるはずなのに、どこか切なさを噛み締めているようだった。 

 

 「(感じる...この感覚はきっとそう...)」

 「ナルヴィ。どうかな?...ナルヴィ?」

  

 呼ばれたのに気付くと、頭上から視線をティオナが立っている岩肌へ

 移す。

 そこには、美しい一輪の花が咲いていた。

 ティオナの画力を知る者からすれば、信じられない程の上達具合で

 あると誰もが思う程だ。

 だが、それだけではない。

 何万回も描き続けてきたティオナの精神力の強さの表われが伝わる

 ものだった。

 

 その証拠に、ティオナはナルヴィの感想を楽しげに待っていた。

 またダメ出しされる事を厭わないといった様子である。 

 それにナルヴィは確信した様に花の絵を見つめながら、ティオナに

 言った。

 

 「とっても良いよ。誰が見ても綺麗って言ってくれるはず。

  それに...ティオナの精神力も鍛えられたってわかるよ」

 「じゃあ、また...あの光に触らせてくれる?」 

 「その覚悟があるなら...やってみよっか。ティオナ」

 

 ティオナは真剣な眼差しを向けながら対面する。

 両手を胸の前に重ね、ナルヴィが何かを呟いていると、重ねている

 両手から加護となる力の源の真っ赤に輝く光が溢れてきた。

 

 最初に触れた際に味わった苦しみ。

 それをティオナは思い出していたが恐怖心は抱いていなかった。

 それも鍛えられた精神力の賜物だろう。

 そして、ゆっくり手を伸ばせば光に触れ、何かが全身を駆け巡る。

 

 全ての始まりは漆黒の闇から生まれた光。

 概念、空間、時、それらも光と共に生まれてきた。

 神々の手によってではない。誰の意思でもなくそれは生まれた。

 

 無限に広がり、渦巻く光と光が弾け合って更なる光が生まれた。

 光の欠片は別の欠片とぶつかり、またぶつかって粉々になると

 混ざり合う事で歪な赤い光となる。

 

 その赤い光に大小と大きさの異なる様々な光が長い年月もの間、

 降り注ぎ、次第に海で覆われる。

 

 太陽の光が届かない地下の奥深くで、シャボン玉の様な虹色の泡に

 小さな命が包まれた。

 それこそが生命の歴史の始まりである。

 

 小さな泡が1つとなり、その中で細く2本の糸が絡み合った。

 進化は続いていき、様々な個の有していった事で1つの生命が手と足を

 獲得。

 

 緑の大地へ踏み出す。

 それから幾度も訪れる過酷な環境変化に対応しながら更なる進化を

 遂げていき、哺乳類から霊長類に至った。

 

 霊長類の1つが2つの種に分かれ、その1つが現在にまで生存する

 6つの種族に分かれた人類の祖先となった。

 

1本の木が落雷によって焼かれ、人類の祖先は火を見つけ出した。

 その火を使い、灯された洞窟の中で絵を描いた。

 やがて、人類の祖先の画期的な進化は農業と牧畜を発明した事で

 驚異的な人口増加を促した。

 

 様々な文明や文化が始まり、その文明間で争いが繰り返されて人類の

 誰もが強さを求めた。

  力、知力、武器、未知なる概念として魔法を獲得するまでに。

 そんな人類は神という崇めるべき存在を認知する。

 

 次第に人類に勝る生物は居ないと思われていたのが、新たな脅威が

 生み出され、人類に危機が迫る。

 

 突如として大穴が開き、モンスターが誕生したのだ。

 人を襲い、食らい、殺戮する存在の出現により人々は恐れ慄いた。

 

 人類は知識を振り絞り、武器や道具を駆使して対抗していく。

 それでも人類は圧倒的な力の間に為す術が無く、追い込まれた。

 嘆き、諦め、世界の終わりを待つしかないと絶望していた。

 

 だが、どんな悲惨で残酷な運命に見舞われた時でも、万能の力を司る

 神に幾多の人類は救いを求める事はなかった。

 何故なら、絶望を自らの力で切り開くものだと信じていたからだ。

 そして、絶望を打ち砕く英雄が生まれた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...そっか...ずっと、ずっと昔から人は自分で強くなってきてたんだ...」

 「そうよ。今でこそ神の力に頼ってばかりだけど...

  古き時代の者達は己の力を信じて、戦い続けた」

 「すごいね...ん?...え?」

  

 ナルヴィに話しかけられたと思っていたティオナ。

 だが、声が違っていて、レイの声でもない事に気付くとその声の主を

 見るべく振り向く。

 

 そこに居たのはティオナと瓜二つの女性。

 服装以外の相違点としては大人びた雰囲気、長髪の結っている箇所、

 身長差、胸の膨らみ加減だった。

 

 「あ、あたし...?」

 「そう思っても仕方ないでしょうね...

  でも、違うわ。私は貴女ではない...とも言い切れないか」

 「ど、どういう事?...あっ、もしかして...」

 

 これまで見てきた人類の進化の過程から、ティオナはその正体を察して

 息を呑んだ。

 対してティオナと瓜二つの女性は細く笑みを浮かべる。

 

 「意外と察しが良いみたいね、ティオナ。

  そうよ、私は貴女の祖先...というより、前世の貴女よ」

 「やっぱり!?じゃ、じゃあ、名前は?名前は何て言うの?」

 「私はオルナティア・ラクリオス。オルナと言えば伝わるかしら」

 「オルナ?...語り部のオルナ!?古代三大詩人の!?あたしの前世が!?」

 「一々驚く必要ないでしょうに...

  まぁ、純粋な貴女だから仕方がないわね」

 

 剰りに驚き過ぎたせいで思考回路が停止しているティオナだったが、

 オルナに呼び掛けられてハッと我に返った。

 呆れた表情だったオルナだが、息を吐いてティオナを見詰めながら

 口を開く。

 

 「ティオナ。私が貴女の前に現われたのは...

  貴女が受け入れようとしている力を正しく使える様にするため。

  これから先も、強さを求め続けるのであれば...

  私を受け入れる覚悟を決めなさい」

 「受け入れるって...どうすれば良いの?」

 

 ティオナの問いかけにオルナが両手を差し出してきたので、その両手を

 握った。

 すると、握っていた両手から光が溢れてきて、2人の全身を包み込む。

 その光は熱くて苦しいものではなく、温かく優しいものだった。

 

 「この光には私の想い、記憶が込められているの。

  光をその身に宿す事で...私の全てを知る事が出来る。

  それが、私を受け入れた証となるわ。

  さっきも言ったけど、力を受け入れようしているなら相応の魂の器が必要になる。

  貴女はその力に耐えられるだけの肉体と精神力を既に手に入れている。

  後は、私を受け入れて...しっかりと自覚する事が大事よ。

  そして、力に溺れず、屈せず、飲み込まれる事もしない。

  それこそが、真の強さ。貴女の得るべきもの...」

 「...オルナが、消える事はないの...?」

 「大丈夫、消えたりなんかしない。ずっと貴女のそばに居るもの。

  だから...安心しなさい。ティオナ」

 「わかった。...じゃあ、オルナ。想いと記憶、受け取ってみるね」

 「ええ。でも、生半可に思わない事よ。

  しっかり受け取りなさい」

 

 ティオナは頷いて目を瞑ると、深呼吸をしてそれからオルナの手を

 より強く握り締め、心の内で呟いた。

 全てを受け入れる、と。

 

 「...っ」

 

 オルナから溢れ出た光がティオナの体へと伝わっていき、やがて

 全ての光が収束される。

 

 その瞬間にティオナの頭の中に膨大な量の記憶が流れ込む。

 それはオルナの生きた時代や世界、そこで起きた出来事など多岐に

 渡るものであった。

 

 その中でティオナの目に止まった記憶の一部。

 

 それは、ベルにそっくりな青年と過した日々の思い出。

 誰かなのかオルナに問いかける必要もない。

 何故なら、それが誰なのかわかるのだからだ。

 

 そして最後の最後までオルナの記憶を見続け、ティオナは瞑っていた

 目を開く。

 オルナの体が粒子となっていき、足元から消えていくのが見えた。

 

 「確かに預けたわよ、私の全てを...。

  託したからには大事にしてもらいたいわ」

 「...もちろん。ずっと...ずっと忘れたりなんかしないから」

 「...ありがとう。ティオナ」

 「こっちこそ、ありがとう...オルナ」

 

 2人は互いに微笑み合って、オルナの方から抱き締めてくると

 ティオナも抱き締め返した。

 そして、オルナの姿が消える。

 

 オルナの居なくなった場所を見詰めていたティオナだったが、不意に

 ティオナの視界が暗転したかと思えば、目の前に花の絵が描かれている

 岩場に変わる。

 

 ゴフ...

 

 「ティオナさン...?」

 「...ししょー、レイ、ナルヴィ...」

 

 呼び掛けられた方を見ると、キングコングとレイ、ナルヴィの姿が

 あった。

 

 レイはティオナの事を心配そうに見ており、キングコングとナルヴィは

 どこか嬉しそうに微笑みを浮かべている。

 

 ティオナは自身の右手を見詰めて、握り締めるとナルヴィに近寄ると

 再戦を申し入れた。

 しかし、ナルヴィは首を横に振って拒否するのにティオナは予想だに

 していなかったので驚く。

 

 「ティオナ、それはまた今度にしましょう。

  今、私の同胞が苦しんでいるの。だから、助けに行かないと」

 「ナルヴィの同胞って...精霊がダンジョンに居るの?」

 

 ナルヴィが頷こうとした時、背後から感じる気配に気付いてティオナは

 思わず身構えた。

 そこに居たのはフェルズだった。

 

 「あ...えっと、フェルズだっけ?レイやリド達から聞いたけど...」

 「ああ、そうだ。ティオナ・ヒリュテ、私の事を知っているなら率直に伝えよう」

 「え?何を?」

 

 首を傾げるティオナにフェルズは衝撃的な事態を告げる。

 

 「ロキ・ファミリアが襲撃されたようだ」

 「え...!?」




モノリスで進化した事したという没案もありました。

ところでオルナさんの胸ってあの服装でよくわからないですけど子孫同様にあんまりないですよね?


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>'<、⊦,、、,< 開戦

遅くなり申し訳ございません


 道中、様々な困難が待ち構えていたが、ロキ・ファミリアは遂に

 59階層へ突入した。

 

 情報通り、サラマンダー・ウールが無ければ一瞬して全身が

 凍り付いて心停止する様な極寒地。

 ラウルがくしゃみをすると、一瞬にして飛び散った唾液の飛沫が

 氷の粒となってしまう程だった。

 

 「ベート、アンタお腹冷やさないようにしなさいよ?」

 「包帯巻いときますか?」 

 「要らねぇよ。つーか、お前に言われたかねぇな...」

 

 自覚が無いのか首を傾げるティオネにフィンは苦笑いを 

 浮かべていたが、瞬時に顔を強張らせる。

 親指の疼きがかつてない程に感じ取れたからだ。

 その時、何かを見つけたレフィーヤが指を指しながら

 叫んだ。

 

 全員がその先を見ると、巨大な氷河湖の中に黒い影が

 佇んでいるのがわかった。

 それが何なのか確かめようと警戒しながらフィン達は近付いて

 行った。

 

 冷気による霧でよく見えないため、最初は単に盛り上がった

 氷山だと思われていた。

 しかし、30Mの距離まで近付いた所でその大きな黒い影が

 動いたのを見てフィン達に緊張が走る。

 

 「...!?。総員後退っ!」

 

 フィンはすぐに戦闘準備の号令を掛けようとしたが、不意に

 足元から聞こえてくる地鳴りを察知して咄嗟に後退する指示を

 出した。

 

 バゴオォオオオンッ!

 

 フィンの指示通り、背後へ飛び退いた瞬間に地面を覆っていた

 氷雪を突き破り、無数のヴィオラスが出現する。

 

 ブ シャ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア !!

 

 「食人花!?どうしてここに...!?」

 「それだけじゃないぞ...あそこだ!」

 

 ド ド ド ド ド ド ド ドッ...!

 

 クルスが見ている先からも群がるヴィルガが雪を土煙の様に

 巻き上げながら迫って来ているのが見えた。

 この異常事態の最中、アイズは黒い影が振り向いて自身を

 見ている事に気付く。

 アイズが訝っていると冷気の霧が晴れていき、その全貌が

 明らかとなった。

 

 「なっ...何だっていうのよ、アレ...!?」

 「パワー・ブル...ではなさそうじゃな...」

 

 巨体と見合った2本の角を持ち、首周りが体毛に覆われた

 その姿はガレスの発言したパワー・ブルと酷似している。

 但し、頭部には本来見られないものがあった。

 それは、短髪の美しい女性の上半身だ。

  

 「アリア...」

 

 それに加えて言葉を発した。

 以前にも聞いたその名前を言った事に驚き、レフィーヤは

 アイズを見る。

 そのアイズは瞳孔を開き、驚愕の余り足元が覚束なくなって

 いた。

 

 「ア、アイズさん?」

 「...うそ...まさか...そんな...」

 「...アイズ、あれが何か知っているのか?」

 「...精霊...でも、でも違う...」

 

 リヴェリアの問いかけに答えるアイズは今も尚、信じられず

 動揺していた。

 アイズの返答にリヴェリア達も驚愕して、フィンは精霊と

 呼ばれた異形の怪物を凝視する。

 

 「(精霊...けれど、アイズが違うと言っているのは...

  あの下半身が理由なのか...?)」

 「フィン!あそこに人が居るぞ!」

 「!」

 

 フィンが思考を巡らせていると今度は椿が、氷山の頂上から

 見下ろしている人物を指して叫ぶ。

 常人からすればその距離から顔を認識する事は不可能だが、

 恩恵により肉体を強化された上級冒険者であれば視認する事は

 可能なのだ。

 そのため、動揺していたアイズも振り向き、その人物を見る事が

 出来た。

 

 見下ろしていたのは、レヴィスだった。

 赤黒く禍々しい剣を携えており、以前とは異なる赤い装いを

 している。

 

 フィン、レフィーヤ、リヴェリアも顔を知っているため、

 何故、ここに居るのか驚愕しているとレヴィスは高く

 跳び上がった。

 ロキ・ファミリアのメンバーが居る10M先に着地し、

 立ち上がるとレヴィスはアイズを睨み付ける。

 

 「やっと来たか、アリア。随分と待たせてくれる」

 「...私はアリアじゃない。アリアは...私のお母さん」

 「世迷い言を抜かすな。アリアに子がいるはずがない。

  そうだ...など...」

 「...え...?」

 「...!」

  

 レヴィスが呟いた最後の言葉をアイズとフィンだけが

 聞き取れた。

 リヴェリアとガレスはそれに気付き、問いかけようとするも

 レヴィスが禍々しい剣を振るった際の音に阻まれる。

 

 それと同時に、どこからともなく白装飾を纏ったイヴィルスの使者達が

 ゾロゾロと姿を現わす。

 ざっとその数は100人を超えており、全員の手には奇抜さが目立つ

 刀身が捻れたナイフを持っている。

 

 「イヴィルスの使者!?じゃが、何故こんな階層まで!?」 

 「...考えたくもないけど、ダンジョンの抜け穴を全て把握しているのかもしれないな」

 「抜け穴...未開拓領域か...!」

 

 リヴェリアが考察して答えると、フィンは頷いて肯定する。

 

 イヴィルスの使者達がレヴィスの背後に並び立つと、レヴィスは

 禍々しい剣を突き出した。

 その切っ先は間違いなくアイズに向けられている。

 

 「マリアは私が相手をする。残りの奴らを殺せ」

 「ふん...同志よ!我らが悲願のため刃を突き立てっ!

