死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。 (鬼獣八紅)
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キャラ設定(ネタバレ有)(随時更新)(飛ばしていい)

 

 黒榊優真(くろさかきゆうま)

 高二 17歳

 一人称 俺

 身長 170cm

 誕生日 4月27日

 血液型 AB型

 種族 人間

 性別 男

 活動名 レイヴン

 好きな食べ物 唐揚げ

 嫌いな食べ物 葉もの野菜の千切り(そのままなら食べれる)

 

 ある程度喋れて動けるタイプの陰キャ

 

 能力 

 空間系能力

 武器

 鴉の手(レイヴンハンド)(拳銃)『能力付与』『形状変化』

 技

 時空切削(ディメンションバイト)

 ワープゲート

 テレポート

 空間認識(スペイシャルレーダー)

 反転(スイッチ)

 瓦礫隕石(ラブルメテオ)

 異空間倉庫(いくうかんそうこ)

 

 

 

 

 

 黒榊環(くろさかきたまき)

 高一 16歳

 一人称 (わたし)

 身長 167cm

 誕生日 5月17日

 種族 人間

 性別 女

 活動名 オウル

 好きな食べ物 フルーツ

 嫌いな食べ物 生魚(焼けば食べれる)

 

 陰キャに理解のあるタイプの陽キャ、料理が得意

 

 魔法 

 生命魔法

 武器

 血吸い桜(盾)『吸血』『怨みの重み』

 魔法のブレスレット

 技

 植物操作(リーフコントローラー)

 植物反発(リーフバウンド)

 果実工場(フルーツファクトリー)

 植物盾(リーフシールド)

 回復(ヒール)

 疲労回復(リフレッシュ)

 自動回復(オートヒール)

 身体守護(ボディガード)

 痛覚軽減(ペインカット)

 悪食の大森龍(グラトニー·フォレスト·バハムート)

 植物人形(リーフドール)

 ~耐性(~カット)

 制限解除(リミッターアンロック)

 復讐の断罪者(オウル·パニッシャー)

 寿命吸収(ライフドレイン)

 寿命分配(ライフギフト)

 

 

 

 

 

 苗又元花(なえまたもとか)

 年齢 不明

 一人称 (わたし)

 身長 158cm

 制作日 2月22日

 種族 怪人

 性別 女

 活動名 キャットガール

 好きな食べ物 魚介類、環の作ったお粥

 嫌いな食べ物 不味い残飯

 

 根倉、コミュ障(本人は否定)

 

 能力 

 無し?

 武器

 現状無し

 技

 ビーストモード

 

 

 

 

 

 灰崎久也(はいざききょうや)

 年齢 26歳

 一人称 俺

 身長 173cm

 誕生日 10月23日

 種族 人間

 性別 男

 活動名 無し

 好きな食べ物 甘いもの

 嫌いな食べ物 辛いもの

 

 天才、研究バカ、聖魔連合の保護者

 

 能力 

 無し

 武器

 現状無し

 技

 現状無し

 

 

 

 

 

 セレネ

 年齢 不明

 一人称 (わたくし)

 年齢 不明

 身長 180cm

 制作日 不明

 種族 ロボット?

 性別 無し(見た目は女性)

 活動名 無し

 好きな食べ物 無し

 嫌いな食べ物 無し

 

 レイヴン達が月で見つけたロボット、なぜそこに有ったのかは不明

 

 能力 

 無し?

 武器

 剣、盾、斧、槍、キャノン砲

 技

 聖なる~(ホーリー~)(剣、盾、斧、槍、光)

 モード巨人兵(モードゴリアテ)

 

 

 

 

 

 

 アル

 年齢 不明

 一人称 アル

 身長 20~200cm

 制作日 不明

 種族 怪人(アルラウネ)

 性別 女

 活動名 無し

 好きな食べ物 フルーツ

 嫌いな食べ物 生肉

 

 オウルが山で会った不法投棄怪人、大食い、子供っぽい

 

 能力 

 植物操作?

 武器

 無し

 技

 根はり

 根方移動

 

 

 

 

 

 酒井菫(さかいすみれ)

 中二 13歳

 一人称 (わたし)

 身長 145cm

 誕生日 10月9日

 種族 人間

 性別 女

 活動名 無し

 好きな食べ物 環の料理

 嫌いな食べ物 高級品、嗜好品(口に合わない)

 

 元虐待被害者、ガリガリで肥りにくい、環を崇拝している

 

 魔法

 毒

 武器

 大鎌

 技

 ベノム·オーシャン

 

 

 

 

 

 鬼頭白夜(おにがしらびゃくや)

 年齢 不明

 一人称 俺

 身長 150cm

 誕生日 2月3日

 種族 怪人(鬼)

 性別 男

 活動名 無し

 好きな食べ物 酒、とある居酒屋のつまみ

 嫌いな食べ物 炒った豆

 

 伊吹城城主、仲間思い、実は二打目は自称、パワーがゴリラ

 

 能力

 抵抗操作

 武器

 曇天(モーニングスター)

 技

 鬼の礫(おにのつぶて)

 鬼脚(ききゃく)

 

 

 

 

 

 セイ

 年齢 不明

 一人称 私

 身長 147cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(エルフ)

 性別 女

 活動名 無し

 好きな食べ物 果物

 嫌いな食べ物 苦いもの

 

 ミヤと一卵性双生児、おとなしめ

 

 能力

 回復

 武器

 弓矢

 

 

 

 ミヤ

 年齢 不明

 一人称 私

 身長 147cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(エルフ)

 性別 女

 活動名 無し

 好きな食べ物 果物

 嫌いな食べ物 辛いもの

 

 セイと一卵性双生児、コミュ強

 

 能力

 影操作

 武器

 弓矢

 

 

 

 スカイ

 年齢 不明

 一人称 私

 身長 152cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(ハーピィ)

 性別 女

 活動名 無し

 好きな食べ物 鶏肉

 嫌いな食べ物 鶏肉以外の肉

 

 怠け者、やるときはやる

 

 能力

 運搬(運んでる物の重さの影響をスカイは受けない)

 武器

 無し

 

 

 

 天魔

 年齢 不明

 一人称 儂

 身長 163cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(天狗)

 性別 男

 活動名 無し

 好きな食べ物 蕎麦

 嫌いな食べ物 鯖

 

 真面目、メンバーの知恵袋

 

 能力

 神通力

 武器

 無し

 

 

 

 オロチ

 年齢 不明

 一人称 俺

 身長 177cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(大蛇)

 性別 男

 活動名 無し

 好きな食べ物 酒、食用蛙

 嫌いな食べ物 特に無し

 

 乗りが昭和のヤンキー、白夜を頭呼び、伊吹山のNo.2

 

 能力

 大蛇化(最大30m)

 武器

 無し

 

 

 

 アギト

 年齢 不明

 一人称 俺

 身長 183cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(ドラゴニュート)

 性別 男

 活動名 無し

 好きな食べ物 魚

 嫌いな食べ物 茸

 

 お調子者、よく河原と騒いでる

 

 能力

 ブレス(全属性の攻撃を口から吐く)

 武器

 槍

 

 

 

 ビルド

 年齢 不明

 一人称 俺

 身長 192cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(オーク)

 性別 男

 活動名 無し

 好きな食べ物 茸

 嫌いな食べ物 特に無し

 

 寡黙、職人気質

 

 能力

 接合

 武器

 鉈

 

 

 

 ロック

 年齢 不明

 一人称 俺

 身長 210cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(ゴーレム

 性別 男

 活動名 無し

 好きな食べ物 しょっぱいもの

 嫌いな食べ物 スープ

 

 面倒見が良い、音楽好き

 

 能力

 岩石生成

 武器

 無し

 

 

 

 ウルフ

 年齢 不明

 一人称 私

 身長 173cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(狼男)

 性別 男

 活動名 無し

 好きな食べ物 肉

 嫌いな食べ物 特に無し

 

 リーマンみたいな性格、まとめ役、メガネ

 

 能力

 衝撃波

 武器

 無し

 

 

 

 

 九縄(くな)

 年齢 不明

 一人称 あちき

 身長 154cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(九尾の狐)

 性別 女

 活動名 無し

 好きな食べ物 いなり寿司

 嫌いな食べ物 納豆

 

 わがまま、美意識が高い

 

 能力

 幻影生成

 武器

 鉄扇

 

 

 

 (さく)

 年齢 不明

 一人称 私

 身長 167cm

 誕生日 不明

 種族 怪人(口裂け女)

 性別 女

 活動名 無し

 好きな食べ物 キャンディ

 嫌いな食べ物 野菜

 

 目隠れ、あまり喋らない、武器持つと性格変わる、剣道有段者

 

 能力

 刃物生成

 武器

 刀(ハサミ)

 

 

 

 

 葉月(はづき)

 年齢 不明

 一人称 私

 身長 八尺(240cm)

 誕生日 不明

 種族 怪人(八尺様)

 性別 女

 活動名 無し

 好きな食べ物 野菜炒め

 嫌いな食べ物 特に無し

 

 みんなのお姉さん、子供好き、皆の事はちゃん呼び

 

 能力

 巨大化(倍率10倍)

 武器

 無し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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本編
とある魔法少女の目覚め


 

「ふぁ~今日も学校疲れた~」

 

 この少女の名前は黒榊環(くろさかきたまき)。どこにでもいる普通の高校一年生だ。

 今は学校の帰り道、普段通りの道だ。

 今年の春に高校に入学して今は夏だが、中学の時とあまり通学路が変わらないので慣れたものだ。

 

「ん?」

 

 だからだろうか。

 

「なんだろ、あれ?」

 

 幸か不幸か、いつもと違う雰囲気の道の路地裏で動く何かを見つけてしまった。

 

「行ってみよう」

 

 

  ◇◇◇ 

 

 

「この辺だったと思うけど…」

 

 環は路地裏に入り、動いていた何かを見た当たりまできていた。

 

「見間違いだったのかな…」

グニャア!

「え…うわぁ!」

 

 環がその場を離れようとした時、横から行きよい良く何かがぶつかり吹っ飛ばされる。

 吹っ飛ばされた環は壁にぶつかり頭から血が流れる。

 

「なに…が…ひっ!」

 

 環はぶつかってきたものを見て後悔した。

 ぶつかったのは怪人だった。

 全身血まみれの女性型の猫怪人。

 その怪人が、今にも環に襲いかかろうとしている。

 

「い…嫌だ…」

 

 環はこの時、明確に自分が死ぬ瞬間を想像できた。

 過去に両親がそうなったように、今度は自分が死ぬのかと。

 

(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない…)

 

 だからだろうか。

 

「死にたくない!」

 

 その思いが届いた。

 

 この世界の魔法少女は、大半が強く何かを願った時に生まれると言われている。

 

「これは…」 

 

 環の目の前に植物をあしらったブレスレットが現れた。

 

「グニャア!」

「っ!そんなこと考えてる場合じゃない!」

 

 環はブレスレットを右腕にはめた。

 

「変身!」

 

 すると、環の服装が変化しだした。

 制服が変化し、ワイシャツに緑のコルセットと短パン、ニーハイソックス、ネクタイ代わりのリボンにピン、その上から深緑色のローブをまとった格好に変化した。

 髪も緑の長髪になり後ろは三つ編みになり、頭の傷も治っている。

 

「…まさか、私がお父さんとお母さんの仇である魔法少女になるとはね…」

「ゴルニャア!」

「て!今はそれどころじゃない!」

 

 環は怪人の攻撃をすれすれで回避する。

 

「どうしよう…攻撃の仕方とかわかんないし…」

 

 環が悩んでいる間にも、怪人は攻撃してくる。

 

「も~、なんか出ろなんか出ろなんか出ろなんか出ろなんか出ろなんか出ろ…」

「ゴルニャア!」 

「なんか出ろ!」

 

 ドカ

 

「…え?」

 

 環が攻撃に当たる瞬間、怪人との間に緑色の幕のようなものが出現した。

 見ると緑の幕に当たったのか、怪人は倒れている。

 

「た、倒せた…?」

 

 環は近づいて確認するが、どうやら気絶しているようだ。

 気絶したせいか身長は縮み、今は環と同じくらいになっている。

 とりあえず環は制服姿に戻る。

 不思議と頭の傷は治っていた。

 

「どうしよう、このままって訳にも行かないし」

「…ないで」

「?、魘されてる?」

 

 気絶したはずの怪人が何か呟いている。

 環はその声に耳を澄ませてみる。

 

「お願い…します、殺さ…ないで…下さ…い、次…こそ…は…かな…らず…」

(!、この怪人…)

 

 環はこの怪人に親近感を覚えた。

 

「この子、さっきまでの私と同じだ。何かに怯えて死を恐れている」

 

 良く見ると、戦闘中は気づかなかったが怪人は全身痣だらけで痩せこけている。

 それに、首輪のようなものがかけられており、首を締め付けておる。

 

「取り敢えず首輪取らないと!」

 

 環はバックからハサミを取り出し首輪を切断する。

 

「これでよしっと。取り敢えず家に運ぼう」

 

 

  ◇◇◇

 

 

「こんなもんかな?」

 

 あの後、家に帰ってから怪人の治療をして、今は布団で寝かせている。

 両親はいないので人に見られる心配はない。

 兄さんがいるが、魔法少女の戦闘に巻き込まれたらしく、今は病院だと思う。

 

「兄さんが帰ってくるまでにどうにかしないと…」

「ただいま…」

 

 兄さんが帰ってきてしまった。

 

(取り敢えずバレないように…)

「あ、兄さんお帰りー。魔法少女の戦闘に巻き込まれたみたいだけど大丈夫だった?」

「まあ…大丈夫ではあったな。怪我したけど」

「本当に気を付けてね。また家族が居なくなるのは嫌だよ」

「ハイハイ気を付けるよ。あと、さっきから見られてる気がするんだが…」

 

 急いで怪人を寝かせている方を見ると、さっき起きたのかこちらを覗いている。

 

(何でこのタイミングで!)

 

 手話(もしくはハンドサイン) で隠れるよう伝えると、理解したのか寝ている部屋の奥へ隠れてくれた。

 

「気、気のせいじゃないかな…」

「まぁ、気のせいと言うことにしておくよ」

「う、うん…」

「それじゃあ疲れたから少し部屋で寝てくる」

 

 そう言って兄さんは自分の部屋に向かった。

 

「…よし!バレなかった。もう出てきていいよ」

「は、はい…」

 

 声をかけて怪人を部屋から出す。

 

「た、助けてくれてありがとうございます…」

「いいっていいって」

「あの…何で助けてくれたんですか?」

「助けた理由…か。特に理由なんてないよ」

「え…?」

「強いて言うなら…私に似ていたからかな。あんた、怪人のはずなのに死を恐れてた。私も魔法少女になったけど、なった理由はを死にたくなかったからだし。それに、私はまだ怪人だろうと殺す覚悟ないしね」

「は、はぁ…」

「それより、お腹空いてないの?」

「あ…」

 

 それと同時に怪人の大きな腹の虫がなった。

 

「す、すいません!」

「大丈夫、多分お腹空いてると思ってお粥作っといたから」

 

 運んだ時、本当に大丈夫かというぐらいで軽かったので、消化がいいお粥を作っておいた。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 よっぽどお腹が空いていたのか、怪人はがっつくようにお粥を食べる。

 すると、いきなり怪人が泣きはじめた。

 

「だ、大丈夫?!」

「すいません、ただ、本当に久々のご飯で…とても…美味しくて…」

「誰も取んないから!ゆっくり食べていいから!」

「は、はい!」

 

 お粥を食べ終わった怪人は、よっぽど疲れていたのか寝息をたてて寝てしまった。

 

「さて、この事を兄さんに相談するか」

 

 魔法少女になったことも伝えないとだし。

 

「ねえ、兄さん…」

 

 

 



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とあるボスの目覚め

 

 

 2XXX年、日夜悪の組織と魔法少女が戦う世界。

 

「はぁ、今日はついてないな…指切るは、転ぶは、足をぶつけるは…厄日かな…」

 

 この少年は黒榊優真(くろさかきゆうま)。どこにでもいる少し考え方が周りと違う高校二年生だ。

 

「聞いたか、向こうで怪人と魔法少女が戦ってるって」

「マジかよ、見れるなんてラッキーじゃん」

「見に行こうぜ」

(何でみんなそんなに生き物が死ぬとこ見たいんだろ…)

 

 この世界の魔法少女は半ば芸能人と化している。

 なので、近くで怪人と魔法少女の戦闘があったら見に行く人は結構いる。

 

(まあ…アニメなんかの戦闘シーンは格好いいからなんとなく分かるが…)

「危ない!」

「…え?」

 

 ドゴン

 

「…っ!」

 

 優真が自分は関係ないとどこかへ行こうと魔法少女の戦闘で飛ばされてきた怪人がぶつかった。

 

(…っ、周りちゃんとみてろや…)

 

 そうして黒榊優真は意識を失った。

 

 

  ◇◇◇

 

 

「ただいま…」

 

 あの後、気がついたら全てが終わった後だった。

 自分は放置されていたところを、騒ぎを聞き付けた救急隊員に保護されたらしい。

 軽症だったが、なぜか高熱でうなされていたらしい。

 因みに、怪人と思っていたのはどこかの組織のボスだったことを救急隊員の人に教えてもらった。

 空間系統の能力を持っていたらしく、なかなか倒せなかったが、今日やっと倒せたらしい。

 

(体よこせ…)

 

 それに、病院から出てしばらくしてから謎の声が聞こえる。

 

「あ、兄さんお帰りー。魔法少女の戦闘に巻き込まれたみたいだけど大丈夫だった?」

 

 出迎えてくれたのは妹の黒榊環(くろやなぎたまき)

 唯一の肉親で高校一年生だ。

 両親は昔、怪人と魔法少女の戦闘に巻き込まれて死亡し、今は両親の遺産で暮らしている。

 

 

「まあ…大丈夫ではあったな。怪我したけど」

「本当に気を付けてね。また家族が居なくなるのは嫌だよ」

「ハイハイ気を付けるよ。あと、さっきから見られてる気がするんだが…」

 

 普段はこんなこと感じることはない。

 

「気、気のせいじゃないかな…」

 

 なぜか環が挙動不審なのが気になるが…。

 

「まぁ、気のせいと言うことにしておくよ」

「う、うん…」

「それじゃあ疲れたから少し部屋で寝てくる」

 

 

  ◇◇◇

 

 

「ここは…」

 

 気がついたら何もない空間にたたずんでいた。

 

「よくきたな」

「!」

 

 すると、後ろから声をかけられたのでとっさに振り向く。

 見るとスーツを着ており、顔が靄にかかって見えない男性が立っていた。

 

「お前は…誰だ?」

「俺かい?俺のことは適当にボスと呼んでくれ」

 

 その男性は自分の名前を名乗る気がないらしい。

 

「しかし、ちょうどいい依り代が見つかって良かったよ」

「!、どう言うことだ?」

「君、指とか足とか怪我してただろ?そこから俺の血液が君の体内に入ったのさ」

 

 確かにあの時、怪我をしていたが。

 

「そんなちっさな怪我に血液が入るわけないだろ!」

「けど実際に俺はここにいる。それはつまり、君が俺の血液を得てしまったのだろう。俺の肉体は魔法少女によって消滅したが、運良く君の肉体に入り込めた。そして君の肉体を奪い取り俺は復活を果たす!」

「は?!」

 

 それはつまり、俺に死ねと言っているのと同じだ。

 

「渡すわけねえだろ!これは俺の肉体だぞ!」

「まあまあ、少しまて。君の記憶を少し覗いたところ、両親が死ぬきっかけになった魔法少女を恨んでいるようだね」

「!」

「肉体をくれたら、その魔法少女に復讐してあげよう」

 

 確かに魅力的な提案だった。

 あの事件で、魔法少女側の必殺技に巻き込まれて両親は死亡したのに魔法少女側からの謝罪は一切なく、それどころかこちらの言葉を聞こうともしなかった。

 

「どうだい?いい取り引きだろう?」

「…確かにな」

「じゃあ…」

「ただな…」

 

 俺はおもいっきりボスの頭を掴む。

 

「な、何をする!」

「俺は別にその事を今さら復讐しようとは思わない。ただ…俺は自分を…家族をまた失わないために、お前の空間能力を奪い取る!」

「な、なに!」

「だいたい、少量の血液しか入ってなく、なおかつ魔法少女に肉体が消滅させられたばっかりだろ?その状況で、この肉体の持ち主である俺に勝てると思ってたのか?」

 

 俺はボスの頭を握りつぶした。

 

 

  ◇◇◇

 

 

「…ん?」

 

 どうやら無事に起きれたみたいだ。

 さっきの出来事は夢だったのかと思ったが、ボスの頭を握りつぶした感覚がまだ残っている。

 

「…テレポート」

 

 自分のベッドから部屋の中央にテレポートしようとしたところ、無事に成功した。

 

「とりあえず環に伝えないと!」

 

 俺は部屋を出る。

 

「なあ、環…」

 

 

 

 



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現状確認

 

「「なあ/ねえ、環/兄さん…」」

 

 二人が今日あったことを話そうとした時、たまたまタイミングが被った。

 

「…先いいぞ」

「あ、うん…ちょっと今日あったことで話したいことがあって」

「わかった。俺も今日あったことで話したいことあったしちょうどいい」

「取り敢えずリビングに移動しよ」

 

 二人は話すためにリビングに移動する。

 

「で?話しって何だ?」

「魔法少女になりました」

「…ちょっとまて、今なんて言った?」

「魔法少女になりました」

「…すまん、ちょっと頭を整理させてくれ」

 

 この世界の学校では、魔法少女になるきっかけなどの基礎知識は小学校の義務教育で一通り習う。

 なので、少女なら誰でもきっかけが有れば魔法少女になれるのを優真は勿論知っている。

 が。

 

「…どうしてなったのかの理由の説明を求む」

 

 いきなり妹が「魔法少女になりました」と言っても、理解できるかは別である。

 

「ええっと…」

 

 環の説明では、たまたま路地裏に入ったら怪人に襲われ、死にたくないので魔法少女になったらしい。

 そして、その怪人は全身痣だらけで死にそうだったので、家に連れ帰って寝かせているいるとのこと。

 

「それに…死にたくなさそうだったし…」

「…まぁ、なんとなくわかった。殺されかけた相手を助けたことも、状況的に俺もそうするだろうし」

「…よかった、怒られるかと思った」

「因みに、俺の報告も似たようなことなんだが…」

「…は?」

 

 優真は、昼間の事故でたまたまどこかの組織のボスの血液を接種してしまい、空間系統の能力を取得したことを説明した。

 

「…それ大丈夫?精神乗っ取られない?」

「まぁ、大丈夫だろ?そんなことより、今後をどうするかだ」

 

 不可抗力とはいえ二人とも能力を得てしまった以上、戦いはおそらく避けられない。

 

「多分だけど、悪の組織や魔法少女に狙われるよな…」

「多分…」

 

 優真は魔法少女に、環は悪の組織におそらく狙われる。双方、どういう原理か的確に場所を突き止めてくるからだ。

 

「…下手したら死ぬくね?」

「…死ぬね」

 

 双方、見つけたら問答無用で攻撃してくるので話し合いはまず不可能だ。

 

 そこへ。

 

「あの~起きたのですが…」

「あ、起きた起きた。体調大丈夫そう?」

「は、はい、おかげさまで…」

「そいつが環を襲ったっつう怪人か?みた感じ人畜無害そうだが?」

「ひぃ!さ、先ほどはすいませんでした!」

「ちょっと兄さん!怖がってるじゃん!」

「わりいわりい。そうえば自己紹介がまだだったな、俺は黒榊優真。こいつの兄だ」

「そして私が黒榊環。そうえばあなたの名前は?」

「は、はい!黒曜団所属の量産型怪人、キャットガールプロトタイプです」

「「プロトタイプ??」」

 

 その怪人…キャットガールが言うには、黒曜団はキャットガールプロトタイプをモデルに量産型怪人を作っていたらしい。

 早い話、クローンの素体だ。

 

「それで…なぜかいつも魔法少女の前にいて…殺されて…気づいたらまた部屋の中で…戦いに行ったのはクローンのはずなのに…」

「…兄さん」

「あぁ、多分だがクローンとの記憶が共有されてる」

 

 恐らく怪人なのに死ぬのを恐れてた理由はこの記憶共有だ。

 クローンの記憶とはいえ、死ぬ瞬間を何十回と見せられれば当然といえば当然だが。

 

「そういえばどうやって黒曜団体から脱走したんだ?」

「それは…私に唯一ご飯をくれた研究者のお兄さんが逃がしてくれました。ご飯は毎日ではなかったけど、唯一優しくしてくれた人です」

「そうなんだ…」

「お願いです!どうかお兄さんを助けてください!私を逃がす時、組織の人に捕まってしまって、どうかお願いします!」

「兄さんどうする?」

「どうって…」

 

 キャットガールが言う研究者さんを助けるメリットは正直あまりない。

 

「いやちょっとまて。キャットガール、組織の建物の内部構造は分かるか?」

「い、一応…」

「環、俺は助けに行くのに賛成だ。俺たちは能力を得たばかりで魔法少女や悪の組織の伝手もない。なら、ちょうど建物内部の構造知ってるやつがいるなら、ついでに研究資料や怪人制作機械、資金などをまとめて奪うのはどうだ?」

「…それ法的に大丈夫なの?」

「最悪、魔法少女っつう免罪符使えばどうとでもなる。それに、ここでいろいろな道具入手しとかないと、次の入手機会がいつかわからねぇ」

「わかった、それに多少は戦闘慣れしとかないとね」

「襲撃までに能力確認しとけよ」

 

 襲撃は今晩だ。



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襲撃

 

 午後11時、都内某所にあるとあるビル。

 二人は万全の準備をして黒曜団本部に来ていた。

 

「それで、お前の魔法…【生命魔法】だったか?だいぶ使えるようになったか?」

「大丈夫!けっこう練習時間あったし」

 

【生命魔法】

指定した範囲の環境を生物が生きれる環境に変え、ある程度操作する。

傷を癒す。

外敵から身を守る。

 

「兄さんの方は能力どうなの?」

「【テレポート】と【ワープゲート】、【異空間倉庫】だな。ただ、熟練度もコピーしたのか結構な数の【ワープゲート】を一斉に操作できるし、【異空間倉庫】もだいぶ物をしまえる」

 

 その他にも、襲撃に備えてさっきワープゲートで外国のホームセンターで買ってきたスタンガンに催涙スプレー、縄、家にあった包丁などを持って来ている。

 さらに顔を隠すためにペストマスクを装備し、指紋がつかないようにゴム手袋をつけている。

 環の方は【環境操作】の一貫で植物も操作できたため、拘束用にアサガオの種を持って来ている。

 

「さて、目標は…」

「キャットガールを逃がした研究者のお兄さんと研究資料と怪人関係の機械の確保。できれば資金もでしょ」

「あぁ、そして…」

「「命大事に!」」

 

 

  ◇◇◇

 

 

「それじゃあ環、まずは警備室を制圧するから拘束よろしく」

「了解」

 

 監視カメラなどで見つかったら面倒なのでまずは芸備の要を潰す。

 

「ここだ、【テレポート】」

「アサガオ、GO」

 

 警備室に着いたら環を中に【テレポート】で飛ばし、中でアサガオを急成長させ警備員を拘束する。

 

「な!どこか『バチッ』…」

「お、おい『バチッ』…」

「…ふ~終わったよ。てかこれ兄さんでよかったよね」

 

 そして拘束したらスタンガンを当てて気絶させる。

 

「仕方ないだろ、身体能力は環の方が魔法少女になった影響で上がってんだから」

 

 証拠を残さないためにアサガオから縄に縛り直す。

 そして監視カメラから研究室と研究者のお兄さんが捕まっておる場所を調べる。

 

「お、この部屋か?」

 

 その部屋は拷問室のようで、見張りが二人部屋の前にいる。

 

「拷問室の方は私が行くよ」

「わかった、それと…」

 

 警備室の監視カメラの録画機器を全て破壊する。

 そして、互いの耳元に小さなワープゲートを作る。

 

「終わったらそのワープゲートで連絡な」

「了解」

 

 

  ◇◇◇

 

 

「ここか…」

 

 兄さんと別れた後、拷問室から少し離れた所にワープゲートで送ってもらった。

 拷問室前に見張りが二人。

 

「兄さん、少し離れた所に何か落とせる?物音がするくらいの」

『ちょっとまって…そこら辺にあった缶でいいか?』

「それでいおよ。私の位置の反対側に落として」

『了解』

 

 カランッ

 

「ん?何の音だ?」

「俺がみてくる」

 

 よし!これで反対側に意識が向いた。

 その間に一気に距離を詰める。

 

「少し眠っててね」

 

 ドサッ

 

「おい!どうし「これでラスト!」なっ!」

 

 そしてスタンガンで気絶させる。

 

「これでよし!一応縄で縛っとこう」

 

 縄で縛って…終了!

 後は中にいる研究者のお兄さんの救出だ。

 

「中はどうなって…ウッ」

 

 中は血と肉の匂いが充満していた。

 しかし。

 

「今のうちに慣れないと…」

 

 今後あるかもしれない戦いのためにも。

 

「う、やっぱきついな…」

 

 長年掃除されてないのか腐敗した匂いがこもってる。

 早く見つけないと鼻が曲がる。 

 

「ん?あの人かな?」

「…そこに誰かいるのか?」

 

 少し探すと、奥の壁にお兄さんが腕に手錠を付けられて壁に固定されていた。

 

「はい、私は…取り敢えず魔法少女Aと名乗っときます」

「…それで、魔法少女Aは何でこんなところに?」

「あなた、キャットガールを逃がしましたよね?それでキャットガールからあなたの救出を頼まれたんです」

「!、あいつなにして…」

「話し合いは後です」

 

 手錠は壊せそうにないので、壁に固定されている手錠の付け根を破壊する。

 手錠は後で兄さんに外してもらう。

 

「【ヒール】!」

 

 拷問の跡なのか傷がひどいので回復させる。

 暗くて良く見えなかったが、指か数本なくなっていたのもみるみる回復していく。

 不謹慎だが、体の失った部分も回復する事がわかったのは幸いだ。

 指を切断して回復魔法の練習するわけにもいかなかったし。

 

「兄さんに連絡しないと」

 

 

  ◇◇◇

 

 

「さて、こちらもさっさと終わらせっか」

 

 環に頼まれて通路に柑橘を落としたあと、俺も自分の作業に戻る。

 研究室にあった怪人を制作する機械、研究資料、拳銃などの武器を片っ端から【異空間倉庫】に入れていく。

 その資料の中にはキャットガールの資料もあった。

 

《No、175 キャットガール》

材料 猫の死体、プラナリア、ゾウムシ、少女の血液

概要

見た目は猫怪人だが、どんな環境でも生きていける生命力、

高い再生力、分裂能力を有している。

人格があり、戦闘には向かない性格をしているのでクローンの素体としてしようする。

首輪で記憶を共有させることで次のクローンの為に戦の記憶を残す。

エネルギーが切れると再生しなくなる。

 

 資料に"量産型"の記載がないのは、恐らく本来は量産型で使う予定はなかったのだろう。

 しかし、キャットガールが戦闘向きの性格をしておらず、急遽量産型に変更したと思われる。

 

「あ、そうえば…」

 

 俺は研究室から総務部の部屋へ【ワープゲート】で移動した。

 そして、机の鍵を【テレポート】で無理やり消し飛ばして中を物色し目的の物を探す。

 

「お、あったあった」

 

 探していたのは、この組織が裏で取り引きしている密輸した武器や薬物、資金などが記録されている書類だ。

 これを持って行けば、最悪バレても脅しの手札に使える。

 

「さて、環を連れて帰るか」




「何でペストマスクなの?」
「外したとき、ペストマスクが印象に残っていればバレにくいだろ」


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学校

 

「ふぁ~眠っみ」

 

 黒曜団襲撃から帰ったあと、研究者のお兄さんはよほど拷問がきつかったのか自己紹介をする前に寝てしまい、家を出るときも寝ていた。

 キャットガールも帰った時には寝ており、朝家を出るときには起きてたので留守番するように言ってある。

 

「さて、どうするか…」

 

 昨日強奪した武器は色々あったが、そのうちの一つが問題だった。

 

『魔力探知機』

魔法少女が発する魔力を探知し、画面に表示する。

マジックアイテム社製

 

 このアイテム事態はとても有能なのだが、問題はこの学校に環を含め4つの魔力反応があることだ。

 環もこの機械は持っているため魔法少女がいることは多分知ってる。

 

「それに、反応してんの委員長とクラスの人気者じゃねえか」

 

 魔力探知機の反応がある場所にいるのは、委員長の青柳美空(あおやなぎみそら)と、クラスの人気者の桃山桜(ももやまさくら)だ。

 関わりはあまりないが、クラスメイトに魔法少女がいると今後動きづらくなる。

 それにこの魔力探知機、制作したのがマジックアイテム社となっており、黒曜団のオリジナルアイテムではないのだ。

 つまり、大半の悪の組織が所持しており環の居場所がすぐにわかってしまう。

 

「取り敢えず、マジックアイテム社は面倒事になる前に潰すか」

 

 とはいえ、昨日の強奪で資金を奪い忘れたため潰す準備をしようにも出来ない。

 

「昼になったら環と相談だな」

 

 

  ◇◇◇

 

 

「それで、結局どうするの?」

 

 昼休み、優真と環は体育館裏で弁当を食べていた。

 

「取り敢えず、この魔力探知機の制作会社はそのうち潰す」

「OK、私たちの平和のためにも絶対潰そう」

 

 環が魔法少女になった以上、絶対に悪の組織のいざこざに巻き込まれる。

 なら、いざこざの原因である魔力探知機の制作元を潰せば少しは楽になるという寸法だ。

 

「それと、悪の組織を作ろうと思う」

「…因みに何で?」

「これからあるであろう戦のためだ。環は悪の組織から、俺は魔法少女から狙われると思う。それにキャットガールと研究者さんを保護したからには面倒をみないといけない。環はこの先二人を守れる自信あるか?」

「…ないね」

「なら、今後のためにも組織は作っとくべきだ。聖なる者も魔の者も争わず生きれる組織、

 

聖魔連合(せいまれんごう)

 

俺たち二人で作らないか?」

「…反対するわけないじゃん。魔法少女や悪の組織と言う名の世界の理不尽をぶっ壊そう!」

「まあ、最終的にはな。その為にも仲間が必要だ」

 

 今の人数は優真、環の二人だけだ。キャットガールと研究者さんはまだ入ると確定していない。

 

「その為にも環、お前魔法少女として怪人倒してこい。倒す瞬間に俺がワープゲートで回収する」

 

 こうすれば怪人は倒されたように見える上、うまく行けば仲間を増やせる。

 

「それと俺は今日、黒曜団にまた行ってくる」

「どうやって?」

「昨日の襲撃の時、違法取り引きの書類持ってきたんだ。それを魔法少女に見せて襲撃させる。その隙に資金を強奪する」

「危険じゃない?」

「そのうち存在がバレるんだ。遅いか早いかの違いだ」

 

 そうして、今後の方針が決まった。



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魔法少女との接触

 

 学校が終わり放課後、俺はとある人物を待ち伏せしていた。

 

「そろそろかな…お、来た来た」

 

 俺が待ち伏せていたのは委員長の青柳美空だ。

 俺が通ってる高校にいる魔法少女で、桃山桜は悪い人と判断すれば問答無用で攻撃してきそうだし、環のクラスにいるらしい魔法少女の藤花奈々(ふじはななな)は顔を知らない。

 よって消去法ではあるが、話しが通じそうな青柳美空と交渉することにしたのだ。

 今の格好はペストマスクにパーカーなので青柳が俺の私服姿を知らなければ黒榊優真とは分からないはずだ。

 

「それじゃあさっそく…」

 

 俺は青柳背後にテレポートして肩に触れふる。

 テレポートは自分以外にも触れている対象に対しても発動できる。

 そして青柳と一緒に近くの路地裏にテレポートした。

 

「な!」

「少しお話いいかな、魔法少女さん?」

「!」

 

 青柳は驚いて瞬時に距離を取る。

 青柳にしてみればいきなり知らない場所に連れてこられた上、自分が魔法少女だとバレているのだ。

 

「あなたは誰ですか?」

「いきなり連れてこられたのに冷静だね。俺は…そうだな、"レイヴン"、レイヴンと呼んでくれ」

 

 とっさに考えたが割りといい敵名だ。

 俺たちがやろうとしていることはこの社会において不幸以外の何者でもないからな。

 不幸の意味を持つ烏はちょうどいい名前だ。

 

「ちょっと交渉をしたいんだがいいか?」

「交渉なんてするわけ…」

「おっと、変身はするなよ。俺の仲間のスナイパーにお前の仲間が殺されたくなければな」

 

 青柳が変身しようとしたので脅して止める。

 実際は仲間のスナイパーなんていないが、ワープゲートで弾丸を飛ばせば似たようなことは出切るので、殺しはしないが脅しとしては十分に使える。

 というか、こちらはただ強い能力を得ただけの一般人なので変身されたら間違いなく負ける。

 

「…要求はなに?」

「おいおい交渉だって言ってるだろ。まあ話しが早くてたすかる。取り敢えずこの資料を見てくれ」

 

 俺は昨日黒曜団から奪った資料を渡す。

 青柳は不思議そうに受け取るが、すぐにこの資料が何の資料なのかを理解したようだ。

 

「密輸に薬物売買の取り引き資料…あんたこれをどこで…」

「そこは企業秘密ということで。それでこの要求は取り引き元の黒曜団を潰してもらいたい。天下の魔法少女様なら、悪事は見逃せないよな?」

 

 あくまでも持論だが、魔法少女は正義感がバカ高く、それでいて悪事が絡むと周りの事は考えない連中だ。

 それにわざと精神を逆撫でするような言い回しをしたから、こちらの要求を呑むはずだ。

 

「…わかったわ。要求を呑みましょう」

「そうか、それはよかった。ではまた」

「あ、ちょっと!」

 

 青柳が何か言っているが、俺は異空間倉庫に逃げ込む。

 

「ふ~なんとか交渉成立だな」

 

 変身されたらマジでヤバかったな。

 

「さて、精々利用させてもらうぞ魔法少女」



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レイヴン

 

「お~ドンパチやってんな」

 

 異空間倉庫でしばらく休憩した後、俺は昨日襲撃した黒曜団に来ていた。

 今は上空からワープゲートで下の様子を見ている。

 既に魔法少女達は襲撃しているのか、あちこちから騒音が聞こえる。

 

「さてと、俺も行きますか」

 

 

  ◇◇◇

 

 

 そもそも俺が魔法少女と交渉したのは資金確保のためのカモフラージュだ。

 昨日の襲撃で警備システムを壊したとは言え、2日連続で忍び込むにしては黒曜団は大きすぎる。

 ならいっそのこと、魔法少女に適当な理由付けて襲撃させてその間に資金を確保する作戦だ。

 

「よし、資金確保完了。あとは…」

 

 キャットガールをクローンの素体にしたり研究者さんを拷問したとは言え、死なれては目覚めが悪い。

 魔法少女をここに呼び込んだのは俺だとしても、せめてこの建物から出してやることにした。

 

「うわぁ、こりゃ酷いな」

 

 建物一階のロビー的な所には、すでに下っ端戦闘員があちこちで気絶していた。

 中には腕などが絶対に曲がったらダメな方向に向いている人もいる。

 取り敢えず異空間倉庫に入れていく。後で環に回復してもらってからその辺の路地裏に出せばいいだろう。

 

「それにしても人数多すぎるだろ」

 

 この建物は二十階建てのビルだ。いちいち確認している暇はない。

 

「仕方ない、ぶっつけ本番だがやってみるか」

 

 この能力を確認している時は上手く出来なかったが、能力的には出切るはず。 

 

空間認識(スペイスレーダー)

 

 この技は、頭の中に立体地図を作り探したい物を写し出す技だ。

 

「…っ」

 

 発動した瞬間にとてつもない頭痛が起こる。

 普段処理しない量の情報が頭に流れてくるので当然といえば当然か。

 前任者の練度もコピーしたとは言え、前任者が使っていなかったらもちろん練度はコピーされない。

 恐らく前任者は【テレポート】【ワープゲート】【異空間倉庫】しか使ってなかったのだろう。

 

「…っ!多すぎだろ!何人ぶっ倒してんだあいつら!」

 

 空間認識(スペイシャルレーダー)で確認したところ、100人近くが建物内で気絶していた。 

 明らかにボスへ行く通路ではない所にも気絶した人がいるため、わざわざ全員倒して行ったのだろう。

 

「あ~もう!急ぐぞ!」

 

 

  ◇◇◇

 

 

「これでラスト!」

 

 現在地は19階。さっきラスト一人を異空間倉庫にしまい終わったところだ。

 最上階の20階は空間認識(スペイシャルレーダー)で確認したら他より大きな反応が4つあったので、恐らくボス部屋でボスと魔法少女達が戦っているのだろう。 

 

 

「さて、そろそろ撤収し『ドゴン』な、何だ!?」

 

 そろそろ撤収しようとした時、上の階からすごい衝撃が響く。 

 急いで空間認識(スペイシャルレーダー)を確認すると、上の階に凄まじく大きな反応があった。

 恐らく魔法少女が必殺技的な何かを発動したのだろう。

 というか、何で空間認識(スペイシャルレーダー)に反応したんだ?今は生体反応を探知するように設定しているはず。

 

「て、それどころじゃねえ!あいつらこのビルごと破壊する気か!」

 

 中にまだ人がいたらどうする気だ。

 取り敢えず異空間倉庫に逃げ込んだ。

 

 

  ◇◇◇

 

 

「おいおいマジかよ…」

 

 少しして異空間倉庫から出るとビルがものの見事に崩壊していた。

 周りを確認した感じ巻き込まれた人は居らず、空にはどこから嗅ぎ付けて来たのかテレビ局のヘリコプターが飛んでいる。

 ボスの生体反応が消えていたので恐らく死亡したのだろう。

 顔も名前も知らぬボスだが、心の中で黙祷を捧げる。

 

「そこのあなた…レイヴン!」

「ん?」

 

 どうやら黙祷を捧げてる間に魔法少女に見つかってしまったようだ。

 ぶっちゃけ勝てる気しないが、魔法少女達は先ほどの戦闘で疲れているはずだし逃げ切ることは出切るだろう。

 それに自分の戦闘力を把握しておきたい。

 怪我をしても環が直せるし最悪テレポートで逃げれし、上手く自分が強者だと誤認させれば向こうは迂闊に手が出せなくなるはずだ。

 

「おやおや誰かと思えば魔法少女だったか。この度は黒曜団のボスをぶっ倒してくれてありがとな」

「レイヴン…何であなたがここに!」

「美空知ってるの?」

 

 赤みがかったピンク髪の魔法少女…桃山桜が青柳に問いかける。

 というか、敵の前で本名呼んで良いのかよ。わざわざ指摘する理由もないのでスルーするが。

 それに間違えて名前を呼んでしまった時の言い訳にもなる。

 

「おっと、そういえば二人は初対面だね。俺は聖魔連合連合長のレイヴンだ。先ほどは邪魔な黒曜団を倒してくれてありがとな」

 

 聖魔連合のトップは学校でもう決めてある。

 俺が連合長で環が副連合長だ。

 

「美空先輩どういうことですか?」

「…実はレイヴンにこの組織を潰すように脅迫されたのよ。あなた達二人をスナイパーですぐに殺せるようにして」

「おいおい交渉と言ってくれよ」

 

 どうやら青柳は二人にここを攻める理由を伝えていなかったらしい。

 

「美空になんて事を…」

「許せません!」

 

 桃山と黄色髪の魔法少女…恐らく藤花奈々が怒っているが完全に向こうの不手際なので起こられる筋合いはない。

 だってこちらは喋ったらダメとは一言も言っていない。

 そんなことはお構い無しに藤花が電気の塊を飛ばし、桃山が炎を纏って突っ込んでくる。

 

「ワープゲート」

 

 そして飛んで来た電気の塊をワープゲートに入れ桃山に当てる。

 初めてにしてはコントロールが良かった。

 

「桜/桃山先輩!」

 

 青柳と藤花が、攻撃が返されて驚いている。

 そして次こそはと青柳が水を纏った刀を持って近づいてくる。

 というか、魔法少女なんだから魔法使えよ!

 まあ、物理攻撃してくる魔法少女がいるとわかっただけ収穫はあったか。

 俺は近づいてくる青柳に向かって異空間倉庫から取り出したリボルバーを使って弾丸を放つ。

 

「なんの!」

 

 まあ、普通に躱されたが。

 しかし本命ではない。

 躱された弾丸の進行方向にワープゲートを出現させ青柳の刀の持っている手の甲に向かってワープさせる。

 

「う!」

 

 青柳が悲鳴をあげる。

 初めて銃で人を撃ったがあまり何も感じないな。…それほど魔法少女に怨みがあっただろうか?

