ろっく?いや、ギターすら持ったことないけど? (クウト)
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月日は人を変えるのだ……

友人に勧められてアニメを見たらハマってしまった。
高校時代軽音部だったなぁ〜と思ったのもあってつい書いてしまった。
……最近更新できていないリコリコを読んでくれている人に見つかれば……。
素直に謝るしかねぇな!!

あと自分アニメしか見ていません。
漫画読みたいけどどこにも売ってねぇんだよ!!!
電子書籍は苦手なんです。
だからこれは違うぞ?みたいな事があっても優しく教えてほしい。
優しくね。
漫画入荷してたら即買うわ。


俺の名前は天見音寧。おとねと読む女の子みたいな名前ではあるが亡き母がつけてくれた名前である。

そんな俺もこの春から高校生となり、この下北沢で新生活が始まる。

とは言っても緊張なんてものはない。自分の父親は勤務先がコロコロと変わるせいで、色々な場所へと引越しを繰り返してきたし慣れているからだ。

小学校なんて少しだけ通って引っ越しなんて事を繰り返してきた。おかげで友達と仲良くなっては別れを迎えるという悲しすぎる生活だったと思う。

だがしかし、父親が再婚した事により新しい家族ができた。母親とその娘であり姉になる人物達に預けられる形で、俺はちゃんとした安定をしている生活を手に入れることができた。

ただ問題があるとすれば、俺にとって急にできてしまった母と姉にできるだけ迷惑をかけないようにって考えが出来てしまったせいで、しばらくの間は部屋の隅にいる手のかからないが暗い子になってしまったのは……その、少し黒歴史ではあるが……。

 

「とにかくだ。……ふぅ」

 

考えが逸れてしまった気がするが、俺もこの春から高校生活が始まるのだ。それも一人暮らしをしている姉の元へと送り出される形でだ。

何故姉の元へ行くのかだが、ある日母から相談されたのだ。

 

『あの子、ちゃんと生活できているのか心配なのよね。ほら、おと君ならキッチリしてるし、ちゃんと見て……くれる、かなぁ……なんて……。だめ?』

 

申し訳なさそうに言う母に対して、俺は断る事ができなかった。元々は自宅から近い高校へ進学しようとなんとなく決めていたのだが急遽変更することになった。

いやさ?急に現れた息子に対して嫌な顔一つせずに面倒を見てくれた優しい母親からそんな相談されたら断れないだろう?父親?父親なんて一人単身赴任になってしまいしばらく顔も見ていない。多分元気だと思う。

そんなわけで秀華高校へと進学を決め、その近くに姉と二人で住む新居まで用意してもらった。もっと上も狙えると担任には言われたが、こちとら姉の面倒を見るという任務ができてしまっているのである。勉強に追われるわけにはいかないのだ。

そんなわけで進学先を決めたのだ。

 

『もういっその事、おと君にもらってもらうほうがいいのかしらね……』

 

母の申し出に快諾した際に言われた一言である。

いや、待ってほしい。それは勘弁願いたい。

というか姉さんは弟の俺が見てもすごく面倒見が良く、綺麗な人だった。お付き合いする相手なんて湧いて出てくると思うのだが……?

 

「ん?ここか?」

 

やけに立派なマンションに辿り着いた。

……姉さんと会うのは久しぶりだな。何故か知らないが、いつも俺がいないタイミングに帰ってきていたらしいからなぁ。

……ふぅ。緊張するな。

昔はよく遊んでくれていたのだが、俺が中学に入ったぐらいから避けられるようになったからな。

俺の荷物などは有無を言わせない形で運んであるらしい。俺の生活に合わせる形で姉さんも無理矢理新しい家となるこのマンションに引っ越しさせたらしいが……。

緊張しながらも自宅の前へとたどり着き、深呼吸をしてからインターホンを押す。

その瞬間ガタガタガシャン!!と大きな音。

 

「ひ、久しぶりですね。音寧くん」

 

「…………」

 

「あ、あの?」

 

……一瞬人違いかと思ってしまった。

およそ三年ぶりぐらいに会う姉はピアスだらけのゴリゴリでイケイケェなアレな人になっていた。

だがしかし俺の名前をしっかりと言えているし、久しぶりに聞いたこの穏やかな声も姉のものだ。

うん、だからこんな感じだが俺の姉なのだ。

 

「どなたですのん?」

 

「うぐぅっ!!」

 

そんな考えよりも先に、思わずそう言ってしまった俺は悪くないはずだ。

 

 

 

やっぱりこうなったと嘆きながら自室にこもってしまった姉を放置しながら室内を見て回る。

久しぶりに会った姉を放置なんていう酷いことをしているが、それが何故かというとだな。

 

「臭さの原因はこれか」

 

軽くまとめられただけのゴミ。

中身はプラスチックの弁当箱やレトルト食品の袋だらけである。姉さんも仕事があるし、仕方ないのだろうな……。だが片付けられていない段ボールの山や、このゴミだけはどうにかしたい……。

 

「けど先に、ちゃんとしたものを食べてもらうか」

 

この食生活の改善は真っ先にしたい。何よりも優先してだ!!何故か?俺がこんな生活嫌だからだよ。

時刻は昼前。

今から買い物に行って、何かを作ればいい時間になるだろう。この様子では調味料もないだろうし、全体的に買い集める必要があるな。人手が欲しいが姉さんを連れて行ける状況ではなそうだ。

仕方ない……。ゴミだけでもと、手早くゴミ袋へまとめて一時的にベランダに放置。

明日大きいゴミ箱でも買ってこよう。

さてと。

 

「あー、姉さん?」

 

姉さんが引きこもってしまった部屋の前から声をかける。

 

「買い物行ってくるからさ。キッチン周りの物が入ってる段ボールだけ、開けててくれるとありがたいな。じゃあよろしくね」

 

返事を聞くのを待たずに家を出る。

さっさと買い物を済ませるとしよう。

地図アプリで近くのスーパーへの道を調べ足早に行動を開始。冷蔵庫はきちんと設置されていたし遠慮なく野菜や肉、魚、その他諸々をカゴに入れる。調味料も買い、なんとなくお茶もカゴにぶち込む。あ、米……しばらくはレンジで簡単にできるパックで妥協しよう。流石にこれ以上持つのは厳しい。

パンパンに詰まったリュックと、買い物袋を四つも持ちながら帰宅。

 

「ただいま」

 

「お、おかえりなさい」

 

リビングに入ると姉さんは鍋やらフライパンを出してくれていた。

ありがたい。

それだけでだいぶ時間の短縮になる。姉さんが動いてなければ料理の前に調理器具を探すところから開始する所だった。

 

「ありがとう姉さん。お昼はパスタでいいかな?」

 

「……え!?作ってくれるんですか!?」

 

「え?あ、はい」

 

何故か姉さんは感動している。

えぇ……。この人本当に変わったなぁ……。

 

「とりあえずトマトベースで何か作るね」

 

まだ感動から戻ってきていない姉さんを放置しながら、冷蔵庫に使わないものをぶち込んでいく。

さてと。俺が来たからにはコンビニ飯なんて不味くて食えないぐらいにしてやろう。

とりあえず肉系の弁当ばかりだったし魚介を使うことにする。えびも貝もあるしブイヤベース風パスタにでもしようか。ちょっと煮込むけど思ったよりも時間あるし。

 

「あ、いい匂い」

 

料理を開始し材料の下拵えも終わり、ニンニクを炒め出したあたりで姉さんの意識が戻った。

 

「何を作ってるんですか?」

 

「ブイヤベース風スープパスタ」

 

「お、美味しそうですね!」

 

「しばらくかかるし、とりあえず部屋の片付けだけ進めててよ。そしたらお腹も空くでしょ?」

 

「そうします」

 

そう言ってまだ開けていない段ボールを開けていく姉さん。ただ、何故かキッチン周りのものばかり開けて離れようとしない。……味見狙ってるな?

薄々それを分かりながらも片付けは進んでいく。俺の調理も進んでいきブイヤベースもいい感じになってきた。さてと味見。

 

「どうぞ」

 

「あ、どうも」

 

スプーンを二つ持っている姉さん。

よく味見をするってわかったな。

まぁとにかく気にせず味見をすることにした。

 

「うん。いい感じ」

 

「……はぁ……」

 

「ん?口に合わなかった?」

 

「……いえ、久々にまともな物を食べたなと……すごく美味しいですよ」

 

「……それは良かった」

 

ただの味見でここまで喜んでくれるのは素直に嬉しいものだ。外見はすっかり変わってしまっているのだが、やはり根っこの部分は変わっていない。

少しだけ安心した。

 

「あとはパスタ茹でて終わりだからお皿の準備しないとね」

 

「では私はテーブルを拭いてきますね」

 

「よろしく」

 

約三年ぶりに一緒に食べたご飯はすごく美味しかった。少しだけあった距離感も食事中にだいぶマシになってきている。

 

「あ、そういえば今なんの仕事してるの?」

 

「ライブハウスでPublic Addressをしてますね」

 

「なんやわからんけどカッケェ」

 

「PAさんって呼ばれてます」

 

「カッケェ」

 

「夜型の仕事最高です」

 

母よ。

姉はしっかりと天職を見つけていたようです。

俺は家事だけ頑張れば良さそうで安心しました。




ざっと10分ぐらいで決めた主人公

天見音寧
あまみおとね

楽器はリコーダーぐらいしか触ったことがない。
父親が再婚し、母親と姉(PAさん)ができた。
この春からピッカピカの高校一年生。
料理を中心に家事炊事スキルは高い。
最近の悩みは外見だけ変わり果てた姉に対してどう接したらいいかわからない。外見と中身のギャップに未だ戸惑う。

外見
中性的な外見。
DRIFTERSの那須与一でイメージしてくれるとありがたい。
何故この外見になったか?
俺が漫画を読み直しているからです。


PAさんの名前出てないのに天見とか名乗って大丈夫?
そんな疑問はあるとは思いますが、夫婦別姓ということでお願いします。


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新生活には何かと起こるよね

変な時間に起きてしまった。


さて、今日から高校生活が開始だ。

いきなり時間が飛びすぎたと思うし、ここ数日の話でもしよう。

ここ数日間は毎日姉さんと一緒に過ごしているだけだった。どうやら有給を使ってくれているらしく生活に必要な物を買いに行ったり、姉さんがご飯を作ってくれたりと意外にも忙しい日々であった。

ていうか姉さんがついでに買っていた化粧品の値段の高さには目が飛び出るかと思ったよね……。そんなリアクションをしたせいか、女は色々と大変と言いながら頬を触ってくる姉さん。これが若さかと嘆きながら、何故か俺の肌を触る回数が増えたのは勘弁してほしい。

……それと話は変わるけど姉さんよ。

おかえりと出迎えただけで涙目になるのはやめてほしい。一体何があったのだと慌ててしまった。

って、また話が逸れそうになった。

あとは音楽の仕事をしている姉さんだからこそのおすすめの音楽だったりも教えてもらった。少しマイナーだったりもするが、これがまた中々良いのだ。

それと何かあれば来てくれればいいという事で、職場も教えてもらったりと……。

この街の案内もあるのだがやけに姉がベッタリとしてくるのはなんなのだろうか?

こんなことを考えていると、これから一年間過ごすことになるクラスにたどり着く。

俺の名前は天見だし一番前の端だろうなぁ……なんて思いながら席が割り振られている表を見る。

 

『名前順も面白くないので適当に席替えしました』

 

……面白くなりそうな一年を感じる。

俺の席は一番後ろらしい。なんだろう凄く得した気分だ。ついウキウキとした気分で自分の席へと向かい荷物を置き、ざっと教室内を見回す。

うーん。やはり小さいながらもグループができているな。

俺のように遠くからこの学校に入った人は少ないのだろう。……隣から物凄い陰鬱とした空気を感じるが……あの、もしかしなくても貴女も俺と同じく遠方からの孤立組かな?親近感を抱き、ついつい声をかけてしまう。

 

「あの、これからよろし「ひぃうっ!!」くぅ〜……あぁー……」

 

え?あれ?お、怯えられてる?

こう言ってはなんだが、俺は外見のおかげもあり、あまり警戒心を持たれる事は少ない方ではあるのだが……。

 

「え、あ、そそそそのの!」

 

あ、察し。

俺は小さいメモ帳を取り出して自分の名前と文章を書く。

 

『天見音寧です。あまみおとね、と読みます。貴女の名前を教えてください』

 

パニックになってしまっている女子にメモ帳とペンを渡す。……やけにメモ帳と俺の顔を交互に見てくるな。……いや!何度見するの!?

とりあえず俺はジェスチャーで書いてくれればいいよと合図。

話しかけちゃうとまたパニックになるかもしれな……いや、空気中に名前書かないでメモ帳に書いてよ……。

メモメモ!とジェスチャー。

分かってくれたのか恐る恐るだがメモに記入を始めた。……いや、苦労するね!?

 

『後藤ひとりです。すみません』

 

謝られても!!なんも悪くないし!!

ただの自己紹介にこんなに苦労するとは……。

って……ん?やけに教室が静かな気がする。

 

「え?なにこれ?」

 

「ぴぎゅ」

 

「うわ!ちょっ!!」

 

クラスメイト達の視線が俺たちに集中していた。

俺と同じく視線に気がついた後藤さんは、どこから出したかもわからない奇声を発しながら俺の後ろに隠れてしまった。

そんな光景を見た全員が俺に視線を向け、何故か両手を合わせる。

 

【任せた】

 

このクラスは皆、テレパシーでも使えるのか?

もちろんそんな事はない。だが全員の気持ちが一致したなと感じた瞬間だった。

こうして俺は、ホームルームも始まっていない新学期早々から後藤ひとり係に任命されたのだった。

いやなんでさ……。

 

 

 

自己紹介もまだなのに一致団結を見せたクラスの可能性を感じつつ入学式を終える。式の後はホームルームで必要事項だけ聞き、それで終わりらしい。

それにしても入学式は大変だったな。

まさか後藤さんが人間ではない可能性があると判明するなんて……人って溶けるのかな?

人類の可能性について考えている時、俺のスマホに通知が入っていることに気がついた。

 

『遅れてごめんね。やっと着きました。校門前に居るから写真撮ろっか』

 

母さんからのメッセージだ。

入学式には間に合わなかったが、来てくれたらしい。とりあえず移動しようかな。

 

「じゃあ後藤さん。また明日」

 

「え、あっ、はい」

 

「はは。まだ緊張とれない?」

 

「す、すみません!!」

 

入学式の最中、担任の臨機応変な対応のおかげ?もありずっと一緒にいた後藤さん。人と関わる事が苦手そうな彼女には少し……いや、大きな負担だったろうなぁ。

 

「これ、どうぞ」

 

「え?……飴玉?」

 

「昔大阪にいた頃があってね。近所のおばちゃんが良くくれたんだけど、いつの間にか俺も真似するようになっちゃってね。飴は何個か持ち歩いてるんだよ」

 

「は、はぁ」

 

「だからあげる。甘い物は程よくリラックスさせてくれると個人的には思ってるし。じゃあ家族が待ってるからまたね」

 

うん。

我ながらナイスなコミュニケーションじゃないだろうか?後藤さんは結構ヤバイほどに人付き合いをしてなさそうだし、俺に対して最初から迷惑かけすぎたんじゃないだろうか?って思う前に退散するとしよう。

これから長い付き合いになりそうなのは確定事項だろうしね。これからもよろしくお願いします。

 

「あ、おと君こっちこっち!」

 

校門前に着くと、母さんが大きな声で迎えてくれた。元気な人だからすぐに何処にいるかわかるな。

 

「母さん。遠いのに来てくれたんだ。ありがとう」

 

「息子の入学式なんだから来るよ〜。お父さんは仕事で来てないけど」

 

「また転勤だって?」

 

「そうみたい。大変そうだし、私も一度向こうに行こうかなって」

 

おぉ。それは喜ぶと思う。

昔は俺が一緒にいたからご飯も作っていたが、今はコンビニやインスタント頼りだろうし誰かみたいに泣いて喜ぶんじゃないかな?……血が繋がっていないのに随分と似ている親子だな……。

何故こうなるんだろうか?社会が悪いのか?

やはり社会。こいつが悪だったのか。

なんてくだらない考えは置いておこう。高校生の俺にはまだ……おそらく関係がない。

 

「いいんじゃない?喜ぶと思うよ。俺の保護者?は姉さんがしてくれると思うし、久しぶりに夫婦で過ごすのも楽しいと思うよ?」

 

「うーん。ならお言葉に甘えてしばらくはお父さんのところに行こうかなぁ。って!そうじゃない!写真!」

 

「そうだった。帰るところだったね」

 

お互い自然と足が動き、家に戻る所だった。

俺と母さんは小さい子と犬を連れた家族に頼み、入学式の看板の前で写真を撮って帰るから帰る事にした。

姉さんは来るか迷ったらしいが、結局は諦めたらしい。母さんも起こしてはみたらしいが、睡魔には勝てなかったそうだ。……帰ったら部屋から黒いオーラ出てそうだな。

 

 

 

〜後藤ひとりサイド〜

 

今日は入学式だった。

誰も過去の私を知らない場所に行きたくて、片道二時間かかる高校を選んだ私。今日から高校デビューと意気込んでみたものの、そんないきなり変われるのならぼっちなんてやってないわけで……。

だが、神様は見放さなかったのだろうか?

隣の席に座った男……子?随分と綺麗な顔をしていたけど、ズボン履いてたし、多分男子だと思うけど。声も少し低かったし。

 

『天見音寧です。あまみおとね、と読みます。貴女の名前を教えてください』

 

メモに自己紹介を書いてくれた人なんて初めてだった。

私のリアクションで色々と察してくれたのだろう。

こんな事初めてだから色々とパニックになったが自分の名前は書けた。手が震えてたけど……。

汚い字だと思われなかっただろうか?……た、たぶん大丈夫だよね?優しそうな人だし……うん、大丈夫。……だい、じょうぶ。

 

「うぐぅ……!」

 

「ひ、ひとり!?どうした頭を抱えて!!」

 

「ど、どうしたの!?また何かあったの?」

 

「お姉ちゃんまた面白いことしてる〜!」

 

「ワン!」

 

あ、大丈夫落ち着いた。

もう家に戻っているのに、つい今日の事を思い出してしまう。そんな時だった。

 

『友達なんて自己紹介したらできたも同然ですよ』

 

お父さんが見ていたテレビからそんな声が……。

……いや、待てよ?

自己紹介?その理論でいくなら私、もう友達ができたのでは?つまり天見くん?は私の友達?

 

『親友?そんなの勝手になってますよ!』

 

つまり天見くん?は親友?

 

「ひ、ひとり!?急に笑い出してどうした!?」

 

「高校で何かあったのかしら?色々とキャパオーバーだったんじゃ……!!」

 

「お姉ちゃんって本当に面白いよね!」

 

「ワンワン!」

 

後藤ひとり、入学早々に親友が出来ました!

高校生活って、実はイージーなのでは!?

 

〜後藤ひとりサイドアウト〜

 

 

 

「うひぃ!」

 

ゾワゾワってした!?

