思い付き お試しシリーズ (もすブラックミント)
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やはり私が不思議少女なのは正しいことよ。



 なんとなく思いついてやってしまった。

 クロス元は、不思議少女ナイルなトトメス

 主演 雪ノ下雪乃

 ヒッキーは出ません。

 基本、雪乃視点でありますが、所々三人称になっているところもございますのでご了承下さい。


 

 

 20XX年 1月。

 

「そう言えばさぁ、雪乃ちゃん…明日みんなで墓参り行くから」

 

 一人暮らしの私、雪ノ下雪乃の部屋のソファでゴロゴロする姉・陽乃から突然そう言われた。

 

 唐突過ぎるわね。この姉は唐突にやって来ては突飛なことを仕出かす奇妙奇天烈な人だから。

 

 それに墓参りなら年末の挨拶として、この間済ませたばかりなはず。

 

「あ、お参り行くところは御先祖様のお墓で、いつも行ってるところじゃないから」

 

 どういうことかしら?

 あのお墓は御先祖様のお墓でなくて、一体誰のお墓なの…?

 

「なんでも、雪ノ下の始祖からのお墓で、私達がいつもお参りしてるお墓は曾祖父の代からのなんだって」

 

 初耳よそんなの。

 

「私だって今日になって聞いたのよ、父さんが今になって思い出したのよ」

 

 ぞんざいな話ね。

 

「一番最後に行ったのは私が生まれる前だってさ」

 

 両親は今までよく祟られなかったわね。

 

「罰当たりな話よね…」

 

 クワバラ クワバラ

 

 珍しく奇人姉さんと意見が合ったわね。

 

 御先祖様は大事にしないと。

 

 私達は揃って合掌した。

 

 

 

 明日は、一家で御先祖様のお墓参り。

 

 けれど、このお墓参りが重大な不幸を引き起こすことになるなんて、このときの私は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 とあるお寺へと、雪ノ下一家と都筑さんも加えてやって来た。

 

 

「あなた、こっちじゃないかしら?」

 

 母さんは林の向こうを指した。

 

「こんな奥だったか?」

 

 水桶を持って父さんは、なにせ約20年振りなものだから、墓の所在はうろ覚えである。

 

 奥へ進むと茂みが生え放題で迷子になりそうね。

 

「旦那様、ここを真っ直ぐ進んで行けば間違いありません」

 

 どうやら、都筑さんの方は所在をよく覚えているよう、その誘導に従うことにした。

 

「この辺りで、間違いありません」

 

「草が伸び放題ね」

 

 母さんが辺りを見回す。

 草木が育ち過ぎて、肝心の墓標は見えないわね。

 

「ひどいなこれは。お堂へ行って道具を借りてこよう」

 

 父さんと都筑さんはお堂へと向かっていった。

 

「荒れ放題…」

 

 こんなになるまで放置するとは…

 現状にひどく呆れてしまうわ。

 

「クワバラ、クワバラ」

 

 私の横で、お線香を持っている姉さんは片手で合掌した。

 

 

「えっさ! ほっさ! ヨっ!」

 

 父さんと都筑さんは忙しく鍬を動かし、母さんは鎌で地道に刈っている。

 

 私と姉さんは素手で引き抜いている。

 

「なにこれー!?」

 

 姉さんが引っこ抜いたところを見て驚きの声がした。

 そこにあったのは…

 

「スフィンクス?」

 

 そう、エジプトにあるものよりサイズが縮尺されたスフィンクスの石像が二体あった。

 

 エジプトのものが、どうして日本の墓地にあるのかしら?

 

「あら、二人には話さなかったかしら?」

 

「父さんの、雪ノ下家のルーツはエジプト人なんだ」

 

 なんですって!?

 

 驚愕な事実だった。

 

 さらに父さんが雑草を刈っていくと、出てきたのは三角形をした墓標…

 

「ピラミッド!?」

 

 それを見て、姉さんと私は目を丸くした。

 

 御先祖様のお墓が縮尺版のピラミッドだなんて。

 でも、エジプトがルーツなら不思議でもなんでもないことね。

 

「ピラミッドがうちの先祖のお墓なんて、笑っちゃうわね」

 

 姉さんはそれを嘲笑する。

 

「陽乃、笑っては罰が当たりますよ」

 

 ケラケラ笑う姉さんを母さんは窘め、姉さんはむくれた顔になった。

 

