今はしがない文字書きだが何か? (やりも)
しおりを挟む

番外編
〜海灯祭〜


イベントやれたので書きました。

時間軸としてはスメールの魔神任務後の話なので色々な人が出てきます。



あと、のちの本編にも入ることになる話も書いています。


海灯祭のネタバレあり。


めっちゃネタバレ。


新年を迎えてから初めて訪れる満月の夜、璃月では「海灯祭」が開催される。

 

 

僕はその祭りがあまり好きではなかった。

 

今僕は削月と理水と共に食事を食べていた。

 

 

 

「相変わらず港の人はよくやるもんだよ。」

 

 

『お前の方こそ好きな催しだと思うのだが。』

 

 

「残念、僕は海灯祭が好きじゃないんだ。毎年海灯祭の時期は他の国に行ったり山にこもってたりするよ。」

 

 

『白牢、お前はなぜそう嫌っているんだ?』

 

 

 

理水に問われて食事をしていた口を閉じる。

 

なぜと問われても…1番悔しかったことを思い出すからだろうな。

 

 

 

「どうしても好きになれないんだ。霄灯が空に飛んでいく様子が。」

 

 

 

 

見ているとあの人を思い出すから。

 

 

もう会えない、僕が唯一心の奥底から慕っていたあの人のことを。

 

 

 

 

「……あーダメだ、少し頭冷やしてくる。」

 

 

『お前の少しは日をまたぐ。』

 

 

「3日後には顔を出す。」

 

 

 

 

僕は理水と削月にそう告げて棺の裂け目を通った。

_

裂け目を通った先には崩れた建物と草原が広がっていた。

 

 

「またここに戻ってきちゃったなぁ…。」

 

 

 

僕は散歩をしながら遠い昔のことを思い出していた。

 

 

 

「最初、僕は救われた。初めて認めてもらったと思えたよ。だから君のために尽くそうと考えた。」

 

 

 

段差に腰を掛けて足をブラブラとゆらした。

 

 

 

「いつも留雲とからくりに関して話し合っていたり、歌塵とは音楽のことで言い争ったりしてさ。あれを止めるの僕じゃ出来なかったからいつも鍾離様に迷惑かけてたよね。」

 

 

「それに君はからくりに関してのことになると寝る間を惜しんで没頭するから僕が休ませてたよね。懐かしいね。」

 

 

「マルコシアスの料理のときはいっつも静かにするのになんで僕のときは静かにしてくれなかったんだい?」

 

 

「まあ、それが君の良いところだったんだけどね。」

 

 

 

僕は再び歩き始める。

 

 

 

「あ、ここは君等の居場所じゃないでしょ?」

 

 

 

途中で宝盗団に襲われたけど消し炭にしてやったよ。ここは僕にとって大切な場所なんだからよそ者には消えてもらわないとだね。

 

 

 

「あ、聞いてよ。鍾離様、いつもご飯誘うのに毎回モラ忘れるんだよ?おっかしいよね?自分で作り出したモラを忘れるんだよ?僕も流石にあれは引いたよ。」

 

 

「旅人はね、スメールの英雄にもなったんだって。7国のうち4国で英雄になるって中々の逸材だいよね〜。」

 

 

「最近、弟…義理の弟と再会できたんだ。僕が悪かったかもしれないけどあんな素直だった子がツンデレになっててびっくりしちゃったよ。誰に似たんだろうね?」

 

 

「タルタリヤ君って子がいるんだけど最近僕の顔を見るたびに顔しかめるんだよ〜?」

 

 

 

僕はここ1年のうちにあったことを全て話した。

話しているうちに日は暮れて夜になっていた。長い時間話を続けていたんだと感じられる。

 

 

 

「……ここで何をしている?」

 

 

「魈…別に、あの人に今年1年のことを話しただけだよ?」

 

 

「あの人…もしや…。」

 

 

 

魈は気づいたようで気まずそうに俯いた。

 

まあ魈は知っているもんね。

 

 

 

「帰終、塵の魔神『ハーゲントゥス』。僕の最初で最後の主君。」

 

 

「お前は仙人をやめて尚未だに思い続けているのか。」

 

 

「そりゃあ恩人だし。」

 

 

 

 

 

 

 

それに、…いややめておこう。

 

 

 

 

「さてまだ僕は言いたいことが山ほどあるし君に聞かれるのは恥ずかしいから早く行ってよ。ここらへんにいる妖魔は僕も退治出来るからさ。」

 

 

「……いいだろう。やるからには残すなよ。」

 

 

「はいはい。」

 

 

 

魈は目を細めて確実にやらないと殺すって目をして一瞬で目の前から消えた。

あ、真面目にやらないと怒られるやつっすね。鬼ごっこルート再来しちゃう!地味にあれ疲れるからやめて欲しい。

 

 

 

「えーとどこまで話したっけ?あ、そうだ。この前草神ブエルがね〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は話し続けた。日が暮れても、日が昇っても、妖魔も全部殺して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は全てを話し終えた後、これからのことについて言った。

 

 

 

「ねえ帰終、僕は君みたいに優しい性格なんかしてないんだ。君は絶対に僕のことを許さないと思う。でも、僕はもう時間が残ってない。だから、だからさ、もしそっちに行ったら僕のこといっぱい怒って欲しいんだ。」

 

 

「いつか、本当に終わった時、僕は笑えるのかな?帰終と行っと一緒にいられたあの時みたいに、笑えるのかな?僕は、帰終がいなきゃ自分のことすらわからないんだ。」

 

 

「もし、聞いてるなら、また会えた時はお疲れ様って言ってよ。」

 

 

 

返事は来ない。そりゃあそうだよね、もう何千年も前に帰終は死んでる。僕が守れなかったせいで。

 

 

ずっと助けられ続けていたのに僕はなにも返せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな僕でもずっと帰終のこと愛してるから、だから、また会えたら今度こそ伝えさせてね。」

 

 

 

 

僕は棺を召喚する。棺が開くと僕は中をくぐって帰璃原を後にした。

_________

 

「相変わらず賑やかだね。」

 

 

「白牢、来ていたのかい?」

 

 

「やあ歌塵、帰終のことを思い出したら君に会わなくてはいけないと思ってね。」

 

 

 

璃月の玉京台に裂け目を開くとそこには三眼五顕仙人の一人であるピンばあやと呼ばれている歌塵浪市真君だ。

 

お茶を淹れてくれたのでありがたく飲む。最近は稲妻の茶ばかり飲んでいたから璃月の茶が久しく感じる。飲んだの1ヶ月前くらいだけど。

 

 

 

「帰終を思い出して私に会いに来るなんて、貴方も変わらないわね。」

 

 

「変わらないか…周りが変わっているけど僕はあのときのままだ。それは、良くないことなのかな?」

 

 

「無理に変わらなくてもいいものだよ。でも人間は変わり続ける。それは神も仙人も一緒だ。」

 

 

「……それなら、いいかな。歌塵、君は仙人の中でも変わっていると言われないか?」

 

 

「ふふ、貴方ほど変わり者じゃないけど?」

 

 

「おっと、その返しは予想外だったよ。」

 

 

 

久々にふたりきりで歌塵と話していたけど僕に対しての話し方はそう変わっていなかった。

 

 

 

「白牢、もう横笛は吹かないのかい?」

 

 

 

談笑に花を咲かせていると突然、横笛に関して聞かれた。

 

僕は元々横笛を吹くのが得意であった。特に帰終が生きていた頃、夜になると毎日のように横笛を吹いていた。だけど帰終が死んでからはその回数は格段に減った。

 

 

 

「特別なことがない限り僕はもう笛を吹かないよ。海灯祭、もしかしたら今年は吹くかもだね。」

 

 

「そうか、久々に聞けると思うと楽しみだね。」

 

 

「まだ決まったわけじゃないんだけどな〜?」

 

 

 

僕は底に残ったお茶を一気に飲み干してゆっくり机の上において立ち上がった。

 

 

 

「もう行くのかい?」

 

 

「うん、お茶ありがとう。美味しかったよ。」

 

 

「鍾離様もだけどたまには来てくれよ。」

 

 

「はいはい、暇があればいつでも行くよ。」

 

 

 

棺が開くと僕はその中をくぐって次の場所に向かった。

 

________________________________

 

港に着くと、そこには色とりどりな飾り付けをされていたり花火が設置されていたりした。

 

 

 

「賑やかだね〜…本当に。」

 

 

「あ、終先生!!」

 

 

 

遠くから僕の名前を呼んでいる声がして声の下方向を見ると僕の方に近づく行秋、重雲、香菱がいた。

 

 

 

「お久しぶりです終先生!」

 

 

「久しぶりだね行秋、重雲くんと香菱ちゃんも。」

 

 

「久しぶり終先生!最近万民堂に来てくれないってグゥオパァーが寂しがってたんだよ。」

 

 

「そうだったのか〜会ったら会ったで怒られそうだな。」

 

 

「お久しぶりです終先生、最近見なかったですけどどこか出かけていたんですか?」

 

 

「稲妻とスメールにね、あとスネージナヤにも少しだけ立ち寄ったよ。」

 

 

 

3人は幼馴染だけどこの3人揃ってみるのは久しぶりな気がするな〜。

海灯祭もこうして3人で一緒に過ごしてるし少し羨ましいな。

 

 

 

「あ、終先生はこのあとは?」

 

 

「んー、このあとは適当だよ。しばらくは港をぶらついてしばらくしたら琥牢山に行こうかなーってとこ。」

 

 

「今日の夜、辛炎と胡桃がイリデッセンスツアーでライブがあるのですけど終先生も一緒に見ませんか?」

 

 

「あ、あ、ああー辛炎ちゃんと胡桃ちゃんが、そ、そうなんだ〜…。」

 

 

 

あの二人か〜、見たい気持ちはあるんだけど辛炎ちゃんと胡桃ちゃんはめっちゃ話してくるからなぁ…見つかるとめんどくさい。

 

個人的には仲良くしたい気持ちもあるけど苦手意識が勝ってしまう!本当に申し訳ないけど!

 

 

 

「お誘いは嬉しいけど僕はやめておくよ。遠くから見るだけでいいし、もし二人に会えたら楽しみにしてるって伝えてくれるかな?」

 

 

「勿論!!」

 

 

「ありがとう、じゃあまたね。行秋はまた小説について機会があったら話そう。」

 

 

「はい!」

 

 

 

僕は手を降ってからまた一人歩き出した。

 

 

________

 

どこもお祭り一色。

 

霄市が町中で並び本祭の夜には霄灯が空を埋め尽くす。

 

 

みんながみんなして同じ言葉を言う。

 

 

 

「海灯祭を祝して」

 

 

 

僕はこの言葉が嫌いだ。

 

英雄を祀る?くだらない。

まず誰が英雄なんだ?岩王帝君?仙衆夜叉?誰が英雄かなんてわからないのに祝う意味がわからなかった。

 

 

だから、僕は言うのも言われるのも嫌いだ。

 

 

それを知っているから誰も僕に対してその言葉を言わない。

 

 

 

まあ知らない人もいるだろうけど。

 

 

 

「終!海灯祭を祝して!」

 

 

「海灯祭を祝して。」

 

 

「……やあ旅人。今日はいい日だね。」

 

 

 

この二人は知らないくて当然か。僕はただいつものように会話するだけだ。

 

 

 

「終、横笛吹ける?」

 

 

「ん?吹けるけど…。」

 

 

「やっぱり!ピンばあやが言っていたことは終のことだったのか!」

 

 

「え、何の話?」

 

 

 

二人から詳しく話を聞くとどうやらイリデッセンスツアーを主催しているドヴォルザークの先祖がフォンテーヌにいた頃にとてもキレイな笛の音を聞いたそうだ。それが横笛で、似たような旋律を何百年もたったあとも先祖が聞いたから神か仙人が吹いていたのじゃないかという話になったそうだ。

 

それと同時に琴の話もあったそうだがそれは歌塵だったらしい。

 

 

 

「それで横笛の主が終なのか確認しに来た。」

 

 

「なるほど、間違いなく横笛の主は僕だろうね。」

 

 

「やっぱり!でもピンばあやから終は笛を吹かないって聞いたんだけど。」

 

 

「嗚呼、人に聞かせるためには吹かないよ。それに特別なことがない限りもう吹くつもりはないんだ。」

 

 

「そっか、少し楽しみにしてたんだけど…。」

 

 

 

う、やめてくれ。それはまじで僕に効くからさ!

 

 

 

「まあそんな感じで僕は本当に吹かないといけないなと思ったときだけしか吹かない。どう言われても吹く気は今はないからね。」

 

 

「そんな〜!せっかく久々に会えたから親切にしてくれると思ったのに〜!」

 

 

「あっはっは!僕はそこまで優しくないからね。」

 

 

 

俺は笑みを浮かべながら旅人の耳元でそっと呟いた。

 

 

 

「僕は少なからずカーンルイアと繋がっていること忘れちゃダメだよ?いつ僕が敵に回るかわからないんだからね?」

 

 

「っ!!」

 

 

「安心して、今あそこに行くと僕の目的を達成できないからね。それじゃあ、良い日にしなよ。」

 

 

 

そう言って僕は旅人から離れた。

しばらくは会いたくないかもな。

 

 

 

________________________________

 

 

「行っちゃった…。」

 

 

「仕方ないんだぞ!終はふらっと現れていつの間にか消えてるからな。」

 

 

 

残された空とパイモンは先程別れた終の事を話していた。

 

 

 

「そういえば旅人、終は海灯祭を祝してって言ってなかったぞ!」

 

 

「そうだ、今日の終いつもと雰囲気が違った…。」

 

 

「なんかあったのか…?」

 

 

 

二人が終について考えた。

 

 

 

 

「(終はいつも気前がいいし優しい。だけど今日は切羽詰まってるしいつもより無表情だった気がする。あ、俺等が海灯祭を祝してって言った時が特に冷たい雰囲気だったかもな。)」

 

 

「旅人、終についてなにか気づいたか?」

 

 

「ああ、終は俺らが海灯祭を祝してと言った時いつも以上に冷たい雰囲気があった。」

 

 

「あの言葉で?なにか問題でもあったのか?」

 

 

「終は海灯祭が嫌いだからその言葉を言われるのも嫌いなんだ。」

 

 

「その声は!」

 

 

「鍾離先生、どういうこと?」

 

 

 

後ろから声をかけられ振り返るとそこには往生堂の客卿で岩神の鍾離がいた。

 

 

 

「言葉の通りアイツは海灯祭が嫌いなんだ。昔仕えていた主君のことを思い出し、誰に対して感謝してるのかわからないからだそうだ」

 

 

「それって、帰終のことか?」

 

 

「知っていたのか?」

 

 

「うん、留雲借風真君とピンばあやから聞いた。」

 

 

「そうか、なら話は早いな。終は帰終のことを宝箱そのものだと思っていた。」

 

 

「宝箱?その帰終が?」

 

 

「終は帰終に救われたんだ。そこから恩を感じて俺の立ち会いのもと契約をした。名前を璃月を守ることを誓うために、命を帰終に尽くすという内容だった。だが帰終の死後、終は契約を破りこの地を出ていった。そしてその代償で誰も終の名前を覚えていない。」

 

 

「そんな…。」

 

 

「終は帰終のために生きていると言っても過言ではないくらい忠実だった。だがそれも帰らぬ人となってからは性格を歪めるくらい歪な形となって今も残っている。誰も帰終が帰璃集を、璃月の民を愛していたのか知らずに、この日を感謝せずに生きていることが許せないから海灯祭が嫌いだと思う。」

 

 

「そんな…。」

 

 

「終…、どうにかならない?」

 

 

「あそこまでこじらせていると逆に怒らせかねない。そっとするしかないんだ。」

 