 …いや違うな。こちらは命がかかってるからか。命が関わると人は本性を見せるらしいがこれが俺の本性か。自分の命が関わると周りを攻撃することも辞さない。今後はこの感覚にも慣れないとな。

 しかしこの感覚で一般人を撃ったらダメだな。そうなったらそこらの悪の組織と変わらなくなる。

 

「…そろそろ帰るか。じゃあな魔法少女!またどこかで!」

「っ!待て!レイヴン!」

 

 青柳が叫んでいるが、俺は無視してワープゲートをくぐる。

 

 今後、この世界の社会システムに反逆する組織。聖魔連合の名が初めて世に出た瞬間だった。

 





今後出す暇がないのでここで出す設定

魔法少女の髪は変身前と普通はあまり変わらない
一般人の髪色もいろいろある


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怪人との接触

 

 

「…ここなら誰もいないよね」

 

 学校で兄さんと今後の方針を話した後、私は放課後に学校の裏山に来ていた。

 裏山に来た理由は魔法の練習の為だ。

 私の生命魔法は植物にも影響を与える。むしろ今はそちらの能力がメインになっているので植物が多い裏山で練習をした方が良いのだ。

 しかも、少し魔法少女について調べたが回復魔法持ちはいるにはいるが母数にたいして人数が少なく貴重らしい。なのでいつ狙われて戦闘になっても良いように魔法を強化しておいた方がいい。

 

「よし、変身!」

 

 私は周りに誰もいない事を確認してから魔法少女に変身した。

 担いでいたリュックは変身と同時になぜか消えたけれど、前回の変身でも解除したら戻ったから大丈夫だろう。

 変身しなくても魔法自体は使えるが、なぜか変身した方が使いやすい。

 それに、実際戦うことになると変身するだろうから魔法少女のコスチュームに慣れておかないといけない。

 まあ私のコスチュームは一般的な魔法少女のコスチュームと違ってフリルなどがついておらず、頑張れば私服に見えなくもないのですぐに慣れるだろう。

 

「す~は~、よし!植物操作(リーフコントローラー)!」 

 

 私は深呼吸して心を落ち着かせてから魔法を発動させる。

 すると、周りの植物が意識を持った様に動き出した。中には根を使ったのか、元の生えていた場所から移動している植物もある。

 

「ちょ!ストップストップ!」

 

 私はあわてて魔法を解除する。

 

「やっぱり複数操作は難しいな…」

 

 今発動した植物操作(リーフコントローラー)は、文字通り植物を操作する魔法だ。昨日の襲撃で使用したアサガオによる拘束もこの魔法を使ったものだ。

 ただ、明らかに昨日の魔法より出力が上がっていた。

 昨日は詠唱が決まっておらず感覚で発動していたが、詠唱をした方が魔法の出力が上がるっぽいな。

 魔法少女がいつも技名を叫んでいたのは魔法の出力を上げるためだったのね。

 

「次は…寿命吸収(ライフドレイン)!」

 

 私は次の魔法を発動させる。

 すると、手をかざした植物が枯れ、自分に何かぎ流れ込んでくる感覚を感じた。

 

「…出来ちゃったよ…」

 

 まさか出来るとは思わなかった。

 寿命吸収(ライフドレイン)は指定した対象から寿命を奪う魔法だ。魔法は想像力って誰かが言っていたし、私の魔法が生命魔法だから出来るかもと思ったが、まさか出来るとは…。 

 

「…寿命分配(ライフギフト)

 

 私は寿命を吸収した植物に次の魔法を発動させる。

 すると、今度は私から何かが抜ける感覚がした後、植物が寿命吸収(ライフドレイン)前の状態に戻った。 

 寿命分配(ライフギフト)は自分の寿命を指定した対象に分け与える魔法だ。今は寿命吸収(ライフドレイン)で吸収した寿命を元に戻した感じだ。

 

「取り敢えずこの2つの魔法は封印だね」

 

 寿命吸収(ライフドレイン)は多少制約が有るとは思うが簡単に人を殺せる。

 寿命分配(ライフギフト)は自分の寿命を使うため、あまり使いたくない。第一、目標は死なない事なのに寿命を削っては本末転倒だ。

 だから、今後は余程の事がない限り使わない様にしよう。

 

「次は…ん?」

 

 次の魔法を使おうとした時、森の雰囲気が変わった。

 

「一体何が…」

 

 辺りを警戒していると、森の雰囲気を変えた正体が姿を現した。

 

「な、何で…」

 

 現れたのは、この森に来た時にはいなかった怪人だった。

 

「何で怪人がいるの!!」





今後出す暇がないのでここで出す設定

普通の魔法少女のコスチュームはプリキュアやまどマギみたいなコスチューム。
環が例外。


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オウル

 

「何で!来た時は何も感じなかったのに!」

 

 私は魔法が発現した時からある程度生命体の位置がわかるようになった。来た時には確かに反応はなかったのに!

 そんなことはお構い無しに、いきなり現れた怪人は問答無用で攻撃してくる。

 

「っ!身体守護(ボディガード)!」

 

 私はとっさに防御魔法…身体守護(ボディガード)を発動させ攻撃を防ぐ。

 しかし、ダメージこそ受けなかったが衝撃は打ち消せずに後ろの木々をへし折りながら飛び、七本くらい木々をへし折って止まった。

 

「痛ったー!いきなりなんなの?!」

 

 身体守護(ボディガード)は昆虫の外骨格みたいに体の表面を固くする防御魔法だ。しかし、言ってしまえばただ固くなるだけなので痛みまでは無効化出来ない。

 まあ、とっさに発動出来ただけ良かったけど。

 私は改めて怪人を見る。

 見た目は私と似て緑髪に長髪の女性だが、下半身が異形だ。赤い大きな花の中央から女性の上半身が生えていた。肌が黄緑なのも人外じみている。

 まるで異世界小説に出てくるモンスターのアルラウネみたいだ。

 さっきの攻撃は、下半身の花から伸びた蔦を鞭の様に使ったようだ。

 そしていきなりこの怪人が出てきた理由は恐らく…

 

「不法投棄怪人か!」

 

 不法投棄怪人、それは数十年からある問題だ。

 悪の組織は魔法少女を倒すために日夜怪人を作る。しかし、その過程でもちろん失敗作もでる。実際、昨日兄さんが取ってきた資料に載っていた怪人はどこかしら欠点の有る失敗作とされていたのが半分近くあった。

 ちなみに、キャットガールは肉体的にはとても良く出来ていたらしいが、精神が戦いに向かないとかで失敗作とされていた。

 そうして作り出された失敗作を、悪の組織は山奥などに捨てているのだ。

 不法投棄怪人は時折何らかの理由で再起動して暴走するため、国が動くレベルで問題視されている。

 不法投棄された怪人は、人間でいう仮死状態のため周りにある植物が邪魔して私の探知に反応しなかったのか!

 

「めんどくさい所に不法投棄しやがって!」

 

 この裏山は私達が住んでる家から近いところにあるので、被害が来たらたまったものではない。

 しかし、相手は植物型の怪人なので私と相性がいい。何より、ここでこいつを仲間にできれば今後私のサポーターとして使える。

 

「絶対に仲間にする」

 

 そうして私が立て直している間にも怪人は何処かに移動している。

 あの方向は…まさか、市街地に向かってる!

 

植物操作(リーフコントローラー)!」

 

 私は蔦を操作して怪人の動きを止める。

 しかし、怪人のパワーが予想以上にあり全く止まる気配がない。

 

「っ、止まらない…てうゎ!」

 

 怪人は反撃とばかりに私の足に蔦を巻き付けて投げ飛ばした。

 飛ばされた方向にあるのは市街地。このままでは建物に衝突する。 

 しかも、私には空中に滞空できる魔法もなく植物操作(リーフコントローラー)で植物を伸ばしても強度が足りないしそもそも間に合わない。

 ならば…。

 

「今ここで魔法を作るしかない!」

 

 身体守護(ボディガード)でも着地できなくはないが、それだと建物を貫通してしまう。

 

「操作対象は街路樹…葉っぱを大きく…反発力を…イメージしろ…」

 

 どんどん衝突までの時間が迫ってくる。

 

「イメージ完了!植物反発(リーフバウンド)!」 

 

 瞬間、街路樹の葉っぱが巨大化して私を大きく撓りながら受け止める。

 植物反発(リーフバウンド)は植物の葉の弾性力とサイズを大きくし、トランポリンの様にする魔法だ。とっさに作ったが成功して良かった。

 このままだと反発で飛んで行ってしまうので植物操作(リーフコントローラー)で街路樹を固定する。

 

「さて、怪人はどこに…「キャー!」あっちか!」 

 

 急いで悲鳴が聞こえた方え向かうと、怪人が一般人を補食しようとしていた。

 

「やっば!植物盾(リーフシールド)!」

 

 急いで一般人を拘束していた蔦を魔法で切断する。

 植物盾(リーフシールド)は本来薄い膜を張って防御するための魔法だが、今みたいに何かを切断させることもできる。

 

「なんだなんだ!」 

「魔法少女の戦闘が?!」

 

 ち、野次馬が今の悲鳴で集まってきた。これじゃああの怪人を仲間に出来ない。何より邪魔!

 そうしている間にも怪人は野次馬に攻撃をしている。

 

植物盾(リーフシールド)植物盾(リーフシールド)植物盾(リーフシールド)!」

「魔法少女頑張れ!」

「魔法少女負けるな!」

 

 そう思ってるなら離れろよと思うが、なんとか声に出さずに我慢する。

 これだから野次馬は、危機管理能力が欠けてんのか!

 

「食事ノ邪魔ヲスルナー!」

 

 ついに怪人がしびれを切らしたのか、何か叫んできた。

 というか食事?こいつ腹減ってるだけか?

 私としてはとっとと森に戻して仲間にしたいのに…。

 いや待て、あいつ腹減ってるんだよな。なら、少し荒くなるがすぐに森に戻せる!

 

果実工場(フルーツファクトリー)

 

 私は持っていたアサガオの種を成長させる。

 すると、成長したアサガオは花の代わりに林檎やミカンといった果実をつける。

 

「食イ物ー!」

「よし食いついた!」

 

 果実工場(フルーツファクトリー)は、もともと家計の事情が危なくなりそうなので作った魔法だ。

 両親がいないので働き手がなく、今までは遺産を切り崩して食料を買っていたが、二人増えて四人になったのでこれは不味いと作ったが、まさかこんな形で役立つとは。

 

「こっちだ!」

「待テー食イ物ー!」

 

 そうして怪人を誘導する。向かう先は先ほど着地した場所だ。

 私の魔法は解除しようとしない限り、発動した状態で固定されている。なので今は着地した時に曲がった状態になっている。

 

「よしよしもうちょっと」

 

 そうして着地した場所に着いたら植物反発(リーフバウンド)の上に怪人が来るのを待つ。

 

「待テー!」

 

 もう少し…今だ!

 

植物操作(リーフコントローラー)解除!」

「ウガ!?」

 

 怪人が乗っかっていた街路樹勢い良く戻り、怪人を森の方向へ飛ばす。

 これで一目につかずに仲間に出来る。

 

「これでヨシッと。」

「君名前なんていうの?初めて見る魔法少女だけど?」

 

 げ、野次馬の存在忘れてた。

 本名は言いたくないし…

 

「オウル、オウルです!今日から魔法少女始めました!それじゃ急いでるので!」

「あ、ちょっと!」

 

 とっさに考えたけど案外いいな。梟は森の賢者とも呼ばれてたはずだし、私の魔法が植物関係だからぴったりだ。

 

 後に『生命の賢者』と呼ばれる魔法少女オウルの名が、初めて世にでた瞬間であった。

 

 

  ◇◇◇

 

 

「居た居たやっと見つけたよ」

 

 ぶっ飛ばした怪人を見つけるのに結構時間がかかってしまった。

 怪人は弱りきっているが、死んではなさそうだ。

 

「腹…減ッタ…」

「まだ腹減ってるのかよ…果実工場(フルーツファクトリー)、これでもいい?」

「アリガトウ…」

 

 まだ腹が減ってるらしいので果実工場(フルーツファクトリー)で果実を作り出して与える。 

 それにしても美味しそうに食べるな。

 

「私も腹減ったし少し食べるか」

 

 30分後…

 

「…ねえまだ食べるの?こっちの体力もうなくなってきたんだけど?」

「もう大丈夫!ありがとう!」

 

 いや~まさか30分ぶっ通しで食べ続けるとは。

 けどそのお陰か言葉使いも良くなったし落ち着いたみたい。

 

「さっきはいきなり攻撃してごめんね」

「私こそごめんね。それで、少し相談なんだけど私達の仲間にならない?」

 

 本題はこれだ。まあ直ぐ仲間になるとは思わないが…

 

「いいよ!」

 

 いいのかよ…。

 

「ただし、毎日今くらいの量のご飯をくれるならね」

「それくらいならいいよ。それじゃ、これで私達の仲間だね!改めて、私の名前は黒榊環。名前はなんていうの?」

「ないよ!」

 

 ないのか…そうだな…。

 

「アル、アルなんてどう?」

 

 アルラウネから取ってアル。安直だけどなかなかいいと思う。

 

「アル!私の名前はアル!」

 

 相手も喜んでるしいいか。

 

「それじゃあ帰ろうか」

「うん!」

 

 するとアルは体を小さくして頭に乗ってきた。

 

「そんなことできたの?」

「うん!これでずっと一緒に居られるね!」

 

 何か妹が出来たみたいだな。

 ともあれ、これでまた一人仲間に出来た。

 それと不法投棄された理由って大食漢だからじゃないよね?



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幹部会議(仮)1

 

「「ただいま」」

「あ、お帰りなさい…」

 

 優真と環はそれぞれの用事を済ませ、今帰宅したところだ。

 ちなみに、優真の異空間倉庫に入れていた人は環に回復してもらってから路地裏に放り出した。

 

「キャットガールも留守番ありがとね。研究者さんはもう起きた?」

「つい先ほど起きました」

「そうか、それじゃあ今後の事で相談があるからリビングに集まってくれ」

 

 

  ◇◇◇

 

 

「それじゃあ、第一回聖魔連合幹部会議(仮)を初めま~す!」

「イエーイ!」

「…おいキャットガール、これはどういう事だ?」

「わ、分かりません。いきなりリビングに来るように言われたので…」

「ん…なに…うるさい…」

 

 いきなり始まった幹部会議(仮)と二人のテンションの高さに優真と環以外の三人は困惑している。

 けれど優真はそんなことは無視して会議を進める。

 ちなみに、幹部会議(仮)の理由は聖魔連合の役職が連合長と副連合長しか決まっておらず、他三人はそもそも連合に入るかどうか確定していないからだ。

 

「まあ、そんなノリは置いといてまずは自己紹介だな。俺は黒榊優真、一様聖魔連合連合長だ、活動名前(ネーム)はレイヴン、よろしくな」

「次は私ね、私は黒榊環、役職は聖魔連合副連合長、魔法少女名前(ネーム)はオウル、よろしく」

 「次は私の番!私の名前はアル!好きなことは食べること!」

 

 優真、環、アルの三人は自己紹介をしていく。

 

「それで、研究者さんの名前は?」

「お兄さん、ここはしておいた方がいいよ…」

「…わかったよすればいいんだろすれば、俺の名前は灰崎久也(はいさききょうや)、工業系大学卒の社会人二年目、元黒曜団研究部所属、これでいいか?」

「一応私も、量産型怪人キャットガールプロトタイプです」

 

 ついで研究者さんー灰崎久也とキャットガールが自己紹介をする。

 

「取り敢えずこれで全員の自己紹介が終わったな。次は質問だ。まずは環、そいつ…アルはなんだ?」

 

 優真は環にアルについて質問する。

 優真視点では、黒曜団に行っていたらいつの間にか環が何か植物型怪人を連れてきたようなものだ。

 

「えっとね…」

 

 環は何があって、どうやってアルを仲間にしたのか説明する。

 

「…取り敢えず分かった。仲間集めありがとな、ただし、食料の管理はしっかりしろよ」

「当たり前じゃん!というか、我が家の食料の管理は私がやってんだからとやかく言うな!」

「お、おう…」

 

 両親が死亡してからは優真が資産を管理しているが、家事は環が行っている。特に優真は料理がからっきしなので、料理並びに食料に関しては環に逆らえないのだ。

 

「それで次は、何でキャットガールは灰崎さんをお兄さんって呼んでるんだ?そもそも、キャットガールと灰崎さんの関係って何?」

「あ、それは私も気になってた」

 

 次の質問はキャットガールと灰崎さんとの関係についてだ。

 優真と環はキャットガールを黒曜団から逃がしたのが灰崎さんということしか聞いていない。

 

「それについては恐らく、俺がキャットガールの作成並びに世話係だったからだろうな。俺としてもキャットガールは初めて作成した怪人だから思い入れもある」

「だから逃がしたと」

「あぁ、俺は別に悪の組織に入りたくて入った訳じゃねえ。たまたま入社した会社が悪の組織だっただけだ。俺は研究所に籠って研究していたかったし、何より自分の作った怪人をいたぶられるのは我慢ならなかった。だからこれでも感謝してんだぜ」

「…では、こちらの組織に入ってもらうことはできますか?」

「…それが目的か」

 

 もともとこの会議に灰崎とキャットガールを出席させた理由は、二人に聖魔連合に入ってもらえるかの交渉をするためだ。

 

「今の連合は出来たばかりで人員が少ない上に大人がいない。なので灰崎さんが入ってくれるといろいろ助かる。無論、こちらもできる限りのことはしよう。研究資料や機械は黒曜団から奪ってきてるものを好きに使っていい。金も黒曜団から奪ったものが結構あるからそれも使ってくれていい。今の連合は人が少ないから金がかからないからね」

「…分かった、こちらは今根なし草だし入団した方が良さそうだしな。ただし、こちらは好き勝手やらせてもらうぞ」

「お兄さんが入るなら私も…」

「分かった、それじゃあこれから二人は聖魔連合幹部だ。よろしくな二人とも」

 

 こうして、灰崎久也とキャットガールが聖魔連合に入団した。




長くなりそうなので一旦切ります。次回も会議です。

今後出す暇がないのでここで出す設定
黒榊家は一様東京の一軒家という設定


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幹部会議(仮)2

 

灰崎久也とキャットガールが聖魔連合に入団する事が決定して、会議は次の話題に移る。

 

「次は今後の連合の目的だな。これについては環から説明してくれ」

「はい!今後の目的としては私達兄妹並びに連合の仲間が命の危機に晒されずに生きていける世界にする事が最初の目的聖なるものも魔のものも平和に生きれる世界にするが最終目的。何か質問ある?」

 

 環が質問があるか聞くと、灰崎が手を上げる。

 

「質問いいか?兄妹並びに連合の仲間が命の危機に晒されずに生きていける世界にするって具体的になにをするんだ?」

 

 灰崎の質問はもっともだ。連合に入ったからには嫌でも目的に関わってくる。

 

「それについてはノープラン、強いていうなら魔法少女並びに悪の組織にちょっかい出されないほどの力を付ける。又は魔法少女と悪の組織を片っ端から潰すとかかな。聖なるものも魔のものも平和に生きれる世界にしたが、それはあくまでも仲間だけだ。その前にどうなっても良いように戦力を揃える事が取り敢えずの目先の目標だな」

「…まあ、分かった」

 

 灰崎はいろいろ言いたいことがあるが、何とか口には出さないようにする。

 魔法少女と怪人が平和に暮らすなど、魔法少女と怪人が日夜殺しあってる日常からどれだけ離れているのかと言いたくなったが、連合に入ったからには方針に従わないといけない。

 灰崎はすでに連合に入ったことを少し後悔し、大人の自分がしっかりしないとという決意を固めた。

 

「それと環、割りと大事な事だが今後敵対してきた奴らどうする?場合によっては殺さないといけないけど?」

 

 そして今回の会議で優真が個人的にもっとも話したかったこと。それは、今後敵対してきた者を殺すか否かということだ。

 この兄妹、今まで人に向かって銃を撃ったり怪人の蔦を切ったりしていたが、まだ意志疎通ができる生物を殺したことが無いのだ。

 

「俺としては基本的に殺しはしたくないな。敵は倒した後、今後邪魔をしないと誓えるならば見逃す、向かってくるようなら殺す事もやむ無し、仲間になるなら仲間にする。俺の意見はこんなとこだな。環の意見は?」

「私としては怪人は兄さんの意見と同じだけど、魔法少女は仲間にならなかったら確実に殺す」

「…おい優真、お前の妹いろいろ大丈夫か?目が完全に復讐者のそれだぞ?」

 

 両親が死亡した時、環はまだ小学三年生でまだ両親に甘えたい年頃だった。そして、両親の死亡が理由で半年ほど不登校になっていたが、それでも今の明るい性格になるほどに心の傷は回復した。

 しかし、環の両親を殺された怨みはまだまだ消えていなかったようだ。

 そんな環が、魔法少女という復讐するための最大の武器を手に入れてしまった。

 

「はぁ…いいか環、お前が魔法少女を怨んでいることはよ~く分かった。だがな、魔法少女ばかり殺すと今度は悪の組織が増えちまう。それにちゃんと正義の味方してるやつも居るかも知れないだろ?だから殺すなとは言わないがちゃんと殺す対象は選べ。それと市民に被害は出すな。それだとお前が怨んでいる魔法少女達と同じだぞ」

「…分かった」

 

 何とか環は納得したようだ。

 なお、灰崎がまた何か言いたげに優真をみていたがスルーされた。

 

「それじゃあ基本的に人は殺さず、敵対してきた者を殺すか否かは本人次第でいいか?勿論、市民への手出しは禁止」

「いいんじゃないか」

「分かりました」

「分かったよ~」

「まあ…分かったよ」

 

 環は不服そうだが、取り敢えず連合の殺すか否かのルールが決まった。

 

「次に相談したい事はキャットガールについてだな。キャットガール、いきなりだがお前学校に通う気はあるか?」

「え?」

 

 いきなり自分に会話が振られた事にキャットガールは困惑している。そもそもいきなり学校に行くかどうか聞かれても、キャットガールは学校がどういう所なのかを知らないのだ。

 

「あの…学校とは?」

「学校とはって言っても、たくさんの子供が勉強をする場所と思えばいい」

「兄さん何でいきなり学校にキャットガールを行かせようとするの?」

 

 環から指摘通り、キャットガールを学校へ行かせる理由も説明していなければ当然の質問だ。

 

「キャットガールを学校へ行かせる理由は、近隣住民に不信感を抱かせないためだ。灰崎さんは親戚のお兄さんで最悪通じるがキャットガールは見た目的に学校へ行ってないと違和感を感じる。それに学校内に協力者がいた方がこちらも都合がいい。まぁ、行く気があるかと聞いたが、ぶっちゃけ命令に近いな」

 

 優真の説明を聞いて、キャットガールは少し悩むような態度をしたが、直ぐに答えが決まったのか返答をする。

 

「命令とならば、既に聖魔連合に所属している私に選択肢はありません」

「本当に良いのか?命令と言ったが、別に嫌なら行かなくても良いんだぞ?」

「ですが、私みたいな怪人には選択する資格など…いたっ」

 

 キャットガールがそう言い切る前に、環が額にデコピンをした。

 

「あのねキャットガール、聖魔連合は聖なるものも魔のものも平和に生きれる世界にする事が目的。今はあくまで組織の上司と部下という関係だから兄さんはああ言ったけどキャットガール自身の意見を聞きたい。それに初めて仲間になった怪人だしね、少しぐらいわがまま言っても罰は当たんないよ」

「ちょっと環~初めて仲間になったのは私じゃないの~?」

「ごめんごめん、今度埋め合わせするからさ」

 

 アルと環がなにやら言い争いを始めたが、優真は無視して話しを進める。

 

「ま、環が粗方説明したがいきなり自分の意見を言えって方が酷だよな。取り敢えずは命令という形で学校に行ってもらう。その方が今はいいだろ?そのうち、自分の意思でやりたい事決めれるようになれよ、灰崎さんを助けてほしいとお願いした時みたいにな」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 今まで自分の意思で行動したことがあまり無いキャットガールにとって、命令という形で言われるのはありがたいことだった。

 

「それじゃあ設定はキャットガール両親が死亡したため引っ越して来た従妹、灰崎さんは転勤してきた親戚のお兄さんってことでいいか?」

「問題無いです」

「良いぞ」

 

 これで、二人がこの家で暮らす設定が決まった。

 

「それと灰崎さん、キャットガールの耳を隠す機械って作れるか?」

 

 今のキャットガールは少女に猫耳が生えた格好だ。このままではさすがに学校へは行かせられない。

 

「三日あれば出来るぞ」

「それじゃあ初仕事よろしくな。それと、キャットガールの新しい名前を決めるぞ。さすがにキャットガールのままだと長いしな、それに学校に行くためにも名前は必要だ」

 

 キャットガールはあくまで怪人名だ。それに名前がキャットガールのまま学校へ行くと、間違いなく周囲から浮く。そうならない為にも新しい名前は必要だった。

 

「一応考えた名前が有る、苗又元花(なえまたもとか)って名前だ。名字は猫又をもじって苗又、名前はオリジナルって意味で元花だ。どうだ?」

 

 キャットガールは量産型のプロトタイプに使われていた。だから自分が本体、オリジナルなのだと分かるように元の字を名前に入れたのだ。

 

「はい、これからは苗又元花と名乗ります」

「…そんな堅苦しくしなくて良いのに」

 

 これでキャットガールが名を改め、苗又元花になった。

 

「さて最後に、本部をどこに作るかの相談だな。ま、もうほとんど目ぼしいはつけてるがな」

 

 最後の会議の話題は本部をどうするかだ。これからさらに仲間が増える事を考えると、家だけでは明らかにスペースが足りない。

 

「けれど本部を作ろうとしている場所は環の魔法が必要不可欠だ。頼めるか?」

「いいけど、どこに作る気なの?」

 

「月」

 

「「「「…は?」」」」



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新たなる素晴らしき世界の種

 

「準備は出来たか?」

「ばっちり!」

 

 会議を行った次の日の土曜日、優真と環はリビングで本部を作る下準備をしていた。環は手に野球ボールほどの大きさの緑の球体を持っている。

 他の三人は安全の為別の部屋で待機している。

 そもそも優真が月に本部を作ろうとした理由は、たまたま月が優真が本部に求める条件と一致したからである。

 優真が本部に求める条件は、膨大な土地があり、誰にも見つからず、安全性が確保されていることである。

 膨大な土地は、こんな出来立ての組織に購入できるわけ無いし、何よりそもそもそんな土地は無い。しかし、月は膨大な土地が有る。

 誰にも見つからないという条件は、月の裏側は地球から見えない為、本部を作ってもばれない。

 安全性の確保は、もし本部が見つかっても距離がありすぎてこれない上、これたとしても相手側にメリットがあまり無い。

 このメリットを説明すると全員が満場一致で賛成した為、月に本部を作る事が決定した。

 

「それじゃあカウントダウンをするぞ」

「OK」

 

 そして、本部を月に作る為に必要な環の魔法が今朝完成したのだ。

 実際は昨日の段階である程度出来てはいたが、もう少しという所で環の魔力が空になり倒れてしまった。

 

「5秒前、3…2…1…」

 

「0!」

新たなる素晴らしき世界の種(ニューワールド·コア)!」

 

 優真がワープゲートを月面に開いた瞬間、空気がワープゲートに流れ込む。しかし直ぐに環が手に持っていた球体をワープゲートに入れ、入れた瞬間に優真がワープゲートを閉じる。その間わずか2秒。

 

「これで後は30分ほど待機すればうまく行ってると思うよ」

「ありがとな環。この計画、環が居ないと成り立たないからな」 

「良いよ別に、これくらい必要経費だって!」

 

 今、環がワープゲートに入れた球体こそ、本部を作る上で重要な魔法、新たなる素晴らしき世界の種(ニューワールド·コア)だ。

 

新たなる素晴らしき世界の種(ニューワールド·コア)

種を中心に込めた魔力の量に応じて生命が生きれる環境に作り替える。

移動不可 

 

 この魔法は環の生命魔法の効果の一つである、生命が生きれる環境に作り替えるという効果を極限まで圧縮したものを放つ魔法だ。そして、着弾地点の周りを地球みたいな環境にするはずだ。

 

「それじゃあ出来るまで待機だな」

 

 

  ◇◇◇

 

 

 環がワープゲートに新たなる素晴らしき世界の種(ニューワールド·コア)を放ってから約30分後、五人はリビングにいた。

 これから向かうは月面、全員しっかりと準備をして揃っている。

 特に灰崎は調査の為にいろいろな機械を担いでいる。

 

「それじゃあ行くぞ!」

 

 

  ◇◇◇

 

 

 優真の開いたワープゲートで五人は月面に降り立った。

 

「…すごいな…これ、まるで異世界だ」

「うん!頑張った甲斐があったよ!」

 

 降り立った月面は、資料画像のような何も無い荒野に似ても似つかない姿になっていた。

 空は薄緑色の幕に覆われ、森林が生い茂り、川が流れ、海があり、遠くの空には雨雲があり雨が降っている。 

 そしてこの幕で覆われている場所の中心には、高さ約25メートルはある桜の木が、季節外れにも満開になっている。

 

「なあ…環」

「何?灰崎さん?」

 

 すると、ある疑問が生じた灰崎が環に質問をする。

 

「なぜ、鳥や魚がいるんだ?」

 

 そう、先ほどから空には鳥が飛び、海には魚が泳いでいる。

 

「あ~多分種を作った時にいろいろ入れたからだと思う」

 

 新たなる素晴らしき世界(ニューワールド·コア)を発動させるのに使った球体ー種の材料はいろいろな植物の種だ。

 しかし作る途中、面白がって優真と環が他三人に意見を聞かずに他の物を入れてしまったのだ。

 入れたものは冷蔵庫に入っていた鶏肉、牛肉、豚肉、魚、卵、その他etc…。

 とにかくいろいろ入れまくったのだ。

 

「まあ、結果的に成功して良かったじゃん。だけど、多分昨日魔力切れになった理由は恐らくこれだろうけどね」

「あのなあ、じゃあ何で明らかに入れてない鳥とかがいるんだよ?」

「灰崎さん、魔法はそういう物だと思った方がいいよ。そういう事だと思わないと、地球と同じ重力とか空気とかどういう仕組みなんだよ?」

「…そうだな、取り敢えず今はそういう事にしておこう。そのうち調べるがな」

 

 灰崎は、一旦考える事を止めた。

 しかしさすが研究者、後で調べる気満々である。

 

「取り敢えずあの桜の木の下に移動するぞ。…そういえばアルはどこに行った?」

 

 先ほどからアルの姿が見えない。環も気づいていなかったらしく、辺りを探している。

 

「あの…」

「どうした元花?」

「アルさんなら先ほど魚を取りに海の方へ…」

「環海だ急げ!植物に海水はダメだ!」

「了解!」

 

 元花がアルがどこへ行ったのか言い終わる前に、優真と環は急いで海へ向かう。

 アルは怪人だが植物に近い生態をしているので、恐らく海水に濡れたら枯れてしまう。

 ちなみに、優真のワープゲートは実際に見た場所しか繋げられないので今は使えない。

 地球では衛星写真を見てワープゲートを開いていただけだ。

 

「「急げー!!」」

 

 

  ◇◇◇

 

 

『…魔力ヲ確認…再起動準備…プログラムニヨリ重要情報削除…成功…再起動…失敗…原因…魔力不足…充電ヲ開始シマす…充電完了まであと約30分…』

 

 

 



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アルの危機

 

「おい!海までまだか!」

「もう少しだと思う!」

 

 二人はアルを追って海へと向かっていた。

 今は走るより速いということで植物操作(リーフコントローラー)で操作した植物に乗って移動している。

 

「というかアル本人は索敵出来ないの!?」

「やってるが無理だ!正確には索敵できたけどゲームのラグみたいな挙動してて場所の判別が出来ない!」

 

 二人はおよそ時速100キロメートルで移動している。

 なのにアルの姿は一向に見えてきていない。

 ちなみに二人の体は身体守護(ボディガード)で守られているため、風圧の心配は無い。

 それなのにアルに追い付けないのはアルがおかしな行動を繰り返しているからだ。

 海の方へ移動していたらいきなり後方へ反応が移ったり、急に3キロメートルほと進んだりと行動がめちゃくちゃなのだ。

 

「アルのやつ、明らかにまだ何かしらの報告してない能力持ってんだろ。環の管轄なんだから後でちゃんと聞いとけよ」

「了解、それと元花ちゃんと灰崎さんを置いてきて良かったの?」

 

 元花と灰崎は月に開いたワープゲートの場所に置き去りになっている。元花がある程度戦えるとはいえ、さすがに危険だ。

 

「さすがに一旦連絡を「おい黒榊兄妹!少しは後ろの事を考えろ!」…は?」

「え?何で追い付いて来てんの?」

 

 後ろを見ると、野生味が増し少し大きくなった元花に灰崎が乗ってこちらにものすごい速度で追いかけて来ていた。

 

「お兄さんもう少しで追い付きます」

「ありがとな元花」

 

 灰崎と元花は普通に会話しているが、その間も元花は走り続けている。

 そしてついに先行していた二人に追い付いた。

 

「おい黒榊兄妹!移動するなら一言ぐらい言えよ!」

「いやそれより灰崎さん、元花ってそんなに速く走れたのか?」

 

 灰崎の怒りは最もだが、それより元花の速度が気になって優真と環はそれどころではない。

 

「言ってませんでしたがこれくらいの速度は普通に出せます」

 

 質問に答えたのは元花だ。そこにさらに灰崎が補足する。

 

「さらに言うと、この形態…ビーストモードって言うんだが、ビーストモードでの最高速度は時速150は越えるぞ。ちなみにいつもの形態であるガールモードでは時速200キロメートルを越える。今は俺が速度に耐えられないから時速100キロメートルほどに落としてもらっているがな」

 

 ちなみに灰崎の格好はゴーグルに酸素マスクというフル装備だ。

 

「それだけの性能してて、何で毎回魔法少女に倒されてたの?」

 

 灰崎の説明に環が質問をする。それほどの速度が出せるのなら、魔法少女ぐらい余裕で倒せそうだからだ。

 

「それについては良く分からないな、確かにコピーだったとはいえそこそこ強いはずだが…」

「あの…恐らく原因知ってます」

 

 灰崎が悩んでいると、元花が原因を知っていると言い出した。

 

「記憶共有装置をつけられている時、ある程度こちらから指示を出せたんです。それで必死に手加減するようにと指示をしていたんです」

「なるほどそういう事だったのか」

 

 灰崎は納得した。悪の組織の研究者時代にコピー元花の性能が可笑しいと散々文句を言われまくったのだ。

 性能が可笑しい理由が自分ではなかったと少し安心した。

 

「それより兄さん、アルはどうするの?このまま追う?」

「…いや、先に海に先回りしよう」

 

 このまま追いかけても埒が明かないと、先回りすることにした。

 

「了解、それじゃあこのまま海へ」

 

 

  ◇◇◇

 

 

 一方アルはというと。

 

「あむあむ、ん~おいし~!」

 

 森のなかで果実を食い漁っていた。

 始めは海へ向かっていたアルだが、途中でみつけたりんごを食べ、そして次の果実を見つけては食べを繰り返して寄り道をしまくっていた。

 

「ん~次はあっちか~」

 

 するとアルはものすごい速度で地面に潜り、2キロメートルほど離れた場所に姿を表す。

 この能力こそ、アルがまだ報告していない能力、【根方移動(ねかたいどう)】だ。

 根方移動は地中に張った根の中を高速で移動する能力だ。根の中を移動するためあらかじめ自分の根を伸ばしておかないといけない上、根が枯れてしまうと使用できない、物を運べないなどの制限はあるが、【根方移動】を使った移動速度は光速にも迫る。

 もちろん、それ相応のデメリットはある。光に近い速度を出すために、1キロメートル進むのに体内エネルギーの約30%を消費するためコスパが最悪なのだ。

 しかし。

 

「あむあむ、どれもおいしいし疲れがなくなって便利だな~」

 

 何故だか新たなる素晴らしき世界の種(ニューワールド·コア)内部の果実を食べると、直ぐに体内エネルギーが回復してしまうのだ。

 この為アルは果実を食べたそばから回復してしまっているため、実質デメリット無しで根方移動を繰り返していた。

 さらに取りすぎたエネルギーは根を張る事に使われており、アルの根はすでに新たなる素晴らしき世界の種(ニューワールド·コア)の半分に張り巡らされている上、根は成長する過程でぶつかった物を判別出来るため、果実が生っている木を判別しては移動している。

 

「次は…ん?何だろう?」

 

 次の場所へ移動しようとしたアルだが、伸ばしていた根が今までとは違う物にぶつかった事を感知した。

 

「行ってみよ~」

 

 【根方移動】を数回使用して根がぶつかった所へ移動する。

 場所はだいたい中央の桜の木の近くだ。

 

「着いた~、ん~この下かな?」

 

 ぶつかった物は地上に出ていなかったので、アルは根を使って掘り起こす。

 

「ん?何でここに人が?」

 

 出てきたのはなんと女性だった。

 しかし体が冷たく脈も無いため既に死亡している。

 

「取り敢えず環に相談しよ『充電が完了しました』ん?」

 

 アルが相談しようと移動しようとした時、女性から機械音声のような声が聞こえた。

 

「あなた生きてたの?」

『モンスターを確認、戦闘プログラム始動…これよりモンスターを排除します」

「え?」

 

 アルが話しかけたのを無視して、女性はアルに向かって光線を放った。

 





今後出す暇が無いためここで出す設定1
新たなる素晴らしき世界の種の面積は、月の表面積の約1/3。

今後出す暇が無いためここで出す設定2
優真が月の裏側にワープゲートを開けた理由は、月の裏側の写真を見てワープゲートを開いたから。

今後出す暇が無いためここで出す設定3
アルの【根方移動】の原理は、ポケモン交換の原理に近い。


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機械仕掛けの天使

 

 ドゴンッ!

 

「な、何だ!」

 

 四人が海へ向かっていると、遠くから轟音が響き渡る。

 

「何があったの?!」

「おい何か近づいてきてるぞ!」

 

 四人が移動を止めていると、轟音が響いた方向から何か向かってきた。

 さらに、その何かが移動した所はほとんどの植物が枯れ果てている。

 

「環~助けて~!」 

「え、アル?!」

 

 近づいて来たのはアルだ。

 光線が放たれた直後、アルは【根方移動】でギリギリ回避した後、助けを求めて環達の所へ移動してきた。

 【根方移動】のためのエネルギーは根から周囲の植物のエネルギーを吸いとって補っていたため、アルが移動した後の植物は枯れてしまったのだ。

 しかし、既に植物は息を吹き替えしている。

 

「おいアル、何があった?」

「えっと、何か埋まっている物を掘り起こしたら女性で、死んでると思ったらいきなり動き出して光線で攻撃してきた」

「光線…!優真さん環さん!追って来てます!」

 

 元花の視線の先では、女性が飛行して追ってきていた。

 ただし見た目はアルが見つけた時と変わっており、金色の長髪に背中から六枚の純白の羽が生えている。

 

「モンスターを捕捉、魔法発動、聖なる光(ホーリーレイ)

 

 女性がアルを見つけるとすぐさま光線を放つ。

 

植物盾(リーフシールド)!」

 

 しかし今回は環が居たため、光線は防がれる。

 

「アル、攻撃してきたのってあいつ?」

「そうだよ」

「灰崎さんあいつに心当たりはあるか?」

 

 優真が灰崎に質問する。灰崎なら他の悪の組織の怪人もある程度把握しているかも知れないからだ。

 

「いいや心当たり無いな。そもそも宇宙進出した組織があるという話は聞いた事がない」

「となるとあの怪人?はフリーか…」

 

 優真は少し考える。今ここであの怪人を仲間に出来れば戦力アップに繋がるが、どう考えても友好的ではない。だからといってこのまま放置するわけにもいかない。

 

「兄さん!あいつから生態反応がない!」 

「なに?」

 

 さらに、環が女性から生態反応を感じないと報告する。

 

「となるとあいつはロボットか何かか…灰崎さん、あいつを壊した場合、修理って出来るか?」

「え?まあ出来るが…あいつを仲間にするのか?」

「ああ、それとここからは聖魔連合連合長レイヴンとして指示する。オウル!灰崎の護衛と回復役を頼む!俺とアルであいつを一回壊す、灰崎はあのロボットの解析と出来るならハッキングしろ、機材はここに置いておく、キャットガールは撹乱をしろ!」

 

 優真…レイヴンはそれぞれに指示を出す。キャットガールを攻撃に加えなかったのは戦闘が苦手だからという配慮だ。 

 本当はオウルを攻撃に加えるべきだろうが、現段階でロボットの光線を防げるのがオウルだけなので灰崎の護衛を担当する。

 

「了解兄さん!自動回復(オートヒール)身体守護(ボディガード)、さらに痛覚軽減(ペインカット)!」

 

 オウルがレイヴン、アル、キャットガールにバフをかける。かけたバフは怪我をある程度自動で治せる自動回復(オートヒール)、防御力を上げる身体守護(ボディガード)、痛みで動きが鈍らないようにするための痛覚軽減(ペインカット)だ。

 

「こっちです!」

「推定モンスターを捕捉、排除します」

 

 始めにキャットガールが囮としてロボットの攻撃を引き付ける。ロボットはキャットガールを攻撃するが今はガールモードのためトップスピードである時速200キロメートルを出せるため全て回避する。

 森の中では障害物が邪魔してなかなか加速できないが、オウルのバフのお陰である程度は障害物を強行突破出来るため、この程度の攻撃はキャットガールにとって問題無かった。

 

「今だ!」

 

 そしてロボットがキャットガールを攻撃している間にレイヴンがテレポートで後ろへ移動する。

 

時空切削(ディメンションバイト)!」

聖なる剣(ホーリーブレード)

 

 レイヴンがロボットの腕を異空間倉庫へ収納して切断しようとしたが、光でできた剣に防がれ逆に手首を切断される。

 

「痛ってえが、オウルのお陰で対したこと無いな」

「人間の敵対行動を確認、排除します」

 

 ロボットは立て続けに攻撃してくるが、レイヴンはテレポートを駆使して回避していく。

 

「そろそろか…アル!準備しろ!」

「りょうか~い!」

反転(スイッチ)!」

 

 そしてレイヴンがロボットの真上に来たところで、2メートルほどになったアルと位置を入れ換える。

 

「潰れろ~!」

 

 2メートルほどになったアルは大きさも相まって普通に重い。ロボットも抵抗しているが重さに耐えきれず落下していく。

 

「キャットガール準備!」

「出来てます!」

 

 そして地面に衝突する瞬間、アルがロボットを蔦で地面に叩きつけ、アルをレイヴンがワープゲートで回収。

 ロボットが衝撃でスタンしている間にキャットガールが極太ワイヤーで縛り上げて捕獲した。

 

時空切削(ディメンションバイト)

 

 さらに、逃走出来ないよう両足と羽、攻撃出来ないよう手首の関節部を破壊する。

 これ以上破壊しないのは、どこを破壊してよいのか分からないなからだ。

 

「…取り敢えずこれで大丈夫か。オウル、回復を頼む」

「はいはい回復(ヒール)、ついでに疲労回復(リフレッシュ)

 

 墜落地点の近くまで来ていたオウルが、ある程度回復していたレイヴンの手首とアルの光線でできた火傷を治療する。さらに戦った3人の疲労も回復させる。

 今回の戦闘で無傷なのはキャットガールだけだった。 

 ロボットは未だにスタンしており、故障したような音を立てている。

 

「それじゃあ灰崎、解析頼む」

「了解」

 

 灰崎はパソコンを立ち上げてロボットの解析を始めた。 

 

「オウル、そっちの被害は無かったか?」

「流れ弾は有ったけど全部防げたよ」

 

 オウルの方は被害が無かったようだ。

 すると、何かアクシデントがあったのか、灰崎がレイヴンに話しかける。

 

「レイヴン、少しいいか?」

「何だ?」

「何かのプログラムが起動してるんだが、直ぐに止められないからレイヴンの異空間倉庫に入れといてくれるか?ちゃんとした設備のある所で解析したい」

「ああ、わかった」

 

 灰崎の説明を受け、レイヴンがロボットを異空間倉庫へ入れようとした。

 しかし。

 

「プログラム起動完了。これより第二形態へ移行します」

 

 ロボットが起動したことでそれはかなわなかった。

 

 





今後出す暇が無いためここで出す設定
レイヴンが手首を切断された時の痛みは、注射(麻酔有り)位になっている。


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第二形態

 

 プログラムを起動したロボットはワイヤーをちぎり瞬く間に姿を変えていく。

 翼があったところからは元々あった翼より機械的な翼が6枚生えてきた。手足があったところからはロボットアニメでしか見ないようなキャノン砲が合計4台装備される。周りには巨大な掌が4個、それぞれ剣、槍、斧、盾を装備している。

 

「第二形態への移行を完了、攻撃を開始します」

「!、総員防御準備!」

 

 レイヴンが急いで防御するように指示をする。

 しかし。

 

聖なる斧(ホーリーアックス)

 

 足のキャノン砲をジェットエンジンの如く後ろへ発射させることで一気に加速してきたロボットに間に合わず、たまたまロボットの近くにいたキャットガールの上半身と下半身が切断される。

 

「「キャットガール!!」」

 

 キャットガールを切断した斧はそのまま地面と衝突し土煙が上がる。

 そして衝突の衝撃により切断されたキャットガールの上半身がレイヴン達の前まで飛ばされてきた。

 

「オウル急いで回復!その間は俺が攻撃を裁く!」

「りょ、了解!」

 

 オウルが急いでキャットガールを回復させようとする。二人ともある程度血には慣れたとはいえ、さすがに仲間の欠損部が目の前に飛んでくるというピンポイントな事情への耐性は無い。

 

「あ、あの~心配しなくても良いですよ」

「ああ、この通り問題無い」

 

 しかし、そんな二人をよそに灰崎と切断されたはずのキャットガールが声をかける。

 

「キャットガールどうし…いや、そういえばそうだったな」

「はい、私にはプラナリアが材料に使われているのでこれくらいは大丈夫です」

「けど一様問題無いか灰崎さんに検査してもらって。そのための時間は稼ぐから」

 

 オウルは灰崎にキャットガールの検査を頼んだあと、ロボットの攻撃を次々と防いでいく。

 

「…検査が終わったぞ」

「どうだった?」

「一応身体に問題は無い。ただし、組織での虐待の影響か圧倒的にエネルギー不足だ。再生は出来るがしたらしばらく動けなくなる」

「私が回復しようか?」

「大丈夫です。時間が経てば回復しますので」

「そうか、それじゃあ異空間倉庫で休んでてくれ」

「…すいません、次こそは必ずお役に立ちます」

 

