僕自身がスケベになればいいのでは? (PhaseShift)
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001





峰田の個性、もぎ取って投げるだけじゃ勿体なくね?と思った結果生まれた。






 

 

 

 

 

 うん。決意した。

 憑依した直後に見せられた漫画のコマの数々。「ここは漫画の世界なんだろうけど、僕はあんなスケベキャラになりたくない。僕自身がスケベになる!」と努力した。

 "ヒロアカ"は全く読んだことないからよくわからんけど、トレーニングしただけ成長できる世界だと思ったので色んな技術を身に付けた。しっかり修行した結果、そこそこ戦えるレベルに仕上がったと感じている。

 そう、僕の中3までの人生は"勉強"と"鍛錬"漬けだったと言っていい。そして自分の力を十全に生かせる職、ヒーローを志したのは自然な事では?

 少し今までを振り返ってみるが、特に違和感はない。

 

 

 

「そういえばアイマスにこんな子居たね?」

 

 

 

 取調室のマジックミラーで、自分の顔をまじまじと見るまでは。

 

 

 

 なんだこれ、ウケる。

 え? アイマスの忍者アイドル、こんな感じだよな?

 思わず頬に触れる。頬は自分の個性のようにモチモチすべすべだ。確かにきっちり三食食べるようにしたし、お風呂入る時はしっかり洗顔してるし、きっちり22時には寝て6時に起きてたけどここまで変わるか。個性社会の肉体、凄いぞ。

 

「……話を続けていいかな」

「嫌です」

「それはなぜ?」

「さっきから同じ話を5回もしてるからです」

 

 まだマジックミラーで自分を愛でてた方が建設的だ。

 だが目の前に居る刑事さんはそんな事お構い無い様子。

 

「君こと峰田実は朝7時頃、静岡駅近くの喫茶店に居た。間違いないな?」

 

 ま~た始まったよ。

 僕は取調室の机にべちゃりと頬をくっつけた。

 モチモチしすぎた頬とこいつを殴り殺したいと思う頭を少しでも冷やしたかったからだ。

 

「ありません」

 

 あそこのお茶もお団子も美味しかったなあ。

 また行きたいなあ。

 

「君は駅前で大きな爆発音を耳にし、個性を使って移動した。間違いは?」

「だから個性使ってないって」

「じゃあなぜ300mも離れた場所に10秒足らずで現れているんだ!」

「フツーに走ったの!」

「また性懲りもなく嘘を……」

 

 嘘じゃないもん!!

 スパイダーマンでも言ってたぞ!

 スーツが無いと何も出来ないヤツはスーツを着る価値なんてないって!

 だから鍛えてるんだよ個性無しでも戦えるように!

 

「……じゃあもしそれが本当だとしてだ。君はヴィランと交戦したな?」

「しました」

「理由は」

「最初は逃げ遅れた人を助けたりして邪魔にならないように動きました。でもよくわからんヒーローが纏めてやられた後、誰も来なかった。シンプルに死人が増えると思ったので仕方なく戦いました」

「個性も使わずに?」

「使わずに」

 

 ……。

 

「監視カメラとか残ってないんですか?」

「残っていない。君も知っているだろうが、電気系の個性だったからな」

 

 軒並み壊れて映像残ってないのかー。

 

「僕が個性使ったら絶対に痕跡残ると思うんですけど」

「現在調査中だ」

「僕の個性で出る威力じゃないと思うんですけど」

「それを判断するのは君ではない」

 

 これ詰んでません?

 解放されるまで時間かかるかなぁ。

 

「個性の使用は罪だ。雄英高校だからといって見逃されると思うなよ」

「だから使ってませんって」

 

 入学式サボりの上に大遅刻かー。

 僕の席残ってるといいなぁ。

 

「余裕だな」

「えー? いやまあ、僕の個性は使った痕跡がしばらく残るはずなんで心配してないです」

 

 なんだか刑事さんが騒いでるけど、ここはエネルギー温存だ。

 頬を机に付けたまま目を閉じた。

 

 

 


 

 

 

 体感3時間は寝てたかな。

 突然起こされて警察署の駐車場に叩き出された。

 

「悪いわね、待たせちゃって」

 

 デッッッッッッッッッッ!?

 

 そこで待っていたのは暴力的な性の塊だった。

 凄い、本物だ。目の前にあの18禁ヒーローミッドナイトが居る……。

 雄英で教師やってるって本当だったんだな。

 

「初めまして。雄英高校の教師、ミッドナイトよ」

「峰田実です……よろしくお願いします」

 

 差し出されたリュックを受け取ると、ミッドナイト先生は蠱惑的に笑う。

 

「どこ見てるのかしら?」

 

 はっ……はぁ~~~~~!? そのクソエロコスチュームで自己主張された張りのあるクソデカおっぱいなんて見てませんけど!? 見てませんけど!?

 

「ふふ。とりあえず乗って。話は車の中で」

「はっ……はい」

 

 ……。

 

「今何時ですか?」

「15時くらいね。ご飯は食べたって聞いたけど、お腹空いた?」

「いえ、滅茶苦茶食べさせてもらったので大丈夫です」

 

 うわー。

 何回シコったかわからんヒーローが隣で車運転してる。

 事前に鞄返してもらってよかった。

 

「まあ、太っ腹ね。あなたに対するお詫びかしら。ちなみに何食べたの?」

「うな重です! 5杯おかわりしてやりました」

 

 釈放? される前に滅茶苦茶食べてやったぜ。

 流石静岡。うなぎがハチャメチャに美味しいね。

 

「うな重を?」

「はい!」

「5杯も?」

「……? はい!」

「あなた見かけに寄らず男の子ね……精が付いた事でしょう」

 

 ……。

 なんか車内がエマニュエルな雰囲気なんですけど。

 ちらりと横を見たらぺろりと唇を湿らせるミッドナイト先生と目が合ったので慌てて視線を逸らした。

 なんか……なんかこれ良くない気がする!!

 

「それだけ食べさせてもらったなら、警察の皆さんは許してあげなさい」

「え?」

「彼らは疑うことが仕事だし、今回はちょっと峰田君が特別過ぎたわね」

 

 ……。

 

「貴方の個性もぎもぎの粘着球、及び()()()()()()()()()()糸とか手裏剣を含めた物質は現場に行くまでのルートと現場で観測できなかった。これ、結構早い段階で警察もわかってたらしいわ」

 

 え? じゃあなんで?

 

「普通、何らかの理由で個性が使えなくなったヒーローはね、倒れた鉄柱を使ってヴィランを殴り倒さないのよ」

「……」

 

 そうだったのか……。

 

「結局それは峰田君の火事場の馬鹿力って事で処理された」

「なんか軽いですね」

「……それで、どうやったの? 先生凄く気になるんだけど」

 

 うーん。

 シンプルにクソデカ鉄柱の表面を()()()で覆って真上からぶん殴っただけだからなあ。覇気については言わない方が良い――……アッ。

 あの、ちょ、太ももをすりすりしないでもらっていいですか?

 

「き、気合です」

「気合?」

「いっいいいい意志の力です! 滅茶苦茶強めに覚悟とか決意したりクソデカ感情を抱えると滅茶苦茶パワー出るんですよね!」

 

 なのでそのすりすりもうちょっと続けてもらっていいですか?

 ……終わり?……そう……。

 

「意志の力……なるほど。ヴィランとは結構言い争いしたって聞いたけど」

「はい。あいつなんか無敵の人?っぽくて」

「ああー……」

 

 

 

 

『おいヴィラン! なんでこんな酷い事をするんだ!!』

『全部気に入らねーんだよッ!! ぶっ壊してやる!!』

『ガタガタうるせぇえええええええええええええ!!』

『ゲぴっ』

 

 

 

 

「理不尽!」

「いや、制服お釈迦にされたんで……」

 

 電気ビリビリ、殴る蹴る、吹っ飛ばしまで喰らったおかげで僕の服装は指定ジャージの上下である。倍率300倍を乗り越えて入った学校の制服だ。袖を通した時には少しうるっと来てしまったくらい。

 そんな夢の一歩の証がボロボロになったので結構メンタルに来ている。

 

「ミッドナイト……先生」

「なぁに?」

「僕は処分を受けますか?」

 

 車はすでに止まっている。

 

「どうしてそう思うの?」

「わからないんです。とりあえず個性を使わないで自分にできることをしました。最初に駆け付けたヒーローがやられてから、誰も来なかったからです。でもそれが、正しかったのか、ミスをしていたのか、取り調べ中は誰も教えてくれなかった」

 

 不安は一息で吐くに限る。

 すると先生はマスクを外し、僕の頬に手を当てた。

 

「峰田君、いい?」

「ひゃい」

「どうして貴方の体は動いたのかしら」

 

 え?

 

「喫茶店でリラックスしてる途中、駅で爆発音がした。喫茶店の監視カメラに映ったあなたはすぐ駆け出して……横転したバスの乗客の避難を手伝った。後ろで戦っているヒーローを信じて」

「……」

「でも彼らはヴィランに一歩及ばず、更に被害が拡大する。乗用車を簡単に投げたり、ヒーローをクレーターに埋めたりするようなヴィランが暴れまわる」

 

 そうだ。

 あいつが勝利のドラミングをした後、まだ人が乗ってる車に手を掛けた。

 

「貴方は次に、どうしたの?」

「走りました」

「走って、その次は?」

「……無我夢中で、飛び蹴りしました」

 

 僕とあいつの戦いが始まった。

 

「そうね。何かを考える前に体が動いた」

 

 ……。

 

「それはきっと、ヒーローになるための第一歩」

「!」

「大丈夫。貴方はきっと、いいヒーローになるわ」

 

 正直な話。

 ヒーローになりたい理由は自分の力を一番活かせるし、あわよくばヒーローファンの性癖を捻じ曲げてスケベヒーローの頂点に立てるかもと思ったからだ。

 

「雄英は貴方のようなヒーローの卵を歓迎する!」

 

 雄英高校の駐車場からは、聳え立つ校舎がよく見える。

 両手を広げるミッドナイト先生もまた。

 

 ああ、今ばっかりはなんだか、僕もヒーローになってもいいんだなと安心できた気がする。

 やはり先人は偉大だ。僕も先生の様に……。

 

 

 

 

「ね。ハンドルネーム、スケベ忍者くん?」

 

 

 

 

 ヒエッ。

 

 

 








2023/02/27 8話の記述と矛盾する部分を修正




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002



執筆中小説の関連付け機能と次話投稿の機能使ってみたけど便利~。




 

 

 

 

 自分のSNSのアカウントが把握されてるとかいう今日一怖かった出来事から少し後。担任の相澤先生と面通しをして―― こいつ今の二年生を1クラス全員除籍にしたとかいうやべー教師だったけど、今回の僕はお咎め無しのようだった ――学校の案内を簡単にしてもらい、教室に戻る途中である。

 

 そこで気付いたことがあるんだけど、相澤先生は質問したらちゃんと噛み砕いた答えと一緒に答えてくれるいい先生だ。見た目で滅茶苦茶損してるなと思う。

 

「あの……先生」

「なんだ」

「今日って1-Aは何したんですか?」

「午前中は個性使った体力テスト。午後は教職員紹介、学校案内、自己紹介だな」

 

 うーん。名簿見とけば大丈夫かな?

 プリントあると助かるんだけど……。

 

「机にレジュメ置いてあるから見とけ。見とけば最低限わかる」

「わかりました」

「……」

 

 うおっ。急に立ち止まらないでほしい。

 

「大丈夫なんだな?」

 

 こちらを振り向いた相澤先生は陰気な前髪の奥からただそれだけ問いかけてきた。

 一瞬、大丈夫って何が?と思ったけどすぐに思い至る。

 

「うーん、僕の不安って雄英退学になるかもっていう一心だけだったので、ヴィランと戦ったとかうんたらかんたらは心配してないです! 元気いっぱい!」

「……一般人の事は考えなかったのか?」

 

 いっぱんじん?

 

「"ミスをしたかもしれない"とか考えてないのか?」

 

 ミス?

 あー、うーん。

 

「これはミッドナイト先生の車の中でも思ってたんですけど」

「ああ」

「僕が本当に取り返しのつかないミスしてたらここに居ないと思います」

 

 思い返す。

 

「自信を持って言えます。僕はあの時、確かに人を救えました」

 

 改善点は色々あるかもしれませんけど……。

 あと多分、もう一度同じ事やれって言われてもちょっと無理かもです。ヴィランが気絶してくれたのは当たり所が良かったからなので。あと運の要素もあります。

 

「難しい問題だよ。個性が使えない。使わないと人が死ぬって場面」

 

 まあ実際僕も直前まで悩んでたけど、考える前に体が動いたし。

 

「お前は考える前にそれが出来ちまう。だから危うい」

「危うい?」

「ミッドナイトがなんて言ったかは知らん。だがお前がやったのは"レースゲームをやりこんでたから、無免だけど重病人が数人乗った救急車で市街地を爆走した"ようなもんだ」

 

 ……。

 あー。

 まあ、確かに。

 

「結果的に助かったから良かった。賞賛もされてる。だが一歩間違えばお前も一般人市民も破滅だぞ」

「はい」

「なまじ動けるから一番タチの悪いタイプとも言える」

 

 お、おおう。

 ナイフがグサグサと胸に突き刺さってるような感覚だ。

 しかも全部事実と来た。胸が痛い……。

 

「運が良かったな」

 

 そうかな? そうかも。

 何か一つ、不運が起きてたら皆破滅だった。

 今僕がここに居るのはやっぱり結果論……?

 

「だから学べ」

「え?」

「運が良かったなんて言われないように」

 

 おお……。

 

「はい!」

「……じゃあ、俺はここまで。何人か残ってるだろうから、少しは交流して行け。お前の席は一番奥の後ろから二番目だ」

「ありがとうございます! 相澤先生!」

 

 1-Aの教室前まで案内してくれた相澤先生は、ひらひらと手を振りながら去っていった。クールな人だ。一見すると気難しそうな感じだけど、ちゃんとやってる人にはちゃんと接してくれるタイプの先生と見た。

 ……それにしても。

 

「ドアデカすぎでしょ」

 

 背が高い子に配慮してるんかなぁ。

 そんな事を思いながらドアを開くと、たぶんクラスメイトが何名か。どうやら金髪くんの周りで盛り上がってるようなので、抜き足、差し足、無音超加速で自分の席まで向かう。

 僕ほどの陰の者になればこれくらいお手の物である。

 

「あぁぁぁあああ~~~ッッ!」

 

 うおっうるさっ。

 目を向ければ金髪君の周りで話してたピンク肌の子がこちらを指さしていた。

 

「いつの間に!?」

 

 バレちゃった。思わずひらひらと手を振ると、一斉に陽キャっぽい子たちがこちらにぞろぞろとやってきた。やめろ。眩しいだろ。

 

「そこに座ってるって事は峰田ちゃんでしょ! アタシ、芦戸三奈!」

「……私は葉隠透!」

「俺は上鳴な! よろしく!」

「よろしく。ウチは耳郎。お団子ヘア、いいね」

 

 眩しすぎて思わず目が潰れそうになるけど気合で我慢した。

 えーっと。

 中学で友達いなかったからわかんないや。

 

「峰田です。よろしく」

 

 プリントで思わず顔を隠してしまったけど許してほしい。

 

「……峰田ちゃん可愛い!」

「やー、お茶子ちゃんとかとはまた違ったキュートさだ」

「でもなんでジャージ?」

「そういえば制服着てないけどなんかあったん?」

 

 もしかして朝の騒動は知らない感じかな。

 特に話す事でもないし黙っとこう。

 

「ちょっとトラブルに巻き込まれて……」

「そっかー。あ、峰田ちゃんどこ住み? 大丈夫そうならこの後――」

 

 

 

 


 

 

 

 

 陽キャに放課後駄弁りというムーブで揉まれた後。

 パソコンを立ち上げて初めて気づいた。

 

「SNSのアカウントが身バレしてる……!」

 

 今日一日スマホ見る余裕なんてなかったから全く気付かなかった。なんか午前中の早い段階から動画が拡散されていたらしい。僕がカスみたいな理不尽問答をした後クソデカ鉄柱で叩き潰すシーンと、その後鉄柱に「ボケがよ」と唾を吐くシーンだ。

 

 これがお咎め無しってんだから世も末だよな。

 だけどSNSの反応はそこそこ肯定的な感じ。なんで?

 

 

 

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 こんにちは。雄英高校1年のスケベ忍者です。本名も顔面も制服も完全特定されちゃったので開き直ります。

 

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――マジで草

  ――峰田じゃん

  ――お前雄英かよ!?

  ――草

  ――恥ずかしいHNバレで大草原

  ――腹を切れ

  ――忍法(物理)

  ――ボケが代

  ――リプとDM開けさせろとか煩いんですよ

  ――俺たちのスケベ忍者が……

  ――雄英行くようなキラキラ連中に異物混入してる

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @SUKEBE_NINJA 僕のSNSはもうだいぶ前からフォローしてる人しかリプライ受け付けてないし、引用もDMも縛ってるから何の意味も無いよ。バズる前のリスナー達を大事にしたいぜ。リスナーは基本フォローしててよかった

 

  ――でもTLには表示してないんでしょ

  ――リスト機能、便利

  ――俺もお前を大事にしたいよ チュッ

  ――言 論 封 鎖

  ――こいつの同級生マジ可哀そう

  ――きっしょ死ねや

  ――他人のバズりで食う飯は旨いか?

  ――他人(映ってるのは本人)

  ――元動画消えてるけど転載されまくってるからなあ

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @SUKEBE_NINJA それと個性の事なんだけど、僕が雄英退学になってない事で察してください。あれはいつもの火事場の馬鹿力です。配信でちょいちょい言ってたけど。

 

 

  ――あのたわ言、たわ言じゃなかったのか……(畏怖)

  ――イキり妄想かと思ってた

  ――スケベな上にパワーもあるとかやめてくれ

  ――でも事実捕まってないんだし個性じゃないんでしょ

  ――忍法(物理)

  ――やっぱ忍法のアイデア募集してたし違うよな

  ――信じてたやで

  ――精神系なのに超ジャンプするヒーローいるし

  ――ベストジーニストっぽい個性なんだっけ

  ――お団子ヘアが粘着球になってるんでしょ

  ――リングフィット強度最強で6時間やってたじゃん

  ――あん時からあれっ?とは思ってた

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @SUKEBE_NINJA あと異物混入とか言うのやめてください 泣いちゃうので

 

  ――事実やろが

  ――終 身 名 誉 抜 け 忍

  ――シンプルクズ

  ――ヒーロー志してたのが不思議なレベル

  ――ヒーローは初手でABC兵器の研究を進めない

  ――ヒーローはヒロインに小パンしない

  ――ヒーローはコラボ企画で騙し討ちしない

  ――ヒーローは都市国家から労働者を誘拐しない

  ――だって思考回路完全にヴィランじゃん

  ――↑辛辣で草

  ――草

  ――草

  ――かわいそう

  ――草

  ――草

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA もしかしてなんだけどMM君? 私だよ! TOUMEIの!

 

  ――ファッ!?

  ――正解

  ――誰?

  ――峰田君だよ

  ――可愛いね

  ――祭りの始まり

  ――祭りか?

  ――どうだろう

  ――女ァッ!

  ――IDがめいきょく

  ――透明ガールすき

  ――これすき

  ――東 名 高 速 道 路

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 こんにちは……放課後はジュースくれてありがとうございました……

 

  ――露骨にテンション低

  ――これは陰キャ

  ――こうなるって"""覚悟"""してたんだろ

  ――クラスメイトがリスナーだったとかそんなことある?

  ――スケベ忍者クラスタに女の子は居たんだ!

  ――ネカマやろ

  ――過去ログ見たけどパーペキ女の子です

  ――死ねカス

  ――あたり強くて草 死ね

  ――陰キャの面汚しめ

  ――よかったな! 峰田!

  ――完全に"陰の者"で笑っちゃうんすよね

  ――どうせお喋りしてるそばでちびちびジュース飲んでる

  ――↑ちくちく言葉はやめたげろ

  ――自傷ダメージはいるわ

  ――やめろカカシ その言葉は俺に効く

  ――放課後デートしたら殺す

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA さっき色々知ったんだけど、忍者くんは怪我とか無い? 私たちの駄弁りで引き止めちゃって本当にごめんね。

 

  ――やだ、この子優しい

  ――バファリンか?

  ――スケベ忍者クラスタの天使か?

  ――やめてくれ俺たちまで浄化される

  ――やさしいせかい

  ――やさいせいかつ

  ――でもスケベ忍者が死ぬとこ想像出来ん

  ――なんだかんだ生き残りそう

  ――色々垂れ流しながら生き残りそう

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 ありがとう。制服ボロボロになったけど無z器です 

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 無傷です

 

  ――落ち着け

  ――大丈夫だぞ

  ――手震えてるやんw

  ――少しはハイウェイちゃんで練習しろ

  ――急に優しくなるスケベ忍者クラスタ

  ――絶対汗ダラダラ過呼吸ハーハーやで

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA だからジャージだったんだね! あとリアルは全然キャラ違くてびっくりしちゃった! あれ本当にスケベ忍者くん???

 

  ――開幕10割やめろ

  ――もう少しなんというか……手加減というか

  ――全然キャラ違うやんw 明日は学校来いよ!

  ――こーれはダメージ高いですよ

  ――あいつは陰キャだけど

  ――必死で真人間装ってるんだ

  ――SNSでくらい見逃してやってくれ

  ――悪魔か?

  ――前言撤回

  ――ハイウェイちゃん鬼畜すぎる

  ――すまんけど草

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA ほんとごめん

 

  ――スケベ忍者くんが居るよ

  ――腋の下がスケベだね

  ――でも言葉のナイフ喰らって寝込んじゃいました

  ――君のせいです。あーあ

  ――大ダメージで草

  ――泣いちゃった!

  ――これは推しがクラスメイトと知ってテンション上がったけど相手の核地雷踏みぬいちゃった典型的パターンですね(メガネクイ)

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 気にしてないよ。びっくりはしたけど。まさかのリスナーだったとは……

 

  ――たっぷり30分かかってるw

  ――アイコンが「のどかな埋葬」になってるの草

  ――死んでるやん

  ――効いてるw 効いてるw

  ――流石にちょっと可愛そう

  ――放課後デートしたら殺す

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA 古参だよ! ずっと見てる!

 《画像:葡萄柄のストール》

 

  ――ファッ!?

  ――ヤバい聖遺物出てきてて草

  ――ドスケベストールだ!!

  ――ドスケベストールじゃん!!

  ――ドスケベストール!?!?!?!?!?

  ――ググったら激レアもんで大草原

  ――えーコミケ201会場5名限定の代物です

  ――直筆サイン入り

  ――R18島にJCが入っちゃダメだろ!!!!

  ――いやC201の時は全年齢だった筈

  ――ガチ古参ですね……

  ――フルーツバスケット主催見てるか?

  ――フルーツバスケットとか言う色物配信者集団

  ――色物配信者集団(2コンテンツで世界王者)

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 いつもありがとうございます!!!!

 

  ――古参相手だからって元気になるな

  ――感情ジェットコースターか?

  ――うれしそう

  ――だから女性リスナーも居るんだって

  ――居る(一人)

  ――チャンネル分析してみろ

  ――この間してたじゃん

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA 明日もよろしくね! 今日は配信するの?

 

  ――するの?

  ――するの?

  ――私、気になります!

  ――Civ6しろ

  ――リングフィットから逃げるな

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 疲れました!!!!

 

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――そりゃそう

  ――おやすみ

  ――ゆっくりしろ

  ――定 休 日

  ――ハードな一日でしたね

  ――さらっと流してるけどこいつ今日お疲れだわ

  ――朝は登校初日からヴィランを退治し

  ――その後から夕方まで警察署で事情聴取

  ――そしてそのまま放課後駄弁りタイム

  ――死刑!

  ――どうして(困惑)

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA じゃあ明日一緒に学校行こう?

 

  ――フットインザドアじゃん

  ――何が"じゃあ"なのか

  ――青春満喫するな

  ――グイグイ行くね

  ――高校デビュー早々同伴登校???

  ――(舌打ち)……(ため息)

  ――お前こっち側だろ……

  ――俺ヴィランになりそう

  ――放課後デートしたら殺す

  ――ヴィランおる

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 いいよ

 

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――いいのかよ

  ――草

  ――もうちょいがんばれ

  ――脳みそ破壊されてない?

  ――IQ3くらいの回答

  ――疲れてるんでしょ(適当)

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 グンナイ

 

  ――おやすみ♡

  ――おやすみ♡

  ――おくやみ♡

  ――甘ったれるな

  ――配信しろボケ

  ――エロ自撮り投稿しろ

  ――大手Vを忖度抜きでシバき倒した根性どこ行ったんだよ

  ――厳しすぎんか?

  ――お前ら素手で鉄柱使ってヴィランぶん殴っても疲れないのか?

  ――ごめん

  ――草

  ――ちゃんと謝れて偉い

  ――やっぱバグってるよなこのスケベ

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA おやすみ! 今日もお疲れ様!

 

  ――これが"""15歳学生"""のやり取りです

  ――僕のおめめ潰れたんだが?

  ――たん壺に居ていい存在じゃない

  ――美女とカス

  ――俺たちのスケベ忍者が陽キャになってしまう

  ――放課後デートしたら殺す

  ――君は放課後デートに親殺されたんか?

 

 

 

 

 

 

 インターネットが狭すぎる。

 ふて寝しようとしてシャワーも浴びてないことを思い出し、僕は殊更惨めな気持ちになった。 

 

 

 

 

 



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003



感想、評価、一言、お気に入り登録。
全部励みになります。ありがとうございます。
感想はあんな感じで緩く返信しますので、お気軽にどうぞ。

「展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。」
↑運営さんのこの一言とハーメルンのルールを守ってもらえれば十分です。


追記1
赤バーになってました。本当にありがとうございます。
私生活が忙しいので不定期更新になりますが、頑張ります。



 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 12時間近く寝た僕の頭は冴えに冴え渡っていた。ここ最近興奮で寝られなかったからかな。余計に頭がいつもより明瞭になっている……気がする。

 

 そんな気持ちのいい朝だったんだけど、相澤先生から「メディアが張ってるから遠回りしろ。裏口の使用を許可する」って連絡があった。同時に見取り図と推奨ルートまで送られてくる始末。

 葉隠さん ――透明ガールである―― にDMで事情を話した所「でもでも折角だし」との事で集合場所を変えて一緒に通学。会話に花を咲かせながら ――葉隠さん曰く"会話の練習しよう!"―― 歩いていたんだけど、まさかの遅刻しかけてる事に気付いて全力ダッシュした。葉隠さんは置いてく訳にもいかないし、本人からのリクエストもあっておんぶした。

 あのー、相澤先生? このルート常に早歩きしないと間に合わない奴じゃない?

 

 裏口から一気に教室まで移動。

 なんとか相澤先生の真横をカッ飛んで、遅刻を免れた訳である。

 

「みんなおっはよー!」

 

 葉隠ちゃんの元気なあいさつに僕のあいさつは打ち消された。対抗呪文か?*1にしても流石に女の子一人背負ってそこそこ全力ダッシュは初めての経験だった。新鮮である。

 

「ごめんね、重かった?」

「全然平気」

 

 事実息も切らしてないからね、うん。

 昨日会ってない初対面のクラスメイト達の「あれっ?」という視線を全身に突き刺しながら自分の席へ座る。

 

「おはよう。HR始めるぞ」

 

 ガラリと現れた相澤先生。そしてドア開いた瞬間一瞬でピタっと自分の席に戻る1-Aたち。昨日の1日で何があったんだ……相澤先生に対してビビりすぎだろ。

 

「峰田」

 

 えっ。は、はい。

 

「訓練と非常時以外で人背負って廊下を走るな。事情が事情だから見逃すが、次は指導だ」

「すいません……」

 

 指導の所だけなんかすんごいオーラが籠ってたような気がするので次からマジで気を付けよう。

 

「お前らは初対面の奴らも多いだろ。峰田、自己紹介しろ」

「はい」

 

 適当でいいか。

 

「峰田実です。趣味はゲームとトレーニング。特技は戦う事です。よろしくお願いします」

「補足するが峰田は推薦入試の成績トップだ。そして戦闘能力に限っては常識外れに飛び抜けてるぞ」

 

 着席すると相澤先生がなんか仰り始めた。思わず視線を向けた先では相澤先生が意味深に笑っている! 待ってください相澤先生。出来れば黙っててもらえません? ダメですか? 目力で伝われこの気持ち……!

 

「質問いいでしょうか!」

「いいぞ、飯田」

「戦闘能力とは1対1の状況でという事でしょうか!」

「そうだ。峰田がジャージ着てる理由と合わせて説明する。昨日静岡駅前でヴィラン騒ぎあったろ。あれを個性使わないで鎮圧したのが峰田だ。制服はお釈迦になったが峰田はピンピンしてる。つまり飛び抜けてるって事は……そういう事だな。もっとも徒党組んでも峰田は一蹴しそうだが」

 

 なんか空気が死んだ気がする。

 全部ここで説明しちゃうんですね相澤先生……葉隠さんからちょろっと聞いたけどマジで合理主義なんだな。都市ごとに科学力ボーナス出るし南京の陶塔が建設可能になりそう。

 

「以上。納得したか?」

「ありがとうございます!」

「あと峰田。お前は質問に対して誠心誠意、相手の目を見て答えることを今後の課題とする」

「は!?」

 

 課題!? なんで!?

 こちらを見つめるどんよりとした眼差しと予想外過ぎる発言に顎が外れそうになったけど我慢する。

 

「お前の最大にして最悪の弱点がコミュニケーション能力だからだ」

 

 ……ッスゥー。

 ダメだぐうの音も出ない。雄英の教師陣にはどこまで把握されてるんだろう。昨日ミッドナイト先生と相澤先生とは普通にお喋り出来てたような気がするんだけど、逆にその会話内容が問題に思われちゃったのかな。

 

「わかりました」

「よし。では今日も一日励むように。HR終了。授業の準備しとけ」

 

 ああ、相澤先生この雰囲気の中で僕を置いて行かないでくれ。雄英高校ってもしかしてスパルタ? いやまあスパルタだよな。入学式とか全部ぶっちして体力テストやったくらいだし。

 

「えっと、峰田さん?」

「んぇ?」

 

 後ろを振り向デッッッッッッッッッッッ。

 耐えろ峰田実。

 社会的に死ぬぞ。

 目を見るんだ目を。

 

「八百万百です。よろしくお願いします」

 

 やおよろずももさん。

 おお、麗しいお名前ですこと。

 なんていうか良い所の育ち……っていうか。微笑み一つに気品を感じる。そしてそれらを押しのけて主張するクソデカおっぱい。制服越しでもわかりますね、うん。最近SNSで爆乳ルネッサンス*2って言葉を見かけたけど……気品とエロスはお互いを増幅し合うんですか? 答えは"し合う"だとたった今確信した。

 

「峰田です。よろしく」

「先ほどどこかで見たようなと思っていたのですが……同じ推薦組でしたか」

 

 そういえば推薦の時やったらおっぱいの大きい子が居たっけ。

 それが八百万さんだったのかも。

 

「スタート直後に猛烈な速度で移動を始めた人が居ましたが」

「それが僕かな、多分」

「やっぱり! 素晴らしい個性のコントロールでしたわ。峰田さんも幼少の頃からトレーニングを?」

 

 まあ! と両手を合わせるお嬢様な雰囲気の八百万さん。なんだこの人。可愛い。なんていうかほっこりするなぁ。ほっこりした後おっぱいが視界に入って正気を失いかけるけど。

 

「あー、うん。そう。師匠と一緒に……――」

 

 

 


 

 

 

 ヒーロー科のカリキュラムは公立の普通科に比べると特殊だ。午前中は普通に五教科の授業を受け、昼は学食で最強すぎる料理に舌鼓を打ち、――海鮮丼を4杯食べた。後半の2杯はランチラッシュが気を利かせてくれて、超デカい平皿に超大盛で盛ってくれた。葉隠さんもこれには苦笑い―― 午後はヒーローになるための授業をみっちり受ける。

 

 そして今日は。

 

「戦闘訓練だ!」

 

 来たわね。戦闘訓練。日本が誇る伝説的ヒーローのオールマイトの授業を受けられるだけでもテンション上がるけど、やっぱり戦闘、いいよね! 戦い、闘い。強い漢字が二文字も続いてるぜ。

 ていうかオールマイトはさんざ動画サイトで玩具にされてるのでいざ目の前にすると感動とか尊敬より思い出し笑いの方が先に出てくるんだよな。存在する訳がない超高画質のマイト素材をふんだんに使ったオールマイトキャニオン滅茶苦茶面白かった。

 

 オールマイトの講釈が終わった後、壁から出てくるのはコスチューム入りのアタッシュケース。事前にコスチューム案出せって言われたからリスナーのデザイン上手い人にお金出して書いてもらったけど……僕のはシンプルに忍者だ。可愛い系の。しかもスカートだよ。

 

「着替えたら順次、グラウンドβに集合! 遅れるんじゃないぞ!」

 

 はーい、と返事してアタッシュケース片手に移動開始。

 ……したんだけど更衣室どこ? 皆についていけばいいかな。ゾロゾロと移動する男子たちのお尻にくっ付いてけば間違いないだろう。

 

「峰田さん! 女子更衣室はあっちだぞ!」

「ちょっと峰田ちゃん! 女子更衣室はこっち!」

 

 メガネの飯田君に注意されたかと思ったら、蛙っぽい……えー……蛙吹さんに腕をぐいぐい引っ張られてしまった。女子更衣室? 女子?

 

「え? あれ?」

「む?」

「あら?」

「あちゃー……」

 

 あっ。

 ちょっと遠くで額に手を当てる葉隠さんを見てピンときた。

 やべえ、クラスのみんながなんだなんだと歩みを止めている……。

 

「ご、ごめっ、ぁの、その、僕こっち」

「あら?」

「ム?」

 

 僕男なんですごめんなさいすいません。

 

 

 

 

 ずっとジャージだったからわからなかったと謝ってくる蛙吹さんと飯田君の謝罪を頑張って固辞し、――確かに誰かを魅了したくて肉体を磨いたけど、こんなタイミングでのトラブルは望んでいないしシンプル迷惑だし、紛らわしい装いの僕が一番悪い―― 大人しく男子更衣室へ向かった。

 廊下の移動中に感じた、爆豪(だっけ?)君がブチ切れて癇癪を起こすレベルの気まずい沈黙はすっかり鳴りを潜め、がやがやと会話しながら皆で着替えている。

 

 ちなみにヒーロー科はロッカールームがクラスごと、ロッカー自体も生徒専用で大き目のが一つ用意されているし、ジムのロッカールームみたいな広い洗面台にシャワーも完備。ランドリーもタダらしい。

 いいね! 素晴らしい! 特にドライヤーが美容室にしか卸されてないタイプの超高級品なのが良い!

 

「あの、ごめん峰田君」

 

 ん?

 いそいそと着替えてたら隣からヘルプコール。

 

「ちょっと付けるの手伝ってくれないかな。上手く出来なくて……」

 

 そこに居たのは深緑のもさもさ天然パーマ。

 ああ、席順のご近所さんじゃん。

 よくよく見ると愛嬌のある顔立ちの、優しそうな顔。

 なんだか同族の香りがする。君も……オタクかい?

 

「緑谷君……だっけ。よろしくね」

「よ、よろしく。このマスクなんだけど……」

 

 マスク?

 ああ、留め金が特殊な奴だ。見たことある。

 

「これ、こうやってやるんだ」

「えっと……こう?」

「そうそう。捻る」

「あ、出来た」

 

 よしよし。

 今回は時間が無いから緑谷君の手からマスクを取る。

 

「時間無いから僕がやってあげるね」

「ヒュァッ!?」

 

 緑谷君の首後ろに手を回し、留め金を付けてあげる。

 彼は僕より背が高めなので背伸びしないとやりにくいな……。

 

「よし出来た」

「あ、ありがとう……」

「時間無いし、一緒に行こう」

 

 もう皆更衣室から行っちゃったらしい。緑谷君と一緒にテクテク歩いてグラウンドβへ向かう。緑谷君は雄英の地図を丸暗記してるらしいから頼もしい限りだ。今度から彼に着いていこう。爆豪君のクソデカ癇癪が怒声と一緒に飛んでくる事以外はメリットしかないだろう。

 にしても緑谷君、シルエットが兎さんみたいで可愛いな。

 ……あっ。

 

「兎さんかフェネックかと思ったけど、もしかしてオールマイトリスペクト?」

「えっ、わ、わかる!? 実はそうなんだ!」

「いいじゃん。イケてる」

 

 てへへと照れる緑谷君、可愛い。

 ジャンプスーツはハンドメイド感凄いけど、手作りなのかな。

 

「えっと……峰田君は分かり易くていいね。忍者モチーフ?」

「うん。どう?」

「凄く良いよ! 紫ベースの色合い、簪の飾りもばっちり!」

 

 まあどっちかというとくノ一だけどね。今思えば衣装もそっくりだし、いよいよ浜口あやめちゃん染みてきたな。でも可愛いから問題ないと思う。スパッツ履いてるからスカートでも気にならないし。

 

「スカートなのには理由があるの?」

「うん。可愛いから! 大事な理由でしょ?」

「そ、そっか。似合ってるよ!」

 

 もうこのやり取りだけで緑谷君が良い奴って事がわかるよね。

 

 顎に手を当てて考え込んでる緑谷君が面白くて眺めているうちにグラウンドβへ到着した。

 おお、みんなイケてる衣装ばっかりだ。外見から入るのも大事ってオールマイトが言ってたけど、まったくもってその通りだ。ていうか女子のコスチュームが実に華やか。特に八百万さんが眩……――

 

 

 

「あっ、峰田くーん!」

 

 

 

 ――……ミ゜

 

 

 

「「「峰田どうした!?」」」

「峰田少年!?」

 

 やば。いや。葉隠さん?

 そうだね。葉隠さんの個性は透明だからね。

 でも君なんで全裸なんですか?

 全裸手袋シューズとかやや特殊性癖だね。

 CCF(細胞培養繊維)コスチュームをご存じ無い?

 

「峰田君!? 鼻血が噴き出てるよ!?」

「大丈夫です」

 

 ありがとう葉隠さん。僕から離れてください。

 今僕は股間に覇気流して固定するのに忙しいんだ。

 

「峰田少年大丈夫か!? ボッタボタ出てるぞ!?」

「すみません、なんでもないです先生」

「そ、そうか」

 

 ぼたぼたと垂れる鼻血を気合で止め、拭う。

 うーんオールマイトにも心配かけてしまった。申し訳ない。

 

「あっ」

 

 あ、葉隠さん気付きました?

 やっぱりリスナーだからかピンと来たらしい。

 僕の視界に入らないでくださいお願いします。

 

「ご、ごめんね……」

「こちらこそごめん」

 

 慌てて僕の後ろに移動した葉隠さん。後ろからこしょこしょと聞こえてくる謝罪の声に問題ないと返し、更に股間に巡らせた覇気に気合を入れた。師匠との訓練で慣れたもんだけど、まさか雄英内で使うことになるとは。

 

「ヒーロー科最高」

「このスケベ忍者」

 

 あ、すいません。

 後ろからほっぺつねるのはやめてくださ、やめっ、やめろっつってんだよ! 君の乳首当たったりでもしたら次こそ僕死ぬぞ。このふわ髪ドスケベハイウェイウーマン*3がよ……。

 

「バーカ」

 

 ボケと返したいがこういうトラブルは理屈抜きで男が悪いと数多のサブカルが教えてくれたのでここは雌伏の時です。ここはぐうの音も出ませんって顔をしておきましょう。9:1で僕が悪いんですが。わかりきってると思いますが9が僕です。

 

「ちょ、ちょっとトラブルはあったが……始めるか有精卵共! 戦闘訓練の時間だ!」

 

 よっしゃ。

 気合入れていこう。

 

 

 

 ……ねえ葉隠さん僕の鼻血止まってる?

 鼻の感覚が無くなっちゃったみたいで。

 

 

 

 

*1
対抗呪文/Counterspell:インスタント。呪文1つを対象とし、それを打ち消す。

*2
爆乳ルネッサンス:近年台頭してきたAI絵師が生み出したミーム。ルネサンス様式の絵画"風"におっぱいのデカい女性の肖像が描かれているのが特徴。谷間しか見えない。逆に言えば谷間以外の全てを強烈に感じられる。美女の肖像を永遠に眺めたいという古来からDNAに刻まれた欲求を呼び起こされるミームである。

*3
ハイウェイマン:幹線道路(Highway)で旅行者や通行人を狙った強盗のこと。日本語では追剥とも言う。



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004



 ご愛読、ありがとうございます。

 個人的に、長い間目標に据えていたランキング総合日刊1位を達成できました。決して僕だけの力ではなく、素晴らしい原作、ハーメルン運営者様、読んでくださった皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。
 評価、UA、しおり、お気に入りなど、今まで見たことない数字になっていて感動しています。作者嬉しいです。安心してます。

 ランキングの維持は考えていません。今後も精進しながら、自分の心身の安寧を第一にまったりと不定期更新していきたいと思います。
 今後ともよろしくお願いします。



 感想はあんな感じでゆるーく返事しますので、感想送ったこと無いって人も練習のつもりで、お気軽にどうぞ。全部僕の励みになります。





 

 

 

「今回のお題は屋内での対人戦闘訓練! ヴィラン退治ってよく話題になるのは大体屋外。だが統計で言うと屋内の方が凶悪なヴィランとの戦いの舞台になってる」

 

 オールマイトの一言に結構びっくりした。このヒーロー飽和社会で真に厄介なヴィランは屋内に潜んでいるっていう言葉にも納得だ。

 そこで今回は2on2でペアを組み、状況設定に応じたルールを敷いて屋内戦をやるとの事。

 

「基礎訓練も無しに?」

「その基礎を知るには実戦が一番手っ取り早いのさ!」

 

 思わず首肯した。

 痛いと覚えるのめっちゃ早いんだよね。ソースは僕。雄英のこういう所が好きだ。しかもオールマイトにそれ見てもらって指導してもらえるんでしょ? 個人的には最高じゃんって思う。

 

ねえ、このマントヤバくない?

「超イケてる。僕のスカートはどう?」

キラめいてる☆

 

 青山君(だっけ?)のマント、生地めっちゃしっかりしてて超イケてるなって思ったから返事したけど彼のレスポンスめっちゃ面白いな。スカートが可愛いのもわかってちょっと安心。キラめいてるって。ふふ、嬉しい。

 

「それじゃあ、状況を説明する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイト曰く。

 ヴィランがアジトに核兵器を隠しててヤバいのでヒーローはそれを確保するのが目的。設定がハリウッド映画みたいでいいね。ルールは2on2。ヒーローサイドとヴィランサイドに分かれる。制限時間は15分。ヒーローはヴィランの捕縛か核兵器の確保で勝ち。ヴィランはヒーローの確保か核兵器を守り切れば勝ち。ペアの相手はくじ引きで決め、ヴィランには事前に5分の準備時間が与えられる。

 

 さて。今回の僕のペアは……!

 

「よろしくな!」

 

 上鳴君です!

