きんいろモザイク ~plus α Road Days~ (T93)
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第0話~プロローグ~

どうも、小説投稿を初めてやります!
趣味程度で始めたので、どれだけ持つかわかりません(笑)
でもなるべく長く、あわよくば締めまでやりたいです!

それでは、~The beginning of the story!~


「…何やってるんだろう、あの子」

 

 ぼくの名前は鹿ヶ谷(ししがや)(しゅん)。小学校低学年だ。

 家族といっしょにこの街に引っこしてきて一日がすぎ、日曜の、まだ転校する学校に転入する前の休日に探検がてらお母さんといっしょにでかけていた。

 

そしてしばらく歩いていると、小高い丘のてっぺんの、この街が見下ろせるながめの良さそうな場所の手すりの近くで一人の女の子がいた。

 としはぼくと同じくらいだろうか。黒髪で首のつけ根辺りぐらいまでの髪の長さの女の子だ。

 この街の景色を眺めてるだけならなんらおかしい事ではないけど、こんな所に小さい女の子が一人でいるのはおかしいとぼくは思った。

 

「ねぇ、きみ」

 

 ぼくは女の子に話しかけた。

 

「?はい。なんでしょうか」

 

 女の子はぼくの声に気づき、ふり向いた。パッツンな前髪をした大人しそうな子だ。なんだか親せきのじいちゃんばあちゃんとかの家に置いてあった日本人形の"こけし"?ってのに似てるなこの子。ちょっと失礼か。

 

「え~と…、こんな所に一人で何してるの?お母さんとかは?」

 

「…ん~と……」

 

 ぼくに質問された女の子は10秒ほど悩んだ素振りを見せ、そして…。

 

「ここは一体どこなのでしょうか?」

 

…………。

ぼくは数秒女の子を無言で見た後、お母さんの方を見た。

 

「お母さん、もしかしてこの子…」

 

「迷子ね」

 

「あ、やっぱり?」

 

 

 

 ぼくは女の子に名前をきいてみた。

 

「きみ、名前は?」

 

「あ、すみません。知らない人にはうかつに個人情報は言ってはいけないとお姉ちゃんやお母さんに言われてまして…」

 

「あー、そっか」

 

 意外としっかりしてる子なんだな。

 

「でも、今こうやって話し合っているんですから、私達もうお知り合いですよね!」

 

 前言撤回。ダメだこの子。

 

「お母さん、ぼくこの子すごく心配」

 

「そうね…。(お母さん)もそう思うわ。今頃この子の家族もの凄く心配してるんじゃないかしら」

 

 

 

「私は大宮忍(おおみやしのぶ)と言います」

 

 女の子もとい、忍は自分の名前を名乗った。

 

「ぼくは鹿ヶ谷峻。こっちはぼくのお母さん。昨日この街に引っ越して来たんだ」

 

「そうだったんですか!ようこそおいでくださいました!」

 

 忍は手を広げ、嬉しそうな顔で笑った。

 この子ちょっとズレてるなぁ…。

 そう思っているとお母さんが忍に話しかけた。

 

「忍ちゃん、携帯電話とか持ってる?」

 

「んー、持ってないです」

 

「じゃあ、お家の電話番号は?それを記したメモとか持ってない?」

 

「あ!持ってます!お姉ちゃんに言われていつもポケットに入れてました!」

 

 そう言って忍は自分のポケットを弄った。これでひとまず一安心、

 

「……あれ?おかしいですね。いつもはちゃんと入れていたはずなのですが…」

 

 …できそうにないっぽい。

 

「あっ!!」

 

「…どうしたの?」

 

 忍が突然叫んだのでぼくは尋ねてみた。

 

「そういえば昨日お風呂に入るときポケットから取り出すのを忘れていたような…」

 

「洗っちゃったか…」

 

「今ごろポケットの中が大変な事になっているかと…。どうしましょう…」

 

 落ち込んでしまった忍にぼくは話しかけた。

 

「…じゃあ、一緒に探す?君のお家と家族」

 

「え…!いいんですか!?」

 

「君が良ければだけど…」

 

「ありがとうございます!本当に助かります!」

 

 忍は深くお辞儀をした。

 

「礼儀正しい良い子ね~忍ちゃん!」

 

 それを見てお母さんは感心する。

 

「じゃあ、探しに行こっか」

 

「はい!」

 

 忍は元気よく返事をしてぼくの手を掴んだ。

 ちょっとドキッとするからいきなりはやめて。

 お母さんもニヤニヤすんな!

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「忍っ!!」

 

「しのっ!!」

 

「あ、お姉ちゃん。陽子(ようこ)ちゃん」

 

 忍を連れて街中に降り、15分程歩き回っていると、向こうの道から忍より2つ3つぐらい年上の黒髪ロングのお姉さんと、忍やぼくと同じくらいと思われる赤みがかった茶髪の子がやってきた。3人のやり取りから、忍のお姉さんとお友達だろう。よかった。

 

「何処行ってたのよ!心配したんだから!!」

 

 忍のお姉さん(と思われる人)は本当に心配そうな顔で忍に叱咤した。

 

「ごめんなさい…。蝶々さんを追いかけていたらいつの間にか知らない所にいて…」

 

 忍はお姉さんに申し訳なさそうに謝った。

 それにしても思った以上にふわっふわした理由だったんだなおい。

 

「しの〜っ!」

 

 一緒にいた茶髪の子が忍に抱きついた。

 

「よかった〜っ!勇姉(いさねえ)からしのがいなくなったって聞いて捜し回ったんだから〜っ!!」

 

「陽子ちゃん…。心配かけてごめんなさい!」

 

 陽子と呼ぶ女の子に忍は、再び申し訳なさそうに謝った。

 

「しの、電話はできなかったの?」

 

「電話番号が書いてあったメモ、洗濯してしまいまして…」

 

 それを聞いた勇姉と呼ばれてたお姉さんは。

 

「もう、迷子になったら防犯ブザーを鳴らして私を呼びなさいとも言っておいたでしょ!!」

 

「いや、だから使い方違うってば勇姉っ!!」

 

 お姉さんのズレた発言に陽子はツッコんだ。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 この後、忍の両親もやってきて忍は先程のように謝りまくった。

 

「本当にありがとうございました!なんとお礼を言っていいか…!」

 

 忍のお母さんがぼくとうちのお母さんにお礼を言ってきた。その前に忍のお姉さん、お友達、お父さんにもお礼を言われたので正直お腹いっぱいだ。

 

「あら、じゃあ昨日近所に引っ越してきた人達って鹿ヶ谷さんだったんですねぇ!」

 

「まぁ!うちの左隣の隣の隣の向かい側じゃない!すみません、昨日は荷解きで挨拶に行けなくて…!」

 

 その後母同士が話し合っていたところ、どうやら忍の家とぼくの家はご近所さん同士だったことが判明した。まぁ、流石に漫画みたいにすぐ隣ってわけではなかったけど十分近い。

 

「あの、峻くん」

 

「ん?何?」

 

 お母さん達の話を聞いていると、忍がぼくに話しかけてきた。

 

「峻くんはどこの学校に通うんですか?」

 

「んえ?えーと……」

 

 ぼくは新しく通う小学校の名前を言った。

 すると忍が嬉しそうに笑った。

 

「わぁ!私と陽子ちゃんと同じじゃないですか!学校でも会うことができます!」

 

「あら、忍は峻君のこと気に入ったみたいね」

 

 忍のお母さんや忍のお姉さんが微笑ましそうに見てくる。恥ずい。

 そうしてると陽子も話しかけてきた。

 

「そっかー!じゃあ、学校でもよろしくな!あ、私の名前は猪熊(いのくま)陽子(ようこ)!お前の事、峻って呼んでも良いかな?」

 

「あ、うん。じゃあぼくも陽子って呼んで良い?」

 

「うん、いいよ!」

 

 陽子とはいい友達になれそうだ。

 ……ん?

 

「ムー」

 

 忍がこっちを見て何やら頬を膨らませている。

 

「私を差し置いてお二人で仲良くなっててズルいです」

 

「ああっ!しの、ごめんごめんっ!」

 

 陽子が忍に弁解する。

 というか、さっきから気になってたが、陽子が忍のことを"しの"って呼んでいるが、あだ名なのかな?

 

「あのっ!!」

 

「は、はい!」

 

 突然忍がぼくに面と向かって話しかけてきた。

 

「私の名前は大宮忍と申します!」

 

「うん、さっき聞いたから知ってるよ?」

 

「あだ名は"しの"です!」

 

 あ、やっぱそれあだ名か。

 

「陽子ちゃんが考えてくれた仲良しの証なんです!」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 横を見ると陽子が得意気になってドヤってた。

 そこまでドヤることかな?

 

「それで、その……、私のこと"しの"って呼んでくれませんか?それと私も峻くんって呼んでいいでしょうか!」

 

 さっき普通にぼくのことそう呼んでた気もするが…ま、細かい事はいっか。

 

「わかったよ。よろしく、"しの"」

 

「!〜♪」

 

 僕がしのと呼ぶと満足したようにしのは微笑んだ。

 

「えへへ…。それじゃあ…」

 

 若干照れくさそうにしたしのは、ぼくの右手を自分の両手で包むと…。

 

 

 

「これから、よろしくお願いしますね!峻くん!」

 

 

 

 頬を薄い桃色に染めて、満面の笑みでそう言った。

 

 

 その時、風がなびいて彼女の綺麗な黒髪がなびいて、その周りで桜の花びらが舞っているのが見えた。

 

 

 それを見たぼくは数秒という短い時間だったが、凄く見惚れていた。

 

 

 ………………。

 

 

 後にぼくは、男ってなんて単純な生き物なんだろうと思うのだった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 それから、しの達と過ごす日々が始まった。

 三年生の始業式の日に、しのと陽子の学校に転入し、クラスも同じだった。

 

 陽子とは、よく校庭で他の男子達と野球やらサッカーやらして遊んだ。陽子に半ば強引に参加させられた感じだったが、おかげで体力はそこそこついたと思う。

 

 しのともよく遊んだ。ただ、よくボーッとしてる事が多い為、家が近所だから帰りまでしのの面倒を見る形になった。しののお母さんとお姉さんの(いさみ)さんからも陽子とともに宜しくとお願いされている。

 

 そんな日常が暫く経ったある日。しのが外国に興味を持ち始めるようになった。おれが日直の仕事で放課後しのと一緒に帰ることができなかった時になにかあったのだろうか?

 でも、だからと言ってしのの英語の成績が良くなったというわけではなかった。というかしのは家庭科以外の成績が大変良くなかった。だからテスト前はいつもしのと陽子にも勉強を教える羽目になった。

 ホントにこの先大丈夫なんだろうか。

 

 

 それからおれ達は小学校を卒業し、中学生になった。しのと陽子も同じ学校だ。

 そこで、おれと同じ様に別の街から転校してきた子に会った。名前は小路綾(こみちあや)。黒髪で肩下辺りまで伸びたツインテールが特徴の女の子だ。

 

 なんというか、その子は滅茶苦茶人見知りだった。しのや他の子が話しかけたり遊びに誘おうとしても遠慮がちに断っていた。

 でも、陽子が話しかけ、半ば強引な感じで綾を遊びに連れ出してから綾は陽子に懐くようになった。

 

 それから陽子を通じて、しのとも話すようになったのだが、異性相手だと更に緊張するのか、おれがいると口数が少なくこわばった顔になる。

 

 だがその後、幸か不幸かとあるきっかけでおれがしのに想いを寄せてることが綾にバレてしまい、そういう話が好きだった綾はそれがきっかけでおれと話すようになった。それから綾とは気のおけない友人となった。きっかけは兎も角。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 中学も2年生になったある日、しのがなんとイギリスへ一週間ホームステイに行くと言い出した。しかも一人で。しのが行きたいと自分のお母さんに頼んだらしい。まさかしのの外国好きにここまで磨きがかかっていたとは…。

 

 なんでも、しのがイギリスでお世話になる家は、昔しののお母さんが学生の頃イギリスに留学してた際に仲良くなった友人の家とのこと。その友人は日本語をわかるし喋れるので会話にも困らないそう。なので全く心配はいらないらしいのだが、おれは凄く心配だった。

 

 確かに昔みたいに迷子になったり、あまりボンヤリしてる事は少なくなったが、あくまで比較的な話だ。誰か付き添いでついていかないのか聞いたが、しの自身が一人で行ってみたいと言ったそうなのだ。

 

 おれだけでも付いていきたかったが、おれ自身も英語をそんなに喋れる訳ではないしお世話になるお宅にそんなに負担をかけさせたくない。それに、しののお母さんが忍が一人立できるいい機会じゃないかと言っていたので、おれはもう何も言うことはなかった。

 

 その話に陽子は凄いと感心したが、綾はおれと同じく、しのを心配していた。無事に帰って来れるように毎日、水垢離(体に冷水を被って願掛けをすること)をしてお祈りすると言い出したので、おれも賛同して一緒にやろうと思ったのだが、陽子にもう11月だからやめとけと止められたので普通にお祈りすることにした。

 

 そして二ヶ月後、しのはイギリスに渡って行った。

 

 その間おれはしのが気がかりでならなかった。何処かで道に迷ってるんじゃないか、誰かに誘拐されてるんじゃないか、襲われたりしてるんじゃないか、心配事で頭がいっぱいだった。

 

 しのがイギリスに出発した十数時間後、勇さんがしのから連絡がついたと伝えられた。

 

「忍、無事にイギリスに着いて、お母さんの友人の家に着いたって」

 

 それを聞いたおれは一安心した。

 

「全く、峻君は心配性ねぇ。忍も、もう中学生なんだから、そこまで心配しなくても大丈夫よ。もっと忍を信じてあげなさい?」

 

「……勇さん、パーカーのポケットからはみ出してるそのしのの写真らしき物はなに」

 

「え!あ!!ち、違うの!ちょっと部屋の片付けの最中でうっかり持ってただけなの!!」

 

 勇さんは普段しののことをからかったりしているが実はしのの事を大切に思っていて結構シスコンなのである。しののお母さんからこっそり聞いた話なのだが、今回のホームステイでもおれと同じかそれ以上に忍一人で行かせるのは心配だと食い下がっていたそうだ。

 

 しのがイギリスに出発した翌日、昼過ぎにおれん家の電話が鳴り響いた。

 おれは受話器を取った。

 

 ガチャッ

「もしもし?」

 

『あ!峻君ですか?』

 

「!!しのか!?」

 

 電話してきたのはしのだった。

 

『うふふ。まだ一日しか経ってないのに、随分久しぶりな気がしますね』

 

「……バーカ。なに言ってんだ。」

 

 と言いつつも、おれもそんなカンジがしていた。旅行する場所が凄く遠いだけで変な感覚になる物だなと思った。

 

『あ、すみません。イギリスからの電話なのであまり長く話せないんですよね。ちょっと峻君に聞きたい事がありまして』

 

「おれに聞きたい事?」

 

『はい。(かんざし)についてなんですけど…』

 

「あー、お土産に持っていったあれ?」

 

 実は、しのが出発する数日前にイギリスでお世話になる人に日本のお土産を持って行こうという話になって、しのとおれと勇さんの3人で買い物に行ったのだ。

 しかし、しのはと言うと日本ぽくない物というか英国風の物ばかりのイギリス人が微妙そうな反応しそうな物ばかりを選ぼうとしていた。本人は至って真面目なんだろうけど…。

 なのでおれと勇さんでちゃんとした日本のお土産を選んだのであった。その中の一つがその簪だった。

 

『そうそう!実はお世話になってるお宅に私より少し背の低い綺麗な金髪の女の子がいたんです!それでその子にその簪をあげようと思いまして』

 

「ほうー、それで?」

 

『使ってあげようと首に刺したら怯えてしまって…』

 

「なんで首に刺すんだよ!!仕事人か、てめーは!!首じゃなくて髪に刺すもんなんだよソレ!!」

 

『あー、髪に刺すものなんですね!』

 

 相っ変わらずしのは思考がズレてるし突拍子も無いことをする。ホームステイ先で迷惑かけんなよ…。

 

『ありがとうございます!これでアリスにちゃんとプレゼントできます!』

 

 どうやらその金髪少女の名前は"アリス"と言うらしい。

 

「……そういえば、なんでおれに聞いた、というか掛けてきたんだ?お前のお姉さんでもよかったんじゃないか?」

 

 おれより使い方知ってそうだし。

 

『えへへ…。実はその、峻君とお話がしたくて♪』

 

「………………!」

 

『やっぱり暫く会えないのは寂しいものでして…。声が聞きたかったんです♪』

 

「……そ、そうか……」

 

 ………………本当(っと)にコイツは……。

 おれをいつも困らせやがる…。

 

『それでは名残惜しいですが、そろそろ切りますね。陽子ちゃんと綾ちゃんに宜しく言っといてください!』

 

「あぁ。イギリス楽しんで来いよ、しの」

 

『はい!』

 プツッ

 

 そう言って電話が切れた。

 

 それにしても外国でもしのはしのだったな。良くも悪くも。そのことにおれは安心して笑みを浮かべた。

 

 ……この笑みはおそらく、それだけが理由ではないと思う。

 

「……♪」

 

 ……………?

 ふと、おれは何かの視線に気づいた。

 視線の方を見てみると………、

 

 

 

 ……玄関から綾と陽子が顔をだしてニヤニヤしながらこっちを見ていた。

 

 

「……峻が寂しがっているんじゃないかと思って様子を見に来たんだけど…ニヤニヤ」

 

「必要なかったみたいね〜ニヤニヤ」

 

「おめーら、何時から居たァ!!!」

 

「「なんでおれに聞いた?」辺りからかしら(笑)」

 

 おれと陽子と綾の3人の鬼ごっこが始まった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 しのがホームステイに出て一週間。つまり、しのが日本に帰ってくる日になった。

 

 しのの迎えにおれとしのの家族と陽子も一緒に空港へ向かった。綾は家の用事とかで来れなかったが、しのが帰ってきたらメールで連絡するつもりだ。

 

「……しの、大丈夫かな。飛行機の中でハイジャックとかにあってないかなぁ…」

 

「もう、峻は本当に心配性だなぁ〜」

 

「そうね。そんなに心配してたら身がもたないわよ。」

 

「そういう勇姉も手汗凄いよ?手、めっちゃ濡れてる。」

 

「……冷たいジュース飲んだからよ」

 

「さっき飲んでたのホットココアじゃなかった?」

 

「じゃあ、それで汗かいたのよ」

 

「『じゃあ』って…」

 

 おれと勇さんと陽子でそんなやり取りをしていると…。

 

「あ!来た!忍ー!」

 

「「「!!」」」

 

 しののお母さんの声に皆で顔を向けると、

 

「お母さ〜ん!お姉ちゃ〜ん!お父さ〜ん!陽子ちゃ~ん!峻く〜ん!」

 

 いつもと同じ、イギリスに出発する前と変わらない、呑気な顔と声のしのが大声で呼び手を振りながらこっちにやってきた。

 

「忍!」

 

「しの〜!」

 

 しのの家族と陽子はやってきたしのを囲んで帰ってきたしのに喜んでいた。しののお母さんもああは言ってたけどやっぱり心配だったんだろうな。

 

 ちょっとした後おれもしのの近くに来た。

 

「しの…」

 

「あ、峻君。ただいまです!」

 

「…しの…だよな?大丈夫だったか?なんともないか?」

 

「いや、目の前に普通にいるだろ」

 

 おれの言葉に陽子が口を挟む。

 

「いや、もしかしたら幽霊かなんかじゃ……」

 

「どんだけネガティブに疑り深いんだよっ!!」

 

「…………。」

 

 おれと陽子のやり取りに大人しくなったしのは何かを考え込むようにした後、おれの目の前に立つと…。

 

「えいっ」

 

 いきなりおれに抱きついてきた。

 

 ………………………………。

 

「◎△✕#@※%β◇+≦±∀$⇒⊆∞¥☆!!!?」

 

 おれは今一体何語を喋ったのだろう。

 

 暫くするとしのは抱きつくのを止めた。

 

「ふふふ♪どうですか?私はちゃーんとここにいるってわかりましたか?」

 

「…………お、おう……」

 

 まったく、こいつは………。

 

「あれ?峻君どうしました?急に顔が凄く赤くなってますよ?まさか熱でもあるんですか!?」

 

 おめーのせいだっつーの!!

 

「あら〜♪」

 

「あらあら」

 

 そこの母親共とお姉さん!ニヤニヤすんな!!

 ※しのの父親は複雑な顔と感情になっています。

 

「んで、陽子。お前は何をしている」

 

「何って、綾にしのが着いた連絡のメール送ってただけだけど?」

 

「余計な事書いてねぇだろうな?」

 

「余計な事?別に?」

 

「……なら良いけど」

 

 

 ~綾Side~

 

 ヴーッ、ヴーッ

 

「ん?メール?」

 

 家の用事で家族で出掛けてた私のもとに一件のメールが来た。

 

「あ、陽子からだわ」

 

 私は陽子のメールを開いた。

 

 

『From 陽子

 ─────────────

 Sab 綾へ

 ─────────────

 しの無事に帰ってきたよー!』

 

 

「!よかった〜!」

 

 しのの無事に安堵しつつ、私はメールの続きを読んだ。

 

 

『しののやつもやっぱりあたし達に会えなくて寂しかったんだろうな〜。峻になんか思いっきり抱きついてたりしたからさー!綾も明日しのに会うの楽しみに待ってろよー!』

 

 

「…………」

 

「綾、今の陽子ちゃん達からのメール?」

 

 お母さんが何か言っているが私は今それどころではない。

 

「私も一緒に迎えに行けばよかった〜!!!!」

 

 私は涙目で叫んだ。

 

「ふふふ、綾ったら。そんなにお友達が心配だったのね」

 

 ~綾Side、Off~

 

 

 とまあ、そんな出来事もありながら、おれ達は中学校生活も送り、その中学を卒業し、俺達は遂に高校生になった。綾も含めた俺達4人は同じ高校に通う事になった。

 

 そしてその高校の入学式から一週間程経った桜が咲く頃に、俺達のきんいろの日常が始まる事になるのだった。

 

 

 ~See you, next time!~




いかがだったでしょうか?
文章が変な所や至らない所もあったんじゃないかと思いますが、どうか長い目で見て、もしくは感想で指摘していただけると嬉しいです(笑)

それでは、また( ・∀・)ノシ


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第1話~ふしぎの国の~

とりあえず1話は早めに上げます。


「おはよう、勇さん」

 

「あら、峻君おはよう」

 

 朝の7時半。俺はしのの家の前まで来て、これから学校に向かうであろう勇さんと会った。

 

「しのは?」

 

「さっきやっと起きて今ご飯食べてるわ。今日も待つ?」

 

「はい。どうせ他にも待ってる奴らいるんで」

 

「ごめんね。毎日面倒かけて」

 

「もう慣れっこっすよ」

 

「ふふ、そっか。じゃあね、峻君」

 

「うん」

 

 そんなやり取りをし、俺は勇さんを見送った。

 因みに勇さんは、俺やしの達とは違う学校だ。

 

 しのが若干寝坊して、起きて支度して朝食を食べるのを俺が待つ。それはもう小学校からの俺の習慣になっており、高校に入っても変わることはなかった。

 

 〜20分経過〜

 

 ……おかしいな、いつもならもうそろそろ出てくる頃なのだが。

 

「…お邪魔しまーす…」

 

 俺はしのの家の玄関を開けることにした。頼むから玄関先で二度寝(もしくは三度寝)だけはやめてくれよ。

 

 俺が玄関の戸を開けるとそこには…。

 

「わー。全部英語だ〜」

 

「……何やってんの、しの」

 

 しのが玄関の上がり(かまち)に座り、呑気に何かを見ていた。

 

「あ、峻君!おはようございます」

 

「うん、おはよう。…で、何してんの」

 

 俺が再度聞くと、しののお母さんが奥からやってきた。

 

「忍!あんた学校は!?」

 

「すみません、直ぐに連れて行きますので!!」

 

「こっちこそ、うちの娘がいつもごめんね!!」

 

 俺はしのを連れ出して、大宮家を後に学校へ向かった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「あ、やっと来た」

 

「しの、峻、遅ーい」

 

 俺としのが急いで向かっていると、俺達4人が出掛ける時や登校する時の待ち合わせにしている、駅前の大きな木の前で、綾と陽子がそこで待っていた。

 

「はぁ、はぁ、すまん。しのが手紙読んでたらしく、それで遅れた!」

 

 走りながら聞いたのだが、しの曰く玄関先に自分宛の手紙が置いてあり、それを読んでいたとのことだった。

 

「手紙?」

 

「これです」

 

「あ!エアメール?」

 

 しのが持っていた手紙はエアメール、外国の人に送るトリコロールカラーの縞々模様が付いたやつだった。

 

「もしかして、昔イギリスにホームステイした時の?」

 

「はい、アリスからです!」

 

「おー!不思議の国かー!」

 

「イギリスね」

 

 陽子の天然発言に綾がツッコミを入れた。

 

「確か、同年代の金髪の女の子だったっけ?」

 

「はい。でもこの手紙、全部英語で書かれていて、読めなくて困ってたんです」

 

「「読んでたんじゃないんかい!」」

 

 俺と陽子は揃ってツッコんだ。

 

「ちょっと見せてー。おお、ホントに英語だー!えーと、dear Sinobu…」

 

「陽子ちゃん、私は大宮忍ですよ」

 

「おい高校生」

 

 これぐらい知っとけよ。外国好きなら尚更。ほら、道行く見知らぬお姉さんにちょっと笑われたぞ。

 

「!も、もう後にして!早く行くわよ!」

 

 綾もお姉さんに気づき恥ずかしがった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 暫く歩いていると、俺達がこの春から通っている高校、《県立もえぎ高等学校》に着いた。

 

「手紙来たの初めてなんだ」

 

 陽子がさっきの話を再開させた。

 

「はい!何が書いてあるんでしょう?」

 

「仕方ないわね、見せて」

 

 しのが困っていると綾が英語の訳を買って出た。

 でも、あの顔はそこまで自信があるわけじゃあなさそうだ。

 

「えーと…、"日本に来る"って書いてあるわ。(…多分)」

 

 あの顔は『多分』って顔だ(笑)

 

「すごーい!綾ちゃん英語が読めるんですか!?続きはなんて?いつ来られるって書いてますか?」

 

 キラキラした瞳で綾を見るしのに綾はたじろいだ。

 

「フッ…。しのの期待を裏切るな?綾」

 

「よっ、綾大先生ファイトー(笑)」

 

「よ、陽子、峻、うるさい!!」

 

 困っている綾を俺と陽子でからかった。

 いつも良いリアクションをする奴だ。

 

「ていうか、峻は英語の成績は確か私より良かったはずでしょ!?あんたが読んであげたら!!」

 

「あ。俺、図書室に借りたゾ◯リの本返しに急がにゃならんから。じゃ、後頑張れよ〜」

 

「こら〜っ!逃げるな〜〜っ!!」

 

 綾の叫喚を背に、俺はしの達と別れ図書室に向かった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 図書室で本を返した俺はふと、もの思いにふけった。

 

 

 それにしても、しの達と知り合ってからもう、7年近くか。

 

 綾とはまだ数年程度だが、最初の頃と違って、今さっきの様に気のおけなく話し合える仲にもなった。他の変化と言えばツインテールが昔より長くなって、腰辺りまで伸びたぐらいかな。

 

 陽子とは、本人のボーイッシュな性格もあって、時には悪ノリし、時には周りのボケにツッコミし合う仲。身長は昔は俺と同じくらいだったのが、今は俺より1cm、ほんの1cmだけ上だ。これは俺の身長が低いのではなく、陽子が女子の平均よりも背が高いだけである。その証拠に平均的なしのと綾より俺は身長は上だ。…かろうじて…。そして陽子の身体的変化と言えば、やっぱり大きくなったむn……何処かの黒髪ツインテールにぶん殴られる気配がしたのでこの話はもうやめよう。

 

 そして、俺達の中心人物と言える女の子、忍こと、しの。髪は昔に比べて少し伸びたが相変わらずのおかっぱヘアー。たまにぼんやりしてて、素っ頓狂な事も言ったりしてるが、おっとりしてて優しい笑みを浮かべてるのがほぼ常だ。俺がこの街に引っ越して最初に知り合った女の子で、俺はその子…しのに………。

 

 

「誰かいるんですか?」

 

「ぅわっひゃいっ!!」

 

 俺が物思いにふけっていると図書室の外の廊下から、誰かが顔を出し図書室を覗いてた。

 サイドテールをシュシュでとめた髪型をしている女性だ。スーツを着てるから、見たところ先生かな?

 

「もう、HR(ホームルーム)が始まる時間になりますから、早く教室に戻りなさい!!」

 

「は、はいっ!すみません!」

 

 結構厳しそうな先生だ。美人ではあるが。

 時計を見ると本当にそろそろ時間だった。ちょっと考え過ぎていたか。少々急がねば。

 

 俺は速歩きで教室に戻って行った。廊下を走ったらまた、怒られてしまうからな。

 

「…………そこまで怖がらなくても……」

 

 帰り際、後ろから何かボソッと聞こえた気がしたが、先を急いでいた俺は気にせず歩く事にした。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「金髪の女の子に会った?」

 

 時間ギリギリで自分のクラスに着いて、HRが始まる直前に綾と陽子からそんな話を聞いていた。因みにしのは今、授業の道具を整理中だ。

 

「そうなのよ。峻としのがいない時に下駄箱近くの廊下で…」

 

「しのがいなかったのは何で?」

 

「あー。しのの奴、外靴のまま学校に入って戻って行ったんだよ。で、その時にその子が来たんだよ」

 

「あの子、しのを探してる様子だったんだけど、すぐ先生に呼ばれちゃってて…」

 

 随分タイミングが良いというか悪いというか…。

 てか、しのを探してる金髪の女の子?

 それにさっき綾が断片的に読んだ手紙の内容的に、まさか…。

 

「ねぇ、綾、峻、しのの事なんだけど…」

 

 おっ、陽子も流石に気づいたか?

 俺も陽子に続く。

 

「その女の子、しのを探してたんだよな?」

 

「えぇ、うちの制服着てたし。だからもしかしたらあの子…」

 

「いや、そんなことより私は、しのがこけしにしか見えないんだけど」

 

「そっち!?」

 

「なんの話だ!!」

 

 陽子はやっぱり陽子だった。

 

 どうも、さっきの女の子はしのを探す際、こけしを取り出し、この人形にそっくりな子を探してると言ったそうな。いや、俺も最初に会った時思ったけど、直接言っては失礼だろう。いや、本人には言ってないみたいだけど。

 

 

 なんて話していると、このクラスの担任の烏丸(からすま)(さくら)先生が来た。

 

「おはようございま〜す」

 

「先生!おはようございます!」

 

「大宮さん、今日も元気ね〜」

 

「はい!」

 

「カータレットさん、いらっしゃい」

 

 

 烏丸先生はしのと挨拶を交わした後、廊下に向かって呼びかけた。すると女の子が一人入って来た。

 

 その子は背は低かったが、日本人離れした青い瞳に、ピンクのカーディガンを羽織り、ウェーブのかかったツインテールに簪を指し…、そして金髪だった。

 

「あ!」

 

「さっきの!」

 

「……アリス……!?」

 

 綾と陽子としのは、それぞれ金髪少女に驚いていた。

 そして金髪少女がしのを見つけると、笑顔が高揚していき…。

 

「シノブ!シノブー!!」

 

 しのに抱きついた。

 

「わぁ、アリス!本当に日本に来たんですね!!」

 

「うん、シノブに会いに来たよ!」

 

「アリス!日本語!?」

 

「いっぱい勉強したよ〜」

 

「なぁおい、さっき会った子って」

 

「うん、あの子だよ」

 

 しのとアリスと呼ばれてる子が喜びあってる中、俺は確認の為、陽子に聞いた。

 てことは、やっぱりあの子がしののホームステイの時に仲良くなった女の子だったらしい。

 

 それにしても日本語上手いな。しのの驚きようからすると、会った頃はおそらく喋れなかったんだろう。しかし、今少ししか喋ってないが、外人特有の片言日本語等でもなく流暢に日本語を喋り、全く違和感を感じなかった。

 

「カータレットさん、先ずは自己紹介からね?」

 

「あ!ごめんなさい!」

 

 アリスは先生に言われ謝罪した。

 

 

 先生が黒板にアリスのフルネームを書くと、アリスは自己紹介を始めた。

 

「はじめまして。アリス・カータレットと申します。イギリスから編入してきました」

 

「……えーーーっ!!」

 

「いや、今かよ!!」

 

「気づくの遅!!」

 

 驚愕したしのに俺と綾はツッコんだ。

 

「手紙に書いたよ?」

 

「英語だったので…」

 

「そう思って二枚目はローマ字で書いたよ」

 

「えぇっ?」

 

 アリスの言葉に今度は綾が驚いた。

 

「綾」

 

 陽子が冷めた目で名前を言い。

 

「まぁ、そういう時もあるさ。次、頑張れ」

 

 俺は綾の肩にポンと手を置き、生暖かい目でねぎらいの言葉をかけた。

 

「あんたに言われると腹立つわ!!」

 

 心外だ(笑)。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 休み時間になり、アリスは他のクラスメイトから転校生の必須イベントの質問攻めにあっていた。ましてや海外からの留学生だからなあ。

 

 暫く質問攻めにあっていたアリスはフラフラしながらもしのの所に漸く来れた。

 

「アリス、大丈夫ですか?」

 

「ううっ、やっとシノブと話せるよ〜」

 

「それにしても高校入学早々、外国の友達ができるなんてなー」

 

「あ、貴方方は!先程はありがとうございました!」

 

 アリスが綾と陽子に気づき、丁寧に挨拶を交わした。

 

「そんなに畏まらなくて良いわ。私は小路綾」

 

「私は猪熊陽子。あと敬語じゃなくていいよー」

 

「コミチ…アヤ。…と、イノ…クマ?」

 

「イノシシにクマで猪熊!ちょっと強そうでカッコイイでしょ?」

 

 陽子は得意気に言ったが、それに対しアリスは。

 

「ワ…ワタシ、食ベテモ、オイシクナイノデ…」

 

「カタコト!!」

 

 青ざめて、さっきの流暢な日本語はどこへ行ったのやら、片言で喋りながら後ずさった。

 

「大丈夫、大丈夫。陽子は確かによく食べる子だけど、流石にそこまで雑食じゃあないから」

 

 俺はすかさずアリスにフォローをいれた。

 

「フォローになってねーよ!半分馬鹿にしてるだろ峻!」

 

「ソンナコトナイデスヨ」

 

「お前がカタコトになっても可愛くねーよ!!」

 

 俺の友人達は打てば響くから楽しいわ。

 

 ……ん?

 

「ジーーー……」

 

 アリスがこちらを見てきていた。

 

「あぁ、すまん。俺は鹿ヶ谷峻。よろしく」

 

「……貴方もシノブと親しいの?」

 

「え?おう。陽子よりは短いが小学校からの付き合いだからな」

 

「へー…」

 

 な、なんだろう…。アリスがやけにこっちを睨んできてるような…。

 

「…………ひょっとして、」

 

「?」

 

 

「シノブのBoy Friend…?」

 

 

「………………………………なぁっ!!!?」

 

「はい!峻君は私のボーイフレンドです!」

 

「びゃあっ!!!?」

 

 アリスのトンデモ発言としのの仰天発言に俺はそれぞれ驚愕した。

 

「し、しっしししししししの!?俺達何時からそんな関係に!?」

 

「え?嫌ですねぇ。私達会った時からずっとお友達じゃないですか〜」

 

 ………………ん?

 

「ねぇしの、ボーイフレンドの意味分かってる?」

 

「もう綾ちゃんたら、流石に私もボーイとフレンドくらいは知ってますよ。"ボーイ"は"男の人"で、"フレンド"は"友達"ですよね?峻君は私の大切な"男友達"です!」

 

 ………………。

 えぇ、わかってましたよ。

 どうせそんなこったろうなんじゃないかと思ってましたよ。

 だってあのしのだもんよ。

 だから全然がっかりしてねぇよ?

 

「あのね、しの?ボーイフレンドっていうのはね?」

 

「はい?」

 

 綾がしのに正しいボーイフレンドの意味を教えると、しのの顔がだんだん赤くなっていった。

 

「ち、違います!アリス!私と峻君はただの友達です!」

 

 ただの友達。

 

「全然そんなんじゃ全くありませんから!」

 

 そんなんじゃ全くない。

 

「ね?峻君、私達お友達ですもんね?」

 

「ソウデスネ」

 

「なんで峻君もカタコトなんですか!?」

 

 しのの精神攻撃(無自覚)に俺が耐えている中、陽子はしのと同じくわけのわかんないような顔をしていて、綾はプルプル震えながら笑いを堪えていた。

 はっ倒すぞコラ。

 

「……そっか!ごめんなさい、わたしてっきりシノブを狙う"不埒な輩"かと思っちゃった!」

 

 何処で覚えんだ、そんな日本語。

 

「改めまして、わたしの名前はアリス・カータレットです!"シュン"、だったよね?宜しくお願いします!」

 

「お、おう。宜しくアリス」

 

 俺の勘が正しければコイツは、しの大好きっ娘だ。今は仲良くしてくれてるっぽいが、しのに下手な事すれば逆鱗に触れかねん。

 ちょっと前途多難だわ…。

 

 そう考えてると綾が俺の肩に手を置いてきた。

 

「これから色々大変だろうけど、そういう時もあるわ。まあ頑張りなさい♪」

 

「さっきの仕返しかコノヤロー!!」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 アリスとの自己紹介が済んだ、次の休み時間。

 

「それにしてもアリス、日本語上手いよなぁ」

 

「とてもしののホームステイ時、喋れなかったとは思えん」

 

「すごいですねー」

 

「本当に全く喋れなかったの?」

 

 俺達はそれぞれアリスに思い思いの言葉を発した。

 

「うん。アリガトとコンニチワ(コニチワ)くらいしか」

 

「私はハローくらいなら喋れました」

 

「……他には?」

 

「………ガッツポーズ!とか」

 

「それ、和製英語!!」

 

「しの…、中学生でそれは…」

 

「いやいや、流石にそれはないだろ。でないとこの二人、ホームステイをその単語だけで乗り切ったことになるだろうが」

 

 俺は冗談のつもりで言ったのだが、

 

「え?いけましたよ?」

 

「「「マジかよ!?」」」

 

 しのの発言に俺達3人は驚愕した。

 

 

 〜忍とアリス、イギリスホームステイ回想録〜

 

 

 〘出会い。〙

 

 

「ハロー、大宮忍です」

 

「コ、コニチワー」

 

 

 〘ふれあい。〙

 

 

「ハロー」

 

「アリガト」

 

 

 〘別れ。〙

 

 

「ハロー!ハロー!」

 

「コニーチワー!!」

 

 

 〜ホームステイ回想録、Fin.〜

 

 

「こんな感じでちゃんと会話になってましたよ」

 

「「「なってない(ねぇよ)‼」」」

 

 しのとアリスの奇天烈昔話に俺達はツッコんだ。

 

「よくそれで一週間もって仲良くなれたなオメーら!!」

 

「いやあ、それ程でも」

 

「褒めてねぇよ!!」

 

「あ、あはは…。それにしてもアリスの髪と瞳、凄く綺麗ね。お人形さんみたい」

 

 確かに金髪のウェーブの髪も透き通るような青い瞳も、とても綺麗だった。

 その意見にしのも賛同した。

 

「分かります。ドレスを着せてショーケースに入れて一日中眺めたいですよね。なーんて♪………あれ?」

 

 しのの発言に俺達3人はおろか、アリスでさえドン引きした。

 

「そ、そんなことしません!ジョークですので笑って下さい!!」

 

 しのは笑う所です!と慌てて弁解した。

 

「あ…、本気だと思った」

 

「お前、昔から外国と金髪が好きだったからつい…」

 

「だからってそれはあんまりです!実際は近くにおいて眺め続けます!!」

 

「それもどうなんだ」

 

「ねぇ、アリス。その簪、可愛いなー」

 

 陽子がアリスの髪に刺してある簪について触れた。

 

「あ…。これはホームステイの時、シノブがくれたものなの…」

 

「!そういえばプレゼントしましたね。あの時のものを今も大事に…。でも、私簪って刺すものだと思ってました。人を」

 

「怖えぇ!!」

 

「仕事人か!」

 

「………ああ!ひょっとして、あん時のあれか!」

 

「あれ?」

 

「ほら、お前が簪の件で俺に電話してきた…」

 

「ああ!そうです!峻君に使用法を聞いたんでした!」

 

 確かそん時ホントにアリスの首に刺して怯えられたとか言ってたな。…ホントによく仲良くなれたなこいつ達。

 

「あー。峻がしのから電話来て嬉しそうにしてた時のやつかー!」

 

「黙れ猪熊」

 

「名字!?」

 

「……シュンは本当にシノブに変な気とかないんだよね?」

 

 ほら見ろ、陽子のせいでアリスにまた疑いを掛けられちまった!

 

「もー、アリスは心配性ですねー。さっきも言いましたけど、峻君は私の大切なお友達です。これまでも、そしてこれからも、ずっとお友達、ズッ友ですよ!ね?峻君。…あれ?峻君ったら、どうしてこの世の全てに絶望したかのような顔をしているんですか?」

 

「ベツニ。オレオマエズットトモダチ」

 

「カタコト、流行ってるんですか!?」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 放課後。

 

「みんなー、帰ろーぜー!」

 

「ういー」

 

「はい!」

 

 陽子の呼びかけにそれぞれ答える。

 

「そういえばアリスは今どこに住んでるの?」

 

「久しぶりにアリスのお母さんにも会いたいです!」

 

「あ、私一人で日本(こっち)に来たからマムもダッドもイギリスで居ないよ?」

 

「!?」

 

「じゃあ日本に居る間はどこに住むの?」

 

「えっとー、シノブの家にホームステイを…」

 

 アリスは照れくさそうにそう言った。

 てことは、しののお母さんこの事知ってたな。

 

「アリス!!」

 

「?」

 

 しのが突然声を上げた。

 

「そんな…。たった一人、住む所もなく…」

 

「え?」(⁠゜⁠∆゜⁠;)

 

 どうやらしのはアリスが路頭に迷ってると思っているらしい。

 

「おい、しの。ちゃんとアリスの話聞…」

 

「私の家に来ていいんですよ!何もない家ですが!!」

 

 しのはそう言ってアリスに抱きついた。

 

「あのっ、そのつもりで…!」

 

 アリスは困惑し、その二人の様子に陽子は笑い、俺と綾は呆れていた。

 

 

 

「じゃあ、私達はここで」

 

「しのー、峻ー、そしてアリスー、またなー!」

 

 5人で暫く通学路を歩き、俺としのの家の方角に続いていく横断歩道の前で、綾と陽子と別れた。

 

「シュンは同じ方向なの?」

 

「あ、はい!峻君は私とは一番ご近所さんなんですよ!」

 

 俺の代わりにしのが答えた。

 

「ふーん…」

 

 アリスがまたこっちをジト目で睨んできた。

 それぐらいは勘弁してくれ…。

 

 そんなこんなでしのの家の前に着いた。

 

「アリス、今日からよろしくお願いしますね?」

 

「ふ、不束者ですが、宜しくお願いシマス!」

 

 緊張してるなアリスのやつ。

 

「それでは峻君、また明日です!」

 

「おう。アリスもまたなー」

 

「うん!さようならー。………ふっ…」(-ω´-*)☆

 

 別れ際にアリスがドヤ顔してきた。

 アレか、ご近所よりも一緒に住んでいることの方が仲良しだから私の勝ちとでも言いたかったのだろうか。

 まあアイツのドヤ顔、大人ぶりたい年頃の幼女とかにしか見えなかったから全然イラつかなかったけど。

 

 …綾じゃねぇけど、これから更に騒がしくなりそうだ。

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

 次の日の休日の朝。

 俺は外へ出て新聞を郵便受けから取る何やら近くからバシャバシャと水の音がした。

 門から出て周りを見渡すと、しのの家の前でアリスが半纏を着ながら何やら水を撒いていた。

 

「何やってんの?」

 

 俺はアリスに近づき話しかけた。

 

「あ、シュン!おはよう!」

 

「うん、おはよう。で、お前は何してんの?」

 

「水撒きだよ!日本の朝の風習なんだよね!」

 

「せめてもう少し暑くなってからにしろよ」

 

 4月とはいえまだちょっと肌寒いから見てるこっちが寒くなる。

 

「で、どうだった?しのの家は」

 

「ん?うん!シノブもシノブの家族も優しくて、とっても良くしてもらってるよ!」

 

「そうか、そいつは良かった」

 

 アリスは得意気に答えた。

 

「しのの家、全室フローリングな上しのが無類の外国好きなもんで殆ど洋風で囲まれてるから日本らしくなくてガッカリしてるかと思ったよ」

 

「…………ソンナコトナイヨ」

 

 アリスはガッカリを隠しきれなかった。

 まあ、俺だってもしヨーロッパに行って住む所が田舎のじいちゃん家みたいな家だったらガッカリするけどさ。

 

「あ、そうだ。シュンにもシノブ達にあげたお土産一つあげるよ」

 

「おー、ご丁寧にどうも」

 

「空港で買ったどら焼きだよ!」

 

「メイドインジャパン!!」

 

 ~See you, next time!~




ギスギス系は私は嫌なので仲を悪くはしませんが、アリスならこんな感じになるのでは?という思いもあるので最初は若干距離があるカンジです。すぐに親しくなりますんでご心配なく。


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第2話~ちっちゃくたって~

オリジナルも交えてやるので、アニメ1話分をまとめてやってしまうと長くなるので、分割します。


 アリスがやって来た翌週。俺は朝ご飯を食べてしのを迎えに行った。

 

「(…そういえばアリスが来たからもう寝坊しなくなるかな、しののやつ)」

 

 俺がそう考えているとしのの家の中から突然、

 

「二人いて二度寝しないでよ!!」

 

 というしののお母さんの叫び声が聞こえてきた。

 どうやらこの習慣は変わりそうにないようだ。

 

 

 

 暫くすると、しのとアリスが家から出て来た。

 

「しの、アリス、おはよう」

 

「シュン、おはよう!」

 

「おはようございます」

 

 しのとアリスそれぞれと挨拶を交わす。

 

「あら忍ちゃん、峻君、おはよう」

 

 すると近所の松木さんが挨拶をしてやってきた。松木さんはしのの家の隣に住んでいるおばさんだ。

 

「あ。松木さん、おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 俺としのは松木さんに挨拶をした。アリスはというと、

 

「アリスちゃんも、おはよう」

 

「……コニチワ」

 

 緊張した様子で、カタコトでそう挨拶した。

 

「おいしの。アリスのやつどうした?」

 

「アリスはああ見えて人見知りらしいので、慣れてない人には日本語を話せないふりをします。特に大人の人には顕著です」

 

「そうなのか」

 

 まだ日本に慣れないか。まあまだ数日しか経ってないし当然か。

 

 でも、俺や陽子達とは普通に話せてたから、同い年とは問題がないっぽいな。

 ……俺の場合はナメられてるとかじゃあないよな?前者のみである事を祈ろう。

 

 

 松木さんとの挨拶を済ませ、俺達は学校へ向かって歩き始めた。

 

「アリスはここの暮らしにはもう慣れたか?なんか不便な事とかあったりする?」

 

「向こうで日本の習慣は大体学んでたし、なんとかやっていけてるよ。ただ、やっぱり家の中で裸足になるのが…。時々靴のまま上がりそうになるよ」

 

「あー、まあそれはしょうがないんじゃね」

 

 十数年間それが当たり前だった事をいきなり変えて失敗するなっていう方が無理な話だ。

 

「あー、私も時々ありますよ」

 

「お前のは、ただ薄ぼんやりなだけだ」

 

「失礼ですね!!」(⁠`⁠Д⁠´⁠)⁠ノ⁠=3

 

「戸惑う事もあるけど、私頑張れるよ!私以外にも外国人がいるみたいだし!」

 

「ん?この付近に他に外人さんなんて居たっけか?」

 

「昨日家の前で見かけたの!金髪で、何処かの学校の制服着てて、携帯電話いじってた!日本語ペラペラで!」

 

「それ、ただのギャルじゃね?」

 

「あ…、でもアレだけはどうしても慣れない…」

 

「"アレ"?」

 

「ワンッ!ワンッ!ワンッ!」

 

「「ひぃっ!!」」

 

 アリスの話を聞いていると突然犬の鳴き声が聴こえてきて、しのとアリスは怯えた。

 あー、アリスの慣れないものってこいつか。

 

 ここの通り道のとある家には、飼い主以外には懐かず、通行人には誰にでも吠えてくる犬がいたのだ。

 

 …しゃーねぇなあ。

 

「しの、アリス、ちょっと待ってろ」

 

「あ、はい!」

 

「?」

 

 俺の呼びかけにしのは直ぐに返事をし、何も知らないアリスはよくわかっていない様子だった。

 

 俺は犬の前に立った。

 

「!?」

 

 犬はさっきまでは外壁で俺が見えていなかったのか、俺が見える位置までくると吠えるのを止めた。

 

「……いい子だから吠えるのやめような?」

 

「……クゥ〜ン…」

 

「ええっ!?」

 

 俺が犬に言い掛けると、犬は大人しくなり、その様子にアリスは驚いていた。

 

「ありがとうございます、峻君」

 

「まあ、これぐらいは」

 

「ちょ、ちょっと待って!どういう事!?あの犬は誰にでも吠えつくって聞いたよ!」

 

「ああ、それはですね…」

 

 事情を知らないアリスにしのが説明をしだした。

 

「私達が小学校四年生ぐらいの頃ですかね。ある日私は、あの犬の事を忘れて出歩いていた時がありまして、するとその家の前をうっかり近くで歩いてしまって、至近距離でその犬に突然大きく吠えられてしまった私は尻餅をついて泣きながら家に戻ったんです」

 

 そんな事もあったっけ。

 

「そこで私の家に遊びに来ていた峻君がそんな私の様子を見た後、外へ向かって行ったそうなんです。私は泣いていてわからなかったのでこれはお姉ちゃんから聞いた話なのですが、なんでもその後からあの犬は峻君を見ると大人しくなるようになったのだとか」

 

「何したのシュン!?」

 

「…………………………忘れた」

 

「絶対嘘!!今すごい間があったよ!?」

 

 あの頃、その前から生意気な犬公だとは思ってはいたのだが、しのがすっごく泣いていたのを見て堪忍袋の緒が切れたというか…。

 

「大丈夫だ。動物愛護団体が襲ってくるような事はしていないから安心しろ」

 

「全然安心出来ないよ!?」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 その後、暫く歩いていると、いつもの集合場所に綾がいた。

 

「綾ちゃん、おはようございます」

 

「おはよう。しの、峻、アリス」

 

「陽子は?」

 

「日直だから先行ってるわ。私達も早く行きましょ。遅刻しちゃう」

 

「んー…?」

 

「?峻、なによ」

 

「いやお前、なんかいつもと何か足りないような…。でもツインテールは付いてるし、ブランケットは着てるし…」

 

「人をパーツの足りないおもちゃみたいに言わないでくれる!?」

 

「あ!綾ちゃんっ!スカートの下、タイツ履き忘れてますよ!」

 

「え!?あっ!!」

 

 俺が悩んでたポイントにしのが気づいて指摘した。

 そうだ。綾は普段、靴下を履かずに黒いタイツを履いていた。なので今の綾は裸足に靴を履いた状態だ。更に言えば生足がむき出しの状態だ。

 

「お父さん、お前をそんなはしたない娘に育てた覚えはないぞ」

 

「誰がお父さんか!!ど、どうしよう!」

 

「わ、私の靴下を!」

 

「そしたら今度はしのが裸足になる!綾のことはもう、諦めよう…」

 

「殺られたみたいに言わないでくれる!?足が出てるだけなんだけど!!…あ!そうだ、確か……あった!」

 

 綾が自分の学校指定鞄を弄ると黒タイツが出てきた。どうやら予備を入れていたらしい。

 その様子に俺達三人は「わー」と拍手した。

 

「アリス、綾ちゃんがタイツを履く間、私達で壁になりましょう」

 

「うん、わかったよ」

 

「ありがとう、しの、アリス。…峻!あんたは向こうを向いていなさいよ!」

 

「ういー」

 

 しのとアリスは綾が見えないように立ち、俺は反対側を向いた。

 

「絶対見ないでよ!絶対こっち向いたら駄目だからね!?」

 

「お?それはこっち向けってフリか?」

 

「向いたら抹殺するわ!」

 

「お父さん、お前をそんな乱暴な言葉使いをする娘に育てた覚えはないぞ」

 

「それはもういいわ!!兎に角、履き終わるまでじっとしてなさいよ!!」

 

「へいへい」

 

 一通り綾をからかって満足したので俺は綾の言う事に従った。

 

「…二人っていつもこんな感じなの?」

 

「はい!大体こんな感じですね。峻君は綾ちゃんとは私達より仲がいいのではとたまに思うくらい仲良しさんです!」

 

「「それは誤解だわっ!!」」

 

 しのの一言に俺と綾は揃って否定した。

 

 別に綾と仲がいい事は悪いことではないのだが、そこに変な認識をされたら困る!特にしのには!

