バカと恋と友情~もう一つの現実ともう一つの恋 (ハラミハラ)
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序章

はじめまして。ハラミハラです。趣味と妄想力が高じてバカテスの小説を書いてみました。この小説は原作の最後のVS3年生との戦争に負けてしまった。というお話です。一応原作を読んでいない方にもわかるようにしてみたつもりですが、まだ未読の方にはあまりお勧めできません。しかも学生の身ですので、執筆の時間がなかなかなかとれなく....
正直遅いです。
そんな作品と作者でもよろしければ、お立ち寄りください。



「ごめん....姫路さんっ。僕は君になにもしてあげれなかった......」

「いいんですよ明久君。これは別に誰かが悪いわけじゃないんです。もしそんな人がいるとしたらそれは、力不足だった自分です。」

彼女は俯きながら言う。それがここに居たいという彼女の本心だと解っているのに...わかっているのに!

「そんな顔をしないでください。大丈夫ですよ。死に別れるわけじゃないんですからいつかきっと...またあ、会えます..よ」

彼女が涙を流しながら言葉を絞る。目の前で女の子が泣いているのに僕は、僕はっ...!

「ごめん....姫路さんっ、本当に......ごめん」

「明久君!!」

普段はほとんど聞くことがない彼女の大声に僕は八ッと顔を上げる。

「笑顔で見送ってくれるって言ったじゃないですかっ。もう当分会えないんですから見せてください、私の大好きな人の笑顔を...」

「っ!!」

胸が裂けるような感覚になって気を許せば止まらないほどの涙が出そうになったけど僕は必死にブサイクな笑顔を作った。

「そう言えばまだ告白の返事を聞いていませんでしたね...」

「あ...]

そうだ。僕は試召戦争の最中に姫路さんに告白されてその返事をしていなかった。

「ごめん、まだ答えは出せていないんだ....」

なぜか僕は返事ができなかった。彼女はとてもとても真剣で本当に僕のことを好いてくれているのもわかっているのに答えは....でない

「そう、ですか。なら次に会う時までに決めておいてくださいね?」

「うん、あのひめ「もうごめんはなしですよ」え?」

「次にごめんなんて言ったらおこります」

恐らく精一杯の笑顔だったんだろう。その笑顔を最後に彼女は背を向けた。

「それじゃあ、さようなら明久君」

「さようなら姫路さん」

その別れのあいさつで彼女はふわりとした髪をなびかせて......行ってしまった。

 

 

僕にできたのは見送ることだけだった。僕は彼女の想いに応えるどころか返事をすることさえできなかった。なんで姫路さんはこんななにもできない僕を好きになってくれたんだろうか。

本当にわからない。まったくこんな情けない僕をいったいどうして?

それに僕はどうして答えが出せないんだ?彼女のことを嫌いなわけでもない。それどころか好きなのかもしれないと思ったこともあった。

「なのにどうして?」

わからない.....わからないわからないわからない!

いったいなんなんだよ!

どうして僕はこんなにも苦しんでいるんだ?

苦しい。この胸の痛みから逃げ出したい。

でもそうすることも僕にはできなかった。彼女の顔を思い出すとどうしてもこの気持ちが離れてくれない。

「本当に何もできないやつだな、僕は...」

そうして僕は負の感情に堕ちていった。



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1話友達

僕、吉井明久は姫路さんを見送ってから数週間やる気や元気のようなプラスの感情が一切なくなり学校に行くどころか家に帰ることもほとんどなく、ただゾンビのようにフラフラと町を徘徊し性質の悪い不良ともめごとを起こしたり.....そんな感じで僕は順調に腐っていった。

「ハア...」

そして溜息をつき、学校の近くにある河原で寝そべっている今に至る。こんなところにいれば先生に見つかったり補導されるかもしれないけど正直今は何がどうなろうとどうでもいい。

「僕は、何をやっているんだろうな....」

しばらくすると人の声が急に増えてきた。あ、そうか。学校おわったんだ...

流石に生徒が来ると色々と面倒になるかもしれない。場所をかえるかな。

「明久!?」

腰を上げたところで後ろからいきなり名前を呼ばれた。だれだ?タイミングの悪い....

「あ、秀吉....と木下さん。久しぶり、どうしたのそんなに慌てて」

後ろには小柄で茶髪、爺言葉が特徴の秀吉とその双子のお姉さんの木下優子さんがいた。どちらもかなりの美人だが秀吉は男だ。

「どうしたもこうしたもないじゃろうがっ!!学校にも来んし携帯はつながらんし、いったいワシらがどれだけ心配したとおもっとるんじゃ!このバカ者め!!!」

目に溢れんばかりの涙をためてこれでもかというぐらいに今まで聞いたことのないような怒鳴り声をあげる秀吉。

体の芯がビリビリと震える。普段は感情をあまり表に出さない秀吉がここまで感情をむき出しにするなんて、本当に心配してくれたようだ。

「ごめん、秀吉。心配かけて...」

「まったくじゃ、本当に、あと5時間は説教してやりたいわ」

申し訳ないと思ってるけど、それは勘弁してほしい。

「まあ、見つかってよかったじゃないの」

いままで傍観していた木下さんがようやく口を開いた。

あれ?秀吉はわかるけどなんで木下さんがいるんだ?

「うむ、そうじゃの...それと明久、姉上に礼をいっておくのじゃ。一週間前からずっとお主のことを探して今日は学校まで休んでくれたのじゃ」

秀吉が僕の考えていることを察したのか少し説明してくれる。

「って!学校を休んでまで!?木下さん、なんでそこまでして....」

僕らの学校、文月学園は成績順にA~Fクラスに分けられている。木下さんはそのAクラスの中でもトップに近い成績を持つ。正直彼女と僕はあまり接点がなく、仲が良いとは言えない...そんな彼女がどうして?

「あら、アタシじゃご不満だったかしら?」

「い、いやそういう訳じゃ」

「まあ吉井君の言いたいことも分かるわ。でも、アタシたちは2度も試召戦争をして3年生との戦争は一緒に戦った。結局負けちゃったけど吉井君には危ないところを助けてもらった。もうそんなの友達同然じゃない.....て、どうしたの吉井君!?」

「え?」

頬に冷たい感覚がある。触ってみるとそれは涙だった。

僕は自分が涙を流しているのに気付かなかった。

「あ、あはは、なんだろなこれ.....」

嬉しかった。こんな状態になっても僕を心配してくれる人がいて。

嬉しかった。こんなにも温かい気持ちをくれる2人の想いが....

涙が乾ききった心を潤していく。

あぁー。僕はバカだ、姫路さんのことで頭がいっぱいになってこんなにも優しい2人に気付かなかったなんて...本当に僕は大バカだなー。

 

 




思った以上に話の区切りがつけられずに中途半端みたくなってしまいました。
まあ、これはこれでいいのかな?


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2人と1人

やっと書けました!!最近心を乱されていてなかなか執筆に取り組めませんでした。申し訳ない!でも久しぶりに書いたので文章が......
さて!自虐はここまでにして...お気に入り登録してくれた13人の方々ありがとうございます!!まさか2話分投稿しただけで二桁に行くとは思っていませんでした。登録してくれた方々のご期待に添えるように頑張りますのでこの不安定な作品を今後もよろしくお願いします。それでは本編どうぞ!


「明久よ、そろそろ泣き止むのじゃ」

「そうよ、男ならいつまでもメソメソしないの」

僕は二人に感動してから10分以上泣いていた。泣いている僕をほっとかずに2人は優しい言葉をかけてくれる。うん、だいぶ涙も引いてきた。

「って吉井君その怪我どうしたの!?」

木下さんが驚いて尋ねてくる。どうやら僕が喧嘩や自暴自棄になったときに付けた傷跡に気が付いたようだ。

「姉上...それは最初に気付くところだと思うのじゃ」

僕もそう思う。怪我は浅いけど大きさは結構あるしね....

「まあ、いろいろあったんだよ」

喧嘩したっていうのもあれだしごまかしておくか。

「これに気付かんとは余程明久のことが心配だったのじゃな」

「い、いやちがっ...じゃなくてその!」

「ところで明久、とりあえずワシらの家に来ぬか?手当が必要じゃろ?」

「聞きなさいよ!!」

赤くなっていた木下さんが復活した。なんかごにょごにょつぶやいてたけど何かあったのかな?

「もう、いいわ....あ、吉井君家によっていかない?手当した方がいいわよそれ」

「今さっきワシが全く同じことを言ったのじゃ」

.....もしかして木下さんって結構鈍いのかな?そう思うと笑いがこみあげてくる

「まったく。吉井君も笑わないの!」

「はい!?」

いきなり突っ込みを入れられて変な返事をしてしまう。だって、ねぇ?

「まあ、そういうことじゃ明久」

「でも、いいの?こんな汚れた格好で行っても....」

「別にかまいやしないわよ。それに吉井君、お風呂とかあんまり入ってないでしょ?」

「え?うん、そうだけどどうして」

どうしてわかったの?と聞こうとしたところで木下さんが早く口を開く。

「だって貴方...匂うんだもん」

.................

「あ、明久!落ち着くのじゃ!」

「離して秀吉!!僕はもう生きていける気がしないっ」

秀吉が川に飛び込もうとする僕を羽交い絞めにする。

ええいっ死なせてくれ!

「何やってんのよアンタらは.....」

僕の錯乱の引き金を引いた木下さんは手を額にあてていた。

僕はもっと落ち込みたい気分だというのに。

「ほーらっ、遊んでないでさっさといくわよ!」

木下さんに手をとられズルズル引きずられていく。

「あれ?僕の意見は?」

「観念するのじゃ明久、こうなった姉上は人の言うことなど聞かんからのう」

「へえ~木下さんにもそんなところが....」

いつの間にか我に戻っていたけど女の子に引きずられながら秀吉と普通に会話してる僕っていったい?

「ほら!秀吉も喋ってないで手伝て!」

「う、うむ!」

「ちょ、ちょっと木下さん!自分で歩けるから!

「ダメ。なんか逃げられそうだもん」

「あだだだっ!に、逃げたりしないからお願い!!間接をひねらないでぇ~」

「不憫じゃのう明久」

 

 

 

 

 

なんでこんな楽しい気分になっているんだろう?彼女を不幸にしてしまったというのに。彼女を差し置いてこんな気分になるのは許されない。彼女が笑顔を取り戻すまで僕も笑顔にはならない。そう誓ったはずなのに頬の筋肉はどうしたって緩んでしまう。いったいどうすればいいんだーーーー?

 

 

 

 




誤字・脱字・感想などがあればどしどしお願いします。


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決意の揺らぎ

思っていったより早めに投稿することができました。
それにしても前回の話はあまり上手くかけなかったな~と思っていたのですが登録してくれた方がさらに2人も増えて感激です!この調子でドンドン増えたらな~と高望みをしたくなります。
それでは本編どうぞ!!


「あ!しまった!!」

引きずられながら木下家へ向かう途中、いきなり木下さんが大声を張り上げる。

「どうしたのじゃ姉上?」

僕より先に彼女の隣にいた秀吉が質問する。

(今朝急いで出てきたからアタシの聖書がリビングに置きっぱなしなのよ!)

(もうこの際ばらしてもいいのではないかの?)

(いいわけないでしょ!!)

うーん、何か2人が前でコソコソ喋っているけど内容までは聞こえないな...

まあ、聞いちゃいけないこともおるだろうからここは耳を塞いでおこう。

(とりあえずアンタ先に帰って聖書片づけてついでにお風呂沸かしてきて)

(うむ?それは別に姉上でもいいのでは?)

(そう、アタシに雑用押し付けるのね。秀吉って自分の間接が大事じゃないの?)

(了解したぞい、すぐに行ってくるのじゃ)

お?2人の会話が終わったと思ったら今度は秀吉が猛ダッシュで走り去っていった。なんかすごく怯えた顔してたけど.....

「木下さん、いったいどうしたの?」

「ああ、ちょっと家が散らかっているから秀吉に片づけに行ってもらったのよ」

あ、大体事情がつかめた。友達のお姉さんって優しそうに見えて家ではその真逆だったりする。秀吉...今の君の気持は僕にもよくわかるよ.....

「吉井君?なんか失礼なこと考えてない?」

「いえ、なんでもありません!」

木下さんが満面の笑みで聞いてくる。その笑みに何かが潜んでいたことは記憶から消しておいた方がいいだろう。

「そういえば吉井君、だいぶ表情が柔らかくなったわね」

彼女は手が解放されて隣に並んで歩く僕に急に話を投げかけた。

「そ、そうかな?」

正直あんまり触れてほしくない部分だ。仕方ない、適当にごまかすか...

「だってさっきまで死んじゃいそうな顔してたもの」

「あはは、僕だって落ち込みぐらいするよ」

「いや、そうでしょうけど....」

「でも木下さんたちのおかげで大分気持ちが楽になったよ。」

彼女に悟られないように精一杯の去勢を張る。これはよくごまかせた方だと自分で思う。思ったのだけれど...

「......嘘ね」

「え!?」

一瞬で看破されてしまった。いったいどうしてーーー

「貴方、嘘つくのが下手なのね。今のその辛そうな顔で騙せる人なんていないわよ」

「っ!」

しまった!いろいろ考え過ぎていつの間にか表情が戻っていた。くそ!嘘もつけないのか僕は!!

「吉井君、そんなに辛そうな顔しないで。アタシが付いてて....あげるから......」

そう言って木下さんは僕の手を優しく握って正面に立つ。

「木下さん...」

そこでハッと我に返る。何をしているんだ僕は?姫路さんを傷つけておいて木下さんの優しさに甘えるのか?いや、そんなことはしてはいけないはずだ。でも、体は...動かない....

「ねえ吉井君、なんでそんなに辛いのか教えてくれない?」

木下さんの手を握る力が少し強くなる。

「ごめん、今は言えそうにない」

震える唇を動かして言葉を口にする。

「そう....じゃあ、その内教えてね」

「うん、必ず....」

その言葉で彼女は手を離しまた歩き始めた。

そして木下家に到着するまでお互い大した会話もなかった.....

 

 

 



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優子の想い

えーーー大分久しぶりの投稿になってしまいすいません。
最近心情をかき乱されてなかなかパソコンの前に座れませんでした、はい。
今回は優子のことを書きたかったので少し小説の内容が混じってます。
バカテスを知らない人にも見てもらおうと思っていましたがやはり無理でした。
登録してくれた19人の方々ありがとうございます。
これからはなるべくペースを上げるようにしますのでもうしばらくお付き合いしていただけると嬉しいです。
それでは久々で自信はないですがどうぞ!


優子side

アタシはつい最近まで吉井明久という人間を誤解していた。最初は文月学園初の観察処分者になった人だということだけだった。そんな人と私は関わることがないのだろうと思っていた。彼を初めて見たのはFクラスとBクラスの戦いの終盤のとき、たまたま戦争を観戦しに来た私はBクラスの隣の空き部屋に吉井君、秀吉そしてポニーテールの女の子が入って行くのを視界の端にとらえた。

(あんなところでいったい何を...まさか暴力や脅しなんてことをっ)

弟もいたことでアタシは目を離すことができなくなり、コッソリと空き部屋を覗いた。

見えたのは吉井君とポニーテールの子と、その召喚獣が対峙して真ん中には先生が立っていた光景だった。(なんなんだろうこの状況は?)

頭を悩ませ始める前に私に彼らの声が聞こえてきた。

「吉井君、島田さん、本当にいいんですね?」「はい。吉井には一度お返しをしたいと思っていたので」「僕も問題ありません」「...分かりました。思う存分戦ってください、そこから得る理解というのもあるでしょう」

あぁ、私闘か。頭の悪いクラスじゃありそうなことね。

しかし戦いは私の思っていたのとは全く違う方向へと進んだ。突然吉井君の召喚獣が壁を殴り始め先生も混乱して何をすればいいかわからない様子だった。私も何が起きているのか分からなくなりただその光景を見ているだけだった。混乱している間に展開はどんどん進んでいく。

「き、君たち一体何をして」「アキ!はやく!」「だらっしゃあああああ!!」

先生の制止はむなしく消え、吉井君の咆哮と一緒に壁が....壊れた。

そしてFクラスが奇襲をかけて終戦した。

(一体なんなの?こんなの良くて停学、悪くて退学じゃない!本物のバカなの!?)

Aクラスとの試召戦争を終えた後も彼の行動は止まらなかった。

学園祭のときも同様だった。その日は同時に召喚大会というものが開催され、あろうことかFクラスのバカコンビ(吉井君と坂本君)が決勝まで勝ち上がった。

だけど相手は両方Aクラス、これはいくらなんでも無理だろうと思ったが....またしても私の予想は裏切られた。吉井君たちが勝ったのだ。ここまでならただの大盤狂わせで済んだと思う。

Aクラスの二人がどこかへと走り去り、吉井君たちもそれを追った。いきなり決勝の二チームが消えてさすがに会場の人たちもざわめきを上げ混乱していた。

まず、ざわめきを止める出来事が一つ起こった。校舎と校舎の間に会場が設置されていたのでその様子がしっかりと見えた。吉井君の召喚獣が花火を反対校舎の屋上へと投げ込んでいた。Aクラスコンビのいるところへ.....は?

会場にいた人たちも唖然としてそれを見ている。

(よかった、アタシの目がおかしいんじゃないわよね?でもあの二人何をー?)

次に私の頭を真っ白にする言葉が耳に飛び込んできた。

「姫路さんは絶対に転校させない!!」

何....それ..?

会場の誰もが言葉を発せないでいる。

そして最後に誰も予想してなかったことが起きた。教頭室に花火が直撃したのだ。当然会場は大パニックになり私もとうとうおかしくなって全力で叫んでいた。

「...何やってんのよー!!ありえないでしょ!ありえちゃいけないでしょ今のはー!!!」

 

その夜秀吉に吉井君のことをさりげなく聞いてみた。そうしたら秀吉は少し考えて私に言った。

「確かにあやつの行動は酷いものもあるのじゃが...それは全部友達のためじゃ。今日みたいにの、ただ全力を尽くす。それが吉井明久なのじゃ」

ツッコみたい部分はあったけれども私はその言葉をすんなり受け入れていた。

姫路さんの転校というのはFクラスの設備の酷さを心配した彼女の両親が提案したもので、吉井君たちはそれを阻止しようとして、大会で成果を上げ新しい設備をもらおうとした。今日の出来事は全てその延長線上にあると秀吉は教えてくれた。吉井君の酷い噂は絶えることがない。しかしそれを掘り返すと...全部友達のためだった。

観察処分者としてバカにされていた彼は今はクラスに関わらずに友達がいる。彼を評価する先生も少なくないとか...

アタシは彼を誤解していたことをすごく恥じた。あんなにも優しくて心が綺麗な人を蔑んでいたなんて...彼に謝りたい。そしてそれができたら彼と仲良くなりたい......かも。

優子side終



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分かっていても

はい!お久しぶりです!.....ほんとうに
一昨日まで熊本に旅行に行っていたのですが、なんと!その間にお気に入り登録数が20件を超えていました!!
いや~感謝と驚きが一気に来ましたね。
とは言ってもハーメルン全体から見れば本当に微々たる物ですね。
でも21人の人がこの作品を認めてくれたのは間違いないこと!
これを励みに頑張っていきます。
皆さん応援よろしくお願いします。



木下家ー玄関前

 

 

河原から木下家へ向かうまでお互い無言だった。さっきの木下さんの行動の意図がわからずに混乱する僕と、一向にこっちを見ようとしない木下さんが玄関の前に立っている。正直何をどうすればいいのかわからない。

恐らく彼女は怒っている。こういう時は大抵そうなんだ。

何をしたかはわからないけど...とりあえ土下座しよう、そう思い膝を曲げようとしたときに木下さんがこっちを振り向いた。

「ねえ、ちょっと話があるんだけど....」

「え、あと、何かな?」

土下座する前に話しかけられて焦る僕。

「あの、私は今まで吉井君をただの問題児としか見てなかったの...」

うん?問題児の自覚はあるけど...

「それで....吉井君はいつも誰かのために頑張っていただけなのに、私は濁った目で見ていて本当の吉井君に気付かなかった...今まで本当にごめんなさい.....」

.............

「あ、あの吉井君?」

「はっ!?」

いけない。いきなりの話で頭がショートしそうになった。

「私の話ちゃんと聞いてた?」

「も、もちろん!」

「本当でしょうね~?」

木下さんがジトッとした目で見てくる。あう...こんな目をされると嘘をつけなくなる。

そうだ、木下さんも話してくれたんだから僕も正直に話そう!

「ごめん、実は後半眠たくなってあんまり理解できてな...いったあ!」

「このバカ...」

正直に話したら平手で背中をどつかれた。

..........

お互い無言が続く。

「あの、ごめんなさい」

彼女の表情が見えなくて怖かったのでとりあえず謝っておく。

「全く...すごく短くしたつもりなのになんでついてこれないのよ.....」

「あ、あはは」

「笑ってごまかさない!」

怒られた...

ごめんね、木下さん。本当は君が何を言いたかったのか分かっているんだ。

でも今の僕に『それ』を受け入れる資格はないんだ...

「む?二人とも帰りが遅いと思ったら何を玄関の前で並んで立っておるんおじゃ?」

ちょうどいいタイミングで秀吉が家の中からヒョコッと顔を出した。

「なんでもないよ。ね、木下さん?」

「え、ええそうね。何もないわよ!」

その否定の仕方はあんまりにも無意味だと僕でもわかった。でも秀吉は何も聞かない。

「ならば早く家に入るのじゃ、湯が冷めてしまうぞい」

「そうね、そうしましょう吉井君」

ほんと羨ましい姉弟だよ...

「それじゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します」

この家に入れば少しでも現実から逃げられるような気がした。

 

 




最初に書き出したころとだいぶん心情が変わっているので作品にも影響が出ているかもしれません。
あれ?と思ってもまだまだ精神が未熟な自分ですのでご容赦いただけると幸いです。
もちろんダメだし、感想、意見ドンドンお願いします!


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彼のために

ど~も~
前回の話を投稿した後にお気に入り数が一人消えていてがっくり来ましたが、その後に新たに二人増えていました!
まさにアメとムチでしたw
まあ書いていけばこういうこともまだまだあるんでしょうね。
今回は話すことがあまりないので本編どうぞ!


初めて入った木下家はお金持ちでもなければ貧乏でもない、まさに普通の家だった。

イメージとしては二人はとても恵まれた生活をしていると思っていた。

「それでは明久、先に風呂に入っておくのじゃ。その間に着替えを用意しておくからの」

前を歩いていた秀吉が急に振り返りそんなことを言ってきた。

「え?着替えなんて悪いよ。タオル一枚腰に巻いとけば十分だよ」

わざわざ着替えなんてもったいない...

「ワシだけならそれでもいいのじゃが、姉上がおるではないか」

「ちょっとは気を遣え!このバカ!」

後ろにいた木下さんに怒られた。

そういえば彼女もいたんだった...

「ご、ごめん木下さん、すっかりわすれて」

「はぁ?」

「なんでもないですスミマセンでした」

「わかればいいのよ」

木下さんの喉から女の子とは思えないほどのドスが利いた声が出た。

「そ、それじゃあお風呂借りるね」

「うむ、ゆっくり入ってくるといいぞい」

そういって僕は横の浴室へと入った。

お湯に浸かっている間に予期せぬ思惑が動いてるとは知らずに...

 

(まったく、アタシがいるってのになんで何も意識がないのよ!)

(まあまあ姉上、気にするでない。あやつが意識しとらんのは逆に信用しとる証拠じゃからの)

(一応わかってはいるんだけど、このもやもやはどこにぶつけたらいいのかしら...)

(ワ、ワシにぶつけるでないぞ!?)

(...チッ)

(チッ、ではないぞ姉上!?)

(冗談よ。まったく...)

(全然冗談の雰囲気を感じなかったのじゃが...)

(それより秀吉、ちょっとお願いがあるんだけど)

(なんじゃ?)

............................

(姉上、それは本気で言っておるのか?)

(もちろんよ)

(それをやることは可能じゃが、下手を打てば明久の心は再起不能なまでに傷つけられるじゃろう。姉上はそれを理解しておるのか?)

(当然よ、確かに荒療治だけど彼を元に戻すのには必要なことよ)

(そうじゃが、今明久は弱りきっておる。何も今でなくとも)

(秀吉、よく聞きなさい。アタシがこれからすることは全部吉井君のためよ。それが何でかあんたにはわかるわよね?アタシは吉井君が傷ついているのを黙って見ていられない)

(薄々は気づいておったが...本当にそうじゃったとはの。それは明久が不幸になるはずじゃ)

(私の責任なの!?)

(そうじゃ。姉上よ後生じゃ、このことが失敗すれば明久は内に抱えた罪悪感で今度こそ壊れてしまうかもしれん。その時は明久を.....ワシの親友をずっと支えてくれると約束してくれんかの?)

(何を言い出すかと思えば...あまりアタシを見くびらないことね。たとえこの思いが叶わなかったとしても、一生彼の支えになってやるわよ)

(恩に、着るのじゃ...)

(男が泣いてんじゃないわよ。)

(すまぬ、それでは作戦開始といくかの!)




優子と秀吉の会話がえらく長くなってしまいました。
もうすぐすれば雄二や美波が出てくるのですがあまり話が進まず申し訳ない....
気を長くしてお付き合いいただけると幸いです。


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懐かしい会話

どーもーお久しぶり?です~
いや~お気に入り登録数30件まできましたね~
(29だけどw)
皆さんには本当に活力をもらってます。ほんとありがとございます!
それで!今回はテンションが上がりましてほぼ2千字までいっちゃいました。
長くてすいません...
それでも見ていただけたらなあ、と思います
それでは今後ともよろしくお願いします


「はあ~いいお湯だった。ありがとう秀吉」

僕は二人の厚意に甘えお風呂に入り、そこでだいぶ気持ちが緩んでいた。

「うむ、それはよかったぞい」

「あれ?木下さんは?」

彼女にもお礼を言おうとして部屋を見回したけど姿が見えない...

「姉上は自分の部屋で着替えておるぞ。走り回って汗をかいたそうじゃ」

「あ、なるほどね。」

後でちゃんとお礼言わないと。

「そういえば明久よ、もうすぐ3年生との試召戦争がまた始まるのを知っておるか?」

「え!?」

「やはりしらんかったか...まあ当然じゃな。簡単に説明すると、常夏コンビが不正行為をしていたことが分かったのじゃ」

常夏コンビといえば3年生の不良コンビだ。名前が~...そうだ常村勇作と夏川俊平だ。モヒカン頭と坊主の.....僕が前回の忘れられない試召戦争で負かされた相手。

「不正?」

「明久はあやつらに負けた後『とんでもない強さ』だったと言ったの?」

「うん、そうだね...」

そうだ、僕は秀吉の言った通りとんでもない強さだった常夏コンビと鉢合せして...負けた。そう、文字通りとんでもない強さだった。

「実はの、その強さはあやつらが召喚システムに細工をしていたからなのじゃ。このことはつい最近発覚しての、お主にとっては許し難いことじゃろうが...まあ、そういうことで再戦となったのじゃ」

「再戦か...」

「なんじゃ?明久なら喜んで戦うと思ったんじゃが」

別にい嫌というわけじゃない。ただ、僕にはその試召戦争をする意味がない。

だってそれに勝とうが負けようが.....

「姫路さんは戻ってこない」

そう、僕が今まで戦ってきた理由はほとんど彼女のためだった。僕みたいなバカは人のために動くということしか知らない。試召戦争は負ければ相手との教室の設備を入れ替えられるというルールもあるんだけど、正直今更どうなっても構わない。そう、僕は全てがどうでもよくなっていた。

「....すまぬ、無神経じゃった」

「ううん、別に...」

ああくそっ。さっきまでの暗い気持ちがまた戻ってきた。秀吉もバツが悪そうに俯いている。

.....................

お互い無言になってしまった。けどその状態は長く続かなかった。

「男二人がそろって暗い顔してんじゃないわよ!!」

急に怒鳴り声が聞こえて、顔を上げてみると

「...姉上」

「...木下さん」

そこには着替えを済ませてきたであろう木下さんがいた。

「せっかく着替えてきたっていうのに何でそんなしょげた顔でむかえられてるのよ!....秀吉、もしかして吉井君を追い込むようなことでも言ったのかしら.....」

「な、何もないぞ姉上!の、のう明久!?」

「え!?」

今にも泣きだしそうなチワワみたいな顔をした秀吉と今にも背後から炎が出そうな木下さんが同時にこっちを向いた。どうしようこの状況なんか怖い.....でもここは秀吉を助けよう!

「う、うん!本当に何もないよ!」

「ほ・ん・と・う・に?」

怪しまれてる...

えーとえーと、何か言い訳をしないと!

「本当に何もないよ!別に秀吉から試召戦争の話を聞いて姫路さんのことを思いだして落ち込んだりなんてしていないよ!うん!」

「明久よ、語るに落ちるにも限度があると思うのじゃ...」

「案外アンタも苦労してんのね、秀吉」

秀吉の肩に手をポンと置く木下さん。ん?よくわからないけど上手くいったのかな?

「まあそれとこれとは別だけど♡」

「あ、姉上勘弁してほしいのじゃ!ワシも悪気があったわけでは」

「問答無用よ。さあ間接を出しなさい!」

「明久!助けてほしいのじゃ!!....あ、明久!?」

助けてあげたいけど僕は動かない。

だってこの光景はあまりにも......

「っぷ....あっははははは!こ、これ外から見てるとこんなに面白いんだ!皆が止めてくれない気持ちがやっとわかったよ!あははははは!」

ポカンとしている二人を置いて僕は笑い続ける。まるで嫌なものを吐き出すかのように....

「全く吉井君がこんなに笑ってるんじゃお仕置きなんていらないわね。今回だけよ秀吉」

「うむ肝に銘じておくのじゃ」

「って、木下さんその服....」

「え、服がどうかした?もしかして変?」

彼女が着替えてきたのはシンプルな白いセーター。一見何もないようだけどこう、グッとくるものがあった。

「あ!ううん、すごくかわいいよ!」

つい見惚れてしまったなんて言えないけど...

「あ、えっと、ありがと......ふふっ」

(褒めてもらうのってこんなにうれしいんだ..)

「あーもうその辺にしてもらってもいいかの?晩御飯が入らなくなりそうじゃ」

「え?どういうこと?」

「お主はわからんでもよい...」

秀吉が妙に疲れた顔をしている。木下さんは赤くなって俯いている。なんなんだこの状況?まあいいか。

でもこんなに楽しい会話はいつ以来だろう?もう何年も笑っていなかった気がする。.....あれ?僕ってこんなに笑っていてもよかったんだっけ?なんであの子の笑顔を奪った奴がこうして呑気に笑っている?こんなこと許されない。

......そして僕はまた闇に落ちようとしていた。

 

 

 

 




ちょっと気に入らない部分があったので編集しました。


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苦しみと安らぎ

どうも、お久しぶりです。
最近なぜか文章の調子が良くなくて時間がかかってしまいました。
しかしその割には大したデキではないです....
願わくば次の投稿に期待してもらえると....
でもとりあえず!本編どうぞ!


なぜ自分はここにいるのだろう?居心地がいいから?仕方なく?....違う。ただ僕は現実から目を背けてこの家に逃げてきただけ。そう、自分にはあまりにも大きすぎる罪悪感から逃れるために。でもそれはしてはいけなかった。『彼女の笑顔を取り戻さないまま僕が笑顔になっていいはずがない』ずっとそう考えていた。せめて罪滅ぼしになればと....でも木下さんと秀吉に会ってからというもの僕は以前の僕に戻りつつあった。

ーーーーーー最低だ。

 

 

 

「あ、明久よ、お主大丈夫か?.....顔色が」

「...うん、大丈夫だよ」

ああ、この考え方体調まで悪くなるのか。僕にはちょうどいい罰だ。

「大丈夫なわけないでしょ!すごく顔赤いわよ!?」

「だから、だいじょ...うぶ、って....」

そこで僕の意識は途切れた。

 

明久sideout

優子side

「わ!すごい熱!秀吉、早くアタシの部屋に運んで!!」

「う、うむ!」

そうか、吉井君は家に帰ってないんだった。それに最近は台風が近づいてずっと雨続きだった。あそこまで自分を傷つけていたんだ...恐らく傘なんか持たずに雨に打たれていたのだろう。くそ!もっと早く気付いてあげれたらっ....

「姉上、とりあえず明久は寝かしてきたぞい」

「ありがと。吉井君どうだった?」

「うむ。熱は高かったが、そこまで重症でもなかったの」

「そう、よかった...」

はあ~と溜息をつく。本当によかった、大事がなくて...

「それでは姉上よ、ワシは薬と夕飯の買い出しに行ってくるぞい」

「あれ?もう薬なかった?」

「うむ、前に使ったきりじゃったからの。姉上は明久の看病を頼むぞい」

「わかったわ。早く帰ってきなさいよ」

「うむ。行ってくるのじゃ」

そう言って秀吉は買い出しに行った。さてアタシも吉井君を見に行かなくちゃ!

パタパタと二階にある自分の部屋に上がる。

部屋の前に着いて、一度深呼吸をしてからドアを叩いて中に入る。

「吉井君?大丈夫?」

部屋に入ると彼は熱に魘されて荒い息をして眠っていた。頭の近くにタオルと水桶があった。秀吉め、バカのくせにこういう時は仕事が早いのが癪だ。っと、そんなことより吉井君を....

とりあえずタオルを絞って頭に置く。正直、家で風邪を引く人はほとんどいないからよくわからない。ベッドの隣までイスを持ってきて彼の手を包むように握る。アタシにできるのはこれぐらいしかない。

「う、うん...」

「吉井君!?」

手を握るのとほぼ同時に彼が声を出す。

「ひ、めじさん...ごめん、ほんとうに...ごめ、ん」

涙を流しながらぽつぽつと出てきた彼の言葉にアタシも涙を流さずにはいられなかった。熱に魘されても吉井君はそのことに罪悪感を抱いて苦しんでいる。

彼を助けたいー心の底からそう思う

「大丈夫よ、吉井君。彼女はアナタのことを恨んだりしていないはず。それに...アタシがずっとそばにいてあげるから、だから安心して」

眠っている彼には聞こえないだろうけどアタシは語りかける。眠っている間だけでも苦しみから解放してあげたいから。すると聞こえていないはずの彼の表情が和らいだ。最初は驚いたけどその寝顔につられてアタシも眠りに落ちた。

優子sideout

 

 




初めてsideを使ったのですがいかがでしたか?


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悪友

今回は結構早めに投稿ができました!
それにしても前の投稿はダメもとで出したつもりがかなりの人数が増えていてびっくりしました。いや、ほんとありがとうございます。これからも頑張らさせてもらいます!
さて、今回のお話でやっとあいつが出せました。ほかのキャラもバンバン出したいのですがいつになるのやら...
それではどうぞっ


「う、うん...ここは....?」

目を覚ますとそこには知らない空間に僕はいた。普通の人ならば混乱してパニックになるだろうが、僕がそうなることはなかった。なぜなら、隣に眠っている木下さんがいたからだ。僕の手を握って....

そうか、僕倒れて...多分ずっと看病していてくれたんだろう。となると、可愛らしい部屋の風景から考えて、ここは彼女の部屋なんだろう。

(ありがとう、木下さん)

心の中で静かにお礼を言って...もちろん後でちゃんと言うけど...とりあえずベッドから出ようとしたときに、彼女の顔が濡れていることに気付いた。

(...涙?)

そう、彼女の顔は涙で濡れていた。しかもベッドのシーツがかなり濡れていた。なぜこんなにも?

「ううん...よしい、くん?」

あ、木下さんが起きた。

「吉井君!!?」

ゴッツ

「あだっ!?」

突然起き上がった木下さんの頭が僕の顎にクリーンヒットした。いてて...

「あ、ごめんなさい...大丈夫?」

「うん、なんとかね」

というかいつもの痛みに比べれば何ともなかった。

「そう...あ~びっくりした~」

「はははっ、木下さんも大丈夫?」

「うん!アタシはヘーキ!」

木下さんが眩しいくらいの笑顔を向けてくる。や、やば...

「き、木下さんなんかご機嫌だね!」

僕には耐えれそうになかったから慌てて顔を逸らす。

「え?...あ~多分泣いたからスッキリしたんだと思う」

「そうだ、どうして泣いてたの?」

「あ、いや、えっと...ってそれよりも熱は!?」

木下さんが強引に話題を変えてきた。う~ん、まあ触れられたくないことなのかもしれない。

「一応大丈夫だと思うけど...」

「ほんとに?」

そう言って僕の額に手を当てる木下さん...かなり恥ずかしいし、なんかデジャブだし...

「まだ熱いじゃない」

「い、いやこれは」

「これは?」

「えっと....なにもないです...」

なんだろう?いつかの映像をもう一度見てるような...そうだ、こんなやり取りを姫路さんとも...

『姉上~帰ったぞーい』

「あ、やっと帰ってきた」

二人の声で僕はハッと我に返った。

「吉井君、あなたは一人じゃないよ」

「え?どういうー」

「む、やはりここにおったか」

どういうこと?と聞こうとしたところにちょうど秀吉が部屋に入ってきた。

なんだったんだろう今のは?

「えらく遅かったわね秀吉」

「実は途中で雄二に会っての、話が長くなったから連れてきたのじゃ。ほれ、薬を買ってきたぞい明久」

「え?わざわざ買ってきてくれたの!?ありがとう秀吉」

「礼には及ばんて」

ほんとお世話になりっぱなしだな~。

......雄二....?

「よお明久、まだ生きてるか?あ、じゃましてるぞ木下姉」

「...ああ、坂本君いらっしゃい」

今木下さんの目の色が変わったのは気のせいだろう。

「って雄二なんでここに!?」

秀吉の後ろから現れた人物はまさかの坂本雄二だった。身長180cmはあるがっつりした体格とライオンのようなツンツンした頭は相変わらずだ。それとブサイクなのも...こんなのでも僕悪友にしてFクラスの代表だ。

「誰がブサイクだ。まあ平気そうで何よりだ」

「うん、なんとかね...」

「まだ姫路のこと気にしてんのか?」

「っ!!」

流石雄二だ。今触れられたくないことだと知って僕の心を抉ってくる。

「たくっ。お前、なんでそんなに苦しんでんだ?確か姫路の携帯番号知ってただろ。あれから一回でも連絡とったのか?」

「そ、それは...」

次々と発せられる雄二の尋問のような問いかけに僕はたじろぐ。

「ちょ、ちょっと坂本君!」

「黙ってろ木下姉、こいつにはこれぐらいがいいんだよ」

「雄二!僕のことはいいけど、木下さんにそんな言い方ー」

雄二が木下さんを厳しくあしらった態度に苛立ちを覚え反論しようとするけど、それもすぐに跳ね返される。

「お前は人の心配をしている場合か?」

「僕のことはどうでもいいんだよ!いいからさっさと木下さんに謝れ!!」

なぜか感情がヒートアップして自分を止められなくなる。すごく頭が熱い...

「どうでもいい、だ?ふざけてんじゃねえぞ!!明久!!!」

雄二の怒鳴り声がビリビリ部屋に響いてそれに共鳴するかのように僕の声も大きくなっていく。

「一体何がふざけてるって言うんだ!」

「お前のそのくだらねえ自己嫌悪のことを言っているんだ!いつまでもウジウジしてんじゃねえぞ!」

「く、くだらないだって...?これは僕が背負うべき罰なんだ!それを雄二にどうこう言われる筋合いはない!!」

「いい加減にしろ!何が罰だ!お前はそんなことで姫路が喜ぶとでも思ってんのか!?」

「思ってるわけないだろ!」

「だったらなんでまだそれを続けてる!?意味のないことだと分かんだろ!?」

「............」

雄二の問い攻めに僕はとうとう答えを失う。

怒鳴り合ってお互いに乱れた息が整うまで少し間が開く。そして、落ち着いたときにまた雄二がゆっくり話を切り出す。

「...お前、今姫路がどうしてるか知ってるか?」

「え...?」

「あいつな、週に一回俺のところに電話してくるんだ。泣きながらな」

「な、なんで」

「なんでだと思う?心配してんだよ!お前のことを!電話してもつながらない、状況を知る術もない。そりゃ不安にもなるわな!...一応お前は大丈夫だと言ってある」

「ぼ、ぼくはー」

....僕は一体今まで何をしてたんだ?彼女への罪滅ぼしだと思っていたのはただの自己嫌悪と自己満足?僕は....一体何を何をなにをなにをなにをなにをー!

「....秀吉、携帯をよこせ。」

「う、うむ...」

雄二が秀吉から携帯をとる。なんだ...?

「今、姫路とつながってる。俺たちの会話を全部聞いたはずだ」

「な、んだって....?」

姫路さんとつながってる?今の会話も全部聞かれた?そんなー

「後はお前がどうにかしろ」

そう言って雄二は僕に携帯を渡すと部屋から出て行った。

そして静観していた木下さんと秀吉が口を開く。

「明久よ、お主のありったけの気持を吐くのじゃ。すまぬがワシにはこれくらいしか言えん...」

秀吉も部屋から出ていく。

「....吉井君、辛いだろうけど頑張って。それと...ごめんなさい」

目に涙を溜めた木下さんも部屋を後にする。

....そうか、雄二のやつこれを狙ってたのか。秀吉と木下さんも見ているのはきっと辛かったはずだ。

そこまでしてもらったんだ。期待に応えないわけにはいかない。

「もしもしー」

意を決した僕は電話の向こう側にいる人物に話しかける。緊張と恐怖で手が震える。....でも、もう逃げない...逃げたくない!しっかり今の現実と向き合うんだ。

 

 



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一歩

かなりお待たせしてしまい申し訳ないです。
やっと次の話を投稿することができました。
....久々すぎて何を書いたらいいのか分からなくなりました。
あ、実はこの小説のあらすじの原文がどこかに消えてしまい、急きょ書き直しました。できるだけ似た感じで...
アホな作者でスミマセン
それでは本編どぞ!


もしもし?」

意を決した僕は電話に声をかけた。

「も、もしもし!!?」

キーン...

