50周目終わりなエルデの王に祝福を! (ゼノアplus+)
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1話

 

 

今思えば酷い人生……褪せ人としての人生だった。訳もわからず狭間の地に来たと思えば巫女なしとかいう絶望から始まり継ぎ木のゴドリック、星砕きのラダーン、満月の女王レナラ、法務官ライカード、忌み王モーゴット、アステールとかいうクソ虫、ミケラミケラと頭のおかしいモーグ……マレニアは美人じゃなければあのような所業まぢ許すまじ……おっとと思考が乱れてしまった。

 

まあなんやかんやでラダゴン……を殺しエルデの王となった私だが、玉座に座り祝福で休むように目を閉じたと思えば、いつか見た光景が目の前に広がっている。ああ夢か、と思い継ぎ木の貴公子を切り殺せばやけに生々しい感触。まさかと思い死んでみると、薪として焚べられたはずのメリナがまた居るではないか。思わず涙を流し、また会えて嬉しい、と言ってみれば……

 

 

『……?ごめんなさい、あなたと会うのはこれが初めてだと思うのだけれど……』

 

 

タチの悪い冗談かと思った。開いた口が塞がらないというのはラダーン撃破後に見たあの流れ星以来だっただろう。私が驚愕に包まれているうちに昔のようにメリナが取引をしましょうと言ってきたのだ。頭が回っていなかった私は反射でYESと意思表示をしてしまい彼女は姿を消した。

 

ならばと思い夜まで祝福で時間を潰しエレの教会へトレントを駆った。いつもの調子だったのであまり記憶にないが商人であるカーレの私に対する反応も、そういえば以前と比べて他人行儀だったかもしれない。ブライヴを紹介してくれたあの時の声音ではなかった。

そして何より、あの教会で私は運命と出会った。彼女なら、彼女だけが私の事を覚えてくれていればいい。エルデンリングを手にし新たな律と共にあの夜へと消えていった彼女ならば……

 

そして……私は絶望した。すまない、思い出したくもないんだ。これだけは語らせないでくれ。

 

 

『忘れたならばもう一度、関係を築いていけばいい』

 

 

あの時の私はなんと楽観的だったのであろうか。何故、昔手に入れた数々の武器、防具、魔術、祈祷……それら全てを保持したまま新たな地でもう一度やり直すことができると当たり前のように感じていたのだろうか。

 

ツリーガード?5秒で消し飛ばした。

 

パッチ?力加減を誤り、巨人砕きで文字通り砕いてしまった。

 

マルギット?彗星アズールで喋る暇もなく消し飛んでいった。

 

今まで苦戦していた数々の領域支配者達は私の力になすすべなくルーンへと変わった。デミゴッドも同様だ。慢心故に死にかけたことは幾度もあったが、死ぬことなんて一体につき一度か二度、ラダーンを誰の手も借りず一人で鏖殺した時には化け物を見る目でブライヴに見られた。

 

どいつもこいつも歯ごたえがない。私は何をやっているのだろうか、ラダーンがアレキサンダーや翁達を吹き飛ばしていたのはこのような感覚なのだろう。徒らに強かった私は、彼らを有象無象と認識せざるを得なかった。それほどの実力差があった。

 

それでも、彼女は……ラニだけは以前と同じように私を王と呼んでくれた。指輪を大切そうに見つめる彼女が旅立ったあと、満を持して2度目のラダゴン、エルデの獣との戦い。幾度も死んだ経験が活きたのか以前よりも格段に死ぬ回数を減らし忌々しい害獣を駆除した。

 

暗月の大剣を装備した私を見て、ラニは嬉しそうな声でおめでとうと言ってくれた。またもや彼女が旅立ち、私はエルデの王となった。

 

 

玉座を前に、私は足を止めてしまった。また始まりのあの地へ戻ってしまったら私は正気でいられるのだろうか。夢などではない、2度目だと思ったあの光景は全て現実で今まさにもう一度この玉座で目を閉じてしまったら……嫌な妄想が頭を駆け巡り脳が警鐘を鳴らしている。

 

全てを雑魚として蹴散らしてきた私には、退屈な感情が微かにあったのかもしれない。それゆえに、未知という好奇心に心が動かされた。意を決して玉座に座り目を閉じる……そして目を開けると……

 

 

『ハハッ……ハハハハハハハハハハハハh………クソがァァッァァ!!!!!!』

 

 

思えば既にあの瞬間私は壊れていたのかもしれない。『終わらぬ冒険』……いや冒険とももう呼べないだろう、そして私は3()()()の狭間の地に舞い降りたのだ。

 

どうすればこの地獄が終わるのだろうか……ゴドリックの死体の上で思考に耽っている私にゴストークが語りかけていたのだが、気づかなかった。あまりにも煩かったので思わず殺してしまったのは流石に申し訳なかったな。

 

そして私は思い出した。ハイータという巫女の存在を。今思えば何故彼女はシャブリリの葡萄など求めていたのだろうか。ラニからの使命をこなすことに夢中で忘れていた。私は彼女に3つのシャブリリのブドウを渡し、指痕のブドウも贈った。

 

思い出したかのようにデミゴッド達を殺し巨人達の山嶺に辿り着けば、ユラの見た目をしたシャブリリと名乗る男に出会った。

 

混沌……そうだ。ラニの律でエルデの王となっていたから3周目などという意味のわからない現象が起きているのではないか。愛したはずの女を疑ってしまった私は、狂い火に魅せられ……彼女に敵対した。彼女の律は終わらない夜が関連している。つまり原因はソレにあると考えたのだ。

 

そしてシャブリリの言う通りドブみたいな色のモーグを殺しその先を目指す。道中メリナがいつになく強い口調で私の行動を咎めてきたが、知ったことではない。

 

『私がこの終わらない世界を終わらせる』

 

破顔したメリナの顔は見ものだったがそれ以降、メリナは現れなかった。狂い火の封印と呼ばれる祝福のそばにはハイータがいた。曰く、全てを脱ぎ捨て扉を開けろ、と……言われるがままに下着姿となって扉を開ける。そこにいたのは忌まわしき二本指ではなく三本指。狂い火を我が身に宿した私は各地に散らばる狂い火の祈祷を集め、ラダゴンを蹂躙した。

 

混沌の……狂い火の王となった私は世界の全てを狂い火の下に等しく全てを終わらせた……はずだった。

 

 

そして4()()()が始まったのだ。この頃には私は自らの能力に限界を感じ始めていた。筋力や知力、信仰が頭打ちになったのを実感していた私は、ならば全てを網羅してやると誓った。

 

 

狂い火は私の目的を達成するに不足だった。ならば次だ。

 

フィアに心酔し死王子の修復ルーンを以てエルデの王となった、ダメだった。私には死という終わりももたらしてはくれなかった。

 

金仮面卿の考えを理解し、完全律の修復ルーンを以てエルデの王となった、ダメだった。私を……エルデの王を完全な機械の部品としたその世界は終わりなどもたらさなかった。

 

嫌々ながらも糞喰いと会話を重ね忌み呪いの修復ルーンを以てエルデの王となった、ダメだった。()()生まれてくる者全てに呪いを与えるこの世界は、終わりなど迎えるはずがなかったのだ。

 

 

10周、20周、30周……この時既に私の力は成長することがなかった。成長に()()()が来た。嬉しかった……終わりがなかったこの人生に、何か些細なものでも終わりが来たことが。

 

 

フィアは、金仮面卿は、糞喰いは、彼らは絶対的なその意志により新たな修復ルーンを生み出した。ならば、私にだって【終焉】を司る修復ルーンを生み出すことができるはずなのに……私には出来なかった。私は彼らと同じ褪せ人のはずなのにも関わらず、だ。

 

 

「……終わりだ」

 

 

頭部が崩れ落ちたマリカ像を目前に、私は呟いた。いや終わりなどではない。また次が始まるのだ。ここまで律儀に数えてきたが、もうここからは数えなくてもいいだろう。

 

 

「50……50回だ。何故ここまでして未だ私は報われない。それもこれも外なる存在が原因なのか」

 

 

この世界の基盤は黄金樹。そしてそれらを修復しようとしている二本指とは大いなる意志の使い……つまりさらに上位の存在がいる。二本指は、大いなる意志が指読みの老婆達に言葉を伝えるためのいわばタイプライターのようなもの。奴らを穢したところでなんの意味もないのだ。

 

 

「…………次は貴様らだ。震えて待っていろ、神ども」

 

 

女王マリカや黄金律ラダゴンは神と呼ばれたが、所詮はこの世界の法則の下に存在していたただの稀人。時を経て神として祭り上げられたがゆえに神格を得ただけの人造神にすぎないのだ。それよりももっと外にいる存在達を神と仮定し、殺すことが出来れば……

 

 

「終焉を……この世に、私に、本当の終焉を齎すために……寄越せ」

 

 

50に至る今までの道筋を重ねてきた私がたどり着いた答え。絶対的な意志を以て私は初めて、生み出すことに成功した。

 

 

【終焉のルーンで、エルデンリングを修復する】

 

 

今、この場で私が手に入れた新たな力、【終焉の修復ルーン】。修復をして持続させるのにも関わらず、それが司るのは終焉という矛盾。なんとも皮肉な話だが、全てが始まりに還っているのにも関わらず変わらずあり続ける私という存在にはふさわしいルーンだと言えるだろう。

 

 

『…………ッ!?!?!?』

 

 

違和感を感じた。ふと空を見上げると何かが光った気がした。ここは黄金樹の中であって空など見えないはずなのに、ソレは輝きを増している。

 

 

「待て……待っていろ。まだ私はエルデンリングを修復していないのだ!!」

 

『!!!!!!』

 

 

言葉などなくてもわかる。ソレが……外なる存在が干渉してきている。二本指を通して高みの見物を決め込んでいただけだったはずの奴らが、私にエルデンリングを修復させまいと力を行使している。

 

 

「ハハハッ!!滑稽なものだなぁ神め!!貴様らは遅すぎたのだよ!!さあ、終焉を……私に終焉をもたらせ!!」

 

 

強引にマリカ像の頭部を持ち上げ首にはめる。そして手元に現れた【終焉の修復ルーン】をエルデンリングへとかざす。

 

 

『%£$&#*々※〆&$&€£々{〒〆$£€!!!!!!!』

 

 

パリンッ

 

「…………あぁ、やってくれたな。だが、成功はしているのだ。次、51の世界で……私は私を終わらせる」

 

 

外なる存在の、過剰とも言える干渉が私のルーンを砕いた。

 

しかし私は口元のにやけが止まらなかった。希望が打ち砕かれようとも、次を与えたのは貴様らなのだ。希望があると知れただけ、今回は良かったとしよう。

 

仕方なく、いつも通りにエルデンリングを修復し、玉座に座る。

 

 

「あぁ、楽しみで仕方がないよ。ようやく、終わりが見えたのだから」

 

 

漏れ出そうになる高笑いを抑え、次の世界へと舞い戻るために目を閉じる。

 

 

『出て行け……この地から、出て行け!!』

 

 

怒りとも取れるそんな言葉が、一瞬聞こえた気がしたが高揚で気が気じゃない私には関係のない話だった。

 

 

 

 

 

 

 

「カズマさん、カズマさん!!こ、この男から神の気配を感じるわ!!いや神ではないんだけどそれと同等というか、それ以上というか……とにかくこの場から今すぐ離れましょう!!最悪魔王城にでも保護してもらいましょうよ!?」

 

「女神のくせに何言ってんだお前。やっと馬小屋暮らしが安定してきたってのにこの街を出てけるわけないだろ!?つくならもっとマシな嘘つけよ!!……にしてもコイツ……めっちゃいい鎧着てんなぁ」




【終焉の修復ルーン】

エルデの王となり続けた褪せ人が宿したルーン
エルデの王がエルデンリングを掲げる時
その修復に使用できる

終わらない世界で終わりを望み
その身に抱えた矛盾を律とする

否、それは律にあらず
全ての者に終焉を

そして私に本当の終わりを


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2話

 

 

 

「はぁ……どうしたものでしょうか」

 

「…………」

 

 

やあ諸君。先日は見苦しいところを見せてしまったな。エルデの王だ……いや、やはり好きに呼ぶといい。己の名などとうの昔に忘れてしまったからな。

 

さて、簡潔だが私の今の状況を説明しておこう。知っての通り私は51周目の世界に舞い降りるはずだった。しかし目を開けてみれば目の前には見たことがない少女がいる。しかし彼女は神格を有しているのか、やけに神々しいオーラを放っている。

 

 

「ええと、先に言っておきますが私も今回の状況を上手く把握できていないのです。なので順を追って説明させていただきます。その際いくつか質問させていただきますが……」

 

「…………ああ、よろしく頼む。私もこの状況が分かっていない」

 

 

少女は困り果てた顔でこちらを見てきている。ただ間違いなく言えるのは、ここは狭間の地ではなくどこか別の世界だという事だ。

 

外なる存在共め、エルデに終焉をもたらせたくないとはいえ私ごとルーンを遥か別の場所へ追放するとは……

 

 

「それでは……まず貴方は狭間の地でエルデの王と呼ばれていましたか?」

 

「ああ」

 

「やっぱり……うぅ……アクア先輩はいない時に限ってこんなことが起きるなんて……いやあの人に任せるよりかはマシなのかなぁ」

 

 

質問に肯定で返すと、少女は何やら唸っている。まあ不測の事態が起きているので仕方ないとはいえ、しっかりとして欲しいものである。

 

 

「失礼しました。まずは自己紹介を。私の名はエリス、幸運を司る女神です」

 

「ほう。知っての通り、エルデの王と呼ばれていた者だ」

 

 

やはり神に名を連ねるものだったか。しかし……ラダゴンとはえらい違いだな。やはり神にも個人差があるということか。

 

 

「お噂はかねがね……えーと、まずここは狭間の地ではありません。天国と地獄の中間地点のようなものだと思ってください」

 

「ふむ……そう言った概念もあったな」

 

「貴方はそちらの神……貴方達が二本指と呼んでいた端末を操作していた者の強引な転送処理により私たちが管理するこちらへやってきたのです。ここまで大丈夫ですか?」

 

「ああ、なんとなく察していたからな。やはり奴らはいつか殺さねばならんな」

 

「ひぃ……か、神殺しを神の目の前で口にするとかぁ……」

 

「……すまない。無神経だった」

 

 

大体は予想通りの顛末だが……さて、この世界とやらは狭間の地とはどう違うのだろうか。

 

 

「先に申し上げておきますと、そちらの神とは管轄が違うといいますか……全くの別次元の話なので一切の関わりがないといいますか……むしろ私たちもやっか……突然貴方が送られてきて驚いているというか……」

 

「いやもういい。少なくとも我々が多大な迷惑をかけているというのはよく分かった」

 

 

少なくとも私はこちらの神達に厄介なものとして認識されているらしい。ハハッ、外なる存在に厄介払いされたと思えばこちらでもか。なんだこれは。

 

 

「如何様な処分でも受けよう。なに、私はもう終わった者だ」

 

「……その件につきましては、ご愁傷様です。観測員のあれほど青ざめた表情は初めてでした」

 

 

どうやら今までの私の行いも見られていたらしい。それにしてもこちらは人材が豊富だな。徒らにエルデを陵辱しているクソどもとは違いが激しいな。

 

 

「貴方に関しては私の裁量でどのようにしても構わないと上司に言われているんですけど、どうしたいです?」

 

 

……上司とかあるのか、神に。

 

 

「どうもこうも、私を私として終わらせてくれるのならなんでも構わない。いや……しかし、うむ」

 

 

まさかこちらに選択肢を寄越すほどお人好しだと思っていなかった。エルデなら怪しんでとりあえず切り捨てるレベルだがここは他所様の世界。一般常識というものがわからない。

 

 

「できる限りの手伝いをしよう。それを以て罪滅ぼしとさせていただきたい」

 

「ええ!?いいんですか……」

 

「この身はすでに終わったのだ。しかしそれでも王としての矜持がある。こちらの不始末はこちらで片付けよう……なに、戦いだけが取り柄なのでな」

 

「ちょっと上の方に確認してきます!!」

 

 

私が片膝つきしかと宣言してみれば、エリス殿は焦り気味に引っ込んでいった。

 

時間ができたので私は思考に耽ることにする。狭間の地から遠すぎる場所に来てしまった。エルデの王としてはどうかと思うが、繰り返し続く無限の地獄よりかは幾ばくかマシ……いや、むしろ好奇心が勝る。久しく感じるこの感覚、果たして何周目まで感じていたのか……

 

終わらせるのは、それからでもいいだろう。

 

 

「すいません、お待たせしました」

 

「……いや問題ない」

 

「結論から言いますと、異世界を救っていただきたいのです」

 

「ふむ。詳しく聞こう」

 

「その世界は魔王と呼ばれる脅威が存在し人々の生活を脅かしています」

 

 

魔王……?魔を統べる王だろうか、それとも魔に精通する王だろうか……

 

 

「魔王は軍を作り人間の勢力圏へ侵攻をしているのです。そのせいで最近は人口減少が激しくてですね……現状、別世界の死者を転生させることで移民を促し同時に魔王討伐の勇者を募っているのです」

 

「なるほど」

 

 

なるほどとは言ったが、あまり分かっていない。人口が減ることの何が問題なのだろうか。私の学がないのもあるが、あまりにも一般常識というものが私に欠けているように感じる。狭間の地とはもしや異端も異端の地であったのか?

 

 

「質問、よろしいか」

 

「あ、はい。なんでしょう?」

 

「その魔王は絶対悪なのだろうか。

私がエルデの王になる前、その旅路には色々な者がいた。ただ力のみを求めた君主、愛する夫に裏切られた狂った女王、腐敗したその身でなお全てを蹂躙する大将軍、忌み子と呼ばれ続けても過去の栄光そのものである玉座を守り抜いた王……彼らは大きな違いはあれど信念を持っていた。故に私の前に立ち塞がった。魔王とやらはどういう存在なのだ?」

 

「それは……申し訳ありません。異世界に降り立つ勇者様方には説明することができない決まりなのです」

 

 

エリス殿は苦虫を噛み潰したような表情で深々と頭を下げた。随分と腰の低い……神とはもっと不遜な存在だと思っていたがどうやら違うらしい。

 

 

「そうか。ならば仕方ない。謹んで受け入れよう」

 

「え、いや、あの。よろしいのですか?」

 

「聞けないのなら仕方あるまい。元より私に貴公らの提案を断る気などないしな。さて、世界を越えるのだ。何かしら制約があるのだろう?」

 

「あ、はい。褪せ人としての死に戻りは問題なく行えます。エルデ式の祝福の設置も、場所は少ないですが今進めている最中ですので問題ありません。しかしですね……竜祈祷の使用は、控えてほしいとの意見が出まして」

 

「ふむ、何故かね」

 

 

竜餐を成した者のみが手に入れることのできる、ある意味禁忌の力。遠い昔、ユラが言っていたな。『いつか人でなくなる、破滅の道である』と。それが関係しているのか。

 

 

「竜餐、それは禁忌の業です。徒らにあの世界に広めていいものではない、と」

 

「好き好んでエルデの術を広める気はないが……分かった」

 

「さらに朱い腐敗に関するものはその使用を完全に禁止するとのことです」

 

「……それは、当然か」

 

「えぇ、ありとあらゆるものを腐敗させる腐敗の力。その浄化は神の力を以ってしても時間がかかりますからね」

 

朱い腐敗は、腐敗の女神マレニアが咲いたことでばら撒かれたもの。ケイリッドの惨状を見れば当然だろう。女神の力の一端なのだからな。

 

 

初めてケイリッドに訪れた時、エオニアの沼には恐怖したものだ。好奇心で宝箱を開け転送罠にかかったのはいい思い出である。

 

 

「それだけか?」

 

「はい、そうですよ」

 

「……自ら申告するのはどうかと思うが、源流の魔術は問題ないのか」

 

「貴方が使用しても問題ないようですし、そもそもエルデの法則などその他の世界には理解不能なので大丈夫です」

 

「そ、そうか」

 

 

何やらエリス殿の圧が凄かった気がしたが気のせいだろう。遠回しにお前ら頭おかしいよと言われたか?いや、そんなまさかな……ははっ、はぁ。

 

 

「狂い火の祈祷も自主的に制限しておこう。あれもまた業の深い術だ」

 

「そうしていただけると助かります。大体このくらいですね。後は現地で住民達に直接聞く方がいいでしょう」

 

「そうさせていただく。長々と、失礼したな」

 

「いいえ!!かのエルデの王にお力添えいただける方がプラスすぎますしむしろ2日もあれば使命とか終わっちゃうんじゃないかというか……は!?そろそろあちらの世界へ送らせていただきます」

 

「ああ……よろしく頼む」

 

 

何やらぶつぶつ言っていたようだがまあいいだろう。短い間だったがエリス殿には世話になったな。

 

 

「言い忘れてましたけど上司達がとっても頑張って言語問題とかをクリアしてくれたので会話や読み書きは普通に行えます……神が死にかけるくらい干渉が難しいとか言ってましたけどね」

 

 

久々に笑いそうになること言うのはやめてくれよエリス殿、滑稽で仕方がないじゃあないか。神は嫌いだからな、エリス殿以外。

 

 

「それでは……エルデの王よ。息災を祈ります」

 

 

私の足元に魔法陣が展開され輝き始める。私は抵抗することなくその輝きに身を任せようとして……

 

 

「……あっ、これ力が強すぎて制御できないかも」

 

 

私が最後に聞いたのは、とてつもなく焦るエリス殿の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、あたりに広がるのは自然豊かな土地。リムグレイブのような緑に包まれているが、空気が全く違う。ここはなんというか……澄み切っている。エルデがどれだけ魔境だったのか、このような場面で実感するとはな。

 

さて、エリス殿はどうやら転送をミスしたらしい。まあ私自身、エルデでも最も強いという自負はあるため当たり前なのだが……またもや彼女には悪いことをしてしまった。いつか謝罪する機会があればいいのだが。

 

あたりを見渡せば、確かに何もない。祝福もだ。これはまずい、この状態で死ぬようなことがあれば……待て、私が最後に触れた祝福はどこだ?玉座の間か。一刻も早くこの世界に設置されたという祝福に触れねばな。

 

 

「あ、あのー」

 

 

まずはあたり一帯の敵の強さの確認をせねば。坩堝の鎧が目立つのかどうかも分からないしそもそも人里が近いのかも知らない。

 

 

「すいませーん……」

 

「か、カズマ、聞こえてないみたいよ。もっと大きな声出しなさいよ!!」

 

「だって怖いじゃん!!フルプレートの騎士とか序盤であっていい奴じゃないって!!」

 

 

手頃な武器は…………猟犬の長牙でいいか。一応盾も装備しておこう、まあシンプルにヒーターシールドだな。

 

 

「うお!?どこからともなく剣と盾が!!アレ完全にやる気だろ!?」

 

「……ん?」

 

「ぎゃああああ!!気づかれた!!俺はここで死ぬんだぁぁぁ!!」

 

「ちょっと、何諦めてんのよ!!女神であるこのアクア様がついてるんだからしゃんとしてよ……あのカズマさん?どうして私の肩を掴んであの騎士に向かって押し出してるの?嘘よね?私アークプリーストなのよ?」

 

 

何やら騒がしいと思っていたが、人だったか。おかしな格好をした男に、露出の高い青い女。エルデンリングが砕けた影響で殆どの人間が狂ってしまっていたから新鮮だな。

 

 

「そこの2人、私に何か用事か?」

 

「「え……」」

 

 

私に話しかけられたことに驚いたのか取っ組み合いをしていた2人が一斉にこちらを見た。

 

 

「誤解のないよう伝えておくが私はつい最近この地へ来たんだ。常識というものに疎くてな……失礼があったならば謝罪するが」

 

「いえいえいえいえいえ!!!!いやー、僕たちもここら辺じゃ見ない格好の人が居てちょっと驚いただけっすよ。えっと……男性?です?」

 

「ああ、男だ。まともな人間と話すのも久しぶりでな。兜は外した方が良さそうだ」

 

 

坩堝の樹兜に触れ、ルーンに変換し私の中に収納する。男の方がパクパク口を開けて震えているが、またなにかやってしまっただろうか。

 

 

「かっちょいい鎧にめっちゃイケメンで収納系持ちとかどんなチートだこんちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

ふむ、少し……エルデに帰りたくなってきたかもしれない。



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3話

 

 

「はい、すいません。少し取り乱しました」

 

「あ、あぁ……いや、身分のわからない者を前に不審がるのは仕方ないことだろう。気にしないでくれ」

 

「プークスクス……カズマさんったら自分に無いものを羨ましがったって仕方ないくせに」

 

 

異世界への第一歩で既につまづいている気がするのは気のせいだろうか。しかしこの2人は記念すべき第一……えっと、なんだ?第一村人?だからな。そもそもエルデの狂った奴らと比べれば会話が通じるだけ随分とマシなのだよ。

 

 

「そういえばそこの女性、少し聞きたいことがあるんだが」

 

「ええ、何かしら?私の事はアクアでいいわよ」

 

「ではアクア殿、貴公はもしや女神か?」

 

「「へ……?」」

 

 

私がそう言った直後、2人が私でも感嘆するようなバックステップ……いやもはや戦技クイックステップに匹敵するレベルで後退するとヒソヒソと内緒話を始めた。おや、もしかして声の掛け方を間違えたか?

 

 

「カズマさんカズマさん、私が女神なのは事実だけどあれって……」

 

「ああ、どう考えてもナンパかそれらの類だ。自分のイケメンフェイスで相手をときめかせてから甘い言葉を投げかける奴らの常套手段だろうよ」

 

 

何やらとても失礼なことを言われている気がする。まあもしやこの世界では私の顔はとてつもなく醜く映るのだろうか……彼が先ほどから言っているイケメンとはもしかして……?

