ゴブリンの手紙 (素人目)
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ゴブリンの手紙

それは、鞣された獣の皮に、どこか見覚えのある文字で書かれていた。


 

背が低く、耳が尖っている者。すなわち、あなた達がゴブリンと呼ぶ者らの一部の民から、肌が白く、頭の毛が豊かな者。またはその者らと寝食を共にする全ての知性ある者へ。

 

あなた達に、我らのことを知らせるために、この手紙を送る。真に、これに書き記されているものは真実であり、我らに属する全ての者について述べた物である。

 

 

 

 

さて、まずは我らのことについて、少し書き記さなくてはならない。

 

我らはホウボウの民である。ホウボウとは、放浪した者の意である。我らは月が1つの地で生まれ、天の御業と地の慈愛によって、この地に送られてきた。

 

 

我らが生まれた地には、ラウディがいた。彼らは力が強く、戦いに長けていた。また、非常に数が多く、時には鉄の刃と鉄の衣で身を固めていた。

そして彼らは、我らに攻めかかってきた。我らは同胞と受け継がれた地を守るためラウディと戦い、彼らを追い返した。

 

しかし、戦いで多くの同胞が倒れたので、女子供の嘆きが三日三晩響き渡った。多くの戦士も涙を流した。

 

 

 

我らは、自分達の住処や、その他のあらゆる受け継ぎの地の防備を固めるため、数々の砦を築いた。

また戦争の武器、すなわち、鋭い鏃の矢と矢筒、あらゆる刃と毒、身を守る厚い衣と兜を造り、更に戦争のために全ての準備を整えた。

 

一部の同胞は、我らとラウディの間に和平の誓いを結ばせようと、熱心に努めていた。

しかし、その働きは無益に終わった。ラウディが皆強情なわけでは無かったが、ほとんどのラウディは憎悪を凝り固めていた。また、同胞が殺されたことにより、我らの中にはラウディを憎む者が大勢いた。

 

 

 

そしてついに、ラウディの長が戦士を引き連れ、我らに迫ってきた。ラウディの数は非常に多く、数えることが出来なかった。

 

ラウディから逃げることは出来なかった。背後には氷を纏った高い山が連なっており、行く手を阻んでいるからである。

 

 

我らはラウディと戦うため、得られる限りの力を使おうと、全ての同胞を集めた。男も女も子供も、武器で身を固め、戦いのいでたちで集まった。

 

我らは数ある砦を使い、ラウディと大いに戦かったが、砦は次々と落とされた。我らは度々殺された同胞のために泣き叫び、悲しんだ。泣き叫び、悲しむ声は声は非常に大きく、その声は隣の砦に届くほどであった。

 

 

そこで我らは、これ以上に同胞の血が流れないように、天と地に対して祈った。

 

その願いは、地の慈悲によって聞き届けられ、天の御業によって成就した。天は、我らをラウディの見当たらない地へ送らせた。

我らがホウボウの民、すなわち放浪した者と名乗ったのは、このためである。

 

 

 

さて、これらを事を知った知性のある者は、この地に元々いたゴブリンと呼ばれる存在と我らが、全く異なる存在であることが分かるであろう。

 

彼らは、ラウディより邪悪な存在である。我らと姿が似ており、言葉も通じるが、彼らは野蛮で残忍で流血を好み、汚れに満ちている。また、我らを攻撃し、物や食料を奪おうとしてくる。

 

そこで我らは、彼らを強盗と呼んでいる。強盗の存在により、我らはこの地でも堀と土手を築き、杭で柵を造り、罠を張り巡らせて、守りを固めなくてはいけなくなった。

 

 

 

肌が白く、頭の毛が豊かな者。またはその者らと寝食を共にする全ての知性ある者よ、どうか我らと強盗を区別し、我らと戦わないでほしい。そして、あなた達の同胞に、この手紙にあることを正しく伝えてもらいたい。

