異界の虎 (マウスの真ん中のクルクルするやつ)
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ロデニウス大陸編
第一話 遭遇


中央歴1637年1月24日

 

 

 

クワ・トイネ公国第六飛竜隊に所属するマールパティマは北東方面の哨戒任務のため愛機のワイバーンに乗り快晴の空を駆けていた。北東方面はただただ一面に海が広がっているだけだ。その海の先がどうなっているかは数々の冒険家が探しに行ったが戻ってきていない。

 

そんな中いつものように海上に異変がないか確認していると遠い空に一つの黒い点が見えた。

 

 

「なんだあれは...」

 

 

目を凝らし黒点の正体を確認しようとするがそれよりも早くその黒点は正体を現した。

 

それは夜のように黒く愛機のワイバーンよりも数倍は大きく、背後から蒼い炎を吐いていた。

 

 

「なっ!」

 

 

咄嗟に驚きで埋め尽くされそうな理性を保ち追跡へと移ろうとする。ワイバーンを反転させ未確認機へと向かう。

 

この世界において最強の生物であるワイバーンは最高速度時速200キロ以上を誇る空の王である。そんなワイバーンが追跡できぬはずがない、そう思っていた。

 

 

「なんだあのバカげた速さは!」

 

 

しかし、そう思っていたのも束の間、未確認機は神速の如き速さで加速し、過ぎ去っていく。

 

 

「司令部、こちらマールパティマ!未確認機と接敵! 取り逃がした!」

 

 

彼が有能だったのは常人ならば放心してもおかしくないような状況なのにも関わらず即座に司令部へ通信を行ったことだろう。

 

そうして雲一つない空には最強の生物であるワイバーンが負かされたという現実と混乱だけが残った。

 

それも仕方ないだろう、それは異界のものなのだから。

 

 

同刻 第四偵察隊隊長機 ホーネット級戦闘機 ファントム‐A グリフォン1

 

 

ホーネット級戦闘機のファントムは元々はIMCが開発した戦闘機だが、虎大によって改修され各種偵察装備が取り付けられている。コールサインにグリフォンがつけられた彼が乗るファントム‐Aははっきりと飛竜型の原生生物に人型の生物が跨っているのを記録していた。

 

 

「CP、こちらグリフォン1 原生生物と現地人らしき機影を発見した、記録を送る」

 

「こちらCP 記録の送信を確認、このまま探索を続行せよ。」

 

感度良好ノイズ無し、転移後初の偵察で何が起こるかと心配していた彼からすると拍子抜けな程に平和な空であった。

 

「グリフォン1 了解した。」

 

 

原生生物らの記録を司令部へと送信し探索を再開する。彼の部隊に与えられた任務は大陸と現地生物の発見だった。

 

十数秒機体を加速させ飛んでいるとコックピットの望遠機能で遠い前方にいくらかの機影が見えた。

 

 

「グリフォン1 エンゲージ!」

 

 

機影の下に見える大きな陸地とそこに栄える町、かれらの身に着けている甲冑を見ればかれらが歓迎のためにエスコートしに来たのではないことは容易にわかる。

 

相手がこちらに気が付くまで残り数秒といあったところだろうか。

 

 

「こちらCP 現地文明への攻撃は許可されていない、できる限りの情報を集め帰還せよ。」

 

「グリフォン1 了解。」

 

 

普段ならば接敵しても攻撃するなと言われたら憤慨ものだが生憎相手は航空機ではなく生物だ。そう考えながら彼は機体をさらに加速させた。速度で強引に突破しようとしたのだ。

 

しかし彼やCPにはあるバイアスがあった。異なる惑星系を含め彼らが知る限りの生物は強靭な爪や牙を持つものばかりだった。そのためまさか生物が炎を吐くとは微塵も想定していなかったのだ。

 

 

「なっ!」

 

 

接敵した飛竜がこちらに顔を向け、途端に口が紅く染まり目の前に炎玉が現れる。

 