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 そんなこんなで俺達四人は学校に着き、自分達のクラスまで来た。

 

「おっはよー」

 

「オッス、君陽子」

 

「アハハ、なんだそれー!」

 

 日直で先に来ていた陽子に話しかける。今は何をしていたのかと言うと…。

 

「…朝ごはん食べて来なかったの?」

 

「え?食べたけど」

 

 綾の問いに当然の様に返した陽子の机の上には、弁当が広げられていた。

 

「…トースト一枚とかだったのか?」

 

「いや?ご飯一杯に焼き鮭に味噌汁、沢庵も食べたよ?」

 

「食べたのに…?」

 

「?」

 

「その「何か?」みたいな顔やめて」

 

「お昼どーすんだよ」

 

「ああ大丈夫、パン3つ持ってきたから!」

 

「太るぞ」

 

 お前は女子力がスタイルに極振りされてる様なもんなんだから、せめてそれだけは維持してくれよな。

 

「お前今、何か失礼なこと考えなかったか?」

 

「別に?」

 

 話してると予鈴が鳴ったので、俺達は席に着いた。

 担任の烏丸先生がやって来てHR(ホームルーム)が始まり、俺達の今日の高校生活が始まった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「アリスは今年でいくつになるんですか?」

 

「えぇ?」

 

「お前は何を言っとるんだ」

 

 HRが終わり休憩時間になると、しのがアリスに素っ頓狂なことを聞いていた。

 

「わたしはみんなと同じ高校一年生だよー。同じクラスでしょー」

 

 アリスは困った様子でしのに返した。

 

「そーでした。でも、その割にはちいさいですね」

 

 確かにアリスの身長はしのの頬辺りまでしかない。背の順もクラスじゃ余裕で一番前だった。

 

「私が155センチくらいですので…、アリスは50センチくらいですかねー」

 

「それは無いよ!!」

 

「しの、50センチは酷いだろ。せめて100センチにしてやれ」

 

「そんなにも小さく無いよ!!」

 

 そんなやり取りをしていると、綾と陽子もやってきた。

 

「背が低いのがコンプレックス?」

 

 綾の問いにアリスが頷く。

 

「何で?小さいの可愛いじゃん」

 

 陽子はアリスを宥めた。

 

「いや、俺も少なからず身長で悩んでいるから、アリスの気持ちもわからんでもない」

 

「え?シュンは充分身長あると思うけど…」

 

 俺の発言にアリスは疑問を投げ掛けた。

 

「いや、俺平均よりもちーと低いんだよ。女子の平均より上とはいえ、陽子とほんの少ししか差がねえんだよ。…時に陽子、お前身長いくつになった」

 

「え?えーと…、確か163センチ」

 

「…俺と2センチしか差がねぇ…。いつ追い抜かれるかと思うと気が気でない。せめてもう1センチ欲しい」

 

「いやその1センチで何が変わるのよ?」

 

「2センチよりも3センチの方がまだ余裕ある感じするじゃん?」

 

「峻、馬鹿みたいよ」

 

「男にゃ男にしかわからんプライドがあんだよ」

 

「わずか1センチで変わる、みみっちいプライドね」

 

 俺は綾に抗議しようとするが、綾は俺をスルーしてアリスに語りかけた。

 

「アリス、心配しなくてもこれから伸びるわよ。成長期だもの」

 

「で、でもわたし…、小学生の時から3センチ位しか伸びてなくて…」

 

 それでも大丈夫?と話してくるアリスに俺達四人は若干の間を置いて…。一斉に目を逸らした。

 

「それはもう…」

 

「だめかも…」

 

「すまん…。俺、贅沢な望みしてたわ…」

 

「そんな!?そんなことないって言って!!」

 

 

 

 その後アリスは陽子を見た後、何を思ったのか俺の方を見て陽子の側に行き、耳打ちをした。

 

「え?背が低いから胸モガァッ!?」

 

「ヨーコッ!!」

 

「?」

 

 耳打ちの意味を一蹴するかの如く、普通にアリスの言った内容を喋ろうとした陽子にアリスが慌てて陽子の口を塞いだ。

 

「峻、ちょっと離れてしのと一緒に居なさい」

 

「お?おう…」

 

 俺はよく聞き取れなかったが、綾はどうやらあれだけで全てを察したらしい。

 よくわからんが多分男の俺が聞いたら駄目な話っぽい。

 

 俺は綾に言われるままに途中から会話に入らず窓の外を見てぼーっとしているしのの側に来た。

 

「良い天気ですねー」

 

「……そだな」

 

「さっきの話ですが、峻君は背が大きくなりたいんですね」

 

「あ、ああ。さっきも言ったが、女子とあんまり大差ないのはどうかなーと」

 

「んー、私は峻君は今のままで良いと思いますけど」

 

「ん?そうか?」

 

「あんまり大きくなってしまうと峻君のお顔、よく見えなくなってしまいます。それはちょっと私寂しいです」

 

「……………………そうか…」

 

 なんでこいつはこういう事をサラッと言うかな。

 

 そんな話をしていた最中、向こうから「どうせ無いわよ悪かったわねーー!!」という綾の叫び声が聞こえてきたが、どうせ陽子がまた綾の逆鱗に触れたのだろうと俺は気にしないことにした。

 

 

 

 でも、やっぱり気になるので聞いてみた。

 

「おい綾、さっきは何で騒いで」

 

「ウ〜〜、ガルルルルルッ!!」

 

「すみませんわかりましたごめんなさい」

 

 綾が狂暴な獣と化したので俺は早々に諦めた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「しのー、一時限目なんだっけ」

 

「えーっとですね…、あ!やったぁ英語です♪」

 

「シノブ、英語好きなの?」

 

「あー、それもあるが…」

 

「しのは、からすちゃんが好きなんだよねー」

 

 高揚しているしのにアリスが問いかけ、俺と陽子が答えた。

 

「カラス?」

 

「烏丸先生。このクラスの担任の」

 

「あー、メガネの」

 

 烏丸先生はおっとりとした女性で容姿も良く、他の男子生徒にも人気がある。赤い眼鏡に、ウェーブのかかったブロンドヘア。…そして上着に何故か何時もジャージを着ている。担当科目が英語で性格も近いからか、しのも先生が好きらしい。別に嫉妬はしない。別に嫉妬はしない。

 

「なんで2回言うのよ」

 

「おいそこのツインテール、ナチュラルに心を読むな」

 

「シノブ、その先生の事好きなの?」

 

 綾とそんな会話をしてるとアリスがしのに聞いた。

 

「はい!優しくて美人で英語ペラペラで大人でジャージで、あんな大人になりたいです!」

 

「ジャージはいいの?」

 

「ジャージフェチ?」

 

「そんなフェチあるの?」

 

「いや知らん」

 

「………」

 

 しのの発言に綾と俺は困惑するが、アリスはしのの嬉しそうな姿を見て、何やら考え事をしていた。

 

 そしてチャイムが鳴って烏丸先生が教室に入ってくると一時限目の授業が始まった。

 

 するとアリスは何やら暫く烏丸先生をじっと見続けていた。おそらく烏丸先生をライバル視しているのだろう。お前も忙しいやつだな。

 

「…と、ここはこうなります。ん?」

 

 烏丸先生はアリスが自分の事を見ている事に気づいた。

 

「本場の方が居ると緊張しますねぇ。アリスさん、先生の英語はどうかしら?」

 

「先生の英語は日本一です!!」

 

「!?」

 

「まあ、ありがとう」

 

 先生はアリスに聞いていたのだが代わりにしのが答えた。

 そしてそんなしのにアリスは、はっとした。そして暫く先生を見た後、何を思ったのか挙手して立ち上がった。

 

「ハイッ」

 

「?アリスさん」

 

「(※英語)ミスカラスマ!貴方の英語はちょっとだけ変ですっ!」

 

 突然のアリスのネイティブな本場の英語に、クラスの皆はざわめいた。

 アリスの英語をなんとか翻訳した俺は、アリスが烏丸先生に挑発的な言葉を発したのだと理解した。

 『ちょっとだけ』と言う辺り、悪いやつになりきれてない感がある。(笑)

 

 で、このアリスの発言に烏丸先生はと言うと。

 

「すごいわアリスさん。皆さん、アリスさんがお手本を見せてくれますよ」

 

「!!?」

 

 はい、全然通じませんでしたとさ。あの人、しの並みの天然さ、純真さの持ち主だからなぁ。拍手してアリスの英語に感心していた。

 

 それでアリスは困惑しながら英語の朗読をする事になった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「すごいなーアリス。手ぇ挙げて」

 

「やっぱり本物の英語は違うわね」

 

 一時限目の授業が終わり、アリスは陽子と綾に褒められてドヤ顔しながら「うへへ」と照れていた。

 因みに今アリスの手にはアリスに似た金髪少女のパペット人形が装着されていた。なんでも烏丸先生からのご褒美だそうな。あの人なんでこんなもん持ってたんだ。

 

「先生も喜んでました!」

 

 しのの一言でアリスはまた顔を曇らせていた。

 

 次の授業は移動教室なので、俺等は移動の際の持ち物を用意し、後はしのの用意が終わるのを待っていた。

 

「しの、教科書あった?」

 

「ありました」

 

「しの、筆箱は?」

 

「あっ!」

 

「しの〜」( ー́∀ー̀ )

 

「すみません〜!」

 

「ほれしの、ハンカチ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 といった具合の俺達のやり取りにアリスは何か疑問を持った様子だった。

 

 

 

「どうしてみんな「しの」って呼ぶの?」

 

 しのの用意が終わり、移動中にアリスがそんな事を聞いてきた。

 

 そうか、まだアリスにゃ言ってなかったか。

 

「忍のあだ名だよ」

 

「アダナ…、ニックネーム?」

 

「はい。仲良し同士の呼び方です」

 

 俺としのはアリスに教えてあげた。

 

 すると前から烏丸先生が鼻歌を歌いながら歩いてきた。

 

「顔がいっぱい重なって~♪」

 

 ……なんの歌コレ?

 

 俺が先生の歌を不可思議に思っていると、何やらアリスが先生に向かって行った。

 

「先生!わたしシノブのことシノって呼びます!」

 

 どうやらアリスはしのとの親しいアピールをした訳だ。

 その行動に烏丸先生は、

 

「ま〜仲良いのねー」(*´∇`*)

 

 微笑ましくアリスを見ていた。しのと陽子や綾も。

 

 皆の反応にアリスは困惑していた。

 

「シ、シュン!なんでみんなこんな反応してるの~!?」

 

「知らね」ㄟ( ▔∀▔ )ㄏ

 

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

 とある抜き打ちテストの返却の日。

 

「はぁ…」

 

「どうしたアリス、答案見てため息ついて。英語だから点は良い筈だろ」

 

「点は良かったんだけど、これ見てよシュン」

 

 アリスの答案を見てみると見事な100点の近くに、花丸が付けられていた。日本の旗つきで。

 

「ミスカラスマ、ちょいちょい子供扱いしてくる…」

 

「あー…。先生も悪気はないんだ。可愛がられてるんだよ」

 

「それが嫌なの!!わたし、もう高校生なんだよ!」

 

「子供に見られて、そんな悪くもないんじゃないか?俺なんか最近、子供の頃出来た事が出来なくなっちまって、ちょっと切なくなる時があったんだ」

 

「シュン…」

 

「久々にとん○りコーン食ってたら指にはめられなくなっちまってて」

 

「果てしなくどうでもいいよ!!」

 

「そうだ、お前ならはめられるんじゃね」

 

「はめられないよ!!」

 

 学校の後しのの家にと○がりコーンを持っていって実験した結果、見事はめられました。そしてアリスに怒られました。

 

 ~See you, next time!~




胸の話は、男である奴がいる前ではしないと思い、少々カットというか、奴には話から立ち去ってもらった。


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第3話~ことばの由来?~

今更ですが奴、主人公の設定や容姿を軽く説明。

黒髪で所々少々髪がはねている。
目はツリ目でもタレ目でもない。

性格は、根は真面目、たまに悪ノリする、
    変な所で意地っ張りなところ有り

成績は中くらい。英語は綾よりいいらしい。

体力はそれなりにある。
小学校の頃、陽子に振り回されたせい(笑)

身長は陽子より2センチ高い程。

とりあえずこんな感じです。


 アリスが来てもう、数週間経った週末の日曜日、5人でショッピングに出掛ける事になった。

 

 女子4人に男1人なんて居心地悪いから一回断ったのだが、女子だけなのも危ないんで、護衛もかねて参加する事になった。

 決してしのに「私達と一緒は嫌ですか?」と、悲しそうな顔で言われたから折れた訳では無い。

 

 待ち合わせ時間10時の15分前。俺はいつもの登校の時と同じ待ち合わせ場所に来るとそこには綾がいた。

 

「よっ、綾」

 

「あ、峻。女の子を待たせるなんて男としてまだまだね」

 

「うっせ。これでも早めに来たつもりだったんだぞ。お前いつここに来たんだよ」

 

「9時だけど?」

 

「何、当然ですが?みたいに言ってんだ!早すぎるわ!!先に来れる訳ねーだろ!!ラーメン屋にでも並んでんのかお前は!!」

 

「しのとアリスは?」

 

「無視か!!…しのが準備に手間取るそうで、だから先に行ってていいって言われた」

 

「そう」

 

 俺と綾は、しのとアリス、そして陽子の3人を待つ事にした。

 

 

 そして10時を過ぎても、3人はまだ来ない。

 

「……来ないわねぇ」

 

「アリスは兎も角、あの二人が予定通りに動く事の方が珍しいけどな」

 

 しのと陽子は時間にルーズ過ぎる。

 

 すると流石に退屈になったのか、綾が話を振ってきた。

 

「ねぇ」

 

「うん?」

 

「しのとは最近どうなのよ」

 

「は?」

 

「もう高校入って、ひと月近く経つでしょ?何かないわけ?」

 

「あのな、高校入ったからって、そんなんで付き合えるんなら誰も苦労しないわ。確かに高校生は最も青春色が強い時期だが、それだけで人間簡単に変われるもんじゃねぇんだよ。そんな上手くいかないの」

 

「そうやって自分に言い訳して正当化してヘタレてるって訳ね」

 

「お前そろそろ本気で泣かすぞコラ!!つーか、それはお前にも言われたくねぇぞ!!高校入ったにもかかわらず、未だに陽子と相変わらずじゃねえか!!」

 

「は、はあーっ!?なに、訳わかんない事言ってるのよあんたは!!陽子は関係ないでしょ!?」٩(//̀Д/́/)۶

 

 綾は陽子の事が好きなのである。

 一応レズ的なアレではなく友達としてらしいのだが、もう綾はほぼそっちの方向に片足突っ込んでいる状態だと俺は思う。

 

「わわわ、私と陽子は健全なお友達であって、決してそんな歪んだ関係なんかじゃなく…!!」

 

「私がなにー?」

 

「うひゃあ!?」

 

「お、陽子」

 

 綾と口喧嘩に近い応酬を繰り広げていると陽子がやってきた。

 

「ごめーん☆遅れちゃった~。てか、今なんか私の話してなかった?」

 

「し!してないわよバカ!!」

 

「そ、そう?」(・・;)

 

「ていうか遅い!!今何時だと思ってるの!?」

 

 現在、10時10分である。

 

「えーっ、10分だけじゃん」

 

「だけ!?だけって何よ!私なんて一時間も前からここにいるのに!」

 

「こいつ9時からここにいたらしい」

 

「真面目だなー」(`-д-;)

 

 泣きながら訴える綾に俺と陽子は呆れた。

 

 

「しのとアリスもまだ来てないじゃん」

 

「あの二人というかしのは準備に時間かかるってさ。でも遅いなぁ」

 

「心配だわ。どこかで事故にでも遭っていたら…」

 

「この差はなんだ」

 

「ごめんなさい、遅れました~~」

 

 陽子が扱いが違うひでぇみたいな顔をしてると、遠くからしのの声が聞こえてきた。

 

 その声に綾はホッとし、俺達は声がする方向に顔を向けると、しのとアリスがこっちに向かってきたのが見えた。…………のだが……。

 

「「……なんだあれ!!?」」

 

 しのの格好を見て、俺と陽子は叫んだ。綾も驚いた様子だった。

 

 なんというか、しのは…メイド?というか、ゴスロリ?みたいな、ふりふりひらひらした世間的には痛い格好をしていた。

 

「お待たせしました~~っ」

 

「しの…それは私服か?」

 

「はい」

 

 恐る恐る聞く陽子にしのは自信満々で答えた。

 

「シノは何かのモノマネをしてるんだよー」

 

「あー、なるほど、コスプレか」

 

「えっと…メイド?」

 

「ゴスロリとか…?」

 

「鬼?」

 

「なんで鬼!?」

 

「いや、アニメのキャラでそんなやつが」

 

 俺達はそれぞれ答えたが、どれも違う様だった。

 

「ブブー!正解は外国人でした~」

 

「「「ざっくり!!」」」

 

 まさかの答えに俺達は揃ってツッコんだ。

 いつの時代の外国人だよ。

 

「どうですか?似合いますか?」

 

 服の感想を聞いてくるしの。

 

「え、えーと…まあ、良いんじゃない?多分」

 

「き、着たい服を着るのが一番だものね」

 

 しのの質問に困惑しながら陽子と綾が答えた。

 

「んじゃまぁ、もう大分時間過ぎてるし、そろそろショッピングモールに…」

 

 俺はもう出発しようと提案したが。

 

「峻君はどうですか?」

 

 チクショウ、逃げられなかった。

 

「いや、あの…俺そういうファッションとかよくわかんないから…」

 

「いえ、そういうのは気にしなくていいです。峻君から見て私の格好がいいかどうか仰ってください。男の人の意見も聞きたいんです」

 

 どうしよう。

 

 ハッキリ言って、似合ってるかっつーとあんまりそーでもない気がする。でも、似合ってないって言うと、しのが不貞腐れるかもしれない。でも嘘はつきたくない。

 

 綾と陽子に助けを求め顔を向けたが、二人共に顔を逸らされた。くそぅ。

 

 俺は意を決して回答することにした。

 

「…………に、……にあ…」

 

「にあ?」

 

「に………………似合うわん!!」

 

「似合うわん!!?」

 

「犬か!!」

 

 俺の不可思議な日本語にしの達は困惑した。

 

 切羽詰まりすぎて「似合う」と「似合わん」がごっちゃになってしまった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 そんなこんなあったが、俺達5人はようやくショッピングモールに着いた。

 

 ゲームセンターに着くと、UFOキャッチャーで熊の顔のぬいぐるみを男性が取っているのを、アリスがじっと見ていた。

 

「アリス、あれ欲しいのか?」

 

「え!いや、べ、別に…」

 

「意地張んなって。よーし、アリスの留学記念もかねて、ここはいっちょ俺が人肌脱いでやるとすっか!」

 

 そう言って俺はクレーンゲームに100円を投入した。

 

 アームの位置を調整し、ぬいぐるみを掴む。が、上に持ち上げる途中でぬいぐるみが落っこちた。

 

 俺は再び100円を入れて再チャレンジ。が、失敗。更に100円を入れたがまた失敗。500円で6回できるコースにチャレンジ。…するも6回全て失敗。

 

 小銭が無くなったので千円札を両替し、それで6回コースを2回し、2回とも失敗。更に千円札を二枚両替して6回コースを4回やり、4回とも失敗。更に俺は…。

 

「もういい!シュン!もういいよ!!気持ちは嬉しかったから!!」

 

「止めるなアリス!!ここで取れなきゃ男が廃る!つーか、ここでやめたらなんか負けた感じがする!!」

 

「もう3800円も擦っちゃってる時点であんたの負けよ!やめなさい!!」

 

「大丈夫だ!残りの1000円で取れる気がするんだ!」

 

「それ、完全にダメなやつ!!」

 

「峻君!お金は大事にして下さーい!!」

 

 俺は半自暴自棄になって全財産突っ込もうとしたが、アリス達全員に止められた。

 

 

 その様子をさっきぬいぐるみを取った男性が見てて、自分のぬいぐるみをアリスに譲ってくれた。クレーンゲームをするのが好きなだけで、景品は別にいいとのことだった。

 綾は譲ってくれた男性に申し訳なさそうに何度もお辞儀をしていた。

 

 俺はというと、白熱しすぎたせいか目から汗を沢山流してしまっていた。

 

「…シュン、泣いてる?」

 

「違う」(T^T)

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 ゲームセンターを後にした俺達は、その後は文房具屋に寄ったり、洋服の生地売り場でしのが色々な種類の生地に興味津々だったり、ペットショップで子犬とかを見たりした。

 

 お昼になって、その辺のファミレスで昼食を食べていた時の事。

 

「あっ!」

 

 陽子が突然叫んだ。

 

「どうしたの?」

 

「財布に200円しか入ってなかった~。どーしよー」

 

「食べた後に!」

 

「しょうがねぇなあ、ここは俺が」

 

「貴方今、人に貸せるお金ないでしょ」

 

「…………」

 

「無言で泣かないでちょうだい」

 

「だから違うって、これは汗だ」(T_T)

 

「では、私貸しましょうか?」

 

 俺が心の汗を拭っていると、しのが申し出た。

 

「ありがとー。明日絶対返すから」

 

 手を合わせて陽子がしのに感謝する。

 

「はい、どうぞ」

 

 しのは陽子にお(さつ)を一枚手渡した。

 

 ……明らかに日本円じゃないものを。

 

「って!どこの国のお金だよ!?」

 

「せっかく外国人の格好をしていますので、持ち物も外国の物で固めてみました!」

 

 陽子の困惑したツッコミに得意気に話すしの。

 

「ちょっと待って!まさかしの、今そんなお金しか持ってないとかじゃないわよね!?」

 

 綾が顔を青くして頭を抱えて叫んだ。

 

 結局、綾とアリスが陽子としのの分も払う事になった。

 

 …俺、この組唯一の男なのに肝心な時に役に立ってねえな…。おっと、心の汗が…。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 昼食を済ませて、俺達は適当にブラブラしていた。

 

「あら、外国の方がいるわ」

 

「旅行かな?」

 

 綾とアリスの言う方向を見ると、男女の二人組の外国人がいた。

 

「何か困ってるみたい…」

 

 しのの言う通り、ガイドブックの様なものを持って困惑している様子だった。恐らく何処かの場所がわからないのだろう。

 

「私、行ってきます!」

 

「え」

 

「え?ちょっとしの!」

 

 しのが脇目も振らず外国人二人の所へ向かって行った。

 

「大丈夫かしら、しの…」

 

「正直不安だが、イギリスのホームステイをほぼ、「ハロー」で乗り切った奴だから、案外どうにかなるかも…」

 

 そう言って俺達はしのの様子を見ていたが…。

 

「アリス~~!」

 

「やっぱ駄目か」

 

 ものの数秒でアリスに助けを求めた。

 

「何で行ったんだ、あいつ…」

 

 とりあえずアリスのお陰で、外国人二人を助ける事は出来た。もしドイツ人とかだったら詰んでたぞ。

 

 

 と、そんなこんながありはしたが、俺達のショッピングの一日は何事もなく無事に終わった。精々、俺の所持金が殆ど消えたぐらい。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 しの達と出掛けた次の日の月曜日。学校の教室で俺と綾と陽子で話していた時のこと。

 

「昨日のことについてなんだけど」

 

「どうした陽子。薮からぼた餅に」

 

「何その間抜けな光景が浮かぶミックス慣用句。『藪から棒』ね。あと、『棚からぼた餅』」

 

「おー、今日は綾ペディア、調子良いな」

 

「調子悪い時あって悪かったわね!!ていうか、綾ペディアってなによ!!」

 

「話、戻していい?」

 

 流石にもう話が進まなくなるので、悪ふざけはこの辺にして陽子の話を聞く事にした。

 

 

「で、昨日の何がどうしたんだ」

 

「しのの外国好きがマニアの域に達している。あれは本物だ!」

 

「あー、確かに以前より悪化…いや、レベルアップしてるな」

 

「昔からホームステイする位、好きだったものね」

 

「アリスが来てから更にって感じだな」

 

「アリスに影響されたのよ、きっと」

 

「いや、それはちょっと怪しいぞ」

 

 俺は陽子と綾の発言に待ったをかけた。

 

「どうしてよ?」

 

「アリスの奴、あんまり外国人っぽい事案外してねえぞ。寧ろ、日本人より日本人っぽい事しているまである。前にちょっとしのの家にお邪魔してあいつの生活見てみたんだが、半纏着て新聞取りに行くわ、朝食は納豆に味噌汁の定食食うわ、挙句の果てに…、ちょっとこの写真見てくれ」

 

 俺は先週の土曜、親が仕事で夜中まで帰ってこない日に大宮家のご厚意でその日は晩飯までお世話になった時の日に撮った、しのとアリスが一緒のしのの部屋の写真を二人に見せた。

 

 そこには一つの部屋に、半分は洋風の家具で固め、洋風のベッドの上に座っているしのと、もう半分は桐ダンスやら家具が和風で固め、布団を敷いてその上に正座しているアリスが写っていた。

 

「えーと、これは逆じゃなくて?」

 

「俺もそう言ったのだが、本人達は至って真面目に「これでいい!」って言ってた」

 

「そ、そう…。あら?もう一枚のこの写真は?」

 

「あー、それは朝食の時」

 

「……ねぇ、峻。アリスが定食食べてるのに対して、この…しのが食べてるのって…」

 

「トーストにジャムだな」

 

「あいつら本当は仲悪いのか!?」

 

 綾は困惑し、陽子は我慢できんとばかりに叫んだ。

 

 俺だって最初はそんな感想抱いた。でも不思議な事に仲は良いっぽい。

 

 

「でもまあ、これだけしのが外国に徹底してると、そのうち英語も喋れるようになるかもなー」

 

 陽子のその一言で、俺達はしのの方を見た。今あいつは自分の机で新聞を読んでいる様子だった。

 

 ん?ちょっと待て。あいつの持ってる新聞、どこかおかしい様な…。

 

「って、英字新聞!?」

 

「何処で買った、そんなもん!!」

 

 しのはその英字新聞を「ふんふん」と頷きながら見ていた。ぼーーっとした顔で。

 

「でも、あの顔は絶対理解していない!!」

 

 

 

「シノはヨーロッパが好きなの?」

 

 しのの隣の席にいたアリスがしのに話しかけた。

 

「ヨーロッパ?…外国なら結構どこでもスキですけどー♡…でも強いて言うなら、イギリスとかフランスとか…」

 

「だからヨーロッパでしょ?」

 

「え?」

 

 アリスの問いにしのは答え、そのしのの答えに指摘する綾。その指摘で頭に?マークを浮かべ、しのは困惑している。

 

「あのなぁしの。ヨーロッパってのは、イギリスやフランスなんかの国がある大陸を総じてヨーロッパと言って…って、おーいしの!?」

 

「???」

 

 俺は丁寧に説明したつもりだったのだが、しのは目を回して、頭から煙を吹き出していた。

 マジでこいつこの先大丈夫か。

 

 数秒ほどで、しのはなんとか意識を取り戻した。

 

「うぅっ。何かよく分からなくなってきました…。ちょっと紙に書いてみます!」

 

 そう言ってしのは、ノートとペンを取り出し、そこに大きく丸を書いた。

 

「私達の住む星は地球!」

 

「そこから!?」

 

 宇宙とか言い出さなかっただけマシと俺は思った。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 放課後、大体の生徒が帰宅したか部活に行ったかぐらいの時間帯。

 

「ん?何してんだ。帰んねえの?」

 

 トイレから教室に戻って来た俺はしの達が何かをしてる事に気づいた。

 

「あ、峻君。綾ちゃんと一緒に、アリスの髪をといてたんですよ」

 

「ほう」

 

 そのアリスは椅子に座りながら寝てた。夕日に照らされた金髪はキラキラしていて、しのじゃないが思わず見惚れてしまった。

 

「私、卒業したら、髪染めようかなって思ってるんですー」

 

 突然しのがそう発言した。

 

 卒業後な理由は、校則違反になるからだろう。因みに、陽子の髪は赤毛だが地毛である。何回か学校側に疑いをかけられた事もあった。本人は全く気にしてなかったが。

 

「へー。どんな色?」

 

 しのの黒髪好きだから、ちょっともったいない気がするがなぁ。茶色だろうか。それとも濃いめの寒色系?

 

「金色です!」

 

 ……………………………………。

 

「……紺色?」

 

「"金"色です!!」Σ(・口・:)

 

 聞き間違いじゃなかった。

 綾と陽子も困惑していた。

 

「えっと…、金はちょっと」‪

 

「金っていうか、金に近い茶です」

 

 しのの言い分に俺と陽子は「変わらねーよ!」と心の中でツッコんだ。

 

「でも、案外似合うかも!」(゚▽゚;)

 

 綾がめっちゃ泳いだ目でとんでもない事を言った。

 

「(綾!!絶対思ってないだろ!)」

 

「(何してんだてめえ!気遣いだけがやさしさじゃあねえぞ!時には本音も必要なんだよ!)」

 

「(そう思うんならあんたが言いなさいよ!!)」

 

「(できるわけねーだろ!)」

 

 俺達3人はしのに聞こえないように離れて少し小声で喋った。

 

 

 俺達が返答に困っていると、アリスが起きた。

 

「う、う〜ん…。シノ、金髪にするの?」

 

 どうやら途中から意識が少し戻っていて、会話を聞いていたらしい。

 

「はい!アリスとおそろいですねっ」

 

 嬉しげに話すしのにアリスは、

 

「似合わないよー!!」

 

 なんの抵抗も無くばっさり否定した。

 

「言った!!」

 

「はっきり!!」

 

「さすが外国人!!」

 

 目の前の人間には遠慮がちになってしまう日本人には出来ないことをやってのける!

 

「!!」Σ( ºΔº〣)

 

 アリスのはっきりした意見にしのはあからさまにガッカリした。そして窓に寄りかかり黄昏始めた。

 

「…やっぱり金髪は変なんですね…」(_ _〣)

 

「シ、シノ!ごめんね。私はシノは黒い髪の方がいいって思っただけで、そんなつもりじゃ…」

 

 はっきり『似合わない』っつってたがな。

 

「でも、私が金色にすると、似合わなすぎてモザイクがかかっちゃうかも」

 

「えっ?」

 

「ちょっと待て。確かにアレどういう意味だかさっぱり分からんかったが、そんなしょーもない意味合いで出来てたのか!?」

 

「何の話!?」

 

 俺としのの少々危ういラインの話にアリスは困惑していた。

 

「まあまあ。似合う似合わないは人それぞれよ」

 

 綾が何かを誤魔化s…ゲフンゲフン、話を戻して場を宥めた。

 

「そ、そうだよっ!シノ、昨日の服はすっごい似合ってたよー!」

 

「(えっ…)」

 

「(そうか…?)」

 

 アリスの言葉に綾と陽子は言葉が詰まった。

 

「シュンだって、犬語で似合うって言ってたし!」

 

「ソウデスネ」

 

 俺は目を明後日の方向に向け、そういう事にした。

 

「わーっ。ほっ、ほんとですか〜?」

 

「うん!あんなに可愛く着こなせるのは、シノ以外いないよ!!」

 

 アリスはうっとりしながらそう言った。そのアリスの言葉にしのの機嫌が少し治った。

 

「あの服には金髪が似合うと思うんですよ〜。だから金髪に…」

 

「NO金髪」( ͡ ᗜ ͡ )

 

 しのの提案をアリスは腕でバッテンを作り、有無を言わせないスピードで切り捨てた。

 

 あの格好はいいのに、金髪はどうしても駄目なのか。アリスの基準がわからん。

 

 

 

 しのの金髪化計画をなんとか阻止した俺達は下校する事にした。

 

「それにしてもやっぱあれだな。外国の人ってはっきりしてるってよく聞くが、あれホントなんだな」

 

「確かによくそう言われるけど、私だっていつもはっきり言えるわけじゃないよ?」

 

「そうなのか?」

 

「うん。現に今だって、私シュンに言えない事あるもん」

 

「ん?なんだよ、言ってみろよ。もう一ヶ月近く一緒の仲だ。無理にとは言わんが」

 

「……実はね…」

 

 あのアリスが言い淀むとは、よっぽど言いづらい事なのだろうか…。

 

「シュンがトイレから戻ってきた時から、…ズボンのチャックが開いてる」

 

「あ、私もさっきからそれが気になってたんだけどなかなか言い出せなくて。ありがとうアリス」

 

「そういう事はこっそりでもいいから早く言ってくれ!!綾!お前も気づいてたんなら言えや!!」

 

 俺は慌ててチャックを上げ閉めた。

 

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

「アリス、もえー!」

 

「えぇー」

 

「もしもし警察ですか。変態がいます」

 

 陽子(変態)がいきなりアリス(幼女)に抱きついた光景が見えたので、俺は通報するべく携帯を耳に当てた。

 

「誰が変態だ!!」

 

「いや、いきなり幼女に抱きつく光景が見えたもんで」

 

「私は幼女じゃないよ!!…それより、もえーって何?」

 

「さあ。なんだろう」

 

「おい」

 

「可愛すぎて燃えるって意味だと思ってた」

 

「バカねぇ、字が違うわよ」

 

 綾は陽子の間違いを指摘し、『萌』の字を黒板に書こうとした。

 

「あれっ、何か違う」

 

 綾は『(くさかんむり)』に『胡』の左右逆みたいな字を書いてしまっていた。

 

 改めて『萌』の字を書こうとした。

 

 しかし、今度は『サ』に『非』。また次に、『サ』に『朋』と書いてしまう。

 

「見れば見るほど分からなくなる!」

 

 このままだとゲシュタルト崩壊を起こしてしまうので、俺が書く事にした。

 

 俺はきちんと『萌』の字を書く事ができた。

 

「こうだ」

 

「やっぱり男子だから、こういう字はスラスラと書けるのね」

 

「誤解を招くことを言うな!!」

 

 綾に理不尽な偏見を持たれていると、しのが『萌』の字の前に立った。

 

「これは当て字なんですよー」

 

「そうなの?」Σ(・Д・)

 

「元は『ピューン』みたいな効果音が起源です」

 

「って言ってるがどうなんだ?綾」

 

「いや、あからさまに嘘でしょ」

 

 しのは解説(ホラばなし)を続ける。

 

「可愛いものを見た時の効果音『もへ〜っ』がこれです」

 

「なるほどー。もへ〜が変化してもえになったのか」

 

 陽子は完全に信じちまっている。

 

「誰が考えたんだ?」

 

「私ですー」

 

「まじで!?しのスゲー!」

 

「その時点でウソだと気づけ阿呆」

 

「なんだと峻!誰がアホウだ!!」

 

「因みに、『阿呆』も頭の悪い奴が理解できない文章を聞いた時の『あ、ほう。』と思わず言ったのが起源だ」

 

「そうだったのか!!」

 

 ※ウソです。

 

「信じちゃダメよアリス」

 

「はぁ…」

 

 ~See You, next time!~




原作沿いの二次小説は、原作の話にただオリジナルキャラがいるだけって事にならないように、オリ主の「いる意味」をちゃんと持たせるように心がけるようにしています。まあそうすると原作キャラのキャラ崩壊が多少激しくなりますが(特に綾)


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第4話~○○になりたい~

今回でアニメ第2話の分は終わりです。

アニメでカットされた原作のネタも、少々入っていたりします。


 アリスが来てから、もう一ヶ月以上経つ五月某日のある日。

 

「進路希望の紙、明日までですよぉ〜」

 

 HR(ホームルーム)で、担任の烏丸先生が生徒全員にそう呼びかけた。そう、今クラス全員には中高生の必須イベントとも言える、進路希望用紙が渡されていた。

 

 先生の言葉に一部の生徒がボソボソと少し困ったような声をあげていた。まだ決まっていない人達だろう。かくゆう、俺もだが。

 

 するとしのが先生に質問した。

 

「質問です〜。先生はどうして教師になろうと思ったんですか?」

 

「先生は…。そうねぇ、気付いたらなってたわぁ。その場のノリ?」

 

「「「「「参考にならない!!」」」」」

 

 しの以外の生徒全員がツッコんだ。

 

「でも学生時代が一番楽しいわよ。学生で大変なことと言えば、睡魔との戦いくらいだものね…」

 

 そう言った烏丸先生は最後の方は目をショボーとしながらそう言った。

 

「あの、今も眠そうなんですけど!!」Σ( ´ロ`lil)

 

「先生、こっち見てくださーい」( >∀<)ノシ

 

「あ、はいー…」(⊃ωー`)

 

 

 

 HRが終わった休み時間。

 

「進路なんて考えたこともないよ…」

 

 アリスが進路希望用紙を見て、うーんと唸りながら悩んでいた。

 

「そんなに悩まなくても大丈夫ですよ」

 

 しのがアリスに話しかける。

 

「自分がどうなりたいか、考えればいいんです」

 

「はっ。(シノすごい)」

 

 しのの言葉にアリスは感心していた。

 

「はっきりとは決まってないけど、人の役に立てるような人間になりたいな」

 

「ほう、立派だな」

 

 アリスの言葉に俺は素直に感心の言葉を述べた。

 

「そんなことないよ、曖昧だし」

 

「なるほど。つまりこういうことですね…」

 

 しのはアリスの進路希望用紙の第一志望の枠に、『人間。』と書いた。

 

「大事な部分が抜けてるよ!!」Σ( ̄口 ̄〣)

 

「アリスは妖怪人間だったのか」

 

「混じり気なしの人間だよ!!」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「ヨーコは決まってるの?」

 

 アリスは陽子に、進路について聞いた。

 

「んー、そうだなあ。アイドルになって武道館でライブかな」

 

 陽子は冗談のつもりで言ったんだろうけど、その発言にアリスは感心するように目を輝かせていた。

 

「ヨーコならきっと叶うよっ!わたしも応援するからね!」

 

 興奮しながらアリスはそう言ったが。

 

「え?嘘だよー。ジャパニーズジョーク!そこは「無理やー」ってツっこむところ!あははは!」

 

 陽子の言葉にアリスは落胆した。

 

「でも陽子がアイドルって、俺は案外ぴったりだと思うがなあ」

 

「え!そう?」(〃' ᗜ '〃)

 

 俺の発言に陽子は少々照れた。

 

「バラエティで芸人達とコントやったり、クイズ番組でトレンドになる珍回答連発しそう」

 

「それ完全にネタ枠じゃねーか!!」ヽ(`Д´#)ノ

 

 続く俺の発言に陽子はキレた。

 

「もう、駄目ですよ峻君。陽子ちゃんも本当は女の子なんですから」

 

「しの、そのフォローの仕方なんかおかしくね?」

 

「あっ!」

 

 陽子がしのの発言に疑問を持ってる最中、アリスがしのの進路希望用紙を見て何かに気づいた。

 

「シノもう書いてるよ!」

 

「はい。私、小さい頃からの夢があるので…」

 

「何て書いたんだ?」

 

 俺がそう聞くと、しのは嬉々として進路希望用紙を見せながら、

 

「通訳者です!」

 

 と言った。

 

「………ああ…、宇宙人の?」

 

 ああ、納得。

 

「違いますよ!?」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp。はいしの、どーぞ?」

 

「だから違いますって!?」

 

「つーかそれ、宇宙語でもなくね?」

 

「外国人の通訳者ですよ!」

 

「つってもお前、英語の成績良くないだろ。まあ、英語に限らずだが…」

 

「最近は、アリスに英語習ってるんです。心配ご無用ですよっ」

 

「ほーう」

 

「それじゃ、アリスの英語通訳してみて!」

 

「いいですよー」

 

 陽子の提案でアリスは英語を喋りだした。

 

 当たり前だろうけど、やはりアリスの英語はちょっと英語が喋れる日本人とはレベルが違っていた。

 その横でしのはと言うと、「えーと、「私は…」、あの…」等とあまり翻訳できてない、というかほとんど理解できていない。

 

 するとしのは突然アリスの口を塞いだ。

 

「訳す前にどんどん喋らないで下さい!!」

 

「えぇーっ!」( ̄口 ̄;)

 

「そういう問題でもない気がする」

 

 

 

「今度は一語づつ話すね」

 

「いちご?私、苺は好きですよ」

 

 そう言いながら自分の席に戻っていくアリスとしのを見て俺達三人は「先は遠いな」と思った。

 

「で、綾お前はどうだ?進路希望の紙」

 

「綾は「お嫁さん♡」とか書きそうだな」

 

「かっ、書かないわよ」

 

 そう言って綾は進路希望用紙の第一志望の部分に書いてあった所を消しゴムで消した。

 

 ホントに書いてたのか…。

 

「消してるじゃん」

 

「消すわよ消しゴムだものっ!誤字を消す為の道具だもの!!」

 

 綾は誤魔化すように消しゴムを出してそう言ったが、その後机を叩いてこう叫んだ。

 

「もうっ、だったら何て書けばいいの!?」

 

「開き直った!!」

 

「とりあえず一旦落ち着け!」

 

 その後、綾はふぅ…と落ち着いた。

 

「理想のプロポーズとかなら悩まずに書けそうなのに」

 

「突然どうした」

 

「乙女モード全開になってるな」

 

 こういう時の綾は絡みづらい、というかメンドくさい。

 

「ねえ、峻ならどんなプロポーズが良いと思う?」

 

「そこでいきなり俺にふってくんのかよ」

 

 まあ、とりあえず付き合ってやろう。

 

「えーと…「俺の人生半分やるから、お前の人生半分俺にくれ!!」とか」

 

「私は男らしく、ストレートがいいと思うのよ」

 

「遠回しに却下しやがったな!?エド○ード・エルリックの作中屈指の名台詞を蔑ろにするな!!」

 

「エ○が言うのは良いけど、あんたが言うと胡散臭いわ」

 

「どういう意味じゃ!!」

 

「じゃあ、あんたは特定の誰かさんに告白する時そう言うってことでいいのね?」

 

「…………」

 

 コノヤロウ。

 

 つーか、あいつにこう言った時点で絶対理解できないと思う。

 

「なんの話?」

 

 意味が分かってない陽子が会話に入ってきた。

 

「なんでもないわ。それより、陽子は何か思いついた?」

 

「えー?うーん…、あ。例えば」

 

 陽子は最初綾に振られて面倒くさそうにしてたが、何かを思いついた後、綾の顎に手を添えて…。

 

「『俺の嫁になれ!』とか?」

 

 めちゃくちゃ決まった顔をしながらイケボで綾にそう言った。

 

 その発言と行動に綾は一瞬で顔を真っ赤にさせた。

 

「な!?や、やめてよバカッ!!」

 

「痛ぇ!」

 

 綾は照れ隠しに、陽子の肩を何回も叩いていた。

 

 …俺もあいつみたいに男らしくした方がいいのかなぁ。

 

 俺はちょっとシミュレーションをしてみる事にした。

 

 

 ~妄想~

 

「し、しの!お、おおおおお俺の……………よ………よ……………」

 

 ~強制終了~

 

 

 駄目だ!すげぇ恥ずかしい!!

