光の申し子 (松雨)
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資料集
魔帝兵器独自設定資料


魔帝の兵器についての独自設定解説資料ですので、見たくない方は飛ばして下さい。


超潜艦『シーヴァン』

【全長】285m

【最大幅】30m

【速力】水中 29.5ノット

      水上 20ノット

【潜航深度】通常 650m

   特殊 700m~1000m(耐爆・耐圧魔装展開時)

【主機】魔核波機関6基

【推進機構】魔導超合金スクリュープロペラ

【兵装】560㎜魔導魚雷発射管10門

   →霊式誘導長魔雷

    330㎜魔導魚雷発射管10門

   →霊式誘導短魔雷

    150㎜特殊迎撃弾発射管25門

   →対魚雷・魔雷誘導迎撃弾

    水中発射式対艦誘導魔光弾

    水上発射式対空誘導魔光弾

    潜水艦搭載型コア魔法

    耐爆・耐圧魔装

    吸音魔装

【管制システム】魔導情報統括システム

        超処理魔導コンピューター       

【水上レーダー】魔導電磁レーダー

【ソナー】魔音波発探知装置 

【その他】魔光音波式水中可視装置

     魔核抑制・封印装置6基

     魔力蓄積装置

 

【説明】

古の魔法帝国内でも特に有能な技術者の集団が製造した、魔核(コア)エネルギー(魔法版原子力)を動力源とした超巨大潜水艦(決戦兵器)。とことん高性能を追求した故に使われた経費や資源の量がとてつもなく、メンテナンス難度も高いため、製造数は極めて少ない。

 

1度機関を動かせば半永久的に稼働するものの、システムによって強制停止したか乗員の意思でさせてしまった場合、再稼働に膨大な魔力が必要となる。

コア魔法を搭載しているが、厳重な誘爆・誤爆防止対策が施されているため、使用には膨大な魔力消費を伴う複雑な対策解除法の実践が必須。

 

なお、神聖ミリシアル帝国で発見された1隻は所々が破損ないし故障していて、かつ魔導技術力が圧倒的に足りない事が理由で修復は不可能。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

【魔核波機関】

核分裂相当の魔法的現象により生じる膨大な魔力を動力とする、軍用艦専用の魔導エンジン。

 

【魔核抑制・封印装置】

魔核波機関に大きなトラブルが発生した際、特殊な結界魔法によって強制的に魔法的現象を抑制し、致命的事態防ぐ装置。それでも致命的な事態を防げないとシステムが判断した場合、即座に封印処置が施される。

 

【魔力蓄積装置】

エンジン停止の際、即座に再起動するための魔力を溜めておく魔核波機関を使用する艦船専用の装置。魔核波機関の致命的トラブル時の封印処置の補助に、溜め込んだ魔力が使用される場合もある。

 

【霊式誘導長魔雷】

最大射程55㎞・有効射程30㎞・雷速60ノットの、敵水上艦船に対して使用する魔法版誘導魚雷。探信音での誘導なため、魔力を持たない艦船にも有効。遥か昔、魔帝の潜水艦の主力として装備されていた。

 

【霊式誘導短魔雷】

最大射程9㎞・有効射程8㎞・雷速60ノットの、敵潜水艦に対して使用する魔法版誘導魚雷。探信音での誘導なため、魔力を持たない潜水艦にも有効。遥か昔、魔帝の潜水艦や対潜魔船の主力として装備されていた。

 

【対魚雷・魔雷誘導迎撃弾】

最大(有効)射程40㎞・弾速75ノットの、科学版魔法版問わずあらゆる魚雷を迎撃する事が可能な、水と風の複合属性付与弾。

弾体が小さく搭載数を多く出来る仕様だが、発射機構の都合上連続で使用し過ぎると、魔力の過剰蓄積により迎撃が一時的に出来なくなる。

 

【水中発射式対艦誘導魔光弾】

最大射程150㎞・有効射程120㎞の、水上艦船に対して使用する魔法版対艦ミサイル。亜音速でシースキミングし、当たる直前にポップアップして命中する点も対艦ミサイルとほぼ同じだが、水上では発射不可能。

 

【水上発射式対空誘導魔光弾】

最大(有効)射程30㎞・マッハ6で飛翔する、空中目標(航空機やワイバーンなど)に対して使用する魔法版短距離防空ミサイル。搭載数は多くなく、魔帝の潜水艦の浮上時の防衛用として搭載されている。

 

【潜水艦搭載型コア魔法】

最大射程10000㎞の、敵地上施設の消滅を目的として搭載されている、魔法版大陸間弾道弾。超高温・衝撃波・魔核波(魔法版放射線)によって半径5㎞内は壊滅し、それより外でも一定範囲に凄まじい被害を与える上、数日間魔核波による影響が残り続ける。

 

 

【耐爆・耐圧魔装】

敵魚雷・魔雷の迎撃に失敗した際、装甲強化と爆圧・水圧を拡散させる術式を同時に展開し、生存確率を大幅に上げるシステム。

強力極まりないものの魔力消費が凄まじく、また展開中は他兵装が使用不可となり、ソナーの性能や速力も下がる。

 

【吸音魔装】

敵水上艦船や潜水艦のソナー、対潜哨戒機のソノブイ、誘導魚雷や魔雷の発する探信音から目を欺くための音波を吸収する結界を展開し、生存・隠密性を大幅に上げるシステム。

強力極まりないが魔力消費が凄まじく、展開中は他兵装の使用が不可能となり、ソナーの性能や速力も下がる。

 

【魔導情報統括システム】

水上レーダーやソナーからの各種情報、装甲の損傷具合や兵装の使用リストなどの戦闘に必須な情報をまとめ、艦に接近する物体や生物と言った対象の脅威度を常時算出し続け、指揮所へと送るシステム。

 

【超処理魔導コンピューター】

魔導情報統括システムの情報処理を助け、故障確率を大幅に低下させるための補助用システム。

 

【魔音波発探知装置】

水中の様子を探り、搭載潜水艦または艦船の脅威となるものがないかを音波によって調べるアクティブモード、対象の出す音波を捉え、居場所を察知するパッシブモードの2つの機能を持つ装置。

 

【魔光音波式水中可視装置】

複雑な術式の施された機器の内部で魔波と音波と光属性エネルギーを融合、発生した『魔光音波』と呼称される特殊な波動を放出、それにより水中の様子を指揮所の巨大魔導モニターに、映像としてハッキリと映す事が可能となる装置。なお、使用時は隠密性が低下してしまい、一部兵装が使用不可となる。



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神聖ミリシアル帝国独自兵器設定資料

独自兵器の設定資料ですので、見たくない方は飛ばして下さい。


目次

 

魔導空母

 アロンダイト級魔導空母『アロンダイト』

 アロンダイト級魔導空母『オートクレール』

 フラガラッハ級魔導空母『フラガラッハ』

 フラガラッハ級魔導空母『アラドヴァル』

 

魔導戦艦

 ミスリル改級魔導戦艦『ヴァーテイン』

 ミスリル改級魔導戦艦『グニール』

 ミスリル改級魔導戦艦『トルティン』

 ミスリル級魔導戦艦『カレドウルフ改』

 ミスリル級魔導戦艦『コールブランド改』

 ミスリル級魔導戦艦『クラレント改』

 

魔導巡洋艦

 シルバー改級魔導巡洋艦『ロイヤー』

 マラカイト級防空巡洋艦『マラカイト』

 マラカイト級防空巡洋艦『ローズクォーツ』

 

魔導駆逐艦

 サファイア級重雷装駆逐艦『サファイア』

 

魔導潜水艦

 シーハイド級魔導潜水艦『シーハイド』

 

航空機

 制空型天の浮舟『エルペシオ4』

 多目的型天の浮舟『ジグラント4』

 特殊輸送機『マラーナ』

 

魔装戦車

 魔装重戦車『ヴォルカⅠ型』

 魔装中戦車『アルカスⅠ型』

 魔装軽戦車『ウィングⅠ型』

 

 

 

 

 

 

アロンダイト級魔導空母『アロンダイト』【目次へ】

【全長】289.7m

【全幅】63.3m

【速力】33ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【最大搭載機数】83機

制空型天の浮舟『エルペシオ4』39機

多目的型天の浮舟『ジグラント4』43機

偵察型天の浮舟『サテラーチ1』1機

【兵装】トール40㎜単装対空魔光砲60基60門

    イクシオン20㎜改単装対空魔光砲65基65門

    12.7cm単装両用魔導砲6基6門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

     圧縮魔波式カタパルト

【同型艦】『オートクレール』

 

【説明】

最新鋭の各種天の浮舟運用を主目的として建造された、ミリシアル最新鋭の単胴型装甲魔導空母。ルーンポリス魔導学院にて建造されていて、現在3隻の同型艦が存在している(その内1隻は建造中)。

 

ミスリル改級魔導戦艦と同様の特殊合金(ミスリル改)かつ加工法にて建造されていて、最新の高出力装甲強化システムなどが合わさり、ロデオス級魔導空母を大きく上回る防御力を誇る。

 

また、技術力の向上に伴い艦載機の最大搭載量もロデオス級魔導空母を上回り(最新話時点では最大搭載されていない)、新開発の圧縮魔波式カタパルトの搭載により発艦もスムーズに行えるようになっている。

 

ただし、高性能を追求したが故に建造費用はもとより維持費や燃料費が凄まじく、ロデオス級魔導空母のおよそ3.3倍。

また、巨大艦故にメンテナンスの手順も難しくなっているため、既に存在する3隻(1隻は建造中)以上に建造される計画は立っていない。

 

 

・兵装等解説

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改単装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲の単装版。主に空母に搭載されているが、ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載が可能。なお、真上を向ける改良は一応なされている。

 

【12.7cm単装両用魔導砲】

分速12発で初速930m/s、最大射程18100mの両用魔導砲。カルトアルパス魔導学院製作で、ミリシアルの駆逐艦や空母の主砲、戦艦の副砲として搭載されている。使用可能な弾種は榴弾と連鎖榴雷弾。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

【圧縮魔波式カタパルト】

特殊な変換術式により生成された魔力を使用し、空母に搭載されている航空機を加速させて発艦を手助けするための装置。

出力調整は非常にしやすくなっていて、エネルギー変換効率もほぼ8割を達成しているものの、維持費や製造費用が相応に高くなっている。

また、発艦時に放出される特殊魔力は魔力を探知するレーダーに対する隠密性を大きく低下させ、電磁レーダーに対する隠密性も僅かながら低下してしまう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

アロンダイト級魔導空母『オートクレール』【目次へ】

【全長】289.7m

【全幅】63.3m

【速力】33ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【最大搭載機数】83機

制空型天の浮舟『エルペシオ4』41機

多目的型天の浮舟『ジグラント4』41機

偵察型天の浮舟『サテラーチ1』1機

【兵装】トール40㎜単装対空魔光砲62基62門

    イクシオン20㎜改単装対空魔光砲63基63門

    12.7cm単装両用魔導砲6基6門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

     圧縮魔波式カタパルト

【同型艦】『アロンダイト』

 

【説明】

最新鋭の各種天の浮舟運用を主目的として建造された、ミリシアル最新鋭の単胴型装甲魔導空母。ルーンポリス魔導学院にて建造されていて、アロンダイト含めた現在3隻の同型艦が存在している。

 

ミスリル改級魔導戦艦と同様の特殊合金(ミスリル改)かつ加工法にて建造されていて、最新の高出力装甲強化システムなどが合わさり、ロデオス級魔導空母を大きく上回る防御力を誇る。

 

また、技術力の向上に伴い艦載機の最大搭載量もロデオス級魔導空母を上回り、新開発の圧縮魔波式カタパルトの搭載により発艦もスムーズに行えるようになっている。

加えて、搭載されている艦載機の内訳や、装備されている兵装の数に若干の違いが存在している。

 

ただし、高性能を追求したが故に建造費用はもとより維持費や燃料費が凄まじく、ロデオス級魔導空母のおよそ3.3倍。

また、巨大艦故にメンテナンスの手順も難しくなっているため、既に存在する3隻以上に建造される計画は立っていない。

 

 

・兵装等解説

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改単装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲の単装版。主に空母に搭載されているが、ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載が可能。なお、真上を向ける改良は一応なされている。

 

【12.7cm単装両用魔導砲】

分速12発で初速930m/s、最大射程18100mの両用魔導砲。カルトアルパス魔導学院製作で、ミリシアルの駆逐艦や空母の主砲、戦艦の副砲として搭載されている。使用可能な弾種は榴弾と連鎖榴雷弾。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

【圧縮魔波式カタパルト】

特殊な変換術式により生成された魔力を使用し、空母に搭載されている航空機を加速させて発艦を手助けするための装置。

出力調整は非常にしやすくなっていて、エネルギー変換効率もほぼ8割を達成しているものの、維持費や製造費用が相応に高くなっている。

また、発艦時に放出される特殊魔力は魔力を探知するレーダーに対する隠密性を大きく低下させ、電磁レーダーに対する隠密性も僅かながら低下してしまう。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

フラガラッハ級魔導空母『フラガラッハ』【目次へ】

【全長】219.3m

【全幅】48.9m

【速力】31ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【最大搭載機数】57機

制空型天の浮舟『エルペシオ4』26機

多目的型天の浮舟『ジグラント4』30機

偵察型天の浮舟『サテラーチ1』1機

【兵装】トール40㎜単装対空魔光砲29基29門

    イクシオン20㎜改単装対空魔光砲27基27門

    12.7cm単装両用魔導砲5基5門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

     圧縮魔波式カタパルト

【同型艦】『アラドヴァル』

 

【説明】

最新鋭の各種天の浮舟運用を主目的として建造された、ミリシアル最新鋭の単胴型魔導軽空母。ルーンポリス魔導学院にて建造されていて、アロンダイト級をそのまま小さくしたような造りになっている。

 

ミスリル級魔導戦艦と同様の魔法金属(ミスリル)かつ加工法にて建造されていて、最新の高出力装甲強化システムなどが合わさり、ロデオス級魔導空母を上回る防御力を誇る。

 

技術力向上と生産体制の構築により、コストカットしつつもある程度の性能を維持する事に成功している。これにより、象徴的なロデオス級空母の1番・2番艦を除き、急速な退役・解体が進んでいる。

 

なお、高性能も追求しているが故に建造費用はもとより維持費や燃料費が、ロデオス級魔導空母の1.55倍となっている。

ただし、強力だか超高コストなアロンダイト級魔導空母の代わりに、最新鋭の戦闘機や攻撃機を運用する目的の下、建造計画は現在も進行中である。

 

 

・兵装等解説

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改単装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲の単装版。主に空母に搭載されているが、ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載が可能。なお、真上を向ける改良は一応なされている。

 

【12.7cm単装両用魔導砲】

分速12発で初速930m/s、最大射程18100mの両用魔導砲。カルトアルパス魔導学院製作で、ミリシアルの駆逐艦や空母の主砲、戦艦の副砲として搭載されている。使用可能な弾種は榴弾と連鎖榴雷弾。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

【圧縮魔波式カタパルト】

特殊な変換術式により生成された魔力を使用し、空母に搭載されている航空機を加速させて発艦を手助けするための装置。

出力調整は非常にしやすくなっていて、エネルギー変換効率もほぼ8割を達成しているものの、維持費や製造費用が相応に高くなっている。

また、発艦時に放出される特殊魔力は魔力を探知するレーダーに対する隠密性を大きく低下させ、電磁レーダーに対する隠密性も僅かながら低下してしまう。

 

 

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フラガラッハ級魔導空母『アラドヴァル』【目次へ】

【全長】219.3m

【全幅】48.9m

【速力】31ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【最大搭載機数】57機

制空型天の浮舟『エルペシオ4』30機

多目的型天の浮舟『ジグラント4』26機

偵察型天の浮舟『サテラーチ1』1機

【兵装】トール40㎜単装対空魔光砲27基27門

    イクシオン20㎜改単装対空魔光砲26基26門

    12.7cm単装両用魔導砲7基7門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

     圧縮魔波式カタパルト

【同型艦】『フラガラッハ』

 

【説明】

最新鋭の各種天の浮舟運用を主目的として建造された、ミリシアル最新鋭の単胴型魔導軽空母で、フラガラッハ級魔導空母の2番艦。ルーンポリス魔導学院にて建造されていて、アロンダイト級をそのまま小さくしたような造りになっている。

 

1番艦のフラガラッハや建造中の同型艦とは、各種兵装の数や背馳が異なっているものの、基本的な構造はほぼ一緒である。

 

ミスリル級魔導戦艦と同様の魔法金属(ミスリル)かつ加工法にて建造されていて、最新の高出力装甲強化システムなどが合わさり、ロデオス級魔導空母を上回る防御力を誇る。

 

技術力向上と生産体制の構築により、コストカットしつつもある程度の性能を維持する事に成功している。これにより、象徴的なロデオス級空母の1番・2番艦を除き、急速な退役・解体が進んでいる。

 

なお、高性能も追求しているが故に建造費用はもとより維持費や燃料費が、ロデオス級魔導空母の1.55倍となっている。

ただし、強力だか超高コストなアロンダイト級魔導空母の代わりに、最新鋭の戦闘機や攻撃機を運用する目的の下、建造計画は現在も進行中である。

 

 

・兵装等解説

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改単装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲の単装版。主に空母に搭載されているが、ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載が可能。なお、真上を向ける改良は一応なされている。

 

【12.7cm単装両用魔導砲】

分速12発で初速930m/s、最大射程18100mの両用魔導砲。カルトアルパス魔導学院製作で、ミリシアルの駆逐艦や空母の主砲、戦艦の副砲として搭載されている。使用可能な弾種は榴弾と連鎖榴雷弾。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

【圧縮魔波式カタパルト】

特殊な変換術式により生成された魔力を使用し、空母に搭載されている航空機を加速させて発艦を手助けするための装置。

出力調整は非常にしやすくなっていて、エネルギー変換効率もほぼ8割を達成しているものの、維持費や製造費用が相応に高くなっている。

また、発艦時に放出される特殊魔力は魔力を探知するレーダーに対する隠密性を大きく低下させ、電磁レーダーに対する隠密性も僅かながら低下してしまう。

 

 

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ミスリル改級魔導戦艦『ヴァーテイン』【目次へ】

【全長】279.6m

【全幅】45.4m

【速力】31ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】50口径41.3cm連装魔導砲4基8門

    14.3cm連装魔導砲5基10門

    14.3cm単装魔導砲9基9門

    12.5cm3連装魔導対空砲7基21門

    トール40mm3連装対空魔光砲13基39門

    トール40㎜単装対空魔光砲10基10門

    イクシオン20㎜改連装対空魔光砲15基30門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

【同型艦】『グニール』『トルティン』

 

【説明】

ミリシアルのあらゆる最新鋭技術が結集した、対艦・対空戦闘のどちらも高水準でこなせる、ルーンポリス魔導学院開発・製作の巨大魔導戦艦。とことん高性能を追求しているため、ミスリル級魔導戦艦に比べ建造費用が3倍以上と、とんでもない額になっている。

 

ミスリル8割にオリハルコン2割が混ぜられた特殊合金(ミスリル改)を材料として、特殊術式加工により船体が作られている事に加え、高出力装甲強化システムを搭載している。

そのため、装甲強化時(全体防御状態)の防御力は前級のミスリル級を凌ぎ、集中防御状態の場合は更に防御力が上昇する。

 

速力も船体の巨大さの割には速いが、舵の効きやすさや復原性はそこそこ。各種維持費や燃料費は限りなく抑えられてはいるものの、それでもかなり多くなってしまっている。

 

故に、ミリシアルでは既に存在している3隻以上のミスリル改級魔導戦艦の建造計画は立っておらず、既存のミスリル級を最新鋭技術で改良するか、細かな欠点を解消した最新加工技術を、最初から使用したミスリル級魔導戦艦を建造する計画が進行中である。

 

 

・兵装等解説

【50口径41.3cm連装魔導砲】

分速2~3発で初速910m/s、最大射程39500mの大口径魔導砲。ルーンポリス魔導学院製造で、ミリシアルの最新鋭戦艦に搭載されている。特殊な弾種を使えば、対空目標にも対抗可能。

使用可能な弾種は通常弾・榴弾・徹甲弾の3種類の他に、対空目標をまとめて撃墜する目的で作られた連鎖榴雷弾もある。

 

【14.3cm連装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている魔導砲で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は榴弾のみ。

 

【14.3cm単装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている連装魔導砲の単装版で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は連装版と同様で、榴弾のみ。

 

【12.5cm3連装魔導対空砲】

分速21発で初速800m/s、最大射程14600mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院製作の最新式魔導対空砲。主に、巡洋艦以上の水上艦船に搭載されている。対艦戦闘にも流用出来なくはない。

魔法版時限信管・近接信管搭載型の魔導榴弾の他にも、爆発時に電気を通す微細な粒子を周囲にばらまき、時間差で高電圧高電流の稲妻を流す連鎖榴雷弾が使用可能。

 

【トール40mm3連装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の対空魔光砲。防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。

 

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

ミスリル改級魔導戦艦『グニール』【目次へ】

【全長】279.6m

【全幅】45.4m

【速力】31ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】50口径41.3cm連装魔導砲4基8門

    14.3cm連装魔導砲6基12門

    14.3cm単装魔導砲8基8門

    12.5cm3連装魔導対空砲7基21門

    トール40mm3連装対空魔光砲14基42門

    トール40㎜単装対空魔光砲9基9門

    イクシオン20㎜改連装対空魔光砲14基28門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

【同型艦】『ヴァーテイン』『トルティン』

 

【説明】

ミリシアルのあらゆる最新鋭技術が結集した、対艦・対空戦闘のどちらも高水準でこなせる、ルーンポリス魔導学院開発・製作の巨大魔導戦艦。

とことん高性能を追求しているため、『ヴァーテイン』や『トルティン』と同様、ミスリル級魔導戦艦に比べ建造費用が3倍以上と、とんでもない額になっている。

 

ミスリル8割にオリハルコン2割が混ぜられた特殊合金(ミスリル改)を材料として、特殊術式加工により船体が作られている事に加え、高出力装甲強化システムを搭載している。

そのため、装甲強化時(全体防御状態)の防御力は前級のミスリル級を凌ぎ、集中防御状態の場合は更に防御力が上昇する。

 

速力も船体の巨大さの割には速いが、舵の効きやすさや復原性はそこそこ。各種維持費や燃料費は限りなく抑えられてはいるものの、こちらも同じでかなり多くなってしまっている。

 

故に、ミリシアルでは本艦や同型艦含めた既に存在している3隻を超える、ミスリル改級魔導戦艦の建造計画は立っていない。

なので、既存のミスリル級を最新鋭技術で改良するか、細かな欠点を解消した最新加工技術を最初から使用した、ミスリル級魔導戦艦を建造する計画が進行中である。

 

 

・兵装等解説

【50口径41.3cm連装魔導砲】

分速2~3発で初速910m/s、最大射程39500mの大口径魔導砲。ルーンポリス魔導学院製造で、ミリシアルの最新鋭戦艦に搭載されている。特殊な弾種を使えば、対空目標にも対抗可能。

使用可能な弾種は通常弾・榴弾・徹甲弾の3種類の他に、対空目標をまとめて撃墜する目的で作られた連鎖榴雷弾もある。

 

【14.3cm連装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている魔導砲で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は榴弾のみ。

 

【14.3cm単装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている連装魔導砲の単装版で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は連装版と同様で、榴弾のみ。

 

【12.5cm3連装魔導対空砲】

分速21発で初速800m/s、最大射程14600mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院製作の最新式魔導対空砲。主に、巡洋艦以上の水上艦船に搭載されている。対艦戦闘にも流用出来なくはない。

魔法版時限信管・近接信管搭載型の魔導榴弾の他にも、爆発時に電気を通す微細な粒子を周囲にばらまき、時間差で高電圧高電流の稲妻を流す連鎖榴雷弾が使用可能。

 

【トール40mm3連装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の対空魔光砲。防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。

 

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

 

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ミスリル改魔導戦艦『トルティン』【目次へ】

【全長】279.6m

【全幅】45.4m

【速力】31ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】50口径41.3cm連装魔導砲4基8門

    14.3cm連装魔導砲4基8門

    14.3cm単装魔導砲7基7門

    12.5cm3連装魔導対空砲10基30門

    トール40mm3連装対空魔光砲15基45門

    トール40㎜単装対空魔光砲12基12門

    イクシオン20㎜改連装対空魔光砲16基32門

【搭載レーダー】魔導電磁レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

【同型艦】『ヴァーテイン』『グニール』

 

【説明】

ミリシアルのあらゆる最新鋭技術が結集した、対艦・対空戦闘のどちらも高水準でこなせる、ルーンポリス魔導学院開発・製作の巨大魔導戦艦。同型艦の『ヴァーテイン』や『グニール』同様に高性能を追求しているため、ミスリル級魔導戦艦に比べ建造費用が3倍以上と、とんでもない額になっている。

 

ミスリル8割にオリハルコン2割が混ぜられた特殊合金(ミスリル改)を材料として、特殊術式加工により船体が作られている事に加え、高出力装甲強化システムを搭載している。

そのため、装甲強化時(全体防御状態)の防御力は前級のミスリル級を凌ぎ、集中防御状態の場合は更に防御力が上昇する。

 

速力も船体の巨大さの割には速いが、舵の効きやすさや復原性はそこそこ。各種維持費や燃料費は限りなく抑えられてはいるものの、それでもかなり多くなってしまっている。

同型艦の2隻に比べ、若干対空火力を上げて砲火力を下げているものの、基本的な性能や構造に変化などは一切存在していない

 

故に、ミリシアルでは既に存在している3隻以上のミスリル改級魔導戦艦の建造計画は立っておらず、既存のミスリル級を最新鋭技術で改良するか、細かな欠点を解消した最新加工技術を、最初から使用したミスリル級魔導戦艦を建造する計画が進行中である。

 

 

・兵装等解説

【50口径41.3cm連装魔導砲】

分速2~3発で初速910m/s、最大射程39500mの大口径魔導砲。ルーンポリス魔導学院製造で、ミリシアルの最新鋭戦艦に搭載されている。特殊な弾種を使えば、対空目標にも対抗可能。

使用可能な弾種は通常弾・榴弾・徹甲弾の3種類の他に、対空目標をまとめて撃墜する目的で作られた連鎖榴雷弾もある。

 

【14.3cm連装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている魔導砲で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は榴弾のみ。

 

【14.3cm単装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている連装魔導砲の単装版で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は連装版と同様で、榴弾のみ。

 

【12.5cm3連装魔導対空砲】

分速21発で初速800m/s、最大射程14600mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院製作の最新式魔導対空砲。主に、巡洋艦以上の水上艦船に搭載されている。対艦戦闘にも流用出来なくはない。

魔法版時限信管・近接信管搭載型の魔導榴弾の他にも、爆発時に電気を通す微細な粒子を周囲にばらまき、時間差で高電圧高電流の稲妻を流す連鎖榴雷弾が使用可能。

 

【トール40mm3連装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の対空魔光砲。防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。

 

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【魔導電磁レーダー】

魔力を電力に変換し、その電力を電波として放出する事により、魔力を持たない物体でも鮮明にその位置情報を探知出来るようになる装置。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

 

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ミスリル級魔導戦艦『カレドウルフ改』【目次へ】

【全長】226.3m

【全幅】32.5m

【速力】34ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】高初速38.1cm3連装魔導砲3基9門

    14.3cm単装魔導砲12基12門

    12.5cm3連装魔導対空砲2基6門

    トール40mm3連装対空魔光砲5基15門

    トール40㎜単装対空魔光砲25基25門

    イクシオン20㎜改連装対空魔光砲8基16門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

【同型艦】『コールブランド改』『クラレント改』

 

【説明】

ミリシアル海軍の中で長い間主力艦として活躍してきたミスリル級魔導戦艦を、更に進歩した最新鋭の技術でルーンポリス魔導学院が改良した魔導戦艦。大まかな見た目は同じだが、大きさなど細かな面で差異が見られる。

 

あくまでも改装であるため、船体に使われている魔法金属は変わらずミスリルだが、高出力装甲強化システムや特殊術式の付与加工により、改装前に比べて防御力は少し上昇している。

また、形状の改良や魔法による造波抵抗軽減措置により、超弩級戦艦らしからぬ速力を獲得している。機動力に関しても、同型艦以外の戦艦の追随を許さない。

主砲については口径に変化はないものの、高初速化と1基増設により、総合的な攻撃力は改装前を結構上回っている。

 

仮に、この艦艇と同等の性能を持つ艦を新造した場合、かかる費用は改装前のミスリル級の1.6倍で、各種維持費も改装前ミスリル級の1.5倍となる。

 

 

・兵装等解説

【高初速38.1cm3連装魔導砲】

分速2~3発で初速1065m/s、最大射程38100mの、改装後のミスリル級魔導戦艦や新造ミスリル級魔導戦艦に搭載されている、ルーンポリス魔導学院が研究・開発まで手掛けた魔導砲。使用可能な弾種は魔導榴弾・魔導徹甲弾・連鎖榴雷弾。

なお、高初速化に伴う各種問題は、最新鋭の技術で大半はある程度解決している。

 

【14.3cm単装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている連装魔導砲の単装版で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は連装版と同様で、榴弾のみ。

 

【12.5cm3連装魔導対空砲】

分速21発で初速800m/s、最大射程14600mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院製作の最新式魔導対空砲。主に、巡洋艦以上の水上艦船に搭載されている。対艦戦闘にも流用出来なくはない。

魔法版時限信管・近接信管搭載型の魔導榴弾の他にも、爆発時に電気を通す微細な粒子を周囲にばらまき、時間差で高電圧高電流の稲妻を流す連鎖榴雷弾が使用可能。

 

【トール40mm3連装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の対空魔光砲。防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。

 

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

ミスリル級魔導戦艦『コールブランド改』【目次へ】

【全長】226.3m

【全幅】32.5m

【速力】34ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】高初速38.1cm3連装魔導砲3基9門

    14.3cm単装魔導砲10基10門

    12.5cm3連装魔導対空砲3基9門

    トール40mm3連装対空魔光砲5基15門

    トール40㎜単装対空魔光砲23基23門

    イクシオン20㎜改連装対空魔光砲9基18門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

【同型艦】『カレドウルフ改』『クラレント改』

 

【説明】

ミリシアル海軍の中で長い間主力艦として活躍してきたミスリル級魔導戦艦を、更に進歩した最新鋭の技術でルーンポリス魔導学院が改良した魔導戦艦。大まかな見た目は改装前と同じだが、大きさなど細かな面で差異が見られる。

 

カレドウルフ改やクラレント改と同じくあくまでも改装であるため、船体に使われている魔法金属は変わらずミスリルだが、高出力装甲強化システムや特殊術式の付与加工により、改装前に比べて防御力は少し上昇している。

また、形状の改良や魔法による造波抵抗軽減措置により、超弩級戦艦らしからぬ速力を獲得している。機動力に関しても、同型艦以外の戦艦の追随を許さない。

主砲については口径に変化はないものの、高初速化と1基増設により、総合的な攻撃力は改装前を結構上回っている。ただし、同型艦の2隻より僅かながら副砲の数が少なく、対空兵装の数が多い。

 

仮に、この艦艇と同等の性能を持つ艦を新造した場合、かかる費用は改装前のミスリル級の1.6倍で、各種維持費も改装前ミスリル級の1.5倍となる。

 

 

・兵装等解説

【高初速38.1cm3連装魔導砲】

分速2~3発で初速1065m/s、最大射程38100mの、改装後のミスリル級魔導戦艦や新造ミスリル級魔導戦艦に搭載されている、ルーンポリス魔導学院が研究・開発まで手掛けた魔導砲。使用可能な弾種は魔導榴弾・魔導徹甲弾・連鎖榴雷弾。

なお、高初速化に伴う各種問題は、最新鋭の技術で大半はある程度解決している。

 

【14.3cm単装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている連装魔導砲の単装版で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は連装版と同様で、榴弾のみ。

 

【12.5cm3連装魔導対空砲】

分速21発で初速800m/s、最大射程14600mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院製作の最新式魔導対空砲。主に、巡洋艦以上の水上艦船に搭載されている。対艦戦闘にも流用出来なくはない。

魔法版時限信管・近接信管搭載型の魔導榴弾の他にも、爆発時に電気を通す微細な粒子を周囲にばらまき、時間差で高電圧高電流の稲妻を流す連鎖榴雷弾が使用可能。

 

【トール40mm3連装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の対空魔光砲。防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。

 

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

 

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ミスリル級魔導戦艦『クラレント改』【目次へ】

【全長】226.3m

【全幅】32.5m

【速力】34ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】高初速38.1cm3連装魔導砲3基9門

    14.3cm単装魔導砲14基14門

    12.5cm3連装魔導対空砲3基9門

    トール40mm3連装対空魔光砲4基12門

    トール40㎜単装対空魔光砲20基20門

    イクシオン20㎜改連装対空魔光砲6基12門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

【同型艦】『カレドウルフ改』『コールブランド改』

 

【説明】

ミリシアル海軍の中で長い間主力艦として活躍してきたミスリル級魔導戦艦を、更に進歩した最新鋭の技術でルーンポリス魔導学院が改良した魔導戦艦。大まかな見た目は改装前と同じだが、大きさなど細かな面で差異が見られる。

 

カレドウルフ改やコールブランド改と同じくあくまでも改装であるため、船体に使われている魔法金属は変わらずミスリルだが、高出力装甲強化システムや特殊術式の付与加工により、改装前に比べて防御力は少し上昇している。

また、形状の改良や魔法による造波抵抗軽減措置により、超弩級戦艦らしからぬ速力を獲得している。機動力に関しても、同型艦以外の戦艦の追随を許さない。

主砲については口径に変化はないものの、高初速化と1基増設により、総合的な攻撃力は改装前を結構上回っている。ただし、同型艦の2隻より僅かながら対空兵装の数が少なく、副砲の数が多い。

 

仮に、この艦艇と同等の性能を持つ艦を新造した場合、かかる費用は改装前のミスリル級の1.6倍で、各種維持費も改装前ミスリル級の1.5倍となる。

 

 

・兵装等解説

【高初速38.1cm3連装魔導砲】

分速2~3発で初速1065m/s、最大射程38100mの、改装後のミスリル級魔導戦艦や新造ミスリル級魔導戦艦に搭載されている、ルーンポリス魔導学院が研究・開発まで手掛けた魔導砲。使用可能な弾種は魔導榴弾・魔導徹甲弾・連鎖榴雷弾。

なお、高初速化に伴う各種問題は、最新鋭の技術で大半はある程度解決している。

 

【14.3cm単装魔導砲】

分速5~6発で初速840m/s、最大射程20000mの、ミリシアル魔導戦艦の副砲として使用されている連装魔導砲の単装版で、ルーンポリス魔導学院製作。使用可能な弾種は連装版と同様で、榴弾のみ。

 

【12.5cm3連装魔導対空砲】

分速21発で初速800m/s、最大射程14600mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院製作の最新式魔導対空砲。主に、巡洋艦以上の水上艦船に搭載されている。対艦戦闘にも流用出来なくはない。

魔法版時限信管・近接信管搭載型の魔導榴弾の他にも、爆発時に電気を通す微細な粒子を周囲にばらまき、時間差で高電圧高電流の稲妻を流す連鎖榴雷弾が使用可能。

 

【トール40mm3連装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の対空魔光砲。防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。

 

【トール40㎜単装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の単装版対空魔光砲。3連装版と同様で、防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。また、命中率に関しては3連装版よりも劣っている。

 

【イクシオン20㎜改連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

 

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シルバー改級魔導巡洋艦『ロイヤー』【目次へ】

【全長】181.2m

【全幅】18.7m

【速力】36ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】50口径16.3cm連装魔導砲3基6門

    10.5cm連装魔導対空砲3基6門

    イクシオン20㎜改連装対空魔光砲4基8門

    62cm4連装水上魔導魚雷発射管2基

   →62cm魔導魚雷24発

    315mm対潜魔導迫撃砲『アディス』

    魔導爆雷投射機Ⅰ型

    魔導爆雷投下軌条Ⅰ型

   →魔導爆雷36個

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【搭載ソナー】魔音波発探知装置

【その他】高出力装甲強化システム

【同型艦】

 

【説明】

第零潜水駆逐隊を構成する3隻の内、その旗艦を務めているカルトアルパス魔導学院が研究開発・建造した魔導巡洋艦。魚雷を込めれば対艦能力は高水準で、対潜能力も高いものの、対空能力に関しては弱め。

 

艦船には銀9割、オリハルコンを1割混ぜた特殊合金である『シルバー改』を材料に、特殊術式加工が施されているため、通常のシルバー級魔導巡洋艦を超える純粋な防御力を誇る。無論、装甲強化を行えば、それに応じて更なる防御力の上昇が見込める。

 

速力の速い駆逐艦についていけるようにと、ありとあらゆる魔法的手段が取られている上、船体の大きさの割には舵の効きも良い。抗堪性もかなり高いが加速力は平均程度で、建造費用や各種維持費用は通常のシルバー級の約4倍。

 

そのため、建造中を含めた同型艦6隻以上については計画を立てる事はせず、既存のシルバー級魔導巡洋艦を最新鋭技術で改装するか、最初から最新鋭技術を使って建造するかの2択となっている。

 

 

・兵装等解説

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

【50口径16.3cm連装魔導砲】

分速5~6発、初速920m/s、射程26300mの、ミリシアルの最新鋭ないし改装後の巡洋艦で使用されている魔導砲で、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の合作。使用される弾種は、魔導榴弾や徹甲榴弾。

 

【10.5cm連装対空魔導砲】

分速19発、初速970m/s、射程17900mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院が開発・製造を行った魔導対空砲。主に巡洋艦や駆逐艦に搭載されている。使用可能な弾種は榴弾や連鎖榴雷弾。

 

【イクシオン20㎜改連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【62cm魔導魚雷】

雷速49ノット・最大射程19000m・有効射程5000mの、魔導巡洋艦や駆逐艦に搭載されている無誘導魔導魚雷。敵空母や戦艦に対する攻撃を想定していて、カルトアルパス魔導学院が研究開発から製造までを行っている。

 

【315mm対潜迫撃砲『アディス』】

海中に潜む、敵潜水艦を撃沈するための爆雷を艦船の前方に投射するための迫撃砲で、有効射程は200m。カルトアルパス魔導学院により、研究開発・製造までが行なわれている。

 

【魔導爆雷投射機Ⅰ型】

海中に潜む、敵潜水艦を撃沈するための爆雷を艦船(巡洋艦や駆逐艦)の横方向へ投射するための装置。カルトアルパス魔導学院により、研究開発・製造までが行われている。

 

【魔導爆雷投下軌条Ⅰ型】

海中に潜む、敵潜水艦を撃沈するための爆雷を艦船(巡洋艦や駆逐艦)の後方へと投下するためのレール型装置。カルトアルパス魔導学院により、研究開発・製造までが行われている。

 

【魔導爆雷】

水中で爆発し、その際に伝う強力な衝撃によって潜航中の潜水艦を浮上ないし撃沈させる兵器。水圧時限信管・音響信管・接触信管・磁気信管の4つの信管タイプが存在している。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【魔音波発探知装置】

水中の様子を探り、搭載潜水艦または艦船の脅威となるものがないかを音波によって調べるアクティブモード、対象の出す音波を捉え、居場所を察知するパッシブモードの2つの機能を持つ装置。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

 

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マラカイト級防空巡洋艦『マラカイト』【目次へ】

【全長】174.1m

【全幅】17.5m

【速力】35ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】12.5cm3連装魔導対空砲3基9門

    15.3cm連装魔導砲3基9門

    トール40mm3連装対空魔光砲10基30門

    イクシオン20mm改連装対空魔光砲4基8門

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー

【その他】高出力装甲強化システム

【同型艦】『ローズクォーツ』

    

【説明】

神聖ミリシアル帝国の最新鋭技術がふんだんに盛り込まれた、防空に重きをおいた巡洋艦。対空能力が非常に高く、対艦能力もそれなりにある。

 

従来の艦船に比べて装甲強化シークエンスの短縮・効能強化が成されているため、防御力もかなり上昇している。大きさの割に小回りが効きやすく、砲弾などに対する回避力も同様。

注水区画や隔壁などもしっかり作られているため、魚雷に対する耐性もそこそこだが、各種対潜装備の製造ないし解析が完成時には間に合っておらず、対潜能力は皆無。

 

また、メンテナンス難度や維持費が比較的高めではあるものの、燃費自体は比較的安めで済んでいる。

 

 

・兵装解説

【12.5cm3連装魔導対空砲】

分速21発、初速800m/s、射程14600mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院製作の最新式魔導対空砲。主に、巡洋艦以上の水上艦船に搭載されている。対艦戦闘にも流用出来なくはない。

魔法版時限信管・近接信管搭載型の魔導榴弾の他にも、爆発時に電気を通す微細な粒子を周囲にばらまき、時間差で高電圧高電流の稲妻を流す連鎖榴雷弾が使用可能。

 

【15.3cm連装魔導砲】

分速5発、初速890m/s、射程25100mの、ミリシアルの巡洋艦クラスの艦船で広く使用されている魔導砲。ルーンポリス魔導学院製作。使用される弾種は、魔導榴弾や徹甲榴弾。

 

【トール40mm3連装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の対空魔光砲。防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。

 

【イクシオン改20mm連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

 

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マラカイト級防空巡洋艦『ローズクォーツ』【目次へ】

【全長】174.1m

【全幅】17.5m

【速力】35ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関

【兵装】12.5cm3連装魔導対空砲4基12門

    15.3cm連装魔導砲3基9門

    トール40mm3連装対空魔光砲11基33門

    イクシオン20mm改連装対空魔光砲5基10門

    魔導爆雷投下軌条Ⅰ型

   →魔導爆雷10個

【搭載レーダー】魔導電磁レーダー

【搭載ソナー】魔音波発探知装置

【その他】高出力装甲強化システム

     魔導射撃指揮装置

【同型艦】『マラカイト』

    

【説明】

神聖ミリシアル帝国の最新鋭技術がふんだんに盛り込まれた、防空に重きをおいた巡洋艦。試験的装備と魔導電磁レーダーの搭載も加わっているため、対空能力が1番艦『マラカイト』よりも更に高くなっていて、対艦能力も少し強化されている。

 

従来の艦船に比べて装甲強化シークエンスの短縮・効能強化が成されているため、防御力もかなり上昇している。大きさの割に小回りが効きやすく、砲弾などに対する回避力も同様。

注水区画や隔壁などもしっかり作られている上、本来搭載予定だった各種対潜装備が間に合っているため、対潜戦闘は最低限こなせるようになっている。

 

また、メンテナンス難度や各種維持費、燃料費や排水量は本来搭載する予定だった装備が搭載されている都合上、マラカイトよりもそれなりに増加している。

 

 

・兵装等解説

【12.5cm3連装魔導対空砲】

分速21発、初速800m/s、射程14600mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院製作の最新式魔導対空砲。主に、巡洋艦以上の水上艦船に搭載されている。対艦戦闘にも流用出来なくはない。

魔法版時限信管・近接信管搭載型の魔導榴弾の他にも、爆発時に電気を通す微細な粒子を周囲にばらまき、時間差で高電圧高電流の稲妻を流す連鎖榴雷弾が使用可能。

 

【15.3cm連装魔導砲】

分速5発、初速890m/s、射程25100mの、ミリシアルの巡洋艦クラスの艦船で広く使用されている魔導砲。ルーンポリス魔導学院製作。使用される弾種は、魔導榴弾や徹甲榴弾。

 

【トール40mm3連装対空魔光砲】

分速700発で初速が970m/s、最大射程8100mで有効射程4000mの、カルトアルパス魔導学院製作の対空魔光砲。防空巡洋艦や新型魔導戦艦、新型魔導空母に搭載されている。

魔力充填や自動詠唱の速度が大きく上がり、砲塔が真上を向く事も可能となっているものの、魔力消費量は相応に多くなっている。

 

【イクシオン改20mm連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【超高純度魔石燃料式魔波機関】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立を目的として、ルーンポリスとカルトアルパス魔導学院の協力の元開発された、新型の艦船用エンジン。

 

【高出力装甲強化システム】

使用する魔力が増大した代わりに、装甲強化シークエンスの時間短縮と防御力の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発のシステム。

 

【魔導爆雷投下軌条Ⅰ型】

海中に潜む、敵潜水艦を撃沈するための爆雷を艦船(巡洋艦や駆逐艦)の後方へと投下するためのレール型装置。カルトアルパス魔導学院により、研究開発・製造までが行われている。

 

【魔導爆雷】

水中で爆発し、その際に伝う強力な衝撃によって潜航中の潜水艦を浮上ないし撃沈させる兵器。水圧時限信管・音響信管・接触信管・磁気信管の4つの信管タイプが存在している。

 

【魔導電磁レーダー】

魔力を電力に変換し、その電力を電波として放出する事により、魔力を持たない物体でも鮮明にその位置情報を探知出来るようになる装置。

 

【魔音波発探知装置】

水中の様子を探り、搭載潜水艦または艦船の脅威となるものがないかを音波によって調べるアクティブモード、対象の出す音波を捉え、居場所を察知するパッシブモードの2つの機能を持つ装置。

 

【魔導射撃指揮装置】

魔導電磁レーダーないし高出力魔導レーダー、超高解像度魔導軍用カメラを含め、他複数の細やかな内外部の小型装置よりもたらされる情報をまとめ、艦船搭載のあらゆる砲や射撃の補助を担うための装置。

 

 

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サファイア級重雷装魔導駆逐艦『サファイア』【目次へ】

【全長】141.2m

【全幅】12.9m

【速力】通常全力 40ノット

    過負荷 43ノット

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関(駆逐艦仕様)

【兵装】12.7cm単装両用魔導砲4基4門

    イクシオン改20mm連装対空魔光砲3基6門

    62cm5連装水上魔導魚雷発射管3基

   →62cm魔導魚雷45本

    315mm対潜魔導迫撃砲『アディス』

    魔導爆雷投射機Ⅰ型

    魔導爆雷投下軌条Ⅰ型

   →魔導爆雷40個

【搭載レーダー】魔導電磁レーダー

【搭載ソナー】魔音波発探知装置

【その他】高出力装甲強化システム

     高機動補助魔導機構   

【同型艦】

 

【説明】

敵の空母や戦艦の撃沈を目的とし、カルトアルパス魔導学院により造られた、雷装重視の高速駆逐艦。対艦(空母と戦艦)・対潜能力はかなり高いが対空能力は低いため、他の艦艇で補う必要がある。

 

水と風の魔石・ミスリルを最新加工技術により融合、誕生した特殊魔法合金を使用している。

そのため、高出力装甲強化システムの稼働時に限り、火や熱・衝撃波を主とした()()に対しては、船体の大きさや装甲の厚さの割にかなり強くなるものの、純粋な物理攻撃に対する防御力は多少上がる程度。

 

また、防御力の低さと敵艦との近距離水雷戦を行う都合上、速力と機動力とはミリシアル艦艇の中でも最高の能力を誇る。

なお、船体建造と搭載兵装の費用は小型船にしてはかなり高くなっているが、同型艦の建造は着々と進行中である。

 

 

・兵装等解説

【超高純度魔石燃料式魔波機関(駆逐艦仕様)】

最新式の兵装に使用する魔力と艦船の速力の両立、これを目的として開発された新型の艦船用エンジンを、駆逐艦仕様に色々と調整を重ねたもの。

魔力探知に弱くなり、電磁レーダーにもある程度弱くなるものの、急加速や急停止時にかかる負担に対する耐性が上昇しているため、過負荷モードでの航行が可能となっている。

 

【12.7cm単装両用魔導砲】

分速12発で初速930m/s、最大射程18100mの両用魔導砲。カルトアルパス魔導学院製作で、ミリシアルの駆逐艦や空母の主砲、戦艦の副砲として搭載されている。使用可能な弾種は榴弾と連鎖榴雷弾。