  愚か者どもに死を!!」

 「死を!!」 「死を!!」 「死を!!」 「死を!!」

 

 捻れたナイフを掲げてイヴィルスの使者達は声を揃えて

 叫ぶ。

 異様な光景を目にしてフィンは戦闘準備の号令を掛け、

 役割分担を伝える。

 

 ヴィルガやヴィオラスの対処をベートとレフィーヤが。

 イヴィルスの使者は椿、ラウル、クルス、アリシア、ナルヴィが。

 異形の怪物はガレス、リヴェリア、ティオネが。

 そして、レヴィスにはフィンとアイズで挑む事にしようとした。

 

 だが、その時アイズから待ったを掛けられてフィンは横目で

 見ながらどうしたのかと問いかける。

 

 「あの人は...私に任せて。もう負けたりはしないから」

 「...それなら、アイズ。無茶かもしれないが...捕縛するんだ。

  アリアについて...知っている情報を聞き出そう」

 「...うん」

 「全員、気を引き締めるんだっ!行くぞっ!!」

 

 アイズが先陣を切ると、レヴィスも同時に攻め込んできた。

 遅れてイヴィルスの勢力とロキ・ファミリアのメンバーも戦闘を

 開始する。

 

 レヴィスの斬撃を跳び上がって回避し、頭上から鋭い刺突を

 繰り出しながら後方へ着地する。

 着地の瞬間までお互いに背を向けていたが、同時に背後をアイズと

 レヴィスは振り向いて得物をぶつけ合った。

 

 ガキィッ!

 

 火花が衝撃波で飛び散る中、アイズは力を込めて押し返そうとするも

 レヴィスの足蹴りが迫って来るのに気付く。

 その足に自身の左腕を乗せると、下半身のみを浮かせる様にして

 仕返しとばかりにドロップキックでレヴィスを押し退けた。

 

 そこから怒濤の追撃により、レヴィスは守りに徹した。

 禍々しい剣で受け止める度に痺れる程の衝撃が走り、最後の

 重い一撃により突き飛ばされたレヴィスは氷山へ叩き付けられる。

 頭上から氷の欠片が降り注ぐ中、以前とは比べ物にならない

 アイズの強さにある予感が過ぎった。

 「お前...まさか...」

 「貴女に負けたくなかった...それだけ」 

 

 そう答えたアイズに舌打ちをするレヴィス。

 両手で禍々しい剣を構え直し、足元の氷雪を砕きながら

 跳び上がった。

 守りどころか回避すらも捨てた渾身の一撃を繰り出そうと

 している。

 アイズは一切その場から動かず、中段の構えのまま静かに

 デスペレートの剣先を添わせ、振り下ろされてくる斬撃を

 僅かにズラした。

 

 ボ ギャッ...!

 

 凄まじい突風が一面の積雪を吹き飛ばし、アイズとレヴィスの

 姿を明確に晒した。

 レヴィスの渾身の一撃はアイズのアーマーに掠ってもおらず、

 一方でアイズの突き出したデスペレートの刃がレヴィスの頬に

 一筋の裂傷を刻んでいた。

 

 瞳孔を開き、信じられないといった表情のレヴィスにアイズは

 自信を込めて短く述べた。

 

 「風は使わない。私は...私自身の力を信じてるから

 「...嘗めるなァッ!!」

 

 

 

 目の前でピンが引き抜かれ、ラウルは咄嗟にイヴィルスの使者を

 蹴飛ばした。

 背中から地面に転がって数秒もしない内にイヴィルスの使者は

 自身の体に巻き付けていた火炎石が爆発した事で絶命する。

 

 構えていた盾を退かしたラウルは跡形も無く吹き飛ぶ死に様を

 見て、過去の記憶が鮮明に蘇ってしまう。

 急な吐き気に襲われてその場から動けなくなるが、そんな事など

 お構いなしにイヴィルスの使者は再び自爆特攻を仕掛けてくる。

 

 「怯むな!確実に仕留めろ!」

 

 だが、ラウルに接近しようとしていたイヴィルスの使者をフィンが

 薙ぎ払って事なきを得る。

 椿も自爆させる前に刀で喉笛を掻っ捌き、ラウルと同様に蹴り付けて

 爆発に巻き込まれない距離まで下がるといった戦法を取っていた。

 

 「ナイフの使い方が碌になっていない。

  自爆してこようが、その盾で防げば問題なかろう」

 「椿の言う通りだ。さっきの対処は見事だったよ、ラウル」

 「...は、はいっ!後方は団長と椿さんに!自分らは前方に集中するっす!」

 「おう!」

 「了解!」

 「次期団長らしさ、ちょっとは出てきたわね!」

 

 アリシアに言われ、照れ笑いを浮かべるラウル。

 それにフィンは微笑んだが、それも一瞬だけだ。

 イヴィルスの使者は前後左右から襲い掛かって来る上に

 ベートとレフィーヤが対処しているヴィルガとヴィオラスとは

 別の所から出現した個体も現れてきた。

 

 しかし、フィンは異変に気付く。

 

 しかし、異常な光景を目の当たりにしてフィンは眉間に皺を寄せた。

 敵陣営であるはずのヴィオラスが通り掛かったイヴィルスの使者に

 襲い掛かり、大口を開けて喰らい付いた。

 血肉と骨が飛び散って人体の原型が無くなる程に貪り食われる。

 

 「(見境なしに襲っている...つまり、そういう事か!)」

 「フィン!この気色悪い花が食人花だな!?

  何故に彼奴らを襲っているんだ!?」

 「どうやら、あの時のテイマーの様な芸当が出来ないからだろうね。

  ...椿。敵の武器を使う事は卑怯な手だと思うかい?」

 「む?...いや、武器は手にした者によって変わる。

  それならば、お主の考えている思惑通りにするのも1つの手だろう」

 「そう言ってもらえてよかったよ」

 

 フィンはフォルテイア・スピアをローラン・スピアと一緒に 

 左手で持ってラウルの元へ駆け寄る。

 その足音に気付いたラウルが振り返ったと同時に、フィンは

 聞こえるように叫んだ。

 

 「ラウル!魔剣を貸してくれ!」

 「は、はいっす!」

 「各自一箇所に集まって魔剣を用意するんだ!」

 

 通り際にそう指示を出して、魔剣を受け取ったフィンは

 頭上に掲げて魔力を収束させる。

 それに反応して無数のヴィオラスはフィンに狙いを定めて

 後を追いかけて行った。

 

 追いかけて来るのを確認し、前方に居るイヴィルスの使者の

 間をフィンがすり抜けて行くと、ヴィオラスはそのまま

 イヴィルスの使者に衝突していき、次々と巻き添えにする。

 更に他のイヴィルスの使者達へも突っ込んでいき、やがて

 その行動パターンを見抜いたのか1人が近付いてくるフィンの

 タイミングを見計らい自爆しようとした。

 

 ところが、突然方向転換して自身から離れていくイヴィルスの使者は

 呆然としたまま既にピンを引き抜いていたので無駄死にとなる。

 

 イヴィルスの使者の数は半数以下まで激減し、頃合いと見たフィンは

 ラウル達が指示通りに集まっている位置を確認する。

 そうして、遠回りをして一直線に向かって行った。

 向かって来るのに気付いたラウル達は魔剣を翳し、フィンが指示を

 出すのを待つ。

 

 そして、フィンが魔剣を頭上へ放り投げるとヴィオラスの群れが

 その方へ向かって行った。 

 

 ギュオ ォ オ オ オ オ オ オ オッ!!

 

 正確に狙いを定めると同時に魔剣から一斉に炎や雷が放たれ、ヴィオラスの

 群れを跡形も無く焼き尽くす。

 少し離れた所で立ち止まったフィンは作戦が成功したのを確認していると、

 背後から一気に近付いて来る足音に気付いてフォルテイア・スピアを構える。

 

 「フィィイインッ!!」

 「ヴァレッタ・グレーデ...!」

 

 ガギィイッ!!

 

 血に染まった様な赤い剣を受け止め、フィンは力押しで弾き返した。



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>'<、⊦>'、< 突貫

 少し時間を遡る。

 フェルズにロキ・ファミリアが襲撃を受けたという一報を聞いた

 ティオナ。

 困惑しつつも襲撃しているのは誰なのか問いかける。

 

 「イヴィルスだ。59階層で待ち伏せをしていた。

  だが、使者だけでなく食人花と以前に君達を襲ってきた新種のモンスター、そして...」

 「モンスターになってしまった精霊も、居るんだよね?」

 「え...!?」

 「残念ながら...」

 

 ナルヴィが悲しげな顔で告げた言葉の意味を理解してティオナの顔から

 血の気が引いた。

 イヴィルスの使者や食人花と新種のモンスターはともかくとして、

 あの時の怪物化した精霊まで居るとなると事態はかなり深刻だ。

 

 ナルヴィが申し出を拒否した理由を察し、どうするべきなのか

 ティオナは考えるまでもなく答えた。

 

 「なら、すぐに行かないと!ししょー!レイ!連れてって!」

 「で、ですガ、ここから59階層へ戻るとしてモ...

  とても間に合いませンっ」

 「そんな...!?じゃあ、どうしたらいいの!?

  ティオネや皆を助けに行かないといけないのに!」

 

 焦燥感を募らせるティオナは、今にもその場から立ち去って自力で

 59階層へ向かう勢いだった。

 戸惑うレイを押し退けようとした時、それを止めたのはナルヴィと

 キングコングだった。

 

 その巨大な手で行く手を阻まれ、ティオナは何故行かせてくれないのか

 問いかけようとする。

 

 「ティオナ。オルナに言われた事...忘れたんじゃないよね?

  力に溺れず、屈せず、飲み込まれてはいけない、って」

 「あ...」

 

 その言葉を聞いて、ティオナは進めようとしていた足を止める。

 オルナが正しく力を使えるために託した魂の器。

 間違った使い方をすれば、きっとイヴィルスと同じ様な凶悪となるに

 違いない。

 

 それはダメだと自分を戒めるティオナは深呼吸をして、昂る感情を

 精神統一で抑え込んでいく。

 やがて、冷静さを取り戻したティオナを見て安堵するとナルヴィは話を

 続けた。

 

 「一先ず、70階層まで戻りましょう。

  そこで私が何とかしてみるから」

 「な、何とかって、どうするの?あ!もしかして別の場所に移動する魔法を使うとか!?」

 「それは出来ないよ。とにかく、行こ?」

 

 そう言われて困惑するティオナだが、ナルヴィの言う通りにするしか

 ないと決める。

 背鰭で作った武器を手に取り、レイ達と一緒にキングコングの掌へ    

 乗って上下が反転している重力の境界線を越えると70階層に繋がる

 光の渦を潜り抜ける。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 70階層に着いてナルヴィは降ろすよう言ってキングコングは

 ゆっくりとナルヴィだけを肩から降ろす。

 

 「ナルヴィ、ここからどうするのかな...」

 「さァ、私にモわかりませン...」

 「彼女は神の分身だ。きっと秘策があるんだろう」

 

 そうフェルズが答えていると、ナルヴィは階層の端まで移動して両手を

 顔の前に掲げた。

 本来の姿に戻ると、息を吸い込んで瑞々しく潤った唇を開き、詠唱を

 始める。

 

 「【地よ、唸れ。来たれ来たれ来たれ大地の殻よ、黒鉄の宝閃よ、星の鉄槌よ、開闢の契約を以て反転せよ。空を焼け、地を砕け、橋を架け、天地と為れ」

 

 両手を天井に向けながら見上げると、無数の魔法円を斜めに向けて

 配置する。

 その大きさは巨大な魔法円でもキングコングが収まる程に大きく、

 危険を察知した周囲のモンスター達は一目散に逃げていく。

 

 「降り注ぐ天空の斧。破壊の厄災。代行者の名において命じる。与えられし我が名はノーム。大地の化身。大地の女王】」

 

 魔法円の天井を向いている表面から浮き出てくる歪な形をした魔力で

 創り出された黒曜石。

 それが何十、何百も浮き出てきた所でナルヴィは最後の詠唱を

 言い放つ。

 

 「【メテオ・スウォーム】!」

 

 ズゴォオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

 魔法円から次々と飛んで行く無数の黒曜石。

 落下はしていないが流星群の様に天井へ激突していき、轟音を響かせて

 天井を削っていく。

 階層全体が揺れ動き、振動で壁の一部が崩れる。

 

 「...すごい」

 

 ものの数秒もしない内に70階層の天井を突き破った。

 ナルヴィは浮遊しながら連続詠唱で再びメテオ・スウォームを放ち、

 69階層の天井も突き破ろうとする。

 

 ティオナとレイ、フェルズでさえその光景に唖然としている中、

 キングコングは階層の壁を這って登り始める。

 窪みに手を突っ込み、天井にぶら下がりながらナルヴィが空けた穴から

 69階へ入り込んだ。

 

 69階層に入った時には既にナルヴィの姿は見えず、同じ大きさの

 穴が出来ていた。

 

 「これなら、すぐにロキ・ファミリアの所へ着くなっ」

 「うんっ!ししょー!60階層の天井まで空いたらあたしを投げて!」

 

 ヴォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!

 

 ティオナに返答するキングコングは同じ様に壁を登り始める。

 

 ギュアオォオオオオオッ!!

 ブ チッ !

 

 途中、大規模にダンジョンを破壊してしまった事でジャガーノートが

 目の前で生み出されそうになっていたが、天井を掴んだキングコングの

 手で握り潰されてしまった。

 ティオナは何か潰れたと思ったが、気にしないでおく事にした。

 

 そして、65階層へ辿り着くとナルヴィが降りて来て60階層の天井を

 突き破り、59階層に辿り着ける事を伝えてくれた。

 

 「ありがとうナルヴィ!じゃあ...ししょー!」

   

 ゴフッ!

 

 ティオナが肩を伝って腕を走り、掌に乗るとうつ伏せになると軽く

 潰さないようキングコングは握る。

 

 ヴォォオオオオオオオッ!!

 ギュォオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 狙いを定め、勢いよく振るわれた腕から遠心力によってティオナは

 一直線に59階層へと繋がる斜めに空いた穴を潜り抜けて行く。

 

 「行っけぇぇええええええっ!!」




この世界線ではジャガノはかませ以下のトカゲです。


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>'<、⊦>'<、⊦ 乱闘

遅くなりました。申し訳ございません。


 20階層の天井を抜けると姿勢を崩す事で空気抵抗を発生させ、天井に差し掛かるまでに下の地表を見据えた。

 

 そこではイヴィルスの使者、ヴィルガ、ヴィオラス、そして、グガランチに対抗しているロキ・ファミリアのメンバーが見える。

 傷だらけのティオネ達は頭上を見上げ、何が起きているのか戸惑っているようだった。

 

 それに構わずティオナはグガランチに握り潰されそうになっているティオネを助けようと背鰭の武器を構えた。

 体を回転させて天井に足を付け、そのまま天井を蹴るとグガランチ目掛けて降下していく。

 

 攻撃を仕掛けようとしているのに気付いたレヴィスは、迎撃すべく食人花を呼び寄せた。

 

 ティオナを喰らおうとヴィオラスは蔓を伸ばし、大口開けて襲い掛かった。

 しかし、ティオナは体を勢いよく回転させながらヴィオラスを物ともせず一瞬して斬り裂いた。

 

 驚くレヴィスに隙を突いてアイズはデスペレートを振るう。

 

 しかし、その一撃は受け止められてしまう。

 だが、想定内だと言わんばかりにアイズの背後から眩く光る雷撃が放たれ、レヴィスの顔面に直撃した。

 

 「どっりゃぁぁぁぁああああああああああああああっ!!!

