ゾンビゲー転生サバイバル百合モノ (バルロjp)
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整理

7daysやったことないです


「NEW!ZOMBIES WORLD!」

 

とてもシンプルでふざけているタイトルだが、このゲームは界隈で大絶賛を受けた程に完成さた人気なゲームだったし、事実いくつかの賞を受賞していた。

 

NZW(公式略称)はパソコン、プラスステーション5、6などに展開された3Dアクションゲームで、ゾンビウィルスで滅びた世界を舞台としたオフラインorマルチで遊べる広大なオープンワールドサバイバルモノだ。ストーリ自体はあるものの、無視できるので枷にはならない。

 

ステータス・スキル性で、体を強くし装備を集めて己を強化。その他強化要素としてウィルス変異、サイバネ化あり。資源を集め、拠点を作り、ゾンビや変異動物からの襲撃を防ぎ、ひたすら生きていくのを目的とする。

 

とにかく自由度が高く、なんだって出来るのが本作のウリ。ユーザーの声をしっかり聴いていて、コミュニティで「こういうの欲しいよなw」と話してたら次のアプデで追加されるほどできない事を潰してくる。

そのボリュームもあってWiki泣かせだ。もちろん面白さ故、多くの有志が情報を集め書き連ねていったが、Wikiの更新より本家の更新の方が早いレベルだった。

 

そしてグラフィックもいい。大容量を持ってくだけあって迫真のリアリティさや荒廃したなかでの美しさが良く表現されている。当然そのグラフィックの良さはゾンビなどにも反映されているが、設定で落とす、またはマイルド表現も可なのでこれには心臓が弱い人にもニッコリ。たまーに出てくるNPCも作り込まれているので皆ニッコリ。ユニークNPCは可愛い女の子が多く、この項目だけはアプデされた当日でWikiに全部の情報が載った。

 

 

さてさて、ここまではいわゆるライトな層に向けた情報だ。それだけじゃあ絶賛は受けても大絶賛にはならない。

 

本作が界隈で大人気になった理由……。それはずばり、難易度だ。

 

オフラインで? 楽しんで! 友達とマルチで? そりゃあいい!

次は公式鯖に? はっはっはっ……地獄へようこそ。

 

公式鯖だけは、ガチ層を取り入れるためかはたまた運営の趣味か。一週間生きるのですら大変なレベルで難易度があがる。

物資は少なく、ゾンビは数も強さも増え、敵NPCは銃火器を持ち(これは奪えるので玄人からすればありがたい)、最初期スキルポイントも減少。ライト層はもうついてこれない。

そしてこのゲーム、ゾンビアポカリプスものだけあって、当然の如くPKが存在する。そこでルール無用の公式鯖に行くとどうなるか。

 

もちろん殺される。

 

この世界は先に降りれば降りる程強くなれる。銃火器に始まり、スキルの差、地形把握の差、人体改造の差、各種アイテムの差……。本当に気を付けなければいけないのは、まだプログラムされた動きをするゾンビ共より、純粋な悪意を持った同じ人間(プレイヤー)だ。

奴らはアイテムのために、競争相手を減らすために、または純粋な殺人欲求から生まれ降りたプレイヤーを殺そうとしてくる。

 

物資を集めて。体を強化して。いつ裏切るかわからないプレイヤーと手を取り合ってゾンビと立ち向かう。そしてその上でワールド全体に発生する災害に抵抗する。

その難易度故にNZWは大成功を収めたのだ。

 

 

 

で、なんで私が急にそんなNZWについて説明してるかって理由なんだけど……。

 

考え込むために壁に背中を預け腕組みしていた状態から瞼を上げる。

 

温かみなど一切感じさせないコンクリート壁。最低限の機能性のみを備えた寝袋。保存性と栄養のみを主張しているエネルギーバーの空き箱。そして、外に繋がるであろう、厳重に閉められた鉄製のハッチ。

 

えーつまりだ。

 

 

これ、NZWの初期スタート地点なんですよ。

 

 

 

頭を抱えたい。頭を抱えたいし膝も抱えて何かも拒否したい。本当にこれは現実なんだろうか? 現実なんだろうねそうだろうね。嗚呼、私は普通にいつも通り、新しい公式鯖を選んで遊ぼうと思っただけなのに……。

 

私の腕には血が流れていた。いまだってじくじくと痛む。それはこれが夢でなく現実だということを示していた。人類はもうそろそろ痛み以外で夢かどうか判別する手段を持った方がいいと思う。

 

この傷は私が付けた。いや自傷癖があるとかじゃなくて、ほら今言った痛みで夢かどうか判別するためにね?

NZWの初期スタート地点は、このシェルターの中で固定だ。そしてシェルターの中にはいくつかスタートアイテムがあるが、そこにナイフが確定である。具体的には寝袋の下だ。寝心地悪そうだし、ナイフが夢に出てきそう。

で、そのナイフでちょちょいっとね? 焦りと現実逃避と謎の高揚で何も考えずにやったけど、普通に止めとくべきだった。正常な判断ができない時に行動するのは止めよう! お姉さんとの約束だぞ!

 

はぁ。ほんと、まっじ……。

 

私の顔はさっきから百面相だ。笑って泣きそうになって焦って怒って不安になって、とっても複雑な顔をしていることだろう。

でもぶっちゃけると、私は焦燥や不安よりは興奮の方が勝っていた。えっとですね。私NZW大好きなんですよ。

どんくらい大好きかって言うと、公式鯖常駐でそこそこ有名で全イベント出席してるぐらいです。高校の単位と成績は代わりに死んだ。

 

普通に考えてほしい。そのぐらいハマってるゲーム連れてこられて、喜ばない奴いるの?

 

リアルの事は気にしなくてもいい。死んで元の世界に戻れるかは不明だが、どうせ一人ぼっちだし。

 

もちろん、NZWは「住む」事を目的とするのならば、とても向いているとは言えない世界だ。なんたって「住む」より「生きる」事が目標のゲームだから。元の身体でこの世界に来ていたらそりゃ絶望していただろう。

 

しかし、この体は私の身体じゃない。シミ一つない白い肌。少しボサボサとしている灰色のウルフヘアー。自分の身体より少し盛った胸。

リアルの私とは似つかない、この美少女は、私がNZWで使っていたカルシアの姿そのものだ。

 

生身で飛ばされたんじゃなく、キャラとして飛ばされたのなら希望はある。というか私のカルシアは最強なんだぞ。ウチの娘に無残な姿を晒すわけにはいかない。

まぁこのキャラも30回近く死なせて転生させてるんだけど。

 

おっと、そうだったそうだった。言い忘れてたけど、NZWは転生システムがある。公式鯖はたまーに世界が滅んで全員やり直しになる(阻止しようと思えば阻止できる。ただしプレーヤーの団結が必要)。だから一つの世界で永遠と生き続けるのは実質的に不可能なのだが、それだと経験や知識は引き継げるとしても萎えてしまうプレイヤーは出てくる。新しくスタートはハリがあるが、築き上げたモノが崩れるわけだしね。

 

そこで出てくるのが転生ポイントだ。

その世界で生きた、作った、戦った全ての経験は、次の世界に降り立つ時に若干のブーストとして引き継ぐことができる。もちろん、前の世界の100分の1にも満たないブーストだが、それでもあるとなしじゃ大違いだ。序盤が少しだって安定するのならば、前の人生より先に進める。亀の歩みだって一歩は一歩だからね。

 

そうやって、300ある公式鯖はたまーに滅んだり作り直されたりしながらも、世界に人が降り立ち転生し回っているのだ。

 

 

前回の私は残念ながらそこまで生きる事ができなかった。

 

ちょっとリスク高いけど、最速でボス挑むならこれだよねーって手法を仲間と敢行してたら見事にミスったからだ。おかげで転生ポイントもしょっぱく、最初期スキルポイント+5ぐらいしかもらえなかった。

 

よって私は、スキルポイント8(デフォルトの3ポイントにボーナスを足したもの)とナイフ、そしてここに落ちている3日分の食料とバックのみでこれから戦わなければいけない。最初期は転生ポイントでブーストしても油断ならない。私の口角は自然と上がっていた。

 

ゲームは始める時が一番ワクワクする。特にこういったある種のローグライクはそうだ。今回は何をしよう、何を目指そうと考える時が一番楽しいまであるのだ。

 

そうだなぁ、今回は……。

 

別に元の世界に戻りたい、というわけではないが、基本的にNZWのワールドは使い捨てであり、いつか滅ぶ運命だ。私だって無駄に死にたいわけではないので、今回は生還ルートを目標にしよう。

 

NZWはクリアがないのでキャラクターは死ぬまで生きる(当然)しか道がないのだか、例外がある。それはどうしても避けられない、いつか滅ぶワールドから逃げる手段であり、ゲーム的には死ぬよりも貰える転生ポイントがとても多いというものだ。多分運営の慈悲。

 

再誕の日(抗ウィルス爆弾投下)』『ブループラネット(地球脱出)』『マイロード(王への忠誠)』……。手段はいくつかあるが、今回は一番元の世界に戻るならそれっぽい、『夢幻の如くなり(夢であれ)』を目指すことにしよう。これは一見夢落ちにみえるが、実際はタイムマシーンを作って、世界がアポカる前に戻るという手段だ。これなら他の手段に比べて一番現実に戻れそうだし、戻れなくてアポカル前に戻るだけだったとしてもいい。

 

普通より多くの転生ポイントを貰える故、難易度は必然高いけど……案ずるなかれ。私には今までやりこんだNZWの知識がある。条件もセオリーもやり方だってもちろん知っている。まぁ実際にやったことはないんだけど。

 

ともかく! 私はこの迷い込んだとっても楽しい世界で、タイムマシーンを作って脱出を図るのだった。

 

次回へ続く。

 



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初動

ヒロイン(カルシア)のヒロインはもうすぐ登場
どんな娘にするか未定。ノープラン。大丈夫かこれ?


私はんぎぎと声を上げながらハッチをぶん回して開けて外に出てきた。荒廃した世界に新たなプレイヤーが誕生した瞬間である。

 

初日は肝心だ。行動が遅れてしまうとあっという間に夜になって死んでしまう。迷ってる暇はないし、もはや慣れた作業をさっさとしないとね。

今の恰好は作業用の手袋にお腹が出てるタイプのTシャツにショートデニム、ニーソにブーツという防御力皆無でアポカリプス舐めてんの? って恰好だが、服は別に優先度が高くないので後回し。だって防御力設定されてるわけじゃないし……。

 

ハッチを閉じて周りを見ると、そこは塀に囲まれ後ろには一軒家らしきもの。どうやらこの一軒家の庭に沸いたらしい。ジャンプして塀の奥を見ると、同じような一軒家が点々と建っていた。

新規プレイヤーの湧き位置は足元のシェルター固定だが、シェルターの位置は固定じゃない。大きく分けて『森』『町』『都会』の三つだ。今回は一番普通な『町』湧き。

 

都会ならビルやらの大きい建物が並び、特殊な建物などがあるが、町はそんな物は少ない。さっきのにちょっと追加して描写すると、普通な一軒家が20軒ほどにガソスタや小さな店がある。まさにプレイヤーのための補充地点、って感じだ。

 

ここの家の探索は後回しにしてとりあえず塀から出て大通りへ。シェルターの位置を覚えておくためにも、この家がどこらへんか把握しなきゃ……っと。

 

大通りに出て家と家の間。コンクリートを敷いていない、土の茶色がまっすぐ続く道路の上に、ゆらゆらと揺れている人型のナニカが一体。

 

ナニカはボロボロの、所々赤黒いシミを付けた布をまとい、口は半開きで目もあらぬ方向を向いている。腕をだらりと下げて、ただ風に揺られ倒れないようにおぼつかない足取りで歩いている。

 

ここまで描写すればわかるだろう。この堂々と道路を歩いている奴はゾンビだ。第一ゾンビちゃん君です。

 

とりあえず塀内に戻って張り付き様子を見る。ノーマルなゾンビはこの距離だと余程の音量を出さないと気づくことはないだろうけど念のためだ。

 

……うーむ、こう、PCの画面越しじゃなくてリアルで見ると、流石にグロいなぁ。漂ってくる匂いだって、やはり嗅ぎたいとは思えない何とも言えない異臭だ。けどこいつらとは長い付き合いになっちゃうんだろうなぁ……。

 

微妙な顔をしながらも、ゾンビの覗き見(ピーク)を止めてもう一度壁に背を当てる。そのまま右手に付けられた装置からホロウィンドウを起動させ、スキルポイントを『忍び足』『近接格闘』『サバイバル』『イルカの眠り』の4つに振る。これで余りは4ポイントだけだ。

 

この手に付けられた装置はプラスウォッチと言ってプレイヤーのメニュー画面用のアレだ。サイバネ化があるこの世界では、人体改造をしていなくたってこの小さな装置でポイントを振るだけで強化される。どうなってんだとか突っ込んじゃいけない。そこらへんの細かい設定は公開されてるけどまた今度だ。

 

とにかく。これで私は今、最低限ゾンビと出会ったって対処できる力を手に入れた。『忍び足』は移動時ゾンビやプレイヤーから感知されづらくなるもの。『近接格闘』は近づいた時、ナイフだけで殺せる用。重火器を手に入れるといらない子になるが、サイバネ化したり変位ウィルス打ち込んだらまた引っ張り出される都合のいい(かわいそうな)子だ。

『サバイバル』は今は使わない。主に生活面の補助だからね。けどフレーバーテキストで『寝袋に虫が入っていても、食べ物に土が混ざっても、ゾンビの異臭がしても、危険がないのなら細かい事を気にしていては生きていけない。』ってあるから今取った。正解だったようでゾンビの異臭はあまり不快に感じなくなった。

『イルカの眠り』は夜用。詳しくは寝る時ね。

 

さて、それじゃああのゾンビにもう一度死んでもらうとしよう。日中のノーマルゾンビなんて10体はいないと負ける事はないけど、それでも事故の要因は無くしておいた方がいい。マッチ一本火事の元、だ。

 

そろりそろりと、『忍び足』を発動させつつギリギリまで近づいて、ゾンビが後ろを向いたら急接近。音に気付いて首だけ振り向いたゾンビだが、その頃には私のナイフが届く距離だ。『近接格闘』が導くままに、私は接近した勢いでゾンビの目にナイフを刺し、体ごと地面に突き倒してナイフを深く脳まで入れてやった。

 

NZWの設定上、ゾンビは頭と胴体を切り離すないし脳を破壊すれば倒せる。ゾンビは出していたうめき声を段々と小さくさせ、そして静かになった。

 

念のため5秒くらい待ってからナイフを引き抜く。んー、ナイフの破損なし。でも血がついちゃったな……画面越しなら全く気にならなかったけど、やはりリアルで見ると嫌だ。ゾンビの服とも言えない布で拭いておくか。

 

……しかし、殺してもそんなに動揺しないもんだなぁ。人型とはいえゾンビだし、ゲームの奴だし、アドレナリン出てるからかもしれないけど。あぁ後カルシアの体だからってのもあるのかな? まぁなんでもいいや。

 

なむーと呟いてから、ゾンビの懐をがさごそする。ま大したモノ持ってる事なんて可能性ひっくいんだけど、たまに、たまーにね? 『抗ウィルス注射』とか『HGの設計図』とか持ってるから……。

 

なおもちろん持ってなく、懐にあったのは硬貨のみ。おふぁっく。

 

まぁいい。気を取り直してさっさとこの町を探索しよう。ゾンビは見つけ次第殺しておく方向で。夜になるまでは湧いたばかりのプレイヤー付近にゾンビはそう多く湧かないし、私以外のプレイヤーがこの世界にいるかは知らないけど、ハッチが生成される場所は周囲1500mにプレイヤーがいない場所だ。平和な探索を行えるでしょう。車とかで急接近されるパターンは知らん。諦めろ。

 

頭の中で音楽を流しながら、慣れた手つきで他人の家から物資をかっぱらっていく。集落は田舎をイメージしているのか、はたまたアポカリプスしたからか。基本的にドアは全部空いているので、侵入に手間どることはない。

 

 

 

 

私はサクッと全体の探索を終わらせ、最後に残しておいたガソスタに来ていた。私、ケーキのイチゴは最後に残す派。

 

ガソスタの内部は特に良い物がなかった。まぁこっちは期待していない。他のとこの探索、そして追加で見つけて殺したゾンビ11体を漁って、食料は+1週間分ってとこか。それにレアアイテムの『検査キット』に他にはクラフト素材の布とか電池、そして弾丸。んーしょっぱい。『検査キット』はよく落ちるレア枠だし。

 

まー所詮は集落だしね、やはり美味しい思いするなら都市に行かなきゃ。

そこで私がガソスタ(イチゴ)を最後にした理由がくる。

集落から次の集落又は都市は、特殊な建物を除いて最短2kmは離れているが移動手段が徒歩だけじゃあユーザーから文句が出まくる。「俺はいつまでWキーを押しっぱなしにしとけばいいんだ?」ってね。

 

というわけで、運営は車を使えとお達しです。集落区分なら必ずあるガソリンスタンド。そこには必ず、ちょっと直せば(・・・・・・・)動かせる車が置いてある。ちょっと程度ならば、『サバイバル』がやってくれるので、みーんなこのスキルを取るわけだ。流石だぜ『サバイバル』先輩!

あ? 森スタート? 放棄された車が一定確立で転がってるから大丈夫だよ。

 

車って、やっぱり拠点作る前は必須な部分あるからね……。移動手段としてはもちろん、物資を移動できるのが大きい。いずれ、量子分解技術が使われた機械、つまりマジックバックみたいなのが手に入るが、それまでお世話になることだろう。

 

私は適当に目立たなさそうな色の薄汚れ灰色になった車を選び、窓をぶち破ってドアオープン。後は『サバイバル』さんに任せると、勝手に体が動いて映画みたいにコードを露出させてバチバチさせたりし始めた。

 

うんうん。問題なく動きそう。ガソリンもタンク三杯分は倉庫に積んであったし、しばらくは補給なくても大丈夫だね。

 

しばらく今後の事を考えながら『サバイバル』に身を任せていると、車がぶるるんと声を出し始めた。よーしよし、これで準備は完了と。

 

夜はとても冷え込んで、サイバネ化とかしてない今じゃぁ手足が動かしづらくなる『寒冷』デバフが付いちゃうので、出発は朝となる。それに夜の荒野は『蟻』とか『犬』が活発になる頃だしね。そんなとこ車で突っ走るより、ガソスタで夜明かして朝出発した方が賢明よ。開けた場所より室内の方が余程戦いやすいし、ガソスタには裏口だってある。

 

拾っておいた『布』や『薪木』に適当に余っていた『ガソリン』を撒いて、そこらに落ちていた『ライター』で着火。即席キャンプファイヤーだ。ちなみにこの時『サバイバル』を取っていると煙の量が少なくなる。

夜に焚火だなんて目立つマネ、ゾンビがいかにもよってきそうだけど、ゾンビは本能に近い行動をするらしく火は恐れて基本近づかない。これは『外なるもの』以外は大体共通なので、火を焚けれる状況ならやった方がいいのだ。なおプレイヤー相手には狩られる。

 

さて、せっかく火を付けたんだから晩御飯作っちゃおう。エネルギーバーはあるけど普通の料理を食べれるならそれに越したことはない。今までずっとカップ麵生活だったしね、『サバイバル』先輩のおかげで多少の料理はできるし、元の世界よりはまともな食事できるぞー。

 

えー本日の晩御飯はパン(とても固い)にチーズ(カビてる部分を切って捨てたもの)を溶かし塗り、野菜(萎びている)と肉(干し肉なのでとても固くしょっぱい)を挟んだものだ。うーんこれでも元の世界よりちゃんとしたご飯っぽいとかいう事実。

 

いや、焚火の前でこんなキャンプ見たいな食事を取れるんだ! シチュエーション補正で美味しく食べれるはず! いつも食べてるこん兵衛とかあつ盛りとかペヤンゴより幸福度数高いって絶対!

 

……よし、自分を騙し終えた。さっそくいただきましょう。

 

まず一口。初っ端からクソ固いパンが噛み千切るのを妨害してくるが、我がカルシアの体は私の身体より顎の力が強い。苦戦はしたがなんとか一口を分離させた。

 

辛い。まず最初に感じたのは塩っ辛さだ。チーズの塩味、干し肉の塩味がとてもキツい。舌が痛みを訴えてくる。ゾンビゲームでの食事と言えば回復を連想しそうな単語だが、少なくともこれは定番とは正反対に、私にダメージを与えてきた。

次に感じるのは渇きだ。塩味もあるが、それ以上にパッサパサに渇いたパン、そしてしなび乾燥野菜の仲間入りをしようとしていた具材によって、口内の水分が全て吸い取られていく。その吸収率は凄まじく、一瞬にして私の口内に砂漠が生み出された。

なんとか噛みきり小分けにし飲み込もうとしても、喉がうまく動かない。食堂が胃まで運ぶことを拒否している。

 

水、水だ。この塩辛さと乾燥具合を解決するには水しかない!

 

バックから水の入ったボトルを荒く取って慌ただしくキャップを外し、その勢いのまま水を口内へ。干し肉とチーズの塩辛さも、渇いたパンも口内も。水は期待通りの働きをし、喉を潤し中和をしていった。

 

飲み込むなら今しかねぇ! いけるいけるいけるっ!

 

 

 

 

……さて。

 

なんとか一口を終わらせ、追加の水を口に含み味覚をリセットしている私の視線の先には、まだ10分の1も食べ終わっていない、カラカラ(辛辛)(乾燥していて渇いているの意味)のサンドイッチがあった。ちなみにもう2本作ってある。今後火を毎晩焚けるかわからないからね。チーズもパンも、焼けるときに焼いとかないといけないのだ。

 

………………。

 

私は無言で水のボトルを追加で出した。今夜の晩御飯は、サンドイッチじゃなくてスープ、いやポトフモドキにしよう。



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邂逅

ソロ、あるいはマルチの場合、ベットでプレイヤー全員が寝た場合時間を朝までスキップする事ができる。

 

そして当然ながら、公式鯖ではプレイヤーがたくさんいるわけで……そいつら全員が一斉に寝るなんて事ありえるはずがない。まだ自分以外を強制的に寝か(全員殺)した方が現実的なレベルだ。というわけで公式鯖では安易に寝ることもできない。

 

ましてやここはリアルになってしまっているので、それこそ初期湧き地点のシェルターに篭るとかしないと、寝たが最後、棒に当たるまで徘徊し続けるゾンビや生活痕を嗅ぎつけたプレイヤーによって永遠の眠りになるかもしれない。

 

そこで役立つのが取っておいた『イルカの眠り』。このスキルはその名の通り、イルカの眠り方である半分寝て半分起きて(意訳)を出来るようになるスキルである。別に私は───カルシアの体はちょっとわかんないけど───眠りが浅い方なので、ナニカが近づいたら起きる自信があるが、ゲーム的にはちゃんと寝ないと精神力や健康値が回復しないし、最大値が減少してしまう。

私の眠りの浅さがパラメーターにどう影響するのかわからないので、ゲーム的なスキルであり、ちゃんと寝るのの8割効果を貰える『イルカの眠り』を取ったのだ。それにあんまいらなかったとしても後半のスキルの踏み台になるし……。

 

はい。まぁそんな感じの理由です。それじゃ、おやすみなさーい~。

 

私は火に気を付けながら壁にもたれかかり、拾ったボロ布を被って瞼を閉じた。

 

 

 

ざく。ざく。ざく。

ぱちり。

ナニかが地面を歩いている音に反応し、私の脳は一気に覚醒した。

ボロ布を静かに押しのけて腹筋で体を起こしてすぐに行動できるようになりながら、耳を澄ませる。……間違いない。風の吹く音に混じって聞き取りづらいけど、これは地面を歩く音だ。それになにかずるずると地面を擦る音も聞こえる。

 

焚火は既に火が落ちているので多少見にくいが、それでも雲が無い夜は月光があるからありがたい。私は音を立てないよう注意しながら、寝る前傍に置いておいたバックを背負った。このバックには最低限の装備が詰まっているので、命ほどじゃぁないけど捨てていくわけにはいかない。車? 機動力はあるが、目立つ逃亡手段はあまりよろしくないので不採用だ。そもそも、私がガチで逃げようとして生身じゃ無理なら、それは改造もしてない車だって一緒だ。

 

それよりも足音だ。音の感覚的に四足ではないので人型。そしてうめき声が聞こえない。ただのゾンビ君ちゃんなら一定周期で声を出すのでただのゾンビじゃない事は確定。機械らしい稼働音も無い。何か引きずってる音は軽いので処刑者ってことはないだろうし、一時保留。となると後は上位のゾンビ、生存者(NPC)、狂信者、そして同郷(プレイヤー)ぐらいか……。まぁプレイヤーの線は、こんな察知されるような危うい行動をしてる時点で薄いと思うけど……。

 

すぅ………………。

 

よし、覚悟は決まった。

 

ナイフを構えて、脳を切り替えて。向かってきているのが何かはわからないが、脅威は何とかせねばならない。そしてそれが無理なら逃げねばならない。要はちらっと覗き見て、いけそうなら殺して無理なら逃げればいいんだ。

ふっと、短く息を吐くと、そっと壁から少しだけ身を乗り出し、一定間隔で近づいてくる足音の正体へと視線を向けた。

 

そこには、血まみれの少女がいた。

腰まであろう長い白髪も、ボロボロの白衣のような服も、そこから覗く肌だって。全てを赤黒く染めた少女がふらふらと裸足で歩いている。

慎重は130cmぐらい。左手にはこれまたボロボロの肩さげカバンを持っていて、それが地面を引きずっていた。軽そうな音の正体だろう。

可愛い娘だった。ここがNZWというゲーム世界という事を含めるなら、パーツが整っているといった方がいいのだろうか。きっと学校やご近所では、とても可愛らしい娘だと評判になっているだろう娘だ。まぁ、それも口元が全身よりも赤黒く目立っていて、視線が虚ろとしていなければだが。

そして右手。カバンとは逆の方の手だ。そっちの手は、もろに獣の手だった。肘ぐらいから急に人間の肌から獣の毛皮に変わっており、白髪とは正反対の黒い毛むくじゃらの腕が(もっとも、白い髪も黒い毛の腕も血で赤黒く染まっているのだが)、鋭い爪を含め膝下ぐらいまで伸びていた。そんな重そうなものをぶら下げているからか、彼女は左に体を曲げていバランスを取っていた。

 

これは……やばい奴か……?

 

NZWに長い私であっても、PC画面で見るのとリアルで見る違いもあってちょっと判別がつきにくい。あの腕は……『ウィルス変異:ビースト』か? それとも人体改造系か? あの口元を見るに食人はやってる、けど瞳を見るにゾンビ化はしていない……?

 

そんな風に私が考察をしていると。

 

急にぴたっと彼女が立ち止まった。そして「あっやべっ」と思う暇もなく、その虚ろだった瞳が急にこちらにぐりんと動き、ばっちしと目があった。

 

………………。

これは下手に刺激与えない方がいいタイプのゾンビですか……?

 

握るナイフに力が入り、体の体重が直ぐにも逃げ出せるように後ろに掛かる。

しかし彼女はそんな私の警戒も焦燥もつゆ知らず、その閉じていた口を半開きに、そしてゆっくりと弧の形に動かしていき……。

 

「おねーちゃん、おいしそうだね」

 

喜色を加えたやや舌足らずな声でそう言った。

 

 

 

 

・理性がある

・瞳がしっかりとしている

・会話ができている

 

えー以上の事より、彼女は一応はゾンビではないという事が証明されました。

そして加えるなら───

 

・こちらの事をご飯として見て来た

・右手が獣だがゾンビではない

・会話ができていない

 

のことより、多分彼女は『食人癖』持ちで『ゾンビウィルス抗体』を持っているパターンでしょ。で、抗体を持っているのなら、右手は『ウィルス変異:ビースト』や改造手術ではなく、『クッキング・ケミカリー』かな。進行度はLv2。

 

ということで。

彼女が善悪の判別があり意思疎通ができる人を食べちゃいけないと思う少女なら、私は食べられる(直喩)ことはありません。祈りましょう、神に。神に? いやこの世界の神クトゥルフ系統しかいないけど……。

 

「あー……一応、聞いておくけどさ。そのおいしそうって、私の事をばりむしゃしたら、ほっぺたとろけおちて幸せだーって意味だよね?」

「? そうだよ? それ以外にいみがあるの?」

 

彼女はこてんと首を傾げてそう言った。子供なので、倫理観に配慮して性的じゃない方で質問してみたけど、返答はそんな倫理観がなく信じたくもないものだった。止めろ。マジで不思議そうな声すんじゃねぇ。まだ性的な意味だった方がこの状況マシなんだよ。

 

しかし会話は一応成立している。しているのか? しているということにしておこう。なんせゾンビ化していない知性を残した(?)ウィルス変異化個体(仮説)だ。ゾンビとゾンビじゃないNPCのAIはかなり性能が違う。今から脱兎と逃げて撒く事は頭脳的にも身体的にも厳しいだろう。

第一理性ある村人だからといって殺すことに躊躇するわけではないが、それとは関係なく殺すことは難しい。私の武装はナイフしかないってのに、このレベルの相手は無理だ。

 

では会話でなんとかしましょう。言語とは人間の発展を支えたもの。我々は知性ある人間なのです。

 

Step.1 自己紹介

「こんばんは。私はカルシアと申します」

「こんばんは! わたしはねー名前ないの。あっでも、ぶいえーわんって呼ばれてたよ!」

 

はい闇深。名前忘れた記憶喪失、というのはVA-1とかいう明らか実験体っぽい呼び方で否定できる。恐らく『ゾンビウィルス抗体』の実験体としてでしょ。サブクエでそういうとこから実験報告書取ってくる奴あったよ確か。

 

Step.2 今後の目的は?

「私はね、気づいたらここにいたんだ。とりあえず生きたいから、別の街にも行って食料を探す予定かな。生きたいから」

「わたしはねーお腹がすいてるの。ごはん、ぜんぜん貰えなかったから……。だからわたしもごはん探してあるいてるんだぁ。じゃあおねーちゃんと会えたのはきぐーってやつだね!」

 

なるほど。きぐーでも目的はちょっとずれてるしできれば会いたくなかったなぁ……。

 

Step.3 好きなものは?

