カードゲームもできる乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど、そんなことよりデュエルがしたい (黒点大くん)
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 私は「プライムディスティニー」で無限バーンループをまた一つ開発した。

 コンビニまで行こうとしたが、ループを模索するために10日間徹夜したツケで足元がおぼつかず階段で頭を打った。

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 という前世の記憶を魔法の雷に打たれて前世の死に様を思い出した。

 今世の私はソウコ・メッセル8歳。砂糖の蜂蜜漬けのように甘やかされて育てられたせいで、高慢ちきで人の迷惑とかそういうのが考えられない人間になってしまった

 

 魔法の雷は軽く捻挫したくらいの痛みしかないが、痛みに慣れていないで凄い衝撃として処理されてしまったのだ。

 

 痛み自体はさほど問題ではなかったが、一人分の脳に二人分の記憶が入ったために脳に大幅な負荷がかかり、鼻血を出しながら二日ほど気絶していたのだった。

 

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 二日もあれば記憶の整合性を取ることが出来たので問題ない。

 

 私に魔法の雷をぶつけた人が謝罪しに来ていた。私の婚約者のトゥスル・ターニア・アレクサンドラ。王家の四男で所謂政略結婚。

「本当に、本当に申し訳ありませんでした」

「いいんですよ。お陰で私がどれだけ恵まれた環境にいたのか分かりましたから。寧ろありがとうございました」

 トゥスルから色々と話を聞いた結果ここが「プライムディスティニー」の世界であることが確定した。

 

 プライムディスティニーとは私が前世でよくやり込んでいたデジタルカードゲームである。オンラインモードとストーリーモードが存在している。

 

 中世ヨーロッパ風の国で、学園を舞台に学び、恋を育むという王道の乙女ゲームにカードゲーム要素をぶち込んだゲームだ。

 この世界ではカードで全てが決まり、カードを作る為に特殊な鉱物に特殊加工を行う必要があるためカードが高価なため、特権階級でなければカードを取得できない。

 だが稀にカードの神にデッキを貰う人がいる。

 そして、カードをもつ者は12歳以降からカードを学ぶために学園へ集められる。

 主人公である少女はカードの神からカードを貰ったことで学園に入学することとなる。

 貴族ばかりの学園の中に突然入ることとなる主人公だが、持ち前の明るさと元気で、さまざまな困難に立ち向かっていく。

 というゲームだ。

 

 キャラゲームとしての完成度や乙女ゲームとしてのクオリティも高いことから、カードゲームもできる乙女ゲームと揶揄されていた。

 攻略対象はたくさんいて、トゥスル・ターニア・アレクサンドラもその一人である。

 

 問題はソウコ・メッセルが悪役令嬢であることだ。

 ソウコ・メッセルはメッセル財閥の一人娘でスゴい我儘なご令嬢。

 トゥスルと許嫁の仲であるため、トゥスルを自分の物だと思っている節がある。

 カードの神にデッキを貰った人をよく思っておらずねちねち苛める。

 

 そして、ソウコ・メッセルはあらゆるルートでねちねちと苛めてくる。というかルート次第ではガチで殺してくる。

 なのでハッピーエンドになるとソウコは死ぬ。バッドエンドになると結果的に主人公を道連れにして死ぬのだ。

 逆ハーレムエンドもあるが、そのルートでも死ぬ。

 

 ソウコ・メッセルにもルートは存在するが、結局死ぬ。ソウコ・メッセルにハッピーエンドはない。

「すみません。いきなり黙り込んでどうしたのですか?」

「なんでもないです」

 しかしソウコ・メッセルにハッピーエンドがないのは自業自得。

 

 取り敢えずカードを使って気分転換しよう。

「気分転換にデュエルでもしませんか?」

「ダメですよ。怪我させた責任があるのですから」

「被害者がイイって言ってるからOKですよ」

 庭まで行った。

 

 デッキを変えた。

「たしか王子ってまだルールを教えてもらっていませんよね。ですから実技をしながら、ルールを学びませんか?」

 王子は中途半端にルールを把握していたために、主人公にルールを教えてもらうシーンがある。魔法の雷を当てて婚約者相手を怪我させたからカードに触らせて貰えなかったのだ。

 

 とにかく怪我させるのは既定路線だったが、イレギュラーが起きたのだ。

「デッキはユナイツカードを除いて、40から60枚までの5の倍数の枚数になるようにします」

「はい」

「ユナイツカードはデッキに入れられるカードを決めるカードであり、必ずデッキに入れなければなりません。ユナイツカードに指定された属性のカードのみ入れることが出来ます。同じ名前のカードはデッキに4枚まで入れることが出来ます。王子のユナイツカードはマジカルランド。魔法使いと魔導書と使い魔属性を持つカードのみ入れることが出来ます」

 トゥスルはユナイツカードをデッキトップにおいてシャッフルしようとする。

 

 私はそれを止めた。

「ユナイツカードはゲームを始める前に公開するものなので、シャッフルするときはユナイツカードを入れませんよ」

「あ、ごめんなさい」

 中途半端な理解度すらなさそうに見えるんですけど。どうやって魔法の雷使ったんですかね。

「ユナイツカードを公開してから5枚ドローしてデュエル開始です。デッキが0枚になるか、ライフが0になると負けます。初期ライフは10ありますね。先攻と後攻は自動で決まります。あっ因みに私のユナイツカードはサムライズ。ニンジャとサムライとアヤカシが使えます」

 私の先攻となった。

 

 私は手札のカードをコストゾーンに置く。

「通常はターン開始時にドローしてからチャージ…コストゾーンに置きますが、先攻は1ターン目にドローと攻撃を行えません。コスト1で魔法カード、忍法無駄の術を発動します。カードは左上に書いてある数字の分コストゾーンのカードを裏側にして使用します。次のターンで表側にします」

 

 1 魔法 忍法無駄の術 属性:ニンジャ

   効果:なし

   説明:無駄なので誰も使わない

 

「私はターンを終了します」

 王子はドローしてからチャージしてターンを終える。

 

 ドローしてチャージする。

「コスト2で忍法訓練所を発動します」

 

 2 魔法 忍法訓練所 属性:ニンジャ

   効果:設置(このカードは場に残る)

      1ターンに1度発動できる。墓地の「忍法」カードを手札に加える。この効果を使用したカードはデッキに戻す。

   

「魔法カードは通常は墓地に送られますが、設置を持っているので場に置きます。場には5枚まで魔法を設置できます。ターンエンド」

 王子はドローしてから笑顔になり、チャージをする。

「コスト2で魔法図書館の司書を召喚」

 大きな本が現れてから開き、本から眼鏡をかけていて暗髪で三つ編みの女性の上半身が現れた。

 

 2 モンスター 魔法図書館の司書 属性:使い魔、魔導書

   効果:出現(このカードが場に出たとき以下の効果を発動する):一枚ドローする

   攻撃力:1 防御力:2 ライフ:1

 

「モンスターは基本は1ターンに1度のみ、前のターンに相手に攻撃したモンスターか、相手プレイヤーを攻撃できます。防御力は受けるダメージをその分減少する効果があるのです」

「わかりました。ターン」

「気を使わなくて結構ですよ」

「魔法図書館の司書でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 ソウコ:ライフ10→9

 

 私のターンだ。

「ドロー。チャージ。コスト3で武装カード発動。妖刀ムラマサ。武装カードはユナイツカードの上に一枚だけ置けます」

 錆びた日本刀が現れる。

 

 3 武装 妖刀ムラマサ 属性:サムライ、アヤカシ

   効果:プレイヤーが相手の場のモンスターを戦闘で破壊したら一枚ドローする。  

   攻撃力:3 防御力:0

 

「武装カードはカードに書いてある効果と攻撃力と防御力を得ます。私で魔法図書館の司書に攻撃して破壊。1枚ドローしてターンエンド」

 手に持った日本刀を軽々と振る。手に馴染むなぁ。

 

 王子のターンだ

「ドロー。チャージ。コスト3で魔法の教科書発動。効果で魔法図書館の司書を手札に加えて、ターンエンド」

 古びた本が現れた。

 

 3 武装 魔法の教科書 属性:魔導書

   効果:攻撃を行う代わりに墓地の魔導書カードを手札に加える。

   攻撃力:1 防御力:2

 

 よし。いいカードが来た。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトサキの術。2枚ドローします。忍法訓練所の効果でサオトサキを回収して、私でプレイヤーに攻撃」

 

 4 魔法 忍法サオトサキの術 属性:ニンジャ

   効果:2枚ドローする

 

「忍法訓練所でサオトサキを回収してターンエンドです」

 トゥスル:10→9

 

 王子のターン。

「ドローとチャージと攻撃をいかにして行うかが大事になりますね。ドロー。チャージ。コスト4でソーサレスナイトを召喚」

 ウィッチハットをかぶったスレンダーな女騎士が現れた。

 

 4 モンスター ソーサレスナイト 属性:魔法使い

   効果:出現:手札の魔導書カードを一枚墓地に送り、2枚ドローする。

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:2

 

「手札から魔法図書館の司書を墓地に送って2枚ドロー。魔法の教科書の効果で魔法図書館の司書を回収。ソーサレスナイトてプレイヤーに攻撃」

「手札から魔法発動。識痛の呪術」

「この状況で!?」

「特定の条件下でただでカードを使えるようになる……そういう効果もあるのです」

 

 6 魔法 識痛の呪術

   効果:アクションストライク(攻撃を受ける時にコストを支払わずに使用できる)

      2枚ドローしてこのカードをコストゾーンに送る。

      コストを支払わずにこのカードを使用したターン受けるダメージが倍になる。

 

 ゲーム基準だとトゥスルの実力じゃライフ5あれば充分。

「ターンエンド」

 ソウコ:ライフ9→5

 

 このままではやられてしまうので、ここでなんとか引き込むしかない。

「ドロー……チャージ。コスト4で忍法サオトサキの術を発動します。ソーサレスナイトに攻撃してターンエンドです」

 王子のターン。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法の雷発動」

 魔法の雷で怪我した人にそれを使うのか。まあ勝つためならしょうがないね。

 

 5 魔法 魔法の雷 属性:魔導書

   効果:モンスターか相手プレイヤーに3−防御力分のダメージを与える。

      その後自分のモンスターはこのターン攻撃出来なくなる。

 

「攻撃出来なくして、魔法の教科書の効果で回収。ターンエンド」

「ソーサレスナイトで攻撃してから使えばデメリット踏み倒せるんですけどね」

「あっ。そっか。そうですね」

 気が付かなかったんですね。

 

 このターン中にとどめさせばいけるいける。

「ドロー。やっと来ましたね。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚します」

 黒いシノビ装束を着た長身のイケメンが現れた。

 

 5 モンスター マスターニンジャ 属性:ニンジャ

   効果:1ターンに1度だけ発動できる。デッキから「忍法」カードを手札に加える

      貫通(攻撃する時防御力を無視する)

      攻撃力:5 防御力:1 ライフ:4

 

「マスターニンジャの効果で忍法分身の術を手札に加えます。私でソーサレスナイトに攻撃して破壊。一枚ドロー。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃…する時にコスト2で忍法分身の術をマスターニンジャに対して発動」

 

 2 魔法 忍法分身の術

   効果:ニンジャモンスター1体を選ぶ。選んだモンスターはこのターン2回攻撃ができる。そのモンスター以外攻撃出来ない

 

 トゥスル:ライフ9→4

「マスターニンジャでもう1度攻撃してトドメです!」

「アクションストライク。マジックシールド」

 

 2 魔法 マジックシールド 属性:魔導書

   効果:アクションストライク(攻撃を受ける時にコストを支払わずに使用できる)

      このターン中1度だけ受けるダメージを2減らす

      

 トゥスル:ライフ4→1

「ターン…エンドです」

「ドロー。コスト5で魔法の雷発動」

「あ」

 ソウコ:ライフ2→0

 

 場が綺麗になった。

「ご指導ご鞭撻ありがとうございました。手加減してくださったんですよね」

「は、はい。もちろんですよ」

 プレイングはガチでやったけど、手加減したことにする。手加減してるなら分身の術は使わない。

 

 しかしこんな初心者に負けた。ゲームのようにデッキを組んであげたりしないと強くない存在だと思っていた。悔しいが嬉しい。

「嬉しくなってきますね」

「え?」

「このゲーム……奥が深い」

 トゥスルはおぞましいものでも見たかのような表情になる。

 

 口角がすごく吊り上がっていることに気が付いた。

「いやですわ。私ったら。そ、それでは失礼いたします」

 部屋から急いで去った。

 

 初心者に教えるために弱いデッキを作ったとはいえ、負けた。

「興奮が……止まらない。ちょっと教えただけでこうなるのだからこの世界の人間はカードを使うセンスがある」

 断罪だの死ぬだの考えている場合じゃない。そんなことよりデュエルがしたい。



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 マナーの授業を軽々とこなす。

「それにしてもあのカードファイト……面白かったなぁ」

 いけないいけない。また口角が上がってしまっている。

「自重自重。悪癖だ」

 私がにやけたときの顔はトゥスルがドン引きするくらい怖い顔だからな。

 

 しかしさっきからお屋敷が騒がしい気がする。

「何が起きたんだろう」

 ドタドタという足音が部屋の扉の前で止まり、勢いよく扉が開いた。

「な、なんだぁ!?」

 乱暴に扉を開けたのは右目を眼帯で隠した白髪で褐色肌のおじいさんだった。息も切れ切れで相当焦っている。

 

 この人こそソウコ・メッセルのお父様 アグロ・メッセルである。歳をとるまで働いて財を成した時に漸く出来た子供だから滅茶苦茶甘やかしているという設定があるのだ。

「鼻血を出したと聞いたが、大丈夫か? どこか痛くないか? 怪我は」

「うざいです」

 愛が押し付けられている。

 

 愛はほしいけど、押し付けられると煩わしいんだなぁ。

「うざい……うざいだなんて。がっくり」

「この世が終わったみたいな落ち込み方をしないでくださいよ」

 この人は娘のために暴走する節があるからねぇ。なまじ影響力があるから、暴走の被害が普通の人の比にならん。

 

 普通に悪人だったソウコ・メッセルがこの人が生きてる間は罪を裁かれなかったからね。

「なにか我慢してないか。大丈夫か?」

「非常に贅沢で恵まれた環境にいながら、それと知らずに我慢をしていました」

 お父様は何を言ってるのかわからんと言いたげな顔をする。

 

 天を指差す。

「私は生まれ変わったソウコ・メッセル。あの一件で心機一転心の底から面白おかしく生きていくことを心掛けましたわ。ですので損害はなし。お父様の好きな投資というヤツですの」

「お、おお。そうか。大丈夫なのか。大丈夫なら良かった」

「心配してくださってありがとうございました」

「何にせよ無事なら良かった。お父さん仕事行くからね。本当に大丈夫? ねえ本当に」

「平気ですわよ」

 心配してくださるのはありがたいんだけどねぇ。

 

 お父様が去った。ボロが出なくてよかった。

「記憶が戻る前と同じ言葉遣いにしないと違和感だのなんだのがありそうだな」

 一日二日でキャラが変わるわけないので、できるだけ口調は記憶戻す前と同じにしよう。

「それにしてもトゥスル王子は強かったなぁ。いい家庭教師を紹介したいなぁ」

 部屋にメイドさんが入ってきた。

 

 メイドさんは人里に現れたクマに近づくかのようにビクビクとしている。

「前までの私は癇癪持ちですぐ当たり散らしていましたが、今はそんなことありませんからね。怖がらないでください」

「ヒィッ。べ、別にお嬢様のことをかんしゃくモンスターだなんてお…思ったりし、していませんからね」

「我が儘だったのは認めますが、そこまで言わなくてもいいじゃないですか」

 違和感を持たれない程度に態度を改めよう。悪印象を持たれるとあまり人とカードゲームできないからな。出来れば感想戦までしたいんすよ。でも印象悪いと最低限すらできない。

 

 それは後で考えるとして、今はトゥスルの家庭教師が必要だ。

「そんなことよりもですね。強いカードファイターをご存知でしょうか。この家のメイドさんって確か全員貴族のお嬢様ですよね。トゥスル様に良い家庭教師を紹介したいんですよ」

「あ、愛というやつですね。お嬢様は愛を知ってここまで変わったのですか」

 あ、アイ!? 愛ってあのアイ? 愛…

 

 理想の人(白馬の王子様)を求めるのは間違いなく愛だ。私の場合それが強いカードゲーマーだっただけのこと。という建前があるのでセーフ。

「あ、ある意味愛かもしれませんね」

「そういうことでしたら。二日くらいいただけますでしょうか」

 二日後が楽しみだなぁ。

 

 なんやかんやで面接まで進んだ。

「凄腕かつユナイツカードがマジカルランドの人のみ集めました」

 イケメンショタと筋骨隆々な人とおばあさんの3人ですか。  

 …あのイケメンショタどっかで見たことありますね。

「ところでなぜトゥスル王子の家庭教師を他人が決めるんだか」

「内助の功というやつですね。私は一応トゥスル王子の婚約者ですから、トゥスル王子にはカードの腕前を上げてもらいたいのです」

 結婚する前に死ぬから結婚はできないんですけどね。ブヘへへへ。

 

 デッキを調整した。

「お優しいことで」

「実力テストです。かかってきてください」

 デッキを構える。

 

 あれこれあってニ人目とのカードゲームが終わった。

「筋肉さんとおばあさんはロックバーン(行動を制限して効果ダメージを与えるデッキ)使いでしたね。筋肉さんもデッキのメインは強かったのですが、プレイミスが散見されたり構築に粗がありましたね。おばあさんは思い通りの展開にならないと舌打ちをしていたのでそもそもデッキがどうのこうの以前の問題です」

 ロックバーンは強いが、この世界だとロックバーンはマナーが悪いということになっている。そんなマナーが悪い人をやんごとない立場の人に紹介できるわけがない。

 

 イケメンショタもロックバーンだったら今回の採用試験は失敗ですね。

「名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ミツド・レンジ」

 ミツド・レンジ…どこかでチラッと見た気がします。

 

 どこかで見たことあるということはプライムディスティニーの登場人物ですかね。

「ミツドさん試合開始ですわ」

 互いにデッキを構えてからユナイツカードを公開して、ミツドさんの先攻になる。

 

 互いに2ターン目までなにもせず、ミツドさんの3ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2で魔法図書館の司書召喚。出現使ってプレイヤーに攻撃し、ターンエンド」

 ソウコ:10→9

 

 私の3ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3で妖刀 ムラマサ武装。私もといムラマサで魔法図書館の司書を攻撃して破壊。1ドローしてターンエンド」

 ミツドさんの4ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でホブゴブリンの製本所発動。ターンエンド」

 

 3 魔法 ホブゴブリンの製本所 属性:使い魔

   効果:設置

      1ターンに1度だけ発動出来る

      魔法使いモンスターが自分の場に召喚されたとき一枚ドローする。

   説明:ホブゴブリンたちは魔導書を作るのにおおいそがし

 

 私の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で獣遁ワンジャを召喚します。ワンジャの効果でコストを1減らして、コスト2でイジャロコロガシを召喚」

 笊と子牛サイズの柴犬が出てきた。

 

 2 モンスター 獣遁ワンジャ 属性:ニンジャ

   効果:モンスターの召喚コストを1減らす

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 3 モンスター イジャロコロガシ 属性:アヤカシ

   効果:出現:2枚ドローして、2枚手札から墓地に送る

   説明:編み目が緩くて捨てられた笊

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:3

 

「プレイヤーに攻撃してターンエンド」

 ミツド:10→7

 

 ミツドの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5で磁力魔導師を召喚。1枚ドロー。獣遁ワンジャを攻撃して破壊。ターンエンド」

 左右が赤と青で分かれたローブを着ていて方位磁石みたいな仮面を着けた人が出てきた。

 

 5 モンスター 磁力魔導師 属性:魔法使い

   効果:誘導(このカードが攻撃不能状態なら、相手はこのカードを攻撃しなければならない)

      シフト(このカードが攻撃不能状態なら、モンスターの攻撃力と防御力を交換する)

   説明:磁力は反発と引き寄せ合う力を併せ持つ

   攻撃力:5 防御力:0 ライフ:5

 

「実質防御力5のモンスターですか」

「これが俺のエースモンスターですよ。ターンエンド」

 磁力魔導師はロックバーンによく使われている。またですか。

 

 私の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5で忍法回天の術発動。イジャロコロガシで磁力魔導師に攻撃してターンエンドです」

 

 5 魔法 忍法 回天の術 属性:ニンジャ

   効果:設置

      コストを2払って発動する

      コストを払って墓地からコスト5以下のニンジャモンスターを召喚できる

   説明:その術はニンジャをより厄介にした

 

 ニンジャマスターのいない今攻撃強制は刺さりますね。

 

 ミツドの6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4で予言者ヨティスを召喚。1枚ドロー」

 

 4 モンスター 予言者ヨティス 属性:魔法使い

   効果:出現:2枚ドローしてこのカードを破壊する

      (ライフが0以下になったモンスターは破壊される)

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:0

 

「ヨーチスの効果で2枚ドローして自壊。磁力魔導師でプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

「これは少し…負けそうですね」

 ソウコ:9→4

 

 私の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2で回天の術の効果発動。コスト2で獣遁ワンジャを召喚します。コスト1でクノイチを召喚です」

 

 2 モンスター クノイチ 属性:ニンジャ

   効果:出現:一枚ドローする

   攻撃力:1 防御力:2 ライフ:1

 

 よしっ引けた。なんとかなりましたね。

「ターンエンドです」

 相手のデッキはおそらくビートダウン(ひたすら攻撃するタイプのデッキ)に軽めのロックを混ぜたデッキ。勝機はあります。

 

 ミツドの7ターン目。

「ドロー。チャージ。磁力魔導師でプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク」

「…獲物を前にした野生動物みたいな表情からしてなんかありますね」

 ミツドさんは冷や汗を流す。

「忍法誘惑の術発動」

「ほーら。やっぱり逆転の切り札がありましたね」

 

 4 魔法 忍法 誘惑の術 属性:ニンジャ

   効果:自分の場に「クノイチ」がいればアクションストライクを得る

      相手の攻撃先を「クノイチ」に変更する

 

 クノイチがいないと実質使えないカード…引けてよかったですね。

「磁力魔導師でクノイチに攻撃。クノイチを破壊してターンエンド」

 結構ギリギリですよコレ。

 

 私の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でマスターニンジャを召喚します。マスターニンジャの効果により忍法 分身の術をサーチ。マスターニンジャで磁力魔導師に攻撃…する時にコスト2で分身の術 マスターニンジャに使います。マスターニンジャで磁力魔導師破壊」

「一撃でやられた」

「マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

 ミツド:7→2

 

 とどめ(リーサル)いけますわね。

「ムラマサでプレイヤーに攻撃です」 

「コスト5でリアクション。ヘカテーの月魔術」

 

 5 魔法 ヘカテーの月魔術 属性:魔法使い

   効果:リアクション(コストを支払えば相手のターンにも使用できる)

      2枚ドローして、プレイヤーの受けるダメージを2減らす

   説明:賢者ヘカテーの遺した魔法の1つ。その魔術は痛みを和らげ知略をもたらす

 

 リアクション…頭から抜けてました。プライムディスティニーだとリアクションはアクションストライクと違い、コストを払うのが弱いからという理由でオンラインじゃ誰も使ってないんですよね。

「読めませんでしたね。コストを使わなかったからリアクションがあるだろうというのは充分予想できたはずなのですが…」

「気にしないでください。カードパワー的にリアクションなんざ使えないですからね」

「ターンエンド」

 まずいですね。このままじゃ押し負けますよ。

 

 ミツドの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でソーサレスナイト召喚。1枚ドローして効果発動。コスト4でソーサリーナイト召喚。1枚ドローして墓地から予言の魔導書回収」

 

 2 モンスター ソーサリーナイト 属性:魔法使い

   効果:出現:墓地の魔導書カードを手札に加える

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:2

 

「ソーサリーナイトとソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃。これで終わりですよ」

「ソーサリーナイトの攻撃は甘んじて受けましょう。しかしソーサレスナイトの攻撃は通しません。アクションストライク。キリステゴメン」

 

 3 魔法 キリステゴメン 属性:サムライ

   効果:アクションストライク。自分の場のサムライカード1枚を選ぶ

      そのカードよりコストの低い相手モンスターを1体破壊する   

 

 ビートダウンメタに入れてたのが効いたようですね。

「ソーサレスナイト破壊」

「ターンエンドです」

 なんとかなりました。

 

 私の8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法 サオトサキの術。そしてマスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

 ミツド:1→0

 

 2枚目の磁力魔導師か蘇生カード引かれてたら負けてた…。この人もまた強くなる。

「合格です」

 紹介状を渡す。

「弟子と研鑽しあって互いが互いを強くしてくれることを心より願っていますよ」

「負けたのに…いいのですか?」

 あっ! 今の言葉 攻略対象のミッディー・オレンジのセリフだ。本編前とはデッキタイプが違うから気が付かなかった。

 

 今は茶髪セミロンだけど、短い黒髪にすればたしかにソックリだ。

「ミツドさんって本当はミッディーさんですよね」

「あっ。そうだった。自分の名前さえ忘れてた」

 ミツド・レンジという名前はミッディーが初対面の時に主人公に名乗った名前だった。ミッディーのルート攻略してなかったから気付くのが遅くなった。



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3 ロックバーン

 連日攻略対象に遭遇したので、偶には攻略対象のいないところに行きたい私です。

「それにしても強いカードファイターとも戦いたいですねぇ。戦いたすぎる」

「なら良い方法がありますよ」

 さっきまでいなかったメイドさんがいた。

 

 やば。怖すぎて咄嗟にデッキを構えてしまった。

「よい方法とは一体何でしょうか?」

「この辺りにカードを使う盗賊が出現しております。討伐すればお嬢様の腕前も多少鍛えられると思われます。何しろ彼らはマナー無用(ロックバーンの使い手)ですので」

「盗賊ってお金ないはずなのにカードは持ってるんですか、なぜお嬢様の部屋に入るのにノックしないんですか、いろいろおかしくないですか?」

「民草から奪ったお金でカードパックを剥いているので、デッキを使うことが出来ているのです。そして私はお嬢様に声をかける前から一応入室していました」

 そうだったんですね。

 

 乱暴に言えばカードはお金さえあれば誰でもゲット出来ますからね。それにカード屋さんにとってみれば普通に良いお客さんだろうから、カード屋さんも通報出来ないと。

「それにしても色々と詳しいですね」

「趣味で情報を集めております」

 変な趣味ですね。

 

 メイドさんからもらった情報を元に盗賊団の元に向かう。

「プライムディスティニーにはカードを使う盗賊なんていなかったんですけどね…本編では割愛したってことなのでしょうか?」

 木の上に悪人面の男の人たちがいますね。でも襲いかかってこない。タイミングを伺っているんですかね。

 

 あ! 私貴族みたいな格好(カード持ってそうな見た目)してましたね。

「豪華な服装をしてるから信じて貰えないかもしれませんが、私は貴族ではありませんの」

 メッセル家はこの国の政財界に凄まじい影響を及ぼしてる上に、下手な貴族よりお金は持ってるが貴族ではない。王様が自分の子供(トゥスル王子)とトレードしたくなるくらいお金があるのだ。

 

 話が逸れましたが、要はお金があるように見えるから襲いかかって来ないのである。

「この服は一張羅ですわ。この服しか着れる服がありませんの」

 持ってる服でこの服が一番汚れてもいい(下等な)服。汚すのだからTPOの問題はないです。

「嫌ですわ。私ったら貴族みたいな口調になってる。独り言も激しいですわ」

 独り言という体にすれば怪しまれまい。

 

 悪人面の人たちが降りてきた。

「親分。暴力の時間ですよ」

 どこにでもいそうなおばさんが軽々と地面に落ちた。

「命が惜しければ金品を出しな」

「分かりました。高額なものをお出しします。私のユナイツカードはサムライズです」

 カードを出したので、カードゲー厶が始まる。

 

 おばさんは舌打ちをした。

「嵌められたね。やはり貴族は噓つきだ」

「あら。私カードを持っていないなんて一言も言ってませんの。それに先攻取れているのですから多少有利ですわ。ユナイツカードを宣言してくださいまし」

「フォレスターだよ」

 フォレスター……ビースト、インセクト、フェアリー、ドラゴンの四つの属性を使えるユナイツカードですね。使える属性こそ一番多いけれど、全体的に血の気が荒くロックバーンに向いているようには思えませんが。

 

 そんなことを考えていたらもう2ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト2で祈りの妖精を召喚。ターンエンド」

 

 2 モンスター 祈りの妖精 属性:フェアリー

   効果:モンスターの召喚コストを1減らす

   説明:その妖精の奏でる音色は森の仲間を引き寄せる

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 私はワンジャを召喚してターンを終えたので、盗賊の3ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3で働きアリの巣を発動。ターンエンド」

 

 3 魔法 働きアリの巣 属性:インセクト

   効果:設置

      1ターンに1度だけ発動出来る

      モンスターが自分の場に召喚されたとき一枚ドローする。

   説明:働きアリは冬を越える為に餌を蓄える

 

 私の3ターン目。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト3で能面 般若の舞姫を召喚です」

 

 4 モンスター 能面の舞姫 属性:アヤカシ

   効果:出現:デッキの上から二枚を見て1枚を手札に加えて

         1枚をコストゾーンに送る

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:2

 

「クノイチを手札に加えてコスト1でクノイチを召喚します。クノイチの効果で1枚ドローしてターンエンドです」

 サオトサキを引けました。これで大丈夫ですね。

 

 盗賊の4ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト4で大紫婦人を召喚」

 青みのある紫の十二単を着た妙齢の美女が現れた。

 

 4 モンスター 大紫婦人 属性:インセクト

   効果:誘導

      反撃(モンスターと戦闘を行ったモンスターに

      このカードの防御力−そのカードの防御力分の戦闘ダメージを与える)

   攻撃力:0 防御力:6 ライフ:6

 

 大紫婦人ですか。フォレスターの数少ない防御札ではあるけれど、フォレスターはガン攻めするカードが多くユナイツカードに合わないカードですね。

「1枚ドローして大紫婦人でプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。識痛の呪術を使用しますわ」

「ターンエンド」

 大紫婦人を崩せるカードはニンジャマスターのみ…キツいですわね。

 

 私の4ターン目

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトサキの術を発動しますの。よし。コスト2で妖怪いそがしを発動ですわ」

 

 2 魔法 妖怪いそがし 属性:アヤカシ

   効果:アクションストライク。モンスター一体を選んで行動可能状態にする。

      このカードは自分の場に属性:アヤカシのモンスターがいなければ使えない

   説明:いそがしは人に取り憑いてこき使う

 

「そんな都合のいいカードを引くなんて…」

「されたら不快なことを押し付けるのはデュエルで強くなる近道の1つですわ。ロックバーンをしてる以上理解していると思っていましたが」

 性格悪いかもしれませんが、忌憚なき事実。

 

 大紫婦人の縛りから解き放たれる。

「クノイチと能面の舞姫でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 盗賊:ライフ10→7

 

 盗賊の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト2で魔獣を召喚。1枚ドロー。コスト4でタイラントドレイク召喚」

 4本足の黒い靄と脚と顔がドラゴンのようになっている一軒家サイズのトンボが現れた。

 

 3 モンスター 魔獣 属性:ビースト

   効果:このカードはプレイヤーを攻撃出来ない

      出現:デッキの一番上のカードをコストゾーンに置く

   攻撃力:3 防御力:0 ライフ:3

 

 5 モンスター タイラントドレイク 属性:ドラゴン、インセクト

   効果:このカードが場にいる限り、このカードより攻撃力の低いモンスターは

      攻撃不能状態になる。このモンスターは相手プレイヤーに攻撃出来ない

   説明:その蟲は威厳と暴虐性故に竜の称号を与えられた

   攻撃力:4 防御力:0 ライフ:5

 

 タイラントドレイク…重量級多めのデッキでは攻撃の要として使われ、下級多めのデッキでは一時凌ぎの手段として使われる攻防兼ね揃えたカードですね。

「タイラントドレイクで獣遁ワンジャに攻撃。破壊。ターンエンド」

 タイラントドレイクはワンジャを頭から貪る。趣味の悪い光景ですわね。

 

 私はサオトサキの術を発動してターンを終えた。盗賊の6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。嬲り殺しの時間だよ。コスト3でエルフアーチャーを召喚。1枚ドロー。コスト3でシルフの風発動」

 

 4 モンスター エルフアーチャー 属性:フェアリー

   効果:スタントリック(このカードが効果で攻撃不能状態になった場合

      以下の効果を発動する):相手に1ダメージを与える

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 3 魔法 シルフの風

   効果:自分の場の属性:フェアリーのモンスターを1枚手札に戻す

      自分の場に属性:フェアリーのモンスターがいるなら

      ドローを行う代わりに墓地のこのカードを手札に加えなければならない

 

 エルフアーチャーのスタントリックによって1ダメージを受ける。

「モンスターが攻撃可能状態で場に出ることを活かした戦法ですね。いい作戦じゃないですか。ですがちまちまと1ダメージを与えるだけの戦法は逆転の切り札に弱いですよ。そこらへんどうしているのですかね」

「心配ないよ。あたしゃもうフォレスター最強のカードを引いているんだ。そのモンスターで一気に倒せる」

 フォレスター最強のカードがあることがさり気なく聞き出せた。

 

 フォレスター最強のカードは2つあるけれど、十中八九ドラゴンキングの方ですかね。もう一方の方と違い、ドラゴンキングはタイラントドレイクとの相性がバツグンですから。

「タイラントドレイクで能面の舞姫に攻撃して破壊。ターンエンド」

「左様ですか。それならば私程度問題はありませんわね」

 ドラゴンキングの攻撃力は高い。なんとかしなければ。

 

 私の6ターン目。

「ドロー。よし。チャージ。コスト5でニンジャマスターを召喚。効果で分身の術を手札に加えます。ニンジャマスターで大紫婦人に攻撃。更に分身の術発動です。大紫婦人を攻撃して破壊し、ターンエンドですわ」

 大紫婦人はレア度の高いカード…恐らくピン刺し(1枚しか入れてない)のはずです。

 

 盗賊の7ターン目。

「墓地のシルフの風を手札に加える。チャージ。コストを1枚ですか減らしてコスト7でドラゴンキングを召喚。1枚ドロー」

 タイラントドレイクよりも少し小さいが、確かに威厳を感じさせる赤いドラゴンが現れた。赤いドラゴンの角は伸びまるで王冠のようになる。

 

 8 モンスター ドラゴンキング 属性:ドラゴン

   効果:蹂躙(モンスターを戦闘で破壊した場合、このカードは攻撃可能状態になる)

   攻撃力:6 防御力:2 ライフ:8

 

 赤いドラゴンは口から焔を吹き辺りを焦がした。

「昨日手に入れたばかりの最強の切り札だよ。消し炭になったらゴメンな」

 あっつい。熱すぎる。これがフォレスター最強の攻撃力を持つモンスター…

 

 ソウコ:ライフ9→3

 

 生木が炭になっている。場のモンスターも全滅していますね。

「柔なお嬢様はこの攻撃で消し炭になっただろうぜ。流石お頭」

 まずいですね。全身が軽い火傷を負ってます。右腕も焦げて複雑骨折を起こしてる。

 

 背中も派手に木に打ち付けた。階段から転げ落ちたから分かるけど、脊椎壊れたかも。

「あいにく完全に生(ロー)ですわ。ところでタイラントドレイクで攻撃しなくてもよろしいのですか?」

「分かってるくせして。ターンエンド」

 なにがロックバーンですか。フィフティ・フィフティ(ロックとビートダウンの組み合わせ)じゃないですか。

 

 私の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5で忍法 回天の術発動します。コスト2を払うことで墓地からコスト2でクノイチを召喚。1枚ドロー。ターンエンド」

 空蝉の術…首の皮一枚繋がりましたね。

 

 盗賊の8ターン目。

「ドロー。チャージ。骨が折れて立てないのに戦い求めてて不気味だね。コスト3でシルフの風。エルフアーチャーを手札に戻して、コスト3でエルフアーチャー召喚。シルフの風を手札に加えて、1ダメージ。タイラントドレイクでクノイチに攻撃」

「強いカードゲーマーとの死合(ゲーム)で死ぬなら本望なんです。どうせ何もしなくても十年後には死にますからね。アクションストライク。忍法 空蝉の術」

 

 2 魔法 忍法 空蝉の術 属性:ニンジャ

   効果:アクションストライク。攻撃を無効化する。

      このカードは自分の場に属性:ニンジャのモンスターがいなければ使えない

   

 タイラントドレイクはクノイチの服が着せられた丸太を切り裂いた。

「無駄な足掻きをする余裕はあったのかい。ドラゴンキングでクノイチに攻撃して破壊」

 ドラゴンキングはクノイチを掴んで振り回し地面に叩きつける。

 

 デカい衝撃により口と喉が鉄臭くなり唾液が赤くなる。

「これは少々まずいですわね」

「ドラゴンキングでプレイヤーに攻撃。あたしを騙した罰だ。とびっきり威力の高い攻撃で葬ってやりな」

「アクショ…ン、ストラ…」

 やばっ。今更痛みが。脳が痛みを和らげなくなって…

 

 モンスターが消えた。

『ソウコ・メッセル体調不良によりデュエル続行不可』

「ふざけんな! やらせろ! こんなの私は認めない。何であろうと決闘に水を差すな」

「急に態度が変わるやん」

 この世界の決闘は怪我や気絶等で決闘の続行が不可能になった場合システムにより中断される。このタイミングで中止になるのは悪意がある。

 

 これで2回も醜態を晒してしまった。この体、虚弱すぎる。

「次は絶対負けませんわ!」

「あたしゃお前みたいな怖い人と二度と戦いたくない」

「勝ち逃げしないでくださいまし!」

 盗賊は去った。

 

 メイドさんに回収されて手当された。

「手遅れになったらどうするんですの?」

「強いカードゲーマーとのゲームで死ねるなら本望って言ってたじゃないですか」

「半分だけですわ。残りの半分は他のカードゲーマーと勝負できなくなるから死にたくない…ですの」

 それにしても私もまだまだですわね。怪我の治り次第ドロー力を鍛えなければ。



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4 治療決闘

 ドローの素振りを1時間で百回行いました。

「怪我が治ってないのですから、大人しくしてください」

「怪我なんて治してる暇があったら、ドローの素振りをやったほうがいいです」

「お言葉ですがドローの素振りをして怪我が治る〜なんてのは迷信ですよ」

 医学的にドローの素振りに治療効果があるとが認められるのは、ソウコ・メッセルが15歳になってからである。流石に右腕でするのは無理なのでまだマシな方の左腕でドローの素振りをし続ける。

 

 勢いよく扉が開いた。またお父様か。

「全身火傷してるじゃないか。わしのかわいいソウコをこんな酷い目に合わせおって。合わせたやつは許せない」

「裏山で焼き芋でもしようと思ったら火が強すぎてこうなりましたの」

 お父様が犯人を探したら、あの盗賊団は確実に殺される。リベンジされる前に死なれては困るので、嘘をつくしかない。

 

 お父様に肩を掴まれる。

「なぜ、調理担当に、頼まなかったんだ。危ないじゃないか」

「ちょっとしたわがままですの。焼き芋は自分で焼いた方が美味しいと聞きまして」

「次からは止めなさい。怪我をするからね。なぜ誰も止めなかったんだ」

「お嬢様は…素直に言って聞くような人ではありませんので」

 愛を感じる。愛を感じるだけに前世という不純物があるのが申し訳なく思う。お父様の愛するソウコと私は違うから。

 

 ドローの素振りの速度を上げたので、左腕が完治した。

「さっきからなにドローの素振りをしているんだ。止めなさい。傷口が広がるだろう」

「ドローをすると怪我が治るのです。火傷を負っていた左腕もほらこの通り」

 左腕の包帯を取ると、怪我一つない左腕があった。

 

 お父様は困惑を隠せないでいる。

「そ、そうか。それなら良かった。今度は怪我しないように芋を焼くんだぞ」

「承知しました」

 お父様が出ていった。

 

 6日後…トゥスル王子が来た。

「こんな見苦しい姿で申し訳ございません」

「思ったより元気そうで良かったです。何しろ本当はケガしてないんじゃないかと一瞬思ったほどで。……忙しく様子を見ることが出来ず申し訳ございませんでした」

「忙しいのなら仕方ありませんわ。何と言っても王族ですものね」

 プライムディスティニーでは素振り治療は50%で一週間で大怪我や虫歯や五月病等の病気を治せる上に体力を大幅回復する効果があった。ゲーム時間で3年は使えないということを除けば欠点がない。

 

 効能により、左腕に軽いやけどがある程度になっている。

「これも素振り治療の効能ですわ」

「え、あれ生存者バイアスじゃなかったんですか?」

「左腕の火傷も決闘を行えば治るはずです。早速いたしましょうか」

 素振りごときで怪我が治るなら、決闘でも治らなければおかしいのに決闘じゃ治らないだろという風潮があり、民間治療の域を出なかったのです。

 

 決闘で怪我が治らないというのにせがんだ理由は私がただ決闘したいだけ。

「お医者様から暫くは決闘を控えておくように言われているのです」

「そうですか。リベンジはしばらく先になりそうですね」

「しかし決闘させないというのもゴネそうなので、代わりの者を」

「随分と用意がいいですわね。決闘好きになったのはつい最近のことですのに」

「決闘中に気絶しても決闘を好きでいられる人間は元から決闘が好きな人だけですよ」

 それはそうですね。

 

 トゥスル王子は手を鳴らす。

 

 天井からメガネをかけた銀髪の10代後半の少年が出て来た。

「若き天才プロフェッサー ウィドー・マリッジです」

「ウィドー・マリッジですって!?」

 ウィドー・マリッジ……プライムディスティニーでは攻略対象であり、主人公の通う学園の教師でありながら、主人公に邪神の封印を解かせる見下げ果てた人間ですね。

 

 主人公から見れば強いカードを貰うフラグだけど、そういうのを抜きにすれば邪悪なのに一切制裁されないので、あまり好感がないんですよね。

「いいでしょう。決闘しましょう。相手にとって不足はありません」

「……メカントリー」

 メカントリーはフォレスターとは対照的で属性が一つしかないユナイツカードですね。

 

 ウィドー・マリッジの先攻だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でフェアリー・ホログラムを発動。ターンエンド」

 30cmの鉄の箱から祈りの妖精のホログラムが現れた。

 

 2 魔法 フェアリー・ホログラム 属性:メカニカル

   効果:設置。モンスターの召喚コストを1減らす

   説明:機械の箱から現れるのは祈りの妖精の幻

 

 私はワンジャを召喚してターンを終えたので、ウィドー・マリッジの3ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3で半永久機関を発動。ターンエンド」

 ハンマーの付いた水車が現れた。

 

 3 魔法 半永久機関 属性:メカニカル

   効果:設置。モンスターが召喚されたら1枚ドローする

   説明:一見無限のようだが欠陥があった

 

 半永久機関だのフェアリー・ホログラムだのこの人は本気を出していませんね……。この人は若き天才プロフェッサーである前から、モンスターを使わないテーマを使っているという公式設定がありますの。それに接待するときには本気出さないという設定もありますからね。

 

 本気を出されないのは少々癪に障りますが、今は気にせず私の3ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト2でイジャロコロガシ召喚ですわ。2枚ドローして2枚墓地送りします。今墓地に送られた泥田坊(マッド・ネス)の効果を発動します」

 

 5 モンスター 泥田坊(マッド・ネス) 属性:アヤカシ

   効果:我流転生(このカードが墓地に送られたらこのカードを場に出す。

           コストを支払わずに場に出たこのカードは相手ターン開始時に破壊される)

   攻撃力:4 防御力:0 ライフ:4

 

 やはり泥田坊(マッド・ネス)を1枚入れているかいないかで、火力が段違いですわね。

泥田坊(マッド・ネス)でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 ウィドー・マリッジ:ライフ10→6

 

 ウィドー・マリッジの4ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト3でヨティス・プログラム発動。3枚ドローしてターンエンド」

 

 4 モンスター ヨティス・プログラム 属性:メカニカル

   効果:出現:2枚ドローしてこのカードを破壊する

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 私は4ターン目に能面の舞姫を召喚して攻撃させてからターンエンドしましたので、ウィドー・マリッジの5ターン目ですわ。

「あわわ。追い込まれた。ドロー。チャージ」

 余裕そうな表情していますね。白々しい人だ。

「コスト5でライオットデストロイアーマー武装」

 ウィドー・マリッジはライオットシールドと警棒を装備した。

 

 5 武装 ライオットデストロイアーマー 属性:メカニカル

   効果:シフト

   説明:この装備には2万ボルトも流れている

   攻撃力:5 防御力:0 

 

「ライオットデストロイアーマーでプレイヤーに攻撃」

 ソウコ:ライフ10→5

 

 私の5ターン目ですわね。

「私のデッキって攻撃力に欠けるんですよね……。何と言っても泥田坊(マッド・ネス)が二番目に攻撃力の高いカードですもの。ああ。攻撃力の高いカードが来ますように」

「いきなり如何いたしましたか?」

「私の切り札を引ければいいなぁっていう願い(ワガママ)ですの。ドロー……よし。チャージ。コスト4でマスターニンジャを召喚。効果で忍法具 煙玉をサーチ。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です。アクションストライクはございますか?」

 ウィドー・マリッジは手札に手を近づける。

 

 そして手を下ろす。

「……ございませんね」

 なんかありそうですね。わざと負けてやったみたいな雰囲気があって頭に来るのですが。

 

 そんなことさせないですよ。

「わざと負けるようなことしていいんですか? そんなことしたら私の全力の駄々こねを見ることになりますよ」

「それを脅しの道具に使うとは。計算と違う。適当にやってわざと負けようと思ったのに」

 小声で言ってもね。

 

 ウィドー・マリッジは雑にカードを使う。

「アクションストライク。スタンガン」

 

 3 魔法 スタンガン 属性:メカニカル

   効果:アクションストライク。このターン中相手モンスター1体の攻撃力を0にする。

 

 やっぱりありましたね。

「ごめんなさいね。私個人の思想としましては、決闘は全力でぶつかり合うものなんですね。だからトゥスル王子には謝ります。あの時は全力ではなかったです。申し訳ございませんでした」

「主義に反してまで決闘のやり方を教えてくれたのですね」

「すまないと思わないでください。恩を着せるつもりはありませんからね。コスト2で忍法具 煙玉発動」

 

 2 魔法 忍法具 煙玉 属性:ニンジャ

   効果:場のニンジャモンスター一体を選んで発動する。

      選んだモンスターはそのターン効果を受けない

 

 マスターニンジャは白い花火玉を地面に叩きつけた。

「マスターニンジャを選びます」

「対抗への対抗策があるくせに対抗を催促したのですか」

「不快にさせるようなことをしてどうもすみませんでした。しかし本気の貴方と決闘したいという個人的なワガママですわ。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃」

「理由までワガママそのものですね」

 ウィドー・マリッジ:ライフ4→0

 

 モンスターが消える。

「…デッキを間違えた」

「次からはデッキを間違えないようにしてくださいね」

 ウィニー・マリッジは自分だけのテーマを作った。ウィニーの作ったカードはウィニーのみが持つカードであるため、この場で本気デッキを再現したデッキで戦うことが出来ない。非常に残念なことです。

 

 怪我人をこれ以上怪我させるわけにはいかないという理由で手加減したならまだわかる。だがしかし適当にやってわざと負けるのが目的なのが気に食わない。

「次はいつお相手できますか?」

「研究次第です。研究はわからない事だらけなので相当長引くと思われます」

 この人のこの言葉は一般語に訳すと「やるわけねーだろ」となるんですね。

 

 若き天才プロフェッサーの時間を取らせるわけにはいかないので脅し文句になりうる。

「研究ですか。私がスポンサーになってもいいですよ。お小遣いはあまり使わないので、沢山ありますの」

 このお屋敷にはカードがいっぱいあるから構築済みデッキやパックを買う必要もない。よってお金はあまり使わない。

「取り敢えずどれだけのお金が必要でしょうか」

 ウィドー・マリッジと諸々の相談を行い、研究室まで送らせた。

  

 王子はばつの悪そうな顔をした。

「もしかして私に何か言っていないことでもあるのでございますか?」

「ええ。マイノネお兄様が解放されました」

「うげ。そうなんですのね」

 一瞬驚きましたよ。

 

 王家の三男マイノネ第三王子。冤罪によって謹慎されていたのだが、ルートによっては主人公に開放される。しかしハーレムルートにならないと主人公と一緒に邪神に殺されてしまうという特徴もあるため、お前だけ作風違うとよく言われてる隠しキャラですね。その上デッキも陰湿だから少しトラウマ気味。

 

 けど主人公が命懸けで頑張らないと解放されないはずなんだけど。バタフライエフェクト(私の行動で本編が狂ってしまったの)かもしれませんね。非常にまずいですよ。

「冤罪であることが証明されたんですね。よかったよかった」

「いえ。冤罪ではなくて。保護観察処分です。解放の手続きで忙しかったのです」

「お疲れ様でした」

 いろいろ大変なんですねぇ。子供に諸々の手続きやらせるとか人手不足かなにか。

 

 トゥスル王子は目をそらす。

「ここからが非常に言いにくいのですが、貴女との決闘によりカード使いの盗賊の知名度が上がり、各地の盗賊が影響された為戦力が少しでも欲しくなったのです。マイノネお兄様みたいに強い人を遊ばせるのも勿体無いですし」

「わあ」

 ガッツリ私のせいじゃないですか。早くなんとかしないと本編がめちゃめちゃになりそうですね。

 

 早く怪我治して手っ取り早くリベンジしなければ。

「早く行かなければ、勝ち逃げされてしまいますね。あ、そうだ。よろしければこれどうぞ」

 王子からカードを渡された。

「鬼武者ですか。ありがとうございます」

 鬼武者はサムライズのカードの中で最も火力が高い。そのため非常にありがたい。

 

 鬼武者をデッキに入れた。

「これでリベンジいたします。いやぁ火力不足でちょうど困っていたんですよね。マスターニンジャ素引きに賭けるのは些か安定しないので」

「これでリベンジしてください。応援していますからね」

 トゥスル王子は去った。お見舞いのついでに休憩していたのでしょうね。

 

 メイドはメガネを押し上げる。

「これからは慎重に行動してくださいね。何しろお嬢様の行動一つで何もかも変わってしまうこともあるのですから」

「はい」

 今回王子に迷惑がかかったのは全体的に私のせいだ。自重しつつやりたい放題しよう。



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5 前哨戦

 急いで怪我を治してから盗賊のところに向かった。が、しかし衛兵さんに防がれる。

「通してくださいよ」

「この先に凶悪犯がいるので通せません。どうしてもというならこれですよ」

 衛兵さんはデッキを構える。

 

 衛兵さんをカードファイトで倒して向かう。

「凶悪犯と言うことは、ほぼ確実にマイノネさんがいますね。盗賊が倒されていないと良いのですが…」

「これで最後だ」

 黒い長髪で薄汚い服を着た瘦せた男、マイノネ王子が歩きながらフリントロック式の拳銃を盗賊の頭に近づけている。マズい。このままじゃ射殺されてしまいます。

 

 勢いよくタックルしてマイノネ王子に尻餅をつかせる。ちょっといたい。

「そこのお前。なんで庇ったりなんかしたんだ」

「そんなのどうでもいいじゃないですか。ライフは0に出来たんですから。問題はもっと別のところにあるんですよね」

「どこにもないだろ」

「攻撃宣言が成功した時点でライフは削れるのにどうしてわざわざ当てようとしたんですか。貴方の攻撃でライフが0になれば命に関わるってご存知のはずですよね?」

 マイノネ王子は相手のライフを0にすると、肉体的ダメージをリアルにするという特異体質を持っている。例えば魔法の雷で相手のライフを0にしたら、相手は雷に打たれたのと同じくらい肉体にダメージを負う。

 

 それを知らないわけではないのに明確に頭を狙っていたのだ。

「こいつやトゥスルの婚約者みたいに、自分の欲望を優先して人に迷惑かける人間のクズはいない方がいい。お前はもう帰れ」

「義兄様こんにちは。今、私ことソウコ・メッセルがこの場にいるのは自分の欲望を優先させて人に迷惑をかけた責任を取るためです。自分のしたことの責任くらい自分で取らせてほしいんですよ」

「だったらせめて俺ぐらいは倒せなきゃな。力がねえやつに責任能力は無いからよ」

 今回のことも私の欲望を優先した結果なので何も言えませんね。

 

 しかし面と向かって人間のクズ呼ばわりされるのは少し悲しいです。

「……私のユナイツカードはサムライズです」

「デッキ調整してから、トピア・クア」

 主人公の専用ユナイツカードと邪神関連のユナイツカードを除けば一通り出ましたね。トピア・クアは魚と海竜とマーフォークを使用するデッキですね。手札の補充に長けたユナイツカードですわね。

 

 私の先攻ですね。

「ドロー。チャージ。ターンエンド」

 マイノネ王子の1ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト1で神秘なるアクアリア発動。効果で神秘なるマリンスノー発動。ターンエンド」

 雪が降る。

 

 1 魔法 神秘なるアクアリア 属性:マーフォーク

   効果:デッキから神秘なるマリンスノーを設置して発動する。手札を全てデッキに戻す。

   説明:人魚の歌は海の恵みをもたらす

 

 1 魔法 神秘なるマリンスノー 属性:魚

   効果:設置。ターン開始時にドローするかわりに、全てのプレイヤーか1枚ドローする。

   説明:海の恵みは平等である

 

 私の2ターン目ですわ。

「ドロー」

「手札の神秘なるイワシの効果発動」

 テンポの悪いデッキですわね。

 

 4 モンスター 神秘なるイワシ 属性:魚

   効果:サモンコンディション(以下の条件のときこのカードのコストを支払ったものとして召喚出来る)

     :手札0枚の時にこのカードをドローする。

      出現:デッキの上から5枚を見て、2枚をコストゾーンに送る。その後好きな順番でデッキの一番上に戻す。

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

 神秘テーマはこういうところがあるんですよね。

「チャージ。獣遁 ワンジャを召喚してターンエンドします」

 マイノネ王子の2ターン目ですね。

「ドロー。手札の神秘のアンコウの効果発動。神秘なるイワシと神秘のアンコウをデッキの上に戻し、ターンエンド」

 

 2 モンスター 神秘のアンコウ 属性:魚

   効果:サモンコンディション:手札0枚の時にこのカードをドローする。

      出現:このカードと自分のモンスター1枚を好きな順番でデッキに戻す。

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

 私の3ターン目ですね。

「ドロー」

「神秘なるイワシの効果発動」

「チャージ。コスト3で能面の舞姫を召喚して、プレイヤーに攻撃。ターンエンドです」

 マイノネ:ライフ10→8

 

 マイノネ王子の3ターン目です。

「ドロー。龍神秘宝剣の効果発動」 

 魚の鱗で出来た大剣が現れる。

 

 4 武装 龍神秘宝剣 属性:魚

   効果:スペルコンディション(以下の条件のときこのカードのコストを支払ったものとして使用出来る)

     :手札0枚の時にこのカードをドローする。

      このカードが場に存在する限り、魔法カードは場を離れない。

   攻撃力:0 防御力:3

 

 神秘の弱点はマリンスノーがなくなれば瓦解すること。魔法に耐性を付与してその弱点を補える。

「ターンエンド」

 何かありますね。

 

 私の4ターン目です。

「ドロー」

「神秘のアンコウの効果発動。イワシと自分を戻す」

「チャージ。コスト2で忍法訓練所発動。ターンエンドですわ」

 神秘武装が厄介ですわね。

 

 マイノネ王子の4ターン目です。

「ドロー。手札の神秘なるイワシの効果発動。ターンエンド」

 私の5ターン目ですね。

「ドロー」

「神秘のアンコウの効果でイワシと自身を手札に戻す」

「チャージ。コスト4で忍法 サオトサキの術発動。忍法訓練所の効果でサオトサキの術を手札に加えて、コスト1でクノイチを召喚ですの。ターンエンドですわ」

 よし。鬼武者が来ましたわ。

 

 マイノネ王子の5ターン目です。

「ドロー。コスト6で魚竜群を召喚。魚竜群の効果発動。ドローする」

 大量の魚が現れて竜の鱗のように重なり、巨大なドラゴンを形作る。

 

 6 モンスター 魚竜群 属性:海竜、魚

   効果:下記の効果はそれぞれ1ターンに1度使用できる。

      ・デッキの上から5枚を見て好きな順番にして1枚ドローする。

      ・コストを払って属性:魚のモンスターを召喚した場合相手は手札を1枚捨てなければならない。

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:6

 

 マイノネ王子のエースモンスターですね。サモンコンディションと相性良すぎるんですよ。

「神秘なるイワシの効果発動。魚竜群の効果発動。ターンエンド」

 これにより1ターンに2枚ハンデスされる。

 

 私の6ターン目。例によってアンコウが出てきて手札を削られる。

「チャージ。墓地のサオトサキの術を加えてそのまま発動。ターンエンドです」

 手札の消費に対して供給が間に合わない。じわじわ苦しめられていく。

 

 マイノネ王子の6ターン目ですわね。

「ドロー。コスト7で海竜の御使い召喚」

 ドラゴンの意匠のある服を着た筋肉質で褐色肌の男が現れた。

 

 7 モンスター 海竜の御使い 属性:海竜

   効果:手札が捨てられた場合、手札を捨てたプレイヤーに1ダメージを与える。      

   攻撃力:0 防御力:4 ライフ:3

 

「ターンエンド」

 これがハンデス(手札を捨てさせる)バーンである。これが決まれば強い凶悪コンボなのです。前哨戦にしてはハードすぎますね。

 

 私の7ターン目。

「ドロー」

「神秘なるイルカの効果発動」

 

 6 モンスター 神秘なるイルカ 属性:魚

   効果:サモンコンディション:手札0枚の時にこのカードをドローする。

      出現:このカードをデッキの一番上に戻し、デッキの上から6枚を見て好きな順番に戻す。

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

「魚竜群の効果と御使いの効果発動」

 ソウコ:ライフ10→9

「サオトサキを捨ててチャージ。墓地のサオトサキを回収してそのまま発動します。このことを見越して入れておいたメタカードが来ましたね。コスト2で座敷わらし発動」

 

 2 魔法 座敷わらし 属性:アヤカシ

   効果:コイントスを1回行う。表が出たらデッキから3枚選んで手札に加える。

      裏が出たら相手はデッキから3枚選んで手札に加える。

   説明:来れば幸せになるが、去れば不幸になる。それは幸と不幸の権化

 

 結局最後は運。

「運に頼るのか」

「運に頼ってなにが悪いんですか」

 コイントスをする。

 

 コインは裏向きだ。

 

 よしっ。

「よしよしよし。今日の私はラッキー・ガールですね」

「外したくせに…サモンコンディション発動! 出来ない まさか」

 私は座敷わらし以外の相手にドローさせるカードも持っていない。決まって良かったですね。

「神秘には致命的な弱点があります。それは常に手札を0枚の状態にしなければならないこと。そしてトピア・クアがそもそも手札を減らしにくいということですわ」

 手札を捨てるカードはあるものけど捨てた分ドローしたりするので、単純に神秘とトピア・クアの相性は悪いんですよね。

 

 しかしこの状況もドローゴー(コストを溜めてターンを終える)で壊滅するんですよね。それに魚竜群のハンデス効果も相変わらず働いていますし。

「ターンエンドです」

 座敷わらしが忍法なら無限に使えたのですが。

 

 マイノネ王子の7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト6で神秘のイルカ召喚。魚竜群の効果と御使いの効果発動。ターンエンド」

 ソウコ:ライフ9→8

 

 私の8ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。墓地のサオトサキの術を回収してコスト4で発動。そしてコストを1減らしてコスト5で鬼武者召喚です」

「鬼武者だと」

 鬼の仮面で顔の上半分を隠し、赤褐色の甲冑を着ている男が現れた。

 

 鬼武者は居合斬りをする。魚竜群は切り裂かれ、海竜の御使いはあと一歩のところまで追い詰められる。

「ターンエンド」

「結構雑に攻撃してきたな」

 雑こそ強さですよ。

 

 マイノネ王子の8ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト6で魚竜群召喚。コスト4で神秘なるイワシ召喚。ターンエンド」

「コストを払って召喚だから普通にハンデスされるんですよね。普通に面倒くさいですよ」

 ソウコ:ライフ8→7

 

 マイノネ王子はアンコウを召喚してターンを終えましたので、私の9ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。墓地からサオトサキを回収して、コスト4でサオトサキを発動します。コスト4でマスターニンジャを召喚して、分身の術をデッキから手札に加えます。鬼武者で魚竜群と御使いとイワシとプレイヤーに攻撃」

「俺のモンスターは攻撃済みではない。攻撃されるはずはない」

 鬼武者は刀を抜いて納刀した。するとマイノネ王子の場のモンスターが全滅する。

 

 6 モンスター 鬼武者 属性:アヤカシ、サムライ

   効果:オールアタック(このカードは攻撃済み状態ではない相手モンスターにも攻撃できる)

      蹂躙、アーマードレイン(相手モンスターの生命力を0にした場合、このモンスターの防御力を1上げる)      

   攻撃力:6 防御力:0 ライフ:6

 

 マイノネ:ライフ8→5

「コスト2で分身の術。マスターニンジャ分身。マスターニンジャでプレイヤーに2回攻撃」

 マスターニンジャがマイノネ王子を切り裂こうとした。

 

 しかしその攻撃が届くことはなかった。

「アクションストライク」

「神秘は手札を使わない。入れてるはずがないのに…」

「ウニードル。マスターニンジャを破壊する。手札を強引に減らすために入れたのだ。アクアリアが来ないかもしれないからな」

 バランスボール程の大きさのウニの棘が2体のマスターニンジャを貫いた。

 

 2 魔法 ウニードル 属性:魚

   効果:アクションストライク。防御力2以下のモンスターを破壊する。

   

「ターンエンド。やられましたか。しかし最初から使っておけば盤面を維持できたのでは?」

「トドメの状況を邪魔された方が絶望するだろ」

 舐められてますね。

 

 マイノネ王子の9ターン目だ。

「ドロー。サモンコンディション発動。神秘なるサンゴ礁」

 本能の奥底から揺さぶられるように美しいサンゴ礁が現れた。

 

 6 モンスター 神秘なるサンゴ礁 属性:魚

   効果:サモンコンディション:手札0枚の時にこのカードをドローする。

      出現:自分の墓地と場のモンスターを全てデッキに好きな順番で戻す。そのあと2枚ドローする

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:6

 

 1体のモンスターが現れた。

「コスト6で魚竜群を召喚。コスト4で神秘なるイワシを召喚。魚竜群の効果でドロー。神秘なるホタルイカの効果発動。鬼武者と自身をデッキの一番上に戻してターンエンド」

 

 6 モンスター 神秘なるホタルイカ 属性:魚

   効果:サモンコンディション:手札0枚の時にこのカードをドローする。

      出現:相手の場のコスト6以下のモンスター一体とこのカードをデッキに好きな順で戻す。

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:6

 

 私の10ターン目だ。

「ドロー」

「神秘なるホタルイカの効果発動。マスターニンジャと自身を戻す。魚竜群の効果発動」

「サオトサキを回収してからコスト4払って発動。2枚ドロー。そしてコスト4でマスターニンジャを召喚。効果で土遁忍法 土利留の術を手札に加える。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃してトドメです」

 マイノネ:ライフ5→0

 

 モンスターと魔法が消え去る。

「危なかったですね。あのプレイミスさえなければやられていました」

 かなりギリギリでしたね。



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6 前哨戦

 カードを仕込んでデッキを良くシャッフルする。

「盗賊さん。貴女を倒したいと思います。準備はよろしいでしょうか?」

「やだよ。だって今のお前頭おかしいし滅茶苦茶怖いもん」

「そんな変な理由で勝ち逃げするなんて、天が許しても私が許しません!」

「お前が悪い事ばかりやって来たから、あんな変なのに執着されるんだぞ。更生しろよ」

 変なのって。そんないい方しなくてもいいじゃないですか。

 

 マイノネ王子はニヤける。

「勝ったら見逃してやると言ったらどうする?」

「そんなこと許可していいんですかね」

「まあなんとかするよ。俺ってば王族だからさ」

「良いじゃないの。やってやろうじゃないの。チャンスなんだ縋るしかない」

 盗賊はデッキを構えた。見逃すなんて一言も言ってないのにやるしかないというのは、悲哀を感じますね。

 

 盗賊の先攻ではあるものの、互いにコスト軽減モンスターを出す以外は何もしませんでした。

「ドロー。チャージ。コストを1軽減してコスト3でグラモグラ召喚」

 頭に草を生やした大型犬サイズのモグラが現れた。

 

 4 モンスター グラモグラ 属性:ビースト

   効果:出現:デッキの上から二枚を見て1枚を手札に加えて

         1枚をコストゾーンに送る

   攻撃力:3 防御力:1 ライフ:2

 

「グラモグラでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 ソウコ:ライフ10→7

 

 私の3ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト3で能面の舞姫を召喚します。そしてコスト1でクノイチを召喚します。能面の舞姫とクノイチでプレイヤーに攻撃して、ターンエンドします」

 盗賊:ライフ10→8

 

 盗賊の4ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト4でタイラントドレイク召喚。タイラントドレイクで獣遁 ワンジャを攻撃して破壊」

「アクションストライク。識痛の呪術を発動します」

「ターンエンド」

 ワンジャは倒れましたが、まあまあ堅実な立ち上がりですね。

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で忍法 回天の術を発動してターンエンドです」

 タイラントドレイクはプレイヤーを攻撃しません。余裕を持って準備を整えるチャンスですね。

 

 盗賊の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で働きアリの巣を発動してターンエンドだよ」

 面倒なコンボになりましたね。前回と同じことになりそうですね。

 

 私の5ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト1でクノイチを召喚します。コスト3で妖刀 ムラマサを武装します。ムラマサでグラモグラに攻撃して破壊します。ムラマサ効果で1枚ドローしてターンエンドです」

 マスターニンジャを引けました。これでなんとかなりますよ。

 

 盗賊の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2で魔獣召喚。コスト5で大紫婦人召喚。タイラントドレイクでワンジャを破壊してターンエンド」

 大紫婦人……厄介なモンスターですよね。

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でマスターニンジャを召喚します。土遁忍法 生き埋めの術をサーチします。マスターニンジャで大紫婦人に攻撃します」

「当然反撃で破壊させてもらう」

 マスターニンジャは爆発する。クノイチは巨大な泥人形となった。

 

 泥人形は大きくなって大紫婦人を包み、地面に沈んだ。

「破壊されると思いましたの。ですので土遁忍法 生き埋めの術を発動しました」

 

 4 魔法 土遁忍法 生き埋めの術 属性:ニンジャ

   効果:スペルコンディション:自分の場の属性:ニンジャのモンスターが破壊される。

      自分の場のモンスターを一体コストゾーンに送る。

      その後コストゾーンに送ったモンスターの攻撃力以下の相手モンスターをコストゾーンに送る。

 

「妖刀 ムラマサでタイラントドレイクを攻撃してターンエンドです」

「チィッ。大紫婦人も一枚しかないってのに」

「私もクノイチを失うのはキツイですからお互い様ですよ。ターンエンドです」

 まあコストゾーンのカードを墓地に送れるカードも入れてあるから、それさえ引けば回天で出せるんですけどね。

 

 盗賊の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしコスト7でドラゴンキングを召喚。1枚ドロー。ドラゴンキングで相手に攻撃。ターンエンド」

 ソウコ:ライフ7→1

 

 相変わらず熱いですね。しかし慣れればどうということはありません。

「これ以上攻撃を食らったら衝撃で今より酷いことになりそうだなぁ」

「危ない。ギリギリですわね。ここで取り乱せば、また負けそうですわね」

 盗賊の舌打ちが聞こえますわ。

 

 私の7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚します。効果で分身の術をサーチします。コスト2で分身の術発動。マスターニンジャに使用します。マスターニンジャーでドラゴンキングに2回攻撃して破壊します。妖刀 ムラマサで魔獣に攻撃して破壊。1枚ドロー。ターンエンドですわ」

 盗賊はあっけにとられたような顔をする。

 

 今のプレイングにおかしな所があったのでしょうか。

「なんで私に攻撃しなかったんだ。攻撃すれば勝ちだっただろうに」

「そうですね。そうですわね」

「…たしかにプレイヤーを直接倒したほうが良かったですね。忠告痛み入ります」

 深刻なプレイミスですわ。次からはプレイミスしないように気をつけましょうね。

 

 盗賊の8ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。タイラントドレイクでマスターニンジャに攻撃して破壊する。グラモグラでプレイヤーに攻撃。これでトドメだよ」

「アクションストライク。忍法 空蝉の術を発動します」

 グラモグラは私の着ていた服を切り裂く。

 

 しかしこの後おそらくバーンが来るんですよね。プレイミスが響きましたか。

「ターンエンド」

「あれれ。シルフの風は来ないんですか? 覚悟してましたのに」

「エルフアーチャーがいないんだよ」 

 危ない。今日の私はラッキー・ガールですね。

 

 私の8ターン目ですよ。

「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚。忍法訓練所をサーチします。コスト4でサオトサキの術発動します。よし何とかなりましたね。妖刀 ムラマサでタイラントドレイクに攻撃して破壊します。そしてマスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「させるか。アクションストライク。シールドラゴン」

 体の鱗がカイトソールドのようになっているドラゴンが現れた。

 

 4 モンスター シールドラゴン 属性:ドラゴン

   効果:アクションストライク。このモンスターは場に出た時攻撃済み状態になる。

      誘導

   攻撃力:0 防御力:4 ライフ:1

 

「1枚ドロー」

「マスターニンジャでシールドラゴンに攻撃して破壊します。ターンエンド」

 む。今のでモンスターを引かれた場合わりときついですね。

 

 盗賊の9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で妖精の囁き発動」

 

 4 魔法 妖精の囁き 属性:フェアリー

   効果:2枚ドローする

 

 この戦いのすべてがこのドローで決まる。モンスターを2枚引かれたら私の負けです。

「コスト5でタイムフェアリーを召喚。1枚ドロー」

「タイムフェアリーですか。普段なら怖いですが、この状況であれば癒しですね」

 2mの時計の上に時針と分針を持った妖精が現れた。

 

 5 モンスター タイムフェアリー 属性:フェアリー

   効果:1ターンにつき2回使用できる。

      自分の場のモンスター一体を攻撃済み状態にして発動する。このモンスターはこのターン中もう一度攻撃できる。

   説明:時間を奪って弄る妖精

   攻撃力:3 防御力:2 ライフ:5

 

 しかしタイムフェアリーを入れているなんて意外ですね。タイラントドレイクと相性の悪いですのに。

「強がるんじゃないよ。タイムフェアリーでプレイヤーに攻撃」

 タイムフェアリーは分針を投げつける。

「アクションストライク。藁人形の呪術を発動します」

 大きな藁人形に分針が刺さった。

 

 4 魔法 藁人形の呪術 属性:アヤカシ

   効果:アクションストライク。ダメージを0にする。その後自分のターン終了時に

      減らした分のダメージを受ける。

 

 ギリギリセーフでしたね。

「油汚れのようにしぶといじゃねえか。そういうの嫌いなんだよ」

「それはお互い様ですよ」

 案外ずるずると長く続きますね。こういうのもスリリングで楽しいですね。一歩間違えれば死ぬスリルがたまりませんよ。

 

 私の9ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト2で忍法訓練所発動。忍法訓練所の効果で墓地の分身の術を回収します。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃します」

「アクションストライク。フロストシールド」

 巨大な雪の結晶に攻撃を阻まれる。

 

 2 魔法 フロストシールド 属性:フェアリー

   効果:自分の場に属性:フェアリーのモンスターかいるならこのカードはアクションストライクを得る。

      モンスターの攻撃を無効化する。

 

 盗賊は笑いました。

「これ以上は無駄だよ。攻撃するのは止めな。私は手札にアクションストライクを持っているからね。足掻くのをやめてターンを終了しろ」  

「へっ。本当にアクションストライクを持っているなら、攻撃する気を無くすようなことは言わないんですよ。妖刀 ムラマサでプレイヤーに攻撃致します」

 盗賊:ライフ8→5

「コスト2で忍法 分身の術を発動します。マスターニンジャに使いますよ」

 マスターニンジャが二人に増える。

 

 マスターニンジャが盗賊を斬り伏せると、モンスターが消えました。

「危なかったですわ。少々不謹慎ですが、こういうのもたまには楽しいですわね。決闘ありがとうございました」

 私は盗賊に握手をしようとする。

 

 盗賊は手をはねのけた。

「勝ったから楽しいんだろう。いたずらに人をいじって楽しいかよ。こうなったのも何もかもお前のせいだ。細々とやっていたのに、お前のせいで有名になって矢面に立つことになったんだ」

「非の打ち所がない正論ですね。ただしあなた達が他人様から奪ったお金でカードパックを購入している人間ではなかったら……の話なんですけど」

 カードは貴族の特権という風潮がありますが、実はお金さえあれば誰にも使えるのです。

 

 全国各地の盗賊がカードを使う知恵を得たのも、私がカードを使う盗賊に負けたという情報が広がり、カードは貴族の特権と言う風潮を吹き飛ばしてしまったせいでもあります。

「今回のことで私は様々な人に迷惑をかけました。勿論あなたも私によって迷惑をこうむった人の一人です。今回してしまったことの反省はします。ですがあなた個人に対して謝罪する気はありません。あなたは弱いものいじめをする犯罪者ですからね」

 そもそも盗賊さんに他人のお金を奪ってカードを買うという発想がなければ、こんなことにもなっていませんでしたからね。

 

 マイノネ王子は服の上半身を破いて私に着せた。ありがとうございます。

「やるだけやってこの言い草か。最低だな。こんなマナー悪いの親戚にしたくねえよ」

「大丈夫ですよ。私みたいなのは第四王子と結婚できませんから」

 あれれ。本編よりもマイノネ王子の性格が悪い。記憶に齟齬がありますね。これが8年経過したせいで知識があやふやな者の弱みですか。

 

 だいたい知っているというのは爆アド(ものすごいアドバンテージ)なんですけどね。

「それに遅まきながら訂正しますが、勝ったから楽しいのではなくて、良い決闘が出来たから楽しかったのです。強者と全てをぶつけあって勝ちたいという欲もないこともないですが、基本的には全力でぶつかった決闘は勝敗に関係なく尊いのです」

「勝ち逃げすんなって言ってたやつの態度じゃない。人格いくつあるんだ」

 一度目はロックバーンと知っていたにも関わらず、防御力が高い反撃持ちのモンスターの存在を考慮していませんでしたね。

 

 ロック戦法をする以上防御力の高いモンスターは入れていていないとおかしいのに、対策していませんでしたし。あの戦いで貫通持ちに頼り切ってはいけないと学習しましたよ。

「何言ってんだお前。あれは完全に運だろ」

「まあ多少運は存在しました。しかし前回とは違いメタカードも入れましたし、効果を上手い事利用できていました。私も一度目は敗れ去りましたが、二度目から相手の効果や攻撃をうまいこと使うように意識しましたし」

 マイノネ王子との戦いでも、武装カードの効果を逆手に取っていましたしね。

 

 盗賊は番兵さんとマイノネ王子によって連れて行かれました。リベンジ出来て良かったです。

 

 無事に帰りました。

「また怪我したのですか」

「今回は軽い火傷でしたのでセーフです」

「ご主人様が帰ってくるまでに治しておいてくださいね。お嬢様の独断行動のせいで私達がなにかグチグチと言われるのは嫌ですから」

「分かりました。なるべく自重します」

 余計なことすんなという圧力を感じましたね。



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7 主人公が出た

 私はベッドの上で持っている情報をすり合わせました。

「よくよく考えますと、一番カードが強いのは主人公ですね。効率を重視する主人公(RTA勢プレイヤー)は大抵邪神を倒しますからね」

 邪神は5人存在しますが、そのどれもが倒すと攻略対象全員の好感度が上がる効果を持ちます。

 

 好感度を上げるための裏技としてプレイヤーにネタにされていますが、本編での扱いは邪神は恐ろしく強い決闘者なんですよね。

「ですが「プライムディスティニー」は主人公のキャラクタークリエイト要素があります。つまり見た目に頼ることが出来ないのですよね」

 デッキこそ主人公専用のユナイツカードで戦うので、分かりやすいんですけどね。

 

 邪神の方々にコネを作りたいですわね。

「良からぬことを企んでいますよね」

「聞いていました?」

 この世界の人間にこの話を聞かれるのは非常にまずいんですよね。

 

 史上最大のピンチです。

「プラだのクリエだのあまり話が見えてきませんが、まあお嬢様の表情が悪だくみしていそうな感じでしたので、悪巧みをしているのかと。しかしお嬢様をお屋敷から出すわけにはいきません」

 メイドさんはデッキを構えました。

 

 メイドさんの先攻となり、互いに軽減モンスターを出しつつ、メイドさんの3ターン目ですわ。

「コスト3でバナナックルを武装します」

 メイドさんはバナナのような意匠のあるナックルを付けました。

 

 3 武装 バナナックル 属性:ビースト

   効果:「バナナ」、「ゴリラウンド」カードの効果が発動するたびに、次の相手のターンが終了するまでこのカードの攻撃力を1上げる。  

   攻撃力:1 防御力:0

 

 ゴリラウンド……プライムディスティニー屈指の脳筋(ビートダウン)テーマでありながらプレイヤーだけに攻撃を任せるという変わったテーマですね。バナナックルは攻防備えた最強のカードなのできつめですよ。

「バナナックルですか」

「お嬢様に攻撃してターンエンドです」

 ソウコ:10→9

 

 私の3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で能面の舞姫を召喚します。そして召喚した能面の舞姫でプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

 メイド:ライフ10→8

 

 メイドさんの4ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト4で賢者のバナナの木を発動します。賢者のバナナの木の効果で2枚ドローします」

 バナナの木が現れました。

 

 4 魔法 賢者のバナナの木 属性:ビースト

   効果:設置。「バナナ」か「ゴリラウンド」カードがない場合このカードを破壊する。1ターンに1度だけ発動できる。このカード以外に自分の場に「バナナ」か「ゴリラウンド」カードがあるなら2枚ドローできる。

 

 バナナの木から落ちた一本のバナナがカードの形になりました。

「私でお嬢様に攻撃しまして、ターンエンドです」

 ソウコ:ライフ9→7

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト1でクノイチを召喚して1枚ドローします。3でイジャロコロガシを召喚して、効果を発動いたします。よし。手札から泥田坊(マッド・ネス)を捨てて我流転生を発動します」

「そのコンボ面倒ですよね」

「泥田坊でプレイヤーに攻撃いたします」

「手札のバナナカウンターのアクションストライク効果を発動します」

 

 4 魔法 バナナカウンター 属性:ビースト

   効果:設置。アクションストライク。1ターンに1度だけ発動できる。プレイヤーがモンスターに攻撃されたら、このターン中プレイヤーの防御力を攻撃力分上昇させて反撃を与える。

   説明:バナナカウンターとはバナナのような軌道のカウンターを何発も放つ極意である

 

 バナナックルが硬く重くなる。泥田坊(マッド・ネス)は反撃で大幅に揺さぶられました。

「……ターンエンドです」

 メイド:ライフ8→7

 

 メイドさんの5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3でゴリラウンド レスラースカウトを召喚します」

 黒縁メガネをかけたチンパンジーが現れました。

 

 4 モンスター ゴリラウンド レスラースカウト 属性:ビースト

   効果:1ターンに1度だけ以下の効果を一つ選んで発動できる。  

      ・デッキからバナナックルを武装する

      ・ターン終了時までプレイヤーの攻撃力を1上げる

   説明:今日から君も森の格闘家 ゴリラウンドだ!!