 

 ティオネを掴んでいるグガランチの手を斬り落とし、先に着地するとすぐさま跳び上がって、落下していたティオネを抱き抱える。

 着地して血塗れの顔を拭ってやり、ティオネの安否を気遣う。

 

 「ティオネ!しっかりして!」

 「...ティオ...ナ...?」

 「うんっ...遅れてごめんね?もう大丈夫だから」

 

 ティオネをゆっくりと寝かせ、立ち上がるとティオナは再び背鰭の武器を構える。

 ティオネは呆然とした様子でティオナの背を見つめた。

 

 その時、複数のヴィオラスが再び襲い掛かってきて迎撃しようと構えた時、横から聞こえてくる風切り音にティオナは不敵な笑みを浮かべた。

 

 次の瞬間にヴィオラスの首が宙を舞い、胴体の茎は地面に転がった。

 

 風切り音に反応していたアリシアは上空を飛び交う影を目を凝らして見上げた。

 その正体はレイだった。

 どうやらキングコングよりも先に飛行して、ティオナの元へ駆け付けて来てくれたのだろう。

 

 何故、セイレーンがヴィオラスからティオナを守ったのかアリシアが理解出来ないでいると、地面が再び揺れ始めて小さく悲鳴を上げた。

 背後を振り返ったラウルとクルスは体が硬直してしまっていた。

 地面に空いた穴から巨大な手が伸びてきて、その付近を徘徊していた

 ヴィルガは手が地面を掴む際に巻き込まれて、そのまま潰される。

 

 「おいおいおいおいっ!?」

 「に、逃げるっすよぉおおおお~~~!」

 

 のそりと巨大な体が穴から現われて、危険を感じ取ったラウルとクルスはその場から走り出し、次に周囲の仲間達に警告を促す。

 ロキ・ファミリアのメンバーはラウルの叫びを聞き、目を見開く。

 

 「何、なの、一体...?」

 「あたしを鍛えてくれたししょー達と友達が来てくれたんだよ」

 「ししょーって...まさか、モンスターじゃないでしょうね...」

 「そうだよ」

 即答されて頭を抱えそうになるティオネだが、やがてハッキリと見え始める正体に愕然とした。

 今までに見た事のない巨大なモンスター、異形の人影が2つ。

 キングコングと肩に乗っているナルヴィとフェルズだ。

 

 ティオナに何を聞き出せばいいのか、ティオネはわからず口を半開きにしたままとなった。

 それを気にせず、ティオナはそのままキングコング達の元へ向かおうとしている。

 

 「ま、待ちなさいよっ!ティオナ、アンタ...

  ホントに何があったの...?」

 「...ティオネ。終わったら、ちゃんと説明するよ。

  だから...待ってて」

 

 振り向いて微笑みながらもティオナの真剣な眼差しで見つめられ、ティオネは何も言えなくなる。

 唇を噛み締め、走り出したティオナの背中を見送るしかなかった。

 そして、ティオナとレイはキングコング達の元に集う。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 偶然なのか奇しくもティオナ達が居る位置と、対面する様にイヴィルスの使者、グガランチ、ヴィルガ、ヴィオラスが待ち構えている。

 グガランチは失った手の激痛に怒りを露わにしており、今にも突進して来そうな勢いだった。

 ティオナはどうするべきか、ナルヴィやフェルズに問いかけようとはせず、目を閉じて精神統一を始めた。

 全身から赤いオーラが溢れ出し、瞼が開かれたティオナの瞳は右目が青、左目が緑となっている。

 

 そして、冷静に状況を把握するとキングコング達に指示を出した。

 

 「レイ、マリィの血は持ってる?持ってたら、皆を回復させてあげて」

 「私は全癒魔法を使える。だからレイ、余らせるより使い切るんだ」

 「あと...アイズやベートは危ないから気をつけて」

 「は、はイ。...攻撃されそうになったとしてモ、やってみせまス!」

 「ししょーとナルヴィは...一緒に暴れちゃおっか」

 「いいよ。精霊の恐ろしさを...思い知らせなきゃね」

  

 フーッ!

 

 キングコングも鼻息を荒くして答えると、ティオナは背鰭の武器を掲げて高らかに宣言した。

 

 「よくもティオネや皆を傷付けてくれたねッ!

  あたしは許したりなんかしないから、覚悟しなよッ!!」

 

 その声は階層全体に響き渡り、イヴィルスの使者は怯み後退りする。

 

 グガランチは遂に怒りが頂点まで高まり、咆哮を上げるとヴィルガとヴィオラスを引き連れて向かってきた。

 

 ヴオ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!

 

 ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴ ドゴ ドゴッ!

 

 キングコングのドラミングを合図にティオナとナルヴィは向かって行く。

 その画は正しく、勇壮に溢れて見えただろう。



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>'<、⊦>'<、,< 決着

 劣勢に追い込まれていたはずのロキ・ファミリアは突如として現れた援軍...と認識していいのかわからないが、アマゾネスの女性と巨大なゴリラのモンスターがグガランチを怒涛の勢いで追い詰めて行く。

 

 椿が用意してくれたローラン・シリーズでも、浅い傷が付く程度でしかダメージを与えられなかったのに対し、背鰭の武器の一撃は怪物の肉体を切り裂いて、巨大な拳による拳打はめり込んでグチャッと体内の何かが潰れる音が周囲に響き渡る。

 

 足元に居るヴィルガやヴィオラスも腐食液を吐き出し、巻き付いて気を逸らそうとしているが、それに目もくれないキングコングに踏み潰され、引き千切られて全く歯が立たないでいた。

   

 「【突き進め雷鳴の槍。代行者たる我が名は雷精霊。雷の化身雷の女王】」 

 「【サンダー・レイ】!」

  

 悶絶して怯んだグガランチに浴びせられる豪雷。

 その眩い光にロキ・ファミリアもイヴィルスの使者も手を翳して、遮ろうとする。

 

 ティオナの背後からナルヴィが放った砲撃魔法であり、全身を焦がしながら麻痺状態となって硬直してしまっていた。

 

 「おっりゃぁああああああああああ!!」

 

 ゴ ギャアッ!

 

 キングコングの肩に着地したティオナは、跳び上がって体を回転させながら渾身の回し蹴りを顔面に叩き込む。

 衝撃でグガランチの顔は歪み、追撃にキングコングの猛烈な前蹴りで下半身にある頭部を蹴飛ばされた。

 

 瞬く間に形勢は逆転され、イヴィルスの使者達は窮地に立たされた事に慄く。

 

 だが、ここで退けば後はないとわかっているため、せめてロキ・ファミリアの冒険者だけでも殺すべく自爆を試みようとした。

 視界に入ったアリシアに目を付け、奇声を発しながら突っ込んで行く。アリシアはそれに気付いて魔剣を構えようとする。

 

 キィィィィ・・・イイイインッ!!

 

 風切り音が聞こえ、イヴィルスの使者達は足を止める。

 そして...振り返った時には、飛翔してくるレイの強靭な翼がイヴィルスの使者達を薙ぎ倒していった。

 時速100kmで飛来する翼は容易く胴体に深い傷を刻み込んでいる。

 

 断末魔を上げる事すら出来ないままイヴィルスの使者達は絶命し、それを見てアリシアは立ち竦んだまま、頭上を飛行するレイが旋回して自分の目の前に降りて来たのに驚く。

 

 「あノ、私はレイと言いまス。ここは危ないですかラ、あそこへ行ってくださイ」

 「...しゃ、喋った...!?」

 「は、はイ。ビックリしたでしょうけれド...

  私ハ、貴女と同じ様に喋れテ、考えテ、食べテ、歌う事が出来まス」

 

 レイの強い意志が宿った瞳に見つめられ、アリシアは目を瞬かせた後...深くお辞儀をしつつ礼を言う。

 

 「ありがとうございます、レイさん。助けていただいて...」

 「ど、どういたしましテ...!でハ、他の人達も助けに行きますネ!」

 「お願いします。私も皆を手助けしますから...!」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「ちっ...!一体何だというんだ、あのモンスターは...それに...」

 

 アイズと剣を交えていたレヴィスは、強引に押し退けて距離を取ってから忌々しくキングコングを睨んだ。

 魔石をありったけ喰らわせたグガランチが手も足も出ずに、ティオナの追撃も含めて一方的にやられている。

 

 それどころではない。ヴィルガやヴィオラスもナルヴィの魔法で多くが一瞬にして木端微塵になり、ロキ・ファミリアを助けながらイヴィルスの使者を確実に仕留めるレイの飛翔で壊滅状態であった。

 

 そんな状況に怒りがフツフツと湧き起こってくる。

 

 最早、ロキ・ファミリアの襲撃もままならないと判断するのに秒数も掛からなかった。

 アイズがエアリエルを纏っての刺突を仕掛けてきたのを見計らい、レヴィスは背にしていた雪の塊に飛び乗る。

 雪の塊は粉々に砕け、キラキラと白い粉を撒き散らしながらアイズの視界を遮らせる。

 

 一瞬慌てるも、アイズはその場から抜け出してレヴィスの位置を特定しようとしたが...既にそこには無かった。

 アイズは背後に居るレフィーヤに場所の特定を試みる。

 

 「レフィーヤ!あの人は...!?」

 「...!、あそこです!いつの間にあんな遠くへ...!?」

 

 レフィーヤが指した方向にレヴィスは佇んでいた。次は負けない、といった眼差しを向けてから、背後にある洞窟へと消えて行く。

 その洞窟はレヴィスが見えなくなると同時に、グガランチが階層の壁に叩き付けられた拍子に塞がれてしまった。

 

 アイズはそれを見送る事しか出来ず、デスペレートの柄を強く握り締めるのだった。

 

 「アイズさん...」

 「...レフィーヤ、皆を助けに行こう」 

 「は、はいっ!」

 

 

 アイズがまず向かった先はヴァレッタと交戦中のフィンの元だった。

 禍々しい赤い剣を振り翳した隙を狙って横一文字に斬り伏せようとするも、悪運が強かったのかレヴィスはそれを受け止める。

 

 しかし、フィンが懐に潜り込むと膝蹴りを鳩尾に叩き込んで、くの字に体を曲げさせた。

 

 「ぐっ...!2体1となる、流石に不利か...!くそっ...!」

 

 悪態をつきながらヴァレッタもレヴィス同様に粉雪による煙幕で身を隠す。

 フィンの呼びかけてアイズはエアリエルで煙幕を吹き飛ばすも、既にヴァレッタは逃走していた。

 

 「...逃げられたか。アイズ、君の方もかい?」

 「うん...また、勝てなかった...」

 「勝つか負けるかは、いずれにせよ決着がついてわかる話なんだ。

  その時まで...君はやれる事をやろう。そうすれば、自ずと結果がついてくるさ」

 「...そう、だね。やれる事を...頑張ってみる」

 

 そう答えたアイズにフィンは成長したな、と思っているのも束の間、すぐ近くで起きた地響きに身構えた。

 

 自分達では手に負えなかったグガランチがボロボロの瀕死寸前となっており、唾液を垂らしながら睨んでいる前方の先にはティオナが立っていた。

 

 「フーッ...!フーッ...!フーッ!フーッ!」

 「アアァァアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 呼吸が徐々に荒くなり、最後は怒り狂った咆哮を上げると詠唱を始める。

 ティオナは背鰭の武器を構えて、グガランチの魔法がどのようなものなのか見極めようと見据える。

 

 「【闇ヨ荒べ!光ヲ呑ミホシ夜ノ安寧ヲ代行者タル我ガ名ハ闇精霊!闇ノ化身闇ノ女王!】」

 

 ラウルに肩を貸してもらい避難している所だったティオネは、その詠唱を聞いてとてつもない危機感を覚える。

 ティオナに助けられる少し前に、あの砲撃魔法の威力を身をもって知らされたからだ。

 

 「ティオナッ!逃げてっ!早くっ...早く逃げてっ!!」

 「ティ、ティオネさん!ダメっすよ!っていうかあの人ティオナさんなんっすか!?」

 

 驚くラウルに返答せず、ティオネは必死に叫んでティオナに逃げるように促す。

 だが、ティオナは避けようともしなければ逃げようともしない。寧ろ、迎え撃つかの様に身構えている。

 

 やがて、グガランチは詠唱が終える。

 目の前には漆黒の魔法円が浮かび上がっており、不気味な笑みを浮かべて勝利を確信しているようだった。

 

 「【ダーク・ロアー】!」 

 

 闇属性の砲撃魔法を放つグガランチ。

 凄まじい爆発音と共に砂煙を巻き上げて、ティオナ目掛けて一直線に向かって行く。

 

 「...ふー...」

 

 砲撃魔法が迫り来る中、ティオナは深呼吸をして精神統一をした。瞳の色はまた右目が青、左目が緑となる。

 足元を砕きながら前方へ跳び上がって背鰭の武器を突き出し、真っ向から向かって行った。

 ティオネだけでなく、フィンやアイズ達も無謀な行動に目を見開く。

 

 そして...ティオナに砲撃魔法が直撃した....かに思われただろう。しかし、違っていた。

 砲撃魔法は確かに直撃している。背鰭の武器にだ。

 

 それだけでなく、砲撃魔法は真っ二つに切り裂かれながら消滅していく。

 背鰭の性質によって熱量を奪われていっているからだ。

 あり得ない光景を目の当たりにしたグガランチの顔から笑みは消え、絶望に染まる。

 

 「【火よ、来たれ。猛よ猛よ猛よ。炎の渦よ。紅蓮の壁よ。聖火の咆哮よ。突風の力を借り世界を開け。燃える命。

燃える血潮。燃える心。燃える情熱。燃える勇気。代行者の名において命じる与えられし我が名は火精霊。炎の化身。炎の女王】」

 「【ファイアーストーム】!」

 

 流れるような詠唱速度で超長文詠唱を行い、特大の炎風をティオナの背中に向けて放つ。

 誰もが狙いが定まらず、ティオナに直撃してしまうと思ったが...

 背鰭の武器を背中まで振りかぶる事により、炎風は渦を巻く様に吸い込まれていく。

 

 炎風を全て吸収した背鰭の武器は、まるで太陽の如く光り輝いていた。

 ティオナはそのまま背鰭の武器を突き出して魔法円を粉々に砕き、腰の位置に構え直す。

 目と鼻の先まで近付いてきたティオナにグガランチは恐れ戦く。

 

 「これが...災難ってやつだよっ!!」

 

 背鰭の武器を力強く横に振るったティオナ。グガランチの精霊部分と言える上半身は斬り裂かれて地面に崩れ落ちた。

 残った下半身にティオナは馬乗りとなり、下半身にある頭部の首を斬り付ける。

 背鰭の武器を足元に突き刺し、首っこを両手で掴むと一回転させるくらい捻って脊椎をへし折った。

  

 ブチ ブチ ブチ ブチィッ!!

 

 「うおぉおおおおおああああああああああああああああっ!!!」

 

 最後は頭部を強引に脊椎ごと引っこ抜き、それを掲げながらティオナは胸を叩いて勝利の雄叫びを上げた。

 その光景にティオネは只々呆然と見ており、圧倒されるばかりであった。

 戦いは終わった...そう誰もが思った、その時だった。

  

 「【荒ね...天の...怒...り...」

 

 なんと、上半身だけとなった状態でグガランチは詠唱をしながら手を翳し、最後の悪足掻きを見せる。

 最後の言葉を発しようとするも、頭上から黒い影が落ちて来るのに気付く。

 

 ゴシャッ!!