 キャットガールが次こそはと意気込んだ後、レイヴンの異空間倉庫へ入れられる。

 

「灰崎、お前も異空間倉庫で急いでプログラムを解析してくれ。もうここでは出来ないとかそういう場合じゃない」

 

 今はオウルが防いでいるが、これがいつまで持つか分からない。

 壊すことは簡単だが、素人目で見ても高性能なロボットだ。仲間にするためにも急いで解析するしかない。

 

「分かった急ごう」

 

 そうして灰崎も異空間倉庫へと入っていった。 

 

「オウル、俺が時間を稼ぐから植物操作(リーフコントローラー)か何かでの物量攻撃の準備出来るか?アルは…オウルのサポートを頼む」

 

 時間を稼ぐだけならテレポートを乱発できるレイヴン一人のほうが良い。

 

「りょうか~い」

 

 アルも指示が聞こえたため地面から出てくる。

 レイヴンが物量攻撃を指示した理由は、拘束したところで直ぐに逃げなれる上、なおかつ壊さないようにするには上から圧倒的物量で押さえつけて行動不能にしたほうが良いと考えたためだ。

 

「それじゃあ頼んだぞ!」

 

 そう頼んでレイヴンはロボットの方へ向かっていった。

 

「分かった!とは言えどうするか…」

 

 今のオウルはレイヴンが求める程の物量攻撃が出来ない。

 より正確に言うと、押さえつけるほどの物量をコントロールできないのだ。

 

「ねーねー環、どうするの?」

「アル、今はオウルって読ん…いや待って」

 

 オウルがアルを見て、ある一つの作戦を思い付いた。

 

「アル、今から言う作戦に協力できる?」

「なになに…いいよ!」

 

 オウルがアルに相談し、作戦を実行へ移すことになった。

 

「とは言え少し時間がかかる。それまで耐えてくれよ、兄さん」

 



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悪食

 

「これでも食らえ!」

 

 レイヴンがロボットに向かって弾丸を放つ。

 しかし。

 

聖なる盾(ホーリーシールド)

 

 ロボットの浮遊している掌が装備している盾に防がれる。

 

「ったく面倒くせぇ、第二形態はゲームだけで十分だっての」

 

 ゲームだとやりごたえのある第二形態だが、現実だと厄介極まりない。いやゲームでも鬱陶しいと思う人もいるかもしれないが。

 

「これならどうだ!」

 

 次にレイヴンは異空間倉庫に収納していた手榴弾をテレポートでロボットの足のキャノン砲の内部に転送する。

 すると、転送された手榴弾はキャノン砲の熱気で加熱されたことで爆発し、ロボットの足を破壊する。

 

「ボディの破損を確認、修復を開始します」

 

 爆発を食らったロボットは足のパーツを切り離し、新たな足を作り出す。

 

「修復持ちかよ!」

 

 レイヴンはすぐさま次の手榴弾をロボットの手足に転送する。

 手榴弾は手足を破壊するが、ロボットはまたしても修復してしまう。

 

「…このまま手榴弾攻撃続ければ時間稼ぎ出来そうだな」

 

 ロボットが手足を修復している間はキャノン砲での攻撃が出来ない。それに修復中は周りの武器の動きも疎かになり避けやすくなる。

 

聖なる槍(ホーリースピア)

「まあ、こんな時間稼ぎぐらい直ぐに対応してくるよな」

 

 攻撃が疎かになるとはいえ、元の武器が大きいため当たり判定が大きい。その上相手はロボット、疎かになっていた攻撃も直ぐに修正してくる。

 そのためレイヴンはテレポートで回避した。

 しかし、もう一度言うが相手はロボット。

 

聖なる剣(ホーリーブレード)

「あっぶね!」

 

 テレポートで攻撃を回避したレイヴンの出現地点に攻撃を仕掛ける。

 間一髪でレイヴンは回避できたが、脇腹に攻撃がかすり血が流れる。

 

「あいつ、テレポート先を予測してる?」

 

 レイヴンはもう一度テレポートをする。

 そして今回も、出現地点に攻撃をしてきたので、レイヴンは連続でテレポートをして回避する。

 

「やっぱり予測してやがる。これならあまりテレポートを多用しない方が良さそうだな」

 

 テレポートで回避しても、回避先で攻撃されるのなら回避する意味がない。

 

「それじゃあ…」

 

 レイヴンは異空間倉庫の中から、崩壊した黒曜団本部の瓦礫で、ある程度大きく手すりが付いているものを、全体は出さずに一部を取り出す。

 

「よっと」

 

 そして、その瓦礫の上に乗り、異空間倉庫の収納口を動かすことで空中を飛行する。

 

「これならテレポートせずに回避出来る」

 

 レイヴンは次に異空間倉庫からミニガンを2つ、発射口だけを出す。

 そしてミニガンによる弾幕をロボットに向けて発射する。

 

「ダメージが有るか知らんが、時間稼ぎにはなるだろう」

 

 レイヴンの予想通り、ダメージ事態は無いがロボットが反撃してくる。

 

「よしよし、後はこれでひたすら時間を稼げば『ゴゴゴゴ!』…準備出来たみたいだな」

 

 レイヴンの後ろから轟音が響き渡る。

 その轟音は反撃の狼煙となる。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 轟音が響き渡る少し前。

 

植物操作(リーフコントローラー)植物操作(リーフコントローラー)植物反発(リーフバウンド)、それと果実工場(フルーツファクトリー)

 

 オウルはロボットを攻撃するための準備をしていた。

 目の前には植物操作(リーフコントローラー)で集められた植物が山積みになっている。

 その全てが植物反発(リーフバウンド)により弾性を強化したものだ。

 

「ねえまだ~?」

 

 そして、山積みの植物の上でアルが果実工場(フルーツファクトリー)で生み出された果実を食べながら待機している。

 そして山積みの植物に根を張っている。

 

「もう少し待ってね…よし、準備完了!アルの方の準備は終わっているの?」

「いつでも行けるよ」

「OK、それじゃあ行くよ!」

 

 オウルはそう言って自分の親指を少し噛み千切り血を流す。

 そして山積みの植物に手を突っ込み、今出来る最高の呪文を唱える。

 

「二人の肉体を生け贄の捧げる。蹂躙せよ!悪食の大森龍(グラトニー·フォレスト·バハムート)!」

 

 オウルが呪文を唱えた瞬間、二人を包み込むように植物が音を立てて動きだし形を変えていく。

 植物はとてもとても長く巨大に、そして先には禍々しい龍の顔が現れる。

 

「グオオオオォ」

 

 そして龍の咆哮が月に響き渡った。

 

「おいおいオウル、何だその姿は?」

「あ、兄さん。これは新しい魔法だよ、アルの補助付きだけどね」

 

 オウルの新しい魔法、悪食の大森龍(グラトニー·フォレスト·バハムート)は、一度に大量の植物を操作する事が出来ないという弱点を克服した魔法だ。

 そもそも、オウルが大量の植物を操作出来ない理由は、オウルの魔法があくまで生命魔法であり、植物を操る魔法では無いからだ。

 そこで、オウルが考えたついた方法は、植物と自分を一体化して操ればいいというものだった。

 血を流した親指から植物を体内に侵入させ、その状態で回復する事で一体化に成功した。

 この時アルも一体化した理由は、さすがに一体化してもオウル一人では操作するのに限界があるため、アルも一体化する事で操作精度と操作量を底上げするためだ。

 

「兄さん少し離れてて、この形態エネルギーめっちゃ使うからとっとと終わらせる」

 

 勿論これだけの事をしているのでそれ相応のデメリットがある。

 そのデメリットというのは、とてつもなくエネルギーを消費するため制限時間があるのだ。

 他の魔法はいくら使っても体力が続く限り使い続けられる位にはエネルギー効率が良い。

 しかしこの悪食の大森龍(グラトニー·フォレスト·バハムート)は、世間で言う所の魔法少女の必殺技にあたる魔法だ。必殺技というだけあって、連発出来ない位にはエネルギーを使う。

 そのため少しでも制限時間を伸ばすために、アルに果実工場(フルーツファクトリー)の果実を食べてエネルギーを蓄えてもらっていたのだ。

 一体化したら、アルが蓄えたエネルギーをオウルが魔力に変化できる。

 

「それじゃあいくよ!」

 

 オウルは長い身体をロボットへ叩きつけようとする。

 

聖なる剣(ホーリーブレード)

 

 しかし巨体ゆえ動きが遅くロボットに回避され、すれ違いざまに剣で切りつけられる。

 オウルの身体に剣が食い込む。

 

「これを待っていた!」

 

 剣が食い込んだ瞬間、切りつけられた箇所の植物を肥大化させ剣を挟み込む。

 オウルの身体を構成している植物は植物反発(リーフバウンド)によって強化されており、強化された植物が自転車のブレーキのような役割を果たし剣を停止させる。

 

「フン!」

 

 そして力を加えて剣をへし折る。

 

「兄さん回収お願い!」

「了解」

 

 へし折った剣はレイヴンの異空間倉庫に収納する。

 

「次!」

 

 オウルは大きな口を開けて、ロボットの斧と槍を掌ごと補食しようとする。

 しかし、動きが遅いため今回も回避されそうになる。

 

「させねえよ!」

 

 ロボットが回避しようとした時、レイヴンがミニガンでロボットを攻撃する。

 当然ロボットは反撃しようとするが、レイヴンに標的が移ったことで掌の回避行動が遅くなる。

 

「いただきます!」

 

 レイヴンが囮になっている隙に、オウルがロボットの斧と槍を補食する。

 そして体内で斧と槍を植物で押し潰して破壊する。

 

「オウル、次で決めるぞ!」

「了解!」

 

 盾意外の武器を破壊されたロボットは、残っている手足のキャノン砲から光線を発射して攻撃を仕掛ける。

 

「光線は俺が防ぐ、オウルは突っ込め!」

 

 次々発射される光線は、レイヴンのワープゲートによってロボットに打ち返えされる。

 その隙にオウルがロボットとの距離を詰める。

 

聖なる盾 モード巨人兵(ホーリーシールド モードゴリアテ)

 

 オウルがロボット本体を補食しようとした瞬間、ロボットが盾を巨大化させて防ごうとする。

 しかし、オウルには優秀なサポート要員がいる。

 

「残念だったな、もっと早くにそれを使ってれば勝てたかも知れないのに」

 

 巨大化した盾を、レイヴンが無慈悲にも遥か彼方へとテレポートさせる。

 

「やれ、オウル」

悪食の牙(グラトニー·ファング)!」

 

 オウルが悪食(グラトニー)の名に恥じぬ勢いでロボットに喰らい尽く。

 ロボットも光線で抵抗するが、焼け石に水だ。

 

「ごっくん」

 

 ロボットはそのままオウルの体内へと消えていった。

 

「レイヴンやっと終わった…何だあの化物?!」

「お、灰崎、解析終わったのか」 

 

 オウルがロボットを補食して直ぐに、灰崎が異空間倉庫から出てきた。

 

「あ、あぁ、何故かいきなり突破出来なかったセキュリティが解除されてね、そこからは速かったよ。それより、あの化物は何だ?」

「化物?あぁあいつか、あいつはオウルとアルだよ、魔法で姿が変わってるだけだから気にすんな」

 

 レイヴンがそこまで説明した時、オウルの身体から轟音が響く。

 すると、オウルの身体は崩壊を初め、中からオウル、アル、ロボットと武器の残骸が出てくる。

 

「お~い優真~」

 

 そして、アルがオウルとロボットを抱えて降りてくる。

 

「アルお疲れ、オウルは?」

「寝てるよ~疲れたっぽいからね~」

 

 オウルは疲れが理由で眠っていた。

 

「灰崎、ロボットの方は?」

「一部壊れてるけど、修理して起動すれば問題無いな。今はこちらがプログラムいじって機能停止させてるから動くことはないよ」

 

 ロボットの方も、本来の目的通り回収できた。

 

「取り敢えず異空間倉庫の中で話さないか、外よりはましだろ」

 

 そうして4人と一機は異空間倉庫へと移動した。

 

 

   

 

 

 

 

 





今後出す暇が無いためここで出す設定1
悪食の大森龍の発動中はアルの意識は無い


今後出す暇が無いためここで出す説明2
悪食の大森龍のサイズは、直径約25メートル、長さは植物が有る限り長くできる。


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再起動

 

 4人と一機は異空間倉庫へと移動したあと、直ぐにロボットの修理に取りかかった。

 とは言え、実際に作業しているのは灰崎一人だけだが。

 

「灰崎さん、後どれくらいかかるか?」

「もう少しで修理は終わるよ。といっても、動けるようになるだけで武器などの修理はまだだけどな」

 

 灰崎の技術力は凄まじく、優真が黒曜団から奪った機械やがらくたからロボットを修理していく。

 

「ただ、表面の人工皮膚は材料がないから修理できないけどな」

 

 今のロボットは四肢が全て義手、義足になった人みたいな状態になっている。

 

「それと、優真には部下として説明しておかないといけないことがある」

「何だ?」

「このロボット、オーパーツの可能性がある」

 

 灰崎の発言に優真は耳を疑った。

 

「それは本当か?」

「ああ、このロボット、現代技術より高度な技術で作られている。正確には現代技術でも十分再現可能な所もあるが、一部明らかに再現不可能な箇所がある。それに材料も不思議だ、俺が知っている金属にこんなものはない」

「ただ単に灰崎さんが知らなかっただけでは?」

「これでも工業大学主席で卒業してるぞ」

「あ、はい」

 

 大学を主席で卒業するくらい頭が良かったのを優真は知らなかったが、それだけ頭が良ければ本当なのだろうと納得する。

 

「それとプログラムについてだが…」

「まだあるのかよ」

 

 正直、優真はオーパーツの話で頭がいっぱいなのでこれ以上話をややこしくしてほしくないのだ。

 しかし、組織の長としてしっかりと話は聞く。

 

「使われていた文字がアルファベットじゃなかった」

「はぁ?!」

 

 またしても優真は驚く。普通、プログラムで使われている文字はアルファベットが一般的で、他の文字が使われることはあまり無いのだ。

 

「それも、楔形文字みたいな文字だ。その文字がパソコンに表示された時は驚いたよ」

「それじゃあ直ぐに解析出来なかった理由って…」

「想像通り、文字の解読が出来なかったからさ。さすがに文字については専門外だからね」

 

 いくら灰崎の頭が良くても、専門知識が必要な分野は一般人と大差ない。

 

「その後直ぐにハッキングできた理由は?」

「おそらく環が飲み込んだ時にセキュリティの一部が壊れたんだと思う。実際、ロボットの頭が一部壊れてたし」

 

 灰崎の説明によると、ロボットの楔形文字でプログラムされた箇所は外部から後付けされたものだったらしく、その箇所が故障しプログラムが停止、その隙にハッキングが成功したらしい。

 ちなみに、内部はちゃんとアルファベットでプログラムされていた。

 

「それで、結局そいつは仲間に出来そうか?」

「出来ると思うよ、プログラムを見た感じ楔形文字が難しかっただけで、中はそれほど難しく無かったから書き換えれば良いだけだ。ただ、中に有ったであろう情報が、最低限を残して全て削除された痕跡があった」

「それくらい何も問題無いよ」

 

 聖魔連合はもともと、聖なる者も魔の者も平和に生きれる世界にする事が目的だ。なので、今さら身元不明のロボットが加入しても何も問題は無い。

 

「…ん、ここは…」

「あ、起きた、優真~環起きたよ~!」

「う、うるさい…」

 

 優真と灰崎がロボットについて話していると、疲れのため寝ていた環と、再生のエネルギー不足を補うために寝ていた元花が起きた。

 

「お、二人とも起きたか。体調は問題無いか?」

「大丈夫だよ」

「問題無いです」

 

 二人の体調が問題無いことを確認し、優真は本題の話をする。

 

「起きて直ぐで悪いが、これからロボットについての相談をしたい。仲間にすることは確定だが、今後こいつをどうするかのな」

 

 優真はロボットに視線を向けてそう言った。

 

「そもそも今どこまで話したの?」

「ああ、確かに説明してなかったな」

 

 優真は環と元花に灰崎との会話内容を話した。

 

「なるほどね…ある程度理解した」

「理解したな。それで、結局こいつどうする?」

 

 優真の質問に全員で考える。

 

「…優真がトップだとかいろいろ設定できるけど、そうするか?」

「そう言うことは先に言え!」

 

 優真は灰崎に文句を言うが、灰崎は無視して設定の準備をする。

 

「で?何を設定すればいいんだ?」

「無視かよ…取り敢えず俺をトップとするように設定してくれ。他は何が設定できるんだ?」

 

 灰崎はまだ、何を設定できるのか説明していない。

 

「設定できるのは、誰の指示を聞くのかとロボットの名前だな。さっきはトップを設定できるって言ったけど、正確には指示を出せる人の設定だね。その他はもともとのプログラムを下手にいじるよりそのまま使った方が良さそうだから設定できるのは2つだけだね」

 

 そうして灰崎はあらかじめ決まっていた指示を出せる人を優真に設定する。

 

「さて、次にロボットの名前だが何か案はあるか?」

 

 次にロボットの名前(名称)を決める。

 

「…セレネとかどう?」

 

 環が名前についての案を出した。

 

「そのロボット月で見つかったでしょ、どこの国の呼び方か忘れたけどセレネって月の神様の名前がいいんじゃないかな?見た目天使っぽいから似合うと思うし」

「いいと思うよ!」

「…私もいいと思います。なんか響きもいいですし」

 

 環の案にアルと元花が賛成し、多数決によりセレネに決まった。

 

「それじゃあ起動するよ」

「…環、アル、元花、一応戦闘準備」

 

 誤作動で攻撃されても対処できるように、灰崎意外の4人はいつでも戦闘できるようにする。

 そして灰崎がロボットを起動し、ロボットが作業台から起き上がる。

 ロボットは辺りを少し見渡した後、作業台から降り、優真の前で片膝をついた。

 

(わたくし)はセレネ、何なりとお申し付けください優真様」

 

 ロボットーセレネは優真に向かってそう言った。

 

「…灰崎さん、この動作は正常なんだよな?」

「正常だよ」

 

 優真は灰崎に誤作動を起こしていないか確認するが、どうやら正常に作動しているようだ。

 

「それじゃあセレネ、お前は何ができるんだ?」

「はい、この機体に装備されている機器の出来ることは何でも出来ます」

「じゃあセレネの機体を強化すれば出来ることが増えるのか。灰崎さん、今後ともセレネの強化などよろしく頼むぞ」

 

 機械関連は灰崎に頼むのがいいので、セレネの強化ならびにメンテナンスは灰崎が担当することになった。

 

「セレネは強化やメンテナンスの時は灰崎さんの言うことちゃんと聞くように」

「承知いたしました」

「それと、俺の妹である環の指示も聞くように」

 

 聖魔連合副連合長である環もセレネに指示が出せないと不便なので、環の指示も聞くようにしておく。

 

「承知いたしました、環様」

「これで取り敢えずはいいかな、その都度指示を増やしていけばいいし。環も指示を出せるようにしたけどいいよな?」

「いいよ、それに私から頼もうと思ってたし」

 

 一通りの作業が終わり、正式にセレネが聖魔連合に加入した。

 

「これからよろしくお願いいたします、優真様、環様」

 



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開拓

 

 セレネを仲間にしたのち、優真達は異空間倉庫から外に出た。異空間倉庫の出口は巨大桜の前だ。

 

「これから本来の目的であった本部作りだが…どうするよ?」

 

 優真達が月に来た目的は、誰にも見つからない本部を作るためだ。それがいきなりアルがはぐれたため探したり、セレネとの戦闘だったりで本来の予定と大分ずれてしまったのだ。それに本部の構想についても何も決まっていない。

 

「取り敢えず希望聞けば?」

「そうだな、何か希望あるか?」

「大きい研究所があれば何でも」

「果物たくさん食べたい!」

「狭くて暗い部屋が欲しいです」

 

 相談したら全員の希望がバラバラだ。

 

「私が建築いたしましょうか?」

「出来るのか?」

 

 すると、セレネから自分が建築すると提案した。

 

「はい、本部を建築するだけの技術だけは持ち合わせております」

「そうか、それなら本部の建築はお前に任せる。灰崎さんは本部の設計を頼めるか?」

 

 セレネはあくまでも技術だけを持っていると言った。なら設計は出来るかわからないセレネより、確実に出来る灰崎に頼んだ方がよい。

 それに、灰崎が希望した研究所は本人しかどういう構想なのかわからないので、灰崎本人が設計した方が後々困らない。元花の希望は直ぐに出来るし、アルの希望はそもそも建物ですらない。

 

「わかったよ、暫く待ってくれ。それとセレネ借りるぞ」

 

 そうして灰崎はセレネにパソコンを接続した。

 これによりセレネが外付けhddの役割りをし、パソコンの性能が格段に上がるのだ。

 

「頼む、その間に材料は集めておく」

 

 辺り一面森林なので、材料は取り放題なのだ。

 そうして灰崎とセレネを除く四人は少し離れた所に移動した。

 

植物操作(リーフコントローラー)

 

 まずは環が木を操作して真っ直ぐにしていく。

 

次元切削(ディメンションバイト)」 

 

 次に優真が真っ直ぐになった木を木材の形に切り抜く。

 

「「うんしょ、うんしょ」」

 

 そして切り抜いた木材をアルと元花が運搬する。

 

「この作業を続けるぞ」

「「「おー!」」」

 

 

   ◇◇◇

 

 

 三時間後…。

 

「おーい、設計終わったぞ」

「了解、それじゃあ休憩するぞ」

 

 灰崎の本部設計が終わり、材料収集していた全員が作業の手を止める。

 

「ふ~疲れた、そうだ、果実工場(フルーツファクトリー)、皆で食べよ」

「やったー!」

「ありがとうございます」

 

 アルと元花は、環が作り出した果実を食べに行った。

 

「灰崎さん、あの三人が休憩中に設計図見せてくれるか?」

「わかったよ。はい、これが設計図だ」

 

 灰崎の作った設計図に描かれた建物は、全体的に和といった雰囲気だ。

 内部は二階建てでとても広く、日本の高級旅館のような感じだ。

 そして建物の下には地下室らしきスペースがある。

 

「取り敢えずこんな感じだが、どうだ?」

「いい感じだ。それに、設計は灰崎さんに一任したからな、こちらからの文句は無いし、実際に生活するのは灰崎さん達だろ」

 

 優真と環は自宅に部屋があるため本部で生活するのは灰崎、元花、アル、セレネだ。

 なので普段生活する人達が良ければそれでいいのだ。

 

「それでは、これより建築を開始します。よろしいですか?」

「ああ、始めてくれ」

「かしこまりました」

 

 するとセレネは、第二形態の時の掌を出現させ、手に鑿と金槌を持った。

 セレネは鑿と金槌で木材を削っていく。

 その間に4つの掌で建設予定地の整地と地下室のスペース確保も並列して行っている。

 

「こちらを運んで組み立ててください」

 

 セレネが掌に指示を出し、指示を受けた掌が加工された木材を運び設計図通りに組み立てていく。

 

「手が足りませんね」

 

 さらにセレネは背中から鑿と金槌を持った腕を二対生やし、作業ペースを上げる。

 

「いや~すごいね」

「ああ、これならあと一時間あれば完成するだろ」

 

 優真と灰崎も感心して作業光景を見ている。

 そして灰崎の予想通り、一時間後に本部は完成した。

 

「本当に完成したよ…」

「俺もまさか出来るとは思ってなかった」

「おおー!」

「すごいです」

「ねね!早く中に入ろ!」

 

 男子二人が驚いているのとは対照的に、女子三人はテーマパークに来たのかってくらいのテンションになっている。

 

「環様の言う通り、中をご案内致します」

 

 セレネに連れられて五人は中に入る。

 中に入ってまず目につくのは、吹き抜けのエントランスの中央にある五メートルほどの桜の木彫りだ。まるで本物の桜に見えるほど精巧に彫ってある。

 

「ここがエントランスです。一階に浴槽、調理場、食事スペース、倉庫、会議室、事務室がございます。二階にはそれぞれの個室と客間があります。お手洗いは一階と二階両方にございます」

 

 セレネの説明が終わり、それぞれが本部の見たい所を見てまわる。

 

「すげぇ、個室が全て畳だ」

「兄さん浴槽もすごく広いよ!」

「おーい、そろそろ地下室へ行くぞ」

 

 それぞれが見てまわっていると、灰崎から地下室へ行くと全員が呼ばれる。

 

「全員来たな、それじゃあ地下室への移動方法の説明しとくぞ」

 

 セレネから灰崎へ説明担当が代わり、灰崎の案内で移動していく。

 

「地下室は会議室に入り口がある。地下室の行き方は基本的に幹部にしか教えない方がいいが、優真はどうする?」

「それでいいよ、地下室は多分だが幹部専用部屋みたいな感じで設計したんだろ?」

「その通りだ、まあ今は幹部しかいないがな。それじゃあ着いたし説明するぞ」

 

 灰崎は会議室の何も入っていない本棚の着いた壁の前に移動する。

 

「いいか、入って直ぐ左の本棚の下から五番目の棚と三番目の棚を同時に押す。そして四番目の棚を押すと…『ゴゴゴゴ』地下室への入り口が開かれる」

 

 灰崎が操作した本棚が右に音を立ててスライドする。すると本棚の奥から地下室へと続く階段が現れる。

 

「それじゃあ行くぞ」

 

 灰崎が先頭で下へ降りていく。

 

「ここが地下室、研究所と幹部部屋がある。そしてその奥にはボス部屋がある」

「ボス部屋ってどういう感じだ?」

「見ればわかるよ」

 

 灰崎の案内で奥へと進んでいく。

 

「ここがボス部屋だ」

 

 地下室の奥にあるボス部屋は、異世界漫画にある魔王城の際奥の部屋のような感じだ。

 

「優真は中央の椅子に座って堂々としたりしてればいい、ボスはそういうものだからな」

「ああ、とはいえ俺は普通に部下と一緒にいろいろするつもりだがな」

「言うと思ったよ」

 

 灰崎は優真と関わりを持ってまだ日が浅いが、何となくだが優真が普通のボスのように椅子に座ってふんぞり返るような性格ではないことはわかっていた。

 

「あ、そういえば、灰崎さん、椅子の裏にワープゲートを設置していいか?」

「いいぞ、何だってこの部屋は優真の部屋なんだからな」

 

 優真は椅子の裏に移動する。

 

「それじゃあ、ワープゲートっと、このゲートは開きっぱなしにしとくから地球への移動に使ってくれ」

 

 優真が設置したのは地球と月を繋ぐためのワープゲートだ。これにより、優真がいちいちワープゲートを開かなくとも、幹部だったら誰でも自由に行き来できるようになった。

 

「それじゃあ各自、荷物取りに一旦地球に戻るぞ」

 

 

   ◇◇◇

 

 

 優真がワープゲートを繋げた先は、黒榊家の空き部屋だ。

 その部屋に移動し、それぞれが荷物をまとめる。

 

「ん?何だこれ」

 

 たまたま郵便受けを確認した優真が何かを取り出す。両親が死亡してからは新聞も取ってないので郵便受けはあまり使われていなかった。

 

「えっと…環宛だな、環ー!お前宛に手紙?が届いてるぞ!」

「どこから?」

「えっとな…『全日本魔法少女連盟』?」






今後出す暇が無いのでここで出す設定
セレネは設計する技術は持ってますが、デザイン力があまり無いので、優真が灰崎に頼んだのは結果的に正解


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全日本魔法少女連盟


環視点です


 

「ここか…」

 

 郵便受けの手紙をみた翌日の日曜日、私は東京タワー跡地に来ていた。

 東京タワーは2081年10月31日、世界で初めて怪人、そして忌々しい魔法少女が現れた事件、『東京タワー崩壊事件』で倒壊した。

 ちょうどハロウィンだったこともあり、万単位の死傷者が出たらしい。

 本来は倒壊した時に取り壊す案もあったらしいが、地元民の強い希望により今は慰霊碑となっている。

 ここに来た理由は、昨日の手紙の指定先がここだったからだ。ここに隠し通路があるらしい。

 昨日手紙が来てその翌日に呼び出しとかふざけんなって話だ。

 

『環着いた?』

(ん?アル起きたの?今ちょうど着いたよ)

 

 今回、全日本魔法少女連盟に来るに当たってアルに着いてきてもらっている。とはいえ今まで寝ていたみたいだが。 

 今のアルは私の魔法によって私と一体化している。

 これは悪食の大森龍(グラトニー·フォレスト·バハムート)の応用だ。アルの神経と私の神経を繋げて声を出さずとも会話できるようにし、アルの体も植物判定なので植物操作(リーフコントローラー)でアルを私の左手に義手のようにして固定している。とはいえ回りから見たら何かあの人の腕緑っぽいなと感じる程度だが。

 

(さて、アルよろしく)

『わかった、根張り(ねはり)!』 

 

 アルは私の左手から地面に種を落とす。

 今回アルを連れてきた理由は、全日本魔法少女連盟の建物の大きさの把握と侵入経路の作成のためだ。

 アルが根を張ることで建物全体の大きさを把握、そして張った根をアルと一体化した私が根方移動(ねかたいどう)で侵入することができるようになる。

 

(アル、根を張ってる間に魔法少女連盟の建物行くよ。それと、根はなるべくゆっくり張ってね)

『わかった』

 

 アルの根をゆっくり張る理由は、魔法少女側に索敵魔法持ちがいる可能性があるからだ。

 私が魔法少女になったのは三日前、それに魔法少女として初めて活動したのが二日前、それなのに昨日手紙が届いたということは魔法少女側に私の住所がどういうわけかバレたと言うことだ。

 二日前の活動で確かにカメラで撮られたが、本名は言ってないし、すぐに人目の無い山に入った上、髪の色も普段とは違うからネットの特定班でも特定に至るまでの情報は無いはず。

 それにぽっと出の魔法少女より人気の魔法少女の特定の方が、特定班にとっても有意義のはずだ。

 それなのにバレたと言うことは、魔法少女側に何かしらの索敵方法があるということだ。

 ならばこちらも情報をもらうぞとアルに根を張ってもらってるが、魔法少女側に悟られないようにゆっくりと根を張るのだ。

 まあ、私の特定に国家権力とか使われてたらこんなこと無意味だが、手紙の宛名が環さんではなくオウルさんとなっていたので国家権力は使われてないと信じたい。

 アルの根を張ってる間に、手紙に記されていた建物の隠し通路のある場所へ移動する。

 

「えっと…このマンホールかな?」

 

 手紙に書かれた位置にあったのはマンホールだ。このマンホールの上で合言葉を言うと、全日本魔法少女連盟への隠し通路が表れるらしい。

 

「合言葉は…『魔法少女、平和の為にこの身を捧ぐ』」

 

 手紙でも思ったがこの合言葉には反吐がでる。何が平和だよ、お門違いかも知れないが、魔法少女のせいでお父さんとお母さんが死んでんだよ。

 

『環落ち着いて!』

(!、ごめんアル、取り乱した)

 

 自分で言うのも何だが、やっぱり私の怨みは異常だよな。合言葉程度で我を忘れるのは何とかはしないと。

 

(空いたみたいだな)

 

 アルと話している間にマンホールが開いたみたいだ。下にあるのは…階段?

 

『環早く降りよ』

(わかった)

 

 私達は階段で下へと降りていく。

 

「あれ?行き止まり?」

 

 降りた先は行き止まりになっていた。手紙に書かれてた場所は合っているはずだが…。

 

『魔法少女かの確認のため、変身してください』

「え!アナウンス?!」

 

 いきなりアナウンスが流れたから驚いた。取り敢えずアナウンスの指示に従うしかなさそうだな。

 

「変身」

 

 アナウンスの指示に従って変身する。アルと一体化しているからか、左腕がトレントのようになった。

 

『魔法少女の確認が取れました、この先へお進みください』

 

 変身したら行き止まりの通路の先が開き先へ進めるようになった。

 

「ここは…駅?」

 

 






長くなりそうなのでここで一旦投稿します。
口調がちょっとおかしいですが気にしないでください。


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謎の声の示すもの


環視点です


 

「何でここに駅が?」

 

 マンホールを降りた先にあったのは地下鉄?の駅だ。しかし何でここに駅が?

 しかもちゃんと整備された駅だから余計に謎だ。

 

『環、看板があるよ。慰霊碑駅だって』

 

 慰霊碑ってことは駅名の由来は東京タワーか、おそらく、というか確実に魔法少女関連の施設ね。

 

(それじゃあしばらく待ってみるか)

 

 

   5分後…

 

 

『間もなく列車が入ります。黄色い線までお下がりください』

 

 アルと暇を潰しているとホームに列車が入ってきた。取り敢えずこの列車に乗るか。間違えても駅や列車に付いての説明をしなかった向こうの責任だしね。

 

「中は普通の電車みたいだな」

 

 私達が乗ってすぐに列車が動き出した。

 

(しかしこの列車はどこへ向かってるんだろう)

『マジックターミナルだよ』

(そうなんだ)

 

 マジックターミナルか…ん?今の声だれ?

 

(アル…じゃ無いよね)

『違うよ』

(だよな…おい!あなたは誰?!)

 

 相手の姿は見えないが、こちらの考えている事に反応したから声に出さずともこれでいいはず。

 

『おいおい怖いじゃないかオウルちゃん』

 

 やはり反応した。声的に女性みたいだな。

 

(それで、結局あなたは誰?そしてどこに居る?)

『ん~、誰かという質問には今は答えられないな、どこに居るかは私にもわからない』

(わからない?あなた、魔法少女の仲間じゃ無いの?)

 

 この施設は少なくとも魔法少女関連の施設のはず。

 

『その魔法少女に利用されてんのさ。ま、私の目的のためだから文句は言えない。次にこちらから質問させてもらうよ、オウルちゃん、あなたなぜ怪人を連れている?』

(!、何の事ですか?)

 

 何でアルの存在がバレた?

 

『とぼけないでよ、こっちは二日前から監視してたんだから』

 

 二日前は初めて魔法少女として活動してアルを仲間にした日だ。まさか…。

 

(実家を調べたのあなたでしたか)

『そうそう、いや~まさか怪人を仲間にする魔法少女がいたとはね。それに、最近できた聖魔連合の副連合長だとは驚いたよ』

(…どこまで知っているんですか?)

 

 相手の知っている情報次第では、今後の聖魔連合の活動に支障がでる。

 

『そうだね…まず違和感を感じたのは三日前、初めて感じる波長を私が探知してね、そのことを上層部に話したら探し出すようにと指示が来たから探し始めたのが二日前、ここまでは普通の魔法少女が現れてからやっているいつもの工程、この後に波長を追って家を特定して担当の者が手紙を届けている。それでどこまで知っているかだけど、オウルちゃんが今連れている怪人と戦った後のことは全て知っているよ。月であったことはさすがにわからないけどね』

 

 となると、兄さんと黒曜団に潜入したことはバレて無いな。だけどセレネを除いたメンバーと本部の場所が相手側に知られているのはまずい。

 

(…何が目的?)

 

 ここで交渉してこちらの情報を隠蔽してもらうしかない。たとえ無理難題な条件を出されても相手の上層部に知られるよりましだ。

 

『目的?そんなもの無いよ』

(は?)

 

 あれだけの情報を握っといて目的が無いだと。

 

『いや本当に無いよ、それに上層部にこの事も話さないよ』

(…こちらとしてはありがたいが、本当に無いのか?)

 

 明らかに虫がよすぎる話だ。普通に考えて信用出来ない。

 

『私は別に全日本魔法少女連盟に忠誠を誓ってる訳じゃ無いからね。まあ…そうだな、それじゃあ八世召 (はちよしょう)って人を探してくれるか?』

(八世召ね、わかったよ。その代わりに私達のことは黙っててね、口約束とは言え破ったらあなたの探している人を人質にしたり全日本魔法少女連盟に忠誠を誓って無いことをバラすからね。ま、私も話してほしくない情報を握られてるから最終手段だけど)

『わかった、それじゃあよろしくね。それともうすぐマジックターミナルに着くからじゃあね』

(わかったありがとう)

 

 取り敢えずこれでいいはず。後はあの人を信用するしかない。

 

『環大丈夫そう?』

(まあ、何とかはするしか無いよね。さてと、そろそろ着くらしいから会話は控えるよ)

『わかった』

 

 そうして列車はマジックターミナルのホームに入って行く。

 

(…ここが敵の総本山、気合い入れないと)

 

 そうして私達はマジックターミナルに到着した。



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受付嬢と説明の食い違い



環視点です

※ デメリット内容を少し修正しました。


 

『環体調はどお?』

(…ある程度回復したけどまだきつい)

 

 列車から降りて私達は受付に向かおうとしたところ、なぜかいきなりふらついたため今はベンチで休んでいる。

 原因はわからないが動ける程度には回復できた。

 

「しかし…ここは本当にどこだ?」

 

 いや場所はマジックターミナルとわかっているが、地理的な意味での場所が本当にわからない。

 マジックターミナルはロンドンの駅と言った雰囲気だ。写真でしか見たことないが。

 列車に乗っている間ずっと地下を走っていたのでおそらくここも地下だとは思う。天井はガラス張りで光が射しているが、アル曰く光合成が出来ないとのことなので太陽光では無いだろうし。

 

「そろそろ受付行くか」

 

 駅ならば改札口がある場所に改札口はなく、その脇に異世界小説の冒険者ギルドの受付みたいなものがある。

 何というかちぐはぐな空間だな。

 

「すいません!受付したいのですが!」

「はい!ようこそお越しくださいました!」

 

 奥から見るからに受付嬢という格好の赤髪の女性が出て来た。

 

「本日はどのようなご予定で?」

「実はこんなものが届きまして…」

 

 私は家に届いた手紙を受付に出す。

 

「確認いたします。オウルさんですね。お越しいただきありがとうございます。私は受付嬢の小鳥遊小鳥(たかなしことり)と申します」

「私も改めて自己紹介しますね、私はオウルと言います、本名は言いたくないのでご勘弁を。それで、どうして私は呼ばれたんですか?」

 

 まあ、魔法少女絡みだとは思うが。

 

「本日お越しいただいた理由は全日本魔法少女連盟への登録をお願いするためです」

 

 やっぱり魔法少女絡みか。

 

「登録するメリットは?」

「登録していただくメリットは、怪人を倒す度に連盟から発行されている魔法少女カードにポイントが溜まり商品と交換できることが上げられますね。その他にも、マジックターミナルにある大図書館、列車、飲食店などの利用などのサービスを受けられます」

「そうなんですね。ちなみにデメリットは?」

「デメリットかどうかは判断しかねますが、時折悪の組織の討伐のための召集がありますね。それと怪人と戦う義務が生じます。そして全日本魔法少女連盟の存在を公にしないことを契約する必要があります」

 

 つまりは景品やるから怪人を倒せってことか。良くできたシステムだなこれ。これだと魔法少女達は悪いことをした人を倒せて、なおかつ景品ももらえるため双方に利がある。それに怪人は見た目が人外な上、子供の頃から魔法少女によって殺される怪人をみているから、殺すことに対する罪悪感もへったくれもないだろう。

 景品のため魔法少女達は怪人を倒す、そしてその際に余波で町や関係無い人達の被害がでる。目に見える悪循環だなこれ。

 組織を公にしないことは、敵に組織の存在を悟らせないためだろうから納得できる。

 

「わかりました、取り敢えず登録します。ただ、本名じゃなくてもいいですか?」

 

 何はともあれまずは登録はしないと。

 

「ありがとうございます。登録に関しては本名で登録している人が多いってだけで別に本名じゃなくても問題ありません。では、この書類に必要事項を記載してください」

 

 よかった本名の登録は必要じゃないみたい。

 書類の内容は、活動ネーム、主な活動範囲、そして魔法か。活動ネームはオウルで主な活動範囲は…全国にしておこう。聖魔連合副連合長としていろいろな所へ行くことになった時に、不審に思われないようにするためだ。

 しかし魔法については誤魔化す必要がある。回復できる魔法は少なく、絶対にバレたら召集が掛かりまくる。幸いネットに上がった動画は植物を操ってるところしか写っていなかったので、書類には【生命魔法】ではなく【植物魔法】と記入する。

 

「記入終わりました」

「確認しますね。活動ネームはオウル、活動範囲は全国ですか、珍しいですね」

「はい、せっかく列車を無料で使えるのならいろんな所行きたいですから。そのついでに怪人倒してくれば一石二鳥ですし」

 

 嘘は言っていない。お父さんとお母さんが死んでから旅行とかもしてないから、今度はいろんな所へみんなで行きたいからその下調べも兼ねてね。

 

「そうですね、魔法は…固有魔法持ちですか!」

「固有魔法?」

 

 まーた知らない用語が出てきたよ。

 

「そもそも魔法少女は火、水、土、風の四属性のうちどれか一つを持っています。それぞれ全体の二割ほどですね。それで残りの二割、四属性のどれにも属さない魔法を固有魔法と呼んでいます」

 

 そうなるとあの天の声さん(仮称)も固有魔法持ちか。おそらく探知系統の魔法だろう。まあ何かの応用で探知しているだけかも知れないが。

 

「わかりました。説明ありがとうございます」

「それでは登録しますね。こちらがオウルさんの魔法少女カードです」

 

 渡されたカードは何というか写真の無い免許証みたいだ。

 

「何かご質問はございますか?」

「そうですね…では、どうやってこの自宅を調べてこの手紙を届けたんですか?」

 

 自宅を調べたのは天の声さんだろうが、確認の為に届けた方法と一緒に聞いてみる。

 

「それは私の魔法で調べて届けました」

「小鳥遊さんの?」

 

 というか小鳥遊さんも魔法使えたのか。

 

「はい、私の魔法は【使役魔法】というものでして。この魔法は動物をいわゆる使い魔にする事ができる魔法です。そしてこの魔法の効果で動物と会話できるので動物達に聞いて自宅を調べ、鳥に手紙を届けてもらいました」

「…わかりました、質問は以上です」

「それではオウルさん、あなたの今後の活躍を期待しています」

 

 

   ◇◇◇

 

 

『環、あのお姉さん』

(わかってる、あの説明は嘘だ)

 

 小鳥遊さんの説明は嘘が混じっていた。自宅を調べたのは天の声さんであって小鳥遊さんでは無い。

 いや届けたってのは本当だと思う。

 おそらく天の声さんが小鳥遊さんに自宅の場所を伝えて、小鳥遊さんが小鳥かなんかを使って手紙を届けたのだろう。

 小鳥遊さんが調べたのなら、元花を自宅に連れ込んだ時か、兄さんと一緒に黒曜団に乗り込んだ時か、アルを自宅に連れ帰った時のいずれかを動物に見られたことになるが、そうなったら手紙を届けないで魔法少女を送り込んできただろう。

 どの行動も魔法少女あるまじき行動だからだ。

 その点、天の声さんならば私の行動も隠蔽できるから小鳥遊さんが知らないのも納得がいく。

 問題は、小鳥遊さんが天の声さんの存在を隠したことだ。

 何か隠さなければいけない理由でもあるのか?

 

(何にせよ面倒なことになりそうだ)





今後出す暇が無いのでここで出す設定 1
黒榊兄妹は両親が死亡してから、修学旅行含めて旅行を行っていない。

今後出す暇が無いのでここで出す設定 2
魔法少女達は怪人を倒す再に人を殺してる自覚ある人はほぼいない。

今後出す暇が無いのでここで出す設定 3
景品の内容は、魔法少女アニメの雑魚怪人一体で五万円くらい貰えます。


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大図書館での調べ事


環視点です


 

「さて、次はあの人について調べますか」

 

 あの人とは、天の声さんから探すように頼まれた八世召さんのことだ。

 聖魔連合のことを黙っておく代わりに天の声さんから探すのを頼まれた謎の人。

 まあ、おそらく探知系統の魔法を持っている天の声さん自ら探さない時点で既にきな臭い感じがするけど。

 

「ここか…」

 

 そうこうしているうちに大図書館に着いた。

 ここにはいろいろな本があるらしく、沢山の魔法少女が利用している。

 過去の新聞などがあればそこから調べられると思ってやって来た。

 けど調べる前に人手を増やさないと。さすがに数十年分を調べるのは一人だときついからね。

 

植物人形(リーフドール)

 

 私は道の脇によってから魔法で植物の人形を作る。見た目は全体的に緑っぽい私だ。

 

(アル、お願い)

『わかった!』

 

 人形に手をかざしてアルの意識を人形へと移す。

 すると人形の目が開き立ち上がった。

 

「問題無さそう?」

「んっとね…大丈夫そうだよ、まだ慣れないけど」

 

 よかった、ちゃんと成功した。まあ失敗しても人形が壊れるだけで特に問題なかったけど。

 それに慣れないのは仕方がない。アルは普段浮遊して移動しているため足での移動は初めてなのだ。

 

「これから図書館で八世召さんについてのことを調べるよ」

「わかった!」

 

 この図書館はとても広い。館内マップを見た感じ東京ドームと同じくらいだ。しかも二階建て。

 これだけ広ければ一冊くらいは八世召さんに関するデータがあるばず。

 というか有ってくれ頼む!

 

「さて、新聞約五十年分!それと百年分の行方不明者記録となぜかあった住民票抄本一覧!これだけあれば情報の一つや二つ有るだろ!」

 

 

   一時間後…

 

 

「環~無いよ~」

「さすがにそんな直ぐには見つからないよ」

 

 

   さらに一時間後…

 

 

「環~お腹すいた~」

「あ、なんか食べて来ていいよ」

「やった~!」

 

 

   さらにさらに一時間後…

 

 

「環~見つかった?」

「まだ見つからない、パソコンで調べてみてくれる?」

「わかった~」

 

 

   さらにさらにさらに一時間後…

 

 

「パソコンで調べたけど無かったよ~、そっちは~?」

「無い…」

 

 

   さらにさらにさらにさらに一時間後…

 

 

「ふ~…」

 

 っざけんな!何で何一つ情報が無いのよ!

