最強()オレっ子TS魔法少女〜全ての魔法少女を潰し、オレが最強になる!〜 (布団から出られない)
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オレが最強!

 

 

魔法少女ーーー『魔次元』と呼ばれる空間から、『魔門(ゲート)』を通ってやってくる『魔獣』の脅威から人々を守る、愛と希望に満ち溢れた、幼いながらも懸命に戦う少女たちのことだ。

 

 

 

オレは、そんな魔法少女がいる世界に生まれ落ちた。

 

より正確に言うならば、生まれ変わった、転生した、と表現した方が正しいだろうか?

 

 

つまり、二度目の生を歩むことになった。

 

前世はただのつまらないサラリーマンだったが、その頃からオレは魔法少女モノの女児アニメを視聴しているような暇人だった。

 

 

だからかもしれない。こうやって魔法少女の世界に転生したのは。

 

 

性別が女になり、魔法少女として活動しているのは。

 

 

「ふぅ。今回も雑魚だったな! ま、オレの実力にかかればこんなもんよ」

 

 

オレは、目の前にいる紫の猪の見た目をした動物を踏みつける。

 

そう、魔獣だ。

 

 

魔法少女として転生してから、オレはさっそく魔獣狩りを始めた。

 

本来ならば、魔法省に魔法少女としての登録を済ませ、政府からの許可をもらった上で活動する必要があるのだが、オレはそれをせずに、野良の魔法少女として活動している。

 

まあ、これには理由がいくつかある。

 

 

まず一つ目として、オレには戸籍が存在しない。

オレが生まれた場所、どうやら研究施設みたいな場所だったらしく、オレはそこで生み出された人工魔法少女らしい。

 

 

ちなみに、研究職員からは0号なんて呼ばれ方をしてたな。皆も気軽にぜろちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ?

 

 

他にも1号、2号とかいうのがいた。仮×ライダーかよとでも言いたくなるかのようなネーミングセンスだったが、そんなことはどうでもいい。

 

 

もう研究施設もオレがぶっ壊してしまったからな。当然だ。誰かの犬に成り下がる気なんて、オレには全くない。

 

 

まあ、そんな出自なわけだから、戸籍なんてものはなく、仮に戸籍をつくろうもんなら、オレの正体が割れて実験体に逆戻り。そんなのはごめんだ。

 

 

で、理由二つ目。

 

 

これは単純に、オレが馴れ合いを嫌う存在だからだ。

元々オレは1人でいることが好きな人間だった。

昔から、誰かと絡むということがどうにも苦手で、気づけばそうなってたって方が正しいかもしれない。

 

 

そんなわけだから、魔法省に魔法少女の登録を済ませて、はーい2人組作ってね〜なんて言われた時にはおしまいだ。

 

 

ぼっち・ざ・おぶ・ぼっちのオレには、相方なんて到底見つけれようもないし、そもそも女の子ってどういう会話すりゃいいんだ? わかんない………女の子のことなんて、全然わかんないよ!

 

 

と、まあ、そんな大層な理由はなかったが、そんなこんなで楽しくやっている。

 

 

食糧なんてのは魔獣を食えばどうにかなるし、身だしなみも『clean』とかいうクソチート魔法でどうにでもなる。

 

 

寝床も、ホームレスさん達と一緒に人類の叡智(ダンボール)を用いればあら不思議。簡単にできてしまいましてよ。

 

 

「あー! 見つけたわよ! あんたが噂の真っ黒魔法少女、でーもん・でーもん・でーもんね!」

 

 

「人違いでは? オレはえんじぇる・えんじぇる・えんじぇるという名前なので。ほら見て、てんしのつばさ」

 

 

「なにがてんしのつばさよ! 真っ黒じゃない? どっちかというと堕天使………ってそんなことはどうでもよくて。 ちょっとコラ! 待ちなさい! このっ! なんであの子はあんなにちょこまか逃げ回るのよ…‥!」

 

 

どうやら他の魔法少女に見つかってしまったようだ。

 

ちなみにでーもん・でーもん・でーもんは偽名だ。名前を聞かれたので、適当に答えておいた。

まあ、多分彼女も偽名、もしくは通り名的なものと捉えているだろうが。

 

ちなみに他にも偽名はいくつかあって、『桜河坂逢魔』とか、『悪の帝王・ルシファー』とか、後、『茶柱抹茶』とか、色々なバリュエーションがある。ちなみに『悪の帝王・ルシファー』については、『悪の帝王』の部分も名前だ。つまり名前を呼ぶときに、悪の帝王さんって呼ばれる可能性がある。誰が厨二病だって?

 

 

ま、そんなどうでもいいことは頭の片隅を通り越して宇宙の彼方にまで放り投げておくとして。

 

一応オレ、魔法省から『要救済魔法少女』に認定されてるんだよね。

『要救済魔法少女』は、生活が困難だったりする魔法少女に対して発令される特例措置で、本来ならこの特例措置を受けた場合、様々な援助を受けることができるんだけど、オレの場合は多分指名手配犯的なのと同じ使い方をしてると思うんだよね。

 

もちろん、魔法少女達からすればオレはただの『要救済対象』なんだろうけど、国目線は多分違う。

 

逃げ出した実験動物、それの連れ戻し。国目線だと、こうなるだろう。

 

 

1号はもう捕まったらしい。可哀想に。2号の方も逃げ回ってたらしいが、他の魔法少女に絆されたせいで……………可哀想。まあ、オレはオレさえ良ければそれでいいが。

 

 

まあ、そういうわけで、オレは全国の魔法少女から追いかけ回()されながらも、逃亡生活を続けている。

 

 

「あっかんべー! お前よりオレのが早いもんねー!」

 

 

「ムキー! 私は君のために追いかけてあげてるっていうのに…………なんであんなに生意気なのよ…! あーもう! 頭にくるわ!」

 

 

「花蓮さん!? もしかして、あの例の……」

 

 

ちなみに、今現在オレのことを追いかけてきている少女は、山桜 花蓮(やまざくら かれん)

ちゃんだ。ところどころに桃色のメッシュが入った黒髪を持っており、オレに対して追いかけ(求愛)してくれている少女だ。

 

魔法少女としての姿は巫女服姿だ。ただし、スカートの丈は膝丈ちょい上くらいで、魔法少女にありがちなステッキも、お祓い棒のようなものになっている。

 

巫女と魔法とかいう和洋折衷な少女の花蓮ちゃんが今話しかけているのが、視診 美鈴(みるみる みすず)

ちゃん。

 

彼女は丸眼鏡を普段から着用しており、髪の毛もばっさりと肩にかかる程度にまで切り揃えている。髪は茶髪で、見た目はめちゃくちゃ真面目そうではあるが、実は金髪に髪を染めたことがあるらしい。

 

まあ、この世界、そんなに髪色が黒じゃないっていうのは珍しくないみたいで、色んな髪の色の人がいる。

なんなら黒髪の方が目立つんじゃないか?ってくらいに。

 

 

「美鈴! いいところにきたわね。先に回り込んで、あいつをハサミうちにするわよ!」

 

 

「その必要はないです。向こう側には………」

 

 

「っ!」

 

 

オレの目の前に、無数の氷の刃が飛んでくる。オレは空高く舞い、華麗に氷の刃を避ける。

 

来たか………。

 

 

「やっぱりくると思ってたぞ……西條………吹雪!」

 

 

「また………君……。なんで逃げるのか、わからない」

 

 

西條吹雪。色白な肌と紫色の目を持ち、水色の髪は艶やかで、いつでも光り輝いているようで美しい。魔法少女としての衣装は、氷のドレスのようなモノで、彼女の周囲では常に粉雪が舞っている。彼女が履くガラスのような靴は、まるでシンデレラのようで、そこからも彼女の美しさは見てとれるだろう。

 

そんな彼女は、魔法少女の中でも最高級、SSランクの称号を持つ、正真正銘最強の魔法少女だ。

 

 

「今度こそ捻り潰す!」

 

 

「………無駄だと思うけれど」

 

 

そんな彼女はオレの越えるべき壁だ。

 

 

そう、オレには目標がある。

 

 

西條吹雪を打倒し、正真正銘の魔法少女になり、そして、

 

 

「西條吹雪、お前に勝って、オレが全てを手に入れる!!」

 

 

全ての魔法少女を潰し! この世界を掌握することだ!!!!!