 

「そんなの悲しいんだぞ!本当にオイラたちには何も出来ないのか!?」

 

 

「………。」

 

 

鍾離は何も言えなかった。本当に何も出来ないから無責任なことを言って旅人たちを危険な目にあわせるかもしれないから。

 

 

 

「話はここまでだ。分かったなら海灯祭の期間中は変に刺激しないほうが良い。」

 

 

「分かった。」

 

 

「今回は仕方がないんだぞ。」

 

 

 

空とパイモンも大人しく従うことにした。

 

 

 

 

 

________________________________

 

終は群玉閣に上り、上から璃月港を眺めた。

 

高さもあるので風が強く、寒さを感じる。

 

 

「はは、こっからでも音楽が聞こえるなんてどれだけ賑わってんだろうね〜。」

 

 

ケラケラ笑いながらまたその景色を見ている終の表情はいつもと違って真面目な顔をしていた。

 

 

 

 

「人の世は変わる、か…確かにそうだな…。帰終、僕の計画は人の世では間違っているんだろうね。」

 

 

一人で話す終の背中はとても小さく見えた。それくらい、終の今の様子は弱々しい。

 

 

 

「僕は君みたいに優しくはなれない。帰終がもし、生きていたら絶対に止めているだろうね。でも、時間がないから急がないといけない。」

 

 

「僕は本気なんだ、これで死ねるんだったら悪くない最後かもね。」

 

 

 

聞こえるのは下からする海灯祭の音だけ。その様子を静かに見ていた終は立ち上がると袖から竹の入れ物を取り出して中身を開けた。

 

 

その瞬間、花火が空高くに咲き誇り、霄灯が夜空を埋め尽くした。

 

 

 

「今日はこれで終いにしようか。」

 

 

 

終は手に持っている横笛に口をつけ、慣れた手付きで吹き始めた。

 

 

 

_

 

 

「!笛の音聞こえる…。」

 

 

「これってもしかして、終じゃないか!?」

 

 

「凄い、綺麗な音…。」

 

 

「本当ですね旅人さん。」

 

 

_

 

 

 

「………変わらないな。」

 

 

 

_ 

 

 

「ふふ、やっぱり吹いたのか。」

 

 

「ばあやはこの笛の音を知っているのか?」

 

 

「すっごい綺麗な音だね。」

 

 

「勿論さ、私が旧友と音楽や人間について議論や言い争っているときにいつも聞かせてくれた曲だからね…。『音は求めれば答えてくれる。それがからくりや心でも同じことだ』とな。争いを収めるとき、彼はよく横笛を吹いてくれた。」

 

 

「へえその人って仙人なのか?」

 

 

「昔はね、だが彼はもう笛を吹かないだろうね。」

 

 

「なんでなの?」

 

 

「彼にとって、この曲は亡き主君を思い出させてしまうから。」

 

 

「ピン、もしかして…。」

 

 

「でも、これだけはずっと同じだよ。誰かに聞かせるために吹いてることだけはね。」

 

_________________________________

 

 

僕は裂け目から琥牢山に戻ってきた。

 

 

 

「あ、鍾離様も来てたんですか。」

 

 

「嗚呼、それにしても相変わらずお前の笛は綺麗だな。」

 

 

「お褒めに預かり光栄です、帝君。」

 

 

『始めるから座れ、白牢。』

 

 

「はいはい、食事会だったねー。」

 

 

 

僕は用意されている椅子に座って淹れられている茶を飲んだ。




書いている途中で魈引きました。

夜蘭を絶対引かなきゃ後悔する!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
前日譚


これは迎仙儀式の少し前にあったであろう話です。


ここは璃月港。このテイワットの中で1番賑わっている国。契約の国でもある。

 

 

俺はいつも利用している茶屋の1席で原稿と向き合っていた。俺は文字書き、所詮冒険小説というものを執筆している。

 

この小説は俺の中で面白かったなと思うものを少し脚色しながら書いてる。長く生きていればそれくらい沢山あるしネタも尽きないので天職とも言えるだろう。

 

 

 

「相席、いいかな?」

 

 

「どうぞ。」

 

 

 

突如上から声がしたので原稿から目を話して声の主の顔を見る。その声の主は酷く顔の整った男性だった。俺のほうが勿論若く見えるだろうが俺は見た目以上の年齢である。

 

二つ返事で男に返事をした後、再び原稿に目を向けた。だが机の上には原稿が散らばっている。

ここは茶屋。流石に迷惑になるだろうと思って原稿を1枚1枚集めて封書の中にしまいこんだ。

 

 

 

「君は何の職業をしているんだい?」

 

 

 

男は俺に問いかけた。ただの興味だろう。無視をしてもいいのだが印象が悪くなるのは困る。俺は偽善者でなくてはならないから。

 

 

 

「今はしがない文字書きさ。」

 

 

「今は?」

 

 

 

俺はまだ書いている途中の原稿に続きを綴る。男はまだ続きか気になるらしい。

 

 

 

「前はなにかしていたの?」

 

 

「前…旅をしていたよ。すべての国を巡った。それは長い月日を。だがそれも飽きてしまったからこうして文字書きをしているんだ。」

 

 

「そうか…旅人ならその腕についているものなら安全に旅できるからね。」

 

 

 

男は俺の腕に縛られている紫色のものを指さしながら言った。

 

”神の目”

神から与えられた7元素のうち1つを宿している道具。それがあれば元素を使うことができる。

 

俺の神の目は雷の力を使うことができる。

 

 

 

「俺にとては不要なものだね。見ているだけで忌々しく思う。」

 

 

「君は神の目が嫌いなの?」

 

 

「…嫌い、か…。そんな感情さえも忘れかけていたよ。でも嫌いとは違うね。そんなのどうでもいい話だ。」

 

 

 

最後の行に読点を書いた後男の顔を見た。

 

明るめの茶髪に深い海の色。璃月の海とは違った色、光を宿していない。

光を宿してないのは俺も一緒か。

 

 

 

「自己紹介がまだだったね。俺は『公子』タルタリヤ、ファデュイの執行官第十一位だ。」

 

 

「タルタリヤ君か…。」

 

 

「あれ?驚かないの?」

 

 

「いや、ファデュイだろうがなんだろうが一人の人間だ。いずれ記憶から消えるだろう。」

 

 

「酷いなぁ。ね、君の名前を教えてくれないかな?」

 

 

「今の名は終、そう名乗ってる。」

 

 

「終、でいいかな?」

 

 

「……いいだろう。俺はこの後用事があるのでこれで…。」

 

 

 

タルタリヤ君にそっけなく返答をした後、最後の原稿をしまって店から出た。

 

 

店を出て璃月港に戻ってきたときにふと頭に浮かんだ。

 

 

 

「タルタリヤ君…どこかで会った…?。」

 

 

 

ただ一人、誰にも聞かれずに人混みの声にかき消された。

________________________________

気分転換のために高い山の頂上にやってきた。

高いところでこうして下界の様子を見るのは気分がいい気がする。

 

 

「暇、だな…。」

 

 

だけど俺の中の好奇心という欲を満たしてくれるわけではなかった。

なにかが足りない。今の俺の周りでは面白いことが一切起きない。だから暇でしか無いのだ。

 

 

「確かもうすぐ七星迎仙儀式だったな…。」

 

 

 

璃月の民にとっては1年に1度、岩王帝君である岩神モラクスから今年1年の璃月の経営方針を決めるための祭り。

 

ずっと前からある伝統的なもの。

 

 

 

「……久々に見に行ってみようかな…。」

 

 

 

立ち上がって山から飛び降りる。風の翼を広げてそのまま下界に降りた。

___________________________

いつ来ても賑わっている璃月港は迎仙儀式のために少しだけ忙しなかった。

それを通り越して茶屋へ向かう。

 

茶屋でいつもどおりお茶を頼んでその様子を遠くから眺めた。

 

何千年経ってもこの景色だけは変わらないな。

 

 

 

「久々だね終。」

 

 

「……タルタリヤ君か。」

 

 

3週間ぶりくらいに挨拶を交わした顔見知りのタルタリヤ君がやってきた。狙ってここに来ている気がして少し嫌悪感がする。

 

探られてるのは気分が悪い。

 

 

「前も思ったけど反応薄くない!?」

 

 

「まあ…最近面白いことなくてスイッチが入らない。」

 

 

「スイッチ?」

 

 

「元気になれない…記憶力が壊滅的に悪くなる。」

 

 

 

なんとなく説明してみたけどこれで良かったのか?

なんかタルタリヤ君悲しそうに見てるけど…。

 

 

 

「じゃあ俺と昔会ったことも覚えてなかったりする?」

 

 

「昔…?」

 

 

「4年前にスネージナヤで斬りかかっで返り討ちにされたんだけど覚えてない?」

 

 

「4年前…スネージナヤ…。」

 

 

 

俺は思い出そうと頭を捻らせた。だけど思い出せない…。今までにファデュイから斬りかかられたことなんて何度も会った気がするし。

4年前もこんな感じだったから覚えてないだろうな。

 

仕方ないのであれを起動させることにした。

 

 

「棺。」

 

 

俺が呼びかけると横から黒い棺が現れた。

 

それを俺はいくつもの小さなキューブに分割して4年前の記憶を探した。

 

 

 

「これか…。」

 

 

 

それっぽい記憶が封印されているキューブを触ると一気に記憶が流れ込んできた。

 

 

 

1面雪景色で俺は下で歩いているファデュイの奴らを眺めている。

ただ眺めているだけで何もしていていない。多分通り過ぎるのを待っていたんだろうな。

 

すると他よりも少しだけ身長の低いやつと目があった。そいつは俺めがけて一気に走ってきて水の刃を向けた。

 

俺はすぐに槍でそいつの刃をそらして攻撃を仕掛けた。すぐに他のファデュイも駆けつけてたけどキューブを通して超電導を起こして気絶させた。

 

 

俺は静かに槍を向けて男の子は興奮して、鼻血を出しながら俺と刃を交えた。

 

未熟ではあったけど地形の使い方や戦い方は武人、そのものだった。長く生きていると人だったり人外とも戦うことは多かった。

 

その中でもかなりの強さを持っている。しかもどこかで戦ったことある太刀筋だった。

 

でも俺の中の好奇心は動かなかった。

 

 

 

結果としては俺が勝って雪に男の子を押し倒していた。

 

それで少し話したんだっけ…。

 

 

 

「強い!俺と同い年くらいなのに!」

 

 

「童、この世界には見た目より年齢を重ねているやつもいる。俺もそのうちに入る。」

 

 

「ふーん、じゃあどれくらい生きてるの?」

 

 

「話す必要性がないだろう?早く仲間を起こさないと凍え死ぬぞ。」

 

 

「じゃあ俺の名前覚えてよ!もし次に会えたときは再戦してね!

俺の名前は______。」

 

 

 

 

 

名前は

 

 

「アヤックス…?」

 

 

 

 

 

 

 

思い出した。

将来強くなるんだろうなとは思ってたけど執行官まで上がるとは思わなかったな。

 

 

 

「君、アヤックスか…。」

 

 

「!思い出した!?」

 

 

「思い出したというかなんというか…。まあそうだね。」

 

 

「俺あれから1度も負けてないんだよ!ずっと終と戦いたくてここで再開したのも運命かと思ったんだよ!」

 

 

 

タルタリヤ君はあのときと同じように興奮しながら話してくる。そんなに俺と戦いたかったのか?

 

 

 

「また戦おうよ!あの日からずっとこの熱だけは抑えきれないんだ!」

 

 

「……スイッチが入ったらいつか…。」

 

 

「今じゃ駄目かい?」

 

 

「面倒だ。…それよりなにか飲む?奢るけど。」

 

 

「え、いいの!?」

 

 

 

タルタリヤは店員を呼ぶとすぐに注文した。

やっぱまだ若いな…。

俺からしたらほんの少ししか生きていない人間だから当たり前か。

 

 

 

「ねえタルタリヤ君。神とか仙人とかって長生きだよね?」

 

 

「?そうだね。」

 

 

「何千年も生きてて暇になると思わないか?」

 

 

 

少しだけ気になったことをタルタリヤ君に聞いてみた。少し悩んだ後俺の方を向いてこう答えた。

 

 

 

「俺だったら色々なやつと戦えるから暇にならないと思うけど。」

 

 

 

どうやら根っからの戦闘大好きな人間みたいだ。自分から戦いに身を投じる、危ない人間だな。俺はお茶を飲んでまた少しだけ話す。

 

 

 

「俺は暇だよ。毎日1年も10年も変わらない日しか過ごしてない。俺は神に嫌われてるから。」

 

 

「急にどうしたんだ?」

 

 

「最後に本当にスイッチが入ったのはいつだったろうか…。封印される前だったか。そうなるとかなりの年数を無駄に生きてるみたいだ。」

 

 

 

口から勝手に漏れる言葉に俺の心臓は痛み始める。

少しだけ暴走し始めたのかも知れないな。くそ、痛い…苦しい…。

 

 

 

「俺は、僕はなり損ないだから…何も、あの方も守れなかった・・・。」

 

 

「終!大丈夫!?」

 

 

「すまん…。今日は帰るとするよ。」

 

 

 

袖からモラの入った袋をタルタリヤに手渡して俺は棺を起動した。

 

すると棺は分裂して小さなキューブが並びそこから黒い裂け目が生まれた。俺は迷わずにその中に飛び込んだ。

 

 

 

裂け目の飛び込んだ先はモンド、そして西風騎士団の屋上。

 

俺はすぐに屋上から降りてある人物のいるであろう部屋の窓を叩いた。

かなり強く叩いたのですぐに窓が開いて目的の人物が目の前にいた。

 

 

 

「アルベド…。」

 

 

「どうしたのって言っても来たってことはそういうことだよね。」

 

 

 

アルベドは俺の手を引いて椅子に座らせてくれた。

 

痛い、痛い…。心臓の部分が握りつぶされてる感じがして苦しい。意識も混濁する。

 

 

 

「終兄さん。」

 

 

「アルベド…心臓部が痛い。なんで?もう人間なんてとっくにやめてるのに…。苦しい、痛い。」

 

 

「終兄さん、落ち着いて。今はゆっくりしよ。」

 

 

「ごめん、ごめん…。」

 

 

 

俺はアルベドに体重を預けてそのまま目を閉じて少しだけ寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

___________________________

 

「あー!しゅうお兄ちゃん起きたー!」

 

 

「………クレー…?」

 

 

「そうだよ!クレーだよ!」

 

 

「終兄さん起きた?」

 

 

「アルベド、迷惑かけてごめん。」

 

 

 

重い体を持ち上げて数刻前まで弱い部分を見せてしまった俺の弟的な存在に謝罪をした。ベッドの横で俺の様子を見ていてくれたエルフの少女、クレーにも心配かけてごめんと言いながら頭を撫でてあげた。

 

 

 

「しゅうお兄ちゃん体大丈夫なの〜?」

 

 

「大丈夫だよ…。今はまだ…。」

 

 

「クレー、しゅうお兄ちゃんいなくなっちゃいやだ…。」

 

 

「クレーは可愛いな。俺はまだいなくならないよ。そうだクレー、一緒に璃月のお祭り行かない?」

 

 

「お祭り?」

 

 

 

クレーはまだ小さい。今のうちに楽しいことをたくさんしてくれとあの魔女にも言われたし俺もクレーとはたくさん思い出を作っておきたい。

 

勿論アルベドとも。

 

 

 

「うん、七星迎仙儀式ってやつなんだ。璃月の岩神がみんなのまえに出てきてお話する日なんだ。」

 

 

「クレーも行っていいの?」

 

 

「安心して、俺からジンちゃんに話し通すから。アルベドも一緒にどう?」

 

 