 

【イクシオン改20mm連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲の単装版。主に空母に搭載されているが、ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載が可能。なお、真上を向ける改良は一応なされている。

 

【62cm魔導魚雷】

雷速49ノット・最大射程19000m・有効射程5000mの、魔導巡洋艦や駆逐艦に搭載されている無誘導魔導魚雷。敵空母や戦艦に対する攻撃を想定していて、カルトアルパス魔導学院が研究開発から製造までを行っている。

 

【315mm対潜魔導迫撃砲『アディス』】

海中に潜む、敵潜水艦を撃沈するための爆雷を艦船の前方に投射するための迫撃砲で、有効射程は200m。カルトアルパス魔導学院により、研究開発・製造までが行なわれている。

 

【魔導爆雷投射機Ⅰ型】

海中に潜む、敵潜水艦を撃沈するための爆雷を艦船(巡洋艦や駆逐艦)の横方向へ投射するための装置。カルトアルパス魔導学院により、研究開発・製造までが行われている。

 

【魔導爆雷投下軌条Ⅰ型】

海中に潜む、敵潜水艦を撃沈するための爆雷を艦船(巡洋艦や駆逐艦)の後方へと投下するためのレール型装置。カルトアルパス魔導学院により、研究開発・製造までが行われている。

 

【魔導爆雷】

水中で爆発し、その際に伝う強力な衝撃によって潜航中の潜水艦を浮上ないし撃沈させる兵器。水圧時限信管・音響信管・接触信管・磁気信管の4つの信管タイプが存在している。

 

【魔導電磁レーダー】

魔力を電力に変換し、その電力を電波として放出する事により、魔力を持たない物体でも鮮明にその位置情報を探知出来るようになる装置。

 

【魔音波発探知装置】

水中の様子を探り、搭載潜水艦または艦船の脅威となるものがないかを音波によって調べるアクティブモード、対象の出す音波を捉え、居場所を察知するパッシブモードの2つの機能を持つ装置。

 

【高出力装甲強化システム(駆逐艦仕様)】

使用する魔力の増大と術式変換による、装甲強化シークエンスの時間短縮と火・熱・衝撃波耐性(物理防御力の上昇は僅か)の強化を実現させた、ルーンポリス魔導学院開発の装甲強化システム。

 

【高機動補助魔導機構】

駆逐艦クラスの高速艦艇に搭載されている、最大速力下でも機動力を損なわないようにするための装置。また、エンジンに対する負担も軽減が可能である。

 

 

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シーハイド級魔導潜水艦『シーハイド』【目次へ】

【全長】109m

【最大幅】10.6m

【速力】水中13ノット

   水上20ノット

【潜航深度】最大 130m

【主機】超高純度魔石燃料式魔波機関(潜水艦仕様)

【推進機構】魔導合金スクリュープロペラ

【兵装】530mm魔導魚雷発射管12基

   →530㎜潜水艦搭載型魔導魚雷30本  

    10.6cm連装魔導対空砲1基1門

    イクシオン20mm改連装対空魔光砲1基1門

【水上レーダー】高出力魔導レーダー

【水中ソナー】魔音波発探知装置 

【同型艦】

 

 

【説明】

ミリシアル史上初めてとなる、カルトアルパス魔導学院が研究開発・建造まで行った、最新鋭の魔導潜水艦。敵の探知を担うソナーは、解析が完了している魔帝の装置が使用されている。

 

船体にはミスリルが使用されていて、その上に吸音性を向上させる魔法文字が刻印されているため、音波に対する隠密性は高め。戦闘継続能力に関しても、かなりの水準を誇っている。

水上艦船への攻撃を目的としている以上、対艦能力もかなりのものだが、浮上時の戦闘能力は潜水艦である以上、極めて低い。

 

魔帝の技術が一部で使用されている事もあり、建造含め各種費用は相当高くなっているものの、同型艦の建造計画は止められておらず、建造も着々と進行中である。

 

 

・兵装等解説

【530mm潜水艦搭載型魔導魚雷】

雷速52ノットで最大射程16200m、カルトアルパス潜水艦より放たれる水上艦船への攻撃に使われる魔導魚雷。推進方法には、圧縮した風属性の魔力を使用している。

 

【10.6cm連装魔導対空砲】

分速20発、初速990m/s、射程17000mの性能を誇る、カルトアルパス魔導学院が開発・製造を行った魔導対空砲。主に潜水艦に搭載されているが、巡洋艦や駆逐艦にも搭載されている事がある。。使用可能な弾種は榴弾や連鎖榴雷弾。

 

【イクシオン20mm改連装対空魔光砲】

分速500発で初速900m/s、最大射程7000mで有効射程3300mの、カルトアルパス魔導学院製作・改良の旧式対空魔光砲。ミリシアルのあらゆる軍用艦船に搭載されている。トール40mmと同様、砲塔が真上を向ける様な改良がされている。

 

【高出力魔導レーダー】

使用する魔力が増大した代わりに、探知可能範囲の増大とある程度の対魔力探知機能を備させた、カルトアルパス魔導学院開発の艦船用レーダー。

なお、魔帝の魔導電磁レーダー程、魔力を持たない航空機などがハッキリと映ったりはしない。ないよりはマシ、と言った程度である。

 

【魔音波発探知装置】 

水中の様子を探り、搭載潜水艦または艦船の脅威となるものがないかを音波によって調べるアクティブモード、対象の出す音波を捉え、居場所を察知するパッシブモードの2つの機能を持つ装置。

 

 

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制空型天の浮舟『エルペシオ4』【目次へ】

【全長】11.6m

【全幅】13.1m

【航続距離】1050~1450km

【速力】巡航 640㎞

    最大 865㎞

【主機】魔光呪発式空気圧縮放射エンジン改

【装甲】魔装防護加工

【兵装】30mm魔光機関砲2基

    20mm魔光機関銃2基

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー(航空機仕様)

    

 

【説明】

前級のエルペシオ3の問題であった、機体形状やエンジン周りや武装の欠点を解消・改良し、大きく性能を上昇させた、ルーンズヴァレッタ魔導学院製作の最新鋭戦闘機。

 

最大速力や航続距離、装甲の強度や武装の攻撃力全てにおいて前級を上回り、ミリシアル史上最も成功した高性能戦闘機となっている。

 

最新鋭の技術などが詰め込まれているため、1機生産する毎にかかる費用や維持費がかなり多くなり、またメンテナンスも少しながら手間が増えている。

 

 

・兵装等解説

【魔光呪発式空気圧縮放射エンジン改】

改良前のエンジンにあった、バイパス比や素材強度不足解消などの大きな問題、他細かな問題を解決し、性能を大きく上げた改良型の戦闘機・攻撃機・偵察機用のエンジン。

 

【魔装防護加工】

機体に使用されている魔法金属に特殊加工を施し、耐久性を上げるための加工法。

 

【30mm魔光機関砲2基】

分速800発、初速835m/sの、ルーンズヴァレッタ魔導学院製作の戦闘機用の魔光機関砲。弾種は曳航弾・魔導徹甲弾・魔導炸裂弾の3種類。

 

【20mm魔光機関銃2基】

分速750発、初速860m/sの、ルーンズヴァレッタ魔導学院製作の戦闘機・攻撃機用の魔光機関銃。曳航弾・魔導徹甲弾・魔導炸裂弾の3種類。

 

【高出力魔導レーダー(航空機仕様)】

航空機にも搭載出来る様に、各種仕様などを改装した高出力魔導レーダー。

 

 

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多目的型天の浮舟『ジグラント4』【目次へ】

【全長】13.8m

【全幅】19.4m

【航続距離】爆装型1340~1660km

      雷装型1510~1740㎞

【速力】巡航 510㎞

    最大 680㎞

【主機】魔光呪発式空気圧縮放射エンジン改

【装甲】魔装防護加工(多目的機仕様)

【兵装】共通→20mm魔光機関銃4基

  爆装型→80kg魔導爆弾10発or150kg魔導爆弾6発

     250kg魔導爆弾3発or500kg魔導爆弾2発

    雷装型→航空機搭載型1.1t魔導魚雷1発

    高出力魔導レーダー(航空機仕様)

 

【説明】

前級のジグラント3の欠点を改善した上で、速力・防御力・兵装の強化を行った、ルーンズヴァレッタ魔導学院開発の多目的機。主に、敵艦船に対する攻撃を想定している。

 

換装変更が必要なため同時搭載は当然不可能なものの、各種魔導爆弾のみならず、ミリシアル史上初である魔導魚雷の搭載も行える設計。

加えて、敵艦船に接近して攻撃を仕掛ける都合上、敵の対空火器による攻撃を受けやすくなっているため、魔装防護加工も多目的機仕様へと改造されている。

 

なお、建造費用や各種維持費を含めた、1機辺りに必要な費用の多さもジグラント3の2.6倍と、かなり増えている。

 

 

・兵装等解説

【魔光呪発式空気圧縮放射エンジン改】

改良前のエンジンにあった、バイパス比や素材強度不足解消などの大きな問題、他細かな問題を解決し、性能を大きく上げた改良型の戦闘機・攻撃機・偵察機用のエンジン。

 

【魔装防護加工(多目的機仕様)】

通常の魔装防護加工よりも防御力を強化するために、手順の複雑化と特殊術式を編み込んだ加工法。術式の都合上最高速が犠牲になるため、被弾率の高い多目的機にのみ施されている。

 

【20mm魔光機関銃】

分速750発、初速860m/sの、ルーンズヴァレッタ魔導学院製作の戦闘機・攻撃機用の魔光機関銃。曳航弾・魔導徹甲弾・魔導炸裂弾の3種類。

 

【80kg魔導爆弾】

爆属性(火と雷の複合)の力を魔法金属製で出来たコアに詰め、強い衝撃により起爆させて攻撃する兵器。主に、歩兵などの非装甲目標に対しての使用を想定している。

 

【150kg魔導爆弾】

爆属性(火と雷の複合)の力を魔法金属製で出来たコアに詰め、強い衝撃により起爆させて攻撃する兵器。主に、歩兵などの非装甲目標に対しての使用を想定していて、80kg魔導爆弾よりも威力が高い。

 

【250kg魔導爆弾】

爆属性(火と雷の複合)の力を魔法金属製で出来たコアに詰め、強い衝撃により起爆させて攻撃する兵器。主に、水上艦船などの装甲目標に対しての使用を想定している。

 

【500kg魔導爆弾】

爆属性(火と雷の複合)の力を魔法金属製で出来たコアに詰め、強い衝撃により起爆させて攻撃する兵器。主に、水上艦船などの装甲目標に対しての使用を想定していて、高威力化に伴い重装甲の戦艦にも有効打を与えやすくなっている。

 

【航空機搭載型1.1t魔導魚雷】

雷速50ノットで最大射程15000m、高速飛行中の航空機より投下可能となるように、駆逐艦用のものを改装した魔導魚雷。推進方法には、圧縮した風属性の魔力を使用している。

 

【高出力魔導レーダー(航空機仕様)】

航空機にも搭載出来る様に、各種仕様などを改装した高出力魔導レーダー。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

特殊輸送機『マラーナ』【目次へ】

【全長】24.4m

【全幅】26.6m

【航続距離】5590㎞(6t搭載時)

【最高積載量】15t

【速力】巡航 415㎞

    最大 500㎞

【主機】特殊魔光呪発式空気圧縮放射エンジン

【搭載レーダー】高出力魔導レーダー(航空機仕様)

    

 

【説明】

兵員や各種歩兵装備、医薬品や食糧を多量かつ安全に運ぶ事を目的としてルーンズヴァレッタ魔導学院によって開発された、最新鋭の特殊輸送機。

 

従来の輸送機よりも大型化しているものの、エンジンや機体形状の改良などで速力の低下どころか若干上昇していて、航続距離も1.4倍程度に伸びている。

 

万が一敵機に襲われてしまった際に、簡単に落ちない様に防御力をとことん高めた造りになっているため、抗堪性はかなり高い。

 

 

・兵装等解説

【特殊魔光呪発式空気圧縮放射エンジン】

最新式の制空型天の浮舟に使用される改良型エンジンの試作版を流用、出力増加と特殊術式回路構築の果てに産み出された、大型航空機専用のエンジン。

 

【高出力魔導レーダー(航空機仕様)】

航空機にも搭載出来る様に、各種仕様などを改装した高出力魔導レーダー。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

魔装重戦車『ヴォルカⅠ型』【目次へ】

【全長】11.9m

【全高】4.1m

【重量】魔装展開時 50t 実質重量 77t

【速力】魔装展開時 31~41㎞/h 実質速力 24~29㎞/h

【動力】魔冷式超高純度魔石燃料機関

【兵装】9.2cm魔装戦車砲1門

    30㎜魔光超重機関砲2基2門

【その他】魔装展開システム

【装甲】砲塔前面 170㎜(215㎜) 傾斜11度

    砲塔側面・後面 75㎜(93㎜) 傾斜22度

    車体前面 155㎜(180㎜) 傾斜52度

    車体側面・後面 65㎜(85㎜) 傾斜23度

    車体上部・下部 45㎜(70㎜)

※()内の数値は、魔装展開時の防御力を装甲厚へと換算したもの

 

 

【説明】

地上の大型魔獣や陸戦兵器、それに類する敵との戦闘を念頭において開発・製造された、ミリシアル陸軍きっての魔装重戦車(陸上兵器)

 

同程度はもとより、若干上回る防御力を持つ相手にすら通用する大口径砲、並の物理・魔法攻撃であれば装甲の薄い箇所ですら余裕で耐えてしまう程の防御力を誇るため、後方の味方や乗員にとっては頼もしい守護神。

 

このように、高火力かつ重装甲を念頭に設計されているが故、魔装展開システム使用時でさえ機動力はミリシアルの中戦車や軽戦車に大きく劣るが、最高速や加速力はさほど劣らずに済んでいる。

 

しかし、ありとあらゆる最新技術や兵装が使用されている戦車であるため、メンテナンスの難易度は比較的高く、製造や各種維持にかかる費用もかなり高い。魔装展開時は燃費も非常に悪く、補給なしかつ長時間の戦闘には不向きである。

 

また、魔装展開システムが稼働していない場合の機動力や最高速は劣悪で、燃費は良くなるもののまともに走れる道路が限られてしまう欠点が存在している。なお、防御力は素の状態でも非常に高水準である。

 

 

・兵装等解説

 

【魔冷式超高純度魔石燃料機関】

ミリシアルの戦車・自走砲・装甲車などの軍用車輌に使用されている、高出力のエンジン。機関内は、発生した熱対策として特殊な冷却術式が施されていて、常に温度を一定に保つ構造。

なお、冷却用の水がない代わりに必須となる冷却術式の稼働には、超高純度の魔石燃料から放たれる、各種駆動系や兵装を動かす魔波の一部が使われている。

 

【9.2cm魔装戦車砲】

重装甲目標を撃破する目的で開発された、ミリシアル陸軍の重戦車に搭載されている砲で、毎分7~9発の砲弾を発射可能。

使用される砲弾にもよるが、最新の風魔法推進式魔導徹甲弾の場合、100m地点での装甲貫通力は213mm、2.5㎞地点では137㎜を誇る。

 

【30㎜魔光超重機関砲】

どんな状況下でも対応が出来るようにとの考えの下、開発チームがひたすらに追求し続けた結果、最終的に魔装展開システム搭載の重戦車『ヴォルカⅠ型』専用と化してしまった、毎分810発の弾を放てる機関砲。

ヴォルカⅠ型の価格高騰の一端を担っているのと、兵装稼働試験時の結果などが原因で、戦車の副兵装としてはいささか過剰であるとの声が方々から出ている。

なお、対空用の機関砲としても使えるが、数が集まらないと雀の涙程度にしかならない。

 

【魔装展開システム】

風属性の特殊な浮遊・機動制御魔法や装甲強化魔法の術式を車輌(戦車)全体に展開、機動力や防御力を上昇させる事が可能なシステム。魔力消費が大幅に上昇してしまうため、常時展開はおすすめされていない。

 

 

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魔装中戦車『アルカスⅠ型』【目次へ】

【全長】8.1m

【全高】2.9m

【重量】魔装展開時 36t 実質重量 46t

【速力】魔装展開時 46~55㎞/h 実質速力 32~42㎞/h

【動力】魔冷式超高純度魔石燃料機関

【兵装】7.1cm速射魔装戦車砲1門

    20㎜魔光重機関砲2基2門

【その他】魔装展開システム

【装甲】砲塔前面 120㎜(143㎜) 傾斜 13度

    砲塔側面・後面 47㎜(62㎜) 傾斜 40度

    車体前面 85㎜(100㎜) 傾斜 50度

    車体側面・後面 42㎜(55㎜) 傾斜 40度

    車体上部・下部 35㎜(45㎜)

※()内の数値は、魔装展開時の防御力を装甲厚へと換算したもの

 

【説明】

地上の大型魔獣や陸戦兵器、それに類する敵との戦闘をある程度念頭に置きつつも、主に中型以下の装甲目標を撃破するために開発・製造された、ミリシアル陸軍の中戦車(陸上兵器)

 

ヴォルカⅠ型には劣るものの高い防御力、速射能力を持ちつつも高い貫徹能力を誇る主砲や強力な大口径機関砲、ヴォルカⅠ型を超える機動力・速力を持っていて、総合力はかなり高い。

 

ただ、ヴォルカⅠ型よりはマシなもののメンテナンス難度は高く、製造や各種維持費用も相応にかかる上、魔装展開時は燃費も悪くなってしまう。

 

魔装展開をしていない状態でも相応に強く、更に燃費も良くなる事から、この魔装戦車に関しては素の状態で運用される場合が多い。

 

 

・兵装等解説

【魔冷式超高純度魔石燃料機関】

ミリシアルの戦車・自走砲・装甲車などの軍用車輌に使用されている、高出力のエンジン。機関内は、発生した熱対策として特殊な冷却術式が施されていて、常に温度を一定に保つ構造。

なお、冷却用の水がない代わりに必須となる冷却術式の稼働には、超高純度の魔石燃料から放たれる、各種駆動系や兵装を動かす魔波の一部が使われている。

 

【7.1cm速射魔装戦車砲】

重装甲目標にも対抗しつつ、比較的機動力のある装甲目標を主敵として撃破するために開発・製造された、ミリシアル陸軍の中戦車へ搭載されている砲。毎分13~20発の砲弾を発射可能。

使用される砲弾にもよるが、最新の風魔法推進式魔導徹甲弾の場合、100m地点での装甲貫徹力は151㎜、2㎞地点では90㎜である。

攻撃力は高いものの、その優れた速射能力を全力で発揮し続けた場合は、砲身の寿命が極端に短くなってしまう。また、砲弾の消費量が増加するため、攻撃不能となるまでの時間も

 

【20㎜魔光重機関砲】

ミリシアルで広く使用されている対空魔光砲を、あらゆる学院の優れた魔導技師たちの叡智により、中戦車の副兵装へ搭載出来るように仕様を魔改造した、毎分850発の弾を放てる機関砲。基本的には、対戦車兵器を持つ歩兵対策として使用される事が多い。

 

【魔装展開システム】

風属性の特殊な浮遊・機動制御魔法や装甲強化魔法の術式を車輌(戦車)全体に展開、機動力や防御力を上昇させる事が可能なシステム。魔力(燃料)消費が大幅に上昇してしまうため、常時展開はおすすめされていない。

 

 

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魔装軽戦車『ウィングⅠ型』【目次へ】

【全長】5.9m

【全高】2.3m

【重量】魔装展開時 9t 実質重量 17t

【速力】魔装展開時 56~67㎞/h 実質速力 49~54㎞/h

【動力】魔冷式超高純度魔石燃料機関

【兵装】4.1cm魔装戦車砲1門

    12.7㎜魔光機関銃2基2門

【その他】魔装展開システム

【装甲】砲塔前面 25㎜(40㎜) 傾斜 15度

    砲塔側面・後面 15㎜(30㎜) 傾斜 50度

    車体前面 25㎜(40㎜) 傾斜 45度

    車体側面・後面 13㎜(27㎜) 傾斜 35度

    車体上部・下部 8㎜(15㎜)

※()内の数値は、魔装展開時の防御力を装甲厚へと換算したもの

 

【説明】

ミリシアル陸軍の軍用装甲車輌の中でも最高の速力・機動力を活かし、偵察や敵歩兵ないし軽装甲目標の撃破を目的とした、傑作とも呼べる軽戦車。

 

ヴォルカⅠ型やアルカスⅠ型を余裕で超える速力・加速力・機動力を誇り、攻撃力もこの手の兵装にしては高めなものの、防御力は魔装展開時でも低めである。

 

加えて、魔装展開時は更に速力・加速力・機動力が向上、防御力も上昇するが、燃費はかなり悪くなってしまう。

また、軽戦車故に魔装を展開していない際の防御力はかなり低いが、燃費の良さは他の戦車を凌駕する。速力・加速力については言わずもがな。

 

なお、メンテナンス難度や各種維持費に関しては、他の戦車よりはマシであれど、それ相応のものとなっている。

 

 

・兵装等解説

【魔冷式超高純度魔石燃料機関】

ミリシアルの戦車・自走砲・装甲車などの軍用車輌に使用されている、高出力のエンジン。機関内は、発生した熱対策として特殊な冷却術式が施されていて、常に温度を一定に保つ構造。

なお、冷却用の水がない代わりに必須となる冷却術式の稼働には、超高純度の魔石燃料から放たれる、各種駆動系や兵装を動かす魔波の一部が使われている。

 

【4.1cm魔装戦車砲】

軽装甲目標ないし歩兵の撃破を目的として開発・製造された、ミリシアル陸軍の軽戦車の主砲。毎分7~10発の砲弾を放つ事が可能。

使用される砲弾にもよるが、最新の風魔法推進式魔導徹甲弾の場合、100m地点での装甲貫徹力は86㎜、1.5㎞地点では40㎜となる。

 

【12.7㎜魔光機関銃】

主に歩兵などの非装甲目標の掃討を目的として開発・製造された、毎分700発の弾を放てる機関銃。主に、ミリシアル陸軍の軽戦車や装甲車に搭載されている。

 

【魔装展開システム】

風属性の特殊な浮遊・機動制御魔法や装甲強化魔法の術式を車輌(戦車)全体に展開、機動力や防御力を上昇させる事が可能なシステム。魔力消費が大幅に上昇してしまうため、常時展開はおすすめされていない。



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独自人名・地名・他用語解説

独自用語の解説資料ですので、見たくない方は飛ばして下さい。


【目次】

 

【神聖ミリシアル帝国】

人物解説へ→

施設名解説へ→

地名解説へ→         

軍事関係用語解説へ→

その他用語解説へ→

 

【日本国】

人物解説へ→

 

【パーパルディア皇国】

人物解説へ→

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オロール』【目次へ】

ミリシアルのとある田舎町に生まれ、紆余曲折あってカルトアルパス魔導学院に所属している、赤髪で茶色がかった黒瞳で、魔導眼鏡を常用しているハーフエルフの女性で、本作の主人公。日本人の前世を持つ、特殊な人物でもある。

他人よりも倍以上に多い魔力や瞬間記憶能力を持って生まれたものの、釣り合いを取るかのように身体に生まれつきいくつかの問題(主に視力や)を抱え、過去の過剰な精神的負担による持病も加わっている。

 

 

『カーム』

元はルーンポリスの病院に居たものの、現在はミリシアル政府に所属している、国内でも腕が良いと評判の心理カウンセラーで、エルフの女性。

昔から主人公を担当しているため仲が良く、政府役人の中では唯一親しげかつ呼び捨てにされている。

 

 

『ビア』

カルトアルパス魔導学院に所属しているかなり優秀な大魔導師で、主人公の部下でもある女性。陽気な性格で、基本誰にでも砕けた口調で話しかける癖がある。

 

 

『アーヴィス』

パーパルディア皇国の皇都にある、ミリシアル大使館に勤める大使の女性。威圧や罵声、侮辱などに対して非常に強い事から、満場一致で駐皇国大使への任命が決定した。

 

 

『スルトラル』

ミリシアルの最新鋭艦船や優秀な軍人が集う第一外洋派遣艦隊、その司令官であるエルフの女性。冷静沈着で優秀であり、文明圏か否かを問わず平等に扱う考えの持ち主。

 

 

『アーテナ』

第一外洋派遣艦隊の旗艦ヴァーテインの艦長を勤めている、エルフの男性。魔導師としても艦長としても優れていて、上司や部下から頼りにされているものの、他の人よりミリシアルが最強であると信じ過ぎる節がある。

 

 

『サテラ』

ミリシアルの情報局に所属している、局員のハーフエルフの女性。物静かで大人しく、喜怒哀楽をあまり表に出さない性格の持ち主なため、親しい友人などはあまり居ない。

普段はほぼ使わないが、優れた読心術(魔法や超能力系統ではない)の使い手であり、時と場合によっては自身の性格とかけ離れた振る舞いをする事も可能。

 

 

『ラーテイ』

神聖ミリシアル帝国海軍に所属している、人族の中年男性。司令官や教官など、誰かに何かを指示したり教えたりする能力に優れている。

また、正義感溢れた人情味溢れる性格であり、海軍へ入隊した理由もミリシアルに住む民を守りたいと、一際強い思いがあるからである。

 

 

『リンベル』

ミリシアル海軍に所属していて、ミスリル改級魔導戦艦『トルティン』の艦長のエルフの女性。また、各地を回って欲しいと講演依頼が舞い込んでくる程、優れた大魔導師でもある。

 

 

『イスカ』

マラカイト級防空巡洋艦『ローズクォーツ』の砲術長を努めている、ミリシアル海軍所属の人族の女性。空間認識能力・動体視力・反射神経が人間離れしていて、条件が整えば拳銃の弾を撃たれてから避ける事が可能。

 

 

『メリア』

ミリシアル陸軍に所属している兵士で、優れた大魔導師でもある人族の男性で、魔力量が通常の人間よりも約2倍程多い体質の持ち主でもある。

素の状態でもかなり優秀だが、魔法を併用した際の狙撃能力は凄まじいの一言で、他の狙撃手を圧倒するレベル。

 

 

『アクアース』

ミリシアル陸軍に所属している兵士で、優れた大魔導師でもあるハーフエルフの男性。

兵士としての純粋な戦闘能力も高いが用心深く、睡眠魔法を筆頭とした搦め手を併用する戦闘スタイルである。

 

 

『クエリア』

ルーンズヴァレッタ魔導学院所属の魔導技師かつ、主人公の部下であるビアの親友。エルフの女性。

軍事民間問わず、航空機やそれに関連する知識や技術力に優れていて、ミリシアルの航空機技術の発展に一役買っている。

 

 

『スフィア』

ミリシアル海軍に中将として籍を置いていたものの、政府上層部の意向により、現在は魔帝対策省に勤務中の人族の中年男性で、大魔導師。

職業柄、直接戦闘を行う事は殆んどないものの、搦め手を主体とした魔法戦闘は前線の兵士も一目置く程。

 

 

『ユリア・カルカノス』

ミリシアル国内でも有数の『カルカノス商会』の令嬢ではあるものの、魔導技師としての適性の方が圧倒的に高かったため、そちらの方の道に進んだ経歴を持つ人族女性。グラ・バルカス帝国との戦争が始まってから、主人公の下で働いている。。

負けん気が強く、付随して超がつく程の努力家の一面があるのも相まり、異例とも呼べる早さで力をつけていっている。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

『カルトアルパス魔導学院』【目次へ】

南端の港町カルトアルパスに拠点を置く、ミリシアル内で3番目に規模が大きく、優秀な魔導師が集まる学院。軍事系統の技術研究所、造船所としての特性も併せ持っている。

対空兵器や対潜兵器、各種駆逐艦や各種巡洋艦、潜水艦の建造を担当している。

 

 

『リーシエール空軍基地』

カルトアルパスより北に20㎞程行った場所にある『リーシエール』と呼ばれる街に存在している、ミリシアル内でも中規模程度の空軍基地。最新鋭と旧式の天の浮舟が混在している。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

『フォグ』【目次へ】

カルトアルパスから南西500㎞にあるマグドラ群島の中で数少ない、人口およそ14000人を誇る最大級の有人島。重要拠点でもあるため、中規模の海軍基地と陸軍基地がある。

 

 

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『天の浮舟隊』【目次へ】

ミリシアル内でも最新の制空戦闘機や多目的機が優先的に配備され、パイロットも同様に優秀な者が優先的に配属される、最も空戦に強い集団。

 

 

『第零式魔装戦車連隊』

ミリシアル内でも最新の戦車・自走砲・装甲車が配備され、経験豊富な陸軍精鋭が配属されている、陸上での戦闘に最も強い集団。

 

 

『魔甲歩兵連隊』

第零式魔装戦車連隊とセットになっている場合が殆んどであり、ミリシアル内でも最新の魔甲スーツや対戦車砲を含む各種歩兵装備が優先的に配備され、経験豊富な陸軍精鋭が配属されている、陸上での戦闘に最も強い集団。

 

 

『第一外洋派遣艦隊』

ミリシアル国外への遠征を目的として作られた、最新鋭艦船7隻で構成された艦隊。第零式魔導艦隊よりは若干劣るものの練度は高く、海戦の強さは決して引けを取らない。

 

 

『第零潜水駆逐隊』

シルバー改級魔導巡洋艦『ロイヤー』に4隻の駆逐艦を加えた5隻で構成された、主にミリシアル近海での敵潜水艦や敵対的な巨大海魔を撃破するための艦隊。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

『魔力流急転症』【目次へ】

体内魔力の流れが一部ないし全体でランダムに急転、身体各所に負担がかかってしまい、起きた場所によっては命に関わる病気。過剰な精神的負担が発症原因の殆んどを占める。

服薬やカウンセリングによって症状の軽減は可能であるが、根本的な治療法は未だに確立されていない。

 

 

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『柳原』【目次へ】

日本国外務省に所属する、50代前半の男性。10年以上もこの道で働いているベテランで、同僚や部下からの信頼は厚い。

 

 

『峯山』

日本国外務省に所属する、30代後半の男性。勤続年数は3年程ではあるものの優秀であり、上司や同期からは信頼されているものの仕事狂いな一面があり、各所に心配をかけている人物。

 

 

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『ルーナス』【目次へ】

パーパルディア皇国の第1外務局、エルトの秘書を勤めている人族の男性。能力は非常に高いものの想定外の事態に弱く、声を荒げたりフリーズする光景が度々目撃されたりしている。



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本編
最新鋭の艦


 神聖ミリシアル帝国……地球とは異なる1つの世界にて、最も発展・安定している『第一文明圏(中央世界)』にある、列強国の1つである。

 また、魔法やそれに由来した魔導技術が幅を利かせているこの世界にて、列強国を含めた中で最も平和と繁栄を謳歌している、名実共に最強の国でもあった。

 

 勿論、それも全て古代に名を馳せた国ながら、今なお恐れられている『古の魔法帝国』の遺産(超兵器)発掘と解析、人的資源や技術・情報への莫大な投資、得た成果をふんだんに使用して揃えた強大な軍事力がある故だ。

 

 当たり前だが、軍事に人やお金を湯水の如く使わなくても済むのなら、それが1番ではある。戦争など、ない方が断然良い。

 しかし、()()()()がなければいざと言う時に抵抗出来ずにあっという間に喰われ、良い様にされてしまうため、そうはいかないのだ。

 

 列強レイフォルをたった1隻の戦艦『グレード・アトラスター』で滅ぼし、今もなお近辺の勢力図を書き換え続けている『グラ・バルカス帝国』なんかが、良い例である。

 

「うーむ。あれが、最新鋭の防空巡洋艦……実に素晴らしい()()()()ですねぇ。貴学院の技術研究開発部は、とても優秀な様で」

「ええ、そうでしょう! 尤も、我が魔導学院随一の奇才と、その彼女が率いる魔導技師が居なければ、完成し得ない代物でしたが」

 

 そんな、地球(現代日本)とは常識が色々と違う世界での最強国家に、私は25年程前に何故かハーフエルフの女性『オロール』として転生していた。

 

 色々あったが、今は主に軍事関係の技術者の1人として、権威ある『カルトアルパス魔導学院』の技術研究開発部に籍を置き、働かせてもらっている。

 

 勿論、今まで相応の努力を積み重ねてきたのは言うまでもないが、元はしがない一般人がここまで至れたのは、優れた天性の能力がいくつもあったからだろう。そう言う意味では、恵まれているとは思う。

 

「大魔導師のオロールさんか。良くもまあ、あれ程の人材を抱え込めましたな」

「苦悶しましたよ。他にも彼女を取ろうとするライバルが多かった上、酷い時は違法スレスレの妨害までされましたから」

「何と……まあ、彼女程の逸材がそうそう出て来ないと考えれば、あり得ない話ではない」

 

 しかし、その分私は生まれつき身体に大小問わずいくつかの問題を抱えている。過去のトラウマ級の出来事のせいで、精神面でも補助が必要である。

 

 他にも、若干不運寄りな体質なためか面倒事に巻き込まれやすかったり、家事能力が一部を除いて壊滅的だったりと、細かい部分で他の人よりも劣っている。

 努力しようとしても、一定のライン以上の改善が出来なかったので、今はもう開き直っている。

 

「少し、お話よろしいか?」

「どうぞ」

 

 多くの人々や多額の予算を注ぎ込んだお陰で完成した、防空に重きを置いた巡洋艦のテストの様子を見ながら考え事をしていると、学院長と話をしていた軍の関係者が話を終え、私の方へとやって来た。

 

 今の状況や彼が軍の関係者なのを鑑みて、恐らく技術面で何かしら聞きたい事でもあるのかも知れない。防空巡洋艦と銘打つ分、対艦や()()の方が疎かになっていないか、と言う感じか。

 

 とは言え、対潜に関しては魔帝の遺跡で誘導魔雷や魔導潜水艦、魔音発探知装置などが発見されたのは割と最近の話なので、違うかも知れないけども。

 

「『日本』と言う名の国を、知っているだろうか?」

「なっ……はい。文明圏外ながら、そのくくりで言えば大国のロウリア王国軍を、完膚なきまでに叩きのめす軍を持った国だと」

 

 と言う訳で、私の眼前でテスト中のマラカイト級防空巡洋艦の1番艦『マラカイト』の装備について、色々と解説しようとした私だったが、話の内容は日本についての事だったため、頭の中が一瞬真っ白になる。

 

 いつぞや、気まぐれで入った酒場にて日本の名を聞いた時は、周りの注目を浴びる程に驚いたものだ。

 転移国家を主張していて、かつ私が転生してから時間が大分経っている点からして、元居た日本と同一次元の存在とは考え難いけど、1度訪れてみたいとは思っている。

 

「ふむ。ならば、情報局が仕入れてきたかの国の主力艦の魔写、ロウリア王国での聞き取りなどから得た情報なのだが、これを見て貴女の思った事を聞かせて欲しい」

 

 すると、彼が手持ちのバッグから数枚の写真と、ロウリア王国での戦闘諸々の情報が記された書類を、私に手渡してきた。余程見てもらいたいものらしいので、見逃しがない様にしっかりと確認する。

 

(イージス艦『みょうこう』に旭日旗、戦闘機には白地に赤い丸……間違いない。まさかこんな事が起こるとはね……)

 

 遠く離れた動く船やワイバーンにすら命中する大砲、金属製の艦船や航空機より放たれるワイバーンを追う超速の光の矢、制空型『天の浮舟』を優に超える速度で飛ぶ戦闘機、高精度高威力の爆弾……話を聞くだけでも凄まじい。

 

 だとしたら、ロウリア王国程度の相手が勝てる道理など、相対した時点でなかった訳だ。

 

 ないとは思うが、もし日本と対峙する事となった場合、空中戦艦『パル・キマイラ』や海上要塞『パルカオン』、超潜艦『シーヴァン』を稼働出来なければ、現在の装備では遅かれ早かれ敗北するだろう。

 

 やはり、出来る限り早く古代発掘兵器のリバースエンジニアリングを完了させ、自国の技術として取り入れる必要性を、これらの情報から実感した。

 

 まあ、皇帝陛下(ミリシアル8世)のお陰で、私や部下の魔導技師以外にも帝国には沢山の優秀な魔法技師が存在しているし、総力を挙げれば未来はそう遠くないとは思うが。

 

「優秀な情報局の皆様を信じ、これら情報が真実と言う前提でお話するとなると……悔しいですが、ミリシアル最強の第零式魔導艦隊ですら、日本国には歯が立ちません。各種古代発掘兵器をある程度動かせて、ようやく勝ちの目が見えてくると言ったところでしょうね」

「そこまで言うのか」

「仮に、魔写以外が嘘または情報統制による誇張であったとしても、低く見積もって『ムー』と同等の強さでしょう。グラ・バルカス帝国の事もありますし、どちらにせよ相対した場合は列強国相当の扱いにすべきかと」

「なるほど……ありがとう、参考になったよ。流石は()()()()()とも呼ばれるだけある」

「どういたしまして。私も、より一層頑張ろうかと思います」

 

 前世云々は抜きに、現在の職業と見せられた資料、ミリシアルの現状から思った事を伝えると、彼は私に頷いて感謝してくれた。

 この見解が、今世の私にとって愛すべき祖国を守る助けに、少しでもなってくれるのを願おう。

 

(ふぅ……痛っ! さて、そろそろ帰るか)

 

 軍の関係者との話を終えた後、学院長に一言断りを入れてから私は自宅へと帰っていった。



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魔導技師の決意

アンケートがありますので、よろしければ回答して頂けると助かります。


「だから言ったでしょ? そうやって無理をし続けると、いずれそうなるって」

「……」

 

 体調不良からくる頭痛を感じ取り、学院長に断りを入れ仕事を切り上げた私は帰宅した後、いつもサポートしてくれる(家事手伝い兼カウンセラーの)政府所属の女性『カーム』からキツい説教を受けていた。

 

 理由は言わずもがな、最近の私が周りからの忠言をスルーしてあまり休まず、無理をしていたが故の体調不良で帰宅してきたからである。

 

 確かに、防空を念頭に置いた艦船(マラカイト級)や最新防空装備の製造、古代発掘兵器のリバースエンジニアリングに忙しく、周りの助けを存分に借りていたものの、しっかりとした休みが取れない時も度々あった。

 

 加えて、魔帝の遺跡から出てきた物品や書物などの助けもあり、劣化版だが記念すべき初の魔導潜水艦『シーハイド』や、各種対潜装備の製造にも手を出し始めていた。

 

 当然、普通の魔導技師でも厳しい仕事量を病気持ちの私がこなせば、最新の魔導医学や優れた才能を持つ彼女を含めた人々の補助があれど、遅かれ早かれこうなるのは自明の理だろう。

 

 服薬指導は守っていたけれど、この様では怒られるのも当然の流れと言える。甘んじて受け入れなければならない。

 

「重要な事だからもう1度言うわ。昔と比べて落ち着いてる傾向があるけど、貴女は『魔力流急転症』なの。他にも色々あるんだから、どれだけ忙しくても家に帰って来て、休息を取らなきゃ駄目よ。この()も悲しむし」

「ごめんなさい、反省してます。今後は休息を沢山取るようにします」

「約束だからね。さて、早めのおやつにしましょうか」

「うん、分かった」

 

 しかし、言い訳になるので口には出さないが、今に至るまで無理をしていたのは決して我欲からではない。

 情報局の人や世界を渡り歩く商人などと言った人、レイフォル近郊から逃げてきた人々からもたらされる、グラ・バルカス帝国の数々の所業を聞いてからずっと、()()()()()()()()()()から無理をした訳だ。

 

(ある意味では我欲……なのかな?)

 

 百歩譲って、下劣なパガンダ王国軍を圧倒的な武力と技術力の差で蹂躙し、滅ぼした件については理解しよう。どこの国だって、外交交渉に出向いた皇族を処刑されれば激怒するだろうし。

 

 ただ、それから戦争を仕掛けて滅ぼし植民地化したレイフォル近辺での、全員でないにしろ人を人とは思わない扱いをしている件については、決して擁護出来るものではなかった。

 

 しかも、かの国はこの国(ミリシアル)を含めた全世界を、支配下におこうとしているらしい。

 つまり、大好きなこの国に暮らす人々が、老若男女問わず小さかった頃の私と同等かそれ以上の目に遭わされるかも知れないのだ。全く以て、冗談ではない。

 

 そして、自分で言うのは猛烈に恥ずかしいけど、今の私は努力と生まれもった天性の能力のお陰で、とても優秀な魔導師かつ技術者としてここに居る事が出来ていた。

 

 だから、私は当然の責務と言わんばかりにその力と知識を全力で活用、自分のみならずこの国の人々を守る助けになるため、常々頑張っている。

 

「ありがとう。毎日が平和で楽しいのも、貴女みたいな人々が頑張ってくれているお陰。カルトアルパスの皆も、同じ思いだと思うわ」

「カーム……」

「でもね。自分の身を削ってまで皆を想い、守ろうと努力してくれているのは、()()()()()()()()()()()。分かってるとは思うけど、オロールも沢山の人に慕われてる訳。勿論、私もその内の1人だから」

「……うん」

 

 すると、そんな私の心内を察してか、食事の手を止めたカームから思わず涙ぐむ程に嬉しい一言を贈られた。

 と同時に、ずっと纏わりついていた過剰な恐怖が紐をほどかれるかの如く消えていき、今後はもっと自分の身体を労り、休息をしっかり取ろうとの決意も固まる。

 

 とは言え、休息中に何をしたら良いのかが正直分からない。寝てるだけは論外だし、猫だってずっと構われるのは嫌だろう。

 それならばと本を読もうにも、家には魔導書や軍事関係の書物以外が殆んどなかった。

 

 今日はもう、ひとまず家から出ずに食事後は猫のお世話をしてから寝るとして、明日以降は取り敢えず適当に店でも回り、美味しい料理を味わったり新しい服を買って着てみたりでもしようか。

 

「それとね、新型の魔導戦艦・空母は同じくテスト中、天の浮舟もエンジンと武装を改良した型がもうすぐ出るって」

「そうなの? まあ、ルーンポリスとルーンズヴァレッタ魔導学院だからなぁ……1位と2位だし、優秀だもんね。じゃあ、第零式魔導艦隊ももうすぐ更新かな?」

「ええ、恐らくね。それと、オロールのところのマラカイト級防空巡洋艦も、正式に採用が決まるそうよ」

「なるほど。責任超重大だし、頑張らなきゃ……あっ。勿論、休息はちゃんと取るから。この様子なら、1週間位かな?」

 

 そんな感じで話の流れを変えた後は、カームが更に私を安心させようとして振ってきた軍事関係の話や、他人から見たら下らない日常的な会話も含め、楽しげに大笑いしながらこの一時を過ごした。

 

 他所にバレては恥ずかしい、ないしまずい会話をプライベートな自宅で、かつ大声でしても心配ない様な対策はとっくの昔にバッチリ済ませている。

 

 学院と政府から支給された魔導通信装置以外の魔波を内外から遮断する多重結界、内部からの音漏れを防ぐ結界、屋根に取り付けた周囲360度を撮影可能な特殊魔導カメラ、最新式の家や窓鍵、その他私の魔法知識を総動員した複数の防犯・防謀対策などである。

 

 当然、頭がおかしいレベルでの初期費用がかかったけど、今まで溜め込み続けていたお陰で何とかなった。ちなみに、維持費込みでも生活には支障をきたしていない。

 

 なお、この間用事があって我が家を訪れた政府の人にはドン引きされたが、その事については考えないようにしよう。

 

「それじゃ、早いけどお休み。カームは今日泊まってく? 2階の部屋空いてるけど」

「ううん、一通り家事が済んだら帰るわ。まだ役所での仕事が残ってるから」

 

 そうして、私では明らかに作れない美味しさのお菓子を堪能した後、襲い来る眠気と弱まった頭痛をこれ以上悪化させないため、寝室へと向かった。



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日本国について

今話のように、節目節目で主人公視点でない話を入れていく予定です。

後、アンケートは2日後の20時まで行う予定でいますので、よろしければ回答して頂けると助かります。


 異世界の人々に対し世界一の国はどこかと尋ねた場合、迷いなく名が挙がる神聖ミリシアル帝国の帝都『ルーンポリス』。そこにある外務省の建物の一室にて、2名の男性がある事柄について話し合っていた。

 

「ふーむ……念のために聞いておくが、全てオロールさんがした発言で間違いないんだな? 部下の発言とかではなく」

「はい。カルトアルパスにて、彼女に接触()()()軍関係者が言っていたので、間違いないかと。一応音声記録もありますけど、聞きますか?」

 

 政府機関内の人間含め、ロウリア王国との戦争の結果があまりにも現実離れしていたが故に、神聖ミリシアル帝国内でも衝撃と共に徐々に認知されるようになってきた、日本国についてである。

 とある日、カルトアルパスで行われた防空巡洋艦のテストの際、オロール(主人公)と軍関係者の間で交わされた、軍事力や技術力云々についての話も併せてされていた。

 

 無論、ミリシアルの第零式魔導艦隊や天の浮舟隊、第零式魔装戦車連隊や魔甲歩兵連隊などの、陸海空の最新鋭かつ最強の部隊を派遣し対峙すれば、ロウリア王国程度であれば鎧袖一触で蹴散らせる。

 

 何なら、陸海空の旧式ないし退役寸前の艦船や航空機、戦車などの装備を持った部隊ですら容易に叩きのめす事も可能である。その位、隔絶した軍事技術の差があるのだ。

 

 しかし、今回はミリシアルから見て文明圏外の国が()()()()()使()()()()、陸海空全てで伝え聞く古の魔法帝国と同等レベルの兵器を、自国生産が可能な領域にまで実用化し大量に配備、結果ロウリアに完勝している。

 

「いや、今はいい。しかし、言い過ぎではないのか? 我が国最強の第零式魔導艦隊ですら、日本国には歯が立たない? 発掘した魔帝製の兵器でようやく対等……文明圏外の国の軍事力や技術力が魔帝並みなどと、もう少しマシな冗談があるとは思うのだが」

「リアージュ様。お気持ちは分かりますが、オロール様は帝国でもトップクラスの魔導技師です。今までの振る舞いや性格からして、この手の話で嘘や誇張をするはずがないでしょう」

「アルネウス君、そんな事は言われずとも分かっている。しかし、オロールさんや情報局がそこまで言う日本国か……実に興味深い」

 

 今の今まで、魔導技術を極めて頂点に居た自国が、別系統の技術を極めたぽっと出の国に追い越される。この事実が、外務省統括官の『リアージュ』には衝撃的でならなかった。

 

 対して、情報局長『アルネウス』もこの点についてはリアージュと同様ではあったが、彼よりも比較的落ち着きはあった。むしろ、情報収集を兼ねて使節団を派遣しても良いのではと、会話をしながらも考えている。

 

 しかし、それに至るまでには数々の障壁が立ちはだかっているため、簡単に話が進むとは考えていなかった。穏健派ではあるが、リアージュが文明圏外国を見下す方側の人間故なのと、過半数以上の議員の了解を得られる材料が殆んどないからだ。

 

「ですので、日本国へ我々の方から使節団を――」

「それは無理だ。ミリシアルは世界最強の列強国……現時点で文明圏外でしかないかの国に、たかだか国交樹立のために出向いたともなれば、周辺国や国内の民に何と思われるか。そもそも、議員の方々が納得してくれないと思うのだが」

「あぁ……」

 

 案の定、アルネウスがそれを言い切る前にリアージュがスッパリと切り捨ててしまった。個人的には完全否定とまでは行っていない様だが、理由が理由なだけに納得せざるを得ない。

 

「でしたら、先進11ヵ国会議に招待するので、注意事項などの指導を行う体で――」

「それも厳しいだろう。レイフォルに勝ったグラ・バルカス帝国であればまだしも、日本国には()()()()()。あの辺りだと、パーパルディア皇国にでも勝ってくれれば、話は別だろうが」

「十中八九、鎧袖一触で蹴散らせると思います。平和主義らしいので、自分からは仕掛けないでしょうけど」

「うーむ……しかし、今はともかく様子を見るしかない。議員の方々を説得出来る材料が出来るまではな」

 

 とは言え、アルネウスはそれで諦める性格でもないため、次も何とか上手い案を考えて口に出してみるものの、再びスッパリと切り捨てられてしまう。

 

 ミリシアルが主催していて、列強国以外にも準列強に該当する国々を合わせた11の国で開催するその会議枠が、レイフォルが滅亡しているため1つだけ空いている点を突いたものだったが、ここでも実績と発言力の無さが足を引っ張った様だ。

 

 なお、今現在空いた枠に入れる国として、グラ・バルカス帝国が挙げられている。アルネウス自身、日本の方が招待するに相応しい国との考えを示している。

 

「駄目ですか。やはり、向こうの方から来てもらうしか方法はなさそうですね」

「だな。流石に、オロールさんに最低でもムーと同等まで言わしめる国の外交官が直接出向いてくれば、例え文明圏外にあったとしても無下にしようとは誰も思わないさ」

「万が一、そうしようとする勢力が現れたら?」

「その時は、こちらで何とかするが……まさか、そこまでの愚か者は居ないだろう。最悪、彼女にお願いして共に説得してもらうかも知れないが」

「ははっ。色々な意味でも、そうならない事を祈ります」

 

 ただし、列強相当の国力を持つ日本側からやって来た場合の国交樹立については、アルネウスはもとよりリアージュもやぶさかではない様で、万が一来た場合のシミュレーションも頭の中で組み立てていったが。

 

「すみません、リアージュ様。仕事を残してきているので、これにて失礼します」

「ああ、分かった。遅くまですまんな」

 

 こうしてかなり長い間、日を跨ぐまで日本国についての話を交わしていたものの、情報局に少し仕事を残してきたアルネウスが席を立った事で、会談は終了した。



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休息の日と予想外

 カームとの約束を守り、学院長との魔導通信装置越しでの相談の末もらった10日間休みの7日目の朝、弱まってくれたと思わせてからの体調悪化が完全に解消されたため、私は気分転換にカルトアルパス最大の酒場に立ち寄っていた。

 

 究極に美味いと噂のお酒がある場所だけど、ちょっとしたレストランの様なお店が併設されていて、そこの料理も凄まじく美味しい事でも有名である。

 

 故に、お酒はおまけないし全く飲まず、それ目当てで来店してくるあらゆる職種・人種などを問わず、訪れる人々がとても多い。ちなみに、私自身も料理の噂に釣られてやって来た内の1人だ。

 

「ハハハ! まさか、こんなところでアンタに会えるとは思ってなかったぜ。あんまり街中で見ねえってんだしな」

「仕事が趣味みたいな感じでしたし。まあ、お陰で体調悪くしてこっぴどく怒られたので、今はこうして息抜きにご飯を食べに来ているんですよね」

「なるほどな。ああそうだ、体調って言えば……えっと、確か、魔力流急転症で合ってたか?」

「ええ、合ってますよ」

「ふぅ……何と言うか、早く完全な治療法が見つかると良いな」

「そうですね。今はともかく、小さかった頃は地獄の拷問が如き苦しみを味わったので……こんな思いを、他の人にはして欲しくありませんから」

 

 案の定、ここのレストランの料理は噂に違わぬ美味であったし、おまけで友人や知人や家族とバカ騒ぎする人たちが笑顔で過ごしている、平和だから故の光景が見れている。

 

 それに、少々酔っ払っているせいかお酒臭いものの、気の良い商人のおじさんと会話しつつ、彼から『クワ・トイネ公国』製の良い香りのする上質な茶葉を買ったりと、今までの息抜き少なめ生活の割には中々楽しめていた。

 

(外国旅行かぁ。行くとしたら、ムーか日本……かな?)