「え、えっと姫路さん、だよね?明久だけど」

「は、はい!姫路です!!」

「ひ、姫路さん、落ち着いて。そんなに大声じゃなくても聞こえるから」

「これが落ち着いていられますか!」

「え、え?姫路さん?」

「なんで電話にもメールにも出てくれないんですか!?家にだって電話してんですよ!?」

「ごめん...」

「そしたら玲さんが出て...何日も家に帰っていないて聞いて、それで...」

まさか姉さんまで心配してくれてたなんて...

姫路さんの声に荒い息と鼻をすする音が聞こえる。泣いているんだろう。

「坂本君に聞いても本当のことは教えてくれないし、美波ちゃんは音信不通で...ほかの人にも聞いても何もわからなくて....」

「う、うん。あのひめー」

「私たちが!どれだけ明久君のこと、を心配したと思っているんですかぁ...」

彼女なりに大声を出そうとしたんだろうけど、最後は涙で力が抜けてしまったようだ。

「私、言ったじゃないですか...明久君のことが大好きだって。なのに...明久君は私を困らせるのが好きなんですか.....?」

「そ、それは違うよ!」

「違わないじゃないですか!...明久君は本当に人を好きになったことがないんですね。この気持ちは自分より大切にできる人がいないと解らないですから...」

僕は言い返すことも肯定することもできない。

「...明久君、この前の告白のことですけど」

「は、はい」

「あ、あれはー」

姫路さんが「すうっ」と息を吸うのがわかり、それに身構えた僕に飛んできた言葉は予想外のものだった

 

 

 

 

「あれは忘れてください」

「....え?」

「そのままの意味です。私の告白は明久君を困らせて、苦しめました。なので私はこれ以上明久君に迷惑をかけないように....身を引きます」

「迷惑なんて!」

「迷惑じゃないですか!明久君は私に悲しい想いをさせまいとしてくれている。それは、伝わってきます...」

「うん...」

「でもですね、それは正直言うとそれは...余計なお世話です。」

僕が次の言葉を出すよりも早く姫路さんが言葉を出す

「だって、恋愛ですよ?傷つくのは当たり前じゃないですか。私はそれを覚悟で告白したんです。それに私は明久君なしじゃ生きていけません、なんてことを言ったりする弱い子でもありません。だから明久君がとらないといけない責任なんてないんです」

「...ごめんっ。姫路さん、本当に......ごめん」

涙を抑えきれず言葉がとぎれとぎれに出る。

「もう、『ごめん』て言ったら怒るって私言いましたよ?」

彼女は明るい声で語りかけてくれる。

もし今僕にできることがあるとするなら

「うん、ごめーじゃないや。ありがとう姫路さん。」

あるとするならそれは、彼女に告白を後悔をさせないということだ。手遅れかもしれないけどせめてこの瞬間でけは、彼女が好きになった吉井明久でいよう

「はい。それでは明久君....」

「姫路さん」

『またいつか』

 

 

ツーツー............

 

 

僕は何故彼女の告白を受けることができなかったのか未だに理解できていない。でも何か理由はあるはずだ。そうでなければあまりにもーーーー酷すぎる。

それに彼女に後悔させないということは、まず僕が後悔しないということだ。あまりに都合のいい考えだが、正直それでいいと思った。保留した上に振った相手に対して後悔をするなんてあまりに身勝手すぎる。

彼女に恥じない僕でいる。そういう最低限の償いはしてもいいはずだ。....雄二には『自己満足だ』とか言われそうだけど。それでも次は噛ついてやる。

さて、みんな待っているだろうからパパッと土下座しにいくか。

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと無理に走ってしまったかな、という感じが否めないです。
「これは違うだろ」等の意見がありましたらお願いします。


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暗転

はい、どうもお久しぶりです。ハラミハラです
今回の投稿でお気に入り50件超えたらいいなーと思ってましたが、先日見てみれば
超えてるじゃないですか50件!!もう驚きですよ...
ほんっとにありがとうございます!
カメ更新ですが、これからも何とぞよろしくおねがいします。


姫路さんとの会話を終えた僕はとりあえず皆のところに向かおうと部屋を出た。

(あ、ここって二階だったんだ)

目の前に階段があったのですぐ理解した。しかし、階段に行こうとするも足がなかなか動いてくれない。オマケに目が少しかすんできた。頭もぼーっとする。

(ああ、そっか。さっき倒れたんだっけ...)

何とか階段の手すりまで手をついたところで景色がーーーー暗転した。

そこから先は、覚えていない。

 

 

優子side

「姉上、そんなに心配しなくても明久なら大丈夫じゃ」

「う、うん。信じてあげたいんだけど」

吉井君を部屋に残してアタシたちは下のリビングに集まっていた。正直あの状態の吉井君を置いてくるとき胸が張り裂けそうだった。でも、不安がってばかりじゃ吉井君に失礼だ。

「明久なら何とかなる。あいつは、そういうやつだ」

隣にいた坂本君がぶっきらぼうに言う。....ていうか人の家のソファーに寝転ぶのはさすがにあれだと思うんだけどっ!

「...どうしてそう言い切れるの?ダメだったら」

「逆に、あいつの数少ない利点を見逃す方が難しいと思うぞ。一緒に居たら嫌でもわかる」

「まあ、明久といた時間が少ない姉上には理解しがたいことじゃろうがの」

...こいつらは吉井君のことをよく知って、信頼している。それはきっと吉井君も同じなんだろう。なんか、もやもやする。なんてことを思ったそんな時ーーー

ズドドドドドドドド!!

「え、ちょ、何!?」

廊下からすごい音が聞こえてきて3人ともすぐに部屋から出る。そこには人が倒れていた。

「「明久!」」「吉井君!!」

そう、吉井君が目の前に倒れている。どれだけ頭をぶつけたんだろうか、周りに少量だが血が飛び散っている。

「こやつ、さっきよりもひどい熱じゃ!!はやく部屋に運ばんと!」

「くそ!バカのくせに風邪なんか引きやがって!!何回倒れたら気が済むんだ!」

二人はすぐに吉井君のそばに駆け寄る。それを見ているアタシは、動けない。

「おい木下!またお前の部屋に入れるぞって....お、おい木下?木下!?」

「あ、あ、あ....」

目の前に広がる恐怖に私の膝はカクンと折れ視界がぐるぐる回る。自分でも混乱しているのはわかっていた。それでも何かしようとたったとき、頭の中で「ブツンッ」という嫌な音が鳴り

「チッ!ダメだ、完璧に混乱してやがる!!秀吉!俺はさっきの部屋に明久を運ぶ!お前は救急箱と薬を!」

「う、うむ!姉上は」

「明久の後だ!急げ!」

周りの音が聞こえなくなり、意識はそこで途切れた。

 

優子sideout

 

 

(まったくこいつらは!普通同時に倒れるか!?)

(心の底から同感じゃ。明久は二回目じゃしの)

(...こいつから頑丈をとったらただのバカじゃねえか?)

(も、もう少し取り柄残してやってもいいのではないか?)

(そんなことよりお前の姉貴だな。急いでさっきの部屋に運んだから秀吉の部屋に寝かしとくか?)

(明久の取り柄はそんなことで終わったぞい...。んむそれで構わんぞ。ワシの今日の寝床が問題じゃが)

(それは明久に文句を言ってくれ。...ん?明久と木下姉、よしいいこと思いついたぞ秀吉、お前は自分の部屋でいい)

(また何か思いついたのかの?雄二もようやく戻ってきたのう)

(人聞きの悪いことを言うな。これはささやかなサービスだ。それより戻ってきたってなんのことだ?)

(気づいてないとでもおもったかの?明久のいない間雄二も不調続きじゃったろ?)

(さて、何のことだったかな?それよりさっさと運ぶぞ、手伝え)

(うむ。起きた時の反応が楽しみじゃ)

.................

(それじゃあ俺は帰るわ。ジャマしたな)

(道中気を付けての)

(俺にそれを言うか?あ、明久に伝言があったんだ。秀吉伝えといてくれ、あと7回休んだら留年だって)

(もうそこまでいっておったか...。承知したぞい、目が覚めたら伝えておく)

(頼んだ。んじゃな)

 

 

さて明久は倒れてたが、表情を見た限りは大丈夫そうだった。気持ち悪くて認めたくないことではあるが、あいつがいない間確かに俺もどこか調子が狂っていた。正直、今回の試召戦争もどうでもよくなりかけていた。だが明久が復活するというなら話は別だ。あいつは良くも悪くもその場の状況を引っ掻き回す何かが...ある。次は一体何をしでかしてくれるのか...。それに翔子も前回の戦争でそこそこ辛い想いさせられたことだし、これを機にちょっと三年を締め上げるとするか。よし、おもしろくなってきたぞ!んじゃまた面白い作戦でも考えるか!!

『プルルル』ん?ああ、お袋から電話か。

「もしもし雄二?もう10時だけどいつ帰ってくるの?」

「あ~もうそんな時間か...。悪い悪い、もうすぐ帰るから」

「そう?ならいいんだけど。そうそう、ご飯作ってテーブルの上に置いてるからね。それじゃ」

「え!?作ったっておふくろが?お、おいちょっ....」

    ツーツー

 

.........念のため帰りにコンビニで弁当でも買っていくか。はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 




二話分ぐらいまとめたんですがどうでしたか?
これぐらいが普通なんでしょうか?
次からようやく日が明けます....


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The morning

どうもお久しぶりです。
いや~すっかり遅くなってしまいました....
申し訳ない><
もうちょっと進行度を上げなければと思っているのですが、なかなか上手くいかないです...
もう半年以上たってるんですからね、ペースアップの練習しようと思います。
では、本編どうぞ!



................は?

ええ、わかってます。一文目を見た皆さんが『は?』ですよね。でも目を覚ました僕が一番混乱する状況です。

目の前には寝顔があった。小さくてきれいに整った可愛らしい木下さんの寝顔が。でもどうしてこんな状況に???

窓を見てみると外はもう夜明けなんだとすぐにわかった。

(でもいつ寝たんだ?姫路さんと話した後は、えっと...。それに目の前の木下さんはいったい?これだけ布団に入ってたら看病、ではないか)

(おいおい、なに寝ぼけてるんだ?バカでブサイクなお前にこんな良いシチュエーションがくるわけないだろ?)

(やあ、僕の中の悪魔。君も僕の分身のはずだけど?)

なんで寝起きに自分の分身にコケにされてるんだ僕は

(やれやれ、ここの明久は頭の回転がちょっとだけいいから嫌になるぜ)

(ここの?まあそんなことはどうでもよくて、実際にそんな場面来てるんですけど...)

(どうでもいいってお前...。だから、えーこれは夢なんだよ)

(なんだその間は。まてよ?夢だって?だったらここでは何しても)

(そういうことだ。...やっぱりお前は明久だな。さあ、もうやることはわかってるだろう?)

(うん。あ、今回天使は?)

(ああ、あいつは今日シフト入ってないからな)

(お前らシフト制かよ!じゃあさっそく)

(あ、明久)

なんだよ、もうすぐ唇が...

(夢ってのは嘘だ)

おいいいいいい!嘘か!嘘なのか!!

てことは目の前の木下さん本物かよ!あ~よかった...もうすぐで犯罪者になるところだった...

「ん....吉井君?」

なんて頭の中でイタイことをしていると、木下さんが起きてしまった

「う...ん?」

「あ、えっと、おはよ木下さん」

「.....吉井君!?」

「はい!?」

な、なんだ!木下さんが起き上がって顔を寄せてくる。近い近い!!

「吉井君頭だいじょうぶ!?」

なんだろう、目から冷たいものが

「そうじゃなくて!吉井君階段で頭打ったのよ!それで...あれ?」

「と、とりあえず落ち着いて木下さん」

「う、うん。なんだかあの後の記憶が...」

 

事情確認中~~

 

 

「そっか、僕が倒れた後木下さんも倒れて....」

「お恥ずかしながら...」

まあ目の前で一度助けた人間がまた倒れてたらびっくりもするだろう。

「ごめんなさい...アタシがもっとしっかりしてれば」

なんてことをポツリと言った。

「そんなことないよ!心配してくれただけでもう、すごく嬉しいから」

本当に、心からそう思う。今までいろんな人が僕の身を案じてくれたけど、彼女から受ける心配は、なぜかいつもより温かく感じる。

「吉井、君...」

「それに僕の方こそごめんね。心配かけた上に色々迷惑まで」

「そんなっ、迷惑だなんて!」

「ありがとう木下さん」

満面の笑みで感謝の言葉を伝える。本当にありがとう

「う、うん...」

(やっぱり、この笑顔には適わないなぁ...)

心なしか嬉しそうな木下さん。やっぱりお礼を言うのは大切だよね!

「それはそうと、なんでアタシたち同じベッドに...?」

「あ~、たぶん雄二たちの仕業かな...。ご、ごめんね」

「ぷっ。なんで吉井君が謝るのよ。ていうか、今....五時?」

置き時計を見る木下さん。そうか、確かに朝というにはまだうす暗い。

「今日は土曜だし、もう一眠りしましょうか」

「ん、そうだね。じゃあ僕は下のソファで...」

後で秀吉に挨拶をしたら家に帰ろう。姉さんのこともあるし

「待ちなさい。アナタまた風邪ひきたいの?....ここにいていいわよ」

木下さんがおかしな提案をしてくる。で、でもそれは...

「いや、でもさすがに女の子の部屋に二人きりって」

「アタシが良いって言ってるのよ。それより、秀吉の部屋がいい?」

一瞬猛烈に行きたいと思った僕を責められる人はいないと思う。

「いいから寝るわよ」

そう言って彼女はバサッと布団をかぶる。僕を巻き添えにして....ん?

「あ、あの木下さん?」

「何か文句でも?」

「いえ、なにも...」

ええと、何がどうなって??

構図的には僕と木下さんが向かい合って寝ている。それはいいんだけど...

「さすがに十一月ね。さむ...」

「あ、じゃあ」

「って何布団をこっちに寄せてんのよ。いいわよ、これ大きいから」

布団を渡そうとしたら断られた。う~ん、どうしよう。

「全く...もっと簡単なのがあるでしょ?」

近寄ってきた木下さんが僕に密着する形になる。いよいよ訳が分からない...

「木下さん」

「ん?」

「頭、大丈夫?」

さっき言われたことをそのまま返す。だって、ねぇ?

「殴られたいの?」

「滅相もございません」

 

それからしばらく静寂が続いた。

これだけ密着していると、木下さんの鼓動まで伝わってくる。正直すごく速い。

それにつられるように僕の鼓動も速くなって、恐らくそれも彼女に伝わっているのだろう...

そして彼女はまたポツリという。

「アタシね、寒がりなのよ」

「う、うん」

「だからね、これは仕方ないことなのよ」

僕の体に二本の腕が巻き付いてきた。

「き、のした、さん...?」

「これはね、仕方ないことなの。だから早く寝ましょ」

「い、いや仕方ないって」

これはいくらなんでもやばいんじゃないだろうか

「あのっ。きのしたさ...」

「すうすう」

もう寝てるし!!はやあ!

まあ彼女が寝ぼけたか深い意味はないんだろう。理性がどうにかなっちゃいそうだし僕も寝よう。

 

 

 

朝起きた木下さんが真っ赤になったのは言うまでもないだろう。でも寝ぼけてたとはいえ、二人きりの部屋で男に抱きつくのはないよな。さすがに危ないから...

「今度お説教だな」

やっぱりこういうのは言える人が言わないとね

 

 

 

 

 



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イチャッと

投稿完了です...
お気に入り登録がすごく増えていて本当にうれしいです。
さて、今回は色々と変化の多い回になったと思います。


それと、美波ですが、このまま進んでいくと敵sideになる可能性が出てきました。
アンチほど痛めつけるようなことはいたしませんが、美波ファンで出番を楽しみにしている方にはあまりお勧めしない内容となるかもしれません。
急な割り込みで申し訳ない...


「それじゃ秀吉、木下さん。ほんとにお世話になりました。」

いろんなことがあった一日を終え、家に帰る前に二人に心からお礼を言う。

「なに、困ったときはお互い様じゃ。寄り道せずにまっすぐ家に帰るのじゃぞ」

お母さんみたいなことを言うなあ、秀吉...

「秀吉の言う通りよ。また学校でね」

「う、うん」

言葉はスラスラ出ていても僕と目を合わそうとしない木下さん。...さすがに今朝のことが効いてきたのかな?

「あ、そうだ秀吉!昨日姫路さんが言ってたんだけど、美波が音信不通ってなにか知ってる?!」

美波は僕のことをサンドバックにする凶器みたいな子だけど、大事な友達だ。

「むう、島田のう...」

「ひょっとして何かあったの!?」

「い、いや。落ち着くのじゃ明久。...少なくともお主のように行方不明ではない、が、あやつもここの所授業に出ておらんのじゃ」

「そんな...」

「恐らく心の整理がついていないのじゃろう。体調面はたまに島田の妹が報告してくれるから安心じゃ」

なるほど、美波の妹、つまり葉月ちゃんが付いていてくれているなら安心できる。あの子は小さいのによくできた子だからなぁ。僕とは大違いだ

「なら、今は見守るべきだね」

「そうじゃの。その内ひょっこり戻ってくるじゃろ」

そうでないと困る。僕は、彼女にも償いをしなければならないのだから

「へえ...島田さんって大事にされてるのね」

ふと、木下さんが言う。そりゃー

「大切な友達だからね」

「そっか...。羨ましいわね。そこまで思ってくれる人がいるなんて」

「ん?僕にとっては木下さんも大切だよ?」

「.....へ?」

「僕のために色々な場所を探して回ったり、倒れた時は自分が倒れちゃうくらい心配してくれて...。そんな人が大切じゃないなんて、ありえないよ」

「う、え?あ、えと、その...ど、どういたしまし、て?」

「うん、ありがとう木下さん」

お礼を言うと木下さんはプシューと顔を真っ赤にして俯いた。お礼がそんなに嬉しかったのか?正直、めちゃくちゃ可愛いです。

「....こ..」

「ん?」

「ゆうこ...って、呼んでいいから...」

今、彼女はなんと言ったのだろうか?な、なまえ?ゆうこ?

「え...きのした「ゆうこ」きのし「ゆうこ」き「ゆうこ」......」

えーと...

「吉井君?」

「は、はい」

「あと何回言わせるの?」

その笑顔がこわいです

「ゆ、ゆうこ...さん」

「ん?」

「ゆうこ、さん」

「ん?」

「ゆうこさん」

「ん?」

「優子さん!」

「ちっがーーーう!」

とうとう木下...いや、彼女が雄叫びをあげる。だったらーーー

「優子!!!」

「....ん、よろしいっ」

死ぬほど恥ずかしいけど、その代償にと引き換えに、おそらく僕の十七年で見た中で一番きれいで最高の笑顔がそこにあった。

「それじゃあね!明久君!!」

その最高の笑顔は僕の心臓にとてつもなくでかいパンチをくれたあとに家にいそいそと戻った。

いつの間にか秀吉もいないし...

あ~心臓がうるさい

 

 

 

今、僕はどうなっているのだろうか?

姫路さんの告白を拒絶した挙句、向こうから告白をなかったことにされ、美波にも試召戦争の最中に告白されてそのまま...

外から見れば贅沢極まりない状況で僕は...姫路さんへの罪悪感から離れたあと、ずっと別の女の子のことを考えていた。これが恋、なのかはわからない。でも良いことでもない気がする。だめだ、考えても結論は出ない。なら、会って直接話をするしかないな。美波と...。学校に来たらすぐにでも話をして、何を伝えればいいかわからないけど、とにかくありったけの気持ちを正直に話そう。それが今僕にできることでも、美波への償いにもなる...

それにしても

「僕の思考ってわからないことだらけだなあ」

なんてことをぼやいてるといつの間にか家に着いていた。あれ?秀吉の家ってこんなに近かったんだ。

マンションの駐輪場を見ると姉さんの自転車がいつもの場所にあった。ということは姉さんは家にいる、ということになる。

「よし!土下座と骨折の覚悟はできている!今更怯えるな吉井明久!」

「そうですか。それならいつ折れても大丈夫ですね」

「!?」

僕はその日、二日連続の気絶とはならなかった.......(悪い意味で)

 

 




いかがでしたか?
呼び方は優子さんだと、友達感から抜けれないような気がして優子のほうにしました。

追記
関係が進んだ後のことを考えてR-15を追加しました。


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自分にとって自分より強い人には本能が負けを認めている

お、お久しぶりです。ハラミハラです....
なっがいテスト期間が後2教科となったので再び戻ってきました!←息切れ
いや、ほんとにお待たせして申し訳ないです。
あと一週間もすれば完璧に夏休みに入るので今までの倍のペース以上で書いていこうと思っています。さすがに話がスローペースすぎて反省しました
それではどうぞ!
(久々だから前書きの書き方が...)


あぁ、床が冷たい。そんなどうでもいいことを考えていた。まあ床が冷たいならカーペットか布団にでも行けってなるだろうけど、あいにく今の僕にはそんな当たり前の権利は...ない。

「アキくん、あと八時間そのままでお願いしますね」

高くから見下ろす姉さんが告げる

「い、いやそれはちょっときついかなぁ...て」

手足を縛られて床に付けている状態の僕。いやぁ、反省するのってこんなにも怖かったんだね。

僕の身に何があったのかは大体お察しだろうけど、一応回想に入ろう。これはあれだ。ご無沙汰の皆さんに状況を分かってもらうためなんだ。決して目の前の姉さんが過去最高に怖くて、反省の気持ちが揺らいでるから現実逃避とかそういうことじゃないんだ。うん、そう...そういうことなんですはい。

 

 

 

ーーーーー30分前

 

 

 

 

「よし!土下座と骨折の覚悟はできている!今更怯えるな吉井明久!」

姉さんにかなり迷惑をかけただろし、ここは男らしくちゃんと謝ろう!...そう、決意した瞬間だった。

「そうですか、それはよかったです」

凛とした声が後ろから響いた。さ、殺気...?

「まったく、今までどこにいたんですか?」

コツコツと距離が迫る足音。

ギギギ、という音を立てながら首を回す。

「や、やあ姉さん...久しぶり...」

「はい、お久しぶりですアキくん」

首を回して、見えたものは、黒くて短い髪、僕より低い身長、そして何より阿修羅を連想させるようなすさまじい気迫。

間違いない...姉さんがそこにはいた。

「さて、いきなりですがアキくん。私は貴方にチャンスを与えようと思います」

「チャンス?」

「はい、今の今までどこで何をしていたのか、正直に話せば許してあげようと思います」

「ほ、ほんとに?」

もしかしてもう許してくれてるのか?いや、これは罠かもしれない。どうする...

「はい、もちろんです」

にっこりと笑顔で告げる姉さん。これは、大丈夫な気がする

「じつは」

そこからいろいろ話した。自暴自棄になって秀吉のところにお世話になったこととか。

まあ朝のことは伏せておこう。うん、言わなきゃばれないよね!あっはっは

「これで全部だよ姉さん」

「そうですか、正直に話してくれてありがとうございます。ですがアキくんはチャンスを棒に振ってしまいました。お仕置きをしなければならなくなった姉さんはとても残念です」

「え、どうして!?ちゃんと話したよ!?」

「いえ、まだ聞いてません。早朝の時間帯に何があったのかを。秀吉君と雄二君が丁寧に教えてくださいました」

「へ、へえ~、そうなんだ~」

......................

これはあれだな、うん。

「退散!!」

ガシッ

「逃がすと思いますか?」

後ろを向いた瞬間肩をつかまれた。速すぎるでしょ...

「私が、アキくんを、逃がすと、思いますか?」

ゆっくりと紡がれる言葉のさいごには「ニィ」という効果音。怖すぎて声も出ない。

「それに逃げられると姉さんはアキ君を強制連行しなくてはいけません」

そのことばを聞いたとき思わず口が緩む。姉さんは運動神経はすごいけれども...高校生の僕に力で適うはずがない!

 

そう思ったのはおそらく魔が差したのだろう...ほんと、血迷っていた...

 

 

肩を引かれ再び回る僕の体。

ドスッドスッ!ゴッ!バキィ!!

鳩尾に膝蹴りを二発、額に軽く一発で上を向いた顎にとどめのアッパーできれいにアーチを描く僕の体

なに、この動き...以前よりはるかに強いんだけど...!気絶するほどの痛みじゃないから意識はあるまま。意識があるだけでもう抵抗はできない。よもや気絶しないことを恨む日が来るなんてっ

「さあアキ君、家に入りましょうか」

そして僕は見事に強制連行されたのだった。

この一か月足らずで姉さんに何があったの....

 

 

そんなこんなで今に至る。

「アキくん、姉さんに何か言うことはありませんか?」

「縄をほどいてください」

バキィ!!!

「ご心配をおかけしてすいませんでした!」

全力で謝る僕。

やばい、フローリングが...姉さんの殴った部分が割れてる...

「おや、酷い汗が出てますよ?」

「あ、あは、ははは。ちょっとあつくて...」

「まったく、あなたと言う人は」

そうつぶやいた姉さんは部屋から出て行った。....え?このまますか?

仕方ない、間接を外してっと、よっほっ

ふう、何とかほどけた。FFF団によく縛られている内に縄抜け覚えちゃったんだよね。

「にしても姉さんどこ行ったんだ?」

家の中にいないことは確かだけど、うーん...まあそのうち戻ってくるだろう。

そんなことより重要なことがあった。家の中がまるで地震にでもあったかのように散らかっていた。無理もないか、僕が出て行ったことで気が気でなくなったんだろう。姉さんがいなくなったら僕も正気でいられるかわからない。申し訳ない気持ちと一緒に温かい気持ちが同時こみ上げて目頭が熱くなる。よし、かたずけるか!

それからしばらくして掃除もほとんど終わったころ、ようやく姉さんが戻ってきた。

「ただ今戻りました」

「あ、姉さんおかえり。何してたの?」

「アキくん誰が縄を抜けていいといいましたか?」

「え、姉さんが抜けてもいいってテレパシーで言ったじゃん」

「わたしは、よくアキ君の頭が心配になります...」

まさか冗談を本気にして心配までされるとは....

「とりあえずアキくんは罰として、晩ごはんまでみっちり勉強してきなさい」

「Why?」

「バランスの悪いローマ字でしゃべらないでください。それとも姉さんの言うことはきけませんか?」

「行ってきます!」

パキッとなる指には逆らえないのでおとなしく部屋に行くとしよう

 

 




これからも精一杯がんばります!!


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仲良し?

ふう、前の投稿から2.3日で出すつもりが思ったよりかかってしまいました。
いつもなら「お気に入り登録ありがとうございます!」と言うところですが先の投稿では残念ながら...自分の至らなさが身に沁みます


それではどぞ!
(読んでやってください)


とりあえず姉さんの優しい誘導(比喩表現)により部屋の机に向かうことにした。もうすぐ試召戦争もあるみたいだしちょうどよかったんだけど、そんなことがどうでもよくなる出来事が一つだけあった。それは部屋に入った瞬間に感じたとてつもない違和感。部屋がものすごくきれいになっていて、埃なんかほとんど見当たらないくらいに。一体どういうことなのか?リビングはあんなにも荒れていたというのに、この部屋だけ異様にきれいなんて。いや、考える必要もないかな、きっと姉さんだろう。僕が帰って来たときのことだけを考えて...

(まったく、良い姉をもったよな)

(あ、悪魔。最近出番多くない?)

(ほんとにな、メインキャラクターより多いってどういうことだよ)

(さすがにそろそろみんな出さないとダメなんじゃない?)

(俺に言われても知らんわ!作者の気分なんだから仕方ないだろ)

(ほんと、もう何か月同じ日やってるんだろね)

はいはいーーーーーー気のせいですからねーーーー!!

((なんか変な声聞こえた!?))

(あれ、天使は?)

(...あいつのことは忘れるんだ、明久)

(なにがあったの!?僕の良心!)

(...お、そろそろ姉さんくるみたいだな)

(そんなのわかるの!?それより天使は!?)

(すごいだろ?じゃあまたな、明久...)

天使のことはどうしても教えてくれないみたいだ

(あとしんみりしてるけど、どうせすぐに出てくるよね?)

(ほんと、ここの明久は嫌な思考回路してるなぁ)

む、嫌な思考回路とは失礼な。バカなだけだよ!....あ、自分で言うてもた...

コンコン

「アキくん、起きてますか?」

ほんとに姉さんが入ってきた。悪魔すごいじゃん。

「ん?起きてるけど、どうして?」

「あなた、さっきまで寝ていましたよ?」

「え、あ、ほんとだ」

時計を見ると短い針が7を指していた。いつの間に寝たんだろう?さっきのは夢か?

「まあいいや、それでどう」

どうしたの?と聞こうとしたところで言葉はさえぎられてしまった。

スッと伸びてくる手に僕の頭は姉さんの胸元に優しく吸い込まれた。優しく赤ちゃんの頭を抱えるかのように

「あの、姉さん?」

「もう、どこにも...いかなでね。アキくん....」

涙交じりの姉さんの言葉。それは僕の心に深く、とても深く、染み渡った。

「ごめんね、ありがとう姉さん」

「さあ、兄弟の戯れはここまでにしましょう。夕食もできていますし」

そういってパッと離れる姉さん。赤くなってる...意外と、優しいとこもあるんだな。意外と...

......ん?夕食...?

り、料理?姉さん、の?冗談だよね?姉さんの料理は姫路さんの殺人料理に匹敵する。これは、あれなのかな....。大切な家族を心配させたから、ていう神様の罰なのかな...

さっきの姉さんの抱擁が今頃効いてきたのかな?涙が出てきちゃった。意を決してリビングに入ると目の前にあったのは

「な、なにこれ...」

どこかのレストランにでもいるのかと思ってしまうほどきれいな料理がそこにはあった。中華、肉、和食、いろんな料理があって僕の好物のパエリアもある。今まで見た中で一番おいしそうだ...ここは天国か?

「アキくん、早く準備を手伝ってください」

「あ、う、うん」

誰かに来て作ってもらったのか?ん~そんな気配はなかったけどなあ。まあ命の危険は無さそうだからいっか

 

 

そして完食ーー

....びっくりするぐらいおいしかった。僕も料理は得意だけどこの味はそうそう出せたもんじゃない。いったいこんな料理を作れる人がどこにいたのだろう。姉さんの友人とかだろうけどこれはプロの料理人にも匹敵するかもしれない。もう気になって仕方ないから姉さんに聞いてみよう、ここまでできるのなら僕も教えてほしいし。

「どうでしたか、アキくん?」

「どうもこうもめちゃくちゃおいしいよ!ねえ、この料理誰が「そうですか、私の料理は満足いただけましたか」.....え?」

いま...なんか変な言葉が聞こえたような...

「えっと、姉さん...この料理は誰が作ったの...?」

「おかしなことを聞きますね、私以外に誰かいますか?」

.............

「それにしても、今までの努力がようやく実ったと言いますか、いい料理ができましたねぇ。アキくん、これで少しは姉さんを見直しましたか?」

「...だ...」

「どうかしましたか、アキくん?もしかしてお口に合いませんでしたか?」

「...ソ、ダ....」

「アキくん?」

「ウソだーーーーー!!!姉さんがこんなおいしい料理つくれるわけがないーーー!!」

「ア、キ、ク、ン?その辺で少し、黙りましょう、ね?」

「いだだだだだだだ、ご、ごめんなさいいいいいいい!だから腕を逆にまげないでぇーーーー!」

いつものごとく関節技を決められた。最近やられてなかったから痛みが3割増しだ。相変わらずの姉さんだ。

でも、お仕置きにしては緩すぎないか?いつもなら臨死体験がふつうなのに、さっきもほとんど何もされなかった上にいつもとは違ったやさしさ。これは、つまりあれだね。そういうことなのか....

「さてはお前は姉さんの偽物だな!?本物の姉さんをどこにやったんだ!」

「......は?」

「とぼけても無駄だ!あの姉さんがお仕置きに何もしないなんてありえない!それにあの姉さんがこんなおいしそうなものを作るなんて....天地がひっくり返ってもありえないことなんだよ!」

僕の力説を聞いて姉さんの偽物が黙り込む。反論もできないようだ。姉さんのことは僕が一番よく知っているんだから!あっはっは!

「....そういえば、貴方はそういう子でしたね」

「ん?なにかな、偽物さん」

「いいでしょう、貴方も反省していたようですしここは大人として許してあげようと思いましたが....。いいでしょう、そこまで摂関がほしいのなら思う存分差し上げましょう」

「へ、あの、ちょっと...」

「さあアキくん、そっちの長く使ってなかったごうも....お部屋に行きましょうか」

「いま拷問って言おうとした!?待って!さっきのはほんの冗談のつもりなんだけどーー!てゆか拷問部屋なんてありましったけー!?」

やばい、これはマジでやばい!からかいすぎた!このままじゃ....何とか言い訳をっ

「言い訳を聞く気はありませんよ♪」

「いいいいやああああああ!」

 

 

その先からの記憶は精神が保存を拒否しました。

 




チョコチョコ編集入れてます。
たいした違いはないのでお構いなく~


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登校

やっと次話投稿できました。
今回はいつもより長めになってます。



ここはどこだろう?きれいな桜が並んでいてすごくきれいな坂道だ。

「...い..。よ..い」

あ、そうだ。ここは学校の坂道じゃないか。

「おい、...しい」

あれ、坂の上にたくさん人がいる。て、僕の知っている人ばかりだ!一体どうして...

「おい!吉井!」

左から雄二に、秀吉、木下さん、姫路さん、姉さん...。そのほかにもA~Fクラスの知り合いがたくさんいる。みんなこっちに向かって手を振っている。ひょっとして僕のことを迎えに来てくれたの?だとしたらこんな坂なんてすぐ登り切ってみんなのところに行こう!

「みんな...すぐ、いくからね...」

「死にたいのかバカ者が!!!」

「ぐは!?」

いきなり体が浮いて体が後ろに吹き飛んだ。何事だ!?

「あれ、ここは」

「ようやく正気に戻ったか、吉井」

「あ、鉄人先生おはようございます」

「ついにそれはあだ名ではなくなったのか...」

目の前には筋肉ダルマの鉄人、もとい西村先生がいた。さすが鉄人。11月になるというのに半袖を着ているなんて。トライアスロンやプロレスを中心に様々なスポーツをこなすこの、外国人を思わせるゴツゴツした肉体はいつ見ても暑苦しい。まあそれはいいとして...

「それよりお前、少しは周りに気を配れ。車に突撃しかけていたぞ」

「え!?って僕はなんで校門にいるんですか?」

「学校に来る以外に理由があるか?あと、坂道のことは早く忘れるんだな」

?なんで僕が今聞こうとしたことをなんでわかったんだこの人?ついにTー800と呼ぶ時が来たのか?

よく考えると姉さんのお仕置き以降の記憶がない、ついでに日曜の記憶も。何されたんだ僕は...

「まあ、復帰したようで何よりだ吉井。あと七日休んだら留年確定だったからな」

「あ、はい。えっと、ご迷惑おかけ...いま、なんと?」

「なんだ?坂本から聞いとらんのか?」

「全く聞いてないです!!」

あいつ!あんな偉そうに怒鳴っといて!

「おう、来たか明久」

都合よく本人登場

「しゃあああああー!!」

「うお!?危ねえ!いきなり何しやがる!」

チッ、拳が逸れたかっ!

「それはこっちのセリフだよ!なんで留年のこと言わなかったの!?」

「あー、そのことか。すまん、忘れてた」

「ころーーす!!」

「よしい、落ち着いて...」

誰だ邪魔をするのは!?

「あれ、霧島さん?」

「...久しぶり」

雄二の後ろからコッソリ出てきたのは、このバカのことが好きだと言うことを除けば完璧な黒髪美少女、霧島さんだ。

「久しぶり、ところで霧島さん、土曜日の夜雄二が女の子をナンパしてたよ」

「それ、ほんと?雄二」

「ぎゃあああー!頭があー!」

うん、いつ見ても霧島さんのアイアンクローはすごいなぁ。

「落ち着け翔子、それはこいつの嘘だ」

さっきまで叫んどいて普通に喋るこいつも相当あれだけど...

「...そう」

「はぁはぁ...死ぬかと思った」

あ、解放された雄二が崩れ落ちた。

「貴様らじゃれるのはいいが、予鈴5分前だぞ?」

「「げ」」

「遅れた奴は補習室だな」

鉄人がいやらしく笑う。この鬼め!

「よし、雄二行こ....ってもういない!?まあいっか」

「おい、ちょっと待て吉井」

「はい?」

足を出す寸前で鉄人に引き止められる

「俺はお前に何があったかは聞こうとは思わない、だがな吉井。お前は困ったとき人を頼る術を覚えるべきだ」

「.......」

「生徒が困っていれば全力で力を貸す。それが俺たち教師だ」

.....はっ!?一瞬鉄人の教師モードに感心してしまった!

「なんか、今日はかっこいいすね」

「おれはいつもこうだ。ほれ、遅刻は見逃してやるからさっさと行け」

「うす!」

なんだかんだで憎み切れないひとなんだよな~。普段は暴力教師ぐらいにしか思ってないけど

 

 

 

~Fクラス~

久しぶりの教室というのはなんだか妙に緊張する。扉の前に立って深呼吸してっと...

「よし!」

行こう!

「いいからさっさと入りやがれ」

ゲシッ

「いったあ!何するのさ雄二!」

「何するじゃねえ、邪魔だから早く入れ」

先に行ったはずの雄二が後ろから出てきた。いきなり蹴ることはないでしょ。でもその勢いで教室に入ってしまった。

『............』

教室中がシンとした雰囲気になる。うわ、気まずい...

(雄二この空気を何とかして!)

(あ?....いいぜ、やってやるよ)

ニヤリと悪そうな笑みを浮かべて頷く。おお、ダメ元で言ってみただけなのに頼んでみるものだ。

「みんな、聞いてくれ!」

雄二がみんなに聞こえるようにハッキリした声で呼びかける。

「週末、明久が木下家に一泊したぞぉ!!」

ハッキリした声で、このFクラスには厳禁なネタをぶちまけやがった。何言ってんのこいつー!?

『よしいいい!!久々に来たと思えばーーーー!!』

『姫路、島田に続き木下姉妹だとぉ!?俺の夢を返せこの屑野郎!!」

『全員武器を持てーー!!吉井をここで殺るぞーー!!久しぶりのFFF団出陣じゃあー!!』

『おおおおーーーー!!』

雄二の爆弾発言によりクラスの男子たちは見事に大爆発。これ、どうしよう....

「雄二!?なんてことを言うんだよ!?」

「お前が空気を変えてくれって言ったから変えてやったんじゃないか」

ぐっ、やっぱりコイツに助けを求めたのは間違いだった!

『ヨシイクン、カクゴ、ワ、デキテル...ヨネ?』

しまった!!雄二に文句をつけてたらいつの間にか囲まれてた!...殺られる!!

「貴様ら何やっとるか!もう本鈴は鳴っとるぞ!」

『...........』

いきなりの鉄人の再登場によりクラスの殺気が萎んでいく。た、助かったぁ~

「...島田以外全員来ているな?全員今から体育館に集合だ」

なんで名簿も見ずにわかるんだこの人

「「体育館?」」

さっきまでバーサーカーと化していたクラスメイトの声が重なる。

「なんでも試召戦争についてのことで集会をやるそうだ。ほれ、さっさと動け」

鉄人は言い終えると教室から出ていった。と思った瞬間

『『これで終わったと思うなよ』』

全員がこっちを一斉にギロリと睨む。あの、めっちゃ怖いんですけど....

睨むだけ睨むとノソノソと教室から出て行くクラスメイト。

「...あの程度で済んでよかったな、明久」

「わ!ってムッツリーニ」

後ろにはムッツリでは右に出るものはいない小柄の生徒がいた。

「....久しぶり」

「うん、久しぶり」

こいつと会うのもかなり久々だ。

「....無事でよかった」

「ごめん、心配かけたね」

「...別に、それよりさっきの話を、詳しくっ...」

あれー?おかしいな~、久々に会う友人の右手にカッターが握られているよー?今は使う用なんてないのに不思議だねー。

「偽りがあれば...切る」

「例の本5冊で手を打とう」

「....10冊...」

無言の握手を交わす僕ら。

「お主らさっきからなにやっとる?もう行かんと鉄人にどやされるぞ」

「あ、秀吉おはよ」

「おはようなのじゃ」

「また、このメンバーが集まったな」

「雄二、さっきはよくもやってくれたね」

「どでかいネタさっさと片付けれたろ?感謝してほしいもんだ」

偶然じゃんか。

「それでは行くのじゃ」

秀吉が二度促してくれる。

「うん、行こう」

 

 

 

集会であのクソババア(学園長)から得た情報をまとめると、一つ、今回の戦争で不正が起こることはセキュリティの強化により100%ありえない。二つ、不正のペナルティとして2年は3年の代表を3人落とせば勝利。3年は2年全代表を落とすのが勝利条件。勝った学年は相手のA、B、Cクラスと自分たちのD、E、Fクラスと入れ替える。それ以外は前の戦争と同じ...

「で、良いんだよね?」

「あ、明久が集会の話を聞いて理解しているだと....?」

「ありえん...」

「...明日は槍が降る...」

「失礼な」

放課後、集会のことを確認するためにザクッとまとめたらえらい扱いを受けた。今までの僕ってそんなにひどかったのか?

「あ、しまった。今日料理当番だった」

「んむ?雄二もか?ワシも当番なのじゃ」

「そうか、なら一緒に行くか」

「うむ」

「じゃあな明久」

「うん、おれかれ~」

「明日もちゃんと来るのじゃぞ?」

「わかってるよ。留年はしたくないからね」

挨拶をしたら二人はさっさと帰ってしまった。

「あれ?ムッツリーニ?」

隣にいたはずのムッツリがいない。きっと部活の女の子を撮りに行ったんだろう。

「...僕も帰るか」

みんな、思ってた以上に温かく受け入れてくれたな。ほんと、涙が出そうだ。

「...でも」

美波のことが気がかりだし、きの、じゃなくて優子と少し話がしたかったな...。もう帰ったよね?

モヤモヤ考えつつ僕は教室を後にした。

 

 

 




もうちょっと量増やした方がいいかなと思うこの頃です。


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想いと嫉妬

お久しぶり?です!ハラミハラです。
最近ここで何を言えばいいかわからなくなってきました...
今回は二話連続投稿しようと思ったのですが思ったより時間がかかりそうなので先にこっちを投稿しました。はい、急いで書きます、すいません....
あの方の扱いが何とも言えない難しさです
それではどうぞ!