   攻撃力:0 防御力:4 ライフ4

 

 レスラースカウトとバナナの木の効果でバナナックルの攻撃力が4になりました。

「私でプレイヤーに攻撃いたします」

 轟雷よりも鋭く重い打撃がぶち当たる。

「少々きついですわね」

「お嬢様は存じ上げないかもしれませんが、世間はこれより痛く怖いのです。ターンエンドです。泥田坊(マッド・ネス)は効果で自壊します」

 ソウコ:ライフ7→3

 

 私の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト1でクノイチを召喚いたします。コスト2で座敷童を発動します。ちぇりおおお」

 空中でコインが舞う。

 

 表が出ましたね。

「忍法誘惑の術と、識痛の呪術と、マスターニンジャをサーチします。これでターンエンドです」

 これで良しです。

 

 メイドさんの6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。賢者のバナナの木の効果を発動いたしまして、コスト5でゴリラウンド コーチを召喚いたします」

 インコが現れましたわ。

 

 6 モンスター ゴリラウンド コーチ 属性:ビースト

   効果:1ターンに1度だけ以下の効果を一つ選んで発動できる。  

      ・ターン終了時までプレイヤーの攻撃中に、プレイヤーの攻撃力以下のモンスターの効果を発動出来ない

      ・ターン終了時までプレイヤーの防御力を1上げる

   説明:ゴリラウンドとして強くなれ

   攻撃力:0 防御力:6 ライフ4

 

 ゴリラウンドで攻撃力を上げてバナナで防御力を上げる。ワンパターンも突き詰めれば恐ろしく強いということを体現しているのがゴリラウンドです。

「コーチの効果でモンスターの効果を封じ、スカウトの効果で攻撃力を1上げます。私でお嬢様に攻撃いたします。これで終わりです」

「アクションストライクを2枚発動しますわ。忍法誘惑の術と識痛の呪術を発動いたします」

 メイドさんの攻撃の軌道がクノイチに逸れて戦闘破壊しました。

「ターンエンドです」

 危なかったですわ。

 

 私の6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法 サオトサキの術を発動いたしますわ……ターンエンドですわ」

「なぜマスターニンジャをサーチしていながら使わないのですか?」

「出しても勝てませんもの」

 雑に反撃追加するの実に厄介ですわね。面白いですわ。

 

 メイドさんの7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。賢者のバナナの木の効果を発動いたしまして、コスト6でゴリラウンド  クロオビマスターを召喚いたします」

 黒帯を巻いたゴリラが現れましたわ。

 

 7 モンスター ゴリラウンド クロオビマスター 属性:ビースト

   効果:1ターンに1度だけ以下の効果を一つ選んで発動できる。  

      ・墓地から「バナナ」カードを1枚手札に加える

      ・このターン中プレイヤーは貫通を得る

   説明:クロオビマスターの力は強い

   攻撃力:0 防御力:7 ライフ4

 

 クロオビマスターですか。魔法効果を封じるシルバーバックではなくてラッキーでしたね。

「予算の都合上シルバーバックがない以上多少不安ですがまあいいでしょう。もはやお嬢様は風前の灯火です」

「心を読まれましたわ。しかしシルバーバックがなければ安全ですわね」

「まあ入れていないというのは冗談ですが。お嬢様結構顔に分かりやすく出るので気を付けた方がいいですよ」

 うむむ。気を付けましょう。

 

 メイドさんは一息つきましたわ。

「さて、気を取り直しまして続き行きますよ。コーチの効果でモンスターの効果を封じ、スカウトの効果で攻撃力を1上げます。私でお嬢様に攻撃いたします。この決闘のことは旦那様にご内密にお願いしますね」

「何終わった感じの雰囲気出しているんですか。アクションストライク。忍法 空蝉の術を発動いたしますわ」

「ターンエンドです。サオトサキで引いてましたか」

 危なかったですね。

 

 私の7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト4でマスターニンジャを召喚いたしまして、効果で忍法訓練所をサーチいたします。そしてコスト2でハナビキャノンを発動いたします」

 クノイチが木製の大砲を持ってきました。

 

 2 魔法 ハナビキャノン 属性:サムライ

   効果:自分の場のモンスターを二体まで破壊する。その後破壊したモンスターのコスト合計未満のカードを破壊する。

 

 クノイチは大砲に自らとイジャロコロガシを詰めてから、バナナカウンターに砲口を向けました。

「イジャロコロガシとクノイチを砲弾にしてバナナカウンターを破壊しますわ」

 バナナカウンターが爆発しました。

「コスト2で忍法訓練所を発動して効果で空蝉の術を回収してターンエンドですの」

 これでなんとかなりましたね。

 

 メイドさんの8ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。賢者のバナナの木の効果を発動いたします」

 大量ドローしたときの音が重く響いて聞こえました。

「コストを1軽減し、3で実りの妖精を召喚致します。これがラストチャンスでございます」

 

 4 モンスター 実りの妖精 属性:フェアリー

   効果:出現:デッキの上から二枚ドローして、手札を1枚コストゾーンに送る。

   攻撃力:0 防御力:4 ライフ4

 

 メイドさんは手札を見つめました。

「……先ほどのターンと同じ事をいたしまして、私でプレイヤーに攻撃いたします」

「アクションストライク。空蝉の術ですわ」

「ターンエンドです」

 ラッキーでしたわ。タイムフェアリーやらシルバーバックやらが出ていたら負けていましたわ。

 

 私の8ターン目ですわ。これが私のファイナルターンになりますの。

「これで分身の術を引けなければ私の負けですわね。ドロー……よし。コスト4でイジャロコロガシ召喚しますわ。出現で2枚ドローし、2枚墓地に送ります。コスト2で分身の術をマスターニンジャに使い、マスターニンジャでプレイヤーに二回攻撃します」

 メイド:ライフ7→0

 

 モンスターが消えました。

「しかしハナビキャノンなんて入れていたんですね」

「除去カードは多い方がいいですからね」

 メイドさんの許可を得て、薄汚い服で外出しましたわ。

 

 街までやってきましたの。

「お忍びですわね。ん?」

 突然空が暗くなりましたわ。まだ昼のはずですのに。

 

 空を見上げると大きな目が私を見つめていましたわ。いや、ほんの少しずれていますわね。

「この目…もしかして」 

 見覚えがありますわ。

 

 目が見ている先に行くと、借金取りのカネトルスがいましたわ。

「あ、お嬢様。こ、これは違うんでゲス」

 カネトルスは私のお父様の部下の部下ですわ。本編ではソウコと一緒に主人公に嫌がらせをしていましたね。

 

 目から白鳥のような翼が左右に4枚ずつ生えて、目がスポットライトのようにカネトルスを照らしました。

「ハイロゥでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。マジックシールド」

 やっぱりハイロゥでしたね。ハイロゥはデカいのが特徴なんですよね。

 

 ハイロゥはレーザーを出して、カネトルスを焼きましたの。

「お嬢様の前でやらかすわけにはいかんゲス。やられるとしても抵抗しなければいかんのゲス」

 変装したのにもう見抜かれていますね。

「仕方ありませんわ。相手は特異なユナイツカードですもの。善戦です」

「お嬢様。嬉しいでゲス」

 カネトルス:ライフ2→0

 

 ハイロゥが消えましたね。ハイロゥはプレイヤーしか使えないカードです。もしかしてこの子が主人公なんですかね。

「貴女、カードの神様からカードを渡された存在ですか?」

「うん。昨日神様にもらったの。それでアンちゃんを傷つけたあのおじさんをぶっ倒したのだ~」

「ぶっ倒したのだ~じゃないですよ。カネトルスさんは借金取りと媚びを売ることにかけては真剣なんですよ。利子も良心的なのでマジで返さない方が悪いんです」

 ゲーム中でお世話になる時はほとんど無利子ですしね。

 

 カネトルスは部下に抱えられる。

「そうでゲス。そいつの友だちの親は借りた金も返さない鬼でゲス」

「でもアンちゃん困ってたし」

「名前を名乗りなさい!」 

「レイナだよ」

 私はデッキを構えました。

 

 この段階の主人公のデッキを知ること。これ大事ですよね。

「カネトルスさんを倒されたことで我々の名誉に傷がつきました。落とし前として対決してくださいまし」

「これで私が勝ったら借金をなかったことにするの?」

「さすがに借金をなくすことはできません。しかし勝てば稼げる仕事を紹介いたしますよ。負ければあなたをカネトルスさんの養子にするように掛け合ってみます」

 カネトルスさんの養子になれば子供との遊びで敗れたと取られるので、まあ面子は保たれますね。



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8 最上の運命への選択

 互いにユナイツカードを見せましたわ。

「サムライズですわ」

「ヘブンズ」

 ヘブンズ……カードの神に選ばれた存在のみが使用できるユナイツカードですわ。レジェンドとエンジェリオと2つのユナイツカードに入れることができる特殊な属性、ゴッズを持つユナイツカードですわね。

 

 私が軽減モンスターを出して2ターン目まで経過しましたわ。レイナの3ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト2でアイギスを武装。ターンエンド」

「アイギスですか。実質マジックシールドと祈りの妖精でしたっけ。各ユナイツカードに配って欲しいカードですわね」

 レイナは丸い小型の盾を武装しましたわ。

 

 2 武装 アイギス 属性:レジェンド

   効果:モンスターの召喚コストを1減らす  

   攻撃力:0 防御力:2

 

 私の3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で妖刀ムラマサを武装して、私でプレイヤーに攻撃いたします。ターンエンド」

 レイナ:ライフ10→9

 

 レイナの4ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3で聖殿を発動してから、コスト1で翼の使徒を召喚」

 ギリシャの神殿っぽい建物が現れましたわ。

 

 3 魔法 聖殿 属性:レジェンド

   効果:設置。1ターンに1度モンスターが召喚された時1枚ドローする

 

 2 モンスター 翼の使徒 属性:エンジェリオ

   効果:出現:1枚ドローする  

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 聖殿から白い翼を生やした青髪メカクレベリーショートで中性的な人が出てきて、手札を2枚授けました。

「ターンエンド」

 手札よさげですわね。

 

 私の4ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3で能面の舞姫を召喚します。私でプレイヤーに攻撃いたします。ターンエンド」

 攻めているのに嫌な予感がしますわね。例えるならダイナマイトが徐々に近づいてきているような感じですの。

 

 レイナ:ライフ9→8

 

 レイナの5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚。聖殿で1枚ドローしてから効果を発動してターンエンド」

 

 6 モンスター プロメテウス・プログラム 属性:ゴッズ

   効果:2枚ドローしてもよい。そうしたらこのカードをコストゾーンに送る  

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

   説明:魔術の祖 プロメテウスの最高傑作

 

 私の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5で忍法 回天の術を発動してターンエンドです」

「えー。テキスト読んだけどその魔法カード強くない?」

「このくらいやらなければ不安ということですの」

 今のところ順調ですわね。しかし相手は主人公なので油断ならないですの。

 

 レイナの6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト7でデッキの切り込み隊長、アバドンの使徒を召喚。1枚ドロー」

 2mの人型のサバクトビバッタが現れました。

 

 8 モンスター アバドンの使徒 属性:エンジェリオ

   効果:オールアタック。蹂躙。ターンブレイク(このモンスターは攻撃した次のターン攻撃出来ない)  

   攻撃力:6 防御力:2 ライフ:6

 

 災害と対峙したときのようなプレッシャーを感じますわね。

「アバドンの使徒ですか。随分と物騒なモンスターを使うんですのね。しかし先にアバドンを出したほうが強いですの」

「さっき使っても思ったようにいかなかったから抜いちゃった。アバドンの使徒で相手モンスター全部と相手プレイヤーに攻撃」

 アバドンはギチギチと歯を鳴らして、蝗の群れとなる。蝗の群れはすべてを喰らい尽くして、私に纏わりつく。

 

 アバドンは出すのに多少手間がかかるのでロマンの域を出ませんが、アバドンの使徒をほぼ無敵に出来るカード。大抵のロマンカードは事故の元になりうるので抜くのも一つの正解なんですよね。寂しいなぁ。

「うぐっ」

 ソウコ:ライフ10→4

 

 私の6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト6で鬼武者を召喚して、そのまま翼の使徒とアバドンの使徒に攻撃ですわ。……ターンエンドですわ」

 ここまでアクションストライクを使わないとなると、案外主人公補正が無かったりするんですかね。

 

 レイナの7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5でワルキューレの誘いを発動してターンエンド」

 

 5 魔法 ワルキューレの誘い 属性:レジェンド

   効果:相手は自らの場の攻撃力が一番高いモンスターを全て墓地に送らなければならない

 

「コレはきついですね。まさかこれを狙ってたんですか?」

「そ、そんなことないよー。今出せるの何もないもん」

 何かを狙っていると見せかけて何も無いと思わせているパターンですか。

 

 私の7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト2でワンジャを墓地から召喚しますわ。そしてコスト4でサオトサキの術を発動して2枚ドローですの。コスト2でハナビキャノン発動ですわ。ワンジャとアイギスを破壊しますの」

「うがっ。キツイ」

「鬼武者でアバドンとプレイヤーに攻撃してターンエンドですの」

 ふふふ。ここまで来れば最早勝ったも同然ですね。そういえば「プライムディスティニー」でも主人公補正効かないときは効きませんでしたね。

 

 レイナ:ライフ8→2

 

 レイナの8ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。うむむ。コスト5でカリスを発動してターンエンド」

 金色のカップが現れた。金色のカップから3枚のカードが溢れる。

 

 5 魔法 カリス 属性:レジェンド

   効果:3枚ドローする

 

 期待しすぎましたかね。主人公補正なんて、そもそも大抵の乙女ゲームにはあってないようなものじゃないですか。

「もう少し手ごたえがあるものかと。カネトルスさんに勝てたのもビギナーズラックかもしれませんね」

「お嬢様。油断してはならないでゲス。私は油断して負けたでゲス」

「断罪イベントでも死ななそうですね。カネトルスさんを倒したからと言って期待しすぎるのはよくなかったようですね」

 これで怒ってくれれば実力も上がろうもん。正直言って今のレイナは脅威になりませんからね。

 

 私の8ターン目ですわ。

「ドロー。コスト2でワンジャを召喚。コスト1でクノイチを召喚しますわ。そして更にコスト4でマスターニンジャを召喚しますの。分身の術をサーチして、マスターニンジャでプレイヤーに攻撃いたします」

「お嬢様。それはまずいでゲス!」

 カネトルスさんどうしたのですかね。

 

 空が暗くなる。

「あっ。しまった。やってしまいましたわ」

 ヘブンズにはこの状況を何とかできるカードが一つだけありましたわ。

「ハイロゥのリアクション発動」

 コストゾーンのカードがすべて回復しましたわ。

 

 ? モンスター ハイロゥ 属性:エンジェリオ  

   効果:このカードは自分のターンに場に出せない。リアクション。誘導。シフト

      相手のターンに召喚された場合このカードは攻撃済み状態になる  

      ストレンジ(このカードのコストはルール上以下のものとして扱う):

      相手のコストゾーンの使用済み状態のカードが7枚以上なら互いのコストゾーンのカードをすべて未使用状態にする

   攻撃力:6 防御力:0 ライフ:5

 

 回りくどい言い方をしているけど、要するに互いのコストゾーンのカードをすべて使えるようにしてから攻撃済み状態で出てくる壁なんですね。

「聖殿の効果で一枚ドロー」

「クノイチを召喚しなければ出ていませんでしたね」

 あっ。前のターンにムラマサでそのまま攻撃していれば勝っていましたね。

 

 ハイロゥがあるって知っていたのに色々と考慮しなかったりとか、行動に気を付けたりしなかったとか、いろいろダメダメな点はありますが、それを除いてもなお勝敗に関わるプレイミスを何度かしていますね。このタイミングで攻撃しなければ何とかなってましたし。

「顔こわいよ」

 主人公補正が効いていると思い込んで必要以上にビビり倒し、効いてないと思ったら相手を見くびり高を括ったりと反省ポイントが多すぎる。

 

 ……バカバカバカバカ。反省会は後で良いんですよ。今は決闘を楽しみましょう。

「……マスターニンジャでハイロゥに攻撃します」

 ハイロゥは貫通持ちのモンスターと相性が悪いんですよね。

 

 マスターニンジャがハイロゥを砕く。

「コスト4でプリンシパリティズのリアクション発動」

 王様のような冠と笏を持った姿をした中性的な人達が出てきました。

 

 4 モンスター プリンシパリティズ 属性:エンジェリオ

   効果:リアクション

      モンスターガード(下記の条件を持つモンスターが場を離れる代わりにこのモンスターを破壊し、代わりになったモンスターのライフを1回復する):属性:エンジェリオまたはレジェンドのモンスター

   攻撃力:1 防御力:1 ライフ:1

 

 マスターニンジャの攻撃によりハイロゥの体にヒビが入ったものの、プリンシパリティズが光の粒子となりヒビを塞いだ。

「むぅ。コスト4でサオトサキの術発動ですわ。……ターンエンドします」

 計算上おそらく大丈夫だと思われますが、油断なりませんからね。

 

 レイナの9ターン目ですわ。

「何やらレイナのデッキが光ってますわね」

「なにこれ…よくわからないけど、なにか大丈夫なはず」

 プライムディスティニーにはターン開始時にライフが5以下なら、決闘中一度だけターン開始時のドローでデッキから好きなカードをドローできるシステムがあるんですよね。設定的にはカードの神に選ばれた存在のみが公使できる最上の運命への選択(プライム・ディスティニー)という力ですの。

 

 既のところで、最上の運命への選択を使えるようになりましたか。ふふふ。こう言うのでいいんですよ。こう言うので。

「ドロー…ハイロゥでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。忍法 誘惑の術を発動します」

 普通ならただ退屈なんですよね。普通ならね。

 

 しかしまだ最上の運命への選択で引いたものがありますわね。それが逆転の切り札であることは間違いない。

「コスト8でセラフを召喚」

「そんな高コストカードを…しかし最適解ですね」

「朱き6枚の翼持つ蛇は聖なるかな…現れよ。セラフ! 1枚ドロー!」

 朱き6枚の翼を持ち、その内の2枚で頭を隠し、残りの2枚で羽ばたいている大蛇が現れた。

 

 ? モンスター セラフ 属性:エンジェリオン

   効果:コストが数字ではないモンスターが場にいるならルール上このカードは以下の効果を得る

     ・ストレンジ:8

     ・このモンスターの攻撃と効果と召喚は無効化されず、効果を受けない

   攻撃力:8 防御力:2 ライフ:10

 

 大蛇は火球を放つ。

「フレミングゴッドサーヴァント」

「最後の最後で逆転しに来ますか。やはり貴女は極上の決闘者だ。全力で叩き潰し合うことを至上とするのに、貴女に対して全力を出せていなかったことをお詫びします。らしくありませんでしたわね」

「変顔しながら負け惜しみ言っても遅いよ! これで終わりだあああ」

 運が良かったですわ。

「アクションストライク! 藁人形の呪術」

 これで大丈夫ですわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落雷が藁人形を焼く。

「これを聖殿で引いていた。スペルコンディション。百王の生誕」

 

 5 魔法 百王の生誕 属性:レジェンド

   効果:スペルコンディション:相手プレイヤーのライフと防御力の合計が自分のモンスターの攻撃力より低い

      カード1枚を選んでターン終了時まで効果を無効化する 

   説明:王が百代続く時、全てが終わる

 

 そうきましたかぁ。

「私の負けですわね」

「藁人形の呪術の効果を無効化するよ」

 

 ソウコ:ライフ4→0

 

 モンスターと聖殿が消える。

「あーっ。もうちょっとだったのに〜。あんなの聞いてないですよ〜」

「声が嬉しそうだね」

「結果はどうあれ面白い決闘でしたからね」

 最後の最後以外はちゃんと相手を見れていなかったせいで、ケチがつきましたね。しかしそれがなければ単調になっていたというジレンマ。

 

 これからもっと強くなるなんて…楽しいですね。

「カネトルスさんごめんなさい。私も債務者にあう一緒に探しますよ」

「無理でゲス。あの債務者は賭博中毒すぎて解雇された人でゲス」

「なんで貸したんですか」

「債務者が賭博中毒者であることを貸した後に知ったからでゲス」

 全面的に悪くないのに可哀想な人である。許してください。

 

 レイナは私を見る。

「なんか、私か悪いみたいな感じ?」

「レイナさんは借りたものを返さない人を守ってしまっただけです。全然悪くないですよ」

「言い方にトゲがある」

「まあそんなことよりもですね。謝罪したいと思うなら、あなたも一緒に探しましょうね。アンさんのためですものね」

 レイナの案内でアンさんの家に行く。

 

 アンさんの家にはみすぼらしい男の人がいた。

「なんだお前ら」

「逃げないように確保しますね。アンさんももう大丈夫ですよ」

「手荒すぎるでしょ」

「借金返済のために普通の人よりも稼げる仕事に就かせようとしてるんですよ。多少手荒でも仕方ないです」

 数日後、アンさんの父親の仕事がちゃんと見つかって借金が払えるようになったらしい。強引ですが丸く収まりましたね。



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9 誘拐

 王様にパーティーに招待されたので、行くことになりましたわ。

「社交界デビューってやつですね。デビューしたくないんですけど。ネガキャンが広まるのは嫌ですわ」

「安心してください。ネガキャンと言ってもだいたい事実なので、冤罪で評判は下がることはありませんよ」

「事実であろうと無かろうと評判に関わることを言いふらされるのが嫌なんですよ。評判が下がると決闘して貰えないかもしれませんから」

 どうやら私色々やらかしたせいで、貴族の間では悪い意味で有名人らしいんですよね。

 

 後々のことを考えずにやらかさなければよかった。前世ではもっと慎重派な人間だったんですけどねぇ。

「お。馬車が止まりましたね」

 何かトラブルでしょうか。

 

 扉から覆面をした二人組が入って来ました。

「俺たちは強盗だ」

「この馬車を誰の馬車と心得ますか」

「貴族様曰く王子の許嫁の地位を買ったわがまま女の馬車……らしいな。こういう真似は好かないが……恨むなよ」

 ご存じじゃないですか。

 

 そして私達はあっという間に拘束されました。

「第4王子の婚約者に手を出すのはマズイと思いますよ。王家の婚約者に手を出されるということはおうっ」

 口枷をつけられました。

 

 覆面はメモを取って伝書鳩に渡す。

「うるさい。くらえ催眠術」

「そっちのいい女も眠ってな」

 私達は覆面たちに眠らされた。

 

 sideトゥスル王子

 

 伝書鳩から手紙を受け取ったゴラム子爵の6男が青い顔をして駆け寄ってきた。

「いかがしましたか?」

「無礼を承知で失礼します。ですが王子に関する急ぎの知らせですので」

「ありがとうございます。知らせの内容は?」

「これをご覧ください」

 手紙を貰う。

 

 手紙にはソウコ嬢が誘拐されたと書いてあった。

「知らせてくれてありがとうございました」

「ご丁寧に場所まで書いてありますし、助けに行かないとですね」

「このくらいどうにかできなければ王になる資格はなしじゃ」

 お父様がいた。

 

 跪く。

「そんなことよりも早く助けに行くのじゃ。カード盗賊の二番煎じ程度どうにかできないようでは王族失格じゃからな」

「わかりました」

 指定の場所まで行った。

 

 指定の場所には椅子に縛られているソウコ嬢とメイドさんがいた。

「随分とあっさり行くなぁ」

「雑魚どもは俺に任せてもらって欲しいぜ!」

「お願いしますオレンジさん」

「今の俺はレンジだぜ!」

 この人二重人格らしいね。

 

 リーダー格らしき不審者がデッキを構える。

「お前は知らないようだが、ウィドー・マリッジの研究所にあるデッキがコピーされたらしい」

「今関係ないだろうがよ」

「これがウィドー・マリッジのデッキのコピーだ。お前も知っている通り、著名人のデッキを意図的かつ無断でコピーすることは大きなスキャンダルとなる。コイツの膝にコレを置いて評判を下げたりできるというわけだ」

 不審者はソウコ嬢にデッキを置く。

 

 ソウコ嬢の目が覚めた。

「因みにだがコイツには催眠術で俺とカード関連の好感度を変えるようにした。体は無傷だから安心してくれよ」

「誘拐覆面様……はーっ。うーっ」

「椅子をガタガタ動かしやがって。鬼気迫るものを感じるな」

 美味しい肉を前にお預けを食らっているライオンのようだ。

 

 しかし催眠術で好感度を変えられるとソウコ嬢の名誉にかかわりそう。

「決闘をして俺に勝ったら催眠術を解いてやるよ。勿論俺が勝てば……古戦場のゼイバルトが欲しいからそれでも貰おうかな」

 賊の目はギラギラと光る。

「ゼイバルトを望むなんて流石誘拐覆面様ですわ」

 古戦場のゼイバルトはコスト6なのにコスト2みたいな性能しているけど、190年前から出現が確認されていないレアカードだ。

 

 ゼイバルトを売れば玄孫の代まで遊んで暮らせる。営利誘拐か。

「因みにだがコイツを攫った理由はたかれば王家かメッセル家が反応してたかれると思ったからだ。理由はこれでいいか?」

 賊の目はまたしてもギラギラと光る。

「王子様が誘拐覆面様に勝てるかどうか怪しいですね。まぁ一応婚約者なので心の中で応援くらいはしてやりますよ」

 ソウコ嬢は私に対して並々ならぬ感情を持っていたはず。どうでもいいと言いたげな扱いをするとは。催眠術恐るべし。

 

 ユナイツカードを見せた。

「決闘の合図か。メカントリー」

 決闘が始まった。覆面の先攻だ。

 

 覆面の1ターン目だ。

「チャージ。コスト1でアムド・メイガス発動」

 

 コスト1 魔法 アムド・メイガス 属性:メカニカル

      効果:この決闘中武装カードをモンスターとして召喚できる。そのモンスターのライフはコストと同じ数値になる。

 

 武装カードをモンスターとして扱うカードか。なかなか斬新だ。

「誘拐覆面様の必勝コンボが出ましたわね」

「ターンエンド」

 必勝コンボ? 警戒しよう。

 

 私が軽減モンスターを出し、次のターンになった。

「3ターン目。ドロー。チャージ。コスト3でホブゴブリンの製本所を発動してターンエンド」

 誘拐覆面の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でヨティス・プログラム召喚。ターンエンド。いいカードを引いちまったなぁ!」

 賊の目はギラギラ光っていた。

 

 私の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でソーサレスナイトを召喚して、魔法図書館の司書を捨てる。ホブゴブリンの製本所と合わせて3枚ドロー。ソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 誘拐覆面:ライフ10→8

 

 誘拐覆面の5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3でプライスダウンを発動。そしてコスト2でアパレル・サイバー発動。ターンエンド」

 どうやら相手は武装カードをたくさん展開するデッキらしい。

 

 コスト3 魔法 プライスダウン 属性:メカニカル

      効果:設置。ターンの最初に使用する武装カードの使用コストは2減る。

 

 コスト2 魔法 アパレル・サイバー 属性:メカニカル

      効果:設置。1ターンに1度発動する。武装カードを使用したとき2枚ドローする。

 

 私の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3で魔法の教科書発動。ソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 誘拐覆面:ライフ8→6

 

 誘拐覆面の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でライオットシールド武装。2枚ドロー。この俺でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「ダメージが凄い。これ以上はまずいですね」

 トゥスル:ライフ10→7

 

 私の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2でゴレムを召喚。1枚ドロー」

 筋骨隆々な泥人形が現れた。

 

 コスト3 モンスター ゴレム 属性:使い魔、魔法使い

      効果:出現:自分のコストゾーンのカードを2枚未使用状態にする。

      攻撃力:2 防御力:0 ライフ:1

 

 うーん。あまりいいの引けていませんね。

「コスト4でシルクハットワンダラーを召喚。そしてコスト1でエンシェントリリー召喚」

 シルクハットを被った蚕と青い百合の花が現れた。

 

 コスト5 モンスター シルクハットワンダラー 属性:使い魔、魔法使い

      効果:出現:場と墓地の属性:使い魔のモンスターをすべてコストゾーンに送る。その後2枚ドローする。この効果でコストゾーンに送られたカードは次の自分のターン開始時にすべてデッキに戻す。

      攻撃力:2 防御力:0 ライフ:1

 

 コスト2 モンスター エンシェントリリー 属性:魔導書

      効果:リアクションの効果を持つカードのコストを1減らす。

         1ターンに1度発動できる。墓地のリアクションの効果を持つカードを1枚手札に加える。

      攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

「ターンエンド」

「よほど手札が悪いのか」

 これで大丈夫。

 

 誘拐覆面の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でメタルシールドを召喚。2枚ドロー」

 

 コスト6 武装 メタルシールド 属性:メカニカル

      効果:このカードは攻撃された時、このカードに攻撃したモンスターの攻撃力分、防御力を下げる。このカードの防御力はターン開始時に7になる。

      攻撃力:0 防御力:7

 

「誘拐覆面様の即死コンボが決まりましたわね!」

 メタルシールドを武装してライオットシールドで相手を攻撃したほうがいいはず。ということは何かあるのか?

「俺でプレイヤーに攻撃」

「コスト4でリアクション。ヘカーテの月魔術。2枚ドローしてダメージを2減らす」

「ターンエンド」

 トゥスル:ライフ7→6

 

 私の7ターン目。

「ドロー。チャージ。エンシェントリリーの効果でヘカーテの月魔術を戻す。コスト3で預言者ヨティス召喚。合計3枚ドロー。ターンエンド」

「あまり手札がよくないようですね王子様。がんばれー」

 手札はいいけど、ライオットシールドの防御力を越えられるカードがない。このままじゃじわじわと削られて負ける。

 

 誘拐覆面の8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でギガドリル召喚。2枚ドロー」

「うおお。でっけえドリルですわ。さすが誘拐覆面様ですわ。王子もなかなかやりますが、一歩及びませんでしたわね」

 

 コスト7 武装 ギガドリル 属性:メカニカル

      効果:貫通

      攻撃力:3 防御力:0

 

「メガドリルでプレイヤーに攻撃」

「コスト4でヘカーテの月魔術」

「更にライオットシールドでプレイヤーに攻撃。ターンエンド。凄いカードが手札にあるが、倒すのは次のターンにしてやる」

 またしても賊の目がギラギラ光る。

 

 トゥスル:ライフ6→2

 

 私の8ターン目。

「ドロー。チャージ。エンシェントリリーでヘカーテの月魔術を回収する」

「その魔法厄介だな」

「コスト3で武装解除発動」

 

 コスト3 魔法 武装解除 属性:魔導書

      効果:武装カードを1枚破壊する

 

 ギガドリルはモンスターになっているから選べない。

「ライオットシールド破壊」

「ずっこいですわ。あっ。オウジサマガンバレー」

「ソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。余剰エネルギー保存」

 

 コスト3 魔法 余剰エネルギー保存 属性:メカニカル

      効果:アクションストライク。ダメージを受けたとき1枚ドローし、このカードを使用済み状態でコストゾーンに送る。

 

「これはピンチだな」

「ターンエンド」

 誘拐覆面:ライフ6→4

 

 誘拐覆面の9ターン目。

「ドロー。チャージ。ターンエンド……このデッキあまり強くないのかもしれないな」

「もっと強いデッキをコピーすべきでしたわね。決闘者の強さはデッキの強さで決まりますもの」

「プロフェッサー マリッジなら同じデッキでも遥かに強かったと思いますよ」

 理解度が違いますからね。

 

 私の9ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法の雷発動。プレイヤーに3ダメージ。そしてソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃」

「最後の最後で切り札を引けたか」

 誘拐覆面:ライフ4→0

 

 誘拐覆面はデッキを懐に入れる。

 

 誘拐覆面は催眠術を解いた。

「そう言えば襲ったときの言い回しが少々不自然でしたね。なんか思うところがあったんですか? 何となくですがやらされている感があったんですよね」

「滅茶苦茶偉い貴族様に人質をとられたってところだ。デッキは依頼主に貰った。依頼主曰く許可を貰ったからセーフらしい」

 地位の高い貴族でプロフェッサー マリッジのデッキをコピーできる立場の人か。かなり絞れる。

 

 これは凄いヒントだ。

「ずいぶんあっさりばらすんですね」

「失敗したから、情報べらべら喋ってもペナルティがねえし。それに俺は貴族が嫌いだ。人質取るからな」

「人質を取る卑劣な人間ってのは俺たちも変わらねえんだけどよ」

「人質を取るなんて卑劣な人ですね」

 ソウコ嬢とメイドさんが解放された。

 

 ソウコ嬢は誘拐覆面のデッキを見る。

「確かこのデッキはウィドー・マリッジからコピー許可されたデッキなんですよね」

「だからなんだ」

「ウィドー・マリッジにもスポンサーはたくさんいるのですが、その中でも偉い貴族となるとゴラム領の人間かと」

「ゴラム令嬢が。そんな馬鹿な。始末したいなら襲ってどうにかすればいいのに、わざわざ教えたりする理由がない」

 一気に嘘くさく見える。そう言えば貴族が嫌いと言っていたっけ。偉い貴族に疑いのかかる風評を流布させようとしてそう。

 

 下っ端が私を掴む。

「親分は嘘を言っちゃいねえよ! 仕方がないとはいえ、卑怯な真似をしてしまったんだからな。お詫びみたいなもんだ!」

「やめろ。コイツの立場なら、金品のついでにゴラムとやらの評判を貶めたいのかなと思っても仕方がない。それに会ったばかりの人間が信用できないのは仕方のないことなんだ。これを見ろ」

 誘拐覆面は口を出してから舌を見せる。

 

 舌には嘘をつくと目が光る呪いがかかっていた。

「嘘をつけないことが分かっただろ。反逆されるのが怖いからって依頼主にやられたんだ」

「話はだいたい見えました。しかしたかれるだのゼイバルトだの言っていたのはなんだったんですか」

「そう言えば金品目的だって思ってくれると依頼主が言ってたからだ。それに悪人を装ってくれという依頼主様からのお達し画あったからな」

 時折目が光っていたのは、そういうことだったのか。

 

 誘拐覆面たちが人質を取られていると言っていたところに向かい、人質を解放する。

「子供のためだったのか」

 怪しまれないようにパーティーに戻った。

 

 後日証拠を揃えてゴラム領へと赴く。

「誘拐の疑いがかかっています。なんでこんなことしたんですか」

 ゴラム子爵の6男は全てを察した表情をする。

「こういう形で手柄を建てなければ、ゴミのように死んでいくだけですから。そのために先生から事件をでっち上げて手柄を立てればいいと教えて貰って」 

「マッチポンプですか」

 この口ぶり…計画の裏には誰かいるらしい。



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10 黒幕

 王子からこの間の誘拐事件の一部始終を書かれた手紙を渡された。

「へぇこんな感じだったんですか」

「まるで他人事ですね」

「正直記憶が薄れているので現実味がないんですよね。それに呪いや催眠術って何となく非常識な感じがありますから」

 この世界では使い手は少し珍しいぐらいの頻度で見るらしいです。

 

 しかし先生とやらが引っかかりますね。

「この事件ゴラム家の六男さんではなくて全部先生とやらが考えたことなんじゃないですかね」

 原作にもこんなことは……あった! ちょっとだけ語られていましたね。

 

 ソウコがワガママで人をいじめるようになったのは、8歳の頃の誘拐事件がロクに捜査されず、真犯人丸わかりだったのに何のお咎めもなかったせいで性格歪んだせいだって『プライムディスティニー』のストーリー内でソウコ本人が言ってましたっけ。まあ半分は生まれつきの性格だったっていうオチだったんですけど。

 

 誘拐事件の真犯人は確か……

「カゲノウスイヒトでしたっけ」

「いきなりどうされましたか?」

 メイドさんは私のおでこに手を当てる。

 

 熱なんてないんですが。

「声に出ていましたか。まぁそんなことよりも今回の誘拐事件の犯人は貴族のなんか影の薄い人が犯人ですよ」

「何を根拠にそんな抽象的なことをおっしゃるのですか?」

「私には未来が見えるのです。それで貴族の影の薄い人が犯人だって分かったんですよ。まぁその影の薄い人が先生なんだと思われますよ」

 影の薄い人ということは本編に出ていないか、決闘が弱いということ。それならば覚えていなくてもおかしくないですよね。

 

 メイドさんは私のおでこに手を当てる。

「最初から最後まで本気なんですけど」

「正気であんな発言したんですか?」

「まあ忘れてください。誰かに言いまわされると困ることですから」

「うん……まぁ……はい。そうですね」

 まるで全ての奥歯に物が挟まったような言い方ですねぇ。

 

 メイドさんはメガネの縁を押し上げる。

「でも不自然なんですよねぇ。お父様がこのことを知って焦らないなんて」

「ええ。旦那様は色々不器用ですが、愛は確かですからね。確かに言われてみれば不自然ですよね」

「そのことが魚の小骨のように引っかかってるんですよね」

「私個人としても非常に気になりますので、ゴラム家周辺を洗ってみます。お任せください」

 メイドさんは消えた。

 

 呪いや催眠術みたいなモノがある世界ですし、カードゲームで何とかなる世界でもあるので、そういう手段を使ったんでしょうね。

 

 一週間後王子様からの手紙を読んでいると、メイドさんが現れました。

「愛しの王子様からラブレターですか。二人の愛は熱いですね」

「ミツドさんが二重人格ってことに驚いたという報告です。色ボケしているわけではありません」

「左様でございますか。ゴラム家の件犯人候補をかなり絞れましたよ」

 メイドさんは机の上に5枚の紙を並べる。

 

 5枚の紙にはゴラム家の家庭教師がそれぞれ書かれていました。

「帝王学とマナーとカードと歴史と呪術及び催眠術ですね。あの、一人だけあからさまに怪しいんですけど」

「呪術および催眠術っていうのがいかにもですね。ではさっそく行きましょうか」

「行くってどこにです?」

「ゴラム家です。兵は神速を貴ぶといいます。今すぐ行きましょう」

 急いでゴラム家に向かいました。

 

 ゴラム家に無事到着すると、ゴラム家の門番さんに止められました。

「平民ごときが許可をもらわず子爵様の家に入ろうだなどと随分と傲慢だなぁ。帰れ帰れ」

「このお方を何と心得ますか。トゥスル・ターニア・アレクサンドラ様の婚約者にしてメッセル財閥令嬢 ソウコ・メッセルですよ。未来の王妃様なのです」

「未来はそうでも今は金持ってるだけの平民だろ。帰れ!」

 困りましたね。何から何まで正論ですね。

 

 メイドさんが眼鏡を外しました。

「このようなこともあろうかと持ってきました。着てください」

「メイド服ですか?」

「ええ。入るにはこれが必要なのです」

 メイドさんはいたずらっ子のように微笑みます。

 

 たがいに着替えて馬車から降りますと、門番さんが迎えに行きました。

「ああ。ローランド伯爵令嬢様でしたか。どうぞ」

「先ほどのはからかっただけですわ。おーほっほっほ。ちなみにこの子はメイドさんですわ」

 そう言えばメッセル家のメイドさんって全員いいとこのお嬢さんでしたね。

 

 メイドさんは慣れた家のように進みました。凄い胆力ですわね。

「それにしても伯爵令嬢がメイドさんになるなんてどんな事情なんですか」

「一言でいえば借金苦です。そんなことよりも先ほどはすみませんでした。それに先ほどの高笑いも素ではありませんわ」

「大丈夫ですよ。建前だってわかっていますから」

 メイドさんは眼鏡を懐にしまいました。

 

 メイドさんは雑に扉を開けましたわ。

「どうもです。ローランド伯爵令嬢 リラ・サルゴでございます」

「サルゴ令嬢ですか。今日はどのような用でございますか?」

「呪術及び催眠術の教師 シュヴァルツ・ヴォルハング氏を出していただきたい」

「私がシュヴァルツ・ヴォルハングです」

 人相の悪い男が近づいてきました。

 

 あっ。この人じゃありませんね。名前が(シュヴァルツ)(ヴォルハング)で黒幕とかあからさますぎますもの。それに

「見た目だけでもインパクトがありますね」

「ハハハ。よく言われます」

「ゴラム家の6男の先生をしていたことはありませんか?」

「ありません」

 噓を付いている様子もなさそうですね。

 

 私はメイドさんからもらった資料をめくって名前を見る。

「おお。これほどまでに影が薄い人を見たことがないです。目を閉じれば2秒で名前と顔を忘れてしまいますよ」

「何言っているんですか?」

「いえ何でもありません」

「失礼いたしました」

 私はメイドさんに手を引かれて部屋から出て行った。

 

 メイドさんは私の頬を潰して、変顔にさせます。

「お嬢様にはもう少し慎みや謙虚さと言うものが必要かと。ところで先ほどは騒ぎ立てていかがしましたか?」

「犯人らしき人を見つけました。え~どなたでしたっけ。まあ影が薄いのでその人が犯人だと思いますよ」

「私個人としましてはシュヴァルツ・ヴォルハング氏が一番怪しいと思っているのですが。要するに半分だけお嬢様の世迷言を信用していないのです」

 逆の立場なら半分も信用できないんですけどね。

 

 影の薄い人を探しに行く。

「えーっと影の薄い人は帝王学ですね。イヒト先生ですか?」

 イヒト先生のところまで向かいました。

 

 しかしどこで先回りされたのか、貴族っぽい人に止められました。

「いかがなさいましたか?」

「私たちいやいやながらカゲノウスイヒトとやらを探しているんです。本当にありえないことなんですが、ワガママな人が未来が見える私的にはカゲノウスイヒトが怪しいと言う戯言を繰り返していてですね。本当に手が付けれらなくて」

 語気も強いし、言い方に棘しかないですね。

 

 貴族風の人は冷汗を流す。

「私はカゲノウス・ライヒト」

「失礼ですが印象に残らないお顔ですね。印象も薄くカードも弱いんでしょうね」

「なんと無礼な平民だ!」

「卑怯にも他人を使って自分を襲わせた人に対して敬意を表する必要はありませんもの。あ。自己紹介遅れました。私ソウコ・メッセルでございます」

 カゲノウスさんは顔を青白くしてデッキを構えました。

 

 私はユナイツカードを見せる。

「お、お前ま、まさか、あのことで」

「ええあのことです。今回は楽しまずに倒そうと思います」

 カゲノウスさんもユナイツカードを見せて、決闘が始まりましたわ。

 

 そしてなんのかんのありまして私の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。私が勝ったらちゃんと裁判所に行くんですよ。私に勝てば私がこのことについて干渉しないことを約束します」

「お前の関係者は干渉するのか」

「お父様が干渉するかもしれないじゃないですか。話がそれました。コスト5で忍法 回天の術を発動してターンエンドです」

 場にはワンジャもいますし、まあ何とかなりますね。

 

 カゲノウスさんの6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。よし。コスト4で軽量化の巻物(ロール)発動。ターンエンド」

 

 4 魔法 軽量化の巻物(ロール) 属性:魔導書

   効果:設置。自分の手札と場のモンスターのコストは1減る

 

「ターンエンド」

 軽量化の巻物(ロール)はコピーミラージュとのコンボでめちゃ強くなるというコンボがあるんですよね。

 

 私の6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3でイジャロコロガシを召喚します。よし。コスト2でハナビキャノン発動します。イジャロコロガシと能面の舞姫と軽量化の巻物(ロール)を破壊します。ターンエンド」

 軽量化の巻物(ロール)を破壊できてよかったですわ。

 

 カゲノウスさんの7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト1で再生の巻物(ロール)発動」

 

 1 魔法 再生の巻物(ロール) 属性:魔導書

   効果:相手の墓地のカードを2枚相手の手札に戻す。

 

「鬼武者と能面の舞姫を戻してもらおう。コストを1減らしてコスト6で我が最強カード コピーミラージュ召喚」

「やはりでましたか」

 何も映っていない姿見が現れました。

 

 7 モンスター コピーミラージュ 属性:魔導書

   効果:出現:互いの手札か場のコスト6以下のモンスターを一体を選ぶ。

      そのモンスターの名前と属性と効果と攻撃力と防御力とライフを得る。

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 私の手札を光が通過して、姿見が鬼武者となります。

「鬼武者を戻したのはやはりこのためですか。こうならないために捨てましたのに」

「鬼武者でワンジャとプレイヤーに攻撃」

 ソウコ:ライフ10→4

 

 私の7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャ召喚します。忍法 空蝉の術をサーチして、コスト2で墓地からクノイチを召喚して1枚ドローし、マスターニンジャでプレイヤーに攻撃致します。ターンエンドです」

 カゲノウス:ライフ10→5

 

 カゲノウスさんの8ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3で預言者ヨティス召喚。2枚ドロー。コスト4で軽量化の巻物(ロール)を発動し、コピーミラージュでクノイチに攻撃」

「アクションストライク。識痛の呪術ですわ」

「クノイチを破壊した後はプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。忍法 空蝉の術ですわ」

「ターンエンド」

 強いですわね。カードが弱いという認識を改めなければ。

 

 私の8ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3で墓地からワンジャとクノイチを召喚。1枚ドローします。マスターニンジャの効果で忍法誘惑の術を手札に加えます。コスト4で忍法サオトサキの術を発動します。コスト2でハナビキャノンを発動し、マスターニンジャとクノイチとコピーミラージュを破壊します。ターンエンド」

 2枚目のコピーミラージュ出されたらおしまいですね。

 

 カゲノウスさんの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。ターンエンド……コピーミラージュで何人も退けてきたのに」

「凄いですね。これでカードの先生じゃないのが驚きです」

 失うには惜しい実力ですね。

 

 私の9ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト1で墓地からクノイチを召喚して1枚ドローします。コスト6で鬼武者を召喚いたしまして、鬼武者でプレイヤーを攻撃いたします」

 カゲノウス:ライフ5→0

 

 カゲノウスさんは逃げましたが、メイドさんに止められました。

「なぜお嬢様を襲う計画を吹き込んだのですか?」

「ああ。そのことか。軽い気持ちでそそのかして、あんなことに、なるとは思わなかったんだ! 決闘で相手を倒して何度も口封じしていやになる」

「ああ。そのことか、だなんて。そんな軽い事のように。しかも軽い気持ちだなんて」

 なにと勘違いしたんですかね。私に対してやったことなんて覚えていないんでしょうね。

 

 胸ぐらをつかもうとしたら、メイドさんに止められました。

「暴力はダメです。己の品位を落とさないでくださいまし」

「あなたが軽い気持ちでそそのかしたせいで、幾つもの命が失われるところでした。軽い気持ちではすみませんよ。法の裁きが下ります!」

「お嬢様それ以上は」

 この人のせいで主人公が何人死んだのだろうか。半分この人のせいなのに本編では一切裁かれていないことに腹が立ちますわね。

 

 この後すぐに割と余罪の多そうなカゲノウスさんを警察に連れて行きましたわ。

「シュヴァルツ・ヴォルハング氏が事前に失言をしてしまう呪術をかけていたそうです」

「2秒で忘れる顔なのに決闘強いし無駄に邪悪だしまあまあ恐ろしい人でしたね」

 しかしスッキリしないですね。まるで落ちない油汚れを見つけてしまったような感じがします。



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11 パック開封

 カゲノウスさんはうちの店の従業員に脅迫をしていたとのこと。

「殺害よりも脅迫の方が重いと考えるなんておかしな人ですねえ」

「不謹慎ですよ」

「そうですね。ごめんなさい」

 今日は凄く暇です。近くに強い決闘者もいませんし、処刑される前に暇に殺されそうですわ。

 

 財布を持ちました。

「よし。街を散歩しつつパック開封しに行きますか」

「要らないカードはくださいね」

「勿論ですわ。ついてきてくださいまし」

 メイドさんとともに高級店のあるエリアへと向かいましたわ。

 

 カードショップから薄汚い服の男の子が叩き出されているところを見かけました。

「な、なんで。古戦場のゼイバルトはこんなに安くないもん。返して、返してよ。ウチの家宝なんだよ」

「お前みたいな薄汚いヤツが持っているということはどうせコピーだろ。精巧なコピーとして見れば妥当な値段だと何度も言っているだろう」

 この世界は他人のカードを盗むことが出来ません。特定のカードが欲しくなった場合、欲しいカードを使用してカードの柄をコピーする必要があるのです。

 

 勿論コピーカードの見た目はオリジナルとは違います。そしていわゆる出現(パック等からの自然発生)としても認められていないため、価値もオリジナルよりも格段に下がるのです。

「お待ちなさい。服装で判断するのはよろしくありませんよ」

「お嬢様ですか」

「それはそれとして私はレアカードの精巧なコピーが大好きなのですわ。是非一度見せてくれまんか?」

 古戦場のゼイバルトのようなレアカードの精巧なコピーは需要が高い。素人目には誤魔化すことも出来るので見栄もはれますし、保管庫にある本物の古戦場のゼイバルトから目を逸らすこともできますからね。

 

 薄汚い服の男の子を叩き出した人は慌てました。

「奥にしまいましたので、少々時間がかかりますがよろしいですか?」

「そこの男の子に綺麗な服をお願いします。そうそう。今来ている服を捨てないようにお願い致しますね。ここの人そういうところありますから」

 メイドさんと薄汚い服の男の子が消えました。

 

 薄汚い服の男の子とメイドさんが戻ってきました。

「おおー。見違えるようにきれいになっていますね」

 プライムディスティニーでこんな感じの見た目のキャラを見たことがありますね……ラッキーパンチでしたか。

 

 プライムディスティニー内では成長した姿ですので、名乗ってくれないとわかりませんね。

「なんで俺なんかのためにそこまでやってくれるんだよ」

「ドレスコードを満たしていない人が近くにいますと入れなくなる可能性がありますからね。ところでお名前を教えて欲しいのですが」

「アンドリューだ」

 アンドリュー、平民、おそらく光落ち幼なじみ枠のアンドリューですね。借金返済のために、不本意ながらソウコ・メッセルに従う攻略対象でしたっけ。

 

 見た目が痩せてないので、おそらく財政難が改善されていることでしょう。

「そうですか。いいお名前ですね。お父さまによろしくお願いいたします」

「お、おう。よろしく」

 奇妙な縁ですね。意図せず恩を売る形になってしまいました。

 

 カードショップの中に入って、叩きだした人に案内してもらいました。

「こちらでございます」

「ありがとうございます」

 古戦場のゼイバルトのコピーカードを見せてもらいました。

 

 私の持っている本物の古戦場のゼイバルトを出しましたわ。

「本物の絵柄は一つしかありません。またコピーカードは絵柄を完全にコピーできません。これとすべてが共通するならば本物でしょう」

「ムムム……その古戦場のゼイバルトは本物のようですね。では再びお預かりします」

「ちゃんと鑑定してくださいね」

 鑑定には時間がかかるということですのでアンドリューと出かけることにしましたわ。

 

 アンドリューは心配そうにしている。

「あ、あんた高いカードをあっさり預けて大丈夫なのかよ」

「大丈夫ですよ。カードショップは公営の施設であり国家の力の象徴でもあるので警備もしっかりしていますし、カードショップの店員のような高い地位をむざむざ捨てる真似を働くとは考えにくいですからね」

「そういうもんか」

 そもそもカードは合意の上でなければ譲渡出来無いため、盗んだりすることはできません。盗めるならカード盗賊たちも正規の手段でカードを手に入れたりしませんからね。

 

 店員さんが戻って来まして、私に古戦場のゼイバルトを返却いたしました。

「鑑定の結果本物だと判明しました。先程は申し訳ありませんでした」

 店員さんは深々と謝罪します。

「お客様を疑ってしまい申し訳ございでした。まさか新たに古戦場のゼイバルトが現れるなんて夢にも思わず。お詫びに買取価格を割り増しさせていただきます。それでよろしいですか?」

「よくわかんないけどそれでいいよ」

 出現しないレアカードは掘り尽くした鉱山の宝石のようなもの。だんだん価値は上がるのでお金で済めば安いですね。

 

 まあアンドリューが喜んでいる以上ソレを言うのは野暮というものです。

「あんた今日はありがとう。本当に感謝している」

「気にしないでください。あっそうだ。ちょうど荷物持ちが欲しかったところなんですよ。荷物持ちになってくれませんか? なってくれると凄く助かるんですよね」

「その程度ならいくらでもやるよ」

 アンドリューはルートに入ると恩返しだの、俺はお前に相応しくないだの、色々と面倒くさくなり、好感度が溜まりやすいけどハッピーエンドが難しいという変な感じになるのです。面倒にならない為に早めに貸し借りをなくしておきましょうね。

 

 色々とカードショップで購入いたしまして、結果的に大荷物になりましたわ。

「うくく」

「大丈夫ですの?」

「こ、このくらいなんともない」

 素人目から見てもかなりふらついていますね。見栄でしょうか。

 

 休みましょう。

「左様ですか。それでは島公園で休みましょうね。このへんで休めるところとなりますと、そこくらいしかございませんから」

「その年でデートとはフシダラですね。お嬢様」

「そんなわけ無いじゃないですか。私が疲れたので休もうと思っただけです」

 島公園は湖上の人工の島の上に作られた公園で、『プライムディスティニー』ではデートスポットの一つですわ。これは誤解されても仕方がありませんね。

 

 橋を渡って公園に入りましたわ。

「きれいで素敵なところだ。アンジーも連れていきたかったな」

「妹さんですか?」

「ああ。3歳なんだけど可愛くてさ。今日は高級店エリアに行って金作って帰るだけですぐ終わる予定だったから連れてかなかったんだけどさ。チクショーミスった」

「まあお嬢様のワガママは予測できないのでして当たり前のミスですよね」

 メイドさんに特殊ハサミを渡されました。

 

 特殊ハサミで全てのカードパックの封を切りましたわ。

「余ったカードあげますよ。御所望のものがあればお申し付けくださいね」

「「えっ!?」なんでそこまでやるんだよ。お前ちょっと不自然な程にお人好しだぞ。わかった。俺の借金を増やしてなんかするつもりだな」

「要らないカードを持っていても仕方がないので、あげるだけです。お金にしてもいいし、そのまんまそれでデッキを組んでもいいですよ」

「贅沢なやつだな。俺なんて金のためにカードを求めてるってのに要らねえのか」

 古戦場のゼイバルトみたいに出現しなくなっても20年は価値が変わりませんしね。

 

 パックを開封しますか。

「開封!」

 パックからカードを出しました。

 

 そして数分後

 

 むむむ。ハズレ箱ですか。

「どうなっているのですかねコレ。あまりぱっとしないカードばかりじゃないですか」

「私のデッキにも使えなさそうなカードばかりです」

「紫婦人なんかがあったら一気に防御関連が充実するのですが、それもないですものね」

 使えそうなのは幻のツチノコだけですね。地味な回復効果付きなんですよコレ。あ、ハナビキャノンもありました。

 

 残り1パックですが、もう希望も何もありませんね。

「レア度の割に弱いカードばかり出るのは嫌がらせか何かでしょうか」

 無心でパックを開封しました。

 

 おっ。

「超レアカード…サメ喰いイワシの群れ…まさかこの様なところで出るとは。こんなところではなくて、もう少しムーディなところで出したかったです」

「ソイツのなにが強いの?」

「手札の数だけ攻撃力とライフが上がります。それでいてコストも少なめです。そしてここ2年出現を確認されていません」

 サメ喰いイワシの群れは特化させたロマン構築が強いんですよね。しかも手札の確保が容易なトピア・クアのカードですからね。

 

 それに『プライムディスティニー』ではトピア・クアを使うキャラクターに渡せば取り敢えず好感度と火力を確保出来る神カードなのですよ。

「ゼイバルトと比べれば対してレアでもねーな」

「それと比べれば殆どのカードに貴重性が無くなりますよ」

 一番の当たりカードかもしれませんが、私はこんなカード36枚も持っているので要らないです。

 

 取り敢えず全てのユナイツカードのカードを40枚ずつ纏めました。

「どのユナイツカードに適正があるかなんですよね。誰にでも一つ以上の適正はあるのでデッキが使えないということはありませんが、適正がなくて使いたいのが使えない…ということは良くあるのですよ」

 因みにカードの神に選ばれた人は全てのユナイツカードに適正を持っています。羨ましいですね。

 

 体力が回復したので船に乗りました。

「取り敢えずこのトピア・クアってのにしてみるか。おっ。なんか吸い付くような感じ」

「適正があると吸い付くような感じがするそうですよ」

 いきなり正解を引きましたか。

 

 全部のユナイツカードを触って、適正があったのはトピア・クアだけだったそうです。

「カードは今から言うことをこなせばあげますよ。処分するのも保管するのもお金がかかるのでお好きになさってください」

「やっぱりか。タダってわけじゃねえよな」

「パックを全てカードショップに返却してくださいまし。勿論お代は全て私に返してくださいね」

 パックの開封跡を押し付けました。パックは特殊な合金で出来ているため、特殊製法で作り直せばまたカードを生成出来ます。故に開封した跡のパックをカードショップに返却するとカード代の2割が返ってくるのです。

 

 アンドリューは開封した跡のパックを全て持ってから、島公園を去りました。

「少しの間暇になりますわね。待っている間決闘でもしませんこと?」

「せっかくですからここにあるカードを使いましょう。雑に組んだデッキなんて普段使う機会ありませんし」

「ナイスアイディアですわ」

 デッキをある程度形にしてから互いにユナイツカードを見せましたわ。

 

 そしてターンはメイドさんの9ターン目まで飛ばします。

「ライフは互いに残り1…ですが貴女のライフと手札はそれぞれ1でモンスターも存在しません。対して私の手札は4枚もありますし、モンスターもたくさんいます。この状況を逆転出来ますかねぇ」

「逆転される方が面白いと思っているお顔でございますね。ドロー。チャージ。コスト4でワームレセプションを発動し、2枚ドローします。コスト2でエルフのベッドを発動します」

 草と木で出来たベッドが現れました。

 

 4 魔法 ワームレセプション 属性:インセクト

   効果:2枚ドローする

 

 2 魔法 エルフのベッド 属性:フェアリー

   効果:設置。自分の場のスタントリックを持つモンスター一体を攻撃済み状態にできる

 

「そしてコスト3でエルフアーチャーを召喚いたしまして、エルフのベッドの効果でエルフアーチャーを攻撃済み状態にします。エルフアーチャーの効果でお嬢様に1ダメージです」

 エルフアーチャーはベッドで寝ながら矢を放ち、私に命中させましたわ。

 

 ソウコ:ライフ1→0

 

 モンスターと設置魔法が消えました。

 

 かなりギリギリの決闘でしたわ。

「対戦ありがとうございました。ちょうどアンドリューも戻って来たようですね」

 カードを整えましたわ。

 

 アンドリューは息を切らしながらお金を渡して来ました。

「ありがとうございます。これどうぞ」

「俺もあんたたちみてぇに強くなれるかな…」

「無理ですわね。貴方は他を模倣するよりも己の良さを活かす方が強いタイプですから」

 実際『プライムディスティニー』のアンドリューは、下手なコピーデッキよりも自分で作ったであろう初期デッキの方が強いんですよね。

 

 私個人としましては決闘相手は強ければ強いほどいいんですよね。

「この恩は一生忘れねえ。これ使って借金返すよ」

「気にしなくていいですわ。要らないカードをその辺の人間に押し付けただけですもの」

 アンドリューは去った。これから精進して強くなってくれるとありがたいですね。



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12 ラーメンにホールケーキ

 私は扉を蹴って開けました。

「おらー。にげずにでてこんかーい。これでいいんですよね」

「少し治安悪めのエリアではそんくらいやらないとナメられるよ」

「こんな感じでいいんですの?」

「劇の練習に付き合ってくれてありがとうね」

 どんな劇なんですかね。子供の情操教育に悪そうですよ。

 

 私は今レイナさんの家にお邪魔しています。

「ところでアンちゃんのことで話をしたいって言ってたけど、何の用なの?」

「彼の父親相当借金していたみたいで、現状一生働いて返せるかどうかといったところなのですよ。アンドリューさんの為に頑張りたいとは思いませんか?」 

「うん。それはもう凄く頑張りたい」

 話も聞かずに引き受けるとはお人好しですね。

 

 そのくらい話が早ければ楽なので良いのですが。

「少し変わっていますがよい仕事を紹介致しますよ。因みにご両親には許可を取りましたよ。メッセル財閥の管理下にある会社の食材20年分無料パスで手を打ってくれました」

「そこまでしてくれるなんて優しいね」

 これが私に出せる全力です。

 

 レイナさんは俯いています。

「私は何をすればいいの?」

「7日に1度は私と決闘してほしいのですよ。そしていずれ貴女は学園に入ることになるので、マナーなりなんなり身につけてほしいのです」

「それだけなの?」

「それだけです」

 私でさえマナーは完璧に使えますからね。そこら辺今からキチンとしておかないといけません。

 

 決闘前にレイナさんのデッキを見せてもらいました。

「うわっ。変なコストのバランス(マナカーブ)のデッキですね。デッキの半分もコスト?のカードがあるなんてもうほとんど紙束(マトモに使えないデッキ)ですよ」

「よくわかってないね。私の最強デッキなんだからこれが一番強いんだよ」

「そうですかねぇ」

 コスト?のカードはだいたい変な条件で召喚するのが多いので、殆どの場合事故札(無駄なカード)になりうるんですよね。

 

 コスト4以下のカードも聖殿と翼の使徒ぐらいしかありませんし、こんな事故札まみれのデッキでよく私に勝てましたね。

「ありがとうございました。このままでも強いと思いますが、もう少しコスト?のカードを抜いたほうがよろしいかと」

 デッキを返しました。

「取り敢えず決闘を始めましょうか。アンドリューさんお願いします」

 レイナさんもデッキを見終わったらしいですね。

 

 アンドリューが妹を連れて入ってきました。 

「アンちゃん、なんでここに!? 二人とも知り合いだったの!?」

「事前に呼んでおきましたの。仕事とは関係無しに、互いの本気の決闘を見たいと思いましたので。妹ちゃんはお兄ちゃんの活躍見てよっか」

「わかった〜」

 素直でいい子ですね。

 

 妹ちゃんは正座した私の膝の上に座りましたわ。

「私と決闘する流れだと思ってたんだけど」

「ごめんレイナ。そこのお嬢様には返しても返しきれねえ恩があるんだ。友情とはまた別の話なんだ」

「ケーケッケッケ。妹ちゃんを人質に取らせて頂きましたよ。幼馴染相手に手加減されると困りますからねぇ」

「目的の為なら平気で人を騙したりする…そんな人間だったんだね」

「なんとでも言ってくださいよ。私は火傷してても関係ないほどの決闘バカですからね!」

 本当は軽くお願いしたらあっけなくOK貰っただけなのですが、こういった方がレイナさんが本気を出して実力上げてくれそうですからね。そしてそれに応じてアンドリューの実力も上がると。お二人の本気の決闘を見やすくする完璧な策ですね。

 

 妹ちゃんと遊んでいましたらいつの間にかアンドリューの3ターン目になっていました。神秘なるマリンスノーがあるとは用意周到ですね。

「ドロー。チャージ。コスト2でベビードルフィン召喚。コストを1減らしてコスト1でドリルサザエ召喚。ターンエンド」

 バランスボールサイズのサザエとおしゃぶりを咥えたデフォルメされたイルカが現れました。

 

 2 モンスター ベビードルフィン 属性:魚

   効果:モンスターの召喚コストを1減らす

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 2 モンスター ドリルサザエ 属性:魚

   効果:出現:1枚ドローする

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 レイナさんの3ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3で聖殿発動してターンエンド」

 アイギスもあって安定しておりますね。

 

 アンドリューの4ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト2でセイレーンのハープ発動。コストを1減らしてコスト2でピラティア軍団召喚」

 

 2 魔法 セイレーンのハープ 属性:マーフォーク

   効果:設置。1ターンに1度属性:魚のモンスターが場に出たら1枚ドローする

 

 3 モンスター ピラティア軍団 属性:魚

   効果:このモンスターが攻撃したとき1枚ドローする。ターンブレイク

   攻撃力:2 防御力:1 ライフ:2

 

「ピラティア軍団で相手プレイヤーに攻撃してターンエンド」

「手札の数減ってないね〜」

「これからどんどん増えていくぞ」

 順調ですわね。

 

 レイナさんの4ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト2で翼の使徒を召喚してターンエンド」

 アンドリューの4ターン目ですの。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト3でヨティスのマトウダイ召喚。コスト2でセイレーンの渦発動」  

 

 4 モンスター ヨティスのマトウダイ 属性:魚

   効果:2枚ドローする

   攻撃力:2 防御力:1 ライフ:0

 

 2 魔法 セイレーンの渦 属性:マーフォーク

   効果:設置。1ターンに1度だけ自分の場の属性:魚のモンスターを1枚手札に戻せる。戻した後ターンを終了する

 

「ピラティア軍団を手札に戻してターンエンド」

「手札がもう8枚もある」

「うおー。てふだいっぱいですごーい」

「手札補充がしやすいマリンスノーが効いておりますね」

 でもレイナさんも手札7枚ありますけどね。

 

 レイナさんの5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト5でプロメテウス・プログラムを召喚してターンエンド」

 アンドリューの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でカイリュウブラスター武装」

 竜の頭の様な形の手持ち大砲が現れました。

 

 6 武装 カイリュウブラスター 属性:海竜

   効果:1ターンに1度だけ発動出来る。手札を2枚捨てて、カードのコストの合計値よりコストの低い相手カードを1枚破壊する。

      相手ターンにも使用できる

   攻撃力:0 防御力:0

 

「カイリュウブラスターのコストを確保する為にいっぱいドローしてたのね」

「おにいちゃんすごーい」

 手札さえあればノーコストで除去を打てる強めのカードではありますが、サメ喰いイワシの群れとは相性が悪いのですよね。お前のカードなんかいつでも除去出来るというハッタリですのね。

 

 レイナさんの6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイロゥストライク発動」

 

 2 魔法 ハイロゥストライク 属性:エンジェリオ

   効果:相手のデッキの上からコストゾーンから1枚使用済状態で置く。その後このカードをコストゾーンに使用済状態で置く

      この効果で置かれたカードは次のターン終了時まで使用可能状態にならない

 

「更にコスト5でカリスを発動…ターンエンド」

「顔がニヤついています。もう少し隠す努力をしましょう」

 レイナはニヤついた顔を必死に戻す。

 

 アンドリューの7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト1でドリルサザエ召喚。俺史上最強のモンスター、コストを1減らしてコスト5でサメ喰いイワシの群れ召喚」

「アレ私があげたヤツですよ。ヒュー。テンションバリ上がりですねぇ」

 5匹のイワシの群れが現れました。

 

 6 モンスター サメ喰いイワシの群れ 属性:魚

   効果:このカードの攻撃力と防御力とライフは手札の枚数の半分上昇する(手札が奇数なら切り捨て)

      攻撃力が10以上の場合このカードはオールアタックと蹂躙を得る

      このカードが場にいるプレイヤーはサメ喰いイワシの群れを場に出せない

   説明:サメ喰いイワシは全てを喰らう。十もいれば骨も残らぬ

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

「サメ喰いイワシでプレイヤーに攻撃」

「リアクション。ハイロゥ。聖殿の効果で1枚ドロー」

「ピラティア軍団を手札に戻してターンエンド」

 ハイロゥの防御力は凄まじいですね。

 

 レイナさんの7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト7でアバドンの使徒召喚」

「見ないようにしましょうね」

 アバドンの使徒は小さい子に見せるには刺激的すぎるデザインですからね。

「アバドンの使徒で2体のドリルサザエとベビードルフィンに攻撃」

 アバドンの使徒がサバクトビバッタの群れとなり、ドリルサザエとベビードルフィンを喰い消しました。

 

 アバドンの使徒は歯をギチギチと鳴らしています。

「アバドンの使徒でプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。サハギン・ウェイブ」

 

 4 魔法 サハギン・ウェイブ 属性:マーフォーク

   効果:アクションストライク。

      手札が10枚以上あるなら次の相手ターン終了時までプレイヤーはダメージを受けず、ゲームに敗北しない。

 

 半魚人が出てきて渦を作り出しアンドリューを守る。

「ハイロゥでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 これによって誘導が使えます。上手くやりましたわね

 

 アンドリューの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でピラティア軍団を召喚。1枚ドロー。ピラティア軍団でハイロゥに攻撃。1枚ドロー。更にコスト4でサハギン・リチュアル発動。ピラティア軍団を手札に戻してターンエンド」

 

 4 魔法 サハギン・リチュアル 属性:マーフォーク

   効果:決闘中以下の効果を適応する

      ・手札が10枚以上あるならライフが0にならない限りゲームに敗北しない。

 

「ドローが特色ということはデッキの減りが早いという事でもありますからね」

「そーなんだ」

「デッキが0枚になったら負けですからね。トピア・クアは常にこの問題と対峙しているのです」

 神秘みたいな特殊パターンは話が変わるのですけどね。

 

 レイナの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でワルキューレ・エインヘリヤル発動」

 

 6 魔法 ワルキューレ・エインヘリヤル 属性:レジェンド、エンジェリオ

   効果:設置。属性:エンジェリオのモンスターは貫通を得る。

 

「コストを1減らしてコスト3でプリンシパリティズ召喚。1枚ドロー。ターンエンド」

「次のターンまでに決めないとまずいですよ」

「おにいちゃんもレイナちゃんもどっちもがんばれ〜」

 アバドンが貫通持ってるとか悪夢でしかないですわ。  

 

 アンドリューの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト9で巡る海竜神発動」

 

 9 魔法 巡る海竜神 属性:魚、海竜、マーフォーク

   効果:互いに墓地のカードを全て手札に加える。その後ターンを終える

 

「上手いですわね。これで次のターン手札は20枚。そしてサハギン・ウェイブで生き残りますよ」

「ターンエンド。お前の番だぜ」

「結構楽しそうだね。私と初めて決闘するからかな?」

「まあそういうことだ。何だかんだレイナ、お前のおかげでもある。ありがとな」

 私と巡り合うまでに色々あったんでしょうね。

 

 レイナさんの9ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト8でセラフ召喚。1枚ドロー。よし。更にコスト2でセラフィックエンド発動」

 

 ? 魔法 セラフィックエンド 属性:エンジェリオ

   効果:自分の場に元々のコストが?のモンスターが2体存在する場合以下の効果を得る。

      ストレンジ:2

      相手のライフを8にして、自分のライフを1にする

 

「コスト?のカード3枚も見たんだけど、何枚入れてんだよ。普通入らねえだろそんなの」

「強そうなカードは何枚も入れる。それが私のやり方だからね」

 レイナさんのデッキは豚骨ラーメンにホールケーキ混ぜたようなデッキですからね。

 

 それでも回せるあたり主人公補正も多少ありそうですわ。

「セラフでプレイヤーに攻撃。フレイミングゴッドサーバント」

「無駄だ! サハギン・ウェイブ」

「スペルコンディション! 百王の生誕。危なかったー。聖殿で引いてなかったら負けてたー」

 半魚人の出した渦が消えました。

 

 アンドリュー:ライフ8→0

 

 決闘の影響がすべて消える。

「パワカをギリギリで引けてなかったら負けていましたね」

「でもかったよー」

「いつも綱渡りや運頼みで勝ってもらうよりも、確実に勝利を掴んで実力を上げてもらうほうが私にとっては嬉しいのですよ」

「おねえちゃんの言ってることよくわかんなーい」

 運頼みや綱渡りの状況で勝つのはある意味主人公らしいですけどね。安定して強い人と戦いたいですから。

 

 妹ちゃんを解放しましたわ。

「おにいちゃん頑張りましたわね」

「うん。おにいちゃんもレイナちゃんもかっこよかったー」

 この状況から何だかんだレイナさんを連れ出しましたわ。



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13話

 南の島でヴァカンスするのもいいものですね。

「どうも私です」

「なにがどうもなんですか」

 それにしても決闘したいですね。

 

 あー。決闘したいですね。

「たまにはカードのことを忘れて、ビーチで、水着で、トロピカルジュースを飲んで、だらけるのも乙ですわね」

「息も絶え絶えですね。そんなに決闘したいのですか」

「ドクターストップさえ、なければ決闘、していたんですけどね」

 決闘に夢中になりすぎて睡眠不足と栄養失調になったせいでこうなっているのですから自業自得ですが。10日も耐えられないとはこの体はやわですね。

 

 この南の島はタダの南の島ではないのです。

「しかしわざわざ決闘したくなるようなところで療養しなくてもよろしいのでは」

「この南の島はデュエルカントリー。観光と決闘を産業にした世界随一の決闘国家ですわ。国全体の広さが都会一つ分の広さの国ですわね」

『プライムディスティニー』ではデートスポットでもありエンドコンテンツの一つでもあります。

 

 デュエルカントリーは元々カードパックの原材料であるフダタイト鉱石の鉱山に恵まれた鉱山国家でしたが、フダタイト鉱石が枯渇気味になったため観光と決闘の教育に力を入れることになった国ですわ。空気中の元素の一つ一つが決闘していますの。

「精神力を鍛えているのですわ」

「犬に餌をお預けさせるような感じですか」

「言い方悪いですがまあそういう感じですの」

 あちこちで決闘しておますわね。

 

 あれれ。見覚えのある人がいますわね。

「カネトルス金融の債務者の子供のアンドリューさんですね。妹さんもいらっしゃいます。隣にカードの神に選ばれた人もいらっしゃいますので、大方そちら方面のコネでしょうね」 

「カードの神に選ばれるって凄いんですねぇ。というか何さらっとサボっているんですかね。マナーの先生が泣きますよ」

「マナーの先生が里帰り出産のために休むので、療養と精神トレーニングを兼ねてここに行くとお嬢様自身が言いましたよね」

「そうでしたね」

 翼の使徒と聖殿のサンドアート作ってますね。普通にクオリティ高くて凄いと思いましたわ。

 

 レイナさんがこちらに気が付きましたね。

「トゥスル王子にそっくりなひともサンドアートを作っていますね。護衛らしい人もいないのでおそらく偽物でしょうけど」

「凄いリゾートですからいてもおかしくないと思いますよ。でもそっくりさんのほうが都合が良いんですよね。偉い人と会うのに相応しい格好ではありませんから」

 レイナさんが王子のそっくりさんを連れて来ました。

 

 王子の影武者にピッタリですわね。まるで生き写しのようですわ。

「都合が悪くてすみませんでした」

「ターニア・アレクサンドラさんでしたのね。あ、あのことはね、気にしないでくださいまし…ジョークみたいなものですからね」

 レイナさんの顔がだらけて見えますね。王子の顔をよく知らないから緊張も何もないんでしょうね。

 

 紹介しておきましょうか。

「この男の子はこの辺でサンドアートのトムって呼ばれているんだよ。あっ。本名は分から、りませんね」

「なんですかそのサンドアートのトムって」

「サンドアートの国の王子…って言ってたました」

 変なキャラ付けですね。サンドアートの国なんてあるわけないじゃないですか。

 

 取り敢えずサンドアートのトムと握手しますと、サンドアートのトムが耳打ちしてきました。

「サンドアートのトムということでよろしくお願いいたします。バカンスの為に来たので王子として肩肘張りたくないのです」

「そういうことですか。それならば喜んで」

 サンドアートの国なんてあるわけないので、不意に王子と呼ばれてもジョークとして受け取ってもらえると思ったのでしょうね。

 

 先に正直に話してあえてジョークと思ってもらうのですか。

「二人で何ヒソヒソと話している…話していらっしゃるのですか?」

「レイナさんはマナーの先生から教わったことを活かして偉いですね。ですが堅苦しいの抜きでいきましょうね」

 誤魔化せましたわ。

「ところでレイナさんはこんなところにいらっしゃるのですか?」

「商店街の福引でここのチケット3人分当たったから」

 外国行きのチケットが出るなんて最近の福引は凄いですね。

 

 レイナさんは私を見つめます。

「ところでトムとお嬢様は知り合いなの?」

「ええ。トムは結構強いんですよね。私もトムに決闘で一度も勝てたことがありませんから。それに日々強くなってますし、実力はレイナさんとほぼ互角と思われます」

「彼女そんなに強いんですか?」

「彼女はカードの神に選ばれた人ですからね。デッキ自体は弱いですが、実力は相当のものですよ」

 ユナイツカードを互いに見せました。決闘が始まりましたわ。

 

 トムの先攻5ターン目ですわ。レイナさんは何もしていませんし、事故り気味ですかね。

「ドロー。チャージ。コスト3でゴレム召喚。製本所で1枚ドロー。コスト2でエンシェントリリーを召喚して、墓地からマジカルリロード回収。コスト1でマジカルリロード発動」

 

 2 魔法 マジカルリロード 属性:魔導書

   効果:リアクション。互いの手札を全て好きな順番でデッキの下に戻して、戻した枚数分ドローする。

 

「ターンエンド」

「マジカルリロードの影響で、初手が良かったのに妨害されまくっているんですよね」

「初手が良い相手には初手を崩すことで対応する。強引ですが良い手ですね」

 ミツドさん何変なことばっか教えているんですか。いや、元から魔法の雷回収して撃つような陰湿戦法使ってましたね。

 

 レイナさんは何もせずターンを終えてトムの6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト4で熱湯スライムを召喚します」

 湯気の出ている液体が現れました。

 

 4 モンスター 熱湯スライム 属性:使い魔

   効果:リアクションを相手ターンに発動した場合、デッキの上から1枚をコストゾーンに置く

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:2

 

「墓地からマジカルリロードを手札に加えてターンエンドです」

 リアクションは普通に使うならアクションストライクの下位互換ですが、サポートで介護して強みを出せていますね。

 

 レイナさんの6ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト3で聖殿発動してターンエンド」

 トムの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6で古代の(エンシェント)巻物(ロール)を武装します。ターンエンド」

 

 6 武装 古代の(エンシェント)巻物(ロール) 属性:魔導書

   効果:ターンのはじめに使用するリアクションのコストを2減らしてもよい。

      そうしたら使用したコスト分相手のコストゾーンのカードを未使用状態にする。

   攻撃力:2 防御力:2 

 

「相手のコストゾーンを回復するのですか。もしかして事前にデッキの内容知っててメタ組んでらっしゃる?」

「知らないです。偶然です」

 コスト?を軸とするのに出しやすいコスト?であるハイロゥが使えないの相当キツイんじゃないでしょうか。

 

 レイナさんの7ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラム発動。ターンエンド。しかし手札が悪いなぁ」

 トムの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コストを合計3減らしてコスト2でヘカーテの月魔術発動します。エンシェントリリーの効果で手札に加えてターンエンドです」 

 攻めっ気が足りませんね。

 

 レイナさんの8ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト3でアポカリプス・ワンを発動します。コスト4でアポカリプス・ツーを発動します」

 ラッパの音が2度響きました。

 

 3 魔法 アポカリプス・ワン 属性:エンジェリオ

   効果:設置。互いに1ダメージを受ける。その後デッキまたは墓地からアポカリプス・ツーを手札に加える

      

 

 4 魔法 アポカリプス・ツー 属性:エンジェリオ

   効果:アポカリプス・ワンの上に設置した場合以下の効果を得る。

      デッキまたは墓地からアポカリプス・スリーを手札に加える

 

「ターンエンド」

「軸をアバドン軸に変えてきましたか。因みに上に設置と書いてあるカードはカードの上に設置出来ますし、一枚として扱うのですよね」

 おそらくコスト?では回らなくなったのでしょうね。

 

 トムの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でソーサレスナイトを召喚します。ワンダー巻物(ロール)を捨てて2枚ドロー。コスト4でソーサリーナイトを召喚します。ワンダー巻物(ロール)を手札に加えてターンエンド」

 トムの顔はニヤけています。手札に強いカードでも来たのでしょうか。

 

 レイナさんの9ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト5でアポカリプス・スリーを発動します。コストを1減らしてコスト4で災厄の明星を召喚します。ターンエンド」

 

 5 魔法 アポカリプス・スリー 属性:エンジェリオ

   効果:アポカリプス・ツーの上に設置した場合以下の効果を得る。

      デッキまたは墓地からアポカリプス・フォーと災厄の明星を手札に加える

      このカードまたはこのカードが下にあるカードが場にある限り、アポカリプスカードのコストは2減る

 

 ? モンスター 災厄の明星 属性:エンジェリオ

   効果:出現:互いの場のコスト4以下のカードを全て破壊する。その後コスト4以下のカードは効果を発動できず、場に出せない

      このモンスターは攻撃出来ない

      自分の場にアポカリプス・スリーまたはアポカリプス・スリーが下にあるカードがある場合このカードは以下の効果を得る

      ・ストレンジ:4

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:2

 

「場のカードが全て除去されてしまいました。しかも出て早々に自らも破壊していきましたね」

「エンジェリオには?軸とアバドン軸がありますが、災厄の明星はアバドン軸のメイン除去ですからね」

 勿論ミラー(互いに同じ型)だと役に立ちませんが。

 

 トムの10ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト8で蘇生(リアライブ)巻物(ロール)を発動。ターンエンド」

 

 8 魔法 蘇生(リアライブ)巻物(ロール) 属性:魔導書

   効果:設置。1ターンに1度コスト4以下の魔法使いモンスターを墓地からコストを払わずに召喚出来る。

      この効果で召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

「ソーサレスナイトを召喚してターンエンド」

 盤面にあまり動きがないですね。

 

 レイナさんの10ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト4でアポカリプス・フォーを発動し、コスト5でアポカリプス・ファイブを発動します」

 

 6 魔法 アポカリプス・フォー 属性:エンジェリオ

   効果:アポカリプス・スリーの上に設置した場合以下の効果を得る。

      デッキまたは墓地からアポカリプス・ファイブを手札に加える

 

 7 魔法 アポカリプス・ファイブ 属性:エンジェリオ

   効果:アポカリプス・フォーの上に設置した場合以下の効果を得る。

      デッキまたは墓地からアポカリプス・シックスを手札に加える。

      このカードまたはこのカードが下にあるカードが場にある限りデッキ墓地手札から「アバドン」モンスターを召喚出来る

      またデッキ墓地手札の「アバドン」はコスト2で召喚出来る

 

「アバドン…嘗て災厄の決闘者が使ったと言われているカードですか。神に選ばれた存在はやはり一味違いますね」

「ターンエンド」

 着々と準備を勧めていますね。

 

 トムの11ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。ソーサリーナイトを召喚します。そしてコスト10でメイガスナイトを召喚」

 ソーサリーナイトとソーサレスナイトが混ざり、ランスを持ち鎧を着たエルフとなりました。

 

 10 モンスター メイガスナイト 属性:魔法使い、魔導書

   効果:出現:自分の場のソーサレスナイトとソーサリーナイトをこのカードの下に送る。

      このカードの下にソーサリーナイトとソーサレスナイトがある場合このカードは以下の効果を得る

      貫通。蹂躙。1ターンに1度だけターン終了時まで魔法カード1枚の効果を無効化出来る。この効果は相手ターンにも発動出来る。

      このカードの攻撃力と防御力はそれぞれ5になる

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:7

 

「メイガスナイトは万全の状態で出せればめちゃくちゃ強いカードなんですよね。その分レア度も高いのですが」

「メイガスナイトでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 レイナ:ライフ9→4

 

 レイナの11ターン目だ。

「ドロー。チャージ」

「メイガスナイトの効果発動。アポカリプス・ファイブの効果を無効化します」

「あ、それは悪手ですね。まあ歴史資料にはファイブまでの詳細しかありませんからね」

「コスト6でアポカリプス・シックスを発動します」

 

 8 魔法 アポカリプス・シックス 属性:エンジェリオ

   効果:アポカリプス・ファイブの上に設置した場合以下の効果を得る。

      デッキまたは墓地からアポカリプス・エンドを手札に加える。

      

「そしてコスト2でアポカリプス・エンドを発動します」

 

 9 魔法 アポカリプス・エンド 属性:エンジェリオ

   効果:アポカリプス・シックスがある場合このカードのコストは2となる

      アポカリプス・シックスの上に設置した場合以下の効果を得る。

      互いに8ダメージを受ける

      

「あっ。つい最後までやっちゃった」

 レイナ:ライフ4→0

 トム:ライフ9→1

 

 モンスターなどなどが消えた

「レイナさんはもっと強くならなければいけませんね」

 強くならなければ私が困ります。



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14 邪神降臨マッハドロー

最後に翻訳のせます


 私は鬼コーチです。

「おらそこトム、レイナ、なにへたばってるんですか。素振りせんかいおら!」

「いつもとちがーう」

 砂地に竹刀を叩きつけました。

 

 突如レイナさんが帰るまでに強化合宿をすることになりました。トムから強くしてくれという要望がありましたからね。

「マッハドロー覚えてくださいよ。ドローの速度がマッハになってドローで体が壊れても、再生するから無傷になるんですよ」

「ドローをマッハにしてなんのいみがあるの?」

「アンジーさんいい質問ですね。マッハドローの速度に目を慣らすことで、一時的に思考を加速して視界をスローにできます。つまりその分体感的に考える時間が増えるんですね。因みに私はマッハドローできます」

「な〜る~ほ〜ど〜」

 私はマッハドローの素振りをしました。おっ。アンジーさんが遅くなりましたね。

 

 考える時間が長ければプレイミスを防ぐこともできますし、思いもよらない逆転方法を導けるかもしれません。

 

 というわけで熱中症対策しながらマッハドローの練習させているのです。

「パラソルで寝転びながら竹刀振って厳しくしてるとか、あの人たちから見れば殺意が湧きますよね」

「それでいいんです。憎しみや怒りも辛さや苦しさを誤魔化す興奮剤になります。そして実力の上がったレイナさんたちが私と戦うことになれば、強敵と戦えるということでしょう。WIN-WINなのです」

「へんないきかただね」

「ですよね。でも以前は怖かったのでマシになっているのですよ」

 マッハドローは覚えておいた方がいい小ワザなのですが案外みんな覚えないんですよね。

 

 そして炎天下でマッハドローの練習をさせることにより、再生力が上がって決闘中に多少体が傷ついてもなんとかなるのです。

「私からすればカード持ってるのにマッハドローの練習をしないほうが変な生き方ですけどね」

「マッハドローはモノに出来るまでがキツイので誰もやりたくないんですよ」

 レイナさんはカードの戦術書読みながら練習しているので、なおさら辛いでしょうね。

 

 プライベートビーチなので誰も人が来ませんし、思い切って練習が出来るのでは無いでしょうか。

「マッハドローはライターが無いときに火種にもなるので非常に便利なのです」

「おおー。おにぎりが焼きおにぎりになった」

「マッハドローを覚えればいつでもほかほかおにぎりが食べられます」

 いきなり爆発音がして砂が舞い上がりました。

 

 砂が落ちきると、腕が筋肉質な褐色肌の女性がいた。

「ヒシノ、アーム。アレハヲスンアヲセ。…ヒシノロリラニネアンガーサンダーレヘアテウィ」

「アンガーサンダー…聞いたことがあります。嘗てこの世界を滅亡にまで追い込んだ七邪神の一柱だと」

 邪神、『プライムディスティニー』では特定のキャラと共に来ると現れるやりこみ要素ですね。カードもデッキも強いですが倒すと好感度の上がるカードがドロップします。設定上7人いますが、ゲームには5人しか出てきませんね。

 

 邪神アームはトムに石を投げました。

「ヌウェワ」

 トムはマッハドローで石を叩き落しました。マッハドローは便利ですね。

 

 成金趣味丸出しのセンスない建物が私の後ろに控えています。

「そう言えば、お父様がここを開発するとき邪神の祠を壊してました。まあ直ぐに新しくて派手なのを作ったらしいのですが…ほぼ確実にそれが原因ですね」

「なんてことをしてくれるんですか」

「そんなことよりもあの邪神アームは王子様を殺そうとしています」

 アンドリューも生贄呼ばわりしてますし、相当まずいですわね。逃げ切れるわけでもないので、この状況割りと詰みですの。

 

 アンジーさんは感心したように拍手しています。

「すごい。あれわかるんだね」

「カードの勉強しているので邪神語はよく分かります」

 文法自体は日本語と同じですので楽に覚えられるんですよね。

 

 邪神の方々とコネが欲しかったんですよね。逆に言えばピンチはチャンスポジティブにいきましょうね。あははは。

私と(ヒタヲネ)デュエルしてください(オツチタスルロ)

「ニンゲンヒシノホウタ」

「お嬢様は決闘をドクターストップされているはずでは」

「ノアチデュエルワミ」

 互いにユナイツカードを見せました。

 

 なんやかんやありアームの3ターン目ですね。私のほうが出だしは良さげですが、逆転される可能性もありますわね。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト2ベビードルフィンタスワ。ヨヲツコスト1ドリルサザエタスワ。ターンエンド」