な、なに!?なんか変な波動的な何かを受信したような!?え!?人間って高校生になったら進化するの!?溶けた後藤さんみたいに!!

 

「どうしました!?熱!?具合悪い!?」

 

「だ、大丈夫だよ姉さん。つい変な電波を受信した感じがしただけだから」

 

「……全然大丈夫じゃありません!病院!病院に行かないと音寧君が死ぬ!!」

 

「死なんわ!!」

 

パニックになる姉さん。

……今日一日、大変だったな。

今日早く寝よ。




PAさんが添えるだけみたいになってしまった。


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何かが始まる日は突然で

ここから開始ですね。
あまりPAさんやぼっちちゃんを動かせてないのが悔しい。
やっぱりこれ知ってるのアニメだけだと無理ないかなぁ!!本欲しいんだけどぉ!!


激動の高校生活も早一ヶ月。

この長くも短くも感じる期間の間に色々な事があった。うん……あった。

まずは家での出来事から話そうかな。

さて、では姉さんが帰宅してからの時間に遡ろう。

 

「ただいま帰りました〜」

 

「おかえり。お疲れ様」

 

「……はい!ただいま!!」

 

姉さんの帰りはそれなりに遅いのだが、必ず日付が変わる前に帰ってきている。

仕事でお疲れだし、早速晩御飯でも〜と言ってあげたいのだが、遅い時間から晩御飯も体に悪いので毎日俺の弁当を作るついでだが姉さんにも弁当を持たせている。その弁当箱を受け取り、洗い物の間だけ俺と少し話をした後にお風呂に入る姉さん。

しばらくした後、俺は洗面所への扉を少し開けて声のボリュームを少し上げながら姉さんへと話しかける。

 

「入るよ〜!」

 

『はーい』

 

風呂から声がする事を確認した俺は、次の日の朝の時間短縮の為に洗濯機へ服をぶち込み予約セットを完了させ足早に退散。

次は明日の朝に作る予定の姉さんのご飯が何かというメモを冷蔵庫に貼り付ける。あ、言い忘れたがもちろん下着なんかは自分で洗濯機にぶち込んでもらっている。もしくは後回しで自分でやってもらう。あの辺はネットに入れたりと細かい事はわからないしなぁ。

話がそれた。メモは昼ごはんは何かとか、起きたらしておいてほしい事とかを書いてある。あとはついでだが、生活費を稼いでくれている姉さんに仕事頑張れ程度のメッセージだな。

そんな感じでしばらくバタバタと動いて、家事が終わり一息つきお茶を飲みながらリラックスを始めたあたりで姉さんがお風呂から戻ってくる。

 

「ふぅ……。やっと落ち着きました」

 

「それはよかった。今日も友達とゲームするの?」

 

「そ、そうですね。こ、これでも人気者なんで……はい」

 

「?」

 

この一ヶ月で分かった事がある。

姉さんの趣味の一つがゲームである事や、友達が多いらしいという事。この件について話すたび何故か挙動不審になるのだが……まぁ、弟が姉の交友関係に口を出すのもおかしいのでスルー。

ただ、ある日の事だ。トイレに行きたくなり深夜に起きてしまった俺は姉さんの部屋の前を通った。

 

『前も話したけど弟が〜』

 

『姉さん?』

 

普段ならスルーしていたと思う。

だが言い訳をさせてほしい。まず、姉さんの部屋の扉が少しだけ開いていた事。そして俺は寝起きでぼーっとしていた事と、姉さんの話し方がいつもと少し違った感じに聞こえて、つい声をかけてしまったのだ。

 

『ひぎゃあ!!お、おおあお音寧君!?!?』

 

『あ、ごめんね。声が聞こえてきたから』

 

『い、いえ!大丈夫ですよ?何かありましたか?』

 

『……ちょっとトイレ。おやすみ』

 

『お、おやすみなさーい気をつけてぇ〜……』

 

邪魔をしてしまったようだ。

この時は寝ぼけながらも悪いことをしてしまったと理解して、しっかりと扉を閉めてさっさと退散することにした。

次の日の朝、なんとなく気まずそうにしている姉さんだったが、気にせずに友達とゲームを楽しんでほしいと話をした事で、なんとか元通りになってくれた。

 

『き、気付いてない?よかったぁ……』

 

なんて変なことを言っていたが……?

まぁいいや。とにかくだ!俺と一緒に暮らすことで、姉さんの趣味を奪うなんて事はあってはならないのだ。だから俺は、この件についてはあまり話題にあげないようにしている。ただ今度一緒に買い物に行った時にオススメのゲームなんかを聞いてみることにしようか。

二人でパーティーゲームなんてのも面白いかもしれないし。

 

「じゃあ俺は先に寝るし、楽しんでね。お腹空いたら戸棚にスープの素があるからそれでも飲んでね」

 

「は〜い。お、おやすみなさ〜い」

 

「おやすみ」

 

夜はこんな感じだ。

朝は六時に起きて、準備を開始する。

俺の朝ごはんはパンにジャムを塗るだけでいい為、俺の弁当と姉さんのお昼ご飯と、晩御飯になる弁当を作る。そのあとはサッと洗濯を済ませておき、時間が余れば洗い物、時間が無ければ冷蔵庫に貼っているメモの姉さんにやってほしいリストに追記。

あとは学校に行って、買い物に行って帰宅しての繰り返しなのだが……。

学校でもそれなりに色々とあるのだ。

主に後藤ひとり係という大仕事が……。

その話も必要というか……これから起こることだな。

 

 

 

学校へと到着。

後藤さんの朝は物凄く早いらしい。片道二時間もかけて通学していると聞いた時は驚きのあまり唖然としてしまった。何かこの学校でやりたいことでもあったのだろう……いや、ないな。自分を知っている人間がいない場所へなんて理由だと思う。最近なんか少しずつ分かってきた自分が怖い。

そうそう。この短い間に、俺のあだ名も決まった。

まぁ、単純にオトと呼ばれるだけなのであだ名と言っていいのか分からないが……。何故この呼び方なのかだが、ある有名な映画から来ているみたいだ。

俺が後藤さんに話しかけると。

 

『あ』

 

『え』

 

とか、になるしそんな後藤さんを移動教室とかで誘導している姿を見たクラスメイトが決めたそう。

なんか顔が無い妖怪を誘導している主人公みたいだね!天見君って、ポニーテールにしてるし女の子みたいな顔だし!って言われた時は数秒理解ができずにフリーズした。

貴女それは俺に対しても後藤さんに対しても失礼すぎるだろ?

そう思わなくもないが、こういうノリってのは止める間もなく広がるもので……。気がつけばオト、オトと周りが呼んできていた。とりあえず俺がその呼び方を許可する事で矢面に立ち、後藤さんに顔なしの妖怪ってあだ名がつくことだけは阻止することに成功する。そこまで行くとイジメになってしまうし。

 

「おはよう。後藤さん」

 

「あ、お、おはよう……ござま!ございます!」

 

……なにこれ?

今日の後藤さんは一味……いや、なにこれ……一味どころか全然違うファッションというか。

 

「き、気合い入ってるね」

 

「そ、そうですか!?」

 

なんで明るくなっているんだろうか?

ていうか、これ、ギターか?

 

「ギター?」

 

「へ?あ、はい」

 

「弾けるの?」

 

「えっ、そ、少し〜……」

 

「へー。そういや、最近姉の影響でロックとか聴いてるんだよね。まぁ、初心者すぎて全然詳しくないんだけどね」

 

「そ、そうなんですね」

 

「だからって訳じゃないんだけどさ。後藤さんも何かオススメのバンドとかあったら教えてほしいな。そのグッズのバンドとか」

 

「え?あ、へ、はい」

 

と、ここでチャイムが鳴る。

どうやらタイムアップである。俺は家が近い事もあり、家事をギリギリまでやっているからいつも朝はギリギリなのだ。だからあまり詳しく話せないままで申し訳ないな。

だがここからが問題であった。

ホームルーム後、移動教室で後藤さんを誘導。

休み時間、先生から頼まれごとをされ呼び出し。

昼休み、別の友達に一年レギュラーの為にとバスケの練習に誘われて何故か連れ去られる。

その他、後藤さん係をしていれば、いつのまにか放課後である。

 

「あ、あーっと、帰る?」

 

「……あ、はい……」

 

すまない!!!

全然話す暇なかったよね!!

朝はめちゃくちゃバンドグッズで身を固めていた後藤さんだったが、色々な装備をパージしていつものジャージ姿にギター装備になっていた。

それはそうだよね!!色々とくるものがあったよね!多分時間が経つにつれて色々と考えが巡ってこうなってしまったのだろう。

特に会話らしい会話もなく、小さな公園のブランコに二人並びながら座っている俺たち。

 

「あ、あー。後藤さんはどんなのを弾くの?」

 

「え?」

 

「ギター。弾いてるんだよね?」

 

「あ、はい。えっと、流行りの曲は一通り」

 

え?凄くない?

 

「え?凄くない?」

 

「そ、そんな、私なんて全然……うへへ」

 

いや、全然とかそんな事ないと思うのだが。

ていうかあれだな。ギターヒーローだったか?その人みたい……ジャージ似てるな。

 

「今朝も話したけど、最近バンドに興味があってさ。よくネットで見てたりするだよね」

 

「あ、言ってましたね」

 

「うん。でさ、オススメによく出てきたんだけどギターヒ「あぁ!!ギター!!!」ん?」

 

一人の女の子が走ってきた。

何故かわからないが、今日は帰るの遅くなりそうだなと感じる。

一応後で姉さんに連絡入れておくか。今日は少し遊んでから帰りますって。




なんか感想書いてくれる人多くて嬉しい。
けどそれだけ見てくれる人がって思うと恐ろしい。


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後藤ひとりには旅をさせる必要がある

おらぁ!!
今日休みアンド昨日昼寝して寝られないから連投だおらぁ!
でも次からは不定期に戻りますすみませんイキリました。


ギター!と言い走ってきた女の子。

どなただろうか?

ていうか、後藤さんに対してそんな勢いでこられると絶対萎縮してしまう。ほら、声出てないし。

 

「それ、ギターだよね?弾けるの!?」

 

「あ、ぐぅ……!」

 

「後藤さん。変なダメージくらってるみたいな声出さない。えっと、あなたは?」

 

この調子だと復活まで少しかかると思い話を進めることにする。

 

「あ、いきなりでごめんね邪魔しちゃったよね?」

 

「いや、別に気にしてないんで大丈夫ですよ。こっちは驚いているだけなんで」

 

申し訳なさそうに謝るこの人に、後藤さんが驚いているだけだと軽く説明。少し困惑しながらも相手は話を進めることにしたようだ。

 

「え?そう?では改めて自己紹介を。私、下北沢高校二年伊地知虹夏」

 

「俺は天見音寧と言います。秀華高校の一年です。ほら、後藤さん」

 

「あっ、後藤ひとりです。同じく一年です」

 

「それでさっきの話なんだけどさ。ひとりちゃんはギター弾けるの?」

 

ビクッと後藤さんが驚いている。

……これは……チャンスなのでは?

俺の天才的頭脳が働き出した……気がする。

この先輩、何か焦っているのか懐への踏み込み加減は相当だし、こう言っては失礼だが後藤さんのコミュ障改善に良い起爆剤になるかもしれない。

獅子は我が子を千尋の谷に落とすという。

ならば俺もそれに倣おう。……後藤さん係を増やしたいわけではないよ?

 

「弾けるそうです」

 

「え!?」

 

「本当に!?」

 

「それも結構な曲数いけるそうです」

 

「ゔぇえ!!??」

 

「すごい!!」

 

「というわけで、ズバッとどうぞ」

 

「うん!」

 

「え、あっ、天見くん……!?」

 

すまない。

そんな目をされても俺はもう決めてしまったのだから……。大丈夫。ちゃんとフォローはするし今日は一日付き合うし、なんなら家の近くまで送るから。

 

「じゃあひとりちゃん!えーっとそのね?無理だったら大丈夫なんだけどね?……大丈夫なんだけどぉ。できれば助けてほしくてでも無理ならぁ」

 

「大丈夫じゃないやつですよねそれ」

 

思わず口にしてしまった。

俺の言葉に同意するように後藤さんは何度も首を縦に振っている。だよね?やっぱり大丈夫じゃなさそうだよね。

 

「そ、そうなんだけどぉ!!でも無理強いはできないというかぁ!わかんないかなぁこの感じ!……あぁ、もう!言っちゃおう!女は度胸!!」

 

そして伊地知さんは勢いよく手を合わせて頭を下げた。

 

「お願い!!今日だけ私のバンドでサポートギターしてくれないかなぁ!?」

 

「いいですよ」

 

「本当に!?」

 

「ゔぇ!?な、なんで天見くんが!?ていうか、さっきもこんな感じだった気が!!」

 

「後藤さん」

 

「は、はい?」

 

「ここで断るとね。帰ってふとした時に思い出すんだ。あー、あの人今日演奏できたのかな?私断っちゃったよなぁ。でもだっていきなりバンドとか言われても……でも……って」

 

「うぐっぅうぅ!!!!」

 

胸を押さえて大ダメージを負ったように蹲る後藤さん。

 

「でもここで助けてあげればさ。次に繋がる自信になるよね?そう、つまり新たな後藤ひとりの誕生だよ。おめでとう。今日から一人だけのギタリストではなくバンドマン後藤ひとりとしてのデビューだ。レベルアップだよ」

 

「レベル……アップ?」

 

「あ、天見くん?」

 

伊地知さんが少し引いている声を出しているが気にしない。ここで止めてしまうと、後藤さんが正気に戻……決意が鈍ってしまうだろう?

 

「そう。レベルアップ」

 

「新たな、私」

 

「そうだね。かっこいいよ」

 

「が、頑張ります……!」

 

「よしきた!では行きましょうか」

 

「なんか……すごい洗脳を見た気がするよ」

 

そんなまさか。

とても綺麗な友情と言ってほしい。

 

 

 

その後、後藤さんの気が変わらないうちに連行を開始した俺と伊地知さん。せんの……ゴホン。冷静に物事を考えれるようになってきた後藤さんではあったが、彼女の性格上もはや後戻りなんてできるはずもなく、俺の服を掴みながらも大人しく着いてきている。

そして道中、伊地知さんが置かれている状況についても聞いていた。

 

「大変ですね。本番前に居なくなるなんて」

 

「何か大変な事になってなきゃいいんだけどねぇ」

 

いい人だ!!この人すっごいいい人だ!

普通怒ると思うんだけど、相手を心配できるあたり後藤さんを任せてもいいんでないか?

俺の中で後藤さんバンド入り計画が着々と進んでいく……気がする!!

もう隠さないけどさ!いい加減に俺以外にも友達作ったほうがいいよね!!

 

「って、後藤さん?」

 

なにやってんだこの子?

自分の服を嗅いだと思えば、伊地知さんの髪を嗅ぎ始める。やめなさい。

 

「今日出演するライブハウスはSTARRYって言うんだけどね」

 

「ん?」

 

「ん?どうかした天見くん」

 

「あ、いや、なんでも」

 

姉さんの職場だ。

この間、姉さんに街を案内してもらっている時に外からだけ見たな。その時は荷物が多かったせいもあり、中には入らなかったけど。

うーん。手ぶらでは失礼か?

 

「伊地知さん。後藤さんをつれて先に行っててもらえますか?」

 

「え!?」

 

「え?うん、それはいいけど」

 

「な、どうして!?置いていかないでください!」

 

「大丈夫なのかな?」

 

「大丈夫です。後藤さんも、すぐに合流するから」

 

後藤さんの手を伊地知さんに握らせて走り去る。

 

「あ!場所わかる!?」

 

「大丈夫でーす!」

 

「あ、天!天見くん!!」

 

いや、後藤さんよ。

そんな知らない人に預けられると死んでしまうとかじゃないんだから……。いや、後藤さんなら溶けたり粉になったりして飛んでいく可能性があるのか?

……伊地知さん。ちゃんと元に戻るから安心してください。

 

『溶けてる!!え!?なにこれ!!』

 

遠くから伊地知さんの叫びが……聞かなかったことにしよう。

 

 

 

〜伊地知虹夏サイド〜

 

天見くんが走り去っていった瞬間。

ひとりちゃんが溶けた。

何を言っているかわからないと思うけど私も何が起きているのかわからない。待って天見くん!どう対処すればいいのこれ!!!

あまりの怪奇現象に慄いていたが、次の瞬間には元に戻っていた。あれ?私疲れているのかな?実は結構緊張してる感じ?……ま、まぁ、気にしないでいこう!うん!!人は溶けない!!!!

 

「で、でね!私そこでバイトしててね」

 

目線を合わせようとするたびに逸らされる。

す、すごい反応速度だ。

 

「ひとりちゃんって実は運動結構できる?」

 

「い、いえ……あ、でも、ドッジボールだけは最後まで残っていたので、得意です。たぶん」

 

「そ、そっか」

 

それ、たぶん当てにくかったんじゃ……。

やめておこう。それよりだ。

一度ちゃんと謝っておかないと。

 

「あー。その、ごめんね。急にこんなこと頼んじゃって」

 

「え、あ、いえ」

 

「デート中だったんでしょ?」

 

「デート……」

 

「……ひとりちゃん?」

 

止まってしまった。

あれ?違うのかな?天見くんって結構遠慮なくひとりちゃんに接していたし、それはそれは親しい間柄なのかなぁってぇ!!!

 

「ちょっ!崩れてる!!あ、風が!!飛んでいかないでひとりちゃん!!」

 

「……あ」

 

「うわぁ!!いきなり戻らないで!!」

 

「す、すみません」

 

どうやら落ち着いてくれたようだ。

ひとりちゃんって不思議な生態してるんだなぁ……。頼む相手間違えたか?

 

「あ、天見くんはその、私の介護的な感じを」

 

「え?介護?」

 

「あ、その、私がこんな感じなので、気を遣ってくれていると言うか」

 

「なる、ほど?」

 

よくわからなかったが彼氏ではないらしい。

ひとりちゃんよく見れば可愛いし、天見くんも男の子とは思えない顔だし並んでると絵に……なってたかな?絵はひとりちゃん側が暗かった気もしてきた。

 

「へへへ。私は武道館をも埋めた女」

 

やはり間違えたのだろうか?

それからすぐにSTARRYについてひとりちゃんを案内する。ふぅ…………。

早く合流しにきて天見くん!!!!

 

〜伊地知虹夏サイドアウト〜

 

 

 

〜後藤ひとりサイド〜

 

まさか天見くんと付き合っていると誤解されるとは……。そんなの天見くんに失礼すぎるし……私なんかがあんな良い人に相手してもらえるだけ本当にありがたいと言いますかこの先の運全て使い果たしていると言いますかていうかあくまで介護をしてもらっていてとととと友達なんて恐れ多いと言いますか私なんかがががが。

 

「おーいひとりちゃーん!?」

 

「はぁあ!!!」

 

「あ、気がついた。ここがSTARRYだよ。おっはよーございまーす!」

 

あ、この暗さと圧迫感……。

 

「落ち着く。私の家」

 

「私の家だよ!?」

 

だ、大丈夫です。

すこし取り乱しただけ。うん。

バンドする人なんて私と同類。インドアの集まり私と同じ大丈夫。緊張なんてそんな……。

 

「あ、おはようございますPAさん。ひとりちゃん。この人がPAさん。最近何故か明るい」

 

「……あ、おはようございます……」

 

どこが明るいの!?