 

 

「密談中のところ悪いが、訂正させていただく。なぜ女神が下界に降臨しているのか、と質問したかったのだ」

 

「そっちかよ!?……え、そっちなの!!」

 

「あー、もしかして私が昔転生させた勇者候補の1人だったりするー?そんな鎧あげた覚えもないんだ……け……ど……え、嘘ちょっと待ってよ。なんでこんなところに褪せ人がいるのよ!?」

 

「……褪せ人?」

 

「おお、やはり知っているらしいな。話が早くて助かる」

 

 

アクアと名乗る女神は我々の事を知っているらしい、つまりはエリス殿と同等かそれに準ずる程度には神格を有しているという事だ。

 

 

「なあアクア、褪せ人ってなんだ?」

 

「アセビト……アセビト、ナンデ……ウソデショ……」ブツブツ

 

「……僭越ながら私が説明させていただこう。そちらの女神はどうやら思考停止しているらしい」

 

 

〜エルデの王説明中(アクア様ご乱心中)〜

 

 

「ほーん、つまりチートって事かぁ」

 

「先ほどからイケメンやらチートやら、どう意味だ?」

 

「あー日本出身じゃないなら知らなくても仕方ないっすよね。かくかくしかじかでこういう意味っす」

 

 

なるほど、本来勇者候補として転生する異世界人の出身地はニホンといい、多種多様な言語の人間達がそんざいしていると……

 

 

「面倒な世界だな……」

 

「ほんとっすよ。なんで学校で母国語以外やらないといけないのか……(あ、俺ヒキニートだった)」

 

「学校?……カズマ殿は学院に通っていたのか。高い身分の者なのだな」

 

「いえ、日本じゃ義務教育と言って一定期間中は学校で学ぶ義務があるんすよ」

 

「なん……だと……!?」

 

 

ニホンの子供達は全員必ず教養を得ることができると?どんな魔境なのだニホン……!!

 

 

「ああそういえばお兄さんの名前聞いてなかったっすね」

 

「む?……ああ、名前か」

 

 

なんと名乗ればいいのだろう。エルデの王?いやいや不遜すぎるだろう。事実だがな。

 

 

「とりあえず褪せ人とでも呼んでほしい。先ほど説明した通り気軽に死ねる分長い時間を生きていてな。名前を忘れてしまったのだよ」

 

「了解っす。あんまり深くは聞かない方が良さそうっすね」

 

 

カズマ殿と一通りの情報交換を行なっているうちに日が暮れかけていた。

 

 

「やっべ、もう夜じゃねえか。おいアクア、とっとと帰るぞ」

 

「…………え!?ああうんそうしましょ」

 

「褪せ人さんどうします?行く当てがないんだったらアクセルの町まで案内しますけど」

 

「いいのか?」

 

「そりゃもちろん。俺ら薬草採取のクエスト受けてたんすけど、ここら辺夜になるとモンスターが湧くんですよ。良かったら護衛をお願いしたいなーって……」

 

 

交換条件か、ただの善意よりかは分かりやすくていいな。

 

 

「いいだろう。よろしくお願いするよカズマ殿、アクア殿」

 

「ちょっとカズマさん、この褪せ人ってまだ冒険者カード作ってないんでしょ。褪せ人って強さもまちまちらしいしこの人も鎧だけとかそういうオチじゃないの?」

 

「お、おい失礼だぞアクア!!」

 

「なに、疑うのも仕方ないだろうカズマ殿。実力で示せばいいのだ。例えば……アレはモンスターかね?」

 

「「アレ?」」

 

 

私が振り返り指を指すと2人も揃って同じ方向を見る。

 

 

『…………タマシイ……クワセロ……』

 

 

「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

 

「む、そんなに強敵なのか?」

 

「レイスだよレイス!!今の俺たちじゃ絶対倒せないっす!!」

 

「ほう、ならば腕試しにちょうどいい。ならば……これだな」

 

 

私は『猟犬の長牙』をルーンに変換し、代わりに『神狩りの聖印』を右手に持つ。

 

 

「あのー……褪せ人さん?そのペンダント?のお名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」

 

「『神狩りの聖印』だが」

 

「神狩りぃ!?ひぃ!!」

 

「ああ、そういえば女神だったな」

 

 

神の前で神狩りなど使うべきではなかったか。しかし、アクア殿でも敵わないレイス?というモンスターであればこれでも不足かと思ったのだが……

 

 

「『黒炎』」

 

 

神狩りの祈祷と呼ばれるこの術は神肌の使徒が使う祈祷だ。手に灯した火を投げつける『火投げ』と同じようなものだがこの祈祷の真髄はもっと別、命中すると相手の命を削りつづける炎となる。そして『神狩りの聖印』はこれらの祈祷を強化することができる。

 

私は祈祷を放つタイミングを遅らせ最大まで威力をため……投げつける。

 

 

『アギャァァァァァァァァ!?!?!?』

 

「……意外と脆いな」

 

 

黒炎の追加効果を発動させるでもなくただの一撃でレイスは崩れ落ちルーンへと変換された。250ルーン……意外と多いな。この程度でゴドリック兵以上ならばまあ悪くない効率だ。

 

 

「これならば『火付け』でも問題はないか……信仰用のタリスマンを装備していなかったにもかかわらずあの耐久、もしや攻撃をさせてはいけないタイプのそれ、もしくは耐久力だけ異常に低いのか。ふむ、この世界のモンスターに対する知的好奇心を満たすというのも悪くはない。エリス殿も魔王討伐の期限設定をしてはいなかったし多少はハメを外してもいいのではないか……?」

 

 

いや待て……本来の目的を思い出せ。私は私を終わらせるために今尚意味のない生を送っているのだ。

 

ん?こちら側への罪滅ぼしとしてエルデの王として来たのだからそれとこれとは話が別なのではないだろうか。ふむ、よしそういういうことにしておこう。

 

 

「改めて自己紹介をしておこう。神の御業でも到達することのない遙か彼方、狭間の地にて王を名乗っている。なぁに、この世界では若輩者ゆえよろしく頼む。カズマ殿、アクア殿」

 

 

 

レイスだったものが揺らめく黒炎の薪として焚べられた光景を背後に、私は2人にそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

ぷるぷると震えながら私を先導する2人に案内され、ついに人里にやってきた。この辺になってくると人間とも出会うことが多くなり私は新鮮な気持ちで彼らの会話を聞いていた。

 

エルデンリングが砕けてからというもの、狂っていない現地の人間を探す方が困難だったからな。いや、待てよ……パッチの盗賊団はまだマシな方なのか。世も末だな。

 

 

「ここが始まりの街アクセルだ。まあ俺と同じように魔王討伐の使命があるんだったらまずは冒険者登録……って、褪せ人さんお金持ってる?」

 

 

カズマ殿には敬語をやめてもらうよう言った。私は王という立場ではあるがそれはエルデでのこと、この世界では関係がないため他の者と同じように接してもらおうというわけだ。もちろん最初は全力で首を横に振っていたが、これほどの鎧を着ている人間と対等の立場で接している、ということが周りの人間にどう映るかというのを考えさせたところ、今まで見たことがないような笑みで承諾された。彼にはこういう手段の方が頷いてもらいやすいということに気づいた。

 

 

「私が居たエルデの地ではルーンと呼ばれる、自身の強化や買い物などに共通して使われる概念がある。私がこうやって武器や装備を取り出したりしているのも全てそのルーンを通して、というわけだ」

 

「つまり……?」

 

「所持していない……ん、少し待ってくれ。インベントリに見覚えのない品が……『異世界の銭袋』?」

 

「あっ、それ私達が勇者候補に最初に贈る予定のスターターセット……」

 

「つまりアクア、お前が俺に渡し忘れてたやつか」

 

 

私とカズマ殿から視線を逸らしヒューヒューと下手な口笛を鳴らしているアクア殿を見る。私達からの視線に耐えきれなくなったのかアクア殿は焦り気味に喋り始めた。

 

 

「し、仕方ないでしょー!!アレはカズマが急に私を指名なんかするから、そんなの準備する暇がなかったのよ!!」

 

「あーはいはい、それは前も聞いたから。今は褪せ人さんを案内する方が先だ。ちょっとそれ借りるぞ……えーと、1000エリスなら登録料ぴったりだな」

 

「ふむ、エリスというのが通貨の単位かね。エリス殿の名前と一緒だが……」

 

「ああ、この世界はエリス教ってのが1番有名な宗教なんだ。だから通貨もそれに準じている。で、次に……っていうか碌でもない奴らの溜まり場がアクアを信仰しているアクシズ教」

 

「なるほど」

 

 

ルーンではなく通貨制だったら、100マリカという単位だったのだろう。ふむ、まああの世界で通貨の製造をしている暇があるなら武器の製造をする方が有益か。ヒューグとイジーにはとても世話になったな……ヒューグ、いやもう何も言うまい。あれが彼奴の選択だった。

 

 

「ほら、あのでかい建物が冒険者ギルド。褪せ人さんの能力ならめっちゃ騒がれると思うぜ。まあ既に目立ってるけどな」

 

 

確かに、町に入ってからは色んな人間から視線を感じている。風車村ドミヌラで試しに1人切り殺した時並みだ。

 

 

「やはりこの鎧は目立つのだろうか」

 

「そりゃあな。この町は駆け出しの街とも呼ばれてる。冒険者になりたての奴らばっかだからそんな豪華な鎧のやつはいねぇんだよ」

 

「ほう……なら装備を変えるか。出来るだけ目立たないようにするには……」

 

「いやいや、こんなところでアイテムの出し入れなんかしたら目立っちゃうでしょ!!」

 

「む、それもそうか。ありがとうカズマ殿。やはり貴公は頼りになるな」

 

「いや、はは、それほどでも……(この世界に来て初めて常識人だと思った人がまさかどチートの王様とか誰も思わないしそもそもこの世界出身じゃない俺がなんでこの世界の常識を教えてるんだろ)」

 

 

目立たないと言うのならば黒き刃の鎧か。いや、足音とかそう言う問題ではない……

 

そんなことを話しているうちに冒険者ギルドに到着した。扉を開けて入った瞬間、屈強な男達が睨みを利かせてきた。ふむ、これと言って特に強者はいない。まあ駆け出しの街というくらいだ、期待しすぎるのも良くはないだろう。

 

 

「おっ、受付空いてんじゃん。じゃあ早速登録といこうぜ」

 

「ああ」

 

「今日はどうされましたか」

 

 

受付の女性が要件を訪ねてくる。ちらっとカズマ殿に視線を送ると、すぐうなづいてくれた。

 

 

「この人の冒険者登録をお願いします」

 

「はい、では登録手数料1000エリスをお願いいたします」

 

「これで足りるだろうか」

 

「………はい、丁度ですね。サトウカズマ様からの紹介という形になりますのである程度は理解しているとは思いますが、改めて冒険者について説明いたします」

 

 

受付嬢の話によれば、冒険者とは言ってしまえば何でも屋というものらしく、近くの壁に貼られた依頼をこなし報酬をもらって生活をしている者達のことらしい。そして、一概に冒険者と言ってもそれぞれに職業があるらしい。私のイメージでは純戦士、魔術師、信仰者、などなにかに特化している者のイメージだが……それらは修練とルーン獲得による能力上昇でどうとでも改変可能だ。わざわざ『職業』という形で定義するということはなにか特別なものがあるのだろう。

 

そして私の一枚の紙が渡された。カズマ殿曰く、自分の身分を証明する証らしい。

 

 

「こちらにレベルという項目がありますね?ご存知の通り、この世のあらゆるものは魂を体の内に秘めています。どのような存在も生き物を食べたり殺したり、その生命活動にとどめを刺すことでその存在の記憶の一部を吸収できます。通常、経験値と呼ばれるものですね」

 

 

それはまさしく我々でいうルーンそのものだ。まさかエルデの地とこの世界は何かしら互換性がある?先程レイスを殺した際にルーンは得られたし案外いけるのか……?

 

 

「通常それらは目で見ることができませんが、このカードを持っていれば冒険者が吸収した経験値を確認できます。これが冒険者の強さの目安になりますね」

 

 

ルーンによる能力上昇がこの世界で言う『レベル上げ』に該当するのであれば、ある時を境に一切のレベルが上がらなくなったと感じた私はもしや上限を迎えているのだろうか。そうなると私は今後一切、成長の余地がないと言うことになるのだが……

 

受付嬢の言う通りにカードに自分の個人情報を書き込んでいくらしい。体重?年齢?身長?…………どうすればいいのだ。

 

 

「カズマ殿、私の年齢は幾つに見える?」

 

「え、んーまあ25とかじゃないのか?あ、長いこと生きてるって言ってたな」

 

 

ヒソヒソとカズマ殿と相談し、受付嬢に告げる。

 

 

「年齢は大丈夫だが、身長、体重は生憎測ったことがない。ここに計測できるものが有ればお借りしたいのだが」

 

「あ、はい。そういう方もよくいらっしゃいますので機材を準備してありますよ。男性職員を呼びますので少々お待ちください」

 

 

対応が素晴らしい。エルデでの受付と言われて思い出すのは……はっ、ヴァレーか。導きの始まりに何故か彼奴はいたな。

 

専用の垂れ幕?が用意され、鎧を脱ぎ(インベントリではなく普通にだ)身長と体重を測ってもらい私はそれをカードに書き込む。自分について知るというのは何気に初めての経験だ。エルデのことは大抵知り尽くしたというのに、まさか自分のことを知らないとはな……

 

そして受付嬢に促されカードに触れる。こうすることで私の能力値が数値として現れるそうだ。便利な世界だな、ここは……

 

 

「はぁぁぁぁぁああああああ!?!?!?」

 

 

……驚いた。このように華奢な女性からここまでの声が出せるとは。

 

 

「すべてのステータスが上限を示してます!?あら幸運のステータスが表示されてませんね!?」

 

 

生命力:99

精神力:99

持久力:99

筋力:99

技量:99

知力:99

信仰:99

神秘:99

 

間違いない、これが私の感じた私の限界。いつのまにか全てを極めてしまった、というわけか。

 

 

「これほどのステータスだったらどんな職業にだって就くことが出来ますよ!!これは王都でも見ないような逸材!!まさしく魔王を倒す勇者の如きステータスです!!!!」

 

ザワザワ……ザワザワ……

 

 

周りが私のことを見ている。カズマ殿とアクア殿も苦笑いで私の事を見ているが、あの2人はこうなると予想できていたな?

 

 

「こ、こんなに職業が並んでいるなんて……」

 

「ふむ……」

 

 

若干放心状態の受付嬢を無視し、私はカードに記載されている職業欄を眺める。クルセイダー、アークウィザード、アークプリースト……む、ルーンナイト?ルーンと名がつくものがいくつかあるのが気になる……いや、この記載的には信仰戦士であるな。

 

 

「……ッ!!」

 

 

『ルーンマスター』

 

 

「おや、この職業は……初めて見ますね……」

 

 

本能が、この職業を選べと叫んでいる。私にはわかる、この職業はこの世界にあるものではない……私のためだけに存在するような、いや。

 

エルデの王に相応しい職業だ。

 

 

「ルーンマスター、これにしよう」

 

「分かりました。未知の職業を選ぶとは、さすがですね!!……よし、冒険者ギルドへようこそアセビト様!!スタッフ……いえ、アクセルの町を代表して貴方様の活躍を期待しています!!」

 

「「「「「「うぉおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」

 

 

冒険者達の歓声を一身に受けながら、私は今、ルーンマスターとして冒険者の一歩を踏み締めた。

 

そういえば、私のレベルは……ほう、ハハッ……素晴らしい!!

 

 

1レベル

 

 

ああ……まだ()()()()()理由が出来てしまったな。私は、成長できる。




『異世界の銭袋』

殺したモノのルーンへの変換を
取捨選択できる

異世界の通貨を収納する袋
女神が作った銭袋は上限を知らない


『エリスの手紙』

どこか機械的な文字で書かれた手紙

 上司達と話した結果
 異世界の物質をルーンに変換するべきではない
 ということになりました

 貴方のインベントリに合わせた銭袋を用意しました
 出来るだけ使っていただけると幸いです
 貴方の健闘を期待しています。


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4話

 

 

「『ローレッタの絶技』」

 

 

精神力を弓の形で固定し4本の矢を生成、しっかり弦を引き4体のジャイアントトードに1本ずつ発射し射抜いた。魔術であるため弓の術であろうとも追尾性は抜群だ。

 

 

「ほう……このように記載されるのか、やはり便利だな」

 

 

私が冒険者として登録をしたのが昨日の夜のことだ。それからカズマ殿とアクア殿にここまでの礼を言い、別れた後街のはずれで休息をするつもりで進んでいると、とある木の下に褪せ人を導く祝福を発見した。エリス殿にはさらに感謝せねばならないな。

 

祝福に触れ、休息を取ることにした私は木箱の中身を確認した。外なる存在に転送されたならば木箱の中身はエルデに置き去りになっていると思っていたが、どうやら祝福は世界を超えても共通のものであったらしい。しっかりと今まで集めた大量の素材が収納されていた。

 

それらを一通り確認し終えた私は朝まで時間を潰し、早朝に冒険者ギルドで依頼を受けた。戦闘の経験がある事を受付嬢に告げれば、今受けている『3日以内にジャイアントトードを5体討伐せよ』という依頼を勧めてくれた。それを今こなしている。

 

 

「戦技、祈祷、魔術共に問題なく発動できるな。問題は……モンスター達が弱すぎて出血や冷気、毒の状態異常を確認する前に倒してしまう事だが……まあ致し方ない」

 

 

この4体を倒す前に、『屍山血河』を使い戦技を使用しジャイアントトードを倒したのだが、あまりにも弱すぎてしまった。つまり今依頼を終了してしまったわけだが……さて、どうしたものか。

 

今の私は坩堝一式に『カーリアの王笏』を装備した状態だ。もちろん誰かに見られないように早朝を選んだわけだが、正直少し退屈している。もちろん、エルデと同じ水準をこの世界に求めているわけではないが、もう少し歯ごたえがあるモンスターは居ないものか。

例えるなら……そう、腐りゆくエグズキスほどではないが溶岩土竜マカールくらいの敵だ。一対一の戦闘なら確実に問題はないのだが多対一は最も苦手だ。幾らエルデの王と言えども、どんな攻撃でも命中すれば生命力は失われる。しかし現状攻撃を食らうどころか棒立ちでも問題ないのだから、本当に微妙な気分だ。

 

 

「装備を弱くする……自主的に縛りをかけるか」

 

 

昨日の登録の流れで、私は登録祝いとして多数の冒険者から『すごい鎧の人』と覚えられてしまった。つまり目立つ目立たないにかかわらず坩堝一式は私を象徴するものとして認識されてしまったので下手に外すわけにもいかない。ならば武器だ、そう。50回もエルデの地を彷徨っているので幸か不幸か未強化の武器だけは大量に所持している。

 

いい機会なので普段使っていなかった武器でも使うか。まあとりあえず依頼は達成しているので戻ろう。

 

 

「……むっ、祝福か。これで移動が楽になるな」

 

 

これは運がいい。アクセルから近いとは言え下手にトレントを呼ぶと余計な騒ぎを起こしかねないからな。町を出た後は当分この祝福へと移動することにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、報酬は確かに受け取った。討伐したジャイアントトードはどうするべきだ?一応街の外まで運んできているが……」

 

「本来は業者に頼んで街まで運んでもらうのですが、流石アセビト様ですね!!手数料もいらないのでその場で買取となります。品質検査もありますので担当の者を同行させますね」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

ジャイアントトードの買取を含め、私に入ってきたのは約十万エリス。ルーンで見れば普通に多すぎる量だが、エリス換算だとそこまででもないらしい。

 

 

「普通の人間はこの後食事をとるのか。いや、しかし……必要無いからな」

 

 

褪せ人のこの身でも食事をとることはできる。『勇者の肉塊』や『ゆでエビ』がいい例だが私にとって食事とは一時的なバフ効果を得るためのものだ。決して楽しむためのものではない。

 

そういえば、私の冒険者カードはどうなったのだろうか。気になった私は懐をまさぐるフリをしながら、インベントリからカードを取り出す。こうしなければ怪しまれる、とはカズマ殿のアドバイスだ。

 

 

「レベルは2、ほう……これがステータスポイントか。『メモリ・ストーン』が無くともこの世界の魔術……いや、魔法を好きなだけ使えるというのは凄まじいな」

 

 

昨日までは祝福が無かったため、エルデで最後に記憶していた魔術と祈祷しか使えなかった。『エルデの獣』用にしていたので対大型の術が多かったのだが、この世界の魔法はその制限を受けない。その代わりにルーンの支払いで伝授出来ず、職業に適したスキル、魔法のみしか習得できないと。分かりやすい制限だが、選択肢が広がるという意味ではやはりエルデ式の方が便利だな。

 

……そういえばカズマ殿の冒険者という職業は、職業ごとの恩恵を一切受けることができない代わりに誰かに伝授してもらうことで全てのスキルを会得できると聞いたな。『ルーンマスター』という職業を持っている私が教えれば、カズマ殿もエルデの術を使えるようになるのではないか?いや、しかし……それはよく吟味してから試さねばならないな。果たしてこの世界にエルデの技を広めていいものか未だ判断しかねる。

 

 

「お?おーい褪せ人さーん!!」

 

「……カズマ殿」

 

 

噂をすれば、という諺?がニホンにはあるそうだが今がこの状況だろう。私がギルド内の壁に背を預け思考に耽っていると丁度いいタイミングでカズマ殿とアクア殿が入ってきた。ちなみにどうでもいいことだが私のポーズはエンシャがギデオンの部屋の前で行っていたポーズだ。

 

 

「褪せ人さんもこれからクエストか?」

 

「いや、私は早朝から出かけていたのでな。今終わってきたところだ」

 

「マジか!?どんなクエストに行ってきたんだ?」

 

「ジャイアントトード5体の討伐だ。この世界に来たばかりなので自分の実力の確認をな。鈍っていないようで安心していたのだ」

 

「俺達が受けようと思っていたクエストじゃんか……もしかして無くなってる!?」

 

「カズマさーん、そのクエストまだあったわよー!!」

 

「奴らは数が多いという話だ。まだまだ同じような依頼は残っているだろうさ」

 

 

カズマ殿が悲しげな表情をした直後、クエストボードから依頼の紙を取ってきたであろうアクア殿が声を掛けてきた。私はフォローする様にカズマ殿に声をかけると、気を良くしたのかやけに笑顔だ。感情の起伏が激しいのは良いことだ。

 

 

「よし、じゃあそれを受けるぞアクア!!じゃあ褪せ人さん、またなー」

 

「あー、少し待ってくれ。貴公らが良ければなのだが、同行させてくれないか?」

 

「へ?そりゃあ褪せ人が一緒ならどんなモンスターだって余裕だろうけど、疲れてるだろ?」

 

 

私のよくないところだ。人との関わりがあるとつい関係を深めたくなってしまう。たとえそれが血の指であろうとも火山館の一員であろうともだ。

 

 

「あの程度で疲れを見せては王など名乗れんよ。この世界の戦い方がどういったものなのか、見学したいのだ。貴公のアドバイス通り、身の振り方というのはよく考えねばならないからな。なに、報酬などいらんよ。暇を持て余しただけなのでなぁ」

 

「そういうことなら、こっちからもお願いするぜ。アンタがいりゃあ安心して挑めるしな」

 

 

こうして、私達3人は臨時でパーティーを組むことにした……のだが……

 

 

 

「あああああああ!!!!助けてくれアクアぁ!!」

 

「プークスクス、超ウケるんですけど!!カズマったら顔真っ赤で涙目で超必死なんですけど!!」

 

 

ああ、やはりアクア殿もしっかりと神であったか。

 

私の目の前には、右手に剣を持っているカズマ殿がジャイアントトードに追われており、それを見てアクア殿が爆笑しているという光景が広がっている。

 

 

「アクア殿……無理やり連れてこられたことには同情するが、一応彼が居なければ天界にも帰れないのだろう?手伝った方がいいのではないか?」

 

「大丈夫よ、死にたてほやほやなら私の蘇生魔法で復活させれるし。まあ……仕方ないわね。今日のご飯代はなんとしても稼がないといけないし、カズマー!!褪せ人に感謝することね!!彼のおかげでこの水の女神アクア様の支援を受けることができるのだか……ふぎゅっ」

 

「アクアー!?」

 

 

私は気づいていたが、アクア殿は背後に迫っていたジャイアントトード(彼ら曰くカエルと略せばいいそうだ)にぱっくりと捕食された。

 

 

「うおりゃあああ!!」

 

「ほう、やるな」

 

 

アクア殿がカエルに食われているのを見て覚醒したのか、カズマ殿は拙いながらも剣でジャイアントトードを一体討伐、急いでこちらにやってきた。

 

 

「すんません褪せ人さん!!後でなんか奢るんであのバカ助けてあげてー!?」

 

「方法は問わないか?」

 

「ああ、あんなのでも一応パーティーメンバーだからな!!オナシャス!!」

 

「仕方ない」

 

 

私はインベントリから『巨人砕き』を取り出すと両手で装備する。

 

 

「え……あの、それハンマーだよな」

 

「ああ」

 

「カエルには打撃は効かないんだよ。剣のほうがいいと思うんだけど」

 

「まあ見ていろ。下手に切断するとアクア殿ごと切りかねんからな……ふんっ!!」

 

 

私は巨人砕きを地面に勢いよく叩きつけるとその力を利用して跳躍、そのまま宙返りをする様に巨人砕きを宙に浮かせ……カエルのケツに叩きつけた。(R2最大溜め)

 

 

『オゲェェェェェェェェ!?!?!?』

 

 

カエルはあまりの……ケツが砕けて白目になるほどの衝撃を受け、ゲロと一緒にアクア殿を吐き出しながら爆発四散した。む、やはり打撃が効きにくいか。アクア殿が潰れないよう加減したとはいえこの程度の威力とは。

 

 

「…………えぇ……」

 

「おええぇぇぇぇぇぇ」

 

 

結果的にアクア殿は助かった。巨人砕きの衝撃で内臓をやられたのか女性として……人としての尊厳を撒き散らしながらという形ではあるが。

 

 

「カズマ殿、殺伐とした世界で生きてきた私が言うアドバイスではないが……やられたらやり返し給え。それができる相手は時に必要だ」

 

「お、おう……アクア」

 

「おえぇ……ひっぐ……なによ……ひっぐ」

 

 

カズマ殿は少し考えた末、意を決したように泣きじゃくっているアクア殿に決定的な一言を告げた。

 

 

「粘液まみれにゲロまみれの女神とか無いわ」

 

「『ピュリフィケーション』!!!!」

 

 

アクア殿は魔法で清潔な状態へと戻ったが、若干2名が絶望したのでこの日はもう帰ることにした。なんというか……かわいそうになってきたので今日は私が食事を奢ることにする。私が他者にかわいそうなどと思うとは、この2人なかなかやってくれる。

 

 

 

 

 

 

 

「アレね。2人じゃ無理だわ。褪せ人に正式にパーティーに加入してもらいましょう」

 

 

街に帰った後、2人は真っ先に大浴場で汚れを落としに行った。アクア殿は魔法で汚れを落としていたのだが、気分的なものらしい。私は血飛沫を浴びても祝福で休めばそういったものは取れているので特に気にしたことはないな。そもそも湯浴みなど狭間の地を追放されていた時にしかした覚えがないな。興味本位で行ってみるのも面白そうだ。