 

 キングコングに踏み付けられて地中に埋もれるグガランチの頭部。

 翳していた手は痙攣した後、カクン...と力なく落ちた。

 イヴィルスの使者も、ヴィルガも、ヴィオラスの姿もなく、今度こそ戦いが終わったのだ。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ティオナは頭部を投げ捨て、背鰭の武器も置き去りにしてティオネの元へ急ぐ。

 避難させた場所には他の仲間達も居て、幸いにも誰1人として欠けずに無事でいるようだった。

 それに安堵するも束の間、ティオネを探すティオナ。

 

 ふと、背後から感じる視線に振り返ってみると...そこにティオネが立っていた。

 衣装はボロボロであるが、既に傷は消えている所からしてフェルズの全癒魔法か、レイに渡されたマリィの血によって完治したのだろう。

 

 「ティオネ...その...」

 「...何よ?」

 「...ただいま」

 

 それだけしか思い浮かばず、照れ臭そうに笑うティオナに...ティオネは呆れて深くため息をつく。

 しかし、すぐに吹き出して笑みを浮かべるとゆっくりと近付いて、そのまま優しく抱き締めるのだった。

 

 「お帰りなさい...ティオナ」

 

 身長差が以前よりも違うために違和感を覚えるが、それでも最愛の妹が無事でいた事が何よりも嬉しくて、抱き締めたかったのだろう。

 思わぬティオネの抱擁に戸惑っていたティオナだったが、次第に笑顔になり抱き締め返す。

 

 こうして、イヴィルスの襲撃は幕を閉じるのだった。




ファイアーストームの詠唱が何か特撮みたいになったのはご勘弁を...
あとフェルズは全然描写ないけどめちゃくちゃ頑張ってたと思ってください。

ティオナは現在190Cとベル君と同じぐらいになってて、ティオネとは30cmも差があります。


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 ̄、⊦' 共存

シリアス展開はサクッと終わります。


 ロキ・ファミリアの遠征は59階層到達という形で終了となった。

 イヴィルスの襲撃により負傷者は、その場で回復して大事には至っていないものの武器の損耗が大きかったためだ。

 歯痒い思いもあるが、現在オラリオに存在する探索系ファミリアの中では最高記録を成し遂げたので、ひとまずは良しとするべきだろう。

 

 ...それ以外に不満と思う点があるとすれば、今、自分達が進んでいる未開拓領域かもしれない。

 

 あれだけ苦労していた59階層までの道のりを安全且つ短時間で野営地としている50階層にまで戻る事が出来てしまった。

 今後の遠征で恥を忍んでここをを使うべきか、冒険者としてのプライドを以て見なかった事にするべきか...フィンは一度、考えるのは後にする事とした。

 

 見張りの団員がフィン達の姿を見つけ、大声で帰還を報せた。

 すると、ロキ・ファミリアとヘファイストス・ファミリアの団員達は待ってましたと言わんばかりに作業を放棄して、フィン達を拍手と歓声で出迎える。

 

 「お帰りなさい、団長。ラウル達も...無事に、ではなさそうですけど、戻ってきてよかったです」

 「ありがとう、アキ。野営地の指揮、ご苦労だったね」

 「いえ、そんな...あの、ところで後ろの3人...というか、モンスターが一緒なのはどういう事ですか?」

 「...長い話になるから、後で詳しく説明するよ。まずは...予備の服を持って来てくれるかい?」

 「は、はい。わかりました...」

 

 興奮気味の団員達に指示を出してアナキティは野営地に残っていた団員達を下がらせる。

 そうしてフィン達はそれぞれ休息を摂り、ひと段落した所で今回の到達階層、イヴィルスの襲撃について話し始める。

 

 焚火を囲って、真剣な面持ちでアナキティや団員達は驚き、恐怖した。

 まさかイヴィルスが深層にまで潜んでいるとは考えられなかったからだ。

 しかも、特殊なモンスターを引き連れ、怪物と化した精霊という存在まで有している事にも。

 

 そして...ロキ・ファミリア間の話し合いとなるため、ヘファイストス・ファミリアの面々は控えてもらう事にした。

 

 「...それじゃあ、ティオナ...なんだね?僕らの知る限りでは、似ても似つかないと思ってしまうんだけど」

 「あははっ...そうだよ、って言ってもやっぱり簡単には信じてもらえないかー」

 「当たり前でしょうが。何よこれ?私より背伸びてるし髪の毛も長いし...胸まで大きいじゃないの。

  何?団長を私から奪うためにこうなったっていうの?は?いい度胸してるじゃない」

 

 対面するように座っているティオネは自身よりも大幅に成長したティオナの姿に嫉妬しているのか、後半から苛立ちを露わにしてる。

 ティオネだけでなく、仲間だと思っていた一部の女性団員達も悔しそうにしているのは言うまでもない。

 

 「おいティオネ。最後のは明らかにおかしいぞ。何故に1人でキレとるんじゃ...」

 「まぁ、ともかく...本当にティオナと認識していいんだな?」

 「うん。こうなったのも理由があるから...ちゃんと話すよ。でも、その前に...」

 

 ティオナは隣に座っているレイとフェルズに視線を移した。

 フェルズはそもそも表情を伺えないので、特にレイの方を見ている。

 若干緊張している様子であるレイだが、ティオナの視線に気付くと口元を締めて頷く。

 

 「紹介するね。この子はセイレーンのレイ。59階層で助けてもらった皆は覚えてるはずだけど...

  レイはゼノスっていうモンスターの...えっと...」

 「説明が難しいと思うので知性と心を持ち、言葉を話すモンスターと覚えてほしい」

 「そういう事!レイはね、すっごく歌が上手で、すっごく優しくてお母さんみたいなんだよ!」

 「ティ、ティオナさン、それは教えなくてもいいのでハ...」

 

 その時点まで半信半疑だったアナキティ達は、思わず本当にレイが喋った事に驚く。

 59階層へ潜っていた選抜メンバーも、知っていたとはいえやはり信じられない様子であった。

 アイズやベートに至っては、妙な動きを見せればすぐにでも手と足を出す姿勢を取っている。

 

 「それから、レイの隣に居るのはフェルズで...

  あたしも今日が初対面だったから、自己紹介してもらっていい?」

 「構わないよ...ロキ・ファミリアの諸君、初めまして。私の名はフェルズ。

  嘗てからウラノスとレイの同胞であるゼノス達の協力者だ」

 「ウラノスだと...?では、ギルドの差し金か?」

 「リヴェリア・リヨス・アールヴ。私の存在はギルドも知り得ていない。

  加えて、私は眷族ではないよ。まぁ...言うなれば右腕という存在だ。

  彼が眷族を持たないというのは周知の事実のはずだろう?」

 

 フェルズの言葉にリヴェリアは眉を顰め、訝しむ。

 供述通りならそれまでだが、明らかに存在感が人のそれとは違う事を見抜いていたからだ。

 しかし、今この場で自分が異議を唱えてしまえば自身を敬う同族達が何をしでかすのかわからないため、それ以上聞こうとはしなかった。

 

 「先にゼノスの事について話した方がいいよね?そうしたら話もスムーズになると思うから」

 「確かに一理ある。では、ロキ・ファミリアの諸君...心して聞く様に。

  まだ公になっていないが、いずれ訪れる日まで内密にしてもらおう」

 

 フェルズは最古のゼノスである、キングコングの誕生から話し始める。

 3000年前、大穴の光も届かない奥深くで生まれ落ちた2匹のモンスター。

 

 それがキングコングと、もう1体居た最古のゼノスだ。

 どちらもまだ幼体でありながら、その凄まじい力と凶暴性から他のモンスター達に恐れられていた。

 2匹は互いを仲間と認識しており、親が居ない中で生まれたためか...種族の垣根を越えて支え合っていたという。

 

 やがて蓋がされると、大穴はまるで独自の進化を遂げるようにダンジョンとなった。

 

 「そうして今から凡そ800年前から次々とゼノスが誕生した。

  レイも、その内の1人であって私とは同い年ぐらいなんだ」

 「え?レイとフェルズってそんなに長生きなの?全然年老いてないけど...」

 「はイ。私だけでなく、リドやグロスも魔石を食べ続けている事で見た目も変わらず、寿命が延びているんでス」

 「私は少し特殊であるため省かせてもらうよ」

 

 なるほど、とすんなり納得するティオナ。しかし、その回答はその場に居る全員にとって驚愕に値する内容であった。

 モンスターが魔石を喰らうと強化されるというのは知られているが、寿命が延びるなどというのは誰もが知らない事だったからだ。

 尤も、上級冒険者もランクアップする事で全盛期の肉体を維持するために老化を遅らせる効果があるのだが...

 

 フィンやリヴェリア達は訝しむ視線をフェルズに向ける。

 だが、そんな視線など意に介さず話は続いた。

 

 「私も話に聞いたぐらいだが...最古のゼノス達はある切っ掛けによって反発するようになったそうだ。

  長寿として永遠に生き長らえるか、寿命を以て死せるべきという相互の食い違いによって。

  前者はキングコング、後者はもう一方の最古のゼノスだ」

 「うーむ、解せぬのう...

  何故長く生きられる手段があるというのに、両者の考えが分かれたんじゃ?」

 

 ガレスの質問にフェルズは、ふむ...と顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 その質問には同意見であるようで、何故反発したのかと首を傾げる一同。

 すると、ティオナは何かに気付いた様にハッとなる。

 

 「もしかして...死んだ後、またゼノスとして転生するから?」

 「...その通りだ。生死を繰り返す我々人間と同じく、ダンジョンの中でモンスターも生死を繰り返す。

  その中で変化したモンスターこそがゼノスだ。

  最古のゼノス達が何故、生まれ落ちた時から知性と心を持っていたのかは見当もつかないが...」

 「それはともかくとして...

  ガレスの言ったように、何故後者は死を選んだというんだ?」

 「私も君も長く生きていて、思う事はないだろうか?...もう、充分だと」

 「っ...それは、無いと言えば嘘になるが...」

 

 リヴェリアはフェルズの言葉に思い当たる節があるのか、否定を示さなかった。

 それがどう関係するのかイマイチわからず、ティオネが問いかけようとする。

 ところが、思わぬ人物が語り始める。

 

 ティオナだ。領域を解放しているようで両目が青と緑のオッドアイとなっている。

 

 「生きとし生けるもの全てには終わりを迎える。

  死は生の一部であり、順番が来れば有無なく受け入れるしかない...

  それが自然の摂理であって、その終わりを自ら迎える事が出来るなら、それってある意味祝福じゃないかな。

  だから...キングコングししょーと対立したゼノスは生き物として、それを望んでたと思うよ」

 

 彼女を知るその場の全員が思わず絶句し、納得してしまった。

 遠い未来で訪れるであろう終わりを迎えたいと思う、老いた自分自身。

 そんな考えを持つモンスターが居るという事自体、想像もしていなかった故に言葉が出なかったのだ。

 

 「キングコングししょーはその真逆でずっと生きたい事を望んだに違いないよ。

  生き続けて死んだら終わり、じゃなくて...生まれてきた本当の意味を真剣に考えたから。

  あたし達が生まれてきた意味があるように、ゼノスが生まれた意味もちゃんとあるはずだって...

  本当の所は聞いてないからわからないけど...きっとそうだと私は思うな」

 「...アンタ、何か変な物食べた?それとも、何かに取り憑かれてるの?」

 「んー、どっちも違うけど...

  領域に踏み込んでから色んな事を考えられるようになったからかな?」

 

 ティオネにそう答えるとオッドアイが両目とも琥珀色に戻る。

 それと同時に雰囲気もいつもの彼女と変わらないものとなって、ロキ・ファミリアの面々は顔を見合わせて余計に頭が混乱しそうになる。

 そんな中、ティオナの言っていた事は的を得ているとフィンは思った。

 

 モンスターが何故生まれ落ちるのか...それは神以外に知り得ない事柄であり、学者の様々な憶測が飛び交っている程に謎だ。

 そんな謎多き存在の中から更にイレギュラーが遥か昔より存在していたという事を踏まえてフィンは考える。

 これまでの歴史上、モンスターは完全なる悪と位置付けられていた。

 だからこそ、悪を倒した者は英雄となり、正義が勝ち、悪が滅びる物語が綴られてきた。

 

 しかし、今、仲間の隣に座っているゼノスはどうだろう?

 一部を除いて容姿は間違いなくモンスターであるが、ティオナと会話をし、笑みを浮かべて感情豊かに振る舞っている。

 人間と同じ知性と心を持つモンスター。...否、或いは違う生き物ではないかという答えに導かれる。 

 

 「それから、どうなったんじゃ?その最古のゼノス達は分かり合えたのか?」

 「...己の信念という王座を懸け、一騎討ちを挑んだ。

  どちらも譲らぬ戦いが丸58年続き...決着はキングコングの勝利で幕を閉じたそうだ。

  転生を受け入れていたゼノスは魔石をほとんど喰らわず、老体であったのが勝敗を分けたとされる」

 「後で説明するけど...そのゼノスからドロップされた背鰭を武器にしたのが、これ。

  キングコングししょーのはもっとでっかい斧を作ってたよ」

 「随分と原始的に作ってると思ったら本当に原始的にだったのね...

  というかアンタ、大双刀は...って聞くだけ野暮よね...」 

 

 両手で頭を抱えるティオネ、申し訳なさそうに謝るティオナ。

 久方ぶりに見慣れた光景を目の当たりにしてフィンは苦笑を浮かべる。リヴェリアとガレスも同様だった。

 

 すると、唐突にアイズが前に出て問いかけてきた。

 

 「その...生まれてきた意味って...何かわかったの...?

 「うん。これも聞いてないけど、ゼノスの皆が掲げてる目標だからね。

  ゼノスが生まれてきた意味...それは、あたし達と一緒に外で生きる事だよ」

 「...共存、という事か?人間とモンスターが...」

 

 モンスターと人間の共存。

 

 それは、テイムされたモンスターが人間に従うという括りではなく、モンスターが自分の意思で行動するという事になる。 

 そんな夢物語を成し遂げる可能性をゼノスは持っているのかと、フィンはそう思わずにはいられなかった。

 尤も、アイズはそれ以前の問題で...デスペレートに手を掛けてしまっている。

 

 「...ふざけないで」

 「...アイズがモンスターを嫌ってる理由はわからないけど、ふざけてなんかないよ。

  ゼノスには...レイにはあたし達と同じ心がある生き物なんだから、こうして話してる。

  あたしがこうして無事でいられたのも...レイのおかげなんだよ?」

 「っ...!でも!」

 

 ティオナの言葉に強く反対しようとするアイズ。しかし、それをリヴェリアによって止められた。

 フェルズはレイの安否を気遣い、前に出ようとしたがレイに止められて驚く。

 

 周囲の団員達はティオナの言っている共存は正しいのか、アイズが思っているように間違っているのか判断が揺らいでいた。

 フィンはこれ以上は収拾がつかなくなると思い、落ち着かせようとした時だった。

 

 「私は共存を望みます。ティオナさんを信じていますし...

  何より、助けていただいた恩を仇で返すなんて事はしたくありません」

 

 アリシアは公然と、ティオナを支持すると全員が驚愕した。

 モンスターを擁護する発言をするなんて思いもしなかったからだ。フィンもリヴェリアですら目を見開いている。

 フェルズは顔が見えないためわからないが...

 

 「...どうして...?モンスターは絶対に消さないといけないのに!どうして!?」

 「アイズさん。こう考えてみてはいかがでしょうか?