 

「いててて…。ん?峻どうした?」

 

「陽子、俺ぁお前みたいに恥を捨てる勇気が不足していたみたいだ」

 

「私を恥知らずみたいに言うな!!」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「で、あんたは?」

 

「は?なにが」

 

「進路よ!散々人に色々言っといて、自分は何かないわけ!?」

 

「ああ、それね。んー…俺はアリスとも違って、明確に何がやりたいかーとか決まってないんだよねー。それに俺は先の事より今目の前の問題の方が先に考えなきゃならなくて…」

 

「目の前の問題って?」

 

 アリスが聞いてきた。

 

「フッ…。俺が所持する決められた与えられし鉱物が今、俺の収納ボックスから底を尽きつつ…」

 

「ああ、財布にお金が無いのね。」

 

「あっさり要約すんな!!」

 

「綾は峻の通訳が上手いな」

 

 かっこつけて言った文章を綾にあっさり解読された。

 

 するとアリスが申し訳なさそうにした。

 

「そ、それってもしかしてこの間のクレーンゲームでお金無くなっちゃったから!?だったらわたしお金返すよ!」

 

「いやいやいや、あれは俺が勝手にやっただけだから、返すも何も無いって!」

 

「でも、あれってわたしに取ってあげようとしてやったんだよね?」

 

「そうだけど、それとこれとは話は別だ。俺はお前が喜ぶといいなと思ってやってた事なんだから、まあ取れなかったけどさ」

 

「……なんでそこまでしてくれたの?」

 

「え?いやなんでって、俺達その、あの、もう…友達じゃん?だから、何かしてやりたかったっつーか…」

 

「!……シュン…」

 

「…………友達だよな?俺だけ?そう思ってんの」

 

 最初の頃ちょっと警戒されてたし、ちょっと不安に思えてきた。

 

「ううん!シュンはわたしの友達だよ!!」

 

 アリスにそう言われ、俺はホッと安堵した。

 

「シュン、言いそびれちゃってたけど、わたしの為に取ってくれようとしてくれて、ありがとう!」

 

 アリスは満面の笑みでそう言った。

 

「…そう言ってくれるだけでもやったかいがあったと思うよ」

 

 俺的にはもう仲良くしてるつもりではあったが、今改めてちゃんとアリスと友達になれた気がする。

 

「不器用だけど、なんだかんだで峻は優しいからなー」

 

「こういう所をもっと別の所でも生かせればいいのに」

 

「うっせえな!」

 

 そこの二人、やかましいぞ!!

 

「シノ、シュンって昔からこうなの?」

 

「はい。話し方はちょっとぶっきらぼうにはなりましたけど、本当は優しくて友達思いな所は昔からおんなじなんですよ」

 

「やめてくれなんかすんごい恥ずかしいから」

 

 しのにそう言ってもらえるのは嬉しいけどさ!

 

「そうだ!じゃあそういう仕事はどうかな!」

 

「うん?」

 

「シュンは優しいから、その気持ちを生かせる仕事が良いと思うよ!」

 

「あ、だったら保育士さんとかどうかしら?峻は中身が子供だから、子供達と難なく接せると思うわ」

 

「綾、お前今日俺にあたり強くね!?」

 

「失礼ね。いつもこんなもんよ」

 

「それはそれでどうなんだ!!」

 

 俺そろそろ泣いていいかな!?

 

「シノ、ヨーコ、アヤとシュンは仲悪いの?」

 

「いえ、そんな事はないです」

 

「あの二人はあれでいいんだよ」ꉂꉂ(˃ᗜ˂*)

 

 

 

「で?結局お小遣いの問題はどうするのよ?あんた確か、ショッピングの少し前に貰ったばかりだったって言ってたじゃない」

 

「それなんだけど、母さんに来月分の小遣い前借りして、それからバイトでもしてみようかな〜って思ってんだよね。短期間でもいいから」

 

「へ〜。何のバイトするの?」

 

「母さんの行きつけのお店で最近バイトの募集を始めたらしいって母さんに聞いたから、そこにしようかと思ってる。実は今日の下校後、そこの店に面談というか、顔合わせに行くんだよね」

 

「そうなのか。あ!それじゃあ…!」

 

「絶対来んな」

 

「先を読まれた!?」

 

「陽子の言い出しそうな事なんてすぐに分かるわ」

 

「確かに、単純で分かりやすいわ」

 

「お前ら私にもあたり強くない!?」

 

 こいつらに俺のバイト先知られたら絶対弄ってくるからな。絶対教えない。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 ~アリスSide~

 

 お昼時間。

 

「たまご焼きー♡」

 

 わたしがそう呟きながら嬉しそうにたまご焼きを食べていると、

 

「きたきつね」

 

 とシノが言った。

 

「ねりわさび」

 

 続いてアヤがこう言い、

 

「えーと、び…び…ビリヤード」

 

 ヨーコも続く。

 

「ど…、ドンジャラ。はいアリス、ら」

 

「え…!?ら…ら…」

 

 そしてシュンまで来て一周して、わたしにきた。

 

 何故いきなりしりとりに!

 

 どうしようでてこない!

 

 それから15分経過。意外としりとりが白熱してまだ続いていた。

 

 どうしよう、このままじゃお昼ご飯食べてる時間なくなっちゃうよ〜。

 

 わたしがそう思っていた時。

 

「み、み、みかん!…あっ!!」

 

「陽子ちゃん、「ん」が付きましたね〜」

 

「あちゃ〜」

 

 良かった〜これでしりとりは終了だね。

 

 わたしがそう思ってた時、シュンが。

 

「ンガウンデレ(※カメルーン中北部の都市)」

 

 続行!!? Σ( ̄ロ ̄〣)

 

 ~アリスSide、OFF~

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 お昼休憩のとある時間。

 

「ん?」

 

 俺は廊下を歩いていると、窓際でアリスが頬杖をついているのを見つけた。

 

「おーいアリスー」

 

 俺は声をかけてみたのだが、アリスは返事をしない。

 

「?おーいアリスー。何ぼーっとしてんだー?」

 

 俺はアリスの近くに行き、横から見てみた。

 

 すると、なんとアリスは!!…………眠そうにしていた。

 

「…………」

 

 俺はアリスのほっぺを引っ張ってみた。おお、なかなかやらかい。

 

「いひゃいいひゃい!もう、何するのシュン!」

 

「いくら背が低くても、こんな所で寝たら危ないぞ」

 

「背が低いは余計だよ!!でも心配してくれてありがとう!!」

 

 怒られながら感謝された。他のメンバーだとあんまりないタイプのツッコミ方だ。

 

「進路の事考えてたら、ちょっと眠くなっちゃって」

 

「まあ、ここで必ず先の人生決めるって訳でもないし、きままに考えるといいよ」

 

「うん、そうだね。ありがとうシュン」

 

 ん?今遠くから何か視線を感じた様な…?

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 アリスが次の授業に備えて予習していた時。

 

「あっ…」

 

 アリスが消しゴムを落とした次の瞬間。

 

「消しゴムがっ!私が拾うよ!」

 

 陽子が大袈裟に消しゴムを拾いに行った。

 

 

 

 五時限目の古文の授業中。

 

 アリスが古文を朗読してる時。

 

「春は…あげぽよ…」

 

 いくら日本語が上手くても、古文は難しいか。

 

 そう思っていた次の瞬間。

 

「その問題はアリスには難しすぎます!私に答えさせて下さい!!」

 

 綾が勢い良く立ち、名乗り出た。

 

 助けるのはいいが、ちょっと大袈裟じゃね?

 

 

 

 古文の授業が終わった休憩時間。

 

 アリスは何やらぼーっとしていた。進路の事でも考えているのだろうか。

 

 さっきはああ言ったが提出は明日までだから、まあ悩むよな。

 

 するとしのがアリスに顔を近づけた。

 

「アリス!イギリスが恋しくなったらいつでも言って下さいね!」

 

「え?」

 

「私の秘蔵の英国民謡全集を貸してあげます!」

 

 英字新聞の時といい、学校に何持って来てんだあいつは。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 今日の授業が全部終わった放課後。

 

「日誌持っていくぞアリスー」

 

 実は今日の日直は、俺とアリスだった。

 

「あ、ゴメン。ちょっと先に行ってて」

 

 見るとアリスは荷物を片付けてる様子だった。

 

「分かった。急がなくてもいいからなー」

 

 俺は先に職員室に向かった。

 

 

 

 職員室まで後、数十メートルまで来た頃。

 

 何やら後ろからぜえぜえと声が聞こえてきた。

 

「ん?アリス?」

 

 振り向くとそこには疲れた様子のアリスがいた。

 

「どうした?急がなくてもいいっつったのに」

 

「シ…、シノ達に、追っかけられて…」

 

「は?」

 

「なんか…、シノ達の様子が、おかしい…」

 

「うん、それは俺も思ってた」

 

 なんつーか、いつも以上に過保護すぎている。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 俺達は職員室に入った。

 

「先生、日誌をどうぞ」

 

 俺は烏丸先生に日誌を渡した。

 

「鹿ヶ谷君、アリスさん、ありがとう。あ、そうだ!アリスさんは猫だと思う?うさぎだと思う?」

 

「え?う…うさぎ?」

 

 烏丸先生の突然の訳の分からない質問にアリスは意味も分からずとりあえず答えた。

 

「やっぱりうさぎよねぇ」

 

 そう言って烏丸先生は、アリスの頭にうさ耳のカチューシャを取り付けた。

 

「…………シュン、なにこれ」

 

「俺も分からん」

 

 先生が学校に何持って来てんだ。まだしのの英国民謡全集の方がマシだと思ってしまう。

 

 

「アリスさん、日本の学校にも慣れたみたいでよかったわぁ。お友達もたくさん出来て」

 

「トモダチ!」

 

 アリスは烏丸先生に言われた事に少しばかり疑うように言って固まった。恐らく、最近の自分の扱いに自分は友達として接してくれてるのか疑問に感じているのだろう。

 

「違うの?」(´・ω・`;)

 

 そんなアリスの様子に烏丸先生は困惑していた。

 

「おーいアリス。気持ちは分かるが、お前はしの達とはちゃんと友達だよ。たまにマスコットや小動物みたいに扱ってる風に見える事もあるが、そういうのもひっくるめてだって」

 

「……シュンも?」

 

「いや、俺はむしろ今日までお前に友達かどうか思われてるかも疑問だったし。お前がそう思ってくれてるのなら俺だってそうだよ」

 

「…………そっか、そうだね!」

 

 俺の言葉にアリスは嬉しそうに笑った。

 

 ……因みに俺はたまにアリスを妹みたいに接している時があることは秘密だ。

 

「ふふふ…。仲が良くていいわねぇ」

 

 俺達の様子を烏丸先生は微笑ましそうに見ていた。

 ……猫耳のカチューシャを持って。

 

「貴方も自重して下さい」

 

「あ、着ける?」

 

「断固拒否します。」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 職員室からの帰り。

 

「あ!やっべー、そろそろ顔合わせの時間になる」

 

 今から店に向かわねーと間に合わないかも。

 

「アリス、わりーけど俺このまま帰る……アリス?」

 

「……みんなはわたしのことどう思ってるんだろー」

 

 アリスは不意にそう呟いた。

 

「…そんなに気になるなら、直接聞いてみたらどうだ。心配する事ねえと思うけど」

 

「………うん、わかった。思い切って聞いてみる!」

 

「そっか。んじゃま、頑張れよー」

 

 俺はそう言って校舎を出て、面談に向かって行った。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 面談という顔合わせを終えた俺は帰路についていた。

 

 結果はまあ合格と言ったところである。来週辺りから、バイトを始めるつもりだ。

 

「ん?あれって…」

 

 暫く歩いていると、道端でしのとアリスが突っ立っているのが見えた。

 

「おーい、しの、アリスー」

 

「あ、峻君」

 

「お前らまだこんな所にいたのか?」

 

「スカウト待ちをしてました!」

 

「は?」

 

 どうやらここでモデルのスカウトが来るかもと20分も突っ立ってたとか。そういやしののお姉さんの勇さんはファッションモデルをやってるんだが、スカウトされたのってこの辺って聞いたな。

 

「なんだお前ら、モデルになりたいのか?」

 

「なりたいというか、憧れてますね」

 

 まあモデルはともかく、スカウトって誰でも憧れるかもな。

 

「で、アリス。どうだった?」

 

「うう、中々声掛けられないよ…」

 

「あ。いや、そっちでなくて」

 

「え?………あ!うん!みんな、大事な友達って言ってくれたよ!うさぎやハムスターよりも!」

 

「そうか」

 

 うさぎとハムスターのくだりがよく分からんが、満面の笑みでそう言うアリスに俺は満足した。

 

「よかったです。アリスのホームシックが治って」

 

「なんのこっちゃ」

 

 その後、夕飯の買い出しに行ってたらしい陽子と綾とも合流した。

 

「そういえば、私にはもう一つ夢があったんですよ?」

 

 歩いてる途中しのが突然そう言った。

 

「大人になったらもう一度イギリスに行って、アリスに会いたいと思ってたんです。でもアリスが会いに来てくれたので夢が叶っちゃいました」

 

「シノ…!」

 

 しのの言葉にアリスは嬉しそうにした。

 

「おっ、飛行機雲」

 

 ふと見上げると、夕焼けの空に飛行機が飛んでいるのを見かけた。

 

「あの飛行機、イギリス行きかなー」

 

 そう言うアリスとしのはその飛行機を見て微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは多分東京行きよ。方向的に」

 

「空気読めよ!」

 

「爽やかな顔しやがって!」

 

 KYツインテールに陽子と俺はツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

「きゃ━━━━━━っ!!」

 

「おおうっ!?なんだ!!?」

 

 突然飛び起きて叫んだアリスに俺はびっくりした。

 

「どうしたアリス。怖い夢でも見たか」

 

 陽子も心配してアリスに話しかける。

 

「しのの顔でも見て落ち着きなよ」

 

 そう言って陽子はしのを連れてきた。まああいつの顔はぼんやりしてるから癒し効果もないことも…、ん?アリスのやつ、なんか余計に怯えてないか?

 

 後から聞いたが、しのが金髪になってしまう夢を見たのだとか。飛び起きる程か…。

 

 ~See you, next time!~




えーという訳で、これで峻とアリスが完全に仲良しになったと思います。

安心するのも束の間、次回からあの子が来ます(笑)


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第5話~カントリーメモリー~

陽子は峻と喋り方似てるから、一番説明をいちいち入れなきゃならないキャラでもあるんですよねー。


「から揚げ定食一つにアイスコーヒー一つですね。少々お待ち下さい」

 

 俺は今、バイトの真っ最中だ。チェーン店ではない個人経営のお店で、『Restaurant Mathubara』と言う名の飲食店だ。

 

「松原さん!から揚げ定食一つに、アイスコーヒー一つ!」

 

「はーい!」

 

 俺の号令に女店主さんの松原さんが呼び応える。

 

「峻君、これ運ぶの手伝ってくれる?」

 

「あ、はい!」

 

 そしてこの店にはもう一人、俺と同い年の子が働いていた。

 

 名前は松原(まつばら)穂乃花(ほのか)。なんと俺と同じ学校で隣のクラスの女子だった。

 何を隠そう、この店はその穂乃花の家でもあったのだ。普段から家の手伝いがてら休日等の日は、この店で働いているらしい。

 

 同じ学校の同級生がいると知った時、俺はやめようかと思っていたが、穂乃花も自分の家がレストランで、自分も働いている事は恥ずかしいからクラスメイトにも内緒にしているらしい。

 

 それなら俺も穂乃花の事は内緒にしとくから、俺がこの店で働いている事も内緒にしてほしいと頼んだ。

 

 こうして、シフトが合う日(主に休みの日)は穂乃花と一緒に働いていた。

 

 因みに穂乃花とはこの店で最初に会った時にほぼ初めてまともに会話をしたぐらいにお互い知らなかった仲なのに名前で呼んでいるのは、『松原さん』だとこの店だとややこしいので、穂乃花自ら「名前でいい」と言ってきて、そういう事ならと名前で呼んでいる。

 

 で、なんで穂乃花が俺を名前で呼ぶのか。こっちが呼ばせてるのに悪いからだとかなんとか。気にしなくてもいいのだが。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 午後の四時。今日のバイトが終了した。

 

 俺は帰る前に休憩室で少し座って休んでいた。

 

 そこに穂乃花がやってきた。

 

「峻君、お疲れ様」

 

「おう穂乃花。お前は休憩か?」

 

「うん。峻君も大分慣れてきたね。まだ二週間なのに凄いよ」

 

「いや、そんなもんじゃねえか?」

 

 この二週間で穂乃花とは、こんな具合のたわいも無い話をする仲にもなった。

 

「そういえば峻君のクラスには、金髪の女の子がいるんだよね」

 

「あー、アリス?」

 

「そう!あんな可愛くて綺麗な金髪を持ってる子とお近付きになれてて、羨ましいな〜」

 

「別にお前も普通にアリスに話しかければいいじゃねえか。違うクラスとか気にしないで」

 

「そそそそそ、そんな!私ごときがアリスちゃんみたいな天使の様な存在に話しかけるなんて、おこがまし過ぎるよ〜!!」

 

「お前の発想の方がおこがましいわ」

 

 なんつーか穂乃花は、想像力豊かな奴だ。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 とある平日。この日の天気は雨だった。

 

 俺や陽子、綾が教室で退屈していると、しのが話しかけてきた。

 

「峻君、峻君」

 

「なんだい、しの君」

 

「なんだか、アリスの元気が無いみたいなんです」

 

「アリスが?」

 

 そう聞き、アリスの方を見てみると、確かにどこか元気が無さそうだった。

 

 手には何か、少し大きめの本を持っていた。

 

「何やらイギリスの写真のアルバムを見ては憂鬱そうにしているんです。写真を撮って欲しいのかと思ったのですが、違ったらしくて」

 

 故郷のアルバムを見て元気がない……。なるほど、しのは分からなかったみたいだがそういう事か。

 

「イギリスのアルバムを見ているわ。これにヒントがあるはずよ。答えは…」

 

 綾も気づいたらしく、答えを挙げようとした。

 

「時差ボケね!」

 

 ドンガラガッシャン!!

 

 俺は盛大にズッコケた。

 

「アリスに今度、時差ボケに効くアロマオイルをプレゼントするわ!」

 

「そうか、俺も今度お前の頭に効くアロマオイル送ってやるよ」

 

「失礼ね、そんな人をボケてるみたいに!」

 

「そう言ったつもりなんだが」

 

 あいつもう、日本に来て随分経つぞ。来たばっかりならともかく、なんで今になって発症するんだよ。

 

 

「フツーに考えてホームシックってやつだろうが」

 

「「「ええっ!?」」」

 

 おれの言葉にしの、綾、陽子の三人は驚愕した。

 

「この間、治ったと思ったのにもう再発を!?」

 

「だから、なんの話だ」

 

 聞くと、前にアリスが窓の外を見て黄昏てる(実際はただ眠かっただけ)のを目撃した三人は、アリスがホームシックになっていたのだと思っていたらしい。なるほど、それであの日は途中からこいつらの様子がおかしかったのか。あ、あん時の謎の視線はこいつらだったのね。

 

「そうだったのですか、アリス!」

 

「うっ」(-_-;)

 

 アリスがホームシックになっている事を知ってしのはアリスに問いかけた。

 

「ちょっと行って帰ってくればいいじゃん。飛行機ならすぐだよ」

 

 落ち込んでるアリスに陽子が楽観的に言った。

 

「お前そんな簡単に言うなよ」

 

「直行便でも、12時間はかかるよ。そもそも色々準備が…。」

 

「!まじか!」

 

 アリスの言葉に陽子は酷く驚いた。

 

「飛行機って雲の中でワープ出来るんじゃないの!?」

 

「えぇ━━!」

 

「そんなわけあるか」

 

 いくら乗ったことがないからってそれはないだろ。そこまで科学は進んでねえよ。

 

 

「でもアリス、突然だな。なにかあったか?」

 

 俺はアリスに聞いてみた。

 

「実は昨日、マムと電話で話したら懐かしくなっちゃって」

 

「マム!?何だかおいしそうな響きっ。」

 

「お母さんのことよ。」

 

「まあ、あのお菓子の名前の由来は"田舎のお母さん"らしいがな。」

 

 俺が某お菓子のどうでもいい知識を言っていると、しのが意を決したかのような顔でアリスの前に立った。

 

「分かりました!今日から私がお母さんの代わりですよ!アリ〜スや〜」

 

 いやしの、それはちょっと無理あんじゃねーの?

 

「ポピーは元気にしてるかなあ…」

 

 不意にアリスはそう呟いた。

 

「誰!?」

 

「あー、あの帽子被って爆弾持った…」

 

「それはカー○ィの敵キャラでしょう。多分、犬の名前ね」

 

 俺がボケて綾がツッコんでいる間、しのは困った様な顔をしていると、

 

「わ…、わんわん!!」

 

 しのは母親から犬へとジョブチェンジした。

 

 そんなしのを見たアリスは、

 

「ごめんね心配かけて…。もう大丈夫、元気出たよ!」

 

 申し訳なさそうにそう言った。

 

「本当か?俺達に気ぃ使ってんじゃねえか?」

 

「本当に大丈夫。日本にはみんながいるし、毎日楽しいよ」

 

「アリス…、何ていい子!」( ;∀;)ほろっ

 

 アリスの言葉に、しのは感動して涙を流した。

 

「そうだ、私達は独りじゃない」

 

 陽子がそう言って手を前に出すと、

 

「力を合わせて〜」

 

「そうだよね!」

 

 続いてしのとアリスが陽子の手に自分の手を合わせて、円陣を組んだ。なにこれ。

 

「頑張れアリス!」

 

「「「お━━━━っ!」」」

 

「何なのあれ…」

 

「熱苦しい…」

 

 陽子達の訳分からんノリを、俺と綾は少し離れた所から不思議な物でも見るかのような目で見てた。

 

 

 

「アルバム見ていい?」

 

 変なノリが終わって、陽子はアリスにそう聞いた。

 

「いいよー」

 

「俺もいいかー?」

 

「うん」

 

 お許しが出たので俺もアルバムを拝見する。

 

「えーと、この辺は何歳頃?」

 

「6歳かな」

 

 幼稚園~小一ぐらいか。

 

「わっ、この人アリスのお母さん?」

 

 陽子が小さいアリスと一緒に写っている女性の写真を見つけた。

 

「おー、綺麗な人だ」

 

 お世辞とかでなく本当に綺麗だった。アリスと同じ金髪で、アリスを大人っぽくしたらこんな風になるのではって感じだった。ただ…。

 

「…アリスは父ちゃん似かなー」

 

「えっ。そんなこと初めて言われたよー」

 

 陽子がそう言った訳は、おそらくアリス母のスタイル…というか、胸を見たからであろう。幼児体型なアリスに対して、アリス母はとてもスタイルが良かったのである。

 

 そう思っていると、突然俺の横から綾が出てきた。

 笑ってるのに笑ってない顔で。

 

「峻…、貴方今どこを見たのかしら?」

 

「何で俺!?」

 

 言ったの陽子(あいつ)だよねえ!?

 

 

 

「ん?この子は誰ですか?」

 

 俺が綾に理不尽な問い詰めを受けていると、しのがとある写真に写っている、アリスより背が低い金髪少女に気づいた。

 

「なんだ。妹か?」

 

「!…ふふふ、違うよ」( *¯ ꒳¯*)

 

「なんで今得意気になった?」

 

「その子はイギリスに居る友達だよ」

 

「…友達!?アリスの!?」

 

 アリスの友達の存在にしのは驚いていた。

 

「そうだよ」

 

「フレンド!?」

 

「イ、イエス」

 

 なんで一回英語を挟んだかは知らんがアリスに確認を取った後、しのは何故か落ち込んだ。

 

「アリスにイギリスの友達が居たなんて、何かちょっと切ないです」

 

「何で!?」

 

「人を勝手にぼっちにすんなよ」

 

 おそらくしのは嫉妬的な意味合いで言ったんだろうけど、はたから聞くとそういう意味にしか聞こえん。

 

「名前はカレンって言って、パパが日本人のハーフなの。カレンのパパはわたしの日本語の先生なんだよ」

 

「へー」

 

「なるほど。日本人から教わったら、まさに鬼に金棒だな」

 

 アリスが流暢に日本語が喋れる秘密が分かった気がした。まあ、本人の努力の方が大きいのだろうが。

 

「もし会ったら、シノも仲良くなれると思うよ」

 

「アリスの友達の金髪少女…」

 

 しのはまだ嫉妬してるのかな?珍しい。

 

「私も友達になれたら…、両手に花じゃないですか!」

 

 違った。

 

 いや、"金髪少女"ってワードを口にした時点でなんかそんな気はしてた。

 

「あー、いつものしのだ」

 

 嬉しそうにしているしのを見て陽子は俺と同じ感想を口にした。

 

 

 

「これは家のそばの川で釣りをしてる所だよー」

 

「ほー。川なんてあったんですねぇ」

 

「シノが来た時は行かなかったね。いっぱい釣れるよー」

 

「おー」

 

 近場にこういう所があるってちょっと憧れるな。隣の芝生は青く見えるってやつだと思うが。

 

「私の知っているアリスは、本当にほんの一部なのですね」

 

 アルバムを見てしのは、遠くを見るかのような目をして……、その後なんだか何かを企んでるような黒い顔になった。

 

「何だかアリスの裏の顔が見えてくるようです…」

 

「アリス、恐ろしい子」

 

 俺も悪ノリしてみた。

 

「そんな悪役みたいに!!」Σ( ̄ロ ̄lll)

 

 

 

 暫くページをめくっていると。

 

「お、しのが写ってる」

 

「これはホームステイの時の写真ね」

 

 そこにはイギリスの地で楽しそうにしているしのとアリスが映っている写真が何枚もあった。

 

「一度でいいから、私も海外に行ってみたいわ」

 

「綾、お前飛行機乗れるの?」

 

「…………乗れるわ」

 

「今結構、間があったぞ?」

 

 こりゃ、もし乗る機会あったら一悶着ありそうだ。

 

「アリスの家ってどんな所かなー」

 

 陽子がそう言ったので、俺達はちょっと想像してみた。

 

 

 綾の想像。

 

「草原の中を裸足で駆けるアリス…」

 

 

 陽子の想像。

 

「湖上に浮かぶ城…、姫の名はアリス…」

 

 

 俺の想像。

 

「テ○ルズオブデスティニー2のオープニングのリ○ラの如く、湖の水面に波紋を作りつつ、滑り歩いていくアリス…」

 

 

「大体そんな感じです」

 

「全然違う!シュンに至っては、もはや人間業じゃないよ!!」

 

 俺達の想像にしのは肯定し、アリスは「写真ちゃんと見て!!」と言いながら全力で否定した。

 

 

 

 それから、一通りアルバムに目を通した。

 

「見せてくれてありがとう。楽しかったわ」

 

 綾はそう言って、アリスにアルバムを返した。

 

「今度みんなのアルバムも見せてね」

 

「俺なんかのでも良いなら…」

 

「嫌よ!!」( º言º)くわっ

 

「「「「!?」」」」

 

 アリスのお願いに俺が肯定の言葉を言い切る前に綾が断固とした勢いで拒否反応を示した。

 

 いきなり大きい声で叫ぶからアリスはおろか、しのまで怯えてるじゃねぇか。

 

「ちょ…お前どんだけKY…」

 

「!」

 

 陽子の一言に綾は我に返り、あわあわと慌てだした。

 

「ごめんなさいっ。でもだって…!」

 

「だって?」

 

「裸が写っているんだものっ!」

 

「赤ちゃんの時だろ!!」

 

「あ、なんだビックリした」

 

 陽子が即ツッコミを入れてくれたから助かった。

 

「俺ぁ、てっきりお前にそっちの趣味でもあんのかと思ったわ」

 

 俺の一言に綾は顔を真っ赤にさせた。

 

「しゅ…、峻のヘンタイ!!」

 

「てめぇがそんな言い方するからだろうが!!」

 

 俺は悪くねえ!!

 

 

 

「でもアリス。本当に寂しくなったら、何時でも言って良いんだからな?」

 

「うん。ありがとうシュン」

 

 俺の気遣いにアリスは素直に頷く。やっぱりちょっと妹っぽい。

 

「少しでも気分を味わう為に、私が時々英語で喋るわね」

 

「え」

 

 綾もアリスに気遣って、そんな事を言う。

 

「ええっ、すごい!」

 

 アリスは素直に驚いていたが、大丈夫かよ。

 

 

 

 ~昼休み。~

 

「アリスは卵焼きが好きですよねー」

 

「うん」

 

「A…」

 

「一個あげるよ」

 

「アリスは甘い派か?しょっぱい派か?」

 

 

 

 

 ~休憩時間。~

 

「次は英語ですねっ!」(>▽<)♡♡

 

「EN…」

 

「しのは本当にからすちゃんが好きだな」

 

「アリス、『This is a pen.(これはペンです)』って英語、使う事あるのか?」

 

「う〜ん、『my(私の)』を付ける事はあるかな?」

 

 

 

 ~放課後。~

 

「シュンは今日もバイト?」

 

「まあな」

 

「ちょっと最近、寂しいですね」

 

「基本的には火、木、土だけだから、そんな寂しがる事ないってば」

 

「Uh…、U…」(lll⩌△⩌lll;)

 

「はっ!綾ちゃんが!!」

 

「何であんなこと言ったんだ、あいつ!」

 

 やっぱりこうなったか。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「あっ、雨やんでる」

 

「本当ですねー」

 

 下校する為に校舎から出ると、朝から降ってた雨はすっかりやんでいた。これからバイトだったから助かった。

 

「雨だからナーバスになってたのかもな」

 

「なるほど」

 

「そうかもねー。…あ!虹だー!」

 

 アリスがそう言って、空を見上げてみると大きな虹がハッキリとかかっていた。

 

「おー、デケー」

 

 俺がデカい虹に感心してると、アリスが「わーい!」と水たまりを長靴でパシャパシャしながらはしゃいでいた。本当に同い年かこいつと思ったが、可愛いからいいや。

 

「あの虹の向こうにイギリスはあるよ〜」

 

「詩人ねー」

 

 はしゃぎながら詩を詠むアリスに、俺達はほっこりした。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 俺はバイト先に行く為に住宅路を歩いていた。

 

「ん?あれは…」

 

 すると、住宅路の真ん中で女の子がウロウロしていた。何やら困っている様子だった。

 

 こういう時、漫画の主人公とかなら迷わず声を掛けるのだろうが生憎、俺にそんな度胸はなかった。

 

 しのの時は、子供の頃だったから別に大丈夫だった。でも俺はもう高校生。迂闊に声を掛けて変に思われるかもしれない。それにもしかしたら、あの子は誰かを待っているだけなのかもしれないし。

 

 俺は自分にそう言い聞かせる様にし、女の子の横を通り過ぎようとした。

 

 俺がその子の丁度真横に来た時、

 

「パパ…、ママ…、ア……ス……」

 

 女の子はすすり泣きながら震えるような声でそう呟いていた。

 

 ………………。

 

「君、どうしたの?」

 

「!……what's?」

 

 俺は女の子に話しかけた。

 

 変に思われるのがなんだ。

 

 ここは今の時間、あまり一通りが少ない。そんな所にこんな女の子を一人にさせておくわけにはいかない。

 

「えっと、君、日本語分かる?」

 

 意を決して話しかけたはいいが、この子言葉が通じるのだろうか…。

 

 灰色の瞳にツリ目で、どこか日本人離れした顔付き。ヘアピンを付け、一箇所をお団子ヘアにしている彼女のロングヘアは、綺麗な金色をしていた。

 

 明らかにこの子は外国人だった。アリスが来てから縁があるな。いや、まだアリスとこの子だけだが。

 

「だ、大丈夫デス、分かりマス」

 

 彼女は涙を拭いながら片言な日本語でそう答えた。

 

 アリスみたいに流暢ではないが、話せるだけでも有難い。そうじゃなかったら、100%不審者としか見られない恐れがあった。

 

 俺は改めて女の子に聞いた。

 

「えーと、君こんな所でどうしたの?」

 

「……私今日、日本に引っ越して来まシテ、日本の街を探検していたら、帰り道、分からなくなりまシタ…」

 

 薄々思ってはいたが、やっぱり迷子か。

 

「えーと、じゃあお家の人に連絡は取れないのか?」

 

「携帯、ゲームやったり写真いっぱい撮ったりしてタラ、画面真っ暗になってうんともすんとも言わなくなっちゃいまシタ…」

 

 女の子は落ち込みながらそう言った。

 

 電池が切れちゃってたのか…。

 

 俺は自分の学校指定鞄を開いて携帯充電器を彼女に渡した。

 

「これ繋げば、また使える様になる筈だよ。それ多種機に対応してる筈だから」

 

「…………!」

 

 彼女は希望の光を見るかのように、表情を明るくさせた。

 

 そして彼女は自分の携帯に充電器を挿して携帯が使える様になるのを暫く待ち、そして携帯が使える様になり、彼女は家に電話した。

 

 

 

 その15分後。彼女の両親が迎えに来た。

 

「うちの娘がどうもお世話になりました」

 

 彼女の父親が、俺に頭を下げてお礼を言ってきた。

 

 あの子は向こうで母親に英語で激しく叱られていて涙目になっていた。まあ、それだけ心配されてたんだろうから大人しく怒られてあげな。

 

 お母さんは見たところ丸っきり外国人だが、お父さんは髭を生やしているが普通に日本人顔だったので、おそらくあの子はハーフってやつなのだろう。

 

「なにかお礼をしたいのですが」

 

「いえいえ!そんな大した事してないですから、いいですよ」

 

 彼女のお父さんがそう言ってきたが、俺は慌てて遠慮した。

 

「しかし、このまま何もしないというのも…。」

 

 この人の言い分も分かる。でも俺がやった事は彼女に充電器貸しただけで、それだけでお高そうな菓子折りなんか貰っても困ってしまう。

 

 すると、あの子が近くに寄って来た。

 

「それでしタラ、私と友達になってくれませんか?私の、日本の最初のお友達になって下サイ!」

 

 彼女は笑顔でそう言った。

 

 まあ、それくらいなら。

 

「俺なんかが最初で良いのかって思うが、わかった。機会があったらこの辺の紹介ぐらいはしてあげるから」

 

「本当デスカー!?アリガトデース!!」

 

 彼女はとても嬉しそうにそう言った。

 

「ハイ!コレ、私のおウチの住所デス!遊びに来て下サイネ!」

 

 彼女はお母さんに聞いて、自分の住所名を書いた紙を俺に渡してきた。

 ここって確か高級マンションがある所じゃなかったっけ?

 

 そして一家三人は車に乗って、家に帰って行った。あの子は車を発進させるまで窓から顔を出して手を振っていた。

 

「……それにしてもあの子、なんかつい最近どこかで見た事があったような顔してた気が…、気のせいか…?」

 

 俺はそう思ったが、そろそろバイトの時間に急がないと間に合わなくなる事に気づき、その考えを放棄してバイト先へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

 土曜日の夕方。バイトが終わった帰りに俺は夕飯の買い出しにスーパーまで来ていた。

 

「あれ?あそこにいるのは…」

 

「あ、シュン!」

 

 スーパーの中にアリスが居た。

 

「アリスも買い出しか?」

 

「えーっと、シノ、それにヨーコとアヤも一緒だったんだけど、わたしがまだ日本に慣れていないって言ったら、みんなが経験がものを言うって言って、それならわたし一人でおつかいを任せてみようって話になっちゃって…」

 

「はぁ…、なるほど」

 

 あ。よく見たら向こうに、しの達が居た。

 

「そういう事なら俺はお邪魔だな。頑張れよー」

 

「うん。まあ買う物はもう全部カゴに入れてあるから、後はレジに行ってお会計するだけなんだけどね」

 

 そう言ってアリスはレジに向かって行った。

 

 すると、アリスが何か紙きれを落とした。

 

「おーいアリス、これ落ちたぞー!」

 

 俺はすかさず紙きれを拾って、アリスに呼び掛けた。

 

「あ!ゴメン、ありがとうシュン」

 

「いいっていいって。気をつけろよ。…ん?」

 

 俺はふと、アリスの持ってるカゴの中を見た。

 

「なあアリス」

 

「何?」

 

「そのメモに書いてあるのカレールーだよな?」

 

 拾ったメモを見ると、買う物の絵にそれぞれ個数で表現されてあり、大根、玉ねぎ、ジャガイモ、そしてカレールーが書いてあった。

 おそらくこれは、しのが書いたのであろう。

 

 まあ、それはいいとして。

 

「……お前のカゴに入ってるの、シチュのルーだぞ?」

 

「…………」

 

 俺がそう言うとアリスは感情を無にして、

 

「わたし、実はカレー得意じゃないんだよ…」

 

 目を逸らしながらそう言った。

 

 アリスは辛いのがダメだったらしい。

 

 勇さん確か凄い辛党だった気がしたけど、これから大丈夫だろうか。

 

 ~See you, next time!~




峻が出会った金髪少女とは、一体どこの誰なんでしょうかねー(すっとぼけ)


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第6話~カレン襲来~

もうタイトルで言っちゃってますが、あの子が出ます。


 5月も下旬になり、心なしか気温が高くなってきた今日この頃。

 

 俺達は今日もいつもの様に学校に五人揃って行く為に、例の駅前で待ち合わせをしていた。

 

 今日は珍しく、しのとアリスが早く起きてきて早く家を出る事が出来たので、俺達三人が一番最初に着いていた。次に綾、そして陽子が来た。

 

 その最後に来た陽子からこんな話が振られた。

 

「最近よく外国人を見かける気がする」

 

 確かによく見ると今その辺りに何処かの国の外人さんが居た。

 

「アリスが来てから意識するようになったのかもですねー」

 

 しのがそう言う。それは一理あるかもしれない。

 

 …まあ、先週みたいな出会い方する事はそんなに無いだろうけど。

 

「そーいえば、こないだもこの辺りで金髪少女に会ったよ」

 

 俺が遠い目をしてると不意に陽子がそんな話をしだした。その発言にしのは「ええっ!?」と興味津々に目を輝かせていた。

 

 金髪少女ねぇ…。

 

「俺も先週、ここじゃあねぇけど金髪少女に会ったな」

 

 同じ話題だったので、俺も話に乗っかった。その発言にしのは「はぁ〜!」と更に興奮していた。

 

「その話、詳しく聞かせて下さいっ!」

 

 追求をしてきたしのに、陽子は話し始めた。

 

「んー、背はそんなに高くなかったなー。金髪ロングに灰色の瞳、パーカーを着てて…」

 

 ………………ん?

 

「なあ陽子。その金髪少女、ツリ目でお団子でヘアピンを十字にクロスして付けてたりした?」

 

「え?ああ!うん、付けてた付けてた!何?峻もその子見たの?」

 

 俺は陽子の言う金髪少女の特徴にデジャヴを感じていた。パーカーは知らんが、他の条件が一致しすぎていた。

 

 

「そうそう、ちょうどこんな感じで」

 

 陽子はそう言って、ベンチに座ってる子に紹介する様に手を向けた。

 

 その子は、金髪ロングに灰色の瞳、ユニオンジャック柄のパーカーを着ててツリ目でお団子でヘアピンを十字にクロスして付けてた金髪少女だった。

 

 …………つーか……。

 

「ていうか、その子本人じゃないの!?」

 

 綾が陽子にツッコミを入れるが、俺は今それどころじゃない。

 

 

 この子完全に、俺が先週会った女の子だーっ!?

 

 家が近所だったとはいえ、まさかこんなに早くまた会うとは思わなかった…。

 

 俺が驚いていると、しのはその金髪少女に見とれていて、アリスはというと、

 

「え…、カレン!?」

 

 そう言って金髪少女に驚いていた。

 

 ん?カレン?はて…、どっかで聞いた様な…。

 

「!アリス!!」

 

 俺が考えていると、金髪少女はアリスを見るとぱあっと笑顔を輝かせ、アリスに抱きついた。

 

「アリス、アリスー♡」

 

「カレン!!」

 

 金髪少女は嬉しそうにして、アリスは少し困惑していた。

 

 …そしてその二人に何故かしのが満足そうに抱きついていた。

 

「?誰?」

 

 金髪少女の疑問は当然だった。

 

「しのは関係ないだろ!」

 

 陽子がそう言って、俺がしのを引き剥がした。

 

「こらしの、いい金髪だったからって、いきなり初対面の人間に抱きつくんじゃない。通報されても知らんぞ」

 

「では、その時は峻君が弁護して下さい」

 

「「彼女は金髪が好きだっただけなんです」なんて弁護したくねえよ」

 

 それで許されるかどうかも怪しいが。

 

 ふと、金髪少女、アリスに"カレン"と呼ばれていた子を見ると、その子は俺の顔を見ていた。この子も俺に気づいたな。

 

「…………!」

 

 カレンはさっきアリスに向けたのと同じくらいの笑顔を見せて、次の瞬間。

 

 

「私の"王子様"ーっ!!」

 

 

 そう言って俺に抱きついて来た。

 

 

 ………………今なんて?

 

 

「「「「え──────っ!!?」」」」

 

 俺を含めた陽子、アリス、綾はカレンの行動と台詞に絶叫した。

 

 すると綾は震えながら携帯を取り出した。

 

「つ…、通報しなくちゃ…!!」

 

「ちょっと待てーっ!!」

 

 どうやら弁護が必要だったのは、しのではなく俺だったようだ。

 

 

 

九条(くじょう)カレンと申すデス」

 

 カレンと名乗る少女は自己紹介をした。

 

 カレンはなんと、アリスの幼馴染だったのだ。ていうか、この間アリスに見せてもらったアルバムに載ってた女の子だった。それで最初に会った時、何処かで見た事がある様な気がしたのか。確か日本人とイギリス人のハーフって言ってたっけ。

 

「で、貴方はこの男とどういった経緯で知り合ったの?」

 

「人を犯罪者みたいな風に言うんじゃねえっ!!」

 

 綾が失礼な事を言ってきたので俺は慌てて否認した。

 

「シュン、カレンと知り合いだったの?」

 

 ちゃんと話を聞いてくれるアリスが、穂乃花じゃねえけど天使に見えてきた。

 

「いや、知り合いって程じゃあねぇよ。こないだバイトに行く途中迷子になってたのを俺が助けたんだ。それだけだ」

 

「そうだったんだ」

 

「あの時はアリガトウデシタ!アナタがいなかったら私はあそこでロトウに迷ってまシタ…!」

 

「外人ってやつは、そういう日本語どこで覚えてくるわけ?まったく、大袈裟だって。まあ、あの時間帯に女の子一人は確かに危ないけどさ」

 

 カレンは俺に改まってお礼をしてきた。

 

 

「それで、カレンは峻の事を"王子様"って言ってたけど、まさかそれで助けられたから?」

 

 陽子がカレンに聞いた。そうだ、そこが問題だ。

 

「えーとね君?」

 

「カレンデス」

 

「じゃあカレン、あの程度の親切で王子様になれるんなら、彼女いない男なんてこの世に存在しないからね?」

 

「でも私、こういう事がきっかけでラブコメに発展していくの日本の漫画でよく見たデス!」

 

「ねぇから!漫画と現実一緒にすんな!迷子助けて恋愛に発展なん……て………………」

 

「?どうしたデス?」

 

 ………そういえば、俺がしのと会ったきっかけって、しのが迷子になってたのを助けたからだったっけ…。

 

「アヤ、シュンが何か突然遠い目しだしたよ!?」

 

「気にしなくていいわ。あれは自分で言った発言で勝手に自爆しただけだから」

 

 綾が何か言ってたが俺の耳は今、言語を上手く聴き取れていない状態である。

 

 やっぱもう少し俺、しのにアピールとかするべきだろうか…。

 

 そのしのは、俺が他の女子に抱きつかれたにも関わらず、今俺の目の前にいるカレンの後方で微動だにもせずカレンの方じっと見てるだけだし…。

 少しは気にしてくれよ。俺よりも金髪か。金髪だろうな。しのだもの。

 

 

「…えーとカレン、そろそろ聞いていい?何で日本に来たの?」

 

 微妙な空気になって堪えかねたアリスがカレンに日本にいる理由を聞いた。

 

 するとカレンは両腕を横に広げ「ブーンブーン」と言いながら小回りした。

 

「乗ってきた乗り物じゃなくて!!」

 

「船?」

 

「飛行機だろ!今ので何で船なんだよ」

 

「タイ○ニック」

 

「沈んじゃうじゃん」

 

 アリスがカレンにツッコミを入れている間、復活した俺が陽子と一通りのコントをしていると、カレンは自分が日本に来た理由を話し始めた。

 

「話せば長い話デス…」

 

 

 ~カレンの回想~

 

 

 ハワイ旅行からイギリスに帰った私は、おみやげを渡しにアリスを訪ねたら…。

 

『アリスは日本に留学に行ってるのー。ごめんねー』

 

 と、アリスママから聞かされました。

 

 アリスに会えなかった私は、仕方なく自宅に戻りまシタ。

 

 そこで私はパパにこう聞いてみまシタ。

 

『パパ、日本ってどんな所?行ったことない』

 

『日本?日本はいいぞー。パパの故郷だからな。よし、しばらく皆で日本に住んでみるか!』

 

 こうして、パパの発案で私は家族と一緒に日本に引っ越して来まシタ!

 

 

 ~カレンの回想、完。~

 

 

「という訳デス!」

 

「そんな簡単に!!」

 

「文章いくつか抜けてんじゃねえか!?」

 

 カレンの飄々とした説明に綾と俺はツッコミを入れた。

 

「因みにすぐ来れなかったのは、手続きとかに時間が掛かったからデス」

 

「そこは別にいいわ!!…つーか、アリス。お前友達に何も言わずに日本に来たのか?」

 

「だ、だって!カレン、旅行に行ってて伝えようがなかったんだもん!帰ってきたかと思えばまたすぐ別の所に行ってたし!」

 

 なるほど。アリスは携帯も持ってないみたいだしそれなら仕方ないか。

 

 それにしても、ほいほい旅行に行くといい、簡単に日本に引っ越してくるといい、住所の高級マンションといい、カレンってお嬢様なのか。……あの時結構本気で危なかったのでは。

 

「あ!シノ、そろそろ学校へ行かなきゃ」

 

 アリスが駅前の時計を見てそう言った。

 

「はっ!そ、そうですねー」

 

 アリスの言葉にしのは意識が戻ったかのように反応した。

 こいつずっとカレンの金髪ばっか見てたのか?