 今は二人で準備運動をしながら打ち合わせを進めてます。オールマイト先生は場所の選定をしてくれてるので、その間に情報交換をしておこうと声を掛けてくれたのだ。

 場所はもうグラウンドβの中。

 少し離れた場所で対戦相手がスタンバっている。

 

「さっきの緑谷たち凄かったな!」

「凄かった。八百万さんはああ言ってたけど、爆豪君の動きも超ヴィランぽかったと思う」

「あー。ヒーローとヴィランの確執! みたいな?」

 

 上鳴君の言葉に頷く。私怨丸出しの独断で大破壊攻撃するヤツとかなんか居そうじゃない? 爆豪君みたいにイッちゃったヴィランは珍しいかもしれないけど、全く0ってわけでもないと思う。いいお手本だなぁ。

 

「準備運動終わり」

「おう。じゃ、情報交換しよう! テーマは……」

「個性について?」

 

 上鳴君は両手で僕を指差しながらウェーイと声を上げる。

 

「俺の個性は"帯電"! 電気を纏ったり放出できるぜ。デメリットは……放出しすぎるとアホになる」

「アホ?」

「そう、アホ。何も考えられなくなる」

 

 ほっぺを赤くしてそっぽを向き、ちょっと恥ずかしそうな上鳴君。申し訳ないんだけどちょっと見てみたい気がする。

 

「峰田の個性は?」

「えっと……えい」

「あ! お団子が葡萄みてえに……」

 

 頭のお団子をちぎって地面にくっつけた。

 

「超くっつく。僕にはくっつかないでぶにぶに跳ね返る」

「おお、マジか」

「あ、触っちゃダメ!」

 

 慌てて横から伸びてきた上鳴君の手を掴んで引き寄せた。

 

「なっ、なんだよ!」

「くっ付いたらほんとに取れないの。僕のコンディション次第で1日ちょいくっついたままとか普通にあるから」

「マジか。あっぶねえ……」

 

 そうビビりつつも「でもヴィラン捕まえるのにめっちゃ便利じゃね!?」って言ってくれる上鳴君好き。そう。めっちゃ便利なんだよなこれ。

 

「で、更にこれを色んな形に出来る」

「手裏剣とか?」

 

 お、鋭い。

 僕はひと摘みして手裏剣を生成。さっきくっつけたちっこい奴の隣に投げつけた。

 

「正解。糸とかクナイにも出来るよ」

「おおー」

 

 ……後はデメリット。

 

「デメリットは……これお団子ごとずぽって取れるんだけど」

「えっマジ?」

「うん……あんまりちぎり過ぎると再生が追い付かなくてハゲるし血が出ちゃう」

 

 訓練前からコストを消費したくないので実演はしないけど。

 それともう一つ。

 

「あと粘着球で出来た物質は基本的に粉塵とかに弱い」

「ふんじん? 回復する奴?*1

「いや違くて……砂とか掛かると粘着力激落ちする。セロテープも砂にくっ付けるともうくっ付かなくなるでしょ?」

 

 なるほど~と頷く上鳴君に一応実演してみる。

 その辺に転がっていた瓦礫を「えいっ」と砕き、粉末を粘着球と手裏剣に振りかけた。

 

「ほら、くっ付かなくなる」

「いやいやいやいや」

 

 え?

 

「こっ……コンクリ砕けるそのフィジカルも武器だよな!」

「うん。肉弾戦なら任せて」

「おう!」

 

 でも折角個性使えるんだし、出来れば忍者っぽく戦いたいな。

 

「で、俺たちヴィラン側だけど作戦とかどうする?」

 

 作戦か。

 

「とりあえず最初の5分でトラップめっちゃ仕掛けたいよね」

「それ! 出来る限り時間稼ごう」

 

 時間はこっちの味方だ。考え着く限りの罠を仕掛けるのはまあ確定。あとは相手のメタを準備したいんだけど、いかんせん僕は相手の個性を知らないんだよな。

 

「相手の個性わかる?」

「轟と……障子だっけ。障子は1本触手作って……――」

 

 触手!?

 

「――……そこに口生やして会話してんのは見た」

 

 しかも更に口を!?……んん。げほげほ。遠くで手持ち無沙汰にしてるお相手の轟君と障子君ペアを眺める。轟君の方はまあなんとなくわかるよね。

 

「轟君は氷の個性?」

「ぽいよな。粘着球って凍るとどうなん?」

「冷凍庫入れたことあるんだけど、その時はパッキパキになっちゃった。粘着力ゼロ」

「やべえ。でも温度によっちゃ大丈夫かもな」

 

 でもトラップを解除されるリスクはあるなあ。

 障子君は……。

 

「触手生やせる、口出てくる……わかんねえ」

「もしかしたら考えるだけ無駄かもしれない」

「無駄?」

 

 そうそう。

 そう返した所で耳の無線からオールマイトの声が聞こえた。どうやら場所の選定が終わったらしい。上鳴君は近くのライブカメラにサムズアップを返し、オールマイトの誘導に従って歩き始めた。

 

「障子君に対しては出たとこ勝負で行こう」

「上等! でもとりあえず粘着トラップはめっちゃ仕掛けようぜ!」

「うんっ」

「これが頭脳派ヴィランの戦闘ってワケ!」

「そうだね!」

「まあマヒャドとか撃たれん限り勝ち確っしょ!」

 

 

 

 

 

 

「「ウェーイ☆」」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「「マジで撃つ奴があるか!!」」

 

 

 

 

 やばいやばいやばいやばい……ッ!!

 

「トラップが!! トラップがオシャカになったっ!!」

「轟ヤバすぎんだろ! どうすんだこれ!」

 

 一面氷に包まれた空間。まさかの開幕マヒャドでトラップは全滅! 屋内も薄い氷に包まれてカチンコチン湖!*2 僕と上鳴君は二人仲良く膝下から凍結しちゃってます! 生足に冷気が染みるぜ! 次からストッキング履こうかなぁああああああああちくしょー! 障子君がビルを出た時点で察せたじゃん僕のバカ! 見聞色でビル出たのは分かってた! 分かってたんだよな!

 ていうか寒すぎるんですけど!!

 

「なあ峰田今何考えてる!?」

ドスケベストール持ってきて!

「ドスケベストール!?」

 

 ごめんちょっとバグった。マリットレイジの怒り*3とはこの事か……。

 

「よくわかんねーけどさっきのシックスセンスは!?」

「今やってる!」

 

 嘘です今始めました。

 当然二人で……、……。あれ?

 

「なんか」

「なんかって何だよ!?」

「なんか轟君一人で歩いてこっち来てる」

 

 「はぁ?」って顔した上鳴君。そんな顔されても事実だし。もう一回確認してみるけど、確かに外にデカいのが1、中に普通サイズが1。うん。間違いないよ。

 

「なんでだ?」

「なんでだろ」

「……でも障子来てないって事はまたマヒャド来るんじゃね?」

 

 こんな大技連発出来る学生居るわけないだろ!

 ……いや居るかもしれん。僕がそうだし。

 

「マヒャド来るかどうかわかんねーならよぉ」

「出たとこ勝負だ!」

「上等ォ! 轟は歩いてこっち来てるんだよな?!」

 

 そうだ。走ってすらいない。ゆっくりこっちに近づいてきてる。なんだろう。野球でホームラン打った後の打者みたいな確信歩きっていうの? ドヤりながらテクテクするやつあるじゃん。

 

「もしかしなくても油断してんじゃね?」

「そうかも。動きに迷いがないとこから見ると僕たちの居場所を把握してるっぽい」

「もしかしなくても障子の個性か?」

 

 十中八九そうだろうなぁ。障子君はまさかの感知タイプか。口生えるならなんか食べたりする個性かと思った。バクバク!ってやりそうじゃない? カバめって言いながらさ。でも全然違ったね。障子君に後で謝っとこう……。

 

「動いたら障子に把握されるかもな。無線で連絡されちまう」

「だけど轟君は油断してる可能性がある」

 

 僕と上鳴君の間に沈黙が流れる。

 整理しよう。この部屋に窓は無く、出入り口は一つ。出入り口に一番近いのが上鳴君。ドアから一番離れた壁際に核兵器が安置され、上鳴君と核兵器に挟まれる形で僕が居る。僕はドアに対して一直線に射線が通る位置で凍ってるから上鳴君にFF*4する心配は無い。

 

「上鳴君、ドアが開いた瞬間に放電できる?」

 

 雷の発生と氷の発生。敵を視認した上鳴君と轟君の瞬発力勝負になるけど、雷の方が有利でしょ。一瞬隙を作ってもらえば大丈夫だから、その間に轟君をノックアウトすれば大分有利になる。やっぱり稲妻*5が最強かぁ。

 

「いや俺後ろに核兵器あるし個性使えないわ」

「えっ?」

 

 なんで?

 

「……でっでで電気を放出できるんだよね?」

「おう。全方位にな!」

 

 ニカッと笑う上鳴君。僕は思わず顔が引き攣った。

 

「……全方位?」

「おう」

「……無差別に?」

「おう! 凄くね?」

 

 これはちょっともうダメかもしれん。冷えた頭で考えるけど何もいい案が浮かばないし何より時間が無い。

 

「上鳴君は動けそう?」

「……さっき足上げようとしたんだけどビクともしねえ。悪い」

 

 僕がやるしかない。轟君はもうすぐそこに居る!

 ドアのノブがガチャガチャ言い始めたので……ので……。

 一気にドアを右ストレートでぶち抜いた。

 

「はぁっ!?」

 

 痛みは忘れろ。僕はヴィラン。核兵器を人質にして立てこもっちゃうヤバいヴィランの片割れ……!

 

「ガハッ……」

「油断したな、ヒーロー!」

 

 轟君は階段の手すりと吹っ飛んだドアにサンドイッチされてるみたいだ。凍らされるといよいよ後がないのでこのままぶちのめそう。ストレートを振りかぶった勢いをそのままに間髪入れず追撃。ドア越しに3発のジャブをお見舞いする。

 

「忍法――」

 

 コストに葡萄を5摘み捧げる。

 

「――粘着糸の術!」

 

 生成するのは糸の束。くるりと手繰って階段の手すりとぶち破ったドアで轟君をサンドイッチしたまま固定する! このままサンドバッグにした後確保すればいいでしょ。

 

「クソッ!」

 

 あんだけ殴ったのにまだ動けるのか!? 冷気を感じたので慌てて廊下方向にステップすると、案の定地面越しにまた凍り付き始めた。しかも轟君は自分をサンドイッチしてる粘着糸を無造作に掴み、凍らせて脱出しちゃってる。

 ……? あ!

 

「ヒーロー! ちょっと()()()来ちゃったかなあ!?」

「っ!?」

 

 手が震えてるし凍結は一瞬で済むはずなのにパキパキ凍らせるのに時間かけてたよな。やっぱマヒャドは大技だよ……ねっ!!

 喰らえ! このめっちゃ助走つけたパンチを!

 

「凍れ!」

 

 まあそうするよな。僕もそうする。轟君の足元から氷が飛び出し、地面から生えた氷の柱が僕の右手を拘束した。当然、僕は前につんのめったまま動けなくなる。

 でも一気に全身拘束しない時点で色々察せるね!

 

「……終わりだ。このまま凍らせる!」

 

 だけど甘い。

 

「立派な籠手を」

「嘘だろ……!?」

「ありがとうッ!!」

 

 あああああ滅茶苦茶冷たい! 超痛い! 力抜けそう! 寒い! 泣きそう! でもでもでもでもでも! 強がれ! もう一歩踏み込め! 弱みを見せるな! 見せるなら根性だ! でも泣きそう! 諦めんなクソボケ! なんかあるだろ! ヴィランっぽいクズみたいな……気合入れる理由がッ! 不純な動機が!

 

 

 

 

 

 

『峰田くーん♡』

 

 ぴょんぴょん。

 ふわっふわっ。

 ぽよんぽよん。

 

 

 

 

 ――……早く終わらせてもう一回見たいな。

 

 

 

 

 

 

「いつの間に糸が!?」

 

 左手で投擲してくっ付けた糸をそのまま掴んで引っ張り、轟君を強引に引き寄せる。慌てて糸を凍らせたな。でももう遅い。

 迸れ。僕の煩悩!*6

 氷柱を砕き、氷塊を纏ったまま轟君の顔面へ!

 

「ぐ……ぉっ!?」

 

 衝撃音。入った。

 手応え。綺麗だ。

 確かか? 壁に激突した。

 動いてない。動くな。

 動いたら殺す。

 

「……」

 

 残心。

 壁に激突した轟君。ピクリともしていない。

 

「峰田、すっげぇ」

 

 障子君が一緒に来てたらわからない勝負だった。

 

「ふーっ。ふー……っ」

「な、んで。俺の、体温……が……クソッ。低い事、なんでわかったんだ?」

 

 吐く息が冷たい。

 肺を満たす空気もまた。

 

「僕の第六感、見聞色は。げほげほっ。()を捉える事に特化してる」

「……今を、捉える?」

 

 真正面に居る相手のコンディションはよくわかる。

 寒そう、暑そうなんて見ればすぐさ。

 

「右手と右の瞼、ふるふるしてたよ」

「……随分優しいんだな。教えてくれるなんて」

 

 警戒を解かずに近づく。右腕にぶら下がる氷塊の重たさに辟易としながら。見た感じ、轟君に戦う気力は残ってないようだ。

 

「いいんだよこのくらい」

「?」

 

 僕は轟君の耳元に口を寄せ。

 

「冥途の土産さ。死ね、ヒーロー」

「――……!?」

 

 呟いてから確保テープを片手で巻き付けた。

 

『轟少年、確保!』

「すげえぞ峰田! 次どうする!?」

 

 楽しい。

 

「上鳴君は動けるの?」

「無理! ほんと悪ィ!」

 

 闘うの、楽しい!

 

「じゃあ僕が行ってくるね♡」

「……? 峰田どうしたっおわぁ!?」

 

 階段の踊り場の床を砕く。

 砕く、砕くッ、砕くッ!!

 

「しょーうーじぃぃ~~くぅ~~~ん」

 

 凍ってる場所に粘着球はくっ付かないからぁ。

 物理で片付けるしか無いねぇ。

 

「床を破壊してきたのか!?」

 

 えっへへへゃはははははっ!

 本当に触手と生やしてお口も作ってる!

 でも障子君の触手はぁ。

 

「濡れて無いみたい……♡」

「ッ!?」

 

 ぺろり。

 

 

 

 

「……もっと触手出せオラァァァアアアアアッッ!!

 

 

 

 

 

*1
生命の粉塵:モンスターハンターシリーズに登場するアイテム。使うと周囲の味方と自分を回復する

*2
カチンコチン湖:PLAYISM、Steam、Nintendo Switch用のアクションRPG「箱庭えくすぷろーらもあ」に登場する湖。カチンコタウンの住人に話を聞くと訪れることが可能。

*3
マリット・レイジの怒り/Wrath of Marit Lage:エンチャント。マリット・レイジの怒りが戦場に出たとき、すべての赤のクリーチャーをタップする。赤のクリーチャーは、それぞれのコントローラーのアンタップ・ステップにアンタップしない。

*4
FF:フレンドリーファイア

*5
稲妻/Lightning Bolt:インスタント クリーチャーやプレインズウォーカーやプレイヤーのうち1つを対象とする。稲妻はそれに3点のダメージを与える。

*6
注:覇気です



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005

 

 

 

 

 峰田くんがヤバい。

 2戦目が始まる前に音声系の修理が終わってメインモニターに映る組の音が丸聞こえになったんだけど、峰田君がヤバい。何度でも言う。峰田君がヤバい。

 

 

 

 

『……もっと触手出せオラァァァアアアアアッッ!!』

 

 

 

 

 私がいつもお風呂上りにずーっと見ている秘かな推しが、窮屈な動画サイトを飛び出して活躍しているのは想像以上に私の胸を熱くした……んだけど、それとこれとは別問題。

 男らしさが、としきりに繰り返していた斜め前の切島君は顎に手を当てつつあれも一種の男らしさなのかと訝しみ*1、左を見ると飯田君が口を半開きにして"スペース飯田君"状態になっている。右を見るとヤオモモちゃんが口に手を当てて戦慄し、左前の麗日ちゃんと耳郎ちゃんは両手でお顔を覆っていた。

 

「先生、峰田ちゃんは本当に個性を使ってないのかしら?」

 

 梅雨ちゃん! どんな時でも冷静!

 

「勿論。峰田少年の個性はあの粘着球だけ。あの戦闘能力は峰田少年の……特殊技能かな!」

 

 特殊技能。特殊技能かぁ。彼は時々包帯ぐるぐる巻きで配信をしてたけど、それも全部トレーニングを師匠と一緒にやった結果なのだろうか。

 

「にしたって限度が無ぇか……?」

 

 覇気。彼の持つ意志の力の具現。配信で彼がこっぴどいやられ方や理不尽なキルを貰った時に出てくるお決まりのセリフの数々。たわ言とか負け犬の遠吠えとか散々馬鹿にされていたあれらの負け惜しみは全部事実だった。一回台パンして机とかキーボードをぶっ壊しちゃったのはヤラセじゃなくて本当だったんだね。きっとあれが武装色の覇気で、見聞色の……――

 

 

 

 

 

「ご、ごめんね……」

「こちらこそごめん」

 

 

 

 

 

 ――……見聞色の覇気は色々感知したり見たりできる。登校した時に冗談めかして聞いたら僕の覇気はまだまだ発展途上だよ。覇気は満ち足りてるけどコントロールがダメダメだって師匠に怒られてる、なんて至って真面目に答えられちゃったから思わず驚いた。

 で、見聞色の覇気は今を捉える事に特化しているそうだ。

 "今"を捉える。

 ……。

 ……そういえば。

 ……あの時の峰田君。

 ……視線の動きが。

 ……、……!!

 あー!! うわーぁぁぁあああああ!! 見られた! 全部見られちゃった! 知ってたけど! わかってた(・・・・・)けど! そこまで(・・・・)見えるなんて! そうだよね、鍛えたらもっと見えるならあの時以上に見えてるよね! ほんとごめん峰田君! それはそれとしてやっぱり後でぶん殴るね!

 

「葉隠さん!? 手袋が凄いことになってるが大丈夫か!?」

「えっ? あ、ごめん。大丈夫!」

 

 恥ずかしい。みんながこっちを見ている。やめて三奈ちゃんそんな目で見ないで! 梅雨ちゃんも大丈夫だからそんな気遣うような目で見ないで! 違うの。今モニタに映ってる彼を見てさっきの出来事を思い出したとか思われたくない!*2 さっきのはお互いに不幸だっただけってさっき二人で話して決めたの*3。そう決めたからそうなの*4。そうなものはそうなの。だから気にしないの。本当に違うの。やだやだやだ。本当に恥ずかしい*5。早くCCF(細胞培養繊維)コスチュームの申請しなきゃ。

 うう、テフェリーの防御打ちたい*6……ここからフェイズアウト*7させて……。

 

「峰田さんの発言と行動は……」

 

 ヤオモモちゃん……!

 

 

 

 

 

なんらかの法に抵触しているのでは?

「ヤオモモちゃん!?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 その後は障子君はきっちり確保した後、上鳴君と合流しようと思ったけどオールマイトが突然目の前に現れて魂消た。戦闘終了後、障子君が僕の手足の惨状に気付いてオールマイトに報告したらしい。

 轟君の冷気は僕の武装色をしっかり貫通したようだ。その上で僕の素足は氷を十分に砕けなかった。何が起きたか端的に説明すると、膝下からずるりと皮が捲れ、その上で気を緩めた途端に夥しい量の血が滲んできたのである。

 

 結果、世界一のヒーローにお姫様抱っこで緊急搬送されるという貴重な体験をしてしまった。保健室に着いた後、いつも調子悪そうなのに運ばせてしまってごめんなさいと謝ったら滅茶苦茶慌てていた。50歳越えのおじさんだけど愛嬌があって可愛いね。なんてことないさと言いながら丸太の様に太い両手が滅茶苦茶バタバタしてたのは面白かった。

 

 ああ、傷は保健室のお婆ちゃん、リカバリーガール曰く「こりゃキレイに治るね。安心しな」との事。お腹の虫も鳴ったので、お婆ちゃんの権限で食堂に向かっていい事になった。勝手に決めたら相澤先生とオールマイトに怒られるんじゃ、と思ったけど話を聞く限り教員内のヒエラルキーにおいてお婆ちゃんは頂点辺りに君臨していて、二人は頭が上がらないらしい。

 

 安心して食堂に赴き、またお前かと言いたげな視線と共にせわしなく動き始めたランチラッシュさんから受け取ったおやつを食べる事1時間。

 

 

 

 

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 雄英高校、過酷すぎる

 《画像:膝下からつま先まで包帯ぐるぐる巻きでサンダルを履いた足》

 

  ――は?

  ――やば

  ――痛そう

  ――絶対痛い

  ――1日の授業でこれ?

  ――しなやかでえっちだ……w

  ――ワイリョナスキー、今晩のオカズ決定

  ――業が深すぎんだろ

  ――リカバリーガールに治してもらったの?

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 冷凍忍者にされたけど気合で脱出したら膝下から皮めくれた。グロい。

 

  ――やば

  ――想像以上に過酷で草

  ――ヒーローに怪我は付き物

  ――冷やし忍者じゃん

  ――冷やし忍者は草

  ――草

  ―― ~冷やし忍者始めました~

  ――ワイリョナスキー、パンツ脱いだ

  ――リョナ勢は昼からシコらんでもろて

  ――こいつの個性に氷はガンメタなんだよな

  ――でもフィジカルで砕けるんですよね?

  ――マジで人間か?

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 授業続行不能だったから処置してもらって、まだ授業中だけど食堂でおやつ食べてる。

 

  ――あっ(察し)

  ――おやつ?

  ――おやつ。

  ――おやつかぁ

  ――不良生徒じゃん

  ――俺と一緒に食べよ♡

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 《画像:食堂の広いテーブルを埋め尽くす肉料理の数々……が乗っていたであろう皿の数々》

 

  ――デ ブ の 素

  ――嘘だろ

  ――全部食ったの……?

  ――は?

  ――料理どこ?

  ――用意していたものがこちらです

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 辛辣なリプ少ないなって思ったら皆はまだ学校とか仕事かな。

 

  ――休憩中

  ――たばこ

  ――ニート

  ――ニート

  ――サボってる

  ――テレワーク

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 許可を得て掲載しています。

 《画像:パフェを運んでくれたランチラッシュとツーショット。ランチラッシュはサムズアップ。スケベ忍者は締まりのない顔でハートの構え》

 

  ――ジェスチャー振られてて草

  ――好感度足りてない

  ――草

  ――草

  ――やば草

  ――パフェうまそう

  ――これはランチラッシュさんの貴重写真

  ――ランチラッシュさん!?!?!?

  ――すげえ、ランチラッシュさんだ

  ――食のレジェンド

  ―― 最 強 の ヒ ー ロ ー

  ――SNSノーベル平和賞2億年連続受賞

  ――HBCJP*8の不正投票を許すな

  ――オールマイトの類義語

  ――食で世界を救う男

  ――人を笑顔にする飯を作って食う飯は旨いか?

  ――↑全部美味いんやろなぁ

  ――隣の女邪魔だよ

  ――ツーショでも失礼なのにハートとか生意気 死ね

  ――ランチラッシュさんに失礼だろ

  ――もっとランチラッシュさん写せ

  ――ま~~~た異物混入してるよ

  ――左の女マジで誰だよ

  ――ランチラッシュ背高いな

  ――は?

  ――あ?

  ――(舌打ち)(ため息)(ブロック)(通報)

  ――さん付けしろ殺すぞ

  ――ランチラッシュ"""さん"""だろボケ

  ――敬称付けろカス

  ――お前ランチラッシュさんのことナメてんのか?

  ――これは駿河湾

  ――マジでランチラッシュさんには"さん"付けろ。な?

  ――あーあ終わったなあいつ。明日には駿河湾かな

  ――ランチラッシュさんに敬称付けないのマジでヴィラン

  ――過去ログ洗ったけど初犯だから許そう

  ――雄英の写真、マジで貴重

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 僕のアカウントなのにランチラッシュさん>僕なの超泣いてる

 

  ――草

  ――草

  ――ったりめーだろボケ

  ――越えられない"壁"だぞ

  ――ざまあねえな

  ――泣くな

  ――甘ったれるな

  ――とっととパフェの写真上げろ

  ――ランチラッシュさんガチ勢厳しくて草

  ――ランチラッシュさんに祈りながらパフェ食え

  ――雄英がランチラッシュさんを勧誘しなければ……

  ――スケベ忍者クラスタが珍しい時間に集まっておる

  ――ケガした男の子にする仕打ちか?

  ――え?

  ――うん

  ――はい

  ――そうだけど

  ――なんかあった?

  ――新参か? 落ち着けよ

  ――今時流行んないよそういうの

  ――こいつらヤバすぎる……

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 《動画:泣きながらパフェを食べるスケベ忍者》

 

  ――いつもの

  ――かなしい

  ――超泣いてるw

  ――ガチ泣きで草

  ――ボロ泣きパフェ食い男の娘

  ――かわいそう

  ――ジブリみたいに泣くじゃん……

  ――ごめんて

  ――悪かった

  ――泣かないで

  ――実はちょっと興奮する

  ――放課後デートしたら殺す

  ――今日も放課後デートしたら殺すニキ居るじゃん

  ――で、これ誰に撮ってもらったの?

  ――は?

  ――あ?

  ――もしかして

  ――お前

  ――ランチラッシュさんに

  ――撮らせたのか……?

  ――盛り上がってまいりました

  ――手足ケガしてるヒーローの卵に対する仕打ちかよこれが

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 これ撮ったのは私!

 

  ――ハイウェイちゃん!

  ――暴動が起きる所だった

  ――あぶねえw

  ――授業終わったんか?

  ――放課後デートしたら殺すニキが現れたのは

  ――彼女の存在を嗅ぎ取ったからでは……?

 

 

 

 

 

「ここかなって思って迎えに来たよ! そろそろ教室戻らない?」

「あ、ありがとう。そうだね、一緒に行こう」

「うん! あ、それはそれとしてなんだけど」

「どうしたの?」

「あの……」

 

 

 

「どのくらい、私を見てくれるの?」

 

 

 

 葉隠さんはこちらを振り返り、頬を真っ赤にして(・・・・・・・・)、そう言った。

 

 

 

*1
違うと思うよ……

*2
いや思い出してたんだけど

*3
本当にそれでいいの?

*4
そっか……

*5
本当に恥ずかしい!

*6
テフェリーの防御/Teferi's Protection:インスタント。あなたの次のターンまで、あなたのライフ総量は変化できず、あなたはプロテクション(すべて)を得る。あなたがコントロールするパーマネントはすべてフェイズ・アウトする。テフェリーの防御を追放する。

*7
フェイズ・アウト:MTGのカードって通常フェイズイン状態として扱われるんだけど、これを存在しない事にするのがフェイズアウト、もしくはフェイズアウト状態になると呼称するの。

*8
HBCJP:ヒーロービルボードチャートJP







意味深な引きをしましたが、次回は戦闘訓練の反省会を予定しております。




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006



誤字報告、感想、評価、全部嬉しいです。
ありがとうございます。

これはお願いなんですが、気に入った文章、面白かった文章などがあれば積極的に「ここすき」を押してくださると作者として大変助かります。

自分がウケるだろうなって部分が全然ここすきされていなくて、逆に指が流れで書いた文章が滅茶苦茶ここすきされたりしているのを見るのは、創作活動においてとても参考になるからです。

勿論、感想や評価も首を伸ばして待っています。
どうぞよろしくお願いします。



追記:誤字、乱文の頻度がヤバかったので見つけ次第順次修正してます。すいません。





 

 

 放課後、少し葉隠さんとお話した後。

 彼女と一緒に食堂から教室に移動し、自席に座っていた。ただ気持ちは授業を受ける気分なんかじゃない。目の前に師匠が腕を組んで僕を見つめているかのようだ。

 何故か? 教室に入った瞬間一斉に僕の方を向いて教室の雰囲気がややピリっとしたから「なんかあったのかな?」と思ってさ。勇気を出して近くに居た上鳴君に聞いてみたんだけど ――緑谷君は不在だった―― 彼曰く僕達の戦闘訓練から音声が復活し、全部モニタールームへ丸聞こえになってたんだとさ。

 

「峰田さん」

 

 今世も楽しかったです。

 

「貴方がその……性に奔放というのは今日一日でよくわかりました」

 

 八百万さんがすごーく言葉を選びながら話しかけてくれてる。

 やっぱりこれ今日死ぬんじゃないかな。

 

「たはは……ウチもちょっと意外」

「まあ意外だよね。てっきり清楚系かと思ってた」

「それ! お団子ヘアだけど前髪ぱっつんだし、てっきり!」

「ケロケロ……まあ清楚どころか男の子だったわけだけど」

 

 麗日さん、耳郎さん、芦戸さん、蛙吹さん、そして目の前に葉隠さん。

 

 

 

 

峰田君がスケベって事、みんなSNS見て知ってるらしいから今更だよ!

 

 

 ――……げぴ!!*1

 

 

 

 

 葉隠さんの心無い一言で僕は教室の壁まで吹き飛ばされた。

 

「俺だったら立ち直れないぜ」

「容赦ねえなあいつら……」

 

 じゃあフォローとか入れてくれません?

 自主的に教室の壁に向かって十字に貼り付き(・・・・)ながら思った。

 主よ、今から逝くとこ見てて。*2

 

「ケロケロ。そんなことは置いといて。峰田ちゃんと緑谷ちゃんを皆待ってたのよ」

「え? 僕と緑谷君を?」

 

 貼り付けになったまま話を聞くと、どうやらこれから教室に残った皆でワイガヤしながら反省会しようという流れになったらしい。で、僕と緑谷君を待ってたというのはシンプルに緑谷君の分析力と僕の戦闘センスからの視点が欲しかったのだとか。

 

「僕でいいならいくらでも。緑谷くんは?」

「さっきバクゴー追いかけてったからもうすぐだと思うぜ」

 

 あ、俺切島な。と握手を求められたので貼り付くのをやめて握手に応じた。おお、そこそこ鍛えられてる掌……。

 

「峰田の手めっちゃすべすべだな」

「そう? ありがとう。嬉しい!」

「気を付けろよ切島。可愛い顔しながらコンクリの破片粉みじんにする手だぜ」

「マジかよ……」

 

 あ、上鳴君!

 

「おう。戦闘訓練お疲れ。手足大丈夫か? めっちゃグロかったけど」

「大丈夫。上鳴君は大丈夫だった?」

「轟に溶かしてもらったから峰田程酷くねーな」

 

 溶かしてもらった? ああ、氷の温度を操作できたのか。一人で納得した所で、教室付近が騒がしくなる。緑谷君が戻ってきたらしい。凄いぞ緑谷君。今行くぞ緑谷君。僕は賞賛したいんだ。

 

「緑谷君!」

「峰田君!」

「お疲れ様。今日の闘い、ナイスファイト。すごいパワーだったね。思わず興奮しちゃった……♡」

「峰田君、どうどう」

 

 近くの葉隠ちゃんの背中ポンポンでちょっと落ち着いた。葉隠ちゃんの遠慮ないボディータッチに内心穏やかじゃないけど。ナチュラルに背中触るんじゃない。嘘ですもっと触ってください。

 

「えっ、えっと……ありがとう。怪我は大丈夫? 保健室に来たって聞いたけど、僕寝込んでて……」

「そうだよ怪我! 緑谷もそうだけど峰田は怪我大丈夫なん!?」

 

 おおう芦戸さん声デカ。でも心配してくれてありがとう。性格も言動もキュート。優しい。葉隠ちゃん聞いてた? 人の心をナイフで刺しちゃいけないんですよ?

 

「包帯ぐるぐるで派手に見えるけど大したこと無いから大丈夫だよ。」

「そっか! よかった……!」

 

 それからオールマイトにお姫様抱っこされた話をしたらめっちゃ羨ましがられた。ちょっと引いたけどやっぱり君もオタクなんだね。どっどどどんな感じだった!?って聞かれたので超分厚い胸板に感動したことと、心臓の鼓動が滅茶苦茶デカくてこっちまでドキドキしたこと、滅茶苦茶調子悪そうなのにそれを顔に全く出さないところがすっごい素敵なおじさん感あったって回答。緑谷君何故かめっちゃ動揺してたけど、想像以上に彼と仲良くなれた気がする。

 

「諸君! 準備ができたから1回戦から順番に流そう!」

「流す前は簡単に個性の解説するからね!」

 

 

 

 さて。スイッチを入れよう。

 まず第1回戦。時折別アングルを混ぜたまま最初から最後まで見切る。その上で緑谷は講評を聞けなかったから、改めて八百万さん達から伝達。そしたら緑谷君がブツブツノートを取りながらマイワールドへ旅立ってしまった。

 

「デクくん……」

「オタクやん」

 

 親近感覚えるな。

 君はそういうタイプのオタクなんだね緑谷君。

 仲良くしようね♡

 

「痛!?」

 

 ただ埒が明かないので強制的に元に戻した。

 

「峰田さんからはアドバイスはありますか?」

 

 八百万さんからのパスに思わず考え込んだ。

 

「立ち回りは八百万さんにほぼ同意。戦闘面だけど、皆個性の使い方がもったいないなって思う」

「「「もったいない」」」

 

 オウム返しにされたので詳しく説明する。

 

「麗日さんとか触れた対象を無重力にする個性持ってるのに物を浮かして飛ばすだけとかもったいなさすぎる。個人的には格闘技術磨いて相手に無重力付与する方向に舵切っても面白いと思う」

「しょ、精進します……」

 

 近接戦闘訓練なら付き合うからお気軽に声かけて。

 

「次は飯田君」

「!?」

 

 さっきから戦闘訓練の総評で褒められてジーンと感動してるのはいいけど、ヒーロー一家出身の癖に引き出し少なすぎるでしょ。陰毛*3の名前が泣いているぞ。

 

「麗日さんの個性が怖くて近寄れなかったのかもしれないけど、それなら僕みたいにドア使えば? 無重力状態にされてもドアが自重で落下しないから、ドアと手すりにサンドイッチして蹴り放題のボーナスタイムになるよ」

「峰田君怖!?」

 

 触ると効果発動するタイプの個性への対処は障害物挟めば大体解決するんだよな。

 

「あとは物を蹴っ飛ばして攻撃するとかあるじゃん」

「け、蹴飛ばす?」

 

 おいこら陰毛1号。もうちょい弟に自分の背中を見せんか。弟が困ってるぞ。

 

「もう! 君のエンジンは"走る"だけしか能がないのか!? 勿体なさすぎる! インゲニウムが泣いてるよ!」

「なっ……」

「君がエンジンを使って速く走れる。ってことは、そもそもエンジンの本質って脚力を上げる事にあるんじゃないの? 脚力を強化してやる事が走るだけって……宝の持ち腐れだよ!」

 

 もっとあるじゃん勿体ない! 僕はその個性が欲しかったよ! その個性があったらあの地獄の修行は無かったんだから! 僕がどんなに苦労して地面を10回以上踏んだり空中を蹴ったり出来るようになったか……。

 

「た、例えば……」

 

 飯田君は震える手つきで眼鏡の位置を直した。もうちょい自分で考えるべきだけど、ここは皆に問題でも出して気付かせよう。

 

「ここで皆に問題だけど。足使ってやるスポーツは?」

「サッカー」

 

 はい砂藤君早かった。正解。

 サッカーは足を使ってボールを蹴るね。

 

「おう!」

 

 砂藤君ガタイいいしよく見たらほっとする顔してるよね。

 じゃあ皆、他は?

 

「野球」

 

 うーん良い考えするね切島君。正解。

 ヒットアンドラン。ラン! 走るよね。

 

「よっしゃ!」

 

 ツンツン頭の元気印、シンプルに好印象。

 皆、良いのが出たよ。他は?

 

「「「他ぁ?」」」

「セパタクロー」

 

 セパッ……うん。八百万さん正解。

 足使うバレーみたいなね、あるよね。

 うんうん知ってた。本当だよ?

 

「このくらい当然ですわ」

 

 腰に手を当てながら胸を張る八百万さん。

 えっへんって感じが可愛いしおっぱいもでっかいね。

 はい、じゃあ他ある人は?

 

「もう無いんじゃね?」

「えー、思いつかないかも!」

「野球がアリなら……陸上競技とか?」

 

 あ、それいいよ耳郎さん最高。正解。

 

「ありがと」

 

 ああ~いいよその笑み。クール。格好いい。最高。

 滅茶苦茶いい例が出たね。他は?

 

「野球も怪しいのに陸上競技アリか!? 槍投げとかあるじゃん!」

「じゃあダンス! アタシダンス得意なんだよね」

 

 はーい芦戸さん正解。ダンスは足使わないと踊れないよね。

 

「やったー!」

 

 ぴょんと飛んで喜ぶ芦戸さん。

 おっぺぇもぴょんと飛んでんだわ……。

 

「陸上も野球もダンスも正解かよ。確かに全部足使うけどよ」

「もう、皆さんまだ峰田さんが仰りたいことがわかりませんの?」

 

 あ、気付いたね。

 勘のいい人たちは気付きました。

 一方で飯田君は頭をひねっている。

 

「そう。全部足使うんだよね」

「そうか! スポーツの動きを取り入れ――……」

「この石頭がー!!」

 

 僕は取り出したピコピコハンマーで飯田の頭をひっ叩いた。

 

「な、何をするんだ!?」

「ちょっとは柔らかくなるかなって」

 

 肉とかそうだよね。麺棒で叩くと柔らかくなるでしょ。

 もう一度言うぞ。

 

「走るだけじゃもったいない!」

「……あっ」

 

 飯田君がピンと来ていた。

 気づいた? 気づいたね。ヨシ!

 

「走るだけではなく、キック、ジャンプ、ステップ、ダンス全てに……」

「そ、そうか! 飯田君の足の膂力を上げるエンジンは足を使う運動全てに応用できる! 何で気付かなかったんだろう! 峰田君の言う通りだ。個性は工夫一つで――……」

 

 

 

 

 

「一番ナンセンスなのはお前だーッ!!」

「ちにゃ!!」

 

 

 

 

 

 またブツブツ呟き始めた緑谷君の頭にどこからともなく取り出したラバーチキンを乗せてしこたまピコピコハンマーでシバき倒した。

 

「ふっ、くくっ……」

「あはははは! クェー!って! あははは!」

「何あれ?」

「ラバーチキンでしょ?」

「すげー速さで殴りつけるじゃん」

「峰田ちゃんやめてあげて。緑谷ちゃんの変なスイッチが入りやすくなっちゃうかも」

「嘘ぉ……」

 

 ふー、ふー……緑谷君、嘘じゃないよ。

 個性が遅咲きらしいけどそんなの特に関係ない。

 こういうのは発想の問題だからね。

 

「君の個性を述べよ」

「え?」

 

 ラバーチキンとピコハンを構えた。

 

「自分の腕も破壊しちゃう超パワーです!」

「そうだね。じゃあ発動プロセスを述べて」

「え?」

 

 左手のラバーチキンを右手のピコハンでパシパシと叩いた。

 

「あははははは!!」

「くくっ、あっははは! ダメだ! あの鳥ダメ!」

「芦戸ちゃんはともかく、耳郎ちゃんも割と笑いの沸点浅いのね……」

 

 ……。

 出てこないか。

 

みどりゃー*4

「み、みどりゃー……?」

「君の個性、使う前に肌が変色してバチバチするでしょ」

「? うん」

 

 あれは絶対ということは。

 

「殴らなかったことある?」

「え?」

「だから、君が"殴ろう"!って腕バチバチさせた後に殴らなかったことある?」

 

 緑谷君はぼけっと僕を見つめたままふるふると横に振った。

 

「じゃあ」

 

 僕はビデオを巻き戻した。

 具体的には彼が天井をぶち抜く直前だ。

 

「この構えた瞬間。肌の色が変色してたけど……痛かった?」

「痛み?」

「この瞬間、痛みはあった?」

 

 どこかぼーっとした顔でみどりゃーは答えてくれた。

 

「多分……痛くなかったと思う」

「多分さ、腕を引き絞って……撃とう、撃つぞ、撃った、撃ってるって時は痛くないんだよね?」

 

 黙ってこくこくと頷いたみどりゃーに僕は笑みを送った。よし。多分だけどわかったぞ、みどりゃーの個性の特徴。遅咲きの個性。自分の腕をも破壊する超パワーって考えてる時点でもうよろしくないんだよな。

 

「緑谷の個性、大体掴めたと思う」

「ほんと!?」

「みどりゃー、もう一度個性を述べよ」

「え?」

 

 僕はラバーチキンをみどりゃーのもじゃ頭に乗せた。

 

「自分の腕も破壊しちゃう超パワーです!」

「そう思い込んじゃってるってとこだよ。でもそれでも仕方がない」

 

 僕は強く彼を見つめた。

 

「もいちょい噛み砕こうね。要するにみどりゃーは、膨大なエネルギーを体から引き出して、それを腕にチャージして、パンチという形で放つっていう、少なくとも3つの動作が出来る訳でしょ」

 

 はっとなるみどりゃー。

 気づいた? 気づいたね。ヨシ!

 

「「勿体ない」」

 

 そう! そうだみどりゃー。

 やれば出来るじゃん。

 

「なっ……なんで思いつかなかったんだ!」

 

 よしよし。僕の言いたいことがわかったらしい。

 僕も案外、教師とか向いてるんじゃない?

 

「足も使って蹴り技も取り入れ――……」

 

 

 

「この石頭がー!!」

「なぴょ!!」

 

 

 

 

 頭を抱えながら涙目でこちらを見るみどりゃー。ああそうだよなわかんないよな。だからお前はみどりゃーなんだ。

 僕は周りで爆笑したり苦笑したり、黙って行く末を見守ってくれているギャラリーをよそに、みどりゃーの全身をピコハンで嬲った。くすぐったそうに身をよじるみどりゃーを見てまだ気づかんのかと思わずため息を吐く。

 

「全身でやりなよ」

「……えっ」

「一番みどりゃーがナンセンスって言ったのはそこ! 腕だけにエネルギーを120%充填してワンパンかました挙句腕が全損するなら五体に行き渡らせて強化すれば右腕20! 左腕20! 右足20! 左足20! 頭で20! 胴体で20! あのヤバい火力の20%ずつ割り振っても僕の半分程度は動けるんじゃないの! 20の出力に耐えられるか耐えられないかはこの際置いといて!」

 

 僕が覇気の修行したときにそれがあったら絶対に楽だった。

 確信できる。マジで楽が出来たはずだ。

 

「全身に、割り振る」

「そう! 五体に割り振るなり、君の体全体を"1"として捉えて満遍なく行き渡らせるのも良し!」

「僕自身を、1として……満遍なく、行き渡らせる。」

 

 繰り返す緑谷に僕は心の底から笑みを送った。きっとみどりゃーが初めて個性を開花させたとき、腕が弾け飛んだんだろうな。そして恐らく凄い破壊が周囲に齎された。怪我人だって出たかもしれない。そして一向に進まないコントロール技術。でも雄英には来ることが出来た。その圧倒的火力によって。

 確かに肉の器は脆いかもしれないけど、どんどん補強できるはずだ。それは泥でもいい。粘土でもいい。石を混ぜ、砂を塗し、焼いて固め、それが徐々に銅へ、鉄へと繰り返せば、彼の出来る事は多く、大きく、そして強くなる。

 自分から枷を嵌めてしまってるんだ。一度認識してしまうとそれを崩すのに多大な月日が居る。これを専門用語で"ガバ"といいます。そしてそのガバはリカバリーする必要がある。

 

「君の」

 

 うん?