「僕はいい。まだ研究が残っているから。」

 

 

「分かった。少しジンちゃんのところに向かってみるよ。」

 

 

 

ベッドの上から起き上がってクレーを抱えて俺は1階に降りた。騎士団の人間は驚いたように俺の姿を見たけど早足で団長室の扉をノックして中に入った。

 

 

俺が中にはいるとジンちゃんは俺を見るなりガタリと音を立てて立ち上がった。

 

 

「終さん!?いつの間に…お久しぶりですね。」

 

 

「久々だね。発作が起きて急遽アルベドのところに来たんだけど勝手に入ってすまない。」

 

 

「いいですよ、久々に来てくださって嬉しいです。それにクレーを抱えてどうしたんですか?」

 

 

「実はクレーと思い出づくりをしたくてクレーの長期外出の許可が欲しいんだ。」

 

 

「長期外出ですか…?」

 

 

「もうすぐ璃月で七星迎仙儀式があるのは知っているか?」

 

 

 

俺はジンちゃんに説明と注意事項などクレーに対しての身の安全保障などの約束を取り付けた。その間にクレーはつまらなすぎて寝てしまったみたいだ。

 

 

 

「では期間は1ヶ月。その間のクレーのことを任せます。くれぐれも怪我させたり山を燃やさせないようにしてくださいね。」

 

 

「分かってるよ。俺もよく見張っておくよ。」

 

 

 

俺は棺をを起動する。そこから裂け目が生まれ、その中に向かって歩いた。

 

 

 

「今度は君等も一緒に璃月に招待しよう。じゃあね。」

 

 

 

俺は振り返ってニコリと笑う。そして裂け目を閉じた。

 

 

 

「あ、服もらうの忘れた。……璃月で買うか…。」

_______________________________

 

所持金の入っていた麻袋を茶屋に置いてきてしまったことに気づいたのは1日経ってからの話だ。

 

今の所残りの7割は北国銀行に預けてあるしどうせなら可愛くしたい。クレーを。

 

 

「すいません、引き出しをお願いしたい。」

 

 

「分かりました、こちらに必要事項を記入してください。」

 

 

 

俺はクレーを抱えたまま筆に手を取り紙に名前を書いて引き出す額を全額と書いて受付に出した。

しばらく時間がかかるのでクレーの話に耳を傾けていると後ろから聞いたことのある声がした。

 

 

 

「終!!」

 

 

「タルタリヤ君。」

 

 

 

そこには一昨日突然置いていってしまったタルタリヤ君の姿があった。

 

 

 

「すまなかった。いつもの発作が起きてしまって動転したまま何も言わずに行ってしまって。」

 

 

「しゅうお兄ちゃん、このひとだれ〜?」

 

 

「子供?」

 

 

「俺の妹の一人だよ。血は繋がっていないけどな。クレー、この人はタルタリヤ。」

 

 

「クレーはね、クレーって言うの!西風騎士団火花騎士なんだ!よろしくねタルタリヤお兄ちゃん!」

 

 

「こちらこそよろしくねクレーちゃん。」

 

 

なんか、タルタリヤ君の視線がおかしい気がする。もしかして…。

 

 

「ロリコン??」

 

「違うからね?」

 

 

 

お金を全て引き出した後、キューブに全て吸い込ませて北国銀行を後にした。

 

なぜかタルタリヤ君というおまけ付きで。

 

 

 

「なんで君が着いてくるの?」

 

 

「着いてきちゃ駄目だった?」

 

 

「クレーの可愛い姿を独占できなくなる。」

 

 

「実は終ってめっちゃシスブラコン?」

 

 

「いや……双子の弟をこの手で…。」

 

 

「は…?」

 

 

 

幸いにもクレーは珍しいものに気を取られていたから聞こえなかったみたいだけどタルタリヤ君ははっきり聞いたし記憶しているようだ。

 

 

 

「さてクレー、どんなお洋服がいい?」

 

 

「んーとね、クレーしゅうお兄ちゃんみたいな格好がいい!」

 

 

「となると…上はただの着物だし家にもあるから下の服だけ買いに行くか。」

 

 

 

目的が決まったので俺は適当に屋根の上に飛び乗って最短ルートで向かった。クレーもきゃっきゃと笑っている。うん、可愛いね。

__

「クレー、めっっっっっちゃ可愛いよ〜。こっちに向いて〜。」

 

 

「ん?こうかな?」

 

 

「んぐっ!クレーは天使だ。お嫁に行かせたくない…。」

 

 

「じゃあしゅうお兄ちゃんのおよめさんになる!」

 

 

 

なんでこんな天使なんだよ!

こんなにもこっちの服が似合うならこのまま定住してほしいけどあの魔女に怒られるだけは無理だな。

 

 

 

「クレーが俺のお嫁さんになってくれるなら幸せにしなくちゃだね。」

 

 

「クレーもしゅうお兄ちゃんのこと幸せにするから!だからいなくならないでね?」

 

 

「!……うん、努力はするね…。」

 

 

「あのー2人だけの世界に入らないでもらっていいかな?」

 

 

「タルタリヤ君うるさいよ。」

 

 

 

クレーを再び抱えて俺は再び走り始めた。

 

後ろからタルタリヤ君が着いてくるけど。しつこい男は嫌われるよ?知っていながらやっているんだったら嫌いにならないといけないんだが。

 

着いたところは帰璃原。クレーに宝盗団を任せて俺は耕運機をキューブで少し遊んだだけで簡単に壊れた。

 

 

 

「はー…終早すぎ…。」

 

 

「まだ着いてくるの?」

 

 

「いやぁ、面白そうな気配を感じてね!」

 

 

「…君さ、残念イケメンって言われる部類でしょ?」

 

 

 

俺はため息を付いて宝盗団をどっかーんしているクレーを眺めた。

 

 

 

「タルタリヤ君、面白いことは好きかい?」

 

 

「面白いこと?好きだと思うけど…。」

 

 

「俺はそれが好きだよ。面白さがなければ生きてる意味がないくらいにはね。」

 

 

 

俺が笑顔で戦ってるクレーを眺めながら腰にあるポーチに手を伸ばした。

 

 

 

『ここにおりましたか。』

 

 

「はぁ…最悪。」

 

 

 

俺は突然現れたやつに舌打ちをして振り向いた。取り敢えずタルタリヤ君のことも止めて。

 

 

 

「終…。なんでアビスの魔術師たちが君に膝をついてる?」

 

 

『なぜそのような下賤な名前を…。』

 

 

「ねえ、俺もう関わるつもりもないんだよね。だから消えてくれない?」

 

 

『使徒様から言伝を預かりましたのでお伝えに参りました。』

 

 

 

はぁ…まだ懲りてないのか。関わりたくないと言っているのに。

 

 

 

「そうなんだ。聞くくらいはしてあげるよ。」

 

 

『そろそろこちら側に戻ってくださいと。我らの悲願を達成するときが近づいてきました。なので1度姫様ともお話し願いたいということです。』

 

 

「姫様?そんな子いたっけ?」

 

 

『貴方様も知ってるはずです。名を「蛍」と言いますがご存知でしょう?』

 

 

 

蛍、蛍…嗚呼、思い出した。あの白のワンピースがよく似合っていた金髪の子か…。懐かしい。

 

 

 

「随分懐かしい名前だ。面白そうな『それでこちらにもd』。」

 

 

 

俺は話しかけてきた炎のアビスの魔術師を細かく刻んだ。俺の手には槍が、そして血が付着している。

 

 

 

「俺がまだ話してる途中なんだけど?」

 

 

『も、申し訳ありません!』

 

 

「あー…どうしよっか。蛍ちゃんがいるなら少しは考えてもいいかな?」

 

 

「終…どういうこと?」

 

 

「タルタリヤ君、少し黙れ。俺は真剣に話してるんだよ。」

 

 

 

別にアビス教団に戻ってもいいかも知れないけどまだ文字書きとしての仕事が残っている。それに堂々と町中を歩けないしクレーやアルベドとも会えなくなる。

 

 

 

「じゃあ使徒共に伝えといてよ。”既に捨てられたのにいつまでも俺に頼らないでよ。まあ面白いことするんだったらまた誘って”って。分かったらさっさと消えて。」

 

 

『『必ずや伝えましょう。我らの闇神ば』』

 

 

「あーこれじゃあ伝えられないね。」

 

 

 

俺は灰になったアビスの魔術師を少しだけ眺めてからタルタリヤ君の方を向いた。水の槍を向けた彼に。

 

 

 

「君は、何者なんだ?」

 

 

「……何者か…。何者なんだろうね?色々やったし色々な呼び方をされていたから本名すら覚えてないよ。今はしがない文字書きだ。これ以上でも以下でもない。」

 

 

「敵になるんだったらここで始末しなくちゃいけない。」

 

 

「ふふ…したらいいよ。俺も全力で抵抗する。けど今はやめておこうか。」

 

 

「しゅうお兄ちゃん!終わったよ〜!」

 

 

 

今は幼い子を残して死ぬわけにはいかない。

 

 

 

「クレー、そろそろ帰ろうか。ちょっとお兄ちゃん仕事があるから明日はお出かけできないんだ。」

 

 

「じゃあクレーひとりで探検したい!」

 

 

「一人で探検か〜それはお兄ちゃん嫌だから女中と出かけるんだったら探検してもいいよ。」

 

 

「うん!」

 

 

「絶対離れないでね?クレーがいなくなったら悲しいし、ジンちゃんとアリス…ママに怒られるのは嫌だからね?」

 

 

 

取り敢えず明日はクレーのこと女中に任せることにしよう。

俺はクレーと手を繋いでタルタリヤ君の横を通り過ぎるときに小声で言った。

 

 

「明日、俺の屋敷に来てよ。そしたら今日のこと少しだけ話してあげよう。」

 

 

俺はそれだけ伝えてクレーとともに帰璃原から出た。

 

 

 

 

 

 

 

________________________________

 

 

「終!」

 

 

「よく分かったね。流石ファデュイの情報網は侮れない。」

 

 

「本当にここまで来るの大変だったんだけど!通った道にいつの間にか戻ってるし入り組んでるしこんな崖っぷちにあるし!」

 

 

「俺は賑やかなのは好きだけど住むとなると静かなところが良くてね。今お茶入れるから座りなよ。」

 

 

 

俺は立ち上がって女中が用意しておいてくれたお茶をグラスに入れてそれを出した。

 

 

 

「まあここまでこれた褒美として少しだけ多めに話してあげようじゃないか。」

 

 

「来れないと思ってたの?」

 

 

「8割ほどは…。残りの2割を引いたので少し面白かったよ?」

 

 

 

タルタリヤ君は少しふてくされたような顔をしている。成人男性のふてくされ顔を見てもなんも感じない。クレーの方が可愛い。

 

 

 

「さて、何から話せばいいのやら。」

 

 

「なら質問形式でいい?」

 

 

「答えられる範囲で。普通10個だとして…褒美として12個、質問に答えよう。」

 

 

 

前に話したときとはかけ離れた目をした彼を見た。

 

 

 

「1つ目、終は人間じゃないなら何者なんだ?」

 

 

「そうだね…元人間で今は人造人間に近しいものだけどそれとはまた違う感じだ。今は分類としてはよくわからない。人の形をしたナニカ、が正しい。」

 

 

 

 

これは本当だ。初めは人間として生まれたけどそこから色々なことがあって今に至る。昔と姿形は同じだけど機能としては人間からかけ離れた存在になってしまった。

 

 

 

「2つ目、終は岩王帝君のことを知っている?」

 

 

「もし知っていたら千岩軍に捕まってしまう。…なーんて、知ってるよ。俺は7国の神全員知っているし面識もある。最後に会ったのは雷神バアルだったか…。ついでに岩王帝君にはかなり怒られるかもしれないから俺の名前は出さないほうがいい。俺がこの国にいる事自体知られたら面倒なんだ。」

 

 

「3つ目、アビス教団とは親しい?」

 

 

「昔はそこそこ…今は連れ戻されそうなだけでどうでもいいんだよね。」

 

 

「ふーん…。」

 

 

タルタリヤ君はお茶を飲んで一息ついた後、また質問を初めた。

 

 

 

「4つ目、アビス教団はなんで終を連れ戻したかったの?」

 

 

「それは俺が……その話はノーコメントで。君が知る必要はない。」

 

 

「じゃあ5つ目、闇神って終のことを指しているの?」

 

 

「……その話も4つ目と繋がってくるけど答えよう。確かにその闇神は俺を指す言葉ではあるけど違うんだ。」

 

 

「違う?」

 

 

「もうそう言われる筋合いはないってことだ。じゃあ6つ目。」

 

 

「うーん…前に話していた双子の弟をこの手でってどういうこと?」

 

 

「あー…。」

 

 

 

俺が人間だった頃…。多分7歳くらいの頃だった気がする。

 

 

 

「俺がまだ人間の頃の話だ。どうでもいいだろう。」

 

 

「………7つ目神に嫌われているってどういうことしたんだ?」

 

 

「俺は直接に何もしてない。周りに巻き込まれたせいで闇神と呼ばれていた俺が恨まれただけ。正直にいうと俺は何も手出ししてないまま色々なものを失っただけだ。」

 

 

「8つ目、神の中で誰と仲がいい?」

 

 

「仲がいいと言われても…風神バルバトスは俺のことを無視せずに仲良くはしてくれたよ、500年前まではね。それに初代の氷神にも世話になった。」

 

 

「初代と…?」

 

 

「君と最初に会ったときも氷神と話がしたくて寄っただけなんだ。結果は話せなかったけど。」

 

 

 

まあ俺は少し聞きたいことがあった気がするけどもうそれも忘れてしまったから意味がない。本当に何を話そうとしたんだっけ?

 

 

 

 

「雷神バアルゼブルには1番世話になったよ…。他の神とはクソほど仲が悪かった!あ、草神ブエルとも仲がよかった。」

 

 

「俺の中でめっちゃ終の偏りを感じた。」

 

 

「?」

 

 

 

ナニイッテンダ?

 

 

 

「折角質問数を増やしてもらったけどもう知りたい情報はないからここで失礼するよ。」

 

 

「ならいいよ。そうだ、もし女皇に会うときがあったら一言伝えてほしいんだ。”星と深淵がぶつかった後、破滅はやってくる”ってね。」

 

 

「?まあいいけど。」

 

 

 

頼んだよ。

 

俺は立ち去っていくタルタリヤ君の背を眺めながら薄っすらと笑みを浮かべた。




前日譚はここまでです。次からは本編、迎仙儀式から始まります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

璃月編〜ストーリ〜

僕は迎仙儀式のために特等席で迎仙儀式を見ていた。

 

 

つまりは屋根の上。

高いから下も丸見えだよ。

 

 

 

「クレー、落ちたら危ないからお兄ちゃんの手、しっかり掴んどくんだよ。」

 

 

「うん!でも人いっぱいだね、そんなにすごいの?」

 

 

「ここ、璃月の民にとっては商売のために欠かせない行事だからね。」

 

 

 

クレーは下にいる人を見ながら楽しそうに見ていた。

すると一人だけ、いや正確には二人だがこの場とは似ても似つかない格好をした人間が前の方に向かっていた。

 

 

 

「あ、えいよきしのお兄ちゃん!」

 

 

「栄誉騎士?クレー、それは誰かな?」

 

 

「あそこの金髪のお兄ちゃん!モンドをすくってくれたえいゆーさんなの!」

 

 

「へえ…後で詳しくその話を教えてくれないかな?」

 

 

「うん!それにしてもまだかな〜?」

 

 

「もうすぐだよ。」

 

 

 

僕らは屋根の上に座ってそのまま迎仙儀式を見た。

 

 

 

 

 

刹那、事件は起きた。

 

 

 

「岩王帝君が暗殺された!!」

 

 

 

 

 

「不味いことになったな…。」

 

 

「お兄ちゃん?見えないよ〜!」

 

 

「ごめん、事件が起きたから少しここから移動するよ。」

 

 

 

僕は儀式が始まってすぐにクレーの目を隠した。

岩王帝君が暗殺された。

 

すぐに天権、凝光が千岩軍に指示を出す。

僕らは見つからないように屋根と壁の上を移動して少し離れたところで止まった。

 

 

 

「しゅうお兄ちゃん…?」

 

 

「クレー、一旦ここで休もっか。」

 

 

「うん…。」

 

 

 

クレーには悪いけどこんな幼い子に死体…神の死体を見せるわけには行かないんだ。ごめんねと言いながらクレーの頭を撫でてあげる。

 

 

すると少し後ろの方で面白いことが起きていた。

 

 

 

「はは…面白いじゃん…。」

 

 

 

それは千岩軍に追われている先程の栄誉騎士、そしてそれを助けているファデュイの執行官、『公子』タルタリヤ。

 

 

これは良いネタにもなるし面白くもなるだろう。

 

 

どうにかして観ていたい、関わりたい!