 

 第三文明圏の更に外、日本のある近辺の国家まで行った経験のある人からの話は実にためになり、それでいて中々面白そうではある。ただし、使える時間が3日程となると、外国に行けても空港のある国……『エモール王国』やムー位しかない。

 

 上手い事ムーの許可がもらえさえすれば、移動手段がミリシアルの旧式輸送機と限定されはするものの、『アルタラス王国』やパーパルディア皇国にも同様に、行くだけなら可能になる。

 

 が、アルタラスの方はパーパルディアに征服されたみたいだし、その占領地で欲望の限りを尽くしている方の国には、グラ・バルカス程ではないにせよ恐怖を感じるので行く訳がないけど。

 

「何でだよ! じゃあ、あそこでご飯食べてるあいつを追い出せってば!」

「なっ……おい小僧! あの人に向かって――」

「まあまあ。ほら、これでどう? こんな見た目だけど、私はちゃんと大人なの」

「本当だ……突然ごめんなさい。お店の人も……」

「分かれば良いの。さあ、早く外に行きなさいな。どうしても入りたければ、親御さんとか知り合いの大人連れて来てね」

 

 後は、私の見た目に起因するお店の入り口付近でのちょっとしたトラブルを諌めたり、その流れで話しかけてきたオフの軍人さんやおばちゃんたちへの対応など、食事に集中する事が難しくなる事態も起きている。

 

 確かに、私は日本で言う女子中学生、ミリシアルで言うなら女子中等生の平均身長と同じ背丈で成長が止まっている。子供然り、私を良く知らない大人たちや他国の人から、間違われるのは無理はない。

 

 多少面倒なやり取りではあったものの、常々持ち歩いていた身分証明カードが役に立ったので、大事にはならなかったので良しとしよう。勿論、頻度が高すぎたり頑なに認めようとしなかったらその限りではないけど。

 

「ふぅ、ごちそうさまでした。とても美味しかったので、明日以降もまた来ようと思います」

「そうですか! うん、オロールさんお墨付きともなれば、新人のアイツも喜ぶだろうなぁ」

「新人さん……なるほど、将来有望ですね。忘れなければ、私の感想をお伝え下さい」

「了解です! 今度は是非、うちのお酒も堪能して下さいね!」

 

 そんなこんなで食事を終え、料金を支払ってから酒場を後にした私は、取り敢えず巨大商店が立ち並ぶエリアへと足を運ぶ事にした。

 

 1年前に部下の子たちと立ち寄った時を最後に、仕事だ仕事だと無理をしていたがためにずっと来ていなかったけど、あの時と雰囲気はさほど変わっていないみたいだ。

 

(……嫌な事だけ、忘れられたら良いのになぁ)

 

 私の命や人生を助けてもくれたけど、同時に和らぎはすれど完全に消す事が出来ない痛みを伴う苦しみを与えてくる()()()()()()は、ここでも遺憾なく発揮してくれたらしい。

 

 まあ、今の私は大魔導師としても軍事系の技術者としても大成功し、人間関係もさほど苦労せずに良い感じに構築出来ている上、金銭にもかなりの余裕がある。

 

 何なら、大好きな神聖ミリシアル帝国に、一生会えないものの優しかった両親の子供として生まれてこれただけでも、恵まれ過ぎているとすら言えるだろう。そう考えれば、この苦しみに対抗する活力が沸いて出てきた。

 

「すみません、赤髪のお嬢さん! お財布落としましたよ」

「えっ? あ、本当だ」

 

 そんな風な考え事をしつつ、私の仕事場でもあるカルトアルパス魔導学院の側をのんびり歩いていた時、後ろから男の人に声をかけられた。

 どうやら、私が知らぬ間にお財布を落としたのを男の人が気づき、拾って声をかけてきてくれた様だ。

 

 身分証明カード(貴重品)も入れていたのに落とすとは、何とも注意不足だと反省すると同時に、親切に届けに来てくれた人には感謝しなければならない。

 

「えっと、ありがとうございます……へっ?」

「……? どうかしましたか?」

 

 そう思いながら後ろを振り向いたのだけど、お財布を手渡してきた人物が、どこからどう見ても日本人としか思えない容姿をしていたたため、時間差で思わず立ち竦んでしまった。



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外交官と魔導技師

アンケートへのご回答、ありがとうございました。独自用語・兵器集は完成次第、最新話と共に投稿します。


「お二方、如何でしょう? カルトアルパスの街は」

「とても素晴らしい港町だと思います。流石は、世界に名だたる超大国ですね」

「右に同じく」

 

 カルトアルパスの街を出歩き、お財布を落とした事で日本人……財布を拾ってくれた方の『柳原(やなぎはら)』さんと『峯山(みねやま)』さんにバッタリ会った私は、しっかり方々に許可を得た上でミリシアル外務省の人主導の街案内に、一時的ながら加わっていた。

 

 自己紹介の仕方や物腰の柔らかい対応、非常に整った身だしなみや私たちの話の聞き方など、前世の記憶と一切変わらない日本人の振る舞いそのもので少し嬉しかった。

 

 勿論、今世で最も好きな国(ミリシアル)には劣るものの、2番目か低くとも3番目には好意的に思えている。いずれ旅行で、そうでなく仕事でも良いから1度日本に行ってみたいと、改めて決意を固める位だ。

 

「なるほど。貴殿方の国も、色々苦労なさっているのですね」

「はい。如何せん、魔法など空想の物語上でしか存在しない、地球と呼ばれる異世界から転移してきた国家なもので」

「なるほど。確かに、そう思えば色々と辻褄が合いそうで」

「それに、この世界の常識も我が国の常識と大きくズレがありまして……1番近い列強、パーパルディア皇国とはそれが原因で小規模衝突を起こしたりと、大分苦悶しております」

「と言う事は、お怪我なされた方もいらっしゃったり?」

「幸い、1人の負傷者すら出ませんでした」

「それは凄い……良かったです。()()()

 

 にしても、やむを得ない事情があれどロウリアと対峙した時の様に、襲いかかってきたパーパルディアの魔導戦列艦を沈め、ワイバーンロードを撃墜した以上は、あの性格からして十中八九穏便な国交樹立とはならないだろう。

 

 むしろ、調子に乗った蛮族がどうたらこうたらとのたまい、絶対に飲めない要求をしてくる可能性が高い。

 仮に何かあっても、武力で負ける事など天地がひっくり返ってもあり得ないとは思うけど、外交官の人の安全が保障されるかが不安である。

 正直なところ、国交樹立しようとするのは止めた方が良いのではと言いたい。

 

 まあ、流石にパーパルディアも他国の外交官を害そうとはしないと思うし、そもそも無関係の人間でしかない私が、他国同士の付き合いにああしろこうしろと命じる権利などないのだ。

 

「オロールさん? 大丈夫ですか?」

「ああ、すみません。少し考え事をしていただけで、私の体調は問題ないです」

「そうですか。なら良かった」

 

 ただ、それでも国交樹立のために派遣された、外交官の『朝田(あさだ)』さんと『篠原(しのはら)』さんの身が心配なのは変わりない。

 

 なので、案内の途中で2人がトイレに行った隙を見計らい、ミリシアル外務省の人に()()()()、パーパルディアの危険な側面を併せて、気をつけてと伝えて欲しいとお願いする。

 

 当然理由を尋ねられたけど、外交官ですらない自分が外務省を差し置いていけしゃあしゃあと、彼らから聞かれてもないのに他国同士の外交に口を出すのは如何かと思ったからと答えたら、納得してもらえた。

 

「あらまあ。私と同じですね、峯山さん」

「私と同じ……もしかして、オロールさんも?」

「はい。昨日まで、仕事仕事で休まずにいたせいの体調不良で、ずっと寝込んでまして。今日は完全復活したので、気分転換に出歩いていたんですよ」

「えっ。それでは、我々に構わず――」

「心配いりません。日本の方々とのお話、とっても楽しいですから。嫌でなければもう少しだけ、続けさせて下さいな」

 

 2人が戻ってきた後は、柳原さんが何気なく公開した峯山さんの愛国心の強さと、その仕事狂いぶりにシンパシーを感じたり、美術館や歴史博物館などに立ち寄り、色々と話しながら少しでも良い印象を持ってもらえる様に立ち回りに気を付けた。

 

 にしても、お財布を落とすと言う誰でもやりがちなミスをしたために、会議の合間の技術誇示を目的とした街案内に遭遇出来たとは、久々の幸運だ。良い気分転換にもなったし、実に良い日と言える。

 

(……まあ、ちょっと忙しくなる程度なら良いや。その分しっかり休めば良い訳だし)

 

 しかし、その分どこかでしわ寄せが来そうでもある。休日終了後に忙しくなるとか、この人たちと別れた後にちょっとしたトラブルに巻き込まれるとか、である。

 

 まあ、今考えても仕方のない事ではあるし、つい先程の様に体調不良だと誤解されて更に気を遣わせるなど論外なので、自分の不運については彼らと一緒に居る間は考えない事としよう。

 

「さてと……ミリシアル外務省の方々に日本国外交官のお二方、許可を取ったとは言え、色々とすみませんでした」

「いや、問題ないさ。許可を出したのはこちら側で、なおかつ魔導技術的な解説については、君の方が断然優れていたからな」

「我々も同様です。そもそも、会議の合間の街案内でミリシアル外務省の方々と居ただけなので」

「そう言って頂けて何よりです。では、また機会があれば」

 

 カルトアルパスでめぼしいところも、そうでないところも大体軽く周りきったところで、流石にこれ以上は私の出る幕ではなくなったため、彼らに向けて挨拶をしてからこの場を後にした。

 

 途中で割り込んだ以上、日本の外交官2人にカルトアルパスはもとより、神聖ミリシアル帝国の印象を良くしようと立ち振舞いなどには気を遣ったので、多分大丈夫に違いない。

 

 かなり後の話になるだろうけど、民間交流が始まったら恐らくこのカルトアルパスの街は、今以上に賑やかで楽しい街になるだろう。

 勿論、良い事ばかりではなく、交流が本格化していくにつれて色々な問題が発生するのは間違いないとは思う。

 

 魔導文明と科学文明、列強国と文明圏と文明圏外、日本で暮らす一般人にとっては、この辺りの知識や感覚が大分違うのだ。でもまあ、その辺の心配はあまりせずに居ても良いだろうけど。

 

(……)

 

 こんな事を考えつつ、普通に歩き回ったりして疲れた私は、何となく入ったお店で適当に服を何着か買ってから、自宅への帰路へとついた。



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外務省の頼み事

独自用語・兵器解説集については、編集に手こずってしまっているため、5日以内に最新話との同時投稿と変更しました。すみません。


 日本の外交官の人とも会ったり、他にも色々新たな楽しみを見つける事が出来た、楽しかった休息期間が終わってからあっという間の2週間後、部下の子たちとの昼食休憩中にある事が原因で唖然としていた。

 

 休憩室にて備え付けられていた最新式の魔導テレビを見ていたら、世界情勢などを解説してくれる番組のキャスターさんが、パーパルディアがフェン王国へ仕掛けた侵略戦争について言及したからだ。

 

 無論、彼らの行為を認めるつもりなどなければ、犠牲となった人々の冥福を祈る気持ちはあるけれど、普通なら唖然とはしなかっただろう。

 

「パーパルディアねぇ……まあ、あの国の文明圏外国への侵略行為なんか珍しくもないよ。しかし……」

「15人か。ニシノミヤコに居合わせた日本国の民を処刑したってのは、ちょっと驚いたぜ。ルーンポリスの奴らも言ってたが、文明圏外ながら列強国相当らしいしな」

「そうそう。オロール技術長も同じ事言ってた。確かに文明圏外にあるけど、ちょっとは調べないものかな?」

「あれじゃないか? 報告が都合良く改変されてたりとか、上がとんでもない狂犬だったりとか」

 

 しかし、何の目的があって居たかは不明なものの、超絶運悪く居合わせた日本人が捕らえられてしまい、散々苦しめられた挙げ句に処刑と言う名の虐殺の犠牲者となったと、そう読み上げられていたのだ。私にとっては、聞き流す事など到底出来ない。

 

 流石に、老若男女色々な人が見る番組な以上詳しい解説などはされなかったけど、淡々と述べられた事実だけでも想像出来てしまい、一気に食欲が失せてしまった。

 

 と言うか、軽かったにせよ過去のフラッシュバックが起きる程には辛い。体調不良の時にこんなニュースを見ていたら、最悪病院送りになっていたかも知れない。

 

「酷いね、あまりにも横暴が過ぎる。オロールさんもそう思わない?」

「言わずもがな……貴女と同じですよ、ビアさん。犠牲者の方々を思うと、心が締め付けられる様です」

「本当、何であんな事をしたんだろう。でも、こうなると多分日本政府は黙ってないよね。パーパルディアの性格からして、軍事衝突もあり得るかな?」

「間違いないでしょう。差が絶望的ならまだしも、日本には報復が出来るだけの国力(軍事力)がありますし」

 

 ただ、そんな私よりも犠牲となった子供を含む日本人たち、残された遺族の方々の方が何十倍も何百倍も辛いのだ。

 死に値する罪を犯した訳でもなく、ただその場に居たとの理由で拘束され、地獄の苦しみを味わう事となってしまったのだから。

 

 にしても、見せしめのために文明圏外国の住民……日本人の命を奪い、ついでにフェン王国までも征服しようとするなど、鬼畜の所業と言わざるを得ない。

 

 そして、日本の民間人を見せしめと称して奪える訳だから、パーパルディアに行った顔も知らない朝田さんと篠原さんの身が、保障されない確率はかなり上昇している。

 

 せめて、ミリシアル外務省の人を経由した私の忠告が、護身用の拳銃を持たせる位には役立っていてくれると嬉しいと、そう思っている。

 

「オロールさん、休憩中にすみません。少しよろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

 

 カルトアルパス魔導学院内でも、トップクラスの優秀な『ビア』含む皆とテレビを見ながら会話を交わしていると、部下の子ではない魔導技師の人に声をかけられた。

 どうしたものかとすぐに尋ねたところ、ミリシアル外務省の『リアージュ』さんより、私宛に魔信が届いているとの事。可能なら、すぐに出て欲しいらしい。

 

(外務省かぁ。もしかして、あの時の事かな?)

 

 やらかした覚えは全くないものの、万が一あるとしたら日本の外交官の2人の街案内に、許可を取ったとは言え途中参加した件位である。

 

 何にせよ、食事する気もニュースのせいで完璧に消え失せたところだし、そもそも外務省からの呼び出しを食事を理由に断るなんて出来ない。なので、勿論即応じる事に決める。

 

「お待たせしました、オロールです。リアージュさん、私にご用と伺いましたが」

『大丈夫だ。オロールさん、食事中に申し訳ない。実は少々言いにくい願いがあって……』

 

 で、魔導通信機のある部屋まで行き、装置を手に取ってからリアージュさんに何の用かと尋ねると、私の予想外のお願いをされた。内容は、1週間後に観戦武官として日本国に行ってもらえないかと言うものである。

 

 何でも、日本国民の処刑(虐殺)事件で私の想定通りに、日本政府は烈火の如くパーパルディアに怒りを示したらしい。

 更に、ニシノミヤコのみではなく首都の『アマノキ』や他の港町にも、少なからず日本人が居るらしく、彼らを守る名目で自衛隊が派遣される事が決定した様だ。

 

「ちなみに、他のメンバーは何人位居ますか?」

『情報局からアルネウス君、オロールさんが行くのであればカームさんも行く感じだな。事が事だから無理強いは出来ないが、可能なら優秀な貴女にお願いしたい』

「なるほど……それにしても、ミリシアルが観戦武官の派遣だなんて、初めてじゃないですか?」

『そうだな。まあ、国交樹立時に外交官が乗ってきた『かが』を見れば、政府も情報を欲しがるのも分かる。あれなら、パーパルディアに負けるなんて事はないだろうしな』

「ヘリコプター搭載護衛艦『かが』……ああ、確かに」

 

 ミリシアルの歴史上、観戦武官の派遣は1度もした事がないため、今回のこの話は実に驚きでしかない。が、それだけ日本の情報を欲しがっていると言う訳なのだろう。

 

 戦争を間近で見る仕事となるが故に、本来であれば命の危険すらあるものの、日本側に派遣されるのであれば話は別である。

 気を抜き過ぎたり、余程愚かで馬鹿な行為を私や他の人が働きさえしなければ、無事に帰れるのが約束されているのだ。

 

「分かりました。そう言う事でしたら、謹んでお受け致します」

『そうか……ありがとう、感謝する』

 

 なので、ほぼ迷いなく私はリアージュさんからのお願いを、了承する事にした。



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文明圏外の列強相当国

評価欄に色が付いていてビックリしました。ありがとうございます。


「うーん……長いですね。オロール様、体調の程はどうでしょうか?」

「絶好調です。アルネウスさん、お気遣い感謝です」

 

 リアージュさんのお願いを聞いてから1週間、そこからカルトアルパスより程近い『リーシエール空軍基地』で、最新鋭特殊輸送機『マラーナ』に乗り飛び立ってから、今日でちょうど5日経っていた。

 

 巡航速度415㎞/hの快速飛行機に乗っているにせよ、中央世界から文明圏外にあたる地域に存在している日本まで、単純な直線距離だけで見ても相当長い。何なら、天候や夜間飛行が難しい都合だってある。

 

 勿論、燃料補給は言わずもがな、ある程度積んでいるとは言え食糧や水などの補充は必須だし、私たちの休息はもとより輸送機を操縦するパイロットの軍人さんのためにも、時々各国にある魔導空港に降りる必要だってあるのだ。時間がかかるのも当然の摂理だろう。

 

「日本国……我が国が歴史上、初の観戦武官派遣を決断する程の強国……下手な振る舞いは出来ないわね」

「そうですね。まあ、外交官の人を見る限りではかなり穏やかな人ではありましたから、余程酷くない限りは安心して良いかと」

「うんうん。私も外交官の2人とカルトアルパスの街案内がてら話した事あるけど、穏やかだったよ」

「そう。と言うか、オロールいつの間にそんな事あったの?」

「気分転換に街中に出てた時にね。本当、偶然の産物だったよ」

 

 ただ、一緒に居る2人との会話や目的地が目的地なだけあって、空の旅単体で見れば景色も何も変わらず退屈なものだったとしても、総合的に今はそれなりに楽しめている。体調が絶好調なのも、退屈さを感じさせない理由の強化に、一役買っていた。

 

 惜しむらくはこれが仕事である事、それも戦争と日本人の命が失われたのをきっかけとして来れている点であった。

 普通に何らかの調査団だとか、使節団のメンバーとして行くのであれば完全に納得出来ていただけに、複雑な気分である。

 

(……)

 

 全く無関係かつ他国の人間ではある以上、私に出来る事など何もない。やるとしたら精々、ご冥福を祈る位だろうけど。

 

「なっ!? 今の音は、日本の戦闘機か? なんて速さだ!」

「凄いわね……今まで見た何よりも速い。天の浮舟も、あんな速度は出せないわ」

 

 そんなこんなで、パイロットの軍人さんから日本の領空に入ったとアナウンスがされてから少し経った時、マラーナの側を見覚えのある戦闘機が2機よぎると共に、特徴的なうるさい音が機内に響いた。やはりと言うべきか、とんでもない速さだ。

 

 ルーンズヴァレッタ魔導学院が、武装とエンジン周りの改良を進めている最新鋭『エルペシオ4』も、完成すれば最高速が865㎞/hと前級を355㎞/hも上回るものになる。

 

 武装だって、30mm魔光機関砲と20mm魔光機関銃を各々2基ずつ備え、装甲にも防護魔装加工を施したりと、同じく強化されているのだ。この世界基準で見てみれば最強クラスであり、魔帝並みの日本が異常なだけである。

 

「落ち着いていますね、オロール様」

「うーん……心の中では興奮してますよ。ミリシアルが目指すべき目標が、すぐ側にある訳ですから」

「なるほど、確かにその通りですね」

 

 そして、艦船や潜水艦でも日本は魔帝並みの技術力を発揮している以上、私の方も部下の子たちと共に頑張っていかなければならない。

 

 各種対空・対潜装備、巡洋艦以下の艦船と装備、潜水艦に古代兵器のリバースエンジニアリングとやる事は沢山あるものの、ミリシアルのためなら頑張る気力は沸いて出てくる。

 

「おぉ、凄いですね。先程の戦闘機もさる事ながら、とてつもない大きさの航空機がこんなに……これを、魔導技術を一切使用せずに作り上げるなどと、正直信じられません」

「比較対象がムーしかないから何とも言えないけど、科学も極めればここまで行けるのね。日本国、凄い国じゃないの」

 

 前方の戦闘機に先導され、普通に着陸態勢に入って空いているスペースに駐機した後マラーナから降りると、周りにあったミリシアル基準でかなりの大きさの旅客機を見たアルネウスさんとカームは、その技術力に大層驚いていた。

 

 私に関しては前世の記憶や、機内に居た時の戦闘機が通り過ぎる様子に、並行して飛行する様子の余韻が残っていたので、それ程驚きはしなかった。勿論、高い技術力そのものに対して凄いとは思っているけど。

 

「ようこそ、神聖ミリシアル帝国の皆様。ここまでの長い空の旅、ご苦労様でした。お疲れでしょうし、すぐにフェン王国での戦いが始まる訳でもないので、今夜はまず市内のホテルにてゆっくりとお休み下さい。詳しい説明は明日の朝9時より行います」

 

 で、すぐにやって来た日本国外務省の職員さんに先導され、空港外に用意された車に全員で乗り、鹿児島市内のホテルへと向かっていく。

 

(ふふっ……)

 

 対向車線を走る沢山の車や歩道を歩く人、明かりの付いている建物、イベントがあるのか偶然聞こえてきた騒がしい人の声、普通なら取るに足らない様な事でも今の私にとってはある意味で新鮮味があった。

 これでなおさらただの観光旅行か、強いて言うなら普通の仕事で来たかったと、その思いが強くなっている。

 

 アルネウスさんやカームの方に至っては、文明圏外に分類される地域にミリシアルの様な先進的な街がある事に驚き、各々メモを取るなどしていた。

 

「あーあ、パーパルディアも馬鹿だな。こんな国に喧嘩売っちまうなんて。少しは理性的にものを考えときゃ良かったのに」

「だな。でも、俺たちだって最初は()()()()()()()()()()なんて信じらんなかったし、それを言うなら俺たちもアイツら程じゃねえけど馬鹿だろ」

「ははっ! 違いねえや」

 

 更に、マラーナのパイロットさん2人の方については、観戦武官として護衛艦などに乗る訳ではないのもあるけど、フェン王国での戦いが日本の勝利で終わると確信を持っている様で、笑いながら会話を楽しんでいる。

 

 無論、私だけでなくアルネウスさんやカームもそれについては同意を示したけど、完全に気を抜く事は当たり前だけどしない。ミリシアルに帰ってこれて、初めて完全に気を抜けるのだから。

 

「到着しました。ここが皆様のお泊まり頂くホテルとなります」

 

 頭の中でそんな事を考えていると、車が私たちが泊まる予定のホテル前に止まったので、皆に続いて降りていった。



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震える皇国

「ハンス様。あの、大丈夫ですか?」

 

 第三文明圏唯一の列強国であるパーパルディア皇国、そこの自国と同じ列強国との外交を担当する第1外務局内の一室にて、ハンスと言う名前の男性が今にも死にそうな表情をしながら、自身の作成した決済書類を眺めていた。

 

 何故ならば、フェン王国で行われる日本との戦争において、観戦武官の派遣の有無を列強に調査した結果、ムーとミリシアルが揃って日本への派遣を決断した事が判明してしまったためだ。

 

 何かしらの戦争が起こった際、観戦武官を派遣した方の国が勝つとまで言われる程、ムーは情報収集能力が高い事で有名である。

 そして、ミリシアルに関しては今まで1度も観戦武官を派遣した事がないため、派遣するとなっただけでも大騒ぎになってしまう。

 

 にもかかわらず、今回の戦いではムーはおろかミリシアルまでもが皇国ではなく、日本に派遣してしまった。当然の如く、下の方では大騒ぎとなる訳だ。

 

「……これを見て大丈夫だと思うか!? 今からこれをエルト様の下へ持って行く儂の身にもなってみてくれ!」

「あぁ……申し訳ありません。無理ですね」

「だろう? ムーだけならギリギリ持ちこたえられたかも知れぬが、あのミリシアルまで日本に……一体、彼らは何を掴んだのだ!?」

 

 しかも、ハンスはこれから更に上の『エルト』と呼ばれる人物に、この事について報告しに行かなければならないため、部下の気遣いに対してすら、理不尽に怒鳴りたくなる程に精神的にやられていた。

 

 とは言え、いくら精神的にやられる事実であろうと何だろうと、報告せずに握り潰す選択肢はここにはない。仮にやったとするならば、非常に厳しい罰が下ってしまう。

 

「……怒鳴ってすまぬ。取り敢えず、報告に行ってくる」

「了解しました」

 

 本人もそれを十分に理解しているため、一旦深呼吸した後に怒鳴ってしまった部下へ謝罪、決済書類を持ってエルト(上司)の下へと向かっていった。

 

 だが、いつもならあっと言う間にたどり着けるはずの場所にも、過剰な精神的緊張によって1歩1歩が重たくなり、倍以上の時間がかかってしまう。

 

 さながら、体調が非常に悪い人みたいな感じになっているので、すれ違う職員などから心配そうに声をかけられる始末である。

 

「……どうしました?」

「なんだ、顔色が悪いぞ。ハンス」

 

 何とか執務室の前までたどり着き、ノックをして入室を促され入る事までは出来たハンスであったが、そこに予想外の人物……皇族の『レミール』と呼ばれる女性が居た事で、緊張感が更に膨れ上がってしまった。

 皇族故の威圧感に加え、その高慢かつ独善的な性格が悪い方に作用してしまっているからだ。

 

 内心、今すぐにでもこの場を立ち去り、体調不良と言う事にして自宅へ帰ってゆっくり心を休めるか、帰れずとも別の仕事があればそれに集中したいとすら、ハンスは思っている。

 

「エルト様、レミール様。今回のフェン王国での戦いへの観戦武官派遣の有無をその、列強に伺ったのですが……」

 

 だが、来たのに報告をしない事など不可能である上、それならばエルトやレミール2人に見られている地獄を早く乗り切るべきだとハンスは決意し、大きく息を吸って整えてから報告を始める。

 

「……? 想定外の事態でもありました?」

「ムー及び神聖ミリシアル帝国は、()()()観戦武官を派遣しないと回答して来ました……」

 

 が、心にのし掛かるあまりの負担に、肝心の後半部分についての言葉が出てこず、俯いて書類の方に視線が自然と行ってしまう。

 頭の中では早く言わなければと本人も分かってはいるものの、そうしようとすればする程物理的な力で押さえられているが如く、頭も上げられなくなってしまっている。

 

()()()? ハンス、何故そこを強調するのか説明しろ」

「……っ! えっと、その……2ヵ国が、日本国への観戦武官派遣を行うと判明したためです!!」

「「……はっ?」」

 

 しかし、そんなハンスの様子を訝しんだレミールが、威圧感を出しつつ説明を促してきた事により吹っ切れた様で、言えなかった部分の報告を済ませた瞬間、執務室内の雰囲気が絶対零度の如く凍りついてしまった。

 

 文明圏外であるはずの日本に、フェン王国での戦いで皇国は勝てずに敗北すると、列強1位と2位の国家に太鼓判を押されてしまった様なものであるため、致し方ないだろう。

 

「何だと!? くっ、どうなっているんだ!?」

「まさか、ムーのみならずあのミリシアルまで……理由は分かりますか?」

「申し訳ありません。その点につきましては不明でありまして……」

「そうですか。後は……」

 

 そして、時間を置いてからのレミールのヒステリックな声、エルトからの淡々の問いかけの圧力に耐えつつも、ハンスは的確にそれに対して答えていった。

 

 ただ、かれこれ長い時間、致し方ないとは言えど非常に強いストレスに晒され続けているせいか、答えている途中でふらついたり言葉に詰まる頻度が増えてしまったりと、体調にも本当に支障をきたし始めている。

 

 今はまだ何とか耐え凌いでいる感じではあるものの、このまま後10数分もやり取りが続いてしまうか、大きな威圧感が2人の内どちらかより与えられれば、その場で気絶しかねない領域に居る状態だった。

 

「分かりました……ハンス。明らかに体調が悪そうなので、下がっても良いですよ。何なら、今日はもう部下にでも引き継いで帰りなさい」

「……はい、ありがとうございます。では、失礼致します」

 

 そんな彼の様子を見て思うところがあったのか、いくつかの質問を終えたところで、エルトはハンスを執務室より下げさせた。

 レミールには彼にまだ色々と聞きたい事はあったものの、この場で倒れられても困ると考えた様で、下がっていくハンスに対して何も声をかけたりはしなかった。

 

「エルト、日本国について詳しく調べてくれ。私の方でも、色々と動く」

「了解致しました」

 

 ハンスが執務室から出ていった後、列強1位と2位の国が揃って日本に観戦武官の派遣を行う、想定外も良いところな事態に衝撃を受けたレミールとエルトは、日本国についてより詳しく調べ上げる事を決めた。



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日本国の力

 特殊輸送機マラーナで日本に向かった翌日から、観戦に向けた詳しい説明や隙間時間の観光、現地の日本人との交流などを行いつつ更に3日経った今日の昼間、私たちは護衛艦『あきづき』に乗り、フェン王国の戦場へと向かっていた。

 

 ミスリル級やゴールド級魔導戦艦は言わずもがな、マラカイト級防空巡洋艦やシルバー級魔導巡洋艦よりも小さく、それでいて速力もミリシアル巡洋艦の方が速い。

 

 しかし、護衛艦の説明時にも聞いた、対空対艦問わず非常に高い命中率と射程を両立させた艦砲、ミリシアルにはまだないミサイル(誘導弾)の射程と威力、レーダーの高い探知性能や強力な対潜装備、乗員の凄まじい練度、これらを合わせればたった一隻ですら相当な強さを誇る。()()()()()()()()()()()、である。

 

 にもかかわらず、あきづきの他にも『てるづき』と言う名前の、イージス艦程ではなくても強力なこの1隻が近い距離に居るのだ。

 

「気を抜き過ぎてはいけないと、心の中では分かっているんですけど……何と言うか、絶対に破られない無敵要塞の中に居る感じなもので」

「確かに。天地がひっくり返ろうと、魔導戦列艦如きではこの艦に近づく事すら叶わず沈められるでしょうし」

「2人共気が早いわね。まあ、かく言う私も同じなのだけど」

 

 つまるところ、ミリシアルでも今までに発掘出来た古代兵器をある程度の数動かし、油断せず全力で運用しなければ戦いにすらならないレベルの船に乗っている訳で、安心感と頼もしさは段違いなのだ。

 

 勿論、パーパルディアの魔導戦列艦の砲の射程距離にまで近づき、お遊び気分で砲撃とか言う馬鹿な真似をすれば別だけど、海上自衛隊がそんな事をするはずがない。だから、このまま変わらず仕事を果たせるだろう。

 

「ん? あの青い戦闘機……後ろから灰色の戦闘機も来たわね。両方とも凄い速度……あら、青い方が何か発射したわ」

「青い方はF-2、灰色の方は制空戦闘機のF-15J改ですね。まずはニシノミヤコ沖40㎞に展開中のパーパルディア竜母艦隊70隻の内竜母含む40隻をF-2の対艦誘導弾で撃沈、その後直衛のワイバーンロードをF-15Jで撃墜する流れになっています」

「なるほど。ちなみに、最高速はどの位なのでしょうか?」

「F-2はマッハ1.7、F-15J改はマッハ2.5です」

「攻撃機ですら音速超えとは……ははっ、凄過ぎて言葉も出ませんよ」

 

 そんな事を考えていると、天の浮舟よりも圧倒的に速くて青い戦闘機(F-2)が12機、そのすぐ後ろから5機の灰色の戦闘機(F-15J改)があきづきの上空を通過していく。

 

 F-2の方はすぐ、翼下から対艦誘導弾を竜母艦隊の居ると言う方に向けて発射していた。

 対象が鋼鉄艦でない上に、パーパルディアが誘導弾に対する防御能力を持たない以上、この時点で既に48隻の撃沈が決まった訳である。

 

 あまりにも距離が離れ過ぎているが故にその瞬間を見れず、実感出来ないのがあれだけど、魔導双眼鏡で見れる距離まで近づいて竜母から全騎発艦されれば、防げはしても非常に面倒だと思うし致し方ない。

 

「灰色の戦闘機も戻ってく……目標全部撃破したみたい?」

「そうじゃないの? 自衛官さん?」

「その通りです。彼らは彼らの任務を達成したので引き返しています」

 

 で、誘導弾を撃ったF-2が引き返してからそう時間も立たない内に、Fー15J改も飛んできた方向へと引き返していった。ミリシアル基準で考えると、とてつもない仕事の早さである。

 

 自衛官の人曰く、まだ30隻の砲艦が残っているため今から主砲で撃沈しに行くみたいだけど、戦闘機隊の仕事の早さを鑑みるに、これもすぐに終わるだろう。何なら、移動時間の方が長いかも知れない。

 

「……おおっ、始まったみたい」

 

 そんな感じで長い間大海原を移動していき、目標である残存艦を魔導双眼鏡でハッキリ捉える距離まで近づき、ある程度の時間が経つと、遂にあきづきとてるづきの主砲が唸りをあげた。

 

 何となく分かりきっていた事ではあるけれど、放たれた主砲弾は吸い寄せられていると言わんばかりに戦列艦にほぼ命中、当てられてからすぐに誘爆ないし真っ二つとなり、轟沈している。

 航空戦力は事前に排除が済んでいるため、こちら側が危害を受ける確率も、今のところはなさそうだ。

 

 もし、先程の戦闘機隊が竜母や飛んでいたワイバーンロード……一部居たらしい、大きく速いワイバーンも含め撃破していなければ、あきづきとてるづきの2隻のみで多数の航空戦力に加え、78隻の竜母艦隊と対峙しなければならなかったと考えると、凄いとしか言いようがない。

 

 まあ、仮にそうなっていたとしても、あきづき型護衛艦はイージス艦に匹敵するとも言われる位に防空性能が高いみたいだし、多少面倒になる程度で結局は変わらなかったとは思うけど。

 

「うわっ……もう終わったよ。にしても、実際にこの目で見てみると、凄いとしか言えないね」

「何と、何と言う速射と命中率! 主砲の放つ弾の分だけ、戦列艦が爆沈していくとは! これなら、空を飛ぶワイバーンロードも撃ち落とせると言うのも、信憑性が沸いてくるだろう」

「私もオロールと同じで、凄いとしか言えないわ。これだけ強い軍隊が居れば、日本人もきっと安心感が凄まじいでしょうね」

 

 そんなこんなで、魔導双眼鏡を通して竜母の全滅した戦列艦隊を見ながら話している間にも、凄まじい速さで浮いている船の数は減っ

 ていき、遂には私たちの乗っているあきづきの主砲が最後の戦列艦を轟沈させ、あっという間に任務達成となった。

 

 勿論、取るべきメモはしっかりと取り、見えづらいが沈みゆく戦列艦を魔写で撮ったり、軍船と言う事で許可を取って主砲発射のシーンなども撮ったりも出来たし、観戦武官としての仕事は十分に果たせたと言える。

 

(ふぅ……)

 

 こうして、役目を果たしたあきづきとてるづきの2隻は、そのままこの海域から離れていった。




初めての戦闘シーン描写でしたが、もし何らかの指摘や感想などがありましたら、よろしくお願い致します。


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今後の見通し

「アルネウスさん。その、大分お疲れの様で」

「あぁ……はい、すみません。これをどう議員の皆様に報告しようかと考えると……」

 

 F-2やF-15J改、あきづきやてるづきがパーパルディア竜母艦隊78隻を、ちょっとしたお遊びが如く撃破した戦いを見聞きして戻ってきた私たちは、ホテルの中で報告書の作成に取りかかっていた。

 

 聡明な皇帝陛下(ミリシアル8世)や、非常に優秀な『メテオス』さんや『ワールマン』さんを筆頭とした魔帝対策省の面々、日本を担当した外務省の人に対してであれば、簡単な書類どころか口頭での報告でも信じてもらえるとは思う。

 

 しかし、一部を除いた帝国議会の議員さんの中に露骨には出さずとも、自国が最強と信じ過ぎるがあまり日本を含む文明圏外にある国を、かなり上から目線で見る人が一定数居る。

 

 そんな中、ミリシアルどころか魔帝並みの超文明を、文明圏外の国が魔法を使わずに築き上げているなんて言ったとしたら、相応に荒れるのは間違いない。

 

 魔帝の遺産(兵器)に頼らない、自前で用意出来る純粋な軍事技術が現状圧倒的に負けているとあっては、尚更そうなるのも無理はない。

 

「うーん……とにかく、見たまま聞いたままを正直に記し、報告書を作成しましょう。信じてもらいたければ、日本に何らかの形で派遣させなければ多分無理なので」

「そうなりますよね……でも、中々に荒れそうな気がします」

「でも皆理性はあるから、予想される最も面倒な事態にはならずに済むとは思うけどね」

「確かに。でなければ、議員になれる訳ありませんしね」

 

 ただ、強烈な不安感みたいなものを感じた事はない。単に、その議員さんたちの皇帝陛下を慕い、神聖ミリシアル帝国に対し抱く信頼感が()()()()()()と分かっているからだ。

 

 このフェン王国沖での戦闘の報告書を、取った魔写や自衛官の人から聞いた戦闘機や艦船の性能、私やアルネウスさんの書いたメモを併せておけば、何だかんだで日本が列強相当とは理解してくれるだろう。

 

 何なら、おまけとして日本の街並みや日本人との交流の様子を写した魔写、規格や動力源などの問題を無視し、ミリシアルでも普通に使えそうな民生品も追加する予定である。

 

「日本、良い所よね。人々は親切だし、治安も良いし、食べ物も美味しい、娯楽も沢山……どの国にも必ずある様に、きっと悪い面もあるとは思うけど、今度は旅行で来てみたいわ。食べ歩きと娯楽堪能……ふふっ」

 

 などと考えていると、カームが突然語りかける様な感じで話し始めた。日本に来てから今に至るまでの数日の経験が、彼女にとってそれなりに気に入るものだったらしい。

 

 まあ、この世界全体で見ても上位であろう食事の美味しさに、最上位であろう娯楽の多様さ、国内や外国旅行が大好きなカームが惹かれるのも無理はないか。

 

「カーム様らしいですね。でも、その気持ちは分かります」

「うんうん、私も遊びに行きたいとは思ってるし」

「あらそう? なら、いつか3人で旅行に行きましょうよ。当分後になりそうだけど」

「違いありませんね。仕事の忙しさもさる事ながら、交通手段の確立を筆頭とした色々な問題がありますし」

 

 なお、カーム程ではないにせよアルネウスさんも気に入ったのか、彼女が提案した旅行の提案にも比較的前向きである。言わずもがな、私も同じだ。

 

 それに、魔法と言う要素があるから一概には言えないけど、ミリシアルをより強く発展させる参考になる要素が、日本には多々眠っていると考えている。

 

 いくら前世が日本人だった時の記憶が残っていても、しがない一般人だった私が覚えている事などたかが知れているし、新たに増えた物や知識について覚える事も出来るだろう。

 

 と言うかそもそもの話、良いものや面白く楽しい出来事については、例え記憶にしっかりと残っていて新鮮味がなかろうと、繰り返し体験しても飽きない。

 遥かに興味を惹く何かが出てくれば別だけど、そう易々と出てくるものでもないし、ましてや作り出せるものでもないのだから。

 

「今度、パーパルディアってどうなると思う? 今はまだ、地域紛争の域を出てないから何とかなるけど、講和とかするのかしら?」

「全面戦争になったら確実に向こうがボロ負けするし、今回の結果が伝わらない訳ないから大丈夫じゃない? 理性があれば、だけど」

「今までの性格から見て、そう簡単に方針転換出来るのかと疑問が尽きませんね。仮にしたとて、日本が受け入れるとは限らないですし」

「多分、最低限の要求として実行犯や指示者の引渡し、遺族への賠償金位じゃないですかね。他にも色々ありそうですけど」

「うーん……だとしても可能性は、正直低そうな気が」

 

 大分話し込み、軽めの夕食を取ってからはパーパルディアの今後についての話題を主として、ミリシアルと日本の今後の付き合い方などについても話したりした。

 

(……)

 

 アルネウスさんも言っていたけど、まず間違いなくミリシアル政府としても、日本を列強国として認める事は、今回の戦闘結果を見てもほぼ確実だろう。

 

 無論、パーパルディア本国にはこの戦いで撃破した戦列艦や竜母、ワイバーンロードが多数残っているとは言え、相手が増えれば増える程日本も派遣する艦船や航空機を増やすだろうし、結果的には同じとなる。

 

 しかも、そうなればイージス艦……魔帝で言う対空魔船に相当する艦船が出張ってくると考えれば、もっと酷い戦闘結果となるに違いない。

 

 何なら、地球でも最高峰だった通常動力潜水艦の存在も忘れてはいけない。原子力潜水艦は……この世界の日本にもありそうにないので、取り敢えず除外しておこう。あまり露骨に探り過ぎて、変に警戒されてもいけないし。

 

「そろそろ話疲れましたし、ここら辺で寝ましょう。明日には食糧や水などを詰め込み、日本を出てミリシアルに向かう日なんですから」

「了解。確かにね」

「右に同じくです」

 

 こうして、最終的に全員の眠気やら疲れやらが限界に達するまで、色々と話し込んだりして過ごす事となった。



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世界最強の忠告

「アーヴィス大使。本日はお忙しいところ、わざわざ訪ねて頂きありがとうございます」

「いえ、お気になさらず。皇国にとっても火急の案件でしょうし」

 

 パーパルディア皇国の第1外務局、列強国の大使との応対も想定されている豪華な装飾が施された会議室に、駐皇国神聖ミリシアル帝国大使の女性『アーヴィス』は、数人の大使館職員と共に居た。

 

 その理由は、フェン王国での戦いにおいて、ミリシアルが観戦武官を日本へ派遣した訳を皇国が知りたがった事と、ミリシアルが皇国に()()()で忠告をしてあげようと考えていたからである。

 

 本来なら皇国側が使者を大使館に寄越す手筈だったが、直接出向いた方がインパクトがあるだろうと言う事で、今現在ここに彼女は部下となる職員数人と共に居る。なお、あくまでも新型魔導通信装置で許可を取ってからの行動だ。

 

「それでは、念のためにお尋ねします。今回のフェン王国での戦いにおいて、ミリシアルが観戦武官を日本に派遣したのは事実でしょうか?」

「はい、事実です。3名派遣しました」

「なるほど……では、今まで観戦武官を派遣して来なかった貴国が、何故今回は日本への派遣を決断したのでしょうか?」

「信頼の置ける、我が国きっての魔導技師の発言がきっかけとなり、議論に議論を重ねた結果、妥当だと判断が下ったためです」

 

 こうして、第1外務局長のエルトが質問を始め、アーヴィスがそれに対して淡々と無感情で事実のみを語っていく流れとなったが、それ故に会議室の空気が少しずつピリピリし始めていった。

 

 特に、同席している軍司令官の『アルデ』や皇族のレミールにとって、()()()()()の魔導技師の発言がきっかけとなり、議論の果てにミリシアルが観戦武官の日本への派遣が決まったと言う事実が気に入らないのだ。

 

 レミールに至っては、後何か一言あれば相手がミリシアル大使であろうと声を荒げ、凄みそうな雰囲気を出している。並大抵の者であれば、この時点で何も喋れなくなる事だろう。

 

「皆様。その前にお聞きしておきたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「私とアルデは構いませんが、レミール様はどうでしょうか?」