 アームのユナイツカードはトピア・クア。幸いにも神秘のマリンスノーがありませんね。

 

 私の4ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5で忍法 回天の術を発動してこら能面の舞姫で攻撃し、ターンエンドです」

 前のターンに舞姫出したのが効いてますね。

 

 アーム:ライフ10→8

 

 アームの4ターン目ですわ。

「ヒシノターン。ドロー。チャージ。コスト3ヨティスのマトウダイタスワ。コスト1サハギンシールドタスワ」

 

 2 モンスター サハギンシールド 属性:マーフォーク

   効果:相手より手札が多いならこのモンスターは以下の効果を得る

      ・誘導

      ・出現:このカードを攻撃済み状態にする。このカードは攻撃可能状態にならない

   攻撃力:0 防御力:3 ライフ:1

 

「ターンエンド」

 サハギンシールド…厄介な壁ですよね。

 

 私の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5で鬼武者を召喚します。鬼武者でサハギンシールドに攻撃した後プレイヤーに攻撃してターンエンドです」

 あっさり行き過ぎで逆に怖いですね。邪神がこんなに弱いはずありませんもの。

 

 アームの5ターン目ですわ。

「ヒシノターン。ドロー。チャージ。コスト5海底邪神剣クスヨハ」

 

 5 武装 海底邪神剣 属性:マーフォーク

   効果:手札の数1枚につき攻撃力が1上がる

   攻撃力:0 防御力:0

 

「防御力上がりませんよね。手札事故ですか?」

「ターンエンド」

 アームは手札のカードを露骨にチラつかせました。ここまで怪しいと逆に何もなさそうですね。アタックしましょう。

 

 私の6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。鬼武者で止めですわ」

「アクションストライク。ドローガード。サハギンシールド」

「あれフェイクじゃなくてマジだったんですね。罠は過剰にアピールすれば罠だと思われない心理を利用しましたか」

 私のデッキからカードが2枚出てきて、アームの盾となったあと私の手札に加わりました。

 

 5 魔法 ドローガード 属性:マーフォーク

   効果:アクションストライク。ダメージを受けるかわりに相手に2枚までドローさせる

 

「案外しぶといですね。能面の舞姫でプレイヤーに攻撃します」

「アクションストライク。マーメイドバブル」

 

 5 魔法 マーメイドバブル 属性:マーフォーク

   効果:アクションストライク。自分の墓地からコスト3以下の属性:マーフォークのモンスターを場に出して1枚ドローする

      この時場に出すモンスターはマーフォーク以外の属性を持たないモンスターでなければならない。

 

「ターンエンド。邪神は伊達ではありませんか。しかしこうでなくては味気がないです」

 味気ないのは嫌です。

 

 アームの6ターン目ですわ。

「ヒシノターン。ドロー。チャージ。コスト5サハギンスクランブル。コスト1誘惑の真珠タスワ」

 バランスボールサイズの真珠が2枚のカードを私に渡しました。

 

 5 魔法 サハギンスクランブル 属性:マーフォーク

   効果:3枚ドローして発動する。相手は2枚までドロー出来る。

 

 2 モンスター 誘惑の真珠 属性:魚

   効果:自分の場のモンスターが相手によって破壊されたとき互いに1枚ドローする

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:1

 

「ターンエンド」

「打つ手なしですか。勝負は時の運といいますので、こういうことがあってもおかしくありません」

 1枚ドローさせて終わるしょっぱい布陣…手札事故起こしてますねこれは。 

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法 サオトキキの術を発動します」

 

 4 魔法 忍法 サオトキキの術 属性:ニンジャ

   効果:デッキの上から5枚を見て一枚を手札に加える。その後このカードをコストゾーンに置く。

 

「妖刀 ムラマサを手札に加えまして、鬼武者でサハギンシールドと誘惑の真珠に攻撃します。そして能面の舞姫でプレイヤーに攻撃して今度こそ止めです」

「アクションストライク。ドローガード」

「なかなかしぶといですね。攻撃もしませんし、こんな塩試合終わらせとうございますわ。ターンエンド」

 遅延戦術は普通嫌われますわよ。

 

 アームの7ターン目です。

「ヒシノターン。ドロー。チャージ。…コスト7邪神海竜タスワ」

 

 7 モンスター 邪神海竜 属性:海竜

   効果:出現:互いの手札を全てデッキに戻し、それぞれ7枚ずつドローする

   攻撃力:7 防御力:0 ライフ:7

 

「ありがとうございます。これで手札が安定しました」

 手札にはマスターニンジャと空蝉の術が来ました。これで次のターン止め行けますね。

 

 それにしても普通に攻撃力7の武装はキツイです。

「テフダ5枚コスト0サハギンスラッシャータスワ」

 

 3 モンスター サハギンスラッシャー 属性:マーフォーク

   効果:手札が5枚以上ならこのカードのコストは0になる

   攻撃力:2 防御力:0 ライフ:1

 

「海底邪神剣テスプレイヤー攻撃」

「アクションストライク。忍法 空蝉の術。ワンジャがいるから使えますよ」

「テフダ5枚コスト0サハギンチェンジ」

 

 5 魔法 サハギンチェンジ 属性:マーフォーク

   効果:手札が5枚以上ならこのカードのコストは0になる。相手が魔法を発動した場合、相手のデッキの上から5枚をめくる

      そうしたらその中の魔法1枚を選び、発動したカードの効果を選んだカードと同じにする。

 

 あっ。識痛の呪術が捲れたらまずいですね。

「1枚目、獣遁 ワンジャ。2枚目、クノイチ。3枚目、幻のツチノコ。4枚目、忍法 サオトサキの術」

「ドキドキのごまいめだねー」

「5枚目…捲りますっ。あっ」

 私の心臓はこれまでにないほど昂ぶっております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 識痛の呪術が出ました。

「5枚目」

「わぎゃん!」

 

 ソウコライフ:10→0

 

 モンスターと武装が消えた。

「なんというタイミングの悪さですか。5枚目で識痛の呪術が出ていなければ勝てていましたのに。これは精進しなければなりませんね」

「タタスウィハセヘレスタスウェ」

「ただの運勝ちでも勝ちは勝ちですよ。まあ運で捲くられるのも熱くて嫌いではありませんし」

 悪役に対してカード一枚で奇跡の逆転…まさしく主人公みたいでいいと思いますよ。

 

 惜しむらくはそれをやったのが裏ボスというところですが。

「トンキハノロリラニロロキ。アンガーサンダーレヘアテウィテフウィヘスワ」

「そうですか。アンドリューが生贄にならずに済んでよかったですよ」

 邪神アームが私をキラキラした目で見ていますね。

 

 ソウコ・メッセルは『プライムディスティニー』では邪神の生贄ではなかったはずなのですが。

「もしかして好き放題やったから運命が変わったのかもしれませんね。それともお父様が社を壊したこと憎んでます?」

「マスウェロヲトラヲツナロ」

「気にしてないならよかったです。ところで何の用件でございましょうか」

 代わりにお前を害するとかなんとか言われたら流石に無理ですよ。

 

 邪神アームは私にあごクイしました。

「ホケニヘスマヲロ」

「お前が欲しいだなんて大胆ですね」

「あーっ。ダメですよ。それはダメです。婚約者が許しませんよ」

「そういうことです。私には婚約者がいるので無理なのです。そんなに欲しいなら私が死ぬ寸前に助ければいいと思いますよ。案外すぐですし」

 邪神アームは考え込んでいるような仕草をしました。

 

 邪神アームはメイドさんに耳打ちしました。

「ほうほう。私の家の庭に貴女を祀る神殿を作ればここからワープ出来るのですか。邪神って便利ですね。でも邪神信仰していると思われるのはまずいですよ。お嬢様は成金の子供なのでこれ以上社交界で立場悪くなるのはキツイんです」

「邪神を祀るは祀るでも被害を封じるなら大丈夫だと思いますよ…ねっ。トム。トムは王子駅だからそこらへんどうだか分かりますでしょう?」

「サンドアートの国では問題ないです」

 邪神アームは満足したかのように去っていった。

 

『プライムディスティニー』本編でも邪神は良い決闘すれば素直に去るところがあるので、案外対処は楽です。

「マッハドローは便利ですがあってもどうにもならないときがあるので、基本はやはり知識とデッキとプレイングですね」

「マッハドローおぼえるくだりまるまるいらないよ〜」

「そう言わないでくださいよ」

 アンジーさんは冷たいのでした。




邪神語翻訳
「我はアーム。1の邪神。我の生贄とアンガーサンダーに近い者」「頃す」
「人間真似した」「早く決闘しろ」「我のターン。(中略)出す。ターンエンド」
「ただの運勝ちだろ」「今日は生贄いいよ。アンガーサンダーに近い者も見逃す」「ボロいし気にしてない」
「お前が欲しい」


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15 リバーストラップ

注意
現実で女性的な男性に対してトラップと言ったり、男性的な女性に対してリバーストラップと言うことは、ジェンダー差別になるので絶対しないようにしましょう


  ヴァカンスから帰ってきました。

「バカンスをいつまでもやってるようではバカっスとおうことですわね」

「そうですか。よくわかりませんが良かったですね」

 庭にひっそりと作らせた邪神を祀る社も順調に出来ているらしいですしよかったよかった。

「旦那様にはお嬢様が壊れた社の代わりを建てていると連絡しております」

「そうですか。ありがとうございます」

 お父様に良き言い訳が出来ました。いくらなんでも勝手に庭に建物建てさせてくれるほど甘い人だと思いませんしね。

 

 よし。これで宿題が終わりました。

「門の先でドゥイ・ラウィラニという美男子がお嬢様に合わせろと」

「美男子…美男子ですか。ドゥイ・ラウィラニさんですね。興味があります」

 ドゥイ・ラウィラニ…『プライムディスティニー』の攻略対象であり、見た目は攻略対象の中でも最もイケメンです。しかしバッドエンドだと死体を利用され、グッドエンドだと主人公が邪神の生贄にされるという、選んだ時点でバッドエンド確定のようなキャラなのです。

 

 門の先に行くと金髪美少年がいました。

「カワイイ女の子ですわね」

「ハーハッハハ。ラウィラニ子爵の嫡男であるこのボクを女の子と見間違えるとはね。異性の友達よりも同性の友達の方がハードルが低いからそう思うことにしたのかな?」

「いいえ。秘密まみれの貴女の事ですから、もしかしたら女性でもおかしくないと思いましてね」

「君は実に空想家だね。いいよ。そういうのも面白いと思うな」

 所謂王子様系キャラですが、ラウィラニの家系は密かに二の邪神ドッペルゲンガーを信奉しているのです。

 

 ラウィラニ家は表向きは邪神やそれに関連するものはすべて滅ぼすべきという思想の一族…ラウィラニ家から遠いから情報が入らないと高を括っていましたが、流石に甘く見ていましたね。

「ところでどのようなご要件でいらっしゃったのですか?」

「一の邪神 アームを祀る神殿を庭に建てているそうじゃないか。だめだろ。邪神を大っぴらに崇めちゃ」

「事情は話しますから取り敢えず中にお入りくださいまし」

「お邪魔するよ」

 門の前で騒がれると困りますからね。

 

 メイドさんがお茶を運んできました。

「美味しいお紅茶だね。花の香りがするからキーマリガンかい?」

「当たりですわ。お紅茶にも詳しいですのね。今度メッセル商会でも取り扱う予定ですの」

 お菓子も持ってこさせました。美味しい紅茶とお菓子に誤魔化されてほしいですね。

 

 ドゥイさんは後ろのアームの社を指さしました。

「誤魔化されないよ。邪神の社を建てるのをやめてもらおうか」

「そんなこと言ってもドッペルゲンガーの社でしたら止めませんよね。実際お宅の家の地下にもドッペルゲンガーの社がありますものね」

 ラウィラニ家は代々二の邪神ドッペルゲンガーを信仰しております。邪神は自分以外の邪神が敵であるため、邪神を弾圧しドッペルゲンガー以外の邪神を弱らせようと考えているのです。

 

 しかし目が泳いでますわね。

「趣味の悪いジョークだね。ラウィラニ家は代々邪神嫌いで有名さ。常識的に考えてそんなものあるわけがない」

「そうですわね。そう言うことにしておきましょうね。あと一つ言いますが、この社は邪神アームの社を壊してしまいましたので代わりを建てているだけですの」

「そういう事情だったのか。すまないね。では僕は帰ります。さようなら女王様」

「マジでいい顔ですわね」

 バッドエンド確定人間だと知っているので惑わされませんけどね。

 

 邪神アームが祠から出てきました。

「ドッペルゲンガーウィロリラニ。イアヲロ。ヌウェワへ」

「怪しいからと言って殺してはいけませんよ」

「君は何故邪神語を理解しているんだい?」

「勉強熱心ですもの。ユナイツカードを身構えてるから、貴女も邪神語を理解していますよね」

 身を守るかのようにユナイツカードを構えていますね。

 

 邪神アームはドゥイさんにユナイツカードを見せました。

「ヒシヘツノスロニフウィヘスカ。ケリタユナセツステワミ」

「負けたら何でもするって、そんなこと気軽に言っちゃいけないと思いますよ」

「まあ本人が納得してるならいいんじゃないかな」

「アケウィハレラヲソヲナロネアノスロ」

 今のうちに始末しないとヤバいって…冷や汗流しながら言いきるのですか。

 

 

 実際いずれやらかす人間ですからここでなんとかしないとマズイですわね。

「分かりました。責任は私が取ります」

「ボクはメカントリーを使うよ」

「トピ・アクア」

 ドッペルゲンガーの加護は得ていますが、人目があるので大っぴらには使えませんよね。邪神アームはいい判断をしましたね。

 

 マリンスノーを使ったこと以外はなんの進展もなくドゥイさんの3ターン目ですわね。

「ドロー。チャージ。コスト3でオートビルダーキャノンを武装してターンエンド」

 黄色と黒の縞縞ミニガンが現れました。

 

 3 武装 オートビルダーキャノン 属性:メカニカル

   効果:手札のトラップカードはリアクションを得る。相手ターン中リアクションを持つカードのコストは2減る

   説明:自動で罠を作る画期的なガトリング砲

   攻撃力:0 防御力:0

    

「トラップ…ドゥイさんみたいですね」

「美しさが罠と言うならボクはトラッパーでいよう。美しさが罪と言うならボクは大罪人でいよう」

 ドゥイ・ラウィラニはトラップのような属性にまみれた人間ですからね。

 

 アームの4ターン目ですわ。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト4ヨティスのマトウダイタスワ。ターンエンド」

 ドゥイさんの4ターン目ですわね。

「ドロー。チャージ。コスト2で誘導超音波マシーン発動。ターンエンド」

 ドゥイさんの後ろにスピーカーが現れました。

 

 2 魔法 誘導超音波マシーン 属性:メカニカル

   効果:設置。相手モンスターは1ターンに1度必ず攻撃しなければならない。

 

「誘導超音波マシーンでオートビルダーキャノンの効果を活かすのですね」

「そういう意味ではゴリラウンドみたいな感じだと思われますよ」

 トラップカテゴリはオートビルダーキャノンありきのテーマですからね。

 

 アームの5ターン目ですわ。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト5サハギンバトラータスワ」

 執事服を着た魚人が現れましたわ。

 

 5 モンスター サハギンバトラー 属性:マーフォーク

   効果:手札が5枚以上なら以下の効果を得る

      ・2回攻撃できる

      ・モンスターの召喚コストを2減らす

   攻撃力:5 防御力:0 ライフ:5

 

「サハギンバトラープレイヤーアタック」

「御婦人にアドバイス。敵陣を歩くときは怪我を致しますよ。コスト2でベアートラップ発動」

 オートビルダーキャノンはコンクリートを発射し、クマの頭のような建造物を作りました。そして建造物はサハギンバトラーを噛み砕いて崩れましたわ。

 

 4 魔法 ベアートラップ 属性:メカニカル

   効果:相手の防御力0のモンスターを破壊する。

 

「ターンエンド」

 トラップは相手に攻撃させて相手を弱らせていくテーマですわ。

 

 ドゥイさんの5ターン目ですわね。

「ドロー。チャージ。コスト2でアタッチメント:ドリルエナジータンク発動。ベアートラップを回収してターンエンド」

 ドゥイさんの背中にリュックサックが現れてから、コンセントが生えてオートビルダーキャノンと接続されると、オートビルダーキャノンにドリルが生えました。

 

 2 魔法 アタッチメント:ドリルエナジータンク 属性:メカニカル

   効果:オートビルダーキャノンの下に送る

      このカードが下にあるオートビルダーキャノンは以下の効果を得る

      ・1ターンに1度墓地のトラップカードを1枚手札に加えてもよい

 

「ターンエンド」

 着々と足固めしてますね。

 

 アームの6ターン目です。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト5海底邪神剣。プレイヤーアタック」

「アームの手札は14枚。これで決まりましたわね」

「リアクション。コスト3でダストトラップ発動。ベアートラップを捨てるよ」

 ゴミ箱が現れましたわ。

 

 5 魔法 ダストトラップ 属性:メカニカル

   効果:手札のリアクションを持つカードを墓地に送り2枚ドローする。その後このカードをコストゾーンに送る

 

「よし。コスト1でスパイダートラップ発動」

 

 3 魔法 スパイダートラップ 属性:メカニカル

   効果:攻撃を無効化する

 

「ターンエンド」

「ふふふ。悔やむことはないよ。これまでボクに戦闘ダメージを与えられた人なんていなかったんだからね」

 そう。トラップは効果ダメージに弱いデッキなんですよね。

 

 ドゥイさんの7ターン目ですわね。

「ドロー。チャージ。コスト2でアタッチメント:フェイクグラフィッカー発動」

 オートビルダーキャノンに映像プロジェクターが生えましたわ。

 

 2 魔法 アタッチメント:フェイクグラフィッカー 属性:メカニカル

   効果:オートビルダーキャノンの下に送る

      このカードが下にあるオートビルダーキャノンは以下の効果を得る

      ・このカードはアタッチメントまたはトラップカード以外の効果を受けない

 

「スパイダートラップを手札に加えてターンエンドするよ」

 邪神アームはフェイクグラフィッカーによる凄い耐性と凄い手札の数を乗り越えられますかね。

 

 アームの8ターン目です。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト4サハギン・リチュアル。海底邪神剣、プレイヤーアタック。ターンエンド」

「コスト1でスパイダートラップ。蜘蛛の糸にかかる君も魅力的だよ」

「ターンエンド」

 スパイダートラップが無限に回収される限り勝ち目はありませんね。

 

 ドゥイさんの8ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト6でマイ・フェイバリットカード、リバーストラップを召喚して効果発動。君の墓地のサハギンバトラー復活。そしてターンエンド」

 イケメンが召喚されました。しかしよく見ればそのイケメンの骨格は女性的であり、胸部も少し膨らんでいました。そうなのです。リバーストラップは男装女子モンスターなのです。

 

 6 モンスター リバーストラップ 属性:メカニカル

   効果:このカードはトラップまたはアタッチメントカード以外の効果を受けない

      1ターンに1度相手の墓地のモンスターの効果を無効化して相手の場に出しても良い

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

「リバーストラップだなんてまるで自分自身のことのようですね」

「どちらかというとボクはトラップだよ」

 ドゥイさんは男装イケメン女子という秘密を抱えております。フェイバリットカードにリバーストラップ(男性にしか見えない女性)という名前のカードを選んだのは、偶然でしょうか。

 

 アームの9ターン目ですわ。 

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト7邪神海竜タスワ」

「自らの手札を減らすなんてヤケを起こしたのですかね」

「相手に手札交換をさせてトラップを無くすことが目的だったようですね」

「邪神海竜プレイヤーアタック。ターンエンド」

 ドゥイ:ライフ10→3

 

 ドゥイさんの9ターン目ですわね。

「ボクの美しさには勝利の女神もくぎ付けさ。ドロー。チャージ。コスト4でヨティス・プログラム召喚。合計コスト6でアタッチメント:ハイパーインターフェイス、ジェットナイフ、デッキからリーンマジカ発動」

 

 コスト2 アタッチメント:ハイパーインターフェイス、ジェットナイフ、リーンマジカ

 効果:オートビルダーキャノンの下に送る

      このカードが下にあるオートビルダーキャノンは以下の効果を得る(ここまで共通)

 

 ハイパーインターフェイス 

 ・1ターンに1度コストを払いデッキ墓地からアタッチメントまたはトラップカードを発動できる。

 ジェットナイフ

 ・相手ターン中にトラップカードの効果を発動した場合相手に1ダメージ

 リーンマジカ

 ・相手ターン開始時にこのカードの下のアタッチメントカードの枚数分コストゾーンのカードを使用可能状態にする

 

 リーンマジカの効果で6コスト使えますね。

 

 アームの10ターン目ですね。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。邪神海竜プレイヤーアタック」

「コスト2でベアートラップ発動。惜しかったね。しかし勝利への貪欲さは伝わってきた。ボクの次に輝ける人間を目指してほしい」

「リアクション。コスト3で鉄を食らうナノマシン。場の武装カードを全て破壊させてもらうよ。でもボクだけはこのカードの効果を受けない」

「…ターンエンド」

 

 5 魔法 鉄を食らうナノマシン 属性:メカニカル

   効果:リアクション。場の武装カードを全て破壊する

 

 ドゥイさんの10ターン目ですわね。

「ドロー。チャージ。リバーストラップの効果で邪神海竜復活。デッキからコスト5でパンジストライクトラップを発動するボク! そしてパンジストライクトラップを回収してターンエンド」

 

 5 魔法 パンジストライクトラップ 属性:メカニカル

   効果:相手プレイヤーに2ダメージ

 

 そしてそのままアームはトラップで痛めつけられたのでした。

「ふふふ。邪神を祀る建物作るのを止めてもらおうかな」   

「まだライフ1残っていますのに」

「攻撃をすればライフが0になる。手札の数は可能性の数と言うけれど、デッキもライフもない。だから勝ち目もないんだよ。ただひたすら手札加速をして逃げてきたけどどうやらここで君も終わりだ」

「コスト2ハンドチェンジ」

 

 2 魔法 ハンドチェンジ 属性:魚

   効果:自分の方が手札が多いなら相手は手札が同じ枚数になるようにドローする。

      そして自分は相手がドローした枚数分手札をデッキに戻す

 

「なんでそんなトピア・クアじゃなんの役にも立たなさそうなカードを入れているんですかね?」

「5枚目のサハギン・リチュアルとしての採用かと思われます」

「そういうことでしたか」

 ドゥイさんはデッキを引ききって負けました。



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16 ドッペルゲンガー

 私はメイドさんと邪神アームとお茶をしていました。

「このコーヒーおいしゅうございますね。香りと酸味がすごいです」

「ラヘスロ」

「豆はゼイバルトラジャですから。良いもの使っていますから。まあそれはそれとしてコーヒーは苦いものですよ」

 実際私も嗜みだから飲んでいるだけですので。

 

 トゥスル王子様とミツドさんがやってきました。

「ア、アンガーボルド」

「この人はミツドさん。アンガーボルトではないです」

「お嬢様、この方はどなたです?」

「邪神に詳しい方ですわ。このように邪神語の勉強」

 そういうことにしておいた方が都合よいですわ。

 

 雷が落ちてきました。

「アンガーボルト?」

 雷が落ちた先には赤ら顔で髭面で小柄なおじさんがいた。

「アーム……ウガアアアアアアア」

「よくわからないけど怒ってそうなのは間違いない」

 三の邪神 アンガーボルトは傲慢故に怒りっぽくて常に怒っているのです。

 

 ただ叫んで怒っているだけですね。

「人の家で何しているんですか。王子の御前ですよ」

「邪神にその理屈は通じないと思います。邪神に通じる理屈はただ一つ。カードのみです」

「でもおかしいですね。アンガーボルトがあそこにいるはずがないのですれど」

 十年前にお父様が遺跡を壊したときアンガーボルトが解放されました。そしてアンガーボルトは力を蓄えるために己をほぼ抑えたままとある人間に取り憑きました。

 

 憑依したアンガーボルトはミツドさんの別人格となったのです。

「ヲンサフヘス、ヒミロナ、ドッペルゲンガー」

「まさかこの間のドゥイさんの訪問と何かあるのでしょうか。しかし自分の信奉者に報いないなんてアームの言う通り趣味が悪い」

 名前から分かる通りドッペルゲンガーは他者の姿をコピー出来ます。化ける力と言うのは恐ろしいですね。

 

 ドッペルゲンガーは背の高い人間になりました。

「マズイですわ!」

 ドッペルゲンガーはあっという間にトゥスル王子を気絶させて人質にします。

「ホワウィニンゲンラノスリミナセツオシソタスナ」

「人質を取っておいて化けるなんて卑怯とほざくのですか」

 どの口が言っているんですかね。

 

 二の邪神 ドッペルゲンガーはこういうところがあるんですよね。

「ミツドさん、あの人は貴方とのデュエルを望んでいるようです。ズタボロにしておきましょうね」

「言われなくても」

 ミツドさんはユナイツカードを見せました。

 

 デュエルが始まりました。しかし互いに3ターン目まで動きがなくドッペルゲンガーの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4オリハルコスゴーレムタスワ。ターンエンド」

 白色の金属巨人が現れました

 

 4 モンスター オリハルコスゴーレム 属性:メカニカル

   効果:出現:攻撃不能状態で場に出る

      ターンブレイク

   攻撃力:6 防御力:4 ライフ:1

 

「オリハルコスゴーレム…ステータス高いだけのデメリットアタッカーか」

「オリハルコスゴーレム、これこそ邪神 ドッペルゲンガーのエースカードです。ドッペルゲンガーはデメリットのあるアタッカーを活かす構築をしているのです」

 しかし下準備もしていないのになぜオリハルコスゴーレムを出したのでしょうか。

 

 ミツドさんの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で磁力魔導師を召喚してそのままオリハルコスゴーレムに攻撃。破壊してターンエンド」

「敵は何かを隠しています。気を付けてください」

 ドッペルゲンガーの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5リサイクルワールド。ターンエンド」

 

 5 魔法 リサイクルワールド 属性:メカニカル

   効果:設置      

      1ターンに1度コストを払って墓地からコスト5以下のモンスターを召喚できる

 

 ミツドさんの6ターン目です。

「気味が悪いね。ドロー。チャージ。コスト4で預言者ヨティス召喚。磁力魔導師でプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。ダメージビルダー」

 

 5 魔法 ダメージビルダー 属性:メカニカル

   効果:攻撃によってダメージを受けたら、受けたダメージとおなじ数値のコストの設置を持つ魔法カードを場に置く

 

「ジャミングフィールド。ターンエンド」

 

 5 魔法 ジャミングフィールド 属性:メカニカル

   効果:設置。自分の場のモンスターの効果は無効化される。

 

「おなじ数値という微妙に使いにくいカードを使いこなしやがりましたね」

「しかも範囲も微妙に狭いですし、カード自体もレアですから考慮していなくても仕方ないですの」

 ジャミングフィールドも普通なら使いませんしね。

 

 ドッペルゲンガーの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4ビルドアンドビルド。コスト2自動帰還ダイナマイトロボタスワ」

 2本脚が生えたダイナマイトの束が現れました。

 

 6 魔法 ビルドアンドビルド 属性:メカニカル

   効果:自分の場の設置を持つ魔法カードの枚数分コストを減らす。

      3枚ドローする。

 

 2 モンスター 自動帰還ダイナマイトロボ 属性:メカニカル

   効果:攻撃後このカードを破壊し、自分のモンスターとプレイヤーに4ダメージを与える。

   攻撃力:4 防御力:0 ライフ:1

 

「ターンエンド」

「誘導が効いていますわね」

「誘導が強すぎますね」

 ジャミングフィールドが相手の場も対象なら負けていましたね。

 

 ミツドさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でエンシェントリリー召喚。コスト4でヘリオスの太陽魔術を発動」

 

 5 魔法 ヘリオスの太陽魔術 属性:魔法使い

   効果:リアクション

      2枚ドローして、自分のライフを1回復する

   説明:賢者ヘリオスの遺した魔法の1つ。その魔術は癒やしと知略をもたらす

 

「磁力魔導師でプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。ヒーリングエナジー」

 

 5 魔法 ヒーリングエナジー 属性:メカニカル

   効果:アクションストライク。ダメージを受けるかわりにその数値分相手プレイヤーのライフを回復する

 

 ミツド:ライフ11→16

「躱されましたね」

「エンシェントリリーの効果でヘリオスの太陽魔術を加えてターンエンド」

 今のところ凄く有利ですね。

 

 ドッペルゲンガーの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4気まぐれタレットタスワ」

 首のすわってないタレットが現れました。

 

 4 モンスター 気まぐれタレット 属性:メカニカル

   効果:攻撃するときサイコロを3回振る。一度でも違う数字を出した場合このカードはデッキの一番下に戻る

   攻撃力:6 防御力:0 ライフ:1

 

「コスト3ジャミングワールド」

 

 3 魔法 ジャミングワールド 属性:メカニカル

   効果:ジャミングフィールドの上に設置

      自分の場のモンスターの効果は無効化される

      自分のターン中相手モンスターの効果も無効化される

 

「エセネスハノ、ルリタロヘユナ」

「面倒を避けたいならこんなところに攻めない方が良かったのでは?」

「ハサスロタスケシヲウ」

 酷い言われようですね。Fワードを三回も言われましたよ。

 

 気まぐれタレットが磁力魔導師を打ち倒していました。

「シフトも意味がなくなっている……一撃で倒れるのも仕方がないのか」

「自動帰還ダイナマイトロボプレイヤーアタック。ターンエンド」

 自動帰還ダイナマイトロボはミツドさんをキックしました。

 

 ミツド:ライフ16→12

 

「ライフの上では有利ですよ。しまっていきましょう」

「とは言いますけれども、オリハルコスゴーレム出せますし次のターンまでなんとかしないと負けますよね」

 ミツドさん集中していますし、多分なにか対策しているでしょう。

 

 ミツドさんの8ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト4でヘリオスの太陽魔術発動。エンシェントリリーの効果でヘリオスの太陽魔術で手札に加える。コスト3でマジカルハンマーを武装して気まぐれタレットを攻撃。破壊してターンエンド」

 ミツドさんは1mのハンマーを軽々と振り回します。

 

 4 武装 マジカルハンマー 属性:魔導書、魔法使い

   効果:このターン中魔法カードを使用した回数分攻撃回数を増やす。この効果は1ターンに2度発動できる。

      このターン魔法カードを使用した回数分武装コストを1減らす

      このカードは3回攻撃したターンの終了時に破壊する

   攻撃力:3 防御力:0 

 

「武装カードはジャミングワールドの効果を受けませんからね」

「それにライフを回復して後のことにも備えました」

 うまいこと刺さりましたね。

 

 ドッペルゲンガーの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5オリハルコスゴーレムタスワ。オリハルコスゴーレム、プレイヤーアタック」

「アクションストライク。ミラージュ」

 

 2 魔法 ミラージュ 属性:魔導書

   効果:アクションストライク。攻撃を無効化する。

      このカードは自分の場に属性:魔法使いのモンスターがいなければ使えない

 

「自動帰還ダイナマイトロボプレイヤーアタック。ターンエンド」

 ミツド:ライフ13→9

 

 ミツドさんの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。エンシェントリリーの効果でヘリオスの太陽魔術を回収し、コスト4でヘリオスの太陽魔術発動。マジカルハンマーでプレイヤーと自動帰還ダイナマイトロボに攻撃」

「ムヌッ」

「しかし次のターンが怖いですね。オリハルコスゴーレム2体で試合が終わりますからね」

 ドッペルゲンガーの口角が上がったのを確かに見ました。

 

 ドッペルゲンガー:ライフ10→7

 

 ドッペルゲンガーの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4ビルドアンドビルド。コスト4オリハルコスゴーレムタスワ。オリハルコスゴーレムプレイヤーアタック」

「アクションストライク。コスト4ハーフエンド」

 

 5 魔法 ハーフエンド 属性:魔法使い

   効果:ターンを終了する。5ダメージ以上受けているターン中以下の効果を得る

      相手ターンにも発動できる

      ストレンジ:0

 

 ミツド:ライフ9→3

 

「オリハルコスゴーレムの防御4が雑に刺さってますね」

 オリハルコスゴーレムさえどうにかできればいいんですけどね。

 

 ミツドさんの10ターン目です。

「ドロー。チャージ。エンシェントリリーの効果でヘリオスの太陽魔術を回収し、コスト4でヘリオスの太陽魔術発動。コスト4でヘカーテの月魔術発動」

「アンガーボルトテ、ヌシツスホヒメタスナ」

「アンガーボルトもこれで終わりだなんて。私はそんなの嫌ですよ」

 ミツドさんの目は諦めていません。

 

 ミツドさんのハンマーが唸る。

「マジカルハンマーでプレイヤーに3回攻撃を行う」

「別にモンスターを倒さなくてもプレイヤーには攻撃出来ますからね」

 まあそうですけど少しガッカリ感です。

 

 マジカルハンマーはドッペルゲンガーを3回も殴打しました。

「しかし3回も攻撃すれば砂煙が結構舞いますね」

 砂煙が晴れました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッペルゲンガー:ライフ7→1

 ミツド:ライフ3→6

 

 ネチネチとしぶといですね。

「……アクションストライク。ヒーリングエナジー」

「ターンエンド」

「ホヲロホヲロ。ニンゲンラヲツノアミウ」

「人間にしてはやるだなんて……随分と上から目線ですね」

 邪神の中でも卑劣な存在だからこそでしょうね。

 

 ドッペルゲンガーの10ターン目です。

「キヒワトスミ。ドッペルゲンガーハツトツスイミヌネワユクスシロ」

「その弱すぎる相手に苦戦してるくせに、敵であることすら無礼とほざくのですね」

「……さすが邪神。凄い傲慢」

「ラストターン。ドロー。チャージ。コスト2自動帰還ダイナマイトロボタスワ。自動帰還ダイナマイトロボ、オリハルコスゴーレム、プレイヤーアタック」

 モンスターが消失しました。

 

 ドッペルゲンガーはミツドさんにピストルを向けます。

「ルスヌノヲセツスネハカスセ! ヲウ!」

「ヌウェワナユデュエルレスカスセラロロアヘスシ」

「デュエルの事前に言っておけば殺害も容認するのですか。恐ろしいですね」

 倫理観が違いすぎるから邪神として封印されたんですけどね。

 

 アームがドッペルゲンガーの右腕をつかみました。ここからでも骨のきしむ音が聞こえますね。

「ニンゲンノホケニトノスモム、ロタキハタスナ」

「ヘニシ。ヌウェワヨス」

 ドッペルゲンガーはアームの殺意に冷や汗をかいて消えました。

 

 邪神はやはり危険ですね。

「私に勝ったのに殺さないのは何故なんでしょうかね」

「ヲンキハユロカロ」

「将来性……ですか。そういうことなら強くなるように頑張らないといけませんね」

「そうですね。あと一歩のところで相手を追い詰めたとしても弱かったら負けますから」

 完全に運負けだと思いますが、今のミツドさんは運負けじゃなくて実力負けだと思ってそうですね。

 

 変装して罪を擦り付けようとした人が決闘強いなんてなんか嫌です。

「兎にも角にも実力はつけなければいけません。お互いに頑張りましょうね」

「精進しましょう」

 次またこんなことがあっても勝ちたいですね。



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17 邪神としては弱く

 室内で雷に打たれたという怪事件を耳に入れました。

「それで被害者は男性の叫び声を聞いてから、カードをバラまいた状態で倒れたということですね」

 落ちているカードはミラージュやヨティス等マジカルランドのカードばかりですね。

 

 邪神 アンガーボルトの仕業ですね。

「気絶こそしているものの体は無傷なんです。ところでなぜメッセル財閥のお嬢様がこのようなところに?」

「高級品持っているのに子供の目につくところに置いているのっておかしいじゃないですか」

 本当は雷に打たれたのに無傷で、撃たれる直前に男性の叫び声を聞くという現象に心当たりがあったからなんですけどね。

 

 1、2,3の順番で来るなんて邪神も律儀ですわ。

「この現象の正体は邪神アンガーボルトが生贄を求めたからです」

「邪神に詳しい人がいうと説得力が違いますね」

「それで被害者の名前は?」

「ト・クセイレイ男爵です。まあよくいる貧乏貴族です」

「カネトルスさんの部下ですね。ありがとうございます」

 余計奇妙です。

 

 でもおかしいですね。

「邪神が生贄にする法則性に当てはまらないんですよね」

「なぜ法則性を理解しているのですか?」

「よく勉強していますから。それにお金持ちなので入る情報も多いのです」

 六の邪神と七の邪神という例外はありますが、地球語で名前に対応した数字が入っていると邪神の生贄になるのですよね。

 

 ラウィラニ家なんかそこら辺露骨です。ラウィラニは邪神語で二の贄なので、法則性を理解してやってそうと言いますかなんと言いますか。

「適切ではあるがカードを持っていない生贄が見つかった時邪神はカードを渡すので一見法則性に当てはまっているように見えますが、今回の被害者は適切な生贄ではありません」

 これは何らかの罠……かもしれませんね。

 

 このままここにいるのは皆さんを巻き込むので危険ですわ。

「準男爵の適合しているユナイツカードを教えてください」

「適合しているユナイツカードはフォレスターです」

「ありがとうございました」

 私は現場から去りました。

 

 路地裏に行きますと目の前に雷が落ちてきました。

「ケケケケケ」

 いつの間にかにたにたと不気味に笑う黒猫やカラスに取り囲まれていますね。出入り口も岩でふさがれますし。

 

 黒猫やカラスはさび付いたロボットのような動きをして灰になりました。

「アンガーボルトではありませんね。名前はとっくに出ているのに結構焦らすじゃないですか」

 こんな真似が出来るのは四の邪神 アブゾーブだけですね。

 

 武者鎧を着た髭面イケオジが現れました。

「この見た目は五の邪神 ワイドレイムのそれです。まさかアブゾーブがワイドレイムの姿とアンガーボルトの見た目を吸収したのでは」

 六の邪神と七の邪神という例外はありますが、各邪神には人柱につき一つの能力があります。(アームの腕が太い、ドッペルゲンガーの姿をコピーする等)

 

 アブゾーブは名前通り決闘で完膚なきまでに倒した相手のすべてを吸収して使えるのです。

「しかし同格の存在にそんなことできるとは思えないんですよね。アブゾーブは邪神の中でも決闘の腕は最弱。同期は分かりませんが、二人して私を騙そうとしているんですね」

 という設定があるのです。まあ『プライムディスティニー』本編でも一番弱いので、半ば事実なんですけどね。

 

 偽アブゾーブは青筋を立てています。

「いい顔してるね。聞かなかったことにしてあげるからボクのコレクションに加えてあげようか」

「アブゾーブでしたかごめんなさい。それにしても邪神様が選んでくださるなんて光栄でございますね。光栄ではありますが辞退させていただきます」

 アブゾーブは邪神で唯一人間語を話すという特徴があります。やはりアブゾーブでしたか。

 

 アブゾーブは青いチャイナ服の中性的な見た目になりました。

「この姿がボクの本当の姿」

「偽物じゃなかったんですね。ところでなぜアンガーボルトとワイドレイムの力を使えているのですか? 最弱の邪神である貴女が、他の邪神を倒せるとは思えないのですが。煽っているわけではなくて本当に疑問なのですがなぜそのようなことを?」

 アブゾーブはユナイツカードを取り出します。

 

 出入り口もふさがれていますし逃げられません。

「いろいろ言ってすみませんでした。どうせ逃げられないと思いまして煽らせていただきました」

「ニンゲンヌスネストヘス……ヌウェワ」

 決闘が開始されました。言い過ぎましたねこれは。

 

 アブゾーブの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3ZPANG 瀬唄の異鳥翠タスワ。サーチ、ZPANG 黄金象」

「ZPANG……ライフと攻撃力が統一されたモンスターを中心にしたテーマですね」

 金の指輪をつけて緑色の着物を着た長いひげのおじいさんが現れました。

 

 3 モンスター ZPANG 背歌の異鳥翠 属性:ニンジャ

   効果:出現:攻撃力とライフが同じ数値でかつ攻撃力が2ではないモンスターをデッキから手札に加える

      攻撃力:1 防御力:2 ライフ:1

 

 でもおかしいですね。アブゾーブの適合ユナイツカードはマジカルランドなので属性ニンジャのZPANGは使えないはずなのですが……あやしいですわね。しかもZPANG自体中ボスのミエハール子爵の使用テーマなので邪神の使うものではないですね。

 

 ミエハール子爵はカネトルスさんの幼馴染であり友人……カネトルスさんのぶかが襲われたことと言い何かありますね。

「瀬唄の異鳥翠プレイヤーアタック」

 ソウコ:ライフ10→9

 

 私の3ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト2でワンジャ、コスト1でクノイチを召喚してターンエンドです」

 盤面は順調ですね。

 

 アブゾーブの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4忍法サオトサキの術。ターンエンド」

 私の4ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3で能面の舞姫を召喚いたしますわ。能面の舞姫で相手プレイヤーに攻撃いたします」

「アクションストライク。忍法 空蝉の術」

「ターンエンド」

 旨い事躱されましたわね。

 

 アブゾーブの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2ZPANG 黄金犀、コスト3ZPANG 黄金象タスワ。ターンエンド」

 金の犀と象が現れました。

 

 2 モンスター ZPANG 黄金犀 属性:ニンジャ

   効果:攻撃力とライフが同じ数値のモンスターの召喚コストを1減らす。

      下記の効果は1ターンに1度発動できる。

      ・ZPANGモンスターが場に出たら2枚ドローする。

      攻撃力:1 防御力:0 ライフ:1

 

 4 モンスター ZPANG 黄金象 属性:ニンジャ

   効果:攻撃力とライフが同じ数値のモンスターの防御力は元々の攻撃力分上がる

      攻撃力:1 防御力:3 ライフ:1

 

「ZPANGフルアタック」

「ここまで露骨ですと絶対に何かがありますね」

 ソウコ:ライフ9→6

 

 私の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5で私の愛のカード 鬼武者を召喚します。鬼武者で全てのモンスターに攻撃します」

「めんどくさ。アクションストライク。ZPANG 触星の徐杏」

 金のネックレスを首にかけたお坊さんが現れて手札に戻ります。

 

 4 モンスター ZPANG 触星の徐杏 属性:ニンジャ

   効果:ZPANG 触星の徐杏の効果は1ターンに1度発動できる。

      自分の場に攻撃力とライフが同じ数値のモンスターがいる場合手札のこのカードはアクションストライクを得る

      出現:このカードと攻撃している相手モンスター1体を手札に戻す。         

      攻撃力:1 防御力:3 ライフ:1

 

「む。鬼武者もいつの間にか消えていますね。能面の舞姫でZPANG 黄金犀に攻撃してターンエンドです」

 難しい状況ですね。まあこれほどの実力者でなければ私が困りますからね。

 

 アブゾーブの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6LostCityZPANG発動」

 辺り一面が黄金に染まりました。

 

 6 魔法 LostCityZPANG 属性:ニンジャ

   効果:設置。攻撃力とライフが同じ数値のモンスターは攻撃されない。そして相手のカードの効果を受けない。

 

「正しく黄金の耐性。ターンエンド」

「黄金は平等に利益をもたらします。ところで何でいま攻撃しなかったんですか」

「お前ごとき舐めプしても倒せる」

 甘く見られましたね。

 

 私の6ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト4忍法サオトサキの術発動です。コスト3で妖刀ムラマサを武装してプレイヤーに攻撃して、ターンエンドです」

 アブゾーブ:ライフ10→7

 

 アブゾーブの7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5鬼武者タスワ」

「そう言えば鬼武者も攻撃力とライフが同じ数値でしたね……。もしかして鬼武者でピッタリライフを削りたかったから攻撃しなかったんですか?」

 敵にすると威圧感が半端ないですね。唯一の欠点が解消されたモンスターは怖いですよ。

「よくわかったな。鬼武者、オールモンスターアタック」

 幻のツチノコに刀が振り下ろされます。

 

 ワンジャでなくて良かったですわ。

「アクションストライク。識痛の呪術」

 幻のツチノコがバラバラになる。

「ワンジャアタック」

「アクションストライク。忍法誘惑の術。LostCityZPANGの効果によりクノイチは攻撃されないため、攻撃は中断されます」

 クノイチは金色となり、鬼武者の攻撃を弾きました。

 

 LostCityZPANGは相手のモンスターにも攻撃されない効果を与えますからね。それにLostCityZPANGは相手のカードではありますが、効果受けない処理と受ける処理がループして効果耐性も付与されますし。

「テキストの書き方からは分かりませんが誘惑の術自体はプレイヤーに与える効果ですからね」

「ターンエンド」

 旨い事利用できて良かったです。

 

 私の7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。鬼武者と妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃します」

「ぐぇええ」

 アブゾーブ:ライフ7→0

 

 アブゾーブが老け顔のわし鼻でくたびれた黄土色のスーツ姿の男性になりました。

「よくもだましてくれましたね。邪神がこんなにあっさり倒れるわけないじゃないですか」

「うるさい。庶民のガキが!」

「友情を利用して幼馴染にお金を借り、暴力で踏み倒そうとするミエハール子爵よりはマシだと思いますよ」

 ミエハール子爵は明らかに怒っています。

 

 ミエハール子爵が中ボスとなった経緯はミエハール子爵が何年もお金を返さないことにキレたカネトルスさんが主人公を倒せば借金チャラにするという温情によるものなんですよね。

 

 しかもミエハール子爵の借金の理由は自分が贅沢するためなのです。

「あなたが現場にマジカルランドのカードをばらまいたのは犯人をかく乱するため。おおかた借金取りにきたクセイレイ男爵を始末した証拠を消そうと思ったのでしょうね」

「庶民の癖に頭が回る……」

「しかしアンガーボルトやワイドレイムみたいなことがなぜできたのか分からないので、うぐぇ」

 私の手は自らを締め付けていました。

 

 なんですかこれ。

「あの男は呪術や催眠術で己の身を焼いただけだ。私は悪くない。お前が催眠術で幻を見て自らの首を絞めたところで、ただの怪事件なのだ」

「催眠術や呪術でここまでやれないですけどね。どんなトリックを使ったのですか?」

 催眠術や呪術でこんなことできるなら催眠術や呪術の先生はいないですよね。

 

 ミエハール子爵が倒れました。

「ボクがこいつに力を貸したから。邪神の加護さえあればこのくらいは楽勝だもんね」

 青いチャイナ服を着た中性的な人が現れました。

 

 青いチャイナ服を着た中性的な人が、倒れたミエハール子爵に座ります。

「ボクは四の邪神 アブゾーブ。コイツはニンゲンの限界を確かめるための実験道具」

 私が持っている『プライムディスティニー』本編の知識はこれからあまり当てに出来ないことを悟りました。

 

 しかしなんでこんなことを。

「それからボクを最弱の邪神と言ったことは気にしてないよ。事実だから」

「しっかり根に持っているじゃないですか。そんなことよりもなんでこんなことを……」

「最弱の地位から抜け出すためにはニンゲンを知ることが大切だと思ってるから」

 アブゾーブはさらに深く座ります。

 

 アブゾーブは立ち上がってミエハール子爵を蹴り転がしました。

「他のバカどもはそれをせずニンゲンを見下してるんだから話にならないよね。生贄にも手を出してないもん。2に至ってはちょうどいいのがいるのにね」

 本能的な恐怖が私の全身を走る。

 

 逃げたいけれど足がすくみます。

「今度こそマズいかもですね」

「お前は1とも知り合いみたいだしサンプルとしてはお前の方がいいか。実験道具は見張っててね」

 アブゾーブはユナイツカードを見せました。



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19 凄腕弁護士暗殺者

 ボクは隠れ家でご飯を食べていた。

「アブゾーブ様、今回のことは……その……相手の運が強かっただけで」

「イツ、そのことは言わないでくれる?」

「ごめんなさい」

 イツは前髪で目の隠れたニンゲンのメスだ。ニンゲン基準ではジョウダマとかいうのらしく、この隠れ家の盗賊に捕らえられていたのだ。

 

 ボクが気紛れに盗賊をボコボコにしたらなんか懐いた。

「アブゾーブ様、なんか来る」

 ドアが飛んできた。

「危ないなあ」

 ドアをチョップで叩き落とす。

 

 ドアのあった場所からデカい人間が入ってきた。

「筋骨隆々、黒のシルクハット、黒のコート、黒のズボン、白いペストマスクに弁護士バッジ。この見た目の人間は世界に一人しかいない」

「探せば結構いると思うよ」

「私は凄腕弁護士 クローガー・シロニー。アグロ・メッセル氏に依頼されてここにやってきた」

 デカニンゲンは白い手袋をつける。

 

 デカニンゲンがパンチをしたのでカウンターキックを叩き込む。

「私がなぜ依頼主の名前を言ったのか。それはよほど頭が悪くなければ分かるだろう」

「分からないね」

「それなら少し自分語りをさせてもらう。凄腕というのはカードが強い事と、弁護した人間を逆転無罪とした事と、見た目通り凄い腕であることのトリプルミーニングということを教えよう」

 つまらない事を言う。

 

 抜け出せない。見た目通り力が強いな。

「ニンゲンごときがボクに触れるな」

「上位種気取りは地獄でやっていろ!」

 デカニンゲンによって地面に叩き付けらる。

 

 その衝撃を利用して跳ね上がり、顎にキックをぶち込んだ。

「所詮人間ごとき顎にキックをぶち込めば気絶する」

「私にそんなものが効くはずがないと何度言ったら分かるのだ」

 デカニンゲンの拳が降りてくる。

 

 床に落ちた元ドアの端っこを踏んで、シーソーみたいにドアを立てる。

「無駄な真似をするな」

 ドアはデカニンゲンによって引きちぎられた。

「どんなバカ力してるんだ。これはニンゲンかどうか怪しいね」

 デカニンゲンのパンチをいなす。

 

 窓の枠を取ってデカニンゲンにぶつけた。

「危ない奴だな」

 窓の枠が投げられたので蹴り返して、小麦粉の入った袋を取ってから窓のあったところから抜け出す。

 

 イツを窓から出してデカニンゲンに小麦粉の入った袋をぶつけた。

「そんな小細工は効かない。が、しかしこれで終わ、動きが止まった。呪眼か」

「私の呪眼は動きを止める呪いをかける」

「呪いをかける眼を持つ人種……絶滅寸前まで追い込まれたというのに珍しい」

 初めて見るイツの瞳は金色に光っていた。

 

 イツは荒く息を吐く。

「結構体力持っていかれるので、私を見捨ててお逃げください」

「逃げるわけには行かなくなった。イツを見捨てたら後悔するだろうからね」

「アブゾーブ様……」

 呪いをかける眼を持つニンゲン……研究対象に相応しい。

 

 ユナイツカードを取り出す。

「このまま埒が明かない格闘をするよりもカードで決着を付けた方がスマートだと思うよ」

「勝てないから不戦勝したカスにしては殊勝な心掛けだ」

 デカニンゲンのユナイツカードはフォレスターか。

 

 デカニンゲンの先攻か。

「でも2ターン目まで動かなかったな」

「3ターン目だな。ドロー。チャージ。コスト2で魔獣侵攻を発動してターンエンド」

 

 2 魔法 魔獣侵攻 属性:ビースト

   効果:設置。以下の効果は属性:ビーストのモンスターを召喚した場合に1ターンに1度だけ発動できる。

      デッキからそのモンスターよりコストの低い属性:ビーストのモンスターを手札に加える。

 

 ボクの3ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でスライジュエリーを召喚。ターンエンド」

 デカニンゲンの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で魔獣召喚。スケープシープをサーチしてコスト2でスケープシープを召喚。効果を発動してターンエンド」

 羊が魔獣を毛玉の中に閉じ込めて2枚のカードを出す。徹底的にアドバンテージを稼ぐつもりか。

 

 2 モンスター スケープシープ 属性:ビースト

   効果:出現:コスト3以上の属性:ビーストのモンスターを破壊して2枚ドローする

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 ボクの4ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2で魔力吸収式バリア発動。スライジュエリーでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 デカニンゲンの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6でユニコーン召喚。ペガサスを手札に加えて聖獣ユニコーンでスライジュエリーに攻撃」

 

 6 モンスター ユニコーン 属性:ビースト、フェアリー

   効果:貫通

   攻撃力:4 防御力:0 ライフ:6

 

 ユニコーンがスライジュエリーを角で刺すと、スライジュエリーはユニコーンの耳と口から侵入した。

「スライジュエリーの効果によりユニコーンを乗っ取る。あれれもしかして一流の癖にボクのデッキのことを聞いていなかったのかな?」

「このままではまずい。やられてしまう。スケープシープでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 順調だぞ。

 

 ボクの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4で預言者ヨティス召喚。ユニコーンでスケープシープに攻撃してターンエンド」

「このままでは次のターン攻撃されてしまう。とてもマズい」

「それが神とニンゲンの差だよ」

 そもそも弱くなければ暴力に訴えないかぁ。

 

 デカニンゲンの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で死毒蟲召喚」

 

 3 モンスター 死毒蟲 属性:インセクト

   効果:モンスターがこのモンスターとの戦闘によってダメージを受けた場合、相手はそのモンスターを墓地に送らなければならない

      攻撃0のモンスターと戦闘を行う場合以下の効果を得る

      ・戦闘ダメージを受けない

      ・貫通

   説明:針を肌に突き刺して1滴で戦意無き者の体を腐らせる毒を注入する

   攻撃力:1 防御力:1 ライフ:2

 

「死毒蟲でユニコーンに攻撃。ターンエンド。危なかった。入れておいて良かった」

 ユニコーンはいつの間にデカニンゲンの墓地に戻っていた。

「そう来たかぁ」

 死毒蟲……面倒なカードだ。

 

 ボクの6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3で魔法の教科書武装。ターンエンド」

「アブゾーブ様すごいです。手札を整えました」

 どさくさ召喚術も引けたし結構嬉しいね。

 

 デカニンゲンの7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でペガサス召喚。魔獣を手札に加えてコスト3で魔獣召喚」

 

 5 モンスター ペガサス 属性:ビースト、フェアリー

   効果:1ターンに1度コストを払って墓地から属性:ビーストのモンスターを召喚できる。この効果はコストを2払って発動できる

   攻撃力:4 防御力:0 ライフ:4

 

「ペガサスと魔獣でプレイヤーに攻撃。ターンエンド。魔法の教科書の防御力に助けられたな」

「合計4ダメージも減ったことになるもんね」

 防御力2が働いたね。

 

 アブゾーブ:ライフ10→7

 

 ボクの7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6知恵の魔術発動。魔法の教科書で回収してターンエンド」

「そんなでは私に倒されてしまうぞ。そうかそういうことか。お前は自ら首を差し出す殊勝なヤツだったか」

「まだ勝ったわけでもないのに何を抜かしてるんだ」

 手札も整ったし、ここから勝てないわけがない。

 

 デカニンゲンの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2とコスト6で墓地からユニコーン復活。ライカンスロープを手札に加え、コスト2でライカンスロープ召喚。ライカンスロープの効果発動。スケープシープを破壊する」

 

 2 モンスター ライカンスロープ 属性:ビースト

   効果:出現:コスト2以下の属性:ビーストのモンスターを破壊してこのカードを使用済み状態でコストゾーンに送る

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

「ユニコーンで攻撃」

「アクションストライク。マジックシールド」

「魔法発動。聖なる笛の音」

 心地の良い音色が響く。

 

 5 魔法 聖なる笛の音 属性:ビースト、フェアリー

   効果:このターンの終わりまで相手の発動したカード1枚の効果を無効化する

      ・自分の場にユニコーンとペガサスが存在する場合以下の効果を得る。

      ・ストレンジ:0

      ・さらに互いに1枚ドローする

 

 魔力の盾が崩れた。

「マジックシールドが消えた……」

「大量のコストを用意して一気に押しつぶす。基本にして王道にして最強」

 

 アブゾーブ:ライフ7→3

 

 一気に追い込まれた……

「ニンゲンの癖にボクを追い詰めやがって。ムカつくムカつくムカつく」

「そうか。なら怒りを抱いたまま永久に眠れ。やれっペガサス」

 ペガサスはいなないた。

 

 ペガサスが走ってくる。

「アクションストライク。マジックシールド」

「無駄に耐えるなんてな。もう一度4ダメージ受けたいのか」

 ユニコーンの角に貫かれたダメージがキツイ。このままでは負けてしまう。

 

 二度も人間に負けるなんてボクには耐えられない!

「最期の時をゆっくりと嚙み締めろ。ターンエンドだ」

「そんなことないもん。アブゾーブ様は絶対勝つから」

 凄いプレッシャーを感じる。

 

 ボクの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でスライジュエリー召喚。そしてコスト4でリフレクトアーマー発動。ユニコーンを選ぶ」

 

 4 魔法 リフレクトアーマー 属性:魔導書

   効果:アクションストライク。モンスター一体を選ぶ。

      そのモンスターはターン終了時まで防御力が2上がり反撃を得る

 

 スライジュエリーはユニコーンに突っ込んでまたしても乗っ取った。

「ユニコーンで死毒蟲に攻撃。洗脳諜報を発動してマジックシールドを回収してからターンエンド」

 

 10 魔法 洗脳諜報 属性:使い魔

    効果:3枚ドローする

       ・自分の場に元々の持ち主が相手のモンスターが存在する場合以下の効果を得る。

       ・ストレンジ:0

 

 デカニンゲンの9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。お前はここで終わりのようだな。コスト6でユニコーン召喚。魔獣をサーチしてプレイヤーに攻撃」

「ボクには魔力吸収式バリアがついているから、ダメージ受けないんだよねぇ。とうとう血迷った?」

「ハアアア。コスト5で魔法発動。聖獣槍。相手のカード1枚の効果を無効化する」

 ユニコーンの角が肥大化して黒い槍になる。

 

 5 魔法 聖獣槍 属性:ビースト、フェアリー

   効果:自分の場にユニコーンとペガサスが存在する場合以下の効果を得る。

      ・このターンの終わりまで相手の場のカード1枚の効果を無効化する

 

「ユニコーンの角が……」

「お前は知っているだろうが、闘気を高めれば実体化した攻撃の威力がより高くなる。ユニコーンの角がどこかしらに刺さればお前は二度と動けまい」

「危ないです!」

 イツが前に出てきて庇う。

 

 この程度の身体的ダメージは生贄抹殺して不死身なボクにとって問題ないが、ニンゲンなら確実に死ぬだろう。

「邪魔だ! アクションストライク。マジックシールド」

「あわわ」

 イツを振り払って攻撃から守る。呪眼を無駄に失うのは惜しいもん。

 

 アブゾーブ:ライフ3→1

 

 ペガサスが突撃していく。

「お涙頂戴はいらない。ペガサスでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。マジックシールド」

「もう1枚引いていたのか。油汚れのようにしぶといんだな。ターンエンド」

「いうに事欠いてボクを油汚れ扱いするなんて」

 ここから逆転するか。

 

 ボクの9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でどさくさ召喚術発動。スケープシープとスライジュエリーを召喚。コスト4でリフレクトアーマー発動。相手のユニコーンを選ぶ。スライジュエリーでユニコーンの攻撃して乗っ取る」

「ユニコーンを2体従えたか」

「ユニコーンでペガサス粉砕。もう一体のユニコーンでプレイヤーに攻撃。マジックシールドを回収してターンエンド」

 次のターンまで何もなければボクの勝ち。

 

 クローガー:ライフ10→6

 

 デカニンゲンの10ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でワーム・レセプション発動。コスト6で死毒蟲を2体召喚。二体のユニコーンに死毒蟲で攻撃。魔獣さえあればお前を……いたな。コスト3で魔獣召喚してそのままプレイヤーに攻撃」

「マジックシールド」

「ターンエンド」

 仮面の下のイラつきが見て取れる。

 

 ボクの10ターン目だ。

「ドロー……よし。チャージ。コスト5で魔法の雷発動。そして魔法の教科書で魔法の雷を回収……」

「まさかこんなせこい手に負けるなんて」

「ちょっと動かないでくれるかな。コスト5でまた魔法の雷を発動する」

 闘気を高めて魔法の雷を落とす。

 

 クローガー:ライフ6→0

 

 決闘の影響が消える。

「クローガー・シロニー……決闘続行不可能により邪神アブゾーブの勝利」

「正々堂々勝ったのにそんないい方しなくてもいいでしょ」

「前回負けた手段で今回勝てて良かったねお姉ちゃん」

「神よ、人の体を借りてイヤミなこと言わないでくれる」

 デカニンゲンの火傷が消えた。

 

 デカニンゲンはユナイツカードを構える。

「あの聖なる力は……人間が使えるユナイツカードは一種類しかないはずなのに」

「闇のユナイツカード アビスと光のユナイツカード ヘブンズの場合は別だよ」

 デカニンゲンの出したカードはヘブンズだった。

 

 スナイパーはシステムを通して憑依する能力がある。

「システムの力を自分のために使っちゃだめでしょ。だってお前カードの」

「この場では六の邪神 スナイパーだからセーフだよ」

 イツが何もかも分からないと言いたげにあたりを見る。

「六と七の邪神はいないことになってるし、ニンゲンごときには過ぎた情報だから説明不足気味なのかもね」

 いるって知られるとマズいんだろうね。



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20 カードの神

 決闘が始まりボクの先攻だ。

「でも3ターン目まで互いに動きなしだね」

「私の4ターン目だよ。お姉ちゃん。ドロー。チャージ。コスト3で聖殿発動。ターンエンド」

「邪神だのなんだの言っていましたが、どういうことですかアブゾーブ様」

「それはコイツを締めてからにするね」

 この手札……どうするかな。

 

 ボクの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2で魔力吸収式バリア発動。ターンエンド」

 スナイパーの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2でアイギス武装」

「弟を騙しボクたちを出し抜いてこの世界の神となった狡猾な奴にしては慎重な手つきだな」

「お姉ちゃんは黙ってて。ターンエンド」

 スナイパーは明らかにイラついている。

 

 ボクの6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でスライジュエリー召喚。スライジュエリーで攻撃してターンエンド」

 知恵の魔術もあるし手札不足も解消出来そう。

 

 スナイパーの6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚。コスト2で翼の使徒を召喚してターンエンド」

「お前の正体ベラベラ喋っちゃうかもしれないのに、そんなスローペースで良いのかな?」

 まあスナイパーに取り憑かれた奴が、急にカードの神に選ばれた奴しか使えないモン使えるようになった時点で察せるよね。

 

 ……よく考えてみれば、答えを知ってるから導き出せる結論かもねこれ。ニンゲンにとってはありえないことだもん。

「うるさいよ。お姉ちゃんたちみたいなバカと違って私は色々考えているの」

「何か知らないけどアブゾーブ様を愚弄するなんて許さない!」

「早速信者を得ているんだね。弱いから得られるかどうか心配だったんだよ」

 そこのところはスナイパーには十枚も二十枚も劣ることは認めざるを得ない。

 

 それとなくヒントをだそう。

「スナイパーは別名義で一杯信者稼いでるよね。それこそ世界中にいるし」

「な、何のことかな私は知らないな。さ、お姉ちゃんのターンだよ」

「怪しすぎる。明らかに何か隠している」

 情報が足りなかったみたいだね。ニンゲンを買いかぶりすぎていたか。

 

 ボクの7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6で知恵の魔術発動。ターンエンド」

 スナイパーの7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でアポカリプス・ワン発動。コスト4でアポカリプス・ツー発動。ターンエンド」

「数百年単位で引きこもってるからか、しびれを切らさないね。そんなに兄妹の中で一番弱いのが怖いのかな?」

「その手には乗らないもん。お姉ちゃんそういうの得意だもんね」

 残念だな。

 

 ボクの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でヨティス召喚してから、さらにコスト4でスライジュエリー モルガナイト召喚。ターンエンド」

「お姉ちゃんこそ相変わらず他人任せのスタイルなんだね。そんなんだから弱いんだよ」

「事実として受け入れているけど気にしていることを言わないでもらえるかな」

「そんなことありません。アブゾーブ様は最強です」

 弱くさえなければあのバカども抹殺できるのになぁ

 

 スナイパーの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でアポカリプス・スリーを発動して、コストを1減らしてコスト4で災厄の明星を召喚。ターンエンド」

「スライジュエリーが破壊された……」

「しかも災厄の明星の効果でスライジュエリーも召喚出来ないんだよね」

「なんでそんなピンポイントメタカード入れてるんだ」

「偶然だよぅ。身内メタなんてせこい真似するわけないでしょ。現にしなくても勝てるくらいお姉ちゃんは弱そうだもんね」

 幸い災厄の明星自体もコスト4だから死んだが、それはそれとしてキツイ。

 

 ボクの9ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でスライジュエリー モルガナイト召喚。墓地のスライジュエリーを場に出してターンエンド」

「攻撃力が低いってとても辛いねぇ。だって私にかすり傷一つつけられないんだもん」

「ほざけ。どうせボクには勝てない」

 どうせ切り札出す準備してるんだからそのまんま利用した方がいい。焦らず待てば勝てる。

 

 スナイパーの9ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でアポカリプス・フォーを発動してからのコスト5でアポカリプス・ファイブを発動してターンエンド」

「やってることがせこいですね。本当はアブゾーブ様のことが大好きなんでしょうか」

「突飛な発想だぁ。ニンゲンって理解不能なところがあるよね」

「ニンゲンの突飛な発想力は邪神を越えうる道筋の一つだと思ってる。こういうこと言っても不思議じゃない」

 今のはボクにも分からなかった。

 

 スナイパーはため息をつく。

「まあそんなことよりも、あと1ターンで私をどうにか出来なかったらお姉ちゃんの負けだよ」

「弱いからってなめやがって。そんなわけないだろう」

 何なんだコイツ。

 

 ボクの10ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6で知恵の魔術発動」

 相互破壊と魔法の雷と魔法の教科書か。

 

 相互破壊はコスト払って使えるけど、魔力吸収式バリアも持ってかれる上にスナイパーの場にはめぼしいカードもないから邪魔だね。

「そしてコスト3で魔法の教科書を武装して知恵の魔術を回収してターンエンド。手札には魔法の雷がある。これで毎ターン2ダメージずつ与えれば5ターン後には勝てる。楽な決闘だったね」

「気の長い話ですこと。それとも妹に情でも湧いたのかな。それとも世界を変えることにビビッて芋引いているのかな?」

「確実な勝利を狙って何が悪いんですか」

 スナイパーは鼻で笑う。

 

 スナイパーの10ターン目。

「ドロー。チャージ。デッキからコスト2でアバドンを召喚」

 

 666 モンスター アバドン 属性:エンジェリオ

     効果:このカードは攻撃出来ず、効果を無効化されず、コストを支払わずに召喚できず、このカードの召喚コストは軽減しない。 

     ・自分の場のアバドンの使徒1体を選ぶ。

      選んだモンスターのターンブレイクはアーマードレインとなる

     ・アバドンの使徒の召喚コストは3となる

   攻撃力:1 防御力:100 ライフ:99

 

「何ガッツリルール違反してんのさ。そんなんじゃ立場上示しがつかないよ」

「ルール違反したらシステムによって決闘が強制終了するんだけどね」

「でもシステム弄れるよね。そうでなきゃ軽減効果を受けないモンスターの召喚コストを664も軽減してなにも起こらないわけがない」

「アポカリプス・ファイブの効果によりコスト2で召喚できるようになってるから大丈夫なの。()()()()コストを2払って召喚したのに文句言われる筋合いはないよ」

 なにいってんだこいつ。

 

 イツも首をかしげている。

「アポカリプス・ファイブの効果で召喚コストが666か2か選べるようになってるから、2を選んで召喚しただけ。ヘブンズ使い襲っていれば分かるようなことだから、そんな驚くようなことでもないのに」

「ヘブンズ使いが珍しくてそんな機会無くてもおかしくないことなんて、お前が一番わかっていることなんじゃないかな?」

 スナイパーは舌打ちした。

 

 スナイパーが乱暴にカードを叩きつけると気味の悪いモンスター6匹が現れた。

「コスト9でアバドンを3体召喚。アポカリプス・ファイブの効果でデッキや墓地や手札からもアバドンを召喚できる」

「なんだよその反則カード。さすがやることが違うねえ」

「発動にターンがかかる上に、魔法除去を1発でも打たれたら全てが瓦解するっていう致命的な弱点があるのに、なんでそこまで言われなくちゃいけないの」

「何も知らないのに適切な行動が出来るわけがないだろ」

 知恵の魔術で魔法除去できるカードは引けていたんだ。コスト2の相互破壊で発動も出来たんだ。ただ大したことがないだろうと高をくくって魔法の教科書を装備しただけなんだ。

 

 だって今まであのカードは1回だけしか妨害していないんだから。それに相互破壊は自分の場の設置を持つ魔法カードを破壊しなければ相手の魔法も破壊できない。魔力吸収式バリアを捨てる発想も勇気もなかった。

 

 だからなんだ。苦労して攻撃力の高いモンスターいっぱい出しただけだよね。むしろカモでしょ。

「なんでそんなボロクソに言われなきゃいけないんだ」

「あ、今なんで実力が自分よりもある相手を侮っていたんだって思ったでしょ」

 思ってないけど油断してくれるならその方がいいから言わないことにする。

 

 やっぱ忙しい立場だから色々あるんだろうな。過労は万物をおかしくさせてしまう。

「敢えて答えるなら、お姉ちゃんが弱い理由はドロー運ないせいで弱いのに、そういう変な侮り癖で勝てる試合も逃しちゃったからだよ。こういう必死こいて揃える系のカードはだいたい強いって相場が決まってるんだから」

「まだアブゾーブ様は負けていない!」

「まあ何もかも知らない状況で最適な行動をしろって言われても無理だよね。アバドンの効果でアバドンの使徒を一体選んでターンエンド」

 いいぞいいぞ。侮ってくれればやりやすい。

 

 ボクの11ターン目。

「というかなんで負けてもないのにグチグチ言われなきゃいけないんだ。むしろ攻撃力の高いモンスターがいっぱい出るということはカモと言うこと、むしろ勝ちやすくなった」

「ドロー。チャージ。コスト6で知恵の魔術発動。コスト4でラビットクロック召喚。スライジュエリーを攻撃済み状態にしてラビットクロックにターンブレイクを与える。ターンエンド」

「あれれ。アポカリプス・ファイブ破壊しないんだね。ま、攻撃力高いの次々湧いてくるカードをみすみす潰すわけないよね」

 何を言っているんだ。

 

 スナイパーの11ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でアバドンの使徒を召喚。アバドンの使徒一体を選んでアーマードレインを与える。アバドンの使徒でスライジュエリーに攻撃」

「スライジュエリーにコントロールを奪い取られると知ってるくせに」

「問題ないよ。アバドンの使徒2体でアバドンの使徒に攻撃」

「そういうやり方があったわけだ。だからそんなに焦っていなかったのか」

「ご名答。よくわかったね。コスト3でアバドンの使徒を召喚。ターンエンド」

 1体倒すのに2体使ってるようでは余裕だね。

 

 ボクの12ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でスライジュエリー召喚。コスト5で魔法の雷を発動し、魔法の教科書で回収する。ラビットクロックの効果をスライジュエリーに使用してターンエンド」

 スナイパー:ライフ9→8

 

 スナイパーの12ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でカリス。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚。アバドンの使徒一体を選んでアーマードレインを与えてターンエンド」

「サキュバス召喚すればよかったなあ」

 ボクの13ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4で武装解除発動。コスト5で魔法の雷。魔法の教科書の効果で魔法の雷を回収して、ターンエンド」

 スナイパー:ライフ8→5

 

 スナイパーの13ターン目。

「ドロー。チャージ。アバドンの使徒一体を選んでアーマードレインを与えるね。そしてコスト5で百王の生誕発動。スライジュエリーの効果を無効化する」

「魔力吸収式バリアの効果があるから無効化しても意味ないよ」

「お姉ちゃんはせっかちね。アバドンの使徒一体でプレイヤーに攻撃。そしてコスト5で百王の生誕発動。魔力吸収式バリアの効果を無効化するよ」

 アブゾーブ:ライフ9→5

 

 2枚持っていたか。

「さすがに3枚も4枚もあるってことはないだろうし、次のターンで終わりだね」

 ハーフエンドも手札にあるもんね。

 

 次のターンが楽しみだねえ。

「アバドンの使徒一体でプレイヤーに攻撃」

 アブゾーブ:ライフ5→1

「リアクション。ハーフエンド」

「百王の生誕をもう一度発動。今度はコスト0だね。アバドンの使徒一体でプレイヤーに攻撃」

 アブゾーブ:ライフ1→0

 

 まずい。負けた。

「お姉ちゃんは封印するね。負けたんだから仕方がない」

「それは私が許さない」

 イツがボクを庇う。

「どいてね。邪神はこの世界とニンゲンにとっては害毒そのものなんだから。私だって辛いけどこの世界のために分かってね」

「分からない!」

 スナイパーの動きが止まる。

 

 スナイパーは舌打ちした。

「呪眼かぁ。まあ世界のシステムにもうちょい数が必要だから見逃してあげる」

「うるさい! 自分だって邪神なのにアブゾーブ様だけ封印するなんてズルい」

「私は良いの!」

「ああ。コイツはいいんだよ。だってスナイパーはカードの神だからね」

「なんでばらすのさ……本当はお姉ちゃんを封印する予定だったけど、動けないから手出しも出来ないし今日はここまでかな」

 スナイパーは糸が切れた操り人



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21 散苦

 勉強をしていると不法侵入されました。

「誰ですか」

 イケオジ鎧武者……邪神 ワイドレイムですね。

 

 しかしワイドレイムは邪神の中では比較的まともな存在のハズなのでこんなことしなさそうなんですよね。

「いきなりですね」

「あわわ。ひえー」

 家庭教師には逃げられます。そんなに命が惜しいのですか。

 

 しかしなんでいきなり……

「ヘニシ」

「……ハミカニ」

「ニンゲンは下等だからわざわざ訪ねても良いかどうかお伺いをする必要もなしってことですね。邪神を相手にするのは些か危険ですがやるしかなさそうです」

「ヌウェワ」

 私は急いでユナイツカードを構え、ワイドレイムは刀を抜いて切っ先をこちらに向けました。

 

 本当は怖いですが平気なフリしましょうね。 

「そう来るなんて~ソウコちゃんビックリしちゃった~」

「似合わないことするものじゃありませんね」

 メイドさんが天井から出てきて、ワイドレイムに着地しました。

 

 メイドさんはワイドレイムの刀を避けながら空中で回転して、ワイドレイムに飛び蹴りをかますと、椅子を投げました。

「ニンゲンが俺を足蹴にしたな(ヘスホシモイヲリスラヲタナ)

「足蹴にされても仕方がない事されたので、我慢してください」

「言っている場合ですか。早く逃げますよ」

 メイドさんに手を引かれて部屋を出ていきました。

 

 ワイドレイムはドアを左右真っ二つに切って追いかけてきます。

「ヌウェワ ヌウェワ」

「殺意満開と言うことはわかりますね。ではこれで決着をつけましょう。アームさん出てきてください」

 メイドさんは懐から干し肉を出して宙に放りました。

 

 アームが現れて干し肉を一口で食べます。

「ニンゲンに餌付けされたか(ラニソスリルチタヘ)衰えたな姉上(ホネウェニタヘイウハニキ)

「本当ですよ。いつの間に餌付けしていたんですか?」

「邪神もこちらの力にすれば役に立つと思いまして予め餌付けしておきました。邪神の大きな力を使ってやろうという発想はラウィラニ家から得たものです」

「スゴイ胆力ですね。私には思いつけない発想です」

 私には手なずけるなんて発想浮かばないと思いますよ。仮にもエンドコンテンツのボスキャラですからね。

 

 アームはユナイツカードを構えました。

「ヌウェワ」

 ワイドレイムもユナイツカードを構えました。すると私達は半透明な壁の中に閉じ込められました。

 

 ワイドレイムの先攻です。そして互いに軽減モンスターを出して、ワイドレイムの3ターン目になりました。

「ドロー。チャージ。コスト3イジャロコロガシ。ターンエンド」

「墓地にクノイチを落としましたね。後で回天の術で召喚するつもりでしょうか」

 本編では入れていないので恐らく手札にきたので捨てたというところでしょうね。

 

 アームの3ターン目です。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト2セイレーンのハープ。コスト1ドリルサザエ。ターンエンド」

 ワイドレイムの4ターン目です。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト5ヒダル神。ターンエンド」

「ヒダル神ですか。そんな私でも持っていないようなレアカードを……」

 ヒダル神の効果は凄い厄介なんですよね。

 

 6 モンスター ヒダル神 属性:アヤカシ

   効果:相手モンスターの召喚コストを1増やす

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 アームの4ターン目です。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト4 ヨティスのマトウダイ。ターンエンド」

 ワイドレイムの5ターン目です。

老いたな姉上(ホロタナウハニキ)。ドロー。チャージ。コスト3妖刀ムラマサ。プレイヤーアタック。ターンエンド」

 アーム:生命力10→7

 

 アームの5ターン目です。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト5海底邪神剣クスヨハ。海底邪神剣プレイヤーアタック」

「アクションストライク。忍法 空蝉の術」

「ターンエンド」

 もっと攻撃力の高い時に使った方が効果的ですのに。

 

 ワイドレイムの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4 サオトサキの術。ムラマサプレイヤーアタック」

 アーム:生命力7→4

「良いようにやられていますね。仮にも同格の存在に対してなぜこんな一方的な展開を……。姉弟の情ですかね?」

「手札事故とヒダル神で二重に苦しんでいるのだと思われます……」

「それはないと思いますよ。ワイドレイムの邪神としての特性が非常に厄介ですから慎重になっているだけだと思われますが……」

 餌付けされて懐いているから躊躇っているのでしょうか。

 

 アームの6ターン目です。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト4ヨティスのマトウダイ、コスト2サハギンシールド。海底邪神剣プレイヤーアタック。ターンエンド」

「マズいです! 痛みに備えてください」

 ワイドレイム:生命力10→5

 

 全身に痛みが走りました。

「うぐっ。あああああ」

「むっ」

 ドラゴンキングに焼かれた時の方がよっぽど痛かったですね。

 

 私は痛みに慣れているからいいものの、メイドさんはきつそうです。

「いきなり痛くなりましたが一体何なんですかこれは」

「ワイドレイムの邪神としての特性は、邪神以外の周囲の生物に対して自分が受けた損傷を何倍にも増幅させて与えると言ったものなんです」

知らなかった(オユナンソタ)……上手く隠したな(ハケチヘチヲタナ)

 知らなっただなんて適当ですね。

 

 そもそも教えられてとしても自分には効かないから覚えていなかったのでしょうね。

強さゆえに関心ないのが仇となる(ソキルサニラヘセヲセナロヘスイタスネナミ)しかし(ヲヘヲ)ニンゲンに情が湧くとは予想外だ(ラヘセヲセヘスヒチナセツキヨハヘスロタス)

 湧いているのは情じゃなくて欲だと思うんですけど。

 

 ワイドレイムの7ターン目ですね。

「ドロー。チャージ。コスト6 鬼武者。鬼武者、サハギンシールドアタック」

「アクションストライク。シャークパニック!」

 巨大なサメの頭部が鬼武者を驚かせて尻餅をつかせた。

 

 2 魔法 シャークパニック! 属性:魚

   効果:自分の場に属性:魚のモンスターがいる場合このカードは以下の効果を得る。

      ・アクションストライク。相手の攻撃を無効化する

 

 いいところで止めましたね。

「ムラマササハギンシールドアタック。ターンエンド」

「鬼武者で場が壊滅することを嫌いましたか」

 誘導も上手い具合に効いていますし、逆転の可能性も十分ありますね。

 

 アームの7ターン目です。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト7邪神海竜」

有り難い(イメヘスタロ)テフダカソク」

「コスト0サハギンスラッシャー。邪神海竜鬼武者アタック」

「アクションストライク。識痛の呪術」

「サハギンスラッシャープレイヤーアタック」

 ワイドレイム:生命力5→3

 

 私たちを気にせず上手くやれていますね。

「このまま攻撃すれば勝てますよ。今がチャンスです」

「海底邪神剣プレイヤー……」

とどめをさせば(ネネスエモルカノス)……死ぬかもな(ヲムヘテナ)

 決闘ではどう工夫しても絶対に肉体にダメージが発生します。

 

 その肉体へのダメージを何倍にもして相手を倒そうというのです。

「お嬢様はガードによる肉体的負担を増幅させる方法を理解しているのですよね。でしたらその逆のことをすれば」

「闘気が高ければ高いほど肉体に与えるダメージは増幅しますが、闘気を薄めればダメージが減る……と言う訳ではないのです」

「そういうものなのですか。相手も邪神らしく中々卑劣な戦法を取ってきますね」

 まさか私たちが人質にされるなんて。

 

 一定以上の距離を取ればこの特性の餌食になりませんが、半透明な壁で一定以上距離を取れないようになっています。

「ターンエン……」

「どうせ今日中に死ぬのなら今死んでもこの後死んでも同じことですよ」

「メイドさん……何を言っているのでしょうか?」

「アームが勝てば私達はほぼ確実に首が無くなると思いますよ。撃退するために足蹴にしてしまいましたので怒りは買っていますしね。そして攻撃すればショック死するかもしれません。どちらにせよ死ぬのですから私達に人質としての価値は無いのです」

 何を分かりきったことをと言いたげな顔をしています。

 

 凄く合理的な考え方ですね。

「言われてみればそうなんですけどね。もうちょっと言い方とかなんというかがあると思いますよ」

「こうでも言わなければ攻撃を躊躇ってしまいそうですので。餌付けさせすぎて懐かれすぎた弊害です」

 こんな痛み受けるの初めてでしょうに冷静ですね。冷静すぎて怖いですわ。

 

 アームはハッとしたような顔をしました。

「海底邪神剣プレイヤーアタック」

「アクションストライク。賄賂」

「伝説級のレアカードですね……」

 知恵の魔術とか邪神海竜とか邪神はこの手のレアカードを持っているんですよね。

 

 4 魔法 賄賂 属性:サムライ

   効果:自分の場に属性:サムライのカードがある場合このカードはアクションストライクを得る

      次の相手ターン終了時まで相手のカード1枚の効果を無効にする。

      その後相手は無効化されたカードのコストの数だけデッキの上のカードを見てその中から1枚手札に加えても良い

 

 人質にしたのはアクションストライクがないと思わせるための罠だったのですね。あのタイミングでのあの発言はアクションストライクがないと思いますよ。

「海底邪神剣、効果無効!」

「効果で攻撃力を上げているので、効果無効にされると辛いんですよね」

「デッキ5マイ……サハギンシールドサーチ。ターンエンド」

 賄賂は属性:サムライの武装でもアクションストライク化するので、レアカードでさえ無ければ4枚買っていたと思います。

 

 ワイドレイムの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4忍法 サオトサキの術。コスト1クノイチ。コスト2 ハナビキャノン。ヒダル神、サハギンシールド破壊」

「厄介なサハギンシールドを除去しましたか」

「ムラマサプレイヤーアタック」

「アクションストライク。マーメイドバブル。サハギンシールド」

「クノイチサハギンシールドアタック。ターンエンド」

 サハギンシールドは再びムラマサを弾きました。

 

 アームの8ターン目ですね。

「ヒシハターン。ドロー。チャージ。コスト1サハギンフィッシャーマン」

 

 2 モンスター サハギンフィッシャーマン 属性:マーフォーク

   効果:出現:自分の墓地の攻撃力2以下の属性:魚のモンスターを手札に戻す

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:1

 

「コスト3ヨティスのマトウダイ。3マイドロー。コスト4マレンティの謀略」

 

 4 魔法 マレンティの謀略 属性:マーフォーク

   効果:自分のモンスター二体と相手のモンスター一体を手札に戻す

      このカードはルール上サハギンカードとして扱う

 