 

「私も今日からご学友デース!」

 

「えっ」

 

「あっ!制服!」

 

 よく見るとカレンのパーカーの下の服は、俺達が通っているもえぎ高校の制服だった。

 

「その通りデス!編入して来ましたデース!」

 

 知り合った外国人が同じ高校だったってどこまで漫画だよ。まあ、カレンはアリスを追って日本に来た様なものだから、アリスと同じ高校に通うのも不思議ではないよな。うん、俺は関係ないな。うん。

 

 

 そういう訳で、カレンは俺達と一緒に学校まで歩いていく事になった。

 

 道中何やらアリスが暗い顔をしていた。どうやら隣でしのがカレンの金髪をきらきらした顔で眺めていた事に落ち込むというか、危機感を感じていたっぽい。

 

 気持ちはわかるが数ヶ月とはいえ、友人との久々の再開にもう少し喜ぶとかないのか。

 

 そう思っていると、前を歩いていたカレンが突然こっちを振り向いた。

 

「アナタとも同じ高校だったなんて、やっぱり運命感じマス!」

 

「だから、そーいうのやめろ!!」

 

 名前は言えない特定の誰かにそう思われる危険性は御免だ!思わないだろうけど!!あっやべ、泣けてきた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 学校に着いて、職員室に入っていったカレンが戻ってくると浮かない顔をしていた。どうやらクラスが俺達とは違ったようだ。

 まあ、この短期間に同じクラスに転校生、ましてや留学生が入ったら偏るというか贔屓みたいになってしまうから仕方がない。

 

 カレンは俺達B組の隣のA組になったらしい。ん?A組って確か穂乃花のクラスだったな。良かったな穂乃花、金髪少女とお近付きになれるぞ。だが、変にこじらせてないといいが。あいつの頭が。

 

 

 

「あれ?アリス何だか元気ないですね」

 

「そ、そんなことないよ」

 

 四時限目が終わってお昼休みになると、しのは元気のないアリスを気にかけていた。しの、原因はお前だよ。

 

 するとしのは自分の鞄から何かを取り出した。

 

「アリス、夏バテですか?夏バテには夏野菜ですよ!?」

 

「なんで生野菜持ってきてるの!?」

 

 突然生のきゅうりとトマトを取り出したしのにアリスはツッこんだ。

 

「お弁当に持ってきました」

 

「雑食すぎるわ。つーか今まだ一応5月だぞ」

 

 夏より先に来る夏バテってなんだ。

 

「アリスー!」

 

「あ!」

 

「お」

 

 廊下から元気な声が聞こえ、そこには弁当を持ったカレンが手を振っていた。

 

「アリス、来ター!」

 

 

 

 いつものメンバーに加え、カレンと一緒に昼飯を食べることになった。

 

「カレン、日本語上達したねー」

 

「毎日勉強頑張ったデスよ」

 

 アリスとカレンがそんな話をした。

 ということは、カレンはアリスと別れた僅か数ヶ月で、日本に住むために勉強して、カタコトでもアリスが称賛する程に上手くなったのか。

 なんだかんだでカレンはアリスの事大好きなんだな。

 

「カレンはイギリスで育ったの?ハーフにしてはカタコトだけど」

 

「ウン。普段はパパも英語喋ってたカラ」

 

「なるほど」

 

 ということはもしかしたらカレンのお母さんは日本語は喋れないのかもな。あの時会話に参加してなかったし。

 

「アリスくらい日本語ペラペラになりたいデス」

 

「カタコトがいいんですよ。可愛いじゃないですか!」

 

「わたしもまだまだデス。日本語難しいデス☆てへっ」

 

 カレンのカタコトにしのが気に入ってることに対抗意識を燃やしたのか、アリスがいつもの流暢な日本語はどこへやらとカタコトでわざとらしく喋りだした。

 

「アリス、お前はそのままでいいから。似たような喋り方のやつがいるといちいち文章で説明する手間が増えてしまう」

 

「わたし、たまにシュンが何の話をしているのかわからない時があるよ!?」

 

「気にするな」

 

「そういえばさ、ハーフの子って日本名でも外国名でも通じる名前の子が多いよね。リサとかナオミとか」

 

 陽子がカレンに質問した。…やっぱりいちいちめんどくせえ。

 

「パパが名付けてくれまシタ。漢字では「かれんな花だ」のカレンと書くデス。ムズかしい字デス」

 

「「可憐」ね。きれいな名前」

 

「「可憐な女の子に育つように」って意味を込めてつけたのですよきっと」

 

「シノ、わたしは?」

 

「アリスは「リスのように小さく可愛らしく」という意味ですね!」

 

「リスかー。そっかー」

 

「「あ、リス」じゃないわよ」

 

 しのの話に普通に納得するアリスに綾がツッコミを入れた。

 つーかアリス、お前はハーフじゃないだろ。

 

「峻、今誰が喋っているのかの説明少しサボってなかったかしら」

 

「あれ?結構わかるもんだと思ったがダメだった?」

 

「だからアヤもシュンも何の話をしてるの!?」

 

「アリスの台詞は色んな意味で分かりやすいから俺好きだ」

 

「どういう事!?」

 

 

 

 それから俺達は、カレンに改めて自己紹介をした。

 

「ヨーコ、シノブ、シュン、えっとー」

 

「綾よ」

 

「アヤヤ?」

 

「1文字多いわ。綾よ」

 

「……」

 

 綾の指摘にカレンは一拍置いた後、

 

「アヤヤ!アヤヤ!」

 

 気に入ったのかアヤヤと連呼し始めた。

 

「「アヤヤ!アヤヤ!アヤヤ!アヤヤ!」」

 

 そして陽子も一緒に悪ノリした。そして綾はなんかダメージを受けていた。

 

「や…やめて…」(´д`|||)

 

「しっかりしろって、アヤヤ(笑)」

 

「アンタはアヤヤ言うな!!笑うな!!」

 

 

 

「カレン、私のことは「しの」と呼んでくださいー。仲良しのあだ名です」

 

「!!」ガ━l||l(0Δ0)l||l━ン

 

 綾がアヤヤになっていた時、しのがカレンに言った一言でアリスがショックを受けていた。

 

「しゅん…」(_ _|||)

 

「呼んだ?」

 

「"シュン"の事じゃないよ!!」

 

 知ってた。

 

 アリスの時はしののあだ名はアリス自身が呼ぶって言ったのに対し、カレンはしの本人にそう言って欲しいと言われてしまったからな。それも直ぐに。ナチュラルに地雷踏むなあいつ。

 

「シノはニンジャ?壁あるける?」

 

「あー、「(しのび)」な」

 

「それはちょっと…」(´ヮ`;)

 

 しのは、かくれんぼなら得意だったがな。

 

「エー、シノできないデスかー。」

 

「そんなことないよ!シノはスゴイから何でも出来るよ!」

 

「突然どうしたアリス!」

 

「さあシノ、壁を歩いて!」

 

「ムチャブリ!!」Σ(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇)

 

「落ち着け!!」

 

 アリスのやつ、切羽詰まり過ぎて混乱してやがる!

 

「どうしたのアリス…、何だか様子が変よ」

 

「えっ。変ってどんな風に?」

 

「自覚なしか」

 

「アリスはカレンに妬いてるんだよー。なー」

 

「!!」

 

 陽子がアリスに抱きついてそう言った。

 

「そうなんですか?」

 

「お前こういう時だけ鋭いのな」

 

「こういう時だけってなんだよー!」

 

「なんだろうなー。なあ綾」

 

「こっちに振らないで!」(///□///)

 

「?」

 

 三人で騒いでいると、しのは優しい微笑みで落ち込んでいるアリスの前に立つ。

 

「確かにカレンは身長も平均的ですし、アリスよりも外国人らしくて(カタコトが)魅力的です。でもアリスにはアリスの良い所がいっぱいありますよ!自身持ってください!」

 

 しのはアリスに諭すようにそう言った。

 …"ように言った"だけであった。

 

「おい綾、今のフォローになってたか?」

 

「まったくなってないわ…」

 

 だよなぁ。

 現にアリスの顔色は殆ど直っていなかった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「うぅ…しのがカレンに取られる…」

 

 俺とアリスが自販機でジュースを買っていると、アリスがそんなことを呟いていた。

 

 しのを取り合う(?)話っぽいから、俺的には複雑な感じなんだが、落ち込んでるアリスをこのままほおっておく訳にはいかない。

 

「大丈夫だってアリス。しのは新しい金髪の子が来たらお前の事をどうでもよく思う様なやつじゃない。アリスの事も大切に思ってるよ」

 

「シュン…」

 

「それよりお前、カレン自身の事はいいのか?」

 

「え?」

 

「伝える事が出来なかったからとはいえ、お前から何の挨拶も無しにカレンはアリスと別れる事になっちまったんだ。でもあいつはお前を追っかける様に日本にやって来た。そんだけカレンは、寂しい思いをしてたんじゃねえのか?」

 

「!」

 

 俺の言葉にアリスは、ハッと気づいた様な反応をした。

 

「…お前、まだちゃんとカレンと話してないんじゃないか?」

 

「…………わたし、しのの事ばかり頭にあって、カレンの気持ち全然考えてなかったかも…」

 

 アリスは反省する様に顔を下に向けてカレンの事を考えたら。

 

「アリース!シュンー!」

 

「!カレン!」

 

 向こうからカレンが走ってきた。廊下は走るなよ。

 

「ワオ!自販機あるデス!『サー○ィーワン』あるデスカ?」

 

「『セ○ンティーン』な。ない」

 

「エ〜ッ」( -᷄ д-᷅ )

 

 カレンがガッカリしていると、アリスが意を決したようにカレンと向き合った。

 

「カレン!」

 

「?アリス?」

 

「何も言わずに日本に来て、ごめんね!どうしても日本で勉強したくて…。あとシノに会いたくて…」

 

 来日理由が絶対後者の方が本音なんだろうが、今は気にしない。

 

「カレン、会いに来てくれてありがとう。わたし、凄く嬉しかったよ」

 

「アリス…!…私も、アリスに会えてスッゴク嬉しいデース!!」

 

「わわっ!もうカレンったら〜」(*´Δ`*)

 

 アリスとカレンの二人は嬉しさを伝え、抱き合った。

 うんうん。美しきかな友情。

 

「あ、そうデス!小さい頃の約束、渡すの忘れてました!」

 

「約束?」

 

「そうデス!その心残りもあってアリス追いかけて日本に来まシタ」

 

 おお、なんか感動的な展開に。

 

「アリスからずっと借りっパナシだった鉛筆返したくて」

 

「なんじゃそりゃ!!」

 

「はげしくどうでもいいわ!!」

 

「って綾!お前いつから居た!?」

 

 いつの間にか居たらしい綾と共に俺はツッこんだ。

 

 吉○新喜劇とかだったらその場にいる全員がズッコケてたぞ。

 

「あ…ありがと…カレン…」( ̄▽ ̄;)

 

 アリスは困った様子で鉛筆を受け取った。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 放課後になり、俺達はカレンと一緒に下校していた。

 

「お家こっちデスー」

 

 途中でカレンが俺達の家の方角とは違う方を指し、そう言った。

 

「お、そっか。じゃーな」

 

「また明日ね」

 

「また」

 

「また迷子になんなよー」

 

「そうだよカレン、気をつけてねー」

 

「ハイ!」

 

 俺達はそれぞれカレンに挨拶し、それにカレンが答えた。

 

 するとカレンは何やら俺の横に近づいて来て…。

 

 

「マタ明日!ちゅ」

 

 

 カレンは俺の頬に自分の唇で触れた。

 

 

 ………………………………………………………………。

 

 

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 ………………………………………………………………。

 

 

「おい峻!戻って来い!!」

 

「これ以上ずっと「…」が続くのは、なんだかまずい気がするわ!しっかりなさい!!」

 

「はっ!?」Σ(゚□゚;)

 

 陽子と綾の呼びかけに俺は意識を取り戻した。

 

「カレン!何してるの!?」

 

 アリスがカレンに叫ぶように問いかけた。

 

「お別れのキスデス」

 

「日本人の挨拶は軽く手を振って「さようなら」だよ!もーっ!」

 

「オー、分かりまシター。でも…」

 

 俺が心を落ち着けていると、カレンが俺の方を向いていた。

 

「今のはあの時のお礼でもあるデス。シュン、皆もバイバイデース!」

 

 カレンはニッコリと笑ってそう言った後、手を振って帰路へ向かって行った。

 

「「「…………」」」

 

 俺と綾、アリスが途方に暮れていると、

 

「峻〜、役得だったな〜?」( ¯▽¯ )

 

「なっ!バッ!んな訳ねえだろ!!」

 

 陽子がからかう様に言ってきたので俺は慌てて弁解した。

 

 ……あれ?そういえばさっきから、しののやつが大人しいというか会話に入ってきてなかったというか…。

 

 辺りを見渡してみると、少し離れた位置にしのが居てこっちを見ていた。

 

 

 ………なんか、顔の影が凄く暗く、いや黒くなっている様な…?

 

 ま、まさか自分が大好きな金髪少女が俺にキスした事に怒ってるんじゃ……。

 

「お…おい、しn」

 

「峻君なんかもう知りません」

 

「(絶句)」バタン

 

「ああ!?峻が無言で倒れた!!」

 

「シュン、しっかりしてー!!」

 

「これは…修羅場なのかしら…?」

 

 ~See you, next time!~




というわけで、次回に続くカンジです。
次回はほぼオリジナルの話になります。
大丈夫かな。峻と私の文力。


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第7話~なかなおりの気持ち~

今回は、ほぼオリジナルの回です。
と言っても聞いた事あるようなネタもあるかもしれません。


 ~穂乃花Side~

 

 私の名前は松原穂乃花。もえぎ高校の一年です!

 

 私の家は飲食店を営んでいて、私も休日や学校から帰った後に手伝ったりしています。

 

 今は学校からの下校の途中で、お母さんから足りない調味料を買ってくるように頼まれて買ってきた帰り中です。

 

「マヨネーズよし、ケチャップよし、胡椒よし!」

 

 私は買ってきた調味料を改めて確認して帰路へ向かった。

 

 確か今日は、最近家の店でアルバイトを始めた鹿ヶ谷峻君が来る日だ。真面目に一生懸命働いてくれてるから、私のお母さんも気に入っている。

 

 私は自分の家もとい、店に着くと正面入店口から店に入った。今は準備中の時間なので、従業員か私の家族しかいない筈だ。

 

「ただいまお母さーん、頼まれた調味料買ってきた…」

 

 私は店に入ると同時にお母さんに挨拶と報告を言ったが、途中で声を抑えてしまった。何故なら…。

 

 

「………今日って大掃除の日だったっけ?」

 

 店中あちこちがキラキラピカピカと輝いていた。

 

 多少の汚れやキズが付いてた壁が新品の様になっており、机や床は顔が反射して映ってしまう程綺麗になっていた。

 

「ちょっと峻君?」

 

 どういう事かと私が思っていると、向こうの席の方からお母さんの困ったような声が聞こえた。

 

 その方向を見てみると、お母さんと一緒に机を一心不乱に、明らかに必要以上に磨いている峻君がいた。

 

「綺麗にしてくれるのは嬉しいんだけど、もうこれ以上はお店の掃除用洗剤が無くなっちゃうから、ね?」

 

 お母さんは宥める様に、掃除してる峻君にそう言ってた。

 

 よく見ると、店中がキラキラしたエフェクトがかかってるのに対し、峻君からはどんよりした暗いオーラが溢れていた。

 

 何かあったのかと同時に、峻君はストレスを家事にぶつけるタイプなんだなと私は思った。

 

 

 

 峻君が休憩時間に入ったので、私は峻君に話を聞いてみる事にした。

 

 休憩室に入ると、峻君はリストラされたサラリーマンの様に椅子に座って項垂れていた。

 

 私は一瞬困ったが、峻君をこのままにしておく訳にもいかないので話しかけてみた。

 

「ねぇ、峻君」

 

「…………………穂乃花…」

 

 峻君は姿勢はそのままに、目線だけこっちに向けた。

 

「えっと…、何かあったの?私で良かったら話だけでも聞くけど?」

 

「…………」

 

「無理にとは言わないけど…」

 

「……あんな、その…俺には仲の……多分、いい友達がいて、そいつには好きなものがあってさ…、それで昨日俺が結果的にはそいつの好きなものを横取りしたみたいな感じになってしまって…、そしたらそいつ拗ねちまって…、今日も顔を合わせてくれないどころか、話すら聞いてくれなくなっちまって………」

 

 峻君は暗いトーンで私にそう話した。

 

 つまり、お友達と喧嘩したんだ。

 

「俺だってやりたくてやった…いや、させられた訳じゃないのに…。もうどうしたらいいか分かんなくて…」

 

「うーん…」

 

 私は峻君の悩みの解決策を考えた。

 

「……精一杯謝る、とか?」

 

 ごめん、私にはこれぐらいしか思いつかないや。

 

「話も聞いて貰えないのにどうやって」(_ _|||)

 

「……ねぇ峻君、そのお友達には前から嫌われてたの?」

 

「前から……、実は俺は前からあいつに…!?」

 

「ああっ、違う違う!そういうつもりで言ったんじゃなくて!えーと…、峻君と会ってる時その人は峻君に嫌な顔見せたりしてた?」

 

「…………してなかったと思う」

 

「じゃあ、仲は良かったはずだよ。今はちょっと不機嫌になっちゃってるだけで向こうも峻君と仲直りしたいって思ってるよ!」

 

「そうかなぁ…」

 

「そうだよ!絶対!…って、私そのお友達の事全然知らないから無責任に言っちゃってるだけなんだけど…でも、仲直りするように応援はするよ!」

 

「……ありがとう穂乃花。こんな話にここまで親身になって聞いてくれて。ちょっと元気出た」

 

 峻君は顔を上げて私の方を見た。まだ全快ではないけどさっきよりは少し晴れやかな顔になっていた。

 

「…俺、明日こそし……、あいつとちゃんと話してみせる!」

 

「うん、頑張って!そうだ、お詫びに何かをするのはどうかな?例えば玉乗りとか!」

 

「わしゃ、道化師(ピエロ)か」

 

 峻君にツッコまれた。結構本気だったんだけどな。

 

 でも、ちょっとでも元気になったみたいでよかった。

 

 ~穂乃花Side、OFF~

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 翌朝。

 

 俺はいつもの様にしのとアリスが家から出てくるのをしのん家の玄関前で待っていた。

 

 穂乃花の応援に報いるためにも、しのとちゃんと仲直りせねばと俺は気合いを入れていた。

 

 すると、玄関から物音がし、二人が出て来た。

 

「お、おはようアリス」

 

「あ。おはようシュン」

 

 まずアリスに挨拶。

 

 そしてしのに…。

 

「お…、おはようしの…」

 

「……ぷいっ」( ー̀ н ー́ )

 

 ……穂乃花、俺は早くも再び心が折れそうです。

 

「も〜〜!誰かこの空気何とかして〜っ!」

 

 間に挟まれたアリスの「限界だよ!」という絶叫が響きつつ、俺達はその空気のまま学校へと向かった…。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「皆サン、オハヨウデース!」

 

 学校に着き、教室で荷物を降ろした後、中庭でしのを除いた四人でベンチに座っていると、カレンがやって来た。

 

「アレ?シュン、どーしたデス?」

 

「いや峻のやつ、しのと喧嘩しちゃっててさ」

 

 カレンの疑問に陽子が答えた。

 

「喧嘩デスカ?そーいえば昨日も二人は全然話してなかったデスネ。一体何が原因デスカ?」

 

 お前だよ。

 

「えーっとほら、カレンこないだ峻の頬にキスしてたじゃん?それをしのが羨ましく思っちゃったみたいでさ」

 

「え?シノもシュンのほっぺにチューしたいデスカ!?」

 

「そっちじゃねぇ。カレンにキスされんのが羨ましいんだよ」

 

 あ、自分で即否定してて泣けてきた。

 

「oh、そうだったデスカ。なら、私がシノにもチューをすれば、バンジカイケツデスネ!!」

 

「それはやめて!!」Σ(꒪□꒪|||)

 

 カレンの突飛な解決策にアリスが慌てて待ったをかけた。つーかそれは俺もやめてほしい。

 

「仕方ないわね。峻がしのと話せるよう、私ちょっとしのと話してくるわ」

 

 綾が立ち上がってそう言った。

 

「……綾、ありがとう。いつもからかってごめんな」

 

「素直に感謝しないで!!謝らないで!!調子狂うから!!」

 

「めちゃくちゃ追い詰められてるな峻のやつ」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 ~綾Side~

 

 私はしのがいる教室に戻った。

 

「しのー!」

 

「あ、綾ちゃん」

 

 しのは私の呼びかけに反応した。そして私はしのの席の隣に座った。

 

「しの、ちょっといい?」

 

「なんでしょうか?」

 

「…峻の事についてなんだけど…」

 

「!…………」

 

 私が峻の名前を口に出すと、しのは少しバツが悪そうな顔をした。

 

「もう許してあげたらいいんじゃない?いくら羨ましかったからって、これじゃあ峻が可哀想よ。カレンも、あれは助けてくれたお礼にしたんだって言ってたし」

 

「………わかってます。私だってそれはわかってるんです…。でも、なんだか違うんです」

 

「違う?何が?」

 

「カレンにキスされてずるいという想いもあると思うんですけど、なんと言いますか…」

 

「?」

 

 

 

 

 

「…峻君がキスされてるのが、なんだか嫌だったんです」

 

 

 

 

 

 …………………………。

 

「!!!!?」

 

 しのの言葉を聞いた瞬間、私は頭上に雷が落ちたような感覚を受けた。

 

「しの!それってどういう事!?」

 

「それがわからなくて困っているんです。……綾ちゃんなんだか楽しそうじゃないですか?」

 

「そんなことないわ!!」

 

「そんな目をキラキラと輝かせた表情で言われても説得力ないです!」

 

 おっと。落ち着くのよ綾。焦っちゃだめ。

 

 私は一度呼吸を整えた。

 

 峻、私はたまにあんたの想いは無謀なんじゃないかしらと思っていたけど、これはひょっとしたらもしかして、ひょっとするんじゃないかしら!?

 

「しの、それは自分だけで理解するべきだと思うわ」

 

「え〜っ。綾ちゃん、そんな殺生です〜っ」

 

 仕方ないわね。ヒントぐらいはあげましょう。

 

「それじゃあ少しだけ。そう思うのはしのが峻の事を大切に想っているからこそよ」

 

「私が峻君の事を…ですか?」

 

「そうよ」

 

 少しは手助けになったかしら?

 

 私がそう思っていると突然廊下の方から扉が勢いよく開く音がした。

 

「シノ!」

 

「わぁっ!アリス!?どうしました?」

 

 アリス!?まさか、しのの想いに勘づいて!?

 

「もう気まずくて、こんな二人見てられないよ!しの、ちょっと来て!」

 

「えええ?なんです!?」

 

 アリスはしのの腕を掴んで、そのまましのを連れて教室の外へ出て行った。

 

 二人の後を追って私も廊下に出ると陽子とカレンが居て、アリスの行動を黙って見ていた。

 そのアリスは、使われていない空き教室にしのを連れて入っていった。

 

 陽子とカレンと一緒に中を覗くと、真ん中辺りに机が二つ向かい合わせに並べてあり、その席の一つに峻が座っていた。いや、おそらく座らされていた。

 そしてアリスが、その向かい合わせの席にしのを座らせた。

 

 アリスは仕事を終えた様に「ふーっ」と腕で額の汗を拭う動きをした後、私達が覗いていた出入口に向かい戻ってきた。

 

「しばらく、二人でちゃんと話し合いなさい!あ、でもHRには間に合う様にね!」

 

 アリスはそう言った後、扉を勢いよく閉めた。

 

 意外と荒っぽいわねアリス…。でも一番効果的かも。

 

 私達はそのまま、しのと峻の様子を見る事にした。でも、数分経っても二人は中々話し出さず、相変わらず気まずい空気が漂っていた。

 

 そんな様子にアリスは、さっきまでの強気はどこに行ったのか、青ざめて涙目で震えていた。

 

「どうしよう…、失敗しちゃった〜…!」

 

「二人を向かい合わせただけ上出来だって!」

 

「もう少し、様子を見ましょう!」

 

 アリスを私と陽子で宥めつつ、私達は二人の様子を見続ける事にした。

 

 ~綾Side、OFF~

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 すっっっっっっげぇ、気まずい!!

 

 アリスのやつ、こんな荒っぽい方法でしやがって…!いや、しのとの話し合いの場を設けてくれたのは感謝するが…!

 

 でもどうしよう。しの、大人しく座ってはいるがさっきからいっこうに俺と目を合わせてくれない。あ、ほら今一瞬目が合ったと思えばまた目をそらした。お前の金髪少女への愛はここまでの怒りを見せるほど激しいのか。

 

 ホントいい加減なんとかしないと…。もう、穂乃花の言う通りに玉乗りかなんかでもして詫び入れるか!?

 

 

 ~忍Side~

 

 あ…、私ったらまた目を背けてしまいました…。

 

 もう何回目でしょうか…。この間のあの一件から私、峻君とはまともに顔を合わせられもせず、話せてもいません。

 

 カレンのあの行動は、峻君が迷子になっていたカレンを助けてくれたからしたのであって、だからまあ納得はできます。お礼にほっぺにキスなんて、外国ではよくある事だと思いますし。

 

 ……ですが私は、何故か峻君がそれをされたのがなんだか嫌でした。

 

 カレンのキスが羨ましかったから……というのは何だか違う気がするのです。いえ、それはそれとして羨ましいのですが。

 

 私が今抱えている感情はそれとは違く、何かこう、胸がモヤモヤする感じなんです。

 

 実はキスより前に、最初にカレンと会った時に峻君にカレンが抱きついた時からこのモヤモヤがあったような気がします。

 

 綾ちゃんは、私が峻君を大切に想っているからと言っていましたけど、私にはなんの事だか…。

 

「し…、しの…」

 

「!」

 

 私が考え事をしていると、峻君が話しかけてきました。

 

「えっと…、なんと言いますか…その…ゆ、許して頂けないでしょうか…」

 

 峻君、なんだか情けないです。でも実際、峻君本人は何も悪い事はしていない筈ですから、こうなってしまうのは当然です。

 

 …私だってずっと峻君とこんな感じなのは嫌です。でも私は今、峻君に対して何かが許せていません。私は一体、峻君の何が不満なのでしょうか。

 

「頼む…、俺……」

 

「?」

 

 

 

 

「しのに嫌われるのだけは嫌なんだよ…!」

 

 

 

 

「!!」

 

 傍から聞けばなんて事ない台詞なのでしたが、私には何故かこの言葉は凄く私の心に響きました。

 

 なんだか、私が欲しかったものを頂いたような感覚になり、凄く嬉しかった。

 

「ホントお願いします!この通り!なんでもしますので!玉乗りでも、紐なしバンジーでもやりますのでっ!!」

 

 私が考え事をしていると、峻君は机に両手と頭を付いて必死そうにそう叫んでいました。その様子に、

 

「ぷっ…、くすくすっ…!」

 

 私はなんだか、笑えてきてしまいました。

 

「あはははっ…!峻君、紐なしバンジーはただの飛び降り自殺ですよ?絶対にやらないで下さいね?……もう仲直りしますから」

 

「!!……ほ、本当に!?」

 

「ふふっ、はい!」

 

「……、〜〜〜〜〜〜っ!!」。゚(゚´Д`゚)゜。

 

 私の言葉を受けて、峻君はその場で泣き出してしまいました。

 

 ひょっとして私はカレンのあの行動で、峻君が取られると、峻君が別の所に行ってしまうと思っていたのでしょうか。それで寂しくて、私はあんな行動をとってしまったのかもしれません。

 

 でも、峻君が誰と仲良くしていても、どこかへ行ってしまう訳ではなかった。ちゃんと皆とも、私ともずっと仲良くしてくれてます。

 

 !………そっか、そうだったんです!

 

 綾ちゃん、私わかりましたよ!

 

 ~忍Side、OFF~

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 ~綾Side~

 

「ふ〜っ、何とか丸く収まったみたいね」

 

「だな」

 

「よかった〜〜っ」

 

 私達は、二人の会話を聞いて、安堵していた。

 

「やっと仲直りしたなあ!こんなに長いのは初めてだったんじゃない?」

 

「そうね。中三の時に峻がしのの外国の広告を誤って捨てた時の半日を越えたわ」

 

「あはは……」

 

 私と陽子が二人の思い出話にアリスが苦笑をした。

 

 因みにその時は、峻が代わりの外国雑誌や広告をしのにありったけプレゼントするという方法で収まった。

 

「ん?カレン?」

 

 私はカレンが二人がいる方を見続けている事に気づいた。

 

「……もしかして、シュンってシノの事…」

 

 !…どうやらカレンは峻の想いに気づいたみたいだわ。

 

「私、どうやら"負けヒロイン"ってやつだったみたいデスネー」

 

「!!!!」

 

 そうだわ、カレンは峻に助けられたって言ってた!だからカレンにもそんな想いがあったとしてもおかしくなかったんだわ!!

 

「どうやら私はオジャマだったようデスネ…」

 

「よくわかんないけどカレン、またなにかの漫画の真似してるでしょー?」

 

「バレまシター?」(*^▽^*)HAHAHA

 

「カレン!!」

 

「?アヤヤ?」

 

 途中アリスと何か言ってた様な気がするけど、恋に敗れた女の子をほおってはおけないわ!!

 

「今日は私が付きっきりで話を聞いてあげるわ!だから元気を出して!!」

 

「???アリガトデース?」

 

「なんか綾のやつ、また暴走してないか?」

 

 

「皆さーん」

 

 しのと峻が私達の所へやってきた。

 

「終わったみたいだな」

 

「はい!」

 

「まあ…」( ´-ᴗ-ก)ポリポリ

 

「シュン!」

 

「?どしたカレン」

 

「私、応援してマスヨ!」

 

「!!な、何の話だよ…!」(*`^´)

 

 カレンは峻を応援する事にしたのね…。

 

 なんていじらしいの!。・゚・(ノД`)・゚・。

 

 

「あ、そうです。峻君」

 

「なんだしの」

 

「私、まだ峻君に謝ってませんでした。むしろ私が謝るべきでしたのに…。すみませんでした」

 

「いっいや、いいから。俺もう気にしてないから」

 

「……ありがとうございます。それでなんですが、私がなんで峻君にあんな事をしたのか、本当の理由がわかりました」

 

「本当の理由?」

 

 

「はい。私は…峻君がカレンに取られるのが嫌だったんです」

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 しのの言葉に私達全員は驚いた。

 

「峻君がカレンにキスされた時、峻君が遠くに行ってしまうかのような感覚になり、それが私は嫌でして…」

 

 し、しの!!貴方そんな、こんなに大勢のいる前で!峻なんか顔全体を赤くさせてるわ!

 

「あがががががががが…!!」(((( |||゚Д゚))))

 

 ん?ああっ!?こっちはアリスが青い顔して震えているわ!まさか今度はアリスを何とかしないといけないの!?

 

「峻君、私わかったんです。私にとって峻君はかけがえのない…」

 

「いや、まっ、ちょっ!!」٩(//Д//)۶

 

 

 

「とても大切な"お友達"だということを!!」

 

 

 

「……………………………………………うん?」

 

 しのと陽子以外のその場の全員にギャグ漫画みたいな線で出来た影が体から伸びたような気がした。

 

「峻君がこの先、誰と知り合い、仲良くなっても、私との"友情"はずっと永遠なのですよ!」

 

「なんだよ〜っ。しのはそんな事心配してたのか〜?」

 

 しの以外で唯一空気の読めていない陽子がしのに語りかけた。

 

「私達の友情がそんな脆いわけないだろー?私は勿論、峻だってしのと友達なのは変わらないって!綾とアリス、そしてカレンだってな!」

 

「そうですよね!」

 

 アハハとしのと陽子は笑いあっていた。

 

 その一方で…。

 

「シュン…、元気出すデス…」

 

「やっぱり、無謀だったかしら…」

 

「…………」(¯―¯٥)

 

「」チ──(=言=|||)──ン

 

 カレンは峻を励ましていて、私は峻を哀れみ、アリスは無言で峻を何とも言えない感じで見ていた。

 

 一先ずこうして、しのと峻の喧嘩は収まったのでした。

 

 ……次、頑張んなさい、峻…。

 

 ~綾Side、OFF~

 

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

 とある休み時間。

 

「神算鬼謀」

 

「馬耳東風」

 

「ん?アリス、カレン、何やってんだ?」

 

「四字熟語の言い合いっこしてたデス!」

 

「ほう。で、そこの二人は何で落ち込んでいるんだ?」

 

 下の方を見ると、しのと陽子が地面に突っ伏していた。

 

「日本人としての意地を見せようとしたら、あえなく撃沈したらしいわ」

 

 二人の代わりに綾が答えた。

 

「成程。なんだ、「焼肉定食」とか「平安時代」とでも答えて、アリスとカレンに余裕の微笑みで笑われたのか?」

 

「なんでわかるんだよ!!」(T□T)=3

 

「峻君、後は頼みます!」

 

「なんで俺なんだよ…」

 

 とりあえず、頼まれたから何か答えよう。

 

「えーと…、てゆーか、自業自得?てゆーか、優柔不断?てゆーか、千客万来?」

 

「ちょっとちょっと、何その「てゆーか」って?」

 

「いや、こうやって四字熟語言うキャラがいたもんだから、つい」

 

 

 

 次の休み時間。

 

「てゆーか、気炎万丈?」(◍•ᴗ•◍)

 

「テユーカァ、一騎当千?」( 。ò∀ó。 )

 

「てゆーか、南蛮定食?」(≧▽≦)

 

「てゆーか、戦国時代?」(๑´▽`๑)

 

「流行っちゃったじゃないのよ!!」ヽ(`Д´)ノ=3

 

「すんません」(´∂ω∂`)☆テヘッ

 

 ~See you, next time!~




とりあえず、仲直りはしました!
初のほぼオリジナルいかがだったでしょうか。
どこかおかしい所や、「は?」ってなる所あったりしなかったでしょうか。
私なりに上手く収めたつもりではありましたけど
峻「」チ──(=言=|||)──ン
あ、収まってなかった(笑)


前回の、答え合わせを少し。

[忍が向けてた視線]

カレン遭遇時→カレン

峻がカレンに抱きつかれてから、
アリスに声を掛けられるまで  →峻

学校に向かう最中→カレン(金髪に夢中)

カレンが峻にチュー→峻

こんな感じです。


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第8話~どんなともだちできるかな~

アニメ第3話分、ラストです。


『そっかぁ。じゃあそのお友達とは、仲直りできたんだね!』

 

「ああ。お前にも世話になった。ありがとな」

 

 しのとの一件が済み、家に帰って来ていた俺は今、携帯で、穂乃花とこんな感じのやり取りをしていた。

 

 相談にのってもらっていたので、穂乃花には伝えとこうと思っていたのだが、今日はバイトの日じゃなかったし、学校で話すと怪しまれてバイト先があいつらにバレる可能性があったので、家に帰ってきてから携帯で伝えることになった。

 

 因みに穂乃花ん家の電話番号を俺が知っているのは、バイト先に連絡したりする時の為である。

 

「今度、お礼に何かお返しするよ」

 

『そんないいよ、お礼だなんて。私は特に大した事何もしてないよ?』

 

「いや、あの時穂乃花が話を聞いてくれて、俺結構気持ちが救われたんだぜ?」

 

 今回の事は綾とアリス、そして穂乃花のおかげで仲直り出来たようなもんだ。きっちりお礼はしたい。

 

 綾とアリスには、学校の帰りに人気店のスイーツをご馳走した。結構な値段だったが、これぐらい安いもんだ。

 

『でも……、あっ。それなら峻君、今度は私の相談にのってくれないかな』

 

「ん?俺でよければ。なんだ?」

 

『九条カレンちゃんの事でなんだけど…』

 

「カレン?ああ、そういえばあいつお前のクラスに入ったんだっけな」

 

 カレンが転校してきた日にバイトが終わった後、穂乃花にカレンがクラスに入った事について聞こうと思っていたんだが、例の騒動で聞けないままだったのだ。

 

「カレンがどうかしたか?」

 

『それがね、私あの子と隣の席同士になって…』

 

「ほー、そらよかったな。お前の念願の金髪少女だぞ」

 

『その言い方、なんだか語弊があるよ!?』

 

「それで?どうした」

 

『…せっかく隣になれたんだから、仲良くなりたいと思ってるんだけど、上手く出来ないというか…』

 

「なんで?あいつ俺のとある友人と違って、人見知りする様なタイプじゃないぞ?」

 

『峻君の友人さんの突然のディスりについては置いといて…、なんだか緊張するというか、話しかけられないというか…』

 

「普通に休み時間、話してみろよ」

 

『でもカレンちゃん、休み時間とかお昼休み、どこかへ言っちゃってるし…』

 

「……あぁ……」

 

 そういえばあいつ、俺達というかアリスに会いに俺達のクラスにばっか来てたなあ。

 

「なあ、あいつお前のクラスの他の誰かとは交流してるのか?」

 

『ううん。皆も緊張してたり、話しかけるタイミングをなくしてるのかも』

 

 うーん。それ、あいつ自身にも問題があるなあ。

 

「わかった。明日カレンとちょっと話してみるよ」

 

『ありがとう!ごめんね峻君、わざわざ』

 

「気にすんな。じゃなー」

 

 俺は穂乃花との通話を終えて、明日の支度をした。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 翌日。

 

 午前の授業が終わり、お昼休みになってカレンが来たので、俺はカレンに昨日の穂乃花との話をカレンに話そうと思ったのだが、

 

「実は、クラスの子と仲良くしたいケド、うまく出来ないのデス」

 

 カレンの方からこんな悩みを打ち明けだした。

 

 カレン本人も困っていたらしい。

 

「転校生の辛い所だな」

 

「外国の方ってだけで話しかけづらいのかもです。カレンはハーフですけど、見た目は外国人オーラがバンバン出てますし」

 

 しのがカレンにそう告げる。

 

「ああ。昨日、A組にいる俺の知り合いの奴もそんな事言ってた」

 

「やはり!きっとカレンは皆さんには、動物に例えると鹿の群れにライオンがいるみたいで──……に…逃げなきゃ…」

 

「しの、その例えは間違ってる!」

 

 自分で言って勝手に怯えだしたしのを綾が宥めた。

 

「アレ?今シノが、カレンは外国人オーラで話しかけづらいって言ってたけど、それならわたしは?」

 

 先程のしのの話にアリスが疑問を感じた。

 

「アリスにもそういうオーラがあると思うが、それを気にしなくなる何かを皆、感じ取ってるんだよ」

 

「何かって何?」

 

「え」

 

 小動物とか妹って言ったら、きっとふてくされてしまう。

 

「えーと…?ほら、あの…あれだ、その……、話しかけていいよオーラ?」

 

「話しかけていいよオーラって何!?」

 

「アリス!そのオーラの出し方、私にも教えて欲しいデス!」

 

「わたし、そんなの出してる覚えないよ!」

 

 

「あ!そういえば」

 

「しの?」

 

「峻君と綾ちゃんは転校経験者なんですよ」

 

「あー。峻が小3の時で、綾が中1の時にこっちに引っ越してきたんだよな」

 

「ああ」

 

「う、うん…」

 

 陽子の問いかけに俺と綾は頷いた。

 

「oh!先輩デス!クラスの子と仲良くなるアドバイス、お願いしマス!」

 

 カレンが交流方法を「ゼヒー!」と俺達二人に求めてきた。

 

「つっても俺、転入する前にしの達と知り合ってたから、どう交流すればいいかとか分かんねえぞ?陽子達との会話の流れとかで、他の奴とも話したし。…という訳で綾、頼んだ」

 

「丸投げ!?…えーと、そ…そうね。一番大事なのは…」

 

 俺の投げやりに戸惑いつつ、綾はカレンお願いに答えようとした。

 

「…空気を読むこと」

 

「……あー…」

 

「カザミドリデスね!明日持ってきマス!」

 

「風じゃないわ、空気よ!」

 

「どうやって持って来んだ。てゆーか、なんで持ってんだ」

 

 あのマンションの何処に取り付けるんだ?

 

「でも空気を読む、か。なるほど、お前が言うと説得力あるな」

 

「シュンがそう言うってことは、アヤって空気凄く読めてたの?」

 

「いや、ああしてはいけないというお手本だったな」

 

「反面教師の方!?」Σ( ̄ロ ̄〣)

 

「転入してきたばかりの頃のあいつは終始緊張しっぱなしで、しの達の気遣いにも遠慮がちで却って距離作っちまってたんだよなあ」

 

「ゔっ。ふ、古傷が…」(_ _〣)

 

「なんかアヤが突然青ざめて震えだしたよ!?」

 

「綾ちゃん、どうしたんですか!?」

 

「あー、トラウマスイッチ入っちまったか」

 

 綾のメンドくさいモードの数ある中の一つだ。なんで幾つもあるんだよ。せめて一つにしてくれや。

 

 この後、綾が元に戻るのに3分掛かった。

 

 

 

「ごめんなさい、全然参考にならなくて」

 

「そんな事ねえよ。お前の身を削った無様な教訓はカレン達にも伝わったって」

 

「慰めてるのか、おちょくってるのか、どっちなのよ!!」

 

 綾の叱咤を受け流しつつ、俺たちは綾の転入の時の話を続けた。

 

「それであの後、陽子ちゃんが無理やり校内案内に引っ張って行ったんですよね?」

 

 しのの言う通り、転入して間もない時、孤独の道を進みかけた綾を救ったのは他でもない陽子だった。

 

 綾が(本人の意思とは別に)作ってしまった心の壁に他の人が躊躇して話しかけられなかった中、それをものともせずに陽子は綾に近づき話しかけ、綾の手を引いて学校案内をした。それはもう、まるで何処かの国の白馬に乗った王子が不幸な姫をかっ攫うかの如く。

 

 それから綾は陽子と仲良くなり、しのや周りの人達とも打ち解けるようになった。

 

「そうそう。学校に慣れるまで、ずっと私の側に居てさ」

 

「傍から見るとカルガモみてぇだった。確かお前ら、学校の帰りの途中までも一緒にいたよな?」

 

「そうなんだよ。それで綾のやつ、帰り道で別れると私の方凄く寂しそうに見つめてたし!何かもう捨てられた子犬状態で!」

 

「嘘よ!デタラメ言わないでっ!!」(*`Д´*)=3

 

 俺と陽子が綾との昔話で「アッハッハ」と談笑していると、綾が顔を真っ赤っかにさせて否定してきた。

 

「えーっ、本当だろ?なあ峻」

 

「ああ。あ、そういえばその間も無い時に陽子が風邪ひいて休んだ時に綾、この世の終わりみたいな顔をして…」

 

「わーっ!!わーっ!!黙らっしゃい!!」

 

「え?何?"黙らっしゃい"?呼び込みでもしてるの?お店でも始めたの?」

 

「ち、違うわ!!黙らっしゃいは客を追っ払う呼びかけよ!!」

 

「何の対抗してるんだお前は」

 

 俺の弄りに綾が変な抵抗を見せ、陽子が冷静にツッコんだ。

 

 

「あ。でも綾ちゃん、確かあの頃は峻君とは中々話す事が出来ませんでしたよね」

 

「ぎくっ」

 

 しのの今の一言に俺はちょっと嫌な予感がした。

 

「そうそう。綾、男子相手だと余計に緊張してたからなあ。峻が一緒の時は目も合わせること出来なかったよな」

 

 うん、そこまではいい。この話はそこまでで…。

 

「じゃあ、二人はどうやって仲良くなったの?」

 

 アリスうぅぅぅぅぅぅうっ!!悪気は無いんだろうけどっ!!

 

「あー、なんか一ヶ月ぐらいした頃急に綾、峻と普通に喋るようになったんだよなー。なんかあったのか?」

 

 陽子!お前もちょっと待て!!

 

 俺が慌てふためいていて、ふと横を見ると、綾がさっきの反撃をすると言わんばかりにニヤついた顔をしていた。おいバカちょやめ…!!

 

「ああ、それはね。私が日直の当番で朝早く学校に来た日に、同じく当番で先に登校していた峻が使われなくなった旧音楽室で告白の台詞を練習して」

 

「あ"あ"あ"あ"あ"っっ!!!!お黙らっしゃい!!」

 

「あら、峻も"黙らっしゃい"を使うのね」(¬ ͜ ¬)

 

「"黙らっしゃい"じゃねえ!"お黙らっしゃい"だっ!俺が今働いてるバイト先の挨拶じゃあ!!」

 

「嫌な挨拶ね(笑)」

 

「うっせえ!お黙らっしゃい!!」(*`Д´)ノ

 

「あんたの方こそ、黙らっしゃい!!」ヽ(`Д´)ノ

 

「峻君、告白の練習って何の告白だったんですか?」

 

「しのにだけは絶対言わん!!」

 

「ガーン!!」Σ( ꒪д꒪ lll)

 

「あ、ちょっ!違くて!」(;゜Д゜)

 

「あーあ。峻がしのを虐めた〜」( ¯▽¯ )

 

「うるせえ陽子!!」

 

「皆さん、仲良しさんデスネ〜」

 

「あははは…」

 

 俺達のやり取りにカレンはしみじみと感想を述べながら、苦笑いしているアリスと一緒に見ていた。

 

 

 

「ま、ようするにだ。空気読めない奴に空気読めない奴をぶつけたのが良かったって事だ」

 

「ひでえ言い草だ!!」

 

 俺はとりあえず、綾の転校時の話に戻して結論づけた。陽子が何か言っているがまあ無視しても問題ないだろう。

 

「まあ綾の言う通り、できるだけでも空気は読めた方がいいかもな」

 

「ナルホド!私、空気をバッチリ読んでみせるデース!」

 

「いや多分もう手遅れだよ」

 

「What's!?ナゼ!?」Σ(゜Д゜ノ)ノ

 

「隣のクラスの知り合いがこうも言ってたぞ。休憩時間やお昼休みに自分のクラスでお前の姿が見えないって」

 

「それってカレン、わたし達の教室にばっかきてるって事じゃない!」

 

「オーマイガーッ!!」ガ━∑( ̄□ ̄;)━ン!!

 

「全然読めてないわね…」

 

「話す以前の問題だったか…」

 

「転校初日に転校生に質問して話すきっかけを作るというチャンスを失っちまってた訳だ。クラスのやつもお前も」

 

「うう〜っ……」

 

 俺から聞いた事実にカレンはショックを受けていた。

 

「まあ、それで全く話せないって訳じゃあない。さっきしのが言ってた通り、お前が外国人だから距離感がまだ掴めてないってだけかもしんないぞ」

 

「そうだよ。諦めるには早いぞ!私達もいい案考えてみるから。な、皆?」

 

「ええ」

 

「カレン、頑張って!」

 

「ファイトです!」

 

「うう、アリス…。皆さん、アリガトデ〜ス!」

 

 そろそろ掃除の時間になるので、この話はひとまず終わりにして、俺達は残った弁当を食べた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「あ、穂乃花」

 

「え?あ!峻君」

 

 掃除が終わり、五時限目の授業まで廊下を歩き暇を持て余していると、穂乃花が柱の影に居たのを見かけた。

 

「お前何してんだこんな所で」

 

「あはは、その、カレンちゃんが」

 

 穂乃花が指を指す方にアリスと話してるカレンが居た。

 

「あ、そうだ。カレンもクラスのやつと話せなくて困ってたらしいぞ」

 

「え?そうなの?」

 

「あいつも皆に話して欲しいって。会話に混ざってきたらどうだ?友達になれるきっかけになるかもしれんぞ」

 

「えええ!?そ、そんな私ごときがあの中に混ざるなんて分不相応過ぎるよ〜!それに…」

 

「それに?」

 

「二人とも、英語で喋ってるし…」

 

「……あー…」

 

 どうやらアリスとカレンは二人で喋る時は英語らしい。

 

「凄い有名人オーラみたいなのを感じるよ〜!」

 

「まあ、分からんでもない」

 

 それで隠れてたわけか。

 

 カレンのやつ、かえって話せなくしてないか?