刹那の判断で機体を傾け回避すると真横を複数の炎が過ぎ去っていった。

 

当の炎を撃たせた竜騎士たちはそんな馬鹿なという顔をしているがそれは彼も同じだった。

 

 

「CP! こちらグリフィン1 連中の飛竜は対空戦闘ができる!威力は不明だが炎を撃ってきた!」

 

 

加速した速さはそのままに全力で飛竜から距離を取る。

 

威力がどれほどかはわからないが当たらぬに越したことはない。

 

 

「こちらCP 被害報告を求む、それと他の部隊も現地文明と大陸を発見したようだ、当任務の目標を達成と判断し本部から帰還許可が出ている。」

 

 

「グリフォン1 被害は確認できないが至近弾だ。被害の詳細確認も含め帰還したい。」

 

 

距離を取り内陸部から海へと街を記録しながら駆けていく。

 

件の飛竜らは懸命にこちらを探しているがすでに目視できる範囲にはいない。

 

 

「こちらCP 帰還を許可する。」

 

 

帰還の許可が出ると彼は少しため息を吐きながら帰路へとつく。本来ならばジャンプと呼ばれるワープ機能により即座に基地周辺へと移動しているが残念ながらジャンプに必要な詳細な座標や装置は転移後の混乱で用意できていなかった。

 

 

その後政府は明確に異世界へと転移したことを発表し、転移によって起こった数々の課題を処理するために緊急対策本部の設置をした。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
ご意見や感想をお待ちしています。

アンケートについてなのですが第6話前半まではスマホで書いていたので文の間隔が広いです。それを含めて回答していただけると幸いです。
2023/8/17


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第二話 国内にて

 

 

 

転移直後 日本

 

 

 

 

 

転移10分後 内閣府 緊急対策本部の設置及び対策チームの招集を開始

 

 

転移15分後 デフコン1へ防衛体制を移行 全陸軍部隊が緊急配置へ 航空機スクランブル 全地上配備済みタイタン、航空機積載済みタイタンの起動準備完了

 

 

転移20分後 緊急事態宣言の発令 情報統制の開始

 

 

転移25分後 宇宙艦隊、衛星の消失及び外惑星派遣軍の出現を確認

 

 

転移32分後 くなと作戦発令 全偵察航空隊出撃 他国家の現状確認、通信を計る。

 

 

転移1時間5分後 くなと作戦終了 政府緊急会見より国家が異世界に転移したことを発表

 

 

転移1時間12分後 異界偵察作戦やまくい発令 治安悪化防止のため外出禁止令発令

 

 

転移2時間後 やまくい作戦終了 情報の精査開始

  

 

転移2時間10分後 緊急対策会議開始─

 

 

 

 

 

緊急対策本部が設置された地下シェルターには各省庁の代表、科学者、軍の最高責任者や首相が揃っていた。

 

 

 

 

 

「では偵察結果の一次報告を行わせて頂きます。」

 

 

 

 

 

そう軍関係者の男が言うとシェルター内の最も大きなパネルにいくらかのホログラムが浮かび上がる。

 

 

 

 

 

「先刻まで行われていたやまくい作戦にて3つの大陸と大小含む島々、それに加え複数の文明と思われるものが発見されました。」

 

 

 

 

 

男が端末をいじるとパネルに中世ぐらいのレンガ造りの建物が並ぶ写真と十数匹の飛竜に人が乗り炎を放つホログラムが現れる。

 

 

 

 

 

「現在確認されている大陸の内、下部の大陸、つまり我々の真横の大陸ではレンガ造りの建物や甲冑を装備した航空兵と思われるものが確認されています。そして威力不明の炎を放つ対空攻撃が可能と思われます。また一次報告では他の文明については情報不足のため報告は行いません。」

 

 

 