「……構わない。好きにさせても良い」

「感謝致します。それで……日本と言う国に対して、どんな認識でいますでしょうか?」

 

 しかし、アーヴィスは生憎その手の威圧感に慣れている人間であったため、平気であったどころか逆に威圧し返し、皇国側の質問を曖昧にしつつも質問を投げ掛ける事までやってのけた。

 

「文明圏外の蛮族の癖に、列強の様な要求を皇国にしてくる愚か者……だが、監察軍を退ける辺り軍事力は相応に高い」

「ほぼレミール様と同じだ。それ故に、フェン王国には精鋭の竜母艦隊を送っている。負ける事はないだろう」

 

 そして、アーヴィスの質問に対してレミールやアルデは現時点での自身の認識を、一字一句正直に話した。ただし、ミリシアルやムーが観戦武官を送った事を鑑みて、内心間違いかも知れないと思い始めている。

 

 なお、エルトはその質問に対して何も答えていないが、それは自身の認識が第3外務局長の『カイオス』からを含む、自身の人脈の太さを存分に活用した情報収集の結果、180度変わってしまったからだ。

 

 万が一それを言ってしまえば、アルデはともかくレミールや皇帝『ルディアス』、他過激派の面々が怒りのあまり逆に全力戦争へと突き進んで行かないか、その辺を考えていた。

 

 自分が殺される可能性も頭をよぎってはいるものの、そんな事よりもと考えてしまう程、圧倒的に悩みの種となっている。

 

 ちなみに、アーヴィスはレミールやアルデと違い、エルトが大分正しい情報を掴んでいそうだと何となく察知してはいるが、敢えて無視して彼女からも聞いたものとして話を進めていった。

 

「なるほど、ありがとうございます。結論から申し上げますと、貴女方の日本に対する認識は大分不足している……そう言わざるを得ないでしょう」

「「っ!?」」

「……」

 

 そして、皇国側(エルト以外)の認識が現実と乖離していると察したアーヴィスは、最初に結論を言った上で部下の職員たちに指示を出し、カバンから出した数々の写真や資料などを元に、出来る限り分かりやすく説明を始めた。

 

 全て日本で販売されている書物に載っている情報ではあれど、護衛艦に戦闘機、イージス艦に誘導弾の性能、潜水艦について、その他この世界基準で凄まじい内容の話も交え、感情を出さずに淡々と口に出していくため、皇国側に底知れぬ恐怖を与えている。

 

 ミリシアル大使の言う事はまるで信じる事が出来ないが、この状況で嘘八百を述べるとも思えず、内心が荒れた海の様になっていた。

 

「ミリシアルとしても、日本は列強国相当の国であると判断しております。既に国交も結んでおり、先進11ヵ国会議に日本を加えるかどうかの話も出ています」

「では、万が一の際はミリシアル帝国軍が……?」

「いえ、こちらから皇国に敵対する事はありません。ただ、全面戦争を考えておられるのであれば、強制はしませんが止めておいた方が良いでしょう。()()()()()()()()()()()()

「「はっ?」」

 

 そんなこんなで、皇国側が終始圧倒され続けた数々の説明の終わり際、アーヴィスの放った一言が本当にギリギリのところで保たれていた一線を、容易に踏み越えてきたため、アルデやレミールが思わず口調を少し荒げてしまう。

 

 直接的な言葉ではないものの、実質お前たちでは勝てないからさっさと講和しろと言われた様なものであるから、皇国の性格からして仕方ない。

 

「このような時に大変申し訳ありません!! フェン王国に派遣した竜母艦隊、並びに陸軍と支援艦隊、ワイバーンオーバーロード含む飛竜隊が日本国に完封され……僅かに残った残存部隊も降伏致しました!!」

 

 そうして、奇しくも会議室に駆け込んできた第1外務局の職員からもたらされた、フェン王国での戦いの敗北と言う情報が、アーヴィスの正しさを即座に証明する事となってしまった。



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メテオスと魔導技師

「オロール君、随分と嬉しそうにしてるじゃないか。と言う事は、何か素晴らしい報告でも持ってきたと?」

「そりゃあもう! きっと驚きますよ!」

「分かったわかった。とにかく、落ち着きたまえ」

 

 観戦武官としての任務を終え、帰り道も何事もなくミリシアルまで帰って来れてから1週間、私は非常に重要なある資料や書類を手に持ち、ルーンポリスの魔帝対策省メテオスさんの下を訪ねていた。

 

 かねてから行っていた魔帝製兵器のリバースエンジニアリング、その中で最も私が力を入れていた魔導電磁レーダーの解析が、遂に完了したためである。

 なお、カルトアルパス魔導学院に解析用として置いてあるそれは、使おうと思えばすぐに使える状態にある。

 

 とは言え、例外を除けばあくまでも解析が完了しただけであり、()()()()()し実際に艦船に搭載して使えるようにするまでは、まだ時間はかかる。それに、他兵装との兼ね合いもあるだろう。

 

 しかし、私の用意したこの膨大な解析結果を記した資料、それらを可能な限り分かりやすく解説したものを記した書類、その他細かな注意点などを書いたメモさえあれば、時間はかかれど修理も可能だ。

 

 当たり前だけど、各種誘導魔光弾や魔導電磁妨害装置など、強力な兵器を即生産可能となる程の成果ではないものの、1歩前進したのは間違いない。

 

「すみません。それでは、こちらの資料をご覧下さい」

「ふむ……!? なんと、もうここまで来たというのか!」

「はい。私を助けてくれた皆様のお陰です。これで、1歩前進しましたね」

「何を言っている? 1歩なんてものではない。2歩3歩……いや、もっと進んだと断言しよう。これは、皇帝陛下に良いご報告が出来るぞ……!」

 

 メテオスさんに言われ、興奮していたのを何とか収めて、結界で保護した鞄にしまっていた各種資料や書類を提示した瞬間、今度は彼が先程の私みたいに興奮し始めた。

 

 流石は私以上に超エリートで優れた大魔導師、かつ技術者なだけあって、特に追加の解説などをしなくてもかなりの速度で、資料や書類に書いてある事を理解してくれている。

 

 皇帝陛下にも、ミリシアル内でトップクラスの信頼感を寄せられているメテオスさんの様子を見るに、もしかしたら今までよりも更にリバースエンジニアリングの進む速度が、早くなるかも知れない。

 

「あの。追加費用、出ると思います? いや、今の予算でも十分やっては行けてるんですけど……」

「この成果だ。すぐにとは行かないかも知れないが、必要とあらば費用だけでなく、人員も間違いなく出るだろう」

「それと、カルトアルパス魔導学院に置いてある解析用のレーダー、あれ今すぐにでも使える状態なのですが」

「おぉ!? ならば、ユニバース級対空魔船『ディアン』1隻が使用可能……今日は実に素晴らしい日だねぇ」

 

 そして、今提示した資料や書類には書いていない事、私の働く学院に置いてある解析用魔導電磁レーダーについてを含め、色々と話しておくべきと判断した内容についてもいくつか話したりもした。

 

 まあ、そうは言っても魔導電磁レーダーを装備し、艦船とは独立して敵機の迎撃を試みてくれる分速3000発のアトラタテス砲(轟連式対空魔光砲)、秒速1発の125mm単装速射魔光砲、こちらについての解析作業が4割程進んだ事がメインにはなったが。

 

 何せ、未だにアトラタテス砲の発射する光属性のエネルギー弾の特性、実体弾の様に質量を持つと言うとんでもない仕組みを、解析しきれていないのだ。

 

 単純に、魔力を光属性のエネルギーに変換する術式では、特別な回路を組んだ物理的コアへの付与がなければ効力を発揮出来ず、色々四苦八苦して試しているものの、成果が出ているとは言い難い状態である。

 

 そう言う意味では、発射する弾が普通に物理的な核を持つ125mm単装速射魔光砲の方が、楽と言えば楽ではあるけど……まあ、そうは言っても今のミリシアルにとって超魔導技術の塊ではあるから、解析し終える事が出来てはいない。

 

「ああそうだ。ところでオロール君、最近はしっかりと休んでいるのかね? 何日か寝込んだと技術者の伝で聞いた時は、実に肝が冷えたよ」

 

 そんな感じで言うべき事が終わり、頭を下げて立ち去ろうとした瞬間、メテオスさんから尋ねられるとは思ってもいなかったあの時についてを尋ねられたため、一瞬だけ頭の中が空になってしまう。

 

 咎める……と言うよりは、実に困った奴だと呆れの籠った心配の思いが込められている感じだろうか。

 言い方はちょっとあれだったけど、目を見れば悪意などの負の感情が一切ないと、何となくそう思えている。

 

 ただし、体調を崩して以降はそれ以前の様に休まず仕事をするなどはせず、しっかりと取る時は取っている。学院長さんや、私の部下の子たちに聞かれても大丈夫な位には、である。

 

「あー……勿論ですよ、メテオスさん。今はしっかり休んでいて、仕事のし過ぎで体調が悪くなったりなどはしていませんよ」

「ふむ、そうだったか。なら良いが……無理は止めたまえ。君に倒れられると、ミリシアルにとって多大なる損失となる。艦船などとは違って、代わりが利かないのだ」

「はい、誓います。カームや部下の子たち、学院長さんたちとも約束しましたから」

 

 と言う訳で、堂々と休んでいるから問題ないと答えた上で、メテオスさんからの忠告に対しても、これからもそれを続けていくと強い意思を示してから改めて頭を下げ、この場を立ち去っていった。




突然で申し訳ありませんが、作者の長期休みが終わった関係で、今後毎日更新が厳しくなりました。

そのため、間が空く事が増えると思いますが、ご了承頂ければ幸いです。


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第一外洋派遣艦隊

 空は全体が白い雲で覆われているものの、降雨はなく波も穏やかなとある海上、神聖ミリシアル帝国軍『第一外洋派遣艦隊』所属の7隻の軍艦が、パーパルディア皇国に向けて派遣されていた。

 

 理由としては3つ、フェンでの日本人処刑事件を機に激突し、日本と戦い鎧袖一触で蹴散らされたパーパルディアの仲介要請に応じる形で、講和条約締結に介入するためだ。

 なお、調印式の会場は旗艦でもあるミスリル改級魔導戦艦『ヴァーテイン』の甲板上と、協議の結果決まっている。

 

 駐皇国ミリシアル大使アーヴィスからの情報、ニシノミヤコ沖を含む対日戦がもたらした結果、何者かの意図的な工作による上層部の対立や情報の漏洩、アルタラスや属領での役人の意図せぬ行為の数々、これらが重なり戦争継続が不可能となったのが原因らしい。

 

「頼もしいな、この艦は。そう思わないか、アーテナ艦長」

「違いありませんね。最大31ノットの速力、主砲の41.3cm連装魔導砲4基8門他多数の巡洋艦級副砲を含む火力、他にも挙げればキリがありません」

「ははっ! それにしても、ミリシアルの技術者(ルーンポリス魔導学院)は、とんでもない奴を造ったものだ。油断は禁物と分かってはいても、つい油断してしまう程には」

 

 もう1つは、新設された艦隊の中には最新技術をふんだんに使用した艦船もあり、訓練としてちょうど良い機会なのではと、軍務省や外務省など多方面から意見が出たためある。

 

 費用云々の問題は出たものの、今年度のミリシアルの財源に余裕があったのと、最悪足りなくなった場合の工面方法がいくつかある事から、問題はないようだ。

 

 最後の1つに関しては、パーパルディア国内に徹底交戦を謳う過激派が居ないとも限らないため、攻撃の抑止ないし万が一の防衛を考えているからだ。

 

 当然の如く、パーパルディアや日本にも艦隊派遣の通達は行っていて、了承も得ていた。

 

 しかし、日本やグラ・バルカスは言わずもがな、強いて言うならばムーやエモール位しか、旧式艦船で構成されたミリシアル艦隊ですら、撃破ないし対抗可能な勢力がない。

 

 最新鋭の艦船で構成された第零式魔導艦隊、ならびに第一外洋派遣艦隊に至っては、今現在だと日本やグラ・バルカス以外にどうこう出来るものではないのだ。

 当然、パーパルディアの過激派程度を想定するのなら、完全に過剰戦力となる訳である。

 

 そもそも、両国の講和条約締結を仲介するだけであれば艦隊派遣をする必要などなく、ましてやそれらを戦艦でどうしてもやらなければならない理由も、全くなかった。

 両国をミリシアルに招き入れ、帝都の会場を貸し切るなどしてやれば済む話でもあったのだ。

 

「しかし、スルトラル司令官。やはり、こんな目的のためだけ(仲介依頼)に、7隻も軍艦を派遣する必要なんてあったのでしょうか? 内訳は空母1隻に我が艦含め魔導戦艦が2隻、防空巡洋艦と魔導巡洋艦1隻ずつ、快速小型船……ではなく、駆逐艦2隻ですよ。グラ・バルカス帝国軍相手なら分かりますが」

「確かに、私も聞いた時は驚いたさ。まあ何であれ、政治的理由もあると言われてしまえば、我々は従うしかない訳だ」

「まあ、そうなんですけどね。費用云々は余裕がある上ですし」

 

 故に、旗艦ヴァーテインの艦長『アーテナ』が疑問に思うのも、艦隊司令官『スルトラル』が驚くのも無理はなかった。何なら、乗船している軍人の間でも同様の疑問が噴出している。

 

 ただ、スルトラル(司令官)含め全員が政治的理由(裏の理由)……国力誇示によるミリシアルの存在感アピール、主に日本を意識したものだと聞かされているため、完全ではなくても納得はしていたが。

 

 なお、それならユニバース級対空魔船『ディアン』や、セイド級対潜魔船『シービス』の2隻を入れた方が効果的なのではとの意見が、方々から出ていた。

 

 しかし、空中戦艦パル・キマイラや海上要塞パルカオン、超潜艦シーヴァンのように、ミリシアルにとっては生産どころか修理すら一部を除いて不可能な兵器である。

 

 その2隻以外の艦船は技術力で及ばない以上、ほぼ同等の性能を誇る艦船を()()()()()日本がその辺の事情を察せない道理はないし、万が一損傷してしまったらどうするのかと言う事で、結局は立ち消えとなっていた。

 

「アーテナ艦長! 前方30㎞より15ノットで接近する魔導戦列艦1隻……パーパルディアの哨戒艦です! 「港に誘導するからついてきて欲しい」との魔導通信も入っております! なお、日本の外交官を乗せたイージス艦『こんごう』も停泊中との事!」

「了解した。誘導には従い、ないとは思うが万が一の衝突事故などを起こさぬよう、速力や舵の調整には注意を払えよ。皇国はもとより、日本との外交問題になったら洒落にならんからな」

「勿論です!」

 

 旗艦の艦橋にてそのようなやり取りが続いていた時、通信要員よりパーパルディアの哨戒艦接近の報告がアーテナへと入ってきた。哨戒騎であるワイバーンオーバーロード編隊が、第一外洋派遣艦隊7隻を発見してから、約1時間後の話である。

 

 これより両国(列強)の外交官同士が終戦条約締結を自艦で行うとだけあり、直接関わるか否かに関わらず、この報告は艦橋内を含めた全ての乗員の気を引き締めた。

 

「さてと、アーテナ艦長。ここからが本番だな」

「そうですね。まあ、やらかさないように仕事を粛々とこなすまでですが」

 

 そして、かなり近い距離まで哨戒艦が近づいてきてからは、艦隊の全てが15ノットへと速度を落とし、誘導に従って軍港へと向かっていった。




前回投稿よりも大分間が空きましたが、今後は基本1~2日おきでの投稿ペースが維持出来る感じになります。それ以上延びる場合は、後書きにてご報告します。


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互いの折り合い

 パーパルディアに向かい、ミリシアルの第一外洋派遣艦隊7隻が軍港に誘導された後、日本の外交官2人とパーパルディアの役員2人……エルトとその秘書は、軍港に用意された部屋で締結に向けての最終会談を繰り広げていた。

 

 見守り兼記録要員のアーヴィス含むミリシアル大使館職員3名はもとより、旗艦(ヴァーテイン)より大魔導師も2名出ているため、今のところ議論に大きな問題が生じたりはしていない。

 

「これが、全て最低ラインと言う訳ですか」

「いえ、被害に合った日本人やフェン王国に対する賠償の内容などについては、今後要相談で問題ありません」

「なるほど」

「しかし、皇国側の公式な謝罪と虐殺に関わった被疑者・重要参考人の引き渡し、これは日本国としても妥協し難い項目ですね。個人的には言わずもがな、国内世論としても()()()()()()()()との意見が、大半を占めているもので」

「客観的に見れば理解は出来ます。が、これは……厳しいと言わざるを得ません」

 

 ただ、日本側が講和の条件として出した項目の内、被疑者や重要参考人の引き渡しについての議論が、パーパルディア側にとって非常に厳しいものであったが故に、一定のところから進んでいない状況となっている。

 

 処刑と言う名の虐殺を命令され実行した兵士の1人のみであれば、容赦なく引き渡しが行われていただろう。第一外務局の職員数名が加わったのであれば、まだ何とかなっていた可能性が大いにあった。

 しかし、フェンでの虐殺を命じたのが皇族の1人、レミールである点が良くなかったのである。

 

「厳しい……なるほど。念のためお聞きしますが、どの辺りが該当するでしょうか?」

「『被疑者や重要参考人の引き渡し』ですね。レミール様だけでなく皇帝陛下も該当するとなれば、恐らく()()()()()()()()()()()()の争いが始まるかと」

「全面戦争……」

「ええ。そして言いたくはありませんが、貴国にとってはわざわざ交渉などせず、魔帝級の軍事力で事を進めた方が恐らく楽でしょう」

「……」

 

 皇帝のルディアスの方は直接指示を下した訳ではないものの、事後報告時にレミールの行為を一切咎めなかった点、かなり強い権限を与えていた点からして、無関係とは言いにくかったのも大きい。

 

 なので、関わっていた可能性高しとしている日本に引き渡せば、ロクな運命になりそうにないと、エルトと秘書は考えていた。

 

「勿論、今までの皇国の振る舞いからして大分身勝手であるとは重々承知しておりますし、事情がおありなのも同様です。しかし、国家崩壊の危機ともなればどうしても、こう願わざるを得ないのです」

「願わざる、ですか」

 

 加えて、レミールはともかくルディアスに関しては、一部の属領を含む勢力圏内の一般人の多くからかなりの支持を得ている存在である。

 

 万が一引き渡しに応じようものなら、一部過激派に加えて皇帝を慕う穏健派、一部の民衆までもが蜂起して講和を台無しにしかねない。何なら、行き過ぎて暴走した結果国中が大荒れとなってしまう可能性が、大いにあった。

 

 結果、後に待つのは日本により完膚なきまでに軍隊が叩き潰されるか、それがなくとも色々なごたつきで弱ったところに追撃を食らい、列強としての地位を失う事となってしまう未来である。下手すれば、国の滅亡すら視野に入ってしまうのだ。

 

「どうにかなりませんか? その、皇帝陛下と()()()()レミール様の身柄引き渡しだけでも……無論、それ以外であれば公式の謝罪や賠償に関しては可能な限り要求に応じますので」

「……」

 

 当然、属領での過剰な振る舞いをした(私腹を肥やしに肥やした)職員の粛清と、起こった出来事の後始末に尽力中のルディアスにとっても、それは流石に避けたい事態である。

 故に、エルトは講和云々に関しては全権を持たされつつも、可能な限り不利な流れとならないようにしてくれと、皇帝本人から命を受けていた。

 

 最悪、自身は象徴と意見を述べる()()()立場となり、信頼に足る者に国を任せ、非常に心苦しく思いつつもレミールを切り捨てる事すら視野に入れているらしい。

 

 なお、その際のルディアスの表情はエルトはもとより、最も彼に近かった者ですら見た事のない、悔しさや怒り、悲しさなどが混じった例え難い表情だったと言われている。

 

「確かに、我が国としても皇国崩壊からの、()()()()()()()()()()()()()()は本意ではありません。全く責任がない訳ではないでしょうけど、皇帝陛下自身が命じた訳でもなさそうですし……分かりました。皇帝陛下他数名の引き渡しについては、取り止めと致しましょう」

「そうですか……日本国の方の厚意に、感謝致します」

「ですが、レミールさん含む虐殺に関わった人物については、要求通り引き渡して頂く事になります。よろしいですね?」

「……承知致しました。陛下にはそうお伝えします」

 

 そんな中、並大抵の人であれば逃げ出したくなるような圧がかかる雰囲気の部屋で、長々と続いていた被疑者や重要参考人引き渡しの話について、ようやくお互いに折り合いがついた。

 

 パーパルディア側は、ルディアス含む数名の引き渡しについては取り下げさせ、日本側はその代わりにレミール含む虐殺に関わった人物については、引き渡しに同意させた形となる。

 

 多種多様な情報網による日本の性格調べ、所々誇張しつつも正しい国内事情などの説明、威圧感を決して出さない喋り方、他にも細かな要素が加わった結果と言えるだろう。

 

「な、なんだと!? クソッタレ、冗談じゃないぞ!」

 

 こうして、後は戦艦の甲板上での調印式のみとなったはずであったものの、秘書の持っていた小型の魔導通信装置に入った1つの知らせにより、それどころではなくなってしまった。



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世界最強の力

「総員、速やかに定位置につけ! これは訓練ではない! 繰り返す、これは訓練ではない!」

 

 講和条約締結に向けての会議中、エルトの秘書にとある知らせが届きその場の全員に伝わるのとほぼ同時刻、軍港に停泊していた第一外洋派遣艦隊の中、アロンダイト級魔導空母『アロンダイト』艦内はかなり慌ただしくなっていた。

 

 パーパルディア各地の海軍や陸軍の基地、現在アルタラス王国に存在している軍基地から、一部の過激派が勝手に竜母2隻含む魔導戦列艦を出航させ、講和を台無しにしてやろうと動いたのがミリシアル大使より知らされたからだ。

 

 加えて、陸軍からも一部が離反し、同様の目的で動き始めているとの知らせも入っているとの事だが、そちらの方はパーパルディア皇国陸軍精鋭部隊が既に対応に当たっているため、問題はない。

 

 そして、気づくのが遅れるなど数々の要因が重なって皇国側が止めきれず、攻撃しに向かってきている過激派の魔導戦列艦20隻、ワイバーンオーバーロードやワイバーンロードで構成された航空戦力の撃破を、司令官に命じられて今に至っている。

 

 エストシラントの三大基地、工業地帯であるデュロ防衛隊、他大半の関係ない皇国軍を見分けるのが難しい問題については、そもそも会議中は皇国軍が軍港周辺をうろつく事を、陸海空問わずに禁じられていた。

 

 とどのつまり、軍港周辺で動いている奴らは全員過激派と言う訳であり、襲ってきた場合の反撃は当然認められているため、考える必要はない。

 

「頼んだぞ、エア! 一応言っておくが、相手はこちらの半分かそれ以下の速度であれど、油断するなよ」

 

 そんな慌ただしくなる中、ミリシアルの最新鋭戦闘機エルペシオ4に乗り込むエースパイロットの『エア』は、誰よりも先に出撃しようと機体に乗り込んでいた。

 

 後に続く仲間やアロンダイト他6隻の乗員の負担を減らし、死傷者を出させない確固たる意思を持っているからだ。待機所自体が近くにあるし、訓練は行き届いている上にそもそも士気はかなり高いので、大して変わりはしなかったが。

 

「言われなくても、油断などしませんよ。死にたくないですし、仲間を死なせたくないですから……では、行ってきます!」

 

 このタイミングで居た、戦闘機の整備士と軽くやり取りを交わして風防を閉め、圧縮魔波式カタパルトの力で急加速、こちらへ向かってくる不埒な輩を撃墜すべく、エアは大空へと飛び立つ。少し遅れて、味方のエルペシオ4も順次飛び立っていった。

 

 なお、戦列艦の撃沈は新型魔導爆弾を搭載した爆装型『ジグラント4』、ミリシアル史上初の魔導魚雷を搭載した雷装型ジグラント4が行う手筈となっていた。

 両機共に最高速力が680㎞/hと、ワイバーンオーバーロードの430㎞/hを大きく超えてはいるが、万が一があってはならないので護衛のエルペシオ4はついている。

 

 ちなみに、ミリシアルの空母以外の6隻、日本のイージス艦こんごうについては、航空隊の迎撃を抜けた敵の対処に当たると、かなりの速さで決定された。

 

「はぁ……全く、面倒な事をしてくれる奴らだよ。巡りめぐって自分等の首を絞めてるのが分からないのか?」

『ははっ! まあ、分かってたらこんな事はしませんわな!』

「だよねぇ……おっ、見えてきたね」

『ざっと50騎か。数的には40も不利だな』

 

 日本の外交官はこんごうに、ミリシアル大使館職員やパーパルディア側も、各々安全な場所へと避難する事自体は出来た。

 だが、講和を台無しにするためだけに日本やミリシアルだけでなく、自国の人間までも巻き込もうと仕掛けてくる過激派の愚かさに、エア含めた制空戦闘機隊は全員内心呆れている。

 

「さあ、ここで会ったが百年目。墜ちろ!」

 

 そうして相手よりも遥か上を取り、位置エネルギーを味方につけた急降下をエア以下4機が実行、すれ違いざまに30㎜魔光機関砲と20㎜魔光機関銃を叩き込んで4騎撃墜した事で、空戦の火蓋が切られる。

 

 無論、過激派のワイバーンロードも下へ抜けていったエルペシオ4を追おうとするが速度差がありすぎて追随出来ず、止めたところで逆にその隙を突いてきた別の機に魔光機関砲を浴びせられ、バラバラになって海に落ちていく末路を辿る。

 

『よっしゃ、3騎撃墜! しっかし凄ぇ威力だなコイツは。ワイバーンがバラバラだぜ』

『おお、調子良いな。ただ、ちょっと速いとは言え相手が相手だし、腕が鈍りそうだ』

「はいそこ、油断してたら喰われるかもよ?」

『へーい』

『相変わらずのエース様だこと』

 

 決して格闘戦に自ら持ち込まず、また持ち込ませずに倍以上の速度差を活かした一撃離脱戦法の徹底が功を奏し、戦況はパイロット同士が通信で軽口を叩き合える程に、ミリシアルの圧倒的優位となっていた。

 

『こちら爆撃隊、敵竜母2隻撃沈! 損害なし!』

『雷撃隊、同じく損害なし。なお、5隻の撃沈に成功しました』

『おお、使える試作品とかも突っ込んだ新兵器の割には、結構良い感じだな。訓練の賜物か?』

『うーん……とは言え、外れたものも多数ありましたので、精進せねばなりません』

 

 同時に、海上では爆装型ジグラント4が竜母2隻を250kg魔導爆弾で轟沈させ、雷装型ジグラント4の魔導魚雷が100門級魔導戦列艦を次々に海の藻屑とするなど、こちらも余裕寂々な戦闘経過となっている。

 

「うおっと! 危ない危ない……よーし、喰らえ!」

 

 機体性能と飛行技術の差で相手を寄せ付けない味方を尻目に、エアもそれ以上の技術と超反応で不意の流れ弾も避け、鮮やかなバレルロールなどを駆使して立て続けに4騎を撃墜していく。

 

 会敵してから30分にも満たない時間ではあるものの、50騎居たワイバーンも残り3騎となり、20隻の魔導戦列艦はジグラント4の余った爆弾や魔導魚雷、魔光機関砲によって既に壊滅させられていて、大勢は決したと言えるだろう。

 

 まあ、列強同士とは言え格の違うミリシアル、更にはそれを超える日本のイージス艦が1隻居た時点で、こうなるのは自明の理と言えたが。

 

「ふぅ……まあ、こんなものかな」

 

 そして、破れかぶれで艦隊に攻撃を仕掛けようとした3騎がエアによって速攻で撃墜された瞬間、周辺の空域や海域から過激派は完全に姿を消した。




申し訳ないですが、次回の更新については諸事情により、4日~6日程間が開きます。


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皇国の行く末

 ミリシアルの第一外洋派遣艦隊(空母アロンダイトの艦載機)の活躍で、軍港周辺の空域や海域より過激派が消え去り、陸の方でもパーパルディア皇国陸軍精鋭部隊の奮戦により大勢が決して(過激派が壊滅して)しばらく経った頃、ルーンポリスのアルビオン城にて皇帝含む、ミリシアルの重鎮が多数集まる会議が行われていた。

 

 主な議題としては2つあり、1つは今後のパーパルディアとの付き合い方をどうするか、と言うものである。

 

 最終的にミリシアル側に人的被害はなく、駐帝国パーパルディア大使を通じた謝罪もされている上、皇国として国を挙げた行為ではないと情報がもたらされていた。

 更に、日本国民虐殺やフェン王国での行為に対する賠償も、要相談なもののさせられると決まっているため、変に追い詰めて経済的ないし物理的に滅ばれても困ると考えている。

 

 それ故に国交を絶ったり、両国の経済的交流を大きく制限する強力な制裁を下す、そのような案は出ていなかった。

 

「うむ、最悪の中の最高となった訳なのだな」

「はい。ですが、第一外洋派遣艦隊の活躍により、駐皇国大使含め我が国の民に死傷者は居ません。日本国の外交官2名も、一切の怪我はなかったようです」

「それは良い事だ。しかし、狙いすましたが如きタイミングでの襲撃とは、皇国過激派も中々やってくれるではないか」

「全くです。当然、全員ではないと理解自体はしていますが、かの国の高すぎるプライドにはほとほと呆れ果てますよ」

 

 しかし、一部過激派の行動がパーパルディア上層部の意思に反していたり、ミリシアル側も襲撃の可能性ありと思いつつ派遣を選んだ点があったにせよ、今回の事件は到底笑って許せるレベルではない。

 

 過激派の最優先始末対象は友好国(日本)の外交官だったにしても、事が進めば自分たち(ミリシアル側)すら危なかった訳である。

 

 各方面からの情報収集の結果仕入れたこの話を聞けば、皇帝やリアージュを筆頭とした重鎮の顔に、呆れや怒りなどの感情が見て取れるようになるのも、当然の摂理と言えるだろう。

 

「と言う訳で皆様、今回の状況からしてパーパルディア皇国には、抗議と再発防止策の徹底要請、使用した弾薬や燃料費の一部ないし全額請求を行う方針で進めます。生きていたらですが、過激派の首謀者引き渡し要求も同様です」

「なるほど。まあ、外務省の案が無難でしょうねぇ」

「また、皇都の大使館の警備についても、大魔導師3名の追加派遣をする予定となっています。第一外洋派遣艦隊も置いておければ良いのですが、如何せん補給や整備面での問題がありますので……」

「第三文明圏で距離が遠く、そもそも仲介依頼がなければ派遣する理由もなかったからな。そこは致し方ないか」

 

 で、人的被害や物的被害は皆無ではあるものの、武力を以て帝国民(大使一行や軍人)を害そうとした事は間違いないため、相応の補償をさせる案が出るのも当たり前だ。

 

 なお、それ以外にも皇国内に仕事や旅行などで滞在中の帝国民に対しての注意喚起、両国の優秀な魔導技師同士の交流会中止、国交樹立記念イベントの延期ないし一部変更など、今回の事件を受けて大きく路線を変更せざるを得なくなった事柄も多数存在している。

 

「リアージュ、日本国とパーパルディア皇国の講和条約締結に向けての仲介はどうなっている? こんな事件があったのだ、路線変更があってもおかしくはないだろう?」

 

 そして、もう1つの内容は過激派襲撃事件を受けて中断された、日本とパーパルディアの講和条約締結の仲介依頼についてである。

 

 本来であれば、他国同士がどんな条約をいつ結んだとか結果がどうなったか、そのような話を重鎮が集う会議の場でする事はない。時間は有限であり、各々勤めている部署での仕事に忙しい中集まっているからだ。

 

「それについては問い合わせたところ、連絡がありました。両国共に基本の路線変更はないようです。ただ、事件の影響か再調整はするとの事でして、また話し合いを我が国で行いたいとも」

「そうか。なら、カルトアルパスを場所として提示してやれ。細かな調整は任せる」

「了解しました」

 

 ただ、ことこれに至ってはパーパルディアからの仲介依頼により、条約文章には関わっていなくても、仲介人としてある程度の関わりは持っている。

 

 日本との講和に断固反対の立場を取る、過激派による襲撃事件に巻き込まれたのもあり、会議の議題に出てくるのも何らおかしくはない。

 

「話は変わるが……日本のフェン王国での戦績は凄まじいな。確か、こんごうとか言う船もイージス艦だったか? アルネウス、魔帝の対空魔船とどちらが上なのだ?」

「駐日大使が日本国の書店で手に入れた書物と、現状稼働中のユニバース級対空魔船『ディアン』で見比べた場合ですが、総合的に見れば互角かと」

「互角か。極めれば、魔法を使わずに魔帝と対等の力を持つ艦を造る……科学も侮れん。と言う事は、数十年も経てばムーも魔帝並みになるだろうな」

「間違いないでしょう。しかし、いずれ復活するであろう暴虐の国に対抗可能な勢力が増えたのは、嬉しい事です。是非とも、日本との交流を深めていきたいと思います」

 

 主な2つの議題に関連した話し合いが終わった後は、日本の外交官が乗ってきた艦船がイージス艦だった事から、日本についての話で持ちきりとなった。

 

 各種技術力では魔帝とほぼ同等でありつつも、魔帝のように国民性が地獄みたいではなく、ミリシアル他強く関わりのある異世界側の国から見れば、無闇に力を振るわない穏やかで関係を持つには良い国との評価をされている。

 

 しかし、ロウリアやパーパルディアのように一線を超え怒らせてしまえば、人が変わった容赦のない振る舞いを見せる、恐ろしい国とも少ないが思われていた。

 

 まあ、それでも魔帝は言わずもがな、グラ・バルカス他の蛮族国家が行うような鬼畜行為はせず、怒りの沸点自体も異世界人基準でかなり高いため、距離をおこうとする国は一部を除いて存在していないが。

 

「さてと、他に話しておきたい事がある方は居ますか? 居なければ、これにてお開きと致しますが」

 

 そんなこんなで、今後の関係構築も含めた会議を続ける事2時間半、話す事もあらかた話し終えたタイミングで、皇帝の隣に居た側近の発した一言によって会議はお開きとなった。



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歴史の転換点

 皇帝ルディアスが、パーパルディア皇国内から過激派の一掃に成功してから2ヵ月と4日後、大なり小なり講和条約に関わる3ヵ国の都合がついた事からエルトとその秘書は命を受け、カルトアルパスへと派遣されていた。

 

 過激派襲撃事件があった日に決めた事の再確認と調整はすぐに終わったため、日本やフェンに支払う賠償金の額、テレビ放送やラジオないしそれらに相当するもので公式謝罪を行う日の策定など、要相談項目についての話も流れで殆んど済ませている。

 

 これにより、相当な額の金銭が消えていく事にはなるものの、パーパルディアの年間国家予算から比べてみたら、まだ大した被害は受けていなかった。

 技術力や精神性などが、日本や現存する各列強に追い付いていないだけで、国力そのものは目を見張るものがあるのだから当然だろう。

 

「全く、どうして私ばかりが損な役回りを担わなければいけないんでしょうか。思い返せば、日本国の案件以前もそんな事ばかりでした」

「エルト様、何だかんだで上手く纏められる方ですし。こと外交に関しては本当に」

「皇帝陛下が信頼して下さっているのは嬉しいですけど、これからの皇国は大変ですよ。何もかもが大きく変わりますから」

「違いないです。まあ、日本国に加え神聖ミリシアル帝国も、相応の支援はしてくれるようですが……苦難の連続になりそうで」

 

 しかし、周辺の文明圏外国家との関係は言わずもがな、属領ですら私腹を肥やすがために皇帝の指示以上の事をしでかしたり、隠蔽体質の役人がのさばっていたのが原因で、壊滅寸前まで追い込まれている。

 

 故に、それを後世への(条約遂行の)憂いと判断した日本やミリシアルが条約文そのものには入れずとも、彼らとの関係回復や国家政策の大幅変換を約束させてきたため、必要費用が想定より大きく跳ね上がる事となってしまったのだ。

 

 周辺諸外国には各種侵略行為への謝罪と賠償、属領に対しては完全な独立を保証するか、外交権を除く各種権利を保障した上でパーパルディアの1州として過ごすかの2択となっている。

 今までの性格からして、そう易々と変えられるものではないのだから、当然苦労する事となるに違いない。

 

「ええ。それに、後少しで始まる調印式を済ませた後は新設される『中央外務局』局長として、早速動かなければなりませんしね。今までの皇国の振る舞いからすれば、この程度と思うかも知れませんが」

 

 なお、日本国や各列強国との交渉実績を含め、エルトは数々の大小含めた功績がある有能な人物であるため、これから大荒れとなるであろうパーパルディアの外交を一挙に担う役所の長として、活動する事が確定していた。

 

 なまじ1人でも皇国のエリート数人分かそれ以上の働きをする上、澄まし顔で相応の成果も必ず持ち帰ってくるため、皇帝含めて周りからはどれだけ任せても余裕がありそうだと思われている。

 

 ただ、実際はそれ程余裕がある訳でもなく、優秀かつお節介な秘書の手助けで、()()()余裕と思える領域にまで持っていけてるだけではあるのだが。

 

「失礼します。エルト様方、もうそろそろ調印式が始まりますので、準備の程をお願いします」

「了解しました。ルーナスも、準備は良いですか?」

「はい。こちらも準備は出来てます」

 

 市庁舎の中で行われた話し合いと調印式までの時間(合間)、エルトと秘書の『ルーナス』が休憩室で会話をしていると、調印式で司会を勤めるミリシアルの役人が呼びにきたため、2人は彼の案内で会場へと歩みを進めていく。

 

 既にやる事は全て済ませていて、後はミリシアルの仲介人や日本の駐ミリシアル大使、両国の国営放送記者などが見守る中、条約文の書かれた書類にサインをするのみではある。

 

 だが、両国の記者を通してとは言え、多数の一般人から見られながらサインするも同義である。

 エルトとルーナスが会場に行くまで色々と考え込んでしまっているものの、ラジオやそれに類するものを含めれば更に多くなってしまう訳で、無理もないだろう。

 

「これより、日本国とパーパルディア皇国の講和条約調印式を執り行います」

 

 会場に居る人物からの注目を浴びつつ、先に座っている日本の外交官に会釈してから用意された席に2人が座ると同時、司会者の一言によって調印式が始まった。

 

 パーパルディアはともかく、日本に関しては国の位置によって文明圏外に区分され、かつ地球からの転移国家なため、異世界国家にとっては知名度が低い。

 なので、ここ最近急激に存在感を増してきたとは言えど、放送を見聞きしている知らない人のために、軽めの国家紹介が序盤に入れられている。

 

「日本国の皆様に対し、調印前に全権使者の私から先に申し上げます。こんな一言()()で許されるとは全く考えてはいませんが……遺族の方々、大変申し訳ありませんでした」

 

 次いで、日本とパーパルディアのフェン王国とその近辺海域・空域での戦闘から、講和に至る経緯の説明がなされ、さあ調印となった際にエルトが立ち上がり、カメラに向けて頭を下げた。これも全て、調印式の話し合い時に予定された流れだ。

 

 だが、その後にエルトがルーナスより渡された紙に書かれた、周辺国への技術支援や奴隷として皇国に強制的に渡った者を、無条件かつ賠償金と共に全員元居た国へと返すと宣言した事については予定になく、日本側を含む全員が驚きを以て彼女に視線を送った。

 

 無論これらについては当然講和条約の中に入っておらず、仮に達成せずとも制裁が下される事はない。

 ちなみにこれは、マイナスに振り切った印象を僅かでも戻せるようにと、ルディアス他穏健派皇族による指令があった故の行為である。

 

「それでは、日本国とパーパルディア皇国の皆様。書類にサインの程をよろしくお願いいたします」

 

 そして、エルトの話が終わってからは日本より派遣されてきた2名の全権使者から、講和条約の書類に同意する旨のサイン記入が始まる。

 

 万が一、記入場所を間違えると効力が発揮されなくなってしまうため、たかが十数秒とは言え感じる緊張は凄いものではあった。当人だけでなく、会場に居る皆も同様であったが。

 

「ありがとうございます。皆様、どうかこれからの行く末を見守って頂けると幸いです」

 

 こうして、最後にエルトが書類にサインを記入し終えたこの瞬間から講和が成立、パーパルディア皇国の歴史の転換点となった。



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海中の憂い

 ミリシアル政府の人的・金銭的支援により、ここ数ヵ月で魔導電磁レーダーの生産体制構築率が5割に達し、記念すべき初の国産魔導潜水艦『シーハイド』の完成や魔音波発探知装置の解析が終了するなど、調子がすこぶる良い時が続いていたとある日の昼間、仕事場にて私はビアへ相談を持ちかけていた。

 

 内容は、彼女含めた何人かの優秀な部下の子たちに、防空巡洋艦や対空装備の研究・製造指揮を完全にではないにせよ任せ、自分は別の何人かと共に魔導潜水艦や駆逐艦、対潜装備の研究・製造指揮により一層力を注ぎたいと言うものである。

 

「海中の脅威? 巨大海魔は確かに脅威だけど、そこまで言うって事はもしかして、潜水艦?」

「その通りです。ビアさんは、マグドラ群島ってご存知ですか?」

「うん、知ってる。私のおばあちゃんがその中の有人島『フォグ』出身だから、良く話を聞かされてたし……何かあったの?」

 

 無論、それに至る理由は存在している。魔導通信から、アルネウスさん経由で国防省の『アグラ』さんより、可能なら対潜装備や艦船、魔導潜水艦の建造にもっと力を入れてもらえないかと依頼されたからだ。

 

 何でも、ここ最近マグドラ群島近辺海域の巡回兼訓練を行っている『第零潜水駆逐隊』より、所属不明の潜水艦を2隻探知したとの報告が1度挙がっていたらしい。

 

 その際、装置の解析が完了した事によって修理だけでなく、体制が整えば生産すら可能となっているので、発掘してすぐ使える状態だったものを搭載して待機中だった2隻の駆逐艦は、第零潜水駆逐隊を構成する艦として活動を開始していた。

 

「確か、潜水艦を持っている国ってミリシアルと日本だよね。でも、日本が領海侵犯するはずないとなれば……」

「確証はありませんが、可能性としてはグラ・バルカス帝国が1番高いでしょう。かの国の事ですし、何かしら活動をしていてもおかしくありません」

「そっかぁ……」

 

 お陰で、指向性を持たせたアクティブソナー音を出しつつ追いかけ、撃沈するかしないかギリギリの場所で魔導爆雷を投下、脅して領海から追い出したため被害をゼロに出来たとの事だけど、海中に味方ではない潜水艦が居るなんて、冷や汗ものでしかない。

 

 だからと言って、第零潜水駆逐隊を常時巡回させておく訳にもいかないだろうし、魔帝のセイド級対潜魔船『シービス』は万が一損傷してしまえば、魔音波発探知装置以外を修理する事は現時点でほぼ不可能なのだ。アグラさんがそう頼んでくるのも、当然の摂理と言える。

 

 なお、当時は水平線を見渡す限りでも艦影はなく、旗艦のシルバー改級魔導巡洋艦『ロイヤー』に搭載された高出力魔導レーダーにも、ミリシアル以外の航空機が領空内に居る様子は見られなかったとの事。少なくとも、即戦争をしに来た訳ではなかったようだ。

 

「オロールさん。貴女の頼み、了解したよ! 世界征服を企む国の潜水艦が、知らず知らずの内にすぐそこまで来ているかも知れないともなれば、断る訳にもいかないしね」

「ありがとうございます、ビアさん。後々私からも声をかけますが、もし良ければあの子たちにも伝えておいてくれますか?」

「勿論、その程度なら任せて!」

 

 で、私からのお願いに関してはビアが即了承してくれて、防空巡洋艦や各種対空装備の研究開発・製造指揮については心配要らなくなったため、今度はこの事を私と一緒に動いてもらう予定の子たちへ伝えるべく、学院内を探し回りにこの場を後にした。

 

(焦らず冷静にって言ったって、私には……でも)

 

 数ヵ月前、日本とパーパルディアの講和条約締結のため、派遣された第一外洋派遣艦隊を過激派が襲ったと聞いた時はかなり驚いたものだけど、今回のこれはそれを凌駕する位の驚きと焦りが私の心を埋めている。

 

 古代発掘兵器を除けばミリシアルと普通に張り合える程の技術力、もはやおかしいとしか言い様がない程の国力(物量)、講和条約締結前のパーパルディアみたいな思想と鬼畜の所業、これらが揃えば無理もないだろう。

 

 それ故に、明日から5日間も定期的に行う身体検査やカウンセリングのために通院する時間込みで、休日を申請してしまった事を早くも後悔し始めてきたものの、当たり前だがこのまま予定の変更はしない……と言うか、絶対に出来ない。

 

 カームや魔導学院の皆、アルネウスさんやメテオスさんとの約束があるからなのは言わずもがな、まさかの皇帝陛下から間接的ではあれど「休める時にしっかり休んでおけ」と、ありがたい一言を頂いているからだ。

 

 魔音波発探知装置の解析完了報告のために、ルーンポリスを訪れた時の出来事なのだけど、何も聞かされていない状態で側近の人から手紙をもらった時は、本当に心臓が止まりそうだったのを覚えている。

 

「ん? あ、オロール技術長。お疲れ様です」

「はい、お疲れ様です。皆様、お仕事中失礼ですが、少しよろしいでしょうか?」

「はーい、どうぞ。仕事中って言っても私ら今、重要なところを終わらしてて少し暇なんで」

 

 頭の中で過去の振り返りをしながら探し回る事15分、建造中の駆逐艦2隻があるエリアに目的の子たちがいたので声をかけ、魔導通信でのアルネウスさんを介したアグラさんとのやり取りを説明し、理解を求めた。

 

 とは言え強制などではないので、無理と答えが帰って来た場合は食い下がらずに引き下がり、色々と厳しくなったのでご期待に添えないかも知れませんと、アグラさんに魔導通信で伝えるつもりでいるが。

 

「そりゃ、断る訳ないじゃないですか。オロール技術長」

「違いないわ。領海内に他国の潜水艦が潜航しながら入ってきてたとか、冗談抜きで大事件だもの」

「よし、私らと他の魔導技師たちでとびきりの奴を作ってやりましょう! ソイツらが2度と馬鹿な真似をしようと思わなくなる程に!」

 

 しかし、私の話を聞いた3人に加えて、その場に居た他の優秀な人たちも賛同してくれたため、これからしばらくは対潜装備や駆逐艦、魔導潜水艦に力を入れていく事が決定した。



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第八帝国

 最弱とは言え、列強であるレイフォルをたった1隻で滅亡にまで追い込んだ伝説(実績)がある戦艦『グレードアトラスター』、この艦船を建造する力を持つグラ・バルカス帝国は今現在、軍関係者や情報局『バミダル』や部下の『ナグアノ』と言った人物を中心にかなり騒いでいた。

 

 何故なら、世界征服の野望で最大の障壁と判断した神聖ミリシアル帝国が、当初の想定以上に脅威的だと判明してしまったためである。

 

 列強以外は考えるまでもなく、その列強もレイフォルとパーパルディアは論外寄り、エモールは航空戦力が厄介な可能性があると言うのが、グラ・バルカスの大まかな認識である。

 

 また、ムーは現時点で圧勝出来るにせよ、発展性と技術者の優秀さが凄まじいため、油断は禁物との論調が根強い。

 そして、ミリシアルは自国と同等の大きさを誇る戦艦(ミスリル級)や空母・巡洋艦を建造でき、駆逐艦や潜水艦はかなり少ないとの情報から、本気で戦えば損害は出ても勝てはすると考えていたのだ。

 