 

「きっと私達みたいな下々の者には理解出来ないような高貴な話をしているんだろうな〜」

 

「お前はあいつらをなんだと思ってるんだ」

 

 いや、カレンは確かにお嬢様だが。

 

 それにしても、こりゃカレン自身が何とかしないと話せないかもしれないなぁ。

 

 因みにあいつらの会話(主にカレン)から「たこ焼き」とか「たい焼き」とかって単語が聞こえた気がしたから多分そんな大した話はしていないと思う。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「それでアリスったら、恥ずかしがって私と一緒にお風呂に入ってくれないんですよ。どうしたらいいですかね?」

 

「そういう話は俺じゃなくて、綾か陽子とかに聞いてくれ」

 

 そんな話をしながら、俺はしのと中庭に繋がっている渡り廊下を歩いていた。

 

「あ、カレンです!」

 

「お?ホントだ」

 

 するとしのが中庭のベンチでカレンが一人で座っているのを見つけた。

 何やら手鏡を持って、自分の顔をいじっていたようだった。

 

「おーい、カレン」

 

「!シュン、シノ」

 

「何してるんですか?」

 

「顔のマッサージか?」

 

「イエ、ツリ目だから話しかけ辛いのかナーって」

 

「なんだそりゃ」

 

 カレンから話を聞くと、しのや烏丸先生とかが周りの人からよく話しかけられてるのを見て、二人共タレ目で、ほわほわふわふわしてるから話しかけられやすいと思い、自分はそうじゃないから話しかけられないんじゃないかと思ったのだとか。

 

「シノは穏やかで話しかけやすい感じでいいデスねー」

 

「分かり合うには時間が掛かりますよ」

 

「持ってないもんに嘆くより、カレンの持ってるもんでどうにかしたらどうだ?」

 

「それです峻君!カレンは笑顔がとっても素敵!その笑顔をどんどん振りまいてみましょう!スマイル0円!」

 

「ファストフードか!でも、悪くないかもな」

 

「友達100人も夢じゃないですよ!」

 

「シノ……!」

 

 しのの言葉にカレンは感銘を受けていた。

 

「…えへ。皆、優しくて大好きだケド、シノは特別な感じするデス」

 

「!?」Σ(-д-!!)

 

「えー、テレますねぇ」(*´꒳`*)

 

 カレンの言葉に俺は動揺していた。

 

 お、おい、ま、まさかアリスに続いてカレンまでもがしのの事を……!?

 

 そんな風に俺が思っていると、

 

「あ、ソーユー意味ではないデスので、シュン、心配は無用デスヨ?」

 

 カレンがニヤニヤと笑いながら、俺にそう言ってきた。

 

「なっ!!べ、別に俺は変な心配なんかしてねぇって!!そんな心配してたのは、そこの茂みで隠れてたやつだけだって!!」

 

「バレてた!?」Σ(□`;)

 

「アリス!?」

 

 カレンが変な事を言ってきたので、向こうの茂みで盗み聞きしてたアリスに話の方向を逸らした。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 あの後、陽子と綾と合流し、俺達は渡り廊下に戻って歩いていた。

 

「カレンは部活、入らないの?」

 

 陽子が不意にカレンにそう聞いた。

 

「ブカツデスカー」

 

「部活で交流を深めるって手も有りかもなー」

 

「アリスや皆はどこかに入ってマスか?」

 

「いやー、生憎…」

 

「私達は帰宅部…」

 

「シノぶだよ!」

 

 俺としのが申し訳なく言っていると突然アリスがそう叫んだ。

 

「どうしたアリス。突然しのの本名言って」

 

「違うよ!シノ"部"!!」

 

 ああ、そういう事ね。ややこしいな。

 

「えっ、何それ!?」

 

 アリスの言葉に、綾が疑問を抱いた。

 

 冷静に考えたら確かに、なんだ『シノ部』って。

 

「シノとお話したり、お弁当食べたりする部活だよ」

 

「えっと…つまりファンクラブ?」

 

 てゆーかそれ、ただのいつもの俺らじゃね?

 

「わぁーっ。私も入りタイ〜」

 

「部長はわたしだからね!!」

 

 カレンとアリスが変な争い(?)を始めた。

 よし、俺も乗っかってやろう。

 

「じゃあ俺は"団長"な」

 

「部長よりも役職が上っぽいんだけど!?」

 

「じゃあ私は"将軍"ー!!」

 

「更に上!?」

 

 陽子も乗っかって来た。

 

「陽子に将軍は似合わないわ。せいぜい草履取りだわ」

 

「それ殆どパシりじゃねーか!!」

 

「いいじゃねえか。ゆくゆくは出世するぞ(陽子)

 

「おいこら!!今、猿って書いて陽子って読まなかったか!?」

 

「アリス、シノ部では私はどういう立場になるんでしょうか?」

 

 しのがアリスに質問をした。

 

「それはやっぱり、部で一番崇めるべき存在だから誰よりも、わたしよりも上だよ!えーと、部長よりも団長よりも将軍よりも上の、う〜ん…そうだ!シノは世界の支配者だよ!」

 

「なんだか悪役っぽくないですかそれ!?」Σ(-д-!!)

 

「フフフ…!」

 

「ん?どうしたカレン」

 

 カレンは俺達のやり取りを見て笑っていた。

 

「何か元気が出てきまシタ!今日はクラスの皆に、思い切って話しかけてみるデス!きっと、仲良くなれると思うデス!」

 

「カレン…!」

 

「そうか」

 

「頑張って!」

 

「はいデス!」

 

 そう言ってカレンは、自分の教室の方へと向かって行った。

 

「カレンならきっと、すぐクラスに馴染めるよな!」

 

「ああ。あれならもう、何の心配もいらないと俺は思うぜ、猿」

 

「うん、私も同意見…っておい!!もう、直球で「猿」って言ってんじゃねーか!!」

 

 陽子の叫びが中庭にこだました。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 今日一日の授業が終わり、HRも終わろうとしていた時。

 

「ハイハイハイ!!」

 

「ん?なんだ?」

 

「大丈夫デス、丸腰でゴザル!!」

 

 隣のA組から、カレンの声が聞こえてきた。

 

 

「私はイギリスから来ましたケド、みんなと同じ高校生デス。みんなと仲良くなりたいデス!お気軽に話してくだサイ!私もがんばるデス!」

 

 

 そんなカレンのスピーチが聞こえ、隣のクラスは少々静かになったと思ったら、拍手の音が聞こえてきて、だんだんと大きくなっていった。

 そして、A組の皆がカレンを称賛する声が聞こえてきた。

 

 どうやらカレンの作戦は、上手くいったようだ。

 

「うわー!やるなー!」

 

「ええ!」

 

 陽子と綾もカレンを称賛した。

 

「カレンってすごいですね〜」

 

「!うん!凄いんだよ、カレンは!」

 

「ん?アリス、嬉しそうだな?」

 

「えへへ、実はしのがホームステイに来た頃、その前日に緊張してたわたしに、カレンが『言葉が通じなくても、心は通じる』って言ってくれた時の事を思い出しちゃって…!」

 

「……そっか。すげーな、カレンは」

 

「うん!」

 

 アリスの返事に俺は満足気に笑った。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 放課後になり、俺達は下駄箱の所でカレンを待っていた。

 

「カレンちゃん、バイバーイ」

 

「また明日ー」

 

 カレンがA組の女子生徒達と手を振りながら別れ、こっちにやってきた。

 

「みんな話しかけてくれまシター!よかったデスー」

 

「よかったなー!」

 

「カレンは昔からハッキリした性格なんだよ。でもそこがカレンの良い所で、好きな所だよー!」

 

 アリスは誇らしげにそう言った。

 

「ありがとー!私もアリス、大スキ!」

 

 カレンはそう言って、嬉しそうにアリスに抱きついた。

 

「もちろんシノも、大大大スキー♡」

 

 今度はしのに抱きついた。なんでや。

 

「えぇーっ!ハッキリしすぎー!!」

 

 アリスは困惑した。

 しのはご満悦してた。

 

「こらカレン、あんまりアリスをからかうな」

 

 俺はカレンに注意を促した。

 

「シュンにもハグ、してあげまショーカ?」(・ω<)-☆

 

「色んな意味でやめてくれ」

 

 しのの前なのは勿論、ここは今下校する生徒でいっぱいだから、色んな人に変な目で見られてしまう。

 いや、だからって誰もいなかったら抱きついてもいいって訳でも無いのだが。

 

 

「(ん?あれは…)」

 

 俺は向こうの方で、穂乃花が少し距離がある所からこちら側を覗いているのを見つけた。

 

 ……ったく。

 

 俺は携帯で穂乃花にメールで文章を送った。

 

 穂乃花はメールに気づき、携帯を取り出して画面を見た。

 

 

『大丈夫だ。

 なんの心配も要らねえから

 勇気だしてみろ。

           by峻』

 

 

 俺が送った文章はこうだ。

 

 ちょっと余計なお世話だったかな?

 

 携帯を見た後、穂乃花は意を決したかのようにこちらに、カレンに近付いてきた。

 

「あの、カレンちゃん」

 

「ん?」

 

「……バイバイ!」

 

 穂乃花はおずおずとした感じで挨拶をして、

 

「!〜〜!バイバーイ!また明日ー!」

 

 カレンは一段と嬉しそうにして、挨拶を返した。

 

 それに穂乃花は笑顔になり、手を振って去っていった。

 

「カレン、なんかやけに嬉しそうだったな?」

 

 陽子がカレンに聞いていた。

 

「あの子……ホノカとは席が隣同士だったカラ、仲良くなりたかったデス!」

 

「へー!」

 

 ……だってさ。よかったな、穂乃花。

 

 ピロンッ

 

「ん?メール?」

 

 携帯を取り出して開くと、穂乃花からメールが来ていた。

 

 

『ありがとう。

         穂乃花』

 

 

 ……だーから俺は、なにもしてねえっつーの。

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

 カレンがA組の皆と打ち解けてから数日経過したある日のバイトの日。

 

「それでね?カレンちゃんと一緒にファッション雑誌を読んだりしたんだー♪」

 

「そら、よかったな」

 

 俺は穂乃花と店の掃除をしながら、穂乃花からカレンとの話を聞かされていた。

 

 よっぽど嬉しかったのだろう、穂乃花は凄く生き生きと俺に話していた。

 

 それは構わないのだがただ…。

 

「それでカレンちゃんがカレンちゃんでカレンちゃんはカレンちゃんのカレンちゃんにカレンちゃんと……!」

 

 ………俺の耳にタコ…、いや、クラーケンが出来ちまいそうだったわ。

 

 ~See you, next time!~




えー、これでストックがなくなってしまったので、更新は暫くないと思います。
なるべく早く続きを投稿したいとは思ってはいますが、どうか気長にお待ち下さい。

それでは、また!


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第9話~おたんじょうびの灯火~

お待ちどうさまです。一先ず出来たので投稿します。

いつもよりサービスでちょっと長くなっています。

嘘です。ちょいオリジナル展開と、キャラが勝手に喋りだした為長くなってしまっただけです(笑)


 6月に入り、制服も夏服になったばかりのとある日の朝。

 

 本日、6月6日はしのの誕生日なのである。

 

 俺は誕生日プレゼントを用意し、いつもの様にしのの家の前でしの達を待っていた。まあ、渡すのは学校に着いてからだけど。

 

 因みにプレゼントを渡して告白なんて事はしない。今そんな事をしたら確実にアリスに嫌われる。

 

 誰だ今、根性無しのヘタレとか言った奴は。どうせ成功する自信がねえだけだろとか言った奴は。

 

 違う。あのな、今の俺はアリスにも嫌われるのが嫌になっているんだ。アリスに嫌われるという事は今の俺にとっては、兄が反抗期になった妹に「キモッ」って言われるのと同じ感覚になっているんだ。アリスはそんな事絶対言わねえけど。

 

 え?何?じゃあお前、これからしのの事どうする気なんだって?ハッハッハッハッ……俺もわからん…。

 

 

 そんな事を考えているとしのの家の玄関が開いて、アリスとしのが出てきた。

 

「シュン、おはよう」

 

 アリスも夏服に衣替えしていて、制服時はいつも着ていたピンクのブランケットはさすがに着ていなかった。

 

「おうアリス、おはよう。しのもおは…」

 

 アリスに挨拶をして、しのにも挨拶をしようとしたら、何やらしのは落ち込んでいる様子だった。

 

「ど、どうしたしの?何かあったのか?」

 

「……峻君、私……」

 

「うん?」

 

「36歳に見えますか!?」

 

「………は?」

 

 いったい何を言っているんだこいつは。

 

「…大人っぽく見られたいってことか?」

 

「違います!確かに大人に見られたいと思う事はない事もないですが、そこまで老けて見られたくはないです!」

 

 ふむ、なんとか理由をひねり出してみたが違ったか。

 じゃあなんでしのはあんな質問を投げかけてきたのか。

 

 

 理由を聞いてみたら、なんでもしののお姉さんの勇さんに、今日誕生日だったよね?って聞かれた後、確か今年で36歳だったわよね?って言われたらしい。しかもプレゼントに盆栽を用意してあげるとかも言われたとか。

 

 んー、勇さんはいつもの様にしのをからかっているだけなんだろうけど、36歳はひどいわ。

 

「それで、どうですか峻君。峻君は私の見た目、何歳ぐらいに見えますか?」

 

 その質問、まだ続くのか。

 でも、本人は気にしてるみたいだし答えてやらないと。

 

「いや、普通に年相応だと思うぞ。だってお前こんなにカワ……」

 

「?"カワ"?」

 

「カ……カ……、川で遊びまわってそうだからな!!」

 

「私、そんなにやんちゃでもないですよ!?」

 

 危うく普通にしのに「可愛い」って言いそうになった。よくよく考えてみたら、いきなり男子からこんな事言われたらそれこそキモいからな。うん。俺は判断を間違っていなかった。

 

 だからそこ、「あ、ヘタレやがったなコイツ」とか思わないように。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「オハヨウゴジャイマス〜♪」

 

 学校に着いて、しのはトイレに行ったので、アリスと二人で教室に向かっていると、廊下でカレンからこんな風に挨拶された。

 因みにカレンは袖無しのフード付きパーカーを身につけていたが、黒一色で冬服の時とは違ってユニオンジャックの柄は付いていなかった。

 

「カレンったら、それわざと言ってるでしょ」

 

 アリスがカレンの挨拶に注意をしていると、

 

「カレンちゃん、オハヨーゴジャイマス」

 

「ゴジャイマース」

 

 穂乃花やA組の生徒達がカレンを真似て、そう挨拶をしていた。

 

「って、うわあっ!A組で流行っちゃってる…!」

 

「私が流行らせたデス!」( ー̀֊ー́ )ドャ

 

 カレンはドヤりながら得意気にそう言った。

 こないだやっとクラスに馴染んだばかりだったってのに、凄い影響力だなおい。

 

 A組の様子にアリスは困惑していた。

 

「もーっ。変な日本語広めてー」

 

「まあいいじゃねえか。カレンもそんだけクラスに馴染んだって事なんだから」

 

「駄目だよ!こういうのは、クセになっちゃうんだからねー!」

 

 アリスを宥めてみたが、アリスはアリスで譲れないものがあるみたいだ。

 

「おはよーみんなー」

 

 向こうから烏丸先生が歩いてやってきた。

 

 アリスは先生の方を向いた。

 

「あっ。先生、オハヨウゴジャイマス!」

 

「「あっ」」

 

「?」

 

 アリスはつられてそう言ってしまった。

 

 

 

 俺とアリスは、カレンと一緒に自分のクラスのB組の教室に入った。

 

「おはー」

 

 先に来ていた陽子と綾に俺が声をかけると、

 

「皆様、お早う御座います!」

 

 アリスがキリッとした表情で丁寧に二人に挨拶をした。

 

「おっはよ〜!」

 

「おはよ…どうしたの?なんか堅苦しいわね」

 

 陽子と綾の返事にアリスはやや不満気だった。

 どうやらアリスはちゃんとした日本語の挨拶を聞きたいらしい。

 

 すると、しのがトイレから戻ってきた。

 

「おはようございます、アリス」

 

 しのはアリスに挨拶をした。

 

「いや、お前はもう家で挨拶したんじゃ…」

 

「美しい日本語ー!」

 

 俺がツッコミきる前に、アリスが涙を流しながら嬉しそうにしのに抱きついた。

 

 ……まあ、アリスがいいんならいいか。

 

「何あれ」

 

「アリスはゴジャイマス否定派なんデスヨ〜」

 

 カレンは不満気で陽子にブーたれていた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「しの、お誕生日おめでとう。今日でしょ?」

 

「はい!」

 

「これ、プレゼント。参考書」

 

 綾がしのにプレゼントを渡した。

 

「ありがとうございます!」

 

「マジかー。そろそろだとは思ってたけど」

 

 陽子は忘れていた様だった。

 

「ほんじゃー、ジュースあげるよ」

 

 そう言って陽子はさっき買ったジュースをしのにやった。

 

「ありがとうございます!」

 

「……まあ忘れてたんだしな…」

 

 少々思うところがあるが、しのがいいんなら良しとしよう。

 さて、俺もしのにプレゼントを……ん?

 

「うーん…」

 

 アリスが何やら唸りながら悩んでいた。

 

「どうしたアリス」

 

「わたし、今日がシノの誕生日だって知らなかったから、プレゼント用意してなかったんだよ〜」

 

「あー、そうか。すまん、言ってなかった」

 

「ううん、気にしなくていいよ。……そうだ!」

 

 アリスは何か思いついたのか、教卓の前に立った。

 

「シノ、わたし何もあげられるもの無いから、歌を歌うよ」

 

「わあっ、歌を?」

 

 アリスが歌を歌い始めた。

 

「た〜んじょーび、あ〜なた〜♪た〜んじょーび、あ〜なた〜、シノ♪た〜んじょーび、あ〜なた〜♪た〜んじょーび、あ〜なた〜、シノ♪……」

 

「……なんの歌?」

 

「誕生日…、あなた…、バースデー…、ユウ…。……音は違うけど、まさか…」

 

「あの歌の和訳だな」

 

「どうして英語で歌ってくれないんですか!?」

 

 しのはアリスの和訳バースデーソングをお気に召さなかったようだ。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「私って何歳くらいに見えますか?」

 

 アリスの独唱会が終わった後チャイムが鳴り、授業が始まりそして終わった後の休み時間。俺が何かを忘れているような気がして考えていると、しのが綾と陽子にそんな質問をしているのが聞こえてきた。

 朝の話、まだ気にしてたのか。

 

「?高校生でしょ」

 

「見た目年齢の話です。制服を着てると思っちゃダメです」

 

 制服を着てると思わない……。いや違う違う違う!そういう意味で言ったんじゃないだろう、俺の阿呆!!

 

 俺がアホな煩悩にとらわれている間、綾と陽子はしのの見た目年齢について考えていた。

 

「最近まで中学生だったし…、14、5歳?」

 

「でも、案外30歳って言われても違和感ないかもなっ、あはっ」

 

 あっ。

 

「何かこう、落ち着き具合が…って、あれ!?」

 

 陽子の発言で、しのがこの世の終わりみたいな表情をし、抜け殻みたいになってしまった。

 

「ヨーコ、なんてことを!!」(ⅢºД)

 

「えっ、ほんの冗談のつもりだったんだけど…。何かマズかった!?」

 

「陽子、今のお前の発言は、今日のしののメンタルにはかなりダイレクトに来たんだ。よってお前に極刑を言い渡す」

 

「そこまで!?今日しのに、誕生日以外で何があったんだよっ!?」

 

「罰としてしのに、購買で人気No.1の焼きそばパンとNo.2のメロンパンを調達してきてお詫びをしろ。あとついでに、焼そばバ○ォーンお好みソース味も買ってこい。あの辛子マヨネーズのやつ俺好きなんだ」

 

「パンは買ってくるけど、なんでお前にバゴ○ーンを買わなきゃならないんだよ!!しかも、その味売ってんの東北と信越限定じゃなかったっけ!?」

 

「正月の里帰りに、東北の祖父母の家で久しぶりに食ったのが恋しくて…」

 

「祖父母に送って貰えっ!!」

 

 

 

「ダメですアリス、峻君、私はやっぱり若さが無いのです」

 

「そんなことないよシノ!」

 

「ほら見ろ、お前のせいでしのがしょぼくれちまったじゃねえか。早くバゴォ○ン買ってこい」

 

「だからそれはお前の要望だろうが!!」

 

「ねぇ、しのに何があったわけ?」

 

 

 俺はアリスと共に、今朝あった出来事を綾と陽子に話した。

 

 

「そんなことが…」

 

「盆栽はひどいなー」

 

「うう…」‪(;_;)

 

「でも盆栽ってすごく高価なんだよ!!うらやましいよ〜」

 

 アリスは盆栽にも興味があるらしい。

 

「盆栽なんてもらっても困りますよ〜。同じ植物なら、モミの木が欲しいです」

 

「モミの木ってどんなんだっけ?」

 

「ほら、クリスマスツリーで飾る…」

 

「ああ…」

 

「そんなもんもらってどうするんだ」

 

 陽子がしのにモミの木の用途を聞いた。

 

「だってそうしたら、毎日がクリスマスですよ!はああっ」

 

 しのはうっとりしながら、そう答えた。

 

「あー…なるほど…」

 

 陽子は呆れながら相槌をうった。

 

 ……植物?そういえば何か忘れてたような気が…。

 

 

「ところで、イサミも言ってたけど、若さが足りないってどういう意味?」

 

 俺が何かを思い出そうとしていたら、アリスが陽子に言葉の意味を聞いていた。

 

「えーとつまり、老けてるって意味だよ!」

 

「老けてないです!!」Σ( ̄ロ ̄Ⅲ)

 

「わたしは若さ、足りてるかなー」

 

「アリスは若いぞっ。とても高校生には見えない!」

 

「わーい!」⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

 

 陽子に言われた事にアリスは喜んでいた。

 

 アリス…今のは喜んだらダメなやつだったと思うぞ。

 

 

「喋り方のせいじゃないかしら。しのって誰にでも敬語でしょ」

 

 綾が原因と思われる案を出した。

 

「なるほど!では、もう少し崩して喋ってみます!女子高生っぽく!」

 

 しのは綾の意見を採用した。

 

「エッフェル塔の高さって知ってるう?324mなんだってぇ。うっそー、まじでぇ!?みたいなー」

 

 しのは自身の髪をくるくるさせながら、砕けた喋り方を披露した。

 

 …………。

 

「何か違う…」

 

「こんなしのは嫌だ」

 

「勇姉の方がよっぽど女子高生っぽいぞ。女子高生だけど」

 

 喋り方作戦は失敗した。

 

 

 それから話は、女子高生らしい勇さんを見習ってみたらいいのではという事になった。

 

「でも姉妹なのにホント、しのと勇さんってあんま似てないよな。せいぜい、黒髪ぐらいか?」

 

「それ、ほぼ全ての日本人に当てはまる項目じゃない」

 

「じゃあ、他には……」

 

「あ!こんなのはどうかな?」

 

 陽子が何かを思いついたらしい。

 

「勇姉と同じ血を引いてるんだから、しのにもモデルの素質あるかも」

 

「ほー、一理あるかも」

 

「ですが、お姉ちゃんは母親似、私は父親似で…」

 

 しのはそう言うが、しのもしののお母さんに顔立ちが似てる所あると俺は思う。俺もさっきはああ言ったものの。

 

「よしっ、とりあえず写真を撮ってみよう!」

 

「そうね。しの、ちょっとここに座って」

 

「あ、はい」

 

 そんなわけで、しのにモデルの素質があるか調べるため、写真を撮ることになった。

 

 しのは綾に促されて用意された椅子に、

 

「どっこいしょ」

 

 と言いながら座った。…………って………。

 

「ん?何か?」

 

 しのを除いたその場の全員に、気まずい感情が生じていた…。

 男子がふざけて言うのとかならまだしも、しの、それはお前……。

 

 

 もうそれは置いといて、とりあえず写真を撮ろう。

 

「でも写真を撮るんなら、水着にならないと」

 

「ぶっ!!」

 

 陽子がいきなりとんでもない事をぬかしたので、俺は吹き出してしまった。

 

「何故!?」

 

「勇姉と同じように撮るんだろー?」

 

「お姉ちゃんはファッションモデルです。水着は着ません」

 

 陽子の発言にしのは困惑しながら否定した。

 

「なんだグラビアかと思ってた。ちっ」

 

「ちっ?」

 

 今こいつ、舌打ちしたか?

 

「おい、お前まで変な性癖に目覚めちまったら、収集つかなくなるぞ」

 

「誤解を招くこと言うなよ!!……他に誰かいんの?」

 

「金髪中毒者」

 

「あー」

 

「ちゅうどっ…!?」

 

「あと、陽子依存性患者」

 

「誰が依存してるってのよっ!?」

 

 俺の発言にしの(金髪中毒者)は困惑し、(陽子依存性患者)は否認してきた。

 

 

「体のラインを見るのが、好きなんだよ私はっ。性癖っつーか、フェチ?」

 

「あんま変わんなくね?」

 

「何フェチ?それ」

 

「うーん、筋肉フェチ?肉付きフェチ?」

 

「アイドルには筋肉、無いじゃない」

 

 いや、そんなことは無いだろ。筋肉ないと太りやすいって聞くし、もしろ必須事項だろ。

 

「全く無い人間はいないって。綾だって、脱げば少しは〜」

 

 陽子はそう言って、綾に持ってたカメラを向けた。

 

 その陽子の発言と行動に、綾は恥ずかしがって顔をだんだんと真っ赤にさせていた。

 

「こっ、この…ヘンタイ!!」(≧Д≦)=3

 

「え?何で?」

 

「猪熊陽子、女子高生にわいせつ行為の疑いで逮捕」

 

「私も女子高生なんだけどな!?」Σ(-д-!!)

 

「刑罰として、セ○ンのナ○チキ5つ買ってこい」

 

「それはもういいわっ!!」Σ\( ̄□ ̄;)

 

 

 えー、そんなこんなありつつ、陽子が持ってたデジカメでしのの写真を数枚撮ってみました。

 

「いい笑顔だ」

 

 陽子の言うように、どの写真もしのはほんわかした笑顔で写っていて、見てる俺達も「ほわーっ」となり和んでいた。まあでも、

 

「モデルはムリだけどね」

 

 綾の言う通り、勇さんみたいにモデル特有のカッコ良さとか美しさとかそういう要素はこの写真からは微塵も感じなかったわけで。

 

「んー、モデルは無理でも他の芸能人にはなれないかなあ。……そうだ!なあ峻」

 

「なんだ陽子」

 

「しのとツーショットで写ってくれ」

 

「オッケーまかせろいやなんで」

 

「今、欲望と理性が混ざってたわ」

 

 そう言うな綾。突然だったもんで。

 

「男の峻と写ればスキャンダル写真ぽくなって、しのも芸能人に見えると思ってさー!」

 

「なんかイメージ悪くないかそれ」

 

「そうか?じゃあやめるか」

 

「まあでも一応撮ってみようぜ」

 

「あ、欲望が勝った」

 

 うるへー(うるせえ)

 

 

 そんなわけで、"仕方なく"しのとツーショット写真を撮ることになった。

 

「スキャンダルですか。ならサングラスとかかけましょうか?」

 

「いらんいらん。どっから出した」

 

 しのにサングラスを仕舞わせ、俺はしのの横に来て陽子に写真を一枚撮ってもらった。

 

「うーん、撮ってはみたけどやっぱスキャンダルには見えないなあ。ただツーショットで写ってる男子と女子にしか見えない」

 

 実際そうだからな。

 

「いいなあシュン。シノ!わたしとも一緒に写真撮ろっ!」

 

「いいですよーアリス」(*´ ˘ `*)

 

「ありがとう!ヨーコ、お願いっ」

 

「あいよー。後でプリントしてやるからー」

 

 なんかもう、趣旨が変わってるな。俺が言うのもなんだけど。

 

 それにしても、しのとのツーショット写真、撮ってもらったはいいが、どうやって貰えばいいのだろうか。普通にくれって言ったらなんか変な風に怪しまれそうだ。

 そんな事思わないやつらだろって?男子高校生はな、異性に対してそういうのにちょっとでも可能性があると思うと不安になる生き物なんです!

 

 俺がそんな風に悩んでいると肩をちょんちょんと叩かれ、振り向くと綾がいた。

 すると俺の耳元まで来て小声で話してきた。

 

「(購買のカスタードプリン買ってきてくれたら、後で私が陽子に写真のデータ貰って、こっそりあげてもいいわよ)」

 

「(御意のままに)」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「結論っ、若いとか若くないとか関係無く、しのはしのってことだな」

 

「ハッピーバースデー、シノ!」

 

 なんか無理矢理いい話風に話がまとまる感じになったぞ。

 

「きっとイサミは、大人っぽいって言いたかったんだよ」

 

「おおっ。言い回しで随分違って聞こえます!」

 

 お前朝、俺に言われた時は36歳は嫌だって言ってなかったっけか?

 

「女子高生だけどすでに人間が出来ていて、盆栽の似合う大人になれというメッセージだったんですね」

 

「うわあ、ポジティブシンキングすぎる…!!」

 

 そこまで自賛する真似、俺にはとてもできん…。

 俺とともに、綾と陽子も呆れてしのを見ていた。

 

「ありがとう、お姉ちゃん…」✧*。(ˊᗜˋ*)✧*。

 

 勇さん絶対そんな深い意味で言ったんじゃないだろうと思うけど、もうしのが元気になったからいいや。

 

 俺今日、ツッコミ放棄しすぎてね?

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 お昼休みになり、俺は陽子と共に購買に行き、目当ての物を買い教室に戻り、陽子はしのに焼きそばパンとメロンパンを、俺は綾にカスタードプリンを献上した。

 

 その様子を見ていたアリスが何か困ったような顔をした。

 

「やっぱり、わたしも何か形に残るものをプレゼントしたいな」

 

 アリスはしのにプレゼントを用意出来なかった事を思い悩んでいたようだった。

 

「いいんですよー、気持ちだけで。私にとってアリスと一緒にいられることが、最高のプレゼントですよ!」

 

「シノ…!」。゚+.( *°⚪︎°*)゚+.゚

 

「あー、はいはい」(¯∇¯;)

 

 もうこの程度では狼狽えなくなりましたんでね、俺は。

 

「でも、どうしてもと言うなら髪の毛1本欲しいですけど。はあ、はあ、金髪〜〜」(´◎ω◎`)

 

「何か怖い!!」Σ( ̄□ ̄Ⅲ)

 

「いかん、金髪中毒者が発作を起こした!!」

 

 怯えるアリスを背にして、俺は陽子と共にしのの暴走を止めたのだった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「ふー、今日も疲れたー」

 

 学校が終わり、バイトをした後、俺は帰宅して自分の部屋のベッドの上でくつろいでいた。

 

「お。綾、ちゃんと送ってくれてた」

 

 携帯を開くと、綾からメールで例のしのとのツーショット写真が送られていた。

 

「顔、強ばってら…」

 

 どうやら俺は写真を撮った時、無自覚に緊張をしていたらしい。しののほんわりした笑顔に対し、俺は笑顔が引き攣っていて固くなっていた。対照的すぎる。

 まあ、しのとの写真が撮れたってだけで満足なので、俺がどう写ってようが別にいい。

 

「峻〜。ご飯出来たわよー」

 

 俺が写真を見ていると、ドアの向こうから母親の声が聞こえてきた。

 

「ふーい。少ししたら行きまーす」

 

「冷めないうちに来なさいよ〜。……あ、そうだ。忍ちゃん喜んでた?」

 

「え?何が」

 

「だって今日、忍ちゃんの誕生日だったんでしょ?プレゼント用意してたじゃない。あげたんでしょ?」

 

 ……………………………………………。

 

「まだ渡してなかったああああああああっ!!」

 

 色々他の事に気を取られてて、すっかり忘れちまってたあっ!!

 

「母さんごめんっ!ちょっとしのん家行ってくる!!」

 

「あぁっ、ちょっと!」

 

 俺はプレゼントを入れてた鞄を持ち、自室を出て廊下に居た母さんを避けて、急いでしのの家へと向かった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 ピンポーン

 

 俺はしのの家のチャイムを押した。

 10秒ほど掛かった後、玄関が開いた。

 

「すみません、飯時に失礼いたしま……」

 

 俺はてっきり、しのと勇さんのお母さんが出てくるのかと思っていたのだが、出てきたのはしのだった。

 それだけなら別にいいが、そのしのは何故か悲しそうな顔をして、目に涙を貯めていた。

 

「お、おいしの。一体どうしたんだ?」

 

「…ぐす…。お姉ちゃんに…」

 

「勇さん?」

 

 勇さんにまた何か言われたのだろうか。でも勇さんは、確かにしのをからかうのが好きではあるが、泣きっ面に蜂を指すようにこの短時間で更に意地悪をする人では無い。だってあの人実はシスコンだし。

 

「……アリスを取られましたぁっ!」・゚ ꜀( ꜆>ᯅ<)꜆゚・。

 

「………はい?」

 

 しのの感極まって涙腺を崩壊させながら言い放った発言に、俺は呆気に取られた。

 

 

 とりあえず話を聞くために、しのの家に上がらせてもらった。

 

 リビングに着く前に、廊下のしのの家の固定電話が置いてある所の横に、しのが座り込んでしまった。

 

「お、おいしの。こんな所に座り込んじゃ」

 

「イサミー!わたしこの盆栽、ずっと大事にするよー!」

 

 …………。

 

 なんかもう、なんとなくわかったわ。

 

 リビングからきゃっきゃと聞こえてきたアリスの歓喜の声に、俺はそう理解を得た。

 

「……とりあえず、毛布羽織っとけ」

 

 俺は鞄に入れてた毛布をしのの肩に掛けてあげた。

 

 

 しのから話を聞くと、勇さんがしのにスノードームのプレゼントを買ってきてくれたそうだ。季節外れだが奇しくもしのが今日学校で欲しいと言っていた、クリスマスツリーのフィギュアが中に飾ってあった。流石勇さん、しのの好み熟知している。

 100均で買ったそうだが、結構出来がいい。侮りがたし、最近の100均。

 

 で、そこの100均で勇さんは小さな盆栽の置きものも一緒に見つけて、それをアリスに買ってきてあげたそうな。

 それでアリスは大喜びし、勇さんにハートを鷲掴みされてしまったのだとか。

 

 それでしのは敗北感に打ちひしがれてしまったと。

 

 

「うぅ…、お姉ちゃんにはかないません」(-_-〣)

 

 すっかりいじけてしまっているな…。

 

「……うー、あー……、えーと、しの。とりあえず、これやっから、元気出せ。な?」

 

「?…それは?」

 

 俺は鞄から、渡しそびれていた誕生日プレゼントを取り出した。

 

「すまん、学校で渡そうと思ってたの、渡し忘れちまってて…。しの、誕生日、おめでとう」

 

 そう言って、俺はしのにプレゼントを渡した。

 

「わわっ、あっありがとうございます!開けてみても良いですか?」

 

「勿論」

 

 しのは包み紙を開いた。

 

「これは……、ロウソク?」

 

「キャンドルって言ってくれ」

 

 俺が用意したプレゼントは、アロマキャンドルだ。

 手のひらサイズのそれはピンク色の半透明で、中に花びらが数枚入っていた。

 

 女性への贈り物にピッタリと、売ってあった店のポップに書いてあったのでそれを選んだ。

 

 好きな異性に送るんなら、告白するわけじゃあないにしろもっといいもんがあったんじゃないのか、と思ったそこのあなた。下手に高価かつ、豪華なプレゼントを送って、相手に引かれたら立ち直れる自信あるのか。傷付きやすいチキンハートな男子高校生には、これが限界だったんです。

 

「変…じゃなかったらいいんだが…」

 

「え?いえ、そんな事ないですよ?とっても可愛いと思います!」

 

「そんなら良かった」

 

 

「早速、つけてみてもいいですか?」

 

「あ、ああ」

 

 そう言うとしのは、立ち上がって台所の方へと向かって行った。

 そして数十秒程すると、手にマッチを持って戻って来た。

 

「…チャッカマンとかの方がよかったんじゃねえか?」

 

「それが、見つからなかったので…」

 

 そう言うとしのはマッチ棒を1本持って、マッチの箱で火をつけようとした。

 ……腕を物凄くプルプル震えさせて。

 

「……か、考えたら、わ、私…、マッチで火をつけた事ななな、無かったでふ……!」((((;´・ω・ˋ)))

 

「待て待て待て!俺がやったるから!!」

 

 顔を青ざめて腕どころか体全体で震えながら危なっかしくマッチを擦りつけようとするしのに、俺は全力でストップをかけた。

 

 

 マッチに着火した俺は、開封したアロマキャンドルに火を灯した。

 

「わあっ…!綺麗ですね…!」

 

「…そうだな」

 

「あっ、いい匂いもしてきました!峻君、これ凄く素敵ですよ!」

 

「……それは良かった…」(⸝⸝¬_¬⸝⸝‪)a"

 

 しのの言葉に俺は照れながら頬をかいた。

 

「あ。でもそういえば……」

 

「?しの?」

 

「…峻君、前に綾ちゃんに頭に効くアロマオイルをプレゼントするとか言ってませんでしたっけ?…もしかして私も頭がおかしいと思われて…」

 

「え"っ!?はっ!?いやいやいや!!俺、そんなつもり毛頭なかったんだがっ!?」

 

 なんでそんなどうでもいい前の話(第5話参照)を、お前が覚えてるんだよ!!くそぅ、まさかの所に地雷がっ!!

 

「くすくすくすっ…!」

 

 俺が焦っていると、しのが笑いだした。

 

「すみません、冗談です♪ありがとうございます峻君。私、凄く嬉しいです!」

 

 ………ったく……。

 

 どうも最近しのによくからかわれてる様な気がする。

 

 ま、元気になったみたいだし良しとするか。

 

 ハッピーバースデー、しの。

 

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

 ある日、しのん家にお邪魔してる時の事。

 

「ん?なあしの。あんなん前まであったっけ?」

 

 しのとアリスの部屋で、こないだあげたアロマキャンドルの横に、顔の大きさよりは小さいぐらいの箱が置いてあったのを見つけた。

 

「え?ああ!あれですか?あれは私とアリスの、"ちりつも貯金箱"ですよっ」

 

「ちりつも?」

 

「こないだシノがね、イギリスの話をしていたら行きたくなったって話して…」

 

「そこで私とアリス、2人で貯金して旅行資金にしようという事になりまして」

 

「なるほど」

 

「でも、私達は高校生ですのでいきなり大した金額は貯めることは出来ません。だから、毎日少しづつ入れる事にしたんです」

 

 それでちりつも、塵も積もれば山となるって事ね。

 

「で、1日にいくら入れてるんだお前ら?」

 

「1人10円づつです!」

 

「…………」

 

 胸を張ってそう答えたしのに俺は言葉を失った。

 

 しのとアリス2人で入れて1日20円。それを10日やれば200円。1ヶ月やれば大体600円。

 1年やって………7300円……。

 

 2人分の旅行費貯めんのに何年、いや何十年かかんだよ。いや、仕事して稼げるようになったら貯金額増やすだろうけどさ。

 

「はぁ……。よし、俺もお前らの旅行貯金に協力してやるよ」

 

 そう言って俺はちりつも貯金箱に10円を入れた。

 

 本当はもっと高額を入れたいのだが、2人の意志を無下にする様な事は出来ん。

 

「ありがとうシュン!旅行する時はシュンも一緒に行こうね!」

 

「それではこのちりつも貯金で、峻君の分の旅行資金も貯めましょう!」

 

「それじゃ、意味ねーだろうがっ!」Σ\( ̄Д ̄;)

 

 

 ~See you, next time!~




忍の誕生日回、このオリ主なら絶対外せないイベントです。…2年生以降は原作では元になる話がないからどうしよう(笑)

アニメの話を分割してやっている為、サブタイトルと内容が違う時はなるべくきんモザチックにタイトル名をオリジナルで考えているんですがこれがもう難しいです。

それではまた次の話が出来るまでお待ち下さいませ。

……アリスのあの歌って使用楽曲に引っかかったりしないよな?


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第10話~きんいろショッピング~ part 1

まっっっっっっっことにお待たせ致しました!!
今回と次回のほぼオリジナル話の構成にかなり時間が掛かってしまいました!
あと、2月末にきらファンオフラインに向けて色々やって小説考える暇がなかったのもありました。
とりあえず、これを含めたオリジナル2つは直ぐにあげますがまた次話を投稿するのに時間かかると思いますのでどうかご了承ください。

前書きという名の謝罪は一旦この辺に致しまして、それではどうぞ!


 しのの誕生日から2日経った休日の日曜日。バイトも休みで俺は暇だった。

 

 宿題も終わらせちまってた俺はネットでも眺めていた。

 すると、俺の好きなアニメがお菓子会社とコラボしてる項目を見つけた。前に5人で出かけた時のショピングモールが対象店舗の1つだった。

 

 なんて事ない、対象商品を数個買うとクリアファイル等が貰えるという最近よくあるやつである。多分バレンタインに次ぐ、お菓子会社の新たな企業戦略商法だと思う。

 そうだとわかっていても買いに行くのがそれなりでもアニメ好きである者の悲しい性である。

 

 

 別に人に知られても恥ずかしがるようなアニメではなかったので、しのとアリスでも誘って行こうと思い、俺はしのん家へと向かった。

 

「……ん?なんか騒がしいな」

 

 しのの家まで来ると、中から何やら騒がしい話し声が聞こえてくる。

 

 すると中から勇さんが出てきた。

 

「先出てるわよ〜っ。あら、峻君」

 

「あ、勇さんこんにちは。仕事ですか?」

 

「ええそうよ。…水着じゃないわよ?」( ̄∇ ̄)

 

「知ってますよ。陽子と一緒にしないでください」

 

「忍達に用事?」

 

「用事って程ではないんですが。……なんか騒がしかったんですか、何かあったんですか?」

 

「あー、ちょっと忍がねー。じゃあ私もう行くから後はよろしくねー」

 

 そう言って勇さんは仕事に向かって行った。

 

「え。あ、えーと、仕事頑張ってきてくださいね」

 

 勇さんにそう言いつつ、俺は何かを押し付けられたんじゃないかという感覚になった。

 そう考えていると…。

 

「どうしてわかってくれないんですか!」

 

「わかってくれないのはシノの方だよ!」

 

 しのとアリスの叫び声が聞こえてきた。

 

「なんだなんだ!?」

 

 2人が珍しく喧嘩しているのか!?

 

 俺はしのん家の玄関を開けた。

 

「お邪魔します!おい、しの、アリス、どうした!」

 

 玄関を開けるとすぐそこの廊下でしのとアリスが向かい合っていた。

 

「あ!峻君!ちょうど良い所に!峻君からもアリスに言ってあげてください!」

 

 しのは何やら怒った様な、心配そうな顔をしている様子だった。

 

「アリスがいったいどうしたんだよ?」

 

 しのは目に涙をためて震えていた。

 

「アリスが…!アリスが……!!」

 

「アリスが?」

 

 

「1人で出掛けると言っているんですっ!!」

 

 

 さーて、今回はどうリアクションを取ってやろうかな。無言で呆れるかな。盛大にズッコケてやろうかな。うーん、よし!最近無言の割合の方が多いからな。ズッコケる方でいくか!つってもズッコケた事あんまりないんだけどな。地面痛いし。

 

 そんな思考を俺は6、7秒程巡らせた後、

 

 

 ドンガラガッシャンッ!!

 

 

 盛大にズッコケてやりました。

 

「峻君!?なぜ今倒れたんですか!?」

 

「あだだだだだ。変なとこ打った」

 

「ならいきなり倒れないでくださいよ!いったいどうしてそんな事に!?」

 

 原因があるとすればお前だわ。

 これちょっと練習が必要かな。いらんかな?

 

 

「で、アリスが1人で出掛ける事に、お前は何が納得できないでいるんだ?」

 

「何を言っているんですか!アリスが1人でお出掛けなんて、早すぎます!」

 

「だから、わたしもう高校生なんだけど!?」

 

「でもアリスは小さくて見た目小学生みたいじゃないですか!その上金髪で外国人で可愛くて!」

 

 途中から惚気みたいになってないか?まあ、アリス本人は今"見た目小学生"の発言にショックを受けているが。

 

「そんなアリスが1人で外をうろついていたら、誘拐されるに決まっています!!」

 

「んな大袈裟な……」

 

 まあ、しのの言い分も心配になる気持ちも理解できる。

 

 

「付き添いを付けるにも、お母さんとお父さんは2人でもう出掛けて行っちゃいましたし、お姉ちゃんも仕事に行っちゃいましたし…」

 

「しの、お前は?」

 

「だから私が一緒に行くって言ったんですけど、アリスが私はどうしても駄目だと言うんです〜っ!」

 

 そう言ってしのは泣き出してしまった。

 

 

 そんなしのを心苦しいような表情で見ていたアリスに俺は近づいて話しかけた。念の為小声で。

 

「おいアリス。なんでしのが一緒だと駄目なんだ?」

 

「そっ、それは……。一昨日……その……」

 

 一昨日……。ああ、そういう事か。

 

 俺はアリスの思惑を察すると、しのの方へ向かい直した。

 

「しの、だったら俺が一緒に行ってやるよ。それなら良いだろ?な、アリス」

 

「え?う、うん…」

 

「どうして峻君は良くて、私は駄目なんですか〜っ!」

 

「まあまあ。アリスにも色々事情ってやつがあるんだろ。今日の所は俺に任せとけ。な?」

 

「…………わかりました。峻君、アリスをよろしくお願いします」

 

「おう」

 

 しのは納得しきってはいなかったが、なんとか了承は得てくれた。

 

「そうです!峻君、アリスが悪い人に連れさらわれない様にアリスの首に紐を括り付けてそれをしっかり握っていて下さい!今紐を持って来ます!」

 

「わたし犬扱い!?」

 

「俺が捕まるわ!!」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 しのの家を出て、俺はアリスと一緒に歩いていた。出発する時にしのが涙を流しながらハンカチを振るわ、紙テープを投げるわで大変だった。船出かっつの。

 

 もうだいぶしのの家から離れたから、そろそろ聞いてみてもいいかな。

 

「なあアリス。今日出掛けるのって、しのの誕生日プレゼントでか?」

 

「!…………う、うん…」

 

 やっぱり。だからしのが一緒だと駄目だったんだ。

 

「行き先は、前に皆で行ったショピングモールか?」

 

「うん。もう過ぎちゃったけど、やっぱりわたしも皆みたいに形に残る物を渡したいなあって思って。それでシノには内緒でプレゼントを買いに行きたかったんだ。でも、シノがなかなか行かせてくれなくて」(´`;)

 

「だったら他の奴に同行を頼めばよかったじゃねえか。カレンとか綾とか」

 

「あ、カレンとは午後から合流する予定なんだよ。しのの誕生日の事話したら、カレンもプレゼントを贈りたいから一緒に買いに行こうってなって。午前中は、用事があるみたい」

 

「そうなのか。じゃあ、午後にカレンに迎えに来てもらって行けばよかったんじゃ」

 

「カレンにまだ、シノの家を案内した事ないから迷子になる可能性がありそうで……」

 

「あー…」

 

 前科があるからしょうがない。

 

 因みに、カレンのご両親に送って貰うという案もあったが生憎、ご両親は今日仕事があるらしい。休日だというのに、お金持ちはお金持ちなりに苦労があるみたいだ。

 

「アヤは家族で遠くの方に出掛けるって言ってて、ヨーコの方は両親が日帰り旅行に行ってて、夜まで弟と妹を見てなきゃいけないって言ってた」

 

 なるほど。見事に皆用事があるな。

 

 

 …あれ?