 

「君の、"意志の力"は……こうやってやってるの?」

 

 

 

 ……――。

 

 

 

あはっ♡

 

 誘い方がお上手じゃないか。

 僕が"硬化"して殴ればすぐ死ぬ雑魚オタクの分際で……♡

 

「う、お」

「殺気!?」

「何これ、息苦しい……」

「ちょ、ストップ。峰田ストップ!」

 

 いいよみどりゃー。凄く良い。

 そう、全身に行き渡らせろ。一歩間違えれば自分を破壊しかねないエネルギーを薄く、全身へ、しっとりと、ゆっくり……腹ペコの僕の目の前で、焼き立てのトォ~~~ストに……バターをゆっくり塗って見せびらかすように……えへっ。生意気だ。クソ。この陰毛頭のクソオタク。良い靴履いてもお前の"陰"は補正されないぞ……♡

 

「峰田君、落ち着きたまえ」

 

 凄く落ち着いた^^

 みどりゃーも麗日さんに肩を叩かれて解除したみたいだ。

 

「っぷは!」

「峰田ヤバ……」

「すっげえ、なんだ今の」

 

 葉隠さんの一言と背中すりすりで落ち着いた僕はまったりと息を抜き、みどりゃーの頭の上のラバーチキンとピコピコハンマーを自分の机にしまった。

 

「みどりゃー、今日時間ある?」

「作る!」

「戦闘訓練のおさらい終わったら後で職員室に行って空きグラウンド借りよう」

 

 流石雄英、滅茶苦茶楽しみだ。

 みどりゃーはきっと強くなるぞ!

 早く育って、僕のスパーリング相手になってくれ。

 

 

 

 

 オールマイトと同じ篝火を灯しているなら、出来るよね?

 

 

 

 

*1
げぴ!!:漫画北斗の拳に登場した虎の断末魔。

*2
嫌です……

*3
陰毛:ターボヒーローインゲニウムの事。ネットスラング

*4
みどりゃー:緑谷、みどりや、みどりゃー



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007





 沢山の感想、評価、ここすきなどありがとうございます。
 物凄く参考になりますし、元気が出ます。






 

 

 

 

 

 

 

 今日も一日頑張ったぞい。

 

 

「今日はここまでかしら?」

「いつもありがとうございます! 先生!」

 

 放課後、もう太陽も見えなくなった空き体育館で体をうんと伸ばしながら左右に振る。折り畳みの机と椅子で監督がてら仕事をしていたミッドナイト先生にもきっちりお礼。毎日こんな所で仕事させてしまってすいません。

 

「彼はこの後どうするの?」

「今日はどこもぶち壊してないので直帰させます」

 

 コンクリート張りの床に倒れこんでるみどりゃーを見る。まだゆっくり呼吸してるし、何より意識がある。どこも折れてないし切れてない。腫れたりはしてるけどね。

 

「今日は一番長く出来たんじゃないかしら?」

「そうですね。ガッツは一番あると思います」

 

 僕が主催しているA組の"格闘自習"はいつもこの体育館Σの中でやっている。型に囚われない近接格闘の基本的なイロハを皆に教えてるけど、一番最後まで残るのは大体僕とみどりゃーだ。

 

「いつもお時間割いて下さってありがとうございます、先生」

「フフ、良いのよ。こんなの苦でもなんでもないわ」

 

 通りすがりにそっと肩を撫でられたので思わず呼吸が止まってしまった。急にやるの勘弁してほしい。もっとやってください。

 

「戦闘訓練の映像見たけど……あんまりハイになっちゃ、ダ、メ、よ?」

ひゃい……

 

 そのまま体育館を去るミッドナイトに心の中で敬礼する。先生に比べたら僕なんて子猫ちゃんだな。ちなみに先生は女豹さん。ダメだ彼我の戦力差が圧倒的すぎる。日々精進しないと。

 さて、みどりゃーの様子は。

 

「みどりゃー! またモヤシになってるよ!」

 

 ……。

 返事がない。ただの屍のようだ。

 なんでこんなことしてるかというと、ひとえにみどりゃーの体に個性を馴染ませるのが目的である。

 先週の戦闘訓練が終わった後すぐに体育館を借りて試したんだけど、あろう事かこいつフルカウルなんて技名付けて運用しようとしてやがったのだ。なんでパッシブ運用出来るスキルを態々トグル式に変えようとするんですかね? もったいない……という事で常に個性を使い続ける事を課題にした。教室も前の席がみどりゃーなのでおサボりしてるかも一目で ――みどりゃーは最初こそオンオフに苦心していたけど、最近はダウン以外で個性を解除していない。出力の上がり下がりはあるけど。―― わかる。

 

「ぅぅ……」

 

 呻き声とともに彼の全身にまた個性の炎が燃え広がり始める。滅茶苦茶ボロボロ。目はギラついてるけど体力はギリギリかな。上体を滅茶苦茶だるそうに起こした姿はもう寝る寸前って感じ。

 

「まだやれる……」

「今日のみどりゃーもヴィランにやられて死んだ。救おうとした命も。帰るよ」

 

 あえて有無を言わさない言い方をすると、緑谷君は半分寝ながら立ち上がって歩き始めた。ぶっちゃけ今日はもう家帰って飯食って寝るしか出来ないはず。何故ならそういう風に調整してボコボコにしたから。今日はみどりゃーのお母さんが正門近くまでお迎えに来てくれるらしいので張り切ってしまった。

 

「うう……峰田君も今日は正門から……?」

「流石に今日は居ないでしょ。あんな事件の後だし」

 

 正門のメディアや厄介ファンはこの夕暮れを過ぎると居たり居なかったりする。ただ昼にあんなことあったし。流石に解散させられてるでしょ。

 

「峰田君、昼は散々だったね」

「ほんとだよ。気が付いたら皆居なくなってるからびっくりしちゃった」

 

 今日はノリノリの曲をイヤホンで聞きながらお昼を食べていた。が、なんとごちそうさましたら周りに誰一人いなくなっていたのである。死ぬほど寂しくなって涙目になったけど、困惑してるうちに小腹が空いたのでソフトクリームサーバーで巻き糞チャレンジ*1を4回くらいトライしてたら*2知らないガイコツみたいな職員さんが肩で息をしつつ僕を探しに来たのである。

 

「信じられる? 僕があのガイコツみたいな職員さんをオールマイトと間違えるなんて」

 

 しかもあろうことか、僕はそのガイコツみたいな職員さんをオールマイトと呼んでしまったのだ。恥ずかしいね。先生の事をママって呼ぶような恥ずかしさを感じる。

 

「あはは……調子が悪かったんじゃないかなあ」

 

 兎も角、僕は行方不明者になりかけていたが無事食堂で発見。相澤先生に本気の怒られを食らい、その過程でクラスの皆に「大号泣しながらソフトクリームを食べていた所を保護された」と事実に悪意の脚色をされた上で暴露され皆にゲラゲラ笑われる中、後ろの席の八百万さんからはなんとなく気遣わし気な背中すりすりを食らったのである。*3

 僕は小さい子じゃないんだが?

 

「にしてもミッドナイト先生には頭が上がらないよ」

「そうだね。いっつも遅くまで助かる」

 

 格闘自習の監督をお願いしたら先生は二つ返事で了承。女性の先生が監督になったからかクラスの放課後参加率も心なしか多めな気がする。放課後は忙しいから監督出来ないと言ってた相澤先生もたまーに顔を出してくれるので練習が捗るんだよな。

 

「ミッドナイト先生に頼んだのは……先生が青臭いのが好きって言ってたから?」

 

 ん? いや?

 

「目の保養になるからだけど」

「えぇ……」

「出久!」

 

 正門出てしばらく。乗用車とその側にみどりゃーのお名前を呼ぶ推定みどりゃーのお母さまが。

 

「みどりゃーのお母さん?」

「うん。あ、お母さん、クラスメイトの峰田君だよ」

「こんばんは」

「いつも出久がお世話になってます……」

 

 いやほんと、お子さんをこんな時間まで拘束した挙句ボッコボコにしててすいません……。

 みどりゃーのお母さんは結構強めの語気で僕を駅か家まで送ろうとしてくれたけど、走った方が速いのでとそれを固辞。僕は女の子じゃないし平気ですと併せて説明したら滅茶苦茶慌ててた。それでも「最近は物騒ですし……本当に大丈夫ですか?」なんて言われてしまった時は思わず「みどりゃーが優しいのはお母さん譲りなんだね」と揶揄ってしまった。僕は悪くねえ。

 

 ……あ。

 忘れてた。

 みどりゃーがたった今閉めたばかりのドアの窓をノックする。

 

「どうかした? やっぱり乗ってく?」

「いやそうじゃなくてみどりゃー、確認だけど……」

「よく食べ、よく浸かり、よく伸ばして、よく寝る?」

 

 お、わかってんじゃん。僕は手の甲で、窓の開いたドア越しにみどりゃーの肩を軽く叩いた。

 

「あと今日はベッド入ったら個性切らないと明日に残るから気を付けて」

 

 こいつ一回だけだけど、家帰った後に自主練した結果地獄見てるんだよな。流石に二度はやらないと信じたい。

 

「わかった。今日もありがとう!」

「今日もお疲れ様。また明日ね」

 

 走り去っていくみどりゃーんちの車。

 それを見てたらこう……なんだか寂しくなった。

 

 

 

 


 

 

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @ToumeiGIRL2231

 以上。先週~今週うちのクラスであったすごいこと、でした。

 ツリー終わり。12/12

 

 

  ――わぁ……

  ――先週からあいつが呟いてない理由が分かった

  ――クラスメイトにアカウントバレてるの草

  ――まあ駅前のアレで時間の問題ではあった

  ――寝込んじゃってるのね

  ――ヒソカっぽくなったは草

  ――サイコパス……♠

  ――ボクの個性は 粘着力(ガム)弾力(ゴム) 両方の性質を併せ持つ♥

  ――クラスメイトを虐めないでほしいよね

  ――戦闘力は5点……成長性、90点♦

  ――流石に殺しはしないでしょ

  ――ルールを守り、モラルを破る男……。

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA

 スケベ忍者くんがな~ だんまりだからな~ 私がちょっと大変だな~

 

  ――ね~

  ――ほんとだよね~

  ――うちのスケベがごめんね~

  ――ゴミカス陰キャ忍者がほんにね~

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 《画像:「今日も一日頑張るぞい!」》

 

  ――もう1週間以上頑張り続けてるの草

  ――今時ブラックでもこんなに頑張らせない

  ――スイマセヘヘ~~ン

  ――もう休め

  ――生きてる?

  ――たぶん死んでる

  ――祝アカウントバレ

  ――初パピコ……ども……

  ――大阪や!!

  ――オラ! 出て来い!

  ――ネタは上がってんだぞ!

  ――脇の下見せろ!!

  ――エロ自撮り寄越せ!!

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 おひさ。今日は22時から久しぶりにラジオするって言ったら皆来る?

 

  ――きたきたきた

  ――待たせやがって

  ――ラジオ?

  ――珍しい

  ――ネトゲ実況せんかいハゲ

  ――どしたん話聞こか?

  ――おひさ

  ――おす

  ――遅ぇんじゃカス

  ――これおメンがヤバじゃな?

  ――プログラム表頼む

  ――生理?

  ――やめんか

  ――これに罵倒してる奴、忍者の事半年ROMってて欲しい

  ――駅前鉄柱殴打唾吐罵倒事件のちょっと前に増えた新参に説明するけど、スケベ忍者が1週間以上投稿空けたら絶対近況報告を兼ねてラジオをするんですよ(メガネクイ)

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 僕を考察するの真面目に超恥ずかしいからやめてね

 

  ――お、おう

  ――なんかキレが無いね

  ――キレが無いは草

  ――元気が無いって言え

  ――なんかしっとりしてる

  ――(´・ω・`)

  ――雨模様ですね

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 最近陰キャの癖に陽キャのフリし過ぎたからその反動でしょんぼりしてるんだと思う

 

  ――これ正解じゃね?

  ――すまんけど草

  ――エネルギー使うよな

  ――わ か る マ ン

  ――スケベ忍者学会か?

  ――そういえばこの子古参だった

  ――多分これやろなぁ

  ――えー弊学会でも意見一致してます

  ――やるじゃん

  ――今は剛速球投げるのやめてあげません?

  ――https://discord.gg/XXXXXXXX

  ――招待コード貼るな

  ――学会鯖の宣伝を欠かさない学会員の皆さん

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 DMでラジオのプログラム送られてきたから笑っちゃった。

 22時から2時間だけゲストします。私もスケベ忍者も声だけです。

 

  ――草

  ――ヤバ

  ――ここまでの"重さ"久しぶりじゃない?

  ――そうやな。雄英は陽キャの巣窟だろうし。

  ――こーれは相当"キ"てますね

  ――ハイウェイちゃんは大丈夫なんか?

  ――そりゃ承知の上でしょ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「……マイトに似………る……」

 

 ……。

 

「――だよな!」

「……で……しょ……」

 

 ……、……。

 

「……下位互換……」

「派手……で……」

 

「峰……寝て……え?」

「……こす?」

 

「寝……可愛……」

「それ……よね……わかる」

 

 ……。

 誰だ、僕を揺さぶるのは。

 

「おーい」

「あ、起きた」

 

 あ、ヤバい。寝てた。

 えっと、今日は救助訓練でバスに乗って……。

 

 

 なんかあった? と聞いてみたら個性の話をしてたんだそうな。

 

 

「峰田の個性って頭の上のお団子が粘着球になってるんでしょ?」

「うん。摘まむ、掴む、捥ぐまではただの髪の毛だけど」

 

 個人的には増強型が羨ましいなぁと呟いたら全員から総ツッコミを受けた。何故?

 

「無個性であんなに動けんのに増強型が羨ましいってマジかよ!?」

「うん。あの身体能力に増強型の個性持ってたらフィジカルで全部破壊できるからね」

 

 師匠ともその辺の見解は一致している。増強して武装色纏って硬化して……が出来たらマジで僕ヴィランになってたかもなあ。多分無敵じゃない? 寝首掻かれて死にそうだけど。

 

「でも形も自在に変えられるなら結構応用利くよな」

「そうだね。一応忍者ヒーロー名乗るつもりだから、いろいろ考えてるよ」

 

 途端におめめキラキラメモカキカキするみどりゃー。オタクやん。とはいえ僕の事をメモられるのはちょっと気分が良いので許してあげよう。筆圧と音がヤバすぎてちょっと怖いけど。

 

「峰田、忍者にしては戦い方が派手じゃない?」

「忍者っつーより薩摩武士だよな」

忍んでないよね!

「コラ! 自習の時覚えとけよ!」

 

 芦戸さんと上鳴君と青山君は次参加したら地獄の掛かり稽古*4を用意しよう。

 

「でも派手と言えば爆豪だよな」

「爆豪ちゃんは怒鳴ってばっかりだから人気出なさそうね」

「んだとコラ」

 

 しっかり梅雨ちゃんの言葉に怒鳴って返す爆豪君に涙を禁じ得ない。煽りに対する顔真っ赤即レスは外野を喜ばせるだけだというのに……。

 

「この付き合いの浅さでもうクソを下水で煮込んだような性格って認識されてんの凄くね?」

「テメェのそのボキャはなんなんだこのクソが! ぶっ殺すぞ!」

 

 草。

 思わず爆笑してしまった。上鳴君の煽り性能が高すぎる。

 

「そこ何笑ってんだ団子頭ァッ!」

「団子頭!?」

 

 ……ここでオカマ野郎とか叫ばない辺り、雄英のヒーロー科って感じだ。

 

「罵倒のボキャ、上鳴君に負けてない?」

「るっせーんだよ!!」

 

 打てば響く。お尻とか弱そうだよね。

 

「そのネバ付いた視線向けんじゃねえッ! キメーんだよッ!!」

「キ、キモいなんて……ひっ酷いよ爆豪君! あの体育館(格闘自習)で僕と(皆で)熱くなった(個性アリのサシ)時間は嘘だったんだね……すんすん」

「大事なとこ省いてんじゃねえぞボケが!!」

 

 よよよと思わず泣き崩れる僕に援護射撃が次々と飛来する。

 

「あー爆豪泣かした」

「ちょっと爆豪ォー!」

「実ちゃん泣いちゃったじゃん!」

「爆豪ちゃん、謝った方が良いわ」

ヒーローの態度に非ず

「ああああああああああああッ!!」

「かっちゃん……」

 

 上から順に砂藤、切島、上鳴、梅雨ちゃん、青山君の順番である。ちなみに僕がよよよと泣き崩れながら縋り付いた隣の席に座る口田君は、すっごい恐る恐るな感じで背中をトントンしてくれた。優しい。好き。

 

「峰田そろそろいい加減にしとけよ」

「ッス……」

 

 すいません。

 

 

 

 


 

 

 

 

 相澤先生の鶴の一声でバスは静寂を取り戻し、到着したそこは……遊園地だった。USJかよと叫ぶクラスメイトを見ると、ちょっぴりアンニュイな気持ちになる。全くと言っていいほどこういうレジャー施設に連れて行ってもらったことが無いからね。

 だから思わずこういう感じなのかと感動もしたし、ちょっと凹んだりもする。

 だけど一番思うのは。

 

「行きたいな……」

 

 

 

 

 

 水龍〇ランド*5

 

 

 

 

 いやね、昨日シコらないで寝ちゃったんだよな……しかもちょっと寝坊して葉隠ちゃんにいつもの待ち合わせ場所で怒られたし。13号のありがたいお言葉をしっかり聞きながらも頭の中はあの夢の国の事でいっぱいなのは、十中八九性欲のせいだろうなぁ。ああ、水〇敬ランド行きたい。可愛い男の子が好みのお姉さんたちと滅茶苦茶仲良ししたいし、おっぱいでっかい欲求不満の美魔女にしがみ付いて甘え倒すのもいいなぁ……武装色硬化。夢のひと時を過ごしてみたいよ。

 今は全然見当たらないけど、ワープゲートでも開いてあのやべー格好のチャンネー達が現れないかな。

 

「ご清聴ありがとうございました!」

 

 やべえ後半なんも聞いてなかった。

 ……。

 

 ……?

 

 ……あ、え?

 

 首筋がチリつく嫌な感じ……というか危険が近づいてる感じ。危険……危険!? 危険な……お姉さん!? ちょちょちょ、今授業中ですよ!? 大丈夫ですか!? あーっ!? いけませんお姉さま方!! 下の広場の噴水近くで黒いもやもやっぽいのが!? あれワープゲート!! 向こう側の気配感じるしワープゲートだよね!? マジかよ本当にワープゲート出てきちゃったよえっへへへへじゅるり。いや待って!! 今はヤバくない!? せめて夜だけにするとかさ! せめてそういうなんかこう、青少年に気を遣うなんかこう……いやでもどうでもいいわ剃と月歩使えば一人くらい物陰に攫ってしけ込めんだろ!! お姉さん今行きまーす!!

 

 

 

 

 

 

 ズルリと出てきたのは男だった。

 

 

 

 

 

チェンジ(殺す)

 

 

 

 

 ――……股間から逆流したのは、覇気という名の"激情"。

 

 

 

 

*1
巻き糞チャレンジ:ソフトクリームサーバーでどれだけ上手に巻き糞を作れるか競う遊び。

*2
全部食べました。

*3
八百万注:だって後ろから見てもお耳まで真っ赤でしたのよ? もうあんまりに気の毒で……

*4
掛かり稽古:剣道、柔道用語。元立ちが1人、掛かり手が複数人で行う稽古。元立ちは掛かり手と勝負した後、勝敗に関わらず元立ちは次の掛かり手と連戦する。懲罰的に用いられるよりも、疲弊した極限状態でも教えた技を繰り出せるかの確認に使われる(作者の場合)。

*5
未成年はググらないでください






 次回、USJ襲撃。お楽しみに。



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008





 評価を押していただきありがとうございます。
 ここすきは超参考になります。見てて楽しいです。
 感想は滅茶苦茶元気が出ます。応援ありがとうございます。


 追記:なんか冒頭の記述がだぶってたりしてたので、順次修正しています。




 

 

 

 

 

 ……こんにちは。よろしくお願いします。

 いえ、大丈夫です。

 あ、本当に何ともないんです。大丈夫ですよ。

 国立雄英高校1年A組、葉隠透です。

 

 そうです。

 私は崩落した町のようなエリアの一角に居ました。

 

 いまいち私も考えが纏まっていません。今に至るまでの流れはあっという間でした。まず峰田君から物凄い怒気 ――多分覇気だと思います―― が立ち昇って、広場に出来た黒いもやもやに思いっきり……飛び蹴り? 多分飛び蹴りをしました。そのすぐ後に相澤先生が慌てて「戻ってこい峰田、あれはヴィランだ」って叫んでたのはよく覚えてます。その後は高台にひとっ飛びで戻ってきた峰田君が相澤先生に頭を叩かれて、えっと、えっと……何かお話しした後、相澤先生がもやもやから出てきたヴィランの群れに突っ込んでいって、私たちは……。

 

 はい。そうです。黒いもやもやの人に退路を塞がれちゃって、爆豪君と切島君が飛び掛かって……散らして殺すとか言われました。はい……気付いたら靄に包まれて、瓦礫の中に。倒壊エリア、ですか? 瓦礫が沢山ありました。それで、ヴィランが私を探す声がしていて、私の個性は何故かバレて(・・・・・・)いました。

 

 物凄く怖かったです。瓦礫と尖った鉄パイプで何人かは動けなく出来たけど限度がありました。脱いだ手袋とブーツが見つかった時は口から心臓が出そうになりましたし、蛇の個性を持ってるヴィランに見つかった時は覚悟しました。覚悟というのはどちらかといえば命を失うよりも……私が乱暴される事を、です。私を探すヴィラン達はそういう事を……してやるぞって、隠れたり逃げ回ってる私に、そうやって聞こえるように叫んでいたので……。

 

 取り押さえられた時は本当に、体中から色んな物を垂れ流しながら泣き叫んでたと思います。もう、ぷつんって私の中で切れちゃって。何を叫んだのかはもう覚えていません。ほ、本当に覚えていませんよ? よくわからないことを叫んでたと思います。嘘? わ、わわ。違います偽証するつもりじゃなくて。決まり? 些細なことがわかる? 

 はい……いや、その、助けてって……峰田君の事を……呼びました……ごめんなさい。

 

 な、なんで笑ってるんですか!?

 相澤先生まで笑わなくても……。

 え?

 あ、はい。

 この後は大丈夫です。

 色々垂れ流してたんですけど、全部引っ込みました。

 

「ッハァァ……!? アッッ!?」

「なんだこの女……」

「捩じ切りやがった!?」

「あ、あいつニュースで見たぞ!」

「広場の奴らは何やってんだよ!?」

「話と違ぇじゃねえか!!」

 

 

 

 

 

かわいそうなのは抜けない

 

 

 

 

 

 信じられますか? 私のピンチに現れた格好いいヒーローの第一声がこれですよ? しかも私に乱暴しようとしてたヴィランの……あれを……その……男性器を思いっきり捩じ切った上で。私がその時情緒不安定で冷静じゃなかったのは100も承知ですけど、普通は「君を助けに来た」とか「遅くなってごめん」とか言いません? 仮にも色んなヴィランにエロ同人みたいなことされる寸前だった女の子の目の前で言うセリフじゃないと思うんです。

 ……思わず笑っちゃいました。

 え? はい。そうです。

 

 

 

 もうほんとに峰田君らしいなって思って!

 

 

 

 


 

 

 

 

 相澤先生をスルーして高台に上がってこようとするヴィランの対処に手間取った。

 

「忍法、粘着糸の術」

 

 クソボケヴィランどもを剃との合わせ技で全員拘束、崩落しかけのビルから思いっきり吊し上げる。そして全員の股間を破壊したい衝動に駆られるけど我慢我慢。胸糞悪いが裁くのは僕らではなく法だ。僕はヒーローだし優しいので四肢のどれか1本の破壊と前歯の全ロストで済ませてやる。

 

「ひょ、ひょれへもひーおーしほうあお?」

 

 でもやりすぎても仕方ないよな。

 僕はまだ入学して一か月くらいの学生だから。

 

「ヴィランが何か言っている」

 

 ……。

 あれ?

 全員が気絶したようだ。

 なんとなく見たままを呟いただけだったんだけどな。

 

「み、峰田君」

 

 あ!

 

「葉隠ちゃん」

 

 これは要救助者の状態確認なので見えちゃうのは許してほしい。

 呼吸の乱れは無し。お尻、背中、肩、両足の内ももと膝裏に軽傷あり。

 骨折箇所は無いけど手首の痣が特に目立つ。

 最悪は無い。僕は間に合った(・・・・・)ようだ。

 

「今から……君の手首に触れるよ。いい?」

「う、うん」

 

 差し出された手首をそっと握った。

 ……脈が速いけど乱れてはない。

 

「次は君の手を握っちょ、うわっ」

 

 急に抱き着かれてびっくりしたけど、そっとハグを返す。乱暴されかけた後だし段階を踏んで落ち着かせようと思ったけど、これが葉隠ちゃんの望みなら、僕は全力で応えるだけだ。

 

「もう大丈夫」

 

 現場の痕跡から見るに、ただ逃げ隠れしていた訳じゃない事が分かる。少し離れた所に意識を失ったヴィランの気配も感じるし……。ああ、でもいつ目覚めるかわからない。僕が相手の個性を知らない以上、ここに葉隠ちゃんを置きっぱなしにするのは危険だ。

 そっと葉隠ちゃんとのハグをやめ、彼女の目を見て言った。

 

「今から君を安全な場所に移動させる。いい?」

 

 頷きを見た瞬間僕は緩やかなスピードで月歩を始め、現在地の崩落エリアから少し離れた場所まで移動する。途中でバックヤードと書いてあるドアを発見したのでこれ幸いとお邪魔した。

 セメントスが使うんだろうな、コンクリのブロックが滅茶苦茶詰め込まれた大型の倉庫だ。バックヤードにしては規模がデカすぎない?

 

 近くに3番待機室と書かれた小部屋を見つけたので、葉隠ちゃんはここに置いていこうと思う。最近まで人が居たのかな。痕跡が残ってるけどその方が安心できるだろうか?

 

「葉隠ちゃん、ここでいいかな」

 

 葉隠ちゃんを仮眠室のベッドに、あれっ。

 ああ、寝ちゃったのか。もしくは気絶しちゃったか。

 抱っこしていた葉隠ちゃんをそっとベッドへ横たわらせた。

 裸は冷えちゃうからね。そっと毛布も掛ける。

 

「……」

 

 部屋を出た後、仕方ないのでコンクリの立方体をドアの前に置いた。

 

「……」

 

 全くもう。君が寝ちゃったら誰が内側から鍵を掛けるんだい?

 

「……」

 

 あっはっは。

 

「……」

 

 移動しながら見聞色の覇気を巡らせる。A組の皆もそうだけど一番心配なのは単身でヴィランの群れに乗り込んでいった相澤先生だ。月歩で上空に上がって俯瞰すると、ちょっと笑い事ではない事態になっている事が分かった。13号が多分戦闘不能。あれ、飯田君が居ない。死んだ? いや、死体は無い。逃げた? 伝令……そうなったと思う事にする。飯田君は逃げることが出来た。絶対そうだ。あとは相澤先生がハルクみたいなやつにやられた。しかもあれ腕砕かれてないか?

 緊急事態だ。だよね? これ以上は相澤先生が死んでしまう。そしてみどりゃーと梅雨ちゃんに接近してるあいつもどうにかしないと。みどりゃーは見た感じもう自衛できない。僕単独でお手々マン、黒もや、ハルクみたいなのを相手にするのか……。

 全力出してもどうだろう。

 いや違う。

 やる。

 出来る。

 見てろ。

 全力出したらあいつら全員豚箱行きだ。

 粘着球を3捥ぎ(・・・)、コストとして捧げる。

 形状変化。薄く、強く、伸ばし、整え、形作るのは大型の十字手裏剣。

 

「忍法、粘着手裏剣の術。武装色硬化」

 

 武装色は物に纏わせても数秒は硬化が持続する。

 

紫玉手裏剣

 

 振りかぶって投擲。そして月歩、剃で一気に移動。

 先生を拘束していたハルクの両腕がスパッと切り落とされるのを横目に、梅雨ちゃんとみどりゃーの眼前まで移動。お手々マンが伸ばした両手と組み合った。

 

「あぁ? 生徒か?」

「素敵なアクセサリだね」

 

 手首を掴もうとしたんだけど、向こうは恋人繋ぎをご所望らしい。

 触れたり握ったりが個性のトリガーなのかな?

 

「ヒーロー志望って愚かだよなあ」

 

 あ?

 

「このまま崩壊ィィギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?

「っ……なぁにダーリン。放してほしいの?」

 

 組み合ったヴィランの両手を思いっきり握りしめて破壊。

 なんか痛いけどこんくらい誤差だ。

 いや痛くない。

 全く痛くない。

 絶対痛くない。

 武装色で耐えてる。

 そういう事にしといて。

 今そういう事になってるから。

 

「もう。ダーリンったらお手々いっぱい付けてるからこういうの好きなのかと思っちゃった!」

「放せッ! クソがッ!! 放せェエエエエエッ!!」

 

 何より僕は今、怒っている。

 

「ダーリンから恋人繋ぎしたのにぃ!」

 

 じゃあこれでもどうぞ!

 

「ぅぉげはっ!?」

 

 顔面に飛び膝蹴り!

 そして浮いた体に回し蹴り!

 ハルクと黒もやの方にまで思いっきり吹っ飛ばす。

 

「死柄木!?」

「み、ねた……」

 

 ハルクは近くで見ると結構デカいから多目に使う。

 コストとして5捥ぎを捧げる。

 作るのは細くて長い、3mはある長い針を十数本生成。

 

「忍法、影縫いの術」

 

 それらを武装色で硬化し、お手々マンとハルクに思いっきり叩き込んで地面と縫い付けた。その瞬間に硬化を解除し、床と敵をそのまま柔軟性と粘着力を取り戻した針……いや糸で拘束する。お手々マンが絶叫してるがお構いない。わざと糞痛い所を狙った。ハルクは全く動かないな。

 

「ゲートを……――」

 

 

 

 ――……絶対に出させません。目の前で脱出ポータル出すとか対人経験絶無か? 武装色で硬化した腕で黒もや野郎の広がった体を掴んで引き寄せ、当たり判定デカすぎなんだよボケがと脳内であらん限りの罵倒を浴びせながら10回ほど殴り倒した。当然、1回1回殺意を持ってだ。おめーが居なきゃ葉隠ちゃんは怖い目見てないんだわ。

 

「みね、た」

 

 あ。忘れてた。

 

「先生、すぐに移動します」

「ちょ」

 

 相澤先生を担いで剃。離れた物陰に安置。

 もっかい戻ってきて、今度はみどりゃーと梅雨ちゃんだ。

 

「峰田ちゃあああららら」

「峰田くぅぅあわわわわ」

 

 二人を担いで剃で移動。相澤先生の横に安置。

 流石に二人は速度めっちゃ落ちるな。

 

「みねた……待て……」

 

 死にかけの相澤先生がなんか喋る前にここに居てくださいと言葉をかぶせてもう一度、そこで伸びてる黒もやとお手々マンとハルクの目の前に戻ってくる。

 ……なんか紫玉(しぎょく)手裏剣でぶった切った両腕が再生してない?

 

「ぜ、ぜってえ、ぶっ殺してやる……脳無!」

 

 ノーム?

 あ、やばっ。影縫いをぶっ千切って殴りかかってきやがった!

 受け流しても両手がビリビリしてる。

 

「殺せ!」

 

 とりあえず腹蹴って顎に拳当ててむき出しの脳味噌に踵落とししたけどイマイチ効果薄いな?

 

「は、はは。ショック吸収に超再生の個性だ! 対平和の象徴兵器、怪人脳無!」

 

 はぁ? 個性二つ? いや二つどころじゃないだろこれ。見た感じ4つ以上個性持ってる。ありえない。ヤバすぎる。複数個性って何事だよ。師匠から噂は聞いてたけど。ていうか少なくとも身体機能は素。相澤先生が一方的にやられてたし。ただ外皮の堅さは普通のようだ。影縫いの針が通るレベルならいくらでもやりようはある。

 

「オールマイトを殺すために産まれた、最強のサンドバッグ人間だ!」

 

 右ストレート。速い。

 コストとして粘着球を1捥ぎ捧げる。

 ベールの様に広げて衝撃吸収。

 僕は粘着球の性質とその反動で大きく距離を取る。

 

「忍法、空蝉の術」

 

 その速度と勢いを保ったまま"カーブしつつ"剃を行使。脳無の脳天を思いっきり覇気を込めた踵落としでぶち抜いた。やっぱ覇気込めて殴ればマシっぽいな!

 

「へ、へへ。いいぞ脳無、続けろ!」

 

 あ、もしかしてダメージ貫通したのバレてる?

 空蝉に使う粘着球が足りなかったみたいなんだよね。

 テレフォンパンチの右ストレートをそのまま真下へ弾き飛ばした。さっき空蝉の術で使った粘着膜が付着したままだから当然、地面にくっ付いて一瞬のラグが発生する。ここぞとばかりに乱打を打ち込んだ。回し蹴り、アッパー、膝蹴りに叩き付け。受け流し、前蹴り、受け流し……!

 

「もう! けほっ。そんなに、うわっ。僕に夢中なんだ……ねッ!」

 

 糸で地面と縫い留めてキック。

 もっとキック。もっかいキック。

 糸じゃやっぱ拘束時間に限度があるね。

 これじゃ千日手……いや、僕が消耗して死ぬなぁ。

 あ。

 やば。

 緩んだ。

 

「は、はは。その変な力、さては消耗するんだな? 動きが鈍ってるぜ」

 

 ノームさんが9/3トランプル二段攻撃①再生*1で攻撃。

 戦闘ダメージステップです。何かありますか?

 すいませんそのパンチ、ライフで受けます。*2

 

 

 

 


 

 

 

 はっ。やべえ気絶してた。今はガード越しにパンチ喰らったよな? ヤバい。マジで死ぬ。師匠の下着でシコってたのがバレた時のお仕置きパンチ並みなんですけど? 10歳の子にマジパンチするのちょっとヤバいよね。でもあれ僕悪くないよ。師匠がパンツとTシャツだけで同じ部屋うろつくんだから……1年もよく我慢したと思う。言えばわかってくれたからよかったけどさ。師匠の影響で中学生で配信始めて、バズって、トレーニングしつつも充実してたなぁ。

 

 走馬灯だこれ!?

 

 お、おち、おちちちち落ち着け。

 多分僕死ぬけど……?

 

「まだまだだな。雑魚め。鍛錬が足りない」

 

 ああ、やっば。懐かしいの出てきた。

 

「……アタシの二番目の親はそう言ったかもな」

 

 目の前に師匠が居る。まだほっぺに傷が無い。

 

「でもアタシはお前に言わない。頑張ってるよ」

 

 記憶の中の僕は首を横に振った。

 

「ったく。限界OL喪女オタクがこんなとこまで来ちまった」

 

 師匠は絶対に応えてくれない。

 

「親として、母として、アンタを愛してる」

 

 僕はどうなんだろう。息子? 男?

 

「逆光源氏計画なんて今時流行らないのさ。そうだろ?」

 

 そうだね、師匠。

 

「アタシ以外に大事なものが無いからさ。それはよくない」

 

 ……そうかも。師匠。

 

「アタシ以外要らないなんて言うな。もったいない」

 

 ……。

 

「嬉しいことが、あったんだよな?」

 

 ああ、あったよ。

 

「そうか! 横で見てたけどさ、やっぱ嬉しかったんだな!」

 

 嬉しい……。

 

「世界は広いんだ。きっと、アタシ以外へのLIKE(好き)LOVE()も見つかるさ!」

 

 本当?

 

「覇気は意志の力だ。好きが増えれば強くなる。愛は――」

 

 じゃあ、愛は……なんだっけ。

 

『あの、すみません!』

 

 続きは霧に隠れて思い出せない。

 

■▽■〇〇■〇■、■××■■〇■!?

 

 走馬灯が、終わりかけている。

 

 

 


 

 

 

 意識が戻った。腕越しの攻撃で気絶して、腹パンで起きた? まだ目の前に居る? ノーム居るね。口の中で血の味がする。すぐに着地。お団子に手を突っ込んで反撃の準備だ。

 

「影縫いの術」

 

 拘束だ。コストは7捥ぎ。

 さっきよりも多い数で拘束する。

 

「そりゃ無駄だってわかんねえのか!?」

「いいや、無駄じゃない」

 

 時間が稼げればいいんだ。

 ああ、頭が痛い。でも圧縮しろ。

 今千切れる全ての粘着球をコストとして捧げる。

 

「粘着糸の術」

 

 馬鹿の一つ覚えみたいな右手の攻撃。

 と見せかけた全身での拘束か。

 月歩で上空に避ける。そう、お前は僕を追うよな。

 そういうコマンドを受けているから。

 

「重たっい……けどぉッ!」

 

 粘着糸で遠くから思いっきり引き寄せるのは、崩落エリアにあった崩落したビルの一部。ああ、こんなに無理したら普通命が持ってかれていく感じがあるんだけど……今は無い。

 

「武装色、硬化」

 

 嵐の様に吹き荒れる僕の胸中のどっかにある、冷静な部分が囁いた。ちょっとこれはまずいかも。でも関係ない。緊急事態だ。学生だからって舐めやがって。クソ。ボケだ。ボケが。思い知らせてやる。僕を怒らせたらどうなるか。怒る? ああ、そうだ。

 

「僕は怒っている」

 

 

 

 

 

 ノームとやらを硬化したビルの残骸で思いっきり叩き潰した。

 

 

 

 

「は?」

 

 ちょっと黙ってろ。お手々マン。

 残骸を振り上げる。再生が始まっていた。

 

「ノーム、だっけ。動くな。動いたら手加減出来ないよ」

 

 叩き潰す。

 残骸を振り上げる。再生が始まっていた。

 叩き潰す。

 残骸を振り上げる。再生が始まっていた。

 叩き潰す。

 残骸を振り上げる。再生が始まっていた。

 叩き潰す。叩き潰す。叩き潰す。叩き潰す。

 ……よし。

 

「そのまま動くな(・・・)よ」

 

 ビルの残骸を肩に担ぐ。

 

「ぉ……おいおいこれがヒーローのやる事か?」

「お待たせ~ダーリン♡」

 

 次はお前だ。

 

「待った?」

「ッ!?」

 

 段々重くなってきた。ちょっと辛い。

 

「……?」

「1mmも動かないでね、ダーリン」

 

 次だ。次で絶対仕留める。

 

「ははっ。お前――……」

「口動いたな。死ね」

 

 ビルの残骸をお手々マンに振り下ろした。

 ……。

 あれ?

 手ごたえ無い。

 なんで!?

 

「お前マジで殺す気だったろ……」

 

 声が聞こえる方を振り向くと、黒いもやもやワープゲートから半分顔を出したお手々マンの姿が。あいつが起きちゃったか。最悪殺す気で殴ったんだけど。

 あー、ヤバい。

 膝震えてきた。

 覇気切れ近いな。

 

「マジでイカレてるぜお前。でももう限界だろ?」

「流石に……げほっ。わかっちゃう?」

 

 両手からも口からも血ダラダラだし。

 コスチュームはお腹の所破けてるし。

 ダメだ。もう覇気でなあなあに出来ないレベルになってきた。

 ……ノームとやらの再生もまたゆっくり始まってる。

 ワープゲートで手だけ転送されたら詰みだね。

 今の僕はただのナイフで死ぬし。

 

「じゃあ峰田実。お前脳無の仇だけど、一緒に……――」

 

 

 

 

 ……お。この声は。

 

 

 

 

「私が来た!」

 

 

 

 

 ……もう。

 大丈夫かな。

 ちょっと、やば。

 

「よく頑張ったな。峰田少年」

 

 あ、誰? 目の前に来た?

 オールマイトかな。この炎。

 多分これは間違えない……。

 

「葉隠、ちゃんが」

 

 向こうの3番待機室に。

 

「あっちに葉隠少女が居るんだな!」

 

 

 

 ああ。

 安心したらなんだかお腹空いたし、眠……い。

 

 

 

 

*1
なにこれ?:これはパワーが9、タフネスが3のクリーチャーがダメージを貫通させながら1回の戦闘で2回攻撃してくるという事です。こいつを何らかの手段で破壊、もしくはクリーチャーで防御等をしない場合、合計18点のダメージを受けます。MTGの基本的な初期ライフは20です。仮にノームを破壊しても任意の色の1マナを支払えば再生して戦場に残ります。うんち。

*2
ライフで受ける:初出はバトスピ。作者の周りのMTG界隈でも使われている。他TCGの例に漏れず、MTGにおいてもライフはリソースの一つでもある。0にならない限り負けないので。







 次回、USJ襲撃の後日談など。




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009





 ここすきしてくれる人、僕も好き



 感想も評価もありがとうございます。励みになってます。


 


 

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 雄英高校、過酷すぎる

 《画像:病院個室ベッドの上で上体を起こすミイラ》

 

  ――このツイート何日か前に見たな?

  ―― 志 々 雄 真 実

  ――想像の100倍志々雄で草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草、紅蓮腕使え

  ――ウレンカイァナ!

  ――両手もギプスでガチガチやん!!

  ――ウレンカイァナしたらお手々吹き飛ぶね♡

  ――面白がって使いそうだからやめろ

  ――え、これスケベ忍者?

  ――スケベ忍者くんだよ

  ――マジで草

  ――調子ぶっこいた結果だよ?

  ――峰田ァッ!

  ――お外大炎上してるで

  ――速攻鎖国したハイウェイちゃん有能

  ――どういうスパンで大怪我してんの?

  ――朝のニュースで名前見ておかゆ吹いた

  ――峰田大丈夫か?

  ――肉食え肉

  ――お腹空いたんちゃう?

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 今日のおやつです

 《画像:折りたたみテーブルを使ってまでベッドの周りに置かれた肉料理の数々》

 

  ―― い つ も の

  ―― や っ ぱ 肉 だ ね

  ―― 医 者 よ り シ ェ フ

  ――なんで?(困惑)

  ――こればっかりはマジで意味不明

  ――肉食べたら傷一つなく治るんだってさ

  ――マジで意味わからんこいつ

  ――ニュースでお手々

  ――放課後デートしたら殺す

  ――米が無いの"マジ"って感じする

  ――放課後デートしたら殺すニキ!?

  ――久しぶりやん!!

  ――放課後デートしたら殺すニキもよう見とる

  ――で、これ誰に食べさせてもらうの?

  ――は?

  ――あー

  ――(舌打ち)

  ――ヒント:取り皿とスポーンと箸の位置

  ――スポーンってなんだ?

  ――バレちゃったね

  ――あっ(察し)

  ――ふーん

  ――りょうてギプスではたべられない

  ――放課後d-えおつぃやらこすい

  ――放課後デートしたら殺すニキ!??!?!?

  ――放課後デートしたら殺すニキが……

  ――致命的ダメージ喰らってて草

  ――バグっとるやん

  ――ヤバスンギ

  ――壊れちゃった

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

  ――1時間経ったけど飯食っとるんやろな

  ――そりゃあの量をあーんするんだし

  ――死にたい

  ――この程度のお砂糖に負けるな

  ――むり

  ――おい

  ――なんか呟け!!!!

  ――イチャついてんのはわかってんだぞ!

  ――陰キャァッ!!

  ――キャラ捨てんな!!

  ――大阪や!!!!!!!!

  ――お゛ま゛え゛こ゛っ゛ち゛か゛わ゛た゛ろ゛

  ――放課後デートしたら殺すニキの霊圧が無い

  ――こいつら今何やってんだろな

  ――何って

  ――そりゃあ

  ――ねえ?

  ――あーんしてるんでしょ

  ――(舌打ち)(溜息)

  ――ブロックまでしろ

  ――で、お前らが高1ん時はどうだったん?

  ――急にフラバさせるのやめようぜ

  ――人の心とか無いんか?