 

 

「ちょっと待てよ。確かに褪せ人さんはめっちゃ強いがそれは違うだろ。俺は寄生プレイヤーぜつゆるマンだぞ?」

 

「ふぉんなふぉとひってるふぁあいみゃないふぇしょ!!」

 

「食ってからしゃべれ!!」

 

 

今日討伐したジャイアントトードは2匹、しかし1匹は私が肉ごと消し飛ばしてしまったので仕方なくルーンに変換した。残りの一匹を私がインベントリに収納し持って帰って換金、そのお金で2人は夕飯を堪能している。

 

 

「もぐもぐ……んん、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!褪せ人はどうするのよ」

 

「私は別に構わないが、このパーティーのリーダーはカズマ殿だ。まずは貴公の意見を聞かせてほしい」

 

「おう、そりゃもちろん褪せ人さんの実力が足りないとかそんなわけじゃないんだけどさ……いつまでもアンタに頼ってばかりじゃ俺たちだって成長できない。ぶっちゃけ、命懸けた割にはあわねぇけど……これ以上他人の脛かじっていくのもなぁ」

 

「え……ヒキニートで親の脛齧りまくっていたカズマさんがそれ言うの?普通にドン引きなんですけど……」

 

「うるせぇ、分かってんだよ」

 

「……仕方ないわね。そういうことならパーティメンバーを募集しましょう!!」

 

「ほう、それは面白いな」

 

 

カズマ殿の真意が聞けたのはなかなか良かった。これで私の力を当てにするようなら関係性を少し考えねばならないと思っていたが、見た目や実力によらずしっかりした芯を持っているようだ。しかし宣言するばかりで妄言となるならば、それは意味を成さない。彼の今後次第では……私が弟子を持つことになるかもしれんな。トープスやセレン師匠に教え方というものを聞いておけばよかったか。

 

 

「簡単に言ってるけど、俺は最弱職の冒険者でお前はアークプリースト、そんでもって褪せ人さんは強すぎる。こんなチグハグなパーティーに入ってくれるやつはいるのかよ」

 

「経験則から言わせてもらうが実力差は創意工夫でどうとでもなる。しかし、人員の募集となればどうしても表面的な強さを示すべきであるだろうな」

 

「やっぱそうだよなぁ……てか、今回は見学っつーことで褪せ人とパーティー組んでるけど、俺らなんかと一緒に居ていいのか?それほど強いんだしこの街をすぐに出ていけるだろ?ああ、もちろん出ていってほしいわけじゃないぜ」

 

 

カズマ殿のいう通りだ。使命を持つ者としてそれ相応の場所に行くべきだとは私も考えている。しかし……正直、自分の知的好奇心が抑えられない。まあ別にいいだろう。

 

 

「実力はともかく、冒険者としては駆け出しも駆け出しなのだ。この街に来て2日目だが、意外と居心地がいいのだよ。まあ、一時的にパーティーを抜けるというのは選択肢としてありだな」

 

「え!?」

 

「しばらくの間はこの世界を謳歌しようと決めていてな。貴公らが本格的に魔王討伐に乗り出す時、また共に行こうではないか……とまあ適当なことを言ってみただけだ。街まで案内してくれた恩もある、助けが必要な時はいつでも呼んでくれて構わない」

 

「なるほどな、シャボンディってやつか。じゃあそれで頼む!今日は助けてもらったのにろくな恩返しができなくてマジですんません!!」

 

 

アクア殿はまたもや口に食べ物を詰め込んでいて喋れていないが、必死そうな目でコクコクと頷いているのでおそらく礼を言われてるのだと思う。

 

 

「ははっ、今度何か奢ってくれ。では失礼する」

 

 

さてと……まずは住居を得よう。そしてしっかりとエリス殿に祈って祝福を設置してもらえるようにきょうかt……交渉しよう。




『冒険者カード』


所有者の身分を証明し
能力向上をするためのカード

終わりを迎えた褪せ人に
新たな始まりを示した


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5話

 

 

カズマ殿のパーティーを抜けて3日が経った。その間私はというと、以前の野蛮な考えを捨てこの街に唯一ある祝福の周辺の土地を買ってしまえばいいという思考に至った。いやはや女神に頼りきりではよくないからな、今までも自力でなんとかしてきたのだ。

 

と、いうことで私は自分の実力に合う依頼をこなすことにした。受付嬢(ルナというらしい)に確認したところ、レイスはそこそこ強いモンスターらしく、それを討伐している私なら大丈夫だろうという判断で高難易度(アクセル基準)の依頼をこなしていた。特に、出来高によって報酬が変わる依頼はお手のもので街に悪影響を与える木の伐採に関しては1ヶ月分の生活費を稼げたほどだ。『ラダゴンの光輪』恐るべし、戦闘ではあまり使う場面がなかったがこんなところで役に立つとは……

 

目標の金額にはまだ足りないが、金以外のところで利益を得たので十分すぎる恩恵がある。住人たちからの信用度がなかなかに高いのだ。報酬を高い順に見て、自分が本当に可能かどうかのみを選別した結果、誰もが受注したくないような評判の悪い依頼が大半を占めていた。それを達成していたら『面倒なクエストをこなしてくれる凄い鎧の人』という印象にレベルが上がってしまった。意図したわけではないのだが、この程度で他人を信用していたら思わぬところで足を掬われるというのに……

 

いや、私たち褪せ人がお互い心の底から信頼する、みたいな事が無さすぎたのが問題か。

 

この世界にいると気が抜けてしまうな。10周目あたりにはもう装備を落とす敵を殺し続ける作業のような感覚だったので気が抜けるも何もないんだが。

 

 

「アセビトさーん、ちょっと寄ってってよー」

 

「む?ああ、今行くよ」

 

 

今声を掛けてきたのは八百屋の店主だ。畑の雑草を抜くクエストを息抜きがてら受けたらこのように話す仲になった。たまに野菜をくれるのだが、これがまた美味いのだ。この時を境に私は気が向くと食事を取るようになった。今は貯める方を優先しているので頻度は多くないが落ち着ける場所が出来たら料理を作ってみるのも面白い。

 

さて、ここで一つ疑問なのだが……ここ2日ほど、何かが爆発するような音が1日に一度聞こえてくる。ギルドに訪ねても苦笑いされるだけであまり詳しくは教えてもらえず、調査の依頼も貼られないので街的には問題がないのだろうと考えている。まあ私が個人的に気になるだけだ、例えるなら……そう、ラダーンが星となって降ってきたあの瞬間のような衝撃だ。

 

 

「ついでといっちゃなぁなんだが、一つ頼まれてくれねぇか?」

 

「暇を持て余していたところだ。構わない」

 

「ああいや、今日の話じゃねぇんだ。実はよぉ……」

 

「ふむふむ……ほう?そんなことが」

 

「アセビトさんこの国の出身じゃないだろ?もしかしたら知らないと思ってなぁ」

 

「ああ、確かに知らなかった。礼と言っては足りないがその件については尽力しよう」

 

「ほんとか!!いやぁーアンタに頼んでよかったぜ!!ささ、もっと食っておくれよ」

 

 

いや待ってくれそんなに貰っても私には……はぁ、はっきりと断れないなんて今まで無かったのだが……純粋な善意というのはなんとも断りづらい。店主に見送られながら店を後にした私は、彼から貰ったトマトという野菜を齧りながら道を歩いていた。

 

ふむ……店主の話によるとこの世界の野菜は飛んで動き回るらしい。言っている意味はあまり理解できなかったが、それを捕獲したら優先的に彼の店に卸してほしいとの事だ。ギルドよりも買取金額は安くなるらしいが、美味いものを食わせてくれているから引き受けた。情報料も兼ねている。

 

 

「さて、気分的にだが腹も膨れたことだ。気になっていた一撃熊の討伐にでも行こうか」

 

 

今日は『カタール』でいこう。未強化品が二つあるので二刀流の形だ。ふむ……『命奪拳』の戦技があれば楽しいのだが、生憎戦技の付与ができる人材がいない。自分でしても良いのだがいつもヒューグにして貰っていたから自分でやるのは違和感がある。

 

 

「拳系の武器を装備するのは久々だな。さて、物は試しだ一撃熊のついでに手頃なモンスターで肩慣らしで……も……」

 

「だーはははは!!!!」

 

「いやー!!パンツ返してぇぇぇぇ!!!!」

 

「…………カズマ殿?」

 

「はははは……え?」

 

 

気が早いかもしれないが右手にカタールを装備した私が武器の具合を見ながら道を歩いていると、泣いている女性のものと思われる下着を振り回しながら高笑いしているカズマ殿に出会った。

 

「褪せ人さん……いや、その、えっとですね……」

 

「…………遺言だけ、聞いておこう」

 

「ああもう…………誤解なんですうぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 

 

悪漢死すべし、慈悲はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ほんとに殺しちゃったの?」

 

「そんなわけないだろう。素手で気絶させただけだ」

 

「ふーん……でもまぁ、童貞でヒキニートなカズマがそんなことできるなんてねぇ」

 

 

ヒキニート……?アクア殿のいう言葉もニホンでは一般的な言葉なのだろうか。

 

私は現在、現行犯で気絶させたカズマ殿を引きずり、被害女性と仲間だろう女性騎士と共にギルドにやってきた。タイミングよくアクア殿がいたこともあり引き渡しも済ませたのである。女性騎士にあまり良い思い出がない……

 

 

「まあ私も居合わせただけで要所しか見ていない。主観が入っても構わないから説明をしていただいてもよろしいか?」

 

 

私が被害女性ともう1人に声を掛けると、2人とも了承してくれた。ちなみにアクア殿の隣に魔術師の格好をした女性がいたのだが、少し前にパーティーメンバーとなっていたらしい。順調なようで何よりだ……今日が命日とならなければな。

 

 

「私はダクネス、そしてこっちがクリスだ。実は私は彼にパーティーメンバー入りをお願いしていたんだが、クリスが冒険者の彼に盗賊のスキルを教えようとしていたんだ。それが『スティール』だったんだが……クリスが運良く財布をとってしまってな。覚えた『スティール』でクリスの物をなんでも一つ盗んでいいという賭け事をしたんだが……んんっ、やはり素晴らしいな!!」

 

 

なにが素晴らしいのだろうか。恍惚な表情を浮かべている騎士ことダクネス殿の発言を聞くかぎりカズマ殿が一概に悪いとも言えない。

 

 

「クリス殿でよかったかな?今の内容に相違点は?」

 

「ないよ〜、でもまさか『自分のパンツの値段は自分で決めな』って言われて有り金全部取られたのは流石に堪えたけどね」

 

「「「……」」」

 

 

私達のカズマ殿を見る目が変わった。気絶中の彼はとても安らかな表情をしているが……別の理由な気がする。

 

 

「ま、まぁ両者非があるということで……いいだろうか?」

 

「あの褪せ人をここまで困惑させるなんて……やるわねカズマ」

 

 

ああ、私も本当にそう思うよ。格下も格下にここまで心が翻弄されたのは初めてだ。

 

こうして、被疑者?の意思に関係なくこの事件は終了した。ダクネス殿はどうやらクルセイダーという戦士系の上級職らしく、アクア殿がカズマ殿に断りなくパーティーに入れていた。

 

 

「ふむ、そういえば貴公の名を聞いていいだろうか」

 

「ふっふっふ、ようやく私の出番ですか。我が名はめぐみん!!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操る者!!かっちょいい鎧の人、噂は聞いていますよ!!漆黒の炎でレイスを蹂躙したとか」

 

「褪せ人だ。漆黒の炎とはこれのことかね?」

 

「おお!!なんとも禍々しい炎なのでしょう!!」

 

「……あのテンションに冷静に返すとかアンタ凄いわね」

 

 

めぐみん殿に『黒炎』を見せると目を輝かせて近寄って来た。ふむ、帽子で分からなかったが意外と小さいな。

 

 

「他には、他にはそういうのないのですか!!」

 

「他か、今使用できる祈祷だと……『ランサクスの薙刀』」

 

 

右手に装備した『指の聖印』から赤い雷が放出され薙刀の形をとった。普段ならばこれを振り切るのだが、今は見せるだけなので手元で押さえている。

 

 

「おぉ……ぉぉぉおおお!!!!素晴らしい、素晴らしいです!!私の知らない魔法ばかりですしこんなにカッコいいのがあるなんて!!」

 

「魔法ではない。祈祷という……まあ精神力を使い、祈ることでこのように技として顕現させているんだ」

 

「魔法じゃないんですか!?道理で見たことないわけです」

 

 

なんだか懐かれてしまった気がする。もしや道端で会う度に何か祈祷を見せなければならないのだろうか……

 

 

「ん……んぅ?いてて……あっ」

 

「ようやく起きたかカズマ殿」

 

 

ここでようやくカズマ殿が目を覚ました。寝ぼけていたようだが私の顔を見た瞬間、先程のことを思い出したらしい。

 

 

「まずは弁明をさせていただきたいというかここはどこっていうかなんで皆さん揃ってらっしゃるっていうかそのー……」

 

「安心してくれ、その件については解決済みだ」

 

「……へ?」

 

「クリス殿とダクネス殿がまともな人間で良かったよ。一方的な供述をされていても私達に否定材料がなかったからな」

 

「そうよー、普通ぼったくられてもおかしくなかったんだから。運だけは良いわねカズマ」

 

「んなっ、騎士の誇りに懸けて私は嘘などつかんぞ!!」

 

 

なにが起こっているのかわかっていない様子のカズマ殿だが、私達の言葉でなんとなく状況を察することが出来たようで少しずつ表情に元気が出て来ている。

 

 

「それは……つまり?」

 

「喧嘩両成敗、というやつだ。クリス殿はまあ自己責任で()()を『スティール』され、貴公は……まあ、私に気絶させられたからそれで良いだろう。次からは目立たないようにやってくれ」

 

「はい、ほんっっとにすんませんした」

 

 

カズマ殿も反省したようで何よりだ。とりあえず一件落着、という事で私は依頼を受けようとしたのだが……アクア殿に誘われ卓を囲んでいる。私の鎧姿は大きいので邪魔になると言ったのだが、意外にも席が広くて座れてしまった。

 

 

席順は

 

私、カズマ殿、アクア殿

 

テーブル

 

ダクネス殿、クリス殿、めぐみん殿

 

だ。

 

 

「なにやらいつのまにかダクネスがうちのパーティー入りをしているのはこの際もう仕方ない……いややっぱり仕方なくない気がする」

 

「しかし彼女はクルセイダーなのだろう?上級職なら貴公らの言っていた条件には適しているが」

 

「性格面の方だよ」

 

「いや……うむ、すまない。私は力になれそうにないな」

 

 

うすうす察していたが、罵倒に近い言葉が出る度に鼻息を荒くしていたダクネス殿のことを思うに……そういう事なのだろう。エルデにああいった手合いが居なかったので扱いが分からん。カズマ殿の周りには特殊な人間以外集まってこないのだろうか……ああ、既に私もその1人か。

 

私が自分の(本当にどうでも良い)無力さに目頭を抑えていると、神妙な表情でカズマ殿が語り始めた。

 

 

「実はな、俺たち3人は本気で魔王討伐を目指してる。褪せ人さんとは別行動だけどな」

 

「ふっふーん、すごいでしょ!!」

 

「背負う使命は同じ、という事だ」

 

「へー」「ほう」「そうなんですねー」

 

 

コイツら興味ないだろ……っとと、失礼、思考が乱れた。苛立つ、という感情も久しぶりだな。

 

 

「特にダクネス、女騎士のお前なんて魔王に捕まったりしたらどんな目に遭わされるか分からないという役どころだ」

 

 

……なぜ今ゴドリックの顔が思い浮かんだのか、まあ酷い光景と言えば奴が1番だったな。モーゴットやモーグのように出生に関係なく奴はやり方に問題があった。むしろあの2人はその生き様まで美しかったのだがな。

 

 

「ああ、全くその通りだ。昔から魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士と相場が決まってるからな!!それだけでも行く価値がある!!」

 

「えっ?」

 

「えっ?……私は何かおかしなことを言ったか?」

 

 

ああ、久しぶりにローデリカに会いたくなってきた。彼女とヒューグのやりとりを見ているだけで荒れていた心が安らぐというのに……この世界にまともな女性はいないのだろうか。いないんだろうなぁ……

 

こう考えるとゴドリックは早めに処しておいて本当によかった。次に似たような奴が現れたらチリも残らず消し飛ばそう。奴はデミゴッドの中でも最弱……どうせなら破砕戦争で敗北したというマレニアの技で叩き潰してやろう。

 

……というか、先ほどから感じていたがこのクリス殿、女神だな?アクア殿より気配は少ないが、隠しきれない神性を感じる。己の権能で気配を消しているのか、それとも分体を下界に送っているのか……今度2人きりのときに『回帰性原理』を使ってみるか?

 

なんだか面倒になって来たので、彼らの話を軽く聞き流していると……ギルド内に大きな声が響き渡った。

 

 

『緊急クエスト!!緊急クエスト!!街に中にいる冒険者各員は至急冒険者ギルドに集まってください!!』

 

 

……今度はなんだ。どこもかしこも騒々しい。




『ドM』

エルデに存在しなかった人種
どんな褪せ人だろうと
必ず恐れ慄くだろう

決して屈辱を与えてはいけない
奴らにとってはそれら全てが
快感を得る糧でしかないのだ


『厨二病』

エルデに存在しなかった人種
どんな褪せ人だろうとその瞳には
普通に映るだろう

そのような細事に拘るほど
褪せ人の生き様に勝る
病などないのだから


『???』

とある祈祷で暴かれる
女神エリス最大の謎

褪せ人には分かるまい
女神ではなく女のプライドが
そこには隠されている


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6話

 

 

私達、冒険者達は今アクセルの街の正門前で待機している。何事かと思っていたら、今日八百屋の店主から聞いた動く野菜が襲来するとのことだ。なんともタイミングがいいのか悪いのか……1玉1万エリスでの買取だそうで、なかなかに高額。しかしとある問題がある……数が多すぎる()

 

 

「あの量は聞いてないが?」

 

 

丘の向こうに見えるのは緑色……そう、()()なのだ。今回はどうやらキャベツとやらが来るらしいのだが、その数が尋常ではない。生き返りができるので命など惜しくないが……祝福からここまで遠い。最低一回は死ぬことが分かっているのでもう悟りを開いたようなものなのだが今回は面倒なので倒した後は即座にルーンに変換、運が良ければインベントリに素材として収納されるはずだ。そうでないと本当にまずい。

 

ここまでの焦りはもう当分見られないだろうな。なぜなら私の鎧は防御力を上げるものではなく強靭度をあげるもの。どんな敵からでも必ずダメージを与えられてしまうのだ。店主との約束がある手前逃げ出すことはしないが、いつもならばトレントを呼び出し即座に逃げ帰っているところだ。

 

 

さて、今回使う装備を紹介しよう。坩堝装備一式は変わらない。

 

武器構成だが……『鋲壁の盾』の二刀流だ。え?なにを言っているのか分からない?はっはっはっ……まあ待て、言いたいことはわかる。だが最後まで聞いてほしい。

 

次にタリスマン……敵に狙われやすくなる『シャブリリの堝』、物理カット率を上げる『竜印の大盾のタリスマン』、生命力やスタミナを強化する『黄金樹の恩寵+2』、聖杯瓶を強化する『緋色種子のタリスマン』だ。

 

聖杯の振り分けは赤13、青1。霊薬の配合は瀕死の時自動的に生命力を回復する『緋色の泡雫』、受けたダメージを生命力に変換する『緋色渦の泡雫』

 

使う予定の遺灰は『しろがねのラティナ+10』だ。

 

 

エルデの地ではあり得ない、【生存】を第一に考えた装備だ。キャベツのヘイトを私に集め、突撃して来た者には出血属性のついた盾で迎え撃つ。ラティナには私の背後からその正確無比な射撃で射抜いてもらう。

 

ははっ、こんな事を思いつくのもそうだが、()()()()()をしなければならない状況が既に来ているという事実がもう楽しくて仕方がない。

 

 

「あのー……褪せ人さん?そのいかつすぎる装備は……?」

 

「絶対に生き残るという強い意志の下考案した対キャベツ用最終装備だ」

 

「ああもう褪せ人まで染まっちゃってるー!?なんだよ対キャベツ用最終装備って、頭おかしくなるわ!!」

 

 

カズマ殿はなにを騒いでいるのだろうか。それにしてもカズマ殿の防具は強靭度がなかなか低そうだな。布……だろうに。

 

 

「はぁ……はぁ……アセビト、その拷問器具の様に鋭い棘のついた盾はいったいなんなのだ!!そんな盾で挟まれたら、私なんてもう……くぅ!!」

 

「…………すまない、カズマ殿。こんな時、どうすればいいのか分からない」

 

「まさかの綾◯!?無視しときゃいいよ、下手なこと言うと余計につけあがるんで」

 

「放置プレイ!?それもまた、いい!!」

 

「な?」

 

「……なんと業の深い」

 

 

始まる前からやる気が失せる様なことは本当にやめていただきたい。

 

 

「攻撃力があるビッグ◯ールド◯ードナーじゃねえか……かっこ良すぎるだろ」

 

 

……どこかの地下墓にその様な名前の領域支配者などいたか?まあいいか。

 

 

「来るぞーー!!」

 

「ッ、ラティナ!!」

 

 

『霊呼びの鈴』でラティナを召喚する。

 

 

「私の後ろでアレらを射抜いてくれ」

 

『……』コクッ

 

「頼んだ」

 

「うおっ!?なんだそれ!!味方か!?」

 

「私が呼び出した従者だ、気にせず戦ってくれ!!」

 

 

他の冒険者達が驚いている、最初に説明をしておけばよかったか。そしてキャベツが私に集まってくる……

 

 

「くっ……なかなかの突撃……だが、まだ効かんなぁ!!」

 

 

物理カット率を上げたことにより、100%をカットできる様になった私の盾、両手でしっかり構えているので私の体がすっぽり埋まる様になっている。そして突撃したキャベツ達が盾に触れた瞬間、次々と串刺しになっていく。ちなみにラティナが射抜いたキャベツも自動的に私のインベントリに収納されていくので、これが本当の『懐が温まる』という奴だ。

 

 

「ぐぅぅぅ、ぉぉぉおおおお!!!!」

 

 

ヘイトを貯めるタリスマンのせいか、おかげか、私に向けて突撃してくるキャベツ達が増えてきた。いかに防ぐことができ、ダメージを負わないと言ってもそれはスタミナがあるうちの事。このように連続で攻撃されていてはガードも崩れてしまいそうだ。

 

 

「アセビト、私も協力しよう!!」

 

「いやいい!!他の冒険者を守ってやってくれ、貴公が請け負えない分はこちらで引き受けよう!!どうやら攻撃が当たらないようだしなぁ!?」

 

 

ダクネス殿が果敢に直剣で攻撃していたが、全く一撃も当てれていなかった。私もあのように小さな体で飛び回られていては攻撃を当てづらいと思ってこの装備にしたが、だからといって一度も当てていないとは………不器用とは聞いていたがこれほどだとは思わなかった。

 

 

「このような状況で人のコンプレックスを刺激するとは……!!肉体的にも精神的にもなんという快感……んん、たまらん!!」

 

 

ああもう本当にこっちににじり寄ってこないでほしいし盾役には盾役の仕事があると言うことしっかり理解してほしい、いやそれ以前に普通に近づかないでほしい。

 

 

「分かった、3秒私の前に立て。回復する」

 

「ああ、任せてくr……ぐっはぁ……あっ///」

 

「喘ぐなッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから戦い続け私のインベントリには100を超えるキャベツが収納されている。この時点で単純計算100万エリスは稼げているため、帰りたいのだが……状況がそれを許してくれない。負傷した冒険者を私の後ろに複数匿っているので引くに引けないのだ。この時点で聖杯瓶は残り2本、霊薬はまだ使用していない。正直もっと早く無くなるかと思っていたが、アクア殿が微量ながらも回復魔法をかけてくれているお陰だ。

 

 

『狭間の地の褪せ人にはこの魔法対応してないのよー!!』

 

 

などと言っていたが、流石は女神だ。エリス殿くらい敬ってもいいのかもしれない。ラティナもまだ生きているし今なお討伐数は上昇しているが私の命が危ない。こんなに大勢の前で死ぬのだけは避けたい。

 

 

「褪せ人ー!!具体的なあれこれは省略するけど、周りのプリーストの回復魔法をあんたにも使えるようにしてあげたからもうちょっと耐えなさーい!!」

 

 

女神か?さては女神だな。切実な修羅場で私のテンションがおかしいことは重々承知しているが、こうでもしないと隣にただの変態がいると言う事実から目を逸せないのだ。

 

 

「くぅっ……!!汚物を見るような視線……時と場を弁えた方がいいのではないかアセビト!?」

 

「私はいま兜を被っているんだが?」

 

 

貴公が時と場を弁えてくれ……しかし、50周もエルデを旅して来たが他者から支援をされるというのは初めてではないか?遺灰は私の持ち物なので含まず、ラダーン祭りは協力というか個人が集まって戦っていただけだしな。真面目に連携して戦うのは良い経験になりそうだ。

 

 

「ここからは私の出番のようですね!!『光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ。紅魔の名のもとに原初の崩壊を顕現す。終焉の王国の地に、力の根源を隠匿せし者。我が前に統べよ!エクスプロージョン!』」

 

 

刹那、轟音と共に私の視界が真っ赤に染まり……最後にキャベツの突進が私本体に突き刺さり視界が暗転した。私が最後に見た景色は、口を手で隠しながら驚愕のあまり目を見開いているラティナの姿だった。

 

……最近の地響きの原因はこれか。凄まじい威力、私のアステールメテオにも匹敵するだろう。まさかこの世界にこれほどの術者がいるとは思いもしなかった、めぐみん殿。素直に賞賛を贈ろう……贈れたら良かったのだがな。

 

 

「…………はぁ、この世界での初デス、主な原因が味方の攻撃とはな」

 

 

 

【YOU DIED】

 

 

 

 

…………ふぅ、しっかりと『アクセルの街郊外』の祝福から復活できたな。時間もそれほど経っていなさそうだ。この世界の神もしっかりと仕事をしてくれて助かる。聖杯瓶が尽きかけていたとはいえまさか一撃で殺されるとは思っていなかったがね。

 

阿呆のような装備達を外し、物理火力重視のタリスマンに切り替えておく。インベントリのキャベツ達も無事なようなのでこれから八百屋へ卸に行こう。まあ、ギルドでの報告はそれからでも遅くはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああーーー!!探しましたよアセビト!!今日の主役なのにどこ行ってたんですか!!」

 

「すまない、爆風で吹き飛ばされてしまってな。身なりを直してから来たから遅くなってしまった」

 

 

ギルドに入った瞬間、めぐみん殿が私を見つけて駆け寄って来た。私を爆殺し掛けたとは思えない娘だ。

 

 

「あの……褪せ人さん、もしかして……」

 

「うむ、死んだ」

 

「ですよねー!?」

 

「まあ最後の一撃はキャベツだったさ。爆裂魔法とやらで9割は持っていかれたがね」

 

 

小声で話しかけて来たカズマ殿は全力で私に謝っている。ちなみに彼には私の素性を話してあるので、死んでも復活できることは知っている。

 

 

「というか私が主役とはどういう事だ?」

 

「なに言ってんだ、アンタが今回のMVPだろうがよぉ!!あんな活躍されちゃあ見てるこっちも熱くなるってもんだぜ!!」

 

「アセビトに酒を渡せぇ!!今夜は宴だぁ!!」

 

「「「「「「ぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」」」」

 

 

な、なんだ。なにが起こっている……モヒカン?みたいな髪型の男がギルド内に響くような大声で叫んだと思ったら、冒険者達が一斉に酒を呷り始めた。

 

 

「まあまあ、細かいことはいいのよ褪せ人。とりあえずほら、飲みなさい!!」

 

「むぐっ!?……ぷっはぁ!!なんだこれは?」

 

「酒よ酒、なに?もしかして飲んだことないの?」

 

「……液体が弾けるのは面白い感覚だが、苦いな」

 

 

どうやらシュワシュワ?(※クリムゾンビア)というらしいこの飲み物、この世界では一般的らしいが口に合わん。そもそも私が常飲しているのは聖杯と霊薬だぞ?味云々以前に効果優先だったんだ。食事というものになれるところからではないか。

 

 

「アセビト様、買取が終了しました」

 

「む、ああ助かる」

 

 

八百屋にある程度キャベツを卸し、残った分をギルドで買取してもらっていた。八百屋では50万ほどで売れたがこちらでは幾らだろうか。

 

 

「アセビト様が持って来られたキャベツは保存状態がよかったので少し高めの買取金額ですね。150万エリスになります」

 

「確かに受け取った」

 

「マジか!?……まああんだけ倒してりゃそりゃそこまで稼げるよなぁ」

 

「貴公もなかなかのものだったぞ?覚えたての『スティール』をあそこまで上手く使えるのは十分だと思う」

 

 

派手さはない、しかし一体一体丁寧に処理していき大きな被弾も受けていなかったのは評価できる。戦闘に関しては全くの初心者だと思っていたがそうではないのか?