  モンスターはモンスター、ゼノスはゼノスという新たな種という位置付けにすればいいんです。

  この2つは似て非なるもので決して混合してはならない。

  そう考えれば...共存という理想も不可能ではないと思います」

 

 アリシアはアイズを諭すように語りかけるが、それでも彼女は納得できない様子だった。

 リヴェリアもアリシアの言葉は正当とは思い難いものの、一理あると感じており、難しい表情を浮かべている。

 しかし、その時だった。ふとアイズが手に掛けていたデスペレートを離して力を抜きながら下がろうとした。

 

 落ち着いたのかとは到底思えないリヴェリアだが、話し合おうと思わず肩を掴んでいた手の力を緩めた、その瞬間。

 

 「おいリヴェリア!?」

 

 ベートが叫んだ時には、アイズはデスペレートを鞘から引き抜き、レイに向かって行く。

 

 しまった、と迂闊に離してしまったリヴェリアの蟀谷から冷や汗が流れ、アリシアとフェルズは慌ててアイズを止めようとするが...

 遅かったようだ。




58年戦ってたのは、キンゴジからゴジコンが制作されるまで空いてた期間が由来。
魔石を食べたら長生きして逆に食べなかったら衰えてるっていうのはBLACK SUNの怪人の設定を拝借。


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 ̄、⊦>∟ ⊦ 信頼

 横一閃に振り抜かれようとする刃。 

 一瞬にしてレイの首に到達し、鮮血が溢れ出して...いなかった。

 寸前の所で止めたようである。

 

 もっと正しく言えば、ティオナがほんの少しだけ背鰭の武器を前に傾け、切っ先を受け止めていたのだ。

 しかし、不可解な事がある。それは...レイが全く微動だにせずにいた事だ。

 

 「...どうして、避けようとしなかったの...?」

 「私が貴女に敵意は無いト、わかってほしかったからでス」

 「死んでたかもしれないんだよ?」

 「...モンスターの憎しみヲ、私を最後として満足していただけたラ...それでもよかったのでス」

 

 レイはアイズに近寄って目の前に立つ。

 震える手のせいで、カチカチとデスペレートの刃と背鰭の武器が小刻みにぶつかって音を立てている。

 レフィーヤが駆け寄ろうとしているのを察したフィンは迂闊に動いてはいけないと、目を配らせて制止させる。

 

 レイが見据えるその金眼には怒り、恐怖、困惑、様々な感情が入り混じっているように見えた。

 そっと翼を見えるように翳すと羽を消していき、綺麗な腕へと変化させる。

 あり得ない光景を目の当たりにして、ふっと息を吞む空気が漂った。

 

 レイはその腕の先にある手を伸ばし、アイズの手に触れてデスペレートを降ろさせる。

 強引にではなく、ゆっくりと傷付けないように。ティオナも背鰭の武器を引いて一歩下がった。

 

 すると、途端に糸が切れたようにアイズは脱力して膝から崩れ落ちそうになるも、すぐにレイが抱き留めたおかげで倒れる事はなかった。

 殺すべき存在に触れられて、情けをかけられてアイズの思考はぐちゃぐちゃに掻き乱されていた。

 そんな彼女に対して、レイは優しく語り掛けるように言葉を紡ぐ。

 

 「貴女が私を殺さないと...信じまス。ですかラ、貴女も...私を信じてくださイ」

 「...無理だよ...そんな、こと...私にはっ...」

 「アイズ、さン。貴女はとても優しいと思ってます。

  私の首を刎ねようとしなかった...それが何よりの証ですヨ。

  ですかラ...貴女自身にもモ、優しくしてあげてくださイ」

 「...っ...!」

 

 レイの優しい言葉に思わず息を呑む。そして、アイズの瞳から大粒の涙が止めどなく溢れ出していた。 

 その瞳と同じぐらい美しい髪を撫でてあげながら、レイは慰めようとする。

 そんな光景を目の当たりにしてフィン達は何も言えず複雑な表情を浮かべているものの、どこか安堵しているようにも見えた。

 

 「ね、レイは優しいでしょ?だから...

  アイズ、ちょっとずつでもいいから信じてみよ?」

 「...うん...信じて...みる...

  ごめん、なさい...」

 「謝らなくてもいいですヨ。あの時はティオナさんが守ってくださると信じていましたから」

 「というかレイってそこらのモンスターより強いんだから躱してたと思うけどね」

 

 先程までの雰囲気を洗い流すような、能天気な笑い声を上げつつアイズとレイを同時に抱き締めるティオナ。

 レイはされるがままにティオナの豊満な胸に顔を埋められて、アイズは少し恥ずかしそうにしながらも受け入れていた。

 その様子を見て大丈夫だと認識すると肩の力を抜いて安堵する一同、ティオネは呆れたような表情を浮かべていた。

 それでも、やはり安堵しているのに変わりないようだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アイズが落ち着いて緊迫した空気も無くなり、次の話に移る事となった。

 心配していたレフィーヤだったが、どこか角が取れた様にアイズは微笑んで大丈夫だよ、と言った。

 それを見てレフィーヤは、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。

 

 「それじゃあ...ちょっと長くなるけど、あたしが何をしてたのか話すね。

  どうしてレイと出会ったのかとか...」

 

 ティオネにとってはそれが本題であった。

 心配させた分、どこで何をしていたのかをはっきりと知りたかったからだ。

 フィン達も幹部という立場上、団員の事情にはある程度は把握しておかなければならない。

 そして、ティオナが語り出すのを全員が静かに待った。 

 

 「ティオネ達と別れてから、深層に向かってたんだけど途中で横穴を見つけて入ったの。

  そうしたら足元の穴に落ちちゃって、ゼノスが住んでる隠れ里に辿り着いたからレイ達と出会ったんだよ」

 「その横穴は僕らが通ってきたのと同じ未開拓領域なのかい?」

 「はイ。我々ゼノスはそこを住処としてダンジョンを行き来しているのでス」

 「最初はビックリしたけど...それと同じぐらいビックリした事があるんだよね」

 「何よ。もったいぶらずに話しなさい」

 

 早く続きを聞かせろと急かすティオネに、ティオナは苦笑いを浮かべながら話を続ける。

  

 「ネフテュス様が、こう赤い光で自分を映してる感じでそこに居て...

  ゼノスと協定を結んでるって聞かされたんだ」

 「...なんだって?」

 「そう、私も驚いたよ。魔道具制作には心得があるのだが実に素晴らしい発明品を」

 「僕が聞き返したのはそっちではなくて後半の部分だよ」 

 「ああ、そちらか...確かに協定を結んでいる。レイの歌を気に入ってもらえたおかげでね」

 

 フェルズの言葉にフィンは驚きよりも焦りと困惑を隠せなかった。

 当然である。ベートの一件があったのにも関わらず、今度はアイズがしでかした。

 協定を結んでいるとなれば報復を求められるのが当然である。

 

 つまり...今度こそ、ネフテュス・ファミリアが潰しにかかろうと危惧したからだ。

 

 アイズも自分のせいでファミリア存亡の危機に帳面するのだと顔が青ざめている。

 一方で隣に座っているレフィーヤや他の団員達も同様に。

 

 「話せばわかってくださる女神様ですかラ、心配はないと思いまス。

  私の行いも正しくはありませんでしたのデ...皆さんだけが気に病む必要はありませんヨ」

 「...そう言ってもらえただけでも救いに思えるよ、レイ。ありがとう。

  ただ...一度ならず二度まで失態を冒してしまった事には変わりないからには、覚悟は必要かな」

 「...ごめんなさい」

 「だ、大丈夫ですヨ。私もしっかりと事情をお話しますかラ」

 

 すっかり気力もなく落ち込んでしまったアイズを慰めようと慌てるレイ。

 こればかりは今ここでどうにかなるという話ではないため、気が気ではなくなっているもののティオナの話に戻る事とした。

 

 「ベートが悪口を言ったせいでネフテュス・ファミリアは関わらないって事になってるよね。 

  でも...私は条件を満たしていたから協力関係になってほしいって申言われたの」

 「その条件とはなんじゃ?」

 「ベ...捕食者と初めて出会った時、他のミノタウロスを倒して強いって認めてもらえてた事。

  だけど...あたしはそれがどうしても納得出来なくて、捕食者と勝負する事にしてもらったんだ」

 「...やっぱりアンタそういう事だったのね。で?大双刀をぶっ壊された挙句、ボコボコに負けたの?」

 「あははは...うん。スキルは発動してたけど全然力負けして...最後は首を絞められて気絶しちゃったみたい。

  あっ!でもちょっとだけこれで反撃は出来たよ!」

 

 ティオナは自慢気にコの字の物体を見せながらティオネに説明する。

 それを見たティオネはそんな武器を何時から持っていたのかと思ったが、ティオナがスキルを使ってでも勝てなかった捕食者の実力に改めて驚かされた。

 

 尚、同じくボコボコにされたベートは反撃したというそれが、期待外れもいい所だったのでフンっと鼻を鳴らした。

  

 「それにね、大双刀はもう作ってもらわなくてよくなったけど、ネフテュス様が頑張ったご褒美に払い終えてない分を肩代わりしてもらえる事になったんだよ?」

 「...億千ヴァリスをポンっとくれたの?」

 「うん」

 「...はぁ~~~~...」

 

 ティオネは額に手を当てながら盛大に溜息を吐いた。

 そんな大金を肩代わりしてくれる神に呆れ、同時にポンっと出してしまうネフテュスに戦慄したのだった。

 そもそもどうやって稼げばそれだけ手に入るのか...

 ティオナはああなっているティオネが次に言うのは苛立ちを含んだ愚痴なので、早々に次の経緯を話し始める。

 

 「それからキングコングししょーの所に行って、レイ達と話を通じて弟子入りしたの。レイ達が先だから私は5番目になるんだっけ?」

 「はイ、戦い方を教えてもらっていましたガ...とても大変でした...」

 「だよねー。とにかくししょーとの特訓はすっごくキツかったなぁ~。

  でも、だからこそ強くなれたんだし...まだまだ強くならないといけないんだけどね」

 「あ、あの怪物を倒すぐらいじゃ満足しないって言うんっすか...?」

 「だって、捕食者もあれぐらいなら倒せるもんね。もっと強くなって...今度こそ勝つよ」

 

 ティオナの目標はラウルが考えているものよりも遥かに上回るものだと気付かされる。

 他の団員達もそれを理解すると絶句してしまうしかなかった。

 

 精霊の成れの果てである怪物を倒せる程の強さを持ちながら、更にその上を目指すというのだから当然だ。

 

 「少し話が飛ぶけど今度はナルヴィに会ったんだ。そこに居るナルヴィじゃないよ?

  あの時、一緒に助けに来てくれた精霊のナルヴィだからね」

 「やはり...あれは精霊だったのか...」

 「で、ですが、どうして精霊がダンジョンの中に...?」

 「太古の昔、モンスターに敗れてしまったのだがキングコングが助けてくれたそうだ。

  助けた理由などは不明だが...精霊ナルヴィはその恩返しにとレイ達に言葉を教えたんだ」

 「精霊から言葉を教えてもらったなんて...とても名誉な事ですよレイさん!」

 

 アリシアは興奮気味にレイの手を取って、嬉しそうに握り締めた。

 戸惑いつつもレイはアリシアが自分に対して喜んでいると思い、頷いて微笑むのだった。

 

 ちなみにロキの眷族であるナルヴィは精霊と同じ名前だと知って恐縮するべきなのかと戸惑いを隠せないでいる。

 

 「まさかとは思うけど、ティオナ...アンタ、その精霊と戦り合ったって事ないわよね?」

 「ううん。全力でぶつかって、気が付いたら負けてたよ」

 「こんの馬鹿妹がぁあああああああああああああああああ!!」

 

 遂ぞ怒りが限界に達したティオネは立ち上がり、ティオナの脳天に拳骨を振り下ろす。

 

 だが、いつもなら鐘の音の如く響くはずの打撃音ではなく、何かが折れた音が響く。

 どうやらティオネの指から手の甲までが骨折したらしく、ティオネは悶絶してその場に蹲ってしまうのだった。

 

 幸いにも遠征出発前にアミッドから貰ったエリクサーですぐに治ったものの、ティオネは涙目で恨みがましい視線を妹送る。

 ティオナは必至に謝りながら許しを乞うという、今までに見られない光景にフィンは苦笑いを浮かべるしかなかった。




尚、デスペレの刃が当たってても掠り傷程度でした。
でもってやっぱりレイは皆のお母さん。

ポンっとの発音は「10万ドルPONっとくれたぜ」が適切。

海外の人では神様の名前をつける事はあると思うけど、神々が降臨してるダンまちの世界ではロキFのナルヴィみたいになるはず。


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 ̄、⊦>'<、⊦ 親交

 「それで、皆を助けに行ったって所かな。

  ナルヴィとししょーが居たからよかったけど...」

 

 いくつかのファミリアも協力関係である事、レベル50へランクアップとオルナが自分の前世である事、そしてベルとエイリアン・クイーンの激闘などのまだ内緒にしてほしいと言われた事を除いて話し終えるティオナ。

 なるべく混乱しないようにというネフテュスの配慮が伺える。

 

 「不幸中の幸いだったとしか言えないのが正直な所だな。

  尤もティオナが力を解放出来るまでに強くなっていた事こそが勝因だろう」

 「それに関しては僕もそう思うよ。キングコングや精霊ナルヴィもだけど...

  ティオナが来てくれなかったら全滅していたはずだからね」 

 「そうじゃのう。散々心配かけさせた分の説教はチャラにしておくか」

 

 これまで行方知れずになっていたティオナを心配する団員達を宥めていたガレスであったが、実際の所は自身が心配していたのだ。

 ティオナはそれを聞いてホッとした様子でため息をつく。リヴェリアよりも、ガレスの説教の方が長ったらしいため、そっちの方が嫌だと内心思っているに違いない。

 

 だが、リヴェリアは簡単には許そうとは思っていないようで、眉間に皺を寄せたままティオナに叱咤しようとした...その時だった。

 

 「...っ!?」

 「ア、アイズさん!?」

 「っ、どうしたんだ?いきなり...うん?」

 

 突然の行動に驚くレフィーヤと苦言を言おうとしたリヴェリア。

 しかし、背後から近付いて来る気配に気付いて同じく立ち上がると杖を構える。

 他の団員達も続々と背後を振り返りつつ、その正体を見る。

 

 ナルヴィだ。

 ロキ・ファミリアの頭上をユラユラと飛行しながら、やがて降下してティオナの隣に立つ。

 突然現れた空飛ぶ女性に団員達は驚きつつ警戒するが、ティオナは立ち上がってナルヴィに話しかける。

 

 「どうしたの?ししょーと一緒に戻ったんじゃ...」

 「うん。だけど、コングが心配だからやっぱり行ってくれって頼まれたの」

 「そっか...まぁ、それは仕方ないよね。

  あ、皆。この人がさっき話した精霊のナルヴィだよ」

 

 ティオナに紹介されてナルヴィは微笑みながら軽く会釈をした。

 

 その途端にエルフ達は深々と頭を下げ始める。エルフにとって精霊とは特別な存在であるからと他ならない。

 ナルヴィは畏まるのも程々にと言ったように手で制して、見渡すとアイズを視界に捉えて見つめる。

 対するアイズも自分を見ている精霊に警戒心を強めたまま見ていた。

 

 「...やっぱり勘違いじゃなかった。貴女は...アリアと同じ血が流れてる...」 

 「...お母さんを、知ってるの...?」

 「もちろん。だって」

 「ま、待てっ!待つんだ精霊ナルヴィ!