 その台詞は母さん達から言われたくないわね。

 でも、曾祖父の代が日本式の別のお墓に変えたのは、これが原因とも考えられるかしらね。

 

 

 掃除の仕上げにピラミッドの溝の土を掻き出してから、整地が完全に終わってスッキリしたところで、墓前に花を供えて、お線香を突き立てる。

 

 私達は目を瞑ってから墓前に合掌する。

 

 御先祖様、うちの両親が今まで放ったらかしにして、ごめんなさい。

 

 

 

 

 無事にお参りを終え、お寺を去ろうとしたところで私は大変なことに気付いてしまった。

 

「パンさんのストラップが…ない…」

 

 なんてこと、あのストラップはレア物で世界に一つしかない品よ。

 

「雪乃ちゃん、私が探してこようか?」

 

「…いえ…自分で探すわ…」

 

 姉さんの好意は嬉しいけれど、自分のことは自分でやるわ。

 

「雪乃ちゃんじゃ迷子になっちゃうからね」

 

 そう、そういうことなのね。

 まだ私を方向音痴だと思っているのね。

 

「なにを言うのかしら? 私は自分の足で行けるわ」

 

「でも体力持つの?」

 

 屈辱だわ。

 

 思わず駆け出す私。

 

「あっ、雪乃ちゃん! 雪乃ちゃーん!!」

 

 叫ぶ姉さんを尻目に、私はストラップを探しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 確か、この道で間違いないはず。

 

 走って体力を使い切った私は、息絶え絶えにフラつきながらも歩いた。

 

 パンさん 私のパンさん きっと寂しがってるわ。

 

 絶対に迎えに行くから!

 

 さらに進んでいくこと数分ーーー

 

 見つけたわ、ピラミッド。

 

 その傍に居たわ、パンさん!

 

 見つかったことに喜びながらも、フラフラのあまり私はパンさんばかりに目がいっていたのか、足元もよく見もせずスフィンクスに躓いてしまったわ。

 

 バランスを崩して前のめりになって倒れいくしかない私は、墓石に頭を打ち付けてしまう。

 

 痛いわ……

 

 頭を打ったせいで、ピラミッドの墓石は崩れて見事に穴が空いた。

 

 なんてこと! お墓を壊してしまうだなんて。

 罰が当たってしまうわ。

 

 なんてことを考えていると、壊れたピラミッドから地響きが起こって揺れている。

 

 穴から煙みたいなのが吹き出している。

 

 空は暗雲が出てきて雷まで鳴っているし、さらに穴の中から霊魂みたいなのが数多く飛び出していった。

 

 トカゲにエビ、エリマキの蛇だっり、終いには龍みたいなのが出てくるし…

 赤青黄緑と、異様な雰囲気と共に光っていて、この世ものとは思えない。

 

 どういうことかしら?

 なにが起こってるというの?

 これは、夢なの?

 

 この見た目がおぞましい生き物を目の辺りにしたのと、元々の体力切れも相まって、私は意識を手放してしまった。

 

 様々な異形な生き物の群れは、不気味な鳴き声を漏らしながら私の周囲を漂ってから、空の彼方へと消えていった。

 

 気絶から醒めると、空はすかっりと晴れ渡っているし、先程の異形共はいなかった。

 

 ピラミッドの穴は白い煙が未だに吹き出していた。

 

 夢ではなかったようね。

 

 私は地面に座りこんだまま、それを茫然と見つめていると、その穴からまた人魂みたいなのが出てきてた。

 

 人魂は白いローブを着た女性の姿に変わったけれど、そのサイズは人形のように小さく、なにやら泣いているように見える。

 

「どうか、なさいましたか?」

 

「……この世を、不幸のドン底に陥れる、五十一匹のナイルな悪魔が、逃げてしまいました……」

 

 嗚咽を漏らしながらも、その人は語り始めた。

 

「この世を不幸のドン底に陥れる、五十一匹のナイルな悪魔……?」

 

 先程飛び出していった、あの異形共がもしかして…

 

「遥か紀元前の、その昔のことでございます…」

 

 私は未だに座り込んだまま、頷きながら耳を傾ける。

 

「エジプトに、まだ文明ができる前のことでございます。

その頃、エジプトを支配していたのが、五十一匹のナイルな悪魔だったのでございます」

 

 ローブの女性は、右手に赤いステッキを持って上へとかざした。

 

 エジプトの壁画のイメージ映像を、魔法みたいなので出した。

 