 行方不明者記録に名前が無かったのはまだ捜索願が出されなかっただけかも知れないからまだわかる。

 だけど何で住民票抄本にも無いの?!

 これ八世召さんに関するデータ全部消されてる?

 

「環~これセレネに頼んだ方が良くない?」

「…そうだね、もうそうした方が早い気がしてきた」

 

 できるかわからないけど、多分セレネならできると思う。ロボットだし。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「疲れた~」

『お疲れ~』

 

 本当に今日は疲れた。

 連合のことがバレたこと、天の声さんや八世召さんのこととかいろいろあった。

 そして今は帰りの列車に乗っているが、乗った瞬間に今日の疲れが一気にきたのだ。

 

(けど、最終的に攻め込む場所がわかったのはよかった)

 

 後はマジックターミナルの地理的な場所が分かり、なおかつこちらの戦力が整えば魔法少女との全面戦争になる。

 いや、攻め込むとは決まってないが最終的に戦うことにはなるだろう。

 

(どちらにせよ、まずは兄さんに報告だな)

 

 

 

 

 

 

 

 





今後出す暇が無いのでここで出す設定
植物人形に入っているアルが食べ物を食べると、環にもエネルギーが送られる。


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武器製作


優真視点です

時系列は環が全日本魔法少女連盟に行った日の朝です


 

「灰崎さん今ちょっといいか?」

 

 全日本魔法少女連盟から手紙が来た翌日、俺は月に有る本部に来ていた。

 後で本部の名前相談するか。新たなる素晴らしき世界の種(ニューワールド·コア)はあくまでここを作った時の魔法名だしな。

 

「ああ、ちょっと待っておくれ」 

 

 やっぱり灰崎さんは研究室にいた。

 というか目の下に隈が出来ているが寝てないのか?

 

「…これで良し。それで、何の用だ優真?」

「少し俺達の装備についての相談があるんだ」

 

 今の装備は俺が拳銃とリボルバー、そしてミニガン、環はそもそも装備すら持っていない。

 まあ、変身する時のブレスレットが装備かも知れないが、青柳さんとかの装備と比べると明らかに心許ない。

 そもそも環の魔法はゲームで言うところのヒーラーだ。戦力的に戦うしかないにしろ、ヒーラーが前線で戦う装備としては今の状態だとまずい。

 環が倒されたらヒーラーがいなくなりこちらが全滅する可能性もあるからだ。

 しかし環の性格上、父さんと母さんを亡くしたトラウマで仲間を見捨てることはしないはず。すると自ずと前線へ行くことになるので、身を守る装備が必要だ。

 それに俺の装備も魔法少女や怪人と戦うには心許ない。

 

「そういう訳で、俺達の装備を作ろうと思う」

「それは分かったが、何で俺に相談を?」

「これを使いたいからだ」

 

 今回、武器作成に使うのは黒曜団から奪ってきた怪人生成機だ。

 確かに武器を作るだけならセレネに頼んでも問題は無い。しかし、今回は怪人生成機を使用するので使い方を知っている灰崎さん監修でやった方が安全面的に良いのだ。

 

「それに使う素材が少々特殊でね、怪人生成機を使わないといけないんだ」

「何を使う気だ?」

「これだよ」

「…おいおいマジかよ」

 

 俺が異空間倉庫から取り出したのは、昨日セレネによって切断された俺の手首と今朝頼んで採血してもらった環の血液だ。

 

「これらを使って武器を作りたいから灰崎さんに相談したんだ」

「まあ、怪人を作る時にその組織のボスが血液を材料として提供する事はあるが…武器として使用するとは聞いた事無いな」

「それとこれも使う」

 

 さらに取り出したのは、俺が遠くに飛ばしたセレネの盾と中央のサクラの木の枝だ。

 ちなみに、盾に関してはセレネに使用許可を貰ってるし、枝は祟りなんかが怖いのでセレネに頼んで木霊鎮めをして貰ってから切断した。

 なぜセレネが木霊鎮めが出来たのかは謎だが今は関係ない。

 

「それに、灰崎さんだって気にならないか?これらを使って作られた武器がどんな武器になるか?」

「確かに魅力的な提案だな、是非とも立ち会わせてくれ」

 

 よし、灰崎さんの協力も取り付けられた。

 

「それじゃあまず俺の武器から作るが、機械に材料を入れればいいのか?」

「そうだよ、それからある程度の設定を入力するんだ」

 

 それじゃあ入れる材料は…ベースとなる材料は拳銃、その他にリボルバー、ミニガン、後は適当にアサルトライフルにサブマシンガン、スナイパーライフル、そして手首だな。

 設定は人格は無し、サイズはリボルバーくらいだな。てかこれくらいしか設定できないのかよ。

 

「これでよし、スイッチオン!」

 

 材料を入れて機械を起動すると、機械は音を立てて動き出した。

 

「これどれくらいで出来るんだ?」

「だいたい人格のある怪人で2~3日だな。ただ今回は怪人じゃなくて武器だからもっと早く『完成しました』…出来たみたいだな」

「それじゃあ取り出すぞ」

 

 さてさてどんな出来映えかな。

 

「…なんと言うか、禍々しいな」

 

 完成した銃は赤黒く、表面は血管がのような模様が浮かび上がっている。

 しかし、質量保存の法則が完全に無視されているがこの機械本当にどういう仕組みだ?

 まあそんなことはどうでもいいが。

 

「灰崎さん、この銃の機能は?」

「機械によると【能力付与】と【形態変化】だな。【能力付与】は弾丸に魔法を付与して着弾地点に能力を発動できる、【形態変化】は材料とした武器に変化できるみたいだな」

 

 なるほど、それじゃあ外で試し打ちしますか。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「この辺でいいだろ」

 

 ワープゲートで移動した場所は本部の目の前だ。

 ここなら誰もいないし十分なスペースがある。

 さらに森に探索に行っている元花とセレネにも試し撃ちするから気を付けろとの連絡もし終わった。

 

「灰崎さん、記録準備出来てるか?」

「いつでもいいぞ、始めてくれ」

 

 灰崎さんは発砲した時の記録を頼んでいる。後で問題点が無いかの確認のためだ。

 

「それじゃあ…発射!」

 

 銃の引き金を引いた瞬間、銃口から勢い良く弾丸が撃ち出され的にしていた木に命中した。

 

「灰崎さんどんな感じだ?」

「見てた感じ問題無いな。ただ、何か弾丸が赤く見えたな」

 

 弾丸が赤く?何でだ?

 

「弾丸を確認してみるか、ワープゲート」

 

 弾丸をワープゲートで取り寄せる。

 

「弾丸は…何だこれ?指?」

 

 俺確かに弾丸を引き寄せたよな?

 まさか発射されたのこの指か?

 

「おい!こっちに血痕がついてるぞ!」

 

 灰崎さんが確認したのは発射されたものの着弾地点だ。

 あそこに血痕があったってことは発射されたのはこの指でほぼ確定だな。

 

「灰崎さん、その血痕この指が原因だ。そして恐らく着弾地点に能力を発動させられる理由は使用者の肉片を指の形にして飛ばしてるからだ」

 

 能力者の能力の発動条件が触れる事なら、確かに指の形の肉片が撃ち込まれるから触れた判定になり、能力の発動条件は満たしている。

 放出系の能力だとしても、撃ち出された指を始点に能力を発動できる。

 …かなりイカれてるなこの武器、俺の能力のデメリットが一つ消えたぞ。

 

「灰崎さん、形態変化を試すから俺の後ろへ移動してくれ」

「分かった」

 

 灰崎さんの移動も終わったな。

 それじゃあ…。

 

「形態変化!ミニガン!」

 

 俺が宣言すると、銃はみるみる形を変えていく。

 そしてあっという間に拳銃からミニガンの形に変わった。

 

「発射!」

 

 ミニガンのトリガーを引くと赤い弾丸が撃ち出され、弾丸をなぎ払うように森へ撃っていく。

 これの一つ一つが指だと思うと少し気持ち悪いな。

 

「よし、弾丸から半径1メートル内の物体を上空5メートルに転移!」

 

 すると地面が抉られ、空中に土の塊が出現し落下した。

 

「これで確定だな、弾丸を接触させることで能力を発動できる」

「優真、後で弾丸を調べていいか?いろいろな研究に使えそうだ」

「ああいいぞ、よろしく頼む」

 

 

   ◇◇◇

 

 

「環の武器の材料は、ベースの材料にセレネの盾、他に環の血液と桜の枝だな」

 

 それじゃあスイッチオンっと。

 

「しばらく待機だ『プルルルル』なんだ?」

 

 鳴ったのは…元花に持たせた通信機?

 

「どうした?」

『優真さん、至急こちらに来てもらってもいいですか?』

「分かった直ぐ行く」

 

 いったいどうしたんだ?

 

 






今後出す暇が無いのでここで出す設定1
優真のテレポートは触れないと発動出来ない。ただし、ワープゲート、反転は触れなくても発動できる。

今後出す暇が無いのでここで出す設定2
元花が使ってた通信機は灰崎が作ったもの。


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鉱山


優真視点です。


 

「おい元花どうした?」

 

 元花に呼び出された場所は、桜の大木を挟んだ本部の反対側だ。

 

「優真さん、実は少々面倒な物が見つかりまして。今はセレネさんが見張っています」

 

 元花とセレネには新たなる素晴らしき世界の種(ニューワールド·コア)の探索を頼んでいた。

 それで面倒な物が見つかったから、俺の判断に任せようってことか。

 

「分かった、直ぐにその場所へ移動しよう」

 

 元花に案内された場所は桜の大木の根元だ。

 

「セレネさん、優真さんを連れて来ました」

「ありがとうございます元花様、優真様、少々我々では手に余る問題が出てきました」

 

 手に余る問題?

 元花が言っていたセレネが見張っている物かな?

 

「こちらです」

「これは…洞窟?それだけなら二人だけで十分対処可能だろ」

 

 セレネが見張っていたのは洞窟だった。洞窟の入り口は俺が屈まずに入れるぐらいには大きい。

 見た限り普通の洞窟っぽいが、二人で対処できないだけの問題があるのだろう。

 

「実は…これ蟻の巣なんです」

「蟻?」

「はい。あ、セレネさんまた出てきました」

「これくらいは問題ありません」

 

 洞窟から出てきた何かをセレネが剣で切断する。

 

「これが洞窟からどんどん出てくるんです」

「その前にこいつ本当に蟻か?デカすぎんだろ」

 

 大きさは俺の腰くらいまである。

 しかもこの蟻、顎と胴と足が結晶化していて明らかに普通の蟻じゃあねえ。

 

「この蟻をどうするかの相談のために優真様をお呼びしました。どうなさいますか?」

「どうするって言っても…」

 

 確かにこの蟻を野放しにするのは危険だ。蟻の顎の力は非常に強いから何かの拍子に攻撃されたらたまったもんじゃない。

 それにこのサイズだ。噛まれたら確実に体が泣き別れになる。

 しかし、蟻の体の結晶は魅力的だな。この結晶を換金すれば連合の資金の足しにできる。

 

「…この洞窟を攻略しよう。この銃の実戦練習もしたいし」

「その銃何ですか?」

「さっき作ったんだ。名前は…あ、決めてないや」

 

 名前どうしよう、この銃の材料は俺の手首と拳銃だったな。レイヴンの手首が材料…。

 

「この銃の名前は鴉の手(レイヴン·ハンド)だ。改めて、この銃の実戦練習のために攻略するぞ」

「分かりました」

「お供します」

 

 

   ◇◇◇

 

 

「とは言え、これ程安全な実戦練習は無いな」

 

 洞窟に突入した俺達は、セレネを先頭に洞窟を進んでいた。

 セレネがこちらに向かってくる蟻を足止めしているので、安全に練習ができる。

 

「来ました」

「これでも食らえ!」

 

 前から来た蟻に向かって弾丸を放つが、蟻は結晶化した前足でガードする。

 が、そんなことは分かりきってる。

 

「テレポート!」

 

 弾丸として撃ち出された指は一応俺の肉体扱いなので、蟻の後ろにテレポートさせる。

 

「ギァァァ!」

 

 よし命中!

 蟻の腹は結晶化してなかったからそこに合わせてテレポートさせたが上手く行った。

 

「優真さん奥見てきました!」

「ありがとう、どうだった」

 

 先行して洞窟を探索していた元花が戻ってきたみたいだ。

 

「はい、奥の部屋に女王蟻らしき蟻を見つけました。それと、蟻の足みたいな石が沢山ある場所がありました」

「蟻の足みたいな石?」

 

 この蟻の足は素人が見ても川原にあるような石じゃないことはわかる。となると…。

 

「何かしらの鉱山か?」

 

 けど何でこんな場所に?

 まあこんな場所作っといて今さらか。

 

「元花、女王蟻と鉱山らしきところの場所は?」

「この奥ですね。ただ、鉱山は女王蟻のいる部屋の奥なのでどうしましょう」

「ちょっと待て、どうやって鉱山に入った?」

「どうやって言われても…普通に走って行っただけなので」

 

 そうだったこいつめっちゃ足速いんだった。

 元花の足なら女王蟻に気づかれずに侵入するぐらいは出来そうだ、猫だし。

 

「…取り敢えず案内してくれ」

「わかりました」

 

 

   ◇◇◇

 

 

「ここですね」

 

 元花の案内で奥に進んで約30分、やっと女王蟻の部屋の前に着いた。

 

「けっこうデカイな」

 

 女王蟻は道中の蟻に比べて2~3倍は大きく、腹が異常に大きい。

 そして女王蟻の後ろには恐らく鉱山に続く穴と沢山のタマゴがある。

 

「女王蟻を撃破します」

「ちょっと待てセレネ、あいつは倒すな」

 

 セレネが女王蟻を殺そうとしたので急いで止める。

 

「何故ですか?」

「あのなぁ、ここ洞窟言ってるけど蟻の巣だぞ。女王蟻殺してここを整備する蟻がいなくなって崩落したらどうする。それに働き蟻自体が貴重な資金源だ。製造元である女王蟻がいなくなったらそれすら採れなくなるんだぞ」

 

 既に別の場所にも巣が出来てるかも知れないが、そうじゃなかったらマジで殺したらまずい。

 

「わかりました」

「わかったならいい。それじゃああそこの穴まで移動するぞ、ワープゲートでも行けるが少し試したいこともあるしな」

 

 まずは鴉の手(レイヴン·ハンド)をスナイパーライフルの形に変える。

 そして良く狙って…。

 

「発射」

 

 撃ち出された指は狙い通りに穴の壁に命中…したな。

 これで試せる。

 

反転(スイッチ)!」

 

 弾丸と俺を対象に反転(スイッチ)を発動する。

 すると俺と弾丸の位置が入れ替わった。

 

「よし成功!」

 

 これで俺と弾丸での入れ替わりも出来ることがわかった。

 これで作成の幅も広がりそうだ。

 

「それじゃあ二人もこちらに連れてくるか、ワープゲート」

 

 ワープゲートで二人も連れてきて更に奥に進む。 

 

「ここですね」

「…何か、すごいな」

 

 到着した部屋は壁のあちこちから見るからに高そうな結晶が飛び出した部屋だった。

 

「優真様、鉄鉱石や金鉱石もありました」

「マジで!」

 

 金は水晶と違って確実に金になる!鉄は武器の材料に出来る!こりゃアタリだ!

 

「女王蟻に気づかれる前に採掘するぞ!」

 

 

   ◇◇◇

 

 

「いや~大量に採れたな」

「そうですね」

「大変でした」

 

 鉱山から大量の鉱石を採掘して、俺達はワープゲートで本部に戻ってきた。

 

「灰崎さん、大量の鉱石が手に入ったぞ!」

「それは本当か?!」

「ああ!それもこんなにな!」

 

 俺は異空間倉庫から水晶や鉱石を取り出す。

 

「こりゃあすごいな、これなら沢山いろいろ作れるぞ!」

「おお!そりゃいいな!」

 

 これで更に連合の組織力が上がるぞ!

 

「兄さん今会議開いて!大至急!」

「落ち着け環、全員ここにいるぞ」

 

 すると環が急いだ様子で帰ってきた。





鉱山については今後触れるので無視してください。


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幹部会議


三人称視点です。


 

「はぁ!環が聖魔連合所属だってことがバレた?!」

 

 環が全日本魔法少女連盟から戻ってきて直ぐに、メンバー全員を集めた会議が開かれた。

 議題は無論、天の声のことである。

 

「これに関しては仕方がないよ、何せ相手は探知系だからね。しかもどういう原理で探知してるのかもわからないから対策は不可能」

 

 天の声は探知系統の魔法を持っていることはほぼ確定だが、それが分かったところで特にどうすることも出来ない。

 

「灰崎さんは黒曜団にいた時に探知系魔法を持っている魔法少女の話を聞いたことあるか?」

「いや無いな。ただ、一度も戦闘に出ていない幹部の情報を魔法少女が知っていたっていう話はわりと聞いたことはある。確かに探知系統の魔法を使えば情報を知られていたことにも納得できる」

 

 灰崎曰く、黒曜団に入った時には既に情報が魔法少女に漏れるということはどの悪の組織にもある程度あったらしい。

 始めはどの組織も裏切りを疑ったが、裏切り者を処分しても情報漏洩がなくならなかったとのこと。

 この事を灰崎は黒曜団の先輩から聞いたらしい。

 

「で、天の声は何か言ってたか?」

「えっと、八世召って人を探すことを条件に私のことは黙っていてくれるって。それと無理やり従わされているようだったよ」

「なるほどな…」

 

 正直、探知系統の魔法を使っても見つけられないんだったら、環に頼んだところで無駄になる可能性の方が高い。

 

「優真様、その天の声と名乗る人物は環様の事を言うつもりが無いのでは?」

「セレネもそう思うか?」

 

 そうなると、セレネの言うとおり始めから言うつもりが無いという可能性が高くなる。

 しかしそうなると、何故環に接触してきたのかという謎が残る。

 

「恐らく、環に頼んだのはダメ元だろうな。それで八世さんを探してくれれば御の字ってことだろう」

「それで、結局探すのか?」

 

 灰崎の質問通り、現段階では八世召を探す理由がこれといって無いのだ。

 天の声が仮に本当に報告したとしても、月に避難すれば良いだけだからだ。

 

「…探しておいた方が良いだろうな」

「兄さん何で?」

「環が言った通りなら、天の声は魔法少女連盟に従ってるのは何かしらの理由があるはずだ。それが仮に八世さんを人質にされてるからなら、探し出して解放すれば天の声は魔法少女連盟に従う義理が無くなる。そしたら相手は探知役がいなくなるからこちらが動きやすくなるって訳だ」

 

 優真の発言に全員が納得する。

 

「八世さんの探索はセレネに頼みたい。国のホームページにハッキングか何かすれば情報出てくるだろ」

「承知しました」

 

 なお、優真は既に環があらかた調べ尽くして情報が見つからなかったことを知らない。

 その為後日セレネがオーバヒート寸前まで稼働し続けることになるが、それはまた別のお話。

 

「あと全員この場に居るからついでに報告会するぞ。まずはセレネと元花が鉱山を見つけたことだな。俺も探索に同行したが、中は身体の一部が結晶化した蟻達の巣だった。そしてその奥から大量の結晶と鉄鉱石などが出てきたが、環ここ作る時に何か混ぜたか?」

「混ぜてないよ!だいたい私の魔法は生命魔法、鉱石とは関係ないでしょ!それに鉱山が有ったなんて今初めてしったし!」

 

 結局、鉱山については何も分からずじまいだ。

 

「次は元花が学校に行くかどうかだが、どうするよ?」

 

 元花を優真と環の学校へ入学させるための編入手続きや戸籍偽装などは済ませてあるが、魔法少女連盟に探索役が居ると分かった今、元花を学校へ行かせるのには不安が残る。 

 

「あの…私は別にかまいませんよ、逃げ足には自信がありますし。それに…皆さんの役に立ちたいので」

 

 しかし、この話題については元花本人から学校へ行くと申し出があった。

 

「本当に良いのか?」

「はい」

「…分かった、それじゃあ元花はこれより聖魔連合の諜報員に任命する、その隠れ蓑として学校に通ってくれ」

「わかりました」

 

 元花の素材となった猫は足音を立てずに素早く移動ができる。諜報員にもってこいの能力だ。

 それに元花は性格上あまり戦闘が得意ではないので諜報員は役に合っていた。

 

「それと灰崎さん、頼んでたの出来てるか?」

「出来てるよ、ついさっき完成した」

 

 灰崎が持ってきたのは猫耳と人耳が付いたカチューシャのようなものだ。

 

「これが頼まれてた元花の猫耳を隠す機械だよ。早速着けてみてくれ」

「わかりました」

 

 元花はカチューシャの猫耳部分を自分の耳にはめるように身につける。

 

「そうしたら脇のボタンを押してくれ」

 

 元花が灰崎に言われてボタンを押す。

 すると、猫耳の部分が透明になり見えなくなる。

 

「これなら、バレずに学校行けるだろ」

「すごいな灰崎さん、ありがとな」

「良いって。その代わり、今後とも資金などの提供を頼むぞ」

「そのくらい任せろ」

 

 灰崎が作ったこのカチューシャ形機械があれば、元花は問題なく学校てへ行ける。

 対価に灰崎は資金を要求したが、優真はもとより資金は大量に渡すつもりだったので問題はない。

 

「そして最後だが、環、お前の武器が出来たぞ」

「本当!」

「ああ、俺が帰ってくる少し前に完成したらしい。灰崎さん持ってきてくれ」

「わかった」

 

 実は優真達が帰る少し前に盾は完成していた。

 優真の武器を作った時間よりはるかに時間がかかった。

 

「持ってきたよ」

 

 灰崎が持ってきた盾は、ゲームの武器区分で言うとこの大盾だ。

 元は純白だった色は血のような赤色になり、中心には桜のマークが描かれている。

 

「すごい!すごいよ灰崎さん!」

「そうだろ、その盾の機能は【吸血】と【怨みの重み】って機能だな。【吸血】はそのままの意味で血を吸うことで自動的に修復する。【怨みの重み】は相手を憎めば憎むほど自身を強化するらしい。【吸血】は血液を使ったからだろうけど【怨みの重み】はそれだけ環が魔法少女を怨んでたんだろうね」

 

 環の魔法少女に対する怨みは相当なものだ。

 過去に行った幹部会議(仮)の時に魔法少女は絶対に殺すと宣言しているくらいだ。

 

「【吸血】に【怨みの重み】か…自分でもびっくりだよ。確かに魔法少女を怨んでるけど武器にまで反映されるとは。けど桜要素どこ行った?」

「多分だけど、桜の木の下には死体が埋まってるって言うから、そこから【吸血】の機能が来たんじゃない?」

「確かにそうかも」

「ねえ環、その武器の名前どうするの?」

 

 環の疑問について優真が答えた後、アルが武器の名前をどうするのかの質問をする。

 

「そうだな…血を吸う盾に桜のマーク、決めた!この盾の名前は血吸い桜(ちすいさくら)よ!」

 

 こうして環の新たな武器である盾は血吸い桜に決まった。



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元花の初登校


環視点です。


 

「ねえ今日転校生が来るらしいよ」

「マジで!男性?女子?」

「女子らしいよ、それも美人らしい」

 

 そばでクラスの男子達が会話している。

 今日は元花が私達の学校へ編入してくる日だ。

 そのせいかクラス全体が浮き足立っている。

 

(てかよく同じクラスに成れたな)

『それは灰崎やセレネが頑張ったらしいよ、どうやったかは知らないけど』

(いや本当によくやってくれたよ灰崎さん達は)

 

 あの二人がいなかったら元花は学校行けなかったし。

 ちなみにアルは変身した時みたいに一体化して連れてきている。腕だとさすがにバレるので今はお腹辺りと一体化している。

 というか変身無しでも魔法はある程度使えたことが一番の驚きだ。

 まあこのお陰でアルを連れてこれたりしたから有りがたいけど。

 それと盾については植物判定だったみたいで、小さく出来たのでヘアピンにして着けてきた。

 変身しなくとも魔法が使えるお陰で盾を小さくしたままにできている。その小さくした盾を灰崎さんにヘアピンにしてもらった。

 

「お~い席に着け、朝会始めるぞ」

 

 お、先生が来たみたいね。

 

『それじゃあ用があったら起こしてね』

(わかったよ)

 

 アルは恐ろしく燃費が悪いから用事がある時以外は寝ることでエネルギーを節約している。

 

「もう知ってる人もいるかもだが、今日は転校生が来るぞ」

「先生~女子ですか?」

「女子だぞ」

 

 転校生が女子だと分かると男子達が歓声を上げる。転校生が珍しいとはいえ、そこまで女子転校生に歓声あげる?ほら女子が冷たい視線を向けてるわよ。

 

「入って来てくれ」

 

 先生に呼ばれて元花が教室に入ってくる。透明化猫耳カチューシャはちゃんと機能しているっぽいね。それと尻尾はスカートに隠れてる。あと何か動きがぎこちないけど大丈夫かな?

 

「それじゃあ自己紹介をしてくれ」

…苗又元花です…よろしくお願いします

 

 …元花~声が小さいよ。

 

「元花~もっと声出して~」

「え!環さん?!」

 

 あれ~何か驚いてるけど同じクラスだって知らなかったのかな?(正解)

 

「黒榊と苗又は知り合いだったのか。それじゃあ改めて大きな声で自己紹介してくれ」

「は、はい、苗又元花です、好きな食べ物は魚介類です、これからよろしくお願いします」

「というわけで、これから苗又と仲良くしてくれ。苗又の席は黒榊の後ろだ」

「わ、わかりました」

 

 あぁ、道理で朝から私の後ろに机があったのか。

 

「ちょっと環さん!同じクラスなんて聞いてないんですけど?!」

「いや~てっきり聞いてるものかと、それと元花」

「何ですか?」

「頑張れ」

 

 周りを見ると、朝会が終わって休憩時間になったクラスメイト達が今にも元花の元に集まろうとしていた。

 

「転校生の宿命だ、質問責め、頑張って」

「え、ちょ、助けてくださいよ!」

 

 改めて、頑張れ!元花! 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 元花は予想通り質問責めになったが一限が始まりそうになったのでようやく解放された。

 

「お疲れ、大丈夫…じゃなさそうだね」

「はい…皆さん勢いが凄くて…それで慌てちゃって…」

 

 元花ってやっぱコミュ障気味だよね。

 

「それはそうとこれから授業だからまた後で」

「はい…」

 

 それから午前の授業は特に問題無く進んだ。元花が着いていけるか心配だっけど問題無く授業を理解できていた。

 そして午後、体育の授業で元花がやらかした。

 

「よ…4秒57…」

 

 体育の授業は、50メートル走のタイム計測だったのだが、元花が男子高校生の平均タイムを大きく越える記録を出してしまった。

 

「ちょ、元花!ちゃんと力セーブした?!」

「え?しましたけど…もしかしてまだ速かったですか?」

 

 もしかしなくても速すぎるわ!

 元花の最高速度は時速200キロくらいだから遅くするように言ったのに!何で明らかな人外記録出してんの!

 

「苗又、もう一度計測していいか?」

「?、わかりました」

 

 そりゃこんなタイム出れば先生だって計り間違いを疑うよ。

 そしてもう一回計ったタイムは…。

 

「4秒49…」

 

 何でさっきより速くなってんの?!さっき注意したよね!

 

「凄いぞ苗又!」

「苗又ちゃん凄い!」

「え、あ、ありがとうございます」

 

 まあ、これがきっかけで元花がクラスに馴染めたからいいか。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 それから元花も学校に慣れ、陸上部との対決などがあったらしいが特に何事もなく向かえた金曜日。

 その夕方のニュースで気になることが速報で知らされた。

 

『速報です。今日昼過ぎ、栃木県那須町で住宅一棟が全焼、隣接する住宅三棟にも燃え移る火災が発生しました。近隣住民は避難しましたが、全焼した住宅に住む酒井夫婦が死亡、長女の酒井菫(さかいすみれ)さん(14歳)と連絡が取れなくなっています。近隣住民によりますと出火の際は特に異常は無くいきなり出火したとのことです。警察は悪の組織の犯行を線に捜査を進めていくとのことです』

 

 栃木県で起きた住宅火災のニュース、これに何故か引っ掛かる。

 

「少し元花と調べてみるか」





今後出す暇が無いのでここで出す設定、1
元花に人耳は無い

今後出す暇が無いのでここで出す設定、2
この物語の世界の50メートル走の平均タイムは、2023年現在の平均タイムより1秒ほど速い

今後出す暇が無いのでここで出す設定、3
魔法少女の変身アイテムは武器など


元花と陸上部の関わりはそのうち書きます。
来週はリアルの都合で投稿は休みます。


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閑話 元花と学校


元花視点です


 

 

(1)質問

 

 どうしよう完全に囲まれた。

 自己紹介が終わったら机の周りに他の子が集まってきた。しかも環さんは何か頑張れって言って助けてくれないし。

 それにあまり会話したこと無いからちゃんと受け答えできる自信が無い。

 

「ハイハイ!私から質問!環と親しそうだったけどどういう関係?」

 

 あ、私の意見は無視ですか。

 

「環さんの家に居候している者と宿主の関係ですね、身内の不幸があって路頭に迷っていたところを助けてもらいました」

「あ…うん、ごめんねこんなこと聞いて」

 

 嘘はほぼ言っていない、後はこれで周りが離れてくれれば…。

 

「次は私がしてもいい?」

 

 あ、離れる気は無いと。

 

「ちょ、この状況でまだ質問続けるの?!」

「あ…別にかまいませんよ、気にしてませんし…それに私みたいな子も珍しくありませんし」

 

 魔法少女と怪人が現れてから孤児は増えているらしい。だから親がいない理由としてはちょうどいい。

 ま、私こと苗又元花は怪人なのでそんなことは知ったこっちゃないですが。

 

「ほら、本人も良いって言ってるじゃん」

 

 いいとは言ったけどマジで質問続けるんだこの人。

 

「それじゃあ元花ちゃんの特技って何?」

 

 い、いきなり名前呼びですか。

 

「走るのが得意ですね、これでも結構速いと思います」

「そうなんだ!それじゃあ4限の体育で走るとこ見せてよ!」

「わ、わかりました」

 

 あ、圧が凄いな。

 

「次は『キーンコーンカーンコーン』あ、チャイムなっちゃった」

「そ、それじゃあ皆さんまた後で」

「また後で」

 

 …疲っかれた~、あんなに話したの初めてだからとても疲れた。こんなノリで今後の学校生活耐えられるかな?

 

 

   ◇◇◇

 

 

 (2) 陸上部

 

「おい!苗又って奴はいるか?!」

 

 学校が終わり放課後、廊下から凄い大声で呼ばれた。

 

「わ、私が苗又ですが…どちら様ですか?」

 

 私を呼んだのは知らない男子だ。勿論あったこともない。

 

「俺は赤川操(あかかわそう)だ!苗又!俺と勝負しろ!」

「???」

 

 何言ってるんですかこの人?いきなり人を呼んで勝負しろは非常識が過ぎる。

 

「苗又は足が速いらしいな、俺も足の速さには自信がある、だから勝負しろ!」

「何で私があなたと勝負する必要があるんですか」

「…確かに」

 

 あ、この人アホだ。今のちょっとの会話で分かるくらいアホだ。

 

「環さんこの人は?」

「赤川くんのこと、確か隣のクラスの陸上部だったはず。性格は…まあ見ての通りアホ、ただし根性はピカイチだよ。それと桃山先輩とは従弟だったはず」

 

 …なんと言うか、愛すべきアホみたいな人ですね。それと桃山さんと従兄ですか。桃山さんって確か魔法少女でしたよね。

 

「元花行ってくれば?人と関わる練習だと思って」

「鬼ですか環さん?!」 

 

 ただでさえ口下手なのに何で関わらないといけないんですか?!

 

「じゃあ言い方を変える。聖魔連合の諜報員として魔法少女の身内との交流関係を作ってきて、後コミュ障も治しておいで」

「まあ、そう言うことなら。あとコミュ障じゃないです」

 

 ちょっと口下手なだけです。

 

「はぁ~わかりました、一戦したら戻ります」

「お、勝負してくれるのか!それじゃあ今からグラウンドに行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 いきなり引っ張るな~!

 

 

 

 

 

「よし、さっそく勝負しよう!」

 

 こいつ…無理やり引っ張りやがって。こうなったらさっさと終わらせましょう。

 環さんには悪いですがこっちが持ちません。

 

「わかりましたよ、さっさとやりましょう。で、勝負のルールは?」

「そうだな…じゃあ体育と同じ50メートル走で、スタートのアイズは俺のスマホのタイマーが鳴る音がアイズな」

「わかりました」

 

 私と赤川くんがスタートの準備をする。

 

「それじゃあ5秒後な、タイマーオン!」

 

 タイマーがカウントを開始する。

 早く終わらせたいから手加減しつつもなるべく速くする。4秒くらいでいいだろう。

 

『…ピピピ』

 

 よしスタート。

 

(1…2…3…4…ゴール、さて赤川くんは…は?」

「いや~負けた!お前速いな!」

 

 50メートル4秒は人間にしては速いはず。なのに赤川くんは私より0.5秒ほど遅れてゴールしていた。

 

「…足、速くない?」

「あ?そりゃ陸上部なんだから足速いのは当然だろ」

「あ、うん、そうだね…」

 

 違うそうじゃない。私はこれでも怪人なんですよ、何で追い付けるんですかこの人。

 

「それじゃあ、一戦したので私は帰りますね」

「おう!また明日勝負しろよな!俺が勝つまで何回も勝負するからな!」

「はいはい…」

 

 ん?明日?

 

 

 

 

「おい苗又!今日も勝負だ!」

「…何で来たんですか?」

「あ?勝負するために決まってるだろ!」

 

 次の日、上の空で返事をしてしまったが為に赤川くんが今日も勝負をしに来てしまった。

 

「はぁ、何でこんなことに…」

「まあまあ、任務だと思って」

「はい…」

 

 確かに任務でもありますし、勝負を了承してしまったのは私なので赤川くんが諦めるまでは付き合いますか。

 なお、この時の環さんがほほえましくこちらを見つめているのを、この時の私は知り得なかった。

 

 

 





ストーリーの関係で閑話を先に投稿する事になりました。

キャラクター設定
赤川操
身長165cm 男
赤髪
性格 負けず嫌い、すぐに勝負したがる、アホ
桃山桜の従弟
頭は悪くない
アホ


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調べ事


環視点です


 

 

「ここら辺でいいか?」

「いいよ兄さん」

「ありがとうございます優真さん」

「優真ありがとう」

「それじゃあ三人とも、探索よろしくな」

 

 次の日の土曜日、私、元花、アルは兄さんのワープゲートで栃木県那須町に来ていた。来た理由はここで起きた火災について調べるためだ。

 因みにワープゲートは監視カメラ対策で付近の山の中に展開してもらった。

 

 無理して調べる必要はないが、火災のニュースを見たときに勘のようなものが働いたので、聖魔連合副連合長としての立場を使って捜査することにした。

 兄さん達が捜査に同行しない理由は、兄さんと灰崎さんは扱い上一般人になるためあまり詳しい捜査が期待できない。兄さんはレイヴンとして動けはするが、危険を犯してまでする必要はない。

 セレネはロボットなので、今回おこなう聞き込み調査よりネットなどで調べてもらった方がよい。

 

 それに対し私は魔法少女なので、警察に頼めばある程度の情報はもらえるはず。

 それにこの捜査は私のわがままなのであまり迷惑はかけたくない。まあ頼る時は頼るけど。

 

「それじゃあ二人とも、探索の手伝いよろしく!」

「わかったよ!」

「了解しました」

 

 私の合図でアルは地面に潜り、元花は気配を消す。

 今回捜査するにあたり私の部下扱いの二人を捜査の手伝いに連れ出した。

 アルは地中から酒井菫さんの捜索、元花は気配を消してスパイみたく町中を調べてもらうつもり。

 

「さて、私も調査開始といきますか」

 

 あ、変身しておかないと。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「ここか…実際に見るとだいぶ酷いことになってるわね」

 

 火災現場にはまだ焼き焦げたような臭いが充満しており、警察官が現場を囲んでいた。

 

「すいません、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」

「ん?なんだ君、ここは危ないから離れててね」

 

 …これ明らかに一般人と間違えられてるよね。

 

「あの私魔法少女です」

 

 魔法少女カードを見せれば何とかなるはず。

 

「あ、すいません魔法少女の方でしたか」

「いえいえ、私もコスチュームがほぼ私服なのは自覚してますので」

 

 まあ、このお陰で多少目立つけど変身したまま町中を調査できるのはありがたいけどね。

 

「それで、魔法少女さんがここに何の用で?」

「ニュースでここの火災のことを知りましてね、それで気になって来てみたんです。こちらでも調べたいので今わかっていることを出来れば教えてもらえませんか?」

「ん~、ちょっと待ってて、警部を呼んでくるから」

 

 よし、警部を呼びに行ってくれた。こうした情報収集は現場のトップに聞くのが一番早いからね。

 お、来たみたい。

 

「こんにちは魔法少女さん、私が警部の栃木圭吾(とちぎけいご)と申します」

「いきなりすいません、魔法少女のオウルと申します」

「それでオウルさん、なぜこちらに?」

「この火災の情報が欲しいからですが…聞いておりませんか?」

 

 私確かに火災のことを調べに来たって言ったよね?ひょっとして聞いてない?

 

「ええ、確かに聞いています。だからこそ改めてお聞きしたのです、魔法少女が警察に情報を求めること自体、私は聞いたことがない」

「え?普通は聞かないんですか?」 

「ああ、そればかりか私たち警察の捜査の邪魔をしてくるくらいだ。だからこの目で確認するまで信じられなかったんだ」

 

 何か魔法少女が思ってたよりクズなんだけど。

 

「それは本当に同業者がすいません」

「いえいえ、オウルさんは関係ありませんので。それで、具体的には何が聞きたいのですか?」

「聞きたいことはこの火災の出火原因と、酒井菫さんの行方ですね。その他だと酒井さんの個人情報を聞くようなことになってしまいますので」

 

 まあ、個人情報に関しては既にセレネに調べてもらっている。

 ニュースで流れていた情報の他に出てきた情報は、菫さんが不登校だったこと、父親が売れない画家ということ、児童相談所の記録に酒井菫さんの名前があったことだ。

 

「そうですね、それくらいだったらお伝えできます。まず出火原因ですがホスフィンだったことですね」

「ホスフィン?」

「引火性が極めて高く自然発火の危険性もある薬品です。絵画の修復にも使われることもあります。これだけなら家の主が画家だったので事故で捜査したのですが、火災が起こる少し前にガス線が破壊された形跡がありましてね、それが理由で事件として調べているのです」

「あれ?悪の組織の仕業で捜査していたのでは?」

「そんなことマスコミが勝手に言っているだけです」

 

 まあ確かに、悪の組織の仕業といえば視聴者の感心は集まるか。実際私もそれが理由で来たし。

 

「それと酒井菫さんに関してはこちらも捜索中でして行方は未だにわかっておりません」

「そうですか…わかりました、ありがとうございます」

 

 ここで手に入れられる情報はこんなものか。もう少し周りを探索したら二人と合流するか。



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行方


環視点です


 

「それじゃあ二人とも、情報共有をおこなうよ」

 

 昼過ぎになり、私は二人近くにあったカフェでと合流した。これ以上調査してもあまり情報が出てこなさそうだったからね。なら早めに情報共有して、午後から三人で調査をすることにしたのだ。

 因みにアルは植物人形(リーフドール)になってカフェに入店している。

 

「まずは私からね、わたったことは出火原因がホスフィンっていう薬品であることと、出火する少し前にガス線が破壊されていたことだね。あと悪の組織の仕業っていうのはマスコミが流したデマだった」

「え、それじゃあ無駄足だったの?」

「私のところはね」

 

 本当に申し訳ない。

 

「元花はどう?」

「私の方は、火災があった時に家の中から人が飛び出して来てそのままどっかへ行ってしまったという情報を仕入れました、それ以外は特にありませんでした」

 

 元花の方もあまり情報が集まらなかったっぽいね。

 

「アルは?」

「ん~とね、地面に毒の道ができてたよ」

「は?毒の道?」

「道っていうより跡って言う方が正確かも、地面に毒が染み込んでる感じだったから」

 

 ここに来てようやく重要な情報が手に入った。しかし毒か…酒井菫さんが巻き込まれた事件って火災だよね。何で毒?

 

「ひょっとして火災を起こしたのは菫さんでは?」

「どうして元花はそう思ったの?」

「だって火災原因って薬品ですよね、薬品も一応は毒です。それにガスだって広い目で見れば毒です。それで事前情報から推察するに恐らく虐待を受けていたはずです。そしてそれが原因で毒に関する魔法が発現したら…」

「その毒が理由で火災が起こると…」

 

 確かにそれなら菫さんが行方不明になっている理由がつく。恐らくだが火魔法の魔法少女が自分の火で火傷しないように、菫さんも魔法が発現した時に毒に耐性を得たんだと思う。

 まあ、偶然で片付けられそうではあるが、こちらにはアルが見つけた毒の痕跡の情報があるから、その情報を加味したらほぼ確定だろう。

 それに菫さんからしたら燃えた家は自分を虐待した家族の家だ。火災が起きてすぐにどこかえ逃げてもおかしくない。

 

「よし!午後はアルが見つけた毒の跡をたどってみよう!」

「「はい!」」

 

 

   ◇◇◇

 

 

「それにしてもよく見つけたね」

「よく見ればわかるよ、まあ雨が降ったのか薄くはなってたけど」

「雨…昨日の夜確かに降ってましたね」 

 

 しかしよく見つけてくれたよ、アルの情報がなければ完全に無駄足になるところだったし。

 

「ここら辺だよ」

「ここは…どこですか?」

「ちょっと待って調べるから…那須湯本温泉だって。殺生石があるところだよ」

 

 確か九尾の狐が封印された石だったはず。

 

「ねえアル、本当にここ?」

 

 日中なのもあって観光客が多いから誰かしら菫さんを見てそうだけど。

 

「うん!着いてきて!」

「わかった…て!ストップ!そっちは危険だよ!」

 

 危なかった、そのまま進んだらアルが毒ガス地帯に突っ込むところだった。

 

「今魔法かけるから待って、毒耐性(ベノムカット)

 

 この魔法は自動回復(オートヒール)の応用で、毒の抗体を体内で作り続ける魔法だ。他にも各種状態異常耐性の魔法は作ってある。

 

「それじゃあ行くよ!」

 

 

 

 

「もうすぐだよ」

 

 しばらくアルに着いていって本通からかなり外れたガスの噴出口近くにまで来た。

 

「この当たりなんだけど周りにガスが多すぎてこれ以上はわからないよ」

「わかった、ありがとうアル。それじゃあ手分けして探しますか」

 

 アルと元花と別れて探索を開始する。

 

「けどどこに「見つけたよ」早!」

 

 ウッソだろもう見つけたのかよ!

 

「こっちこっち!」

 

 見つけたのはまたもアル、本当に今回の調査のMVPだよ。

 

「…あなた達、だれ?」

 

 





 追加を希望するタグがあったらコメントで教えてください(必ず追加するとは言っていない)


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動機

環視点です


 

「あなたが酒井菫さん?」

 

 所々破れたゴスロリ服に手足の鎖、これだけ特徴的な服は魔法少女のコスチュームしか私は知らない。

 背中には変身アイテム兼武器と思われる黒い大鎌を背負っている。

 濃い紫の髪は何年も切っていなかったのか引きずっているが右半分が焼け落ちており、全身にアザと火傷がある。それに顔も大火傷で、元がどういう顔だったのかもあまりよくわからない。

 火傷があるのは想定外だったけど、よくよく考えれば毒に耐性があるだけで炎には耐性があるわけではないから火傷するのは当然か。

 

「そうだけど…あんた達だれ?場合によっては…殺すよ」

「お~怖い怖い」

 

 そりゃ虐待をずっと受けていたら人間不信にもなるよね。それに魔法少女になって本当に殺せる力を得たからか本当に殺しかねないな。

 

「質問に答えて」

「わかったからそんなに殺気だたなくていいよ。私は黒榊環、一応魔法少女やらせてもらっているよ」

「私はアルだよ!」

「キャットガールです」

 

 そうそう、元花には活動中に正体がばれないようにキャットガールと名乗るように言ってある。

 

「質問に答えたからこちらから質問するよ、菫さんは何でここに?」

「別に…あんた達には関係ないでしょ」

「ふ~ん、そっか、アル、キャットガール、一応周りを警戒しておいて」

「わかった」

「承知しました」

 

 これでは話を聞き出すのは長引きそうだから、アルとキャットガールを周りの警戒に当たらせる。

 それに一対一の方が話しやすいかもしれないし。

 

「それで、改めて聞くけど何でここに?」

「だから関係な「復讐しようとしてる?」っ…!」

「…え、まじで復讐なの?」

 

 場をなごませようと適当に言ったのに当たってしまった…。それじゃあ誰に復讐をしようと?両親は火災で死亡したはずだし、後の候補は…。

 

「復讐相手って虐めの主犯?菫さん不登校だったみたいだし」

「…そうだよ」

 

 やっぱりか、両親以外に復讐する相手なんて虐めの主犯ぐらいしか思い付かないからね。

 

「次の質問だけど、火災を起こしたのは菫さんであってるよね?」

「…そうよ」

 

 やっぱり火災は菫さんが原因か。事故の可能性もあったけど本人がやったと言ったから間違いないだろう。

 

「復讐する理由を聞いていい?誰かに話してみれば少しは気が楽になると思うよ」

「…だからあんたには関係ない」

「それじゃあ言い方を変えるね、話せ酒井菫」

「!」

 

 意地でも話さないのなら、脅してでも話させる。しかもここまで調べた時点で無関係ではない。

 

「なぜ、復讐しようとする?」

「…初めは気にくわないって理由で一人から虐められてた」

 

 お、やっと話す気になってくれたか。

 

「それがエスカレートしてその一人がリーダーのグループ全員から水をかけられるなどの虐めを受けて学校が嫌になったけど、家にいても暴力を振るわれるだけだから我慢して学校に行ってた」

 

「けどね…ある日知ってしまったの、虐めグループのリーダーが魔法少女に変身して、怪人を倒して周りから称賛されるところを!」

 

「もちろんあいつが虐めをおこなっていることを学校に伝えた!しかし学校は虐めを無かったことにした!その時なんて言ったと思う?『魔法少女がそんなことするはずがないじゃありませんか』って言った!学校はあいつが魔法少女っていう事実だけで私の言い分を無かったことにした!」

 

「どこに相談しても同じだ!あいつが魔法少女ってだけで私の言い分を否定する!」

 

「だからもう何も信じないし頼らない!暴力を振るったクソ両親は私の魔法で殺した!魔法が使えるようになったのは偶然だったけど殺せる力を手に入れた!あとは!」

 

『オウルさん!何者かがオウルさんの所に接近中!』

「はぁ?!」

 

 まさか菫さん、ここに…。

 

「あとは!あんたを殺すだけだ!」

 

 虐めの主犯の魔法少女をよんだのか!