なんかどんよりした暗いオーラが!!人のこと言えないけど!!それになんかこう、こう凄いから迫力が!!

 

「ひぃう!イイキってましたごめんなさい」

 

「あれ?なんかありました?」

 

あれぇ!?虹夏ちゃん!私を放っておかないで助けて!!

 

「いえ、ちょっと今日、家族の帰りが遅いというか、高校生活一ヶ月で彼女とか作ってたらとか、でもあの子可愛いしあり得るというかそんなの相手を軽く死……いえなんでも、チョコでも食べます?」

 

なんか怖いこと言ってますけどぉ!?

あ、あああ天見くん!やっぱり私には早かったんじゃ!!いや、場違いだったんだぁ!!

 

「食べまーす!」

 

「どうぞ」

 

す、すごい!

虹夏ちゃん、この人にも物怖じしないなんて!!

あ、私にもチョコありがとうございます。……いい人だ。

 

「やっと帰ってきた」

 

「あ、リョウ!」

 

!?

また新しい人が!?え?睨まれてる!?

 

「ご、後藤ひとりです!大変申し訳ありません!」

 

先手で謝ることにしてしまった。

 

「だ、大丈夫だよ!?リョウは表情が出にくいだけだよ。ちなみに変人って言ったら喜ぶよ」

 

「嬉しくないし」

 

嬉しそうだ。

……ベーシストかな?

それからはスタジオに移動して今日やるセットリストとスコアをもらった。……うん。これならできる。

まだ少し怖い。

だけど、これからまだまだ楽しいことがたくさん待っている気がする。

ドキドキとしながらも開始した演奏。

私はこれでもギターヒーローだ。それなりに上手い自覚もあるし、うん。大丈夫だいじょ……。

 

「「……ド下手だ」」

 

あれぇ!?!?

助けて天見くん!!!

 

〜後藤ひとりサイドアウト〜




今回で主人公がSTARRYにたどり着くはずでした。
でもやっぱりぼっちちゃん達の出会いはそれなりにちゃんと書いておこうと思い、主人公の出番を遅らせました。


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STARRYの皆さんこれからよろしくお願いします

主人公の印象が変わる……かも?いや、気のせいか。

そしてなんか知らんうちに多くの人が見てくれているようで。
ビビってます。お手柔らかにお願いします。


後藤さんたちと別れた俺は、コンビニへと向かう。

これから向かうライブハウスSTARRYは姉さんの職場であるのだし、やはり何かしらの手土産は必要なのではないか?と考えたからだ。つまり俺の目的はコンビニの壁にほぼ飾りになっている菓子折りである。

あれ、買う人いるんだろうか?って思っていたが俺みたいに急に必要な人がいるのだろう。いやぁ、需要とは色々な形であるものだな。

 

「あ、そのセットひとつ」

 

なかなかリーズナブルな値段だと思う。

こんな事、高校生が気にすることではないと思うのだが、何故だろうか?これから長い付き合いになる予感もあるためこの辺の挨拶は大切だろう。

店員さんに菓子折りを紙袋に詰めてもらい、軽くお礼を言って受け取る。さて、少し緊張するけど向かいますか。

 

「おっと、すみません。大丈夫ですか?」

 

コンビニから出たところで人にぶつかってしまった。……ん?この髪色とアホ毛、さっきまで見ていたような。

 

「あぁ、こっちこそ悪い。大丈夫だった?」

 

「大丈夫です。自分がよそ見をしていたので、すみません」

 

「…………」

 

「あの、何か?」

 

この女性、やたらと顔をジロジロ見られる。

そしてたぶん俺もジロジロと見てしまっている。

 

「いや、どっかで見たような気が……」

 

「……実は俺もどこかで見たような気が」

 

そして俺たちは、ほぼ同時にこう言った。

 

「姉いる?」

 

「妹います?」

 

…………。

いや待てよ?たぶん俺たちの気持ちはこれだろう。

 

「なんで姉知ってるんですか?」

 

「なんで妹知ってるのよ?」

 

何故か通じ合った瞬間だった。

……高校生になってからこんな事ばかりである。やっぱり高校生になると不思議な能力を手に入れるらしい。俺と後藤さんだけだとか言うのは無しな?

 

「「……あぁ、なるほど」」

 

またお互いに何かを察してしまった。

つまりあれだ。

この人は伊地知さんのお姉さんだろ?そして姉を知っていて、俺の事も知っていそうならおそらくだがSTARRYのスタッフさんだな。

俺、名探偵になれるんじゃね?……毎週下北沢で事件が起こるのだけは勘弁してほしい。

ていうか姉さん。俺の事職場の人に話してるのね?

 

「姉がお世話になっています」

 

「妹が何か迷惑をかけたようで」

 

「あ、これ。職場のみなさんとよければ食べてください」

 

「あ、どうもご丁寧に」

 

お互いにペコペコと頭を下げ合っているのだが……ここはコンビニの前である。

移動、しますか。

 

 

 

伊地知星歌さん。

この人は伊地知さんの姉であり、STARRYの店長さんだった。いや、ほんと姉がお世話になってます。そしてこれからたぶんですけど俺もお世話になるし、もっと言えば後藤さんがお世話になりますたぶん。そんな予感が今日はすっごくしている。

 

「ふーん。じゃあうちの妹とはそんな感じで会ったんだ」

 

「はい。俺の友達にいい刺激を与えてくれそうだなという打算もありましたが、思っていた通りになりそうでありがたい限りです。ですので妹さんにはこれからも俺たち二人でずいぶんとお世話になるかと」

 

今はSTARRYに向かいながら今日あった出来事を話している最中だ。あまりに変な出会い方をしたのもあり、この際全てぶちまけるかと思った俺は伊地知さんとの出会いや、後藤さんについて、そして俺の考えも全部話しておいたのだ。

 

「そーゆー事、直球で言えるのな」

 

「まぁ、隠してても印象悪いかなぁと。子供の考えることなんて、大人からしたらお見通しでしょうし。俺なんてこんな感じに捻くれたことしちゃいますしね」

 

「どうしよ。なんか聞いてた話と違うから戸惑うなこれ……」

 

「聞いてた話?姉さんですか?」

 

「そう。ずいぶん可愛い可愛いって言ってたよ。弁当まで作ってくれるって」

 

「それはまた……少し恥ずかしいですね」

 

想像できてしまった。

喜んでくれているのは知っているが、そこまでとは想像したことがなかったからな。嬉しい反面恥ずかしい。

そんな俺を気にする事なく……伊地知さん……?いや名前は姉妹で被るし店長さんと呼ぼうか。店長さんは話を続ける。

 

「だからなんか……ギャップに戸惑うよ。姉を骨抜きにしちゃうほど純粋で優しい天使みたいな子って聞いてたのに、簡単に友達やその日会ったうちの妹までも自分の思惑に巻き込んでるあたり、鬼みたいな事もできるんだなってな」

 

「あはは〜……すみません」

 

「それに高校生のくせに手土産って……。本当は何歳?」

 

「……何歳に見えます?」

 

「高校生には見えなくなりつつあるな。あと変に絵になる感じで聞くのやめときなよ?自分の顔を武器にしてるのがわかって少しイラッとするから」

 

「あはは〜ズバッと行きますねぇ」

 

……ずいぶんと話しやすい人だなと思う。

ついつい遠慮なく話してしまって、俺も加減が効きにくい。そろそろセーブしておかねばと気持ちを切り替えようとする俺。だがそこに店長さんは畳み掛けるように言ってきた。

 

「ていうかその友達、そんなに引っ込み思案な感じの子なら続くのか疑問だけど?」

 

「ん?後藤さんの事ですか?」

 

「そう。話を聞く感じ、今日の演奏もまともにできるか怪しいぐらいだしね。ステージの上での失敗って結構しんどいよ?」

 

まぁ、そうだろうなぁ。

こればっかりは俺には想像しかできない、わからない話ではあるのだが……だがしかし、後藤ひとりを舐めてもらっては困るのだ。

 

「まぁ失敗するでしょうね!」

 

「えぇ……。君ねぇ、失敗がわかってて引っ込み思案な友達をステージに叩き込んで、それに人の妹まで巻き込むって本当に何?悪魔なの?」

 

「いやいや、だって最初に大コケしてた方がいいでしょ?」

 

「いや、それで大怪我したら意味ないでしょうって」

 

「大丈夫です」

 

「はぁ……根拠は?」

 

そりゃあ一ヶ月見てきてますからね。

 

「後藤ひとりはあれで中々根性がありますよ」

 

嫌々ながらもちゃんと学校に来ているのだ。

俺は誰よりも近くで、この一ヶ月溶けながらも頑張っている彼女を見ている。ステージの上の失敗だろうと、なんだかんだで次へ繋げるだろう。

それに、伊地知さんは居なくなったギターを探すためだけに街中を駆け回る人だろ?あの人も情熱や根性はすごいと思う。

 

「それに、妹さんはライブでの失敗をずっと引きずって音楽をやめてしまうような子なんですか?」

 

「……んなわけないでしょ。てか、なに?人の妹を引き合いに出して喧嘩でも売ってる?言い値で買うよ?」

 

ここまで話してSTARRYの前に辿り着く。

 

「まぁ俺たちで話してても仕方ないでしょう?後藤さん達がこれからも音楽を、ロックを続けるかはこれから見れますよ」

 

「……なんか、君、本当に最初のいい子の印象がなくなってきたよ」

 

「そうですか?」

 

「そうだよ。高校生じゃなく悪魔に見えるわ」

 

「あはは。ロックに悪魔はつきものらしいですね」

 

「階段下で言うな。そこだと影になってるせいで妙な迫力あるからね?」

 

「えー?」

 

そして二人でSTARRYへと入る。

何故かわからないがワクワクとするこの感情はなんなのだろうか?これから始まることへの興奮だろうか?

 

「は?店長なんで音寧くんと一緒なんです?え?ひっかけたんですか?は?」

 

「え!?怖い怖い!何、何なのいきなり!!ちょっ!音寧くん助けて!これどうにかして!」

 

「音っ!?なんで音寧君の名前呼んでるんですか店長でも事と次第によっては」

 

……まずは姉をどうにかしよう。

いきなり迷惑をかけてごめんなさい店長さん。

 

 

 

何故かいきなり荒ぶり出した姉さんを、なんとか止めることに成功した俺である。……ていうか、ですね?そんなに抱えられたら、周りの視線がものすごく恥ずかしいといいますか。

だからそろそろ離してね?そして仕事に戻りなさい。

 

「ねぇ、ここでイチャつかれると困るんだけど?」

 

「えぇ〜店長そんな、イチャつくとかそんな」

 

「え?そんな嬉しそうな顔、初めて見たわ」

 

「姉がご迷惑をおかけします」

 

やはり菓子折りは正解だった。

カウンターにある椅子に座る俺、そこに後ろから抱きつくように引っ付いてくる姉。なにこれ?あの、いつもこんな事しないから何かこう、恥ずかしい。

 

「それで、音寧くんはどうしてここに?まさか私に会いに来てくれたんですか?」

 

「いや、友達の付き添い。すっごいビビリな女の子が来なかった?ギター背負ってるんだけど」

 

「……女の子?……友達?」

 

「そう、友達」

 

「……へぇ、友達ですか。来ましたけど、今はスタジオで練習中だと思いますよ?」

 

どうやら無事に辿り着いていたらしい。

伊地知さん、本当にお疲れ様でした。

 

「なぁ、音寧君よ」

 

「はい?」

 

少し安心している俺に店長さんが声をかけてきた。

あ、姉さんそんな勝手にジュースを……お代は姉さんの給料から天引きでお願いします。

姉さんからコーラを受け取りながら話を聞く。

 

「これ、いつもこんな感じなの?」

 

店長さんが姉さんを指差しながらそう言う。

いや、こんな感じじゃないんですけどねぇ……。たまに奇行はあるけど、もう少しまともというか。うん。

 

「いや、なんかおかしいです」

 

「仕事してくれるか心配なんだけど?」

 

あぁ、なるほど。

お任せあれ。

 

「姉さん」

 

「何です?他のも飲みます?あ、音寧くんが買ってきたお菓子食べますか?」

 

「姉さんのPAって仕事を見たいなって。カッコ良さそうだし」

 

「任せてください!」

 

シュババっと、何か機材が置いてあるスペースに入り込む姉さん。……え、はっや……何あの速度。

 

「これで大丈夫ですね」

 

「やっぱ君怖いわ」

 

「えぇ〜?」

 

「さっきといい、絶対わかってやってるでしょ?」

 

この短時間の間に店長さんとは色々ありすぎたようで、印象はマイナスになってそうだな。最近の俺にとっては珍しく新鮮である。昔は〜いいや、この話は置いておこう。

しばらくジュースを飲みながらボーッとしていると、店長さんは仕事の為に席を離れて行った。そして入れ替わるように姉さんがやって来る。

 

「そろそろ始まりますよ」

 

「あ、姉さん」

 

「初のライブハウスを楽しんでくださいね」

 

「うん。最近興味あったし楽しみにしてるよ」

 

「私の仕事もしっかりと見ていてくださいね?あ、私の横に椅子持ってきます?」

 

「ここで見るから大丈夫」

 

ほらほら、さっさとお仕事に行ってください。

しっかりと自分の仕事をしない人はカッコ悪いよ」

 

「あ、はい」

 

「あ、声に出ちゃった」

 

少し落ち込んだ姉さんを見送り、初のライブハウスでバンドを楽しむ事にする。ライブハウス特有?の空間と、周りの熱が上がってきているように感じてワクワクドキドキと興奮してくる。

あ、伊地知さんだ。もうひとりはわからないがベースを持ってい……え?完熟マンゴー?なにあれ?

 

「え?」

 

三人目に完熟マンゴーのダンボールが出てきた。

いや、本当になにあれ?え?後藤さん?

……………………。

 

「初めまして〜!結束バンドでーす!」

 

「は!?」

 

しばらくフリーズしてしまったが、伊地知さんの挨拶で我に返る。

そして演奏が始まり、完熟マンゴーからギターの音が……ご、後藤さん……。

 

「流石にそれは……完熟マンゴーは……ないよ」

 

「……え?マンゴー知り合い?」

 

いつの間にかドリンクカウンターへ戻ってきていた店長さんの声が俺の頭に響いたのだった。

 

「あぁ、あれが根性がある後藤さんね」

 

……うわぁあん!!

君のためにカッコつけたのに!バカァ!後藤さんのバカァ!!!

揶揄うような店長さんの声。顔を見る事もできなくなった俺はカウンターに突っ伏してしまうのだった。

 

「ひぃ!!ちょっ!音寧くん!見てるから、こっちに殺気飛んできてるから何とかして!いやちがう!虐めてないから!その親指で首切るみたいなジェスチャーやめて!あれどうにか……って音寧くん?音寧くん聞いてる!?」

 

知りません聞こえません。

俺は今、どう後藤さんのフォローをするか考えるのに必死なのです。

……大丈夫だよね?ね?後藤さん?




あ、明日から、仕事、頑張りましょう……。


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深まる友情、そして出会いは最悪で

うぇーい!
八時間残業イェーイ!!!
くそがぁ!!!

それは置いておいて、こんな筈ではなかったんだ。


当たり前。

そう言っては可哀想だとは思うのだが、後藤さん達の演奏はそれほど上手いとは言えなかった。まだ知っている曲だったから何となくわかるのだが、全員のミスが多いし、少し早くて合っていなかったり。

先程結成したばかりのバンドだから仕方ないのだろうな。これからに期待である。

そう思い、無理矢理にでも完熟マンゴーを記憶から消そうとする俺である。そんな俺に店長さんが声をかけてきた。

 

「あのクオリティなら音寧君もボーカルとかで出ればよかったんじゃない?」

 

「いやいやいやいや、ガールズバンドに入る勇気はありせんって」

 

「へー。後藤さんとやらは自分の性格を押し込めて頑張ってるけどね」

 

「うぐぅ……」

 

「もしかして、逃げた?」

 

「うがぁ!!!」

 

いや、そんなことはない。

というかバンドに入ってボーカルをすると言う考えすらなかった。だから、決して、逃げたとかじゃ。

 

「店長。音寧くんを虐めるのはやめてくださいね?」

 

「あ、はい。ごめんなさい」

 

「姉さん……!逃げたんじゃないんだよ俺」

 

「わかってますよ」

 

「弟も怖いけど、落ち込んでる弟をそんなアレな笑顔で慰めれる姉も怖いわ」

 

「なにか?」

 

「なんでもないです」

 

失礼な。

美しい姉弟愛と言ってほしい。

とまぁ、おふざけはこの辺にしておき後藤さんのお迎えに行くとしよう。店長さんに居場所を聞いて移動を開始。姉さん?仕事もあるだろうし、店長さんに押し付けた。

そして教えてもらった控え室のような場所へと向かう事にする。後藤さん、落ち込んでなければいいのだが……この過酷な谷に突き落としたのは俺だし、場合によっては盛大にフォローをしなければ。

 

「ご、後藤さ〜「次のライブまでにはクラスメイトに挨拶できるぐらいにはなっておきます!!」後藤さん!!」

 

「ひぇ!?あま、天見くん!?」

 

「うぉ!?天見くん!?どしたぁ!?」

 

「え?虹夏、誰これ?」

 

「すごいじゃん!そんな決意ができるなんて!よかったよぉ!」

 

安心したぁ!!

俺、最悪引きこもりになってしまったらって心のどこかでは思ってたし!そうなれば高校辞めてでも責任を取らなければって!高校辞めないでいれてよかったぁ!!正直に言うけどめちゃくちゃ胃が痛かったんだよぉ!!

 

「最悪、後藤家の庭にテント立ててずっと寄り添うつもりだったよぉ!」

 

「え、えぇ!?何でですか!?」

 

「あ、伊地知さん。後藤さんの面倒ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

 

「急に戻った!?」

 

「なにこれ面白い」

 

取り乱してしまった。

ここで俺はベースを持っていた人に挨拶をしておく。この人のは山田リョウというらしい。

ちょっと変わっているらしいが、それも後藤さんにとっていい刺激になるだろう。多少ね、変わってるぐらいがいいのよね?後藤さんの相手は普通の人間には荷が重……あれ?じゃあ俺って一体……。

考えるのはやめよう。

 

「と、とりあえずさ!今からみんなでぼっちちゃん歓迎会とライブの反省会しよっか!」

 

ぼっちちゃん?

うぅ……!あだ名までもらって!!