「未だに魔法とやらの原理は理解出来んが、ミリシアルの国力はかなり高い事だけは確かだ」

「はい。特に、艦隊の中でも目測270m前後の巨大戦艦(ヴァーテイン)や情報の中にあった巨大空母(アロンダイト)、搭載されていたと言うプロペラのない機体……1隻でも厄介なのに、あんなのが複数隻あれば、脅威以外の何物でもないですよ」

「ああ、違いない」

 

 しかし、パーパルディアに派遣されていた、隠密を得意とする諜報員からもたらされた第一外洋派遣艦隊7隻、空母の各種艦載機についてある程度の情報がやって来ていた。

 

 故に、同程度の艦船の1隻あたりの最大建造期間、総保有数やより詳しい性能などによっては、本気を出しても海戦では痛み分けや敗北する可能性すらあるとの認識が、徐々にではあるが広まりつつある。

 

 無論、航空戦力に関しても1機あたりの最大製造期間、総保有数や詳しい性能によっては、空戦でも不利に傾いた状況が更に不利へと傾いてしまう。このように考える人物も、同様に増加の一途を辿っていた。

 

「巨大戦艦は最低でもヘルクレス級2~3隻、もしくはグレードアトラスターを相対させれば良いだろうが……航空戦力は、制空型で目測時速800㎞は出ていたと言う話だから、それを発揮した戦法を取られれば厳しい。低速低空域での格闘戦なら、望みはあるだろう」

「同じく。しかし、相手がわざわざこちらの土俵に立って戦ってくれる道理などありませんし、空戦では正面からの激突は好ましくないでしょう」

「確かにな。だが、いずれ必ず相対する事となる相手、どうにかしていかなければ」

 

 ただ、相手が技術力で自国と同等か()()()()()()()()()()()とは言え、それだけなら短期間の圧倒的物量でどうにかなる。

 

 色々な意味で現実的ではないが、最悪1400隻を超える海軍艦艇や1800を超える航空機の投入が可能であり、大半の国家が持つ防御能力を飽和させる事がグラ・バルカスは出来るからだ。

 

 とは言うものの、魔法は科学と技術体系が異なるが故に、一見同等に見えてその状況をひっくり返す何らかの要素を秘めていてもおかしくはない。

 

 そのような考えも存在していたため、ミリシアルに関しては異なる体系の上に成り立つ文明なれど、脅威度は前世界(ユグド)の『ケイン神王国』を超えると上方修正し、情報収集により力を入れていく事が話し合いにより決定した。

 

「ところで、純科学文明な日本国については何か情報はあるか? ミリシアルの艦隊に混じって、かの国の巡洋艦が1隻居たと聞いているが」

 

 ミリシアルについての話が終わるとすぐ、第一外洋派遣艦隊と共に居た、日本の巡洋艦(イージス艦こんごう)についての話題へと移っていく。

 例の事件以前、ロウリア王国との戦いからの情報収集により、純科学文明かつ転移国家である事だけは判明していたため、それなりに力を入れてはいた。

 

 ただし、あまりにも距離が遠すぎる事もあってか、ミリシアルやムーなどと比べると情報精度は低く、現在の評価は謎が多く脅威度が確定出来ない国と見られている。

 

「あるにはあります。ただ、得ているこの情報の仕入れ元からして、正確性に難がありますが」

「構わないから言ってくれ。どのみち、情報の精査は平行して行なわなければならないからな」

「分かりました。ではこれを……」

 

 しかし、これもナグアノが出した1冊の本や各種資料が提示された瞬間、大きく変わる事となる。日本の艦船や航空機、戦車や各種歩兵装備も勿論だが、中でも誘導弾(ミサイル)やこんごうを含めたイージス艦の性能が彼らにとって、もはや空想の領域に達していたからだ。

 

「これが科学……嘘だろう? 魔法でなくてか?」

「確かに、魔法なら出来てもおかしくはないでしょう。同様に、科学でも出来ない道理はありません。現に我が国でも、70~80年前の戦列艦が主力だった時代から、ここまで進歩してきたので」

 

 概念すらなかった兵器もいくつかあるものの、前世界ではそんな事をせずともライバルであった国々に、勝利し続けてきた経歴を持っている。

 自国を仮想敵として軍備を強化しているにせよ、地球とは訳が違うのだから無理もないだろう。

 

 しかし、今世界では自国を打倒し得る国が2つ……ミリシアルと日本があった。そして、日本の民間書籍からいくつかの兵器の概念を得る事も出来た。

 故に、今日まで大きく不足していた次世代を追及する力も、少しだが磨く事も出来ている。

 

「ああ、言われてみればそうか。しかし、そうなると日本国と我が国は70年~80年も差がある事になってしまうな……ナグアノ。ミリシアルと同じかそれ以上に、情報収集に力を入れるぞ」

「分かりました」

 

 そして、ミリシアルすら大幅に上回る科学の極致とも呼べる国家なのが事実か否か、より精度の高い情報を求めるべく、力をより一層入れていくと決定された。



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不穏な影

 対潜戦闘の要となる駆逐艦や各種装備、魔導潜水艦の研究開発・製造指揮に力を入れ始めて3ヵ月が過ぎた頃、とある出来事の発生が原因で、学院含むミリシアルの軍事関連施設の警戒態勢がより一層厳しいものへと変化していた。

 

 大抵の人が寝静まる時間帯であろう真夜中に、どう見てもその道のプロ(特殊工作部隊)と思わしき人物が4人、私の職場である学院内へと侵入してきたと言う、1週間前に起きた事件が原因である。

 

 結論から言ってしまえば、不届き者4人の内2人はミリシアル陸軍の『重要拠点警備隊』により、逃亡を許されずに確保された。残り2人については、銃撃戦の果てに死亡が確認されているようであり、軍事情報流出などと言った被害も、確認された範囲内では一切なかったとの事。

 

 なお、今現在確保した2人の武装を全部解除した上で、結界魔法による拘束もされていて、更なる情報を聞き出す尋問が行われているとも聞いているが、芳しくないらしい。

 

「アルネウスさん。今、()()()()()()()()()()()()、判明したりはしていますか?」

『それでしたら、鹵獲した敵の装備品……これが、()()()()で使用されていたものとそっくりだと判明しています。つまり、グラ・バルカス帝国が仕向けた工作員による仕業、この線が濃厚かと」

「あの鬼畜ば……ふぅ、失礼しました。それで、抗議や賠償などの各種要求は当然行いますよね? まあ、知らぬ存ぜぬを突き通しそうですが」

『勿論です。ただ、こちらとしても準備が整っていないので当分先になりそうですね』

「なるほど。すみません、ありがとうございます。ではまた」

 

 しかも、超絶運悪く鉢合わせてしまったと聞いている、夜勤をしていた学院の魔導技師……仲良くしていた部下の『リリア』を含む4人の命が失われ、更に警備隊の人が3人爆弾で重傷を負うと言う、各種報道機関で大々的に報じられるレベルの死傷者まで出てしまっていた。

 

 当時、私自身は長期休暇中の旅行でルーンポリスに居たため、難を逃れていたのだけど、正直嬉しく思えない。

 自分が仕事で学院に居たら、多少の怪我はしててもあの子の命は救えた可能性が、少しだけあったのだから。

 

(ごめんなさいリリアさん、犠牲になった魔導学院の皆……私、頑張るから見てて下さい)

 

 ただまあ、私なんかよりも遥かに辛い思いをしている人、彼女の両親の憔悴しきった表情を見ているので、今は相対的に辛さは消えている。むしろ、俄然皆を守ってみせようとする気が漲っている。

 

 具体的には、ミリシアルのあらゆる軍用艦船に使われている高出力装甲強化システムの術式、これを軍事関連の施設で働く人の衣類に応用出来ないかどうか、研究を行うなどだ。

 

 後は、私の家に保管されている私独自の『結界魔法理論書』をコピー、それらを優秀な各学院の大魔導師やメテオスさん他魔帝対策省の面々に送付、場合によっては解説しに訪ねたりする事である。

 

「にゃー?」

「ああ、ごめんねルーちゃん。私は大丈夫。いつもありがとう」

 

 無論、私には一切の手抜きが許されない非常に重要な本業があるため、前者の事柄に対してはどうしても片手間になってしまう。

 不可能だと言う証拠はないものの、時間をかけにかけた挙げ句やっぱり出来ませんでしたとなる可能性が、なくはなかった。

 

 しかし、やらなければやらないで私が参ってしまう。だから、皇帝陛下や付き合いのある皆との約束はしっかりと守りつつ、無駄を極力減らして時間を増やし、更に安心して仕事を行える環境作りを行っている。

 

『あー……もしもし、オロールさん。ミリシアル政府の者です。いらっしゃるのであれば、お返事をよろしくお願いいたします』

 

 自分の家で、飼い猫のルーちゃんに餌をやったり戯れたりしながらのんびり過ごしていると、備え付けている魔導通信装置から声が聞こえてきた。

 

 何の用事かは不明なものの、ミリシアル政府からの会話を求めてくる時は、決まってかなり重要な用件である事が殆んどである。

 その上体調が絶望的に悪い訳でもないのだから、当然出ないと言う選択肢はない。

 

「お待たせしました、オロールです。相当に重要な用件でしょうか?」

『そうですね。実は……』

 

 装置のボタンを押し、ミリシアル政府の人にどうしたのかと聞いたところ、案の定相当な重要案件であった。

 簡単に言えば、私が関わっている仕事が仕事なだけに万が一を考え、家に魔甲スーツと低反動9.1mm魔導短機関銃、各種魔導手榴弾を装備した、ミリシアル陸軍6名の警護をしばらく置きたいと言うものだ。

 

 そして、比較的家の敷地が広いが故に庭にテントを張ったり、警護に必要な物資を置くための場所を貸して欲しい旨も伝えられた。

 保管場所を敷地外にして、いざと言う時に役に立ちませんでしたとなったら洒落にならないし、当然の摂理だと言えるだろう。

 

 ちなみに、外出時は護衛を1人ないし2人つけるか、外出時の結界魔法展開を確約してくれれば、特段制限などはかけるつもりはないとの事。

 まあ、仮に仕事時以外極力家にこもれと指示されたとしても文句はないけど、制限はないならない方が断然良いので当たり前だ。

 

「情勢が情勢なので構いませんけど、テントで良いんですか? 仮眠なり普通の睡眠を取るなり、その時位家に入っても私的には別に良いですよ。手榴弾系の爆発物の管理さえ、しっかりして頂ければ」

『了解しました。3日以内には派遣致しますので、それまでは念のためいつもより気をつけてお過ごし下さい』

「はい、分かりました。警護の方には、是非ともよろしくとお伝え下さい」

 

 多少過剰な気がしないでもないけど、これを断るに足る理由は一切存在していない。そのため、家への警護人員派遣を私はお願いする事を決めた。




各種事情により、次回の投稿は5日空く予定です。


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火種への着火

隙間時間での執筆が思いの外進んだので、早めに投稿しました。


「見えてきたな。しかし、もうすぐ会談か……正直、難航する気しかしない。むしろ、やるだけ無駄かも知れん」

「ええ、同感です」

 

 官民問わず、ミリシアルにとって衝撃的な事件が起きてから1ヵ月弱、政府は情報局員を含めた4人の職員をミスリル改級魔導戦艦『グニール』に搭乗させ、護衛の4隻と共にグラ・バルカス帝国との外交窓口があるレイフォル行政府へと向かわせていた。

 

 目的としては、例の事件(カルトアルパス魔導学院襲撃)に関わっていた点は言わずもがな、その影に隠れた複数の各種工作にもしっかり関わっていた確証が取れたため、それらに対して報いを受けさせる事がある。

 

 ついでとはなってしまうものの、西方国家群への侵略行為や非人道的行為の即刻停止、それらに対する謝罪と賠償の要求も併せて行う予定となっていた。

 

「どうした、サテラ。何か心配事でもあるのか?」

「シワルフさん。えっと、リリアさんの遺族の方が開いた会見、思い出してて」

「あれか……心苦しいな。涙を流し、震えながら「私の娘を返せ、返せよぉ!!」と叫んでいたあの光景で、一挙に世論がグラ・バルカスを脅威的な敵国と認定する方に舵を切ったが、納得でしかない」

「私もそう思います。彼らには、相応の報いを受けてもらわなければなりません」

「全くだ。かの国の過剰なまでの覇権主義は、脅威に値する」

 

 例の事件が起こるまでは、グラ・バルカスに対しては脅威かも知れない程度の認識であり、外交使節団4人含むミリシアルに住まう人々はどこか他人事でいた。世界最強の国に、そんな愚かな行為を働く者や国家が存在した歴史はないのだから仕方ない。

 

 しかし、今回は歴史上初めてかつ犠牲者まで出た事もあり、ミリシアル全体としては当然の事ながら、特にカルトアルパスに住まう人々に危機感を強く与えている。

 

 結果、政府としてもカルトアルパスはもとより、各魔導学院や機密度の高い施設へ重要拠点警備隊を追加で派遣、出入りする際のチェックもより厳しくする命令を出している。

 無論、それに伴って増えていく費用にも、政府からの補助金支給などで対策されているので、そこそこ手間暇かかるようになる事を除けば、問題はさほど生まれたりはしていない。

 

 また、こんな事をする位なら不意打ちで艦隊による攻撃を仕掛けてくる程度はしそうだと、皇帝を含む政府上層部は考えていた。

 

 そのため、軍事費の追加や防衛体制の強化に加え、技術体系は違えど自国以上に優れた技術を持つ日本との交流についても、軍事民事問わず強化していく方針が固まっている。

 

「あなた方がミリシアルの使者か。緊急で話がしたいとの事らしいが、我が帝国の軍門に降る気にでもなったのか?」

「「「……」」」

 

 そんな中、長い航海の果てにレイフォル行政府へと到着した一行は、事前に魔導通信で連絡を受けていた行政府職員の案内を受けて外交官が待つ建物へと向かうも、そこで相対した『ダラス』の態度が予想外にも程があったため、言葉を失ってしまう。

 

 ミリシアル側は、彼らに今までの立ち振舞いから紳士的な対応を端から期待してはおらず、魔信での連絡時に詳しい会談理由を述べていなかった。

 しかし、来て早々軍門に下りに来たのかと尋ねられるとは、大半の人は予想出来ないだろうから、致し方ない。

 

「何をどうしたらそうなるのか理解に苦しみますが、違います。我が国が今日ここに来たのは、貴国にいくつか要求……いえ、命令をするためです」

「ほう。港の戦艦と巡洋艦、駆逐艦3隻を見るに我が国に迫るか同等の技術を()()()()()()()()()()()ようだが、それで思い上がったか。まあ良い、とにかく命令とやらを言ってみろ」

「……では、これをご覧下さい」

 

 今日までされた事のない態度に、情報局局員のサテラやザマス、技術開発部のゴルメスは当然として、西方国家との外交を担当するシワルフも不快感を露にした。

 が、すぐに落ち着きを取り戻し、1つの書類を取り出してダラスへ見せたところ、今度は彼の方がそれ以上の不快感を露にし始める。

 

 例の事件含めたミリシアル国内での敵対行為、西方国家群での侵略戦争や非人道的行為の即時中止、加えて生じた損害に対する謝罪や賠償を行えと、命令口調で述べられていたので仕方のない話だろう。

 

 なお、この様子を目にした4人は既に()()が断られる未来を想像していたものの、一抹の希望がない訳ではなかったので何も言わずに待つ。

 

「ハハハ! そんなもの(ミリシアルへの工作)は知らん。後者の方は考慮するまでもないな……断らせてもらおう。世界征服は皇帝陛下の意思、例えあなた方にそう言われようとも止める訳にはいかないのだ」

「そうですか。もう1度窺いますが、本当によろしいのですね?」

「くどいぞ。何度問われたところで、我々の返答は変わらん!」

「分かりました。それが貴殿方の意思と言う事で、皇帝陛下に伝えておきましょう」

 

 しかし、案の定渡された書類を一通り見渡したダラスは、笑いながらそれをシワルフへと突き返し、断る意思を明確に示してしまった。この瞬間、本格的にグラ・バルカスとミリシアルの対立が確定してしまった訳である。

 無論、そうは言ってもお互いに殲滅戦を行うつもりは微塵もないので、降伏方法などの議論も軽くではあるものの行われた。

 

「我が国は、貴国のような下劣な侵略者に負けはしませんよ」

「ほざいていろ。そちらこそ、後で泣きついて来ようと知らんぞ」

 

 こうして、すべき事を済ませたミリシアル使節団の4人は、足早に応接室を去っていった。



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警戒する日本国

 神聖ミリシアル帝国と、破竹の勢いで侵略戦争を進めているグラ・バルカス帝国が戦争状態へと入ったと言う、衝撃的なニュースが世界を駆け巡っていた頃、日本の首相官邸執務室では閣僚たちが話し合いを行っていた。

 

 この世界では自国を除いて最も先進的であり、非常に友好的でもあるミリシアルには、官民問わずに沢山の日本人が滞在している。そんな彼らに対し、避難命令を下すか否かで意見が割れていたのである。

 

「勿論、注意喚起は当然行いますし、駐ミリシアル日本大使館を通した、多角的な情報収集は続けていくのは変わりありません。しかし、現時点では()()を下す域にはないのではと考えます」

「何を言ってるんだ、防衛大臣。フェン王国の件も鑑みれば、すぐに命令を下すべきだろう。適当すぎるのも大概にしたらどうなんだ?」

「それは心外ですね、環境大臣。こちらとしても、何の根拠もなくそう言っている訳ではないのですから」

 

 フェン王国で起こってしまった、当時のパーパルディア皇国による日本人虐殺事件もあり、ニュースが流れてから国内でも渡航を控えるように政府から強く言うべきだとの声も大きくなった。

 第二次世界大戦末期のアメリカ並みの国力と技術力を持ち、当時のパーパルディアに勝るとも劣らない振る舞いをする国が相手であるため、致し方ない面もある。

 

「まあまあ、落ち着きなさい。で、それは何故だ? 防衛大臣」

「地理的要因も非常に大きいですが……グラ・バルカス帝国と通常技術力で互角か若干優位、物量もそれなりにある上、古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)が残したと言う、我々から見ても超兵器と思える空中戦艦『パル・キマイラ』3隻を、戦時中の国土防衛に常時使用すると言ってきたためです」

「なるほど。しかし、古の魔法帝国か……凄まじいな」

「はい。1万年以上も前の兵器を稼働可能な状態で残せるなど、とんでもない技術力です。所有しているのが、かの国(ミリシアル)で本当に良かった」

 

 しかし、ミリシアルも技術体系が違う上に国力(物量)はある程度劣っているものの、総合的な技術力は同等か若干優位であると日本側から判断されている。

 

 それに、ある程度公開しても問題ないとミリシアル上層部に判断されたパル・キマイラ、対空魔船(ディアン)対潜魔船(シービス)の存在、それのリバースエンジニアリングによる技術会得、地理的要素などの要素を加えた場合、差はより広がるとの考えが主流ではあった。

 

 異世界への転移後、出来る限り急いで上げ続けた超高精度人工衛星による監視でも、即座に脅威となる100隻単位での海上侵攻がルーンポリスやカルトアルパス、他港町へ向かう様子も見られていない。

 

 何なら、国交樹立当初から交流を両国政府で積極的に推し進めたのも相まって、今現在では防衛省や自衛隊だけでなく、日本の民間人からも比較的ミリシアルはその力を信用されている。

 

 なので、あくまでも政府からは注意喚起に留め、旅行などで行きたいなら行き先や情勢に気を配りさえすれば良いのではと、そう考える人々が多数派を占めている。

 

「では、政府からは注意喚起に留めると言う感じで良いかね? 無論、情勢の変化次第では色々と変わるところもあるだろうが」

「防衛省としては、それで問題はないかと」

「同じく、外務省としても問題ないです」

 

 結果、防衛大臣の案が大筋で採用される形となり、衛星での監視網を強化しつつ、民間に向けては渡航に対する注意喚起を行う事でひとまずは済まされる事となった。

 

「さてと。続いてはムーについてだが……こちらの方が問題だぞ」

「第一次世界大戦~第二次世界大戦初期の技術力な上に、国境を接していますからね。グラ・バルカス帝国が神聖ミリシアル帝国を攻略するには、必然的にムーの攻略が行われるはずですし」

「むぅ……かの国はこの世界では貴重な科学技術国家、落とされたらミリシアルだけでなく、我が国までも色々な面で脅かす事になりかねんぞ。派遣も検討すべきではないか?」

「しかし、現行の法律ではロウリア王国戦の際ですら拡大解釈だった点を見るに、自衛隊派遣は無理なのでは? まだ侵攻は行われていない上にムーから救援依頼が来ていないので、尚更ですよ。財務大臣」

 

 そして、ミリシアル関連での会談が終了してからは、色々な意味でより危機的状況にある科学技術国家ムーについての話題へと移っていく。

 

 かの国にはミリシアルが所持しているような、少ない数で戦況をひっくり返す発掘超兵器がなかった。

 基礎的な技術力も最高で二次大戦初期と、グラ・バルカスやミリシアルよりも劣っている。

 

 有能な技術者を多数排出し、たった一国で研究開発・発明が出来る大国なため、時間があれば追いつく事も可能と見られているが、グラ・バルカスがミリシアルとの戦争に舵を切った以上、侵攻が始まるまでに恐らく間に合わないとの見方が強い。

 

 そうなると、外国からの救援がない限りは敗北の憂き目に合う確率が極めて高い状態で推移し、伝え聞く暴虐ぶりからしてロクでもない未来になるのは確定する。

 無論、当たり前の如くミリシアルや日本にも飛び火してくる事となると、断言出来てしまうのだ。

 

「とにかく、まずは法律云々から手をつける必要があるな。いざと言う時に動けないとなれば、巡りめぐって我が国の首を締めるだろう」

 

 そのため、この場に居る閣僚たちと同様の考えを持つ総理大臣の一声により、万が一に備えてこれまで以上に動いていくと、この閣議で決定される事となった。



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世界最強の行進

 誰からであろうと、また何万何億回同じ事を尋ねられようと、私は神聖ミリシアル帝国とそこに住まう人々を、心から愛していると言えよう。無論、恋愛的な意味ではなく、家族愛的な意味だ。

 

 そして、如何なる理由があろうともこの国の人たちが理不尽に傷つき、命を失う光景は見たくない。当然だけど、故意に傷つけるような輩はそれ相応の報いを受けるべきだと思っている。

 

「とうとう向かうんですね、ラーテイさん」

「ええ。相手が相手、きっと厳しい戦いになるでしょう。もしかしたら、2度と帰って来れないかも知れません」

 

 だから、地理的要因からとばっちりで侵略を受け始めたムーからの救援依頼を受け、救援に向かおうとしているミリシアル軍の皆を見ていると、引き留めたくなる衝動に駆られてしまう。

 

 しかし、まかり間違っても行かないでとは言わないし、言えない。表向きの理由はともかくとして、私を含めたミリシアルに住まう民に災禍が降りかからないように行くのだし、そんな彼らを止めると言う事は、私自身がいずれ直接手を下すのと何ら変わらないのだ。

 

 それに、余計な事を言ったが故にもう既に覚悟を決めている、派遣軍総司令官のラーテイさん以下多数の軍人さんたちの精神を乱す可能性だってあるだろう。なら、尚更ご法度な行為だと断言出来る。

 

「遅かれ早かれこうなるから、私は戦争は大嫌いです。何もしていなくてもある日いきなりやって来て、抗えなければ理不尽に命を危機に曝し、果ては家族の命を無惨に奪っていくのですから」

「ええ。だからこそ、弱き民を災厄から守るべく軍人になった自分が国の盾となり、死の恐怖に耐えつつ、相手が敵とは言え命を直接間接問わずに奪う咎を、背負わなければいけない」

「……強いですね」

 

 ちなみに、グラ・バルカスがミリシアルに対して宣戦布告を行った、私が最も来て欲しくないと願っていたその日から、今日でちょうど5ヵ月である。

 ムーへの空母機動部隊を含む大艦隊(100隻超え)の派遣、元レイフォルとの境からの機甲師団の電撃侵攻、これが始まったのもほぼ同時期だ。

 

 なので、ミリシアルが派遣する戦闘艦も最新鋭から旧式艦艇を含めた115隻と、保有総戦闘艦数のおよそ2割を誇っている。

 なお、内訳は魔導空母5隻に魔導戦艦9隻、防空や対潜を含めた魔導巡洋艦40隻に駆逐艦61隻だ。

 

 無論、長期戦に備えた補給を行う魔導補給艦、陸軍の兵士や陸戦に必要な兵器を輸送するための魔導輸送艦も相応に派遣されるため、派遣総艦艇数はかなり多くなっている。

 

「ですから、ラーテイ司令官を含めた皆様に私から贈る言葉はこれだけにしておきましょう……()()()()()()()()()()()()()

「当然ですよ、オロールさん。覚悟は出来ていると言っても、俺含めた奴ら全員負けるつもりはおろか、死ぬつもりもありませんから」

「そうだぜ! 時間はかかるだろうが、きっと帰って来てみせるから待っててくれよな!」

「……ええ!」

 

 ここまで色々と考えながらラーテイさんと会話を交わしつつ、あまり引き留めていくのも申し訳ないので、簡単な一言を最後に送って最後とした。

 

 人の命など紙切れの如く簡単に散りかねない、戦闘の前線で命のやり取りをミリシアル軍の皆が行っている間、分野も場所もまるで違うけど、私も持てる力を最大限に発揮させなければならない。

 戦時体制に入り、費用も人員も平常時より沢山融通してもらっている以上、至極当然の話だ。

 

「オロール、大丈夫……じゃないか。愚問だったわ、ごめんなさい」

 

 そして、国内最大級のルーンポリス海軍基地とその周辺に集まった多数の艦船が、水平線の向こうに隠れて見えなくなるまで手を振り続けていると、一緒に見送りに来ていたカームに目元をハンカチで拭われた。

 

 彼らが居なくなったから、分かってはいても最悪の未来をどうしても想像してしまい、かなりの量の涙が溢れてきていたからだろう。まあ、そこまでしてもらわなくても自分で拭えたし、現に拭おうとしてたのだけど、別にわざわざ言う必要もないから言わないけど。

 

「ううん、謝らないで良いよ。カームは心配してくれただけなんだしさ」

「ありがとう。それにしても、あの話には驚いたわね。何かと軍の派遣に消極的な日本国が、自衛隊を派遣するだなんて」

「事前の命令で避難し切れなかったかしなかった、ムー国内の日本人が結構居たみたいだし、だからだと思う。まあ、他にも色々と派遣を決定した理由はあるかもだけど」

「ミリシアル軍も居るし、そもそも魔帝並の軍事技術力を日本は持ってるから、多少は安心したのだと思うわ。きっと」

 

 しかし、ミリシアル軍の皆を援護するためではなく、自国民の保護や救援依頼があったためではあれど、日本が自衛隊をムーに派遣する話を聞いてはいるので、状況は最悪の中の最善と言ったところではある。

 

 この手の事案だと、日本の場合結構意思決定に相当時間をかけたのかと思ったものの、カームが他2人と共に日本人へ質問した時曰く「全力で各所の憂いを消したから、割とそうでもなかった」と、日本政府側から返答が帰ってきたらしい。

 

 まあ、ムーが陥落してしまうとミリシアルはもとより、日本にとってもかなり大きな損失になるのだし、モタモタしている暇はない。どのような手段で派遣にこぎ着けたかは不明なものの、出来る限り日本の民間人が生存してくれているのを願うばかりだ。

 

「さて、これから私も頑張るか……!」

「ふふっ。応援しているわ、オロール」

 

 そんなこんなで、私自身も出来る事をしっかりやろうと決意を固めつつ、全ての艦船が出払った後のルーンポリス海軍基地を立ち去っていった。




宣言ギリギリの投稿となってしまい、すみませんでした。


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マイカル沖大海戦(導入編)

アンケートがありますので、気が向いたら回答して頂けると助かります。


 心地よい海風が吹き、ほぼ雲もなく波も穏やかなとある大海原にて、ミリシアルの戦闘艦115隻を含めた他多数の補給艦や輸送艦を擁する艦隊は、ムーの湾岸都市『マイカル』へと向かっていた。

 

 各所からもたらされた情報より、敵の数が最も多い上に自国の民間人が、首都『オタハイト』に次いで多いと知ったためである。

 

 ミリシアルを攻略するための前線基地として、理不尽な戦争を仕掛けているグラ・バルカス帝国海軍はマイカル以外にも、オタハイトを含めた大小様々な港町、陸軍はアルーの街やその周辺の市町村へ襲撃をかけている。

 

 侵略を止めさせるためには、攻撃されている全ての場所で帝国軍を排除しなければならず、いくら大艦隊を派遣してきたとは言え、ミリシアル軍だけでは苦労するだろう。技術力が拮抗しているが故に、尚更その傾向が強い。

 

「ふぅ……何と言うかまあ、良い天気だな。本来船旅は楽しいもんだが、嬉しくないな」

「私たちが乗っているのは戦艦で、航行の目的がグラ・バルカス帝国軍との戦争ですもんね」

「全くだ。共闘する訳じゃないが、日本が居なけりゃもっと地獄だったよ」

 

 しかし、幸か不幸かオタハイトには日本国海上自衛隊『第4護衛隊群』と潜水艦数隻、補給艦や輸送艦を加えた艦隊が邦人保護などを理由に向かっていると、日本政府より知らされていた。

 

 更に、グラ・バルカス帝国軍は戦力を一極集中させておらず、ある程度各地に分散させていたのも、ミリシアル軍にとっては都合が良かった。

 艦艇や航空機、戦車や装甲車はもとより、それを動かすための人員の損失を抑えられるためである。

 

 複数方向から挟み撃ちなどを受けるリスクはあるものの、物量差さえあればそうなる前に戦闘を終わらせられる。物理的な距離もあるし、ムーの軍隊も死に物狂いで抵抗中なのも相まって、その可能性はかなり高いのだ。

 

「しかし、オタハイトに居る敵軍の数も相当多いぞ。日本の艦隊はたったの11隻、潜水艦も居るらしいが……大丈夫なのか? いやまあ、魔帝と同等の軍事技術力を持ってんのは知ってるけど、どうしてもな」

「心配しなくても大丈夫ですよ、ラーテイ総司令官。グラ・バルカス帝国軍は、日本艦隊には絶対に勝てません。陸上でも、言わずもがなです」

「だよな、リンベル艦長。日本に勝ちたきゃ、陸海空全てで最低でも俺らをほぼ無傷で倒す実力は必要だ。多少、数的に不利であろうと」

 

 ちなみに、ミリシアル航空機への日本製敵味方識別装置の無存在、艦船や航空機や兵器の性能の隔絶した差、両国の法律などの国内的問題、これらの要素から特殊な場合を除き、日本との共闘は行われない。

 

 ただし、自国優先の鉄則は守りつつも、艦船への搭載可能人員や各種物資、時間に余裕があった場合にのみ、お互いの国民を保護する簡単な協定は交わしている。

 言わずもがな、それにかかった費用を後日何らかの形で補填する話も、しっかりと済まされていた。

 

「さて、日本の心配をしてる場合じゃないな。こっちは77隻の敵艦を相手にしなきゃならん。敵空母の艦載機は航空隊が抑える手筈だが、最悪別の場所から来かねないぞ」

「ですね。マイカルだけでも敵空母が4隻居ましたから、他のところにはもっと居る可能性は高いでしょう」

 

 そのため、日本云々よりも技術的に拮抗している自分たちの方が心配だと、旗艦含め派遣艦隊に乗る軍人の間ではそう考えられている。

 

 なお、全力で戦ってさえかなりの劣勢に立たされる程に敵が強かった場合、()()()()()()()()()()を派遣して撤退の手助けをする手筈になっているため、皆の不安はすぐに解消される事となったが。

 

「報告! 空母『アロンダイト』『オートクレール』、および軽空母『フラガラッハ』『アラドヴァル』より先程発艦した航空隊、敵航空機ないし艦船への攻撃を開始! なお、他方を攻撃していた敵からの援軍があまりにも数が多すぎるため、一部こちらにも向かって来られています!」

「ちっ、予想はしていたが……機数と速度は?」

「60機で、660㎞/hです! 更に70機、攻撃機と思わしき機体が550㎞/hで来てます!」

「ジグラント4とほぼ同速の戦闘機か。そこそこ速い攻撃機も数が多い……一極集中している訳でもないのに、なんともふざけた物量だが、雷撃主体ではない事を祈ろう」

 

 すると、艦隊がマイカルまで残り120㎞を切ったタイミング、旗艦の魔導戦艦『トルティン』内はレーダー監視通信員よりもたらされた報告で、緊張感が更に増していった。航空攻撃に来る敵の数が、かなり多いためである。

 

 敵の航空攻撃に備え、各艦の対空能力を最大限に発揮出来るように極大輪形陣を敷いている上、アロンダイト級空母1隻は防空のために戦闘機を丸ごと残してある。

 とは言え、相手との技術力に差があまりない以上、この戦場に絶対はない。この事実が、旗艦含めた艦隊ほぼ全ての乗員を埋め尽くしていた。

 

「よーし。総員、対空戦闘用意! 射程に入り次第、各艦の判断で射撃開始せよ。なお、低空を飛行してくる雷撃機を優先的に落とせ!」

「了解しました……総員、対空戦闘用意! 主砲と魔導対空砲の弾種、連鎖榴雷弾!」

 

 そして、ラーテイ総司令官が魔導通信を艦隊全部に聞こえるように完全開放、指示を出した事により、全ての艦で素早く対空戦闘の準備が進められていく。

 

 魔導電磁レーダー搭載艦も一定数存在し、そうでない艦も高出力魔導レーダーでないよりマシではあれど、敵機を捉えられている。

 各種対空兵器も、日本や魔帝のような誘導性能はついてないものの、同水準の相手からしてみれば十分脅威的な水準に達していた。

 

 航空機に至っては、ミリシアルの攻撃機ですら相手の新型を速度で僅かだが上回っている。

 旋回や加速・上昇性能などは不明なものの、戦法と状況読みを間違えず、油断さえしなければ勝てない相手ではない。

 

「気張れよ、リンベル艦長!」

「はいっ!!」

 

 こうして、残りの空母からエルペシオ4が発艦してある程度の敵を食い止め、それでも抜けてきた敵を極大輪形陣前方に陣取る十数隻が、主砲や対空砲で迎撃を試み始めたのを皮切りに、緊張感は最大限に高まっていった。



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マイカル沖大海戦(前編)

「ちっ、雷撃機の数が多いな……全砲門、次の1射は雷撃隊へと向けよ! 魚雷を落とされる前に、何としてでも止めろ!」

『了解……全砲門、低空の雷撃隊へ向けなさい! あれを逃せば、我々だけでなく、皆の命がないものと思え!』

 

 主砲や魔導対空砲による、航空機迎撃の先陣を切った極大輪形陣前方の十数隻の1隻、屈指の対空火力を誇る防空巡洋艦『ローズクォーツ』は、敵機からの集中砲火を受けていた。

 

 陣形のかなり前に陣取っているのもあるが、タイミング悪く自艦の近くに居たのが改装済みとは言え、旧式化している巡洋艦や戦艦ばかりで、彼らの僚艦防空も一部担っているのも無視出来ないだろう。

 

 だが、旗艦含めた派遣艦隊の中で一定数存在する、生産体制がつい最近整った魔導電磁レーダーの搭載艦であり、試験的かつ魔帝のものよりもかなり劣化しているとは言え、魔導射撃指揮装置も搭載されている。

 

 そのため、魔導対空砲や対空魔光砲の数は魔導戦艦に劣れど、命中率の高さで同等の対空火力を生み出していた。

 派遣艦隊全体で見てみてもトップクラスであるので、グラ・バルカス帝国の航空攻撃隊にとっては脅威でしかなく、集中攻撃を受ける最も大きな理由となってしまっている。

 

 無論、対空砲火を上げている艦船はローズクォーツだけではないが、各種兵装の性能が日本や魔帝レベルに達していない以上、撃墜しようと莫大な量の弾幕を張ってさえ、当てるだけでも相当な難易度となる。

 

 なお、ミリシアルの最新鋭防空巡洋艦でさえ数千発、下手すれば数万発に2~3発当たれば御の字と言えるレベルだ。

 

『うわっ!? 艦長、爆弾が重要防御区画(バイタルパート)に2発命中……!』

「クソ! 大丈夫か、イスカ砲術長!」

『命中はしましたが、戦闘行動継続は可能です! しかし、一部対空兵装の破損に火災の発生、主砲1基の砲身湾曲に加え、結構な死傷者も増えてしまってます! あっ、言い忘れてましたけど、運良く私は無傷ですよ!』

「そうか。2発で中破に死傷者、キツい奴をもらってしまったようだ。皆、すまない……と、感傷に耽っている場合ではないな。艦内外問わず手の空いている者は速やかな消火活動、ならびに負傷者の医務室への搬送を行え!」

 

 なので、数機程度であればまだしも20機近くの、技術的に同程度の敵機から集中的に狙われてしまえば、防ぎ切れずに攻撃を受けてしまうのも無理はなかった。

 

 分類的には巡洋艦であり、防御力に関しては魔導戦艦より劣ってはいたものの、一応前級にあたるシルバー級魔導巡洋艦の改装前よりは、最新鋭の装甲強化システムも併せるとそれなりに防御力は高くなる。

 重要防御区画への命中かつ中破ではあるが、耐えられた事実そのものは何らおかしな話ではない。

 

 これがもし、正しい回避行動を取った事を含めて何か1つないし2つ以上欠けていたとするならば、もっと酷いダメージを受けていてもおかしくはなかったと言える。

 

『味方戦艦の支援砲撃も相まり、雷撃機7機の撃墜成功! しかし、敵爆撃機が更に8機爆弾投下コースに入りました! ああっ、右舷から更に6機雷撃機が! なお、我が艦以外に対しても援軍を更に送ってきている模様!』

「ちぃぃ!! 両舷対空要員はギリギリまで敵機迎撃継続、重要防御区画に集中装甲強化はそのままに、回避行動を取れ! 最悪、爆撃よりも魚雷回避を優先せよ!」

 

 中破相当のダメージを負いつつも、味方艦やローズクォーツの艦長含めた全員が奮闘し、第1波とも言うべき雷撃隊を撃墜はしたが、これで終わりとはならなかった。

 

 もはや、頭がおかしいとしか考えられないその圧倒的な物量で、オタハイト沖では日本国海上自衛隊第4護衛隊群と潜水艦隊、他地方ではムー国陸海空軍の死にもの狂いでの抵抗に対処しつつも、ミリシアル派遣艦隊と戦う艦隊や航空隊に、援軍を送ってきたからである。

 

『ああ!! 魔導巡洋艦ロンド、雷撃により大破……自力航行不能!』

『巡洋艦フーテ、火災と喫水線下からの浸水によりもはや手の施しようがありません!! 艦長、退艦命令を発しました!』

『駆逐艦クアン、誘爆により轟沈! ……クソッタレ!!』

 

 そのせいか、対空火力に乏しい旧式改装艦艇を中心に徐々に被害が拡大していき、遂には大破轟沈する艦が出て来る領域にまで踏み込まれていく。

 

 この魔導通信は、当然の如く派遣艦隊全ての艦で聞こえるように設定されているため、故障でもしない限りは聞こえるようになっていた。

 

 当然、ローズクォーツの()()()に故障している装置は1つもないため、通信機を介した悲痛な叫びや怒鳴り声、強い意思が込められた言葉が聞こえてきている。

 

 可能ならば助けに行きたいと言う思いは彼ら彼女らにはあったが、自分たちでさえギリギリの戦いを強いられていて、なおかつ近場の味方を守る必要性が未だにあった。

 故に、この場を離れる訳にはいかず、皆が皆断腸の思いを抱きながらやれるべき事をこなしている。

 

『すまない、少々手こずったが故に援護が遅れた!』

『数も多かったし、まあまあ強かったからねー。さてと、これ以上被害拡大させないためにも、遅れた分しっかりと僕たちが援護しますよ!』

 

 しかし、ちょうどこのタイミングで、グラ・バルカス帝国海軍を攻撃しに行った攻撃隊を護衛していた、エア含む超精鋭の制空戦闘機隊が僅かに数を減らしつつも戻ってきたために、この状況が一気に変化していく事となっていった。




もはや宣言を守ってないも同然の時間の投稿となってしまい、すみません。


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マイカル沖大海戦(中編)

「大艦隊だな。こいつは、激しい戦いになりそうだ」

「そうですね、艦長。攻撃隊の皆が居なければ、もっと多かったのかと思うと……何とも恐ろしいです」

 

 魔導空母の制空戦闘機隊や、各艦の戦闘要員たちの必死の努力により、損失を最小限に抑えつつ敵の航空隊を撤退した数機以外全滅させる事に成功したミリシアル派遣艦隊は、息つく暇もなく敵海軍艦隊との決戦の構えを取り始めていた。

 

 ミリシアルの対艦攻撃隊の爆弾や魔導魚雷により、マイカル沖に展開するグラ・バルカス帝国艦隊は、77隻から60隻に数を減らしていた。中破以上の大損害を被った艦艇も15隻と、かなり多い。

 

 その分、ある程度の技術的優位性があるにせよ、弾幕の中に突っ込んで攻撃を仕掛けに行く必要がある都合上、ジグラント4も12機が撃墜され10機が中破する被害を被ってしまった。

 

 また、グラ・バルカス帝国の航空攻撃でも、最終的に115隻いた艦艇の内7隻が撃沈、中破以上となった艦艇が10隻と、ミリシアル側も決して少なくない損害を受けている。

 

「半ば旧式化していたこの艦は、学院の面々のお陰で『カレドウルフ改』として生まれ変わり、新たな力を得た。奴らは脅威でしかないが……コイツはきっと、奴らの牙を叩き斬る鋭利な刃となるだろう」

「そうですね。就役当初から、ミリシアルを守り続けてきたこの艦は、皆にとっても自分たちにとっても、()()()()()()ですから」

「おうよ。勿論、強くなったからって油断大敵だがな」

 

 それ故に、ミスリル級魔導戦艦『カレドウルフ改』艦内では戦闘が始まった当初よりも雰囲気のヒリつきが増し、心のどこかで相手を見下していた一部の軍人も、今では自国と同等の強敵として見るようになっていた。

 

 ただし、最新鋭の技術により大規模改装を受けたお陰であらゆる能力が上昇し、特に速力がミリシアルの平均的な巡洋艦並みの34ノットと言う、戦艦としては常識外れの力を得たが故に、過剰な不安や恐怖などの感情は生まれてはいない。

 

 なお、防御力に関しては高出力装甲強化システムの搭載がなされていても、さほど上昇したりはしてないが。

 

「敵戦艦2隻より発砲炎確認! 弾道計算中……我が艦や周辺の味方艦に対する至近弾ないし直撃弾はありません!」

「ふむ。しかし、この距離(37㎞)で撃ってくるとはやるな。よし、我々も今すぐ撃ち込んでやれ! 最大射程ギリギリだから当たらんだろうが、当ててやる気概で行け!」

「分かりました……舵を切りつつ、主砲発射用意! 弾種は魔導徹甲弾!」

 

 お互いに近づき続け、咄嗟に組まれた高速艦船8隻で構成された陣形の前方に居たカレドウルフ改が、同じく近づいてきた敵戦艦に主砲から砲撃を受けたのを合図に左へ旋回、自慢の高初速38.1cm3連装魔導砲3基9門での砲撃を開始した。

 とは言え一斉射撃ではなく、着弾位置の調整による次射の命中率向上などの理由もあり、1射目では1基3門のみとなっている。

 

 なお、少し遅れて同型艦でもある『コールブランド改』も主砲での砲撃を開始したが、こちらに関しては一斉射撃を決行していた。

 

「……至近弾もなし、全弾外しました。コールブランド改も同じ模様」

「やはり駄目か。だが、予想よりは近くに行けたな」

「はい。やはり、技術の進歩は凄まじいですよね」

 

 しかし、最大射程ギリギリなのに加えて、敵も味方もお互いに動きながらの射撃であるため、1射目での直撃弾や至近弾は出なかった。敵からの砲撃も同様である。

 

『敵戦艦に1発、味方戦艦による直撃弾あり!! クラレント改です!!』

 

 主砲の角度の微調整などを行いつつ、敵戦艦の主砲弾に対する回避運動をしながら船間距離が30㎞を切ったそのタイミング、斜め後方6㎞に居た同型艦『クラレント改』が1発、敵戦艦に初の直撃弾を出す快挙を成し遂げた魔導通信が入った。

 

 敵艦との距離が36㎞も離れていて、1射目かつ主砲の最大射程ギリギリから放った砲弾が直撃弾を出す確率は、恐らく1%にも満たないだろう。もしかしたら、0.1%以下でもおかしくないかも知れない。

 

「なっ……嘘だろ? アイツら、マジでやりやがった!」

「これは驚きました。まさか、あの距離で直撃弾を出すとは……奇跡の一撃ですよ!」

「「おぉ……うぉぉぉ!!!」」

 

 当然、この一撃では撃沈にまで追い込む事は出来なかったものの、滅多にない奇跡を見せたのが味方のミスリル級魔導戦艦と言う事実は、ミリシアル派遣艦隊の軍人全ての士気を大幅に上げた。

 誘導魔光弾のような兵器を使用しない限り、決して容易に狙えないとは理解されてはいるが、それでも喜ばずにはいられなかったようだ。

 

 加えて、一時的かつ個人差はあるが、死の恐怖や不安に押し潰されそうになっていた経験の浅い若い軍人へ希望を持たせ、精神を安定させる強い効果ももたらしている。

 

 言わずもがな、経験豊富な軍人や覚悟を決めている軍人も、心の奥底では死への恐怖や不安が燻っている。

 若い軍人に比べれば耐性がついているにしても、そうは言っても辛いものは辛いと考える人が殆んどなので、ある程度の効果はもたらされているが。

 

「お前ら、クラレント改の奴らに続け! 敵を撃破し、絶対に生きて帰ってやるぞ!!」

「「「うぉぉ!!!」」」

 

 こうして、クラレント改の起こした奇跡によって、士気が大幅に上昇したミリシアル派遣艦隊は、心の強さも大幅に上昇した状態で本格的な艦隊決戦へと挑んでいった。




資料集の編集や私事により、次回の更新は最大で1週間空く感じになりそうです。


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マイカル沖大海戦(後編)

『よーし、ざまあ見やがれ……うおっ、至近弾か!』

『そりゃそうでしょう。我が国と戦い、撃沈艦すら出す程の強者です』

 

 敵味方の艦艇から口径の大小問わず、鉄の暴風雨が如く砲弾が飛び交う艦隊決戦が始まってから数時間、改装されたゴールド級魔導戦艦2隻を主として組まれた15隻の高速遊撃艦隊は、追い込まれた数隻の味方を助けるべく、敵艦11隻に急襲攻撃を仕掛けていた。

 

 改装ミスリル級魔導戦艦程の速力と砲火力はなくとも、それに準ずる力を誇る改装ゴールド級魔導戦艦2隻に、巡洋艦の中では高い速力と砲火力を持つ、最新鋭のシルバー改級魔導巡洋艦含めた4隻が加わっている。

 

 そこに、平均して40ノットの速力や超機動力、長射程高威力の魚雷を標準搭載と火力も申し分ないサファイア級駆逐艦10隻も居るため、敵艦隊の足並みを乱して初手で損害を出させる事に成功してはいた。

 

『敵戦艦主砲、副砲の一斉射撃……がっ』

「味方巡洋艦3発被弾、大破!! 主砲弾の威力は我が方の改装後ミスリル級と同等と推定!」

「そうですか、流石は目測200m級の戦艦。この『サファイア』は雷装重視な上に駆逐艦、1発たりとももらう訳にはいきません」

「当然で……あ、敵巡洋艦多数発砲! 内4発が我が艦の至近弾ないし直撃弾の可能性あり!」

「この弾道なら……よし。面舵いっぱい! 何としてでも回避しなさい!」

 