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被害状況


環視点です


 

「あれ~確かにこの辺だけど…」

 

 火山ガスの中から現れたのは、体に風をまとった魔法少女だ。

 

「あんた、この辺で怪人見なかった?」

「見てないですが、あなたは?」

 

 さっきの菫さんの説明からこの魔法少女が虐めの主犯の可能性がある。直ぐには信用出来ないししたくない。

 

「私?私は風見鴇(かざみとき)、この当たりで風の魔法少女をやってるよ、あなたは?」

「…私はオウルです、つい最近魔法少女になりました」

 

 …以外と話通じるな。

 

「にしても酒井曰くこの当たりで怪人が出たらしいんだけど…」

「酒井?」

「私たちのストレス発散相手、最近はめっきり学校に来なくなったけど昨日いきなり連絡が来たんだ」

 

 前言撤回、やっぱこの人クズだ。

 

「にしてもあの火災でよく生き残ったよ、そのまま死ねば良よかったのに」

 

 こいつドクズだ。

 

「にしても、酒井に電話番号教えたっけ?」

「…それに関してはあなたはのグループの一人から聞き出しましたよ」

「え、酒井いたの?」

 

 今ごろ気づいたのかよ。

 

「酒井、何で私をここによんだの?」

「そんなこと決まっているじゃないですか…あなたをぶっ殺すためだ!」

 

 ちょ、菫さんなにする気?しかもこのタイミングで勘が働いている。

 

「ベノム·オーシャン!」

「アル!キャットガール!全力で退避!一秒でも速くここから離れろ!」

 

 菫さん、私たちもいるのに毒液を全力でブッパしやがった!よく見ると周りの火山ガスも巻き込んでるから毒の濃度や危険性が上がりまくってる!

 この濃度になると毒耐性(ベノムカット)でも防ぎきれるかわからない! 

 

「血吸い桜!」

 

 即座に盾を展開したが防ぎきれるか?

 

「痛!」

 

 足に少し毒がかかったっぽい、かかった所が少し溶けてる。直ぐに回復(ヒール)で修復しないと。

 

「…止まった?盾は…凄い無傷だ!周りは…ひどいなこりゃ」

 

 毒液が止まったので周りを見ると、当たり一面毒の海と化していた。地面も一部が溶けて火山ガスの噴出口が広がりガスが勢いよく吹き出している。

 というか…。

 

「観光客無事だよね…」

 

 毒耐性(ベノムカット)ありで足が溶けるレベルの毒だ。かかったらほぼ即死だろう。

 

『オウル~!』

『オウルさん無事ですか?!』

 

 お、通信機から声が聞こえるってことはアルとキャットガールは無事だったみたいね。

 

「こっちは無事、二人とも被害状況は?」

『観光客はほとんど死亡してしまいました、それと火山ガスが充満し始めています』

『町の方にも毒が飛んでいったよ』

 

 町に毒?それに観光客がほぼ死亡?菫さんは魔法少女に向かって毒を放ったはず、なぜ観光客が死亡し町に毒が?

 

「あ~あ、酒井のせいで人が死んじゃった」

「それはあんたが毒を弾き飛ばしたからだろうが!」

 

 なるほど、風見が毒を風で吹き飛ばしたからか。それなら離れた場所にいた観光客が死亡したのも納得はいく。

 それにさっきの勘は恐らく誰かの死の予感だろう。てかそれ以外に勘が発動しそうなことはなかったし。仮に攻撃に対して勘が発動してたとしても、それ以前に勘が発動していないのはおかしいしね。

 にしてもあいつ、周りの状況を確認して防げよ、似たような理由で私のお父さんとお母さんが死んだから余計に気分が悪い。

 てか早くしないと毒の第二波がくる!対策は…あ、そうだ!

 

「確か栃木警部の名刺が…あった!」

 

 これで連絡が取れる。なるべく早く出て…。

 

『はい!こちら栃木警部!連絡は後…』

「こちらオウル!栃木警部すいません説明は後で!那須湯本温泉付近にて魔法少女が交戦中、魔法少女は風見鴇、相手は毒を使う模様!その余波で毒が撒き散らされてます!今すぐ避難誘導をお願いします!」

『なに!まあわかった、こちらで避難誘導を行う!』

「ありがとうございます!」

『あ、ちょっと…』

 

 よし、これである程度被害は軽減されるはず。

 

「さて、これからどうするか…」

 

 少し奥の方で菫さんと風見が戦っている。避難誘導の指示も出したからぶっいちゃけやることがない。

 菫さんをサポートしようにも、これは菫さんの問題なので部外者が介入していいのかわからないしそもそも近付けない。

 だけど問題は…。

 

「菫さん、押されてるよね」

 

 魔法の熟練度の違いか、明らかに菫さんが押されている。下手をすればそのまま敗北してしまう。というか元から勝ち目があまりない気がする。

 

「ウインドカッター!」

「ぐは…」

「げほげほ…やっとくたばったね」

 

 やっぱり、菫さんが負けるよね。

 

「それじゃあ止め(とどめ)といきますか」

 

 しょうがない。

 

「ウインド…」

 

 思想が似ていて仲間にできそうだし…。

 

「カッター!」

 

 助けますか!

 

 

 

 

 

 

 

 



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事前計画


環視点です


 

植物盾(リーフシールド)!」

「な!、あんたなにしてんの?!」

 

 良かった間に合った。

 

「なん…で…」

「何でって、私があなたと同族だからだよ」

 

 今どき、魔法少女を嫌っている人間は悪の組織を除くとほぼいない。

 

「それに菫さん、その大怪我の状態では戦って勝てるとは思えないのだけど、ひょっとして道連れにする気だった?」

「っ!」

 

 やっぱりね、確かに毒は強力だけど大怪我してるし、何より相性が悪すぎる。

 菫さんが相手の魔法を知らないはづはないから何かしらの策はあった筈だけど、その道連れ作戦を実行する前にやられることは想定してなかったのかな?

 

「ともかく、菫さんは自分の命を捨てるって認識でいい?」

「…えぇ、あいつを殺せるのなら、自分の命なんて捨ててやる!」

「じゃあさ、私がその命拾っていい?」

「…え?」

 

 目の前に自分から生きることを放棄した命がある、これを仲間に加えない手はない。

 

「ま、返事は後でね、まずはあいつを倒さないと」

「…やっと話は終わったみたいね」

「まあね、それより攻撃しなくて良かったの?」

「攻撃しなくとも余裕ってことよ!」

 

 風見が風で攻撃してくるがある程度は躱せた、少しかすったが直ぐに回復できる。

 しかし…どうしよう、相手は空を飛んでる上に私の攻撃手段である植物は毒のせいで殆ど使えない。足元は毒だらけだから打ち落とせば、相手は毒耐性が無いから勝てるけど打ち落とす手段がな…いやあるな。

 

「またぶっつけ本番だけどやるか!大丈夫、魔法は想像力でどうとでもなるはず!」

 

 まずは私に身体守護(ボディガード)自動回復(オートヒール)痛覚軽減(ペインカット)をかける。

 そして新たな魔法…。

 

制限解除(リミッターアンロック)!」

 

 よし、体から力が漲ってくる感じがするから恐らく成功。この魔法は身体のリミッターを強制解除する魔法、そのまま使うと手足が耐えられずミンチになる可能性があるから、そうならないように身体守護(ボディガード)自動回復(オートヒール)をかけた。

 準備は完了、チャンスは一度、外せば負けはしないが逃げられて情報が漏れる可能性があるから実質負け。

 

「今『ボキッ』!」

 

 今明らかにジャンプの拍子に足の骨折れたよね!けど、身体守護(ボディガード)のお陰で足は曲がってないし、自動回復(オートヒール)のお陰でもう回復し始めてるから問題なし!

 

「っ!どこ行った?!」

 

 下では風見が私を探している。今の私の位置は風見の上、この位置からなら打ち落とせる!

 空中を蹴って方向を変える『ボキッ』、また足が折れたけどどうってことない!

 

「即席必殺…復讐の断罪者(オウル·パニッシャー)!」

「!、ウイン…ぐはっ!」

 

 私のただのパンチが命中して風見が落下する。てか今の一撃で腕が変な方向に曲がったけど問題は多分ない。

 

「痛い痛いた、助け…」

 

 風見が痛がっているが当然だろう。毒耐性(ベノムカット)を貫通してくる毒だ、むしろ即死しないことに驚きだよ。

 

「こう…なったら道連…あれ、息が…」

「ん?」

 

 息が…なんて?

 

「…火山ガスですよ」

「菫さん?」

「私の魔法でこの辺りの火山ガスを集めてました。私の毒は空中のあいつには届きませんが、元からある火山ガスならあまり警戒されずにあいつに攻撃できます。後はガスで倒れるまで私自身を囮にして時間を稼げば良かったんです。まあ…その前にあなたが倒してしまいましたが」

 

 なるほど、それなら自分が倒されても時間がたてば相手もガスでそのうち死ぬと言うわけか。

 

「ぜぇ…はぁ…」

 

 その証拠にもうこいつは虫の息、このまま殺すのも…あ、そうだ。ついでだから有効利用しよう。 

 

「なに…を…する…」

 

 何か言ってるけど無視無視。まさかこんなに早く封印を解除することになるとはね。

 

寿命吸収(ライフドレイン)

「や…やめ…」

 

 風見から残りの寿命を吸収していく。やっぱりこれだけ弱ってると人に触れなくても発動するね。

 吸収していくにつれて風見はだんだんとしわくちゃになっていく。

 吸収できた量は…約70年分か。今後、文字通り命を削ることがあっても70年分は無茶ができるね。

 

「終わり…ました?」

「ん?たった今終わったよ」

「やっと…終わ…『バタン』」

「ちょ!菫さん!菫さん!」

 

 

 

 





今後出す暇がないのでここで出す設定

環の寿命吸収は、漫画とかで表示される対象が死ぬまでの時間ではなく、対象が事故などの外的要因を受けずに肉体が寿命を迎えるまでの時間を吸収します。
説明がわかりずらかったらコメントしてください。


来週はリアルの都合でお休みです。


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酒井菫


環視点です


 

「…っ…ん、知らない天井…」

「あ、起きた?」

「オウルさん、ここは?それに体の怪我も無くなってる」

「ここは私たちの本部、逢魔時神社(おうまがときじんじゃ)だよ、体は私の魔法で治しといた」

 

 逢魔時神社、それはさっき相談して決めたこの本部の名称だ。理由は見た目が神社に見えなくもないから神社、逢魔時は悪鬼や悪霊が神社に入り込む時間で悪の組織にぴったりだから逢魔時神社という名称になった。

 ちなみに、御神体は中央の巨大桜でセレネと灰崎さんに至急鳥居を作ってもらっている。

 体の怪我は向こうで応急措置だけしてこちらで治療した。セレネに見てもらったら応急措置が無かったら命が危なかったらしい。

 

「あの~そもそも本部って?」

「ああ、確かに説明しないとね」

 

 

 

  <魔法少女聖魔連合について説明中…>

 

 

 

「わかりました、あの後、どうなりました?」

「あの後ね…」

 

 菫さんが気絶した後、風見鴇の死体は菫さんの毒によって消滅。最終的な被害は魔法少女一名、観光客が多数死亡、住宅街で負傷者が数名という感じだった。

 そして気絶した菫さんと私たちを兄さんがワープゲートで回収したって感じ。

 

「そうですか…」

「あ、菫さんに関しては巻き込まれて死亡したって警察に言っといたから」

 

 あの戦いでたまたま死亡したってことにしてここに連れてきた。じゃないと普通に犯罪だしね。

 てか人殺してる時点で今さらか。

 

「色々ありがとうございます」

「いいっていいって」

「あと、命を拾うって…」

「あぁ、その事?」

 

 あの場では拾うって言ったけど、実際に拾うかどうかは菫さん次第なんだよな。

 

「本当に、こんな私でも拾ってくれるんですか?」

 

 ん?ここは普通もっと反発する所じゃない?

 

「こちらとしては戦力強化の為に拾いたいけど…何でそんなこと聞くの?」

「…今までずっと必要とされなかったから…」

「親からも?」

「うん…」

 

 あ~確かに虐待受けて学校でいじめられればそう思うのも無理無いか。

 こういう時は…。

 

「ぎゅ~てね」

「え!ちょ?!」

 

 思いっきり抱き締める!

 よく悲しいときにお母さんにやってもらったから効くはず。

 

「今までよく頑張ったね、そしてよく耐えてくれたね」

「…私は、頑張ったのでしょうか?」

「頑張ったって、味方が誰もいない中でずっと一人で耐えてきたんでしょ?」

 

 私の場合は兄さんがいたからなんとかなったけど、菫さんは味方が誰一人としていない状況で何年も耐えてきたんだ。

 自殺したくなってもおかしくないのに耐えたんだ、私なら耐えられないよ。

 

「それに、聖魔連合の目的のためにも菫さんの力は必要だよ」

「…本当に、必要としてくれるんですか?」

「必要とするよ、それに、もう我慢しなくていい、好きなように遊び、好きなように食べ、好きなように笑っていい、ここにはもう菫さんに暴力を振るう両親も、虐める魔法少女もいない、だからもう我慢しなくていいよ」

「う、うう…」

 

 ほら、泣くってことは相当色々溜め込んできたみたいだね。

 けど…。

 

「ほら、泣くなら大声で、大声で泣いても、もう誰も文句は言わないから。だから泣いていいよ、菫」

「う…うわ~!悲しかった!つらかったよ~!」

「ほらほら、もっと泣いていいから」

「うわ~!」

 

 改めて、酒井菫、あなたを聖魔連合は受け入れます。



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成果確認


三人称視点です


 

「はい!というわけで仲間になった酒井菫ちゃんです!」

「酒井菫です、環様のお役にたてるよう頑張ります」

 

 場所は逢魔時神社の会議室、ここで仲間になった酒井菫の自己紹介をしていた。

 あの後、菫は泣き疲れて寝てしまい起きたのが日曜日の9時頃だ。

そしてその後に環の付き添いのもと、朝ごはんを食べたり、体を洗ったりしていた。この時に長かった髪を切った。

 

「そうか、これからよろしく酒井菫。俺は聖魔連合連合長の黒榊優真だ。それと環、菫の様子はどうだった?」

「まあ何とかはなったよ、ただ…」

「ただ?」

「忠誠心が私に向いてるみたい」

 

 菫は今までずっと一人だったので、初めて人の暖かみをくれた環に小説などで言うクソデカ矢印が向いているのだ。それこそ、自分の命をいざとなったら迷いなく捨てれるくらいに。

 

「…羨ましい」

 

 なお、環が付き添いで菫の世話をしたことに嫉妬した猫がいたが気にしてはいけない。

 

「それなら環が菫の面倒見るってことでいいか?」

「それでいいよ、菫の命拾ったの私だし」

「それで、話は変わるが菫はどれくらい魔法をコントロールできる?」

「あ~確かに、どれくらい出来るのかは聞いてないね」

 

 今後、一緒に戦うことになった時の為に魔法の熟練度の確認は必要だ。

 

「えっとですね、毒の放出量とコントロールは出来ます」

「…ちなみに毒を薄く出来たりは?」

「無理ですね、濃くすることは出来ますが」

「よし環、すぐに菫の魔法を訓練しろ。このまま戦場に出したら味方も殺しかねない」

 

 優真は即座に環に命令した。

 

「え、何で?」

「お前なら毒被ってもすぐに回復出来るだろ、それにこのメンバーで魔法使えんの環だけだし」

「確かに」

 

 環はすぐに納得した。それに訓練中に仲間が誤って毒を被って死亡する可能性も考えると始めから環しか適任がいなかった。

 

「てな訳で菫、この後から魔法の練習するよ」

「なぜです環様?別に気をつければよくないですか?」

「一般人巻き込むかもよ、そしたらその辺の魔法少女と同じだ」

「直ぐにしましょう!あいつらと一緒なんでいやです!」

 

 魔法少女に虐められていた菫は、同じなのはいやだと納得した。

 

「ひとまずこれでいいな。それじゃあつぎだがアル、確か何か報告あるって言ってたよな?」

「そうえばそうだった!環、マジックターミナルの場所探してた種が枯れちゃった」

「枯れた?」

 

 アルの種は成長速度やその他色々な性能に目が行くが、他にも耐久性に優れている。それこそ雑草並みに強力なため、そんじょそこらの事じゃ枯れることは普通無いのだ。

 

「何でかれたの?」

「海水にやられちゃったぽい」

「なるほど、それなら納得」

 

 植物に塩をかけると弱ってそのまま枯れてしまう。これはアルも例外ではない。

 

「つまり、マジックターミナルは海底、又は海岸部にあるわけだ。方角はわかるか?」

「多分南の方だよ、私からの報告は終わり」

 

 マジックターミナルは海底、又は海岸部にあり南の方角である。この情報だけでもだいぶ相手の本部探しが進んだ。

 

「次は灰崎さんだったな」

「ああ、この前の鴉の手(レイヴン·ハンド)の弾丸、あれを応用した物の試作品が出来た」

 

 灰崎が使用したのは、けっこう前の鴉の手(レイヴン·ハンド)の試し撃ちの時に出たテレポート機能付きの弾丸だ。

 

「あの弾丸からテレポートをするのに必要な要素だけを取り出すことに成功した。試作品として作った物の性能は、使いきりだがボタンを押すことであらかじめ設定しておいた場所にテレポートするって効果だ」

「マジかよ、良くできたな」

「詳しい構造はわからなかったから流用しただけだけどね」

 

 なお、これでも十分化け物レベルなのは言うまでもない。

 

「それじゃあ灰崎さん、その試作品を完成品にするよう頑張ってくれ」

「了解」

「次で最後の報告、そして今日の本題でもある。環、お前宛に全日本魔法少女連盟から手紙が来てる」





すいません文章書くのに詰まりました。
それとリアルの都合で投稿頻度が落ちると思います。


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召集命令と現場

三人称視点です


 

「手紙?」

「そ、何か急ぎの連絡だったぽいけど昨日は忙しかったから渡すのが遅れた。これがその手紙だ」

 

 優真が環に届いていた手紙を渡す。見た目はファンタジー小説に出てくるような古めかしい手紙だ。

 

「え~と…」

 

『全魔法少女に伝令、8月11日に不法投棄怪人の一斉駆除をおこなう。場所は滋賀県と岐阜県の境にある伊吹山。この手紙を受け取った魔法少女は確実に来るように』

 

「……」

 

 内容は不法投棄怪人を駆除するための召集命令だった。

 

「…環、これ」

 

 環はこの手紙を読んで怒っていた。別に召集命令自体に怒っている訳ではない。

 その理由は…。

 

「夏休みつぶれるじゃねえか!」

 

 そう、召集命令の日である8月11日は山の日、そして環にとっては初めての高校の夏休みのど真ん中なのだ。それに移動とかを考えると2日はつぶれることを覚悟しなければいけない。そりゃ環も怒る。

 

「ドンマイ環、それじゃあセレネ伊吹山の地図出せるか?せっかく情報が手に入ったんだ、これを利用しない手はない」

「承知しました」

 

 セレネは目のカメラから伊吹山の地図を壁に写し出す。ちなみにこのカメラは灰崎が改造して取り付けたものだ。

 

「セレネ、この山についての情報は?」

「はい、伊吹山は滋賀県と岐阜県の境にある標高1377メートルの山です。古くから霊峰とされており、古事記などにも名前が出てきます。山域は琵琶湖国定公園に指定されています」

「よく国定公園に不法投棄なんて出来たな」

 

 国定公園とは文字通り国が管理している公園だ。国が管理している場所に不法投棄するのなら、別の場所に不法投棄する方が良いはずだ。

 

「それが、ネットなどで調べてみたのですがここ数十年伊吹山に怪人が不法投棄されたという情報はありませんでした。今から人工衛星を飛ばして更なる探索を行います」

「おい灰崎さん、いつの間に人工衛星なんて作った?」

「優真が洞窟を周回している間だよ」

 

 そうこうしているうちにセレネが遠隔操作する人工衛星が発射される。

 

「もうすぐ見えるはずです」

 

 発射してから二分足らずで伊吹山の映像が画面に写し出される。

 

「やはり怪人はおろか人もおりません。…訂正、人を発見しました」

 

 壁に映し出された映像には白髪の人が山の中を歩いているところが映っている。

 

「あの人なにしてんだ?」

「わかりません、しばらく追跡します」

 

 しばらく追跡していると、白髪の人は山中の洞窟の入り口の前まで来た。

 

「セレネ、場所の記録は?」

「出来てます」

「おい、何か投げる動作してないか?」

 

 灰崎の指摘どおり、白髪の人は何かを投げる動作をしている。その向きは人工衛星のカメラに向いている。

 

「こちらに気付きましたかね?」

「だろうね、すぐに引き返え『ドゴッ』ん?何の音だ?それに映像も切れてる」

「人工衛星が大破しました」

「…まじで?」

 

 白髪の人の投げる映像を最後に、人工衛星はその機能を停止した。

 

「灰崎さん、人工衛星ってそんなに脆いのか?」

「いや、宇宙空間で稼働できてなおかつ隕石にもある程度耐えれるくらいには耐久性があるよ。おそらく、白髪の人の能力か何かで投げられた物によって破壊されたんだと思う。にしてもあの人、人がせっかく作った物を破壊しやがって」

 

 灰崎が怒っているがそれはさておき、おそらく召集命令の原因であろう人を発見できた。

 

「取り敢えず白髪の人に関しては俺とセレネが現場に行ってくる。幸い来週から夏休みだしな。それと環、元花借りていいか?」

「いいよ」

「ありがとう、そしてアルと一緒に菫の訓練監督もよろしくな。灰崎さんは試作品の研究を続けてくれ。以上、会議を終了する」



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伊吹山

優真視点です。


 

「ここか」

 

 会議から数日たった夏休み初日、俺はセレネと元花を連れて伊吹山の麓に来ていた。

 

「それでは案内を開始します」

「よろしく頼む」

 

 セレネの案内で白髪の人が最後に映った洞窟の前まで移動する。ワープゲートで直接いかなかった理由は、もし本当に人工衛星が白髪の人に破壊されたとしたらこちらの存在がばれていることになる。そうなったら出待ちされている可能性もあるためこうして徒歩で移動している。

 

 

   五分後…

 

 

「ここですね」

「そうか、本当にここか?」

 

 セレネに案内された場所に来たはいいが、人工衛星で映った洞窟が無かった。

 

「場所はあってるんだよな?」

「はい」

「少し調べるか、空間認識(スペイシャルレーダー)…総員回避!」

 

『ドゴッ』

 

 何だこの大蛇、いつの間に地中にいやがった。何とかは回避が間に合ったけど気づかなかったら丸呑みにされてたな。

 

「ち、お頭すいません!外しました!」

「大丈夫だオロチ、既に包囲している」

 

 誰の声だ、というか包囲?

 

「レイヴンさん、周りに人が!」

 

 周りに確かにいるな。いつの間に包囲された?

 

「てか人は人でも怪人じゃねえか!」

 

 周りにいるのはさっきの大蛇の他にオーク、ドラゴニュート、ハーピィ、エルフ、ダークエルフ、ゴーレム、オオカミ男、河童、天狗、九尾の狐、八尺様、口裂け女だ。

 そして…。

 

「お前がリーダーか、白髪の鬼?」

「ああ、そちらこそ、人工衛星でこちらを見ていた組織のリーダーか、ペストマスク野郎?」

 

 白髪で額に二本の角が生えた鬼。身長は…150くらいか?人工衛星で見た時に角に気づかなかっのは、角の色が木の葉に似ていて見落としたのだろう。

 

「そうだ、それと俺の名前はペストマスク野郎じゃなくてレイヴンって「おいおい嘘つくなよ」…何のことかな?」

「鬼の特性で、俺は嘘がある程度わかるんだよ。レイヴンって名前は偽名だろ」

 

 なるほどね…嘘かどうかわかるのか。

 

「そうだよ、本当の名前は黒榊優真だ」

「そうかい、それで、優真の目的は何だい?」

「その前に確認だ、その嘘がわかるってことは必然的に相手が本当の事を言ってるかわかるって認識でいいんだよな?」

「ほぼほぼあってる、相手が言っている事が嘘じゃなければ本当の事だしな」

 

 良かった、それならこの囲まれた状況も何とかなるな。

 

「それじゃあ言うぞ、8月11日にここが魔法少女達に襲撃される情報を手に入れた、そこで俺たちはあんたらと同盟を組みたい。本日来た目的は以上だ」

「…!」

 

 囲んでる怪人たちが動揺してるな。

 

「か、頭!あいつらが言っていることは本当か?!」

「…本当だ、この話は無視できねぇ。優真、あんたらには話を聞かないといけないみたいだ、安全面の関係で拘束はさせてもらうがついて来てくれるか?」

「安全が保証されるなら文句はないよ」

 

 取り敢えずこの囲まれた状況から交渉できる状況まで行けそうだな。

 

「そうえば、あんたの名前聞いてなかったな。あんたの名前は?」

「俺?俺は二代目酒天童子、鬼頭白夜(おにがしらびゃくや)様だ」



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伊吹城


優真視点です。


 

「それじゃあミヤ、優真たちを縛ってくれ」

「わかりました白夜様~」

 

 白夜の指示でミヤと呼ばれたダークエルフが俺たちの影から何かを伸ばして拘束した。

 

「影操作か?」

「正解で~す」

 

 やっぱり影操作か。てか、何でこんな強い能力持ちの怪人がこんなところに居るんだ?この様子じゃ、他の怪人の能力もヤバそうだな。

 

「ロック、能力解除して」

「おう、わかった」

 

 ロックと呼ばれたゴーレムが岩に触れる。

 

「解除」

 

 すると岩が崩れて洞窟の入り口が現れた。

 

「これで洞窟を隠してたのか」

「そうだ、着いてこい」

 

 

   

   ◇◇◇

 

 

 

「着いたぞ」

「…すごいな」

 

 まず目につくのは純白の城だ。その周りには城下町があり沢山の怪人がいる。

 そして城の上には土の屋根が広がっている。

 

「山をくりぬいたのか?」

「ああ、魔法少女に見つからないようにな。あの城が根城である伊吹城さ。今からあそこに向かう」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 あの後城下町を移動して伊吹城城内にある牢屋の前まできた。

 

「ビルド、優真を壁に固定しろ」

「承知した」

 

 ビルドと呼ばれたオークが俺の手と壁を接合する。ぴったりくっついてるみたいで取れる気がしない。

 

「他の二人は別の牢屋に入れとけ、固定はしなくていい」

「よろしいのですか?」

「ああ、別に優真の拘束だって名目上だしな」

「わかりました」

 

 そうしてビルドはセレネと元花を連れて牢屋を出ていった。

 

「それじゃあ誰も居なくなったし改めて質問するぞ、ここが魔法少女に襲撃されるってのは本当か?そして、仮に本当だったとしてどうやって情報を入手した?」

 

 ここは書かれてたことそのまま伝えた方が良いな。それに入手経路も。

 

「先に二つ目の質問に答えさせてもらうが俺の妹が組織の二番手兼魔法少女でな、妹宛に魔法少女連盟から手紙がきてそこから襲撃について知った。一つ目の質問の答えだが正確には少し違う、妹宛に書かれた情報では8月11日に伊吹山で不法投棄怪人の一斉駆除を行うと書かれていたから襲撃されるのはここじゃなくて伊吹山だ」

「…嘘じゃないようだな。それと、襲撃は多分ここだ。伊吹山の全域を把握しているが不法投棄怪人はここ以外にいない」

 

 やっぱりここか。それに、これだけの怪人がいるなら魔法少女をありったけ召集した理由も納得がいく。ただの不法投棄怪人なら魔法少女を集める理由が無いからな。

 

「わかった、けど同盟に関してはこちらにメリットがあまり無いように思えるが、こちらが同盟を組むメリットは?」

「新たな移住先、それと食料の提供、他に必要な物があれば準備しよう」

 

 ぶっちゃけ、これ以外思い付かないだけだが。

 

「ふ~ん、優真、そもそも何で俺たちに同盟の交渉をしに来た?話を聞く限りそちらも何のメリットも無いように思えるが?」

「目的のための同士集め」

「目的?」

 

 これも正直に話すか。

 

「俺たちの目的は聖なる者も魔の者も争わず生きれる世界を作ること、その目的のために魔法少女を倒す必要がある。今の魔法少女は怪人だからとか能力を持ってるとかだけで殺してくるからな」

「…そちらが同盟を持ちかけた理由はわかった、それじゃあ今から言う事を達成できたら同盟を組んでもいい」

 

 良かった、何とか同盟を組むかどうかのとこまで交渉できた。さて条件は…。

 

「優真、俺と戦え」

「…は?」

 

 なに言ってんだ?

 

「正直、話した感じ優真の目的が俺たちの戦力目的にしか思えねぇ。だから俺と戦って優真自身の強さを見せてみろ、それで優真が強ければ同盟を組んでやる」

「…武器の使用は?」

「有だ、俺も使うし」

 

 よし、なら何とかなるな。俺は能力は強いが身体能力は怪人や魔法少女に比べるとかなり低いから武器を使用しないとまともな攻撃手段が無いからな。

 

「わかった。けど俺はあまり強くないからな、殺す気で勝ちにいかせてもらうぞ。負けても文句いうなよ」

「ああ、鬼に二言は無い」

 

 

 



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VS白夜②


優真視点です。


 

「っ、まだだ!」

 

 さらにミニガンで弾幕を展開するが白夜には相変わらず滑って当たらない。

 

「よっと」

 

 そして地面に着地した白夜はその勢いのまま地面を液状化して潜った。

 このままじゃジリ貧だな。なら。

 

「異空間倉庫、足場展開」

 

 近づかれない空中へ逃げる。

 異空間倉庫から俺が乗れるサイズの瓦礫を空中に多数展開してそのうちの一つに乗る。

 

「さあ、何処から来る?」

 

 空中にいれば、少なくともいきなり背後を取られる心配はない。土の塊を飛ばされても足場がコンクリートだからある程度は防げる。

 

「おいおい、空中に逃げたのかよ」

「白夜が地中へ逃げたからだろ!」

 

 少しして白夜が地中から出てきたので改めて弾幕を張る。

 

「ち、速くて当たらねぇ」

 

 しかし、白夜が地面を滑るように高速移動を始めたため弾幕が全て躱された。

 

「空中は面倒だな、鬼脚(ききゃく)

「…は?」

 

 弾幕を躱していた白夜がいきなり空中歩行しだした。

 

「てめえ空中歩行もできるのかよ!」

「わざわざ教える義理もないからな!」

 

 白夜が曇天を振るってくるがテレポートで回避する。

 しかし、ほんとどうするか。今まで確認できた能力を使用したと思われる行動は地中移動、弾丸回避、地面滑走、空中歩行の4つ。嘘の判別は鬼としての能力と言ってたから除外するにしてもマジで能力がわからん。

 …これ一瞬の隙をついて早期決着した方がいいな。恐らく体力的にも相手の方が上だし最悪大怪我しても環に治してもらえばいい。

 

瓦礫隕石(ラブルメテオ)!」

 

 まずは広場の上空から異空間倉庫にある瓦礫の全てをぶちまける。自分に当たりそうなのは異空間倉庫へ再度格納すればいい。

 

「おいおい攻撃が雑になってるぞ!」

 

 白夜は曇天で瓦礫を弾いているが問題ない。テレポートで白夜の後ろに移動、一瞬で決める!

 

時空切削(ディメンションバイト)!」

「!」

 

 狙うは腕、触れれば勝利に近づく。

 

「危ね!」

 

 しかし、白夜に曇天の後ろ突きで触れようとした腕を打たれた。今の攻撃で片腕が消し飛んだし滅茶苦茶痛いけど、白夜が攻撃したこの隙を突く!

 

「ワープゲート!」

 

 今まで隠していたワープゲートを白夜の脚元に展開し、両足が入るようにスライドする。この間約0.6秒、さすがに躱されないはず。

 

「解除!」

「!、痛っ!」

 

 ワープゲートが閉じ、白夜の両足が切断される。

 そして飛行機能を失った白夜はそのまま地面へと落下した。

 

「てめえ、さっきの技ずっと隠してたのか?」

「そうだ、そうでもしないと勝てなさそうだったからな」

 

 とはいえ、さっきのワープゲートによる切断はほとんど初見殺だ。それに腕からの大量出血で立っているのがやっとだ。それに比べ、白夜の脚からはほとんど出血していない上、上半身はまだピンピンしている。

 

「まだ戦うか?」

「…いやいい、俺の敗けだ。またさっきの攻撃されたら躱しきれないからな。天魔!試合の決着の宣言を頼む!」

「…は!しょ、勝者、黒榊優真!」

 

 これで、何とか同盟の条件は達成だ。





今後出す暇が無いのでここで出す設定
曇天の重さは約150kg


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VS白夜①


優真視点です。


 

「白夜様、広場の準備が整いました」

「おう、ありがとな天魔(てんま)

 

 牢屋で同盟についての話し合いをし、条件である強さを示すために伊吹城の裏にある広場に来た。そこでは天魔と呼ばれた天狗が神通力らしき力で広場を整えて待っていた。

 

「レイヴンさ~ん!」

「レイヴン様、無事でしたか」

 

 お、セレネと元花も来てたみたいだな。

 

「ああ、この通り五体満足だ。そちらは問題無かったか?」

「ええ、牢屋に入れられただけで特にこれといって拷問などはされませんでした」

 

 どうやらちゃんと無事だったらしい。

 

「白夜様~曇天(どんてん)を持ってきました~」

「ありがとなスカイ、あともう少しシャキッとしろ」

「は~い」

 

 こちらが話している間にスカイと呼ばれたハーピィが白夜の武器を持って来たみたいだ。曇天と呼ばれた白夜の武器は約1メートルほどの棒の両端に鬼の金棒を小さくしたような重りが付いた武器だ。確かモーニングスターって武器だったはず。

 

「さて、観戦者として俺の幹部がいるがいいか?」

「こっちもセレネと元花がいるからお互い様だろ」

 

 広場の周りには俺たちを囲ってた怪人が戦いを見ようと集まっている。

 

「天魔、審判よろしく!」

「承知いたしました、この試合において審判を勤めさせていただく天魔と申します、周りの者は自己防衛が出来るため気にせず戦ってください、両者、準備はよろしいでしょうか?」

「ああ」

「出来てる」

「それでは試合…開始!」

 

『ドンッ!』

 

「よしヒット!」

 

 試合が開始した瞬時に白夜の頭上から丸太数本を異空間倉庫から取り出してぶつける。そこからさらに瓦礫を大量に取り出して白夜を生き埋めに出来るぐらいに上から落とす。

 

「これでダメージが入れば…な!地面が!」

「よくもいきなり攻撃してくれたな!」

「!?」

 

 どう言うことだ?地面が液状化したらいきなり白夜が後ろに移動している。というかこのままじゃモーニングスターに当たる。

 

「テレポート!」

 

 何とかテレポートで白夜の攻撃を回避する。というか白夜の能力は何だ、地面に潜って回避したから大地操作系か。

 

「テレポートか…それにさっきの丸太の召還、お前の能力は少なくとも物体を移動させる系の能力か」

 

 しかも今の攻防で白夜に能力がある程度バレた。けど全容が割れてないだけましか。

 

「今度はこちらから行くぞ!」

 

 白夜がそう宣言した瞬間に液状化した地面をモーニングスターで殴って礫を飛ばしてきた。

 

「異空間倉庫!」

 

 飛んできた礫を異空間倉庫へ格納して防ぐ。ワープゲートは一応まだ隠しておく。

 

「っ、また姿を消しやがった」

 

 おそらく礫に紛れて地面に潜ったのだろう。

 なら…。

 

「地面をまるごと異空間倉庫にブチ込む!」

 

 範囲は広場全域、深さは約10メートル。

 

「テレポート!」

 

 指定した範囲の地面を異空間倉庫へ格納する。

 

「おっと!」

 

 よし白夜が見えた。

 

鴉の手(レイヴンハンド)、モードミニガン!」

 

 今の白夜は地面がいきなり消え、空中に投げ出されて身動きが取れない、弾丸を当てるなら今だ。

 

「発射!」

 

 一発でも当たれば異空間倉庫に転送できる。そうすれば俺のか…ち…。

 

「そんな攻撃効くか!」

 

 嘘だろおい、一発も当たってねぇ!いや当たってるが弾丸が皮膚を滑ってる?

 

「マジでどういう能力だよ!」

「おいおいもうお手上げか?まだまだ戦いはこれからだろ!」





今後出す暇が無いのでここで出す設定
白夜が土の塊を飛ばした技の名前は『鬼の礫』(おにのつぶて)と言う


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居酒屋


優真視点です。


 

「しっかし腕が痛ぇ」

 

 白夜との試合で吹き飛んだ腕から血が滝のように流れている。それが原因でさっきから立ちくらみがする。

 

「セイ、優真の回復を頼む、その後俺の回復だ」

「わかりました」

 

 セイと呼ばれたエルフが俺の腕だった肉塊を持って近づいてきた。

 

「今回復します、回復(ヒール)

 

 セイがそう唱えると、俺の近くに置いてあった肉塊が光輝き腕の形のになったかと思ったら俺にくっついて完全に治った。

 何か環の回復(ヒール)より魔法っぽいな。光ってる所とか。

 

「終わりました」

「ありがとな、それとミヤに似てるが姉妹か?」

「ええ、ミヤとは双子の姉妹です」

 

 なるほどな、ただの姉妹じゃなくて双子なら瓜二つなのも納得だ。

 

「白夜様の脚も治しますね」

 

 セイが白夜の切断された脚を切り口に当てて呪文を唱えると、白夜の脚の切断部が光り脚が元通りにくっついた。

 

「ありがとなセイ、それじゃあ俺はこれから優真と同盟についての相談をすっから、みんなはそれぞれの仕事に戻ってくれ」

 

 白夜の号令で、周りの怪人達は皆離れていった。

 

「キャットガールとセレネは先に帰っててくれ、相談が終わったまた呼ぶ」

 

 そうして二人をワープゲートで本部に先に帰還させる。

 

「一応二人は先に返した、ここで待機させるのも面倒だろ」

「すまないな、それじゃあ場所を移そう」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

「ここだ」

 

 白夜に連れてこられたのは城下町の角にある居酒屋だ。

 

「大将、空いてるか?」

「ん?ああ、白夜か、どうしたんだこんな真っ昼間に、それに連れがいるのも珍しい」

 

 中で出迎えたのは老人で、見た目は殆ど怪人らしさがない。

 

「連れは相談相手だよ、それも今後を大きく左右するな」

「…わかった、個室はあっちだ」

「助かる」

 

 そうして白夜と一緒に店の奥にある個室へ移動する。

 

「さっきのご老人は?」

「けっこう前に出会った居酒屋の大将だ、魔法少女の戦闘で店が壊れた時にここに来てもらった、大将の料理はうめぇからな」

 

 なるほど…てことは。

 

「あの人人間?!」

「そんな驚くことか?」

「驚くに決まってるわ!」

 

 ここに来てから怪人しか見かけてなかったからな、人間はいないと思ってた。

 

「俺は気に入れば誰だって受け入れるからな、それはそうと何か注文しよう、大将、いつもの酒とつまみ一つ」

「あいよ、お前さんは?」

「あ、それじゃあ唐揚げと水で」

 

 確かに何も注文しないのは失礼だな。

 

 

 

 しばらくして料理がテーブルに運ばれてきた。

 

「く~、やっぱここの酒とつまみはうめぇな」

「唐揚げも美味しい」

 

 唐揚げ以外も食べてみたがどれも絶品だ。白夜が気に入るのも分かる気がする。

 

「さてと、そろそろ本題に入ろう。何か聞きたいことはあるか?」

「それじゃあ個人的な質問だが、白夜の能力って何だ?」

 

 戦ってる間に能力について考察したが結局わからず短期決戦でごり押したからな。

 

「俺の能力?俺の能力は抵抗操作だ。概要としては摩擦を操作して壁に張り付いたり床を滑ったりできる。他には戦いで使った斥力を操作しての液状化現象、空気抵抗を高めて落下速度を落として行った空中歩行、摩擦力を限りなく0にしての弾丸の無力化だな。引力を操作して物質の高質化もできる。どれも原子レベルで操作できるな。

 弱点は手足で触れている物にしか発動できないこと、他の生命体に対しては摩擦力程度しか操作できないこと、物理現象にしか作用しないこと、0にはできないことだな。あ、それと触れた対象にしばらく能力を付与できるな」

「…できること多すぎだろ」

 

 この能力を戦ってる間に把握するの無理ゲーだろ、あと俺よく勝てたな。

 それと物理現象にしか作用しなくて本当によかった。もし抵抗操作が文字通りの意味だったら、相手に『抵抗するな』と言えばそれだけて勝ちが確定するから、さっきの戦いでこちらの勝ち目がなかったからな。

 それに人工衛星を破壊したのも抵抗操作を付与した石を使ったんだろう。何を付与したのかはわからんが。

 

「こちらは話したぞ、次は優真の能力を教えろ」

「わかった、俺の能力は空間操作、テレポートしたりワープゲートを生成したりできる。他にも自分と他者の位置を入れ換えたり異空間に物をしまっておける。

 弱点は他者と一緒にテレポートする時はこちらが触れるか触れられてるかしてないといけないこと、ワープゲートを生成する時に必ず片方のゲートを手元に生成することだな。それとワープゲートは生成した後なら俺が側にいなくとも稼働し続ける。以上だ」

「おめぇも大概だろ」

 

 …確かに、俺も人のこと言えない位できると多いな。

 

「次はこちらから質問するぞ、優真は怪人のことをどう思ってる?」

「どう、とは?」

 

 質問の意図がわからない、怪人は怪人だろ。

 

「ここにいる怪人はほぼ全員、どこかの組織に改造された元人間だ。そして魔法少女と戦い、敗れ、命からがら組織に逃げ帰ったら処分され、路頭に迷って放浪の末にここへたどり着いた者もいる。早い話人間不信が多いんだ。過去に優真みたいに仲間になるよう言ってきた輩もいたが、そいつら全員怪人を奴隷としか思っていないゴミ野郎だった。

 牢屋での会話で優真がそういう奴じゃないってのはなんとなく分かったが、改めて優真の口から怪人をどう思ってるか聞かせろ」

 

 なる程ね…。

 

「始めに、俺は怪人のことを人間とは思っていない」

「てめえ!」

 

 白夜が俺の胸ぐらを掴む。まあそりゃ怒るよな。

 

「ただし」

 

 しかし、そんなことじゃ俺の考えは変わらない。

 

「怪人も人間も魔法少女も、等しく"人"だと思ってるよ。意志疎通ができ、対話ができる、そういう者を俺は人だと思う」

「!」

 

 これが俺の考え、怪人は人間と比べるとどうしても人間には見えない。しかし、怪人だって会話できて意思がある。

 だから自分なりの答えとして両方とも"人"だと思うことにした。

 

「ふふ、ワハハハ!そうか、そうか人か!今までいろんな人間を見てきたが怪人を人だと思うと答えた奴は見たことが無い!」

 

 白夜は俺の胸ぐらを離して席に戻っていく。

 

「優真!お前確か理想の世界の為にこの同盟話を持ってきたよな?!」

「あ、ああ概ねあってる」

「この同盟を受けてやる!ただし、優真の理想の世界を俺に見せてくれ!」

「!、ああ、約束する、絶対に見せてやる、俺の、いや、俺たち聖魔連合の理想の世界を!」

「その言葉忘れるなよ、鬼は嘘が嫌いだからな!」

 

 こうして、後の一代勢力の元となる同盟は、町外れの居酒屋で締結された。





今後出す暇が無いのでここで出す設定
白夜の能力が明らかに常軌を逸脱している理由は、能力を過大解釈した上で鍛えたから。

人工衛星を破壊した方法は、
1、石を引力で固める
2、おもいっきり投げる
3、空気抵抗を操作して微調整を繰り返す
4、命中
である。


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自己紹介ラッシュ


優真視点です。


 

「白夜、城下町の住民の反応は?」

「最初は同盟そのものを懐疑的に思っている者も多かったが、今は殆ど同盟には協力的だ、そっちこそどうだった?」

「こちらはそもそも人数が少ないからな、何も問題なかったよ」

 

 白夜と同盟を結んだ次の日、俺はまた伊吹城へ来ていた。

 同盟に関しては城下町の掲示板で知らせたらしい。同盟をよく思わない者も居たと思うし、俺が城下町の住民なら確実に怪しむ。けれどそういう者が居ないってことは白夜が何かしたのだろう。

 ほんと、白夜のリーダーとしての技量には習う所が多い。

 

「そうえば、俺は城下町の住民に顔出しした方がいいか?」

「う~ん、まだいいな、同盟の内容がもう少し纏まってからにしよう」

「それもそうだな」

 

 住民には同盟をするってことしか伝えてないだろうし。

 

「それで、今日は幹部の顔合わせをしたいのだが」

「お、それじゃあ全員呼ぶよ」

「こちらも手の空いてるメンバーはワープゲートで連れてくる」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 しばらくして白夜の幹部達が全員集合した。というかメンバーは初めてここに来た時に俺たちを囲んでいた怪人達だった。

 こちらもメンバー全員がこれた。

 

「お頭、これ何の集まりですか?」

「昨日同盟を組むって話しただろ、その顔合わせだ」

 

 白夜に説明を求めたのは黒髪の男性だがあんな人いたか?