 

 

 

「あっ……」

 

 

「はい。やっぱり、私の勝ち」

 

 

ただ、目標を達成するには、ちょっぴり時間がかかるかもしれない。

 




唐突にかきたくなった。でも力尽きた。よっぽど要望がある場合はかくけど、多分そんなことはないので続きません。

【追記】

yuukis様から誤字報告を頂きました。

指名手配班→指名手配犯

指名手配班だと指名手配者のグループみたいな感じになるんですかね。
yuukis様、誤字報告ありがとうございました。


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食糧、大事。

続かない。

一応勘違いタグ追加しておきます


 

おいーっす!

元気ですかー? オ・レ・は・げ・ん・き・で・ー・す!!

 

先日は最強の魔法少女、西條吹雪に遅れをとってしまったが、まあ、まだ魔法少女としての力を振るったのは数回だけだし、仕方ないかなって。

 

ただ、できる限り今のうちに潰しておける魔法少女は潰しておいた方がいいかなっていうのはある。

 

というのも、今現在オレの生活を支えているのは、魔獣の肉と今着ているボロ布(cleanというチート魔法である程度洗浄済み)と、便利ITEMダンボールくんの三つだ。

 

衣・食・住揃ってるやん! やったぜ!

 

と思うかもしれないが、しかし舞ってほしい。

 

うん? 舞う……? 踊るか。

 

って違う違う。

 

そう、この衣・食・住のうち、食は安定しないのだ。

というのも、この世界にはたくさんの魔法少女がいる。

 

彼女達は皆魔法省に登録し、協力し合いながら魔獣を討伐することによって、報酬を受け取っている。

 

つまりだ。

 

オレの食糧源である魔獣が、他の魔法少女によって狩られてしまった場合、オレはその魔獣の肉を手に入れることができない。

 

ん? 倒した魔獣の肉を分けて貰えればいいじゃないかって?

甘いな君は。

 

まず、オレは最強の魔法少女となることを人生の目標として定めている。

そんなオレが、『すみません、食糧がないので魔獣の肉をください』なんて言ってみろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恥ずかしいだろぉ!?

 

最強の魔法少女たるもの、他者に助けを乞うなんて惨めな真似をするわけにはいかない。

 

それに、魔法少女達は、魔獣の遺骸を魔法省に持っていくことで、魔獣討伐の報酬を貰っている。仮にオレに少しでも肉を分け与えてしまえば、その報酬が減ってしまうことになるんだ。

 

で、オレが他の魔法少女に魔獣の肉をくれって頼み込んだ場合どう思われるか。

魔獣の肉を食って生活してる奴がいるなんて思わないだろうし、まず自分の手柄を横取りしようとする卑怯な奴だって思うだろうな。

 

仮に魔獣の肉を分け与えてもらえたとして、代わりに体で支払ってもらいましょうか。ぐへへ〜みたいな展開になっても困るっていうのもある。

 

 

 

だから他の魔法少女を潰すことにしたのだ。

といっても、魔法少女をムッコロしたりだとか、魔法少女としては活動不能になるような怪我を負わせたりだとか、そんなことをするつもりは断じてない。まあ、少々痛い目にあってもらうことはあるかもしれないが。

 

オレは善人というわけではないが、悪人というわけでもない。最強の魔法少女になると息巻いてはいるが、精神面で言えば一般ピーポーなのだ。

 

流石に罪のない女の子達を酷い目に合わせるというのはね……。

 

じゃあどうするかって話になるんだが……。

 

 

っと、どうやら魔獣が出現したみたいだ。

 

オレの食糧のために、ちょっぴり働くとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

淡いクリーム色の髪に、魔法少女らしいフリフリの真っ白で花柄のついたドレスを纏った少女、白花 愛生(しらはな めい)は、目の前で暴れ狂う魔の獣に太刀打ちすることができずにいた。

 

愛生の持つ純白で、先に白い花がついた花園の杖(イノセントステッキ)も、今回の魔獣の前では何の役にも立たなかった。

 

本来彼女は、ここで魔獣と戦うべき人材ではない。

 

魔法少女には、強さ、経験、判断力等々から、それぞれランク付けがされる。

上からS→A→B→C→D→Eといった具合だ(ただし、特例で1人だけSより上のSSランクの魔法少女がいる)。

 

そして、愛生のランクはDだ。

 

Eは魔法少女としては蕾で、まだ衣装を纏うことすらできない状態の魔法少女のことを指すため、事実上の最低ランクである。

 

対して、今回の魔獣のランクはB。

愛生よりも2ランク上の相手だ。

 

それでも彼女は魔獣と戦った。

 

本来、戦うべきではないのに。

 

魔法省からも、格上の魔獣との戦闘は禁止されているのに。

 

だって、目の前で襲われている人達を見捨てることなんてできなかったから。

 

 

魔獣の大きな足が、愛生の体を突き飛ばす。

 

全身が痛む。

 

もう何度打たれたことか。

 

痛い、苦しい、帰りたい、もうやめたい。

 

でも、彼女は周りを見て思う。

 

(皆、逃げれたみたい………よかった)

 

そうだ。彼女が守ろうとした人達は、誰一人として欠けることなく、魔獣の手から逃れることができた。

 

それだけで、愛生は救われた気持ちになる。

 

自分の力で、他人の命を救うことができたと、魔法少女になって、人を救えてよかったと。

 

こちらに向かっている魔法少女も、そんなにすぐには来れないだろう。だから、愛生はもう助からない。

 

それでも、何もできずに死ねるよりかは、随分とマシな気持ちになる。

 

 

 

ただ。

 

 

少し我儘を言うならば。

 

 

(もっと…………生きたかったな……)

 

 

 

愛生が倒れているところに、魔獣が足を踏み下ろそうとする。

 

 

 

(私…………今から死ぬんだ………)

 

 

 

無意味だと分かっていても、恐怖から愛生は目を閉じる。

衝撃がいつ来るのか、怯えながらも待つ。

 

 

 

だが、いつまで経っても、魔獣は愛生のことを踏み潰す様子はない。

 

 

(あれ…?)

 

 

不思議に思った愛生が目を開けると、そこには、大きく禍々しい黒の大剣を魔獣に突き刺す、少し痩せ気味な黒い魔法少女がいた。

 

「ふーん、結構身あるじゃん。ラッキー」

 

黒の魔法少女は、愛生に特に目を向けることなく、魔獣の身を剥ぎ始めた。

 

(何してるんだろう……?)