「人々は不幸のドン底に陥れられ、苦しい生活をしていたのでございます」

 

 私に見せた画とは…

 

 巨大な三ツ目の青い蛇と双首の角が生えた犬、他は形容しがたい怪物達に襲われ、逃げ惑う人々が描かれいた。 

 

「この不幸のドン底に、五十一匹のナイルな悪魔を退治してくれる者が……」

 

 人々が月に礼拝してお祈りを捧げる画に切り替わる。

 

「…現れることを、月に祈ったのでございます。その願いが通じたのでございましょうか…」

 

 次に出た画は、白いターバンのような赤い羽根付きの帽子、口元に白いヴェールを掛け、金色に紺のストライプが入った服装を身に纏い、赤い宝石が付いた金の装飾を所々身に付けた、その手には今ご先祖様が手にしているのと同じステッキを持っている女性が描かれていた。

 

「この不幸のドン底のエジプトを救う者が、現れたのでございます…その名はトトメス…」

 

 トトメス…古代エジプト王朝のファラオの名。

 

   〝ユキペディアさん乙〟

 

 ……今、悪寒がしたわ。どこからか…ゾンビの声がするなんて。

 

 思わず身震いしてしまう程の、おぞましさだわ。

 

 いけないわ、ちゃんと説明を聞かなければ。

 まだ登場してはいけない、名も知らないヒキガエルの鳴き声なんかに気を取られている場合じゃ、ないわ。

 

「五十一匹のナイルな悪魔は、トトメスに退治され、

人々は素晴らしい文明を作りあげたのでございます」

 

 昔のエジプトに、そんなファンタジーなことが現実に起こっていたなんて、事実は小説よりも奇なりをいく話を聞き、私は驚くばかりで口が閉じられないわ。

 

 白い人はステッキを下ろして、画像を消した。

 

「以来、私はこの世を不幸のドン底に陥れる、五十一匹のナイルな悪魔を封印し、この世に出すまいと守り続けてきたのでございます」

 

「では、あなたがトトメス?」

 

「遠い昔の話でございます…」

 

「でも、あなたが再び五十一匹のナイルな悪魔を退治しなければ、この世は不幸のドン底に…」

 

「…落ちることでございましょう…」

 

「そ、そんな…!」

 

「もう私には、五十一匹の悪魔を退治するだけの力がないのでございます」

 

 ああ、なんてことなの。

 私がドジを踏んでしまったばっかりに。

 

「でも大丈夫です。今はアミノ酸やクエン酸のサプリがたくさんありますから、それらをしっかり取れば二十四時間戦えますから…」

 

「アンタ、あたしをおちょくってんの?」

 

「いえいえ、滅相もありません」

 

「さっきから妙に馴々しいけど、アンタ何者(なにもん)?」

 

「雪ノ下、雪乃です」

 

「ユキノォシタ? するとお前は…私の孫の孫の孫の孫の…」

 

 孫の孫のって、普通に子孫と言えばいいのに。

 

「あなたは私の遠い…」

 

「御先祖様!」

「…遠い孫」

 

「ご、ごめんなさい! ピラミッドを壊してしまったのは私なんですッ!」

 

 私は正直に謝った。

 座り込んだままなものだから、思わず土下座の体勢になってしまったけど。

 

「なにぃ!? なれば我が遠き孫、雪乃よ」

 

 頭を上げてから見えた御先祖様は、若干呆れた様子ながらも凛とした声で私の名を呼ぶ。

 

「お前がトトメスとなり、この世を不幸のドン底に陥れる、五十一匹の悪魔を今すぐ退治して、この世の平和を救うのです」

 

 えぇ!?

 

 私がトトメスに…?

 

  「イブンバツータ・スカラベルージュ」

 

 困惑する私に御先祖様は、ステッキの先を私に向けて何やら呪文を唱えた。

 

 次の瞬間、私の全身は先程の画に描かれていた、トトメスと同じコスチュームに変わっていた。

 

 自分のこの変化に、さらに困惑を深めてしまう。

 

 御先祖様はいつの間にか、左手に封印用のピラミッドを手に持っている。

 

「私は、この墓石(ピラミッド)の中で、トトメスが五十一匹の悪魔を一匹ずつ退治して、捕らえてくるのを待ちましょう」

 

 左手のピラミッドをこちらへ向かって投げる。

 

 私の左手に瞬間移動のように、パッとピラミッドが現れた。

 