優子side

今の状況を一言で言うと、鬱だ。はぁーーーーー。いくらなんでも別れ話?の後に抱きついて名前呼びはない。ほんっとない。完璧にやり過ぎた。もう無理、顔見て話せそうにない。なんであんなことしちゃったんだろう?よし...じゃなくて明久君を好きなのは確かだけど、あんな相手の弱みに付け込んだようなやり方は、卑怯だ。...謝ってどうにかなることでもないし何より、気付くわよね?普通は...

「気づいてなかったらどうしよう...」

なんかほんとにそんな気がしてきた。あの姫路さんのわかりやすいアピールも最後まで気付かなかったって話だしね。でも、今はそんなことより本人に会ったら一体なんて言えばいいのかしら...

はぁ、アタシって嫌なオンナだ。自分の保身ばかり考えて...

「もう、最悪...」

いつの間にか授業は終わって太陽も沈みかけていた。会えなかったな、明久君と....

このまま会う回数少なくなってアタシのことなんて忘れちゃうのかな...それは、ヤだな。

「会いたいな、あきひさくん...」

「呼んだ?」

「ひゃい!?」

「わっ!どしたの!?ゆ、優子」

「え、あ、いや、ええっと!なんでもございません!!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて。...なにかあったの?僕でよかったら相談にのるよ?」

なんで、よりにもよって、いま出てくるのよっ!だめだ、ネガティブになってたところに来られて、しかも優しくされたりしたら

「...うっ、ぐす...」

涙が、とめられない...

「うええ!?大丈夫!?どこか痛いの!?」

「なんでも、ない...」

「なんでもないことはないでしょ!?とりあえず保健室にー」

「ううん、大丈夫...」

心配してくれる明久君の優しが心にじんわりと染みる。

「ほ、ほんとに?とりあえずそこのベンチ座ろ?」

「うん...」

 

 

「はい、ジュース。あ、お金とかいいからね」

「ありがと...」

明久君からココアを渡された。

「...あったかい...」

「最近さむいからね。優子、ココア好きだった?」

「うん...すき..」

「それはなにより」

自分で、あれだけ言っといて今さらだけど...

「優子、大丈夫?...優子?」

名前で呼ばれるのはずかしいぃぃーーー!!顔があっつい...

「だ、だいじょうぶだから...」

「ほんと?顔、真っ赤だよ?」

声が出ないから頷きだけする。

「............」

「............」

 

しばらく静寂

 

「あのさ」

静寂を破ったのは明久君

「...ん?」

「どうして泣いてたの?」

「ちょっと、言いたくない...」

「そっか、ん~じゃあなんで急に名前呼びにしたの?」

この流れでそれ聞く!!?

「なんでって、それはその...。もしかして嫌だった...?」

「いや、そうじゃなくて!なんていうか...か、かわいい子にそうされると勘違いしそうになるんだよね。あ!ナルシストとかじゃなよ!?」

かわいい、か。その言葉がどれほど嬉しいものなのかは、きっとこの人は理解していないんだろう。

「アタシなんて、全然...」

好きな人に振り向いてもらえない可愛さなんて、価値がないのと同じ。

「そう?僕は優子みたいな子が彼女だったら、すごく幸せだと思うよ」

きっと励ますための言葉なのだろう。アタシの心臓がどれだけ鳴っているかも知らないで

「きっと優子の彼氏になる人って僕と正反対にかっこよくてなんでもできるような人なんだろな~」

ちがう、ちがう、そんなことない!あなたはかっこよくて、普通の人にはできないことをいっぱいしてる。

「...そうね、アタシの好きな人はかっこよくて色んなことができるわね」

あ、もう、ムリだ

「あ、やっぱり好きな人いたんだ...。そ、そうだよね!優子くらいかわいい子が好きな人いないわけ...」

全部、ぶちまけてやる

「好きです、明久君」

「............................え?」

「反応遅い。どんだけ時差あるのよ」

「っ!!」

「キョロキョロしてもダメ。ここにはアタシと貴方しかいない」

ガシッと両手で顔を固定して、とどめにもう一言ぶつける

「貴方のことが好き、明久君。それと、ごめんなさい」

「え?」

「貴方が今告白されて困るって知ってても抑えれなかったのと、その....貴方が落ち込んでる時に付け入るようなことをして、本当に、ごめんなさい.....」

「ゆうこ....」

「けど、そんな行動をしてしまうくらい、貴方のことが、好きです」

罪悪感は消えないけれど、この気持ちに嘘はつけない。明久君はもう、ごまかそうとせずに真っ直ぐこっちを見つめる。そして-------

「ゆうこ、僕は「いいご身分ね、アキ」......え?」

振り向くとすぐ後ろに女の子がいた。最近学校にも姿を見せなかった島田さんが、そこにいた。

「み、なみ?」

「あなた、なんでここに...」

「黙りなさい」

「ひっ!?」

なに、この子の光のない眼.....間違いなく、普通じゃない。

「ウチと瑞希がどんな思いをしていたのかも知らないで、よくもまあ他の女とイチャつけたものね。アキ!!」

「違うんだ美波!これはー」

「何が違うっていうの?アンタが何してたかはクラスの連中から聞いたわ」

「だからそれは!」

「瑞希とはちゃんと話をしたみたいね。けど、だったらなんでその後に他の女と!!!ウチのところには報告も、それどころか心配する素振りもないのよ!!?」

悲痛な島田さんの叫び声が中庭に響き渡る。

「結局、アンタの中では....ワタシは他人程度にしか思われてなかったってことかしらね。もういい、ウチは邪魔だろうから消えるわ。......アンタの顔なんて二度と見たくない!!」

「っ!?」

彼女の言葉を受ける度に明久君は苦しそうな表情をしていく。そんなの、許さない!!

「ちょっと、さっきから聞いてれば自分のことばかりね、島田さん。」

「なに?アンタに言われる筋合いないんだけど?」

立ち上がり、彼女を正面から見据える。

「....優子?」

「貴女は一体明久君にどうしてほしいのかしら?」

「は?」

「どうしてほしいのかって聞いてるのよ。それとも答えれない?」

「ウチは.........。」

「答えられないわよね?だって貴女のそれはーーただの八つ当たりだもんね」

「さっきからなんなのよアンタは!?ウチが八つ当たりしてるですって!?」

「それはこっちのセリフよ。その通りじゃない?違うというなら言ってみなさい」

「このっ!?」

「二人とも落ち着いて!

「お前は黙ってろ!!!」

又も彼女が吠える。ほんっとにイライラする!

「島田さん、貴女も明久君に告白したのよね?」

「だったら何?」

「ほんとに明久君のことが好きなの?アタシにはただ好意を押し付けているようにしか見えないけれど」

「あんたは本当になんなのよ!?なんでそんなことを言われなくちゃいけないの!?」

「告白したなら堂々と待ってなさいと言ってるのよ!!自分で告白した相手でしょ?ならなんで信じてあげられないの?」

「ウチだって今日の話を聞かなければこんなことはしなかったわよ!!でもこいつはウチと瑞希を裏切って」

「裏切るって?明久君がいつ裏切ったと言うの?この人が必ず貴方たちのどちらかに振り向くと思った?自惚れもいいところね。まあ、多少の逃避はあったみたいだけど」

「それよ!こいつはウチから逃げて!」

 

 

パァン!!!

 

 

校舎全体に乾いた音が響く。明久君と島田さんは何が起こったかわからない目をしている。わかってるのはアタシだけ。頬を叩いたのだ。渾身の力で、思いっきり、島田さんを。

「っ!?アンタ!」

「...いい加減にしなさい。明久君が裏切って、逃げたですって?ならなんで今この人はこんなにも苦しそうな顔をしてるのかしら?まだ貴女のことを考えてるからじゃないの?」

「........」

彼女の怒気が萎んでいく。

「確かにアタシのタイミングも悪かったわね。それは謝る。ごめんなさい、家でのことははやりすぎでした。明久君も本当にごめんなさい。...後は明久君から聞きいてちょうだい」

ふぅ、言うことは全部言った。後は彼次第だ。

「....ありがとう、優子。」

自分のことは思い切り棚に上げたけどね。

「どういたしまして。...校門で待ってるから」

そう言い残してアタシはその場を後にした。

優子sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




意識しているわけじゃないのにキャラがどんどんヒステリックになっていきます....
楽しい話書きたいなあ
今回優子も若干情緒不安定になってますが、これっきりにしたいと思ってます。


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怒りと寂しさ

どうも!ハラミハラです。
書き始めてもう一年以上。ここまでやってこれたのも登録や感想を言って頂いた皆さんのおかげです。本当にありがとうございます!!
至らない点が多々ありますが(ほとんどなんて聞こえない)これからもよろしくお願いします。
感想、ご意見があればお願いします。


優子にはなんてお礼を言ったらいいのだろうか。さっきの会話で何度も涙を流しそうになった。だから、それに報いるためにも

「美波」

「なに...?」

優子の言葉を受けてからほとんど硬直していた彼女に話しかける。

「美波!本当にごめん!!美波の気持を知っておきながら、僕はそれを踏みにじった....」

「今さら、なんなのよ....」

「今の僕が何を言っても言い訳にしかならない。だから...」

彼女には誠心誠意の謝罪をしなければならない。けど言葉を発するほど、それは言い訳になる。だったら僕にはこれしかない!

「ちょ、アンタなにしてっ」

「僕を好きなだけ殴ってください!!」

我ながらバカだと思う。セリフはないよね、しかも土下座しながらなんて。

「.....ウチをバカにしてるの?そんなので」

「わかってる!!この程度で許されて言い訳がない!だから煮るなり焼くなり好きにして---」

「アキ、立ちなさい」

「...え?」

頭にハテナが浮かんでるけど、言われたとおり立つ。次の瞬間、重たい衝撃が僕を襲った。

「がっ!?」

美波の拳だった。

「ふざけないでよ....。ウチが今までどんな気持ちだったか何も、何も知らないくせにー!!」

ゴッゴッと周囲に音が響いていく。今までのどんな攻撃より重たい。でも痛くない...

「瑞希なら!まだ!我慢もできた!!諦めることもできた!!!」

悲痛な叫びと一緒に繰り出される拳。でもこんなのは、美波の痛みに比べれば....痛くもかゆくもない。

「なんで他の女なんかとー!!!」

バキィ!!と顎から盛大な音と共に二人とも崩れ落ちた。一体どのくらいの時間、殴られていたのだろうか。長くて長くて短い時間だった気がする。

「ハァ、ハァ......」

「....」

「アンタ、さっき告白されたときなんて答えるつもりだったの...?」

「まだわからない、かな...」

「そう」

それだけ聞くと美波は立ち上がり去ろうとする。

「美波!」

「もう、ワタシに近づかないで。アンタとは絶交よ。どこで誰と何をしようがワタシにには関係ない。......たまには瑞希に連絡ぐらいしてあげなさい」

「....ごめん、美波」

「What a shit man you are」

懐かしい言葉を最後に彼女はその場から姿を消した。

僕はそのまま仰向けになって空を見ながら考えていた。これでよかったのか?もっと平和的な解決があったかもしれない。でも、もう彼女は僕を許してくれることはない。だから、僕を忘れるきっかけにでもなればいい。それに最後のセリフと『ワタシ』に戻った一人称は僕との決別なんだと思う。

「人に謝るのって、難しいなあ」

つぶやくと、雨が降ってきた。ものすごい勢いで。このタイミングでゲリラ豪雨はないでしょ...。神様どんだけ僕のこと嫌いなの?また風邪ひいたら優子、心配するかなあ。ん?雨が止まった?違う、傘だ。

「よ、明久」

「....なんで雄二がいるの?」

「ワシもおるぞ」

「.......同じく」

いきなり現れた三人を見てしばらく言葉を失う。

「お主の言いたいことはわかるぞ。ワシらは島田が来るのを知ってての、ずっと隠れて見ておったのじゃ」

「なにそれ...」

「......立てるか?明久」

ムッツリーニの差し出した手を使って何とか起き上がる。

「うわ、こりゃまたずいぶん派手にやったもんだな。一年のとき、俺が殴った時よりひどくないか?」

「これくらい、なんともないよ」

「大変だったのう」

「......おつかれ」

こいつらときたら全く、わざわざウソなんてついて見守ってくれてるなんて。

「おせっかいだなぁ」

「なに言ってんだ明久」

『親友だろ』...じゃろ?」

秀吉が遅れて付け足したのに思わず吹きそうになる。本当にバカな友達を持ったもんだよ。

「....ありがとう」

三人はどういたしましてと、目で頷く。もう、今朝食べた味噌汁が目から出てきそうになるじゃないか。あ、今朝の記憶ないんだった。

「明久君!!」

少し遠くで僕を呼ぶ声がした。

よく見れば、優子だ...なんか、すごく濡れていらっしゃるんですが。

「って!優子傘は!?」

僕の声が聞こえてないのか、まっすぐこっちに走ってくる。......ちょ、そんなに勢いじゃっ

「ぐふぅ!?」

言うまでもなく腹にドス!と優子が飛び込んだ。ここにきて身体中の痛みがっ

「ゆ、ゆう.....」

離れるように言おうとしたけど、やめた。震えてる......。

「じゃあ俺らは帰るわ」

「うん、ありがとう三人とも」

「あとは二人でごゆっくり、なのじゃ」

「......明久」

「ん?なに、ムッツリーニ?」

優子がおなかにくっついてる状態で話してるけど、なんかすごくやりづらい......

「......このことは明日クラスにばらしておく」

「それだけはやめて!!」

「......フ」

「なにその鼻笑いは!?おーい!!」

アカン、三人とも行ってもうたで......。ちょ、これやばいんとちゃうか?ワシ、明日ホンマ、えらいことなるんとちゃうか?

「まあ、いいか」

グロテスクなんて今更だ。それに、そろそろ優子を何とかしないと、髪のいい匂いとか体のごく一部の柔らかさとか......あとこんな雨だからいろいろ透けてるしでいつ理性が飛ぶか分かったものじゃない。

「えと、優子?....おーい、優子さーん?」

返事がない。ただのしかばね.....じゃない、きれいな人形のようだ。屍を思う寸前ピクッと優子が動いた。なんで口頭はスルーでこっちは反応するんだろ?僕の思考リアルタイムで伝わってるんだろうか?

「そんなわけないでしょ」

「伝わってる!?」

僕の胸に埋まっていた顔がようやく動く。

「ねぇ、明久君」

「は、はい......?」

今さらだけど、この状況はかなりロマンチックな状況だと思う。雨の中、女の子が自分に飛びついて数分、しかもさっき告白されたばかり。その張本人の彼女から出る最初の言葉は......?だめだ、いま心臓が鳴るとくっ付いてる優子に完全にバレる!

「傘は?」

「...........」

心臓の高鳴りゲージがキュウーンと音を立てて萎んでいく。

「ええと、雄二が持って帰りました」

ごめんね雄二。さっきあんなに良くしてくれたのに。でもね、僕にも言い分はあると思うんだ。さっきあいつが持っていた傘は折り畳み式。それだけならよかった。けど実は、ムッツリーニに流されて言えなかったど......あいつの左手には間違いなく、僕が不登校になる前に置いてた傘があった。

「お前らこの雨の中何をしとる!??」

声の先には鉄人がいた。やばい、この状況はいろいろとやばい!優子も驚いてすぐに離れる。

「吉井、どういうことか説明してもらおうか?」

「え、え~と、それは......」

「西村先生、これは違うんです!」

「ほう、何が違うと言うんだ?木下」

「優子?」

僕が何も言わないでいると優子が語り始めた。

「吉井君はその、さっきまで錯乱していて!それで......いろんなところに体をぶつけていたので止めました!以上です!!」

流石にそれは厳しんじゃないだろうか。ていうか錯乱って。鉄人も疑いの眼差しをして......

「なるほど、それは仕方がないな」

信じた!?

「そういえばさっき、保健室の先生がカギを閉め忘れたそうでな、まだ開いていているから使っていいぞ。体操服の予備もあるから着替えるといい。使い終わったら閉めずにそのまま帰るように。体操服は後日洗って返せ。傷の手当もしてやるといい」

「はい、ありがとうございます」

な、なにこれ?鉄人がこんなにやさしいなんて.....優子の優等生パワーなのか?

「じゃあ、俺はこれから出張だからな。......吉井、変な気を起こすんじゃないぞ」

あ、よかった。僕は全く信用されてないや。鉄人は急いでいたのか駆け足で帰っていった。隣で優子がヘクチッと可愛いくしゃみをしていた。優子まで風邪引いたらさすがにまずいな。

「じゃあとりあえずそっち行こうか?」

「......へ、変なことしないでしょうね?」

「し、しないよ!たぶん」

「たぶん!?」

なぜか僕らは妙に和やかな雰囲気だった。優子やみんなのおかげ、というやつだろうか。

 

 

 

 

 

 

 




明久君はまたも強引に立ち直ります...


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温もり

どうもお久しぶりです!

お気に入り登録がとうとう90件に入りました!目標まであとすこし.....



執筆については思ってたより時間がかかってしまって申し訳ないです.....

今回もだらだら書いてます。そしてもうすぐ戦争!と自分も活き込んでいたのですがもう少し先に延ばそうと思います。勝手な作者で本当にもうしわけないです。




「うわ、ほんとに開いてた」

鉄人の勧めで保健室に来た僕と優子。まさか本当に開いているとは思わなかった。

「......どうでもいいけど防犯的に大丈夫なのかしら?」

優子が身も蓋もないことを言う。

「あ、でもさっきまでだれかいたみたいだよ?ストーブの上にヤカンが......」

ストーブの上で沸騰しているヤカンが部屋の中央にあった。

「きっと沸かしたけどすぐ帰っちゃたんでしょ。火も消えてるしね。...あった。はい、これ明久君の分」

「あ、ありがと」

優子から体操服とジャージが手渡される。

「じゃ、早く着替えましょ。あ、覗いたら酷い目に合わせるから」

「ら、らじゃあ~」

そのまま「シャー」と閉まるベッド間のカーテン。なんだか素気ないようなきがするなぁ。なんかしたかな....。

とりあえず着替えよう。

(よう明久)

(やあ悪魔、最近はほんとによく出てくるね。)

(そう言うなって。せっかくお前の背中を押しに来たんだから)

(何のことか僕にはわからないや。はっはっは)

(そうかそうか、なら隣に耳を澄ませるといいぞ)

(隣?そっちにはカーテンしかないよ。何を言ってるんだか)

そう、そんなはずはなく隣では優子が着替えをしている。ベッドを濡らさない為か床にペシャ、ペシャと制服が落ちる。そこにはスカートとシャツが落ちているのが見えた。ということは今優子は......。

(この野郎!僕が必死に考えまいとしていたことを!!)

(だから言ったろ?背中を押しに来たって)

(こんな押し方しなくてもいいじゃないか!一応僕の分身でしょ!?)

(明久、お前は重要なことを忘れているぞ。......俺は悪魔だぞ?)

(こんちくしょー!!そうだ!僕の天使は?!)

(あぁ、あいつは日曜しか出てこないぞ)

(何してんだよ僕の良心!!バイトのシフトより少ないってどういうことだよ!)

(まあまあ、落ち着けよ明久。今お前がするべきことはそうじゃないだろ)

(はっ!そうだ早くしないと優子の着替えが終わる!!)

すぐにしゃがみこんでカーテンの下からのぞけそうなところを探す。

(ほんとお前って扱い易いな)

くそ、折れるタイプのカーテンだからめくることができないっ!!

(じゃあ、後はゆっくり怒られてくれ)

(え、なにが)

「明久君、どうかしたの?」

「へ!?」

まずい気取られたか!?

「大丈夫?開けるよ?」

「ちょ、ちょっと待っ」

 

抵抗する間もなく『シャー』と開くカーテン。

 

床に這ってる僕と既にジャージに着替えた優子の目が合う。

 

「「..............」」

「明久君、何してるのかな?」

「え、えっとこれはその......」

ま、まずい。これはどうにかしないと!

「.........み、見たの?」

「え?」

「だ、だからその、着替え.....」

「神に誓って見ておりません!!」

バッと条件反射で土下座をする。やっぱり悪魔の声に耳を貸したのが間違いだった!!

「......ほんとに?」

「本当です!」

「ふ~ん」

土下座で顔が見えないけれど、きっと疑われているだろう。

「じゃあ、床で何してるの?」

「え、え~と」

なにか上手い言い訳は......そうだっ!前にマンガで読んだあれだ!!

「マイブームです!!」

「.......」

お、おや?返事がないぞ?顔を上げて確認したいけどそれはできない。

だって言葉にしなくてもなんかやばい気迫が伝わってくるんだもん!!優子の後ろに怒り狂った鉄人がいるの?

「......いま、正直に言ったら許してあげなくもないわ」

「ごめんなさい覗こうとしました!!!でも一ミリも見えてません!!」

「そう、覗こうとはしたのね」

「は、はい」

(まあ、さすがに男の子の隣で着替えるアタシもアタシよね......。でも覗きはいけないことだしね。いじわるしちゃおっと♪)

「顔を上げて、明久君」

「はい......」

やっぱり覗きはだめだよね。幻滅されたかな?殴られる程度で済めばいいけど......

「心配しなくても許してあげるわよ。質問に答えてくれたらね」

「へ?質問?」

それだけで許してくれるの!?殴られて折られないどころか怒られもしないなんて!僕が言うのもなんだけどそれっていいのだろうか?だって、ほら、ねぇ?

「あの、質問って?」

恐る恐る聞いてみる。

「うん、そんなに見たいものなの?」

うわぉ......

「答えてくれないと、明日西村先生に言っちゃおうかな~?」

「殺生なっ!」

くそう!そうきたか!

「そ、それは......」

「それは?」

どう答えるべきなんだろうか?もう言い訳をすることはできない。ていうか優子みたいなかわいい子が隣で着替えてて見るなって方が無理な話だ。それに優子も自分が可愛いって自覚してるんだろうか?男のすぐ近くで着替えるなんて全く。相手が僕だったからよかったものの、前の夜の事もあるし、優子はもうちょっと男性との距離感ってものを......ん?僕さっき優子に告白されたよね?冗談なんて雰囲気じゃなかったし、何よりこんなしっかりして可愛い子が2.3日やそこらでそんな気持ちを抱くはずもない。

「あ、あの、ちょっと、明久く...」

ていうことは、あの夜どころか僕が行方を眩ませるより前から僕のことを......

「明久君!も、もういいから!!」

「へ?」

「うぅ、あたしが悪かったわよ~...」

「優子?」

なぜだか優子が両腕で顔を隠している。隙間から見える部分からでも分かるくらい顔が真っ赤だ。

「ど、どうしたの!?まさか風邪!?」

「ちがう!違うから!」

否定したと思えば僕を警戒するように部屋の端っこに素早く逃げる優子。......なんか猫みたいでカワイイな....

「あーもー!!それよそれ!」

「え、何が?」

「口に出てるのよ!いい加減気付けこのバカ!!」

 

『...............』

シーンと効果音が流れそうな静寂。

えっと、彼女は今なんと?

「まさか、こんなカウンターが来るなんて......」

とうとう優子は膝を抱えて丸くなってしまった。

「えっと~聞こえてたって、どこから?」

冷や汗が止まらない。

「か、かわいいとか......あといろいろ......」

「.............」

「ちょ、ちょっと、なんか言ってよ。さぼりだと思われるじゃない」

何が?

「まぁつまり、その......そういうこと、かな...」

「......明久君、元気だね。落ち込んだりしてないの?」

唐突な彼女の質問。いつもなら誤魔化すところだけど、優子にそれはしたくないと思った。

「うん、もうみんなに迷惑かけたくないし、自分でもよくわからないけど......なんか、すっきりした気分なんだ」

そう、僕の気持はなぜか軽かった。本当は美波に罪の意識を抱くところだろうけど、もしかしたら殴ってもらったおかげで憑き物が落ちたのかも知れない。けどそれとは違ってなんだか喉に物が詰まっている感覚がする。これはなんだろう?

「......そっか。うん、ならいいや」

「え、いいの?」

「アタシがどうこう言うことでもないでしょ?」

「......ありがとう」

「なに言ってるのよ、ほら手当するからそこ座って」

「う、うん」

いつの間に取り出したのか手には湿布や消毒液があってテキパキと手当をしてくれる。底知れないな、この子は。

「っ!」

「あ、ごめん。沁みた?」

「い、いや大丈夫ですはい!」

「?どうかした?」

「いえ、何も......」

言えないですよね、一生懸命手当してくれてる女の子が前屈みになって、その......服のサイズが大きいのか見えちゃいけないものが見えてるなんて。僕には言えません。そうだ!目を閉じればいいんだ!

「え!?そんなに痛かった!?」

ミスった!これじゃ逆効果だ!

「明久君、大丈夫?」

心配そうに下から覗き込んでくる彼女。それは反則なんじゃないかと思う.....

「だ、だいじょうぶだよ。手当してくれてありがとう!」

「あ、うん。どういたしまして」

半ば強引に会話を終わらせて後ろを向く僕。ふう、あれ以上は危なかった。

「ねぇ、明久君」

「ん?なに?」

「......えい!」

優子の声といっしょに首に何か巻き付いてきた。これは、腕?てことは

「優子?」

文字通り優子が僕に巻き付くような状態になっている。って、ちょっと!?

「あ、あの何して」

「んん~こういう時は人の温もりがいいんじゃないかな、と思って」

言い終わる前にすぐに返事が返ってくる。はて、彼女は何をいっているのだろうか?

あぁ、温かい。彼女の腕や体から伝わってくる熱がとても気持ちいい。

「......ぅ....あれ?」

気づけばまた涙が流れていた。どうやら最近の件で僕の涙腺はどうかしてしまったようだ。

「......美波も、どこかで、泣いてるの、かな......」

「どうでしょうね、でもきっと大丈夫よ。少なくともあなたは間違ってないわ」

「っ!!」

彼女の言葉が深く、深く胸に染みる。僕は優子に、支えられている。優子の体温が、優しい言葉が、頭を撫でてくれる仕草も、全てが愛おしく思えた。そうか、これが『好き』なんだ。

「ねぇ、優子」

「ん?」

腕をほどき彼女と向き合う。

「............」

「優子?」

けれど彼女はこっちを向いているようで向いてない。ぽかんとした表情のままの目線は僕の後ろみたいだ。後ろは....出口?

「いや~まさかこんなことになってるとはね~」

「ウンウン、アキヒサはやっぱりオモシロイネ!」

そこには優子と同じAクラスの工藤さんと、留学生のリンネ君がいた。

 




感想ご意見、募集してます!

ツイッターはじめてます!アカウントはハラミハラ@sumikosirokumaです!
絡んだりしてくれるとうれしいです^^


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意外な組み合わせ

や、やっと投稿できました......
本当は先月には投稿中には投稿したかったのですが、いろいろ忙しくなってしまい...。
それと、今回は話の変わり目なので字数が少なめです。最近謝ってばっかりですね。もうちょっとしっかりしなければ....
さて!こんなしがない作者でございますが、なんと!お気に入り件数が98人!!
目標の100件までほんの少し...。
ここまで読んでくれた人たちとこれから読者になってくれるかもしれない人たちのためにも頑張ります!!


「ちょ、ちょっと愛子!これはちがっ......!」

「いや~薄々気付いてはいたけど、優子と吉井君がねぇ~。」

僕たちを交互に見てニヤニヤするのはボーイフィッシュな工藤さん。僕の知る限りムッツリーニの次にエロい人だ。

「優子にもあんな乙女チックな一面があるなんてね~。あっはっは!!」

やめて!優子がタコみたいになってる!!とりあえず話題を変えないと!

「えっと、工藤さんたちはいつから......?」

「最初からダヨ」

僕の疑問に答えたのは留学生のリンネ君。飛び級で来ているから年齢的には中三ぐらいらしい。

「最初からって?」

「?そのままの意味ダヨ?アキヒサ達が保健室に入って「必死に優子の着替えを覗こうとして「ネーチャンを口説いて「優子の胸凝視して「抱きついて「そして目が合ったっ....。てところまで」

『全部見てました☆』

工藤さんとリンネ君が口々に説明する。ふむふむ、とてもわかりやすい......って、はぁ!?

「....ぅ....あ、ぁ...」

墓穴を掘るとはまさにこのこと。優子は耐え切れなくなって言葉を失っていた。ちなみに僕は心にシャッターを閉めたので何のことか分からない、分かりません分かりたくない分かってたまるか!!

「ホントにたのしいなぁ、人をいじるのは」

「ネーチャン、そろそろお湯モッテイカナイト」

「あ、そうだった」

工藤さんがストーブの上のヤカンを取る。

「水泳部の先生がね、高いお茶買ってきたからお湯入れて来いって言われてね。ちょっと席を外したらこんなことになるなんてね。じゃあ行こうか、リンネ君」

「アイサー!」

「あ、吉井君」

部屋から出るところで工藤さんが止まった。ん?

「元気そうでよかった」

ニッと笑って彼女たちは部屋から去った。

どうやら彼女も心配してくれていたみたいだ。今度Aクラスにお菓子でも持っていこう。

「見られた....全部見られた.....アタシの優等生イメージが.....」

......とりあえず優子を直すのが先みたいだ。

 

 

 

 

――――――愛子side

「それにしても優子と吉井君可愛かったなあ」

「ネーチャン、アレはやりすぎだったんじゃない?アキヒサ完璧に固まってたヨ」

「あはは、そんなことを言う君には先生の紅茶あげないぞ~?」

「ソレハヒドイ!......なんて嘘のくせに」

「んん~?聞こえないなぁ」

そう、水泳部の顧問が~なんて話は真っ赤の嘘。リンネ君と会ったのも全くの偶然。......この時間に何してんだろこの子。

「ヒトの恋路をジャマすると死ぬらしいよ?」

「じゃあリンネ君も死んじゃうよ?」

「ア、ソレモソウカ」

そりゃ、あのままずっと見てるって手もあったけど......

「いや、あのままだと一線超えてたよね......絶対」

「?ナンカいった?」

「別に何も~」

「アヤシイ......」

「細かいこと気にする前に自分の言葉遣い気にした方がいいんじゃないの~?」

カタカナと平仮名と漢字がバラバラな辺りを特に......。

「オイラのセキニンじゃないからいいんダヨ」

一体誰の責任というのか

「それよりリンネ君こんな時間になにしてたの?」

「ア、クソババアのところに行くんだった!!」

「君は間違いなくダメな方向に成長してるよ......」

「ソレハオイラも自覚してる」

自覚してるんだ!?

「じゃあオイラはもう行くね~」

そう言うとさっさと走って行くリンネ君。

この学校もまだまだ面白くなりそうだなあ。

「......このヤカンどうしよ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に保健室のヤカンは妖精が職員室の前まで持って行ってしまうという七不思議が誕生したのは、また別の話。

 

 

 

 

 

 




感想ご意見があればよろしくお願いします!


最近ようやく―――――――――の使い方を覚えました。これでちょっとは小説も書きやすくなりますかね


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秀吉

お久しぶりですハラミハラです!
テスト期間と言う地獄から解放されようやく投稿することができました!
最近忙しくてなかなか執筆の時間が取れないので、また次の投稿にも時間がかかると思います....。
では、久々ですが本編よろしくお願いします!





それにしても大学生は暇とか言ったの誰ですか.....


翌日  Fクラス教室前

 

 

 

「おはよ秀吉~」

朝の廊下で秀吉に会った。

「おはようなのじゃ、明久。昨日は大変じゃったのぉ」

「そうだね、あのあと優子は大丈夫だった?」

昨日は優子を直せなかったからおぶって家まで連れて行った。秀吉はまた泊まるかと提案してくれたけど遠慮させてもらったのだ。意識してしまった女の子と同じ家はさすがにまずい。

「うむ、正気に戻った後は顔を真っ赤にしておったが、まあ大丈夫じゃろ」

「そっか、それはなにより」

よかった、心が折れてなくて。

「それより明久、今日はずいぶん早いの?まだ部活の朝練習が終わる頃じゃぞ?」

「はは、後七日休めば留年だからね」

そう、休みすぎたおかげで僕は留年スレスレなのだ

「お主は苦労が絶えんのぉ......む?誰か教室におるの?」

「あれ、ほんとだ」

教室の中から話声が聞こえる。こんな時間に人がいること自体珍しいのに。

『...本当か?』

『オイラも流石に高城があそこまでやると思ってなかったからね。これは教えとかないとってネ』

『そうか、それでお前はなにが狙いだ?』

『それはいろいろだヨ』

『ほう?』

『ダイジョウブ、悪いことにはナラナイヨ』

この声は雄二と、リンネ君か?とりあえず教室に入ろう

「おはよう、二人ともどうしたの?」

「おう、明久か。じゃあ坊主、今日はここまでだ」

「ウン、それじゃあねアキヒサ」

僕が入るとリンネ君はそそくさと出て行ってしまった

「もしかして邪魔した?」

「いや、大丈夫だ。それよりずいぶん早いな?」

「なにがあってもいいようにね、そっちこそどうしたの?」

「俺はまあなんだ、種まきと言ったところか」

珍しく雄二にしては歯切れが悪い。けど、コイツなら大丈夫だろう。

「じゃが、こんなに早く来てもすることがないのぉ」

「おう、秀吉もいたのか」

「ずっといたのじゃ......」

秀吉がガクリとうなだれている。うん、今日も可愛い。

「そういえば秀吉はどうしたの?」

「ん、ワシか?演劇部の朝練にきておったのじゃが、道具が足りないから早めに切り上げることになったのじゃ」

「そうか、じゃあなんかするか?」

「.....雄二」

「授業まで暇だからなぁ。大富豪か、いや簡単にババ抜きなんかでも」

「.....雄二」

いつの間にか来ていた霧島さんが雄二を呼んでいるけれど、雄二は反応しない。聞こえていないのかな?

「ゆ、雄二?霧島さんが......」

「ん?なんだ明久。なにか面白いゲームでも――――――――」

「.....」

「ぐぎゃあああぁぁ!?な、なんだ!?いったい何が!」

あ、とうとう我慢できなくなったみたいだ。ちなみに雄二の身に何があったかは目を背けてしまったのでお伝えできません。

「し、翔子か!?俺が一体何をした!?」

「......わからないなら体に教えてあげる....!」

「ぐあああ!ス、スマン!俺が悪かった!!」

「......そう」

「ハァハァ.....」

「雄二、早く何かしゃべらないと興奮してるオジサンみたいだよ」

「お前は今のを見てかける言葉がそれなのか!?」

いや、見たくなかったんで

「それにしても霧島はずいぶんと積極的になったのぉ、まあ付き合っておれば無理もないの」

「これを積極的で片づけるなよ秀吉、俺からすれば悪化だぞ......。というか元からこんな感じだったろ」

「......雄二が無視するから悪い」

「じゃが霧島よ、さすがにこれでは雄二の体が保たないぞ?」

「......少し、気を付ける」

............は?

「おお、秀吉の言うことはちゃんと聞くんだな」

「(コクッ)木下は私たちの恩人」

「ま、それもそうだな」

「......あ、雄二お弁当」

「お?忘れていたのか、スマン助かる」

「別に....」

「最近ワシにも霧島がどこで照れておるのかわかるようになってきたぞい」

さっき秀吉はなんて言った?霧島さんと、雄二が......付き合っている?

「え、え~と雄二?一体どういう」

「あぁ、お前にはまだ話をしていなかったな。俺と翔子は付き合っている」

僕の言葉をさえぎって雄二の返答が来る。決定的な返事を。

「............」

「お、おい、明久?」

「ブツブツ.....」

「んむ?何か言っておるぞ?」

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」

「やべぇ!こいつ目がマジだ!!」

「死ねぇー!」

「ぐふぅ!?...テ、テメ...」

渾身の力で打った拳が雄二の鳩尾に入る。けどこんなのじゃまだまだ足りない、何かコイツの頭をかち割れそうなものは―――――――

「うぃ~す」

「ふぁ~ねみぃ」

「朝から授業とかだるいよな」

「だな、なんか面白いことでもねえかな?」

「もうすぐ試召戦争だろ?」

キタァーーーー!!

「皆、聞いてくれ!ここに異端者がいるぞ!!」

『『『どこだ!!!??』』』

一瞬にして黒マントを着て釘バット、チェーンを構えて僕に詰め寄るクラスメイト。こいつらほど結束した集団は他にいない!

「坂本雄二だ!こいつは正式に霧島さんと付き合っている!!」

さぁ、みんなでこいつを殺ろう

『『『.........』』』

皆に告げた途端空気が萎んでしまった

「え?ちょ、ちょっと!みんなどうしたのさ!?」

これ以上はないくらいのネタなのにどうしてみんな無反応なんだ!?

『あ、そうか吉井は知らないのか』

『みんなそのことは知っているんだよ』

「なんだって!じゃあどうしてこいつを生かしておくんだ!今すぐ遺体にしてコンクリート詰めして海に沈めないと!!!」

「お、落ち着け吉井。お前の気持はよくわかるが......」

FFF団会長の須川君が語りかけてくるのと同時に目線が横へ動く。その先には秀吉がいた。

「秀吉......?」

「......」

秀吉は笑顔だけど、笑顔だけれども、なぜかその笑顔からは威圧という言葉が甘く思えるほどの迫力に満ちいていた。体がチクチクと痛むような緊張感が教室を覆っている。

「あーぁ、俺は知らねえぞ明久」

「ゆ、雄二?これはいったい」

「.....のぉ、明久」

「ハイっ!?」

秀吉がゆっくりと喋る。こ、ここ怖いぃぃ!!

「もうFFF団なんてものはやめた方がいいと思うのじゃ。あんなにも不毛な争いは他にあるまいて」

え....?FFF団が、なくなる?

「そ、そんな秀吉!それじゃあこれからどうやって異端者を裁くのさ!?」

「どうもせん。嫉妬する者は真面目になってさっさと思い人に告白すればよいのじゃ」

「そ、そんなのできたら苦労しない!みんな!皆も雄二に嫉妬しているでしょ!?それに昨日だって襲ってきたじゃないか!」

秀吉がなんでこんな連中を抑えれているのか分からないけれど、みんなは納得していないはずだ!

『あ、あれは坂本から事前に事情とかいろいろ聞いていたし......』

「明久、もう無駄な抵抗はやめるんだ。どうして俺が翔子と付き合って生きていられると思う?」

「そ、それは......」

だめだ、何も言い返せない。

「しかしの、明久。ワシはこうも思うのじゃ。Fクラスはもともと頭を使っておらんから体力が有り余っておる。じゃからそのエネルギーが嫉妬へ向かっても何ら不思議ではない」

「だ、だったら―――――――」

「じゃが!それを他人にぶつけるのは間違っておる。そうじゃろ?」

「確かに、それはそうだけど......」

「やれやれ、まだ納得できんか。ならばお主には皆の怒りのはけ口にでもなってもらおうかのぉ。......ムッツリーニ」

秀吉がパチンッと指を鳴らすとすぐそばにムッツリーニが音も立てずに現れた。こいつ実はアサシンとかじゃないだろうな

「......これが昨日の戦果」

「かたじけない」

ムッツリーニが何か封筒のような物を渡す。なんだろう?

「うむ、上出来じゃ。明久これを見るのじゃ」

「そ、それは!?」

秀吉に魅せられたのは写真。それに写っているのは雨の中僕に抱き付いている優子の姿だった。

「こ、こんなものいつの間に!?ていうかあの時みんな帰ったんじゃなかったの?」

「......あんな面白い状況で帰られるわけがないっ!」

「チクショウ!てことは全部見てたのかよ!」

「......工藤愛子が参戦してから笑いを堪えるのに必死だった」

「うああぁぁ!」

僕の尊厳はいったいどこへ......

「こ、こほん!もうわかったじゃろう明久?納得しないのであればこれをクラスにばら撒くぞい」

「そんなことをしたらお姉さんにまで被害が及ぶかもしれないじゃないか!!秀吉はそんなことができるの!?」

「ショタコンや同性愛に比べればかわいいもんじゃろ」

「せ、説教されるかもしれないし......」

「ふっ。わし一人の犠牲で収まるなら本望じゃ。言いたいことはそれだけかの?」

ぐぅ!何も言葉が出ない!暇そうにしている奴にアイコンタクトを飛ばす

(雄二!秀吉はどうしちゃったの!?)

(わからんが、秀吉もずっとこのクラスを傍観してきたからなぁ。いろいろ我慢の限界だったんじゃないか?)

言われてハッと気づく。秀吉は今までFFF団に参加することもなければ誰かを殴ったりすることもなかった。そんな彼?がクラスメイトが殴り合いしたり互いに互いを貶めているのを見てるのは実はかなり辛かったんじゃないだろうか。そう思えばもう胸の中には罪悪感しかなかった。

「ごめん、秀吉....僕が悪かったよ」

「わかってくれればいいのじゃ」

秀吉とギュッと握手を交わす。これからできるだけ秀吉の前ではFFF団はやめておくか。

「....そうじゃ、いいことを思いついたぞ明久」

「ん?なに?」

「これから明久が何かしたら姉上に報告すればいいのじゃ!我ながら妙案じゃの♪」

「ちょ、ちょっと待ってそれは困る!!」

「困るのならば何もしなければいいのじゃ~」

鼻歌交じりに機嫌よくステップする秀吉。か、かわ......じゃなくて!!

「~♪」

なんか、もういいかな?楽しそうな秀吉を見てるとそう思えた。しゃーないFFF団は廃止に.....

(俺たちはまだあきらめてないからな!吉井!)

(そうだ!今は木下に逆らえないが、いずれは.....!)

(また俺たちの新しい一歩が始まるんだ!)

(幸せなカップルを放っておけるもんか!)

(そうだそうだ!)

みんな.....やっぱり、Fクラスはこうでなくっちゃ!けれど今は彼らのアイコンタクトを無視する。だって

「ほほぅ?まだ絞り足りん輩がおるようじゃな.....?

⦅すいませんしたぁ!!⦆

ほらね......仕方ない、フォローしてやるか

「ほら秀吉もうすぐチャイムが鳴るよ?」

「む?そうじゃの」

「ほらほら~早く着席しないと」

「なぜそんなに急かすのじゃ?」

「まー!まー!いいからいいから」

秀吉を席までぐいぐいと追いやる。

やれやれ、これからどうなるんだこのクラスは。あ、写真は今度取り返さないと。

 

 

 

 

 



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自習

何とか二月中に投稿することができました!
お気に入り件数が増える度にすごく励みになります!毎度のことながら読者の方々には頭が上がりません。感謝感激です!
ここから先はいっきにキャラが増えるので、至らない点にご指摘があると大変うれしいです。
では今回もお願いします!