「えぇと、私はラムネが好き。手軽だし小腹がすいた時に丁度いいんだよね」

「わたしはおにくが好き! わんちゃんおいしかったし、とりさんもおいしかったし……。あ、あと白い服をきたおにーさんたちもおいしかったよ!」

 

………………。

おいもうこれ狙ってんだろ。狙われてんだわ。

 

私は笑顔が引きつっているいるのを自覚しながら、無理やり唾液をごっくんとした。

いや、いやいや、いやいやいやいや。嫌です(真顔)。

 

情報の整理だ。幸い会話には乗ってくれるので時間稼ぎはできる。

まず、今の戦力でこいつを殺せるか? それはとても厳しい。とても厳しいけど……ま多分不可能じゃない。スキルポイントは余ってるから、とりあえず3ポイントの『反射神経』にでも振れば土台には立てる。逃亡……は無理だろう。どうにかして車に乗ったとして、あの車はどんだけアクセル踏んでも時速60でないし。

 

「やーでも、おねーちゃん的には食べられたくないなーって」

「そうなの? でもわたしお腹すいたから……」

 

お? 実は割と素直だったりする?

私はバックに突っ込んだ(もちろん包装なんかしてない)、昨日の残りのサンドイッチ一本を取り出した。

 

「これ、食べる?」

「わぁ! なにそれおいしそう! 食べる食べる!」

 

おいめっちゃ素直じゃねぇか! さっきまでの長考と緊張はなんだったんだよ!



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クー

打ち解けた。

彼女は全身血まみれで右手が獣であり食人癖があって倫理観が壊れている点を除けばとても素直で可愛いただの少女であり、何も警戒することはなかった。人を見た目で判断してはいけません! ただ私の事を熱っぽい目で見るのは止めて欲しい。サンドイッチあげたでしょそれで我慢して。そんなに私がおいしそうなのか? そのうちそこらの成人女性NPCあげるから我慢してくれ。え? ひと舐めだけ? う~ん……いやなんか段々加速して要求もエスカレートしそうな気がするからダメ。

 

焚火を付け直し体育座り。私を見てからちょこんと隣に座り、塩っ辛いサンドイッチをおいしそうに食べる彼女を頬杖を付きながら眺める。

 

「ん、ん~……。とりあえずここは貯水タンクあったから、後で……日が明けたら体流そうか」

「んぇ? ふん(うん)

 

まずは体を清潔にさせないとね。ゾンビウィルスを飼っているならまぁ病気にはなりにくいけど、(ゾンビウィルスがとても強く強いため)綺麗に越したことはない。私もこのまま血まみれのままだったら可哀そうと思うし(理由の3割)、血の匂いはゾンビを呼び寄せる(理由の9割)。

 

他はえーと、服もなんとかして、あっ裸足じゃん靴も探さなきゃ。検査キットも使って確認してぇ……。あ。

 

「そういや、なんて呼べばいい? あ~……呼んで欲しい名前とかある?」

「(……ごくんっ)んぅ、わらないから、おねーちゃんの好きにつけてほしい!」

「そっかぁ。じゃあクーで。あと私はさっき言ったと思うけどカルシアね」

「くー! くーだね! えへへ、くーのなまえはくーだぁ! ありがとね、おねーちゃん!」

 

かわいい(脳死)。

クーはその小さい体と大きな腕をばたばたぶんぶん振り回して喜びを表現していた。地味に怖いぜ。あぁそんな振り回したらサンドイッチの具も零れるぞ……貴重な私の食料を地面に落とすとかはしないでよほんとに。

 

「くーぅ♪ くーぅ♪ わったしーはーくーぅ♪」

 

……あの、そんな喜ばれたらサンドイッチ「食」ってる姿から適当に付けたのが申し訳なくなるなって。

 

 

結局クーが落ち着いたのはサンドイッチを1.5本(私の食べ残し+1本)食べ終わった後だった。私はこれでようやく話が進めれるとクーを見ていると、私の視線に気づいたクーが慌てて姿勢を正しておいしかったです! と言ってきた。

ちげぇよ感想を求めたんじゃねぇよ。いや美味しかったならいいんだけどさ。君よくこのクソしょっぱいの食べれたね?

 

「とりあえず。クーはこのまま、私と一緒にいようと思ってるんだよね?」

「うん! くーひとりじゃ何すればいいかわかんないし、したいこともないし、それに、おねーちゃんといっしょにいたいし!」

 

ふむ。何でこんな懐かれてんだと思わなくはないが、クーが加わることの戦力強化はでかい。数は力だし、『クッキング・ケミカリー』はレアスキルで純粋に強い。

 

『クッキング・ケミカリー』はウィルス系統のレアスキルで、獲得条件は「複数のゾンビウィルスに感染している事」だ。ゾンビウィルスは種族、つまり犬や鳥や人によって種類が違う扱いなので、4タイプぐらいから感染したら獲得できる、割と獲得条件は簡単な部類だ。

が、感染が前提なので、同じくレアスキルである『ゾンビウィルス抗体』ないしそれに類似するものがないとゾンビ化してGame overだ。ま抗体さえあれば死なないように違うタイプのゾンビから殴られたら獲得できるスキルなんだけどね。

 

クーの場合は元より体質として『ゾンビウィルス抗体』を所持していて、何らかの理由で『食人癖』を開花。そして複数タイプのゾンビを食べたことからの感染で『クッキング・ケミカリー』を得たのだろう。腕を見るに、犬タイプのウィルスが色濃く出てるっぽい。

どのタイプが出ても言える事だけど、ゾンビの基本性能である、脳のリミッター解除+ある程度の再生に、反射神経とか嗅覚とか強化されるからとても強いんだよねぇ。

 

ま、そんなわけで戦力としてはとってもでかいのだ。私がどうやって逃げるかどうやって殺すかうんうん呻ったぐらいには。

 

そして戦力以外の要素、といよりこれが一番大きい理由なのだが、上記の理由に加えて……。

 

ちらりとクーを見る。

 

クーは「自分、おねーちゃんのこと好きです! 信じてます! 懐いてます! 何でも言ってください!」といった熱い目で私の事を見ていた。なんなら若干熱い視線も入っている。お前今飯食ったろそれで満足してくれ。

 

うん。裏切らないって、一番重要な仲間選出の理由なんだわ。

 

 

とりあえず寝ようかと提案して寝て(毛布はクーの分もあったが寂しがったので隣り合って寝た)。途中クー血の匂いに釣られたのか近づいてきていたゾンビを殺して。朝を迎えて。

私は嫌々、クーは喜々と残りのサンドイッチを平らげて、さぁお風呂に入りましょうとなった。

 

裸の付き合いという言葉がある通り、古来よりニポンジンは風呂で友好を深めてきた。……ニポンジン? 灰色ヘアーなカルシアも白髪西洋お人形顔のクーもニポンジン? ……裸の付き合いで仲を深めます。(強引)

 

ガソスタの貯水タンクからそこらに落ちていたドラム缶に水をどばどばと移し、ガソリンを贅沢に使って燃えそうなモノをかたっぱしファイヤー、ドラム缶風呂の完成だ。なお簡単そうに言っているが、『サバイバル』先輩を駆使した上で結構時間かかった。や、クーにも手伝ってもらおうと思ったんだけどさぁ、左手は普通に非力な少女だし、右手はバケモンみたいな怪力だしで絶妙に手伝ってもらいづらかったんだよね。最終的にクーには家を破壊さして木材の確保させることに落ち着いた。ゾンビが寄ってきてもクーなら純粋な戦闘力+感染しないでバッチリだ。

 

ちなみに、クーは最近まで(恐らく実験体として)白衣の人に監禁されていたこともあり、倫理観や知識など、頭はかなり幼いということがわかった。ゾンビのことも怖い人としか認識していなかった。(仕様上、抗体持ちはノーマルゾンビ系統には襲われない。もちろん攻撃したら反撃はされる)

そこでいたいけな少女であるクーに、私があの人たちは悪い人だから殺そうねと吹き込んでるんですね。……殺すってのを素直に受け入れるクーにも問題があるのでは?

 

うんうん。結構熱すぎるくらいには湯だってきたな。これならなんやかんやしてる内に丁度いい温度に落ち着くだろう。さっすが『サバイバル』先輩だぜ、画面越しにしか行動したことがなかった私をちゃんっと動かしてくれる。じゃあ最後に……ドラム缶の直接足を付けないための木の奴を入れてと(名称を知らない)。

 

「よし。クー? 木材はもういいからこっち来てー!」

「わかった!」

 

ばきゃがこんぼきどささぐわっしゃーん。そんな音を立てつつ破壊活動をしているクーに声をかけると、あの騒音の中私の声を聴き分けたクーがてってってってっと駆け寄ってくる。ちらりと右手を見たが、木材の破片はくっついているものの傷ついている様子はない。はぇー強い。タイマンしたら負けそう。

 

「もえる木、いっぱいできたよ!」

「うんうん、そうだねありがとう」

 

笑顔で報告してくるクーにお礼を返すと、クーの笑顔は「役に立てた!」と溢れんばかりになった。可愛い奴め。ぶっちゃけ役に立ちたいとオーラを出していたから適当な指示を出しただけで、その木材は使う予定はないんだけどね。どう考えても過剰だろ木ざ…廃材。

 

「さて、お風呂に入るーーーぅ……そのまま入ったらお湯が一気に汚れるからまず拭いてからだけど、まずは服を脱ごうか。脱げる?」

「んー、こっちはできない……」

 

やはりか。

 

クーがこっちと左手で指差したのは、もちろん獣と化している右手の方だ。体が変異する前、人間の体だった時は当然服を着れたんだろうけど、獣化しちゃった今じゃあ脱ぐのも着るのも、腕を通すタイプはてんでダメだろう。血の汚れに対して損傷度で言ったら、まぁ洗えばまだまだ使い回せるけど……今回はちゃんと体洗わしときたいしなぁ、どんだけ風呂に入ってない生活してたかわかんないし、普通に脱がしてクーの体を洗いたいよ(事案)。

ちなみにゲームの時なら男は上半身裸、女はアマゾネスみたいな片方の肩のみで留めるブラみたいな装備がデフォルトとなる。今のクーの服装である、ボロボロで血まみれの白衣よりはマシかもしれない。

 

うーん……。

 

「ま、しょうがない。切るか」

「きるの?」

「うん。代わりの服は、まぁ何とかするよ」

 

そうして、130cmの血まみれロリの服を、ナイフで切り裂いて全裸に剝く変態が現れた。紛う事無き事案である。なお犯人は私。




メモ

クウ(くーちゃん)

抗体持ちということで捕まえられて研究されていた。ある日ワンコ脱走事件発生。そのどさくさに紛れて逃亡、隠れる。教養が低く、お腹が空いた時ゾンビが人間食べてるの見てわたしもたべれるよねと色々食べながら出口を探し脱出、歩いて歩いて主人公に出会う。腰までの髪。白髪。右手が獣。130cm。赤眼。

『食人癖』『ゾンビウィルス抗体』『クッキング・ケミカリー』LvX


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風呂

全幅の信頼を寄せるクーがじっと見守る中、クーの服を全て剥き終えた。裸になるとそこには立派なクーがあって実は男の子だったのか! なんて事はもちろんなく、服の下には真っ白でつるぺったんだった。もっとも、その柔肌も凝固した血や純粋な汚れなどで赤黒く染められているが。

 

「じゃ、とりあえず拭いていくけど……痛かったら言ってね~」

「うん、わかった!」

 

元気でよろしい。私は別に貯めておいた桶のお湯にタオルを浸し、水気を絞ってクーの体を拭き始めた。まずは左手……やっぱ相当汚れてたんだなぁ。片方を拭いただけでタオルが真っ黒だ。正直、洗って再利用する気が起きないし、そこまで物資に困ってるワケでもないから捨てちゃうか。なお獣である右手は左手の4倍くらい手間がタオルがかかった。

 

真っ黒になったタオルは廃棄の方針。クーに「んーんー!」言わせながら顔を拭い、T字ポーズさせながら上半身を拭って、バランスを取らせながら下半身も大まかに綺麗にした。クーのお股拭くとき、「……股洗うならこうだよね。えっちだなぁ……」って感じでクーのお股拭いたけど、ちょっと自分が何に対してえっちだなぁつってんだよって感じで自分でウケて笑っちゃった。私の趣味はロリではありません。

 

最後にはどうせお風呂入るしと私も服を脱いで、クーを髪が垂れるように膝枕させて頭の洗い流し。いっちばんお湯が真っ黒になった。いやほんとに真っ黒になりすぎてびっくりしたわ。

 

「はーいお湯かけますよ~、かゆいところございませんか~え、くろ……」

「う~!」(お湯が眼に入らないように眼をぎゅっとしている)

 

思いっきりこんなリアクションしちゃったもん。私が美容師さんでクーが客だったらクレーム貰ってたね。

 

それと、髪洗ってる時に気づいたけど、頭頂部にちょっと、柔らかいこぶのようなものが出来てきている。恐らく犬耳の類だろう。『クッキングケミカリー』の進行度によるが身体的特徴はこれからも出てくる。PC画面上ではちょっとずつ生えてきている感じだったが、この世界でもそれが準拠されるようだ。いーってさせたら犬歯らしき伸びしてる歯もあったし。

 

ま、そんなこんなであらかたクーを綺麗にし終えて。

桶に残っていたお湯でクーに汚された私の下半身とクーの全身にお湯をぶっかけたら、いよいよお楽しみのお風呂だ。手を突っ込んで確認してみると、予想通り丁度いい温度になっていた。本来のドラム缶風呂なんて機械か人の手で温度調整しなきゃならないんだろうけど、ゲーム画面上ではんな事してないのでこっちでも同じだと信じろ。

 

木の奴を踏んでそろりそろりとお湯に浸かっていくと、じんわりとお湯の温かみが脚に伝わっていく。その心地よさに抗わずに全身浸かると、言いようのない幸福感が全身に広がって来た。

 

「~~っ! あ”~~……。やっぱ運動した後のお風呂って文化の象徴なんだよねぇ。ほら、クーもおいで」

「うん……あ、ありがとう。わっ、あったかい……」

 

クーを誘い、というより台は作ってあるとはいえ小さいクーだと苦労しそうだったので、脇を抱え上げて風呂に入れる。クーの右手が重くてプルプルしたのはご愛敬。でも持てなくはない辺りカルシアの体は最高だぜ。

しかし流石に二人だとちょっと狭いんだけど、ままクーは(右手を除き)小さいから充分妥協できるラインだ。欲を言えば座るための椅子とか入れときゃよかった。立ちながらってのはちょっとリラックスできない。

 

………………。

 

「なんでまだ私を掴んでるのさ」

「あ、ごめんなさい……その、足がつかなくて……」

「……あ~、それは設計ミスだわ」

 

風呂に入ったクーが何故か私の肩を掴んだまんまなので問いかけると、どうも足がつかないらしい。私基準でお湯貼ったから、ロリには溺れるお風呂が完成してしまったらしい。プレミです。というか二人分+獣手の体積分お湯が溢れる事計算してなかったんだよね。お湯おもっくそ零れたが? 火消えてないの奇跡だろ。

 

少し悩んで、クーの腰を抱えて私に密着させ、クーには疑似的に私に座らせる形で落ち着いた。私はお風呂は一人で入るタイプだが(当然)、こうして人の肌が触れ合うのはスベスベしていて気持ちいい。獣の右手も毛が短毛タイプで絡まっていないので、こちらもまた違うスベスベで気持ちぃのだ。うわ変態っぽいな私。

 

最初は大人しくお風呂を堪能していたクーだが、段々と調子を取り戻してきて私に感想やお話を振ってきた。身振り手振りはいいけど左手だけにしてねー。

 

「でね、でね、みーんなあっちこっち見てて、くーのことに気づいてくれなかったの。ずっとへんな顔してるし、へんなこと言ってるし……。さわったら気づいてくれるけど、それだとなぐろうとしてくるし」

「まーあれ、一種のステルスに近いからねー。抗体持ってるとなんかゾンビウィルスから検知されなくなる? んだったよ。そういう設定だったはず」

「せってー?」

「世界のコトワリってこと」

「へー。おねーちゃんはものしりだねー!」

 

そりゃぁもう。5000時間はNZWで遊んでますから。私ぐらいになると太陽の位置とか昨夜の月の形とか半径100m以内のゾンビの湧き数とか夜のノーマルゾンビの強化幅で、この世界が生まれたばっかということすらもわかっちゃう。

というかだから即席ドラム缶風呂なんて作ったんだよ。中年の世界だったら体流すだけで済ませてたわ。

 

生まれたての世界は弱いからね。ゾンビも、人も。クーみたいなNPCは知らんけど。

 

 

お風呂から出ると、クーは今朝とは見違えるぐらい綺麗になった。白髪は日光を反射して煌めき顔はその溌剌とした表情がよく見えるようになり、体はロリ特有の綺麗なぷに肌を取り戻し、右手の爪はよく研がれた包丁のように鋭く黒光りしている。こわい。

 

ぱっぱと髪と体を拭いて服を着直し、隣を見るとクーは私の真似をし、左手のみで頑張って髪を拭こうとしてた。苦笑しながらクーの髪、ついでに右手も拭いてやって───

 

クーの服のこと、お風呂入ってる間に考えようと思ってたけど忘れてた♡

え、どうしよ。

 

「おねーちゃん? どうしたの?」

「え、あいや、ちょっと待ってね」

 

右手を拭き終え固まる私を疑問に思ったのか、クーが不思議そうな顔をして首を傾げているが私の心中はそれどころじゃない。人としてかなりダメな部類であることは自覚しているが、それでもクーをこのまま裸のまま過ごさせるのはライン超えだろと、小さな良心が責め立ててくる。

ちなみに私は膝立ち、クーにはT字ポーズさせて拭いてる都合上、素っ裸のクーの胸を凝視しながら固まっているがそこに私の良心は動かない。

 

まず右手が通れば普通の服は着れるっちゃ着れる。袖口とかがめっちゃでかければ平気なんだ。

……いやないけど。思い当たるもんないけどさ! ……水着! 水着ってビキニタイプだったらクーの腕通るぐらいには大き───水着の、ロリを、連れ歩くのか? 私が? ……えぇ。

 

「? クーの体、おねーちゃんも食べたいの?」

「いや私はクーと違って人食べたら感染間違いナシだから違う」

 

じーっと体を見てるからかクーがそう尋ねてくる。えっちでえっちじゃない事いうの止めてください。しかも「も」って。その言い方だとやっぱり私の体まだ食いたいんじゃねぇか。

 

マントはどうだ? あれなら首で留める感じだから右手はネックにはならない。……裸マントって、露出魔じゃね? 私がそれをさせるの? ……いや、他にいいのなかったらさせるけど。ビキニ着せた後マントさせたらまだましでは?

 

あぁもう面倒になってきた。もうそれでいいや。どうせこの世にゃPTAも警察もいない。倫理観なんて邪魔でしかならないんだ。最低限の限度(私を食べない)は欲しいけど。

 

下は黒のデニムパンツで靴は青基調のスニーカー。そして上は赤いビキニに、左側は腰まで右側は丁度胸の位置までしか長さがないブラウンのマント。……まぁ水着で隠してるんだしいいでしょ。

 

「わー! くーも服もきれいになった! ありがとね、おねーちゃん!」

「ええんやで(くーのためというか私のためってのが大半なんだけどまぁ言わないほうがいいよね故の解答)」

 

クーは嬉しそうにマントをはためかせながらぴょんぴょんと飛び始めた。はっはっはっ、やっぱり恰好が凄い犯罪臭する……。悪い野良NPCとかに見られるぐらいだったら、ぶち殺してクーのご飯にすればいいだけだけど、良い野良NPCとかに変な目で見られたり、後々合流したいと思ってるフレとかにお前の「趣味こんなんかよ笑」とかイジられるのはやだな……やっぱ新しい服は探しとこう。クーの服、募集中です!*1

 

「ま、そこらへんは運転しながら考えるかー。クー、私は車取って来るね。しばらくじっとしなくちゃで辛いだろうからまだそこで遊んでていいよ」

「はーい!」

 

余ったタオルを脇に抱えてクーに一声。クーが車酔いするタイプじゃなきゃいいんだけどなー。

*1
募集中です




クー、最初はぶってくるとかそういう年齢相応の単語で言わせようと思ったけど、研究所監禁時代は研究員に「言うこと聞かねぇなら殴っとけ」とかそういうの聞いて育ってるし殴るでええか。となった。



インフルAで死んでた。後処理でしばらく頻度落ちる


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運転

今後の展開あんま考えてません

スキル振る時計をプラスウォッチという描写を2話に追加。

ADA…adaptation。同化能力? ウィルスとの適合才能。



Q.運転できるんですか?

 

A.呻れ私のアメリカンソウル!

 

私が選んだ車はゾンビウィルスが作られ人体改造が可能でクトゥルフが参戦してきている世界にふさわしい性能の一般車だった。

すなわちこの車、アクセル(前進)ブレーキ(後退)ハンドル(左右)ぐらいしか運転に関する操作機関がない。正気か? ゲーム内でももうちょっと操作あったはずだぞ。

 

私は色々と言いたい事があったが、別に車なんて移動できればそれで良くない? と思えばそれっきりだったので文句は飲み込んだ。いやだって、ゾンビを人だと認識して勝手に止まるような車に比べたらマシだし……。

 

それにこの程度の操作だったらリアル高校生の私でもできる。ゲームと変わんないしね。しかもしばらくは見渡す限り何もない荒野を進むのだ。ぶつけるものなんてほぼないし、運転の練習にはちょうどいいでしょ。

 

助手席に座らせようとしたけど明らか腕が窮屈そうだったクーを後部座席に乗せていざ出発。ぶろろろん! と車はエンジンを呻らせ軽快に走り出した。

 

あぁ、安心安全の実家(シェルター)が離れていく。あのシェルター、他プレイヤーからはどうやっても感知されないからガチ目に安全地帯なんだよなぁ。ま、プラスウォッチの機能の一つにあるマッピングでいつでも帰れるようにはしてるけどね。

 

ついでに確認のためマップを見てみると、問題なく走行している道がマッピングされていた。うんうん。現代っ子はオートマッピングがあるゲームじゃないと辛いものがあるからね。

 

と、私が車も道のりも楽だからって早速よそ見運転していると、窓で小さくなっていく町を見ていたクーから声がかかる。

 

「おねーちゃん、その手のやつなに? 白いふくのおにーさんたちもしてたやつ?」

「あー……そーいえばクーの分用意するの忘れてたな」

 

プラスウォッチはこの世界の人間の必需品だ。というより小学生になったら国からプレゼントされる(公式設定)。ゾンビウィルス作ってバラまいたR社が開発したとはいえ、この時計は国主導で作った事になってるからね。

実際、様々な機能をまとめたものだから、ゲーム世界の生活的にもゲームを遊ぶ時の性能的にも助かる。

 

そしてそんな便利なプラスウォッチを実験体生活を送っていたクーは持っていないと。

 

でもご安心ください。さっきも言った通りそんな便利で一人一台配られているプラスウォッチ、当然、ゾンビ達だって持っています。つまり剥げばよろし。しかしそれはそれとして。

 

「ほい」

「わっ! え、おねーちゃんのだよねこれ? いいの?」

「いいよ。というよりどうせしばらくは暇だし、教えるからそれに慣れちゃいなー」

 

私は外したプラスウォッチを後部座席に投げ渡した。声的にうまくキャッチできたようで何よりだ。

プラスウォッチはもちろんオフラインでも使えるが、サーバーで情報をまとめているので誰がどのプラスウォッチを使おうと関係ない。生体認証によって付けた人の情報しか映さないので防犯にもよいらしい。

 

「じゃ、まず腕に巻いて。……巻けないか。ちょっと腕とプラスウォッチ貸して」

「あ、うん。ありがとう。まえ見なくてだいじょうぶなの?」

「事故るようなモンもここらじゃなさそうだしへーきへーき」

 

アポカリプスな世界だ。運転歴3分で前方不注意運転をキメる女子高生がいてもいいじゃないか。一旦車止めればいいの話なんだけどね。

 

ともあれ、私はクーが差し出してきた左手にプラスウォッチをまいてやる。しかし留めはせず、体を捻ったちょっと苦しい体勢のまま5秒ほど待って~。

 

ピーッ。

 

はい完了。もう巻く必要はなくなったのでクーの膝に置いてやる。多分左手に巻いて右の獣手使う事になっても、プラスウォッチは反応してくれると思うけど念のためだ。

 

「よっと。クーって文字読めたっけ?」

「ううん。聞いたりはなしたりはできるけど、もじはよめないよ」

「おkおk。確かそれ、ある程度のAIも埋め込まれてたはずだから……クー、その腕のに向かって語学モジュール追加って言ってみ」

「これに? えぇっと……ごがくモジュールついか? わわっ、なにかでてきたよ!?」

 

キュイィィィイイイ。

登録者であるクーの疑問符混じりの声を聴いた瞬間、プラスウォッチが機械的な音を出し始める。バックミラーでちらりとみると、クーの膝に置いてあるプラスウォッチからホログラムが出ており、クーの目の前でバーを映していた。語学モジュール適用具合のプログレスバーだろう。それに驚いたクーが声を上げているが……今度はその驚いた声が感嘆のものに変わっていた。

 

「わわ、『このもじがよめますか?』だって! あ、またもじが変わった! 『てきおうかんりょう、スタートがめんにもどります』……プロフィール、マップ、でんわ、ネット……ぜんぶよめる! わー! このプラスウォッチってすごいね、おねーちゃん!」

 

プラスウォッチ君はとっても優秀なので、腕にちょっと巻き付けるだけで心拍数血圧と言った基礎的な情報から身長体重年齢本部にあるサーバーから名前などの個人情報、才能と経験があるならば技術(スキル)の付与すらもできてしまう。凄いぞR社。全人類が赤ん坊の時にいろいろされているとはいえ明らかオーバー技術だぜ(公式設定)

 

「そりゃぁもう、R社謹製の超技術だからね。R社が無けりゃこんなことにはならなかったけど、R社が無けりゃ外敵でこの世界無いぐらいには影響やばいよ」

「あーるしゃ?」

「そのプラスウォッチ作った会社」

 

R社は凄い。R社ならなんだってできる。細かい設定の矛盾は全てR社がなんとかしてる。ちなみにストーリーでは未だR社が何故ゾンビウィルスをバラ撒きアポカリ世界を作ったのかは明かされていない。

 

「で、んーとまずはプロフィールを見ようか。プロフィールって書いてるとこタッチしてみて」

「たっち……あ、いろいろとでてきたよ。わ、クーがうつってる! いつしゃしんとったんだろ?」

「R社ないしアップルウォッチは凄いから今撮ったんだろうね。でプロフィールで見るべきとこは左下のステータスなんだけど……」

 

またしても後部座席に体を捻って前方不注意運転。ぶつかるもんないから大丈夫だって。この世界なら人轢いても9割9分はゾンビだ。車痛むからあんましないほうがいいけど。

 

「HPとかはまーいいとして……STR16にADA19? はは、序盤に持っていい数値じゃないんだよなー」

 

映し出されていたクーのステータスの数値は苦笑するくらいには想定を超えて高かった。もちろん、これ以上の数値なんてこの先いくらでも見るだろうし、私自身もステータスは上げていくが……にしても序盤でこの高さは酷い。こんなもん戦ってたら絶対負けてたわ。

ちなみに基準値はSTRもADAも10だ。『クッキングケミカリー』は攻撃時、STRとADAを参照するので、昨夜もしクーと戦う事になってたら、普通に私の倍以上の火力が襲ってきたことになる。

 

「これって、高いほうがいいの?」

「そうね。高けりゃ高いほどいいねぇ。クーはもう、全体的に高いよ」

 

INTは死んでるけど。そう思う私の心を知らず、クーは私の役に立てると純粋に喜んでいた。可愛いね。私も扱いやすい子は好きだよ。

 

「ま、そういったとことかの詳しいのはまた後で話そうか。時間はまだまだあるだろうし……。それじゃ、今後の目標を明確にさせる話合いをしまーす」

「こんごのもくひょー? まちに行って、ご飯をあつめるんじゃないの?」

「それは直近の目標かな。私が話ときたいのは最終目標だよ。ただ『生きる』って目標だけじゃダレたり飽きたりしちゃうから」

「おねーちゃん、生きるのにあきちゃうの?」

「……おねーちゃんはね、楽しくなかったら生きてられないんだ」

 

ああ。私はゲーム気分がまだ抜けきっていないので、膨大なコンテンツがあるとは言えただ生きるだけじゃゲームに飽きるって意味で話しちゃったけど、この世界で生きているクーには当然通じなかった。

別世界から来ましたって言って、クーが私に対して態度を変えるって事は無さそうだけど、今後ボロ出さないように一応気を付けておこう。

 

「んっんん。で、目標ね。一応、私が今目指しているのは、R社の研究所の一つ、時間跳躍技術について研究していた所を探し出して、こんな世界になる前に戻ること、としてる」

「………………?」

「あー、クーがいたとこみたいな建物を探し出して、クーが普通に生活していた時まで戻る? かな」

「へー! そんなことできるなんてすごいね! クーも先生とかみんなとまたあいたい! もどったらおねーちゃんにもしょうかいしてあげるね!」

 

私も表現力、ましてや幼い子に説明する事が得意なわけじゃないので、曖昧な表現になってしまったが、クーは理解してくれたようでよかった。

 

「準備整うまでどんくらいかかるかまだわかんないけどねー。……あっ」

 

そういやクー、研究所から逃げだして来たはずなんだよな。オートマッピングされてるはずだし、後でマップデータ抜こ。

 

「でも、その戻るのにはとっても大変で、色々としなくちゃいけないことがあるんだよねー」

「どんなことしなくちゃいけないの?」

「別世界の化物と戦ったり、R社に乗り込んだり、スタンドと戦ったり」

 

それぞれ『異界の紫結晶』『R社のデータ』『トール』に対応している。……『トール』はどうなんだろ。設定的にはサイバネ会社にあったものをスタンド達が持ってくから、あいつらより先だったら戦わず済むのかね。

 

「わわっ、たいへんそうだね。じゃあクーもお手伝いできるようにがんばるよ!」

 