 

魔獣討伐後は、魔法省から派遣された人が魔獣の回収を行うため、手をつける必要はないはずなのだが。

 

「お前、やめた方がいいよ。魔法少女」

 

「え………?」

 

魔獣の肉を剥ぎ取りながら、突然そう言ってくる黒の魔法少女に、愛生は困惑する。

魔獣と戦って、せっかく民間人を助けたというのに、どうしてそんなことを言われなくちゃいけないんだろうかと言う気持ちが湧いてくる。

 

「ん。あのまま戦ってたら、お前死ぬぞ? 今だってオレが助けにこなくちゃやられてただろうしな。悪い事は言わないから、魔法少女なんて今すぐやめて、普通に生活しろ。じゃあな」

 

黒い魔法少女は、そう言って愛生の元を去っていく。

 

(もしかして、心配してくれて言ってくれてるのかな……?)

 

さっき黒髪の魔法少女は、“助けにこなければ死んでた”と言っていた。

ということは、もしや愛生のことを助けに来るためにわざわざやってきてくれていたのだろうか。

 

事実、この魔獣の討伐には、山桜 花蓮という魔法少女の先輩と、視診 美鈴という、愛生と同期の魔法少女の二人のはずだ。

 

花蓮のランクはAで、中々の実力者で、美鈴はCランクではあるが、花蓮のサポート役として共に行動をしているらしい。

 

 

 

(本来、戦闘を指定されていない魔法少女が勝手に魔獣と戦うことは禁止されてる……ってことは、やっぱり私を助けるために、わざわざ規約を破ってまで…………)

 

 

愛生は黒の魔法少女に対する好感度(勘違い)上昇(進行)する。

黒の魔法少女が、実際はただ単に食糧調達にやってきただけだということを、愛生は知るよしもなかった。

 



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最強には付け入る隙なんてない

No.va様、誤字報告、助かりました。ありがとうございます。
今後ともこの作品をよろしくお願いします。


続くかは分かりませんが…‥。


くたばれこのケダモノ!!!

 

 

 

よし。というわけで、今日も元気に魔獣狩りやっております。最強系魔法少女の†ZERO†ちゃんです!

 

 

 

今日はホームレスの人達に、食料を与えてやろうと思いまーす!餌やりってやつだな、うん。

 

 

ほら、クエっクエっ。…………なんだこいつら。全然食おうとしないじゃないか。まあ、オレがいる時はこいつら全然食おうとしないから、いつも通りといえばそうなんだがな。

 

 

「ぜろちゃんいつもありがとうな。いつも飯足りてなくてよぉ…。でもぜろちゃんのおかげで、おれら腹いっぱいになれるんだよ」

 

 

うーむ。人から感謝されるのはいいのぉ〜。

 

 

やっぱあれだよな、優越感ってやつ?

オレのが上に立ってるって感じがして、めっちゃ気持ちいいです。

うひょー!自尊心が満たされるー!

 

誰だ今オレのことクズだって言ったやつ!?

自尊心くらい誰にでもあるだろ?

ま、今はこんな小物だが、まあ見てろ。オレが最強になれば、この世界に住む全人類を見下せるんだからな。

 

 

「しっかし、魔法省に登録すりゃ、政府から援助が出るってのによぉ。あぁ……そうか、おれたちのために………」

 

「お前らのためじゃないって。言ってるだろ? オレは最強の魔法少女だから、魔法省に登録とか本当に意味ないんだって」

 

 

ちなみにこいつら、オレのことを少し勘違いしているらしい。

もちろん、多少の善意こそ持ち合わせてはいるが、基本的にこの人達に魔獣の肉を分けてるのは、オレの自尊心を満たすためだ。

 

ま、そりゃ、この人達には世話になったし……まあ、感謝してるし、なるべく健康に長生きして欲しいと思っては、まあ、多少? うん。ほんとうにちょっっっっとだけ。ちょっっっっっとだけ思ってるのはあるかもしれないけど、いや、ほとんどないからね。

 

でまあ、多分こいつらからしたら、オレは魔法省の生活保障をかなぐり捨て、わざわざ恵まれない人達に食料を分け与えたり、チート魔法の代名詞こと『clean』で体を綺麗にしてくれたりしてくれてるわけだし、聖人に思えるのかもしれないが、前にも言った通りオレには魔法省に登録できない理由があるからな。

 

まあ、だからこいつらのためにわざわざ魔法省に魔法少女登録を済ませていないわけじゃない。うん。その……はずだ。

 

よし! 今日は調子いいし、もうちょい魔獣狩ろっかなー♪

 

 

 

 

 

 

「ぜろちゃん毎日肉くれるのは良いんだけどさ、正直俺らこれ食わないんだよなぁ……」

 

「魔獣の肉なんて食って大丈夫なのかワカンねぇしな。第一、別に俺らは飯に困ってはないしな」

 

 

ホームレス達は別に食料に困っているわけではない。

炊き出しに行けば、ホームレス達は満腹になるし、人によっては生活保護を受けていたりもする。

 

 

もちろん、炊き出しがなければ食料に困ることにはなるだろうが、現状ではそのような事態に陥ってはいない。

 

 

「ま、金になるから良いんだけどね〜。普通に働くよりもこの肉を魔法省に売った方が金儲けできるし、ほんとぜろちゃんさまさまだよな」

 

 

ホームレスの中には、魔獣の肉を受け取っていない人間もいる。

というか、大多数は受け取らないことが多い。ホームレスの中には、自分より年下の少女から何かを貰い受けるということを嫌がる者がいたり、単純に貰いに行くのが面倒な者がいたりするからだ。

 

 

そう、受け取っているのはほんの一部だ。

 

 

そのほんの一部の人間も、自身の空腹を満たすためではなく、その魔獣の肉を魔法省に持って行って換金してもらうことを目的としていることがほとんど………いや、すべてそうだろう。

 

 

「けどいいもんかね、俺らがいつまでもぜろちゃんのこと縛りつけちゃって」

 

「そういやぜろちゃんって、どうやって生きてるんだろ? 俺らみたいな生き方とはまたちょっと違う感じがするし、なんなら炊き出しの時も見かけたことないな」

 

「お前知らなかったのか。ぜろちゃん、魔獣の肉食って生活してるらしいぜ。服とかはくりーんだかくりーむだだか知らないがそんな感じの魔法でなんとかしてるらしい」

 

「魔獣の肉だって? あんなもん、専門家がきちんと取り扱って調理して初めて食えるもんだぞ? 下手したら死ぬんじゃ……。てか魔法の名前流石にくりーむはないだろ。クリーンじゃねーの?」

 

「そうなんだよなぁ。でもその肝心のぜろちゃんが嫌がってるんだよな。だから俺らも勝手に魔法省に連絡入れるってわけにもいかないし……」

 

「なんでぜろちゃんは魔法省の生活保障を受けようとしないんだろうな。あそこの生活保障、やり過ぎかってくらいの保障なのになぁ」

 

 

 

 

 

 

「ふーん、なるほどね、あれが0号の弱み、かー。うん。使えそうだね」

 

そう呟くのは、左目に眼帯を付けた、海賊のような装いをした魔法少女だ。

海賊船の船長が被っていそうな帽子をかぶっており、そこらを歩いていればかなり目立ちそうな出立ちをしている。

 

魔法少女というのは、イメージが大切だ。一見コスプレのように見える衣装も、実際に魔法少女達が自身の最大限の実力を引き出すために最適化されたものなのだ。

 

「1号みたく逃げ足が遅かったりもしないし、2号の時みたいに他の魔法少女と馴れ合いそうにもなかったし、一時はどうなることかと思いましたけど、いやーよかったー人質になるものが見つかって」

 

もう片方の少女が、語る。

彼女はマーメイドのようなドレスを羽織っており、体中に真珠のアクセサリーがついている。

 

ジャラジャラと音まで鳴らしているため、これまた目立ちそうである。

 

「0号も根は優しそうだし、2号の時のやり方でもいけそうっちゃいけそうだけど」

 