「試験召喚システムのメンテナスによりかなりの人でを要する。よって今日は全授業が自習になる。各々勉強に励むように!」

朝のHLに鉄人からそう告げられた。授業がないのは以前の集会で知らされていたからそれはいい。問題は手元に配られた紙の束である。

『先生!この紙の束は何ですか!?」

生徒の一人が鉄人に質問する。これは紙の束という表現で収まる物なのだろうか?英語の辞書三つ分は余裕でありそうだ。

「それは今日のノルマだ」

ノルマ......?

「その課題をクリアできなかった奴はさらに倍の課題をだしてやる」

『なんだって!?』

『こんな大きさ本当にできるのかよ!?』

『先生!これはあんまりです!』

鉄人の言葉を受けると同時に教室中が一斉にざわめき出す。

「やかましいっ!普段の貴様らの授業の出席率、補習の脱走!さらには学園祭や体育祭での騒動を考えれば当たり前だ!」

さっきとは正反対に教室が静かになる。うん、それを持ち出されたら誰も口を開けないね......。

「ありえねぇ......こんなの絶対に不可能だ.....!」

隣では過去に神童とまで呼ばれた雄二が頭を抱えている。雄二でも無理ならこれはやっぱり

(雄二、逃げよう)

(そうだ坂本!こんな理不尽な課題やってられねえって!)

(逃げるのか!?それなら俺も混ぜてくれ!)

(俺も俺も!)

鉄人にばれないように雄二にアイコンタクトを送り気付いた皆も雄二に期待の眼差しを送る。

(.....いや、今回はやめといた方がいい)

(雄二!?どうして!)

(考えてみろ明久。奴の今まで自習や補習は厳しい物だったが、どれもきちんと夜になる前には終わるようにはなっていた)

「!?」

皆が同時に驚くのが伝わってきた。どうやら雄二だけが知っていたようだ。

(だというのに今更この分厚い鈍器のような課題の量、それに鉄人が珍しく出席日数の話を持ち出したこと。これはつまり)

雄二はゆっくりと僕らに目を向けて、語る。

(俺たちの進級はかなり危ないということだ......)

(そんな、俺たちの進級が危ういだって?)

(そんなのは嘘だと言ってくれ!!)

(嫌だ!吉井と一緒に留年して同じ扱いにされるのは嫌だ!)

なんだとこら

皆は旋律していたけれど、僕の成績は元からギリギリだったからそれほど驚きはしなかった。

「ほう、さすが坂本だな。きちんとわかっているじゃないか」

......え?いまの声は、鉄人?

「鉄人、まさかてめえ......!」

「ふん、半年以上お前らのアイコンタクトを見ていればこっちから読むことなど容易いわ」

『なにぃ!!?』

教室がまた一斉に騒がしくなる。そうか、僕らが編み出したアイコンタクトはほとんど鉄人から逃れるために使っていた。だから鉄人もこれを習得してもおかしくはない......!

「あいつ、人間じゃねえよ......」

ばれない自信があったのか横で雄二がうなだれている。朝に晴れなかった気が少し、晴れた。

「坂本の言った通り、吉井だけではなくお前らの成績はかなり危ないとこまで来ている。だからこれはそのための救済処置だ」

「西村教諭、なぜワシの課題は皆と違って少ないのじゃ?」

離れた席でずっと大人しくしていた秀吉が手を挙げる。本当だ、秀吉の課題は僕らのものに比べて半分は薄い。

「お前は前回の戦争で平均点をあげていたし、悪事への賛同率が最も低いからな。そういう評価がないと不公平だろ?」

「恐悦至極なのじゃ!」

おぉ!秀吉が土下座をするなんて!!

「そういう訳だから全員きっちり課題をこなすように。以上!」

言い終えると鉄人は教室からそそくさと出て行った。忙しいのはほんとのようだ。

「これ、どうしよっか......」

「どうするも何もやるしかないだろ」

「そうだよねぇ、はぁ......」

 

 

カリカリカリカリカリ

 

僕らが課題に手を付け始めると皆も察したのかペンが動く音しかしなくなった。なんか、静かなFクラスって退屈だなぁ

「......ねえ雄二」

「なんだ?」

「だっそ「やめとけ」まだ言ってないのに!!」

「どうせ脱走を持ちかけようとしたんだろ?留年したけりゃ一人でやれ」

「つれないなぁ」

「俺はお前と違ってバカじゃないからな」

今さらどの口が言うか。

「まあ明久の集中力がチンパンジー並みなのは仕方ないが、さすがにこう静かだと落ち着かないな」

「誰がチンパンジー並だ!!五分くらいもつよ!」

「幼稚園児でももう少しいけるぞ......」

「あーぁ、なんか面白いことないかなぁ」

「おい!これはさすがに否定しなきゃいけなんじゃないか!?」

人には得手不得手があると思う!

「なんじゃお主ら、進んどらんのか?」

「あ、秀吉。今ちょっと休憩中」

僕らの会話を聞きつけたのか秀吉が僕らの席へ来た。畳の部屋はいちいち立たなくていいからこういうところは楽だ。

「一ページも終わってないではないか」

「雄二が邪魔するからなかなか進まないんだ」

「どっちがだ!」

そう言いながらも雄二はテキパキと課題を進めていく。なにか早く終わらせたい事情でもあるのだろうか?

「秀吉も休憩?」

「んや、ワシはもう終わったぞい」

「ごめん秀吉、よく聞こえなかった」

「だからもう終わったのじゃ」

ケロッと言ってのける秀吉。終わったって、僕らよりは少ないにしてもすぐに終わるような量じゃなかったと思うんだけれど......。隣で雄二もペンを止めて目を見開いている。

「秀吉、お前いったいどうしたんだ?勉強に目覚めたのか?」

「そういう訳ではないが、前回の戦争で悔しい想いをしたでな、姉上に勉強を教えてもっらったのじゃ」

「勉強ができるようになったからといってあの量を短時間で終わらせられるのか......?ん、お前らどうした?」

話が周りに聞こえてたせいか周囲の視線が秀吉に集結していた。

『お、おれたちにも勉強教えてください!』

『木下が教えてくれるなんて最高じゃねえか!』

『木下と、勉強会.....ぐっへっへっへ』

「秀吉、教えてあげたら?」

このクラスの連中が勉強を乞うなんて百年に一度あるかないかくらいだろう。このチャンスを逃す手はない。......一人変な奴がいるけど何かしでかしたら全員でリンチだ。

「むぅ、ほかにやることもないしの。いいじゃろ、たっぷりと叩き込んでやるぞ。っと、そうじゃ明久さっきお主にも勉強を教えてくれる人を呼んどいたぞい」

秀吉がみんなに教えやすい位置に移動する。うん?僕に勉強を教えてくれる人??

「よーし終わった!」

「ええ!?もう!?」

隣で雄二が背伸びをしている。さっき不可能だとか言ってなかったけ!?

「なんだ明久、まだ終わってなかったのか?おそいなぁ」

「そっちが早すぎるんだよ!」

秀吉も雄二もいったいどうしてしまったんだ。

 

ガラッ

 

落胆していると誰かが教室に入ってきて僕らのところへ来た。

「やっほ~吉井君、勉強はかどってる~?」

「って工藤さん!?いま自習中なのに......」

「あれ~?吉井君はそういうこと気にする真面目な子だったかな~?」

「違うわね」

「ごめん吉井君、否定できそうにない」

「優子!!それに久保君!」

「やあ、久しぶりだね吉井君。元気そうで何よりだよ」

学年次席の成績を誇るクールメガネの久保利光君だ。我がFクラスには似つかわしくないイケメン顔なのになぜか恋愛沙汰の噂を聞かない彼。この人を前にすると寒気がするのはそれと関係する気がするのは何故だろうか?

「明久君、その、昨日はありがと......」

「い、いや!あれくらい全然!」

「おやおやぁ?昨日の今日で緊張してるのかな~?もー!優子ってば可愛いんだからっ」

「ちょ、愛子飛びつかないでっ」

「いいじゃん、私と優子の仲なんだから~」

女の子同士がじゃれ合っているのはなんだか不思議と癒されるなぁ

「ていうかなんでみんなしてここに?」

「明久君が課題に困ってるから助けてやってくれって秀吉からメールもらったのよ。それでFクラスに行ってくるって伝えたら行きたいってみんなが言い出したのよ」

秀吉グッジョブ!!

「そういうことだから、よろしくね明久君♪」

「あ、ありがとう!助かるよ!」

「じゃあ僕はムッツリーニ君のところに行くね。二人でごゆっくり~「よ、吉井君!僕も君に勉強を......!」はいはーい、吉井君はおバカさんだけど相手は優子で十分だからね~」

工藤さんが久保君と一緒にムッツリーニの元へ行く。この後教室の畳に血がたっぷり沁み込むのは言うまでもないだろう。

「あれ、そういえば霧島さんは?Fクラスに行くって言ったら来そうな感じがするんだけど......って雄二もいない!?」

「ああ、二人ならさっき話して出て行ったわよ?なんでもまた代表達で会議があるみたい」

「そ、そうなんだ」

真横にいる僕が気付かないほど俊敏に会話を済ませて行ったということか......。最近はなんでも高速にやっちゃうのが流行りなの?

「じゃあこんな課題さくっと終わらせちゃおっか」

「ねえ優子、喉乾かない?何か飲み物でも買ってくるけど」

「そうやって勉強から逃げようとしないっ!これ終わらないと帰れないんでしょ?」

「う......はい」

「それとも、明久君はアタシと一緒に勉強するのが嫌なの......?」

「ぜ、全然そんなことはありません!さ、ささ、さてと!そろそろ始めようかな~」

「ふふっ♪」

優子のしてやったりと言うような顔があまりに可愛くて少し卑怯なものに思えた。

 

 

 

 

 

 

 




文字数3777字。いい感じに7がそろいました!!(どうでもいいなんて言わないで)


言い回しなどの一部編集をしました。

タイトル間違えてました!
自習2→自習です。
すみません!m(ーー)m


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会議室

はい、投稿完了しました!
皆さんお久しぶりです。
3月の終わりに体調を崩して投稿が少し遅くなってしまいました。すいません
最近はウイルスによる病気がほんとうに多くなってますので皆さんも気をつけてくだいね。


雄二side

 自習の課題をさっさと終わらせた(フリをして明久の課題にまぜておいた)俺は翔子と一緒に、二年が使う旧校舎の端にある部屋の前に来ていた。

 教室の名前は会議室。今からここで2年全代表による「試召戦争対策会議」が始まる。

「ここに来るのもずいぶん久々な気がするな」

「......実際久しぶり」

 横で翔子が頷きながら呟く。前の戦争以来だから確かに時間は一、二ヶ月ほどか。

「じゃあ入るぞ」

 翔子に告げて目の前にあるドアノブを捻る。重たそうな扉は俺たちを歓迎するように簡単に開いた。

 そして中に入ると。

「小山さん、放課後にどこか二人っきりで遊ばないか?」

「嫌よ。何で根本君なんかと遊ばないといけないのよ。どうせなら坂本君がいいわ」

「おいおい、二人ともなにしに来たんだよ。もうすぐ坂本と霧島さんが来るから落ち着けって」

「そうね、上位クラスならもっと我慢してほしいものね」

バタンッ

 気がつくと俺は無言で部屋の扉を閉めていた。

「......部屋を間違えたようだな」

「雄二、ここで合ってる......」

「あ、おいっ!翔子!」

 止める間もなく部屋の扉を開けやがった!

「大体なんで根元君なんているのよ。前の戦争で酷い立ち回りって聞いてたし、代表変えた方がいいんじゃない?」

「ゆ、優香!俺だって一生懸命頑張ったさ!」

「頑張ったって、Fクラスの邪魔を?あとキモイから名前呼ばないでくれる?」

「そ!それはえっと、その.....」

「ま、まあ小山さん。この前のことは水に流してあげようじゃないか」

「そ、そうよ。終わった事じゃないのよ」

部屋に入るとBクラス代表の根本とCクラス代表の小山が痴話喧嘩していてDクラス代表の平賀とEクラス代表の中林がなんとか二人をなだめようとしていた。なんだこれ......

「あ、坂本、霧島さん!やっときてくれた!!」

 平賀がこっちに気づくと他の面子もこっちを向く。

「坂本君、この人たちもう無理!なんとかして!」

「ちょっと、それ私の事じゃないわよね?」

「小山さんを悪く言うと俺が許さないぞ!」

「十中八九お前が原因だろオカッパ野郎」

「何だと!?これは美容師さんのお勧めで......!」

「皆、落ち着いて。会議を始めます」

翔子の凛とした声で皆が口を止める。流石学年代表だ。動じないのには多少違和感を覚えるが。

 

「......では、今回全体を取り締まる役目は」

「坂本君が適任だと思うわ」

「俺はこんな奴に任せられないぞ!」 

 小山がすかさず俺を推薦して根本がつっかっかてきた。また前みたいにコイツらの痴話喧嘩に巻き込まれるのか......。

「おれは前のように霧島さんがいいと思うな」

「そうね、私もその方がいいと思うわ」

対して平賀と中林は翔子を推す。当たり前の選択か、そう思ったが二人は俺に同情的な目を向けていた。おぉ、コイツら俺に助け船をくれたのか!!今までなんとも思ってなかったけど、こいつら良い奴らだったんだな。おっと目から汗が......。

「俺も翔子に賛成だ」

「お、なんだ坂本。代表を務める自信ないのか」

 俺には任せられないんじゃないのかよ、どっちなんだこの野郎。

「お前みたいなおかっぱ野郎がやるくらいなら誰でもいいだけだ」

「んだと!」

「はいはい、もう多数決で決まったような物だし文句言わない!小山さんも良いわよね?あと霧島さんも」

「ま、まあ皆が良いなら私もそれで.....」

「......大丈夫」

 意見が半分に割れてもめる前に中林が一喝して意見をまとめにかかる。代表になるだけあって、ただの運動バカではなかったようだ。

「坂本君?いま心の中で私のことバカにしなかった?」

「尊敬の念を送っただけですはい」

「そ。ならいいわ」

 最近二年の女子は感が鋭すぎて寒気すら覚える。なんでこいつらこんなに怖いんだよ。

「じゃあ具体的な作戦はどうする?」

 平賀が話を切り出す。そうだ、誰がまとめるかなんてことよりそっちの方が何倍も重要だ。

「....それはもう考えてきた」

前は三年の戦法にいいようにやられてしまった。今回はどうするか......うん?

「「「え...?」」」

全員が翔子の方を向き目を見開く。

「翔子、今なんて言った?」

「作戦はもうできてる」

 そう、はっきりと告げる我が幼馴染。それと同時に部屋の中が一斉にザワつく。

「ええ!?もう作っちゃたの!?」

「ダメだった.....?」

「いやダメなんてことはないけれど.....」

「そ、そうだな!結局代表は霧島さんなんだし」

平賀と中林が戸惑いながらも納得する。おいおい、こいついつの間にそんなことをしてたんだよ。それでその立てた親指はなんだ無表情でやるんじゃねえ。

「え~と、それじゃ今日の会議はこれでおしまい?」

「いや、作戦の内容を皆で確認したりした方がいいだろ」

 確かに戦争までもう時間がない。当日に作戦会議をするのもお粗末な気がする。

 でもそれはできなかった。

「失礼します。二年代表の方々」

 突然開けられた会議室の扉からある人物が入ってくる。口調は丁寧だが教師ではない、つまり学生だ。

「なんの用ですか?今は会議中なんですけど」

 中林が立ち上がり少しきつめの対応をする。それもそのはず、入ってきたのは俺たち二年の敵、というか害悪以外の何物でもない三年Aクラス代表の高城だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、誤字脱字があればよろしくおねがいします!


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交渉

皆さんこんにちわ!
まず最初にこの作品を読んでくれた人たちに心からお礼を言いたいです。本当にありがとうございます!!
なんで急にお礼かと言うと、この作品のお気に入り登録数がとうとう120件になりました!
こんな素人の小説のどこが良いと思ってくれたのか不思議で頭をしょっちゅうひねりたくはなりますが、そんなことばかり考えていては読者の皆さんに失礼なので、これからも一生懸命頑張らせていただくであります!!
それでは本編のほうをよろしくお願いします~


 試召戦争の会議中にあることが起こった。その出来事は部屋の中にいる二年全員を騒ぎ立てるのには十分すぎるものだった。

 俺たちの最大の敵とも言える人物、三年Aクラス代表、高城が突然会議室に入ってきたのだ。

「何をしに来たんですか先輩」

 一番最初に立ち上がったのは中林だった。

「今は会議中なのでどうぞお帰り下さい」

 口調は丁寧だが目は獣のようにギラギラしている。まぁ当然か、こいつを知っている奴は見るだけで軒並み気分を害されるからな。

「それは知っていますよ、中林さん。だから来たのですよ」

「なんだ?二年の女子全員を口説くためにまずは代表から落としに来たのか?」

「坂本君......どうしてわかったのですか...!」

「こいつ本物だ!本物の変人だ!!」

やべぇ、こいつそろそろ退学にでもしないと本当にやばいんじゃないのか....?

「おうおう、坂本!俺らの代表に変人とはいってくれるじゃねえか!」

「すまん、夏川。俺は反論できない」

高城の後ろから常夏コンビが出てくる。相変わらずわかりやすいモヒカンとハゲだな。

「って、坊主先輩は同級生がそれでいいのか?」

「いやーこいつが余った女くれるって言うから」

「夏川....俺らの友情はここまでだな。お前とバカやるの楽しかったぜ......」

「おい!?急に何最終回みたいなこと言ってんだ常村!?」

「よーし、二年の女子はなるべく教室の端に移動しろよ~。こいつら怖い大人だからな~」

「聞けよ!!」

 急に女を求めだしたかと思えば常夏コンビの友情が砕けて、三年から女子を遠ざけてくれた。なんだこりゃ?

「おい、どういう心境の変化だよ?」

「おお坂本か、まあ、そのなんだ、前の戦争からいろいろ反省してな。お前らにも散々悪いことしちまったなぁって」

「ア、アンタ、いったいどうしちまったんだ?」

「ふっ。俺も失恋しちまってな、少しだけ吉井の気持ちが分かったんだよ。あいつにも謝っといてくれ」

 爽やかな笑みで三年のメンツに戻るモヒカン。な、なんだ?予想外の人物が予想外の方向にいっちまったぞ。

「まったく、やっぱりあなたたちでは話が進みそうにありませんね」

「こ、小暮先輩!?」

 さらに会議室に入ってきた人物に真っ先に反応したのは小山だった。

 入ってきたのは三年の小暮葵。翔子にこれでもかと言うほど色気を足したような人物。小山が反応したのは茶道部の先輩だからだろう。

「二年生の皆さん、お久しぶりです」

「くおっ!?」

 お辞儀と一緒につまんであげられたスカートに反応するおかっぱ。

「誘惑されてんじゃないわよ!」

「さ、されてないよ小山さん!だからパイプ椅子で殴らないで!!」

 小山のヤツ、なんだかんだでジェラシーとかあったんだな。おかっぱもあの程度で動揺するなんて子供だなぁ。

「......雄二、さっきから見すぎ...」

「うわっ!翔子!見てない見てない!ちょっとしか見てないから!」

「後で、お仕置き......!」

やばい、翔子の目がいつもの何割か増しで怖い!

「ではそろそろお話を戻してもよろしいですか?」

「あ、ああ、そうだった。そもそもあんたらは何をしに来たんだ?」

「私たちはあなたたちに提案をしにきたんですよ、坂本君」

「提案だと?」

「ここからは私が説明しますね」

 高城が再び前に出てくる。いまさら俺らに何を提案するつもりだ?

「私たちが勝ったら二年の全ての女子生徒を好きにさせてください」

..........は?

 突然の発言に二年どころか三年の面々も口を開けて固まっていた。

「お、おいあんた何言ってんだ?とうとう頭おかしくなったのか......?」

「いえいえ冗談ではありませんよ?私は全ての女子と交際を経験して姫路瑞希嬢に不満を抱かせないようにですね」

「高城君そろそろ黙りなさい」

「おや、どうしましたか小暮葵嬢?あ、すいません。男子も条件に入れないと不公平でしたね」

「誰がそんなことを言いましたか!?私はモテるから問題ないんです!!」

 おお、珍しく小暮先輩が髪を振り乱して怒っている。最後の発言は聞かなかったことにしよう。

「まったくあなたという人は...。さっさと本当の目的を教えてあげなさい」

「それはさっき申し上げたはずですが?」

「あら、高城君。あなた自殺願望でもあるのかしら?」

「いえ、大変失礼しました」

 冷静な顔以外あまり見せることがない高城の頬に冷や汗が流れていた。正直見てる側からしてもかなり怖い。

「こ、こほん。さっきの続きですが勝ったときの景品として教室変更に加えもうひとつ条件を加えてほしいのです」

「何だ?言っとくがまた誰かを転校させるとかだったらぶっつぶすぞ?」

「まあまあ、落ち着いてください。先生方の提案で今回の戦争で倒さなければならない代表は一人のみと決定されました。なのでその人を倒した人は相手学年の人物に誰でも、何でも命令できるというのを付け足したいのです」

「おい、ちょっとまて。その代表がどうとかいうのは聞いてないぞ?」

「はい、私たちもさっきホームルームで説明されました」

ホームルーム?鉄人の口からはそんな話題は出ていないはずだが...?回りを見るとみんなも首をかしげていた。

「今回の準備では二年担当の先生が大変負担が大きいようですから伝え忘れているのでは?一応言っておきますが嘘ではありませんよ?」

 高城の顔を見る限り嘘をついているようには見えなかった。俺たちが知らなかったことに多少困惑しているようだ。

「それで、条件は受け入れてもらえますか?」

「はっ!そんなの無理に決まって「わかった....」翔子!?」

 一蹴してやろうと思ったら翔子が肯定した。

「おいなんでだ!?もしこいつに負ければまた誰かが被害を受けるかもそれないんだぞ!!」

「わかってる。でも私たちは負けない。そこのクズには死ぬより酷い目にあってもらう....!」

翔子の目には確かな覚悟があり、その目には高城が映っていた。姫路のことを思って苦しんだのは明久だけじゃないってことか。

「それでは承諾を得れたことですし、皆さん帰りましょうか」

 その言葉で三年の面々は会議室から出て行く。やれやれ、やっと終わったか。

「ちょ、ちょっと!あの提案受けていいの!?なにされるか分からないのよ!?」

 中林が文句を付けてきた。まあ高城が何か命令できるなんて女子からしたら怖いものだろう。

「大丈夫だ、おそらく奴がなにかするとしたらFクラスの誰かに対してだ。女子には被害はいかないだろう。それに俺たちは負けねぇよ」

「なんでそんなことが言えるのよ!?」

「.....俺は小学校から翔子と一緒にいたが、あいつのあんな顔見たことねぇよ」

翔子は白紙の用紙にものすごいスピードでペンを進めていく。

「まさか、今から作戦を作り直しているのか?」

「そ、そんなんの間に合うわけないじゃない.....」

「だな。今回は負ける前に降伏した方がいいんじゃないのか?」

 平賀、小山、エロガッパが口々に言う。まあ俺だってやっているのが翔子じゃなきゃ同じことを思っただろう。

 だが翔子が作ったのは全代表を倒すことを前提にしたものだ。作り変えなきゃいけないわな。

 「たぶんできるのには少し時間がかかるだろう。みんな昼休みにもう一回来てくれ」

「「「了解」」」

 みんなは渋々だったが了解してくれた。

 今から作戦を練るのは不可能に近いが、こいつはそれができる。そうだよな?翔子。

「...できた」

 .......いや、確かに信じてはいたけどちょっと早すぎないか?なんか心の中でいろいろ考えていたのがバカみたいだ。

 翔子が渾身のドヤ顔(口角はほんのちょっとしか上がってない)と親指をぐっとを向けてくる。なんか笑いそうになるからやめろって。

「で、その作戦とは?」

 根元が半分ニヤつきながら問いかける。顔はムカつくが確かに大事なことだ。

「それは....」

「「「そ、それは....?」」」

 全員が翔子に詰め寄る。一体あの短時間でどんな作戦を

「全軍突撃」

「は?」

「戦争開始直後に高城がいる場所に全戦力を注いでアイツをつぶす。それで道が開けたら今度は代表たちに突っ込んでもらって一気に決着をつける」

「ちょ、いくら何でも強引過ぎない?ほんとに大丈夫なの...?」

「大丈夫、なにがあっても」

 いつものスローペースな口調はそこにはなく淡々と説明する翔子。ほんとにこいつは予想の範疇を超えてきやがる。

「なにがあっても雄二が何とかしてくれる」

「うおぃ!!」

 せっかく感心してたのにピンチは全部俺頼りかよ!

「雄二、できない...?」

「い、いやそれはだな....」

 最近のこいつは俺の弱点がわかったらしく、下からのぞき込んでくる。

「こんなかわいらしい霧島さん初めて見たわ.....!」

「これはさらに人気があがるでしょうね.....!」

 翔子の行動に女子はおののき

「坂本、これは拒否できねぇって」

「おいおい、こんなかわいい子の頼みも聞こえねえのか坂本ぉ~?」

「だまれつぶすぞゴミクズ野朗が」

 男子は背中を押してくる。

「はぁ、仕方ねぇか。じゃあある程度俺が仕切らせてもらうがいいか?」

「「当たり前!!」」

 俺の言葉にみんな息を合わせて答えてくれる。まったく、どっかの青春マンガみたいじゃねえか。ていうかいつのまにこんなになかよくなったんだよ。

 じゃあ渇も入ったところで、高城をボコる作戦考えますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雄二サイド長いですね、知ってます泣
明久と優子も次の辺りから出てくると思います、もしかしたら次の次かも.....
話の展開を早くする技術はないので早めに投稿するように頑張ります!


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Fクラス

お久しぶりです、ハラミハラです。
投稿までに少し時間がかかってしまいました。
これからは物語のテンポもあがっていくと思うのでお付き合いください。
それでは本編の方よろしくお願いします。


――――Fクラス

「だからね明久君、この計算はここをの数字を....」

「ええーと、これがこうだから....こう?」

「そう!段々わかってきたじゃない!」

「へへへ、優子のおかげだよ」

雄二がどこかに行ったあと僕らは普通に勉強をしていた。

「ムッツリーニ君、僕ね、最近新しいブラ買ったんだ~」

「....それが、なんだ...!」

「いや~?見たくないのかなーと思って」

「ふんっ、お前なんかに興味はない」

「そう言ってカメラを出す君はホント素直だね.....」

向こうもいつも通りだった。あいつの輸血パック足りるのかな?

「翔子、離れろ」

「....無理、こうしてないと雄二浮気する」

「しないって。まださっきのこと根に持ってんのか?」

「....雄二はもっと私の存在のありがたみを知るべき」

「あ~はいはい、感謝してますよっと」

「..........」

「ぐああああ!や、やめろ、俺が悪かった!!」

雄二たちが教室に戻ってきたかと思えばこちらもいつも通り。あの二人本当に付き合ってるのかな?今まで通り過ぎて逆にわからない。

「明久よ、調子はどうじゃ?」

周りを見てると秀吉が話しかけてきた。

「うん、優子のおかげで結構進んだよ。ほかのみんなはもう終わったの?」

「それは何よりじゃ。向こうは今久保が見ていてくれておるからの。ワシは休憩じゃ」

「なるほどね」

久保君相変わらずいい人だなぁ。

「明久くーん?手が止まってるわよ~?」

「僕も疲れたから休憩を」

「ダメ」

「うぅ....はい...」

優子は教え方はすごくうまいし優しいけど、こういう時は厳しい。

「....まあ、その、がんばったらご褒美あげるから」

「え?なにかくれるの??」

「それは姉上の手作り弁当じゃ」

「秀吉ーーー!?」

「あ、すまぬ。口が滑ってしもうた」

手作り....?優子の....?

「何だ!?明久のペンがものすごい速さで動いているぞ!!」

目標が見えた時、人は本来の力を発揮する....!

でもそのスピードは長く続かなかった。というより続けれなかった。

「「「もう我慢ならねぇーーー!!」」」

Fクラス男子が一斉に叫びだす。な、なに!?

「お、お主ら落ち着くのじゃ!!」

「これが落ち着いていられるかぁ!」

「そーだそーだ!俺らがおとなしいのをいいことにイチャイチャしやがって!」

「しかも木下姉の手作り弁当だと!?ふざけんじゃねぇ!」

「坂本もムッツリーニも楽しくやりやがってよぉ、俺なんて、俺なんて.....グスッ」

「野郎ども!FFF団再結成じゃあー!!」

『『『おおおおおおーーー!!』』』

やばい!FFF団がなくなったことで完璧に油断していた!手作り弁当なんて奴らが見逃すはずない!

「逃げるぞ明久、ムッツリーニ!」

「了解!優子ごめん!またすぐ戻ってくるから!」

「.....三人とも、逃げる必要はない」

「え?霧島さん!?なにを」

霧島さんがFクラスメンバーの前に躍り出る。

「そうね。明久君、フィールド出してもらえるかしら?」

「優子まで!?ってフィールド?」

「僕もやろ~っと!あれだよ、白金の....あ、あれはフィールドのほうは坂本君が持ってるんだっけ?」

工藤さんが言いかけた白金とはきっと、白金の腕輪のことだろう。あれは僕と雄二が二つ持っている。僕の腕輪は自分の召喚獣を分身させるもの。雄二の持つ腕輪はさっき言っていたとおり、教師の承認なしにフィールドを展開させるものだ。確かにあれならいまの状況をどうにかできるだろう。だけど....。

「あ~それはだな....」

雄二が渋っている。それもそのはず、戦争の前にいざこざで点数を失ってしまっては意味がない。

「点数もったいないからね」

「いや、そうじゃないんだ明久。正直に言おう。あれは....」

『あれは?』

「洗濯物と一緒に洗濯機に入れて壊れちまった!すまん!てなわけで解散!!」

.......はい?

雄二は言葉を出し切ると一目散に逃げて行った。てことは~

「吉井君~覚悟はできているよねええええ!」

「あいつを殺せえ~~!」

「男の敵じゃあーーー!!」

やばい、士気を取り戻しやがった!

「ムッツリーニにげ....っていない!?」

「いまだやれ~!!」

「つかまってたまるかーーー!!」

僕も教室から飛び出し廊下を駆ける。くそう!後で絶対優子の弁当食べるからな!!

「明久!こっちだ!!」

雄二が空き教室から手招きしているのが見えた。ナイス雄二!教室に入ると雄二はすぐさま扉を閉めた。

「はぁはぁ....」

「明久、早くしゃべらないと変態見たいだぞ」

「この野郎!僕のセリフを使うな!」

「知るか自業自得だ」

っく、僕が前に言ったセリフが返ってくるなんて。

「.....二人とも静かに。気づかれる」

「「おっと」」

慌てて口を押さえる僕と雄二。こいつと心中だけは死んでも嫌だ。

「まったく雄二は声がうるさいんだから」

「ほぉ、俺のせいにするのか明久」

「だってそうとしか、ねぇ?」

「このヤロ....!立ち直ったかと思えば図に乗りやがって」

「ああ?やんのかぁ?」

「おお、やったらぁ!」

「....二人ともやめろと言っている」

「「すんませんした」」

二人の目にボールペンが突き立てられる。や、それはマジで勘弁してもらいたい。

「それで雄二、会議の方はどうだったの?」

「ああ、そういや説明しないとだったな」

 

 

 

「なるほどねぇ、勝った人の言うことを聞く、ね」

「.....まさに変態の所業」

君は人のこと言えない気がするよ。

「でもよくそんな提案受け入れたね」

「あぁ、俺も止めたんだが翔子がたぎっちまってな。やらざるを得なくなった」

「あの霧島さんが?」

「あいつも姫路のことでいろいろ思うことがあったんだろうよ。だからお前らも力を貸してくれ」

「何をいまさら」

「....当たり前」

「すまん、恩に着る。ん、ムッツリーニ?どこか行くのか?」

隣にいたスケベは立ち上がって教室を出ようとしていた。

「とりあえず、敵情を視察してくる」

「そうか、頼んだぞ」

返事の代わりに後ろを向いて親指を立て、教室から出て行く。

「.....なんかかっこよくなってない?」

「あいつもお前のいない間にいろいろあったんだよ」

「どうでもいいけど、いろいろの大安売りだね」

「そんなに言っていたか?てか本当にどうでもいいな」

「ネタが尽きたからね」

「なるほど、じゃあ俺が質問してやろう」

雄二がこちらをまっすぐ見据える。何を聞かれるんだろう?くだらないことだったらハリセンで叩いてやろう。

「戦う理由は見つかったのか?」

理由?

「ああ、秀吉から聞いたんだ。うん、一応見つけたかな?」

 雄二の言う理由とは僕が秀吉に話した戦う目的がないということだ。

「参考までに聞いていいか?」

 真剣な声色だった雄二の声がいっそう濃くなる。こういうときは馬鹿にしたりしないだろうから教えてやるか。

「優子のためだよ。僕らはあいつらに恨みを買っているだろうからね、もしかしたら優子を好きにされるなんてたまったものじゃない。姫路さんの二の舞にはさせないよ」

もうあんな気持ち、誰にも味わってほしくない。

「それだけか?」

「それだけだよ」

「そうか、それなら大丈夫そうだな。今回の戦争はどうなるか予想がまったくつかない。頼んだぞ明久」

 それだけ言うと雄二は教室から出て行った。

『見つけたぞ!坂本だ!!』

『うおおお!?タイミング悪すぎねえか!?』

『逃がすなーーー!!』

『ちくしょおおおお!』

 やれやれ、慣れないことをするからだよ、雄二。

 雄二に話した理由は嘘、偽りなく僕の本心だ。だけど言わなかったことがある。これはあまりに自分勝手で醜いことだからね。

 さてっと、僕も戻って勉強しますか。そう思って教室を出ると

『吉井を見つけたぞ!』

『よし!殺せーー!!』

「ああ、ちくしょう!何でそうなるんだよーーーー!!」

 この後教室に戻れたのは昼休みだった。

 

 

 



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お弁当

皆さんお久しぶりです。ハラミハラです。
いまいち出来が決まらず投稿遅くなってしまいました、お待たせしてすいません!

それでは懺悔が済んだところで本編の方、読んでやってください。


「はぁ、酷い目にあった.....」

 あの後何とか連中を振りまいてようやく教室に戻ってこれた。どうせみんな戻ってくるからまた同じことになるんだろうけど....。

「それはこっちのセリフだ明久。せっかく最近は秀吉のおかげでやつらも治まっていたのに」

「まったくじゃ、こうなってしまってはもうわワシにもどうすることもできぬ」

 隣にいる雄二と秀吉が口々に言う。ていうかそもそもどうやって抑えていたのかすごく気になる。

「ねぇ、どうやってあの連中を....」

「あ、明久君戻って来たんだ!よかったぁ~!」

「お~みんなよく無事だったねぇ」

「.....元気そうで何より」

 理由を聞こうとしたところで教室に優子と霧島さん、工藤さんが入ってきた。

「三人ともお帰り、どこか行っていたの?」

「どこか行っていたの?はずいぶんだねぇ、吉井クン?」

「へ?」

 ずいぶんって?

「皆で探していたんだよ~?優子が、吉井クンがお弁当食べれないとかわいそうだってね」

「え、ほんとに!?」

「ホントよ、まったくもう」

「な、なんかすいません」

 わざわざ探させてしまったなんて、すごく申し訳ない。

「べつに、お弁当、もったいないし.....」

 優子が拭きながら言う。わざわざ探させてしまったから、怒ってるのかなぁ。

(雄二、どうしよう。優子怒らせたみたいなんだけど)

(お前それ本気で言っているのか?)

(あたりまえじゃないか)

(はぁ、お前ってやつは....。いいか?何で木下姉がわざわざお前に弁当を作ってきたと思う?)

 優子が僕にお弁当作る理由かぁ。

(材料余ったとか?それとも昨日運んであげたお礼とか?)

(俺は、もう知らん.....)

(どうして!?)

 聞こうとするとまたもや違う話題が入ってくる。

「....雄二も、お弁当」

「んぁ?ああ、今朝お前からもらったやつか。今日は大丈夫なんだろうなおふくろ.....」

 あぁ、確か雄二のお母さんも殺人料理人だったね。こっちのはなぜか完治したけれども。

「あれ、ムッツリーニ君は?」

「ん?まだ戻ってなかったのか。あいつには三年の偵察に行ってもらってるんだ」

「そうなんだ、じゃあ、五人で屋上いこっか!」

「そうだね。もうすぐあいつらも戻ってくるだろうし、今日は天気もいいしね」

 昨日とは違って今日の空は清々しいほど澄み渡っていた。

「それじゃーレッツゴ~!!」

 

 

――――――屋上

 

「ふぁ~気持ちいい~!」

 屋上に出ると工藤さんが敷かれた布レジャーシート―に思いっきり寝転がる。確かにすごく気持ちいいや。ここに来るのもずいぶん久しぶりだなぁ。

「ちょっと愛子。みんなが座れないでしょ?どきなさい」

「ええ~?優子のケチ~」

「後で何か奢ってあげるわ」

「わー!優子太っ腹~!」

「どっちよ。ていうかだれが太いですって?」

「そんなこと言ってないよ!?」

「冗談よ」

 工藤さんが優子にじゃれ付いて優子が軽くあしらっている。女子二人がキャッキャしているのってなんでこうも癒されるんだろうか?

「ほらっ明久君も早く」

「う、うん」

 布はそれほど大きくないからみんな円になって座る形になる。僕の隣には雄二と秀吉、正面には優子、右側に工藤さん、左側に霧島さんが座っている。

「うわぁ~!優子のお弁当気合入ってるねぇ~!」

「ほんとだ!これ僕なんかが食べていいの!?」

 綺麗に巻かれた卵焼き、タコの形をしたウィンナー、冷めているはずなのに良い匂いがたまらないから揚げ.....。なにこれ、宝箱?

「いいに決まってるでしょ。貴方のために作ったんだから」

 彼女は済ました顔で言う。

「んっふっふ~ア、ナ、タ、のためにねぇ~?」

「ちょ、愛子!からかわないでよ!」

 僕のためって、それじゃ材料がどうこうじゃなかったのか....。なら何で作ってくれたんだろう?

「ねぇ優子、どうして僕のためにお弁当作ってくれたの?

「「「はぁ~~」」」

「え、え?みんなどうして一斉にため息つくの?」

 優子に訳を聞こうとしたらみんなが疲れたような顔をする。そんなに変なこと聞いたかな?

「あ~そういや飲み物がなかったな。秀吉、手伝ってくれ」

「承知じゃ」

「あ、そうだ。高橋先生に次の授業のプリント貰いに行かなきゃ~、代表手伝って~」

「....分かった」

「それならぼくも「アタシも」」

「「そこにいて」」

 霧島さんと工藤さんの声が綺麗にハモる。それだけ言うとみんなそそくさと屋上から出て行った。何なんだ?

「はぁ、みんなってばまったく....」

「優子?」

(みんなが時間くれたんだしこの際こっちからいきましょうか)

「ねぇ、明久君。なんでアタシがお弁当作ってきたと思う?」

 さっき僕が聞こうとしたことが本人から返ってくる。ええーと

「昨日のお礼?」

「三十点」

「材料が余っていたから?」

「マイナス五百点」

「ええ!?」

「本当に思いつかない?」

「あるにはあるけど.....」

 これを言うのはどうなんだろうか?正直恥ずかしすぎる。けれど優子は答えを待っている目をしている。これは言わないといけないか.....。

「えっと.....僕のこと、その、す、好きだから?」

「.....わかってんじゃなのよ。そういうことよ」

 目を逸らして答える優子。対する僕は彼女の顔を見ようとすることもできない。

「こういうの迷惑だった?」

「め、迷惑なんてそんな!」

「ねぇ、明久君」

 言い切る前に彼女がぽつりとつぶやく。

「ん?」

「この前アタシが告白、した時、島田さんが出てこなかったら、なんて言うつもりだったの.....?」

「そ、それは.....」

 僕はあの時、優子の気持ちに応える気はなかった。それはまだあの子に謝ってなくて、自分にはそんな資格はないと思っていたから。

 状況に甘えてはぐらかしてきたというのに、彼女はそれでも僕のことを好きと言ってくれるのだろう。だからこそ、この子を振るという答えはもう僕の中にはない。

 それに今にも泣いてしまいそうな目で答えを待つ彼女に僕はもう恋をしてしまっているんだ。だから僕は正直に答えよう。

「あのとき、答えようとしたことは忘れてほしい。僕の答えは変わったんだ」

「変わった、ね。どれがどういう風に変わったのか教えてくれる?」

「今はまだだめなんだ」

「今は....?」

 僕の支離滅裂な言葉に混乱する優子。自分でも言いたいことがわからなくなりそうだ。

「今はってことは、そのうち教えてくれるのね?明久君の気持ち」

「うん、この戦争が終わったら必ず」

「わかった、それまでは待たされてあげる」

 彼女は笑顔を見せてくれたが、それは辛そうで僕の心を締め付けた。

「ありがとう、優子」

「ただし、また逃げたりしたら本当に許さないから!」

「うん、僕はそんな命知らずじゃないよ」

「どうだか」

 やれやれ、こんなバカな提案を受け入れてくれるなんてこの子はどこまでやさしいんだろう。

「それじゃ、明久君。あ~ん」

「.....はい?」

 優子がから揚げをお箸で取ってこっちに向けてくる。あ、取ってくれたのね。

「ありがと....」

 パシッ

「あーん」

 受け取ろうとしたら空いているほうの手で叩かれてしまった。これはいわゆるアレですかね....。

「あーん」

「あの、優子さん?」

「ま、待たされるんだからこれくらいいいでしょ!はい!あーん!」

 ムッとした顔で一向に引こうとしない。これは観念するしかないのか.....。

「あ、あーん....はむっ」

 口をあけるとから揚げが口の中に入れられる。うん、冷めているのに柔らかくておいしい!