バックミラー越しに見るクーはむんっと気合を入れていた。



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中継

「おねーちゃん、あれたてものじゃないの?」

「ん? ……あっあれか。目ぇいいねクー。あれはー……ただの町かな。私達が昨日いたとこと一緒。今探してるのはもっと大きい『都会』って奴だね」

 

「あっ、あれは? おっきいたてものだよ?」

「あれはー……『工場』か。今は後回しかな。クーがいるから攻略はできるだろうけど、欲しいものが現状ないし」

 

「わぁ、わんちゃん達だ! わぉーん!」

「同族意識か? ウチじゃ飼えません。クーの(人間)も探さなきゃいけないし」

 

クーには基本代わり映えしない景色が続くから寝てていいよと伝えたが。

好奇心旺盛で見るもの全てが新しいクーは飽きることなく外を見続け、たまにプラスウォッチの使い方を教わって情報を得てと起きっぱなしだった。

 

昼だからと舐めている私はそこまで真面目に探しているわけじゃなく、何か見つけるのは大抵クーが先だ。もっとも、今のところ目的地の『都会』は見つかっていないわけだが。

 

クーが見つけたものを片っ端から報告してくれる中、ゾンビ犬に対するコメントを返すと同時にふと疑問が浮かぶ。

 

「そういえばクー、お肉食べさせてないけど平気?」

 

『食人癖』というスキルは、別に人しか食べれなくなるわけではない。ゲーム時代はマスクデータだったが、『人肉』しか食べないパターンがあれば別に一週間に一回食べれればいいですよ普段は普通の食事でもっていうパターンもある。ちなみにしばらく喰わせないと暴走する。

人から取れる……採れる? 素材には『人肉』、『人間の血』とあり、そちらもまた好みが出る。『食人癖』の癖に『人間の血』しか摂らないっていうキャラも生成されるらしい。もはや『食人癖』ってなんだよって感じだ。

 

クーにはそういったものを調べるために、昨夜出会った時から人肉は食わせていない。ここらへんはR社君の技術でも解析不能なので、実際に体感してもらうしか知る術がないのだ。限度や性質を知っておくことは今後の安定につながるからね。

ちなみに最もらしい理由を今述べてみただけで、ただ単に私を食べたがってるの拒否してたから他の人肉食わせるの忘れてたってだけだ。

 

や、これが暴走するんだったら傾向あるから気づくんだけどね。気づいたところでこの生まれた世界特有のゾンビの湧き具合だったら、直ぐに人肉の調達するのは難しいけどさ。

 

「うーん……。へいき、かな? おなかが空いてふらふらしてないし。まだまだだいじょうぶだと思う」

「そいつぁーよかった」

「でもおねーちゃん見てるとおなかがすいてくるんだよね」

「そいつぁーよくなかった」

 

引き攣った笑みをしながらバックミラーでちらりとクーを見ると、左手を物欲しそうに口元に当てているクーと目があった。止めろ止めろ。

食われたらっつーか噛まれたらオワるんだよ、私は。

 

……あ、今更なんだけど、食人注意ですこの私の物語。

 

 

結局陽が落ちるまでに『都会』は見つからなかった。一応一般車両なマイカーはそこまでスピードが出ているわけじゃないし、荒野には段々と丘が連なってきており見通しも悪くなってきた辺りが言い訳だろうか。

それにしたって『町』とかその他建築物を見かける割合が多くて、運が悪かった感はあるけども。ままゆっくり探しましょう。その気になれば『町』で補充もできるし。

 

というか『町』に来た。

歴戦の私だって流石に夜を荒野の中で過ごしたくない。人工物フィールドと荒野フィールドじゃ敵のポップテーブルが違うのだ。

具体的には、人工物フィールド付近ならば人型ゾンビのテーブルだが、荒野フィールドだとモンスターと化した動物がポップテーブルに入ってしまう。

クーはともかく、今の私じゃちょっと対抗が厳しいゆえ、まだなんとでも対処できる『町』に車を停め夜を過ごす事にした。

 

「ん~~~っ! おねーちゃんといたからせまいとこはへいきだったけど、手がきゅーくつだった……」

「クーにとっては残念な事に、明日も車なんだよなぁ。……私は安全確保のためにここらのゾンビ処理するけど、クーはのびのびしとく?」

「んー? んーん。くーもいくよ、動けてすっきりするし!」

 

ガソリンや布をトランクから出しながら右手をぐーぱー(爪が伸縮してたから多分そう)してたクーに声をかける。

一般ゾンビ程度なら私一人で処理できるのでクーには好きにさせようと思ったが、どうやらクーはゾンビをぶっ殺してる方が気分転換になるらしい。

 

あぁ、笑顔でそんなことを言うなんて、私はクーの教育方針を間違ってしまったのかもしれない。裏切らない戦力だと最初に思ってしまったのが最初の分岐点か。ま、水着マントなんて恰好さしてる時点で私の子供の教育に対する才能なんて証明しているようなものだが。

寒くないんだろうか、水着マント。ならいっそのこと下も水着にさせたい気持ちがなくはないんだけど。

 

そんなふざけた事を考えながら、私は太ももに巻いてるホルスターのナイフをぽんぽんと叩いた。さーて、安全確保とプラスウォッチ剥ぐぞー。

 

 

言い忘れていたが、クーからプラスウォッチを一時返してもらって『気配察知』を取得した。このスキルは名前の通り、ゾンビや近づいてくる生命体を気取る手助けをしてくれるもので、プレイヤーの安全を加速させるものだ。ちなみにあったら助かる枠で必須ではない。

 

今周で取る気は正直なかったんだけど、クーというプレイに慣れてるわけじゃないし一応守らなきゃいけない味方がいるので取った。別に腐るスキルじゃないし。

 

クーと別れて掃除をしてもよかったのだが、どうせならクーがどのくらい戦えるかを見てみたい。スペック的にはエリートモノが来なけりゃ平気なので昨日は自由にさせたが、今後は一緒に戦う事も考えクーの実力を見ておくことにした。

 

「あ、クー。そこの左に二体いるよ」

「わかった!」

 

『気配察知』で得た情報をクーに伝えると、クーは元気よく返事をして飛び出してった。忠犬か? いや『クッキングケミカリー』の方向性的に尻尾生えてもおかしくないけどさ。

 

クーを追って角を曲がると、ちょうど戦闘開始するところだった。と、いっても始まったのは蹂躙だったが。

 

まず初撃。クーは思いっきり右手を振りかぶって、手前にいたゾンビをぶん殴った。

クーは分類的には感染しきっている状態なので、通常MOBからは中立となる。よって初撃は敵の無防備なところに一撃を入れれるワケだが……。

クーの一撃は、ゾンビをぶっ飛ばすではなく、腹の部分だけ()()()()()

まるでだるま落としかのように、ゾンビは腹の部分だけ血の軌跡を残し飛んでいき、残った下半身と上半身が重力に従い崩れ落ちた。

 

中立状態ということは攻撃したら敵対になる。奥側にいたゾンビは仲間が攻撃されたことに反応して、その犯人なクーに敵意を向けた。

 

ゾンビは呻き声をあげ、手を突き出し、口を開いてクーに襲い掛からんとして───次の瞬間には頭と左肩だけになって宙を飛んでいた。クーの振り戻された右手によって、今度は斜めにだるま落としされたからだ。残った体の方は、左脇腹から右肩へと斬り取られていて、ばたんと音を立てて手前のゾンビと並び倒れた。

 

思わず固まった私に対し、クーが右手を少し血に染めながら振り返り、褒められることを期待している顔で勢いよく振り向いた。

 

「おねーちゃん! すごい!?」

「……とてもすごい」

 

どこかでどちゃっと、恐らく飛んで行ったゾンビの一部が着地したであろう音が響いた。

 

 

いやぁ、ステータスの暴力が残酷すぎる。STR16にADA19=35はやりすぎでしょ。やっぱ序盤に持ち込んでいい火力じゃないんだよなぁ。

ゲーム時代でもゾンビが切り裂かれてぶっ飛ばされる描写は見れたっちゃ見れたけど、流石に体の真ん中だけ切り取られて飛んでいくなんて初めて見たよ。

 

うん。マジでクーを味方に付けといてよかった。

 

「凄い。とんでもなく凄い。めっちゃ強いよクー」

「ほんとー!? えへへ、ならおねーちゃんのやくに立てるよね!」

「うんうん。大助かりだよ、マジで」

 

私はクーの頭を撫で、左腕しか通してないから脱げかけてしまったマントを右腕に掛けながら褒める。

 

お世事抜きで、実際クーはとても強い。ステータス見た時も思ったけどAGIだって低くはなかったから、タイマンというより対峙したら喰われるしかなかっただろう。私が強がる気がなくなるレベルで現状クーが突出している。これだから『クッキングケミカリー』って奴は……。

 

でもこれは嬉しい収穫だ。あの動きだったら最初っから敵対してるMOBと出会ってもクーはちゃんと戦闘できるだろう。倫理観が全く育ってなかったのがかえってよかったのかもしれない。

しかもこれ、まだまだ伸びるからね。まだ『クッキングケミカリー』の進行度Lv2だし、他にも盛れるからさ。これだから『クッキングケミカリー』って奴は……。

 

一つ問題があるとすれば、『クッキングケミカリー』取得のきっかけとなった『食人癖』だろうか。これが普通に死体に興味向くぐらいだったら何の問題もなかったんだけど、何か食欲が私に向いちゃってるんだよなぁ……。

実際今も、戦闘で興奮したからか、私が近くにいるからか。撫でられて喜んでるクーの顔が赤くなり視線が段々と熱いモノになってきた。これだから『クッキングケミカリー』って奴は……。

 

「ア゛……ウ゛ア゛ァ゛ア゛グ゛-……」

「と」

 

クーの餌やり、ちゃんと考えないとなーと思いながらクーを撫でていると、音か飛んで行った肉片かで反応したゾンビがやってきた。

 

ゾンビちゃんは最初は音がしたから来たという感じだったが、中立じゃない私を見てやっぱり呻きながら襲い掛かってきた。ふむ、陽が落ち始めてるから移動速度上がってきてるな、速く処理しとかないと。

 

クーを撫でるのを止めてホルスターからナイフを抜く。クーは撫でられるのが終わって、寂しそうな顔をした後、不満顔でゾンビの方を向いたが、私も戦わないとなまっちゃうのでこの場はもらうことにしよう。

 

「私も戦いたいから、クーは見といて」

「ん……わかった。がんばってね!」

 

私がゾンビ殺すとこ見てて♡

……クー相手にこのキャラやるのちょっとキツいな。やっぱスラングはわかる相手じゃないと。

 

さて。前回の奇襲メインだった時と違って今回は正面戦闘だが、別に問題はない。そりゃあリアルではゾンビの相手なんかしたことなかったけど、それでも今はカルシアの運動神経が良い体で、ノーマルゾンビ相手に何百何千と繰り返し見てきたモーションを再現するだけなのだ。

『近接格闘』が。

 

私は走ってきたゾンビを待って、適当に構える。相手が襲ってきたら、最後に出した足───今回は左足───を見て、相手に合わせて右側に避けながら左手を取る。後はすれ違いながら足を引っかけ、取った左手を下に回すように動かせば、ゾンビはぐるんと回され地面に大の字に叩きつけられた。

そこにすかさず目にナイフを突っ込んで脳を破壊すれば完了って寸法よ。ゾンビ君はすぐに動かなくなった。

 

クーみたいなパワーはないけど、培った……培った? 技術で『近接格闘』を使いこなす。ま、上々でしょう。この感じなら奇襲じゃなくても十分通用しそうだ。ゾンビ達、色々こぼれ落ちたりしてるから軽くてやりやすいし。

 

ナイフを引き抜いてクーを見ると、目を輝かせて立っていた。その表情には「凄い!」といった言葉が浮かんでいた。

 

とりあえずピースしておいた。




『食人癖』

ゲーム中では、死体を前にすると人肉としてアイテムを取得せずとも、その場で食べる事ができる。
とある『食人癖』持ちキャラを使っていた検証班が若い女性キャラを食わした時だけ暴走まで余裕が伸びると主張。
とりあえず検証してみたところ、直接食べる場合、違いがでることが明らかに。
これは直接食べる場合は『人肉』というアイテムではなく『若い男性死体』『年老いた女性死体』などの違いがるためと推測される。
なお流石にゲームとして面倒になるからか、『人肉』アイテムを食えず『若い男性』のみ食べる『食人癖』などはないようである。


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餌やり

「あ」

「どうしたの? おねーちゃん」

 

あの後、見つけたゾンビを交互に処理していきながら、駐車したところから真反対の『町』の入口まで来たところで私はそれを見つけた。

 

荒野に広がる一面の茶色な地面。それ以外の色と言えば、暗くなってきた空の色と所々に生える木の色くらいだ。

それが荒廃したこの世界では普通の光景なのだが今回は違った。

 

「ほれクー、こっちきて見てみ」

「なになに? ……わっ、どう、ろ? 道だー」

 

そう、道。コンクリートで舗装されてるわけではないものの横3mほどの色違いの地面が、ずぅっと長く伸びていた。

 

「これって、どこかにつながってるのかな? この道の上をあるいていけば、なにかあるの?」

 

私に呼ばれて隣に来たクーは背伸びをして遠くを見ようとしていた。頭相応の行動で可愛らしいけど、暗くなってきたし若干砂煙あるしでそんな先は見えないと思うよ。

 

「あるよ。あるというか、この道を辿っていけば目的地の『都会』に着く。朝になったら使おうか」

 

道は『町』から『都会』をつなぐルートだ。具体的には30%の確率で生成される。見つけたらとりあえずどっちかに『都会』があるのが確定されるので、プレイヤーのお供である。

ま、できれば陽が落ちる前に見つけておきたかったが……『都会』に夜になるタイミングで入りたくはないし、そもそも見つかっただけ御の字か。これで明日には『都会』入りが確定したわけだし。

 

「うむうむ、これまた嬉しい誤算だ。……ま、ともあれまずは今夜の宿を確保しますか。次は向こう側を見るよ、クー」

「わかった!」

 

 

一時拠点にするならやっぱりガソスタ。燃料の補充もできるし裏口がある建物はそれだけでやりやすいんだよねー。や、民家も裏口とかあるタイプは生成されるけど、民家は複数パターンあるのに対しガソスタって2パターンしか生成ないからさ。安定した方法が確立されてるんだよ。

 

ちゃっちゃっと燃えるものを集め、ガソスタに置いてあったガソリン撒いてファイヤー。ここらへんはゲームでもよくやっていたことだから手慣れたものだ。

 

ちなみにクーはというと、「あっちからいやな匂いがするー」とか言って民家に不法侵入を繰り返しにいった。

家の中にいるゾンビなんて大きな音立てなきゃ来ないし、全部の民家見回るなんて面倒だからパスしようと思ってたんだけど、クーは犬タイプだからその嗅覚で位置を把握できるらしい。

普通に私の『気配察知』より範囲でかいし……これはゲーム内ではなかった能力だった。やはりゲームとリアルじゃ多少の差異はでるか。

 

さっきの戦闘を見て、もうここらだったら好きにしてくれって感じの戦闘能力なのはわかっているので私は「なんかよさそうなのあったら持ってきて」とだけ伝えクーは送り出した。どうせここにいても何かできるわけじゃないし……。

 

「ふむ、ガソスタ内に結構いい食料あったな」

 

クーが帰って来るまでにまだ余裕がありそうだったので、ゾンビから貰った(剥いだ)プラスウォッチを弄る前にガソスタ内部に入ったところ、割といい食料がドロップしていた。

 

具体的にはツナ缶に鳥缶に乾燥トマト、ドックフード。

 

おい最後と思わない事もないが、これは普通に私も食べる予定なので大丈夫だ。断じてクーに食べさせようと思ってドックフードを取ったわけじゃない。確かにあの子犬っぽいけど、というか2割ぐらい犬なんだけど、それが理由ではないです、はい。

 

「うぅむ……いや、もう今日使っちゃうか。エネルギーバーほど持つワケじゃないし」

 

ドックフードは優秀な食糧だ。

まず早々腐らない。3ヶ月はもってくれる。そして量も腹持ちもとてもよい。これで生成率が高く、とある問題がなければ絶対にtier1に入る食糧だっただろう。

 

けどなぁ……。

 

「私に料理の才能はないんだよねぇ……」

 

才能。つまりスキル。リアルの私も料理ができなかったので、もちろんこのドックフードを調理するには料理スキルが必要となる。ドックフードを調理するってなんだよ。

 

読者の皆はもちろんドックフードを食べた事があるので知っていると思うが、ドックフードってのは匂いに反してとにかく味が無い。ちなみにこれはキャットフードも同じ。

それの再現なのかドックフードは調理しない状態だと、満腹度こそ高く回復してくれるが、精神力が落ちる。それはもう、ゾンビに一回攻撃受けたぐらいがくっと。

 

PC前に座ってた時は自キャラ(カルシア)にお前ゾンビ見ても精神力落ちねーくせにドックフード食った程度で精神力減らしてんじゃねーぞと文句を言っていたが、試しに久々にドックフードを一個食べてみると「あぁ……」ってなったので文句は撤回することにした。これは精神力減るわ。

なんでこんな芳醇な匂いしてるのに、こんな味なくてもそもそしてるんだろう。ほんとわかんない。

 

まともかく、こんなのがドックフードという食糧なので、精神力が落ちないようにしっかりとした味付けを行う必要がある。だから、料理スキル必要となるんですね。

 

「えー、けどなぁ。流石にドックフードのためだけに料理スキル取りたくないもんなぁ……」

 

料理スキル。料理をするためのスキル。これいる? 戦闘に一切関係無いよ? レーションとか缶詰で良くない?

 

「そーなんだけどなぁ、クーもいるしなぁ……」

 

クー。私が面倒を見ると決めた……というより便利だから手放したくない子。今の懐き度からして、ご飯がマズいからといってばいばいとはならないだろうけど、『食人癖』を私に発動させてきそうで怖いんだよなぁ……。

 

私一人だったら、食料調達も生産も安定するまで間に合わせれるんだけど……クーはそこらへんからっきしだからなぁ。

 

ううううう……。

 

口を曲げ眉を顰め腕を組み、私は天を向いて考える。光溢れる都会と違ってキャンプファイヤーしか光源がない今、空には無数に輝く綺麗な星々が見える。

気温は丁度よく、涼しい風が吹き、目の前のキャンペーンはぱちぱちと時折火花を散らす。少し遠くからはたまに破壊音が聞こえ、クーが元気にやっていることがわかる。

私の悩みなど知らず、嗅覚を活かしてまだゾンビ狩りしてるのだろう。夕飯の献立に悩む母親の気持ちってのはこんなものなのだろうか。

 

……あああああ! もう知らん! 要は精神力が減らない程度に食えるもんになってればいいんだ! 幸い予定外に手に入ったから消費しちゃっても構わない食料があるんだから!

 

私は鍋に水を張った後、野草とドックフードとツナ缶と乾燥トマトを全て鍋にぶち込んだ。

 

 

「ただいまー! ちょっと遅くなっちゃった、ごめんなさい」

「おかえり。丁度ご飯できたとこだよ」

 

()()()も終えて皿に盛った……ドックフード雑炊(?)を混ぜ終わったところでタイミングよくクーが帰ってきた。

 

皿から視線を外しクーを見ると、案の定ケガもなくピンピンしていた。揮発性が高いのか布か何かで拭ってきたのか、体はもちろん右腕にも血や肉片一つついていない。

左手には出会った時持っていたような肩さげタイプのカバンを持っており、恐らく私のお願いを律儀に守って使えそうなものを取ってきてくれたのだろう。

……そういえばクーが最初に持っていたカバン、後部座席にいつのまにか積まれてたけど、中身なんなんだろ。「クーのお友達!」って生首出てくるパターンとかだけは止めて欲しいぞ。異臭はしないからそれはないだろうけど。

 

クーはそのまま私の隣に座りこみ「これ、使えそうなの!」とカバンを渡そうとしてきた。が、そのまま左手を伸ばした体勢で固まって、鼻をすんすんと鳴らしはじめた。

 

「どったの?」

「ん、いや……おねーちゃん、ケガした?」

 

とりあえず固まったクーからカバンを取ながら訪ねると、クーがじっと私を見ながらそんな質問。流石にクーの嗅覚は鋭いな。

けどあくまでも私の体への言及。犬系ということも相まって、ドックフードでの誤魔化しはうまくいけそうだ。

 

「あー、料理中にちょっとね。大したことないから大丈夫だよ。もう消毒液ぶっかけて処置したし」

「そうなの? なら、よかった」

 

クーはそれで納得してくれたらしく素直に引き下がってくれる。ほんと人を疑うって事を知らないなこの子。消毒液で処置したってのも本当だしね。私もシンナー系統の匂い感じるもん。逆に言えばその匂いを突破して私の血の匂いをクーは嗅ぎつけたって事だけど。

 

「それじゃ、ご飯にしようか。はいクーの分。……あぁ、スプーンの使い方ってわかる?」

「ありがとう! スプーン……これ? これの使い方ならわかるよ!」

「ならおk。いただきまーす」

 

クーがスプーンを使えるか一応確認して食事開始。昨夜はサンドイッチで今日の朝昼は食器を使わないエネルギーバー。実験体暮らしだったクーが使えるか一応の確認をね。

 

作ったドックフード雑炊を口に運びながら、視界の端に映るクーを観察する。クーは私の真似をして「いただきまーす!」と手を合わせているところだった。

 

私の方は何の変哲もないドックフード雑炊だ。水でふやかされたドックフードにトマトが染み込み赤くなり、そこに所々ツナと野草が混じっている。ドックフード雑炊が何の変哲もない……?

 

しかし、クーの方は違う。クーの雑炊には、それらに加えて私の血がそれなりに入っている。理由はもちろん、クーの『食人癖』がどういった性質なのかを見極めるため。適当に腕を切り、100CCぐらいを混ぜ入れた。

 

もちろん、私から取れる分だけじゃ『食人癖』の暴走を抑えるのは難しいので、その内ゾンビやらNPCやらを食わせる気ではいるが……それでも、私を食べた時のクーの反応は見ておきたい。直接コップに入れて渡しても良かったけど、今回はリスク管理で生産者不明で。

 

もし私の血肉がクーにとって好物に分類されるならば、今後ご褒美というニンジン棒で操作するのがやりやすくなる。

 

果たしてクーの反応は……。

 

あーんと口を開いたクーが、スプーンいっぱいにすくった雑炊を口に入れぱくんと閉じる。スプーン引き抜いて、もぐっと口を動かして……急に電撃が走ったようにぴしっと俊敏に背筋を伸ばし目をかっぴらいた。

そのまま三秒くらい固まったと思ったら、ごきゅんと私に聞こえるほど大きく喉を鳴らして呑み込んだ。お前今ちゃんと噛んだ?

 

「お、お、お……!」

「おいしい?」

「うまいっっっ!!!!!」

「おはなんだったんだよ」

 

そして大声叫んだ。立ち上がって、天を向いて。全力のオーバーリアクションだった。

 

「おいしいっ! おいしいよこれっおねーちゃん! なんていうのこれ!」

「ドックフード」

「くードックフードだい好きっ!!!」

 

やべぇ。想像以上にクーの好物になってしまった。




私はキャットフードしか食べた事がありません。

精神力…要はSAN値


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都会到着

本当にドックフードが大好きなだけだったという一縷の望みを賭けて「私の方も食べる?」と血の入っていないのも食べさしたが、そっちからは「おいしいけど……さっきのほどじゃない……」と素敵な反応を頂いた。知ってた。

 

まぁ想定通りだからいい。ここでマジでクーがドックフード好きなだけだったら拍子抜けだもん。

それにドックフードという、まぁ探せばクーでも見つけれるようなものよりも、私という有限で管理できる好物の方が操りやすい。最終目標としては、私の血肉よりも私自身に依存させる事だけどね。

 

 

「んー……まぁこんなもんか……」

 

夜。

私はプラスウォッチからメモ帳のホログラムを出現させ、考え事をしていた。

 

クーは隣でおねむだ。昨日と同じように右隣りにいて、壁半分私半分でもたれかかって寝ている。口を半開きにして寝ているのがなんとも可愛らしい。

 

作業の気晴らしにクーの頭に手を置きなでると、半開きの口がにへらとだらしんく歪んで幸せそうな笑顔になった。ふふふ、こっちは起きて作業してんのにむかつくなぁ♡寝ていいよって言ってるのは私なんだけどね。

 

顎に撫でる手を移動させ口を閉じさせると、私は視線を目の前のホログラムに移す。そこには『体幹』『未来視』『過充電』などの、スキルに体質にウィルスに超能力にモジュールにと、私が知る限りの名前が書かれていた。

もちろんこれらは何百何千とある、NZWの要素のひとつだ。大体覚えてるとは言え、私でも全ての要素は書ききれない。

 

ではこれらは何故取り上げられているか。それはここにある要素は全て、とある共通点があるからだ。

 

例えば『体幹』。ゲームではスキルポイント1で取得可能のノーマルスキルで、効果は『一部格闘アクションなどにモーションが追加される』というものだ。ちなみにマジでモーションのバリエーションが増え自キャラがカッコイイ動きをし始めるだけであって、戦闘力は一切変わらない。お遊びスキルだ。

 

例えば『未来視』。ゲームでは一部研究所のイベントやクトゥルフ関係のイベントをこなす事で獲得できるレアスキルで、分類は異能力だ。効果としては『自身が対象として攻撃される時、遠距離攻撃を95%の確率で、近距離攻撃を90%の確率で回避する』というインチキ効果で、初心者ならWikiで効果を見たらまず間違いなくこれは強いと取得を目指すだろう。ちなみに自身が対象としてなので広範囲攻撃だと普通に当たる。

 

例えば『過充電』。これはサイバネ……自身の体を機械化していると選べる強化パーツの一つで、そこそこ頑張って作るモジュールの一つだ。これはサイバネ体を動かす電力を、通常より更に貯蓄できるというもので、過充電状態では体は電気を纏い出力強化と電気での追加ダメージが入る。オプションで髪を逆立てるか選べる。

 

……勘のいい人はもう気づいただろう。

このスキル、異能力、モジュール達は、ゲームからリアルになった今、説明文以外の効果がありそうなものである。

 

ここの制圧をする時、クーはゲームではない性能である、犬タイプの『クッキングケミカリー』による嗅覚で私の『気配察知』以上の精度でゾンビを感知していた。

あの時は「ほぇーやっぱゲームとリアルじゃ差ぁあるなぁクーが更に便利になったし『気配察知』取らなきゃよかった」と吞気に思っていたが、今は違う。

 

はい。私達がそのリアルになった影響を受けるということは、他の人もその影響を受けるということでして……。

忘れてはいけない。この手のゲームで脅威なのは、ゾンビなんかよりも人なのだ。マルチサーバー選んでここに来たんだから、プレイヤーもNPCもイレギュラーありきの対峙になると肝に銘じなきゃ。

 

『体幹』ならば、敵が予測不能な動きをしてくるかもしれない。『未来視』なら私たちがやろうという事が観測され罠を張られるかもしれない。『過充電』なら漏れ出る電気で研究室のPC類が使えなくなるかもしれない。

 

そういった、今後予測できなさそうな事をある程度予測してなんとかしようというのが今していることだ。

 

……そいや私、自分の強化の方向性しっかりと決めてなかったし、なんならクーがウィルス変異だしサイバネでもやるか~と思ってたけど、クーに血肉をあげたい都合上、体機械化できなくない? 今気づいてよかった……。

 

えじゃあ私なにやろう。あんまり被せたくないしなぁ。あいつらともまだなんも方向性決めてなかったし……。『異能力』ルートでもするかぁ?

 

私はそんな事を考えながら、毛布を直し目を閉じ眠気に身を任せていった。

 

 

 

朝。私とクーは腕からなるプラスウォッチのアラームの音で起きた。

 

「……おはようございます」

「おはよーおねーちゃん! ……なんかげんきない?」

「ちょとね……」

 

あぁ。私と違ってマジで元気だねクー。羨ましいよ。

 

現在時刻は6時ちょい。太陽が昇り明るくなってきた頃だ。昨日私は寝たのが10時過ぎくらいだけど、クーは8時には寝てたから10時間寝てんのかこの子。そりゃ元気だわ。

 

昨日は寝てる間にそこそこの人数のゾンビがやってきたので、私はロクに眠れなかったのだ。『イルカの眠り』のおかげで寝込みを襲われる(直喩)こそなかったが、それでも1~3人の訪問を5回捌くのは眠くなる。夜で強化入ってるし複数体いるから油断できないし。やっぱ常にキャンプファイヤーさせてなきゃダメだぁ。にしてもゾンビ君ちゃんの訪問回数が多かったけどさぁ。

 

クー? 全然起きなかったよ。ま手伝わすほどじゃなかったけどさ。

……推定10才にあたるのは情けないからあんまりダメな事思うの止めようね、私♡ 普段から思ってる事ってやっぱ行動とかふとした時に言葉に出ちゃうからな。クーは手放すには惜しいから気を付けなきゃ。

 

相手は無知で純粋で幼稚であることを常に念頭に置いておきましょう、はい。

 

 

適当に朝を済まし荷物を積み込み出発。行先はもちろん道の先だ。まぁ昨日のあっち行ってこっち行ってより道をなぞって行く分、1時間もありゃつくでしょ。

 

「うーむ眠い。これもリアルになった影響っちゃ影響か? 道を進むだけっていう単調なのもこれまた眠気が来ちゃうなー」

「おひるねする? くーゾンビが来ないようにみてるよ?」

「あー、や、いい。移動は仕方がないしにしても無駄な時間はなるべく減らしたいし。それよか何か喋ろうよクー」

「うん! くーはねぇ……」

 

この車が音楽でもかけれればよかったんだけどなー。残念ながらそういった機能は付いていなかった。しょうがないのでクーとの雑談で起きることにする。

 

『道』だからかたまーにふらついてるゾンビを避けながら(一般車両なので轢くと損傷が懸念される)ドックフードがー都会がーこのスキルがーと好き勝手喋り合う。話題としてはやはり、身近なものや自分の事が多い。

 

「手ぇ? あクーには言ってなかったっけ。それ『クッキングケミカリー』って言って……ゾンビの……ウィルス………………クーが今まで食べたわんちゃん達が、力を貸してくれるからだよ」

「そうなんだー!」

 

その中には当然自分の体の事も含まれる。幸か不幸か、クーは自分の腕が獣と化したことをおかしいと認識していなかったのでなんか柔らかい表現で誤魔化した。

 

「くー、おねーちゃんとであうまで何かいかあぶない目にあったけど、この手のおかげで何とかなったんだぁ。食べたわんちゃんたちありがとねー」

「はっはっはっ。ちなみにもっと食べたらもっと力を貸してくれるよ」

 

サイコパスかよクー。これが天然モノか。

 

「あ、そういえばクー、昨日役に立ちそうなモノ色々カバンに入れて集めて来てくれたよね。中身見せてくれない?」

「いーよー!」

 

会話が一段落したところで、昨日は飯の反応を優先したから忘れていた戦利品を思い出し見せてもらう。と言っても私は運転しているのでバックミラーでだが。や、昨日とは違って『道』の上にはゾンビが沸くので……。

 

さーて、クーは何を役に立ちそう判定して持ってきたのかなぁ。

 

「えーっとねー、見える? これとかこれとか! んー……『にほんしゅ』? かな? こっちは『あかわいん』って書いてる。『かろすてぃーしゃじまんの、ほうじゅんでかおりだかいわいんをおたのしみください』だって」

「ふっは」

「? どうしたのおねーちゃん」

「いや、何でもない」

 

酒じゃねぇか。

水着マントロリが酒瓶持って商品説明してる姿見て思わず笑っちゃったじゃんか。

そっかー。クーは酒を役に立ちそうなモノとして判定しちゃったかー。

いや、役に立つよ? 『酒』って嗜好品分類だから精神力回復するし(自キャラによっては下がる事もある)、ガソリンや消毒品の代替え品にもなるしNPCに渡すと好感度も取引の質も高くなるし……。

けど、けどさぁ。何で君そう、見た目といい(私がやった)思考といい(半分私がやった)食人癖といい(これは私はやってない)犯罪っぽさを出そうとしてくるの?