「その威力不明の炎とやらで作戦時間を短縮させたそうではないか、炎といえども生物の攻撃なのだろう?戦闘機には効果がないのではないか?」

 

 

 

 

 

そう首相が述べる。彼は会議前に目標であった大陸、文明の確認の達成。対空攻撃能力を持つ敵の確認により作戦を短縮させたという報告を受けていた。

彼からすれば作戦を短縮させたせいで貴重な情報を逃し、緊急対応を遅らせているのだ。

 

 

 

 

 

「威力不明といえども万が一というものがあります。相手の技術レベルが不明な以上リスク回避を最優先していますので、そこはご承知ください。また現在この炎はスコーチ級タイタンのテルミットランチャー並みと仮定しています。」

 

 

 

 

 

そう言うと男はそのまま端末を操作する。すると今度はホログラムだけでなくグラフも出てきた。

 

 

 

 

 

「そして現在の最たる問題である食料と鉱山資源については下部大陸に巨大な農耕地と鉱山が確認されました。この資源が手に入れられればひとまずは耐えられます。」

 

 

 

 

 

「なるほど、よろしいではその文明らとの国交樹立を次の目標として行動を開始しよう。

 

 

 

万が一国交が樹立できない場合は......軍部大臣、頼むぞ。」

 

 

 

 

 

首相の発言の後、迅速に部隊編成が行われ外交官を乗せた第一航空艦隊が出航した。またそれと同時にマルチロール型ドロップシップであるゴブリン数機が特務パイロット部隊を乗せ大陸へ降下作戦を行うこととなった。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。感想やご意見お待ちしています。
ちょくちょく登場している航空機についてはTitanfall wiki等で調べれば見た目がわかると思います。2のストーリー内では詳しい名称が出てこないのでわからない方もいるかなと思い言わせていただきました。
ゴブリンはAPEXとかTitanfallの一番初め、リスポーンに使うやつだと思ってください。


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第三話 特務作戦

転移の翌日 9:00

 

 

作戦司令部では多数の職員とオペレーターが往来していた。作戦は二つ同時進行で実行されており、その片方では大きな進展があったようだ。

 

 

「航空艦隊から通信、艦隊前方に未知の軍船らしき小型帆船を確認 指示を請う、とのことです。」

 

 

「軍船との接触を図れ、また相手からの臨検等の要求にはできる限り従うように伝えろ。」

 

 

そう言うは複数の勲章を身に着けた作戦司令官。しかし彼には異界の文明との大きな進展の報よりもさらにそわそわさせるものがあった。

 

 

「それで。降下作戦の方はどうなっている?」

 

「今ちょうど定刻になったところです。」

 

「あとは符号が来るかどうかか…」

 

 

 

 

 

同日 0:30

 

 

真夜中の月明りのない海の上、上といっても成層圏に六機の機影が編隊を組んで飛行していた。内訳としては輸送型ドロップシップのゴブリンとホーネット級戦闘機のファントムが1:1で計六機であった。それらが通常部隊と違うところは、すべての機体が特殊仕様であることだろう。すべて共通で最新鋭のステルスシステムが搭載されており、なおかつ個別で改造されている。

 

 

 

「定刻となった、では指令を確認する。」

 

 

編隊の中央部に位置する降下作戦使用のゴブリンの中に12人の通常歩兵とは全く異なる装備の兵士が整列していた。そのうちの先頭にいた二人の指揮官らしき人物がお互いに定刻になったことを確認し合い司令の入った封筒を開ける。機密のためデジタルではなくアナログで行われた。

 

 

「作戦内容はクワ・トイネの経済都市マイハークにある海軍基地付近へと展開し、万が一航空艦隊の作戦が失敗し、やむを得ない事態になった場合に敵司令官を処理することだ。」

 

転移直後に接触した現地の国に属さない農村や漁村の民によって描かれた簡単な地図とその都市名を基に作られた計画、それ故に危険性は高いものになっていた。

 