 

 

 

「あ、しゅうお兄ちゃん笑ってる!!」

 

 

「!?…そうか…ようやっとスイッチが入ったみたいだね…。」

 

 

「クレー、初めてしゅうお兄ちゃんの笑ってる顔見た!もしかして嬉しいことあった?」

 

 

「ふふ、そうだね。面白いことがあった!でもこれはクレーには危険な目に合わせるかも知れない。だから1度騎士団に戻ろう。」

 

 

「え…。」

 

 

 

クレー、その顔はやめて!流石にくるものがある!

 

僕だってクレーに色々見せてあげたかったのにこんな面白いことが始まってしまって申し訳ない。

 

 

 

「クレー。僕はクレーを守らなくちゃいけないんだ。だから怪我させたらジンちゃんとアリスママに怒られちゃうんだ。」

 

 

「しゅうお兄ちゃんが怒られるの…?」

 

 

「うん、だから1度怖いことがなくなったら今度は璃月じゃなくてスメールにでも行ってみよう!」

 

 

「やくそくだよ?」

 

 

「うん、約束破ったらお兄ちゃんのことどっかーんしていいからね?」

 

 

 

僕はクレーを抱えて裂け目に入る。裂け目に入ると団長室へと繋がった。そこにはジンちゃんとリサちゃん、あと一人は知らない赤リボンの女の子がいた。

 

 

 

「終さん!それにクレーもどうしたんですか?」

 

 

「ちょっとした事件があったから長期休暇を切り上げてきたんだ。ジンちゃんとリサちゃんだけ残ってくれないかね?」

 

 

「分かったわ。アンバー、クレーを連れて部屋から出てくれないかしら?」

 

 

「分かりました、おいでクレー。」

 

 

「うん…またねしゅうお兄ちゃん。」

 

 

「じゃあなクレー。」

 

 

 

クレーとアンバーと呼ばれた女の子が出ていったので僕は早速二人と向き合った。

 

 

 

「今から話すことは他言無用だから。」

 

 

 

俺は二人にことの顛末を話した。信じられない話だろうけど二人は真剣に聞いてくれた。

 

 

 

「僕は少し知りたいことがあるからもう行くよ。突然こんな事になってごめんな。事が終わったらまた別に行ってもいいかな?」

 

 

「もちろん、数日でしたけどクレーのことありがとうございました。」

 

 

「僕の方こそごめん!クレーにも謝っといてね。」

 

 

 

僕は裂け目に入って再び璃月へ戻った。

 

________________________________

 

帝君暗殺から二日後。僕は旅人の動向を高いところから眺めた。屋根の上だったり壁の上だったり階段の上からだったり。とにかく見つからないようにしながら見ていた。

 

 

面白い…。

 

 

隣にいるパイモンとやらも面白いけど旅人自身が特に興味深かった。それに誰かに似ている気がするし。

 

一言で言えば己のことを軽んじている。

 

 

実に滑稽で愉快。

 

 

 

成長したらどれくらい強くなるだろう、どれくらい多くの友人を作るのだろう、どれくらいの悲しみを味わうのだろうか。

 

 

 

僕は旅人と話し終えたタルタリヤ君にこっそり近づいた。

 

 

 

「なにカッコつけて俺が払うよ、って?」

 

 

「!?しゅ、終!?」

 

 

「やあやあ、みんな大好き終先生だよ。岩王帝君が暗殺されるなんて面白いことになってるけどお陰でクレーをモンドに返す羽目になってしまった。」

 

 

「……性格変わってない?」

 

 

「ああ、本来はこっちの性格が本当の僕だよ。」

 

 

 

僕は笑顔でタルタリヤ君の背中を叩いた。僕がこんな性格だとは思わなかっただろうね!

 

いやー久々にスイッチ入ってめっちゃ気分がいいんだ!

 

 

 

「それにしても君も参加しているなら微力ながら僕も情報提供をしようじゃないか。」

 

 

「へー、なにがあるんだい?」

 

 

「まあ僕は旅人、特に鍾離様がいないときのみ教えよう。さて、情報だけど今回の件で鍾離様のことはあんまり信用しないほうが良いよ。」

 

 

「鍾離先生を信用しない?なんでだい?」

 

 

「ふふ…それはことが終わった後、本人から聞けると思うよ。それと君等はある人の手のひらで踊らされているってのも忘れないでおくことだね。」

 

 

「終、君は何を知っているんだ?」

 

 

「まあ二日考えた結果の話だよ。さて、そろそろ彼らが戻ってくる頃だろうね。僕の名前は鍾離様に伝えないでくれよ。僕は彼に、まぁこの話よそう。」

 

 

 

手をひらひら振った後タルタリヤの元から去った。

 

 

 

「さて、また情報を集めて考察しなければならないね。」

 

________________________________

僕はまた数日経った日、面白そうな気配を感じたのでタルタリヤ君のもとを訪れた。

 

 

どうやらこれから行くところがあるらしい。

 

 

「やあタルタリヤ君、これから黄金屋に行くのかな?」

 

 

「……なんでそのことを?」

 

 

「僕は文字書きだよ?こんな面白い話、逃すなんて以ての外。」

 

 

「本当にどこから情報を得てるのやら。」

 

 

「そりゃ君さ、外で堂々と銀行の受付ちゃんと話してたらバレるけど。」

 

 

「あ。」

 

 

 

いや、君「壁に耳あり」ってことわざ使ってたけどそれ君にも言えることだからね?タルタリヤ君はやってしまったという表情をしている。

どんまいとしか言えないぜ。

 

 

 

「ま、もし君がやられたら回収しに行って盛大にからかったげるよ。」

 

 

「それは嫌だね。」

 

 

「じゃあ頑張ってよ。」

 

 

 

横を通り過ぎていくタルタリヤ君を見てから僕も裂け目で移動した。

 

________________________________

 

 

「神を失った国は上古の悪意に再び飲み込まれるのか楽しみだ。もちろん、璃月の人と一緒に溺死するつもりなら俺は止めないけど。」

 

 

 

タルタリヤ君は水に包まれて黄金屋から出ていった。

 

折角迎えに来てあげたのに勝手に行かれてしまったな。

 

 

 

「ふむ、どうやら渦の魔神オセルが復活したようだね。」

 

 

「だ、誰だお前!?」

 

 

「嗚呼、そんなに身構えないでくれよ。僕はファデュイの味方ではないから。それに君等は旅人、空とパイモンだよね?」

 

 

「そうだけど。君は?」

 

 

「僕のことかい?僕は終、しがない文字書きだよ。それよりも早く行ったほうが良いだろう。」

 

 

「そうだった!行くぞ旅人!」

 

 

「待ってくれ、それなら送ってあげるよ。」

 

 

 

俺は手から黒いキューブ、棺を召喚して裂け目を作ってあげた。

 

その裂け目に二人を押し込んで笑顔で手をふる。

 

 

 

「あ、ちょっと!」

 

 

「また近いうちに会おう、異世界からの来訪者。」

 

 

 

裂け目が閉じてこの空間には僕しかいなくなった。

 

渦の魔神か…。それだけの月日が経ってしまったということか。

 

 

 

「オセル…久々に見に行ってやろうか…。」

 

 

 

裂け目を作ると、僕はそれをくぐって黄金屋から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________________________

 

裂け目で孤雲閣に移動したけどこれはこれで面白い。

でも久々に見てけどオセル暴走してるなぁ〜。

 

ま、どうでもいいか。

 

 

 

さて、少しだけ手助けしてあげますか。

 

再び裂け目が作り出すと、俺はそれをくぐった。

 

 

行き着いた先は群玉閣だ。

 

 

 

「またファデュイか!?」

 

 

「残念、僕はファデュイじゃないよ。」

 

 

『お前は…!』

 

 

「そんなに睨まないでよ、削月築陽真君。少しだけ手助けに来ただけだよ。」

 

 

 

僕はにこりと笑うけど仙人たちの警戒が解けない。当たりまえだよな。

 

 

 

「オセルね〜、久しぶりに見たけどこれじゃあ話すことも出来ないよ。」

 

 

「お前、渦の魔神と友達だったのか?」

 

 

「ん?そんなわけないじゃん!僕、アイツのこと嫌いだったし!」

 

 

『貴様、帝君の作ったこの国にいたのか…。』

 

 

「今回は手助けに来ただけだよ」

 

 

 

僕は槍を手に持つとそれを地面に突き刺して雷元素を放出する。

 

 

 

「『虎壊雷斬』」

 

 

 

その瞬間、白い雷の獣がオセルに襲いかかった。

 

 

 

「凄い…。」

 

 

「はーやっぱダメかぁ」

 

 

結構火力出したはずなのに全く倒れないオセルを見てため息をついた。

 

僕の力が封印されてるのは分かってるけど目覚めたばかりの魔神にも劣るようじゃなぁ…。

 

 

 

「…昔のお前にそこまでに力はなかっただろう。」

 

 

「やあ魈。あれから俺も色々あったんだよ。それじゃ、後はよろしくね栄誉騎士様?」

 

 

「は!?お前勝手に!」

 

 

 

手元に残ったキューブから裂け目が生まれると僕は群玉閣から立ち去った。

 

次に出会うときが完璧な修羅場になるとは知らずに…。




会話文ばかりで申し訳ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

璃月〜後日談〜

ギャグ、シリアスなんでもござれです。


渦の魔神オセルの件も一段落した後、僕は北国銀行に用事があってやってきた。

 

 

用事は勿論タルタリヤ君を盛大にからかうためだよ!

 

 

 

「やっほータルタリヤ君!からかいに……やっぱ用事思い出したわ〜。」

 

 

「あ!お前は!えっと…。」

 

 

「終?だっけ?」

 

 

「やあ旅人、それとも英雄殿と呼んであげようかな?」

 

 

 

入り口で止まっている僕は内心冷や汗かきまくっていた。

 

どうしても会いたくなかった人物がいるからだ。

 

 

 

「お前……!」

 

 

「あ、あはは…お久しぶりですね帝君。」

 

 

「今まで何をしていた…。」

 

 

「それは帝君が1番知ってるんじゃないですか?」

 

 

 

無言で衝撃波を放ってくるあたり随分お怒りのようですね。

 

 

 

「ちょっお!?」

 

 

「許さん…。」

 

 

「ですよね!」

 

 

「前から思っていたけど終、本当に何者?」

 

 

 

取り敢えず殺されないとは思うけど怖いので避けながら話した。

 

 

 

「言わないとダメ?」

 

 

「こいつは俺の知人の魔神に仕えていた仙人だ。」

 

 

「あ、言われた。どうも元仙人です〜。」

 

 

 

 

帝君にめっちゃ睨まれてる。これはめっちゃやばいかもしれなーい!

 

 

 

「ちょ、お、怒らないでくださいよ!説明はちゃんとしますから!」

 

 

「今すぐしてもらいたいんだがな」

 

 

 

今にも元素爆発撃たれそうでめっちゃ怖い!本当に怖いんだけど!

 

 

 

「まあその話はあとにして…あ、久しぶり淑女。」

 

 

「あら、挨拶する順番がおかしくないかしら?」

 

 

「それは申し訳ない『淑女』ショニーラ様?」

 

 

「あんたにそれ言われると気持ち悪いわね。」

 

 

「あ?巫山戯んなよ炎女。」

 

 

「うるさいわね性別詐欺ジジイ!」

 

 

 

久々に会ったのに苛つくような事言うな〜生意気な女!

 

てか若い衆がついていけてないけど知るか!

 

 

 

「それで、あんたはなんでここに来たの?」

 

 

「タルタリヤ君を盛大にからかうため!ついでに少し確認したいことがあったんだ。」

 

 

「確認…?」

 

 

 

僕は旅人に近づいて顔をかなり近づけた。よくよく見るとあの子の服と似てるし。髪色も目の色もそっくりだな。

本当に懐かしく思えてくる。

 

 

 

「旅人、君に姉か妹とかいない?」

 

 

「!!妹、蛍のこと知ってるんですか!?」

 

 

「うぉ、どうどう。一旦落ち着け。」

 

 

 

急にぐいっと来られたら僕驚いちゃうよ。てか美少年だね。

 

 

 

「まあここからの話、ファデュイには関係ないし帰ってもろて〜。」

 

 

「そうさせてもらうわ、次会うときはもう少し成長した姿を見たいものね。」

 

 

「残念、僕はもう成長できないんだ。じゃあ気をつけろよ。」

 

 

「俺は淑女を送ってくるよ」

 

 

 

僕はシニョーラとタルタリヤ君に別れを告げて旅人と向き合った。

 

こう向かい合うと本当に懐かしい気分になるな。

 

 

 

「君の妹の蛍ちゃんとは良き隣人だったよ。もう500年前くらいの話だよ。」

 

 

「500年前…。」

 

 

「ある事件以降は僕も別のところに身を寄せていたから会ってはいないね。」

 

 

 

蛍ちゃんは今アビス教団にいると言ったほうがいいのか…。

 

 

いや、面白いことになるからやめておこう!

 

次、会えたら話してあげよう!

 

 

 

「まあ旅をしていけばすぐに会えるよ。」

 

 

「そうか…ありがとう終。」

 

 

「いいよ、じゃあ僕はこれから予定が…。」

 

 

「逃すわけ無いだろう。」

 

 

「あ、ですよねー。」

 

 

 

帝君、いや鍾離様に抱えられ僕らは北国銀行から出た。

 

わーたっかーい。

 

 

 

 

 

 

________________________________

 

 

ああああああああああああああああああああああああ!

めっちゃ怖い!怖すぎ!なんか目の前にいる元岩王帝君と美少年仙人がなんか凄いオーラを放ってるんだよぉぉぉ!

 

さっきまでめっちゃ呑気にしてたけど往生堂に入って椅子に拘束されてからめっちゃ怖いんだけど!てか魈いつからいたの!?

 

 

 

「そ,それで、なんで僕は拘束されてるんですかね?」

 

 

「質問に答えてもらおう。」

 

 

「拒否権なんて存在しないようですね。」

 

 

「なぜこの地から去った。」

 

 

 

本当に説明しなきゃいけないようなので僕は大人しく説明を始めた。

 

 

 

「僕がいなくても璃月は成り立つだろうなって思ったし心から仕えた主君はもうこの世にはいないから。あと、ここに残っていても業障で精神が狂いそうになって、それでこの地を去りました。それにちゃんと置き手紙も置いていったし…。」

 

 

「「は?」」

 

 

なんか二人して間抜けな顔してるな。

 

確か順序はこうだ

主君亡くなった。仙衆夜叉いるし僕がいなくてもいい?