一人で放浪してる時水がないからって飲酒でもしてたの?

 

「これねー、白いふくの人たちがよく、だいじそうに持ってたんだー。きっといいものなんだよね!」

 

あっなんかごめん。

 

 

「あ! 道のさきに何かある!」

「ん? おー見えてきた見えてきた。そうそう、あれが『都会』」

 

続けて運転すること少し。『道』は無事に私達を『都会』へと送り届けてくれた。もうちょっとだーと私は更にアクセルを踏み込んだ。今最高スピードだから意味なかったけど。

 

『都会』は『町』に比べて10倍以上ものサイズを誇る、人が集まり()()()発展し騒ぎが絶えない、まさにゾンゲーの華とも言える場所だ。プレイヤーも集まるが、NPCだって多数生存しており、それを狙ってゾンビだってやってくる。お祭り会場だってこと。

 

当然建造物だって『町』とは一線を画し、最高80階まで生成されるマンションに『町』一個分を誇るサイズの超大型ショッピングセンター。拠点を作るには最適な公園があれば、最初からそこそこ機材が揃っているオフィスだってあるし、医療品が大体揃う国立病院だってある。

研究所や工場こそ、一定ランク以上は生成されないが……それにしたって、中盤まではここだけで強化できるレベルだ。なんせ民間企業の傭兵会社(人体強化)個人研究所(ウィルス強化)工業大学(サイボーク化)などだってあるのだから。

 

簡易的とはいえ高く分厚い防壁がそびえ立ち、しかし門は閉じず来る者拒まず去る者追わずな雰囲気を感じさせる。中で行われていることなんて大体はNPC・プレイヤーの生存者グループ同士による抗争に数を減らすための暗殺、物資を求めての奪略といった血と怒りと裏切りまみれの血生臭いことだ。

 

しかしもちろん、そういったいざこざはそれが起こりうるほどの魅力的なモノがあるからこそだ(たまに純粋な殺害欲が動機な奴いるけど)。都会一つ手中に収めてしまえば、『ワールドエンド』が起きるまでは安寧を得られるだろう。

 

ま私達プレイヤーにとっては通過点なんですけどね。




『未来視』、使うか迷うよね


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都市侵入

防壁が更に広く横に伸びているのが見えてきた辺りで、私は道を逸れそこらの岩陰に入る。まー見張りなんていないと思うけど念のためだ。

 

今回私は一緒に遊んでいたフレ達と、外部コミュニケーションツールを使って集合できていないので、セオリーを知らないクーと共に都会に入る事になる。

世界は生まれたてなのでプレイヤー面に関しては大丈夫だと思うが、NPC君は世界が生まれた時からの付属品なのでもうできあがった状態なのだ。隣のクーとかね。

 

フレ達と一緒なら余裕で、そして一人なら状況次第でどっかのグループを乗っ取って拠点を確保し、襲い来るNPC・プレイヤーと争いながら強化していくところだったが……まま、最近はパッチの影響で最初っから荒っぽい手段取るより、潜入して内部瓦解させた方が楽になってきてたし、そっちの手段取りましょ。

 

しかしそうなると、この腕が獣となったクーをどうするかが一番の鬼門なんだよなぁ……やっぱり、NPC君も異形っぽいクーを見たら怖がって攻撃してくるとかあるし……。だからと言ってクーを置いてはいけない。安全が確保できたらクーも『都市』に入らせるとしても、その安全が確保できるのがいつになるかわからない。

 

うーん……。やはり安定は工業大学だろうか。あそこのグループは比較的善人が集まりやすいしなぁ。人間じゃないモノをノータイムで攻撃してくる傭兵会社はダメだ。あそこにクーは連れていけない。

……工業大学がダメなら、妥協して国立病院か? あそこも一応、攻撃されるってことはないだろうけど。クーにとっては研究所に戻るような居心地の悪さがあるかも。

 

ま、ダメそーならゆっくり時間をかけて殲滅ルートに入りましょ。一週間分は食料あるし、クーを引率するのだって私ならできるはず。クー戦闘センスあるから多少楽できるはずだし。

 

よっし。じゃあ第一計画は、中で工業大学を見つけてそこのグループに仲間入りするってことで!

 

「クー、今からちょっと大事な話するね」

「ぅえ? うん」

 

私は車体を完全に止め、真剣な顔をしてクーを向く。もちろんサイドブレーキなんてかけてない。というかこの車に付いてない。

 

体を車の窓にぴったり張り付かせ、どうにか岩を避けて『都会』を見ようとしていたクーも、私の真面目さが伝わったのか座席に整い直した。

 

「私たちは今から、あの『都会』に入ります」

「うん」

「『都会』には人がいっぱいいます。クーが前にいた研究所って所より人がいます」

「うん」

「その人たちは、クーの事をまぁ怖がります」

「………………」

「クーにこっちへ来るなと言ったり、化物と言ったり、石を投げたり、銃で撃ったりしてくる人もいます」

「……うん」

「クー。私はクーの事を、そんな風には扱わないけど……今のクーは、そうされるような体であるということを知っておいてね」

「……わかった」

 

私は悲しそうな顔をして下を向いてしまったクーに苦笑すると、身を乗り出して頭を撫でた。クーは目を閉じてそれを受け入れる。

 

「クー。私が生活しやすい環境を整えるから、しばらくは言う事を良く聞いてね?」

「ん……」

 

クーは私に頭を差し出すようになり、もっと撫でりと表現してくる。

 

……正直、クーのためにここまでする必要があるかと考えるとそこまでない。戦力としてみればかなり頼もしく、レアなウィルス変異ということもあり今後も期待できる。このリアルとなった世界じゃあ繊細な作業は無理だろうが力があるのは色々と応用が利くだろう。何より裏切らないということが大きい。

 

けど裏を返せば、クーの利点なんて()()()()だ。知識が無い。意志がない。この世を知らない。序盤で希少な戦力であることに間違いはなくとも、そんなものこの先いくらでも代替えできる。果たして代えの効くモノに対して、今面倒な遠回りをする必要性があるのだろうか。

自分の血肉を差し出して? 他プレイヤーが先に強化されていって? フレとの合流を遅らして?

 

……まぁ、色々と。自分を納得させるような言葉をつらつらと並べてはいるが。

 

「……結局、割と絆されてるんだよなぁ」

 

顔を寄せ、私の手にすりすりと自分の頬を押しつけてくるクーをぼんやりと見ながら、私はそう呟いた。

 

私にだって一般的な感性は残っている。クーが可哀そうってのも可愛いって思うのも本心だ。それを自衛のために、効率で抑え込んでいただけで。

NPCと割り切るのは簡単だが……それでも、この世界で初めて出会った、この世界の被害者。できる限りの事ならしてあげようじゃないか。私は根はいい奴なんだ。

 

 

「まずひとーつ。私がいいよって言うまで絶対に喋らない」

「ん! お口ぬいぬい!」

「その研究所特有の語彙なんなの? 語彙モジュール追加する? まともかく、クーはなんかそーなった心理的苦痛で声を出せなくなった的な設定で行くから、私の服ずっと掴んで私の後ろでついてくる……って感じで」

「! くーの学校にも、けんきゅーじょ? でも、そういう子いたからだいじょうぶ」

「ならばヨシ。ふたーつ。私以外の言う事を聞かなーい。基本的に私とずっと一緒にいて、対応も私がするけど……それでも一人にする状況はあるかもだから。その時に「お前のねーちゃんからの伝言だ」とか言われても、全部無視してね。この人なら大丈夫ってのあったらその都度言うから」

「やっぱりその人たちもわるい人だから?」

 

クーはこてんと首を傾げてそう聞いてくる。可愛く背徳的だなぁ。だからこそ右腕を突破して欲望をぶつけてきそうな奴がいそうなんだけど。

 

「どっちかっつーと悪い人だけど、正しくはクー相手に悪い人になる、が正しいかなぁ。クーは身体目的で相手を悪い人にさせちゃうんだよ」

 

身体目的(異形を嫌っての殺害)(珍しい症例の実験体)(純粋なロリコン)でね。

 

「くー、おいしそうなの?」

「そっちもあったか」

 

身体目的(食人癖)。

 

「美味しいか美味しくないかはさておいて。みーつ。殺人はいけないことです。この人美味しそうだからって飛び掛かって噛みついちゃいけません」

「ゾンビはいいの?」

「ゾンビはいいの。あれもう死んでるから。でも人を殺すと面倒な事になるから、少なくとも勝手にやっちゃいけません。お腹が空いてもダメ。……ご飯は私が用意するから、勝手にそこらの人肉(ゾンビ)を食べてもダメ」

「わかった!」

 

クーとお約束を決めた結果大分束縛激しい女みたいになっちゃったなって思ったけど、クーからは元気のいいお返事が得られた。お前本当に内容理解してるんか? 元気よく答えられるような内容じゃないはずなんだけど。

 

 

 

『都市』への進入は静かだった。歓迎の拍手(銃弾)クラッカー(グレネード)ボード(縄張りマーク)もない。平和なモノだ。もっとも遠くからは銃声らしきものが響いているが。

 

防壁の中は、想像よりも都市の形を保っていた。リアル化したからだろうか。それとも世界が産まれたばかりでプレイヤーがあまり争っていないからかな?

 

気を構えていたのが無駄になって気が抜けつつも、警戒は怠らず車を静かに走らせていく。『都会』なんだから大通りを走らせて行けば看板があるはずだけど……あぁ、あったあったあれだ。

 

『都会』は京都程ではないが、比較的ブロック分けされた分かりやすい地形をしていることが殆どだ。よって大通りな今の道は、このままほぼ直中で反対側まで繋がっている。『都市』の正式な入口はわかりやすく4つ。NSWEそれぞれの方向だ。

そしてそれぞれの入口通ってすぐ辺りに、この『都市』に何があるかを大まかに記した地図の看板が置いてある。なお破壊不可オブジェクト。

 

看板の足元について、マップを見てみる。観光場所に置いてある地図なんて比べ物にならない大きさだ。これもうちょっと引いて見たいな。

と、思ったら看板の下に「お手元のプラスウォッチで読み取れます」と二次元コードが記されていた。わぁ助かる。

 

早速読み取って車に戻り、後部座席のクーにも見える位置でホログラムを展開させる。青白い光は次々と図形と文字を形取りマップを起こしていった。

 

「でも私地図見るのあんま得意じゃないんだよなぁ。え~現在地は……東か。狙いの工業大学まではーーー……傭兵会社ではないものも、激戦区になりやすいショッピングセンターの近くを通る事になっちゃうな。こっち側に回るとしても動物園が近いのが怖い。けどまぁ現実的なのはその二択か。クーはどっちがいい?」

「………………」

 

返事がない。

クーを見ると首を引っ込めて歯を食いしばってるような表情してた。

 

「クー? あ、今は喋ってもいいよ。喋っちゃダメなのは他の人と出会ってから」

 

思い出した。許可なく喋るな(誤解を招く誤解じゃない指示)つってたんだ。私とのお約束を律儀に守っててくれてえらいね。

 

「ぷはっ。そうなの? わかった。くーはねー、わんちゃんたちと会いたいからどうぶつえんに行きたいなー」

「動物園にワンちゃんはいないと思うが」

「えっ……じゃあショッピングセンターでいい……」

「はい」

 

じゃあこのまま大回りせずショッピングセンター通過するってことで。銃声の方向とはズレてるし、今は安全と祈っとこう。

 

しょんぼりとしたクーを放って、私はマップを改めて細かく見てみる。ここの『都会』……マートラという名前らしい。マートラは基本的な施設は抑えていて、レアな施設としては『道場』『遊園地』があった。ここは正直『美術館』の方がよかったかな~美術品の中には使えるモノもあるから。

そしてそれとは別に気になるものとして。

 

「『貸しコンテナ置き場』ねぇ……」

 

マートラの西部付近に存在する、それなりに大きな『貸しコンテナ置き場』。一応近くに中小会社、工場などはあるので、不自然ではないが……。衛星によりリアルタイムで更新されるマップに映されている図形が、コンテナの形である長方形がいっぱいというよりは、建物の正方形って感じなんだよなぁ……。

怪しいですねぇー怪しいですねぇー。これはゲームにおいて『都会』で1/10生成の『R社実験派出所』の気がしますねぇー。

 

ま、コンテナ整理倉庫である可能性も十分あるけどさ。ここが『R社実験派出所』だったら昨夜の襲撃の多さとか、道にいたゾンビの多さとか説明つくんだよなー。

 

「その『かしコンテナおきば』って何かあるの?」

「私がいるよ」

「?」

「クーもいるよ」

「えっ!?」

「まーワンチャンね。ワンチャン」

「わんちゃん!」

「ワンちゃんはいないかも」

「??????」

 

あ、クーの頭の限界を超えた。からかい過ぎたか。




前話で「研究所や工場こそないが……」を「一定ランク以上は生成されない」と変更。
いや都会に研究所とか工場ないの不自然だし……。


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道中

稼働音があまり響かないように低速で車を走らせていく。『都会』ってのは道の掃除が行き届いていて運転しやすいぜ。あ、ここでの掃除とはゾンビの事だ。廃車とか死体とかよくわからんゴミとかは普通に落ちている。中世英国か?

なお何で掃除が行き届いているかって言うと、NPCの皆さんも「昼間だったら……」と移動時に道中のゾンビは処理してくれるからである。建物内まではカバーしてくれないけど、それでも十分だ。

 

「車は徴収されても仕方がないとしても、半分ぐらいの物資は隠しておきたいなー。バレなさそうなとこ……クーに穴掘ってもらえばいいのか?」

「穴をほるの? やり方何となくだけどわかるよ?」

「へぇ、犬タイプの影響かね? まーバレなきゃ隠す方法は何でもいいんだけど……ここら辺は入口近いから止めとくとして、ショッピングセンター過ぎた辺りで探そうかな。というかショッピングセンター見えてきたし」

「あれがショッピングセンター? こうえんみたいだね」

「奥にある建物含めてのショッピングセンターだよ。ここの広場は……イベントスペース?」

「はっ! プラスウォッチでおぼえたのだ! やがいはんばいってやつでしょ!」

「あ、うん。そう」

 

私の教育方針は放任主義。そういうことにしておこう。屋台跡とかあるからあながち間違っちゃいないし。

 

私達は順調に進み、ショッピングセンター前まで来ていた。ここを通り過ぎて右に曲がりちょっと進めば、めでたく目的地の工業大学だ。

そんな中間地点なショッピングセンターは、こっちは広場側らしく、「Welcome add yourlife!」のアーチ状の看板や遊具やテントに小さな建物がいくつか。後は全て芝生や花壇だ。正直結構な大きさだと思うんだけど、これ以上の公園がマップによるとあるんだよね。まショッピングセンターの本体は奥に見えるクソデカ建物なんだけど。

 

ショッピングセンター敷居は柵で囲まれていて、出入りに一定の知識(クー以上ゾンビ以下)がいるからか、中は処理されていない。つまりはそこらでゾンビがうろうろしてるってこと。あ、気づいたゾンビが近づいてきた。君じゃあそこの柵壊せないよーん。

 

「……けんきゅーじょにいたときも、ゾンビがああいうのしてた」

「クーには反応しないから私に反応してるんだけどね。と……?」

 

クーが窓から餌を与えないでくださいゾンビにそうぽつりと呟いたので、拾って反応してあげる。もうすぐグループ内に入って黙っててもらう事が多くなるので、会話するなら今の内なのだ。

 

が、そこで少し違和感。『気配察知』が反応したワケじゃないしクーも何も言ってきていないが、何となく勘が疼いた。

違和感と同時にブレーキを踏み込み、車を静止させる。クーが「どうしたの?」と尋ねてきたが、ジェスチャーでちょっと静かにしてもらうよう伝える。

 

………………なーんかいるなぁ。

 

柵の奥。テントや装飾で見づらく、ゾンビがゆらゆらと揺れている。風の音。風で草花がわさわさと立てる音。ゾンビが呻る声、歩く音。遠くから聞こえる銃声。エンジン音にクーの呼吸。

その中に混じって、ショッピングセンター方面から不規則な足音が聞こえる。音をなるべく消しているようだけど、一度気づくともう見失わない。

 

「……移動してるだけ。ソロ。足音からして隠密中か。こっちに来てる感じだけど、偶然かな。距離的にエンジン音聞こえないと思うし。もう喋っていいよクー」

「おねーちゃんは足おときこえたのに? くーわかんなかったよ?」

「練度が違う。ヘッドフォンでもリアルでも、聞き取り方は変わんないからね。さて、対処どうしようかな……。あ、クー一旦車から降りようか。左側からね」

「ん」

 

とりあえずエンジンを切る。右ハンドルなので普通に降りるとショッピングセンター側になっちゃうので、助手席を跨いでの降車だ。ついでに助手席に置いといたバックもひっつかんで背負う。

 

横を見ると、意図を理解してくれたらしいクーは姿勢を低くしながら右腕を座席に引っ掛けないように降りて来てる所だった。

 

大丈夫そうなので意識を足音の進む方向に。

……あぁ、あそこ従業員か知らんけど、正面の馬鹿デカい入り口とは別のがあるのか。確かに柵は登るには適さないから、植えられている樹木でカモフラージュかかってるあそこが狙い目なのか。

 

まぁ相手のゴールが分かってるならやりやすくて楽だ。

 

「ドアは閉めなくていいよクー。……クー、プラスウォッチを……ここ押して、この項目の下スクロール……『忍耐強化』押して。でそうはいの方。同じように『精神強化』も……うん、おっけ」

「おねーちゃんこれは?」

「保険。もしもの時のためって奴」

 

基本的に、ソロではなくパーティー運用を前提とするなら、スキル・ステータス構成なんて極振り一択だ。火力役は全部STR関連に振れ! とまでは言わなくとも、火力に関連するSTR、AGI、DEX辺りが強化する選択肢になるだろう。何でもできる万能な奴はそりゃぁ便利だけど、特化した人間の方が練度も時間も効率が良くなる。

 

クーはファイター寄りにするつもりだった。なので、『忍耐強化』、『精神強化』といったオフタンク寄りな構成は正直よろしくない。

けど元々クーは現時点でオバースペックな『クッキングケミカリー』を持っており、火力としては十分。火力職の役目は果たせる。

ならばリアル化の影響があり何が起こるかわからないこの世界。保険代わりに少し防御を上げといてもいいだろう。

……もしクーが痛みとか襲い来る『人間』でメンタル崩して暴れたりしたら、それこそどうしようもなくなっちゃうしな。クーはまだ推定10才の子供なんだから。『忍耐強化』で痛みを軽減させ、『精神強化』で恐怖に立ち向かえるメンタルを得て欲しい。フレーバーテキスト的にもそんな効果あるだろうし。

 

「じゃクー。なるべく静かについて来て」

「わかった。……もうお口チャックしとくね?」

「ん、助かる」

 

クーは息を大きく吸い込み頬を膨らましてサムズアップした。息止めろってワケじゃないんだけどなぁ……。

 

私は柵の内側に植栽されているモノより姿勢を低くして、柵に張り付き従業員入口に近づく。後ろにクーが私の真似をしながら近づいてきているのを感じながら、従業員入口の傍へ。

 

鍵は……かかってるけど見せかけだな。ゾンビは無理だが人間なら直ぐ開けられる。こっから先はすぐそばに装飾の石像か、身を隠せるから最高。

 

音を立てないようにそれなりに時間をかけたが、それでもゾンビがいる中隠密している相手よりは早かったらしい。

日中のゾンビなんて全員始末しちまえよと思わなくもないけど、この場所だと抱えきれない数いそうだし騒ぐと別の生存者が来るやもしれないしなぁ。NPC君もそこらへんのルーチンは仕込まれている。

 

……というか見つかんないな。方向は大体わかるんだけど、今は動いてないから足音無いし柵、植木、像などで視界も妨害される。動いてる物体が! と思ったらゾンビだし。ほんと邪魔だなゾンビ。死ねよ。死んでたわ(定番ギャグ)。

 

そんなくだらない事を考えてると、デニムが引っ張られる感覚。何なにと張本人であるクーを見てみると「ん! ん!」と表情に浮かべながら柵内を指さしていた。

 

顔をクーの指に近づけ指された所を見てみると、風でビニールが靡いている中、一部分だけ靡きが小さいテントが。

あーそれだと思って見るとわかるね、潜伏場所あそこだ。人間大の影あるし。

 

とりあえずクーに頷いて返事をし、ご褒美代わりに頭を撫でながら考える。

クーの時と同じく、選択肢としては排除か逃亡かだ。今回は相手がこんな動きをしている時点で弱そうなので排除方面に予定しているが、接触の仕方はどうしよう。

 

公式鯖だからな~多分銃持ってるんだよなぁ~。今の私だと正面切るのは流石に厳しいぞー? かと言ってクーも銃弾に耐えうるのは右腕だけだし、野生の勘がなんとかしてくれると賭けるにはリスクが高すぎる。やっぱ私が出ないとだけど……。

 

まぁ取り敢えず接触するか。私一人なら会話も何とかなるし、クーはここで待機させて様子見てもらおう。こっちは出入り口抑えてるんだから、ロックしっかり掛けて大音出せばゾンビを援軍召喚できる。

 

「クー、ここで……もうちょいあっちで見てて。もし道路から誰か来たらこっちに走ってきてね」

 

私はクーに少し離れた場所にいるように指示する。クーはこくんと頷いて、私のお腹に頭をぐりぐりと擦り付けてからしゃがんで移動し始めた。……何か時間と共に犬っぽくなってるなクー。

 

「さて、と」

 

私は小声で呟きながら、ナイフの位置、ホルスターから直ぐ抜けるかを確認する。よし、問題なし。できればどこのグループにも所属してない人がいいなー。

 

足音の主は、ようやく移動するタイミングを掴めたらしい。時々立ち止まってゾンビの出方を伺いながら、こっちに向かってくる音がする。

 

接触方法は簡単だ。こんな場所でこっちから声をかけると「すわっ貴様さてはさっきから隠密していた我を監視していたな!」と思われる。けど私が見つかるようにして、向こうに主導権を渡すとスルーされる可能性がある。よって安定としては───

 

「ふぅ……やっと出口にこれたって誰っ!?」

「うわっ!?え、何!?」

 

こうして偶然を装う事なんですね。

 

私を見て慌てたように声を上げ、さっと近くの石像に身を隠したのは女性だった。しかも一瞬しか見えなかったけどかなり巨乳の人だった。いいねぇ巨乳。

とりあえず、直ぐに石像に隠れたのは合格点だ。その後響いた音からしてこれ銃も用意したな、流石公式鯖NPC。

 

「所属を言いなさい! 私もここで銃を撃ちたくはないわ」

「しょ、所属? どこにも入ってないと思うけど……強いて言うなら、ネスト、かな? そこから逃げてきたし……」

 

おどおどした気弱な感じで。声に焦りと震えを加え、状況がわかっていない生存者を演じる。

ネストはNZWのど真ん中にある国の名前だ。人類が最も繁栄した土地であり、一番にゾンビウィルスが蔓延した衰退の土地でもある。

 

私の解答に件の女性は少しの間沈黙していたが、やがて少しだけ顔を石像から出し、様子を伺ってきた。

 

「……あなた、見かけない顔ね? それに反応も素人のそれだったわ。最近ここに来たのかしら?」

「う、うん……さっき防壁超えて、入ってきたとこだけど……」

「一人で?」

「いや、あっちで見て来てる子と一緒に……」

 

私がクーがいる方向を指さすと、女性はちらりとクーの方向を見て「そう……」と呟いた。私もクーの方を見てみると、まるで睨みつけるように女性を見ていた。こらこらそういう顔しないのー。ちなみに植木の高さの都合上、クーは肩から下が隠れている。彼女にはクーがただの可愛い少女に見えるだろう。

 

「オーケー。とりあえず信じるわ。今は避難地を探してる感じなの?」

「そう、だね。私一人ならともかく、あの子……クーはまだ子供だから」

 

とりあえずの信用を得ました。わーい。一部女子供って相手の警戒度下げやすいから楽なんだよね。

 

とりあえずの信用さんは銃の安全装置を戻しながら出てきた。さっき言った通りの巨乳で、Yシャツを歪ませてその大きさを主張している。ゴツ目のブーツにジーンズ、黒のジャンパーには私と同じようにカバンを背負っている。声は元気系だったが、顔は金髪をポニテにしたキレ目なクール系だった。

 

「なら、私達のグループに案内するわ。私はロシュア。ハウス所属のサバイバーよ」

 

銃を腿のホルスターに戻し、ロシュアさんはそうキメた。

 

「えっと、さっきから話してる、その所属とかグループって?」

 

まぁ大体は予想が付く。ハウス陣営は初めて聞いたが、それ以外だとそれぞれの施設に準拠したグループだろう。

 

ロシュアさんは後方のゾンビが自身に注意を向けていないか周囲を確認しながら、質問に答えてくれる。

 

「このマートラはね、生存者グループで対立があるのよ。それぞれ理想や信念、生き方によって分かれているわ。物資の奪い合いもあるし……。とりあえず、イカれ野郎共の研究所付近には近づかない事をオススメするわ。西側にヤツラはいるから」

「あ、うん」

 

ロシュアさんは軽蔑を全面的に表情に浮かべながらそう言った。余程軽蔑しているのだろうか。ともあれ周囲警戒ヨシをしたロシュアさんは静かにこちらに走り寄ってきた。

 

「開けるからちょっと離れて。ここはゾンビが沢山いるから長居しない方がいいわ。あの子も……私に警戒してるから距離を空けているのかしら」

「あー、ちょっと難しい子だから……クー、こっちにおいで」

 

私は扉から離れて、クーを手招きをする。クーはいいの? と軽く驚いてから、ゆっくりと歩いてきた。

 

ロシュアさんが音を立てないように扉を開けて、ゆっくりと出てくる。そしてクーを見て───

 

「それじゃあハウスに───!? なにあ───」

「うんお疲れ」

「う”っっっ!?」

 

ざしゅっ。

 

悲鳴を上げると同時に、私が振るったナイフで頸動脈を切り裂かれた。

 

私を見て理解ができないと驚愕の表情をするロシュア。ふらつきながらも一歩下がり、両手を首に持っていき、傷を抑えようとして。

 

私はいつもゾンビにするように、無防備になったロシュアの左目にナイフを突き入れた。




『忍耐強化』……「お前は俺と同じ傷を負っているのに、どうしてそう平気なんだ?」「悲鳴なんて後でいくらでも上げられるし、傷だって治る。明日を生きれるんならこの程度屁でもねぇよ」

『精神強化』……「自分の弱い部分を押し込めろ」


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食事

「な”……で……っ!」

 

ロシュアは地面に突き倒された状態でナイフを生やしていない右目を私に剥き、最後の力を絞るような悲鳴を上げていたが、やがて静かになった。抵抗するように私の腕に絡みつかせていた両手がだらりと落ちる。

 

うんうん。静かに死んでくれて助かるよ。私の腕に血を付けるのは止めて欲しかったけど。

 

私はナイフを引っこ抜くと、そのままロシュアのジャンパーを脱がせて腕とナイフの血を拭った。とりあえずの応急処置だ。

 

「おねーちゃん、ころしちゃダメって言ってなかった?」

 

私の手招きで近くに、そして至近距離で私の殺人を見ていたクーがそんな疑問をぶつけてくる。まぁ確かにクーには殺人がいけない事だと教え、勝手に襲うなーと約束させた。がしかし。

 

「いけない事とは言いました。つまり時と場合によっては許されます」

 

そういう事です。クーはこいつを殺してもいいか判別付かないけど、私には付く。それだけだ。

なおこの場合の殺していいかの判別は倫理観ではなくその後の面倒。

 

そもそも。NZWに置いてNPCの殺人、プレイヤーキルなんて、プレイスタイルじゃない。ただのゲームプレイだ。むしろ不殺の方がプレイスタイルなんだよね。

そりゃぁ極論を言うなら、皆仲良く協力共闘すれば一番いい結果になる。警戒、防衛に余計なリソースを吐かなくていい分、プレイヤーの強化は普通とは比べ物にならないレベルになるだろう。NPCだって、ちゃんと教育すれば準プレイヤーレベルにはなるのだから。

 

だけどそれは理想論だ。この醜い世界で、醜い人間を再現したNPCと、醜い人間しかしていない公式鯖のプレイヤーで協力なんかできるわけがない。必ずいつか裏切りが入る。

 