  ――スケベ忍者通して高1を取り戻すな

  ――ちくちく言葉はスケベ忍者に向けろよ

  ――リスナーとリスナーでちくちくし合うな

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 治った! 凄いね!

 《画像:前下りショートボブの黒髪美少女がベッドの上でダブルピース》

 

  ――????????????

  ――????

  ――?

  ――!?wwww!?!?www

  ――?w

  ――はぁ?

  ――えぇ……

  ――?????????

  ――??????? これマジ?

  ――?????

  ――え???????

  ――????wwww

  ――嘘だろ……

  ――??????????

  ――なんで?(疑問)

  ――コラだろ?

  ――違います

  ――流石にこれは

  ――新しい髪形可愛い

  ――いやこれ本物じゃね?

  ――流石に昨日と今日の画像でしょ

  ――あっあっあっ時計

  ――時計?

  ――ベッドの近くの時計が

  ――あっ

  ――え

  ――時計が時刻完全一致モデルで草

  ――いくらでも弄れるだろ

  ――これ医療現場の時計なので弄れません

  ――1時間で肉食べて治ったの?

  ――刃牙でももうちょい理屈こねるぞ

  ――エイリアンかな?

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 暇なので二人で歌いました。病院ですが防音完璧です。

 https://www.nicovideo.jp/watch/smXXXXXXXA

 

  ――歌っとる場合か!!!!!!!

  ――すまんけど草

  ――ぼくはくま?

  ――ぼくはくま……

  ――くま

  ――くま

  ――くま~

  ――釣られないけどシコれるよ

  ――やめんか

  ――ごめん二人ともクッソ可愛い

  ――このインスタントにたった今撮りました感凄い

  ――チョイス謎

  ――ど、童謡……

  ――脳みそがとろけそう

  ――ママ?

  ――あっあっあっ

  ――ママ……

  ――おんぎゅあああああ!!

  ――阿鼻叫喚の地獄絵図

  ――ハイウェイちゃんやっぱり歌上手すぎません?

  ――ラジオの時に片鱗見せてたけどやっぱり

  ――わかる

  ――なんかすげー胸に来る

  ――生きてくれ

  ――別に死んでないんですけど

  ――切ないよな

  ――ぼくはくま、ヤバすぎる

  ――スケベ忍者は微妙。3点(3点中)

  ――採点激甘で草

  ――スケベ忍者の方は生歌がヤバいんだよな

  ――生歌?

  ――そうそう

  ――あの子は皆の前で歌うとヤバい

  ――感情が伝わってくるんだよな

  ――電気信号通すとダメ

  ――オフイベの罰ゲームで歌わされた奴がヤバかった

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 そんなにヤバかった? 超恥ずかしかったんだけど

 

  ――初恋失恋直後シャルル

  ――あれマジで配信じゃわからん

  ――スケベ忍者のシャルルは人殺せる

  ――半年後のプラチナも大概だっただろ!!

  ――プラチナすき

  ――多分皆泣いてたんじゃね?

  ――プラチナ>>越えられない壁>>シャルル

  ――あの年のニコ動ファンフェス夏冬通しで現地行けた奴が一番優勝してる

  ――NNMFF023、024現地行けたけどドラマ感じた

  ――024はライブ開始前に命乞いしてる人見かけてな……

  ――絶望のシャルル/希望のプラチナ

  ――ポケモンの新作かな?

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 ⚠私はプラチナで泣きました⚠

 あと今日は配信しないそうです。

 

  ――出来る訳なくない?

  ――1stリプ兄貴の言う通りすぎる

  ――配信おねだりする方が邪悪

  ――もしかしてこの子厳しい?

  ――いやだってスケベ忍者クラスタだし

  ――流石古参

  ――お歌やばかったよね

  ――聞きてえ……

  ――文化祭で歌ってくんねえかな

  ――文化祭あるじゃん!!!!!

  ――天才現る

  ――ワイ雄英経営科、真剣に検討

  ――順調に外掘り埋められてる

  ――でもこいつそれまで生きてるか怪しくない?

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――確かに

  ――ワンチャンこのペースだと死んでるね

 

 

■ハイウェイちゃん@ToumeiGIRL2231

 @SUKEBE_NINJA じゃあ今度カラオケ行こう?

 

  ――フットインザドアじゃん……あれ?

  ――何が"じゃあ"なのか説明しろって

  ――青春満喫するな

  ――すんごくグイグイ行くね

  ――高校デビュー早々ペアでカラオケ???

  ――(舌打ち)(舌打ち)(舌打ち)(舌打ち)(ため息)(ミュート)

  ――お前こっち側だろ……

  ――俺ヴィランになりそう

  ――放課後デートしたら殺す

  ――ヴィランおる

  ――↑流れ完璧すぎて草

  ――見直したけどリプがパワーアップしてるぜ

  ――忍者クラスタの連携力ヤバ

  ――んん。

  ――それはそうと

  ――は?

  ――甘すぎる

  ――ダメだ

  ――やめてくんない?

  ――死にそう

  ――だって目の前に絶対居るのに

  ――ドスケベ忍者ガチ恋勢が死ぬ

  ――居るの?

  ――居ないよ

  ――居るよ

  ――でも幸せなら

  ――OKな訳ねーだろ!!ぶっ殺すぞ!!

  ――誰だよ連携力がどうこう言った奴

  ――ハイウェイちゃん逃げて

  ――ついにこの子にも牙をむき始めたスケベ忍者クラスタ

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 反応に困るから目の前に居るのにSNSで話すのやめてほしい

 

  ――可愛いね

  ――照れてるの?

  ――あーんされて可愛いね

  ――でも死ね

  ――いつか殺すからな

  ――クラスタが豹変してて草

  ――高1になって調子乗ってる

  ――放課後デートしたら殺す

  ――俺も殺す

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 @ToumeiGIRL2231 いいよ

 

  ――いいのかよ

  ――草

  ――素直か?

  ――この流れどっかで見たな

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――もうちょいかんがえて

  ――脳みそ揺さぶられてない?

  ――IQ2くらいの回答

  ――頭痛いんでしょ(憐憫)

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 ついにうちの子にもいーあるふぁんくらぶをデュエットする相手が……って泣いてます。お絵描きおばさんが全部描いて動画も作ってあげるからね……。

 

  ――古いんだよババア

  ――調子乗んなよババア

  ――絵だけ書いてろババア

  ―― バ リ サ ン

  ――流石に古いですね……

  ――スケベ忍者クラスタが狂犬過ぎる

  ――神絵師を恐れぬ恐るべきリスナー

  ――どうどう、忍者リスナー

  ――今はチューリングラブだろ

  ――の、脳漿炸裂ガール……

  ――ハ、ハッピーシンセサイザ……

  ――老人会かな?

  ――ハピシン10年以上前だよ?

  ――え

  ――n

  ――??

  ――無差別テロですよこれは

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 はっぴーしんせさいざが10ねんいじょうまえ?

 

  ――破壊されちゃってるじゃん

  ――忍者リスナーめ

  ――みんなのママをいじめるな

  ――原稿遅れたらどうすんだ

  ――繊細だからあんまり虐めないであげて

  ――めっちゃ気にしてるんだよ

  ――ごめん

  ――悪かった

  ――すまん

  ――素直か!

  ――でもあの子たちがカリカリするの仕方なくない?

  ――推しがすんごく大変だもんね

  ――いらいらしちゃうのわかる

  ――大怪我してたよ。超痛そう。

  ――たくさん食べたら治ったらしいよ?

  ――すごい!

  ――よかった~

  ――↑民度の違いがね

  ――わぁ……

  ――なんか浄化される

  ――邪魔したわ

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 たまに、一人きりになると。

 無性に泣きたくなる時がありませんか?

 

 読書をしている時とか。

 電車を待っている時とか。

 眠ろうと横になった時とか。

 

 僕の場合「そういえばお前歌上手かったな」とか「ゲームでキレるだけじゃなかったんだね」とか「今は昔」とか「過去の栄光」とか「あんなんなっちまって」とか「武道館ライブしかしなかった男」言われて泣きたくなるどころか泣いちゃうね。ちょっと覇気込めて歌いすぎちゃったから僕にとっては失敗なんだけど……懐かしいな。

 

 でもあえて、泣きたくなる時と表現するのは。

 

 

 公安が何故か僕の家に家宅捜索に入ったと知った時とか

 

 家の電子機器が根こそぎ持ってかれたと聞かされた時とか

 

 入院中の着替えを家から持ってきてくれたのがオールマイトとわかった時とか

 

 

 ……かな。思わず顔を覆いました。

 現在の時刻は夜の20時。

 

 

 

 昨日は医者と会話、検査検査検査、寝る、体拭く、腹減る、暴れる、寝る。

 ……と、今思い返しても退屈だしお手々固定されてるし全身の包帯は蒸れるしお腹空くし情報は全く降りてこないしで最悪だった。

 

 

 だけど今日は昨日の分の揺り戻しが来た。

 退屈は全くしなかったといっていい。

 その代わりめっちゃ疲れたけど。

 

 

 8時。

 僕起きる。この時点でもう滅茶苦茶お腹が空いて超機嫌悪い。だけどお医者さんがまるで地獄の窯の下で起きている地響きのようなお腹の音に気付いて食料の調達を開始。おっぱいが大きくて綺麗なナースさんが買ってきてくれた様々なコンビニ飯を延々とお口に運んでもらってた。他のナースさんも頭をよしよししてくれたりお水をストローで飲ませたりしてくれたので、後半は「もしかしたら僕もう死んでるんじゃないかな」とか思ってた。ほんとに。

 

 

 9時。

 ナースさんからあ~んされまくってうんうん苦しゅうないとかやってたら突然相澤先生がやってきて魂消た。患者として当然の権利なのになんだか悪いことしてた気分になった。

 相澤先生は戦わせて済まないと頭を下げてくれた。偏に先生たちの責任だ、と。実は除籍かなと思ってたので正直驚いた。時間はあるかと聞いたら10時に校長先生たちが来ると言われたので、結構な時間お話に付き合ってもらった。主に俯瞰的に見て僕の動きはどうだったか、という話をした。

 この事件において俺は採点出来る立場にないと固辞されたけど、立ち回りの改善点はしっかりと貰った。曰く、あの瞬間のベストは相澤先生を見捨てる事を考えるべきとの事。

 絶対嫌ですと言ったら先生として理詰めで諭された後、個人として感謝された。

 

 相澤先生の両腕はしっかり動くようになるらしい。

 頭部の怪我もヒビで済んだそうだ。

 

 

 10時。

 朝から校長先生と13号先生とオールマイトが態々頭を下げに来てくれた。お咎め無しなのはよかったけど、オールマイトを始め先生をこの場に拘束してる事実が罪悪感を生んでいるので早々に帰ってもらった。

 残った相澤先生と校長先生からやーっと事件の顛末を聞く。僕以外にはみどりゃーが両腕と片足ぶっ壊したくらいだったらしい。なんでそんなことにと聞いたら、水難ゾーンで梅雨ちゃんと一緒に水中戦をこなしたんだとか。凄すぎる。どうやったのか後で聞こう。

 

 そして葉隠ちゃん。

 心身共に無事、と聞いて心底安心した。それと同時に僕が1週間以上寝込んでいたこともこの時発覚した。日常生活にも支障はないようだ。後は今後の経過でPTSD等の症状が出ないか確認する、との事。

 

 ちなみに13号先生は想像以上にキュートだった。

 

 

 11時。

 相澤先生と校長先生が帰る。帰り際校長先生からスマホを返してもらったけど、両手のギプスが外れないのでどうしようもなかった。ナースさんにおしっこ手伝ってもらうついでに適当な洋画を再生してもらった。この時のナースさんは男性だったから心の底から安心。

 

 

 12時。

 よくわからんメディカルポットで検査。暇だし超お腹が空いた。

 

 

 13時。

 葉隠ちゃんとご両親がお礼を言いに来る。

 お礼の品が無茶苦茶高いアイスクリームの全種詰め合わせだった。"わかっている"チョイスだったので葉隠ちゃんに聞いたら、「個室にデカい冷蔵庫あるのは相澤先生から聞いた」「本命はこの後来ますので」と返された。甘いモノ助かります。

 葉隠ちゃんのご両親は早々に帰った。

 ……その後は包帯の交換の時間になったんだけど、何故か葉隠ちゃんも包帯を巻く勉強がてらやりたいと言い出したので、押し切られる形で手伝ってもらった。ナースさんが葉隠ちゃんを揶揄ってたので「ナースさん勘違いしないでほしいんですが、葉隠ちゃんはただの友達です。彼女に失礼なので止めてあげてください」ときっちり伝えておいた。

 

 ちなみに仕上がりは志々雄真実みたいになった。やるの初めてっぽいし仕方ないね*1

 

 

 14時

 葉隠ちゃんのご両親からの本命が届いた。ランチラッシュさんの肉料理フルコースである。病院の関係者と雄英の皆さんの許可は取ったらしい。ありがてえありがてえと葉隠ちゃんにあーんしてもらいながら……あ。

 なんかさらっと流してたけどあーんしてもらっちゃったな……。え、あちょ。待ってくれ。胃が痛いよりも頬が熱い。僕から頼んだんだっけ、葉隠ちゃんから進んで言ってくれたんだっけ。ヤバいランチラッシュさんの肉料理に目が眩んで覚えてない。ていうか同じスプーンと箸で一緒に食べたから間接キスもしてません?

 

 

 15時

 完治。

 元気になったのが嬉しくて、ギプスは毟り取った。何故か包帯を毟り取ろうとしたら葉隠ちゃんが「あっ」って顔したので大人しく取ってもらった。練習台ね、うん。

 一緒にインスタントでお歌歌って投稿した。

 

 

 16時

 ナースさんと医者がホームアローンの子役みたいなあっちょんぶりけをかましてて草生えた。

 検査行き。葉隠ちゃんはこの後A組の皆が来るから病室に残ってた。

 

 

 17時

 検査から帰ってきて葉隠ちゃんと駄弁ってたらA組の皆が相澤先生の引率でやってきた。女性陣とみどりゃー、上鳴君、飯田君、切島君のラインナップである。全員は無理との事で前日にじゃんけん大会をしたそうだ。陰キャとしては誰も来ないより遥かにマシな状況で思わず涙が出てきてしまった。

 ちょっとドン引かれたけど心の底から安心してる。

 

 皆と楽しくお喋り出来たので超楽しかった。「戦闘訓練といい格闘自習といいこの間といい、戦う時は露骨に人格変わるよな」って切島君に言われたら全員に賛同されたり、相澤先生から「こいつ朝俺が来た時滅茶苦茶ナースさん達にちやほやされて鼻の下伸ばしてたぞ」と暴露されて女性陣が皆チベットスナギツネみたいな目で僕を見つめ始めたり、襲撃の事でちょっと真面目な空気になったりもしたけど「ポジティブ思考だぜ! 俺たちは壁を越えて強くなる!」っていう上鳴君の言葉に一致団結したり……。

 

 

 18時

 まだまだ騒ぎ足りなかったけど、相澤先生の一声でクラスの皆が帰る。帰り際の時点で僕の髪の毛は女性陣によって散々にデコられ、入院着はそこら中がみんなのサインとか落書きだらけになった。やっぱみんなサインとか考えてるんだね。

 帰り際、葉隠ちゃんからこっそりほっぺにお礼を貰った。

 

 

 19時

 相澤先生からの視線が生暖かい。*2

 そしてこの時間は滅茶苦茶申し訳無さそうに再び校長と今度は警察の人が入室。ここで公安のクソボケに電子機器を全部持ってかれた事を知る。自分のインターネット的生命線である電子機器に関する事は焼き鳥*3並みの沸点な事を自覚する僕は滅茶苦茶憤慨した。

 

 いつ返してくれるかもわからんらしい。クソ。配線とかすごーく苦労したので、原状復帰までやってほしいんだけど。ちなみにこれに気付いて公安に問い合わせたのは僕の着替えを取りに来たオールマイトって事もこのタイミングで知る。僕は世界ナンバー1のヒーローに着替えまで取りに行ってもらったことの罪悪感で死にそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在。

 

「っていう訳。流石に疲れた」

「……」

 

 ベッドのそばに座る女性は、僕よりもハーゲンダッツに夢中のようだ。とっくに面会時間なんて終わってるんだけど、この人はさっき窓をノックしてきたのである。

 そのうちハーゲンダッツを食べ終わった彼女は満足した様子で何度も頷いた。その動きに合わせて金色のショートヘアがキラキラと瞬く。

 

「で、何しに来たの? 師匠

 

 目の前に居る男装の麗人は頭に被ったままの、ゴーグルが付いたシルクハットをそっと脱ぎながら呟いた。

 

「頑張ったな」

 

 え? あ、うん。ありがとう。

 シルクハットを握る反対の手で頭を撫でられたので、有難く享受する。師匠は背が高い。手も大きい。わしわしと撫でられるのは小さいころから好きだった。今も……今も好きだ。

 ……。

 ……師匠?

 あのー、師匠?

 どうしました?

 

「いや、案外複雑な気分になるもんだなと」

 

 何が? と思ったところで手が離れた。僕を家から叩き出した師匠が今更寂しがるわけないし。

 

「心配してくれた?」

「ああ。あの時はたまたま見てたんだが心臓が止まるかと思った。アタシ、実が負けるかと思ったよ」

 

 でも勝った!

 僕はドヤ顔でふふんと胸を張った。

 

「どうよ!」

「心の中では本気でそう思ってないだろうってとこまで含めて見直したんだよ、アタシは」

 

 思わず閉口した。お見通しってわけか。隠せるとも思ってないけど、さ。オールマイトが居なかったらと思うとぞっとする。僕が敵の目の前にも関わらず途中で力尽きたのは事実。

 力不足を痛感した。正直な話、この世界では圧倒的な暴力があればどうとでもなる。ヒーローとヴィランの戦いは突き詰めると暴力と暴力のぶつかり合いだ。僕はそれに負けた。一時は勝ったかもしれないけど、お手々マンと黒靄を始末できなかったのは事実なのだ。

 あのノームとやらもなんだかんだ再生始めてたし。

 

「僕はまだまだです」

「そうだな。この未熟者め」

 

 そう言ってくれる師匠。怒ってるのかなと思って恐る恐る顔を見るけど、逆に微笑んでいた。投稿サイトで質のいいBL同人誌を見つけた時と同じ微笑みなので、本当に怒ってないと思う。

 

「まさか崩れたビル全体に武装色の覇気を巡らせた上に硬化して維持するとは。実の成長曲線をアタシは見誤っていたようだ」

 

 えへへ。それほどでも……。

 

「と、いう事で」

「えっ」

 

 えっ。

 

「お前の覇気は十分な領域に到達したとアタシは判断した」

「あっ」

 

 あっ。

 この流れは。

 

「あ、こら! 逃げるな!」

 

 開いてた窓からワンチャンダイブ。

 ……したけど容易く捕獲されてしまった。

 そして急激な加速と重力を感じて気が遠くなる。

 ああああああ剃どころじゃないこれ縮地だ。

 

「その素敵な髪の毛のあれこれとサインだらけの上着はちゃんと脱がしてやるから安心しな」

 

 あ、あわ、あわわわわわわ。

 

 

 

 

お前に武装色の"次"を説明(・・)する!*4

 

 

 

 

「やっ、やぁああああっ! やだっやぁああ離して! 帰して! みーくんおうち帰して!」

「お前が頭の粘着球使い切っててよかった~」*5

 

 

 

 

 葉隠ちゃん!! 助けて!!

 

 

 

 

*1
ナース注:このクソボケがよ

*2
相澤注:訓練にストイックな峰田なら大丈夫だと思うが……授業で腑抜けないように注視する必要があるな

*3
焼き鳥:プロヒーロー、ホークスの蔑称。名古屋の手羽先居酒屋から出てきた所を激写、共食いと指摘され、SNS上でバチバチにキレたことから

*4
師匠の説明:「よし! これから説明する技術でお前をぶん殴るからな! あとは実戦で覚えていこうな!」

*5
師匠注:粘着球あると無駄な抵抗が長引くからな~







 次は日常回or雄英体育祭編。


 ガッポイ!




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010






 たくさんのここすき、ありがとうございます。
 ぼくもみんなすき。


 感想、評価もありがとうございます。励みになります。


 


 

 

 

 病院の正面玄関に作られたクレーターの中で埋まってた僕は、意識が無いうちに病院に回収、治療を受けた。一連の流れをお医者さんと相澤先生に説明したらマジの顔で虐待を心配されたけど「こういう家庭なんで」「ヒーローを目指すためです」と伝えておいた。ちなみにお医者さん曰く、ノームとやらに襲われた時よりも怪我の具合が重いらしい。なんかもう笑っちゃったよね。

 

 

 

 で、こっちは笑い事じゃない。

 

 

 

「で、どうなんだい? 心当たりは?」

 

 丸椅子に腰かけるセメントス先生。

 そして滝のような汗を流す僕。

 

あります……

 

 返答を聞いたセメントス先生は極めて感情の分かり辛い表情でため息を吐いた。

 セメントス先生曰く。先日回収された僕のパソコンの中身から児童ポルノが大量に発見されたと雄英に通報があったらしい。これは僕が違法な行為で集めていたとかそういう訳ではなく、僕の自撮り。局部は映ってないけど、劣情を掻き立てるには十分な威力の物がざっと300ファイル程。男の子だからトップレスでも問題ないよね。

 セメントス先生が持ったタブレットには僕のセクシーな写真がいくつも映ってる。いやーめっちゃ撮ったからなあ。

 

「……あ、あはは~! 僕めっちゃスケベに映ってま」

笑い事じゃない

はいしゅみましぇん……

 

 校長では遠すぎる。ミッドナイトは異性。オールマイトは向いて無さそう。相澤先生は担任で近すぎるという理由から、格闘自習後の片付けで話す機会が多かったセメントス先生にお鉢が回ってきたらしい。ダメだ相澤先生より怖い。

 

「君の生い立ちは教職員一同、理解している。ネット上での人気もね。君の保護者がサークル主を務めるサークルで芸能活動に打ち込むとは……私もちょっと調べてみたけど、おじさんになってくるとあまりピンと来なくてね」

 

 マジですいません……インターネットのアングラな部分を自主的に調べさせてしまって……。

 

「とんでもない! Twitchとやらのランキングでも君はトップ100に居るじゃないか! 人気とはヒーローにとって大きなウェイトを占める要素だよ」

 

 えへへそうですか?

 照れるなぁ~。

 

「反面、裏返る事もある」

 

 へ?

 

「重ねて聞くけど、本当に虐待ではないんだね」

 

 え?

 

「俺たちは君の保護者が、君を使って違法な取引を行っていることを強く疑っている」

「は!? ち、違います! それは僕がどんな固定カメラのアングルが一番かわいく映るかを研究してるうちにちょっと趣味になっちゃったもので……ネット上には上げてません!

本当に?」 

あんまり過激じゃないのは上げた事あります……

 

 セメントス先生が怖すぎる僕はびーびー泣きながら話した。

 そのデータ群は流出を防ぐためデジカメの中にしかない事。そのデジカメをPCに繋げたこともない事。SNSに上げたのは僕のスマホで撮った事。それを使って取引するどころか第三者に渡したこともない事。そして何より、その画像の全てはおちんちんがしっかり隠れてるので ――ギリギリですらない―― 客観的に見てもレーティングはR15が精々である事を。

 

「……わかった。話してくれてありがとう」

 

 差し出されたティッシュで鼻をかむ。

 

「ちなみにこの話題はジャブね」

「え?」

 

 ジャブ?

 

「本題があるという事さ。君が18禁コンテンツを提供するサイトに登録してる件じゃないよ?」

 

 僕が児ポを連想させる超絶スケベな自撮りを撮り溜め、保護者がそれを小児性愛者に売り捌いてる事を疑われた挙句雄英教職員一同からは性的虐待の心配をされている件がジャブ???

 いやいやいやいや怖い怖い怖い!! え? 何!? これから何が飛んでくるの!? 今から僕の顔面に来る右ストレートは一体何!? 相澤先生がヴィランの個性で女性になったからお前の新しい保護者になってもらうねって言われても驚かないぞ!!

 

「君の電子機器が一時回収された、そもそもの理由さ」

「……あ」

 

 確かに。

 

「実は君の保護者も君も潔白であることはわかってた」

「わかってた?」

 

 じゃあなんで……。

 

「それでも心配だったのさ。今の時代、養子になった子が酷い目に遭う事件が増えているからね」

師匠(・・)はそんなことしません!!

 

 ぶっ殺すぞ!!

 

「わかっているよ。落ち着いて、私の話を聞いてほしい」

「……」

「俺たち雄英の教職員はきっと大丈夫だと思いつつも、念のため君の口から事情が聴きたかった。事前に貰っていた報告と差異は無い。君はネットリテラシーも備わっているようだからね。さっきのジャブは"そう疑われかねない"という、俺達から贈る警告でもある。余計なお世話と感じたのなら、申し訳ない」

 

 警告。うん。そりゃ、まあ、有難い事ですけど……むー。「でも何事もないならそれでよかったじゃないですか」……とは子供のセリフなんだろうな。一回悪意ある伝え方をされたらいくら説明しても勝手に話が作られて行ってしまうのがインターネットの常だ。僕が先生の立場になったら一応本人の口から聞きたくなるし、警告もしたくなる。理屈は分かる。

 

「ここまではいいかな?」

 

 はい。

 

「じゃあさっきもちらっと話した、本題だ」

「僕の家の電子機器が持っていかれたそもそもの理由、ですか?」

 

 

 

 


 

 

 

 

『結論から言うと、君も複数の個性を持つ脳無なのでは? と公安は強く疑ったのさ。冷静に考えて、弱冠15歳の学生があんな動き出来る訳が無い……とね』

 

『それに君が気絶した後は……知っての通りオールマイトが交戦したわけだけど、脳無はそのオールマイトのパンチに耐えたのがまた、公安の警戒心を煽った様だ』

 

『雄英は君を信じている。だから今回の件、公安に対しては厳重に抗議しているよ』

 

 

 しばらくして。

 無事退院した僕はクラスの皆からの熱烈な歓迎を受け、昼休みに至る。ぶっちゃけ集中できてなかった。やっぱりまあ、そうだよね。あのノームとやら……脳が無い、で脳無って言うらしいけどあれと同類にされちゃったのかー。そっかー。まあ傍から見たら僕の個性は髪の毛の変質、増強、索敵の三種あるって疑われても仕方ないよね。ていうか普通に考えてオールマイトのパンチ吸収する敵を打撃で凌いだ時点でもう公安からマークされるのは当然だったんだろうな。

 

 ランチラッシュさんのご飯もそこそこに ――入院中の差し入れについてはしっかりお礼を言った。―― 無心でフレンチトーストを頬張る。パクパクですわ*1。途中、僕のテーブルが想像以上に空いてる(・・・・)事に気付いた上鳴君たちが押し寄せて元気づけたりもしてくれたけど、まあ、食欲はあんまり戻らないよね。教室に戻ってから皆に心配されたので胸中をリリースしたいけどそうもいかない。こういう公安絡みの事は言っちゃダメっていうのは僕でもわかる。

 

 

 

 

「あの真っ黒脳味噌マンと間違えられるなんて!! どっからどう見ても!! 僕の方が可愛いんだし見分けがつくでしょ!!」

「「「えぇ……」」」

 

 でも我慢できませんでした。

 僕の方が絶対可愛いしスケベなので。

 

「全く失礼しちゃうよ。ね、青山君」

本当だね☆

 

 時刻は放課後。いつもの体育館Σで格闘自習をするために集まった皆と柔軟しながら駄弁る。青山君体柔らかいなー。今日のメンツはヤオモモ、芦戸さん、耳郎さん、葉隠ちゃん、青山君、瀬呂君、上鳴君である。みどりゃーは用事があって遅れるそうだ。監督のミッドナイト先生が来次第、僕が居ない間の成果を見せてもらうつもり。

 

「もしかしてお昼少なめだったのってずっとそれに怒ってたから?」

 

 いや、さっきまではシンプルに傷ついてただけだよ葉隠ちゃん。メンタルは今回復した感じ。回復したらこう、一周回って怒りが湧いてきた。みたいな? そんな感じ。

 

やっぱ峰田っておもしれー頭の構造してるよな!」 

「うるせーんだけど……」

「でも峰田さんの……ええと、覇気があなた自身の修練の結果であるというのはわたくし達痛いほど身に染みてますわ」

 

 ヤオモモの言葉に周りに居る皆がうんうんと頷いた。

 少し前、格闘自習で"覇気を習得したい!"というリクエストにお応えして僕が習得した際の修行をそのまま行ったことがある。一番の参加人数だったなぁ。

 

「『まず皆を起き上がれない状態にするから、気合で起き上がって』だっけ」

「キツかったね……」

 

 芦戸さんのげんなりした声に葉隠ちゃんが同意した。まあ覇気を命の取り合い以外で習得するならあれしかなかったんだよ。何故か突然相澤先生とミッドナイト先生まで混ざってきたから思わず滾っちゃったのもあるけど。*2

 

「でも峰田を知らん人達には個性いくつか持ってるように見えちゃうのは事実でしょ? 今回はタイミング悪かったのもあると思う」

「おい耳郎、そんな言い方」

「いや、事実だよ上鳴君。耳郎さんも、ありがとね」

 

 そう。

 外見は全く違っても複数の個性持ちって公安に疑われてるのは事実。

 ならどうすればいいか? 答えは死ぬほどシンプルだ。

 

「なら知らしめればいいじゃん!」

 

 葉隠ちゃんがいえーいと両手フリフリしながら叫ぶ。

 

「雄英体育祭で!」

 

 うんうん。

 

 

 

スケベ忍者を!!

 

 

 

 一斉にみんなが噴き出した。

 葉隠ちゃん? 僕のハンドルネームをお出しにならないで?

 あとヤオモモ? 君割と下ネタ大丈夫そうだね。一段階ギア上げるぞ。

 

「ス……ケベ……忍者!」

「ダメだいつ聞いても面白い」

 

 お前らマジで張り倒すよ?

 滅茶苦茶恥ずかしいんだけど。

 

「ご、ごめん峰田、ふふっ、でもいい機会だよ」

「そそ、そ、う、そうそう。へへ、峰田君が……ふはっ、ヴィランなんてあれ知ったら思いっこないって!」

「『忍者のスリケンを食らえ!』*3が一番好きだわ」

「ウチ『忖度絶無の尊厳破壊10-0』*4めっちゃ好き」

 

 上から順に芦戸さん、瀬呂くん、上鳴君、耳郎さんである。

 あのー、いい加減泣くよ? 恥ずかしくて泣くよ?

 

「わ、わたくしアルバムを購入しまして」

「誰の?」

「峰田さんの……」

「「「えっ!? アルバム!?」」」

 

 マジ!? ヤオモモ買ってくれたの!? 嬉しい!!

 ……でも何故か一同絶句である。知らなかったのかと尋ねたら葉隠ちゃんとヤオモモ以外知らなかったそうだ。売り上げに繋がるんだからちゃんと宣伝しなよ~と葉隠ちゃんに言われたけど恥ずかしいのでしません。ググって勝手に買って。ちょっと恥ずかしいから。

 あ、待ってくれ。ヤオモモはどこで買ったんだ……? で、電子で買ったなら売ってるサイトが一歩間違えると桃色になっちゃうしお嬢様には刺激が強いと思います。

 

「……どんなの歌ってんの?」

「ええと、ありがちなオタクソングのカバーだよ? 全然陽キャ向けじゃないよ?」

 

 ちょちょちょ耳郎さんの圧が強い。

 スマホで検索掛けながら圧を加えるのやめてほしい……。

 

「ふ~~~ん」

 

 なんか意味深な感じですね、耳郎さん。

 

「悪ィ、ちょっといいか」

 

 お?

 青山君の背中から手を放し、声のした方を見る。そこにはスマホ片手にブレザー姿のなんとも珍しい人物の姿が。

 

「轟君!」

 

 レアキャラだ! 参加してくれるのかな?

 

「場所は緑谷から聞いた。ちょっと峰田に話があって来た」

「僕に?」

「今いいか? あんま長くは時間取らねえ」

 

 うーん、仕方ない。

 ヤオモモにぶん投げを始めるように伝えて、轟君と体育館の外へ。急にヤオモモがクラスメイトをぶん投げ始め、どたんばたんと大きな音が響くようになったからか、轟君は驚いたように言う。

 

「……あれなんだ?」

「受け身と起き上がりの練習、人を抱える練習、攻撃じゃない痛みに慣れる練習。増強型が誰も居ないから一番フィジカルがあるヤオモモ担当」

「男女で分けなくていいのか」

「要救助者とかヴィランが異性な場合も多々ある。慣れだよ」

 

 で。

 

「話って?」

「……本当は見舞いの時に聞きたかったんだが」

 

 え? じゃんけんで負けちゃったの?

 そう聞くと轟君はバツが悪そうに眼を逸らしたのでありがとうと伝えておく。

 

「うん。いいよ」

「オールマイトが苦戦したヴィランと事前に戦ってたって聞いた。怖くなかったのか?」

 

 えぇ? 怖くなかったのか?

 あの時は皆を助けるのに必死で……。

 

「みんなが傷つくのは怖かったけど、ヴィランに対して怖いとかは無かったかな」

「嘘だろ」

「本当。僕の覇気は命の取り合いを繰り返して培ってきたからね。そういうの慣れてる(・・・・)んだ」

「……相澤先生も言ってたぞ。俺を見捨てるのが最も合理的って。お前ほどの奴がミスるとは思えねえ。わからねえんだ。なんでお前が逃げない事を選んだのか。峰田の足なら逃げ切れるだろ」

 

 納得できません、っていう不満さを轟君は隠そうともしない。

 でも違う。違うんだな。

 

「出せる引き出し全部使って、命も賭けて戦ったよ」

 

 だって。

 

「僕、冷たくなっちゃった相澤先生の前で……あの時は先生を見捨てて逃げるのが合理的でしたなんて言えないよ」

 

 みんなの命は尊いものだ。

 失った事があるから。

 よく(・・)知っている。

 そうだよね。

 うん。

 

「後悔したくない。命は……命は、大事だから」

「……悪ぃ。泣かせる気は無かった」 

 

 貰ったポケットティッシュを使ってぐしぐしと目元を拭った。

 

「俺が無神経だった」

「ううん。大丈夫。平気……そのティッシュ貰っていい?」

「……ああ。使ってくれ」

 

 もう、轟君紳士的なんだから!……なんて照れ隠しはガンスルー。クールだ……。邪魔したなと言って去っていく轟君を見送り、入れ替わりでジョギングしながらやってきたみどりゃーを体育館の前でお迎えした。

 

「轟君とすれ違ったけど……大丈夫?」

「う、うん! 平気。ありがとね、みどりゃー」

 

 ずびび~~~~!!! と思いっきり鼻をかんでから……ゴミ箱無いじゃん。後で捨てよう……? ああ、そんな心配そうな目で見なくても。本当に大丈夫だよみどりゃー。なんでもないんだって。

 

「気にしない気にしない。鈍ってないか見てあげるね」

「……うん。体育祭も近いからね!」

「そだね。追い込みかけようか」

 

 

 

 

 雄英体育祭が、明々後日に迫っていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!

@SUKEBE_NINJA

Creator for FruitBasket(@Fruit_Basket)ぶどう担当/VR運動部/#スケベ掛け軸/#スケベポスト

忍者のスリケンを食らえ! 贈り物は既製品のお肉が嬉しいです。

 ・配信→twitch.tv/SUKEBE_NINJA

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 ・スケベポスト→bit.ly/5oohhp


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スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 こんばんは。コンディション最高なので明々後日の雄英体育祭にはしっかり出場します。フルーツバスケットの皆も当日は応援ミラーリング配信をしてくださるらしいので、公式配信をぼーっと見るよりかはそちらを見た方が100倍楽しめると思います。ラインナップはイケメン3人と天の声が1人です。現地にお越しになるヒーローの方は、目ん玉かっぽじってご覧くださいね。ちなみに僕の見どころは主に腋の下です。

▽Reply 45 □Retweet 3052 ☆Favorite 9169


スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 あと選手宣誓もします。一回固辞しましたが、次はオールマイトがお願いしに来たので断れませんでした。ごめんなさい。

▽Reply 212 □Retweet 12043 ☆Favorite 8万


 

 

 

*1
パクパクですわ!:言ってない

*2
上鳴注:ちなみに峰田、先生たちを行動不能には出来てなかったぜ。動きがテクいから本気になると大怪我させちゃう、だってさ。やっぱ先生ってスゲーんだな!

*3
忍者のスリケンを食らえ!:VRFPS配信での出来事。ここぞという場面で投げたグレネードが奇跡的な物理演算によって跳ね返りを起こし、足元で起爆して自滅した事件。この時忍者は拾ったレアアイテムを落っことしてロストした。

*4
忖度絶無の尊厳破壊10-0:VR格ゲー配信での出来事。メスガキキャラで人気の大手女性Vtuberから「私が勝ったらコーチング」「貴方が勝ったら名誉」という条件で申し込まれた決闘に対し、忖度抜きで10先した結果相手をマジ泣きさせてしまい大炎上した事件。わからせろとは言ったがマジで泣かせろとは言ってない









 オールマイトに頼まれたら子供ってほぼ誰も断れないと思う。好きな特撮のキャラが現実に居て、そいつが目の前で「断ったようだけどどうしてもお願いしたいんだ! 頼めないかな! この通り!」ってやられたらこの人ズルいと思いつつ嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやらで断れないと思います。





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011




 遅れてすいません。
 資格勉強してました。


 皆さんの感想、全部読んでます。
 ここすきも評価もめっちゃ嬉しいです。
 ありがとうございます。いやほんとに。





 

 

 

 

「峰田君おはよ~」

 

 この世界の5月上旬は青葉の季節、上下ジャージだと朝はまだ肌寒い。いつもなら中にタンクトップとTシャツを着てるんだけど、今日はなんだか朝から体がうずうずしていて、タンクトップ1枚だけでも十分暖かく感じる。

 

「おはよ、葉隠ちゃん」

 

 少し長めで、少し遠回りの道。多少早めに出ないといけない時間でも、いつもなら葉隠ちゃんは元気いっぱいなんだけど……。

 

「眠いぃ」

 

 おめめしぱしぱする葉隠ちゃん、可愛い。

 じゃなくて、……ええと。あー……。

 

「昨日は眠れなかった?」

「うん。緊張しちゃって……」

 

 まあ、雄英体育祭だもんね。僕も毎年3年生だけはリアタイで見るよ。滅茶苦茶見ごたえあるし。ただ今年は声を大にして言いたい。

 1年生を見ろ、と。

 

「今年はネットでも事前情報的に1年生が粒ぞろいってバレてるから、絶対視聴率高いよー」

「寝落ちするまでスマホ弄ってたの? 良くないよ」

「はいブブー。会話のキャッチボール失敗」

 

 えぇ?

 

「今ネットサーフィンの話してないよ! 寝落ちするまでスマホ弄ってたのは事実だけど!」

「あ、そっか。ごめん」

「見聞色使えると会話がニュータイプみたいになるのちょっと面白いね!」

 

 葉隠ちゃんは僕の影響でガンダムも宇宙世紀は劇場版で履修したらしい。オタクとしては会話の選択肢が増えるのでありがたい話である。ちょいちょい変なキャラクター出てるけど大筋は前世のガンダムと一緒だし。

 ……む。

 

「葉隠ちゃん、反対側に寝癖が」

「え、寝癖?」

 

 うん。はい、コンパクト。

 ……あれ、なんで困った顔でこっち見るの?

 

「あはは。私も私が見えない」

「あ、ごめんつい」

「ふふ。ありがとね」

 

 どこにあるの? もうちょっと上。なんて会話をしながら、まったりと並木道を歩く。ここは秋になると紅葉がとっても綺麗になるらしい。今から少し楽しみだ。その頃もまだ、葉隠ちゃんと一緒に登校出来てると嬉しいな。

 

「自分が見えないと大変だ」

「そうだよー! スキンケアしようにも肌に馴染むまで宙に浮いたままだし、朝は特に忙しいかな」

「朝はやる事事前に決めとかないと確実に遅れるよね」

「峰田君は朝どうしてるの?」

 

 あれ? 言ったこと無かったっけ?

 そう答えると葉隠ちゃんはぶんぶんと手を振りながら言った。

 

「めっちゃ食べるとしか!」

「あー」

「スケベ忍者さんのモーニングルーティンをここで一つ。ほらほら有名になったらこういうインタビューめっちゃ来るよ? 会話みたいに私で練習しとこ?」

 

 ええー? そんな高尚なもんじゃないけどなぁ。

 でもそうだな。おかしいとこあったら言ってね。

 

「いいよ。随時言うね」

「ありがと……んー。朝起きて」

「うんうん」

「ばんざい体操する」

ちょっと待ってもらっていい?

 

 えぇ? うん。

 

予想外に可愛いやつ出てきちゃったな……

「ばんざい体操、知ってる?」

「こう……ばんざーいってする体操じゃないの? 気持ちよさそうだよね」

「しかも……背が伸びる!」

ちょっと待ってもらっていい?

 

 えぇ? また?

 

ダメだ笑っちゃだめだ私、忍者は真剣なんだ……

「……おかしい?」

「おかしくないおかしくない! でも私以外に言うのやめよっか! そ、その次は?」

「シャワー浴びる」

「ロングヘアで朝シャン派、珍しいね」

 

 そうなの?

 

「抜け毛とか頭皮?……の油脂がどうこうとか」

「……傷んじゃうのかな」

「診てあげようか?」

 

 頷いた僕は髪留めを外し、お団子頭をストレートに戻した。さわさわと彼女の指が僕の髪を梳く。なんだか宝石でも扱うかのような仕草だった。可愛いとはいえ野郎の髪の毛だからもうちょっと雑でもいいんだけど。ちょっと照れるね。

 

「……」

「葉隠ちゃん?」

「トリートメントは何使ってるの?」

 

 トリートメントとかはよくわかんないけど、髪洗ってる時使ってるのは頭からつま先まで洗える奴だよと答えたら思いっきりお尻を蹴られた。どうして……。

 

「峰田君の個性の根幹だし、すんごく鍛えてるからそんなに黒髪サラサラストレートの大和撫子男子の部日本代表みたいになるのかも」

「なんて?」

「それで、朝シャンした後は?」

 

 朝シャンした後? そりゃ朝ごはんだよね。髪の毛をくるくる纏めながら、最近の朝ごはんを思い出す。気分でバラバラだけど、メニューはだいたい決まってるなぁ。

 

「何食べるの? 軽くちゃんこ鍋?」

「葉隠ちゃん?」

 

 君が僕の事をどう思ってるのか改めて聞きたいんだけど……。

 多分だけど僕、朝ご飯は量も種類も普通だよ?

 

「えーほんと? 例えば?」

「今日は焼いた豚ロース3枚と白いご飯とスクランブルエッグと適当にサラダかな」

「そんなに食べてるの!?」

 

 そのくらい食べないとお昼前にお腹がしくしく泣き始めちゃうんですよね……。

 

「だから冷蔵庫だけは滅茶苦茶大きいかな」

「ふーん……意外としっかりしてるんだ」*1

 

 外で食べるとお会計が大変なことになるから師匠に自炊は仕込まれたんだけど、これが意外とためになってる。お肉が食べたいと思ったら外食に行くよりもスーパーで安いお肉を買って自分好みの味付けをすればもう節約になる。ご飯大盛を200円でお代わりしまくる不毛な生活からおさらばできるのだ。

 

「でも仕込むの面倒だし時間無いからお肉はそのまま塩コショウで焼いてるかな。本当は生姜焼きとか麹焼きとか食べたいんだけど……」

「朝ごはんそれだけ食べないといけないの大変だね。塩味のお肉だけじゃ飽きるでしょ」

「ていうかもう飽きてるかな」

「じゃ、じゃあ私が――」

「君たちすまない! 雄英の生徒だよね?」

 

 む?