「ど、どう....?」

「うん、すごくおいしいよ」

「そう、よかったっ」

 はにかむ彼女が可愛くて本当にどうにかなってしまいそうだ。この子の気持ちに応えるためにもがんばらなくちゃ!!

「お前ら、もう付き合えよ....」

「うわ!?雄二いつからそこに!?」

「木下姉があーんとかやりだしたあたりだ」

 急に声がしたと思えば後ろに雄二がいた。よりによって恥ずかしいところを見られた....。殺るしかないか。

「残念ながらワシらも見ておったのじゃ」

「いや~やるね、こんな堂々といちゃつかれると目のやり場に困っちゃったよ」

「......明久、万死に値する....!」

「みんなも!?」

 気がつけばさっき屋上から出たみんなが戻ってきていた。

 やばい、こんな状況をみんなに見られたなら優子が.....!

「聞いて!これは!「イチャついてましたが何か?」って優子!?」

「うわぁ、言い切ったね優子.....」

「反応が予想外すぎるんだが....なんつーメンタルだよ」

「まあ姉上らしいといえば姉上らしいの」

 スパッと言い切っちゃったよこの子.....。なんて男らしいんだ。

 ここは僕も少しはいいところを見せなくちゃね!

「ふふん!そのとおり」

『ここにいたかー!!』

「ゲッ!あいつら気づきやがった!馬鹿のクセに!!」

「畜生!僕の台詞を返しやがれ!」

 せっかくかっこよく決めようと思ったのに!

『往生せえやぁーーー!!』

「してたまるか!逃げるぞ明久!」

「了解!!」

 そこから昼休みが終わるまで全力疾走した僕ら。

 結局から揚げひとつしか食べれなかった.....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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戦争前

どうもハラミハラです。
こんな短い間に投稿をするのは久しぶりで前書きが思いつかな...ゲフゲフ
そんなことより、いよいよ次の投稿から戦争がはじまります。
ここまで読んでくれた読者の方々、もう少しお付き合い下さい。


「さて、お前らこれから戦争に入るわけだが.....」

 昼休みのお弁当タイムにFFF団が突撃してきて何とか暴動は治まったのだが

『チ!何が戦争だよ....』

『こっちはそんな気分じゃねぇんだよ....!』

『殺してやる殺してやる殺してやる』

 一度できてしまった歪みはそうそう引いてくれないみたいだ。雄二もやれやれといったように首を振る。

「そうぶちぶち言うなお前ら。俺の話を聞けばそんな態度も変わるぞ」

『なんだよそれ』

『言ってみろよ』

 それは僕もまだ聞いてなかった。前は三年と二年の教室んお上位クラスの交換だった。今回は違うのだろうか?

「今回の戦争にかけられたのは、女子たちの貞操だ」

「「「「は?」」」」

 クラス全員の声が重なる。

 貞操....?女子の....?

「雄二、何言ってるの?」

 こいつはとうとう頭が狂ったのだろうか?そんなことあり得て良い筈がない。

「言った通りだが?」

 だというのに雄二はあっさりと言ってのける。

『おいおい、そんなのありなのか....?』

『いやさすがに法律的にタブーだろ』

「お前たちの言いたいことはわかる。だが決まってしまったことなんだ」

 その言葉で教室が一層ざわつく。なんでそんなものが戦争の賭けの対象になるんだ?いや、それよりも負けたら間違いなく優子にも被害が....!

「雄二!なんでそんなこと!」

(心配するな、これはこいつらを乗せるための嘘だ)

 言い切る前に雄二がアイコンタクトで落ち着くように伝えてきた。うそ?

「そこで、だ!おそらく今頃他のクラスでも同じ話がされているだろう。女子からしたらこれ以上の恐怖はないだろう。そこをお前らが助けたら.....どうなると思う?」

『怖がってる女子を助けたら....』

『間違いなく俺らを見る目は変わるな』

『それならメアド交換も....』

「お前らそれぽっちでいいのか?いいか?その助けた女の印象次第では、告白されることもあるかもしれないんだぞ?」

『ま、まさかそんなことが!』

『それはありえていいのか!?』

『俺にもとうとう彼女が!!』

『よし!FFF団全員未来の彼女のためにやるぞ!』

『おおおおおおおお!!』

 バカたちが地響きでも起こしそうな勢いで叫ぶ。まったくみんな雄二に乗せられてるだけとも気づかずに、かわいそうな連中だ。人のこと言えないけど。

「話は分かったかお前ら!本当の意味でFFF団が解散する時が来たんだ!だからまずは今日の課題を終わらせろ!」

『『『おう!』』』

 言うだけ言うと雄二は教室から出ていく。その時に外に出るように手招きされる。秀吉とムッツリーニも同じく教室から出る。

「それで、どうしたの雄二」

「ああ、さっきの説明は全くの嘘だってことはわかってるな?」

「うん、さすがにそれはないと思った。」

(まぁ、全くの嘘ってほどでもないんだがな)

「なんか言った?」

「いや気にするな」

「それで、本当に賭けたものは何なのじゃ?」

 秀吉がしびれを切らして尋ねる。

「その前にルールの変更から説明する。前の戦争と違って倒さなきゃいけない代表は一人のみだ」

「代表一人、ということは....」

「そうだ。他は無視してでも倒すのは高城一人のみだ」

「.....もし他のクラスの代表が倒れたら?」

「そこは前と同じだ。代表が倒れるとクラス丸ごと戦死扱いされる」

「ふむ、変更点はそこだけかの?」

「ああ、それだけだ」

「つまり高城を倒せば勝ちで、前と同じように極力雄二を守ればいいんだね?」

 なるほど、全部倒さなくていいならそれはかなり楽だ。

「明久が話についてきているだと....!」

「やはり以前の打ちどころが悪かったのか...!」

「明久、正気.....?」

 まじめに聞いていたのにひどい言われようだ。というか前にもこんな扱いを受けたような....?

「そんなどうでもいいことは置いといて、賭けたものは?」

 自分で言っときながらどうでもいいはあんまりじゃありませんか秀吉くん。

「賭けたものは、代表を倒した者は相手学年の人物になんでも命令できるというものだ。」

「なんでも命令できる....そんな提案をしてきたのはやっぱり高城、だよね」

「そやつ以外にいてほしくないのじゃ」

「......けれど提案は受け入れられた」

「その通りだ。だから俺たちは何としてでも負けるわけにはいかない」

「けどさすがに学園の中でそんなに酷いことは.....」

「ほかの奴が翔子を倒してくれたなら、な。もしも高城が倒しちまったら何が起きるか分かったものじゃない」

 確かに....あの高城がしてきた提案だ。また姫路さんのような不幸な子を出してしまいかねない。さっきの教室での話はあながち嘘でもなかったてことか。

「本当にろくでもないことを考えるね」

「いや、今回に限ってはそうでもないさ」

 そうでもない?こんな馬鹿げた話が?

「よく考えてみろよ。奴を倒せば姫路の時の復讐を果たすこともできるし、うまくいけばあいつを連れ戻すこともできるんだぞ?お前からしてみればいいことじゃないか?」

「うん.....そうだね」

「なんだ浮かない顔して」

「いや、気にしないで」

 確かに高城に勝てばそういったことも可能だと思う。けれどそれは彼女にとってはどうなのだろうか?もし彼女が向こうの生活を気に入っていたのなら、僕らは高城と同じことをしてしまうことになる。それが良いことなの

か僕にはわからない。

「話はそれだけかの?」

「ああ、これでおしましだ」

「あ、そういえばムッツリーニは昼間に偵察に行っていたんだよね?なにか情報はあった?」

「......何も」

 ムッツリーニは目を伏せながら言う。隠密行動に長けているこいつが何も収穫を得られなかったなんて。

「お前が探して見つからないならそれは最初からないのと一緒だ。気にするな」

「......うん」

 肩を落としてうなずくムッツリーニ。よほど悔しかったのだろう。

「そういうことだ。じゃあ秀吉は引き続きあいつらの勉強を見てやってくれ」

「了解じゃ」

「僕は?」

「お前もまだ課題が余っているだろ?」

「やだなぁ、ほとんど終わったよ」

「なに!?お前があの量をこなしているだと!?」

「当然じゃないか.....雄二がこっそり僕の課題に混ぜた分を省けばね!」

「な!?ば、ばれて.....い、いや、俺にはなんのことかわからないな」

 コイツなぜばれないと思ったのだろう。いなくなった時は気づかなかったけど、奴の課題の量が半分ほど減っていて僕の分がかなり増えている。さすがに僕でも気づく。

「さぁ、雄二もやろうね?自分の課題をさぁ!!」

「クソッ!ここは逃げる「逃げたら霧島さんに浮気報告をする」しか...ってやめろ!そんなことしたらまた俺の命が危険になるだろうが!」

「じゃあおとなしく従うんだ!!」

「くそおおお~明久の言うことを聞かないといけなくなるなんて.....」

 僕はそのまま雄二を引きずって教室へと戻った。

「やれやれ、本当に仲がいいのう」

「.....あれじゃ変な噂が立つのもうなづける」

 背後に聞こえた声は僕の心が受け付けるのを拒否したので何と言ったのかわからなかった。

 

 

 

 そして一日遅れた戦争は予定通り開戦となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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開戦

お久しぶりです。長らく皆さんをお待たせしてしまった馬鹿野郎ハラミハラです。
色んな事が重なってなかなか執筆の時間が取れない中で、お気に入り登録が増えていたり、応援のメッセージを頂いて、本当に感謝しています。ありがとう。

さて、今回からよ――――――やく戦争がはじまります。
正直今まで戦闘描写を書くことはなかったのであまり自信はないです。なので生暖かい目で見てください。

今回は二話連続で投稿しますのでよろしくお願いします。

では本編どうぞ!


午前九時 Fクラス教室――――

「てめえら!準備はできてるか!」

「「「おう!」」」

「今回は女子の身の危険やお前たちの悲願も重なっている!そして高城に一泡吹かせるぞ!」

「「「おう!!」」」

「それに戦果を挙げた奴には特別報酬がまってる!みんな頑張ってくれ!!」

「「「「おおおおおお!!」」」

 

 雄二の叫び声とクラス全員の声が重なってビリビリと教室をの空気を揺らす。みんなされぞれこの戦いには何かしらの因縁がある。

「ようやく開戦じゃな、明久」

 軍勢から少し離れた位置にいた秀吉が話しかけてきた。

「そうだね.....ここまで来るのにいったいどれだけかかったんだろう....」

「うむ?なにか言ったかの?」

「ん?僕何も言ってないよ?」

「そうか、気のせいかの....」

 二人してうーんと頭を捻る。僕何か言っただろうか?

「お前ら開戦はもうすぐだってのに余裕じゃねえか」

「実感がないだけだよ、雄二」

 教卓でみんなに激励を飛ばしている雄二から声がかけられる。うるさかったかな?

 でも実感がないというのは本当だ。僕の覚悟は決まってはいるのだけれど、それでもなぜだろうか?気持ちが妙にフワフワとしていて、これから起こることを頭はちっとも考えてくれない。

「たくっ。そんなんで大丈夫か?まあいい、みんな!これから作戦を伝える!」

 雄二が教室全体に聞こえるように声を張り上げる。

 さてさて、今回はどんな作戦を練ってきたのだろうか。前回の戦争のときはクラスの平均を取るように各クラスから五人ほどのグループを作った。つまり作戦会議をするときはAクラスの教室に全員集まって指令を聞いた。でもここはFクラス教室。他のクラスの生徒は見当たらない。

「今回の作戦は.....」

 みんなが息を呑んで、雄二の言葉を待つ。そして放たれたのは

「今回の作戦は全戦力、正面突撃だ!!!」

「「「........」」」

「お、おいみんなどうした?さっきまでの士気はどこにいった?」

 雄二がうろたえる中、みんなはまるで死んだ魚のような目を教卓にいる奴に送る。

「雄二よ、さすがにそれは、それではだめじゃと思うのじゃが.....」

「ていうかそれって作戦って言えるの?」

「お前らなあ、本当に俺が何の考えもなく正面突撃なんて言ったと思うのか?」

「「「うん」」」 

 僕と秀吉だけじゃなくて、クラスの全員がうなづく。頭をがっくりと下げている奴は放置しておこう。

「と言うと、雄二には何か考えがあるのじゃな?」

「当り前だ。これはリンネから得た情報だが、二年のそれぞれのクラスに内通者が少なくとも三十人はいる」

「はぁ!?」

 驚きのあまり真っ先に声をあげてしまい、クラスにどよめきが走る。二年のクラスに内通者が三十人?それが本当だとすれば、確実に僕らの動向は向こうにばれてしまう。

 それに僕らの最も得意な戦術は奇襲。情報が筒抜けなら、それもあっさりと撃退されてしまう。そんなの一体どうすればいいんだ......。

「落ち着け。そのための全面突破だ」

「し、しかし雄二。それもばれるのではないかの?」

「大丈夫だ。このクラスに内通者はいない」

 堂々と言い切る雄二。そうか、こいつはこいつなりにこのクラスの連中を信じているんだ。このクラスに内通者なんているはずない。さすがこのクラスの代表をしているだけのことはあるな。というかすごくかっこいいじゃないか。

「......なぜそうだと言い切れる?」

 ムッツリーニが納得がいかないというような顔で尋ねる。やれやれ、邪推だなぁ。これでも僕らはここまで一緒に戦ってきた仲間だ。そんな裏切りなんてことがあるわけ

「証明してほしいか?」

「......コクリ」

「よし、じゃあ三年に裏切りをするように言われた奴は手をあげろ。正直に手を挙げた奴は全学年女子の着替え生写真を進呈する」

 ザッ!!!←男子全員が手をあげる音

 ガクッ!!←僕が膝を折る音

「と、言うことだ。このクラスには裏切りができるほど頭のいい奴はいねぇ」

 僕の信頼と感心を返せ!と叫ぶ気力はなかった。

「しかしこのクラスにはおらんくとも、他のクラスにはおるのじゃろう?それはどうするのじゃ?」

「ああ、今から他のクラスの内通者を探すのは不可能に近い。だからこそ、他のクラスには各教室から一歩も出ないように命じた」

「なるほど、それで内通者も迂闊に外に出れないし、入ってきた三年を入口から徐々に消していく寸法なんだね」

「......お前は本当に明久か?」

 あと何回このいじられ方されるんだろう?

「それでいつ動くのじゃ?もう開戦されて時間が経っておるが.....」

「ああ、ちょっと余計な時間を食っちまったな。よしお前ら!出陣(でる)ぞ!」

「「「おう!!!」」」

 

 

同時刻ーAクラス教室

「ねえ、代表?」

「なに、優子?」

「本当にこれでよかったの?二年全クラスをこの教室に集めるなんて」

「......うん、雄二の作戦には落とし穴がある。Aクラスに三年が来てくれたらいいけど、E、D、Cクラスはたぶんすぐにやられちゃう」

「それで一クラスにまとめようってことね」

「うん、そんなことより優子」

「ん?どうしたの、珍しく早口で」

「吉井とはもう子作りした?」

「.........は?」

「...してないの?」

「し、してないわよ!なんでそんな話になるの!?」

「?まだ付き合ってないの?」

「付き合うって、そんな、えと......」

「優子?」

「まだ、返事もらってないのよね......。いろいろあってね」

「......そう、ごめんなさい」

「代表が謝ることじゃないわよ」

 明久君は返事を待ってくれと言った。その答えがイエスなのかノーなのか半分分かってはいるけれど、最悪のパターンは否定しきれない。どっちに転ぶのか、正直この戦争よりも重要だ。

 ああ、彼と時間を共にすることができるのならきっとすごく幸せなんだろうなあ。

 

 

 

 

 



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裏切り

前投稿の続きでございます。


「ねえ雄二」

「なんだ、明久」

「この戦争が終わったら、なにか変わるかな?」

「なんだそりゃ」

「姫路さんが戻って来るとか来ないとか、僕の本心とか、いろいろだよ」

「んなもん知らん。全部お前次第だろ」

「それはそうなんだけどさ....」

「なにを心配してやがんだ。お前はお前の思う通りに行動すればいいんだ」

「ここから先は僕の人生じゃ知らない事でいっぱいで...なにか大きな間違いをしてしまうんじゃないかって、正直不安なんだよ」

「おまえなぁ......いいか?一つお前の勘違いを正してやる。お前は今まで先の見える人生を過ごしてきたか?平凡に生きている奴なら多少は想像できるかもしれないが、お前は明らかに当てはまらないだろう?」

「そうだね......でも僕はバカだからさ、もし間違えそうだったら止めてね」

「任せとけ、再起不能になるまでボコボコにして止めてやる」

「...ある程度は加減してくれるよね?」

「知るか、さっさと持ち場に着け」

「へいへい」

 

 

全く、そんなギラギラした目で情けないことを言いやがって、乙女かっての。大丈夫だ明久、お前はもう間違えない。

 

 

――――――二年Aクラス前

 

「さあ皆さん、ここに閉じこもった子豚たちを一人残らず狩りつくしましょう。全く、一ヵ所に集まって防衛を張るなんて無駄なことを考えものです。何を考えようとケータイで内通者から報告は入って来るのですから。ふふっ、はっはっはっは!!」

「高城君、最近のあなたはザコキャラぽくなりましたね」

「なにを言うのですか葵小暮嬢。イケメンで賢く且つ紳士な私のどこがザコなのです?この戦争は私たちにとっては勝ち戦同然。その戦争を指揮するのはこの私、高城雅春。ああ、なんと完璧なのでしょう!」

「途中で自画自賛に変わっていることに気づいていないあなたはやはりザコキャラ同然です....」

「さあさあ、そんなことは置いといてそろそろいきますよ。皆さん、準備はいいですか?」

『おう!!』

「こんなリーダーに従うなんてあなた達もどうかしています....それより高城君、リーダーであるあなたがこんな所にいて良いのですか?」

「構いません。私が負けるなんてことはありえませんし、早く終わらせたいですから。ではとつげ――――」

『させるかー!』

「「「!?」」」

「全員、右翼左翼から削っていけ!消耗しても戦い続けろ!」

「「「了解!!試獣召喚《サモン》」」

 さて、今何が起きているのかというと、他のクラスに散っていると思っていた三年生を討伐に行ったらどのクラスももぬけの殻。そしてAクラスの前に三年生がいるのを遠目で確認。そこで状況を察した雄二が急遽作戦を変更し、相手を廊下の左右から挟んで挟み撃ち。それが今の状況だ。

「明久!お前も行け!」

「おーけー!雄二!!試獣召喚(サモン)!」

「くそ!代表を下がらせろ!奴らを近づけるな!試獣召喚(サモン)!」

『3-C  山寺 秀俊   VS   2-F  吉井明久

 現国  128点             150点 』

 サモンと叫んだ二人の足元に魔法陣が起動される。そこから出てきたのは自分自身をデフォルメした分身。その名は召喚獣。僕の召喚獣は学ランに木刀という昔の不良見たな風貌だけれど、そこからあふれ出る漢らしさが....

「なにバカやってんだ!前みろ前!!」

「うゎ!?」

 召喚獣の目の前を相手の剣が一閃する。あぶなぁ!

「くそ!コイツFクラスのくせになんだこの点数!」

「Fクラスを甘く見てはいけません!彼らは点数も上げていて....バカが極まっているので行動が予測できません!」

 なんてことを言うんだ。

「くっ!この!!」

 召喚獣に意識を飛ばして相手の剣を軽く弾いていく。やっぱりこの点数差だと大した差は感じないな。

「よっ」

 身を屈ませ下から木刀を振り上げる。ズバッと相手の召喚獣は真っ二つになった召喚獣は血をまき散らして消えた。召喚獣が死ぬ時ってこんなにグロかったかな?

『3-C  山寺 秀俊   VS   2-F  吉井明久

 現国   戦闘不能            150点 』

 相手の召喚獣を倒せばそこで倒された人は戦闘不能、つまり戦死とされ補習室に送られて、その日の戦争には参加できなくなる。

「お、おい....あいつノーダメージで倒しやがったぞ」

「皆さん何をしているのですか!今回の戦争はAクラスの代表を倒せばいいだけです!そんなザコは放っておきなさい!」

「.....させない、お前の相手は俺、試獣召喚(サモン)

「つ、土屋康太君....!」

 余裕の笑みだった高城の顔が歪む。それもそのはず、ムッツリーニの点数は大したことはないけれど、保健体育だけは違う。その点数は時に教師を超えるほどだ。

「やばい!誰か止めに....!」

「いけ!ムッツリーニ!!」

『3-A  高城 雅春   VS   2-F 土屋康太

 歴史   350点            58点 』

「「「........」」」

 時が静寂に包まれた

『3-A  高城 雅春   VS   2-F 土屋康太

 歴史   350点             2点 』

 ムッツリーニの召喚獣は描写する間もなくやられた。ぎりぎり戦死してないけど。

「なんでしょう、このやるせない感は....」

「くっ!明久、あとは頼んだ....」

 何しに来たんだこのバカ!

「おのれ高城め!無抵抗な相手を無慈悲に切るなんて卑怯な!」

『そーだそーだ!』

『この人でなし!』

『葵さんをとっとと俺に譲れ!』

 雄二のやじ(?)に周りが反応して悪口が飛んでいく。

「吉井明久君、これは私が悪いのでしょうか?」

「....さ、さあ」

 ガラッ

「さっきから騒がしいわねぇ、もう戦争始まってるの?」

「「あ」」

Aクラスの生徒が扉を開ける。

「あ」

............

「突撃ー!!」

 しまったあ―――――!!そうじゃん!教室の入り口でこれだけドンパチやってたら誰か出てきちゃうよ!

『うぉ!?なんだ!三年が入ってきたぞ!?』

『ご、ごめん開けちゃった!』

『何してんだよ!?』

 やばい、三年が全員Aクラスへと流れ込んでいく。これは予想していなかった....!

「焦るな明久。ここにはあいつがいる」

「え?」

 この危機的状況で何を

「みんなとりあえず教室の奥まで下がって!」

「まだ状況は悪くなっていません!Fクラスと三年を挟み撃ちにします!!」

 雄二の目線を追うと怒号のように指示を送る優子と久保君の姿があった。そうだ、最初の防壁が突破されただけでまだ何も変わっちゃいない!それにあの二人もすごいけど、こっちには二年全クラスがいるんだ!

「それより問題はあっちだ」

「おらおら!二年はこの程度か!?ピーピー泣いてみろや!!」

「...夏川、これ終わったらマジ絶好な....」

「なんでだ!?」

「さあ二年生の皆さん、素直に降参してくれらお姉さんがイイコト、教えてあげますよ....?」

『うっ、ぐっ....!!』

 小暮先輩が胸元のボタンを外し、スカートの裾を太ももから手のひら全体で舐めるように上げていく、けれど中身は決して見えない。なるほど、確かにやばそうだ。

「お前絶対最後の方しか見てねえだろ」

「な、なななんの事かな!?」

 決してパンツが見えたらいいななんて思っていません。

「だが、なんか変だな....」

「変って?」

「3年にここが突破されたらもっと混戦すると思っていた。考えすぎか...?」

 確かに押されてはいるけど、いきなり教室に3年が流れたにしては騒ぎもそこまで大きくない気がする。いったいこれは?

『2年BクラスCクラス代表打ち取ったぞー!!』

 三年生の声が高々と響き渡る。

「なんだと....?」

「大変じゃ雄二!!B、Cクラスが.....!」

「聞こえていた!なんで一気に二クラスも!?」

「いやあ負けちまった~いけるとおもったんだけどなぁ~」

「あれは仕方ないよねえ~」

 戦死して退場しなければならない二クラスが出てくる。その先頭を歩く代表である二人がわざとらしく腑抜けた声をだして歩いてくる。まさか、こいつら.....!!

「おい、何やってんだてめえら」

「ああ、坂本か。すまないな、負けちまったわ。まああとは頑張ってくれや、負け戦をな」

「このクズが....!」

「やめるのじゃ雄二!!」

「おいおい、戦って負けた奴を貶すなんて酷いじゃないか坂本~。ここで俺を殴ってもお前が後悔するだけだぜ」

 確かにこいつの言う通りだ。今手を出しても雄二が何かしらの指導に引っかかるかもしれない。だけど、こいつらはわざと負けて悪びれもない。裏切りの理由は知らないけど、それを許すつもりはない。

「雄二、フィールド出して」

「俺も同じことを思っていた。起動(アウェイクン)

 雄二は教師の許可なく自分でフィールドを出せるという白金の腕輪をもっている。

試獣召喚(サモン)

 再び姿を見せる僕の召喚獣。

 そして僕の召喚獣は他とは違って物質に触れることができる。その分、召喚獣が受けた痛みは何割かフィードバックするのが難点だけど、今はありがたい。

 召喚獣の拳を根本君の腹へ届ける。こいつは見た目には似合わない力を持っているからかなり手加減はするけどかなり痛い筈だ。僕らの痛みを知るといい。

「やめて、明久君」

 パンッ

「ゆ、優子?」

 召喚獣の拳は根本の腹を抉る前に優子の召喚獣に止められた。

「こんな人たちと同じ土俵に立つことなんてないよ。明久君の手はそんなことの為にあるんじゃない、たとえ召喚獣であっても」

 まっすぐこっちを見つめる優子の目は正しすぎて、思わず目を背けたくなる。

「ごめん、優子...」

「気にしないで。あなた達もさっさと消えたら?ゴミが目の前にあるのって本当に見苦しいから」

 ゆ、優子さん?

「なんだと...!」

「文句、ある?」

 にっこーと笑う女の子がここまで恐ろしく感じることは人生初めてです。

「...ちっ、覚えてろよ」

「私たちも一度体制を立て直しましょう。撤退です」

 そうして二年B、Cクラスと三年達は教室を後にした。

 

 

 

 

 

 



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停戦中

どうも、就活に向けて大逆走真っ最中のハラミハラです。
今回はやっと使いたかったキャラが出せました!
どうぞ見てやってください。m(__)m


 二年Aクラス教室―――――――――

「さて、お前らも知っているとは思うが今の状況はかなり苦しい」

 さっきまで混戦していた空間で教卓に立っている雄二が重々しく告げる。

 その言葉を聴くみんなの表情もつられて重さを帯びてしまう。

「B、Cクラス代表の謀反で俺たち二年の戦力は半分削られてしまった。この状況は何とかしなければいけない。できない時は......負ける時だ。みんな、苦しくて辛いかもしれないが、ここが正念場だ。......どうか力を貸してほしい」

『..........』

 頭を下げる雄二に皆は目を伏せて何も答えられない。

 それも仕方ないことだろう。僕だってこんな状態の教室なんて今すぐ抜け出してしまいたい。

「さ、さあみんな!もうやるしかないんだから頑張ろう!」

 優子が手を叩き、鼓舞するように声をかけるが、大半は表情すら動かない。僕もその中の一人だ。

 でも、そんな中に僕にとっては光と呼べるのかどうか分からない粒子が教室に入ってきたのはきっとなにか意味があったのだろう。

「うわ、なにこのしんみりした教室。他のクラスには誰もいないし、どうなってんの?」

「.....み、な、み?」

 その粒子は以前と変わらないポニーテールと勝気な目を作って僕たちの前に現れた。

「坂本、今どうなってんの?」

「し、島田、お前.....」

「なによ。ワタシはここにいちゃいけないって?」

「あ、いや」

「あんたたちもなに暗い顔してるの!他のクラスは仕方ないにしても、これだけしか取り柄のない馬鹿どもでしょうが!ちょっとは根性見せなさい!!」

突然教室に入ってきた美波に一括されて、みんなは唖然とする。雄二や秀吉でさえ口を大きく開いて呆けた顔をしている。

『そ、そうだな......。こんな状況今までいくらでもあったじゃないか』

『だな。こんなとこで諦めるなんて俺たちらしくない、か』

『うし!女子にここまで言われたんだ!やるぞお前ら!!』

『『『おおおおお』』』

 Fクラスの面々が息を吹き返したように声を高々と上げる。

 ただ復活したのはFクラスだけではなかった。

『ね、ねえ。Fクラスがあれだけやる気なら.....』

『そうだな、俺たちが戦意喪失ってのもカッコ悪いよな』

『最低のゴミ溜めのクソみたいなザコクラスがやる気出してるんだもんな』

 誰だ良いセリフに見せかけてすごい貶し方した奴は。

 Fクラスの士気が伝わったのかポツポツと言葉を出し始める他クラスの生徒たち。

 そこで待ってましたと言わんばかりに雄二が再び壇上に上がる。

「お前ら!やる気は出たか!?」

『『『おう!』』』

「もうFクラスだとかAクラスだとか関係ねえ!二年全員で三年をぶっ倒すぞ!!」

『『『うおおおおおおお!!!』』』

 雄二の雄たけびに女子も男子も関係なくみんなが声を天井に突き刺す。

 さっきまでやる気すら失いそうになっていた人たちの声が今度は教室を振動させるほどに至る。人って分からないなあ。

 さっきからすまし顔で壁にもたれているポニーテールの少女も分からないや。

「......あの、美波」

 何か、何か彼女に言わなければ。そんな思いで彼女の元に足を運ぶ。

「なに?」

 そっぽを向いたまま彼女の目はこちらにない。

「いや、その......」

 どうしよう、何か言おうとしても頭も口も全く回ってくれない。

「言っとくけど、許した訳じゃないから」

「え?」

「他のみんなが頑張ってるのにワタシだけが引きこもってるのが性に合わないだけだったから」

 彼女はこっちを見ずに淡々と答える。

 声にも若干の怒りが感じられるので嘘ではないのだろう。僕も許してくれるなんて思っていない。でも、でも――――――

「......ぶはっ!」

「なに笑ってんの!?もしかしてこの前のやつで目覚めちゃったり......」

 さっきまで険悪な表情だった美波が心配そうな表情を浮かべる。

 そりゃ今の関係で急に笑い出したりしたらびっくりもするだろう。でも僕の言い分も聞いてもらいたい。

「だって、だって美波、さっきからすごく真っ赤なんだもん.....あははは!」

「~っ!!」

 バッと咄嗟に顔を隠す美波。

 さっきのが恥ずかしかったのか、今話している状況が恥ずかしいのかは分からないけれど、声と表情が確実に違っていることが伝わってくる。おかしくて仕方ない。

 どうしよう、彼女に対して色々罪悪感とか変な覚悟とかいろいろなものがガラガラと音を立てて崩れていく。

「ねえ、美波」

 僕が色々な想いで作った覚悟の大半は崩れてしまった。

 けれど、その崩れ後から新しい覚悟が芽生えた。以前のモノより遥かに独善的で、身勝手で、最低な覚悟だ。

「なによ」

 まだ少し赤みの残る顔で、彼女の視線はようやくこちらを向く。これを言ったら今度こそ絶好かもしれないなぁ。でも、言いたい。

「ち......」

「ち?」

「おねーさまー!!!」

 はい、僕の想いは無に還りました。

「わっ!ちょ、美春!?は、離れて.....て?」

「おねーさま、おねーさま、良かった。またお会いすることができて本当にっ....」

「はいはいはい、心配かけてごめんね?」

 突如美波に抱き付いて、ドリルの様な縦巻きロールを揺らしながら泣いている女の子は清水美晴さん。

 この子は女の子である美波のことを好きになってしまった少し変わっている子だ。

 想い方は少し歪んでいるけれど、きっと清水さんもつらい想いをしたに違いない。

「いつまでそこに突っ立ているつもりですか豚野郎。一度お姉さまから逃げた家畜が美春とお姉さまの感動の再会を邪魔しないでくださいそして死んでくださいむしろ出荷されて誰の口にも入らないままゴミ箱に入れられて燃えてください」

 この子はとてもつなく男嫌いなので、口は自然ときつくなる。最近会ってなかったから忘れたけど、これが普通だよね?ね?泣いちゃうよ?

「み、美春、ワタシは大丈夫だからちょっと落ち着きなさい」

「いいえ、ダメです。こんな奴がいるからお姉さまは辛い思いをしたんです。もういっそこの場で......」

 どこからともなく取り出したとても鋭利なハサミが僕に向く。

「ちょっ!清水さんそれは洒落にならないよ!?」

「あなたのしたことの方が洒落になりません!!」

 吠える彼女の言葉に僕は俯いてしまう。

「あの雨の日、お姉さまとあなたのやり取りを全部見ていました。美春は必死に我慢して我慢して。それでもお姉さまが納得できる形でことが終わったなら美春は何もしないままでいるつもり、でした。しかし!!あなたはまた!お姉さまに近づく!話しかける!妙な優しさをかける!!それが本人にとってどれだけ辛いことなのかあなたはまるで理解していない!!!」

「美春、それはもう終わった話だから....」

「終わってません!この男が消えるまで終わりません!」

 まるで番犬のように吠え、唸る清水さん。

 こうなってしまってはきっと僕の声なんて届きはしないだろう。

「美波、また後でね」

 そう言い残して彼女たちに背を向けると雄二が立っていた。

「いいのか?明久」

「うん、僕の話はいつでもできるからね」

 雄二が何かを訴えるような目で僕をじっと見る。

「まあお前がそう言うなら構わんが」

「明久君、無理してない?」

 僕らのやり取りを見ていたのだろう優子がこちらに駆け寄ってくる。

「大丈夫だよ。それより今は戦争だ」

「ほお?ようやく本領発揮か」

「ヒーローは遅れて、でしょ?」

「そうだな。ヒーローにしてはいささか貧弱だがな」

 そんなことないやい。

「......それで作戦は?」

 いつの間にか雄二の後ろに立っていた霧島さんがポツリと促す。

 僕らの作戦は結果的には相手の逆手を取れたけど、そこから巻き返されている。

 これはその上を行く作戦で相手を遥かに上回ることが必要不可欠だ。

「ああ、いい作戦があるぞ」

 雄二はニヤリとした口から作戦が告げられる。

 

 

 




女の子の機微は分かりません。


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それぞれの戦い

こんにちはハラミハラです。明後日はグループ面接ですが何一つ準備してないハラミハラです。(就活生の人はしっかり準備を.....)

さて、本編もいよいよクライマックスが近づいて参りました。が、ここからあと何話書くかは定まっていないので今しばらくお付き合いください。

それではまた次話お会いしましょう!


――――――三年Aクラス

 

「さて、これからどうするのですか高城君」

 三年生で随一の天才にして随一のバカに葵小暮が話しかける。

「そうですね、伏兵として二年のB、Cクラスを買収していたのが予想外の方向に動いてしまいましたからね」

「予想外?あれは高城君が命じたことなのでは?」

 小暮は頭にハテナを浮かべる。

 (と、するとあれは彼らが自発的にしたということ?)

「裏切りの裏切りですか。まあ、結果的には良かったではありませんか。相手の戦力は二クラスも、それもAクラスを除いては強い方なのですから」

 そう、戦力的にはこちらが圧倒的に有利。まさに勝利の女神が今三年側に微笑みかけている。

「葵小暮嬢。あなたというものが珍しい」

「何がです?」

「私が声をかけたクラスはB、Cクラスのみ。二年を内側から崩す計画が大きく狂ってしまいました」

 淡々と話す高城の言葉に小暮はハテナを消しきれない。

 二年が二クラス分も戦力ダウンしたのだ。こちらの思惑が外れたのは少し痛いが戦況はこちらに有利に傾いた。 それの何がいけないというのか。

「おいおい、さっきからなんの話だよ?」

 坊主頭の同級生が自分も入れろと言わんばかりに会話に入ってくる。

 .......名前なんだっけ。

「これからの作戦ですよ」

「そんなもん簡単だ。俺が全員ぶっ飛ばしてやるよ」

「はぁ、あなたはAクラスなのにお猿さんですか。それをやるなら私の方が美しくやれますよ」

 どっちも猿だ。と小暮は心の中でツッコむ。

「で、実際はどうするつもりなんですか?」

「正面突撃です」

 こいつはもう天才ではなくなってしまったのか......。

「高城....さすがにそれは」

「ま、待ってください。ちゃんと考えがありますよ!まずA、Bクラスで二人一組のチームを作ります。そして弱い方の戦力を削っていき、こちらの陣形を拡大させます」

「それって割と普通の作戦じゃないのか?」

「これだけだとそうですね。なので私は彼らの真似をしようかと思います」

「真似とは?」

「以前、二年FクラスがBクラスに勝った時の手法です」

 まさかこいつは停学になりたいのだろうか。

「高城君、私はもう進学先を見つけているので問題は起こしたくないのですが」

「誰が壁を破壊するなどと言いましたか。真似するのは窓から入るところです」

 Fクラス対Bクラスの戦争は一時期校内でも話題になったので小暮もそのことはすぐに察しがついた。

「最悪、窓を割るだけなら弁償で済む。ということですね」

「はい」

 この笑顔で返事をする男はとうとう壊れてしまったのだろうか。いったい倫理観をどこで落としてきたのか。

「あ、それでさっきの珍しいとは?」

「ああ、そのことですか」

『報告!!二年が一斉に攻めてきた!』

「バカに火をつけると恐ろしいということです」

 

 

 

二年side

 

「深追いはするでない!常に三人で一人を狙うのじゃ!」

「「おう!試獣召喚(サモン)!」」

『 2-F 近藤 渡

  2-F 山本 健   VS  3-A 山本 悟

  2-F 溝口 歩                

  歴史

     58点

     32点         395点

     65点                  』

 

「「「ぎゃああ―――」」」

「全員Fクラスでも意味がないじゃろう!?」

『三年Dクラス代表打ち取ったぞー!!』

 秀吉がツッコんでいる間に戦況は動いていた。

「ナイスじゃ!みんなもう一息じゃ!このまま防御を固めるぞい!」

「そう好き勝手やらせるかよ!」

「!?」

 足元にいた秀吉の召喚獣に突如攻撃が入る。

 寸前でかわし、声のした方向を見てみると......。

「おい、ちょっとまて。俺の顔見ただけで泣きそうになるのはやめてくれ.....」

 立っていたのは常夏コンビの常の方だった。

 過去にお化け屋敷でこの男に告白された秀吉は反射的にトラウマを思い出す。

「い、嫌じゃ、もう嫌じゃ、許してくれ.....」

「おれなんもしてないんだけど!?ま、まあ怯えているお前もなかなかそそられるものがあるな.....」

 プツンッ

 常村の弁明どころか火に油な言葉がトリガーになったのか、秀吉の中で何かが切れる。

「ああああああああ!」

「な、なんだどうしたんだ!?」

 日本刀を持った秀吉の召喚獣がまっすぐに走る。

「木下が壊れた!?」

 

『   2-F木下秀吉 VS 3-A常村勇作 歴史   380点 VS  320点  』

 

「おいおい、なんだよこの点数.....!」

「おお、木下弟がなんかすげえぞ!」

「いいぞー!やっちまえー!」

「くっ!この、くそ、があ!」

 縦、横、下、斜めと無尽に繰り出される連撃にしびれを切らした薙刀は無防備になった刀を持つ召喚獣の横腹を捉える。

「ぐっ」

 

『 歴史 木下秀吉 150点』

 

 ガードが間に合わなかった召喚獣の点数は大きく削られてしまう。

「お、おい。あれ援護に入った方がいいんじゃないのか?」

「無茶言うな!あんな激しい戦い俺には無理だ!お前行けよ!」

「俺も無理だ!」

「「「じゃあ言うなよ」」」

(くっ、このまま押し切りたかったのじゃが......)

 あたりを見回すと皆、見てはいるものの加勢する気はないようだ。

(まあ、周りはFクラスばかりだから仕方ないのぉ。.....点数は二百点くらい空いてしもうたが、諦める理由にはならんな)

 構え直された日本刀はチャキッと音を立てる。

「......まだやるってのか。もういいだろう、ほとんど勝負はついている。降参しろ」

「ふざけるな!まだ、まだ友達が戦っておるというのにどうしてワシだけが負けを認めれるのじゃ!!」

 ビリビリと響く秀吉の声は空気ではない別の何かを震わせる。

「構えろ!お主の存在ごと叩き切ってやるわ!!」

「ふ、それでこそ俺の惚れた「舌も切ってやる!」それ死ぬからな!?」

 互いの召喚獣は獲物を構えて睨み合う。

 たった数秒が永遠に感じられるような張りつめた緊張感が漂う。

 そして――――――――

 「「勝負!」」

 二体の召喚獣は勢いよく走りだした。

 

 

――――――二年Aクラス

 

「また全面突撃なんて無謀な作戦だね雄二」

「一種の賭けだったが、上手くいったろ?向こうも同じ作戦できた」

「でもそれだとこっちが不利のままだよ?」

「このまま、だとまあジリ貧だな。でもそうはならないさ」

「どうして?」

「......向こうは作戦を見破られたと思っている」

 雄二と話しているとまたも影から現れる霧島さん。

「そういうことだ。そして高すぎた鼻が折れると急に人は焦りだす」

「ごめん、最初から」

「おお、話についてこれない明久は久しぶりだな」

 どこか雄二が安心した表情をする。

 失敬だな。否定できないけど。

「つまりだなB、Cクラスの裏切り。あれの真意は知らんが高城の表情を見た限りあれは予定して行われたものじゃなかった。しかもムッツリーニの情報によれば、裏切り者はその二クラスしかいないときた。俺たちもかなり驚いたが、向こうはそれを確認する余裕はなかったみたいだな」

「つまりあれは裏切りじゃなかった?」

「さっきも言ったが事実は本人たちしか知らない。だが、向こうはそう思うだろう」

 雄二は黙々と説明を続ける。

「ん?それがわかってるならどうしてあんなに暗い顔してたのさ」

「余裕をなくしたバカがどうなるか、お前が一番知っているんじゃないか」

「ああ、そういうこと」

 余裕をなくしたり窮地に追い込まれたりすると見境がなくなって暴走する。経験談だ。

「あれ?そういえば優子は?」

 優子は僕たちと共に霧島さんを護衛するのが役目になっている。しかしその姿はどこにも見当たらない。

「......三十分くらい前にトイレに行くって言っていた」

「遅すぎない?」

「ウン〇か?」

「.....すぐに戻るとも言ってた」

 雄二の下品な発言に霧島さんは眉一つ動かさない。さすがと言うべきなのかなんなのか。

「そうじゃないとすると.....?」

 背筋に冷たい感覚が走る。

 まさか、そんなこと。

「断言はできないが、拉致された可能性があるな」

 静かに、それでいてハッキリした声で告げられる。

「待て明久!いま無暗に行動するな!」

「止めるな雄二!優子が......優子が!」

「場所は分かっているのか?相手の戦力は?」

「そ、れは......」

 雄二の言葉に言い返せず僕は押し黙る。

「すぐにムッツリーニに捜索をしてもらう。それまでお前はじっとしてろ」

「で、でも!」

『その通りです。軽率な行動は控えた方がいいでしょう』

「「!?」」

 声がした方向は窓。

 開け放たれている窓には一本の縄が下りていた。

 そこから一人の人間が下りてくる。

 憎んで憎んでも、足りないほどに憎い人間。

 三年Aクラス代表、高城雅春が。

「どうも、皆さん」

「高城.....!」

「おや、先輩を呼び捨てなんて良くないですよ、坂本雄二君」

「ふん、ご自慢の伏兵があっさり看破されて今度は人の真似事か」

「ええ、これくらいしないともう貴方の裏は取れないと思いましてね。もっとも、これも読まれていたようですが」

 雄二と高城が睨み合ったまま会話を続ける。

 こんなところで時間を無駄にしたくないのに......!