ロシュアは善良なNPCぽかった。だがそれだけだ。クーほど優秀という感じはしない。さっさと殺して身を剥いで自身を強化し、自分一人が未来の脅威に少しでも抵抗できるようになった方がよほど効率がいい。

 

囚人のジレンマ、と言うとちょっと違うが、まー結局は自分の事を第一に考えるのが一番安心なのだ。

 

それに、ロシュアを殺したのは自身の強化(銃が欲しかった)とはまた別の目的がありまして。

 

「クー、お腹空いてる?」

「! この人たべていーの!?」

「この先こっそり調達、調理、食事しないといけないからね。今の内に食べようか」

「やったー!」

 

私は食べないからわかんないけど、巨乳って柔らかいお肉が食べれるんじゃないかなって。

 

「よっ、ぉっと。道路だと目立つから中で食べようか。扉開けてー」

「はい、どうぞー」

 

ロシュアの死体をお姫様抱っこして、クーに扉を開けてもらいショッピングセンター内へ。あー背負うよりマシとは言え血が付くー。

 

うーん、持てなくはないけど流石に重い。クーより重いぞ。やはり胸の分か。

 

柵内に入って少し。重さでちょっとふらふらしながら、何とか植木や石像で多少カモフラージュが入っている場所に到着し、どさっとロシュアを放り投げる。衝撃でロシュアの巨乳が揺れ、首から鮮血が噴出し、近くでお肉に目を輝かしていたクーに掛かりかけ「わわっ!」っとクーがバックステップした。

 

「おっとごめん」

「当たらなかったからだいじょーぶ」

 

疲れた腕をぶらぶら振りながらの謝罪。というか(メシ)を避けるって発想があったんだね。

 

さーて、どう処理しよーかなー。とりあえずこの銃は貰うねー……CHG-ws-03か。まぁ一般NPCならそうよね。ホルスターごともらおー。えーと他には……。

 

ぬがしぬがし。がさごそ。はぎはぎ。

 

私がそんな調子でロシュアを辱めていると、おねーちゃんとクーから声がかかる。はいはい、もうちょっと我慢してね。

 

「ううん、ちがうくて。匂いで、かな? ゾンビがこっちにきてるけど、どうするの?」

「あ? 無警戒昼間状態のゾンビなんて嗅覚索敵範囲は……風向きか」

 

ふえぇ。いくら20XX年のリアリティ重視なゲームでも、ゴルフじゃないのに風向き要素なんて無かったよぉ……。

 

舌打ち一つ。どうするか考える。私もゾンビ共に意識を向けてみたが、あいつらは血の匂いで反応したから今は半警戒覚醒状態だ。クーと逃げるのは簡単だけど、そうなるとロシュアを置いて行くことになっちゃうなぁ。新鮮な死体だとゾンビは見つけ次第食うし、食いかけをクーに食べさせたくは無い。さてどうしようか……。

 

あぁ、頭やるか。

 

「クー、ロシュアの首、ここらへん真っ二つにして」

「ん? いーよ。ここらへん?」

「そそ」

 

NZWはR17ゲーでしたが、やりたいゾンビモノをやった結果R17になったわけで、残酷性で売っていたタイトルではありません。よってそんなボールを放り投げて気を惹こうなんてハームフルな事は当然できません(イベントシーンではやってるNPCいたけど)。でもここはリアルなのでそんな人道に反した事もできます。

 

人間の頭部は7kgだっけ? まぁ何にせよさっきのロシュアの体全部を持つよりは軽いに決まってる。私はボールを力いっぱいに奥の方に投げ、ボールは切断部から血を飛ばしながら50m先ぐらいのテントに大きな音を立てつつ落ちた。

 

当然、ゾンビは音に反応し、覚醒して歩いてった。まぁボール見てちょっと食べたら覚醒も終わるだろう。

 

「おー、とんでった」

「うーん倫理観。今更か」

 

というか瞼を閉じさせなかったから、ぶん投げた後目があって怖かった。私幽霊とか信じるタイプなんだよなぁ。

 

脅威は去ったので漁りを再開。クーが涎を垂らさんとこっち見てるから早くしないと。ロシュアだけじゃなくて私も食べられちゃう。

 

まだ柔らかい体を動かしシャツを脱がす───ボタン面倒なので切り裂く。ブラも真ん中を切れば、とりあえず上半身は十分でしょ。

 

「上はもう食べていーよ。フォークで食べる? 切り取ろうか?」

「やった! ううん、お肉はねー、わんちゃんたちもたべたがるから、フォークは使わないの」

「そ。じゃあマントだけ取ろうか」

 

クーは犬食い……ゾンビ食い? をご所望らしい。汚れないようにマントだけ首留めを外し預かり、ついでに長い白髪もポニテで留めてやる。血が付くからフォークで食べて欲しかった(本音)。

 

というかワンちゃん達と食べるって何ですか? えマジで知らん。『降霊術』? だとしてもアレは人間しか降りないはずなんだけど。『二重人格』か? 表現力わんこのクーに聞いても混乱深まりそうだから詳しくは聞かないけどさ。

 

わかりやすく食べやすそうな胸から齧りついたクーを放って、ロシュアのカバンとジャンパーのチェック。ショッピングセンター帰りだから多少は期待できるはず。

 

バックの中身は……まず水。ペットボトルの1Lね。エコじゃないなぁ。現在進行形で汚れてるクーに使うか。ws-03の代えマガ一個。板チョコ一枚。緊急用かな? 私も好きだよ。缶詰缶詰缶詰。麻薬(葉っぱ)。ウィルス検査キット1ダース。治療薬2個。

 

ははっ割と当たりじゃーん。もー最高ロシュア。また会ったらちゃんとありがとうって言わないとねー。

缶詰も麻薬も助かるけど、治療薬は本当に大当たりだ。これで死な安(死ななきゃ安い)もやりやすくなるってもんよ。検査キットはゴミ。

 

治療薬はその名の通り、体を治療してくれる注射タイプのお薬だ。

こいつは何が凄いって、ナノマシーン配合! R社開発自然界に存在しないTm元素を使用! お値段一般人のお給料3年分! ただし何でも治します。

 

何でも治すはその通り、使用者が望んだ状態までは治してくれる。腕が捥げても、脳が抉れても、心臓が潰れても、生きてさえいるのならば、その人にとっての健康体の状態にまで治してくれる。よってゾンビウィルスは当然治すが、義体やインプラントなどはそのままだ。望んだ結果が得られる正に完成された治療薬。ゲーム的に言うのならばHP全回復バットステータス全解除。

 

ちなみにウィルス系統とは相性が悪いので(ウィルス変異は健康体ではないため)、クーに使うと大変な事になる。多分右腕が拒絶反応起こして腐り落ちるんじゃないかな。

 

まぁウィルスビルドじゃなければ、とってもお世話になるアイテムなのだ。

 

「こんないいものを二個もくれるなんて……ありがとうロシュア。君の事は忘れないよ」

 

私は初めて上辺だけの感謝じゃなく、姿勢を正しての心からの感謝を告げた。食事に夢中になっていたクーも私に気付きそれに倣って、口を真っ赤に染め血を口元から零しながら「ありがとう」と感謝を述べた。

 

 

じゃあ下も剥ぐか。太ももも美味しいんじゃないかな知らんけど。

 

 

 

ズボンのポッケもジャンパーのポッケもシケていたが、ブーツの中には投げナイフがあった。刃物、それも特化したものは便利なので貰っておく。

 

クーはまだ食事を続けているので、近くの従業員用建物に転がっていたシャベルを拝借して穴を掘る。後ろ姿から見るとクー、マジでゾンビが生存者食ってる光景と変わんなくてウケる。

 

人間一人丸まって入れる深さになったら、車から半分くらいの食料やガソリンなどの物資を袋に包み、タイムカプセルの如く埋め込んだ。植木よりに穴掘ったし、ここらへんは芝生もないから土を被せればすぐわからなくなった。

 

……もうちょっと分かりづらい場所に保存しときたかった感はあるが、あんまり使う予定もない保険だからいいか。

 

ふーっとシャベルを担いで息を吐くと。ちょうどクーが食事を終えた所だった。口元と手、そして垂れた血で胸元付近まで血を付けながら、にっこり笑顔で「ごちそうさまでした!」。凄惨な光景だ……。

 

何かもう、白と赤と黒で私ですら目を逸らしたくなる姿になってしまったロシュアをなるべく視界に入れないようにしながら、水とタオルを取り出してクーの後始末をする。この後大学グループ行くのにこんな姿で向かったら余計警戒されちゃうよ。

 

「どう? おいしかった? 私も味までは知らないんだよね。知りたいとも思わんけど」

「おいしーよ! おむねはちょっとあきちゃうけどやわらかくたべやすくてー、おなかは色んな味がしてたのしくてー、お尻とか足は味がこくてかみごたえがあるの!」

「ははっ。意外とレポれてて笑える」

「でもおねーちゃんの血ほどじゃないけどね!」

「ははっ。笑えない」

 

本人の前で「あなたより美味しい人がいます!」なんて言うんじゃありません。失礼でしょうが。

 

ともあれクーの血を粗方拭い終わり、口もぐちゅぐちゅぺーさせたので見た目は普通になっただろう。これで『食人癖』タイマーもリセットだ。

ロシュアの死体は……ま放っとくか。もうゾンビに食われないレベルにクーが荒らしちゃったので、明らか裸で辱められた跡が残る事になるけど勘弁してくれ。ほら、ちゃんとパンツは残してあげたから……。

 

「じゃ、改めて行こうか。いくらなんでも血の匂いが酷くて吐きそうだし。よくゾンビ来なかったな」

「おねーちゃん吐きそうなの? ……いける!」

「止めて」

 

止めて。




CHG-ws-03
死肉『carrion』
Carri社
caryyと掛けたかった。
CHG ws-03(wide spread(広く普及しろの意) 3代目)

適当HG


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工業大学

ショッピングセンターを超えて少しすれば、遠くに工業大学が見えてきた。

全4棟からなる巨大なコンクリートの建物。それぞれが大きく敷地面積もさることながら、5階建てなので使える場所も探索個所もとんでもなく多い。『都会』って感じがしますね。

元は大学であり、窓ガラスによって内部が見える構造だが、殆どはカーテンを閉め切っていて中の様子は伺えないし、カーテン引いてないところはバリケードが張られていた。

 

「車は正門に駐車スペースあるはずだし、そこに向かえばいいか。クー、もう少しで着くよ。……眠いなら寝ててもいいけど」

「ん……ううん、おきてる……」

 

クーはお腹が一杯になっておねむのようだ。車に戻った後は低振動でいい感じに眠気が誘われたのもあるかもしれない。

起きてる、とこそ言ってはいるが、その目はかなりふにゃふにゃとしており、もはや半分寝ている。無理すんな。

 

「さて工業大学。一応地域避難所としての側面があってか一般人も多く、特に前提条件無く入れるグループだけど……」

 

ちらりと後ろを見る。今の一瞬でクーは寝ていた。おい涎を垂らすな。

 

「うーん」

 

一般人君だとクーを見ると絶対騒いじゃうんだよな。いやわかるよ。最初こそSAN値下がる見た目してるもんね。でもウチの子そこだけなんで……(見た目は)。

工業大学リーダーも受け入れこそしてくれるだろうけど、その後の待遇視線などは治安度維持のためにお察しだ。

この世界、インプラントとか普通だから片腕人間じゃないくらい許してよー。機械か獣の腕かぐらいの違いじゃん。いやだいぶ違うわ。一般的じゃないし機械の腕。

クーの生えて来てる犬耳犬尻尾辺りは、技術の進歩というか整形の極致というか、金を出せばできるらしいよこの世界、設定的にはね。

 

まそこらへんは貢献度次第で何ともなるとして、まずは受け入れさせないと。今回は策もあるしね。策というには稚拙だし、偶然的に用意できたものだけど。いやほんと、特に考えてなかったし。

 

いよいよ車が工業大学まで100mを切る。このぐらいとなると肉眼でも余裕で、リアルとなった大学が見える。

 

校門に連なる塀はその大半を赤黒く染め上げられ、その下には処理が終わっていない人のカタチをしたものが溜まっている。塀の上部にはこれまた赤黒くなった先端が尖った棒が付けられており、城壁からの侵入を阻んでいる。なんなら一部の棒には腕や肉や布がぶら下がったままだ。

校舎、そして見張り台だろうか。アウトローな格好で銃を構えている人が確認でき、その顔面は私達の車に固定されている。怖いね。

 

そして正門。今目指している場所だ。

そこに門の代わりに人が仁王立ちしており、身長も肩幅もデカい迷彩ズボンタンクトップなハゲがこちらを待ち構えていた。

 

工業大学固定幹部NPC、マキシマムさんです。はい皆拍手。

 

 

「何用だ、小娘よ」

 

多少正門から距離の余裕を持って駐車し、降車したと同時に威圧してるような声質で声を掛けられた。挨拶とかご存知ないですか?

 

「いやぁ、さっきこの町に逃げてきたんだけど来たんだけど、私ともう一人の小娘二人じゃ生きづらくてね。保護してもらないかなって、とりあえず避難所指定の学校に来たんだよ」

 

私はニコニコ友好的に笑って、マキシマムと3mぐらいまで近づく。腕を組み頭で日光を反射しながらこちらを見下ろすマキシマムはやはりデカい。確か身長192cmとかだっけ? 誠実な私は目と目を合わせて会話をしたいが、見上げると首が痛くなるし眩しいのがキツい。

 

「ふむ、確かに小娘二人じゃ生き辛いというのは同意できよう。お前からはただの小娘という感じはせんがな」

「やーん。私はか弱いただの小娘だよー」

「か弱い小娘は俺の姿を見て冷静ではいられん」

「自覚あったんだ」

 

マキシマムは私の突っ込みに重々しくうなずいた。工業大学グループってロクに使わないからあんま知らないだよねぇマキシマム。リーダーくらいは覚えてるけどさ。性別が女なら、Wikiももっと充実するし私も読むんだけど。

 

「まぁまぁ。こんな世界を生き抜くためには多少大人びる必要があるって事で。で、保護を求めたいんだけど」

「さっき言ったが、お前が本当に小娘だったら保護だ。だがお前はただの小娘じゃない。よって一方的な保護は了承しかねるな」

「体を差し出せって?」

「戦えるのだろう?」

 

えー人体改造もしてないし戦えないよー。そんな思いを込めて肩をすくめて誤魔化すような笑顔を作ると、マキシマムはノータイムで殴りかかってきた。かかってきた? は? まぁ既定イベントなので予想していたが。

 

私はしゃがみ込み回避を選択。さっきまで私の顔があった場所には変わりに、よく鍛え上げられた傷が目立つ剛腕がブォンと豪快な音を鳴らして存在していた。

そのまましゃがみ込みを利用しアッパーカット気味に跳ね上がる。もっとも慎重差があるので、マキシマムの顎に有効打が当たるとは思えない。ここらへんはゲームとリアルの弊害だ。狙いは若干前のめりになった上半身、その鳩尾だ。

がしかし、マキシマムはボディもそうやすやすとは殴らせてくれない。構えていた左腕でのガードが成される。このまま殴っても手首を痛めると判断した私は身体を思いっきり逸らし、拳を空振りさせ、その上で足をも蹴り上げマキシマムの左手を踏み台にバク転。距離を取った。

うぉ、今バク転中に足を掴もうとしたな。判断もうちょい遅かったら掴まれてたわ。

 

「ほう! ただの小娘ではないと思ったが、中々に慣れているな」

「お前みたいなのがいるからね!」

 

にしてもキツい。私の戦い方はそもそも正面戦闘じゃない。というか正面戦闘する装備が揃っていない。さっき『体幹』取っといて正解だったな。カルシアの体が柔らかいってのもあるけど、にしたってここまで動けるのは『体幹』のおかげだ。

 

距離を一度取ったところで、マキシマムは再度仕掛けてきた。さっきとの違いはパンチじゃなくて、掴みかかってきているという事だけだ。

もちろんこんな巨体にホールドされるなんて御免被る。さっきので大体の体の動かし方を把握したので、前ステップからの踏み込んで首狙い───はいここでバックステップ!

マキシマムの掴みは空振り、後はその顔が前に出るだけだ。しかしここで油断してはいけない。重量級の人型中ボスってのは、こっから体当たりに移行しやがるのだ。一回避けて安心してはいけない。よってもう一度避けるのが正解ではあるが……まぁ今回は引っかかってやろう。

ここで中ボスに勝つとカリスマは上がるが警戒度も上がっちゃうからね。

 

やってやったぜのしたり顔。表情を作る事は忘れない。さっき首を狙おうとした拳をもう一度握りこみ、マキシマムの顔面を狙う。しかしマキシマムもしたり顔。まぁ私が罠にかかったから当然だろう。

 

「ぬうううぅぅぅんっ!」

「んぐっ!?」

 

殴りかかった私の拳はマキシマムの顔に当たる直前で、私の体にマキシマムの体当たりが入る。ゾウやサイなどの巨大な動物を思い出させるその突き上げるような突進は、見事に私の体をくの字に曲がらせ、私は宙を浮いた。

 

「ぐえっ! っつ~~~!」

 

そして着地。いや着地というか不時着なんだけど。お尻から落ちたから負傷としては軽微だけど、それでも痛いモンは痛い。女の子らしくない悲鳴がでちゃった。

 

「はっはっはっ。荒い所はあれど、中々優秀な小娘ではないか。戦闘班に並ぶ武力だ。この武力ならゾンビ相手に生き残れているのにも頷ける。後は対人の駆け引きを学べば完璧だな」

「~~~っ! あれはっ、肉斬骨断ってやつ!」

「ふむ、肉も斬られ骨も断たれる結果が見えるがな」

「ウェイト差を計算に入れろ……!」

 

私の体重の2倍はあるだろあんた。いやもしかしたら3倍はあるかもしれない。スキルや人体改造等によって「見た目に寄らず」なんていくらでもあるこの世界だがだとしても重量ってのはそれ自体が武器なんだぞ。そも私現時点で肉体強化無いし。

 

「まぁいい。軽く人間性は見た。年齢にしては背後が大きそうだが後は俺の仕事ではない。後はリーダーの仕事だ」

「ぅっ、はぁ~~~……。と、いうと?」

「リーダーの元へ案内しよう。第一、ウチはどんな事情があろうとゾンビじゃなければ受け入れている。今のはただの敵ではないかの確認と、俺の趣味だ」

「年端もいかない少女を虐めるのが趣味と? いい趣味してんね」

「俺は少女に虐められる方が趣味だ」

「良かったなお前。私じゃなかったら悲鳴を上げられているぞ」

 

いや私もドン引きだよ。何キリっとした顔で言ってんだ。ラーメン屋店主みたいに腕組姿勢維持しやがって。

 

「ほれ」

 

お尻が痛くてまだ座り込んでいた私にマキシマムから手がさし伸ばされる。

 

「車の中の子も連れてリーダーの元へ向かうぞ。俺はマキシマムだ。好きに呼べ」

「そいつはどうも。私はカルシア。小娘呼びで構わないけどね」

 

少女に虐められるのが好きな変態野郎の手は勿論取らなかった。

 

 

若干悲しそうな眉の下がりをしたマキシマムを連れて車へ。

そういえばさっきのじゃれ合い、クーが寝てて助かったな。あれでクーが私がやられたと勘違いして出てきたら割と致命的な事になっていた。

 

「私の連れ、私より年下の子なんだけど、だいぶ特殊なんだよね」

「そんなもの、お前を見た時からわかっている。癖が強い奴の周りには癖が強い奴しか集まらんからな」

 

いや、性格じゃなくて。……性格もか?

 

「多少の覚悟は、私もクーも……クーっていう名前なんだけど。クーも覚悟してるけど、それでも一部の人くらいには普通に接して欲しい。私は自ら選んだけど、クーは選べなかったパターンだからね」

「ふむ……。ママのような事を言うな、見た目に似合わん」

「女の子は何歳であっても母性を宿してるもんだよ」

「訂正しよう。お前には似合わん」

 

殴ってやろうかこいつ。いや殴ると喜ぶんだろうな。闘争を求める上にロリコンらしいし。

 

「そう心配するな。ここにはいろんな奴がいる。肉体的、精神的な問題だろうと、医者も研究者もいるから治療対応ができる。偏見の目も持たせない。そもそも居住区は一般人と病人、戦闘組などで分けているしな。何か問題が起きるようなら俺が対処するし、部屋は余っているから個室だって用意できる。リーダーの方針で女子供には優しくするのがここだ」

「はは。思ったより手厚くて笑う」

「生存のためならば、生物は効率よく絶滅しないよう動けるものだ」

 

いやほんと。ゲーム時代こんなしっかりとしてなかったんだけど。まぁクーのためになるならばいい事だ。治療は望んでないし、治せるもんでもないけどね。

 

「では、肝心のクーという子を見てみるか」

「あー、多分寝てるけど、驚かないでよ?」

「なに、多少の事で動じる肝ではない」

 

私はこの子と、後部座席の窓を指す。後部座席ではクーがすやすやと寝ていた。右手の獣手は当然健在で、座っている今では足元まで到達している。

マキシマムはどれと呟いて、その巨体を屈め窓から中を見る。そして表情が明らかに嫌悪に歪んだ。

 

……まぁ当然の反応だ。人間からかけ離れた異常な姿。右手の肘から支配する毛むくじゃらの腕。そこから生える鋭利な黒い爪。クーがいくら警戒されない無垢な子供であったとしても、右手の異常性だけで全てが嫌悪対象となってしまう。

 

だからこれは仕方がない事。

 

私は、マキシマムがクーに直接的なアクションをしない限りは、全て飲み込むつもりである。それはマキシマムだけじゃなくここのグループ全員に対してだ。全員敵に回ろうと、まぁ何とか守るよ。私だけは味方になるって言っちゃったしね。約束は守る人間なのだ、私は。

 

ウチじゃ飼えません捨ててきなさいぐらい言われたら当然殴りかかるけどね。

 

さて、マキシマムの反応の続きは。

 

マキシマムは嫌悪の表情を保っていた。苦々しく、クーを憐れむような表情だ。

やがて一つ溜息を吐き、かぶりを振ると、私の方を向き、言葉を紡ぎだした。

 

「……信じられん」

「……と、言っても見た通りで」

「それはそうなんだが……。だとしても、だ。子供にやっていいものじゃない。怒鳴り散らかしたい気分だ。一体何を考えていたんだ?」

「受け入れがたいのは、私もクーも承知済みだよ。でも恐怖の視線がクーに良いとは思えないから、個室は欲しいかな」

「いや、その腕はどうでもいい」

「……は?」

「お前か? この恰好にさせたのは。いやお前がしたのではないとしても、着替えさせない時点でお前の責任だが」

「え? ……この恰好って、水着の事?」

「ああ。……こんなに幼い子に何故普段からこんな姿をさせているんだ。お前は化物か?」

 

え……ごめんなさい。

 

 

 

 

 

   □   □   □

 

 

 

 

 

───どこかの研究室

 

「ぅはっぁ!? はっ! はぁっ……!」

 

真っ白な部屋の中に浮かぶ無数の水箱。周りに支えるものなど一切無いにも関わらず、水は形を維持して浮いており、水中の中身を抱えていた。

 

水の中身は、人だった。無数にある水箱には全て目を閉じ眠っている人間が入っており、まるで水の棺が並べられているようだろう。

 

その棺桶の内の一つ。輝く金髪を水に浮かべ、女性としてはやや身長が高いが、しかしその豊かな胸部を見れば誰もが納得するものを携えた女性が、今驚愕で顔を染めながら目を覚まし、水箱を突き破り地面に落ちた。

 

「げほっ! がひゅ、ぅ、あ……今のは……」

 

女性はそのシミ一つない綺麗な裸体が惜しげもなく晒されている事を気にせず、床に寝転がり両手でしきりに首元と左目をさすっている。双丘を、肉付きの良い太ももから滴る水が実に蠱惑的であり、もしこの光景を男が見たら喉を鳴らすだろう。

 

「………………名前、聞いてなかったわね。もう一人の子は、クーちゃん。クーちゃんには悪意が無さそうだったけど、あの子はダメだわ。もう、根本的に歪み切っている」

 

女性は手を引き戻し、仰向けに寝転ぶ。その美しい裸体を隠すものは一切ない。真っ白な空間の中で人間が大勢眠りにつく水棺に囲まれ寝転ぶ美しい姿は、かえって不気味にも感じる。

 

やがて女性は起き上がり、髪に手櫛をかけながら、水棺の間を縫って非常口と書かれたドアへ向かう。

ドアを開けた先には、先ほどのある意味無機質な空間と違い、乱雑でごちゃごちゃと物と光で溢れている個室に繋がった。

 

部屋の片隅。椅子に体育座りのように足を抱え丸め込み、暗い部屋の中で眩しく光るモニターの光を受けていた、ショートカットに眼鏡が特徴の女性が椅子を回し振り返る。

 

「あっれー、ロシュアまた死んだの? もうストック余裕ないよー?」

「わかってるわよ。……けど、今回は死んだおかげで、ハウスに連れてこずあんな化物に少しでも内部を見せなくて良かったと思っているわ」

 

電気を付け、デスクに置いてあった髪ゴムを使い、金髪を結い上げながらロシュアはそういった。




今ふと思ったんだけど、車をバチバチするだけで鍵かかるわけなくない?

……車はR社製で、『サバイバル』を付与してくれるプラスウォッチもR社製。ヨシ!


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歓迎

クーにとっては私に言われたから。

私にとってはただのファッション。

いや最初はこの服装させてていいのかとも思ったけど、本作に置いて一部特殊な服装をしない限りはNPCとの会話に変化が無いのでまぁいいやとスルーした部分だ。

スーツを着ても無線の会話は変わらないし、泡を纏って宇宙を救うわけでもない。

 

しかしロリコンたるマキシマムにとっては許せない部分らしく、その場でタンクトップを脱ぎクーの体を隠そうとし始めた。止めろ。そっちの方が可哀そうだわ。

 

でもだからって上からかけるモンもそうないなぁ。私も露出度で言ったら生足考えればクーと変わらんし、脱いで渡せる服着てないし。

 

とりあえず寝る時の毛布でいいか。服はまた今度考えよう。……あれ? このまた今度考えようって水着着せた時も考えたからこうなってしまった気が……。

 

ドアを開け、クーの左腕を取って引っ張り出しおんぶする。前に屈んで落ちないようにしてから、毛布を拾い掛けてやる。これでクーのマントから覗く脇もデニムパンツでカバーしきれていない鼠径部の食い込みも隠せただろ。文句ないな?

 

マキシマムは手伝ってくれる、というより代わりにおぶろうとしてくれたが、普通に好感より嫌悪の方が勝ったので引き続きクーの世話は私が続行だ。少女に虐められるのが趣味とか言わなきゃ普通に子供に優しいおじさんでいられたのに……。

 

口で毛布が落ちないようにずり上げ、クーの太ももを持って移動準備完了。私の体に向けられているクーの右手が怖いぜ。

 

「車はここのモンに移動させるが……今持っていく荷物はあるか? 変わりに運ぶが」

「じゃあ助手席のバックだけ頼むよ」

「うむ。それ以外の荷物は部屋が決まった後取りに来い。車は借りる事があるが、基本的にお前らの物はお前らの物だ」

「そりゃ親切なこって」

 

来な、と首で合図するマキシマムに付いて校舎内へ。エントランス、廊下、教室、廊下と通り、エレベーターの前へ。

 

ここまでで何人かの人間とすれ違った。遠巻きで見られてもいた。

一般人(避難民)と分けているのは本当なのだろう。ここにいる奴らは殆ど銃を武装をしている人達だった。それに、工業大学ということもあって腕や足、目など、一部が機械化している連中も多い。

 

その人たちが向けてくる視線は、驚愕からの、2割嫌悪、半分憐憫、2割疑問に無関心が1ってところか。

いや、思ったより敵対的な視線が少なくて驚いた。本当に。舌打ち、陰口、嫌がらせは絶対あると思ってたけど、この様子だと大丈夫そうだ。もっともこれがマキシマムが隣にいるからか、クーが可愛いロリだからかはわからないが。

一般人校舎行ったら酷いんだろうなぁ多分。全部嫌悪になるどころか恐怖悲鳴排斥になっても驚かないよ。

 

まま。クーがもうまぢ無理黒棺メンタルしそうな環境じゃなくてよかった。見直したぜ工業大学。

 

エレベーターに乗り込み、巨体のマキシマムが場所を占領しながら最上階の5階へ。チーンと到着音と共に下りて、『戦闘組会議室』と張り紙が張られた教室の前へたどり着いた。

 

「リーダー、入るぞ」

 

コンコンと、マキシマムが巨体に似合わぬノック音をさせドアを開ける。促されたので入る。

 

入室に視界に入ったのは、まず中央に大きなテーブル。8mかける10mぐらいの部屋の半分を占めている。上には書類やコーヒーらしきものが入ったカップ、銃に銃弾ナイフ、よくわからない機械とごちゃごちゃしている。あ、あれ義手じゃん。

部屋の隅にはホワイトボード。どこかの研究室らしき外観の写真と、それに赤ペンで繋げられた様々な写真が貼られている。海外ドラマとか探偵モノでよく見る奴。

ドアとの対面には窓ガラス。こちらに来るとき見えていた教室のようなカーテンは付けられておらず、工業大学中央の、大きなグラウンドとも庭とも言えるような場所を収めていた。ここからでも遊んでいる子供やそれを見守る大人、物資を整理している様子などが見える。

 

そして窓に背を向けて。つまりこちらを真正面に向いて堂々と。リクライニングチェアに深く腰掛け、うっすらと半笑いしている男がいた。

ボサボサの頭髪に無精髭。前髪だって目に掛かるまで伸びているが、髪の合間から覗く瞳はこちらを深く観察している。自身に対して一切手入れをしておらず、来ているジャケットも見える範囲ですら砂埃が付きほつれが目立っている。

 

そして彼の左手は機械だった。それはここに来るまでにすれ違った義手の連中とは違う。完全に機械だ。手としての面影は、長い円柱をしているぐらいだった。それだって、デコボコとした表面をしているので面影と言えるか疑問が残るが。

誰だって、先端にはガトリング式の銃身が見えて関節部がわからなくて肩が外付け拡張パーツを違法建築した右手を見て、「義手だ」とは言わないだろう。海賊の船長のフックの方がまだ義手と思えるわ。

 

「よぉ。お前が新しい戦闘組か。まー座んな。ここは面接会場じゃねーから、俺は一々どうぞお座りくださいとは言わねぇぜ?」

 

挨拶はとても軽かった。というか内容も、声だって軽そうに聞こえる。けど目だけは。流石工業大学という巨大なテリトリー、グループを率いるべき人物というべきか。目だけは重々しく、私から視線を外さない。

 

私が座る前に、とりあえず壁際に置いてあった椅子にクーをそっと座らせる。開けてしまった毛布を閉じ、目にかかる髪を避けてり、うん、これでよし。久々(そこまで久々ではないと思われるが)の人肉をたらふく食べたし丁度お昼時。年齢もあるし、難しい話は私に任せてゆっくりしときな。

 

ぽんぽんとクーの頭を叩いてから、リーダーのお誕生日席の反対側に対峙するように着席する。……お誕生日席の反対側って何て言うんだ? お誕生日じゃない席? ……! 鬼籍(席)か!