  ...コホン。取り乱してすまないが、少しいいだろうか?」

 「少し込み入った事情があるものでね...」

 

 首を傾げつつナルヴィはリヴェリアの元へ近寄る。フィンとガレスも輪になって何やら話し合いを始めた。

 気になったティオナは聞き耳を立てようとするも、フェルズに引き離されて阻止される。 

 暫くすると、ナルヴィを納得させたようで話し合いが終わり、ティオナの隣に戻ってきた。

 

 「...何を話していたの?」

 「んー...内緒って事になったから、ごめんね?でも、いつかわかる日は来るよ」

 「...本当に?」

 「神の分身である私が言ってるんだから、信じてほしいな」

 

 アイズは不満そうにするものの、リヴェリア達と話し合っていた事から重大な何かがあると思い、頷くしかなかった。

 執拗に知ろうとして手を焼くかもしれないと思っていたリヴェリア達は、それを見て安堵したようだった。

 すると、ティオネが近寄ってきて頭を下げながら謝罪をする。

 

 「うちの愚妹がお世話になったみたいで...本当に申し訳ないわ」

 「全然。ティオナの成長を見続けて、寧ろ...大いに楽しめたのだから」

 

 ナルヴィは特に気にした様子もなかった。寧ろ謝られる理由が分からないといった様子だ。

 寛大な対応をしてくれたナルヴィにティオネは感謝しつつ、もう一度頭を下げる。

 

 「精霊ナルヴィ、僕からもお礼を言わせてほしい。あの時は本当に助かったよ、ありがとう」

 「いいよ。ロキの眷族なのだから私にとっても子供と同じだもの」

 「ロキを知っているのか?いや、その前に...私にとってとは、どういう意味だろうか?」

 「ナルヴィはロキの分身だから、そういう意味になるんだよ」

 

 ティオナのさり気なしに言った返答に、リヴェリアだけでなくフィン達も一斉に耳を疑った。

 容姿は似ても似つかない上に口調から雰囲気まで全く違うため、そうなるのも無理はない。

 しかし、ナルヴィは信じてもらうべく咳払いをしてから答えた。

 

 「せやで?うちはロキの分身で、ナルヴィ言う名前は嫁ちゃんと一緒に考えてもろたんや」

 「...間違いないな。その妙な喋り方は正しく...ロキの分身なのか」

 「じゃが、待ってくれんか?嫁ちゃんとは...誰の事かのう?」

 「ロキの妻だよ。ロキが夫で父なら...母に当たるのかな?」

 

 数分の静寂。それを破ったのはフィンが言い放った疑問だった。

 

 「ロキは女神のはずだけど...?」

 「神々にとって性別なんて意に介さない概念だから、女神同士での結婚は普通だよ?」 

 「つまりは...はぁ?アイツ既婚なのか?私を散々行き遅れと煽っていたのはそれが理由か?」

 

 ワナワナと怒り心頭になり、握り締める杖がミシミシと音を立てていた。

 あまりの形相にエルフの団員達は悲鳴を上げて恐れ戦く。レイとアイズも思わず、ティオナとレフィーヤの後ろへ隠れてしまう程だ。

 

 何とかフィンとガレスは宥めに入るが、ブツブツとロキにどんな制裁を下そうかと独り言を言い始めるリヴェリア。

 

 そんな時、ティオネがナルヴィに問いかけていた。

 

 「アイズが認めた後に、こんな事聞くのもなんだけど...

  ナルヴィもゼノスが私達と仲良くなれるって...そう願ってるの?」

 「うん。キングコングに助けられたから、っていう理由だけでは思っていないよ?

  レイやゼノスの皆が決意した事だからこそ、私は支えてあげたいの」 

 「...そう。野暮な事聞いたわね、ごめんなさい」

 

 ティオネは納得したように頷きながら謝ると、ナルヴィは微笑んで首を振るのだった。

 

 「ティオナの話は以上になるが...1つだけ注意を。

  当然ながらゼノスの事はまだ公には出来ないため、口外しないと絶対に約束してほしい」

 「皆さんにご迷惑をおかけする事になってしまいましたガ...

  どうかお願いしまス」

 

 頭を下げながら懇願するレイにフィンは微笑みながら答える。

 

 「君が気に病む必要はないさ。助けられた恩も、ティオナが世話になった恩もある。

  だから、約束は守るよ。ヘファイストス・ファミリアにも伝えておく」

 「全員、その旨を忘れたりしないようにな。いいか?」

 

 リヴェリアの呼びかけに団員達は一斉に頷く。

 レイは感謝しながら、ロキ・ファミリアに向かって頭を下げた。

 その雰囲気に嘘はないと信じ、フェルズも頷くのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 話し合いが終了して、フィンは各自休息を摂るように団員達に告げた。

 尚、フィン達幹部はヘファイストス・ファミリアに先程の話を伝えに行くとの事。

 

 ナルヴィとフェルズも無事に話はついたとキングコングやゼノス達へ伝えるべく、ロキ・ファミリアに別れを告げてそれぞれ73階層と隠れ里へ向かって行った。

 レイはロキ・ファミリアと親交を深めたいそうで野営地に残る事にした。

 

 「レイにもティオナが世話になったのよね。ありがとう、この馬鹿の面倒見てくれて」

 「いエ、ティオナさんと一緒に楽しくお話をしたリ、ご飯を食べたりして楽しかったですかラ」

 「それならよかったけど...しっかし、ホント何でこんなデカくなるんだか...」

 「えへへ~。捕食者に負けないようにってミルーツをすっごい食べちゃったからね」

 「...私も食べたら追いつけるかしら?」

 

 ティオネはそう呟くと、頷いて肯定したのに早速どこにあるのか問いかけられて焦るレイ。

 73階層の事なども秘密にしなければならないため、どうしようかと答えようとしている時だった。

 全速力で走ってきた椿が3人の前で急ブレーキをかけるように止まりながらやって来た。

 

 「っとと...ん?おぉ、お主がレイだな。フィンから事情は聞いているぞ。

  手前から仲間にはくれぐれも気を付けるよう言い聞かせておいたから、安心してくれ」

 「は、はイ、ありがとうございます」

 「それはそれとしてだ。ティオナよ!お主が背負っている武器を見せてくれぬか!?」

 「え?あ、うん。いいよ」

 

 ティオナは椿に言われるがまま、背鰭の武器を手に取って椿に差し出す。

 震い付くような様子でしっかりと柄の部分を握りながら、椿はじっくりと先端から根元まで舐め回すように見る。

 

 「何とも...荒々しい作りとなっているか、お主に適した得物と言えるな。

  まぁ、大双刀を模しているのに変わりないが」

 「うん、やっぱりその形がしっくりくるからね!

  大双刀と違うとしたら、魔法の熱を吸い取って威力が増す事かな?」

 「ほほう!やはりあれは見間違いではなかったのか!まさか魔法をぶった斬るとは恐れ入ったぞ」

 

 ティオネもあの時の光景が鮮明に思い出された。

 

 ティオナが構えていた背鰭の武器から凄まじい熱気と光が溢れ、それが刃の形となって精霊の怪物を真っ二つに斬り伏せる。

 あれを見てしまっては最早疑う余地はないと言えるだろう。

 

 椿も興奮気味に食い入るように見つめている事から余程驚いた事が伺える。

 

 「是非とも、手前もこの背鰭を打って...いや、加工は出来そうにないな」

 「多分。普通の鍛治道具だとそっちが壊れちゃうかもしれないからね」

 「うむ。だからこそ、これが最適な形なのだろう。お主が自ら考えて作ったのか?」

 「ううん?キングコングししょーにアドバイスをしてもらいながら作ったよ」

 「なんと!?武器の作り方まで考えるとは...ゼノスも侮れんな!手前も精進せねばな!」

 

 感銘を受けた椿はそのままティオナへ返すと、すぐさま自身のファミリアが設置したテントへと向かうのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「えっと、これは使い物にならなくなったから処分するとして...

  アキ、こっちはどうするっすか?」

 「あっちに運んでおいて。それは未使用で、次回の遠征で使うから」

 「了解っす」

 

 休息を摂った団員達は帰還の準備を始めており、ラウル達2軍メンバーが率先して荷造りをしていた。

 そのまま地上へ帰還するという事ではなく、18階層でもう一度休息を挟むそうだ。

 

 なるべく早く向かうために不要な物は放棄し、荷物を軽くする作業を並行して行ってドロップアイテムや未使用の備品を纏めていた。

 59階層での激闘を繰り広げたラウル達はアナキティ達から休むよう言われていたものの、動かないと落ち着かないと言って重たい荷物を運ぶ。

 アリシアもその内の1人で、空き瓶を片付けていると背後から声を掛けられて振り向く。

 

 「あら、レイさん。どうかされましたか?」 

 「そノ...私にも何かお手伝いさせていただけませんカ?

  せっかく皆さんと仲良くなれる機会だと思いますのデ...」

 

 両手の人差し指同士をイジイジとしながら、恥ずかしそうに言うレイ。

 その仕草は可愛らしくもありながら、どこか庇護欲を掻き立てるものがあった。

 アリシアは思わず笑みを浮かべながら頷くと、ラウルに何か手伝えそうな事はないかを確認する。

 

 「それじゃあ...この木箱をあっちに運ぶのを手伝ってもらえるっすか?

  無理はしないようにお願いします」

 「はイ、わかりました...!」

 

 レイは嬉しそうに頷くと、ラウルの指示通り木箱を運び始める。 

 無理はしない、という言いつけは守っているつもりなのだろうが、周囲の団員達は愕然とする他なかった。

 何故なら...最低でも2つ重ねてやっとの重さの物を、レイは5つ重ね且つ片手で軽々と持ち上げて運んでいたのだから。

 ラウルも唖然としてその様子を見ていたが、すぐに我に返って彼自身も木箱を運んで行くのだった。




まだアイズの出生がハッキリしてないから苦し紛れですが内緒という事に。
独自設定あるからいいんじゃね?と思ったけどやめておきました。

神話通りにロキの嫁さんはシギュンです。


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 ̄、⊦ ̄、⊦ T'aunwtus

 僕は今、星屑の庭へ訪れて中庭でリュー達4人の相手をしていた。

 これで...5戦目くらいだと思う。

 

 「今度こそやってやるわよっ!ライラ!」

 「わかってるよっ!」

 「リオン!反対へ回れ!」

 「はい!」

 

 彼女達の連携はやはり見事なもので、とても美しくて見惚れてしまう程だ。

 まるで舞い踊っているかのような動き、これなら敵は翻弄させられるに違いない。

 

 但し...僕は動きを見切りながら攻撃を受け止め、弾き返し、反撃を繰り返す。

 

 反撃と言っても本気の拳打や足蹴りではなく、肩を押したり足を引っかけて転ばすといった手段のみだ。

 倒れたらその場で止まり、残った相手のみが挑むといったルールを設けている。

 

 現在、対峙しているリューは悔しそうな表情を浮かべながらも果敢に攻めてくるが...

 僕はそれを受け流して首回りを掴むと投げ飛ばし、僕の勝利で決着がついた。

 

 「あぁ~~もう悔しい~!また負けた~!」

 「何で私だけ腕か足を掴んでは放り投げるんだよ!くそムカつくなぁ...」

 「おいムキムキ背高のっぽ。もう一度だ、勝つまでやるぞ」

 「輝夜...流石に休憩にしましょう。このまま続けても見込みはありませんよ...」

 

 悔しそうにする4人だが、士気は一切下がっておらず輝夜は特に負けず嫌いなのか再戦を要求してくる。

 リューはそんな輝夜を宥めつつ、休憩の時間を提案する。

 不満気な様子であるが輝夜は引き下がってくれた。ボクも休憩をしよう...

 

 尚、この場に我が主神とアストレア様は居ない。

 要注意神物とされている神の本拠へ招待されているためだ。

 何かあってならないと僕は同行しようとしたが、待っているよう言われてしまった。

 

 カチッ プシューッ...

 

 ヘルメットを脱ぐと蒸された空気が解放されて心地良い。

 未だに破損したヘルメットを使用しているが、新規のヘルメットのデザインはもうじき完成するためいよいよこれもお払い箱になるだろうな。

 ヘルメットを脱いだ僕の姿を見てあリーゼが近寄ってくる。その手にはコップが...

 

 

 「はい、ベル君。水分補給はしっかり摂らないとね!」

 「...ああ。ありがとう、アリーゼ」

 

 僕は礼を言いながらコップを受け取ると水を口に含む。 

 冷たい水が喉を通って潤す。そんな僕の様子を微笑みながらアリーゼは見ている。

 ...素顔の時もそうだが、何故僕がしている事に興味を持つんだ...?

 そう疑問に思いながらも、口には出さず残った水を飲み干した。

 僕が水を飲んでいる間もアリーゼがじっとこちらを見つめて、少し落ち着かない気分になるが我慢しよう。

 

 「それにしてもベル君ってホント強いね!

  まぁ、あんな化け物を相手にしてたら強くなるのも頷けるけど...」

 「...アリーゼ達も十分に強い。だから誇りを以てほしい」

 「えへへ~...ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

 照れ臭そうだが素直に喜んでいるアリーゼに僕は頷き返す。彼女だけでなくリュー達もその強さは称賛するに値する。

 ...ティオナもあの勝負から強くなっていれば、互角になれるはずだ。きっと...

 

 「そういえば、今アストレア様と一緒に会いに行ってる神様ってベル君は誰なのか知ってる?」

 「知らない方がおかしいと言うぐらいには要注意とされている神だ。名は...」

 

 言いかけたその時、別の通路から我が主神とアストレア様がこちらへ向かって来ているのに気付く。

 僕は空になったコップを置いてすぐに近寄ろうと思ったのだが...思わず硬直してしまった。

 それはアリーゼ達も同じだ。

 我が主神は俯いたままで表情こそ見えないのだが、明らかに怒り心頭となっており今にも神威が溢れそうになっていた。

 

 何があったのか聞かないといけない。僕は目の前へ近寄り、跪いて問いかける。

 少しの間を置いて我が主神はお答えになられた。

 

 「...イシスお姉様と見間違えるような節穴のオシリス、と愚弄されたのよ。

  愚弄した言葉はそれだけじゃないけれど...一番頭にきたのは...

  私と婚姻を結べばアストレア様も一緒に可愛がってやる...かしらね」

 

 ...何という哀れな神だ。呆れる以外にない...

 オシリス様とアストレア様を愚弄するなど、禁忌以外の何ものでもない。

 

 ...それならどうするのか、聞かなくてもわかっているが...

 

 「我が主神...どうされますか」

 「...尊厳を潰してから殺すわ...」

 

 その目を見たのは僕の生きてきた中では二度目だった。 

 真っ黒に染まり、光が消え失せて絶望に悲しむその瞳を見てしまったのは...

 

 「アポロンを...地獄の底へ落してあげましょう」




神話ではオシリス様に酒飲ませて酔っぱらわせて姉に変装して抱かれて子供を授かるという中々に破天荒なネフティス様。


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 ̄、⊦,、 ̄、⊦ A'porron

 遡ること3日。アポロンはファミリアの主要メンバーに招集をかけた。その中にはダフネの含まれている。

 いち早く来ていたヒュアキントスは遅れてきたダフネに嫌味たらしく注意をしていたが、アポロンはそれを制止させて用件を話し始める。

   

 「お前達を集めたのは他でもない。ネフテュスを探し出してほしいのだ」

 「ネフテュス...アポロン様が目にかけていらしている女神ネフテュスをですか」

 「そう!あぁ、あの美しき姿を思い出すだけでも...」

 

 最初は面倒くさそうにしていただったがすぐにダフネは目の色を変えた。文字通り赤色に。

 

 変態染みた言動しか聞き取れなかったが要約すると話をしたいという事のようで、解散するとダフネは即座に自室へと戻りガントレットとヘルメットを装備してネフテュスに通信を入れた。

 機械音声越しに聞こえてきた短いため息の後、ネフテュスはアポロンと対談する事を決めた。

 

 その際、アストレアも同行する事を条件にとダフネに伝えて。

 もしも自身を抑えなければならない状況となった場合を考慮してとの事だ。

 

 通信が終わり、ダフネはすぐに報告する事はなく1日経ってからネフテュスを見つけ出し、話したいという体でアポロンに伝えた。

 アポロンはすぐにでも話す場を設けると大いに喜んでいたそうだ。

 

 そして当日、ネフテュスとアストレアはアポロン・ファミリアの本拠へやって来た。

 

 「ようこそ我が愛しのネフテュス!この時を待ち侘びていたぞ。あぁ、それはもう長く...