少しばかりアレなあだ名だが、本人は嫌がってなさそうなのでこの件はスルー。というか伊地知さん、いや虹夏さん!……申し訳ないけどそりゃ無理です。

 

「あ、今日は人と話しすぎたので、これで帰ります。もうキャパオーバーです」

 

「え?」

 

「眠い」

 

「えぇ!?」

 

「あ、後藤さん送るよ。あ、虹夏さんまた来ます!!お疲れ様でした!」

 

「天見くんまで!?」

 

お世話になったというのに、こんな雑な別れになって申し訳ない。だがしかし、今の後藤さんから目を離せば俺如きなど一瞬で置き去りにされるのである。この子、人外の動きする時あるから。ほら、今も自分の荷物一瞬で持って消えるし。

……あ、姉さんと店長さんに挨拶してない。

姉さんには後でメールして、店長さんにはまた今度謝ろう。サッと荷物を持って遅れてSTARRYから出る。

 

「あ、ご、ごごごめんなさい……!」

 

「待って待って速いって」

 

通行人とぶつかってしまい、謝り倒している後藤さんに追いついた。俺も一緒になって謝り、その場から後藤さんを連れ出し駅へと到着。

 

「……あ、天見くん」

 

「後藤さん!」

 

「は、はい!!」

 

「今日はごめん!君の性格とかを分かりながら色々と、無茶させてしまった」

 

「い、いえ、そんな!頭あげてぇ!」

 

頭を下げた俺に肩を掴み、無理矢理顔を上げさせる後藤さん。……結構力あったね。

 

「そ、その、むしろお礼を言うのはこっちで」

 

「え?」

 

「バ、バンドはずっと組みたいって思ってて、けど、そんな機会なんて無いのは天見くんならわかる、よね?」

 

「ま、まぁその、うん。わかるね」

 

その、ごめんフォローできない。うん、としか言えない。ちゃんと自分のこと客観的に見れて偉いね!とでも思っておくほうがいいのだろうか?失礼か。

 

「だから、すごく良いきっかけだったなって!だから謝られるのは違うっていうか、む、むしろこっちがお礼を言うべきというか……あ、ありがとうございます」

 

「後藤さん……」

 

「それに、学校でも、助けてもらってるし、ちゃんとお礼言いたかったんです」

 

そっか。

そんなふうに思ってくれていたのか。

だが後藤さんよ。

 

「いや、友達なんだから助けるのも背中押すのも当たり前だろ?」

 

「…………え?」

 

というかやっぱり後藤ひとり係なんて名前が悪い。

言ってくる奴にはやめろよとは言っているが調子乗りの辺りが止めることはあまり無いし、後藤さんが変に気にしてると嫌だなぁと思っていたのだ。この感じはやはり気にしていたようだな。……あいつら一度シメるか。

決意を新たにする俺だったが、後藤さんがフリーズしている事に気がつく。ど、どうした?

 

「友、だち?」

 

え?

なになに?なんか変だけど?

 

「イエス友だーち」

 

「ともだーち」

 

「イェーイ」

 

「イ、イェーイ」

 

なんか青春してるなぁ俺。って思ってしまい少し恥ずかしくなってきた。だから少しふざけてハイタッチなんてしてみ

 

「イェエエエイ!!」

 

!?

 

「「誰ぇ!?」」

 

「あ、やべ。大声出してたら……あ、でるウェッ」

 

「うわぁぉぉあ!!!」

 

「だ、だだだだだ!!」

 

急に現れた酔っぱらいが盛大に駅前を汚したのだった。

 

 

 

「とりあえずメッセージは送ったし、これでよし」

 

目の前でうずくまっている酔っぱらいを見ながらスマホをしまう俺。

……はぁ、あれから大変だった。

まずあまりにあんまりな出来事に俺と一緒に慌てている後藤さんだったが、彼女は帰らせないと帰宅時間が遅くなりすぎるため、とりあえず改札の向こうに放り込んだ。ちゃんと親に連絡しておくように言っておいたが大丈夫だろうか?後藤オーラでマイナスになってしまうが普通に可愛いからなあの子。心配である。

 

「うぁぁぁああ…………頭いだい」

 

と、今はこっちだった。

それから俺はこの酔っぱらいを見捨てるのは鬼すぎると思い、途中まで後藤さんを送っている事にしてるという嘘メールを姉さんに送り、しばらく帰宅を遅らせたのである。

酔っぱらいに絡まれているなんて知ったら飛んできそうだしな。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ご、ごめんねぇ〜。君たちの青春の輝きに、つい私も酔った勢いで混ざりたくなってヴェェッ」

 

「あー……もう気が済むまで吐いちゃってください」

 

「ご、ごめ……ここまでは、滅多にならないんだけどウェッ」

 

しばらく横で背中を摩りながらついていてあげる事にした。どうしよこれ……。

とりあえず水とか酔い止めとかほしいけど……あぁ、先に後藤さんに買ってきて貰えばよかった。

なんてことを思いながらもお姉さんの背を摩り続けてしばらく経った頃……。

 

「大丈夫ですか?」

 

「う〜ん。とりあえずマシにはなったよ。面倒かけちゃったね、ごめんねぇ」

 

「とりあえず水とか買ってきますから、ちょっと待っててくださいね」

 

「え?いいのぉ?ありがとぉ」

 

そして俺は駆け足でコンビニへと向かう。

酔い止めと水を二本ほど買ってお姉さんのところへと戻る。だが、そこで俺は信じられないものを見る事になった。

 

「あ!おっかえり〜!」

 

「……」

 

「いやぁ、ごめんねぇほんと」

 

「……」

 

「ん?なになにぃ?どったの?」

 

落ち着け。

天見音寧、クールになろう。

 

「いやぁ、にしても空きっ腹に酒流し込むとダメだねぇ!最近金欠だから食費削りながら節約してたんだけどさぁ〜あ、君も呑む?って、学生はダメかぁ!あっはっは!!でも見てよこれ!私ぐらいになれば迎え酒で何とでもなる!すごい私!真似して良いよ〜」

 

「は?」

 

プツンときた。

俺はお姉さんからパック酒を取り上げる。

 

「あ、ちょっ!じょーだん!ダメダメ呑んじゃ……あれ?お、怒ってる?」

 

「そう見えます?」

 

「ひゃい」

 

「なんでか、分かります?」

 

「え、その」

 

「酒飲んでるからだよどこから出したこのアル中。いいから水と酔い止め飲めや」

 

「ごめんなさいいただきます」

 

そう言って俺が渡した薬と水を大人しく飲み始めるお姉さん……いや、アル中。

はぁ、今日一日に色々とありすぎて、そろそろ俺もキャパオーバーで爆発してしまいそうである。つい乱暴な口調になってしまった。

 

「ごちそうさまでした」

 

「はい」

 

「……んで、君の名前は何てーの?」

 

「えぇ……名乗りたくない」

 

「私の名前は廣井きくりでーす!酒とベースを愛する天才ベーシストでーす!」

 

名乗られてしまった。

なら名乗り返さねば無礼というもの。

なんて適当に考えながら廣井さんの隣に座り、名乗る事にした。

 

「天見音寧でーす。酔っ払いの面倒を見てまーす」

 

「お世話かけまーす!ねぇねぇ音寧ちゃんはさ?高校生でしょ?何年生?てか連絡先交換する?」

 

まだ酔いはひどいらしい。

これはサッサと対処していくほうが良さそうだ。

 

「一年です。それとしません」

 

「えーケチー」

 

「とりあえず廣井さん。スマホあります?」

 

「え?やっぱ交換するの!?」

 

「違います。アンタの親しい人とかに迎えにきてもらわないと、そんな状態で帰れないでしょ?」

 

「あぁ、なるほどね。えっと、スマホ〜スマホスマホ〜……」

 

「まさか」

 

「あ、たぶん居酒屋だぁ……。ついでにベースも置いてきちゃったぁ」

 

こっっっの!!

……はぁ、酔っぱらいには怒っても疲れるだけだって学習したよね。

 

「番号わかります?」

 

「んー?わかるわかる!!任せなさい」

 

廣井さんに俺のスマホを渡す。

番号を口に出しながらスマホをタップして電話をかけだした。

 

「あれぇ?出ないなぁ」

 

「……番号あってます?」

 

「んー?……あ、私の番号だ」

 

「えぇ……」

 

結局番号を知られてしまった。

わざとじゃなかろうか?

 

「えへへぇ、次は大丈夫大丈夫…………あ!私私!今〜……ここどこ?」

 

「下北沢の駅前」

 

「だってさ!え?下北沢の駅前だって!迎えにきてくれない?え?だめ?ならもう音寧ちゃんの家に泊まっちゃうか!」

 

「は?」

 

「え?誰って?高校生一年生の可愛い子、今看病してもらってる、うるっさ!ごめん冗談だって、じゃあ待ってまーす」

 

どうやら誰かが迎えに来てくれるらしい。

 

「あはは〜怒られちった。迎えに来てくれるって〜」

 

「それは良かったです」

 

「ありがとねぇ。音寧ちゃんも、もう帰っても大丈夫だよ?結構長く付き合わせちゃったし、女の子だし門限とかあるでしょ?」

 

あ、やっぱり女の子って思ってるのか。

……訂正するべきだろうけど、ここまで泥酔している人になに言っても無駄か。

 

「いや別に、お姉さんこそしばらく一人で大丈夫ですか?そんなに酔ってて一人って、絡まれでもしたら危ないですよ?」

 

「こんな泥酔してる人間をわざわざ相手にするのって君か警察ぐらいだよね!!それに駅前だしそれなりに人通りもあるし大丈夫だって」

 

「……知り合いはどのぐらいでくるんです?」

 

「んー?多分二、三十分ぐらい?」

 

「じゃあ十五分ぐらい居ますよ」

 

「えー?そんな優しくされたら惚れちゃうかもよ〜?」

 

「ははは〜」

 

はぁ、とため息。

本当に色々と疲れたのだろう。ほぼ無意識だった。

 

「あ」

 

「……んグゥッ!!ゲホッゲホッ!まず!」

 

お姉さんから取り上げたお酒を飲んでしまった。

喉が渇いたなぁ。なんて思ってたのもあり、結構な勢いでそれなりの量を飲んでしまった気がする。

 

「……呑んじゃったねぇ?」

 

「うぐっ!」

 

「ほらほら、こっち返しな?」

 

くっ!!

なんか一気に強く出れなくなってしまった!

俺は大人しく廣井さんにお酒を返す。

 

「ほら、今日はもう帰りな?アルコール回って帰れなくなったりしたら嫌でしょ?」

 

「……はぁ、わかりました」

 

「よし、良い子だねぇ!そんな良い子なら今回の飲酒は見逃してあげよう。色々看病もしてくれたしね」

 

「はぁ、そうですか」

 

「だからこれは、君とお姉さんとの二人だけの秘密ってわけだ」

 

「……は?」

 

「なーんて。あっはっは!」

 

一瞬、廣井さんの雰囲気が変わりびっくりした。

だが次の瞬間には元に戻り、俺も酒に酔ったのかとつい思ってしまう。

 

「あっはっは!じゃあねぇ〜音寧ちゃん!気をつけて帰るんだよぉ!大人になったら一緒に呑もうねぇ?」

 

そう言って背中を押されて立ち上がる。

 

「じゃあ、帰りますけど。廣井さんも気をつけてくださいね?あと、飲酒はほどほどに」

 

「はーい。考えておきまーす!あ、また連絡するよ!」

 

「泥酔してる時はやめてください」

 

「うぇーい!了解でーす!」

 

はぁ。本当に大丈夫なんだろうか?

……にしても、最後、不覚にも少しドキッとしてしまった。くそう、酔っ払いのくせに。あんなにガラッと雰囲気を変えられるとギャップに戸惑うだろうが。……いや、やっぱ酒臭い人はねぇわな。

 

 

 

帰宅後。

 

「……変な匂いがします」

 

「気のせいでしょ?」

 

「顔、赤いですけど?」

 

「気のせいでしょ?」

 

やけに鋭い姉さんを誤魔化すのに苦労した。




なーんできくりちゃん登場してんのよ?
ぼっちちゃん達にイェーイってハイタッチさせようとしたら何故か急に出てきた。
そこからは楽しくなってきて、出番が前倒しになってしまった。
貴女の登場はもう少し先で考えてたんだけどね?何でかな?
こんな筈ではなかったんだ。
ふぅ……寝ます。


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会議は進まないものである

四日間の働いて、残業して、気がつけば二十時間以上の残業。
コツコツと書こうと思ってはいたが体力優先の為すぐに寝てしまう毎日。
定時が欲しい。


いきなりだが明日からバイトをする事になった。

バイト先はSTARRYで、付き添い?保護者?通訳?……友達としてと言っていたほうがいいか?と、とにかく後藤さんと一緒にお世話になる事になった。

最初は断ろうと思っていたのだ。

学生兼主夫?のような事をしている俺にとって夕方とは戦争である。この一ヶ月の間は後藤さんと一緒に帰る日もあれば、スーパー半額セールに走っている時もある。

俺は店内で主婦の叔母様や金欠学生、仕事が早く終わっていそうな人達と鎬を削っているのだ。それはもうバチバチと威嚇しながらだ。

たまに後藤さんを連れ出して、卵や牛乳を多く獲得するために協力もしてもらったことも何回かある。……ただ、うん。簡単に想像できると思うのだが、スーパーから出ると後藤さんは虫の息だ。だがちゃんと報酬に何か甘い物を奢っているので許してほしい。スーパーの前に来ている移動販売のクレープとか。……ん?結局高くついてないか?

まぁ置いておこう。

そんなわけで日々姉さんに美味しい食事をと思っている俺にとって、夕方に長時間の拘束をされるバイトは厳しかった。厳しかったのだが……。

 

『だからバイトしたらご飯作る時間がなくなっちゃうし。ね?おかず減っちゃうよ?』

 

『食事の一品が無くなるよりも!音寧くんと仕事がしたいです!!というわけで採用です!!!』

 

『あれぇ?』

 

最終的に姉さんの強行採用通知が出てしまったのだ。店長さんの「あれ?私が店長だよね?」と言う小さな呟きは、おそらく俺しか聞こえていないだろう。

諦めた俺は店長さんに、うちの姉が申し訳ないが、弟の事もよろしくお願いしますね?なんてにっこり笑顔で言ったら笑顔が怖いなんて言われてしまった。

と、ここまで詳しく説明をしたが、その時のことを振り返ってみよう。

そう、それは数日前のことだった。

 

「音寧くーん!シャンプーないでーす!」

 

……姉よ、邪魔をしないでほしい。

とりあえず回想の前に、詰め替え用のシャンプーを風呂の扉の前に放り投げた俺であった。

 

 

 

お昼ご飯を食べ終えた昼休み。

何も変わりないと思っていたのだが、非常に珍しいことが起こっている。

 

「あ、あの。天見、くん?」

 

「…………」

 

「あ、え、あ、どどどうしたら、あば、あばばばば!」

 

「あ、ごめん待ってバグらないで!!!無視してないごめん!!」

 

「あ、はい。……天見くんに無視されたら、この先の人生、どうしたらいいかと思いました……」

 

「いや、人生って……せめて高校生活にしようよ」

 

後藤さんから話しかけられたのだ。

いや、たまにはあった。だがそれは会話のキャッチボールが絶対に続かない内容なのだ。

過去の酷い例を挙げてみよう。

 

『きょ、今日いい天気ですね』

 

『だねぇ。こんな日はポカポカしてて眠くなるよね。後藤さんは晴れの日は好きなの?』

 

『いえ、別に……割と何でも』

 

頭を抱えてしまった俺は悪いだろうか?

どうしろと?そっかとしか言えんわ!!

後藤さんから話しかけられた時は、それ以上の広がりを作れないことが多かったのだ。ここから無理に話を続けた事はあるが、五分ぐらいすると後藤さんはバグる。どうも無理な会話をさせているという罪悪感が膨らみすぎるらしい。

……話がそれた。

 

「そ、それで、もう一回だけ聞かせてくれない?」

 

「あ、はい。その、私と一緒にSTARRYに行ってほしくて、虹夏ちゃんに今後のバンド活動について話し合うから集合してねって言われたので……私だけだったら緊張しちゃうから、天見くんにもついてきてほしい……な、と。あ、でも天見くんスーパーが」

 

長文!?

それに後藤さんからの話題を広げられる会話!!

そしてついてきてほしいというお願い!!

信じられないが、に、虹夏ちゃん!?名前!?

俺の涙腺は限界を迎えそうになる。この一ヶ月の苦労が報われた瞬間だった。音楽は、人を成長させるのか。ロックって、すげぇや。バンドって、偉大だわ……!

っと!馬鹿な事を考えないで答えないと!!

 

「スーパーなんていつでも行ける!!ふぅ……うん。もちろん俺でよければご一緒させてよ」

 

危ない、勢いが強過ぎてしまった。

圧が強くなりすぎると後藤さんが萎縮してしまう。そのため、一呼吸置いて気持ちを抑えておく。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

喜んでもらえたようで何よりだ。

あ、ごめん。やっぱりスーパーには寄らせてね?たまご補充しないとないんだよね。弁当を作っていたら分かるのだが、たまごとは意外と消費するのである。

そして割とどうでもいいのだが、弁当に卵焼きを入れないと姉さんが拗ねるのだ。実にお世話のしがいがある姉だな。

そして放課後。

俺達二人は買い物を終えてSTARRYへと到着したのだ。……したのだが……。

 

「は、入らないの?」

 

「こ、これって勝手に入っていいものなんですか!?」

 

「いいと思うけど。……え?なんかダメなの?虹夏さんが外で待っててとか言ってた?」

 

「だ、だって!私なんかが勝手に入ったりしたら不審者扱いになって不法侵入からのお巡りさんのお世話に!……ん?虹夏さん?」

 

「うん。虹夏さん」

 

「……」

 

どうしたのだろうか?

急にフリーズし始めたが……?

 

「名前!!??」

 

「!?」

 

びっくりした!!

こんな狭い空間で叫ばないでほしい。

耳がキーンとなるからね?

それにしても名前って、虹夏さんの事か?いやまぁ、この間勢いと流れでつい名前で呼んでしまったからな。自分の中で伊地知さんと呼ぶのはもうなさそうだし、ていうか呼びにくい伊地ッ!!って舌を噛みそう。

 

「えっと、二人で何してるの?」

 

「ぼっち、すごい声だった」

 

虹夏さんと山田さんが現れた。

いやもう、二人揃って不審者です。ごめんなさい。

 

 

 

大騒ぎしたのを後悔し、バグった後藤さんを連れて四人でSTARRYに入り、テーブルを囲んで席に着く。そして虹夏さんが飲み物まで用意してくれた。ありがてぇ。

 

「それでは!第一回結束バンドメンバーミーティングを開催しまーす!拍手!」

 

虹夏さんの掛け声に対して、なんとなく掴みどころがなさそうな山田さんが意外と素直に拍手をしている。後藤さん?拍手しようとしていたが、一度フリーズしたせいで出遅れてタイミングを逃したよ?俺?いや、楽器弾けないしメンバーというか外部の人間だろ?