 

マキシマムは座らないみたいだ。持ってきてもらったカバンを私に返し、クーとは逆方向の右手に寄ってラーメン屋店主のポーズを取った。

 

私が座ったのを待ってから、リーダーが口を開く。

 

「じゃあまずは自己紹介だな。テンプレってのは物事を滞りなく進める時役に立つ。特に俺みたいなアドリブに弱い奴はなおさらだ。俺はオシヴァル。ここ、工業大学グループのリーダーをやっている。大体の奴はリーダーって呼ぶからお前もそう呼んでくれ」

「分かったよリーダー。私はカルシア、であっちの子はクー。是非カルシア様、クーちゃんと呼んでね。保護を求めてやってきたよ」

「オーケーカルシア。随分と肝が据わっているな。皮肉抜きでいい度胸だ。無線通信通りお前は戦闘組だ。ゾンビに食われて皮も肉も食われねぇ事を祈るぜ」

「こんな小娘にあんな醜いゾンビと戦って来いと? 人の心が無いってよく言われない?」

「適材適所さ。強い奴には弱い奴を守る義務があるとは言わねぇが、できる奴ができる事をやった方が良いのは当然だろ。まーお前は戦闘組としてグループに入れる以上扱いはちったぁ荒くなるが、俺も子供にそこまでの無茶はさせねーよ。あぁ、人の心ならないぞ。俺の心臓はとっくの昔に機械とチェンジしたからな」

 

そういうとリーダーはシャツをずり上げ上半身を見せる。服の外から見えていた左腕、そこから連なって胸の半分くらいまで黒光りする機械が人工皮膚に隠される事なく見えており、それはちょうど体の左半分

を割るように下へと続いていた。テーブルで見えないが、恐らく下半身も機械化しているところがあるのだろう。

 

私はしかめっ面を作り不本意です! という事をアピールしながら椅子にふんぞりかえる。足だって組んじゃうぜ。

 

「……はぁー。わかった。わかりました。わかりましたよーだ。私だってタダで安全な拠点と配給を受けられると思わないし、避難民と混じって拠点内作業よりかはバンバン銃撃ってる方が性に合うし。というわけで銃ちょうだい?」

「馬鹿言うんじゃねぇよ。入ってすぐにはいどうぞって渡すかよ、貴重なんだぞ。警備の連中を除けば銃を渡すのは必要な時だけだ」

 

リーダーはやれやれといった風に肩を竦める。なお表情は半笑いで固定。バカにされてる感じではないけれど、やっぱ少しムカつくな。

 

「へー? 道中で警備っぽくない人達も銃持ってるように見えたけど? というか私も一丁持ってるし。ボディチェックとかしてないけど大丈夫? 新入りをリーダーと直ぐ会わせるような事してて。私が敵意持ってたらどーすんのさ」

「自分の所持していた分に関しては文句言わねぇよ。俺と直ぐ会わせるのは、グループとして迎え入れる以上、リーダーとして相手を見ないとと勝手に思ってるからだ。敵意とかスパイについては、あー、あれだ。俺の方が強いという慢心だ。マキシマムが負けてたら俺も直接会おうとは思わん。……まぁ流石に無強化の少女には負けねぇからな、俺も」

「謙遜するなリーダー。あんたは俺よりも強いだろう」

「何度も言ってるが、そりゃ誤解だってマキシマム」

 

今まで黙っていたマキシマムが急に喋りだしリーダーの強さを言及するが、リーダーは頭をガシガシと掻きながら半笑いで否定する。マキシマムは例を出してあの時も~と語っているが、リーダーは一切認める気は無さそう。

 

……仲良くするのはいいんだけど話進めてもらってもいい?

 

そんな私の想い届かず、リーダーは認めずマキシマムもお前の方が強いと一歩も引かずあぁもうこれ帰っていい───

 

コンコン。

『プトラです。入ってもいいですか?』

 

背後からノック音と、扉越しでくぐもり分かりにくいが女性の声が聞こえた。

 

話を止めて一斉に私(の奥の扉)を見る二人に私が首を軽く傾げ、目線でどうするのと問いかける。

 

「事前に呼んでいた仲間だ。ほら、マキシマム開けてやれ」

「ああ。今開けよう」

 

誰がどういった人が来るのか私も興味があるので、椅子をくるりと回してドアを見る。

 

マキシマムがドアを開けると、そこにいたのは、ピンクの髪を編み込んだヘアスタイルのお姉さんだった。お目目がパッチリとしていて、リーダーの半笑いとは真反対な見ている者に好印象を与える笑み。

全体的に元気でパワフル感溢れる少女で、着ている服装が学生服という事もあって、学校、特にスポーツ系の部活動で後輩から慕われてそうな子だった(私部活やったことないけど)。

 

「初めまして。あなたが新しいメンバーですか? 私はプトラ。ここでは主に子供の面倒を見ています!」

 

そう言ってプトラさんは私に礼をした。こんな足組んで偉そうな姿勢ですみませんね……。あ~、子供たちに人気そうだからお仕事内容解釈一致。保母さんタイプではないけどね。

 

「どうも。カルシアです。あっちの子はクー。今後よろしくお願いします」

「はい! 今後よろしくお願いします! 同年代くらいの女の子が増えるのは私も嬉しいです! ……あの、同年代くらいだと思うので、タメ語でいいですか? 丁寧な言葉遣いって苦手で……」

「こんなご時世に敬語とか気にしてる人、あんまいないと思うけど? なあオシヴァル!」

「おっしゃる通りでございますカルシア様」

「ほら」

「い、いやそんな「ねっ?」って表情されても……。んっんん! じゃあよろしくね、カルシアちゃん!」

 

プトラちゃんは私のリーダーに対する暴挙に一瞬怯んだが、すぐ立ち直ってニッコリ笑顔を向けてきた。ん~いい子で浄化される~。というかリーダーがノってくるとは思わなかったし。

 

「おう、顔合わせはそんぐらいでいいか? 今日はお前に何かさせる気はないし、今後の施設案内もやってもらえ。いいな? プトラ」

「あっ、はい!」

「うし。じゃー歓迎式をやる。つーかそれがプトラを呼んだ理由だ。お前もこんなふわふわな面接だけで、仲間になって我が物顔でここを歩けるとは思えんだろ? 今日出会ったばっかのよくわからん奴が、武装解除も見張りもされずに」

「人間って信じあえるものだからね。まずは相手を信じる事から始めようよ」

「いい言葉だ。俺一人なら乗ってやっていた。プトラは異能力者だ。俺らは『言質』っつってる」

 

きょとんとした顔でプトラちゃんに顔を向けてみる。笑顔でひらひらと手を振られた。

 

「異能力の効果は名の通り、言葉にしたものを履行される能力だな。例えばプトラが焼きそばパン買って来いつって、俺が生返事でも了承を返すと、俺は焼きそばパンをどうにか買ってこなけりゃになる」

「わーお」

「プトラの異能力でお前が俺らに危害を加えないと言質を取れば、俺らは安心、お前も自由って寸法よ。ちなみにこれは事故は防げん。まぁ流石にな。あくまで意識に制限を掛けるものだ。俺は世の全てのゾンビを滅ぼしますつっても、全力で行動するだけで滅ぼせるわけじゃねぇぜ」

 

リーダーがテーブルに肘を乗せ顎を突きながらそう言った。なるほど、『言質』か。ゲームのグループ加入序盤の傭兵扱いみたいのが無くいきなりリーダー部屋に案内されたから、何か変なリアルな影響があったのかと思ったけど、まーこんな契約向きの異能力がいたんならこうなるわな。

 

私が勝手に納得していると、横からマキシマムから補足が入る。

 

「内容は俺たち、工業大学グループメンバー相手に危害を加えない事、情報を他グループに渡さない事だ。それさえ守るのならば、別にお前が他グループからの間者であったとしても構わん。これらが守れないとうならば、悪いがグループには入れられぬ。あぁ、ここで断ったとしても、情報面だけ言質を取って、後は丁寧に送り返す事を約束しよう。……そこで寝ているクーは、後で起こし同じく言質を取る事になる」

 

ふむ、まぁ納得の言質内容、というより緩々だ。これなら問題ないな。

 

「ま、クーはこの後の学校案内の時に起こす予定だったからいいか。えーと、これはプトラに宣言する感じでいいの?」

「おう、それでいけるぜ」

「おkおk」

 

私はイスから立ち、姿勢を正してプトラと相対する。おー、私より身長地味に高い。

私が真剣な顔をするからか、プトラちゃんも真剣な顔になった。

 

「じゃあ、まずここの宣言に嘘は言わないよ」

「はい」

「私はここの工業大学グループで世話になる限り、ここのグループの人たちに危害を加える事は一切ないよ。……事故とかで命の危険感じたら反撃するかもだけど。情報に関しても、他グループに漏らす気は全くもってないよ。……これでおっけー?」

「ああ。これでお前も俺達の仲間だ」

「そりゃどーも」

 

いつのまにか近寄ってきていたリーダーに(右)手を差し出されたので、握手を交わす。ここにきてやっとにやにやとした笑みからにやにや感が消えた。

まぁね? 私も良くできたいい子だからね? これから工業大学の皆のために頑張ろうかなって?

 

じゃあ、一ヶ月くらいは仲間としてよろしくね。




見回り君「保護が必要そうな子供が来ました。一人……車にもう一人いるっぽいです。はい、マキシマムさんがもうすぐ案内すると思いま……マキシマムさんが戦闘を仕掛けました。お眼鏡に叶ったようで、戦闘組で案内すると思います」
マキシマム「俺が新たな移住民に襲撃を仕掛けたら、そいつは戦える奴だ。戦闘組として歓迎する」

サイバネをサイボーク表記で統一
傭兵会社の人体改造を人体強化で統一
を、その内する。多分。

え、サイバネってサイボークとほぼ同一として扱っていいよね? 認識間違ってないよね? 間違ってたらしれっとこの文章消して本文も直しとくわ。証拠隠滅ヨシ!


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校内案内

異能力分類、『言質』。NZWのグループ『要出典』のお供。

NZWではオープンVC搭載で周囲チャットもあったので、そこで活用ができる……まぁ不人気な異能力だね。

20XX年となり昔なんかはいざ知らず。VCのボイチェン。自分以外の声のノイズキャンセリング。高精度な同時通訳。VCで起こる問題なんかは大分淘汰されたが、そもそもとして日本鯖は日本人の集まりなのでシャイの集まりだ。

でもって、PVPでもそう役に立たない。「武器を捨てろ!」なんて言って「ハイ!」なんて返答はまず返ってこないし、警戒されるのがオチだ。

じゃあ何に使うのって、VC(?)にノってくれるNPCをどうにかだまくらかす程度だ。

……一応、フォローしておくと、効果は優秀なのだ。和解が成立しているなら、同盟を確固たるものとするために使えるし。身内どうしなら別ツールでVCすれば問題ないし。

 

まー、今回は表面上プトラの『言質』を信じとくけど……これ所持してるって騙る事もできるからね。異能力とかウィルスってプラスウォッチからじゃ判定でなくて証明できないから。

だからNZW時代だったら、「僕たちはお互い攻撃しませんよ~」と『言質』持ってない奴が言質取ったよ! と言った後で一方的に攻撃してくとかある。対抗策? 『言質』取ってもらった後に殺せばいいよ。殺せたんなら攻撃が通る=『言質』持ちってことだから。死んだら裏切り者だ。ひゅー怖い怖い。

 

 

 

ゆさゆさ。ゆさゆさ。

 

「クー、起きて起きて」

「……ぁ……ん」

「起きた? じゃああの人に向かって、私が言うのを繰り返して言ってね? いくよ? クーはここの皆の事を傷つけません。見たこと聞いたことを他に───」

「ん……くーはここのみんなの───」

 

「なぁマキシマム。これ酔った女を手籠めにする時の手段じゃねぇかと俺は思っちまうんだけど……」

「うぅむ……」

 

そこ外野、うるせぇぞ。プトラちゃんも「お二人共!」って顔しない。

 

 

「クーちゃんの対応だが、まぁ戦闘組には通達しておく。避難組棟に行かなきゃ問題はねぇだろうよ。外出たいっつーなら、悪いが中央グラウンドは無理だな。1、2棟付近の外周、もしくは外って事になる。……一応聞いとくが、クーちゃんはお前と同じ部屋に居させる事でいいんだな? んでここで保護する」

「ははっ。リーダーみたいな男がクーちゃんって言ってるのウケる」

「カルシア様がそう呼べつったんだろうが」

 

いやぁ。それはそれ、これはこれよ。

 

「部屋は一緒でいいよ。けどクーは保護じゃなくて戦闘組で。私より強いしこの子」

「あー……あ?」

「むっ」

「え?」

 

三者三葉。上から順に困惑リーダー眉吊り上げマキシマムびっくりプトラちゃんだ。

 

「それは見過ごせんなカルシア。確かにクーの右腕は力を感じる。俺すらも凌ぐだろう。だがだからといってそんな幼子を戦場に出すのは別だ。このような情勢であろうと、幼い子に残酷な光景を見せるものではない」

 

真っ先にクーの戦闘組に加入に反対してきたのはロリコンのマキシマムだ。その眼光はするどく私に向けられているが、間に抱えていたクーガードを挟むと眼光が緩んだ。ロリコンめ。

 

「あー……俺はさっき適材適所、できる奴ができる事をやれっつったが、それでもこんぐらいの子を戦わせんのは抵抗あんなぁ。人手が足りねぇわけじゃないし、俺に対する周囲の視線も痛くなるわ」

 

お次はリーダーからの反対意見。こちらはマキシマムの感情10割と違って、感情5割に体裁とかの実利5割ってとこかな。リーダー(立場)感ある。

 

「わ、私も反対! というかほんとはカルシアちゃんにも戦ってほしくない! です! ……カルシアちゃんとクーちゃんが戦いたいなら、そりゃぁそれを尊重してあげたいけど……。でっでも! 私はやっぱり、二人に戦ってほしくないです!」

 

プトラちゃんも反対意見。感情10割だね。感情10割過ぎて私すら戦いに出るなと仰っている。リーダーじゃなくて私にいいなさい。

やだよ、クーはまぁ最悪置いてってもいいけど私は外で自己強化しなきゃ。世界に置いてかれる。

 

「………………まぁ、そこらへん今度話そうよ。私もクーがここで絵本読みたいって言うなら無理に戦闘組に加えないから(十中八九戦闘組になるだろうけど。私と一緒にいれるって言ったら間違いなくついてくる)。あ、プトラちゃん、私は戦闘組内定だからごめんね。とっても強いから大丈夫だし、なるべく顔は出すよ」

「うむ。カルシアは俺には及ばんがよい腕を持っているぞ」

「何でマウント取った? 腕相撲でわからしてやろうか。出番だクー!」

「自分の力でやんねぇのかよ……」

「リーダーでもいいよ? クーは右利きだから右手で勝負してもらうけど」

「俺の左部分は無力な人間のままなんだよなぁ……」

 

ぎゃーぎゃー騒ぐ私たちを間近に、クーは眠そうな顔のまま黙ってろ命令を忠実にぼーっと見ていた。

 

 

 

このもうふじゃま……とクーから視線の意図を汲み取ったが、ちょっと変えの服見つかるまでそれでいてね。マキシマムがうるさいから。

 

ともあれ私たちはプトラちゃんに学校案内してもらう流れとなった。工業大学は中央のグラウンドをぐるりと囲うように、同じ長方形が並べられており、それぞれ東西南北……あー……南東北西の順で一号棟、二号棟、三号棟、四号棟、だ。

 

私達が車で入って来た、そして今もいる実質リーダー部屋らしい戦闘組会議室ある棟が二号棟。この二号棟では主に体の機械化(サイボーク)にする施設や、戦闘物資などが集められている。

一号棟は戦闘組の宿舎。元は部室だったり教室だったり実習室だったのを改造し、食事や風呂に入る事が可能にされている。5階は女性専用フロアで、屋上のプールを改造した露天風呂あり。うーん性格差を感じる。

三号棟、四号棟は避難民、一般人のフロアで、野菜の室内栽培や事務作業、戦闘組のサポート用の仕事が主らしい。利用しないだろうから大方聞き流しちゃった。

 

「ここは図書室だよ! パンデミックが起きてからプラスウォッチの世界回線が機能しなくなって、ライブラリに接続できなくなったから調べ物をする時は重宝してるの! 漫画とかもあるから暇つぶしにもいいしね」

「あぁ、なんか工業大学って感じのラインナップだ……。学生の研究論文コーナー? 『赤とゴールドで彩られた人体搭乗型パワードスーツの制作について』。気になる~~~」

 

「ここは機械化実習室。ちょっと保健室みたいな部分もあるかな? 私は機械化の事あんまりわかってないけど、工場って感じがするかなぁ。手足とかだったらここで大体できるんだって。今は大丈夫っぽいけど基本的に昼間はうるさいよ」

「手足って事はインプラントはまた別のとこか。この鉄錆びの匂いが本当に鉄な事を願うぜ」

 

「で、こっちが本当の保健室。寝てる人もいるから静かにね。戦闘組のケガ人はここで治療を受けるよ。カルシアちゃんもクーちゃんも無縁でいて欲しいとこだね」

「だってよクー」

「………………」(私との約束で黙っている)

 

「えーっと、食堂、なんだけど……」

「酒で酔いつぶれてる輩しかいないねー」

「あはは……。昨日ちょうど襲撃の日があったからね、皆それで打ち上げしてたんだね。普段は、フードコートみたいな感じでご飯を食べれるよ。食材は割と充実してるから、レパートリーも多くて美味しいんだ! ……私は、ちょっと偉い役職なのもあって、ちょっとご飯が豪華な二号棟の食堂の利用が許可されています。だから一緒にご飯食べれるよ!」

「お、じゃあ後で一緒にお昼食べようか。お昼に食堂が機能してるかは疑問だけど」

「あはは、確かに……。ああもう、ほらレガルサさん! 寝るなら部室で寝てください! マックスさんも水飲んで!」

 

「研究室だよ! クーちゃんを案内が終わってご飯食べたら連れて行くようにリーダーさんから言われてる場所だね。研究所で働いてた人と、国立病院にいた人達が主にいるかな。材料があるなら、ゾンビウィルスの治療薬とかも作れるんだって!」

「そりゃ助かる(後で検査キットとか納品して好感度あげとこ。治療薬までは行かなくともRC-回復薬は欲しいし)」

 

「物々しいここが倉庫。半分武器庫だけどね。使えそうなものをここで納品すると、ポイントに変換されて、自分の欲しいものと交換してくれるんだ! ちなみに私は258ポイント溜まってるよ。500ポイントの望遠鏡目指してるんだ!」

「(欲しいものが望遠鏡て塾で頑張ってポイント貯めるような奴なの草)」

「よぉ新入りの嬢ちゃん、俺は倉庫番のシャクだ。今は武器の価値が高いぜ。後は嗜好品の類がいつも狙い目だな」

「葉っぱは扱ってる?」

「カルシアちゃん???」

「もちろん扱ってるぜ」

「シャクさん!?」

「道中見つけたのがあるから後で卸に来るね~」

 

「ここは美術部。こんな世の中に少しでも笑顔が見られるように、絵や漫画、小説。……それと性能がピーキーな機械やMODを作ってるらしい、よ? ちなみに一番人気な作品はゾンビアポカリプスもの。私も震新刊待ってるんだ」

「私が言うのもあれだけど不謹慎じゃない???」

 

「この広場はヘイワークって言われていて、戦闘組がやる事がボードに張り出されてるんだ。リーダーさんとかに指名された仕事が無い限り、戦闘組は基本ここでお仕事を探して外に行くよ。名前は職業案内施設、それとお仕事でこなす事でつながる平和と掛けてるんだって」

「『定期掃射:ゾンビ100体』『公園で現れたグレートゾンビの討伐』『動物園の偵察任務』クエスト感あるなぁ」

 

 

「───で、6階。女性専用フロアだよ! えーっと、女性戦闘組は50人ちょっとだったかな? あっほらあそこ! あそこのボードの看板が、全員分の名札だね。外に行くときは赤色で、中にいる時は黒にするルールだよ。今は外にいるみたいだけど、あの左上のアネカリアって人がまとめてるよ! ここのグループの幹部でもあるんだ」

 

二号棟、一号棟をぐるりと見て回り、私とクーは最後に一号棟の6階へと訪れていた。

案内された教室や建物はどこも綺麗で掃除が行き渡っており、外の汚い真っ黒な世界とは真反対だった。聞いてみると、このマートラ工業大学は築2年で建材そのものがいいらしい。それに加え暇を持て余した死体処理班が練習ついでに掃除を行うと。

踊り場を経て6階へ足を進めると、正面には壁に貼り付けられ作られたボード。釘が等間隔で打ち込まれており、そこに名前が書かれた木版がぶら下がっている。プトラちゃんの説明通り、名前は黒か赤で書かれていて、裏返したら色が変わる奴だろう。

 

「アネカリア……まぁ戦闘組なんだしその内会うよね。にしても幹部かぁ。確かマキシマムも幹部だったよね。他にも幹部っているの?」

 

アネカリア。軍人気質な褐色でDJみたいな編み込みオールバックした工業大学固定幹部NPC。

工業大学は後もう二人、工業大学固定幹部と幹部固定NPCがいるはずだけど……。

 

「幹部? 幹部はねー今言ったアネカリアさんと、さっき一緒にいたマキシマムさん、それとルーピシュさんっていう背の高い男の人。……と、あの、一応、私、です。えへへ……」

「プトラちゃん幹部なの? へー! 凄いじゃん」

 

私が純粋に関心(感心にあらず)し、さっきからペンギンの親子みたいに、私が後ろから抱き着いているクーの左手を操作し、クーの口元に寄せる。上から覗くと想定通りクーはあわわ~って感じにジェスチャーさせられていた。

プトラちゃんはそんな私の視線が居心地悪いのか、首を横に背け手を突き出し振って否定してきた。

 

「ううん! 私、ほんとお情けで幹部にされてるような感じだから! 全然戦えないし、それ以外もほんと全然! リーダーさんが、「お前の言質でここにいる奴らの安全確保してるようなもんだから、幹部厚遇でいいんだよ」って……」

「確かにあのリーダーならいいそう。やーその異能力は凄いと思うけどね」

 

うんうん。自信もっていいと思うよ『言質』は。

 

しかしプトラちゃんが幹部か……。NZWにはそんな幹部なんていなかった。リアル化の影響……というよりは、プトラちゃんが異能力を発言させたが故の影響だろう。最初っからグループ所属のNPCは、そのグループに応じたスキルしか覚えないからね。

 

それとルーピシュ。こっちは長髪長身で細身のやつだったはずだ。アサルトライフル使用の中距離が強いビルドだったはず。それと足だけ機械化した、技よりの戦闘スタイル。まぁ問題ないでしょう。

 

あ。プトラちゃんという無名なモブNPCが異能力で繰り上げ幹部になったって事は、もう一人幹部級が眠っててもおかしくないなぁ。女性の幹部級って他誰がいたっけ、えーと木版の名前名前……。

 

「………………お?」

「……ん? どうしたの?カルシアちゃん」

 

私が左上から右下にへと、視線を次々とずらしていると、一つ気になる名前が見つかった。

それは最後の方、つまり一番右下にあり、その木版は真新しいものだと感じられるほど、木が日焼けしていなく他と色が違った。

 

その木版には、黒色でこう書かれている。

 

『ワニ』

 

……いや、違うよ? 知ってる動物の名前とかじゃないよ? 人として───プレイヤーネームの名前として私の目に留まったんだよ?

 

「プトラー……この右下のワニって、新人さん?」

「ワニちゃん? そうだよ、最近、というより昨日ルーピシュさんが連れてきた新人さん! なんとねー、クーちゃんとおんなじくらいの幼い子なの! けどルーピシュさんがどうも危ない所を助けてもらったらしくて、強いんだって! クーちゃんぐらいの幼さで、機械化もしてない普通の体なのに! ……可愛い子だったけど、カルシアちゃんの知り合いなの?」

「多分? こんな動物名みたいな名前の人は、そいつ以外は知らないし」

「あー、確かにちょっと特殊な名前だよね。でもキラキラってほどじゃないし、カッコいいから私はいい名前だと思うんだよね!」

 

そいつの名づけの理由、「ワ」ン「ニ」ャーでカッコいいというより可愛いで付けた奴だけどな。

 

「えっと、じゃあ多分知り合いだよね! よかったー、良い子そうではあるしふさぎ込んでるわけではなさそうなんだけど、ちょっと無口でどうしよっかなーって思ってた所なの! さっ、会いに行ったげよ! クーちゃんも、ほら! お友達増えるよー!」

 

プトラちゃんはもう私の知り合いだと思い込んじゃっているようで、はしゃぎながら私の背中を押してワニがいる教室へと案内しようとしている。

「私にしか警戒心を解いてくれていない」と適当言ったクーにも声掛けを忘れずで良い子だ。曇りの欠片もない笑顔を見てそう思う。

 

こういった子のためならば、私も何かしてあげたいって思えるね。善性の人間が私は好きだから。何かが起きたら、守ろうと思っちゃう。

 

さて、じゃあプトラちゃんを守れるようになるためにも。リアルでも一緒にグループを組んでいた、ワニに会いにいきますか。



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ワニ

こんこん。

 

『製図室』の上から『6-12女子部屋』と張り紙された教室前。私とクーを連れてきたプトラちゃんは、中にいる人が寝てるかもとか一切考えていないノックをした。

 

「ワニちゃーん! いるー? 昨日学校案内したプトラだよー!」

 

……そういえば。ワニとクーって相性良いんかな。今文字を並べて気づいたけど文字の感じは凄い似てるよね。ワとクなんてほぼ一緒だし、ニとー(伸ばし棒)は棒一本増減すれば同じとなる。ワニは適当な名づけしてるなーと思ったし、クーも適当な名づけしたなぁと思ってるけど、こんなところで共通点が出るとは……。

 

こんこんこんこん。

 

「ワニちゃーん? 寝てるのー? ワニちゃんと会いたいって人がいるんだけどー!」

 

見た目は……まぁロリキャラクリしてたから似てるよね。またロリが増えるのか……。あーでも、性格面で言うなら、正反対か? クーは言われた事に従順な明るい子だけど、ワニは言われた事に従順じゃないクール系だ。いや中身は全然クールじゃないわ。ダウナーな声と眠そうな見た目して中身はパリピだったわ。

 

というか出て来いよ、ワニ。

 

こんこんこんこんこんこん。

 

「ワニちゃーん! 出てよー! お客さんだよー! カルシアちゃんって言うんだけどー!」

 

どたんっどだだだだだっ!

 

「はいクーちょっとこっちね」

 

急にドアの奥からなり始めた生活感溢れない音に、私は何かを察してクーをペンギン親子形態するのを止めて横にどかす。ついでに急な音に面食らい扉前で固まったプトラちゃんも脇にどかす。危ないからね。

 

がちゃばたんっ!

 

そしてドアが勢いよく開かれた。びくんっと体を震わせビビった左右のクーもプトラちゃんも気にする事なく、ドア奥から現れたロリは足を踏み込んでいた。

 

「シ~~~」

 

そしてジャンプ。踏み込んだ足は勢いよく伸ばされ、両足が地面から離れる。その体が向かう先は当然真正面の私で、下を向いていて緑……青? 待ってこれ何色? な髪から覗く瞳はきらっきらと私を見ている。

 

「ア~~~」

 

両腕はそれこそゾンビのように広げられている。ゾンビと違う点は、大きく手を広げる理由が襲うためではなく、私に抱きつくためであるということだろう。

私は『近接格闘』を使用した。

 

「ね~~~」

 

にこっとワニに微笑みを向け。ドアを開けたために遅れた左手、とは逆の右手を取る。ゾンビ相手はワンパターンでも問題ないんだけど、ワニ(人間)相手でも問題なくできそうで何よりだ。他の事にリソースを使える。

では右手を奥に下に。ワニの体に自分の体を潜り込むように密着させ、少ししゃがみ込んですくい上げる。どろどろに溶けた肉塊のゾンビ相手じゃないので気負いなく背負えますね。(激ウマギャグ)

 

「ぅええええええええっっっ!?!?!?」

 

バァンッ!!!