  それとアストレアも歓迎しよう」

 「ありがとう、アポロン。でも、4日前に会ってるはずでしょう?」

 「残念ながらその時の記憶は全くなくてね...まぁ、とにかく座ってくれ」

 

 アポロンはネフテュスがいつからオラリオに居たのか、どこで何をしていたのかを矢継ぎ早に質問する。

 神会で話したはずの内容だがネフテュスは丁寧に答えていき、アポロンは嬉しそうに聞き入れていった。

 アストレアはその様子を見て内心呆れていたものの表情は一切変えずに淡々とした様子で話を聞いていた。

 ...のだが、そろそろ対談も終盤になろうとした時だった。

 

 「ネフテュスよ。イシスと見間違えるような節穴のオシリスなど忘れ、私のものにならないか?

  いや...なる方がいい。私と婚姻を結べばアストレア様も一緒に可愛がってやる」

 「...それは...本気で言ってるの?」

 「私はいつでも本気だ!さあ、答えを聞かせてくれ!」

 

 その失言にはアストレアもダフネも予想だにしていなかったため、一瞬にして体が凍り付いたように動けなくなった。

 ネフテュスは薄く笑みを浮かべているものの...明確な怒りが込められており一触即発するような雰囲気となる。

 そんな中でも余裕綽々といった様子でソファに座っているアポロンは鼻の下を伸ばしたまま足を組んで返答を待っていた。

 

 暫く経ってから、ネフテュスが出した答えは...

 

 

 「ベル達に勝ったら考えてあげる...って言ったんですか」

 「それならお断りも同然と理解してもらえたのでは...?」

 「いいえ。寧ろ、アポロンは自分の眷族がどれだけ強いかを自慢したがっていたわね」

 「...浅はかな。そんな神の眷族となってしまった連中が哀れで哀れで泣きそうでございますなぁ」

 「散々問題を起こしてる奴らの懲らしめになるとはいえな...」

 

 輝夜の心にもない同情にライラも共感していると、ベルがネフテュスに問いかける。

 

 「そうなれば...あの2人はどうされるのですか?」

 「既にどうするかは話しているから、心配しなくてもいいわよ」

 「...はい」

 

 ベルの言っている2人とは恐らくアポロン・ファミリアに潜伏させているネフテュスの眷族だとアリーゼ達は察する。

 戦争遊戯の最中に鉢合わせた際に交戦してしまうのか否かを知りたかったのかもしれない。 

 質問の意図を理解したネフテュスは答え、ベルは納得して頷いた。

 

 そうしてネフテュスはアストレアから戦争遊戯を始めるには神会とギルドで手続きをする必要がある事と双方のファミリアの主神が戦争遊戯での何を要求するのか、どういった勝敗形式で行うかといった説明を受ける。

 ギルドへの手続きはベルがエイナに申請を承諾してもらう事にして、すぐに向かって行った。

 

 ネフテュスも一度マザーシップへと戻る事となり、迎えが到着するとアリーゼ達に見送られながら星屑の庭を後にする。

 

 「...よし、今からダンジョンに潜って荒稼ぎしてくるぞ」

 「ラ、ライラ。まさか...」

 「そのまさかだ。勝ちがわかってるなら賭けないなんて事はしないだろ?」

 

 

 ギルドに到着したベルはエイナと2人だけで話したい事を伝えるとすぐに別室へ入った。

 まず最初にネフテュスとアポロンが話した内容を説明して戦争遊戯に至った経緯を話す。

 エイナはアポロンの言動に呆れて頭を抱えながらため息をついた。

 

 「では...後日、神会で勝敗の形式を決めるんですね?一騎討なのか攻城戦なのか...」

 「そうだ。どちらにせよ...アポロンの尊厳を潰すに相応しい勝利を収めるつもりだ」

 「そうですか...正直、私もアポロン・ファミリアの横暴さには思う所がありました。

  なので...死なない程度にはコテンパンにしちゃってください」

 

 エイナの真剣な眼差しを受けて、本心でそう言っていると察したベルは深く頷いた。

 その後、手続きが済むと後の事はエイナが引き受けてくれる事となった。

 ベルはエイナに礼を言って窓から出て行き、ギルドを後にするとマザーシップへと向かうのだった。



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 ̄、⊦>'、,< 冒険者達

カッコいい命ちゃんは主人公に匹敵する。


 「じゃあ、またねレイ。ししょーとナルヴィにもよろしくって伝えておいてほしいな」

 「はイ、わかりました。皆さんお気を付けくださいネ」

 「ありがとう。君もなるべく冒険者に見つからないようにするんだよ?」

 

 荷造りを済ませたロキ・ファミリアは地上へ戻る準備を進めていた。

 

 今回の遠征で起きた事をロキやギルドへ報告するためにもいち早く出発できるように。

 冒険者が立ち入らない林の中で、見送りに来たレイはティオナとフィンの2人に握手をしてから里へと戻って行った。

 2人が野営地へ戻った頃には出発の準備が整っており、先行した第一班の姿は既に無かった。

 

 第二班の中にティオナとフィンは加わっているため、遅れたという事はなくフィンの号令で第二班も出発した。

 

 階層を登りながらティオナはティオネとアイズ、そしてレフィーヤと会話を弾ませており、久しぶりに明るい笑顔を浮かべていた。

 先を歩いているフィンとリヴェリアは内心その笑顔を見れて安堵すると、顔を見合わせて薄く笑みを浮かべた。

 見た目は違えど、普段と何も変わらない彼女であると改めて認識出来たからだろう。

 

 順調に登って行き、17階層に到達する時だった。

 

 ドゴォオオオオオオオオンッ!!

 

 凄まじい衝撃音が響き渡ってきて、ティオナ達は一斉に警戒態勢を取りながら17階層へ繋がる出入口から出た。

 そこで目にしたのは...少数のパーティーがゴライアスに挑んでいる光景だった。

 しかも、モンスターレックスとも呼ばれる怪物が膝をついてドーム状の結界により動きを封じ込められている。

 

 

 「...っ!解除します!ご準備を!」

 「離れる際の援護は任せてください!」

 「よっしゃあ!行くぜ桜花ッ!」

 「応っ!」

 

 結界が解かれて動けるようになったゴライアスだが動きが鈍い。恐らく重圧によって体に掛かっていた負荷が未だに残っているためだろう。

 それを狙って赤髪の青年と筋骨隆々な黒髪の青年が突撃し、それぞれが持つ得物でゴライアスの首元周辺を斬り付けた。

 硬い皮膚によって簡単には深手を負わせられないものの、少しずつ弱らせていく。

 

 やがてゴライアスが動き出そうとした時、右腕に装備しているボウガンを構えた少女にフィンは視線を向けた。

 装填されている矢には直径1インチ、長さ1.5インチの円錐型の鏃が取り付けられている。

 

 「ルアン様...力を貸してくださいっ!」

 

 パシュンッ!

 

 ドガァァァアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 放たれた矢は一直線にゴライアスの右目に突き刺さると黒煙を上げながら爆発した。

 あの円錐型の鏃に爆薬が仕込まれていたと考えられるが、あんな小さな鏃にも関わらず驚異的な威力だと若干度肝を抜かれたフィンであった。 

 尚、放った本人も驚いて目を白黒させていた。

 だが、ゴライアスは予想だにしていなったその攻撃で怯み、その場で悶え苦しみ始める。

 

 「槌へと至り土へと還り、どうか貴方へ祝福を。大きくなぁれ。舞い踊れ】」

 「ありがとうございます。春姫!」

 「頑張って、命ちゃん...!」

 

 仕留めるなら今しかないと、親友の力を借りた長い黒髪の少女は影を留めさせない程の俊足で駆け抜ける。 

 

 「命!お前が決めろッ!」

 「はい...っ!」

  

 投げ渡された剣を受け取り、地面を蹴って飛翔する。振り翳されたその剣は決意と呼応するように燃え上がった。

 仲間達は巻き込まれないよう退避し、決着の瞬間を見届けようとした。

 そして、渾身の力でゴライアスの首を一閃。

 その余波は凄まじく、着地して刀身が地面にぶつかると周囲に熱風を巻き起こした。

 

 ズズンと巨大な首が落ちてから、首を失った巨体も平伏す様に倒れる。

 残心を欠かさず、剣を構えていた命はふぅーと一息つく。

 

 「や...やったぁあ~~~!命様が倒しましたぁー!」

 「いよっしゃぁあ!」

 「よしっ...!よしっ!」

 「や、やったぁ...!春姫ちゃん!勝ったよ!」

 「はい...とても勇壮な...私にとって英雄譚に残るような戦いでした...!」

 

 

 大喜びしているパーティーをフィン達と一緒に遠目から見ていたティオナはその勝利に称賛を送っていた。

 

 「今でこそ私達は普通に倒しててるけど...あれが本当の冒険者としての在り方なんだろうね。

  仲間と一緒に戦って、泣いても傷ついても諦めず立ち上がって...最後に勝って喜ぶのって」

 「...ああ。初心を忘れてはならない、それが大事なのだからな」

 「うん。...だから、あたしも...今度こそ勝つよ」

 

 その決意を固めた瞳にはゴライアスを打ち倒した少女を称えて抱きしめ合っているパーティーの姿が映っていた。

 そして、雰囲気を壊さないようひっそりとティオナ達は17階層を後にするのだった。

 

 「にしてもよ、リリ助。あの爆発した矢は...どこで手に入れたんだ?」

 「それは...乙女の秘密という事で。えへへ...」

 「なんだそりゃ...」

 「まぁまぁ、ヴェルフ殿。そこはそっとしておく事にして...」

 

 

 1階層の巨大な螺旋階段を上り、バベルを出たティオナ達は先行していた第一班と合流。

 特に問題なく地上へ戻る事が出来たのをその場で簡易的に確認するとヘファイストス・ファミリアの面々は現地解散する事に。

 

 「ありがとう、椿。また参加してもらえると助かるよ」

 「もちろんだ!先の事になるだろうが、頼みにしているぞ」

 

 代表として椿は笑みを浮かべながらフィンと握手を交わして、自分達の拠点へと向かった。

 そうしてフィンもロキが待つ黄昏の館へ帰還すると号令を出す。

 漸く帰れると団員達は安堵のため息をつき、ティオナもずっと特訓続きだったために疲れを癒そうと考えていた。

 

 ...すれ違いざまに冒険者が話していた噂を聞くまでは。

 

 「おい、アポロン・ファミリアが戦争遊戯をするんだってよ」

 「またあの問題神がやらかすのか...で、どことやるんだ?」

 「何でもネフテュス・ファミリアって、ほら。例の素性がよくわからない所」




リリの使った矢はランボー 怒りの脱出からのオマージュ。


5日前になりますが、ご存知の方はいらっしゃると思います。
この小説に伴って映画をあげますと「プレデター」にてディロン役を演じられたカール・ウェザース氏が2月1日にお亡くなりになりました。

不意打ちされずに果敢に挑む姿と最後に居場所を伝えるために叫んでいた男気がカッコよかったです。
ロッキーで演じられていたアポロや遺作となったマンダロリアンのグリーフ・カルガも魅力的な役柄でどの作品にも欠かせない存在だったと思っております。

マンダロリアンは映画化が去年決定されていただけに出演が叶わなくなってしまって残念に思います。

長くなってしまいましたが、ご冥福をお祈り申し上げます。R.I.P


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 ̄、⊦,、、,< D'ewcralatyonw

祝!ケルティック、ミュージアムマスターラインでポリストーン製スタチュー化!
祝!ザ・プレイのダン・トラクテンバーグが監督で「プレデター」新作映画の計画が進行中!


 「どいてどいて~!」

 

 他の団員にはゆっくり戻るよう伝えて、ティオナとフィンは本拠へと急いだ。

 ぶつからないよう声を出しながら人混みの中を駆け抜け、何としても早くロキと会わなければならないと思っているからだ。

 そして、本拠が見えてきて門の前に停まっている馬車にロキが乗ろうとしているのが目に入る。

 慌ててティオナが呼び止めると、気付いたロキはステップに乗せていた足を下ろして御者に少し待つよう頼んで2人が来るのを待った。

 

 「フィン、ティオナ。無事に戻って来たんやな...よかったわ」

 「うん、ありがとう。でも、それより...ネフテュス・ファミリアとアポロン・ファミリアが戦争遊戯をするって...」

 「え?何で知っとるん?」

 「他のファミリアに所属してる冒険者達が話していたんだよ。

  だから、居ても立っても居られなくなってしまってね...」

 

 フィンの説明にロキは納得しつつ頷いた。既に噂が広まっているとは予想外だったものの、話を進めるのが早くて助かると内心思った。 

 ティオナはアポロン・ファミリアがネフテュス・ファミリアに戦争遊戯を申し込んだ理由を問いかけたが、まだそこまで把握していないと伝えられる。

 今日の昼頃にロキもその事を知ったためだ。

 

 「ま...大方の理由はわかるけどな...」

 「そうなのかい?神アポロンが何を求めているかとかは...?」

 「...ネフテュス先輩が狙いや。アイツはずっと前からホの字やったからな...

  せやから、旦那のオシリスが居らん事をええ事に自分のモノにしようと企んどるんや」

 

 それを聞いたティオナは驚くと同時に、そんな身勝手な理由で戦争遊戯をするのかと怒りを覚える。

 そんな様子を見かねたロキはティオナの肩に手を置いてから、優し気に笑みを浮かべて口を開く。

 その目は真剣そのもので、ふざけた様子は一切ない。

 

 「何も心配する事あらへんやろ?ネフテュス先輩の眷族が...