 

「おいアリス。それこそ何で俺には聞かなかったんだよ。俺は今日暇だった、というか俺もモールに用あったぞ?」

 

 俺に連絡してりゃあ、家であんな大騒ぎする事なかったぞ。

 

「そ!それは……!その……」

 

 俺の問いかけに、アリスは何やら言いづらそうな様子を見せた。

 

「………じ、実は………」

 

「うん?」

 

「…………わ……、忘れてました」

 

「いやあ心なしか近頃、気温が高くなってきたよなぁ。夏も近くなってる証拠だなこりゃ!こんな日に川へ飛び込んだりしたらさぞ気持ちがいいだろうな!よし!俺ちょっくらそこの川で水浴びしてくるわ!」

 

「そこはドブ川だよ!?それに今日は寒いほうだよ!?ごめんシュン!謝るから、泣きながらドブ川に突っ込んで行こうとしないで!!」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 アリスに頼りにされてなかった事のショックで俺が半自殺行為を行いかけた後、俺達はモールに行く為に電車に揺られていた。

 

「で、アリス。今日はどんな塩梅で行くんだ?」

 

「"アンバイ"?」( • . • )?

 

「あー、すまん。えーと、どんな調子っつーか、予定で今日は物色…、買い物するんだ?午前中にアリスのプレゼント、先に見つけとくのか?」

 

「うん。午後からはカレンのプレゼントを一緒に探してあげようと思ってるの。だから先に自分のを見つけておこうかなって」

 

「そっか」

 

「あ、そういえばシュンも何か用事あるって言ってたよね。なら先にそっちに行こうか」

 

「え。いや、…いいのか?」

 

「うん。わたしの方はカレンが来てからでも探せるし」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「うん!そういえば、シュンの用事って?」

 

「モールん中にある、とある店で俺の好きなアニメのグッズのキャンペーンやってて、それを入手したいんだ。結構人気のあるアニメだから、早くしないと無くなるかもしれんくて…」

 

「そうなんだ。わかった」

 

 アリスは俺の頼みを了承してくれると、何やら俺の方を黙って見て、暫くすると俺に質問をしてきた。

 

「シュンってその、いわゆる、"オタク"…って言うの?それなのかな?」

 

「あー、それよく言われるな。確かにアニメは好きだが、別にオタクって程ではないぞ。俺はアニメだからって何でもかんでも観るってタイプではないし、グッズとかも全種類集めるとかじゃなく好きなキャラのだけ買えればいいって感じで、ましてや"保存用"、"布教用"、"観賞用"とかって何個も同じものを揃えたりするわけでもないから」

 

「よく知らないけど、オタクの定義ちょっと偏ってない?」

 

「そうかな?」

 

 みたいな話をしている間に、電車は目的地の駅まで着いた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 俺とアリスが駅からショッピングモールへ入ると、店内にある俺が目当てのグッズがある食品売場のコーナーへと向かい到着した。

 まだ朝早かったので、グッズは余裕で残っていた。

 

 俺はカゴを持ち、対象商品のお菓子を10個近く入れ、クリアファイルやキーホルダーをカゴに入れた。

 

「ずいぶんお菓子たくさん入れたね」

 

「対象商品3個で特典1個だからな。お菓子、1人で食いきれねぇし、後でいくつかアリスにやるよ。あとカレンにもやるか」

 

「ありがとう。ところでシュン、クリアファイルは何に使うの?答案用紙とか?」

 

「え?使わねーけど?」

 

「……え?」

 

 アリスの問いかけに俺が当然の様にそう答えると、アリスは訳が分からない様な顔をした。

 

「だって使って鞄とかに入れて、折れたり曲がったりするの嫌だもん」

 

 子供の頃、なんでゲームの予約特典のファイル使っちまったかなぁ…。

 

「………じゃあそれ、どうするの…?」

 

「うーん…、飾るか、しまって大事にとっとくか…」

 

「………。(シュンって充分オタクだと思う……)」

 

 アリスが何やら無言で、何か言いたそうな顔で俺の顔を見ていた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 俺の用事が終わった後はアリスのショッピングに付き合った。

 

 洋服売場に来てアリスと服を物色したりした。

 その時にアリスが店員さんにおすすめの服を聞きに行った際、店員さんがアリスを子供服コーナーに連れて行ってしまい、アリスが「わたし高校生ですっ!!」と叫んでいたのはまた別の話(笑)。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「もう!わたしはもう立派な高校生なのにっ!」

 

 服屋を出た後アリスはまだご立腹だった。

 

「まあでも、服は歳じゃなくて体のサイズの方が重要だからな。あの店員さんがアリスがもし、高校生に見えてたとしても(ないだろうけど)、比較的サイズのあう服を紹介するのが仕事なんだろうし」

 

「だからっていくら何でも子供服はないよっ!!」

 

「でアリス、大人サイズで着れる服はあったのか?」

 

「…………」(._."ll)

 

 アリスは落ち込んでしまった。

 

 さーて、どうやって立ち直らせよう。

 

 ふーむ…、よし。

 

「そういえばこのモールには、前に来た時は時間がなくて行けなかったんだけど、和物だけを取り扱っている雑貨屋が」

 

「そこどこっ!?」Σ(*゚Д゚*))))

 

 アリスは立ち直った。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「ふわああぁぁ…!!」。+.゚.(*°∀°*)゚+.゚。

 

 和雑貨屋に着くとアリスは店の中の様々な小物を見ては、金髪少女や中世ヨーロッパ風の物を見た時のしのみたいに、目を輝かせていた。

 

「ワビサビを凄く感じるよ〜っ!」

 

「喜んでもらえたようで何よりだ」

 

「着物とかはないのかな?」

 

「そういうのは無いんじゃないかな」

 

「サラシとか古刀(どす)とかは無いかな?」

 

「それは和と言うより極道じゃね?」

 

 

 その後アリスと10分程、和雑貨屋内をうろついていると、俺はあるものを見つけた。

 

 それは桜の模様があしらわれている桜色の扇子だった。

 

 それを見て俺は少々考えた後、

 

「アリスー、ちょっといいか?」

 

 小物を見ていたアリスに話しかけた。

 

「はわぁぁ………」(*´∇`*)

 

 アリスは こもの に

 むちゅうに なっている!▼

 

「………おーい!アーリースー!!」

 

 シュンは アリスに

 おおごえを だして よびかけた!▼

 

「はわっ!?」Σ(๑º Д º๑)

 

 アリス は ビックリ して

 われに かえった!▼

 

「え?…………ああっ!!シュン、ごめん!なに?」

 

「なあ アリス、ちょっと 

 しつもんを しても いいか?▼」

 

「いいけど、なんか喋り方というか文章おかしくなってない?」

 

 おっと、いかんいかん。戻ってなかった。

 

 

「それで、私に質問って?」

 

「ああ。なあアリス、お前誕生日いつ?」

 

「え?急にどうしたの?」

 

「いやほら、この前、しのの誕生日の事お前に伝えてなかっただろ?だから、またそんな事にならない様にあらかじめ誕生日聞いとこうと思って。で、いつ?」

 

 俺がそう聞くとアリスは何やら、また言いづらそうな表情になった。

 

「…………し、4月………、5日……」

 

「…………どうリアクションとったらいいと思う?」

 

「わたしに聞かないで!!」

 

 いや、別にいいのだ。聞いたところで過ぎている可能性とかは充分に考えていた。でもなんというか、知り合う日とビミョーに近くてなんともリアクションが取りづらい。

 

 別にアリスは何も悪くない。その日はアリスはまだイギリスに居たんだし仕方がないと思う。ただなんだろう、何故かなんとなく気まずい。

 

 

 ………でも、まあいいや。

 

 俺はそう思うと、さっきの扇子を1つ取り、レジに向かって行き会計をした。

 

 そしてアリスの元へと戻った。

 

「シュン?」

 

 アリスが首を傾げる中、俺はさっきリボンで軽くラッピングをして貰い、買ってきた扇子をアリスに差し出しこう言った。

 

「………ハッピーバースデー」

 

「ちょっと無理あるんじゃないかな!?」

 

 やっぱり?

 

「まあでも、受け取ってくれや。前にゲーセンでぬいぐるみプレゼント出来なかった………、アリス。この前ゲーセンで取り損ねた時のリベンジと言っちゃあなんだが、今度こそ俺からの留学記念だ。おめでとう!」

 

「今、完全に途中で思いついたよね!?……でも、いいの?」

 

「いいって。これ、お前に似合うなと思って買ったんだから。ほら」

 

「…………。じゃあ、ありがとうっ」

 

 そう言ってアリスは扇子を受け取った。

 

「わあっ、桜の模様だ〜」

 

 アリスは貰った扇子の模様を見ては嬉しそうにしていた。

 喜んでもらえたようで何よりだ。

 

「そうだ!わたしもシノに扇子をプレゼントしようかな!色違いのでわたしとお揃いになるし!」

 

 ………いやまあ、別にいいけどね。

 

 

 ~アリスSide~

 

「シノ、喜んでくれるといいな〜♪」

 

 わたしはシュンがくれた桜模様の扇子の色違いの赤茶色の扇子を購入して、和雑貨店を後にしてシュンとモール内を歩いていた。

 

 ……わたし、シュンに悪い事したなぁ。

 

 

 今朝、わたしの買い物の付き添いの件で、あの時わたしはシュンの事は忘れていたと発言したけど、実はそうじゃなかった。

 

 わたしはわざとシュンに聞かなかったのだ。

 

 

 この前、シノとシュンが喧嘩して、仲直りをしたその直後のこと。

 

 シノがシュンに愛の告白みたいなことを言い始めた時、シュンは凄く慌ててた。その後違った事に気づくと、シュンはがっくりと項垂れてた様に見えた。

 

 この時わたしは、シノの紛らわしい発言に肩透かしを食らうと同時に、シュンの様子に疑いを抱いた。

 

 ひょっとしたらシュンはシノの事を好きなのではないかと。

 

 わたしの気のせいかもしれない。でも、もしそうだとしたら…。シュンとはもう友達だけど、それとこれとは話は別である。

 

 そう思ったわたしは、シノの誕生日プレゼントの事をシュンに相談する事を躊躇した。なんだか気乗りがしなかったのである。

 

 

 でも、シュンはそんなわたしにいつも優しくしてくれる。

 

 わたしが困っていると助けてくれたり、悩んでいると話を聞いてくれる。

 

 今朝もわたしが困っている事に気づいて、嫌な顔1つせずわたしの用事に付き合ってくれた。

 

 シュンは何時だって皆に…、シノに…、そしてわたしにも優しくしてくれる。

 

 わたしは自分の思い込みだけでシュンにいじわるな行動を取ってしまったと言うのに…。

 

 

「シュンっ!」

 

 わたしは隣を歩いていたシュンに話しかけた。

 

「ん?なんだ、アリス」

 

「こんな卑しくて嫌な女なわたしなのに、優しくしてくれてありがとうっ!!」・゚・( ߹ Д ߹ )・゚・

 

「いきなりどうした!!」Σ( ̄□ ̄;)

 

 

 本当に悪いことをした。何かシュンにお詫びが出来ないかな。

 

 ……そうだっ!

 

「ねえシュン。わたしも聞いていいかな?シュンの誕生日って」

 

『Please Gimme Your Voice!君と僕が〜♪』

 

「ん?ちょっと待てアリス。電話だ」

 

 わたしが聞こうとすると、突然シュンの携帯から着信が入った。

 

 シュンの携帯を覗くと、そこには『しのの家』と書いてあった。という事はおそらくシノからだ。

 シノもわたしと同じで携帯を持っていないから、わたしとシノはどこかに連絡を入れる時は、公衆電話か家の電話からかける必要があった。

 

 シュンが電話に出ると着信音に鳴ってた歌が止んだ。

 

「はい、もしも…」

 

『シュンくううぅぅぅううんっ!!』

 

「どわぁっ!?な、なんだ、しのか!」

 

 シュンの携帯からわたしも聞こえる程、大きい声で叫んでいたシノの声にわたしとシュンは驚いた。

 シノ、何かあったのかな…!?

 

「どうしたしの!何かあったか!?」

 

『アリスはどこですかっ!?』

 

「は?アリス?アリスなら俺の隣に居っけど?ほれ」

 

 シュンはそう言うと、わたしに携帯をかざしてきたので、その携帯にわたしは「シノ〜?」と手を振りながら話しかけた。見えないとわかってても手、降っちゃうよね。

 

『ほっ。……もうっ、わたし心配したんですからっ!!』

 

「え、なに?俺らの周辺でなんか事件が起きたとでもニュースで言ってたりしたのか?」

 

『私、アリスが迷子になっていないか、ずっと心配なんですよっ!一緒に居るのなら連絡してくださいっ!』

 

「なんで居る時に連絡すんだよ!!普通はいなくなった時にするだろ!」

 

『10分おきには電話をくださいっ!!』

 

「短ぇよっ!!電話料金えらい事になるわ!!」

 

「シノ……」

 

 心配してくれるのは嬉しいけど、ちょっと大袈裟だよ…。

 

 

 

「で、アリス?さっき俺に何聞こうとしてたんだ?」

 

 シュンがシノとの通話を切って携帯を仕舞うと、わたしにそう聞いてきた。

 

「え?ああ!……………あれ?何だっけ……!?」

 

「あるよなー、すぐに聞こうとしたのを忘れる事。ま、その内思い出すだろ」

 

「うーん…、そうだねっ。あ、じゃあ別の質問してもいいかな?さっき鳴ってた曲は何?」

 

「あー、あの着信音?あれは『Your_Voice』っつー曲で、俺のお気に入りの曲なんだ」

 

「へー。良い曲だね!」

 

「だろ?」

 

 そんな話をしながら、わたし達はショッピングを続けた。

 

 ~アリスSide、OFF~

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 ある日の、俺、陽子、綾の3人で集まって話してた時の事。

 

「それにしてもしのとの連絡は、こっちからはしのが家にいる時か、しのが綾か峻かカレンと一緒の時じゃないと連絡出来ないのが不便なんだよなー」

 

 陽子がそんな事を呟いた。

 

「しのもアリスも携帯持ってないものね。しのは携帯、買ってもらおうと思わないのかしら」

 

「あー。機械オンチだからっつーのもあるが、買ってもらおうと思わないっつーか、勇さんがそうさせてないんだ」

 

「え?勇姉が?なんで?」

 

「今の携帯はネットも気軽に使えるだろ?」

 

「そうだな」

 

「しのがネットを手に入れたらどうなると思う?」

 

「しのが…」

 

「ネットを…」

 

 綾と陽子はそんなしのを想像した。

 

 

 ~もしも、しのがネットを手にしたら~

 

『はぁっ!金髪少女の画像!すごい…、私の金髪少女フォルダが、夢と金色で一杯に!はぁ…!はぁ…!』

 

 しのは物凄いスピードで金髪少女の画像を興奮した顔で保存していた。

 

 ~完~

 

 

「「おそろしい事になる(わ)!!」」

 

「同じ理由でパソコンも触らせてもらえないらしい」

 

「なるほど…。勇さん、さすがね」

 

「扱いを分かってらっしゃる…」

 

「せいぜいしのは、トランシーバーだな」

 

「探偵団かよ」

 

 

 ~See you, next time!~




Part2へと続きます。

アリスみたいになにか悩みを持ってたりするキャラの方がオリ主と絡ませやすかったりするから絡みが多いというか組ませやすいんですよね。逆に陽子とは絡ませにくかったり。というか陽子と峻の2人組だとどっちがボケかツッコミかわかんない(笑)

それと遅れましたが原悠衣先生、新連載おめでとうございます!


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第11話~きんいろショッピング~ part 2

前回の続きです。

この話のショッピングモールは完全に私の想像で店とか考えて書いてますので、存在するモデルのモールにその店が無くてもどうか苦情とか送らないでください(笑)


「えーと、ロッカーロッカー…。あ、あったあった」

 

 俺はモール内でコインロッカーを見つけ、お菓子を数個取り出して、俺とアリスが買った荷物をそこに入れた。

 

「ふー。さて、あと30分で昼か。よしアリス、飯にしようぜ」

 

「うん!」

 

「あ。そういえば、カレンは午後から合流って話らしいが、飯はどうするんだ?別々か?」

 

「え?うーん、そこはちゃんと聞いてなかったかも」

 

「そうか。じゃ俺ちょっとカレンに電話して聞いてみるわ」

 

「シュン、番号知ってるの?」

 

「こないだ教えてもらった。というか教えられた」

 

 カレンはちょっと無防備すぎる気がする。

 

 

 そう思いながら俺はカレンの携帯に電話を発信した。

 

 プルルルルル…プルルルルル…プルルガチャッ!

 

『ハーイ!シュンー?』

 

 コールが3回くらい鳴った後、カレンの元気な声が携帯から聞こえてきた。

 

『どうしたデスカー?』

 

「ああ、俺今モールにアリスと一緒にいるんだけどさ」

 

『オ?シュン、シノというものがありながら、アリスとデートとはチャラいデスネ〜?』

 

「違うわっ!アリス…と、お前のしのへのプレゼントの買い物の付き添いで来たんだよ!」

 

『それで、なんのご用デスカー?』

 

「…。お前、そっちの用事はまだ済んでなかったりするか?」

 

『イエ、丁度ついさっき終わりまシター』

 

「そうか。じゃあ、昼飯どうする?一緒にするならお前がこっち来るまで待つぞ?」

 

『oh~。それも良いデスが、ゴメンナサイ。今日のお昼はもう決めていたんデス。ソーリーデス』

 

「そっか、気にすんな。じゃあ、終わったら連絡してくれ」

 

『わかったデス!それデハ後ほどー!バーイ!』

 

 カレンのその一言で会話は終わり、通話も切れた。

 

 

「というわけだからアリス、俺達だけで昼飯食いに行くぞ」

 

「わかった。それじゃあ、どこにしようか?」

 

「アリスはどんな気分だ?あっさりか、がっつりか」

 

「特になんでもいいよ。あ、辛いのは嫌かな…」

 

「じゃあ、韓国料理とかはやめとくか」

 

「シュン、好きなの?」

 

「いや、別に」

 

「そう。…じゃ、シュンの好きな物は何?」

 

「俺?うーん、何が好きかって言われると…。逆に苦手なのなら甘酸っぱい系かな。苺とかなら大丈夫なんだが、酢豚とかだとちょっと無理」

 

「へー」

 

 ……さっきからどうもお互いに気を遣いすぎてて、ハッキリとした意見が決まらねえ。

 

 アリスは和食がいいんだろうが、おそらく俺を付き合わせている手前だから、自分勝手に言えないのだろう。

 

「……もう決まんねえから、和食屋にでもするか」

 

「!い、いいの!」

 

 俺の提案に遠慮がちながらも、アリスは目を輝かせていた。

 

「ああ。昼近くになってから本当に気温高くなって汗もかいてきたから、ざるっつーかつけ麺食いたくなった。種類豊富で美味くて安いとこあっから、そこにしよう」

 

「わーい!」(˶>ᗜ<˵)/

 

 アリスはぴょんぴょん跳ねて喜んだ。ああ、微笑ましくてこっちの心もぴょんぴょんするんじゃぁ^~。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 俺達は和食屋に着くと、席に着いてメニュー、もといお品書きを見て料理を選んでいた。

 

「そばか、うどんか……。よし、(ざる)うどんにしよう」

 

「じゃあわたしは(ざる)そばにしようっと!」

 

「麺の量、"小盛"、"並盛"、"大盛"とあっけどどうする?」

 

「"並盛"って多かったりする?」

 

「いや?平均的な量だったと思うけど」

 

「じゃあ、"並盛"で!」

 

 注文が決まったので、店員を呼ぶボタンを押して店員を招き、注文をする。

 

「ざるうどんの"並"1つと、ざるそばの"並"1つ、お願いします」

 

「かしこまりました。お冷はあちらにございますので。少々お待ちください」

 

 店員は向こうの台の上に置いてあった水差しとコップの事を俺達に伝えると厨房の方へと去っていった。

 お茶もあって、俺達が席に着いたすぐ後に店員さんが持ってきてくれていた。頼めばおかわりを注いでくれるそうだ。

 

 

 俺は注文をした後持ってきた水を飲みながら携帯をいじっていた。

 

 一方のアリスはというと。

 

「……」ソワソワ((・ω・ = ・ω・))キョロキョロ

 

 店内をわくわくしながら眺めていた。

 

 昭和の日本の家を思わせるザラザラした壁に、足がぐにゃぐにゃしている座卓、畳に座布団のテーブル席。

 

 どれもアリスの興味をひく要素が店内にあった。

 

「わ〜っ…!」

 

「……アリスってこういうとこ来んの初めてなのか?」

 

「うん!日本に来たらこういう店に来るの憧れてたんだ〜」

 

「しのん家で外食とかしないのか?」

 

「えっと…、するんだけど、いずれもファミレス、英国風の飲食店にばかりで…。あ、和食もメニューにあるからいいんだけどね?」

 

「つまり、あえて名前は言わんが特定の誰かが洋食ばかり食べたがるから和食オンリーの店に行けないと」

 

「うっ。…イ、イエス…」

 

 アリスはまごまごしながら頷いた。

 

「しのん家で世話になっている手前、わがままが言えない気持ちもわかるが、少しは主張したっていいんじゃねえか?しののお母さんに言ったら聞いてくれるって」

 

「でも、シノに悪いし…」

 

 …ったく、こいつは…。

 

「わーかったよ。なら今、思う存分堪能しとけ。と言っても後は飯食うだけなんだがな」

 

「うん!」

 

 アリスが今度は嬉しそうに頷いた。

 

 とりあえず、あの外国バカには後できちんと釘をさしておく事にしよう。

 

 

「お待たせしました。ざるうどん"並"と、ざるそば"並"、お持ちしました」

 

 注文してから約15分程で俺のうどんとアリスのそばが来た。

 

「わーっ。おいしそう!」

 

「さーて、じゃ食うか」

 

 俺とアリスは手を合わせて、

 

「「いただきます」」

 

 と言って俺は箸を持ってうどんをすくい……ん?

 

 アリスはまだ箸を手に取らず、そばをじっと見つめていた。

 

「アリス。食わないのか?」

 

「ちっちっち。シュン、まずはそばの香りを嗅いで、風味を楽しむんだよっ!次にそばの頂から、お箸を斜めに入れてそばをすくい取る。そして、まず最初は麺つゆにつけず素材の味をそのままいただくのがざるそばの作法だよっ」

 

 アリスは「フンスッ」と若干興奮しながら得意気にそう言った。

 

 さっき人の事オタクっつってたけどアリスも充分日本オタクだわ。わかってたけど。

 

 

 香りを嗅ぎ終わらせたアリスはさっき言った作法の通りにそばをすくい、そのまま口に入れた。

 

「ず……ちゅる…ちゅる……ずっ……んむっ……ちゅる…ちゅる…あむ……ずっ…ずるっ……むぐむぐ…」

 

 ……アリスはそばを食べるのに手こずっていた。

 

「……アリス。お前ってもしかして、麺すするの苦手だったりする?」

 

「ギクッ!」Σ(=ω=;)

 

 ギクッって口で言う人初めて見たわ。

 いや待て。そういや昔しのが言って…まてよ、綾も隠し事する時に言うような……いや、陽子もよく言って……。すまん、結構聞いてたわ。

 

 

「うぅっ……。カレンとかは慣れてるみたいなんだけど…」

 

「まあ気にすんな。これから出来るようになっていけばいいさ」

 

 カレンは昔から色んな国に旅行してたらしいから何処かでそういう料理に出会って慣れたのかもしれないが、アリスはパスタ等の麺類をフォークで回して食べる生活をずっとおくっていたんだろうからな。

 いくら箸の使い方が上手くてもこれはしょうがない事なのだ。パスタで練習するにしても、具やソースが飛んでしまうだろうし。

 

 

「よしアリス。俺がすするとこ見てお手本にしてみ?」

 

「えっ。う、うん」

 

「よーし、日本人のすすりっぷり、よーく見とけよ?」

 

 そう言って俺はうどんを一摘み持ち、麺つゆにつけて口に入れた。

 

「ずるっ!ずるるるるっ…!う"っ!ぶえっへ!!えっへ!!へっ!!」

 

 俺は盛大にむせた。

 

 喉を落ち着かせるため、俺は水を飲んだ。

 

「んぐっんぐっ……!ぷはぁっ!……へ、変なとこにつゆ入った……!はぁっ…!………あ」

 

「…………」

 

 アリスが目をぱちくりしながら無言でこちらを見ていた。

 

 やべぇ、しまった。アリスのやつ、引いてるのか?呆れてるのか?いや、これどっちにしても俺が○ぬ事に変わりねえな。つーか、汁とんだりしてねえよな?

 

「………ぷっ!ふふふ…!」

 

「ア、アリス…?」

 

「あはははははっ!シュンったら…、おかしいっ!あんなに自信満々に言ってて!あははははっ!」

 

 アリスは眼にうっすら涙を溜めながら、思いっきり笑い声をあげた。

 

「………コンニャロ!笑いすぎだ、コンチクショウ!」

 

 俺は冗談ぽく笑いながらアリスに文句を言った。

 

「あはははっ…!ご、ごめん!だって、おかしくって…!あはははははっ!」

 

 よっぽどツボにハマったのか、アリスは笑い続けた。

 

 ま、たまにはこういうのもいいかもな。

 

 

「あ、しのに電話しとくか」

 

 うどんを半分近く食べた所で、俺はしのに昼食を食べてる報告もかねて、定期連絡をする事にした。

 

 さっき(前回)の電話の時に、1時間に1回はしの(の家)にアリスがちゃんといるという報告をする事になったのである。

 

「あれ?」

 

 携帯を取り出すとメールが1件来ていた。

 件名を見ると、カレンからだった。

 

 メールを開くとそこには、今日のカレンの昼食と思われるラーメンを、箸ですくい上げるカレンの自撮り写真と一緒に、

 

 

『私、大人の階段を登りました!

 

          九条カレン』

 

 

 ……という文章が書かれたメッセージがあった。

 

「なんだこれ」

 

 俺はメールをしまい、しのん家に電話をかける事にして考えを放棄した。

 

 

 因みに余談だが、カレンはメール等の文章だと語尾とかカタコトではなく普通の日本語でうつ。だからあれは決してミスや誤字な訳ではありませんので。あしからず。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 昼食を食べ、和食屋を後にした俺達はモールの中の中央出入口の近くでカレンを待っていた。

 

「うーん、カレン遅いなぁ」

 

 現在、待ち合わせ時間の1時を10分程過ぎていた。

 

「カレンって時間守る方なのか?」

 

「んー…、ビミョーかも」

 

 …ま、それでも心配になるのは当たり前か。

 

 そう考えていると、

 

「アリース!シュンー!」

 

 右側の方からカレンが元気よく俺達を呼びながら走ってきた。

 

「カレン!もーっ、遅いよ!」

 

「アハハッ、ゴメンデス!」

 

「よっ、カレン」

 

「あ、シュン!オハヨウゴジャイマース!」

 

「昼なんだけど」

 

「ノンノン。会社に出勤する時、サラリーマンはナンドキだろうとオハヨウと言うのデスヨ?」

 

「お前はサラリーマンじゃねぇだろ」

 

 アリスといい、ほんとそういうの何処で覚えてくんのこの外国人達。

 

 

「それじゃあ、カレンのプレゼントを探しに行こう!」

 

 アリスが高らかに宣言した。

 

「あー、それなんデスが」

 

「どうした?」

 

「ここに来る途中で良いのを見つけたノデ、私そこでもうプレゼント買ってきちゃいまシタ!」(≧ڡ≦)テヘー

 

「えーっ!?」Σ(꒪Д꒪〣)

 

 あんまり悪びれずにそう打ち明けたカレンにアリスは呆れ混じりに驚愕した。

 

「もう!カレンはいつも自由気ままなんだからーっ!!」

 

「まあまあアリス落ち着け。どうせカレンが自分で渡すプレゼントなんだから」

 

「そうだけど…!!」

 

 宥めてみたが、アリスは釈然としていない様子だった。まあ気持ちはわかるが。

 

 

「で、何買ったんだ?」

 

「それは当日までのお楽しみデース」

 

「なんでだよ」

 

「シノが確実に喜ぶモノとだけ言っておきまショウ」

 

「!わ、わたしのプレゼントだってシノ、喜んでくれるもん!」

 

「何張り合ってんだアリス。それじゃあ、どうする?今日はもう解散すっか?」

 

「イエ、せっかく来たノデ、ショッピングをエンジョイして行きまショー!!」

 

 ま、来たばっかですぐ帰んのもあれだしな。

 

「で、何見んだ?」

 

「アリスが来た時は何見たデスカ?」

 

「うーんと、まずはゲームセンターに寄って…」

 

「ゲームセンター!そこ行きたいデス!シュン、UFOキャッチャーでぬいぐるみ取ってくだサイ!」

 

「OKまかせろ。こないだのリベンジ果たしてやる」

 

「やめてっ!?ていうかシュン、さっきわたしにくれた扇子がリベンジって言ってなかった!?」

 

「それはお前へのプレゼントの話で、UFOキャッチャーの話とは別だ。心配すんな、今の俺はバイトの収入があるから弾の数がこの前とは比べ物にならないくらいあって、戦艦並みの戦闘力がある!」

 

「弾切れ起こして轟沈されるだけだと思うよっ!だって今思うとシュン、UFOキャッチャーものすごく下手だったもん!!もう見てられなくなってそれで止めに入ったんだから!!」

 

「アリスー」

 

「なに?カレン」

 

「シュンがUFOキャッチャーする前に沈んだデス」

 

「えっ。ああっ!?シュンが床に手と膝をついて、落ち込んでる!!ごめん、シュン!!」

 

 イギリス式戦艦アリスの波動砲を食らった日本式戦艦俺が復活して帰ってくるのに10分ほど要した。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 それから俺達3人は、ゲーセンに寄って色々なゲームを遊んだり(UFOキャッチャーはしませんでした)、文房具売場に寄ってせっかくだからノート等を数点買ったり、ペットショップで色んな動物を見たりした。あとそこでカブトムシが売り出され始めてたりしてた。

 

 とまあ、そんな具合でこの前寄った所を大体回ってきた。

 

 

 そして俺は今現在、男子トイレに居た。

 

 さすがに長時間そこに向かわず、ずーっとアリス達と一緒にいるというのは無理があった。と言うより膀胱がもう限界だった。

 

 俺はなるべく早く済ませ、アリスとカレンの所へと向かった。あ、手はちゃんと洗ったからな?

 

 しのじゃあないが、アリスとカレン2人だけを残すというのは俺でも多少心配になる。そう思い俺は速足で2人の所へと歩いていた。

 

 

 2人と別れた場所へと近づくと、何やら少々騒がしかった。

 

 まさか、アリスとカレンが暴漢にでも襲われてたんじゃ…!

 

 俺は急いで2人の元へと向かって行くと、アリスとカレンの叫び声が聞こえてきた。やっぱり声の主はあの2人だった。

 

 くそっ!俺が付いていながら!

 

「おーい!アリス!カレン!」

 

 俺は2人が見える所まで来ると2人に呼びかけた。

 

「いったい、何があっ──!」

 

 

「お姉ちゃん!」

 

「妹デス!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「妹ー!」

 

 …………どういう状況これ?

 まあ、なんかに巻き込まれたとかじゃなくて良かったけどさ。

 

「はーいはい、お前らー」

 

「あっ、シュン!聞いてくだサイ、アリスがー」

 

「違うよーっ!カレンがー!」

 

「2人とも。話聞く前に、周りを気にしようか」

 

「え?……あっ!」

 

 2人の騒ぎで周りに人集りがざわざわと出来ていた。

 

「オー!私たち、注目されてマース!」

 

「お…!お騒がせ致しましたー!!」(//>ᯅ<//)՞ ՞

 

 カレンはあっけらかんと気にしてなく、アリスはこの状況に恥ずかしくなっていた。

 

 俺はカレンの手を引っ張り、アリスと一緒にその場から離れた。

 

 

 そして、さっきとは別の場所の適当なベンチに俺達3人は座り、休憩をしていた。

 

「………で?さっきは2人で何言い争ってたんだ?」

 

「あ!そうそう!聞いてよシュン!カレンが酷いんだよーっ!」

 

 俺が質問をすると、恥ずかしさにまみれてたアリスがさっきの調子を取り戻した。

 

 

 2人の話を聞くとつまりこういう事だった。

 

 日本だとアリスとカレンは、2人でいると通りすがりの人達によく姉妹だと間違われるとのこと。その事にカレンが「きっとアリスがちっちゃいから」と言い、その発言にアリスが「お姉ちゃんはわたし」と物申し、それで言い争いになりあんな状況になったとのことだった。

 

「絶対わたしの方がお姉ちゃん!」

 

「イエ、アリスは妹デス!」

 

 あ、やべ。この後の展開が読めた。

 

 これ、この後どっちかが「じゃあシュンにどっちがお姉ちゃんか決めて貰おう」とか言って、俺が問いかけられて困るパターンだ。

 

 俺だって学習はする。さて、そんな質問をどうやってされない様にして切り抜け──

 

「じゃあシュンにどっちがお姉ちゃんか決めて貰おうよ!」

 

「望むところデス!」

 

 読めても考える時間無けりゃ意味ねぇじゃんんん!!

 

 アニメみたいに、『この間、0.2秒』みたいにいかねーんだよ!!そんな頭してる奴、現実にいる訳ねーだろ!!

 

 

「「シュン、どっち(デスカ)!?」」

 

 アリスとカレン、2人同時に問いかけられた。どうしよう。

 

「………えーと……。た、誕生日だとアリスが1番お姉さんなんじゃねぇのか?」

 

「はっ!そうだよ!わたしは4月5日でカレンの誕生日は、12月1日!だからやっぱりわたしがお姉ちゃんだね!」

 

 ほう、カレンの誕生日は12月なのか。

 

「生まれた順番なんて関係ないデス!年度的には同い歳なんデスから!それよりも、どれだけ成長してるかの方が大事デス!それは見た目はモチロン、中身もデス!」

 

「中身ならカレンは子供の時からずーっと変わってなくて子供じゃん!」

 

「ノンノン。私はアリスの知らない所で日々、成長してるのデスヨ。ついさっきも、大人の階段を登ったばかりデス!」

 

「あ。そういえばさっき飯食ってた時にお前から変なメール貰ったんだが、ありゃなんだ?」

 

「変なメールって?」

 

「えーと…、これ」

 

 俺は携帯を取り出し、アリスにカレンからのメールを見せた。

 

「………なにこれ?」

 

 うん、そうなるわな。

 

「フッフッフ。聞いて驚いて下サイ。私はなんと…、1人でラーメン屋へと入って行って注文もしたのデスヨ!!」

 

 それだけかよ。

 

「ガーン!!」Σ(꒪□꒪〣)‼

 

 あれ?アリス、結構効いてる!?

 

「そ、そんな……。カレンがいつの間にか、そんな大人な事を…」

 

 1人でラーメン屋って大人なのか?

 

「フフフ。やはり私の方が大人のようデスネ」

 

「うぐぐぐ…!」

 

 何これ。場の情緒がカオスなんだけど。俺どうしたらいいの。

 

「こうなったら最終決断をシュンに下して貰おう!それでハッキリさせよう!」

 

「望むところデス!」

 

「さあシュン、どっちが───!!」

 

「あ━━っ!あんな所にガチャガチャが!欲しいのあるかもなー!!」

 

 俺はそう叫んでガチャポンコーナーへと走って行った。

 

「え━━っ!?ちょ、ちょっと待ってよシュンーッ!」

 

「Wow!ガチャガチャ、私もやりたいデース!」

 

 すまん。俺にはもう限界でした。

 

 

 

 それから、俺達はガチャガチャを楽しんだ。アリスとカレンも白熱してたのか、どっちが姉かの話はもう忘却の彼方へと行っていたようだった。

 

 …因みにガチャガチャの結果はと言うと…。

 

「………シュンって、運もイマイチなんデスネ」

 

「全5種のを7回やって全部同じのが出るって、ある意味凄いよ…」

 

「うるせえやいっ!!」(╥Д╥)

 

 その後に近くにいた店員さんがそんな俺を見て、哀れに思ったのか「いくつか交換しましょうか?」と訊ねてきた。

 プライドが許さないので俺は断ろうと思ったが、アリスとカレンが「あ、じゃあお願いします」と勝手に交換してしまっていた。

 それで全種揃って2人に「よかったね」と言われたが、嬉しさよりも申し訳なさと惨めさが勝った。

 余った2つは午前に買ったお菓子と一緒に、アリスとカレンにやった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 時刻は午後4時に差しかかろうとしていた。

 俺達はそろそろ自宅に帰ろうという事にし、モールの外へ出た。

 

 電車に乗って駅を降りしばらく3人で歩き、途中の十字路でカレンと別れる。

 

「今更だが、帰り大丈夫かー?」

 

 俺はカレンに訊ねた。

 

「大丈夫デース!もう道は覚えてマース!それにもし道に迷っても、シュンに教わった携帯のマップ機能も覚えてマスし、充電器も持って抜かりナシデス!」

 

「なら良し。そんじゃなー」

 

「カレン、また明日ー!」

 

「アリスとシュンも、また明日デース!」

 

 カレンは手を振りながらそう言って、家に帰って行った。

 

 

 そしてしのの家の前に着き、そこでアリスに別れの挨拶を言う。

 

「じゃアリス、また明日」

 

「うん!………あのー、シュン…」

 

「ん?」

 

「今日は……ありがとう!」

 

 アリスは笑顔で俺にそう言った。

 

「………ああ。明日しの、喜ぶといいな」

 

 例のプレゼントは、明日学校でカレンと一緒に渡すとの事。

 

「うん!それじゃあ、また明日!」

 

「おう」

 

 アリスが別れの挨拶を言ってしのの家に入って行き、俺も近くの自宅へと向かって行った。

 

 俺が自宅の門を開き家に入ろうとした時、しのの家から「ア"リ"ズううううぅぅぅううっ!!」という悲痛の叫び声が聞こえてきたが、俺はそれを気にせず「ただいまー」と言いながら家に入るのであった。

 

 

 

 ~アリスSide~

 

「あぁっ、しまった!」

 

 夜中にわたしが布団を敷いて明日に備えて荷物を整理していると、とある事を思い出した。

 

「シュンに誕生日聞くの、すっかり忘れてたよ〜っ」

 

 シュンに日頃の感謝へと何かプレゼントする為に前もって誕生日を聞いとことうと思ってたのに!

 

 どうしよう。しのに聞くにしても、しのはもう寝ちゃっているし、イサミやシノの家族も仕事疲れでもう休んでるし、ヨーコかアヤ、シュンに電話するにしても、それだけで連絡する時間帯じゃないし…。

 

 ん〜っ…。よし!明日シュンに聞こう!

 明日の朝に会う時に思い切って聞いてみようっと!

 

 わたしはそう思い、今日はもう寝る事にした。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 翌朝。

 

 わたしとシノが揃って家を出ると、門の前でシュンが待っててくれていた。

 

「シュン、おはよう!」

 

「おはようアリス。今日は上手くいくといいな」

 

「うん!」

 

「アリス、いったい何の話ですか?」

 

「ふふふ!シノ、学校で楽しみにしててね!」

 

「?」

 

 ウフフフ、シノ喜んでくれるといいな〜。

 

 わたしはシノへのプレゼントの事で頭がいっぱいだった。

 

 ~アリスSide、OFF~

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 俺が自販機でジュースを買ってクラスに戻ってくると、カレンがいつもの如くこっちのクラスに来ていて、綾と陽子と話していると何やら2人が驚いている様子だった。

 

「おーい、なに話してんだ?」

 

「あ!峻!カレンたらね、こないだ1人でラーメン屋に行ったらしいのよ!」

 

「あー、その話ね。カレンの奴もう言いふらして…」

 

「1人でラーメン屋に行くなんて、大人だわっ!」

 

「私なんて行けてもファーストフードだよ!!」

 

 あっっるぇええ!?

 

 女子高生の感覚がわからん!

 それとも俺がおかしいのか?

 

「それで、どんな感じだったんだカレン!」

 

 陽子が興奮した様子でカレンに訊ねた。

 

「フッフッフ。そんなに気になるのナラ、仕方ありませんね。教えてあげまショウ!」

 

 カレンがドヤ顔で話し始めた。

 

 

 ~回想~

 

 わたしはラーメン屋ののれんをくぐり、心をドキドキさせながら、

 

『ヘイタイショー、ラーメンひとつ。ホットでお願いしマス!!

 

 とスマートに頼み、わたしはタイショーが持ってきたラーメンをおもむろにすすった……デスッ!

 

 ~回想終わり。~

 

 

「ある意味すごい!」

 

「恐れを知らない!!」

 

「………まあ、『冷やしラーメン』っつーのもあるし…」

 

「『冷やしラーメン』?何それ?」

 

「冷やし中華と違うの?」

 

「え?ああ、普通にラーメンのどんぶりで出す冷えたラーメンの事だよ」

 

「冷やしラーメン!私も食べて見たいデス!今度あの店でやってみマス!」

 

「待て待て待て!冷やしラーメンはラーメン屋全部にある訳じゃねえよ!!ある場所は限定されてるんだ!」

 

「ならシュン、今度私をそこに連れて行って下サイ!冷やしラーメン食べたいデス!」

 

「え」

 

「あ!私も食べたい!なぁ峻、私も連れてって!」

 

「私も興味あるわね。今度シュンの奢りで行きましょう」

 

「なんでいつの間にそんな話になった!?あと勝手に奢りにすんな!!」

 

 ちょっと言ってみただけだったのに、ここまで興味持たれるとは思わんかった!

 

 後日、ついでにしのとアリスも加わって、カレン達を冷やしラーメンがある店まで連れて行ってご馳走する事になってしまったのであった。

 

 なんでこうなった。みんな美味しいと言ってくれたのは良かったが。

 

 

 ~See you, next time!~




アリス、カレンとのお出かけ編でした。
原作話のちょっと補完的な話で前編後編に分けるほど長くなるとは思ってなかった…。
なんかキャラにこれさせようあれ言わせようと考えてたらこんな事に(笑)

あ。タンポポ雲さん、遅れましたが推薦ありがとうございました!

それではまた!


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第12話~やきもちフレンド~

へいお待ち。

2話しか間が無いのに久しぶりに感じる原作、アニメ回です(笑)。

しのの誕生日関係の話がこれにてやっと終わります。

西明日香さん、第一子出産おめでとうございます!

それではどうぞ。


 アリスとカレンの買い物に付き合った次の日。

 

 俺は今学校でトイレから教室に戻って来ている最中であった。

 

 あいつらもうプレゼント渡したかな。

 

 

 俺が教室に入ると、いつもの5人が集まって何かを話していた。

 

「……と、買い物中こんなことがあったんだけど!」

 

 アリスがそう喋り、陽子達に何かを聞いていた。

 

 昨日の買い物の時の話か?でも何のどの話だ?

 

「うーん、多分誰に聞いてもアリスの方が妹って答えると思うなー」

 

「えぇ!?」

 

 その話かー。

 

 思い出さんでいい話を…。

 

「ほらーっ妹デス!」

 

「そんなー!」

 

 あぁ。アリスのやつ、今にも泣きそうだ。どうフォローを入れるべきか…。

 

「わたしの事、シュンはお姉ちゃんだって言ってくれてたもん!!」

 

「ちょっと待て!!」

 

 アリスの突然の発言に俺は身を乗り出し、待ったをかけた。

 

「あ、峻。おかえりー」

 

「たでぇまー。…じゃなくて!アリス、俺そんなんいつ言ったっけ?」

 

「昨日生まれた順でそうだって言ってたじゃん!」

 

「あー…。いや、あれは一般的な意見として言っただけであって…」

 

「あと、前にアルバム見せた時も!」

 

「へ?アルバム?」

 

 …えー、アルバム、アルバム…………………………あぁ!

 

 

 ~回想~

 

 カレンが転校してくる数日前の時のこと。

 

「ん?この子は誰ですか?」

 

 皆でアリスのアルバムを見ているとしのが小さい頃のアリスの写真に一緒に写っているアリスより小さい女の子を見てそう言った。

 

 そこで俺がアリスにこう聞いたのだ。

 

「なんだ。妹か?」

 

「!…ふふふ、違うよ」( *¯ ꒳¯*)

 

「なんで今得意気になった?」

 

「その子はイギリスに居る友達だよ」

 

 ~回想終わり。~ (詳しくは第5話をご覧下さい)

 

 

「………あー」

 

 そうか。あの時なんかアリスが得意気になってたのはそういう事だったのね。

 

 ……いや俺、あの時はアリスがお姉ちゃんだとは言ってなくね?

 

「小さい頃はアリスの方が大きかったんですよねー」

 

「確かにあのアルバムではアリスの方がお姉さんに見えるかもなー」

 

「今は完全に立場が逆転しちゃってるけどね」

 

「おい綾、もう少し言葉にオブラートを包め」

 

「うううっ…!」

 

 ほれ見ろ、アリスが泣きそうな顔しちまった。

 

「昔は泣きながらわたしの後ろをついてきたのに!もーっ!こんなに大きくなっちゃって!」

 

 そう言ってアリスは「おねーちゃんはかなしいよ!」と喚きながら今現在のカレンの成長した姿に落胆していた。

 

 

「もうそんなに拘らんでもいいだろー。妹もそんなに悪いもんじゃないと思うぞ」

 

「そうね。可愛い妹…みたいな」

 

 俺と綾はそう言って、アリスを宥めた。

 

 するとしのが何やら目をキラキラと輝かせていた。また何か変なこと考えてたな。

 

 すると次にこう言った。

 

「全世界の妹…」

 

「全世界の…!?」

 

「しの、全世界はやり過ぎだろ。70億人もお兄ちゃんお姉ちゃんがいたらアリスが参っちまう」

 

「そういう問題じゃないよ!……ん?ちょっと待って!それだとわたし、歳下の子相手でも妹になるわけ!?」

 

「そうなるな」

 

「素敵です♪」.。゚+.(*´▽`*)゚+.゚

 

「ならないよ!嫌だよ!!」( ̄□ ̄〣)

 

 そんなアリスのシャウトが響いた後、チャイムが鳴り、早朝の休み時間は終わった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 それからお昼休みの時間になり、俺達6人は図書室に来ていた。こないだやったテストが戻ってきて、しのと陽子、そしてカレンが赤点を取ってしまい、後日追試を受けることになったので、図書室で勉強をしようという事になったのだ。

 

 なに?テストなんて何時やったって?しのの誕生日のちょっと前だ。話に支障がなかったから描写してなかっただけで、書き忘れてたわけではない。……ホントだぞ?