 

ワニは『近接格闘』により綺麗な一本背負いをキメられ地面に叩きつけられた。コンクリートの床と人間で出しちゃいけない音が出る。頭だけは腕を持ったままでぶつけないようにしたので大丈夫だろう。

シアねぇと発音したかったであろう言葉がそのまま悲鳴に変換され、最後に苦しそうな「がはっ、がはっ、がはっ(エコー)」っと女の子らしからぬ悲鳴を漏らした。

 

いきなりの事に目をまんまるにして驚いているクーと、ドン引いて口元に手を当てうわ……って顔してるプトラちゃんを見ない振りし、床に叩きつけられ伸びているワニを見下すように視線を合わせる。

 

「やぁワニ、久しぶり」

「シアねぇ……お、ひさ……がくっ」

 

 

仲が良さそうだから、旧友を深める時私は邪魔だよね! とプトラちゃんは去っていった。あの背負い投げで何故そう思ったのか疑問ではあるが、都合がいいのでまたねーと言って別れた。

 

そしてワニを引きずりクーを引き連れ『6-12女子部屋』内へ。

部屋の中は教室の名残があり、黒板、壁掛け時計、風が吹いたら窓際の生徒がとんでもなく迷惑を被るクソ長いカーテンなどが残っていた。

対して、それ以外の学校感ではない生活感は全くない。机をいくつかくっつけ出来た大きな机やイスを除けば、ボストンバック一個と脱ぎ散らかされた服くらいしかワニの持ち物と予想されるものはない。

 

「はい」

 

そんな教室の、折角なので中央にイスを置き、ワニと相対する。

私は膝にクーを軽い気持ちで乗っけたが、右腕分の重みがキツく、食い込むクーのお尻の骨が地味に痛い。

 

「では、情報共有をしたいと思います」

「はい、シアねぇ。その前に聞きたい事がある」

「どうぞ」

 

ワニは質問のためにビシッと挙手した腕を下ろし、そのまま私の膝のクーに向けて指さす。その表情はどこか抗議するように口をへの字に曲げている。

 

「その女、なによ」

「だってよクー。自己紹介して。あ、というよりワニ相手だったら普通に話して大丈夫だよ」

「ん! えっと、クーっていいます! よろしくおねがいします!」

「そうじゃないが???」

 

違うの? 私は首を傾げる。ついでに体も傾かせ、クーも傾げさせる。

 

「名前じゃなくて、関係性を聞いている。僕とシアねぇの間に挟まる邪魔者め……」

「私とワニの間に仲間以上の関係性は無いが? というか何、僕って。ワニそんな一人称じゃなかったでしょ」

「キャラ付け。なんかそっちの邪魔者と僕、キャラ被ってる気がするし」

「お前はお前で十分濃いよ。あと邪魔者って言ったげんな名前で呼んでやって」

 

ワニは腕を組み足を組み、ぶすっとした表情でそっぽを向いた。

ワニはキャラ被りを心配しているが……まぁ確かに似てる部分はある。しかしそれは似ているであってキャラ被りではないだろう。

 

クーと同じくロリキャラではあるが、こうして実際に目の前で比べてみるとさっき思った通り真反対だと思う。

活発な印象を受けるクーの顔つきに対して、落ち着いた印象を受けるワニのキャラクリ。

聴く者を楽しくさせる明るい声のクーに対して、聴く者を落ち着かせる低めなダウナーボイスなワニ。

長くてくせっ毛が酷くあっちこっちに跳ねてる髪のクーに対して、すとんと綺麗に梳かされている日本人形のようなボブカットのワニ。

そして髪色。真っ白なクーに対して、ワニは、その……何? 緑? 青? マジで何色それ?

 

「ワニ、髪色どうしたのさ。前までそんなんじゃなかったでしょ。普通に黒だったじゃん。何色それ」

「お兄ちゃんにこけしこけしって言われるから変えた。#7fffd4」

「そうじゃないが???」

 

しゃーぷななえふえふえふでぃーよん。よく噛まずに言えたな。さては練習してたろ。

 

「R127、G255、B212って言ったほうがわかりやすい?」

「カラーコード表記を止めろって言ってんの。チャットじゃないんだからさぁ」

「アクアマリンだって。ダイス振ったらこれだった」

「またそんな運試しするー」

 

ほんとガチャが好きなんだから。前回の死因ワニのその性格のせいでもあるんだぞ。

私は内容がよくわからず、喋ってもいいの何も喋れず目を白黒させてるクーを抱き寄せ、クーの頭に顎を置く。楽だわこれ。生えかけてきているクーの犬耳の間に私の顔がすっぽりと収まる。

 

なおワニからは嫉妬の視線がクーに贈られる模様。

 

「まぁキャラクリはどうでもいいや。んー……とりあえず、他メンツってここ(工業大学)にいる?」

「ううん。合流できてない。シアねぇが初」

「そっか」

 

NZWは公式鯖では裏切りと一時結託の何も信じられない人間不信ゲームと化す。

しかし昔からの知り合いだったら? リアルの仲だったら? 絶対に裏切らない仲であれば、それこそ言質で安全確保する必要なんてない。

NZWにおいて次の世界に真に持ち込めるものなんて、転生ポイント2割人間関係8割だ。裏切らない仲間を見つけられたのならとても大きく力強い一歩となる。……よって公式仲間募集鯖が地獄になるんですよねぇ。あれ、真面目に仲間募集してるのは極少数で、いつ裏切るか楽しんで潜入してる人が大半だからね。別ンとこで信頼できる人作ってNZW始めたほうがいいよ。

 

私も当然例に漏れず、信頼できる仲間と共にいつもNZWを遊んでいる。

 

ガチャ大好きロマン大好き弓使い、ワニ。

ワニの実の兄で百合好きなためワニと私をくっつけようと画策してやがるドッグ。

言動を除けば完璧だが言動がウザい中二野郎、プラフォン。

 

そんな癖が強い社会不適合者連中を率いる超絶天才美少女社会不適合、私。ゆかいななかまたちだぁ。(呆れ)

 

「ま、普通にやる分じゃ死ぬようなメンツじゃないし大丈夫でしょ。鯖も生まれたてだし」

「同意。イレギュラーはあるけど、でも大丈夫だと思う」

「イレギュラー? クーの事? ただの可愛い子だから大丈夫だよ、裏切りの心配無いし」

 

私はクーと顔を見合わせ「ねー」と笑顔を向ける。クーは相変わらず頭ワンコで会話を理解していないようだったが、赤ん坊が親の真似をするようににへらと笑って「ねー」と返してきた。

 

「……シアねぇ、そっちじゃない。そっちもだけどそっちじゃない。NZWじゃなくなったほう。プトラなんて固有NPC、僕知らない」

「あそっち」

 

つまりリアル化したことによるイレギュラーを心配してるのか。私もショッピングセンター前では風向きとかいうリアル化の影響で計画崩れたもんなぁ。

けどまぁ、そっちも大丈夫だとは思うよ。どんだけリアル化しても土俵はNZWだし。

 

あ。

 

「そういえばプトラちゃんの『言質』なんだけど、本当か確認した?」

「してない。さすがにほぼ初期状態で喧嘩売りたくなかったし、シアねぇ程道徳心失ってないから」

「あ"?」

 

おっと。いつものじゃれあいのノリで怖い声出したら、耳元で聞いているクーが本気だと勘違いしたらしく体を硬直させた。ごめんねーこれお遊びだからなんもないよー。

というか全然喋らんな。ここまで何も話さないと、話の邪魔をしないように良い子にしてるだけな気がしてきた。

 

しかしそうか、『言質』の確認はまだか。九割九分本当だとは思うけど、一応確認しとかないと落ち着かないんだよなー。

えーっと、言質内容はグループの人に危害を加える事はない。つまり同じ言質を取られた私とワニ、もしくはクーで喧嘩でもすれば確認はで、き……。

 

「私さっきワニに『近接格闘』したけど、通ったじゃん。プトラちゃん嘘付いてる?」

「む……。いや、でも僕にとってはシアねぇとのあれなんてただのじゃれあいの範囲内。リアル化した今、そういった深層心理を言質が汲み取った可能性がある」

「あー確かに。よかったープトラちゃんが嘘ついてなくて。これでプトラちゃんが真っ黒な子だったら人間不信になるとこだったわ」

 

プトラちゃんは良い子。良い子です。癒し枠だから!

 

「でも確定じゃない。確認方法、どうする?」

「………………」

 

私は膝の上でおとなしくしているクーを見た。

……いや、流石にダメだわ。やっちゃう? と訴えかけてくるワニにしかめっ面で返す。

 

「私とワニじゃ遊びの域だから危害にならないし、クー相手にやらない程度の良識は残ってる。多少警戒する程度にしとこうか」

「僕からクーじゃダメなの?」

「流石にクーを巻き込むのは心が痛む。それにクーが私に刃向けても私はわかってるからダメだし、私から向けても意味が無いし」

「? クーおねーちゃんの言うことならきくよ?」

 

クーは純粋な瞳で言ってくる。多分死ねと言ったら泣きながらも本当に死にそうだ。だから言質チェックには使えないとも言える。

どこでそんな好感度稼いだんだよ私。……他にいないかったからってのもありそうだけど。

 

「ね? この懐きようよ」

「シアねぇ……許しませんよ僕以外と……っ!」

 

こいつもどこでこんな好感度稼いだんだよ。

 

「まあクーとはいずれ上下関係を仕込むとして」

「仕込むな」

「シアねぇが連れてきた子だから、僕は仲間に入れるのは反対しない。けどビルドの確認はしたい。そこまで被ると僕のキャラが食われる」

「食われないって」

 

ワニは優秀な弓使いだ。この銃も電磁波も粒子砲もあるNZWという世界において好んで弓を使って遊んでいた。

理由は一重に、弓がロマン武器だから。弓幹(ゆがら)(弓の木の部分。本体)を変え。(つる)を変え。弓矢を変え。銃は当然クロスボウにもコンパウンドボウにも見向きせず、ただひたすらに弓を愛してやまない。なんならあまりにも弓が好きになりすぎて、リアルでも初めてたらしい。

そして実際、ワニの弓は上手かった。弓専用の跳弾を使いこなし、銃の着弾より早く射掛け、火力を出していた。私も重力落下の感触が好きだったので弓は使う方だったが、それでもワニを10としたら5あるかどうかだった。

 

けどまぁ、ここまで念を押されるともはや苦笑するしかない。私はクーの右手を取りひらひらと……ぶんぶんとさせる。重くて軽々しい表現は使えないね。

 

「ほら、この手じゃ弓引けないでしょ」

「むぅ……。それは確かに……」

 

『クッキングケミカリー』って、説明文に書かれてないけど両手武器使用不可って効果あるから弓なんてつがえられないんだわ。

 

私はクーの説明をするために見せれないよフィルターの毛布を取る。ワニはちらちらと見えていた右腕……より真っ先にクーの上半身の水着を凝視し、「シアねぇの趣味ってこんなの?」と呟いた。すぞ。

 

「はい。この姿を見てクーのビルドを当ててみましょーう」

「……確か『ウィルス変異:ビースト』は犬耳は出なかったはず。で人体改造だと耳まで付ける必要性はない。そして大きな理由としてシアねぇが引き取ってる事を鑑みる。……『クッキングケミカリー』? これまたレアなモノを引いたね、羨ましい」

「お、正か~い」

 

よってクーはウィルスビルドだね、バクテリアも混ざるやもしれんけど。私はそう言葉を付け足した。

 

「あ、ちなみに『食人癖』持ち。だから『クッキングケミカリー』を得たんですねぇ。クー、好きな食べ物は~?」

「おねーちゃんの血!」

「あっはっはっはっ! マジで止めてほしい」

「僕のシアねぇの思いだけでなく中身まで……許せん……!」

「私の中身は私のものだが???」

 

ワニにまで取られたら私の体がないなる。

 

「ちなみにシアねぇ。僕転生ポイント、いつもの『ランダム異能力系統(異能力、強化アイテム、装備など)』を取った」

「まーたガチャしよって。それこそプトラちゃんとキャラ被るぞ。何か当たりでたの?」

「『吸血鬼』が当たった」

「私の中身は私のものだが?????」

 

ワニにまで血取られたら私の体ないなる!




すぞ……殺すぞ の意。身内ミームかもしれないので解説。

『吸血鬼』分類-異能力
対象の血を取り込む事で、対象の一部ステータス、スキルなどを自身に加算することができる。この効果は血を浴びる、血肉を食す、はらわたの中に手を突っ込むなどで発動することができる。
血肉を取り込めば取り込むほど効果は増大する。(上限あり)
また、過去に取り込んだものスキルなどは別の血肉の代用により再現することができる。この時必要とされる血肉は3倍である。

『ランダム異能力系統(異能力、強化アイテム、装備など)』
ガチャ。異能力そのものがガチャみたいなものなのでワニは弓と同じく好んで異能力を使っている。
異能力が当たる確率…5% 『言質』『吸血鬼』など
強化アイテムが当たる確率…70% 『どこかの宗教本』『異界触手-低-』など
異能力装備が当たる確率…10% 『引力石』『もう一つの手袋』など
その他…15% 『見える音』『同類』など


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ワニ2

異能力分類、『吸血鬼』。

効果。対象の血肉を吸収し、ステータスとスキルの一部を一定時間得る。この時、噛みつこうが死体の山にダイブしようが感染することはない。つまり"能動的"であれば、ゾンビにも噛みつけるって事。操るキャラじゃなく自分でやりたいかは別だろうけど。

 

まぁつまり、私のカラダ目当てが一人増えやがったって事だ。

 

「よりよって食人系統当てやがってワニお前……それこそキャラ被ってんじゃん……」

「これでお兄ちゃんとかプラフォンが食人系統持ってたら面白いね。プラフォンはどうせサイボークビルドだろうし『人肉分解炉』とか所持してないかな」

「その時はさっさと『有機物融解炉』にアプグレさせる。無理やりでもさせる……」

 

いやでも素材重いなぁ……別のエネルギー補給系統を選んでる事を祈ろう。

 

「僕はいつも通り弓プラス異能の予定だけど、シアねぇはビルドどうするの? 僕は振り切ってるけど、

どうせポイント余ってるでしょ」

「あー……どうしよっかな……」

 

ビルド。ビルド。ビルド。

要は方向性だ。目的に合わせてビルドは決めるべきであり、私は最初振るとき合流も織り込んでいたのでスキルポイントはまだ全部は振り切っていない。

 

NZWにおいてスキルポイントは、経験値次第でどんどん貰えて、最大100まで得ることができる。

そしてこれは設定にも関わる話なのだが、NZWの世界において、スキルポイントとは「体や脳の経験を通して、無理をさせることができる値」という扱いなのだ。

僕は少ししかホラーを見てないです。なら1のホラーは耐えれるな。

俺はかなりホラーを見ているぜ。なら10のホラーも耐えられるだろう。

自分の今までの経験に対して改造を行うことができる。人間の本来使われていなかった部分を使える部分に引き出せるのがスキルポイントという数値なのだ。だから自分が成長すると、無茶できる値=最大スキルポイントが増える。

そしてこのスキルポイントだが、取得したスキルを完全にモノにすると帰ってくる。体がスキルを完全にモノにしてしまえば、脳がこれは負担が掛かっていないと判断し、新たな無理をさせることができるのだ。

まー熟練度MAXってだいぶ面倒だけどね。一番使ってる近接格闘も1%行ってない。そう簡単にスキルポイントは返ってこないってこった。

最終的には全部のスキルを取ることができても、取ったスキルを熟練度MAXにするなんてそうそうできないし、そもそも最大の100まで経験値を積むこともキツい。私だって最高92までだ。そこで世界が滅んだ。

 

さて、説明はこれくらいにして。いやこの後も説明っちゃ説明なんだけど、どっちかっつーと私の思考の整理だ。

 

ビルドの方向性。目的の進路。

自己強化をするんなら、手段は大別して二つ。己の体を強くする、装備品を強くする、実に単純だね。

それ以外だったらチームメイトの強化だったり、ペット(クーではない)を使役したり、環境を整えたりだけど、趣旨とは外れるか。

 

とりあえず自分を手段、そして今回は道具じゃなく自分を強化する方法について、真面目に将来を見据え考えてみよう。わかってる奴(ワニ)もいることだし。

道具の数には到底及ばないが、それでも身体を強化する手段は色々とある。

クーの『ウィルス変異』

リーダーの『サイボーク』

プトラやワニの『異能力』

それに『改造手術(脳移植)』

傭兵会社の『人体強化』

後はまぁ、特殊だが『進化』辺りか。『寄生虫』……いやあれはちょっと。進化と一緒みたいなもんだし。

 

でだ。私は今回ビルドを決めるにあたり、とりあえず『サイボーク』は縛らなければいけない。なんたってアレ、最終的には血肉なくなるからね。クーの事を考えるとパスせざるを得ない。いや身内に自分の血肉分け与える(誇張無し)ってヤバいと思うんだけど……。

その上で、ビルドが被るのもよろしくない。面白くないというどうでもいい大事な理由があるが、切実な問題として各ビルドを成長させるレアアイテムが奪い合いになってしまうのだ。私達も流石に身内でアイテム奪うために殺し合いなぞしたくないので、避けれるトラブルは避けておこうという魂胆だ。

よって『ウィルス変異』、『異能力』もパス。残るは『改造手術』に『人体強化』に『進化』……。

 

比較的まともなのが『人体強化』しかないじゃねぇか! いやだぞ私。『改造手術』も『進化』も人間の姿からだいぶかけ離れていくタイプだ。見る分にはへーとしかならないけど、自分がそうなるために体いじくりたくない。いや『人体強化』も体いじくるけど! あれはまだ骨密度とか筋肉密度とかだから! まだセーフ! まだ心の防衛ラインがもってくれる!

 

『人体強化』。なんかこう、特殊性はなくて他と比べたら見劣りするけど、別に弱いわけじゃないからね。そこらへんのバランスは運営がちゃんとしてた。

でもありふれてるよねっていうのも素直な感想としては出ちゃうよね。どこかつまんないというか。

やった経験はあるけどさ、まー順当に強くなってくのよ、『人体強化』って。できることがちょっとずつ、性能もちょっとずつってね。そーれがあんま面白くないって感想になっちゃったんだよなー私。一番人気で一番無難だから、強化素材の争奪戦が激しくてダレちゃうってのもあったけど。

 

まぁ、要領よくはあるのだ。要領は。私のメンタルも異形モノにしたらどうなるかわかんないし、無難な選択肢として受け入れましょう。

 

以上、カルシアちゃんの脳内会議(ソロ)でした。所要時間3秒!

 

「『人体改造』かな。被らないだろうし。『不動の感情(プライド)』とか取っとくかな」

「うん、いいと思う」

 

私は確認を取るようにワニに視線を向け好きにやれ系統の返事をもらった。なんせ身内は全員自分勝手だから、いつだって何言っても肯定しか返ってないのだ。身内の中で合わせるタイプが私だけの弊害を見た気分だった。

 

「じゃあ次は……何話す?」

「今後の方針? ここに居座るのか、お兄ちゃんたちを探しに行くかとか。僕はここに居座っていいと思うけど」

 

ビルド決定したらちょっと満足しちゃった。

私はいい加減負担がヤバくなってきた膝からクーを下ろし、さっきまで私が座ってたイスに代わりに座らせる。ぐぐぐーっと腰を伸ばすと、腰より太ももに負担が来た。しびれてる、いてぇ。

 

「私としても同意かなぁ。焦って探す必要はないかな。はいクーは? ここらへんで生活するか、外で私のお友達を探すか」

「クーは……どっちもさがすと、すれちがっちゃうかもだから、ここにいていいと思うよ?」

「一理ある」

 

びりびり来てる腿を無視しながら歩いて、端に放っといたバックへ。中にあるロシュアから(勝手に)受け継いだ板チョコを取り出し三等分。

 

リアルじゃ大量に一口チョコ買って常備してたけど、ここじゃ貴重なお菓子なんだろうなぁ。

 

「ほい。全員一致で工業大学に厄介になるって事で」

「ありがとうシアねぇ。そのうち合流できるだろうし、僕たちも強化しとこう」

「おねーちゃんありがと。……これ何?」

「甘い肉。かぶりついていいよ」

「わかった!」

 

チョコを知らなかったらしいクーは、私の言葉を素直に信じて大口開けて咀嚼した。すぐさま美味しいけど食感がコレじゃない感って思いを表すように目がぐるぐるしだす。

 

「……シアねぇ、ちょっと適当過ぎじゃない?」

「親は私だ。私の好きに育てる」

「虐待親だ……。いや、服からしてそのケはあったか」

「あー……」

 

指についた甘いお肉(チョコ)を舐めとるクー。毛布を外したその姿は、相変わらず上半身水着マントだ。

白い肌(比喩)に真っ赤なビキニがよく映える。もう私これ下半身も水着にしていいんじゃないかと思ってるんだけどどう?

 

「でもワニも外部MODで自キャラ裸にひん剥いてたじゃん。リスコード(リスペクトコード。ゲーマーのための音声チャットツール)に履歴残ってるぞ」

「自分に対する虐待はただのドMだから……」

「せやろか」

 

まぁそこは追及してやらないであげておいて。

私はワニを改めて見る。さっきは容姿を見たが、今回は服装だ。

 

ワニは上半身に白地にポップな英字がプリントされたシャツを着ており、その上にここでもらったものなのか、水色のゴツい作業服を羽織っていた。作業服は左側だけ半袖に切り落とされており、これは弓を引く邪魔にならないようにだろうか。首にはワンポイントで黒のチョーカーが付けられている。

下は黒のストッキングにファーが付いている灰色のショートパンツに、編み上げ式のコンバットブーツ。癖みたいな服装をしてやがった。

 

「明らかに初期装備じゃないねぇワニ」

「ルーピシュだっけ? 助けた男性NPCと血だらけでここに来たら、プトラから無理やり渡された。これでも自分の羞恥心を守れる部分は抑えた。スカートとかヤだし」

「草。いーじゃんスカートでも。NZW中だったら普通にスカートどころかもっと際どいの着せてたじゃん。それと一緒よ」

「プトラが「もうちょっと身長あれば似合うと思うんだけどなー」って諦めてた、ゴスロリ系統の服がここにあったよ。多分シアねぇに似合う」

「各々好きな恰好をすればいいと思う」

 

からかい交じりにワニにスカートを履いてみてはと提案するととんでもねぇカウンターを喰らったので即保身に走る。

『カルシア』には似合っても『私』には似合わない、つーか耐えられない……。

 

「お、そうだ」

 

ゴスロリ服を着る(カルシア)を想像し羞恥を楽しんでいると、ワニがぴょんと擬音が聞こえそうなほど軽々イスから飛び降り、首元からその黒いチョーカーを外した。

 

外してどうすんだと思ってたら、そのまま大人しくイスに座ってたクーにぱちりと付けた。クーはされるがままだ。私がワニは大丈夫つったからだろうけどもうちょっと警戒してもいいぞ。

 

「うむ、継承。やはり犬には首輪がなければ」

「やめれ、とは言いたいけど普通に似合ってるな……」

 

はにゃ? と首元を触りながら疑問符を浮かべているクーは、確かにその白髪と対極の黒いチョーカーが良く似合っていた。……肌色面積が多いのと無垢な瞳のせいで変な気を催しそうだ。あんまじっと見るのは止めよう。

 

「クー、別に息苦しかったら外していいからね?」

「ううん。ワニちゃんからもらったものだからうれしい! つけとく!」

「ねぇワニちゃんって僕の呼び方? シアねぇこの子距離感バグってない?」

「早々首輪付けるワニもだぞ」

 

ワニ、クーが抵抗しないとわかってやってるから非難されるならお前の方だぞ。

 

大事な話というか、しとくべき話はまぁその程度だったので、その後はたわいない話をしていく。借りてきた猫……というにはちょっと違うが、あんまり喋らなかったクーも段々と会話に参加するようになってきた。

 

私とクーの出会い。ワニのループシュ救助からここまで。NZWの思い出。リアルの体ではないが実質顔を突き合わせてのオフ会は楽しいものだ。

 

私達はそのまま1時間くらい話し、そしてまだまだ話のネタは尽きないぜと口を開き合い───

 

『あーあー、お前らのリーダーオシヴァルだ。臨時校内放送をお届けするぜぇ。ルーピシュの野郎から、南方面からかなりのお客さん(ゾンビ)が来てると報告だ。連日となっちまうが、動ける奴らはヘイワークに来てくれ。繰り返す───』

 

会話は頭上のスピーカーによって奪われた。

 

私とワニは目を組み交わし、頷く。

どうやら、お仕事の時間のようだ。



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出発準備

適当に準備を済ませて階下へ。

 

ヘイワーク広場では既に20人くらいが集まり、そしてカウンターみたいな場所でリーダー、マキシマムから指示を受け取り次第出口へと向かっていた。皆緊張した面持ちになっており、食堂で酒によってぶっ倒れてた人も見かけたが、酔いなど一切表に出さず、チームメイトであろうすぐそばの人とメモを手に話していた。

 

「ルーマか。お前はB1を頼む、コオがリーダーだ」

「おうよ」

「ソッグラン……おいマキシマム、さっきのカニューんとこ若干不安あるつってたよな」

「あぁ。戦力としては十分だが抑え役がおらん」

「ならソッグラン、そっちいってくれ。A3地点だ」

「了解。マキシマム、念のため手りゅう弾の追加が欲しいんだが」

「わかった、ここにはないからシャクに言っておく。出る前に倉庫寄れ」

 

リーダー達は次々と来る先頭組の皆さんを滞りなく裁いていた。凄いな、全員の顔と名前覚えてるのか。

誰が来たか見て、すぐに地図からどこに配属すればいいのか判断してるだろう。

隣のマキシマムはリーダーの補佐らしい。自身も人の列を捌きはするが、どちらかというと武器の配給がメインらしい。ケースから次々と銃とマガジンを取り出し、武器を持っていない人間に貸し与えていた。

 

もう喋らせないという方向性より、心を開いた人にしか喋らないという人見知りの小さい子供によくある奴に方向転換させたクーが、その光景を見て疑問を呟く。

 

「リーダーさんたちは行かないのかな?」

「防衛力なんじゃないかなー? というかリーダー、前見たときの腕じゃなくて普通の義手になってるな。戦闘用と事務用とかなんかね」

「リーダー、腕が……っ!」

「あるだろうが」

 

場違いなやり取りがワニと行われる。話の限りだとワニも昨日来たばっかだし、私もさっき加入したばっかの部外者気分だからね。

 

そんなまるで緊張感がない事を続けていると、人が捌けてきたからか、それとも浮いてる雰囲気を感じ取ったのか。ひと段落つき額を拭うリーダーと目が合った。

 

「………………お前ら、来な」

 

うわ、すっごい苦虫噛み潰したような顔で言われた。しかもリーダーの隣にいるマキシマムも渋い表情になってる。

 

「やっはろー。人の温もりを求めて心臓(ハート)狙い! キュアカルシア!」

「僕はシアねぇ好き好き侍のワニ。義によって助太刀致す」

「……はぁ、ま、薄々来るだろうなとは思ってたぜ。その口上は予想外だったが」

 

おっと滑ったか、お前のせいだぞワニ。

ワニを見ると同じような事を考えてそうなワニと目が合った。

 

「先に言っとくぞ。俺はお前ら、そしてクーちゃんをも戦力として加える事に反対はしない。こんな性格だからかモテなくてねぇ。よって独り身、子持ちの気持ちにはなれねぇんだ。ガキは可愛くとも適材適所の方が勝つのさ」

「隣の彼は凄い何か言いたそうだけど」

「最終決定権は俺であり、受けるかはお前らの選択だ。昨夜の襲撃と続けざまだからこっちも厳しくてな、使えるもんは使っておきたい」

「ぬぅうん……なぁ、クー。ここで俺と共にカルシアを待たないか?」

 

ふるふる。クーは何の躊躇いもなく首を振った。それを見たマキシマムはぬぅぅぅん……とさらに唸る。

 

「ひそひそ……シアねぇ、この人俺と共にってヤバくない?」

「こそこそ……プトラと共にとかだったら普通なのに、自分の欲望紛れてるよね。ワニ可愛いから狙われてるかもよ?」

「僕も狙われてるの? こわーい」

「貴様ら好き勝手言いおって……。俺は純朴で無垢な子供を好いているのだ。ワニのような身長が伸びなかっただけの女に興味はない」

「僕何気に酷い事言われてる?」

「マキシマムの性癖に素直なところ私好きだよ」

 

でも私のクーはあげない。

 

「あー、話の再開いいか?」

 

と、そこで話の腰を折られていたリーダーから手を挙げての主張。蚊帳から出してごめんて。

 

本人が望むなら……俺が出れるのならば……このような子供を……と腕を組み目を閉じブツブツ言い始めたマキシマムを視界から追い出し、マップを片手に持ったリーダーと向かい合う。

 

「まず、お前らは遊撃だ。俺はお前等の実力を全員人伝にしか聞いてなくてしっかりとした実力を知らんからな。そんな奴等を既に出来てるグループに押し込んでも上手く行く未来が見えねぇ。と、言うわけで遊撃だ。ここまではいいか?」

 

こくりと頷く。NPCとの共闘はもちろんできなくはないが、正直言って雑魚はいても面倒なだけである。いや、私は現状その雑魚3体に囲まれたらだいぶ怪しいんだけどね。でもエリートモブじゃないから……強い雑魚だと認識しといて。

で、やりたい事ができないし誤射れない雑魚なんて本当に邪魔でしかないので、私たちにとってはいない方がやりやすいと、そういうことです。クー? クーはいいんだよ、ラジコン素直に応じてくれるからさ。

 

私たちから異論がない事を確認したリーダーがカウンターにマップを置く。ワニでギリギリの高さだったので、クーは後ろから抱っこして見えるようにしてやる。バリアフリーに配慮してくれ。

 

「お前らに任すとこはここ、D1地点だ。BCの1は塞いでるんだがここまでは手が足りてなくてな。ここでマキャロエン線に奴らが入ってこないようにして欲しい。ゾンビ出現位置からして大部分はA側に行くとは思うんだが……どうも嫌な予感がするからな」

 

リーダーが地図上でトントンと叩く位置は、マートラを北側と南側に中央で横に真っ二つにする大通り。私たちが地図の看板を見つけショッピングセンターを曲がるまでずっと通っていた道だった。

マキャロエン線と書かれた大通りは確かにこうして防衛ラインとしてみるなら、地図上でも実際その地にいてもわかりやすい境界線だろう。

 

私は地図に置かれた「ゾ」の文字を〇で囲ったコマから指を走らせ自分の防衛地点を確認する。このゾンビ集団が北側に来てる場合、うん、十分D1に来る可能性はある。

 

「ここら辺は公園近くの住宅街だが、ベランダ、屋上があるものが多くてな。板も掛けていて移動できる場所が殆どだから追い込まれる心配がなく、すると家は視界を遮るのも逃げ込むのにも最適となる。よってびっくり遭遇だけには注意して欲しいが、慎重に行きゃぁそこまで危険性はないと判断した。現在確認されているゾンビ集団はハイゾンビが8割残りが通常のゾンビで、日中とはいえハイゾンビは民家に逃げ込んでも追いかけられる事は留意してくれ」

 

はいここでショート解説。序盤によく見ることとなるゾンビくんちゃんだけど、種類と時間帯によって強さが変わる。とりあえずボマーとかブッチャーとかの変異種を除いて───

ゾンビ(日中)……襲ってくる身体能力おじいちゃんおばあちゃん。ゴミなのでドアも開けられない。壊されることはあるので油断注意。

ゾンビ(夜中)……襲ってくる一般人。ドアは開けるし階段も登る。獲物を求め一直線に進むその姿は正に怪談だが、あの子の事しか見ない男子中学生なので穴を掘ってれば落ちる。

ハイゾンビ(日中)……上記のゾンビ(夜中)と同じ。基礎防御力が上がっている。つまり皮とか肉が腐り落ちていない。

ハイゾンビ(夜中)……地獄から来たのでスパイダーよろしく壁の取っ掛かりからクライミングができる。人間の域は越えないが、人間の域を超えないところまではしてくる。息はない。(激ウマギャグ)

 

より、今回は昼間のお仕事なので、襲ってくる一般人レベルですね。

スタート時だったらハイゾンビ(日中)5体で厳しいラインだが、今回は仲間も武器もある。まぁ余裕しゃくしゃくって奴よ。イレギュラーが起きなければな!