 後ろから息を切らした……推定ヒーローが声を掛けてきたので対応する。曰く、正門の位置を知りたいそうだ。僕はこの先は裏門である事、ここから正門までは距離がある事をヒーローさんに伝えると彼は慌てて去っていった。警備がどうこうとか言ってたけど……裏門側はあんまり見かけないな。雄英に近づくとちらほら見えてくるのだろうか?

 

「……そういえば葉隠ちゃん。何話してたっけ?」

「ううん、なんでもない!」

 

 ……裏門が見えてくる。

 警備のヒーローもチラホラと。

 

「ね」

「なーに?」

「体育祭、頑張ろうね!」

 

 ああ。"勝負"だ。

 

「……対戦(・・)だね」

「うん」

「私とも勝負だよ」

「うん」

「お互い本気でね」

「うん」

 

 わくわくしてきた。

 やはり(いくさ)、暴力、BATTLEが一番アガるよね。

 もう滅茶苦茶テンション上がってるよ。

 

「選手宣誓、セリフ考えてきた?」

 

 ……選手宣誓?

 ノーガード戦法で行こうと思います。

 

「ノーガード戦法!?」

「考えるとお腹痛くなってくるから……なんかこう……イイ感じに」

「本当に大丈夫?」

「うん」

「じゃあ、また後でね」

 

 体育祭の観覧に来ているヒーローの波をかき分け、今日は教室ではなく更衣室で着替えてから控室に直行……なんだけど。選手宣誓の事本当にお腹痛くなってきたのでていうかマジで選手宣誓どうしようかな。オールマイトは「こんなチャンスを逃すのはもったいない!」「このシャイボーイめ!」「全然オーソドックスな奴でいいんだぜ!」って言ってたけどもうね。あのスタジアムの中央でやるんでしょ? 無理無理。ええー。どうしようかなぁ。宣誓、我々選手一同は……いや生徒一同は? 日ごろの……あー、日ごろの訓練の成果を十二分に発揮し……対戦よろしくお願いしますって感じで。

 ネットメディアには慣れてるけど、地上波が入る舞台は初めてだ。

 だから緊張している。今後の評価にも関わると思うし。

 よし。

 

「あ、峰田!」

「助かったー!」

「遅かったじゃん!」

「どうしたの? 透ちゃんと一緒に来たって言ってたけど」

「おはよ。ちょっとお手洗いに……?」

 

 控室のドアを開けたらなんか3人がバチってた。凄いな、バチりの中心にみどりゃーが居る。爆豪君はともかく轟君まで……。

 ええと。うーんと。

 

「どうしたの?」

「峰田君」

「お団子」

「峰田」

 

 ……?

 

 

 

 

「「「お前()に勝って優勝する」」」

 

 

 

 

 ……あはっ♡

 

 

 

 


 

 

 

「映ってる?」

「……ん」

 

 

 映ってる

 きちゃ

 ミラー配信だ!

 あれ

 二人だけ?

 なんだこの3人……あれ?

 一人おらん

 メロン担当おる!!!

 フルバスさん話が違うで

 公式垢見ろ

 ジョイジョナは欠席

 お休みだよ~

 

 

「挨拶だけしとこうか。私たちのチャンネルじゃないし」

「……ん」

 

 

「フルーツバスケットゲーム部門所属、キミパことKissMePass(キス・ミー・パス)です」

「……同じくゲーム部門、Sicilia(シチリア)です」

 

 

 いつもの信号機かと思ったけど赤おらんやんけ

 スケベ忍者クラスタ向け解説は必要

 スケベ忍者見ててこいつらわからんはないのでは?

 でも最近ハイウェイちゃんとしか絡んでないし

 そりゃクラスメイトだからな……

 Q.誰? A.VRプロゲーマーです

 SZNコーチとオーロラ姫はお仕事じゃない?

 サザンどこ?

 一番辛口の怖いお姉さんが居ない

 ジョイジョナ欠席悲しい

 そり

 どこや……

 

 

「えー、ブルーベリー担当のSZNコーチとAuroraは都合が合わなくて欠席です」

「……事前に参加が告知されてたジョイジョナは本日欠席。急用が入った」

 

 

 草

 急用は草

 体育祭見ろや

 大事な弟分の晴れ舞台に顔出せないのマジ?

 一部では車で事故ったとかあるけど

 公式発表待とう

 カイワレ

 ¥50,000

 テスト

 ファッ!?

 スパチャできるやんけ……

 これ設定間違えてない?

 やば

 雄英に怒られるぞ!!

 消される! 消される!

 タルタロスチキンレース始まったな

 

 

「あれ!? なんでスパチャできるの!?」

「……ん。これは非常事態」

「そしてシチーちゃん何おっぱじめてんの!?」

 

 

 カシュッ

 おい

 酒飲んでんじゃねえよ!

 早速開けてて草

 ⚠左のまな板も右のデカパイも成人済みです⚠

 ストゼロで草

 asagibban

 ¥1,000

 酒代です

 レモン担当(酒カス)

 無表情でどんどん真っ赤になっていく様をご覧ください

 フルバスのアイアンハートです

 これが欧州で恐れられたIronHeartSicilia...

 ただの酒クズです

 二日酔いで大会に出てフラッシュ決める女

 今日くらいいいんちゃう?

 

 

『どもども~! お二人とも聞こえる~?』

「あ、店長!」

「……店長、遅い」

 

『こんにちはー。天の声でーす』

「フルーツバスケットのオレンジ担当、店長ことレンジでチンは私たちの……この、右前あたりに居ます!」

「……モニター3枚に囲まれて顔見えないけど酒の空き缶は見える」

 

 うわでた

 バアア!!

 あっ店長

 ババアー!!

 ババアスパチャできんだけどどういう事?

 辛辣で草

 ババア(超絶美女)なんだよな……

 ミラー配信でスパチャ出来るのやばない?

 許可取ったんちゃうんか?

 今も死ぬほどスパチャ流れてるけどどうすんの

 さてはお前ヴィランか?

 さらっと飲むな

 進捗どうですか

 設定間違えたのでは

 飲酒配信!?!?!??!?

 喪女の集まりフルーツバスケットです!!

 

 

『えー。今回は特別に、1学年の配信に限り、収入の伴う配信を許可していただきました!』

「え!?」

「……すごい。驚き」

 

『まあうちの子が出るしね! 直近にトラブルあったし、お詫びの気持ちじゃない?』

「あーそういう……」

「……流石フルバス一門の末弟。話題に事欠かない」

 

 

 スケベ忍者の晴れ舞台です

 忍者、ビービー言いながら逃げ回ってそう

 怪我したの忍者と忍者のマブの二人だけだっけ

 SNSで言ってたね

 30人超えのヴィランに襲撃されて生き残ってる1年生、ヤバすぎ

 全員ヤバすぎる

 絶対強いでしょ

 1年A組だっけ

 

 

『じゃあ概要は私から言うね!』

「はーい」

「……はい」

 

『本日は雄英体育祭! 1年生の部に我がフルーツバスケットストリーマー部門所属、ぶどう担当のスケベ忍者くんが出場します! 今回の配信は皆で彼を応援しよう配信です! 拍手~!!』

「いえーい!」

「……わーい」

『えー、本日の会場はフルーツバスケットのオフィスです! いつものとこですね!』

 

 ビービー泣きながら相手にキレてる様子が目に見えます

 どぼじでぞんなごどずるんでずが!?

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!

 メ ガ ト ン ニ ン ジ ャ

 に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

 僕のダイヤは!?

 あのマイクラマジで伝説過ぎる

 草

 草

 なんだこいつら!?

 草

 もう許してやれよ

 YYハンターは草

 いやいやそれがな

 注:めっちゃ強いです

 鉄柱でヴィラン殴り倒してんだぞ……

 良い線行くといいな~

 無傷かつ個性使わずにヴィラン薙ぎ倒してんだよな

 

 

『今回はまったりお酒でも飲みながら、次代のヒーローの卵たちの様子を見ましょうか』

「はい! じゃあ、お酒失礼しま~す」

「……お先」

 

 

 限界OL二人とおばさんの配信です

 草

 忍者クラスタが居るとチクチクするな

 やめたれや

 左から21,23、画面外44です

 実年齢草

 お

 入場だ

 入場?

 峰田ァッ!!

 峰田ァッ!!

 いえーい!!!

 頑張れー!!

 峰田ァッ!! 

 峰田ァッ!!

 峰田ァッ!!

 峰田ァッ!!

 怒涛の峰田コール

 頑張れ峰田!!

 オタクの星!

 俺たちが付いてるぞ!

 早速1-Aからか

 先頭、峰田!w

 ガッチガチじゃね?

 めっちゃきつそう

 

 

『きゃー!! 実ー!! ママがついてるわよー!!』

「……すごい緊張してそう」

「わぁ、初対面の時とおんなじ顔してる」

 

『これ選手宣誓出来る?』

「無理そう」

「……荷が重い」

 

 

 ダメそう

 がんばれ

 むりぽ

 えー、ダメそうです

 こ無ゾ

 プレゼントマイクの紹介が続きます

 マイクw

 マイク緊張煽るなw

 しっかりしろ!!

 あまったれるな

 オールマイトにお願いされちゃったらねえ

 頑張れ峰田!! リスナーが付いてるぞ!!

 これ初戦落ちありますね

 誘われたマルチ鯖の通話で初対面の人がいた時の表情

 """無"""で草

 あ~ドローンカメラ君いいアングルです

 え

 入試1位!?!?!??

 聞いていません(半ギレ)

 は?

 推薦だったのか……

 ぶっちぎり?

 うそつきマイク

 いやマジなのでは

 もしかして:忍者有能

 

 

『主審、ミッドナイトです』

「これ忍者くんの黒歴史増えそうだけど」

「……チッ」

 

『実、視線が……視線がミッドナイトのお胸に』

「忍者くんおっぱい好きだもんね。可愛い……」

「……不服。忍者のくせに生意気。今度会ったら絞める」

 

 

 アッ!!

 これは仕方ない

 見すぎィ!!

 ガン見で草

 階段上がり切ってマイク受け取るまで5秒くらい

 全国ネットです!w

 うーんw

 これはショタガキ

 おっぺぇが見てえんだw

 

 

 

 


 

 

 

 

 鋼の意思で魅惑のおっぱいから視線を切り*2、マイクを受け取った僕は少し震える手を気合で抑え込んだ。ああ、観客席にもヒーローが沢山いる。深呼吸だ。深呼吸。18禁ヒーローだけど高校に居ていい。そうだ。ミッドナイト先生みたいな堂々とした姿を見せようじゃないか。

 

「宣誓。我々、生徒一同は。日ごろの練習の成果を十二分に発揮し。正々堂々戦い抜くことを誓います」

 

 よし、言い切ったぞ。

 皆さん拍手してくれてありがとうございます。ちょっと声震えちゃったかな。大丈夫かな。配信とはまた別の、この場に居るほぼ全員が見てるっていう……状況特有の緊張感が凄いね。

 

「……峰田君?」

『おおっとどうした峰田ボーイ! マイクを掴んで離さない!』

「それはそれとして」

 

 雄英体育祭。オリンピックの代替。

 という事は金メダル。メダリスト。

 置き去りにしてきてしまった、前世の夢。 

 

「今日この場に居る全員の中で最強はこの僕、スケベ忍者です」

 

 絶対に1番になる。

 敗北は無い。

 勝利する。

 優勝だ。

 

 

 

「対戦よろしくお願いします……♡」

 

 

 


 

 

 

 

 やりおった

 死刑宣告出た

 終わりだよ終わり

 草

 草

 対よろ^^

 やば

 草

 草

 草

 草

 マジ?

 対戦よろしくお願いします(お前を殺します)

 忍者クラスタ、SNSでも困惑してます

 お前の対よろは洒落にならないんだ

 本気の合図です

 有言実行しろ

 表彰式が楽しみ

 これにはA組から速攻ブーイング

 ヒーロー科からのブーイングやば

 普通科と経営科が固まっとる

 いつものの忍者なら折れてる

 でもなんか"圧"がヤバくね

 わかる

 現地ヒーローワイ、気圧される

 なんでや

 スケベ学会員来てくれ

 弊学会でも混乱が起きてます

 現地に居ますけど"""霊圧"""ヤバいです

 草

 霊圧!?

 やば

 草

 草

 草

 霊圧は草

 霊圧ww

 

 

『これは本気モードですねぇ。覇気が漏れ出てるぞ~』

「忍者くん大胆!」

「……ん。忍者は昔から勝負事には手を抜かない。ガチでやる。きっとリアルでもそう」

 

『皆さん、今のうちにトイレに行っておいてくださいね。今だから言いますが、うちの実は強いですよ。自慢の弟子です』

「あ、言っていいのそれ?」

「……凄いタイミングでの解禁」

 

『そろそろ大丈夫だと思って』

「ほんと? じゃあビーチで空中歩いた話していい?」

「……店長と忍者はアホだからBLEACHの瞬歩を習得してる」

『おーおー、コメントもスパチャも凄いね。嘘か真かはすぐわかるから、まー見ててよ』

 

 

 


 

 

 

「さぁ! 場も温まった所で第一種目行くわよ!」

 

 プロジェクターが示した第一種目は「障害物競走」だ。ミッドナイト曰く、合計11クラスで総当たりレース。コースはスタジアムの外周約4㎞。コースさえ守れば何をしたってかまわない。何を……え? 何を? ヤバくね? 今なんでもしていいって言った!?

 ミッドナイトの言葉に困惑してたらいつの間にかスタジアムのゲートが重苦しい音と共に開いていく。

 

「さぁさぁ位置に着きまくりなさい!」

 

 ……うーん。

 一番後ろでいいかな。

 

「あ?」

「おん?」

 

 隣には僕と同じ歩調で爆豪君が。

 

「……パクってんじゃねえ!!」

「えぇ!? いや偶然被ったんだよ!」

 

 キレる爆豪君に困惑した。

 多分彼も見たらわかったんだろうな。

 

「オメーもぶっ殺すからな!」

「何ィ!?」

 

 ジョートーだよ限界魔晄中毒者みてーな髪型しやがって!

 掛かってこんかいコラァッ!!

 

『おおっと爆豪と峰田が早くもヒートアップー!!』

『もうスタートしてるぞ』

 

 

 

 

「「……あ゛っ!?」」

 

 

 

 

 

*1
葉隠注:ふーん……そっか……

*2
ミッドナイト注:意外と見られてる側って気付くのよ?  峰田君が知らないはずないけど……緊張してるのかしら。あとでV見た時悶絶するでしょうね……







 次回、頑張れ雄英体育祭!




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012

 

 

 

 

「死ねェッ!」

「ボケがァッ!」

 

『爆豪と峰田がお互いに空中を跳ねまわって激突しながらコースを進んでいくゥー!! お前らそんな仲悪かったっけか!?』

『峰田が主催してる自習で時折ガチンコやってんのは知ってるが……』

『しかもこいつら戦いながらもレースの趣旨は忘れてねェー!!』

 

 クソ狭いゲートの上空を爆豪君と殴り合いながら進んでいく。剃パンチ剃剃パンチパンチ月歩剃月歩パンチキック月歩回し蹴りと重ねてんだけどこいつすっごい食いついてくるな! 両側が壁だから僕のフィールドの筈なんだが! 動体視力上がって来たっていうよりちょっと自習で動きを見せすぎた(・・・・・)かな! くっそ今時ネクスト*1みてえな動きしやがって! 新作発売おめでとうございます!*2

 

 轟君の氷壁をすり抜け、瀬呂君のテープを奪ってターザンごっこをかまし、尾白君にヒップアタックを仕掛けて雑にバウンド、棒高跳びする八百万さんの背中を優しく踏み台にし、爆豪君のクイブ*3と見せかけた僕への攻撃を弾いてからちぎった粘着球を周囲に散布する。あーやっぱ触った瞬間ほぼ終わりって気付いてるからか避けてくれるね。当ててるつもりなんだけどな。

 

「テメェ硬化使えや!!」

「使わせてみな!」

 

 この。

 

「ポップコーン野郎め☆」

 

 ブチンと音がした。

 お? キレた? キレたね。途端に読みやすくなった爆豪君の顔面に僕の靴の裏の模様をプリントした。SQUARE ENIX*4ってうっすら浮き上がってて草。このシューズ高かったんだよね。

 

「ックソォァッ!! 舐めプしてんじゃねえぞ饅頭頭ァッ!!」

「ゆっくりしていってね☆」

 

 すれ違ったみどりゃーのジャージをひっつかんで思いっきり爆豪君の方へぶん投げる。ああんみどりゃー、そんな「えっ?」って顔しなくても。体育祭楽しんでねーと声を掛けたら声にならない悲鳴を上げてたので個人的に満足。

 ……ん? ありゃ!? ロボット!?

 

『第一関門! ロボ・インフェルノ!』

 

 ゲートを抜けた先に滅茶苦茶大きいロボットが5機、小さいのと中くらいのもちらほら居て生徒を襲い始めている。あれってもしかして皆が言ってた一般入試の試験ロボットか。デカいのはみどりゃーがワンパンでぶっ壊したっていう奴かな多分。

 ……あ! 轟君のマヒャド!

 

「ずるいぞ轟君……?」

 

 え。ちょちょちょちょちょ待った待った待った!

 死ぬぞそれ!

 

「――……な体勢ん時に凍らしたから」

「危ない!」

「倒れるぞ」

 

 思いっきり傾いてる試験ロボットの下へ全力で移動し、下敷きコース直行だった普通科と経営科の生徒らしき子たちを全員粘着糸で回収する。切島君とB組の子は大丈夫だろ。ただ個性の分からない一般の4人は全力で回収する。着地するのは……エリアを抜けた先だ。

 

『轟が妨害と攻略を同時にこなしたぞ! こりゃシヴィー!! そして峰田はナイスジョブだぜ!』

「峰田、信じてたぞ」

「えっ」

 

 やば、直接攻撃。

 

「しゃらくさいんだらァッ!!!!」

 

 助けた子たちを背後に回し、轟君の氷壁を渾身の回し蹴りと衝撃波で破壊する。砕いた先にある轟君の顔は見たこともないニヒルな笑みだ。

 もう、あくどくなっちゃってさ……♡

 

『そして轟の大氷壁を峰田の回し蹴りが砕いたァ! なんて威力だよ二人ともずりーな!!』

「失敗」

 

 轟君ごとぶった斬ろうとしたのに面での衝撃波しか出ないんだよなぁいっつも。

 

「あ、あの」

「ありがとう……」

 

 おん? あ、いいのいいの。

 怪我がないか確認したけど全員無事。よかったよかった。

 ただちょっと申し訳ないことしたな……。

 

「ごめん、その糸ってくっつくと今日一日取れないから……リタイアにしちゃった。本当にごめん」

「いいんだよ気にすんな!」

「行ってくれヒーロー科!」

「ほんとありがとね! 頑張って!」

 

 4人を粘着糸を使わずにあの速度で助けるのは無理だったから物凄く申し訳なくなってたけど、ありがたいお声を聞いて安心した。

 

「ありがとう……応援しててね!」

 

 ウィンクしながら走り出す。月歩で空に上がってみたら、もうだいぶ出遅れてるのがわかった。ていうか何あれ、落ちちゃうエリアまであんの? 何故かこの世界の人間は頑丈すぎるから気にするの僕と師匠だけかもだけど、普通に死ぬようなギミック仕掛けるよなぁ。あの落下ゾーン、僕でも底見えないぞ……? 安全装置とかあるのかな。いやでもあの巨大ロボで殺しに来る連中だからな雄英。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ?

 は?

 やばwwwwwwww

 これはやべーやつ

 空ダしてるwwwwwwww

 何今の超絶技巧空中戦は

 入学してひと月ちょいの1年生がやっちゃダメな奴

 wwwwww

 wwww

 草

 これなんか写しちゃいけない奴じゃないの?

 やばすぎる

 wwwwwwwww

 瞬歩だ!?!?!???!?!?

 今のは瞬歩じゃない。響転だ

 悲恋脚かな?

 かなしそう

 何今の空中戦

 尚今も足踏みして滞空してた模様

 

 

『すごいでしょー』

「いつ見てもヤバいね!」

「……ていうか前より速くなってる」

 

『高速移動する、瞬歩っぽいのが剃。空中跳ねるのが月歩だよ。剃は剃刀の剃。月歩は月の歩みって書くよ』

「ソルとゲッポー?」

「……違う技術なんだ」

 

 

 ソリ!w

 ソリすぎて になった

 ソルね

 剃りって書いて剃なのね

 命名センス◎

 なんか種があるんやろな

 そりゃそうよ

 頭の粘着球の応用じゃないの?

 でもババアも使えるんちゃうんか?

 師匠ならそう

 

 

『あれ個性使ってないし理論上は普通の人でも出来るよ』

「そうなの!?」

「……」

 

『そうそう。剃は床を一瞬で10回以上蹴って急加速して、月歩は大気を踏みしめるよ』

「???」

「……?」

 

 

 ??????????

 ???????

 ??www

 ???????

 ?wwwwwwwwww

 は?

 なんて?

 認知症にはまだ早いぞ

 人間やめましたシリーズ

 個性使ってないって事?

 これ無個性で習得できる奴じゃん

 理論上は再現可能です

 可能か……?

 TASさんみたいなこと言わないでもろて

 

 

『それを実は……あらっ』

「あっぶな!」

「……実、お人よし」

 

『流れるように4人くらい救出したわね。さっすが……あああああ!!』

「ブリザガ!?」

「……いや、防いだ」

 

『あー……あの子、足技で衝撃波出して切り裂こうとしたのね』

「衝撃波?」

「……?」

 

『カメラ! ナイスアングル! カメラー!!』

「可愛いー!」

「……ウィンクあざとい」

 

 

 


 

 

 

「大丈夫! だいじょーぶ! 大丈夫だからね! 僕に任せて!」

 

 第二ステージも相当危険だね。分かり易い篩とも言うけど……ちょっとヤバそうだから通過点に居る落っこちそうな子たちは全員糸で吊るしておこうと思う! 怪我したら、ヤバいし!

 よっ、ほいっと。

 ていうか雄英生やっぱり無謀すぎ! 確かにチャンスだけどさ!

 あれ、ていうか雄英体育祭って死人出たこと無いんじゃなかったっけ?

 

「目標、峰田さん!」

「ん?」

 

 ……さっきから散発的に聞こえる発射音はヤオモモキャノンだな? 避けるのは簡単だけど……絶対なんかある! 絶対なんかあるでしょ!? そもそも不意打ち狙いなら僕の名前を態々呼ぶか!? 他のヒーロー科との連携、閃光弾、ゴム散弾! 一体どれ? 何を企んでるんだ……八百万百! 

 

 視線を向けるとヤオモモはジャージの前を全開に……――

 

「ファイア!」

 

 ――……デッッッッ!!!!!!!!!!

 

 

 

 あっ*5

 

 閃光、灼熱、轟音。

 

 

 

『オィィイイイイ!! どうした峰田!? お前なら避けるの楽勝だろ!!』

『あのバカ……』

 

 

 

 うおやべっ、一瞬意識飛んでた。

 ……古今東西探しても……おっぱいに見惚れて砲弾の直撃をノーガードで喰らったのって僕だけだろうな! 師匠ごめんなさい油断してたわけじゃないんです。ヤオヨロッパイが……師匠並みにデッカイからつい。ついね?

 

「……」

 

 思いっきり吹っ飛ばされながら現実逃避してると実況が耳に入った。最終エリアは地雷原、"怒りのアフガン"とやららしい。体育祭で地雷を埋設するのは雄英高校くらいだろうな!とりあえず加速して、顔を覚えてるヒーロー科の連中の背中を片っ端から蹴っ飛ばしたり踏み台にしながら加速を続けて続けて続けて続けて……コストとして粘着球を3掴み捧げる。

 

「粘着糸の術! 武装色硬化!」

 

 通常よりも太めで長い、硬化させたロープでゴール手前の地雷を6個ほど跳ね上げた。そして硬化を解除して……っと。

 

「追いつくの早くねえか!?」

「団子頭!?」

「とぉー」

 

 先頭争いしてる、

 

「どぉー」

 

 轟君と爆豪君にぃ、

 

「ろぉー」

 

 地雷だらけの……、

 

「きぃー」

 

 粘着糸を巻き巻きしちゃいまして~~~ッ!!!

 

「くぅぅうううう~~~~んッ!!!」

「ふざけてんのか!?」

『おおっと峰田がデッドヒート中の先頭二人を拘束ゥー!!』

 

 これ僕からのプレゼントね。

 

「さっきはお世話になりました☆」

 

 お前らスタート直後からやったらめったら僕に妨害してきやがって! ヤオモモから受けた砲撃の分くらい一番頑丈そうなお前らにそっくりそのままお返ししてやるわッ!!

 

「やめっ」

「クソッ」

峰田式チェーンマイン!!

 

 起爆! 閃光! 灼熱! 轟音!……ってあんまり熱くないなぁなんて他人事みたいに思いながら、轟君と爆豪君と一緒にアフガンの大地を転げまわって更に誘爆しまくった。

 

「お前頭おかしいんじゃねえのか!?」

「イカレてんのかクソボケ饅頭!!」

『おおっと後方で大きな爆発音!!』

 

 

 

「「「あ゛っ!?」」」

 

 

 

「わぁああああああああああッ!!」

『緑谷、地雷を踏みつけまくって加速加速加速~ッ!!』

 

 はぁっ!?

 

「みどりゃー!?」

「クソデクヮァッ!!」

「こんなことしてる場合じゃねえ!!」

 

 慌てて3人で追うけど間に合わず。

 

 

 


 

 

 

『まさかまさかの伏兵、一着はA組の緑谷出久!! 序盤の展開からこんなん予測できるわけねえだろ!』

 

 超僅差で2位だった。

 ……あああああ悔しい!!

 やられたらやり返す原則に夢中になり過ぎた!!

 悔しい~~~!!!

 

『あまりの悔しさに地面を転げまわってるぞ峰田ァッ! お前受けた攻撃の割には元気すぎねえか!?』

 

 ……!

 確かに。

 ていうかゼロ距離即席チェーンマインよりヤオモモキャノンの直撃の方が遥かに痛かったなぁ……ヤオモモは僕を本気でぶっ殺そうとしてた……って、コト!?

 

 いやいやそれよりもだ。自戒の意味も込めて、みどりゃーの足元までゴロゴロと転がって近づく。ふんふん、見た感じ骨とか筋に異常は無いみたいだけど。ていうかみどりゃーの靴カッコイイな。

 

「うわぁっ!? 峰田君!?」

「いつの間に!?」

「全然気づかんかった!」

 

 ああ、飯田君と麗日さんもお疲れ様。ナイスランね。

 3人を見上げる形で手を振りつつ、僕はみどりゃーの足に目を戻す。

 

「みどりゃー、足は?」

「え? いや、特に平気だけど……」

 

 平気……平気?

 

「最後の地雷原ダッシュってもしかして」

「うん、峰田君の剃を参考にしたんだ」

 

 だよね? うーん……。

 僕の目から見てもみどりゃーの足に異常は無い。

 

「大丈夫ならいいや。次の本戦は負けないぞ」

「うん!……所で」

「峰田君全国放送だぞ!」

「なんでうつ伏せに……?」

「これは油断してごめん寝の姿勢」

「「「油断してごめん寝の姿勢……」」」

 

 ミッドナイトが順位を表示している中、僕は3人から見守られつつずーっと床に突っ伏していた。時たま道端に落っこちてるうんちのように謎の棒で突っつかれたけど*6甘んじて受け入れる。

 ……最後のチェーンマイン要らなかったなぁ。でも轟君にやられっぱなしも嫌だったし……塩梅が難しいね。

 発表された順位を見るに、上位40人はほぼヒーロー科だったみたい。

 

『勝負事に妥協はしないが報復(リベンジ)はキッチリやる峰田、ちょっかい出したら数百倍の規模で爆発する爆豪、一見クールだが今回一番燃えてる(ムキになってる)轟。まあ、見事に足を引っ張り合った結果だな』

『A組で最も障害になり得る3人の手が塞がった一瞬を見逃さなかった緑谷ァッ! 普段から周辺に目を配る良い一面が現れてたぜェッ! NiceRun!』

 

 褒められまくり! 照れまくり! たははと頭を掻くみどりゃーに観客もほっこりである。なんかムカついたのでみどりゃーの脛毛を探してブチっと引き抜こうとしたけど長ジャージだったからダメだった。おのれみどりゃー。この恨みどうしてくれようかな……。

 

 ……ん?

 

 あ、いつの間にか次の内容発表されてる!

 

「……騎馬戦?」

 

 誰かが呟いた。

 そう、騎馬戦である。

 

 

 

 ミッドナイト曰く。

 まず障害物競走の順位に応じたポイントが選手全員に付与される。そして騎馬を構成している選手たちのポイントを合算した合計値が騎馬のハチマキポイントとなり、これを奪い合う。騎馬の構成人数は2人から4人。制限時間は15分。獲得したハチマキは絶対に首から上に巻くこと。

 そして何より重要なのはハチマキを取られても騎馬が崩れても失格にはならない。常に10組以上の騎馬がフィールドに居るってわけだね。あと個性発動有りだけど、崩し目的の攻撃は一発レッドカード。これ割と条件厳しいけど、一体何を想定してるんだろう。チームアップのコミュニケーションとか?

 

 ていうかみどりゃー、1位は1000万ポイントって聞いて青ざめてるね。今のうちからよさげな個性の人の所に転がっておこう。何人かアテがあるし。梅雨ちゃん、砂藤くん、障子くん、常闇くん辺りが良いかな。早い者勝ちってわけじゃないけど、向こうにとっても僕と組むメリットは十分あると思う。

 多分僕、この騎馬戦の騎馬で最強だろうし。

 

「ねぇ、何してんの?」

「うん? これはごめん寝の姿勢といっ……て……――」

 

 

 

 

 あ、やば 精神 渉

 覇 切っち  た 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「……お疲れ」

 

 ……?

 

「えっ」

 

 死屍累々であった。

 空は割れ、フィールドは崩れ、紫色の糸がフィールド中に張り巡らされ。

 みどりゃーが憤懣遣る方無しと言わんばかりに僕を睨みつけている。

 会場は熱狂していた。熱狂していたけど……なんだ、この圧力は。

 

「あれ?」

『さて! 早速順位の方見ていこうか!』

 

 あっあっあっ。

 ちょっと、待て。全く記憶が無い。

 

『1位! 心操チーム!』

 

 しんそう……。

 モニターを見る。心操、しんそう……1000万と少しポイント。

 え?

 何?

 終わった?

 

「峰田、お前本当にすごいよ。俺たちの世代のトップヒーロー、多分お前だよ……」

 

 横を見る。

 目の隈が酷い少年が一人、引き攣った笑みで僕を見つめていた。

 

『2位! 轟チーム!』

「俺は謝らない」

 

 ああ。

 

『3位! 爆豪チーム!』

「何……を……?」

 

 やめてくれ。

 

『4位! 緑谷チーム!』

「俺は謝れないんだ……!」

 

 彼が僕の後ろに目を向ける。

 思わず視線を追って振り返ると葉隠ちゃんが頬を赤く腫らし、気絶していた。

 

「……」

 

 まあ待て。実。爆発するな。

 心操はいつでも殺せる。

 まずは葉隠ちゃんだ。

 だから落ち着け。

 話を聞こう。

 

「耳郎さん、砂藤くん、口田くん。葉隠さんは?」

「……ぁ、えっと、大丈夫。ちょっとキツいの喰らって(・・・・・・・・・・・・)気絶してるだけ」

 

 葉隠ちゃんに近寄ると、介抱していた耳郎さんが答えてくれた。僕からも頬以外には特に傷は無いように見える。

 

「峰田も一緒に来てあげて」

 

 僕がやったのか。でも失格になっていない。

 よりにもよってあんな事件の後に。

 傷ついてる女の子に対して。

 僕にやらせたな。

 

「……峰田?」

 

 ダメだ。

 いや殺そう。

 一生を棒に振るぞ。

 いや殺そう。

 これがヒーローの日常だ。

 いや殺そう。

 でも確かにあいつが僕にやらせたんだよな。

 

 

 

「……対戦だね。私とも勝負だよ。お互い本気でね」

 

 

 

 いつの間にか。

 目の前には耳郎さんではなく心操くんがいる。射程圏内だ。

 でもさっきふと思い出した。後ろを振り返るけど、葉隠ちゃんは起きていない。ああ、そうだ。そうだった。これは謝れない(・・・・)。呑み込め。我慢だ。葉隠ちゃんは……葉隠ちゃんは強い。100%気にしてない。だってヒーロー志望だぞ。多分目の前の心操くんも。きっとこれが彼の個性だ。凄い。強力だ。完全無欠ではないかもだけど、強い。実にヒーローに向いている。そして覇気を纏っていなかったなんて言い訳に過ぎない。

 

「良い……」

「……」

「……個性だった!」

「!」

 

 頭に血が上り過ぎていたことを反省する。

 彼には今後、敬意をもって接しようと思う。

 

 

 

 

 今大会に於ける僕の慢心を打ち砕いてくれた、油断ならざるライバルとして。

 

 

 

 

*1
ネクスト:アーマードコア4、アーマードコア for Answerに登場する人型機動兵器、アーマードコアネクストの事。次世代型アーマードコア、ネクストAC、ACネクスト等色んな呼び方がある。

*2
10年ぶりの新作:アーマードコア6が去年末に発表。2023年発売。筆者の周りには生活リズム崩壊をはじめとして大学中退、留年、失職、就職、結婚、離婚、引っ越し、一家離散など主にアーマードコア5のオンラインモードに人生を歪められた人が両手の指で数えられないくらい居るので、発表当時はSNSのタイムラインが阿鼻叫喚の地獄絵図となった。「闘争を求めるw」とかコピペしてネタにしてた皆も当然買うよな?^^ 買うって言え。

*3
クイブ:クイックブースト。瞬間的かつ高出力で推進力を発生させる事で、前後左右への短距離ダッシュや高速旋回を可能とするものである。横ブ、横ステ、ダッシュとも。

*4
靴裏のSQUARE ENIX:FINALFANTASY14 暁月のフィナーレのトレーラー序盤にて、主人公が歩いた足跡にスクエニのロゴが浮かんでいた事から。

*5
八百万注:はしたなくインナーを晒してるわたくしもわたくしですが……レディに向ける不躾な視線には気を付けた方がよくってよ?

*6
A組女子注:ヤオモモのおっぱい見てて撃墜されたのバッチリ目撃してますからね!







Q 心操君の個性でどうやってそこまで動いたんですか……?
A そこまで動けちゃったシンプルかつクソみたいな理由があります。
 描写がB組対抗模擬戦くらい先になっちゃうことをどうか許してください……。






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013

 

 

 

『……?』

「うわあああ……すごーい!」

「流石にありえん。人間やめてる」

 

 

 

 ヤバスンギwwww

 スマブラかな?

 これこと戦闘においてはプロヒーローより強そう

 メタル峰田じゃん

 草

 草

 草

 草

 草

 草

 いや草

 メタル峰田は草

 リアル超合金クロビカリ

 DX超合金1/1スケベ忍者

 今何かしたか?みたいな動きめっちゃ好き

 ターミネーターみてーだなお前な

 キミパがメタル峰田で爆笑してて草

 笑いすぎや

 

 

 

あっはははははははははっ、ごほっげほぁ

「……スマブラにあんなの居た」

 

「あー笑った笑った。で、なんで店長は二度見するプーさんみたいになってるの?」

「……紙めっちゃ見直してる奴」

 

何あれ知らん……怖……

 

 

 

 草

 草

 草

 草

 知らないのかよw

 は?

 草

 爆笑してる

 えぇ……

 は?

 なんで知らないの?

 お前師匠だろ

 めっちゃ強かったと思うけど

 メタル峰田無双だった

 やっぱなんかおかしいよな

 いやちょっとおかしいぞ

 ワイ現地勢、なんかフィールド上の生徒の様子がおかしい事に気付く

 メタル忍者強い以外なんかあった?

 今スケベ忍者の目の前に居る奴が怪しいと見た

 マイクしゃぶりTime!

 ¥50,000

 Wow!マイキーのUltimateRadioリアタイ視聴皆勤賞、プレゼントマイクのオタクです。こんにちは。簡潔に言いますがこのマイクの実況のトーンからしてグラウンド上では好ましくない事態が起きていると思います。まず不自然なくらい忍者くんに触れず、全体の健闘を称えて周りのプロヒーローに芽が育ってるぞとか言ってます。例年の体育祭の実況内容と本人の性格からして目立った子は更に目立たせるという方針が練られている筈ですがそれと真逆を行っています。本人がこれに気付かない筈がないのでわかった上でやっているか凄まじく動揺しているかのどちらかになります。このAクラスはヴィランの襲撃などもあったらしいですし、あの忍者くんのメタルフォームや男女関係なく暴力の限りを奮う圧倒的カラテぢからの見せ付けが原因かなとも思いました。しかしマイクの実況が終盤忍者くんが最後の女の子に振り向きざまの裏拳をぶつけた所で一瞬どもっているのであの女の子絡みで何かあったかと思います。あと余談なんですが今日のマイクは朝ごはんにかつ丼を食べたらしいです。一日頑張る生徒を思っての事でしょうか。いじらしくて可愛いですね。僕も君を食べたいよ

 なんだこいつ!?!?!??!?

 なんだこいつ!?

 なんだこいつ!?

 なんだこいつ!?

 ウワーッ

 やべー奴が来てしまったw

 目がチカチカする

 何だ今の

 誰か助けてくれ

 なんでこいつBANされないんだ?

 Wow!マイキーのUltimateRadioリアタイ視聴皆勤賞まで読んだ

 Wow!マイキーのUltimateRadioってなんだよ(困惑)

 毎週土曜23時から30分から1時間やってるマイクのF限配信ですね

 バケモンすぎるwwww

 バケモンの試合見てたら別のバケモン来ちまった

 

 

 

『――僕も君を食べたいよ。マイクしゃぶりTime!さん、赤スパありがとう!』

「全部読み上げちゃうんだね……」

「……うわぁ」

 

『でも多分あれ覇気……いや六式?……いやいやでもヴェルゴさんみたいな……』

「……あれぇ? 店長?」

「店長戻ってきて~!」

 

 

 

 


 

 

 

 

「いやもう」

「なんというか」

「やっぱ峰田がダンチすぎるな」

「対策なんかある?」

「数で轢き潰すのが一番でしょうか……」

僕の前で話すたぁいい度胸だね

 

 時刻は昼。めっちゃ混んでるから一緒に食べようと誘われたので、普段は一緒に食べない人たちとテーブルを囲んでいる。僕は毎度毎度死ぬほど食っているので、毎日厨房から一番近い大テーブル予約席として取っておいてもらっているのだ。混雑に混雑を重ねている体育祭の今日も、変わらず予約席として確保してくれていた。

 

 話す話題は当然、午前の感想戦である。

 

「峰田、あれ正気じゃなかったってのはなんとなくウチらも察してるんだけど」

「あの心操って奴になんかされたんだろ? 尾白もさ!」

 

 うん。察してくださって助かる。

 耳郎さんも切島君もありがとう。

 

「心操くんにしてやられた、とだけ言っとくよ。僕がここで暴露するのあんまフェアじゃないし」

「……俺も同感だ」

 

 テーブルを挟んで対面に居る尾白君と目を合わせ、お互いに肩を落とした。

 ……少しでも気を紛らわしたくて一息でステーキを1枚口に頬張る、けど。全く足りない。ヤバい。ヤバすぎる。マジでどうしよう……はぁ。

 

「ていうか峰田君の裏拳ちょー痛かったんですけど!!」

 

 右隣に座ってる葉隠ちゃんからの抗議の声にいやー耳が痛いですとだけ言っておいた。じくじくと胸に何とも言えない痛みが走るけど我慢我慢。

 葉隠ちゃんはあの後すぐに復活し、乙女の顔にガード貫通するタイプの裏拳*1叩き込むなんて鬼! 悪魔! スケベ忍者!……と散々僕を罵倒し続けている。まあ真剣勝負だから仕方ないけどそれはそれとしてという感じだよな。

 

「……お二人とも、さては騎馬戦の記憶が曖昧ですわね?」

「黙秘する」

「尾白に同じ」

 

 流石ヤオモモ。鋭い。

 試合終了直後はそりゃ動揺したけど、これ以上情報はあげません。

 

「でもさ峰田、今まで手ェ抜いてたんじゃねーよな?」

 

 ……む。

 上鳴くん、僕は悲しい。

 

「おい上鳴よぉ、それは峰田に失礼だぜ」

「そうだよ上鳴君! 障害物競走じゃ無駄ムーブかまして1位を逃した挙句騎馬戦じゃまんまと人の個性に掛かって正気を失っちゃうクソ雑魚ナメクジだけど手抜きなんてしてない筈だよ!」

 

 

 

 ――……ミ゜

 

 

 

「わ、悪ぃ峰田! 生きてるか!?」

「いや葉隠のナイフ鋭すぎだろ」

「もうちょっとなんつーか……手加減とかさ」

 

 ふ、ふふ。

 いやいい、全部事実だ。

 手抜きをしてた事を除いて。

 

「してやられたってさー」

 

 芦戸さん?

 

「アタシ思うんだけど……障害物競走はともかく、騎馬戦であんな大技使うつもりなかったんでしょ?」

 

 芦戸さん!!!!!!!

 

「……あ!」

「そうか!」

「覇気は消耗する!」

「なるほど……リソースを使わされた、という事ですわね」

「黙秘しまぁす!!」

 

 芦戸さんの予想はドンピシャである。

 そう。僕は温存戦法を取っていたのだ。細かいルールは違ったりもするけど、毎年本戦の〆はサシで戦うトーナメントと決まっている。というかぶっちゃけた話、確実にみどりゃー、爆豪君、轟君のうち誰か2人と戦うだろうなと思ってたが故の行動である。

 ……温存を"手抜き"と取られてしまったらもうどうしようもないけど。

 

「なるほど」*2

 

 ヒイッ。左隣に座るヤオモモの眼光が鋭い! やっぱりあの時のヤオモモキャノンは僕を殺すつもりだったのでは?

 

「ほーん?」*3

「良い事聞いたぜ」*4

「!」*5

 

 うおお、本戦参加組の目がキラッキラしてるぜ。特に上鳴はなんて顔だよ……とんかつと真剣に向き合ってる。願掛けしてるか、それともマジに考えてるか……どちらにせよ身が引き締まる思いだ。

 

「あーくそ~! 悔しいよ響香ちゃん!」

「そうだね。マジで悔しい……皆、本戦頑張ってね」

 

 耳郎さんの言葉に僕を含めた本戦出場者は静かに頷いた。

 ……尾白君?

 

「どうしたの?」

「ん? いや……あ、次の料理来たよ。早くそれ片づけちゃいなよ」

 

 言わずもがなである。このエビチリと回鍋肉とカシューナッツ炒めと厚切りステーキは誰にも渡さないぞ。あ、ヤオモモちょっと食べる? いいよ。あ、全部持ってく? これはダメ。ダメだってば! あー!! 僕の漫画肉!!

 

「これは見物料というものですわ」*6

 

 見物料? 見物料ね。はい……今漫画肉1本で見抜きさせてくれるって言った?*7 思わずどうぞどうぞと差し出した。ついでに餃子も食べます? あ、食べますか、はい。こちらはどうですか百お嬢様。上鳴君そこのピッチャー取って?……ありがとう。お水は如何ですか?