 

それにしても合計二百万エリスの収穫……とりあえず土地代はなんとかなりそうだ。明日は土地を買いに行くことにしよう。

 

 

「そんなに稼いでんならちょっとは奢りなさいよ褪せ人!!すいませーんシュワシュワ追加でー!!褪せ人につけといて!!」

 

「なに言ってんだクソ女神ィ!!」

 

「……まあ、今日くらいはいいだろう」

 

 

回復してもらった礼だと思えばこの程度、というものだ。さて……さっさと酔い潰して帰ろうか。




『スティール』


褪せ人に使用すればインベントリからランダムで何か一つ奪える
しかし褪せ人の持ち物は膨大であり狙った物を盗むのはほぼ不可能である

大当たりは現在二つしか所持していない『古竜岩の喪色鍛石』
なおこの世界で加工できるかは現在不明である


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7話

 

 

「ふむ……『自分だけの居場所』というのは案外居心地がいいものだな」

 

 

キャベツの収穫祭から一夜明けた今日、私はついに『アクセルの街郊外』の祝福一帯の土地を購入することができた。買うまでの一連の流れを説明してくれた受付嬢には感謝せねばならないな。

 

 

『アクセルに常駐していただけるのですか!?』

 

 

という驚き方をしていたが、祝福同士でワープが出来るので買っただけだ。移動の手間も省けるので私にはメリットしかない。それに、()()しかいないのならばあまり警戒しなくて済む。

 

 

「さて、次は建物か……」

 

 

いくら祝福が我々以外に見えないとはいえ、逆になにも見えないところで座っている鎧の男は不自然だ。それに、一度文明的な生活を覚えてしまったら椅子やらテーブルやらが欲しくなってしまうのも困りものだ。当分は夢のマイハウスとやらを目指して貯金するしかなさそうだが……

 

そんなことも言ってられなくなった。街の構造を把握するために散歩をしていた時のことだ、路地の奥の方で魔道具を売っている店があった。エルデには魔道具という概念が無かったし、そんなものを使うなら魔術を鍛え、信仰心を捧げて祈る方が余程有用だったからな。しかし今の私はただの多少、知的好奇心が強い冒険者、使わずともコレクションとしてインベントリの肥やしにするのも悪くはない。本物の肥やしが入っているが気にしてはいけない。

 

 

 

というわけで到着した。以前来た時は店まで入らなかったのでこれが初来店だ。それにしても今まで商売といえば流浪の民ばかりだったから、こういうどっしりと構えた商人というのは違和感がすごいな。

 

ドアを開けると、カランカランという音が鳴る。トラップの増援か……いや、違うか。おそらく客が来店した時に知らせるための鈴だろう。

 

 

「あっ、いらっしゃいませ!あら……冒険者さんですか?」

 

「ああ、先日この街に来て登録をした。散歩をしていたら興味深い魔道具が見えたのでな」

 

「そうなんですかぁ!!ごゆっくりどうぞ〜」

 

 

紫色のゆったりとしたローブの女性、おそらく店主だろう者はのほほんとした笑顔をこちらに向けてくる。こうして見るとただの気の良さそうな女性だが……何か変だな。気配が強すぎるし、昔冒険者をしていたとかなら分かるがそれにしては見た目が若すぎる。

 

 

「邪魔をする」

 

 

とりあえずは保留だな。今のところ特に敵意を感じない。

 

 

「すごい鎧の人……もしかして結構な金持ち!?やっとこの貧困生活から抜け出せるかも……!!」

 

「…………」

 

 

敵意どころか、なにやらとても期待されている。というかこの規模の商品を仕入れることができるのに貧乏なのか……不憫すぎないか。

 

それにしても、品はなかなか悪くない。使い方は全くわからないがどれも魔力を秘めている。

 

 

「店主、この瓶はどういったものなんだ?」

 

「それらの棚は衝撃を与えると爆発するポーションです。気をつけてくださいね」

 

 

そのような物を店頭に置くな、というか街中で売るな。しかし……悪くないな。保存に関してはインベントリに入れておけばいい。使用の際はショートカットに登録していれば爆竹程度の威力にはなるか……?いくら素材が有り余っているとはいえこの世界であまり壺系を使いたくないのだ。何故かって……?私の能力値の補正を受けるからどのみち過剰火力になってしまうのだ。

 

 

「ふむ……そちらの棚は?」

 

「ボタンを押すと肉を串焼きにできる魔道具です。その人の魔力によって火力が両極端なのが玉に瑕ですね……えへへ」

 

 

一瞬心惹かれたが、私には絶対扱えないではないか。燃えるどころか爆発が起きるぞ。

 

 

「あ、あの棚は……?」

 

「使用者が透明になるブレスレットです。使うと視界も白飛びしますし物にも触れられず平衡感覚も消え失せるので一度使うと魔力が切れるまで身動き出来ないですね」

 

「使いようによっては、使えるかもしれんが……いや、流石にか……?」

 

 

他にも商品の説明を色々と受けたが、どれも絶妙に使い道がありそうでデメリットが8割を占めるような魔道具ばかりだ。それにこの街の物価を考えるととても値段が高い。そもそも駆け出しの街と言われているアクセルで魔道具を買える者がいるのか?

 

 

「とりあえず、あの爆発ポーションはあるだけいただこう。それとそのブレスレットは……ううむ、一つ、いや……二つ貰えるか。後あれとあれ、そこのそれと……あああの魔道具もだ」

 

「え、えぇぇぇぇぇぇ!?!?いいんですか!!私が言うのもなんですけど、あんまり良いマジックアイテムじゃないですよ!?……高いですし」

 

 

本当に貴公が言ってはいけないじゃないか。

 

 

「幸い昨日のキャベツ狩りでそこそこ稼いでいてな。それに……これで安全性も問題ない」

 

「え、そんな魔法、見たことないです。物を収納する魔法ですか?」

 

「似たような物だ。魔法ではなく私の……固有スキルと言ったところだがな」

 

 

私が手のひらで金を出し入れしてみせると、店主は驚いたように見つめた後少し焦ったように支払いを完了させた。大体30万エリスほど消し飛んだがそれに見合う満足感は得られた。これが収集癖……私にも業の深い趣味が出来たらしい。

 

 

「ほぇぇ……それにしても固有スキルですかぁ、もしかしてお客さんも人外の方だったり……なんて?」

 

「ほう?やはり人間じゃなかったか」

 

「……あっ」

 

 

この店主、自ら墓穴を掘ったな。彼女はやってしまったと言わんばかりに口を手で押さえ引き攣った笑みで後ろに下がった。どうやらなかなか愉快な性格をしているらしい。

 

 

「あ、あのっ、この事はどうか内緒にしていただきたいのですが……」

 

「ああ、構わない。なに、情報交換も兼ねて少し話をしようか。私の気が変わらないうちにな?」

 

「……あ、はい」

 

 

彼女の名前はウィズ。リッチーという種族だそうで、アンデッドの王……という役どころらしい。魔王の8人の幹部の1人と聞いた瞬間、『秘文字の剣』を抜きかけた。しかし、落ち着いて話を聞くと、いわゆる『なんちゃって幹部』らしく、結界の維持だけを担っているらしい。それ以外の幹部の役割は全て放棄することを魔王直々に認められているらしい。

 

……ふむ、魔王とは案外気弱な性格をしているのか?話を聞く限り王の威厳というものが一切感じられないのだが。

 

 

「エ、エルデ?という国で王様だったんですか!?こここここ、これはた、大変失礼を致しました!!!!」

 

「待て待て待て待て……王、と言っても王族の血とかそういうのではない。ただ実力で成り上がっただけの蛮族だ。普通に接してくれ」

 

 

ウィズ殿が目にも留まらぬ速さで土下座を披露してくる。やはり現地の人間……リッチー?いや、人間にはやはり王という事は言うべきではないか。

 

 

「実力で王様になったって……どれだけ強ければなれるんですか……」

 

「神を殺せるくらい強くなればだな」

 

「えぇ!?」

 

「冗談だ」

 

「ですよね!?え、ほんとに冗談ですよね!!」

 

「どう思うかは貴公次第だ」

 

「…………1番聞いちゃいけない事聞いた気がします」

 

 

ははは……魔王に是非とも報告してみて欲しいものだ。どう言った反応が得られるかみてみたい。

 

 

「ではそろそろ失礼する。長々とすまなかったな」

 

「い、いえ!!本当に、ほんッッとうにお買い上げありがとうございます!!!!またのお越しを心からお待ちしてます!!」

 

 

どれだけ貧困に喘いでいたんだこの店主……定期的に様子を見に来ることにしよう。

 

 

『お客さんかい……何か、買っていっておくれ……ずっとひもじくってなぁ……』

 

 

まさか。あの頃の私にそんな善性が存在していたわけがない。自らに終焉を齎すことだけにしか興味がなかったのだから。あれはただのアイテム補充だ。

 

 

「ふぅ……金を使った直後にまた散財してしまったな。いつ死んでもいいようにルーンをギリギリまで消費しておく癖が抜けていないな」

 

 

そういえば、結局私はこの世界のスキルという物を一つも習得していないな。せっかくルーンマスターという職業があるのだしスキルを取得してみるのも面白そうだ。

 

私は冒険者カードを取り出すと、カズマ殿がやっていたようにカードをなぞりスキル一覧を見た。

 

 

「……なにもない?」

 

 

記載が一つもない。まさか、本当に私がこの世界で活動するために用意されたただの設定だったというのか?いや、そんなわけがないだろう。職業を選ぶ時に感じたあの感覚、どう考えても私にとってまさに()()だと感じたはずだ。

 

時間がかかりそうだ。私は祝福にワープすると、ついでに購入したベンチを取り出し腰掛ける。

 

 

「精神力を使用してもなにも起きん……おかしいな、私の精神力とこの世界の魔力は大体共通した物なのだが……」

 

 

正規の方法でも魔力でも反応がない。そういえば受付嬢が私の冒険者カードを見て記載がおかしいと言っていたな。それを見る限り全ての能力値が上限を迎えている、と……それはつまり私の今までのルーンによる『レベルアップ』した数値が記載されていたことになる。

 

 

「ッ……まさか」

 

 

突拍子もない思いつきだが試してみる価値はある。私は他者へルーンを渡すのと同様に、ルーンを冒険者カードに送り込んだ。

 

 

「ほう、そういう仕組みか」

 

 

あからさまに冒険者カードが淡く光った。驚いた、この世界でルーンと言えば『ルーンナイト』のような【付与】を司る単語だと思っていた。しかし『ルーンマスター』とは、褪せ人流のルーン活用が出来る職業だったわけだ。ルーンを消費することであらゆる術をマスターすることが出来る。『冒険者』という職業のルーン版、というわけだ。

 

しかし……比率が不平等すぎるだろう?大体の計算だが、ルーンとスキルポイントの交換比率が100000:1……もっと気軽にスキルを得たかった。一旦、600万ルーンほどスキルポイントに変換し60ポイント得た。どうやらスキル会得のためにポイント数も冒険者よろしく増えているらしいのでスキル選びは慎重にせねばならない。今日のところは一旦保留、カズマ殿の依頼を手伝う代わりにアドバイスを得ることにしよう。

 

 

「スキルを得るならルーンを、物を買うならエリスを……面倒臭いにも程がある……」

 

 

つまり私はこれから、モンスターを討伐する際ルーンに変換しスキルのために貯めるか、そのまま持ち帰りギルドに買い取ってもらうかを選ぶ必要があるということだ。さらにウィズ魔道具店での買い物を考えるとさらに話がややこしくなる。

 

 

「久しぶりに、『金のスカラベ』を常備せねばならんな。どこかにルーン効率がいいモンスターはいないものか……」

 

 

金自体は依頼の達成報酬で受け取れば問題ない。しかしこの辺のモンスターはルーン効率が凄まじく悪いのだ。どれくらいかと言えばエルデの地でいう貴人程度だ。レイスでゴドリック兵程度なので余程のモンスターでなければ腐敗カラスと同等のルーンを得ることは出来まい。

 

 

「知的好奇心を満たす障害が、まさかこんな身近にあったとは」

 

 

いくら実力だけで成り上がれるような野蛮な世界にいたとはいえこの世界じゃ無意味。とりあえず当面スキルの取得は諦めるしかない、まずは家を建てねば……

 

 

「そうと決まれば早速依頼を受けよう。トレントを呼び出して遠出するのもありだな」

 

 

いくら遠出したとしても、祝福付近は安全が確保されたためすぐに帰って来れる。バレて指摘されなければなにも問題ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだなトレント」

 

『……』

 

「エルデの地ではないがまたお前の力を貸してくれよ」

 

『…………』

 

「お前がいればどんな場所へだって行けるからな」

 

『……………』

 

「分かった。フローズンレーズンだ」

 

『……ブルル』

 

「ああ、頼んだ相棒」

 

 

いつのまにかコイツは食いしん坊になったんだ……

 

私はギルドで依頼を受け守衛に挨拶をしてからアクセルの街を出た。誰にも見られていないことを確認して近くの草原の祝福までワープしトレントを呼び寄せたのだが、当分召喚していなかった分どうやら拗ねているらしい。最大限に褒め称えて賄賂がわりのおやつでなんとか許してもらった。

 

今まで受けてきた依頼は全て近場だったのでトレントの力を借りなくても済んでいたのだが今から行く場所は歩きだと半日はかかるため今回は仕方がない。それに、そろそろ機嫌を取らねばなとは思っていたのだ。時はすでに遅かったようだが。

 

それから私はトレントを駆り依頼に指定された鉱山へと向かっている。依頼によれば、ごく僅かだがマナタイトが採掘できる鉱山らしい。魔力が篭る性質があるせいか寄ってくるモンスターが多いそうだ。出来るだけその数を減らすことが今回の依頼内容で、報酬は出来高制となっている。つまり完全な達成というものが設定されていないのだ。定期的に調査隊が編成され内部状況を調べるようになっているため今回の私の働きによっては臨時報酬の可能性まである。近くに祝福さえあれば時間をかけて何度でも挑戦が出来る素晴らしい依頼となっている。

 

……さて、では何故こんなにも報酬が美味しい依頼が残っていたのか、その説明をしよう。常に毒が充満しているらしいのだ。最寄りの街であるアクセルにはもちろん毒の対策を完璧にしている冒険者などいないので人気があるわけない。それに加えて数も分からないようなモンスター共が多くいる。派遣される調査隊は王都お抱えのエリート集団らしく潤沢な資源による毒対策でゴリ押しをするらしい。

 

私?……聞くな、本当に装備したくはないが免疫力のある装備を真面目に選んだ結果本当に好みでない装備しか該当しなかったんだ。誰が何と言おうと今回は普段通りの坩堝一式でやらせてもらう。

 

毒の解除用に苔薬と『火の癒しよ』を用意し聖杯瓶も青寄りである。そして皆が気になっているであろう武器の紹介だ。まず『ダガー』、『猟犬のステップ』を付与した所謂()()()()だ。メインウェポンとなるのは『夜と炎の剣』、そして『星見の杖』だ。これと言った理由はない、雑魚処理で楽をしたいためだ。タリスマンも火力メインで揃えているがまあ領域支配者……ボスとやらもいないだろう。ああ、もちろん『指の聖印』もある。

 

 

「ほう……祝福があるとは、ありがたい話だ」

 

 

さて、蹂躙開始といこう。




『ルーンマスター』

褪せ人のみが成れる職業
膨大なルーンと引き換えに
スキルポイントを得る

大層な肩書きだが
冒険者の職業で可能な事が
ルーンを使わねばならない

とある女神曰く
まだ強くなる気ですか?
とのことだ


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8話

どんな武器持たせてもステータスが全てを解決してしまう件


 

 

 

祝福を触り、改めて装備や記憶を確認した私は鉱山に足を踏み入れた。整備されていないらしく坑道というよりは洞窟といった感じだ。毒の発生原因を断つ事ができれば坑道として整備されるのだろう。

 

 

「エルデの毒よりは大した事無いな……」

 

 

毒の蓄積は確かにある。しかし陸ほやほどではないので多少無理して進んでも問題は無さそうだ。しかし……

 

 

「少々……鬱陶しいな」

 

 

恐らくコボルト?と呼ばれる棍棒を持った亜人のモンスターがわらわらと現れる。幸い『輝石の速つぶて』をセットしていたおかげで精神力の消費も少なく楽に狩れてはいるが……コイツら、毒に耐性があるのか現在進行形で発生している毒を意に介していないかのように動き回っている。

 

 

「『夜と炎の構え』」

 

 

一本道なので遠慮なく戦技の劣化版彗星アズールを放つ。逃げ場のないコボルト達は瞬く間に体に風穴を開け倒れ伏していった。ルーンは……うむ、やはり取るに足りんな。

 

 

「ダメだな、流石に伝説の武器は強すぎたか。全く使っていない武器などあったか……ああ、これにしよう」

 

 

『火の癒しよ』を使用した後インベントリの中を弄っていると、とある武器を見つけた。全く必要としていなかったので2つしか所持していなかったがこういう場で試すのも悪くない。

 

 

「ふっ……ご照覧あれぃ!!なんてな」

 

 

『接がれた飛竜』と名付けられたこの武器……武器なのか?指読みエンヤに追憶と交換してもらったので詳細は不明だが、黄金の君主ゴドリックが討伐した飛竜の首そのものだ。そもそも拳系統の武器を使わない事、そこまで秀でた性能ではない事が相まってインベントリで眠っていた品だ。今日使わなければもう2度と使うこともないだろう。

 

 

「ふんっ……まあこんなものか」

 

 

どのみちどんな武器を使おうと私の高すぎる筋力のせいで相手の硬さなど無意味なのだ。気にしてはいけない。

 

隠し道があるかもと思い時折、壁を殴って歩いているがそもそもここは人間の活動には向かない毒霧の領域。そもそも人の手など加えられていなかった事を思い出した。

 

適当にコボルトを殺しつつ道なりに歩くこと数分、ついに別れ道が出来ていた。しかもどうやら自然に出来たものではなくコボルト達が掘った道のようでいつ崩れてもおかしくなさそうな道だ。生き埋めになると死ぬのに時間を食うため面倒なのだが、奴らが活動した痕跡となっては放置することもできない。『遺跡石』を曲がり角に置いていくことにしよう。

 

やはりコボルトが出てきたのだがなにやら様子がおかしい、一瞬別の方向に視線を向けたのだ。コボルトがどれほどの知能を持つのか知らないが気を引き締めた方が良さそうだ。

 

目の前のコボルトを壁に叩きつけると奴の得物が今までと違う、鉈だ。今までは棍棒だったのに急に金属製の武器になっている。刃こぼれが酷くろくな手入れをしていないのがわかる。一応、もらっておこう。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ……毒性の物質も強くなっている……か?」

 

 

単純に深層に近づいているのならばそれでいいが、一旦駆け抜けて死にながら確認して回るか。

 

 

「どけ」

 

 

鎧姿で走っているためガチャガチャと音が鳴る。ついでに腰にランタンをつけているためその明かりにも反応してコボルト達が寄ってくる。道自体が細いので何とか隙間を縫って『猟犬のステップ』で乗り越え、土産に火炎壺を後方にひとつまみしておく。

 

 

「『ご照覧あれい!』……誰だこの戦技の名前つけた奴。エンヤか、エンヤしかいないな。あの老婆、実はゴドリック嫌いでは?」

 

 

事実なので仕方ないが『奴はデミゴッドの中で最弱……』とか言っていた気がする。

 

細道にぎゅうぎゅうになりながら突進してくるコボルト達を戦技の炎で炭へと変える。バカなのか?

 

 

「む……梯子だと?」

 

 

あんな細い道でコボルトが生活している訳がないとは思っていたが、ここにきて人工物を発見した。しかも綺麗に木材が切り揃えられていて文明を感じる。

 

 

「…………いや、罠だろう」

 

 

下を見ると、気がついていないのかコボルトの鉈だけが見える。恐らく降りてきたところを奇襲するつもりだろうが、鉈が見えているので意味がない。

 

 

「『ご照覧あれい!』」

 

 

出来るだけ梯子に引火しないように下に向けて戦技の炎を放つ。一定量の悲鳴が聞こえた後、静けさだけが残った。

 

 

「ふっ……住処か」

 

 

梯子を使わずジャンプで穴に飛びこむと、薄暗いがコボルト達が住んでいた痕跡があった。どうやらさっきの炎で大半が焼けてしまったようで詳しい事情が分からないがまあ討伐が依頼内容なので気にしなくていいだろう。

 

 

「…………チッ、ここまでか」

 

 

この道にいるコボルトは殲滅したはずなので一旦死に戻りだ。しかしルーンが勿体無いな……ああ、冒険者カードに全て注ぎ込んでおこう。といっても今残っているルーンは20万ほど、つまり2ポイントにしかならない。まあ死んでもここに戻ってくる気は無いので無駄になるよりはいい。

 

 

【YOU DIED】

 

【YOU DIED】

 

【YOU DIED】

 

【YOU DIED】

 

【YOU DIED】

 

 

……

………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、ここで最後か」

 

 

あれから多くの分かれ道を進み続け行き止まりになるたびに死んでは入り口からスタートしてきた私は、ようやく最後のルートを残すのみとなった。

 

祝福に戻る時しか外を見ていないため正確な時間はわからないが、どうやら朝日が登り始めたらしい。夜通しかかったとは、思っていたより広い鉱山だ。道中邪魔してくるコボルトの数が10数匹程度で障害というにはあまりにか弱かった。そして少しずつ道が広がり始め、大きな空間へと出た。

 

 

「ほう……見た目通りなら戦士、司祭、魔術師、そして王といったところか。少し、真面目にやるとしよう」

 

 

玉座にしては見窄らしいものに座っているでっぷりと太ったコボルトの右に司祭風、左に魔術師風、正面に戦士風のコボルトがそれぞれいる。戦士風のは3体ほど確認できる。

 

 

「ティシー、頼む」

 

『……!!』

 

 

私は遺灰、『黒き刃ティシー+10』を呼び出す。彼女は私の前に膝をつき一礼した。

 

 

「そう畏まるな。お前なら……余裕だろう?」

 

『……』コクッ

 

 

遺灰たちはしゃべる事ができないため基本ジェスチャーで意志を示してくれるのだが、その中でもティシーはやけに仰々しいというか本当に忠誠を誓っているかの如く接してくれる。

 

 

『グギャァァァァ!?!?』

 

 

汚い叫びが聞こえてきた。ティシーの持つ『黒き刃』の戦技『死の刃』によって生命力をじわじわと削られているからだろう。なぜ今回ティシーを採用したかというと……ぶっちゃけ顔が見たかったからだ。何周目か忘れたが途中からは遺灰を召喚することなく戦っていたから、ラティナやティシーをはじめとする名前持ちの遺灰とは当分顔を合わせていなかったのだ。そのうちクララを呼び出す機会もほしいな。

 

 

「『滅びの流星』」

 

 

戦士コボルトがティシーに切り刻まれているのを見て司祭と魔術師が支援をしようとしたが私の魔術が迫っているのを見て一目散に逃げ始めた。そんなメンタルで術が使えるのか?他の戦士コボルトはティシーにビビり、術を使う私に標的を向けてきた。どうやら私の方が殺しやすいと考えたのだろう。だが、それが甘い。

 

 

「『カーリアの速剣』」

 

 

術師なら近接が弱いなんて、エルデにはない常識だ。むしろ近接の方が強い魔術師も信仰者もざらにいる。この世界は職業にスキルも技も縛られすぎてしまうという欠点がある。だからこそ成り立っているのかもしれないがな。

 

私とティシーの斬撃に依って瞬く間に切り伏せられたコボルト達を、我関せずといった様子で見下ろしていた王コボルトがついに立ち上がった。

 

 

「ツヨイニンゲン……ヒサシブリダ」

 

「ほう、知性があったとは。お前……いや、貴公らに罪はないがここで死んでもらうぞ」

 