「サハギンスラッシャー、サハギンフィッシャーマン、ワンジャバウンス」

「これで手札は10枚ですね」

「邪神海竜プレイヤーアタック」

愚かなり姉上(ホウェヘナメウハニキ)。クノイチを忘れたか(モヒワシタへ)。アクションストライク。忍法 誘惑の術」

馬鹿はお前の方だ(ノスヘノオケニウィマハタス)。テフダ10枚コスト0サハギンチェンジ」

 サハギンウェイブ目当てかと思わせておいてのサハギンチェンジですか。

 

 山札の上から5枚が捲られました。

「サオトサキ、ヒダル神、忍法訓練所、座敷わらし、ワンジャですね。魔法は3枚ですか」

「サオトサキ」

 ワイドレイムは山札の上から5枚を見て1枚を手札に加え、誘惑の術をコストゾーンに置きました。

 

 邪神海竜はバランスボールサイズの水弾を放ち、煙を巻き上げました。

「ちょっと待ってください。そんな勢いで攻撃されたら私たち死んでしまいますよ」

愚かなり(ホウェヘナメ)

 ワイドレイムの生命力が0となり、モンスターが消えた。

 

 あれれ。衝撃が伝わって来ただけですね。

「水弾自体は……あまりダメージを与えていないので、振動だけが何倍にもなって伝わったというところですかね」

「肉体へのダメージを振動だけにすることでダメージを抑えたということですね。まさかそういうやり方で肉体への損傷を抑えられるなんて思いませんでしたわ」

『プライムディスティニー』本編ではそんなこと明かされませんでしたし。

 

 ワイドレイムの全身の皮が剥がれて、サングラスとスーツの辮髪の男性になりました。

「ラウィラニ家のために変装をし、欺くために邪神語を学んだが、水で変装が溶けてここまでとなったか」

「猿芝居は止めたほうがいいですよ、ワイドレイムさん。あなたがこういうことをするということは何かしらの事情があったんですよね?」

「邪神なんてみんな同じだと思いますよ。そうでなければ痛みを分け与えるなんて真似しません」

「バレたか。二の兄上に恩人のペットを犬質にされてこんなことしてんだ。悪いとは思うが仕方ねえんだ」

 そういうことでしたか。

 

 半透明な壁が消えた。

「恩人のペットを犬質にされてしまえばどうしようもないですよね。情状酌量です。許しますよ。アームさんもありがとうございました」

「お人良しですねえ」

 ここで許さなかったらまた斬られるかもしれませんか



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22 タンバイズ

 襲撃者から情報を洗いざらい話してもらいました。噓のつけない呪いをかけたので真実味のある情報が段違いに増えましたね。

「あっさり話してくれてよかったですね」

「それでは黒幕のところに行きましょうか」

「お嬢様はアームと大人しくしていてください」

 アームに干し肉の詰まった革袋を渡しました。

 

 お嬢様の顔が凄く行きたそうな顔をしていたので、念のためアームに監視させておきましょう。

「お嬢様が行くのは相手の思うつぼですから」

「そういうことなら仕方がないですわね」

 お嬢様は黒幕がカード強そうだから行きたがったのでしょう。なぜなら黒幕は第二王子 タンバイ様の実力派過激集団(非公式ファン) タンバイズ、実力は確かですから。

 

 私は襲撃者に案内してもらいました。

「ずいぶん簡単に信用してくれるんだな」

「いいえ信用していませんよ。お嬢様を連れて行かなかったのは、私一人ならあなた程度はどうとでもなるからです」

 噓をついていないにしろ信用できないところはありますし。

 

 襲撃者は笑う。

「随分と正直なんだな」

「お褒めいただきありがとうございます。しかしまだタンバイズの支部につかないんですかね」

「そうせかすな。裏切ったことがバレると犬質が危険だからな。見つからないように迂回しているんだ」

 そういうことでしたか。

 

 木の上から服が綺麗な人たちが落ちてきました。

「お前なんで第四王子の婚約者のメイドに手を貸しているんだ。婚約者を怪我させて心を折れって言っただろ。ペットの命が惜しくないのか」

「認めたくはないのですが……これは違うんです」

「何が違うんだ?」

「この人はお嬢様を一歩間違えれば死ぬような状況に陥れた上に、私もこんなところに連れて行ったのです。お父様は第四王子派の中でも有力なので、私をうまく使ってお父様を第二王子派にすれば大手柄ですから」

 こう言えば入れてくれるでしょう。手柄を立てたいのは誰でも同じですから。

 

 服の綺麗な人たちはニヤついています。

「大手柄を建てれば人質を開放するだろうと考えたわけだ」

「まあそうです。因みにこの人は来る途中に口の中を怪我して、喋れないので代理で発言しました」

「いいだろう。入れ」

 あっさり入れてもらえました。あの人たちが単純だったお陰で侵入できました。

 

 純粋かつ前向きな思考に助けられましたね。ここまでうまくいくと罠の可能性がありそうなので一応警戒もしましょう。

「よくもまああそこまでベラベラと嘘をつけるな。4の姉上を見るに弱いと嘘をつけるようになるのか?」

「そうなんです。よく分かりましたね。しかも人間は嘘をつくだけではなく、呪術で食事に惚れ薬を仕込み言うことを聞かせるのもいるとか」

「俺の恩人はそうでないことを祈るぜ」

 御主人様が1度それやられた事があるので、メッセル財閥のメイドの間では有名な手法なんですよね。かくいう私も使ってます。

 

 襲撃者と共に奥に入っていきました。

「洞窟みたいな外見に反して以外と設備がしっかりしていました。天然の湧き水もあり、蒸し風呂も厨房も最新設備で清掃が整っています」

「それがどうしたんだよ」

「こんなに手間もお金もかかる工事をひっそりできる人物がバックにいるということです。第二王子本人からも疎まれているタダの過激派という前提が崩れそうですね」

 徒歩で行けるぐらいの近場で工事をしているなら業者や音などの痕跡が漏れていてもおかしくないはずなのに、何の痕跡もありませんでしたからね。

 

 ……フォークとナイフとお皿を集め終わりました。考察はこれぐらいにしておきましょう。

「武器にすんのか。コソ泥だな」

「証拠品として使えないか一応持っておくだけです。武器にするには心元ありません。それに天に召します神もコソ泥くらい赦してくれますよ」

「俺が言えたことじゃないが神かどうか以前にニンゲンの法に反するだろ」

 タンバイズも公的機関に居場所を探られるとまずいので、盗難などに遭っても被害届を出せないと聞いたことがあります。

 

 あぶり出しの手紙を書いて伝書鳩に括りつけて解放した。

「これであとは人質を解放するだけですね」

「随分スムーズに行ったな。俺の行動は何だったんだ」

「恩人のペットを犬質にされては冷静に動けなくても仕方ありませんよ」

 冷静さを欠く……というのは恐ろしいものです。悪手しか取れない状態になりますからね。

 

 足音が聞こえますね。

「誰が来ます。この人から人質のいる部屋のことを聞き出しましょう」

「自然な流れで酷いことをやる」

 私は天井に張り付きました。

 

 厨房に人が入ってきました。

「お前あのお嬢様ぶっ殺せなかったんだって? そうかそんなにあの犬が大事じゃねえのか。大事じゃねえよな。所詮他人の犬だもんな」

「く……だが、かわりにあの屋敷のメイドをここに連れてきた。なんか分からねえけど、偉い貴族がてめーらの味方になるらしい。それでチャラに出来るかもしれないだろ」

 嘘のつけなくなる呪いは当人が嘘だと思っていないことはたとえ事実に反していても喋ることが出来ます。私の言ったことをそのまま真に受けて曖昧な言い方をしているので呪いにひっかからないんですね。

 

 人は舌打ちしました。

「そうか。それが嘘ってのは分かってて敢えてここにおびき寄せたんだ。喋らないのにどうやって情報知ったんだというツッコミどころがあるからな。犬の無事を保証したければあのメイドを出せ」

「お望み通り出て来ましたよ」

 降りながら、脚で力強く首を締めて気絶と意識がある状態の中間を保たせ続けます。

 

 無抵抗で物を聞くにはこれが一番ですね。

「人質はどこにいるんですか。言え、言いなさい」

「知る……か。死んでも……言わない」

「白を切るぐらいの仲間意識はあるんですね。無駄なことしないでくださいよ」

 更に痛くなるように首を絞める。

 

 更に人の目の前でナイフをちらつかせます。

「わかった。言う、言うから止めろ!」

「怪しいですねえ。嘘ついたらどうなるかわかりますよね。時間効率のために乗せながら犬質のいるところに案内してください」

 嘘のつけない呪いはかけられる側が抵抗すると、書いている途中に大幅にズレて失敗するのでこうして脅しをかけるほうが良い場合もあるんですね。

 

 乗せたまま案内してもらいました。

「何でそんなに手際がいいんだ。手合わせ願いたいな」

「メッセル財閥のメイドは諜報や戦闘の訓練をさせられていますから。私はその中でも優秀なので、お嬢様に直接仕えることができるんですね。手合わせはしません」

「お前みたいな強いニンゲンと手合わせできないとは残念だ」

 私を乗せた人が止まりました。

 

 立派な部屋に毛並みの整った茶毛のポメラニアンがぽつんと一匹。なんとも寂しい光景ですね。

「ぽめのすけ……無事だったか。飼い主のところに帰ろうぜ」

「わふ!」

 ポメラニアンことぽめのすけはワイドレイムに近づく。

 

 ぽめのすけの前に半透明な壁ができて、ぽめのすけが弾かれました。

「わっふん!」

「失敗は失敗だ。犬を解放するわけにはいかねーな」

「正論ですね。自分の命がかかっていても正しいことを貫けるなんて尊敬しますよ」

 私を乗せた人の懐から伝書鳩が出てきました。

 

 伝書鳩に細工が仕掛けられている様子はなさそうですね。

「確かに失敗したけど凄い大手柄になるかもしれねえんだから、酌量ぐらいはしてもいいんじゃねえか?」

「次失敗したら毒ガスをあの犬にぶち込むからな」

「おっとそれはライン越えです」

 人の首を絞めて気絶させました。

 

 襲撃者は舌打ちした。

「気絶させてどうすんだよ」

「壁を壊せばいいと思いますよ」

「そうかそうだな。1回壊し切る前に脅されてるから思いつかなかったぜ」

「そうですか」

 そうでもなければ大人しく他人に従わなさそうですしね。

 

 壁が壊れるとぽめのすけが出てきました。

「それにしても自分の飼っている犬の様子を見に来ないなんて薄情な飼い主ですね」

「まあそう言うな。ぽめのすけの飼い主はこの誘拐事件のせいでやる気とかそういうのが欠落してんだよ。世界が終わってもあそこまで絶望しないだろうなって思ったね」 

「そのような事情があったのですね」

 襲撃者はぽめのすけを抱きかかえます。

 

 私たちはそのまま部屋から出ていきました。

「なんでその犬が解放されているんだ」

「私達を敢えて内部に侵入させ、人質にしようと思った人間が一人しかいなかったからですよ。3人いれば流石に無理でした」 

「理由を説明しろって言ってるのに何ごちゃごちゃと抜かしているんだ」

「凄い後ろ盾はあっても協調性と頭数が欠けている、とストレートに言うのは酷いと思いまして回りくどい言い方をしたのですが」

 服の綺麗な人たちはユナイツカードを出してきましたね。

 

 そして私の7ターン目です。

「魔法の教科書で防御を固めているんだ。しかも生命力は5もある。それに引き換えお前の生命力は1。そんなんじゃ勝てない。次のターン魔法の雷を撃てば生命力を0に出来るから、勝利は確実だなぁ」

「ドロー。チャージ。賢者のバナナの木を発動しまして、コーチの効果でモンスターの効果を封じ、スカウトの効果で攻撃力を1上げます。コスト6でクロオビマスターを召喚し、効果発動。貫通を付与します。あなた達の後ろ盾について話してもらいますよ。私でプレイヤーに攻撃です」

 相手:生命力5→0

 

 モンスターが消えましたね。

「追い込まれたふりしたら油断してくれるなんてありがたいですね」

「そうか。全員の相手をしてもらおうかあ」

「うへえ」

 ユナイツカードを見せつけられました。

 

 次の決闘が始まり、決闘が終わると決闘が始まり、終わる頃には日も暮れていました。いつの間にか襲撃者も消えていますね。

「これ、お嬢様だったら、すっごいだらしない顔で、興奮していましたね。連れてこなくて、正解でした」

「この数を倒すとはなかなかやるじゃねえか」

「もう1か月はカードを見たくありませんね。では早速後ろ盾について聞きましょうか」

 一番強かった人の胸倉をつかんで起こします。

 

 手間かけさせますねえ。

「貴方たちに資金援助しているのはどなたですか?」

「なんのことだよ」

「ここにある設備、全員分のデッキ、バレないように工事をする等々膨大な資金がなければ出来ないことなんですよ。資金の手どころを吐きなさい! さもなくば痛い目を見ますよ」

 強かった人の右腕の関節を外して、噓の付けない呪いをかけた。

 

 右腕の関節を治して伝書鳩を呼び出す。

「言うことをメモして世間に公表するつもりかよ」

「早く情報を吐かないと困るのはそっちなんですよね。私の伝書鳩の報告で、愛国心のあるあなた達を反逆者として逮捕するように仕組めますので」

「命は惜しくないがタンバイ様が不利になるのは惜しい」

 タンバイズの面倒なところはだいたいの場合我欲よりも愛国心があることなんですよね。だから愛国心を煽ればちょろいもんですよ。

 

 強い人はペラペラと喋ってくれました。

「黒幕はシエンス・ニオジーンですか。ニオジーン社の若社長ですね。ご丁寧に領収書までついています」

「ニオジーン社はメッセル財閥によって潰れかけまでいったんだ。恨まれても仕方がないし、邪神をけしかけられても仕方がない」

「あなた達タンバイズのスポンサーになったんですね」

 どちらかと言うと第四王子側であるメッセル財閥を倒したいのは、タンバイズもニオジーン氏も同じですからね

 

 ニオジーン氏も今では御主人様と同じぐらいお金持ちですし、厄介ですね。

「解説ありがとうございます。寝ていてください」

 強い人がいきなり気絶しました。

 

 強い人の背後に老人がいました。

「私に気づかれず、いつの間に……ただものじゃありませんね」

「タンバイズの者じゃよ」

 この老人たたずまいに隙が一つもありませんね。戦えばただではすまないでしょう。

 

 老人は懐からユナイツカードを見せてしまいました。

「今日はもう遅い。続きはまた後日にして仕切り直しとしよう」

「仕切り直しは勘弁ですね」

 老人に向かって煙玉を投げて洞窟から出ました。

 

 すぐさまお嬢様の元に戻って、カード関連以外の今日のことを報告しました。

「全員肉体派で戦うのに手間取っていたわけですか。無事でよかったです」

「ありがとうございます。ところでアームはどこへ?」

「台所でご飯の催促しています。まあご飯にあまりお金かけないのでいくらお替りしても大丈夫と言ったのが効いたんでしょうね」

「そうですか。まあアームがここを気に入ってくれるのはメリットがデカいですね」

 腕っぷしもカードも強いので、御主人様もありがたがると思うんですよね。



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23 でっち上げ神話

 ボクは本屋さんで神話の本を立ち読みする。

「カードの神様追ってきませんね」

「昔から自分が決闘する番になると信者とか弟とかけしかけたりするくらい、

 デッキタイプ見せたくないからね。アイツは昔からそういう奴なの」

「最初から最後まで良いように使われて弟さんがかわいそうですね」

 あんなのが姉でなくて良かったと思うよ。

 

 本をパラパラとめくる。

「かつてこの世界は古の神や魔物がニンゲンを家畜とする世界だった。しかし異界から来たカードの姉弟神がニンゲンに同情し、古の神と魔物の力を石に閉じ込めた。これがカードメタルやカードの根源。まあここは合ってる」

 真実はたまたま見かけたときに、なんか偉そうにしててムカついたから封印しただけなんだけど誤差よ誤差。

 

 この時だけは全員気が合ってた。

「あっているんですね」

「しかし弟が悪神となり5つの眷属 邪神を生み出したというのと、今のカードの神が悪神と邪神を弱らせたとある。ここは徹頭徹尾噓が書かれていて逆に凄いと思うよ」

 スナイパーは何から何まで人任せな奴だもんね。

 

 オスの老ニンゲンがやってきた。

「神話について話していたけれど、神学者なのかい?」

「違うよ。ただなんとなくどんな捏造がされているか気になっただけなんだ」

「な~んての」

 オスの老ニンゲンがボクの首筋にナイフを立てている。

 

 イツはオスの老ニンゲンがナイフを見せびらかしてために動きを止めた。

「カネトルスのところからお前さんの情報は抜き出しとる」

「お前もあのメスニンゲンの差し金だったということかあ」

「その逆であのメスニンゲン……もといソウコ・メッセルをどうにかしたいと思っている。この国にとってあの女とその婚約者は邪魔なんだ。案内するぜ」

 抵抗のできない状態にしておきながら……。言葉も不足してるし正直訳が分からない。

 

 ボクたちは本屋の奥まで連れて行かれた。

「全然話が見えてこなくて不親切なんですけど」

「わしたちは、あの庶民を暗殺し第四王子に婚約者を守れなかったという汚名を着せて王位から遠ざけようと考えている温厚派閥のタンバイズ……タンバイ様支持派じゃ」

「理念が温厚派だとは思えない。もしかして危険派は第四王子とやらに直接やるとか?」

 老ニンゲンは首で肯定した。ニンゲンって弱い癖に同族を傷つけるから手に負えないね。

 

 老ニンゲンは胡坐をかく。

「第四王子の許嫁を暗殺するのに協力してくれほしい」

「断るよ。ニンゲン観察をするうえでそういうのはあんまり役に立たなさそうだもんね。正直言って時間の無駄無駄」

「第四王子の婚約者と言うのがコイツじゃ」

 老ニンゲンは懐から絵を出した。

 

 コイツは……ボクに負けた挙句卑怯だのなんだのほざいたニンゲン!

「そういうことなら言われなくてもぶっ倒しに行ってたのに」

「まさかコイツとこんな因縁があるなんて思いませんでしたね」

「そう。ソイツを暗殺して欲しい。でも決闘をせずに苦しめながら暗殺してほしいのじゃよ」

「なんで決闘しちゃだめなのさ」

「決闘したらお嬢様が招いた客がカードでお嬢様に危害を加えた……つまり全面的にお嬢様が悪いことになるので、第四王子の過失にならず王位継承の座から引きずり下ろせないかもしれないということだ」

 どういう理屈なんだろ。

 

 ニンゲンというのはごちゃごちゃと理屈をこねる。

「まあとにかくとっとと行ってとっとと暗殺して帰ればいいってことね。わかったよ」

「まあそういうことじゃな。物分りがいいと助かるのじゃ」

 いますぐ行くことにする。

 

 ボクをコケにしたニンゲンの元に着いた。

「なんで昼間に行くんですか?」

「夜だと警備とかあるから逆に厳しいということ」

 ボクはミエハールの姿になる。

 

 ミエハール子爵の姿になると通してもらえた。

「お嬢様がミエハール子爵に感謝したいそうです。直接うかがってくれたおかげで出向く暇がなくなりました」

「そうだと思った」

 ミエハールにあのニンゲンの殺害の邪魔をされた。

 

 ということはあのニンゲンにとってミエハールは命の恩人であり、感謝していてもおかしくはないということだからな。

「ところでミエハール様その女の子は」

「呪眼持ちのガキだ」

「呪眼ですか。珍しいですね」

 メイドの表情からは何言ってんだこいつと言う意図を感じられた。

 

 ムカつくけど、あのニンゲンをぶっ殺すまで我慢だ我慢。

「何をねだるか考えておいてくださいね」

「もっとも価値のあるものをねだるつもりだよ」

「そうですか」

 宝石とかねだりそうって思っているんだろうね。

 

 お嬢様の元にたどり着いた。

「少しお待ちを」

「急に干し肉投げてどうしたんでしょうね」

 アームが現れた。

 

 アームは宙の干し肉を食らう。

「干し肉に薬物系の匂いがありますね。おそらく薬物であの人を従えているのだと思われますね」

「クズが。バカに変な薬使いやがって。お前も殺すしかない」

「そんなに怒ることないじゃないですか。御主人様が邪神だったからシンパシー感じているんですか?」

 ニンゲンのくせに邪神を利用するなんて。犬に成り下がったか。

 

 ムカつくなあ。邪神としてはいい気分がしない。

「イツ!」

「呪眼!」

動けねえ(ハヌスリトニ)

「呪眼ってルール無用ですね」

 メイドは舌打ちをする。

 

 布団の膨らみに向かって爆弾を投げ込んで、爆発させた。

「お嬢様!」

「跡形もなく爆死なんて無様な最期だなあ。ヤバいヤツを怒らせちゃいけないってよくわかっただろう?」

「そうですね。その気持ちよくわかりますね」

「誰が跡形もなく爆発したんですかね」

 後ろからあのニンゲンが現れた。

 

 コイツなんで生きていたんだ。

「あ~。またお布団から抜け出していましたね。怪我も治っていないのに無茶ばかりして」

「でも抜け出さなかったら滅茶苦茶危険だったんですよ。なんとなく出歩いていて良かったですね」

 神がかり的な運の良さだな。

 

 あのニンゲンはため息をついた。

「でもミエハール子爵のしたことなので一回ぐらいは許してあげますよ。次はないです」

「何が許すだよ。邪神を犬に成り下がらせておいて。許せないのはこっちだ」

 変身を解いた。

「アブゾーブさんでしたか。家族愛があったなんて意外です。そんなキャラじゃなさそうですもんね」

「こんな情けないヤツより弱いと思われるのが癪なだけだよ」

 惻隠の情なんて一切ない。

 

 アームとメイドが動いた。

「なにっ!?」

「呪眼が持ちませんでした」

「分かりました。私が負けたらあそこの窓から飛び降りてやりますよ」

 ニンゲンがユナイツカードを見せた。

 

 アーム()がいる以上なんかしたらアームに撃退されておじゃんになる。

 

 闘気で殺害した方が効率がいいのでイツにデッキとユナイツカードを投げ渡す。

「分かりました。ユナイツカードはマジカルランドです」

「そんなにその人を信頼しているんですね。書類を使わなければ信頼していなければカードは貸し出せませんのに」

「私はアブゾーブ様の犬ですから」

 ニンゲンは困ったように笑っていた。

 

 なんやかんやでニンゲンの先攻8ターン目。

「ドロー。チャージ。サキュバスで攻撃を強制されているというのは嫌ですね。マスターニンジャの効果で回天の術を手札に加えてそのまま発動します。コスト2でハナビキャノン。マスターニンジャとラビットクロックを破壊します。ターンエンドです」

「お嬢様もサオトキキや舞姫でコスト加速をしつつ相手の生命力を5まで減らしたものの攻撃が禁止されているというのはキツイものがありますね」

 般若の舞姫のコントロールを奪っても割としょっぱい。

 

 イツの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト0で洗脳諜報発動。魔法の教科書で洗脳諜報を回収してもう一度発動」

「条件があるとはいえコスト0で4枚ドローですか」

「コスト4でスライジュエリー モルガナイトを召喚してスライジュエリー復活。コスト4でスワンプマンを召喚してターンエンド」

 

 4 モンスター スワンプマン 属性:使い魔、魔法使い

   効果:1ターンに1度コストを払って墓地から

      コスト5以下の属性:使い魔のモンスターを召喚できる

   攻撃力:0 防御力:5 生命力:1

 

 ニンゲンの9ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト7で墓地からマスターニンジャを召喚してプレイヤーに攻撃」

「こんなことなら般若の舞姫攻撃させておくんだったなあ。アクションストライク。ミラージュ」

「ターンエンドです」

 魔法の教科書によってミラージュを回収できるから無限に防げるわけだ。初めて使う割に結構やる。

 

 イツの9ターン目。

「ドロー。チャージ。魔法の教科書でミラージュを回収します。コスト5で墓地からラビットクロック召喚。ラビットクロックの効果をスライジュエリーに集中させる。ターンエンド」

「スワンプマンって面倒ですねえ」

 スワンプマンから出た泥の塊がラビットクロックになる。

 

 ニンゲンの10ターン目。

「ドロー。チャージ。マスターニンジャの効果でサーチしてコスト4で土遁忍法 生き埋めの術を発動。辻斬り一刀斎とマスターニンジャをコストゾーンに送ります。忍法訓練所でサオトサキの術を回収してコスト4で発動。さらにコスト4で土遁忍法 モグラの術を発動です」

 

 4 魔法 土遁忍法 モグラの術 属性:ニンジャ

   効果:コストゾーンの属性:ニンジャのモンスターを場に出す。

      この時場に出すモンスターはコストゾーンの枚数から4を引いた数より低いコストのモンスターでなければならない

 

 マスターニンジャが地面から出てきた。

「しまった作戦の核が…」

「コレでもうあなたの場に攻撃済み状態のモンスターはいませんね。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。ミラージュ」

「……ターンエンド」

 ニンゲンはニヤニヤしている。

 

 イツの10ターン目。

「そいつの狙いは防御に専念させることで魔法の雷を安定して使わせないつもりだ」

「分かりました。ドロー。チャージ。コスト5で魔法の雷発動です。そして般若の舞姫でプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「攻撃済みのモンスターがいれば取り敢えず安定ですからね」

 ソウコ:生命力10→8

 

 ソウコの11ターン目。

「追い詰められてはいますがデッキの特性をなかなか理解していますし、うまく回せているんですよね。将来有望ではありませんか」

「お前みたいのに褒められてもうれしくないよ」

「そうですか。悪い主人に拾われましたね。ドロー。ファイナルターン。コスト6で鬼武者を召喚します。鬼武者で般若の舞姫に攻撃です」

「ここで防がなきゃやられる。アクションストライク。ミラージュ」

 鬼武者は幻を斬る。

 

 マスターニンジャの攻撃が般若の舞姫を貫いた。

「何がラストターンだよ。削り切れていないくせに」

「コスト2で忍法 分身の術を発動します。そしてそのままプレイヤーに攻撃です。あまりこういうことは言いたくないのですが全員攻撃させていれば勝てていましたよ」

 イツ:生命力5→0

 

 モンスターが消えた。それと同時にアームに掴まれて窓の外になげだされた。それと同時に窓に時限爆弾を投げる。

「失敗したか」

「失敗しました……捨てないでください」

「そんなことよりもあのニンゲンが飛び降りても無事なようにしてたことに怒りを感じているよ」

 思えばメイドが眉一つ動かさなかったよなあ。こうなることが分かっていたのか。

 

 失敗したのでそのまま帰った。

「失敗しましたのじゃな」

「甘言に乗ってしまったのもあるが、ニンゲンなんぞに協力したのが運の尽きだった……と言うところかな」

「それに私が失敗したのもある」

 情けないと思うけど最初から安全ばかり考えているような奴が相手だったことなんて知らなかったしね。

 

 オスの老ニンゲンが殴って来た。

「失敗したら死ななきゃならんな」

「一度の失敗ぐらい見逃してやれよ。まあお前は二度失敗したから次はない」

「それを言えばお前も次はないだろ」

 オスの老ニンゲンを気絶させる。

 

 縛り上げて店頭に置いた。

「見せしめにしてやろうね」

「わあいいアイデアです」

「ニンゲン社会的には悪い事なんだけどね~」

「何もしないくせに偉そうにしている神様と違ってちゃんと天罰与えていますから。これは天罰です」

「そういうもんか」

 まあスナイパーは偉そうだよねえ。

 

 そのまま本と金を貰う。

「第四王子のことが嫌いって言っていたから、あのニンゲンの名前を書いておこう」

「アブゾーブ様は優しいですね」

 オスの老ニンゲンの額に強盗の犯人はソウコメッセルと書いた。

 

 よし。

「この本屋も使えないだろうし、しばらくどこか別の街を拠点にしよう」

「ですね」

 ニンゲンは満足に暮らすためにカネと言うものが必要だから不便だ。



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24 タッグファイト

 私は柄にもなくウズウズしていました。

「駄目ですよお嬢様。タンバイズと戦おうだなんて考えてもらっては困ります」

「分かっております。やむなく仕方ない状況でなければ戦おうだなんて思いませんから。本当に自ら危険に飛び込むのはしません」

「絶対にしないと思うのですが、自らやむなく仕方ない状況を起こさないでくださいませ」

「それは重々承知です」

 まあ半分他人なのにアグロ・メッセルに心配かけるわけにもいかないのですよ。なんか申し訳ないですからね。

 

 1回目は気持ち半分ぐらいにしか自戒出来ませんでしたが、2回目からはもうしないようにしたいなと思うようになったんですね。

「そんなことよりも疑問に思っていることがあるので質問いいですか?」

「何でしょうか」

「私とカード盗賊との戦いを黙認どころか推奨していたのはなぜですか?」

 地味に気になってたんですよね。メイドさんは諜報役にしてソウコ・メッセルのボディカードですから危険な目に合わせるのはおかしいんですよね。

 

 メイドさんは目を反らしました。

「あの連中はお金持ちを避ける習性があることは分かっていました。決闘を挑んでも出なさそうなので、強者と決闘することを諦めてくれると思ったからです。ああなるとは思いませんでした」

「まあそういうことなら仕方ありませんね。ワガママお嬢様の機嫌を損ねる訳にもいきませんから、おおっぴらに否定できなかったのは仕方がないと思います」

「すみません」

 まあだいたい分かって良かったです。

 

 もう一つ聞きたいことがあるのです。

「話は急に変わりますが、タンバイズの事件はシエンス・ニオジーン氏が黒幕だと思うんですよ」

「すごい急ですね。会話下手ですか? それにね証拠がないのに人を疑ってはいけませんよ」

「でも証拠があるんでしょう?」

「はっきり言うと証拠としては弱いんですよ。探っていてもそれらしい情報をゲット出来ないんです」

 メイドさんに耳打ちしました。

 

 メイドさんは干し肉を投げます。なんか変なにおいがしますね。

「その情報の筋は確かなんですか?」

「これで失敗したらカードを全部捨てても良いです」

「どこで手に入れたか言えないけど、ここまでするんだから信用しろと言うことですか?」

「乱暴に言うとそういうことです。話が早い従者がいると幸福ですね」

 今吹き込んだのは『プライムディスティニー』本編の知識です。

 

『プライムディスティニー』本編でマイノネ王子のルートを一番早く迎えられる方法が、ニオジーン氏の情報を掴んで弱みを握り第二王子を蹴落とすことなんですよね。それの予備知識で私も覚えていたのです。

「取り敢えず諜報が上手い人に伝えておいてくださいね」

「わかりました」

 メイドさんが消えます。

 

 窓から侵入者が入って来ました。

「これだけ窓から出入りする人が多いなら、ドアでもつけましょうかね」

「「バ~~~カ。窓にドアつけても意味ないだろ。庶民は学がないなあ」」

「神格や上流階級の方々の行動を分析した結果なので学がないわけではないです」

 侵入者はニオジーン氏の部下のヒトミとゴクウでした。この人たち本編じゃやたら強かったんですよね。

 

 ヒトミとゴクウのコンビネーションは、光と影の如し。トリッキーなんです。

「貴方たちのような強者を仕向けてくださるなんて、ニオジーン氏も私の趣味をわかっていらっしゃる。お父さまと仲良くするためにまず娘の私からですか?」

「「ニオジーン様が下賤な庶民と仲良くするか!」」

「名犬のような忠実さですね」

 この忠実さは凄いです。

 

 レイナさんが部屋に入ってきました。

「でっかい音したけど、どうしたの?」

「ちょうどよかったです。レイナさん手を貸してください」

「よくわかんないけど、分かった。わかりました」

 私たちがユナイツカードを構えますと、ヒトミとゴクウもユナイツカードを構えました。

 

 そうです。今回のルールはタッグルールです。

「「変則ルールのやり方……マイナーだがあるにはある」」

「タッグルールは二人のプレイヤーが一つの場と墓地とコストゾーンと生命力を共有するルールですね。手札やデッキは盤面を左右するプレイヤーはターンごとに入れ替わり、それぞれのデッキを使うといった感じでしょうか」

「「カードのことに関しては勉強家と言われるだけのことはある」」

「よくわかりました!」

 伝わってよかったです。

 

 デッキを調節してからタッグファイトが始まりました。順番はヒトミ→レイナさん→ゴクウ→私ですね。

「タッグファイトはあまり知っている人がいないのでなんだかんだ楽しみですね」

「「生涯最後のタッグファイトになるだろう」」

 無事ではすまないという意味なのでしょうが、希少性ゆえに無事であっても本当に生涯最後になりそうなんですよね。タッグファイト知ってる人あんまいないんです。

 

 なんだかんだで私の後攻4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトキキの術を発動してターンエンド」

 ヒトミの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で働きアリの巣発動。ターンエンド」

 レイナさんの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚。ターンエンド」

 アイギスでの軽減が効きましたね。聖殿もあるし何もかも困りません。

 

 ゴクウの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2で魔獣侵攻発動。コスト2で死毒蟲召喚。ターンエンド」

 アイギスのおかげで攻めているのをやめているのでアイギスさまさまですね。

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でマスターニンジャ召喚。マスターニンジャの効果で分身の術をサーチします。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃、コスト2で忍法分身の術、マスターニンジャに使います」

 マスターニンジャが二人に増えました。

「よほどのことがない限り一撃で決まるワンキルコンボです」

 久しぶりに決められてなんだかんだ気分がいいですね。

 

 マスターニンジャの一撃目は雪の結晶の盾に防がれました。

「いきなり殺してきた……フロストシールド」

「マスターニンジャでプレイヤーに攻撃、ターンエンドです」

 ヒトミ、ゴクウ:生命力10→5

 

 ヒトミの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でフェイタルビースト召喚。魔獣侵攻の効果でペガサスを手札に加えてターンエンド」

 赤い長爪で毛が漆黒な三メートルの獣が現れました。

 

 7 モンスター フェイタルビースト 属性:ビースト

   効果:自分の場のモンスターを2体破壊して攻撃出来る。オールアタック

   説明:その爪は竜の王の鱗さえ切り裂く

   攻撃力:7 防御力:6 ライフ:1

 

「フェイタルビースト……ステータスは間違いなく強いのですが2体倒さないと攻撃できない分安心できる」

「そうではありません。魔獣侵攻と働きアリの巣によってモンスターの補充は出来るのです」

「息ピッタリ、ですね」

 フェイタルビーストは毎ターン使えるなら強いんですよね。そのフェイタルビーストを毎ターン使えるようにするためのコンビネーションなのです。

 

 レイナさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でアポカリプス・ワン発動。コスト4でアポカリプス・ツー発動。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。ライオニックハウンド」

 フェイタルビーストの咆哮に怯んでマスターニンジャが止まる。

 

 4 魔法 ライオニックハウンド 属性:ビースト

   効果:アクションストライク。

      自分の場の属性:ビーストのモンスターを選ぶ。

      このターン中選んだモンスターよりも攻撃力の低いモンスターは攻撃出来ない。

 

「……ターンエンド」

「やっぱり止められちゃいますよね」

 止めなきゃお()()ですからね。

 

 ゴクウの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でグラモグラ召喚。魔獣を手札に加えてコスト3で魔獣を召喚。魔獣とグラモグラでプレイヤーに攻撃」

「リアクション。ハイロゥ!」

「ハイロゥですか。貫通がないと、対処の難しいカードですね」

 外が暗くなり、魔獣とグラモグラが宙で弾かれました。

 

 ゴクウは舌打ちします。

「死毒蟲、とにかく攻撃。どんな手段を使ってるか知らんが無限に攻撃が防がれるわけがない」

「冷静ですね。普通なら焦りそうなものなのですが」

「ハイロゥが…」

 死毒蟲の効果は効果が効かないモンスターにも効くんですよね。プレイヤーに効果耐性はないという隙をつく画期的なカードなのです。

 

 フェイタルビーストはグラモグラと魔獣を糧にしました。

「フェイタルビーストでマスターニンジャに攻撃。破壊。ターンエンド」

 フェイタルビーストはマスターニンジャの貫通に弱いのです。常に冷静ですね。

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト1でクノイチを召喚。コスト5で忍法 回天の術発動。ターンエンドです」

 設置魔法のあと2つ置けますね。

 

 ヒトミの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でペガサス召喚。コスト3でグラモグラ召喚。グラモグラでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 

 レイナ、ソウコ:生命力10→9

 

「倒しても倒しても次々と湧いてくるなんて面倒……ですね」

「一つのカードを活かすコンビネーション、勉強になるのでレイナさんはよく観察しておいてください」

「う、うん分かった」

 珍しい経験は血肉としたとき絶大な滋養となるのです。

 

 レイナさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚。コスト5でワルキューレの誘いを発動してターンエンド」

「噓だろ。こんなあっさり……」

「ペガサスが無ければ割と致命傷でしたね」

 フェイタルビーストが光の粒子となって消えました。

 

 ヒトミの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2と7で墓地からフェイタルビースト召喚。ユニコーンを手札に加えてターンエンド」

「うへえ」

「ステータスの高いカードが毎ターン蘇るのは精神的にキツそうですね。でも折れたらいけませんよ」

「? うん分かりました」

 カードゲームはいかに相手に対して非道なプレイングを通せるかがカギなので、精神を折りにいくのは立派なプレイングなのです。

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2と4でマスターニンジャを召喚。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。フロストシールドッッ!」

「コスト2で忍法分身の術をマスターニンジャに使用します。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃して終わりです」

 マスターニンジャは攻撃したと同時に爆炎になりました。

 

 煙はフェイタルビーストの咆哮によって消えます。

「持っていて良かった。アクションストライク。ライオニックハウンド」

「やったな。これで次のターンも繋げる」

「誘惑の術をサーチしてクノイチでプレイヤーを攻撃してからターンエンドです」

 マズいですねこれ。

 

 ゴクウの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2と3でグラモグラ召喚。コスト5でユニコーン召喚ユニコーンでプレイヤーに攻撃」

「フェイタルビーストは諦めたということですね」

「ユニコーンとグラモグラを糧とし、フェイタルビーストでとどめ」

「アクションストライク。忍法誘惑の術です」

「ターンエンド」

 レイナ、ソウコ:生命力9→5

 

 レイナの7ターン目です。

「コスト8アバドンの使徒を召喚してそのままプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。ライオニックハウンド」

「スペルコンディション。百王の生誕。ライオニックハウンドの効果を無効化します」

 ヒトミ、ゴクウ:生命力5→0

 

 モンスターが消えます。

「「まさかカードの神に選ばれし者を味方に付けるとは。帰るぞ」」

 ヒトミとゴクウは帰りました。

「いきなり来ていきなり変えるなんて忙しい人たちです」

 私の理想はこのように優れて知識のある人間が気軽に訪れるような状況です。

 

 そう思うと代えられてしまったのはかなり惜しいですね。

「パワーカードでゴリ押ししていなければ負けていたかもしれませんね」

「相手はほぼ同じデッキを二人で連携することでスムーズに攻められるようになる強いデッキですからね。テクニックが無ければパワーで何とかするしかないと。カードパワーも立派なタクティクスです」

「スリリングでしたね」

 それにしてもニオジーン氏は私を倒すために頑張っているのですね。

 

 しかし今回もわたしたちが頑張ったお陰でなんとかなりました。

「レイナさんありがとうございました。お陰で勝つことが出来ました」

「いやそんな」

「事実アイギスが無ければ負けていたと思います」

 ニオジーン氏に一歩近づくことが出来た気がしますね。



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25 7%

 私はお父さまにも内緒でニオジーン氏を呼び出しました。

「ニオジーン氏から招待状を貰いましたね。要するにお前が来いということでしょうか」

「ですね。あとさりげなく二日後と言う急激な感じになってます。でも会うことに変わりはないので素直ですわ」

 成り上がり者のガキに来いと言われてくるのは沽券にかかわるんでしょうね。

 

 ニオジーン氏は『プライムディスティニー』本編では物腰柔らかな人でしたのに。

「変われば変わる、と言うことですかね」

「何を当たり前のことを」

「まあそのようなことよりも、アームさんについてきてくれるように頼んできて欲しいんです。ボディーカードとしてちょうどよさそうだし、そこまでいけばお父様も納得するでしょう。あと今回の事情を色々書いてくださいね」

「一旦話してみます」

 メイドさんが鳩の脚に手紙を括りつけて放ちました。

 

 家庭教師の方に勉強を教わっていると数時間後に手紙が帰ってきました。

「少々お待ちください」

 手紙を開いてみます。

「長ったらしく書いてありますが、要するにいいよと言うことですね」

 アームさまさまでございます。

 

 二日が経過してニオジーン氏のいるところにたどり着きました。

「ニオジーン氏のいるところは地方都市なので弾丸スケジュールでしたね」

「ええ。忙しさに死に至るかと思いました。ですがアームのお陰で力仕事がなんとかなったので、幸いでしたね」

 ニオジーン氏の邸宅は凄く大きかったです。

 

 糸目で赤い長髪の青年男性が現れました。

「わたくしプレジデント・ニオジーンの部下のクサリト・ケールでございます」

「どうもこんにちは。私はソウコ・メッセルですわ。こちらの二人はサルゴ令嬢とアームさんです」

「華麗なお嬢様方ですね」

 クサリト・ケールさんは私たちを案内されます。

 

 無事にニオジーン氏の部屋にたどり着きました。

「しかしニオジーン氏がいらっしゃいませんね。人の事を招待した以上すっぽかすのは非常識極まりないのですが」

「おや、失礼私がシエンス・ニオジーンでございます」

「クサリト・ケールさんがニオジーン氏でしたのね。なぜわざわざ偽名を使うような真似を?」 

「愚弄されたらそのまま話し合いをしない予定でしたのでね。何しろ相手はワガママ人間、慎重に人となりを見てみたかったのです」

 本人の前でそんな事をズケズケいいますね。まあ分からないでもないし、気にしていないので評価については無視しましょう。

 

 持参した株券を見せました。

「話し合いをしましょう」

「それならそうと言ってくれれば素直に応じましたのに」

「そうですか。25、14、12。これが株式全てを100とした場合我が一族の財閥の所有株式の割合です。お父様も12を自らの傀儡のような一族の人間に振り分けて渡していて1枚岩なので、余程のことがない限り合法的に一族を崩すことは出来ないのです」

『プライムディスティニー』本編みたいにお父様が裏工作等で社会的信用を失ったり死んだりしない限り安泰ですよ。何せ実質37%を所有してますからね。

 

 しかし人に対して冷酷と言われているアグロ・メッセルも己の妻と娘には甘いという弱点があります。

「まあ財閥ってそういうものだと思いますよ」

「あなたはそれでも我が一族を操ることを諦めず、財閥の株式を19%持っています」

「違いますね。私を陥れたことは間違いありませんが、利益を考えると持っている方がいいという理由です」  

 建前ですね。

 

 私が持っている株式の半分を出しました。

「これが7、お父様に届きますね」

「おお。とても素晴らしい」

「無論タダというわけにはいきませんよ」

「それは重々承知しております。してその条件とは」

 私にとっては失敗したら死ぬ賭けと言うつもりでやっていきます。

 

 ユナイツカードを出しました。

「あなたがユナイツカードで勝てば先程の株式を差し上げましょう。しかしあなたが負けたらタンバイズへの資金援助は止めて貰いますよ」

「タンバイズってあのテロリストのタンバイズか?」

「ええ」

「失礼、言葉が荒くなりましたね。まあ荒くなりましょうとも、非合法的な組織と関わり合いがあるとイチャモンをつけられてしまってはね」

「それはそうですわね。それに関しては謝罪いたします」

 随分と演技派ですねぇ。なにもかも知ってそうなのにまるで何も知らなかったかのように振る舞っています。

 

 私はわざと机に書類を落とします。

「あ、ごめんなさい。落としてしまいましたわ。すみませんね」

「いえ。こ……えっ」

「如何しましたか?」

「何でもありません……」

 ニオジーン氏は青ざめました。

 

 まあそれはそうですよね。タンバイズに資金提供していたことが一目で分かるような資料ですもんね。しかも捏造は一切していません。

「まあしらばっくれるならしらばっくれるで良いんですけどね。ノーリスクハイリターンでお父様を超えられる千載一遇…いや万載一遇のチャンスをむざむざ不意にするだけですから」

「お嬢様、全体的に口が悪うございますよ」

「すみませんでした」

「強引……まあ関わっていました。資金と人材をフルに活用したので仕事よりも辛かったですね」

 ニオジーン氏にとっては、勝てばムカつくやつをボコせる代わりに負けても損はしないという、あまりにも都合良すぎる条件なので裏があると思いますよね。資金援助していたことを公表しなければいいだけですもの。

 

 資金援助の噂が流れてもしらばっくれればいいので、ニオジーン氏にデメリットはありませんわ。

「それにしてもそんな損しかしないような提案をするなんて、そこまでして決闘したいのですね」

「ええ。タンバイズは強いと聞きますから」

「では私が相手しましょう」

 互いのユナイツカードが反応しました。

 

 ニオジーン氏の先攻4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で蟲神召喚。働きアリの巣でドローしてターンエンド」

「来ましたね。ドラゴンキングに並ぶフォレスター2大最強カード」

 白い蛹のような像が現れました。

 

 4 モンスター 蟲神 属性:インセクト

   効果:無敵(このカードは効果を受けない)

      コストを2払って発動する。コストを払い墓地またはデッキから攻撃力3以下の属性:インセクトのモンスターを召喚出来る

   説明:弱く儚いが蟲にとっては神にも等しい

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で忍法 回天の術を発動しまして、般若の舞姫で攻撃です」

「アクションストライク。スパイダーウェブ」

 蟲神から蜘蛛の巣が発射されて般若の舞姫にまきつきました。

 

 4 魔法 スパイダーウェブ 属性:インセクト

   効果:自分の場に属性:インセクトのモンスターが存在する場合アクションストライクを得る。

      攻撃を無効化して1枚ドローする

 

「ターンエンドです」

 スパイダーウェブでしたか。

 

 ニオジーン氏の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2で蟲神の効果を発動。デッキからコスト3の働きバチ召喚。ターンエンド」

 

 3 モンスター 働きバチ 属性:インセクト

   効果:1ターンに1度属性:インセクトのモンスターが場に出た時プレイヤーの生命力を1回復する

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:3

 

「働きバチですか。良いカードですよね」

「このカードのお陰で拾った決闘もいくつかありますからね。幸運の女神と言ったところでしょう」

 働きバチはインセクトメインにするなら取り敢えず入れるカードですからね。

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でイジャロコロガシを召喚しまして、イジャロコロガシと般若の舞姫で攻撃ですわ」

「アクションストライク。シールドラゴン」

「…ターンエンドです」

 墓地のマスターニンジャさえ出すことが出来れば…

 

 ニオジーン氏の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2を払いコスト2でアントを召喚。そしてアントでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 ソウコ:生命力10→8

 

 2 モンスター アント 属性:インセクト

   効果:なし

   攻撃力:2 防御力:0 ライフ:2

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2を払いコスト5で墓地からマスターニンジャを召喚します」

「イジャロコロガシで落としておいたやつですね。手癖が悪うございます」

「お褒めに預かり光栄でございます。マスターニンジャでシールドラゴンに攻撃して破壊です。般若の舞姫でアントに攻撃して破壊します。空蝉の術を手札に加えてターンエンドです」

 蟲神を戦闘破壊したかったですね。

 

 ニオジーン氏の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で働きアリの巣を発動し、コスト2を払いコスト2で墓地からアントを召喚します。アントでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。豊痛の呪術」

 

 4 魔法 豊痛の呪術 属性:アヤカシ

   効果:アクションストライク

      デッキの上から5枚を見てその中から1枚を手札に加える。その後このカードをコストゾーンに送って1枚ドロー

      コストを支払わずにこのカードを使用したターン受けるダメージが倍になる。

 

「そして空蝉の術です。豊痛の呪術でクノイチを手札に加えます」

「たかが2ダメージなら倍になってもそんなでもありませんのに」

「インセクトが与えられる最高ダメージは4ですからね。大ダメージを防ぐ判断としては正しかったのではないでしょうか」

 蟲神とはすごく相性の悪いタイラントドレイクを入れている訳ありませんし、高攻撃力のモンスターもいなさそうなので、判断は間違っていないはずです。

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトサキの術を発動します。コスト3で妖刀 ムラマサを武装して、アントに攻撃です。戦闘破壊により1枚ドローします。マスターニンジャと般若の舞姫でプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「必死に貯めた生命力が…」

「まあ平気ですよ。後1回は耐えられると思いますので」

 ニオジーン:生命力12→5

 

 ニオジーン氏の8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2と6を払い紫婦人を召喚し、紫婦人でプレイヤーに攻撃してターンエンドです。この強固な壁を超えられますかねぇ」

「お嬢様、マスターニンジャでも一撃で倒せませんよ」

 それにしても、紫婦人の防御力の高さ……デッキによっては詰むこともあるんですよね。

 

 私の8ターン目です。

「ドロー。チャージ。マスターニンジャで紫婦人に攻撃です」

「ふふふ。甘いですね。紫婦人は反撃するのです」

 マスターニンジャは紫婦人を殴り、紫婦人に頭を掴まれて地面に叩きつけられたました。

「コスト2と5でマスターニンジャを召喚して紫婦人に攻撃です」

 マスターニンジャと紫婦人は同時に攻撃し、消失します。

 

 ムラマサと般若の舞姫でニオジーン氏に攻撃しました。

「まだ生命力は1残っていますよ。これは勝ちましたね」

「コスト2でクノイチを召喚してプレイヤーに攻撃です」

 クノイチの刀がニオジーン氏を切りつけて、決闘が終わります。

 

 アームにニオジーン氏を抑えさせました。

「ナイスです。干し肉あげますからね」

「ウオオオオ」

「メイドさん、ニオジーン氏の足の裏に、契約の呪いを刻んでくださいね。内容はタンバイズへの資金援助を止めさせるといったものです」

「承知しました」

 メイドさんに呪いを刻ませます。いやぁ呪いって便利ですよね。

 

 窓から木の杭が飛んできました。

「えっ!?」

「お嬢様、アームの後ろに下がってください」

 メイドさんの言う通りにします。

 

 窓から邪神アブゾーブと女の子が入ってきました。

「風向きのせいで丸太の狙いが狂ったみたいだねえ」

「いきなり入ってきて何の用なんですか」

「お前を殺しに来たんだよ。新たな力を見せてくれあげる」

「モテる女は辛いですねぇ」

 冗談抜きでキツイのです。

 

 アブゾーブはニオジーン氏に気がついたかのような顔をしました。

「なんだねキミは」

「このシエンス・ニオジーンを知らないとはたかが知れている」

「ニオジーンね……予定変更。先にそっちのニンゲンから倒させてもらうね」

「いきなりどうしたんですか。人を殺そうとした挙げ句いきなりターゲットを変えるなんて」

 気まぐれにも程がありますよね。

 

 アブゾーブとニオジーン氏はユナイツカードを構えます。

「よくわかりませんが、この状況はとてもラッキーです。この屋敷に人を皆避難させてから帰りましょう」

「アブゾーブの新たな力というのが気になりますね」

「安全に帰らないと今度という今度はお父様に怒られますよ」

「分かりました」

 部屋から出てメイドさんとともに避難誘導をしました。先程派手に音を鳴らしてくれたお陰で案外スムーズに行けましたね。



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26 一石二鳥

 嫌いな奴倒しに来たらそれよりも優先して処理すべき存在があらわれた。一石二鳥ということだ。

「アブゾーブ様、ソウコ・メッセルを追わなくてもよいのですか?」

「今はそれどころではないんだよね。コイツ他の邪神の生贄になりうる奴だし、不死身にならずともブッ倒せば多少再生力が上がるんだよね」

 生贄は食べたからもう不老不死だし。

 

 イツが背後に回り、刃物を首筋に近づけた。ニンゲンは本格的に焦っているね。

「アブゾーブって邪神のアブゾーブですかね、それならとてもつらいのですが」

「流石大企業の社長様、セキュリティーが緩い代わりに耳が早い」

「それじゃあ決闘を始めようね。ちなみに拒否権はないから」

 決闘が始まった。

 

 そしてボクの後攻5ターン目まで経過した。魔力吸収式バリアがあるから安心だね。

「ドロー。チャージ。コントロールを得たアントがいるからコスト0で洗脳諜報発動。コスト4でスライジュエリーモルガナイト召喚。スライジュエリーは蘇る。スライジュエリーでプレイヤーに攻撃して、アントでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

「キツイですねえ」

「漸く初期生命力に戻っただけなのにそんなことを。イヤミだねえ」

 ニオジーン:生命力12→10

 

 ニンゲンの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2とコスト3で働き蜂を召喚します。更に魔法カード。ビーラッシュ。デッキからキラービー召喚。蜂の効果で回復して働きアリの巣で1枚ドローします」

「お手軽モンスター召喚魔法かぁ。ボクも欲しい」

 

 4 魔法 ビーラッシュ 属性:インセクト

   効果:スペルコンディション:自分の場に働き蜂がいる

      デッキからキラービーを場に出す。キラービーはこのターン攻撃出来ない

 

 4 モンスター キラービー 属性:インセクト

   効果:貫通

   説明:人型の蜂。鋭い毒針で相手を刺す

   攻撃力:2 防御力:1 生命力:4

 

「ターンエンドです。そのスライジュエリーは面倒なカードですよね」

「面倒な効果だから一度で懲りるのが欠点なんだよね~。アントみたいなカードぶんどって手の内明かしたくなかったなぁ」

「人のものを奪っておいていけしゃあしゃあと抜かしますね」

 キラービーは貫通持ちでそれなりに強いカードだからぜひ奪いたい。

 

 ボクの6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でサキュバス召喚。スライジュエリーでキラービーに攻撃してターンエンド」

「控えめな闘い方ですねぇ。そんなんじゃいつまで経っても倒せませんよ」

 サキュバスの効果を知っていれば相手はなんとか処理しようとしてくるに違いない。これでスライジュエリーから目を背けてくれるといいのだけど。

 

 ニンゲンの7ターン目。

「ドロー。よし……最強カードを引けましたね。チャージ。出でよコスト6で女神のしもべ マーダーホーネットを召喚です」

 キラービーの四本腕が六本腕となり足が四本脚となる。さらに顔がいかつくなり大きさも倍となった。

 

 6 モンスター マーダーホーネット 属性:インセクト

   効果:貫通

      出現:キラービーをこのカードの下に送る。

      キラービーが下にないカードは以下のものとして扱う

      攻撃力0防御力0生命力1

   説明:キラービーが獰猛になった姿

   攻撃力:6 防御力:2 生命力:6

 

「私はこのカードを自分のことのように愛しているんですよ。なにしろ神を守る最強で敬虔な存在ですからねえ。蜂の効果で回復して働きアリの巣で1枚ドローします」

「神様の呼びかけに答えないなんてそれでも敬虔とほざくつもりかな?」

「なんとでも言いなさい。これにてターンエンド……できない」

「サキュバスはそんなにレアでもないカードなんだよね。そんなカードの効果すら把握していないなんて思わなかったなぁ」

 マーダーホーネットの殺意と愛情がビリビリと伝わってきて、サキュバスを怖がらせる。

 

 ニンゲンは驚いていた。

「ボクは優しいから教えておいてやるけど、サキュバスの効果は攻撃を強制させる効果だよ」

「グギギギ……マーダーホーネットでスライジュエリーに攻撃です」

「スライジュエリーの効果でマーダーホーネットを操る」

 現実は想定していた最高よりもはるかに都合がよかった。負けようとしているのかな。

 

 悔しそうな顔してるし罠じゃなさそうだね。

「貢物を他の神に捧げるとは敬虔な教徒が聞いて呆れるね」

「むっ……ターンエンドです」

「サキュバスの効果を知らないとはお笑い草なやつだね」

 まあエースがぶんどられれば腹も立つよねえ。

 

 ボクの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で知恵の魔術発動。3枚ドローしてマーダーホーネットでプレイヤーに攻撃。自分のカードで負けろ」

「ちゃんちゃら可笑しくて笑いをこらえるのも大変でしたよぉ。世の中ここまで思い通りになることもありませんからねえ」

 負け惜しみだけはコイツに敵わない。

 

 どうせ何もできるまい。

「ここから何かできることがあったら言ってみなほら」

「アクションストライク。キノコ爆弾」

「なんなんだそのカードはよ」

 マーダーホーネットがキノコが出てきて爆発した。

 

 4 魔法 キノコ爆弾 属性:フェアリー

   効果:アクションストライク。属性:インセクトのモンスター一体を破壊して

      そのモンスターの攻撃力分すべてのモンスターにダメージを与える

 

 爆発の跡には蟲神と働きアリの巣だけが残っていた。

「最近相手のモンスターを操る者が現れたと情報が入ってきましたのでこういう対策を取らせてもらったのです。普通に使うなら小回りが利かないか大したことのない弱いカードですが、こういう時に相性が良いのですね」 

「自分の場のモンスターも効果の範囲内だから使わない方がいい場合があるけど、インセクトを蘇生できる蟲神には効かないからデメリットもない」

 ニンゲンのくせになかなかやる。

 

 普通に使うなら尚更被害が多くなりそうなカードを使う胆力は認める。

「これの他にもメッセル家令嬢の対策もしていたのですが……引けませんでしたね」

「今言うことじゃないよね」

「互いに間が悪いということです」

「残念ながら間が悪いのはお前だけだ。ターンエンド」

 残念ながら決めきれなかった。

 

 ニンゲンの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2と3で働き蜂を召喚してコスト3でアントを召喚します。アントでプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「場ががら空きだとこういう時に凄く辛いよね」

 アブゾーブ:生命力10→8

 

 ボクの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4で預言者ヨティス召喚。コスト4でスライジュエリーモルガナイトを召喚してターンエンド」

「おやおや全部除去されるのはやはり辛いみたいですね」

「逆に聞くけどそれが全然辛くないと思ってるの?」

「野暮でしたね」

「神に対して無礼すぎる。なっちゃいないね」 

 とことん癇に障る奴だ。

 

 ニンゲンの9ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2とコスト4でキラービーを召喚します。ターンエンドです」

「魔力吸収式バリア様々だね。無かったら負けてた」

 ニンゲンのくせにここまでやるなんて。

 

 ボクの9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でサーヴァントノードを発動」

 

 6 魔法 サーヴァントノード 属性:魔法使い

   効果:墓地の属性:使い魔のモンスターを全てデッキに戻し、その分ドローする。このカードを発動するターン中攻撃もドローもできない

 

「驚異の4枚ドローですね。しかしそこから何もできないと思われますが」

「コスト3で魔法の教科書を武装してそのまま効果で洗脳諜報を回収してターンエンド」

 準備は整った。あとは生き残るだけ。

 

 ニンゲンの10ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でワームレセプション、コスト6で紫婦人を召喚し、プレイヤーに攻撃します。これにより貴女は私に触れることが出来ません。ターンエンド」

「ほざけ」

 やはりニンゲンは愚かだ。さっきは焦ったがそれ以降で弱らせたと勘違いしている。

 

 ボクの10ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でサキュバスを召喚し、スライジュエリーで紫婦人に攻撃。スライジュエリーの効果で紫婦人を操り、洗脳諜報の2枚ドロー。コスト5でマッドクロック召喚。マッドクロックの効果を2回とも紫婦人に適応させる」

「反動をうまいこと使われましたね」

「紫婦人の防御力はとても硬い。お前にこれを突破することは難しいかもしれないなぁ」

 己の身を守る頼れる存在が相手についてしまったという恐怖。その気持ちよくわからない。

 

 ニンゲンの11ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2とコスト4でキラービーを召喚します。蟲神以外を紫婦人に突撃させてターンエンドです」

「生命力が15もある相手を倒せますかね」

「凄いスケールだけど倒さないことには勝てないからねえ」

 気が遠くなる。

 

 ボクの11ターン目。

「ドロー。チャージ。洗脳諜報発動。コスト10で魔法の雷を2枚発動。そして魔法の教科書で魔法の教科書を回収して、マッドクロックの効果を2回とも紫婦人に適応してからターンエンド」

「コントロール奪取とロックバーンを軸にしているのですか。随分とマナーが悪いんですねえ」

「マナーはこだわると勝ちを逃すと思っているから、出来るだけこだわらない方がいい」

 ニオジーン:生命力15→9

 

 ニンゲンの12ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト12でキラービーを2体召喚します。そしてそのまま攻撃です」

「そんな力技があったなんて。蟲神って思ったより厄介だ」

「そうでしょうとも。先祖代々伝わるこのカード、厄介でないと困ります」

 得意げな顔をしているのがむかつく。

 

 ボクの12ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でスライジュエリーを召喚してマッドクロックの効果を適用してから魔法の教科書の効果発動。コスト5で魔法の雷を発動してターンエンド」

「決まれば強いものに固執するのは良くありませんよ。私もマーダーホーネットに自己投影していますが、デッキとしてはサブプランの一つですからね」

「うるさい」

 決まれば強いもので死にかけていたくせに。

 

 ニンゲンの13ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2で祈りの妖精を召喚です。コスト10でキラービーを2体。そしてそのまま攻撃してターンエンドです」

 ボクの13ターン目は魔法の雷をしただけなのてニンゲンの14ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト12でキラービーを2体召喚。キラービー2体でプレイヤーに攻撃」

「残り2、残念だったね。当然ボクには敵わなかった」

 これが人と神の差なんだよねえ。

 

 ニンゲンはため息をつく。

「ピンチのくせに勝った気になるとは、たかが知れていますね。ターンエンドです」

「ニンゲンのくせにボクの言おうとしたことを先取りするなんて、何という奴。常識ってものがないよ」

「どうせハッタリですよ」

 一応警戒だけはしておこうね。

 

 ボクの14ターン目に魔法の雷を使って決闘が終了した。逆転の手がありそうな言い方をしやがって。

「魔法の雷を5発も耐えるなんて凄い根性だね。お前からは根性を教わったよ。もう用無しだから死んでもらおうか」

「それにしても対策をしたところでどうにもならないなんて、アブゾーブ様の力の神髄ですね。流石です」

「そうだろうそうだろう。ボクはだんだん強くなっているんだ」

「闘気が無駄にデカいので、その分ダメージも大きいですね。お前はここで死んでください」

 ボクの首にナイフが刺さる。息が詰まる上に痛いけどそれだけだ。

 

 ニンゲンはボクを化け物を見るような目で見る。ボクは能力を用いてニンゲンを吸収した。

「こうなると惨めなものですねえ……なんちゃって。しかしこのニンゲンもメッセル財閥の令嬢だったかに危害を加えようとしていたのか」

「そういうことなら倒さずに協力すればよかったですね。目標は違えどやりたいことは同じなんですもの」

「そういう訳にもいかないよ、二の邪神の生贄になりうる奴だったからね。自分に合った生贄は複数喰らえば闘気と再生力が増す。先程の言葉とと合わせても放置する意味はないよね」

 2は6や7に敵わないがそれなりに力があるんだ。これ以上差を付けられるのは面倒だからね。

 

 ボクはケガしたフリをしてイツに支えてもらいながら部屋から出た。

「社長、無事ですか?」

「彼女のおかげで、メッセル家財閥令嬢の爆破テロの中でも無事でした。彼女を秘書にしようと思いますね」

「左様ですか。しかしメッセル財閥令嬢は悪辣ですね。爆破しておいて自分が救世主を名乗るなんて図々しくないと出来ません」

 このカラダもボクもやりたいことは同じ。優しいから遺志は受け継いでおこう。



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27

 王子様から手紙が来ていました。

「麗しだの愛しいだのやたらと多い系の読んでいるだけで気恥ずかしくなる文章ですね。私がそんなものとは縁遠い人間だと分かってるのに、書かなきゃならんというのが政略結婚の辛いところです」

「そんなに自分を卑下しなくても良いと思いますよ」

「正直言ってトゥスル王子様に対して好感度が上がるようなことをした覚えがないので、卑下ではなくて客観視なんですよね」

 私の欲望のために決闘の腕を上げさせるという暴挙はしましたが。今思えば自分でもワガママすぎると思いますよ。

 

 そんなわけで寧ろ好感度が下がっていないとおかしいのです。

「左様でございますか。しかしお嬢様は将来の婚約者の決闘の腕を上げるのは内助の功ですよ。そこまでしておいて愛していないなんて、常識的に考えればありえないことなのですよ」

「建前的にもありなんですけど本音がカスすぎるといいますかなんといいますか」

「うわ、めんどくさ」

 今日の私はなんか面倒くさい気がしますね。

 

 どうしてこうなっているのでしょう。

「トゥスル王子様からの好意を素直に受け止められないんでしょうか。レイナさんが見たらどう思いますでしょうか」

「問題ありません、7人分のレジャー施設のチケットを渡したので見られることはありません」

「まともな受け答えも出来ていませんね」

 まあ少しだけ嬉しいので、頭がふわふわしてるような、酔っているような感覚です。

 

 愛なんてないと思っていましたが少しはあったようです。

「幸せそうだね。幸せの絶頂にいたまま殺すのが慈悲というもの、殺してあげる」

「また窓からですか。行儀の悪いこと」

 窓から黒い角が生えた人が現れました。

 

 黒い角が生えた人はユナイツカードを構えます。

「やっぱこれですね!」

「一瞬で呆けがなくなりました」

「ヘルズの憑き人が相手ですからね。なんてったって負けたら永遠に罰を受けるバッドエンドですから」

「確かに良い終わりを迎えられなさそうな雰囲気はしてるよね。よく言われるんだ」

 ヘルズの憑き人はプライムディスティニー本編終盤の敵モブです。モブと言えども終盤の敵だから強いのです。呆けている場合ではないのです。

 

 私はユナイツカードを見せました。

「サムライズですわ」

「ヘルズ……」

「ヘルズ イビルやガイストの他に、ヘブンズと同じでゴッズを入れられるユナイツカードですわね」

「よく勉強している、頭がいいね。でももう少し頭が良ければこんなことにはならなかったと思うよ」

 プライムディスティニー本編では最終盤でしか見かけないようなカードなのに、なぜ本編開始前に出たのでしょう?

 

 そうこう考えている内に相手の後攻4ターン目ですわね。

「ドロー。チャージ。コスト4 vanitas(ヴァニタス)発動。ターンエンド」

 巨大な骨の両腕が1輪の巨大な花を持って異空間から出てきましたわ。

 

 4 魔法 vanitas(ヴァニタス) 属性:ガイスト

   効果:設置

      1ターンに1度発動できる。自分のモンスターを破壊して1枚ドローする

  

 私の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法 サオトキキの術です。マスターニンジャを加えてターンエンドします」

「遅いな。周回遅れというのはとても辛いものだよ」

「そうですか」

 そういうタイプの方なのですね。

 

 相手の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト3でスカルファントムを召喚。vanitas(ヴァニタス)の効果で破壊して一枚ドロー」

 紫のオーラに包まれて浮いている骸骨が現れてすぐに砕けました。

 

 3 モンスター スカルファントム 属性:ガイスト

   効果:出現:デッキの上から一枚をコストゾーンに置く

   攻撃力:2 防御力:1 生命力:3

 

「コスト3でスクリームを召喚して攻撃。ターンエンド」

 顔の9割が口な黒い長髪の女性の顔が現れました。

 

 3 モンスター スクリーム 属性:ガイスト

   効果:貫通

   説明:嘆きの声はあらゆる防御を貫く

   攻撃力:3 防御力:1 生命力:1

 

 金切り音が頭の中でぐわんぐわんと反射する。

「うるさああああい」

「頭が金づちで叩かれたような感じですね。拷問に使えそうです」

 確かにこれは拷問級ですね。

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で般若の舞姫を召喚します。コスト3で妖刀ムラマサを武装します。ムラマサでスクリームに攻撃して破壊1枚ドローします。般若の舞姫でプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「たかが2ダメージか」

 ヘルズの憑き人:生命力10→8

 

 相手の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でイビルタイラント召喚」

 下半身が紫色の煙と化している四つ腕の悪魔が現れました。四つ腕の悪魔の顔はヤギの角が生えた狼のようになる

 

 5 モンスター イビルタイラント 属性:ガイスト、イビル

   効果:このモンスターが場を離れた時「魔心像」となる

   説明:嘆きの声はあらゆる防御を貫く

   攻撃力:3 防御力:2 生命力:1

 

「イビルタイラントで攻撃」

「うっぐ。これ以上生命力が減るときついですね」

 ソウコ:生命力:7→4

vanitas(ヴァニタス)の効果で破壊して一枚ドロー。イビルタイラントは破壊された時魔心像となる。そしてコスト2で怨霊モルグを召喚して魔心像で破壊し、ターンエンド」

 イビルタイラントは下半身が消滅し石像となる。

 

 5 魔法 魔心像 属性:イビル

   効果:設置と記されたカードの上に設置出来る

      1ターンに1度コストを2払って発動できる。墓地からコスト5以下のモンスターを召喚できる

      このカードはこのカードの下のカードの能力を得る

      

 2 モンスター 怨霊モルグ 属性:ガイスト

   効果:このカードは攻撃済み状態に出来る。スタントリック:次のターンの終了時まで誘導を得る

   攻撃力:0 防御力:2 生命力:1

 

 私の7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚して、忍法分身の術をサーチします。妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃します」

「この程度は受けます」

「マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。纏わりつく亡霊」

 

 4 魔法 纏わりつく亡霊 属性:ガイスト

   効果:アクションストライク。

      ターン終了時まで相手モンスター1体の攻撃力を0にする

 

 マスターニンジャに亡霊がまとわりついて動きを阻害しました。

「般若の舞姫でプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

 ヘルズの憑き人:生命力8→3

 

 相手の7ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト6でプロメテウス・プログラム召喚。コスト2で怨霊モルグを召喚して効果発動。ターンエンド」

「あれれ。何か消極的ですね」

「なにやら呆けていても勝てそうな感じですよね」

 こんなにあっさり行くとは思えないのですが……

 

 私の8ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト5で忍法回天の術を発動します。妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。悪魔の取引」

 

 4 魔法 悪魔の取引 属性:イビル

   効果:アクションストライク。

      ダメージを受ける代わりに相手プレイヤーを選ぶ。選ばれたプレイヤーはデッキから好きなカードを1枚選んでもよい

 

「左様ですか。では忍法訓練所を手札に加えてマスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

 ヘルズの憑き人:生命力3→0

 

 結構ギリギリですね。

「私が求めていたのはこういう互いに殴り合うような感じの決闘なんですよね。惚けてやっていたら惜しいことになっていましたね」

「そうかい。そんなに決闘がしたいのかい」

「できることなら一晩中やっていたいですね」

 またいつの間にか決闘が始まっていました。薄暗くてジメジメしたところですね。

 

 どうやら今は相手の9ターン目らしいですわ。

「え、なに、どういうことですの?」

「お嬢様が何もしなかったせいで一気に壊滅状態になったのです。やはり呆けていたんではないでしょうか」

「バカな、そんなはずはありません。最初から最後まで油断していないつもりでしたわ」

 倒しても勝てないはずはありませんし、覚えていませんが確実に再戦したんでしょうね。

 

 ヘルズの憑き人はシャカパチしましたわ。

「ドロー。チャージ。ククク……まだトドメはささない。ゆっくりじっくり弱火で焦がすつもりなのさ」

「スクリームで攻撃すれば倒せるのにあえてそれをしないとは、何かしらロマンコンボを決めて倒したいというところですかね」

「あ、う、うん。そうさそういうところなのさ。君のような凡人にも理解できるように頑張ったかいがあった」

 この焦りようどこか引っ掛かりますね。

 

 スカルファントムが蘇りましたわ。

「これであとコストを7使えるんだ。コスト5で墓地からスカルファントムを復活させてvanitas(ヴァニタス)の効果で破壊して一枚ドロー。コスト3で串刺しデビル召喚」

「虫歯菌みたいな見た目してるのになかなか油断ならないカードですよね」

 

 3 モンスター 串刺しデビル 属性:イビル

   効果:出現:自分のデッキの上から2枚を墓地に送り、2枚ドローする

   説明:地獄の悪魔の攻め手は世界一恐ろしい

   攻撃力:3 防御力:1 生命力:2

 

「串刺しデビルでプレイヤーに攻撃するよ、消えろおおお」

「うっっっぐ」

 私の胴体を串刺しデビルのフォークが貫いた。

 

 ソウコ:生命力2→0

 

 私の決闘は終わりませんでした。

「そういうことですか……」

「キミは今無限に罰を受ける、無限懲罰界にいる。これは神によって定められた罰が永遠に執行される罰だ」

「いわゆるヘルズの憑き人に敗北した後のバッドエンドですね。しかし私は負けたわけではないのですが。それにいつでも出ることが出来ますし、特に何もありませんね」

 それに無限に決闘が出来るのは罰ではなくご褒美と言うのですが。

 

 ヘルズの憑き人はニヤついた。

「負けたね」

「一回勝ったので引き分け扱いでチャラに出来ませんかね。因みに罰が決闘のことならチャラにしなくても良いです」 

「罰の内容は身体的外傷と再生の永続的な繰り返しの幻覚」

「無限に決闘が始まるわけのは罰ではないということ……先ほどと言うことが違いますね」

 では出ますか。

 

 闘気を纏わせたマッハドローを行いました。

「これをすれば無限懲罰界の空間が裂けて出口が開きます」

「できるわけないよね。無限懲罰界は別の世界ですから」

「ちゃちな催眠術です。無限懲罰界のことは風景でしか知らないから、無限懲罰界では一つの罰しか与えることが出来ないということも知らないということですね」

 空間に穴が開きました。

 

 開いた穴を開いて世界に戻ります。

「お嬢様、意識が戻りましたね」

「この催眠術が破られたことはなかったのに……」

「あまり物も知らずに余計なことを発現したからですよ。大抵のヘルズの憑き人は元々ただの人間であることが多いので、無限懲罰界のことを理解していない節がありますね」

 まさに鉄砲玉にふさわしい人材なのです。

 

 ヘルズの憑き人は舌打ちをしました。

「君は確かトゥスル王子様から手紙を貰っていたっけ。確か麗しの姫君だの愛しいソウコ様だの綺麗な花だの飾り気が多くて気恥ずかしくなる内容だったっけ。要約すれば令嬢ソウコを愛しているって内容」

「何でそんなことを知っているんですか」

「その文章書いたの私だから。よく見れば筆跡が違うけど、分からないだろうから内容を暗唱してあげるね」

 ヘルズの憑き人は内容をそっくりそのまま暗唱しました。差出人と言うのは事実なんでしょうね。

 

 そういうことでしたか。

「私のことが好きなんですか。でも素直に思いを伝えられないから王子様のフリをしたということなんですね。それにしたって限度がありますけど」

「油断させるためだよ。あのように呆けていたからね。でもダメだった。結果はこの通りだよ」

「そういうことでしたか」

 これも全て私をハメるための罠でしたか。

 

 私は世間ではトゥスル王子のことが好きと言うことになっていますし、催眠術にも弱いですからね。

「とことん私のことを研究してメタっているようですね。これが決闘だったら好ましいと思うのですが」

 メイドさんはヘルズの憑き人を拘束していました。

 

 ヘルズの憑き人は大きく膨らむ。

「爆発する前兆ですね」

「ヘルズの憑き人は闇のカードの神の力によってヘルズが使えるようになった存在。闇のカードの神の役に立たないと分かれば、末路は一つしかありません」

 ヘルズの憑き人は口から闇の闘気の濁流を吐き出して部屋を埋め尽くします。

 

 窓から闇の闘気が抜けきると1枚の黒いカードとマジカルランドのカードがありました。

「役に立たないということが分かれば切り捨てられるというのは人間社会の縮図のようですね」

「無限懲罰界に送られるんです。不死身になる慈悲なのか無限に苦しむ無慈悲なのか悩ましいですね」

 メイドさんの顔は青ざめました。



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28

 お父様の仕事の観察に付き合わされました。

「ルノスチ教国の砂漠の開発ですか。凄いスケールの大きい話ですね」

「ああ! ルノスチは世界一広い国だが国土の9割を枯れた砂漠に囲われた世界一貧しい国となっている。その貧しい国を耕す慈善事業を行っているのだ。こんなこと善人しかやりたがらないだろうな」

 ルノスチ教国はシジューク神をあがめる宗教国家です。石油やアルミやダイヤモンドなど資源に恵まれた国なのですが、お父様の死により開発が停止され中途半端に開発されたまま放置された国となるのです。

 

 次回作の『オープンディスティニー』でルノスチ出身のキャラが出ると聞きましたが、発売前に死んだので詳細は不明です。

「どうしたのだ? 暑いのが悪いのか。そうかそれならプレハブに移動しよう」

「そうではありませんわ。少し未来のことを考えていましたの」

「そうか。ソウコは優れているな」

 お父さまに頭を撫でられます。

 

 お父さまの前に白い長袖で褐色肌の女性が現れました。スタイルよすぎ。衝撃のあまり余裕がなくなってしまいました。

「私はこの国の聖女 ナーキスナ=ルノスチでございます」

「私はソウコ・メッセル、アグロ・メッセルの娘でございます。よろしくお願いいたします」

「我が国の歴史を教えて差し上げるのが、外国人へのお客様へのサービスでございます。我が国の歴史をお教え致します」

「ありがとうございます、普段あまりルノスチの事を知ることが出来る機会もないので嬉しいです」

 私はお言葉に甘えることにしました。

 

 聖女様は薄い石板を出します。

「ルノスチは魑魅魍魎が跋扈する闇に覆われた土地ではありましたが、シジューク神によって闇が祓われました。その後もシジューク神への信仰もあり、我が国は他国から侵略されず平和を保ち続けていたのです」

「シジューク神様々ですね。窓から出入りするような人たちもいないんでしょうな」

「はい。シジューク神あっての我々です」

 私はシジューク神の正体を知っているだけに、正体を知ったらショックを受けそうだと思うんですよね。

 

 まあシジューク神が外敵からルノスチを守っている事自体は事実なのですが。

「煽り抜きにただの疑問なのですが、一面砂漠なのはどういうことなんですかね。それもシジューク神の御心ですか」

「一面砂漠なのは魔物がシジューク神の浄化に対して悪あがきをしたからだと聞きます」

「そうなんですね。土地に恵まれているのもシジューク神の加護なんですね。きっと世界中が羨むと思いますよ」

 聖女様は首をかしげていました。まだこの世界は石油やアルミの使い方を分かっていないので、お世辞にも恵まれているようにも見えませんもの。

 

 ダイヤモンド産業でかろうじて生きながらえているような国なのです。

「しかしこの国は暑いな。この国の民はよくこの暑さに負けぬものだ」

「この様な暑いところにいるのもなんですから、首都に案内しましょう」

「ありがとうございます」

 一時間ほどで首都に着きました。元々首都に近いところだったそうですね。

 

 首都の中心にはそこそこ大きい建物がありました。それ以外は特にいうことがないです。

「あそこの建物が我が国で一番大きい建造物のシジューク神殿でございます。ではお話は教皇様に引継ぎいたします。教皇様が我が国で一番偉くて頭がよいのです」

「ふむ、ありがとうございます」

 お父様はあの手この手で人をあっけにとるような人ですので、教皇様が気の毒でなりません。

 

 シジューク神殿の中は秋や春のような適温で快適な環境でした。

「では教皇様と話をしてくる。ソウコ、迷惑をかけてはいかんぞ」

「それはもうわかっております。気を付けますよ」

「では私がお嬢様を案内いたします」

「聖女様自ら案内してくださるとは、数年分の運を使いましたね。ありがたいことです」

「ソウコお嬢様が選ばれし角の者と巡り合ったのと同じでシジューク神の定めた天命です」

 聖女だからそういうのも分かるんですかね。

 

 シジューク神殿の中には白い長袖の人が沢山いますね。護衛の人たちでしょうか。

「このシジューク神殿は何故か年中この明るさと気温なのです。おそらくこれもシジューク神の賜物でしょう」

「そうなんですか。シジューク神殿の建築様式の特許を取れば、一儲けできそうですね」

「選ばれし角の者……ヘルズの憑き人のことですね」

 年中快適な温度と湿度で保たれるなんて羨ましいです。

 

 シジューク神殿を暫く歩いた後休憩いたしました。

「ソウコ嬢はカードが好きと聞いたことがあります。一度決闘してみませんか?」

「お言葉に甘えさせていただきます」

 互いにユナイツカードを構えました。聖女様のユナイツカードはマジカルランドですね。

 

 互いに何もしないまま聖女様の後攻4ターン目になりました。

「ドロー。チャージ。コスト4でマジカライズブレードを武装します」

「手札消費さえ気にしなければ強いカードですよね」

「ええ、逆に言えばそれが致命的過ぎますが」

 剣の形のプラズマをまとった杖が現れました。

 

 4 武装 マジカライズブレード 属性:魔導書

   効果:オールアタック、蹂躙

      手札のカードを好きな枚数捨てて、次の相手ターン終了時まで捨てた枚数分攻撃力と防御力を上げる  

   攻撃力:0 防御力:0

 

「マジカライズブレードの効果により、手札からホブゴブリンとゴレムを捨てます。そしてマジカライズブレードでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。識痛の呪術を発動します」

 プラズマが二回り大きくなったマジカライズブレードが私を切ります。

 

 ソウコ:生命力10→6

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で般若の舞姫を召喚します。コスト3で妖刀ムラマサを武装します。妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃です」

「甘んじて受けましょう」

「ターンエンドです」

 

 ナーキスナ:生命力10→9

 

 聖女様の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で預言者ヨティスを召喚してハイドキャットを捨てます。マジカライズブレードでプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「手札を捨てれば手札不足にもなりますよね」

 手札=選択肢と言うのはカードゲーマーとしては割と常識だと思うのですが。

 

 ソウコ:生命力6→5

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトキキの術を発動します。クノイチを手札に加えてコスト2で召喚します。そして妖刀ムラマサと般若の舞姫でプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

 

 ナーキスナ:生命力9→6

 

 聖女様の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で東洋呪術蟲毒壺を発動します」

「うげったしかそれめちゃくちゃ強いカードですよね」

「先祖代々伝わるカードです」

 蛇があふれている無地の壺が現れました。

 

 4 魔法 東洋呪術蟲毒壺 属性:魔導書

   効果:設置。コスト1を払ってデッキからモンスター1体を毒蛇(コスト1 モンスター 属性:使い魔 効果:なし 攻撃力1防御力0生命力1)として召喚する。この効果は相手ターンにも発動出来る。毒蛇は1ターンに1度しか召喚できない

   説明:東洋の呪術 蟲毒を模して造られた壺

 

 東洋呪術蟲毒壺は昔々効果にターン1制限がなくどんなカードも蛇に出来たせいで、2回もエラッタされたのです。

「墓地送りとしても攻撃回数を増やすとしても強すぎるんですよね」

「コスト1でサキュバスを毒蛇として召喚します」

 サキュバスが毒々しい色のコブラになりました。

 

 コブラが私に噛みつきます。

「毒蛇でプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「蠱毒壺ですか」

 毒蛇は攻撃したくありませんね。

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトサキの術を発動します。妖刀ムラマサと般若の舞姫でプレイヤーに攻撃します」

「コスト1でマッドクロックを毒蛇にしましてアクションストライクです。サーヴァントバリア」

 

 4 魔法 サーヴァントバリア 属性:魔導書

   効果:アクションストライク。自分の場の属性:使い魔のモンスターを破壊する。破壊した枚数1枚につき1枚ドローし、このターン中1回攻撃で受けるダメージを0にする。

   説明:使い魔を盾にする魔法

 

「雑に手札加速出来るの強いですよね」

「サーヴァントバリアの効果で2枚ドローします」

 

 ナーキスナ:生命力6→4

 

 聖女様の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でサーヴァントノードを発動、一気に5枚ドロー。コスト1でハイドキャットを毒蛇にしてターンエンドです」

「サーヴァントノードで手札不足を補う訳ですか」

 サーヴァントノードがなければ使い魔デッキ組みたくないと言われているほど強いカードなんです。

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚し、忍法分身の術をサーチしてコスト2で発動します。マスターニンジャを選択します。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。油断の魔術発動します」

 

 4 魔法 油断の魔術 属性:魔導書

   効果:相手のモンスターの攻撃力の合計値が自分の場のモンスターの攻撃値の10倍以上の場合手札のこのカードはアクションストライクを得る。

      このターン中相手は攻撃出来ない

 