 

我らが戦うのは、ラウディと強盗で十分である。我らはもう、嘆きの声は聞きたくない。

 

 

我らは、青と緑の布を首元に巻いている。そして、もしあなた達の前に現れるならば、ホウボウと名乗ろう。

 

我らに使いを出すならば、あなた達が森人の山砦と呼ぶ、打ち捨てられた砦跡に来ると良い。そこで同胞の戦士と会えるだろう。

 

 

我らホウボウの民と、これを読む全ての者の平和を願い、この手紙を結ぶ。

 

 

 

               代筆 鋼鉄等級冒険者




四方世界の地理が分からない……

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本編
早朝・辺境の村にて


「kaesiniikunoka?konoonnna」

「souda.wareratogoutougatigauyouni,konomonotoROWDYmotigaunokamosirenai」

「kougekisaretara?」

「yawohanattenigeru.dokuhatukauna.nanikaareba,hyousiwoute」


 

目覚めは、カンカンと聞き慣れない音でもたらされた。

古ぼけた机から身を起こし、今の状況を考える。

 

 

「………ああ、寝落ちか」

 

 

この体は、かなり疲れが溜まっていたらしい。休憩のつもりだったが、一晩寝過ごしてしまった。雨戸の隙間から、日の光が差し込んでいる。窓を開ければ、すぐに早朝の冷気が部屋を満たした。

風邪を引かなくて良かった。今日のサイコロの出目は良いらしい。

 

背中を伸ばし、凝り固まった筋を伸ばす。

____________ゴリッと嫌な音が聞こえた。どこが鳴ったのかは考えたくない。俺も歳だというのか。まだまだ元気なつもりだったのだが。

 

 

「動かしても……大丈夫か。って、水がめが空じゃないか。おいっ、朝の水汲み担当は……………今は居なかったな」

 

 

顔を洗いたかったが仕方ない。水桶を肩に担ぎ、村の中心にある井戸に向かう。腰が壊れなくて良かった。

 

 

 

 

 

_____________ゴブリンに娘が拐われてから、もう7日だ。帰ってくる兆しはない。

奴らの巣窟へと何人か鋼鉄等級の冒険者が向ったが、村を出発して以降、何の音沙汰もない。制圧に失敗したのだろう。

 

だというのに、1日は変わらず巡っている。

朝の水汲みを俺がするようになった。拾える薪の量が減った。後は妻の生活習慣が少し狂った。それぐらいだ。

 

ほとんど代わり映えしない日常では、これらの変化は大きなものだ。だが、せいぜいその程度だ。日常という範疇に収まってしまっている。

 

 

この程度なのか。娘1人失って、たったこれしか変わらないのか?

こんなものでは、あっという間に慣れてしまいそうだ。

 

 

 

………だめだ。いま考えても仕方ない。

井戸の傍らで上着を脱ぎ、頭から水をかぶる。井戸水は痛いほど冷たく、思わず息を呑む。全身の皮が縮んだようだ。

 

そして少し後悔する。体を拭く物がない。乾いた布といえば、さっき脱ぎ捨てた上着しかない。寒い。

 

 

「何やってんだ炭焼き。そらっ」

 

「っと、ああ、猟師か」

 

 

振り返れば、猟師が手ぬぐいを投げつけて来た。弓と矢筒を背負っているのを見るに、これから山に入るのだろうか?