「どうですかねー。ま、せっかく人質がいるんですし、そっちを使いましょーよ。無理だったら2号の時の方向性にシフトチェンジって感じで」

 

「ま、それならそれで行くか」

 

「私としては1号の時みたいに力技で捕縛しに行ってもいいんですけどねー」

 

彼女達は、研究所から逃げ出した三体の魔法少女の実験体、0号、1号、2号を捕えるための魔法省直属の魔法少女部隊だ。

 

そして、その中でも0号は研究所の破壊を行ったこともあってか、特に要警戒対象として登録されており、捕縛する際は必ずAクラスかつ2人以上の魔法少女で行うことが義務付けられている。

 

そして、彼女ら2人は、1号を捕縛した実績があり、2号の捕縛の際も作戦の立案などに貢献した実績のある魔法少女なのだ。

 

そのため、今回の0号捕縛作戦にも彼女ら2人が抜擢された。

 

しかし、0号の実力は、厳密に言えば、何もわかっていないのだ。

あの最強と名高い西條吹雪からも逃げ仰せるくらいの実力はある、くらいの認識はあるが、じゃあ実際どんな魔法を使って、どんな闘い方をするのか、その一切の詳細が不明なのである。

 

元研究所の職員に聞いてみても、正直どうやって研究所を破壊したのかすら、未だにわかっていないらしい。

 

つまり、実力は未知数。だからこそ、魔法省直属の魔法少女部隊から派遣された2人は、0号には0号自身の意志で囚われてもらおうと、そういう発想に至ったのだ。

 

そして結果的に、彼女ら2人は0号の弱みになりそうなものを見つけた。

本当に0号に対して効くのかわからないが、試してみる価値はあるだろう。

 

「で、西條吹雪にはバレてないよね?」

 

「うん、全然。いくら最強っていっても、アレはかなり鈍いからね。アレの勘が鋭かったら、うちら魔法省の人間はとっくに消されちゃってるんじゃないかな」

 

2人の少女は会話を進める。

 

会話を続ける彼女らの表情は、年相応の可愛らしいものではなく。

 

まるで悪事を企んでいる裏社会の人間のような、そんな邪悪な笑みを浮かべたものであった。



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殴ると色々と痛い

 

 

「やあ、0号。少し話したいんだけど、いいかな」

 

「0号じゃなくてぜろちゃんな」

 

普通に魔獣で肉漁りしてたら、海賊姿の少女に声をかけられた件。

ていうか、オレのことを0号って呼んでる時点で、オレの出自について知ってるってことだよな。ま、西條吹雪でもない限り、オレが遅れを取ることはない。

 

適当に話して、敵っぽかったら適当に逃げれば良い。

 

「この写真、見てくれるかな?」

 

そう言って海賊服姿の少女は、オレに一つの写真を見せてくる。

いや、まず自己紹介しろよ、と思うのはオレだけだろうか。

 

人探しとかで声をかけたわけじゃないだろうし。相手がオレのことを一方的に知ってるっていうのは落ち着かないな。勿論、最強になったらそんな状況は当然のように湧いてくるんだろうが、それとこれとは話は別だ。

 

で、肝心の写真の方だが……。

 

 

 

 

うーん。こまたな。

 

写真に写っているのは、オレがよく魔獣の肉をわけにいってるホームレスの男の人達だ。彼らはロープで縛られており、まあ、要は人質ってところだろうか。

 

大方、研究所から脱走したオレこと0号の身柄を拘束するためにやって来た研究所の回し者ってところだろう。

 

こいつら本当クズだよなぁ。

オレ以外にも、1号と2号がいるらしいが、2号の捕まえ方は本当に酷かったっぽい。

 

性格良い陽キャの魔法少女の子に声かけて、『2号って子ちょっと拗らせてるみたいだから仲良くしてね。できれば研究所に連れて来てくれると嬉しいな』ってな感じで2号を半分騙す形で捕獲したらしい。

 

このエピソードは、オレが他の魔法少女と馴れ合わない理由の一つにもなっている。

 

「で? この写真をオレに見せて、どうしたいわけ?」

 

「ふーん。意外と冷静なんだ? でも、良いのかな〜。あんまり反抗的な態度取ると、この人達、どうなっても知らないよ?」

 

なんだこのメスガキ。

海賊っぽい服装してる癖に、めっちゃハートマーク付けて話してそうな喋り方なんだが。海賊ならもっとワイルドに行こうぜ。もっとこう、野郎ども!いくぞぉ!みたいな感じとか、もしくは、姉御!って感じで、めっちゃ頼れそうな感じのやつ。

 

やばい、語彙力がないな。

0なのはオレの識別番号じゃなくて、語彙だったってか、がはは……。

 

どうも、頭の中がぜろちゃんです♪

 

いや、笑えないよ……。

 

 

くっ、おのれ海賊ガール! お前のせいで、オレが馬鹿であるということを自覚してしまったじゃないか!! これは、ユルセン!

 

 

よし、ぶちのめすか。

 

「ていっ!」

 

オレはグーパンで海賊少女の顔面をぶん殴る。「ていっ!」の割には攻撃力高くない?うん、オレも思った。

女の子の顔に暴力を振るうのはいけない?人質取るようなやつだぞ。そんな悠長なこと言ってられるか。

 

それに、オレはそもそも法律に縛られるような人間じゃない。まあ脱獄犯だし?そのうち最強の魔法少女になる予定だし?

 

まあ………はい、流石にオレもやり過ぎたと思ってます。

いくらなんでも八つ当たりがすぎる……。

 

そもそも、この子自体上に命令されてやってるだけだろうし、そんな子に暴力振るうなんてもしやクズなのでは…?

 

ご、ごめんね………?

 

「っ痛!! な、生意気な、自分の立場もわかってないみたいだね、いいよ、そっちがその気なら」

 

「別に好きにすれば? だってオレ、別にそいつらのこと気にかけてるわけじゃないし」

 

まあ、ここで折れちゃいけない。あくまでもこちらは人質を取られた側。心の中では謝っていても、ここで引いてしまえば、相手に主導権を握られてしまう。

だから、申し訳ないけど殴ったことについて謝ることはできない。

 

うっ、今更ながら罪悪感が………。

 

「は、はぁ…? じゃ、じゃあ何で魔獣の肉分け与えたりしてるのって話に……」

 

「え? オレの自尊心を満たすためだけど?」

 

「は?」

 

「オレが魔獣の肉を分け与えてるわけだから、オレの方が立場は上なわけじゃん? あいつらはオレより下。オレのが上。この事実が、オレに多大な自尊心を与えてくれるんだよね。だから分けてるんだよ、魔獣の肉。別に魔獣の肉分け与えれるんだったら誰でも良いわけ。オレにとっちゃね。だからいいよ。好きにしたら?」

 

「このっ……クズが…!」

 

「それはお互い様だろ」

 

オレの発言に、海賊服の少女はドン引きしたかのような表情をする。

まあ、そりゃそうだろう。オレだってこんな奴がいたらドン引きする。でも実際オレってこういう人間なんだよな。基本クズなんだよ。最強になりたいっていうのも、他人より上に立ちたい、優越を味わいたいっていう感情からだし。

 

あ、やべ。自分がクズだって自覚したら、目から汗が…‥。

 

まあ、確かにオレが自尊心を満たすために魔獣の肉を分け与えているのは事実なんだが。だが別に、それが全てってわけじゃない。

 

魔獣の肉を分け与えれれば誰でも良いって言ってるが、ぶっちゃけオレはあいつら以外に魔獣の肉を分け与えるつもりはない。

 