 

「虹夏」

 

「何?」

 

「結束しないね」

 

「私も思ったけどそこはツッコマない!……さて、気を取り直して〜と言いたいところだけど、まずはちゃんとお互いを知るところからかな。前はすぐ解散しちゃったしね」

 

まぁそれもそう。

だがしかし、後藤さんは手強いですよ?

ちゃんと自分の事を紹介しながら円滑に話を広げられると思って……。

 

「それで、今日はこんな物を用意しました」

 

「じゃん」

 

取り出したるは話題を書いたサイコロ。

バンジージャンプはスルーしておくが、百獣の王がマスコットな某番組を思い出す。

風邪で学校休んだ時とか適当につけてたテレビで見たことあるな。気を遣って一緒にいてくれた姉さんと色々な話をしたのも思い出した。

そんなちょっとした昔のことを思い出しつつも俺は感動に震えている。さすが虹夏さん!やべぇ、俺の中でこの人の株が爆上がりしてしまっている。

 

「リョウと話したんだけどね。ぼっちちゃんはこうやって話題を決めた方が話しやすいかなって……どした?天見くん」

 

「虹夏さん。山田さん。ありがとう、ありがとうございます。これからも後藤さんの事、よろしくお願いします」

 

「よ、よろしく、お願いしますぅ」

 

「あ、はい」

 

「何この状況」

 

しばらく変な空気感になってしまったが、気を取り直してサイコロを振ることに、そして出てきたのは学校の話。つまりは!

 

「せーの」

 

「「がこばな!」」

 

「え?え?」

 

「なんでそんなに息ぴったり?」

 

イェーイと虹夏さんとハイタッチ。

後藤さんは取り残され気味でオロオロしてるし、山田さんはマイペースである。うん、ちょっと落ち着くわ。とりあえず話を広げていこう。

 

「お二人は同じ学校ですよね?」

 

「うん、下高」

 

「二人とも家が近いから。ぼっち達二人は、秀華高校だよね?」

 

「そうですね。俺は家も近いですし、色々と理由もあって秀華高校に行きましたね」

 

「あ、天見くんとは同じクラスで、お世話になってます」

 

「へー。ぼっちちゃんも秀華高を選んだ理由は家が近いからとか?」

 

あ、虹夏さん。

仕方ないとはいえ、いきなりそこを踏むのかと思った。いや、後藤さん相手だと、どこもかしこも問題が出てくる話題だらけの地雷原だ。早めに洗礼を受けてもらうとしよう。

 

「あ、家は片道二時間です」

 

「え!?二時間!?」

 

あ、あ……。

 

「ぼっちは秀華に何か行きたい理由とかあった?」

 

…………。

 

「……高校は誰も自分の過去を知らないところに行きたくて……」

 

さすが後藤さん。

場の空気を一瞬で自分の色に染め上げた。この辺りはもう、プロの犯行だと思う。悲しいプロだ。

 

「はい終了!!がこばな終了!!」

 

「ぼっちらしい」

 

「ていうか天見くん知ってたよね!?教えてよ!なんかいきなり躓いた感じじゃん」

 

「ははは。この程度、後藤さんと付き合っていく上ではあいさつみたいなものですよ」

 

稀によく人外じみてるし……。

 

「え?」

 

「ちなみに俺は慣れました」

 

「…………き、気を取り直して次!!」

 

後藤さんのあんまりにあんまりな理由でワチャワチャしてしまった。だが、この程度でいちいち止まっていては日が暮れる。お二人には早いこと慣れてほしいものだ。

この後も山田さんがボッチなのではなく、一人行動が好きというのがわかり後藤さんが落ち込んだり、好きな音楽の話では後藤さんの答えが青春コンプレックスを刺激しない歌とか言い出して場を支配したりと、後藤さん……もう才能だよこれ。

 

「ぼっちちゃんが向こうの世界から帰ってこない」

 

「まぁ、こうなると少しかかるので先に話を進めましょうか」

 

「そだね」

 

「とりあえずバンドのミーティングと言うことなので一応聞きますが、ボーカルは居ないんですか?」

 

このままではミーティングが進まないと思い、少しでもバンドに関係がある話を進めることにした。正直、今は日常的な話題をすると後藤地雷に引っかかるので、引き戻すのにいちいち時間がかかりすぎるよりは多少放っておいても進めたいのだ。

帰って家事をしたいし、いつまでも長くは居られない。

 

「あー。それなんだけどね」

 

「多分もう……」

 

え?何この重たい空気?

……まさか。ボーカルの人はもう……。

もしかして、結束バンドってだいぶアレなバンドなのか?……間違えたところに後藤さんを放り込んでしまったかもしれない。




ごめんなさい。
リョウのセリフが少ないです。
リョウ自身のキャラ、そして原作を読めていない事もあり掴みにくい。
虹夏ちゃんはしっかりと動いてくれる子なんだけどなぁ。
ぼっちちゃんもキャラ濃すぎる事もあり、割と動いてくれる。
だがリョウよ。どうしたらいい?どうしたら動いてくれる?
必ずなんとかしますので、リョウに関しては勘弁願いたい。


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こうしてバイトをする事になったのだ

休み。休みだよ。
昨日帰ったら気を失ったように寝てたよ。
床で…………。体バキバキで痛い。
とりあえずFGOしよ。


「逃げたんだよねぇ〜……」

 

「多分どこかで行き倒れて今はもう……最近は毎日手を合わせてる」

 

「勝手に殺さない!!」

 

……あ、死んでないのね。

なんかそんな感じの空気感だったから、ボーカルについて聞いたのはまずかったかと……。はぁ、地雷原はここにはなかったようで安心した。

 

「あ、えっと」

 

「おかえり」

 

「あ、はい。えっと」

 

「後藤さんボーカルやってみる?」

 

「無理です!!」

 

元気でよろしい!!

コーラに口をつけて一度喉を潤す。

さっきの空気感のせいで変に緊張してしまったが、炭酸のおかげもあり少しスッキリとする。

さて、話を続け

 

「じゃあ天見に歌って貰えばいい。少し低めだけど高音もいけそうな声も綺麗だし、きっといける」

 

「は?」

 

「あ、それいいね!って事でどうかな!?」

 

「普通に嫌です。後藤さんそんなに首ブンブン振らない。そんなに同意してもやらないからね?ほら、首痛めるよ?」

 

後藤さんの頭を掴んで首を固定。

あ、いや、だから力強っ!!

俺が首振り人形後藤さんと格闘している中、虹夏さんは気にする事なく尋ねてくる。

 

「音痴とか?」

 

「いやぁ、どうでしょうか。それなりに上手いとは言われますが」

 

「だったらやってみる」

 

山田さんまで……。

仕方ない。家のことだから話すつもりはなかったが、話さないことには納得してもらえなさそうだ。

 

「あー。実は俺って姉と二人暮らしなんで、あんまり長時間拘束されるようなことは出来ないんですよね。ほら、バンドなら練習とかしっかりあるでしょう?」

 

「え、うちもお姉ちゃんと二人で暮らしてるよ」

 

「え?マジです?」

 

虹夏さんは店長と二人暮らしなのか。

あまりそんな人が周りにいたことがないので新鮮である。まぁ、俺も姉さんとこの春から二人暮らしなんで、周りにいても割とどうでもよくて気にもしなかったんですけどね。

……ん?あれ?条件が一緒の人がいるし、断りにくくなってない?

 

「虹夏と条件一緒だし大丈夫」

 

「いや、家事とかがですね」

 

「天見くんのお姉さんは全くできない感じなの?」

 

「そう言うわけでは」

 

「ちなみにうちは基本できない」

 

「マジかよ」

 

「ご、ごめんなさい。私もできないです」

 

「あ、うん」

 

「大丈夫ぼっち。私も基本しない」

 

何故か後藤さんと山田さんが自爆してしまったが、気にしている場合ではない。これはマズイ。実にマズイ。

だいたい、俺は家に帰って色々としたいの……ダメだ、虹夏さんのせいで何を言っても言い訳にしかならない。ならばなんとか話題を変えていくしかない!

 

「に、逃げたボーカルについて聞きたいなぁって!」

 

「「目の前にいる」」

 

「俺じゃねぇよ!!」

 

「あはは。まぁギターボーカルとしてやってくれるはずだったんだけどねぇ。だからうちのバンド、本当はギターもいなくなってて、あの時ぼっちちゃんに会えて本当に幸運だったよ」

 

「虹夏、一生分の運使ったんじゃ?」

 

「え?うっそ、もう運使い切ったの?それは嫌なんだけど……うん、まぁ今はいいや。天見くんもいきなり言われても決められないだろうし、気にしないでいいよ」

 

「甘い、虹夏。さっきも言ったけど男なのにこのビジュアル、話題性もバッチリ。あ、あと声も高くしてみて?どこまで出る?」

 

「こ、このっ」

 

と、とにかく!俺は歌いません!!

だって正直、俺はみんな程の熱量があるわけでもなく、バンドを続けれる自信がないもん!昔から引っ越しが多かった俺は、色々な環境の変化のせいで長く続く趣味というものがなかった。だからというか、その辺の熱量という物を持つことがなかなかできないのだ。……まぁ、この辺りの昔話はまた語るとしよう。

 

「とにかく、臨時でもいい。ボーカルしてく「ダメですよ〜」ムグゥッ!……PAさん?」

 

「あ、姉さん」

 

姉さんが山田さんの口を優しく塞いでいた。

この姉、いつの間に現れたのだろうか?

俺がどう断るかを考えている間に見逃していた?いやいやいやいや!それにしても気配というか急に現れすぎてびっくりするよね!?

最近のこの姉、こういうところある。

 

「全く。無理矢理うちの弟を巻き込まれちゃうと困っちゃうんですよねぇ。ほら、主に姉である私の生活的に?」

 

「「「…………」」」

 

「どうしました?」

 

「「「お姉さん!?」」」

 

「はい。お姉ちゃんです」

 

「「「弟!?」」」

 

「はい。弟です」

 

「「「……姉弟!?」」」

 

「しつこいなこいつら」

 

「こらこら、こいつとか言わない」

 

ごめんなさい少しイラッとしました。

虹夏さんや後藤さんはともかく、山田さんまでそんなに驚くとは意外だった。でも確かに、姉さんと俺が姉弟だと知ってるのは今のところ店長さんぐらいか?この三人、この前はなんだかんだで一緒にいる所は見ていないだろうし。

 

「それにしても姉さん。いきなり出てきてこの場を混乱させるとか、流石だよね」

 

「褒められても……今日は私がお皿洗いしますね」

 

褒められても何も出ない的な流れだと思った。

これからは積極的に褒めていこうかな?それはそれで調子に乗りそうで困るな。

 

 

 

その後、後藤さんが歌詞を書くことになったり、ライブに出る為のノルマの話が行われた。これはバンドとして売れるまでお金がかかるわけなのだ。

そしてそんなわけで、俺は虹夏さんに手を合わせられてものすごく押されている状態だった。

 

「バイトかぁ……」

 

「そうそう、天見くんも居てくれたらすっごく、それはもうすっっっごく助かるんだよね」

 

「……うーん」

 

虹夏さんの言っている事もわかる。

だってなぁ。

 

「バババ、バイトッッ!!しけ、死刑!あ、ああああ天見くん!私、私これ、これ出すから天見くんが代わりに!」

 

「出さなくていい」

 

「じゃあ私が」

 

「渡そうとしなくていい」

 

「リョウも何度も受け取ろうとしない!」

 

バイトをすることになりそうで、親が貯めた結婚費用まで出してバイトを回避しようとする後藤さん。そんな大事な物、なんで自分で持ってるのだろうか?

 

「お、お母さんが、お世話になっている人に見捨てられない様にって」

 

いやいやいや!!

後藤さんのお母様!?何考えているんでしょうか?てか結婚費用じゃないの?……まさかとは思うが、これで将来ずっと面倒見てもらえとかじゃないよね?

 

「そんなのなくても見捨てないよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「あーでも」

 

「?」

 

「いつか将来、バンドで売れて調子に乗って酒カスヤニカスとかになったら見捨てるね」

 

「ひぃ!!」

 

「天見くん!それはバンドマンに対する偏見!」

 

「少なからずいるのは事実」

 

「だから一言余計なの!」

 

酒も煙草もダメとは言わないが依存のようになるならダメである。お前のことだぞ酒カスきくりちゃん。

ほぼ毎日のように連絡してきやがって……!

今日も飲んでまーすじゃねぇしらねぇうっとおしい!!音寧ちゃんのお弁当食べたーい!じゃない!一度、昼休みに食べれなかった弁当をせがまれて食べさせてしまったせいだが、いい大人がたからないでほしい!!……落ち着け俺、うん。大丈夫。

その後もわちゃわちゃとしたが、ひとまずの落ち着きを取り戻した俺たち。そして思い出したように虹夏さんが姉さんに話しかけた。

 

「そういえばPAさん。どうして天見くんにボーカル頼んじゃダメなんですか?」

 

「乗り気じゃない人にやらせても長続きしませんからね。音寧くん、意外と飽き性なところもありますし」

 

「広く浅くでごめんね」

 

「いえいえ、今までのことを考えると仕方ないでしょう?」

 

あー。まぁうん。

小さい頃の生き方というか、引っ越し続きだったから趣味が合う友達というのを作るのも大変だったのだ。一つの事にハマっては引越しでやめるを繰り返してしまっていた時代があった事で、いつの間にか飽き性になっていたのだ。

 

「でも意外と楽しいかも「それに」!?」

 

「ファンができたりしたらどうするんですか?軽い気持ちで音寧くんに近づこうとか、邪な気持ちで擦り寄ろうとする奴が現れたりしたら……ね?」

 

やけに迫力がある姉さん。

こらこら、そんな雰囲気出したら虹夏さんが怯えるし、後藤さんは消し飛ぶぞ?まったく、本当に最近暴走気味で困る。ただでさえイケイケェな感じなんだから迫力がすごいからね?

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ひぃ!!あ、あの、私!」

 

「こら姉さん。みんなびっくりしてるからやめてね?ハウス」

 

「……わん」

 

「あ、PA席に戻って行った。さすが弟、手綱握ってるんだ」

 

「最近暴走気味なのが悩みですね。ていうか山田さんは驚いてないんですね」

 

「どちらかというと面白い方が勝ったね」

 

それはなんとも。

この人のこんなメンタルは後藤さんに少しでも分けてあげてほしいものだな。

 

「あ、言い忘れてました」

 

「姉さん?どうしたの?」

 

姉さんが戻ってきた。

そしてこんなことを言い出してしまったのだ。

 

「音寧くん。バイト採用です」

 

「へ?」

 

……き、急に何を言い出すんだこの姉は!!

これはマズイ!本気でマズイ!!

この人が本気を出してしまうと俺は断る事ができない!どうにかして諦めさせなければいけない!

 

「え、いや、待って、少し待って」

 

「待ちません。だって待っちゃうと、すぐに上手い事言って逃げちゃうでしょう?」

 

「カレー!」

 

…………ん?

何言ってんだおれぇ!!!

 

「「「「?」」」」

 

急に出てきたのは今日の晩御飯。

何故出てきたカレー……いや、なんとかここから修正せねば!!みんなが不思議そうな顔をしている間に逃げる為の手を叩き込んでいくとしよう。

いける。俺ならできる!!

 

「ほら、煮込むのに時間がかかるでしょ?だから早く帰って作らないといけないでしょう?」

 

だ、だめだぁ!

表情がピクピクしちゃう!いきなりすぎて誤魔化せない無理!あーもうバレるなこれ!!

 

「そうですねぇ。それで?余裕の表情が崩れて可愛いですねぇ」

 

うぐっ!!

こ、この!ニヤニヤとしやがってからに!!

 

「だからバイトしたらご飯作る時間がなくなっちゃうし。ね?おかず減っちゃうよ?」

 

「食事の一品が無くなるよりも!音寧くんと仕事がしたいです!!というわけで採用です!!!」

 

「あれぇ?」

 

姉の理不尽に俺は完全な敗北だった。

長くなったが、これが俺のバイトデビューの理由である。このあまりに理不尽な姉の決定に喜ぶ後藤さんと虹夏さん。そして、笑いを我慢しようとして吹き出している山田。笑ってるんじゃないよ!

その後、出勤してきた店長が

 

「あれ?私が店長だよね?」

 

と言っていたのが少し悲しい。

仕事のボイコットをちらつかせる姉さんに、後藤さん一人だと溶けるとか、知らない人が聞くと訳の分からない事を言って店長を混乱させる虹夏さんに押されて敗北した店長。そして俺の採用が決まってしまったのだ。

 

「まぁ、男手が増えるのはありがたいよ」

 

「ほんと、姉がごめんなさい。精一杯頑張ります」

 

「いや、うん。ありがとうね。……あと妹が迷惑かけてほんとごめん」

 

「……お互い、頑張りましょう」

 

「……何か困ったら言ってね」

 

店長と、少し距離が縮まった気がした。

というわけで、天見音寧。ライブハウスのスタッフとして頑張ります。……なんか、このままだと高校卒業してもずっとSTARRY働いてそうな気もするが、今は気にしないでバイトを楽しむ事にしよう。




音寧
急遽理不尽に襲われバイトをする事に。
まぁ、頑張るしかないよねと諦めモード。

PAさん
音寧と一緒に働ける可能性を察知し暴走。
帰宅途中、暴走気味になって弟の意思を無視した事で自己嫌悪中。
なんとか姉としての威厳を取り戻せないか脳をフル回転。

ぼっちちゃん
音寧とバイトをする事になり少し安心。
だがしかしそれとこれとは別なので氷風呂に入って扇風機にあたることは変わらない。

虹夏
バンドには誘えなかったが、ぼっちちゃんの通訳として音寧を確保完了。
苦労を分け合う事ができると一安心。

リョウ
面白くなってきました。
ただライブハウスのダークな雰囲気は死んだ。
音寧でなんとかお金儲けができないか思案中。

星歌さん
音寧と同じく色々と諦めモード。
だけどまぁ妹が楽しそうだしもうなんでもいいや。


各キャラたちの今の状況はこんな感じかな?


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酒で過去を思い返す

この話はPAさんから見た音寧くんの過去を語ったものです。
本編にはあまり関係はありません。
あと最初に言っておきますが、主人公である音寧くんは少々ぶっ壊れてます。


明日からバイト初日である。

少しの不安はあるがそれ以外はいつもと変わらない為、俺は紅茶でも飲みながらリラックス中である。

しばらくすると、姉さんがお風呂から上がってきた。

 

「えっと……音寧くん。ちょっとだけいいですか?」

 

「ん?うん。姉さんも紅茶いる?」

 

「あ、もらいます」

 

なにやら改まって話がありそうな雰囲気を察知。

これは長くなるかもしれないと思い、紅茶を入れる事にした。茶菓子はもう遅い時間だしやめておこうかな。

紅茶を用意し、姉さんの元へと戻る。

 

「はいどうぞ。それで、どうしたの?」

 

「ありがとうございます。……その、ですね」

 

「……え?何この感じ。変な事でもした?」

 

「変な事ってなんですか!?」

 

え、また勝手に俺の服着てたり?