 このまま高城に勝って探す方が早いか?

「明久。三年クラスの辺りで木下がいたそうだ」

「え?」

「いまムッツリーニから連絡があった。行け」

「流石ですね、もう見つけるとは」

「ムッツリーニでも詳しい場所は分からないそうだ。総当たりしろ」

「ありがとう雄二」

 礼を言って踵を返す。

 雄二と霧島さんならコイツ一人くらい楽勝だろう。

「ふふっ、私のことは無視ですか。ではこういうのはどうでしょうか?葵小暮嬢、出てきてください」

 教室の入り口に向かって投げられた声に応えるように、またこの空間に新しい人物が入って来る。

「くそ、二人か.....!」

 悔し気に唸る雄二。二対一ならまだしも、ほぼ実力が拮抗したタッグとなるとこちらがやや不利である。

「さあどうしますか?これでも助けに行きますか?」

 高城が満足げに笑みを浮かべる。殺してやりたい......!!

「そうそう、言い忘れてました。貴方がこの部屋から出た瞬間に見張りに情報が行くようにしています。その場合見張りには、好きにしていい。と伝えています」

「このクズが.....!!」

「構わん。行け、明久」

「うん。吉井行って」

「二人とも!?」

 二人はこちらを見ずに言葉だけを発する。

「優子は吉井のことを待っているはず。だから、お願い」

「ありがとう.....!」

 僕は教室から飛び出てひたすらに走った。全力で。

 優子を危ない目には合わせない。もう誰にも悲しんでほしくない。

 僕が、守らなきゃ!

「......行ったようですね。では連絡をするとしましょう」

「ほんとにクズだなアンタ」

「勝つためには必要な犠牲です」

「ほざけ、戦争が終わったら教師か警察にでも突き出してやる」

「あなたに、できますか?」

「雄二は勝つ。絶対に」

「いい関係ですわね。羨ましくなります」

「自慢の旦那」

「おい、まだ結婚してないぞ」

「そのうち、する」

「ざっくりなプロポーズありがとうよ」

「葵小暮嬢、先生を呼んできてください」

「はい」

「呼んでないのかよ」

「一緒に窓から降りてくれる先生が見つかりませんでした」

「やっぱあんたバカだろ。起動(アウェイクン)

「そういえばあなたは自分でフィールドを作れるのでしたね。ありがたい」

「無駄話はやめとこうぜ。行くぞ!試獣召喚(サモン)!」

「「「試獣召喚(サモン)」」」

 会話を終えた教室には魔法陣が展開され、他の者は誰も見ていないところで学園最高峰の戦いが切って落とされた。



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危機

えー、お久しぶりです。ハラミハラです。
まずはかなり投稿期間が開いてしまったことをお詫びします。
言いわけをすると、とてつもないスランプにぶつかったり(創作をやめるか迷うほど)就活に苦しまされたりと、まあ色々ありました。けれどその間、新たにお気に入り登録してもらったり、間違いを報告してもらったりと感謝感激です。
....え?ここにいるってことは就活終わったのかって?
嫌だなぁ。あははははは!
日本死ね。この一言でお察し頂ければと思いますw

さて、長くなってしまいましたが!え?誰も読んでない....?
と、とにかく久しぶりの投稿です!どうぞ!!!!



―――――――――三年Cクラス教室

 

優子side

目を開くとそこには知っているようで、知らない空間があった。

 見慣れない黒板に若干自分の知るものと違う匂い。何を取ってもここは二年の教室でないことはすぐに分かった。

「っ!?」

 しかしそれ以上に驚いたのは自分の手足がしっかりと縄で椅子に固定され、口も布で塞がれていることだった。

(どうしてこんなことに....)

 確かトイレに行った後、シュウジ×シンジの本が落ちてたのを見つけて…。

 ......ああ、あれ罠だったのか......。

 今さらながらに自分の不用心さに気付いて落胆する。むしろバカさに。

「よう、目が覚めたか。木下優子」

「!?」

 だれもいないと思っていた空間に優子の虚を突いたかのように声が響く。

「ふぁ~ふぁふぃふぁ(あ~たしか)ふぁふぇ?(あれ?)」

「ちゃんと喋れない上に覚えてねえのかよ....作者ともども大事にしてくれねえな....」

 がっくりと下げられた坊主頭を見てようやく思い出す。あー確か常夏コンビの夏の方だ。

 というかしゃべれないのはあんたのせいだろ。他は知らん。

「まあいい。お前は勝負の為の大事な人質なんでな。俺らが勝つまでここでゆっくりしててもらうぜ」

 なるほど、自分を拉致した理由はそういうことか。

(脱出は、できそうにないか)

 手は背もたれを回ってしかっり結ばれて足も椅子の脚に固定。明久君たちみたいに関節でも外せたらいいのだろうが、あいにく自分は一般人だ。

(どうせこんなに縛られるなら明久君に.....。て、なに考えてるのよアタシ)

「ずいぶん余裕だな。こんな状況だってのに」

 座っていた夏川が立ち上がって優子に近づく。

「それより考えてみたんだけどよ、どうしてお前らは吉井なんかにこだわるんだ?あいつにそんな特別なものがあるとは思えねえんだよなぁ」

(ふん、アンタになんか)

「俺には分からねえってか?」

 ニヤリと下卑た笑みを浮かべ優子の思考を先読みする。

「それと、もう一つ分からねえことがある。常村の野郎だ。なんで女の姉がいるってのに弟の方にいっちまったんだろうな?」

 それは何度も思ったことである。

「せっかく女がいるなら、なあ?」

 先ほどの笑みとは違ってより濃く、下卑た笑みを浮かべる。

 自分がとても危ない状況にいることに優子はこの時ようやく気が付いた。

ブーブー

「ん?なんだ?」

 夏川の携帯のバイブレーションが鳴った。

「お、ほほぉ。マジかよ、ほんとにいいのかよ」

 携帯を戻した夏川は優子に目を向ける。

「お前、吉井に見捨てられたってよ」

「―――――」

 一瞬理解できなかった。

 明久君が、アタシを、見捨てた?

「じゃあ、ちょ~っと失礼するぜ」

「!!?」

 夏川は優子の目の前にあぐらをかく。

「お~絶景絶景♪」

 そのまま抵抗できない優子の脚に手が滑り込んでいく。

 撫でるように焦らすように触るその手つきは優子に不快感しかもたらさない。

 やだ、やだ、気持ち悪い.....やだ....。

 抵抗することも声を出すこともできなくて優子はただじっと耐える。大丈夫.....これが終わったらすぐに先生に――――――

 そんな健気に身を震わせる少女に男はさらに劣情を抱く。

「そうだ写メ撮っとかなきゃな。このことをばらしてみろ、これを校内にバラまいてやるよ。お前のファンも多いみたいだから欲しがる奴は多いだろうよ」

 あ、もうだめだ。泣いちゃう。いやだよ。こんなの、やだよ。どうして誰も助けに来てくれないの?明久君は本当にアタシを見捨てちゃったの?

 そんな筈はない。分かってる。しかし今この状況でいない人物を信じ切るほど優子の心は強くあれない。

「じゃあ、そろそろ脱がせちまうか」

「んん――――!!」

「おい抵抗するんじゃねえよ!」

 だめ、それだけは絶対に嫌だ。まだ、まだ好きな人にも見せてない自分を、こんな奴に見られるなんて.....!

 助けて、助けてよ、明久君―――!!

『いい加減にしろ!!』

 その時二人しかいなかった教室に第三者の声が轟く。

 

 

二年廊下

「はぁはぁ......」

「しぶてえなぁ!おい!」

『 2-F   木下 秀吉 VS 3-A 常村 勇作 

  歴史   45点        255点

                           』

「まだ、まだなのじゃ.....!」

「流石だよ、木下。でもそろそろ終わろうや」

 言葉を発する常村に合わせて薙刀が召喚獣を貫く。そして秀吉の敗北が確定する。

 刹那。

「はぁい、そこまで~」

 まっすぐ突き出された薙刀は召喚獣を刺す寸前に巨大なハンマーに止められた。

『 2-A   工藤 愛子

  歴史   420点   』

「工藤!?」

「やっほー秀吉くん♪助けに来たよ」

「てめえ!男の勝負に水を差すんじゃねえ!」

「あっはっは~。いやですねセンパイ」

「何がだ」

 激昂する常村と正反対に愛子の表情は冷たく静かになる。

「これは戦争ですよ?まあそれだけならこんなことしなかったんですけども」

「ならお前にはどんな高尚な理由があるってんだ?」

「.....ボクの....」

「あ?」

「ボクの親友に手を出したからだ!!!」

 愛子の声に呼応したように召喚獣の腕に付けられた腕輪が光ると、瞬きする間もなくハンマーは敵召喚獣の胴体を吹き飛ばしていた。

 

『2-A  工藤 愛子  VS 3-A 常村 勇作 

 歴史  400点           DEAD 』

 

「そ、んな」

「工藤、お主.....」

「さ、次いくよ」

 その日、最も多くの敵を冷酷に屠った工藤は『雷神』という少女には些か重い異名を付けられた。

 

 

2年Aクラス

「くそがっ!」

「おやおや、坂本雄二君。もう余裕がなくなってきていますね」

「ほざけ。笑ってられるのも今のうちだ」

「貴女はまだ余裕ですね、霧島さん」

「先輩こそ...!」

 

『 

 2-F  坂本 雄二 & 2-A霧島 翔子

 数学   150点      250点  』

 

 3-A  高城 雅春 & 3-A葵 小暮

 数学    320点      240点 』

 

(思った以上にやられちまったな。......ここからどうする?)

 実力は互角くらいだと思っていたがまさかここまで追いつめられるとは.....。明久を行かせるべきじゃなかったか。

 いや、いまさら悔いても仕方ない。とにかくこの状況を何とかしないと。

「雄二.....」

「なんだ?」

「今度は私も、最後まで一緒に戦う」

 半分涙目になった翔子が弱々しいのか力強いのかよく分からない声色で確かな気持ちを告げる。その姿は小学校の時とよく似ていた。

「はっ、いつの話してんだよ。でも、ありがとな」

 翔子の方は見ずに答える。今こいつを見てしまうとなんだか泣いてしまいそうだ。

「お話はもうよろしいでしょうか?」

「なんだ、待っててくれたのか?そんなに余裕こいてせっかくのチャンスを逃しても知らないぞ」

「ふふふ、大きなお世話ですよ。どの道あなた方にもう勝つ術はないでしょう?それは坂本君が一番理解している筈です」

 いちいち痛いところついてきやがる。これに勝ったら裸で町内一周させてやろうか。

「.....もういいですね。十分楽しませてもらいました」

 高城の召喚獣が片手剣を構える。

 なにか、何か手はないか!

「雄二。いいこと、思いついた」

 若干俯いてニヤリと笑う翔子。夜中だったら悲鳴を上げそうだ。

「な、なんだ?」

「今さら何をしても」

「キャ――――!!助けて――――――!!!!」

「「!?」」

「し、翔子!?」

「誰か――――――!!せんせ――――!!」

 急に金属を叩きつけたような声で叫び出す翔子。三年の二人はあっけにとられる。小学校から知っているこいつのこんな声聞くのも初めてだし急に痴漢騒ぎを起こすわで俺はもっとパニックです☆俺は無罪です☆

「な、なにごとですか!?」

「先生!高城先輩にお尻を触られました!」

 涙声で訴える翔子。

「私は胸を揉まれました!」

 に、便乗してなぜか葵先輩まで訴える。

 何してんだこの人。

「.....高城君、ちょっと職員室まで来ようか?」

「先生!?僕はなにも.....!」

「はいはい、話は落ち着いてからゆっくり聞かせてもらうからね」

「信じて下さい!」

「そう言えば、あなたは校内の女子全員犯すとも言っていたようですね。これは進学も危ういかもしれませんね」

「き、聞いてください!本当に僕はなにも!」

「「「......」」」

 高城が連れていかれた後の教室は大型の台風が過ぎたように静まり返る。

「.....あんた、どうして」

「そろそろあれは痛い目にあっておかなければと思いまして」

 てへぺろ♪とでも効果音が出そうな感じに舌を出す葵先輩。うん。可愛くないな、断じて可愛くない!

「.....雄二、鼻の下伸びてる」

「気のせいだ!!」

「でも、これって戦争どうなるの.....?」

「恐らく疑いが晴れて再開となるでしょう。いま三年の学年主任に誤解だとスマホアプリのLONEしておきましたので」

「借金でもしそうな響きだな」

 というかなんで教師とそんな軽いコミュニケーションツールを...。

「ふふふ、また後で遊びましょうね」

 微笑むと葵先輩も教室を後にした。

「しかしお前あんな声出せたんだな」

「.....出そうと思ったら、なんかでた」

「なんかって....」

「それより雄二」

「あん?」

「状況打破のご褒美があってもいいと思う」

「あ~そうだな、帰りにジュースでも」

「やっす」

「まて、冗談なのに無表情で言われるとさすがに悲しいぞ。じゃあ何がいい?」

「キス」

「よーし、クラスをまとめなきゃだからみんなのところに行かないとー」

「頑張ったのに.....」

「明久はうまくやれてるかなぁ」

「優子は絶対大丈夫。大声出すのすっごく恐かったのに....。」

「これが終わったらあいつらも付き合い出すのかねぇ~」

「雄二!!」

 再び響く翔子の声に思わず足を止める。

 さっきとは違うところがあるなら、声が、泣きそうというところだろう。

「ゆうじ.....いや?」

 目の前の女の子はすがるように、甘えるように、上目使いで尋ねてくる。

 これはいくら何でもせこいだろ。ちくしょうめ。

「.....目、閉じろ」

「!....ん」

目を閉じる翔子の唇を静かに、そっと唇を合わせる。

いったい、いつから俺の青春ラブコメはこんなに優しくなったんだ。

「......雄二からしてもらったの、初めて....。ふふっ」

「は、恥ずかしいから言うんじゃねえ!」

 

ピンポンパンポーン

『二年、三年担当の先生方は至急職員室に集まってください。尚、試召戦争は一時中断とします。繰り返します、二年、三年担当の―――――』

 

 さてさて、ここからどうなることやら。




次話もほとんどできてるので早めに投稿できると思います!
また不備があればよろしくお願いします。




....だから就活なんて知らないって!!


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友達と....

こんにちは。ハラミハラです。
ここ最近就活とかいう日本の悪習に付きまとわれていたのでなかなか投稿できなかったのですがようやく投稿できました。でも書き溜めしてないのでつぎはほんとにいつになるか分かりませんw
え?ここに来てるってことは内定もらえたのかって?
皆さんは察しの言い人だと信じてます♪
今年も残すところわずか....師走で忙しくなる人も多くて、寒さがつらい時期でもあります。体調には気をつけてください←二週間風邪に悩まされた人。
てなわけでいつもの拙い本編をどうぞ!



 放送が入る少し前――――

「いい加減にしろ!!」

 ああ、ようやく助けに来てくれたんだ明久君。

「ほっとした顔してるとこ悪いけど、アキじゃないわよ」

「!?」

 明久君が来たと思ったら、教室の入り口に立っていたのは島田さんだった。なんでこの人が.....。

「や、そんな露骨にがっかりされても困るんだけど。それともあいつが来るまで放置でいい?」

「ブンブン!」

 それはとても困る。

「まあこの場所はLONEで教えといたからもうすぐ来るでしょ」

 何そのアプリ。

「さあ、常夏先輩。ここら辺が潮時だと思いますけど」

「チッ。もう一人口止めしなきゃいけない奴ができたか」

 優子の前に座っていた夏川は美波の方へと向きを変える。

「もう常夏にツッコまないんですね」

「飽きた。つか単身で来るとか勇気あるなお前」

「それはどうも」

 二人は淡々とした会話を続ける。

「だけどよ、お前自分が有利だと思ってねえか?これ以上邪魔をするってんならこいつの写真を校内にバラまくぞ」

 くっくっ、と喉の奥で笑う夏川に優子は再び恐怖を覚える。

(そうだ、あんな写真撮られてしまったら、アタシはもう.....)

 が―――――

「いいですよ?別に」

「はあ!?」

「んん!?」

「だってワタシはそいつの事嫌いだし、特に困ることはないから。あ、それでアキに嫌われてもらえるかも...?うん、どうぞやっちゃってください」

「むむぅ――!?(ちょっとー!?)

 これ、実は状況変わってないんじゃ.......。ていうかこの人明久君のこと諦めたんじゃないの...?

「おお、それは予想外だわ.....。けどよ、それはこいつの写真だからだろ?自分のじゃ、さすがに困るよなあ」

 言うと夏川は美波を押し倒す。

「お前、女子にしては力あるみたいだが、所詮男には及ばないよな?」

「あ~確かにそうですね。さすがにこれはまずいですね」

 男に押さえつけられているというのに、美波の表情はいたって冷静である。

「お前、状況分かってるのか?」

「ええ、分かってますよ。もう少しバカが来るのが遅ければね」

「は?」

 ゴッ!! 

 突然、夏川の体は鈍い音と共に美波の体から離される。

「遅いわよ、アキ」

「はぁはぁ」

 夏川を殴り飛ばしたのは、他の誰でもない、明久だった。

「ってぇ。よくもやってくれたな吉井!」

「よくもはこっちのセリフだ。あんた、よくも、よくも僕の友達に手を出してくれたな....!」

(友達、ね)

「はっ。クセえ奴だな。いいぜ、かかってこ―――」

「優子、遅くなってごめんね。もう、怖くないから」

「てめえ!シカトしてんじゃねえぞ!」

 無視されて激昂する夏川をさらに無視して紐を懸命に解こうとするが、手が内出血を起こしそうなほどに結ばれたそれはなかなか取れない。

「参ったな。どんな縛り方したんだこれ」

 血が止まるほどじゃないけど結構がちがちに結ばれている。召喚獣が使えたらなあ。

「ん~!んん~!!」

「ゆ、優子!?ご、ごめんね、もうちょっと待ってね!すぐに助けるから!」

 明久は気づいていない。

「アンタ、それ無自覚でやってるわけ?」

 優子を心配するあまりに意識していなかったのだろう。

「何が?それより美波、早く先生を!」

「はあ、アンタの目の前に何があるのかちゃんと見てみなさい」

「こ、これは――――!?」

 明久のしゃがんだ位置は先ほど夏川がいた場所。つまりそこにはきれいなピンク色の.....。

「....ん、グスッ....」

「うわわわわ!ごめん優子!そんなつもりじゃなくて!!」

「あーあ、これはもうだめね。犯罪だわ」

「そ、そんな、どうしよう!」

「その前に早く解いてあげなさいよ、縄」

「あ、そ、そうだった!ってほどけないんだった!」

「落ち着きなさいよ。見ていて腹立つわ」

 言うと美波の問答無用の蹴りが入る。

「いてっ!?」

 なんで蹴られたんだ僕。

「どうでもいいけど、お前ら俺のこと完璧に忘れてるだろ....」

「あ、まだいたんですか変態先輩。せっかく逃げる隙をあげたのに」

 逃げた瞬間殺しに行くつもりだったけど。

「はっ、そんな口すぐに聞けなく「黙ってろゴミクズが」先輩すらねえぞ!?」

「敬語ってのは敬う言葉でしょ?アンタに敬う要素はない」

「チッ。まあこれ以上問答は無用だな。早いとこ決着付けようじゃねえか」

 ゴキブリ野郎が意気揚々と拳を構える。この期に及んで何をカッコつけているのか。

『お前らこんなとこで何をしているんだ?』

 と、一触即発の空間の中に第三者が入って来た。教師である西む....鉄人だった。

「「げっ!西村、せんせ....」」

「なんで俺が出てきただけで嫌がるんだお前らは。......おい、これはどういうことだ」

 鉄人はがっくりした後、すぐに優子の状態に気が付いた。

「....!先生聞いてください!吉井が木下を拉致監禁したんです!それを俺が助けに!」

 くそ野郎....!優子が喋れないのをいいことに罪を僕に擦り付けにきやがった!

「よくわかった、夏川。先に縄を解いてやれ」

「うす!」

「吉井」

 ....うん?

「僕、ですか?」

「お前以外に誰がいる?ほれ、召喚許可は出している。早くしろ、その状態は心が痛む」

「は、はい!サモン!」

「ど、どういうことですか先生!犯人はあいつで....ゴフッ!

 鉄人がハゲの腹に一発拳を入れた。え、どういうこと?教師がそんなことしていいの?僕的にはありがたいけど....。暴力は今さらでした!

「俺を甘く見るなよ夏川。生徒の言葉の真偽くらい目を見ればすぐに分かる。.....それともう一つ、吉井は行動はバカげているが、決して己の志を曲げるような奴ではない!!」

 鉄人が額に血管を浮かび上がらせ、本気で怒鳴っているのが目の端で見ただけでわかる。

「か弱い女生徒に暴行し、あまつさえ他人に罪を着せようとするとは.....!恥を知れ!!」

 この人がここまで感情的になったのを、二年間で、一度も見たことがない。

「.....す、すいません、でした...」

 怒鳴られてうなだれる夏川。いい気味だ。

「吉井、縄は解いたか?」

「は、はい」

「よし、では一度こっちへ来い」

「?」

 縄を解いて力なくよろける優子をそっと座らせて鉄人の元へと行く。

「ごのっ!バカたれが!」

「でっ!?」

 喉太い言葉と共に固い拳の鉄拳が降ってきた。

 なにすんだ暴力教師!目がチカチカする....。

「俺はつい先日言ったはずだぞ。困っていることがあるならまず頼れ、と」

「あ.....」

 久しぶりに学校に来たときに、鉄人にそんなことを言われたっけか....。

「そうすれば木下をもっと早く助けてやれたかもしれん。もう、分かるな?」

「はい。次はちゃんと....」

「ならもういい。木下のそばにいてやれ。今、それがお前にできることだ」

 言い切ると鉄人は夏川の首根っこを持って教室から出て行った。

 ってそうだ!優子!

「優子!ごめんね、遅くなって....」

「.......」

 声をかけても彼女は下を向いたまま答えてくれない。無理もないか、さっきまで怖い目に....。

「助けるの遅いのよバカァ!!」

「遅すぎね」

「あー.....それはえっと.....」

 まさかそっちですか。まさかでもないか、当たり前か。

「もうっ。明久君が来てくれたと思ったら島田さんだし「おい」来てから助けるのにどんだけ時間かかってるのよ、スカートの中も見られるし....もう....ばか、ばかぁ....」

 ポコ、ポコ。と弱々しく叩かれる胸は全く痛みを感じないのに、心臓に針を刺されるような痛みが僕を襲う。

「まあ、確かに時間かけすぎよね」

「うっ。す、すいません.....」

 どうしよう、二人のジトっとした目がさっきのげんこつよりよっぽど痛い。

「けど、いい、来てくれたから....」

 床にへたり込んだ優子にギュッと腰を掴まれてしまう。

 はがすべきか迷ったけど、腰に回された手は、震えていた。

「ほんとに、ごめんね」

 そっと頭をなでると少しだけ震えが治まる。

「美波も、ありが....てっあれ?」

 お礼を言おうと思ったらいつの間にか美波は教室から姿を消していた。

 

 

 

 そのあとすぐに教員が招集される放送が校内に流れた。

 




少し編集しました!


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聴収

こんにちは!ハラミハラです!
新年あけましておめでとうございます。
さて、去年はこの前書き欄で就活だるいだの日本市ねだの(言ってない)うだうだ言いましたが....とうとう内定を頂き就活を終えることができました!!いえーい!
作品にまっっったく関係ないのに就活状況や体調を心配してTwitterやコメントしてくださった方々、本当にありがとうございました。

で!今回の投稿についてなのですが、就活中あまり小説に触れないようにしていたらですね、なんと.....地の文が書けなくなってしまいました.....。もうね、日本より自分がしぬべきですよね。はい。
なので今回はちょっと読みづらいと思いますが、会話だけでも流れは拾えると思うので苦にならないように読んでいただけたらと思います。
では今年もよろしくお願いします!!



職員室――――

 

「さて、この子たちの処分はどうするべきでしょうか?」

「この時期に三年生の、しかも両名ともAクラスの重鎮....。もし退学や停学にしてしまえば他の生徒の内心に響いてしまいませんか?」

 職員室に集められた教職員達は目の前に佇む夏川と高城の処遇について悩みあぐねていた。二人のしたことは女子生徒の拉致監禁に加え暴行未遂。普通に考えれば許されるわけはないのだがそこには大人の事情というのも絡んでくる。

「だからといって、今回の事件を水に流すのは言語道断だと思います」

 教員陣が世間体を気にするなか、西村宗一だけは違った。いかなる場合であれ他の生徒に、先生にさえも恥を見せない姿勢を取る。それが彼だ。

「しかし今回の件は表に出すには些か....」

「....一度その話は置いておこうじゃないか。一方的に処分しても後から何か出てきたんじゃややこしくて仕方ないよ」

 会議が始まってから部屋の端で成り行きを見守るように口を閉ざしていた学園長が言葉を発する。

「だから先に聞いておこうじゃないか。さあお前たち、言いわけをするなら今だよ」

「学園長!?その子たちに助け舟を渡す気ですか!?」

 その場には、というより彼女の立場としてそぐわない言葉が室内をざわめかせる。

「....へへっ。願ってもねえチャンスじゃねえか」

 ざわめきの中、夏川が誰にも聞かれないように濁り切った闘志を燃やす。

「聞いてください先生方!!今回俺が木下を攫ったのは全部高城の指示なんです!俺はやらされただけなんです!」

「.....と。言っているが?」

「確かに彼女を隠せと命じたのは私です。しかしそれ以上先の行動に関して私は一切関与しておりません」

 学園長と同じく状況を見ていた高城もここぞとばかりに口を開く。

 しかしお互いの言葉はお互いの足を引っ張るだけだった。

「ほう....それでは島田に事情聴取をしてみるか?」

 鉄人が言う。

「そ、それは....!あいつは吉井と仲が良い!!そんな奴の証言なんて信用できないんじゃないのか!?」

「少し前までは、な。今あいつらはほとんど絶縁状態だ。庇う事などないだろう。無論お前のことも、だ」

 一度言葉を区切り夏川の前に詰め寄る。

「それで―――――もしお前の言葉が虚偽と判明した時のことは、覚悟しているんだろうな?」

 先ほどのように声を荒げるでもなく舌を巻くわけでもない彼の言葉は余計なものを含まない分、重い。

「ぐっ!それは....」

「やれやれ、あなたは本当にAクラスですか?」

 夏川が目を泳がせていると、今度は高城があきれ気味に割り込む。

「純真で無垢な女の子を襲ったのはあなたの劣情でしょう?それを私の責任にしないで頂きたい。...ああ、でも君の友人のように男の子に興味を抱いてしまうよりはマシですか」

「な、なんだと!?そもそもお前が原因じゃねえか!!この野郎ぶっ飛ばしてやる!!!」

 高城の芝居がかった挑発に夏川は怒りを表に出し殴りかかる。あわや職員室はパニックになろうとする。

 そう、これは芝居。その場をうやむやにする彼らの作戦。事件を上書きする算段だったが…

「そう簡単に俺がだまされると思っているのか?」

 極限まで鍛えられてた鉄人の腕に胸ぐらをつかみ高く引き上げられた二人は圧倒的腕力に成す術をなくす。

「に、西村先生!さすがに暴力は...」

「そうですよ。確たる証拠もまだ上がってないというのに。聡明な貴方らしくもない、処分される側になるつもりで?」

「よく舌が回るじゃないか高城。そうだな、もしこれが冤罪なら俺も処罰されるだろう」

 動くことは出来ずとも何とか危機回避しようとする言葉に西村は怯みもしない。それどころかより拳に力が入る。

「お前らは本当に高校生か疑わしくなるほどに頭が良いが、子供なのはどいつもこいつも同じだ。そんな奴らを導くのに自分の保身など必要ない」

 彼の見つめる目は一点の曇りもない。大人だというのにどうしてそんなにも純粋な目をしていられるのか、きっと当人にだって分からないであろう。

「....問答はこのくらいにしておこう。後はこの件に関わった者に聴収をしていく。結果が出るまでお前たちは補習室に....」

「待ちな」

「...なんですか?学園長」

「いやね。あんたと同じ目をした連中をほっとけなくてね」

 くいくい。と握り拳からでた親指で示された方向に目を向けるとそこには生徒が立っていた。

「何をしている吉井。今は会議中だ」

「そうですよ吉井君。これはいつものような事態ではなく大変な...」

 西村だけでなく他の先生も明久の乱入を制止しようと出てくる。

「分かってます。大変で大事なことだからこそ来ました」

「ほう?」

「俺たちとそいつを勝負させてください。そいつらの処分はその後ということで」

 明久の影から雄二が姿を現す。いきなりの申し出に教員たちはまたもざわめく。

「私からも....お願いします」

「木下!?なぜお前まで!?こいつらを許すというのか?お前のされたことは刑事沙汰になってもおかしくな―――」

「それも、分かってます。でも今先生方は物的証拠がなくてその人たちを処分できない。ですよね?」

「......」

「被害者本人の頼みだ。聞いてやろうじゃないか」

 次の言葉を慎重に探す西村を置いて学園長が話を進める。どういうつもりだ?と言いたげな西村と他の教員たちの視線を浴びるが彼女は少しも気にはしない。

「で、あんたたちはこいつらと勝負して何をするんだい吉井?私怨か?それとも復讐、罪滅ぼし、断罪、敵討ち。さあどれだい?」

相手の本心を探ってやろうと学園長は意地の悪い顔で元からあるシワにさらにシワを寄せる。

その一方的な問いに明久は静かに首を横に振る。

「そうか、まあなんにせよ一度きちんと話さないといけないね」

『学園長正気ですか!?』

『一体どうされるつもりなんですか!?』

 学校の命運をも左右しかねない決断を学校一の問題児に託そうというのだ。当然のごとく教員たちは反発をする。

「がちゃがちゃうっさいんだよ!!文句あるやつは一緒についてきな。私の部屋で言い分を聞こうじゃないか」

 女生徒は思えぬほどドスの聞いた声で周囲を黙らせる。積み立てた年月が違うのか。はたまた教員たちに思慮がないのか、ほとんど黙りこくってしまう。その中で手を挙げた者は誰ひとりいなかった。

「おや?西村先生は食いついてくると思ったんだけどねえ」

「そいつらがここに来た時点で大方あなたの方針は決まっているのでしょう?だったら私の意見は必要ありません」

「そうかい。ならお前たち、私の部屋で詳細を聞こうじゃないか」

 ようやく大人の話が終わり、話を向けられた明久たちは深めのお辞儀をする。

「さてさてなにが起こるのやら。くっくっ」

 誰もが真剣な顔をする空間で、彼女は昔話に出てくる悪い老婆のように笑った。

 

 

 

 

 

 




もっと頑張ります!


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最終決戦(序)

どうもどうもハラミハラです。
ようやく大学のテストが終わったのでやっとの更新です。
分かってたことですけど時間が空いてしまうと書きたいことが変わっててすごい動揺しますね....
さあさあ大学生の皆さんは自分と同じくテスト期間ですかね。終わってる人はお疲れ様!まだの人は頑張って!です。

頭が回らないので前書きはこの辺にしときますね(笑)
さて長かったこの作品もようやく終わりを迎えることができそうです。あと5話以内には片づけてしまいたいところです。もう少しお付き合いください。
では本編どうぞ!!



職員室突入前

「それで雄二。次はどうする気なの?」

「どうもこうもねえさ。いつもと同じだ」

「いつも通り、ね」

「不満か?」

「いいや、ちょっと懐かしくなっただけだよ。一人いないのがちょっと寂しいけど」

「覚悟は決まってんだろ?なら迷うなよ」

「ちょっと、なに二人で話し込んでるのよ」

「大したことじゃないよ優子」

「にしてもお前、あの後でよく平気でいられるな。....本当に大丈夫なのか?」

「心配ご無用よ。いつまでも明久君に心配かけてられないもん」

「ゆうこー!よかったよー!!無事で本当に良かったよ!!」

「わっ。ちょっ愛子!急に飛びつかないでよ。はいはい心配かけたわね」

「吉井君!次優子を危険な目に遭わせたりしたら承知しないよ!!FFF団で殺しにかかるよ!」

「なんで工藤さんが実権握ってるの!?」

「やれやれ、本当にいつも通りじゃ。緊張感などないの」

「....でもそれが良い」

「さあ皆!!ここで決めるぞ!!」

『おう!!!』

 

 

学園長室

「ふう、ようやくうるさいのから解放されたね。それでお前たちは何をしたいんだい?」

 部屋に入ってすぐに奥に設置された椅子に全体重を預ける学園長。まさに今自分は疲れて居います。と体現して見せた。

 単に年寄りなだけだと思うのは僕だけだろうか。

「さっきも言った通り、決着をつけるだけです」

「そうじゃない。そこの三年二人がしでかしたことは学園としてほっとけることじゃないのさ...さっきの会議に水を差した付けは大きいよ」

 いつもとは違う重たい雰囲気に飲まれそうになるけどすかさず援護が入る。

「だからこその勝負なんだ。まどろっこしいから単刀直入に言う。三年が勝てば今回のことは水に流そう」

「はぁ!!?あん、た、そんな事が許されると思っているのかい!?調子に乗るもの大概にしな!!」

 雄二の言葉に学園長は怒気を完全に表に出す。学園側の責任もあるが、彼女が憤慨した理由はそこではなかった。

「そこの木下がどれほど辛い想いをしたか分かっているのかい!?」

「学園長、それは私自身が重々承知しています。だから―――お願いします」

「....まったく、今回の二年生はどうなってるんだか」

 自分の身を案じてくれていると分かっていて尚も優子は頭を下げる。この子は周りが思う以上に強い子だ。

「よし、いいだろう。三年側の異論は?」

「もちろん受けるさ!そいつらクズどもに俺らが負けるはずねえし、これで無罪放免ってなら安いもんだ」

「そうですね、この機会ありがたく頂戴します」

 ああ、どうしてこの二人が口を開くだけでこんなにも胸がざわざわするんだろう。特にくそ坊主が優子を舐めるような目で見ているのが頭から離れなくてぶっ殺したくなる。

「では明確な勝負内容はどうするおつもりで?」

「それはもう考えてある」

 一度言葉を切ると雄二は皆の見える位置、つまり学園長の前に移動する。学園長はテレビが見えないようなうざったさを感じたのかシワを寄せる。その気持ちは誰しも何となくわかるだろう。

 きっと雄二なりの嫌がらせだ。

「勝負は三対三で行う。相手はそこの二人と....「私ですね」

 自分たちしかいなかったはずの空間に新しい声が響き全員の視線がそちらに集中する。

 その先にいたのは葵小暮だった。

「おや、私に痴漢の冤罪を立ててくれた葵小暮嬢ではないですか。どうしてこちらに?」

「あれはただ何となくそうした方が面白いと感じたのでつい」

 小暮先輩は悪びれもなくクスクスと笑う

 つい、でこの人冤罪を立てたのか....。絶対一緒に電車に乗りたくない。

「むしろ痴漢強姦者に手を貸してくれる人なんていませんよ?」

「それもそうですね。ではあなたで我慢するとしま...ゴフッ!?」

「あらあら、せっかく手を差し伸べてあげているのに。口の聞き方がなっていないワンちゃんですねぇ?」

 いけしゃあしゃあという高城の腹に小暮先輩の拳が入る。なんなのこの人?怖いんですけど。

「こほん、ではお話の続きを」

「....あ、ああ。三対三に加えて今回の事件のペナルティとして高城とゴミクズクソ坊主両名の召喚獣のダメージフィードバックを要求する。還元率は百パーセントだ」

「おい!?召喚獣が本来どれだけの力を持っているのか知っているのか!?そんなことをしたら」

 突然自分の身に危険が迫ることを認識すると慌てふためく坊主。むしろそんなのぬるいくらいだ。というか罵詈雑言は無視でいいのか。

「分かってないですね坊主」

「ついに敬称が消えた!!」

「こっちはあんたらのことを許すつもりでこの勝負を申し込んでるんじゃない。タダで済むはずなんてないでしょう...ぐぇ!?」

「明久その辺にしとけ、今のお前ちょっと怖いぞ」

 雄二に首根っこを掴まれて引き戻される。まだまだ言い足りないのに....。

「まあ確かに召喚獣は強い力を持っているが、あれは痛みの疑似体験をしているようなものだから死にはしないよ。だが勝負とは常に公平じゃなきゃいけない。お前らも同じ条件になるよ?」

「構わない。これで不満ならこっちは降りるだけだ。後は勝手に処罰されてくれ」

「良いでしょう。科目は?」

「日本史だ」

「.....ほう。吉井明久君が唯一高得点を取れるそれで来ますか。まあそれしかないでしょうね、前回私にすら届かなかったそれが届くのか見ものですね」

「言ってろザコが」

「話は決まったようだね。システムの変更には少し時間がかかる。一時間後、二年Aクラスの机や椅子を片付けてそこを会場にする。監視と召喚許可はこちらで選任する。異論は?.....ないようだね。では解散!!」

 学園長の先導的な指示により全員がその場を後にする。

 

「明久、これでよかったのか?」

 学園長室を出て三年とも道を違えてから雄二が語りかけてくる。

「どういう意味?」

「こんなある意味、復讐劇みたいなこと木下は喜ばないんじゃないのか?」

「それは....」

 確かに、決着をつけると言い切ってみたものの、僕の私怨がないわけではない。むしろありまくっている。

 それが正しい事なのかは分からないけれど....。

「まーた二人で話合ってる」

「わっ優子...えっと...」

「気にしなくていいわよアタシのことは。明久君の思う通りにしたらいいよ」

 会話が聞こえていたのか優子はあっけらかんと言う。

「おいおい木下。いいのか?」

「まあ、ね。あの二人とは正直言ってもう関わりたくないし、明久君が痛い想いをするって、そっちの方が許せないし、放置しても裁かれるんだから必要ないんじゃないかって思うわよ。でもね」

 早口に言って息が続かなかったのか少し間を取って、また話し出す。

「でも...自分のためにあんなに怒ってくれて、頑張ろうってしてくれてる人を止めるなんて野暮でしょ。だから」

 くるっとこちらを向いた優子の顔がぎりぎりまで近づいてくる。お互いの息がかかる距離に存在を認識する。

「ゆう、こ?」

「絶対、危ないことはしないでね。本当はアタシはこんな決闘どうでもいいの。それ以上に貴方が、大事なの」

 優子の目は真剣で、逃がさないという気持ちが胸に刺さるように伝わる。まったくこの子は――――。

「はいはい、お熱いね。じゃあ俺らは点数を補充しに行くから」

「何言ってんの?アタシも行くわよ?」

「「へ?」」

 今なんと?

「いやいやいや!優子を出すわけには!!」

「そうだぞ木下!トラウマ植え付けられそうになった相手の前に立つか普通!?」

 僕と雄二は断固として拒否するが、彼女は取り合ってくれない。

「だって、明久君の事だから絶対無茶するでしょ?そんな時にそばにいなくてどうするのよ」

「や、どうするって言われても...」

「あーもうだめだ。明久。俺たちの負けだ」

「雄二!?どうして!」

「こいつの目見てみろよ。動かせるかお前?」

「あーうん、無理だね....」

「む。何よ二人して猛犬見るみたいに」

 猛犬どころか猛虎だね。だって今の優子はツインテールとおっきいリュックと噛みついてくることで有名な人物とそっくりに見える―――ってそれならカタツムリか。失礼噛みました!

 まあ虎でも犬でも―――――

「優子、一つお願いがあるんだ」

「ん?」

「戦いでは僕を守る前に自分を優先して守ってほしい。少しでも怖くなったら逃げて欲しい。誰も君を責めないから。そして....僕に君を守らせてほしい。もうこれ以上君が傷つくのは見たくないんだ」

 愛おしいのは変わらない。大好きになってしまったこの子を僕は絶対に守り抜くんだ。

「全然一個じゃないの」

「あー、それは、うん....」

「でもわかった。守ってよね、お・う・じ・さ・ま♪」

 照れくさそうに優子の口が踊る。むず痒いよ!!!

「さ、さすがにそれは恥ずかしいよ!.....って雄二何してるの?」

 僕らのやり取りを見守るように携帯を構えていた。

「さすがに目の前でいちゃらぶされるのウザかったから、動画を撮っていた。安心しろ、しっかりバラまいとくから」

「「やめて――――――――!!!!!!」」

 

 

 こうして僕と優子は半分ニヤけながら半分頭を抱えて補充テストを何とか終えた。

 

 ようやく長かった戦争が終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




え?ここにいるってことは単位取れたのかって?あっはっは!
取れてなきゃ進路が内定先から富士山の樹海になるだけですよ!あっはっは!!


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最後の最初の方

久々の投稿です。
連続投稿しようと書き溜めてたけどなかなか進まないので投稿です。
読者の方々お待たせしてすみません><



――――体育館

 今回の戦争はスリーマンセル。普段の召喚システムとは少し違うらしく僕らは体育館に集められた。

「よく逃げずに来ましたね。褒めて差し上げましょう」

 既に両チームの三人が並べられていて、そこから小暮先輩が一歩出て挑発しにかかる。この人ってやっぱり性格悪いよなぁ、エロいから許すけど。

「そっちこそ、よく隣のバカを隠さずにこんな公の場に出てこれたもんだな」

 相手の隣に並ぶそれぞれの学友相手に目をやり、雄二が罵倒返しにかかる。性格悪いのはこっちも同じだったか。その罵倒を受けた人たちはと言うと

「おやおや、言われてますよ。なつ...何とか君」

「てめえも同類だろうがハゲ!つかお前俺の名前覚えてないの!?」

 どんぐりの背比べをしていた。というかハゲはあんただ。

「まったく、僕らより一年年上のくせになってないですね。バカ丸出しじゃないですか」

「「「お前に言われたら世話ねえよ」」」

 体育館の二階に位置する通路に観客のように並んだ人たちから総ツッコミを受ける。はっはっは!皆ツッコんでくれるなんて優しいなぁ!