あと業障で気が狂いそう

よし、他の国も見てみよう

勝手にいなくなっても心配されるか。

置き手紙書いておこう。

 

 

 

「置き手紙なんてなかったぞ…。」

 

 

「えー絶対書いたんだけど僕。風で飛ばされたのかな…。」

 

 

「まあそのことはもういい。だがなぜ、お前はあの場にいた。」

 

 

「………あー、そのことですか。ある人に誘われてなんとなくついていったらそういう立場にまでなってしまったんです。今のこの体だって色々いじられて人間としても仙人でもない、フォンテーヌで言うキメラのような存在です。」

 

 

「それでか、お前に近づと体が疼くのは。」

 

 

「正直、璃月から出た後は楽しかったことも多くて気持ちは多少楽になりました。」

 

 

 

歩いて旅するだけでも狂いそうになった気はいつしか落ち着いていったし、璃月にいても多分…壊れていただろうな

 

 

 

「それで、お前はこれからどうする?」

 

 

「あー…このまま璃月にいてもいいんですけど八重堂の編集者に呼び出しを食らってるので一旦稲妻に行くつもりです…。」

 

 

「稲妻?今は鎖国中だったはずだろう?」

 

 

「鍾離様、白牢は大体の場所には移動できます」

 

 

「そうだったな…すっかり忘れていた」

 

 

魈の説明に感謝する。ようやく意識が俺から外れた。

 

 

 

「じゃあ帰ります!」

 

 

 

俺の足元に裂け目を作って落ちるようにしてその場を後にした。

 

 

 

 

「魈、次アイツを見つけたら連れてきてくれ。凡人になってもあいつとは友人関係だと思っているしな。しっかり話さないといけないだろう。」

 

 

「分かりました鍾離様。」

 

________________________________

 

現在、鬼ごっこ中です。

 

 

勿論僕は逃げてるよ★

 

 

 

「待て!」

 

 

「ギャー来ないでー!!」

 

 

「鍾離様からの命令だ!」

 

 

「もう仙人じゃないよ僕〜!」

 

 

 

鬼は魈くんですね。俺、負ける自信しかないよ。

 

用があって立ち寄った望舒旅館から鬼ごっこが始まり璃月港まで続いている。途中で戦闘にも入ったけど埒が明かずにそのまま鬼ごっこをしている。

 

 

てかオセルの件で元素溜まってないから移動距離が短くなってて逃げれないんだよ!

 

 

 

 

「あーもう!誰か助けて〜!」

 

 

「あ、終ってわぁ!?」

 

 

 

目の前から歩いてきたタルタリヤ君を反射で拉致った。走る速さは保ったままだ。

 

あ、こいつ水の神の目持ちだ。

 

 

「タルタリヤ君、元素爆発使って!!」

 

 

「え!?この状況で!?」

 

 

「いいから早く!」

 

 

「え、し、止水の矢!!」

 

 

「ちょっと力借りるよ?」

 

 

 

どこからか出てきた棺にタルタリヤ君の元素爆発をぶつけて裂け目を起動してそのまま突っ込む。そしてそれと同時に裂け目を閉じた。

 

 

 

 

「あっぶね〜!!殺されるかと思ったぁ〜!」

 

 

「俺拉致られたうえに元素爆発使わされたんだけど…。てかここどこ?」

 

 

「………モンドにある風魔廃墟ってところだよ。僕ここ好きなんだよね〜。」

 

 

 

僕は風神バルバトスの形をした像により掛かる。

 

あのときはどうしても我慢しないといけないときはここで一人で我慢していたな。

懐かしい…。

 

 

 

「終?」

 

 

「あ、ごめんごめん。少しだけ昔のことを思い出してね。」

 

 

「ここにも来たんだ。」

 

 

「うん、ここは僕にとっては一人で苦しみを耐える場所でもあったし休める場所でもあったんだ。」

 

 

 

真ん中にある風の壁に手を触れるとバチンと弾かれる。少し触れただけでもボロボロで血だらけだ。

 

 

1歩、風の壁に近づいてみると強い力に引っ張られて後ろに下がった。

どうしちゃったんだろうね、こんな事する人はこの場に一人しかいない。

 

 

 

 

「タルタリヤ君、どうしたんだい?僕は女ではないぞ?」

 

 

「なんか、消えそうだったから…。」

 

 

「消えそうだった、ね。大丈夫だよ、今はまだ消えない。」

 

 

 

僕はいつもより少しだけ気を使ってその場を踏みとどまった。

 

正直タルタリヤ君に消えそうと言われた時はドキッとしてしまった。

 

 

まだやることが残ってるから消えることはできないんだよ。

 

 

 

 

「僕はここにいるよ。」

 

 

「うん…。」

 

 

「だから泣かないでよね?」

 

 

「な、泣くわけないじゃん!」

 

 

「強がっちゃって〜。」

 

 

 

僕はよしよしとタルタリヤ君の頭を撫でるとすぐに離れた。猫みたいだね、僕あんま猫のこと好きじゃないけど。なんかめっちゃ嫌われてるしディオナちゃんにも威嚇されるから。

 

 

 

 

「さてと、これからどうしよっかなぁ〜。帝君に会ったら岩喰いの刑になっちゃうかもなぁ。」

 

 

「呑気すぎるでしょ!?もっと焦らない?」

 

 

「ま、死ねないし!それに契約違反で本当の名前はもう無くなってるから。」

 

 

「名前、と引き換え?」

 

 

 

あ、そういや言ってなかったな。

 

 

 

「僕、終じゃないんだよ。僕の本名はもうこの世で誰一人知らないんだ。いるかもしれないけど自分ですら覚えてないんだ。」

 

 

 

僕が笑うと君が苦しそうになる。意味がわからないな〜。

なんで他人の僕のことでそんな悲しそうな顔しているんだろう。

 

 

 

「終、は本名を呼ばれたくないの?」

 

 

「呼ばれたいよ、あの人が呼んでくれた名前だし。鈴を転がしたような声で夜叉の名じゃなくて、僕の本当の名を唯一呼んでくれたんだ。でも誰も知らないし覚えてないからどうしようも出来ないよ。契約の神との契約だから仕方ないけどね。」

 

 

 

だからさ…。

 

 

 

「今はなんもすんなよ。」

 

 

 

 

僕は笑いながらタルタリヤ君に強めの雷で気絶させてもらった。これくらいなら少ない元素力でもできるから。

 

タルタリヤ君は立派な武人だ。それに勘もいい。だからこそ悟られるわけにはいかない。

あの計画だけは…。

 

僕はタルタリヤ君をそっと石畳の上に寝かせたあと僕はむせた。

 

 

 

咳をするたびに肺から空気が押し出されて体が刺されるように、ズタズタど切り裂かれるように痛い。

 

 

 

 

「うっ…あ”、くそ!」

 

 

 

 

いつしか慣れたと思っていたこの痛みもいつも以上に痛くて苦しい。

 

 

 

 

「お願い、まだっ…、やらないと…。」

 

 

 

大きく呼吸をしながら胸を押さえていると体からすっと痛みが引いた。

 

ヒューヒューと喉から音が漏れる。冷や汗が気持ち悪い。

 

 

 

「業障よりたちが悪い…。」

 

 

 

 

頭の中でふとある姿が浮かんだ。

 

 

 

「まだ、大人しくしてろ…」

 

 

 

ギリっと口を噛み締めると唇からは黒くドロっとした液体がボタリと石畳を黒く染めた。

 

 

 

 

 

________________________________

 

 

僕は再び往生堂に来ていた。今回は自分で出向いて元岩王帝君の元へやってきたのだ。

 

 

 

「自分から来るなんて夜叉の時からなかったのにな。」

 

 

「乗務連絡しか用がなかったんで。」

 

 

「それで、どうしてやってきた?」

 

 

「謝罪ですよ。置き手紙だけ残して勝手に仙人、夜叉としての契約を破棄してしまって申し訳ありませんでした。」

 

 

 

手は膝の上において机に頭がつきそうになるくらい頭を下げた。

しばらく僕はそのまま動かないでいると帝君がもうよいと言った。

 

 

 

「お前から謝罪の言葉を口にされるとは意外だったな。」

 

 

「僕だって謝ることくらいしますよ。」

 

 

「そうだな…。契約は契約だから執行しないといけないんだが。」

 

 

「あーそれに関しては大丈夫ですよ。名前だってもう覚えてませんから。」

 

 

 

僕はどうぞという意味で手を広げたらノータイムで岩喰いの刑が執行された。

まあ室内なんで規模は小さかった。

 

 

 

「帝君、めっちゃ早かったですね?恨んでますよね?」

 

 

「いや、全く。それよりもう帝君ではないから鍾離と呼んでくれ。」

 

 

「じゃあ僕も今は白牢ではないんで終と呼んでくださいね鍾離様?」

 

 

「分かった。終、このあと用事がなければ飯でも食いにいかないか?」

 

 

「いいですよ〜。じゃあどこ行きます〜?」

 

 

 

僕らは往生堂を出て二人でご飯を食べに行った。

 

余談だが噂で聞いていたモラを持っていないのは本当だった。流石の僕も財布を服に縫い付けることをおすすめした。流石にいい年なんだからさ…。

 

 

________________________________

 

 

 

さて、今度は何に巻き込まれたのかな〜っと思ったそこの君!

 

 

留雲借風真君に呼び出されました!

正直に言うとなんで呼び出されているのだろうかなって不思議でしか無い。嫌われてると思ってたし。来てくれと言われた場所は天衡山の山頂、ここまで登るの結構キツイのに…。

 

 

 

「留雲、来たけど何か用?」

 

 

『来たか、白牢夜叉。』

 

 

「もう俺は夜叉じゃないよ。仙力は多少なりとも使えるけど昔みたいには上手く使えないから。」

 

 

『そうか。少しお主に頼みたいことがあってな。』

 

 

「頼み?僕のこと昔から嫌いなくせに珍しいこともあるんだね。」

 

 

『好いてないだけで嫌ってはいない。それで頼みなのだが…』

 

 

 

俺は留雲借風真君の話を聞いた。留雲借風真君が育てた人間の子が人里に降りる決意したけどいちよ元仙人である俺が何かと手助けをしてくれるとありがたいという話だ。

 

 

 

「まあ別にいいよ。仙人が人間を育てるなんて面白そうだし、どれくらい世間知らずか気になるね。」

 

 

『あまりからかうな。』

 

 

「分かってるよ、それじゃ特徴と一致している人探してみるわ。」

 

 

 

僕は裂け目を使って天衡山から離れて港へ戻った。さてと

 

 

 

「申鶴ちゃんとやらを探してみようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おい、3分で見つかったぞ。

 

普通の人とは違った気配がする。それにとっても魅力的だ。

 

まあそれは置いといて、話しかけるか。

 

 

 

「ね、そこの白髪のお嬢さん。僕とデートしない?」

 

 

「……我に言ってるのか?」

 

 

「そうそう、君に言ってるんだよ申鶴ちゃん。」

 

 

「!?」

 

 

 

僕が名前を知っていることに驚いて申鶴ちゃんが槍を構える。

 

 

 

「そう警戒しないでくれよ、僕は留雲借風真君に頼まれて君のもとに来たんだから。」

 

 

「師匠から…?」

 

 

「ま、僕は君に多少の常識を教えに来ただけだから。それにしても申鶴ちゃん、そんなイイモノを縛ってるなんてもったいないなぁ〜。」

 

 

 

僕は槍の柄を強く掴んで引き寄せると申鶴ちゃんの顔が目と鼻の先まで近づいた。

 

その忌々しい赤い紐を解いたらどれほどの力があるのだろうか。どれほど僕の好奇心を埋めてくれるだろうか。想像しただけで楽しくなってくる。

 

嗚呼、囲いたい、愛でたい、染めたい。

 

 

そんな欲望がドロドロと俺の中で渦巻いた。

 

 

 

「ね、申鶴ちゃん。俺の眷属にならないか?」

 

 

「え…。」

 

 

「君の抑えている殺気、僕にとっては最高の蜜なんだ。君を苦しめるなら俺がそれを引き受けてもいい。もっと生きのしやすい生活を保証するよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堕ちて欲しい。

 

 

 

なんとしても手に入れたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は……。」

 

 

「なんて、そんなことしたら今度こそ留雲借風真君に嫌われるだろうしやめておこう。」

 

 

「………。」

 

 

「じゃあ改めて、僕は終。棺 終(ひつぎ しゅう)、今は文字書きで元夜叉だ。よろしくね、申鶴ちゃん。」

 

 

 

僕は手を差し出す。申鶴ちゃんもゆっくりだが握り返してくれた。

 

 

危ない危ない、衝動的にナンパしてしまった。

あんな人間が抱えきれる殺気ではなかっった、けど僕にとっては最高に素晴らしい物を持っている人間と巡り合わせたのはもはや運命だと思ってしまった。

 

 

手に入れたい気持ちもあるけど僕はもう違う。

 

 

 

 

「じゃあ終先生の常識マナーレッスンでも始めようか。」

 

 

 

 

僕は申鶴ちゃんの手を引いて璃月港を歩き出す。今日はまだ始まったばかりだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

稲妻〜本編〜

僕もようやく稲妻入りしましてね。


推しのボイスを聞けて悶てました。

推し?ヒントはクソガキ執行官です。


僕は雷元素の濃い秘境に来ていた。

 

 

 

これから棺を使って稲妻に渡るためだ。そのためにはどうしても雷元素の濃度が濃い場所に来なければいけないのだ。しばらくは移動がたいへんになるかもしれんな…。

 

 

 

「よし、設置できた。」

 

 

 

電気水晶から雷元素を供給しながら棺を設置するとうまく稲妻と繋がった。

 

これから会うやつのことは嫌いだけど仕方ないと割り切って僕は棺をくぐった。

________________________________

 

 

「相変わらず立派な社だな…。」

 

 

 

鳴神大社、神櫻が立派に育っている稲妻屈指の神聖な場所。

 

 

 

 

「連絡してから1年経ってようやく来たとは感心しないな。」

 

 

「仕方ないだろ、鎖国令敷かれているしこっちだって準備してたんだぞ女狐が。」

 

 

 

僕が稲妻に来た理由、それは八重堂の編集長に会いに来たためだ。

 

 

 

 

「久しぶりだな八重神子、相変わらず生意気な喋り方だな。」

 

 

「妾はこれが普通じゃぞ?そっちこそ相変わらず老けないの。」

 

 

「はっ、馬鹿げたことを。だから昔からお前と会うのは嫌なんだよ女狐。」

 

 

「仕方ないだろう?お主は八重堂屈指の人気を誇る冒険小説の作家、『棺終(かんしゅう)』だからのう。」

 

 

「……さっさと要件話せよ。話し次第では速攻で稲妻から出る。」

 

 

 

僕は腕を組んで女狐を見た。本当に昔から馬が合わない。顔を合わせるたびにこうして罵りあっている。

 

そして未だに僕はこの女狐と関わりを持っているのか意味がわからない。あー早く仕事終われ。

 

 

 

 

「お主には幕府軍に潜入してもらいたいんだ。『目狩り令』を止めるために。」

 

 

「『目狩り令』?なにそれ?」

 

 

 

初めて聞いた言葉なせいか思わず聞き返してしまった。

 

 

 

「『目狩り令』とは稲妻城の前にある千手百目像に神の目をはめ込んで稲妻の『永遠』をより強固にするため象徴みたいなもんじゃ。幕府軍に指揮官補佐として潜入し、海祇島にある抵抗軍に協力してくれ。」

 

 

「それって僕に関係ある?」

 

 

「お主だって神の目は今はまだ必要じゃろ?お主だって例外じゃない。」

 

 