今は身長も俺のが少し高いからだろうか?俺のシャツを着ても無理があるとは言えないのだ。だからその場では違和感を持つ事もなく、後から『あれ?ソレ俺の服じゃね?』となる事もしばしば。

それでもないなら、この姉は何をやったのだろうか?言いにくそうにしながらも姉さんは話を再開する。

 

「バイトの事です」

 

「え?なんか前もっている物でもあった?メモとかは用意してあるけど」

 

「そうじゃなくてですね。……その、暴走気味になって無理矢理だったなと。ごめんなさい」

 

「……今更だよねぇ〜」

 

「うぐぅ……」

 

この姉は今更何を言っているのだろうか?

もう数日も前の事をずっと引きずってたの?だから最近なんか悩んでる感じだったの?それでバイトも明日に迫ったしいよいよ言わなければって?

はぁ……。

 

「別にもうなにも思ってないからいいよ。友達と働くのも楽しそうだし」

 

「音寧くん」

 

「もちろん姉さんともね」

 

「音寧くん!!」

 

……少し、恥ずかしいな。

なんか、このままなのも少しモヤモヤとしてしまう。というわけで、姉さんをイジっていきますか。

 

「でも……これからバイトの日はあんまり姉さんに腕を振るって料理もできないから……それは残念かな」

 

「音寧……くん」

 

「ごめんね」

 

「そんな、そんな事ないですよ!音寧くんが作ってくれるならレトルトでも最高です」

 

「俺の料理はレトルトと同じって事?」

 

「いや、ちがっ!……ん?音寧くん?からかってますね?」

 

「……バレた?」

 

表情に出てしまったか?

ダメだな。姉さんとの遊びはついつい誤魔化しきれなくなる。楽しすぎるのがいけないんだな。

 

「はぁ、本気であせりました」

 

「あははは!ごめんね」

 

こんな風にしばらく楽しく雑談を続けると、気がつけばもう深夜だ。そろそろ寝なければ明日がキツイな。

 

「そろそろ寝るよ」

 

「そうですね。もう結構遅い時間ですし、おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

リビングから出て自分の部屋へ向かおうとした時だった。姉さんが俺に声をかけてくる。

 

「あ、最後に一つだけ」

 

「ん?」

 

「もう引越しもないですから、自分が一番好きになれる物を見つけてもいいと思いますよ?」

 

「……」

 

「大丈夫です。あの子達なら、音寧くんが無理に合わせないでも楽しくやっていけると思いますよ?音寧くんを傷つける人たちじゃないでしょう?」

 

「……そだね」

 

「でも姉としては、あまり距離感近すぎると妬いちゃいますけど。あ、あと好きになる物が音楽なら私が飛んで喜びます」

 

「ははは。うん、考えとくね」

 

「はい。おやすみなさい」

 

パタンと扉を閉める。

ほんと、姉さんには勝てないなぁ。

 

 

 

〜PAさんサイド〜

 

パタンと閉まる扉を見つめて数秒。

…………。

 

「よ、よかったぁ〜……」

 

思わず机に伏せてしまった。

こ、これで姉の威厳は保たれたのでは!?

良い姉ムーブができたのではないだろうか?とついつい自画自賛してしまう。

 

「はぁ……照れた音寧くんも可愛かった」

 

音寧の揶揄いには慣れてはいる。だがあまりにも自然とやる演技のせいで一瞬だが私も騙されてしまうのだ。

あれはあの子の生き方の一つ。

今となっては武器にして楽しんで利用しているようだが、昔は防衛のための手段の一つだったようで……。それを考えると少し思う所はあるのだ。

まぁ、顔と演技を武器にされるのも可愛いので完全にやめてほしいわけではない。こんな姉でごめんなさい。

……つい思い出してしまうが、初めて会った頃の音寧は静かな子だった。

急に姉と母親ができたのだから仕方のない部分はあるのかもしれない。だが、私達をどこか観察するように見ているあの子を不思議に思ったものだ。

 

「懐かしいですねぇ」

 

少し気分が乗ってきた。

ここは秘蔵のお酒でも取り出して、昔の事を思い出すのも良いかもしれない。

という訳で、少しばかり過去を思い出していこう。

 

『天見、音寧です。よろしくお願いします』

 

小学生なのに礼儀正しく、静かな子だった。

私が小さい頃はこんな感じだっただろうか?もう少し我儘だった気がする。そんな印象を持った。

数日過ごしてみて思った事、それはすごく居心地がいい。急にできた弟にストレスを感じるかもしれないと思っていたのだが気負いすぎたのだろうか?

 

『あれ?』

 

『あの、お皿なら、下げてます』

 

『あ、ありがとう』

 

こんな事が普通なのだ。

よく周りを見ているなと思った。

だがさらに数日。あぁ、これは観察されているのだと気がついた。だが何故?そんなに怖いだろうか?と不思議に思い父親に相談した。

 

『音寧に警戒されてる?』

 

『はい……何かしてしまったのなら、謝りたいなと』

 

『…………すごいね』

 

『え?』

 

『ちょっと、長くなるけど……。音寧を知るために必要かもしれないね』

 

父になった人から帰ってきた言葉は賞賛。

困惑した。

だがそんな私を置き去りにしながらも父は話を続ける。

 

『あの子、亡くなった母親の生き写しと言って良いぐらい顔が似ていてね。ほら』

 

そう言って見せられた写真には驚いた。

音寧くんが成長すれば、双子と見られるのではないだろうか?男の子だし背も高くなればそうなるだろうなと。

 

『だが目元とかは僕に似ていてね。ほら、母親の方は少し柔らかい目元だろう?』

 

確かに。

音寧くんの目はもう少し鋭い気がする。

ちょうど、目の前の父の様に。

 

『だけど、この容姿のせいで学校でトラブルが多くてね。男の子には仲間はずれにされるし、女の子にはおもちゃのように扱われるみたいでね』

 

少しわかるなと思ってしまう。

あれだけの容姿だ。ただ、男の子なのに女の子のような顔。言ってしまえばその程度だが子供というのは時に残酷で、ただ揶揄うだけでも音寧くんにとっては辛いだろう。

 

『音寧は母親が大好きだった。それこそ、小さい時なんて母親と似ている容姿を自慢としていたんだ』

 

『そうなんですか』

 

『でもどうしても異物として見られちゃうんだろうね。先生達にも心無い言葉を言われた事もある。体調が悪くて休んだだけで女々しいとかね』

 

酷い話だ。

 

『そんな事もあって、あの子は同年代の子が苦手で、一部の大人が苦手なんだ。だからあの子にとって歳上である新しい家族というのは、自分を傷つけるかもしれない。母親の容姿を悪くいうかもしれない人という認識なんだろうね。だから観察してる』

 

『なる、ほど』

 

ショックを受けなかったと言えば嘘になる。

弟ができるのだから姉弟らしい会話や接触を、少しは期待していたのだ。それが開始前に破綻しているとなれば少し傷ついてしまう。

 

『ははは!そんなショックを受けた顔をしないでよ。アレでなかなか強かな子だから』

 

『え?』

 

『いやぁ、僕のせいだろうから、恥ずかしい話なんだけどね』

 

そして語られたのは納得はできないが、するしかないような話。

母が亡くなった後、父親を支えるためにと家事をし始めた音寧くん。幸い、母親とよく家事をしてしたおかげか、ぎこちないながらも良くやっていたらしい。数ヶ月もしないうちにある程度のことは任せれるようになったようだ。

すごいと思う。まだ小学生なのにと。

 

『情けないよ。子供の方が、頼りない僕を見てしっかりしないとなんて思っていたなんてね。そのせいで子供なのに子供らしくない音寧になってしまった』

 

『確かに、小学生なのに料理上手ですよね』

 

『そうだろう!?いやぁ、特にね、煮込みハンバーグなんて絶品だ。一度作ってもらうといいよ』

 

それはいい事を聞いた。

今度、私の母親経由でおねだりしてみよう。幸い、私の母親とは自然に接しているように見えるし。

 

『……まぁ、アレだ。普通の同年代よりも、周りが見えすぎる子になってしまった。考え方も子供らしくない。それに、我が子を褒めちぎっているように聞こえるが、頭も良い。回転も早い』

 

『…………』

 

『だからクラス崩壊させちゃったんだよね』

 

『……え?……は?』

 

あまり軽く言った一言にフリーズしてしまう。

え?クラス崩壊?

 

『色々とブチギレたみたいでね。それも怒鳴り散らすとかじゃなくてジワジワと計画したみたいで……。まず女の子を味方につけたみたい。自分がおもちゃにされる事も我慢してね』

 

まず女の子と仲良くなり情報網を構築。

次に男の子の誰が好きとか嫌いとかを聞く。

その後、嘘を混ぜながらジワジワと特定の人物の噂を流していく。すぐに消えるようでもいい。なんでも良いからとにかく続ける。

すると、子供は素直なのだろう。

数ヶ月もしないうちに男女が対立したらしい。

 

【そんな顔でもお前は男なんだからこっち側だろう!?】

 

【アレだけ遊んだから女の子の味方だよね!?】

 

そうなったら音寧の思う壺だった。

どちら側にも言われたら嫌な事実がある。それをまた噂として流す事で完全にクラスを崩壊させた。そして教師達にもその手が及ぶ。

音寧くんは職員室に乗り込み、別の先生達に相談を持ちかけた。あまりに完璧すぎる演技は教師を簡単に騙したのだ。あの教師がひどい、言葉で虐められると無表情で静かに泣く様子は、大人を慌てさせるに十分すぎる効力を発揮した。

悪く言った教師が止めようとすると顔を硬直させて震えたとかも効果がありすぎる。

 

『結果、校長とかいろんな人が謝りに来たよ。問題にされたくないんだろうね。……まぁ、音寧に聞いたら全部こうやったって普通に話すもんだから呆然としたけど……』

 

『そ、それはそうなってもおかしくないですよ』

 

うちの弟恐ろしすぎない?

え?それ全部計画してた?こわいこわい!

え、これ、本当にイメージしてした事ってできるの?無理じゃない?ハードル高すぎない?

 

『ま、まぁ、安心してほしい!音寧は真正面から向かってくる人に対してはちゃんと接してくれる』

 

『え?』

 

『悪意には悪意で返すし、善意には善意で返す。自分の好きな人達という輪の中に入れば大丈夫』

 

『……できるでしょうか?』

 

『うん。簡単だよ』

 

次の日から、私は音寧くんと積極的に話す様にした。どこか驚いていた音寧くんだが、父の言う通りで私の言葉にちゃんと答えてくれるし、お姉ちゃんと呼ばれた時なんて思わず涙が出た。今まであの、とかしか呼ばれなかったし……。

そんなこんなで気がつけば私の方が音寧くん無しでは辛すぎる様になってしまったのだが……。

でも、高校中退してからなんて音寧くんの善意が申し訳なさすぎて、朝起きられないなんて理由も音寧くんに起こしてもらえるから目覚ましかけなくなってしまったのが理由の一つなんて申し訳ないし情けなさすぎて……。はぁ……。

ちなみに音寧くんだが、母に私の事は起こさなくて良いから学校に行けと叱られたらしい。よくも余計な事を!いや、私が悪いから言えないんだけど……。

そんな事もあり家に勝手に居づらくなって飛び出して……。音寧くんと会えない日々は辛かった。父に音寧くんの寝顔を毎日撮って送ってもらわなければ危なかったと思う。ちなみ父は毎日部屋に侵入するスキルが高まって行ったらしい。

 

 

 

懐かしいなぁ。

 

「っと、思わず呑みすぎちゃいました」

 

気がつけば瓶が空っぽだ。

ふわふわとする頭で考える。

音寧も高校生になり、今となっては過去を気にせずにちゃんとできている。私よりしっかりしているだろう。

だからと言って見えてくる交友関係が女の子ばかりなのは気になるが……!まぁ、信頼できる子達だし、一人はなんか、こう、よくわからないけど多分良い子?要介護って言ってるから本当にわからないけど……。ま、まぁ、これから見ていけるし!姉としてしっかりと見ていこうと思う。まぁ最後には私の元へとくるから別になんでも良いや。

 

「うーん。とっとと」

 

危ない。転ぶ所だった。

という事で一人じゃ危ないし、音寧のベッドで寝よう。

 

「音寧く〜ん。今行きま〜す」

 

たまには……いや、毎日甘えさせてください。

そうして音寧の部屋に乗り込み、ベッドに侵入する私だったが……。

 

「酒臭……」

 

酷いです。




こんな過去でした。
まぁこうやって姉弟の絆が深まっていった訳なんですけど……。
なんか賛否ありそうで怖いわ。
あまり音寧くんとPAさんの過去を引っ張るとなぁと思ったので頭の中にあったのをザッと書きました。
次回からは本編の方のバイト開始です。


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初バイトって少し緊張するよね

今回少しだけ、少しだけ長いです。
理由はキリが良い場所を見つけられず、いっその事アニメ二話終わらせるかって思ったので。
少しはリョウとかと話せて良かった。


スマホのアラームで目を覚ます。

モゾモゾと動く姉さんを押しのけて、アラームを止める。

さて、昨日寝る前に後藤さんへとメッセージを飛ばしておいたのだが、読んでくれてたのだろうか?

その内容なのだが……。

 

『明日からバイトだね。……まさかとは思うけど、マラソン大会が嫌な中学生みたいに水風呂とか薄着でベランダに出るとかやっちゃダメだからね?もしやってたらできるだけ風邪ひかないようにして寝るんだよ?』

 

という内容。

普通ならお節介すぎるとは思う。だが後藤さんに限って言うと、このぐらいではお節介すぎるという事はないのだ。ベッドに入り込んだままスマホを操作して新着のメッセージを確認。

 

『申し訳ありません。正直に白状すると私は天見様を裏切り、氷風呂に入った後、全身にシップを貼って扇風機の前でギターを掻き鳴らしてました。ですが幸いなことに丈夫な身体のおかげで熱は出てませんごめんなさい見捨てないでくださいお願いします!!』

 

「あ、はい。……てか、氷風呂て……」

 

予想を遥かに超えてくる後藤さんには少しため息が出てしまった。

姉さんを起こさない様にベッドから抜け出して朝の準備を開始する。というか、ベッドに入り込んでくるなんて……お酒呑んだな?昨日なんか酒臭いのが入ってきた気もするがやはり姉さんだったのか。なんて思いながら顔を洗い、洗濯物を干してからキッチンへと向かう。

……ん?これって新品だったはずなのにもう空いてる?呑みすぎじゃないの?

家に酔い止めは置いてないなぁ……。

パッと思いつくのはシジミの味噌汁だが、シジミなんて今はない。とりあえず卵のお粥でも作っておこうかな?あ、スポーツドリンクはあったはずだしテーブルの上に出しておこう。

……こんなのをパッと思いついてしまうのはどこかの酒カスきくりちゃんのせいだな。この人ちょいちょい脳内にチラつくのほんとなんなの?

この間も

 

『気持ち悪〜い……!ちょ、音寧ちゃん、うちにお粥でも作りに来てくれない?だいじょぶ変な事はしないから。あ、でも変な事は起きるけどね!ウチ出るから!』

 

ほんとなんなのこの人。

しかも出るってなに?幽霊?絶対行かない。

サッとご飯とお弁当を用意してメモを残す。二日酔いならお粥とスポーツドリンク用意してるからと簡単に書いて終わりだ。

 

「じゃあ、行ってきまーす」

 

少し大きな声で言うと、俺の部屋から小さな音がする。返事をしてくれたのならありがたい限りだが、もし気持ち悪いなら吐く前にベッドから抜け出してくれている事を願いつつ家を出たのだった。

 

 

 

それから学校ではいつも通りに時間が過ぎ放課後。

たまには放課後にカラオケでもと誘ってくれる奴らも居たが、バイト始めたからと断ることに成功。というかだな?な〜にが、『女の子にお前も来るって言ったんだよ!?』だよ!その辺は自分達でなんとかして頑張るところだよね?

まぁ、そこはもういい。今はこっちだ。

 

「後藤さん、まだかかりそう?」

 

「…………」

 

あー、聞こえてないなこれ。

現在、俺と後藤さんは二人でSTARRYへと辿り着いていたのだ。そして店に入る前に少し待ってくれと後藤さんに言われた俺。

確かに心の準備も必要なのは同意するのだがもう十分は扉の前で立ち止まっている。

もう無理矢理にでも入ってやろうか?そう思っていた俺だったが、階段の上の方から声をかけられた。

 

「ん?音寧くんじゃん。そういや今日からだったね」

 

「あ、星歌さん」

 

「学校お疲れ。それと、今はいいけど店では店長って呼んでね?」

 

「了解です」

 

「それで、これ何?どんな状況?」

 

「実は……」

 

後藤さんの心の準備が必要でそれが完了するのを待っていることを説明。それを聞いてなるほど任せろと頷いた星歌さんは何故か俺を階段の上へと移動させて……ん?移動する必要あった?

 

「チケット販売は五時からですよ?まだ準備中なんで」

 

え?威圧?し始めたんだけど?

え?なんなの?バカなの?

とりあえず止めなければ……!

 

「ひぃぅ!?あ、え、ああああまみ天見がえ、ばバイトおお落ち着いて」

 

「何やってんですかぁ!!」

 

「天見くん!いたぁ!よ、よよかったぁ!」

 

「……うん、ごめん。ここまでとは思ってなかった。君もごめんね?頼むから落ち着いて……ほんと頼むから。あんまり騒ぐとアレが……!」

 

まさかバイトが始まってもいないタイミングからイジっていくとは思ってなかった。

俺が頭を抱えて後藤さんを落ち着かせようとした時だった。ガチャリと扉が開く。

 

「何やってんですか」

 

「ほら、来ちゃったじゃん……」

 

姉さんが出てきた。

それを見た星歌さんが頭を抱える。

というか姉さん?ここライブハウスだし防音もしっかりしてるだろうに、なんで外での騒ぎを察知できたの?最近姉が人外じみてきて不安である。

 

「え?店長……まさかとは思いますけど、うちの大事な大事な音寧くんを困らせてます?仕返しに私も店長を困らせますよ?」

 

「やめてね?」

 

「こら姉さん。あんまり星歌さんを困らせない「星歌!?!?」ん?あれ?なんか間違えてたかな?」

 

「いや、間違えてはないんだけど……あーもう!ほら仕事仕事!」

 

「ちょっ!店長!仕事の前にお話がありますからね!?そんな近しい仲は許してませんからね!?歳を考えてくださいね!?」

 

「あぁ!?そこ言っちゃうかなぁ!?」

 

「え、なにあれ。二人ともこっわ」

 

「…………」

 

「あ、後藤さーん?意識はしっかりとしましょうね〜?」

 

まぁなんだかんだとあったが店内へと入ることができた。ここまで長過ぎるよね……。

さて、俺も初のバイトモードにならなくては!しっかりとしていこう。

 

「音寧くんの初仕事はコレを落ち着かせてね。それで、マンゴー仮面?はこっちに来てね」

 

「は、はい!マンゴー仮面です!」

 

初仕事は姉の世話かぁと思っていれば、また変な事になってきた。星……店長、マンゴー仮面はないですよね?てか後藤さんも嬉しそうにしない。

とりあえずツッコミを入れておかなければ。

 

「もう、お姉ちゃん!ぼっちちゃんはそんな名前じゃないでしょ!」

 

「後藤さんは喜ばない!……って、虹夏さん。お疲れ様です」

 

「おつかれー!バイト頑張っていこうね天見くん!で、お姉ちゃん?話聞いてる?」

 

「はいはい。わかったわかった」

 

癒しである。

なんだろう、こう、笑顔っていいね……!!