「なるほど。慎重に行くべきでしたね」

「危なかったです。今回は惜しかったですね」

「だからマジカライズブレードで防御力あげなかったんですね」

 兆候は見えていたんですよね。それでも分身を使用してしまったのは浅はかでした。

 

 聖女様の7ターン目です。

「マッハ……ドロー。チャージ。コスト1でシルクハットワンダラーを毒蛇にし、そしてコスト5で戦略魔法 ツラヌキカガミを発動します」

 

 5 魔法 戦略魔法 ツラヌキカガミ 属性:魔導書

   効果:設置。自分のカードに貫通と反撃を加える

   説明:ちょっとしたことが勝敗に繋がる

 

「手札を4枚捨てて攻撃力を底上げします。マジカライズブレードでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。忍法誘惑の術」

「コスト1で強い精神を発動します」

 

 1 魔法 強い精神 属性:魔導書

   効果:設置。攻撃対象を変更できない

 

 強い精神ですか。

「なんで、そんな、何に使えるかもわからないようなピンポイントメタカードを……」

「シジューク神から得た天啓ですわ。このカードを入れた方がよいということです」

「シジューク神ってすごいんですね」

「凄いのではなくて超凄いのです。毒蛇でとどめです」

 私の腕が毒蛇に嚙まれました。

 

 ソウコ:生命力5→1→0

 

 聖女様から闇が出てきました。

「それもシジューク神の導きですね」

「選ばれし角の者のお手付きはありますが、それなんて関係ないとシジューク神はおっしゃっております。羨ましい限りです」

 シジューク神に思われることはそんなになさそうだし、煽り抜きの発言だと推測できるのが怖いですね。

 

 しかし大っぴらには言えませんが私にとってその愛は不要というやつです。

「アーム、アブゾーブ、そして様々な呼び名がありますがマカレルという呼び名がありますね。私は多種多様な邪神に様々な感情のナイフを向けられていますね」

「あらまあ、愛され体質ですわね」

「こう見えて結構モテるんですよ。所謂無駄モテってヤツです」

 闇が私にまとわりつきました。闇ははがそうとしても剥がれないどころか触れません。

 

 もがけばもがけばもがくほど闇は入り込み、心や体の中に徐々に侵食していきます。

「あ、あ、どんどん力が入り込んできます。凄い、快感だけど、マズい気がします」

「こっちにこい」

 頭の中で声がガンガンと鳴る。

 

 こっちにこいという声が反芻されています。

「こっちはじめじめしていて気分がよい」

「この、声が、シジューク神もとい7の邪神……長い物には巻かれる感じがします」

 この凄いものが……

 

 力が全て……染み込んっだぁ♡

「あはぁ……凄い力ぁ。ゾクゾクするほどの闇。お父様ごめんなさい、ソウコ、悪い子になっちゃいましたぁ♡」

「悪い子とはなんですか。シジューク神の加護ですよ。良い子じゃないですか。羨ましいですよ」

「ごめんねぇヘルズの憑き人ってルノスチ以外じゃ悪だから。配慮が足りなかったかな?♡」

 ピッチリした黒の長手袋、白のワンピースとタイツ、黒く長いブーツに変化し、頭頂部に黒いコウモリのハネ耳が生えました。

 

 1度人の姿に戻ります。

「いやぁヘルズの力はいいものだねえ♡ところで聖女サマはなんでヘルズじゃなくてマジカルランドを使ってるのかな?」

「私の中にはヘルズを跳ね除ける力とヘルズの力を増やす力があるのです。ヘルズへの耐性がありすぎてヘルズを使えないんですよ」

「そうなんだ」

 私のユナイツカードがヘルズとなり、カードがヘルズに染まりきった。



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28話

 私はアンドリューと一緒に演劇会の準備をする。

「よし、やっと出来た」

「年に一度の演劇会だから、頑張りたいよね。今年はあんまり練習できなかったけど……」

「今年は色々あったからしょうがない。そんなことよりも明日のために命かけたから成功させたい」

 今年は練習時間少ない分眠らずに練習を濃くしたもんね。近所の子供たちがこの演劇会のために頑張っているんだもん。私も頑張らないとね。

 

 演劇会は117年前から続いているらしい。大人たちや子供たちが入り乱れて楽しそうにしているのは気持ちがいいから、117年も続くよね。

「伝統とか知らないけどこの飾りが一番良い感じなんじゃないか」

「いいよー。いいかんじー」

「あれだね。今年はソウコちゃんも参加してほしいって感じ」

 ソウコちゃんのお屋敷のものをデザインの参考にしたからそのお礼にね。

 

 後ろから肩を叩かれたので振り向くと、ソウコちゃんがいた。

「メイドさんから遠いところに行ったって聞いたのですが……」

「楽しそうなことしてるから飛んで帰って来たんですよ。それよりも旅行、楽しかったですか」

「時間がなかったのでまだ行っていません。今度時間があったら行って感想を伝えますよ」

 ソウコちゃん服装ぐらいしか変わっていないのに、随分と変わっている気がする。なんだか肌の下に大量の毒針を隠してる感じ。

 

 ソウコちゃんは床に手を突いた。

「あっそうだ。ちょうどお嬢様を演劇会に誘いたいって話をしていたんです」

「へぇいい感じ♡しかし欠けているものが一つあるから、足してア・ゲ・ル♡」

「口調が違くないか」

 床が水浸しになる。

 

 水位がどんどん増してくるぶしの辺りまで来ているのに、濡れているような感じがしない。

「おいっなんかヤベエ。みんな今すぐここから出ろ」

「キャアアア」

「なにこれ分からない。……みんな焦らないで逃げて、焦ったらかえって出にくくなるよ!」

 子供たちは逃げた。

 

 ソウコちゃんが扉に向かって手を振ると扉が開いた。

「なんだよ今の」

「こういうのはサプライズの方がいいもん♡それに有象無象に優しくする義理はないしぃ♡」

 私たち以外全員扉から出る。

 

 扉が勢いよく閉じて凍った。

「ソウコさん、なんか悪い感じになったね」

「過大評価すぎだよ、私って元来こんな感じの人格破綻したワガママだしぃ。レイナちゃんやアンドリューに関わったのも有象無象じゃないからだもん」

 ソウコちゃんは床から手を離して立ち上がった。

 

 ソウコちゃんはユナイツカードを構える。

「勝てば元通りになるかもね♡私としてはあまり変わってないけど元に戻った方が嬉しいんでしょ?」

「当たり前じゃない。友達を闇に操られたままにしておけないよ」

「あは♡思い込みがハゲしいね♡」

 ユナイツカードを構えるソウコちゃんに対して私はヘブンズのユナイツカードを構えた。

 

 ヘルズ……こんなユナイツカード見たことがない。

「サムライズじゃないだと」

「闇の力の快感に溺れさせてアゲル♡決闘」

「悪いけど私は泳ぎが上手いから中々溺れない」

 どうやってユナイツカードが変えているかわからないけど、あれがすべての原因かも。

 

 私の2ターン目はアイギスを武装して終了、ソウコちゃんの2ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2でオルトロスを召喚。ターンエンド」

「おぞましいカードだ。こいつが出た瞬間闇が沸騰した水みたいに泡立ってやがる」

「なのに肌寒さを感じるって不気味だね」

 

 2 モンスター オルトロス 属性:イビル

   効果:モンスターの召喚コストを1減らす

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 私は3ターン目に聖殿を発動してターンを終え、ソウコちゃんの3ターン目。

「ドロー。チャージ。コストを1減らしてコスト2でスカルファントムを召喚。スカルファントムの出現を発動してコスト2でスクリーム召ぅ喚♡スクリームでプレイヤーに攻撃」

「う、全身が引き裂かれそうな痛みがする」

「貫通だからぁアイギスなんてざこ♡は意味がないの♡ターンエンド」

 レイナ:生命力10→7

 

 私の4ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト1で翼の使徒召喚。併せて2枚ドローして、コスト3でプリンシパリティズ召喚。プリンシパリティズでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「なかなかやるね♡ちょっとは抵抗してくれないとつまらないから、無駄な抵抗頑張って♡」

 ソウコ:生命力10→9

 

 ソウコちゃんの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でvanitas(ヴァニタス)発動。スカルファントムを破壊してから1枚ドローしてターンエンド」

「でっかいモニュメントだな。でもこの空間には合わないし趣味が悪い」

「私は結構気に入ってるんだけど♡」

 vanitas(ヴァニタス)で要らなくなったカードを即切り捨てる戦法……ソウコちゃんは使えるだけ使い倒してから切り捨てる戦法だから単純に弱くなっている。

 

 私の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラムを召喚して、プリンシパリティズでプレイヤーに攻撃」

「いいねえ。結構効く。でも打点分足なのが欠点よね」

「徐々にでも追い詰めていけばいいんだ」

 ソウコちゃんには勝ったことしかないけど、なんだかんだ強い人というのは分かっているもん。この程度ノーダメージと同じ

 

 ソウコちゃんの5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト1で魅魔召喚。破壊して1枚ドロー。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚♡」

 

 2 モンスター 魅魔 属性:イビル

   効果:出現:一枚ドローする

   説明:ヘルズの力を注がれたクノイチ

   攻撃力:1 防御力:2 ライフ:1

 

「そしてスクリームでプレイヤーに攻撃。ターンエンド♡」

 レイナ:生命力7→4

 

 私の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイロゥストライク発動。そしてコスト5でカリス発動。ターンエンド」

「なるほどねえ♡様子見ってわけだ♡で〜もそんなに遅くて私に勝てるわけないもんね〜♡ざ〜こ♡」

 スクリームがいるから余裕そうだね。

 

 ソウコちゃんの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でサキュバスマスター召喚♡」

 あのモンスターはマスターニンジャ……ソウコちゃんの切り札だ。

 

 7 モンスター サキュバスマスター 属性:イビル・ガイスト

   効果:1ターンに1度コストを2払って発動する。このカードの攻撃回数を1回増やす

      貫通 

   攻撃力:5 防御力:1 ライフ:4

 

 マスターニンジャは地面から出た闇に包まれた。闇が消えると頭にヤギの角を生やし黒くてピッチリした格好をした美人さんがいた。

「悪堕ちTSってヤツだよね♥ゾクゾクするよ♥」

『溢れる闇があ~しに力を与える』

「モンスターが喋った!」

「そんなことはどうでもいいでしょ、サキュバスマスターでプレイヤーに攻撃」

 サキュバスマスターは鞭を振るう。

 

 サキュバスマスターの鞭は空中で弾かれて、プリンシパリティズが消滅した。

「ハイロゥのリアクションとプリンシパリティズのモンスターガード発動」

「なるほど、ハイロゥストライクが無ければ終わってたってこと♡上手くやったね♡」

「聖殿の効果で1枚ドロー……来た。勝たせてもらうから」

 私が引いたのはセラフ、これで一気に追い詰めることが出来る。

 

 スクリームの声があたりに響く。

「ハイロゥが消えた。これで防御も出来なくなって次のターンに負ける♡ちょっとは抵抗してくれないとつまらないから頑張ってね~♡」

「もう勝った気でいやがるよ」

「この状況から逆転できるプランある?」

 サキュバスマスターは元にマスターニンジャが一枚しか入ってないのは知っているからおそらく1枚しか入れていないハズ。つまりそれさえなんとかすれば逆転の目はある。

 

 私の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でワルキューレの誘い。サキュバスマスターは墓地に送られる」

『あ~しまさかの出オチ系~』

「コスト3で伝説の剣召喚、聖殿の効果で1枚ドロー」

 光り輝く剣が現れた。

 

 4 モンスター 伝説の剣 属性:レジェンド

   効果:戦闘で相手モンスターを破壊したとき1枚ドローする

   攻撃力:4 防御力:2 ライフ:3

 

「伝説の剣でスクリームに攻撃して破壊。ターンエンド」

「いいねえ。結構効っくううう♡こういうせめぎあいの果てに勝たなければ意味がなぁいの♡」

「ごめんね。私が勝っちゃうから望み通りにはならない」

 ソウコちゃんは舌打ちした。

 

 ソウコちゃんの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2で串刺しデビルを出して、デッキの上から2枚を墓地送り2枚ドロー♡コスト5で幽鬼武者召喚♡」

 青い火が周りに漂っている鬼武者が現れた。

 

 6 モンスター 幽鬼武者 属性:ガイスト

   効果:オールアタック、蹂躙、アーマードレイン     

   攻撃力:6 防御力:0 ライフ:6

 

「串刺しデビルと幽鬼武者でプレイヤーに攻撃♡死んじゃえざ~こ♡」

「リアクション。ハイロゥ」

「残念。防がれちゃった。串刺しデビル召喚しなきゃ良かったね。vanitas(ヴァニタス)で串刺しデビルを破壊してターンエンド」

 聖殿の効果でセラフを手札に加えた。これで私の勝ち。

 

 私の8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト7でセラフを召喚してセラフでプレイヤーに攻撃。フレイミングゴッドサーバント。残り生命力は3」

 ソウコ:生命力9→3

 

 水のように漂っていた闇が消えていた。

「これで止め。ハイロゥでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。時の悪魔」

 空中に穴が開いて、穴から1つ目3口の悪魔が出て来る。

 

 7 モンスター 時の悪魔 属性:イビル

   効果:アクションストライク。

      出現:自分の生命力が5以下ならターンを終了する

   説明:人間を歪んだ時空に引きずり込む悪魔。

   攻撃力:1 防御力:2 ライフ:6

 

 ソウコちゃんの8ターン目だ。

「マッハ……ドロー。チャージ。これでコスト11のカードまでは好きに使えるというわけ♡vanitas(ヴァニタス)で時の悪魔を破壊して1枚ドロー。コスト6でサキュバスマスター召喚♡」

「そんな1枚しかないはずじゃ」

「都合上マスターニンジャは1枚しか持っていなかったけど、サキュバスマスターはマスターニンジャ1枚から2枚作れるもん♡流石カードの神と同格なだけはあるよね♡サキュバスマスターでハイロゥに攻撃ぃ♡」

 サキュバスマスターがハイロゥを破壊した。 

 

 幽鬼武者が伝説の剣と私の体を切り裂いた。

「これにて終わり♡ざ〜こ♡ちょっとイメチェンした私程度に負けるなんてよわよわだね」

「イメチェンってこんなバケモンみたいなことしておいて、タダのイメチェンで済むか。心配で決闘にならねえのは当たり前だろ」

「へぇ♡18歳にならない内に私のことブッ殺すのに、心配になるんだ♡心配になるわけないよね」

「何言ってるの。ソウコさんには色々お世話になっていますから、傷つけたりしません」

 ソウコちゃんから闇が消える。そして辺りの闇が消え去った。

 

 良かった元に戻ったわけだ。

「そう言えば欠けているものが一つあるって言ってたでしょ♡あげるね♡」

「なにをするんだ」

 地面から闇があふれ出して肩まで浸かる。フレイミングゴッドサーバントで全部消したはずなのに……

 

 会場全体に光り輝く蔦が纏わりつく。

「イルミネーションってやつ。これで完璧になったでしょ」

「凄い。120%引き出されてる」

「そうそう。これで未練はなくなったでしょ」

 未練?

 

 闇が一つのところに集まって槍になった。

「これだけ膨大な闇の力を浴びればさすがのへブンズでもヘルズになるよねってこ」

「まずい」

 闇の槍が投げられる。

 

 アンドリューのタックルを受けて私は弾き飛ばされた。

「話は最後まで聞かなきゃダメダメェ。これだけ膨大な闇の力を浴びればさすがのへブンズでもヘルズになるよねってことは噓だけど、この話を聞けばアンドリューは友人をかばって闇の力を受けちゃうよねって言おうとしたの♡早とちりは命取りってわけ♡」

「うぐぅ」

「なんでこんなことを……」

「私のヘルズの力が足りないからかな。それに闇を無駄に使うよりもこうして幼なじみからヘルズの素晴らしさを説得してもらった方が効率良さそうだしぃ。これは私からのプレゼントってことでよろしく〜♡」

「何変なことを」

 何もかも異質すぎる。

 

 アンドリューが苦しんでいる。

「こんなことなら照れずに1度くらいちゃんと名前を呼んであげれば良かったね。じゃあ私は帰るから3人分のルノスチ教国のツアーチケットあげる♡待ってるよ」

「リベンジするから」

「楽しみにしてるからね」

 ソウコちゃんが消える。

 

 アンドリューを救護室に連れて、事情を説明すると演劇会は中止ということになった。

「守りきれるぐらい強くならないと。うおおお頑張るぞおおお」

 私は3人分のルノスチ教国行きのチケットを握りしめた。



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30 会合

 私はかつてないほどくつろいでいた。

「ヘルズの力はとても素晴らしいね」

「そうでしょうそうでしょう。それが我らの神の力ですから」

「因みに昨日知り合いにこの力をあげたんだよね。あげたときは苦しんでいたけど、今時闇の快感に悶えていると思うよ♡」

「素晴らしいことです。あとは敬虔であれば言うことなしです」

 私もこの力を得てから今まであった鎖や枷が朽ちたような感じがしているんだよね。

 

 私は快適な神殿の中から開発を見つめている。

「殆ど終わりかけているとはいえこのクソ暑い中仕事だなんてオトーサマもご苦労様ってことだね♡あっそうだ。聖女サマにコレあげる」

「雑巾掛けする箒……効果:なしの使い魔モンスターですね」

「聖女サマのデッキがより強くなると私も嬉しいから。これでハイドキャットみたいなデメリットつきモンスターを入れなくても良くなるね♡」

「ハイドキャットは攻撃出来ませんからね」

 雑巾掛けする箒なんて……あまりレアじゃないから私は36枚持ってるよ。

 

 聖女サマとアレコレデッキの談義をしていると法皇サマがやってきた。

「法皇っちどうした? まさか神様系のヤツ?」

「コラッ馴れ馴れしいですよ」

「教皇っちは優しいからこのくらいの無礼、赦してくれそうだよね〜♡」

 怒らせてノリで決闘させるのが目的なんだけどね。

 

 教皇っちは溜息をついた。

「いいんだ。馴れ馴れしいのはいい。問題はシジューク神様がその娘に興味を抱いていることだ」

「私ったらモッテモテすぎるぅ〜♡やっぱ世の中幼児性愛者が多いのかな~。こんな世の中じゃダメだねぇ」

「ああ。子どもを狙うのは悪だ。そんなことよりシジューク神様のところに案内してやる」

 教皇っちの案内に従うと暗くてジメジメとしたところにたどり着いた。ちゃぁんと道は覚えた。

 

 暗いところで真っ黒い格好をした男の人がキノコを食べている。

「毒々しい色のキノコ食べてるぅ~。頭悪そ~」

「このお方がシジューク神様だ。シジューク神様は暗くて湿度の高い所を好んでおられるのだ。数年単位で引きこもっておられるので実在を疑う国民もいる。私としては積極的に外に出て欲しいものだがな」

「解説ありがとうね。あと地下をもっと探索したいから外には出ない」

「声もじめじめしてて暗〜い。キノコの擬人化だね」

 この人が七の邪神か。案外大したことなさそ〜。だけど油断は大敵だよね。

 

 私はデッキを構えた。

「何しているんだい?」

「ザコそうだから倒せるんじゃないかなぁって思ったんだよね。力を奪えば私が神ってことでよろしく♡」

「無礼だぞ! 恩人の娘とはいえ我慢できぬ。たたっ斬ってやるから」

 言い過ぎちゃったかな。ただ単に決闘したかっただけなんだけど。

 

 七の邪神は腕で教皇っちを止める。

「そういうのいらないから。こっちは別に構わないけどたいていの人はそういうの気にするからやめておいた方がいいよ」

「そうだぞ。やらないようにな!」 

「分かった~。色々苦労してるんだね♡中間管理職の悲哀を感じるのだわ」

 教皇って普通トップなのに神様がいるからこんなことになる。

 

 七の邪神は私の匂いを嗅ぐ。

「ヒィーッ気色悪い。普通にセクハラだから切腹してほしすぎる~」

「シジューク神様に愛されているのにそんな態度とるなんて贅沢ですね。なんなら私が変わりたい気分ですけどね」

「そうなんだ~今後の参考にするね~♡アホが。フォローがへたくそすぎる、聖女名乗るのやめちまえ」

 邪神は死なないからよく考えればかなり譲歩しているのにそんな態度とほざくなんて。

 

 七の邪神は私をじっと見る。

「幼児性愛者な感じ? だったら永遠に地中に埋まってて欲しいんだけど」

「キミはたった一人の邪神を除いて、すべての邪神に遭遇しているね。そして何度も撃退している」

「雑魚だったからね♡で、それがなんなのさ。要件は早めに言わないとウザいよ。ただでさえ印象悪いんだからさぁ」

「そうか、話がそれ過ぎたね。教皇以外と話すのは2年ぶりだから分からなかった」

 七の邪神は私にカードを投げ渡した。

 

 なんだ、何も描かれていないじゃない。

「それは闇の力に反応して絵が現れて心に応じて能力が決まるというモノ。まあカードは本来そういうものだから君たちが使っているモノは殆どニセモノなんだけどね」

「おっと衝撃の事実~。まあ実用性は変わらないんだから似非もホンモノも関係な~い」

「まあそんなことはどうでもいいんだ。君が多種多様な邪神と関わっているのが大事なんだ。そんな人間は希少だからね。どんな感じになるか未知で楽しみということ」

 それに私は異世界の知識があるからね。実用性とかありそうなカードが生まれそう。

 

 カードを懐にしまった。

「そういうことなら貰っておくよ」

「ああそうだ。教皇、この子の相手をしておいてね。キミ強いからあの子にとっては良い条件になるでしょ」

「シジューク神様の天啓とあらば……」

「めっちゃ嬉しそうな顔してるじゃん。そんなに私のことを倒したかったの? まぁ私もそっちの方が嬉しいんだけどね」

 教皇っちと私はユナイツカードを構えました。

 

 教皇っちのユナイツカードはフォレスターか。

「聖女も教皇も神の加護を受けてないのが一目でわかるのって宗教国家としてはすっごいトリッキーだね♡」

「嫌味なことを抜かすな。いちいち煽らないと気が済まないのか」

「キレてる~♡まあ聖女サマとシジューク神が私に無礼なことしたから、連帯責任ってことでよろしく~♡」

 無意味に人を煽るのって楽しいね。

 

 そして教皇っちの後攻4ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2でスパークルフェアリー召喚。コスト2でエルフのベッド発動。ターンエンド」

「スタントリック中心のデッキかぁ。いいねえ。私そういうのだぁいすき」

 スパークルフェアリーはスタントリックをメインとして扱うならぜひ入れたい一枚。

 

 2 モンスター スパークルフェアリー 属性:フェアリー

   効果:スタントリックを持つモンスターを召喚した場合1枚ドローする

   説明:火花を纏った妖精

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 私の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でスカルファントム、コスト2で魅魔召喚。vanitas(ヴァニタス)でスカルファントムを破壊して1枚ドロー。ターンエンド♡次のターンコストが7になる、サキュバスマスター出されちゃったら一巻の終わりだね♡」

「そんなことで終わってたまるか」  

「そうじゃないと困る。肩書に対して実力がショボいとか私の一番嫌なタイプだもん」

 強い奴を決闘でぶちのめしたいという気持ちは人一倍強いと思う。

 

 教皇っちの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でタイマンベアー召喚。スパークルフェアリーの効果で1枚ドローして、エルフのベッドでタイマンベアーを攻撃済み状態にする。ターンエンド」

「攻撃の回数そのものは変わっていないんだし、タイマンベアーなんて入れる必要ないのでは?」

 タイマンベアーなんてバニラ(効果のないカード)サポートを受けられないバニラだもんね。

 

 5 モンスター タイマンベアー 属性:ビースト

   効果:スタントリック:次のターン攻撃済み状態になった時一度だけこのカードを攻撃可能状態にする。

   説明:一対一にこだわる怠慢なクマ

   攻撃力:3 防御力:2 ライフ:5

 

 私の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚。コスト3でデスマスクの悪霊発動」

 黒いオーラを纏い浮遊するデスマスクが現れた。

 

 3 魔法 デスマスクの悪霊 属性:ガイスト

   効果:設置

      モンスターが破壊された時破壊されたモンスターのコスト以下の相手のカードを一枚破壊してもよい。

      このカードと同じ名前のこの効果は1ターンに1度しか使えない。

   説明:デスマスクに取り憑いた怨念を食らう悪霊

 

vanitas(ヴァニタス)で魅魔を破壊して1枚ドロー。デスマスクの悪霊の効果発動。エルフのベッド破壊。ターンエンド♡」

「戦術の要が……」

「相手の行動を的確かつ徹底的に邪魔すれば勝利に近づくんだよね」

 デスマスクから出た瘴気がエルフのベッドを破壊した。

 

 教皇っちの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で祈りの妖精発動。コスト2でエルフのベッド発動。エルフのベッドの効果をタイマンベアーに使用して、プレイヤーに攻撃」

「むむむそう来たか。無駄な足掻きすぎる〜よねっ♡ま、私の生命力は残り7、頑張ればあと3ターンで勝てるね」

「ターンエンド」

 無視するなんてひどいね。まあ無視するほど集中しているならそれでいいや。

 

 私の7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6で幽鬼武者召喚。更にコスト4で悪魔銀行の頭取召喚」

『魂を融資しろ』

「幽鬼武者……ワイドレイム兄が似たようなカードを使っていた気がする」

「ヘルズ仕様の鬼武者なんだよね~」

 スーツを着た悪魔が干からびた悪魔で出来た椅子に座って踏ん反り返っている。

 

 4 モンスター 悪魔銀行の頭取 属性:イビル

   効果:自分のモンスターを破壊してデッキからコスト3以下のモンスターを召喚する

   説明:強引な手段で契約を結び魂を喰らう悪魔銀行の頭取

   攻撃力:0 防御力:4 ライフ:5

 

「幽鬼武者でスパークルフェアリーを攻撃して破壊」

「くっ」

「悪魔銀行の頭取の効果。自らを破壊してスクリーム召喚。そしてスクリームでタイマンベアーに攻撃。vanitas(ヴァニタス)でスクリームを破壊して1枚ドロー。デスマスクの悪霊でエルフのベッドを破壊し、幽鬼武者でタイマンベアーに攻撃して破壊。そしてプレイヤーに攻撃」

「むぐぅ。ターンエンド」

「肩書だけで案外大したことがないのね♡まぁここから逆転してくれると嬉しいなぁ。ターンエンド」

 教皇:生命力10→4

 

 教皇っちの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で祈りの妖精発動。そしてコスト2でスパークルフェアリーを召喚してターンエンド」

「もしかして手札事故ってヤツ?」

「悪くはないが一応手札を確保しただけだ」

「ふぅ〜んそうなんだ♡手札が悪くなかったらドローソースでコストを無駄使いしないと思うんだけどね」

 現状の手札でなんとか出来てこのターン中に止めを刺したいなら、ドローソースにコストを裂きたくないのね。

 

 私の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7でサキュバスマスター召喚。そしてコスト2でサキュバスマスターの効果発動」

『忍法あ〜し200%の術!』

「幽鬼武者でスパークルフェアリーを攻撃して破壊。サキュバスマスターでプレイヤーに2回攻撃」

 教皇:生命力4→0

 

 決闘が終わる。

「カミサマお墨付きの強さなのに案外大したことがなくてビックリ♡グラモグラとか魔獣みたいな汎用札入れたり、手札があるのに無駄にドローソース使ったりするの止めるとか、あげればキリがないくらいの改善点が見えたね。あっ入れてたらごめんね♡」

「偶然勝ったのかもしれないのにとことんイキり倒してますね」

「単純にデッキとして相性が悪いから、適切なプレイングをして10回やって1回勝てるぐらいかな♡プレイングが適切じゃないから低い勝率を低くしてるんだよね♡」

 スタントリックにしろなんにしろ速攻でプレイヤーを殴れば勝ちだし、わざわざモンスターを全滅させてから殴るなんて余裕がなければやらないしで、分かる人から見れば舐めプなんだなぁ。舐めプをしても勝てるということはそういうことであって。

 

 教皇っちのデッキを見させてもらう。

「フェイタルビーストの採用理由は?」

「もしもの時の役に立つかと思って……」

「ハイいらない。サブのフェイタルビーストは弱いから抜いて余った枠に別の入れるとかしなよ」

 教皇っちのデッキの改善案を話し合いで出してメモに纏める。どうやら教皇っちの資産は少ないのでなるべく安く済むようにしないとね。

 

 取り敢えず余っているカードを教皇っちのデッキにぶち込む。

「大幅に強くなっている。手札にスパークルフェアリーとタイマンベアーが来やすくなっているぞ」

「口は悪いけどなんだかんだ優しいところありますね」

「このくらいで恩に切らないでね。親の脛齧りが偶然生きただけなんだから。あと弱い者いじめは趣味じゃないの」

 それに個人的には強いデッキをぶちのめしたい。

 

 あっいいこと思いついちゃった。

「いいこと思いついちゃったからお父様に話してみよっと」

「とことんマイペースですね。客人じゃなかったら手を上げていましたよ」

「良いことは急いでやらないとね。それにこの国にとっても悪い話じゃないもん。まあ楽しみにしておいてね」

 私は地上に戻って見た目と服装を戻してからお父様のところに向かう。



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31 ORCA

 私は街で余ったカードを配っていた。

「ちゃんと押さないで並んでね。並ばなきゃ神の裁きが下るかもよ」

「俺が先っ、おわっ俺の体が宙に浮いてやがる」

「それが酷い目。いやこれはちょっと生ぬるめだね♡」

 人間にはできないことが気軽にできるのだから邪神の力って便利だよね。

 

 行列を捌いてカードを配り終わる。

「なんですかこれは」

「余ったカードや要らないカードをこの国に提供するシステムを作ったんだよね。お金持ちが気軽にできて善行やってる感じが出るから、世界中のお金持ちに人気なんだよね。これを利用すれば税金対策も出来るわけだし♡」

「聖女としてはそんなことを知りたくなかった」

「露悪的に言い過ぎたね」

 ま、大丈夫でしょ。普通ならこのくらいのことでへこたれるわけがないし。

 

 しかもコレ偉いのが食べ物や資金を直接あげてるわけじゃないから、お父様の事業が一切無駄にならない仕組みなのだ。

「私と言えばパーフェクト、パーフェクトといえば私。これはいくら調子に乗っても、実績に比べれば謙虚もいいところだね」

「パパが偉いおかげですよね」

「そうとも言う。情けないけど最初から最後までオンブに抱っこ。立ってるものは親でも使えってね」

 自宅警備員が無職ではなくて本職になるぐらい太い家だからね。使える立場なら使わない方が逆に失礼だよね。

 

 おっ。超絶膨大な聖なる力の気配を感じる。

「来ましたねレイナさん♡こんなに早く来るなんてビックリですねえ」

「その姿でその口調はやめて欲しい」

「レイナさんは手厳しいですねぇ♡敢えて煽るために友人の口調真似ているだけじゃないですか」

「絶対に助け出さないと」

 今相手したら殺されそうな感じがするなぁ。煽りすぎたかも。

 

 レイナさんは後ろの人に肩を叩かれる。

「おいっ割り込むな。神の裁きが下るぞ」

「あっすみません」

「割り込みするなんてさいて~♡」

 レイナは後ろに並び直す。

 

 レイナが来るまで随分と待った。

「決闘で倒して元に戻す」

「二つ言いたいことがある。まず一つ 決闘で何でも解決するほど世の中甘かない」

「何が言いたいの」

「そして二つ 私はいきなりピンチになってやるほど慈悲深くない」

 指パッチン(フィンガースナップ)すると地面から液体のように闇が湧き出る。そして闇の中から黒い鎧をまとったアンドリューが出てきた。

 

 周りの人は目に見えて慌てる。

「落ち着いてください。これは神の御業を使ったショーです。ここまで、ここまで仕込みですからね」

「人使いの荒い事だ。しかも俺にレイナを倒す役をやれということか。むごいことをする」

「アンちゃ……アンドリューまで洗脳したこと許さないから……私のことを狙っているのなら私だけを狙えばいいのに」

 分かりやすく怒っている。私が相手したら冗談抜きでヤバいね。

 

 アンドリューとレイナの決闘が始まった。

「俺の新たな力 見せてやる」

「私もこれについては知らないから楽しみだね」

「悪いけど倒させてもらうから」

 強いと嬉しいのだけれど。

 

 そしてアンドリューの後攻4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でORカトラスフィッシュ召喚」

 闇を吐き出すタチウオが現れた。

 

 4 モンスター ORカトラスフィッシュ 属性:ガイスト

   効果:オプション(このモンスターの下のカード名1種類につきこのカードの攻撃力と防御力を1上げる)

      レイドリンク(自分の場のモンスター一体を選んでそのモンスターの下に墓地のこのカードを置く。そうしたらこの上のモンスターは下記の能力を得る):蹂躙

   説明:ORモンスターは冥府の力により、怨念を食らい力を得る霊道輪駆を習得した

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

vanitas(ヴァニタス)でORカトラスフィッシュを破壊して1枚ドロー。ターンエンド」

「よくわからないカードばかり、能力を確認しつつ警戒をしよう」

「敗北を活かしていますね。よいことです。そうやってどんどん強くなってくれると嬉しいね」

 ORは序盤は墓地を溜めて準備が整ったら一気に攻めるのが特徴のテーマ。一度調子に乗らせたら死に至る。

 

 レイナの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でプロメテウス・プログラム召喚。聖殿も併せて3枚ドローし、このカードをコストゾーンに送る。ターンエンド」

「遅いね。私のことを助けたいんじゃなかったの?」

「それだけじゃない。アンドリューのことも助ける」

 良い心構えだね。

 

 アンドリューの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3でORキューカンバー召喚。vanitas(ヴァニタス)でORキューカンバーを破壊して1枚ドロー。その後コスト2でORクラム召喚。オプション、キューカンバーとカトラスフィッシュをクラムの下に送る」

 巨大なアサリがナマコとタチウオの怨念を食らう。

 

 3 モンスター ORキューカンバー 属性:ガイスト

   効果:オプション

      レイドリンク:攻撃時1枚ドロー

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 2 モンスター ORクラム 属性:ガイスト

   効果:オプション 

      レイドリンク:相手のカードの効果によって手札に戻らない

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

「ターンエンド。アイギスは硬くて厄介だ」

「攻撃すればとりあえず一枚ドローできたのに。ハイロゥ警戒かな♡」

 チキングルントをオプションで装着すればこの状況を何とかできる

 

 レイナの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイロゥストライク発動。そしてコスト3で伝説の剣召喚。伝説の剣でプレイヤーに攻撃。コスト2で翼の使徒を召喚して1枚ドロー。ターンエンド」

 アンドリュー:生命力10→6

 

 アンドリューの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でORチキングルントを召喚。vanitas(ヴァニタス)でORチキングルントを破壊して1枚ドロー。コスト2でORチャンネルロックフィッシュの効果発動。手札のこのカードを捨てる。オプション、チキングルントとチャンネルロックフィッシュをクラムの下に送る」

 イサキとキチジの怨念がアサリに吸い込まれていく

 

 4 モンスター ORチキングルント 属性:ガイスト

   効果:オプション

      レイドリンク:誘導

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 2 モンスター ORチャンネルロックフィッシュ 属性:ガイスト

   効果:コスト2を払って手札のこのカードを捨ててもよい

      レイドリンク:1ターンに1度このカードは貫通を持つモンスターとの戦闘でダメージを受けない

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

「クラムでプレイヤーに攻撃」

「そうはさせない。リアクション。ハイロゥ」

「ヒエエエ。デザインが凄くキメェ!」

「クラムでハイロゥに攻撃。その後コスト1で霊道札を発動してターンエンド」

 

 1 魔法 霊道札 属性:ガイスト

   効果:レイドリンクを持つモンスターが場に存在するときデッキの上から2枚を墓地に送る。霊道札は1ターンに1度しか使えない

 

 レイナちゃんの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5でワルキューレの誘い。アンドリューはクラムを墓地に送らなければならない。そしてハイロゥでプレイヤーに攻撃してトドメ」

「サモンコンディション。ORCA(オルカ)

 シャチの骨が闇から現れて多種多様な魚介類の怨念を喰らう。

 

 8 モンスター ORCA(オルカ) 属性:ガイスト

   効果:サモンコンディション:自分の墓地にレイドリンクを持つモンスターが5枚以上存在している相手ターン中

      出現:自分の墓地のカードのレイドリンクを全て発動する

      オプション

   説明:ORの支配者 その鳴き声はすべての霊道や輪廻を超越し駆動させる

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 レイナちゃんはあっけに取られていた。

「たとえ誘導があろうとも攻撃済状態でない以上相手プレイヤーを攻撃することは可能。無駄なことをしたね。ハイロゥでプレイヤーに攻撃して決闘終了」

「アクションストライク。魂魄の呪縛」

 

 4 魔法 魂魄の呪縛 属性:ガイスト

   効果:自分の場に属性:ガイストのモンスターが存在する場合このカードはアクションストライクを得る。

      自分のモンスターと相手のモンスターを一体ずつ攻撃済み状態にする

 

「伝説の剣とORCA(オルカ)を攻撃済み状態にする。そして誘導を持つORCA(オルカ)とハイロゥは戦闘になる」

「でもORCA(オルカ)の生命力は1。ハイロゥの攻撃で削り切れ……てない。ターンエンド」

「霊道札の効果により墓地に送られたカードが両方ともレイドリンクを持っていただけじゃないの」

 条件があるとはいえ2枚墓地肥やしは強いよね。

 

 アンドリューの7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でORコーストフライングフィッシュ召喚。vanitas(ヴァニタス)でORコーストフライングフィッシュを破壊して1枚ドロー」

 

 5 モンスター ORコーストフライングフィッシュ 属性:ガイスト

   効果:オプション

      レイドリンク:貫通

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

「レイドリンク発動。コーストフライングフイッシュのレイドリンクする。ORCA(オルカ)でハイロゥに攻撃して破壊蹂躙。伝説の剣に攻撃して破壊蹂躙。そしてプレイヤーに攻撃」

「うっがあああああ」

 ORCA(オルカ)は闇のレーザーでレイナを攻撃する。

「ターンエンド」

「なぁんとかしないとぉ、次のターンで負け。私としてはこんなことで負けて欲しくないんだよね。正直言ってアンドリューは負けること前提の嚙ませ犬みたいなところがあるからね」

 嚙ませ犬に負けるのはね。

 

 レイナのデッキの上が光り輝いていた。

「ドロー。チャージ。コスト2でエンジェリックサーガ発動。一ターンに一度コストを払って墓地からコスト5以下の魔法を発動できる。コスト5でワルキューレの誘い。コスト2で翼の使徒を召喚して2枚ドローしてターンエンド」

 

 2 魔法 エンジェリックサーガ 属性:レジェンド

   効果:設置。一ターンに一度コストを払って墓地からエンジェリックサーガ以外のコスト5以下の魔法を発動できる。この効果は相手ターンにも発動できる

 

 アンドリューの8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6でORコモンヘッドフィッシュ召喚」

 

 6 モンスター ORコモンヘッドフィッシュ 属性:ガイスト

   効果:オプション

      レイドリンク:オールアタック

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

vanitas(ヴァニタス)でORコモンヘッドフィッシュを破壊して1枚ドロー。更にコスト3でORクラブ召喚」

 カニが大量の怨念を食らう。

 

 3 モンスター ORクラブ 属性:ガイスト

   効果:オプション

      レイドリンク:攻撃するときすべてのプレイヤーの生命力を1回復する

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

「ORクラブでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。ハイロゥ」

「ORクラブ、ハイロゥを倒せ」

「コスト5でリアクション。天使のウィンク」

「ターンエンド」

 凄い遅延戦術。

 

 5 魔法 天使のウィンク 属性:エンジェリオ

   効果:リアクション。一度だけ攻撃で受けるダメージを0にする

 

 レイナの9ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト8でセラフ召喚」「朱き6枚の翼持つ蛇は聖なるかな…現れよ。セラフ! 1枚ドロー! セラフでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク……」

「更にサモンコンディション。百王の生誕。今発動したアクションストライクの効果を無効化する フレイミングゴッドサーバント」

 あふれ出した闇が蒸発し、モンスターや魔法などが消え去った。

 

 アンドリューの見た目が戻った。ヘルズの力も消滅寸前だし、もう二度と使えないだろうね。

「色々迷惑をかけたみたいだな。すまないという言葉だけでは済まない」

「それは別にいいの。私は気にしてないから」

「そういう言い方はダメダメェ♡そういう言い方はかえって気を遣わせているんじゃないかなと思わせちゃうよ」

「気を遣うこととは程遠いような傲慢人間がよく言うよ。元に戻さないと」

 レイナはユナイツカードを構える。

 

 突き刺すような意志を感じるね。

「なんでそんなに元に戻すことにこだわるのさ。これが素なのかもしれないじゃない」

「一人につき使えるユナイツカードは一つまで、誰かが変装してなりすましているのかもしれないから。本物をどこかに閉じ込められている。決闘で倒して居場所を聞き出さないと」

「あ~そう思うことにしておいたのね♡何事にも例外の一つや二つあるの」

 七と六の邪神由来の力はユナイツカードを書き換える。これが神に選ばれた者のみがへブンズを使えるようになることのタネ。

 

 膨大な力を持つからできることだよね。正真正銘の神の御業というわけ。

「待たせるのも皆様方に悪いからちゃっちゃと決闘しようね」

「そうだね。悪いけど倒させてもらうから」

 あれだね、誘拐犯に躊躇なんかするかよという意志を感じる。こんな機会でもなければ本気のレイナとぶつかれないし、ラッキーだったね。



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32

 私の先攻4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でvanitas(ヴァニタス)発動。スカルファントムを破壊して1枚ドロー。ターンエンド」

「安定ムーブだね」

「本当はオルトロスも出したかったんだけどね。オルトロスは強いんだけど一枚しか持ってないからそうそう引けないの」

「誘拐なんかするような輩だから流石に運が悪いみたい」

 凄い偏見。不運な善人も運のよい悪人もいるよねってこと。

 

 レイナの後攻4ターン目。おっいきなりマッハドロー使っちゃう感じ?

「ドロー。チャージ。コスト4でプロメテウス・プログラム召喚。1コスト貯めて3枚ドロー。ターンエンド」

「何度も言うけど聖殿とアイギスが雑に強すぎるんだよねぇ」

「全力で相手しなければならないから雑に強いカードを止むなく使わないとね」

  除去されにくいコスト軽減カードと息切れしないようにするカードとかもう滅茶苦茶だな。でもそれでいいんだよ。

 

 本気のぶつかり合いを制す……これ即ち強者の歓び。

「本気なのは良く分かるよ。さっきもハイロゥストライクを使ってガンガンコストチャージしてるって感じだったからね。でも私そういうのをぶち倒すのがとっても好きなの。いわゆるわからせってやつ♡」

「その願いは叶えられそうにない。本当にごめんね」

 悪い友人を持ってしまいまったね。

 

 私の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4で踊り子の悪魔召喚。オルトロスを手札に加えてコスト2でオルトロス召喚。vanitas(ヴァニタス)で踊り子の悪魔を破壊して1枚ドロー。ターンエンド」

「舐めた真似を……踊り子の悪魔で攻撃してからvanitas(ヴァニタス)のコストにすればいいのに」

「あれれミスっちゃった~舐めプしても勝てるからへ~きだね♡」

 

 4 モンスター 踊り子の悪魔 属性:ガイスト

   効果:出現:デッキの上から二枚を見て1枚を手札に加えて

         1枚をコストゾーンに送る

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:2

 

「やっぱりニセモノだ。ソウコちゃんがこんなことするか」

「ちょっとプレミしただけで悪し様に言うじゃん。人間誰しもミスはあるものだよ」

 ちょっと怒り過ぎだ。カルシウム不足だな。この世界の食事は基本的に栄養が足りてないんだよねえ。

 

 レイナの5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト3で伝説の剣召喚。伝説の剣でプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。悪霊呪。良かったねえダメージが倍になっちゃうよ~♡」

「一々癇に障ることを言わないと気が済まないのか……コスト3でプリンシパリティズを召喚してターンエンド」

 ソウコ:生命力10→4

 

 6 魔法 悪霊呪 属性:ガイスト

   効果:アクションストライク

      2枚ドローしてこのカードをコストゾーンに送る。

      コストを支払わずにこのカードを使用したターン受けるダメージが倍になる。

 

 私の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で幽鬼武者召喚。幽鬼武者でプリンシパリティズに攻撃して破壊。伝説の剣に攻撃して破壊。プレイヤーに攻撃しちゃう」

「これはとってもマズイかも……」

「ここから逆転してくれるって信じてるからね。がーんばれがーんばれ。ターンエンド」

 サキュバスマスターで一気にトドメもさせたけど、それじゃ面白くないもんね。

 

 レイナの6ターン目だ。デッキの上が光っているね。

「ドロー。チャージ。何このカード……コスト7で天将エルデウス召喚。1枚ドロー」

「なんなのそのカード。私そんなカード見たことも聞いたこともない。プライムディスティニーで引いたってわけね」

「いつの間にか持っていたからデッキに入れた」

 黄金のイスに座った白銀の鎧騎士が現れた。

 

 8 モンスター 天将エルデウス 属性:エンジェリオ

   効果:出現:自分の墓地のコスト6以下のモンスターを場に出す

      1ターンに1度コストを4払うことで自分の墓地からモンスターを2枚まで手札に加えることができる

   攻撃力:4 防御力:4 ライフ:8

 

「天将エルデウスの効果発動。伝説の剣を場に出す。天将エルデウスと伝説の剣で相手プレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。時の悪魔」

「良かった。時の悪魔を使わせることが出来た。ターンエンド」

「負け惜しみだぁ。本当に使わせる気があるなら次のターンを見越してプリンシパリティズ出すもんね」

 ハイロゥ出す気満々だね。表情から殺意を隠そうとする努力が透けて見える。

 

 私の7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト7でサキュバスマスター召喚。サキュバスマスターの効果でサキュバスマスターに2回攻撃を付与する。サキュバスマスターでプレイヤーに攻撃」

「リアクション。ハイロゥ。1枚ドロー。コスト5でリアクション。伝説の盾」

「まぁ伝説の剣があるなら盾もあるよねぇ。誘導が二体いる場合好きな誘導のモンスターに攻撃出来る。幽鬼武者でハイロゥと盾に攻撃して破壊」

 

 5 モンスター 伝説の盾 属性:レジェンド

   効果:リアクション。誘導。

      出現:このカードを攻撃済み状態にする

   攻撃力:0 防御力:5 ライフ:3

 

「そして幽鬼武者でプレイヤーに攻撃」

「これはキツイ。私もああなってしまうかも」

vanitas(ヴァニタス)で時の悪魔を破壊してターンエンド。おっいいカードが引けちゃった。これさえあればレイナちゃんなんてけちょんけちょんだね♡」

 レイナ:生命力10→6

 

 レイナの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4エルデウスの効果で伝説の盾とハイロゥを手札に加える。コスト5で伝説の盾を召喚して1枚ドロー。エルデウスでプレイヤーに攻撃」

「ヤバ~い♡ソウコちゃん死んじゃうよ~♡」

「……どうせなにかあるんでしょ」

「よくわかったね。アクションストライク。地縛霊の誘い。エルデウスの攻撃力を0にする」

「ターッンエンド」

 残念そうな顔をしているね。

 

 私の8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で悪魔銀行の頭取召喚。コスト2でサキュバスマスターの効果発動。二回攻撃を付与する。サキュバスマスターで伝説の盾破壊」

『一撃でブッ倒してあげるね。オラっ最後の一発喰らえ』

「サキュバスマスターでプレイヤーに攻撃。イービルウィップ!」

「リアクション。ハイロゥ」

「またそれか。デッキが切れるまで無限に防御し続ける千日手は面倒くさいんだよねぇ。面倒だなぁ」

 そういうのは飽きているんだけど。

 

 このターンで生命力をある程度減らしておこう。

「悪魔銀行の頭取の効果発動。自分のモンスターを一体破壊してデッキからコスト3以下のモンスターをデッキから場に出す」

『魂を融資すれば未来と引き換えに今を得る』

「幽鬼武者を破壊してスクリームを場に出し、スクリームでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

「幽鬼武者で攻撃すればとどめを刺せていたのに……そんなに私のことを侮っているの?」

 レイナ:生命力6→3

 

 レイナの8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイロゥストライク発動。コスト4で伝説の盾と伝説の剣を手札に加え、エルデウスでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。時の悪魔」

「スペルコンディション。百王の生誕。その時の悪魔の効果を無効化する。エルデウス、トドメだ」

「容赦がない……」

 ソウコ:生命力4→0

 

 私の見た目が戻る。 地下から膨大な力の吹き溜まりが高速で近づいているのを感じた。

「やる……やりますねえ。こんなにつよくなってくれるなんて嬉しいですねえ」

「ニセモノじゃなかった……ごめんなさい」

「残念でしたね。アレはニセモノではありませんでした。まぁ友人の性格がガラリと変わって見えれば人が変わったように思えますよね。しかし比喩抜きで人が変わったと思うのはそんなにいなさそうです」

 レイナさんは気まずそうな顔をする。

 

 そのあとホッとした顔をしました。

「ということはプレミ放題だったのは内心露悪的な自分に負けて欲しかったからとか……」

「私はそんなタイプではないのですが。そんなことよりもアンドリューさんも戻ってハッピーエンドというところ。しかしこのまま2タテというのもあまりにも面白くないのですよね」

 気まぐれな神だ。あてにはできないね。

 

 七の邪神が出てきた。

「どっちの味方目線の発言なわけ?」

「さっきの戦いも一方的でつまらなかったので別の人が仕切り直ししてくれるそうです」

「なっあなたは」

「今は地面から出てきたただの決闘者でしかない。まあ適当にサバイチでいいだろ」

 シジューク神とバレたら大っぴらに行動出来ないだろうからね。見た目も半裸山羊頭と言われている一般的なシジューク神とは違うし。

 

 そして七の邪神とレイナさんの決闘が始まりレイナさんの先攻7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト8でセラフを召喚して攻撃。フレイミングゴッドサーバント」

「これで残りの生命力は2。一方的に追い詰められたことになる」

「伝説の剣の攻撃。これで終わり」

「アクションストライク。時の悪魔」

 ここからの逆転は難しい。しかし邪神特有の強カードがあればおそらく何とかなると思いますね。

 

 七の邪神がカードを使用するともう一度決闘が始まっていました。

「なんだなんだ、あの兄ちゃん一体どんな手品をやりやがったんだ」

「どうせ一度負けてやり直したに……」

「違いますね。相手にはアイギスがある。ということは一度負けてやり直したわけではありません」

「それじゃああのすっからかんの場とコストはどういうことなんだ」

 そういうことでしたか。

 

 レイナさんが何もせず七の邪神の8ターン目。

「ドロー。時の悪魔とラプラスの悪魔を下に置く事をコストとして世界の悪魔召喚」

 6本腕の悪魔が空間を割いて現れましたは

「特殊な条件で召喚されるモンスター……」

「ラプラスの悪魔はターンが飛ばされた直後にのみ場に出すことが出来る、それ以外は何ともない雑魚カード。そんなカードを使って出すもんだから、出すのに苦労するし、苦労した分強さは折り紙付きというわけ」

「しかしてその効果は」

「ターンエンド時に互いの生命力を0にする」

 苦労して出した割に絶対に引き分けにしかならない。とんだ期待ハズレなカードですね。解散。

 

 しかしどうしましょう。散々引っ張っておいて引き分けですなんて怒られますよね。

「成る程な。ああいった使い方をするのか」

「よくわかったぜ。実際の試合形式でルールや入れたほうがいいカードの構築を合わせろということを示していたに違いない」

「そういうことなら私達もやってみるわ」

 勝手に深読みしてくれて助かりました。都合が良すぎるかもしれませんが、世の中の都合は大抵不合理なので問題なしですね。

 

 一件落着ということです。最終的には誰も損していないのでベリーハッピーエンドですね。欺瞞。

「もしかすると全部お嬢様がアピールするための茶番だった……ってことはないよなぁ」

「そんなことのために他の国の規模の小さい祭を襲うわけないじゃないですか。やるんなら5倍くらい大きな祭りでないとダメですね」

「レイナに心配ばかりかけさせるなんてよ。アンタの親父さんが聞いたら悲しむぜ」

「急になんなんですか。お父様にはバレないようやったから悲しむも何もありませんよ」

 後で知られたらキツい制約がつくかもしれませんしね。私としてはそんなもの嫌なので。

 

 七の邪神はレイナさんとアンドリューにもカードを渡しました。

「君たちの人生の歩みによって姿が決まるカードだ。そのカードの姿が決まる日を楽しみにしているよ」

「わざわざありがとう御座います」

「これからも一層精進するが良い……なんちゃって。出来るだけいいこと言ってみた」

 いいところ取りするなんて案外図太い。姉にこき使われてすべてを奪われているとは思えませんね。

 

 聖女様が困惑気味に拍手をすると周りから拍手喝采と歓声の嵐。

「良い劇でしたね。この劇はこの国を開発してくれている大企業 メッセル財閥が出資し、我々が企画したものとなります。この劇は変わったものでして決闘の勝敗自体は決まっていませんが、決闘の勝敗次第でセリフや展開が変わると言った物らしいですね。いやぁ素晴らしい劇でした」

 国民たちは沸いている。便乗しましょう。

 

 私は思い切り手を上げました。

「この劇の見物料は強き決闘者となること、ただそれのみです。皆様方精進してくださいまし」

「そう言えばアンドリューもレイナさんも劇の練習をしていましたよね。即興劇(アドリヴィトゥム)はお手の物のはずですよ」

「そんな乱暴な」

「そういうことにしておいた方が都合がいいってことです。協力してください」

 空気を盛り下げると暴動が起きるかもしれませんからね。

 

 そうして1か月あと帰国し劇を見ることになりました。

「友達のために各地を旅する内容ですか。なにやらだいぶ実感がこもっていますね」

「話は聞きました。あの体験をしておいて話に実感がないわけないですよ。演技に力も入ろうもんです」

 それもそうでしょうね。



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33 入学

 何事もなく平穏に12歳を迎えました。とうとう『プライムディスティニー』の舞台の学園に入学するのです。

「学園とはいっても予習復習は出来ているので、学ぶことなんて何もないんですよね。最低限授業に出てテストで点を取れば卒業できるので放任主義と言いますかなんと言いますか」

「そうは言いますけどもその最低限というのが難しそうで不安です」

 レイナさんは恐怖と緊張で顔面蒼白にしていました。

 

 レイナさんはなにか言いづらそうにしていますね。

「先程からなにやら不満そうですがどうかしましたか?」

「……それにその……アンドリューもいませんし心細いというのが」

「いないのは仕方ありませんよ。馬車に轢かれて重症なので入学試験を受けられなかったのですから。1ヶ月遅れで入学出来るのでまだ同時に卒業出来る可能性はありますから」

 あの学園露骨に平民差別しますから、平民だけは厳しい入学試験もあるのです。平民だけは最低限のハードルが高いんですよね。

 

 私はレイナさんに手作りサンドウィッチを渡しました。

「レイナさんとは同じ平民同士……頑張りましょうね……それ食べていいですよ」

「うん、じゃなくてはい。しかしソウコお嬢様が平民と言うのはなんか少し欺瞞ですね」

 私とレイナさんは馬車で登校することになりました。

 

 揺れてひっくり返ったあと、炸裂音がしました。

「な、なに、なんなの!?」

「恐らく爆破の呪いがかかったものを踏んでしまったのだと思われます。結構スリリングですよね」

「言ってる場合じゃないと思うんですが!」

「大丈夫です。ヘルズの力をぶち込まれたり部屋を爆破されるよりかはインパクトに欠けていますから。それに中の人は安全になる仕組みがありますからね」

 私達は馬車から出ました。

 

 メイドさんを護衛につけたほうが良かったですかね……。

「御者さんが優れた護衛だとセメタリアド伯爵様から聞いていたのですが、このザマですか。いつの間にか消えてますね」

「なにがどういうことなんですか???」

「よくあるんですよ、最近。食べ物に針を入れられたり、タンスの服に毒薬が入れられたりするのが。地味だし何度もやられているので慣れていますが。邪神のすることに比べれば大したことないですよ」

 私だけじゃなくてレイナさんを危険な目に遭わせるのは好感が持てない。

 

 私たちの前に粗野な服装の男たちが現れました。

「どいてください。尤も大けがしたかったらどかなくてもよいのですが……」

「ギャヒャヒャアッ! 女だぜぁ! 数年たてば上玉にならぁ!」

「あなた達暗殺のプロですよね。動きや呼吸が盗賊みたいな素人じゃありませんもの。おおかた第四王子のフィアンセを消す依頼を受け、依頼者の痕跡を隠すための変装をしたというところでしょうか」

 男たちの一人が一瞬なぜ分かったと言いたげな顔になりました。

 

 手を叩いてメイドさんを呼びます。

「何言ってんのか分かんねぇぜヒャハァー」

「そこの後ろの方にいる人、催眠術使う人でしょう。数年前にも同じような事をやられたので覚えているんですよね」

「お嬢様、馬の首が折れているので馬車が使い物になりません」

「左様ですか。ではこの人たちを馬の代わりに致しましょう。スケジュールに余裕を持たせておいて良かったですね」

 ユナイツカードを懐から出しました。

 

 決闘が終わりまして男たちを馬の代わりにすることができました。

「しかし危険な目に遭っているのなら早めに言ってほしかったです。なんというか友達として少し寂しいと言いますか」

「友人だから巻き込みたくないと言ったこともあるでしょう。別に、決して、良い決闘を独占したかったとかそういう訳ではないんですよ」

 ありのまま本心を言っただけですが、こういう言い方をすれば私が私欲のためにやったと思い込んでくれるでしょう。

 

 数十人もいれば馬力も沢山あるらしく、一日で街にたどり着きました。

「人をうまく使えるようになる呪いって便利ですよね」

「あくどい。まだ若干ヘルズの闇的な何かが残っているんですかね……」

「私は元からこんな感じですが。それに友人を酷い目に遭わせるような人間に対する扱いとしては優しいと思われます」

 男たちを刑務所に連行した後馬を補充します。

 

 しかしあれですね。今まで陰湿な真似をしてきたのに大胆になりましたね。それほどまでに私が目障りになったということですか。

「黒幕の捜索は私の方でしておきますので、お嬢様とご友人様は快適な学園生活をお送りくださいませ」

「メイドさんありがとうございます。縁もゆかりもない私にもこんなに良くしてくださって」

「いえいえ私にとっても見知った顔なので無下にするのも良心がいたみますから」

 いずれ私が死んで王子の婚約者の後釜になるから権力闘争に慣れさせておくべきか、友人としてそういうものを見せないべきか未だに迷っているんですよね。

 

 そのまま学園に着きました。距離自体はそんなでもないのですが、行き方が決まっているんで時間が凄いかかりました。

「行き方が決まってるから余計な寄り道しなければならないって面倒ですね」

「そういうプロセスそのものが生徒として認められる為の条件の一つなのです。各生徒ごとに割り当てられた道で行くのですよね。心配しないでください。レイナさんと私のプロセスは同じなので問題ありません」

 入学試験の時に説明されたはずなんですが……寝ていたんですかね。

 

 でもよかったです。平民だから愚弄されるかと思いましたが、あそこの人垣のおかげで人が来ていませんね。

「あそこの人垣の中心カッコイイ人がいる……はわわ」

「お~い戻ってきてくださ~い。魅了の催眠術にかかっているんですかね」

「はっ。一瞬意識が向こう側に行っていましたね」

 人垣の中心を見ると高身長イケメンがいました……ドゥイ・ラウィラニですね。

 

 あの人の家は邪教弾圧してるのに邪教信仰しているダブスタなので好感が持てません。

「あの人女性ですよ。家の決まりで男性と言うことになっているので、あまりその事実は言いふらさないようにしましょうね」

「噓ですよね……私の初恋が……」

「マジですよ。噓をつく意味がありませんからね。それに恋のライバルを減らしたければもっとやり方がありますし」

「言われてみれば体のラインが少し女性的な気がします」

 しかし身近過ぎて意識されないアンドリューもかわいそうですね。

 

 こっちを向いてきました。うげ、気が付かれましたね。

「これはこれはソウコ嬢ではありませんか。隣のレディは一体どのようなご関係で?」

「友人のレイナさんです。レイナさん、この人はドゥイ・ラウィラニさんです。凄く偉い人です」

「7年後のことも考えればソウコ嬢の方が偉いと思いますよ」

 妙に物腰が柔らかいですね。てっきり今度会ったらぶち倒されるものかと思っていたので良かったです。

 

 いや殺意がヒリヒリと刺さってきていますね。相当恨まれているので関わらないようにしましょう。

「しかし知り合いがいるなんて心強いですね。これからも肝心な時は頼りにしますよ」

「平民如きがラウィラニ様に近づかないでくださる」

「そこまで言われてしまったらそうしなければなりませんね。なにせお金だけはありますが、立場は弱いのですから」

 レイナさんと一緒に離れました。

 

 どうやら同室ではなかったようなので、レイナさんとは少しの間お別れです。

「あ、ラウィラニさんですね。同室だったんですか」

「先日一人行方不明になってしまってソウコ嬢が割り当てられたと言うわけですね」

「そうなんですね」

「人気過ぎる私と同室になりたがる人はたくさん居るはずで倍率も高そうなのに、なぜ来たばかりのソウコ嬢が同室になれたのか疑問で仕方がないはずですよね。両者の同意があれば部屋を変わることが出来るシステムがあるのにコレはおかしいと薄々感じているのでは?」

 この人水面に写った自分に見惚れていそうですわ。

 

 聞いて聞いてと言いたげな顔をしていますね。

「この部屋は毎年誰かが行方不明になっている上に撤去しようにも事故が起こるのですよ。だから人もあまり募集しにこないのです。今年は人が多いので私はたまたま余っていた貴女の部屋に入れられただけですよね。そういった理由を存じているので質問しなかったのです」

「凄い情報通……お父上の血ですね」

 露骨に落ち込んでいましたよ。

 

 そういえばこの部屋での消失事件の噂を聞くことが『プライムディスティニー』本編でのドゥイ・ラウィラニのフラグでしたっけ。確かギャグ描写だと思われていた隣の黒装束の男が、本当は幽霊で消失事件の犯人という感じでしたっけ……話が逸れましたね。

「話が早いというのはよいことです」

「はいそうですね」

 物腰柔らかなのがよけいに怖いです。

 

 深夜煩い音で目が覚めました。

「隣のベッドからゴソゴソ音が聞こえますね。何しているんでしょうか。弱みになるかもしれないから見ておきましょうね」

「んっくっ」

「変な声が出ていますね。一応見てましょうね」

 凄い弱みを握れるかもしれませんね。

 

 布団をめくりあげるとイチゴジャムとパンとスプーンを出していました。状況から見るにイチゴジャムの瓶を開けているところですね。

「何してるんですか」

「家が厳しかったので夜食を作って食べることも出来なかったんです。だから一度こういうのをやってみたくてつい……」

 なるほど。寝ぼけているんですね。

 

 壁に頭をぶつけたら痛かったのでこれは現実ですか。

「イメージが崩れると困りますので、このことは内緒にして欲しいのですが」

「よろしければ夜食の作り方について教えて差し上げましょうか?」

「そうですか。よろしくお願いします」

 案外人間味があって愉快な人だったんですね。こういう所を『プライムディスティニー』本編で見せて欲し……いやアレはアレで王子様系として完成しているから違った魅力というやつですね。

 

 そうしてなんのかんのあり3日後です。

「今日は学園の説明をするだけの日でよかったですねぇ。昨日は徹夜しましたから」

「ええ疲れましたね。一晩中人には言えないことをしましたから」

「誤解を招く言い方は良くないですよ」

 あっ。レイナさんですね。何かが結びついたような顔をしていますね。

 

 レイナさんは顔を赤らめて廊下を速歩きしました。焦っていても走らないのは偉いと思います。

「レイナさんに誤解されましたね。何もかも語弊のある言い方をしたあの人のせいです」

「あっ首筋にイチゴジャムつけっぱなしでした」

「とてもマズい。レイナさんは純粋でいい人ではあるのですが、思いこみの激しいタイプなんですよね」

 やることなすこと殆ど善意ではあるんですけどね。

 

 周りに人が大勢集まっていました。

「あの人たち凄いフケツなんです。具体的には同室どうしでよろしくやっていたんです。一晩中人には言えないことをしたって言っていました。あと首筋に口紅の跡があります」

「あの子思い込みが激しいとかそういうタイプじゃないですよ。よくあんなのと友人関係築けていましたね」

「欠点がなければ良い人ですから」

 観衆がざわついていますね。

 

 証拠が沢山あるのが思い込みを増幅していましたね。

「怒らないでくださいね。婚前交渉するわけないじゃないですか。そんなことしたら王様とお父様に酷い目にあわされます!」

「認めたくはないけど証拠があるから合っているのかもという空気が漂っていますね。ユーモアのつもりで誤解を招く言い方をしたせいで、死にかけるなんて思いませんでした」

 口は禍の元という奴ですか。

 

 あっ観衆の中にトゥスル王子様もいますね。女性ばかりの生け垣で珍しいことですこと。

「誤解です。この人の首筋のはジャムですから」

「……ヘルズの力を後ろなり全方向なりに解放するなり何なりするなら今のうちですよ」

「そうですか」

 レイナさんがヘルズの力を薦めるのはなにかありますね。新たなトラウマを作りたくないといった感じな雰囲気です。

 

 後ろに向かって肘鉄しますとなにかに当たりました。振り返ると黒い装束の男がいました。

「お嬢様ごめんなさい。気がついていないフリをしないと死なすとその後ろの人に言われていたものですから」

「この人……いつからそこに……。この完璧な私が気がつけなかった」

「催眠術で同室の人に見えないようになっていたみたいですね」

「それとなく追い払わせるために協力してもらった結果このような形と。ラウィラニさんのためならと頑張る女性たちはたくさんいますから」

 男は消えました。分かっていたのになんで見えなかったんですか。



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34

 部屋で寝転がっていました。

「凄いですね。除霊自体に成功したわけではないから今目の前でポルターガイスト現象が起きていますね。カードや教科書が凄く動いております。ダイナミックでした」

「白昼堂々恥をかかされたわけですからなんか必死になるのも分からなくはないと思われます。恥をかいたのは自業自得なのですがね」

「何の理由があるかわかりませんがこの部屋の人だけ無差別に狙う執念は気持ちが悪いですね」

 ヘルズの力をポルターガイストに当てました。あの時は姿が戻っただけで、ヘルズの力が消えたとかそういうのではなかったんです。

 

 ヘルズの力がポルターガイストにまとわりついて人型になりました。

「闇をインク代わりにしたか……ソウコ嬢って変なことできますよね」

「そうですね。そんなことよりもそこのポルターガイストになぜこのようなことをするのか聞いてみましょう」

「いいアイデアですねぇ」

 質問しました。

 

 ポルターガイストは鉛筆と紙をつかんで動かします。

「筆談と言うことですか。えっとお前らに話すことはない……ですかね。ヘルズの力を圧縮して縮めましょうね」

「邪神言語で書かれているからおそらく相当勉強家だったんだろうね。その才能が埋もれてしまうのは勿体ない」

「本当に完璧ですよ。これで生きてさえいれば今頃歴史に名前が残っていたと思われます」

 ヘルズの力を圧縮するとポルターガイストが苦しみました。

 

 ポルターガイストは机に座って背筋を伸ばして真面目に書いています。

「この部屋の住人が同室の人の暗殺に巻き込まれて以来怨霊となったそうです」

「とばっちりで死んで永遠に害悪し続ける決心を決めたということですね。幽霊君の境遇には同情するよ」

「境遇こそ同情はできますが性根とやっていることが悪な存在の話を受け入れるなんて優しい人ですねえ。私なら許せませんよ」

 良いところはありますがダブスタカルトの敬虔な信者なので凄くマイナスなんです。

 

 ポルターガイストはラウィラニさんに抱きつこうとして殴られました。

「ラウィラニさんにいたく感動したらしいですね。私がわざと厳しく接したおかげでございます」

「そうですか。私はてっきり腐りきった性根をただ見せつけていただけかと思いました」

「そんなんだから私に決闘で勝てないんですよ。満足したようですし、除霊しましょうね。教国聖女お墨付きの聖水を喰らいなさい」

 聖水をかけるとポルターガイストが襲い掛かってきました。効き目なしでしたね。

 

 ポルターガイストを背負い投げしようとするとポルターガイストが私の正面にテレポートしました。

「ポルターガイストがユナイツカードを構えていますね。言葉は分かりませんが私に敵意を向けているのはよくわかります。徹底的にズタボロにして心を折って未練消滅、成仏させてあげますわ」

「まあ傍から見て酷かったので敵意を向けるのも仕方ないですよね」

 決闘が始まりました。

 

 3ターン目までこれと言って何か起きたわけでもなくポルターガイストの4ターン目となります。

「ドローとチャージをしてから半永久機関を設置してターン終了ですか……いささかやる気がないように見えるけど。憎んでいる相手に対する行為とは思えないね」

「本当は私のことが好きだったりするんですかね。こんなのを好きにならないほうがいいですよ。私わりと性格悪いので」

 ポルターガイストは壁を叩きました。どうやら怒らせてしまいましたね。そのまま私の命の危険を顧みず来てほしいものです。

 

 ポルターガイストがイライラしている間に準備をしてターンを終わらせ、ポルターガイストの5ターン目です。

「ドローしチャージしてコスト4でカーボンクルを召喚してターンエンド……ひたすら手札加速を重視していますね」

「攻めあぐねていたりして。メカニカルは攻めっ気が凄いカードがありますが、その分攻め手は少ないですから」

 その線もありそうですね。

 

 4 モンスター カーボンクル 属性:メカニカル

   効果:出現:墓地のカードを1枚コストゾーンに送って1枚ドローする

   説明:サイボーグ化ウイルスにより体がメカになったカーバンクル

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 さてと私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で妖魔封印の巻物を発動。百鬼夜行絵巻を手札に加えて、妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃します」

 

 4 魔法 妖魔封印の巻物 属性:アヤカシ

   効果:デッキから好きなカードを1枚手札に加える

 

「アクションストライクを発動しましたね。ファイヤーウォールですか」

「むむむ。ターンエンドです」

 私の攻撃は炎の壁によって阻まれました。

 

 4 魔法 ファイヤーウォール 属性:メカニカル

   効果:設置。互いに各ターン最初に受けるダメージは3軽減する(0未満にはならない)

 

 ポルターガイストが6ターン目です。

「ドローとチャージを行い、コスト6で機械皇帝キカイザーを召喚しましたね」

「キカイザーはモンスターをたくさん並べれば並べるほど強くなるカード……フェアリー・ホログラムを事前に出さなかったあたり手札事故が伺えますね」

「さすがメカニカルの使い手、詳しいですね。あらあらターンエンドしてしまいましたか」

 デッキ構築を晒さないために敢えて入れていない可能性もあるというのに。

 

 6 モンスター 機械皇帝キカイザー 属性:メカニカル

   効果:このカードの攻撃力と防御力は機械皇帝キカイザー以外の自分の場のモンスター1体につき1上昇する。

      自分の場のモンスター2体を破壊することでこのターン2回攻撃ができる

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で百鬼夜行絵巻を発動してターンエンドです」

「ソウコ嬢にしては立ち上がりが遅い……なにかありますね」

「手札事故で勝ち筋が来ていないだけですわ。つまり恐らく勝ち筋であろうキカイザーを出しているポルターガイストの方が俄然有利なの」

 

 5 魔法 百鬼夜行絵巻 属性:アヤカシ

   効果:設置。自分がターンの最初のドローを行った後デッキまたは墓地から属性:アヤカシを1枚手札に加えてもよい

 

 ポルターガイストの7ターン目です。

「ドローとチャージを行ってコスト4で機械侍従を召喚してターンエンドですか」

 

 4 モンスター 機械侍従 属性:メカニカル

   効果:出現:デッキまたは墓地から機械侍従を場に出す。機械侍従の効果は1ターンに1度しか発動できない。このカードは戦闘を行えない。

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。百鬼夜行絵巻の効果で鬼武者を手札に加えてチャージ。コスト6で鬼武者を召喚します。鬼武者で機械皇帝キカイザーに攻撃して破壊。ターンエンドです」

「切り札級を除去出来たのは大きいですね。ポルターガイストはこのままやられっぱなしじゃない所を見せてください」

 機械皇帝キカイザーを除去できたのは大きいです。

 

 ポルターガイストの8ターン目です。

「ドローとチャージを行いコスト7で量産型移動式修復機を召喚しましたね。そしてターンエンドですか……じゃないですよ! なんで禁止カード使えているんですかおかしいですよねどういうこと!? 禁止カードを使えば肉体が滅びてしまうハズ……」

「亡霊と言うことは肉体を持たないので禁止カードを使うデメリットを踏み倒せているのです。計算されつくしたデッキですね」

 禁止カードをデメリット抜きで扱うなんてあまりにも気色が悪いのです。

 

 ? モンスター 量産型移動式修復機 属性:メカニカル

   効果:このモンスターは好きなコストで召喚出来る。

      出現:このモンスターの召喚に払ったコスト1につきゲーム外から量産型移動式修復機を1体召喚する。

      過剰制約(このカードの効果を発動するターン他のカードの効果を使用できずモンスターで攻撃出来ない)

      攻撃可能状態のこのカードは攻撃されない

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 私の8ターン目です。

「ドロー……ようやく来ました。百鬼夜行絵巻の効果で般若の舞姫を手札に加えてチャージ。コスト4で般若の舞姫を召喚します。コスト5でマスターニンジャを召喚します。効果で忍法 空蝉の術を手札に加えて鬼武者でプレイヤーに攻撃します」

 

 ドッペルゲンガー:生命力10→7

 

「マスターニンジャでプレイヤーに攻撃致します。おっとアクションストライク。スタンガン……鬼武者に使わなかったということはきっとなにかありますね。ムラマサでプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

 

 ドッペルゲンガー:生命力7→4

 

「機械皇帝がいるのにそんな悠長なことしていていいのですか?」

「墓地にいるということは墓地回収できるから実質場に出ている理論ですか。その理論を振りかざすとはよっぽど私のことが嫌いなんですね」

「はい。我らの神を冒涜したこともそうですがその癖シジュークとかいう邪教に味方するダブスタさに苛つきます」

「フツーそこははぐらかしますよ」

「神官ジョークです」

 なんという人なのでしょう。

 

 ドッペルゲンガーの9ターン目です。

「ドローとチャージを行い機械皇帝を召喚して効果で機械侍従を2体破壊しましたね」

『エネルギー充填完了。コレにより必殺キャノン2連射のシークエンスに入るぜ!!』

「ノリのいいモンスターですね」

 機械皇帝の胸のコア部分に2つの膨大なエネルギーを感じました。

 

 機械皇帝の弾丸が着弾します。

「うっっっっぐ。ファイヤーウォールのおかげで7ダメージしか受けませんでしたね。しかし次は耐えられません。トドメいけますよ」

 

 ソウコ:生命力10→3

 

『エネルギー充填完了!! カイザーブラスト』

「まぁ無効化されるというのは分かり切っていますが、それでも使わせるためにはそうせざるを得ませんよね。アクションストライク。忍法 空蝉の術……ヨティス・プログラムを召喚してターンエンドですか。先にマスターニンジャから処理すべきでしたね」

「出来ないって分かってるくせに」

 ポルターガイストは地団駄を踏みました。

 

 私の9ターン目です。

「ドロー。イジャロコロガシをサーチして即チャージ。コスト2で忍法訓練所を発動して、空蝉の術を回収します。マスターニンジャの効果により分身の術をサーチして、鬼武者でプレイヤーに攻撃します」

 

 ドッペルゲンガー:生命力4→1

 

 これでトドメですね。

「マスターニンジャでプレイヤーにトドメです。アクションストライク スタンガンですか……プレイミスしましたね。煙玉ならこの状況なんとかなりましたのに。私は何を考えて……」

「これで一気にソウコ嬢にとってキツい状況になりましたね」

「仮に次のターンがあるとしても、リーサル行けるわけでもないので大丈夫ですよ。コスト2でクノイチを召喚して、妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃です」

 

 ドッペルゲンガー:生命力1→0

 

 モンスターが消えました。

「量産型移動式修復機は1枚で除去されにくいモンスターをたくさん並べるという一芸が強すぎるのはあります。しかし数をなるべく沢山並べたい機械皇帝とは相性バツグンのようで、攻撃出来なくなるので少し噛み合わないんですね。しかし武装は攻撃出来ますのでそれさえ使えばなんとかなりました。つまり貴方の敗因は武装を使わなかったことにあります」

「気にしないでくださいね。クノイチ召喚してからクノイチで殴ればスタンガンがあっても安全に勝てたとか、煙玉をサーチすればマスターニンジャでトドメをさせたとか、ソウコ嬢にもプレイングの温いところはあったから」

 ポルターガイストは膝をがっくりとおろしました。こんなプレミだらけの奴に負けて落ち込んでいるんですかね。

 

 まあ実際のところこうして武装の重要さに気づかせるためにわざとあのような雑なプレイングをしたんですけど、訂正したら負け惜しみだと言われそうなので言わないことにします。

「プレイングの温い奴に説教されてぐちぐち責められるなんて可哀想だね」

「まあ温いところがあったのは認めますが勝者であることに間違いはありませんから」

 ポルターガイストは私にタックルして中に入ってきました。

 

 勢いで壁に叩きつけられます。

「なんか入ってきましたね。まあ膨大なヘルズの力で押し潰されて除霊という結果になりました。残念なことです」

「しかし残念ですねぇ。邪神言語を知るほどの勉強家ならば様々な情報を得ているかもしれませんのに」

「今までが第二の人生ならば第二の死があってもおかしくはないですよね」

 ポルターガイストを分厚いヘルズの力で閉じ込めることで出られないようにします。嘘ばかり言っているように感じますが、信用ならない人に秘密は大っぴらにできませんし、自由もなく暗闇に閉じ込められているので本当に死んだも同じなんですよね。



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34

 私たちは先生に呼ばれました。この状況は覚えがありますね。

「お呼びですか。プロフェッサーウィドー・マリッジ」

「実は君たちにやってもらいたいことがあってね」

「他の人に任せればいいですよね。なぜ私たちでなくてはダメなのでしょうか」

「君たちが邪神言語に精通していて決闘の腕も一流の領域だからね。教師失格な発言なんだけど、今の二年以降はハッキリ言ってカードの腕も邪神言語への理解度もポンコツ未満といったところ」

「カードはともかくわざわざ邪神言語の学習をする人なんていませんからね」

 このやり取り……誠に遺憾ながらあのイベントですね。あのイベントで何度ゲームオーバーになったことか。

 

 このイベントは令和のファッ〇ン6として『プライムディスティニー』のプレイヤーからもそれ以外からも有名なイベント……正式名称 朽ちた茨の冠のフラグ的なイベントなんですね。平成のファッキ〇6と違いクリアするのにやる必要はありませんが、理不尽さや難易度は同じであったため結果多くの乙女ゲーマーを不意打ちして激怒させたイベントなのです。

 

『プライムディスティニー』は何度かやりこんでいますが、朽ちた茨の冠は安定してクリアしたことがないんですよね。

「どのようなことをすればよいのでしょうか。マズいと言わんばかりに事情を知っていそうなソウコ嬢と違い私は事情を知らないのです」

「説明した覚えはないのだけど……どこかで情報が漏れたかな。まぁそんなことよりも説明をしよう。伝説の決闘者イーシラムのデッキのありかが記された地図に記されたところに行くだけでいいのさ」

 プロフェッサーウィドー・マリッジは紙束の山の中から古びた地図を出しました。

 

 この地図は邪神言語で書かれていますね。

「なにが行くだけですか。絵の通りなら目的地がこの国のどこかにあることしか理解していないんですよね」

「……話が早くて助かるよ。ではまずこの地図を解読しなければならない。だがしかしこの文にはなんらかの暗号があって絵と文が矛盾するんだ」

「少し貰いますよ」

 地図を貰ってラウィラニさんに渡しました。

 

 ラウィラニさんに耳打ちします。

「実はそれ文字が汚いだけなんですよ。しかし汚さのレベルが違うのでレベルの高い暗号になったわけなんですね」

「そんなバカみたいなことが」

「まあ聞くだけ聞いて間違いだと思ったら何でもしていいですよ。場所はですねえ……」

 ゲームだとフラグがなければ地図の文字が汚い事が分からないんですよね。

 

 ラウィラニさんに説明しますと、ラウィラニさんの顔が青くなりました。

「何でも出来なくなったのが残念に思いますよ」

「やはり貴女はそうでないとしっくりしませんね」

 ラウィラニさんに噓の情報を教えて私が一芝居することとなりました。

 

 これで恐らく円満解決出来ると思います。

「自分で何とかしてくださいよ。先生は天才プロフェッサー様じゃないですか。それに金蔓を危険な目に遭わせるなんてどういった神経をしているんですか」

「……私も辞退します。先生の立場も考えて今日会ったことは互いに秘密にしましょう。私たち部屋に戻りますよ」

 教室から去りました。

 

 私はこっそりラウィラニさんと分かれて地図の場所に向かう準備をします。

「最初から知っているので解読する必要もないんですよね」

 ゲーム知識が生きたということです。やはり前世の知識って神ですね。

 

 学園からリニア新幹線で往復半日のところが目的地なんですよね。

「このゲーム中世ヨーロッパモデルの世界設定なのに所々現代科学を超越してる所があるんですよね。呪いが存在していてカードのイラストやフレーバーテキストを参考資料に出来るので、比較的やりやすいんでしょうね」

 暇なのでデッキの調整をしましょうか。

 

 地方の町なので事前に雰囲気に浮かないような服装をしておきました。

「交通機関もそれなりに発達しているから行きやすいですね」

「失礼ですが忌憚のない言い方をすれば寂れていますね。乗り換えだのなんだの面倒ですから仕方ありませんが……」

「ですねぇ」

 こんなに面倒くさいとは思っていませんでしたね。

 

 声がしたので振り返るとラウィラニさんがいました。

「なぜここにいるのですか?」

「ソウコ嬢がカード関連のことで断るなどありえないこれは何かを隠していると思い、気になってストーキングを行った次第です」

「これは本当に危険なので帰ってください」

 茨の冠だけは本当に安全が保障できないんです。

 

 ラウィラニさんは呆れたように息を吐きました。

「噓をついてまで危険なスリルを独占しようとする……そんな素直な強欲さは尊敬に値しますよ」

「確かにスリルは欲していますが今回のはそんなではないんです。真面目に命が危険なのですよ。命が惜しかったら帰ってください」

「イーシラムは568年前にすべての痕跡が消えた伝説の決闘者、そんな人間の痕跡が気にならないわけがない」

 ラウィラニさんが肩に手を回してきたのではたきおとします。

 

 ラウィラニさんと共にイーシラムのデッキのあるところに向かいました。

「巻き込まないはずでは?」

「あなた巻き込まれるまで付きまとうと推測しました。よく考えてみれば貴女に襲われても勝てばいいだけですから」

「言いますねえ」

 とは言いつつも私のデッキタイプはビートダウンでラウィラニさんのデッキはビートダウンメタ。普通にきついんですよね。

 

 イーシラムのデッキがあると地図に記されているところ場所に地図を置かせました。

「地図自体が鍵となっているんですよね。それもこれもなんか流れで借りパクしてたラウィラニ様のお陰です」

「嫌味な言い方しないでください」

「そんなことよりもアレ見てください。本物ですよ」

 空間に亀裂が入ってドアの形になりました。

 

 ドアをくぐるとそこは地平線の向こう側にまた地平線が見えるようなだだっ広い空間でした。

「こんなに広いのでは持て余しますよ」

「そうですね」

 左上後ろから振り下ろされる殺意(ナイフ)を右腕で防いで左腕で肘内します。

 

 刺さったままのナイフを持って半回転しバックステップ。そのままナイフをラウィラニさんに投げました。

「完全に虚を突いたと思ったのに……」

「貴女にとって私は正体を知る不気味な存在でなるべく消したい存在ですが、とにかく人任せで触らせてくれない。その上で神と同格の力を従えている。あと鼻持ちならない金持ちで将来もバラ色。敬虔な貴女なら嫉妬や怒りでこうしたくなっても妥当ですね」