「……お前は知らないだろうがな女狐、俺は神の目がなくとも元素力は使える。神の目は最終手段として持っているものに過ぎない。本当に外のことに関しては無知だなぁ八重?」

 

 

 

僕はいつもの僕じゃなくて本来の僕が露見している状態で話を続けた。

 

 

 

「僕からしたら君なんて赤子同然だよ」

 

 

 

背を向けて社から離れるために歩き始めた。

 

 

 

 

「じゃあ頼むぞ。」

 

 

「印税もっとよこして重版しろよ。」

 

 

 

僕は崖っぷちに立つと、影向山から飛び降りた。さて、次は稲妻城か…。

________________________________

 

 

とりあえずうろ覚えの記憶を頼りに座標を設定して棺でバアルゼブルのいるであろう場所にとんだ。

 

 

 

 

「久しぶり、バアルゼ…お前誰?」

 

 

 

目の前では正座をしてその場に佇んでいるバアルゼブルと瓜二つのやつが佇んでいた。姿声は同じだけどこいつは

 

 

 

「お前、人形か。」

 

 

「そうです、私は雷電将軍と言います。」

 

 

「僕は終、棺終(ひつぎしゅう)だ。早速だけどさ、バアルゼブルを出せ。お前じゃ話にならない。」

 

 

「それは私が決めれることでは有りません。」

 

 

「……あっそ、なら簡潔に説明する。僕は八重神子から幕府軍指揮官をしてくれって言われたんだけど。将軍ならそれくらい任命できる?」

 

 

「分かりました、今から貴方を幕府軍の代理指揮官に任命したいと思します。」

 

 

「案外あっさりしてるね。」

 

 

「影が貴方になら任せても良いと言いましたので。」

 

 

「一心浄土に閉じこもってるのによく見ているな。バアルゼブルに伝えて、僕はあのときのことはまだ許してないから。じゃあ挨拶回りしてくるよ。」

 

 

 

僕はいつも通りになると部屋から立ち去った。さて、早めに仕事終わらせてさっさと璃月に戻ろうか。

 

 

 

________________________________

 

突然だけど僕はたたら砂上空を棺で浮いています。下では幕府軍と抵抗軍が争っていますね。

 

 

どちらかと言うと抵抗軍が押され気味だけど…。

 

そろそろ止めようかなと思って下降しようとしたその時、茂みから抵抗軍の援軍が来たみたいだった。

 

 

そしてすぐにその形勢は逆転した。仕方ない、これ以上争われるのも面倒だから止めに入るか〜。

 

 

 

「押されてるね天狗ちゃーん。」

 

 

「代理指揮官殿!どうしてここに。」

 

 

「ここで武士を削るのは幕府にとっては大きな痛手だ。それに向こうには神の目を持っている者が多い。」

 

 

「ですが!」

 

 

「将軍の求める『永遠』はここで朽ちてしまうかもしれないよ?将軍が知ったらどうなるだろうね?」

 

 

「…分かり、ました。総員、撤退!」

 

 

 

幕府軍大将、九条沙羅が大声で撤退を命じると武士が一斉に鳴神島方面に走り消えていった。

 

 

 

「さて、君等も兵を下がらせなよ。僕は戦う意志はないからね。」

 

 

「貴方は?」

 

 

「嗚呼、自己紹介がまだだったね。始めまして現人神の巫女、珊瑚宮心海殿、抵抗軍大将ゴロー殿。僕は幕府軍代理指揮官の棺終(ひつぎしゅう)だ。」

 

 

「幕府軍代理指揮官…風の噂で聞いたことはありましたが会えるとは思いませんでした。」

 

 

 

珊瑚宮ちゃんが僕をじっと見てくる。は、恥ずかしいからそんなみないでほしいかな?

 

するとパイモンちゃんが僕に近づいてくる。

 

 

 

「久しぶりだな終!璃月で見かけなくなったと思ったら稲妻にいるなんて!」

 

 

「僕にも色々あるんだよパイモンちゃん。それに旅人くんも無事に抵抗軍に入れたみたいだね。」

 

 

「お前たち知り合いか?」

 

 

「おう!終は璃月で俺たちを助けてくれたやつだ!それだけじゃなくて終は元仙人でもあるんだぜ!だけど文字書きじゃなかったっけ?」

 

 

 

おっと、気づかれてしまったみたいだね。すこーしからかってあげよう。

 

 

 

「勘がいいね。そう僕は幕府に命じられて璃月の状況を稲妻に伝えていたのさ!」

 

 

「な、なんだってー!?」

 

 

「嘘だよ〜僕の本職は文字書きのままだよ。今回は事情があって幕府内に潜入してるんだ。」

 

 

「嘘かよ!」

 

 

「潜入、ということは幕府の裏でなにかしているのですか?」

 

 

「正解、流石抵抗軍指揮官。僕はそれを調査するために幕府に潜入してるんだ。」

 

 

「……棺さん、貴方は私達の味方なのですか?」

 

 

 

その結論にたどり着くのはかなり早いな。まあそれはそれで話が早くて助かる。

 

 

 

「そうだよ、僕の目的は抵抗軍に『目狩り令』を廃止させるのに協力することだ。」

 

 

「情報も渡せるということですか?」

 

 

「勿論、だけど肝心な証拠は僕でも回収出来なかったから写しとかになるけどね。」

 

 

「十分です。これから話すことは可能でしょうか?」

 

 

「いいよ、どーせ鳴神島に戻っても仕事させられるだろうし。」

 

 

 

僕は前を珊瑚宮ちゃん、後ろをゴローくんに挟まれて海祇島に行くことになったのだ。

 

________________________________

 

「と、これくらいかな。決定的な証拠がないからまだ完璧に言えたことじゃないけど。」

 

 

「勘定奉行と天領奉行がファデュイと繋がって……これは一刻も早く証拠を掴まないといけません。」

 

 

「そこからへんはあの忌々しい女狐が旅人くんと一緒にやってくれるだろうね。」

 

 

「女狐?」

 

 

 

僕は目を細めて窓の外を見た。これも話さなくちゃいけないのかー。

 

 

 

「僕が潜入する原因になったやつだよ。鳴神大社の宮司、八重神子。僕は八重堂で小説を出しているから逆らえないわけ。」

 

 

「あ、アイツが!?」

 

 

「まさか八重宮司が幕府に楯突くとは…。」

 

 

「実際のところ、将軍は『目狩り令』を執行していることしか知らない。抵抗軍と戦っていることは天領奉行当主が上奏に書いてないから抵抗軍がいることも知らないんだ。」

 

 

 

呆れた声で僕は持ってきた資料の1部を手に取りそれを眺める。我ながら盗めるところは盗んだけど持ち出すことと棺を使うのはバレるだろうから使えないし。正直かなり面倒な潜入だと思う。あの女狐…。

 

 

 

「500年前とは変わったな。人の世も神も…。」

 

 

「500年前?」

 

 

「……あー!もうやめ!こんな話し方僕のガラじゃない!珊瑚宮ちゃん!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「んふふ、ごめんごめん。少し疲れたから力んじゃった。それでさ、神の目ってなんだと思う?」

 

 

 

少し意地悪な話になっちゃうけど今は誰かに聞いてもらいたい気分だなー。

 

 

 

「神の目とは願いだと思ってます。」

 

 

「あながち間違ってないよ。正確に言えば渇望とその代償の副産物だと僕は思ってる。」

 

 

「渇望と代償、ですか。」

 

 

「神の目は強い渇望を求めたとき、神から視線を向けられて初めて神の目を得られる。神の目を持っているものは『原神』と呼ばれて、死後神々の領域である天空の島に登れる。だけどそれは狭き門で実際のところ登れたのは知っていてる中でヴァネッサと古華くらいだ。」

 

 

「神の目になにかあるのでしょうか?」

 

 

「うん、神の目は強い力を与えられるけどそれ相応の代償も必要。僕の考察ではね、その代償を乗り越えてこそ初めて天空の島に登れる権利があるんじゃないかと思ってるんだ。それを神々が見るためのものが神の目じゃないのかって!」

 

 

「そういった考えもあるのですね。」

 

 

「便利だけど代償もでかいよ。もうひとつ考察があってね、神の目と俗世の七執政の司る理念と代償は似ているって思ってるんだ。」

 

 

「代償と七神?」

 

 

「なんでそうなるんだ?」

 

 

 

お、ゴローくんも食いついてきたねえ。結構話し長くなっちゃうから眠くならないと良いんだけど。僕は再び話し始める。

 

 

 

「じゃあ雷の神の目と雷神で考えてみよう。雷神の司る理念は何かな?はいゴローくん!」

 

 

「お、俺か!?雷電将軍は『永遠』だろ?」

 

 

「そうだね、『永遠』とは『時間』だ。雷元素の神の目を持つものは『時間』が代償なんだと思う。」

 

 

「『時間』が代償というのはもしかして。」

 

 

「雷元素の神の目持ちは寿命が短い。紛れもなく僕ものその一人だ。」

 

 

「「え…。」」

 

 

「僕はまだ長く生きれるつもりでいたんだけど神の目を数百年前に手に入れてから自分の死期が少しだけ分かるようになったんだ。もってあと数ヶ月から数十年の命。」

 

 

「……。」

 

 

「雷神は『永遠』のためにその代償を取り除こうとしたんだ。だけど神の目を奪うことは僕も間違いであると思うんだ。だから、止めてくれよ抵抗軍指揮官、大将。」

 

 

 

僕は机の挟んで向こうにいる二人に背を向けてその場から裂け目を作り、姿を消した。

________________________________

 

僕はたたら砂の浜辺を歩いていた。海が月の光を反射してキラキラしている。

 

海なんて毎日璃月で見ていたけど海の姿は変わるもの、稲妻の海は璃月とは違っている。

 

 

 

「今夜はいい夜でござるな。」

 

 

「嗚呼、君か…。」

 

 

後ろから珊瑚宮ちゃんが連れてきた援軍にいた神の目持ちの人が現れた。まさか僕に話しかけてくるとは思わなかったけどね。

 

 

 

「どういったご要件かな?」

 

 

「まずは名乗らせてもらう、拙者は楓原万葉、浮浪人でござる。」

 

 

「僕はしゅ、ん?今、楓原って言った?」

 

 

「言ったでござる。」

 

 

「雷電五箇伝家の一つじゃなかったっけ?」

 

 

「昔はでござる。今はもう…。」

 

 

「そっか、仕方なかったのかもね。」

 

 

 

楓原、元は雷電五箇伝の一つで刀鍛冶をしていたが数十年前の当主がお家を守るために鍛冶をやめてしまった結果、その技術は失われてしまった。

 

 

 

「まさか生き残りがいるとは思わなかったよ。」

 

 

「拙者はただの浮浪人、もう家のことは気にしてないでござる。」

 

 

「君は過去に囚われてないんだね…。」

 

 

「もう過ぎたことでござる。拙者ではどうにも出来なかったでござるから。」

 

 

 

楓原くんは凄いなぁ。もう前を向いてる。僕みたいに過去ばかりにしか目を向けず、未来を見据えることは出来ないから。

 

 

 

「拙者はまたこうして終殿と話せて嬉しいでござる。」

 

 

「え、話すのは初めてじゃなかったっけ?」

 

 

「?拙者と主は昔会ったことがあるでござるよ。その時はまだ楓原は存続していた頃でござるけど。」

 

 

 

会ったことあったの?まって、思い出せない。あのときはまだスイッチ入ってなかったし稲妻にいた記憶も結構おぼろけだったし。棺を探れば見つかるだろうけど…。

 

 

 

「ごめん、僕その頃の記憶が結構あやふやなんだよね。」

 

 

「そうでござったか…じゃあその時のことを話しても?」

 

 

「じゃあ話してもらおうかな?」

 

 

僕らは岩に腰を掛け海を見ながら楓原くんが昔話を始めてくれた。

 

 

 

「確かあれは拙者がまだ9歳くらいのことだったでござる。ある日、家がバタバタと忙しなくて誰も拙者にかまってくれなくて一人で庭で剣の鍛錬をしていたでござる。しばらくしていると目の前に誰か現れたのでござる。」

 

 

 

 

 

『やぁ、はぁ!』

 

 

『その握り方だと手を痛める。』

 

 

『誰でござる?』

 

 

 

 

「その人の見た目は拙者よりも少し年上くらいで稲妻では見られない格好をしていた。ひと目見たとき、綺麗だと思った。」

 

 

 

 

『俺?俺は浮浪人だよ。名乗るほどでもない。』

 

 

『主は剣の心得があるのでござるか?』

 

 

『1番得意だから。そんなにキツく持っていると手から血が出る。持つときは脇を締めて、手から抜け落ちないくらい。』

 

 

『こう、でござるか?』

 

 

『そう。あと歩幅、それだと大きすぎ、もう少し狭くしたほうがお前にはあうだろう。』

 

 

『!確かに動きたくなったでござる!』

 

 

 

 

 

「その人からは剣を教えてもらったでござる。ほんの少ししか話せなかったが拙者には忘れられない一時になった。」

 

 

 

 

 

『拙者は楓原万葉、お姉さんの名前が知りたいでござる!』

 

 

『俺は男。まあいい。俺は終、また会えたらいいな万葉。』

 

 

 

「これが拙者と終殿の出会いでござる。」

 

 

「僕、そんなことしてたのか…。しかも剣なんて教えて。」

 

 

 

もう決めてたのに、なんで僕はあんなことに首を突っ込んでいるんだ。剣はもうしないって決めてたのに。

 

 

 

「拙者は話したでござる。して、終殿からも一つ話を聞きたいでござるな。終殿が旅で知った話を。」

 

 

「えー、なんでもいい?」

 

 

「なんでもいいでござる!」

 

 

「仕方ない、じゃあ昔いた愚かな邪神の話をしよう。」

 

 

 

僕は遠くにあるであろう闇の外海を思い出しながら話し始めた。

 

 

 

「その昔、今はもう無き国に一人の邪神がいました。邪神は元々はただの人間だった。その人間はある日悪いやつに取り憑かれ大勢の人間を殺した。男は苦しみました、過去の記憶が憎しみに変わるのが。その時、ある魔神に助けられました。その魔神に男は言いました。」

 

 

 

「『僕を殺して。』」

 

 

 

「魔神は困りました。その男の目にはまだ生きたいという願いがあったからです。魔神は人間の中にいる悪いやつを封印しました。人間はその魔神の優しさに泣き、忠誠を誓った。だけどその魔神は魔神戦争であっけなく散ってしまった。男は悔やんだ。」

 

 

 

「『どうして僕は大切なあの人をこの剣で守れなかった。こんな気持ちになるならあのときいなくなればよかった。』」

 

 

 

「男はその後住み慣れた土地を離れたある国にたどり着いた。そこは光が差さない人間しかいない国。そこで男はある錬金術師によって人造の神、邪神となった。邪神となった男は時々外に出ては色々な国を見た。自由の国、戦争の国、知恵の国、永遠の国、氷の国、正義の国。そこで様々な人や神と出会った。」

 

 

「だけど彼の国はその国々に戦争を仕掛けどんどん領地を奪った。最終的にその国は神々によって攻撃を受けた。邪神は守りたかった、あの大切な魔神を守れなかった自分を拭い消すために自分の力全てを使って神々を殺した。」

 

 

「神々を殺した数はかなり多いだろうね。だけど邪神は天理によって力の大部分を封印された。封印された邪神はそれでもと言い刃を神に向けた。最後に一人の神を殺し、邪神は倒れた。」

 

 

「再び目が覚めると邪神の国は崩れていた。民は化け物に変わり、少しの人間は呪いで永遠に死ねない呪いを受けた。邪神はある神の元で療養した。邪神の心は封印によって失われかけた。」

 

 

 