 

「確認だよリーダー」

 

私はよいしょっとクーを抱きかかえなおしながら言う。もう抱える必要は正直ないと思うんだけどなんとなくだ。

 

「さっきマキャロエン線から北側に入ってこないようにして欲しいって言ったけど、つまり死守ではない。ヤバかったら逃げていいって事だよね?」

「あったりまえよ」

 

リーダーはその義手の腕を動かし、チェンジしたと言っていた胸……心臓を指さす。

 

「命あっての物種だからな。やべぇなって思ったら遠慮なく逃げて来い。それはここの全員に言ってる。逃げれる状況である内に対処してぇからお前等までも出してんだ」

「おーけー」

 

リーダーの言葉からはしっかりとした意志を感じた。リーダーの立場として使えるものは使うが、ヤバいなら逃げろという本人の意思を重視しているオシヴァルの意思も聞けた。

そこに元が運営のデザイナーが作ったNPCの一人だったことは微塵も感じさせない、いい心意気だ。

私は人としてダメでイカれててゴミみたいな性格尖がってる人が大好きだが、それと同じくらい自分がしっかりしているヤツが大好きだった。

 

「じゃ、行ってくる」

「おう、無事を祈ってるぜ。まだ歓迎会もしてないんだからな」

 

私は後背に手を振って応えた。

 

 

 

現場のD1に向かう前に、女の子三人でショッピングタイム。お金は酒と葉っぱで、買うものは武器だ。

 

「じゃあこれポイントに換金よろしく。……名前なんだっけ?」

「シャクだ。葉っぱはいいとしてこの酒、カロスティー社のモンか。他のも人気あるいい奴ばっかじゃねぇか。今精算するが500は固いぞ」

「マジかよプトラちゃんにDX望遠鏡買ってあげるじゃん」

「シアねぇ、なんでこんな嗜好品持ってるの? 嗜好品(お酒)って一応レア分類じゃん」

「わかんない。クーが集めてきたもんだから。ほんとはクーの事を差別しないでねって賄賂する用だったんだけどいらなかったから」

 

犬の嗅覚で探して来たんじゃないかな、知らんけど。

 

「はっはっはっ、そりゃぁタイミングが良かったな嬢ちゃん。元よりウチのリーダーは差別は抑えてる方だったが、ひと月ぐらい前にその右腕のお嬢ちゃん以上な奴が来たから皆耐性ができてんだ」

 

紙と酒瓶を交互に見ていたシャクが口を挟んでくる。へぇ、クー以上な奴と。

 

「どんな奴? 狼人間みたいなの?」

「いや、犬だ」

「……犬ぅ?」

「そう、まんま犬。改造手術を無理やりされたらしい。脳移植だな。俺の小せぇ脳であっても、犬の小せぇ頭蓋骨にどうやって移植するかはわからんけどな。ひっひひ」

「犬、モフモフ。シャク、その犬どこにいる?」

「三号棟かグラウンドだな。発声器官は無いが文字書いて会話はできるぜぇ? スコットって名前だ。マスコットだからお似合いだな! ひゃっひゃ!」

 

犬に脳移植……何それ私知らない……こわ……。

左手で私の服をくいくいしてたクーに×印を突き付ける。ダメだクー、そいつは真の犬じゃない。

 

「ちがうの、わんちゃんじゃなくて……そっちもざんねんだけど、こっち。マキシマムから、ぶきはいきゅ-ひょーっていうのもらってたのわすれてた」

「あ、そうなの。ありがと」

 

クーの小さい手に握られていた黒いドックタグみたいな金属板を受け取る。ちなみにプレイヤー感ではマジでドックタグと言われている。これはNPCが死ぬと、その場で回収しない場合持ってた武器装備がグループ内の倉庫に自動で返却される仕様を暗喩している黒い愛称でもあるのだ。

 

ひーふーみーしーご。五枚? 普通人数分だけ貰えるはずなんだけど……さてはマキシマム、クーを守らせるために多めにクーに渡したな? いいのか幹部がそんな事して。

 

「ワニー。武器配給表あるから好きに選んでいいよー。今夜は私の奢りじゃー」

「わーい」

「クーも何か欲しそうなのあったら言ってね」

「うん」

 

……クーが欲しそうなのって何かあるのか? なさそう。

あ、そういえばクーの服装だが、女子階層の端っこには『服共有場』という、こんな世界であってもお洒落を楽しむ人たちの場があったので、そこから拝借してきたものを着せた。

 

何を着せたって? エプロンだよ。しょうがないじゃん着れる服限られるんだから。着てねぇよってツッコミは受付ないぞ。

結果として水着エプロンマント首輪(チョーカー)ロリという、何……何? が生まれたわけだが、前は隠せたんだからいいだろうと結論付けた。ちなみに後ろはマントのめくれ具合によって背中の肌が丸見えだ。草。

 

この格好に対しリーダーもマキシマムも一瞬正気を疑う眼差しを向けたが(私に)、スルーすることに決めたようだ。何もしないよりマシだと思ったのだろうか。私は何もしなかった方がマシだったと思う。

 

「じゃあ弓矢追加で。手持ち余裕はあるけど2ケタ切ると不安」

「私はあの大振りナイフ~。弾丸は支給分で足りるかな。後はロープと……グレいる?」

「リモ爆優先で。……ん? シアねぇあれ『ハイゾンビ・マテリアル』じゃない?」

「お? ほんとじゃん。再生上がるしクーに持たせるか。というわけでシャク、今言ったの全部お願い」

「あいよ。『ハイゾンビ・マテリアル』は配給表の対象外だからポイントでツケとくぜ」

 

 

 

「武器よし、防具なし、アイテムよーし」

「弓矢があればなんとでもなる」

「おねーちゃんたち、ぼうぐなくて大丈夫なの……?」

「「当たらなきゃいいの」」

 

当たっても特殊モーションの噛みつきじゃなけりゃ感染しないしへーきへーき。

 

では今回ゾンビ防衛戦をするパーティーメンバー&装備を改めて紹介しよう。

 

まずは私、カルシア。

主人公たる私の武装は刃渡り10cmぐらいの大ぶりなサバイバルナイフ。それと今は亡きロシュアから受け継いだハンドガンだ。後は投げナイフいにロープリモート爆弾……。ビルドは『人体強化』だが今は何の強化もしていないのでただの一般人だ。なおハイゾンビ相手だと2発まともに喰らうと死ぬ。

 

次はクー。

武器も防具も一切無いが、クーは元来生まれ持ってない得物が備え付いているので問題ない。鋭く黒光りする5本の爪の威力は折り紙付き。ハイゾンビであってもバターのように切り裂くだろう。クーはこの中で一番ステータスが高く噛まれても感染せず、メインウェポンの事もあるので唯一の前衛だ。5発ぐらい耐えられる。

 

最後にワニ。

ワニのメインは何といっても弓。頭に当たれば(クリティカルヒット)通常の3倍ダメを叩き出すロマン武器だ。銃と違ってエイムが難しいし着弾まで遅いし矢は場所取るし近づかれるとほぼ何もできない以外は、後半に連れ矢の補給が難しくなって両手塞がるぐらいしか欠点はない強武器だ。後はナイフとかで私と一緒。

ビルドとしては『異能力』だけど、ワニが現在所持している『吸血鬼』は終盤向けのモノなので現状そこまで役立たないモノである。血は吸われるだろうけどな!

 

以上の少女幼女幼女の構成だ。楽しいね。

 

「D1ポイントまでは30分もあれば着くって。で、ゾンビの襲撃予測は1時間もないぐらい?」

「僕たちは一応予備選力でしょ。漁るのメインと考えていいんじゃない」

「! クーだったらドックフードさがしてまたたべたい!」

「……シアねぇ? 児童虐待? 性虐待するならせめて僕にしてよ?」

「誤解だ……」

 

車に乗って行こうかと思ったのだが、別にそこまで距離があるわけでもないし他の人たちも歩いて行ってるのでそれに倣い歩いて行く事にした。周囲に流される日本人ソウルなので。

 

「そういや防衛地点の南東側、ハウスってグループの縄張りらしいよ。出会ったらなるべく事を荒立てないようにって言われた」

「ハウス? 聞いたことないグループ。というかハウスの土地だったらハウスが処理するんじゃないの?」

「名前の通り、家に引きこもって何もしないだろうってのがリーダーの見解だったよ。穴熊穴熊ー」

「おうちにずっといてへーきなの?」

「たまに出てるんじゃない? それか地下が繋がってたり」

 

目標は南側なので、正面校門と比べれば小さな玄関口からの出発となる。さっきのが大学の顔としての入り口ならば、こっちは利便性のための入り口。

先輩たちは外に出るとちらっと周囲を見渡し、真剣な顔で武器を担いで離れていった。

 

私たちも暇つぶしに雑談しながらそこに向かう。

 

「クーは、下はきゅうくつだとおもうから、ここの方がいいとおもうけどなぁ。ゾンビをやっつけれないのかな?」

「ん……ハウス組も銃持ってるだろうし、普通に戦えると思うけど。木材は外に比べたら調達が難しくても、そもそも金属が豊富だし」

「僕は都会沸きしたけど、最初っから金属加工できる機械なんて見つからないから苦労した。結局公園の木加工して弓作ったもん」

「あ、ワニの弓拾ったとかじゃなかったんだ。よく加工できたね」

「『サバイバル』は神。シアねぇ以外で唯一安心して身を任せられる」

「ちょっと何言ってるかわかんない。ワニちょっと弓見せてよー」

「いいよ、ほい」

「ありがとー」

 

ワニから弓を受け取る。私はリアルで弓なんて見たことも触ったこともないが、私と同じ初期装備のナイフ一本で削ったものだろうに綺麗なバランスでよくできている弓だった。というか手作業でどうやったらこんな綺麗な丸に削れるだ。『サバイバル』が強すぎる。

 

みょんみょんと弦を引くとキチンとしなり力強い弾力を返してくる。これなら余裕で使えるだろう。

 

「マウスじゃなくリアルで弓引くなんて初めてだな……」

「シアねぇ弓使う予定なの?」

「まー使えて損はないしねー。スキル取る気は今んとこないけど」

 

ぽつりと漏らした感想にワニからそう聞かれたので、曖昧な答えを返す。

『人体強化』は複数武器を使いこなすことがコンセプトでもあるので、メインにはせずとも今から慣れときたいなーとは思っている。

 

左手で弓を構え、右手で弦を引く。矢はつがえていないので適当だが、まぁ雰囲気としてはこんなもんだろう。私はポーズだけでも楽しんどくかと片目をつぶって狙いを付ける風をした。

……ん? あの人影って───

 

「カルシアちゃん!」

 

びくり。

廊下に高い女の子の声が響き渡る。

その場に思わず立ち止まると、前から制服姿の女の子が走り寄ってきた。心配そうな顔をしたピング髪のお姉さんは、そうここの幹部プトラちゃん。

 

プトラちゃんは私の前で止まり一息付くと、ちょっと涙目になりながら呟いた。

 

「部屋にいないなと思ったけど……やっぱり行くんだ」

 

私は即座に誤魔化そうと思ったが、思いっきり弓を引いた姿で硬直していたのを思い直し誤魔化すのは諦めた。出会った時の、警戒心を抱かせない恰好と違い今は戦闘前の恰好なので、これはちょっと誤魔化すには辛いものがある。

 

「ねぇ……ここで待ってようよ……! 皆さん強いから、カルシアちゃんたちが行かなくても大丈夫だって……っ!」

 

プトラちゃんは目を潤ませながら懇願するように見てくる。

 

おい助けてくれと隣を見るも、そこにワニもクーも姿が無く、いつの間にか背後で私を盾にするようにしていた。おい二人とも私の事大好きだったんじゃないのか???

 

私は内心ため息をつきながら考える。ここでうん止める~なんて言えたら楽だが、現実はそうは行かない。

プトラちゃんは死んで欲しくないから行かないでと言っているが、私からすれば死なないために行くのだから、根本的に考えが違う。

 

かと言って、ここでプトラちゃんを突き放す事も難しい。私は自分を捻くれたゴミだと思ってはいるが、クーを拾ったように善人に冷たくするほどゴミではない。ゴミであるという自覚があるからこそ、ちゃんとした人はそのままでいて欲しいと願う。

 

「最初に言ったじゃん。大丈夫だって、私もワニもクーも強いんだから」

 

プトラちゃんをハグしてゆっくりと言葉を選ぶ。プトラちゃんも頭の中では理解してる。私たちは何を言われても行くだろうし、自分は邪魔なだけだと。でも感情が追いついていないだけ。

 

私より背が高いプトラちゃんに背伸びしてハグする姿は滑稽だろうけど、まぁプトラちゃんを落ち着かせるためなら安いものだ。

 

「でも……でもっ! 帰ってこない人はいるし、昨日だって何人か死んじゃったんだよ!? カルシアちゃん達がそうならないって言いきれないじゃん! 皆さん……絶対帰ってくる、大丈夫だって笑って言ってくれたのに……!」

 

プトラちゃんの泣き声はどんどん大きくなる。後ろから来た先輩たちはなんだなんだとちらっと見ていくが、事情を察してそっと廊下を抜けていく。

 

「あー……でも私は大丈夫だって。いや大丈夫だとダメか……信じて、ね? 私を信じよう! ほら、私強いから。プトラちゃんとの言質がなかったらワニと協力してプトラちゃん攫えるぐらい強いから!」

 

私は誰かを励ました事なんて無い。泣かせた事はあるけど、それで慰めた事もない。ぶっちゃけどうすればいいかわかんない。

 

「私自分大好きで自分優先しちゃうけどさ、プトラちゃんのためにすぐ帰ってくるからさ。ノーダメチャレンジもするよ。でも心配事あったら動き鈍るから、プトラちゃんには笑顔で送り出して欲しいな~って」

 

何言えばいいのかわからなくなってきた。防衛戦は行く。プトラちゃんは泣かせない。目標はそれだけのはず……。

 

「自分が譲れないところだけは頑固だけど、それ以外は結構柔軟性高いよ私。何が言いたいかって、……何が言いたいんだろう。まぁ無事に帰ってくるって。そう! ほら、約束しようよ。指切りしてもいいよ。絶対帰ってくるって!」

 

焦ってどんどんわからなくなるし、しどろもどろになってきた。

 

でもそんな様子がおかしかったのか、単に時間がたったからか。

 

ハグ中のプトラちゃんは落ち着いてきて、ちょっと笑ってくれた。

背伸びも疲れたしとハグを止めてプトラちゃんと顔を向き合わせると、目は真っ赤だけど最初会議室で会ったような笑顔なプトラちゃんがいた。

 

「ぐすっ、ふふ、えへへ……カルシアちゃん、実はちょっと距離取られてるかなって思ってたけど、今のでそうは思わなくなっちゃった」

「そいつはありがと。距離取ってるつもりなんてないんだけどねー」

 

プトラちゃんはそうかなぁと柔らかく笑いながら呟く。

 

「カルシアちゃんは、強いね。心が私よりずっと強いよ」

「私は弱いと思ってるよ。自覚してるからマシなだけ」

「ううん。カルシアちゃんはきっと気づいてないだけだと思う。クーちゃんも、ワニちゃんも。私よりずっと心が強い」

「まぁ、プトラちゃんはそのままでいいと思うよ。私もワニもクーも、何かを犠牲にして得た偽りの強さだよ。あんまりいいもんじゃない」

「そんなことない。『言質』を発現させてから、精神に作用させるからかな? 私はその人の本質がちょっと見えるようになったの。三人とも、とっても綺麗な本質だった」

 

へぇ、本質。と、そんな事を思っていると、プトラちゃんが私の手を胸の前に取った。

 

「……ね。約束してね。無茶しないって。危なくなったらすぐ帰るって。約束だよ?」

 

プトラちゃんはもう完全に泣き止んでいて、茶目っ気のある笑顔で約束をしてきた。

うん。その笑顔が見たかった。私程度が良い子を曇らしてはいけない。

 

私は言葉にはせず、ただゆっくりと頷くと、もう一度ハグしていつの間にか玄関口付近まで進んでいた二人の元へ向かった。後ろから「もうっ!」と泣き笑いするようなプトラちゃんの声が聞こえる。

 

プトラちゃん。約束はするよ。けどごめんね。無茶はするし危なくなっていくときはいく。

だから「うん」とは口にしない。『言質』に対する手っ取り早い対策なんて、黙ってる事なんだから。




ちょっと最後のプトラちゃんとのやり取り浅い気がするからその内修正する


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戦闘準備

私たち三人はD1ポイント内にある手頃な家にいつも通りの不法侵入をキメ、中を物色していた。

 

多機能だが制限された機能しかなかったプラスウォッチ君だが、NPC10人と交流(近くにいればOK判定)したため、出会った事のある人との通話機能が解放された。

『臨時防衛作戦室』と付けられた部屋からはゾンビを確認しただのB3方向に向かっているだの、次々と報告が上がっていて、彼らの緊張感が伝わる声がプラスウォッチから部屋の中に反響する。

 

が、私たちは平常運転だった。

 

「うぉーシルクハットだ。こういうの紳士的な私によく似合うと常日頃思ってたんだよね」

「ベルトは欲望の数だけ巻けと聖書にも書かれている。シアねぇこの胸強調ベルトを付けよう」

「これは……ツナかん? ドックフードじゃない……」

 

2階の寝室に忍び込み、クローゼットを開けてクーの新しい服探し。名目で言えばそうだがその実態は、シルクハットを見つけはしゃぐ私。お洒落用の黒ベルトをどうにか付けさせようとしてくるワニ。下のキッチンから集めてきた缶詰を精査するクー。

 

三者三様の自由具合だった。

 

既にここら辺の家と道路にトラップを仕掛け終え、陣取る事約20分。プラスウォッチからは戦闘レポートがひっきりなしに響くが私たちは暇だ。

状況があぶなそーなら、助けに来たよ! の大義名分の下にD1にいてねの指示を無視して駆け付けたのだが、残念な(良い)事に順調だ。

 

『ゾンビ共はB4を超える。半分ほど削った』

『こちらマックス。追加物資を運んでいる。B2の赤部屋だ』

『コルオットが負傷したので下がらせます。C3防衛に支障はありません』

 

「あー? そう言えばワニって今後の目標伝えてなかったっけ」

「今後の目標より今の行動だよシアねぇ。この胸強調ベルトを付けよう」

「これは……とりかん? ドックフードじゃない……」

 

シルクハットを気取った仕草で抑えながらワニの魔の手をひょいひょい躱す。ホリゾンタル(銃用の上半身ベルト)ならともかくそういうのはしたくない。

このシルクハットとかのネタ系統の恥ずかしさは平気でも、性的な恥ずかしさは一般女子高生見習いとして耐え難い。

ごめんねカルシア。お前の体は完璧に私好みではあるんだけど、見せびらかす度胸は私にはないんだ……。

 

『A3地点、ハイゾンビの数が多い。B4からの撤退を援護しろ』

『……道路(みちろ)のC4を解除したか? 観測できない』

 

「とりあえず『夢幻の如くなり(夢であれ)』目標ね。やり方覚えてる?」

「R社行かないといけないのは覚えてる。転生が最初から目的なのは初めてで新鮮だね。いつもプライドで最後まで戦ってるから」

「ぎょーむ用せっけん? これもちがう……」

 

いやぁ、逃げて次回に活かすよりはプライド死を選ぶよ私は。それにワニ達も嬉々としてプライドするじゃん。

でもワールドエンドイベントの『望まれた願い(メテオ)』の時だけは、転生手段がすぐにあったわけだったし転生すりゃ良かったと今では思ってる。でも喧嘩売られちゃあ買うしかないんだよなぁ。

 

『誰かD4の殲滅したか? こっちは数少ねぇぞ』

『ドッカーン! 足元がお留守だぜぇゾンビさんよぉ! ヒーハー!』

 

「あれ人数制限もないのがいんだよね~、手順も全員できるようになってるし。いい加減諦めてよというか自分に付けろよ胸強調ベルト」

「僕は人のを見て楽しみたいし純粋にえっちなシアねぇを見たいの」

「あそこにあったのぜんぶハズレ……ドックフードはおいしから、みんなとっちゃうのかなぁ?」

 

いやドックフードは袋タイプなのでそもそも缶詰を持ってきたのが間違ってるんだよクー。

 

ついに部屋隅に追い詰められた私はワニと取っ組み合いフェーズに入る。STRの初期値は一緒だが、身長という体格差は覆せない。よって私の勝ちは確定的に明らか、可愛い生意気なワニを上から押さえつけるのは楽しいものがある。

 

『C3、殲滅完了しました。別エリアに向かいます』

 

「人にやらせるならまず自分から。私はワニの方がこの胸強調ベルトは似合っていると思うので付けさせてやんよ!」

「ぐぬぬぬぬぬ……! 無理やりはやぶさかでないけど僕は貧乳キャラだから付けてもつまらない……!」

「んー……まぁおねーちゃんならおいしいごはんにしてくれるか。もってかえろう」

 

ゾンビがうろつく世界のセーフハウスでもない場所で、服に関しての取っ組み合いの喧嘩をする私とワニに、せっせと食料漁りをするクー。危機感というより正気が足りてないのではと思わせる光景だ。

 

プラスウォッチ君から流れる銃声と爆発音がこの場の場違い感を加速させるぜ。

………………ん?

 

「……通話が静か過ぎない?」

『……ルーピシュだ。各自、点呼』

 

組み合った姿勢のまま私たちは固まる。クーは相変わらず缶詰をカバンに詰める作業をしているが、ワニはさっきまでの楽し気な表情から一転として真剣顔だ。

ワニの視線は私を見ていて、目で「どうするの」と訴えかけている。

 

『……チュン班、私は少し別行動していたのですが……二人……いえ、三人、私以外いません』

『マックス班全員いるぜ』

『やべぇかもしれねぇ、さっきまで隣で戦ってたカニュー班から銃声が聞こえねぇ』

 

これは……やってますね。何かしらトラブルの匂いだ。しかも報告無しでNPCが消えてると来た。

大規模破壊でも無く、一人一人じゃなくチーム単位で同時に消すこの組織性。

 

この手つき、十中八九プレイヤーだ。

 

「ワニ、屋上でトラップ確認。音グレ投げていいよ」

「おけ。そのまま位置付いてるね」

「クー。もーそろそろゾンビ共が来るから準備してね」

「! わかった!」

 

ワニが部屋を出るのを見送り、私はプラスウォッチのミュートを解除する。

配置場所からしてマジでなるべく戦わせたくなかったんだろうけど、トラブル起こったってんなら突っ込むよ~同郷(プレイヤー)相手なら私たちの方が間違いなくうまいし。プレイヤー同士でも私たちの方がうまいし。

 

私は若干混乱気味な様相を呈してきている通話に明るい声で参加する。

 

『ハロハロー、カルシア班だよ~結成報告されてるか知らないけど』

『……ワニさんがいる班か。結成の報告は受けている』

 

お、なら話が早い。お返事はさっき点呼を促してたルーピシュの声だね。ワニに助けられたって幹部だったかな。

 

『そうそうワニがいるとこ。やー行けって言われて来たのに暇でさぁ。このままじゃ腕が鈍っちゃうからさ、そっち危なそうだしゾンビ達全部引き受けるよ。撤退して撤退して~』

『……今、全体のゾンビは120ほど。3人で受けられるとは思えない。未確認の敵個体もいる。危険だ。そちらも撤退し───』

 

ダーデュドダダダダドォーンデダダダ♪

 

突然プラスウォッチからのルーピシュの声を遮るように爆音で音楽が鳴り響く。

軽快かつけたたましい音楽はゾンビ共の注意を引く。周囲300mにいるゾンビは目の前に得物がいない限りは音源に向かってくるだろう。

音源はどこかって? そりゃ当然ここの屋上だ。ワニが持ってた音グレ(見た目はラジカセ)を指示の通り使ったからだ。

 

『……この音は。お前、どうするんだ』

 

プラスウォッチ君は優秀なのでどれだけ音楽が爆音で流れていてもノイズキャンセリングしてくれるが、そもそもルーピシュは作戦に参加しているワケで。

普通に直で音を聞いたであろうルーピシュが、状況を把握して若干強張った声で聞いてくる。

 

音グレは一時的な時間稼ぎにはいいが、ゾンビをちょっぴり興奮状態にさせる。ルーピシュ(NPC)にとっては、使うだけどんどん苦しくなるアイテムなんだろう。

 

『大丈夫大丈夫! 何とかできるって! ほら撤退促しといて、ゾンビは全部D1辺りに集まるから!』

 

が、私たちにとってはそれだけだ。仲間を助ける大義名分を得て経験値稼ぎできるならそれでいい。暗殺よりも正面切っての戦闘の方が獲得経験値は上なんだから。

 

『……各員撤退開始。正体不明の敵個体がいる。警戒』

 

「よし」

 

これで邪魔なNPCはいなくなってやりやすくなる。

 

ワニとは私達以外のプレイヤーがいる可能性について話した。ワニと出会う前ならいるかも~だったが、ワニという身内とはいえ他プレイヤーがいたのだから、他にも知らないプレイヤーがいてもおかしくない。

 

対応方針としては、NZWの通りにすることにした。

 

即ち殺害。ここがリアルの世界であったとしても、NZWはNZW。不信の和解&協力よりかは殺してしまった方がいい。少なくとも背中の安全は約束される。

 

相手プレイヤーは手際からして複数人。NPCグループを報告させずに殺してるのだから、同人数の4人くらいだろう。

武装はまだ私と同じくらいだろうけど、NPC殺して奪った銃は確実にあるな。でも段々通話が寂しくなった=1グループ殺すのに時間がかかっていることから、そこまで手練れではない。

 

プレイヤーは今頃殺したNPCから装備を剥いでいるところだろう。そもそもゾンビパーティー会場な音グレ音源地に突っ込む奴はいない。

 

よって、約120体のゾンビを殺す時間は十分にある。

 

 

 

屋上で、灰と赤色が混じった物体が波となって近寄ってきているのをぼーっと見る。ゲームでこの条件だったら星3クリア(余裕綽々)だが、リアルだと星2クリア(ノーダメージ)ができるかもちょっと不安になる。

 

音グレはうるさかったのでワニが破壊した。ゲームだと一度使った後は地形破壊に巻き込まれない限り10分間何があっても音を鳴らす代物だったが、リアルになった事でその無敵はなくなったようだ。

 

とはいえ、一度爆音を鳴らしたという効果は変わらない。前に見えてる波がその証拠だ。

雪解け時期の川が、表面の凍った部分を割り流し重なる様子と同じように、ゾンビの列はこちらに向かっている。

 

「最初はワニの弓で頭数減らして、ポイント入ったら爆破。ノンアク状態のクーで数減らした後は泥沼ファイト。プレイヤーの妨害は無いものとして、5分で片付けれればいいけど」

「一人で十体倒すどころじゃない。でも三国志ほどでもないね。僕らもまだそこまで無双できるわけじゃないし」

 

民家の屋上で頬杖付いてる私達と違い、クーはあの程度のレベル帯ならまだ攻撃されないので下で待機だ。ここから見える曲がり角で待機していて、こちらにぶんぶん左手を振ってアピールしている。プラスウォッチの通話機能教えたけど忘れてるな、あれ。

 

『……ルーピシュだ。全員撤退完了。俺はA1から未確認敵個体の観測(スポット)をする』

『おーけー』

 

「と、いうわけで憂いも完璧になくなりました」

「ん。もうそろそろ始まるよ」

 

私がしゃがみ込みながら隣のワニに伝えると、ワニは軽く返事をしながら立ち上がった。一応、ここから見える範囲で敵プレイヤーがいないことは確認済みだ。

 

ワニは腰の弓用ホルスターから5cmほどの丸い棒を引っ張りだして振る。すると青色の丸い棒はカシュンッという軽い音共に長く伸び、どういう原理か矢じりも矢羽も付いている矢と化した。

数撃ちの木矢でもいいのだげど、ハイゾンビ相手ならヘッショしないとワンコンできない。その点この『第一機械矢(アイン)』なら胴体でも2確ラインとなる。ワニはヘッショの自信があるが、まぁ安全マージンだ。

 

右手で白布が巻かれた部分を小指から順に握り直し、息をゆっくりと吐きながら弓を持ち上げ矢をつがえ、きりりと構える。

右足でトントンとルーティンを行い、風で作業着が揺れる中ワニは綺麗なフォームを作った。

 

「いつでもいける」

 

 

 

「おーけー……。技量に信頼を。さぁやろうか」

「意義に敬意を。100m切った。撃つ」




望まれた願い(メテオ)

地球に巨大隕石が降ってくるというワールドエンドイベント。成功すると隕石素材が大量に手に入るが、失敗すると鯖が吹っ飛ぶ。
阻止するためには、アポカリ世界に疲れた結果地球破壊宗教と化してしまった皆さんの場所に乗り込む必要がある。そこには隕石を呼んだ都合上の歪みがあるので、そこから転生をすることができる。
もちろん宗教家の皆さんとなんやかんやすれば隕石は防げるが、宗教家の場所の都合上、成功させ地球を救っていると、どう頑張っても隕石素材は取れない。



おかしいな。もっと早くにマートラで戦闘させる予定だったんだけどな。なんでこんな文字数伸びてダラダラしてるんだ?

予定では10話目には防衛戦してたはずなんだが……。


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