「どうやったらそんな醜悪な性格に育つんだろう」

『プライムディスティニー』では何の罪もないどころか恩のある主人公さえ抹殺しますからね。

 

 今まで無事だったのは人目があったからでしょうし、なかなか手の込んだところがありますよこの人。

「ここで死んでもプロフェッサーのしわざもしくはイーシラムの祟りとなりますからね。凄く上手いことやったものです。しかし私と協力してイーシラムのデッキを何とかした方が良かったのでは?」

「わずかな希望に賭けて嫌いな人間と仲良しこよしするよりもここで安全に貴女を始末する方が確実だからね」

 互いにユナイツカードを構えました。

 

 そしてラウィラニさんの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でオートビルダーキャノン武装。ターンエンド」

「強制攻撃させる魔法ももう場にありますが、怖いのは次のターンエンド以降ですね」

 私の場にはワンジャ、手札にはムラマサ、私のほうが微有利ですね。

 

 私の3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で般若の舞姫を召喚します。今補充しましたコスト1でクノイチ召喚です。そしてクノイチと般若の舞姫でプレイヤーに攻撃です」

「むぐっ……」

「ターンエンドです」

 ラウィラニ:生命力10→7

 

 ラウィラニさんの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でアタッチメント:ナイトメアオベイとリーンマジカを発動する。ターンエンド」

 

 2 魔法 アタッチメント:ナイトメアオベイ 属性:メカニカル

   効果:オートビルダーキャノンの下に送る

      このカードが下にあるオートビルダーキャノンは以下の効果を得る

      ・相手ターンに一度このカードの下のカード一枚につきデッキの上から1枚をめくって、めくった中からトラップカードを2枚まで手札に加えてもよい

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトキキの術を発動します」

「それに対してナイトメアオベイの付与効果でダストトラップを手札に加える」

「般若の舞姫でプレイヤーに攻撃します」

「コスト2-2でリアクション。ダストトラップ。マイントラップを捨てることによって2枚ドロー」

「手札補充だけして無抵抗なんですね。クノイチで攻撃してターンエンドです」

 ラウィラニ:生命力7→4

 

 ラウィラニさんの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2ハイパーインターフェイス発動。コスト2でデッキからドリルエナジータンク発動。マイントラップを手札に加えてターンエンド」

「使えるコストは6ですか」

 ここまでガツガツ攻めていけましたが、これからはもう無理ですね。

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト7で忍法回天の術を発動します。般若の舞姫でプレイヤーに攻撃です」

「コスト4でリアクション。トラップホールを発動し、クノイチと般若の舞姫を破壊。ついでにナイトメアオベイの付与効果でデッキの上から4枚をめくってスパイダートラップを手札に加える」

「ターンエンドです」

 

 6 魔法 マイントラップ 属性:メカニカル

   効果:場のモンスターはコストが6になるようにランダムに破壊される

 

 ラウィラニさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。ドリルエナジータンクでマイントラップ回収。コスト4でヨティス・プログラム召喚。コスト2でデッキからフェイクグラフィッカー発動。ターンエンド。これだけ動いてもまだコスト6使えてしまうのが恐ろしい」

 フェイクグラフィッカーで耐性もついていますし、時間が経てばたつほどきつくなりますね。

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でイジャロコロガシ召喚。更にコスト2でハナビキャノン。ワンジャとイジャロコロガシと誘導超音波マシーンを破壊します。ターンエンド」

「諦めたのならそれでいいんだけどね。ターンエンド時ナイトメアオベイの付与効果でデッキの上から5枚をめくってリバーストラップとスパイダートラップを手札に加える」

 なんとでも言ってくださいまし。私の勝利は揺らぎませんから。

 

 ラウィラニさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でデッキからジェットナイフ発動。コスト6でマイ・フェイバリットカード、リバーストラップを召喚して効果発動。君の墓地のマスターニンジャ復活。そしてターンエンド」

「よく手札コストで捨てたマスターニンジャを見切りましたね。それにたとえ気が付いていてもワンジャやクノイチなどもいますのに」

「相手のサーチや切り札を無効化したいのは当然のことと言えるよね」

「ロジカルですね」

 次のターンに復活させて煙玉サーチすればトドメいけましたのに。

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で二口女を召喚してターンエンドです。貴女のデッキは事前に把握しているのでメタを組んでいたんですよね。だって貴女なんとなく信用できませんから。まさかデッキ組み立てている所を拝見しておりませんでしたか?」

「少し目を離しただけなのにその言い方……」

 

 3 モンスター 二口女 属性:アヤカシ

   効果:出現:自分の場のモンスターを2体破壊して1枚ドローする

   攻撃力:3 防御力:0 ライフ:2

 

 ラウィラニさんはリバーストラップの効果でマスターニンジャを蘇生し、スパイダートラップで1ダメージ与えてきてターンを終えました。私の8ターン目です。

「マッハドロー、コスト6で百花繚乱を発動します。サーチしてそのままマスターニンジャでプレイヤーに攻撃します」

 

 6 魔法 百花繚乱 属性:ニンジャ

   効果:以下の効果から1つ選ぶ

      3枚ドローする

      デッキから好きなカードを1枚手札に加えて1枚ドロー

 

「コスト1でスパイダートラップ「コスト2で忍法具 煙玉発動です。マスターニンジャを選びます」なにっトップ解決」

 ラウィラニ:生命力5→0

 

 モンスターが消えました。

「危なかったですね。トップ解決出来ていなかったら負けていました。とは言いつつもサーチやドローソースを多くしてトップ解決し易いようにしているんですけどね。もう少し私の運が悪ければ負けていたと思いますよ」

 ラウィラニさんは負けたから生を諦めると言いたげな顔をしたので、私はそれを無視して進みます。



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36 死闘

 飛んできた矢をユナイツカードで叩き切り落としました。

「矢が飛んでくるなんてやーねー」

「自分で矢を飛ばしてきたくせに何詰まらないことを言っているんですか。というかこの声どこから……」

 今の声は男の人の声ですね。

 

 ラウィラニさんは飛んできた十本の矢を叩きおとしました。

「飛んできた矢の威力と速度がそれぞれ違う……余裕をもって遊ばれているということか」

「まじめにやったのに遊び扱いされた。これ以上は矢の無駄になりそうで本当にやだ。いい加減観念しないといかんねん」

「余計なことばかりほざきますね。見たこともありませんが私はあなたのそういう言い回しが気に入らないのですよ」

 空間に穴が開いてマッチョな男の人が出てきます。

 

 男の人は目を金色に光らせていますね。プライムディスティニーの死に設定、呪眼ですか。

「自己紹介をしようかい。俺は異空間避難の呪眼を持つ男 ダージヤ・レユータンダ・レジヤ。よろしく……しなくてもよろしいな」

「知らない顔……タンダさんですか」

「死闘をしとうございますってね」

 ユナイツカードを構えました。

 

 タンダさんの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。巻物(ロール)の影(バック)の効果でコスト3で軽量化の巻物(ロール)を発動してターンエンド」

「軽減とドロー持ちの最強カードですね」

 相手が設置を持つ魔法カードを発動しても1枚ドロー出来るので、ミラーでも強いんですよね。

 

 2 モンスター 巻物(ロール)の影(バック) 属性:使い魔

   効果:巻物(ロール)と名の付く魔法カードのコストを1軽減する

      設置を持つ魔法が発動したとき一枚ドローする

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 私の3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でクノイチを召喚してそのままプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「相当運が悪かったと見える。これは勝ったと見えるな」

 初手の運が悪いだけでこの言いざまですか。

 

 タンダさんの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で巻物(ロール)の塊(ケーキ)を発動。コストが増えたのに景気の悪い顔しちゃって。コスト2で巻物(ロール)の影(バック)を召喚してターンエンド」

「この顔は生まれつきですよ」

 鬼武者が持っていかれましたね。鬼武者コピーはなかなかキツイものがあります。

 

 4 魔法 巻物(ロール)の塊(ケーキ) 属性:魔導書

   効果:このカードを未使用状態でコストゾーンに送り、相手のデッキからカードを一枚選んで使用状態でコストゾーンに送る。次の相手のターン終了時この効果でコストゾーンに送った相手のカードを相手の手札に加える。

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で般若の舞姫を召喚して、プレイヤーに攻撃します」

「アクションストライク。警邏の(パト)巻物(ロール)発動。攻撃によるダメージを無効化する。その後カードを警邏の巨人(パトロール)として召喚する」

 

 4 魔法 警邏の(パト)巻物(ロール) 属性:魔導書

   効果:このカードは自分の場に設置を持つ巻物(ロール)魔法カードがなければ発動出来ない。アクションストライク。

      攻撃によるダメージを無効化する。その後このカードを警邏の巨人(パトロール)として召喚する。

 

 2 モンスター 警邏の巨人(パトロール) 属性:使い魔

   効果:巻物(ロール)カードは相手のカードによって場を離れない

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

「腐るハナビキャノン引いてなくて良かったですね。ターンエンドです」

 これはいよいよマズいですよ。

 

 タンダさんの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でコピーミラージュ召喚。効果で鬼武者をコピーする。コピーの方法は……こうかっ」

「1000点満点で0点です」

「コピーミラージュでクノイチと般若の舞姫でプレイヤーに攻撃」

「なんか鬼武者って敵に回した時の方が強いですね。残り生命力は4ですか」

 味方の時も強いので抜きづらいんですけどね。

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で呪術藁人形五郎を召喚してターンエンドです」

「そんなの持っていたんですね」

「のろいプレイングだなあ。そんな怠けてるかのようなスピードじゃすぐにな、負けるぜ」

 

 5 モンスター 呪術藁人形五郎 属性:アヤカシ・ニンジャ

   効果:プレイヤーが戦闘ダメージを受ける代わりにこのカードを破壊してもよい

      このカードは戦闘で破壊される代わりに生命力を1回復する

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

 タンダさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で予言者 ヨティスを召喚。そしてコスト2で無秩序なる拡大の(スプ)巻物(ロール)を発動。コピーミラージュでプレイヤーに攻撃」

「きついですね。アクションストライク。忍法 空蝉の術」

 

 4 魔法 無秩序なる拡大の(スプ)巻物(ロール) 属性:魔導書

   効果:設置。設置を持つ巻物(ロール)カードは巻物(ロール)カードの上に発動できる。

     巻物(ロール)カードは下にあるカードの名前と効果を得る。 

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2で座敷童の効果を発動します……コインは表、よってデッキから3枚選んで手札に加えて、コスト4で今手札に加えた獣遁 トラジャを召喚します。トラジャの効果でデッキからマスターニンジャを召喚し、コピーミラージュに攻撃して破壊です。マスターニンジャで空蝉の術をサーチしてターンエンドです」

 

 4 モンスター 獣遁 トラジャ 属性:ニンジャ

   効果:このカードの攻撃時デッキの上から5枚を見て、コストが5以下のモンスターを一体場に出す。その後このカードをデッキの一番下に送り、相手のコスト6のモンスターの生命力を1減らす

   攻撃力:2 防御力:0 ライフ:1

 

「たかが一体壊したからってぬか喜びしたか。ガッカリな奴だな」

 ガッカリな奴呼ばわりですか。

 

 タンダさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でコピーミラージュ召喚。効果で貴様の手札の鬼武者をコピーしとこうかなっ……なにっ鬼武者がいない」

「鬼武者を面倒な敵を生むだけのカードと見てチャージしたか。ソウコ嬢は損切り得意なのに基礎でミスが多いなぁ」

 一言どころか発言の全部が余計な人ですね。

 

 ダンダさんは開き直って品定めをし始めます。

「こうなったらマスターニンジャをコピーしとこうかな。高すぎる攻撃力が仇となったなあだだだだ。コピーミラージュでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。忍法空蝉の術を発動します」

「ターンエンド」

 優秀なカードは複数枚あると思った方がいいんですね。

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトサキの術を発動し、コスト2で忍法訓練所を発動します。忍法訓練所によって墓地から空蝉の術をサルベージです。マスターニンジャの効果によりデッキから分身の術をサーチして、そのまま攻撃です」

「コストはまだ2も残っているためワンショット成立ですね」

「なんで言うんですか。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃します。その時にコストを2払うことで分身の術。マスターニンジャ、分身!」

 マスターニンジャが二人になりました。

 

 一人のマスターニンジャがダンダさんに綺麗な右フックを決めます。

「これでトドメですよ。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「リアクション。コスト1で癒しの巻物(ロール)。このカードはこのターン受けたダメージを癒してしまうという何とも卑しいカードなのだ」

「ターンエンドです」

 自分を客観視できているなんて好感が持てますね。

 

 3 魔法 癒しの巻物(ロール) 属性:魔導書

   効果:リアクション。設置を持つ巻物(ロール)カードが自分の場に存在する場合、このターン戦闘で受けたダメージを回復する 

 

 タンダさんの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で予知する者 ヨーゲンス召喚。コスト4で古の巻物(ロール)発動。ターンエンド」

 

 4 モンスター 予知する者 ヨーゲンス 属性:魔法使い

   効果:出現:自分のデッキの上から5枚を見て1枚を手札に加える。

      このカードは墓地に送られる代わりにコストゾーンに送られる

   攻撃力:2 防御力:0 ライフ:0

 

 6 魔法 古の巻物(ロール) 属性:魔導書

   効果:設置。1ターンに1度墓地から巻物(ロール)と名の付く魔法を発動できる。この効果で唱えたカードは設置を持つ。この効果は相手ターンにも発動できる

 

「癒しは相手の攻撃でやられてしまえば効力を発揮できず、役に立ちません。古の巻物(ロール)で癒し唱えても粘れませんね」

「相手がそれくらい織り込み済みではないと侮る。それがソウコ嬢の悪いところです。品性も含めて育て直した方がいいよもう」

 ここをこうすれば今度こそ倒せますね

 

 私の8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でムラマサを武装します。忍法訓練所の効果で分身の術をサルベージします。マスターニンジャの効果で煙玉を加えさせてもらいますね。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。大結界」

「大結界っ!?」

「ターンエンドです」

 大結界……聞いたことがあります。100年前からパックから出たことがないレアカードだと。私も4枚でいいから欲しいものです。

 

 4 魔法 大結界 属性:魔導書

   効果:このカードは自分の場に設置を持つ魔法カードが3枚以上なければ発動出来ない。アクションストライク。このターン互いにダメージを受けない

 

 タンダさんの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でソーサレスナイトを召喚。手札の再生の巻物(ロール)を捨てて二枚ドロー。強いカードは複数枚詰みするのが基本であって、一つしか入れないのは罪なんですな」

「エースを今引きされてしまいましたね」

 揺るぎない勝利を確信した笑顔ですね。

 

 勝負は無表情で圧をかける基本ですがここまで追い詰められてしまっては、もはや笑顔でさえ圧を持ちます。

「コスト6でコピーミラージュ召喚。効果でコピーミラージュをコピーする。コピーミラージュでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク、空蝉の術です」

「コピーミラージュでプレイヤーに攻撃」

 ソウコ:生命力4→0

 

 痛いですねコレは。

「あと一撃というところで負けてしまいましたか」

「あとワンタッチで負けたっち。別に勝っても負けても何にもないからこの決闘に価値なし」

「そういえばそうですね。ところで取り敢えず矢を発射していた理由だけ知りたいんですけど」

 そうする理由が分からないんです。矢を撃っていなければお互い何事もなく平和でしたのに。

 

 なにか警戒していますね。

「そう言えば」

「人間は呪眼持ちをひどい目に合わせると知っているから射抜こうと思ったんだ。でも矢で射抜けないから決闘で怪我させて、撃退しときたいという考え方にシフトしたんだよね」

「そうですか」

 異常に警戒しているんですね。遺跡探検に来ただけなのに策略家扱いされてますよ。

 

 この仮説が事実ならタンダさんにナイフを首筋に当てられている現状をなんとか出来ると思いますよ。

「早くやれっ」

「見られたからには死ぬしかないしね、こんなところに入ってしまう悪運にうんと後悔しろ」

「強きものと決闘出来たので未練はないですよ。因みにこれは関係ない話なんですけど、風のうわさでニオジーンという大企業の社長が呪眼持ちの人を秘書にしたと聞きました。実際呪眼持ちは人間を始末してでも隠れ続けなくても良いヒエラルキーだと思いますよ」

 お父様経由で入学する少し前に手に入れた情報です。デタラメかもしれませんが、私は事実だと言っていないのでセーフなんですね。 

 

 ナイフが首から離れました。

「嘘かもしれないのに。いいんですかこの人平気で嘘つくし自分のことしか考えないクズですよ」

「確かに私はそういう人間です。ですので文句があればいつでも決闘で私を殺しに来てくださいね」

「君には保身なんてほ死んでもしなさそうな不気味さがある。人間は可哀想な自分が可愛いという自己憐憫の精神がビンビンなはずなのに」

 それを言ってしまえば私なんて可哀想でなくても自分が一番可愛いんですけどね。

 

 この人自分も人間の癖に人間の悪辣なところしか知らないんですね。

「格好が汚れているから貧しいだろうし恐らく使い捨てだろう。多分囮の命が亡くなって初めて成立する作戦の囮をしていると見た」

「それだけ警戒心強いのに矢でいきなり射抜こうとするなんておかしくないですか?」

 強い人との決闘は1度きりじゃ終わらせたくありませんからね。だから複数回決闘出来る発言をしたのですが失敗でしたね。

 

 タンダさんが去ったので更に奥に進み行きます。

「テンポが悪くなりましたが、最後にあのような逆転勝ちされたので差し引き1ですね」

「そうか。人生最良の気分のまま昇天するのも悪くないんじゃないかな?」

「嫌ですね。12歳、まだまだこれから良いことがあるかもしれませんから」

 ラウィラニさんのナイフを避けて裏拳を当てました。

 

 まったく……この人は隙があればこうなんですから。

「変なことしてないで次いきますよ」

 まったくもうです。



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36話

 奥に進むとデッキがありました。

「爆発したり足の裏に槍がささったりしましたが私は元気です」

「ナイフ一本でストーキングしなければよかったね。あれだけされても無傷だなんて、並の人間なら心が折れている」

「そういうことです。ここで処理したかったのに出来なくて残念ですね」

 凄く過酷な道のりでしたが、本題じゃないので語ることはないでしょう。

 

 伝説のデッキに触ろうとしましたら、左手をレーザーで少し焼かれます。

「あっっっつ!!!死ぬかと思いましたわ。これだけ熱いトラップがあれば効果覿面ですね。盗人もいないでしょう」

「ある程度近づくと熱線に焼かれるということだな」

 ラウィラニさんの後ろからの蹴り飛ばしに少し驚かされましたが、難なく耐えました。

 

 ラウィラニさんの顎に右アッパーを食らわせたあとラウィラニさんを抑えてひたすら腹にパンチを当て続けます。

「それはっ洒落にっなりませんよっ危ないじゃっないですかっ!」

「洒落にするつもりもないもんね」

「でしたらここで貴女をしゃれこうべにして差し上げましょうかねえええ」

 全くもう冗談じゃないですよ。

 

 デッキが置いてある石の台の向こう側に褐色肌でアラビアンな格好の黒髪ポニーテール幼女が現れました。

「これはイーシラムさまの右腕『茨の冠』が長 ヤオ。盗掘者はイーシラムさまの用意なされた試練の達成、つまるところ茨の冠を全て倒すことで、イーシラムさまのデッキをすべて得る」

「これ……って一人称にしては随分他人行儀な」

「この試練を達成したものは未だ存在せず。例によってこれに挑み谷底の大地が肥えるだけ」

 ヤオはデッキを構えました。

 

 ラウィラニさんに押し付けます。

「試練を達成した者だけがイーシラムのデッキを得ることが出来るのですよ。欲しくないんですか?」

「欲しいけどソウコ嬢みたいな度を越したワガママが人にものを譲るなんて絶対何かある」

「ヤオのデッキは勝負にならないくらい私のデッキに相性が良く、ラウィラニさんのデッキに相性が悪いというだけなので、大した理由で譲ったという訳でもないんです。勝負になってない決闘は個人的に面白くないので」

 本当はヤオは相手していてあまり面白くないから押し付けただけなんですけどね。

 

 そう思っているのを察知しているのかラウィラニさんは腑に落ちない顔です。

「そういうことか。納得は行ったけどどうにも上手く使わされている感じが」

「美味しいところを押し付けているので、上手く使わされているのは私の方です」

 何もかも都合が良すぎて吞み込めないのかもしれませんね。

 

 少し休憩が必要でしたので、観戦ついでに休んでいきますか。

「負けるにしても勝つにしてももう少し粘ってくださいね」

「そこの人間、上手くやったな」

 互いに最善のプレイングを行っていることが分かりますね。

 

 ヤオの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2で疾く河瀑布を召喚してターンエンド。疾く流れる河の末路は大いなる瀑布ということ」

「面倒なのが来ましたね。果たしてラウィラニさんはこれをどう対処するのでしょうか」

 

 2 モンスター 疾く河瀑布 属性:海竜

   効果:互いにコストゾーンのカードの枚数以上のコストのカードを使用できない

      コストゾーンのカードの枚数以上のコストのカードは全てデッキの一番下に戻る

      攻撃力:0 防御力:2 生命力:2

 

 何事もなくラウィラニさんの4ターン目です

「ドロー。チャージ。コスト3でオートビルダーキャノンを武装してターンエンド。ここまでくれば俄然有利なのはボクの方だね」

「テンポが崩れてますねぇ。どうですか今の気分は」

「相手のデッキは低コストカードを連発するボクのデッキとは相性が良くないということか。ソウコ嬢もたまには良いことをする」

「褒める割には面倒くさいこと押し付けやがってという語気ですね」

 朽ちた茨の冠はヤオさえ抜ければ最後とそれの一つ前以外は安定して何とかなるので頑張ってくださいね。

 

 ヤオの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でベビードルフィン召喚。コストを1減らしてコスト1でドリルサザエ召喚。コスト2で水瓶を発動してターンエンド」

「水瓶……普通なら刺さりまくって場合によっては凄く痛いかも」 

 

 2 魔法 水瓶 属性:魚

   効果:設置。互いにデッキからドロー以外の方法でカードを手札に加える事ができない。

      コストを払わず使用したカードは適用される代わりにデッキの一番下に送られる。 

 

 ラウィラニさんの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイパーインターフェイス発動。コスト2でリーンマジカを発動してターンエンド」

「手札に加えるんじゃなくて直接発動しているわけだから、水瓶の制約に引っかからないというわけだ。これのピンチ」

「ラウィラニさんのデッキはなぜかヤオに強気に出られるんですよね」

 イーシラムは勉強家なら誰もが知るほどの極悪人。よく考えてみれば立場的には善なラウィラニ家なら、代々イーシラムやその部下のメタデッキを語り継いでいてもおかしくはないですね。

 

 ヤオの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でヨティスのマトウダイ召喚。コスト3で魚鱗丸を召喚してターンエンド」

「ヤオの手札が2枚なので新たなアタッチメントを発動出来ないのが幸いですね。カードの下のカードは一番上のカードの一部として扱われるため、アタッチメントはコスト3(オートビルダーキャノン)となり効果を受けないのが幸いですが」

「たまにはいいこと言うじゃないか」

 疾く河瀑布や水瓶は私のデッキでは結構キッツいですからね。個人的には勝ってもらわないと困るのです。

 

 4 モンスター 魚鱗丸 属性:魚

   効果:自分のターン中相手はこのカードのコントローラーの手札の枚数以下のコストのカードは使用出来ず、効果を無効化される

      攻撃力:2 防御力:0 生命力:2

 

 ラウィラニさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でヨティス・プログラムを使ってターンエンド。アタッチメントが使えないのが辛い」

 ヤオの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でマーメイドカーニバル発動。コスト2でピラティア軍団召喚。ピラティア軍団でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 ラウィラニ:生命力10→8

 

 5 魔法 マーメイドカーニバル 属性:マーフォーク

   効果:3枚ドローする

 

 ラウィラニさんは何もできずヤオの8ターン目です。

「一方的だ。この程度でこれに勝とうと思っていたわけか。ドロー。ターンエンド」

 ラウィラニさんの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でマイントラップ発動。魚鱗丸とベビードルフィンが破壊された……コスト2でジェットナイフを発動してターンエンド」

 マイントラップですか。良いカードを引けましたね。

 

 ヤオの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でマーメイドカーニバルを発動して、ピラティア軍団でプレイヤーに攻撃」

「コスト1でスパイダートラップ発動。ジェットナイフの効果により相手に1ダメージ」

「1ダメージ受けちゃったけど1枚引けたから良いか」

 ここまで行けば半分勝ちですね。

 

 ラウィラニさんの9ターン目です。

「ドロー。コスト4でデッキからフェイクグラフィッカー、手札からドリルエナジータンク発動。墓地のスパイダートラップをサルベージしてターンエンド。これによってキミは徐々にダメージを受けて負けるという末路を歩むこととなった」

「勝ってもいないうちから判断するなんて愚の骨頂」

 フェイクグラフィッカーの効果で魚鱗丸の効果も受けないので本当に一方的に

 

 ヤオの10ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でアクアリバイブ発動。墓地から自分の手札の枚数以下のコストのモンスターを一体場に出す。現れよ、魚鱗丸。そして魚鱗丸でプレイヤーに攻撃を行う」

「なにもないよ。コスト9以上のカードはデッキには入っていないからね」

「ターンエンド」

 ラウィラニ:生命力8→6

 

 6 魔法 アクアリバイブ 属性:マーフォーク

   効果:墓地から自分の手札の枚数以下のコストのモンスターを一体場に出す

 

 ラウィラニさんの10ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でウィークボム発動。ターンエンド」

 

 4 魔法 ウィークボム 属性:メカニカル

   効果:防御力と生命力の合計値が2以下のモンスターを全て破壊する

 

 ヤオの11ターン目です。

「ドロー。ピラティア軍団が生き残っていて良かった」

「しかし無駄に手札があるだけでは何もできませんよね。疾く河瀑布も水瓶も最早己の首を締め続けているだけですから」

「コスト6でサメ喰いイワシの群れ召喚。サメ喰いイワシの群れでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

「彼女はもう終わりですね。出来れば頑張って倒してほしいところなんですけどね」

 ラウィラニ:生命力6→2

 

 ラウィラニさんの11ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト10で絶滅兵器発動。スパイダートラップをサルベージしてターンエンド」

「そんなカード入れていたなんてソウコちゃん驚きました。確かに除去性能は凄まじいですが、以降手札0枚で過ごさなければならないのは重すぎる代償なんですよね。それに自分もまきこんでしまうためあまり入れるプレイヤーがいないんです」

 フェイクグラフィッカーで巻き込みを食らわず、ハイパーインターフェイスでサーチすればドロー出来ないことも関係ないのでデメリットはあまりありませんね。

 

 10 魔法 絶滅兵器 属性:メカニカル

   効果:自分の手札を全て戻して発動できる。場のカードをすべて破壊する

      このカードを発動したプレイヤーは決闘中ドローできない

 

 ヤオの12ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト7でギョランティスを召喚して攻撃」

「コスト1でスパイダートラップ発動」

「ターンエンド」

 ギョランティスと水瓶で相手をロックするデッキなのでしょうが、デフォルトでドロー出来ないラウィラニさんにとっては関係ありませんね。

 

 ヤオ:生命力9→8

 

 7 モンスター ギョランティス 属性:海竜

   効果:このカードが攻撃を行った次のターン相手は効果によってドロー出来ない

      攻撃力:2 防御力:3 生命力:3

 

 ラウィラニさんの12ターン目です。

「コスト2でアタッチメント:パワードクオリティ発動。墓地からスパイダートラップをサルベージして、コスト6で誘導超音波装置を設置する。ターンエンド」

 

 2 魔法 アタッチメント:パワードクオリティ 属性:メカニカル

   効果:オートビルダーキャノンの下に送る

      このカードが下にあるオートビルダーキャノンは以下の効果を得る

      ・1ターンに1度コストを4支払って発動する。墓地のコスト2以下の魔法をコストを払って発動できる

 

 そしてヤオの22ターン目。

「ドロー。チャージ。ピラティア軍団でプレイヤーに攻撃」

「コスト1でスパイダートラップ発動。これによりジェットナイフの効果で相手に1ダメージ。決闘終了」

「長く苦しい決闘でしたね。代わり映えもなく非常に退屈な決闘でした」

 決闘は好きなんですけどね。これがトラップの勝ち方なんですけどね。勝利に貪欲なのは良いことなんですけど……

 

 アンの髪型が茶髪ポニーテールになりました。

「我らシサトヒ 茨の冠の長は我らの中で最も追い込まれた時に弱いが、滅多に追い込まれない。久しぶりの部外者との決闘だ」

「二重人格ですか」

「ただのキャラデザの流用ですよ」

 忠誠心が高すぎるあまり個性を捨てた結果見た目がほぼ同じになったという設定があるんですけどね。

 

 数分後シサトヒは倒されました。

「次はこのカナだ」

「どりゃー」

「アイアムリスク」

「うわー」

 相性の問題で一瞬に見えるくらい早く倒すことが出来ましたね。

 

 しかし決闘に次ぐ決闘による精神と肉体への負荷で疲れが見えていますね。

「これらはショーシ 茨の冠で最も強き者。イーシラム様最大の防壁」

「なるほど、コレが最後か」

 異常な闘気を感じます。この闘気を攻撃に全て込めれば人死にが出ますね。こんな量の闘気持つだけで命に関わりますわ。

 

 これは負荷がなくとも常人には危険な領域ですの。

「貴様の闘気は捻り潰さぬようにするのに苦労してしまうほど脆い。そんな強さで立ち向かうこと自体これらに対する愚弄だな」

 背後からラウィラニさんの首を締めて気絶させました。

 

 ラウィラニさんをその辺に捨てます。

「すみませんね。いいとこ取りしたような感じになってしまいましたね。しかし命に関わるので放置するわけにもいかないのですよ」

「ようなというよりも実際そうだろう」

「体調不良により代理 ソウコ・メッセル入ります」

 今ここに決闘が始まりました。



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38

 私の3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でワンジャを召喚してターンエンドです」

 ショーシの3ターン目です。

「これらはドローとチャージを行う。コスト3でホブゴブリンの製本所発動。ターンエンド」

 封じられし魔導書が出ないなんてずいぶん都合のよろしい事ですわね。

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で般若の舞姫を召喚してそのままプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「このダメージくれてやろう」

 ショーシ:生命力10→8

 

 ショーシの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でソーサレスナイト召喚。効果でバックフラッパーを捨てて二枚ドロー。更に製本所で一枚ドロー。ソーサレスナイトでキサマに攻撃してターンエンド」

 

 2 魔法 バックフラッパー 属性:魔導書

   効果:このカードが手札から捨てられた場合、墓地のこのカードを手札に加える。

 

「ヤッバイ量の闘気が研ぎ澄まされていますね。えげつないほどの殺意です」

 咄嗟に回避しなければ危なかったかもですね。

 

 ソウコ:生命力10→8

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト1でクノイチ召喚、コスト2で座敷童を発動します……」

 コインが宙を舞い裏が出ました。

 

 ショーシはデッキから好きなカードを3枚手札に加えます。

「ありがたいことだ。何もしていないのに手札が増えた」

「コスト3で発動できるカードもありませんし、こんなことなら先にサオトキキ使っておくべきでしたね。ターンエンドです」

「どうした。あまりの衝撃で攻撃を忘れているようだが」

 祈るほかありませんね。

 

 ショーシの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でグライプの魔術師を召喚。手札を3枚コストゾーンに送ってターンエンド」

「間に合いませんでしたね」

 神に祈りは通じませんでした。

 

 4 モンスター グライプの魔術師 属性:魔法使い

   効果:出現:自分の手札を好きな枚数使用済み状態でコストゾーンに送る

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:1

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でサオトキキの術発動です。コスト4で今手札に加えた獣遁 トラジャを召喚します。トラジャの攻撃時効果でデッキからヌリカベを召喚してクノイチでプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「防御を固めたわけか。しかし一手遅かった」

 

 5 モンスター ヌリカベ 属性:アヤカシ

   効果:出現:このモンスターを攻撃済み状態にする。

      誘導 

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:5

 

 ショーシの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト8でヨティスとソーサリーナイト召喚。ターンエンド」

「一手遅いのは貴方の方でしたね。ハッタリで相手の精神状態をぐらつかせようたってそうは行きませんの」

「そう思いたいならそう思えばいい」

 おそらくメイガスナイトを出すつもりでしょうね。しかし手札とコストが足らず泣く泣くこんな盤面で終わらせてしまったと。 

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。クノイチと般若の舞姫でプレイヤーに攻撃してコスト1でキツネビを召喚してターンエンドです」

「手札が悪いな。手札が良ければこの1ターンでトドメまで行けるだろうからな」

「そうですね。ですがメイガスナイトを掻い潜って逆転した方が実力が高く見えると思いますの。生命力も4しかないならワンショットできますしね」

 

 1 モンスター キツネビ 属性:アヤカシ

   効果:自分の場にこのカード以外のモンスターがいない場合このモンスターを破壊する 

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:1

 

「見栄の為に倒せる相手も倒さず負けるわけか。誰も見ていないのに御苦労だな」

「誰も見ていないなんてことはないと思うんですけど。少なくとも愛しのイーシラム様はご覧になられていると思いますわ」

「イーシラム様は見ていないだろう。見守るということは実力を見くびり信用していないということだからな」

 捻くれた物の見方ですね。

 

 ショーシの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト10でメイガスナイト召喚。1枚ドローしてメイガスナイトの効果発動」

「私はそれに合わせてコスト6で手札から黄泉天秤を発動します」

「今の今までそんなカード入れていた様子はなかったがな。二枚手札に加えさせてもらう」

「少しぐらいメタカードを入れても良いじゃないですか。あなたはそんなことで揺らぐような存在ではないでしょう」

「ターンエンド」

 ヌリカベとキツネビと般若の舞姫がヒトダマとなりメイガスナイトを燃やし尽くしました。

 

 6 魔法 黄泉天秤 属性:アヤカシ

   効果:相手のモンスターが場に出た時同じコストになるように自分の場のモンスターを破壊する。その後そのモンスターの効果を無効化して破壊する

      その後相手は破壊されたモンスターの数までデッキもしくは墓地からカードを手札に加えてもよい

      このカードは相手ターンにも発動できる

 

 私の8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6で百花繚乱。3枚ドローしてコスト3で般若の舞姫を召喚してターンエンドです」

「攻撃はしないのか」

 なぁんか攻撃してほしそうですねぇ。攻撃するとまずいことが分かっているのでしないんですけどね。

 

 ここまで露骨ですと知っていなくても攻撃しないんですけどね。

「アクションストライク、メイガスフュージョン。墓地のメイガスナイトを場に出すなーんてことが起きてしまったら目も当てられませんからね。座敷童では回すことを優先して手札に加えたそうですが、今回その手には乗りません」

「そうか、イーシラム様だけではなくてその忠実なる部下も有名なのか。有名だからメタを張られたということだな」

 そう考えてしまいますよね。未来の出来事から予知しているというよりははるかに現実的ですからね。

 

 ショーシは呆れた顔をしていました。

「メイガスナイトを掻い潜って逆転した方が実力が高く見えるという発言はなんなんだ」

「お前見栄っ張りなんじゃなかったのかと言う驚きの表情を隠せていませんね。楽しみたいのですが、楽しんだり見栄を張ったりするようなことをして勝てるような相手じゃありませんから。敬意ですよ敬意」

 真剣にやったうえでブラフしないと不安です。朽ちた茨の冠は安定しませんから。

 

 20 魔法 メイガスフュージョン 属性:魔導書

    効果:デッキまたは墓地のメイガスナイトを場に出す。

       自分の場にソーサリーナイトとソーサレスナイトが存在する場合手札のこのカードはアクションストライクを得る。

 

 ショーシの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でコピーマジック発動。コスト6を払い、百花繚乱。3枚ドロー。コスト3で封じられし魔導書を召喚してターンエンド」

「動きが控えめですねぇ。墓地回収してメイガスナイト出すとかなさらないんですか。そもそも3枚ドローなんてソーサレスナイト出せば簡単に達成できるはずなのですが……。ですが封じられし魔導書はきついですネ」

 手札事故ですか。今回の朽ちた茨の冠は随分デレッデレのゲロ甘ですね。いつもこのくらい簡単ならなぁ。

 

 2 魔法 コピーマジック 属性:魔導書

   効果:コストを払って相手の墓地の魔法を発動できる

 

 3 モンスター 封じられし魔導書 属性:魔導書

   効果:互いに1ターンに1度しか魔法を発動できない

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:1

 

 私の8ターン目です。

「ドロー。チャージ。アクションストライクにおびえて攻撃出来ないまま結局使われてしまうというのは目も当てられませんね。コスト5でマスターニンジャを召喚します。マスターニンジャの効果でデッキから土遁忍法を手札に加えてコスト4で土遁忍法を発動します。メイガスナイトをコストゾーンに送らせてもらいます」

 土遁忍法は『プライムディスティニー』本編だとレア度が中途半端なせいで手に入りにくいんですよね。好感度が高ければレア度の高いカードを貰える確率が上がる仕様ですからね。

 

 しかし私の財力があれば土遁忍法を所有することもできるのです。

「土遁忍法は貴方に対するメタとしてはまぁまぁ強いのですよ。デッキに2体しかメイガスナイトを入れていないと聞きますからね」

「何故そのことを」

 前世でめちゃくちゃ頑張りました。

 

 さてとここからが本番ですね。

「そのようなことよりも、次もコストゾーン送りされるのはキツいですよね。私は忍法訓練所でという墓地から忍法を回収するカードも持っているんですけどねぇ。ターンエンド」

 般若の舞姫でどうしても欲しいカードが捲れてしまったので、忍法訓練所をコストゾーンに送ってしまったんですけどね。なので忍法訓練所は使えないのですが。

 

 ショーシの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。言っておくが降参はしないぞ。降参してほしいのが丸わかりだからな」

「あらあら残念です」

「それにこの状況なら勝てる。コスト3で魔法の教科書武装、コスト5で魔法の雷。相手に3ダメージ。魔法の教科書で魔法の雷サルベージしてターンエンド」

 一方的に私のピンチですね。あと魔法の雷を2発受けたら負けてしまいます。

 

 ソウコ:生命力8→5

 

 私の9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6で百花繚乱、3枚ドローします。ターッンエンド」

 ショーシの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法の雷、魔法の教科書で魔法の雷サルベージしてターンエンド。残り一発だけど、魔法一回でどうにかできるとは思えない。降参した方がいい。負けるのが丸わかりだからな」

 勝ちもしないうちに勝利宣言するのはキツイデスネ。しかし勝利宣言は気分がいいのでやめられません。

 

 私の10ターン目です。

「マッハドロー……」

「良いカードを引けたか?」

「コスト6で天狗の仕業発動します」

 

 6 魔法 天狗の仕業 属性:アヤカシ

   効果:自分の場に属性:アヤカシを持つモンスターが存在する場合にのみ発動できる   

      全てのプレイヤーは手札を全てデッキに戻してシャッフルし、戻した枚数より1枚多くドローする

 

「よし……これで後は運次第ですね。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。マジックシールド」

 

 ショーシ:生命力4→2

 

「考えなしに自分の戦略を捨ててしまったことが仇となりましたね。般若の舞姫でプレイヤーに攻撃です」

「イーシラム様……やはりまだまだ我々は見てもらわないといけないそうですね」

 

 ショーシ:生命力2→0

 

 モンスターが消えました。

「ガチガチにメタった上で運に頼らなければ負けていました。貴女はこれまで戦った決闘者の中でも一番強かったと思います」

「敵に褒められたところで嬉しくない」

 その割には微笑んでいますね。

 

 ショーシが消えました。

「マッハドロー使ったからか体力の消耗が酷いですね」

「体力を消耗したから交代したというのにこのザマですか。こんな情けない人間に神様が負けたなんて信じたくありませんね」

「ボロボロなラウィラニさんよりはマシでしょうよ」

 決闘でハイになっていたから気が付きませんでしたが、私結構体力を消耗していますね。

 

 褐色肌で銀髪おかっぱ碧眼の男性が現れました。

「遂にイーシラムが現れましたね」

「キサマらはよくやったよ。そして散ったよ」

「あなたはダージヤ・レユータンダ・レジヤ」

「目が常に金色だったからわかりませんでした」

 銀髪でもなかったですし、こんなの分かれっていう方が無茶ですよ。イーシラムと言えばあんな見た目ですから。

 

 本編ではしっかり律儀に待っていたし見た目も違うのでこれは予想外でした。

「イーシラムの称号はどこかで代々受け継がれていて、ダージヤさんがイーシラムだったということか」

「理解力の乏しい奴だな。俺たちはこの世で唯一邪神の力を得て衰えず不死身となった集団、このことだけ覚えてトボトボしい」

「邪神を餌付けして利用するのとはまた違う感じですかね?」

「この世界には邪神のなりかけが200年に一度現れるか現れないかする。その力を吸収したという訳だ。じゃ、死んでもらおうかな」

 タンダさんが私を指さしました。

 

 足元が爆発しましたがとっさに回避しましたので無事です。

「ダメじゃないですか。質問にはちゃんと答えないと」

「決闘をせず美味しいところだけ持って行ったお前は消えろ。イッツショーメッツ!」

「決闘しないのが不満なんですよね」

 ラウィラニさんを盾にしました。

 

 私はラウィラニさんを立てかけるだけの物体をしましょうかね。

「じゃあラウィラニさん頑張ってください。私はあくまで一戦限りの代理ですから、おとなしく観戦しますよ」

「それならいいや。手を汚す理由もないいや」

「ガッカリしました。見損ないましたよ」

 テンションが変な人ですね。最初に奇襲したのは何だったんでしょうか。



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39

タンダさんは体から光の球を出して体の中に入れます。

「神に選ばれた存在のみかヘブンズだかなんだか使えるという。実際は神が人を神の色に強引に塗りつぶしているだけなのだが。それの応用をすれば使えるユナイツカードを変えることも出来る。ぬりっとすり抜ける俺だけの裏技だな」

「つまり私が対戦した時のユータンダ氏は本気ではなかったということか」

「しょうゆうこと。ソースはこれからの決闘。決闘しようぜ」

 決闘が始まりました。

 

 タンダさんの3ターン目です。

「コスト3で魔導の守護天使 ヘカーテガード召喚。ターンエンド。順調にして手堅ーと思われる」

「ヘカーテガードですか。ということはアバドンですね」

 

 3 モンスター 魔導の守護天使 ヘカーテガード 属性:エンジェリオ、ゴッズ

   効果:魔法は効果によって場を離れない

   説明:猛攻でさえ傷をつけることはできない

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:1

 

 ラウィラニさんの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でオートビルダーキャノン武装。ターンエンド」

「それでひたすらトラップを使うという塩戦法をするやつだったな。しおしおに萎えてしまう。まーな、マナーも悪い」

「良いんですよ、ひと目のあるところではビートダウンデッキ使いますから」

 私は人目じゃないんですね。

 

 タンダさんの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でアポカリプス・ワンを発動してターンエンド。相手にとってコレはキツいわん」

「そうですね。確かにトラップは攻撃されないと話になりませんからね」

 だからリバーストラップや超音波誘導装置があるんでしょうけどね。

 

 ラウィラニさんの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイパーインターフェイス発動。ハイパーインターフェイスの効果によりフェイクグラフィッカー発動。ターンエンド。リーンマジカを発動しなくてもいいなんてよっぽど相手の動きが遅いらしい」

「敵の雌伏を見て至福に悦に入る雑魚にはわからないと思うが、このデッキは一気に攻めたてるデッキだからな」

 タンダさんの言う通り油断は出来ませんわね。

 

 タンダさんの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でアポカリプス・ツーを発動。ターンエンド。この魔法を発動させたことはいずれ貴様にとって痛恨のミスになるだろう」

「防御のことを考えなくて済むので互いに着々と準備を進められますね。いや、強いて言えばラウィラニさんが微有利というところですか」

「見れば分かるかな。決闘に関しては聡いと言われるお嬢様らしくない」

 私は見えないから分からないんですよね。背中で支えていますからね。

 

 ラウィラニさんは5ターン目リーンマジカを発動しただけでターンを終え、タンダさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でアポカリプス・スリー発動。魔導の猛攻天使 ヘカーテオフェンス召喚。アポカリプス・スリーを破壊し、2枚ドロー。ターンエンド。散々だね」

「ヘカーテガードのおかげでアポカリプス・スリーの破壊を踏み倒しましたね」

 デザイナーズ(意図して作られた)コンボなのですけどね。

 

 3 モンスター 魔導の猛攻天使 ヘカーテオフェンス 属性:エンジェリオ、ゴッズ

   効果:自分の場に設置を持つ魔法がある場合コストを払わず召喚できる

      この効果で場に出したカードは以下の効果を得る

      ・魔導の猛攻天使 ヘカーテオフェンスの効果は1ターンに1度しか発動できない  

      ・自分の場の魔法カードを全て破壊し、2枚ドローする

   説明:魔導を焼き尽くす猛攻を行う

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:1

 

 ラウィラニさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でヨティス・プログラム召喚。コスト2でアタッチメント:ナイトメアオベイ発動。ターンエンド」

 タンダさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でアポカリプス・フォーを発動。ターンエンド。フォー テンションが上がってきた」

「ナイトメアオベイの効果でダストトラップを加えさせてもらおう」

 順調なことですね。

 

 ラウィラニさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でダストトラップ発動。スパイダートラップを捨てて2枚ドロー。オートビルダーキャノンの効果でスパイダートラップ回収。コスト2でデッキからジェットナイフ発動。ターンエンド」

「次のターンコスト4まで発動できますね」

 相手が攻撃してこないので意味ないんですけどね。

 

 タンダさんの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でアポカリプス・ファイブを発動。ゴーゴーイケイケ、そのままコスト2でデッキからコスト2でアバドンを召喚」

「二回も言って強調した……しっかし防御力99で生命力100とかふざけたステータスだなぁ。効果によってリバーストラップを手札に加える」

「ターンエンド」

 タンダさんもやりたいことが出来ましたね。

 

 ラウィラニさんの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2で超音波誘導装置発動。コスト6でリバーストラップを召喚してターンエンドです」

「超音波誘導装置か、そういう余計ものがお前の死相ち」

「墓地にモンスターがいない以上リバーストラップも意味がありませんね」

 このターンやったことはまるで無駄だったということです。

 

 タンダさんの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト9でアバドンを3体召喚。アポカリプス・ファイブの効果でデッキや墓地や手札からもアバドンを召喚できる」

「デッキや墓地からも召喚できるなんてズルい……と常人は言うけど、攻撃されるならそれはそれで構わないのが私のデッキ。スパイダートラップを手札に加える」

「アバドンの使徒一体を選んでアーマードレインを与える。ターンエンドしたんど」

「拍子抜けですねぇ」

 まぁトラップがあるのでむやみやたらに攻撃できませんよね。

 

 ラウィラニさんはそのままドローゴーしてタンダさんの10ターン目です。

「ドロー。チャージ。アバドンの使徒一体を選んでアーマードレインを与える。そのままアバドンの使徒二体で攻撃するにぃ」

「リアクション。スパイダートラップ。一体のアバドンの使徒を止める」

「このままじゃ次のターンに無様な敗北をさらしてしまう。ざまぁないな」

 もう二体いますしスパイダートラップで止めたところでなんですよねぇ。仮に絶滅兵器を使用したところで、ヘカーテガードでアポカリプスは生き残りアバドンの使徒を大量展開されてしまいますからね。

 

 ラウィラニ:生命力10→4

 タンダ:生命力10→9

 

 ラウィラニさんの10ターン目です。なんか後ろから光が見えますね。

「ドロー。チャージ。デッキからコスト10でトラップドラゴン召喚」

「ハイパーインターフェイスはトラップカードを発動出来るからモンスターも出せるんですよね。詰みなのは変わらないのですが」

 ジャングル迷彩柄の1mの卵が現れました。

 

 10 モンスター トラップドラゴン 属性:メカニカル

   効果:出現:トラップモンスターをこのカードの下に送る。

      このカードの下のモンスターをデッキの一番下に戻して発動する。このカードをギガトラップドラゴンにする

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:1

 

「トラップドラゴンの効果発動。リバーストラップの上に重ねて即ギガトラップドラゴンにする。スパイダートラップを回収してターンエンド」

 卵からトラバサミの顎、地雷の鱗、スコップのような腕、蛸壺の胴体の鋼のドラゴンが生まれました。

 

 20 モンスター ギガトラップドラゴン 属性:メカニカル

   効果:相手ターン開始時このモンスターを攻撃済み状態にする

      反動。このモンスターは攻撃出来ない

      スタントリック:このターン相手の最初の攻撃対象はこのモンスターにしなければならない

              このモンスターの生命力を1回復する

   攻撃力:2 防御力:5 ライフ:5

 

 タンダさんの11ターン目です。

「ドロー」

「ギガトラップドラゴン起動」

「チャージ。アバドンの使徒一体を選んでアーマードレインを与える。そのままアバドンの使徒三体で散開せずギガトラップドラゴンに集中攻撃する」

「二回受けて三回目はコスト1でスパイダートラップ。動きを止めつつバーンダメージ。ターンエンド」

 順調ですね。

 

 ラウィラニさんの11ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でパワードクオリティ発動。コスト6でメタルブースト発動。ターンエンド」

 

 6 モンスター メタルブースト 属性:メカニカル

   効果:3枚ドローする

 

 タンダさんの12ターン目です。

「ドロー。コスト5でワルキューレの誘い発動。ギガトラップドラゴンを墓地に送ってもらおう、これでセメタリーないなんてことはなく満足に仕留められるわけだ」

「そうですか。ナイトメアオベイでメガトラップホールをサーチ」

「アバドンの使徒でプレイヤーに攻撃」

「合計コスト7でリアクション。墓地からスパイダートラップ手札からメガトラップホール」

「ターンエンド」

 

 8 魔法 メガトラップホール 属性:メカニカル

   効果:相手モンスターを二体攻撃済み状態にする

 

 タンダ:生命力9→7

 

 ラウィラニさんは墓地からメガトラップホールをサルベージしてターンを終え、タンダさんの13ターン目です。

「嚙みつきたくなるような事実かもしれないが、俺はカードの神に選ばれているからプライムディスティニーを使うことが出来る……」

「だからなんだ」

『プライムディスティニー』の名前を出されたのでびっくりしましたが、決闘中に引きたいカードを引ける機能の方の話ですわね。

 

 しかしプライムディスティニーのことを知らないのか危機感がありませんわ。

「ドン引きするかもしれないが、引きたいカードを引けるということだ。ドロー。チャージ。コスト7でエモーションゼロ発動。そのままアバドンの使徒三体で攻撃」

「コスト6でメガトラップホール発動……できない」

「エモーションゼロは互いにリアクションを封じる。メタを張られたとて感情的になるな。こうでもしなければめっためたにされていた」

 やっぱトップ解決されるのは理不尽感がありますわね。

 

 7 魔法 エモーションゼロ 属性:ゴッズ

   効果:次の相手ターン終了時まで互いに相手ターン中にカードを使用できない

 

 この闘気の量はマズいですね。

 

 ラウィラニさんの後頭部を気を遣って殴って気絶させ、決闘を強制終了させました。

「気絶は一時的なものでしょうが、一時的でも大丈夫なんですよね」

「神聖なる決闘に水を差すとは真正の愚か者だな」

「助けただけですよ。私と違ってラウィラニさんは強者との決闘をしながら死にたい異常者でもなさそうですからね」

 自分がされて嫌なことは人にするなと言いますが、人のことを見捨ててまでその信念を貫けるほど冷酷ではないのです。

 

 私がやられたら恨みますけどね。

「今回は失敗でいいですよね。チャレンジャーが決闘中に気絶する無様晒したのですから。帰りたいので出口を教えてください」

「最初から敗者はあの谷底に落ちるからそこにもどこにも出口はない」

「敗者ではありませんよ。なぜなら不慮の事故で決闘が中止になっただけですからね。さっさと出してください」

「今回は特に特別だぞ。茨の冠たちよ、敗北を出汁にするあいつらを追い出してくれ」

 やっぱりあるんじゃないですか。

 

 崖に突き落とされたと思いきやいつの間にか外にいました。

「走馬灯ではなさそうですね。しかし死の谷底が変えるための出口だなんて、少しがっかりですわ」

 それにしてもやはり朽ちた茨の冠……実力は相当の者たちですわね。

 

 なんとか決闘の腕前を上げなければなりませんわ。

「取り敢えず学園に戻りましょう」

 学園に戻りました。なんとか誤魔化して寮の部屋で休ませていますわ。

 

 ウィドー・マリッジに報告しに参ります。

「デッキは確保できませんでしたが、それよりも遥かに良い収穫を得ることが出来ました」

「なんでしょうか?」

 ユナイツカードの変え方を報告いたしました。

 

 ウィドー・マリッジは方法を紙に書き連ねます。

「邪神もどきの準備はどうするんだい?」

「うちの家にいる邪神から取ってくればいいでしょう。私にはそんなことよりも大事なことがあるんです」

 ウィドー・マリッジを思い切り殴りました。

 

 何がなんだか分からないと言いたげなウィドー・マリッジにもう一発叩き込みました。

「ラウィラニさんは今回死にかけましたからね。その辛さの百分いや千分の一でも知ると良いですわ。それになんですか生徒を危険な目に合わせて自分は後ろでのんべんだらりなんて」

「……すまなかった。時間が余ったら自分で現地調査をするようにするよ」

「分かれば良いんですよ」

 今回のことは流石に少し手が出そうになりましたわ。



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39話

 一ヶ月経過しました。

「秋の生徒会総選挙デスマッチですわ〜」

「なんなんですかそれ」

「年に一度優勝すれば生徒会役員になることが出来る大会ですわ。生徒会は代々生徒会総選挙デスマッチの優秀者と身分が高く成績優秀な者のみで構成されているのですわ」

 選挙じゃないという批判は止してほしいですわ。本編に忠実な表現をしているだけなのですからね。

 

 これで力を付けていずれイーシラムにリベンジしなければいけませんわ。

「建前上はどんな身分の方々も生徒会長になることができますが、権力だの忖度だのあるので結局のところ偉さ=強さなイベントですわ」

「そうなんですか」

「しかしここにたった二人そういう忖度をしなくても良い人がいます。あなたと私です」

「あ、はい、そうですね」

 客観的に見ればレイナさんはド庶民、私は将来の王族。忖度ランク圏外の低みと高みですわね。圏外だから好き放題出来るのです。

 

 生徒会総選挙デスマッチに立候補しますと周りがざわつきましたわ。

「庶民の癖になんて度胸なんだ」

「ただの度胸じゃねえド級の度胸ド度胸だ……」

「ただ戦いたいだけだろ。横の子も巻き込まれて可哀想に」

 参加してくれなんて一言も言ってないので、レイナさんは巻き込まれたんじゃなくて飛び込んだのですよね。

 

 上級生の方がやってきましたわ。

「あら、偉そうですわね」

「コッチのセリフなんですけど」

「ごめんなさいね。おくちが緩くて余計なことを言ってしまいましたわ」

 勿論これは計算のうちです。確かこのイベントで決闘出来るキャラは結構面白味があっていい感じですからね。

 

 レイナさんは怒ったらどうするんだと言いたげな目で見ていますね。怒らせるのが目的なので巻き込まれるレイナさんは若干可哀想ですわね。

「ソウコお嬢様それはさすがにダメですよ」

「上級生に対する態度がなっていないわね。成金の子供に品位は期待していないけど、ここまで酷いだなんて思わなかった」

 酷いのは当然、一晩考え抜いた悪口ですからね。

 

 上級生はユナイツカードを構えました。マジカルランドですか。

「それで、貴女はどうしたいんですか? 下級生を倒して実力を見せつけるのですかね」

「そんなんじゃないよ。ただ無礼な人間は緩い口をキツくして分からせないとダメだし、決闘しか取り柄の無い人間を倒して自信をくじくのは効率がいい。だから決闘して分からせるしかない」

 おっ。ついに決闘が始まりますね。あるかどうかわからない品性を投げ捨てた甲斐がありましたわ。

 

 上級者との決闘ですわ。

「チャージ。手札のハンカチョーカーを開示いたします。コイントスは……表。2枚ドローでハンカチョーカー武装」

 上級生の首にツボ皿の付いたチョーカーが装着されましたわ。

 

 6 武装 ハンカチョーカー 属性:魔法使い

   効果:手札のこのカードを見せてコイントスを行う

      表を出した場合このターン手札のこのカードはストレンジ:2枚ドローを得る。裏を出した場合自分は手札を捨てる。

      自分はコイントスまたはサイコロと記されたカード以外使用できない

      一ターンに一枚だけハンカチョーカー以外のコイントスまたはサイコロと記された自分のカードの結果を操作できる。

      この効果は自分のターンにのみ発動出来る

   攻撃力:0 防御力:0

 

「私の先祖は王国建立777年に突如現れ各地に伝説を残し、ギャンブルで勝ち貴族の娘と結婚した伝説の博徒 ブルギャンビット・ハルヤマノ。だから一族代々ギャンブラー。積み重ねられたギャンブルセンスを見せつけてくれる」

「そう。それを生で聞きたかったのですわ」

「この口上どうやら庶民の間でも人気らしいね。ターンエンド」

 このブルギャンビット・ハルヤマノの子孫さんは本編では一貫してモブ扱いと言うある意味もったいない人なんですね。

 

 そして3ターン目までなにも起こらず上級生の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で墓場の丁 グサン召喚」

 墓石を背負った四ツ目のゾンビが現れました。

 

 4 モンスター 墓場の丁 グサン 属性:使い魔

   効果:出現:サイコロを振る。そして出た目に対応した効果を発動する

         1:自分の手札を1枚デッキの上に置く 2:2枚ドローする

         3:自分のコストゾーンのカードを1枚デッキの上に置く 

         4:サイコロを2回振りこのカードの出た目に対応した効果を発動する。この後4が出たらこのカードの効果を無効化する

         5:相手モンスター一体を選び、攻撃力を倍にする 6:デッキの上1枚をコストゾーンに置くその後1枚ドロー

   攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2

 

 上級生がサイコロを振ると4が出ました。

「サイコロを2個振らせてもらう。ダイスロール 4、2。4を6にして3枚ブースト。ターンエンド」

「堅実なプレイングですわね」

 ギャンブルデッキ使っているのにリカバリーも欠かさない。後の先を読む伝説の博徒の子孫らしいですわね。

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法 サオトキキの術を発動します。鬼武者を手札に加えてターンエンドです」

「おお、互いに手堅いプレイングですね」

 マスターニンジャを手札に加えられなかったのがキツイです。

 

 上級生の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6で災コロ発動。ターンエンド」

 異様に大きくて黒いサイコロが赤くて大きな単眼でこちらを見つめてきます。

 

 6 魔法 災コロ 属性:魔導書

   効果:相手の攻撃時サイコロを振る。出た目が相手の攻撃力と一致していればそのターン中その相手から戦闘によるダメージを受けない

      一致していなければ相手はダメージを与えたとき与えたダメージ分生命力を回復しても良い

 

 私の5ターン目ですわ。

「ドロー。チャージ。コスト6で鬼武者でプレイヤーに攻撃します」

「災コロの効果発動。ダイスロール」

 災コロは回転して止まって真っ白な六つ目で私を睨みつけました。

 

 6が出ましたか。

「ターンエンドです」

「豪運な人間がギャンブルデッキを使うのが最強なんだよね。入試を全て鉛筆転がしで解答し歴代最高得点を叩き出した私に運で勝てる者などこの世にはいない。と言うことはつまり……」

「自分が一番ギャンブルデッキを使いこなしているという自信ですか。でも貴女は言うほど豪運でもないですよね」

 ハンカチョーカーに頼らずともサイコロを当てるなんて凄いですわね。

 

 上級生の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で屑鉄の賽比べ スクラップス召喚。コスト3でハーフガンナー召喚」

 二つのサイコロを持っている継ぎ接ぎのロボットとガンナーが現れました。

 

 4 モンスター 屑鉄の賽比べ スクラップス 属性:使い魔

   効果:お互いのターン開始時お互いにサイコロを振る。出た目の数が多いプレイヤーは2枚までドロー出来る

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:4

 

 3 モンスター ハーフガンナー 属性:使い魔

   効果:コイントスを行う。

      表が出た場合相手モンスター一体を破壊する。裏が出た場合自分のモンスター一体を破壊する

   攻撃力:2 防御力:0 ライフ:3

 

「ハーフガンナーの効果……表が出たので鬼武者を射殺! ハーフガンナーでプレイヤーに攻撃」

「鬼武者は除去されるときついんですよね」

 ソウコ:生命力10→8

 

 私の6ターン目です。

「ドロー」

「スクラップスの効果。私は2 君は1か。2枚ドロー」

「チャージ。コスト7で回天の術を発動してターンエンドです」

「参ったなぁ……ハーフガンナーが役立たずになっちゃったよ」

 いくら墓地から出せるとはいえコストが必要なので役に立たないなんてことはないんですけどね。

 

 上級生の6ターン目です。

「ドロー。スクラップスの効果。私は4 君は3。2枚ドロー。チャージ。コスト5でミスタールーレット召喚。ハーフガンナーでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 赤と黒の縞模様が付いた手枷足枷を付けた男が現れました。

 

 5 モンスター ミスタールーレット 属性:魔法使い

   効果:コイントスを行って裏が出たらこのカードを破壊する

      表が出たら相手の全てのモンスターの生命力を2軽減する

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。スクラップスの効果ですね。今度は私が勝ちましたか。チャージ。コスト5でマスターニンジャ召喚。マスターニンジャの効果で分身の術をサーチします。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃します」

「災コロの効果発動。ここで5を出さなければ私の負け、ダイスロール」

 マスターニンジャの攻撃が弾かれました。5が出ましたね。なのでターンを終えました。

 

 上級生の7ターン目です。

「ドロー。スクラップスの効果。私は6 君は3。2枚ドロー。チャージ。ハーフガンナーの効果発動。表が出たのでマスターニンジャ破壊。コスト7で流転の毒蜘蛛召喚。ハーフガンナーでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 

 7 モンスター 流転の毒蜘蛛 属性:使い魔

   効果:相手ターンにコイントスを行う。それら表ならこのモンスターは次のターン攻撃できる。裏ならこのカードをデッキの一番上に戻す

   攻撃力:7 防御力:0 ライフ:1

 

 私の8ターン目。スクラップスの効果で勝ちましたので2枚ドローします。

「チャージ。コスト7で墓地からマスターニンジャを蘇生します。そのままマスターニンジャで攻撃です」

「災コロの効果発動。ダイスロール……5」

「マスターニンジャでサイバー忍法 破壊工作の術をサーチしてターンエンドです」

「流転の毒蜘蛛の効果発動」

 表が出てしまいましたね。

 

 上級生の8ターン目です。スクラップスの効果で負けたので2枚ドローされました。

「チャージ。ハーフガンナーの効果発動。裏が出たからスクラップス破壊。もう手札加速は必要ないから運が良かった。流転の毒蜘蛛でプレイヤーに攻撃」

「こんな攻撃受けたら負けますよ。アクションストライク。忍法空蝉の術」

「ハーフガンナーでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 これで残り生命力は4ですか。

 

 私の9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でサイバー忍法 破壊工作の術を発動します。災コロを破壊しますね」

 

 5 魔法 サイバー忍法 破壊工作の術 属性:ニンジャ

   効果:自分の場に属性:ニンジャを持つモンスターがいなければ発動出来ない

      相手の場のカードを1枚破壊する

 

「そしてマスターニンジャでプレイヤーに攻撃します」

「うぐっ」

「マスターニンジャの効果発動。分身の術をサーチしてそのままコスト2で分身の術発動。分身することによりもう一度攻撃出来ます。マスターニンジャでプレイヤーに再攻撃です」

 勝ちましたね。

 

 マスターニンジャの動きが止まりました。

「リアクション。コスト6で運勢魔法ダイキチラッキー発動」

「ダイキチラッキーですか。それが決まるかどうかで運命が決まりますね」

 

 6 魔法 運勢魔法ダイキチラッキー 属性:魔導書

   効果:コイントスまたはサイコロと記されたカードを武装しているならこのカードはリアクションを得る。

      お互いにサイコロを振る。出た目の数が多いプレイヤーはこのターンダメージを受ける代わりに生命力が1上昇する 

      少ないプレイヤーはこのターン受けるダメージが2倍になる

 

「私は5が出たけどキミは?」

「2です」

「だんだん運が悪くなっている。天も横暴さに呆れて物も言えないんじゃないの。天罰覿面という奴だね」

「ターンエンドです」

「流転の毒蜘蛛の効果発動、表が出た」

 もう少しでしたね。

 

 上級生の9ターン目です。

「ドロー。流転の毒蜘蛛でプレイヤーにトドメ。アンラッキーポイズン」

「うぎいいいい」

 流転の毒蜘蛛に右肩を噛まれ、モンスターが消えました。

 

 負けてしまいました。

「これに懲りたらもう二度と行儀の悪いマネはしないこと。そんなことをすれば無限に敵を増やしてしまうから」

「そうですね。肝に銘じておきます」

 強い敵と戦うことが目的なのですけれどね。まぁ婚約者が退学させられるなんて王子様の面目丸つぶれなので、少しおとなしくしましょう。

 

 そもそも今回は下品過ぎましたわね。

「次はもっと上手くやりますわ」

「そうじゃなくてね……まぁいいや。極力周りから嫌な眼で見られないよう上手くやってね」

「ありがとうございました」

 上級生はレイナさんの感謝の言葉に首を傾げながら去りました。

 

 レイナさんに引っ張られました。

「あの先輩がなんだかんだいい人で良かったですね」

「そうですね。決闘好きな人間を分からせたければ決闘しないことが一番効くのに、わざわざ決闘で分からせようとしたのですから」

 しかし行儀が悪い以外なんも悪いことしていない気がするのですがねぇ。暗黙の了解という権威に屈しましたか。



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41

 廊下を歩いていると上級生がぶつかってきました。レイナさんは鼻血を出していますね。庶民の癖に目立っているのが気に食わないのが理由だとしたら、私のせいですわね。

「あらあらぶつかってしまってごめんあそばせ〜。しかし私も制服が汚れたのでおあいこですわね〜おほほほほ。下衆な庶民の癖に」

「すみませんね。懐事情の厳しいド貧乏人の服を汚してしまって。非人道的でしたよね」

 根っからの貴族の家の出身ですね。こういうタイプには資金を煽るのが良く効きます。

 

 持っていたティッシュでレイナさんの鼻血を抑えました。顔を覚えられたくないので去りましょうね。

「換えの制服の代金は立て替えておきますから、汚れた制服は寝巻きにでもしておいてくださいね。プライドだけで生きてる人にとっては貴重な体験でしょうから堪能しておいてくださいね」

「伯爵令嬢になんという口の聴き方ですの?」

「やはり庶民は下品だわ」

「いえいえ。やはり平気で人を傷つけておいて平気な顔をするお貴族様には負けますわ。流石お貴族様です。我々庶民とは格が違います」

 表面上1貶したけど2褒めておいたからご機嫌気分で顔も覚えられることはないでしょう。

 

 翌日

 

 せこい真似して来た上級生が来ました。

「昨日の今日で来るなんて私のファン、もしくは借金しに来たのですかね。貧乏って怖いですよね」

「金の無心なんてしませんわ」

「それは関心ですね。では未来の王族という客観的事実を持つ私に今のうちに媚を売りに来たのでしょうか。さすがお姉様安定派ですわ」

 18で死ぬので媚びるとしたら大ハズレな選択肢なんですけどね。

 

 上級生に胸ぐらを掴まれました。

「代々大金持ちな我が一族が貧乏なわけあるかぁ。いい加減にしないとはっ倒すぞ」

「すみません。偉そうなこと言ったところでゲスな庶民に資産力で負けてるんです。そしていずれ権力でも負けそうで焦りがありますね」

 レイナさんを傷つけておいて謝らないのでこのくらいしてもいいと思いますわ。

 

 取り巻きたちは私を睨みつけます。

「庶民の癖に口を開けば愚弄しかしない」

「身分の差を理解させ貴族の偉大さをわからせて差し上げますわ」

「偉大なる母や父の顔に泥を塗りながら偉大さを教えるだなんて立派な心がけですね。涙が止まりません」

 決闘が始まりました。今回は私が2つのデッキを使いタッグバトルです。

 

 取り巻きAの先攻3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で青邏ナドリス召喚。ナドリスでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「マーフォーク型ですね」

 セーラー服を着た猫耳の女の子が現れました。

 

 3 モンスター 青邏ナドリス 属性:マーフォーク

   効果:このモンスターが攻撃済み状態の時、属性:マーフォークのモンスターが出た場合1枚ドローする

   攻撃力:0 防御力:1 ライフ:2

 

 私Aの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3ではにわさんを召喚してはにわさんでプレイヤーに攻撃です。そしてターンエンドします」

「はにわさん……そんな攻撃力に対してデメリットが凄いカード使うのね。流石庶民ですわ」

「そうですかね。先輩方のことを聞いて真面目にメタカードを組んできたのですがね。タッグファイトはマイナーですから、タッグファイターはそれなりに有名になりますし情報も集めやすいですよ」

 しかしこの人達私の記憶が確かですと本編に出ていないんですよね。ですから情報収集が大変でした。

 

 取り巻き:生命力10→7

 

 3 モンスター はにわさん 属性:アヤカシ

   効果:相手モンスターの攻撃時相手は1枚ドローする

   攻撃力:3 防御力:1 ライフ:2

 

 取り巻きBの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。ナドリスでプレイヤーに攻撃。そしてコスト6でカイリュウブラスター武装。ターンエンド」

「はにわさんの効果を上手く使われてしまいましたね」

 効果を使わなかったということは、手札アドバンテージがよほど大事ということですね。

 

 私Bの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6ではにわんだーを発動してはにわさんでプレイヤーに攻撃します」

「アクションストライク。ドローガード」

「ターンエンドです。上手く削ることが出来ませんでしたね」

 はにわが多数入っている箱が現れました。

 

 6 魔法 はにわんだー 属性:アヤカシ

   効果:設置。このカードは1ターンに1度だけ効果で破壊されない

      相手が効果でドローするたびに1枚につき以下の効果を1度選んで発動できる

      ・このターン中自分か自分のモンスターの攻撃力と防御力を1ずつ上げる

      ・デッキか墓地からはにわにとはにわんを一体ずつ召喚する

 

 取り巻きAの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でサハギンシールド召喚。ナドリスでプレイヤーに攻撃して、コスト4でハンティングマーメイド召喚」

「はにわんとはにわにを召喚します」

「ハンティングマーメイドでプレイヤーに攻撃」

「バフします」

「ターンエンド。防御力が増えると攻撃通りにくくなるから地味に面倒くさい」

 はにわのワニと犬が箱から現れました。

 

 4 モンスター ハンティングマーメイド 属性:マーフォーク

   効果:攻撃する時1枚ドローする

   攻撃力:2 防御力:0 ライフ:2

 

 2 モンスター はにわに 属性:アヤカシ

   効果:相手はデッキからドロー以外でデッキからカードを手札に加えた場合1枚ドローする

   攻撃力:1 防御力:1 ライフ:2

 

 1 モンスター はにわん 属性:アヤカシ

   効果:はにわカードが破壊される代わり相手は1枚ドローする

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 ソウコ:生命力10→9

 

 私Aの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でサオトキキの術を発動します。はにわさんでサハギンシールドに攻撃してターンエンドですわ」

 私サハギンシールドを相手するたびに面倒だと思うんですよね。

 

 取り巻きBの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6で魚竜群召喚。デッキの上から5枚捲って1枚ドロー。コスト2でドリルサザエ召喚。1枚ドロー。ターンエンド」

「攻撃しないんですね」

「手札は十二分に溜まったからね」

 次のターンが怖いですね。

 

 私Bの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6で鬼武者を召喚してサハギンシールドに攻撃します。そのまま破壊して魚竜群に攻撃して破壊します」

「アクションストライク。ドローガード」

「ドローガードで魚竜群への攻撃を防がれましたか。ターンエンドです」

 なかなかしぶといですね。

 

 取り巻きBの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。魚竜群で1枚ドローしてナドリスとハンティングマーメイドで攻撃」

「あーあ。これでマレンティの審神者でも出されでもしたら次のターンに私負けてしまいますね。なんてたって最強ですから」

 この挑発、乗らざるを得ませんよね。乗らなかったら庶民に逃げ腰になったということですからね。

 

 取り巻きBはその手があったかと言う顔をしました。そんな……打算抜きでアッサリ策に乗るなんて。

「コスト8でマレンティの審神者を召喚」

「強くなっているのは皆一緒だから。ナドリスでドロー。マレンティの審神者の効果発動」

 マレンティの審神者の効果はなかなか面倒なんですよね。ですから気を抜くとライブラリアウトさせられて牽制になりそうなはにわにを使っているんですけどね。

 

 8 モンスター マレンティの審神者 属性:マーフォーク

   効果:このカードはルール上サハギンカードとして扱う。

      自分が効果によってドローした時デッキから属性:海竜のモンスターを2枚まで手札に加えて自分の手札の枚数以下の属性:海竜のモンスターを場に出す。この効果で出したモンスターはこのターン攻撃出来ない

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:2

 

「オルトシナウズを2枚手札に加えて手札が7枚だからコスト7のオルトシナウズ召喚。デッキから手札に加えたからはにわにの効果でドロー。オルトシナウズを2枚手札に加えてオルトシナウズ召喚。はにわにの効果。グリッピアを二枚手札に加えてオルトシナウズを召喚。はにわにの効果。グリッピアを二枚手札に加えてオルトシナウズを召喚。これは無限ループね」

 無限ループの快感と大量ドローの快楽にどっぷりハマってしまいましたね。

 

 しかし快楽を1度に多量摂取すると人間は壊れてしまいますよ。

「デッキに海竜がある限りこのコンボは発生し続けて、いずれ過剰なドローによりライブラリアウトを起こします」

「あっバカ」

「バカって言った方がバカだから」

 稚拙な演技に誘い込まれましたね。

 

 凄まじい数の海竜が並びました。取り巻きBは興奮して相方の制止も聞かずに展開していますね。

「山札6枚じゃん。もう知らないから」

()()()()()これで私のデッキに海竜はない」

 取り巻きBはニヤリと笑いました。てっきり大型出すのに夢中で山札無くなることに気が付いていないとばかり……

 

 

「上手い事利用されてしまいました。」

「これでライブラリアウトせず好きなだけ展開できたという訳。ターンエンド」

「そうか……タッグファイトは手札やデッキは盤面を左右するプレイヤーはターンごとに入れ替わり、それぞれのデッキを使う。だから次のターンになっても山札に余裕のある方になるからライブラリアウトの危険性もない。ド庶民のカードをうまく利用しましたわね」

 一気に大量のモンスターを展開されてしまいました。

 

 7 モンスター オルトシナウズ 属性:海竜

   効果:手札が10枚以上なら貫通とオールアタックと蹂躙を得る

   攻撃力:4 防御力:3 ライフ:4

 

 6 モンスター グリッピア 属性:海竜

   効果:なし

   攻撃力:6 防御力:2 ライフ:5

 

 私Bの4ターン目です。

「これをどうにかしなければ負けですわね。ドロー。チャージ。コスト6で百花繚乱。デッキから座敷わらしを手札に加えて1枚ドロー」

「ギャンブルに頼るなんて思い切った真似をするわね」

「はい。コスト2で座敷わらしを発動します」

 狙い通り裏がでました。

 

 山札は残り二枚……これであと4ターン耐えれば私の勝ちですわね。

「浅はかね。はにわにの効果で1枚ドロー」

「なんとでも言ってくださいまし、はにわんだーの効果でパンプして鬼武者でオルトシナウズに攻撃します」

「アクションストライク。マレンティの詠唱発動。さっきの座敷わらしを利用させてもらったわ」

 

 6 魔法 マレンティの詠唱 属性:マーフォーク

   効果:自分の場にマレンティカードがある場合相手もしくは自分のターンに1度だけコストを払わずに使用出来る。

      手札のコスト3以下の魔法を見せてその魔法を唱える

 

「マレンティの詠唱で神秘なるアクアマリン発動。デッキからマリンスノーを出して手札を全てデッキに戻す」

「なんでそんなもの入れているんですか」

「トピア・クアを使う以上山札切れは課題の一つ。ならば対策するのが筋でしょうが」

 結構な力技ですね。しかも手札が10枚以上あったら負けない魔法とかあるのにアクアマリンに拘るなんて頑固ですわ。

 

 まぁ拘りは否定しませんけどね。そういうのは大事ですし。

「でも残念だったね。デッキアウトさせようと浅知恵絞ったけど逆に利用されたんだから。コインが裏でも表でも負けるのは変わりなかったという訳。この状況を打開できるカードももうないんじゃな……あっ」

「……鬼武者でグリッピアに攻撃です。判断を謝りましたね、ドローガードで防いでからマレンティの詠唱を使えば良かったですね」

「ああしまった。ちゃんと除去もしておけば」

 海竜は全滅し、鬼武者の刃が相手プレイヤーに届きました。

 

 これでトドメですね。

「はにわさんでプレイヤーに攻撃してトドメです」

 

 取り巻き:生命力7→1→0

 

 凄い人でしたね。

「宜しければ名前を伺いたいのですが」

「貴女、庶民に負けるなんてお恥ずかしいですわね」

「恥ずかしいのはおま……貴女ですよ。先輩名前を教えてくださいまし」

 上級生の手を払い除けました。今それどころではありませんから。

 

 取り巻き先輩は混乱しております。

「騎士の娘 オットー・シゴだけど。コッチの娘はトリー・マッキンジーね」

「オットーさん貴女は応用力が効き私の裏をかく起点もあります。私のライバルになってください」

「シゴは私のライバルだから。あんたなんか指一本触れさせないから」

 握手をしながら執拗に妨害しようとしてくる上級生を撃退します。

 

 上級生が胸ぐらを掴んできました。

「人の取り巻きを勝手にライバルにしようだなんて下品で強欲ですわね。貴女のお父様そっくりですわ」

「そうですか。貧乏人は挑発も安いですね。節約しないといけないからですか?」

「貴様!」

 罵倒に乏しい人に対して冷笑しないあたりよっぽど効いていますね。

 

 このまま宙をさまようような感覚を味わうのもいいですが、腕力も限界でしょうね。

「決闘で分からせて心根を折った方がいいですよね」

「負けて折れるような奴ではないでしょ」

「貴女のような偉い人も私のことを知っているなんて……光栄ですね」

 上級生は悔しそうに下唇を嚙みました。偉いから煽られた経験もなく煽り耐性が低いんでしょうね。



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42

 オットー先輩と決闘をしていました。

「ここをこうしてもああなってあれをああしてもこうなるから……負けですね。対戦ありがとうございました」

「対戦ありがとう。実際ギリギリだった」

 実力が凄い。レイナさんクラスの実力者であることは間違いないですね。

 

 こんなに強い人が生徒会総選挙に興味がないなんて割と多大な損失です。

「こんなに強いのにどうしても生徒会に入らないんですか?」

「あなたにはわからないと思うけど、常人には大人の世界と暗黙の了解というものがある。それにハッキリ言って成績はあまりよくない方なんだよね」

 オットー先輩は拝んでいます。どういうことなのでしょうか。

 

 真剣な表情ですねぇ。

「神様、令嬢様、ソウコ様勉強を教えてください。今日この部屋に来たのは半分これが目的なんだよ。そういう理由なので問題もないというわけ」

「あっそうですか。道理であっさり来ると思いましたわ」

 プライドを捨てることが出来る……私はそんなオットー先輩を尊敬します。

 

 プライドを捨てたオットー先輩に勉強を教えていると、ラウィラニさんが戻ってきました。

「あ〜ん♥ドゥイ様〜♥私に鬼畜なことをしてぇ〜ん♥」

「レディがあまりそういうことを言うものじゃありませんよ」

「満足~♥でも鬼畜なこともしてぇ〜ん♥」

 凄いよね、今まで勉強したことが全て抜けている模範的アホ面ですよ。軽蔑しますね。 

 

 顔を見れば嫌がっているのが分かりますね。これが愛ゆえの面倒くささです。

「先輩、せんぱ〜い、もう半分の用事をいい加減に教えてくださいよ」

「あ、ドゥイ様の顔が良すぎて忘れてた。第4王子様と庶民の子と付き合っていたよ」

「すごいスクープじゃないですか。私の顔よりも大事なことですよね」

 湧き上がる嫉妬心を理性で押さえつける。

 

 明日考えることにして翌日です。

「授業中も仲良く話すなんてメラメラ嫉妬しますね」

「どちらに嫉妬しているんだい?」

「二人ともにですよ。きっと私がカードに夢中になっている間浮気しているんでしょうね! ふんだ!」

 この国は一夫多妻及び一妻多夫制ですし、貴族にはお妾さんがいないのは異常ですから理屈には合っていますが、それでもムカつくものはムカつきますね。

 

 半日悶々としたまま過ごしました。

「あっ。私をチラ見して逃げましたね。やはり王子と私は結ばれる運命ではないということでしょうか?」

「何バカなことを……傲慢不遜な貴女らしくない。ずっとそうやって死ぬまで大人しく生きていて欲しいね」

 励ますのと貶すのどちらかにして欲しいですね。

 

 なるほど。本編では明かされませんでしたが、こういうようなことがあって本編の私は主人公を妨害するに至ったのかもしれませんね。

「事前に対策していなければはらわたが煮えくり返る思いをしていましたね」

「結構無理しているのが目に見えているけどね」

「もしかして嫉妬を煽るためにわざと見せつけているのかもね」

 その線もありますね。もしそうだったら私は王子を軽蔑します。レイナさんがかわいそうですからね。というかなぜオットー先輩はなんでいるのでしょか。

 

 現状分からないことだらけなのでしばらく様子見をしましょう。

「いけ、ソウコちゃん。応援しているゾ」

「先輩のばか! デリカシーレス」

 王子様達振り向いたらいきなり私がいたので驚いているじゃないですか。

 

 なんか気まずいですね。

「おはようございますわ」

「おはようという時間でもないですね」

「そんなことはどうでもいいんですよ。問題は王子様と貴女がなぜ一緒にいるかなんです」

 言えないけど怪しくないという顔をしていますね。

 

 訳ありですか。まぁ知ったことではないんですけど。

「いえね別に嫉妬しているとかそういうのではないんですよ。お妾さんがいるのは当たり前ですし、レイナさんがお妾さんになれば私も嬉しいですから。ただ普段は心の奥底で自重している王子様への愛があふれると言いますかねそのうまく言えませんね」

 面倒臭い奴だなと言う視線をひしひしと感じます。

 

 愛は人を複雑にする……オットー先輩は心当たりがあるはずなんですがね。

「ソウコ嬢は面倒くさいお人ですね。王子様は早急に事実を応えるのが吉かと思われます」

「ラウィラニ家の者か。言えないけどソウコ嬢を悲しませるようなことではない。それだけは分かってほしい」

「私が目の前にいても私に何も言わないのにやましいことはないと言いたいのですね」

 デッキを構えました。

 

 レイナさんはすべてを理解したと言いたげな顔をしました。

「ソウコお嬢様がなにを勘違いしているのか知らないけど、悲しませることではない。それだけはハッキリと知ってほしいのです。もしも悲しませたなら……覚悟の二つ三つはしているますよ」

 レイナさんは私の腕をつかんで自らの首に近づけます。死んでもいいということですか。覚悟を感じますね。

 

 レイナさんの腕を払いました。

「そこまでの覚悟があるのですか。その覚悟見届けさせてもらいますよ」

「ソウコお嬢様に見届けていただけるなんて光栄ですね」

「そこまでいうならしばらく何もせず静観致しますか」

「そこまでと言うほど何か言っているわけじゃないと思うのだけど」

 一々煩い人だ。友人や婚約者を疑いたくない反面疑うしかないという複雑な心境を理解できないのは、ラウィラニさんらしいと言えばらしいです。

 