 

「まあ。峰田さん、気が利きますのね」

またお願いします!*8

「……」

「……? えぁっ!? 痛たたたたたたたッ!!」

 

 ほ、ほっぺ千切れる!!

 ごめんなさいごめんなさい!! 調子乗りました!!

 

「全くもう!」

「ごめんごめん、ライン越えだったね……」

 

 プリプリ怒るヤオモモに僕は平謝りするしかない。

 最近ヤオモモのフィジカルがバグり始めてる気がする……素の握力、僕以上ありません?

 

「あーあ! 私もほっぺ痛いなー!」

「葉隠お嬢様!」

「どうして葉隠家に仕える奴隷なのに名字付けなの?」

「あっはい」

「「「気にするのそこか!?」」」

 

 "圧力"だ。

 葉隠ちゃんから溢れ出るスゴ味が、僕のお団子を震わせてる……。

 

「あー……透お嬢様?」

「よろしい」

女の子に過剰な暴力を奮ったヒーローの風上にも置けない卑しいブタに何をご所望ですか?

「流石に自虐が過ぎるのでは……」

「今考えてるとこ」

「そのぉ……命とか差し出します?」

今考えてるとこ

「は、葉隠さん……? 峰田さんも……当家の執事はそのような……」

 

 うおお……お嬢様プレイをご所望だったか。

 いやでもほっぺ殴ろうとしたというか殴っちゃったのは事実だし……。

 

「あ、おい。上鳴見ろあれ」

「おお……チアガールじゃん。初めて見た」

 

 えっチアガール? どこどこ?

 Wow...areha...Dekai oppai...

 

「さっきの凄かったね~」

「ねね、誰が好みだった?」

「えーアタシ轟くんかな」

「緑谷君とかいいよね」

「イイ……」

「爆豪一択じゃない?」

「わかるー! いいよね~」

 

 聞こえてくる会話に凹む僕達。

 そして呆れ半分の女性陣。いやほんとすいません。でもまあみどりゃーも轟君も爆豪君も普通に格好いいしね……ヒーローになったら女性人気は出そうだよなぁ。

 

「ほんと男子って……」

「哀れだね~」

「……あ!」

 

 ん? 葉隠ちゃん?

 

「んふふ……峰田君、あれ!」

「「「あれ?」」」

 

 

 

 ……えっ。

 

 

 


 

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 ひるめし。ハイウェイちゃんが撮ってくれました

 《画像:和洋中の料理がとにかくたくさんと、スケベ忍者とお友達の集合写真》

 

 ――b

 ――b

 ――草 b

 ――b

 ――b

 ――サムズアップ統一は草

 ――うまそう

 ――同窓リンチした後に上げていい画像じゃないぞ

 ――確かに

 ――やば

 ――でもあの蹂躙を気にしないとか聖人の集まりか?

 ――ヒント:ヒーロー志望

 ――いやでもあれはやりすぎだろ

 ――でも見ごたえ抜群だったのでよかったです

 ――現地は大盛り上がりやね

 ――超大立ち回りだったしなあ

 ――爆豪とエンデヴァーの息子相手によく凌いだよな

 ――お前頭ニコルボーラス*9か?

 ――ニコる……

 ――ニコる返して

 ――ニコるは帰って来ただろ

 ――ババアも解説してたけど多分あれ正気じゃなかったろ

 ――温存してたリソース、見せるつもりなかった技全部見せちゃった?

 ――少なくともあそこまで全力しなくても勝てたとか言ってる

 ――アンチは死ぬほど非難してるけど何の問題ですか?

 ――皆本気なんやで

 ――毎年こんなもんだけど1年でこの見ごたえはマジで珍しい

 ――視聴率は稼げたのでOKです

 ――爆豪と轟とスケベ忍者の「あっ」って顔好き

 ――わかる好き

 ――スケベ忍者ポケ戦好きでしょ?

 ――わかる 絶対ケンプファー好き

 ――チェーンマインでマジで草生えた

 ――若干アナルビーズっぽくて笑っちゃった

 ――草

 ――いや草

 ――やめたれ

 ――草

 ――大人のおもちゃで戦うヒーロー!?!?!?

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 なんかすんごい質問が来てますが、答えたいとこだけ。

 Q.死神ですか?

 A.クインシーです

 Q.温存戦法取ってたってマジ?

 A.はい。轟君と爆豪君対策です。

 Q.影分身使えますか?

 A.練習中です

 Q.そんなに俺TUEEEして楽しい?

 A.そのために修業してる

 Q.ポケ戦好き?

 A.ポケ戦というかケンプファー好き

 Q.注目してるトーナメント出場者を教えてください

 A.全員です

 

 ――草

 ――やっぱりな♂

 ――ケンプおれもすき

 ――滅却師様の戦い方じゃない……

 ――ナカーマ

 ――ヒーロー目指してるんだから強いに越したこと無いんだよな

 ――モラルも大事では……?

 ――そり

 ――そうだね

 

 

■スケベ忍者@SUKEBE_NINJA

 レクリエーションがんばれ♡ がんばれ♡

 《画像:チアガールコスのスケベ忍者》

 

 ――エッッッッッッッッッ

 ――そのにっこり顔が俺を狂わせる……

 ――スケベ忍者がメイクしてる!?!?!?

 ――やっぱ素材は良いんだよな……

 ――素材"""も"""だろ!!!!!

 ――頑張れ頑張れしてほしい

 ――オナサポしてクレメンス

 ――ず り あ や

 ――すとーん

 ――ぺたーん

 ――男の子だからね

 ――かわいい

 ――で、それは誰にメイクしてもらったんだ?

 ――あっ

 ――は?

 ――(舌打ち)

 ――あ?

 ――そうだね

 ――放課後デートしたら殺す

 ――放課後デートしたら殺すニキもよう見とる

 ――ハイウェイちゃんやろなぁ

 ――お祭り感覚で女子に寄ってたかってメイクされてそう

 ――殺す

 ――シンプル殺害予告で草

 

 

 

 

*1
葉隠注:腕で防御するのは間に合ったんだけど、支えきれなくて自分の腕が顔面に激突しちゃったんだよね。ガードした左腕もまだ痛いです……

*2
八百万注:しかも峰田さんは恐らく、自分の使ったリソースを把握出来ていない! 体感で感じ取れるならまだしも、あのご様子では恐らく……一考の余地がありますわね

*3
芦戸注:武装色の覇気は多分、相澤先生みたいに個性を無効化する技じゃない。上鳴の電気とかアタシの溶解液は通用するのは戦闘訓練で知ってるし、勝算は十分にある!……多分!

*4
切島注:峰田とは相性最悪だな。俺に対して粘着球出されたらほぼ終わり……ダメもとで男らしい勝負でも挑んでみっか!

*5
上鳴注:このとんかつ美味過ぎじゃね? 衣はザクザクだけど中の豚肉はしっとりしてて……なんつーの? 口の中で溢れるんだよなぁ、優しい油の旨味って奴がさ! これはソースじゃなくてしょうゆとわさびが合うかもな……。

*6
葉隠注:満更でもなさそうだね?

*7
尾白注:言ってないと思う

*8
葉隠注:ふーん……ふ~~~~~~~ん?

*9
ニコル・ボーラス:MTGの世界においてすっげー悪いプレインズウォーカー。アベンジャーズで言うサノスから善性を取り除いたボスキャラ。アベンジャーズで言う"エンドゲーム"の結果、とある場所に記憶と真名を奪われた上で封印された。




誰も待ってないかもしれないけどおまたせ
忙しかったんです……。


ぼくのかんがえたやべーヴィラン募集のお知らせ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=297893&uid=1227

少しでもエタる可能性を下げたいので、製作コスト削減のためにどうかお願いします。
メッセージでも活動報告のコメントでもどっちでもいいよ。


追記
お便りの山に埋もれてる。皆さんありがとうございます。
感想やここすきもお待ちしております。
全部作者の励みとなっております。


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014





 お待たせ

 評価、ここすき、感想お待ちしてます。


 追記:誤字報告してくださる人本当にありがとうございます。




 

 

 

 

「……」

「……」

「……」

「ゴーゴーレッツゴー! Aェ~組!」

 

 お昼明け。ドンパチやってるけど一応体育祭だから、最終種目に出ない人たちはレクリエーションがあるらしい。A組からは葉隠ちゃん含む7人の友達が出場するのでしっかり応援しないとな。

 

「葉隠ちゃーん! 耳郎さーん! 梅雨ちゃーん! 青山くーん! 障子くーん! 砂藤くーん! 口田くーん! 頑張れ~! ファイトー! みぃ~んな~!」

「いいぞ峰田ー! 可愛いぞ~!」*1

「Fooo!!」*2

 

 そこでこれ。

 葉隠ちゃんリクエストのチアリーダー衣装! スパッツだから思いっきり足上げても恥ずかしくないし、男だからノーブラでも気にならないのだ。ヤオモモに作ってもらったので僕は今実質ヤオモモを着ているといっても過言ではない……受け取って着替えた時はまだヤオモモの体温残っててちょっとぬくかったんだよな……武装色硬化。

 

「キメーんだよ」

 

 ヂッ!!

 ……というデカすぎる舌打ちに思わず振り返った。

 

「バクゴーも一緒にやる?」

「……」

 

 シカトは泣いちゃうからやめんか? せめて罵倒してくれない?

 ふぅー、とため息ついてから座席に腰かける。

 

「バクゴーっていつもあんなんなの?」

「あ、あはは……シカトは珍しいかな……」

 

 レアって事じゃん!

 後ろに振り返ってバクゴーもふぁいとぉ~ってポンポンをふりふりしたら無言で掌向けられたので慌てて前を向いた。これ以上構うと普通にポンポンを燃やされそうだ。今も後ろを向けてる間に僕のお団子を焦がされないか少し心配だったりする。

 

「整列したけどしばらく解説とか準備かな」

「うん。そうだと思う」

 

 よし、じゃあ応援は休憩かな。

 ふぅー。体冷やさないようにしなきゃね。

 ……で。

 

「みどりゃー、僕に何か言いたいことがあるの?」

「え」

 

 おいおいみどりゃー! なんだその表情は。

 ちょっと悲しい。何回君を殴り倒したと思ってるんだ。ただでさえ分かり易いのに、こっち向いてパクパク……なんてされたら見聞色使うまでもなくわかるよ。

 

「いや……僕の勝手な……なんていうか、そんな感じだからいいんだ、ほんとに」

「複雑?」

「複雑っていうか言語化出来ないっていうか……」

 

 言語化出来ないというよりそれは。

 いや、うーん。

 みどりゃー優しいな。

 

「ありがとね」

「え?」

「気ぃ使ってくれて。ありがと」

 

 でも。

 

「言ってほしい。友達だろ」

「……」

「僕が扱う技術、見聞色の覇気は今を捉える事に特化している……けど、みどりゃー挙動不審すぎて見なくてもわかっちゃうな」

 

 視線を向けなくてもみどりゃーがぐっと閉口したのがわかる。マイク先生の盛り上げで会場が湧く中、僕とみどりゃーだけがぽつんと取り残されたようだ。掴んだ水筒の不気味な冷えの自己主張が激しい。

 

「騎馬戦の中盤、君が心操くんの言いなりになってる事に気付いて」

 

 うん。

 

「思ったんだ」

 

 うん。

 

「……君はあんなに強いのにって」

 

 ……。

 

「……あっ。なっ何言ってるんだろね僕! ごめんね峰田君! 多分あれ心操君の個性でしょ? しょっ、初見の個性はほぼ見抜けないし条件もなんだそれズルだろって事もあるから仕方ないよねあっははあのそのほらっ、……、……。ごめん」

「いいんだよ」

「それと」

「うん」

「君が葉がくにゃむっ」

 

 ほっぺぷにっとな。

 

「あれは真剣勝負の結果。僕が心操君より弱かったから起こった」

「でも」

「本番なら死んでた。お互いにね」

 

 普段、僕や師匠に精神干渉系の個性は利きにくいはず……なんだけど。あの時は僕がごめん寝のポーズでへこたれていたからだろうか。今後の課題だな。後で師匠に連絡とらなきゃ。今連絡するのはなんか違う気がする。

 

授業(・・)でよかった」

「!」

「いや、うん。でも体育祭は本番だから……不甲斐無い所がデータで残っちゃうし危うく1位を取れないところだったって考えると……死んでるかも? だって皆の話を聞くに、僕って心操君のラジコンだったらしいし」

「そんなこと……」

 

 あるんだよ。みどりゃー。僕がやらかした。弱かったせいで葉隠ちゃんを手加減抜きで傷つけた。原因と結果だ。そういう原因があったからああいう結果になった。シンプルな話だ。

 

「これは葉隠ちゃんもわかってくれてる。九死に一生を得るって感じ」

 

 だからあんまり、僕のためにそんな顔をしないでほしい。みどりゃーはオタク顔でメモ取ってるくらいが丁度いいんだ……なーんて事も併せて伝えると、みどりゃーはきゅっと唇を一文字に引き締めた。

 

 でもまあ、それはそれとして。

 

「次は負けないぞ」

「……うん! 僕もトーナメントで当たったら気をつけなきゃ」

 

 ぜひそうしてくれ。

 心操君の個性、めっちゃ強いからね。

 ていうか初見殺し率がヤバいし。多分声かけるか返事するかが条件だと思うんだけど……。

 

「「「あっ!」」」

 

 ん?

 急に周りがざわめきだした。どした? 怪我人?

 

「峰田! 緑谷! モニターモニター!」

 

 えっ? うわ!!

 

 

 

 僕とみどりゃーがキスカム*3に抜かれてる!?!?!?

 

 

 

 おいやめろ馬鹿! 雄英体育祭のワイプで抜かれたカップルはちゅーする奴だろこれ!! あっ凄いですフィールド中央やや左らへん具体的には1-Aの予選落ちの皆が固まってる場所から物凄い焼ける感じな視線のレーザービームを受けている気がしますすいませんごめんなさい透お嬢様。*4

 

 適当にアピールしとこう。

 フリーズしてるみどりゃーに顔を向けて精いっぱいのアピールだ。応援用のポンポンで口を隠し、小首を傾げる。副音声は「ボクと……する?」だ。喰らえみどりゃー。アグレッシブな応援で汗ばんだじとぺた前髪真っ黒お団子頭チアリーダー忍者男の娘の上目遣いです。

 

「――……」

「――……」

 

 その瞬間僕の側頭部、具体的には麗日さんとフィールドの某位置から死ぬほど強い殺気というかプレッシャーが突き刺さるが気にしない。色々と見え過ぎる奴が楽しく長生きする秘訣は、ある程度見えない振りをする事なのだ。

 

「……」

 

 みどりゃー、ストリクスヘイヴン版ミスティカルアーカイブのブレインストーム*5*6みたいな顔になってて草。キャパ超えさせちゃってごめん。

 

「はっ!? えっ!? しないしないしないよ!?」

 

 ものすっごい勢い首を横に振られながら拒否られてしまった。みどりゃー顔真っ赤で可愛いね♡ でも僕はエンターテイナーなのでポンポンをみどりゃーに投げつけ、精いっぱい不貞腐れた顔をしつつみどりゃーのバーカとでも言いたげにスタジアム側へそっぽを向いた。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 トーナメントのためにくじ引きをした時、尾白君と庄田君が棄権した。二人とも"心操君と峰田君とは違って"と言ったけど、本当にそうか? ちょっと悩んで僕も降りようとしたら二人に止められた。心操君の個性に操られていたのは自分もで、活躍できたのはたまたま運が良かったに過ぎないのに。ていうかこんな事を考えなくちゃいけない状況に居る事が無様だ。折角掴んだチャンスを二人の様に捨てられない。

 

 トーナメント表を見る。初戦は芦戸さんと。次は常闇君か八百万さん、その次は鉄哲君か切島君か麗日さんかバクゴー。そして決勝は多分轟君……だよな。

 

 ちらりと横を見る。

 

「みどりゃー」

「えっ!? あ、えっとなんでしょうか!?」

「君と決勝で戦いたい」

「えっ」

「今までの成果、僕に叩きつけてくれるのを待ってるよ」

「……うん」

 

 1年生最強認定されることもそうなんだけど。折角なら決勝でみどりゃーと戦いたいなと思った。

 

 

 


 

 

 

「緊張してきた?」

 

 僕がうんうんと頭を捻って対戦カードを見つつ全員への対策を考えていると、隣にはいつの間にか葉隠ちゃんがエントリー。

 

「ううん、あんまり。そう見えた?」

「ゲームの企画で作戦会議してる時と同じ感じだったから……そうだね」

 

 む。

 両方の手のひらで自分のほっぺを揉み解してから葉隠ちゃんに顔を向けた。

 こんなもんでどうでしょう。

 

「おっけー!」

 

 ……ふぅー。

 本当は緊張してるのかもなぁ。なんだかんだ地上波映るのは多分初めてだし、サシで負けたりなんかしたらちょっと恥ずかしいし。

 

「トーナメント表と睨めっこしてたけど、対策考えてたの?」

「うん。誰と当たってもいいように勝ち筋は考えてる」

「ねね、トーナメントの中で誰が一番手ごわそう?」

 

 葉隠ちゃんの質問に、僕の周りが少しピリついた。まあ気になるよね。僕が削れたリソースを注ぐ相手が誰か。正直な話、一番警戒してるのはバクゴーとヤオモモだ。轟君は……あの子の氷より僕のほうが速いからなぁ。大穴はみどりゃー。

 

「内緒」

「まあそうだよね」

「でも戦いたい奴ならいるよ?」

「誰?」

「みどりゃー」

 

 更にピリついた。既にみどりゃーと轟君は観客席に居ない。

 

「……意外?」

「う、うん。てっきり轟君とかバクゴーが出てくるかと思ったから」

 

「色々やってきたけどよォ! 結局これだぜガチンコ勝負!」

 

 マイク先生が叫び、このトーナメントの初戦を飾る二人が舞台に上がる。

 みどりゃーの表情は気合十分。対面の心操君も不敵な顔をしている。

 

「みどりゃーには教えられること、全部って訳じゃないけどそこそこ詰め込んだからなぁ」

 

 二人の紹介が終わり、ルールが読み上げられる。相手を場外、行動不能、降参させることで勝利。ケガさせてもOKだけど死にそうになるのはやめようねって感じだ。そりゃそうよ。でも怪我上等なのは助かるなぁ。

 

「戦ってみたいんだ?」

「うん。決勝まで来てほしいね」

 

「レディィィイイイイイイイッ!!」

 

「まあ、来れるように」

 

「スタートォッ!!」

 

「色々教えたんだけどね!」

 

 さあやっちまえ、みどりゃー!

 

 

 

「ああ、あの不細工な猿とオカマ野郎の事だよ」

「なんてこと言うんだ!――……」

「……俺の勝ちだ」

 

 

 

「「「あっ」」」

 

 1-Aの観客席で何人かとハモった。思わず葉隠ちゃんと顔を見合わせ、その隣の尾白君、さらに向こうのヤオモモと目が合い、そしてもう一度舞台へ視線を戻す。

 えっ。引っかかった? あの分析大好きなみどりゃーが? やられちゃったわけ?

 ……。

 みどりゃーは茫然とした表情で一時停止している。

 僕は葉隠ちゃんに向かって言った。

 

「ダメそう」

「えぇー……」

 

 尾白君の反応を見るに、彼は心操君の個性をみどりゃーに教えたようだ。流石に無警戒が過ぎるだろ……いやでもあれは無理か? 無理か、うん……みどりゃー優しいもんな。分かっててもカッとなる事はあるよ。人間だし。

 

「ちなみに心操君の個性って……」

 

 まあ、そろそろ時効かな。

 

「心操君の個性は洗脳。彼の問いかけに答えたら言いなりになる」

「もしかして緑谷君、もう?」

 

 僕が答える代わりに、後ろのほうからバクゴーのクソデカい舌打ちが聞こえた。みどりゃーは踵を返して場外に向かい始めたのだ。もうヤバヤバである。普通科によるヒーロー科へのジャイアントキリングが決まることがわかったのか、観客席が歓声に包まれ始めた。凄い、強いぞ心操君。ていうか挑発とかで人の回答誘うだけなら最強の初見殺しだよなぁ……なんでヒーロー科に居ないんだろう。

 

「……?」

 

 あれ。

 みどりゃーが止まっ

 

 

 

 

 

!?

 

 

 

 

 

 

 思わず最前列まで詰めかけ、身を乗り出しながら舞台に居るみどりゃーを見つめた。

 

「緑谷とどまったァァァ~~~~ッッ!!!」

 

 えっ、ちょ……は? なんで? みどりゃーの個性か? 何で動けるんだ? なんで解除できたんだ? 完全に意識を失うはずだ。解除しようとも思えないはずだ。個性に備わった能力? いや、第三者(・・・)の介入? どうやって? なんで???

 

 罵詈雑言を浴びせる心操君。

 歯を食いしばって耐えるみどりゃー。

 

「みどりゃー、君は……」

 

 みどりゃーのジャージを掴んで右ストレートを叩き込む心操君。

 一発食らうみどりゃー。そしてみどりゃーも心操君のジャージを掴み、

 

「僕は!」

 

 腹の底から、

 

「絶対にッ!」

 

 声を出して、

 

「負けられないんだッ!!」

 

 心操君の顔面に強烈な右ストレートを叩き込んだ。

 

「そうか……そういう事か」

 

 衝撃。

 

「緑谷君、二回戦進出!」

 

 入場口から顔を出すオールマイトとみどりゃーを見比べた。見ればわかる。そうか。だからみどりゃーなのか? ああ、そう。そうだ。僕に出来ないことを君は出来るから(・・・・・・・・・・・・・・・・)、花開きかけている。やっぱり彼が主人公なんだ。

 ……僕じゃない。

 

 二人の健闘を称える歓声がとても遠く聞こえる。みどりゃーにはもちろん、心操君にもだ。彼にも惜しみない声援が贈られている。多分彼は編入してくるだろうなぁ。

 

「峰田くん?」

 

 あ、やべっ。

 葉隠ちゃんの声で正気に戻った僕は慌てて立ち上がり、そそくさと座席に戻った。

 みんなの視線が集中する中、僕はふんぞり返って一言。

 

「まあ僕はみどりゃーを信じてたけどね!」

「さっきダメそうって言ってたじゃん!」

「すげえ、手摺が歪んじまってるぜ……」

「やっぱ峰田のフィジカルおかしいよ」

「……信じてたけどね!」

 

 滝汗を流しながら知らんぷりした。

 

 

 

*1
芦戸注:私と耳郎と葉隠がメイクしました!

*2
上鳴注:あいつは男あいつは男あいつは男あいつは男

*3
八百万注:主にスポーツイベントのタイムアウトやCM休憩の間に行われるような……映ったカップルがキスをする欧米の文化ですわね。キスを拒否すればブーイング、キスすれば拍手喝采を受けるのが習わし。ちなみに雄英体育祭では"関係を正式に公表しているカップルや夫婦のプロヒーローが抜かれた場合に限る"のが慣例となっています。そういうプロヒーローが居ない場合や二度目三度目の場合は生徒が対象。生徒が抜かれれば何らかのアピールをするのが普通かしら……?

*4
葉隠注:カメラマンさんは覚悟の準備をしておいてください!! いいですね!!

*5
https://www.hareruyamtg.com/ja/products/detail/96769?lang=JP

*6
渦巻く知識/BrainStorm:カードを3枚引いた後、手札から任意の2枚を好きな順番でデッキに置くカード。書いてある事全部強い。しかも青1マナかつインスタントで打てる。有能すぎ。これパウパーで使えるってマジ?



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015



 友達と話してて気づいたんですが、配信者集団フルーツバスケットは全員顔出しです。VRプロゲーマーというのはVRゲーム関連でお金を稼いでるプロの事であり、イラストや3Dモデルを纏って配信してる人ではないです。

 011で登場するSiciliaとKissMePassは完全に顔出しして配信しています。
 描写不足で申し訳ありません。

 以下の活動報告で簡単に紹介します。
 活動報告:フルーツバスケットのメンバー紹介と主な事件。


 

 

 その後も1回戦は続いた。

 

 

 

 


 

 

 

 轟君VS瀬呂君。

 

 

 とどろきくん の マヒャド !

 せろくん は こおりづけになった・・・

 

 

 秒殺だった。超高出力のマヒャドあるいはブリザガをあの速度でぶっ放されたらちょっとヤバいと思う。テープも氷を伝導させる要素でしかなくなるからまあ、相性? いや、相性で済ませられない個性の性能差が際立った。

 

「峰田、轟との勝負、意見聞きたいんだけど」

「意見?」

「……お前だったらどうした?」

 

 ……と、しょぼくれた顔で瀬呂君が聞きに来たのはちょっと意外だった。まあもう敗退しちゃってるしいいかなと思ってアドバイスする。

 

「多分不意打ちで場外を狙うのと、接近戦を仕掛ける択があったと思う。僕なら接近戦挑んだかな」

「接近戦?」

「多分だけど轟君は自分を凍らせられないし、自分の出した氷の冷気で自分も冷えるんだよね。多分炎出せる事と関係あるんだろうけど……なんでか使わないから……」

 

 最初の戦闘訓練の後、簡単に調べたんだけど轟君はエンデヴァーの息子さんだった。しかも個性は一人メドローア。氷というか水の操作系かと思ってたけど炎で溶かしてたのかと納得したのを覚えてる。でもだからこそ、半身は熱に弱いんだろうな。そもそも片方だけ酷使する設計に体がなってないんだと思う。

 

「あー、じゃああのまま密着して巻き取っちまえばよかったのか」

「視界も塞げたら尚いいよね。轟君も目視で照準してるわけだし」

「なるほどな……」

「でもまあ正直、今の瀬呂君じゃ荷が重い相手だったと思うよ」

「……やっぱそう思うかぁ?」

「僕はドンマイなんて言わないぜ? 一緒に訓練頑張ろう。これからだよ、こ、れ、か、ら!」

「……おう!」

 

 

 


 

 

 

 次、塩崎さんVS上鳴くん。

 ヒーロー科A組とB組の対決ってなったわけだけど。

 

 

 かみなりくん の 10まんボルト !

 しおざきさん には

 こうかが ない みたいだ・・・

 

 かみなりくん は アホになっている・・・

 しおざきさん の ハードプラント!

 かみなりくん は ちからつきた・・・

 

 

「このアホ!」

「ウェッ……いてて」

 

 ロボットに担架で搬送されてきたクソバカのおでこを気持ち強めにデコピンした。道中で充電されたのか、知性の光がやや見える。個性の運用の話をあんだけして予備動作消して放電するとこまで行けたのにこのおバカさんは……。

 

「勿体ねェ……」

 

 バクゴーが思わずと言った感じで毒づいた。

 僕もそう思うぞ、マジで。

 

「爆豪まで……」

「いや、僕もそう思う。勝てたぞ(・・・・)! さっきのは!」

「でもぶっぱが一番よかったと思ったんだよ……」

 

 思わずくらっと来てしまいそうになった。僕もプライベートだとそういう雰囲気だから言い辛いんだけど、戦闘で易きに流れる事は致命的だ。最悪死ぬぞ。

 

「上鳴ちゃん、考え無しはダメよ」

「その結果負けてんじゃ世話ねェンだよボケが」

「てか峰田と一緒に格闘自習中に予備動作消したり電気纏ったりする練習もしてたじゃん」

 

 梅雨ちゃんとバクゴーと耳郎さんの正論パンチにぐぅの音も出ずにしょげてしまった。

 ふふ。可愛いおバカさん……♡

 

「あれあれ~~~???? どうしたのかなA組~~~???」

 

 ん?

 後ろを振り向くと、仕切りからB組の子が顔を出してこちらを見――……

 

「一瞬で決めるんじゃなかったっけ~!? 一瞬でやられたよねえ~!? A組はB組より優秀なはずなのにおかしいなあ~~~~!?!?!?!?」

 

 ……?

 はぁ~~~~~~~~~~!!??

 上等だよお前全員纏めて相手してやってもいいぞおい。

 月歩で仕切りの上に座り、レスバを挑んできたパツキンとB組を見下した。

 

「おまっ、やめとけって峰田」

「いいよ峰田……俺が秒殺されたのは事実だしさ」

 

 いや良くない。

 本戦出場も出来なかった雑魚の分際で何言ってんだこいつ。

 

「何か言いたい事でも「やあ。こんにちは」……」

 

 仕切りの上に座りながら睥睨する。

 B組。出場してるのは塩崎さんと鉄哲くん。まあ……そこそこ強そうなのはいるけど……A組よりかは……うん……まあ……って感じだ。ちょっとコメントに困るな。微妙過ぎる。推薦入試で見かけた子は結構強そうかな。

 

「他に……頑張って戦った子たちに対して言いたいことがある奴は?」

「いや、無いよ。ごめんな峰田!」*1

 

 ……ええと、手がデカくなる個性の子だっけ。その子はそそくさと僕とパツキンの側からA組側に顔を出し、悪かった。ごめんな! と謝ってからそそくさとパツキンを回収して戻っていく。

 

「峰田ちゃん、ああいうのはばっちいから触っちゃ駄目ってSNSで学ばなかったのかしら」

「峰田ー、そろそろ降りてきなよ~。そろそろ控室行かないとまずいってー」

 

 む。そろそろ降りるか。

 相澤先生がこっち見てるしなあ……。

 

「あの、お待ちになってください」

 

 あれ。塩崎さん?

 さっき上鳴君を瞬殺した塩崎さんじゃないか。

 

「……なんすか」

「生配信でイキった後にちょっと恥ずかしくなった奴だ……」*2

「先ほどの上鳴さんとの会話、聞こえていました。まるで私に負け筋があったような仰りようだったので、少し気になりまして……」

 

 あ、そう言う事?

 上鳴君に死体蹴りしたら許さんかったけどそういう事ならまあ。

 

「俺も聞きてえ! 峰田、教えてくれ!」

 

 なんかA組もB組もちょっと気になってるみたいだったので、しょうがないなあと息を吸い込んだ。同級生だしね。あんまりA組B組って壁立てる事も無いか。

 あくまで想像だけどと前置いて。

 

「塩崎さんさ、多分放電しか来ないと思ってたでしょ」

「ええ。正直、上鳴さんにはそれしか無いように思えたので」

 

 上鳴君は静かに凹んでた。本当は色々練習してたんだけどね。

 

「上鳴君はもう自分の個性が対策済みだって想定した上で、放電の予備動作を見せ札に蔓避けながら接近、ノータイム放電をぶっ放すべきだったと思うよ」

「すまない峰田君。B組の庄田だ。そもそも彼女に上鳴君が接近すれば勝てたというのは楽観的にすぎないだろうか。そして放電しか来ないと思ったという言質を彼女から引き出した上でその言い様は少し意地が悪いように思う」

「いや、出来た」

 

 断言できる。

 

「上鳴君が開幕で思いっきり放電してアホになってなかったらあんな見え見えの地中攻撃避けられた筈だ」

「だからそれが楽観的だと――……」

「だって塩崎さんは茨のシールドで自分の視界を塞いだうえで、自分も後ろを向き、そして蔓を地上ではなく地下経由で上鳴君に襲い掛からせたじゃん」

 

 皆の表情を見るに、塩崎さんのヤバ行動が理解できたみたいだなぁ。

 そして僕は更に補足する。

 

「塩崎さんが放電しか来ないと思ったにしても、自分の視界を完全に0にするのはやり過ぎでしょ」

「それは彼女が茨に触覚を持つからであり……」

「あ、そうなんだ……いやいや。じゃあ猶更地中に通す意味なくない? 視界0にするなら茨をフィールド中に伸ばしとけばよかったのに」

 

 普通の人は視覚が認識の大半を占めるらしいし、触覚が茨の数だけあろうがなかろうが引き算するメリット無いと思う。

 

「……もしかして俺勝てたの?」

「だからさっきからそう言ってんじゃん! 塩崎さんは初手で地面に茨ぶっ刺してから上鳴君の位置を憶測で判断してんだし……君が放電の予備動作だけ見せとけば塩崎さんに近づくのは楽勝だったと思うよ。で、おかしいって顔出した瞬間は絶対に緩む(・・)から、そこをタイミングよく、練習したノータイム放電で刺せば逆に秒殺出来てたんじゃない?」

「……そっか、練習したもんな」

「……茨は思考で操ってるのか知らんけど、塩崎さん自身が感電した状態でまともに動かせるわけないと思うし」

 

 塩崎さんは顎に指を当てて考え込んでるご様子。

 

「峰田さん、どうか続けてください」

「塩崎さんも放電しかないって決めつけた上で、舐めプしたのはよくないと思うなー」

 

 気持ちはわかるけど……。

 

「コンクリートをあの速度で掘削できるくらいの膂力と質量を出力出来るんでしょ? 触覚持ってる茨をフィールド中にまき散らした上で……速攻でシールド作って上鳴君に押し付ければぐうの音も出ない瞬殺だったと思うよ。こんな問答しなくてもいいくらいのね(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。勿体ない」

 

 こうですか? と塩崎さんが茨で小さくブロックを作って前方にえいっと押し出すのを見て違う違うと首を振る。

 

「もっと薄く」

「このくらい……」

「その半分以下の厚みでよくない?」

「……あっ。放電だけを防げればいいから、もっと薄くていいんですね?」

「うん。厚さより隙間の有無かな。より少ない茨で隙間なく壁を作って相手に押し出せると強そうじゃない?」

「ヴィラン……そう……そう、ですね。こんな感じでしょうか」

 

 塩崎さんは規模小さ目でそれをやって見せた。

 おお、中々いいじゃん。

 

「それを本番でもっとデカく速くやれば、塩崎さんは自分の視界を確保しつつ、上鳴君の視界を奪いながら拘束を仕掛けられたんじゃないかな。放電するしか能が無さそうな上鳴君をぱくっと捕まえるくらい造作もなさそうじゃない? 茨の壁が迫ってくるのって多分心理的な圧力もある。ていうか電気って物に沿う性質があるっぽいから、カーブさせると電気受け流しやすいかもね」

「なるほど。では私と上鳴さんの勝負は……」

 

 断言する。

 

「上鳴君が歯茎剥き出しで*3……こほん。考えなしに思いっきり放電してアホになって回避不能になったのが君の勝因の6割かな。4割は……ヤマが当たってよかったね(・・・・・・・・・・・・)

「……ありがとうございました。精進します」

 

 ぺこりとお辞儀までされちゃったし、なんかあのパツキンに煽られた熱が一気に冷めちまったな。そろそろ仕切りから降りないと実況席からお叱りが飛んできそうだ。

 

「ところでつかぬ事をお聞きしますが」

「ん?」

どうしてチアリーダーの格好を?

 

 ……あっ。

 そのー……葉隠ちゃんからお願いされたって答えるのもちょっとな。

 

「私の記憶が正しければ男性だったと思うのですが……」

 

 B組の何人かが驚いてたので僕の知名度もまだまだだなと痛感する。

 

「これは……」

「……?」

「趣味です」

「……」*4

「じゃ、トーナメントでね!」

 

 ひらりとA組側に降りて着席する。

 ああやってクソ真面目に質問されると答え辛いな。ていうか塩崎さんガチ困惑してて草。すいませんごめんなさい。死んで出直します。宗教って姦淫は大体アウトなんだっけ……女装はギリギリセーフじゃない?……アウトか……うん……そうだよな……懺悔室でシスターのお姉さんと栄光の穴したいな……。

 

「なんか……割と親切というか……」

「スケベって聞いてたけどまともそうだね?」

「いやそれはないのですな……物間氏が殺されるかと」

「スケベというよりちょっと特殊な子っぽい?」

「でも可愛かったね。あれで推薦もトップでしょ?」

「アタシ推薦の会場で見かけたけどヤバかったよ」

「わたくしももっと柔軟な発想で二回戦に挑まなければ」

 

 ……。

 やめるんだB組の諸君! そんな目で僕を見るなお前ら!

 その微笑ましいものを見る目はやめろ!

 

「峰田ー。早く控室移動しよーよー」

「あっはい。今行きます……」

 

 

 

 


 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 

 

  ――誰?

  ――誰だよ

  ――誰や……

  ――草 誰だよ

  ――摂津のきり丸 出典:忍たま乱太郎

  ――誰?

  ――AA特定早すぎて爆笑してる

  ――特定早すぎて草

  ――クソ懐かしい

  ――懐古過ぎて爆発した

  ――こんな可愛い子居たっけ?

  ――存じ上げませんね

  ――きり子じゃないの?

  ――キリコ!?

  ――む せ る

  ――むせる(戦災孤児)

  ――きり丸はほんとにむせてる

  ――故郷の村、戦で焼かれてるからね

  ――やめてくれよ(号泣)(悲しき過去)

  ――きり丸は女装するんですよね。それが通称きり子

  ――きり子で精通しました

  ――スケベ忍者はきり丸だった……?

  ――共通点多くて草

  ――いやケチとスケベじゃ全然違うぞ

  ――二人とも穴はある

  ――どっちも可愛い

  ――付いてるからお得

  ――直結ヴィランおるって

 

 

 

 

*1
拳藤注:峰田こっっっっわ!!

*2
葉隠注:スケベ忍者はイキる→失敗するか後で恥ずかしくなる→コメントとか他の演者に弄られる→「なんすか」ってなる事がたまーにあるよ

*3
葉隠注:白い歯を見せる→笑う→油断するとか調子に乗るっていう意味だよ。

*4
塩崎注:??????????????????(音割れXファイル)






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016





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「僕を騙したなあああああ!!」

 

 

 飯田君、迫真の咆哮。

 10分たっぷり発目さんのマーケティングに付き合わされた飯田君が哀れすぎる。流石にこれは僕も想定外。ていうか正直な話サポートアイテム懐疑派なので、マーケティングするならもっと実戦的な状況で試してみてほしいもんだと思うばかりである。

 そんなことを思いながら入場口でとぼとぼと歩いてくる飯田君を出迎えた。

 

「お疲れ様」

「発目さん……どうして……」

「めっちゃダメージ受けてて草」

 

 頑張ってくれ峰田君と言い残し、意気消沈のまま去っていく飯田君に手を振って見送りながら深呼吸した。ステージに損傷はない。すぐに出番が来る……。

 

 

「早速次の試合やってくぜ!」

 

 

 舞台に向かって足を踏み出す。

 

 

「すべてを溶かしつくすアシッドガール! 芦戸三奈!!」

「バーサス……クレイジーサイコスケベ忍者! 峰田実!」

 

 

 

 舞台。

 いや、違う。

 リングだ。

 

「峰田、全力で行くからね!」

「うん」

 

 左足を前に、右半身を下げて構える(・・・)

 

「……!」

「対戦よろしくお願いします」

 

 芦戸さん。女性。運動神経は多分女子でトップ。ダンス経験者はアクロバットな動きをしがちだ。しかもここは平地だし障害物は無いしちょっとアウェー。彼女は酸性の液体を全身から噴出出来る。でも今はコスチュームじゃなくてジャージだから酸の噴出経路は露出部位に限られる……いや、尊厳自爆特攻も視野に入れるべきか。

 

 

「スタートォッ!!」

 

 

 まずは足場を崩して有利なフィールドに変える!

 んぐぐぉおりゃあああああああッッ!!

 ……あれっ? んぉりゃあっ!!

 

「な、何!?」

 

 所詮コンクリートのフィールドだと思ったけど結構堅い? いや、僕の覇気がちょっと足りてないのか。想像の出力と実際の出力に開きがある。くっそ心操君め! "使った感覚が無いリソース消費"がこんなに調子出ないとは思わなかった!

 

「アシッドショット!」

「遅い!」

 

 飛んできた溶解液も六式を使わずに回避できる。よし、反射神経はまだまだ万全。ちょっと疲労感があるけど僕のスタミナも万全。素のフィジカルも特に異常無いなら覇気と個性をセーブしても全然やれるはずだ。そういう風にトレーニングした成果を出せ。実!

 

「忍法、粘着糸の術」

 

 そのまま小さめの瓦礫を接着して即席のクソ長モーニングスターを作ってぶん回してみる。力強く、そして何より速くだ。

 

「よっ、ほっ、くそっ、おりゃあっ!!」

 

 溶解液で溶かしてくるかと思ったけど普通に避けるか。まあ……避けるよな。続けざまに横薙ぎに何回かぶん回すけどまあ避ける避ける。足場も崩れてるのに相当粘るな。でも近づいてくる彼女にはもっと負荷を掛けなくちゃ。

 

「忍法、粘着糸の術」

 

 即席クソ長モーニングスターの数を二本に増やし緩急も織り交ぜてぶん回す。段々速度を上げてテンポもずらす。ダンスが失敗する条件はリズムが崩れる事だろ? そしたら当然……。

 

「アシッドベール!」

 

 使うよな。それを。

 即席モーニングスターがみるみる溶けていった。コンクリートがあの速度で溶けるのはちょっとヤバいかもな。

 ……ある程度形状を操作できる溶解液で作られたアシッドベールは芦戸さんの両手でなぞった場所に出現する。シールドではない、ベールだ。じゃあやりようはあるよな。

 手ごろな瓦礫を思いっきり蹴り飛ばす。

 

「無駄!」

 

 いや、無駄じゃない。さっき以上の速度でもう一回瓦礫を、アシッドベールが瓦礫を受け止め、溶かし、空いた穴(・・・・)へ向かって打ち込む。

 

「カ、ハッ……!」

 

 アシッドベールはその名前の通りベールだ。そして酸がモノを溶かすという事は、酸と物体が反応して酸が目減りしてると思われる。ある程度目減りした酸は芦戸さんが補充するだろうけど……溶かす速度と溶解液が補充される速度よりも、僕が次のコンクリを同じ場所へ蹴りだす方が速かったようだ。

 

 そして芦戸さんはセンスが良い。塩崎さんと僕の"敵の攻撃タイプに合わせた攻防一体の形"についての話を聞いてた彼女でも、アシッドベールをアシッドシールドやアシッドキューブやアシッドスライムにすることは思いつかなかったようだけど……もう気付いただろう。

 

 次から対応してくる筈だ。

 

「剃」

 

 だからここでとどめを刺す。

 剃で蹲る芦戸さんの目の前に立ち、回し蹴りを叩き込んで床に叩きつけた。

 いや、叩きつけようとした。

 

詰みだよ(・・・・)

 

 は?

 

「アシッドプリズン!」

 

 慌てて足をひっこめた瞬間、芦戸さんのお腹から溶解液が放射される。慌てて急所をガードするけど想像した痛みはない。ああ、うん。この一瞬が欲しかったのか。僕は半透明のドームに覆われてしまったようだ。

 控えめに言ってヤバい。

 硬化した指先をドームに押し当て……一瞬でひっこめた。

 

「凄いな。僕一人を覆うくらいなら造作もないのか」

「降参して」

 

 半透明の向こう側、ドームに手を付けている芦戸さんのシルエットはぼやけていたけど、お腹の部分がピンク色だから……そうか、お腹の中で溶解液を充填して解き放ったなら納得だ。

 

「私はドームの維持に必死で酸の調整が出来てない」

「要するに?」

「降参して。クラスメイトを溶かしたくないし……脱出するならまたメタル峰田に変身するしかないでしょ?」

「なんでそう思うの?」

「こうして話してる間にもどんどん酸の檻は分厚くなっていく……蹴りを出すほどのスペースもないでしょ?」

 

 まあ、蹴るためのスペースすら無いから轟君のマヒャドぶっ壊すみたいなことは無理……ていうか観客席に溶解液が飛びかねないから選択肢から消さざるを得ない。うーん……これさぁ、すっごいいい手じゃない? 実際みどりゃーとかなら詰んでたんじゃないか?