扉前での騒動!店内で荒ぶる姉さん!まだふざけるつもりの店長!そして弄りに対して無自覚な後藤さん!

疲れたよ……!!

でも虹夏さんの笑顔で回復できた気がする。

 

「山田さんも今日からよろしくお願いします」

 

「ん。よろしく」

 

俺は山田さんに改めて挨拶。

これから先輩になるのだから礼儀は大事。

 

「……ん!?虹夏ちゃんのお姉ちゃん!?」

 

「おぉう!?びっくりしたって、今更?」

 

急に後藤さんが動き出した。

店長が虹夏さんのお姉さんだということに、今気がついた様だ。そして手のひらを店長と虹夏さんに向ける。

 

「姉妹?」

 

「そう」

 

「そだよ〜」

 

「姉弟?」

 

「はい」

 

「そうだね」

 

あー。これは……。

後藤さんは山田さんを見て目を輝かせる。

 

「仲間!」

 

「え?なんの話?」

 

しかし山田さんはよくわかっていなかった。

おそらくだが、身内組が二組もいるのに私は?みたいな変な疎外感を感じたのだろうか?同じ職場に家族が、しかも二組もっていうのは珍しいとは思うが、そんな別に気にしなくても。

さあさあ!後藤さんも切り替えて仕事モードにならないと!って、後藤さん?……また見えなかったなコレ……。

 

「ほらほら、ぼっちちゃん。そんな緊張しなくてもいいから。って、わけでまずはテーブルから片付け……ん?ぼっちちゃんが……消えた?」

 

「なんかスッと居なくなったね」

 

「あー。コレ、何度見ようとしても見えないんですよねぇ」

 

そう言いながら机の下を覗き込む。

やっぱり居た。

 

「コツは、なんかこう、近くの暗いところや狭いところとか探せばいます」

 

「本当にいたぁ!」

 

「流石ぼっち。私でも見えない速さには素直に驚き」

 

「あ、すいません……ちょっと一息ついて心を落ち着けたくて……」

 

「始まってもいないのに休憩は早過ぎるかな!?」

 

もっともである。

とりあえずもう後藤さんは虹夏さんに任せよう。

俺は俺でさっさと仕事をしなければいけない。

 

「では音寧くん、ここは姉である私が「山田さんよろしくお願いします」……わ、わたぁ……し……」

 

「ん。厳しくいくから」

 

気合いを入れなければ!!

 

「あー、まぁ、そう落ち込むなって……な?りんごジュースでも飲みな?ほら」

 

「いただきます……」

 

「さっさと気分入れ替えてね?ほんと、頼むからね?本当に困らせないでね?」

 

そして俺は店内の掃除を教わることになったのだった。ただ、しばらくすると聞こえてくるギターの音にまた困惑する俺であった。

まったく、後藤さんと一緒にいると退屈しないぜ!

いや、ほんと、退屈する暇ねぇや。

 

「モップ掛けが終わったら、次はテーブルを戻していく」

 

「はい」

 

「まぁ、今日は簡単に掃除する程度で大丈夫。教えながらだとどうしても時間かかっちゃうし、時間もあんまりないから一通りをザッと教えていくよ。すぐにお客さん入って来ちゃうから」

 

「メモの準備はできてますので、手加減なくお願いします」

 

「了解」

 

掃除をしながらライブハウスは飲食店扱いになるとか、色々と知らないことを聞けたりと勉強になるな。そして掃除が終わり、次はチケット販売をする横について、教えてもらう。

金銭が関わってくる事だし、一番最初にお客さん達と顔を合わすのだ。ここはしっかりとしなければ店の信用にも関わってくる。笑顔を忘れないようにしよう。

そう思いながら受付でチケットの販売を行なっていく。今回のバンドは人気があるのだろうか?それなりの人数が入っている。いつか、後藤さん達のバンドもこうやって人気になってくれると少し嬉しい。

そん時は古参アピしよ。

 

「天見。この前は、ごめん」

 

「ん?急にどうしました?」

 

ある程度お客さんも入り、ひと段落したところで山田さんに謝られてしまった。

 

「バンドに誘うの、無理矢理過ぎたから」

 

「あー。いえ、気にしなくていいですよ。誘ってくれる気持ちは嬉しいので」

 

これは本当。

誰かに何かを誘われるというのは少し嬉しい。

正直に言うと、こうやって誘いがあるのはここ何年かの話。今までは自分から距離を調節して気を抜けない友人関係しかなかったからなぁ。もはや友人と言っていいのかもわからない。

だから、この人たちの気やすさは少しだけ嬉しくはあったのだ。

 

「そっか。ならよかった」

 

「まぁ、アレです。誘いを断って、後藤さんだけ任せてってのは悪いんでギターとボーカルできそうな人がいないか探しときます」

 

実は一人心当たりがあるのだ。

ギターはできるのかわからないが楽器背負っていたのを見たことがあるし、そいつは歌がうまかった。

別のクラスの奴に誘われて行ったカラオケ。

正直言ってあまり行きたくはなかったのだが、大部屋を借りるぐらいの人数だったしいつ抜けてもバレないかと思って少しだけならと付き合いで参加したのだが……。

喜多のやつは頭1つ抜けて歌がうまかったな。

 

「それはありがたい。お礼にこれあげる」

 

山田さんから渡されたのはピック。

STARRYのドリンクチケットだ。

 

「ありがとうございます」

 

「私の奢りだから」

 

ドヤる顔。

うーん、これは……。

あの店長は虹夏さんの姉だからと言うか、厳しくもあるが基本的には結構優しいと思う。がぶ飲みしなければ、ちょっとだけならジュースをタダで飲むことも許してくれるだろう。

それをわかっているのだろう。

だというのに、わざわざ自分の奢りを強調する山田さんに少しイラッとした俺である。心が狭い……!

 

「二人とも受付はもういいよ。今日のバンドは人気あるし、リョウは勉強になるから見とけ。音寧くんもライブハウスの雰囲気ってのをしっかりと感じておいて」

 

「わかった」

 

「はい。じゃあすみませんが、よろしくお願いします」

 

そう言って虹夏さんと後藤さんがいる場所へと向かう。……ふむ。その前に少しイジっておこう。

 

「店長」

 

「どした?」

 

「コレ、山田さんの奢りみたいなんで給料から天引きで」

 

ドリンクチケットを取り出して店長に渡す俺。

 

「え?」

 

「わかった。カッコつけるからこうなるんだよ」

 

困惑する山田さんを放置して返事をする店長。

流石である。

 

「え?あ、ちょっ」

 

「ゴチになります!」

 

何か言われる前にジュースを飲みにいくことにした。勿論ライブも楽しみである。

 

 

 

人気バンドのライブ。

曲は勿論良いし、MCまですごく面白い。

スタッフだから仕事をしないといけないのだが、ついつい、ずぅと目と耳を向けてしまいそうになる。そんな楽しいライブだった。

それに!後藤さんもちゃんと飲み物を出せていた!!接客ができていた!これが一番良かった!安心した!!

顔や動作がぎこちない?いいんだよそんなの!後からなんとでもなる!!

 

「音寧くんおつかれ。今日はもう帰っていいよ」

 

「お疲れ様ですぅ〜」

 

少しばかり歓喜を噛み締めていると店長がやって来た。今日のバイトは終わりのようだ。

はい。お疲れ様でした!

と、言おうとしたら姉さんが割り込んできた。

 

「お前はまだ仕事だよな?」

 

「……うぅ、帰りたい。私も、音寧くんと一緒に仕事の話しながらちょっと青春っぽい感じで帰路に着きたい。後藤さんが羨ましい……!!」

 

涙目になる姉さん。

だがしかし、俺たちは高校生である。あまり遅い時間までバイトはできないのだ。

それに後藤さんを駅まで送らないとだし。

 

「はぁ、ご飯作って待っとくね。さて、後藤さん帰るよ!」

 

「あ、はい」

 

お疲れ様でした!

とみんなに挨拶をして帰る事にしたのだが、虹夏さんが駆け寄って来た。

 

「お疲れー!今日はごめんね?ずっとリョウに任せててさ。何か変なこと教わらなかった?大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと仕事を教えてくれましたから」

 

「それならよかったよ。じゃあもう遅いし、気をつけて帰ってね?」

 

「はい。……あっと」

 

「ん?」

 

コレは言っておかないといけないだろうな。

ここで働けるようになったキッカケ……いや、この世界に引き込んでくれた恩人なのだから。

 

「今日は、ありがとうございました。えっと、なんていうか、バンドの人達や、お客さんの雰囲気というか、ちょっと興奮しててなんで言えばいいか纏まってないんですけど」

 

「お、おぅ。ゆっくりでいいよ?」

 

いきなり言うことを決めたのだから仕方ないだろう?でも、ちゃんと言っておきたいのだ。

 

「新人スタッフとして仕事を覚えないとって思ってたんですけど、すごく楽しかったです。つい、仕事を忘れそうになるぐらいに」

 

「そっか……!」

 

「はい」

 

「そっかそっか!よかったよ!」

 

虹夏さんの笑顔が眩しい。

本当に嬉しそうな笑顔だった。

 

「でもちゃんと仕事も覚えてもらわないとダメだからね!次は私が教えてあげるし、勿論リョウよりもしっかりとね!」

 

「はい。ドンと来てください!」

 

こうして俺と後藤さんはSTARRYを出る。

道路に出た途端に出た息は、自分が思っていた以上に緊張していたのだなと自覚する感じで……うん、楽しかったな。

後藤さんを駅まで送り、急いで帰宅して簡単にご飯を作る。ここまで遅くなったのなら今日は姉さんと食事を取るのもいいかもしれない。弁当を持たせてはいるが、少しぐらいなら食べるだろうし。

 

「先に風呂でも入るかな。っと、その前に」

 

帰り道でくしゃみをしていた後藤さんが気になる。

メッセージを送ってみる事にした。

そして帰って来た言葉。

 

『風邪引きました……。ごめんなさい』

 

……氷風呂に入るからだよ……。




次は適当に間話でも挟もうか悩み中です。
それと今週の更新はもうできないかと思います。日曜日、仕事なんで……。
またゆっくり書いていきます。


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後藤さんがお休みの日

お久しぶりです。
なんとなく書いてみました。
もし待っててくれた人がいたら本当ごめんなさい。


後藤さんが風邪を引いてしまった。

はぁ、氷風呂なんかに入るからだよ……。

まぁもちろん学校に行っても後藤さんはいない。だからかクラスメイトや別のクラスの友達なんかは

 

『あれ?今日はお世話なし?』

 

『あれ?ピンクの人は?』

 

なんて言われる日々。

後藤ひとり係ってやっぱり目立ってたんだなぁと再確認できたり……後藤さんピンクジャージだもんなぁ。正直めちゃくちゃ目立つもんなぁ。

そんな事を考えながらトイレからの帰り道を歩いていると元気な声が聞こえてきた。

 

「あ!オトくーん!」

 

「ん?喜多?」

 

「今日バイト?クラスの子達とカラオケに行くんだけど休みなら一緒に来ない?」

 

喜多だった。

今日も相変わらず元気いっぱい明るさ全開。誰でも仲良くできるような性格で簡単に言えばものすごい陽キャ。ちなみに俺たちが知り合ったきっかけは運動部の助っ人をした事だったりする。

練習試合の打ち上げにカラオケに行く事になり少しばかり話すようになったのだ。その時すごく歌が上手い事を知ったし、ギターもやっている事を少し聞いたのだ。

だから狙っている人物である。

喜多を結束バンドに誘えたらいいよなぁ。

そんな訳で。

 

「休みだし行くよ。放課後にクラスに行けばいいかな?」

 

「やった!なら迎えに行くね!」

 

「そう?なら、待ってるよ」

 

どうやら迎えにきてくれるらしい。

……ちなみにそれ、俺が断りまくってたのが原因だったりする?バイトだったり、スーパーの半額争奪戦だったりとあんまり遊びに行ったりしなかったしなぁ。あと後藤ひとり係もあるし。あ、係なんて思っているが後藤さんと一緒にいるのは楽しいので!

そこだけは言っておかないとね。

 

「あ、もうすぐ授業始まっちゃうからまたね!」

 

「うん。また」

 

「今日はどこか行ったりしないでね〜!」

 

「はいはい」

 

……やっぱり断りまくってたのが原因だな。

俺も休日なんかはクラスの奴と遊んだりはしていたが、これからはもう少し交流を持つようにしよう。このままでは高校三年間後藤ひとり係と結束バンドで青春を終えそうだし。俺ももう少し……多少は彩が欲しいのだ。

そんな訳で久々のカラオケが決まったのだった。

 

 

 

何事もなく時間が進み放課後。

 

「オトくん!迎えにきたわよ」

 

ホームルームから十分もしないうちに喜多が迎えにきた。ちなみに待っている間、姉さんに友達と遊んでくるからとだけメッセージを送っておいた。

割とすぐに返信が来るものだからあっという間に時間が経ったな。相変わらず姉さんは心配してくるのだが俺ももう高校生でバイトをするぐらいなのだ。もう少し信頼して欲しい。ちゃんと晩御飯が作れる時間には帰るからね?

っと、今は喜多の相手をしないと。

 

「今行くよ」

 

「ちなみに今日は男の子もいるから安心してね?」

 

「それは助かる。女の子達だけじゃ肩身が狭いからなぁ」

 

「そう?前も結構堂々と歌ってたし、気にしてないかと思ってたわ」

 

「いやいや。歌に集中して意識しないようにしてただけ」

 

「えー?でも前回言ってたようにちゃんと男の子を集めたからね?誘う時は絶対にそうするから次も断らないでね?」

 

「バイトとかがなければね」

 

つれないなぁ。なんていう喜多。

いやぁ、しょうがなくない?喜多以外はよく知らない女の子だけのカラオケなんて面倒だろ?それなら後藤さんと一緒にいるか、スーパーに行っていたほうがいい。最悪、本当に最悪だが!きくりちゃんの相手の方が俺的には気持ちが楽だったりする。

でも今回のように、よくは知らないが男子がいれば多少マシなので次もこうなら参加しようかな。

 

「今日はどんな曲歌おうかなぁ」

 

「喜多は上手いからなぁ。どうせリクエストとかあるだろうし考えなくていいんじゃないかな?」

 

「そうだけど。でも自分で選びたいでしょ?」

 

「それはそう」

 

あまりリクエストされるのも困る。

ずっとマイク持ってるの悪いし。

 

「ていうか、リクエストはオトくんもでしょ?あんなに上手い男の子オトくんが初めてだったなぁ」

 

「お世辞でも嬉しいよ」

 

「お世辞じゃないけど!?」

 

そうなのか?

俺的には下手ではないが、そこそこ程度だと思っているんだけど。正直家で一人で歌っていることが多かったし、家族以外とカラオケなんて高校で初めて行ったしなぁ。比較対象が多い訳ではないからわからない。

 

「なにか一緒に歌う?」

 

「気分が乗ればで」

 

「えー?……オトくんって割と扱い雑になる時あるよね?後藤さん?にはもう少し優しくなかった?」

 

「いや……後藤さんは特別だからなぁ」

 

「……ふーん」

 

いや、だってなぁ。

俺が最初から優しさ全開だったせいで、喜多の様に接したらワタワタし出すときあるし……。もう少し慣れてくれたらありがたいんだけどなぁ。いつか冗談が言い合える様な仲になりたいものだ。

 

「それより場所どこなの?」

 

「あ、過ぎちゃってたわね」

 

「えぇ……」

 

しっかりしてよ喜多。

ちなみにこのあと久々のカラオケに楽しくなってしまい、喜多に結束バンドへの加入の相談をし忘れた事に気づいたのは家についてからだった。

 

 

 

少し落ち込んだ後の次の日。

この日は、この人に捕まった。くっそ!バイトに行こうとしてるのに!

 

「うぇ〜い。探したよぉ〜音寧ちゃ〜ん」

 

「きくりちゃん?それおっさんが言ったら捕まるからね?」

 

「私は女だから大丈夫!」

 

「何も大丈夫じゃないんだよなぁ」

 

高校生を捕まえる泥酔女性。

普通に警察に見られれば捕まえられるんじゃないだろうか?

 

「ねーねー。ほれよりお弁当余ってたりしない?甘い卵焼きたべたーい」

 

「呂律回ってないじゃないですか。ちなみに残ってないですからね?電話でも言ったでしょう?」

 

成長期男子の食欲を舐めないで欲しい。

晩御飯の後ケーキを食べるぐらいには食欲があるのだから。……クラスメイトは深夜にラーメン食べるらしいけど……。

…………と、とにかく!

弁当なんて残る訳ないでしょう?前あげたのも色々とあって食べる時間がなくなったからだしね?ちなみにタダで弁当をあげるのは嫌だったので菓子パンと交換してあげた。

いや、だってさぁ。こんなに酒ばかり飲んでる人って食生活心配だし……初めて会った時も食費削って酒飲んでたし……。それに普段からなんかおつまみばっかりで栄養偏ってそうだし少しぐらい……なんて思った俺は馬鹿だったんだなぁ。それからずっと連絡来ちゃうだもんなぁ。

 

「そっかぁ……残念。なら次はだし巻きをリクエストしとこ」

 

「作りませんよ?」

 

「そこをなんとか!あ、私の家来る?作る?」

 

「作りませんし行きません」

 

「えー?」

 

なんか本気で残念がってる……。

いや、冷めた弁当でそこまで美味しかったと思ってもらえたのは素直に嬉しいのだ。姉さんのために作っている料理が他の人にも美味しいと言ってもらえるのは、俺にとって活力?になるしやる気も出る。

って、そんな事を考えていれるほど暇じゃなかったんだった。

 

「それより!今日はなんかあったんですか?俺、この後バイトなんであんまり時間ないですからね?」

 

「お!?どこで働いてんの?私もっ行っていーい?」

 

何言ってんだこの人?

 

「もう少し好感度上げてからにしてください」

 

……ん?何言ってんだ俺。

あーもう!この人と一緒だと色々と今まで通りじゃなくて変なこと言っちゃうなぁ!もう!

 

「えー?……なら仕方ない。これをあげよう」

 

頭を抱えていた俺にきくりちゃんは何かの紙を取り出した。

……何これ?クシャクシャだし、ポケットに直で入れてたからかしっとりとしてる気がする……。

なんだこれ?なんて思って紙を開く。

そこにはコピー用紙に殴り書きで書いた様な文字。

 

『SICK HACKライブ招待券!おとねちゃんせんよー』

 

ご丁寧にきくりちゃんのサイン?まで書いてある。

これ、サインで合ってる?文字が汚いだけとかある?ない?……どっち!?