  あのアホをぶっ潰して後悔させるはずやからな」

 「...うん。負ける訳ないもんね...じゃあ、後で色々聞かせてね?」

 「おう。言い忘れ取ったけど2人共、遠征ご苦労さん。ゆっくりしときや」

 

 ロキは2人に労いの言葉をかけてから馬車に乗り込んだ。少し待たせていたため、御者が急いでバベルへと向かった。

 その場に残ったティオナはロキが乗った馬車を見えなくなるまで見送り、フィンに呼びかけられて中へ入ろうとするもティオネ達が来るまで待つと言った。

 フィンも団長として自分もその気遣いはしなくてはと思い、一緒に待つ事にした。

 

 

 以前にもデナトゥスを行ったバベル30階。

 以前と同じ面子の神々が静かに待っていた。...アポロンを睨みつけながら。

 

 天界に居た頃からネフテュスを怒らせてはならないと、誰もが何も言わずとも決められたルール。

 それを破ればどうなるか身をもって知る事となるだろうというのにも関わらず、アポロンは睨まれているのも気付いていないのか鼻歌を歌いながらネフテュスの到着を待っていた。

 

 ある神はとばっちりを受けないかと恐怖し、ある神はアポロンのせいで世界が終わったらどうするんだ苛立ち、またある神はただただアポロンに殺意を向けていたりしていた。

 そして、暫くして扉が開かれてネフテュスがアストレアを連れて会場へやって来た。

 

 その途端にアポロンは立ち上がって、歓迎するようにネフテュスを迎えた。

 

 「あぁ我が愛しきネフテュス!待ち侘びていたぞ。さぁ、座り給え」

 「ええ...遅れて申し訳ないわね。皆も待たせてしまって」

 

 謝罪しながらアストレアを横に座らせて、自身も用意されていた椅子に座る。

 ネフテュスとアストレアが来た事で出席する神々が全員揃い、戦争遊戯についての会議は始まった。

 

 その内容は勝利した側の要求、勝敗の形式、そして開催日程である。

 

 まずアポロンが出した要求はネフテュスを妻としてアストレアは愛人にするというものだった。

 それを聞いて神々は自分達が激怒するよりも先にネフテュスが憤慨すると声にならない悲鳴を上げる。

 しかし、ネフテュスはアストレアと顔を見合わせてから頷いて承諾する。

 

 それには神々も困惑したものの、一気に脱力して安堵するのだった。

 一方でアポロンは嬉しそうに笑みを浮かべて、ネフテュスに感謝の言葉を述べた。

 

 「では、ネフテュスは私に何を望むのだ?」

 「...勝ってから伝えるわ。それまでは...内緒という事で。ね?」

 「そうかそうか。まぁ、いいだろう」

  

 事情を知るアストレアがアポロンを憐れむように見つめているのに、神々は気付いて色々と察した。

 アポロンは自身がどんな目に遭うのか知る由もなく、安易に聞き入れてしまっていたが... 

 

 次に決めるのは、勝敗の形式は代表同士の一騎打ちか攻城戦かのどちらかだ。

 前者は団長を務める眷族が戦って降参若しくは戦闘不能となるまで戦い、後者は城を戦闘区域に指定してそれぞれの団長が倒されるか、または籠城して団長を3日間守り抜くという眷族全員による総力戦。

 

 このどちらかになるのだが、意外にも両神共に攻城戦を選んで即決した。

 尚、籠城するのはアポロン・ファミリア側となる。

 

 「(まぁ、一騎討やとあっちゅうまに終わるやろうしな...)」

 「では、日程だが...私はいつでも構わないぞ?」

 「...それは後日決めても事でいいかしら?こちらも込み入った事情があるのよ」

 「いいとも。では、今回はこの辺りで一時解散としよう」

 

 戦争遊戯における概ねの内容が決まって日程は後日決める事となり、アポロンは軽やかな足取りで帰って行くのに対して他の神々は疲労困憊で足取り重く立ち上がる。

 ロキも日程だけとはいえ、まだ続く会議に気分が沈み込んでしまっていた。

 すると、不意にネフテュスに呼び止められる。

 

 「あとでティオナと話しがしたいのだけど...いいかしら?」

 「は、はぁ...もちろんええですよ。多分、待ってると思いますから」

 「ありがとう。...それじゃあ、アストレア」

 「はい。ロキ、失礼するわね」

 

 戸惑いながらもロキはネフテュスとアストレアを見送り、その場に残されるのであった。

 

 

 「それで...女神ネフテュスからティオナに話があるんだって?」

 「せやねん。一体何の話があるんやろか...うちもちょっちわからへんわ」

 

 黄昏の館へ帰ってきたロキはフィン達を集めて、ネフテュスから話があると伝えていた。

 何を話すのかアポロンとは違って、予測できないネフテュスの思考にロキは大きく息を吐いてから椅子に深く腰掛ける。

 だが、フィン達には心当たりがあった。特にアイズにとっては顔を蒼褪めさせているくらいには。

 ティオナがロキにその事を伝えようとした時、窓を叩く音が聞こえて全員が一斉にその方を見る。

 

 見ると窓の外にはファルコナーが滞空しており、見覚えのあるフィンとリヴェリアとロキ、そしてティオナがネフテュスの物だと気付いた。

 それ以外のファルコナーを知らないアイズ達は窓を開けて、入ってきたそれに驚いて訝っている。

 

 部屋の中央に移動したファルコナーは光を投射すると、ネフテュスの姿を浮かび上がらせた。

 突然に現れたネフテュスに驚くフィン達を他所にロキは先程会ったとはいえ、挨拶を交わしてから改めてティオナにどういった話があるのかを問いかけようとする。

 しかし、それを遮るようにティオナが前に出てきて言葉を詰まらせた。 

 

 「ネフテュス様。あたしに話があるって聞いたけど...」

 『ええ。ティオナ、貴女は...今、どれくらい強くなれたかしら?』

 「...かなり強くはなれたと思うけど...あともう少しで精霊の力を使いこなせるはずだよ。 

  そうしたら...」

 

 ティオナは一度伏せていた視線を上げて、ネフテュスを見据える。

 その瞳には決意が込められているとネフテュスは微笑みながら察した。

 

 『...そう。それなら...ロキ』

 「あ、はい?」 

 『私達、ネフテュス・ファミリアは...ロキ・ファミリアに戦争遊戯を挑むと宣言するわ』

 「...うそん」

 

 一瞬にして灰色に染まったロキ。フィン達は突然の事に理解が追いつけずにいた。

 ...そうなるだろうと、わかっていたティオナを除いて。



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 ̄、⊦>'、< 猶予

 「ちょ、ちょっとホンマに...ホンマに待ってくれまへん?

  何でうちらとも戦争遊戯を?これからアポロントコとやり合うでっしゃろ?」

 

 ロキが狼狽するのも無理はない。勝てる訳がない相手から宣戦布告をされたからだ。

 どうにかして穏便に戦争遊戯だけは回避したいロキは、その問いかけにまず答えてもらおうと思いつつネフテュスの顔色を伺う。

 すると、ネフテュスは笑みを浮かべて答えた。

 

 『正確には...あの子とティオナの再戦の場を設けたいからよ。

  あれから強くなれたのなら、もう一度再戦させてあげたいの』

 「あ、あぁ...そういう事ですのん...で、ですけどいくら何でもそう急に言われて、うちらもはい、やりますとは...」

 

 一先ず、不都合でネフテュスの気に障ってしまったという訳ではない事にロキは安堵していた。

 だが、やはり突然に戦争遊戯を挑まれた事には変わりないのでロキはどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 すると、アイズがおずおずと挙手をしながら声をかけられたのに気付いてネフテュスは振り返った。

 

 「ネフテュス様...レイを傷つけようとして、ごめんなさい...」

 『あぁ、その事なら...レイからも許してほしいと言われているわ。

  だから今後、気を付けるようにしてもらえるなら、それでいいわ』

 「...はい」

 

 アイズが頷くと、ネフテュスはロキに向き直った。

 何の話だったのかイマイチ理解出来なかったが、ベートに引き続きアイズが何かやらかしてしまったのかとロキは顔面蒼白となっている。

 ネフティスはその反応にクスリと微笑んでから、呼びかけると我に返ったロキは先程アイズと話していた内容の意味を問いかける。

 

 そこで初めてロキはゼノスの存在を知る事となった。そして、やはりアイズがやらかしたのだという事も。

 即ちこちら側が断る権利はないという事になる。

 

 『もちろんその事で私が強制的に戦争遊戯をしてもらうとは思ってないわ。

  第一原則としてティオナの意思で承諾してもらうのだから』

 「...女神ネフテュス。確かにティオナはそちらの眷族と深い関りがあるからこそ一騎打ちに拘っていると察しはしている。

  だが、戦争遊戯は飽くまでもファミリア同士での決闘だ。

  ティオナだけでなく、私達にもプライドがある限り参戦を」

 「リヴェリア。勝てもしない勝負はするべきじゃないよ」

 

 冷静にそう答えたティオナにリヴェリアだけでなくネフテュスを除いたその場の全員が目を見開いて驚く。

 まさか身内からそんな言葉が飛び出すとは思いもしなかったのだろう。

 だが、それでも納得がいかないのかリヴェリアは食い下がろうとした。しかし...

 

 バァンッ!と、そんな音が鳴り響いて今度は全員の意識がそちらへ向いた。音の出所は出入口の扉の前に立っていたベートからだった。

 鬼気迫るような形相を浮かべたままティオナに近付くと、食って掛かるように怒鳴り散らす。

 

 「テメェ...桁外れにランクアップしたからって舐めた口を利くんじゃねえぞバカゾネス!

  あん時の礼はたっぷり返さねえと俺の気が済まねえんだよ!」

 

 ベートはティオナのネックレスを掴みながら打ちのめされた雪辱を晴らそうという心の内を吐き出す。

 しかし、それにティオナは臆する事なく真っ直ぐと見つめたまま無言でため息をついた。

 その態度に怒りが沸点に達したのか、ベートは更に言及しようとするも先にティオナに諭された。

 

 「ベートがあの時よりも強くなってると思うけど、捕食者はもっと強くなってるんだよ。

  それなのにベートは勝てると思ってるの?...他の捕食者も皆が思ってる程、勝てる相手じゃないんだよ?

  プライドがどうとか、正直言って...どうだっていいよ。この戦争遊戯はネフテュス様があたしのために宣言したんだから...」

 

 ベートの手をやんわりと振り払い、ネフテュスの前に立つティオナ。

 言い返せなかったベートは呼び止めようとするも、ティオナから発せられる威圧感に動きが止まった。

 領域を解放し、オッドアイとなっている瞳でネフティスを見据える。 

 

 まるで別人のように変貌した姿にネフテュスに微笑んで彼女がどう答えるのかを待った。

 

 「ネフテュス様。もう一度...再戦させて」

 『...ロキ、皆。異論は...あるかしら?』

 「...そこまで言ったからには、ティオナ...アンタが勝つって信じるからね」

 「独壇場で決めるのは団長としての立場がないとはいえ...今回は大目に見るよ」

 「せやな。うちらが何を言っても、意味ないやろうし...ちゅー訳でベート、諦めや?」

 

 ロキはフィンとティオネと同じくティオナの覚悟を尊重して、そう答えながらベートの肩を叩いて宥める。

 苛立ちは消えていたベートだったが、納得せざるを得ないという答えに舌打ちしながらティオナを睨み付けて部屋から出て行ってしまった。

 

 だが、ネフテュスはそんなベートを気にせずデナトゥスでの会議と同じように、勝利した側が何を要求するかを話した。

 『こちらが勝ったらティオナを眷族として迎え入れさせてもらうわ。

  その代わりに...私の眷族を貴女のファミリアに改宗させてあげるっていうのはどうかしら?』

 「え?で、でも、それはネフテュス先輩にとってデメリットにしかならへんでしょう?

  せやったら代わりの眷族を貰うなんて事は...」

 

 勝利側が敗北側に何かを与える事は前代未聞だった。大抵は根こそぎ奪うという事しかしないためだ。

 しかし、ネフテュスは常識外れな事を言うため、そのデメリットな提案に意味があるのだとロキは察している。

 

 『いいのよ。ティオナが居なくなってしまってファミリアの情勢に悪影響を及ぼしてはならないもの。

  それに...貴女の所の方が、気楽にやれるでしょうからね』

 「...そう言ってもらったからには断れませんわ。ほんなら、こっちが勝ったら懸賞金だけで」

 「ダメ。捕食者を...渡してもらうから」

 

 ティオナが遮るようにそうネフテュスに要望してきて、ロキは身の毛がよだつ。

 これ以上ネフテュスの気に障るような事はさせたくないと必死だからだ。ティオネも妹がそうするとは思っていなかったようで焦っている。

 しかし、ネフテュスは特に気にした様子もなく答えた。

 

 『ええ。いいわよ。そちらが勝ったらあの子と懸賞金をあげるわ。

  それじゃあ、日程は...どれぐらいの期間を要したいかしら?』

 「攻城戦なら開始前の準備期間と本番の3日間だから...一週間と4日。

  その間にもっと強くなっていたいから」

 『...ふふ。わかったわ、じゃあ、アポロンにはその日程で合わせるようにしてもらうわ。

  貴女がどれくらい強くなれるのは...頼みにしてるわよ』

  

 そう言い終えるとネフテュスの姿は消えて、ファルコナーは入ってきた窓から飛んで行く。

 

 短いようで濃密な時間にデナトゥスと同様に疲労困憊となっているロキは椅子に座り込んだ。

 ティオネは椅子から立ち上がってティオナを叱り付けようとしたが、既に部屋から出て行く姿が目に入る。

 向かう先は自室であるとわかっているため、自分も部屋から出ると自室へ向かう右側の廊下を進んで行くティオナを見つけるや否や追いかけて行くのだった。

 

 「...ロキ。女神ネフテュスは...神アポロンよりも大変な相手なんだね」

 「いや...よりもやなしにネフテュス先輩の方が大変なんやで...」




という訳で勝敗形式はベルVSティオナの決闘となります。


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 ̄、⊦>'<、⊦ 恩返し

大変遅れて申し訳ありません。


 「ティオナ!さっきはああ言ったけどアンタどうかしてるわよ!?

  リヴェリアは...皆、心配してくれて一緒に戦争遊戯に参加しようとしてたのに...」

 

 自室で身支度をしているティオナを見つけ、ティオネは開口一番に先程までのネフテュスとのやり取りについて言及した。

 先程までの場ではティオナの意思を尊重する物言いをしていたが、やはり不安な気持ちには変わりないのだ。

 しかし、ティオナはそんな姉の心配など気にも留めず、淡々と身支度を済ませていく。

 そして着替え終わると立ち上がりながら答えた。 

 

 「もちろん心配してくれて嬉しいと思ってるよ。

  でも...捕食者との決闘するのだけは絶対に曲げたくないの」

 「...好きになったからってだけじゃないって事?」

 「うん...ずっと考えてたんだ。どうしてリベンジしてみたかったのかって...

  それはね...お礼をしたかったから、だよ」

 

 ティオナはそう答えると、今までの出来事を思い出しているのか懐かしむように微笑む。

 その微笑みに影が差すのをティオネは見た。普段の明るい笑みとは違う、見た事のない妹の顔。

 今までにない表情に戸惑っているとティオナは振り返ってティオネと向き合う。

 

 「何度も助けてくれたそのお礼をするのは本人でないとダメでしょ?

  だから...皆には悪いけど、あたしだけでやらせて。...それじゃ」

 「...待ちなさいよ!」

 

 そう告げてティオナは自室から出て行こうと歩き出し、声を張り上げてティオネはその背中を呼び止める。

 ピタリと足が止まった事に気付くとゆっくりと近づいて行く。そして...背後から優しく抱き締めるのだった。

 突然の行動に驚いて振り向くティオナだったが、姉から伝わる温もりが心地よさに身を委ねた。

 そんな妹を慈しむ様に背中を撫でながら子守歌の様に呟く。

 

 「...信じるって言ったんだから...勝ってきなさいよ」

 「...うん。任しといて、ティオネ」

 

 そう告げたティオナは歩き出し、残されたティオネは掌に感じる温もりを握り締めるのだった。

  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 その頃、ネフテュス・ファミリアでは... 

 

 「という訳で...ティオナとの再戦を執り行うわ。それまでにベル、どうするのかしら?」

 

 ネフテュスの目の前に跪いていたベルは立ち上がると、エルダーの前へと移動して再び跪く。

 エルダーは見下ろしたままベルの発言を待った。

 

 『Elder...』

 『...It's owkui.Showwe me yowura powwera』

 『thunwku yowu...』

 

 ヤウージャ独自の語源で話し合い、ネフテュスに頭を下げた2人はそのままどこかへと向かう。

 その様子にネフテュスはとても面白そうな面持ちで見送った。

 

 「ティオナ...もっと強くなっていないと勝てないわよ。

  ふふっ...頑張りなさいね...」 



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