 私は戻ったふりをしてバレないように尾行を行います。

「なんか楽し気ですねえ。デートでしょうか。友人の幸せを祝福する気が起こらないなんて、私も落ちましたね」

 いつまでも友人のまま婚約者のままというなぁなぁな関係でいられないというのは分かり切ったことなんですけどね。

 

 ……今日の私は不調ですわ。

「あっ。マッキンジー先輩とマッキンジー先輩を取り巻きにしている人ですね。奇遇ですわ」

「なんですの。私が取り巻きのついでみたいな呼び方。無礼でしてよ。聞いて驚きなさい。私の名前は」

 変に優しいですね。怒って決闘で私を倒そうって考えるのかと推測しましたのに。

 

 まあ王子様見張るのに集中できると考えたらそれはそれでラッキーですね。

「これあげますから黙っていてください。ラウィラニさんが使ったジャムの空き瓶です。高く売れそうでしたので持っていて正解でしたね」

「なんですのそのゴミ。要らないですわ」

「学園の女子の4割をファンにする凄いイケメンが使ったジャムの瓶ですよ」

 マッキンジー先輩を取り巻きにしている人は私の手からひったくるようにジャムの空き瓶を貰っていきました。

 

 取り巻きの人が一新していますね。何処かで見たことある顔です。一新した成果なんか機嫌が悪いマッキンジー先輩だけが残ったのですね。

「そう言えば王子様をストーキングしているんじゃないの?」

「あ、忘れていました。マッキンジー先輩、ありがとうございます。また会う日までごきげんよう」

「私としましてはまたなんてない方がいいですわ」

 それにしてもなぜあの場所にいたのでしょう。私もストーカーされているのでしょうか。

 

 それにしても私に隠れてデートだなんていい根性してますね。

「おやりくださいましっ」

「そうですか。やっぱりおかしいと思ったんですよ。口調が妙に柔らかいものなのでね」

 王子様達に向かって放たれたクロスボウをカードで撃ち落としました。

 

 マッキンジー先輩を取り巻きにしている人にナイフを投げつけるとちゃんと刺さりました。しかし出血は確認できません。

「会いたかったよ。君に対する思いはあそこのマヌケ面よりもあると思う」

「しかしその思いはすべて憎しみで構築されていますよね」

 四の邪神 アブゾーブでした。本当にお久しぶりですねえ。

 

 しかしその姿と言うことは……

「良くもやってくれましたわね。その姿の人には悪い思い出しかありませんが、それでもそこまでされるような人間ではありませんでした」

「そうかい。ボクにはそんなことどうでもいい事なんだけどね。でも王子の姿コピーしようとしたらこの姿の奴に見つかったので仕方ない」

「羨ましい限りですよ。私なんか目が貴重なせいでアブゾーブ様に全てを捧げることが出来ませんから」

 取り巻きの一人……イツが入れ替わっていたんですね。

 

 マッキンジー先輩はため息をつきました。

「そういうわけで脅迫されて無理矢理脅迫されてたってわけ。庶民ごときに助けてもらいたくないからとっとと帰ってね」

「一旦王子の尾行はやめましょう。目の前で見捨てるのは癪ですからね」

 マッキンジー先輩は他人の心配している場合なんですかね。

 

 マッキンジー先輩が色々言っている気がしますが、気にしないようにしましょう。どうせ私を制止する言葉ですから。

「決闘で倒して心を折りお前のすべてを貰う。いきなり目的地にたどり着けるのは、ちょっとラッキー」

 デッキを構えるとマッキンジー先輩はその辺に捨てられました。

 

 デッキ内容は変わっていませんが、回し方が上手くなっていますね。

「鬼武者でプレイヤーに攻撃。自分の切り札で負けろ」

「そのカードで負けるわけにはいきませんね」

 この鬼武者は王子からもらったカードですから。

 

 しかし幸いクノイチがいます。

「焦りましたね。アクションストライク。忍法 空蝉の術」

「ターンエンド」

「やりましたね。これでアブゾーブ様もあと少しで悲願達成です」

 逆転の手がないのも事実。

 

 私の10ターン目……マッハドローを行いました。

「ドロー……チャージ。互いに1ダメージでも受けたら死に至るようなギリギリの決闘ですね」

「ここだけ見ていれば熱いけど、ボクが勝つのが既定路線だから全然熱くないってわけ」

「何舐め腐ったことほざいているんですか。クノイチでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。マジックシールド」

「コスト3で妖刀ムラマサ武装。ムラマサでプレイヤーに攻撃します」

 モンスターが全て消えされました。

 

 私も今回はギリギリまで追い詰められて危なかったですね。

「当たり前ですが成長しているのは私だけではないということですか。今回はかなりギリギリでしたよ」

「闘気への耐性が上がっていた……前より倍の量を浴びせているのに」

「私を倒せるようになるまで頑張ってくださいね」

 アブゾーブは帰りました。

 

 何かがおきた音がしたので後ろを向くと、王子様が私を見ています。

「バレてしまったのですか」

「今の生徒……心当たりのない見た目でしたね。また危険なことですか?」

「心当たりがないというだけで危険なことしているというのは些か根拠に」

「雷を受けた痕跡が地面にありますね」

 アッ掃除し忘れました。

 

 王子様達に変な目で見られます。

「痕跡ないですよ。しかし痕跡が発生するような危険な決闘をしているということが分かりました」

「王子様が魅力的なのが悪いんですのよ。私の前で他の女性とイチャイチャなさるから。やさぐれてこんなことするようになったのです」

「猛省いたしました」

「いえね、そういうことではなくて私が一方的に悪いのですが、その、素直に言葉が出なくてですね。ごめんなさい。でも心配してくれてありがたかったですわ。やさぐれの氷が溶けた気がします」

 こういう面倒くさいところがあるから普段はトゥスル王子様に対する思いを封じていたのです。

 

 頭の上に何かが乗っかるのを感じます。感触的に植物ですね。

「花の冠です。レイナ嬢と一緒にいたのはソウコ嬢にこういった物をプレゼントしたくてですね……こういうのはサプライズがいいので、こっそりレイナ嬢に作り方を教わっていたという訳です」

「そういうことだったんですのね……ですが今日私の誕生日とかでしたっけ?」

「いえ、なんでもない日のプレゼントです」

『プライムディスティニー』本編にも好きなタイミングでキャラにプレゼントをあげて好感度を上げるシステムがありました。

 

 我ながらチョロいかもしれませんが、これは好感度の一つや二つ上がりますよね。

「お金をかけるプレゼントと言う選択肢もあるにはありますが、ソウコ嬢はそんなもの飽き飽きしておられるでしょう?」

「私としては普通に税を尽くしたプレゼントの方が好きなんですけどね。これには早急に状態固定の呪いをかけさせていただきます」

「プレゼント大成功ですね。トゥスル王子様」

 頭の上の花冠を取りました。

 

 部屋に戻りまして花冠に状態固定の呪いをかけました。

「ソウコ・メッセルがそんなショボい花冠をいとおしそうに持つなんてミスマッチですね」

「ミスマッチに見えるのも当然ですわ。世界でたった三人しか価値の分かりませんもの」

「王子様とのことは解決したんですか?」

「理想的な円満解決です」

 そもそも王子様は問題が発生したことに気が付いていませんけどね。それでいいん



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42

 オットー先輩と決闘をしていました。

「ここをこうしてもああなってあれをああしてもこうなるから……負けですね。対戦ありがとうございました」

「対戦ありがとう。実際ギリギリだった」

 実力が凄い。レイナさんクラスの実力者であることは間違いないですね。

 

 こんなに強い人が生徒会総選挙に興味がないなんて割と多大な損失です。

「こんなに強いのにどうしても生徒会に入らないんですか?」

「あなたにはわからないと思うけど、常人には大人の世界と暗黙の了解というものがある。それにハッキリ言って成績はあまりよくない方なんだよね」

 オットー先輩は拝んでいます。どういうことなのでしょうか。

 

 真剣な表情ですねぇ。

「神様、令嬢様、ソウコ様勉強を教えてください。今日この部屋に来たのは半分これが目的なんだよ。そういう理由なので問題もないというわけ」

「あっそうですか。道理であっさり来ると思いましたわ」

 プライドを捨てることが出来る……私はそんなオットー先輩を尊敬します。

 

 プライドを捨てたオットー先輩に勉強を教えていると、ラウィラニさんが戻ってきました。

「あ〜ん♥ドゥイ様〜♥私に鬼畜なことをしてぇ〜ん♥」

「レディがあまりそういうことを言うものじゃありませんよ」

「満足~♥でも鬼畜なこともしてぇ〜ん♥」

 凄いよね、今まで勉強したことが全て抜けている模範的アホ面ですよ。軽蔑しますね。 

 

 顔を見れば嫌がっているのが分かりますね。これが愛ゆえの面倒くささです。

「先輩、せんぱ〜い、もう半分の用事をいい加減に教えてくださいよ」

「あ、ドゥイ様の顔が良すぎて忘れてた。第4王子様と庶民の子と付き合っていたよ」

「すごいスクープじゃないですか。私の顔よりも大事なことですよね」

 湧き上がる嫉妬心を理性で押さえつける。

 

 明日考えることにして翌日です。

「授業中も仲良く話すなんてメラメラ嫉妬しますね」

「どちらに嫉妬しているんだい?」

「二人ともにですよ。きっと私がカードに夢中になっている間浮気しているんでしょうね! ふんだ!」

 この国は一夫多妻及び一妻多夫制ですし、貴族にはお妾さんがいないのは異常ですから理屈には合っていますが、それでもムカつくものはムカつきますね。

 

 半日悶々としたまま過ごしました。

「あっ。私をチラ見して逃げましたね。やはり王子と私は結ばれる運命ではないということでしょうか?」

「何バカなことを……傲慢不遜な貴女らしくない。ずっとそうやって死ぬまで大人しく生きていて欲しいね」

 励ますのと貶すのどちらかにして欲しいですね。

 

 なるほど。本編では明かされませんでしたが、こういうようなことがあって本編の私は主人公を妨害するに至ったのかもしれませんね。

「事前に対策していなければはらわたが煮えくり返る思いをしていましたね」

「結構無理しているのが目に見えているけどね」

「もしかして嫉妬を煽るためにわざと見せつけているのかもね」

 その線もありますね。もしそうだったら私は王子を軽蔑します。レイナさんがかわいそうですからね。というかなぜオットー先輩はなんでいるのでしょか。

 

 現状分からないことだらけなのでしばらく様子見をしましょう。

「いけ、ソウコちゃん。応援しているゾ」

「先輩のばか! デリカシーレス」

 王子様達振り向いたらいきなり私がいたので驚いているじゃないですか。

 

 なんか気まずいですね。

「おはようございますわ」

「おはようという時間でもないですね」

「そんなことはどうでもいいんですよ。問題は王子様と貴女がなぜ一緒にいるかなんです」

 言えないけど怪しくないという顔をしていますね。

 

 訳ありですか。まぁ知ったことではないんですけど。

「いえね別に嫉妬しているとかそういうのではないんですよ。お妾さんがいるのは当たり前ですし、レイナさんがお妾さんになれば私も嬉しいですから。ただ普段は心の奥底で自重している王子様への愛があふれると言いますかねそのうまく言えませんね」

 面倒臭い奴だなと言う視線をひしひしと感じます。

 

 愛は人を複雑にする……オットー先輩は心当たりがあるはずなんですがね。

「ソウコ嬢は面倒くさいお人ですね。王子様は早急に事実を応えるのが吉かと思われます」

「ラウィラニ家の者か。言えないけどソウコ嬢を悲しませるようなことではない。それだけは分かってほしい」

「私が目の前にいても私に何も言わないのにやましいことはないと言いたいのですね」

 デッキを構えました。

 

 レイナさんはすべてを理解したと言いたげな顔をしました。

「ソウコお嬢様がなにを勘違いしているのか知らないけど、悲しませることではない。それだけはハッキリと知ってほしいのです。もしも悲しませたなら……覚悟の二つ三つはしているますよ」

 レイナさんは私の腕をつかんで自らの首に近づけます。死んでもいいということですか。覚悟を感じますね。

 

 レイナさんの腕を払いました。

「そこまでの覚悟があるのですか。その覚悟見届けさせてもらいますよ」

「ソウコお嬢様に見届けていただけるなんて光栄ですね」

「そこまでいうならしばらく何もせず静観致しますか」

「そこまでと言うほど何か言っているわけじゃないと思うのだけど」

 一々煩い人だ。友人や婚約者を疑いたくない反面疑うしかないという複雑な心境を理解できないのは、ラウィラニさんらしいと言えばらしいです。

 

 私は戻ったふりをしてバレないように尾行を行います。

「なんか楽し気ですねえ。デートでしょうか。友人の幸せを祝福する気が起こらないなんて、私も落ちましたね」

 いつまでも友人のまま婚約者のままというなぁなぁな関係でいられないというのは分かり切ったことなんですけどね。

 

 ……今日の私は不調ですわ。

「あっ。マッキンジー先輩とマッキンジー先輩を取り巻きにしている人ですね。奇遇ですわ」

「なんですの。私が取り巻きのついでみたいな呼び方。無礼でしてよ。聞いて驚きなさい。私の名前は」

 変に優しいですね。怒って決闘で私を倒そうって考えるのかと推測しましたのに。

 

 まあ王子様見張るのに集中できると考えたらそれはそれでラッキーですね。

「これあげますから黙っていてください。ラウィラニさんが使ったジャムの空き瓶です。高く売れそうでしたので持っていて正解でしたね」

「なんですのそのゴミ。要らないですわ」

「学園の女子の4割をファンにする凄いイケメンが使ったジャムの瓶ですよ」

 マッキンジー先輩を取り巻きにしている人は私の手からひったくるようにジャムの空き瓶を貰っていきました。

 

 取り巻きの人が一新していますね。何処かで見たことある顔です。一新した成果なんか機嫌が悪いマッキンジー先輩だけが残ったのですね。

「そう言えば王子様をストーキングしているんじゃないの?」

「あ、忘れていました。マッキンジー先輩、ありがとうございます。また会う日までごきげんよう」

「私としましてはまたなんてない方がいいですわ」

 それにしてもなぜあの場所にいたのでしょう。私もストーカーされているのでしょうか。

 

 それにしても私に隠れてデートだなんていい根性してますね。

「おやりくださいましっ」

「そうですか。やっぱりおかしいと思ったんですよ。口調が妙に柔らかいものなのでね」

 王子様達に向かって放たれたクロスボウをカードで撃ち落としました。

 

 マッキンジー先輩を取り巻きにしている人にナイフを投げつけるとちゃんと刺さりました。しかし出血は確認できません。

「会いたかったよ。君に対する思いはあそこのマヌケ面よりもあると思う」

「しかしその思いはすべて憎しみで構築されていますよね」

 四の邪神 アブゾーブでした。本当にお久しぶりですねえ。

 

 しかしその姿と言うことは……

「良くもやってくれましたわね。その姿の人には悪い思い出しかありませんが、それでもそこまでされるような人間ではありませんでした」

「そうかい。ボクにはそんなことどうでもいい事なんだけどね。でも王子の姿コピーしようとしたらこの姿の奴に見つかったので仕方ない」

「羨ましい限りですよ。私なんか目が貴重なせいでアブゾーブ様に全てを捧げることが出来ませんから」

 取り巻きの一人……イツが入れ替わっていたんですね。

 

 マッキンジー先輩はため息をつきました。

「そういうわけで脅迫されて無理矢理脅迫されてたってわけ。庶民ごときに助けてもらいたくないからとっとと帰ってね」

「一旦王子の尾行はやめましょう。目の前で見捨てるのは癪ですからね」

 マッキンジー先輩は他人の心配している場合なんですかね。

 

 マッキンジー先輩が色々言っている気がしますが、気にしないようにしましょう。どうせ私を制止する言葉ですから。

「決闘で倒して心を折りお前のすべてを貰う。いきなり目的地にたどり着けるのは、ちょっとラッキー」

 デッキを構えるとマッキンジー先輩はその辺に捨てられました。

 

 デッキ内容は変わっていませんが、回し方が上手くなっていますね。

「鬼武者でプレイヤーに攻撃。自分の切り札で負けろ」

「そのカードで負けるわけにはいきませんね」

 この鬼武者は王子からもらったカードですから。

 

 しかし幸いクノイチがいます。

「焦りましたね。アクションストライク。忍法 空蝉の術」

「ターンエンド」

「やりましたね。これでアブゾーブ様もあと少しで悲願達成です」

 逆転の手がないのも事実。

 

 私の10ターン目……マッハドローを行いました。

「ドロー……チャージ。互いに1ダメージでも受けたら死に至るようなギリギリの決闘ですね」

「ここだけ見ていれば熱いけど、ボクが勝つのが既定路線だから全然熱くないってわけ」

「何舐め腐ったことほざいているんですか。クノイチでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。マジックシールド」

「コスト3で妖刀ムラマサ武装。ムラマサでプレイヤーに攻撃します」

 モンスターが全て消えされました。

 

 私も今回はギリギリまで追い詰められて危なかったですね。

「当たり前ですが成長しているのは私だけではないということですか。今回はかなりギリギリでしたよ」

「闘気への耐性が上がっていた……前より倍の量を浴びせているのに」

「私を倒せるようになるまで頑張ってくださいね」

 アブゾーブは帰りました。

 

 何かがおきた音がしたので後ろを向くと、王子様が私を見ています。

「バレてしまったのですか」

「今の生徒……心当たりのない見た目でしたね。また危険なことですか?」

「心当たりがないというだけで危険なことしているというのは些か根拠に」

「雷を受けた痕跡が地面にありますね」

 アッ掃除し忘れました。

 

 王子様達に変な目で見られます。

「痕跡ないですよ。しかし痕跡が発生するような危険な決闘をしているということが分かりました」

「王子様が魅力的なのが悪いんですのよ。私の前で他の女性とイチャイチャなさるから。やさぐれてこんなことするようになったのです」

「猛省いたしました」

「いえね、そういうことではなくて私が一方的に悪いのですが、その、素直に言葉が出なくてですね。ごめんなさい。でも心配してくれてありがたかったですわ。やさぐれの氷が溶けた気がします」

 こういう面倒くさいところがあるから普段はトゥスル王子様に対する思いを封じていたのです。

 

 頭の上に何かが乗っかるのを感じます。感触的に植物ですね。

「花の冠です。レイナ嬢と一緒にいたのはソウコ嬢にこういった物をプレゼントしたくてですね……こういうのはサプライズがいいので、こっそりレイナ嬢に作り方を教わっていたという訳です」

「そういうことだったんですのね……ですが今日私の誕生日とかでしたっけ?」

「いえ、なんでもない日のプレゼントです」

『プライムディスティニー』本編にも好きなタイミングでキャラにプレゼントをあげて好感度を上げるシステムがありました。

 

 我ながらチョロいかもしれませんが、これは好感度の一つや二つ上がりますよね。

「お金をかけるプレゼントと言う選択肢もあるにはありますが、ソウコ嬢はそんなもの飽き飽きしておられるでしょう?」

「私としては普通に税を尽くしたプレゼントの方が好きなんですけどね。これには早急に状態固定の呪いをかけさせていただきます」

「プレゼント大成功ですね。トゥスル王子様」

 頭の上の花冠を取りました。

 

 部屋に戻りまして花冠に状態固定の呪いをかけました。

「ソウコ・メッセルがそんなショボい花冠をいとおしそうに持つなんてミスマッチですね」

「ミスマッチに見えるのも当然ですわ。世界でたった三人しか価値の分かりませんもの」

「王子様とのことは解決したんですか?」

「理想的な円満解決です」

 そもそも王子様は問題が発生したことに気が付いていませんけどね。それでいいん



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43 人生哲学

 私は強くなりました。

「この数日得るものが多かったですね。そのおかげで私が確実かつ着実に熟し実ることができました」

「後は腐り落ちるだけだな。個人的には早くそうなることを望みますよ」

 そんなに私のことが嫌いなら世間体とか気にせず抹殺すればいいと思いますよ。

 

 何なんだろうこの人は。

「それに生徒会総選挙が終わった以上得るものがあっても無駄だと思うけど」

「でも強くなるというのは、確実に良き決闘と巡り合わせる機会を失うことなんです。実力の最大多数から外れて噛み合わなくなりますからね」

 強さと言うのは苦痛な結果を得ますが、過程が病みつきになるので求めてしまうものなのです。

 

 強さというものの矛盾と得やすさは鬱陶しいですね。

「悲劇のヒロイン振りながら無視をするなんて良くありませんよ。貴女は全校の女子生徒の4割が羨む立場にいるのですから」

「そんなものよりもたった一度の良質な決闘の方が価値はありますよ。言ったら怒りそうなので言わないのですが」

 抗議の意味合いを込めて頬をつねられました。私そんなつもりじゃ……

 

 しかしラウィラニさんの言った通り実力は震う機会がなければ、意味がないのです。

「みんながみんな一気に強くなればそれが一番なんですけどね。特にラウィラニさんが強くなってくれれば最高です」

「そうですか。不謹慎ですがアブゾーブが来てくれるといいんですけどね

 オットー先輩を取り巻きにしていた人が行方不明でつい最近生徒が増えた記録もないので、姿をパクったアブゾーブがいないことは確かなのですが。

 

 翌日になりました。

「おはようございます」

「オットー先輩ですか。もしかしてラウィラニさんを訪ねに来たのですか?」

「そうじゃない。実力だけなら頼りになるのがソウコちゃんだけだから頼りに来たの」

「ということはカードがらみですね」

 オットー先輩はうなづきました。我ながら話が早くて有能ですね。

 

 校庭全体が濃霧に包まれていました。

「この濃霧は一枚のカードが原因で起きているらしいよ。命の危険はないらしいけど、こういうのは景観に関わるから何とかしたいんだってさ」

「でしたらはやく原因を取り除けばいいですよね……もしかしたらそれが出来ない理由があるのですね。貴族や富豪の生徒もいるということは取り敢えず命の危険はないと判断したと分かりますが」

 生徒に頼ってないで先生も頑張って欲しいのです。本当に情けないですわ。

 

 この霧は鬱屈すぎて見ているだけで頭が変になりそうです。一刻も早く取り除かないといけませんね。

「第一発見者によると早霧のミストニアという未知のモンスターカードが原因だから、慎重にならざるを得ないということらしいよ」

「未知ではあるけれどカードであることは分かっているから、そこら辺りの視点からアプローチしようということでカードに詳しい生徒や先生が集められているってわけ」

 レイナさんがいないのにカードに詳しくないオットー先輩もいる時点で審美眼には信用できませんね。

 

 しかし早霧のミストニア……この私が存じないカード、これは惹かれますわ。

「ミストニア……初めて聞いたはずなのに、聞いたことがある気がしますね」

「デジャヴという奴じゃない?」

「そうかもしれませんね」

 喉に刺さった魚の小骨みたいに引っかかっているのです。

 

 霧はだんだん濃くなっていきます。

「こんなに視界が悪くては不安ですわ。こんなに視界が悪くては学園側も排除しようと考えるのも分からなくはないですね」

「ああ。視界が悪いからせいぜい気を付けるんだな」

「お気遣いいただきありがとうございますオットー先輩。しかし言われなくても分かっておりますよ……オットー先輩の声と口調ではないですね。知らない生徒ですか」

 ということは対して決闘が強くない人でしたか。認識して損しましたわ。私の貴重な時間を奪うなんて……

 

 何かが手のようなものが顔に触れました。

「何をするんですか」

「壊れないように気を付けろよ」

 うしろにふりまわした腕が空振ります。

 

 濡れた白い手袋に視界を塞がれ、手をはがそうとしたら手は消えました。

「一々消えたり出て来たり卑怯ですね。姿を見せてください」

「何を言っているんだ。お前はさっきから俺のことを見ているし、俺が何者なのかも知っているだろう」

「噓ばっかり。貴族にふさわしくない精神性ですわ。貴族たるもの精神も高潔でなければいけません」

 声の主が現れたらきっととっちめます。

 

 濡れた白い手袋に顔面を殴られました。

「そんなにいうなら相手をしてやろう」

「やっと出てきましたね。この卑怯者」

 白い手袋をした人が出てきましたね。

 

 でもなんか涎垂らしてて目も虚ろで生気が少しもない……まるでゾンビみたいです。

「早霧のミストニアだ」

「趣味の悪いいたずらですね」

 私たちのいるところだけ霧が晴れました。

 

 ミストニアはカードを見せつけます。

「それは早霧のミストニアではないですか。早くそれを学園側に渡してください」

「1000年前にあの忌まわしき者どもに封印されていたんだ。1000年だぞ。1000年もカードに封印されて昆布みたいに出汁にされてやっと外に出たのに不自由になりに行くわけないだろ」

「分かりやすい説明ゼリフですね」

 カードの原料には魔法や魔族が封印されているっていう設定でしたね。

 

 学があるのは結構ですがジョークがつまらないです。

「まあいいや。お前もこいつのように決闘で洗脳してやろう」

「白い手袋が操っているパターンですね」

「だから何だというんだ」

 なんだかんだで決闘が始まりました。

 

 そして私の先攻3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で妖刀ムラマサを武装してそのままプレイヤーに攻撃してターンエンドです」

「いきなりきついのを一発貰ってしまったなぁ」

 何かを隠しているような気味の悪さです。

 

 ミストニア:生命力10→7

 

 ミストニアの3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3で早霧のミストニア召喚。早霧のミストニアでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「浮いた手袋から霧が発生していますね」

「少しずれた奴だがまあいい。この私の手にかかって命が終わるなんて羨ましい」

 顔は変わっていないのに拍手だけで嬉しそうなのが分かりますね。

 

 3 モンスター 早霧のミストニア 属性:魔導書

   効果:貫通、アンタッチャブル(このモンスターは選ばれず攻撃されない)

   攻撃力:1 防御力:0 ライフ:3

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で般若の舞姫を召喚して攻撃です」

「アクションストライク。ミストボディ」

 私の攻撃はものの見事に霧を通り過ぎたものの、般若の舞姫の攻撃は無事に当たりました。

 

 3 魔法 ミストボディ 属性:魔導書

   効果:アンタッチャブルを持つモンスターが自分の場に存在する場合このカードはアクションストライクを得る。

      次に受けるダメージを0にする

 

 霧だけにキリがないですわ。

「こぉれであなたの残りの生命力は5ですよ。私の手札には百花繚乱があるので、次のターンにマスターニンジャをサーチすればリーサルまで行けますね。ターンエンド」

「人間の癖に貴族魔族に死亡宣告とは生意気な」

「貴族魔族ってなんか族が多いですわね」

 あっこれで思い出しましたよ。ミストニアは神話の本でチラッと見たことのある名前です。

 

 ミストニアの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でミスティックミスト発動。早霧のミストニアでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「ちまちまと10ターンかけて相手を倒すのですか。未知のカードとは聞いていましたが大したことありませんね。ミスティックミストもミストニアと相性は良くありませんし……時間を無駄にしました」

 

 4 魔法 ミスティックミスト 属性:魔導書

   効果:設置。アンタッチャブルを持つモンスターが自分の場に存在する場合相手ターン中にコストゾーンに置かれたカードは使用済み状態になる

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でサオトキキの術を発動します。効果でマスターニンジャをサーチ。妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃します」

「アクションストライク。戦場の霧(ウォー・フォッグ)

「ターンエンドです」

 遅延ばかりですね。制圧そのものを目的とした遅延や凄いの出すための遅延なら歓迎ですが、この弱い戦法で嬉しそうに拍手していたのでそれはなさそうなのが苦痛です。

 

 3 魔法 戦場の霧(ウォー・フォッグ) 属性:魔導書

   効果:アンタッチャブルを持つモンスターが自分の場に存在する場合このカードはアクションストライクを得る。

      このターン互いに受けるダメージを0にする

 

 ミストニアの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で惑わしの霧発動。ミストボディを手札に加えてミストニアで攻撃。ターンエンド」

「そういうせこい上に弱くて地味な戦法使うから封印されるんですよ」

 効果的にたくさん並べてチクチク殴ると強いのですが、複数持っている様子はなさそうですから単純に弱そうなのです。

 

 5 魔法 惑わしの霧 属性:魔導書

   効果:設置。アンタッチャブルを持つモンスターとミスト魔法カードが自分の場に存在する場合3枚ドローする。一ターンに一度墓地からミストと名の付くカードを一枚手札に加える

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚します。そしてマスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。ミストボディ」

「妖刀ムラマサと般若の舞姫でプレイヤーに攻撃します。こんな地味で面白みのない戦法で時間を取るなんて罪深い人です」

 こんなにつまらない決闘も貴重ですね。

 

 しかしこれで終わりです。

「そんなもので攻撃すればこの体が傷ついてしまうぞ」

「別にいいですよ。その薄汚い手袋とカードと遺体は火山に捨てますから」

「倫理観の無い奴だ。同族意識のない奴に人質戦法は効かないみたいだな。数回効いてたから味を占めるんじゃなかった」

 ミストニアは白い手袋を捨てました。無駄だと思ったんですね。

 

 しかしこの勘の良い私を敵に回したことを不運に思え。案の定先輩も倒れていますね。

「私ってそんなに倫理観の無いように見えるんですかね」

「見える。決闘が強くない人間は容赦なく切り捨てるような雰囲気がある」

「何もかも計算ずくに決まっているじゃないですか。さすがのわたしもそんなことしないのです」

 白い手袋を片方預かりました。

 

 あっさりとどめを刺して決闘は終わりました。白い手袋を全部拾います。

「大した遅延でもなかったですね。つまらなかったので二度とやらないように……そうか。分かりましたよ。強くなくても、決闘が良質でなくとも、面白いものは面白くてつまらないものはつまらないのです。私が如何に弱くとも今の決闘はつまらなく感じたでしょうしね」

「なに勝手に悟っているんだ」

 人生の大事なことを勝手に悟るだなんて魔族は残酷ですね。

 

 こんなことしている場合じゃなかったです。

「私にも聞きたいことがあるので生かしておきましたよ」

「聞きたいことって何なんだ。人間ごときに素直に言う訳がないだろう」

「そうですか」

 持っていた白い手袋の片方をカードでバラバラに切り裂きました。

 

 もう一方の手袋はガタガタ暴れましたがちゃんと抑えます。

「なぜ1000年も封印されていたのに、たかだがこの数百年前に発生した決闘法を理解しているのですかね。裏に誰かいるのですか?」

「口はないが口が裂けても言えないんだ。協力者にまんまといっぱい喰わされたわけだ」

「半身が裂けても言えないなんてよっぽどですね」

 ミストニアは私の手から離れました。

 

 ミストニアはバラバラに裂けた手袋を並べます。

「言えはしないが文字を書いたりすることはできる。わざわざ人間に化けている変身の技を持つ魔族貴族のお方だったのだ」

「アブゾーブと書いてありますね。まんまと利用されたわけですか。貴方みたいな使い捨ての鉄砲玉がこれからも出てくるでしょうね」

 ミストニアのもう片方の手袋の小指を切り離します。

 

 改めて見ますとミストニアの強いところはソーサレスナイトの手札コストになるところですね。

「霧も晴れましたしこれで十分ですね。学園町先生に報告しますか」

 私への怨恨がきっかけなことは言わないようにしましょう。

 

 結果ミストニアは厳重封印及びこの事件のことは一部伏せられて発表することとなりました。

「今回のことは人生において大きな学びを得ること出来ました。それだけはアブゾーブに感謝しなければ」

 この年で人生哲学の答えを見つけられるなんて私は幸せ者ですね。



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44

  郊外の空に穴が開いているのが見えました。

「あの穴何なんでしょうね」

 穴の下に誰かがいるのが見えますね。

 

 望遠鏡を覗くと眼だけが赤く光ったシルエットが私を見つめてきました。

「こっちを向いた……いやあり得ません。あの距離で見えるわけがありません」

「もう夜ですよ」

「私は空の穴が気になって夜しか眠れないのです」

 ラウィラニさんはコイツは何を言っているんだと言いたげな目で私を見てきました。

 

 寝室に眼だけが赤く光ったシルエットが現れました。

「なんなんですかあなた」

「個人的な恨みはないが恩人がお前のことを憎んでいるんだ。狭い狭いカードの中から解放してくださったあのお方がな」

「こんなことできそうな人、私はアブゾーブしか心当たりがありませんわね」

 凄いマッチポンプですわ。自分が封印しておいて恩を着せるなんてやることが下衆ですわね。

 

 ラウィラニさんは音叉を鳴らしました。

「うぐっ」

「今まで私と貴女が食べていた夜食のジャムパンは秘伝の無毒化の呪いと特定の音波に反応して無毒化を解除する呪いが二重にかかっていたんですよ。私の領地はその毒が多い地域からなのか生まれついてその毒に耐性があるので一方的に私が有利なのです」

 知らない設定ですね。

 

 しかしさきほどからお腹も痛くて気分が悪いです

「胃の中を調べられたら貴女が犯人になりますよ」

「この人がいるじゃないですか。不審死はこの人が原因ということにしますから。毒も司法解剖では検出されないタイプですしね」

 ラウィラニさんはシルエットを拘束しました。

 

 シルエットは困惑しているご様子。そりゃまあそうでしょうね。

「人間如きにしてやられたということか?」

「そういうことになりますね。でも復讐する手間が省けたからいいでしょう」

「そうかな……そうかも」

 チョロい奴ですね。復讐は己の手で成し遂げてこそ意味があると偉い人も言っていました。

 

 しかし毒のせいで吐き気もしますし脚に力が入らないですね。

「貴女はそこの魔物によってそのまま怪死を遂げるのです」

「えっ」

「まさかこんなことが……」

 口の中に変なモノを突っ込まれました。

 

 この風味は揚げたバターですね。

「なんか元気になりましたね。単にお腹が空いていただけみたいです。あれーなんか体が軽いですね。一体コレはどういうことなのでしょうか」

「死亡確認 よし! 就寝! おやすみなさい」

 脚元を見ようとしたら脚がなく、私が倒れていました。

 

 シルエットも拘束されたまま状況を飲み込めていませんね。

「ぐわっ」

「蘇っただと、ゾンビだゾンビ。縄で縛られてさえいなければワープ能力を使えたというのに」

「この体に封印されていたもう一つの力の残り滓が大雑把に体を動かしているだけだよ」

 ヘルズの力ですか。流石聖女様直伝なだけはありますね。

 

 私は体にとりつきなおそうとしたら弾かれました。

「ようやくこの体を好き勝手使えるようになったんだ〜か〜ら〜素直に返してあげな〜い♥」

「なんなんだコイツいきなり肌面積減らしたりして。人間を食べる趣味なんてないぞ」

「はあ? 外野はうるさいからカードに戻っててね♥私の体は決闘で勝てば返してあげるよ」

 ヘルズの私はシルエットを闇で包んで吸収してからデッキを構えました。決闘するしかないようですね。

 

 渡されたデッキを掴んで決闘が始まり、私の後攻3ターン目です。

「ところで毒は大丈夫なのでしょうか。体内に毒は残留しているのでしょう?」

「あれ短時間だけ胃腸の消化能力をほぼ0にする呪いだからね」

 知らない設定だと思ったら本当にデマだったなんて。

 

 ……しかし人体の機能のみで相手を倒すなんて意外と効率的ですね。

「あのジャム自体は消化を促進する食べ物だから消化に無駄な栄養を使って餓死しかけたところに揚げバターでリフィーディング現象でトドメを刺されたわけ」

「だから司法解剖に怯えなかったんですね」

 死ぬ間際の人にすら事実とは全く異なる嘘を吐くなんて慎重で狡猾ですわ。

 

 闇の私は得意そうな顔をしていますね。

「ヘルズパワーで分かった。ヘルズパワー凄い。解呪も出来たしね」

「でも闘気の方が応用が効きますわ」

 冤罪をなすりつけられそうな侵入者がいるから何があっても悪者にされなさそうなシチュエーションでもありますね。

 

 疑問が解消したので本題に入りましょう。

「コスト3で妖刀ムラマサ武装。そしてそのままムラマサでプレイヤーに攻撃」

「そのまま受けるよ」

「ターンエンド」

 何を企んでいるのでしょう。

 

 闇の私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でvanitas(ヴァニタス)発動。ターンエンド」

 もしかしてわざと負けようとしているのでは……いやありませんね。私は相手の事情を察して手加減が出来る人間ではありませんから。

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でサオトサキの術発動します。効果でマスターニンジャを手札に加えて妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃します」

 闇のソウコ:生命力7→4

 

 闇の私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でオルトロスを召喚。コストを1減らしてコスト2でスカルファントムを召喚。スカルファントムの出現を発動してコスト2でスクリーム召喚♥vanitas(ヴァニタス)の効果でスカルファントムを破壊して一枚ドローするね。スクリームでプレイヤーに攻撃」

「甘んじて受けましょう」

 ソウコ:生命力10→7

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚します。マスターニンジャで攻撃してトドメ……今回やけにあっさりでしたね」

「なに勝手終わらせようとしてるの♥アクションストライク。時の悪魔」

 ターンが終わりました。してやられましたね。

 

 闇の私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で幽鬼武者召喚。スクリームでマスターニンジャに攻撃。そして幽鬼武者でマスターニンジャに攻撃して破壊。幽鬼武者でプレイヤーに攻撃しちゃう♥この攻撃を最後にターンをおしまいにするよ♥」

「これで私の生命力も1ですか」

 ソウコ:生命力7→1

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6で鬼武者召喚。妖刀ムラマサで幽鬼武者に攻撃。そして鬼武者で幽鬼武者を攻撃して破壊。そしてそのまま全てのモンスターを切り刻みます」

「中々やるじゃん♥お次は私を掻っ切るのかな?」

「よくわかりましたね。鬼武者でプレイヤーに攻撃します」

 これで終わりですね。

 

 鬼武者の刀に悍ましい幽霊が纏わりついていました。

「ざぁ~んねぇん♥アクションストライク。まとわりつく亡霊」

「下手な使い方ですね。最初からそうしていれば追い詰められずにすみましたのに。ターンエンド」

「だってピンチからの逆転をへし折るのって楽しいもんね」

 前のターンマスターニンジャ出さずに今のターンに煙玉サーチしてから殴れば勝てたという人もいますが、それじゃ面白くありませんから。

 

 闇の私の7ターン目です。

「生きるか死ぬかの瀬戸際で面白さを重視するなんて……軽蔑しちゃうね♥ドロー。チャージ。コスト7でサキュバスマスター召……喚♥そしてサキュバスマスターでプレイヤーに攻撃!」

「アクションストライク 藁人形の呪術。これで私は次のターンまで生存します」

「そう来ちゃったかぁ……ターンエンド」

 危なかったですね。

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。幽鬼武者でプレイヤーに攻撃します」

「時の悪魔持ってるけどぉ使わないであげちゃ~う♥だって私優しいからぁ~♥」

「ああそういうことですか。私が死ねばあなたの原動力も補充できないので、死にたくなければ貴女は負けないといけないんですよね。気が付かなければ幸せでしたわ」

 闇のソウコ:生命力4→0

 

 いつの間にか元の体に戻っていました。体内のシルエットを出します。

「俺は何をすればいいんだ。復讐とか?」

「死んでもなんか生き返ったから何をしたらいいかわかりませんよね。取り敢えずお腹空いたので食べ物を持ってきてください」

「わかったよ」

 私は吞気に寝ているラウィラニさんを音叉で複数回殴りつけます。

 

 シルエットは食べ物を持ってきました。

「白湯ですか。言わなくてもこんなことが出来るなんてなかなか有能ですね」

「別にそんな……えへへ」

「素直なのは良いことですよ。少なくともそこのイケメンアホ女よりも何倍もマシです」

 シルエットを体内に戻します。

 

 ラウィラニさんが起きるまでご飯を食べて待機しました。

「なんで生きているんですか。きちんと殺したはず」

「凄い音叉と呪いですね。良いプレゼントでしたよ。使われたくなかったら言うことを聴いてくださいね」

 音叉を2回ほど鳴らしました。おや顔が青ざめましたね。コレで本物だと悟ったわけですね。

 

 ラウィラニさんは悔しそうな顔をしています。

「もしもというときは爆発する装置も仕掛けてありますから取られても安全なのです。いやぁどんな言うことを聞かせるか楽しみですねえ」

「くっ。屈辱です」

「やられたことを考えれば屈辱程度で手を打つなんて聖女過ぎます」

 ……聖女は自画自賛にしてもキツいですね。

 

 周りから羨望と憎しみの視線をバリバリに感じます。

「周りが騒がしいですわね。ラウィラニさんに首輪を付けて散歩をしているだけですのに。校則に反していないからなんの問題もありませんが何に対してそんなに文句を言いたいのでしょうか?」

「わかっている癖に」

 ラウィラニさんの首輪を勢いよく引きました。

 

 苦しそうに咳をするラウィラニさんに犬耳カチューシャを付けてあげます。

「ラウィラニさん犬の鳴き声はワンですよね」

「……ワン」

「なんで人間なのに下手くそな犬の真似してるんですか。ユーモアがある人ですねえ」

 おほほほ。凄く気分が良いですわ。こんなに気分が良いのは復讐が出来たからですわね〜。

 

 その悔しそうな顔、やっぱり顔がいいからそそりますね。目覚めてしまいそうです。

「あっトゥスル第四王子様、これはその……ラウィラニさんがね、今朝いきなりこんなことをやってくれと土下座して頼んで来てですね。理解はできませんが屈辱に興奮する人のようで」

「うん……わかっていますよ。ただそういう友人をどうすれば作れるのか分からないと言いますか」

「王子様相手だと気後れしない人が貴重ですものね」

 ラウィラニさんは恥ずかしそうな顔をしていますね。ひどい目にあったのでこのぐらいの仕返しは甘んじて受けるべきですね。

 

 突如空間に穴が空きました。

「あっあれは俺が開けた穴だ。命の恩人にこんな感じの穴を開けておいてくれと言われただけで、詳しくは知らない」

「右手からなんか変なものが出てますよ」

「体内で魔物を子飼いにするのは便利ですね」

 早霧のミストニアのカードがいきなり目の前に現れました。

 

 早霧のミストニアは穴に入り、もう一度出るとカードが白い手袋と人型の靄になりました。

「ミストニア様! 再! 完全復活だ!」

「どうやらあれはカードに封印された魔物を解放する穴のようですね。避難誘導と報告お願いします。私とコレは対処をします」

 私はリードを思い切り引っ張ります。ラウィラニさん実力者ですから大丈夫ですよ。

 

 穴がいくつも空いて避難民のカードから幾つものモンスターや魔法が出ています。このままでは危険ですね。なんとか封印しなければ。

「相変わらずこんなことをしているのか。カードに取り憑かれた人間というのは怖いね」

「左様ですね。何を考えているか理解し難いです」

「何かを考えているわけがない。恐らく何も考えてはいないと思う」

 イツとアブゾーブが現れました。態々オットー先輩を取り巻きにしていた人の姿で来るなんて趣味の悪いお方です。

 

 私はそんなことにあまり気を配らず早霧のミストニアを倒しました。

「どうやら倒せばカードに戻るようですね。鬼武者……お願いいたします」

 穴に鬼武者のカードをいれると実体化しました。ちゃんと出来たようですね。

 

 イツは自らの主に対してのラウィラニさんの背後からの奇襲を防ぎました。

「どうやら僕の解放した魔物がキミの中にいるらしい。この恩知らずが死んでしまえ」

「すまない。凄い力で無理やり操られているから逃げられないんだ」

「アブゾーブ様、私があの裏切り者を始末します。しかしその前にあの見目麗しい邪教徒を決闘で倒す許可をください」

「許可はあげよう。でも勝手に死ぬんじゃないよ。お前はボクの最高の研究対象なんだから」

 イツは自らの主にそんな露悪的な言い方をしてと呟きます。どうやらイツはアブゾーブに洗脳されているらしいですね。



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45

 イツとラウィラニさんの決闘が始まりました。

「何気にイツさんのデッキ見るの初めてですね」

「早く終わらせてくれると有り難いかな。あのお嬢様を早くぶち倒して欲しい」

 どうせコントロール奪取系ですから塩試合になることは間違いないですね。

 

 互いに3ターン経過してラウィラニさんの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイパーインターフェイス発動。ハイパーインターフェイスの効果によりリーンマジカ発動。ターンエンド」

「トラップデッキ 聞いたことがある。攻撃を行うとリアクションが発動し、だんだん不利になっていくデッキだと」

 例え棚ぼたでも大企業勤めなだけあって流石に情報収集はお手の物ですね。

 

 イツの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でドラゴニックトランス発動。ターンエンド」

「ドラゴニックトランス……先日、教団が管理していた竜滅デッキが消失したという情報が入ってたね。どこに行ったかと思ったらそんなとこに」

「盗んだと言いたいのか。盗みなんてそんなセコい真似アブゾーブ様がするわけがない」

 オートビルダーキャノンにドラゴンの意匠が追加されました。

 

 4 魔法 ドラゴニックトランス 属性:魔導書

   効果:設置。相手の場のカードはすべて属性にドラゴンを得る

 

 ラウィラニさんは手札を整えてイツの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で竜滅剣 ドラゴンキラー武装」

「ドラゴンキラー、トランスある状態でそれをされるのは面倒ですよね。ま、頑張ってくださいよ」

 華美な装飾の目立つ金色の剣が天井から降ってきました。

 

 5 武装 竜滅剣 ドラゴンキラー 属性:魔導書

   効果:オフェンシブメタ(以下のカードと戦闘を行うときだけこのカードの攻撃力はそのカードの防御力分上昇し、防御力はそのカードの攻撃力分上昇する):属性にドラゴンを持つカード

      ディフェンシブメタ(このカードは以下のカードの効果を受けない):属性にドラゴンを持つカード

      貫通 

   攻撃力:0 防御力:1

 

 イツは竜滅剣を持ち上げて振り回します。

「竜滅剣 ドラゴンキラーでプレイヤーに攻撃」

「モンスターじゃないからリアクションも効かないが多いみたいだね。ドラゴン扱いだからかな」

「竜滅はドラゴンであることを強制してそのまま殴るデッキタイプなんです。自分がメインで殴るのでトラップデッキとは相性も良いんです」

 相手プレイヤーに直接作用するトラップカードは限りなく0に近いですからね。

 

 ラウィラニさんはジェットナイフとフェイクグラフィッカーを発動してしてターンを終えました。イツの6ターン目です。

「相手モンスターがいれば攻撃を強要してそのまま勝てるのに出ないものだからキツイね」

「やっぱ軟弱なモノを信仰しているヤツとは違うんですよね」

「言うに事欠いて軟弱か……各地を逃げ回って女の子に執着している奴よりマシなんです」

「ドロー。チャージ。コスト5でドラゴニックワイズ発動。ドラゴニックワイズの効果、合計2枚ドロー。竜滅剣 ドラゴンキラーでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

 ラウィラニ:生命力9→8

 

 5 魔法 ドラゴニックワイズ 属性:魔導書

   効果:設置。1ターンに1度相手の場の属性にドラゴンを持つカード1枚につき1枚までドローできる

 

 ラウィラニさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でハイパーモンスター磁石発動。デッキからソーサレスナイトを召喚して1枚ドロー。コスト2でドリルエナジータンクを発動してターンエンド」

「無理矢理モンスターを引きずり出したわけですね。確実さが更に増し増しになりましたか」

「マリッジ教授がお持ちになられていたカードを貰ったのでさっそくデッキに組み込んだんだ」

 なんですかそれ聞いていませんよ。これが終わったらカード貰いにいきますかね。

 

 5 魔法 ハイパーモンスター磁石 属性:メカニカル

   効果:相手のデッキから効果を無効化して相手のモンスターを場に出す。その後1枚ドローする。

 

 イツの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。ドラゴニックワイズ2枚ドローします。竜滅剣 ドラゴンキラーでプレイヤーに攻撃。攻撃したくないんだけど攻撃誘導装置があるからソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃」

「リアクション。コスト1でスパイダートラップ。攻撃を止めてジェットナイフの効果発動。1ダメージを与える」

 やっとやりたいことが出来るようになってきましたね。

 

 ラウィラニ:生命力8→7

 イツ:生命力10→9

 

 ラウィラニさんはスパイダートラップを回収してイツの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。ドラゴニックワイズ、二枚ドロー。そしてコスト3でドラゴンズカース発動。竜滅剣 ドラゴンキラーでプレイヤーに攻撃。ソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃」

「リアクション。コスト1でスパイダートラップ」

「ターンエンド。このままじゃギリギリ私が勝てちゃうね」

 そう言えばそうですよね。ここからが頑張り時ですか。

 

 3 魔法 ドラゴンズカース 属性:魔導書

   効果:決闘中以下の効果を適応する

      ・属性にドラゴンを持つモンスターを倒されたプレイヤーはそのモンスターのコスト分のダメージを受ける

 

 ラウィラニさんの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でデッキからリバーストラップ召喚。ターンエンド」

「攻撃済み状態じゃないから攻撃出来ないんですよねぇ」

 攻撃できないならどうしようもありませんね。

 

 イツはジェットナイフでダメージを受けてラウィラニさんの10ターン目です。

「ドロー。チャージ。デッキからコスト10でトラップドラゴン召喚。トラップドラゴンの効果発動。リバーストラップの上に重ねて即ギガトラップドラゴンにする。スパイダートラップを回収してターンエンド」

「これは間違いなくドラゴンですね。ドラゴニックトランスのおかげでワニみたいな色や鱗にもなっていますしね」

 ドラゴニックトランスを除去出来れば一気に勝利に近づくのですが……

 

 イツの11ターン目です。

「ドロー。チャージ。竜滅剣 ドラゴンキラーでギガトラップドラゴンに攻撃。ギガトラップドラゴンのコストは20……自滅したね。流石ドッペルゲンガーだかなんだか信じている腐れ脳だなぁ」

「コスト2でデッキからギガバイトラップ発動。これが我が神に祈り続けた結果神から授けられた力。やはりケチなアブゾーブとは格が違う」

 ギガトラップドラゴンはドラゴンキラーを歯で弾きました。

 

 しかし新たな力ですか。

「おぉドッペルゲンガーってやっぱ神ですね。私も7か5の邪神を信仰して凄い力を貰いたいですね」

「神様はそんな邪な考えで信仰するものじゃない。お前みたいな奴に神様は力を授けない」

「……ターンエンド。次はそこのお嬢様の番になる。覚悟しておいてね」

「私より生命力が1低いのに余裕だなんて。なるほど危機感がないみたいだ」

 二人のカルト教徒に睨まれました。ちょっとしたジョークのつもりでしたのに。

 

 ? 魔法 ギガバイトラップ 属性:メカニカル

   効果:自分の場にギガトラップドラゴンが存在する場合このカードはストレンジ:4を得る

      このターン中自分と自分のモンスターは相手の全ての武装とモンスターからダメージを受けない

 

 ラウィラニさんはギガバイトラップを回収してダストトラップを発動してパワードクオリティを発動。ターンを終え、イツの12ターン目です。

「ドロー。チャージ。ギガトラップドラゴンが攻撃済み状態になった。これじゃあ永遠に相手を越えられずにジェットナイフでひたすらチクチクされる」

「そういうことだ。今のうちに降参しておいた方がいい。そうすれば生命力が0になってないから負けじゃないと思い込める。プライドが守れるんだ」

「勝てる勝負を諦めることを勧めるなんて頭が悪いね」

 精神を詰めに来ましたね。まぁ失敗しましたが。

 

 イツはドラゴニックワイズで2枚ドローして息を整えました。

「コスト6で開墾の魔導書発動」

「知らないカードですね。それもアブゾーブから貰った力ですか?」

「勘がいいね。アブゾーブ様の権能は凄まじい」

 ラウィラニさんは苦しそうな顔をしました。まぁギガバイトラップがコストゾーンに送られてしまいましたからね。

 

 6 魔法 開墾の魔導書 属性:魔導書

   効果:相手の手札を1枚コストゾーンに送る。その後相手は2枚までドローしてもよい

 

「竜滅剣 ドラゴンキラーでギガトラップドラゴンに攻撃。破壊……されてない」

「ギガトラップドラゴンは自らの効果で生命力を1回復した……だからギリギリ1残ったというわけ」

「そう言えばそんな効果もありましたねえ。そういう効果が命を繋ぐなんてキレイですよ」

 イツはジェットナイフで1ダメージを受けてターンを終えました。スパイダートラップ等々モンスターの攻撃を止める手段はあるんですよね

 

 イツ:生命力6→5

 

 ラウィラニさんの13ターン目です。

「ドロー。チャージ。墓地からスパイダートラップを回収する」

「たかだが生命力を1回復するだけの効果を頼りにしているんだね。無駄な足搔きすぎる」

「コスト6でメカニカルドロー、コスト6で緊急修理発動。ギガトラップドラゴンの生命力を回復する。ターンエンド」

 緊急修理……何故モンスターの少ないデッキにそんなモノ入れているのでしょうか。今回役に立ったから良いですが。

 

 6 魔法 緊急修理 属性:メカニカル

   効果:自分のモンスター一体の生命力を全回復する

 

 イツの13ターン目です。

「ドロー。チャージ。竜滅剣 ドラゴンキラーでギガトラップドラゴンに攻撃。そしてコスト4でツインズスワロー発動。ドラゴンキラーでもう一度ギガトラップドラゴンを攻撃して破壊」

「ツインズスワローですか。それ入れてるデッキあまり見たことがありませんね。マジカルランドの武装はマトモなのありませんからね」

 竜滅剣から二つの燕の影が現れて、燕がギガトラップドラゴンをバラバラに切り裂きました。

 

 4 魔法 ツインズスワロー 属性:使い魔

   効果:自分の武装カードはこのターン中もう一度攻撃ができる

 

 バラバラになったギガトラップドラゴンが竜滅剣の風圧でぶっ飛んでラウィラニさんにぶつかりました。一気に20ダメージも受けたからか気絶しましたね。

「そこの無礼なお嬢様、次は貴女だよ」

「竜滅ですか。噂に聞いたことは数度ありますが、実際見ると大したものですね。では私たち帰らせてもらいますから」

 鬼武者をカードに戻してからラウィラニさんを背負って逃げます。

 

 イツが立ちはだかりました。

「なんで逃げようとしているんだ。そんなに負けるのが怖いのか」

「決闘をする意味がありませんから」

「お前そんな性格じゃないだろ。必要がなくても決闘するくせに」

「竜滅は典型的な一度ネタが割れると面白くないデッキなんですよね。なので決闘する必要がないんですね」

 あれだけ出したモンスターや魔法も鬼武者によって消えていますし、もう何もかも失敗ですよね。

 

 ラウィラニさんが時間をたっぷりかけてくださったお陰ですね。

「おそらく偶然でしょうが良くやりましたね。私に危害を加えたことはチャラにしてあげますよ」

「そんな……折角用意したモンスター軍団が……」

「なんか知らない間に計画がとん挫するなんて色々大変なんですねぇ」

 他人のカードも実体化できてしまったのが一番残念なところですね。それさえなければすべてうまくいっていたと思いますわ。

 

 アブゾーブは頭に血が上っていますわね。

「決闘で叩きのめさないとダメだね」

「いやですね。貴方との決闘はもう飽きました」

「羨ましい奴め、私も飽きるほどアブゾーブ様と決闘してみたい」

 アブゾーブは基本的に操って闘気を込めた魔法の雷で不戦勝するスタイルなので相手したくないんですよね。

 

 しかしラウィラニさんも良く頑張りました。 

「このままハイそうですかと返すわけにはいかな……」

 アブゾーブの胸の真ん中から剣が生えました。

 

 剣が抜けるとアブゾーブの胸から液体が吹き出して倒れます。

「不老不死だから心臓を刺されても死にはしないだろうが、暫くは立ち上がれないだろう」

「お前何者なんだ。アブゾーブ様をこんな目に合わせるなんてタダではすまない」

「そうか。俺に勝利を捧げて忠誠心を見せてくれるのか。タダよりも良い目に合わせでやると言うんだな」

 不審者は倒れたアブゾーブを椅子にします。

 

 助かりました。このまま逃げさせてもらいましょう。

「貴方は何者ですか?」

「俺はアンドリュー、ソウコお嬢様も見覚えがあるんじゃないか?」

「凄い変わりようですね。成長期ですね」

 アンドリューは脚から液状の闇を吹き出して水かさを増やしてきます。



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46

すっかり忘れてました


 色々あってこの国に舞い戻って来た。舞い戻って初日でトラブルに巻き込まれるなんてソウコお嬢様らしいや。

「アイツにヘルズの力を持つ子飼いの決闘者がいたなんて。不快なニンゲンのくせして何でも持っててムカつくなぁ」

「別にソウコお嬢様の子飼いってわけじゃない。俺はルノスチからこの国に戻っただけのただの留学生。他に二人もいるが俺だけ先にやって来たってわけ。久しぶりの里帰りだから息抜きしようと思っていたら不審者がいたから撃退しようということだな」

「無駄な正義感は己を傷つけることしか出来ないんだよね。大人しく隅にでも引っ込んでな」

 俺がルノスチにスカウトされたのはソウコお嬢様の知り合いだからと言うのもあるだろうな。実際あの国では結構良い暮らしが出来ていた。

 

 壁全体に闇の水を張って出入り口を封鎖する。これで俺が負けたとしても何事も起きないだろ。

「ヘルズの力を大量に持っているからルノスチの教皇に目を付けられて宗教学校へ入ることを勧められ、ルノスチの方針で留学したという訳だ」

「時間稼ぎご苦労。とっとと決闘をしろ」

「もうバレてしまったか。じゃあ大人しく決闘するか」

 力がないとは言えさすが神様……気が付くのも一流だ。

 

 体が動かない。

「なんちゃって、お前みたいな怪しい決闘者と誰が決闘するかよ」

「しまっておくんだったな」

 右胸に剣がゆっくりと刺されていく。わざと苦しい目に合わせているのか。

 

 闇の中から槍を出してアブゾーブの心臓に勢いよく突き刺す。その後剣を抜いて槍を消した後アブゾーブを袈裟切りっ。これで終わりだ。

「させない」

「危ない真似をするな」

 美少女がアブゾーブを庇うように立つ。

 

 いくら邪神の味方と言えどただの人間を切ることは出来ない。

「わかったよ。剣を捨ててやる」

「敵を切らないなんてお人好しすぎるね。そんなんじゃいずれ何もかも失うよ」

 剣を闇の中に沈めて、闇に水流を作る。

 

 右胸に闇の水を入れて傷口を塞いだ。

「ソウコお嬢様から聞いたんだけど、お前は決闘で倒した相手から全てを奪えるらしいな」

「そうだけど。だから無駄な努力なんて一度もしたことがない。でもそれがどうしたのさ」

「だから探り合いなんてせずに、俺を決闘で倒せばヘルズの力を得られるんじゃねえかなって思ったんだ。お前……これ欲しいだろ」

 教皇様からアブゾーブは力を求める卑しい奴だと聞いたから、この揺さぶりが効くんじゃないかと胸を刺されてから気が付いた。もっと早く気が付けよと。

 

 決闘が始まった。俺の後攻3ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で串刺しデビル召喚……しようと思ったけどやめるか。ターンエンド」

「攻撃しないんだ。まあ攻撃しても魔力吸収式バリアとスライジュエリーがあるからボクは無傷だけどね」

 闘気を籠めたのにかすり傷一つつかない。やっぱ仮にも神様なんだよなぁ。

 

 アブゾーブの4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で預言者ヨティスを召喚し、スライジュエリーで攻撃してターンエンド」

「スライジュエリー……あまり大っぴらに攻めることはできないな」

 スライジュエリーはコントロール奪取をしてくるからな。

 

 俺の4ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でvanitas(ヴァニタス)発動。串刺しデビルを破壊。攻撃できるモンスターがいないからターンエンド」

「スライジュエリーみたいな雑魚モンスターしかいないのに攻撃を躊躇うなんて。そんな消極的じゃあ勝利を逃すぞ」

「ほざけ。その手には引っかからない」

 効きもしない精神攻撃をするなんて何様のつもりなんだ。

 

 アブゾーブの5ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で魔法の教科書を武装。スライジュエリーで攻撃してターンエンド」

 魔法の雷で攻撃してくるパターンか。アブゾーブの主な勝ちパターンだな。

 

 俺の5ターン目だ。

「ルノスチには邪神メタデッキが存在するんだ。なんてったってヘルズの邪神以外は認めない宗教国家だからな」

「そんなことは良くわかっているんだよ。ただお前が何を言いたいのか分からない。手短に頼む」

「だからお前の戦法に対していついかなる時も優勢でいられるってことだ。ドロー。チャージ。コスト5でダークシールド武装。ターンエンド」

「ダークシールドか。これは面倒なカードだなぁ」

 闇で作られた盾を武装する。

 

 5 武装 ダークシールド 属性:イビル

   効果:自分と自分のモンスターは効果でダメージを受けない

   攻撃力:0 防御力:0

 

 アブゾーブの6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト6でヨティスの魔導書発動。3枚ドロー。魔法の教科書でヨティスの魔導書を回収してスライジュエリーで攻撃。ターンエンド」

「手札補充しかせず雑魚モンスターに頼る……まるでお前の生き様そのものだな」

「なんだと」

 アブゾーブのことなんか少しも知らないけど少しでも精神攻撃をしておく。動揺してミスするかもしれないからな。

 

 6 魔法 ヨティスの魔導書 属性:魔導書

   効果:3枚ドローする

 

 俺の6ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト3で串刺しデビルを召喚してvanitas(ヴァニタス)の効果で破壊。コスト2でORチャンネルロックフィッシュを召喚。コスト1で霊道札を発動。チャンネルロックフィッシュでスライジュエリーに攻撃してターンエンド」

「ちんたらしているね。攻撃力0のモンスターしか出さないなんて、そんなにスライジュエリーが怖いのか」

 モンスターが主体な以上スライジュエリーが怖いに決まっている。

 

 アブゾーブの7ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法の雷発動。魔法の教科書で魔法の雷を回収し、スライジュエリーで攻撃してターンエンド」

「ダークシールドがあるから魔法の雷あっても意味がない。一体何を企んでいるんだ?」

 普通に3ダメージを受けるよりも痛かったのが気になるな。

 

 ……そう言えばソウコお嬢様から魔法の雷を受けて気絶し、敗北したと聞いたことがある。気絶させようって魂胆か。

「俺の7ターン目。ドロー。チャージ。コスト7でオルカドライブ発動。vanitas(ヴァニタス)の効果でチャンネルロックフィッシュを破壊してターンエンド」

 オルカドライブで墓地のレイドリンクも7枚になった。霊道札では1枚もレイドリンク落ちなかったが、運が向いてきたわけだ。

 

 7 魔法 オルカドライブ 属性:ガイスト

   効果:自分の手札のORモンスターを全て墓地に送り、デッキまたは墓地からORCA(オルカ)を手札に加える。その後捨てた枚数分ドローする

 

 アブゾーブの8ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4で2or1+1発動。デッキの上から2枚を見て1枚をコストゾーンに置いて1枚手札に加える。コスト4で武装解除発動。これでダークシールドは破壊される。ターンエンド」

 

 4 魔法 2or1+1 属性:魔導書

   効果:下記のいずれか一つを選ぶ

      ・デッキの上から2枚を見て1枚をコストゾーンに置いて1枚手札に加える

      ・2枚ドローする

 

「魔法の雷を使うコストがなかったか。ターン終了前にサモンコンディション。ORCA(オルカ)

「なぁにちょっとテンポが崩れただけだから問題ないよ」

 現状スライジュエリーを何とかできない以上、本当にテンポが崩れただけで逆転するのは難しいのは間違いがない。どうにかしないとな。

 

 俺の8ターン目だ

「ドロー。チャージ。コスト6でダークボム。互いの魔法を全て破壊する。ORCA(オルカ)でプレイヤーに攻撃」

「しまった。前のターンに武装を破壊して満足してしまった」

「お前はスライジュエリーの攻撃を忘れて誘導を生かせなかったんだ。いくら相手が弱く見えても侮っちゃ負けるしかねえな」

 闇からORCA(オルカ)が出てきてアブゾーブに激突した。

 

 6 モンスター ダークボム 属性:レジェンド

   効果:出現:互いの場の魔法カードをすべて破壊する

     

 ORCA(オルカ)のおかげで勝てそうだな。

「スライジュエリーも無視されちゃあこの程度……例え神様でも人間に楽に倒されてしまうなんてうぬぼれそうだ。あ、弱すぎて勝利したとも思わねーか」

「なんだとぉ……」

「自分より強い奴に勝ち逃げされて永遠に悔しさを感じて生きてりゃいいさ。ターンエンド」

 ソウコお嬢様仕込みの精神攻撃、これで効いてくれなきゃ困る。

 

 アブゾーブの9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。コスト4でリフレクトアーマー発動。ORCA(オルカ)を選ぶ。スライジュエリーでORCA(オルカ)に攻撃。ORCA(オルカ)の反撃によりスライジュエリー破壊」

「しまった。その手があったか」

 リフレクトアーマーも珍しくはないカードなんだが失念していた。

 

 液体がORCA(オルカ)の中に入り込んで操る。

「ORCA(オルカ)でプレイヤーに攻撃。洗脳諜報発動。ターンエンド」

「ぐあああああ」

 筋肉がちぎれる、骨が砕ける、咄嗟に闇でふさいで怪我を治した。

 

 アンドリュー:生命力10→3

 

 俺の9ターン目だ。

「ドロー。チャージ。相手の手に俺の切り札 ORCA(オルカ)が渡っているのがキツイ。これはいったいどうしたものか」

「いっぱい悩むといいよ。そして早く自分が絶望と言う状況に置かれていることを悟るがいいさ」

 ここから逆転する方法は……これしかない。

 

 ここでこれが来たのはラッキーだった。

「コスト3で串刺しデビル召喚。vanitas(ヴァニタス)の効果で破壊して1枚ドロー」

「良いカードが来るようにルノスチの神様にでも祈るんだね」

 俺は神に祈らなくても良いカードを引くことができる。

 

 俺の勝ちだ。

「コスト2で闇召喚術発動。コストを払って相手の墓地のモンスターを召喚できる」

「コスト6で打ち消し呪文発動。闇召喚術を無効化する。どんなに良いカードを引いても最初から無駄だったわけ」

vanitas(ヴァニタス)の効果にも使えましたが、絶望を煽るためにあえて後で使うなんてさすがアブゾーブ様です」

 噓だろ。

 

 6 魔法 打ち消し呪文 属性:魔導書

   効果:相手ターンにも発動できる。

      相手の魔法カードの効果が発動したときその効果を無効化する

 

 スライジュエリーを召喚すればORCA(オルカ)のコントロールを取り戻せて勝てたんだけどな。

「ボクのターン。ドロー。自分の切り札で惨めに這いつくばれ! ORCA(オルカ)でプレイヤーに攻撃」

「ぐあああああ」

 闇の水を体の中に戻して体の回復に当てた。

 

 アブゾーブが俺の頭を踏む。

「お前ボクのことを弱すぎだの卑劣だの下等だのほざいていたよねぇ……無礼で不快なんだよねぇ」

「卑劣とか下等とかは言っていない。バカにバカって言わないからな」

「なんだとぉ……」

 アブゾーブは頭を踏んでいた足をどけて、球でも蹴るように俺の頭を蹴った。

 

 闇の炎が辺りを包んでアブゾーブを焼き、俺を癒す。

「あっつ、なんだこれ」

「外国に初めてきたけど、外国って毎日こんなハプニングがあるのん? ドリュちー凄い暮らししてたんだねえ」

 煙が地面に落ちて人の形になる。

 

 そして煙は人になった。

「ごめんほかに二人いるって言ったけど一人だった。ハッタリのために噓をついたんだなぁ」

「私は留学生の一人 モユルなのん。神様の力をドリュちーから貰ったカードファイターなのんね。遅れてごめんなのん」

「こう見えても優秀な神官なんだ。だから来てくれただけでも有り難い」

 アブゾーブは漸く自分の体の火を鎮火する。

 

 アブゾーブは首を傾げてうなり、何かを思い出したような顔をした。

「そう言えばお前は横のニンゲンを愛しているのか?」

「えっ!? それはまあ……」

「そっかそれは残念だね。姿も何もかも奪うつもりでいるから」

 闇の力が全て吸い取られた。

 

 それと同時にアブゾーブの闇の力が増した。

「キャー凄い。流石アブゾーブ様ヘルズの力をモノにしましたね」

「ニンゲンからヘルズの力だけを抽出出来たのは良かった。あんなヤツの姿をコピーしたらボクのコレクションの品性をそこなう……別に姿は奪えなかったから負け惜しみをしてるとかそんなんじゃないもんね」

「俺のヘルズの力が消えた」

 もう少しタイミングが遅かったら怪我を治せず死にかけてた。

 

 モユルは冷たい目で俺を見てきた。

「ドリューち神様の力を失くしちゃったなのん。じゃあ燃やすのがいいなのん」

「力を無くした途端自分の恩人に手をかけるなんてニンゲンらしいね」

「彼もかわいそうですね。あんな薄情な人間に手をかけられて死ぬとは。私なら恩人は絶対裏切りませんよ」

 俺は闇の炎に燃やされる。

 

 アブゾーブは不満げな表情をした。

「そう言えばヘルズの力を得たとは言えまだまだ足りないんだ。もう少し欲張らせてもらおうかな。決闘しろ」

「欲張ると失敗をするというのはよくある話なのん。まあいいか、ドリューちの敵討ちなのん」

「自分で燃やしておいて何が敵討ちだよ。ヘルズの信者は倫理観を疑うな」

 モユルとアブゾーブの決闘が始まる。



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47

 戻るとアブゾーブが倒れている女の子を踏みつけていました。しかもなんか燃えています。

「息巻いていたわりには大した事ないなぁ。でもまあ大した事なかったけどヘルズの力はたくさんあったからボーナスエネミーだったかもしれないな」

「お前人間を何だと思っているんだ」

「挑まれた勝負に勝っただけなのに恨まれるという強者の特権だね。いやぁ清々しい」

 アブゾーブに向けて超音速で石を投げました。

 

 アブゾーブは頭から血を流しながら私を見つめます。

「おい、なんで戻って来たんだ」

「そろそろこれも終わらせて、元通りにしないと私がやりにくいんですよね」

「1から100まで自分のことしか考えてないね。傲慢だから死ねば」

 アブゾーブが私に勝てる実力ではないことは分かりきっているのですが、諦めが悪いので撃退しにくいんですよね。

 

 そこで考えたのがこの方法なのです。

「闇転送。これで立ち退きしてもらいますよ」

「何をしやがるんだ」

 空間の穴を開く魔族の力を使い、アブゾーブをどこぞへ移動させておきました。

 

 この方法思い付いたのラウィラニさん運び終わってからのことなので、遅いとかそういうことは言ってほしくないですね。

「そうか。なるほど、だが無駄だ」

「なにっ」

 空間の穴がこじ開けられてアブゾーブが出てきました。どうやら無駄だったみたいですね。

 

 アブゾーブが投げてきたナイフを弾き落とします。

「でもこの技を打ち破るのにヘルズの力をたくさん使ってしまった。これ以上は欲張らずに逃げるか。こいつも持っていこう」

 倒れている女の子を持ってアブゾーブが消えました。アブゾーブも酷いことをしますね。

 

 事情は吞み込めていませんが、取り敢えずなんとかなって良かったです。

「撃退できてよかったです。あ、火が消えましたね。アンドリューさん、燃えていたみたいですが大丈夫ですか。それにしても病み上がりの人に随分酷いことをするものです」

 どこに入院していたか情報が統制されていたか分からなかったのですがね。知らせるほど好感度が高くないということでしょうかね。

 

 アンドリューさんはヘルズの力を纏わせて怪我を治しました。

「大丈夫、俺を燃やしていた火はヘルズの力を与えるための偽装ですから。モユルはヘルズの力を器用に使えるんですよ」

「そうですか。モユル女氏も器用な真似をいたしますね」

 しかしモユルですか。聞かない名前です。本来アンドリューさんは入院しなかったのですが、入院したせいで未来が変わって知らない人が現れたと言うことなのですね。

 

 アンドリューさんの中に潜むヘルズの力が様変わりしていますね。そういうことですか。

「モユル女氏を助けますか。彼女にはいろいろ聞きたいことがありますからね。出来ればアンドリューさんの助けがあるとありがたいのですが……」

「ああ、助けに行こう」

 分からないことがあることが分かると言うのも成長のきっかけなんですねえ。

 

 助けに行くと言ってもどこにいるか分からないんですよね。適当にやるとこういった目に遭うのですね。

「今の俺のヘルズの力の殆どはモユル由来だから力をあえて出して、持ち主の元に戻る習性を付与することで場所を分かりやすくする」

「ヘルズの力ってそんな使い方もできるんですね。勉強になりました」

 どうせ今日は臨時休校ですから例え遠くの場所でも問題ないですよね。

 

 アンドリューさんの指示に従うことにいたしました。

「ちゃんと頼みますよ」

「案外近くだな」

 しばらく歩き通しで頑張って足が棒になりますね。

 

 全身汗でぐっしょりしてきたころアブゾーブを見つけました。

「吞気にログハウスで楽しんでいるのか。俺があいつらのこれからの人生を恐怖に染めてやる」

「怒っていますね。そんなに彼女のことが大事なのですか?」

「あいつは命の恩人ですからね」

「義理堅いですね。普通なら見捨てますよ。まあ普通ではないから見捨てないのですが」

 アンドリューさんは露悪的な言い方をしやがってと言いたげに私を見ました。

 

 窓をぶち割ります。

「いきなり突撃するのか!」

 休憩は十分ですから大丈夫でしょう。

 

 イツを人質にとって右腕の関節を外し、デッキを掛けているベルトを緩めて落としました。

「モユル女氏と人質を交換ですよ」

「チャンスです。私ごと後ろの奴を始末してヘルズの力とやらを吸収しましょう」

 アブゾーブが見るからに焦っていますね。この選択は正解だったみたいです。

 

 しかしイツも状況を理解していないですね。

「アブゾーブが貴女のことを見捨てるわけないですよね。だって貴女はアブゾーブにとって彼女は大事な大事なヒトですもの。関係は存じ上げませんがニンゲンを見下している方が四年も重用しているしている時点で大事な関係であることは推測できますからね」

「やり方が悪どい。悪の敵は正義じゃないんだな」

「卑劣なやつめ。呪眼で止められても極め続けられるように極めてる」

 図星なのか頓珍漢なことを言っていますね、メンタルが壊れたんですかね。

 

 アブゾーブは素直にモユル女氏を渡してきました。

「やけに素直ですねえ。素直なのはいいことですよ。ここで締めておきましょうか」

「流石にそれはないだろ」

「絞め落としてから返すなんて卑劣だな」

 ちゃんと返したので文句を言われる筋合いはないんです。寧ろ素直に人質を返したことに感謝してほしいですね。

 

 それにアブゾーブは弱いくせに不戦勝を狙うからこのくらいの嫌がらせをしてもいいですよね。

「文句は言わないでくださいね。約束自体は守っているわけですから」

「一貫してムカつく奴だ」

 なんで不当な理由で怒っているんでしょう。

 

 これでやりたいことが出来たので帰りましょう。

「こんなナメた真似されて素直に返すと思うのか」

「決闘してくださるなんて優しいですね。ですがお気持ちだけ受け取っておきますよ。貴女は心が腐っていますし実力もありませんからやるだけ時間の無駄なんです」

「敵ながら好き放題されすぎてほんの少しだけ可哀想に思える」

 アブゾーブがニオジーン氏の姿になって指を鳴らしました。

 

 床から大男が現れました。これはいったいどういうことなのでしょうか。

「この場所はこの姿の元の奴の別荘でね。今のボクの合図さえあればこの別荘の侵入者が撃退されるようになっているんだ」

「便利ですね。流石です」

 でしゃばろうとするアンドリューさんを制して、大男と私の決闘が始まりました。

 

 そして大男の3ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でフェアリーフォートレス発動。城壁を4枚設置する。ターンエンド」

「フォートレスデッキですか。ミニチュアで出来た木製の城壁がそそりますね」

 フォートレスデッキは好きなデッキの一つに入るのですが、割と変なデッキだと思っているんですよね。ユナイツカードの関係上今世では使えないのが悔やまれますね。

 

 3 魔法 フェアリーフォートレス 属性:フェアリー

   効果:設置。デッキと手札と墓地から好きな枚数城壁を設置する

 

 3 魔法 城壁 属性:フェアリー

   効果:設置。他の設置を持つカードは相手のカードの効果を受けない

 

 私は3ターン目般若の舞姫を召喚して攻撃した後ターンを終えました。大男の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で砲台花発動。ターンエンド」

「砲台花ですか」

 

 4 魔法 砲台花 属性:フェアリー

   効果:設置。城壁の上に設置出来る。

      相手モンスターが攻撃したとき相手モンスターに3ダメージを与える

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でサオトキキの術発動。般若の舞姫でプレイヤーに攻撃します」

「砲台花の効果発動。般若の舞姫破壊。ターンエンド」

「アタッカーを減らすなんてむざむざ何をやっているんだ」

 この先あまり般若の舞姫は役に立たないのでまあ除去もやむなしです。

 

 大男の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でゴブリンアーチャーズ召喚。ターンエンド」

「ついにらしくなりましたね」

 城壁の上に弓を持った妖精たちが複数現れました。

 

 5 モンスター ゴブリンアーチャーズ 属性:フェアリー

   効果:自分のターン中攻撃出来ない

      貫通 相手ターン中プレイヤーかモンスターに攻撃できる 

      攻撃力:2 防御力:0 生命力:1

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で回天の術を発動します」

「ゴブリンアーチャーズでワンジャに攻撃。破壊」

「そう来ましたか。ターンエンド」

 プレイヤーの生命力を減らすのだと思いました。

 

 大男の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でトーチカワームの群れ召喚。ターンエンド」

「トーチカワームですか。ちょっとだけ面倒ですね」

 

 5 モンスター トーチカワームの群れ 属性:フェアリー

   効果:自分のターン中攻撃出来ない

      攻撃する時相手プレイヤーと相手モンスターすべてに1ダメージ

      相手ターン中プレイヤーかモンスターに攻撃できる 

      攻撃力:0 防御力:0 生命力:1

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚します。そして煙玉をサーチしてマスターニンジャでプレイヤーに攻撃します」

「砲台花、ゴブリンアーチャーズ、ファイア!」

「コスト2で忍法具 煙玉発動。マスターニンジャに使用し、砲台花をかわします。ターンエンド」

「トーチカワームで攻撃」

 

 大男:生命力10→5

 ソウコ:生命力10→9

 

 大男の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で毒霧トレント召喚。コスト3で兵站補給発動。ターンエンド」

「虎視眈々と準備を整えていますね」

 

 4 モンスター 毒霧トレント 属性:フェアリー

   効果:自分のターン中攻撃出来ない

      ターン開始時相手モンスターすべてに2ダメージ

      相手ターン中プレイヤーかモンスターに攻撃できる 

      攻撃力:1 防御力:0 生命力:1

 

 3 魔法 兵站補給 属性:フェアリー

   効果:自分の場にフェアリーフォートレスがあるなら、相手ターン中プレイヤーかモンスターに攻撃できると

      記されている自分のモンスター一体につき1枚ドローする 

      

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6で百花繚乱。3枚ドローします」

「毒霧トレント、ゴブリンアーチャー、トーチカワームの群れ、行け」

「うぐぅ。コスト3でくだんを召喚してターンエンドです」

 割とピンチですね。高確率で次のターンで負けますよ。不謹慎ながらもワクワクしてきました。

 

 3 モンスター くだん 属性:アヤカシ

   効果:このモンスターは相手によって破壊された時未使用状態でコストゾーンに送られる。その後1枚ドローする

      攻撃力:0 防御力:0 生命力:1

 

 ソウコ:生命力9→5

 

 大男の8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でエルフの呪い発動。ターンエンド」

「エルフの呪いですか。もっといいカードがあると思いますが……」

 1でも生命力を削ればいいので相手は何でもいいのでしょうが

 

 3 魔法 エルフの呪い 属性:フェアリー

   効果:相手プレイヤーに1ダメージを与える

 

 私の8ターン目です。

「ドロー」

「毒霧トレント、トーチカワームの群れ。そしてゴブリンアーチャーでトドメだ」

「コスト7で墓地のマスターニンジャを召喚します。そして忍法 空蝉の術、ゴブリンアーチャーの攻撃を無効化します。危なかった、結構スリリングでしたよ」

 これで残りの生命力も1、コスト3でなんとかするしかないですね。

 

 幸いにも相手はもうアクションストライクでしかどうにかできません。この状況をどうにかできる有力なリアクションはありませんからね。

「コスト3で妖刀ムラマサを武装します。妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃してトドメです」

 大男:生命力3→0

 

 大男は床に倒れてそのまま沈み込みました。

「こんな防衛システムが欲しいです。何しろ強い決闘者ですからね」

「永遠に羨ましがってろ。お前はどれだけ焦がれてももう今と同じことはできないんだ」

「まずい、時限爆弾だ」

 割った窓から出た後ニオジーン氏の別荘が爆発しました。吹き飛んだ丸太で背中を打ちます。

 

 目が覚めたら病室でした。

「どうしてこうなってしまったんだ。誘拐された留学生を取り戻すためとはいえ授業を無断欠席し、挙句の果てには命を危機に晒したため退院後のテストに合格しなければソウコお嬢様は退学だ」

「なにが授業の無断欠勤ですか。調べさせましたがその日授業をしていなかったでしょう」

 そんなに私のことが嫌いなのでしょうか。

 

 しかし退学してしまうと強い決闘者とのめぐり逢いが出来なくなってマズいんですよね。

「勉強に遅れないように頑張りますか」

「あまり無茶はするなよ」

 こうなったのも全てアブゾーブのせいです。容赦しない方がよさそうですね。



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48

 今現在モユル女氏とトゥスル王子がお見舞いに来ています。

「王子様もわざわざありがとうございます。しかしこういう時いち早くレイナさんが来そうなものなんですけど。彼女も薄情になったということですね。いつも付かず離れずされるよりはマシだと考えましょう」

「彼女は色々忙しいと聞きます」

「そうですか。王子様直々に来訪してくださるなんて光栄の極みですね」

 気まずそうにしている王子様はかわいいです。この王子様私を萌え殺しさせる気なんですかね。

 

 モユル女氏が来てくれてちょうどよかったです。

「モユル女氏に伺いたいことがあるのです」

「何が聞きたいのん?」

「私は世界中の実力派のカード使いの情報を集めているんですよね。でもあなたの情報は私の情報網に引っ搔からなかったのです。一体貴女は何者なんですか?」

 これは本題ではないんですけどね。これはいわゆるドアインザフェイス的な奴です。実力自体はアブゾーブにどうにかされる程度なのは分かっていますしね。

 

 モユル女氏は答えにくそうな顔をしました。

「私に実力がないと言いたいのん?」

「いーえ別に。しかし気分を悪くしてしまったならすみません。代わりの質問をさせてもらいます。その巧みなヘルズの力のコントロールの謎を知りたいのです。それに貴女が何者なのかも知らないんですよね。それも教えて欲しいです」

 偽装と包装と操作を同時に行うなんて誰にもできることじゃありませんからね。私にもできないです。

 

 モユル女氏は謎が多いんですよね。

「唯一わかっているのはアンドリューさんの味方であること。いつ裏切るのか分からないので信用が出来ないんですよ」

「そんな言い方ないじゃないですか」

 アンドリューさんが私の敵になったら敵になってしまいますからね。そういう人をおいそれと信用するわけにはいかないのです

 

 本編にいないのに本編のキャラにガッツリ関わってくるので私には未知、警戒もしなければならないのです。

「正論なのん。だから頑張って信用を積み上げたいところなのだけど……別のクラスだからそれも難しそうなのん」

「王子様はもう少し人を疑った方が良いです。実際この人はいきなり現れて客観的には信用できないんです」

 好感度が落ちてしまいましたね。敵に回りやすくなってラッキーです。

 

 アンドリューさんはそこまで言うことないじゃないかと言いたげな顔をしていますね。

「まあ確かに結果だけ見れば侵入者に力を献上した挙句誘拐される失態を犯した役立たずなのん。でもだからと言って敵ではないのん」

「そうですか。これ以上失態すれば愛想をつかされるかもしれませんね」

「あとヘルズの力を操り方は何となく出来ていたからやり方がわからないのん」

 残念ながら感覚派ですか。あれだけ苦労して得たものが強者との戦いだなんて普通ならくたびれもうけですね。

 