 

「自己紹介の内容は名前と能力な、まずはオロチからな」

「わかりやした、俺の名前はオロチ、能力は大蛇化だ。優真たちを襲ったあの蛇が俺だ」

 

 あ~、あの地面から飛び出してきた大蛇か。

 

「次は私ね、私はミヤ、能力は影操作、そしてセイの双子の姉」

「その妹のセイです。能力は回復、傷を癒せます」

 

 次に自己紹介したのはエルフの姉妹だ。見た目的にミヤがダークエルフでセイがエルフだな。

 

「私はスカイ、能力は運搬で運ぶ物の重さを無視できるよ~、よろしくね~」

 

 ハーピィみたいな姿をした人がスカイ、何かマイペースそう。

 

「儂は天魔と申す、能力は神通力、今後はよろしくお願い致しますぞ優真どの」

 

 老人っぽい口調なのが天狗の天魔、白夜との試合で審判をしてくれた人だな。

 

「俺はアギト、能力はブレス、よろしくな!」

「俺は河原(かわら)っす、能力は空中遊泳(くうちゅうゆうえい)っす、よろしくっす!」

 

 ドラゴニュートのアギトと河童の河原、何かチャラそう。

 

「俺はビルド、能力は接合であらゆる物をくっつける、これからよろしくお願いする」

 

 オークのビルド、性格が職人にいそう。

 

「俺はロック、能力は岩石生成だ。よろしくな」

 

 ゴーレムのロック、見た目の圧はすごいけどいい人そう。

 

「私はウルフと申します、能力は衝撃波を発生させます、主に事務仕事を担当しております、これからよろしくお願いします」

 

 オオカミ男のウルフ、なんと言うか…リーマンって感じの性格だ。

 

「あちきの名前は九縄(くな)、能力は幻影生成、よろしくお願いしますな優真どの」

 

 九尾の狐の九縄、人を手玉にとってそう。

 

(さく)です…、能力は刃物生成…、よろしくお願いします…」

 

 口裂け女の裂、目隠れしてて元花と同じ雰囲気がある。

 

「最後は私ね、私は葉月(はづき)、能力は巨大化よ、これからよろしくね優真ちゃんたち」

 

 八尺様の葉月、近所の姉さんみたいな性格だ。

 

「次はこちらの自己紹介だな。俺は…。」

 

 

 

   『長くなりそうなのでカットー』

 

 

 

「これで互いの自己紹介が終わったな、優真、これからどうする?」

「今後、どうやって目的の世界を造るかの相談にしよう、せっかく互いの幹部が全員いるんだからな」

 

 



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作戦


優真視点です。


 

「改めて最終目標の確認だが、聖なる者も魔の者も争わず平和に生きれる世界にすることだ。全ての争いを無くすことは難しいだろうが、取り敢えずこの目標に異論はないな?」

 

 反論が無いってことは納得してくれたみたいだな。

 

「今の現状で俺が問題視しているのは、悪の組織による人間の誘拐と改造、魔法少女と怪人の戦闘の余波による町の破壊と民間人の死亡だ。国も対処はしてると思うが、魔法少女が現れてから今まで国がしたことと言えば、怪人の被害を国が補填するっていう法律ができただけだ」

 

 この法律には魔法少女の攻撃による建物の被害は含まれない。さらに、魔法少女又は怪人の攻撃で民間人が怪我又は死亡したとしても国からは何の保証もない。

 けど、国がなかなか法律を作らないのも何となくわかる。法律で魔法少女を縛って全力を出させないのと、悪の組織の被害が広がる恐れがあるからな。

 

「そこでだ、魔法少女を法律で縛り、なおかつ怪人の人権を認めさせる。これが俺が考えたある程度成功しそうな方法だ」

 

 正直、この方法が成功したところで今の日本の現状を見るに機能するとは思わないが。

 機能してたら魔法少女の犯罪者がいそうなものだが、俺と環が調べた限り魔法少女が現れてから、魔法少女が起こした犯罪は零だ。現れてから数百年以上は経ってるのに零はもう国が揉み消しているとしか思えない。

 これが本当なら既に日本国憲法は機能しなくなっている。

 

「この案に意見がある人はいるか?」

「優真、方法事態は悪くないがどうやって法律を可決させるんだ?」

 

 白夜が質問してきたがもっともな意見だ。

 

「正直、今のところ方法は無い。けど灰崎さんが能力を抽出する技術を開発したから実行できそうな能力を集めれば何とかなりそうではある」

 

 俺の銃の弾丸からテレポートボタンを制作した技術だ。ほんとどうやって作ったんだか。

 

「他に意見はあるか?」

「その作戦ってやるとしたらいつ?」

「そうだな…やるとしたら国会が開かれた時だな」

 

 環からの質問にそう答える。実際、国会が開かれないことにはこの作戦は実行できないからな。

 

「次の議題に移るぞ、8月11日に魔法少女がここに攻めてくる件だが…正直、迎え撃つ理由が無いから逃げでいいか?」

 

 反対意見は…無さそうだな。

 

「それじゃあ、伊吹城を城下町ごと俺の能力で本部へ転送するぞ」

「優真、それをするなら先に住民へ挨拶しろ」

「あ、確かに」

 

 白夜から言われるまですっかり忘れてた。

 

「それと、俺個人として魔法少女と戦っていいか?実践経験として丁度いいし、なりより殺しを経験しておきたい」

 

 俺の戦闘経験は黒曜団跡地での戦闘とセレネ戦、巨大蟻、白夜との試合だけだから経験を積みたい。それに、これだけ魔法少女が集まるなら乱戦が起こるはずなのでその経験も積める。

 それに安全面もテレポートでの帰還も可能なので安心だ。

 

「兄さん、それ私も参加していい?魔法少女に復讐できる機会だし」

「優真、俺も参加させろ。俺も戦いてぇ」

「…わかった、俺の我が儘での戦闘だからな。ただし環、お前はアルと一体化して見た目変えろよ」

 

 白夜が参加するのは想定していたが、環も参戦するとは思ってなかったな。

 

「お頭が参戦するなら俺たち幹部も参加いたしやす!」

「と、言うわけで、こちらは全員参加するぞ」

「わかった、こちらは…灰崎さん以外は参加できるかな、灰崎さんは本部での指示をお願い」

「了解」

 

 これで粗方決まったかな。

 

「これで会議を終了する、以上、解散」



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演説


優真視点です。


 

「お~い優真、準備出来たぞ」

「ああ、わかった」

 

 会議が終わった後、白夜に住民を城下町の広場に集めてもらった。

 これから行うのはこの同盟に関しての演説だ、失敗は出来ない。けれど仕込みはしてあるから大丈夫だろ、多分。

 

「仕込みの許可ありがとな」

「いいって、それじゃあ先に俺が挨拶してくる」

 

 そう言って白夜は広場のステージへ登っていった。

 

「あ、あ~マイクテストマイクテスト、全員、あつまってるか?!これから行う演説は昨日交付した同盟についてだ!この同盟はいずれ世界を変えると思っている!これから同盟相手をここに呼ぶ!聖魔連合連合長、黒榊優真だ!」

 

 白夜の合図で俺はワープゲートを展開してステージへ移動する。普通に登ったりテレポートでもよかったが、雰囲気を出すためにワープゲートにした。

 格好はいつもの服にマントだ。無論ペストマスクもつけている。

 

「この度、白夜さんと同盟を組んだ黒榊優真です。早速ですが、この同盟の目的をお話します」

 

 住民たちが少しざわつく。同盟自体は昨日公表されたが内容までは公表してないからな。

 

「この同盟の目的は、あらゆる人が平等に平和を謳歌できる世界を創ることです」

 

「現在、この世界は魔法少女による治安維持活動によって保たれています。しかし、その方法は暴れている怪人を殺すこと、言うなれば殺人ですね、怪人は人間…人ですので」

 

「しかも、魔法少女は怪人を殺すために周りを巻き込むことを躊躇しませんし、なんならそれで周りに出す被害の方が大きかったりします」

 

「例えるなら今の世界は、永遠に終わらない魔法少女対怪人の戦争を続けているようなものです」

 

「このような世界は果たして平和と言えるのか?少なくとも私はそうは思いません。いつ何に巻き込まれて死ぬかもわからないこの世界。あなた達は経験済みのはずです、捕まって怪人に改造され魔法少女に殺されかけた恐怖を」

 

「ならこの世界をどうするか?魔法少女を全員抹殺してもいい。しかしそれでは復讐の連鎖が続いてしまう。それに魔法少女もこの世界の被害者です、国から怪人は悪だと義務教育で刷り込まれてしまっているのでね」

 

「ならばどうするか?社会は政府によって管理されている。それならこの腐った政府をぶっ壊しましょう!政府は今まで都合の悪い物に蓋をし続けました、今こそ、その蓋を壊し平和を手に入れましょう!」

 

「『戦争では、政府が誰が悪者なのかを決める。一方革命では、あなた自身が悪者を決めるのだ』、政治家、ベンジャミン・フランクリンの言葉です。政府は怪人が悪と決めつけている。ならば、こちらは今の政府を悪とし、革命を起こそうではありませんか!」

 

「そして、その革命の暁には皆さんが何にも怯えず平和を謳歌できる世界を創ることを、鬼頭白夜、並びに幹部の皆さん、そしてこの場に集まった全ての人々立ち会いの下、ここに宣言します!」

 

 住民から歓声が上がる、取り敢えずこれでよかったぽいな。

 

「しかし!その前に、ここが8月11日に魔法少女に襲撃されることを魔法少女側に潜入している妹が知らせてくれましてね。ここを失くすのは惜しいと思い、白夜さんの許可の下、この地を私達の本拠地へと移動させます!」

 

 そうして演説前に仕掛けておいた物を発動させる。

 伊吹城がある地下空間を囲むように鴉の手(レイヴン·ハンド)の弾丸を設置しておいたのだ。

 

「さあ、本拠地へとご案内いたしましょう」

 

 そう言って地面に手を置き、地中にワープゲートを出現させる。サイズは弾丸が囲ってる範囲全てだ。

 

「環、もうすぐそちらに着くぞ」

『了解!』

 

 ペストマスク内部に仕込んでおいた通信機で本拠地にいる環へ連絡を取る。

 環には伊吹城のテレポート先の準備を頼んでいた。

 そうして、伊吹城が本拠地である月に着陸した。

 

「どうやらうまくやってくれたみたいだな」

 

 テレポート先は月の海上だ。とはいえ陸地とは地続きになっているから浜辺と言った方がよいか。

 足場に海水でも問題ないマングローブを使用し、その上にテレポートさせた。

 

「ここが私達の本拠地です、ここには殺そうとしてくる魔法少女はおりません、この地にいる時は安全を保証しましょう」

 

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「ふ~やっと終わった」

「お疲れ優真、住民達も喜んでたぞ」

「ならよかった」

 

 こうして人前で話すことなんで今まで無かったからな。やっぱ慣れないことはするもんじゃないな。

 それに、ヘイト管理も大変だった。下手に魔法少女を悪と言ってしまうと本当に平和の為に戦ってる魔法少女、最悪環や菫にヘイトが行く可能性があったからな。

 取り敢えず政府にヘイト向けたけど、そのうち邪魔になりそうだしこれでいいか。

 

「後は8月11日の準備だ、よろしく頼むぞ白夜」

「おうよ!」

 

 





修正が終わりました。内容がほぼ全て変わっています。


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奇襲


優真視点です。


 

 演説から数日たった8月11日、天気は晴れ、風速は0、今日が魔法少女がとの戦いの日だ。

 

「白夜、そちらの準備は?」

『問題無し、後は開始の合図を待つだけだ。例の装置も全員装備してるぞ』

「わかった、また後で」

 

 例の装備とは灰崎さんが開発したワープ装置だ。それを小型化し奥歯に装備することで、即死させられない限りは噛んで発動可能だ。転送先は本部で、頼み込んで不参加にしてもらったセイが本部で待機している。

 

『こちら優真、全員に通達、俺が敵の司令塔を狙撃したら強襲しろ。そして少しでも危ないと判断したら即撤退だ。後の作戦は無し、強いて言えばフレンドリーファイヤには気を付けろ、後は好きに暴れろ』

 

 この戦いはもともとやらなくてもいいものだ。なので作戦もへったくれも無い。

 フレンドリーファイヤについては菫が今回出撃しているからだ。セイの回復能力は外傷には有効だが、毒や病の類いは進行を遅らせる位しか出来ない。なので間違って食らったら環が戻るのを待つしかないのだ。

 ただ、セイの方が圧倒的にコスパがよいので完全に環の劣化って訳でもないが。

 合図が狙撃なのは、単純に俺がスナイパーライフルの練習をしたいだけだ。

 

『優真、そろそろ魔法少女達が伊吹城跡地に到着するぞ』

「了解灰崎さん」

 

 人工衛星で監視していた灰崎さんから連絡が入る。

 俺が敵の司令塔を狙撃したら開戦だからそろそろ構えるか。

 

「…あいつか?」

 

 鴉の手(レイヴン·ハンド)のスナイパーライフルモードのスコープを覗くと、魔法少女の軍隊の先頭を歩いている人物が見えた。

 周りに指示出ししてるところを見るにあいつが司令塔か。

 

「狙撃は上から狙った方がいいって聞いてたが、本当だな」

 

 俺の今いる場所は伊吹山山頂だ。ここなら見晴らしがいい上気付かれにくい。

 かなり標的が遠いが最悪弾丸ワープでなんとかなるしな。

 

「もうすぐ狙撃する、総員準備」

 

 魔法少女が伊吹城跡地の入り口に来た時が恐らくチャンスだ。

 

「…今!」

 

 恐らく最終確認の為に止まったであろうタイミングで司令塔めがけて発砲する。

 

「司令塔は…環が暴れ始めたから成功したっぽいな」

 

 魔法少女達の中に紛れていた環が周りを無差別攻撃を始めた。それと同時に隠れていたメンバーも襲撃していく。

 魔法少女達が混乱しているから恐らく司令塔は即死、もしくは再起不能だろう。

 弾丸ワープは使って無いから恐らくまぐれ当たりだろうが当たってよかった。

 

「テレポート」

 

 司令塔をこちらにテレポートさせる。弾丸が体内に残ってたので問題なくテレポートできた。

 

「…頭撃ち抜かれて死亡か」

 

 司令塔の遺体を見ると額に弾丸が撃ち込まれた穴が開いている。弾丸が貫通しなかったことを考えると、距離減衰でかなり威力が落ちてるはずだから数秒は意識があったのだろう。

 表情は驚いた顔をしている。そりゃ、いきなり狙撃されるなんて普通思わないから仕方がないか。

 

「後で火葬ぐらいしてやるか」

 

 そうして遺体を異空間倉庫に入れる。相手は魔法少女とは言えしっかり弔った方がいい。それに火葬すれば、少しは自分が殺したって意識を覚えておけるだろう。人を殺して何も思わなかったら、それこそ魔法少女と同じだ。

 けど、殺しても何も思わなければ今後の戦いは楽なんだろうな。

 

「ま、今は戦いに参加しますか」

 



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戦況


優真視点です。


 

「魔法少女完全に混乱してんな、大方楽勝だと思って油断しまくってたんだろ」

 

 テレポートで近くの森林に着いたが、見たところ完全にこちらの無双状態だな。

 しかし見た感じ魔法少女の数は約500人、いくらこちらが無双していてもこの数を相手するのはさすがに無理だ。

 

「一人あたり10人倒せればいいだろ」

 

 相手は腐っても魔法少女だ、調子に乗ると痛い目にあう。

 それにこの戦いは別に勝たなくていいからな。

 

「俺も殺るか」

 

 茂みから引き金を引き、放たれた弾丸は近くにいた魔法少女に命中する。

 

「みんな!こっちに敵が!」

「やべバレた!」

 

 確かに音でバレるとは思ってたがこんなすぐバレるのかよ!

 

「ファイヤボール!」

「テレポート!」

 

 炎の魔法少女が攻撃してきたので、テレポートで魔法少女の上空へ移動する。

 追っ手は四人、何とかなるか!

 

時空切削(ディメンションバイト)!」

 

 魔法少女の頭に触れて、頭だけを異空間倉庫へ転送する。これで残り二人。

 

「よくも!」

 

 また攻撃が来たのでテレポートで後ろに…。

 

「ここ!」

「あぶね!」

 

 反撃された?!それも見てからだった。反射神経だけでこれって魔法少女の基礎スペック高すぎるだろ!

 

「ストーンバレット!」

「ちっ!」

 

 もう一人が攻撃してきたのでテレポートで回避する。それぞれ土と火の魔法少女か。

 時空切削(ディメンションバイト)を使うためには触れる必要がある。けとさっき防がれたし、何より反撃される危険性がある。

 けど…。

 

「弾丸なら反射神経で対処できないだろ」

「!」

「ストーンウォール!」

 

 俺が鴉の手(レイヴン·ハンド)を見せた瞬間、相手が地面の壁を生成してきた。確かに拳銃持ち相手に隠れるのは正しい判断だ。

 

「けどな…」

 

 俺にとっては悪手だ。

 

転送弾(テレポートバレット)

 

 弾丸を二発、発射した瞬間に魔法少女の頭上に転送する。

 悲鳴は聞こえ無いな、それに石壁も消えてない。

 

「二人は…死んでるな。それにしても、使用者が死んでも魔法の影響は残る…あ消えた」

 

 死んでから暫くしたら効果が切れるんだな。

 

「次は『ぐ…』うん?」

 

 声が聞こえたので後ろを見ると魔法少女が矢に射られて倒れていた。

 気付かなかったから危なかったな。

 

「優真さん危なかったなですよ」

「ありがとなミヤ、それと今はレイヴンと呼んでくれ」

 

 ミヤだったか、確かにミヤの影操作を最大限使うんだったら森の中が良いしな。

 

「ミヤ、戦況は?」

「んっとね…、そちらのメンバー全員と白夜様とオロチと裂が暴れてて他はぼちぼちって感じ。あ、ウルフは帰ったよ」

「帰った?!」

 

 参加意識は本人次第だが途中で帰るかよ普通!

 

「ウルフ曰く、『疲れるので無駄な戦闘はしたくありません』だって。ただ部隊を二つほど壊滅させてましたね」

「部隊?」

「どうやら魔法少女たちは数個の部隊に別れているようで一部隊が約十人ほどで編成されています。レイヴンさんが狙撃したのは大隊長ですね。で、ウルフはそのうち二つを壊滅させました」

「…え、強くね?」

 

 訂正、ウルフ普通に帰っても問題ないくらい仕事してた。

 

「それで白夜とオロチはまだわかるが裂が暴れてるってのは?」

 

 白夜はこの前の戦いで何となくバトルジャンキーぽく感じたしオロチはこの戦いの参戦の言い出しっぺだから分かるが、裂ってあの寝暗そうな口裂け女だろ。

 

「ああ、それなら…」

 

 

   ◇◇◇

 

 

「ぎゃははは!もっと!もっと斬らせろ!」

「…何あれ?」

 

 見ると裂が戦場のど真ん中で巨大なハサミを使って、魔法少女たちの胴体を真っ二つに斬りまくっていた。

 

「裂は刃物持つと性格変わるからね、それに裂はここに来た理由が捨てられたとかじゃなくて所属していた組織を壊滅させて居場所が無くなったかららしいし」

「…今度からこういった戦いには積極的に参加させよう」

 

 ああゆうのは我慢すると悪いしな。

 

「こちらもそろそろ動『レイヴン覚悟!』!?」

 

 後ろから声が聞こえたのでとっさに鉄骨を出すと、鉄骨めがけて刀が振り下ろされた。

 

「来たか、青柳美空!」

「レイヴン、今度こそお前を倒す!」

 

 

 

 





次はこの戦いの各視点になるかもです。


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閑話 各地の戦場


三人称視点です。



 

 環side

 

「ちょ、どうしたの」 

「大隊長が撃たれたらしいよ」

「どうせ嘘でしょ、だってあの人だよ」 

(よし、兄さんが上手く殺ってくれたみたいだね)

 

 環がいる地点は軍隊の後方、まだ魔法少女になって日が浅いのでこの位置に配置された。

 けど、環としてはこの配置はちょうどよかった。

 

(合図は地面を三回叩く)

 

 環が決めていた合図をすると、地面から環の顔めがけてアルが飛び出してくる。あらかじめ地面に根を張り巡らせておくことで、直ぐに環と合流出来るようにしていたのだ。

 

「ぐっ…がっ!」 

「!、オウルさん大丈夫?!」 

 

 環はもがき苦しむ()()をする。何もせずいきなり暴れだすと裏切り者だとバレる可能性があるため、アルに乗っ取られた様な演技をする事で環を怪人に乗っ取られた被害者だと周りに認識させるためだ。

 アルを途中で合流するようにしたのもこの為である。

 

「あ、あが、が、うがぁぁぁ!」 

「ほ、ホントに大丈…」 

 

 環を心配した魔法少女の言葉が続くことはなかった。環の腕から伸びた植物が魔法少女の上半身を消し飛ばしたからである。

 

「「ふふ、乗っ取り完了」」

「こいつ怪人か!」

「囲め!」

 

 環が乗っ取られたとわかった瞬間、魔法少女たちは一斉攻撃を開始した。

 

「「この程度か魔法少女!」」

 

 しかし、環の圧倒的回復能力とアルによる植物の鎧の前には、攻撃はほとんど意味をなさない。 

 

「「今度はこちらから行くぞ!」」

 

 環とアルの掛け声と共に環の堆積が増加し腕の型が変化する。

 環の魔法は生命魔法だ。普段は回復や植物操作、バフ付与などに使用しているが今回環が着目したのは植物操作だ。

 環が操作する植物は堆積、質量、形を自由自在に出来る。これは体が植物に近いアルにも適用される。

 そして今の環はアルと一体化している。これにより環の肉体は植物操作の対象となった。

 そして今日の為に魔法を鍛えた結果、環はこの形態に限り肉体の堆積、質量、形を自在に変形可能となった。

 

(今後の為にもなるべく多く確保しておきたいからね、寿命)

 

 そうして変形が終わり、環の両腕には口の付いた巨大な管が五本生成された。

 

「「寿命食い(ライフイーター)」」

 

 計十個の口が魔法少女に食らいつき、食らいついた側から寿命を吸収していく。

 この技は寿命吸収(ライフドレイン)の弱らせなければいけないことと触れなければならないデメリットを、食らいつくことで触れそのダメージと同時に吸収することでデメリットを踏み倒す技だ。

 

「「全員皆殺しだ!!」」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 セレネ&アギト&河原&スカイ&ロック&天魔side

 

「レイヴン様の攻撃が決まりました、これより作成を開始してください」

 

 セレネ達は上空から優真の攻撃が成功したのを確認した。ここにいるメンバーは空中を移動できる者、又は上空から攻撃した方が有効な者が揃っている。

 

「よしスカイ、作成通りに!」

「りょ~かい!」

 

 ロックの能力は岩石生成、自分の周りに岩石を生み出す能力だが普段は障害物の設置ぐらいにしか使ってない。

 しかし、スカイの能力である運搬と組み合わせることで攻撃力は格段に上昇する。

 その方法は、スカイがロックを運搬し空中で岩石を生成し続ける、ただそれだけだ。

 スカイの空中移動速度は約時速100km、ロックは墓石ほどの岩石なら生成に一秒もかからない。この速度で移動し攻撃してくる飛行物体を止めるのは至難の技だ。その様子は戦闘機と遜色ない。

 

「カタパルト装填良し、発射」

 

 セレネは肩に装備したカタパルトからミサイルを撃ち込んでいる。このカタパルトは灰崎がこの日のために作ったセレネの強化パッチだ。

 ちなみに、そこらの軍隊のカタパルトより頑丈かつ強力になっている。

 

「セレネやるな!俺もやるぞ!」

 

 アギトの能力はブレス、アギトの思い付く属性攻撃を口からブレスとして発動できる。

 アギトは口から炎のブレスを吐くことで地上を火の海に変えていく。

 

「お、来ましたな」

「そりゃ来るだろ」

 

 しかし、ただで殺られる魔法少女はいない。それぞれの魔法を使ってセレネ達を撃墜しに飛んでくる。

 

「俺が行く、天魔はアシスト頼む」

「了解しましたぞ河原」

 

 河原の能力は空中遊泳、その名の通り空中を泳ぐ能力だ。この能力事態は幹部の誰よりも攻撃力がない。

 しかし、河原の河童という怪人が持つことでこの能力は化けた。

 

空流(くうりゅう)!」

 

 創作物で登場する河童は水を操作する能力を持っており、能力は水中戦で披露される事が多い。

 しかし、河原は水中ではなく空中を泳ぐ事で水を操作するのではなく、空気をとらえて操作する技術を得た。

 

「儂もやりますぞ」

 

 天魔は神通力で地上からの攻撃を地上に叩き落としていく。

 この二人の役割は、他の空中から攻撃するメンバーに魔法少女を近づけさせない事だ。

 

「皆さんその調子です。このまま続けてください」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 菫side

 

 魔法少女の軍隊の端、そこにはここが地獄かと思うような光景が広がっていた。

 

「あ…が…」

「なん…なの…よ…」

「…思ったより弱い?」

 

 菫は大隊長が攻撃された瞬間に、ベノム·オーシャンを周りに味方が居ないことを確認した上で今出来る最大出力で放出した。

 その結果、近くにいた魔法少女は菫の毒に直撃した。

 もともと環の毒耐性(ベノムカット)を貫通するくらいには強力だったので、直撃した魔法少女は即死、よくて瀕死になった。

 さらに急な襲撃だったこともあり、魔法少女に空中へ逃げるという選択肢も無く、周りの魔法少女を瞬殺してしまったのだ。

 そもそも菫が初めて戦った魔法少女が空中戦闘に特化していたのもあり相性最悪だったのだ。それに比べればここにいる魔法少女は地上にいる分、菫にとっては毒をブッパするだけで倒せるので弱く感じるのも無理はない。

 

「取り敢えず移動しよ」

 

 そうして菫は毒を撒き散らしならが移動していった。

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 九縄&葉月side

 

「お、九縄ちゃんレイヴンちゃんが攻撃したよ」

「もちろん見えてますよ、それじゃ、殺っちゃいましょう!」 

  

 今は葉月は巨大化し、二人とも九縄の能力の応用で透明化している。

 葉月の能力は巨大化、元の身長である八尺(2m40cm)から十倍である八十尺(24m)になる、シンプルかつ強力な能力だ。今は最大倍率である十倍の八十尺になっている。

 そして九縄の能力は幻影生成、幻を作り出す能力だ。九縄のこの能力で作り出された幻は本物と見分けがつかないレベルの完成度だ。

 そして九縄は景色も写せるため、巨大化した葉月の前に背景の景色に同化するように幻を生み出すことで、擬似的に透明化しているのだ。

 

「いっくよ~!」

 

 そうして葉月は手を振り上げ…。

 

「それ~!」

 

 地面に思いっきり叩きつけた。

 

「葉月良い調子、このまま行こ!」

「了解よ九縄ちゃん!」

 

 この攻撃は九縄を倒すまで止まらない、最悪別の場所に葉月の幻を作り出せば魔法少女を騙せるのだ。その隙に本物が理不尽な攻撃を仕掛けてくる。

 

「ふふ、せいぜい頑張ってくださいね魔法少女」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 白夜&オロチside

 

「お頭、天魔達が攻撃を開始しました」

「どうやらレイヴンはちゃんと狙撃に成功したっぽいな、俺たちも行くぞ!」

「了解しやした!」

 

 森の中で様子を見ていた二人は、他メンバーが攻撃を開始したのを確認すると直ぐに戦場へ飛び出していった。

 

「オロチ、俺を飛ばせ!」

「承知!」

 

 白夜の呼び掛けに答えオロチの体が変化する。

 オロチの能力は大蛇化、葉月の巨大化と似ているが違う所はオロチは蛇に変化するとこ、そして最大サイズが30mということだ。

 

「お頭、尻尾に掴まってください!」

「おお!」

 

 そうして白夜がオロチの尻尾に掴まった瞬間…。

 

「ぶっ飛べ!」

 

 尻尾を思いっきり振ることで、白夜を上空へ飛ばした。

 

「よし、あそこが戦場の真ん中あたりか」

 

 飛ばされた白夜は空中で戦場を確認する。その中で魔法少女が多そうな所を探しだした。

 

「鬼脚!」

 

 そして直ぐに、白夜は空中を蹴り戦場へ突撃していった。

 

「おぅりゃ!」

 

 着地の瞬間に曇天を叩きつけて、魔法少女を弾き飛ばす。

 

「おい、その怪人どこから来た?!」

「囲め!」

 

 当然、魔法少女が白夜を倒そうと集まってくる。

 

「鬼の礫!」

 

 それを白夜は瓦礫を飛ばすことで撃退していく。

 

「お頭大丈夫でしたか?」

「ああ、何も問題ない」

 

 そこへ、魔法少女を引き殺しながらオロチも到着した。

 

「さあ、かかってこい魔法少女!俺を楽しませろ!」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 裂&ウルフ&ミヤside

 

「…こんなもんですね」

「そうか?私はまだ暴れ足りないぞ」

 

 大隊長がいた隊列の先頭あたり、そこにいた魔法少女は開始早々に全滅していた。

 大隊長が撃たれて直ぐに、ウルフが能力である衝撃波で地面を揺らすことで魔法少女の足場を奪った。

 そしてウルフは魔法少女の首や心臓といった急所を的確につき、攻撃した魔法少女全てを一撃で死亡させることで、魔法少女約40名を瞬殺。

 裂は能力である刃物生成でハサミを生成し、ウルフの狩り残した魔法少女を斬殺した。

 

「私はこれで帰りますが…ミヤさん、レイヴンさんに会ったら伝えといてくださいね」

「ありゃ、バレてたか」

 

 実はさっきの戦闘の間、ミヤは物陰にずっと隠れていたのだ。

 

「ミヤもちゃんと殺んないとダメだよ」

「仕方無いしゃん、私の能力の関係上森の中入ってくれないと殺りづらいんだよ」

 

 ミヤの能力は影操作、影を操る能力であるため日が当たるところでは実力が発揮できないのだ。

 

「それでは私はこれで、残りは頑張ってください」

 

 そうしてウルフは仕込んでいたボタンを押し、本部へ帰還した。

 

「私は森へ入るけど、裂はどうする?」

「このまま魔法少女の部隊に突っ込む、その方が沢山斬れそうだし」

「OK」

 

 そうして二人は別行動を開始した。

 

「さて…魔法少女を斬りに行きますか」

 

 白夜がまとめていた怪人の多くは組織に捨てられた者が大多数だ。

 しかし、何事にも例外があるように裂もまた例外だった。

 裂は怪人として改造された直後に暴走、そのまま自身を産み出した組織を壊滅させてしまったのだ。

 そして騒ぎを聞き付けて来た魔法少女を斬殺した後逃走、各地を転々とした後白夜の元にたどり着いた。

 そして転々としていた間はひたすらに魔法少女と怪人が戦っている所に乱入し、その両方を殺してきた。

 白夜がなぜその様な事をするのかと聞いたところ…。

 

『肉を斬る触感が気持ちいいから』

 

 と返答したらしい。

 幸い刃物を持たなければこのような考えには成らないが、未だにこの衝動は残っている。

 

「あはは、もっと、もっと」

 

 そしてその狂気が、魔法少女へ襲いかかる。

 

「もっと斬らせて!」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

 ビルドside

 

「魔法少女は全員通ったな」

 

 レイヴンが狙撃する少し前、ビルドは魔法少女が通過した道へと来ていた。

 

「始めるか」

 

 そうしてビルドは木材を運んで道を閉鎖し、能力で固定する。

 ビルドの能力は結合、あらゆる物をくっつける事ができる。そしてこの能力を木材の表面に使用することで、木材の繊維どうしが結合しとても頑丈になる。その強度は鉄骨にも及ぶ。

 ビルドがこの作業をしている理由は、魔法少女の逃走を防ぐためだ。開始速攻で逃げられて援軍を送られるとじり貧になるため、このバリケードを作成している。

 さすがに広範囲にバリケードは作れないが、魔法少女の逃走を遅らせるくらいはできる。

 

「さて、さっさと終わらせて助太刀へ行くぞ」

 

 

 

 





メンバーが無双していますが別に魔法少女が弱い訳ではありません。
現に全員、奇襲してるか自分に有利なフィールドで戦ってます。一部例外はいますが。



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タイマン


優真視点です。


 

「おらぁ!」

 

 異空間倉庫から出した鉄骨を振るって青柳を弾き飛ばす。

 

「ミヤ、俺はこいつとタイマンで勝負する。周りに誰も近づけさせるな」

「いいけど、大丈夫?」

「平気だ、最悪直ぐに逃走できる。それにあいつとは因縁みたいなのあるしな」

 

 青柳の性格的に、桃山と藤花を自分が理由で危険に晒してしまったとかで今後も突っかかって来るかも知れないしな、責任感強いし。

 

「わかりました、ご武運を!」

「おう!」

 

 そうして森の中へと移動する。遮蔽物が多くて銃撃戦は普通は不利だが俺にはテレポートがあるから関係ない。

 

「お、いたいた」

 

 挨拶代わりの弾丸ブッパだ。

 

「何の!」

 

 しかし、青柳は弾丸を刀で切り裂いて落とした。やっぱ前回命中したのは不意打ち+疲れからか。

 

「久しぶりだな青柳、他二人はどうした?」

「桜ちゃんと奈々ちゃんとは別行動よ、あんたの能力による同士討ちを避けるためにね」

「なるほどな」

 

 確かに一人なら同士討ちの心配ないしな。それに青柳は水の魔法少女の上に刀使いだ、水の壁を作られたら弾丸は貫通しないし近づいたら刀で殺られる、相性はあまりよくない。俺を相手取るなら悪くない選択だ。普段は逃げるだろうが、今後のために不利な相手との戦闘練習だと思いますか。

 

「そんなことよりレイヴン、あんたはここで倒す!」

「倒す?殺すの間違いだろ?」

 

 そんな言葉と共に青柳が刀に水を纏わせて突っ込んでくる。これくらいはテレポートで回避できるが、こちらからの攻撃も刀で防がれると考えるとこのまま膠着状態になるな。

 

「流水斬!」

 

 青柳が水の斬擊を放ってきた。これくらいは普通に躱せ…えぇ、後ろの木々が豆腐みたいに斬れたんだが、殺意高すぎだろ。

 てかこれ下手すれば周り巻き込まないか?

 

「ミヤ、お前の影って斬擊防げるか?レベルは木々が豆腐みたいに斬れるくらい」

『そのレベルは無理、私の影はそこまでの強度は無い。せいぜい数秒止めれるくらいだよ。その斬擊耐えれるのは白夜様か大蛇化したオロチ、ビルドが本気で強化した物質くらいだよ』

「了解、じゃあ全員に伝えろ。巻き込まれたくなかったら俺の所に近づくなって、ミヤも離れてろ」

「わかりました!」

 

 これ練習じゃ済まないな。青柳の斬擊を防げそうなのがメンバーに少ないからここで足止めした方がいい。

 足止め出来なかったら即刻撤退指示を出した方が良さそうだな。

 てか青柳こんなに強かったのかよ。

 

「避けるな!」

「避けるに決まってんだろ!」

 

 牽制で弾丸を放つが全部切り落とされる。

 あとなんか青柳、学校にいる時よりイラついてる?ちょっと揺さぶりかけてみるか。

  

「青柳、何か嫌なことでも有ったか?もう少し落ち着けよ」

「…あんだが」

「ん?」

 

 よく聞こえなかったな。

 

「あんだがお姉ちゃんを殺したからでしょうが!」

「…は?」

 

 え~、その、うん、どういうことだ?俺は今日初めて殺しをしたし、青柳に似た人は殺してない。何より青柳は一人っ子のはず。

 

「えっと…誰のことだ?」

「あんだが銃殺した大隊長よ!あの魔法少女は私の従姉なの!」

 

 なるほど従姉か、大方子供の頃に懐いたからお姉ちゃん呼びしてたんだろ。

 

「その…悪かったな」 

「なら何で殺したの?!」

 

 何でってそりゃ…。

 

「戦いにおいて指揮官を真っ先に潰すのは鉄則だろ。まさか、この戦いでそちら側に死者が出ないとでも思ってたのか?」

「!…、レイヴンお前はここで倒す!」

 

 いや一部八つ当たりもあるよな!?



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魔法海流


優真視点です。


 

魔法海流(まほうかいりゅう)!」

 

 青柳が呪文を唱えると、術者を始点に水が流れ始め周りを囲んでいく。

 

「これは何だ?」

「移動用の海流よ!」

 

 そうして青柳は海流に入りその中を移動し始めた。

 

「…速いな」

 

 移動速度が尋常じゃなく速い。海流の中だけとはいえ車と同程度の速度が出ている。

 これだと攻撃が当たらない。ならどうするか、答えは単純。

 

「全方位を攻撃で埋め尽くすだけだ!」

 

 異空間倉庫から刃物を複数突きだし、自分の周りを高速回転させる。これで刀での攻撃は最低限防げるはずだ。他は目視で何とかするしかない。

 

「流水斬!」

 

 青柳が泳ぎながら斬擊を放ってくるが、回転する刃物で威力が落ちるからただの水しぶき程度になってるから問題ない。

 けどその度に刃物がダメになるから、刃物が尽きる前に決着つけないと。

 

「しかしどう攻略するか…」

 

 青柳は海流の中にいる。確か弾丸は水中だと数メートルしか進まなかったはずだから他の方法考えないと。

 

「あ、そうだ。菫聞こえるか?」

『レイヴンさん、どうしたんですか?』

「今からそちらに異空間倉庫の入り口を開けるから、そこに毒をいれてくれ」

「?、わかりました?」

 

 これでよし、菫の毒を使えばこの状態を攻略できる。

 

「準備完了、猛毒放出!」

 

 菫の毒を魔法海流に流し込む、これで魔法海流は使えないはずだ。

 

「っ!」

 

 予想通り青柳が魔法海流から飛び出してきた。それに少し顔色が悪い、恐らく猛毒を少量浴びたのだろう。それなら後はひたすら耐久すればいい。

 

「さて…後どのくらいもつかな?!」

 

 鴉の手(レイヴンハンド)をミニガンモードにして青柳に連射するが刀で防がれる。けど始めと違って弾丸がかすりだしてるから確実に体力は削れていってるはず。

 

「青柳、そろそろ諦めたらどうだ?」

「諦める…わけ…無いでしょ!」

 

 本当に諦めてくんねえかな、とはいえこのまま放置するわけにもいかないから相手するしかないが。

 

「なあ、なぜそんなに諦めずに戦える?参考までに聞いておきたいんだ」

「そんなの…平和のために…決まってるでしょ…あなたの…ような悪の組織が…あると、世界が…平和に成らない」

 

 青柳はちゃんと世界を平和にするために戦ってるタイプの魔法少女だったか、まあ学校での態度で想像はできてたが。

 …あんま殺したくないな、目的事態は俺らと似かよってるから勧誘できるか?

 

「鉄砲水…」

 

「え?…痛ぇ足が!」 

 

 青柳が何かを唱えた瞬間、俺の足を何かが貫通した。

 これは…毒?!

 

時空切削(ディメンションバイト)!」

 

 毒が全身に回る前に左足を切断してワープゲートで切断部を圧迫することで止血する。痛いが毒で体が動かなくなるよりましだ。

 

「てめぇ、いつの間にこんな準備してた」

「これは…魔法海流の残骸よ…解除しなくて正解だった…」

 

 そうか、確かに青柳は魔法海流から出ただけで海流自体は残ってる。それじゃこの毒はさっき俺が攻撃に使った土か。

 

「もらった!」

 

 ちっ、これ以上は無理だ。全員に撤退指示を…。

 

「…え?」



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死者の顔


優真視点です。


 

「何で…その顔は…」

「おらぁ!」

 

 刀で首を取りに来た青柳が何か止まったので、その隙に鉄骨で弾き飛ばす。

 

「くっ、流水斬!」

 

 青柳が反撃してくるが、さっきほどの切れはない。

 反撃するなら今だ!

 

時空弾丸(ディメンションバレット)!」

 

 時空切削(ディメンションバイト)の性能を付与した弾丸を牽制に使い距離を詰める。

 てか足のワープゲート邪魔だな、解除しよ。

 

「鉄砲水!」

「ワープゲート!」

 

 水の弾丸をワープゲートで防ぎながら青柳に接近する。

 

「まずは左足!」

 

 時空切削(ディメンションバイト)でさっきの仕返しとばかりに左足を切断する、これで機動力は奪った。

 

「死ね、レイヴン!」

「死ぬかよ!」

 

 接近しすぎたため青柳が反撃してくるが、左足を失ってるためテレポートを使用するまでもなく避けれる。

 

「きゃ!」

 

 あ、バランス崩して転んだ。そりゃいきなり片足無くなったらバランスとれないよな。

 それより今が取り押さえるチャンスだ。

 

「動くなよ、少しでも動いたら首を切断する」

 

 青柳の首を掴むことでいつでも時空切削(ディメンションバイト)を発動出来るようにする。

 しっかし左足が痛ぇ、戻ったら環に治療してもらおう。

 

「さて青柳、少し話をしよう。俺たちの仲間にならないか?俺たちの目的は人が平等に平和を謳歌できる世界を創ることだ。お前の理想と似かよってるだろ」

「誰が…あんたの…仲間に…なるものですか!」

 

 ま、誰が姉の仇と手を組むかって話か。仕方ない、殺すか。

 

「勧誘を蹴るなら殺すしかないな、あばよ青『レイヴン緊急事態だ!』どうした灰…あ~博士、手短に頼む」

 

 灰崎さんの本名ばらすわけにはいかないから取り敢えず博士でいいか。それにしても何だいきなり?

 

『元花が恐らく誘拐された!』

 

「…あ?」

 

 どういうことだ?

 

『元花の転送装置から知らない人物が転送されてきた、その人物は自殺したため情報はない。とにかく一度戻って来てくれ!』

「わかった、直ぐに『レイヴンさん!』今度は何だ!」

 

 次から次えと、今度はミヤからの連絡か。

 

『ごめん、魔法少女が二人そっちに向かってる、私じゃ止められなかった!』

 

 二人、じゃあ恐らく向かってる来てるのは…。

 

「ファイヤボール!」

「サンダーボール!」

 

 やっぱ桃山と藤花だよな!