 

「色々と迷惑かけちゃってるからね〜。よかったら来てよ」

 

「え?いいんですか?こういうのってお金払うんですよね?何円ですか?」

 

「こっちから招待してるんだからいいよいいよ!むしろ来てくれないと困る」

 

「困る?」

 

「また怒られちゃう」

 

何があったんだろうか?

暗い表情になったきくりちゃん。でも次の瞬間にはおにころを飲みだして幸せスパイラルとやらをキメはじめた。……それ、本気でやめません?

 

「プハッ〜!これでもそれなりに稼いでるしね!まぁ?どうしてもって言うなら?だし巻きで手を打とう」

 

「はぁ」

 

「ため息〜?まぁ、アレだよ」

 

「?」

 

「来て後悔はさせないよ」

 

「…………」

 

きくりちゃんは、たまにカッコよくなるから困る。

酒飲んで、泥酔して、チャランポランでどうしようもない酒カスのくせしてたまに出る威圧感?カリスマ?正直、びっくりしちゃうからやめて欲しい。

……でもまぁ、ここまで言うなら後悔しないのは本当なんだろうな。

なら、一度きくりちゃんのライブを見に行くのもいいかもしれない。

 

「場所は……」

 

「新宿FOLT。私達の拠点だよ」

 

……だから、急にカッコよくならないでほしい。

 

 

 

なんとか遅刻せずにSTARRYに着いたのだが.……。

 

「……ねぇ音寧くん?たまにつけてくるこの匂いはなんですか?お姉ちゃんに教えてください。ね?ねぇ?はやく」

 

「姉さんの気のせいじゃない?」

 

「音寧くん?正直に言ってください」

 

「酔っ払いに道を教えただけだよ?」

 

「いえ、前も同じ匂いでした、そんなに何回も迷う人なんていません。音寧くん、正直に言いましょうね?」

 

姉さん?

匂いだけで判断しないで欲しい。

最近、うちの姉までどんどん人外じみていく。

 

「着替えてきまーす」

 

だがすでにバイト開始時刻になってしまう。

あまり姉さんの相手をする暇はないのだ。

 

「ちょっ!ちょっと音寧くん!?帰ったらちゃんと聞きますからね!?」

 

どうやら逃げられない様だ。

まぁいっか。姉さんの対処はバイト終わりの俺に任せて、今の俺は仕事で忘れるとしよう。



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何かが変わった日

次の話ではアニメの三話に突入したい!
と思ったらちょっと長くなっちゃった。


金曜日、放課後。

後藤さんは風邪が長引いているようでまだお休み中だ。そのせいかここ最近、学校では喜多に構われ続けることになってしまい、少しばかり男どもからのウザ絡みが増えて大変だった。

でもそれも今日で終わりだろう。

後藤さんの熱もここ数日の間で順調に下がってきたらしいし、週明けには登校できそうみたいだからな。それに明日は待ちに待った土曜日だ。

今週は後藤さんの代わりにシフトに入ったりしたからか、土日は店長や虹夏さんが気をつかってくれてバイトもないしな。あとは今日のバイトだけ乗り切ればそれでお休みだ!

 

「っと、そういえば」

 

リュックの中に入れたままのきくりちゃんの招待券を思い出す。たしか次のライブは土曜とかって言ってたよなぁ。

 

「新宿なぁ」

 

……行ってみるのもいいかもしれない。

正直にいうとSTARRYでバイトをするようになってからバンドに興味が出ているのだ。まぁ飽き性な所がある俺が、今更楽器をやったりとかは続くのか不安だしやろうとは思っていないんだけど……。

それでも聴くことは楽しい。

バンドの熱が高まるにつれてお客さん達もドンドンとテンションが上がり楽しんでいる姿は、見ていて気分がすごく良くなるのだ。

 

「新宿に行くの?」

 

「うぉう!?に、虹夏さん!?」

 

「ぼーっと歩いてたから声かけちゃった。STARRY行くんでしょ?一緒に行こうよ」

 

び、びっくりした。

ていうかそんなにボーッとしてたのか。

気合いを入れるわけではないが、意識をしっかりする為に買い物袋を逆の手に持ち直してみた。そのせいで虹夏さんが買い物袋の中を見てしまったようで。

 

「おぉう。随分買ったね」

 

「明日は家の掃除もしたいので土日の分も買っちゃって。あ、冷蔵庫借りてもいいですか?」

 

「もちろん。というか、うちに運んでおこうか?」

 

「いいんですか?」

 

「うん。家の冷蔵庫の方が大きいし」

 

ならばお言葉に甘えさせてもらおう。

生モノなんかは避けてはいたのだが、飲み物なんかは冷蔵庫に入れておきたいし。でも帰りに忘れたりしないか?……まぁ、最悪忘れても飲んでもらえばいいや。

 

「じゃあお願いします」

 

「まかせてー」

 

本当にいい人だなぁ。

星歌さんからもうちの事情を聞いているからこそだろうけど、バイト先……しかもライブハウスに食材(多め)を持っていっても許してもらえるなんてなぁ。

姉さんも良い就職先を見つけたもんだ。

 

 

 

その後、虹夏さんと適当な話をしながらSTARRYにたどり着き、先に虹夏さんの家に食材を置かせてもらった後、無事に出勤。

中では星歌さんがPCを弄っており、姉さんは机にぐで〜とくつろぎながらスマホをいじっていた。

……働いてよ姉さん……。

 

「おっはよ〜ございまーす!」

 

「おはようございます」

 

元気な挨拶をする虹夏さんに続いて俺も挨拶。

すると星歌さん……いや、今は店長だな。店長は軽く俺達に手を挙げて返し、姉さんはシュバっと速い動きでスマホを隠し駆け寄ってきた。

 

「おかえりなさい音寧くん」

 

「ただいま」

 

まぁ多くのことは言わないでおこう。

休憩中だったんだろうし。

 

「いや、おかえりにただいまって……」

 

「ん?どうかしましたか?」

 

「いや……あれ?私がおかしいの?」

 

うちの姉が……いや、俺もだけどすみません……多分店長が正常だと思います。

バイト先なのに自分の家みたいな挨拶をしている俺たち姉弟がおかしいんです。だから姉さんも普通に何言ってんだこの人みたいな感じで見ないの。

 

「あー……とりあえず私たちは準備始めよっか」

 

「はい。じゃあ俺はモップ掛けします」

 

「はーい。じゃあ私はドリンクの方行くね!」

 

大人組は放置して作業を開始。

バイトを始めてまだそれ程経っていないが、虹夏さんや姉さんのフォローのおかげでスムーズな作業ができるようになっていると……思う。

店長も、おかしな事をしない限り怒ったりはしないし、本当に温かい職場だなと実感する日々だ。

 

「あ、音寧くん」

 

「はい?」

 

店長に呼ばれた。

なんだろうか?姐さんの苦情とかじゃない事を祈るばかりだが……。

 

「その、ぼっちちゃんなんだけど」

 

「はい」

 

「大丈夫そう?風邪、長引いてるみたいだし」

 

なんだ、それか。

後藤さん関係で少し身構えてしまったが、それなら簡単に答えられるな。

 

「今は順調に治ってきてるみたいですよ。週明けには復活するかと」

 

「そう。それならよかった」

 

「店長が心配していたって伝えておきますね」

 

「あー……うん。よろしく」

 

そう言ってまたPCの前に戻る店長。

この事はしっかりと後藤さんに伝える気ではいるが……たぶんプレッシャーに感じるんだろうなぁ。でも仕方ないよね。氷風呂なんて馬鹿な事をした罰だという事にしよう。

手早くモップをかけ終わり、虹夏さんの手伝いをしようとした時。やっとリョウさんが出勤して来た。

 

「あ!リョウ!遅いよ!?」

 

「ごめん虹夏。道端に倒れたお婆さんが三人ぐらいいて」

 

「学校からここまでの短時間にそんな遭遇率はないよね!?」

 

俺もそう思う。

巻き込まれないように遠くから眺めていると、リョウさんに呆れた虹夏さんは店長とバトンタッチしだした。あー、普通に怒られるやつだ。

 

「全く。ホントリョウには呆れるよ」

 

「ベーシストですからね」

 

「なんの免罪符にもならないよそれ……」

 

まぁそれはそう。

けど知り合い……酒カスベーシストきくりちゃんを知っている身からしたら……ね?あれよりマシって思ってしまっている自分がいるのも確かなのだ。

っと、そうだ。

 

「虹夏さん。SICK HACKってバンド知ってます?」

 

「ん?SICK HACK?えーっと確か」

 

「そ!れ!は!!」

 

「うわぁ!?」

 

シュババ!!っと怒られていたはずのリョウさんがものすごい勢いで駆け寄って来た。

び、びっくりするなぁもう!!

 

「音寧!なんでSICK HACKを知ってるの!?いや、今はそんなこといいから教えてあげよう!」

 

「あー、ドンマイ頑張ってね音寧くん」

 

「え?あ、ちょっ!虹夏さん!?」

 

「SICK HACKは新宿のライブハウスFOLTを拠点に活動してて、ジャンルはサイケデリックロック!そして私がオススメするのはベース、ボーカル担当の廣井さんで!」

 

「あ、受付いきまーす」

 

「はーい。リョウはこっちで引き取りまーす」

 

虹夏さん……!!お願いします!

俺は饒舌に話し出したリョウさんについて行けず逃げる事にしたのだった。いや、だってさぁ?流石にあの勢いで来られてしまうと……ね?

とにかく!そろそろお店も開く時間だ。

異様な圧で説明しようとしてくれたリョウさんには申し訳ないが、仕事優先で。じゃないと給料もらえないですよ?

 

 

 

何故かソワソワして、チラチラとみてくるリョウさんをスルーして終えたのが昨日。多分だけど話したかったんだろうなぁ……。だがしかし、帰ってから家事もある俺は仕事の後はすぐに帰宅するし、仕事中もあまり深い世間話はしないのだ。

そんなわけで土曜日を迎えたわけだが。

 

「姉さん?久々に早起きしたと思ったのに……」

 

「…………」

 

リビングの床に寝そべる姉。

俺が朝食を終えてしばらくしてから起きて来た姉さん。昼前に起きてくるのは珍しいと感心したのだが……リビングで二度寝をかますとは思わなかった。

 

「はぁ……掃除をしたかったんだけどなぁ」

 

大きなゴ……いや、姉さんが床に寝ているから掃除機をかけることができない。とりあえず細々とした掃除を終わらせたし、後は掃除機をかけてフィニッシュとしたい所なのだが。

 

「姉さん?せめてソファの上か、自分の部屋で寝てくれない?」

 

平日バイトもあった事だし、掃除だけは終わらせたい。一週間も掃除をしていないのだ。いい加減、掃除をしたくてたまらない気分で毎日を過ごしている俺としては、正直にいうと邪魔である。

朝が弱いのはもう十分過ぎるほど分かっているのだが、無理に起きてこなくてもいいのに。

……なんか、ダメ姉を作ってる気がして来たな……。

 

「ほら、どいたどいた」

 

「んん〜……んぐっ!」

 

「あ、ごめん」

 

抱え上げた時の勢いが強かったのか、勢いに負けた姉さんが呻いてしまった。申し訳ないと思いつつもソファへと捨てて掃除を開始。

今日は夕方からライブに行くつもりだし、それまでにご飯も作ってとなるとあまり時間はないのだ。

掃除機の音でも目覚めない姉さんを放置してバタバタと家事をこなしていく。気が付けばお昼時なのだが……。

 

「姉さん?お昼ご飯いる?」

 

「……後で、食べます」

 

「そう。ちなみに今日だけど、俺は晩ご飯外で食べるからね?」

 

「……ん?……え!?外で!?」

 

ガバリと起きた姉さん。

なんかすごい驚愕の事実を知ったみたいな顔になっている。

 

「晩御飯は作っておくから、姉さんは一人で食べてね?」

 

「そ、そんな!!せっかくの休日なのに!!」

 

「まぁこんな日もあるよ」

 

「最近こんな日ばっかりじゃないですかぁ!」

 

それは仕方なくない?

姉さんの仕事の日は晩御飯に弁当を持たせているし、俺がバイトがある日はバイトが終わってからだと遅くなり過ぎるから俺も適当に食べてるし。今週は運がなかったね。

 

「お昼なら一緒に食べれるけど?」

 

「食べます!!」

 

「はーい。何がいい?」

 

「何……くぅ。悩ましい……!!」

 

そんな悩むことでもない気がするが……。

 

「ハンバー「時間かかり過ぎる」えぇ……」

 

ハンバーグはないです。

夜ご飯には作っておくけど、今からだとお昼が遅くなり過ぎるよ?

とりあえず適当に作ることにした俺はキッチンへと入るのだが……。

 

「うぅ、音寧くんの煮込みハンバーグ……」

 

……はぁ。

結局、お昼ご飯が遅くなる事を覚悟して煮込みハンバーグを作るのだった。……なんか、本当に姉に甘過ぎるよなぁ……この人、こんなんで将来大丈夫なのだろうか?なんか、本気でダメ姉製造機になってきている気しかしなくなってきた俺だった。

 

 

 

行かないでぇ。と嘆く姉さんを振り切ってやって来ました新宿FOLT。ただ、少しばかり時間が早い。

何故そんなに早く出たかというと、外出を妨害しようと構ってくる姉さんに諦めてもらう為。俺、姉さんには厳しくするって決めたんだ。

……たぶん、すぐに忘れるだろうけど。

 

「んー?あ!音寧ちゃんじゃ〜ん!」

 

「ん?うぉっ!?」

 

ガバリと背後から襲われた。

そして同時に薫ってくる酒臭い匂い。

 

「きくりちゃん。だからね?こうやって誰かにいきなり抱きつくといつかご厄介になるよ?」

 

この人、いつか警察のお世話になるんじゃないか?と思ってしまいヒヤヒヤするのだ。

 

「大丈夫大丈夫!てか何!?来てくれたの!?嬉し〜い!ほら、行こ行こ!」

 

「あ、ちょっ!まだ時間早いですから!」

 

「関係者って事でいけるいける」

 

酔っ払い……しかも女性を無理矢理振り払うなんてできるわけもなく、されるがままでFOLTへと案内されてしまった。というか、時間が早いとは言ってもお店が開く時間ももうすぐのはず。

……ん?この人なんで外にいんの?

 

「銀ちゃーん!この子私のスペシャルゲストだからもう入れていいよねぇ?」

 

「はぁ?いきなり何言ってんの?」

 

「あー、ごめんなさい」

 

とりあえず謝っておいた。

理由としては……この人もこの酒カスに苦労してきてるんだろうなぁなんて思ったから。いやほんと、この適当さにはついていくのも辛い。

 

「あの、チケット代払います」

 

勝手に何やってるの?やら、リハ終わってるやら言われ怒られているところに切り込んだ。このままだとずっと放置される気もしてたからなぁ。

 

「あぁ、大丈夫大丈夫。コレにツケとくわ」

 

「えぇ!?」

 

「あ、それでよろしくお願いします」

 

「音寧ちゃんまで!?」

 

きくりちゃんがわーわーと騒ぎ出した時だった。

 

「おい廣井」

 

「んぁ?」

 

「遅刻するなって言ったよな?」

 

「もー!電話もしたんですヨ?」

 

「え?マジで?あら、ホントだ。ごめーん!」

 

軽いなぁ。

というか、この人たちがバンドメンバーなのかな?

 

「あ!紹介するよ!私のバンドメンバーの志麻とイライザ。んでぇ、この子は音寧ちゃん……苗字なんだっけ?」

 

「天見音寧です。今日はきくりさんに招待されてしまったので来ました」

 

「あぁ、君が……」

 

ちょっと待っていてくださいと言いながらどこかに行く志麻さん。そして何故かジーッと見てくるイライザさん。……なんだ?

 

「こ、コレが大和撫子」

 

「え?」

 

「いきなり何言ってんだイライザ。っと、改めまして志麻です。廣井がご迷惑をお掛けしているようで……それに今、イライザも変な事を言い出してしまい……これ、つまらないものですが」

 

「え?あ、ご丁寧どうもです」

 

い、いきなり過ぎて一瞬フリーズした。

こんな所でお詫びの品を頂くことになるとは……ちゃんと受け答えできていたのか気になってしまう。

 

「今日はライブ楽しんで行ってください。あ、でもくれぐれも、最前列には来ないように」

 

「?」

 

「あー、その。とりあえず今回は、志麻の言う事を聞いた方がいいわね。終わった後にそれでも最前列に行きたいって思えたら次はど真ん中に行かせてあげるわ」

 

「はぁ」

 

「では、もうすぐ開店なので私達はこれで」

 

「また後でねぇ音寧ちゃーん!」

 

「はっ!!そうデス!今見てるアニメのキャラにそっくりなんデス!!」

 

「イライザまで暴走しないでくれ……」

 

志麻さんはきくりちゃんとイライザさんを引っ張って控え室へと向かったようだ。

苦労してるんだなぁ……。

 

「それより聞きたいんだけど」

 

「はい?」

 

「音寧ちゃんって、男の子よね?」

 

おぉう!?初見で迷いなく当てられたのは久しぶりかもしれない。

 

「はい」

 

「でもたぶん。あの子達女の子だと思ってるわよね?」

 

「ですね」

 

「……いいの?」

 

「面白いので」

 

「いい性格してるわね」

 

「よく言われます」

 

何故か銀ちゃん店長から厄介者を見る目をされるが気のせいだろう。

 

 

 

そして始まったライブは最高だった。

STARRYでもあまり見ないぐらい圧倒される多さの客数。俺は、音楽に対してまだまだ詳しくはない。けれどそれでも惹かれてしまう。志麻さんのドラムの音が、イライザさんのギターの音が、そしてきくりちゃんのベースの重低音が、歌声が俺の頭をクラクラと揺さぶる。ドクンドクンと心臓がうるさい。

ここまで魅了された事ってあっただろうか?

これほどまでにカッコいいと思ったことはあっただろうか?

 

「……すごい……」

 

たぶん、この日。

俺は何かすごいものに出会ったのだろう。

夢中になってしまいあっという間に終わるライブ。

観客みんなが笑顔で、楽しそうで。この中に俺がいれた事が何故か無性に嬉しくて。

あぁ、コレがカリスマってやつなのかな?

また見たい。もっともっと聴きたい。

一瞬でファンになってしまった自分を自覚する。

 

「でも」

 

最前列で見るのは絶対にやめよう。




というわけで、音寧くんが初めて大きくハマりそうなものを見つけた話でした。
俺自身としては、楽器触らせたいし特にベースを触ってもらいたい。俺も高校生の時に楽しんでましたし。
懐かしいなぁ。バイトせず部活ばっかでお小遣いだった俺はベースの弦を買うのも大変だったなぁ。ギターの弦と比べてクッソ高くて……。アー◯ーボールだっけ?それ買ってたなぁ。
なんて昔を思い出してしまいますね。

だがしかぁし!!
残念。ベースは持たせないからね?音寧くん。
俺、君にはアレをやってもらうつもりだから……。ごめんよ。


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