認めるのはなんだか癪なんだが、確かにオレはあいつらのこと好きだ。人質に取られたってわかった時、ぶっちゃけビビった。なんならちょっと漏れそうになった。

 

じゃあなんで煽るようなこと言ったんだって? そりゃ……。

 

「ふふっ、まあいい。人質が有効じゃないなら、実力でわからせればいいだけのこと……!」

 

海賊少女が、オレに向かって魔法を向けようとする。

 

ま、無駄なんだけどね。

 

海賊少女の動きは、急に止まる。

まるで、凍ってしまったかのように。

 

「時間停止、便利すぎる」

 

そう、オレは時間停止が使える。

つってもこれ、寿命削るから普通に多用しない方がいいんだけどね。

 

時間停止については、結構議論されてて、時間停止したら息ができないぞ、とか、動けるのはおかしいとか、色々あるみたいだけど、オレはよく知らない。

 

少なくともオレの時間停止は、オレ自身は息できるし、物体の破壊もできるし、移動だってできる。

 

ザ・魔法って感じだな。

 

まあ、この能力があるから、オレは海賊っ子を煽ったわけだ。

人質取られてても時間停止で助けれれば良いよね理論だ。

 

それに、オレがクズであることをアピールすることによって、人質作戦は完全に無意味であることを向こうに知らしめるって意図もある。

何度も人質に取られてちゃたまらないからな。

 

ちなみに、研究所の破壊も時間停止によるものだ。

 

え? どうやって時間停止で研究所を破壊するんだって?

 

そりゃもう。

 

鉄パイプ持って研究所を片っ端からぶん殴るだけですよ。

何度も何度も叩けば、いくら頑丈な機械でもいつかは壊れるでしょ? 

つまりそういうこと。

 

魔獣を倒すときも、ちょっとした刃物とか鈍器持ってボコスカ殴ってますよ、ええ。

ちなみに、魔獣は皮膚を魔力で覆っているから、並の武器じゃ本来なら倒すことなんてできない。たとえ銃でも、何十発か撃たないといけない。

 

だから、オレは毎回魔獣を倒すとき、何百回何千回何万回と殴ってやっとこさ倒している。毎回倒した後はゼェゼェ息吐いてるんだけど、そういう姿見られるの恥ずかしいから息整うまで時間停止続行させてるんだよね。めっちゃ無駄な使い方してるね、うん。

 

一応、時間停止なくても魔法少女として戦えはするんだけどね。

え? 時間停止なしならランクどれくらいだって?

 

ま、まあCくらいはあるんじゃないかな?うん。

 

……嘘です、実際は多分D………しかもどっちかといえばEに近い部類の。

 

な、なんだよ。い、いいもん!! オレには時間停止があるもん!!

時間停止があったら、Sランクいけるもん!!

 

と、まあそんなわけで。

 

「じゃあな、海賊ガール」

 

オレは時間停止を維持したまま、その場を去る。ぶっちゃけ殴っちゃったのに謝れてないのまだ引きずってる。本当は謝りたいごめんね海賊ガールちゃん。

 

で、でも、オレも男だ! いや、今は女だけど。

うん。一度やると決めたことはやり通す。で、でももう一回謝らせて。ご、ごめんね……?

 

 

 

 

 

 

あ、囚われてる人質のあいつらを助け出すのも忘れないようにしないとな。



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ぜろちゃん始動!!

 

 

海賊ガールをスルーして人質を助け出したぜろちゃんことオレだったが、ちょっと厄介なやつに付き纏われることになった。

 

 

というのも、人質を探す上でまず研究所、って言っても、最初にオレがいた場所は使われていないだろうから、第2の研究所を探し出してそこに向かったわけなんだが。

 

 

まあ当然、研究所ということは何か研究しているものがあるわけで。

 

オレに0号という識別番号が付けられているように、研究所は魔法少女という名の実験動物を研究する場所だ。

つまり、オレを原点として、1号、2号と次々と実験対象は製造されていくわけで。

 

当然、オレが向かった先には、その実験対象である1号さんがいたわけですね。

で、まあ、かなり酷い目に遭ってたっぽかったから、本来の目的ではないけど、一応助けたわけですね。そしたら……。

 

「助けてくれて、ありがとう。ねぇ、お願い。2号を………にこを、一緒に助けてくれない? 貴方も、私達と同じ。気持ちはわかるでしょ?」

 

こんな感じで、粘着されちゃったわけですね。

いや、うん。

 

ヤンデレは嫌いじゃないけど、この子そういう感じでもなさそうだし…………。

 

というか、2号にも一応名前はあるんだなぁと。にこちゃんか。にごうをちょっと捻った感じかな?

 

てことは、1号はいちごちゃんとかだろうか……。

確かに、苺のヘアピンみたいなの付けてるし、ちょっとミルキーな赤髪してるし、苺っぽいといえば苺っぽい?

 

ほっぺも赤いしね。

 

 

 

 

って、現実逃避もほどほどにしないとな。

 

さて、この子、どうするか。一応さっきも言った通り、この子を助け出した後で人質も解放しておいたから、当初の目的は達成したんだよな。

 

時間停止使ってサラダバーするか? いや、この子1人で置いておくとまた研究所に逆戻りになっちゃいそうな雰囲気あるんだよなぁ……。

 

うーん。どうしたものか。

とりあえず、2号まで助けに行くとなると話が余計ややこしくなりそうだし、それは回避しないとな。

 

「同じ魔法少女だからって、助ける義理はないと思うぞ」

 

「そうじゃなくて、貴方も私達と同じように研究所でモルモットにされてた子でしょ? 確か、0号とかって呼ばれてた…」

 

「人違いでは? オレの名前は茶柱抹茶。茶道の名門茶柱家に生まれ、幼い頃から茶道の神童と呼ばれながら、茶道一筋に生きてきた人間だ」

 

ちなみにオレは茶道なんてさっぱりわからない。

平々凡々な一般ピープルだったので、茶道をやることなんてなかったのだ。

 

「チャ・バシラ・マッチャ? 変な名前……」

 

何か変に訛ってる気がするが…‥まあ、誤魔化せるのなら全然問題はないな!

 

「そうそう。オレはチャ・バシラ・マッチャだから、そのぜろちゃんってやつじゃないんだよなぁ」

 

「ぜろちゃん? 私、ぜろちゃんなんて一言も言ってないけど」

 

「あっ………」

 

つ、つい癖で……。いや、でも大丈夫だ。ぜろちゃんなんて呼び方、この子は知らないはず……。最悪、オレは0号がぜろちゃんと名乗っていることを知っていたということにすれば……。

 

「ねぇ、どういうこと? 0号はぜろちゃんって名乗ってるの?」

 

「ウーン、どうやらそうらしいネ(^ ^)でもそんなにオレも詳しくないから、正直分からないカナ」

 

「何か喋り方おじさん臭くない? いや、おぢさん臭い…?」

 

「誰がおぢさんだ! ぜろちゃ……オレはピチピチの女の子だ!」

 

「ふーん……」

 

オレはなんとか誤魔化すことに成功する。よし、このまま知らんぷりすれば、この場は凌げる。

2号には悪いが、オレは善人なんかじゃないのだ。他の魔法少女と馴れ合うつもりなんてないし、誰かを助けるために努力するつもりもない。

 

「それじゃ、オレはそろそろ行かせてもらうよ。ぜろちゃんは忙しいのだ!」

 

「ぜろちゃん………?」

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 

普段自分のことぜろちゃんって呼んでるから、本当にごく自然にポロっと、まるで海へ流れていく川のようにごく自然に口に出してしまった……。

……あほすぎんか?