 しかし、マイカル沖に限らずムーを攻撃していたグラ・バルカス帝国軍は、本国の超精鋭には至らずともかなり優秀な軍人が多い。

 無論、高速遊撃艦隊が急襲した相手も例外ではなく、とある戦術に嵌まって轟沈した艦が2隻出ても動揺をすぐに収め、素早く反撃を試みていた。

 

 とは言うものの、マイカル沖のグラ・バルカスの航空戦力はミリシアルの制空隊や防空巡洋艦を筆頭とした、派遣艦隊の強力無比な防空網で全滅している。

 

 加えて一旦空母に戻り、燃料や魔導爆弾や魔導魚雷の補給を済ませ、再出撃したミリシアル対艦攻撃隊の数は100機を超えていた。

 

 他に相対すべき艦艇がまだ残っている以上、全てが高速遊撃艦隊の相手している方へ向かう事はないが、それでも時折20機前後の編隊が援護爆撃や雷撃を回避し切るのは難しく、大なり小なり損害を与え続けられてしまう。

 

 グラ・バルカスの艦艇が分散していて、地球の東西冷戦時と同等かそれ以上ならまだしも、技術力と練度がほぼ互角な以上、高速遊撃艦隊側の被害が少なめなのも致し方ない。

 

「敵、速度と進路を変えずに30ノット程で急速接近! 特に、駆逐艦らしき船との距離は10㎞を切りました! 他方から敵の援軍も6隻接近中!」

『むぅ……厄介だな。我が艦ともう1隻(改装済みゴールド級魔導戦艦)は主に巡洋艦、魔導巡洋艦は敵駆逐艦を中心に砲撃、駆逐艦サファイアは他9隻の駆逐艦と共に敵戦艦への雷撃を決行せよ!! 何とか、援軍に接近される前に落としてくれ!』

「了解っ!! ですが艦長(司令官)、ちゃんと援護してくださいよ? 私の艦、1発もらえば轟沈しかねないんで」

『そんなの当たり前だろ! しかし、致し方ないとは言え、たかが1隻の戦艦艦長の俺がこんな命令を……お前たちには申し訳なく思う』

「これも戦争ですからお気になさらず。では、行って参ります!」

『……ああ、本当にありがとう』

 

 そんな中、ムー海軍と相対していた帝国海軍(グラ・バルカス)が一部分離、その艦が援軍として接近しているとの報を受けた旗艦が10隻の駆逐艦に魚雷戦実行を指示、敵駆逐艦の接近も相まってより両軍の距離が縮まっていく。

 

「右舷後方、左舷より魚雷接近! 雷速48ノット、数は順に5と6! 更に敵艦船より砲撃、回避行動を取らなければ確実に1発直撃コース!」

「これはまずいですね。機関を過負荷モードに、超加速しつつ舵を切り、砲撃してきた艦の居る方に魚雷を発射しなさい! 後、旗艦にも()()()()()()()()()()との通信を!」

「了解……お前ら、ここが正念場だ! 気張れよ!」

 

 で、海上では近距離と言える7㎞まで近づいた頃、敵艦の砲撃と共に航跡が複数、潜水艦の放ったものと思われる魚雷まで来ていると、駆逐艦サファイアの音響探知員より報告が挙がる。

 

 音波による海中探知を妨害するような要素が多々あった事、そもそもグラ・バルカスの潜水艦が取っている基本的戦法などの要素から、魔音波発探知装置でさえ探知が遅れたものの、時間差で潜水艦の反応を捉えられはした。

 

 ただ、残り5隻からの砲撃や魚雷攻撃が激しさを維持しているこの状況、対潜戦闘のために少しでも駆逐艦の速度を緩めるのは、かなり危険であった。

 加えて、探知した敵潜水艦の位置が7隻からたったの900mと、もはや目と鼻の先だったのが最悪でしかない。

 

『仕方ないか。駆逐艦が魚雷を発射後、回避行動を取りつつ全艦速やかに距離を取れ! 無論、潜水艦に対する警戒は怠るな!』

 

 故に、自分が撃沈された上で敵が健在との事態になりかねないと言う事で、一旦相手との距離を取る選択が取られ、旗艦よりそう指示が下る。なお、サファイアの軍人含め、反対意見はどの艦の誰からも出たりはしなかった。

 

「いや、本当に魔音波発探知装置(コレ)は凄えや。航跡が目立たない魚雷でも、見えているかのようだ」

「本来なら発射母艦を沈めたかったですが、流石に900mはかなり無謀でしょうし」

「一斉射撃食らって絶対に轟沈しますもんね。軍人どころか、一般の大人でも分かります」

 

 単に距離を取るだけでは、足のかなり早い巡洋艦や駆逐艦はともかく戦艦はじわじわ追い付かれ、ほぼ一方的に撃たれるだけとなるため、砲撃や魚雷攻撃で相手への足止めと反撃もしっかり行われている。

 

「魚雷命中……敵駆逐艦2隻轟沈! 戦艦の砲撃で敵巡洋艦大破! おお、良い感じです!」

「よし! 残りは戦艦のみで、敵との距離もそれなりに開きましたね。魚雷は全部放ってしまったので、我が艦はひとまず主砲で全力射撃を続けましょう。魚雷同様、味方に当てないように注意しなさい」

 

 必中の誘導魔光弾(ミサイル)や誘導魚雷(魔雷)はない以上、攻撃を命中させるのも一苦労で、戦闘を始めてから相手を残り2隻まで追い詰めるのに、相当の時間を要していた。

 

『よっしゃ! さっきのお返しだこの野郎!』

『救援に来てくれた皆さん、本当にありがとうございました!』

 

 しかし、その結果高速遊撃艦隊の攻撃に耐えかねた、上部構造物から黒煙を立ち上らせた相手戦艦が反転すると、味方魔導戦艦2隻他3隻の改装巡洋艦が今までの恨みと言わんばかりに主砲の全力射撃を近距離で敢行、2回目の一斉射撃で弾薬庫への誘爆により、凄まじい早さで海中へと沈められていく。

 

 同時に、他方でも犠牲者を出しながらもミリシアル側の奮戦により、マイカル沖のグラ・バルカス帝国海軍が壊滅状態となったお陰なのと、攻撃隊の攻撃により1隻轟沈の大損害を被った援軍も反転していった。

 

 そして、ほぼ同時にオタハイト沖の海軍艦艇も日本に完封殲滅、他港町を攻撃していた艦艇やマイカル沖の残存艦艇は数が少なかったために戦略的撤退を選択、ムーの海から海上や海中の侵略者を追放する事に成功した。




次回の更新については、もう1つの小説更新などの私事が理由で、最大で5日程空きます。


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マイカル市街地戦(前編)

「おぉぉ……コイツは、何と酷い有り様だ。良いかお前ら! まかり間違っても生き残りの民間人、特に我が国の民と日本人を誤射しないように気を付けろ!」

「「「了解っ!!」」」

 

 マイカル沖の海戦にて、ミリシアル側がグラ・バルカス帝国海軍を撃破した後、派遣艦隊に守られていた魔導輸送艦5隻に搭乗し(搭載され)ていたミリシアル陸軍は、地上に巣食う侵略者を排除するため、マイカル港から市街地へと上陸していた。

 

 魔甲歩兵9100人に加え、魔装重戦車『ヴォルカⅠ型』11両に魔装中戦車『アルカスⅠ型』30両、魔装軽戦車『ウィングⅠ型』19両と、相手の圧倒的物量と不意打ちにも対応可能な編成となっている。

 

 無論、これら師団規模の部隊が全てまとまっている訳ではなく、複数の大隊規模に分かれて街全体に散らばり、各々がグラ・バルカス帝国陸軍と戦闘を繰り広げている。

 

敵中戦車(チハ擬き)5両、敵歩兵待ち伏せ2……っ! 砲撃被弾、されど正面装甲のため、無傷!」

「日本国の情報通りか。とは言え、念のためだな……ヴォルカⅠ型を前に押し出しつつ、手痛い反撃を食らわせてやれ!」

「了解……主砲、撃てぇーーっ!!」

 

 しかし、ミリシアル陸軍きってのヴォルカⅠ型の装甲は非常に強固であり、敵戦車主砲や対戦車砲の不意打ち攻撃を易々と弾くか耐え、擦過痕すらなく無傷で凌ぐ。

 

 逆に、敵戦車はヴォルカⅠ型の9.2cm魔装戦車砲や、アルカスⅠ型の7.1cm速射魔装戦車砲より放たれる複数の砲弾(魔導榴弾)に耐えきれず、正面装甲があっさり撃ち抜かれて沈黙した。

 

 同時に、副兵装の30㎜魔光超重機関砲や外れた戦車砲弾、魔甲歩兵の自動小銃から放たれる弾幕により、200人近くの敵随伴歩兵も大した反撃が出来ずに地に倒れ伏した。

 なお、これによるミリシアル側の損害は軽傷者が10人、戦闘継続不可能な重傷者は6人発生したものの、幸いにも死者は1人も出ずに済む。

 

「敵戦車、および随伴歩兵沈黙! しかし、この戦車砲はえげつないですね」

「そりゃあ、ヴォルカⅠ型の155㎜正面装甲、コイツと同等の対象にダメージを与える想定で開発された砲だしな。と言うか、副兵装も化け物過ぎて笑えるわ。グラ・バルカス相手なら普通に12.7㎜魔導機関銃とか、20㎜魔光重機関砲で良かっただろ」

「ははっ、確かに。ただでさえ、車体の大型化と魔法による重量対策で費用がかさんでいたところに、専用の弾薬と発射機構の開発で更に上乗せされてしまいましたし」

 

 無論、損害軽微で済んだ理由に、優秀な各種装備の存在があったのは間違いない。旧式の装備であったなら、全滅はないにせよ間違いなく死者がそれなりの数出ていた事だろう。

 

 しかし、今の待ち伏せに対処したのが『第零式魔装戦車連隊』と『魔甲歩兵連隊』に次ぐ練度を誇る大隊であったため、当然間違いではなかった。

 経験の浅い部隊だったなら、同様に死者が出る可能性もあったのだから。

 

「まあ、とにかく高性能ってのも分かるが――」

 

 そうして警戒しつつ、時折立ち塞がる敵中戦車隊を排除しながら進んでいると、高所からの狙撃と思われる攻撃により、ミリシアル兵数名が魔甲スーツごと身体を撃ち抜かれ絶命してしまう。

 

 小口径の拳銃弾程度であれば完全無効化し、手榴弾などの携行小型爆発兵器もある程度防ぐ防御力を持つものとは言え、大型の銃から放たれる大口径弾は流石に防げなかった。

 

 なお、魔甲スーツ着用者が大魔導師クラスの魔法の使い手であった場合、防御魔法との併用で理論上は防げるようになるものの、詠唱時間や消費魔力量の多さが故に、現実的ではない。

 

「チクショウ! 魔甲スーツが容易に撃ち抜かれるとは……狙撃の腕もさることながら、破壊力も対物魔導狙撃銃と同等を誇るらしい」

「正しい場所さえ分かればやり返してましたが、そうも行きませんね。空母の爆撃隊に支援を要請しましょう。モタモタしていると移動され、我が軍の兵士の死者を増やす事になります」

「分かっているさ。だがな、どこに何人の民間人が居るか分からん以上、空爆は厳しいぞ」

「どうしても、ですか」

「ああ。ムー人は当然として我が国や日本、その他国家群の民間人を万が一殺してみろ。ある程度ならコラテラルダメージと言えなくもないが、何事にも限度ってものがあるだろう?」

「……ええ、確かに。では、偵察機による地上偵察を要請するに留めますか」

 

 そして、戦闘場所を取り巻く複数の問題によって本来の最適解を選べない状況下にあるため、大口径の銃で狙撃される危険を犯しつつ、先へと進む選択を取る事となった。

 

 ただし、超高性能な軍事用魔導カメラを筆頭に、偵察に特化した装備を搭載、武装を取り払った代わりにミリシアル航空機史上最速の偵察機『サテラーチ1』へ、通常高度飛行から低空飛行での地上偵察を要請すると同時に決まる。

 

「おい。あそこからこっちに走ってくる人、日本人じゃないか? しかも、明らかにヤバそうな怪我してるぞ!」

「子供も3人、家族なのでしょうか……あっ、建物からグラ・バルカス兵!!」

「「「なっ!!!」」」

 

 すると、魔導通信機を介した要請を終えた直後、連隊前方に居た彼らの視界に、怪我をしている民間人らしき子供3人と大人1人、その子供の存在に気づいたグラ・バルカス陸軍兵士が入る。

 

 距離的にはかなり離れていて、表情含め細かな動作は見にくいか見えていないはずなのに、どう言う訳か醜悪な笑みを浮かべているように見えたお陰か、連隊全体に別種の緊張感が速攻で伝播していく。

 

「狙撃成功……今です。彼女たちの保護を」

「メリア殿か、感謝する! よし、急ぐぞ!」

 

 しかし、ミリシアル陸軍で最も優秀な狙撃手であり、大魔導師でもある『メリア』が神業を発揮した事により、最悪の事態にはならずに済んだ。




大分期間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。


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マイカル市街地戦(後編)

「進め進め! あんな鬼畜共に慈悲など要らん! 非戦闘員(戦闘が不可能な者)以外は容赦なく叩き潰して行け!」

 

 グラ・バルカスの兵士に狙われていた4人の日本人を保護した後、相変わらず敵兵士や戦車を駆逐しながら進んでいたミリシアル陸軍最強クラスの連隊は、ムーの空軍基地が併設された『マイカル空港』を強襲していた。

 

 無論、マイカルを占領していたグラ・バルカス陸軍の司令部が置かれていて、それ故に脅威となる戦力が最も集結しているからという理由もある。

 この場所を制圧出来れば、マイカル解放が決まったも同然となり、仮に徹底抗戦を選ばれたとしても後は掃討作戦を行うのみとなるので、当然の流れだと断言しても良い。

 

 しかし、占領された空港や空軍基地の建物内部への侵入・制圧、囚われた民間人保護担当の魔甲歩兵連隊に関しては、それ以外にもう1つ大きな理由が存在した……と言うよりは、生まれたと表した方が正しい。

 

「隊長、めちゃくちゃ怒ってますね。まあ、かく言う私もこの上なく腹が立ってます」

「そりゃあな。あんな事をされれば、誰だってそうもなるさ。ん? 6時の方向に敵兵16! 対戦車砲持ちも居る、気を付けろ!」

「歩兵に対戦車砲とか殺意が凄まじ……うぉぉ!? 危うく粉砕されるかと思いましたよ……」

 

 中程度の部屋に突入した際、囚われていた複数の子供含む民間人を人質に取った挙げ句、巻き添えも厭わない銃撃や手榴弾による攻撃を相手側が仕掛けてきたので、致し方ないだろう。

 

 なお、条件反射的に己が身を掛けての防御魔法展開が間に合った魔導師(陸軍兵士)数人、全魔力を使用した超回復魔法を唱えた大魔導師1人の活躍により、奇跡的に()()()()()()()出ずに済んでいる。

 

 とはいうものの、早急に治療が必須の重傷者は出てしまっている。ミリシアル帝都の『ルーン大魔導病院』ないし、日本の大病院クラスによる治療が必要なレベルだ。保護そのものは成功しているにせよ、油断は禁物としか言い様がなかった。

 

 ちなみに、マイカルより逃げ遅れた民間人を捕らえる事はともかく、人間の盾として使うと決めたのは司令部以下数名であり、この作戦に賛成の意を示した兵士は約半分(47%)である。

 

「ぬぅ、敵手榴弾……結界展開! 全員、距離を取って伏せろ――」

「ぐあぁ! クソ、豪快にやってくれるじゃねえか!」

 

 敵の砲火が少し弱まったタイミングを見計らい、連隊の一部が民間人輸送のために戦場を離脱した後も、残った陸軍兵士で建物の奥へと進んで行くが、当然敵の抵抗も激しさを増していく。

 

 室外での戦闘とは違い、特定の例外を除き室内では各種戦車や装甲車との連帯、航空機による援護爆撃がない。

 また、海上・海中や空中での戦闘に比べ、陸上戦闘は技術的な優位による戦況の優位性が生じにくい。対策はしていても負傷者や死亡者が出てしまうのは、如何ともし難かった。

 

「クソっ、この先へは進ませんぞ――」

「『眠れば、貴方は永遠なる深海の世界へ行かん』」

「なん……だとぉ……ぁ」

「よし今だ! 止めを刺しつつ駆け抜けろ! 」

 

 だが彼らは、強力な魔法や優れた各種装備に加え、この世界にとってイレギュラーな日本を除けば、練度も最高クラスであった。無敵ではないものの、敵対者にとっては脅威となり得る強さと言える。

 

 加えて余裕がある戦線からの、魔導通信機による戦力提供要請を念のために行っている事で、徐々にマイカル空港にミリシアル陸軍の面々が集結、戦況はミリシアル側優勢へと傾いていく。

 だからと言って、油断しても問題ない程ではないので、変わらず気を抜かずに敵を撃ちながら先へと進んでいっている。

 

「貴様が侵攻部隊の司令官だな? 時間はやらん、降伏し人質を解放する代わりに生存兵とお前の()()()は助かるか、抵抗を選んで死を選ぶかしろ。ああ、勿論沈黙は否定とみなすぞ」

 

 そうして時折、手榴弾や対戦車砲、対物ライフルによる一斉射撃で負傷者ないし死亡者が発生しつつも、かなりの速度で進撃しながら民間人保護を続けていくこと2時間と少し、魔甲歩兵連隊は司令官の居るマイカル空港最深部への到達に成功した。

 

 当然の如く護衛の兵士4人が銃を構えるも、大魔導師でもある兵士の1人『アクアース』が水属性睡眠魔法(フルイムニャス)を先制で発動、司令官もろとも即座に眠らせて制圧下に置く。

 

 ただし、これでは色々と行うべき話が出来なくなるため、同じ兵士が解毒魔法を唱えて司令官のみを眠りから覚まさせた。

 かなり強力かつ上位の魔法であるため、詠唱者の魔力は今までの戦闘で使用した分も相まり、ここでほぼ枯渇する事となる。

 

「はぁ……仕方あるまい、不服だが受け入れよう。少しだけ、呼び掛ける時間をくれないか?」

「……」

 

 今のやり取りによって、司令官がそれなりに素早く下した判断は降伏の受諾である。

 ミリシアル側の派遣した艦隊との海戦、上陸してきた陸軍の鬼神が如き強さを発揮した戦車群や魔甲歩兵、今見た『魔法』の得体の知れなさを総合的に鑑みた結果、これ以上の抵抗は無意味と考えたが故だ。

 

「……分かった。ただし、妙な真似はするなよ?」

「ああ、心得ている」

 

 抵抗されると考えていたミリシアル側にとって、こうもあっさり降伏を受け入れられたのは、ある意味衝撃的ではあった。何かあるのではないかと疑う心も、芽生えてはいた。

 

 しかし、戦争をしなければならない時間が少しでも短くなる点については、素直に歓迎すべきだろう。隊長含め、全員が内心でそう考えている。

 

「これで呼び掛けはした。降伏を受諾せず抵抗する者の処遇については……屈辱だが、お前らに任せるとしよう」

 

 こうして、ミリシアルはある程度の犠牲を払いつつも、グラ・バルカス帝国軍から勝利をもぎ取る事に成功した。



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眠りし古代の禁忌

 共闘した訳ではないものの、ミリシアル軍や日本の自衛隊による活躍で、オタハイト及びマイカルより侵略者の追放と両国民間人の保護に成功してから1ヵ月近く経った頃、ミリシアル国内ではとある計画が急速に進められていた。

 

 戦場がどこになるかや回数がどの程度になるかが分からないにしろ、いずれ来る事だけは確実なミリシアルとグラ・バルカスの更なる大規模衝突に備え、軍需産業を中心とした国力の強化を行うと言うものである。

 

「いやまあ、財政的には貿易黒字で得た利益、日本国との交流により得た利益を加えれば、決して不可能ではありません。材料云々も解決の目処はついていますが……人員の目星はついているので?」

「無論、その点については抜かりないぞ。むしろ、今までが少なすぎたせいで、力を持て余している魔導技師(ミリシアル帝国民)が国内にそれなりの数居る訳で、ちょうど良い。国外の魔導技師についても、大使館などを通し可能な限り好条件を提示し、呼び戻すなどしている」

 

 ミリシアル政府の全力支援、各所の魔導学院に所属するとびきり優秀な魔導技師の尽力、規模の大小を問わない民間人の応援ないし支援の輪、これらのお陰で現在でも強化自体は出来ていた。

 一見すれば、追加でわざわざ計画を立てる必要が薄いと思われる程には、である。

 

 しかし、今まで仕入れてきたグラ・バルカス帝国についての情報に加え、日本政府より提供されたかの国の本土を含む各所の人工衛星から撮影された鮮明な写真が、その必要性を絶対的なものへと変えていた。

 

 特に、古代兵器のリバースエンジニアリングや潜水艦・対潜装備関連、ジビルも搭載可能な大型戦略魔導爆撃機『ヴォルケーノ』の製造、陸海空軍の増員については、最優先事項と位置付けられている。

 

 海軍艦艇や各種航空機、陸戦兵器や兵士、ミリシアルのものと遜色ない大きさの大型戦略爆撃機、これらによる圧倒的物量に対抗するためには技術のみならず、物量についても向上させる必要があると判断されているのだ。

 

 加えて、オタハイトやマイカルから侵略者は消え去っているものの、ムー本土には未だ侵略者に毒牙を向けられている場所が複数存在していた。

 

 友好国に巣食い、そこに住む民を害する侵略者を領土・領空・領海から叩き出すべく、救援依頼に基づいて全力で戦うミリシアル軍兵士の死傷者を、少しでも減らすためと考えれば当然の話である。

 

「それに、少々無理をさせてしまいはしましたが、帝国三大学院の魔導技師たち含め、他学院のとびきり優秀な者にプログラムを組んでもらってます。元々その手の技術持ちであれば、開始してから早くて5ヵ月、そうでなくとも1年~1年半で水準に達する事は可能だと思います。無論、グラ・バルカス帝国との戦争終結後を見据えた計画も同時立案中ですので、ご安心を」

「ふむ、なるほどな。何度でも何時でも思うが、戦争は本当に忌まわしい」

 

 しかし、これらの計画はやろうとしてすぐ達成出来るような、極小規模かつ低難度なものではない。

 国の中枢(ミリシアル政府)は言わずもがな、その手の職業に就いている人々の協力があってさえ、達成に多大な時間が必要な大規模かつ高難度なものだ。

 

 無論、達成出来た()()では意味が薄れてしまう。これによって生み出された成果を、今度は神聖ミリシアル帝国軍に所属する人々が上手く扱う必要がある。

 

 もし、高水準で扱う事が出来るのなら、グラ・バルカスのように技術力が自国と同等か多少格上程度の相手であれば、最低でも負けない(守りきれる)戦いが保証される。

 

 とは言え、死傷者を全く出さないか極僅かで済むような圧倒的勝利を得られるかと問われれば、ミリシアルの今現在の純粋な技術力では不可能だ。

 各種古代兵器の全力活用を行い、ようやく可能かも知れないと言える程度に落ち着いている。

 

『あー……もしもし。こちら、魔帝対策省遺跡調査課。陛下、お時間取れますでしょうか? えっと、ご報告があります』

 

 こんな感じで、皇帝含むミリシアル政府上層部の面々が会議を続けていた最中、置かれていた政府用魔導通信機に通信が入る。

 

 ミリシアル国内にて魔帝の遺跡発掘・調査を行い、時と場合によっては他国で発見された遺跡の調査をその国と共同で行う、肝いりの省庁職員からであった。

 

 彼らは、グラ・バルカスとの本格的な対立が決定した以降も変わらず活動を続け、今現在はミリシアル陸軍の護衛の下、エモール王国との国境付近で新たに見つかった遺跡らしき場所の調査を、行っている途中である。

 

 また、調査結果の報告を終わった後に行うのが通常の流れであるにも関わらず、今回は非常に珍しく途中で()()()()()報告が来たために、会議場は一瞬で静まり返った。

 

 この場合、ミリシアルにとっての良し悪しはともかくとして、大きな影響を及ぼす何かが発見されたか、事態が発生した場合が殆んどを占めている。

 

「無論、問題ない……おい、映像を繋いでやれ」

「了解です……よし、繋がりました」

『あらら、申し訳ありません。会議途中でしたか』

「気にしなくてよい。お前たちがわざわざ途中で連絡を寄越すべきと判断する、そのような何かが発生したのは容易に想像がつくかならな」

『感謝致します。まさに仰る通りで……はい。こちらをご覧下さい』

「「「……おぉぉ!?」」」

 

 結果、会議を一時中断してその報告とやらを聞く事が満場一致で決まり、設置されていた連絡用魔導映像通信機が繋がれた訳だが、そこに映っていたものに一同が叫び声をあげて驚く。

 

 それは、正しい手順を踏んで起動さえ出来ればすぐにでも使える、不活性状態のまま保管されていた100近くのコア魔法であった。



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変わらぬ日常

 本格的な戦争が始まってから3ヵ月と少し、ありがたくも悲しきミリシアル軍の皆の尽力と犠牲で、沢山の自国民が住まう本土には一切攻撃がなく、いつもと変わらぬ光景を見る事が私は出来ていた。

 

 勿論、特有のピリピリした雰囲気は多少なりとも出ているし、陸海空軍やパル・キマイラ3隻による警戒の様子を見れば、嫌が応でも戦争を意識せざるを得ない。

 

 カームやビアの気遣い、美味しい料理や読書を嗜む時間、飼い猫の癒しを筆頭とした要素があってさえ、悪夢を見る事がたまにある程である。

 

「日本人、最近一気に増えたよね。いやまあ、他の国の人もいつも通りなんだけど、それにしたって多いなぁ」

「ええ。私としても、日本の皆さんがミリシアルを好いてくれているのは嬉しいです」

「それは言えてる……あっ。そう言えば何か、4週間後に日本との文化交流祭をルーンポリスでやるらしいんだけど、オロールさんも行かない?」

「4週間後の予定は……うん、なし。分かりました、行きましょう」

 

 そして、我が国を観光なり仕事なりで訪れる外国人に関しても、本当に戦争なんてしてるのかと言わんばかりに、各々が活気に満ち溢れている。

 

 更に日本人に至っては、マイカルでのミリシアル軍による人質救出以降、他国を凌駕する勢いで観光客が増え続けている。

 自前で大きく高性能なジェット旅客機や旅客船を持つ唯一の外国が故に、ミリシアル各地の港や空港の整備拡大計画が持ち上がり、実行に移される程であった。

 

 私の住むカルトアルパスにも帝都に次ぐ日本人観光客が訪れていて、主な人気スポットとして巨大商店が立ち並ぶエリア、魔導大図書館、行きつけとなった酒場が挙げられているらしい。

 

 お陰で待ち時間が増えたり、目的の商品が買えなかったりする事が大分増えたりしているものの、苦には全く思わない。誰にも言えないが、かつて(前世)の故郷だったからだろうけど。

 

「あっ! お母さん、あの人だよ! スッゴい魔法使いのお姉ちゃん!」

「あの赤髪の子?」

「うん!」

 

 そんな事を考えながら、ビアと一緒にデパートのお惣菜コーナーで買う物を選んでいると、聞き覚えのある声が耳に入ってくる。

 後ろを振り向いてみたところ案の定、観戦武官の仕事で日本に行った際の隙間時間、触れ合いを兼ねた魔法の実演をしていた公園に居た、小学校低学年の男の子だった。あの様子を見るに、親子で旅行に来ているようだ。

 

 当時の状況と安全性を考慮した結果、行ったのは風魔法を応用した物体の空中浮遊、()魔法を使ったアート製作だけではあったけど、観客の中でも特に喜びが大きかったのを覚えている。

 まあ、彼が大好きらしいヒーロー番組のヒーローを、彼の頼みで四苦八苦しながら作った訳だし、当然と言えば当然か。

 

「ようこそ、ミリシアルへ。その様子だと、随分と楽しんで頂けているみたいで良かった」

「ええ、それはもう。日本での仕事疲れが吹き飛ぶ新鮮な体験が出来てますから」

「おとといなんか、デッカいUFO飛んでたの見たもんね! 赤髪のお姉ちゃんたちは見なかった?」

「見たよ。迫力あったもんね、あれ」

「私も見たよー」

「そっか!」

 

 男の子は言わずもがな、お母さんの方もミリシアル旅行を楽しんでくれているようで、言葉の節々や表情などから感情が漏れ出ているのが良く分かった。

 

 魔導文明に対し、日本は純粋な科学文明国家である以上、色々と戸惑う場面も多々あるとは思う。調べてから来ているとは思うけど、文化や独自の決まり事とかもある訳で、尚更だろう。

 

 何なら、ミリシアルとグラ・バルカスが本格的に対立している情報も、日本政府からあらゆる媒体を通して伝わっているはずである。

 それでもなお、この親子含めた多数の日本人が観光客として来る事を選んでくれたのは、実に嬉しい限りである。

 

「おーい! そっちは買い物終わったかー? 終わったなら行くぞ!」

「はいはい、今行きますよ……では、私たちはこれで。お時間を取らせてすみませんでした」

「いえいえ、全然構いませんよ。旅行、楽しんでって下さいね」

「じゃあね、魔法使いのお姉ちゃん!」

「うん、じゃあね」

 

 で、男の子のお父さんらしき男の人が呼びかけてきたため2人と別れた後、中断していた買い物を再開、手早く目的の商品を手に取ってレジで会計を済ませ、デパートを後にした。

 

 今は私もビアも休日ないし仕事終わりではなく、1時間~1時間半ある昼休みの時間帯なため、()()()()服飾用品コーナーや図書コーナーを回る暇はない。

 

 今まで任された仕事はもとより、エモール王国との国境近くで『コア魔法(パンドラの箱)』が見つかってしまったために、皆のサポートがあってさえ仕事量が否応なしに増えてしまったのだ。

 

 特に、同時に発見されたらしい解説書に記された『対放射(たいほうしゃ)電磁結界』や『魔消の麗界(アルニッシャー)』はもとより、儀式級の超回復魔法『潜深なる癒波(アルティナヒール)』、これを扱えるようにするための各種調整が実に厄介で、かつ面倒なのである。

 

 あまりにも破壊力が高く、あまりにも惨い忌むべきそれ(コア魔法)を実用化して戦争に使うつもりはないにせよ、見つかった以上同様の遺跡が発見される可能性が出てきた。

 

 考えたくもないけど、何かしらの要因で悲惨な事故が発生する可能性も同様に出てきたのだ。各所に応用が利きそうな魔法っぽいので、そう言う意味でも早期の会得は必須だろう。

 

「オロールさん、食べ終わった? 時間も迫ってきてるから、早く仕事に戻ろう」

「そうですね……よし。ご馳走さまでした」

 

 頭の中でそう思考を巡らせながら、お昼休みがもうすぐ終わる時間になったため、飲食する場の後片付けをしてから仕事場へと戻っていった。




すみません、更新遅くなりました。それと勝手ながら、更新頻度を不定期にしようと思います。


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グラ・バルカスの焦燥

 神聖ミリシアル帝国に宣戦布告しつつも、かの国の予想以上の強さによって押されていたグラ・バルカス帝国の上層部は、そこへ加わったある出来事のため、よろしくないムードが漂っていた。

 

 非常に優秀な技術者でもある『ナグアノ』やその上司の『バミダル』、諜報局の局員や海軍の軍人数名が提唱した日本脅威論が、もはや荒唐無稽なものだと言えなくなってしまったからである。

 

 艦艇だろうが高速で動く航空機だろうが関係なく必中の攻撃を放ち、撃沈ないし撃墜してくる巡洋艦(護衛艦)、帝国の駆逐艦(ソナー)ではその姿を捉える事すら恐らく不可能な潜水艦、自国戦車の装甲がまるで意味をなさない主砲を持つ敵戦車(10式戦車)、戦争前に入手した民間書籍などで知ってはいた。

 

 が、帝国の常識からすれば魔法であればともかく、技術体系が自国と同じであれば、いかに進歩しようとそんな事が出来る訳がない。そう軽んじられていたために、ミリシアルと比べれば幾ばくか扱いが軽かった。

 

「どう致しましょう、サンド本部長。現場からの報告に最新鋭の撮影機材(カメラ)による複数の写真……他諜報員からの情報も併せますと、日本は我が国を圧倒的に超えているとの結論にどう足掻いても達します」

「ええい、分かっておるわ! しかし、そうなるとミリシアルをも超えている事になるぞ」

()()()()()はありますが、確実に上でしょう。かの国の軍事力向上を担っていると噂の、高名な女性技術高官(魔導技師)……確か、オロールでしたね。彼女が日本交流の超推進派な点を見ても、確実に」

「何と言う事だ! ミリシアル本土の空中戦艦(パル・キマイラ)問題に続き、また厄介な問題が増えてしまったようだな!」

 

 しかし、ムーの首都であるオタハイト、および近辺海域での蹂躙劇とも表せる戦闘結果を含め、数々の要素が重なった以上は日本対策を目下の課題とせざるを得なくなった。無論ミリシアルに対しても、手を緩めるのはご法度である。

 

 世界征服を国家の目標に掲げるのを止められないのであれば、時期はどうであれ確実に対峙し、どれだけ相手が強かろうとも打ち倒す必要がある。

 

 色々な策を講じたりして戦闘を回避出来なくはないものの、それは単に時期を先延ばしにするに過ぎない。むしろ、その間に他国支援などをされてしまい、自分で自分の首を絞める事になるだろう。

 

「どうにかして、ミリシアルと日本の交流を止められないのか?」

「現時点では不可能です。ミリシアル本土の警備には件の空中戦艦、両国を繋ぐ海路はミリシアル外洋派遣艦隊ないし別の一個艦隊が、殆んどの場合は警戒に当たっているらしいので」

「外洋派遣艦隊と言うと、パーパルディアへ出向いていた奴か! 艦艇そのものも手強いと言うのに、現状奴らの巨大空母の艦載機に対抗する手段がないのは厳しいな」

「ちなみにですが、例外に当たる場合でも不可能です。何故ならその場合、日本の海上自衛隊が海路警戒の任務に就くようなので」

「ははっ。どちらの場合でも地獄、何ならミリシアル相手の方が光明がありそうに思えるぞ。まあ、実行すら無理なんだが」

 

 ならばと、両国の国力を削ぐべく搦め手を講じたとしても、ミリシアルが主となって敷く二重三重の警戒網がそれをことごとく絡めとり、あっさりと防いでしまう。

 

 異世界からの転移国家であるグラ・バルカスは信用していないものの、いずれ復活するであろう古の魔法帝国に対抗可能な技術力を誇る日本との交流は、技術体系は違えどミリシアルにとっては得しかない。

 

 何なら上手く行けば10~20年後、超兵器であるパル・キマイラやパルカオンやシーヴァンのみならず、()()()()()()()()()()()建造すら視野に入るのだ。

 

 戦時でありながらも、自国に訪れて来る日本人を傷つけるわけにいかないと、ミリシアルが必死になっているわけだ。ある意味当然だろう。

 

「超重爆撃機『グティマウン』編隊は出せないのか? 成層圏を飛ぶ要塞であれば、ムー国に駐留するミリシアルおよび日本をどうにか……いや、無理だな」

「出せはしますが、無理ですね。ミリシアルの制空戦闘機は最高速が800㎞超え、日本に至ってはマッハ……音の2倍をも超えると言われてますから」

「高度限界が分かれば良いんだがな。まあ、ミリシアルはともかく日本は余裕で超えてくるだろう」

「レーダーも高性能でしょうしね。かの国に征服欲があれば、とっくに世界征服している程に強いので」

「科学でも魔法染みた事がいずれ出来るようになるとは聞いた事があるが、これ程この言葉に合致する国が実在するとは……全く、つくづく異世界だ」

 

 その後も軍で最も偉い『サンド・パスタル』や諜報局の副局長、帝国三将の『カイザル・ローランド』や他陸海空軍の中将クラスの軍人たちが色々と意見を出し合うも、全員が一致する意見は中々出て来なかった。

 

 前世界では登場し得なかった強国が2ヵ国、日本に至ってはもはやおとぎ話かと言わんばかりの超技術を誇り、自国が本気を出しても完封殲滅されかねないのである。

 

 世界征服を達成するにあたって大きすぎる壁が、ここへ来て生じてきた訳であり、中々良い意見が出ずにまとまらないのも無理はない。皇帝の命令である以上、戦争を止める選択肢もないのだから。

 

「ひとまず休憩を取らないか? この様子だと、議論が長引きそうだからな」

 

 と言う訳で、本来であれば何がなんでも避けるべき壁へと向かい、乗り越えていかなければならないのが確定してしまった。



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古代の目覚め

 文化交流祭まで残り1週間を切ったとある日、ルーンポリスにある魔帝対策省の古代兵器分析戦術運用部、その中でも部長の『ヒルカネ・パルぺ』さん含む選りすぐりの面々が相対する会議に、私は呼ばれていた。

 

 そう言える頻度で行われる訳ではないけど、いつものように技術的要素を多分に含む会議かと思いきや、そうではない。

 グラ・バルカス帝国との戦争に関して、()()()発掘古代兵器を使用するか否か、とんでもなく重大な内容のものだったのだ。

 

 事の発端は一昨日、ミリシアル外務省に日本政府から衛星写真が送られてきた事から始まっている。

 あまりにもおぞましく、言葉を失う程に衝撃的であった推定合計1000隻のグラ・バルカス帝国海軍の大艦隊が、各地の軍港に集結している様子を含めたものだった。

 

 恐らく、これらの艦艇群は私の大好きな国であるミリシアル、もしくはムーに対して向けられるものだろう。杞憂であって欲しいけど、今の情勢を見るに希望は薄い。

 

 日本に向けられたものかも知れないと一瞬考えたものの、技術力云々の前に距離があまりにも離れすぎている。宣戦布告されたとの話も聞かないから、これは違うとすぐに頭の中から追いやった。

 

「これは明らかに、ミリシアルの通常戦力の手に余る物量だねぇ。恐らくだが、我が国の旧式や哨戒艦を入れても追い付かないよ。とは言え、負けるとは思わんが」

「うむ。航空戦力では優勢を保てているものの、海上艦艇の技術力はほぼ同等……負けるつもりはないが、勝てても犠牲者が沢山出るのは間違いない。下手したら、国が死に体と化すだろう」

「皇帝陛下からは必要に応じた古代兵器の起動許可、元老院からも同様の言質をもらっていますし、使用そのものは確定でしょう」

「私も同じく、使用はすべきだと考えます。パルカオンは、やはり1隻ないし2隻は欲しいところですね」

「むぅ……しかし、それは非常に貴重なものですよ」

 

 他の会議参加者たちも同じ想像をしているからか、使用そのものに関しては満場一致だったけど、現存する古代兵器の中で何をどれだけ割り振るかに関しては、議論が過熱していて殆んど決まらない。

 

 まあ、稼働可能なものも含めて11隻現存しているパル・キマイラは例外にせよ、3隻現存かつ2隻稼働可能なパルカオンやたった1隻、それも所々破損しているシーヴァンの投入を渋る意見があるのも分かる。

 

 リバースエンジニアリングを進めているとは言え、修復したり生産体制が整っている兵装はほんの一部である。現状では劣化コピーの生産すらほぼ不可能であり、替えが効かない状況だからだ。

 

 来るべき魔帝復活の日に備えた古代兵器を、私はそう思っていないけど、自国とほぼ互角程の相手に使うなど以ての外だと、その考えは未だに根強く残っているのだから。

 

「理解しています。ただ、それでも人の命には代えられません。数十年単位で私含む皆が努力すれば何とかなるそれらと、失えばそれっきりの命、天秤にかけるまでもないのではないでしょうか」

「それはそうでしょうな。()()()()()()()()、対処は可能だが物量は脅威的だと言ってましたから」

「弾数はともかく、総艦艇数は少ないみたいだからねぇ。まあ、それでも我が国の通常戦力どころか、推定1000隻以上のグラ・バルカス帝国海軍艦隊すら殲滅し、古代兵器すら撃破し得る力はある訳だ……おっと失礼、脱線してしまった」

「この程度なら問題ない。とにかく、パルカオン1隻は出すべきではないか? 後は、パル・キマイラと対空・対潜魔船辺りか。シーヴァンは、ひとまず様子見だな」

 

 しかし、それでもどうにか皆の安全と笑顔のためにと感情を込め、話をし続けていった結果、最終的にパルカオン1隻を含む発掘古代兵器を9隻、万が一の際に攻撃で動かす事が決定した。

 

 無論、それだけでは数が足りなくなる可能性が高いため、魔導軽空母4隻と魔導戦艦3隻を含む20隻の艦艇を追加する手筈となっている。

 

 なお、パルカオンやパル・キマイラ、対空・対潜魔船には魔帝製の各種誘導魔光弾の他にも、試験兵装としてミリシアル製の艦対艦誘導魔光弾『ウルティマⅠ型(天の火)』、艦対空誘導魔光弾『クウ・ウルティマⅠ型』が搭載されている。

 と言うか、して欲しいと私やビア含む数名の魔導技師で頼み込んだ。

 

 ウルティマⅠ型に関しては、仮想敵としてパルカオンを想定しているが故に威力がこれでもかと言う程に上げていて、理論上は改装後ミスリル級を確定で1発、ミスリル改級でも状況により1発で撃沈可能となっている。

 

 クウ・ウルティマⅠ型の方は、魔帝製の誘導魔光弾ないし天の浮舟を主な仮想敵に据えつつも、将来的には全力防御中のパル・キマイラにも対抗する事を想定している。

 

 とは言え、どちらも大量生産体制が整ったとは言い難く、またコアに魔法系レアメタルが使用されている以上、凄まじいコストがかかっていた。

 

 当然、1000隻の第二次世界大戦級の艦艇を沈める量は用意出来ていないので、仮に相手取るとしたら魔帝製誘導魔光弾を使用するか、パルカオンの主砲『150㎜魔導電磁加速砲』を起動しなければならない。

 

 ただ、魔帝の下で全力を振るえた当時ですら、砲身の耐久(破損しやすい)や使用魔力量などの要素から、易々と放てるものではないとの文献がある。

 技術力が追い付いているならまだしも、追い付いていない今万が一破損しようものなら、修復が出来ずに終わるのだ。使うなら、どうにもならない時の最終手段としてだろう。

 

 まあ、何だかんだ想定してはいても、1番は抱いている心配が杞憂に終わり、ここでの会議に使った時間が良い意味で無駄に終わる展開なのだけど。

 

「さてと。大方結論も出たところで、稼働準備と皇帝陛下へのご報告に行こうとしますかね。皆さんはもとより……オロール君、長期休暇前の追い込み時に呼んですまなかった」

「メテオスさん。これは呼ばれて然るべき内容でしたし、構いませんよ。むしろ、呼んで頂きありがとうございました」

 

 どのような展開になったとしても、出来る限りミリシアルやミリシアルに住む人々の命が失われる事のないよう、強く願いながら私は5時間にも及ぶ会議を行った魔帝対策省を後にした。



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文化交流祭(前編)

 魔帝対策省の会議に呼ばれて参加した日から1週間、長期休み前の仕事の追い込みも済ませた私は、ビアやビアの友人たちと一緒に日本との文化交流祭が行われている、『マナポリカル魔導大館』へと足を運んでいた。

 

 その会場とはミリシアルのみならず、主に第一から第三文明圏の国々の大衆文化を解説・体験したり、時折各々の技術力を誇る展示物の展覧会が開かれる場所であるため、敷地内の広さはルーンポリス随一である。

 

 無論、文化交流祭だけあって技術力を誇示するような展示物、例を挙げるなら戦車や戦闘機などの兵器、家電製品を筆頭とした生活用品は存在していない。

 

「映画やドラマ、アニメにゲーム、マンガに小説にスポーツ……他にも色々とあるようで。どうやら日本の皆さんは、この文化交流祭に相当力を入れてきたみたいですね」

「ミリシアルも色々出してるけど、文化面でもここまで凄いなんてビックリだよ。異世界からの転移国家、彼らの主張を頑なに信じない人も、流石に思い知るだろうなぁ」

「ですよね! これは、長い歴史を辿り続けた果てに作り上げられたもの。日本がもし、この世界に元からあった国ならば、既に名も知れた列強……いや、もしかしたらここまで発展出来てなかったかも?」

「ええ、恐らくは」

 

 しかし、観光や仕事問わずに来訪してくる日本人のマナーの良さ、他国と比べた場合の金払いの良さ、ムーのオタハイトの件も相まって、対日感情は良好なまま推移している。

 

 無論、どの国にも必ず存在するよろしくない人は発生しているものの、自浄作用が働いているお陰で大きな問題とはなっていない。実際、私もそのような光景を1度だけ見た事がある。

 

 更に、ミリシアル政府と日本政府の尽力により、ルーンポリスやカルトアルパスを中心とした都市、比較的田舎の町にも向けた宣伝が強力に行われていたため、この祭りに興味を抱くミリシアル人は多かった。

 

 分かりきってはいたけど、何かしらの理由で来たくても来れない人が相当数居ると想定しても、マナポリカル魔導大館を訪れる人の数は凄まじい。

 

 分野がまるっきり違うから何とも言えないものの、ここで働く人たちもきっと、追い込み中の私と同等かそれ以上に忙しい思いをしているだろう。

 

「あっ、すみません。日本の方、これ落としましたよ」

「おっと……これは失礼。ありがとう、お嬢ちゃん」

「いえいえ。たまたま、気づいたものですから」

 

 日本人の方も、ミリシアルの広報担当者や駐日大使館の面々を中心に行った宣伝活動、マイカルでのミリシアル軍の立ち居振舞いか効いているからか、その数は外国人の中でも一段と多い。

 

 そうは言ったものの、私の中ではどうにも外国人と接している感覚になりきれない。頭の中でしっかり理解出来たつもりでも、同じ国に住む人たちと話している感覚が抜けないのだ。

 

 ただ、その分交流をする際に緊張しにくくなる分、大なり小なり有利に働く。いつぞやカルトアルパスで私が案内した外交官、観戦武官で日本に行った時の外務省や自衛隊の人、あの男の子を含めた民間人、などである。

 

 まあ、外務省・自衛隊・外交官の人たちに関しては前世でも殆んど関わりがないし、うっかりやらかそうものならミリシアルの顔に泥を塗る羽目になる以上、緊張感は3割増しだった訳だけども。

 

「ねえ、ビア。オロールさん。『日本食』のブース、気になるから行ってみない?」

 

 色々と敷地内を回りつつ、何から体験してみようか考えていると、ビアの親友『クエリア』さんから日本食の方に行ってみないかと提案された。

 

 お寿司から始まり、ラーメンやうどんやお蕎麦などの麺料理、おでんに天ぷらに味噌汁と言った、料理名を聞くだけで食欲が湧いてきそうな面々が揃っているらしい。

 

 と言うか、既に良い匂いが漂ってきているのと、懐かしさの二段構えのお陰で食欲が倍増しである。

 当然、どの料理ブースにも人だかりが出来ていて時間はかかりそうだけど、この様子だと1日目が終わるまで列の長さは変わらないだろう。

 

「私は良いけど、他の皆はどう? 後、オロールさんはそれで大丈夫?」

「私たちは良いよー! つい先日、日本旅行行った子から、特にラーメンが美味しいって聞いてから気になっててさ!」

「日本食……ええ、勿論大丈夫ですよ。どのみち提案されずとも、私の方から提案してましたので」

 

 気分はもとより、断るに値する理由も全くなかったためクエリアさんの提案を了承、他の皆も乗り気だった事もあり、まず最初にラーメンの列へと並ぶ。

 

 しかし、最初から分かってはいた事だけど、ラーメンブースはありとあらゆる料理の中でも上位に位置する程、凄まじい人だかりが出来ている故に、中々私たちの番が回ってこない。

 

 加えて、日本でもトップクラスの味を誇るラーメン店、その中でも最高クラスに優秀で拘りが強い職人さんが作っているらしく、相当に時間がかかると看板には書かれている。

 

 現に、他の日本食ブースと比べた場合でも、職人さんの人数的な面もあるだろうけど、明らかに遅いのだ。

 

 ただ、その分どれだけ美味しいのだろうかと、期待値がどんどん上がっていく。前世の記憶を探ってみても、1度たりとも寄った事のない店なだけに、余計にそう思えてならなかった。

 

「次のお客様、お待たせして申し訳ありません。それでは、ご注文をお伺いいたします」

「いえいえ、とんでもないです。えっと……」

 

 事前に渡されたパンフレットに書かれたメニューを見ながら、何ラーメンを頼もうかと皆で考えたり、他愛もない世間話をしながら待つ事1時間と少し、私たちの番が回ってきたため、声をかけてきたスタッフさんに全員分の注文を代表して私が伝えた。



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文化交流祭(中編)

 マナポリカル魔導大館で開催中の文化交流祭、最初に立ち寄った日本食エリアのラーメンブースで各々ラーメンを頼んだ私たちは、備え付けのフードコートで存分に堪能していた。

 

 私は濃厚味噌ラーメン、ビアとクエリアさんは醤油ラーメン、他の友人たちは豚骨ラーメンを頼んでいる。私は特殊なので例外としても、他の皆もパンフレットを見て即決めていたから、口に合わなかったらどうしようかと考えていた。

 

 それに、良く考え込んだとしても口に合うかどうか、実際に食べてみるまで分からない訳だけど。

 

「あぁ……これは、お箸が進む美味しさだわぁ~。オロールさんも、そう思わない?」

「ええ。流石は、最高級の腕前を持っている職人の方々ですよ」

「その分値が張ったけど、元の価値分はあるねー。日本旅行行ったら、この店行こうかな?」

「ふふっ、余程気に入ったみたいですね」

 

 ビアたちが自身の頼んだラーメンを凄く美味しそうに、日本方式で(啜って)食べる様子を見て、抱いていた漠然とした不安は消え去った訳である。

 

 と言うか、全員やたらとお箸の扱いが上手い。ミリシアルで麺料理を食べる際は、地球で言うところのフォークに相当するものを使用するため、普通ならある程度は苦戦するはずなのだ。

 

「オロールさん、お箸の使い方上手だよね! 練習しましたー?」

「仕事の際に日本食を嗜む機会がありましたので。それより、皆さんも相当上手ですね。やはり、それなりに練習を?」

「勿論です! 今日に備えて、日本旅行をした友人に教えてもらったり、日本を解説した書籍で練習したりしてましたので!」

「自分はビアに少し教わった程度ですよ。多分、相性が良かったんだと思います」

「なるほど……」

 

 しかし、今日の文化交流祭が相当楽しみだったらしく、各々可能な方法で練習を行い、普通に食事が出来るレベルにまで腕を磨いたようだ。

 この様子だと、1度日本旅行に連れていったら食事のみならず、日本そのものにより興味を抱いてくれそうな気がしてくる。

 

 いつぞや、タイミングの良い時にカームやアルネウスさんと日本旅行をしようと約束したけど、そこに今日の文化交流祭メンバーを連れて行っても良いか、相談してみる事にしよう。

 

(ん? 通信機に着信……この魔導周波数は、メテオスさん?)