 

 ……。

 えへっ。

 全身に覇気を纏いたくない。

 そして足技で吹っ飛ばせない。

 じゃあどうするか? シンプルな問題だよな。

 

「本当は維持もキツい癖に♡」

「ッ!?」

 

 極めてコンパクトな動きになるように意識して、ドームを支える芦戸さんの掌に向かい加速した指先を放つ。

 六式が一つ、指銃。

 

「……えっ」

 

 ドーム越し。芦戸さんの左掌に小さく穴を開けた。本当にごめん。痛いよね。でも骨は傷つけてないし、これから僕も超痛いのでお相子という事にしてくれないかな。

 ……芦戸さんの制御を失った溶解液が天井から降り注ぐが、被弾面積を最小限にして武装色硬化。溶解液との接触時間も最小限に抑えてそのまま真上に。

 

 

 

「1ニョッキ!」

「はぁっ!?」

 

 

 

 ……と、全力ジャンプして飛び上がった。それでも超熱い。酸って火傷っぽい痛みなんだね。ああくっそ二度とたけのこニョッキゲームやらないからな。

 

 ……でもなんか。

 

「あッッッッッッ」*1

 

 たけのこニョッキゲームで……。

 

「……う、ぐぐ。くっそぉおおお!! 降りて来い峰田ァッ!」

 

 テンション上がってきちゃったなぁぁぁあああああああ!!!!!

 

「望み通り降りてやるよオラァァアアッ!!」

 

 月歩で思いっきり加速、回転しながらの踵落としは紙一重で避けられた。いや、違うわ! これローションかなんかで打突ずらされたわ! 当たってたら絶対KNOCKOUT(流暢)してたんだけどな! なんかすっごいぬりゅんってなってる!

 

「んん~~~~~~~~????」

「な、何……?」

 

 ローションねとねとで超気持ちよさそうだなぁ……massageのタグで出てくる動画で男がmassage受けててもいいし女の子がmassage受けてても……どっちでもシコれるのが僕……でもたまにはspy視点じゃないmassageの動画も見てみたいな……。

 

 あ、そうだ。

 

「芦戸さん、ローション鬼ごっこしよ?」*2

「えっ」

 

 なんだか全身が熱いなぁ。*3

 んひ。お互い溶解液でぬるぬるじゃんね。*4

 ってことは……そういう事なんじゃんね。*5

 僕は体に着いた溶解液を舐めとった。

 ああ、これだ、これ。

 舌の先をビリつかせる痛み。

 僕を焦がす激情。闘争。覇気の気配。

 

 

 

 

僕が鬼♡*6

ひぇっ……

 

 

 

 

 じゃあ捕まえるからね♡ 絶対に動くなよ。

 

「あっち行け変態! アシッドショット!」

「指銃、"撥"」*7

 

 指先で相手をバキュンと打ち抜く技、指銃(シガン)。これ空気含ませたりなんだりすると遠くまで飛ばせちゃうんだなこれが! ぶっつけ本番でやったけどなんだよやれば出来るじゃん! 凄くない? みーくん偉い? ママ褒めて! んふへへへへ……僕にママ居らんかったわ。

 

 ……。

 

 剃。

 

「へっ!? アシッドベー……」

 

 遅い。

 右手でジャージを掴んで引き寄せる。

 

「捕まえた☆」

 

 右手で引き寄せた勢いで左ボディを叩き込み、返す刀で右ストレートをぶちかました。

 ……残心。手ごたえが超あったけど、思いっきり倒れた芦戸さんを見ながらいつでも剃からの蹴りを叩き込めるように準備する。ああやめろやめろ立つな。フラフラじゃないか。つま先に力を籠め、芦戸さんを注視する。

 あ、倒れた。

 まあめっちゃ思いっきり右が入ったしな。

 

 

芦戸さん、戦闘続行不能! 峰田君、二回戦進出!

 

 

 

 はぁ~~~~~勝った。

 肩の力を抜いて嘆息する。やっぱり誰が相手でも初見殺しがあるから怖すぎるね。ミッドナイト先生試合止めてくれてありがとうと内心で叫びながら、剃を使って芦戸さんに駆け寄ってみた。

 

「ナイスファイト」

 

 そう声を掛けると仰向けの芦戸さんは一瞬体を強張らせた後、肩から力を抜いて僕に笑いかけてくれた。流石に試合終了してるのに追撃とかしないよ*8

 

「峰田強すぎ……」

「まあ芦戸さんよりは強いかもあ……あっ立ち上がっちゃダメ。安静にしないと」

「いや貴方も安静にしなさい。思いっきり酸浴びてるんだから」

 

 僕は飯食えば治るから後回しでいいんです。

 

「ご飯あります?」

「肉料理がスタンバってるわ」

 

 やったぜ。

 

 

 


 

 

 

 さて。

 セメントス先生がステージを修理してる間、僕は用意されていたご飯をむしゃむしゃして元気いっぱい。ボロボロのジャージから新品に着替えて……次の試合まで観客席で大人しくしよう。

 

 

 

 

 

■ハイウェイちゃん@今週末は雄英体育祭!@ToumeiGIRL2231

 雄英高校、過酷すぎる

 《画像:全身包帯塗れのスケベ忍者が客席でぐったりしてる》

 

  ――代理投稿か?

  ――マジでこいつ頭おかしい

  ――志々雄真実み無いやん

  ――スケキヨっぽくね?

  ――六式とかいうトンチキ技

  ――刃牙から異世界転生した男

  ――何から驚けばいいのかわからん

  ――でもやっぱり女の子にも容赦なくて笑った

  ――ストレートよりも左ボディの方が痛そう定期

  ――男女平等ワンツーパンチ

  ――女ヴィランさん相手でも信頼感ある

  ――戦闘能力がおかしいんだよな相手

  ――放課後デートしたら殺す

  ――出来ると思ってんのか

  ――草

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 被弾面積を最小限にして波紋防御があの1ニョッキです。

 

  ――酸の幕をにょっきで突っ切るのイカレてるよ

  ―― デ ス ニ ョ ッ キ

  ――「1ニョッキ!!!(大迫真)」

  ――間違いなく世界一過酷なにょっきだった

  ――すぐに種からお花になりそう

  ――にょっきはトトロの中だけでええんや

  ――でもあの一瞬だけメタル峰田になってたな

  ――ていうかいい加減六式と覇気ってなんだよ(困惑)

  ――BLEACHの白打と瞬閧ちゃうんか?

  ――ふんたーの四大行じゃないのかあれ

  ――絶対に念能力でしょ

  ――応用技全部習得してない?

  ――↑これ

  ――いやー適当ですね

  ――あれ無個性でも習得可能ってマジ?

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 でも確かに四大行と応用技全部できるかもしれんw

 

  ――草

  ――ふわっふわで草

  ――確かに

  ――覇気とは一体

  ――気合

  ――気合でしょ(適当)

  ――えぇ……

  ――マジで気合っぽいんだよな

  ――過去発言からしてマジで気合

  ――気合で空間把握してメタル化出来るんか?

  ――実際に出来てるし……

  ――そうなんだよな……

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 ・六式

  →6種類の体術。理論上無個性の人間でも習得可能。

   何種類習得してるかで〇式使いと呼称される。

 ・覇気

  →向き不向きがある2種類と才能ガチャの1種類。

 

 習得難易度は覇気>>>>>>六式です。

 この世界の現代人間、成長性Aなので。

 

  ――習得可能マジ!?!?!?

  ――えぇ……すげえ武術来たな

  ――もう人じゃないねん

  ――これ増幅系の活路では

  ――あと20年早く知りたかった

  ――スケベ忍者とママさんは何式使いなんですか?

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 私は六式使い、息子は五式使いですね。

 まだあの子は足で真空の刃を作れません

 RT >>スケベ忍者とママさんは何式使いなんですか?

 

  ――普通は無理

  ――真空の刃??????

  ――蹴りで居合斬りすんのか

  ――もしかしてババアは忍者より強い説

  ――そりゃ師匠だからな

  ――数か月前トレスで騒いだ絵師生きてるんか?

  ――草

  ――草

  ――草

  ――草

  ――垢消し逃亡してたよなw

  ――……消されちゃったって、コト!?

  ――最悪のハチワレ

  ――いや割と本編寄りの発言

  ――島編長すぎワロタ

  ――結局島二郎はなんだったんだよ……

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 ヤバいセリフ、しっかりカメラに抜かれてて草

 《画像:僕が鬼♡》

 

  ――色々衝撃の戦闘で忘れてた

  ――こいつヒーローの卵です

  ――まーた炎上するぞ

  ――放火されてる定期

  ――ハイライトどっかいっちゃった

  ――でもすっごい色気だよな

  ――わかる。アンバランスさがいい

  ――俺はちょっとヒソカみ感じる

  ――ヒソカで草。

  ――ドロッとしてるよなw

  ――でもムーブがキモ過ぎる

  ――イケメンか男の娘ならセーフ

  ――言うほどセーフか?

  ――酸舐めて全身振るわせてからの

  ――ローションプレイのお誘い

  ――相手は同級生かつJK

  ――アウト過ぎる

  ――核地雷級の3アウトなんだよな

  ――罪状

  ――有罪

  ――没収

  ――死刑

  ――処刑人の剣!

  ――ボロン

  ――その粗末な剣仕舞えよ

  ――急に刺さないでもろて

 

 

■ハイウェイちゃん@今週末は雄英体育祭!@ToumeiGIRL2231

 ちゃんと叱っておきます

 《画像:ボロボロの芦戸と包帯塗れの峰田がガオーのポーズ》

 

  ――正妻かな?

  ――プリでたまにやる奴

  ――デコりが物騒過ぎる

  ――ガーゼ! 包帯! 青タン!

  ――青春や……

  ――体育祭の1ページ

  ――灰になる やめろ

  ――吸血鬼おる

  ――圧倒的光のオーラ

  ――忍者……嘘だよな……

  ――陰キャの癖によ ぺっ

  ――俺ら皆吸血鬼定期

  ――黴臭い陰キャ

  ――カス

  ――放課後デートしたら殺す

  ――あっお疲れ様です

 

 

 

*1
峰田注:熱い。いやマジで熱い。痛いじゃなくて熱い。

*2
葉隠注:は?

*3
ミッドナイト注:そうね

*4
マイク注:……そうだな

*5
相澤注:待て。その理屈はおかしい。

*6
八百万注:やはり峰田さんの発言と行動はなんらかの法に抵触しているのでは?

*7
師匠注:ファッ!? まだ1回しか見せた記憶無いんですけど!?

*8
芦戸注:よかった……あのドロッとした目じゃない……




この作品を更新してて一番辛いのは、そとみち氏のめっちゃ面白そうな二次創作を読めない事です。展開被りしてしまった際に盗作だと言われないため、また潔白を証明するために持ってるデバイス全部でお話の部分までアクセスしないようにしてるんですよね。盗作だと判断するのは運営さんなので。

ていうか読んだら絶対面白いし影響されちゃうので悲しいし辛いけど連載中は我慢してます。

なぜこんなこと急に書いたのかというと、ハーメルン巡回中、該当作品のタイトルに完結の文字が見えたからです。

そとみち氏、お疲れ様でした。
この作品完結したら絶対読みに行きます。


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017

 

 

 

 

「ぷひー」

 

 スマホを仕舞い、体から空気を抜いた。休む時は休む。これ鉄則だからね、うん。表面焦がされただけでよかったよ。少し食べて安静にしてれば回復なんてすぐだ。そういうことにしとこう。

 

「おっ。お疲れ峰田。芦戸もな。ほらこれ差し入れ。買ってきたぜ」

「いいの? サンキュ」

 

 客席に戻ってきた上鳴君からミネラルウォーターを受け取った。めっちゃのど乾いてたので助かる。

 

「……マジでピンピンしてるのな」

「まあこれくらいはね。骨折れてるわけでもないし」

「峰田のグーパンちょー痛いんですけど?」

「痛いようにしたからな!」*1

「峰田無いわー」

 

 このこのと蹴られたけどそんなの効かん効かん。

 

「ていうか峰田のあのドロッとした感じ久しぶりだったわ」

「その節はすいませんでした。靴舐めます」

「罰になってなくない?」

「ヴ」

 

 耳郎さんの心無い言葉が僕の胸に突き刺さる。

 

「……ま、あれが峰田の強みだしいいんじゃない?」

 

 当事者の芦戸さんがそう言ってくれると助かるんだよな。戦ってるとたまにテンションぶちあがる事が多いのは今後の課題……いや治るのか? ヒーロー活動中にあんなんやったらすっぱ抜かれないか? むしろミッドナイト先生路線で行くか? 正直もう手遅れな気もするけど考えるだけ考えてみよう。我慢したら爆発しちゃいそうなんだよね。

 

「さて、次に峰田の餌食になるのは誰かなー?」

「三奈ちゃん言い方!」

「峰田はどっちがい「ヤオモモ」めっちゃ即答じゃん」

 

 えっ!?!?!?

 

「何"口が勝手に"みたいな顔してんだよ」*2

「脳直だったんだね……」*3

「私たちはもう慣れたけど……あんまりいい事じゃないのよ、峰田ちゃん」*4

「ッス……」

 

 さて、次の対戦相手の品定めでもしようかな。

 派手にフィールドぶっ壊したから時間も稼げたし。

 

「峰田」

「どした瀬呂くん」

「マジな話どっちが勝つと思う?」

 

 んー。

 

「ヤオモモ」

「え、マジ?」

「峰田、マジな話っておっぱいの事じゃないんだぞ?」

 

 上鳴君のありがたい指摘、痛み入る。

 でも君とは一旦腰を据えてお話しないといけないらしい。

 ……それはまあ置いといて。

 

「うん。本当にヤオモモが勝つと思ってる」

 

 周りを見るとみんなが「え、なんで?」みたいな顔してたのでびっくりした。バクゴーすら「は?」って顔してるからよっぽどなんだろう。なんでや。

 

「いやだって……ダークシャドウどうすんだよ」

「うん……そこに尽きるよね」

 

 上鳴君とみどりゃーの言葉で気付いた。そういえばダークシャドウどうすんのか問題があったっけ。とりあえず持論から延べようかな。

 これは師匠と僕が修行の末に辿り着いた一つの仮説なんだけど、と前置いてから……割と物議を醸すかもしれない発言をした。

 

最強無敵(・・・・)完全無欠の個性は存在しない(・・・・・・・・・・・・・・)

「存在……」

「しない?」

 

 うん。

 

「どんな個性にも限界か、弱点か、欠点がある。なんていうんだろう……心掛けというか、"一見すると強すぎんだろそれって個性にも必ず隙はある、勝ち筋を探せ"っていう考え方なんだけど」

 

 ……。

 

「常闇君のダークシャドウ、物理無効だし伸縮自在だしそこそこ速いんだけど……絶対からくりというか、条件があると思うんだよね」

「例えば?」

「みどりゃー?」

「えっ。ちょ、ちょっと待って!」

 

 僕に話を振られたみどりゃーは持ってたノートをパラパラめくり、目を血走らせながら読み込んでブツブツ呟くモードに入った。オタクやん。なんというかいつもの事なのでみんな慣れつつある。ちょっと怖いけど。

 

「パワーにムラがあって、姿かたちが……強そうな時と弱そうなときがある?」

「そう! あいつちょっと弱い時とクソ強いときがあるんだよ。なんでだろうね?」

「……」

 

 格闘自習についぞ常闇君は来なかったけど……普段の授業、障害物競走に騎馬戦でしょ?……本戦出場者が決まってからもう時間が経ってるから、ヤオモモもそこそこ当たりはつけてるんじゃないかなぁ。

 

「"何故?"を解明して対策を立てることにおいて、ヤオモモは特に秀でてると思うよ。この場合の"何故?"はダークシャドウの強さの秘密、あるいは弱点だね」

「なるほど。ダークシャドウの秘密について豊富な考察を用意できるという事か!」

「そういうこと。まさかヤオモモが無策でダークシャドウに挑むわけ無いし、いっぱい回答を用意してるんだろう」

 

 多分だけど。

 

「スピード勝負になると思う」

「スピード勝負ゥ?」

「ヤオモモが用意した回答で正解を引き当てるのが先か、ダークシャドウがヤオモモをぶっ飛ばすのが先か」

 

 ……お。

 

答え合わせ(・・・・・)の時間だ」

 

 

 


 

 

 

 Aぐみの とこやみくんは

 ダークシャドウを くりだした!

 

 「おれの ダークシャドウは

  きさまのそうぞうを りょうがする!」

 

 ダークシャドウの バレットパンチ!

 

 

 「ええ、だからこそ……

  てきかくに じゃくてんをおさえます!」

 

 やおよろずさんの そうぞう!

 

 うみだされたのは……

 せんこうしゅりゅうだん!

 しゅうこうくっせつ ハイチーズ!

 

 

 ダークシャドウは おびえている!

 とこやみくんは 

 めつぶしじょうたいになった……

 

 

 やおよろずさんの そうぞう!

 

 うみだされたのは……

 ヤオモモキャノン!

 あんしんとしんらいの ばくはつりょく!

 

 とこやみくんは たおれた……

 

 

 


 

 

 

「うおおおおおおおおおッ!!」

「ヤオモモつええ!」

「あのピカって光る奴なんやろ?」

「閃光手榴弾じゃないの?」

「ああ! 光に弱かったのか!」

「なるほどな……変にムラがあるのも納得だわ」

 

 次の対戦相手はヤオモモか。

 

「うーむ」

 

 常闇君との戦いは思わず声が漏れるほどにスマートだった。まさかの初手でメタを引き当ててくるとは運が良かったのか、確信があったのか、それとも正確な予測が的中したか……。

 隣でガリガリとノートに書き込みまくるみどりゃーから漏れ出る"陰"のオーラを軽く手で払いながら、軽くヤオモモとの戦いを想像する。取れる手はいくつかあるけど、いかんせんヤオモモの取れる手段が豊富に過ぎる。地球上の非生物の数が本人のサイズをある程度無視して出力されるのがもう滅茶苦茶だ。

 しかもお嬢だからかはわからないけど、火器の扱いに慣れてると言っていいだろう。常闇君をノックアウトした、あのヤオモモキャノンは彼女の慈悲だ*5。僕なら7.62mmのゴム弾を曳光弾交えつつミニガンでバラまくか、スタンモードにしたパルスキャノンで丸焼きにする*6

 

 ……えっ。今気づいたけどさ、僕あれと戦うの? 考える時間与えた分だけ対策の数を立ててくるような相手と? 向こう側にある程度手札を知られてる状態で?……おかしいな。ヤオモモを省エネでぶっ飛ばせるヴィジョンが見えない。

 

 A組が歓声に沸く中、僕は一人冷や汗を流していた。ヤオモモの個性の恐ろしい所はヤオモモのボキャブラリーに含まれるアイテムなら無条件かつ実用に足る速度で出てくるという事だ。しかもそこに格闘自習で鍛えた、反射神経を含むフィジカルが加わってくるという事で……もしかしたら僕は、格闘自習で化け物を生み出してしまったのかもしれない。

 

 でもまあやる事は常闇君VSヤオモモの時と一緒だ。ヤオモモが僕に対する効果的な対策を引き当てるのが先か、僕がヤオモモをぶっ飛ばすのが先か。考える時間も与えずに叩き潰す。これしかないな。ちょっとリソース割こう。

 

「……」

 

 イイ、な。強い女性は好きだ。師匠みたいな……んふへ。あ、やべ。我慢我慢……頭を振って考えを元に戻す。こうして何度も間隔を空けて戦うのは初めてだからか、集中が途切れがちだ。疲れてるは言い訳にならないぞ実。ヴィランの前でも同じことを言うつもりか。

 

 ……?

 

「みどりゃー? もう控室行くの?」

「ちょっと用事が!」

 

 ふむ。まあいいか。

 さて次は……切島君とB組の子?

 

「上鳴くーん、次の切島君の対戦相手の個性わかる?」

「お? ああ、鉄みてーに堅くなる個性だってさ。個性被りがどうだとか言ってたし」

 

 さんきゅと返し、ほとんど傷の無いフィールドを見下ろす。

 なるほど。ほぼミラーマッチか。

 ……ちょっと気を抜いて休もう。

 思ったよりこのトーナメント、ハードになりそうだ。

 

 

 


 

 

 

 切島君と鉄哲君の戦いはそれはもうシンプルな殴り合いで終わった。終盤は鉄哲君が切島君の胸板をボコボコにぶん殴り、切島君が咆哮しながら全部受け切って、スタミナが尽きた鉄哲君にとどめのアームハンマーで叩き潰すという幕引き。ターン制の美学を感じる熱い戦闘に会場も盛り上がった。

 

 ぶっちゃけ話をすると……格闘自習に出てきた時の彼にはみどりゃーと一緒に皆のサンドバッグになってもらっているのだ。もうその辺の男子高校生が繰り出すような温い打撃はもう硬化した彼の体に通用しないだろう。ていうか通用するならそれはメンタルで負けてる証拠なので、根性から鍛え直しである。

 

 今回は全ての攻撃がクソ重たくて硬いアイアンパンチだったのでノーカウント。鋼材であんだけぶん殴られて「痛ェ!」で済むなら上々である。物理攻撃は十分っぽいので、次は上鳴くんの電撃に耐えようね。

 

 ちなみに僕と葉隠ちゃんは急に"上院議員と雷電のあのシーン"を見せつけられて爆笑していた。

 

「……お。どこ行ってたの?」

「ちょっとね」

 

 隣に戻ってきたみどりゃーは多くを語らない。

 麗日さんのとこかな。

 

「次、ある意味最も不穏な組ね」

「……ウチもそう思う」

 

 ワイトもそう思う。

 

 

「堅気の顔じゃねえぞこいつ! 爆豪勝己!」

「バーサス……こっち応援したいぜ! 麗日お茶子!」

 

 

 ワイトも個人的には麗日さんを応援したい。応援したい……けども。勝負事だ。弱い奴から蹴落とされる。麗日さんは根性もイイ線行ってるとは思う。でもバクゴーに勝てるかと言われると厳しいな。

 

「ちなみに緑谷君、先ほど麗日さんに伝えようとしていた爆豪君対策とは一体……」

「短期決戦の速攻だよ。……かっちゃんは強い。戦えば闘うほどに温まって強力になる個性だ。きっと峰田君が警戒してるのも……」

「ん。否定はしない」

「……速攻で、浮かせる。突然の無重力にはいくらかっちゃんでもすぐに対応できるわけない」

 

 まあ唯一の勝ち筋だよな。

 問題はそれを理解しているバクゴーが近寄らせるわけ無いって事。

 

 

「スタートォッ!」

 

 

「麗日さんの個性はこのトーナメントのルールじゃ一撃必殺だけどさ」

「うん! 事故でも触れられたら浮かされる……だからかっちゃんは回避じゃなくて迎撃を選ぶ」

 

 麗日さん、真正面から突撃

 ……で、一発モロに爆破を食らう。

 ……。

 

「後ろを取った!」

「へぇ、変わり身か。爆風使ったのかな」

 

 僕よりよっぽど忍者してそう。

 ……でも流石バクゴー。タッチの寸前で気付いて的確に爆破。

 こりゃ勝負あったかな。バクゴーの火力の推移でも見るか。

 

 

 


 

 

 

 それからはまあまあワンサイドゲームだった。途中、麗日さんの作戦に気付かないタイプの勘違いプロがブーイング起こした挙句相澤先生に強めの怒られを喰らって社会的に死んだり、麗日さんが死角に蓄積させていた破片を自由落下させてワンチャン取りに行ったけどまあ……。

 

 相手が悪かったね、よりも功夫が足りないねって感じだった。あの爆破のダメージよりも、モロに食らった瞬間吹っ飛ばされるのが辛いってのが理解できてなかったんだろう。バクゴーが嫌なのは接近される事。だから相手はノックバックさせてくる。ではどうすればいいか? 答えはまだエンジンがかかり切らない序盤、爆破に対して芯をずらしつつ、爆破の勢いに負けないくらいのスピードで突っ込んで、爆破のために伸ばした手を思いっきりタッチする……くらいしか思いつかない。

 

 ……流石に脳筋過ぎるかな。

 麗日さんは切島君に対するガンメタだし、僕は麗日さんの事を秒殺出来るから出来れば上がってきてほしかったんだけど、そんな都合のいい事は起きないか。

 

「あ、バクゴーお疲れ様」

「るせーんだよクソ団子」

 

 相変わらず不機嫌そうな顔で客席に戻ってきたバクゴーはなんと僕の隣に座ってくれた! やだ……もしかして隣に座ってくれるの初めてじゃない? バクゴーの肩を二度叩いてGGと伝えると、かなり殺意の籠った視線をお返ししてくれた。視線だけで基本シカトである。

 みーくんシカトは悲しいからやめてほしいんだけど。

 

「バクゴーもよくか弱い女の子に対して思い切った爆破出来るな!」

「……どこがか弱ェんだよボケ」

 

 おお。

 バクゴーったら素直じゃないんだからもう。

 

「ねね、バクゴー。麗日さん強かった?」

「……」

 

 シカトはやめてクレメ――

 

 

 ん?

 

 

 ……みどりゃー?

 

 

 

*1
芦戸注:わかっちゃいたけど葉隠と対応違いすぎない?

*2
砂糖注:流石にそろそろ怒られそうだな

*3
葉隠注:……ちょっと、私頑張らないとダメかもしれない

*4
爆豪注:いや、違ぇ。あのクソ団子様子がおかしい。戦闘が絡まない今、あそこまでストレートな言葉が出てくるか? 騎馬戦のアレが結構効いてんだろ……

*5
八百万注:えっ?

*6
八百万注:わたくしのリソースも有限でしてよ?







感想、評価、ここすきありがとうございます。

全部モチベに繋がってます。いやもうほんとに。
皆さんが想像してる100倍は励みになってます。

https://misskey.io/@Saber_aria
作者のmisskyioアカウントです。主に日記ですが、フォロワー増えたら更新や進捗報告でもしようかなと思います。作品のネタバレはしませんけど質問自体は歓迎です。missley.ioユーザの方は気が向いたらよろしくお願いします。

次回、みどりゃーVS轟君。



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018

 

「焦凍にはオールマイトを超える義務がある」

 

「戦闘において、左は使わない」

 

「君との試合はテストベッドとして有益だ」

 

「クソ親父の個性なんか無くたって俺は……」

 

「みっともない試合はしないでくれたまえ」

 

「右だけで一番になって、奴を完全否定する」

 

 

 

「君と決勝で戦いたい」

 

「今までの成果」

 

「僕に叩きつけてくれるのを待ってるよ」

 

 

 

僕は……。

 

 

 


 

 

 

 

「どうした峰田?」

「いや……」

 

 え、何? みどりゃー、なんか叫んだ?

 ステージに居るみどりゃーを見つめる。何ともない……筈だけど、なんだ? 違和感が凄い。個性の炎が普段よりも燃え盛っている。ごうごうと……音を立てて。

 

 

「第二回戦第一試合! 両者トップクラスの成績!」

 

「緑谷出久!……バーサス……轟焦凍!」

 

「スタァトォッ!!」

 

 

 始まった。轟君はブリザドの構え。

 

「殴って砕いた!?」

「緑谷、パワーが制御出来るようになったんか!?」

 

 クラスメイトが驚愕する中、あのくらいは当然だという言葉を飲み込む。出力……なんかちょっと上がってないか? あれじゃ体が……いや、無意識に自分の限界ギリギリを見極めてるのか、あのナンセンスボーイのみどりゃーが。

 格闘自習にあんまり来なかった轟君はまさかみどりゃーに氷を真正面から砕かれるとは思ってなかった様子。動揺を覆い隠して連続攻撃に入ったけど、所詮轟君のブリザドは地面を伝う攻撃。しかもみどりゃーが轟君の個性の欠点に気付いてないわけがない。

 彼の氷が自分自身を冷やす以上、時間はみどりゃーに味方している。でもみどりゃーが近づけばすぐ決着がつくかと言われたら答えはNO。轟君の氷は彼自身から発生している以上、中途半端な接近は彼に有利だ。僕だったらヒットアンドアウェイでチキンレースを挑むけど……君はどうするんだろうな、みどりゃー。

 

「やっべ、もう始まってるか!?」

 

 お、切島君おかえり。

 

「2回戦進出、やったな!」

「ありがとよ! 次はおめえとだ爆豪。よろしくな!」

「ぶっ殺す」

「ハハッ! やってみな!……とはいえお前も轟も強烈な範囲攻撃ぽんぽこ出してくるからな……峰田に至っては握力だけでコンクリ粉々にするし」

 

 ぽんぽこじゃねーよ舐めんなカスと辛辣すぎる返しをしたバクゴー君の声を聴きながら考える。

 

「激しく動けば筋繊維が切れるし走り続けりゃ息切れする……クソ団子の言った通り、完全無欠、最強無敵の個性は稀だ。所詮は体に備わった機能。何らかの限度はあんだろ。おい、クソ団子」

「うん。そしてそれをコスチュームでカバーすることが多い」

 

 君の籠手もそうだろう?と振り返って見つめてみれば、つまらなさそうに鼻で笑われた。

 

「クソデクは本当に制御出来てんのかよ」

「自分に注げるコップギリギリ……たまに溢れさせて砕いてるかな」

「答えになってねンだよ」

「出来てるか出来てないかで言えば……今は出来てない」

 

 手首……いや肩か胸かな。骨は逝ってないけど負荷が凄まじいと思う。

 

「でもみどりゃーは自覚してると思うよ。実際、全部砕く選択肢を取るなら普段のみどりゃーじゃ出力不足だ」

 

 ていうか何で砕いてんだみどりゃー。

 今のみどりゃーなら回避出来るだろ。何やってる!?

 

 案の定、轟君が飽和攻撃をしながら接近。氷の陰から飛び出してみどりゃーに直接タッチを試みるが、みどりゃーは真正面から迎え撃つ覚悟だ。今のみどりゃーのパンチ、轟君なら一撃でKNOCKOUTだ。でもリスクが大きすぎないか?

 

 轟音。

 

「……あ!」

「踏み込みで床ごと砕いた!」

 

 あ、上手いぞみどりゃーそれ。震脚ってやつ?*1

 当然、走っていた轟君はバランスを崩す。

 慌てて氷壁を作るけど、間に合わない。

 強い踏み込みを伴った正拳突きが轟君の腹に突き刺さる。

 

「惜しい!」

 

 轟君は済んでの所で背中と腹に氷を展開できたみたいで、噎せながらも場外ギリギリまで吹っ飛ばされるだけで済んだ。

 みどりゃーは……あー、みどりゃーの右腕が氷に包まれている。

 カウンターで凍結させたのか。テクいな轟君。

 ……少し、彼らは言葉を交わしてるようだ。

 冥途の土産なのか、もう震えてる轟君の時間稼ぎか。

 

 ……。

 

 

「どこ見てるんだ……」

 

 

 僕の背中にも背筋に冷たい何かが走った瞬間、みどりゃーが自分の右腕で自分を包む氷を粉々に砕いた。凍てつき、握りこぶし以外取れる形のなくなった手が、僕の目から見ても少しだけ脅威に感じる。

 なんだ? これは……このプレッシャーは。

 

「左側の熱で、その震えは解決できるんじゃないのか」

「皆本気でやってるんだよ」

「勝って目標に近づくために」

「1番になるためにさ……!」

「半分の力で勝つ……?」

「僕を見ろ轟焦凍。まだ僕はピンピンしてるぞ……全力で掛かってこい!」

 

 プッツン来たらしい轟君、みどりゃーに向かっていくが動きが鈍い。接近戦を挑むのは思ったように氷が出せないからか? 当然、みどりゃーは凍てついた右手と無事な左手を使い分けて襲い掛かる氷に対応する。凍結されたら内部から思いっきり砕く。砕く、砕く、砕く、砕く……!

 

「デク君、腕がもう……」

 

 ああ、屋内で轟君と戦った時の僕より酷い。動くだろう。威力も出るだろう。でも皮が剥がれ、流れる血潮すらも凍てついたそれを打撃に使うのは……並み以上の精神力が要る。ソースは僕。

 

「なんでそこまですんだよ……緑谷!」

「皆の期待に応えたい……」

 

「笑って、答えられるようなッ!」

 

「格好いいヒーローになりたい!」

 

「だから、僕が一番になる!」

 

 

 みどりゃーの魂の叫び。

 

 

「君も……君の力じゃないかッ!!」

 

 

 瞬間、熱を感じた。轟君がずっと封じていた炎を開放したのを見て、思わず顔がにやけてしまう。みどりゃーのやりたかった事がうっすらだけどわかったからだ。みどりゃー、お前素敵だよ。

 そうして、僕が内心悶えてる間。二人は少しだけ会話して……轟君は冷気と熱を。みどりゃーは胸の炎を全開に。

 彼らの力がぶつかり、フィールドは暴風と砂塵に包まれる。

 

 

 

 

「轟君……場外。緑谷君、三回戦進出!」

 

 

 

 

 響き渡るミッドナイトの声を背に、僕は控室へ向かった。

 

 

 


 

 

 

「ナイスファイト」

「すみません、学んだことを少しも活かせず」

 

 申し訳なさそうにすれ違う塩崎さんに気にしないでと返しつつ、僕はリングに上がる。騒がしさも感じないくらい、五感も頭も澄んでいた。実況も何も……聞こえているけど頭に入らない。僕は先のみどりゃーの戦いを頭の中で反芻することに夢中だった。

 

 

 

「スタートォッ!」

 

 

 

 あんなものを見せられたら、アガるな。

 僕は粘着玉を1捥ぎ、全部口の中に含んだ。

 

「えっ」

 

 ヤオモモが何かを作ってるようだから、僕も作ろう。

 もぐもぐと全力で咀嚼し、形を作り、両の頬袋で二つに分け。

 

「忍法、口寄せの術」

 

 再び一つに混ぜ合わせたそれを口の中から、それをゆっくりと引き出した。

 

金剛如意

 

 硬化、剃。

 

「くぅッ!!」*2

「む」

 

 電流が走ってる棒……多分スタンバトンで受け止められた。ヤマカンで見切ったのか? いや、僕の癖が見切られてると考えたほうが良いかな。ならこれ以上考える時間を与えずに畳みかける。パワーじゃ負けないぞ。続くもう一振りで更に真正面から殴り……殺気!?

 

 慌てて月歩で上空に逃げた瞬間、ヤオモモのお腹が思いっきり炸裂した。

 比喩じゃない。マジで吹き飛んだ。

 

「チィッ!!」

 

 指向性のある爆弾……クレイモア地雷か!? 僕じゃなかったら即死してるぞ!? そんなことするならこっちも思いっきりやるからな!!

 金剛如意を空中から思いっきり横に振り払う。気分はマスターガンダムだ。食らえインチキ判定マスタークロス! 発生1F以下です。あと硬化を解除して接着、拘束します。おっぱいが目立つ形で。ついでに揉ませてください。FACKはしませんので。

 

 ……えっ!? ヤオモモがぶっ飛んだ!?

 

「……小麦粉か!」

「ご名答」

 

 ジャージを脱ぎ捨てた彼女はいつもより真っ白だった。黒いインナーすら白く染まっている。僕の個性の粘着力は粉じんが付着したら著しくその性能を落とす。ああ、一番お手軽だな。個性で拘束するプランを潰された。

 

「真っ白になっても翳りないくらい、綺麗だね」

「あら、いつもと違ってお上手ですのね。やれば出来るのですから、いつもからそうなさったらいいのに」

 

 いや? そうでもない。

 

「ごめん、師匠以外で強い人とリアルで戦ったの初めてだから」

 

 武装、硬化。

 

「スッッッッゴイ……興奮してる♡」

「おあいにく様、わたくしより身長が高い方がタイプでして……よっ!」

 

 剃、月歩。

 遠心力を加えて金剛如意で殴りつけ……ようとしたけど、これ見よがしに腹筋から生成されたクレイモア地雷をそのまま炸裂させられそうだったので慌てて距離を取……る……?

 

「は!?」

 

 僕のニンジャ動体視力が捉えたのは軍が採用してる最新式プラズマグレネードだった。バックステップで回避する僕に合わせて、的確に投擲されたそれが起爆。電気と熱の両方が僕に襲い掛かる。

 

「あっばばばばばばばっばびびびびび痛ァッ!?」

 

 すかさず脳天に衝撃。ギリギリ硬化間に合ったけどちょ、ちょちょちょ、待て。待って♡ 12ゲージスラグ実包は聞いてない。しかもその手にあるのは重機関銃では? しかもヤオモモから直接伸びてるヤオモモベルト給弾式では?*3

 いやまあ一丁だけなら……紙絵でなんとか。

 

「……よいしょ」

 

 がしょんと何ががヤオモモから生み出された。

 ……投げっぱなし式設置型セントリーガン*4を複数出してくるとか聞いていません。

 

「待って♡」

「ダメ♡」

あああああああああああああッッッ!!!!!!!!

 

 流石の僕でも実弾は死ぬ!! 紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙痛っ紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵紙絵剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃!!

 

「……バカ!!」

 

 審判(ブッダ)よ!! 寝ているのですか!!

 ていうかあなた眠らせる方でしょ!!

 

「そんなに逃げ回らないでくださいまし!! ツれないお方ですわね!!」

「このデカチチコマンドー!! 流れ弾とか考えないのか!!」

「デカチッ……あなたが観客を背にするなどという反ヒーロー的な行為をしない限り大丈夫ですわ!」

 

 な、なんだとぉ……! そもそもお前がそんな武器持ち出さなければいいだけだろうが……!! あと避けるのに必死過ぎて、恐らく発砲と一緒に超揺れていたであろうヤオモモのおっぱいを見れなかった事に自分の未熟を感じ……ムカついている。そしてもう見れるチャンスは少ない。

 何故なら。

 

「弾丸は無限じゃない」

「……ここがわたくしの正念場! 行きますわよ! 峰田さん!」

「滅茶苦茶にしてやる!」

 

 冷静になれ。何故12ゲージのスラグを選んだ? 僕には熱と電気で攻めるのが定石ってわかっただろうに。わかってないはずが……無いよな。ていうことはこれは陽動。爆音、衝撃、掠める恐怖、そして空中を封じた。その次は……。

 逃げる、逃げる、逃げる。

 何発か被弾するけどこれは必要経費だ。近づいたら爆薬からのパルスグレネードが殺意を持って襲い掛かってくる。粘着させることも困難。そしてこうして逃げ回る間にも……ヤオモモは僕に対する詰みの一手を創造してるかもしれない。そう、ヤオモモに考える時間を与えてはいけない。速攻だ。

 

 頭に被弾。剃から転倒したように見せかける。

 ヤオモモとの距離は依然離れたまま。

 

「そこです!」

「釣れた」

 

 離れたままでいい。

 転倒に見せかけたローリングから、片膝立ちで金剛如意を構える。

 そう。金剛如意(・・・・)。如意棒だ。

 じゃあやる事は一つだよな。

 

「……あっ」

「伸びろ! 如意棒ォォォオオオッッッ!!」

 

 凄まじい加速を伴った如意棒がヤオモモに突き刺さる。

 

「指銃、Q!!」*5

 

 そしてそのままの勢いにヤオモモは吹き飛んだ。セントリーガンや重機関銃を置き去りにして。

 

 

 

「八百万さん場外! 峰田君、三回戦進出!」

 

 

 

 ……よし。

 待ってろよみどりゃー。

 

 

 

*1
ワンポイント師匠:地面に加えた衝撃が全部地面に全部逃げちゃってるから震脚ではないね。地面を踏みつけた時のエネルギーを全部打撃に変換するのが震脚。勉強になった? 今度実際に試してあげるね!

*2
八百万注:いつもの何倍も重い!

*3
八百万注:12ゲージ弾に対応した機関銃は自分で設計しましたの。割と楽しいですわね!

*4
八百万注:これは既製品ですわ

*5
師匠注:これもまだ1回しか見せた記憶無いんですけど!?






感想やここすき、お気に入りありがとうございます。
メッセージ送ってくださるのも嬉しいです。
誤字報告をしてくださる方、めっちゃ助かります。


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019




 あけましておめでとうございます。
 年末年始イベントなどで忙しかったのでSNS回です。すまんこ。

 感想やここすき、評価ありがとうございます。
 スマホでのここすきは文章を指で横になぞると出来るらしいので、面白いなと感じたらよろしくお願いします。PCはダブルクリックです。




 

 

■雄英体育祭Official@UA_SportsFestival_Official

 3回戦第3試合のハイライトです!

 《動画:金剛如意を口から引き出すシーン、ヤオモモがプラズマグレネードを投擲するシーン、重機関銃を乱射するシーン、被弾したスケベ忍者が如意棒を伸ばしたシーン》

 

  ――草 薙 の 剣

  ――(だみ声)

  ――大蛇丸だwwwww

  ――絶対草薙剣出てくると思った

  ――お前が金剛如意出してどうすんねん

  ――んねェ、猿飛先生ェ……(ねっとり)

  ――一番面白かった頃のナルトじゃん

  ――屍鬼封尽されない? 大丈夫?

  ――プラズマグレネード喰らってるよ

  ――機関銃とセントリーガンにも狙われたよ

  ――フルバスの社長こいつより強いってマジ?

  ――トレパク問題の被害者マジで死んでそう

  ――今年伝説過ぎる

  ――今んとこ峰田>=緑谷=爆豪=轟か?

  ――こいつのSNS→@SUKEBE_NINJA

  ――完全鎖国してて草

  ――あでもフォローは許可されてるわ

  ――なんで鎖国してんの? やめてほしい

  ――鎖国してる理由は明白だろ……

  ――アンチの粘着(粘着出来てないけど)ヤバいし

  ――ていうかフルバスがアンチ多すぎ定期

  ――アンチは震えて眠ろうな^^

  ――アンチはもうちらほらアカウント消してるらしくて草

  ――ドリスタ*1のガキをデュエルで十先*2した人だっけ?

  ――リアルでも強かったんだな……

  ――10通りの殺し方で殺しまくったのマジで草

  ――剣槍弓短剣槌棍爆弾素手デッキブラシ斧

  ――武器スキルが初期値って事はリアルでも使えるって事です

  ――全部二か三振りで終わってるからスキルもクソもない

  ――それで個性でもないんだからヤバすぎる

  ――「で、何か言う事は?」

    「殺さないでください」

    「ナメた口利いてごめんなさいだろ(断頭)」

    「(リス地点で大号泣)(緊急ログアウト)」

  ――あれはやりすぎ

  ――嫌な事件だったね……

  ――どっちも悪い

  ――いやあれはガキが悪い

  ――ユリカが9割悪いだろ言い出しっぺだし

  ――先にカスみたいな条件付けたのはガキの方

  ――でも泣いてるメスガキ可愛いですよね?

  ――いや……

  ――うん……

  ――後半悲痛すぎて……

  ――そんなの求めてない……

  ――実は勃起した

  ――悲しいわからせはわからせじゃない

  ――↑草

  ――わからせおじさん……SEXはわからせなのか?

  ――SEXでわからせるのは向こうも気持ちいいからセーフ

  ――えぇ……(困惑)

  ――ワイ忍者リスナー、ユリカが逃亡した後の

    「これが名誉かぁ(生首を眺める)」で爆笑した

  ――ゴア表現解除状態で10回女の子殺しといて生首眺めるのはサイコパスなんよ

  ――おっと仮想空間憲章*3を忘れるなよ?

  ――オーロラ姫「まあどうせ有名大手Vに酷い事しないでしょ~とかいうメリケンのチョコドーナツみてーに(あめ)ー考えだから実みたいな本物に叩き潰されるんですのよ。勝負事で全く手加減しないなんて、あの子のクリップをちょっと見ればわかるでしょうに……ま、選んだ踏み台を間違えましたわね。次からはもっと頭を低くして足元を確かめる事をお勧めしますわ」

  ――↑これ

  ――エッジ利きすぎ

  ――姫のドリル節が鋭すぎます!