 

「やっぱり貴方0号じゃない! どうして! 私達仲間でしょ? 協力し合おうよ!」

 

いや、待て。見た感じ、この子はそんなに賢そうではない。

 

まあ、一応悪い大人(研究員達)に自分からついて行ったりしてない(1号が捕まったのは実力行使なため、1号自身が研究所に自らの意志で戻ったわけではない)ところを見るに、警戒心は高いことは確かだ。

 

だが、この子は世間を知らない。なら、このオレのIQ10000の頭脳を用いれば、この子を騙すことなど造作もないだろう。

 

幸いなことに、オレには茶柱抹茶以外にも、えーと、確か………ひぃふぅみぃ……。

 

何個だっけ?

 

まあいい。そう、何個か偽名があるのだ。

その偽名を使い、この苺ちゃんを騙す。

 

「違うっ! 待て! オレの名前はでーもん・でーもん・でーもんでぇ………」

 

「せめてチャ・バシラ・マッチャで通しなよ!? 一貫性がなさすぎる………。というか、偽名にしてももっとまともな名前の方が……」

 

無理でした…。

 

当然といえば当然だ。彼女の指摘通り、普通に茶柱抹茶で通すべきだった。

なにがIQ10000だよ。ねぇよそんなの。

 

「いやそもそもチャ・バシラ・マッチャじゃなくて茶柱抹茶だよ。お前日本人だろ、なんでそんな訛り方してるんだ……」

 

「そんなことどうでも良いの! もう嘘なのは分かりきってるんだから!」

 

誤魔化そうとしてもやっぱ通じないな………。はぁ……。仕方ない。

オレ、面倒なことは出来るだけ避けたい主義なんだけど……。

だってそもそもオレ、定住できる場所もないし、金銭的余裕があるわけでもない。

 

ただ、魔獣の肉を食って生きていける世界だったから餓死せずに済んでるだけで、衛生面に関しても、『clean』とかいうクソ便利チート魔法がなければ【☆お・し★ま・い☆】みたいな状態だった。

 

だから、本当は嫌なんだよ。余計なことに首突っ込むの。でも、仕方ないよなぁ……。

 

「わかった。わかったよ。助ければ良いんだろ? 2号……にこちゃんだっけ? その子のこと」

 

「!? ……いいの?」

 

「ただし! 研究所から連れ出すところまでな。その後のことは知らないからな!」

 

「っ! ありがと!!」

 

そう言って苺ちゃんはオレに抱きついてくる。

 

 

 

…………何か、もの凄い薬の匂いがする。

 

この子、研究所でどんな扱い受けてたんだ? 体中に薬の匂いがこびり付いてるぞ。

薬漬けにされてたんだろうか……。いや、それでもこんなに薬の匂いがぷんぷん漂うものなのか……?

 

………研究所の奴ら、マジでクソ野郎じゃん。

てことは、2号の方も、苺ちゃんと同じような目に遭ってるってことなんだろうか……。

 

 

 

 

はぁ………。うん。まあ、研究所から連れ出した後も、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ面倒を見てあげよう。

いや、ちょっとだけだ。本当に。先っちょだけ的な。そう。

 

決して絆されたわけではないし、憐れに思ったわけでもない。

同情したわけでもなければ、2号に思い入れがあるわけでもない。

 

そう、これはオレがそうしたいからするのだ。

 

人工的に造り出したからと言ってまだ幼い少女を薬漬けにして、そんなもので得られた研究成果で一喜一憂するような研究者のことも、そんな奴らにいいようにされてしまっている2号のことも、気に食わない。ただ、それだけだ。オレがムカつく。

 

だから、感謝される筋合いはないのだ。

 

大体、たかが研究所如きに怯えているようでは、最強の魔法少女になるなんて夢のまた夢になってしまうからな。

 

「よしっ! やったるかぁ!」

 

待ってろクソ野郎ども!

最強の魔法少女、ぜろちゃんが!

お前らの研究、ぜーんぶ台無しにしてやるからな!!!!



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悪逆非道な残虐行為

No.va様、誤字報告ありがとうございます。



前回とはまた別の研究所に2号は捕えられているらしいので、現在オレといちごちゃんはその研究所に向かっていた。時間停止はなるべく使わずに、スマートな救出を実行するとしよう。

正直、他の奴にオレの時間停止の魔法を知られるの、あんまり良くないんだけどね。ホームレスの人達には知られちゃってるし、いちごちゃんだって助ける時、なるべく時間が止まってるってこと悟らせないように救出したつもりだけど、まあ、気づかれているかもしれない。ホームレスの人達のことは信頼してるし、オレの秘密は絶対守ってくれるって確信があるから別に良いんだけど、問題はいちごちゃんの方だ。

 

同じ実験体だったとはいえ、信用はできない。

2号だってそうだ。

 

だから、今回の救出では、なるべく時間停止を使わずに行いたい。勿論、オレの実力だと、『時間停止ぜろちゃん』じゃ『救出可能性ぜろちゃん』だから、多少は使うけどね。

 

「さ、乗り込むか」

 

まずは研究所の()()()()()()()()()()()だな。お、ここら辺とかよさげだ。

 

「ちょっと、まさかここから入ろうっていうんじゃ……」

 

「ぜろちゃんぱーんち!!!!」

 

言いながら、オレは壁を破壊する。

あ、ちなみに一回のパンチで壁が破壊されているように見えるかもしれないが、実際には時間停止して鉄パイプなりなんなりを取り出してかなり時間かけて壁ぶっ壊してます。はい。

 

「な、何だ!」

 

「か、壁を破壊しやがった!?」

 

壁を破壊して研究所に侵入したオレを見て、研究所にいる研究所達が慌てふためいている。ほっほっほ、愉快よのう。

さて、ここからが本番だ。

 

オレは今から、本当はやりたくない、究極の手段をとろうと考えている。

このまま2号をサクッと助けて退散するのも悪くはないが、研究所は潰しておかないと、2号もいちごちゃんも、再び捕まってしまう可能性がある。なんなら、またあいつら(ホームレス達)が人質にされるかもしれない。

 

だから、やるなら徹底的に。もう二度と、こんな研究をさせないように。

 

オレが、罪を背負わなくちゃならない。

 

人に行ってはならない、道徳的に許されてはいけない、そんな行為を。

 

「外で待っててくれ。オレの魔法で、あいつらを蹴散らす」

 

「………わかった。無理しないようにね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、やるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」

 

この世のものとは思えない程の大きな断末魔が、研究所内に響く。

その悲鳴は、聞くだけでこっちが苦しくなるような、それぐらいに悲壮感が溢れるもので。

 

「オレは………仕方なかった……………これしか、方法がなかったんだ………」

 

許してくれ、頼むから。

 

オレだって、本当はこんなことしたくなかった。

 

だって、オレにはわかるのだから。その苦しみが。

 

前世を経験しているオレだからこそ、その苦しみは、痛いくらいにわかる。

 

オレは、大罪人だ。

やってはいけない、禁忌を犯してしまった。

 

到底許されるべき行いではない。

 

そう、オレの罪は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しぬぅぅぉぅおぉぉぅぅぅぅ!!!!」

 

「おらの息子がァ……! いやじャァ!! おら、結婚したら子供は6人って………! ギャァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

そう、オレは、罪を犯した。

 

金的という、男であれば誰しもが恐れる、禁断の行為を。

 

男達の絶叫が、研究所中に響く。

辛いよな、苦しいよな。

 