「邪神は神に故国の技術を教え人形が生まれた。しかし多くの人形は失敗作として壊された。最初の人形は心を持ったことから封印されるはずだったが邪神が引き取った。邪神はその人形で最後にしようと思った。だが邪神は事故で人形と離れてしまった。その後、邪神は…。」

 

 

「どうしたでござる?」

 

 

「いや、なんでもない。邪神は一人で旅に出た。あの時みたいに一人で。後悔しかない自分を辿るために。これで話は終わりだよ。」

 

 

「なんだか、悲しい話だったでござる。」

 

 

「そうかな?」

 

 

「結局その邪神はそうなったでござる?」

 

 

「今でも旅しているのか、死んでいるのか知る人はいないよ。」

 

 

 

僕は岩から立ち上がって楓原くんの顔を見た。

 

 

 

「ただ一つ言うならその邪神はもう誰かを信じるのは懲り懲りだってことかな?じゃあまたいつか会おう。」

 

 

 

棺を召喚し、僕は砂浜から立ち去った。

 

________________________________

 

 

ようやく情報の在処がここまでそろった。僕は棺を起動して急いで旅人君のところへ向かった。

 

 

 

「やあ、突然失礼。」

 

 

「ここは社奉行専用の場所です。何者ですか?」

 

 

「おっと、流石に剣を向けられるのは想定外だ。」

 

 

 

僕は刃を素手で掴んで思いっきり押し返した。刃を向けてきた女の子はよろけた後また剣を向けた。

 

 

 

「ストップ!綾華、この人は味方だよ。ただ移動手段が特殊なおかしな人!」

 

 

「僕の言われようが酷いな〜。折角情報提供に来たのに。」

 

 

「そうだったんですね、申し訳ございません。」

 

 

「いいよいいよ、僕も旅人くんを目印にこうして来ただけでまさか社奉行管轄の場所とは思わなかったからね。」

 

 

「それで何者だい?」

 

 

「おっとそうだったね。始めまして、僕は幕府軍代理指揮官の棺終(ひつぎしゅう)。よろしく、白鷺の姫ちゃんに家臣くん。」

 

 

「幕府軍のだ、代理指揮官!?」

 

 

「実際はただの文字書きだぞ!」

 

 

「今回はあのくそ女狐にコキ使われて潜入してるんだ。僕も目狩り令については思うところがあるからね。」

 

 

「信用しても良いのでしょうか?」

 

 

 

流石白鷺の姫ちゃん、やっぱり警戒しないとこの稲妻では生きていくのが厳しいからね。だけど今回だけは信用してもらわないと困る仕事なんだよね。

 

 

 

「勿論、信用してもらわないと僕の本の重版と給料がかかってるんだ。しかも場所を炙り出すの大変だったんだからね。これ、問題の上奏の場所とどんな見た目してるのかも書いたから盗るなら早めにしなよ。それじゃあ僕は行くよ。」

 

 

「おい、もう行くのか!?」

 

 

「少し、確認しなくちゃいけないところがあってね。その後は墓参り?みたいなのしてこないとなんだ。」

 

 

 

またねと言って僕は棺をくぐってある場所にたどり着いた。

 

 

 

「いやあ本当にここへのたどり着き方がわからなかったから旅人に取り付けておいてよかったよ。これからも残りの兵器の場所も案内してもらわないとだね。」

 

 

 

僕の手には棺から分裂されたキューブが1つだけ転がっていた。。再び兵器に視線を向けると暴走していて僕に向かって襲ってきた。

 

 

 

「今はこう呼んだほうが良いのか、『恒常からくり陣形』。」

 

 

 

僕は襲ってくる兵器に向かって槍を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははっ」

_

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________

 

 

 

「はぁ、なんでこうして僕はまた来るんだろうね。」

 

 

 

僕は血石華を持ってある場所に来ていた。

 

ここは僕がしばらく動けなくて倒れていた場所でもある。

 

 

 

「どうせもう会えないだろうな。」

 

 

 

あの子と別れた場所。僕はしゃがんで血石華を一輪置いてその場所を眺めた。

 

あのとき、崩落に気づかなくて咄嗟に押し飛ばした。そして棺に残されていた記憶消去を使って稲妻城から離れる前までの記憶を消した。

 

動けるようになった後も覚えてないだろうけど探した。でも途中で情報が途絶えて探すのを諦めた。

 

 

 

「さて、向こうはもう終わる頃かな。お役御免だろうし八重堂の新作だけ買って璃月に戻るか。」

 

 

 

立ち上がって道なりに歩き始めた。

 

途中で鎮守の森が気になって森に入った。この場所はいつ来ても静かで神聖な気がする。

 

 

僕にとっては毒にも薬にもなる。

途端に手から何かが流れ出る気配がして手を見ようとした。その時だった。首筋に冷たい金属が当たっていた。

 

 

 

「稲妻の人はなんでこうも刃を向けてくるんだ…。」

 

 

「まずはその胸元にしまっているものを渡してくれないかな?」

 

 

「はいはい、邪眼がお目当てのようで安心したよ。」

 

 

 

邪眼を取り出して渡すために後ろを向く。

笠を被っていて僕からは顔が見えなかったが格好からして少年であることは分かった。

 

 

するとその少年から息を呑むような音が微かに聞こえた。

しばらくしても一向に邪眼を受け取らないから笠を少しだけ持ち上げてみた。

 

 

 

「……え、っ…」

 

 

「う、そ…。」

 

 

 

そこには少し前に思い出していた顔があったから。

 

雷電影によって作られたプロトタイプの人形。僕が記憶を消した張本人。

 

 

 

「生き、て…。」

 

 

「触るな!」

 

 

人形は僕は触れようとするとその手を力いっぱいに叩いた。バチンと大きな音が森に響く。

 

 

 

「なんでここにいる、生きてる!」

 

 

「…僕は人ではないから。それに、記憶が消えてないようだけど。」

 

 

「やっぱり僕の記憶を消そうとしたんだ。勝手に連れ出して挙げ句一人にした。」

 

 

「……そうだね、僕は君を一人にした。君の記憶を消そうとした。」

 

 

「認めるんだ。」

 

 

「事実だから。どうせなら僕のことを、あのときのことを忘れて幸せに生きてほしかったから。」

 

 

「は…?」

 

 

「もう君に話す意味はなさそうだけどね。邪眼は渡した、僕はもう行くよ。」

 

 

 

僕は背中を向けて棺を起動しようとした。

 

 

 

「待って!」

 

 

「何?まだ用があるの?」

 

 

「一つだけ聞いても良いかな…。」

 

 

「いいけど。」

 

 

「…名前、教えてよ。ちゃんと知らなかったし。」

 

 

「教えなかったけ?僕は終、棺終(ひつぎしゅう)。少しだけ幕府軍の代理指揮官をしていたしがない文字書きだよ。」

 

 

「しゅう、終…兄さん。」

 

 

「!…僕は君に兄さんなんて呼ばれる資格なんて無い。」

 

 

「でも僕のこと探してたんでしょ?あの狐から聞いたけど。」

 

 

「は?あの女狐勝手に言ったのか…。探したよ、何年も。見つけられなかったから諦めた。」

 

 

「ずっと勘違いしてた。恨んでたのになんで…。」

 

 

「ただ、あのとき僕の心は失われてたから心を持っていた君が羨ましかったんじゃないか?僕は力の大半を封印されて記憶も見つけないと途切れているから。」

 

 

「僕に心なんて無い!」

 

 

 

急に大声で怒鳴られてびっくりした。地雷だったみたいだな…。

 

 

 

「だけどようやく僕の願いがかなったんだ。見てくれよ!」

 

 

 

スカラマシュが手に持っているのは僕も少しだけ見たことあった。

 

 

 

「神の心…!?」

 

 

「そうだよ!僕はこれで本当の神になれるんだ!」

 

 

 

神の心…確かにスカラマシュは元々神の心が入るように設計されていたけどこんな形で影響が出るなんて思わなかったな。

 

 

 

「神の心がなんなのか知ってる?」

 

 

「その名前の通りだろ?」

 

 

「知らないのか、それはこのテイワットにとって不必要なものだよ。」

 

 

「お前に、神の何が分かるっていうんだ!?」

 

 

「分かるよ、君以上に僕は生きてるし。神と対立したこともある。」

 

 

「!?」

 

 

「だから言うよ、僕は神が嫌いだ。神も俗世の七執政も邪神もこの世に生きる神々全てが憎くて仕方がない。だから君が神になるというなら僕はもう君には会わないよ。」

 

 

 

スカラマシュの顔がひどく傷ついたように見えた。そんなこと僕はもう知らない。神になるならなれば良いのだから。

 

 

 

「じゃあね散兵。君が神になったら祝いの言葉くらいは送ってあげるよ。」

 

 

 

言葉を言わせないように棺をくぐってすぐに閉じた。あの子は自分で道を切り開いたんだ。あの子が望んだことならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この手の傷は見られなくてよかった…。」

 

 

刀で切れた傷口からは普通の人からは流れないような色をした液体が流れていた。

 

 

 

________________________________

 

 

「目狩り令は終わったようだね、将軍様?」

 

 

 

僕は数日経った頃に天守閣に訪れた。辞職を言いに来るために。

 

 

 

「私は将軍ではありませんよ、終。」

 

 

「…バアルゼブルか、引きこもりがようやく出てきたみたいだけど。」

 

 

「随分と変わりましたね。」

 

 

「これが僕だけど?本題に入るけど僕は代理指揮官を辞める。それだけ伝えに来た。」

 

 

「分かりました。将軍に伝えておきますね。」

 

 

「ん、あ、そうそう。久々に最初の人形と会ったよ。」

 

 

「!!」

 

 

「結構こじらせてた。僕が連れ出したから君に対しての怨念は弱かったしそれは僕に向けられていたよ。まあ君にはもう関係ないね。」

 

 

「……そう、ですか。」

 

 

「…すんなり認めて…やっぱり僕は君が嫌いだよ。」

 

 

 

僕はそれだけ言って珍しく自分の足でその場から離れた。

 

久々に会った。変わるのだろうと思った、だけど変わっていない気もした。

 

 

不変、それがバアルゼブルが目指した『永遠』の形。

僕はそれに協力した。その結果出来たのがスカラマシュと将軍などの人形だ。

 

知識しかない僕はその知識をバアルゼブルに教えて人形を作った。だがその殆どは失敗作に終わった。

 

 

僕はその中でも優秀な人形をいくつか引き取っている。それが家にいるはずの女中だ。顔は少しだけいじらせてもらったからバアルゼブルとはあまり似ていない。

 

人形は変わらないと思っていたけど違うみたいだ。

 

 

スカラマシュは昔、笑顔で優しい子だったと思う。それが性格がかなりネジ曲がった子に成長してしまったのだ。

僕と再開するまでに色々な経験をしてああなったのだろう。

 

 

もう僕とは関係なくなるからどうでもいいか。

 

 

 

「八重堂に行って面白そうな小説買って帰ろう。」

 

 

 

天守閣からその足で八重堂まで向かった。




今回は長くなり、話のネタも詰め込みました。


大満足。


だが夜蘭がすり抜けで来なかったのが泣いた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

稲妻〜閑話〜

 

「深闇、僕たち元に戻れないの?」

 

 

「・・・」

 

 

 

 

こうなったのは数刻前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は小説の題材としてモンドまで取材に来ていた。モンドの暴風山地や風立ちの地など巡った後モンド城に入って1番人気の酒場へと向かった。

 

 

 

 

 

「君がこうしてバーテンダーとしてここに立っているのは滑稽だね」

 

 

「冷やかしなら帰ってくれ」

 

 

「冗談だよ冗談!あ、蒲公英酒一つ頂戴」

 

 

 

カウンターに座りお酒を頼む。出された酒を煽り、懐から簡単に手帳と万年筆を取り出す。

 

 

 

「今日は少し取材に来てね、栄誉騎士についてモンドの住民からの評判を聞きたいんだ」

 

 

「生憎だが仕事中だ」

 

 

「ディルックくんはお硬いね〜まあ君がどう思っているか簡単に話してくれればいいよ。どうせ知り合いなんだろ?」

 

 

 

ニコリと笑ってみせると観念したのかため息を付いてから話し始めてくれた。

 

ディルックくんが話してくれた内容は僕の中での旅人くんと一致していて容易に想像できた。

 

 

 

「あと何人か聞きたいけど…どうせなら旅人の歌を作ってる吟遊詩人はいない?」

 

 

ディルックくんがこういうのにノッてくれるかどうかわからないけど確認のために聞いてみるが予想外な返答が帰ってきた。

 

 

 

「それなら一人だけ心当たりがある」

 

 

「ふーん、君が言うならとてもいい吟遊詩人なんだろうね」

 

 

「ただの酒好きだが歌わせたらモンド1のやつだ」

 

 

「へーならどこで会える?」

 

 

「もうすぐ来るはずだ」

 

 

 

その言葉通りにバーのドアが開いて誰かが入ってくる足音がした。俺は振り向こうとしたが固まった、その声には聞き覚えが会ったから。

 

 

 

「ディルック〜アップルサイダーちょうだーい!」

 

 

「っっっ……!」

 

 

 

僕はモンドに来るときはなるべく用事以外のことで出掛けはしないし短時間で済ましていた。だけど今回は本当に事故だ。

 

 

 

「…もしかして深闇?」

 

 

「やっぱバレるか…、ディルックくんこれお代ね」

 

 

 

モラをカウンターに多めに置いて俺はエンジェルシェアから出た。

 

そのあとはもう全力疾走でモンド城から出た。走って走って、気づいたら風龍廃墟にいた。

 

 

 

「あー…ほんと最悪!なんで500年も逃げ続けたと思ってるの?」

 

 

 

正直七神の中で一番会いたくなかったのが彼だ。僕は彼のことを裏切ったのだから。

 

 

 

「ここにいたんだね深闇!」

 

 

「……バルバトス…」

 

 

「久しぶり、会いたかったんだよ?500年間ずーっと探してたのに急に姿を見せるなんて」

 

 

「……気にしないんだ」

 

 

「なにが?」

 

 

「僕がカーンルイアで神のことを・・・僕のことについて嘘をついてたことについて問いたださないんだね?」

 

 

 

僕がそう言うと今更気づいたようにあっと声を出した。こいつは僕と話すときいつも抜けているのは変わらないんだなと少しだけ、ほんの少しだけ安堵した。

 

 

 

「君は聞かれたくないんだろ?顔に書いてあるし」

 

 

「……まあ、言いたくはない。思い出してもいいものじゃないからね」

 

 

「なら君が話したくなるまで僕は待つよ、なんたって僕は自由の神だからね!」

 

 

「ありがとう、ウェンティ…」

 

 

「!どういたしまして」

 

 

「だけど、僕は神を許せないよバルバトス」

 

 

「え……」

 

 

「神は罪のない民たちも巻き込んだ、僕の大切だった民たちを。天理によって化け物に変えられたのを許せると思うか?」

 

 

「そう、だよね……」

 

 

「あの日が来るまでは楽しかった。その裏で僕も努力はしてたんだ。だけどどうにかする前に天理は、幸せを奪ったんだ。もう神も、七神でさえ信じられない」

 

 

「……」

 

 

「君と会いたくなかったのは昔みたいに話せるわけもないから」

 

 

 

結局は自分を守るために友人の存在を否定することになる。でも、今目の前にいる神である友人とまともに語れるかと言われるともう話せない。

 

 

 

「深闇、僕達元に戻れないの?」

 

 

「……」

 

 

 

僕は背を向ける。キューブは裂け目を作り、その中へと歩いて姿をくらませた。

 

 

__________________________

 

 

さて、先程の友人との決別を済ませたところで座標を決めずに飛んだところ、見事にスメールの教令院内部に侵入してしまったらしい。

 