 

「美空!ひどい怪我、急いで医療班の所に行かないと。奈々!足止めお願い!」

「わかりました!」

 

 二人とも弓矢による怪我があるからミヤの妨害は受けたっぽいな。

 これじゃあ青柳に止めを差せない。仕方ない、撤退だ。

 

「総員、レイヴンの名の元に即事撤退しろ!キャットガールが拐われた、緊急会議を行う!アルは寄生した魔法少女を置いていけ、暴れられたら面倒だ」

 

 後で文句が出るかもだが、それより今は仲間を取り返すのが優先だ。

 

「じゃあな魔法少女、またどこかで」

 

 こうして、この戦は魔法少女軍に多大な被害を与え、悪の組織の幹部一名が行方不明という結果で幕を閉じた。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 報告書

 参加魔法少女 531名

 生存者 209名

 

 聖魔連合参加者 19名

 参加者 19名

 生存者 18名

 行方不明者 1名



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結果報告


優真視点です。


 

 

「これより午前に行われた戦いの報告会兼緊急会議を始める」

 

 戦いが終わって一時間後、本部の会議室には戦いに参加した元花を除く18名とセイ、灰崎さんの総勢20名が集まった。

 

「まずは戦いの結果だが、灰崎さんが衛星で確認したところ全体の約3/5を倒したらしい、結果としては上々だ」

「優真があそこで撤退指示ださなければもう少し削れたぞ」

「…すまない白夜、しかし仲間の安全が最優先だ。納得してくれ」

「大丈夫だ、俺だってそうする」

 

 やっぱり白夜から文句が出たか、まあ白夜はバトルジャンキーだしな、途中で止められたらそりゃ怒る。けど納得してくれてよかった。

 今回の戦いで魔法少女側の戦略はだいぶ削れたはずだ。ただ魔法少女の総数がわからないから、今回死んだ魔法少女が全体の何%か不明だが。

 

「次いでこちらの被害は重傷者が俺と白夜、裂、オロチ、その他が軽症、そして元花が行方不明だ」

 

 俺を除いた三人はそれぞれ自分と同等クラスの強者と当たったらしい。戦いがどういう感じだったかは後で映像で確認するつもりだ。

 軽傷者はセイ、重傷者は環がそれぞれ治した。

 

「次は環だが、魔法少女から何か言われたか?」

「特になにも、そもそも撤退指示が出た時いた場所がたまたま地中だったし、地中から出て適当に列に混ざったから誰にも気付かれなかったよ」

 

 なるほど、タイミングが良かったのか。

 

「俺の聞きたいことは一通り聞いたが、他に報告あるか?」

 

 …返事がないから無さそうだな。

 

「では今日の本題だ、さっきの戦いで元花が何者かに拐われた。その時の状況を灰崎さんに説明してもらう」

「わかった、そもそも俺がそう判断したのは元花に渡した転送装置で別人が転送されたからだ。その人物はその場にいたウルフが押さえつけたが舌を噛みちぎり自殺、しかし噛みちぎったのはその人の意識では無さそうだな」

「ん?どういうことだ?」

「そこからは私が説明します、その人物が舌を噛みちぎる時に"お止めください"と言っておりました。しかも噛みちぎった後は口を無理やり閉ざされた様になりそのまま死亡しました」

 

 なるほど、まとめると。

 

「何者かが元花を拐ったのち転送装置を誤作動させその人物がこちらに転送、そしてその人物は何者かによって殺害されたってことでいいんだな」

「恐らく」

 

 は~、面倒なことになった。少なくとも元花を拐ったのは組織だということが確定してしまった。じゃなかったらこちらに転送された人物が殺害される理由が無い。恐らく情報が漏れることを恐れて殺したのだろう。

 

「セレネ、その人物の遺体から身元割り出せるか?」

「少々時間をもらえれば可能です」

「わかった、環、お前は元花を助け…るに決まってるな」

「当たり前でしょ、その組織は絶対に潰す」

 

 うわ~、お相手さん終わったなこりゃ。環がガチでぶちギレてる。

 

「それじゃあ元花を助けて拐った組織を潰すことに異論は…」

「異論は出させない、何が何でも潰す」

「おい環!せめて周りの意見は聞け!」

 

 たく、どうしたんだよいきなり。

 

「おい優真、俺としては組織を潰すことに賛成だが環は大丈夫なのか?」

「…過去のトラウマからだと思う、身近な人を失うのが怖いんだろ。普段はこんなこと無いからな。環、お前周りのこともよく見ろ、それと安心しろ、必ず元花は取り返す」

「…絶対だよ」

 

 こりゃ早く元花を取り返えさないと環の精神衛生上やばそうだな。

 

「異論はどうとか聞いたがあれは無しだ。元花を取り返す、これは決定事項だ」

 

 反論は無し、当たり前か。

 

「すまない、文句は後でいくらでも聞く。これにて会議は終了する。アル、菫、九縄、葉月、セイ、悪いが環に付き添ってやってくれ。それと白夜、オロチ、裂は戦ったっていう強者についての情報整理をしたいから少し残ってくれ、それ以外の者は確実仕事に戻るように」

 

 

 

 



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戦場カメラ


優真視点です。


 

「それじゃあ映像映すぞ」

 

 会議が終わり、部屋には俺と白夜、オロチ、裂が残った。

 これから三人が戦ったっていう強者の記録確認を行うところだ。

 灰崎さんに人工衛星での撮影を頼んでおいて正解だったな。

 

「白夜こいつか?」

 

 画面に映っているのは、道着をカスタマイズしたような衣装を着た魔法少女だ。

 

「あ!こいつだよ。この魔法少女、俺とオロチの攻撃を受けてもびくともしなかった上に、攻撃受けた分だけ反撃の威力が上がりやがった」

「おまけにそいつ、俺とお頭二人を一度に相手取ってました」

 

 マジかよおい、そしたらこいつバグレベルで強いことになるぞ。というかこの魔法少女…。

 

「びくともしなかったってより、ダメージをそもそも受けて無くないか?」

 

 画面に映る魔法少女は、白夜とオロチの攻撃を真正面から受け止めているが怪我一つない。

 いくらびくともしないとはいえ、ダメージは大なり小なりあるはずだ。ここまで来るともはやダメージ無効になってる。

 

「いや、ダメージを与えた感覚はあったからそれは無いだろ。多分外からはわからないだけだと思う。だとしても受けたダメージ量が明らかにおかしいがな」

「なるほどな、となると反撃の威力が上がったらしいから魔法分類的には何かしらの種があるカウンター系だろう。絶対に種があるはずだ、探すぞ」

 

 

 

  数分後…

 

 

 

 

「優真さん…この魔法少女少しおかしくないですか?」

「ん?この魔法少女か?」

 

 探し始めて数分、裂がおかしいな動きをしている魔法少女を見つけた。

 

「この三角帽子をかぶった魔法少女、持ってる杖を白夜様じゃなくて道着の魔法少女に向けてます…」

「…確かにそうだな」

 

 確かにその魔法少女が何かを唱えた時に、道着の魔法少女が若干だが光っている。

 それに三角帽子の魔法少女の周りを囲うように、別の魔法少女が護衛するように配置されているな。

 

「この魔法少女がゲームで言うバフ要員か。白夜、こいつは倒せたのか?」

「その前に優真が撤退指示を出したんだろうが」

「…本当にすいません」

 

 とはいえこの魔法少女と白夜の相性は悪すぎる。白夜には悪いがこれで良かったのかもな。

 

「何か言ったか?」

「いやなにも、この二人は要注意魔法少女として記録しておく。次は裂の方だな」

 

 そうして裂の戦闘記録を画面に映す。

 

「…何だ…これ」

 

 裂の戦闘記録が再生された直後、画面がお菓子で埋め尽くされた。文字通りお菓子で地面が見えなくなってる。

 

「あいつが本を開いたらいきなりお菓子が降ってきて押し潰されたの…。幸いスポンジだったから切って脱出できたけど…、お菓子の重さで骨が数本いった…」

「…お前よく無事だったな」

 

 まあ、怪人や魔法少女は能力関係なく耐久イカれてるから今さらか。

 

「おいあいつ、今度は茨や動物を出してるぞ」

 

 白夜に言われて画面を見ると、確かにそれらを本から出している。けど何で動物は楽器持ってるんだ?

 まあ今は関係ないからいいが。

 

「あ、裂が魔法少女の腕切り落とした」

「それと裂が何かしらの反撃を受けたな、動きが遅くなってる」

 

 白夜の言う通り、魔法少女が裂の腹に触れた瞬間から見るからに動きが遅くなってるな。それに心なしか息苦しそうだ。

 

「裂、この時どんな反撃受けたんだ?」

「反撃を受けた瞬間はわからなかったけど…、本部で調べてみたらお腹に大きな石が入ってた…。一応自分でお腹切って出した後環に治してもらったから大丈夫…。それよりこの後見てて」

 

 裂に言われて視線を画面に戻すと、魔法少女が本から針と糸を出して切れた腕を縫い付けた。

 

「えぇ…そんなのありかよ」

 

 物の見事に怪我が完全に元通りだ。それに、よくよく見たら血が一滴も出て無かったな。

 

「そして動きが遅くなった所を茨に捕まって…、撤退指示前に戻ってきた…」

「その判断でいいぞ。下手すりゃあの場で殺されてたからな」

 

 けど裂が戦った魔法少女、ガチで固有魔法がわからんな。こいつ倒せそうなメンバー居たっけ?

 

「取り敢えずこいつも要注意魔法少女にしとく。これで記録会は終わりだ。残ってくれてありがとな」

 

 俺はこの後灰崎さんと元花捜索の相談だな。



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解析


前半優真視点、後半元花視点です。


 

「セレネ、どこまで終わったか?」

「優真様、もう少しで終わります」

「優真、そちらは終わったのか?」

「ああ、後で報告書に書いとく」

 

 戦場記録の確認をした後、灰崎さんに元花捜索の相談のためにラボに来た。

 セレネはそこで侵入者の解析をしていたがもう少しで終わるとのことだ。

 

「ただいま終わりました」

「お、どうだった?」

「侵入者と一致する戸籍が見つかりませんでした」

 

 …は?

 

「じゃあ侵入者は無戸籍だったのか?」

「そうなります」

「…情報無くなったじゃねぇか!」

 

 どうするよこっから。割りとセレネの解析を当てにしてたから、それが駄目だと手掛かり無いぞ。

 …!、そういえば。

 

「灰崎さん、転送装置に発信器とか付けてたか?」

「付けてはいたが、元花は今もってないぞ」

「そうじゃなくて、地球での最終ログって分かるか?」

「!、直ぐに調べる」

 

 最終ログが分かれば相手の本拠地が分かるかも知れない。というかそれにかけるしかないぐらいに手詰まりだ。これで場所が分かってくれ。

 

「結果出たぞ」

「どうだった?」

「地球での最終ログは…名神高速道路上だ。見たところ西へ向かっていたらしい」

「それで行き先は予測出来るか?」

「どうだろうな、西へ向かったのは確定だが」

 

 無理だったか…。いや、ここまで分かれば上々か。

 

「後は俺の空間認識(スペイスレーダー)で地道に探す。時間はかかるが手掛かりが西へ向かったってぐらいしかない今はこの方法が確実だ。二人も何か分かったら報告頼む」

「分かりました」

「了解」

 

 さて、環の為にも急がないとな。一日で二県探すペースで行こう。徹夜すればいけるだろ、環の回復もあるから疲労は大丈夫だし。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

(…ここは?)

 

 目が覚めたら謎の液体の入ったカプセルの中にいた。

 私は確か、あの戦闘の時に後ろから撃たれて…。思い出した、それで気絶させられたんだ。多分猛獣用の麻酔銃でも使われたんだと思う。

 

(急いで帰らな…嘘!口の中のスイッチが無い!)

 

 どこかで落とした?いやそれはない。あのスイッチは特殊な接着剤でくっついていて専用の薬じゃないと剥がせない。

 なら誰かが外した?だとしたら本部が危な…いや、環さんなら大丈夫か。

 

(取り敢えず周りを確認しよう)

 

 周りには私が入っているカプセルと同じものが大量にある。中身は魔法少女や一般人などだ。

 遺体が多いからあの戦闘で回収でもしたのかな。

 

(それにしても沢山ある。ん、あれは…赤川くん?!)

 

 何で赤川くんがカプセルに入っているの?!もしかして拐われた?

 だとしたらこの組織、全国規模で活動しているのかな。

 

(体は…よし動く。ここから脱出は…無理ですね…)

 

 場所が分からない上、私の実力だと途中で捕まるのが目に見えている。優真さんや環さんならこの状況を打開できたのかもしれませんが。

 

(!、誰か来た)

「社長、伊吹山であった戦闘でこれだけの魔法少女の遺体が手に入りました」

「良くやったぞ。しかし…、なぜ怪人が一体しか居ないのか?」

 

 入ってきたのは科学者っぽい男と社長と呼ばれた男の二人。恐らく社長がこの組織のボスだと思う。

 

「それが、我々が介入する前にどこかの組織が怪人を根こそぎ奪っていったらしく怪人が数体しか戦闘に参加しておりませんでした。そして隙をついて奪ってこれたのが、そこの猫型怪人一体だけです」

「…そうか。とはいえ、これだけ材料があればかなりの実験が出来そうだな。結果を期待しているぞ」

「ありがたきお言葉」

 

 実験…、嫌だ、絶対にしたくない、またあの地獄を経験するのは御免だ。

 

(助けて…環さん、優真さん、灰崎さん)



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情勢


優真視点です。


 

 元花の探索を始めて4日目、未だに元花の情報はない。その上探索が当初の予定よりだいぶ遅れている。

 

「おらぁ!」

「ぐは」

「はあ…、これで本日5人目。伊吹山での戦闘でどれだけ魔法少女が減ったんだよ」

 

 その理由は、魔法少女が減ったことによる悪の組織の活性化だ。そのせいで探索が妨害されまくって思うように進んでいない。

 確か死んだ魔法少女が700人弱、その約半数が関西圏の魔法少女だったとしたら活性化するのもうなずける。

 それが原因で、現時点で滋賀、三重の2県しか調べられてない。本当は今日までに四県調べる予定だったから相当遅れてる。

 そして現在地は京都府、ここも例に漏れず怪人が暴れまわっている。

 

「たく、魔法少女はなにしてんだ。流石に今日までに一人も見てないのは異常だぞ」

 

 そんなに魔法少女は腰抜けなのか、そもそも居ないのか。ま、探す邪魔に成らないだけありがたいが。

 

「…そろそろ昼だし一旦休『あ、あ~、聞こえるかなレイヴンくん』…誰だお前」

 

 通信機のハッキング?こんな時になぜ面倒事が起こる。

 というかこの声…。

 

「もしかしてオウルが言ってた天の声ってやつか?」

『せいか~い、というか良くそんなに落ち着いてるね。ハッキングされてんのに』

「お前の場合、既に本部の内部構造はともかく場所は知ってんだろ。なら焦る必要はない、お前以外だったら全勢力を使って潰しに行くがな」

 

 まあ、全勢力使わなくとも白夜と環当たりを派遣し俺がサポートすれば終わりそうだが。白夜か環がボスとタイマン張って俺と残ったどちらかが構成員を相手するだけでいいからな。

 俺の能力は一応サポート向きだし、タイマン張るなら二人のどちらかの方がいい。

 

「一応聞くが、俺たちの組織の場所は?」

『月でしょ、会話から場所分かったわ。ま、レイヴンの言う通り内部構造は分からないけど』

「ならよかった。あ、ちょっと待ってな、適当な場所に降りる」

 

 今まで異空間倉庫から出した瓦礫の上に乗ってたからな。

 ん~、あのビルの上でいいか。屋上無いから誰かが入ってくることもないし。

 

「で、何でハッキングしてきた、そして出来るのならなぜこのタイミングでしてきた?」

 

 疑問はこの二つだ。本当になぜ今してきた。

 

『順番に答えるよ。ハッキングした理由は君と話がしたかったから。このタイミングでした理由は距離の問題だね、オウルちゃんの時は地下鉄で会話できる状況だったから良かったけど地上じゃそうは行かない。君の通信機のセキュリティがきつくてね、近づいてくれなきゃハッキングできなかった』

「あれ?お前の魔法って距離無制限じゃないのか?」

『距離無制限でできるのは情報の収集だけだよ。会話などの情報の発信は特定の条件下じゃないと無理』

 

 なるほど、天の声の魔法はある程度制限があるのか。それでも距離無制限の情報収集だけでお釣りがくるレベルでヤバいが。

 

「で、話って何だ?」

『元花ちゃんについての情報、欲しいでしょ。私はそれを持ってる』

「!」

 

 それは是非とも欲しい。ここまで二県しか調べられてないから情報だけでありがたい。

 けど、こんなうまい話があるか?

 

「何が目的だ?」

『オウルちゃんに言った頼みごとと同じだよ。八世召って人を探すのを頼みたい。二人の魔法と聖魔連合の科学力なら出来るでしょ』

 

 確かに出来なくはない。俺と環は探知系の技があるし、人工衛星での捜索も出来る。

 けど疑問がある。

 

「なぜお前自ら探さない」

 

 捜索だけなら天の声でも出来るはずだ。俺たちに頼む理由がない。

 

『あ~、それについては企業秘密だからいえない』

「…まあ今はそれで納得しよう。それと俺のは魔法ではなく能力だ」

『…あ、確かに。ゴメンゴメン、周り魔法少女ばっかだから間違えた』

 

 何か引っ掛かる言い方だが別にいいか。

 

「で、八世召さんを探すのはいいが先に元花についての情報を教えろ」

『確かにそうだね、それじゃあ場所を教えよう。元花ちゃんの居る場所は大阪の阪神国際空港跡地だよ』

 

 阪神国際空港跡地か、確か阪神国際空港は数十年前にどこかの悪の組織に襲撃されて閉鎖されたはず。空港自体は別の場所に新たに建設されたが、元々の場所は当時のままだって習ったな。

 

「分かったが…その情報は信用していいんだよな?」

『信用していいよ』

「…分かった」

 

 取り敢えず今はいいか。嘘なら嘘でこちらも約束守らなくて良くなるし。

 

「質問だ、お前はなぜ俺たちに肩入れする」

『単純に魔法少女に頼るより君たちに捜索を頼んだ方が確実だと思ったからだよ。君たちの探索能力が無ければ情報を渡すようなこともしなかったし』

「ふ~ん、そいつは光栄だな」

 

 確かに、捜索だけならそこらの魔法少女でも出来そうだからな。こちらの能力が買われるのは悪いきはしないな。

 

「最後に、お前は誰の味方だ」

『…私は自分の味方だよ。私のやりたいようにやる、それだけよ』

 



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逃走


元花視点です。


 

(…何日たったかな?)

 

 カプセルがあるこの部屋は時計が無く、窓も無いため日数感覚が無くなる。

 捕まったあの日から人体実験三昧で疲れた。

 体に薬を打ち込まれたり、再生能力がバレたせいで体を細切れにされたりもした。おかげで再生能力は強化されたからそこだけは感謝している。

 周りにあった魔法少女の遺体は怪人に改造されている。けど、白夜さんみたいな怪人ではなく、己の意思はなくただ命令のままに動く人形だ。

 

「離せ!離せって!」

「うるさいガキだ、いい加減おとなしくしてろ!」

 

 あ、赤川くんが戻ってきた。

 赤川くんも毎回実験されてんのに良く抵抗する気になれるね。私は実験二回目でもう心が折れた。というかさっそく拷問とも言える実験に良く耐えれるね。

 

「たく、苗又は無事何だろうな」

「お前の友達ならあそこのカプセルに入ってるよ。ま、無事かは分からんがな」

 

 赤川くんは目が覚めてから直ぐに私の存在に気付いて声を掛けようとしてくれたが、カプセルの中ぎ液体で満たされていたので中からの声は一切聞こえない。

 口パクしてたから何か言おうとしてたのは分かったけど。

 

「…おらぁ!」

(…は?なにやってんの?!)

 

 いきなり赤川くんが研究員を殴り飛ばした。

 …ん?こっちに飛んできて…。

 

(危ない!)

 

 そのまま私が入ってたカプセルに激突してカプセルぎ割れた。

 

「よし命中!」

「ちょっと!危ないでしょ!」

「そんなことより速く!脱走するぞ!」

 

 え、ちょ、待って!

 

 

 

 

「何でいきなり逃走を?」

「何でって、このままだといつか殺されるぞ!だったら逃げるしかないだろ」

 

 まあ確かにあのままだと用済みになって殺されてたかもね。

 

「分かった、因みに逃走プランは?」

「ん?そんなもの無いぞ」

「…は?」

 

 なに言ってんの赤川くんは。

 

「たまたま隙ができたからぶん殴っただけだ。それより前から敵がくるぞ!」

「少しはプラン考えといてよ!」

 

 あ~もう、こうなら自棄だ!

 

「猫爪!」

「ブラッドキック!」

 

 前方にいた敵をそれぞれ一人づつ辻斬りのように倒して進む。

 

「赤川くんさっきの技なに?」

「さっきのか?何か実験されまくってる時に血液を操る能力を手に入れてよ、それの応用だ。全身に血液を回して運動神経を上げて蹴るだけだがシンプルに強いぞ。苗又こそ、猫の能力でも手に入れたのか?」

「う、うんそうだよ」

 

 元からだけど怪人だとバレるわけには行かないからごまかそ。

 

「それより、さっき敵を倒したから多分組織のトップに脱走したのがバレたから急ぐよ」

「おう!」



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一人軍隊


元花視点です。


 

『緊急事態、緊急事態、実験体971番、1222番が逃走、職員は至急確保へ向かってください』

「ち、やっぱりバレた」

 

 そりゃさっき敵を倒したからバレるか。

 

「赤川くんプラン無いのは分かったけど道は流石に把握してるよね?」

「あ?してないぞ」

「…流石にバカ過ぎない!」

「仕方ないだろ!とにかく突き当たりまで行って壁を破壊すれば外に出れるだろ!」

 

 確かにそうだけどさ、せめて道は把握しといてよ。

 

「仕方ない、ビーストモード!赤川くん乗って!」

「おぉ!凄いな、このまま行くぞ!」

 

 ビーストモードでパワーを上げて一気に突き進む。多少の怪我なら直ぐ再生できるから問題ない。

 

「居たぞ、捕まえろ!」

 

 ち、やっぱ敵来るよね。

 相手は見た感じ能力は使ってない、武器は銃火器。私は大丈夫だけど赤川くんは食らったら無事じゃ済まない。

 

「苗又突っ込め!俺が何とかする、ブラッドシールド!」

 

 赤川くんが操作する血液が目の前に盾を生成していく。これなら銃弾は問題なくなった。

 

「うりゃあ!」

 

 そのまま突っ込んで敵を弾き飛ばす。銃弾はしっかり防げたから怪我も無い。

 

「さっきの盾は?」

「血液で作った盾だ。前に水の魔法少女がやってたのを真似した。ただ体から血液出す時めっちゃ痛いがな」

 

 そりゃ痛いでしょ。盾に出来るだけの血液を一気に出したんだ、傷口も大きくなるに決まってる。

 

「それより貧血大丈夫?」

「何とかな、出した血液を体内に戻すことで何とかなしてる」

「それならまあ…」

 

 とにかくこのまま一直線に外へ…。

 

「あ、あれ?」

「苗又どうした?」

「か、体が動かない」

 

 誰かの能力?だとしたらどこから。

 

「苗又後ろだ、ブラッドシールド!」

「え、きゃ!」

 

 なに今の、誰が攻撃し…。

 

「魔法少女?」

 

 しかも何かVRゴーグルみたいなの着けてる。

 もしかして改造された魔法少女の遺体か?

 

「どうだ、我が魔法人形(マジックドールズ)は?」

「!、お前がボスか」

 

 あいつか、捕まった初日に視察に来てた社長と呼ばれた人物だ。

 

「そうだよ、それにしても駄目じゃないか勝手に出てきちゃ。君たちは大事な実験台なんだからね」

「実験台…何の実験をしていた?」

 

 少しでも会話で時間を稼いで作成立てないと。

 

「おお、興味があるのか。それじゃあせっかくだし教えよう。君たちにしていた実験は薬の臨床実験だ。二人に投与したのは人工的に魔法又は能力を付与する薬だ。君は失敗してしまったらしいが、971番の方は血液操作の能力を得たらしいね」

「じゃあその能力で今から脱走してやるよ!」

「けどね、その薬には副作用があるんだ」

「副作用?それは『バタン』ちょ、赤川くん!?」

 

 何でいきなり倒れた、これが副作用?

 

「赤川くん大丈夫?!」

「何とか…体の自由は聞かないがな」

 

 それは大丈夫と言わないよ!

 

「それで、副作用はこれ?」

「そうだよ、この薬が成功した場合、人工的に付与された魔法又は能力に体の変化が追い付かずに最終的に体が体内から破裂する」

「破裂って、赤川『パァン』…え」

 

 さっきの破裂音、そして目の前に広がる血溜りとその中心に倒れてる赤川くん、まさか、もう…。

 

「う~ん、今までより副作用が出るのが早いね。971番の能力は血液操作だったし薬が全身に回るのが早かった…おっと、話している途中で攻撃してこないでくれるか?」

「黙れ」

 

 こいつは絶対に殺す、例え環さんと優真さんの約束を破ることになったとしても。

 

「仕方ない、魔法人形(マジックドールズ)!1222番を確保せよ」

 

 そうして魔法人形(マジックドールズ)二体が動き出す。

 恐らく片方が拘束系統の魔法で、もう一人は拳で殴られたから打撃系の攻撃魔法だと思う。

 まずは拘束魔法持ちから攻略を…。

 

「う…うぐ…!」

 

 何だいきなり、液体で口を塞がれた?

 

「まさか魔法人形(マジックドールズ)が二体だけだと思ったか」

 

 嘘、二…五…八…まだまだ増えてる。こいつ、何台魔法人形(マジックドールズ)作ったんだ、20体以上はいる。

 

「ぐはっ」

 

 ヤバい、心臓をやられた。急いで再生を…あれ、上手く再生が出来ない。

 

「貴様の再生、異物が体内に有ると上手く再生出来ないのは分かっている。安心しろ、死んだら俺が人形操作で上手く使ってやるよ」

 

 それが…相手の能力か。ヤバい…意識が…。

 ごめん…なさい…環さん。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「さて、死んだかな。再生持ちだったから生かしておきたかったんだが仕方がない」

 

 男の能力は人形操作、人形、又は人形(ひとがた)の物を操ることができる。無論、人間も例外ではない。

 

「俺の能力は反抗的な物には効き辛いからな、仕方な『パァン』…は?なぜ破裂した」

 

 男が説明した通り、この薬は魔法又は能力が付与されない限り破裂することはない。

 

「いたた…あれ?何で私生きて…、そして何か背が低いし…」

「おい、お前何をした」

 

 そして散らばった肉片の一つから小さな元花が再生された。

 

「今までのお前は本体から再生していたはずだ。それなのに何だその体は。まあいい、『ブチッ』これぐらいなら直接潰した方が早い」

 

 男は足で元花を踏み潰した。

 

(痛い…けど再生した)

 

 しかし、元花は一番始めの体の近くの肉片で再生していた。

 

(このまま前に出てもまた殺されるだけだ。けど…さっき確かに潰された感覚はある。そして恐らく今まで出来なかったプラナリアのアレが能力で出来るようになったのかも)

 

 元花は自分の元の体に意識を向ける。

 

(お願いできて…)

 

 すると元花から落ちた血液から新たな元花の小さな体が作られる。

 

(よし、上手く行った)

「どうする私、あいつを倒すか?」

「…そうしよう、あいつは赤川くんを殺した。やるよ、私」

「分かった、私」

 

 そうして二人(オリジナルとコピー)は自分の死体に力を込める。

 

「「一人軍隊、百猫夜行(ひゃくびょうやこう)」」

 

 そうして、これから元花たちによる反撃が開始する。

 

(待ってて赤川くん…必ず、仇八トルカラ)



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包囲網


優真視点です。


 

『おい優真、急いで阪神国際空港跡地に向かってくれ!大変なことになってるぞ!』

「ああ、もう見える位置に来てる。本当に大変なことになってるな」

 

 さっきスコープで確認したら何か大量の元花がいて凄い気持ち悪いことになってた。

 遠目から見ると大量の深緑の虫が蠢いてるように見える。

 それに何か小さい元花も居るからサイズの選択は自由なのだろう。

 

「ああなった原因に心当たりあるか?」

『…あり得るとしたらプラナリアの能力の覚醒だろう。プラナリアは切り刻まれてもそれぞれが別の個体として再生する、今まではその再生しか使えなかったがなんらかの理由で分裂出来るようになったんだと思う』

「その理由は?」

『それが分かったら苦労しない』

 

 だよな、考えられるとしたら拷問や実験などによるトラウマでの錯乱かな。

 近づこうにも沿岸部に魔法少女が集まってるからどう行くか。

 というか大阪にはまだ魔法少女が居たんだ。伊吹山から遠いからか?

 

「灰崎さん、元花の分裂止める方法わかる?未だに分裂が止まってないんだよ」

 

 元花の数は未だに増え続けている。元花は再生も持ってる、分裂したところで堆積は減らないから理論上無限に分裂が可能だ。

 

『本体がいるならそれを止めればいいと思うが、いかんせん分裂だから全部が本体の可能性あるぞ』

「だよな、じゃあ環と菫に頼むか?それなら本体の場所解るし全て本体なら範囲攻撃で何とか出来るだろ」

 

 俺のレーダーでも出来なくはないがいかんせん見た目が同じだからな、区別がつかない。環なら生命体の区別は魔法の影響で直ぐに判るから適任のはずだ。

 それに、探索のための新技作ったらしいからな。試すにはちょうどいい。

 

『そうしよう、こちらで環と菫を召集しておく。召集したら連絡するからボス部屋にワープゲートを開いてくれ』

「了解」

 

 とはいえそれまでどうするか…、橋破壊してこれ以上の拡大を防ぐとかか。

 

「ん?水に覆われていってるな」

 

 考えてたら魔法少女が海水を使ってドームを作り阪神国際空港跡地を丸々覆い尽くしていた。

 まあ逃げられないようにしてくれる分にはありがたいが。

 それに心なしか小さくなっていって…。

 

「ヤバい!そのまま押し潰す気か!」

 

 元花は再生が強力なだけで、肉片一つ残らず潰されたら死ぬ可能性あんだぞ!

 海水を操作してる魔法少女は…あいつか。

 

転送段(テレポートバレット)!」

 

 今回は殺す理由もないので足を狙う。

 

「ぐあっ!」

 

 よし命中。海水は…ちゃんと止まったな。

 ついでだ、こいつを人質にしておこう。

 

「全員動くな、少しでも動いたらこいつの頭に弾丸ぶっぱなすぞ」

 

 さて、とりあえず環たちが来るまで適当に時間稼ぎと行こうか。

 

 

 

 



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武闘派



 先に注意事項、今回の話に関西弁のキャラが登場します。しかし作者が関西弁にわかなのでエセ関西弁の可能性があります。おかしなところが見つかり次第、どこがどのようにおかしいのか報告お願いいたします。報告があり次第修正を行います。



優真視点です。




 

「あんた、いきなり何するの!」

「うるさい少し黙ってろ」

 

 人質がうるさいので銃を頭に突きつけて黙らす。

 

「少し聞きたいことがあるのだが、リーダーは誰だ?」

「あたいだよ」

 

 前に出てきたのは道着みたいな服装の魔法少女だ。というかこいつ…。

 

「お前、伊吹山で白夜と戦わなかったか?」

「白夜?あぁあの鬼か、確かに戦ったよ。それがどうした」

 

 …ヤバいな、道着の魔法少女は魔法抜きでも白夜と戦えるレベルの戦闘スキルを持ってる。真正面から戦うには部が悪すぎる。

 

「あいつは俺の同盟相手なんだよ。で、聞きたいことだがお前たちはなぜここに集まってる?」

「んなのあそこの組織を潰すために決まっとる。それとあたいの名前は積一二三(せきひふみ)や。お前って名前じゃない」

「それは悪かった。そういえば自己紹介まだだったな。俺はレイブン、聖魔連合連合長をやらせてもらっている」

「聖魔連合…あぁ、伊吹山で相手した組織かいな。そんな人こそなぜこんなとこに?」

「そんなの、あの組織がこちらに喧嘩売ったからに決まってんだろ」

 

 じゃなきゃこんな敵を作る行為はしない。

 

「へぇ、じゃあ何でさっき邪魔したん?潰されて困ることでもあるんか」

「…あそこに拐われた仲間がいんだよ」

「…」

 

 …おい何か言えよ。

 

「いや~すまんすまん、まさか仲間のためとはな。予想外や」

「なんだよ、悪の組織が仲間助けちゃ悪いか?」 

「いや別に、ただ…少し好都合だと思っただけや!」

 

 っ、来る!

 

突衝拳(とつしょうけん)!」

「ワープゲート!」

 

 あっぶね!何とかワープゲートで相手の腹に返せたけど食らってたら一発KOだったぞ。しかも映像で見た通り相手無傷だし。

 

「今のを防ぐか、けど目的は達成できたから問題なし」

「目的…っ、人質か」

 

 今の一瞬で人質を回収された。

 回収したのは…あいつか、ロープ持ってるから恐らく魔法は縄操作ってどこか。

 

「こいつはあたいが足止めしとくからはよアジトぶっ潰しな!市から許可もらっとるから全力でな!」

「おい、何をするつもりだ!」

「何って、あそこを文字通り潰す見込みや。それに、組織のボスであるあんたが出端ってるっちゅうことは拐われたのは恐らく幹部クラス、ならその幹部ごと一気に潰すに限る」

「面倒なことを…」

 

 けど言葉的に大量に見える元花が幹部だとはバレてないっぽいのは不幸中の幸いか。

 それに…。

 

「プルプル、プルプル…」

 

 さっきから他の魔法少女の後ろに居た恐らくバッファーである三角帽子の魔法少女、その護衛が縄の魔法少女一人になったのは幸いだな。

 それでも空港跡地にさっき人質だったやつ含め十五人向かったのがヤバいな。

 

『レイブン、環と菫、そしてついでにアルの召集が完了した!』

「ナイスタイミング!ワープゲート!

 

 アルが来てくれるのはありがたい、環の顔隠せるし何より戦略が増える。

 

「三人とも、反撃開始…て」

「おいレイブン、俺も混ぜろ!」

 

 何で白夜も来てんだよ!

 

「白夜何できた!」

「そんなの、こんな面白そうな事が始まるってんなら参加しないわけないだろ、それに…」

「ぐっ…」

「この道着の魔法少女との決着がまだだからな、こいつの相手は俺がもらうぞ!」

 

 あ~もう!積と白夜の相性は最悪だってのに、けどこうなった以上仕方がない。

 

「菫は空港跡地に向かった魔法少女の足止め、オウ…あ~フュージョンアルは上空からキャットガール本体の捜索、俺は内部へ突入しキャットガールの実験資料の回収を行う、白夜はそのまま足止めしてろ!」

「「「「了解!」」」」



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魂の量


環視点です。


 

「アル、あの技試すから顔に移動して素顔隠して」

『了解』

 

 兄さんに元花を探すように呼び出されてみれば、何で元花が増殖しての!多少の情報は事前にちょうだいよ!

 けど、確かにこれなら試したい魔法の実践にはちょうどいい。

 まずは周りを一望出来るように上空へ行こう。

 

痛覚軽減(ペインカット)、続いて肉塊粘土(ミートクレイ)

 

 この肉塊粘土(ミートクレイ)はこの前の襲撃の時にアルと一体化たのを元に開発した魔法だ。この魔法により、アルと一体化して植物操作(リーフコントローラー)をせずとも体の形状を自由自在に変形可能になった。要は植物操作(リーフコントローラー)の肉体番ね。

 ただし今は手足限定だけどね、多分訓練すれば全身で発動できるはず。

 それと普通に変形するのは痛いので「痛覚軽減(ペインカット)は必須だけど。

 

「今回は腕を翼に変形、TAKE OFF!」

 

 よし、今回は上手く飛べた。練習だと何回も墜落したからね。やっぱり元々無い部位を操作するのは難しいよ。練習に付き合ってくれたスカイには感謝しないと。

 

「ウィンドウブラスター!」

「危な!やっぱ攻撃してくるよね」

 

 下から魔法少女が打ち落とそうとしてくる攻撃は躱せるけど、風属性だから見えない。それに当たらなくても近く通ったら攻撃で起こった風でバランス崩して墜落しちゃう。

 

「アル、血染め桜にも接続して」

『わかった、接続したら撃ちはじめてもいい?』

「ちょっと待って、自動回復(オートヒール)、そして盾の形状変形っと、よしいいよ」

 

 こういう時のために、灰崎さんに血染め桜を改造してもらった。

 

『いくよ~、ウッドチップガトリング!』

 

 改造内容は血染め桜に発射口の設置、そしてそれはアルの根を弾丸として発車ふる。無論、根は有限なので自動回復(オートヒール)で残弾数を増やす。

 因みに、アルの根は痛覚が通ってないので無問題。

 

「菫も毒の扱いには慣れてきたね、次の課題は大鎌を使った接近戦かな。っと、このあたりでいいかな」

 

 ここなら空港跡地全体を視界に入れられる。

 

「よし、魂探知(ソウルサーチ)発動!」

 

 この魔法が元花探索用に新たに開発した魔法だ。当たり前だが魂は人によって違う。その事を利用するためにここ数日で魂を認識出来るように魔法を進化させた。

 私の魔法は生命魔法だから名前的に出来るとは思ってたけど本当に出来るとはね。

 

「うわー、分裂した元花全部に魂がある。けど一人だけ魂が大きいからあれが本体…、嘘でしょ、本体が移った」

 

 ひょっとしなくても本体を自由に選択できるタイプか。

 

「これ急いで兄さんに向かってもらった方が良さそう。兄さんはあそこか。あれ、何で兄さんに魂が三つ重なっての?」

 

 兄さんの能力に関係あるのかな。けど兄さんの能力は空間系だったはず、後で聞いてみよう。

 とにかく兄さんに連絡しないと。



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助ける方法


優真視点です。


 

『兄さん、元花の分裂は本体自由選択型っぽい、だから誰か一人連れ帰って引き上げる?』

「ち、面倒だな」

 

 組織内部に侵入してから暫くしてオウルから元花についての連絡がきた。

 この辺りまでは元花の分身がいないからサクサク進めている。

 連絡の通りなら元花は本体を自由に変えられる。けど本当に無条件か?

 

「オウル、暫く観察しててくれ。どっちにしろ資料が見つかって無いからもう暫く引き上げるには時間がかかりそうだ。それに本当に条件が無いのかもできたら調べてくれ、条件次第じゃ更に面倒なことになる」

『わかった?』

 

 ぶっちゃけた話、そんなに都合よく本体を選択出来るとは全く思えない。だからもう少し調べ『ドガーン!』…今の音何だ、後ろから聞こえたが…。

 

「何だよこの遺体、魔法少女のか?というかもう少し後ろにいたら衝突してたぞ」

 

 少し後ろの壁に人一人分位の穴が空いているから恐らくそこから飛んできたのだろう。

 穴の向こうは…、研究室か。ちょうどいい、資料を全部持って帰るぞ。

 

「異空間倉庫展開、これでよし。向かいの壁にも穴が空いてるな。どこから飛んできたんだほんと」

 

 その前に一応魔法少女の遺体を回収。

 さて、この先何があるのかね。

 

「って、また遺体かよ」

 

 さっきとは違い男性の遺体だけどな。大方、ここから逃げ出そうとしたのだろう。見た感じ心臓が破裂して死亡してるな、何でだ?

 

「う…誰か、いるのか?」

「!、お前まだ生きてたのか、急いで治療を…」

「俺の事はいい、それより、元花を…止め…」

「おい、おいしっかりしろ!」

 

 くそ、とにかく一旦オウルに見せよう。まだ間に合うかも知れない。

 

「ワープゲート。オウル、急いでそのワープゲートくぐってこっちにこい!」

「?、わかった、それと切り替えの条件わか…え、赤川くん!?」

「知り合いか?」

「知り合いも何も元花の友人だよ!回復(ヒール)!」

 

 こいつが話に聞いてた赤川か、赤川も捕まってたのか。

 

「兄さん!私の魔法じゃ赤川くんを直せない!」

「何でだ!」

「脳出血が起きてる!出血した穴は治せたけど私の魔法じゃたまった血液までは取り除けない!恐らくセイでも無理、セイが対応できるのは怪我やウイルスの類いだもん!」

 

 …ヤバいな。治せない原因が怪我の類いだったらオウルより高度な回復能力を持つセイに頼めばよかったが、確かにセイの専門外だ。

 それに状況的に病院に連れてくことも出来そうにない。

 申し訳ないが見捨てるしか…。

 

「赤川くんから離れろ!」

「あっぶね!って、元花か驚かすな…どうしたオウル」

「兄さん、元花の様子がおかしい。正気を失ってる、どのみち目の前の元花は分身だよ」

 

 そうか、こいつは分身か。本物と見分けがつかないな。

 

「猫爪!」

「っ、植物盾(リーフシールド)。元花、私が誰かわからないの?!分身でもわかるでしょ!」

「うるさいうるさい!赤川くんに触れるな!」

 

 どうしたものか。けど、これで暴走の原因は赤川で確定したな。

 後はどうやって止め…ヤッバ!

 

「テレポート!」

「え、うわぁ!」

 

 赤川の遺体?とオウルをテレポートで異空間倉庫に押し込んで逃走する。

 

「ちょっと兄さん、いきなりどうしたの?」

「オウルは盾で見えなかっただろうが、奥から元花が大人数押し押せて来てた。それも先頭の分身を押し潰しながらな。因みに一番前ではボスっぽい人が必死に耐えてたぜ」

 

 ザマァ見ろ、元花を拐った罰だ。

 

「それと、赤川は一応生きてんのか?」

「…一応生きてるね、けど後余命十五分も無いと思う」

「…どうするよほんと」

 

 元花の暴走の原因は赤川だ。その赤川が死亡したらどうなるか予想が付かない。暴走する理由が無くなって落ち着いてくれればいいが、そんなのこちらの希望でしかない。

 暴走が止まらなければ切り替え条件を封じた上で最悪殺害、良くて本体を監禁するしかないぞ。

 

「ねえ、その赤川って人が死ななければいいの?」

「…あぁアルか、まあ死なないに越したことはない。赤川が生きて元花が止まれば御の字、止まらないくても当時の状況を聞き出せるからな」

「怪人生成機は?使えないの?」

「…それだ!」

 

 怪人生成機、それを使えば赤川は生き返る。白夜の話的に人格や記憶も大丈夫そうだから使わない手はない。

 

「オウル、今からお前を本部へ送る。灰崎と一緒に怪人生成機を使って赤川を生き返へらせろ。赤川が何か文句言ってきたら俺が責任持って何とかする。生き返へらせたら転送装置でこちらに送れ」

「いいけど兄さんは?」

「俺は白夜と菫の加勢に行く。いつまでも任せっぱなしじゃ悪いしな。幸い元花は拐った組織のボスが止めてる。良いように利用しようじゃないか」

 

 それにオウルは世間じゃ魔法少女側だ。こんなところで戦って聖魔連合No.2と知られる訳にはいかない。

 

「…わかった、死なないでね」

「わかってるよ、こんなところで死んでたまるか」

 

 それじゃ、頼んだぞ。

 

 

 

 



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時間


前半オウル視点、後半レイヴン視点です。


 

「灰崎さん急いで怪人生成機の起動準備して!」

「オウルいきなりどうし…」

「いいから早く!」

 

 兄さんに本部へ送られてから急いで灰崎さんに機械を起動してもらう。

 この手の機械は灰崎さんに頼んだ方が確実だしね。

 

「準備できたぞ」

「了解、材料セット!」

 

 怪人生成機はカプセルベッドみたいな形状なので寝かせるようにセットする。

 そして蓋を閉じればセット完了。

 

「起動!」

『詳細設定を入力してください』

 

 は、何これ?

 

「オウル、お前設定何もせずに起動したな。それは細かな設定が必要何だよ、急いでだからといって先走るな」

「う、ごめんなさい」

 

 確かにこちらのミスだ。次から気を付けよう。

 

「しょうがない、設定操作は俺がする。何か要望はあるか?」

「人格、記憶は生前のまま、後は時間が無いからお任せで!」

「…OK、できたぞ」

 

 よし、これで後は待つだ…。

 

『怪人完成まであと十二時間』

「…は?」

 

 ざっけんな!これじゃ間に合わないでしょ!

 

「灰崎さん、時間を短縮する方法ない?!」

「あるわけ無いだろ、そんなのあったら使ってるわ!」

 

 だよね、本当にごもっともすぎる。

 

「そもそもそいつは誰だ?」

「…同級生の赤川操くん、そして元花の暴走した原因だよ。元花の分身が血まみれ赤川くんを守ろうとしてたから、何かしらの要因で赤川くんが傷ついた事が原因だと思う」

「…ああ!元花が友達出来たと嬉しそうに話してた子か!」

 

 灰崎さんの言う通り、元花は赤川くんの事をとても嬉しそうに話してた。本人には素っ気ないような態度をとっていたけど内心とても嬉しかったのだろう。

 素っ気ない態度をとる自分に優しくしてくれるような子が目の前で瀕死になれば暴走するのも可笑しな話しじゃない。

 

「それで、怪人生成機で赤川を蘇生させ元花を止めてもらうつもりだったのか?」

「そうだよ、むしろそれしか作戦が残ってない」

「…少し待ってろ、どうにかなるか解析してみる」

 

 本当にどうしよう、もし止まらなかったら…いや止める方法自体はあるか。観察してわかったけど、再生で本体になるのは脳があった方みたいだから頭持って帰れば最悪それですむ。

 けど、それだと元花の精神面がヤバい事になってるのは変わらないから結局赤川くんを復活させるしかないか。

 

「オウル、時間を短縮する方法が見つかったぞ!」

「本当!」

「ただ、その方法が所要時間×一年の寿命を捧げる事らしい」

「なんだ、その程度か」

 

 今回必要となるのは所要時間十二時間×一年で合計十二年だ。けど、この前の戦いで人生十周出来るぐらい寿命が貯まってる。たかだか十二年、どうと言うことはない。

 

「おいマジでやるのか?」

「別にいいよこれくらい。それに、こういう身体に関わるデメリットを受け持つのは、それらを踏み倒せる私の役目でしょ!」

 

 さあ、とっとと目を覚ませ赤川操!元花には貴方が必要なのよ!

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「菫、大丈夫そうか?」

「あ、レイヴンさん。来てくれたんですね」

 

 オウルを本部へ送った後、俺は菫の方へ合流した。

 白夜の方はタイマン邪魔されるのを嫌がりそうだし、なりより菫には十五人足止めする役割を任せちゃったしな。

 その割にはぴんぴんしてるが。

 

「割りとまだまだ余裕有りそうだな」

「そうでもないです。今は毒の威力と虚勢で何とかしてますけど結構危なかったんですよ」

「それはすまんかった」

 

 だとしても凄いな、一対十五だぞ。良く持ちこたえてくれたな。

 

「それで状況は?」

「結構な時間膠着状態が続いています。それと相手の魔法ですが、水と火が三人、風と土が四人、そして防御系魔法や回復魔法擬きに転用出来る固有魔法が一人です」

「チ、面倒だな」

 

 四属性魔法とは違い、固有魔法のそのほとんどが個人によって異なる。似たような事象を引き起こせる魔法だとしても、魔法の中身が全く異なる場合が多い。

 魔法ではないけど白夜とビルドがいい例だな。物をくっつけるという結果は同じだが、白夜が摩擦力でくっつけているのに対し、ビルドは溶接みたく物理的にくっつけるといった違いがある。

 なので固有魔法は考察を見誤るとわからん殺しを食らいやすい。下手すればそのまま敗北一直線だ。

 

「開幕直ぐに数人に毒が掛ったんですけど、見ての通り毒の症状が全然進行してません。それに、次からの攻撃は魔法少女側に一定距離以上進まなくなりました」

「その状態でも向こうからの攻撃は通ると」

「はい、なんとか毒の放出力で拮抗出来たので膠着状態には持ち込めましたがこれが崩れるのも時間の問題です」

 

 なる程な、けどこの状態を下手に動かしたくないんだよな。

 

「魔法少女側の行動は?」

「時々魔法を放ってくる程度ですね。恐らく私の魔法による周辺被害を気にして下手に大規模魔法を使えないのだと思います」

「周辺被害?ああ、そういうことか」

 

 阪神国際空港跡地のある大阪湾はほぼ全域が漁場として使用されている。そのような場所で菫が全力で毒を放出したら大阪湾は数日で汚染され、生息しているほぼ全ての生物がお陀仏になる。

 そうなれば漁業関係の被害総額は計り知れない事になるぞ。

 

「…そうだ、それを交渉材料にすればいい」

「どういうことですか?」

「こうすんだよ」

 

 そうして異空間倉庫からメガホンを取り出す。電源はちゃんと入るな。よし。

 

「聞こえるか魔法少女!今すぐにここから撤退しろ!さもなくば大阪湾に猛毒を放流する!そうなれば数年は大阪湾の漁獲量が零になるだろう!」

「ちょ、レイヴンさん!何してるんですか!」

「ん?別に本気でやろうとは思ってないぞ、単なる嚇しだ。魔法少女側からしたら菫の魔法を見てるせいで無下には出来ないだろうからな。実際やろうと思えば出来るだろ」

「まあ出来ますけど…」

 

 …やっぱ菫って魔法の才能的な何かがヤバイな。

 っと、そんなことより魔法少女は撤退…するどころか何か攻撃貯めてね?