 脅しに脅した結果モユルさんは不安な顔になっています。

「気を悪くしたならすみませんね。無駄に脅してしまって申し訳ないと思っています」

「信用してもらってありがたいのん」

 分かりたいことも分かっていたのでここでうだうだしていても仕方がないですね。両腕が動かせないのでドローの素振りで治せないのが悲しいです。

 

 レイナ視点に移動

 

 ソウコちゃんが入院しているのでソウコちゃんの分のノートを取っている。

「あんなのの為に苦労しなくていいからね」

「苦労していることがあるなら私たちに相談しなよ」

「先輩方ありがとうございます。しかしこれも勉強と思えば苦痛ではありません」

 生徒会総選挙の日にソウコちゃんに連れ回された結果、私は悪逆非道のソウコ・メッセルに付き合わされている健気な被害者として同情されるようになりました

 

 確かにソウコちゃんは露悪的になりたがる癖には苦労しているんだけど、弱点といえば本当にそこぐらいだし。

「あれは父親に似て口も性格も悪いけど質の悪いことにシンパを作る話術もあるから取り込まれないでね」

「健気な後輩が食い物にされるのは心に来るから警告するけど、健気なのも良いけどあれが借金を笠に着て資産でマウントを取ってくる性格なのを忘れないでね」

 先輩たちは去りました。

 

 ソウコちゃんって今みたいな扱われ方が殆どだから関わっている人が可哀想とまで言われるような人なんだよね。かわいそう。

「本人もただのワガママなクズって言ってるけど、本当にそうなら縁もゆかりもない私やむしろお金借りてる人の子供な分マイナスなアンドリューを助けるわけがないもんね」

 ルノスチへの支援制度設立のきっかけになったことしかり誰彼構わず助けているくせに、特別な人間と強者以外は見捨てるって噓を付くところも苦労のタネではある。

 

 ああいう露悪的な性格をどうにかしないともっと周りに嫌われそうだし、本格的にどうにかしないといけないと思う。

「露悪的な性格と口が悪いのが何とかなれば嫌われずにすみそう」

 あの性格をどうにかするモノがないか図書館で探してみよう。そしてそれをお見舞いの品にしよう。

 

 図書室で色々本を借りて隅の方で本を読んでいると先輩に声をかけられた。

「成績のみ優等生なソウコ・メッセルの成績の正体見たり。友人の学習した成果を横からパクっていたのか」

「勘違いしないでくださいね。ソウコちゃんはサボっている時間で予習をしているタイプなんです」

「じゃあ最初からサボるなと言いたいけど君に行っても仕方が無い」

 この人線が細くて女顔だけど制服を見るに男性だね。

 

 女顔の先輩は私の隣に座りました。

「いきなり尋ねてきましたが、一体どのような用時なのですか? 何か悩み事があったら相談してくださいね」

「いい子だね。あのソウコ・メッセルの友人だなんて信じられない」

「ソウコちゃんってどこに行ってもすごい悪評ですよね。功績は善人なのになんでこんなに評判が良くないんですか?」

 どんなに悪い人でもいいことをしたらそれは認めるべきだと思う。

 

 女顔の先輩はそう言えばそうだと言いたげな顔をしました。

「庶民のくせにお金を持ってて王子様の許嫁という前提がある上に単純に弱者を見下しているのが見え見えだからね。善行も単なる税金対策にしか見えないと言うか。彼女はそういう所あるよね。君は個人的な支援を受けているから善人にしか見えないと思うけど」

「そういう面も少しはあるかもしれませんね」

 ソウコちゃんそう言う評価に流されて露悪的になったり自分を性格悪いと思っているのかもしれない。

 

 先輩に分厚い本を渡された。

「これが手がかりになるんじゃないかと思うよ」

「なんでそう思うんですか」

「なんかブツブツ言っていたから何を調べたいか分かりやすかった。しかし恐ろしいことを考えるものだね」

 変な人だ。インパクトがすごすぎる。

 

 感情を操作する古代呪術かぁ。

「なるほど。参考になりました。ありがとうございました」

「その本は期限までにちゃんと返さないと大怪我をするからね。ちょうどそのソウコ・メッセルみたいになる。あと中身は他人に見られないようにしてほしい」

 一言余計だけど期限までに返せってことか。

 

 部屋に戻って古代呪術の勉強をする。

「まるまる一冊が一つの呪いだなんてむずかしそう」

 内容は案外すんなり入ってきた。いつも読んでいる教科書もこのぐらい書き方が分かりやすかったらいいのになあ。

 

 この古代呪術にはペンドラの竜という宝石が必要らしいのだけど、ペンドラの竜は学園の近くの滝に封印されているそうだ。

「たまたま近くにあって良かった。何もかもナイスタイミングすぎるね」

 こっそりと学園を抜け出す。

 

 そして地図の通りに行くとそこは島公園だった。

「ここで何をなさっているのですか?」

「ここに埋まっている石 ペンドラの竜が欲しくて侵入した次第です」

 噴水から出た矢を避ける。

 

 噴水から現れた女性のドロップキックを喰らってしまった。

「その本を持っているからやはりと思ったが、やっぱりペンドラの竜が欲しいのか。ペンドラの竜が欲しくばこの私に決闘の腕前を示せ」

「何故ドロップキックを?」

 噴水から現れた女性はいきなりデッキを構えた。余程言いたくない訳があるのかもしれない。いきなり聞いて不躾だったかも。

 

 私の4ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト1で翼の使徒召喚。併せて2枚ドローして、コスト3でプリンシパリティズ召喚。プリンシパリティズでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「そのユナイツカードはそういう戦法を取るのか。参考になった」

 参考にしてどうするんたろう。

 

 噴水から現れた女性の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔力吸収式図書館設置。ターンエンド」

 

 5 魔法 魔力吸収式図書館 属性:魔導書

   効果:設置。1ターンにモンスターを2体以上場に出した場合、そのターンの終了時に出したモンスター1体につき1枚ドローする

 

 私の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラムを召喚。その後プリンシパリティズでプレイヤーに攻撃。ターンエンド」

「まずいなぁ。あと8ターンでやられてしまう」

「下手な演技だなぁ」

 いかにも逆転の一手がありそうな感じがする。

 

 噴水から現れた女性の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6でサイキックメンタリティ召喚。ターンエンド」

「たったそれだけかぁ」

 緑の液体を纏った青いタコが現れた。

 

 6 モンスター サイキックメンタリティ 属性:使い魔、魔導書

   効果:プレイヤーが相手モンスターに攻撃された場合手札の魔法を発動できる

   攻撃力:1 防御力:2 ライフ:1

 

 私の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト7で新たなる私の切り札 ヴァルキュリアス召喚」

 サイキックメンタリティは天からの炎によって消し炭になる。

 

 8 モンスター ヴァルキュリアス 属性:エンジェリオ

   効果:出現:相手は自分の場の最も攻撃力の高いモンスターを墓地に送る。

   攻撃力:3 防御力:2 ライフ:2

 

「手札の念力の効果発動。サイキックメンタリティが破壊された時自らを召喚する」

「そしてそのままヴァルキュリアスとプリンシパリティズでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

 これで相手の生命力は残り5。次のターンに勝てる

 

 ? モンスター 念力 属性:使い魔、魔導書

   効果:サイキックメンタリティが破壊された場合手札から召喚できる

      出現:手札、デッキ、墓地からサイキッカーを3体まで場に出す

      貫通

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:1

 

 噴水から現れた女性の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6でサーバントマッスル発動。このターン私の場の使い魔モンスターの攻撃力を倍にする。がしかしこのターンが終わり次第破壊される。全モンスターで一斉攻撃してターンエンド」

「たったそれだけかぁ」

 たったそれだけとはいうものの大ピンチ

 

 レイナ:生命力10→2

 

 私の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト7でアバドンの使徒召喚。そしてコスト2でロストトラウマ発動。アバドンの使徒を対象にして1枚ドロー。そしてそのままアバドンの使徒でトドメ」

「案内しよう」

 

 2 魔法 ロストトラウマ 属性:エンジェリオン

   効果:自分の場のモンスター1体を選ぶ。選んだモンスターの効果を無効化し、その後1枚ドローする。

 

 噴水が移動して地下への階段が現れる。地下への階段を降りると緑色の宝石があった。

「これがペンドラの竜だ。この先にはカードの神に選ばれし者しか行くことが出来ない。心してかかれよ」

「ありがとう」

 ペンドラの竜を無事に取得した。

 

 温かくもなく冷たくもなく柔らかさも硬さもない不思議な石だ。

「この宝石は貴重で価値が高いから、元の所持者は私との友情を利用しつつ、凄い結界を施した」

「利用されて悔しくなかった?」

「私もあいつのことを利用していたからお互い様だ」

 噴水から現れた人は遠くを見つめるような目をした。

 

 これは厳重に保管して返さないとなんか申し訳ない。

「分かった。気を付ける。一回使ったら返しに行くね」

「そんな適当な」

 私は階段を上がって外に出た。

 

 右手がしびれてペンドラの竜を落としてしまう。

「結界が面倒だったからあわよくば取ってくれないかと焚きつけたら、本当に取ってくれるとは君は実に馬鹿だねえ」

 女顔の先輩がペンドラの竜を拾った。

 

 古代呪術の本が一瞬で燃えて灰になる。

「因みにその本偽物だから。中身自体はただのスパゲッティコード多めの発火呪術が刻まれた本だよ。作るの大変だったんだから」

「信じていたのに」

 体が動かない。

 

 女顔の先輩は嬉しそうにニタニタ笑う。

「やっぱり庶民は貴族様の道具でいるのが一番ふさわしいんだなあ」

 まんまとハメられた。



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49

 まんまと利用されてしまったという不甲斐なさが私を蝕む。

「ペンドラの竜は貴重な宝石なんだ。世界中の宝石コレクターの憧れで、コイツを得るために殺し合いが起きなかったことは一度か二度くらいしかない。本来なら値段が付けられないくらい価値があるが、無理やり値段を付ければ誰もが買ってくれるという訳だ。このためにわざわざ制服買って侵入したんだよな」

 回りくどい……その労力を別のことに使ってほしかった。

 

 なんでわざわざそんな真似をしたんだろう。

「殺して奪い取られるのがオチですよね。殺し合いが起きなかったことは一度か二度くらいしかないんでしょう?」

「うるさいんだよ。庶民ごときが。黙って道具になっときゃいいんだ」

 高額のお金に目がくらんで視野が狭くなるなんて、まるで私の両親みたいだね。

 

 痺れた体を素早く動かすことで相対的に今までと同じ速度で動く。

「なんで動けているんだ」

「マッハドローの応用で体を凄い速さで動かせば、痺れと相まってちょうどよい速度で動けるんじゃないかって思ったんですよね。そしたら出来ちゃった。疲れるからもう二度とやりたくないけど」

「どんな理論なんだ。意味が分からないぞ」

 何となくやったらできたから私も意味が分かっていない。

 

 女顔の先輩はデッキを構えた。

「こうなったら決闘で何とかするしかない」

「凄く分かりやすい」

 決闘が始まった。

 

 女顔の先輩の4ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト4でクロンダムの影召喚。クロンダムの影でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「クロンダムの影ね。ソウコちゃんに教えてもらった気がするけど覚えてないなぁ……」

 貫通を持っていること以外どんなカードなのか分からない。

 

 4 モンスター クロンダムの影 属性:魔法使い

   効果:貫通

   攻撃力:1 防御力:1 生命力:1

 

 私の4ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト1で翼の使徒召喚。聖殿の効果も合わせて2枚ドローしてターンエンド」

「手札のワイズリベンジャーの効果発動。自分を召喚する」

 ワイズリベンジャー……アンドリューにあったら教えてあげよう。

 

 5 モンスター ワイズリベンジャー 属性:使い魔

   効果:サモンコンディション:相手が3枚以上ドローしたターンの終了時

      出現:デッキの上から2枚を見て1枚手札に加えて1枚コストゾーンに置く

   攻撃力:2 防御力:1 生命力:2

 

 女顔の先輩の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5で長槍の魔導騎兵召喚。長槍の魔導騎兵とクロンダムの影でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「これで私の生命力は5。ちょっとマズイかも」

 性能自体はマスターニンジャの完全下位互換だけど、それでも強いことに変わりはない。

 

 5 モンスター 長槍の魔導騎兵 属性:魔法使い

   効果:貫通

   攻撃力:3 防御力:1 生命力:2

 

 私の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚。1枚ドロー。そしてコスト2でハイロゥストライク発動。ターンエンド」

「次の次のターンで負けるってのにそんな悠長にしていていいもんかね」

「ソウコちゃんが勝つ瞬間まで勝っていないと言っていた。油断しない方がいいよ」

 言われた時は当たり前の事と思って気にも留めていなかったけど、該当するハメになって思い出した。

 

 女顔の先輩の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト1でビルダーサーチ発動。コスト5で戦略魔法 ツラヌキカガミを発動」

「ワイズリベンジャー以外貫通持ってるからそんなに意味ないと思うけど」

「うるさいな。いちいちケチをつけるな」

 もしかして反撃目的なのかも。だとしたらバカな事を言ってしまったなぁ。

 

 1 魔法 ビルダーサーチ 属性:魔導書

   効果:設置を持つ魔法カードをデッキから手札に加える

 

「長槍の魔導騎兵とワイズリベンジャーでトドメだ」

「リアクション。ハイロゥ。1枚ドロー。そして長槍の魔導騎兵の攻撃にコスト5で天使のウィンク発動。長槍の魔導騎兵の攻撃で受けるダメージを0にする」

「クロンダムの影でハイロゥに攻撃。そしてコスト4でヨティスを召喚してターンエンド」

 何とか防げたよ。

 

 私の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でオピュクス召喚。1枚ドロー」

「ペンドラの竜を巡る戦いで出すモンスターにしては随分とプリチーだな」

「でも効果は可愛くないよ」

 赤いハートの鱗がある白い蛇が現れた。

 

 6 モンスター オピュクス 属性:エンジェリオ

   効果:自分の場のモンスターが攻撃で相手プレイヤーにダメージを与えた場合

      与えたダメージ2につきそのモンスターの生命力を1回復する

   攻撃力:0 防御力:1 生命力:2

 

「ハイロゥでプレイヤーに攻撃。オピュクスの効果で回復。そしてオピュクスでプレイヤーに攻撃。コスト3でプリンシパリティズを召喚してターンエンド」

「そんな回復効果しか持たんカードがお前の切り札か。そのデカブツの延命にすらならないというのに、無駄なことだよ」

 でもそれで私は延命が出来る。それさえ出来れば充分。

 

 女顔の先輩:生命力10→4

 

 女顔の先輩の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法の雷、オピュクス破壊。クロンダムの影でハイロゥに攻撃。長槍の魔導騎兵とワイズリベンジャーでハイロゥ破壊。どうだこれでお前に攻撃が通せる」

「プリンシパリティズの効果。自らの命を捧げてハイロゥの破壊を肩代わりする」

「プリンシパリティズに魔法の雷を使えばよかったわけだ。ターンエンド」

 次のターンには負けるかもしれない。ここで良いカードを引かないと。

 

 私の7ターン目。

「ドロー……チャージ。コスト5でカリス発動。3枚ドロー。よし、ハイロゥでプレイヤーに攻撃」

「魔法カード マジックシールドを2枚 発動」

「スペルコンディション 百王の生誕。1枚目のマジックシールドの効果を無効化する」

 女顔の先輩:4→0

 

 女顔の先輩は無気力に膝をつき、手札のペンドラの竜を落とす。

「ちゃんと返してくれてありがたい」

「誰が返すなんて言ったんだ」

 女顔の先輩は私からペンドラの竜を奪おうとする。

 

 ペンドラの竜から雷が出てきて女顔の先輩を痺れさせた。

「どうなっているんだろう」

「ペンドラの竜になぜ所有者を巡り殺し合いをする業が蓄積されているのか……それはペンドラの竜に前の持ち主が認めた者またはより強き者にのみ持たれたがる性質があるからだ」

 噴水から現れた人だ。

 

 なんでこんなところにいるんだろう。

「まだお前にペンドラの竜の仕様を解説していなかったからな。ペンドラの竜はこの様に面倒くさい仕様を持っているんだ」

「負けたから弱いというのか」

「話し合いでもらっていれば取り返されずにすんだから、話し合いの方が現実的だったと言いたかった」

 戦った方が楽なだけで別に話し合いでも行けるんだったね。

 

 でも私もどうしてもペンドラの竜は欲しかったから譲らなかったと思うけど。

「奪ったせいでお前が持ち主として認められたんだ。なんてったって他者を欺くことも強さの一つだから」

「選択を間違えたのか。学生(ガキ)程度出し抜けると思って制服まで来て学生に取りに行かせて盗む三段を建てたと言うのに」

「自業自得だ」

 女顔の先輩は厳つい男の人に剣でバッサリ斬られた。

 

 血はあまり出ていないから大丈夫そうだけど、倒れているから怖い。

「雑魚が失礼したな。コイツみたいな不審者に襲われて辛かっただろう」

「ついでに動けるようにしてもらえるとありがたい。コイツ動けなさそうだからな」

「そんなら話は早い」

 厳つい男の人は剣を振り下ろした。

 

 体の痺れがなくなって疲れも取れた。それとと同時にペンドラの竜をかすめ取られる。

「お前さんはなんでペンドラの竜が欲しかったんだ」

「やたら露悪的な知り合いがいて、その人の露悪的な態度を改めるため。ペンドラの竜が人の心を操る呪術の媒介だってそこの倒れてる人に教えてもらったからね」

「そういうことか。お前さんみたいな危険な奴にこれを渡すわけにはいかない。が、功労者からタダでぶんどるのも後味が悪い」

 変な仮面を貰った。

 

 全体的に釘とかピアスとかが打ち込んであるね。

「善悪反転の仮面だ。これをつけている間言動や性根の善性や悪性が反転する」

「じゃあダメだね。言ってることが良いことでも悪いことしかしなくなる」

「お前、ソウコ・メッセルのダチだろ。ダチだからこそ、アイツがこれまで善行を積み上げたのは点数稼ぎかタダの偶然であることを受け入れなければならないんだ。分かりやすくいうならこれからどうせ悪いことをするのだからそれを着けさせた方が皆のためになるってことだ」

 そう言うことだったのか。

 

 私がソウコちゃんにしようとしていたことと同じだ。

「ええいこんなもの」

「踏んづけて壊しやがった。許せねえ。決闘だな」

 デッキを構えた。

 

 私の4ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でカリス発動。3枚ドローしてターンエンド」

 厳つい男の人の5ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト5でデスチキン召喚。手札を全て捨てて5枚ドロー。ターンエンド」

 トサカが鉄になっている鶏が現れた。

 

 5 モンスター デスチキン 属性:ビースト

   効果:出現:手札の属性:ビーストを持つカードを好きな枚数捨てる。その後捨てた枚数より1枚多くドローする

   攻撃力:0 防御力:1 生命力:2

 

 私はプロメテウス・プログラムを召喚してターンを終えた。厳つい男の人の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト6でペガサス召喚。ペガサスでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「アイギスがなければまずかった」

 レイナ:生命力10→8

 

 しかしペガサスかぁ。

「これで大量に墓地に送られたビーストを召喚できる。うまいやり方だ」

「大袈裟な事を言うな。1ターンに1枚しか召喚できない、だから一気に展開して殴るなんてペガサスじゃ出来ねぇよ」

 じゃあ安心か。

 

 私の6ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト1で翼の使徒を召喚して2枚ドロー。コスト2でハイロゥストライク発動。コスト3でプリンシパリティズ召喚。ターンエンド」

「そうか。コストを6以上使ったらまずいのか」

 手札にハイロゥがあると思われてる。単純に手札を補充して打点を揃えるためにやったことがブラフになっているんだ。

 

 厳つい人の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト2を払いペガサスの効果発動。コスト4のヘヴィターキーを召喚する。ペガサスで攻撃」

「ハイロゥがあるはずなのに攻撃していいの!?」

「俺がカマをかけたら顔が喜んでいた。手札の中身を当てられて喜ぶやつはいないから、引けてないと判断したわけだ」

 顔かぁ……。鉄面皮を徹底しないと。

 

 レイナ:生命力8→6

 

 4 モンスター ヘヴィターキー 属性:ビースト

   効果:出現:自分の墓地の属性:ビーストを持つカードを好きな枚数このカードの下に送る

   攻撃力:1 防御力:0 生命力:2

 

 私の7ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト7でアバドンの使徒を召喚してそのままプレイヤーに攻撃

「かなり痛かった。闘気を込めやがったな。なあなあに済ませようと思ったが、これは本気でやるしかなさそうだな」

 厳つい人:生命力10→4

 

 厳つい人の8ターン目。

「ドロー。チャージ。コスト8でメタルサーモン召喚」

「トピ・アクアっぽい見た目のカードだ」

「それは禁句だ。まぁそんなことよりもメタルサーモンを効果発動。自分のモンスターの下のカードを全てデッキに戻し、このターン中戻した枚数1枚につき自分の場のモンスター1体の攻撃力を1上げる。ペガサス、ハイパワーチャージ」

 ペガサスが筋骨隆々になった。その姿はまるで翼の生えた雄牛の首を馬のものとすり替えたような厳つい見た目だった。

 

 私はペガサスの攻撃を受けて吹っ飛んだ。

「生命力が一気に0になった。なんて強烈なコンボなんだ」

「お前さんは顔にさえ出さなければ俺に勝てたかもしれないな。ハイロゥというカードは攻撃を躊躇させるには充分すぎる」

 うう……たしかに。これを教訓にしよう。

 

 厳つい人はペンドラの竜をポケットに捩じ込む。

「名前を教えて欲しい。いつか勝つまでその名前をずっと覚えておくから」

「リキヤ・ソルテッド。お前さんは?」

「レイナ。庶民だから名字がないよ」

 リキヤ・ソルテッドか。ちゃんと覚えておこう。

 

 リキヤ・ソルテッドはペンドラの竜を持っていって去った。

「力が足りなかった。リキヤ・ソルテッド……その顔と声 もう忘れようもない」

 それに知力も足りなかった。知力が足りないせいで短時間に2度も出し抜かれた。

 

 後日 ソウコちゃんのお見舞いに行ってノートを見せると、ソウコちゃんは凄く喜んでいた。



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50

レイナさんの話を聞きました。病室でじっとしているのもたいくつですからね。

「リキヤ・ソルテッド……リキヤ・ソルテッドですか。もうそんな時期なのですね」

「そんな時期ってどういうことですか?」

「リキヤ・ソルテッドは特定の日に噴水公園に現れる変質決闘者です。一部では季節の風物詩として扱っている人もいるとかいないとか」

 リキヤ・ソルテッドは別に倒さなくてもよいからかゲーム内最強のAIとデッキを持たされているんですよね。報酬もモブよりもしょっぱいし。

 

 まあレイナさんが決闘した以上現れないでしょうね。

「強い決闘者の話題を聞いたのにあまり嬉しそうじゃありませんね」

「それを聞いたところで今すぐに戦えるという訳ではありませんから。それにリキヤ・ソルテッドに勝ったら私が最強であると証明されてしまうんですよ」

「勝つ前提ですか」

 やる前に心構えで負けてたら勝てるものも勝てませんからね。弱気になるのは戦った後で良いんです。

 

 レイナさんが呆れた顔をしていますね。

「最強であるということは同格以上がいないということになって寂しいですから」

「そうですか」

「渋くて薄情な対応です。何回も聞いているから反応が渋いのですかね」

 私、会話のネタが少なさすぎてヤバいですわよ。

 

 空気が暗くなっています。話題を変えた方がよさげですか。

「それにしてもレイナさんのノートを写していて気が付いたのですが、レイナさんのノートって要点が分かりやすくて覚えやすいですね。今の今まで分かっていなかったのですがレイナさんって教師も向いているんじゃないでしょうか」

「そうですか。改めて言われると照れますねえ」

 良い友人を持ちましたね。これもう私の欠点性格だけでしょう。

 

 なんか殺気を感じますね。レイナさんを巻き込まないようにそれとなく出て行ってもらいましょう。

「あ、慣れあい過ぎましたね。いい加減に出て行ってくださいね。ノートは返しますから」

「またですか」

 計画性があるようでなかった幼き頃の自分が憎いですね。

 

 病室が爆発しました。

「そういうことだったんだね。また闇落ち癖が出たのかと」

「ただの偶然ですが。というか闇落ち癖ってなんですか。最初から最後まで私は闇ですが」

「自覚しているんなら性格を治せよ。お前よく性格悪いって言われてるからな」

「これでも性格が劇的に良くなった方なんですよ」

 窓から覆面を付けたマントの人が現れました。

 

 この人は恐らくアブゾーブの部下ですね。

「もうこのパターンもいい加減飽き飽きしましたね」

「悪く思うなよメッセルのクソガキ。お前を殺せば借金がチャラになるんだ」

「チャラっていうかちゃらんぽらんですね。世の中そんなに甘かないですよ」

 レイナさんはデッキケースに手を近づけています。

 

 しまった。違いましたか。

「2年前貴方みたいに借金を踏み倒す為に私を抹殺しようとした人がいたんです。どうやらその人は私のお父さまの部下に借金していて、なにをどう思ったのか私を抹殺してお父様の部下を脅迫すれば借金を消せると考えたそうなんですね。こういうパターンは珍しいから二度と現れないと高を括っていました」

 油断はダメですね。

 

 レイナさんは怒っていますね。

「そんなことがあったのに何で言わなかったんですか」

「レイナさんに相談してどうにかなることじゃありませんから」

 普通なら身代金を要求すればいいって考えますが、貧すれば鈍するという奴ですね。

 

 マントの人は私の首を締めて持ち上げました。

「隣の奴を起こそうとしても無駄だぞ。お前の病院食に混ぜる睡眠薬をうっかりそいつに盛ってしまったからな。確かにお前の病院食に混ぜたはずなのだがな」

「うっかりミスなんて良くあることですわ。次からは気をつけましょうね」

 借金を背負ってしまった理由が良く分かりますね。

 

 マントの人はデッキを構えました。

「借金しているのにデッキを買っているんですね」

「ソウコお嬢様は存じ上げないと思われますが、最近カードに投資して破産する人が増えているんですよ」

 ……前に聞いていたとしてもあまりにも荒唐無稽過ぎて速攻で忘れていると思います。真実味が無さすぎますからね。

 

 お金は計画的に使って欲しいですね。しかしながら量が増えたのは喜ばしいことなので複雑です。

「カジュアルにカードを買う人が増えるのは嬉しいのですが、借金してまでカードを買ってほしくないですね」

「貴族以外カードを変えないという価値観が見直され、第二のゼイバルトを目当てにカードを買ってお手軽にお金を稼ごうというブームが起きているんです」

「ゼイバルトは出た当初はただのカスレアだから即効性もなくお手軽に稼げませんね」

 レイナさんとマントの人の決闘が始まります。

 

 レイナさんの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でプリンシパリティズ召喚。1枚ドローしてターンエンド」

 あまり動いていないですね。手札事故ですか。

 

 マントの人の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で賢しきエルフ召喚。エルフのベッドの効果で賢きエルフのスタントリック発動。2枚ドローしてターンエンド」

「前のターンに祈りの妖精を出しておいたのがここで効いてますね」

 お相手さんは理想的なムーブですね。

 

 5 モンスター 賢しきエルフ 属性:フェアリー

   効果:スタントリック:2枚ドローする

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:1

 

 レイナさんは5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でハイロゥストライク発動。そしてコスト1で翼の使徒を召喚し2枚ドローしてターンエンド」

「堅実な手札加速ですね。まず手札が重要ですからレイナさんは勝機に近づきましたね」

 このままスムーズにいくと良いのですが先ほど手札事故を起こしていましたからね。

 

 マントの人の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト1でスパークルフェアリー召喚。コスト2でエルフアーチャー召喚。スパークルフェアリーの効果で1枚ドローし、エルフのベッドの効果で相手に1ダメージ。ターンエンド」

「」

 エルフの放った光の矢がレイナに刺さります。

 

 レイナ:生命力10→9

 

 レイナさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でプロメテウス・プログラム召喚。プリンシパリティズで攻撃してターンエンド」

「いつもと違って準備が遅いですわね。それにハイロゥストライクも発動タイミングを間違えています。リキヤ・ソルテッドに負けたことで焦りが生じてプレイミスをしたのでしょうか」

 ハイロゥストライクは相手が6コスト以上使える状況じゃないとあまり意味がありませんが、レイナさんは焦って意味のないタイミングで使ってしまいました。

 

 マントの人:生命力10→9

 

 それとも何か考えているのでしょうか。

「相手の場には2体のエルフアーチャーですか。これでシルフの風なんかあったら目も当てられません。シルフの風でエルフアーチャーを戻されて1ターンに2回バーンダメージを食らうコンボ……私も一回それにやられていますからね」

「適当にカードを集めてこんなコンボが出来るとは」

 この襲撃者将来性ありですね。

 

 そうこうしているうちにレイナさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でウルティメイト発動。プリンシパリティズでプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「ただの手札交換ですか」

 もしかしてマントの人に配慮しているんじゃないでしょうか。

 

 5 魔法 ウルティメイト 属性:ゴッド

   効果:自分のデッキから好きなカードを1枚墓地に送る。

 

 マントの人の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でシルフの風発動。エルフアーチャー1体を手札に戻す。そしてコスト2でエルフアーチャー召喚。ベッドで2体のエルフアーチャーを攻撃済みにして矢を放つ! ベッドで賢しきエルフを攻撃済みにしてターンエンド」

 どこぞの教皇と違ってプレイングとデッキが効率よいですねえ。

 

 借金する人が増えれば凄腕の人が増えるというのは複雑ですね。

「手札加速を忘れずチマチマとダメージを与えている堅実なプレイングですね。貴族に腕を売り込めばそれなりに儲けられるかもしれませんのに」

 ロックバーンはマナー的に悪いですがただのバーンはそんなにマナーが悪くないので問題ないですね。

 

 レイナ:生命力8→6

 

 レイナさんの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト7で天将エルデウス召喚。効果で墓地の伝説の剣を召喚。エルデウスと伝説の剣でトドメ!」

「ここから防ぐ手段はない……ことはない。フロストシールド、エルデウスの攻撃を無効化する」

「残念。一気に逆転ワンショットキルをやってみたかったのになぁ。ターンエンド」

 

 マントの人:生命力8→4

 

 マントの人の8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でエルフアーチャーを2体召喚。ベッドの効果で4体同時に矢を放つ! 穿てアロークラウドブラスト」

「いやあああ」

「賢しきエルフを攻撃済み状態にしてターンエンド」

 矢の量が段違いですね。一つ一つが光っているから眩しいです。

 

 レイナ:生命力6→2

 

 レイナさんの9ターン目です。

「ここで引けなきゃ私の負けですね」

「どうしてそうプレッシャーのかかることを……そういうことか。ドロー、チャージ。コスト5でカリス発動。エルデウスでプレイヤーに攻撃」

「学ばない奴だな。フロストシールド発動」

 巨大な雪の結晶がエルデウスの前に立ち塞がりました。

 

 そして巨大な雪の結晶が溶けて、エルデウスを阻むものは無くなります。

「コスト5で魔法カード百王の生誕 フロストシールドの効果を無効化する」

「無効化されたエルデウスの攻撃がそのまま通りますね」

 マントの人:生命力4→0

 

 辛勝ですね。

「よくよく考えてみればバーンがメインになるスタントリックでハイロゥを後生大事に持っていても無駄ですね。ちゃんとレイナさんは成長していました」

「ありがとう。あ、そうだ。カーテンでこの人を縛ります」

 カーテンを使って鮮やかに拘束しましたね。手先が器用です。

 

 マントの人の覆面を剥ぐと看護師さんが出てきました。

「看護師さんだったのか。道理で病院食に睡眠薬を混ぜられるはずだ。上手いことやりましたねえ」

「おバカなブームで破産して自棄を起こしている人が近くにいたなんて恐ろしいですね。それにしても何故カードでお金を稼ごうと思ったのですか?」

 どんな物事にも大抵理由はありますからね。

 

 看護師さんは観念したかのように力を失いました。

「婚約している相手がいたんだ。その人との結婚資金を貯めるためにお金が欲しかった。偶然カードへの投資ブームを知り、失敗して借金したということ」

「その婚約者さんの特徴を教えてもらえませんか?」

 特徴を教えてもらったところ有名な結婚詐欺師と特徴が一致しますね。

 

 高価なカードは結婚詐欺師が管理していたため、二日前全財産ごとカードを持っていかれたそうです。

「救いのない話ですね。貴方の婚約者さんは結婚詐欺師である可能性が高いです」

「そんな……まさか」

「でも安心してください。都合のいいことにその結婚詐欺師は我が財閥が追っていたのです」

 詐欺のマニュアルを作成させて広めることで善行し好感度を稼いでから警察に引き渡そうと考えていたのです。

 

 レイナさんは驚いていますね。

「通報しないのですか?」

「今回の被害者が私だけな以上私が無罪と言ったら無罪なのです。私は嫌な思いしていませんからね。寧ろレイナさんも腕が上がってハッピーハッピーですよ」

「あの、アンドリューは」

 この国だと犯罪はよほどのことがなければ訴えない限り犯罪じゃないんですよね。

 

 だから私が言っていることはそんなに倫理観が破綻しているという訳でもないんですね。

「アンドリューさんはこの人のおかげでぐっすり眠れているので被害者じゃないですね」

「おお……うん……」

 自己中心さに引いていますね。

 

 嫌ってくれると私と本気で決闘してくれますからちょっとだけ好感度を下げておきましょうね。

「普通に凄腕なので私の手に届くところに置いていつでも決闘できるようにしておきたいと思うことの何が悪いんですかね。この人犯罪者でも何でもないのにひどい扱いですよ」

 全くもうです。

 

 後日 私が退院した日に結婚詐欺師を確保できました。良かったですね。

「寝ていてもハプニングに巻き込まれるなんて私もとんだトラブルメーカーですね」

「俺が寝ている間にそんなことがあったのか」

 アンドリューさんに変な目で見られています。こんなことなら真実を明け透けに言わなければ良かったです。



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51

 治療が終わるので退院することとなりました。

「いろんな貴族の人が毎日笑顔で見舞いに来てくれましたねえ」

「しかもみんなして早く治ってと言っていました。ソウコお嬢様って案外慕われているのでは?」

「レイナさんは分かっていませんね」

 レイナさんを私の横にぶっ飛ばします。

 

 案の定足元が爆発しました。あとレイナさんが勢い余って壁にぶつかって気絶してしまいましたね。

「ここで私を遅刻させれば私が退学ってことになりますからね。早く治れって言っていたのはオメエーの顔なんて見たくねえからなるべく退学しろってことですね。わざわざご苦労様なことです」

 デッキを構えた人たちが周りから出て襲ってきます。

 

 人々は液体状の闇に拘束されました。

「先輩方そういうのやめませんか。退学させたいならば堂々と貶めましょうよ」

「お前は哀れな奴だ。そいつが精一杯作った良いところしか見せられていないからそいつを庇ってしまうんだ」

「だったら何が悪いってんだよ。ただ恩返ししてるだけじゃねーかよえーっ」

 助かりましたね。

 

 私は急いで学校へと走ります。距離的にこれが一番早いですからね。

「おいていくなんて酷いですよ、お嬢様」

「あそこからよくも抜け出せませたね」

「弁解もなしか。あそこにはほとんどの人が来てたんで、あそこでどうにかすればなんとかなるんだ」

 おっ好感度が落ちてますねラッキラッキー。

 

 角を曲がると仁王立ちしている女学生がいました。

「待っていたぞ」

「そうですか。ではまた後日」

「また後日……だなんて気の長いことを言わないで欲しいな。私はせっかちなんだ」

 爆発の呪術が込められた札で壁が爆発し、後ろに障害物が出来ます。

 

 この人おかしいですね。私が一番だと思っていましたが、所詮井の中の蛙でした。

「この人の横を抜けていけば……」

「許すと思うのか。私が、そんなことを」

 おかしな女学生の後ろが爆発して壁のがれきが障害物になります。

 

 街中でこんなに爆発させるなんて……

「違法ですよ」

「いいよ。全部お前のせいにするから」

 おかしな女学生はデッキを構えました。

 

 ヘルズの力を使って飛びましたが、爆発の呪いがこもったお札で撃墜されます。

「なんかよくわからないけど爆発で死にかけてる。血反吐も吐いているし私が何もしなくても遅刻するか。それにしても飛んで見えるなんて徹夜しすぎだな」

「遅刻じゃねえんだよなぁ。死なんだよな」

 おかしな女学生はがれきを乗り越えました。

 

 私は怪我しているように見せかけるのをやめます。

「ケガの治りが早い」

「最初から怪我していないんですね」

 がれきを乗り越えて走りました。

 

 学校の門に入ると人がたくさんいました。おっデッキを構えていますね。

「落単と引き換えにここまでやるなんてそんなに私を遅刻させたいんですね」

「単位一つと引き換えにお前をぶっ殺せるなら安い」

 一つの事にここまで集中できる人材がこれだけいるならこの国も安泰ですね。

 

 ここで一つハッタリを効かせますか。

「いいんですかね。私は客観的に見て将来の女王陛下ですよ。こんな真似して家が無事で済むと思わないことです」

「何を言っているんだお前は」

 周りの人は笑っています。おかしくなったのでしょうか。

 

 ……ワライタケでも食べたのでしょうか。ワライタケ食べるなんて貴族の方々はアグレッシブですね。

「面子を考えたら学園中退している奴なんか婚約解消されるに決まっているんだ。それに言ってはなんだけど四男坊が跡を継げる可能性は殆どない。よってお前が女王陛下になる目はない」

「言われてみればそうですね。今ある情報だけで物事を冷静に見ていてとても偉いですよ」   

 けどそれじゃあ未来のことも知っている私には勝てません。

 

 それに冷静になった結果やっていることがこんなことですからね。

「決闘好きの私のために決闘してくださるなんて貴族の方々には頭が下がります。ですがしかしお気持ちだけもらっておきますね。今度という今度はヤバいので」

「ヤバいの知っているからこうしているんだよ」

 まあそうでしょうね。

 

 ここでヘルズの力を使って拘束したら余計難癖付けられそうですし、どうしたものですかね。

「助けてあげましょうか?」

「ラウィラニ様だ。なんで木の上にいるんだろ」

「ありがとうございます。助けてください」

 ラウィラニさんの手をつかみました。

 

 ラウィラニさんの手の力が急になくなって地面に腰を打ち付けます。

「おっと、急に力が抜けてしまいました。いやあルームメイトが急にいなくなるなんて悲しいですねえ。いやあ非常に残念だ」

「わざと力を抜きましたね。狡い真似を……」

 酷いですね。

 

 マズいですね。腰が抜けて脚に力が入らないです。

「今度という今度は本当に退学かもしれませんね。脚に力が入りません」

「嬉しい誤算だ。尻餅の反動で神経が変化して暫く足がマヒしたらしい」

「こんなやり方良くないと思います」

 ヘルズの力でキャスター付きの椅子を作ってすいーと動きました。ぱっと見キャスター付きの椅子を取り出しただけだから難癖も何も言われないでしょう。

 

 ヘルズの力が無ければダメでしたね。

「皆様方ありがとうございました。これにてお開きにしましょう」

「どこに仕込んでいたんだあんな椅子」

「ちくしょう、やられたぜ」

 無事に教室にたどり着きました。

 

 先生かと思いきやおかしな女学生が入ってきました。

「お前をここで気絶させればここで退学だ。何故なら追試の予定はずらせない。悪く思うなよ」

「来ましたね。やはりこれが犯罪じゃないのこの世の法律がおかしいんじゃないでしょうか」

 倫理観がないという奴です。

 

 おかしな女学生はデッキを構えました。ここでこの人をどかさないとどうにもならなさそうですね。

「我が名はハッパ・ボムバ」

「そうですか。弱かったら覚え損なので名前を言わないで欲しかったです」

「いちいち態度が悪いやつだな。だから嫌われるんだ」

 レイナさんもこんなあっさり私のことを嫌ってくれると嬉しいんですけどね。世の中上手くいきませんね。

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4の般若の舞姫を召喚します。そしてそのまま般若の舞姫で攻撃です。そしてターンエンドです」

「効くねえ」

 ハッパ:生命力10→8

 

 ハッパさんの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でニトロDグリセを発動。ターンエンド」

 

 5 魔法 ニトロDグリセ 属性:魔導書

   効果:デッキのニトロDグリセ以外のニトロD魔法を1枚墓地に送って発動できる

      デッキからニトロDグリセ以外のニトロD魔法を2枚手札に加える

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトキキの術を発動、ワンジャを手札に加えます。プレイヤーに攻撃。般若の舞姫で攻撃です。そのままコスト2でワンジャを召喚してターンエンドです」

「アクションストライク。ニトロDヘキサスチール。トリトルエとメタキシレンを手札から捨てて攻撃で受けるダメージを0にする」

「ターンエンドです」

 鉄化して攻撃を防ぎましたね。

 

 6 魔法 ニトロDヘキサスチール 属性:魔導書

   効果:アクションストライク

      コストが8以上になるように手札のニトロD魔法を手札から捨てて発動できる。次の攻撃で受けるダメージを0にする

 

 ハッパさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5でダイナミックダイナマイトブースト発動。5枚ドロー。ターンエンド」

「名前通りダイナミックな効果ですね」

 前フリがないとあまり効果が強くないという制限がありますけどね。

 

 6 魔法 ダイナミックダイナマイトブースト 属性:魔導書

   効果:過剰制約。

      以下の効果から選んで発動できる

      ・自分の墓地のニトロD魔法の種類までドローできる

      ・相手に自分の墓地のニトロD魔法の種類分ダメージを与える

      

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でマスターニンジャを召喚します。効果で忍法具煙玉をサーチしてコスト2で煙玉発動。マスターニンジャに使用します。そのままマスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」

「アクションストライク。マイナーパニック」

 マスターニンジャが地雷を踏んだ。

 

 6 魔法 マイナーパニック 属性:魔導書

   効果:墓地のマイナーパニック以外のニトロD魔法と記された魔法を選んで発動できる。アクションストライク。過剰制約。

      自分の墓地のニトロD魔法が5種類以上あるなら次の相手のターン開始時このカードと選んだカードは墓地に送られた後手札に戻る。

 

 ハッパ:生命力8→3

 ソウコ:生命力10→5

 

 一気に仕掛けてきましたね。豪快な魔法です。

「そういうパターンですかぁ……決まれば強いですねぇ。般若の舞姫でプレイヤーに攻撃です」

「これで互いに次のターンで決着がつく」

 

 ハッパ:生命力3→1

 

 ハッパさんの7ターン目です。

「これでマイナーパニックかダイナミックダイナマイトブーストを引ければ私の勝ちだ……ドロー。チャージ。コスト2でメガン召喚。ターンエンド」

「メガン……聞かないカードですね」

 大きな目をしたモンスターが現れました。

 

 2 モンスター メガン 属性:使い魔

   効果:相手ターン開始時手札を1枚捨てなければならない 

      攻撃力:0 防御力:2 生命力:3

 

 私の7ターン目です。

「ドロー」

「マイナーパニックとダイナミックダイナマイトブーストを効果で回収。そしてダイナミックダイナマイトブーストをメガンの効果で手札から捨てる」

「チャージ」

 マイナーパニックの効果で攻撃すればダイナミックダイナマイトブーストを撃たれて敗北……つまりこのターン中に攻撃せずに相手の生命力を0にしなければいけません。

 

 つまりこの手札とマスターニンジャのサーチ効果一回だけで何とかしないといけないのです。

「考えろ、考えろ。何かいい方法がないか……」

「考えない方がいい。考えれば考えるほど己の負けを悟ってしまうからな」

 一つだけありました。

 

 マスターニンジャの効果であるカードを手札に加えました。

「私が手札に加えたのは忍法サオトサキの術……コスト4で忍法サオトサキの術を発動します。これで私があるカードを引けなければ私の負け、引いたら私の勝ちです。自分の運命力に良く祈っておいてくださいね」

 カードを1枚引きました……これではないですね。

 

 運命のカードを引きました。

「ドロー……来ました。運命を決めるカード。マスターニンジャでプレイヤーに攻撃します」

「自棄を起こしたみたいね。アクションストライク。マイナーパニック、これでお前は終わりよ」

 地雷が爆発しました。

 

 だかしかし地雷は私を焼かず、藁人形を焦がしました。

「コスト5で藁人形の呪術……ここで受けるダメージは次の私のターンまで繰り越されます」

「つまり私の爆発は上手いこと躱された……ってこと」

「全然上手くありませんね……なんとか頑張って強引に掠り傷にしたってだけです」

 なんとかなって良かったです。

 

 ハッパ:生命力1→0

 

 先生方が来る前にすべて終わらせることが出来て良かったですね。

「本当にもう人生ギリギリを生きてますね」

「人生ギリギリを攻めてチキンレースするから面白いと言う人もいますからね。私は違いますけどね」

 私は命が保証されているスリルを楽しみたいタイプの人間ですので。

 

 先生が入ってきて無事にテストが開始されました。

「本来は実技とか色々あるけどそこは本当に保証されているからね。だから知識のみ問うことにしようという学園から通達があったわけだ」

「そうですか」

 楽になるなら別にいいんですけど何か作為的なものを感じますね。

 

 やたら難しいですねこれ。私じゃなかったら落ちてましたよ。

「良い点数取らないと退学なんですって。辛いわね」

 まるで他人事ですね。本当に他人事だから仕方がないのかもしれませんが。

 

 この問題も難しいですね。しかし私にかかれば少し自信がない程度で済むんですけどね。

「なんとか終わりました。これが無理ならもう何もかもダメですね」

「そうか。楽しみにしているよ。君が退学すると困るけど評価は平等にやらせてもらうからね」

「そうでなくては困ります」

 平等にやらないといらぬ反感買いそうですからね。

 

 私は何もかもを終えました。

「私は退学を免れましたよ。ここにお集まりの皆々様方のやったことは無駄というです。休日にわざわざこんなことをするなんて時間の無駄でございましたね」

「一言一言余計なんですよ。だから嫌われるんです。気持ちは分からなくはないけどさ」

「寧ろあれだけされたのですから悪口一つ受け入れてほしいですね。先輩方が陰湿過ぎるんですもの」

 お疲れ様でした。



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52

 レイナさんは先輩方に可愛がられていますね。

「これも私がわざと嫌われ、レイナさんに苦労人ポジションを位置づけたおかげですね」

「恩着せがましい言い方だなぁ」

 肩に手を置かれました。

 

 この声は聞き覚えがありますね。

「一人だけお見舞いに来なかったオットー先輩じゃないですか。お久しぶりですね」

「色々忙しかったから仕方がない。決して忘れていたわけじゃないよ」

 これは忘れていましたね。先輩は比較的情に厚いが世間的には薄情です。

 

 まぁいい事ですね。

「ところでオットー先輩は何の用があって私を訪ねたのでしょうか。もしかしてテスト範囲で分からないことがあるとか……」

「実は行方不明だったあの人を見かけたんだ。実は最近人探しと勉強で忙しくてね」

「あの人ってどなたです?」

「あそこで可愛がられている子に嫌がらせしたお嬢様」

 あの人ですか。名前を覚えていないとピンと来なくて辛いですね。

 

 オットー先輩に真実を言うと傷つくだろうから言いたくないのですが、あの人全てを奪われているんでオットー先輩が見たのは別人なんですよね。

「なんか全てを知っていると言いたげな顔をしているね」

「先輩が見たお嬢様が実は偽物でそのお嬢様を実質殺害した犯人だというところまで知っています」

「噓だよね。事実だったら軽い調子で言い過ぎなんだけど。そういうことばかり言うから嫌われるんだよ」

「冗談に決まっているじゃないですか。すみませんね酷いジョークを言ってしまってすみませんね」

 たとえ嘘でもそういう情報を事前に入れて予め耐性を付けておきます。

 

 モブに厳しめですよねこの世界。

「という訳で今日ちょうど授業が終わっているわけだし、探しに行こうよ」

「門限までに終わるなんて舐めた考えです。でもまあ面白そうですね。やりましょう」

 さっそく行くことにしました。

 

 オットー先輩が見かけた所を探してみることにしました。

「お久しぶりですわ」

「あっさり再会です。出来れば会わずに門限ギリギリまで粘りたかったですね。面倒な事になりました」

「あっ酷い。お見舞いに行かなかったこと根に持ってる」

 事情を知らなかったら薄情な発言でしたね。反省です。

 

 オットー先輩が取り巻きをしていた人の隣には案の定イツがいました。

「聞いてなかったのか一縷の望みの賭けているのか分かりませんが、あの人はもはや貴女の知っている人ではないです」

「何を言っているんだ」

「説明する手間が省けたよ。悔しいことに長い付き合いなんだからな」

 アブゾーブは次々と姿を変形させてスレンダーな姿になりました。

 

 オットー先輩はがくがく震えながら縋るようにデッキケースに触ります。なんとなく本能で真実と自らの死を察したんでしょうね。

「何がジョークだよ。とんだ正直者じゃん」

「あの時はジョークのつもりだったんですよ……」

 恐怖とそれを多い包み隠せるような凄まじく鋭い殺気……どうやら今回私の出る幕ではないですね。

 

 アブゾーブは私を睨み続けています。

「なんだただのザコか。ボクはお前のような人間に興味はない。見逃してやるからとっとと帰れ」

「私や貴女に興味がなくとも私の先輩にはあるんですよね」

「そう言うことならお前はいらないな」

 ニンゲンという見下していることが透けて見える言い方から一転油断もなくなっていますね。これはなにかあり……

 

 咄嗟に心臓を左肘で庇いました。

「クロスボウですか。運よく心臓を狙ってくださったので助かりました。あの鉄串四本束ねて一本にしたような矢で頭を狙われたらのっぺらぼうでしたね」

「さりげなくナナメで受けてちょっとダメージも減ってる。やっぱ暗殺されそうな立場となるとそういうのも慣れるのか」

 ヘルズの力もなければ左腕……下手すれば肩も砕けていましたね。

 

 矢を抜きました。

「しかし左腕に深く刺さってはいる。毒が塗ってあった時のことを考えないなんて頭が悪いね。カードで弾かないなんてらしくない」

「こんなやたら重い矢をカードで弾けるわけないじゃないですか。それに毒だとしてもこの血液の量なら毒ごと出ているので問題ありません」

 マッハドローで傷口を塞ぎつつイツの顔に血をかけて目潰しします。

 

 アブゾーブは襲い掛かってきました。

「よくも呪眼を潰したな。テメーはボクの人生における害虫みたいな存在らしい。殺しておかないと駄目みたいだなぁ」

「貴女を抹殺したいのは私とて同じです。でも貴女無駄にしぶといから抹殺できないんですよ」

 アブゾーブの右肩をマッハパンチで抉ってからイツを気絶させます。

 

 オットー先輩の機嫌が分かりやすく悪くなっていますね。敵は私に打たせてくれと言うことですね。配慮が足りていませんでした。

「大丈夫ですよ。彼女はああ見えて殺し方が分からないくらいには再生力ありますから。カードで倒して悔しがらせて退散させるぐらいしかやり方がないんです」

「抉った右肩がもう治ってるもんね。つまり殺せたら凄いってこと」

 アブゾーブは生贄食ってて不老不死らしいですし、水底に永遠に沈めないと処理できないと思われます。

 

 となると相応しいのはここではなく島公園でしょうか。

「敵討ちも良いでしょうが、こんなところではなくて島公園みたいな綺麗なところでやった方が浮かばれますよ」

「ボクが島公園とやらに行く意味がないよね」

 イツからくすねた数本の鉄串の矢を見せました。

 

 これならば充分な重りになりますから、手足に刺せば浮くことも出来ないでしょう。

「分かりました。貴女がオットー先輩に勝ったら島公園の水底に沈んでやりますよ。私が死ねば貴女はハッピーですよね。なにせ目の上のたんこぶが勝手に消えてくれるのですから」

「ナメた言い方しやがって。お前ごとき殺せないボクだと思っているのか」

 あからさまに喜んでいますがまだ乗り気に見えませんね。

 

 ……これならいけますね。

「それとも貴女はただの人間にすら勝てないと吹聴するつもりなのでしょうか。それじゃ兄弟姉妹に笑われてしまいますね」

「あえて挑発に乗ってあげるね」

「私よりも頭の弱いやつ。こんなのにあの人は……」

 オットー先輩には死体処理の効率などを教えて島公園が非常に効率がいいと言う方便で説得しました。

 

 島公園の関係者以外立ち入り禁止エリアに入ります。

「悪い奴だな」

「良いんですよ。お父様のコネのおかげで一応関係者ですから。不法侵入をするような人物と思われていたことに驚きですね」

 一応育ちは良いということを忘れられつつありますね。

 

 オットー先輩とアブゾーブの決闘が始まりました。

「ボクとしてはこんな毒にも薬にもならないのと戦いたくないんだけど」

「毒そのものにそんなこと言われてもね。お前が殺して変装した人にはそれなりに世話になってたのに……」

 言葉自体は柔らかいのに発音にトゲトゲしいものを感じます。

 

 そうこうしてオットー先輩の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。青邏ナドリスでプレイヤーに攻撃してコスト4で雷魚召喚。ナドリスの効果で1枚ドローしてターンエンド」

「雷魚……不快なカードだ」

 アブゾーブのスタイルを伝えていないのに対策できていますね。

 

 3 モンスター 雷魚 属性:フィッシュ、マーフォーク

   効果:効果でダメージを受ける代わりに1枚ドローしてもよい

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:2

 

 アブゾーブの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でリフレクトアーマー発動。雷魚を対象に取る。そしてスライジュエリーで雷魚に攻撃」

「魔法の壁にぶつかって破壊された……一体何がしたかったんだ」

「まずい、とても危険です」

 雷魚の中にスライジュエリーが入り込んで操りました。

 

 オットー先輩は少し悩んでいますね。

「コントロール奪取か。でもわざわざバーンメタのコントロールを奪ったということはバーンも使うってことか」

「ごちゃごちゃ考えたところでどうせ負けるんだから、考えるだけ無駄だ。洗脳諜報発動。洗脳諜報を魔法の教科書で回収してターンエンド」

 アブゾーブは順調です。

 

 オットー先輩の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でナドリスを召喚して二体のナドリスでプレイヤーに攻撃。そしてコスト4でハンティングマーメイド召喚。2枚ドローしてハンティングマーメイドでプレイヤーに攻撃。1枚ドローしてターンエンド」

「それだけやって手札五枚か。しょっぱいなぁ」

 

 アブゾーブ:生命力10→8

 

 アブゾーブの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。魔法の教科書で洗脳諜報を回収してそのまま発動。コスト5で魔法の雷発動。3ダメージターンエンド」

「たかが3ダメージか」

 アブゾーブにしては少し調子が悪いですね。これがなにか悪い事の予兆でなければよいのですが……

 

 オットー先輩の8ターン目です。

「ドロー。チャージ。二体のナドリスで攻撃。そしてコスト8でマレンティの審神者召喚。2枚ドローしてマレンティの審神者の効果発動。効果によってドローした時デッキから属性:海竜のモンスターを2枚まで手札に加えて自分の手札の枚数以下の属性:海竜のモンスターを場に出す。オルトシナウズを2枚手札に加えて手札が7枚以上だからコスト7のオルトシナウズ召喚。二回効果を発動するからオルトシナウズ二体召喚。ターンエンド」

「強力な上に操っても意味がないカード……ボクそういうカード嫌いだな」

 オットー先輩の手札から強力なモンスターが飛び出します。

 

 アブゾーブの8ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でスライジュエリーモルガナイト召喚。スライジュエリー復活。コスト4でマッドクロック召喚。スライジュエリーを攻撃済み状態にしてオルトシナウズ一体を次のターン攻撃可能状態に出来なくする」

「ちょっとだけ面倒だなぁ」

「魔法の教科書で魔法の雷を手札に加えてターンエンド」

 上手い使い方ですね。これで生き残りやすくなりました。

 

 オットー先輩の9ターン目です。

「ドロー。チャージ。ハンティングマーメイドでスライジュエリーに攻撃。ハンティングマーメイドは操られるけどグリッピアとシャスタザウラーを手札に加えてオルトシナウズ召喚。オルトシナウズでプレイヤーに攻撃。これで残り生命力は4、コスト6でグリッピアを召喚して攻撃、これでトドメ!」

 イルカのような竜がアブゾーブの生命力を削り取り、見事勝利した……

 

 はずでした。

「アクションストライク。裏切りへの怒り」

 グリッピアは雷魚に噛みついていました。

 

 3 魔法 裏切りへの怒り 属性:魔導書

   効果:元々のコントローラーが相手のモンスターが自分の場にあるならこのカードはアクションストライクを得る

      1度だけ自分が受けるダメージは代わりに元々のコントローラーが相手のモンスターである自分のモンスター1体が受ける

 

「ターン……エンド」

「残念だったね。ボクを殺せなかったわけだ。この決闘ボクの勝ちだよ」

「ハッタリを……俄然有利なのは私の方なんだけど」

 ここから逆転できるプランがあるんですかね。

 

 アブゾーブの9ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト3でスライジュエリー召喚。マッドクロックの効果によりスライジュエリーを攻撃済状態にし、オルトシナウズの行動を封印。コスト5で魔法の雷、ハンティングマーメイドでプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。ドローガード」

「墓地の裏切りへの怒りを手札に加えてターンエンド」

「たかが2回攻撃を無効化出来るだけじゃない」

 強がってはいますが焦りを感じていますね。

 

 オットー:生命力7→4

 

 オットー先輩の10ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でカイリュウブラスター武装。手札のグリッピアとシャスタザウラーを捨ててスライジュエリー破壊。オルトシナウズでプレイヤーに攻撃」

「身代わりの怒り、その攻撃はハンティングマーメイドが受ける」

 無駄なあがきですね。

 

 グリッピアはアブゾーブの生命力を0にして体を弾き飛ばしました。一瞬すさまじい闘気を出しましたね。

「湖に沈んだ……これでアイツも死んだだろう」

「ダメですよ徹底的にやらないと」

 浮かびそうになっているアブゾーブに矢を突き刺して浮かばなくなるようにしました。

 

 湖の掃除をされない限り100年は浮かばない……私が生きている間は邪魔になりませんね。

「でも敵討ちってのは気分が悪いね。それに気の所為だったけど死ぬかと思ったし勝ててなかったらふたりとも無事じゃなかった」

「そうですね」

 オットー先輩は怒りとアドレナリンで麻痺していた恐怖を体感しているように見えます。そこのところすっぽ抜けてるから私はイカれているんですねぇ。



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52

 ここ一か月逆に平和ですねぇ。

「平和と言うのは良くないですね。なんか日に日に衰えている気がしますから」

「そうか病気だな。一度お医者さんに診てもらったらいいよ」

「不治の病です。この病気のせいで人生に悪い影響を及ぼしているのになぜか同情されないんですよね。私は薄幸の美少女ですのに」

「性格は歪んでいるから嫌われていても仕方がないと思うよ。その上性格が醜悪だし」

 通りすがりで私のことよく知らないくせによくもまぁボロクソに貶してくれたもんですね。

 

 そしてなんだかんだ授業中です。

「カードメタルをカードに加工をしたとき、たまに通常の物や偽物とも違うイラストになる現象を何というか」

「エシカ・エタ現象でございます。因みに偽造を行う場合エシカ・エタ現象は起こらないことが分かっています」

「うむ、正解だ」

 不思議なことに起こる条件は分かっていないのに起こらない条件が分かっているんですよね。本当分からないです。

 

 鳥が囀り花は咲きみだれこの世は絵に書いたような平和(退屈)。私は社会不適合者すぎますね。

「学校にテロリストが来て私がそれを倒すっていう良くある暇つぶしの妄想……同じようなことしているのでやや陳腐化している節はありますね」

 改めて考えると私の人生は刺激的ですが、悲しきかな喉元過ぎれば熱さを忘れるという人の愚かな習性。

 

 いきなり窓ガラスが割れました。ヘルズの力で咄嗟に防いだお陰で顔中血まみれになるだけですみましたね。

「どうも ガリオンナンバーです。皆様には死んでもらおうか」

「危なっ。なんてことをするのですか」

「あわわ。どういうことなんだぁっ」

 先生に飛んできた爆発の呪術の札をヘルズの力で防ぎました。

 

 しかしガリオンナンバーの皆さんはいったい何を考えているのでしょうか。

「あなたたちの目的を答えなさい」

「新たなるカード デュオカードの実験の為だ。お前たちには死んでもらおう」

 デュオカード……聞いたことがあります。『プライムディスティニー』の次回作の目玉で二つのユナイツカードに記された属性を持つカードだと。要するにヘルズとヘブンズで兼用できるゴッズみたいな感じですね。

 

 今回は色々やりすぎて次回作のイベントが少し早めに引き出されてしまったのですかね。元凶とはいえこの世界滅茶苦茶にし過ぎて少し申し訳ないですね。

「あと100年くらい大人しくしていて欲しいんですけど」

「うるさい。そんなに待てるか」

「ケチですねー。それに実験ならこんなところではなくてルノスチで聖女様ブッ倒した方が良いですよ。あの人実力派ですから」

 聖女サマはなんだかんだ私に勝ち逃げしていましたし襲われても大丈夫でしょう。

 

 ガリオンナンバーの一人に殴られました。

「おめぇ以外ぶっ殺してやるぞ。おめぇは営利誘拐した後総帥ガリオンに捧げてやる。ふざけてねーでおとなしくしてけろ」

「ふざけてるのはそっちでしょ」

 私を殴った人はレイナさんの手刀を首に受けて気絶しました。

 

 気持ちは分からんでもないですけどね。

「テメェ何をするんだ」

「襲撃者の撃退ですけど。学び舎にカチコミかける方が何をするんだって感じですよね」

「ガキのくせにナマ言ってんじゃね〜。テメーは殺すぜえ」

 ガリオンナンバーの一人はデッキケースを構えました。

 

 レイナさんとガリオンナンバーの一人の決闘が始まりました。

「俺はガリオンナンバー総帥 ガリオン。聖母 アンジュラーナの正当なる後継者。アンジュラーナを倒したソウコ・メッセルを倒すためにこの4年力を蓄えていた」

「本当にすみませんでした」

 アンジュラーナさんですか。四方に迷惑かけているので心当たりはないですね。

 

 ガリオンの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で絡繰忍者召喚。絡繰忍者でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「なーんだ。ただの貫通持ちのモンスターじゃない」

「そうか。じゃあここがお前の限界だな。可哀想に」

 機械の忍者が現れました。

 

 4 モンスター 絡繰忍者 属性:メカニカル ニンジャ

   効果:貫通

   攻撃力:2 防御力:2 ライフ:2

 

 私は体格の大きな人に投げられました。

「おらは大柄のビッグ ガリオン様に次ぐ実力者だ。やると言ったらやるぞ」

 体格の大きな人は先生の背骨を握り折ります。

 

 決闘が始まり、大柄のビッグの4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でエンシェントエルフ召喚だ。ターンエンドだぞ」

「魔法カードをコスト加速カードに出来るのですね」

 

 4 モンスター エンシェントエルフ 属性:魔法使い フェアリー

   効果:自分が魔法を発動したとき墓地に送られる代わりにコストゾーンに使用済み状態で送られる

   攻撃力:0 防御力:0 ライフ:4

 

 私の4ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で般若の舞姫を召喚し、そのまま攻撃。ターンエンド。何のことはないただのザコですね」

「アクションストライク。マジックシールドだぞ」

 防がれてしまいましたか。

 

 しかし魔法は基本墓地に落ちたものを利用するのがキモなのにセルフでそれを封じるなんて実は弱いですね。

「ザコと言った。ガリオン様に感謝するんだぞ。そうでなかったらおめぇの頭掴んで背骨を引っこ抜いていたんだ」

「はいはいガリオン様すごいすごい。私に勝てなかったザコ信仰しているのが特に凄いですね」

 覚えていませんが、怒らせてプレイングを雑にしましょう。煽り得です。

 

 大柄のビッグの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト5で魔法の雷発動。ターンエンドだぞ」

「3ダメージ与えて1加速ですか。しょっぱい真似しますね。これが二番手だなんてガリオンナンバーの層は薄いです」

「好き放題言ってくるんだぞ。後悔すると良いんだ」

 

 ソウコ:生命力10→7

 

 私の5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で忍法サオトサキの術を発動。マスターニンジャを手札に加え、般若の舞姫でプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「2ダメージ与えて1加速だなんてしょっぱい真似だ。やる気なさそうだぞ」

 大柄のビッグ:生命力10→8

 

 大柄のビッグの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で二枚速発動だ。そしてコスト4で魔法の矢発動だぞ。ターンエンドだ」

「着々とコストを加速しつつ生命力を削っていますね。これは侮れません」

 

 ソウコ:生命力7→6

 

 4 魔法 二枚速 属性:魔導書

   効果:2枚ドローする

 

 4 魔法 魔法の矢 属性:魔導書

   効果:相手プレイヤーに1ダメージを与える

 

 私の6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コストをせこせこ溜めていましたがとうとう終わりが来たわけです。コスト5でマスターニンジャ召喚。そしてデッキから分身の術をサーチします。コスト2でマスターニンジャに分身の術を発動し、マスターニンジャでプレイヤーに攻撃します」

「ぐぼぉ!」

 大柄のビッグは殴られてふらつきました。

 

 マジックシールドを使われたとしても残りの生命力は3……削り切れます。

「マスターニンジャでプレイヤーに攻撃します。これでトドメ行きますよ」

「リアクションストライク。無敵竜の加護発動」

「防がれましたか。ターンエンドです」

 実質デュオカード専用カードですね。名前的に竜化専用カードなのでしょうが。

 

 4 魔法 無敵竜の加護 属性:魔導書

   効果:自分の場にマジカルランドのユナイツカードに記されていない属性を持つモンスターが存在する場合のみ発動できる。

      アクションストライク。次の攻撃で受けるダメージを0にする

 

 大柄のビッグの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。ぐぬぬ……ガリオン様に止められているが仕方がねぇぞ。オラが切り札コスト4で生贄竜召喚だ」

 腹に魔法陣が刻まれた青い竜が現れました。

 

 4 モンスター 生贄竜 属性:魔法使い ドラゴン

   効果:自分のターンの終了時自分は1ダメージを受ける

   攻撃力:5 防御力:1 ライフ:1

 

 魔導竜の咆哮が私を焼きましたが生命力は1残っています。

「さっきの言葉そのまんまお返しするぞ。とうとう終わりが来たという訳だ」

「分かっていないですね。残りの生命力は0でなければ1でも100でも同じなのですよ」

 互いに一撃当てれば終わりの真剣勝負……面白いですね。

 

 ソウコ:生命力6→1

 

 私の7ターン目です。

「ドロー。チャージ。残り生命力2……狩るのは楽勝ですね。コスト3で妖刀ムラマサ武装。そしてマスターニンジャで煙玉を手札に加え、コスト2で煙玉発動。マスターニンジャに使用します。マスターニンジャで相手プレイヤーに攻撃です」

「ぬおおおお。リアクション。コスト2で大地詠唱発動だぞ。効果で魔法の雷を手札に加えてコスト5で唱える」

 大地詠唱……知らないカードですね。

 

 2 魔法 大地詠唱 属性:魔導書

   効果:リアクション。自分のコストゾーンの魔法カードを1枚手札に加える。その後この効果で手札に加えた魔法をコストを支払って発動できる

 

 ソウコ:生命力1→0

 

 負けました……

「大柄のビッグ……自分ターンに大地詠唱を使って魔法の矢を唱えれば倒せるはずなのに、わざわざリアクションで使って魔法の雷を唱えましたね。なぜですか」

「それはそうした方がおめぇが油断するからだ。勝ちそうな相手をそのままブッ倒した方が気持ちがいいんだぞ」

「そうですか。見た目と違って陰湿なサディストですね。そして常に冷静だったと言うわけですか」

 立ち上がる力もありませんし、レイナさんの試合を観戦しますか。

 

 ガリオンの10ターン目です。

「まずいな。相手の生命力8なのに俺の生命力は1だ。これは俺の負けかもしれねぇなぁ。カードの神様に選ばれてるなんてすげえ」

「欺瞞よ」

「ガリオン様の悪い癖だ。最初に攻撃以降はわざと相手の生命力を削らず、生命力が1になったら逆転するんだぞ」

 ガリオンの場には数体のモンスターが存在していますが、レイナさんの場には一体のモンスターも存在しませんでした。

 

 なるほど。ガリオンはレイナさんのモンスターを攻撃して除去していたのですね。

「これはデッキの中のモンスターをあと一体でも出されたら負けちまうってことでターンを終える。あの実力だけはあるソウコ・メッセルに勝ち越してるってのは確からしいな」

 レイナさんの腕が光りました。

 

 レイナさんの11ターン目です。 

「ドロー。チャージ。コスト7でエルデウス召喚。墓地の伝説の剣復活。そしてそのままプレイヤーに攻撃」

「アクションストライク。忍法 空蝉の術」

「スペルコンディション。百王の生誕、空蝉の術を無効化。なんとか勝てて良かった」

「リアクション。真なる藁人形の呪術。戦闘ダメージは相手が受ける」

 

 10 魔法 真なる藁人形の呪術 属性:アヤカシ

   効果:次の攻撃で受けるダメージは相手プレイヤーが受ける

 

 伝説の剣がガリオンに向かっています。

「アクションストライク。画竜点睛」

「ターンエンド」

 

 4 魔法 画竜点睛 属性:ニンジャ

   効果:自分の場にサムライズのユナイツカードに記されていない属性を持つモンスターが存在する場合のみ発動できる。

      アクションストライク。次の攻撃で受けるダメージを0にする

 

 ガリオンの11ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト6でおぞましきグレムリン召喚してプレイヤーに攻撃。そしてもう一体のおぞましきグレムリンでプレイヤーに攻撃してトドメ」

 

 6 モンスター おぞましきグレムリン 属性:アヤカシ メカニカル

   効果:貫通

   攻撃力:4 防御力:2 ライフ:1

 

 レイナ:生命力8→0

 

 負けたレイナさんの手から攻撃無効化カード(天使のウィンク)が落ちました。心が折れましたね。

「常人には耐えられなかったか。カードの神は人を見る目がなかったわけだ」

「良いことじゃないですか。あんたらや私のようなのとは違って健全です」

 このゲスが。

 

 ガリオンは私の髪の毛を掴みました。

「てめえは俺達が酷い目にあわす。ビッグが営利誘拐って言ったそうだが、あれはアイツなりの安心させるためのジョークだ。拷問してやるよ」

「そんなにアンジュラーナとやらを倒したのが気に食わないのですか」

「アンジュラーナはお前が倒した盗賊の親玉だ。それだけ分かれば充分だろ」

「あの人そんな名前なんですね。あの人のことはちゃんと覚えていますから、最初からそう言って欲しかったです」

 名前を初めて知りました。

 

 教室に電車が突っ込んで来て轟音を建てます。

「そこの野次馬の人たちはなんで自分が無関係だと思っているのかにゃ? お前たちも人質にするに決まっているんだにゃ」

 クラスメイトの人たちは拘束されて突っ込んできた電車に積み込まれました。

 

 大柄のビッグはレイナさんを弾き飛ばしました。

「平民に価値はないから退くんだぞ」

「何をしているんですか」

 レイナさんが平民であることも知っているなんてどんな情報収集能力をしているのでしょうか。恐ろしい組織ですね



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最終回

投稿していたと思っていたんですよ。本当にすみませんでした


 どうしたものですかね。

「拠点は絶えず動いているから脱出は難しいですね」

「呪いによりレールを敷かずとも動き続ける列車の拠点を作り出したのだぞ。さすがガリオン様だぞ」

「そんなこと出来るんならまともに働いたほうが良いのでは」

 そんなこと出来るの一部のエリートぐらいなんですよね。

 

 猫耳をつけた人にデコピンされました。

「ガリオン様はお前らみたいな息するだけで生きてるようなのとは違うんだにゃ」

「あまりモノを知らないくせにいっちょ前に賢いと思い込んでそうですよね」

 私は人質なんで命の危険はないです。安全地帯から煽らせてもらいましょうね。

 

 列車が止まりました。ヘルズの力で手を守護するのと同時に硬くします。

「皆様この隙に逃げてください」

「強引なやり方だにゃ。でもそういうの嫌いじゃないにゃ」

「そうか。俺はお前らのこと大嫌いだぜ」

 マッハパンチで壁に小さな穴を開けまして、穴を無理やり広げてこじ開けました。

 

 何故いきなり止まったのでしょうか。

「侵入者め、いつの間に入ってきたんだ!?」

「お嬢様 お久しぶりですね。連れてきましたよ。用があるみたいなのでデカブツの操作権を一時的に奪わせてもらいました」

「メイドさんもうちょい優しく運んで~ あうっ」

 レイナさんがメイドさんに担がれながら入ってきました。

 

 床からアンドリューと縛られているガリオンが出てきます。

「操縦席のレバー弄りまくってたらなんとかなった」

「自動操縦にしておくんだったぜ」

 レイナさんはガリオンにビビっています。心が折れたままの人を連れてくるなんて何を考えているんですかね。

 

 レイナさんの震える腕をがっしり掴みます。

「相手を必要以上に小さく見たり大きく見たりするのは恐怖の元ですよ。あれは逮捕されている盗賊を神のようにあがめていて、大したことがないんです。マインドですマインド」

「マインドってなんですか。そんな気楽に考えないでくださいよ」

「そうですか。その割に顔は緩んでますけどね。まあ気楽になったなら良かったです」

 自分でも何を言っているのか理解できませんが、レイナさんには是非ガリオンを何とかしてほしいので細かいこと考えないように言いくるめましょう。

 

 アンドリューは何かを察したようにガリオンを解放しました。気が効く人ですね。

「情けをかけるとはな。せっかく拘束したのに開放するなんざバカだ」

「……俺の幼馴染の心の澱を消すために開放しただけだ」

「女のために欲を張ったってことか。長生きしないぜお前」

 それでも18歳で死ぬ私より長いでしょうけど。

 

 私は大柄のビッグを何とかしますか。

「そこのお魚臭い侵入者はこの魔猫 クラムラの餌食になるにゃ」

「俺のユナイツカード見抜かれてら。正直ぎょっとしたよ」

 メイドさんは多くの構成員を圧倒的な身体能力でシメています。

 

 私は大柄のビッグを追い詰めました。

「残り生命力は1で追い詰めたように見えますが、前回はこの状況で負けましたからね」

「よく覚えていて偉いぞ」

「おちょくってますね。こんな時にバーンがあれば嬉しいのですが」

 私は手札の藁人形の呪術を見せつけます。

 

 大柄のビッグの顔は絶望に染まりました。

「妖刀ムラマサでブッタ斬ります」

「ぐああああ」

「へっあまり大したことなかったですね」

「残り生命力1になっておいて何を言っているんだ。強がりは良くないぞ」

 本当はボロボロだけど虚勢を張るしかないんですね。

 

 大柄のビッグ:生命力1→0

 

 危なかったですね。おっアンドリューの決闘も終わったみたいです。

「なかなかやるにゃ。負けてしまったにゃ」

「危なかった。最初に手加減されてなかったら負けてた」

「イヤミなやつだにゃ。私は最初から最後まで全力だったにゃ」

 あとはレイナさんですね。

 

 ガリオンの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。変化獣遁 ナンナンジャの効果発動。絡繰忍者に変化する。コスト4で忍法 クローン・ジツ発動。絡繰忍者を選んで2枚まで手札に加える。ターンエンド」

「マジカルワールドでも使えるやつですね」

 効果的には入れても意味ないので使えませんが。

 

 2 モンスター 変化獣遁 ナンナンジャ 属性:ニンジャ 使い魔

   効果:1ターンに1度発動できる。ターン終了時まで好きなモンスターの名前を得る

   攻撃力:1 防御力:2 ライフ:1

 

 4 魔法 忍法 クローン・ジツ 属性:ニンジャ 魔導書

   効果:自分の場の攻撃力2以下の属性:ニンジャを持つモンスターを選ぶ

      選んだモンスターと同じ名前のモンスターをデッキから2枚まで手札に加える

 

 レイナさんの5ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4でプロメテウス・プログラム召喚。そしてコスト1で翼の使徒を召喚してプレイヤーに攻撃してターンエンド」

「前みたいに取り返しがつかずに負けてしまうかもしれないんだぜ、そんなちまちま生命力を削っていいのか?」

「前みたいな感じならまだ大丈夫。生命力を1削っただけで逆転されることはない」

 生命力がギリギリになって逆転する性癖がある以上この場合チマチマ削ることが正解なんですよね。

 

 ガリオンの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト2でクノイチ、コスト4で絡繰忍者召喚。絡繰忍者でプレイヤーに攻撃してターンエンド。これで次のターン勝ちかな」

「ハッタリでもなさそうですね。分身の術が二枚あればギリギリいけるかもしれませんから」

「こんな時に相手の手札を捨てることが出来たらなぁ」

『プライムディスティニー』って他のカードゲームにありがちなハンデスが1枚しかないんですよね。

 

 レイナさんの6ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で伝説の剣召喚。伝説の剣でプレイヤーに攻撃。そしてコスト3でプリンシパリティズを召喚してターンエンド」

「順調ですね」

「でもここからが怖いんだ。これはガリオン様のいつもの勝ちパターンだぞ」

 確かにそうですね。気が抜けません。

 

 ガリオン:生命力9→4

 

 ガリオンの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト4で絡繰忍者を召喚。さらにコスト2で絡繰忍者に分身の術を発動。絡繰忍者でプレイヤーに攻撃、これでトドメだ」

「アクションストライク。ハイロゥ」

「トドメを刺せなくなったのは残念だが、このデカブツは絡繰忍者共で攻め立てれば倒せるな。1ターン生き永らえるためにそこまでするなんて惨めだ」

 絡繰忍者の3回目の攻撃をプリンシパリティズが肉壁になることで防ぎました。

 

 レイナさんの7ターン目です。

「ドロー。チャージ。コスト8でセラフ召喚。セラフでプレイヤーに攻撃。これでトドメ」

「アクションストライク。忍魔法 ミラージュ。クノイチを破壊する」

 

 4 魔法 忍魔法 ミラージュ 属性:ニンジャ 魔導書

   効果:アクションストライク。自分の場の攻撃力2以下のモンスターを破壊する

      その後攻撃を無効化して1枚ドローする

 

「うまい具合に避けた……なんて思わないでね」

「このシチュエーション なぁんか見覚えがありますねぇ」

「そういうこと。スペルコンディション、百王の生誕。忍魔法 ミラージュを無効化する」

 セラフの火がガリオンを焼きました。

 

 ガリオンは力なく倒れます。

「もう俺にはどうすることもできない……がやることはある」

 ガリオンは懐から爆弾を取り出します。そしてそのまま私に爆弾が投げつけられました。咄嗟にヘルズの力で防ごうとしましたが、衝撃を防ぎきれず意識が切れそうになるのを感じました。

 

 数日後 私は喪失感と人生にまとわりついていた憑き物がとれた高揚感を味わっていましたわ。

「それにしても今日も紅茶が美味しいですわ」

「美味い紅茶は不味い珈琲よりマズいって言いそうな性格してるくせに」

「私そこまで酷い性格ではありませんの」

 列車事故以降8歳以降の記憶がかなりあやふやなので、以前はそんなだったのかもしれませんわ。

 

 それにしても私に馴れ馴れしく話しかけている人は誰なんでしょう。

「ところで貴女の名前をうかがっても……」

「オットー・シゴだけど。君にはよく勉強を教えていたよ」

「私によく勉強を教わっていたシゴ先輩ですね。よろしくお願いいたします」

「ちゃんと覚えているのね」

 シゴ先輩は何か違うなあという顔をしていますわ。

 

 記憶がうすぼんやりする前の私について調べれば調べるうちによく分からなくなっていますわ。

「一人の人間がやったこととは思えませんわね。中途半端な記憶によると自分のことしか考えず計画性皆無人間のクズなのは間違いなさそうですけどよくわかりませんわ」

 記憶が戻らない方がいいのはそうなんですけど、それはそれとして悪行の責任として知らなければならないのは確かなのです。

 

 図書室で新聞を調べていますと誰かいましたわ。

「あ……こんにちは。ソウコお嬢様また会いましたね」

「またと言われましても初対面……いやどこかでお会いした……顔と名前が一致していないという感じですわね」

「名前覚えているならいいや。私はレイナ 再びよろしくお願い致します」

「貴女がレイナさん、顔と名前が一致しましたね」

 私なんかと友人だった見る目のない人ですわね。おっと、半端に残っていたせいで性格の悪さが影響されましたわ。

 

 レイナさんは私の手を握りました。

「単位が足りなくなってテストをすることになったら、また私に相談してほしいです」

「もうそんな惨めなことはないと誓いますわ。というか前の私は頭良いのにバカですわね」

「そうですね。それに皆に悪者扱いされていたし、自分のことを悪し様に言い過ぎな節もありました。でも間違いなく私にとっては恩人でしたよ」

 そりゃあ面と向かって文句は言えませんわ。なにせ学費全額負担していますので。

 

 寮の部屋に忘れ物をしていたことを思い出し、取りに行きましたわ。

「こうして会うのも久しぶり、今の君は毒気が無くて素敵だね」

「貴女も美男子顔ですわね。しかし私は王子様一筋ですので……その、残念ですわね」

「ありがたいことになんか消えそうな雰囲気するね」

 何を考えているんでしょうねこの人。私には理解できませんわ。

 

 

 

 図書室から出ると愛しの王子様がいましたわ。

「王子様、何故ここにいらっしゃるのですか? いや別に会いたくなかったとかではなく、その」

「ソウコ嬢に一目会いたかったから……ですかね。色々忙しくて会いに行けなくてすみませんでした」

「私はこうして会いに来てくれただけで嬉しいのですわ。私としましては女性の方から殿方に会いに行くのははしたないと思っていまして……なかなか会えなくて」

 久しぶりですわね。嬉しくてあまり言葉が出ませんわね。

 

 トゥスル王子様は私をじっくり見つめてきましたわ。これが人生で最高の瞬間だと思いますわね。

「ソウコお嬢様も変わりましたね。前みたいなアグレッシブさがなくなりました。実は私のせいでアグレッシブさが増してしまったので少し責任を感じていてですね……だから今更」

「昔のことは気にしない、今以降のことが大切なのですわ」

 実際私は気にしていませんわ。寧ろトゥスル王子様に色々弄られたとなると、下品ながらいやらしい妄想をしてしまいますわ。

 

 度重なる調査の結果以前の私は無茶苦茶やっていることが分かりましたわ。

「レディのように慎み深く生きるしかないですわね。以前の私と比べますとマナーがない人でももう少しお上品でしたわね」

「お前は本当に清く正しく生きられるのかな」

 スカートの短い服を着た人が私の前に現れました。

 

 手がすり抜けますわ。これって幻覚ですわね。

「ボクはアブゾーブ 君に沈められた君の人生の澱」

「私そんな物騒なことしていたのですわね。本当に申し訳ございませんでしたわ。どの口がと言われるかもしれませんが、私の記憶によると倫理観がないだとか」

「謝って許されることじゃない。お前のやったことは問題の先送りでしかない」

 問題の先送り……これはよくありませんわね。

 

 夜になって寝ることにしました。

「こんにちは」

「貴女は何者ですか?」

「貴女に四年間纏わりついて性格を大幅改変した存在だよ! 良かったね。元来の性格の悪いところも私に押し付けることが出来て」

「イヤミな言い方ですわね」

 ワガママだった私をただの悪人に仕立て上げた人のくせに嫌ですわね。

 

 悪霊は私に近づいてきました。

「このくらい言ってもいいよね。君が私を乗っ取り返せていたのは王子様への恋が溢れていた時だけだし、結果ほとんど常に個性の薄い君に変わるのは大変だったんだから」

「こういう悪霊が憑いていたんですね。それは嫌われても仕方が無いです」

 これからは悪霊の尻拭いにして生きるしかありませんわね。



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