 それから、御先祖様は人魂になって墓石の中へと戻っていき、空いていた穴は逆再生のように塞がった。

 

 けど、すぐまた穴が空いて、御先祖様は現れた。

 

「忘れていました。このことは、遠いおばあちゃんと遠い孫の秘密ですよ」

 

 御先祖様は笑顔で念押しする。

 

「はい」

 

 私もそれに釣られて、笑顔で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 後半も近日中には投稿する予定です。



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引っ越しソバの祟り


 トトメスの後半です。
 内容は殆どテンプレです。

 視点が混ざっています。

 読みづらく感じてしまうかもですが、何卒ご容赦を。

 あと、今回もヒッキーは出ません。
 
 メタ的なものも含まれます。

 主役は雪乃ですので。
 彼女はヒロインではなくヒーローですので。



 

 

 

 

 

 この世を不幸のドン底に陥れる、五十一匹のナイルな悪魔。

 

 私が犯した失態で、この世に解き放ってしまった。

 

 その責任を果たすべく、御先祖様からトトメスになる力を貰い、私は五十一匹の悪魔を退治して捕らえることになった。

 

 御先祖様から与えられた挽回の機会だと思い、私はトトメスとして戦うわ。

 

 

 パンさんのストラップも無事に見つかったことにホッとした私は、マンションの前に帰ってきた。

 

 0123と書かれた引っ越しのトラックが停まっていた。

 

 ご新規さんの引っ越しね…

 

 それから、エントランスからお蕎麦屋さんが出てきたわ。

 

 うちの近所のお蕎麦屋さんの人ね。

 ご新規さんは、引っ越しソバを注文したようね。

 

 店長は町内会の会長を勤めている。

 私の引っ越しのときも、町内会の習わしでその蕎麦屋で引っ越し蕎麦を注文して挨拶回りしなければならないと、私のマンションの管理人さんが「何かとうるさい人なんで~」と忖度の為に、私の部屋へと挨拶がてらに付け加えて言ってきたんだったわ。

 

 物陰からお蕎麦屋さんの人を見つめる影が見えた。

 

 あれは、管理人さんだわ。

 なにやら、焦れったくて物欲しそう顔でお蕎麦屋さんを見つめている。

 

「え~と次は…」

 

 お蕎麦屋さんはメモを見てから、自転車に乗って次の配達先へ向かう為にペダルを漕ぎだした。

 

 管理人さんは彼を追うように飛び出し、おいおいと気付いて欲しいのだけれど大きな声では言えないそんな声で、お蕎麦屋さんの人に声を掛けてるつもりだけどーーー

 

 ……管理人さんの存在すら気付かず、真っ直ぐ自転車を走らせて行ってしまった。

 

 管理人さんは舌打ちして地団駄を踏んだ直後、私と目が合ったが、すぐに管理人室へ戻っていった。

 

 何があったかは大体察しがつくわね。

 

 私は気にも留めずに自分の部屋へと帰った。

 

「お帰り~」

 

「あら、姉さん。居たのね…」

 

 てっきり実家に帰ったと思ったのに。

 

「落とし物は見つかった?」

 

「ええ、無事に」

 

「良かったね~」

 

「ええ、良かったついでに帰ってくれないかしら」

 

「雪乃ちゃん冷た~い」

 

 ブーブー言う姉。

 全くこの姉ときたら…

 

 

 

     『キャアアアア!!』

 

 突然、女性の悲鳴が聞こえた。

 

 誰かが、ゾンビ谷くんにでも出会したのかしら?

 

 いけないわ。

 まだ時系列的に出会ってないキャラクターをネタにするのは。

 

 まだ私は高一なのよね。

 

 私は部屋の外へと様子を見に出た。

 姉さんも勝手に付いてきて。

 

「助けてくれー!!」

 

 廊下で叫ぶ男性が、飛んでいるざるソバに襲われてるというより、ただ纏わり付かれてように映る。

 

 一体何事?

 ざるソバが宙を飛んでる? 襲われてる? 何故?