 

 そんなこんなで、究極の美味しさを誇るラーメンを堪能しつつ会話を続けていると、ミリシアル政府から提供された最新型携帯魔導通信機に、メテオスさんからの通信が入ってきた事に気づく。

 

 何の用もなくかけてくるような人ではないのは言わずもがな、その用がプライベートなものであったとしてもほぼ同じなので、これは確実に何かがあったと推測出来る。

 

 古代兵器関連で新発見でもしたか、誘導魔光弾や誘導魔雷関連でかなりの衝撃的な事でも発生したか、グラ・バルカス帝国との戦争に関して相当な進展でもあったのだろう。まあ、聞いてみなければ確実ではない。

 

『ああ、もしもし。オロール君、今通話は大丈夫かね?』

「えっと、少々お待ち下さい……どうぞ。メテオスさん、ご用件をお願いします」

『休暇中に済まないねぇ。だから、手短に用件を伝えるが……』

 

 と言う訳で、自宅に展開している結界『静寂と不聴の域(クワイトロニス)』を少し変えた上で2重に、私たちの座る席全体と私の周りに展開し通話に出ると、ある意味予想通りだったが故に驚いてしまう。

 

 何せ、グラ・バルカス帝国海軍の極大規模の艦隊が出撃、ほぼ確実にミリシアルへ攻めてくる航路を取っていると判明したと言うものだったのだ。情報源は勿論、日本政府である。

 

 当然、用意されていた各種発掘古代兵器や兵装を含めた、あの殲滅混成艦隊に出撃命令が下った訳で、パル・キマイラの1号艦艦長も務めているメテオスさんも、例外ではない。

 

「そうですか……」

『まあまあ、そう心配しなくても大丈夫だ。魔帝製やミリシアル製の誘導魔光弾もある上、何なら魔導電磁結界も使用可能……無論、油断せず慎重に行くのは変わらないだろう』

「はい、是非ともそうして下さい。死んだら怒り(泣き)ますからね」

 

 技術力や物量が地球で言うところの、第二次世界大戦後半のアメリカ合衆国に比肩する程の力を持つ国が、全力かどうかは不明なものの本気を出してきた。

 

 全力全開の現代日本に迫り、一部は追い越している魔帝の発掘古代兵器をも使用したとは言え、不安なものは不安なのである。

 

 だが、今はその事を考えるべきではない。せっかく、ビアたちと楽しく文化交流祭を楽しんでいるのだし、もし考えるなら休暇明けからで良いだろう。

 

『勿論……あぁ、それともう1つ。エモール王国との国境付近で発見された例の解説書、皇帝陛下から許可をもらってすぐにオロール君の進言通り、コピーを駐ミリシアル日本大使館を通して提供してみたんだが……』

「どうでした?」

『凄まじい食い付きだったねぇ。可能なら、対応出来る大魔導師の派遣を要請したいとまで言ったそうだ』

「やはりそうでしたか」

 

 そして、メテオスさんからの話はこれだけではなかった。私が数々の仕事と並行して行っている、コア魔法が発見された遺跡にあった解説書に記された3つの強力な魔法、これが日本に強烈な印象を与えたと言うものもあったのだ。

 

 細かな箇所での違いはあれど、お互いに似た者同士なコア魔法と核兵器、これらによる環境的破壊を極限まで小さく出来るとあっては、食い付きが良くなるのは自明の理と言い表せる。

 

 言わずもがな、私ですらかなり会得に苦戦中なこの魔法、他の優秀な大魔導師でも会得するには相応な時間が間違いなく必要となる。日本に派遣が可能となる程の余裕が出来るまでには、尚更時間が必要となるに違いない。

 

 まあ、日本の場合は核兵器云々よりも、原子力発電所の廃棄物問題や万が一の事故時の放射能漏れによる被害軽減、汚染地域や物質の浄化に使いたいと考えているだろうけど。

 

『とまあ、こんな感じで用件は終わりだ。それではオロール君、長期休暇をのんびり楽しんでくれたまえ』

「はい。ゆっくり楽しませていただきます」

 

 おおよそ20分、携帯型通信機を介したやり取りを続け、メテオスさんが通信を切断したのを確認した私は、展開していた結界を解除していく。

 何年も前から使い続けて扱うのに慣れた魔法なので、ほんの僅かでも時間さえあれば、解除および展開はお手のものだと自信を持てる。

 

「すみません。少々立て込んだ理由があったものですから……」

「別に構わないですよー。それより、もっと別の場所に行きましょう」

 

 そして、突然の行為でビックリしたであろうビアたちに謝罪を行ってからは、全員かなり満腹近くまで行っていた事もあり、流れるがままに芸術品などが多数揃うブースへと、向かう事が決定した。



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文化交流祭(後編)

 日本食エリアのラーメンブースにて、各々が食事を十分に堪能した後、私たちは芸術エリア内にあった『折り紙』ブースへと足を運び、その超絶技巧から出来た作品を眺めていた。

 

 前世の頃からずっと思っていたけど、たった1枚の紙から技巧に応じた多種多様かつ、複雑怪奇な作品を生み出せるその奥深さは凄まじい。

 

 全てに当てはまる訳ではないものの、2枚以上の折り紙を使う作品ともなれば、やり方を見たり教えてもらいながらですら、相当に苦戦すると言わざるを得ないのだ。

 

 私のような完全記憶能力持ちなら、他の人よりもある程度のアドバンテージを得た状態で始められはするものの、あくまでも完全ではない。

 

 ショーケース内に飾られている超絶技巧作品の作者方、鶴を片手間の作業が如く量産している日本人に比べれば、真似してすらある程度は見劣りしてしまうのだ。

 

「この紙1枚でこんなのが作れるなんて……えっ、嘘でしょ? 本当に作れるんだ」

「『ドラゴン』とか『鎧兜』なんて、やり方聞いて教えてもらいながらですら厳しいんだよねー。メジャーどころらしい『鶴』だって、相当な難易度だしさ」

「本当にそう思うわ……って、あの日本人凄くない? とんでもない早さで鶴量産してるんだけど」

「もしかしたら、あの方は折り紙のプロなのかも知れませんね。この文化交流祭、各ブースに1人は確実にその道を極めた方が居るとの事なので」

 

 当然、そんな能力がない上に折り紙を初めて見た、ないし多少経験した事がある位でしかない3人が、やり方を見た程度で作れる道理はない。

 

 しかし、上手い人に教わりつつやり方を解説した本などを見ながら練習し続ければ、いずれ何かしら作れるようにはなる。

 

 私も、完全記憶能力なんてなかった前世の小さかった頃、親や友達や保育園の先生に教わった結果、鶴程の難易度の作品であれば作れるまでに、腕が上がったのだ。

 

 とは言え、最終的にどの領域までに到達するか、またどの位の時間が必要となるかについては、個人差が大きくなるとは思うけど。

 

「すみません。私たちにも折り紙の折り方、教えてもらえませんか? 貴方の折るところを見ていて感銘を受け、やりたくなってきたので」

「おっ? 嬢ちゃんたち、嬉しい事言ってくれるじゃないの。よっしゃ! 頑張って俺の持つ技術を教えたるわ! 何が折りたいとかってリクエストあるかい?」

「先ほどまで貴方が折っていた、鶴が良いです。他の難しいやつは、まずは鶴を折れるようになってからにするので」

「了解! じゃあ、早速やるか!」

 

 そんな事を考えながらいると、超高速で鶴を量産していた折り紙のプロらしき男の人の手が止まったのを確認出来たため、声をかけて教えてもらいながら折り紙体験をする事を決める。

 

 私やビアの友人の1人は鶴であれば折れるものの、ビアやクエリアに関しては折り紙未経験なので、もっと簡単な奴の方が良いのではと考えてはいた。

 

 ただ、彼の超高速折り鶴製作の技巧に魅せられたらしく、やるのであれば鶴が折りたいとの希望だったので、こちらからは何も言うつもりはない。楽しんでくれさえすれば、何も問題はないのだから。

 

「ちょっ……早いですよおじさま! えっと、こんな感じですか?」

「おぉっと、すまねえ。どれどれ……おう、初心者の割には良く出来てると思うぞ! しかし、そっちのお二人さんはやたら上手いが、経験者か?」

「はい! 日本旅行に行った友人から、教えてもらった事があります!」

「右に同じく、()()()()()()()()()()()()()()感じです。本当に楽しいですよ、折り紙は」

「そうか。いやぁ、俺の知らないところで折り紙好きが増えてくれているのは、嬉しい限りだぜ」

 

 それにしても、折り紙を教える先生が超絶技巧を見せてくれた人とは言え、初心者なはずの2人が短時間で上達する飲み込みの早さを発揮しているのは凄い。

 

 ビアに関しては付き合いも長いから特に驚きはしないけど、クエリアがそれ以上に飲み込みが早い……いや、早すぎるのはちょっと驚いた。

 

 確か、彼女はルーンズヴァレッタ魔導学院の魔導技師だと言っていたけど、道理で航空機の発展が凄まじい訳である。

 

 分野がまるで違うので確実にそうとは言えないものの、例え知らない知識や技術があったとしても、少しの時間さえあればそれをものに出来るのだ。

 

「凄いですね、クエリアさん。この飲み込みの早さなら、仕事場でも相当に優秀なのでは?」

「あはは、そんな事はありませんよ。努力の末に得たものか才能かは置いておいて、私と同程度の能力持ちなら向こうに沢山居るんで」

「そうですか。それなら、ミリシアルの未来は明るいですね」

 

 しかも、他にも同等クラスの能力を発揮している人が居るらしいので、この様子だと開発中の()()()()()()()()()()()()()……最高速がマッハ1.4かつ、空対空誘導魔光弾を搭載した『エルペシオ5』も、近い内に登場してくるだろう。

 

 そうなれば、グラ・バルカス帝国が次世代航空機を投入してきたとしても、間違いなく優位性を保つ事が出来る。

 勿論、戦争は航空機のみで雌雄が決する訳ではないし、ミリシアルのそれと同程度の性能を誇るジェット戦闘機が登場する可能性もなくはないから、油断大敵ではあるけども。

 

「あの……これは?」

「俺が出した折り紙の本だ。配り続けてもう1冊しかないが、良ければ持ってってくれ」

「良いんですか? ありがとうございます!」

 

 そんなこんなで折り紙を楽しみ、ビアとクエリアが教えてもらいながら鶴の完成にこぎ着けたタイミングで、彼から自身が監修したらしい本を1冊手渡された。楽しみながら折り紙をしていた私たちを見て、嬉しく思ったようだ。

 

 なお、4人の内誰がもらうのかとの問題については、1番楽しそうにしていたビアにすると満場一致で決まる。

 

 私やビアの友人は元々ある程度の作品を生み出せる技術はあるし、同じくらいに楽しんでいたクエリアも、使いたければ貸してもらうから良いと言っていたのだから、当然の如くそんな流れになるだろう。

 

「ありがとうございました!」

「はいよー! これからも、折り紙楽しんでくれよな!」

 

 そうして最後、生み出した作品は先生に引き取ってもらい、家などで折れるようにと新しい折り紙をもらった私たちは他の日本文化を楽しむため、お礼を言ってからこの場を後にしていった。



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終わりの始まり(導入編)

 ミリシアル国内が戦時であると感じさせない程に平穏な中、発掘古代兵器を含むミリシアル海軍殲滅混成艦隊20隻は、ムー大陸南西1650㎞の海域を航行していた。

 

 自国へ攻めて来ようとしている悪魔が如き軍勢、膨大な量のグラ・バルカス帝国海軍艦艇を、取り返しのつかない被害をもたらす前に撃滅するためである。

 

 この艦隊にはパルカオン1隻にパル・キマイラ3隻、ユニバース級(対空魔船)を3隻にセイド級(対潜魔船)を2隻と、虎の子の発掘古代兵器が9隻も入れられていた。

 

 更に、サポート役として最新鋭かつ通常の魔導戦艦3隻に魔導軽空母4隻、可能な限りの必要な物資を積んだ補給艦4隻と、出来る限り多くのグラ・バルカス海軍艦艇を撃沈出来るような編成となっている。

 

「しかし、推定1000隻もの艦艇を一斉出撃させるだけの国力があるとは……グラ・バルカス帝国は化け物だな。察知が遅れたらと思うと、考えたくもない」

「ええ。ですから、本当に日本国様々ですよ。それにしても、あれだけの艦艇が沈めば、流石に奴らも厳しいでしょう」

「ああ、そうだろうと思いたい。だが、仮に金銭的に問題がなかったとしても、再建にかかる膨大な時間はどうしようもないはずだ」

「科学文明国ですからね。とは言え、現状この世界で魔導技術の頂点に立つ我々でも、同じ事が出来ないのは明らかなんですけど」

「ははっ。万が一出来てしまったら、それはもはや神だろうさ」

 

 普通に考えれば約50倍もの戦力差がある中敵に突っ込むなど、無駄死にするようなものであり、艦隊の士気は最低レベルまで落ち込むはずなのだが、実際は逆だと断言しても良い位には高い。

 

 古代発掘兵器のグラ・バルカスに対する圧倒的な技術的優位性、魔帝兵器に関連した各種研究を進めていくにつれて明らかになった事実、これらが精神的安寧をもたらしているのである。

 

 また、万が一の事態が発生した場合の連絡が入ってきた事に備え、予備戦力として古代発掘兵器を含む艦艇を幾ばくか、派遣する用意が成されていた。

 

「さてと。推定1000隻の艦艇を全部沈めていては確実に弾切れになる以上、敵空母や戦艦は優先して狙っておくか……奴らはまだ、こちらの射程距離には捉えられていないな?」

「はい、スフィア司令官。まだ250㎞以上も離れている上、時折飛び立つ偵察機らしき航空機も見当違いの場所へ飛んでいってますので」

「そうか。とにかく油断せず、敵の動向は注視しておけ。流石にないとは思うが、ディクトホーカー(垂直離着陸型早期警戒機)が撃墜されてしまえば、レーダーの探知範囲が大きく狭まってしまうからな」

「はい!」

 

 故に、混成殲滅艦隊の旗艦であるパルカオンの乗員も含め、全体としての雰囲気も戦場に向かう者として見れば、かなり和やかな方だと言える。

 

 無論、物量差は脅威的でしかない水準な上、グラ・バルカス海軍が何かしらの新兵器を繰り出し、僅かしか可能性がないにせよ被害を与える可能性があると考え、油断をする者は殆んど存在していなかったが。

 

「スフィア司令官! グラ・バルカスの偵察機らしき航空機が9機500㎞/hで接近中、クウ・ウルティマⅠ型の射程圏内へ入りました! 艦艇は我々より155㎞、まだウルティマⅠ型の射程圏外です!」

 

 ある程度の時間が経過し、両国の艦隊が徐々に距離を縮めていった頃、レーダー監視員から司令官へグラ・バルカス海軍の偵察機が、射程圏内へ入った事を伝える報告が成された。

 

 海上を埋め尽くすと言わんばかりの艦艇群については、各種古代発掘兵器に装備されている自前の対艦誘導魔光弾の射程にギリギリで入っておらず、空母や戦艦が射程に入るまでレーダーを注視する事が決められる。

 

「そうか……対空戦闘用意。情報を出来る限り持ち帰らせぬため、接近中の敵偵察機を全機撃墜せよ」

「了解……総員、対空戦闘用意! 接近中の敵偵察機を全機撃墜せよ!」

 

 加えて、少しでもミリシアル側の優位性を損なう状況を作らないため、クウ・ウルティマⅠ型による撃墜が決定、発射準備が超速で整えられた。

 

 なお、同様の理由で対潜魔船を除いた、古代発掘兵器群7隻が分担して発射する手筈になっている。その気になれば、第二次世界大戦相当の偵察機9機程度、対空魔船が1隻居れば対処は余裕なのだ。

 

 何なら、諸々の事情を無視しさえすれば、対空兵装に乏しい対潜魔船1隻のみですら余裕で全機撃墜が可能である。

 

「全艦、準備完了したとの報告が入りました。いつでも撃てます!」

「よし……撃て! 愛するミリシアルを滅さんとする不届き者に、裁きの鉄槌を下すのだ!」

 

 そして、対潜魔船を除く古代発掘兵器全艦の準備が完了したとの報告を皮切りに、偵察機を撃墜するための蒼白の尾を引く光槍が、空へと昇っていく。

 

 昼間かつ曇りと言う天候ではあるものの、空を超高速で昇り駆けていくその様は非常に美しく、外を何かしらの形で見る事が可能な殲滅混成艦隊の面々の大半は、その光景を各々思いを抱きながら見送っている。

 

「クウ・ウルティマⅠ型9発、不具合なく順調に飛翔中。このまま行けば、もう間もなく命中します」

「魔帝と日本国の技術を一部取り入れた集大成……グラ・バルカスの航空機程度、撃ち落としてもらわなくては困る」

 

 ちなみに、魔帝製の中距離艦対空誘導魔光弾『ラスター』や、中距離艦対艦誘導魔光弾『フォルスター』に関しては、ミリシアル製の誘導魔光弾がなくなった際に使用される事が決定していた。

 

 現状、自国製のものよりも威力や射程はともかく、誘導性能や対妨害性能に関しては明らかな差が存在していたため、先に使い切るのは憚られたのである。

 

「残り10秒で目標到達……5、4、3、2、1……全弾命中。敵航空機の反応、ロストしました」

「よし!」

「それと敵艦艇……戦艦と空母5隻、ウルティマⅠ型の射程圏内に入りました。対潜魔船以外の全古代兵器、発射準備は整っています」

「そうか……遠慮は要らん。侵略者共を海の藻屑としてやれ!」

「了解!」

 

 なお、クウ・ウルティマⅠ型は寸分の狂いもなく全弾命中し目標を撃墜、ほぼ同時にウルティマⅠ型の射程圏内へ敵艦艇が入った事により、本格的な海戦が開始された。



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終わりの始まり(前編)

 皇帝グラ・ルークスの命によってミリシアルを攻略すべく、自国が持つ戦力の7割(1065隻)を割いてまで出撃した極大艦隊、その旗艦を務める『グレードアトラスター』艦内は、非常に慌ただしくなっていた。

 

 周辺海域の偵察に向かっていた『コメット(艦上偵察機)』9機が、蒼い光の槍が追ってくるとの通信を送ってきたのを最後に連絡が途絶し、それとほぼ同時に原因不明の電波障害が発生してしまったからである。

 

 更に、事前の各種調査や通信途絶前の一言から、日本艦隊もしくはミリシアル艦隊による艦上偵察機の撃墜に、誘導弾が使用された可能性が極めて高いと言わざるを得なくなってしまう。

 

 相手と自国の技術力の差がどの程度かにもよるが、現状のグラ・バルカスでは対処は非常に難しく、何も対策しなかった場合に推定される命中率は、最低でも9割を超えている。

 ほぼ必中と言っても過言ではないため、尚更慌てる者が多くなっていたのだ。

 

「ラクスタル艦長。この状況、どう見る?」

「恐らく……いや、十中八九誘導弾によって撃墜されたと思います。日本国艦隊が放ったものと言う可能性が高いですが、ミリシアル艦隊が放ったものと言う可能性も、現状では否定出来ません。原因不明の電波妨害も、恐らくはどちらか2ヵ国の仕業かと」

「だろうな。最新レーダーですらまともに機能しなくなる精度の電波妨害、未だ我が国では試作に至れるか否かの領域にある誘導弾、脅威だな。後者の対策に関しては試作の域を出ないが、先進技術研究開発部が開発した兵器があるが、この状況下で果たしてどの程度の効果を発揮してくれるか……」

「艦船搭載型の『フレア』や『チャフ』でしたよね。確かに、私もそう思います」

 

 しかし、司令官のカイザルや旗艦艦長のラクスタルを含め、かなりのベテランである乗員は比較的冷静であり、現状どうにもならない電波妨害に関しては程々に、可能な限りの誘導弾に対する対策を話し合っている。

 

 なお、情報源はミリシアルへ頻繁に出入りする商人、ないし周辺国の商人に扮したスパイから入手した書籍であり、軍関係者と言った人物からは情報を殆んど入手出来ていない。と言うよりは、故意的に入手していない。

 

 戦争初期の頃は割と積極的に行われていたものの、カルトアルパス魔導学院への特殊部隊派遣が失敗に終わり、厳戒態勢が敷かれるようになってしまったのが原因である。

 

「偵察機が飛んでいった方角に敵航空隊ないし敵艦隊が居るはずだが、さてどうしたものか……やはり、攻撃隊を差し向けるべきか?」

「日本国の書籍に記してあった対艦誘導弾(誘導ロケット弾)が存在している可能性を鑑みれば、やはり――」

「カイザル司令官、ラクスタル艦長! 他の皆様も、あれを見てください!」

「「ん??」」

 

 そして、偵察機が向かっていった方角へ第1次攻撃隊を400機程、差し向けるか否かを決める流れに入ろうとしたその刹那、外を見ていた監視員が声をあげる。

 

 直接言葉に出した訳ではないものの、何がなんでも見て欲しいとの強い意思が込められた呼び掛けに、カイザルやラクスタルも話を中断して窓から双眼鏡を使用し、外を覗く。

 

「あれは……不味いぞっ!! 総員、対空戦闘用意! 発煙筒ないし発光信号、取れるありとあらゆる手段を講じて空母に発艦命令を伝えろ!」

「対空があるなら対艦もある、自明の理ですね。しかし、蒼い光の尾を引き、かつこの距離で上空に見えるものではなかったような気がします。書籍情報ですが」

「情報に間違いがあったか、ミリシアルが独自の誘導弾を開発したか……相手が用意した弾数にもよるが、どちらにせよ我々は岐路に立たされている。迎撃出来なければ、最悪死ぬだけなのだから」

 

 すると、白い雲が覆う空に目立つ蒼い尾を引く光の大槍(ウルティマⅠ型)が多数、一部は戦艦や空母を狙って落ち始めている光景が2人の目に入ってきてしまう。

 

 無論、即座にカイザルが旗艦は当然の事、レーダーが使用不能な事から万が一を想定した手段を用い、伝言ゲームが如く艦隊に命令を伝えようと努力するも、その間に凄まじい速度で接近してくる。

 

 なお、命令が伝わる前に気づいていた艦も勿論存在していて、対空戦闘を独自に開始したりもしているが、弾幕が足りなさすぎて命中するどころか掠りすらしていない。

 

 何なら、技術的に同程度の航空機が相手であれ、第二次世界大戦クラスの技術では対空射撃は牽制の意味合いが強いのだ。

 それよりも速く、大きさも小さい光の大槍を撃墜するなど、同等以上の技術を以て対抗するか、まぐれ当たりを期待するしかないのである。

 

「ぐっ、命中してしまったか! しかし、なんと言う爆炎の大きさだ」

「見る限りでは本艦の主砲の威力を軽く超えていますね。明らかに戦艦でもそうそう受け切れない破壊力、ほぼ必中と断言出来る命中率が加わり……ん?」

「どうした……は?」

 

 故に、必死の対空戦闘の甲斐なく落ち始めていた光の大槍は1つも撃墜される事はなく、不具合などによる墜落も一切なかった。

 結果、旗艦に程近い場所を航行していたヘルクレス級戦艦2隻にオリオン級戦艦3隻、ペガスス級航空母艦3隻他軽空母4隻へ亜音速で直撃、内部に秘められたその絶大な破壊力を解放する事となる。

 

 そして、要塞級の船体と防御力を持つ魔帝のパルカオン(超兵器)を撃沈する目的で作られたそれは、戦艦か否かは関係なく当たった艦艇を1分弱と言う極短時間で海の藻屑と化させてしまう。

 

 狙われた艦艇の中で、フレアやチャフを搭載していた艦艇は当然の如く発射しながらの回避運動を行ったものの、威力が高すぎて多少命中箇所が逸れた程度では意味をなさなかった。

 

「俺は、夢でも見ているのか? ついさっきまで、そこに艦艇があったはずなのだが?」

「まさか……まさか、戦艦が1撃で轟沈するなど……百歩譲ってオリオン級ならともかく、ヘルクレス級までも……!」

 

 戦艦を、それもグラ・バルカス帝国内で旗艦に次いで、象徴的かつ防御力の高いヘルクレス級がたった1撃で、かつ目の前で轟沈してしまう経験は彼らにはなく、普段冷静沈着な2人が声をあげて驚いてしまうのは無理もない。

 

「おいおい、冗談じゃないぞ……すまない、ラクスタル艦長。俺にもう少し力があれば、新型試作兵器を持ってこれただろうに」

「いえ、謝らないで下さい。まだ、運命は確定した訳ではありませんから」

 

 しかし、命中した艦艇が轟沈してから時間も経たない内、まるで蒼い流星群と言い表したくなる程の量が水平線の彼方から飛来してきた事で、すぐに2人を含めた皆の思考がそっちの方へと塗り変わっていった。



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終わりの始まり(中編)

 互いの艦隊先頭の距離が70㎞を切り、対空・対艦戦闘共にミリシアル側が圧倒的優位で推移していく最中、パル・キマイラ1号艦含む艦隊全体を包む緊張感は、未だに保たれたままであった。

 

 意図的に残された敵旗艦級戦艦(グレードアトラスター級)2隻を除き、無傷で敵戦艦および空母の撃沈を達成、他艦艇の多数撃沈にも成功していたものの、それでも未だに750隻(巡洋艦や駆逐艦)近くも残っていたからである。

 

「これは、何とも凄まじい。誘導魔光弾の欺瞞を狙う兵器を出してきた時は驚いたが、大した事なくて良かった」

「そうですね。攻撃命中前の敵空母より発艦した艦載機もエルペシオ4より低速なので、パル・キマイラの各兵装を効果的に運用しさえすれば、敗北はないでしょう」

「だろうねぇ。物量差は凄まじいものの、残存艦艇はシルバー改級相当かそれ以下相当ばかり……おっと。念のため、回避運動を行いつつ、万が一当たる可能性のある砲弾はクウ・ウルティマⅠ型で撃墜しておけ」

「了解」

 

 現在、事前に用意していた全てのウルティマⅠ型、およびフォルスター(魔帝製艦対艦誘導魔光弾)を使い切ってはいるが、戦果としてはこの上ない。

 後者はともかく、前者の自国産も魔帝製に大きくは劣らぬ優れた性能を発揮していたので、当然の摂理と言えた。

 

 ちなみに、クウ・ウルティマⅠ型およびラスター(魔帝製艦対空誘導魔光弾)に関しては、発艦してしまったグラ・バルカスの艦載機を多数撃墜してなお、更に多くの対空目標を撃墜可能な程、残弾に余裕がある。

 

 古代発掘兵器の仕様や遺跡の調査による数々の発見、友好関係にある日本からの強力なアドバイス、訓練時の模擬海戦の結果、他多数の要素が重なりあったが故に、元から持ち込んでいた量が多かったのが理由だ。

 

 後は、事前の方針により敵空母艦載機ごと、敵空母をウルティマⅠ型やフォルスターで轟沈させていた事も無視は出来ないだろう。

 

 もし、全ての敵空母から発艦されてしまった場合、魔導コンピューターの処理能力を普通に超えてしまい、最悪いずれかの艦に被害が及ぶ可能性があるのだから。

 

『総員。離陸済みの残存敵航空機、および敵戦艦2隻により一層注意しつつ、砲撃戦に移行せよ。決して驕らず、同等の相手と対峙する心持ちで行け』

「了解……さて、気張ろうか。弾種は徹甲榴弾、少しでも艦艇への負荷を増やすぞ」

「はい!」

 

 超望遠魔導波検出装置を使用せずとも、旗艦級以外の未だ残る膨大な数の敵艦隊の砲撃射程圏内に入り始めてしまう17㎞を切ったタイミングで、旗艦の司令官(スフィア)より砲撃戦の指示が下ったため、パル・キマイラ1号艦内でも乗員が準備に入る。

 

 搭載艦艇や連装砲か単装砲かなどによって、システム上の細かな違いはあるものの、魔帝製超兵器および艦艇に搭載されている『15cm魔導砲』の最大射程は25㎞、有効射程は18㎞である。

 

 ただし、砲弾そのものに誘導性は存在しないため、魔導コンピューターや魔導射撃管制装置による補助があれど、ほぼ必中クラスの命中率を叩き出すのは不可能であった。

 

「命中、命中、また命中! 装甲の比較的厚い重巡洋艦級であっても、徹甲榴弾なら撃沈は難しくない模様! なお、敵旗艦級には魔導徹甲弾でも効果は薄い模様!」

「そうか。魔帝製とは言え所詮は15cm砲、魔導徹甲弾では戦艦の装甲は貫けない。ともなれば、一部の弾を魔導破榴弾に変えたまえ」

「了解しました……弾種、下部15cm砲のみ魔導破榴弾! ひたすら当て続けろ!」

 

 しかし、それでも従来のミリシアル艦の砲に比べれば圧倒的であり、毎分30~35発もの速射性能も相まって、短時間で多数のグラ・バルカス海軍の駆逐艦や巡洋艦へ命中弾を出し、撃沈・轟沈させていく。

 

 メテオスが艦長を務める1号艦だけではなく、ワールマンが艦長を務める2号艦や優秀な大魔導師が艦長を務めている3号艦もほぼ同等の命中率を叩き出し、凄まじい勢いで艦艇数が減少していった。

 無論、旗艦のパルカオンや対空・対潜魔船に搭載されている15cm単装魔導砲も、驚異的な戦果を上げ続けている。

 

「なっ……敵旗艦級2隻の主砲弾、弾道計算上1発が本艦直撃コース! 2発が3号艦への至近弾、ないし直撃コースに入ってます!」

「ほう、敵艦にも化け物級に優れた砲術士が居るようだ……まあ良い。空中目標には対空榴弾がセオリーだろうが、強固な徹甲弾の可能性が否定出来ぬ以上、念のためにクウ・ウルティマⅠ型を敵砲弾1発につき2発放ち、味方に対するものも含めて確実に全弾迎撃したまえ」

 

 そして、15cm砲では命中しても大したダメージを受けず、旗艦級戦艦2隻が反撃として多数放ったものの内、一部が直撃コースを飛翔していた46cm3連装砲9門の砲弾に関しても、クウ・ウルティマⅠ型による迎撃が実行される事となる。

 

 ミリシアルや魔帝製の、艦対空誘導魔光弾の飛翔速度であるマッハ3~4よりは遅く、砲弾の大きさもそれなりなため、捕捉自体はあまり難しくはなかった。

 

 ただ、互いの距離や弾種などの各種要素にも左右されるが、何の策も講じず直撃を受けてしまった場合、最悪は完全防御形態を取るパル・キマイラすら深手を負わされる可能性がある。

 

 こう考える者が殆んどなため、油断丸出しの振る舞いをする者はおろか、考える者すら存在していない。

 

「クウ・ウルティマⅠ型全弾命中、オールクリア。直撃弾の撃墜に成功しました」

「うむ、当然だ。しかし、あの爆発は……まさか本当に、徹甲弾だったのか」

「恐らくは。パル・キマイラが戦艦級の大きさを誇る船体とは言え、対空戦闘に徹甲弾を放つなど、正気の沙汰ではないですよ。まあ、実際に何もしなければ直撃していたので、彼らの技量ありきでしょうが」

 

 結果、パル・キマイラ1号艦の優秀な乗員および高性能な兵装、システムがフルに活用され、余裕綽々に直撃弾となっていた砲弾……徹甲弾の撃墜を成功させている。

 

 なお、クウ・ウルティマⅠ型は対空用としてはかなりの高威力であったため、弾体の耐久性が高い徹甲弾が相手でも、命中しさえすれば1発で十分と今回の防御により判明した。

 

 ただ、今回以降も全弾命中が確実に可能かと問われれば、決してそうとは言い切れない。なので、いざと言う時のために追加で発射出来る態勢は、しっかりと整えられていく。

 

『総員。本艦はこれより、()()()()()()()に入る。その間の対空戦闘(砲弾迎撃)は任せた』

 

 それから、グラ・バルカス艦隊とおよそ14~17㎞の距離を保ちつつ砲撃戦を行い更に127隻を沈め、空母撃沈前に発艦した艦載機476機も実質全滅させたその刹那、旗艦(パルカオン)よりミリシアル艦隊全体に衝撃をもたらす通信が入る。

 

「そう言う事だったのか……しかし、これは予想外だねぇ」

「そうですね。砲身、大丈夫でしょうか……」

 

 と同時に、パルカオンの兵装内で最大級の破壊力と貫徹力を誇る、2基2門の150㎜魔導電磁加速砲『ラノス』の砲身が旋回、敵旗艦級戦艦2隻へと各々向けられていった。



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終わりの始まり(後編)

 ミリシアルの混成殲滅艦隊(古代発掘兵器群)が猛攻を仕掛け、ミリシアル本土を侵略しようと目論むグラ・バルカス海軍艦艇を437隻轟沈、空母艦載機を実質全滅に追い込んでいく中、パルカオン内は凄まじい緊張感に包まれていた。

 

 この場で最も対空・対艦戦闘に秀でている古代発掘兵器9隻、それには劣れど優秀な魔導軽空母の艦載機による援護があるとは言え、凄まじい電力(魔力)を食う主砲(ラノス)のチャージを行うために、敵前で自艦を守る兵装を止めざるを得ない状況に置かれているからだ。

 

「むぅ。分かってはいた事だが、充填が長すぎるぞ……どんな感じになっている?」

「魔力変換充填率10%……魔導回路、魔力電磁変換術式、砲身保護術式、魔核炉での不具合はないです。ただし、変換を高速効率化するシステムが作動していません」

「そうか……まあ、致し方ないな。致命的な不具合が出ないだけ救われている方だ」

 

 ただし、主砲に関わる以外の兵装でも各種レーダーやソナー、3基の魔核炉から生成される魔力での移動は制限の対象外である。

 また、海上要塞の別名の通り570mもの船体を誇る故に機動力はすこぶる悪いが、素の状態でも超弩級戦艦を超える防御力がある。

 距離や弾種、命中箇所によってある程度上下はするものの、46cm砲を複数発耐える事が可能なのだ。

 

 言わずもがな、時折直撃してくる巡洋艦や駆逐艦の主砲では傷すら負わないため、命中した際の爆発音や振動が艦内を駆け巡ったとしても、多少なりとも狼狽する者はいない。

 

「只今の充填率は35%、40%……おぉっ!? 敵旗艦(グレードアトラスター)級戦艦の砲弾、重要装甲区画に2発命中!」

「タイミング良くすり抜けて来たかっ! 被害はどうだ!?」

「戦闘に支障はありません、両方とも小破です! 人的被害はなし、主砲のチャージにも影響はありません!」

「なら良い。ただ、そろそろ対空誘導魔光弾の残弾が厳しくなってきたか? 敵がより一層必死になっているのもあるだろうが……」

 

 しかし、流石に46cm砲から放たれる重量1.5tの徹甲弾が命中したとあっては、その破壊力によって主砲のチャージに支障が出る可能性が生まれる上、小破だとしても被害を与えられた事実に変わりはない。

 

 魔導電磁結界展開と装甲強化をしていれば軽微寄りの小破、運が良ければ損害軽微で済んでいたと試算が出た以上、多少狼狽する者が出てもおかしくはなかった。

 

 まあ、その2つの兵装が使用出来るのなら、自艦に搭載している艦対空誘導魔光弾(魔帝製とミリシアル製)の残りと15cm単装速射砲を全力投射、直撃弾を迎撃して当たらないようにする方針を取るのだが。

 

「ともなれば……よし、とにかく奴らから距離を取れ! 射程圏内にある間、各艦の砲撃は巡洋艦および駆逐艦に集中、快速艦艇による余計なかき乱しをさせるな!」

 

 それ故か、旗艦級戦艦2隻との距離が13㎞を切ったタイミングで、司令官は混成殲滅艦隊全体に距離を離す命令を下し、46cm砲の徹甲弾が命中する確率を減らしにかかる。

 あわよくば射程圏外へと逃れ、安全圏で主砲のチャージを完了させ放つまでを行うつもりでいた。

 

 無論、それを行うといずれは敵巡洋艦や駆逐艦が15cm砲の射程圏外へと出てしまうが、全て承知の上である。

 

 なお、パルカオンの主砲チャージを中断し、全兵装を再起動した後離し切るまで待つ手も考えなかった訳ではない。

 

 ただ、電力変換効率を上昇させるシステムの他に、本来なら備わっているはずの溜電導機能も発掘時既に一部故障していた影響で、中断すると急速に溜めた電力が霧散してしまうために、一時中断が不可能なのだ。

 

 ちなみに、敵旗艦級戦艦の最高速力が30ノットに対し、パルカオンは24ノットである。何も対策しなければ、巡洋艦や駆逐艦どころか戦艦にも余裕で追い付かれてしまう。

 

「敵旗艦級戦艦2隻、我が方よりも優速。距離を放すどころか迫られてます! 巡洋艦および駆逐艦は言わずもがなです!」

「だろうな! こうなったら主砲発射を諦め、ラスターを対艦攻撃に流用するしか……ん?」

 

 しかし、2隻が海上では目と鼻の先である7㎞までは近づいてきたものの、それ以上は近づいて来ようとしなかったのもあり、司令官は腹を決めて再度の砲撃戦を決意、同時に軽空母や補給艦艦長へ遠くに行くように指示を下す。

 

「ちぃっ、またか! 被害報告!」

「艦尾に2発、重要装甲区画に1発、艦首に1発が命中! いずれも小破の範囲内! 人的被害は不明!」

「総合的には軽微か……主砲のチャージ率はどうなっている?」

「現時点では65%です。しかし、被弾による影響かチャージ速度が6割減少しました!」

「何だと!? だが、ここで止める訳にはいかん! すまない、皆何とか耐えてくれ!!」

 

 ミリシアル側の砲撃命中率も上昇するが、当然の如く敵方の砲撃命中率もそれ相応に上昇、砲弾の迎撃用誘導魔光弾の残弾が少なくなっているのも相まって、パルカオンへの被弾がどんどん増えていく。

 

 が、操舵する乗員の優れた腕前や司令官の指示、持ち前の要塞級の防御力が加わる事により、いずれの被弾も最小限の被害で抑えられていた。

 

 とは言うものの、相手側の練度はミリシアルの第零式魔導艦隊および第一外洋派遣艦隊と同等、もしくは僅かに上回る程の腕前を持つ精鋭である。

 

 このままでは命中率が際限なく高まり、主砲の発射が不可能となる可能性も比例して高まってしまう。

 現状、主砲のチャージ速度が大きく減少する被害を受けているが故に、司令官以下砲撃に携わる乗員全員が頭の中でそう考えていた。

 

「司令官! 主砲のチャージ、完了しました! 艦首と艦尾の電磁加速砲、命令さえあればいつでも撃てます!」

 

 決して小さくないトラブルに見舞われながらも、主砲のチャージを始めてから15分半経過した際、遂に完了を告げる報告が成される。

 

 砲身に刻まれた魔導回路が蒼白色に淡く光り、チャージ開始と同時に現れた砲口の複雑怪奇な魔法陣も同様に輝きが増していて、綺麗なだけでなく凄まじい威力が秘められていると、乗員がそう思える程の威容を誇っている。

 

「ようやく来たか……艦首・艦尾150㎜魔導電磁加速砲(ラノス)。目標、敵旗艦級戦艦2隻!」

「了解! 目標、敵旗艦級戦艦2隻……今だ、撃てぇぇーー!!」

 

 そして、その報告を聞いた司令官が命令を下し、艦長が命令を感情のこもった大声で復唱した瞬間、眩い蒼光(そうこう)や奇妙な発射音と同時に特殊弾頭砲弾が、マッハ8.3の極超音速で敵旗艦級戦艦へと飛翔、一切の回避運動すら許さず命中させる事に成功した。

 

 砲弾が秘めたる運動エネルギーに加え、強力な熱を伴う電磁エネルギーが内包された1発は、敵旗艦の艦首左方から後部主砲まで食い込んだ後に膨大な電磁エネルギーを解放、猛烈な雷と熱を伴う爆発を発生させ大規模な誘爆を多数誘発、即座に海底へと沈んでいく。

 

 もう1隻についても、船体とほぼ平行に命中し重要装甲区画まで食い込んだ後に爆発、旗艦とほぼ同様の末路を辿らせていった。

 

()()()()()()()()これ程とは、魔帝の遺産は恐ろしいな……」

「そうですね。ところで、この後はどうしますか?」

「無論、弾がなくなるか敵艦を沈め切るまで戦闘は続行だ。ただし、魚雷だけには注意しろ。出来るだけ、こちらの有効射程ギリギリを保て」

「了解!」

 

 無論、敵がまだ残っている事からパルカオンの主砲で敵2隻を轟沈させた余韻には浸らず、司令官は即座に追撃の指示を下す。

 旗艦級戦艦の砲撃にも勝るとも劣らぬ魚雷による攻撃がある事から、可能な限り有効射程ギリギリを保つようにと念を押していく。

 

 こうして、全力の掃討戦を続ける事7時間、戦闘開始から11時間半、完全に日が沈んでしばらく経った時、ほんの僅かの降伏兵と海上で救助した補給艦に乗せた兵士を除き、グラ・バルカス海軍の極大規模を誇っていた艦隊は全て海の藻屑と化していった。



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驚愕の日本国

 ミリシアルの混成殲滅艦隊が、自国を攻めようとするグラ・バルカスの侵略者たち(極大規模艦隊)を圧倒的な力を以て全滅させ、死亡やそれに類する者も出さず無事に帰還してから2週間程経った頃、駐ミリシアル日本国大使の柳原(やなぎはら)と助手の峯山(みねやま)は、アルビオン城へと足を運んでいた。

 

 日本大使館へと派遣されたミリシアル政府の役人を介し、ミリシアル8世(国家元首)より「見せたい映像があるから見に来て欲しい」と、書面で伝えられたためだ。

 

「日本国大使よ、わざわざ呼び出してすまないな」

「大丈夫です、皇帝陛下。ところで、見せたい映像と言うのは一体どのようなものなのでしょうか?」

「ああ、それはな……貴国の人工衛星が捉えてくれたグラ・バルカス帝国の大艦隊、それと対峙した我が国の古代発掘兵器9隻込みの、混成殲滅艦隊20隻についてなのだ」

「なるほど、そうだったのですね」

「うむ。さてと……メテオス。パル・キマイラ、およびパルカオンが撮影した例の映像のデータが入った、魔導映像投射機を持ってきてくれ」

「了解しました」

 

 ただでさえ、自国を除けば現状この世界で圧倒的な国力と技術力を持つ超大国であり、科学のムー以上に深い友好関係にある国家の元首(皇帝)から呼び出しを受けたとあっては、さしもの日本側も緊張せざるを得ない。

 

 自国政府の人間、および自分たちがやらかして呼ばれた訳ではないにせよ、事が事なだけに尚更であった。

 

 皇帝の発言により、対峙したミリシアルの艦隊に古代発掘兵器の存在があると察したとは言え、それを数に入れてさえ20隻しかない。

 

 にも関わらず、グラ・バルカス帝国海軍の1000隻を超える大艦隊と、単純計算でおよそ50倍もの戦力差がある中戦ったミリシアル()()の人たちが、心配で仕方なかったのである。

 

「「……へ?」」

 

 だが、そんな日本大使と助手2人の思考は、ミリシアルの混成殲滅艦隊……主に古代発掘兵器9隻だが、魔導映像投射機越しに見たその彼らの圧倒的な蹂躙劇を見たため、中断された。

 

 当たれば戦艦すら1撃で轟沈させるウルティマⅠ型(艦対艦誘導魔光弾)、日本で言う大和型戦艦相当の艦艇の砲撃すら素で余裕で耐え、1撃で沈める破壊力の主砲(ラノス)を持つパルカオン(海上要塞)、これらが出た際の反応は特に際立っている。

 

「念のために言っておくが、映像の前半部分で古代兵器群より発射されたウルティマⅠ型、あれ以外は()()()()()()()だ」

「いやはや……終始圧倒されっぱなしですよ。それでいて、こんな超兵器を全力で運用していた古の魔法帝国(暴虐の権化)が、いずれ必ず復活する。日本も、考えなければなりませんね。軍拡を」