「フザケタコトヲヌカス」

 

「残念ながら……少し、遅かったな」

 

「ナニヲイッテ……ガッ……!?」

 

「見事だ、ティシー」

 

 

王が私と悠長に会話をしているうちに、ティシーが背後に回り込んで致命の一撃を叩き込んでいた。流石は王都御用達の暗殺集団『黒き刃』の長の娘、他の団員とは実力が違う。私が墓すずらんで強化したこともあって、もしかしたら彼女の実力は母であり長であったアレクトーを超えるかもしれん。

 

 

「グ………グゥ…」

 

「ほう……!!ティシーの一撃を喰らって息があるとは。ああいや、ティシー、お前の実力不足ではない。此奴の意地だ、だからそんなに落ち込まないでくれ」

 

 

暗殺者としてのプライドが許さないのか、一撃で殺せなかったことに落ち込んでいるティシーだが私の言葉で気を取り直したのかもう一度刃を突き立てようとしたが、一旦止めた。

 

 

「待て、此奴には聞く事がある」

 

『…』

 

 

ティシーは構えを解き私の後方で跪いた。私は倒れ伏した王コボルトに近づくと話しかけた。

 

 

「答えろ敗者、なぜ貴様らコボルトは毒性の高いこの鉱山に住む?」

 

「…………カミノイシユエ」

 

「カミ……神?」

 

 

エリス殿、アクア殿、もしくはクリス殿に化けている神、それ以外か……モンスター側の神がいるのかもしれない。エルデに住む獣人達の神といえば『竜王プラキドサクス』だが、この世界で竜の話は未だ聞いていない。

 

 

「神とは?」

 

「シラヌ。カミハワレラニメイジタ」

 

「何をだ」

 

「ココニスムコト、カミノチカラデドクハキカナイトイワレタ」

 

「神の力……加護、もしくは信仰に準ずる祈祷……?いや、ここはエルデではないはずだ。おい、その神とやらを見たことはないんだったな?」

 

「……ソウダ……ガァッ」

 

 

苦しそうなコボルトを尻目に私は思考を続ける。

 

毒を無効化する神性を持つ神……いや、そもそもこの神とは本当に言葉通りの神なのか?いわゆる神聖視したが故に『神』と認めたただの強いモンスターの可能性もある。むしろそちらの方が楽なのだが。

 

 

『……ッ!!』

 

「…………どうした?」

 

 

ティシーが急に臨戦態勢になった。私が彼女に問いかけると同時に、()()が聞こえてきたのだ。

 

 

「なるほど……何者だ?」

 

 

私は右手のスロットを『屍山血河』『(猟犬のステップ)ダガー』『グレートソード』、左手に『黄金樹の聖印』『ルーサットの輝石杖』『クラゲの盾』

を装備する。明らかにこの世界基準とは思えない強い気配がする。流石に舐めてかかるとまずい。

 

 

「そんなに緊張しないでください。そうですねー……私の可愛い子達を虐めるのはこれ以上やめていただきたいんですけど。彼らは貴方達に住処を襲われているだけですから」

 

 

丁寧な口調で話しかけてくるのは女の声だ。しかしその姿はまだ見えず私もティシーも警戒を緩めない。

 

 

「そのことについては素直に謝罪しよう。しかし私にも生活があってな。()()()()は生きるか死ぬか、弱者は淘汰されて当然だろう?」

 

「……ええ、その通りです。彼らは貴方達より弱かった、ただそれだけのことです。しかし私を神と崇めてくれるのですからそれ相応の態度で示さねば彼らの信仰には報えないでしょう?」

 

「ッ……!!『滅びの流星』」

 

 

私は女の声を聞いた瞬間、王コボルトに魔術を放ち言葉を発する隙もなく存在を消滅させる。

 

 

「これで貴公の信仰者は消えた。それでもまだやるか?」

 

「ふふふ……流石は()()()。やる事が野蛮で良いですね」

 

「なに……?」

 

 

この女、今褪せ人と言ったか……?ということはエルデの者ということになる。

 

 

「貴公、エルデの者か」

 

「元、ですけどね。追放されてこの世界でバカンスを楽しませてもらってます。貴方もその口ですか?狭間の地からの追放者ならまだ『褪せ人』とも呼ばれないんですけど……」

 

 

お互い同郷の者だという事が分かった途端、女が洞窟の奥から姿を現した。見た目は普通の村娘、それも成人したてかのような女性だ。

 

 

「いや、エルデの地には舞い戻っている。褪せ人で構わない」

 

「まあ……ですが二本指の加護は無いようですね。ならミラの敵じゃなさそうです」

 

「ミラ?」

 

「ミラの名前です。ミラ()()()と言います」

 

「『……!?』」

 

 

私とティシーが全力でミラサクスと名乗る女から距離を取った。まて、サクスだと……その名は、まさか。

 

 

「どうして距離を取るんですか?」

 

 

ミラサクスは本当に分からないようで首を傾げながら尋ねてきた。この女、素の反応か?それとも様子を見て楽しんでいるのか……分からん。

 

 

「ミラサクス……殿、貴公の知り合いにフォルサクス、ランサクス、グランサクス、プラキドサクス……いずれかの者はいるだろうか」

 

「まあ!!ランとフォルのこと、ご存知なのですか?それにグランおじ様にプラキドサクス様のことも……もしや相当な実力者なんですね」

 

「…………冗談であって欲しかったんだが」

 

 

この日私は、メリナやラニのような運命の出会いというものをしてしまったらしい。

 

 

「皆の知り合いの方なのに、ごめんなさい。改めまして……ランサクスとフォルサクスの姉『古竜ミラサクス』と申します。以後お見知り置きを」




『唐突なオリキャラ ミラサクス』

エルデンリング考察動画を見ていた作者が
ランサクスは人化出来るのとフォルサクスの姉である
という情報を見て生み出した可能性

古竜の名前の意味を懸命に調べても分からず
某狩りゲーの始祖達の名前を雑にパクった

なぜこんな暴挙に至ったのか真相は
当時泥酔していた作者のみ知っている


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9話

 

 

「ミラサクス殿、先程敵ではないと言っていたがどういう意味だ?」

 

「言葉通りですよ。詳しくいえばミラと二本指は敵対状態ですからね。一方的に喧嘩ふっかけてきたのはあちらですし」

 

「……ラニと似たようなものか」

 

 

ラニは神人として次の神候補だったが、死のルーンの一部を盗み出し神人としての肉体を殺し魂を人形としてのあの4本腕の体に移した。二本指、いや外なる存在からすれば自分達への明確な裏切り行為であり長年にわたって殺し合ってきたらしい。

 

 

「ティシー、今日はここまでだ」

 

『……』

 

「助かったよ」

 

 

私はティシーを遺灰へと還した。彼女はまた跪いて私の声に応えた。やはり私への忠誠心が謎に高い。

 

 

「『霊呼びの鈴』ですか。懐かしいものを見ましたねぇ……てことはもしやトレントも?」

 

「ああ、相棒として頼っている」

 

「なるほど、それはいいことです」

 

 

うんうんと頷いた彼女はどうやら元の持ち主を知っているらしい。トレント、本当にどれほど前の存在なんだ?

 

 

「貴公らの領域を侵害した事を謝罪させてほしい」

 

「別に良いですよー。さっきは彼らの手前それっぽいこと言いましたけど、ルーンに還ればチリも同然です。所詮は弱者ですからね」

 

 

やはり彼女は竜らしい。というかなかなか非情だな、同意見だが。

 

 

「ここで会えたのも何かの縁ですしせっかくなんでお茶でもどうですか?あっ、毒が鬱陶しいですよね」

 

 

彼女がそう言い指を鳴らすと、先程まで充満していた毒が綺麗さっぱり消え去った。どういう力だ……赤い雷を使用するわけではないのか……?

 

そして洞窟の奥を触ると隠し道が現れた。ああ、懐かしい……エルデ式はなぜか落ち着くな。

 

彼女に案内されて洞窟の奥を進むと、ボロ屋と言うほどではないが竜が住むには手狭に感じる。しかしテーブルと椅子を余裕そうな顔をしながら持ってきた彼女は本当に見た目を誤魔化しているのだと思った。

 

 

「さあどうぞ。誰かに振る舞うのは久しぶりで自信がないんですけど……」

 

「いただこう…………美味いな」

 

「本当ですか!!よかったぁ」

 

 

なぜ私は古竜に茶を入れてもらって、仲良さげに向かい合っているのだろうか。考えたら負け、というやつだろうな。こんな洞窟の奥でブレスでも放たれたら堪ったものではない。

 

 

「じゃあお互いのこと話しましょうか」

 

「ああ。まず私からだな」

 

 

私は嘘偽りなく、1周目から50周目のこと、それから今までのことを話した。全てを話し切るまで随分と時間はかかってしまったが彼女とは良い関係を築いていた方がいいと判断したからだ。

 

 

「ふふふ……あっはははは!!!大いなる意志が焦って力を使ったとか……!!面白すぎますね!!」

 

 

この反応である。彼女は笑いのツボが浅いのかここで笑うか?というところでよく笑う。

 

 

「それにしてもエルデの王だったとは。プラキドサクス様が敗北したこともそうですけど、あの子達が負けるのも仕方ないですね」

 

「肉親の仇が目の前に居るわけだが……」

 

「構いませんよ、弱者は強者に淘汰される……貴方が言ったんですから。それにランもフォルもファルムアズラに帰らなかったということは自らの生き方を見つけたという事、それに殉じたのなら本望の筈です。人も竜もその生き様に誇りを持てば皆同じ……そうですね、古い友の言葉を借りましょう。『本来この世界に異端などないのですから』」

 

「ミリエルか」

 

 

あの古竜達の姉という事もあって彼女はなかなかに長生きしてるらしい。意外と共通の知り合いの話なども出てお互いに思い出話に花を咲かせる事ができている。

 

 

「ミラも古竜戦役は参加してましたからねー。裏方でしたけど」

 

「裏方?」

 

「負傷した同胞の治療とかです。ファルムアズラに行ったことあるなら見てますよね、同胞」

 

「……いたな」

 

 

バカみたいな数の古竜達がそこらじゅうを飛んでいた。ランサクスと同じような古竜も2体ほど戦った記憶がある。

 

 

「ミラ、戦闘好きじゃないんですよ。だったら地下に篭って研究してる方が楽しいですし」

 

「だからそうやって人の姿になっているのか」

 

「ええ。私達古竜って人化出来ますから」

 

「らしいな。ランサクスも1人の男を最も愛したと聞いている。我々が知らないだけで人と竜の交流は確かにあったのだろう」

 

「えっ!?ランに良い人、いたんですか!!」

 

 

テーブルに両手をつきググッと顔を寄せてくるミラサクス殿、まあ彼女は竜なので人間程度に遅れを取ると思って居ないからこういう態度なのかもしれない。というかさっきと態度変わりすぎだ。

 

 

「あ、ああ……円卓の騎士ヴァイクという男だ」

 

 

私がヴァイクについて色々話していると、狂い火の辺りで表情が曇っていった。

 

 

「…………ふーん、三本指が……へぇ……シャブリリ、まだ生きてたんですね」

 

「いや、50周目の時には見つけた瞬間殺した。精神を移し替える暇を与えなかったから流石に死んでいるだろう」

 

「それなら良いです!!はぁ……まさか妹に先を越されるとは。番とか興味ないんでいいんですけどね」

 

「フォルサクスも古竜戦役後に人間側の英雄ゴッドウィンと友になったという話だ。実際、魂が死に肉体だけの存在となったゴッドウィンをフォルサクスはずっと守っていたよ」

 

 

まあそれも私が殺したが……などと無粋なことは流石に言えない。彼女の感慨深そうな表情を崩させるべきではない。

 

 

「そういえば貴公、どうやってこの世界に来たのだ?」

 

「貴方と同じですよ。研究中にうっかり二本指と大いなる意志への特効効果のある毒物を開発しちゃって、それが奴らにバレて寝込みを襲われて気がついたらこの世界に……」

 

「それは本当か!?」

 

 

今度は俺が机を叩きながら彼女に詰め寄る。

 

外なる存在に致命傷を与える毒物の開発……?そこらの俗物共よりよっぽど素晴らしいことをしているではないか。

 

 

「ほ、本当ですとも。理屈としては簡単で第一世代しろがね人用の拷問器具『黒団子』を参考に肉体ではなく精神に作用を与える実験を殺した二本指を参考に続けていました。元来しろがね人の凝血には褪せ人の祝福を阻害する効果があります。つまり黄金律に対して効果のある代物でしたからそれをベースに痛覚に作用する点を精神的なものに置き換えました。ミラが古竜だったこともあって雷……いえ『電気』というものの扱いに長けていたのが幸いしてすんなり成功しました。知ってましたか?生物は全て脳から電気による信号が流れていてそれで体を動かしているんです。目で見たものを理解するのも触ったものの感触も全部電気信号によるものなんですよ?ああごめんなさい、話がそれましたね。精神に作用することは簡単だったのですが、次の問題は魂、いえ霊魂に作用させるまでが大変でしたね。二本指は大いなる意志の端末でしたからどこかに必ず通ずる点がありました。ではそれは何か、ミラの見立て通り魂に基準していました。試しにまだ生きている二本指にこの未完成の物質を使用したところ二本指の活動が止まった後、数時間後に再び活動を再開したんです!!このタイムラグは一体なんなのか……ここからが面白いところで!!」

 

「待て、待ってくれ……そんなに一気に話されても困る」

 

「はっ……失礼しました。研究に関することだとちょっと周りが見えなくなってしまって……」

 

 

ちょっとか、いや彼女は古竜……我々とは感じる時間の流れが違うのだろう。研究者……いや探求者はどうしてこう我が強いのか……もちろん該当者は金仮面卿の事だが?

 

 

「まあ結論から言いますと、大いなる意志は殺せます」

 

「ッ!!」

 

「ですから貴方の旅に同行することにしますね」

 

「…………は?」

 

「ミラ、エルデンリングにはさほど興味がなかったんですけど、それを修復するルーンが目の前にあるなら話は別ですよね。聞くところによると複数所有しているみたいですし。死王子、忌み呪い、完全律、そして貴方の終焉のルーン!!より取りみどり、研究が捗りますぅ!!!!」

 

 

コイツ……研究したいだけか。いやしかし、古竜が味方に付くとなれば安いもの……むしろお釣りが来るレベルだ。

 

 

「ここ数十年人里に降りていなかったですし、どこか広い場所で羽を伸ばしたいです。あっ、翼でしたね」

 

 

どうやら彼女、だいぶこの世界に毒されているらしい。エルデのような殺伐とした感じも、竜達によくある問答無用で襲いかかってくる雰囲気もない。というか魔王軍側に興味深い研究対象があればそちらについてしまうのでは?と思わせるような探究心、引き込めるうちに引き込んでおく方がいい。

 

何よりも、外なる存在を殺す手段がようやく見つかったのだ。彼女の研究が完成したらすぐ魔王を殺してエルデに帰還、各地に残った二本指から奴らを1匹残らず殲滅すればいい。そして私は、何も思い残すことなく……終わりを迎えよう。

 

 

「……分かった。私が提供できるものは全て貸す。必要ならデミゴッドの大ルーンも、修復ルーンもだ。代わりに貴公は完成したその毒を以て外なる存在……大いなる意志を殺す手伝いをする」

 

「ふふふ……取引成立ですね」

 

「ッ……ああ。これからよろしく頼むミラサクス殿」

 

「ミラでいいですよ。親しい同胞は皆そう呼びます」

 

 

私を支える指巫女でも、配下として仕える主でも、どこぞの『私の貴方』でもない。結局狭間の地で得ることができなかったものがこの世界で得ることができた。

 

私はこの日、初めて心の底から対等だと感じられる友人が出来た。

 

 

「そういえばどうしてこんな鉱山に?」

 

「魔王軍から指名手配されてまして……魔王の娘って人に興味本位で媚薬盛ったら超怒られました」

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおー、人間の街もなかなか悪くないですねー」

 

「頼むから大人しくしてくれ。この町で土地を買ったのに追い出されたくはない……」

 

「しませんって。ミラの持ち物を全部ルーンに変換してもらってるんですから、これでも感謝してるんですよ?褪せ人って便利ですよねー」

 

「建前を言うならせめて本音を隠せ」

 

 

……対等な関係というのが初めてでどのように話せばいいのか分からん。

 

 

「ミラも作ればいいだろう?霊魂に物質を作用させる技術があるならインベントリの劣化版みたいな物程度、造作もない筈だが」

 

「…………確かに!?その発想はなかったです!!今すぐ試すので場所と、ミラの道具ください!!3日あれば作れます」

 

 

何をトンチンカンな事を言っているんだこの古竜は。3日で作れるとか化け物か?

 

 

「先に冒険者登録とお前の寝床の確保だ……私の土地はまだ建築物がない……金もない」

 

「冒険者カード持ってるんで大丈夫です。お金とか……そんなものミラの持ち物に八千万エリスくらいあるんで使っていいですよ」

 

「はっせ…………!?!?なんでそんなに溜め込んでいる?」

 

「そりゃ魔王城から逃げる時にごうd………少し貰っただけです」

 

「……指名手配の理由、それが1番大きそうだな?」

 

 

研究云々の前に、まずは倫理観というものから教育させるべきだな。カズマ殿に頼もう…………ん?『せくはらまじん?』とやらには無理か。ではアクア殿……論外。めぐみん殿……若すぎる。ダクネス殿……エルデの者がアレの深淵に触れたらどうなるか分からん。

 

おや?どこかに常識、倫理観、教鞭、の三拍子揃った者は居ないだろうか、居ないんだろうな。なんだこの世界……ははっ、エルデもか。カズマ殿の言葉を借りよう。

 

 

『舐めんな』

 

 

「まあ、魔王軍の資金を削ったという事で今回は何も聞かなかったことにしておこう」

 

「でもミラのお金ですし多少はミラの希望通りの家にして欲しいですね」

 

「お前の金ではないが?」

 

「細かい事を気にする褪せ人ですね。デミゴッドのルーン、何に使いました?」

 

「もちろん自身のレベルアップに……ぐっ……仕方ない……」

 

「ですよね、ふふっ」

 

 

私も他者から奪ったもので好き勝手やっていた……痛いとこをついてくれる。なし崩しに同居が決まっていたが彼女は古竜、褪せ人というものに興味はあっても人間に興味はないだろう。特に問題はなさそうだ。もちろんランサクスの例を全力で無視しているだけである。

 

それから私達は依頼の報告をするためにギルドへ向かった。どうやら私が依頼を受けてから3日ほど経過していたらしく、その間音沙汰がなかったため私の調査隊が組まれかけていたらしい。冒険者カードを提示すると、私の討伐数を見て過大なリアクションをしていた。元々は王都からの依頼なため報酬金に関しては後日渡されるらしい。このギルドの貯蔵分だと他の冒険者に支払う報酬が足りなくなるかもしれないらしい。

 

まあ、金よりも圧倒的な利益を得られたので問題はないが。隣でギルドの風景を興味深そうに眺めるミラの姿を一瞬見てそう思う。

 

 

「一旦宿を取ろう、まさかとは思うがこの世界の常識がないとは言うまいな?」

 

「大丈夫ですよー、何百年この世界にいると思っているんですか?」

 

「……相変わらず桁がおかしいが、まあ大丈夫そうだな」

 

 

この後宿を取ったが、思った以上に常識的に会話しているのを見て少し引いた。ミラの長所は、研究と人間社会に溶け込む擬態技術、それらを合わせた小賢しさだろう。種族的に最強種の古竜が小賢しいなど、面倒極まりない。

 

何はともあれ、頼れる仲間が出来たことを喜ぶとしよう。カズマ殿の苦労をよく理解できた……アレが3人分か。




『古竜ミラサクス』

古竜ランサクス、死竜フォルサクスの長姉
本来は◯竜と別の名称があるが
自ら名乗ることはない

ファルムアズラにて研究に没頭していたため
同胞からは異端扱いされたが気にしていない

全力を出せばかの竜王を上回ると噂されるが
本人は一部否定している

()()()()使っていいならそりゃ勝てますよ。古竜としての力のみならムリです』


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10話

 

 

先日、ミラと生活を共にすることになってから早三日。

 

家が出来た。

 

何を言っているか分からないと思うが私も分からん。ミラ曰く、

 

『知ってますか。ミラ達の王、プラキドサクス様は時の流れに逆らったとある場所に居られました。貴方が持っているその鍛石……元は竜王の鱗だったそうですよ。だからこそ、神殺しを成す事ができたのです』

 

と言う事らしいが本当に何を言っているのか分からない。時への干渉が可能になれば神に連なる、外なる存在への特効薬になるとでも言いたいのか?もしそれが本当だったとしてもそれが3日で家ができる理由にはならないだろう。全く関係のない話でしかない。

 

まあそんな事はどうでもいいだろう。大きな木の下にある祝福を中心とした中庭を建物が囲うような大きめの家だ。私とミラの部屋は2階の隣同士だったのだが、なぜわざわざ隣にする必要があったのかは聞いてない。大抵碌な理由じゃないと思ったからだ。

ミラ曰く一般的な裕福家庭にあるような設備は全てあるらしい。その一般的を私は知らないので私からの要望は『祝福を中庭にする』ことだけだ。

 

さて……ここまで言えばもう大体分かるだろうが、9割方ミラの要望で建設された家なのだがやけに普通の家に仕上がったと思う。研究第一でどんな家にするか戦々恐々としていた私の心配を返してほしい……もちろん返された、予想の遥か斜め上でな。

 

 

「うへへ……そう!!これですよこれ!!この空間が欲しかったんです!!」

 

「……いつのまにこんな……はぁ」

 

 

大工達に普通の建築を頼んでいたと思ったら、完成後に自分で地下室を作っていたのだ。どうやったかなど、当時頭痛がしていた私がわざわざ聞くわけがない。先ほども言ったが碌な事がないからだ。

 

 

「水道の配管等はどうした?」

 

「そこはこう……空間をグッと広げて色々しました」

 

「なんで古竜が空間を操れる……!!」

 

「ふふふ……永遠の都が地下深くに滅ぼされたという伝承があったので実際に行って、どのようにしたら広大な都そのものを地下に移動させる事ができるのか、その根源たる力の解析は楽しかったです」

 

 

つまりあれか。二本指勢力の、理屈で解決出来ないようなあの力を解析して一部己がものとしたと……何言ってるんだ?バカか、バカなのか?ニホンには『馬鹿と天才は紙一重』という言葉があるそうだがまさにそれか?

 

もうお前1人で大いなる意志殺せるだろう!?

 

『力のある天才に行動力と時間を与えてはいけない』これがこの数日私が学んだ教訓だ。何故こうも頭の回転が早い者が永遠を生きる古竜なのだ。研究者なら引き篭もれとか、古竜ならその力にモノを言わせろとか、色々な文句が出かけた私は決して悪くないはずだ。

 

 

「忘れたんですか?コボルト達に住処と建物と叡智と毒耐性を授けたの、ミラなんですよ?」

 

「……そうだったな」

 

 

だからどうした、と言わなかっただけマシである。そんな事がもうすでに些細な事になってしまっているこの現状、ああ……ランサクスとフォルサクス、なぜこの女の手綱を握っておかなかったのか……恨むぞ。

いや、まさかファルムアズラに帰らなかった理由それか?そうなのか?姉が異次元すぎて付き合いきれなかったのか?そうだったら本当に殺してよかったと思うしかないぞ?そんな事ないと今すぐ言って欲しい、フォルサクスは特に私の夢にでも出てきて言え。貴様死竜だろうが……!!