 

 

僕、ここの卒業生なんですよねー

 

 

 

最後に来たのが100年くらい前だからな…あまり変わってないなとは思うけど。

 

 

キューブを取り出してそこからスメールで使えるアーカーシャを異空間から取り出しそれを耳につけた。

 

 

 

『あら、珍しい人が来たわね』

 

 

「!……君は?」

 

 

 

アーカーシャをつけた途端に幼い声がした。

 

 

 

『私は……そうね、実際に会ったほうが早いかもしれないわ』

 

 

「いいよ、君のところに向かってあげる。どこにいるの?」

 

 

『じゃあ私の言うとおりに道を辿って』

 

 

「それなら位置と大まかな高ささえ言ってくれればすぐに行く」

 

 

 

女の子の言うとおりに座標を設定し裂け目を作り出してそこから通ると広めの空間に出た。その中央には鳥かごのようなものがありそこにロリがいた。

 

 

 

「ふふ、私の鳥かごへようこそ」

 

 

「君、草神ブエルか?」

 

 

「あら、よく分かったわね。私はナヒーダ、草神ブエルやクラクサナリデビと呼ばれているわ」

 

 

「マハールッカデヴァータは?」

 

 

「彼女はもう…」

 

 

 

僕がスメールに来るといつも知識を共有しあっていたマハールッカデヴァータ、100年前に教令院に入学したときは気にする余裕はなかった。

 

 

 

「彼女の最後を知っているか?」

 

 

「ごめんなさい、知らないわ」

 

 

「それならいいんだよ。命あるものはいつかは死ぬ、彼女は争いに参加するような方じゃないのは俺も知っているから」

 

 

 

多分だけど戦いじゃなくて別ので亡くなっている気がするし…。

正直、彼女が生きていたらめんどくさくなる予感はしてたし、でもそれはそれで別れを告げられなかったのは少しだけ悲しいかもな。仕方ないことなのだろうけど。

 

でも彼女がいたらあの計画に運用できる知識をもらうつもりだったんだけどな〜

 

 

 

「……あなた、一体何を企んでるの?」

 

 

 

僕がブエルの方を向くと彼女は僕を見ていた。

 

 

なんでバレた?まあバレたところでどうでもいいけど。

 

 

 

「バレちゃったか〜、まあ僕なりの復讐?についてだよ。マハールッカデヴァータならキングデシェレット時代の遺物について教えてくれそうだなーって思ってたんだけど。」

 

 

「それを使ってなにかしようとしてたのかしら?」

 

 

「だいせーかい。ま、今回スメールに来たのは偶然でしか無いんだけどね」

 

 

「そう……」

 

 

「でも今はまだその時じゃない。だから僕はこの平和な日々を眺めるだけだから」

 

 

「じゃあその時が来たらどうするの?」

 

 

「それは、そうだね〜…自分自身に誓った契約を果たすよ」

 

 

 

ブエルに笑いながらそう答えた。

 

 

 

「あ、そうだ。もしよければだけど僕の本読まない?」

 

 

「あなたの本?」

 

 

「僕は冒険小説を書いてるから神の暇つぶしくらいにはなると思う、一冊いかがかな?」

 

 

 

俺が50年以上前に書いた小説の一巻をブエルに渡した。

 

 

 

「あなたは、なんというか、可笑しいのかしら?」

 

 

「そうか?まあ、どうせスメールに来たのなら君の手足くらいにはなれるけど僕のこと使ってみない?」

 

 

 

なんとなくそんな提案をした。神に関われば必然的に旅人とも会うことになる。なら利用するのも悪くない手なはずだ。

 

 

 

「そうね、私は賢者たちによってここに閉じ込められている。でも、外の様子くらいなら夢で見れるわ。だからお願いできない?私の手となり足となって、そして目になってくれないかしら?」

 

 

「目…ふふ、俺の目で外の景色をみたいのか!いいね…まあここに滞在する間だけだけど」

 

 

「よろしくおねがいするわ、じゃあ早速なんだけど」

 

 

 

ブエルが早速僕に頼み事をしようと悩みはじめた。僕も今日のことを小説に書こうとメモをしようとしたときだった。

 

 

 

 

『滅陰夜叉』

 

 

「帝君…!?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「ごめん、少しだけ璃月に戻る。帝君が、僕のことを呼んだ」

 

 

「そうなの?なら行ってくるといいわ」

 

 

「ありがとうブエル、少し行ってくる」

 

 

 

僕は裂け目を作ると急いでその中に駆け込んだ。

 

 

 

一体、今日はどんだけ神に会えば気が済むんだ。

 

 

 

____________________

 

 

僕は裂け目を抜けて帝君の前で跪いた。

 

 

 

「滅陰、召喚に応じ馳せ参じました」

 

 

「俺はお前の上司ではないぞ」

 

 

「あなたが夜叉のときの名で呼ぶからやったまでですよ、それで俺を呼んだってことは魈のことを呼べないか魈に何かがあったっていう認識で?」

 

 

「そうだ、そこには旅人も含まれている」

 

 

「へぇ…あとで確認してみるか…」

 

 

 

僕はニヤリと笑いながら仕掛けておいた棺の一部分にどんなことが残されているのか楽しみになった。

 

 

 

「で、移動に長けた僕を呼んだのは多分地脈異常とかで帝君の干渉ができずらいから僕を呼んだんですか?」

 

 

「話が早くて助かる、すぐに層岩巨淵に向かうぞ」

 

 

 

僕はすぐに層岩巨淵のまでの裂け目を作り出して帝君と一緒にくぐり抜ける。

 

 

 

「滅陰、僕が道を切り開くから僕の合図で裂け目を作り出してくれ」

 

 

「だいぶ無茶なこと言いますね。まあやってやりますよ」

 

 

 

僕は全神経を集中させて帝君の力の道筋を追った。まずその空間自体がネジ曲がっているので探すこと自体面倒なのに動いているものを追うのはかなりきつい。

 

 

 

 

「ここだ」

 

 

「ッシ…!」

 

 

 

僕が裂け目を開くと何かが通ってくるのがわかる。僕は少し崖下にいる旅人たちのいる座標を合わせて裂け目を開いた。裂け目から魈が出てくるとすぐに裂け目を閉じた。

 

 

 

「はぁぁぁ…ほんとはこれ、一人でできましたよね?」

 

 

「さあな?さて戻るぞ」

 

 

 

僕は帝君の言うとおりに裂け目を作り出してその中をくぐり抜けた。途中で誰かに見られたが顔を見られてないのでいいかと放っておいた。

 

 

僕は帝君を万民堂まで送る。

 

 

 

「本当に突然呼ばれてびっくりしましたからね」

 

 

「すまなかったな、今度なにか奢ろう」

 

 

「そう言っておいて今、モラ持ってます?」

 

 

「……持ってないな」

 

 

「堂主に頼んでそろそろ財布を服に縫い付けてもらってくださいよ。ここは僕が奢りますけど。あと、しばらくはブエルの手足になってるから璃月には戻ってこないので」

 

 

「ブエルの…?」

 

 

「まあ、先代とは交流もありましたし。楽しめそうな気がすんですよね」

 

 

「そうか、気をつけるといい」

 

 

「ありがとう、鍾離様。また戻ってきたら今度は奢ってくださいよ」

 

 

 

僕はそう言って、裂け目で璃月を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

ブエルのお使いや頼み事をしながらスメールを見て回った。

 

気づいたことは、ナヒーダ…クラクサナリデビよりもマハールッカデヴァータを信仰している人間が多いのと賢者が好き勝手やっていることがわかった。しかもファデュイと繋がっていることも。

 

 

どこの国もファデュイと繋がってるのはどうなんだと思った。まあ、女皇のやろうとしていることはなんとなく僕の目的に近いからな。

 

 

 

 

「ブエル、どうする?賢者たちはブエルの代わりを作ろうとしてるみたいだけど」

 

 

「そうね…私も今考えているわ」

 

 

「神を作り出そうなんて…まるでカーンルイアみたいなことをしようとするとは人間ってのは学習しないんだね」

 

 

「あなたこそ元は人間でしょ?」

 

 

「遠い昔の話だよ、もう人間と呼べるような体じゃないんだ。それに今回はファデュイが裏で動いているからね。僕単体で動くのも少し都合が悪いけど…」

 

 

 

旅人なら解決してくれるだろうな…。

 

 

 

「あら、あなたの言う旅人が助けてくれるのかしら?」

 

 

「勝手に心読まないでよ。まあ今は稲妻にいるだろうけどそろそろ来てくれるんじゃないのかな?彼ならスメールの英雄にもなる」

 

 

「そうかもねしれないわね」

 

 

 

でも、もしかすると僕の計画も止められる可能性があるな。…それだけは絶対許さない。

 

あともう少しなんだ。アビス教団って邪魔者もいるけど一番厄介なのは旅人だ。

 

 

 

 

「終、次のお使い頼んでもいいかしら?」

 

 

「なんとなくその言い方は娯楽小説を買ってこいってやつだと思うんだけど」

 

 

「よくわかったわね」

 

 

「はぁ…今から稲妻まで行ってくるよ」

 

 

 

僕は裂け目を作り出してお使いをに向かった。

 

 

 

さて、ブエルに用事があると言って一通りの用事を終わらせた俺は裂け目である場所に侵入した。

 

 

 

 

「まさかスネージナヤパレスに忍び込むことになるなんてね」

 

 

 

 

僕は目的のがある場所へ急いで向かいながらも女皇の、ファデュイのお膝元で何やっているんだろうかと思ってしまった。

 

僕の手にはセシリアの花と風車アスターの花束が握られている。モンドにしか生えていない花、モンド出身で恋人との思い出の花くらいは手向けてあげようと思ったのだ。

 

 

 

しばらく歩いて棺だけがぽつんと置かれた広間に出た。

 

多分これが彼女のだろうなと思って僕は花束を棺の上に置いた。

 

 

 

「500年待ったんだ、彼と幸せになりなよロザリン」

 

 

 

僕はそこから去ろうとしたが複数の足音がしたのでその場に留まった。

 

暗い闇の中、3人の人影が僕の前に姿を表した。

 

 

 

 

「お久しぶりです、故国の人造神バディン」

 

 

「…その名前、嫌いだから呼ばないでくれる最初の愚者」

 

 

『                             』

 

 

「それにしてもスネージナヤトップの女皇に道化、それに雄鶏もこうして来るなんて随分と警戒しているのかな?」

 

 

『                   』

 

 

「しかし、故国の人造とはいえど神がここまで来るとは思いませんでしたね」

 

 

「まあ、ロザリンとは旧知の仲だ。生意気な小娘だったがせめて安らかに眠ってくれることは願っているだけさ」

 

 

『                      』

 

 

「そうか?まあ僕は彼とロザリンの好きだった花を選んで送ったまでだけど」

 

 

 

目の前にいる神は表情を変えずにただこちらを眺めているだけだった。

 

 

 

「ああ、そういえば順調に神の心を集めているみたいだね。いったい神の心を集めてどんな面白いことをするのか教えてほしいものだよ?」

 

 

「それはいくらあなたでも教えできかねますね」

 

 

「おや残念。少しでもネタにできるならしてやろうと思ったのに…まあ天理に反逆するくらいだ、そのときに知れた方が面白さはあるだろうね」

 

 

「あなたは…500年前から変わらないですね」

 

 

「変わらない?君の目は節穴かな?」

 

 

『                    』

 

 

「それはすまないね氷神、でも訂正はしないさ。僕はこれでもかなり変わったんだけどね」

 

 

 

僕は笑うのをやめてファデュイを見据えた。

 

 

 

「僕はアビス教団の目的には賛同しかねるけど君らファデュイには賛同してるんだよ?だけど僕は僕のやり方でやらなきゃいけないんだ」

 

 

「一体何を…?」

 

 

「ははっ、その時が来ればわかるはずさ。じゃあ、またいつか」

 

 

 

僕は裂け目を作り出すとその中へ足を進めた。氷神が僕を捉えようとしていたが僕のほうが先に裂け目の中へと消えた。




ようやく稲妻の任務すべてを終わらせてスメール入りしそうなので投稿しました。

綾華と万葉出てにっこりしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード 棺終 「孤独決意、終わる処無し」

 

これはただの自己満足だ。

 

 

 

 

後戻りができない所まで来てしまったんだ

 

 

 

 

僕はただ、愛する人を、大切だった人たちを守りたかっただけなのに

 

 

 

 

それは一瞬で奪う

 

 

 

 

どんなに叫んでも、手を伸ばしても届くことはない

 

 

 

 

あんなに、幸せだったのに

 

 

 

 

幸せは一瞬で壊れるし壊される

 

 

 

 

本当に世界は無情だ

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、どうして泣いてるの?」

 

 

 

 

「僕が泣く?そんなわけないじゃないか?」

 

 

 

 

「でもお兄ちゃん、目から涙がこぼれているよ」

 

 

 

 

「ふふっ…そうなのか。でも僕は泣き方を忘れてしまった。それでもこれは泣いてるってことになるのか?」

 

 

 

 

「泣いてるよ、だって、僕は君だから」

 

 

 

 

「嗚呼…でも君は僕じゃない。ただの幻想だ」

 

 

 

 

「でも僕には分かる、心が苦しくて息ができない、それは悲しいからでしょ?」

 

 

 

「悲しいなんて何百年も感じなかったのにね。急に感じるようになったのだってあいつが原因だよ。本当ならあいつはこの世界にいない存在だ」

 

 

 

「だけど少なからず僕はあの人間の子を好いている、好ましく思っているでしょ?」

 

 

 

「黙れ、もう君は不要なんだ、消えろ」

 

 

 

 

「僕、思い出してよ。君にはまだ感情があるでしょ?」

 

 

 

 

「うるさいうるさい!もうお前はいらないんだ!僕の中から消えてくれ!!」

 

 

 

「…なら、後悔だけはしないでね狂冥

 

 

 

 

「ははっ、後悔なんてしないよ。それはもうずっと前に終わらせた」

 

 

 

 

 

 

僕はただの復讐者なんだから

 

 

 

 

もう誰も信じない

 

 

 

 

全ては消え失せる

 

 

 

 

約束だって守れないのだから

 

 

 

 

もう長くないことは気づいてる

 

 

 

 

こんな体でもいつかは腐ちて消えるのだから

 

 

 

 

なら、やれるべきことをやるしかない

 

 

 

 

 

「今日は夜空がよく見える…」

 

 

 

 

 

だけどそんな夜空すらいつか見れなくなるときが来るだろうね

 

 

 

 

月に手を伸ばしても届かない、いないものにも手は届かない

 

 

 

 

伸ばしても届かないなら伸ばせるところに伸ばすしかない

 

 

 

 

だからこそ伸ばせる奴らがどれだけ絶望するのか、どんな表情をするのか

 

 

 

 

いまから楽しみだ…だからこそ邪魔はさせない

 

 

 

 

 

「さて、次はどんな話を書こうか」

 

 

 

 

「じゃあね愚かな者たちよ。ああ、もう息なんてしなかったか」

 

 

 

 

 

命が散れば何も残らない

 

 

 

 

形がなければそこにないんだ

 

 

 

 

例え死んだ人がその場に現れたってそれは実体がない

 

 

 

 

死んだ人間が生き返るなんて夢物語でしかないんだ

 

 

 

 

触れられないものに手を伸ばしても無駄だろう?

 

 

 

 

だからこそ僕は孤独へ進む

 

 

 

 

どこまで行けてどこで散るのかわからない

 

 

 

 

 

なら僕はこの世から消えて届かなくなってしまう前に

 

 

 

 

「すべての物語をこの手で終わらせて棺にいれよう」



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。