 どうツッコめばいいか困ってしまうわ。

 

「ソバが! ソバがッ! 襲ってくるー!!」

 

『ソバ! ソバ!』

 

 男性は怯えながらも、来るな来るなと飛び回るざるソバを払い除けようと、必死にノートかなんかを振っている。

 

「ざ、ざるソバが、飛んでる、なんて…プッ…!」

 

 姉さんは何がツボに嵌まったのか吹き出し、指差してキャハハと笑い出した。

 

 人の不幸を笑うなんて…

 

「アハハハハ、だ、だって、ねぇ。プププ…」

 

 いっそソバまみれになってしまえばいいと思った私は悪くない。

 

「キャアア!! 助けてー!!」

 

『ソバ! ソバ!』

 

 今度は隣の主婦が、その隣の、そのまた隣の住人達が、同様の被害に悲鳴を上げて、部屋から出てきては逃げ惑っている。

 

『ソバ! ソバ! ソバ!』

 

『ザルザルザルザル~~』

 

 この珍妙な光景に恐怖なんてする訳はなく、困惑しか出てこない。

 

 皆、恐怖で逃げ惑っている。

 

 どこに怯えて怖がる要素なんてあるのかしら?

 姉さんなんてお腹を抑えて未だ笑っているし。

 

 でも、ハエのように集って来られては鬱陶しいわね。

 

 私は冷静に飛び回るざるソバを躱していく。

 

 笑いながらも姉さんは的確に躱していた。

 呆れる器用さだわ。

 

『ザルザルザルザル~』

 

 でも、次から次に増えてくるわで厄介だわ。

 

 本気で叩き落としたりなんかして、食べ物を粗末にできないし。

 

 騒ぎがどんどん広がっていく。

 

 何故こんな事態が起こっているのかしら…?

 

 このざるソバの群れは一体どこから沸いて出てきたの?

 

「もしや!この引っ越しソバには、人々を不幸のドン底に陥れる五十一匹のナイルな悪魔が…」

 

 悪魔は早速動き出したようね。

 どう見ても人間業じゃないもの。

 

「なにノンキにブツブツ言ってんの?」

 

 ボケ担当の姉さんにツッコまれるなんて。

 

「いつ私はボケキャラになったのかな~?」

 

 チッ!

 心を読むなんて。

 この作品ではそうなのよ。

 さっきまで笑っていた癖に。

 っと、いけないわ。

 真面目にやらなければ……

 

「姉さん! 私、あっちに逃げるわ!」

 

「えっ!? 雪乃ちゃん!! ちょっと雪乃ちゃん!」

 

 私は廊下を駆け非常階段へと出た。

 

 誰も居ないのをよく確認して…

 …誰も、通らない……ヨシ!

 

 少し、恥ずかしいのだけれど…

 

「…イブンバツータ…スカラベルージュ…」

 

 ぎこちなく両腕を胸の前で交差して、平手で腕を開いた。

 

 ………なにも、起きない………

 

 やはり、こういうのは羞恥心をなくさなければいけないようね。

 

 気を取り直して。

 

「イブンバツータ!」

 

 今度はちゃんと変身ポーズを取ると、右手にステッキが現れ、それをグッと握る。

 

「スカラベルージュ!」

 

 胸の前に左手を添えてステッキを構えると、先端から出た七色の光の帯が、私の周囲を回り、全身が黄金の光に包まれた。

 

 変身ポーズの詳しい描写は、作者が文章化不可能な為省かせてもらうわ。

 

 ベルトで変身する人や五色の英雄達とは違って、トトメスのは魔法少女シリーズの中でも独特のモノだから難しいのよね。

 

 

 ダメな作者に変わって美少女のこの私がお詫びするわ。 

 

 

 

 

「もう! ホンットォッ! 鬱陶しいわねえッ!!」

 

 いつの間にかマンションの外へと逃げていた陽乃は、さっき笑い転げてたのがウソかのように、悪態をつきながらも、ざるソバの群れのしつこさに手を焼いていた。

 

 その時ーーー

 

 空が暗雲に覆われ、雷鳴と共に金の光が現れる。

 金の光を纏わせ、トトメスが大地に降り立った。

 

「何を血迷う引っ越しソバ!」

 

『ソバッ!?』

 

 トトメスは、飛び回るざるソバ達に向かって指を差し、ざるソバ共は空中で静止した。

 

「美しく戦いたい! 空に、太陽がある限り!