 

 

〜エルデの王、脳内でご乱心中〜

 

 

……醜態を晒してしまったな。いや、この家に不満があるわけではない。むしろ良物件すぎて言葉が出ないだけだ。

 

 

「うーん、やっぱり私には祝福とやらが見えないですねー。この世界の神様に出会ってないからでしょうか?褪せ人じゃないと無理なんですかね」

 

「私はエリス殿からエルデ式の祝福の設置をしてくれるとしか聞いていない。そもそもこの世界で褪せ人は私1人だから見る必要ないだろう?」

 

「黄金樹の祝福じゃないって事ですか、じゃあ別に興味無いです。二本指に通ずるのでしたらそれもまた研究対象でしたけど」

 

 

ミラはそう言うと欠伸をしながら自室に戻って行った。あの様子なら昼寝でもするのだろう、やっと気が休まる。

 

私も自室に戻り、坩堝装備をインベントリに戻し店で購入したラフな服に着替える。そしてベッドに腰掛けた。この家具達はそれぞれの金で好きな物を選んだ。はぁ……少し冒険者稼業は休んでもいいかもしれない。それかカズマ殿を誘って食事にでも行こうか、苦労話でもすればお互い気が晴れるだろう……

 

いや、特に紹介もせずにどこかのタイミングで会ったらまた話が拗れると思うのは私だけだろうか。知力の低い女神、頭のおかしい爆裂娘、業の深い(意味深)クルセイダー……よし、顔合わせだけしよう。

 

 

「ミラ、少しいいだろうか」

 

『ふぁーい』

 

 

再び坩堝を装備しミラの部屋のドアをノックする。こういう時は近くて便利だな。

 

扉越しだからか少しくぐもった声が聞こえ、少ししてから出てきた。

 

 

「なんですかぁ……?」

 

「私が世話になっている者達にお前を紹介しようと思うんだが……」

 

「ああ!!狭間の地とは全然違う世界から来たっていう人とその世界担当の女神さんですね。行きましょう!!面白そうです!!」

 

「アクア殿に大いなる意志用の毒物試すなよ?」

 

「ギクッ…………しませんよ」

 

「頼むぞ……」

 

 

家を出て街を歩いているとやはりと言うべきか、見知った冒険者に話しかけられる。口説いたのか、どういう関係だやら特に男性冒険者が多い。町娘のような格好をしているミラを狙っているんだろうが、素人目に見てもミラは美人だ。それ以上に古竜というインパクトが強すぎて全く意識していなかったんだがな。

 

 

「ミラの事ですか?……あー、じゃあ握手しましょう」

 

 

という彼女の笑顔に絆され、だらしない顔になった男性冒険者達はミラと握手しその握力に悶絶することになった。被害者は今のところ4名である。

 

 

「これでもミラは褪せ人と同じくらいには強いんですよ?次からは()()()くださいね」

 

 

とんでもないことを口走っているが、その表情は満面の笑みと言わざるを得ない。この短いやり取りで知能にあるはずの人間達に、力関係をわからせたのだ。手法は私もそうする、と思うがそれはエルデの話。悪目立ちしてどうする……

 

 

「やりすぎだ」

 

「何人かやっておけば後は勝手に噂が広まって仕掛けてこなくなりますよ。女性冒険者はこういう自衛行為も必要なんです。本能的に関わっちゃいけないモノが分からない方が悪いんです。(まあその内、褪せ人の女だと誤解されるのがオチですけど。面白いので黙っておきますか)」

 

「ふむ……そういうものか」

 

「あのー……アセビトさーん……」

 

「ん?」

 

 

ミラに降りかかる火の粉を払いながら進んでいると、裏路地から声をかけてくる声が聞こえた。

 

 

「ああ、ウィズ殿。久しいな」

 

「こんなところで急にすいません……指名依頼、よろしいでしょうかー……」

 

「指名依頼……?ミラ」

 

「どうぞー。ミラ、この人も興味深いです」

 

 

ミラの許可が得られた。話は店でしたいらしくウィズ殿について行くことにする。店に到着し中に入ると以前にも座った席へと案内された。今回はミラもいるので3人分の椅子が用意されていた。

 

 

「私の連れのミラだ。強さも申し分ないので安心してくれ」

 

「初めまして、ウィズと申します。このお店で魔道具店を営んでいます。アセビトさんがそう言うなら期待してますね!!」

 

 

ウィズ殿は嬉しそうに言うと足早にお茶を用意してくると裏に下がっていった。

 

 

「愉快な方ですね。商才は無さそうですが……見覚えがあるようなないような気もしますけどね」

 

「店内を見渡してからそう言うな。面白そうな物はあるだろう?」

 

「褪せ人はインベントリがあるからそう言えますよね。普通こんな物持ち運ぼうと思いませんよ。危険極まりないですし」

 

「……やはりそう思うか」

 

 

ミラからしてみてもこの店の商品は危険らしい、説明も受けていないのによく分かるな。爆発ポーションの棚を見て顔を顰めていた。

 

 

「お待たせしました〜」

 

 

ウィズ殿が戻ってきたので改めて指名依頼とやらの説明を受けることにした。

 

 

「私、この街の共同墓地で迷える魂を定期的に天に還してるんです。アセビトさんには説明したと思うんですけど……リッチーなので迷える魂の声が聞けるんですよ」

 

「リッチー……!!………ん?リッチーのウィズ?…………あっ」

 

「ミラさん、どうしました……か…………あっ」

 

「「あああああーーーーー!!!!」」

 

「うおっ……なんだ、顔見知りか?」

 

 

ようやく2人がお互いの顔をしっかりと見つめ合い、というかミラが先に気づいて指を指した時にウィズ殿も気づいたらしい。

 

 

「デュラハンにスカートの中覗かれて辺り一帯を『カースドクリスタルプリズン』で凍らせた挙句、危険物を魔王城の部屋に持ち込んでドジで爆発させまくったリッチーのウィズじゃないですか!!」

 

「魔王さんの娘さんにびっ……びやッ………………薬を盛った挙句貯蔵庫から大量のお金を盗んで、追ってきたベルディアさんの下半身の鎧だけを無駄に丁寧に破壊した竜人(ドラゴニュート)のリーラさん!?翼と鱗はどこにいったんですか!!」

 

「…………どらごにゅーと?リーラ?」

 

 

おそらく偽名でも使っていたんだろうが『どらごにゅーと』と言うのはよくわからん。

 

さて……ミラ、余罪がまだまだありそうだな。恐らく詰めればいくらでも出てくるだろう。敵とはいえ魔王が可哀想だろう……

 

 

「な、なんでこんなところに!?」

 

「褪せ人にスカウトされました。同郷でしたし」

 

「同郷!?」

 

「後、本名ミラサクスです。竜人じゃなくてマジな竜です。この世界風に言うとエンシェントドラゴンです」

 

「エンシェントドラゴン!?」

 

 

ウィズ殿は頭の整理ができていないのかあんぐりと口を開けながら、頭から煙が出ているように見える。時間がかかりそうなのでせっかく淹れてくれた茶でも頂こう。

 

ふむ……美味い(遠い目)

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィズ殿が落ち着いたので話を聞くことにした。ミラの事はまだ整理に時間がかかりそうなので後回しにするとのことで、何はともあれ味方なら頼もしいと言っていた。現実逃避したんだな、と勝手に思っている。

 

 

「お二人ともご存知だと思いますが、私はリッチーなので亡くなった方の魂の声が聞けるんです。それを頼りに共同墓地で迷える魂を天に帰してあげる、ということをしています」

 

「あー……人間時代、善良な冒険者でしたね。初見なら多分褪せ人何も出来ず負けますよ」

 

「…………なんと、それほどか。しかしそういった作業はプリーストの仕事では?」

 

「この街のプリーストは、拝金主義の方が多くてですね……」

 

「「…………」」

 

 

聖職者が……拝金主義?噂に聞くアクシズ教徒ならまだしも、エリス殿の宗教エリス教が国教となっているこの国で?

 

 

「なあミラ」

 

「ええ、恐らく同意見です」

 

「えっと……その、2人とも、どうされました?」

 

「『回帰性原理』で全てを白日の下に晒すか?」

 

「いえ、生ぬるいです。ミラ、戦闘は好きじゃないですけど赤き雷には自信があるんですよね」

 

「「……」」

 

「殺るか」「殺りますか」

 

「ダメですよ!?絶対ダメですからね!!」

 

 

私とミラの手元から赤い雷が発生し始めたところでウィズ殿が止めてくれた。ふぅ……危ない危ない。

 

あわあわと震えながらなんとか私たちを宥めようとしているのを見ると、落ち着くな。この感覚はなんだろうか。

 

 

「小動物への庇護欲って奴ですね」

 

「さりげなく思考を読むな」

 

「人間って小さくて弱くて……可愛いと思いません?」

 

「竜の感覚で私に同意を求めないでくれ」

 

「冗談です。有象無象が集まってもチリにもなりません」

 

「さっきから会話が物騒ですよぉ!!」

 

 

なるほど、これが庇護欲……悪くない。ハッ……私が陸ほややネズミ達の遺灰に感じていたあの感覚……そういうことか!!

 

なんという発見……これが、これが庇護欲……!!

 

 

「冗談ですよウィズ。私がそんな物騒な事ありましたか?」

 

「薬盛ったりお金強奪したりしてるじゃないですか!?」

 

「動機を考えてみてくださいよ」

 

「動機……薬は興味本位で、お金は逃げるついでに……あっ、暴力的な理由じゃない……?」

 

 

ミラ、お前口も回るのか。ウィズ殿がこのように温和な性格だから丸め込めているが屁理屈にしか聞こえない。いつもよりワントーン下げ優しげな声音でウィズの耳元で囁いているその絵面はいつかどこかで見た詐欺師のようだ。

 

 

「ま、まあとにかくですねっ。最近何故かわからないんですけどこの街が神聖なオーラに包まれてるんです」

 

「確かに、神気っていうんですかね。分かりますよ」

 

 

十中八九アクア殿だろう。アンデッドには聖属性が効くのはエルデでも同じ通りだが、彼女は本物の神だ。そのオーラは他と隔絶しているのだろう。

 

 

「この店からでもたまにチリチリ感じるんで共同墓地まで護衛をお願いしたいです。できればその……毎回」

 

「私は構わんが……」

 

「ミラも問題ないです。興味がなくなれば褪せ人だけに行かせるので」

 

 

まあそうなるだろう。興味深い品をいくつも買わせてもらっているし依頼などではなく個人的に協力するとしよう。アクア殿やカズマ殿の性格的に、依頼でも無ければ面倒くさがって墓地など来ない。幸い私は祝福で少し休憩すれば朝だろうが夜だろうが動けるので、夜に数十分時間を使う程度何も問題ないのだ。その分贔屓にさせてもらおう。

 

 

「と、いうことだ。私は夜にも強いので構わんよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

「褪せ人、黄金律原理主義や二本指の祈祷で使用禁止のモノは分かりますね?」

 

「問題ない。王族の幽鬼の経験があるからな……」

 

「あぁ……居ましたねそんなの。手がわしゃわしゃしてて気持ちが悪いんですよねぇ」

 

 

要は回復系を使うな、という事だろう。装備の準備をしなくてはいけないな。

 

 

「話はまとまったな。私達は家に戻って準備をしてくる。夕刻の鐘が鳴った時でいいか?」

 

「はい、お願いします」

 

「じゃあ褪せ人、帰りましょうか」

 

「ああ、また来るよ」

 

 

そうして私達は店を出て帰路についた。ミラも祝福ワープが使えればこの時間も要らないんだが……流石に無理か。下手なこと言うとミラが研究しかねんからな。

 

 

「…………え?お二人、同居?同棲?してるってこと?」

 

 

ウィズ殿のこの時の呟きは、私たちには聞こえなかった。




『褪せ人への呼び方』

カズマ……褪せ人さん
アクア……褪せ人
めぐみん……アセビト
ダクネス……アセビト
クリス……アセビト君
エリス……貴方、褪せ人さん
ミラサクス……貴方、褪せ人
ウィズ……アセビトさん
冒険者達……アセビト
ルナ(受付嬢)……アセビト様


『褪せ人からの呼び方』

一人称……私、俺(昔)
二人称……貴公、お前、貴様
カズマ……カズマ殿
アクア……アクア殿
めぐみん……めぐみん殿
ダクネス……ダクネス殿、筆舌に尽くしがたい変態、業の深い者
クリス……クリス殿
エリス……エリス殿
ミラサクス……お前、ミラ、バカ
ウィズ……ウィズ殿、店主殿
冒険者達……貴公、(名前)殿
ルナ(受付嬢)……ルナ殿、受付嬢
知性があるモンスター……貴公
知性がないモンスター……貴様、お前


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11話

 

 

「これはなんだ?」

 

「魔法陣です。この世界では大規模な術を使う時このように補助的な陣を組むことで範囲や威力を上げるんですよ。狭間の地でだと……『黄金樹に誓って』とかですかね」

 

「バフ効果、ということか」

 

 

夜、私達は準備を終えウィズ殿と共に共同墓地にやってきた。夜の方が霊が集まりやすいらしくそれらを纏めて天に帰す準備をしているウィズ殿を眺めている。

 

 

「さてと……敵ですかね。神の気配がします」

 

「アクア殿だろう。今朝言った紹介したい人物のパーティーメンバーだ。大方依頼でも受けてきたというところだ……アレでもアークプリーストだからな。頭は悪いが」

 

「頭の悪い神とか……帰っていいですか」

 

「別に構わんが……」

 

 

ぺっ、と唾を地面に吐き捨てながら険しい顔をしているミラに私は呆れる。ここは墓地なのだからそういった行為はやめてほしいのだが……いや、私も墓荒らしはよくしていたか。尤も、全てルーンに帰っていたから無問題だ。

 

 

「神聖なオーラが街中にずっといると思ったら神様がいるんですか!?」

 

「ああ、アクシズ教の女神アクアが下界に降りてきている。青い見た目で知能が低ければ大体彼女だ」

 

「ちなみに近づいてきていますね。まあ戦闘能力はないようですし、褪せ人もいます」

 

「私が居れば何の問題もない。ダクネス殿でも盾にすれば間違って殺すことはないだろう」

 

 

防御力だけが取り柄なのだ。私も殺傷力高めの武器ではないとはいえもしもがあるからな、今日は趣向を変えて『トリーナの剣』だ。最悪眠らせて有耶無耶にすればいい。

 

 

「それよりもウィズ、周りのアンデッド達は何とかならないんですか?臭いんですけど」

 

「別に匂わな……竜でしたねそういえば。はっ!!まさか私も!?」

 

「ウィズは別に匂いませんよ。そうですよね褪せ人」

 

「私は鼻は利かん」

 

「あーーーーー!!!!」

 

 

雑談をしながらカズマパーティーの到着を待っていると、突如大きな叫び声が聞こえ足音がこちらに近づいてきた。

 

 

「「ッ!!」」

 

 

私とミラはその魔の手がウィズ殿に触れる前に、剣とエストックがその首元に突きつけられた。

 

 

「足を止めよ侵入者」

 

「凍りますか?感電しますか?穴だらけになりますか?全部ですか?」

 

「ひぃぃぃぃぃ!?!?!?」

 

 

さて、ここで私の装備を紹介しよう、黒き刃一式である。深夜で視認性が悪い上に暗殺集団の装備、アクア殿からは私が誰か分かっていないだろう。どうしてこんなことをしている……彼らの今の実力が気になったというただの好奇心だ。ウィズ殿には魔法に集中するように言っているしミラは何故か乗り気なので放置だ。

 

 

「アクアから離れろ!!」

 

「おい待てダクネス、今の動き見ただろ。絶対ヤバい奴らだって帰るぞ!!」

 

「何言ってるんですかカズマ。ゾンビメーカーではないとはいえアンデッドの仲間?が居るんですから」

 

「…………ぷっ」

 

 

漫才のような彼らのやり取りに、ミラが笑いを必死に堪えている。お前……

 

 

「彼女は今、迷える魂を天に返そうとしているところだ。邪魔は許さん」

 

「……へ?」

 

「かじゅまさーん!!たすけてぇぇぇ!!!!」

 

「何を世迷言をっ、貴様らがアンデッドを生み出しているのは分かっているんだ!!」

 

 

何故か鎧を着ていないダクネス殿が直剣を私に向けている。ふむ……こうしていると、彼女もまともに騎士なんだがなぁ。

 

 

「あのー……ちょっとよろしいでしょうかぁ……?」

 

「どうした?」

 

「お話を……詳しいお話を聞きたいなぁ……と思いましてですね……ええ」

 

 

随分と腰が低いカズマ殿、こうしたプライドをすぐに捨てれるところはもはや長所だな。引き際を見極めるのが上手いとも言う。

 

 

「ちょ、カズマ!?相手はアンデッドですよ!!」

 

「そうだぞカズマ、アクアだって危ないんだぞ!!」

 

「無理だっつってんだろぉ!!ダクネスは今鎧もない、めぐみんが詠唱できる隙もない、アクアは元々役に立たない、俺も出来ることがないんだから」

 

「ふふふ……あっははははは!!!!面白すぎますね!!」

 

「「「「……え?」」」」

 

 

ここで黙って笑いを堪えていたミラの表情筋が決壊した。テンションの落差に、武器を突きつけられていたアクア殿はもちろん口論をしていたカズマ殿達も困惑の表情だ。

 

 

「はぁ……ミラ、もう少し耐えてくれないか」

 

「いやいや、こんなの無理に決まっていますよ……ふふっ」

 

「まだ笑うか貴様」

 

「え?………ええ?」

 

 

ミラが口元を抑えて笑っている姿を見て私は呆れながらもカズマ殿の方を向いた。

 

 

「こういうことだ」

 

「褪せ人さん!?」

 

 

私は黒き刃一式を坩堝一式に変えた。この姿でようやく私だと理解できたのか驚きながら駆け寄ってきた。ちなみにアクア殿は腰を抜かしたのかへたりこんでいてめぐみん殿とダクネス殿が介抱していた。

 

 

「アセビトさーん。除霊終わりましたぁ……どうかされました?」

 

「ああウィズ殿、貴公を討伐しにきた冒険者と和解し掛けていたところだ」

 

「本当にどうされたんですか!?」

 

 

そこへ作業を終えたウィズ殿が合流してきた。彼女はカオスとなった現場を見てひどく驚いたが、近くにいる人物が女神そのものであると気づきそそくさとミラの後ろに隠れた。

 

 

「褪せ人!!何でリッチーなんかと一緒にいるのよ!!はっ、まさかリッチーが褪せ人を操っているのね!!」

 

「「「リッチー!?」」」

 

「ちちち違いますよ!!アセビトさんとミラさんは私の護衛依頼を正式に引き受けてもらってるんですからぁ!!」

 

「嘘おっしゃい!!そんな嘘で女神が騙せるわけないでしょ!!見てなさい、リッチー程度私の力で共同墓地ごと浄化してあげるわ!!」

 

「待て待て待て待てーい!?」

 

 

とんでもない大声と早口で捲し立てたアクア殿が右腕を天に掲げ魔法を発動しようとした。それに気づいた私は無言で『トリーナの剣』を振り上げたところ……それに気づいたカズマ殿が大慌てでアクア殿を押さえつけた。

 

 

「何で止めるのよカズマ!!」

 

「リッチーの人言ってただろ、除霊終わったって。わざわざリッチーがそんなことするわけないだろうし話だけ聞こうぜ?それに褪せ人さん相手に勝てるわけないだろうが」

 

「うっ……ぐぬぬ」

 

 

カズマ殿の説得でひとまず拳を収めたアクア殿。何故貴公は拳にこだわる……この間は杖を持っていただろうに。

 

ここで両者共に完全に戦意がなくなったので話し合いの時間が始まった。

 

 

「まずは自己紹介を、リッチーのウィズと申します。普段は街でマジックアイテム店を営んでいます」

 

 

カズマパーティーがそれぞれ自己紹介をする。アクア殿だけは機嫌が悪そうだったが私の手前、形式だけでも挨拶していた。

 

 

「それでそちらの女の人は誰なのですか?」

 

「ああ、私も気になっていたんだ。先ほどは素晴らしい剣捌きだったが……」

 

「ん?ミラですか。ミラサクスと言います。褪せ人とは同郷で、最近たまたま出会って、目的も一緒でしたのでついてきました。一応、研究者になるんですかね」

 

 

珍しく、ミラでいい、とは言わなかったな。やはりどこかで線引きをしているんだろうか。

 

 

「褪せ人と同郷……アンタも『褪せ人』?」

 

「違いますよ。ほら」

 

「……『褪せ人』じゃないわね。でも……うーん……?」

 

 

アクア殿の問いにミラは瞳を見せることで応えた。我々褪せ人は、以て瞳が色褪せているという特徴がある。かつてエルデを追放された褪せ人の子孫である私達もそれは変わらん。しかしミラは古竜……褪せ人ではないがそれ以上の存在だ。話す気はないようだがアクア殿は何やら唸っている。女神なのは伊達ではないらしい。

 

各々、顔合わせを済ませると、カズマ殿が代表してウィズ殿の行いについて聞いてきた。ウィズ殿は私とミラに説明した時と同じような説明をすると、この街のプリーストが拝金主義者というところで、全員がアクア殿を見た。

 

彼女はバツが悪そうに目を逸らし下手な口笛を吹く……まあ気持ちは分からんでもないが。

 

 

「それはまあいいんだけど、ゾンビを呼び起こすのは何とかならないのか?俺達、ゾンビメーカーの討伐って依頼で来たんだが」

 

「あ……そうでしたか。ご存知の通りリッチーなので私の魔力に反応してこうやって目覚めちゃうんです。私としてはここに埋葬されてる方の魂が迷いなく天に帰ってくれればここに来る必要もなくなるんですけど……」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 

結論から言うと、アクア殿が引き受けることになった。彼女は面倒だと駄々を捏ねたが、先ほどの拝金主義者の話を出すと一瞬唸ってから引き受けた。これでウィズ殿は墓地に来る必要がなくなり、ゾンビが目覚めることも無くなった、と言うわけだ。

 

ここで問題になるのが、カズマ殿達の依頼についてだ。

 

彼らは『ゾンビメーカー』の討伐が依頼であり、『共同墓地の異変の調査』ではない。まさかこの街にリッチーがいますと言えるはずもなく、冒険者カードにゾンビメーカーの討伐が記載されるわけでもない。つまり依頼は失敗になってしまうというわけだ。

 

そこで私はとある提案をした。エルデには複数体の『ティビアの呼び舟』という死に生きる者達がいるが奴らはその能力でスケルトンなどを呼び出していた。つまりアンデッド系の上位者であるリッチーのウィズ殿にも似たようなことが出来るのではないか、と思いその節を伝えたのだ。

 

 

「ゾンビメーカーですか……………えーと、手持ちのスキルには無いですね」

 

「任せてください。要はゾンビをクラスアップさせればいいのでしょう?」

 

「……は?」

 

 

ミラの一声でウィズ殿がリッチーのスキルで召喚したゾンビがゾンビメーカーとなった。カズマ殿は恐る恐るそれを討伐し、無事に依頼達成目標に到達した、というわけだ。彼らはそれだけで満足したのかホクホク顔?で帰って行った。今度酒を奢ると言ったが私はいらん、アレは苦手だ。

 

 

「いやー、面白い人達ですね」

 

「アクア様……怖かったです……ずっとチリチリと肌が焼けそうで……」

 

「話を聞くと神の中でもエリート出身だそうだ。力はあるのだろう、力は」

 

 

私達はカズマパーティーとは別れて帰還している。彼らは冒険者ギルドに、私達はウィズ魔道具店に、ということだ。

 

 

「それにしてもミラさん、エストックなんか使えたんですね。いつも雷だったのに」

 

「これですか?ミラの一部なので手足のように使えるんですよ」

 

 

ミラはそう言ってどこからか取り出したエストックを器用に操っている。

 

 

「似合わんな」

 

「そう、ですね……」

 

「仕方ないでしょう?格好が格好ですからね」

 

 

ただの町娘がエストックを振り回しているのはシュールすぎる絵面だ。私とウィズ殿の言葉に、ミラは興味を失うとエストックを懐にしまった。

 

 

「それにしても良かったのか。カズマ殿にリッチーのスキルを教える約束などしてしまって」

 

「構いませんよ。色々ありましたけど、アクア様を止めてくれる頼もしい人ですからね。それに……『冒険者』はどんなスキルでも取得できるのが長所なので、協力したくなっちゃうじゃないですか」

 

「魔王軍幹部としてそれはいかがなものかと思いますけどね」

 

 

ミラの鋭いツッコミに、あはは……と苦笑いするウィズ殿を横目に、店へと戻ってきた私達はウィズ殿から報酬を受け取ることにした。

 

 

「ではお約束の商品です。こんなものでいいんですか?」

 

「ああ、以前来た時には買わなかった品だからな。使う機会はないだろうが……」

 

「収集癖も行くとこまで行くと終わりがないですね」

 

 

ウィズ殿から貰ったのは所謂呪いの装備というもので装備すると外せなくなるらしいが、相手から自分への感情が色で分かるというものらしい。ブレスレット型らしく意外と邪魔なのに何色が何の感情を表しているのか分からない、作った本人すら、『つけたことがないのでどんな色が映るのか知らない』というゴミだ。売り物にするわけにはいかないが返品もできないとのことで今回の報酬としてもらったのだ。

 

 

「では、これで失礼する」

 

「はい。またのお越しをお待ちしてます」

 

「お疲れ様です」

 

 

俺とミラは店をでて帰路についた。謎の既視感があるが気のせいだろう。

 

 

「褪せ人、料理とか出来るわけがないですよね?」

 

「言い方が気になるが、その通りだ」

 

「はぁ……今日はあきらめましょうか」

 

「何か食べたいなら買ってくれば……そういえば店などやっている時間ではないな」

 

 

時間は深夜、なんならもう少しすると日が登ってくるような時間である。ミラも私も空腹を感じるような事はないはずだが、習慣になってしまっているのだろう。この世界の飯は美味いからな、食べたくなる気持ちもわかる。

 

 

「褪せ人、『終焉の修復ルーン』を数日ほど貸してください」

 

「何故だ?」

 

「研究に取り掛かります」

 

「ッ!!……分かった、よろしく頼む」

 

 

私は貴重品から『終焉の修復ルーン』を取り出すとミラに手渡した。ミラはそれを懐にしまった。今どうやった?

 

 

「これですか?先日褪せ人が言ったじゃないですか、『劣化版インベントリ』です。品質も時間が経てば劣化し、容量も5種類程度しか入りませんがなんとか完成に漕ぎ着けました。ミラにも祝福に触れることができれば、貴方の『木箱』の研究も捗るんですけどね」

 

「ほう」

 

 

……まあ良いだろう。一体いつそんな時間があったのか非常に気になるところだが、聞いても理解できないので聞かない方がいい。いつも通りだ。

 

 

(…………修復ルーンとはエルデンリングを修復する物です。つまり()()()()が永遠の女王マリカの伴侶となる際に【エルデとはこうあれ】と求め、それを新たな律とする……終焉を求めるまでの褪せ人の感情が嫌でも伝わってきます。幾ら永遠に近い寿命を持つミラ達古竜であっても、この境遇と感情の奔流には耐え切れるか分かりませんね。もう少し優しくしてあげましょうか……?)