 

 とにかく俺達はそこに来て勉強をしたり、調べ物をしたり、ラノベ…小説などの本を読んだりしていた。

 

「英語では姉も妹もシスターって言いますね」

 

 本を読んでたしのが突然口を開いてそう言った。

 

「そうだねー」

 

 しのの発言にアリスが反応した。

 

「文化の違いかな。あんまり年齢は気にしないんだよ」

 

「へ〜っ。そうなんですかー」

 

「さっきのやり取り見てる分にはとてもそうには思えないんだが」

 

「そっ、それとこれとは話が別なの!」

 

 俺の発言にアリスはたじろぎながら反論した。

 

 なにが別なんだよ。英語圏出身であるお前に思いっきり関係のある話だったろうが。

 

 

「アリスー」

 

 アリスの隣で、戻ってきた自分のテストの答案としばらく睨めっこをしていたカレンがアリスに話しかけてきた。

 

「勉強教えて下サイー」

 

「いいよ。何の教科?」

 

「英語」

 

 ………………………。

 

「「えぇ━━━!?」」

 

「アリス、峻君、声が…」

 

「あ、やべ」

 

「すみません…!」

 

 図書室に居るにも関わらずアリスと揃って思わず驚きの声を上げてしまった。いやだってね?1番信じられない教科がカレンの口から発せられたもんだからさ。

 

 

 カレンの英語の答案を見てみると、そこには19点と記されていた。赤点じゃねぇか…。

 

 1番驚いてるの多分英語担当教師なんじゃねこれ?英語担当は確か烏丸先生か。…あの人あんま驚かなさそうだな。せいぜい「あら〜?」で終わる程度だと思う。

 

「おいカレン、どうした?なにかあったか?」

 

「最近日本語に慣れすぎて、英語がカタコトなんデスよー」

 

 カレンは笑いながらそう言った。

 

「そんなことあんのか?」

 

 ていうかお前、日本語だって未だにカタコトだろうが。何語ならうまく喋れるんだ。

 

「あーっ!カレンったら解答欄ずれて、答え書いちゃってるよー。せっかく合ってるのに!」

 

 アリスがカレンの答案を見るとそう指摘した。

 

「どれどれ…。あ、ほんとだ」

 

 改めて答案をよく見ると、確かに所々問題に対して書く解答が別の所になっていた。

 

「よく気づいたな」

 

「アリスは頭良いんですよねー。こないだのテストも100点でしたし!」

 

「最近だと国語も平均点以上取るようになったしな」

 

「アリス、スゴ〜イ!」

 

「!」

 

 しの、俺、カレンでアリスを褒め称えた。

 

「えへへ…」( ˶≖ᴗ‎≖)

 

 するとアリスが何やら何かに勝ったような、黒い笑みをこぼしていた。

 おそらく、成績なら自分の方がカレンよりも上だって思っているのだろう。そういうとこだぞアリス。

 

「カレン、私も一緒に勉強します!」

 

 しのも自分の答案を取り出し、勉強を始めた。

 

「カレン、私と同じ点数ですね!」

 

「シノ、私と同じところ間違ってマス!」

 

「本当ですね!」

 

 何のんきな事言ってんだコイツらは。

 

 ん?あっ。

 

「………」=͟͟͞͞( ´ ゚ - ゚)

 

 同レベルな事で、きゃあきゃあと仲良さげにしているしのとカレンを見て、アリスの心は沈んでいた。

 

「……えーと、その、まぁあれだ。しのが成績上げれば、お前ともお揃いになるぞ?……かなり難しいだろうけど」

 

「………辞書とってくる…」

 

 俺の慰めになってない慰めの言葉をうけたアリスは辞書を取りに席を立っていった。

 

 なんつーか、あいつはしょっちゅう何かに負けているような気がする。……………おかしいな。今なんか胸が痛くなったぞ?

 

 

「あ、峻」

 

「お、綾。何してるんだ?」

 

 俺はラノベの続き、じゃなくて参考書を探そうと図書室内を歩いていると綾と遭遇した。

 

「ち、ちょっと、『動物の赤ちゃん』って本を見てただけよ。なによ、似合わなくって悪かったわね!」

 

「誰も何も言ってねぇだろ、そんな事。別に、んな事言わねぇし思いもしねぇよっ」

 

「………そう…」(˶⩌ _⩌)

 

「陽子は?」

 

「その辺に居ると思うわ」

 

「ふーん。…あ、いた」

 

 綾と話してると隣の隣の棚の所に陽子が居るのを見つけた。

 

 何かの本を開いてそれを読んでいる様子だった。

 

「なに読んでるんだろうなあいつ?」

 

「さあ…。それにしても何だか陽子、凄く真剣な表情してないかしら?」

 

「確かに。どうしたんだろう?…ん?」

 

 そう話していると、陽子がこちらに気づき向かって来た。

 

 そして綾の目の前に来ると、両手で綾の両肩を掴み綾に迫った。

 

「!!?」Σ(;(;(//Д//););)

 

 陽子のその行動で、綾は一瞬で顔を真っ赤にした。

 

「綾………。私、もう我慢出来ない…」

 

「えっ!?ちょっ、陽子!?」

 

「ずっと耐えてきたけど、もう限界なんだ……っ!」

 

「まっ、ままままま待って!私、貴方とは健全な関係でいたいというか…!でも…!陽子がそう言うなら私──!!」

 

 陽子の言い放った発言に綾が慌てふためきながら返答しようとした次の瞬間──!!

 

 ぐぅうううううっ!

 

 陽子から凄い音の腹の虫が鳴った。

 

「今日、早弁しちゃったうえに、財布と菓子パン忘れて来ちゃったから、お昼何も食べれなかったんだよーっ!」

 

 うん知ってた。こういう展開なんだろうなって。

 

「しかもー、この「世界の料理全集」って本の中身の料理眺めてたら、余計にお腹が空いてきちゃってさー!もう我慢の限界なんだぁっ!ねー綾、授業始まる前にダッシュで買ってくるから、お金貸してー…」

 

 あ。案の定、綾の顔が暗くなってきてら。

 

 更に体を小刻みに震えさせて…。

 

「……………よ…………」

 

「?」

 

「陽子のバカ━━━━ッ!!!!」ε=٩(//̀Д/́/#)۶

 

 綾の怒りが爆発した。

 

「えーっ!なんでーっ!?」

 

「そんな本読んでる暇があるなら、真面目に補習の勉強しなさーいっ!!」

 

「えー、なんだよーっ!ちょっと息抜きしようと思って読んでただけだったのに、そんなに怒んなくてもいいだろーっ!?」

 

「おい綾。図書室では静かにな。あと陽子お前も」

 

 怒る気持ちは分かるが一旦落ち着け。

 それと陽子、綾が怒ってる原因の八割は別の理由だからな?

 

 

「あら?アリスとカレン、何やってるのかしら?」

 

「へ?」

 

「あん?」

 

 多少落ち着いた綾が、向こうの棚の方でアリスとカレンが何かしているのを見つけた。

 

 あれは……、肩車…か?

 

「これで取れマス!」

 

 下がカレンで上にアリスが乗っていた。

 おい、まさかあれで高い所の本取ろうとしてるのか?

 

「あぶっ、あぶない!」

 

 って、思いっきりふらついてるじゃねぇか!

 

「おいこら、危ねぇ!」

 

 俺はアリス達の元へ急いで行き、支えようとした。

 

「うわぁっ!」

 

 だが、ちょっと遅かったらしく俺が2人の後ろに来た所でアリスが後ろに倒れてきて、

 

「ふぎゃっ!」

 

「ぐあっはっ!」

 

 アリスの後頭部が俺の額にぶつかり、その反動で俺は後ろに倒れて行ってしまい、

 

「ごッッほぁっ!!」

 

 後ろにあった棚の、棚板の側面の角に俺の後頭部がぶつかってしまった。

 

「~~~~~~~っ!!」ヽ(>ДХ`;≡;´☆Д<)丿

 

 俺は痛みでのたうち回った。

 

「痛た…。うん?あぁっ!!シュン!?」

 

「おい、3人とも大丈夫かっ!?」

 

 心配するアリスに次いで、陽子と綾が駆け寄って来た。

 

「峻!大丈夫!?」

 

「…俺が牛乳嫌いだったら、危なかったわ」

 

「ふぅ…、大丈夫そうね。でも念の為、後で保健室に行きなさいね?」

 

「そうするわ」

 

「シュン、ごめんね〜っ!」

 

「sorryデス」

 

「大丈夫だって。それより、お前ら何肩車してたんだ?」

 

「アリスの本を取ろうと思いマシテ…」

 

「どの本?」

 

「あの上から2列目の棚の辞書らしいデス」

 

「んー?あそこだったら、カレンの身長でも届いたんじゃ…?」

 

 確かに、1番上の棚は無理だが、2番目の棚ならカレンの身長でも届く高さだ。

 

「私も、最初はそうしようと思ったんデスガ…」

 

 カレンがそう言った瞬間、

 

「ううっ!わたしが見栄を張ったばっかりにシュンが……!!」

 

 アリスが震えながら涙目でそう呟いた。

 

「どゆこと?」

 

「お前らの会話はいつも途中から聞くと訳分からん」

 

 

 というわけで俺達は、アリスとカレンからこうなった経緯を聞いてみた。

 

 最初に、アリスがその辞書を取ろうとしたけど背が低いから届かなくって、そこにカレンが自分がと名乗り出たがアリスが自分で取るからいいと断ったそうな。どうやらこの時アリスはさっきのしのとのやり取りの事をまだ根に持ってたらしく、意地になってたらしい。

 そこで、カレンは自分が取るのではなく肩を貸してアリスに取らせようと提案をし、そしてああいう状態になったんだとか。

 

「わたしが素直にカレンに頼まなかったばっかりに、シュンがこんな事に……!」。 °(°´ᯅ`°)° 。

 

「だから、大した事ねぇから気にすんなって。な?」

 

 俺はそう言うが、アリスの泣き顔は直らない。どうしようか。

 

 そう考えていると、陽子がアリスとカレンの前に出た。

 

「ったくもう…。2人とも、反省してるんなら、もうこんな危ない事しない事!いいな?」

 

 陽子はそう言いながら、床に座り込んでいたアリスに手を差し伸べ、アリスを立ちあがらせた。

 さっきの情けない様子とは違って、今の陽子は頼れる姉の様な佇まいになっている。

 

「う、うん…!」

 

 陽子の言葉にアリスは素直に頷いた。

 

「よし!峻もそれでいいだろ?」

 

「あ、ああ」

 

 流石、曲がりなりにも3人姉弟の長女なだけあって、陽子はこういう時の宥め方が上手いな。こういう所は見習いたい。

 綾もさっきの怒りは何処へやら、隣で陽子の事を関心しながら見ていた。

 

「カレンも、わかったな?」

 

「ハイ!私、今度やる時マデに危なくならないよう、足腰をちゃんと鍛えておくデス!」

 

「お前の反省の仕方、なにか違くないか!?」Σ( ̄□ ̄;

 

 カレンのズレた反省に陽子がツッコミを入れた。

 

 

 

「ほら、アリス」

 

「ありがとう、シュン!」

 

 俺はアリスに本を取ってあげた。

 

「あ、そうだ。なぁアリス、カレン」

 

 俺は小声で2人に訊いた。

 

「ん?」

 

「なんデス?」

 

「しのにプレゼント、もう渡したのか?」

 

「あ!ううん、まだだよ」

 

「これから渡すデス!」

 

「そうなのか」

 

「じゃあカレン、教室に戻る時に渡そっか」

 

「リョーカイデース!」

 

 アリスとカレンはそう言って、図書室の机に戻って行った。

 

「おーい峻。なんの話してたんだ?」

 

「ああ陽子。いや実は、しのの誕生日プレゼントを2人が渡そうとしてたんだよ」

 

「あー、2人とも渡せてなかったからなー。しののやつ喜ぶだろうなー」

 

「ああ」

 

「……ん?綾?」

 

 陽子が何かに気づき、見てみると綾が棚から本を取ろうとしてるのが見えた。

 1番上の本を取りたいのだろうが、綾が背伸びをしても少々届いてない様子だった。

 

 すると陽子が綾の所へと向かっていった。

 

「綾、取れないの?」

 

「え。……………!」

 

 陽子が声を掛けた後、綾は何を思ったのか急に顔を赤くした。さっきの怒りでも思い出したのだろうか。

 

「じっ自分で取れるわよ!肩車なんかしなくても!」

 

「やらねーよっ!?さっきの手前あるし!」

 

 どうやら綾は陽子と肩車フラグの展開が起こるとでも思ったらしい。肩車フラグってなんだ。

 

 本は陽子が1人で普通に取って綾に渡した。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 俺、しの、アリス、カレンの4人は図書室を出て、教室に戻ろうと廊下を歩いていた。陽子と綾はまだ勉強をしていて図書室に残っている。

 

「シノ、ちょっといい?」

 

「デス!」

 

「?なんですかアリス?カレンも?」

 

 アリスとカレンが立ち止まってしのに話しかけた。

 おっ、遂に渡すのか。

 

「実は昨日3人で出かけた時に、わたしとカレンはシノにプレゼントを買ってきたの!」

 

「えーっ!そんな!ありがとうございます!」

 

 アリスの発表にしのは嬉しそうにした。

 

 そしてアリスとカレンはプレゼントを取り出した。

 

「わたしは扇子だよ」

 

 アリスは例の桜模様の扇子を差し出した。

 

「わあ~、ステキ!」

 

 アリスのプレゼントをしのは喜んで受け取った。

 

「私は、外国の切手デス」

 

 カレンは普段あまり見かけないような、様々な洋風の絵や写真が描かれた切手シート数枚を差し出した。

 

 そのプレゼントにしのは…。

 

「!!きゃああー!カ、カ、カレン!どうして私の欲しい物が分かったんですか!?エスパーみたいですー!」

 

 先程とは比べ物にならない程の喜びを見せ、感激していた。

 

 そんなしのの様子に、

 

「ガーン!! ガーン ガーン…(エコー)」〣(꒪⌓꒪〣)〣

 

 アリスは物凄い勢いで落ち込んだ。

 

 いくら何でもこれは酷すぎる。

 

「おい、こら、ボケナスこけし」

 

「ボケナスこけし!?なんですか峻君、その不名誉な呼び名は!?」

 

「こんなアリス見たら、そう呼びたくもなるわ」

 

「アリス?……あああっ!?アリス!!」

 

 落ち込んでいるアリスの様子を見て、しのはやっと自分の失態に気がついた。

 

「すみません!舞い上がってしまって!」

 

 しのはアリスに謝罪をした。

 

 するとアリスはぷるぷると震えだして…。

 

「シノ…」

 

「アリス?」

 

「シノは…カレンの方が好きなの!?」

 

 泣きながらとんでもない問いかけをしだした。

 

「え…えっと?」

 

 アリスの突然の発言にしのは困惑していた。

 

「ねぇ峻」

 

「あ、綾。陽子も」

 

 俺の後ろの物陰に、いつの間にか綾と陽子が来ていた。

 

「何だ、この修羅場」

 

 陽子が今のしの達の様子に困惑しながらそう反応した。

 

 すると、アリスはしのの右腕を掴み、カレンに「しのは渡さない」とでも言いたそうにしてた。

 そんなアリスの様子を見て、今度はカレンがアリスの反対側のしのの左腕を掴んでこの展開に乗っかった。

 まるでラブコメの好きな人同士を取り合うヒロイン達みたいな絵面だ。

 

 その渦中にいる問題のしのはというと。

 

「見ろ、あの穏やかな表情!」

 

「幸せそうだなおい」

 

「まさに台風の目だわ!」

 

 呑気に嬉しそうな顔をしていた。

 

「ところで峻、貴方はこの状況に混ざらなくていいわけ?」

 

 綾が小声で、えらい事を聞いてきた。

 

「修羅場を増幅させてどうする。つーか、こういうのは同性だからまだ冗談とかで済んでいるのであって、異性の俺が行ったら色々取り返しがつかなくなっちまうの。元の関係に戻れなくなるのっ」

 

「そうやって油断して貴方は何もしなくて、あの3人にもしもの事があったらどうするのよ」

 

「いやいやいやいやないないないないないだろうないない」

 

「思いっきり動揺してるじゃない。語彙力なくなっているわよ」

 

 

「アリス、朝のことまだ気にしてるデス?」

 

 綾と話していると、カレンがアリスにそう問いかけていた。

 

「私が妹でもOKデスよ?」

 

「そっ、そーゆー問題じゃないのっ」

 

 どうやら、姉の座を譲られてもアリスの中では納得出来ないものがあるらしい。

 

「二人共!ケンカはだめですよ!」

 

 するとしのが2人の様子に耐えかねたのか、話に割って入った。

 

「アリスはアリス、カレンはカレンです。

 

 ──みんなちがって、みんな良いんです──

                      」

 

 しのが2人を諭す様にそう言った。

 

「しのから後光が溢れ出ている!?」

 

「2人の一触即発な雰囲気が浄化されていくわ!」

 

「何これ、『忍教(しのぶきょう)』?」

 

 なんだかよく分からない状況に俺達は、ただそれを眺めているだけであった。

 

 

「カレンはアリスを追って日本に来たのだし、アリスがカレンのこと大好きなことも、私知ってますよ!」

 

「シノ…あっ」

 

 しののその発言に、アリスは何かに気がついた様な表情を見せていた。

 

 するとアリスは、しのとカレンの間に入り、2人のそれぞれの腕を掴んでぎゅーっと抱いた。

 

「シノも好きだけど、カレンも同じくらい好き!」

 

「アリス!私もアリス大スキ!」

 

 嬉しそうなアリスにカレンも答えた。

 

 おそらくアリスはカレンだけにではなく、しのにもヤキモチを妬いていたんだと思う。自分の"好きな人"を、"両方"取られたと思って。

 

 ともかく、2人が仲直り出来たみたいで良かった。

 

 ん?今度はカレンがしのに抱きついて…。

 

「シノの事も大大大大スキ!」

 

「『大』が多いよ!!」ε٩(*>ロ< )۶з

 

 ……これって仲直りしたのか?

 

「…まあ、ケンカするほど2人とも仲良しって事だな!」

 

「そうね」

 

 陽子と綾はそう言うが、……まあそういう事にするか。

 

 

「あ。シュン」

 

「おいカレン、なんだその「あ、居たの忘れてた」みたいな反応は」

 

「!…シュンはテレパシーの使い手デスか…!?」

 

「包み隠せや」

 

 泣くぞ。

 

「ゴメンナサイデス!大丈夫、私シュンの事も大スキデスからネ!」

 

「……あんがとよ」

 

「アリスもシュン、スキデスよネー?」

 

「えっ?す……、I like you!」

 

「なんで今、英語で言ったデス?」

 

「だ、だって男の子のシュンに日本語で『好き』って言うのなんだか変な感じするんだもんっ」

 

 アリスはそう言って恥ずかしがった。まあ、気持ちは分かるな。

 

 日本語の『好き』は英語みたいにハッキリしてなくて、別の意味にも捉えられてしまいかねないからな。

 

「峻君!私も英語で伝えます!"アイライクユー"!永遠(とわ)に!です!」

 

「………『永遠に』は日本語じゃないんかーい…」=͟͟͞͞(·_·)/

 

「峻君?なんだかツッコミにいつものキレがないような?」

 

「シュンどうしたの!?心なしか、色素が薄くなってきてるよ!」

 

「ハッキリし過ぎてるのも、考えものみたいデスネー…」

 

「綾、峻は急にどうしたんだ?」

 

「……とりあえず保健室に連れて、さっきの頭の怪我を診てもらいましょう。中身も含めて…」

 

 俺は薄れてた意識の中、綾達に保健室へと連れてかれたそうな。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 そう言って俺は保健室から出ると、廊下でアリスとカレンが待っていた。

 因みに綾達は保健室に俺を送った後はアリス達に任せて教室に帰って行った。

 

「シュン、大丈夫?」

 

「ああ。後ろちょっとコブが出来てたぐらいだったけど、薬塗ってもらったしもう大丈夫だ」

 

「そっかー。よかった」

 

 同時に保健室の先生にカウンセリングもしてもらったのだが、それは黙っておこう。

 

「アリスさん、カレンさん!」

 

 すると廊下の向こうから、烏丸先生がやってきた。

 

「先生?」

 

「何だか今日は二人共、一触即発な雰囲気だから癒しのアイテムを作ったの!受け取って!」

 

 興奮した様子で烏丸先生はカレンの頭に………猫耳を装着した。

 

 似合うな…。じゃなくて、この人はまたこんなもんを…。ていうか、手作りだったんかい。

 

「私たち、とっくに仲直りしてるデスよ」

 

「あらぁ?」Σ(´,,•ω•,,` )

 

「先生、むやみにこんなもん学校に持ってこないで下さいよ」

 

「学校で作ったから、持ってきた物ではないわ」

 

「!凄い先生!一休さんみたい!」

 

「感心するなアリス!」

 

 先生がそんな屁理屈みたいな事言ったらアカンだろ。

 

「あ、今日は犬耳も作ってみたのー。鹿ヶ谷君、付けてみ──」

 

「ノーセンキューですっ!」

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 バイト先、『Restaurant Mathubara』にて。

 

「峻君、"海苔の佃煮"ってなんの事かわかる?」

 

「は?」

 

 休憩中、穂乃花がいきなりこんな事を聞いてきた。

 

「……海苔に色々材料加えて調理をして、ご飯にかけて食う……」

 

「うん、ごめん。そういう事はわかるの。ただその、カレンちゃんがね…?」

 

「?」

 

「アリスちゃんに言いたい事があるって授業中にノートにメモを書いたらしいんだけど、そこに書いてあった文字が『のりのつくだに』で、カレンちゃん本人もなんでそう書いたか覚えてなかったんだって。だから峻君、なにか心当たりあったりしないかな?」

 

 そんな事言われてもなぁ。

 

 うーん、海苔の佃煮ねぇ…。

 海苔の佃煮っつったら……………。

 

「………、『ご○んですよ』?」

 

「………カレンちゃん、アリスちゃんにお昼ご飯の事伝えたかったのかなぁ?」

 

「知らん。あいつの考える事は近くに居てもようわからん」

 

 なんせ、本人すら分かってないんだから。

 

 それからその後、穂乃花から教科書を忘れたカレンに自分の教科書を見せる時、席を近づけた際にまつ毛が長くて金髪が綺麗だった等の話を聞かされて、その日のバイトは終わった。

 

 ~Sea you, next time!~




綾と陽子の肩車フラグのシーン、ちょいアレンジを加えて変更しました。
この小説だと陽子とのやり取りがあまりにも少ないので…(笑)。
ていうか原作の綾×陽子の話はほぼ大体2人っきりの時でしか展開されない話が多いですし…。そこにオリ主を無理矢理挟むとただの邪魔者になるし…。話を聞いてるだけでも何でそこにいんの?みたいな感じになりますし。
でもなるべくはこの2人は原作通りで進めたいので、なんとか頑張ろうと思います。

ではまた次回、なるべく早く投稿出来るよう努力します(出来るとは言ってない(笑))。


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第13話~じしゅうダンス~

またしても大変遅くなりました。

性懲りも無く今回またオリジナルです。
いや、あの話に繋ぐ話をと思いましてね?ちょっとそれを少しでも違和感無く繋ぐ様にと投稿しないで数話チェックしながら貯めていたんです。

※始めに言っておきますと、今回の話は原作の体育と野球の回とは別の話です。若干のネタの流用はありますが。


 6月も中旬に入り、夏も近くなってきたとある日の平日。

 

「イエーイ!体育だーっ!!」

 

 体操着に着替えた陽子が元気よく騒いでいた。

 

 俺達のクラスの次の授業は体育で、今日は校庭や体育館を使って各自で自習をする事になった。

 

 今は校庭に出る為、5人で廊下を歩いていた所だ。

 

「ヨーコ、なんだかいつもより元気だね」

 

 アリスが聞いてきた。

 

「学校の授業だと、あいつが1番生き生きする科目だからなあ」

 

「そうなんだ。……でも、それとは逆に…」

 

 そう言ってアリスは綾の方を見た。

 

「………………」(〣-_-)ズーン

 

「アヤの元気がなくなっちゃってるよ?」

 

「あいつ、勉強は出来るけど運動はからっきし苦手だからなぁ」

 

 中学の頃はあいつよくズル休みという名の見学をよくしてて、危うく体育の単位が足りなくなりかけた事があったんだよなぁ。

 

「もう!学生に必要なのは社会で生きるための知識を身に付ける事なんだから、運動なんてする必要ないじゃないのよ!」

 

 突然綾が叫び出した。

 

「運動で将来食っていく人もいるだろうが」

 

「じゃあ将来、そうやって食べてく人だけ体育すればいいじゃないのよ!!」

 

「アヤ、前にヨーコが歴史や数学とかのテストが帰ってきた時と似たような事言ってるよ」

 

「それで陽子に「学校で学ぶ事に必要ないものなんてないんだから、きちんと勉強しなさい」…って言ったのお前だろうが」

 

「体育だけは例外よ」

 

「おい」

 

 自分に都合が悪いと我儘な子どもみたいに屁理屈とか言い出すなコイツ。

 

「さっきから黙って聞いてればちょっと!」

 

 前を歩いていた陽子が話に入ってきた。

 

「私は運動神経いいってキャラだから、体育は絶対必要あるの!中学の頃、通知表で体育だけ唯一の5だったんだからな!」

 

「え!?」

 

「体育だけ高評価って、ガキ大将の通知表かよ」

 

「悪かったなコンニャロー!」

 

「……って綾、どうした?」

 

 何やら陽子の運動神経いいキャラ発言を聞いた後、綾は驚愕の顔をしていた。

 

「陽子にそんな取り柄があったなんて!知らなかったわ」

 

「中学も一緒だったのにお前…」

 

「さてはお前、今まで見学も真面目にしてなかっただろ」

 

「……なぁ峻、今日は綾に徹底的に運動させてやらないか?」

 

「そりゃいい。また中学の時みたいに単位足りなくなったりしたら困るしな。つー訳で綾、覚悟しな?」

 

「え。ちょっ!い~~や~~~~~っ!!」ヽ(;□;)ノ

 

 逃げようとする綾を俺と陽子で取り押さえた。

 

 さーて何をやらせようか、フフフ…。

 

「二人共、凄く悪い顔してるよ…」

 

「そういえばアリスは運動、得意なんですか?」

 

 しのがアリスに質問をした。

 

「うーん…、かけっこも遅いし、そんなに得意じゃあないんだけど…。でも、体を動かすのは好きだよ!」

 

「そうなんですねっ」

 

「おー、苦手科目でも前向きに励んでて、アリスは偉いなー。綾、お前もアリスを見習え」

 

「峻、綾に何やらせようか?千本ノックとか?」

 

「ウサギ跳びで校庭を…、何十周させてやろうかな?」

 

「見習うから、それはやめてーっ!!」

 

 授業の始まる数分前の廊下で、綾の悲痛の叫びがこだました。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 校庭に付き、授業が始まった。

 

「さー!やるぞーっ!」

 

 やる気満々な陽子。だがしかし。

 

「待て陽子。何をやるにしてもまず、準備運動をしないと」

 

「おっと、そうだった。つい気持ちが、はやっちゃって。あははっ」

 

「ったく…。あ、そうだ。せっかくだし携帯でRadio体操を流してやろうぜ」

 

「なんで『ラジオ』の発音が無駄に良いのよ」

 

 綾のツッコミを受けつつ、俺はそう提案をしながら携帯を取り出した。

 

「わたし日本のラジオ体操、初めてやるな~」

 

「ああ、そうか。アリスは日本(こっち)のやった事ないのか」

 

 勝手にもう高校生なら、誰でももう曲聴けば踊れるもんだと思っちまってた。

 

「体操って世界共通じゃないんですねー」

 

「どうする?やっぱ普通の柔軟体操にするか?」

 

「ううん、せっかくだしやってみたい!シノの真似して覚えるよ」

 

「ふふっ、わかりました!では、よく見ててくださいね」

 

「じゃあ、始めるぞー」

 

 俺はその場の4人に確認し、携帯で音楽を鳴らした。

 

 すると例の音楽と声が聴こえてきて、俺達は背伸びの運動をする。アリスも、しのの真似をして運動をしている。

 

 

 ※ラジオ体操の楽曲コードがよくわからなかったので念の為歌詞(?)は載せませんでした。ご了承ください。

 

 

 次に足を屈伸しながら、両腕を横に広げて胸の前に突き出すを繰り返す。アリスも、しのの真似をしながら……、ん?

 

「え、えーと、こうやってですね…」

 

「こ、こう?」

 

「おいお前ら。なんで盆踊りやってんだ」

 

 しのとしのの動きを真似てたアリスの動きは、盆踊りの振り付けにある阿波踊りみたいになっていた。

 確かに腕は動かす運動ではあるが全然違うだろう。つか、足はどうした。

 

 

 次の運動に移り、両腕を大きくグルりと回す。

 

 この項目にしのとアリスはと言うと、

 

「フンッ、フンッ、フンッ、フンッ、フンッ!」

 

「フゥッ、フゥッ、フゥッ、フゥッ、フゥッ!」

 

 横にではなく前に向かって交互に回していた。

 

「大きい相手に立ち向かっていく子供かお前らは」

 

 その様子はさながら、強そうな相手に頭を押さえつけられ止められて、その場で腕をぐるぐる回す人の様だった。

 

 次に足を横に出して、胸の運動が始まる。

 

「え?え?えっ?足を…、横に…?胸を…???」

 

「シノ!?これなんだか上手くバランスが、あああああっ!?」

 

「はい、ストーップ!一旦中止、やめーっ!」

 

 俺はそう言い、ラジオ体操の音楽を止めた。

 

 よろけるしのとアリスを俺と陽子が支え、そして俺はしのに向かい合った。

 

「しの」

 

「は、はい」

 

「お前さては覚えていないだろ」

 

「……………そんな事もあるかもしれません」

 

「目を背けるな。何の意地はってんだ」

 

「ううう、すみませんアリス。お役に立てず…」

 

「ううん、気にしなくていいよシノ!」

 

「そんじゃまぁ、アリス……と、しのは俺か陽子の動きを真似して…」

 

「そうです!アリスはアリスの知っている体操をして下さい!」

 

「え?」

 

「は?」

 

「二つの国の体操を融合させるのです。名付けて、異文化ラジオ体操!」

 

「え~~っ」

 

 何言ってんの、このおかっぱ娘は。

 

「それでは峻君、もう一度最初から音楽を鳴らして下さい!」

 

「………まあ、やるだけやってみ?」

 

 もうなんかメンドくせぇからいいや。

 そう思いながら、俺は音楽を再び鳴らした。

 

 それから、俺、陽子、綾の3人はラジオ体操通りに体を動かした。

 アリスは音に合わせつつ、独自の動きをしていた。あれがイギリス式の体操なのだろうか。

 そしてしのは俺達3人の動きに合わせようとしてはいるが、どこかしの独自の独特な動きになってしまっている。

 

「……なぁ、今日の授業って創作ダンスだったっけ?」

 

「自習だから、ある意味では間違ってはいないかもね」

 

 ありゃ、"自習"っつーより"自由"だよ。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「はーい、後4回~」

 

「ひぃぃぃいぃぃぃ、もう無理いぃぃ……!」

 

 体操を終わらせた後は、俺と陽子で足を支えて綾に腹筋をさせていた。まだ6回しかやっていないというのに、綾はもう震えて虫の息になっていた。

 

「アリスー、ふぁいとーですー」

 

「ふんんんんんっ……!」

 

 アリスも真似して腹筋運動をしていた。綾と同じく震えていたが、綾よりはやる気があるようだ。しのはアリスの足を支えていた。

 

「じゅ~~うっ!はい、お疲れー」

 

「だっっ!はぁっ!はぁっ…!もう……、ダメ……っ!!」

 

「これぐらいで情けないなー」

 

「人間のっ…!やる…!運動じゃ…!ないわっ……!!はぁ、はぁっ!」

 

「おおげさだなー。そんなんじゃ甲子園に行くなんて夢のまた夢だぞ?」

 

「行かなくていいし、そんなの目指した覚えないんだけどっ!?はぁっ、はぁっ…!」

 

 虫の息でもツッコミはきちんとする綾。

 

「はぁっ!はぁっ…!」

 

 お。アリスの方も終わったみたいだ。

 

「アリス、お疲れ様です」

 

「はぁっはぁっ…!こ、こんなの何十回もできる人が凄いよ…!」

 

「そうですねー。まるであの…、えーと、なんでしたっけ?音楽の授業で使う、棒が左右に動いてリズムを測るあの…」

 

「メトロノームか?」

 

「そうそれです!テレビでスポーツ選手の人が腹筋をすると、動きがそれみたいなんですよ!」

 

 メトロノームにか?

 うーん、まあ似てるっちゃあ似てるか?

 

「わたし達だと、重りが棒の1番上の動きみたいになっちゃうかもね」

 

 お前ら多分それよりも遅かったと思うが、まあ言わんでおこう。

 

「そうですねぇ。あ!陽子ちゃんならどうでしょうか?」

 

「私?う~ん、わたしでもそんな速くは出来ないぞ?メトロノームで言うと、せいぜい棒の1番上よりちょっと下ぐらいかなー」

 

 となると、頭を起き上がらせて1番上までくるのに大体、1.2秒くらいか?つまり、後ろに倒れるまでを含めて1回とカウントすると、単純計算で1回2秒近くかかるわけだな。

 

「いえ!陽子ちゃんなら鍛えればきっと、メトロノームの1番下の動きも夢じゃありませんよ!」

 

 しののその言葉を聞くと俺達は、メトロノームの1番下の様に腹筋運動をする陽子を想像した。

 因みに1番下だとメトロノームは1秒間に大体3.46回音が鳴るらしいです。

 

「人間の動きじゃねえっ!!」

 

 陽子は激しく叫んでツッコミを入れた。

 

 俺もそう思う。

 

 

「おーい、陽子ー!」

 

「ん?」

 

 声がする方を見ると、同じクラスの他の男子達が陽子を呼んでいた。

 

「なんか用かー?」

 

「今から野球やんだけど、人数がちょっと足りないんだ。参加しないか?」

 

 陽子の男子達とのやり取りを見たアリスが陽子に関心をした。

 

「わー!ヨーコって意外と男子に人気あるの?」

 

「ああ。頼りになる助っ人的な意味"だけ"でな」

 

「おいそこ、聞こえてるぞ。…う〜ん、どうしようかな。今日は綾の体力強化のつもりだったんだけど…」

 

「陽子っ!せっかくの誘いを断ったら悪いわよ!私はもう充分運動したから、気にしないで遠慮なく参加しなさい?」

 

「そう?…じゃあお言葉に甘えて、やるかー!」

 

 綾の奴、上手いこと陽子に言って逃げやがったな。

 

「そうだわっ。峻も行ってきたらどうかしら?」

 

 こいつ、あわよくば俺まで追っ払って本当に休む気だな。だが、そうは問屋が…。

 

「峻かー。別に居ても居なくてもいいんだけど、まぁ人数必要だし別に来てもいいぞー?」

 

「ありがとよコンチクショウッ!オメーのチームどっちだ!ボッコボコに叩きのめしてやんよゴラァッ!!」

 

 クラスメイトの男子の言葉で俺は俄然、殺る気…おっと、やる気が出て参加を決意した。

 

 後ろで綾が小さくガッツポーズの手をしていたが、俺は気にしなかった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 というわけで、俺と陽子はクラスの男子達と草野球をする事になった。校庭のベンチでアリス達も応援してくれていた。

 

 陽子はさすがと言うべきか、ヒットやらホームランやらをよく打ち、こっちのチームに大変貢献をしていた。俺はと言うと、まぁたまにヒット打つぐらいの、そこそこの活躍はしたと思う。

 

 

 そんなこんなで数十分ほど野球をし、あと1点取れば俺達のチームがサヨナラで勝利する事になると言う時に、俺達は今──保健室に居た。

 

「もう!何やってるのよ陽子!」

 

 保健室にて綾の叫び声が響いた。

 

「いやぁ。でも、ああでもしないと間に合いそうになかったんだよー」

 

 陽子がヒットを打ち、次の選手もヒットを打って陽子が二塁、三塁とまわり、そしてホームベースへと戻って来て点を取ろうしたその時、相手の誰かがボールをホームに居るキャッチャーへと投げてきて、ボールが向かってきた。

 それを見た陽子は一塁へとスライディングをして滑り込んだ。そのかいもあってか間に合って点は取れたのだが、その時に陽子が足を捻らせてしまったのだ。

 

「たいしたひねり方じゃあないから、安静にしてれば1日2日で治るって先生は言ってたけど…」

 

 陽子の足には湿布が貼られ、テーピングがしてあった。

 

「よわったな、これじゃ試合に復帰出来ない…」

 

「あたりまえよ!もうっ!」

 

「くっ…!峻、こうなったら後はお前に託す!必ず私達のチームを勝利へと導いてくれ!」

 

「陽子…!わかった!お前の想い、しっかり受け取ったぜ!」

 

 俺と陽子はお互いに力強く手を握り握手を交わした。

 その様子を見ていたしのとアリスは感涙に浸っていた。

 

「うぅっ、お2人の友情に私、涙が溢れ出ちゃいます…!」

 

「これが"青春"ってやつなんだねっ!ぐすっ!」

 

「…………熱苦しいわ……」

 

 インドア系女子1人はこの空気に嫌気がさしていた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 俺はホームへと向かい、バッターボックスに立った。

 散った陽子の想いに報いるためにも(※散ってない)必ずヒット、いやホームランを打ってやる!

 

「シュンー!頑張れー!」

 

 ベンチからアリスの応援が聞こえてきた。綾もその隣に座っていて、しのも、…………あれ?しのはどこ行ったんだ?

 

 辺りを見渡してみると、しのは校庭のちょっと遠くにある水飲み場で水を飲んでいた。……別に構わないがどんな時でもマイペースだなあいつは。

 

 

 気を取り直し俺は相手ピッチャーと向かい合い、バッティングの構えをとった。

 

 暫く睨み合うと、ピッチャーがキャッチャーめがけてボールを投げた。

 

「もらったぁっ!!」

 

 陽子から受け取った想いもバットにのせて、俺は向かってきたボールを……………打つ!!

 

 カキーン!

 

 俺の打ったボールは高く打ち上がった。………左ちょい後ろに向かって。

 思いっきりファールだった。想いも乗せてとかもらったとか、言ってて恥ずかしい。

 

 打ち上がったボールはだんだんと高度を下げていって、もうそろそろ着地し………ん?って!!あそこは!!

 

「ふんふふんふふ〜ん♪」

 

 なんとボールの着地予想地点は、しのがいる水飲み場だった!本人は呑気に手を洗っていて、ボールに気づいてねぇ!!

 

「おぉーいっ!しのぉっ!!」

 

 俺はしのに大声で呼びかけた。

 

「?峻君?どうしました?あ、試合勝ちましたかー?」

 

「避けろーっ!!上からボールが降ってくるぅっ!!」

 

「へ?ボール?…………。っ!はわわわっ!!」

 

 俺の呼びかけで上を向いたしのはもうすぐ落ちてくるボールに気がついた。

 

「シノーッ!あぶなーい!!」

 

「早く離れてーっ!!」

 

 アリスと綾もしのに慌てて呼びかける。

 

 ボールはとうとう、しのの所まで近づいて行って当たろうとした所で…!

 

 しのは間一髪のタイミングでボールをかわした。

 

 ボールはゴンッという音を鳴らして、しのにではなく水飲み場の蛇口の1つに当たったのだった。

 

 ………ギ、ギリギリセーフ………。

 

「ふぅ、危なかったです」

 

 と、俺やしのやその場に居た全員が安堵した次の瞬間。

 

 ブシィッ!

 

「…へ?」

 

 蛇口の根元から水が少々、溢れて出た。………この展開はまさか……!!

 

「しのーっ!!水飲み場から離れろーっ!!」

 

 そう叫んだ俺の思いも虚しく。

 

 

 バキィッ!ブシャァ━━━━ッ!!

 

 

 蛇口が破裂し、しのに大量の水が襲いかかった。

 

「ひゃああああっ!?」

 

「「「しの(シノ)━━━━っ!!!」」」

 

 

 俺とアリスと綾は大量に水を被ってしまったしのの元へと向かった。

 

「おいしのっ!大丈夫か!?」

 

「うぅ、全身ビショビショですぅ…」

 

「すまん……っ!」

 

「蛇口の破片とかは当たってない!?」

 

「あぁ、それは大丈夫です。怪我ひとつしてませんよ?ほら!」

 

 綾の言葉に自分は無事だと訴えるように、しのは立ち上がって腕を広げた。………が。

 

「ぶっ!!?」

 

 その瞬間、俺は盛大に吹き出し、顔を真っ赤にしてしのから顔を勢いよく背けた。隣に居た綾とアリスも顔を赤くして驚愕した。

 

「峻君?アリスも綾ちゃんもどうしました?」

 

「あああああっ!!しのっ!前っ!前、隠して!早く!!」

 

「前?」

 

 綾の指摘にしのはハテナマークを浮かべながら自分の身体を見た。すると、

 

「………………………。っっ!!!!?」Σ(///△///)

 

 水で体操着が透けて自分の下着やら色々丸見えになっていた事に気がついたしのは顔を真っ赤に染めた。

 

「キャァ━━━━━━━ッ!!?」

 

「あわわわっ!シノッ、見えてるよっ!!」

 

「峻!こっち見たらダメよっ!!」

 

「わ、わかってるよっ!!」

 

「おーい、大宮ー?大丈夫かー?」

 

「貴方たちもそれ以上来たらダメッ!!」

 

「来た奴は俺が片っ端からぶっ飛ばす!!」

 

「なんで!?」

 

 向かってこようとした男子野球チームを俺が足止めしている間に、綾とアリスがしのにジャージを着せて校内へと連れていった。

 

 その後は止まらない水を抑えつつ水道業者を呼んだり、先生に怒られたりで大変だった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「この度は、誠に申し訳ありませんでした」

 

 体育の授業が終わり、俺達5人は全員制服に着替えて教室に戻ると、俺はしのに土下座して謝罪の言葉を述べた。

 

「峻君、顔を上げて下さい!私は気にしてませんから!……まあちょっと恥ずかしかったですけど…」

 

 普段、些細な事ではなかなか驚かないしのでも流石にあれには気が同じてしまうようだ。

 

「シノ、本当に大丈夫?」

 

「大丈夫ですよアリス。季節ももう夏に入ってますからむしろ冷たい水を被ってちょうど良いですよ!」

 

「…そう?」

 

 しのはアリスに笑ってそう言った。

 

「しの、本当に悪かったら強がらないでちゃんと言えよ?」

 

「ありがとうございます峻君。でも、本当に大丈夫ですよ?」

 

「………そんならいいんだが」

 

 一先ず、しのの言葉を信じることにした。

 

「なぁしの、ちょっといいか?」

 

「なんです陽子ちゃん?」

 

「全身ずぶ濡れになったって綾から聞いたんだけどさ、体操着はそのまま脱いで制服に着替えたんだろうけど…」

 

「はい」

 

「………替えの下着はどうしたんだ?」

 

「陽子っ!!」

 

「だからそういう話は男の俺が居ない時に聞けっての!!」

 

「……………」(///◻///)

 

 陽子の発言に綾と俺は注意をし、その発言を聞いたしのはまた顔を赤らめていた。

 

 因みに替えの下着は購買で安いやつが売ってたとか。こういう時の緊急用の為に置いてあるらしい。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 翌朝。

 

「おはようシュン」

 

「おはよ、アリス」

 

「おはようございます〜」

 

「おう。じゃ、行くか」

 

 そう言って通学路を暫く歩いていたのだが…。

 

「……おい、しの」

 

「……………ぽ〜っ」

 

「………しのっ!」

 

「え!?あ、はい!なんでしょうか?」

 

「お前なんか今日、いつも以上にボーッとしてねぇか?」

 

「え?そうですか?」

 

「シノ、やっぱり昨日水被ったから…」

 

「もう、峻君もアリスも心配し過ぎですよ?大丈夫ですって」

 

「「…………」」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 陽子と綾と合流し、俺達は学校に着き教室に入った。

 

「………ねぇ、しの」

 

「………………」

 

「…………しーのっ!」

 

「……え?あ、はい。なんでしょうか綾ちゃん」

 

「なんでしょうかじゃないわよ。ボーッとしちゃって。それになんかフラついているし。調子悪いんじゃない?」

 

「確かに。大丈夫か?」

 

 心配そうにしのを気にかける綾と陽子。

 

「もう、お二人まで心配性ですねぇ。大丈夫ですって。それよりも、陽子ちゃんは捻った足大丈夫なんですか?」

 

「私はもうほとんど痛みもないから、明日には普通に歩けるらしいけど」

 

「それは良かったです!」

 

「「「「……………」」」」

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 放課後。授業も終わりカレンもやって来て、一緒に帰ろうと昇降口を5人で出たのだが、しのがなかなか出てこない。

 

「シノ遅いデス?」

 

「なにやってるんだあいつ?」

 

 まさか、倒れてたりしてないだろうな。

 

「ふぁー、お待たせしましたー…」

 

 そう思っていると、しのが出てきた。

 

「下駄箱で何してたんだよ」

 

「あ……、いえ…。別に…」

 

「はあ」

 

 なんだかしのの返事が曖昧と言うか、ふんわりしてると言うか。しのの様子も含めて。

 

「………シノー」

 

「ほけーっ…………」

 

「………シーノー?」

 

「ほーけー…………」

 

 カレンがしのに話しかけるが、一向に反応を返さない。朝の俺や綾の時も1回では反応をしてなかったが、その時は2回目ぐらいで反応を返したが、今回はなかなか反応しない。というか気づいてない様子だった。

 

「…………おいっ」

 

 俺はカレンの呼びかけに反応しないしのの肩を揺すった。

 

「ふえ?峻君どうしました?」

 

「どうしたじゃねぇよ。カレンが呼んでんだろうが」

 

「………あー、すみませんカレン。…なんでしょう?」

 

「イエ、シノさっきからボーッとしてて、何だか顔も赤いデスし、ダイジョウブデス?」

 

 確かに今のしのは朝よりも頬が赤くなっていた。

 

「もー、カレンまで何を言ってるんですか。全然大丈夫ですよー?ちょっと気温の暑さで火照(ほて)ってるだけですよ。今日わりと暖かかったですし…」

 

「………ちょっとしの、おでこ貸せ」

 

 さすがにもう、しのの様子を不審に思った俺は、そう言ってしのの額に手を当てた。

 

「熱っつ!!しの、お前思いっきり風邪ひいてんじゃねぇか!!」

 

「えええ!?シノ、大丈夫!?」

 

「何を言っているんですか。それは今日の高い気温と体温が合わさって熱くなってるだけです。私は風邪なんてひいてませんよ?まあちょっと体もだるいですし、鼻水も出ますし、喉も痛いですけど決して風邪ではゲホッゲホッ!」

 

「思いっきり風邪の症状コンプリートしてんじゃねーか!!」

 

「それを風邪と呼ばなかったら何を風邪と呼ぶのよ!!」

 

「俺、ちょっとしのをおぶって保健室に連れて行くわ!!」

 

「シノーッ!!」

 

 空が夕焼け色に染まりかける放課後、高校生4人の叫び声がこだました。

 