  ――ちくちくどころかザクザク

  ――これについては擁護できない

  ――火にニトロを注ぐな

  ――ぶっちゃけそんくらいユリカの態度が失礼だった

  ――メスガキムーブは視聴者だけにやるべき

  ――やるにしても初対面でやる事じゃなかったよな

  ――尚、近日実施予定のるたず*4ストリーマー鯖の参加者名簿

  ――鬼かよ……

  ――参加者にユリカ、忍者の名前あって草

  ――アッ

  ――共演NGじゃないんか

  ――一人だけゲストで連れてこれるんか

  ――ユリカのゲストはすずめちゃんだろうなぁ

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 鎖国の理由はこういうのを通知付きでなるべく見たくないからですね

 《画像:雄英体育祭Officialのクソ長いリプライ欄》

 

  ――草

  ――やば

  ――また忖度絶無の尊厳破壊10-0の話してる……

  ――一生定期的に蒸し返されるんだろなぁ

  ――ここ数年で一番燃えてるしなあれ

  ――オーロラがニトロ注いでるの爆笑した

  ――ガチの放送事故起こしたもんね

  ――あの時10人くらい配信者居たんだっけ?

  ――あの空気から立て直した対戦会の司会の子マジで褒めたい

  ――ユリカちゃんの仇って雄たけび上げて突っ込む流れ作ったのマジで天才だと思う

  ――あれでうやむやにしたのマジで神ムーブ過ぎる

  ――鬼気迫る雄たけびだったな

  ――後に続いた他の全員もMVP

  ――誰だっけあの司会

  ――速足すずめちゃんです

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 なんかすごーくフォローしてもらってるっぽいんですが、何度も何度も何度も何度も何度も言うように、バズる前のフォロワーを大事にしたいので今年4月頭より後の人にフォローする人は返信も引用拡散も出来ません。アカウントごとに許可するのは知り合いくらいです。ごめんなさい。あと分かってると思うけど無断切り抜き、無断転載行為は法で裁かれるのでご注意くださいね。ざまあみろカス。

 

  ――最後いる?

  ――いる(威風堂々)

  ――平 常 運 転

  ――やーい判断が遅い奴ら見てる~?

  ――マジでこの機能便利だよな

  ――配信で使ってるブラックリストも適用可能

  ――機能が太い

  ――暴言はパフォーマンス下げるし仕方ないね

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 僕がフォローしている500人くらいの人は以下のことが出来ます。

 ①僕のノートを今日の買い出しメモに出来る。

 ②僕のノートを引用して新八みたいなクソ寒いツッコミが出来る

 ③イベント優待(割引や優先案内、特等席)

 ↑バズる前のフォロワーが出来る事一覧です。いつもありがとな……。

 

  ――>③ やったああああああああああ!!!

  ――③!?!?!?!?

  ――③初耳です

  ――フルバスはすぐこういう事する!!!!

  ――普通体育祭終わった後に告知しません?

  ――これお母さんに怒られるのでは

  ――こーれマッマにお仕置き案件です

  ――やば ③楽しみにしてるよ

  ――洗剤 トイレットペーパー お酢

  ――↑板前兄貴オッスオッス

  ――板前要素がお酢しか無いんですけど……

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 るーたーずは久しぶりなので、まずまったり家作ろうかな。

 あとギルド機能オンにするらしいよ

 

  ――は!?!?!??!?

  ――ギルド機能オン!?

  ――(突撃ラッパの音)

  ――これも初耳ですわよ

  ――それ言っていい奴なんか?

  ――草草の草すぎる

  ――スケベ忍者がオーバーパワー過ぎないか

  ――こいつを加入させたギルドが覇権です

  ――わからんまた山賊するかもしれん

  ――るーたーずって近接何使えたっけ?

  ――格闘、棍棒、槍、ナイフ、ハンマーの標準物理法則

  ――少なくとも格闘ありの標準物理法則の時点で終わりです

  ――ナワバリバトルや

  ――入ったら死ぬタイプの縄張りバトルでは

  ――ちょっとハードコアすぎるかな……

  ――去年つるはし無しで採掘してたじゃん

  ――は???

  ――《クリップ:標準物理法則の別ゲーで敵拠点の城壁をハンマーで破壊する忍者》

  ――ヒエ

  ――ていう事は現実でも可能という事

  ――リトル範馬勇次郎

  ――膂力に武器の耐久追い付いて無いのドン引き

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 イベント優待の方は言っちゃダメです

 

  ――草

  ――草

  ――いや草

  ――草

  ――草

  ――爆笑してる

  ――お漏らし忍者

  ――忍者の癖に口軽すぎ

  ――口の軽さがエロゲのくノ一レベル

  ――ギルド機能の方は良いのかw

  ――もう別の人がお漏らししてた気がする

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 @SUKEBE_NINJA ( ;∀;)

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 @FruitBasket ごめん忘れてた

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 @SUKEBE_NINJA 殺す

 

  ――許すじゃないのか

  ――この親にしてあの子あり

  ――弟子に対して容赦なさすぎ草

  ――お仕置きコースじゃん

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 @FruitBasket

 

  ――おいw

  ――恐れ知らずで草

  ――(開戦の角笛)

  ――師匠に挑戦する意識

  ――ジャイアントキリングの精神

  ――配信してるレンチン絶句してて草

  ――配信側、レンチンだけお葬式ムードです

  ――キミパとシチリアに爆笑されてるの草

 

 

■レンジでチン_ふるばす主催@FruitBasket

 義理の息子 反抗期 悲しい [検索]

 

  ――可哀そう

  ――流石に追い打ちできねえw

  ――ワイ一児の母、悲しいのわかる

  ――メンタルに来るよね

  ――レンチンさん! 拳骨だ!

  ――ママに中指とか許されないんだが?

 

 

■スケベ忍者@今週末は雄英体育祭!@SUKEBE_NINJA

 という事で、引き続き応援よろしくお願いします。

 あと八百万さん? 流石の僕でも12ゲージスラグの連射は死にかねませんことよ?

 

  ――死んどけ

  ――逆に聞くけどなんで生きてんの?

  ――死んどけ兄貴辛辣すぎて草

  ――流れ弾怖いでしょう……♂

  ――セメントス兄貴と大仏*5おるし多少はね?

  ――そもそも予選が人命考慮してないし何を今更

  ――毎年事故で死んでも数人だしヘーキヘーキ

  ――医療ポッドぶち込んどけば安心!

  ――地雷とかあったんだし今更では?

  ――雄英高校落ちてよかったと安心してる

 

 

■ハイウェイちゃん@今週末は雄英体育祭!@ToumeiGIRL2231

 今回のベストショット

 《gif画像:紙絵紙絵紙絵紙絵剃剃剃剃剃剃剃剃剃剃》

 

  ――マトリックスのエージェントみたいな避け方

  ――↑草

  ――マトリックスwwwwwwwww

  ――避け切れなくて瞬歩使ってるのもやや草

  ――優雅に避けてたのに……

  ――瞬歩の無駄遣い

  ――後半マジでキモくて草

  ――切羽詰まったからって急にキラーマシンっぽい異次元反復横跳びし始めるの爆笑するからやめてクレメンス

 

 

■ハイウェイちゃん@今週末は雄英体育祭!@ToumeiGIRL2231

 ベストショット続き

 《gif画像:「……バカ!!」「そんなに逃げ回らないでくださいまし!!」》

 

  ――草

  ――あれは罵倒したくもなる

  ――マジで心の底からの「バカ!」で草

  ――実際バカの攻略方法なんだよな

  ――飽 和 攻 撃 ド ク ト リ ン

  ――失礼な。伝統的かつ基本的な攻撃方法だぞ

  ――忍者ごめん腹抱えて爆笑した

  ――四つん這いでぜーぜー息切れしてんのマジ草

  ――あそこだけカートゥーンみたいだった

  ――「逃げないでくださいまし!」

  ――↑今世紀最大の無茶振りで草

  ――逃げるに決まってんだろ!

  ――普段の忍者なら喜んで捕まってる

  ――でも重機関銃とセントリーガンは無理だろ

  ――逃げるに決まってんだよな

  ――もう!ってプリプリ怒る八百万さんいいよね……

  ――いい……

 

 

 

 


 

 

 

 ヤオモモをぶっ飛ばした後は控室で待機。むしゃむしゃと用意されたり買ってきたご飯を食べながら会場の様子を中継越しに見学。

 ……切島君VSバクゴーはまあ予想通りバクゴーの勝ち。後半、じり貧を感じとった切島君が、手を向けられた場所に合わせて部分的に硬化していた所にセンスを感じた。力まなくても硬化できるようにしたらめっちゃ強そうだな。

 

「……? どうぞ」

 

 ノックされたので返事をすると、慌てた様子の運営さんが顔を出した。

 

「峰田さん、飯田さんが棄権しました」

「はっ!?」

 

 棄権!?

 

「理由は後程。緑谷さんが不戦勝で決勝進出です」

 

 まだたこ焼き食べてる途中なんですけど。

 えー。ちょっと困るなぁ。

 

「いけますか?」

「はい。行きましょう」

 

 それはNOを許さない質問ですわね。実は詳しいからよくわかる。切羽詰まった運営さんの顔ってやつが……。

 テーブルの上のごちそうの山から鋼の意思で眼を逸らしつつ、運営さんの誘導に従う事になった。

 

「すぅぅ……ふぅぅ」

 

 さて。

 次はバクゴー戦だ。

 ……ちょっと見せすぎたのでぶっちゃけ一番苦戦するかもしれない。

 

 

 

 

*1
ドリスタ:ドリームスタジオ。Vtuberの大手事務所。男の影を脳が少しでも検知すると放火を始めるファンが悪目立ちしてしまっている。少人数で男を含めたコラボをしない事で有名。

*2
忖度絶無の尊厳破壊10-0:VR格ゲー配信での出来事。メスガキキャラで人気の大手女性Vtuberから「私が勝ったらコーチング」「貴方が勝ったら名誉」という条件で申し込まれた決闘に対し、忖度抜きで10先した結果相手をマジ泣きさせてしまい大炎上した事件。わからせろとは言ったがマジで泣かせろとは言ってない。010で解説済み

*3
仮想空間憲章:「この空間はゲームのためにあり、現実ではないし実在もしない」から始まる、ありがたい言葉。長い文章を要約すると、「現実のしょーもないモラルをここに持ち込んでVR文化を潰そうとしたら俺が直々に殺す」と書いてある。必ず初回ログイン時に全文音読、誓約を求められる。実際に数十人死んでる上に未解決なので抑止力がある。

*4
Looters:割と有名なVRサバイバルクラフトシューター。石器から最終的に銃火器やヘリまで使える。フレンドリーファイアも有効。普通に殺して奪える。プレイヤーの道徳測定器。

*5
大仏:プロヒーロー、リカバリーガールの事。10年前に彼女が気まぐれで開設したSNSのアイコンが大仏だったことが由来






 用語のまとめは活動報告で実施予定です。



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020





 なんだか一昨日の21時から昨日いっぱいまでアクセスが最新話投稿したとき並みに跳ね上がるわ日刊ランキング総合22位まで居るわでちょっと怖かったんですけど(炎上とか)、理由知ってる方は活動報告かメッセージ、作者のMisskey.ioのアカウントなどにお知らせしてくださると助かります。





 

 

 

 

 

 

 同年代の明確な格上と戦うのは初めてだった。

 

 

 

 

 ああクソ団子が構えた凄まじい圧力が俺の両肩に伸し掛かる来るぞ見えてんだろ避けろ。避けろ。避けろ、避けろ、避けろ避けろ避けろ避けろッ!!!!!

 

 

 

 


 

 

 あっ。

 避けやがったな!!

 戦闘開始と同時に仕掛けた、手加減ゼロの剃と月歩と旋風脚は笑っちゃうくらいあっさり回避されてしまったので、更にくるりと1回転して体の陰に隠した粘着糸を振りかぶる……けどこれも爆速ターボで回避されてしまった。

 少し離れた所で着地したバクゴーは、肩で息をしながらこちらを睨みつけてくる。

 

「避けられちゃった」

 

 大歓声に包まれたこのリングで僕と君の二人きり。でも実況の声もヤジの声も聞こえない。何故なら僕はバクゴーに夢中だからだ。

 

「死ねェッ!!」

「ふへっ」

 

 二連続の爆破から裏拳をしっかり捌いて左ボディーブロー……ん、なんか手応えが薄いな。ちょっと不審だから前蹴りで思いっきり吹き飛ばした。しかしこれも両手からの爆速ターボで復帰してくる。

 思わず出そうになるため息を我慢した。

 やっぱり厄介すぎるな。手のひらから任意で起爆する、バクゴーの個性……爆破。加速減速瞬発攻撃前転後転側転、しかも左右で細かい威力の調整が可能。シンプルだけど強い。

 そして何より。

 

「見えてた?」

「うるせェッ!!」

 

 あのバクゴーの目だ。

 僕の今の全力がだ~~~いぶ弱体してるとはいえその辺のパンピーに避けられるほど鈍ってない。あれはみどりゃーでも避けられたか怪しい。

 ……。

 爆破の乱舞を紙絵で避け、ふわりとジャンプしてから同じく宙に浮くバクゴーの首を足首で引っ掛け、思いっきり地面に叩きつけた。

 

「ぉ、ごァッ……!!」

 

 そのまま頭部を思いっきり踏みつけるがこれは回避。

 ターボ特有の鋭角的な動きで再び起き上がってこちらに掌を向けるバクゴー。

 いやまあ、流石にタフだね。さっきのも割と力籠めたはずなんだけどな。

 

「スタングレネード!」

 

 ……でもこうやって明確なミスをするからダメージが通ってはいるのかな。ここで僕に対してスタングレネードするとか悪手だよ。

 激しい発光には目をしっかり閉じたまま見聞色を張り巡らせる。

 

 指銃。

 

「……ん?」

「づかまえだ……ッ!!」

 

 あ、指が貫いてる感触ってバクゴーの掌? と思ったら遠慮ない一撃というか今までとは比較にならない規模の爆破と衝撃、が、僕を――あ、ヤバい。ちょっと飛ぶ♡……いやいや違う違う。え、は? 何、あのグローブ無しでこんな火力出せんの?

 ……いやそういう考えは後だ実。

 

「あれ?」

 

 見失っ、あ、上!?

 武装、硬化――……違うな。鉄塊

 

ハウザーインパクト(榴弾砲着弾)ォォッッ!!」 

 

 ああ、そうだよな。君が狙うなら場外狙い一択だろう。

 必殺技を食らい、吹き飛び、姿勢を整えながら思考を回す。ああ、なんか掴めたかもな。鉄塊……あと月歩か……気持ち自分の質量も増やせた気がする。

 ……汗だくでフィールドに現れた時は"あー、バクゴーも本気で僕に勝とうとしてるんだな"と思った。今まで塩対応されたのにこんな時だけ情熱的なアプローチされたらきゅんとキちゃうんだよな。

 

 爆風が収まり、僕は白線ギリギリで踏みとどまった。ミッドナイト先生を見るけど特に何も言わない。危なかったな。

 

「ゲホッ……」

 

 セルフチェック。

 まだ全然いける。いけるったらいける。

 大分きついけどイケ……いや余裕だわ。

 全然余裕だわ。めっちゃ頭から血出て……るけど痛くないから余裕。

 あんな限界魔晄中毒者とかパンパンにしたる。

 

 ……対するバクゴーは汗だくだくで片膝を付き、ぜーぜーと試合開始時よりも大きく呼吸している。でも倒れない。両の掌が震えているからそろそろヤバそうなもんだけど。指銃で穴開いてるのによくやるなぁ。

 

「バクゴー、君は格闘自習にたま~~~~~に顔出してくれたと思ったら、僕と手合わせしていくだけだったね」

「あァ、糞が。これでもダメかよ……」

「君は一人ですっきりしたら満足しちゃうし」

「……てかクソ団子テメェ、もうだいぶキてんだろ」

「やった後も少し水飲んで休憩して」

「いつもより4、5段遅く感じんだよなァ」

「僕が頑張って声かけても無視してスマホ弄るか生返事かうるせー死ねのどれかしか返ってこなくて」

「あとはパンチだ。ひでー時は見た目相応の威力まで落ちてんぞ」

「そしてそのままさっさと汗流して着替えて帰っちゃう……」

 

さてはオメーもう限界だなァッ!!??

僕が喋ってんだろうがァッッ!!

 

 剃で急接近して左フック。右ストレート。

 回し蹴りを叩き込んでから踵落としで地面に叩き付けた。

 

「嵐――」

「まだァッ!!」

「きゃんっ!?」

 

 姿勢復帰してきた頭突きをモロに食らった。

 続いてボディ、右ストレート、爆破と爆破。

 爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破。

 

「死ねェェエぁああああああああああああッ!!!!」

 

 ああ、痛い。

 熱い。いい。

 イイ。イイぞ……。

 ……バクゴーの両手を優しく。

 それぞれ両手で掴み取る。

 

「……ッ!?」

 

 不思議な事に、その瞬間からぴたりと爆破が止んだ。

 穴の開いてない右の掌を口に寄せ、汗を舐める。

 

「君の汗、ニトロだからかな」

 

 口付けして、

 

 

 

 

 

 

あまくて、おいしいね……♡

 

 

 

 

 

 

 握り潰した。

 

「い、ギ、ァ……ッ!!」

 

 パチパチと散る火花が綺麗。あ、凄い。近くで見たから気付いたけど、香りもちょっと甘いんだね。嗚呼……覇気が生き返るようだ。テンションも上がってきたぞ。これはお礼しなくちゃと思ったので月歩で駆け上がり、バクゴーを思いっきりぶん回して地面に叩き付けた。

 二回目は……必要なさそうかな。

 

「これ、まだまだ練習中なんだけど……僕のとっておき」

 

 まだしつこく起き上がろうとするバクゴーに耳を近づけ、そっと囁く。

 

「敬意を込めて、君に送る」

 

 指をしっかり固定して、彼の顔面を掴み取る。

 

 

 

 

■ § ¶

 

 

 

 


 

 

 

 

『もしもし。八木さんの携帯でいいか?』

「久しぶりだね、サルヴォ」

 

『おいおいこの番号はプライベートなケータイだぜ、八、木、さ、ん』

「ああ、ごめんなカコちゃん。彼は……元気かな?」

 

『彼?……あー。生憎アタシもここ最近あいつには会えてなくてさー……実とはちょいちょい連絡を取っているらしいのがまた、気に食わねー』

「HAHAHA! ああそうそう。峰田君、心技体全部揃ってて*1もう凄まじいね。今度僕にも教導のノウハウを教えてほしいな! なーんて……」

 

『その件で連絡したんだ。今ならまだ暇そうだしな』

「……用件を聞こうか」

 

『緑谷君のインターン先はグラントリノんとこにしろ。話は通してある』

「……」

 

『アタシ相手に隠し事が出来ると思うなよ。秋葉原からでもお前の気配を感じ取れる』

「……ああ。わかった。考えておこう」

 

『にしてもあの轟の息子に勝っちまうなんて、そっちの弟子も中々やるな』

「ありがとう。きっと彼も喜ぶと思う」

 

『ああ。だから直接伝えようと思ってな。グラントリノの事務所には顔出すつもりだ』

「……理由を聞いてもいいかな」

 

『さっきも言っただろ? 中々やるなって伝えんだよ』

「君も反対かい?」

 

『は? あー……勘違いすんな。賛成に決まってんだろ』

「えっ」

 

『えっ、じゃねーよ! アンタが選んだんだから自信持てボケタコ!』

「はは……ありがとう」

 

『ったく昔っから変なところで考えすぎるのは変わってねえなぁ』

「おいおい手厳しいじゃないか!」

 

『で、決勝はその緑谷君とうちの実なわけなんだが……もしかしてこの流れ、轟とやったか?』

「彼の方が数倍雰囲気が悪かったね」

 

『あっはっは! そりゃいい。刮目して見な。実は追い込まれたら追い込まれるほどに地力を発揮する。見た所、緑谷君も同じタイプだな? ここは交流戦と行こうじゃないか』

「ああ、もちろんだとも」

 

『で、来週の夜は空いてるか?』

「ああ、どこにも予定はないが……」

 

『飯食いに行こうぜ。勝った奴の奢りな』

「えっ?……もしもし? もしもしカコちゃん?……切れた」

 

 

 


 

 

 

■リカバリーガール@RECOVERYBaasan

 雄英高校、過酷!

 《画像:ボロボロの体で肉料理を貪るスケベ忍者》

 

 ―― い つ も の

 ―― や っ ぱ 肉 だ ね

 ―― 医 者 よ り シ ェ フ

 ―― ビ ス ケ ッ ト オ リ バ

 ―― D N A ま で 素 早 く 届 く

 ――!?

 ――怪我が……裏返るッッ

 ――婆ちゃん!?!?!?

 ――えぇ……(困惑)

 ――大草原

 ――お婆ちゃん何やってんすか!?

 ――若者のノリに乗っかる老ヒーローの鏡

 ――過酷なヒーロー(の卵)してんだよ!!

 ――ヒーローする(動詞)

 ――全身から蒸気立ち上りそう

 ――肉食って回復とか漫画の住人かよ

 ――カリオストロのナポリタンは体にいいとされる

 ――ナポリタン草 わかる

 ――あれめっちゃ旨そうだよな

 ――カリオストロのナポリタンはそのうちガンにも効く

 

 

■リカバリーガール@RECOVERYBaasan

 どうなってんだいマジで

 《動画:傷が塞がったスケベ忍者「試合してェ~~~~……」》

 

 ――裏返ったァッッ

 ――復活!!

 ――スケベ忍者復活ッッスケベ忍者復活ッッ

 ――スケベ忍者復活ッッスケベ忍者復活ッッ

 ――スケベ忍者復活ッッスケベ忍者復活ッッスケベ忍者復活ッッ

 ――スケベ忍者復活!!!!!!!!!!!!

 ――あんたがわかんなかったら誰もわかんねえよ……

 ――↑草

 ――意味わからん過ぎてわろてる

 ――毒が裏返る理論は正しかった……?

 ――【朗報】刃牙の解毒方法、正しかった

 ――そもそもあの怪我毒じゃない定期

 ――美味しさがDNAまで素早く届いた結果

 ――これでフィジカル系の個性じゃないのマジでバグだろ

 ――マジでどうなってんの??????

 

 

 


 

 

 ステージ修復と連戦の回避として30分のインターバルが貰えた。あとランチラッシュさんから飯の差し入れも。やったぜ。リカバリーガールのキッスは必要無いので今回はキャンセルだ。

 

「まだ食べられるんだねぇ」

「……!……!!」

「美味しいかい?」

「!!」

 

 食べられるだけ食べるぞ。あと5分ちょいあるからもっと食べあっちょっと(胃袋から)出る♡

 

「ちょっと落ち着きんさい」

「!」

()! じゃないよ全く。どうなってんだいほんとに……」

 

 カシューナッツと鶏肉の炒め物をおかずに棒棒鶏を喰らい、箸休めに鉄板塩カルビ焼き定食を貪りながら同時に全身の覇気を循環させる。今回は炭水化物もアリだ。今の僕に足りないのは燃料であるからにして。まだホカホカの天むすを両手に持って裸の大将スタイルで食べ尽くす。

 食べ尽くす。

 食べ尽くすッ

 食べ尽くすッッ!!

 

「水は?」

「!」

「はいよ」

 

 ああ~~~~~~~~!!!!!!

 

「ごちそうさまでした」

 

 頭の先から右腕、右脚、左脚、左腕、頭、正中線。

 胸の中で、指の先で、心の奥で。

 そこにある自分を感じる。

 医務室なのに心地いい。

 全快じゃないけど……最高の気分だ。

 

「ふふ。サルヴォの子って感じだねぇ」

「師しょ……母を知ってるんですか?」

「そりゃ知ってるさ。入院中に「病院食が不味い」って叫んだ挙句、駿河湾まで病院食をトレーごとぶん投げに6階の窓から飛び出したのはあの子が最初で最後だよ」

 

 師匠らしいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 少しリカバリーガールと世間話をしながらストレッチしていると呼び出しを受けたので、しっかりお礼を言ってから入場ゲートに向かう。無骨なコンクリートに映る冷たさと、徐々に迫ってくる会場の熱にくらっときてしまいそうだ。流石の僕でもちょっと緊張するね。

 

 

 

 

 

 

「君はどう? みどりゃー」

「うん。緊張してる」

 

 ああ、はやく。

 

「ここまでこれたのは峰田君のおかげだ……ありがとう」

「いいんだよ。頑張ったのはみどりゃー自身だ」

 

 はやく……。

 

「あはは」

「ふへへ」

 

 はやく、はやく、はやく。

 

「なんだかお互い、ボロボロだね」

「うん。ここまで来るの、辛かった」

 

 はやくはやくはやくはやくはやくッ!!

 

「じゃあ……」

「うん……」

 

 

 

「スタートォッ!!!」

 

 

 

「みどりゃあァァアアアアアアアアッ!!!!!」

「ウォォオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」

 

 

 

 決勝、試合開始ッ!!!!!!

 

 

*1
言うほど揃ってるか……?







 次回、みどりゃーVS峰田




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021


 感想、ここすき、よろしくお願いします。
 感想とここすきの数だけ書く気力が湧いてくるので。



 

 

 

 両肩が重たい。

 息を吸うにも一苦労だ。

 でも私は、いや、多分この会場に居る人たちは目の前の戦いをいつまでも見ていたい。肩が重くても、息がし辛くても、涙がぽろぽろと零れかけても、心の底から声援を送る。私の推しと緑谷君の叫びが、闘志が、迫撃の熱が、きっと私達の心に伝播しているんだ。

 

 

 

 ああ。この会場の生命力(熱狂)は。

 きっと舞台の二人が絞り出している。

 

 

 

 


 

 

 

 

 緑谷出久。男性。センスは最初の頃よりマシになったか。その一方で持ち前の分析力を元にした機転は多分クラスで一番……癪だけど多分僕以上。そしてそのクソが付くほどの真面目さと真剣さ、そして振り返る能力(・・・・・・)で成長著しい。認めるのは癪だったり嬉しかったりするんだけど、僕と手合わせしていてもたまにひやりとさせられる。集中状態に入られたら今のコンディションだと対処が難しい。端的に言うと十分負ける可能性がある。弱点は……全身から漂う気配にはブレが多い。隙を突くならそこが一番かな。あとは暴発を誘う……いや、これはきっと逃げの考えだな。

 

「出し惜しみはしない」

 

 幸い、目はバクゴーほどじゃない……いや。ストレート、左フック、回し蹴り、月歩で歩きながら三段蹴り、踵落としと仕掛けて全部避けたり防御された。声は出てないけどずっと口が動いてるから多分読まれた?

 

「……ッ!?」

 

 予備動作無しで思いっきり地面を踏みしめてフィールドを粉々に破壊し、宙に浮いた破片を連続で蹴りだした。やったこと無いから流石に避けられないだろ。

 

TEXAS SMASH!」*1

 

 放たれる剛拳。

 初見の技に対応してくるとか嘘だろお前!?

 暴力的な拳圧が瓦礫ごとぶっ飛んできたので横に捻りながら連続回避。

 まぐれ? 博打? それとも……。

 コストに粘着球を……――

 

CAROLINA SMASH!」*2

「鉄塊!」

「ッずぁ……!!」

 

 砕いたフィールドの残骸をそのまま突き破って現れたみどりゃーに対して鉄塊でジャスガをかましてから、両腕を上に弾かれたみどりゃーの胸に手を当てて、

 

「……おらぁッ!!」

 

 武装色の覇気を込めた掌底をぶちかました。

 瓦礫を破壊しながらぶっ飛んでいくみどりゃー。

 砂埃で見えないけど白線は……超えて無さそうだな。

 でもわかった。あのナンセンスボーイのみどりゃーがあの一瞬で適切な対策を感覚から(・・・・)用意できるわけがない。いつか出来ると思うけど今は無理だ。となると方法はただ一つ。

 

 簡単な話だ。

 見てから考えた上で対処された。

 ただその秒数が圧倒的に短かっただけで。

 みどりゃーお前……。

 

「五感強化してんなァッ!!」

 

 返事は砂埃の中から全力投擲された礫だった。

 首を捻って避けると同時にみどりゃーが剃にも劣らぬ速度で右ストレートを叩きこもうと、

 

 した瞬間だ。

 僕の肺から全部の空気が無くなった。

 

「かへぁッ……!?」

 

 え、な、ちょ、え?

 何何何何何怖い怖い怖い怖い。

 胸に凄まじい衝撃。やばい、肺の空気が抜ける。

 何だ? 何を食らった? 考えろ実、お前は素で感覚が鋭いだろ。

 

 礫? 違う、さっき避けた。

 拳の圧? 違う、右拳に必殺技ほどのエネルギーは無い。

 飛び道具か? 多分そう。でもどうやって……!?

 

 なんとか右ストレートはブロック。

 一瞬視界が塞がった瞬間に僕の腹へ、みどりゃーの左膝が突き刺さる。痛すぎ。膝蹴りのために僕を押さえつけている両腕を握りつぶそうとするとするりと抜かれた。謎過ぎる。ムカついたので左小パンで咎めてから前蹴りで緑谷を蹴飛ばし、回し蹴りで頬を思いっきりぶち抜いた。

 馬鹿野郎何回師匠との練習でゲロ吐いたと思ってんだ舐めてんじゃねえぞ。

 

 がら空きのボディに左ブローをぶち込み、みどりゃーのつま先を思いっきり踏んづけ、ようとしたけどこれは避けられた。カンが良いなマジで。いや見られてるのか。

 でも致命傷を避けようとし過ぎて一点しか見えてない。

 

 ガードの隙間を塗って、右のアッパーを思いっきり叩き込む。

 

 やっぱ信じられるのは前ステ昇竜拳ってワケ。

 ブッパも当たれば読みってね。

 ……いやブッパって訳じゃないんだけど。

 

「よっしゃ」

 

 思いっきり力籠めたから僕も追撃が出来ない。

 みどりゃーはなんとか受け身を取ったけど片膝が笑ってる。

 今のうちに息を整え、残心。

 

「……」

 

 

 見聞色の利きが悪い。僕の見聞色は今を捉える事に特化している……が。現にみどりゃーが何をしたのか把握できなかった。

 

 ダメだ。

 さっきのやり取りで自覚してしまった。

 もう自分を騙すことじゃ隠せない。

 僕はもう――

 

 

 


 

 

 

 ――間違いない、ガス欠手前!

 

「ふー……ッ! ふー……ッ!」

 

 今動けば僕を倒せるのに、あの残心の長さはそうとしか考えられない! 一回のやり取りで呼吸を整えないと僕と戦えないレベルまで来ているんだ! 今のアッパーも峰田君が万全だったら今のでノックアウトされていた。僕が視界を揺らされている程度で済んでるのがもうおかしい!

 

 立とうとした。

 膝が震える。

 

「……ッ!!」

 

 無理やり立ち上がった。もし僕の後ろに誰かがいたなら、膝が震えてるだけでも不安にさせてしまうから。歯を食いしばり、震える足に平手を入れた。そして四股を踏むように片足を上げ……思いっきり下ろす。

 僕と峰田君が崩した舞台が地響きと共に震えた。破片がパラパラと落ちていく音が聞こえ……――動くッ!! 今の峰田君に呼吸の隙は与えない! 峰田君に足技はダメだ。鉄塊でジャストガードされたらもう動けなくなる!

 

「なら真正面から拳で……ッ!!」

 

 僕は地面を蹴り、姿勢を低くして突っ込んだ。

 峰田君は何故か困惑しているみたいだけど、このまま突っ込む!

 

「鉄塊!」

 

 だよね!

 

「ブレーキ!」

「!? もきゃん!?」

 

 拳を寸止めにし、間髪入れずに振りぬいた。峰田君の鉄塊はジャストガード……技の発動からコンマ数秒が一番硬い! 彼自身があまり攻撃を受け止めるタイプじゃないからだ! そこを突く! そのままジャブを数回、そして右ストレートを入れる時にアレで再び胸を攻撃して体勢を整えさせないように……整えさせないように!

 組みついて膝! 肘! アームハンマー!

 

 ワンバウンドした峰田君にそのまま……――

 

「忍法」

 

 組んだ両手で感じる、詰みの感触(・・・・・)

 畜生畜生畜生畜生畜生畜生ッ!!

 まだ1捥ぎあったんだッ!!

 

「空蝉の術」

 

 最低限のコストで最大の効率を与えてしまった……!!

 

「あっ」

 

 僕の体が宙に浮く。

 視界がスタジアムから見える青空を写した。

 峰田君の足払い。ダメだ、両手が塞がってる。

 ……避けられない!

 

「腹と背中に力入れな」

 

 ぞっとするほどに可愛い笑顔で、僕のお腹に手を当てる。その瞬間に感じる異物感。そして衝撃で僕は地面に叩きつけられた。ストロボを焚かれた時のように視界がチカチカと明滅する。

 

「……ふーっ……ふーっ」

 

 ダメだ。

 立ち上がらないと。

 死んでしまう。

 僕も、僕が救おうとした人も。

 

「……」

 

 ゆっくりと体を起こす。

 どうして攻撃してこないんだろう。

 でも都合がいい。このまま体勢と息を整えて……。

 

「みどりゃー」

「……!」

 

 脇に手が差し込まれて、無理やり立たされた。

 え、誰?……峰田君が? どうして、試合中なのに。

 

「あーあーこんなボロボロになっちまって」

「????????????」

 

 君がそうしたんだろう?

 え、僕負けた? 負けちゃったの?

 もしかしてさっきの一瞬で決着がついたのか?

 

「やっぱ粘着力も最悪だね。すぐ取れちゃうじゃん」

 

 ぺりぺりと、両手を拘束していた粘着球が剥がされる。

 その感触でやっとこれが現実なんだと理解した。

 

「……えっ、試合終わった?」

 

 声が戻ってくる。スタジアムの声だ。でも歓声じゃない。どよどよと困惑しているようだ。僕のジャージの砂埃を払う峰田君に、僕は困惑しか返せない。

 

「まだ試合中だよ」

「え、え?」

 

 峰田君は僕の胸倉を掴んで、おでことおでこを突き合わせた。ごちんと痛みが走るけどそれよりも峰田君睫毛が長くて本当に女の子みたいだまるでガンを付け合うような姿勢であっばばばば。

 

「みどりゃー」 

「ヒョエ……」

「僕に全部、叩きつけてくれるんでしょ」

「エッぇぁっ勿論だよ! 手加減なんてしてない!」

「僕と君は今、ヴィランとヒーローじゃない」

「え?……う、うん……そうだね」

「僕は峰田実で、君は緑谷出久だ」

「……?」

「上手く説明できないけど、さっきまでのはなんか」

「?」

「なんか()だ」

 

 掴んだ胸倉が乱暴に放され、たたらを踏む。

 あの峰田君が試合中にどうして。

 いや違う。

 どうしてあの峰田君が。

 あの戦うの大好きな峰田君が。

 試合を一旦切ってまで言いたい事って。なんだろう。

 

「!」

 

 目が合って、気付いた。ヒーローが負けたら死ぬぞと囁く、二人で過ごす居残り練習の時みたいな鋭い視線じゃない。学食で何を食べるか話している時の目だ。常闇君と瀬呂君と小テストの結果を見せ合ってる時の目だ。余計な事を言って相澤先生に叱られてる時の目だ。誰かの頭をピコハンで叩いてる時の目だ。僕の背中を叩いて「みどりゃーみどりゃー」と声を掛けてくる時の目だ。

 

「僕を……」

 

 

「言ってほしい。友達だろ」

 

 

 僕なんかを友達と言ってくれた時の目だ。

 泣くな泣くな泣くな。全部見せるんだろ。

 全力で! この舞台を! 楽しみながら!

 

 

「もう一回やろう!」

「……うん。勿論!」

 

 

 示し合わせたかのように二人で笑い合う。 

 なんとなく、峰田君の言いたいことが伝わった。

 僕も言語化できたわけじゃない。

 真剣勝負なことに変わりはない。

 負けたら死ぬって思う、心意気も変わってない。

 

 

 でも今、この勝負だけは!

 

 

SMASH!!

よっしゃァッ!

 

 

 


 

 

 

「君を倒すためには!」

 

 荒れ狂うみどりゃーの攻撃を避け、落とし、たまにやり返しながら。

 

「飯田君みたいに速く!」

 

 お互いに打撃を与えあう。

 

「麗日さんみたいに柔らかく!」

 

 前はパンチ一発で伸びてたのに。

 

「かっちゃんみたいに、力強く!」

 

 今じゃ僕にボッコボコパンチしてくるもんな。

 お互いに涙目だ。痛いからなのか嬉しいからか。

 もうね、ちょっとよくわかんないな。

 

「君みたいな――」

 

 突きが絡め取られた。

 ヤバい、本腰入れないとヤバい!!

 

「――大胆さで!!」

 

 地面に叩きつけられた衝撃で目を覚ます。

 やりやがったなこの野郎。喰らえみどりゃー。

 穴から抜け出して思いきり跳躍し、体を思いっきり捻る。

 

「飛んだ!?」

「しゃあっ!」

 

 今なら出来る気がする。

 余計な力が抜けた今なら。

 

 

 

嵐脚!

「ッ!? TEXAS...SMASH!!!

 

 

 

 よっしゃ出たァッ!!

 真空で出来た特大の刃がみどりゃーに降りかかる……けど打ち消されたか。みどりゃーが立っている部分だけ地面に刀傷が無い。このまま月歩で加速して……!

 

「来い!」

「うそぴょん」

「えっ!?」

 

 みどりゃーに当たる直前、みどりゃーの左半身に回り込む形で落下軌道をずらした。その瞬間にわかった、あの謎の衝撃の正体!

 

「見ぃつけた♡」

 

 ジャージの袖にすっぽり入った、みどりゃーの左手だ。なるほど、中でデコピンすればある程度指向性を持たせて僕の胸をぶん殴れるな。要するに空気砲。まだまだ粗削りだけど……。

 

「!?」

 

 思いっきり左袖を引きちぎり、そのままの勢いでみどりゃーの顔面を思いっきり殴り飛ばした。

 

「ぐぁっ!?」

「剃」

「ゲホァッ!?」

 

 剃の速度でぶちかますショルダーチャージ。

 赤い彗星も真っ青の衝撃だろうね。

 

「今! Oklahoma SMASH!!!*3

「きゃあっ!?」

 

 急にみどりゃーがきりもみ回転を始めたのでふっ飛ばされた。

 慌てて姿勢を整えると。

 目の前にみどりゃーが。 

 

DETROIT SMASH!!!

 

 みどりゃーが距離を取ったら、次は速攻。

 もう読めた。これでとどめの一撃だ。

 

「紙絵」

 

 パンチをスカし、たたらを踏んだみどりゃーの脇腹を思いきり蹴り上げ、そのまま腹部に一撃を仕掛ける。

 

「指銃」

「あっ」

――獣厳!!

 

 指銃の速度で打ち貫く超ヘビーなパンチをモロに浴びせ、みどりゃーを床に叩きつけた。

 ……。

 

「……」

 

 みどりゃーは動かない。全然動かない。目を閉じて集中してみるけど、もうみどりゃーの炎もちらちらと燻ぶるだけのようだ。

 長かった。疲れたな。

 ミッドナイト先生を見つめた。

 試合終了かは審判が判断する事だ。

 僕は……僕が終わらせるわけじゃない。

 ああ、うん。もうちょっとだけやりたかった。

 

「……」

「ミッドナイト先生?」

「まだ終わってないわよ」

 

 え?

 

「前を向いてあげなさい、峰田君」

 

 ……。

 

「僕は」

 

 嗚呼。

 

まだまだやれるぞ!

 

 あれは火だ。

 見覚えのある火。

 轟々と燃え盛る炎。

 オールマイトと同じ炎(・・・・・・・・・・)

 

「……は、はは」

 

 そしてこの圧力(プレッシャー)

 これ、みどりゃーを感じない(・・・・・・・・・・)。いやそこに居る。でも何人かの影が彼を守るみたいに折り重なって、気配の大輪を割かせていた。

 

 心操君、君は……君は、僕の世代のトップヒーローは多分お前だよって言ってたね。それは違う。とんでもない勘違いだよ。僕なんかじゃない、みどりゃーだ。君も間近で感じただろ。だからあの時、胸倉掴まれても動けなかったんだろ。

 次代の英雄、聖火を受け継ぐランナー、平和の象徴。

 

「主人公……」

 

 少しだけ震えた。

 僕が読んでいなかった漫画。

 その主人公がみどりゃーか。

 

「次で終わらせよう、みどりゃー」

「うん、僕もありったけ籠めるよ」

 

 よかったと……心からそう思う。

 

「剃!」

DETROIT...

 

 全くもう、原作はどんなんだったんだろうね。多分バクゴーがブチキレるタイプのライバルで。ということは優勝はバクゴーか轟君かな? あーいや、きっとみどりゃーが勝ってたと思う。だってそっちの方が良い。漫画っぽい。

 

SMASH!!!

 

 みどりゃーなら多分大丈夫だろう。

 きっとこの世界は、ハッピーエンドだ。

 

「えっ」

 

 大して力が込められてない右の拳を、左手で受け止めた。左手も左肘も左肩も全部クソ痛いけど、全然平気。こんなんマジでほんと大丈夫だから……大した事無い拳だから……なーんてことを思いながら、驚愕に顔を歪めるみどりゃーにそっと声をかける。

 

「そう、威力を中途半端なところで発散させりゃいい」

「峰田君、腕が……」

「自損覚悟は君の専売特許じゃない」

 

 その思い込みが敗因だぞ、みどりゃー。

 

「……!?」

 

 中途半端に突き出されたみどりゃーの右手をボロボロの左手で力いっぱい保持し、それ以上の打撃を抑えておく。そして顔を青くしたみどりゃーの頬をぷにっとして、たこちゅー型に変えてあげた。ふふ、可愛いっていうか愛嬌ある顔してるよね、みどりゃー。

 

「安心して。握り潰すほどの握力はもう無いよ」

「!」

 

 血反吐吐くくらい仕込まれた六式も。

 大きな傷が絶えなかった武装色の修行も。

 現在を捉えることに特化した見聞色の感覚も。

 全部全部、この一撃を完成させるための布石だった。

 

「みどりゃー、その代わりにイイこと教えてあげる」

ひひこひょ(いいこと)……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物には必ず……"核"がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 顔面を掴む手の形を、変える。

 

 

「僕の指は竜の爪!!!」

 

 

 もう暴れても無駄だ。

 

 

「底知れぬ友を導くための、〝爪〟!!!」

 

 

 全部丸ごとモギっとモギたて! 

 

 

「竜爪拳」

 

 

 ありッッッたけの武装色硬化ァッ!!! 

 

 

「……竜の、鉤爪!!!」

 

 

 

 


 

 

 

 

 視界が瞬く。

 みどりゃーは……もう動かない。

 

「緑谷君、戦闘不能!」

 

 ……ふへ。

 

 

 

「峰田君の勝利!」

 

 

 

 やったぜ。

 

「峰田君?」

 

 ……きゅぅ。

 

「峰田君!?」

 

 

 

 

*1
オールマイト注:パンチの風圧で相手を吹っ飛ばす技さ! HAHAHA!!

*2
オールマイト注:すっげー発生が速いクロスチョップだぜ! HAHAHA!!

*3
オールマイト注:体を超回転させて相手をぶっ飛ばす空対空技ってワケさ!!









 長かった体育祭も次で一旦終わる予定。

 


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