 不思議少女、ナイルな、トトメス!!」

 

 陽乃は、突然現れて名乗りポーズをしたり顔で決めるトトメスを、唖然とした顔で見るしかなかった。

 

 

 姉さんの周りを静止していたざるソバ達は、私が名乗り終えたと同時にこちらへと向かってきた。

 

 私は華麗に連続バク転で躱してゆく。

 

 尚も襲い掛かってくる、ざるソバをジャンプで越え、私はステッキを構える。

 

「ソバつゆと割りばし!」

 

 私は魔法でステッキをソバつゆと割りばしに変え、飛んでくるざるソバを避け、すれ違い様に割りばしでソバだけを掬い取り、つゆにつけて啜っていく。

 

 ソバが空になり、ざるだけになったものは変な声を出してガクンと力が抜けて地面に落ちた。

 

 残りのざるソバも私は全て平らげ、空になったざるは全て地面に音を立てて落ちた。

 

 姉さんが、面白いものを見た顔で拍手していたけど。

 

 つゆと割りばしをステッキに戻した私は、駆け寄ってきた姉さんに告げる。

 

「この事件の謎が判明した。君、関係者を一同に集めてきてくれたまえ」

 

「は、はい…」

 

 一瞬キョトンとしていた姉さんだったけど、言われた通りに関係者を集めに走っていった。

 

 姉さんをアゴで使える日が来るとは、トトメスをやるのも気分がいいわね。

 

 

「さっぱりわからないなぁ」

 

「どうしたんですか?」

 

「全然わかんないね~」

 

「なんなんでしょうねぇ」

 

 ざるソバに襲われていた男性に、隣の人とその隣とそのまた隣の人、さらに管理人が集まっていた。

 突然、理由もわからずに広場に集められたのだから、一同は何々としか言葉が出てこない。

 

 そこへ、陽乃が蕎麦屋の人を連れて走ってきた。

 

「えっ? 何があったんですか?」

 

 状況が掴めない蕎麦屋が、何事かと集められた一同に訪ねる。

 

「いや、この人がね…」

 

 管理人が陽乃の方に目を向けて言う。

 

 全員の視線が陽乃に集まり、なんなのと一斉に聞かれた。

 

「いえ~トトメスがですね…さっきのざるソバ事件の首謀者がわかったからと、皆さんに説明する為にこうして集まって頂いた訳です」

 

 いつもの外面を被り、陽乃は集められた主旨を述べた。

 

『トトメス!?』

 

 誰なの? なんて聞かれても陽乃も今日会ったばかりなのだから、トトメスのことなんて説明しようがない。

 なんなのそれと、一斉に詰め寄られ陽乃の強化外骨格が剥がれそうになる。

 

 ふと、陽乃は後ろに視線を向けるとーーー

 

 トトメスが広場の遊具の上に立っており、一同の注目を集めた。

 

「星は何でも知っている!」

 

 トトメスは遊具から飛び降り、陽乃が集めた一同の元へと歩を進める。

 

 

 

 

「さあ、このトトメスが解き明かそう」

 

 私は一同の前に堂々と宣言した。

 

「善良な市民を、不幸のドン底に陥れようとするのは…」

 

 私は魔法のステッキの先を真犯人に向けて…

 

「お前だ!!」

 

 声高にして突き付けた、その相手とはーーー

 

 

 マンションの管理人さん。

 

 

「観念したまえナイルな悪魔! お前が管理人さんの僻み根性に宿ったことを!」

 

 正確に述べば、管理人さんの中に潜んでいるナイルな悪魔に、私はステッキを向けている。

 

 真相はこうだーーー

 

 

 ーーー管理人室。

 

「管理人に引っ越しソバを配らない経済大国がッ!」

 

 ドンと机を叩く管理人。

 

「どこにあるッ!」

 

 イラつき、お茶を啜ろうと湯飲みを取った。

 

 だが、管理人の持つ湯飲みの中が突如、青く光った。

 

 中からトカゲのような生き物が光りながら飛び出し、管理人の胸に飛び付いた。

 

 それは、ナイルな悪魔の一匹だった。

 

 驚きで絶叫を上げる管理人の胸の中へと吸い込まれるように、悪魔はその体内へと侵入したのだった。

 

 これが、ナイルな悪魔が〝宿る〟ということなのだ。

 

 ナイルな悪魔は主に人間の体内に忍び込み、人々を不幸のドン底へと陥れる為に利用、活動するのだ。

 

 悪魔に宿られた管理人さんは苦しみで首をかきむしった。

 

 乗っ取られた管理人さんは、ナイルな悪魔の力によって僻みが増幅され、柱に藁人形に杭を打ち付けた。

 

「呪ってやるぅ…引っ越しソバの祟りじゃ!」

 