「全く、せっかく挑発したのに貴方たちが喋ると台無しじゃないですか」

「こほん、そんなことよりもあなたが出てくるなんて意外でしたよ。木下優子嬢」

「だな。俺が言うのも何だが肝っ玉座った嬢ちゃんだ」

 優子を怖がらせる作戦だろうか?けれど優子は平然な表情をしつつ

「三年の猿二匹はウキウキ言っててうるさいですね。葵先輩、苦労が忍ばれますね」

 悪口を返していた。大丈夫ならよかったんだけど、期待してた大丈夫となんか違うような...。

「おや、言ってくれますね木下嬢」

「ふっ、さっきはあんなに泣き顔浮かべてたくせよく喋るぜ」

 ......いまコイツ自白しませんでしたか?

「流石に失礼ですよ木下さん。猿に対して失礼じゃありませんか」

「あ、そうでしたね。これは大変失礼いたしました」

「小暮先輩はどっちの味方なんでしょうか....」

 わけが分からないよ。

「おやおや、ずいぶん待たせたみたいだね。じゃ早速始めようか」

 ずいぶんと遅れて登場した学園長ばばあは悪びれもなく、自分の都合で物事を進める。

「おいおい、ずいぶん時間がかかったな?体育館にシステム貼るのがそんなに大変なのか?」

 雄二が質問を投げかける。今回は罵倒ではなく純粋な疑問の様だ。

「それだけなら五分もかからないさね。ちょうどいいから今からルール説明をする」

「スリーマンセルということならもう聞き及んでいますが?」

「いいや違うね高城。今回は戦争を簡単に決着させるためでもある。従っていつものように代表を立てる」

「今から決めるんですか婆長」

「もう何ヶ月最終決戦引っ張ったと思ってるんだ。楽しみにしてくれてる読者が可哀想だろう」

「代表はこちらで決めてある。というか連載が滞っているのはあたしのせいじゃないさね!?そう思うなら無駄な文字数使わすんじゃないよボケ!」

 ごもっともだけど、学園長がボケとか言ったらダメな気がする。

「はあ、まったくこのジャリどもは...。代表は木下と葵だ。この二人を落とした方が勝ちさね」

 両チームに女性は一人ずつ。決め方としては単純で明快かも知れないけど。

「学園長!優子は...!」

「明久君アタシなら大丈夫。痛みも平気だから」

「お前よりその子の方がよっぽど男前だね。そう、今回は全員にフィードバックがついてある。吉井は慣れているだろうけど、低い点数で強い攻撃を食らったら暫く起きられないから気をつけな。以上!質問は....なさそうだね」

 学園長の話が終盤を迎えステージに立つ六人全員の目に戦意が宿る。

「では尋常に....はじ」

「「「「試獣召喚《サモン》」」」」

 召喚された互いの獣たちは獲物をぶつけ合う。これは....!

「「「「反側だ!!」」」」

「どっちもだよ!!ああもう女子も早く召喚しちまいな!はじめはじめ!」

 学園長が投げやりな合図におずおずと召喚する女子二人。

「なんで男子ってああなのかしら」

 男たちが戦闘して聞こえないのをいいことに優子がぼやく。

「ふふふ、こちらのお猿さんはともかく、そちらは可愛いじゃありませんか。坂本君はともかく想い人が本気になってくれるなんて羨ましいです」

「先輩にも好きな人が?」

「んー今はいませんね。さあお話はこれくらいにして私たちも始めましょうか」

「はい。では....」

「「勝負!!」

(...アタシたち代表だけど戦っていいのかな?)

 

 

 

 優子の杞憂は虚しいほどに、戦う男たちには届かない。それもそのはず。

「くそがぁっ!Fクラスのゴミの分際で...!

「彼ら相手に侮る貴方がいけないんですよ」

「雄二大丈夫!?」

「なわけあるか!点数を見やがれ!」

『2-F  吉井 明久 & 坂本 雄二

 日本史  170点    25点  』

 

『3-A  高城 雅春 & 夏川 俊平

 日本史  350点    19点  』

 

 大接戦を強いられていた。

「くそっ。フィードバックがこんなに痛えとはな...」

「僕は点数の悪かった頃から姫路さんの攻撃食らったりしてたから慣れたよ。」

「今でも点数はそれ以外変わらないだろうが。このマゾ教徒め」

 なにそのこわい宗教。僕知らない!

 雄二とハゲゴミの点数がなぜ極端に減っているのかと言うと...

「やっちまった...あそこで翔子のパン...が目に入るなんて!俺としたことが~!」

 霧島さんは他の生徒と同じく二階から観戦している。そしてさっきから一年生まで観に来始めて、体育館の扉は開けっ放し状態。

 だから風が通り文字通りパン☆チラ天国状態になる。けど女子がそんな状態を看過するわけもなく降りていく。あれで観客半分はへったよなぁ...。

「なんで翔子だけそこから降りねえんだよ!」

「...だって。ここだと雄二が見てくれる、から」

 頬を染めて呟く霧島さんにフーッとかヒューッとかいう声が飛んでくる。風かお前ら。

「っだあもう!いいから降りてこいバカ!俺以外にんなもん見せんじゃねえ!!」

「...ヒューッ」

「てめえ千の風にしてやろうか」

 さすがに聴いたのか、素直に降りてくる霧島さん。ちなみにスカートが捲れたのはハゲと雄二が獲物をぶつ合う瞬間だった。あとは言うまでもないだろう。

「まったく、戦いの最中に他所見しちゃうなんて」

 やれやれだよまったく。

「明久君。私見てたからね」

「ん?」

「代表のスカート上がったとき、明久君もばっちり見てた」

「な、なんのことかなぁ」

「アタシのも見たくせに....えっち」 

「その節は本当に申し訳ございませんでした!!」

 綿じゃないない方のパンツってえろいよね。

「お前ら今なにしてるのか分かってんのか...?」

「ああ、まだ点数残ってたんですねドブネズミ。じゃあちゃっちゃとやりますか」

 今までの雰囲気で途切れていた戦闘モードを呼び起こす。浅く呼吸を吐くと自然に周りの音が自重するように消えていった。

 すでに相手の召喚獣はこちらに向かって来ている。だけどその点数は20点以下。悪い点数を取り続け、観察処分者の僕だけがよく理解している。その圧倒的弱さを―――――

「ふっ」

 横から一閃を入れた。そこでどう防いでも勝負がつくのは確定。だけどこんなのはまだまだ。

「おおおお!!」

 胸、胴、足、頭、首、顎。システムが敗北した召喚獣を消す前に全身全霊の斬撃を叩きこむ

「ぐっあっがあああ!!」

 フィードバックが発生した痛みに坊主は悲鳴を上げる。いい声じゃないか。

「痛いですか?だけど...あんたが優子にしたことはこの程度じゃないぞ!!」

 頭をかち割ってやろう。私怨とも呼べる感情を木刀に乗せ、振り切る。

 だけどそれは届かなかった。

「気持ちはわかるが、それはお前のやりたいことじゃないだろう?」

 僕の感情の先には雄二がいた。

「ゆ、雄二!?どうして…」

相手の頭を叩くつもりだった木刀はガードされた腕さえも切り落とし、殺していた。相棒の召喚獣を。

「…頼むから、おいたは…これで最後、な…」

「!?雄二!!しっかり…」

 痛みがよっぽど強かったのか、雄二は崩れ落ちる。

「雄二っ!!」

 状況を見守っていた霧島さんが駆けてくる。彼女はいつも雄二の事となると冷静さを失う。今回に限っては僕も同じだ。

「吉井......」

「ん?...ぐえっ!」

 目の前に立った彼女にネクタイを引かれ首が絞まる。僕のものより少し下に位置する二つの目は大切な人を守れなかった悔しさが形になって現れていた。

「勝たないと、許さない...!」

「大丈夫。負けない」

 僕の意を聞くと彼女は雄二を担いで退場する。ちなみにお姫様抱っこ。

「優子。そっちは大丈夫?」

 気が散ってしまいそうなので意識して見なかった優子の状態を確認すると...。

「あー、言いにくいんだけど...ちょっとやばいかも...」

「え゛」

 

 



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最後の中くらい

......お久しぶりです。ハラミハラです。
毎回恒例になってる感があるのですが言わせてください。
遅くなってすみませんんんんんん!!!!

形は結構前にできてたんですけど、上手くいかないのと色々忙しくって...すんません言い訳です。

もう遅くなりすぎて読んでくれる人いないんじゃないかな?って思う中でもお気に入り登録が増えたりして本当励みになります。

さて今回で最後の中くらい。次で最後の最後(になったらいいな)になると思います。
時間が空いてキャラがブレたり回収しない伏線が増えたりして、ほんともう何してんだ?って思いはありますが最後まで責任を果たしたいと思います。

それでは本編、タマゴよりグデグデですがよろしくお願いします!



雄二が気絶する少し前。

「はぁっはっ。やりますね、木下さんっ」

「そちら、こそっ!」

 まさか召喚獣を扱うだけでこんなにしんどいなんて...!

 感覚がフィードバックするということは、自分の武器の重たさや攻撃を受け流しただけの衝撃も全部返ってくる。

(明久君、普段からこんなことしてたんだ....)

 彼の召喚獣はいつもこの状況にあった。つまり試召戦争の時、アタシたちがゲーム感覚でやっていた中で独り、本物の戦争をやっていたのと同じだ。

 それを対戦中に理解してしまうなんて、気が散っちゃうじゃないのまったく。

「そんなの―――もっと好きになっちゃうじゃない!」

 一刻も早く目の前の敵を倒そう。彼の元へ走りたい。彼が好きで好きで大好きなんだ。彼が誰を愛そうと、彼が誰を愛したとしてもアタシはもう彼しか愛せない。

 無垢な心がこもった斬撃はどんどん淡い色を帯びていく。

「「!!?」」

 しかしその剣は甲高い音と衝撃と共に彼方へと飛ばされる。

(今の...召喚獣の腕!?)

 腕の飛んできた方向に目をやると明久君が坂本君の召喚獣を切り捨てていた。

(何がどうなってそうなるのよ...)

 

そして坂本雄二退場後―――

 

「それで、なにがあったの?坂本君が運ばれていったのは見たんだけど...」

 隣に並んだ優子が敢えて本質に触れないように聞いてくる。

 ある程度察してるくせに。全くどこまでもこの子は。

「雄二が喝をくれたんだ。また僕が迷わないように」

「そ。ならもう迷わないように最後まで走らないとね」

 短く答えると彼女は正面に向き直る。その横顔は凛としていて『美しい』という文字だけが僕の頭に浮かぶ。

「それで、さっき言ってたヤバいってなんのこと?」

 優子はその美しいまま、体育館の壁に貼り付けられたバスケットボールの籠を指さす。

「OH.....」

 なんとそこには優子の召喚獣が持っている筈の剣が刺さっていた。

「どうしてああなったのかは聞かないけど、どうしようか...」

「流石に素手で戦うのも無理があるわよね...」

「さっきからなにをしているんですか?これは大事な決闘だということをお忘れでしょう」

「うわっ!」

 突如、高城の攻撃が二人の間に入る。二人というのは召喚獣ではなく僕ら本人だった。

「ちょっ!何するんですか!?」

「何するもなにも、今回の戦争はダメージがあるということは当然、物理干渉もあると踏んだまでですよ」

 さも自分に間違いなんてないと言ってのけるそいつの顔は酷薄な笑みを浮かべていた。

 だけど、ここで乗せられちゃ...負けちゃだめだ。

「ふーっ」

 静かに息を吐いて頭をリセットする。

 雄二が身を挺して恨みに呑まれそうな僕を止めてくれた。

 霧島さんが悔しさを僕に預けていった。

 美波は歪みながらも再交をしてくれた(ような気がする)。

 鉄人は迷ったとき人を頼る術を教えてくれた。

 優子はずっと僕のことを見てそばにいて、支えてくれていた。それは今も尚。

 報いらなければならない。僕を再び目の前で笑う男と戦う機会をくれた皆に。

 守らなければならない。隣に立つ最愛の女の子の笑顔を。

 戦わなければならない。毒々しい自分の本能と。

「.....よし。優子」

「ん?」

「僕が今からあの二人を相手にするから、その間に剣を」

「ん、わかった」

 優子と短く作戦会議をするとそれはすぐ実行に移される。

 相手の二体の召喚獣めがけて全力で駆ける。

「葵小暮嬢。分かっていますね?」

「ええ、もちろん」

「.......」

「あの、葵小暮嬢?」

「なんでしょうか」

「なぜ動いてくれないんでしょうか?」

「あら。好きな人の為に色々な葛藤を乗り越えた男女が二人、それを邪魔する義務も責任も私は持ち合わせていませんわ」

「...!あなたは!」

「ほら、起きてしまった獅子がもうそこに」

「!!」

「高城ぉ―――!!!」

 咆哮と共に放たれた剣は寸前のところで止められる。くそ!

 

「2-F 吉井 明久 VS 3-A 高城 雅春

 日本史 170点      345点   」

 

「ふははっ!いくら果敢に飛んで来ようとも貴方と私の点数は二倍!勝てるとお思いですか!?」

「思ってなきゃこんなとこにいるわけないだろ!!」

 何度も何度も交わる木刀と西剣。普通ならここで隙を見せた方がやられる。だけど―――

「おやおや、木刀が削れてきましたね。鉛筆削りでもお貸ししましょうか?」

「――――!」

 高い点数を持っていたとしても所詮は木刀。しかも向こうが圧倒的に点数が高い。

(このままだとジリ貧...!)

二重召喚(ダブル)!」

 叫ぶと僕の召喚獣が二つに分かれる。

「その腕輪は大したものです。しかしそれで、避け切れますか?」

「うっ!ぐっ!」

 点数が上がってるわけでもないのにどんどん斬撃の速さが増してくる。

「負けて...たまるかー!」

「その咆哮も聞き飽きましたね」

「ぐあっ!?」

 二体が縦に並んでしまった瞬間に刃は召喚獣の首筋を刈る。

 ギリギリのところで戦死はしていないけど、文字通り首の皮一枚だ。

 

「2-F 吉井 明久 VS 3-A 高城 雅春

 日本史  25点       322点  」

 

「勝負ありましたね」

「くっそっ....!!」

「木下優子嬢。止まりなさい。さもないと愛しい方の首が飛びますよ。残念ながら召喚獣ですがね」

「優子!僕のことはいいから早く武器を!」

 代表さえ生き残ってくれればまだ勝機はある。僕のミスなんかで全てを台無しにするなんてできない!

「.....っ!」

 こんな状況ですぐに選択できるはずもなく、優子はその場で動きを止めてしまう。

「木下さん、名前の通りあなたは優しい子ですね。でもそれで彼の決心を無駄にするのも良くないですよ」

 ただ一人、自由に行動を取れる小暮先輩は召喚獣をゆっくりと優子の召喚獣へ近づける。万事休すか...!

「それでも想い人を助け合うあなた達の心はとても美しいものでした。そこの勝ち誇ってるクズにも見習ってほしいものです」

 思ってたけどこの人キャラブレてない?何を考えてるか分からない。

 そんな僕の不理解はお構いなしに彼女は事を進める。

「小暮先輩...さっきからなにを...?」

「私はあなた達の応援をすることに決めました」

 二人の召喚獣が並ぶ。一体は何も手に持たず立ち尽くし、もう一体は剣を差し出す。

「え....」

「守りたいんでしょう?なら、そうしなさい」

「させません!!」

 その行為を阻止せんと全力で召喚獣を飛ばされる召喚獣。だけどそれは少し遅い。

 本当に遅かった。

「高城先輩。ここまでです」

「くっ!」

 この剣が届くまで、本当に。

「これでっ!最後だ!!」

「くそがあああああ!」

 高城の怨嗟は、二本の剣と体育館中に沸いた歓声にかき消された。

 

 



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最後の最後

はい、お久しぶりです。ハラミハラです。
ついにきました最終回。正直ハチャメチャです。苦しい流れが沢山あると思います。
でも最終回だからいっかな♪て気持ちでやりました。
ウソですごめんなさい!タブを閉じないでぇ!!


本当にここまでの長い道のりでした。本来はもっと早くに終わるべきだったのですが....。
思い返せば早5年。オリンピックも過ぎてしまっています。
その中で印象に残っているのは、読者の皆様と出会えたことです。最初は自分の妄想を配信するのに抵抗がありましたが徐々に読者が増えていって、皆様の存在に背中を押してもらった回数は計り知れません。本当にありがとうございます。

さて、後書きが今後のことを語ってくれるのですが、私の口からも念のため(後書きから書いちゃいまして....)

この作品はここで完結ですが、まだ書く予定はあります。クリスマスとかイチャイチャイベントやってないもん....。かわいい優子をもっと書きたいですねはい。
今回姫路や美波は残念な役回りでしたが彼女たちのことも決して嫌いではない、むしろ好きなのでその話も書けたらいいなぁと。

ちなみに本編結構長いです。まとめる能力なさ過ぎました。

それでもここまで読んでくれた人たちなら付き合ってくれるかな?なんて希望的観測w

では長々もあれなので、本編最終回!どうぞ最後の後書きまでお楽しみください!
では!!




  ――――――数日後

 

「...雄二、もう身体は大丈夫?」

「ああ、むしろお前に入院を強要されたことの方が俺には衝撃なわけだが...」

「...夫の身体は大事。子どもは沢山ほしいから....」

「おま、まだそれ諦めてなかったのか。せめて二人か三人くらいにしてほしいな」

「.......」

「なんだ?ジトっとした目で見て」

「......最近うろたえなくなった。面白くない」

「そりゃ毎日聞かされてたら慣れるわ......」

「つまり雄二も覚悟ができたということ?」

「ぶっ!?それとこれとは違うだろ!?」

「ふふ、やっぱり慌ててる雄二はかわいい」

「ったくこいつは.....おい翔子、目を閉じろ」

「.....ん?!」

「まあ、そのなんだ、いろいろ心配かけて悪かったな」

「.....雄二からしてくれたの、初めて....」

「お前もたまにはうろたえやがれ」

「....雄二」

「仕返しなら受け付けないぞ」

「....それならだいじょうぶ」

「ならなんだ?」

「愛してる」

「――――――」

「雄二?」

「おまっばっ!!そういうのはだな!」

「......」

「....翔子?」

「なにか、たくさん、こっちに来る....?」

「あ?......げぇ.....」

 

 

 

 

「......はぁ」

「そうやってため息ついても吉井君は帰ってこないよ?」

「やめて愛子。泣きたくなるわ」

「ありゃ、冗談も通じないや。でも突然だったね、あの後急に姫路さんのところに行くなんてさ」

「......」

「しおらしい優子も好きだけど、ボクは笑ってるほうの優子がすきだな~」

「できたら愛子じゃない人に言ってもらいたいわね....」

「そりゃあボクだって、ね?」

「ううう~~!」

「よしよし、愛いやつじゃ」

 あの戦争のあと明久君はアタシの前から姿を消した。

『優子ごめん。僕はどうしても姫路さんに伝えないといけないことがあるんだ』

 残していった言葉はそれだけ....。あれだけのことがあったのに。

「あれだけのことがあったのにやっぱり姫路さんのほうがいいとか言ったらロコスにしてやる...!」

「そのロコスってのはなんなのかあえて聞かないけど、今回は吉井君も悪いからねぇ」

(早くしないと待ちきれないお嬢様はボクがもらっちゃうよー?なんちって♪)

「でも、ほんと何してんだろね。吉井君....」

 

 

 

 数日前―――フランス

 試召戦争が終わったあと、僕はすぐにフランスへとやってきた。

 彼女の情報は少なかったけれど、僕の失踪後も連絡を取り合っていた姉さんがある程度知っていたからそれほど難しいことではなかった。情報、ありました。

 

「姫路さん!やっと見つけた!」

「あ、明久君!?どうしてフランスに!?」

「君に、どうしても伝えておきたいことがあったんだ」

「そ、そんなっ!伝えるなら電話でも」

「ううん、僕なんかを好きになって、そして僕が裏切ってしまったんだ。だからけじめをつけなきゃいけないんだ」

 やっぱりこういうのは緊張する。普通の告白とは違うのだからなおさらかもしれない。

「姫路瑞樹さん」

「......はい」

 固唾を呑んで待つ女の子。

 どうして彼女が辛い想いをしてしまったのか。

 それは僕があまりに弱かったから。

 どうして彼女は今、泣きそうな顔をしているのか。

 それは今もなお、期待を捨てきれていないから。

 どうして僕は今ここにいるのか。どうして彼女に、『それ』を伝えるのか。

「ありがとう。君のおかげで僕は自分を大切にすることができました。そして」

 どうしてそれらを行うのか。決まってる。

「好きな人ができました。君のおかげで僕は次へ進むことができます。本当にありがとう」

 我ながら本当に最低だ。自分を好いてくれている女の子へ、わざわざ海を渡ってこんなことを直接伝えるなんて。

 でもこれをしなくちゃ僕はあの子と正面から向き合うことができない。今も脳裏にまぶしいばかりの笑顔を見せる彼女と向き合うなんて到底できっこない。僕はバカだからバカなりにやるしかないんだ。

「......!それじゃ、もう、私に可能性は...残されていないんですね....っ」

「ごめん。本当に、ごめん」

「.....いいんです。先日の件以来、あなたのことをめんどくさい人だなって思ってきて、ちょっと心配はしましたけど、もう明久君に興味なんてありません」

 涙をこれでもかというくらい耐える彼女に僕は何もしてあげれない。

「それに?こっちの人たちは日本と違ってアピールも素敵ですし?こっちのアピールにもすぐ気づいてくれますし....それに、それに.....」

「あなたのことなんか―――――――――――大っ嫌いです!」

「......ありがとう、姫路さん」

 本当にこの子はどこまでも.....。

 それを最後に僕は彼女に背を向け去った。心臓が裂けそうになるような泣き声を聞こえないフリをして。

 

 

「......やっぱりもう限界だわ」

「ど、どったの優子、急に立ち上がって。それに限界って?」

「待ってるのはもう限界ってこと。だから....」

「だから諦めちゃうの?そ、そんなの優子らしくないよ!だって...だってだめだよ!」

「確かに諦めるなんてアタシのガラじゃないわね。だからね、会いに行くの」

「吉井君も優子もあんなにお互いのこと想い合っていたのにどうして!?諦めちゃだめだよ!優子には幸せになってほしいんだ!なんならボクが吉井君を引きずって連れてくるから!ね!?」

「ね!?じゃないわよ。人の話聞いてた?それともあなたの耳は明久君並みだった?」

「いふぁいいふぁい!ふぃっぱらないで~~!あと吉井君と同じ耳は傷つくよぉ~!あれと同じはほんとに」

「それを聞いて一番傷つくのは僕なんだけどね......」

「ほんとほんと、そんなに言っちゃ明久君かわいそうじゃない」

「いやいや、言ったの優子だからね?」

「「.........」」

「??」

「ねえ愛子、急にいなくなった人が急に現れたらイラっとこない?こっちの心配なんてさぞ頭になかったんでしょうね」

「うんうん、三途の川で溺れさせてあげたくなるね。二人両方心配してたボクなんて二倍だよお得だよ」

「あ、あのぉ.....」

「「なに」」

「と、とりあえずごめんなさい....」

 

 

 

 久々に再開した友達と恋人(仮)はすさまじく怒っていた。

 そりゃそうか、あんなことがあったてのに連絡も取れないままずっと放置だったからなぁ。うん、よし。

「せめて苦しまないように逝かせてね......」

「覚悟はできているようね」

「二人とも、なんかおかしいことに気づいてよ」

「まあ理由次第では勘弁してあげなくもないわ。いろいろ大変だったみたいだし?」

「だね。どうしてそんなにボロボロになってるのさ」

 二人の視線は僕の服装にいってくれた。よかった、殺されなくて....。

「えーっとね、これはかくかくしかじかでして....」

「かくとしかしかわかんないわよ」

「えぇ~....これ通じるところなんだけどなぁ....」

「ただでさえ読者置いてけぼりの状況繰り広げてるんだからもっと説明しないとだよ」

「工藤さん、君はどこまで知っているんだい?」

「いいから説明なさい。どうしてそんなにボロボロなのかとか、いなくなって何をしてたのかも全部」

 

 

 全部とは言われても流石に告白のところは割愛。(ちゃんと説明はしました)

 さっき2人が言ったように僕の服装は貧相を通り越して大変なことになっている。

 どうしてそうなったかと言うと、あまり言わなくてもわかると思うけど、FFF団に襲われた。

 

「「.........」」

「ん?あ、今ので終わりだよ?」

「「ええ!?」」

「いや、あの吉井君。さすがにそれだけじゃわかんないよ...」

「んーでも本当にそれだけなんだよ。彼らからしてみれば可愛い女の子に告られたあげく、放置して最終的には振るんだからね。怨みの対象にならないことの方が怖いよ」

「だからって海までわたるかなぁ...」

「......ならどうして貴方はそんな可愛いお姫様を振って、傷つきながら戻ってきたの?貴方は結局誰が.....」 その先の言葉は告げられなかった。僕からの返答を待っているんだろう。

 だから僕は優子に思った。

「優子って知らない間にバカになった?」

「.......」

「ご、ごめんごめん!お願いだからそんな人を殺せそうな目線はやめて!」

 最終回のメインヒロインがすごい形相をする。雄二が呼ばれてた悪鬼羅刹は優子に献上だろう。

「だって、そんなの言わなくてもわかるじゃないか」

「んー吉井君の言い分もわからなくないけど、やっぱり乙女は言葉にしてほしいもんだよ?」

「そういうものなの?」

「そういうものだよ」

「だから!もう!なんなのよ!結局明久君にとってアタシは!!......なんだったの?」

「ほらぁ、吉井君があんまりにも待たせるから優子が自信なくしてるじゃない」

「それは反省してるよ。でも涙目の優子が上目遣いで縋ってくるのすごい可愛くてさ、つい」

「「反省してない!!!」」

 怒られた。

 ついでに殴られた。

 おいたはここまでらしい。僕もさっきから優子と会ってから溜め込んでいたものを我慢するのも限界らしい。

「......優子。僕は君のことが好きだよ。大好きだ。とっても好きだ。愛してる。今まで待たせてごめん。その分これからずっとずっと、君のことを愛し続ける。だから、僕と付き合って下さい!」

 紛れも無い本心をぶつける。向こうから先に告白されていて結果がある程度見えているのはすこしズルだけど...

「......やだ」

 この結果は予想してなかった。

「――――え?あの、優子さん?」

 どうして!?待たせすぎた!?それとも戦争の後すぐいなくなって愛想尽かされちゃった!?

「ええええ、えとえとえと!」

 なにか訳があるのかもしれない。そんな希望を込めて言い訳を探すけどなにも出てこない。えとしか出てこない。

「............じゃなきゃ、やだ」

「ん?」

「世界一じゃなきゃ、やだ」

きゅっと抱きついて言われる、おそらく世界で一番かわいいひとこと。

「.......優子」

「明久君.....」

 目が合うと頰も頭も熱くなる。その熱は嫌なものじゃなくて、むしろとても心地よい。

 互いにその熱を求めるように身体を寄せて、顔も唇も、徐々に近づいて……。

『僕たちもヨシイクンのこと...ダイスキだよぉ』

 吐息がかかる距離に、見慣れた真っ黒なフードがいた。というかFFF団がいた。

「うわぁ!?」

「いいよねぇー、きみばっかりいいおもいしちゃってさぁーねえねえいまなにしようとしてたのー?ちゅうー?じゃあこれにもしよっかー?」

 ゆらゆらと取り出される鈍器。きっとキス程度じゃ済まないだろう。

 くそっ!撒いたと思っていたのに!!

「うおおおおー!!明久どけえーーー!!」

「雄二!?なんでFFF団連れて来てるのさ!!」

 悲鳴の先には雄二が。そのさらに奥には見慣れた団体がいた。

「知るか!お前が外国から持って帰って来たんだろ!責任とって処分してこい!」

「できたら苦労しないよ!」

「だったら走れ!捕まったら今回こそ死ぬ!!」

「了解!でもなんでまた結成されたの!?解散しなかった!?」

「あいつらに常識なんて通用しねえ!」

 ああ、またいつもの光景だ。でも今回は少し違う。

「雄二...!数が増えた...!」

「アタシ達と一緒なら女子更衣室とかもありなんじゃない?」 

 それぞれが大切な人を連れている。

「で、でも女子更衣室なんて!」

『コロシチャウヨーカワイイオンナノコトテヲツナイデニゲルナンテウラヤマシイコトユルサナイナカイナイナイナイナイナあはあ―――――っ!!』

『%÷×*〆$#"()$"%(%=~)"~=$)=~"』

『殺しじゃ殺しじゃぁー!!今日は殺しの祭りじゃあーー!!!』

 だめだ!このままじゃ追いつかれる!万事休すか.....!

「あんた達。その辺にしとかないと馬に蹴られるわよ?」

 突如現れた人影が妖怪たちの動きを制する。あれは....!

「美波!?どうして」

「ウチのことはいいから、早くその木下もどきと逃げなさい!坂本も!」

「けど美波一人じゃ....!」

「美春もいます!!」

「清水さんも!?」

「いいから行きなさい!こんな事でつまづいて、破局なんてしたらウチは本当に許さないからね!アキ!!」

「「「「ありがとう!!」」」」

 助けてもらった四人のお礼が重なる。

 それに親指を掲げて応える美波。

 なんて素敵な女性なんだ。それを伝える資格は僕にはないけれど、いつかその資格を持った人に出会えますように!!!

 

 

 

『どけ!島田、清水!!』

『アイツラハァ、イカシテタライケナインダヨォ~?』

 相手が女と見て立ち止まるくらいの理性は残っているらしい。どっちにしてもウザい連中だけど。

 一人称を戻しちゃってるウチも、それに気付かないバカも、恋敵に礼を言うハズレ版木下も...鬱陶しい!

「お姉さま、こう言っては何ですが、多少不利なのでは....」

「大丈夫よ。秘密兵器があるから。美春、このクズどもを殺さない程度に潰しなさい」

「い、いくらお姉さまの指示でもそれはさすがに.....」

「今度の週末、デートしてあげる。変なことしたら帰るけど」

「.....どうされたんです?あんなに嫌がってたのに」

 美春から疑問の目が向けられる。それもそうだ、自分でも何言ってんだって感じだしね。

「.....まぁ、気持ちを無下にされる気持ちがわかっちゃたからかなぁ」

「分かりました!美春は全身全霊でお姉さまの期待に応えます!!」

 やる気を出した美春が敵陣の真ん中に飛んでいく。ケガとかは....大丈夫そうだ。

(さ、ここまでやったんだから幸せになりなさいよ。アキ....)

 

 

 

 

「はぁっはぁっ」

「.....も、もうだめ...足が.....」

「と、とりあえず一旦休もうか....」

「そうしてくれると、嬉しいわ....」

 後ろを振り返るとFFF団が追ってきている様子はなかった。逃げてくる途中、工藤さんやリンネ君が残党を妨害してくれてるのが見えた。今度お礼をしなくちゃな。

「そ、そういえば坂本君と代表は....?」

「途中で分かれたのが見えたけど、雄二が一緒なら大丈夫だよ」

「......そっか、ならよかった。......じゃあ、さ。さっきの」

「「続き」.....でしょ?」

 優子の言葉を先取りする。こうやって彼女の先を読めるのはなんだかすごい優越感だ。

「......いろんな事があったけど、僕は世界で一番、誰よりも優子の事が好きだよ」

「.....やっと....やっと聞けた......ずっとそれが聞きたかった....!アタシも大好きです、明久君!!」

 いうや否や、溢れる涙。

 涙で湿った唇を、自分の唇で塞ぐ。

 何時間もそうしていたような、あるいは一瞬だったような、正直よくわからない。

 そうして、僕のもう一つの恋は終わりを告げた。

 そして.....新しい形として生まれ変わる。最愛の人とともに――――――。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――Fin―――――――――――――――――――――




「のう?明久よ」
「どうしたの、秀吉」
「最終回じゃというのに、ワシの出番がないのじゃが?」
「あはは.......」
「お主の見ておらんところでワシはFFF団を終結したり戦争に備えて勉強したり行方不明のバカを探してたりと、大変だったのじゃが.....のう、明久?」
「秀吉、怖いよ....?」
「......明久、遺言はあるか」
「ム、ムッツリーニまで!」
「.....クライマックスから一度も出番がなかった.....!」
「ご、ごめんって.....ちょっと作者の余裕がなくてさ.....」
「ワシらの友情は清水より浅かったということじゃな.....」
「......親友だと思っていた......」
「済んだことは仕方ないだろ?二人とも」
「む、来よったぞ。既婚者が」
「......本来なら死刑....!!」
「ま、まぁまぁ。二人とも全く出番なかったわけじゃないだろ?戦争中は大活躍だったじゃないか。作者も書きながら胸熱とか言ってたぞ」
「むう、それもそうじゃが.....」
「......納得いかない」
「まあさすがに罪悪感からか、作者が謝辞を言うはずのこの場所を借りて登場させてもらってるんだ、それでいいじゃないか」
「「......むぅ.......」」
「あ、ねえそう言えばなんだけどさ」
「なんだ、空気?」
「ひどい!二百字黙ってただけで空気は酷い!」
「ラノベの二百字は短いようで長いんだよ。んでなんだ?」
「や、先輩たちなんだけどどうなったの?あの後」
「あ奴らは退学処分になったらしいの」
「刑務所じゃないんだ」
「正しくは未成年だから少年院だけどな」
「でも甘くない?」
「そうか?三年の冬に事件沙汰で急に肩書きのない未成年になるんだ。人生ハードモードだろ」
「そっか。それもそうだね」
「......のうお主らよ」
「「ん?」」
「もしかしてじゃが、ワシらはそのモロに本文に書き忘れた内容を言わされるためにここに出されたのかのう......!!」
「.....万死に値する....!」
「そ、そんなことはにゃいよ!」
「ボロが出てるぞ」
「まあせっかくの最終回じゃ。ここらにしておこうかの」
「......命拾い」
「じゃ、じゃあそろそろご挨拶を!」
「だな!読者達も痺れる頃だしな!」
((逃げたな))
「まずはこんなグダグダな作品に付き合ってくれた皆々様、本当にありがとうございました」
「執筆を習慣にしない作者だったからこんなにも時間がかかってしまった。本当にすまない」
「あとは暗い話ばかりでごめんなさい」
「全くじゃ。そのくせ作者の精神状態が反映されるから浮き沈み激しすぎじゃ」
「.....ちなみに話はまだ続くらしい....?」
「おい、作者を追い込んでやるな。やっと終わって息をついているんだ」
「まあ自業自得なんだけどね」
「じゃの」
「いろいろ謝りたいことはあるけれど、それを言ってたら文字制限かかりそうなので割愛させて頂きます」
「二万字超えるのか」
「またハーメルンかなろうで小説を書いていくそうです」
「懲りねえなぁ」
「ワシらの話も考えているらしいの?」
「そうだね、せっかく冬設定にしたのにそれらしいことをできてなかったからね」
「だな。そこは作者に期待だな」
「......ただし、未定」
「この作者の予定は信用するでないぞ」
「でもこの2次創作、バカと恋と友情とは一度ここでお別れです」
「寂しいのう....」
「だから、何度でも言います。ここまで読んでくれた方々、お気に入り登録してくれた方々。応援メッセージをくれた方々。本当にしがない作品を長々とありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
「また近いうちに、作品が別かどうかはわからないけれど、神出鬼没の作者と会ってやって下さい」
「じゃ、ここまでだな。お前らありがとう!」
「ありがとうなのじゃ!」
「.....最大の感謝を」
「本当にありがとうございました!」
「おっと、忘れてた!また更新するかもしれないのでお気に入り登録は外さないでねby作者」
「必死過ぎだろ......」
「じゃの」
「滑稽....」
「じゃ、じゃあほんとに言うことが終わりましたので!」

『『『『長い間、どうもありがとうございました!!』』』』



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僕とノーブラ優子と花火 前編

皆様、どうもお久しぶりです。ハラミハラです!

一次創作に疲れこちらに脱走してきました。

さて、最終話の後書きで冬デートのことを書くとか言ってましたが、時期が時期なので予定を変更して花火大会のお話にしました。コロナで花火大会も中止になったので創作の中で楽しんじゃおう! なんて気持ちで書きました。

今回のお話は今まで無視してきた空白行を取り入れて見ました。僕的には詰めている方が好きなのですが、割と文字が離れている方が見やすいとのお声がありましたので。
是非意見を頂戴したいところです。

話の時系列はあのまま戦争が終わり、三年になった明久達の夏休みというお話です。
正直言えば今回のお話に山谷ほとんどありません。ただ優子をみたかった。それだけで構成されております(花火なんか知らん)

なので今までとは毛色が異なり「おや?」と思う方もいるかも知れないですが、そこはハラミハラの執筆力なんだと嘲笑ください。書いてないとホントになまるんですよこれが……

では言い訳は後編の後書きにて言いましょう。言うな?言わせてお願い。

ではではさてさて、本編お楽しみ頂ければ幸いです。


「花火大会?」

「月末に県外であるのよ」

 夏休みにも関わらず、教室の机に向かう僕に提案してくる美少女、木下優子。信じられないことに僕はこの子と付き合っている。今でも時々夢なんじゃないかと思う。

「そっか、行けたら行きたいね」

普段なら両手を上げて喜ぶお誘いだけど、そうはできなかった。

「行きたくないの?」

 心配そうに(しぼ)んだ声で訪ねてくる優子はなんとも可愛らしい。元からかわいいんだけど。

 

 

「行きたいよ。でもさ……」

 花火大会は大好きだ。知っている町ががらりと空気を変えて、今までどこに潜んでいたか分からない屋台がたくさん並び、最後には全員が空に咲く花を仰ぐ。

 しかし僕にはそうできない理由がある。

「これを月末までにできると思う?」

 机には六法全書も逃げ出してしまうほど積み重ねられた紙の束がある。

 これは僕が不登校になった際のカリキュラムをカバーするもの。これをやらないことには僕の留年は確定してしまう。いつものごとく脱走するなんて論外だった。

 一緒の大学に行けないまでも、一緒に卒業したいのだ。

 

 

「この課題は流石に不憫じゃのう」

「あ、秀吉。休憩?」

 ちなみに僕だけじゃない。他のみんなも試召戦争で遅れた授業分をこなしている。僕よりはいささか軽い課題だ。変わってほしい。

「うむ。流石に疲れたぞい」

 僕が秀吉と呼んだのは優子と瓜二つの美少女。優子とは二卵性の双子であるが故に男だ。僕は未だに市役所の書類ミスを信じている。

 真に女の子である優子を差し置いて、秀吉は男にモテる。モテまくる。

 僕も優子と別れる様なことがあれば秀吉に……冗談は隣から殺気がきているのでやめておこう。

「まったく、この程度で情けない。アタシなら三日もかからないわよ」

「姉上は規格外なのじゃ。そもそもやっておらんではないか」

 秀吉の言うとおり、優子はこの夏休みに出席しているのはFクラス。

 これには多少の説明が必要だろう。

 

 

 去年の暮れに三年と戦い、勝利を収めた僕たちは時間の流れに逆らうことなく進級した。

 そして二度目となる、授業と教室のランクを決める振り分け試験を受けたのだが、僕たちは回答を無記入で提出し、Fクラスへと振り分けられた。

 もう今の仲間以外に考えられなかった。そしてこのメンバーでまたAクラスに挑戦し、堂々と勝つ。その予定だったのだけれどーー

 

 

「まさかお前らまでFクラスにくるとはな」

「雄二、霧島さん」

 説明するまでもないだろう。ツンツン頭でブサイクの坂本雄二と、容姿端麗、文武両道、完全完璧な美少女霧島翔子さんだ。

 最近の彼女はさらに綺麗になってもはや美女と呼ぶのがふさわしいかもしれない。

 そして僕以上に信じられないことに二人も付き合っている。

「だって、絶対こっちのほうが楽しそうだし。ね? 代表」

「……雄二とせっかく付き合えたのに、また戦うなんてイヤ」

 三年との戦争は文月学園に大きな波をもたらした。犯罪行為に手を染めたAクラスへの見る目が変わってしまったのだ。それよりも楽しく、懸命に上を目指すFクラスの方がずっと健全なのではないかと。

 いや絶対そんなことはないと思うんだけど。

 

 

「まーあのFクラスのまま、戦いに来られたらボクは絶対に負けてたしね」

「勝ち逃げなんて趣味が悪いぞ、工藤」

 またもや僕らの話に入ってきたのはボーイッシュでスレンダーな工藤さん。すらっとした手足は健康的な日焼けに目がいってしまう。ほんとエロいからスパッツの日焼けあとは隠してほしい。

「それだけすごくなったんだよ。君たちは」

「勝ってもいないのに褒められても困るな。それに入ってきたやつもいれば抜けたやつもいるな」

 雄二の言うとおり、だいたいのFクラスメンバーは残ったけど、成績を上げて実力を示した人もいた。そんな人たちはEやDクラスに上がれている。本当にすごいと思う。

「まあAクラスの上位がいきなり全員無回答だった時は先生に泣かれたけどねー」

 ケラケラと笑う工藤さん。決して笑い事ではないと思う。

「先生達のボーナスが下がらないことを祈ってるよ……」

 ボーナスに影響するかは知らないけど、職員会議と保護者相談会が行われたらしい。

 

 

 こんな具合に去年、一緒に戦ったメンバーがFクラスに集結したのだ。

「でも島田ちゃんがいないのは少し寂しいな」

「アタシはまったくだけどね。ね? 明久くん?」

「あ、あはは……」

 FクラスからDクラスに上がった数少ない生徒の中に、島田美波がいる。

 彼女とはあれから付かず離れずといったよく分からない関係が続いていた。

「さ、こんな課題さっさと終わらせちゃいましょ」

 そして僕らは地獄の様な課題を見事夏祭りまでに完成させた。

 尊敬する人は宮崎金次郎です。

 

 

 

「きたぞー! 花火大会ー!!」

「愛子。浴衣が崩れるわよ」

「ではアキ君、姉さんは仕事があるので帰りにまた呼んでくださいね」

「うん、ありがとう姉さん」

 花火会場まではそれなりの距離があったのだが、姉さんが車で送ってくれたのだ。

 ワンボックスカーで送ってもらうなんていつかの日を思い出す。

「ちょっと懐かしいな。明久」

 雄二が隣から話しかけてくる。どうやらコイツも僕と同じ感情に浸っていたようだ。

 三途の川をともに切り抜けたのだ、無理もない。

「それにしても広いわね、この会場」

 

 

 会場は大きな河川を両サイドに屋台や休憩所なんかがずらりと、気が遠くなるほど並んでいる。

 それに加えてメンバーは僕、雄二、ムッツリーニ、秀吉、優子、霧島さん、工藤さん。と七人もいる。少し油断するとすぐにはぐれてしまいそうだ。

「それはそうと……」

「なに? 明久くん?」

「い、いやべつに!」

 車に乗る前にも一度見ているけど、今の女性陣は浴衣を着ている。それが夜の景色と屋台や街灯のライトで照らされた彼女達は一層華やかに見える。

 どうでもいいけど男はTシャツに短パンでサンダルだ。

 

 

「あー!吉井くんがいちゃいてるー!」

「わ、ちょ!工藤さん!?」

 首に腕を回し頭を絡め取られ、ヘッドロックの形になる。

 ちょうど僕の頭が工藤さんの胸の位置に行ってしまう訳だけど……なんか、変に柔らかいような……。

 その状態のまま工藤さんがひそっと囁く。

(吉井クン。ここだけの話、今日……付けてないんだよね)

「「ブハッ」」

 うっかり鼻血が出るけど、なんかもうひとり出血してない?