 

 

ミラの奇行に頭を抱えていた私が彼女の思考など分かるはずもなく、なんの疑問も持たずに修復ルーンを渡してしまったことを後に後悔する事になる。

 

エルデの王、エルデンリング、マリカ、大いなる意志……理知の外を行く存在というのはどうあっても理解し難いのだ。




『褪せ人のアクアへの態度』


他の者よりも少し当たりがきつい。会話ではむしろアクアに対してまともに話しているが、行動の節々に過激な要素が見られる。『自分勝手で他人に苦痛を強いる神が嫌い』なだけなのだが、アクアの言動にそういう面が稀に見られるため。褪せ人も意識してやっている訳ではないが、50という回数を乗り越えた先に脳よりも先に体が反応してしまっている。

決してアクアは不憫な目にあった方が面白いという作者の個人的な考えではない。ないったらない。


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12話

 

 

最近、何やら不穏な話をよく聞く。この近くの廃城に魔王軍の幹部が1人棲みつくようになったとか。今更そんなものどうでもいいだろう。近くの廃城どころか街の中に、魔王軍幹部の1人が既に住んでいるのだから。そもそも私達は魔王軍の幹部、という存在をウィズ殿しか知らないため他の者がどの程度強いのかを知らない。ウィズ殿が1番下となれば私もエルデの時のように真面目にやらねばならんのだがな。

ミラが魔王城に居た時があるらしいので聞くのが手っ取り早いのだが……彼女は今、神殺しの研究に忙しい。というか研究を始めた日から一度も地下室から出てきていないのだ。私達は飲まず食わず寝ず、というのが可能であるが流石に根を詰めすぎだろう。一応、扉の前で声をかけると反応は返ってくるので放っておいている。何かあれば勝手になんとかするはずだ。今までもそうしてきたのだから。

 

 

「で、どうよネロイド」

 

「……分からんがシュワシュワよりかはマシだな」

 

「だよな!!酒飲まない奴らは大体これ飲むようになんのよ」

 

「褪せ人さんがこの時間から酒場にいんのも珍しいけどな」

 

 

私は今冒険者ギルドに併設されている酒場に来ていた。というのも先ほど話した通り幹部がこの街の近くにいるせいで、弱いモンスター達が怯えて出てこない。そのせいでクエストもそれ相応の高難易度依頼しか残っておらず、駆け出し冒険者ばかりのアクセルでは受注する者もいない。元凶である幹部を倒せる実力者がいるわけでもないので酒場で呆けているという悪循環である。私もその1人で、現在カズマ殿や名前も知らない1人の冒険者と談笑をしている。

今し方話した情報もこの男から聞いたものだ。カズマ殿曰くこういうコミュニケーションも情報収集の一環だ、とな。

 

 

「正直に言うとやる気がないのだよ。目標だった家に加え先日入金された莫大な金が入ったからな」

 

「あーあれな。今まで見たことない金だったぜ」

 

 

ミラの住んでいた鉱山の調査依頼の報酬は今までのものを遥かに上回る量だった。流石の私でも目を丸くし受け取るのに少し緊張してしまったほどだ。ミラが育てたコボルト達を狩って得た金なので半分ほど渡すつもりだったが、研究中で反応がなかった。

 

 

「しかも今は美人研究者と同棲生活だろ?なあなあ、イイコトしたか?」

 

「してないな。同棲というより同居だ。貴公らも馬小屋でパーティーメンバーの女性と寝ることはあろう?」

 

「いや、あるけどよ。家持ちだとなんか違うのかなって」

 

「まあ……ミラサクスさんだしなぁ……」

 

「カズマ殿、分かってくれるか」

 

 

墓地での一件でなんとなくミラのことを察したのだろう。私と同郷という時点であまりいい予感はしていなかったらしい。

 

 

「まっ、そういうことだからよ。今は城付近のクエストを受けるのはやめておいた方がいいぜ」

 

 

そう言って男は去っていった。残された私とカズマ殿は今注がれている杯を飲み切ると同時に立ち上がった。

 

 

「俺はパーティーメンバーのところに戻る。今はクエストに行く予定もないし……あそこで飲み散らかしてるしな」

 

「分かった。私は帰るとしよう」

 

 

カズマ殿の視線の先には、シュワシュワを飲んでいるアクア殿達の姿があった。何やら野菜スティックというのを食べているらしい。カズマ殿に挨拶をして私はギルドから出ていった。

 

路地裏に入ってから、私は自宅の祝福へワープをする。言い方が悪いがミラが居なければ祝福ワープが出来るのでこのように時間の短縮がありがたい。何をしている訳でもない現在、このように時間を気にするのも意味がないのだがな。

 

 

「ただいま」

 

 

家に帰るとこう言うのだと、ミラに教わった。形式的なものだがこの家なら帰宅を告げるのにはちょうどよく、地下室にも聞こえるらしい。尤も研究に夢中だろうから耳に入っているかは知らん。

 

情報交換という名目の交流を終えたが、今日は素晴らしい成果だ。魔王の幹部が近くにいるという情報は大きい、そのうち乗り込もう。

 

 

ガッシャーーーン!!!!

 

 

「む!?……地下室?」

 

 

何かが崩れたような大きな音が地下室から聞こえてきた。ミラに限ってまさか寝落ちたかと思い小走りで地下室を開けた。

 

 

「どうしたミラ……ッ!!」

 

「褪せ……人……はぁ……うぅ……」

 

 

そこには胸を押さえて床に這いつくばって苦しんでいるミラの姿があった。先ほどの大きな音は机のものを薙ぎ倒した音だったらしい。

 

 

「何があった!?」

 

「腕を……ぐぅ……拘束してください!!」

 

「腕?何故だ」

 

「はや……く……!!」

 

 

今までに見たことのない焦りの声に私はインベントリから『紐』と『トリーナの剣』を4本取り出した。昔見たセレン師のように片手ずつ拘束し『トリーナの剣』を手のひらに刺す。そしてミラからの追加希望で両足にも刺し完全に身動きを取れなくした。

 

 

「ぐぁ……!!…………ありがとうございます……はぁ、はぁ……」

 

「落ち着いたか?」

 

「いえ…まだ、衝動が抑えきれていません……」

 

「私に出来ることはあるか?」

 

 

脂汗をかいているミラに水を飲ませながら尋ねる。本当に一体何があった?

 

 

「この剣は睡眠が付与されていますが……もしかしたらダメかもしれません。ミラが寝ている途中に暴れ出したら、『誘惑の枝』を……おねが……い……し、ま………」

 

「お、おい……『誘惑の枝』?古竜にそんなものが効くとは思えんが」

 

 

『トリーナの剣』には睡眠属性があるため滅多刺しにされているミラにはすぐ効いたらしく話している途中で寝てしまった。寝ている途中に暴れ出すとか、説明が足りていない。

 

 

「………………!!!!」

 

「なに!?バカな!!」

 

 

ガックリと首を落としていたはずのミラが目を閉じたまま動き始めた。しかも刺されているはずの手が痛そうなそぶりもなく動き出しそのまま剣を掴んだ。

 

 

「『誘惑の枝』で魅了しろということか」

 

 

ミラ?は器用に紐を切り取るとその剣を自らの心臓に向けて突き刺そうとした。

 

 

「間に合え!!」

 

 

私は急いで『誘惑の枝』を発動、そしてミラの手が止まった。

 

 

「…………どういうことだ」

 

 

疑問しかない。なぜこのような状態になっていたのか、なぜ寝ているはずなのに動き出したか、なぜ魅了の状態異常が古竜に効いたのか……

 

まあ今はいい。なんというか、気疲れしてしまった……ミラの監視を兼ねて地下室の修復でもしておくとしよう。また悪さをしかねないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……迷惑をかけましたね褪せ人」

 

「気にするな」

 

 

数刻の後、魅了と睡眠の効果が切れ目が覚めたミラはしっかり正気に戻っていた。

 

 

「何があった?」

 

「話すと長いのですが……」

 

「構わん。再発防止のためにも聞いておかねばな」

 

 

ミラは本当に申し訳なさそうに正座をしている。珍しい感じだ。

 

 

「まず、原因は褪せ人の修復ルーンです。貴方の願った【終焉】がミラに作用しました」

 

「………ん?」

 

「貴方は50周目が終わる直前、『私に本当の終わりを』と望みましたね。修復ルーンを用いれば新たな『律』を作ることができます……エルデンリングでなくとも、エルデンリングに何かしらの要素を作用させる修復ルーン、貴方の【終焉】が、あの瞬間限定的にミラの『律』になったのです」

 

「……なるほど、一旦修復ルーンを返してもらおうか」

 

「ええ、これ以上はミラの気が狂いかねません」

 

 

私は修復ルーンを受け取るとインベントリにしまった。話を聞く限り危険物極まりないな……

 

 

「研究の過程で修復ルーンの深淵に触れた影響でミラは『自らに終焉をもたらす』事が律となり、言うなれば『自殺衝動』に駆られていました」

 

「なんと……」

 

 

絶対に他人に渡してはいけないものではないか。そうなれば他の修復ルーンもまずいものでしかない。特に忌み呪いはもってのほかだ。

 

 

「もう少しで死ぬところでした。自分の力であれば容易に自殺出来ますからね」

 

 

ふぅ……とミラは真面目なため息をついた。この研究者、そろそろ自重しないだろうか。

 

 

「そこまでは理解した。では何故古竜であるお前に『誘惑の枝』が効いたんだ?試したことはないがあれは失地騎士など狂った人間種専用だと思っていたのだが」

 

「その事ですか、まあ今のミラは人化して能力を制限していますからね。詳細は省きますが耐性は『褪せ人』並みですよ。それに貴方……どうやらミケラに縁があるようですし」

 

「ミケラ?…………ああ、指読みに同じような事を言われた事があるな。どういう意味だ?」

 

「さあ、そこまではミラも分かりません。研究したかったですけどミケラの聖樹までは辿り着けませんでしたからね」

 

 

ミケラはモーグウィン王朝に居たのだが………まあ本題ではないのでわざわざ言う必要はないだろう。

 

 

「ミケラに縁がある私は、魅了の力を持っていたミケラとのつながりで『誘惑の枝』にブーストをかけたとでも言うのか」

 

「今のところその説が最有力ですね。ミラも褪せ人も狭間の地を追放された身、真実は闇の中ですよ」

 

「…………」

 

 

指読みと言っても所詮は占い、戯言かと思っていたが……

 

私は一体何者だ?ミケラに縁があるということは……そういえば私の先祖について詳しく知らんな。いや覚えてないというのも正しいが……あの時、殺してでもミケラの繭?を破壊しておけば何かわかったのだろうか。モーグめ……ミケラを誘拐するなど、面倒な事をしてくれた。

 

 

「ですがまぁ、そのおかげでこうしてミラが無事でしたしありがとうございます」

 

「礼を言われる筋合いはない。むしろこちらが謝罪せねばならんというのに」

 

「いいえ、あれを研究したいと申し出たのはミラです。ならばその責任は全てミラにあります。自己責任の下、研究を行っていたに過ぎません」

 

「いやしかし」「いえいえいえ」

 

「「…………」」

 

 

お互いにやめ時を見失ってしまいずるずるとこのやり取りが続いている。少し経ってから、私から口を開いた。

 

 

「では喧嘩両成敗というやつだな」

 

「ええ……それが良いでしょう。それよりも褪せ人、貴方とんでもない激情を秘めてましたね。ミラの状態異常耐性を貫通するなんて思いませんでした。これでも色んな実験を自分で試してたので耐性にだけは自信あったんですけどね……エルデンリングの修復ルーンというものを過小評価していました」

 

「そうなのか?…………今思えば、あの時は高揚していて他のことを気にしていなかったな」

 

「修復ルーンには文字通り貴方の願う【終焉】が凝縮されています。今の褪せ人は抜け殻のような状態なのですよ」

 

「……ほう」

 

 

よく考えれば二本指とその神に対してあれほどまでに激昂し殺意を抱いていたというのにその後エリス殿の下で、私はやけに大人しかったな。状況説明があったとはいえ神の1柱を目の前にしてあれほど冷静でいたとは到底信じられん。修復ルーンがなければその勢いでエリス殿に斬りかかっていたかもしれんな。

 

……む?この女、今とんでもないことを口走らなかったか?

 

 

「そうですね……例えば貴方のいう『黄金律 ラダゴン』の腹にエルデンリングが収まっていた、ように自身の中に修復ルーンを取り込むようなことさえなければ先程のミラのようにはならないでしょう」

 

「分かった。確認なのだが、私の目的は未だ自身の終焉だ。一切の全てが修復ルーンに凝縮されていないのならばコレは未完成ではないのか?」

 

「話を聞く限り、修復ルーンは問題なくマリカ像に使用できたのでしょう?何よりその瞬間大いなる意志が干渉してきたのですから、使われたらマズいと認識していたのだと考えます。それに、例え『律』と言えど人の想いまで踏み躙ることは出来ませんよ。研究者としてはこのような意見、捨て置くべきですがね」

 

 

死んだ者は黄金樹へと還りもう一度生まれ直す、それが『黄金律』だ。しかしエルデにはアギールの炎に焼かれる事を望んだ者がいた、黄金樹を拒否し死に生きる者がいた、新たな律を求め暗き路へ進んだ者がいた。『律』とはあくまでルールだということを、私は今改めて認識した。

 

 

「まあこれからは気楽に行きましょう。幸いミラ達に時間の概念は関係ないですし。ほら、初対面の時ミラ言いましたよね、『バカンスしてます』って。褪せ人も少し休めばいいんです。今まで苦労してきたんですから、どことも知らない土地で自分を知ってる他者がいなければ何にも気にしなくていいですし。うーん……やっぱミラは人を慰めるの得意じゃないですね。単刀直入に言いましょうか」

 

 

突然軽い口調と雰囲気になったミラは楽しそうに私に提案してくる。まあ私自身休む、といっても結局は何かと戦っていたのは確かだ。彼女は頬を掻きながら私から目を逸らすと少し考えてから口に出した。

 

 

「貴方はこの世界にいる限り、何にも縛られることはありません。呪いじみた周回も、最終目標となった【終焉】も、誰かから託されたものも、神からの干渉も……」

 

「……ああ」

 

 

ミラはそこまで言うと、一息ついた。そして少し長めに溜めると立ち上がって言った。

 

 

「恐らく誰にも言われてないでしょうからミラが代わりに言ってあげます」

 

 

「この素晴らしい世界にようこそ」

 

 

私の【終焉】を見て、ミラがどう思ったのか知らない。同情したのかもしれないし呆れ果てたかもしれない。

 

しかしこの瞬間、私は本当の意味でこの世界の住人となった。




『$£€&〆#のエストック』※文字化けして読めない

人化したミラサクス愛用の得物
それは古竜の一部である

矮小な人間に適したその大きさは
古竜が忌み嫌うものであった
異端の古竜に相応しいと言われる所以である


戦技『神鳴る氷剣』

武器に属性を付与する

永遠の都で生まれた竜人兵は
一度だけ目にした竜の力
白き異端の雷に憧れを抱いた


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13話

 

 

 

「ここか」

 

 

ミラを救い、ミラに救われたあの日から数日。別の方向から色々アプローチを続けるといって再び研究室に篭ってしまった彼女を置いて、私は魔王軍幹部が住んでいると言う城に来ていた。

 

道中特に障害となりうるモンスターや罠などは存在しなかったためあっさりと来れたのだが何故だろうか。しかし流石にもぬけの殻というわけではないらしい、門番のように2体のアンデッドが立っている。鎧を着ているアレらはギルドで入手した資料によるとアンデッドナイトというそうだ。通常のアンデッドよりも強力な個体程度の認識でいいだろう。

 

 

「悩ましいな……」

 

 

ウィズ殿のような上位なアンデッドではないため恐らく会話は通じないだろう。ならば先手必勝で押し入るのが最も早い。しかし敵戦力の規模がわかっていない以上迂闊に行動すると敵対の意思ありと判断され街へ攻め込まれる可能性もなくはないのだ。

 

ちなみに今のところ祝福は見当たらない。よって死んだ場合アクセルに戻ることになるので移動が大変面倒だ。

 

 

「仕方あるまい」

 

 

私はインベントリから『擬態のヴェール』を取り出した。ゴドリックがローデイルから逃げ出す時に重宝したこれは、精神力をわずかに消費し自らの姿を風景にあったものに変える。派手な行動をすると擬態が解けてしまうため動きには注意が必要だ。今回擬態したのは普通の木だ。まだ城内に入っていないから仕方ないのだがこの状態で忍び込むと違和感がある。

 

さて、聡明な諸君ならお分かりだろう。私は正面から城に入る気など毛頭ない。ストームヴィル城、赤獅子城、各種砦……まともに正面から入った場所などレアルカリア学院くらいだろう。今考えればストームヴィルの正門はなかなか愉快な場所だったな。

 

門番に見つからないように城の外周を回っていると、何やら様子がおかしい。もともと廃城だったとは聞いているがそれにしては破損具合が酷いのだ。まるで何かが()()したかのような崩れ方だ。魔王軍幹部が癇癪を起こして破壊をしたのなら理解できるがそれにしては補修もされていない。そのおかげで侵入しやすくなっているので助かっているのだがな。

 

 

「……暗いな」

 

 

『ランタン』を腰につければ適切な明るさを確保できた。やはりアンデッド系ならば暗い方がいいのだろう。これで見つかることも多くなるだろうが必要経費だ。

 

どこぞのストームヴィルのように厄介な構造になってないこの廃城、侵入した部屋はキッチンだ。キッチンと言えば……ふむ、何処だったか。ローデイルの円卓に似た空間の一階部分しか記憶にないな。狂っていなければ、交渉次第でエルデの飯にありつけたかもしれん。今考えるとエルデの……そう、郷土料理のようなものが気になるところだ。

 

警戒をしながらキッチンを出ると、無駄に大きな廊下に出る。今のところアンデッドに見つかる気配はないが一応もう一度『擬態のヴェール』を使用しておく。新しく擬態したのはこの廊下にも時折見かける、壊れかけの甲冑だ。片手にはハルバードを持っておりこういった心霊の類が苦手であれば動き出すかもしれないとでも考えてしまうかもしれんな。

 

廊下をゆっくりと進み正面玄関に出た私だが流石に違和感を覚える。敵が一体たりとも居ないのだ。わざわざ裏手から入ったにも関わらず正門のアンデッドを切り殺してから入っても変わらなかったというわけだ。

 

時間を返せ。

 

 

「無駄な消費をさせてくれる……」

 

 

『擬態のヴェール』で消費した精神力がもったいない。微々たる消費だがこの少しの減少で使いたい魔術、祈祷、戦技が一回分使えないなど……死亡一回分に値する。もちろん可能性の話だ。

 

改めて左手の『黄金樹の聖印』を握りしめる。アンデッドならば回復系の祈祷が有効のはず、それに王族の幽鬼レベルでなければ斬り殺せばいい。復活する前にルーンに変換してしまえば関係ないのだ。つくづく思うが、この世界は私と相性がいい。

 

正面玄関から階段を登り、踊り場にかけられた元主であろう絵画を無視し2階へ。

 

自慢ではないが、私は学がない。今まで何度も言ってきたが褪せ人としてエルデの地に召喚され、巫女無しで、ミケラと縁があって……人に恵まれて、故に王にまで成り上がった。戦術というものも知らなければストームヴィル城を作った誉ある建築など知らん。

そんな私だが分かることがある。この城は砦の役割を兼ね備えていない。先ほどからずっと話題に上げているストームヴィル城だが……構造が複雑すぎる。明らかに侵入者を迎撃するためにあるような造りにされている。対してこの城はただ貴族が住むためにあるような城だ。防衛面が一切考慮されていないようにしか思えない。

 

何が言いたいかというと、油断する必要がない。常に奇襲を警戒していたあの頃とは違い今この場では悠々と歩いていても何も起こっていない。なんだこの城は……

 

 

「……ここか」

 

 

せっかくなのでランタンを外し松明で城の造りを照らしながら見学している。どうやら現在の城主は私を襲うつもりもないらしいので平然と歩くこともできている。そしてたどり着いたのは最上階のやけに豪華な(といっても廃城なので普通に寂れてはいるが)扉の前だ。特に躊躇う必要もないので扉を開ける。

 

 

「ほう……よく来たな冒険者よ」

 

「貴公が魔王軍幹部か」

 

「いかにも!!俺は魔王軍幹部、デュラハンのベルディアである!!」

 

 

扉を開けた先にいたのは、漆黒の鎧に身を包み自らの頭部を小脇に抱えた男……男?がいた。

 

 

「私も名乗るべきか?」

 

「どっちでも構わん。はっきり言って今は貴様の相手をしている暇などない」

 

「というと?」

 

「……まあ魔王軍幹部が住む城と知っていてここまで来た豪胆な貴様なら話しても構わんか。この城は今、何者かの攻撃を受けているのだ」

 

 

んん?そんな話は冒険者ギルドから聞いていないのだが。

 

 

「俺たちがこの城に住み始めてから少し経ったある日、この城に1発の爆裂魔法が打ち込まれた」

 

 

…………ほう。

 

 

「それは魔王軍幹部である俺から見てもなかなかの威力だった。いくらこの廃城だとしても我々の探知範囲外からあの爆裂魔法を狙い澄ますなど……並の術者では成せぬことだ。そして……その日々は毎日始まった」

 

「毎日」

 

「毎日だ!!」

 

 

目に見えて頭を持つ手が強く締まってきていた。兜から嫌な音が鳴っているが、激情に駆られているらしいベルディア殿は気づいていない。ああ……全身が震えているではないか。

 

 

「魔王様からの命でアクセルの街を調べに来たというのに……なんだこの仕打ちは!!俺たちが何をしたというんだ!!来るんだったら正々堂々と攻め入ってこいよぉ……!!!!」

 

 

ついに口調が崩れ始めた。何故か自分から魔王軍の機密情報らしいものを言っているが、運が良かった。しかしベルディア殿には同情してしまうな。まあ間違いなくあの頭のおかしい爆裂娘だろう。しかし彼女は1発爆裂魔法を放てば動けなくなるはず……もう1人協力者がいるな。

 

 

「……んんっ!!見苦しいところを見せたな」

 

「いや、構わない。失礼かもしれんが……同情する」

 

「分かってくれるか!!」

 

「ああ……」

 

 

半分ほど、責任を感じているのだ。パーティーメンバーでない、しかし……何故か責任を感じずにはいられない。

 

 

「やはり名を教えてくれ。冒険者と魔王軍幹部……決して相容れぬ者だが今日会えたのは何かの縁!!……ついでに俺の愚痴も聞いてくれると嬉しい」

 

「褪せ人と名乗っている」

 

 

私は最初からずっと戦闘態勢だったのだが、なぜかベルディア殿はその場に胡座をかいて座り始めた。

 

そして長い愚痴が始まった。

 

先ほどの通りここ最近の鬱憤の愚痴から始まり、次は同僚の幹部がうるさいだの庶民的な愚痴、そして気づけば頭すら地面に投げ出して体だけが床をどつき始めていた。

 

 

「ああ、それは辛かったな」「貴公も努力しているのだろう」「皆まで言うな。今を大切にしよう」

 

 

何故私は魔王軍幹部を慰めているのだろう。私も何度か主に仕えた騎士ではあるが……果たしてこの惨状をどう収拾つければいいのか分からない。飲めるのかは知らないが何もしないよりはマシだろうと、私はインベントリから保冷状態で仕舞ってあったシャワシャワを取り出した。

 

 

「まあ飲んでくれ。酒ではないがな」

 

「感謝するアセビト……ああ、悪くはないな」

 

 

頭にシャワシャワを飲ませているが、首がつながってないので液体がどんどん溢れていく。味はわかるのだな……

 

布……ああ、『血の君主の誓布』でいいか、使えるだろう。ヴァレーが文句を言ってきても知らん、モーグはもう殺している。ヴァレーも殺している。

 

私は布でこぼれ落ちた液体を拭き取りながらベルディア殿に尋ねた。

 

 

「冒険者としてではなく私個人としての疑問なのだが、なぜ配下のアンデッドが少ないのだ?」

 

「ああ……殆どは地下に隠してある。それでも連れてきた7割ほどは爆裂魔法で消し飛んでしまってな……騎士として戦場で死なせてやりたかった。アンデッドだが。現在は門番として最低限しか運用していない」

 

 

……魔王軍の戦力を減らしている分、下手にめぐみん殿を叱るに叱れない。むしろよくやったと周りがもてはやしそうだ。

 

 

「なるほど。辛いことを聞いたな」

 

「気にしないでくれ心の友よ……」

 

 

誰がいつから心の友になった。いや、立場を差し引けば色々と言葉を酌み交わしてみたいと思うのは間違いない。

 

 

「はぁ……そろそろ気を引き締めるとしよう。アセビト」

 

「ッ」

 

 

ベルディア殿が立ち上がり、最初のように威厳を示してきた。私も真面目にやるか。

 

 

「何故この城へやってきた。アクセルの街といえば駆け出し冒険者の巣窟、物見遊山ならば……この場で切り捨てるのも悪くはない。大変遺憾だがな」

 

「……私を見て、本当にそう言えるかね。ベルディア殿」

 

「なにっ!?アセビト……貴様、実力を隠していたとでも……」

 

「別に隠していないが、実力を察そうともせず愚痴ばかりこぼしていたのは貴公だろう」

 

「今めっちゃシリアスな場面なんだから少しは考えろよ!?」

 

 

ベルディア殿の鋭い……ツッコミ、ツッコミと言うんだったな。ツッコミが入った。カズマ殿と馬が合いそうだな。

 

私はベルディア殿との会話をしながら、先ほど外していた武器を改めて装備し直す。ベルディア殿の得物はどうやら私の『グレートソード』のような大剣……どうせなら本物の騎士から剣術を教わるのも悪くないということで私も『グレートソード』を右手に抱えている。

 

 

「んんっ!!ほう……生前はとある大国で騎士団長として名を馳せていたこの俺に対して同じ大剣で挑むとは笑止千万!!」

 

「貴公の剣……とくと学ばさせていただく」

 

 

私とベルディア殿はお互いに片手で剣を構えて向かい合う。お互い隙を窺っているので一歩も動くことはない。ああ……久々だな、挑む側というのも。

 

 

「「…………」」

 

 

本当に、隙がない。エルデなら……挑む側であった私はとりあえず情報収拾とばかりに突撃していた。しかしこの勝負、そのような雑なものにしたくはない。

 

 

「埒があかんな。貴様が来ないのであれば俺から行かせてもらおう!!」

 

「ッ!!」

 

 

ベルディア殿が踏み込んできた。思ったより早い、騎士としての実力はやはり想定いzy

 

 

『エクスプロージョンッ!!!!』

 

「「は?」」

 

 

刹那、轟音と共にどこかで経験したかのような衝撃が身を包む。

 

 

「と、友よーーー!?!?」

 

「ぬぅぅぅおおおおおおお!?!?!?」

 

 

ああ……あれだ。今日はまだこの城に撃ち込んでいなかったのだな、めぐみん殿。

 

前回の経験から、かろうじて生き残ることができるのは分かっていた。そのまま吹き飛んだ天井から身を投げ出した私は……多分、首を打った。

 

 

「ど、どこにいやがるクソ魔法使いがァァァァァァァァ!!!!俺の、こ、心の友になんてことをォォォォォォ!!!!あま、ぁまつさえ、神聖な決闘を汚しよってぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

いやまてベルディア殿。出来れば……ああ、落ち着いてほしい。

 

全面的に同情するが……いや、別にもういいか。どうぞご自由に、あの小娘……フルボッコにしてやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、褪せ人……死にました?」

 

「ミラか……ああ、今ちょうど祝福に帰ってきた。庭に出てきているなんて珍しいな」

 

「貴方が知らないだけでそこそこ休憩してるんですよ……ええ(決して、祝福を調べたくて色々してたわけではありません)」

 

「それとだな……近々、面倒ごとになるかもしれん」

 

「……え?」




『魔王軍のグレートソード』

ベルディアが魔王より授かった大剣
特殊な能力は無いが最高硬度の金属が使われている

幹部として、騎士として己が誇りを魔王様に捧げます

あわよくば、美女のパンツをこの目で拝めますように


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14話

『首無し騎士ルーテル』って死のエンチャント使えてベルディアと似てね?って思ったけど夜騎兵の頭をもいだ方が似てました。

どうでもいいけど伝説の遺灰って6人中ルーテル、ティシー、フィンレイの3人が女性なのすごいですね。


 

 

 

 

 

「どうですか?」

 

「……美味い、確かに美味い。しかし……何をしているんだ?」

 

 