でも、こうでもしないと、きっとこいつらはまた、オレみたいな存在を造りだす。

別にオレ自身は人生謳歌してるわけだし、なんの不満もないのだけれども、いちごちゃんや2号みたいな子が、研究所の実験にその貴重な一回の生を食い潰されなくちゃいけないっていうのはオレにはあまりいいものだとは思えなかったからな………。

 

申し訳ない。本当に、罪悪感で今でも死にそうだ。

 

玉蹴りなんて、本当に。

 

 

 

 

 

聞けば、男の人の、その………玉を蹴るのって、内臓を蹴ってるのとおんなじらしい。そう、つまり玉は臓器なのだ。それを蹴るなんて……うぇっ……ぐろ……。

 

なんだか、オレまで股の辺りが痛くなってくる。

うぅ……ごめんよ………、オレだって本当はこんなことしたくなかったんだ……。

 

 

 

 

 

胸の中に溢れんばかりの罪悪感を抱えながら、オレはさっき作り出した入口付近にまで一旦戻る。

 

「研究員は全滅させといた。後は自由にしてくれ」

 

「うそ………一瞬で、こんなに…? 一体どうやって………」

 

いちごちゃんは、オレのやった罰せられるべき行いを見て、驚きを隠せないでいる。

どうやらオレの時間停止の魔法については、この子にはバレてなさそうだ。

 

「ほら、ちゃっちゃと行って、サクッと助けるぞ。安心しろ。ここには最強の魔法少女、ぜろちゃんがついてるんだからな!」

 

オレは罪悪感を振り払うため、努めて明るく振る舞うようにする。空元気ってやつだ。

 

まあ、研究員達は全滅させておいたし、一応2号らしき存在も時間停止使用中に見つけている。これ以上の脅威は存在しないはず……。

 

 

 

 

 

『〜♪』

 

 

 

 

 

「ねぇ、何か聞こえない?」

 

歌? 2号が歌っているのだろうか。時間停止で様子見した時、2号に歌っている様子はなかったんだが………。

 

「ちょっと様子みてくる。待ってろ」

 

おそらく大丈夫だろうが、念の為、オレは奥の様子を視察しにいく。

怖いし、一応時間停止の魔法も使っておこう。

 

『〜♪』

 

「こっちか」

 

オレは音の鳴っている方向に進む。

 

アレ? 音が鳴っている…?

オレ、確かに今、時間停止の魔法を……。

 

 

 

「あら? 誰か来たみたいですね〜。しっかし、驚きましたよぉ。まさか、私が来た時には、既に研究員さん達が全滅していたなんて。ところで、私の歌声、どうでした? 私結構歌には自信あるんですけど〜」

 

歌声の主は、マーメイドのようなドレスを羽織っており、体中に真珠のアクセサリーがついた、魔法少女だった。

 

「お前、なんで動けてる?」

 

オレは確かに、時間停止の魔法を使った。なのに、何故かこいつの時間は止まっていない。

もちろん、オレが意識すれば、特定の誰かの時間停止だけを部分的に解くことは可能だ。だが、今回の時間停止は、しっかりオレ以外は動けないように設定したはず……。

 

「動けてる……? なるほど、身体拘束系の固有魔法、金縛り的なものでしょうか……? いえ、それだと弱いですかねぇ……。うーん」

 

「おい、無視するな」

 

「あーっとごめんなさい。少し考えごとしてました。とりあえず、自己紹介からいきましょ。私は鮫島 美澄(さめじま みすみ)。魔法省直属の魔法少女部隊、深海魔策(マジカルマリン)に所属する、極々平凡な魔法少女です。以後お見知りおきを、0号さん」

 

懇切丁寧に、オレに自己紹介をしてくる美澄。それに合わせて、オレもまた自己紹介を始める。

 

「オレの名前は桜河坂逢魔だ。0号? 誰だそいつ。オレは知らないな」

 

「オレっ子で厨二病とか、拗らせすぎじゃないですか……。普通に心配になってきました。大丈夫ですか?」

 

「おちょくってる?」

 

「あ、はい。少しだけ。いや、3割…………4割くらい」

 

全然少しじゃねぇじゃん。いや、でもさ、君のファッションも大概だと思うけどね? うん。傷つくかもしれないから何も言わないけどさぁ。

 

「まぁ。そんなことはどうでもいいんで。西條吹雪からも逃げられる、そんな貴方が、一体どんな力を持っているのか、大体予想できてきたので」

 

オレの時間停止に気づかれたか?

なら、何か仕掛けられる前に、こっちが先に魔法を発動すれば…。

 

『〜♪』

 

また、この音……。こいつの歌声か……。

何でだ。確かにオレは今、時間停止魔法を発動して……。

 

「『無効詠唱(ヴォイドシンフォニー)』。私の固有魔法で、これが発動している間、貴方は固有魔法を使うことができません。さて、私の推測だと、た・ぶ・ん、0号ちゃんの固有魔法は……時間停止、かな? あ、ちなみに私の魔法少女ランクはAなんだけど〜」

 

まずい、本当にまずい……。

時間停止が使えない?

 

じゃあ、オレは素の状態で戦うってことか?

無理だ、だって、オレのランクは……。

 

「はじめよっか。見せてもらうよ。西條吹雪に匹敵する、最強レベルの実力を、さ」

 

オレには、そんな力……、

 

 

 

ないんだ…。



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べ、別に仲間が欲しいとか思ってないんだからね!

「あはは〜。逃げ回るだけじゃ私は倒せませんよ〜」

 

空中に浮いている水玉、それが美澄の攻撃手段らしい。『時間停止』が使えない以上、オレはこうして無様に逃げ回ることしかできないんだけど……。クソッ、『時間停止』さえあれば……。

 

ん? でもよくよく考えてみたら、オレって『時間停止』ありでも魔法少女とまともに戦闘したことなくね?

 

いや、だってさぁ……。他の魔法少女と戦おうとすると決まって西條吹雪がでしゃばってくるんだもん。そんなの逃げるしかなくね? だって最強だよ? 唯一のSSランクの魔法少女だよ? 敵うわけないじゃーん? 

いや、当然? オレはいつか西條吹雪のことをボコボコにできるくらい強くなる予定ではあるけどさ。いやでも、ほら、戦略的撤退っていうかぁ。ま、まぁ? 時期じゃないよねって。

 

そう、つまり、オレは魔法少女との戦闘の仕方が、一切分からない。セオリーとか、そんなものがあるなら今すぐに教えてほしいくらいだ。

 

うっ、オレはなんて無力なんだ……。ぜろちゃんは実力もぜろちゃんだったのだ……。

 

「逃げ足だけは早いみたいですね。やっぱり、西條吹雪に匹敵する実力って嘘っぱちだったんですかぁ〜? あーあ。せっかく本気でやり合えると思ったのに〜」

 

く、クソ〜! ば、馬鹿にしやがって……! お、オレだってなぁ! じ、時間停止さえあればお前のことなんていつだって……。

 

ん、待てよ?

 

あいつ(美澄)の『無効詠唱(ヴォイドシンフォニー)』って、常に発動してるのか?

だとしたら、魔力消費量って大変なことになるだろう。そもそも、オレの『時間停止』を掻き消すだけの魔力って考えたら、そんじょそこらの魔法少女じゃカバーできないほどの量になる。

 

じゃあ、常に発動させてるわけじゃないんじゃね?

つまり、オレが『時間停止』を使おうとしたタイミングで『無効詠唱(ヴォイドシンフォニー)』を発動させてたってことになる。

 

いや、そんなに都合よく発動できるものか?