 

 

「助かる。このままじゃ凍えるところだった」

 

「気をつけろよ。しばらくは元気でいて貰わなきゃ困る」

 

「あ?どういうことだ」

 

 

 

カンカン、と、山から音がしてくる。

 

鐘の音ではない。この村に鐘はない。

それは不規則なようで規則的なリズムを刻み、よく乾いた硬い木材同士か、あるいは金属同士を叩き合わせているような音だった。

 

 

「……この音だ。お前は昨日何してた?」

 

「ずっと窯にへばりついてたな」

 

「なら知らないか。山奥で昨日から鳴ってるんだ。それも複数の方向からカンカンとね。うちの犬が興奮しっぱなしだったよ」

 

「自然の音、じゃないよな?」

 

「たまにだが笛の音も聞こえた。明らかに誰かが鳴らしている」

 

 

音が聞こえてきた方向に村はない。冒険者ならば村に降りてくればいい。

 

 

「………ゴブリンか?」

 

「さあ?ゴブリンが笛を吹くなんて聞いたことがない。もしもゴブリンだったら、よっぽど頭が良い個体だろうね」

 

 

ゴブリンの存在を思い出せば、自然と手が拳を握る。怒りがふつふつと湧き上がる。

 

娘が連れ去られる光景は、しっかりと脳裏に焼き付いている。

家の裏山で目を離した隙に、投石で娘が気絶させられていたこと。娘の首筋にナイフを当てられ、下手に動けなかったこと。群れでゲラゲラと笑いながら、娘を引きずって立ち去るあの姿!

 

 

「……ゴブリンか盗賊の類か。正体は分からないが、敵だと思っていい。友好的な存在だったら、村に降りて話かけるだけでいいからね」

 

 

猟師は皮袋を手に取り、井戸水を詰めた。ふくらんだ皮袋を腰に結え、ついでに小物を整理する。

 

 

「この村では、お前が1番力が強い。俺は山に入って状況を見てくる。村になにかあったら頼む」

 

「……娘一人すら、助けに行けない男にか?」

 

「なら守れよ。お前が強いことに変わりはない。後は妻と小さい息子だったか?もう家族を失いたくないだろ?」

 

 

………妻の体調は、あまりよくない。娘を拐われたショックと不安から夜遅くまで眠れず、昼前にベットから起きてくる。息子の前では何とか笑っているが、いつまで持つか分からない。息子も何かを悟ったのか、ここ数日は口数が少ない。

 

もしも息子までいなくなったら?あるいは妻が拐われたら?

 

 

「ひとまずゴブリンは、斧で叩き割ってやる」

 

「その意気だ………ん?」

 

 

犬が激しく吠え立てるのが聞こえた。かなり興奮しているのか、一向になきやまない。

これには聞き覚えがある。猟師の犬だ。

 

 

「____________来たか。炭焼き、戸を叩いて村長を起こしてくれ」

 

「わかった。ついでに斧を取ってくる」

 

 

急いで上着を着て走り出す。その勢いのまま戸を叩き、声を張る。

 

 

「村長っ、起きてくれ!」

 

 

 

 

 

 

/////////////////////////////////

 

 

 

 

 

村長に事情を説明したあと、すぐに家に向かった。

何事もない様子に安心するのも束の間、寝ている妻を起こして、壁に立て掛けてある斧を持つ。

 

 

「なにかが村に来たようだ。恐らく良い相手じゃない。俺は村外れに行く。猟師の家の方だ。息子を頼む」

 

「………っ!大丈夫なの!?」

 

「何とかする。戸締まりをしっかりしとけ。くれぐれも拐われるなよ!」

 

 

それだけ伝えると、すぐに家を出る。

村外れにつけば、すでに村の男共が集まっているのが見えた。ピッチフォークや斧、鉈を手に取っている。

 

 

「遅くなった。豚飼い、状況はどうなっている?」

 

「炭焼きか。それがわからねえんだ」

 

「は?」

 

「何かいるのは違えねえんだが、姿が見えねえ。ただカンカン鳴ってるだけ__________」

 

 

「ゴブリンだ!キャベツ畑の方にいるぞ!」

 

 

その声が響くやいなや、皆の目が一斉にキャベツ畑に向く。

 

 

それを見たとき、まずは困惑した。

畑と雑木林の合間を歩く群れを、何かと見間違えたのかと思った。

 