 ~Sea you, next time!~




という訳で、この小説流の忍の風邪の話の前日談でした。
つーか未だにアニメの第4話をやってるってどういう事これ(笑)


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第14話~あめどきどきあや~

久方ぶりのアニメサブタイトル(笑)


 前回のあらすじ。しのが風邪をひいた。

 

「というわけでアリス、俺の首を斬ってくれ」

 

「突然なんで!?」

 

「すまん、説明が足りなかった。切腹するから介錯してくれ」

 

「説明聞いてもわかんないよ!!『切腹』って『腹切り』の事だよね!?なんでそんなことしようとするの!?」

 

「しのに風邪ひかせた原因は俺だ。それどころか下手すると怪我をさせる所だったんだ。そんな奴はもうしのの前に現れない方がいい。だから責任取って切腹をする。その介錯をしのの事を1番大事に思っているお前に頼みたいんだ」

 

 

 

 こうして、俺という存在は消えた。これでしのも平和に楽しく過ごせるだろう。しの、お前やアリス達との日々は結構楽しかったぜ。今までありがとう。

 

 

 

~きんいろモザイク plus α road days、終わり。~

 

※しの達のこれからを見たい人は、原作『きんいろモザイク(著:原悠衣)』をご覧下さい。短い間ご愛読ありがとうございました。

 

 

 

 

「………いや終わらないよ!!何勝手な文章打ち込んでるの!?」

 

「…すまん。確かに今のは卑怯だった。お前に首切りなんて残酷な事はやっぱりさせられないかと思ってナレーションで伝えようと思ったが、やはりきちんと描写しないといかんよな」

 

「そういう事じゃないよ!!まずそんな事わたし、したくないからね!?」

 

「しかし、俺はしのに風邪をひかせてしまう様な男だぞ?特にお前は許せないんじゃないのか」

 

「………確かに今回シノが風邪をひいた原因はシュンにあるかもだけど、それはわざとじゃない事も、シュンがシノの事を大切な友達だって思ってる事も、わたしはちゃんとわかっているからね?それはもちろん、シノ本人が1番わかっているハズだよ」

 

「アリス…」

 

 お前…、俺の事そんなふうに思っててくれてたのか…。

 

「…へへっ、会った頃のお前からなら、とても聞けそうにない言葉だな」

 

「そ!そんな事は…ない…と思うけど……、えへへ…」

 

「ありがとうアリス。そう言ってくれて俺は嬉しいぞ。これで少しは悔い無く消えれるぜ」

 

「あれ!?まだ消える気だったの!?」

 

「アリス、俺がいなくなった後、しのに彼氏でも出来た時、その時はお前がきっちり見定めてくれよ」

 

「うん、任せて!………じゃなくて!!だから消えようとしないでよー!?」

 

「騒がしいわねー。何事(なにごと)ー?」

 

「あ、イサミー!シュンの自殺を止めてーっ!!」

 

「もう一度言うわね?何事っ!?」

 

 

 アリスとリビングにやってきた勇さんによって、鹿ヶ谷峻の消失は阻止された。

 

 今の現状を説明すると、学校で高熱を出したしのを俺が保健室に連れて行って先生に診てもらった後、風邪薬を飲ませて暫くしのを寝かせた後にしのの両親に連絡をして迎えに来てもらい、しのを病院で診てもらって、薬を貰った後しのを自宅へと帰し寝かしつけて、そして今俺達はしのん家のリビングに居て今に至る訳である。

 

「まったくもー、風邪ぐらいで大袈裟なのよ。それぐらいで峻君がそこまで思い詰める必要はないのよ。忍にはさっき謝罪して、気にしてないって言われたんでしょ?」

 

「そうなんスけど…、それじゃ俺の気が済まなくて…」

 

「…しょうがないわね。峻君がどうしても申し訳ないって思うのなら、じゃあ私が峻君の処罰を決めてあげるわ」

 

「イサミ!?」

 

「こうなると峻君は引きずっちゃうからねぇ。変な所で意固地だから、ただ口で許すよりも何かでハッキリ償いをさせてあげた方がいいのよ」

 

「そうなんだ…」

 

「峻君本人だと重すぎる罰を考えそうだから私が罰を決めるわ。そうねぇ…。じゃあ忍の風邪が治ったら、この夏の間は大宮家全員分のハー○ンダッツを毎日提供するってのはどうかしら?」 

 

「イサミ!ハーゲ○ダッツを、シノを含めたシノの家族全員分毎日提供は結構重いバツだと思うよ!?」

 

「安心して。アリスの分もちゃんと含めてるから。アリスももう、ウチの家族なんだから」

 

「わーい!…いや違う!嬉しいけど今はそういう話じゃなくて!!」

 

「うふふっ、わかってるわよ。冗談よ」

 

「もう、イサミったら。シュンに変な事言わないでよー」

 

「あそこのバイトが時給960円で1日3時間やって2880円。俺は週にそれを3回やるから合計8640円。ハーゲン○ッツ1個が大体350円として、それをアリスも含めた大宮家5人全員に1週間毎日提供をすると、12250円。くっ!足りねぇ!こうなったら、バイト増やすか…!!ブツブツ…」

 

「ほら本気になっちゃってるよ!!やめて!自分で稼いだバイト代はもっと自分のために有意義に使って!!」

 

 結局、俺への罰は大宮家それぞれのリクエストのアイスを週に2回提供するというところに落ち着いた。あと、勇さんのはカップアイスなら溶けかけにして提供するというオプションが付いた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 翌朝。今日は朝から雨が降っていた。天気予報だと、お昼を過ぎてもやみそうにはないらしい。

 

 普段はしのの家の前で学校に行くためにしのとアリスを待っている俺だが、今日はしのの様子を伺う為に家に上がり、しのの部屋へとお邪魔させてもらっていた。

 

「しの、具合はどうだ?」

 

 俺はしのの容態を確認する。

 

「昨日より熱は下がりましたよ…」

 

「わたしがついてなくて、本当に大丈夫?」

 

 アリスも心配して、しのに語りかける。

 

「お母さんが家に居ますから、大丈夫です…。ほら二人共、綾ちゃん達を待たせてしまいますよ…」

 

「あ、ああ…。じゃあ、行くぞアリス」

 

「うん…。シノ、いってきます」

 

「はーい。気をつけて下さいねー」

 

 しのと挨拶を交わし、俺とアリスは部屋を出て登校していった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「じゃあ、やっぱりしのは風邪で休みなのね」

 

 綾達と合流して登校し、学校の昇降口を通った所で綾としのの事で話をしていた。

 

「わたしも休んで看病してあげたかったんだけど…」

 

「病院には行ったんでしょ?1日寝てれば良くなるわよ」

 

「でででも、学校に居る間もしものことがあったらと思うと…っ」

 

 しのを心配するアリスを綾が宥めるが、アリスは顔を真っ青にして胸を「キリキリギュュュン」と鳴らしていた。キリキリはともかくギュュュンってなんだ。

 

「心配しすぎよ。それにあんまり心配してると、そこのメンドク重ったるい男子が罪悪感感じすぎて潰れかねないわよ?」

 

「誰がメンドク重ったるい男じゃ。確かに罪悪感は感じてるけど」

 

「あああっ!シュン、大丈夫!シノは絶対に元気になるから、気を落とさないでね?」

 

「もうっ。アリスが貴方に気を使っちゃって、しのの心配も出来なくなってるじゃないのよ。わかったら峻もあんまり引きずらないようにねっ」

 

「うっ…。はい…」

 

 綾にそう言われ窘められてしまった。情けねぇ…。

 

 

「綾!どうしよう!聞いて!」

 

 捻った足もすっかり治り、下駄箱に先に着いてた陽子がドタドタと騒いでこっちにやって来た。

 

「春が来たー!!わっほーい!」

 

「もう夏ですが」

 

「どうしたの。熱でもあるの?流行ってるのかしら」

 

 なんだか舞い上がっている陽子に俺と綾は冷めた眼でそう答えた。

 

「これを見たまえ!」

 

 陽子が手に持ってた紙の何かを綾に渡して見せつけてきた。

 

「手紙?」

 

「わっ!バカ、声がでかいよ綾!」

 

「フツーのボリュームだけど」

 

「なんだ?どっかに出すのかこれ」

 

「違うよー!それ、ゲタ箱に入ってた!」

 

 下駄箱に手紙?……てことは、まさか…。

 

「それって、ラブ…」

 

「バカ!!声がでかいよ!!」(≧▽≦*)

 

「うるさいわね」

 

「そしてうぜぇ」

 

 明らかに俺達よりも五月蝿い声で喋り、更にテンションを上げていた陽子に俺達は再度冷めた眼で吐き捨てた。

 

 

「WAO〜、Love Letter?

 

「ナイス発音!」

 

 アリスの後ろに居て顔をヒョコっと覗かせたカレンが、ネイティブな「ラブレター」の発音をして陽子を驚かせた。

 

「ラブレター!?スゴイね!ヨーコはやっぱりモテモテなんだね!」

 

「えー、何かテレるなー」( ̄∇ ̄*)ゞ

 

 アリスが陽子に感心をし、陽子は満更でも無さそうに照れていた。

 

 ふと、カレンの方を見ると何やら考え事をして動かないでいた。

 そして数秒経つと何か納得したような顔をした。

 

「スゴイデスヨーコ、モチモチデスねー」

 

「それは褒めているのか!?」

 

 どうやら『モテモテ』の意味が分からず『モチモチ』と同じ種類の言葉だと思ったらしい。

 

「じゃあ、「モテモテ」ってどういう意味デス?」

 

 カレンが俺に聞いてきた。

 

「ああ、シャンプーのCMで「てもてーてもてー」って言ってるアレだ」

 

「そりゃ『テ○モテ』だろ!!てゆーか、そのネタは最低でも昭和後期か平成初期生まれの人じゃないとわかんねーだろ!!」

 

「そういう陽子(オメー)こそよくわかったなおい」

 

 俺は『ら○☆すた』で知ったが。

 

 

「話を戻すけど陽子、まだ中見てないんでしょ?ラブレターかどうか、分からないわよ?」

 

 綾が話を手紙の件に戻した。

 

「えー?でもゲタ箱だよ?他に手紙で伝えることってある?」

 

 綾の意見に陽子は納得がいってない様子だ。

 

「うっ。色々あるじゃない」

 

「例えば?」

 

「た…例えば、そう、不幸の手紙とか」

 

 綾のその回答を聞いたアリスが顔をまた真っ青にして、

 

「今すぐその手紙燃やしてー!!」(((〣゚Д゚)))ガタガタ

 

 ガタガタと震えだし「はぎゃー」と怯えだした。

 

「例えばの話よ!」

 

「じゃあもしくは…、果たし状とか?」

 

「oh!ヨーコ、誰かと"ケットウ"するデスかー?」

 

「なるほど。そっちなら納得だわ」

 

「しねーし、納得すんなよ!!」Σ( ̄□ ̄;)

 

 俺の発言に賛同したカレンと綾に陽子がツッコミを入れた。

 

「そうだよみんな!これが果たし状なはずないよ!」

 

「アリス…!」

 

「日本じゃ決闘は、今は法律で禁止されているんだよ!それにもし果たし状だったらご祝儀袋みたいに、たとう包みになっていて、表に「果たし状」って筆で書いてあるはずだよ!」

 

「あー、それもそうか」

 

「えー?ケットウ、ダメなんデスかー!?」

 

「そうだよ!ね?ヨーコ!」

 

「……ああ…、そうだな…」

 

 俺達に熱弁をした後アリスは陽子に自信満々に尋ね、陽子はそれに頷いた。「違う、そうじゃない」みたいな顔をしながら。

 

 

「じゃあ、ソレはやっぱりLoveLetterなんデスかー?」

 

「…!と、とにかく中を確認すれば分かることだわ」

 

 綾はそう言って、陽子から受け取ってた手紙の封を開こうとした。いや、待て待て。

 

「アヤ、だめだよ!それはヨーコにあてた手紙なんだから、勝手に読んだらだめだよー!」

 

 アリスが綾の行動を制止した。

 

「あ…。それもそうね」

 

「ぬるっと開けようとしたな」

 

 それはもう、夫の浮気を疑う妻の如く。言うと綾が暴発するから黙っている。

 

「ごめんなさい」

 

「じゃあ、後でこっそり読むよ」

 

 綾は陽子に謝り、手紙を手渡した。──が。

 

「…放してほしいんだけど」

 

「めっちゃ気になってる顔してるやんけ」

 

 綾が気になるオーラを出しながら、手紙をなかなか離そうとしなかった。

 

 ま、あいつなら気になってしょうがないだろうしな。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 昼食を食べ、掃除を終えてお昼休みに入った今、俺は電話をかけていた。

 

「はい…。はい…。わかりました、ありがとうございます」

 

「ん?峻、どこかに電話?」

 

 通話が終わり、携帯を切った所に陽子がやって来た。

 

「ああ、しののお母さんにしのの様子を聞いてたんだ」

 

「それで、どうだった?」

 

 心配した様子でアリスが聞いてきた。

 

「お粥食べさせた後は、落ち着いてスヤスヤ寝てるって。熱も大分下がってきたそうだ」

 

「そっか!よかった〜。でも、早く帰って看病してあげたい!」

 

「そうだな。ところで陽子」

 

「なに?」

 

「その背後霊は、なんだ」

 

「私が聞きたい」

 

 陽子の後方から(背後霊)が陽子をじぃぃぃぃーっと睨んでたというか、見つめていたというか。

 

「何…?」

 

「何でもないわ」

 

「じゃあ、なんで今日1日中ずっと私の事見てるんだよっ」

 

 どうやら綾は今だけでなく、手紙の件があった朝からずっと陽子の事を見つめていたらしい。

 

「みっ、見てないわよ!」

 

「えー、見てたじゃんーっ!職員室に行ってた時もトイレに行ってた時もさーっ」

 

「みっ!みみみみ見てないっ!!」(//口//)

 

 陽子と綾の会話を聞き、俺は綾に一言言いたくなった。

 

「綾」

 

「なに?」

 

「陽子の事、刺すなよ?」

 

「刺さないわよ!?」

 

 友人がヤンデレやメンヘラの道に進むのだけはやめてほしい。

 

 

「ラブレター、誰カラー?」

 

 A組からやって来たカレンが陽子に聞いた。

 

「あー、まだ見てないんだ」

 

「そうなのか?」

 

「早く見るデス!」

 

「名前書いてないんだよねー」

 

「中に書いてあるんじゃない?」

 

「かもなー」

 

「女の子からかもデスねー。ヨーコって男の子より女の子に人気ありそうデスしー」

 

「えーっ」( ˘•ᯅ•˘ )

 

「確かにお前、男勝りだし、突然男子顔負けなイケメンな行動や発言をしたりするしなぁ」

 

「男勝りは百歩譲ってしょうがないとして、そんな行動や発言は私した覚え全くないんだけど!?」

 

「自覚がない分、余計にタチが悪い」

 

 カレンと俺の発言に陽子は不満げな反応をした。

 

 因みにそんな俺達の会話を聞いてた綾はそれでも気分は沈んでいた。まあ、こいつからしたら男でも女でも、どっちにしてもショックな事には変わりないだろうし。そもそもこいつがその、陽子に惹かれた女子筆頭だし。

 

「私にだって女らしい一面はあるよ!」

 

「ほーう、例えば?」

 

「えーと、あ!ほら、こないだ体育で野球した時、スライディングしたら足をひねったし!」

 

「そうだったな」

 

「で、それが何?」

 

「かよわさアピール!あれは痛かったー!!」

 

「かよわい女の子はスライディングしないと思うわ」

 

「あん時のお前、なんの怯みもせずに全速力で走って足伸ばしてたぞ」

 

 ドヤ顔でアピールした陽子に俺と綾は白けた顔でそう指摘した。

 

「そんなに言うんならお前、誰か心当たりのある奴とかいるのかよ?」

 

「えっ?…うーん、そうだなー。他の男子達とはたまに運動部の助っ人とかで交流するくらいで、教室とかではそんなに喋った事ないしー。親しい男子っつったらせいぜい峻ぐらい………はっ!?」

 

「ヨーコ?」

 

「どーしたデス?」

 

「………まさか峻、お前が私に」

 

「その可能性は絶対に100%神に誓って輪廻転生ありえねえ」

 

「ちょっと冗談で言ってみただけだったのに、そこまで拒絶する事ないだろーっ!!」

 

 即否定した俺に腹が立った陽子は、1台の机を中心にぐるぐると俺を追っかけ回した。

 

 

「うーんっ、私ももう少しおしとやかにならないとなー」

 

「おしとやかってキャラじゃないでしょ」

 

 陽子の発言にそう指摘した綾を、陽子がじーっと見つめていた。

 

「綾はおしとやかで女らしいよな…」

 

「へっ?」Σ(‪⸝⸝•ㅁ•⸝⸝‬)

 

「えっ?」Σ((¯⌓¯ ;))

 

 陽子の発言に綾と、そして俺も動揺した。

 

「………峻、今の「えっ?」はどういう意味かしら…?」

 

「ナンノコトヤラ」

 

 俺が綾に恫喝(どうかつ)されていると、陽子が何かを決意した顔をした。

 

「よし決めた!私、綾っぽく振る舞ってみるよ!」

 

「は?」

 

「え?それってどういう…?」

 

 俺も綾もイマイチ陽子の言っている意味が分からずにいた。

 

 陽子は善は急げと言わんばかりに何かをしだした。

 自分の席に戻ったと思ったら、綾の様に髪を結んでツインテールにして(陽子はショートヘアだからムリヤリではあるが)、教科書を手に持ち、目を若干ジト目にしてクールさを装った顔立ちになった。

 

 綾っぽく振る舞うって、形から入るのかよ。

 

 それにしても、普段の陽子を知っていると今の陽子は気味が悪く見える。ほらみろ、陽子の隣の席に座っていた女子生徒もお前の豹変ぶりに顔真っ青にして、思わずショーペン落っことしちまってるじゃねぇか。

 

 シャーペンが落ちたのを見た陽子(綾のつもりモード)は、それを拾い上げた。

 

シャーペン、落としたわよ

 

 陽子は普段のサバサバとした喋りではなく、凄いおしとやかな喋り方と声のトーンで女子生徒にシャーペンを渡した。

 

「あ…、ありがとう」

 

 女子生徒は戸惑いながらシャーペンを受け取った。

 

いいのよ、気にしないで。お互い勉学にはげみましょー。ウフフ

 

「私そんなんじゃない!」

 

 一部始終を見ていた綾が我慢の限界を迎え、陽子の胸ぐらを掴んで「やめて!!」と止めに入った。

 

「えーっ!似てると思ったんだけど」

 

「いや全然ダメだ陽子。綾だったらこういう時、「ふんっ!シャーペンを落とすなんて貴方はダメダメねっ!」と言ってゴミを見る目で相手を見下しあだだだだだだだっ!!綾っ!冗談!冗談だから無言でコブラツイストかけてくるのはやめろ━━っ!!」

 

 昼休みの終わる頃、とあるクラスで1人の男子生徒の悲鳴がこだましたと言う。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 5時限目の英語の授業が終わった休憩時間。

 

「痛てて…っ。さっきは本気で折れるかと思ったぞ」

 

 俺は綾の(ところ)に来ていた。

 

「自業自得よ。…まあでも」

 

「?」

 

「貴方に元気が戻ったようで安心したわ」

 

「え、あ…」

 

 綾はしのの件を気に病んでた俺を気にかけてくれたようだ。

 

「貴方が気にし過ぎてると、しのの方がかえって気にしちゃうわ。峻に責任を感じさせすぎてしまったって…。そうしてた方が、しのも安心して過ごせるわよ」

 

「………おしとやかかどうかはともかく、おめーはいい女だよな」

 

「それはどうも。ふふっ」

 

 俺と綾はその場で軽く笑いあった。

 

 

「そんじゃ、次はおめぇの話でもするか。何も分からない小路さん?」

 

「ちょっ!その呼び方はやめて!?」

 

 先程の英語の授業で烏間先生に解答を問われた時、綾は顔に両手を覆い、「分からない、何も分からないんです!!」と叫び、クラスをざわつかせたのだ。

 関係ないが、烏間先生はジャージを着ていなかった。さすがにこの季節にジャージは暑いだろうしな。

 

「おめー、陽子の手紙が気になってしょうがないんだろ?」

 

「なっ!?そ!そんな事は…!」

 

「今さらとぼけようとすんな」

 

「………別に陽子がどう返事しようが、私には関係ない……のに、もやもやするのよね…」

 

「……じゃあ、関係なくないんじゃないのか?」

 

「え?」

 

「例えばの話だ。アリスがどこかの男性とお付き合いをする事になったとする」

 

「しのが許さないんじゃない?」

 

「だから例えばだって。そうなったらお前はどうする?しのは置いといて」

 

「…うーん、どんな相手かにもよると思うけど、「おめでとう」って言ってお祝いすると思うわ」

 

「じゃあ、陽子がそうなったら?」

 

「え…。………も、もちろん同じように「おめでとう」……って………」

 

「気持ちよく言えないだろ?」

 

「そ………んな事は……」

 

 綾は俯いて考え込んだ。

 

「俺だって、もししのがどこか他所の男と付き合うなんて事になったら、喜んで「おめでとう」なんて言える自信ねぇよ。つまりそれと同じだよ」

 

「んん……。ん?ちょっと待って?」

 

「なに?」

 

「……それじゃまるで、私が陽子の事好きみたいじゃないのよ!?」

 

「"まるで"じゃなくて、そうなんじゃねーのか?」

 

「ち!ちちちちち違うわよっ!!バカーッ!!!!」

 

「ぶげっ!!」

 

 綾は顔を真っ赤にしながら、丸めたノートを俺の脳天に叩きつけた。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 今日の全ての授業が終わり、放課後を迎えた。

 

「あー、終わった終わったー」

 

「早く帰ろうー。シノが心配!」

 

 陽子とアリスがそう言い、帰り支度を始めた。

 

 そんな2人…というか陽子の様子に、綾は「え!?」と驚いた反応を見せた。

 

「おい陽子、手紙の件はどうなったんだ?」

 

 綾の代わりに俺が陽子に訊いた。

 

「手紙?あー、忘れてた」

 

「忘…っ」

 

 あっけらかんとそう言った陽子に綾は絶句した。でもこれには俺もちょっと引く。

 

「……お前…、もし昼休みに来てくれとか書いてあったらかなりの人でなしだぞ…」

 

「ヨーコ、オトコをもてあそぶ悪いオンナデスね…」

 

「人聞き悪い事言うなっ!?」

 

 俺とカレンの発言に陽子がツッコミを入れた。

 

「でも忘れられて放置とかマジでシャレにならんぞ」

 

「そ、そうだな。何か大事な事、書いてあるかもしれないし、一応読んだ方がいいか」

 

「あ…、陽子…」

 

 陽子が手紙の封を開こうとした瞬間、綾の瞳に涙が溜まっていくのが見えた。

 

「…………お…、おめでとう!」(´;‎ࠏ;`)

 

「え…、何が?」

 

「綾、早い早い」

 

 陽子が手紙の内容を読む前に、綾が涙を流して祝いの言葉を述べた。

 まだ中の便せんに手を触れてすらないぞ。

 

「今日はどうしたんだ?綾のやつ」

 

 陽子が綾の様子に疑問を抱く。

 

 ………はぁ……。

 

「綾はな、お前がラブレターの返事をどうするか気になってしょうがないんだ」

 

「ちょっ!峻!」

 

「?なんで私宛ての手紙に綾が気にするんだ?」

 

「ん〜、そうだなー。綾はお前が誰かのもんになるかもしれなくて、それで気にしてんだよ」

 

「えーっ!?……なんだ、そんな事で?」

 

「そんな事って……っ!!」

 

 陽子の発言に綾は怒りかけたが、陽子が言葉を続けた。

 

「何かカン違いしてない?」

 

「え?」

 

「手紙は嬉しいけど、最初から断る気でいるよ」

 

「どっ、どうして!?」

 

 淡白に言う陽子に綾が疑問を投げかける。

 

「相手が良かったら考える、とかないのか?」

 

 俺も陽子に問いかける。

 

 

「相手が誰であっても、綾の方が好きだからさ!」

 

 

「!~~~~~っ!」(///ᯅ///)

 

 ………あらァ〜。まさかの回答。

 

 笑顔で言い放った陽子の発言に、綾は過去一くらい顔を真っ赤にさせて震えた。

 

「…と、とっとと開けなさいよ!」

 

 綾はそう言って、いつもの調子に戻った。

 

 ふと外を見ると、朝からずっと降りっぱなしだった雨が嘘のように晴れていた。まるで綾の気持ちと天候がリンクしたかのように。

 

 それにしても陽子がそこまで綾の事を想っていたとは思わなかったな。

 

「何の話してるデス?」

 

 カレンが陽子に問いかける。

 

「ん?友達っていいなって話ー」

 

「ガクッ」

 

 俺は口で言いながら、陽子の発言に軽くコケた。

 

「ん?どうした峻?」

 

「…お前なに?その手紙は友達になって下さい的な文章の内容だと思ってるわけ?」

 

「そういうわけじゃないけど、ほらよく言うじゃん?愛情より友情って!」

 

「それ逆だ。逆」

 

 その言葉はドロドロの恋愛ドラマの女が言うやつで普通は「友情より愛情」って言うんだ。あれ?普通ってなんだったっけ?

 

 綾がそっぽ向いてて今の一連の会話を聞いてなくてよかったわ。

 

「はぁ…、もうこの際なんでもいいや。はよ開けろ」

 

「ああ!じゃ読むよー」

 

 陽子が手紙を開いて中を読むのを俺達4人は黙って聞いた。

 

 ~See you, next time!~

 

「って、ここで終わんの!?」




という訳で変な所で終わってしまいました。すみません。
私はいつもなんとなく、1話につき8500字前後ぐらいにして投稿してるのですが、冒頭でオリジナルをやり過ぎましてこれ以上やると文字数が10000を超えてしまいますので陽子の手紙の話のオチは次回に持ち越しになりました。
これの続きの話は明日には投稿しますのでどうか。

あと言うことといえば、峻の言葉に綾がときめいたりする事はありません。あの二人はその、相棒とは違いますが、遠慮なく物事を言い合える仲と言ったカンジなんです。


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第15話~こうちゃのちしのぶあめ~

忍の風邪&陽子の手紙編、クライマックス!!
※別にそんな壮大な話ではない(笑)


 俺は今、ある所に電話をかけていた。

 

『プルルルルル…ガチャッ!はい、大宮です』

 

「あ、しののお母さんですか?」

 

『あら、峻君じゃない。忍ならもうほとんど良くなったわよ。まあ、大事をとって明日も休ませるけど』

 

「それはよかったです。で、そのしのとちょっと話がしたいんですけど、大丈夫ですかね?」

 

『ええ、大丈夫だと思うわ。ちょっと待っててね?』

 

 しののお母さんがそう言った後、俺の携帯から保留音が聞こえてきた。

 

 そして暫くして、保留音がピタッと止むと、

 

『もしもし、峻君ですか?』

 

 しのの声が聞こえてきた。声の調子はもういつもとほとんど同じで元気そうだった。

 

「ああ。しの、もう熱は大丈夫か?」

 

『はい。もう平熱に近いです。まあ、明日も休みますから登校できるのは来週になっちゃいますが』

 

 今日は木曜日で明日は金曜だからなあ。

 

「まあ、無理しない方がいいからな。………んで、ちょっと話が変わるんだけどさ」

 

『なんですか?』

 

「………お前昨日、下駄箱になんか入れたか?」

 

『え?……ああっ!アリスに頼んだあの手紙ですか?』

 

 ………………。

 

 俺が何故しのに電話でこんな事を聞いたのかと言うと、それは俺が大宮家に電話をかける数分前までさかのぼる。

 

 

 ~回想。~

 

 陽子に届いたラブレター(と思しき手紙)を陽子が読み上げるのを、俺、綾、アリス、カレンが黙って聞く体勢でいた。そして、陽子が読み上げたその文面は──

 

 

『お久しぶりです 忍です

 イギリスはどうですか

 日本の天気は晴れです

 アリスは元気に小さいです

 

 ではまた

 

      (↑を英語に訳しなさい)』

 

 

「「「「「…………………」」」」」

 

 陽子が読み上げた文面を聞いて、俺達は陽子も含めて何にも言えなくなっていた。

 

 そして暫くすると俺は綾と顔を合わせ、お互い数秒見つめあった後、合図もなしに2人揃って、

 

「「何これ!?」」

 

 と大声で叫んだ。

 

 ~回想終わり。~

 

 

 そして、あの奇妙な手紙の真相を知るべく、調子を聞くついでで、元凶に電話をしたわけだ。

 

『アリスのご両親とお話したくて、アリスに英訳をお願いしようと紙に書いといたんですよ』

 

「ほうほうなるほど。と、ホシは供述していますが、どう思いますか被疑者陽子さん」

 

 スピーカーモードにしていて話を聞いていた陽子に俺は振った。

 

「あの……、私ん所に入ってたんだけど」

 

 俺に少し近づいて陽子はしのにそう訊いた。

 

『あれ?そうだったんですか?』

 

 しのはあんまり悪びれずそう受け答えた。

 

 そういや今思い返すと、しのの容態が悪化した時、下駄箱の所からなかなか来なかったが、下駄箱に例の手紙を入れてたから遅れてたんだな。まあ調子が良くなかったからもたついてたのもあると思うが。

 

 そんな状態なら下駄箱の位置を間違えるのも無理はないとも思うが…。

 

「そもそも、なんで下駄箱に入れたんだよ」

 

 そんな用事なら、家でも学校でも何処でもアリスに聞けただろと俺はしのに問いかける。

 

『ゲタ箱に入れたらラブレターっぽいかなと思いましてー♪』

 

「思いましてー♪じゃねぇよ!だからなんで、ラブレターぽくしたのかって聞いてんだよ!!おかげで今日、とある人物は無駄に一日中もんもんしてたんだからな!!」

 

「し、してないわよ!!(小声)」

 

『それはそれは!ウフフ。陽子ちゃんドキドキしちゃいましたか!?』

 

「ガッカリしたよ…」

 

『あれ!?』Σ( ˙꒳˙ )

 

 しのの話を聞いた俺と綾と陽子は、精神的に脱力したのであった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 俺達は校舎を出て、雨が止んで小さな水溜まりが数箇所出来てた校庭を歩いていた。

 

「まあ、しのが元気そうでよかったわ」

 

「うん!」

 

「シュンだけでもジューブン面白いノデスガ、シノも居ないとつまらないデス」

 

「おいカレン、それどーいう意味だ」

 

「今日一日、しののイタズラに振り回されたけどなー…」

 

 陽子はそう言って、ため息をついた。

 でも主に振り回されてたのは綾であって、お前は手紙の事なんて放課後まで忘却の彼方だっただろうが。

 

「まあ、良かったじゃない。よく考えれば陽子にラブレターなんて、あり得ないしね」

 

「そうだな。まずその時点でその考えを撤回すべきだった」

 

「カチーン!なんだってー!?」

 

 怒った陽子を見て、俺と綾は笑いあった。

 

 特に綾は、吹っ切れたようにいい笑顔をしていた。

 

「アヤヤ、ご機嫌デスねー」

 

「何でだろー」

 

「♪」

 

 そんな綾の様子をカレンとアリスは不思議そうに見ていた。

 

 

「んじゃま、早く帰ってしのの看病するぞ、アリス」

 

 校門を出た所で、俺はアリスにそう言う。

 

「うん!……………ん?ちょっと待って?」

 

「どうした?」

 

「……今日は確かシュン、バイトの日じゃなかったっけ?」

 

「……………あ"っ」

 

 アリスの発言に俺は思わずそんな声をこぼした。

 

 そうだった…。火、木、土曜が俺のバイトの日で、今日はその内の木曜日だった…。

 

「なんて薄情なんだ俺は……」

 

「そんな事ないよっ!?」

 

「そんなに言うんデシたら、今日は休んだらどうデスか?」

 

「俺が風邪ひいたわけでもないのにそんな連絡したら松ば…、バイト先の人達に迷惑かかるだろうが!もうバイト時間近いし!」

 

「変なところ真面目だよなー、こいつ」

 

「ほんと」

 

 

 というわけで、俺はバイトに向かう事にした。

 

「じゃあアリス、しのの事頼んだぞー…」

 

「うん、任せて!」

 

「あ、松木さんに会ったらちゃんと挨拶するんだぞー?」

 

「大丈夫!わたしもう松木さんとは普通に話せるから」

 

「そうか。あ、犬は大丈夫か?」

 

「うっ…。か、傘を盾にするから…!」

 

「あと、雨上がりで水溜まり多いから、車とかによく注意して歩いていくんだぞ。えーと、それから…」

 

「過保護すぎない!?」

 

「シュン、アリスの親みたいデス」

 

 皆にそう呆れられながら俺はバイト先へと向かって行った。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「そっか、お友達が風邪をひいちゃったんだ」

 

 俺は今バイト先、『Restaurant Mathubara』で店の清掃中、穂乃花に友人が風邪をひいてしまった事を話していた。

 

 別に俺が話したくて話したのではない。ここに来た時に俺がなんだか元気がないように見えたと穂乃花に指摘され、なんやかんやで話す事になってしまったのである。

 

 なんやかんやってなんだ、ちゃんと説明しろと言われても、なんか穂乃花には毎回どういう訳か、いつの間にか話してしまってるんだよなぁ。

 

「言ってくれたら、私がお母さんに峻君を休ませるよう頼んであげたのに」

 

「いやいやいや。友達の風邪の、しかも治りかけの看病で急に休んで、穂乃花や穂乃花のお母さんに迷惑かけられないから」

 

 急すぎるシフト変更の補いはそんな簡単じゃないはずだ。

 

(うち)、平日はそんなに繁盛するわけでもないから大丈夫なんだけどな」

 

飲食店(ここ)の娘が、そんな事言っちゃあダメだろ」

 

 そんな会話をしつつ、俺達は店のバイトを続ける。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 今日のバイト時間が終わった7時ちょっと過ぎ、俺は店の従業員用更衣室で学校の制服に着替え直して、帰り支度をしていた。

 

 しのの様子を見に行きたいところだが、近所とはいえこんな時間にお邪魔しに行くのは気が引けるから今日のところはやめておこう。

 

「峻く〜ん!」

 

 店を出て、今日はもう家に帰って『ぐ○ナイ』でも観てようかと思っていたら、突然穂乃花に呼び止められた。

 

「どうした?」

 

「これ、よかったらあげる」

 

 そう言って穂乃花は筒状の小さい袋を数個差し出してきた。

 

「これは…、スティックの紅茶粉末?」

 

「うん。風邪をひいたお友達に飲ませてあげて!喉に良いかなと思って」

 

「いやでも、なんだか悪いって」

 

「余らせてたやつだから、気にしないで?あ…、もしかしてそのお友達、紅茶苦手だった?」

 

「いや、むしろ大好物だよ。………わかった、有難く貰っとくよ。ありがと」

 

「どういたしましてっ」

 

 穂乃花はそう言いながら、ニッコリ笑った。

 

 ……あいつにゃ世話になりっぱなしだなぁ。

 

 そう思いながら俺は自宅へと帰って行った。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

 翌日。学校から帰った俺はしのの様子を伺う為に大宮家にお邪魔し、しのの部屋へと向かっていた。

 実は朝にも行ったのだが、しのがぐっすり寝てて起きなかったので、その時は顔色を見るだけで終わり登校した。

 

 しのの部屋の前に着くと、俺はドアをノックしてしのに呼びかけた。

 

「しのー、入っていいかー?」

 

「ああ、峻君。どうぞー。……はぁっ…。はぁっ…」

 

 ………はぁはぁ?

 おい、あいつまさか、ぶり返したんじゃ…!

 

 そう思い、俺は扉を思い切り開けた。

 

 するとそこには、ベッドで頬を少し赤くし、息を切らす様にしていたしのの姿があった。

 

 ………何かの本を読みながら。

 

「峻君、いらっしゃいです。はぁっ…。はぁっ…」

 

「……………しの」

 

「はい?」

 

「…………その本、なに?」

 

「ああ、これですか?『金髪少女倶楽部』ですよっ」

 

 なるほど、わからん。

 

 いや表紙は見えてたから、なんて名前の本なのかは分かっていた。分かってた上で俺は訊いたのだ。しかしわからん。

 

「なんだ、『金髪少女倶楽部』って」

 

「最近本屋さんで見つけたんです。これ1冊に毎月素晴らしい金髪少女の姿が載ってるんですよ!」

 

 なるほど。

 

 わからん。

 

「ああっ…!こんな素敵で尊い本があるなんて、素晴らしいです!」

 

 世の中、しのみたいな趣味の人がいるもんなんだな。

 

 ところで、さっき「毎月」って言わなかったか?金髪少女だけで毎月刊行できるほどネタ無くね?まだ『水戸黄門』の方がネタあるんじゃないか?

 

 ま、とにかくそれは置いとくとしてだ。

 

「熱が上がるから(お前にとっては)そういう本を読むのはやめろ」

 

「そんなっ!!」Σ(꒪д꒪II

 

 俺はしのから件の本を取り上げた。

 

「私1人で退屈だったんですよぅ!」

 

「せめて明日まで我慢しろ。……まさか今日ずっとこれ読んでたのか?」

 

「あ、いえ。今から30分ほど前からだけですよ。その前は遅めのお昼ご飯を食べまして、それまで私はずっと寝てましたので」

 

「寝すぎだろ!?今回はいいけど!」

 

 相変わらず人が起こさないと起きない奴だな。しかもこいつ、夜寝るの異様に早いからな。ほったらかすと1日の大半を睡眠で使いかねん。の○太くんもびっくりだよ。

 

 

「もうじきアリスも教室の掃除終えて帰ってくるからそれで構ってもらえ」

 

「はーい」

 

「………で、話は変わるんだがしの…」

 

「ん?」

 

 俺はその場で正座して、頭を下げた。

 

「…今回の件、本当に悪かった」

 

「……峻君、それはもういいと言ったじゃないですか」

 

「ああ。今回の事はこの夏お前ん家に週2回アイスを家族分提供する事で話はついた」

 

「当人の知らない所でそんな話が出来ていたんですか!?」Σ( ̄□ ̄;)

 

「綾にも気にし過ぎるなって言われたよ。それでも、改めて謝らせてくれ。すまなかった」

 

「……………」

 

 俺が深々と頭を下げると、しのは何かを考え込む様子を見せた。

 

「……………峻君」

 

 そんな様子をほんの少し見せた後、しのが俺に語りかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「風邪が治ったら私とキャッチボールしませんか?」

 

「……………わかった。100本でも1000本でも、お前の気が済むまで俺にぶつけてこい」

 

 俺の頭には「うふふふ」と黒い笑顔でボールを沢山ぶつけてくるしのと、十字の木の棒に磔にされて黙ってボールをくらう俺の姿が想像された。

 

「それはキャッチボールじゃないです!!一方的なドッヂボールですよ!?」

 

「でもキャッチボールじゃお前の鬱憤は晴れんだろ」

 

「その時点で、もう違います!!」

 

 しのが全力で否定してきた。

 どうやら俺の考えとは違うらしい。

 

「キャッチボールでボールを取る練習をすれば、ボールが飛んで来ても大丈夫じゃないかと思ったんです」

 

「いや、別にそんな練習お前がせんでも…」

 

「では峻君。これから私が近くにいる時に野球、出来るんですか?」

 

「うっ……!」

 

 密かに俺が思ってた事を…。

 

「こ、これからはお前がいない時に野球やるよ」

 

「それはイヤです」

 

「何故に!?」

 

「私だって峻君の応援したいです」

 

 そう言ってしのは頬を膨らませてそっぽ向く態度をとった。

 

「いやしかし…」

 

「峻君には気兼ねなく、野球をやってほしいんですよ。野球をやってる峻君とても楽しそうで、私それを見てるの好きなんですよ!もちろん他のスポーツも!」

 

「…………っ!」

 

 満面の笑顔でそう言うしのに、俺は何も言い返せなかった。

 

 ほんっと、こいつはズルい…。

 

 あ、でも。

 

「そう言うわりにはお前、あん時は水飲み場の方行ってて俺の試合見てなかったじゃねえか」

 

「あっ!あ、あ、あの時は喉が渇いてしまいまして仕方なく席を離れていたんですよっ!」

 

 俺の発言に焦ったしのは、慌てて言い訳をした。

 

 そんな様子のしのを見て可笑しくなり、俺は自然と口角が上がった。

 

「ふふっ!……わかったよ。風邪治って暇な時間あったらキャッチボール、いくらでも付き合ってやるよっ」

 

「!……はいっ!お願いします!」

 

 日差しが橙色に近くなる時間帯に、俺としのは笑いあった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※

 

 

「美味しいね、この紅茶」

 

「そうですね〜。バイトの先輩さんに感謝です」

 

「インスタントもバカに出来んなぁ」

 

 あの後、アリスが帰ってきたタイミングで、穂乃花に貰った紅茶をしのとついでにアリスにも提供した。

 もちろん穂乃花の名前は出さず、"バイト先の先輩"に貰ったとだけ、しの達に伝えた。

 

「アップルティーが喉に染み渡ります〜…」

 

「わたしも昔、風邪ひいた時はマムに紅茶をいれてもらってたなぁ〜」

 

 しのとアリスはほっこりしながら紅茶を飲んだ。

 

「やっぱり、風邪の時は紅茶が1番ですね」

 

「あと、アメを舐めるのも喉に良いって聞くよ!」

 

「でもうちに今、飴はありましたっけ?」

 

「飴…。あ、そうだ。ちょっと待っててくれ」

 

 アリス達の会話を聞いた俺はある事を思い出し、一旦自宅に戻った。

 

 

 そして、ある物を取ってきた俺はしのの家の包丁とまな板を借りて、しのの部屋へと戻って来た。

 

「シュン、なに持ってきたの?」

 

「これだ」

 

「?長くて白い棒?」

 

「あっ!それもしかして、金太郎飴ですか?」

 

「ああ。こないだアリスが喜ぶと思って買ったの忘れてた」

 

「金太郎って、日本の昔話の?」

 

「はい。それを印した飴です」

 

「あ!顔がある!でもなんでこんなに長いの?」

 

「いいか?こうやって切ると…」

 

 俺は金太郎飴をまな板に置いて、数ミリほど感覚を開けて飴を包丁で切った。

 

「わあ!切った所からまた顔が出てきた!」

 

 その様子を見たアリスは金太郎飴に感心を見せていた。

 

「切っても切っても、金太郎な飴なんですよ」

 

「へぇー!…でも、なんで金太郎なの?」

 

「「えっ」」

 

 アリスの言葉に俺としのは揃って声を上げた。

 

 確かに、別に金太郎じゃなくてもよさそうなもんだが、ちゃんとした理由とか知らない。

 

「わたし、日本の事はまだまだ勉強中だから、金太郎の事もさわりの部分くらいしか知らないんだよね。森の中でまさかりを担いで動物達と過ごしてて、源頼光さんが家来と勝負をさせて、勝負に勝った金太郎を都へ連れて行って『坂田金時』って言う名前を貰って侍になったってぐらいしか…」

 

 動物達と過ごす~まではともかく、その先は俺も知らんかったわ!!そんな話だったの、金太郎って!?

 

「それで、なんでその飴は"金太郎飴"なの?」

 

 いかん、アリスがキラキラした目でこっちを見て訊いてきた。この顔の前で知らないとは言いづらい…。しのも俺と同じく困った様子で、目を逸らしている。

 

「………ま、まあ後で教えたる。今はしのの看病が優先だ」

 

「あ!そうだね!」

 

 ふう。なんとか誤魔化せた。

 

 これの後、ちゃんと調べとかねば…。

 

 ※因みに金太郎飴が金太郎の理由は昔話で当時、強い子供の象徴として知れ渡っていた金太郎のように強くたくましく元気に育ってほしいという製作者の願いが込められたかららしいです。

 

 

「もむもむ…。おいひいでふ」

 

 しのは切った飴を美味しそうに頬張っていた。

 

 俺は金太郎飴を次々に切って数を増やしていた。

 

「ふふ」ꉂ(*^ᗜ^*)

 

 それを見ていたアリスはくすくすと嬉しそうに笑っていた。

 

「アリス、そんなにこれ珍しいか?」

 

「シノがいっぱい!」

 

 アリスがそう言った瞬間、周りの空気がちょっと冷えた様な気がした。

 

「日本のものは、みんなシノにそっくりだね!」

 

「きんたろー…。峻君、まさか私の事がそーゆー風に見えてこれを…?」

 

「違ーうっ!そんなつもりは毛頭なーいっ!!」

 

 暫くしのが拗ねた。

 

 人の地雷っていつどこで踏んでしまうか分からんから恐ろしい。これが本当の地雷ってか。あ、余計に冷えた…。

 

 

 とまあ、こんな感じに色々あったが、それからしのの風邪はもうすっかり治り、次の週の月曜日にはいつもと変わらずしのは普通に登校していたのであった。

 

 変わった事と言えば、俺のバイトがない日や予定のない休日にしのとキャッチボールをする習慣が出来た事ぐらいかな。

 

 

 

 

 [おまけショートこぼれ話]

 

 

「ゴホゴホッ」

 

 陽子が手をグーにして口を抑えて軽く咳き込んでいた。

 

「陽子も風邪?」

 

 綾が陽子に聞く。

 

「んー、ちょっとね」

 

「待って。たしか薬が…」

 

 綾がポケットから薬を出した。が暫く、出した薬を見つめていた。

 

「………………頭は大丈夫?」

 

「どっ、どういう意味だ!!」Σ(;ー`Дー´)

 

「まあ確かに、さっき返されたこいつの小テストの点数見ればそんな心配もしたくなるわな」

 

「それもあるけどそうじゃなくてね?」

 

「二人共、いつの間に見たんだよ!!」

 

 陽子の抗議をよそに俺は綾の持ってた箱を覗いてみると、そこには風邪薬ではなく頭痛薬と書いてあった。それで頭は大丈夫と聞いたのか。

 

「峻は持ってない?風邪薬」

 

「んー、持ってないなあ。肝油ド○ップならあるんだけど」

 

「逆になんでそんな物持ってるわけ!?」

 

「いや…。なんか久しぶりに、ふと食いたくなって近くの薬局で1缶買ってみたんだ」

 

 幼稚園で先生に配ってたやつ美味かったよなあ。

 

「じーっ……」( ̄・ω・ ̄)

 

「………なんだよ陽子…」

 

 陽子がこっちを、というより俺が持ってる肝油ドロ○プの缶をじっと見つめていた。

 

「………1つ、おくれ?」

 

「風邪薬じゃねえぞ」

 

「食べたい」

 

「子供か」

 

 いや俺も、これが突然恋しくなって買ったんだが。

 

「おい綾、陽子をなんとかしてくれ」

 

「じーっ……」(⸝⸝⩌ - ⩌)

 

「お前もかい」

 

 結局この後、陽子と綾に肝油○ロップを1粒ずつ与えた。

 

 その後やってきた、しのとアリスとカレンにも与えた。アリスとカレンは初めてだったので、食べた時は美味しいと感激していた。

 それは良かったのだがその後カレンがもっとくれとせがんできて大変だった。これ、食べ過ぎるのはあんま良くないんだってば。これとオ○ナミンCは1日1つと相場が決まっているんだぞ。

 

 ~Sea you, next time!~




という訳でアニメ第4話分の話がようやく終わりました〜!

そして、貯めてたストックがあっという間に無くなりました〜!(笑)
という訳でまた、次が投稿されるのは暫く後になると思いますので。ではまた。


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