 

「レイヴンさん!何かヤバイのが来ます!」

「やっぱりそう見えるよな!ワープゲート!」

 

 四属性全てが込められたヤバそうな魔法をワープゲートで送り返す。

 しかし、魔法少女の少し前で魔法は推進力を失ったように停止し霧散した。

 

「あれが菫の言ってた魔法か。とりあえずあのレベルの攻撃は防げることはわかったがどんな魔法なんだ?ま、とにかく交渉は決裂だな。菫、毒を目に見えるようにチャージしてくれ。そしていつでも発射できるようにしとけ」

「わかりました」

 

 殺りあいたくはなかったが、仕方な…。

 

『兄さん、赤川くんが復活した!今そっちに転送する!』

「ナイスタイミングだ」

「レイヴンさん、どのような連絡で?」

「元花を止めてくれるかもしれない友人が復活したって連絡だ。さて菫、その友人が元花を止めるまで後少し頑張るぞ」

 

 本当に頼んだぞ赤川操、お前なら元花を止めれるはずだ。





菫の魔法について
毒は放出力を強めるほど毒性が下がり、毒性を上げるほど放出力が下がる。なお量は変化せず、毒性を下げたとしても人間が死亡するには十分なほどの毒性がある(即死するレベルではない)。


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復活


赤川操?視点です。


 

「兄さん、赤川くんが復活した!今そっちに転送する!」

 

 …あれ、ここは、どこだ?

 俺は確か…何があったんだ?

 

「始めにいくつか質問させて、まず自分の名前は言える?」

「俺の名前?確か赤川操だぞ」

「確かって…、記憶が混濁してるのかな。それじゃあ次の質問、苗又元花って名前に聞き覚えは?」

 

 苗又元花?どこかで聞いたような…、苗又…苗…。

 

「あ!そうだ苗又!あいつを止めないと!」

 

 俺の心臓が破裂した後、苗又が分身して暴れだしたんだ。その後誰かに止めてくれって頼んだ気もする。

 

「あれ?そういえば俺死んだんじゃ…」

「それに関しては後で説明する、今は元花を赤川くんに止めてもらいたいの。言っとくけど拒否権は無いから」

「ちょ、ちゃんと説明し…て…」

 

 え、ここどこだ?海のう…あっつ!皮膚が焼けるように熱い!

 

「アル、赤川くんの日除けになって!」

 

 はぁ、はぁ、なんとか助かった。

 

「ごめん、まさか燃えるとは思わなかった」

「本当どうしてくれんだ!危うく死にかけたぞ!それと状況を教えろ!何だよあの分身しまくった苗又は!そもそもお前誰だよ!」

 

 確かに気を失う直前に苗又が分身したのは分かってたけど、あそこまで分身が増えてるとは思わなかった。

 

「あぁ、確かに自己紹介がまだだったね。私の名前はオウル。本名は黒榊環だよ」

 

 黒榊?どっかで聞いたような…、あ!

 

「お前同級生か!」

 

 どうりでどっかで見た顔だと思ったよ!

 

「次に元花の分裂の原因だけど、赤川くん、君が死にかけたのが原因だよ」

「はぁ?」

「もう赤川くんは普通の生活には戻れないだろうから言うけど、元花は元から怪人だったんだよ、他の悪の組織に虐待紛いの事をされてたところを私達の組織で保護したんだ。元花は生い立ちの関係上コミュニケーション不足だったから、コミュニケーションの訓練の為に学校行かせてた。そして、学校で出会ったのが赤川くんだったんだよ」

「俺?」

「そ、帰ってくるなり赤川くんの事を楽しそうに話してたよ。それくらい嬉しかったんだろうね。けど、そんな人が目の前で血まみれになったらどうなると思う?」

「…少なくとも冷静ではいられないな」

「そういうこと。じゃあ後するべき事は分かるよね」

「?、何すればいいんだ?」

 

 何か黒榊がずっこけてるけど俺何か変なこと言ったか?

 

「まぁ、赤川くんらしいっちゃらしいけども。端的に言うと、赤川くんが復活したって事を元花の本体に知らしめて欲しい。そうすれば落ち着いて暴走が止まるはず。区別は私しかつかないからあまり気にしなくていいよ、どうせ本体コロコロ変わるから意味ないし」

「わかった!」

「あ、それと元花は赤川くん達を改造したボスと戦ってるから加勢してきなよ。赤川くんって強い人と勝負するの好きでしょ」

 

 強い奴と、勝負できる?

 そんなの。

 

「うぉー!燃えてきたー!」

 

 燃えるに決まってるだろ!

 

「あ、そうそう忘れてた。紫外線遮断(UVシャットアウト)っと。これで太陽光でも燃えないよ」

「ありがとな。それじゃ、元花を止めて、ボスも、ぶっ倒してくるぜ!」

 

 それに、改造した事に関しても一発殴らないと気が済まないからな!

 

 

 

 

 

 

 

「…そういえば、太陽光で燃えるようになるものや吸血鬼になるような材料入れたっけ?」



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吸血帝



赤川操?視点です。


 

「お~い!どこだ~!」

 

 たくっ、ひとまず空港に入れたのはいいけどボスどこにいるんだ?

 しかも、あちこちに元花の遺体が有って足の踏み場もない。本当に飛べて良かったぜ。

 

「しかし…、遺体が段々消えてってるんだよな」

 

 死亡してから一定時間で消滅する仕様か。となると近くにいるはず。

 

「探すの面倒くせぇ、こうなったら全部まとめてぶっ潰す!」

 

 苗又、お前の血液使わせてもらうぞ!

 

「ブラッドトルネード!」

 

 大量の血液で渦を作り押し流す。他人の血液を操作するのは初めてだが問題なかったな。

 

「なんだこれは!誰がやった!」

 

 ん?誰か血に巻き込まれたな。声的にボスか。

 

「声の方向は…あっちか!」

 

 

 

 

 

「おい魔法人形(マジックドールズ)!さっさとこの血を砕け!」

 

 やっぱりボスが巻き込まれてた。しかも、さっきの血が凝固したせいで動けない!

 

「ブラッドキック!」

「!、私を守れ魔法人形(マジックドールズ)!」

 

 ち、防がれたか。だが一体行動停止したぞ!

 

「よお、ついさっきまで世話になったな」

「失敗作風情が、よくもやってくれたな!」

 

 相手の戦力はボス含め残り四人、その内二人は行動不可にした奴と苗又を殴った奴だ。

 残り一人の魔法が分からないから迂闊に攻められない。

 それに苗又のを使った影響か血液が消えてしまったので拘束しなおすのは難しい、

 それと苗又の姿が見えない、何処へ行った?黒榊が来ないってことは大丈夫なんだろうが。

 

「おい、苗又はどこだ?」

「苗又?ああ、お前と同じ失敗作か。それならここだ」

「!、苗又しっかりしろ!」

「あ、赤川…くん?」

 

 くそ、やっぱり倒されてたか。しかしなぜ分身まで消えやがった。

 

「気を、付けて、こいつに、触れられたら、分裂が、解除、された」

「そいつ無効化系の魔法少女か!」

「あぁ、こいつは最高傑作でね。こんな失敗作に使う予定ではなかったんだがな」

 

 確かにボスの言った通り最高傑作の材料にするにはふさわしい魔法を持ってるな。

 けど、俺にとってはそこまでの脅威じゃ無いな。

 何せ…。

 

「ブラッドプレッサー!」

 

 俺は遠距離攻撃持ちだからな!触れなきゃ発動出来ない魔法は敵じゃない!

 

「フィスト、ガード!」

 

 けそ、やっぱそう簡単に攻撃当てさせてくれないよな。

 けど苗又を殴った魔法人形はフィストって言うのか。名前的に魔法は拳に関係するものと思って良さそうだな。

 

「ロック!」

「!、体が動かねぇ!」

 

 恐らくこれをやったのはもう一体の魔法人形、苗又が逃走の時動かなくなったのはこれが理由か。

 感覚的に金縛りの様なものを相手に発症させる魔法だな。

 

「フィスト、殴れ」

「ブラッドシールド!」

 

 よし、何とか防げた。金縛り状態でも能力は発動出来るみたいだ。

 それとこれだけ血液を使っても貧血の症状がでないってことは、怪人化した影響で能力のデメリットが消えたと見てよさそうだな。

 

「フィストもう一発だ!」

「そう易々と食らうか…!、速っ!」

 

 さっきよりも明らかに速い、これじゃ防げねぇ!

 

「ぐっ!クソ痛いな。それよりさっきの速度は…、あぁ、なるほどサイボーグか!」

「正解だ」

 

 フィストの背中から漫画で描かれるエンジンから出る光みたいなのが見える。恐らくそれで加速したのだろう。

 だとすると他二人もサイボーグと考えた方がいいな。

 

「とっとと降参したらどうだ?」

「するわけねぇだろ!それと、後ろは良く見といた方がいいぜ」

「どういう事…!、デリート!」

「遅いんだよ!」

 

 さっきブラッドプレッサーで飛ばした血液、それを利用し苗又を掴んでいる魔法人形の片腕を切断する。これであいつの魔法の範囲が半減した!

 

「苗又戻ってこい!」

 

 そして血液で苗又をこちらへと運ぶ。これで相手の人質はいなくなった!

 

「赤川、くん、無事だっ、たんだね」

「あぁ、それよりお前は休んでろ。後は俺が片付ける」

「…うん」

 

 …気絶したな。ま、そりゃそうか。

 

「さて、改めて俺のダチをこんな目に合わせてくれたな」

 

 お前らは俺が絶対ぶっ倒す!

 

 

 

 

 

 



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赤川操


赤川操視点です。


 

 

 さて、どう攻略するか。

 攻めるにしろ守るにしろ相手の金縛りがキツすぎる。逆に無効能力は無視でいいな。触れなきゃ発動出来ないのなら近づけさせなければいいだけだし。

 それとフィストの魔法が不明なのも不安だな。だけどどうせ鉄拳とかその辺だろうから攻撃にだけ注意して魔法は気にしなくていいだろう。

 これらを踏まえた上で実行する作成は。

 

「ブラッドプレッサー!」

 

 本体であるボスを直接叩く、これが一番早いし確実だ。

 

「デリート、ガード!」

 

 ち、やっぱ二番煎じじゃ防がれるか。となるとさっきみたいに後ろからの奇襲も無理そうだな。

 

「おいおい、最高傑作をガードに使うのかよ」

「触れて発動するのに片腕が失くなったんだ。これだけで利用価値が半減する。それなら有効利用するだけだ」

「…やっぱお前クソだな」

 

 いとも容易く部下を切り捨てやがる。

 

「ロック、フィスト」

「っ、ブラッドシールド!」

 

 あっぶね今度は間に合った。それと金縛り中でも能力は問題なく発動出来ることがわかったな。

 しかし本当にどうするか…。このままじゃ千日手になるぞ。

 

「あ、赤川、くん」

「ん、もう起きたのか。しっかり休んでろ、ここは俺が…」

「良いから、これを」

「これは…、そういうことだな。けど良いのか?」

 

 何となく苗又がやろうとしている事は分かった。けれどそれを実行すると苗又に負担が掛かる可能性がある。

 

「大、丈夫、この、体には、負担、ない。それ、に、このまま、終われない」

「…おう、分かった」

 

 苗又、確かにこのままじゃ終われないよな!

 

「ブラッドプレッサー!」

「はっ、何度も同じ技とは芸がない」

「っ、本当に性格が悪いな」

 

 わざとかってくらい人をイラつかせることを言いやがる。

 だが今はありがたい、こちらの作成に気付いていないからな。

 

「ブラッドボム!」

 

 後はひたすらこちらに注意を向けさせれば…。

 

「!、またかよ」

 

 本当にこの金縛りが強すぎる。

 

「フィスト!」

「お前も同じ技しか使って無いだろ、ブラッドシールド!」

 

 よし、このままヘイトをこちらに向けさせて…。

 

「自爆しろ」

「…は?」 

 

 今あいつ何て言いやがった?

 

『フィスト、自爆します』

 

 

 

   ドゴォォン!!!

 

 

 

「が…ふざけ…」

 

 あの野郎、ガチで自爆させやがった!

 

「こちらも反撃だ…!、能力が、まさか!」

 

 やっぱり掴まれてる!さっきの自爆に紛れて接近したのか!

 

「おらぁ!」

「ぐはっ!」

 

 あの野郎、接近戦も出来たのかよ。

 というか魔法人形の腕が手錠みたいになってしっかり掴んでいるせいで今のパンチの衝撃でも離さない。数メートル吹っ飛ばされたパンチだぞ、普通は離すだろ。

 

「あ~もう、どんだけ頑丈に作ってんだ!怪人の力でも壊せないとか固すぎるだろ!」

「ロック」

「!、また、がっ!」

 

 クソが、さっきフィストとロックでやってたコンボを自分で再現してやがる。しかもさっきとは違いこちらは能力を使っても直ぐに血液が操作不能になるから実質能力使用不可になってる。

 

「ふん、口ほどにもない」

「まだ、だ」

 

 何とかまだ立っていられるがぶっちゃけキツい。相手が刃物なり銃火器持ってないだけ幸いではあるがかなりヤバイ。

 

「まだ立てるか、失敗作だったにしてはかなり性能が上がっているな。よし、このままこいつを新たな実験台にしよう。デリート、こいつを地下の実『猫爪』験…室…に…」

「…遅いんだよ苗又」

 

 ボスはかなり驚いた表情をしながら倒れる。そりゃそうだろうな、だって俺の後ろで横たわってた怪我人がほぼ無傷な状態で後ろから心臓を一突きしたのだから。

 

「仕方ないでしょ、赤川くんが私を助けるために後ろから奇襲掛けちゃったせいで後ろ警戒されまくったんだから。けど良く私の作戦わかったね」

「そりゃ分かるだろあんな物渡されれば」

 

 あの時渡されたのは苗又の指だ。それを俺がブラッドプレッサーで後ろへ飛ばし、再生したのち奇襲する。これが一連の作成だったのだが、だいぶ警戒されてたらしいな。

 

「というか、本体って選択出来たんだな」

 

 俺がかばっていた苗又の体が消える。そうなると必然的にボスへ奇襲したのが本体ということになる。

 

「意識してなければ頭部から再生したのが本体になるってだけで、意識すればある程度選択できるよ。さっきわかった」

「さっきかよ…ん、こいつまだ生きてんのかよ」

 

 心臓えぐられて何で生きてられんだ。いや、能力で自身を操れば出来なくはないのか?一応人形ではあるし。

 

「この失敗作どもが…絶対にぶっ壊『ブラッドサイズ』」

 

 相手が何かしでかす前に血液で首を刈り取る。これで今度こそ死んだだろ。

 その証拠に魔法人形の2体も倒れたしな。

 

「「は~疲れた」」

 

 俺は後ろへ勢いよく倒れる。苗又も疲れたのか俺のそばに座り込んだ。

 

「結局良いとこなしかよ、最後もハイエナしたみたいだし」

 

 倒すとか言っておきながら止めは苗又の心臓への一突だしな。今回のMVPは間違いなく苗又だ。

 

「そんなこと無いよ。こんな私の為に戦ってくれてありがとう」

「それは黒榊たちに言ってやれ。あいつら、お前の暴走を止めるのに必死だったぜ。ここには来てないが外で魔法少女の足止めしてんだ。それに俺はボスと戦いたかったから来たようなものだ。黒榊たちの思いには負ける」

 

 事実、俺は始め苗又を助けるのはついでと考えてたからな。

 

「それでも、私を友達と言って本気で怒って戦ってくれた。その言葉は嘘だったの?」

「そんな訳ないだろ。ダチなら当然だ」

「ならそれで良いじゃん、私が感謝を伝える理由は。それに、私は赤川くんが戦ってる姿、遠目だったけど、とてもかっこよかったって思ったよ。だから改めて、助けてくれてありがとう操くん」

「…おう」

 

 はは、やっぱ苗又にはかなわねぇな。

 



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事後処理


優真視点です。


 

『兄さん、元花と赤川くんがボスを倒した』

「そうか、それじゃあフュージョンアルは二人を回収したのち転送装置で先に本部へ戻っててくれ。俺たちも少ししたら戻る」

『了解』

 

 よかった、ちゃんと赤川は止めてくれたんだな。

 さて、こちらも撤退しますか。

 

「白夜、目的が完了した。撤退するぞ」

『ち、もう撤退か。命拾いしたな積一二三!』

『そっちこそな鬼頭白夜!』

 

 …何か無線越しに言い争いが聞こえたが気にしないでおこう。集音が良すぎるのも考えものだな。いざって時に声が聞こえないと困るから灰崎さんに周りの音を拾うか拾わないか選択できるように修正頼むか。

 

「菫、撤退するぞ」

「いいんですか?」

「このままやっても埒が明かないだろ」

 

 事実、相手の防御系の魔法によってこっちの攻撃が届かない。魔法を攻略するまで戦闘を続行してもいいが、周りに無駄な被害を出すだけだ。

 

「まあ、確かにそうですね」

「それに目的が達成された今戦う理由が無い。白夜、そっちにワープゲート開くからそれで撤退を…」

『いや転送装置持ってるからワープゲートはいらん。じゃ、先に本部へ撤退するわ』

「あ、おい!…通信切れやがった。菫、こっちも撤退するぞ」

「了解」

「逃げるな!ウィンドブ…」

 

 相手が風魔法を発動する前にテレポートで本部に撤退出来たな。

 とりあえず今回の抗争?は俺たちの完全勝利だな。

 

「あ、兄さん、二人とも連れ帰って部屋で休憩してるよ」

「環か、白夜はどこ行った?」

「?、戻ってきて直ぐ鉱山に蟻倒しに行ったけどどうしたの?」

「お前白夜が転送装置使ったこと知ってるか?」

「え!そんなこと知らない!」

「っあの野郎、勝手に装置持ち出しやがったな。まあそれは後でいい。環、元花と操は部屋に軟禁しておけ」

「は?どうして、仲間でしょ?」

「仲間だが組織としてしょうがないんだよ」

 

 今回元花が起こしたのは、ボスの指示無しに他組織と戦闘して壊滅させた事、用は命令違反だ。

 敵組織の壊滅という利益を出してくれたのはいいが、ボスとしてこの命令違反は見過ごせない。

 もしボスを倒せてなければ、聖魔連合との抗争になり大規模な被害が出ていた可能性だってある。

 脱走するだけなら軟禁したりしないしなりより喧嘩売ってきたのは向こうだが、元花は事態を大きくしすぎた。

 

「そして何より重大な事は、魔法少女側に元花の警戒度が上がった可能性があることだ。元花は元々暗殺者のような役割なのに警戒度が上がったら役割に支障が出てくる。仕方がなかったとはいえ元花のミスだ。責任を取らせないといけない。やりたくはないだろうがわかってくれ」

「…わかったよ。けど赤川くんは何で?」

「単純に信頼度不足」

 

 元花を止めてボスを倒してくれた恩があるとは言え、他メンバーからしたらまだ赤の他人だ。その状態で本部を好き勝手移動させる訳にはいかない。

 信頼度不足は俺や環じゃなくて、他メンバーからのが不足しているということだ。

 俺としてはこのまま組織にいれてもいいが、体裁と言うものがあるからな。

 

「二人には軟禁の理由も説明してくれ、じゃないと納得しないだろうから」

「まあ、そういうことなら…」

「それと、その後に幹部全員で今回の事について会議を開くから。そこで二人の処遇を決める」

「わかった」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

   次の日…

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「苗又元花、赤川操、中へ入れ」

 

 二人がボス部屋へと入ってくる。俺は入口正面にある椅子に座って待ち構える。脇には環と白夜がおり、左右には灰崎さん含めた幹部が並んでいる。

 二人の処遇を決める会議は少しごたついた。赤川については直ぐに決まったが、元花についてもめたのだ。

 とはいえ最終的にはちゃんと決まったので、この場で二人に結果を伝える。

 

「まず赤川操」

「おう、お前が黒榊優真か?」

「ちょ、赤川くん、立場考えて!」

 

 はあ…、元花の言うとおり、立場わかってんのか?まあ、最近まで中学生だったやつにしっかりとした礼儀求めるのも無謀か。流石に無礼すぎるが。

 

「あぁ、俺が黒榊優真だ。始めに赤川操、改めて元花を助けてくれたことを感謝する」

「そりゃダチの為なら当然だろ?何で感謝するんだ?」

「お前は家族同然の人を助けてもらって感謝しないのか?わかったら疑問を持たず受け取っとけ」

「それもそうか」

 

 とりあえずこれで前座は終わった。この後は昨日の会議で決まったことの発表だ。

 

「赤川操、お前を聖魔連合幹部として迎え入れる。これは決定事項だ」

「…まじで?」

 

 赤川操の聖魔連合への加入、これ事態は仲間の反対意見は出ずにすぐに決まったことだ。

 赤川の実績は元花の救出と敵組織のボスを元花と協力して撃破したこと。幹部として迎え入れる実績としては足りている。

 何より今の赤川は怪人に改造されている。見た目こそあまり変化は無いが、環の報告では日光で皮膚が焼けるたいしつになってしまったらしい。

 なりより、助けるためだったとはいえこちらの都合で勝手に怪人にしてしまった責任がある。

 

「一応この後親御さんにも連絡入れとけ。お前結構な期間行方不明扱いになってるはずだからな」

「あ、あぁ。因みに生活とかはどうすればいい?」

「当面は本部生活だな。体質的に日中の生活は環の魔法がないと無理だから環の近くにいたほうがいい。親御さんについてはそちらで相談してくれ」

「まぁ、わかった」

「そんなに緊張しなくていいぞ、早い段階で会社に内定もらったと思ってもらえればいい。まあ態度とかは少し学んでもらうがな」

 

 これで赤川の処遇の発表は終了だ。

 次は…。

 

「苗又元花の処罰について発表する」

「…はい。例え判決が処刑であっても受け入れる覚悟は出来ています」

「流石にそこまではしないよ」

 

 う~ん、やっぱ今回のことについて責任感じてるか。けど事が事だし仕方がないか。

 

「苗又元花、お前の処罰については三つある。一つ、お前を幹部から除名する」

 

 会議で一番揉めたこと、それは元花を幹部の地位にしとくかいなかだ。

 今回の一見で分かったこと、それは元花の素の戦闘力が低すぎる事だ。

 再生力は確かに目を見張るものがあるが、それだけだといくらでも対処可能な魔法少女はいる。

 それに今回の事の発端としての処遇として一番分かりやすかったのが降格なのだ。

 

「二つ、今後苗又元花は素顔を晒しての聖魔連合の活動を禁止する」

 

 今回の事件で元花が幹部各であると恐らく気付かれた。魔法少女と接触した時は張れてなかったかもしれないが、あれだけのことをしたら流石に感ずかれる。

 そうなると元々情報収集メインで仕事をしてた元花の仕事に支障が出る。

 

「三つ、苗又元花はこれより一ヶ月間、鬼頭白夜の元で強化訓練をしてもらう。そして苗又元花を鍛えることを、機材を勝手に持ち出したことに対する鬼頭白夜の処罰とする」

 

 三つ目については元花の戦闘力を高めるためだ。幹部から降格したとはいえ今後も情報収集はしてもらうので捕まってもらったら困るからな。

 

「そして三つ目をえて強くなったら、改めて苗又元花を幹部として迎え入れる」

「!」

「期待しているぞ」

「は、はい!必ず強くなって見せます!」

 

 これで会議で決まった事は全部だな。

 

「これで赤川操、苗又元花についての処遇発表は以上だ。各自解散」



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資料整理


三人称視点です。


 

「さて、集まってくれたな」

 

 赤川操、苗又元花についての報告会が終わった後、優真、環、そして事務仕事を専門としていたウルフが集まっていた。

 本来は白夜がいるはずだったが、元花を連れて速攻訓練場へ行ってしまったためウルフが代わりに召集された。

 

「これから行うのはこの前元花を拐った組織で手に入れた資料についてだ。先日の会議の後で整理してたらヤバい資料が出てきた」

 

 優真は一枚の資料を机の上に置く。

 

「この資料は組織の取り引きの資料だ。ただ取り引き先がほぼ日本全ての悪の組織になってた。しかも取り引き内容が問題なんだ」

「何を取り引きしてたの?」

「怪人生成装置等のアイテムだ」

 

 書かれていたのは怪人生成装置、魔力探知機、その他etc…、これら全てマジックアイテム社の商品だ。

 

「それって…」

「あぁ、今回潰した組織がマジックアイテム社の本社、又は仲介業者の可能性がある」

 

 もし優真の予想が当たっていた場合、今回の事件で裏社会が相当混乱している事になる。

 本社だった場合、他の悪の組織はもう怪人生成装置を購入出来ない可能性があるため、残りの装置を全て破壊すればこれ以上怪人が生まれない。しかし、他に怪人生成装置を作れる会社があればこの限りではない。

 仲介業者であればマジックアイテム社はアイテムを売る手段が減るので、この場合でも怪人が新たに生まれるのを抑制できる。

 さらに言えば、魔力探知機等のアイテムの供給も減るため優真たちでは想像出来ないレベルで被害が出てる可能性もある。

 

「とまあ、少し調べただけでこれだけの情報が出てきたんだ。あとこの数十倍の資料があるから手分けして整理するぞ」

 

 

 

   五時間後…。

 

 

 

「ふぅ~やっと終わった、ウルフありがとな。お陰で速い終わったよ」

「これくらいお安いご用ですよ。怪人になる前は全ての書類を一人で裁いたりしてましたし」

「その会社ブラック過ぎない?」

 

 ウルフは怪人化する前は月100時間残業なんて当たり前の絵に描いたようなブラック企業に勤めていた。そんなことに比べればウルフにとってこの作業は苦ではない。

 ウルフからしたら怪人化してよかったまである。

 

「で、まとめた資料の中で有用そうなのはこの四つか」

「そうだね、一つ目は元花と赤川くんが潰したあの組織がマジックアイテム社の開発研究所だったってこと」

 

 資料をしらべてわかったあの組織の正式名称はマジックアイテム社開発研究所、新アイテムの開発、並びにアイテムの稼働実験などが行われていた場所のようだ。

 実際、元花と赤川はあの場所で薬による能力付与の臨床試験をさせられていた。

 優真の予想は二つとも外れていたが、マジックアイテム社関連の施設だったということは当たっていた。

 

「次にこのマジックアイテム社製品の開発資料と設計図、これは灰崎さんに回した方が良さそうですね」

 

 奪った資料の中にはマジックアイテム社製品の設計図も混じっていた。が、この場にいる三人は設計図がとても有用であるということはわかるが読める人がいなかった。

 強いて言えば優真が少し工学に興味を持ち灰崎に学んでいるがまだそこまで詳しくなく高度な設計図を読めるレベルではないので灰崎に回すことにした。要は丸投げである。

 

「三つ目はこれ、マジックアイテム社の製造工場の場所と取り引き先の悪の組織の所在」

 

 マジックアイテム社の製造工場の場所はかく地方に一つずつ存在するとこの資料には記されている。

 開発元が今回の件で破壊された以上稼働しているかは不明だ。

 さらに、記されていた取り引き先の悪の組織の数は大小合わせて約百ほとある。

 正確には取り引きしているだけであろう有名なブラック企業なんかもあるが悪は悪なので一緒にカウントしている。

 

「そして問題の四つ目の資料、阪神国際空港跡地にあるっていう地下に続くっていう二つの地下通路があるって書かれてるんだがこんなん分かるかっての」

 

 阪神国際空港跡地にあるという地下通路、資料の地図によるとモノレールの路線が駅内部で地下へ向かうように改装されている。

 元花と赤川が戦っていた場所は搭乗口付近、場所的に気付くはずがない。

 

「でもこれ、どこへ続いているか書かれてないよ。方角的には東と西に向かってるって分かるけど」

「…軍隊編成して攻略するか。流石に数名だけだと不安過ぎる」

「ですね、ではこちらで良さそうな住民に声を掛けてみます」

「頼む」

 

 穴の深さがわからない以上、少人数での攻略には不安が残る。

 それに、通路の調査中に魔法少女が入ってきたらたまったものではないので入口の見張りもいる。

 そうなると結構な人数が必要となる、幹部数名だけだと絶対足りない。

 

「それじゃあ魔法少女にこの通路がバレる前に攻略したいから休息も考慮して三日後に攻略へ向かいたいんだが、出来そうか?」

「だいたいの幹部にそこまで急用な仕事は無いので大丈夫ですよ、強いて言えば偵察や防衛で一番編成したいであろうスカイさんとビルドさんがインフラ整備などで引っ張りだこになってるくらいですね」

「まあ戦闘員が残ってるだけましか」

 

 元々白夜の元にいた幹部達は戦闘員が多い、スカイやビルドのように戦闘以外を買われて幹部になった者の方が少数派だ。

 因みに戦闘員以外の幹部はスカイ、ビルド、ウルフ、セイの四名だ。

 

「あ、セイは確実に編成してくれ。環が通路探索班になると見張り班に回復要因がいなくなる」

「わかりました」

「取り合えずこんなもんかな、それじゃ、三日後に向けて準備するように。このことは俺が伝達しておく」

 

 こうして資料整理をして一日が終わった。

 ちなみに優真はちゃんとその日のうちに通路攻略を行うことを通達した。



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閑話 元花の特訓


元花視点です。


 

「おい元花、とっとと起きろ」

「は、はい…」

 

 こんにちは、苗又元花です。昨日の会議で幹部から除名され白夜さんに特訓してもらうことになりました。そして昨日からずっと白夜さんにボコボコにされています。

 

「たく、まさかこんなに正面きっての戦闘が弱いとは」

「面目ないです…」

 

 けど言い訳させてください。こんな遮蔽物の無い場所で戦えるわけないじゃないですか!私の戦闘スタイルは暗殺ですよ、真っ向勝負で勝てるわけないでしょ!

 

「おい、今真っ向勝負で勝てるわけないって思っただろ」

「え、何でわかったんですか?」

「顔に出てたぞ。そもそもこの訓練は基礎戦闘力を鍛えるためのもんだ。得意を押し付けるのもいいが、それを封じられるとお前は途端に弱体化するからな」

 

 そんなことわかってますよ。けど私には優真さんや環さんみたいな強い攻撃力のある魔法や能力を持っているわけでもなく、白夜さんみたいな怪力も待ってないからどうしようもないですよ。

 確かに私の再生能力は強力ですが、言ってしまえばただ傷の治りが早いだけですし。

 

「お~い元花、ちゃんとやってる?」

「ん、環か。元花はちゃんとやってるが如何せん弱すぎる。確かにスピードと再生能力は目を見張るものがあるがそれだけだ」

 

 白夜さん、そこまで言わなくてもいいじゃないですか。事実なのでなにも言えませんが。 

 

「そうなんだ。ねぇ、戦闘訓練の様子見させてよ」

「お、そうか。おい元花!さっさと再開するぞ!」

「わ、わかりました」

 

 さて、どうせボコボコにされるだろうけど環さんの前だし一方的に負けるわけにはいかない。

 

「さて、そっちが先手でいいぞ」

「…わかりました、では行きます!百猫夜行、更にビーストモード!」

 

 百猫夜行で人数有利を作り、ビーストモードで体積増加+身体強化。スピードは落ちるけどこうでもしないと白夜さんとまともに戦えない。

 

「お、いい作戦じゃないか。けどな…パワー差がありすぎる場合多少の身体強化は無駄なんだよ!」

「!、私たち!」

 

 噓でしょ、ただの一振りで五人倒された!ビーストモードで強化したから抑えられると思ったのに!

 しかも脳震盪起こされたから再生が機能してない!

 

「それに、いらずらに体積増やすのはただ当たり判定増やすだけだぞ」

「んなこと分かってますよ!」

 

 こうでもしないと勝てないんだから仕方ないでしょ!

 

「私たち!一斉攻…」

「お前が本体か!」

 

 !、いつの間に目の前に…。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「…は!え、あれ?」

「お、やっと起きたか。昨日より各自に強くはなってるがまだまだだな」

 

 そっか私、あの後白夜さんに気絶させられて…。

 

「う~ん、もうちょっと能力鍛えたら化けそうなんだけどな…」

「!、環さん、すいません。まだまだ弱くって…」

 

 そういえば環さん見学に来てたんだった。完全に頭から抜けちゃってた。はぁ…、環さんの前で無様晒しちゃったな…。

 

「いやいや、昨日今日でめっちゃ強くなったらビビるからね!あ、それと気絶してる間に元花の能力調べといたよ」

「本当ですか?!」

 

 捕まってた間に投与された薬で得た能力、正直自分でもどんな能力かわからなかったんですよね。再生能力はプラナリア由来ですし。

 

「それじゃあ発表するね、元花の能力はデータバンクだったよ」

「データバンクですか?」

 

 正直能力のイメージがあまりわかないし何なら弱そう。

 

「この能力は端的に言うと魂に自分のありとあらゆる記録を蓄積させる能力ね。今の元花がいるのはこの能力のおかげだよ」

「どうしてですか?」

「この能力なかったら分裂のし過ぎで自己同一性が崩壊していた可能性があるんだよ。だって目の前に自分と全く同じ存在が複数いる状態で自分がオリジナルだって確証持てる?」

「…無理ですね」

「そういうこと、分裂もこの記録媒体から複数されるから誰がオリジナルが一発でわかったんだよ。分裂自体はこの能力無しで出来ちゃうから能力無かったら結構危なかったんだよ」

 

 そう考えると結構な綱渡りしてたんだな私。よく無事だったよ。

 

「けれど直接戦闘に関わるような能力じゃ無いんですね」

「それはそう。けど鍛えたら化けそうなんだよねこの能力」

「そうですかね?」

「感だけどね、けど私の感はよく当たるから頭の片隅にでもおいといて。白夜、次頼める?」

「おうよ!」

 

 え、もうですか!もう少し休ませて…。

 

回復(ヒール)っと、これで大丈夫そう?」

 

 そうでした環さんは回復魔法を使用できるんでしたね。

 

「さて、次もそっちが先手でいいぞ」

「…百猫夜行、そして半数はビーストモード発動!」

 

 さっきとは違いもう半数は通常形態で白夜さんに突撃する。もちろんオリジナルである私も前に出る。

 

「おいおい、さっきと同じかよ!」

 

 やっぱり一撃で数名ぶちのめされますよね。けど、能力を聞いて意識したせいか分裂してから倒されるまでの記録が流れ込んで来ました。どうやら記録は共有できるみたいですね。

 これで攻撃を対策出来ればいいのですが…。

 

「おらぁ!」

 

 無理では?どういう攻撃か理解したとしても無理では?

 分かっていても白夜さんのパワーはおかしいレベルで高いので防ぎようがないのですが。

 

「猫爪!」

「そんなもの食らうか!」

 

 ヤバいですね、有効打が全くない。さっきから記録を元に指示を出して連携してもダメそうです。

 

「自分に指示を出してる間動かなくなるのはお前の悪い癖だぞ!」

 

 !、意識を指示に割きすぎて接近に気づかなかった!迎え撃つ?いや無理だ。パワーが違い過ぎる。逃げるにしても周りに分裂を出しすぎて逃げるスペースがない!

 そうだ、あの時成功したあれなら。あれ以降なかなか成功しませんでしたけどやるしかない!

 

記録転生(ログリーンカーネーション)!」

「気絶しな!」

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、せ、成功した」

 

 赤川君とボスを倒した時に使った本体の切り替え、意識して成功出来ました!

 やっぱ能力を理解すると直ぐにできるもんですね。

 阪神国際空港跡地の時は瀕死寸前だったから本能で成功しただけだったみたい。

 幸い白夜さんはまだ本体が切り替わったことに気づいてないみたいですね。

 というか本体の切り替えが可能なことはまだ赤川君にしか言ってませんし無理もないでしょう。環さんは出来ること気づいてそうですが。 

 とはいえどうしましょう?さっきみたいに脳震盪起こして再生できずに気絶って展開にはならなかっただけいいですがいかんせん有効打がありません。

 ビーストモード使っても攻撃力上げるメリットより当たり判定増やすデメリットの方が勝りま…、そうだ!なら当たり判定のデメリットを打ち消すくらい攻撃力を上げればいいだけです!

 

「分裂時のサイズを巨大に…、よし、ギガントビーストモード!」

 

 技を発動したと同時に体が巨大化していく。一度小さく再生出来たから逆も出来るんじゃと思ってたけどうまくいった。体感10mぐらいにはなったはずだ。流石に葉月さんほどの大きさは無いが、攻撃力は十分!

 

 

「つぶれろ!」

「いいね、ようやくいい感じになってきたじゃねぇか!」

 

 私と白夜さんの拳がぶつかり合う、けれどまだパワーは白夜さんの方が上だ。それでも競り合いには持ち込めた。

 

「総攻撃!」

 

 周りにいる私たちに出すのは攻撃指示、このまま人数差で押し切る!

 

「んなことさせるか、鬼の礫!」

 

 嘘!、鬼の礫を片腕で出せるなんて聞いてませんよ!今の攻撃でダウンこそしませんでしたが弾き飛ばされました。

 

「さて、そろそろ終わらせるか、伊吹山一本背負い!」

 

 そうして白夜さんは巨大化した私を投げ飛ばしました。

 

「なかなか良かったが、まだ攻撃力が足りな…」

「それは囮ですよ」

「!」

 

 ギガントビーストモードを発動した最初はちゃんと本体だった。けれど投げ飛ばされれる瞬間に分裂してそっちに本体を移したのだ。

 そしてさっきまで髪の毛に隠れて隙を伺っていた。そしてその隙はこの一瞬!

 

「猫爪!」

「っ、少しかったか」

 

 やった、初めてまともなダメージが通った!このままいければ…。

 

「いいね、()()()

 

 は?何を言って…。

 

「磐石崩し!」

「!、足場がぬかるんでる」

 

 これじゃあまともに動けない!他の私もこのぬかるみにはまって抜け出せない!

 

「一気に強くなりやがって、興奮しちまうだろ。これなら本気で能力使ってよさそうだな」

「…まだ能力使って無かったんですか?」

「あぁ、最近使った相手は大阪の魔法少女だけだったからな。優真相手の時は能力相性最悪でね、使いこそしたが攻撃自体はほぼパワーで攻めてたから知らないのも無理無いか。てなわけで一気にギアをあげてくぞ!」

 

 え、ちょ、ま…。

 

 

 

 

 

「…また負けました」

 

 あの後速攻で私達全員白夜さんにぼこぼこにされました。

 てかずるくないですかあの足場を奪う技!あれでどうしろってんですか?!

 

「元花すごいじゃん一気に強くなって!」

「あ、環さん。私大分よくなりました?」

「すごくよかったよ!」

 

 ならよかったです。これで少しは組織の役に立てるぐらいには強くなりましたかね?

 

「お~い、しんみりしてるとこ悪いがまだ特訓するぞ」

「…え?」

「さっきので大分ましになってきたからな。次からは戦術や技術を叩き込むぞ。せっかく分裂で増やせんだからいろいろなもの取り込んで全ての分裂が別々の技使えるようになったら強いだろ?」

「まあ、そうですね」

「さらに言えば基礎身体能力もまだまだだからな。わかったならとっととはじめっぞ」

 

 …どうやらまだまだ特訓は続くようです。組織の為にも頑張りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 



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攻略開始


三人称視点です


 

「さて、これから配布した資料に記載してある地下通路の探索に向かう。地下通路探索は俺と環、アル、赤川、裂、探索班70名の計75名で向かう。入口の防衛は白夜、元花、ビルド、ロック、オロチ、アギト、河原、セイ、スカイ、防衛班30名の計39名を配置する」

 

 探索を告知してから三日後、集まったメンバーに優真は人員配置を説明していた。ウルフの働き掛けにより集まった住民は100名、誰もが幹部にこそ及ばないが精鋭ぞろいだ。

 なお戦闘職の幹部を全員出撃させなかった理由は本部の警備が手薄になる可能性があるためである。

 

「昨日確認したら入口のある阪神国際空港跡地に警察がいた。恐らく現場検証だから俺がワープゲートを開いたら防衛班はまず警察を追い出せ。くれぐれも殺すなよ。そしてその間に攻略班は地下通路へ突入する」

 

 防衛班の役割は跡地にいる警察を追い払い、後から来るであろう魔法少女の侵入を探索班の調査が終わるまで防ぐこと。そこため大阪の魔法少女こと積一二三を真正面から相手どれる白夜、その他の魔法少女を相手するための幹部、最悪物量で何とかするための元花、そして警察官を殺さず無力化できるように拘束系能力を持っている怪人30名を編成している。

 

「探索班は突入後、俺と環を先頭、赤川と裂を殿として探索を開始する。一応ヤバくなったら全員に配布した転送装置を使ってもらってかまわない」

 

 探索班は優真、環のツートップ、環のサポーターとしてアル、広範囲攻撃持ちの赤川、正面切っての戦闘力が白夜に次いで高い裂、そして殺傷力が高い能力を持っている怪人70名を編成されている。

 

「全員作成は把握したな。それではワープゲートを開く、そうしたら一気に畳み掛けるように。それじゃあ…、GO!」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 ところ変わって阪神国際空港跡地、その日は周辺の被害調査が終わり本格化に警察の捜査が始まる日だった。

 

「これより、阪神国際空港跡地の調査を行う。この場所はつい先日まで悪の組織が占拠していた。そのため残党がいつ襲ってくるかわからない。心してかかるよう『警部!正面に謎の穴が出現しました!』!、総員警戒態勢!あれはこの前の伊吹山の戦いの主犯、聖魔連合連合長、レイブンのワープゲー『少し黙ってろ!』」

 

 警部がワープゲートに気付き指示を出す前に白夜が現場のトップを気絶させる。

 

「ありゃ、バレてんのか。名乗ったのは数回程度だと思ったんだが情報収集の早いことで。皆、白夜に続け!」

「「「「「おぉ~!!!」」」」」

 

 それを皮切りにワープゲートから多数の怪人が警察へ流れ込んだ。

 

「総員、打て!打て~!!」

「ストーンシールド!」

 

 警官が拳銃を乱射してくるがロックが生成した岩を盾にガードする。その隙に怪人達が警官を拘束していく。

 

「よし、それでは探索班はこれより突入する!それにともない防衛班の指揮を白夜に移す、頼んだぞ!」

「おうよ!こっちは任せな!」

 

 

 

 

「怪人…探索とは…何だ?」

「ん?てめぇ起きたのか。というか警察は把握してなかったのか」

 

 レイヴン達探索班が突入後少しして白夜に気絶させられた警部が目を覚ました。

 

「だから…何だと聞いているとだ!」

「そんなに大声出さなくても聞こえるって、まあ聞こえたところで言うつもりは無いがな」

 

 目の前では数百人余りの警察官を怪人が制圧している。中にはアサルトライフルなどで完全武装した警官もいるが多少怪我する程度で意味をなさない。 

 そもそも怪人側にはヒーラーもいるので余程の大怪我でなければ直ぐに全線へ復帰してくる。

 

「そもそも、なぜお前のような大物があんな新米組織の下についている?」

「何だ、俺のことは知ってたのか。まぁそれくらいは答えてもいいか」

 

 実はレイヴン達と出会うかなり前、それこそ魔法少女と怪人が現れて数百年という時に白夜は魔法少女相手に暴れまくっていた。

 当時は今と比べ魔法少女が少なく白夜により甚大な被害が出た。

 この事は今も魔法少女や警察官を中心に伝わっており恐れられている。

 因みにレイヴン達が白夜を知らなかった理由は単純に一般に伝わってないからである。

 当時の警察は国民の不安を煽る可能性があると白夜の情報を警察官と魔法少女にとどめ、メディア等にも伝えなかった。

 いつしか情報は風化し、知っているのは勉強熱心な魔法少女や警察官くらいだ。

 しかし、ネットでは今も都市伝説として語り継がれている。

 

「単純にレイヴンが俺にタイマンで勝ったってのもあるが、何よりあいつは終わらせてくれそうだからよ」

「何をだ?」

「何ってそりゃ…、このくそったれな魔法少女時代をよ!一般人はそうじゃねぇかもしれないが、ここにいる大半の怪人は今の時代をクソだと思ってる。何よりあいつの覚悟は本物だ、ならそれに賭けようと思ったまでさ」

 

 警部は絶句していた。目の前の存在の言葉を信じられなかったからだ。

 資料には鬼頭白夜は嘘を嫌うと記されている。ならば今の言葉は間違いなく本心だと言うことが分かってしまった。

 

「そんなことして何になる?余多の一般人を危険に去らす気か!」

「んなこと知るか。ま、レイヴンはそんな事望んでねぇよ。けどな、これだけは言える。今後正義の味方が必ず勝つなんて時代は終わる!これから先は誰も予測できねぇ!誰も知らない結末になるはずだ!」

 

 この鬼頭白夜の言葉が真実になるか、はたまた嘘になるのか。この時は言葉通り、誰も知るよしもなかった。



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