どこかまとまりを感じる動きに、鉄帽を被り、布と毛皮を全身に纏った姿を見て、圃人の集団が迷い込んできたのかと思った。

 

 

だが、鉄帽の鍔の下から覗かせる顔は、間違いなくゴブリンで、

何匹かで肩に担いでいるのは、どう見ても人だった。

 

 

「人質かっ!」

 

「炭焼きの娘と同じだ」

 

「俺が弓で仕留める。この距離なら外さない。脅迫する暇なんて与えない」

 

「頼む。俺は回り込んで襲う」

 

「よし、炭焼きに続くぞ!」

 

 

ブンッと矢を放つ音が聞こえた。斧を握りしめ、奴らの元へと駆け出す。

 

だが、ゴブリン共を血祭りに上げることは出来なかった。

猟師の弓は、確かにゴブリンの胸に命中した。しかし、そのゴブリンはうずくまりはしたが、倒れなかった。胸に何か仕込んでいたらしい。

 

問題はその後のことだった。

 

奴らは驚くほど素早く動き、木々を盾にした。猟師の弓の射線を切ったのだ。

更にその直後、カンカンとあの音が響くやいなや、森のあちこちから矢が飛んでくる。

 

 

「矢だっ!」

 

「ぃぎっ、痛ってえ!」

 

「隠れろ!的にされるぞっ!」

 

 

その声を聞いた各々が、急いで家や荷車の影に隠れる。

 

矢の雨はすぐに止んだ。恐る恐る顔を出せば、ゴブリンは一匹残らず消えていた。

まんまと逃げられた。

 

 

「………豚飼い、大丈夫か?」

 

「痛え……腕が」

 

 

見れば、二の腕に矢が突き刺さっている。

傷口あたりの布を裂いてみれば、あまり深くは刺さっていないようだ。

所詮はゴブリンだ。弓を引く力は貧弱らしい。

 

 

「矢は浅いところで止まっている。良かったな豚飼い。お前の筋肉が矢を止めたぞ」

 

「ハッ……言ってくれる」

 

「村長から解毒剤をもらえ。毒が塗られれたら事だ」

 

 

応急処置は他の人に頼み、自分は猟師の方へ向かう。

 

猟師はゴブリンが去ったというのに、弓を片手に油断なく辺りを見回していた。

 

 

「猟師、いい弓の腕前だな」

 

「皮肉はよしてくれ。人質が肩に担がれていた以上、胴を狙うしかなかった」

 

「皮肉じゃない。防がれたのはともかく、矢は吸い込まれるように当たっただろう。防がれたのだって、しっかりと胸の中心にある板か何かを捉えたと言うことだしな」

 

 

実際、あの場で当てられる人間は多くないだろう。人質に当てないように、動いているゴブリンの体の中心に当てるのだ。称賛に値する腕前だ。

 

いや、まずはそれより聞くことがある。

 

 

「猟師、人質の顔は見えたか?」

 

「………ああ。いつぞやの冒険者だった。酷い顔だったが、死体じゃないと思う」

 

「そうか……」

 

「炭焼き、もう時間が経ち過ぎている。お前の娘が生きているかすら」

 

「わかっている。だが夢を見させてくれ」

 

 

ゴブリンは女を捕まえると、繁殖のためにはらみ袋にする。

無事ではないだろう。だが、まだ生きている可能性がある。

 

 

「まずは村の皆で話し合うんだ。奴らは村の手に負えない。冒険者を雇うのもタダじゃない」

 

「………そうだな」

 

 

 

____________山から、カンカンと音が聞こえる。その後、かすかに笛のような音も聞こえた。

 

 

首を洗って待っていろ。

何時になるかは分からないが、絶対に皆殺しにしてやる。




「oi!nazeonnnawooitekonakatta?」

「yaturamo,yawotobasitekita.nagareyagaatarukamosirenakatta」

「……mazuina.tekitositemiraretakamo」


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