 恨みつらみを吐きながら、トンカチを叩き続けた。

 

 ざるソバが動き出し、人間を襲ってきた原因は、ナイルな悪魔を通しての管理人による呪いの儀式によってだった。

 

 

 

 以前、ステッキを首元に突き付けたまま、私は全容を語った。

 

「…このトトメスは、見逃さない!!」

 

「う、嘘だ! 証拠があるのか!?」

 

「ない」

 

 管理人さんに宿った悪魔は怒りがこみ上げ、ワナワナ震え始める。

 

「強いていうなら、お前のその、証拠があるのか、の台詞が証拠だ!」

 

「お~ま~え~~ウガァーー!!」

 

 ついに本性を表したわね。

 

 怪獣だぞ~、のようなポーズで管理人さんに宿った悪魔は私に襲い掛かってきた。

 

 私は血走った目で迫り来る悪魔を躱し、指を差すようにステッキを構える。

 

 牙を向く管理人さんに宿った悪魔は、私を後ろから羽交い締めにするが、私はその腕を両手で掴んで悪魔を力一杯放り投げた。

 

 尚も迫り来る、悪魔の振り下ろされた腕をステッキで受け止め、その場を回って遠心力をつけて弾くかの如く放り投げる。

 

 投げられても直ぐに態勢を戻し、口を思い切り開けてがおーのポーズで私へと迫る悪魔に宿られた管理人さん。

 

 私は直ぐ様屈んで、その脚を叩くように払った。

 

 背中を地面に叩き付けられて苦悶を浮かべるも、まだ抵抗の意思を見せる。

 

 悪魔が宿った管理人さんが立ち上がった瞬間、私はステッキを向けて魔法を放った。

 

 すると、管理人さんの身体は映像の逆回しそのもの動きで、遊具のアスレチックの上を逆行していった。

 

 滑り台を逆から昇って、雲梯を逆向きにぶら下がりながら進む姿なんて滑稽だわ。

 

 アスレチックのスタート地点まで行かされ、悪魔が宿った管理人さんは尻もちをついてから立ち上がり、見失った私の姿を探すのに慌てふためいて周囲を見回す。

 

 すでにアスレチックの一番高い場所へと立って見下ろしていた私を見つけ、驚きにその目を剥いた。

 

 姉さんを初めとする、集められた住人達も開いた口で私のことを見上げていた。

 

「パピルス!」

 

 ステッキの先から、象形文字が書かれた白いリボンが伸びた。

 

 パピルスを左へ右へと振ってしならせた。

 

「縛れパピルス!」

 

 管理人さんの身体にパピルスは巻きつき、ギチギチと音を立ててその身体を締め上げる。

 

 このパピルスで縛ることによって、人間に宿ったナイルな悪魔を追い出すのと同時に弱らせるのである。

 

 管理人さんの身体から、青く光ったトカゲが出てきて地面に落ちたのが見えて、私はパピルスを解く。

 

 すぐ様、左手に封印のピラミッドを出し、その上の栓を開けた。

 

 封印のピラミッドは、弱々しく地面を這っている悪魔を中へと吸い込み、瓶状の中心部が金色に点滅している。

 

 栓を閉じたと同時に点滅が消え、無事に捕獲は完了した。

 

「あと、五十匹」

 

 

 

 管理人さんはフラフラとなり倒れそうになったところを、姉さん達に介抱されていた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 尋ねられた管理人さんは、疲労で頷くしかできなかった。

 

 

 

 

 

 私は、トトメスとしての初仕事を終え、自分の部屋に戻ってきた。

 

「お帰り」

 

 みかんを食べてる姉さんが居た。

 

 まだ居座る気?

 

「あ、それと夕飯なんだけど、今日越してきた中島さんって方からの~頂き物の…」

 

 姉さんは横から、そそくさと何かを出した。

 

「ざるソバ!!」

 

「っえぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 不思議コメディシリーズも、ポワトリンのリメイクだけじゃなくて、トトメスやシュシュトリアンもやってくれないかな。

 トトメスの変身ポーズはホント難しいッス。
 書いたら書いたで、妙に長ったらしくなるし、やってて自分がストレスになりそうなので止めました。

 詳しく知りたい方はTTFCにでもご覧下さい。

 あの、腕を交差して平手を上にして開いたり、指二本にして輪っかにして胸元で交差したりなんかしたり、わかりやすく表現できる技量がありません。


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