ベルディア殿との決闘中に爆殺(死因:落下死)されてから2日後、最後に見た彼の表情は怒り心頭とでもいうようですぐにこの街に攻め込んでくるものだと思っていた。友情に熱い男だったが彼は騎士だ、何よりその主君の命令を重視しているのだろう。そういう意味ではやはりベルディア殿は尊敬に値する。

 

……決して、ミラとウィズ殿に聞いたあの下着覗きの件を思い出しているわけではない。

 

そして私は今ミラに料理を振る舞われている。

 

 

「何って、料理に決まっているではありませんか。これでも一時期、定食屋の看板娘をしてたんですよ?」

 

「本当に何をしているんだ……」

 

「暇つぶしですよ。店主の寿命で廃業しましたが……まあ、これも休憩です。48時間以上の作業は効率を悪くさせますから」

 

「……数日前は3日以上続けていなかったか?」

 

「興が乗ったら別腹です」

 

 

そんな話をしながらも私は手を止めない。『はんばーぐ』という料理らしい、話を聞く限り以前この世界にやってきた勇者が伝えた料理らしいがおそらくニホンジンだろう。

 

 

「そういえば今日は街が騒がしいですね」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、冒険者は全員集合との連絡がはいっていましたよ」

 

「……は?」

 

「ああ、この家は街の中でも郊外にありますし気づかないのも無理はないですよ。ミラは竜なので人よりも五感が優れているので聞こえました」

 

「早く言ってくれ!!すぐ行かねば」

 

 

こういう部分があるから長命種には苦労させられる。私は急いで食事を終えて装備を纏う。それにしても全くもって放送に気づかなかった、最近……私は気が緩んでいるらしい。

 

 

「ミラも行くべきですかね」

 

「行かない方がいい。おそらくベルディア殿が来ているだろうからな」

 

「……ベルディア殿()?ああ、あのデュラハンですか。何故です?」

 

 

ミラが疑わしげな視線を送ってきた。

 

 

「最近、近くの廃城に魔王軍幹部が住み着いているという情報があってな。興味本位で突撃したんだが……気に入られた」

 

「魔王軍関係者に好かれる体質でもあるんですか?ミラ、ウィズ、ベルディア……コンプリートでも目指してるんですか?」

 

「そんなわけないだろう。ベルディア殿と殺し合いになる直前に爆裂魔法が飛んできてな……2人まとめて吹っ飛ばされた」

 

「先日、祝福で帰ってきたのはそういうことですか……ええ、分かりました。大人しくしておきます」

 

 

ミラの了承が得られたので私は1人で正門近くの祝福へと飛ぶ。冒険者達が集められていると言っても彼らは所詮弱者、戦いになるはずがないのだ。

 

 

「すまない遅れた!!一体どういうじょうきょ……う……だ?」

 

「汝に死の宣告を!!貴様は1週間後に死ぬだろう!!」

 

 

案の定ベルディア殿が居たが様子がおかしい。何かしらの能力を使用しているのは見てわかるが、言葉を聞く限り死の呪いかそれに準ずるもの。そしてその標的は……めぐみん殿だ。

 

それはいくらなんでも違うだろう、ベルディア殿。

 

 

「な、ダクネス!?」

 

「いや、私に任せておけ」

 

 

間一髪、ダクネス殿がめぐみんを庇って呪いを受けようとしている。

 

しかし私の方が早い。さらにその正面に私が着地し彼女達を庇う。

 

 

「ぐぅっ!?………む?」

 

「褪せ人さん!?」

 

「……生きていたのか心の友よ!!流石だ、俺が見込んだ男なだけはあるようだな!!」

 

 

後ろで冒険者達が声を上げているが、あまり聞き取れない。

 

そんなことよりも、呪いを受けたはずだが体にはなんの異常も感じられない。一瞬衝撃を感じたがそれだけだ。ならば問題ないだろう。

 

 

「ベルディア殿、本日は何用かね」

 

「俺達の決闘を邪魔したそこの紅魔族の始末に決まっているだろう。貴様が生きていて安心したさ……やり直せるからな」

 

「……そうか、ではお帰りいただこう」

 

「つれないこと言ってくれるな……アセビト、そこの紅魔族に変わって貴様が受けたのは死の宣告!!解呪出来るとは思うなよ?期限は1週間……それまでに我が城へ来るといい!!今度こそ死合おうではないか!!そして俺が勝利した暁には……貴様を俺の右腕、新たなデュラハンとして蘇らせる」

 

「そうか。丁重にお断りさせていただこう」

 

 

なんだ、エインセルのカエルどもよりはマシだな。違うところは、一定量で死に至るか、日数程度の期限で死に至るか……余裕だな。どうせ生き返る。

 

 

「話は済んだな。ではさらばだ」

 

「何を言って……ッ!?!?」

 

 

そして私は、自らの胴体に『ダガー』を突き刺した。ふっ……貴公は騎士であるのに、表情がコロコロ変わって面白いな。

 

『切腹』だ。バフ用なのだがな。

 

 

【YOU DIED】

 

 

……

………

…………

 

 

「さてと……祈祷と魔術の準備をするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ視点

 

 

 

あ……ありのまま今起こったことを話すぜ……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も褪せ人さんの行動は分からなかった。いや、分かりたくなかった。

 

ごめんなさい、ふざけました。

 

 

「ちょ、ちょっとカズマさん!!褪せ人死んじゃったわよ、いくら自前で生き返れるとはいえこんな大勢の前で……大丈夫なの!?」

 

「大丈夫なわけないだろ!?ただでさえめぐみんとダクネスは知らないってのに!!……ん、待てよ?」

 

 

その時、俺に稲妻が走った。褪せ人さんは実質不死身とは言え【死ぬ】ことができる。でも死ぬ時は血痕は残るけど死体は煙に消えてしまう。理屈はさっぱりだが死体が残らないのであればまだフォローはできる!!

 

 

「な、なぁ……!!アセビト、豪胆な人間だと思っていたが……まさか魔王軍の手駒になる前に自ら命を絶ったというのか!!なんたる騎士道精神……!!」

 

 

元凶の魔王軍幹部は何故か感動してるし、なんでアイツ褪せ人さんの評価あんなに高いんだろ?

 

 

「そんなっ、アセビト!!私とダクネスを庇って、しかも自殺なんて……!!」

 

「クルセイダーである私を差し置いて、なんという被虐精神!!私も見習わなければ、彼に報いることすら……!!」

 

 

ダクネスゥ……それは騎士として、なんだよな?決して、率先して呪いを受けたかったとかそんなオチじゃないよな?いくら褪せ人さんが復活できるとは言えそれは流石にあんまりだと思うぞ?

 

めぐみんは目の前で知人が死ぬのを見るのが初めてなのか膝をついて震えてしまって動けそうにない、ダクネスも拳を震わせて地面を叩いている。俺ら以外の冒険者達も、涙を流しながら褪せ人さんの死を悼んでいる。

 

いや、でも……そのうち褪せ人さん、ここに来るだろうしほっといてよくね?わざわざ最弱職の冒険者な俺が出張っていくような場面でもないし今なら感動に打ち震えてるベルディアって奴もそのまま帰ってくんねぇかな?

 

アクア?使えるわけないだろ、何言ってんだ。

 

 

「…………アセビトは素晴らしい人間だった。それに免じてこの場は引いてやろう」

 

「「「「「「ッ!!」」」」」」

 

 

やった、第一部完!!不死身の褪せ人さんを知らないなアイツ!!

 

 

「だが……汝に死の宣告を!!貴様は1週間後、自ら命を断つだろう!!」

 

「う、うわぁぁぁぁ!!………ん?何も変わっていないようだが?」

 

「テメェ、言ってることが違うじゃねえか!!」

 

「アセビトの献身、その原因である貴様にはアセビトと同じく自殺の権利をくれてやる……まあ射線にいたそこのクルセイダーの娘に命中したようだがな。では失礼する!!」

 

 

勝手なことを言って、ベルディアは走り去っていった。クソッ……なんてことしてくれてるんだ……てか、そんなあっさり帰っちゃったら俺が考えた作戦台無しだろ!!

 

何はともあれ、街の危機は去ったんだよな。残る問題は……

 

 

「私、ちょっと城に行ってあのデュラハンに爆裂魔法ぶち込んできます。今回の責任は全て私にありますから」

 

「待て、私も行こう。奴なら呪いを解く方法を知っているはずだ……共にアセビトの敵討だ!!」

 

「馬鹿野郎俺らも混ぜろよ!!」

 

「アセビトに世話になったのはお前らだけじゃねぇ!!」

 

 

あっれぇぇぇ、いつのまにかすんごい空気感になってるぅ………

 

あとはやけにやる気になってるバカどもを抑えればオッケーだったはずなのに、アクアの言う通り人目のつくとこで死んでくれるなよ……!!正直俺も怖かったし!!

 

 

「待て!!」

 

 

やっべ、思わず声出しちゃった。あーもうほら、皆俺のこと見てんじゃん!!

 

 

「褪せ人さんは死んじゃいねぇよ」

 

「「「「「「なんだって……!!」」」」」」

 

 

よしやっぱバカばっかだ。褪せ人さんの人の良さもあるけどこいつらバカで助かった!!

 

 

「よく考えてみろ、人が死んだら普通死体が残る。だけど褪せ人さんは煙になって消えてっただろ?分身かなんか飛ばしてたんじゃねえか?あのデュラハン、知り合いらしいし様子を見て対応を決めようとしてたんだろうよ」

 

「「「「「「!!!!」」」」」」

 

「そんなに疑うような目をすんなって。あの人マジで強いんだから」

 

「私の話か?」

 

「「「「「「本当にでたぁぁぁ!?!?!?」」」」」」

 

 

俺が皆になんとか突撃を止めるように説得していると、背後から1番頼りになる声が聞こえてきた。褪せ人さんだ。全くの無傷で、大剣を鎧ごと突き刺したとは思えないような元気っぷり……うん、改めて考えてもやべぇ。流石のアクアでも苦笑いしてる。

 

 

「ショッキングな場面を見せてすまない。実は私はいk「さっすが褪せ人さん、分身まで出来るなんてすごいなぁ!!」……分身?」

 

 

褪せ人さんは、実力、知性、性格全てが完璧だ。しかし、何個か欠点もある。度を超えた収集癖と天然が特にそうだと思う。今回はその天然を発揮させずになんとか話を合わせてくれ!!

 

 

「デュラハンの様子を見るためにわざと本体で行かなかったんだよなぁ。いやぁ、俺たちも騙されてたぜ!!敵を騙すにはまず味方からなんてよくやるなぁ」ウンウン

 

「ふむ…………?」

 

 

全然わかってくれてねー!?なんとか、なんとか……伝わってぇ!!

 

 

「…………なるほど。カズマ殿の言う通りだ、あの血飛沫はなかなかうまく再現できただろう?」

 

「「「「「「うぉおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

 

褪せ人さんの言葉に自分達まで騙されていたと気づいた冒険者達が沸いた。まあ今この瞬間も騙されているのだけども……

 

あ、あっぶねぇ……

 

その後褪せ人さんが死んでからの一連の流れを説明すると、いつも通り「ふむ……」と呟いて語り始めた。

 

 

「私は分身が呪いを肩代わりしたので問題ない。説明通りならば私が呪いを解いたことにベルディア殿は気づいていなかったようだ。ならばプリーストに解呪して貰えばいいのではないか?」

 

「ああ、それなんだけど……」

 

「無理です!!デュラハンなんて高位のモンスターの呪い……」

 

 

この街は駆け出しから中堅どころの冒険者しかいない。まあ一部例外は居るが魔王軍幹部とは文字通りレベルが違うんだよなぁ……仕方ない。

 

 

「アクアー」

 

「はいはーい、『セイクリッドブレイクスペル』!!!!」

 

 

例外とは、アクアのことだ。レベル最大のアークプリーストで知力以外大体のステータスをカンストしている本物の女神様ならアンデッドの呪い程度造作もないはずだ……本当にできると思ってなかったけど。

 

まっ、何はともあれダクネスも褪せ人さんもこれでなんの憂いなく生活できるってものよ。はー、さっさと帰って酒飲も。

 

 

「カズマ殿……貴公、なかなかやるな」

 

「ん?なんか言ったか褪せ人さん」

 

「……いや、気にしないでくれ」

 

 

ちなみに言うと俺は鈍感系主人公ではない。よってばっちりと褪せ人さんの褒め言葉が聞こえている。ふふふ……ようやく褪せ人さんも俺の凄さが分かったらしいな……俺の凄さってなんだろ。はぁ……褪せ人さんじゃ比較対象が悪いのは分かってるんだけどな。




『死の宣告』

高位アンデッドであるデュラハンが用いる死の秘術

死の刻印を植え付け
宣言した期限の後
対象を死に至らせる

死して尚騎士の誇りは忘れていない
首無し騎士にとって秘術は最後の手段であり
誇りだけでは成せぬのなら躊躇なく
己が力を振るうだろう

『余談だがベルディアはこの世界ではまともな感性をしている方である。騎士だから』


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15話

 

 

明確な敵に対して、時間と猶予がある時に必ず行うべき行為。

 

『準備』である。

 

 

ベルディア殿がアクセルにやってきてから3日後、魔王軍幹部の被害は優秀なプリースト(アクア殿)と見事な幻術使い(私のことらしい)によって0という判断がギルドより下された。それによって以前と変わりない日々が続いていたのだが……私にとってはただの戦前に等しい。

 

 

「やはり聖属性を基本にすべきか」

 

「まあアンデッドですしそうでは?狭間の地だと黄金樹が世界の中心でしたし馴染みがないですね。死に生きる者達もコソコソしてましたし」

 

「まともな戦闘なんぞ何回目ぶりだろうな。全力戦闘とはどういったものだったのかすら覚えていない」

 

 

『死の宣告』の指定された期限は1週間後、ならばその日までに冒険者側からの音沙汰がなければ情が深いベルディア殿は確実にアクセルにやってくるだろう。本当はそれまでに討伐するのが望ましいのだが、念には念を入れている。

 

めぐみん殿に城への爆裂を継続するように頼んだのだ。

 

私やダクネスが『死の宣告』を受けたことで自分のせいで仲間が危険な目に遭ったと認識していた彼女からはあまり色良い返事が貰えなかったが、私の実力と、私が命令した、と公言してもいいと言う条件で引き受けてもらった。これによってベルディア殿は憤怒しているに違いない。城の中心部に打ち込んでもらうようにしているため、なんなら地下に収容したと言っていた従僕のアンデッドを減らせるかもしれない。

 

 

「腐敗が使えれば楽なのだがな……」

 

「女神と変な契約するからです。ミラならすぐ使いますね」

 

「余所者が不用意に世界を荒らすわけにはいかないだろう?マレニアがいないから朱い花が咲くことはないがケイリッドの二の舞は御免だな」

 

「ええ、流石にミラもそれは嫌です。あの犬と鴉嫌いなんですよ」

 

 

分かる。俺も奴らはできるだけ相手にしたくない。『獣除けの松明』があれば近寄ってこないが、こちらを伺うように周りを彷徨かれるのも緊張感があって好きではない。

 

誰もいない時だけ竜餐の祈祷を使ってはいけないだろうか。要はこの世界に竜餐の信仰者を生み出さなければいいのだ。

 

 

「…………『聖律の剣』、一度も使用したことは無かったが悪くないな」

 

 

その効果は聖属性の付与。死を狩る者Dより購入したこの祈祷は死に生きる者に対して特に高い効果を発揮する。おそらくこの世界のアンデッドにも有効だろう。兼ねてから希望していたベルディア殿との立ち合い、グレートソードに付与するのも面白いかもしれん。

 

 

「Dがこの世界にいれば過労死していただろうな」

 

 

問題はベルディア殿がどのような動きをして来るのかが分からないことだ。馬に乗っていたのでツリーガード、夜騎兵、ローレッタ達のように立ち回る可能性もある。ないと思うが猟犬騎士のような俊敏な動きかもしれない。ローデイル騎士のような信仰騎士、はるか昔私がしていた脳筋の可能性もある。

 

最善は何もさせずこちらのペースを保ったまま殺し切る、何もわかっていない相手にはまず無理な話だが敵を冷静にさせなければ初見でもなんとかなる。全盛期レナラと気狂いレナラほど差があると言えばまあ分かるだろう。全く……ラニは母のことを好きすぎるだろう。

 

 

「ミラがチリも残さず焼き払ってもいいですよ?」

 

「人間の姿でできるのか……?」

 

「出来なくはないですけどわざわざやる程ではないですね。やる時は真面目にやります」

 

「却下だ」

 

 

竜に戻ると言っているのと同義だ。古竜ミラサクス全力の雷か、あの古竜達の長姉なら一体どれほどの影響がでるのやら。本当にエルデで相手をしなくて助かった。

 

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「私が楽しくないだろう?」

 

「……そういうところですよ褪せ人。いえ、『褪せ人』故になんでしょうけど」

 

 

ため息をついたミラが部屋から出ていった。ふむ……呆れられたと言ったところか。

 

 

「こんなものでいいだろう」

 

 

火、雷、氷、魔力、聖と色々用意している。この世界特有の属性が弱点の場合は知らん、筋肉にものを言わせればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、私にあんなに楽しくない爆裂魔法を撃たせ続けた甲斐はあったのですか」

 

「ああ、あったとも」

 

 

さらに4日が経過し、『死の宣告』が発動しているはずの時間だ。私とカズマパーティーの面々は早々に正門前へと集まりベルディア殿の襲来を待っている。もちろんギルドにも連絡済みで門の内側には臨戦状態の冒険者達がひしめいている。もちろん戦力外だが。

 

 

「あのー……俺、ここに要るんすかね」

 

「何を言っているカズマ。お前はこのパーティーのリーダーだぞ?」

 

「でっっっすよねぇーーーーー」

 

 

カズマ殿の呟きはもはや呪詛の域に達している気がしなくもないがきっと気のせいだろう。

 

 

「そもそも、めぐみん殿を毎日連れ帰っていたのは貴公だろう?最初から共犯者だ」

 

「謀ったな!?謀ったなぁァァァァァァァァ!!!!」

 

「うるさいわよカズマ」「うるさいですカズマ」「うるさいぞカズマ」

 

「謀略は貴公の方が得意だと思うが……」

 

 

情緒の上下が激しすぎる。見ていて飽きないとはこういう事を言うのだろうな。ミラ?興味がないと言ってギルドで酒でも飲んでいるだろう。

 

会話で場の空気が和んだところに、馬の足音が聞こえてきた。どうやら来たらしい。

 

 

「なっ……何故貴様らが生きている!!」

 

 

大きく目を見開いて驚くベルディア殿。後ろには配下のアンデッドが前回以上にひしめいている。

 

 

「『死の宣告』はアークプリーストが解呪した」

 

「この街にそんな実力の者がいたのか……魔王様が調査せよと言ったのはソイツだな?いや、貴様はどうして生きているアセビトよ」

 

「私は生き返ることが出来るのだよ」

 

「なにっ?」

 

「「え!?」」

 

 

事情を知らないめぐみん殿とダクネス殿が私を見て驚いている。残りの2人は初対面の時に事情を話しているからしてやったりと言わんばかりににやけている。

 

 

「死ねば全ての状態異常を解除した上で体力、精神力共に回復した状態でとある地点から復活できる。と、言えば?」

 

「バカな事を言うんじゃない!!この世界の法則を完全に無視しているだろうが!?」

 

「信じなくて結構。何よりも今私がこうして立っていることが何よりの証明だろう」

 

 

ふむ、なかなか的を射ているなベルディア殿。言うなればエルデ式、私は未だエルデのルールに縛られていると言っていいだろう。だが他の褪せ人は死んだらそれきり、祝福で復活でいるのは私ただ1人。ならばそれは私固有の技能であり私のルールに過ぎない。

 

 

「騎士と騎士が向かい合ったのならば、やることは一つ」

 

「ふっ……ああ、その通りだ」

 

「皆は手を出さないでくれ」

 

 

戦闘へと意識を向けた覇気に少し威圧されたカズマパーティの面々は私の言葉に素直に従い下がる。同時にベルディアも配下を後方に下がらせた。

 

私は『グレートソード』を右手に、『黄金樹の聖印』を左手に装備している。

 

 

「魔王軍幹部が1人、デュラハンのベルディア!!」

 

「エルデの王、褪せ人」

 

「いざ尋常に!!」「『巨人の火をくらえ』」

 

 

不意打ち

 

私が数多くのボスと戦う時に用いた手段である。背後から致命の一撃、超遠距離からの狙撃、姿を隠しての全力攻撃(R2最大タメ)……それら全てが敵に対して通常よりも高いダメージを与えてくれる。

 

 

「ぬぉ!?……やってくれたなアセビト!!」

 

「火はそこそこと言ったところか『雷の槍』」

 

 

【魔王軍幹部ベルディア】

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 

 

ああ、やはり貴公は()()()()()()なのか。ならば度しやすい……生命力が減るということは、いつか倒れるということ。

 

攻撃が通るのならそれは殺せるのと同義。

 

 

「『氷の雷槍』『光輪』」

 

 

私の祈祷による攻撃を見たことがないベルディア殿は避けるか躱わすかのどちらかで対応している。一応追尾する筈なのだが、さすが魔王軍幹部というわけか。

 

 

「面妖な攻撃を使いおってっ!!そっちがその気ならこちらも使えるものは使おうじゃないか!!シモベ達よ、アセビトを殺せ!!」

 

『『『ヴァァ………ァァ、…………ァ?アァァァァァァァァ!!!!』』』

 

「えっ」「む?」

 

 

雑魚を寄越そうとしたが、アンデッド達が一度立ち止まり方向転換をした。行先は……アクア殿?

 

 

「ちょちょ、ちょっとまっってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!来ないでぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「うぉい何してんだアクアお前!?」

 

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「くっ、逃げるぞめぐみん!!い、いや私が殿として奴らに蹂躙さr…………逃げるぞ!!!!」

 

「は、はい!!」

 

 

流石のダクネス殿も、あの手勢には命の危機を覚えたらしい。めぐみん殿を抱えて一目散に逃げ始めた。いや、アクア殿を狙っているのだから逆方向に逃げればいいと思うのだが……

 

 

「「…………」」

 

 

謎の間が生まれる。早速作戦が頓挫したベルディア殿と入れ直した気合いが無駄になってしまった私、地獄か?

 

 

「いつもだ。アイツらがいるとどうしてこんなに計画が狂うんだよォ!!!!」

 

「……心中お察しする」

 

 

気持ちはわからなくもない。ことあるごとに問題を抱えてくる彼らの前では魔王軍幹部も流石に形無しらしい。

 

 

「貴様を葬ってから、ゆっくりと嬲り殺しにしてやる」

 

「ほう、ようやくやる気になってくれたかね。『聖律の剣』!!」

 

「貴様、聖職者だったのか!?」

 

「いいや、多芸なだけだ。それにこれらの技も全て他の誰かから受け継いだ紛い物に過ぎない。私が自ら生み出したものなんぞ……ああ、そうだ。【終焉のルーン】だけ、だな」

 

「何を言っている……?」

 

 

今考えると、エルデの王とはよく言ったものだ。そこに合意があったとしても、他者から買ったり受け取った技で他者を殺し続けた結果がこれか。まさにエルデ中の技を統べる王……反吐が出る。

 

 

「行くぞ」

 

 

小手調べは終わった。露骨に嫌がったのは聖属性のみなので『聖律の剣』を『グレートソード』に付与しベルディア殿に肉薄する。

 

 

「『巨人狩り』」

 

「効かぬわぁ!!」

 

 

下段に構えて剣を突き上げようとしたはずが、ベルディア殿は器用に剣を合わせてそれを防いでくる。

 

『パリィ』?いや違う、これは単なる技術!!素晴らしい、エルデではそんなことされなかった!!

 

 

「ならばっ」

 

「遅い!!」

 

 

そのまま次の攻撃に移ったが、全て避けられ剣で弾かれた。まさかここまで通じないとは……

 

 

「アセビト、貴様の剣は軽い!!その脅威的な身体能力を持ちながらも技術もへったくれもない雑な太刀筋、そのくせ覇気はこの俺に勝る物だ。貴様は……どうしてそんなにチグハグなのだ!?」

 

「チグハグ……私が?」

 

 

今まで他者から向けられた言葉とはまた違う。

 

 

「正直に言ってやる。俺は貴様に勝てる気がしなかった。()()()()()()なら間違いなく負けていたと言える……だが今は別だ。剣術ならそこら辺の兵士の方がマシだ。恐るべきはその術のみ」

 

「……」

 

 

真っ向から否定されるのはいつぶりだろうか。これはこれで自らを省みるいい機会だがある意味特大剣は向いてないと言われている気がする。ならば仕方がない。

 

そして武器を変えようとして気付いた。ベルディア殿に近接武器が通用する気がしない。むしろ魔術と祈祷を織り交ぜなければ勝てないのではないかとまで考えてしまった。

 

 

「なぜだアセビト、貴様は剣術を習得していないのか?」

 

「ッッ!!!!」

 

 

ああ、その通りだ。私は剣術など知らない。今までの私はステータスを上げ、武器を強化することで敵を打ち倒してきた。技術といえば敵の攻撃を受けないためにその動きを見極めることのみ。己の鍛錬など、したことがなかった。

 

 

「図星だな。貴様がいたエルデとやらはよほど大雑把な土地らしい。はっ、ならば……そこら辺の魔物を狩るのとそう変わらん」

 

 

それからの私はさんざんといえる結果であった。すべての攻撃を見切られ、まともにダメージを与えたのは範囲攻撃の祈祷を使ったと同時に肉薄し切り付けた一度のみ。

 

 

「ははっ、私が魔物扱いか。いい、いいなベルディア殿。今までは私が挑戦者だったが、今日ここでは私がボス側の気分だよ」

 

 

私は武器を変更し、グレートソードからエオヒドの宝剣を取り出しすぐに戦技を放つ。

 

 

「『エオヒドの剣舞』を受けるといい」

 

 

私の精神力を剣の気に変換、体をひねり投擲すれば剣は螺旋を描きながらベルディア殿に向かって突き進む。

 

 

「得物を投げるのは感心しないな?それにこの程度の……!!」

 

 

確かにただの剣戟では効かないかもしれない。しかしこれは戦技、武器に込められた真の力を開放するために私の精神力を消費しているのだ。だからこの攻撃は痛いぞ?

 

 

「ぐぅ!?ぬぉぉぉぉ!!!!!なんのっ、これしきぃ!!!!!!」

 

「…………ほう。やってくれるな、ベルディア殿」

 

 

まさか受け流されるとは。

 

 

ああ、久しぶりに楽しい殺し合いになりそうだ。



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