言っておくが、オレの『時間停止』は、固有魔法のランク的に言えばSSクラスだ。そんな『時間停止』でさえも、デメリットは存在する。だったら、彼女の『無効詠唱(ヴォイドシンフォニー)』にも、何かしら発動条件や、発動に伴うデメリットのようなものが存在しなければおかしい。

 

オレは天才的な脳をフル回転させる。

無効詠唱(ヴォイドシンフォニー)』。そのデメリット。発動条件。

 

何か………。

 

『〜♪』

 

歌声。

確か、オレがここに来る前、美澄は歌を歌っていたはずだ。もしかしたら、歌声が『無効詠唱(ヴォイドシンフォニー)』の発動条件なのかもしれない。

 

だとすれば、今、オレは『時間停止』が使えるんじゃないか?

 

なーんだ。ちょろちょろじゃねーか。ほな、『時間停止』、使わせてもらうぜー!

 

「???」

 

「あれ? もしかして今、固有魔法を使おうとしました? 無駄ですってぇ。もしかして、歌ってなければ『無効詠唱(ヴォイドシンフォニー)』は発動しないとでも思いましたか? ザンネーン。歌声はあくまでトリガー。一度発動させてしまえば、私の魔力が切れない限り、『無効詠唱(ヴォイドシンフォニー)』はその効果を発揮しますよ」

 

だ、騙された!! 

こいつ……!

 

「それとも何ですか? もしかして、時間停止がないと私に手も足も出ないとか? もしそうだとしたらお笑い者ですね」

 

とことん馬鹿にされてる……。

くっそ〜! お、オレは最強の魔法少女になるんだ……。こんなとこでつまづいてたまるか……!

 

「ここまで煽っても、手の内は見せるつもりはないみたいですね……」

 

マーメイドガール(美澄)がブツブツ呟いているが、この状況をどう打開するか、そのことばかりに頭を働かせていたオレの耳には、彼女の言葉は届かなかった。

 

と、そんな時、水を刺すようにオレの背後から炎の塊がマーメイドガール(美澄)に向かって放たれる。

水じゃなくて火なんだけどな。じゃなくて……。

 

「遅かったから来た」

 

後ろを振り向くと、置いてきたはずのいちごちゃんの姿。え、何、助けに来てくれたん?

 

「1号………。流石に2対1では分が悪いですね………。ここは一旦退却とさせていただきます」

 

いちごちゃんが来た瞬間、マーメイドガール(美澄)は額に汗を垂らしながら研究所(この場所)から去っていく。

認めたくないけど、オレ、いちごちゃんに助けられたみたいだ。

 

「き、来たのか。ま、まぁ、ぜろちゃんにかかればあの程度の敵、なんてことなかったんだけどな!!」

 

しかし、年長者としてのプライドが、素直にいちごちゃんに助けられたという事実を受け入れてはくれない。いや、オレだってプライドってもんがありましてね。それに、ほら、ぜろちゃんは0号でしょ? いちごちゃんは1号。つまりオレの方が先輩なのだ。先輩として、後輩に恥ずかしき姿を見せるわけには…。

 

「ふーん」

 

「ま、まあとりあえず! ほら、2号の事助けるんだろ? いこーぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

と、無事、2号のいる場所に辿り着いたオレといちごちゃん。マーメイドガール(美澄)が去った後は、特に何か障害があるわけでもなく、ここまですんなりと進むことができた。ちなみに今、オレの前ではいちごちゃんと2号の感動の再会が行われてます。2人とも目の前で抱き合ってらっしゃるが、ぜろちゃんのこと忘れてない?

 

「後ろにいるのは?」

 

「あー。えっと、私達と同じで、別の研究所で実験体にされてた子。ナンバーは0」

 

「……ん」

 

2号ちゃんはオレに握手を求めてくる。いや、オレは馴れ合いはいいんだけど……。

ちなみに2号ちゃんの容姿は、白銀の髪に赤色の目、幸薄そうな表情が特徴的な幼い少女だ。なんか、こう、庇護欲的なものが湧いてくる。だから断りにくいんだよなぁ……。

 

ま、まぁ握手くらいええか。

 

「オレはぜろちゃんだ。生まれ故郷である研究所は自分の手でぶっ潰した。よろしく」

 

「私は、2号。2号って呼ばれるの、あんまり好きじゃないから……。にこって呼んでほしい。よろしく」

 

そう言って2号……にこちゃんはオレににこりと微笑みかけてくる。名前の通り、にこっとした顔が可愛らしい少女だななんて、柄にもなくそう思った。

 

って、オレは何を言ってるんだ。

オレは最強の魔法少女になるんだ。馴れ合いは必要ない。孤高こそ至高。仲間など必要ないのだ!!

 

「……どうしたの?」

 

ぴょこんと、にこちゃんは首を傾げてオレにそう尋ねてくる。

 

「い、いーや絆されないぞ! ぜろちゃんは1人で生きていけるのだ! 徒党を組む必要なし! ということで、ぜろちゃんはここら辺でおさらばさせてもらう! では!」

 

「行っちゃうの?」

 

だ、ダメだ。絆されるなぜろちゃん!

 

「ということで、ぜろちゃんはここら辺でおさらばさせてもらう! では……」

 

「じーっ……」

 

「ん……いや、ぜろちゃんは………」

 

「一緒に行こ?」

 

「ま、まあ後ちょっとだけここにいよう。うん」

 

くっ!

し、仕方ない。後ちょっとだけいよう。うん。ま、まあたまにはいいだろう。

 

後ろでいちごちゃんがニヤニヤしているのが見えるが、違うからな! べ、別に絆されてなんかないんだからな!!

 

「あのさ、提案なんだけど」

 

「ん、どうしたの? いちご」

 

「0号……。ぜろちゃんも、私達と一緒に行動しない?」

 

いや、ダメだぞぜろちゃん。そこまで許しちゃダメだ。オレは最強になるんだ。誰にも頼らない。助けを必要としない。最強の存在に、だ。ここでその夢を終わらせるわけにはいかない!

 

「オレは最強だ。1人でも生きていける!」

 

そう答えると、いちごちゃんはオレにジト目を向けてきながら、オレの耳元まで口を近づけてくる。な、なんだ?

 

(さっきの魔法少女に手も足も出てなかったくせに)

 

ギクゥッ!!

 

(な、なななななななななんのことかな? ぜ、ぜろちゃんは最強なんだぜ? まさか苦戦するなんて)

 

(バレバレ。本当は時間停止に頼ってばかりで、実力なんて伴ってないんでしょ?)

 

(むっ……それは聞き捨てならない…)

 

(別にずっとってわけじゃないから。一時的にでもいいの。私も仲間が欲しいし)

 

…‥まあでも実際、いちごちゃんがいなかったらオレはあのままマーメイドガール(美澄)にやられていただろう。今までは時間停止一本でどうにかなってきたが、マーメイドガール(美澄)みたいな敵がまた現れないとも限らない。オレの時間停止だけでは、どうにもならない事態に陥る可能性もある。

 

そうだ。別に、今仲間がいても、何の問題もないんじゃないか?

 

最終的に孤高で最強であればいいのだから、今徒党を組んでいたって何の問題もないのでは?

 

そう、今は最強になるための準備期間。だったら、一時的な協力関係を築いても問題はないだろう。

 

「わかった。とりあえずぜろちゃんは協力してあげることにした」

 

「よかった……。断られたらどうしようって思ってたから」

 

「ん。仲間が増えて、私も嬉しい」

 

ま、まあ?

たまには賑やかなのも悪くないかな、なんて。

ちょっぴり思ったり、思わなかったり。

 

本当にちょっとだけ、そう思った。



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