「あ、土屋君くん聞こえてた?」

「ムッツリーニー!!」

「あはは、ごめんごめん」

「じゃあボクはムッツリーニ君のお世話しとくからみんなで楽しんで来て」

 ムッツリーニの肩を持って休憩所まで運んでいく工藤さん。

「……愛子、わざと」

 去って行く背中を見ながらポツリと霧島さん。

「そうなの?」

「……コクリ。愛子は分かりやすい。雄二も休憩、する?」

「かわいく聞いてもダメだ。構えたチョキをしまえ翔子」

「じゃあ、私も付けてない」

「は!? ちょっばっ! お前周りに聞こえたらどうする!!」

「雄二が一番うるさいよ」

 それはそうと女性陣の下着事情が気になる。

「こ、これからどうするかのう!」

「と、とりあえずなんか食べる?」

 この妙に気まずい雰囲気は耐え難い。いつ霧島さんのはだけた浴衣に目が行ってしまうかわかったもんじゃない。

「そうじゃの。花火の最中に腹が減っても買いに行けそうにないからの」

「……」

 このとき黙りこくっている彼女の存在に早く気づくべきだったと後になって後悔した。

 

 

「じゃあお前達なんか買ってきてくれ。俺は翔子と場所取りをしておく」

 雄二がさっと申し出る。コイツは場所取りとか雑用を嫌うはずだったけど、それも仕方ない。霧島さんの顔色が良くない。

「わかった。じゃあ場所取れたら連絡して」

「おう」

 ちゃんと彼氏をしているようでなによりだ。

 

 

「えらく人が減ってしまったのう」

 開始から四人脱落だ。すこし寂しい。

「そうだね、秀吉なにか食べたいものある?」

「ではこの河川の列を全部奢ってもらおうかの」

「石油王にでも頼んでよ」

 なんて、どうでも良いことを話しながら歩くことしばしば。

(さっきから優子がしゃべらないんだけど)

(ふむ、霧島のように体調が悪い訳ではなさそうだの)

(だよね。どうしたんだろう)

(むう、あの状態では怒っているのかそうでないのかわからんの)

 と秀吉は僕とのアイコンタクトを切って鳴ってもいない携帯を開く。

「おっと、雄二が場所を決めたようじゃ! ワシは買った分を届けてくるから残りは二人で頼んだぞい!」

「あ、ちょっと秀吉ー!」

 この裏切り者ー!! まだなにも買っていないくせにー!!

 

 

 さて、どうしたものだろう……。

 優子は俯いている訳でもなく、怒りを露わにしている訳でもない。こちらを見るわけでもなく、ただ真正面を向いている。いわゆる真顔だ。

「あの、優子?」

「なに?」

 無機質な表情のまま返事だけをする優子。

 よし、口は聞いてくれる。

「僕、なにかしちゃったかな……?」

 ここで怒ってる? なんて聞くのは下策だ。自分が悪いと認めることを前提に話を聞き出す。これが優子との付き合いで得た怒った時の対処法だ。

 これならいける!

「さあ?」

 突き放された。やばい、万策尽きた。

 怒っていることは間違いなさそうだ。だけど優子は理不尽に怒ったりしないから、原因はきっと僕にある。

 一度僕の行動を振り返ってみよう。

 昨日まで優子の様子に変化はなかった。となれば原因は今日にあるはず。

 

 

 そう言えば今日車に乗ってからトイレに行く時間がなかった様な……いや、たぶんこれを言ったら別れ話に直結する。

 気づかれない様に優子の様子を窺う。

 短い髪が編み込まれ、それを綺麗な(かんざし)簪が固定に使われている。普段はほっぺの近くにあって見えない部分がうなじまでしっかりと見える様になっている。

 浴衣も、紫のあじさいが淡く咲いて、身体の起伏がそれほど大きくないけれど、それがかえって繊細差を際立たせていた。

「……かわいい」

「へ!?」

「あ、や、ごめ! いまのはちがくて!」

 やっちまったー! 口が滑ったー!

「……ちがうの?」

 拗ねたように上目遣いになる優子。もうやだかわいすぎて吐きそう。

 怒らせてしまっていることなんて忘れしまう。

「ちがく、ないです……。その、すごく、かわいいです」

「んー? んふふふふ」

 笑みを堪えきれないのか、閉じようとした口からいろいろ漏れてしまっている。

 

 

「あ、嬉しいけど許してないから」

「えぇー……」

 突然スンと戻るのやめてほしい。

「原因に気づいていないのに許せるわけないじゃない」

「ご、ごもっともです」

「ていうか本当に心当たりないんだ?」

「ごめん」

 こういうときの女心は本当に分からない。だから変に知ったかぶりをするよりも素直に聞いてしまった方がよっぽど良い。

「その、教えてくれないかな? どうしてなのか」

「……はあ、もう」

 優子はため息をついて、しぶしぶ教えてくれる。

「そうね、アタシが坂本君の腕にこうして絡んだりしたらどうする?」

 言いながら優子は僕の腕に絡まるようにしがみつき、色々当ててくる。

 たしかこの着付けをしたのは姉さんだったはずだけど、あの人、伝統とか変にこだわるからなぁ。工藤さん、ノーブラ痴女扱いしてごめんよ。

「ね? 分かったでしょ」

「うん、優子」

「言い訳ならどうぞ」

「鼻血でそう」

「浴衣汚したら許さないから」

 なんて言いつつ怒った理由を話してくれて、人の少ない道脇まで連れて行ってくれる優子は本当に優しい。でもノーブラは色んな意味で危険だからやめて。

「あと代表の胸元ガン見してたのも分かってるから」

 いっそ殺してほしかった。

 

 

「どう? 落ち着いた?」

「うん、ありがとう。それとさっきのことだけど」

 血の気が引いたことを確認して一呼吸。

「もし優子が雄二にあんなことしたら、多分殺す」

「え」

 ずささっと大げさに距離を取る優子。

「ちがうちがう! 雄二をだよ!」

 そこまで僕はサイコパスでも自己中でもないやい。

「それもだめだと思うけど」

 とは言いつつ、ほっと胸をなで下ろす彼女。そういえば優子もノー……やめろ胸のことは考えるな。

「僕がそんなことをするように見える?」

「いつもやってるじゃないの」

 そういえばそうだった。

 でも最初の勘違いは少し傷ついた。これでも優子のことは大事にしているつもりだったのに。

「この前姫路さんとメールしたんだけど『もし明久くんが他の女の子にデレデレしたらお仕置きしてくださいね』って言われて

 仮にどんなお仕置きが良いか聞いたら、拷問器具の購入を勧められたわ」

 どうやら彼女はまだ少しこじらせたままのようだ。

「だから明久くんもそんなことするのかと思っちゃった」

 えへへと笑いながら、僕の頬に小さな手のひらが添えられて優しく方向を変えられる。すると優子の顔が近づいて、唇からチュッと音がなる。

「飲み物買ってくるね」

 顔を真っ赤にした優子は足早に屋台の群れに戻っていく。

「今、死んでもいいや」

 疑われたとかほんとどうでもいいや。

 

 

続く




始めてやったことが多いので、不備がありましたら教えてください。よろしくお願いします。


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僕とノーブラ優子と花火 後編

こちらは花火大会の後編になります。まだ読んでない方は前編からお願いします。


「あれ、アキ?」

 優子と別れてから数分。階段に腰掛ける僕に声をかける人物が現われた。

 確認するまでもなく僕を『アキ』と呼ぶのは一人しかいない。

「美波」

 彼女は相変わらずポニーテール、ではなく髪はストレートになっていた。

「髪型変えたんだ」

 彼女とは仲直りしたとはいえ、クラスが離れてからはほとんど交流がなかった。だから久しぶりに会ったせいだろうか、どこか僕の知る美波とは違う雰囲気がする。

「偶然ね。こんなところで」

「そうだね、美波はどうしてここに?」

 彼女は浴衣を着ていなかった。ストレッチの効いたズボンに薄手のTシャツ。そしてサンダル。

 決しておかしくはないけれど、お祭り好きな彼女ならもっとおしゃれやそれこそ浴衣なんて着てそうなのに。

「ウチは来る気なかったんだけど、葉月がどうしても行きたいってね」

「葉月ちゃん来てるんだ」

「でもさっきパパとママに連れられて帰ったわ。人混みに当てられてね」

 なるほど、家族で来ていたのか。それなら特におしゃれをしたりもしないのかもしれない。

 

 

「そんなことよりアンタはなにしてんのよ」

「僕はちょっと休憩」

「へえ……。みんなと来てるの?」

 どことなく、美波の言うみんなに悲しげな雰囲気が漂う。

 去年まではFクラスで楽しくバカをやっていたのだ。寂しいのは当たり前だ。

「誘ったほうがよかった?」

「木下姉がいないならいくらでも」

「それは残念」

 いくら僕でもそれが御法度なことは分かる。

「にしてもアンタ、顔赤いわね」

「……ちょっと暑さでね」

 本来の理由を言えばもれなく絶縁できるので適当に答えておく。

「飲む?」

 スッとバッグの中から出てきた飲みさしのペットボトルを差し出される。

 僕はそれを手のひらで押し返す。

「優子が買ってきてくれるから」

「戻ってこないわよ」

「……そうだね」

 かれこれ十分は経っただろうか。ただでさえかわいいんだ。変な男に絡まれているのかもしれない。ノーブラだし。ノーブラだし……

「ちょっと探してくる」

 一度考えてしまうと心配が止まらなくなる。

 いてもたってもいれなくなり、立ち上がる。

「ちょっと! っきゃあ!?」

「うわ!?」

 階段を降りようとする僕の腕をつかんだ美波だけど下から引っ張られる力に勝てるはずもなく、二人して転ぶ。

 

「いたた、美波大丈夫?」

「なんとかね」

 階段といってもせいぜい二、三段と低い位置にいたので怪我はないようだ。

 美波が僕を押し倒す形になっているのは仕方がないだろう。とりあえず体を起こそう。そう思った時だった。

 パキッ。と頭上から渇いた音がした。

「ゆ、ゆうこ……」

 冷たい目をした優子がペットボトルを握り締めていた。

「こ、これはちがくて!」

 どう見ても今僕は美波に押し倒されている。さっきもどうだけどこれ以上女性関係でこじれるのは危険だ。相手が美波というところがとくに。

「大丈夫よ、遠くから見えてたから。それよりさっさとどきなさいよ貴女」

「悪かったわね」

 優子に言われ、美波がぱっと立つ。

 僕と美波の関係はおおむね良好だけど……恋敵(自分で言うには抵抗がある)である二人はどうしても摩擦が生じやすい。ていうか単に仲が悪い。

 

 

「怪我はない?」

「は? え、ええ」

 自分を嫌っているはずの優子に心配をされた美波がたじろぐ。

「どんな風の吹き回しよ?」

「べつに? あとで怪我したとか言って明久くんにたかられたら困るし」

「はあ? そんなことするわけないでしょうが」

「どうだか。暴力、拷問上等の人の言うことは信用できないわ」

「言ってくれるじゃない……!」

 バチバチと異能力者でもない二人の間に火花が飛び散る。間に渇いた木でも入れたら燃えてしまいそうだ。

「アンタもそのうちそうなるわよ。アキの天然ジゴロはなかなかだから」

 なにを根拠に。

「ま、まあ一理あるわね」

 あるの!?

「優子、流石にそれは……」

「あ、そうだ。明久くん、水」

 僕の言葉はスルーされてペットボトルが渡される。

 ならないよね? 暴力彼女とかいやだよ?

「あ、ありがとう。優子」

「ごめんね。お水売ってる屋台がなかなか見つからなくて」

 申し訳なさそうに謝る優子。気にしなくていいのに。

 ひとまず水を思いっきり飲んで一呼吸。

「ふーん、仲良さそうじゃない」

「お陰さまでね。さ、いこ。明久くん」

 どうやら優子は一刻も早くこの場から去りたいようだ。僕もこの二人の争いに巻き込まれくない。いや僕のせいなんだけど。

「また学校でね、みなーーあれ?」

 最後に挨拶をと思ったら彼女はもう階段の上まで登っていた。そして最後までこちらを振り向くことはなかった。

 

 

「ごめんね、明久くん……」

「もう大丈夫だって」

「ううん、そうじゃなくて」

 水を買ってくるのが遅くなったことを気にしていると思ったけど、どうやら違う様子。こんなに優子に謝られることも珍しい。

 普段は僕が謝り倒していることは言うまでもない。

「せっかく島田さんと仲直りしてきたところなのに、アタシ、あんな態度で……ごめんなさい」

 深々と頭を下げる優子。本当に今日はどうしたのだろうか。

「でも、あの人の前だとアタシ、どうしても冷静じゃいられなくて。また明久くんに暴力振るったり、近づいたりされたらどうしようって」

「共感してなかった?」

「それは明久くんのジゴロに関してよ」

「それも否定しておきたいんだけど」

「同じ学校で三人も落としといてそれは許されないと思うわよ。しかも一人は代表の次に人気だしね」

 胸はダントツだけど。とつぶやきが聞こえたような気がした。気がしただけだからノーコメントです。

 

 

「優子、さっき僕が工藤さんとくっつくのがイヤだって言ってたよね?」

「ていうかおっぱいにやられてたのがムカツク」

 もはや胸と言わなくなってしまった。

「考えてみたんだよ。優子が他の男にくっついたり言い寄られたりしたらって」

「へ?」

「そしたらものすごく不安になった。さっきも優子の帰りが遅いだけでどうにかなりそうだった」

 彼女の正面に立って、告げる。

「僕はきっと、優子が思っている以上に優子のことが好きだよ」

 優子の肩をつかみ、自分の元へと寄せる。華奢で綺麗な肌、上気した頬、つやつやとした唇。さっきとは違う意味でどうにかなってしまいそうだ。

「明久くん……だめ……」

「優子……」

 互いの唇がゆっくりと近づいていく。

 あと五センチ…三センチ…いっ

「見られてるわよ」

「ほえ?」

 場にそぐわない言葉に変な声が上がってしまう。優子の視線はもはや僕を向いていなくて、その後ろにあった。

 

 

「お前ら、人が少ない場所とはいえ大胆にもほどがあるだろ」

「……相思相愛」

「姉上、ワシと同じ顔なのじゃ。後生じゃから、は、恥ずかしいことは然るべき場所でしてほしいのじゃ……」

「いやー優子のかわいさがそこまでのものだとは。恐れ入ったね」

「……明久、このことは新学期FFF団に報告しておく」

 後ろには見知った面々が並んでいた。

「み、みんなどうして……」

「お前が何回スマホに電話しても出ないから探しに来たんだ」

「そうだよ! 心配したんだからねっ」

 そうか、買い出しに来たことをすっかり忘れていた。人混みに酔った霧島さんまで来てくれるなんて、これは申し訳ないことをした。

 

 

「まあ俺は十中八九面白いことがあると知っていたが」

「わ……」

「「「わ」」」

「わすれてええええええ!!!」

 くそ! こうなっったら雄二の記憶だけでも!

「ほらほら、バカやってないでいくわよ」

 花火始まっちゃうじゃない。と優子に腕を引かれる発情男。

「止めないで優子! コイツだけはいま殺すしかない」

「諦めなさい。節度を弁えない明久くんがわるいです」

 聞く耳持たずの優子。腕はロックされ、どうにも動けない。

 僕も一緒に打ち上げてもらおう。たーまやー。

「じゃ、案内してくれる? 坂本君」

「全員出てきてしもうたが場所は大丈夫じゃろうか?」

「……シートごと乗っ取られる可能性もある」

「んなやついたら俺がぶっ飛ばしてやる」

「あはは。それは頼もしいけど、女の子がいること忘れないでね」

 みんな楽しそうに会話してるなぁ。僕もさっきまでのことがなければ普通に会話に混ざれたけど、五メートルを歩けば必ず誰かがこちらを振り向いてニヤニヤしている。

 この状況でなにを楽しめば良いのやら。

 

 

「キレー……」

 夜空を見上げ思わずといった声を漏らす優子。あなたが一番綺麗です。

 もう花火なんて見なくて優子の横顔をずっと眺めていたい。そんな僕の邪念を察したのか、単に恥ずかしかっただけなのか顔を無理矢理上空に向けられる。

 新あごクイの誕生。

 

 雄二が河川敷に敷かれたシートは誰にも取られなかった。そのおかげで、座ってゆっくりと花火を鑑賞できる。たまには雄二も役に立つじゃないか。

 どれ、感謝でもしておいてやるか。

「ありがとうね、雄二」

「なんだ突然!? き、気持ちがわるい!!」

 やっぱり慣れないことはするもんじゃない。雄二が胸を押さえて苦しんでいる。よくよく考えればコイツには道中いじり倒されたんだ。やっぱり少し仕返しをしてやるか。

「いやいや、雄二がこうやって席を見つけてくれたおかげで僕たちは花火を見ることができるんじゃないか。さっきも心配して探しに来てくれるし、持つべきは親友だよ」

「や、やめろ!! は、吐き気がああああ」

 今度は打ち上がった魚のようにビタンビタンと飛び跳ねる雄二。

「「……」」

 そんなやり取りを見ていた秀吉とムッツリーニがニヤリと笑みと浮かる。お、悪い事をする時の顔だ。

「そうじゃのう、この席のことだけでなく、去年の試召戦争でもずいぶん世話になったもんじゃ」

「……勉強も見てくれた。良い奴」

「や、やめて、くれ……。そんなこと、言われたくて俺はやったんじゃ」

 段々と涙声になっていく雄二。よし、もう一息だ。

「「「静かに観なさい!」」」

 せっかく花火に来ているんだ! ちゃんと観て楽しまなくちゃね!

 

 

 花火は名前の通り夜空に花を咲かせ、フィナーレにはそれまでの何倍もの規模と量の花火が打ち上げられ、会場からは熱気に満ちた拍手が送られる。さながらアーティストのライブに来ているようだった。

「すごかったね。最後の花火!」

「まさに圧巻じゃったの!」

「……感無量!!」

 花火は終わってもなかなか余韻が冷めない。

 周囲を見ればあまりの感動に涙を流している人もいる。

「すごかったね。花火」

「そうね。また来たいわね」

 優子の声は冷静だが、シートを片付けて帰り支度をしながらも顔はニコニコとしている。

「でも次は二人で来たいな」

 少し挑戦的なセリフ。彼氏彼女なら当たり前のことかもしれないが、僕にとっては重要な一歩だ。この積み重ねが後々の幸せとなっていくのだ。これぞビビり。

 対して優子は眉にシワを寄せてうなり声を上げている。なにかあったのかな?

「優子?」

「うん、決めた」

「なにを?」

 ビシィッ! と人差し指が僕に向けて指される。

 

 

「明久くんが来年まで他の女の子にデレデレしなかったら、一緒に行ってあげる!」

「そんな、僕は優子一筋だよ!」

「どの口が言えるのよ。もう一回愛子のおっぱいやる?」

「あ、あれは男しては仕方ないやつで!」

 というかそれは工藤さんのほうに注意が必要なんじゃないだろうか。

「ま、それはいいの」

「え、いいの? じゃあなに?」

 優子と付き合ってから今日まで、工藤さんに絡まれるまで、そんなに女の子と接する機会なんてなかった。いったいなんの話をしているのだろうか。

「へー、また身に覚えがないって感じね」

「ごめん、まったくないや」

「じゃあ特別に教えてあげる」

 これは本当にわからない。もしかしたら無意識に別の女の子(美波あたりだろうか)に勘違いさせるようなことをしてしまっていたのかもしれない。去年の出来事が大きかっただけにかなり気をつけていたんだけどなぁ。

「じゃあ、お願いします」

「明久くんとさっき歩いているとき」

 うん? 今までじゃなくてさっき?

「えと、美波となら本当に偶然あって少し話しただけだよ?」

 もしかて優子の中でヤンデレが芽生えた?

「ちーがーいーまーすー」

 ぶっぶー。と両手をクロスさせて唇をとがらせる。かわいすぎか。

「明久くん、歩いているとき五回も女の子、目で追ってた……」

「あ、あー……」

「ほらー! やっぱりー!」

「あ、あれは浴衣が珍しくてつい!」

「ホットパンツの女の子も見てたわよ」

「そ、それはええと……」

「ふんだ」

 ほっぺを膨らませてそっぽを向かれてしまう。今日で新しい優子がいくつもみれた。そうじゃなくて。

 ていうか僕の彼女こんなにめんどくさかったけ?

「おい、お前らそろそろ行くぞ。お前の姉さんもう呼んだんだろ?」

 

 

 雄二に促されて、僕と優子は変に仲をこじらせたまま姉さんの車に乗り込んだ。

 楽しい空気は花火と共に散り去ってしまったのか、僕たちの間には寂しい空気が漂っていた。

 

 

「ではみなさん、お気を付けて」

 女性陣の、もう少し浴衣を堪能したいという要望があり、僕の家に着くとそこで現地解散という運びになった。

「アキ君。秀吉君と優子さんをちゃんと家まで送るんですよ」

「分かってるよ。夜道にノーブラノーパンは危ないからね」

「パンツは履いてるわよ!」

 ツッコミ所はそこじゃない。

「こうして三人で帰るというのも珍しいの」

「そうだね。普段は僕と優子だけだから」

 秀吉は演劇部の引退公演が近いらしく、放課後は遅くまで残っている。

「この状況はあれよね。明久くんを家に連れてきたとき以来じゃない」

「その節はご迷惑を……」

 イヤなことを思い出さないでほしい。

「あんなにズタボロの明久は珍しいからの」

「そうね、明久くんもう一回ズタボロにならない?」

「ならないよ!!」

 なんてこというんだ僕の彼女。さっきの件を引きずっているとはいえ……まあ拷問に比べればマシか。

「む。しくじった」 

「どうしたの秀吉?」

 ピタリと足を止める秀吉に僕と優子はハテナを浮かべる。

「お主の家に財布を忘れてきた。取りに帰るから先に行っててくれ」

「そんなの僕が明日届けるよ?」

「定期が入っておるのじゃ」

 なるほど、それは朝には間に合わない。

「じゃあ皆で一緒に」

 優子が申し出るけど、秀吉はすぐに断る。

「バカを言うでない。姉上の足はそろそろ限界じゃろう」

「なに言ってんの?」

「では明久よ。姉上を頼んだぞ」

「あ、秀吉!?」

 言うやいなや、秀吉はもときた道を走り去っていく。

 よくフェードアウトする友人だ。というか気遣い屋さんなのかな。

 

 

「あー、じゃあ行こっか」

「……」

「優子?」

「足いたい……」

 優子が恨めしそうに見上げてくる。暗におぶれと言っているのだが……。

「それ演技でしょ」

 彼氏歴半年だけどナメないでほしい。優子が足を引きずったり辛そうにしている様子はなかった。

 それでもかわいい彼女のワガママ。素直に聞いてあげたいけど、今はとある事情によりそれができない。

「もー歩けない」

 唇をとがらせて歩くことさえ拒否してしまう。いったい今日の優子はどうしたというのだろうか。こんなに駄々をこねるのは初めてのことだ。

「優子さん?」

「つーん」

 拗ねているつもりなのか、自分の口で効果音を出している。通知音にしたい。

 しょうがない、覚悟を決めて我慢するか。なにを? 迸る青春からあふれ出す婦女暴行への渇望ですがなにか。

 

 

「重い?」

「人一人分かな」

「答えになってない」

「ほんなふぉといっふぁっふぇ」

 訳:そんなこといったって

 おぶっている後ろからほっぺを引っ張られると抵抗できない。

「で、今日はどうしちゃったの? 優子らしくない」

「へー、彼氏に甘えちゃいけないんだ?」

「少なくとも普段の強がりな優子はこんな風に甘える自分を良しとはしないでしょ」

 僕がたじろぐことを期待して言ったのだろうが、取り合わない。端から見ればただのわがままこじらせ彼女だが、優子に限って言えば違うと断言できる。

「ぐっ」

 ほら、たじろいだ。

「……言っても怒らない?」

「怒ったら別れてもいいよ」

「実は明久くんの女装写真をサイトに流しちゃって」

「なにしてんだあーー!!」

 怒ってしまった。どうしよう、別れないといけない。

「「あははは」」

 そんなのは冗談で、二人してしばらく笑っていた。

「別にさっきから怒ってないよ」

「そうなの!?」

「なんでそこは素で驚いてるのよ……」

 そこは全然わからなかった。優子っていつも不機嫌そうだから見分けが付かなかったりする。

「じゃあどうしてあんな反応してたの?」

「緊張してたの」

「なんの?」

「明久くん、今の状況わかってる?」

「わからないようにしてるから言わないでお願い」

 特に背中にある二つの感触とか!

 

 

「……付けないのってけっこう勇気いるわね」

「なんでしたの……」

「だって、明久くん、見てくれるかなって」

「僕はいつも見てるよ?」

「秀吉より?」

「ん!? んー、うんうん大丈夫」

「なにが大丈夫よ」

「ぐえっ」

 首ほんと無防備だからやめて。

「ただ、彼氏の気を引きたかっただけよ」

「そんなことしなくていいのに」

「愛子のおっぱい気に入ってたくせに」

「その話はもういいから!」

「良くないわよ。最近の明久くん他の女の子ばーっかり見てるんだもん……」

 首に回る腕が少し強くなる。そこでやっと気づいた。

「ごめんね、不安にさせて」

「……ん」

 短い返事のあと、それ以上の会話はなかった。

 

 

 やっとの事で木下家に着いていた。人をおぶるのって意外と大変だ。

「じゃあ、僕はここで」

「帰っちゃうの?」

 服の端をつかみ、寂しそうな顔をする優子。子犬を置き去りにする気分だ。

「優子、なに言ってるかわかってる?」

「明久くんよりは頭良いつもりよ」

「…………」

「ごめん、急にいやだよね」

 長考していると優子が取り乱しはじめる。

「そうじゃないよ」

 やっぱり僕より頭が悪いかもしれない。

「家に上がったら、もう我慢できないよ」

 二つの感触だったり、首にかかる吐息に見せかけて吹きかけられる息を我慢するのは生殺しだ。

「しなくて、いいよ」

 うつむき顔を赤らめる優子を前にしてもはや僕の理性が保たれることはなかった。

 

 

「で、朝チュンってわけね」

「その言い方は身も蓋もなさすぎるよ」

「あら、ことわざを覚えるなんてえらいえらい」

「そういうことじゃ……はふぅ……」

「ふふふ、明久くんってホントに頭なでられると落ち着くのね」

「言わないでよ恥ずかしい」

 まったく、昨日までのしおらしさはどこへいったのやら。

「明久くん、アタシのこと好き?」

「さあ?」

「さ、さあ!? それはいくらなんでも酷いわよ!」

「あはは、言わなくても分かってるクセに。じゃあ優子は僕のこと好き?」

 言ってて恥ずかしくなるセリフは今このときだけは許される。

「それこそ分かってるでしょうに」

「言われないと不安になるよ」

「それはアタシのセリフ」

「じゃあせーので言おう」

「うん……せーの」

「「大好き」」

 




ここまで読んで頂きありがとうございました。

 この話は優子を書きたかったのはもちろんですが、『めんどくさいい女の子』をかわいく表現したいという気持ちがありました。それをできたかどうかはみなさんの目にお任せいたします。

 優子のしばしばのキャラブレあったかも知れません。筆が至らず申し訳ないです。

 ちなみに最後、朝チュンで都合良く終わってます。夜の内容をみたいですか?僕はとても書いて読みたい。
 初Rー18に挑戦ですよええ。時間が取れ次第取りかかるつもりです。
 もしも、この作品に「そんなの求めてねーよ」と思われる方がいらっしゃいましたら、見ないように注意して頂くか、残念極まりないですがお気に入り登録を外してもらえればと思います。お互いに不幸にならない形になれればそれが一番です。

 それでは近いうちにまたお会いできればと思います。名残惜しいですが、今日はこれにてお別れです。ではみなさん、現在辛い社会状況ではありますが、どうかお元気で。


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18歳以下はだめ

お待たせしました。エロいやつです。
サブタイトルにもしていますが18歳未満の方、前回言ったようにこういうのは望んでいないお方は回れ右をお願いします。

さて、初めに言っておきます。ごめんなさい。

なにがと言いますと、私の勉強不足で表現が至らない点が多すぎるというか稚拙というか……
観音小説における基本を実は知らずに書いたんですねはい。
なのでもしかしたら今まで以上にご満足頂けないカモですが、生暖かい目で、鼻で笑ってくれたらいいです。

文体も前回はウェブ小説らしく空白行を使いましたが、また詰めました。こっちの方が落ち着くんですよ……。

次回はいつ浮上してくるかわかりませんが、どうか引き続きよろしくお願いします。

それではもしお楽しみいただけましたら私にとってこれ以上ない喜びです。



「おじゃまします」

「ど、どうぞ……」

 家の中に入ると、誰もいないのが分かるほどに真っ暗だった。

 先に部屋に上がっている様に言われて、二階にある優子の部屋にいく。

 ここに来るのは二回目だけど、落ち着くことはできない。

「優子、おそいなぁ」

 とつぶやいたものの、部屋に上がってからの時間は五分と経っていない。自分のとは確実に違う部屋、違う空気。そして静寂。黙って座っているだけで一秒が何倍にも感じられた。

 緊張しているのか、やけにのどがいやにヒリつく。

「お待たせ、明久くん」

 下に呼びに行こうとして、腰を上げた所に優子が部屋に入ってきたおかげで不格好な姿勢で止まってしまう。

「どうしたの? トイレ?」

「あ、う、ううん。遅いから呼びに行こうと思って……」

「待たせちゃってごめんなさい。お茶冷やしてて」

 優子の手にはお盆が、その上には氷で冷やされたお茶があった。

 受け取ると一息でそれを飲み干してしまう。うまぁ。

「ふふ。そんなにのど渇いてたの?」

「なんていうか、緊張しちゃって」

 さっきまで辛い静寂でいっぱいだった部屋に優子が来るだけで、幸せに満ちた空間になる。

「そ、そう」

 頬を赤らめて俯く優子。どうやら緊張しているのはお互い様みたいだ。

 そのせいだろうか。彼女との会話が上手く続かないのは。

「「あ、あの!」」

「え、えっと、優子からどうぞ……」

「あ、はい。じゃああの、優しく、してください」

「……わかった」

 ゴクリ。と生唾を飲み込む。

「明久くんはなに言おうとしたの?」

「い、言わなきゃだめ?」

「言わないと警察呼ぶ」

 それは勘弁願いたい。

「えっと、その、僕、初めてだから上手くないかもだけど……」

「アタシもよ。ばか」

 

 そしてなんの合図もなしに二人の唇が合わさる。それもつかの間。

 唇が勝手に開き互いの舌を求めて絡み合う。浴衣の肩を引き寄せると優子も逆らうことなく僕に身を預ける。

「こんなにゆっくりキスしたの、初めてじゃない?」

「かもね。いつもジャマが入るから」

 今日はそのジャマもいない。だから存分に求められる。

「ふあっ!?」

 顔を少しずらして、耳に息を吹きかけると聞いたことのない優子の甘い声が響く。

「あっちょっ! みみ、やぁっ……」

 その声がもっと聞きたくて、耳をなめる。少し汗のにおいがしたけど、その匂いが僕の欲情を駆り立てた。

 優子の身体を持ち上げ、ベッドの上に下ろす。

 綺麗だった浴衣は乱れて、帯もほどけかかっている。その隙間から見える白い肌から目を逸らすことができない。

「あ、明久くん」

「ご、ごめん! こわかった?」

 優子からか細く呼ばれ、いまの自分が暴走していることにようやく気づく。

「う、ううん! そうじゃなくて!」

「ん?」

「その、もっといっぱい触って……?」

 押し倒す形になったまま、右手は胸へ、左手は脚へと誘導されていく。

「んっ。やぁっ」

 浴衣の上からでもノーブラの乳首を見つけることは難しくない。少し擦るだけで喘ぐ。脚も触れば触るほどもっと、もっとと急かすように巻き付いてくる。

 そのまま絡み合ってキスをして。優子も負けじと僕の身体に触れてくる。

「浴衣……ない」

「え?」

 激しさのあまり気づけばはだけていたはずの浴衣はベッドの下にあった。

 今の優子はパンツ意外になにも着ていない。恥ずかしがるように、白い肌を両手で隠してややこちらを睨んでいる。

「優しくって言ったのに」

「優子の声聞いたら、我慢できなくて……」

 男はオオカミというのは本当みたいだ。

「ね、明久くん。耳貸して」

 部屋どころか家にはだれもいないというのになぜか内緒話をしようとする優子。

「……えっち」

 そしてペロリと耳朶を甘噛み。

「んなっ!?」

「ふふふふ」

 優子がしてやったりと嬉しそうに目を細める。

「言ったね?」

 びっくりしたけど、公認されては仕方がない。男のエロさを見せつけてやる。

「っ!」

 あまり触れなかった箇所。わき腹をゆっくりと手で下から上へとなでる。

「~っ!」

 なでればなでるほど優子の身体はビクビクと震える。

 優しく腕をどかして、無防備になった脇腹を舐め上げる。

「んにゃあ!」

 身体を大きく震わせるとたまらずベッドに倒れ込む。あえぎ声かわいすぎる。

「ふぅ、ふぅ……」

 こちらを向かず、呼吸を整えようとするけど、僕はそれを許さない。

 口元を隠す為に腕は胴体の部分から離れている。つまり、優子の胸が完全に無防備ということ。

「……触るよ」

 優子の胸は白く、小さく膨らんだ乳頭だけがピンク色だった。片方を触ると、落ち着きかけた優子の呼吸が再び荒れ出す。

 それがたまらなく快感で何度も揉み、気づけば馬乗りした状態で両方の胸を揉みし抱いていた。

 揉みながら指で乳首を跳ねると優子の身体が大きく跳ね上がる。

「~!!」

 恨めしそうに涙目になるけど、僕は止まらない。

 少し身体を下へとおろし、脇腹同様、てっぺんに吸い付いた。

「ひゃああ!!」

 吸って、舌で遊んで、乳首を時々甘噛みする。何度も何度も優子の身体はビクビクと痙攣のような動きを繰り返しそして

「んああ!!」

 一際大きくはねあがると、途端に静かになってしまう。もしかして?

「優子?」

「……」

 返事がない。

「フーッフーッ」

 荒い呼吸だけが部屋を包む。

「もうしかして……イッた?」

「ふぅん!」

「げふっ!?」

 腹筋の力だけで起き上がった優子にボディーブローを喰らう。なんて力だ!

「……言わないでよ」

 顔を真っ赤にしてポツリと呟く優子はなんとも愛おしい。

「急ぎすぎた?」

 馬乗りをいい加減やめて、優子の隣へ寝転ぶ。

「ううん……気持ちよかった」

 膨れて、けれど少し笑ったような表情で答える優子。

「次は明久くんの番よね?」

「ちょっと優子さん!?」 

 スルッと優子の腕が僕の息子をつかみにくる。

 パンツの上から触られ、なでられ、気づけば中にまで侵入していた。

「ちょっと、優子、まって」

「気持ちよくないの?」

 不安そうな顔で優子が手を放す。

「ううん、すごく……そのいいんだけど……」

「じゃあなによ?」

「男は何回もイけないからね?」

 むしろ一回がせいぜいである。

「でも漫画じゃ」

「漫画は漫画です」

 エロ本の男ってなんで何回も射精できるんだっての。時間を空ければ大丈夫なんだけど。

「そ、そうなんだ……」

 すこし引く優子。ダメージはあれどわかってもらえてなにより。

「だから、もう少し僕の番」

「ふえ!?」

 さっきのお返しに優子の下着に手を忍ばせ、触れるとあることに気づく。

「優子、なんか濡れてる」

 下着の丁度股間の辺りが湿りきっていた。直接見ようと確認すると

「みるなばかー!」

「ぐえ!?」

 顔面が上から押さえつけられた。

「見ちゃ、だめ」

「コクコク!」

 呼吸ができないので懸命に頷く。どうやら触れてはいけないようだ。

 でもそうなればどうすればいいのか。

「明久くん、手、貸して」

 迷っているのがバレたのか、手を取られもう一度下着の元へと運ばれる。

「ゆっくり、さわって」

 優子の手で固定された腕は手首しか動かせず、指で濡れた部分をなぞる。

「んーっ」

 長く息を吐いた優子が僕に身を寄せてくる。二人の距離がゼロになる。

 自然と僕の指も止まらなくなると、三度、優子の呼吸が荒れ出す。

「んんっ!」

 くちゅくちゅと音が鳴ると、下着はねばっとした液体でびっしょりだった。

 すこしジャマになった下着をずらし、僕は指を中へと入れた。中は思った以上に濡れていて、すこし蒸れている。

 指を動かしているうちにあることにきづいた。

「優子って、ないんだね」

「……なにが」

「毛が」

「ある方がいい?」

「ううん、こっちのが好き。かも?」

「かもってなによ。明久くんはいっぱいあるくせに」

 読者が最も知りたくない情報だ。

「脱がすね」

 いつまでも下着を太ももで止めていると伸びてしまう。返答を待たずに、下着を取り、ベッドの下へと下ろす。

 その時にふと思ってしまった。優子の、大事な部分を見てみたい、と。

「ちょ、明久くん!?」

 優子の下半身へ潜り込むと湿らせた股間が姿を現す。

「ちょっとまってまって!」

 両手で隠そうとするもピンクのそれはバッチリ見えてしまっている。

 理性を失ったように僕はそこへ顔を押しつけ、ピチャピチャ音を鳴らしながら舐めまくる。

「ちょ、そこは、ほんとに……んああ!!」

 すこし酸っぱいそれは舐めるほどにあふれだす。

「だ、めーーっ。また、いっちゃーーっ!」

 そして優子は二度目の絶頂を迎えた。

 

「優子ってかなり敏感なんだね」

「……うるさい」

 またしばらく黙ってしまった優子に少しずつ声をかけていく。このルーティンかなり楽しい。

「明久くんばっかり楽しんでずるい」

「そればっかりは」

「仕方なくない。責任、とってよ」

「なんの?」

「ここまで、気持ちよくした責任」

 言うと優子の顔が僕の耳へと近づく。

「明久くんの……ほしいな」

 是非もない言葉だった。

 財布からゴムを取り出し、手早く付ける。

「い、いくよ」

「うん……」

 優子の脚を開き、息子が狙いを定める。

「いたかったら手をあげてね」

「歯医者さんにでもなるの?」

「お医者さんごっこには違いないかもね」

 クスクスと笑う優子。そのタイミングを狙って、挿れる。

「~っ! くっ、あぁ!」

「づっ!」

 優子の中は思った以上に狭くて、少し痛い。

「っはあ、大丈夫? 優子」

「なん、とか……」

 これで優子との合体が完了した。

「でもまだ、動かないで。ちょっと痛い……」

「りょうかい」

 僕も少し休憩したい。

 ネットの記事で読んだことがある。挿れてからお互い気持ちよくなるまでは少し時間がいるのだ。

「あきひさくん……」

 つぶやき、両手が後ろに回される。そんな状況で我慢できるわけがなかった。

「優子、動くよ」

「え!? んあ!」

 身体を起こし、腰を振る。

 優子の中は熱くて、一人でする時とは全く違う感覚が伝わってくる。

 その感覚を長く、たくさん味わいたくて、何度も何度も挿しては抜いてを繰り返す。

「明久くん……あいしてる」

 優子の声が聞こえたとき、僕はあっけなくイってしまった。

 

 

「明久くん、意外とはやかったね」

「面目ない」

 動き出してから一分もたなかった……。

「まあきもちよかったけど」

「それはよかった」

 会話が続かない代わりに、二人で見つめ合う。

 そして何度もキスをする。

「また、しようね」

「そうね。慣れてもらいたいし」

「ほんとに面目ない」

 こればかりはきっと繰り返すしかないと思う。

「ねえ、そういえばさ」

「なに?」

「秀吉は?」

「ああ、あいつなら坂本くんの家に泊めてもらってるわ」

「そっかあ……」

 てことは今日のことは雄二にバレているのか……新学期行きたくないなあ。生きたいなあ。

「ふあ……ごめんなさい、ちょっと寝るわ」

 時計を見れば午前三時を過ぎていた。

 今日はたくさん動いたんだから無理もない。

「うん、おやすみ」

 それを最後に二人とも眠りに落ち、朝を迎えるのだった。

 

 



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