「はは! 頼りになる友人が本気を出してくれるのなら、非常にありがたいな」

「ありがとうございます。ただ、我々にも国内事情がございますので、実際にどうなるかは不透明と言うのをご理解頂ければ幸いです」

「無論だ。国家としてはもとより、個人的にも要求するつもりはないから、心配はしなくても良い」

 

 この世界に転移してきた時から接触ないし友好関係を結んだ国々、敵対した2ヵ国から伝え聞いた、古の魔法帝国の伝説と所業。

 

 一部魔導技術は第三文明圏随一の『パンドーラ大魔法公国』、講和条約締結後の性格が真反対となったパーパルディア皇国、ミリシアルの大魔導師による『魔法』の利便性や危険性の周知。

 

 エモールの『空間の占い』やミリシアルの遺跡から出土する物品、現存するどころか()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()などによる、過去での実在と復活の根拠補強。

 

 これら以外にも大小様々なこの世界でしてきた経験も加われば、実在や復活が夢物語ではないと確信するのも、当然の摂理と言ってもおかしくはないだろう。

 

「ミリシアルが持てる力を全て発揮し、無辜の民に犠牲者や負傷者を一切出さず、グラ・バルカス帝国艦隊の侵攻を完全にはね除ける事が出来たのも、日本国の情報提供があってこそだ。ありがとう」

「いえいえ、とんでもない。我々としましても、邦人の命を守るために行った面が大きかったので……」

「それでも、ミリシアルが助かった事に変わりはない。そうだろう? メテオス」

「はい。私といたしましても、日本国の人工衛星による情報提供がなければ初動が遅れ、大変な騒ぎになっていたと考えていますので、皇帝陛下の仰る通りだと思います」

「と言う訳だ。どの国も自国の民が最優先なのは変わらぬのだから、あまり思い詰めないでくれ」

 

 そして、記録されていた映像観覧が終わると、机を介して正面に座っていたミリシアル8世が立ち上がり、深々と頭を下げて感謝の意を伝えた。

 内心落ち着いた体で居ながらも、皇帝より頭を下げられた2人は緊張感が倍増しである。

 

 しかし、同時に並大抵ではない程の威厳があり、対峙した者に緊張感をもたらす存在でありつつ、どこか親しみを覚えやすい雰囲気だとミリシアルの人々が口々に言う意味を、真に理解・実感出来た瞬間でもあった。

 

 無論、日本に居る友人や同僚と接するような砕けた態度を取るのは色々な意味で論外だが、2人のミリシアルに対する好感度は更に上昇していく。

 

 とは言うものの、ミリシアルはこの世界では、他にムーしか存在しない、日本に対して友好的で理知的かつ先進的な文明国家だ。元から好印象である。

 

 また、貿易などによる経済的な繋がり、現状最先端の魔導文明国家と科学文明国家の交流による相互理解や技術力の向上、クワ・トイネやクイラとはまた別の意味でなくてはならない国でもあった。

 

 理不尽で正当性が微塵もない理由で戦争をおっ始めるような、当時のロウリアやパーパルディアみたいな国家でなければ、交流を縮小ないし完全に絶つ選択は日本には一切ない。

 

「今後とも、官民一体での交流続行をよろしく頼む。日本国の首相にも、改めて伝えておいて欲しい」

「勿論です、皇帝陛下。日本政府の意思といたしましても、神聖ミリシアル帝国との交流は変わらず続けていく方針です。なので、ご安心ください」

 

 故に、ミリシアル8世が自身の目的を達成した後、控えの役人に先導され部屋を出ようとする日本大使たち2人に向けた言葉に対し、非常に前向きな返答が帰ってくるのも、当然の摂理と言えるのであった。



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魔導技師の息抜き

「ようやく終わったぁ……皆、お疲れ様!」

 

 メテオスさんより、グラ・バルカス帝国海軍の極大侵攻艦隊の殲滅が知らされ、全員が無事に戻ってきてから1ヵ月経過したとある日、私は同僚や部下の子を含めた十数人と一緒に自宅で羽を伸ばしていた。

 

 魔帝のシーヴァン(超潜艦)を念頭に置いた『アスターヴィⅠ型(誘導魔雷)』、通常の潜水艦に対応した『アスターヴィⅡ型』、通常の水上艦艇に対応した『アスターヴィⅢ型』、これらの性能試験を同時に終わらせる地獄を乗り越えた皆を、労うためである。

 

「お疲れ様です、ビアさん。他の皆さんも、ありがとうございます。頑張ってくれたおかげで、予定より早く終わらせる事が出来ました」

「当然でしょ! オロールさん、せっかくワーカホリックが治ってきたところなのに、再発させたら持病が悪化しちゃう!」

「確かに、グラ・バルカス帝国のせいで仕事量が倍増してめっちゃ大変だけど、お陰でこの人の下で働けてウチの技能が更に上がるし、見下してきた奴らを見返せて鼻高々だし、短期間で給料と評価も上がるしで万々歳! ありがたや、ありがたや~」

「流石に再発はさせない……って、ユリアさん!? 私は神様じゃないから止めて……!」

「「「あはははっ!!」」」

 

 私もそうだけど、ここ2週間は相当な激務で疲れているはずだ。しかし、皆はそれを一切感じさせない程に盛り上がっている。

 

 確かに、ビアさんや地方に里帰り中のカーム、警備をしてくれている陸軍の人、政府関係者の人以外は私の家に初訪問だ。

 多種多様な建築物が建ち並ぶカルトアルパス内でも、その様相や広さは中々に……いや、相当異質で目立っている。

 銃を持った陸軍兵士が門前に立っているのも相まって、中が気になるのも無理はない。

 

 それに、完全なプライベート空間に他人を招く行為は、招待者が招待客をどのような形であれ、相当信頼していると示したも同義である。自分で言うのもあれだけど、私に招かれて嬉しかったのもあるだろう。

 

 誤解を招かないために皆には事前に宣言してあるけど、私が家に招待した事のない人は全員、信頼していない訳ではない。ただ単に、自身を含めた各々の都合や気分が合致しなかっただけなのだ。

 

「にゃぉにゃ~」

「おっと? やたらウチに懐いてきますね、オロールさん家の猫ちゃん……おーよしよし。ご主人様に随分大切にされてるみたいで良かったね~」

「あらあら。ルーちゃん、ユリアさんを大分気に入ったみたいですね。そう言えば、貴女も猫ちゃん飼ってるんでしたよね」

「はい。ココナって名前で、ウチが帰宅した瞬間に飛び付いてくる、とっても可愛げのある子なんです」

「なるほど」

 

 なお、私の家には飼い猫のルーちゃんが居るが、グラ・バルカス帝国との戦争が始まった直後に部下としてやって来た、『カルカノス商会』令嬢の『ユリア・カルカノス』さん含め全員が猫好きか、好きでなくても平気な人ばかりなので問題はない。

 

 それにしても、分野違いの魔導技師になったと小耳に挟んだ時は当然驚いた訳だけど、超が付く程の努力家な面が幸いしたのか、彼女の能力向上ペースは凄まじい。

 

 元々の能力が高く、私がマニュアルを沢山作っておいたのもあるだろうけど、今ではもう頼りになる戦力だと言える。

 

(いやぁ……本当、ユリア様々だよ。それに、ビアや他の皆も居なかったらと思うと……)

 

 今後の戦争計画……グラ・バルカス本国と、レイフォルを含む植民地や同盟国間の通商破壊、ムー大陸からの全力追放戦、本土への大規模空爆と同時に行われる海軍・輸送艦艇への攻撃を決行するにあたり、発注される潜水艦および通常の魔導魚雷・爆雷はとんでもない量となっている。

 

 誘導魔雷に関しても、作戦決行時までに可能であれば100~200発欲しいと要望されていると言う、凄まじい状況に置かれているのだ。

 

 人材の工面を、ミリシアル政府がサポートしてくれていてすら忙しすぎる状況故に、優秀な人手は居れば居る程ありがたい。

 

 ちなみに、必要な金銭に関してもどえらい領域へ突入しているが、コア魔法が出てきた遺跡から発見された解説書、これに記された魔法が使える大魔導師の派遣確約の見返りに、日本政府が金銭的支援を約束してくれた事で、課題は解決済みとなっていた。

 

「良く考えたら、ここ最近の給料と評価アップも戦争のお陰なんですよね」

「そればかりではないかと思いますが、否定は出来ませんね。実際、仕事増えてますし」

「確かにな。何なら、ここ最近の急速な技術・経済発展も戦争がある故だろう」

「恩恵はある……けど、死に逝く人(戦争犠牲者)たちの事を考えたらウチは、早く終わってくれると嬉しいなって思います」

「そりゃそうだ。ここに居る全員、続いてくれなどとは微塵も思ってないさ」

「「「その通り!」」」

 

 しかし、ユリアさんが言うように本来死ぬべきではない、死ななくて済んだ人までその命を散らしてしまう、最大にして最悪なデメリットが戦争にはついて回る。

 

 今回のようにこちら側に原因がなく、相手から無情に仕掛けてきたパターンであるなら致し方ない。どう足掻こうとも、戦争は回避不可能なのだ。

 

 だが、それでもミリシアルの人々の命を糧にした技術や経済の発展など、私からすれば冗談抜かせと叫びたくもなる。

 勿論、ミリシアルの人でなければ犠牲にしても良いなんて事は思ってないし、仮に思ってたとしても行動には起こさない。

 

 この世界の人々にとって不倶戴天の敵であり、存在が災厄そのものな光翼人のような立ち居振る舞いをする、それ即ち人類の敵なのだ。

 

 万が一、悪意を持った誰かに命令されたとしても絶対にやらない。そんな事をやるくらいなら、自滅を選ぶ。

 

「オロールさん、ごめんなさい。元凶のウチが何言ってんだとか、だったら最初から振るなよと思うかもですけど、今は楽しみましょ? せっかくの息抜きに、これ以上は良くないって思いまして」

 

 なんて事を考えながら会話を交わしていると、無意識に私の顔が険しくなっていたらしい。

 

 謝罪と共に、申し訳なさそうにこちらを覗いてくる青い瞳……ユリアさんに声をかけられたため、取り敢えず今はこの件について考えるのを止める事にした。



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厄介な『衛星写真』

大変長らくお待たせ致しました。


 一部はぼかされているものの、ミリシアルの国営放送及び各種民間のマスメディアより知らされ始めた、グラ・バルカス帝国との戦争状況に関する情報により、一般人の間で楽勝ムードが強く漂い始めてきた頃、魔帝対策省含むミリシアル政府上層部や各省庁は色々と慌ただしくなっていた。

 

 もはや恒例となった、日本国からの衛星写真提供が2週間前にいつも通り行われた際、そこに爆弾級の写真が10枚以上も紛れ込んでいたためである。

 

 今のところは自国の領域内でしか見つかっておらず、当然稼働させているのも自国しかないとの認識でいたにも関わらず、他国でも古代発掘兵器が見つかったと知れば、そうなるのも無理はないだろう。

 

「メテオスさん。これ、どう見てもパル・キマイラですよね?」

「うむ。しかも、こっちの衛星写真に写っているのはパルカオン……まあ、可能性としてはない訳ではなかったが、出来れば杞憂で終わって欲しかったねぇ」

「本当ですよ。そりゃあ、各所で仕事が増える訳ですって」

「友好国なら良かったのだが、見つかった場所が場所……全く、戦争中に迷惑な話だ。勿論、日本国は悪くないが」

「かたや、愚かにも日本国に喧嘩を売り、絶賛戦争中の『クルセイリース大聖王国(圏外文明国)』。かたや、怪しさ満点で閉鎖的な有翼人国家の『アニュンリール皇国』の近く……いや、位置的に本国ですよねこれ」

 

 それだけならまだしも、実際に稼働させていて戦争にも使用可能な確率が高いと、想定されてしまったのだ。

 

 完全な性能を発揮出来るのか、各種誘導魔光弾や誘導魔雷を筆頭とした兵器がどのくらいあるのか、リバースエンジニアリングがどの程度終わっているか、他にも大小様々な問題が生え出てきている。

 

 しかも、古代発掘兵器を含む魔帝が絡む問題は魔帝対策省に集約されるため、各省庁の中で最も残業時間と手当が多くなってしまっていた。

 

 それ故にメテオスを含む、そこで働く職員たちが若干文句を言いながら仕事をしても、誰も注意をする人は居なかったのだが。

 

「まあ、我が国は最悪同じ古代発掘兵器を矢面に立たせる選択肢を取れるし、日本国の方は言わずもがなだ。科学文明国家故に超兵器はなくとも、パル・キマイラ1隻程度なら余裕で対処可能だろう」

「あー……確かに。それにしても、本来なら1隻でも敵に回ればとてつもない脅威となり得る魔法帝国の超兵器群を、普通にどうにか出来る日本国、彼らですら前世界では最強ではなかったのが恐ろしいですよね」

「魔帝並みかそれ以上の超大国が跋扈する世界、地球。こんな事を言うのは良くないが、魔帝の転移先がその世界なら良かったねぇ」

 

 しかし、現状超兵器を所有しているクルセイリース大聖王国と呼称される国家は、ミリシアルとの距離が非常に遠い上に対峙している国が日本だ。

 

 もう1つのアニュンリール皇国の方は、比較的距離が近いものの現状軍事侵攻の傾向は見られず、時折演習を行うために動いていると思われる程度である。

 

 ミリシアル政府としても、グラ・バルカス帝国との戦争中にこれらの問題に取り組む余裕はなく、日本からも特に援軍云々を言われたりはしていない。故に、優先順位は低めにすると言う事が決まっていた。

 

「すみません、メテオスさん。その書類は、パル・キマイラのスペック表?」

「ああ、これかね? まさに君の言うとおり、パル・キマイラのスペック表だ。魔帝の遺跡から出土した資料を元に、搭載可能性のある武装も載せておいてある」

「やはり……そんなものを何故こんなところに?」

「日本国へ提供しろと、皇帝陛下より勅命が下ったのだよ。それとなく日本政府から相談があったらしい」

「なるほど。負けはせずとも、自衛隊の犠牲者が出る可能性が高くなり、少し不安があるのかも知れません」

 

 ただ、日本にとって敵側にパル・キマイラが存在するのは、当たり前だが非常によろしくない。日本政府より、可能ならスペックを大体で良いので教えて欲しいと要望があった事もあり、スペック表の提供が決まっている。

 

 今までに対峙した事のあるロウリア王国やパーパルディア皇国とは違い、その技術方式は違えど自国とほぼ互角の技術力を持った相手となるのだ。不安に思うのも無理はないだろう。

 

 勿論、教えるべきではない情報は友好国とは言え、教えることはない。実際の運用方法、制御システムの内訳、他に細かなものもいくつかはある。

 

「まあ、そうだろう。日本はパル・キマイラを筆頭とした古代の超兵器を所持、実際に運用している国家は我が国だけだと思っていたらしいからねぇ」

「おまけに、異世界からの転移国家かつ純粋な科学文明国家。そりゃあ、不安にもなりますね。この世界に来てからある程度の時は経っているとは言え、地球に居た期間に比べれば……」

「まだまだ短い。その点を鑑みれば、彼らの適応力は目を見張るものがある」

「確かにその通りですね。もしかしたら、絵や小説やアニメなどで最初からある程度慣れていたのかも?」

「あり得るね、それは」

 

 そもそもの話、パル・キマイラの単なるスペック表ですら本来であれば、ホイホイ公開するようなものではない。

 

 ミリシアル8世含む、政府上層部の面々がそれでも提供しようと決意したのは、ミリシアルにとってその位日本が信頼出来る国と認定しているからだ。

 

 まあ、日本が自国の護衛艦や戦闘機を含む(潜水艦以外)現代兵器のスペックだけなら、民間書籍に割と詳しく載っていたからと言うのもあるのだが。

 

「メテオスさん、本当に良かったです。日本と友好関係を結べて」

「そうだねぇ。もしも、当時のロウリアやパーパルディアみたいに敵対していたら、総力戦になった挙げ句に滅んでいたかも知れない」

「我が国の外交官が色々と間違えたりしなくて、本当に良かったですよ」

「うむ、間違いない……さてと、行くとするか。外出の用意をしたまえ」

 

 ミリシアル政府が日本との初対面時、道を誤らなかったことに内心で感謝をしつつ、用意したスペック表を日本大使館へと届けるため、メテオスと魔帝対策省の職員は外出の準備を整え始めるのだった。



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海中の暗殺者(前編)

 今現在、グラ・バルカス帝国領となっている元レイフォルにて、最大級の港町の『レイフォリア』。

 

 そこから西に63㎞程離れた、グラ・バルカス本国とレイフォリアを繋ぐ海路の下……水深120mの海域にて、ミリシアル帝国海軍『第零潜水艦隊』所属の魔導潜水艦7隻は、とある目的のために潜航していた。

 

 この海路を航行するグラ・バルカス本国やその同盟国、植民地を行き来する貨物船や輸送船や軍艦を沈め、敵を弱らせる通商破壊を実行するためである。

 

 彼らは本来、ミリシアル本国の海域を通る艦船を海中の敵より守ることを主任務としているが、現在は政府の指令により下された通商破壊任務を、実戦の経験を積む事も兼ねて任されていた。

 

 なお、ムー大陸にある『ニグラート連合』との国家間条約により、領海ギリギリの海域にある無人島群に急遽作られた『フィネル統合軍基地』を、戦争中の母港としている。

 

 ミリシアルの歴史の長さで考えた場合、潜水艦(海に潜る船)の概念すら生まれたのは最近だと言える。

 当然ながら、実際に建造・運用され始めてきたのも同様であり、また戦争中なのもあって、訓練期間はあまり長くない。

 

 しかし、そんな中でも第零潜水艦隊に所属する潜水艦乗りは、ミリシアル海軍元帥選りすぐりの超絶優秀な軍人だった。拙い面もあるものの、機器のサポートさえあれば戦闘もこなせるとの判定が下されている。

 

「周辺の状況は?」

魔音波発探知装置(魔法版ソナー)に敵潜水艦の反応はなし。水上艦艇の位置、および隻数も9隻より変化せず、通常の魔導魚雷はもとより誘導魔雷(アスターヴィⅢ型)の有効射程外ギリギリです」

「うむ、そうか……引き続き、警戒を怠るな」

 

 特に、旗艦『オーシャーン』の人族女性艦長『スメイズ・ウォタノーン』含めた50人は、海の申し子と呼ばれる程に潜水艦乗りとしての適性()、相当に高かったのだ。

 

 任務の都合上、長期間潜水艦の中と言う限定された狭い空間内、かつ娯楽が地上や水上艦艇での任務に比べて乏しい中、数十人単位で居るともなれば、精神的に堪えてしまう。

 

 水上艦艇での長期間航海ですら、その手の問題が発生してしまう事があるのだから、適性の高さは必須項目と言えるだろう。

 

 そこに加え、魔法帝国の超兵器であるシーヴァン(超巨大潜水艦)のような、発見後に撃ち合ったり誘導魚雷(魔雷)の被弾に耐えたりする力が、ミリシアルの魔導潜水艦にはまだない。

 

 今回の相手が、第二次世界大戦のアメリカ相当と日本政府が判断するグラ・バルカス帝国だとしても、ミリシアル政府が要望した結果搭載された誘導魔雷があるとしても、攻撃前に発見されるのはあまりよろしくないと断言出来る。

 

 ちなみに、現場海域とその近辺にはミリシアル政府より、艦艇や航空機などの種類を問わず、全ての国に向けて入る事のないように注意喚起が成されていた。

 

 場所や状況的にあり得ない話ではあるものの、万が一を考えて艦艇および航空機を通過させたい場合は、事前に通知を宛てて欲しいとも呼びかけられている。なお、作戦決行までにそのような通知は一切来てはいなかったが。

 

「スメイズ艦長。誘導魔雷、射程距離内に入りました。周辺に無関係の艦艇、巨大海洋生物の陰もありません。装置の不調も現状ないため、問題なく命中させられます」

 

 あまりにも変化に乏しく、艦内に設置されている無音の魔法時計のみが時の経過を伝える中、オーシャーンの魔法版ソナー(魔音波発探知装置)を含むあらゆる機器が、敵を有効射程(20㎞圏内)に捉えた事を知らせてくる。

 

 そして、驚異的な聴力と判断力を兼ね備えた、ソナー担当の軍人が正確無比に課せられた任務をこなし、得られた各種情報が射撃管制へと伝えられ、命令さえ下ればすぐさま発射する態勢が整う。

 

 これらのやり取りは、全てが立てる『音』を最小限に抑えられるように行われているものの、艦内は日本を参考に極限の静寂を保たれているため、問題なく全ての必要な人員に伝わっていた。

 

「そうか……よし。1隻に2本ずつ、我が艦は2隻4本発射だ」

「了解……艦首530mm誘導魔雷発射管4、誘導魔雷装填、発射用意」

「誘導魔雷装填4、発射用意」

 

 それからすぐ、スメイズ艦長より誘導魔雷の発射命令が下り、射撃に関わる要員により手早く装填が行われた後、艦首の発射管4つへ少しずつ注水が始まる。

 

 ほぼ同時刻、この注水音を味方の魔導潜水艦6隻の魔法版ソナーが捉えると、各々の艦内でも同様のやり取りが交わされ、搭載されている誘導魔雷の発射態勢が刻々と整っていく。

 

 狙った目標が重複しないようにするための装置、および対策に関してもしっかり成されてはいるが、魔帝や日本よりはどうしても劣っていた。

 

 ちなみに、魔導潜水艦への搭載数は若干多めにしていて、なおかつ1隻につき2つを放っているのが、第零潜水艦隊の対策である。

 

「……行ったか」

「はい、行きましたね」

 

 そうして注水が終わると、発射管前方の扉が開いてから数秒後、魔法により圧縮された空気により4発の誘導魔雷が押し出され、同時に内部に仕込まれた装置が起動、艦艇の発する音を頼りに向かっていった。

 

 態勢の整った魔導潜水艦からも順次放たれていき、最終的にはその数を18発へと増やしていく事となる。

 

「さてと、手筈通りに行くぞ」

「了解しました」

 

 なお、しっかり目標に当たってくれるかどうかを確認するためにすぐに撤退せず、少し距離を放して場所を変えた上で、第零潜水艦隊は待機し続けると事前に決められていた。



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海中の暗殺者(中編)

「なあ。神聖ミリシアル帝国と日本国、お前はどっちの方が脅威だと思う?」

「うーん……やはり、今戦争中のミリシアルですかね。私としては」

 

 神聖ミリシアル帝国軍の第零潜水艦隊が、誘導魔雷(アスターヴィⅢ型)を放ったのとほぼ同時刻、通商護衛艦として海上を航行中のグラ・バルカス帝国軍所属のアリエス級駆逐艦『ハマル』艦内では、艦長と副艦長の女性が真剣に議論を交わしていた。

 

 彼らにとって、この世界における列強クラスの国家(神聖ミリシアル帝国)との戦争が始まってから、色々なところでなされている議論の1つである。

 

 勿論、ミリシアルを滅そうとして送り込まれた、約1000隻の大艦隊が返り討ちにあって海の藻屑と化した案件は、一部の軍上層部および皇帝を含む政府高官により、非常に厳しい罰則付きの箝口令が敷かれている事が理由で、輸送船を含む艦隊9隻の乗員は誰も知らない。

 

 とは言え、戦争前に入ってきていた一部の各種情報、ムー大陸における戦況が芳しくないことはある程度の制限付きで流布されているため、ミリシアルはもとより日本に関しても、軍人の中では舐めてかかる者が大きく減少している。

 

「そうか……確かに、ミリシアルも我が国と同格。それに比べれば、前世界のケイン神王国など片手間で倒せる格下に過ぎんだろう。他の今世界国家に至っては、例外を除けば演習の的と言っても良い」

「なるほど。と言う事は、艦長は日本国の方を脅威と考えている訳ですね」

「ああ。情報源は不明だが、今戦争中のミリシアルが我が国よりも圧倒的に敵に回したくはないと、そう言っていたという情報が飛び交っている。その上、この民間書籍に載っている情報が……まあ、あれだ。残念ながら事実らしいが、荒唐無稽にしか思えんだろ?」

「……はっ? こ、これが日本国の……軍隊と言うのですか!?」

「そうだ。幸いにも、我が国は日本国とは積極的に対峙しない方針らしいぞ」

「でしょうよ。しかし……悔しいですね。日本国にとって、我が国が演習の的程度とは……」

 

 しかし、それでも自国以外は等しく格下に見る軍人の数はそこそこ存在し、一般人に至っては情報制限やら直接戦争に関わる訳でもないなどの理由から、おおよそ半分強がこの世界の国家を下に見ていたのだ。

 

 ただし、どのような理由であれ『戦争』を行えば、人材やら各種資源の消費量も凄まじいものとなるが、お金と時間も相当かかってしまう。

 

 当たり前だが、前線で実際に敵に対してとは言え、国や仲間のために人を殺す仕事をしている軍人の精神面もある。

 

 心から、戦争が出来るだけ長く続いて欲しいなどと言う願いを持つのは、軍事関連の産業で巨大な利権を得ている守銭奴か、狂人気質が強い人物か、国家を巻き込んだ破滅願望を持つ者くらいだろう。

 

「全くだ。だがまあ、数年でどうこう出来る差ではないし、今はミリシアルを念頭に――」

『本艦の後ろを航行中の駆逐艦【エーテル】より通信! 当該艦より7時の方向、距離2㎞まで魚雷が接近中な模様! なお、エーテルは回避運動を行ったものの、船体の動きに合わせて進行方向を変えてくるとの事』

「……一応聞くが、潜水艦の反応は?」

『ありません!』

「だろうな……クソッ!! 誘導魚雷に狙われるとは……日本国の仕業か!?」

 

 そのような感じで、グラ・バルカス帝国本国へと向かう輸送船の護衛を行いつつも、比較的和やかなムードが漂っていたハマル艦内であったものの、突如として舞い込んできた鬼気迫る通信により、一気に深刻なムードへと様変わりしてしまう。

 

 周辺に敵の駆逐艦ないし巡洋艦がおらず、雷撃機らしき機影も全く見えない状況での魚雷ともなれば、放ったのは潜水艦しかない。

 

 帝国軍の駆逐艦や巡洋艦に広く行き渡っている最新式ソナーに全く反応せず、その上誘導機能のついている魚雷(魔雷)に狙われたとあっては、軍人であれば至極当然の反応である。

 

「艦長! 確かに現状、ムー国にて日本国の軍……自衛隊と我が国の陸海空軍は衝突してしまっていますが、状況からして違うかと!」

「そうだったな。しかし、だとするとミリシアルしかないが……まさか、誘導魚雷を開発したとでも言うのか?」

「現状のミリシアルの技術では、不可能と言いたいところではありますが……件の、空中戦艦を擁する魔法国家の頂点でもあります。日本国との交流も凄まじいらしいので、色々とすっ飛ばして開発する事も、夢物語ではないかと」

「ええい、何と言う事だ!」

 

 しかも、現状のグラ・バルカスでは狙われた場合、奇跡でも起こらない限り回避出来ない兵器である事も相まって、ハマル含む護衛の駆逐艦乗員は神に祈る事しか出来ないのである。

 

 なお、だからと言って狙われてしまったエーテルの艦長含む乗員たちは、回避する事を諦めたりはしない。

 本当に極低確率ではあるものの、回避運動をし続ければ回避に成功ないし致命傷を負わずに済むかも知れないからだ。

 

「ああっ!! 駄目です、エーテル回避出来そうにありません!」

「おのれ……おのれ、おのれぇぇぇーー!!」

『あぁぁぁぁーー!!』

 

 だが、主砲や高射砲の砲撃による魚雷の破壊も含め、努力したエーテルが報われる事は全くなく、2発の誘導魚雷(魔雷)は吸い込まれるようにして命中、爆発によってとてつもなく高い水柱が上がってしまった。

 

 ちなみに、ミリシアルの第零潜水艦隊が放ったこの誘導魚雷(魔雷)の威力も、多分に漏れず非常に高い。

 水中では爆圧による艦船への影響も空気中より大きい上、命中したのが装甲も薄く、多数の魚雷を積んでいる駆逐艦である。

 

 それ故に、この攻撃に耐えられる道理などなく、程なくして()()()()()()()駆逐艦エーテルは、あっという間に海中へと沈んでいく。

 

『エーテル、轟沈しまし……なっ! 新たにエーテルを沈めたものと同じ魚雷を発見! その数推定8……いや、10!!』

 

 そして、新たに入ってきてしまった魚雷探知の報告によって、ハマルの乗員を含む艦隊の乗員たち全員は、轟沈し死んでしまったエーテルの乗員について考える余裕が、一切なくなってしまった。

 



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海中の暗殺者(後編)

「誘導魔雷18発全弾命中。目標艦艇、全て撃沈に成功しました」

「うむ。第零潜水艦隊の初戦果としては上々だな」

 

 通商破壊任務を開始してからしばらく経過した頃、ミリシアル海軍第零潜水艦隊7隻は搭載していた誘導魔雷(アスターヴィⅢ型)を放ち、航行していたグラ・バルカス帝国艦艇9隻の撃沈の瞬間を見届ける事に成功していた。

 

 勿論、魔音波発探知装置とモニター越しではあり、なおかつ魔帝のシーヴァン(超潜艦)のように、綺麗な色つき映像では見れてはいない。

 

 だが、放った18発の誘導魔雷は何の誤作動も起こすことはなく、想定通りの性能を発揮してくれた。これだけでも十分な戦果と言えよう。

 

 潜水艦の概念を広く浸透させた、カルトアルパス魔導学院の魔導技師オロール率いる一派肝いりの兵器、これが効果覿面と分かったのだから。

 

 そうすれば、ミリシアル政府も更に予算をカルトアルパス魔導学院、潜水艦関連技術への投資へと回すようになる。

 

 結果、潤沢な予算に優れた技術者の力が加わることにより、より一層生産性と性能面が向上していき、現場に出る自分たちが戦死する可能性が低下していく。

 

 で、そうなると神聖ミリシアル帝国に住まう一般人に、理不尽な危害が及ぶ可能性も低下していき、笑顔の数を減らさずに済む訳である。

 

 だからこそ、スメイズ艦長の乗るオーシャーン(魔導潜水艦)の乗員含め、愛国心の高い第零潜水艦隊全員は声を上げずとも、心の中では満面の笑みを浮かべているのだ。

 

「しかしだ。あの命中精度に破壊力、グラ・バルカス艦艇の誘導兵器に対する防御兵装の貧弱さ……いや、皆無か。ともなれば、1隻につき1発で十分そうだと私は思うが、どうだ?」

「スメイズ艦長の言う通りかと。誤作動などもありませんでしたし、ミスリル改級の相手なら分かりませんが、シルバー改級以下の軍艦であれば尚更です」

「そうか。ならば、今後の戦闘に活かすとしよう。まだ余裕はあるな?」

「はい、あります。楽観的に見れば40隻は大破撃沈させる事が出来るでしょう。ただし、レイフォリアの状況が不明ですし、楽観的に考えている都合上、10~14隻辺りを想定していた方がよろしいかと」

「なるほど……了解した。まあ、何であれ頑張るとしようか。出来る限りだが」

 

 しかし、航行していた9隻を全て沈めただけで、第零潜水艦隊の課せられた通商破壊任務は終わらない。

 

 兵装の残数や航続距離、水や食糧などの量、乗員の精神状態がフィネル統合軍基地へ無事に帰れる基準を下回るギリギリまで、可能な限り戦い続ける事が求められているからだ。

 

 勿論、可能か不可能かは別にしても、レイフォリア港停泊中ないし本国へ航行中のグラ・バルカス帝国の艦艇を全滅させれば、その時点で帰還が認められる。

 

 なお、7隻の潜水艦に搭載出来る武装の数はたかが知れているし、グラ・バルカス帝国は技術力はともかく物量に関しては目を見張るものがあった。

 

 数々の戦闘を経て大きく消耗している点、レイフォルが本国の防衛などのために必要不可欠な場所である点を考慮に入れたとしても、レイフォリア港とその周辺にある海軍基地には、戦艦や空母を含めて数十隻単位存在している。

 

 ミリシアルが艦隊を差し向けて対峙するならまだしも、物理的に第零潜水艦隊が沈められる艦艇には限界があるのだ。

 

 そのため潜水艦に拘るのであれば、魔帝の超潜艦シーヴァンを1隻この海域に向かわせる。

 

 もしくは、ミリシアルが現状保有する全ての潜水艦に、最新鋭の誘導魔雷を搭載した上で向かわせなければ、第二次世界大戦レベルとは言え、軍艦数十隻を全滅させる事は不可能である。

 

 なので、第零潜水艦隊は搭載している誘導魔雷を撃ちきり、安全第一を基本として無誘導の魔導魚雷も同様に全て撃ちきり、フィネル統合軍基地に1隻も欠けずに帰還する事が任務成功の条件となるのだ。

 

「……艦長、新たに15㎞前方に5隻の反応を確認。音紋は先の戦闘にて撃沈した艦艇と同型艦です」

「援軍要請でもしたのか? それとも第2陣が来たのか……ともかく、全て沈めろ。少し前の戦いでは1隻に2発だったが、今回は1隻につき1発だ。我が艦は中央の船を狙うぞ」

「了解しました……艦首530mm誘導魔雷発射管1、誘導魔雷装填。目標、15㎞前方の艦隊中央の艦艇」

 

 そんなこんなで、ほぼ最大深度を維持しながら航行を続ける事3時間半、オーシャーンの魔法版ソナーが再びグラ・バルカスの艦艇を捉えたため、即座に残っている誘導魔雷の発射準備に入る。

 

 すると、艦隊後方2隻以外の魔導潜水艦にて1度目の戦闘時とほぼ同様の流れで準備が進められ、かなりの早さで準備が整う。

 

 多少ではあるが、1度目の経験がスメイズ艦長を含む乗員の心の枷を取り払い、手際を良くする手助けとなったためである。

 

「よし、そろそろだな……誘導魔雷、発射」

「了解……誘導魔雷1、発射」

 

 そうして、周辺海域の確認も終えて発射態勢が全艦で整った事が確認された瞬間、オーシャーンを皮切りに合計5発の誘導魔雷が放たれ、目標を食い破ろうと突き進んでいく。

 

 無論、万が一を避けるために第零潜水艦隊は同時に進路を変更、水中での最高速度を出してその場を少しだけ離れる。

 

「破砕音を探知。誘導魔雷5発全弾命中、および全艦撃沈が確認されました」

「……凄まじいな。やはり1発で十分だったか」

「そうですね、艦長。しかし、万が一はないとは限りません」

「確かに、違いない」

 

 第零潜水艦隊の面々が全員、息を潜めて待ち続けていたその刹那、魔法版ソナーが誘導魔雷の命中と目標艦艇の撃沈を捉える。1隻につき1発でも、命中しさえすればその時点で勝負が決まる事が確実となった瞬間であった。

 

 ちなみに、この時点で搭載されていた誘導魔雷の残数は合計で11発となっている。余裕ではないが、それなりの数が残っていた。

 

「さてと、レイフォリア港へ向かうぞ。ここから先は危険度が増してくるから、一応覚悟はしておけ」

「ええ。死ぬのは嫌ですが軍隊に入ったのは私。そうである以上、覚悟は出来ていますから」

 

 それ故に、緊張感が多少増しはしたものの、レイフォリア港へと向かう事に強い抵抗感を覚える者はおらず、士気が低下すると言った事も一切なかった。

 

 結果、途中で危ない場面はあったものの、およそ半日続いた戦闘と言う名の一方的蹂躙により、第零潜水艦隊は合計で30隻ものグラ・バルカス帝国の艦艇を沈める事に成功するのであった。



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統合基地『ラルス・フィルマイナ』

 グラ・バルカス帝国が、異世界の軍勢を迎え撃つためにレイフォリアに作った、陸海軍統合基地『ラルス・フィルマイナ』。

 

 上層部の方針転換によって進んでいた空軍の統合もつい最近に成され、ミリシアルとの戦争や日本との衝突以降始まった最新鋭の兵器搬送も着々と進んでいた。

 

 攻守共に最強クラスを誇る基地であるため、決して落ちる事はないとの認識が本国でも基地の人員でも大半を占めている。

 

「クソっ……やってくれたな、ミリシアル!」

「まさか、30隻を海の藻屑とされるとは驚いたぞ。想像を絶する強さらしいな、ミリシアルの潜水艦は」

「本当に、ミリシアルの潜水艦の仕業なのでしょうか? 日本でなくて?」

「この世界で、潜水艦を所持している敵は日本及びミリシアルのみ。現状、日本とはムーのオタハイトにて戦闘があった以降の衝突はない……ここから推測するに、ミリシアル以外にこれは不可能だ。それに、日本の性格を良く考えてもみろ」

「あー……しかし、そうなるとミリシアルは日本には劣れど、それに近い技術を会得した事になりますね」

「全く、冗談じゃないぞ! 誘導魚雷など、どう対策しろと言うのだ!? ある意味誘導弾よりも厄介だぞ!?」

 

 しかし、今現在この基地の人員……会議中の司令官『ファンターレ』含む、陸海空軍幹部の面々から末端の軍人まで、ほぼ全員が抱いていたそんな認識が大きく揺らいでいた。

 

 グラ・バルカスの技術力では探知出来ていなかったものの、ミリシアルの第零潜水艦隊所属の潜水艦7隻による通商破壊により、多数の艦艇が呆気なく撃沈されてしまった事が周知されてしまったからである。

 

 とは言うものの、撃沈寸前の艦艇との通信などを含めた状況証拠と、これまでの情報を活用して行った推測により、自ずと正解には辿り着いてはいたが。

 

「グレード・アトラスター並みの大きさの戦艦(ヴァーテイン)空母(アロンダイト)、アンタレス改を超えるらしい速度の艦載機(エルペシオ4)、馬鹿みたいな加速と速力を誇ると報告が挙がっている駆逐艦(サファイア)。これだけでも厄介な国だと言うのに、まだふざけた兵器があるのか!?」

「まあ、未だに訳の分からん魔法の極致であろう()()()()を擁する国家だ。その程度は出してきてもおかしくはない。日本との交流も盛んだしな」

「ですよね……あれ? 良く考えたら、空中戦艦ならぬ海中戦艦(潜水艦)とかもあったりしません? ミリシアルに」

「「「……」」」

 

 なお、これによって本国とレイフォリア間の物資の海上輸送が事実上不可能となり、旧型から最新鋭大型輸送機による空路での輸送のみとなってしまっている。

 

 船舶に比べて積載量や耐久性が大きく劣ってしまう上、いかに馬鹿げた物量と優れた技術力を誇るグラ・バルカスでも、タンカー並みの耐久性や積載量を誇る航空機などは造れない。

 

 何なら、対立中のミリシアルは勿論の事、この異世界で隔絶した技術を持っている日本ですら、そんなものを造れる訳などないのだ。

 

 唯一可能なのは、件の空中戦艦を造った国である古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)のみだが、現状この異世界には存在していない。

 

 ちなみに、日本と対立中のクルセイリース大聖王国の飛空艦は、積載量の面のみで言えばミリシアルや日本の航空機よりも上であるものの、魔法帝国には全ての面において敵わない。

 

『こちら……せよ! 応答……頼む、応答して……』

「「「っ!?」」」

 

 ミリシアルによるものと考えられている潜水艦に対する対策、今後の輸送計画や援軍要請などについての話し合いが行われている最中、有線によって強固に繋がっている周辺の基地の1つより、ノイズ交じりの通信が会議室へと届く。

 

 全て聞き取る事は出来なかったが、状況からして明らかに緊迫していて、ただ事ではないと素人でも理解が出来る。当然、司令官であるファンターレが出ない選択をするはずなどなく、即座に通信を繋げた。

 

「ファンターレだ! どうした、一体何があった!?」

『ミリシアル……超大型――』

『司令官……ミリシアルが、ミリシアル……が貼り付けられた……ような戦闘機が……がっ!?』

『超大型攻撃機の爆撃により、……喪失!! ……の威力が高過ぎ――』

 

 しかし、その通信に答えようとした瞬間、同時多発的に別の周辺基地からの緊急性の高い通信が届き続けると言う悪夢のような事態に、ファンターレや他の参加者は唖然とする。

 

 無論、彼らも全員何とか状況を把握しようと動き始めるが、その通信は1つまた1つと消えていき、数分もしない内に全ての通信が途絶えてしまう。

 

 ラルス・フィルマイナ全体に警戒体制を敷くように命令を下した事以外、殆んど何も出来なかったものの、ミリシアルによって大攻勢が仕掛けられた事だけは把握した。

 

「ミリシアルの戦闘機、ですか。アンタレス改では荷が重いですね」

「ああ。それに、超大型攻撃機……嫌な予感しかしないな」

 

 周辺基地が同時多発的に攻撃を受けて、この統合基地だけが攻撃を受けない道理はない。

 

 何せ、この場所はグラ・バルカスのムー大陸攻略における最大の矛であると同時に、本国へ敵を寄せ付けないための最大の盾でもある。

 

 つまり、ここを落とされてしまえばミリシアルに、本国攻略の最大の拠点とされてしまうのだ。

 

『司令官っ! 偵察機が青い尾を引く追尾する光に撃墜……ああっ!? レーダーが同様の物体に破壊されました!!!』

「ぐっ、やはり来たか……」

 

 案の定、ラルス・フィルマイナにもミリシアルによる、苛烈な攻撃の手が一気に忍び寄ってきたのであった。



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破壊の雨

本話に登場する兵器の名称の一部を変更しました。


 ミリシアルの第零魔導潜水艦隊が、海中からグラ・バルカス帝国海軍の水上艦艇を一掃したのとほぼ同時刻、ラルス・フィルマイナにまた対してもミリシアルの『第零飛空魔導隊』が、空から攻撃を仕掛けていた。

 

『こちら、第零飛空魔導隊! 敵偵察機、および迎撃に上がってきた敵戦闘機の大半を撃墜完了! すみません、数が多くてもう少しかかります!!』

「了解。一応分かっているとは思うが、最新鋭戦闘機とは言え無敵ではない。油断は禁物だぞ」

『分かってますって!』

 

 まずは、地球で言うところの第2世代ジェット戦闘機に相当する能力を持つ、『エルペシオ5(制空魔導戦闘機)』が10機。

 

 諸般の問題により、意図的に射程がⅠ型と比べておおよそ半分、威力も6割とかなり抑えられているが、それでも航空機相手なら十分有効なクウ・ウルティマⅡ型(空対空誘導魔光弾)を、1機につき合計6発搭載している。

 

 敵の偵察機や、後に続く攻撃機の脅威となり得る迎撃に上がってきた戦闘機を排除し、制空権を確保する事が目的だ。

 

 また、地上の設備を破壊するグランドⅠ型(空対地誘導魔光弾)を1機につき4発、もしくは合計30個の『200kg魔導爆弾改(ミリジル)』を搭載している『ジグラント5(攻撃機)』が12機飛行している。

 

 エルペシオ5編隊よりも先に航空機搭載型の魔導電磁レーダーにより探知した、敵レーダー設備や対空陣地などを遠距離から狙い撃って支援しつつ、制空戦後に撃ち漏らしを残りの武装で叩く。

 

 そして、更に後に続く『ヴォルケーノ(戦略魔導爆撃機)』10機が、それでも残ってしまった残りの設備や敵地上戦力を含め、安全に更地に出来る下地を整えるのが役割だ。

 

 日本や魔帝には劣れど、その領域に片足を踏み入れている技術がふんだんに使用された機体および兵装であるため、航空攻撃に参加している軍人の間には、楽観的なムードが漂う。

 

 しかし、だからと言って油断丸出しの行為をするつもりは誰にもない。

 

 空対空誘導魔光弾で、かつ射程が80㎞あるクウ・ウルティマⅡ型。

 空対地誘導魔光弾かつ、射程が100㎞あるグランドⅠ型。

 敵のレーダーよりも遥かに高性能な、航空機搭載型の魔導電磁レーダー。

 

 死が間近に迫っている戦場で敵だけを殺し、自分や味方を死なせないばかりか、本土で暮らす戦う力を持たないか極めて小さな一般人の命を守る事にも繋がる。

 

 いわゆる『舐めプ』を決行した場合のメリットが、皆無どころかデメリットしかない。こんな状況で決行を決断する者は、愚かを通り越して破滅主義者の烙印を貼られると、皆が理解しているのだから。

 

「さぁーて、グラ・バルカス帝国の諸君! 侵略行為などをした己の愚かさを恥じるが良い!」

『ルージュさん、我々以外誰も聞いてませんよ』

「承知の上さ。それよりも皆、事前の訓練通りに動くぞ。良いな?」

『了解……さあ、覚悟しやがれ!! グラ・バルカス帝国の野郎共!!』

 

 そして、エルペシオ5の編隊10機が制空戦をやり遂げたタイミング、ラルス・フィルマイナの上空から敵戦闘機を排除し終えたとの通信を受け取った、ジグラント5の編隊12機は時速1000㎞に加速、残していたグランドⅠ型を発射しつつ爆撃のために投下ポイントへと向かう。

 

 ラルス・フィルマイナの広さは凄まじいもので、いくら先進的装備を揃えたジグラント5でも、ジビルを搭載したヴォルケーノの圧倒的積載量がなければ、更地どころか陥落させる事も難しい。

 

 しかし、彼らが欠ければいかにヴォルケーノ12機の編隊とは言え、作戦の成功に支障をきたす恐れがある。

 

 ミリシアル政府が、軍の上層部がグラ・バルカスの技術と物量を認め、脅威であると認識しているからこそ、最近出てきたばかりであまり数が多くない最新鋭の航空機を、ここまで出しているのだ。

 

『ラルス・フィルマイナ上空到達! 敵対空陣地、ほぼ完全に沈黙している模様!!』

「よし、事前の攻撃の成果は上々……死に体の対空陣地、滑走路、他重要施設と思わしき箇所を爆撃! 可能な限り破壊し、次に繋げ!」

『はいっ!!』

 

 そして、12機のジグラント5がラルス・フィルマイナの上空3000mへ到達すると、上官の指令と共に魔導爆弾(ミリジル)の雨を、強い恨みと怒りを込めて降らせ始める。

 

 グラ・バルカスの潜入特殊部隊の手により発生した、カルトアルパス魔導学院の襲撃事件にて亡くなった人の関係者が、今現在の攻撃に参加していたからだ。

 

 話を聞き、まるで自分たちも当事者であるかのように、遺族の軍人たちに同調する者が、少なからず存在していると言うのもある。

 

『対空陣地、完全沈黙!! 次行きます!』

『誰かを殺したらな、その誰かを慕う奴に殺されるかもしれないってのを思い知りやがれ!!』

『あの時の恨み……くたばれ、クソ野郎!!』

 

 無駄な動きは一切しない程度の理性を維持し、通常よりも優れた技量を持っているため、攻撃の命中率は訓練と殆んど変わらない。

 

 しかし、編隊間の通信ではおおよそ規律に厳しい軍人とは思えない、耐性がない者であれば聞くに堪えない罵詈雑言が飛び交っている。

 

 だが、この通信を聞いているはずの男性上官は咎めない。何故ならば、彼自身も遺族の内の1人であるためだ。

 

 あまりにも過剰な行為に走ろうとするなど、任務に支障をきたすレベルになってしまえば叱責していたが、実際そうではない。

 

 とは言え、他の軍人の見本には到底ならない振る舞いではあるため、全てが終わったら上官はその辺を改めて周知する事を決めていたが。

 

『魔導爆弾、投下し切りました! 私も後方へ下がります!』

『ヴォルケーノの奴ら、聞いてるか! 後はお前らに任せるぜ!』

『了解した! ありがとう、最後の仕上げは任せてくれ!』

 

 こうして、12機のジグラント5の編隊は全ての爆弾を投下、ラルス・フィルマイナの基地機能に多大なダメージを与えると、最後の仕上げを行うヴォルケーノの編隊へとバトンを渡していった。



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