「つまりいつもどおりの暗殺ですか。」

 

 

しかし内容が内容だが、彼らには一切の焦りも不安もない。彼らは試験での死傷率98%を誇るコンバット試験を合格したパイロットの中でさらに選抜された特務部隊なのだ。

 

さもありなん、彼らは各々装備の最終確認を行っていく。

 

あるものは自身のパルスブレードを、あるものはクロークの動作を確認し、自身の狙撃用やら強襲用やらの武器の確認へと移っていく。

 

 

「予備選力のタイタンだが、ヴァンガード級タイタン*1とローニン級*2、リージョン級タイタン*3をそれぞれ一機ずつの計4機が両隣のゴブリンに格納されている。万が一必要な時は一報入れてタイタンフォールしろ。」

 

 

両隣には彼らの乗っているゴブリンとは形状の異なったタイタン格納用の装置がつけられた特殊仕様のゴブリンがいて、さらにその隣に一機ずつ、計二機のファントムと先頭に一機のファントムが展開していた。

 

 

「そろそろ降下時間だ。2部隊に分かれるぞ。いつも通りコールサインはタイガーだ。狙撃部隊は俺に付いてこい、残りの強襲隊はタイガー2に付いていけ。」

 

 

「「了解っ!!」」

 

 

そう声を上げた隊員らは各自装備を付け降下準備をしていく。機体の速度が降下のために下がっているのがわかる。

 

 

「こちらキャリヤー1,降下地点まで残り30。後部ハッチを開けるぞ。」

 

 

重々しい音とともに後部ハッチが開く、隊員らが特殊器具を背負い、酸素濃度が尋常じゃない程低い空気へと向かっていく。降下はすぐだ。

 

 

「降下開始!!」

 

 

その声と同時に次々と機体から身を乗り出し落下している。通常では絶対に即死するような高度だが彼らは死なない。それがパイロットだからだ。

 

機体を離れて数秒後彼らが身に着けている機器から小型のドームシールドが発生する。

 

空気抵抗を最小限に抑えられたそれは、タイタンフォールの要領で高速で落下することとなり地上からではただの流れ星としか認識できないだろう。

 

数分のスカイダイビングをしたのち、ドッという重い落下音とともに多少の砂煙を上げて地上へと降り立つ。

 

 

「タイガー1より全隊員へ、状況知らせ。」

 

「こちらタイガー3敵影見ず、探知にもかかっていません。」

 

「こちらタイガー2、3と同じく、敵影見ず。」

 

「了解。各自部隊と合流し作戦地点へと向かえ。以上」

 

 

真夜中の静まり返ったクワ・トイネ公国の中に冷酷な虎が降り立った。

*1
全てのタイタンの兵装が使用可能な汎用性に優れたタイタン。ヴァンガード級タイタン2機《ref》全てのタイタンの兵装が使用可能な汎用性に優れたタイタン。主兵装の20mm40発マガジンのオートライフルは安定した火力を持つ。

*2
機動性に優れた軽量級タイタン。主兵装のショットガンであるレッドウォールと自機と同じくらいのサイズのブロードソードによる近接戦が十八番。フェーズシフトによる時空移動での緊急回避が可能

*3
圧倒的な火力で全てをなぎ倒す重量級タイタン。移動は遅いが主兵装の遠近モード変更可能なプレデターキャノンは残弾のある限り尋常じゃない幸福感と火力を生み出す。やはり弾幕、弾幕は正義




お読みいただきありがとうございます。意見や感想をよかったら送ってください。
やはり、弾幕。弾幕は正義。君も弾幕原理主義になろう!


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第4話 首元の刃

第四話

 

 

クワ・トイネ内で行われている政治部会は非常に荒れていた。

 

原因は単純で、先日現れた未確認機の国家が国交樹立のために来たというからだ。

 

海軍の行った未確認艦隊の臨検によってその艦隊に日本国という国の外交員が乗艦しており、領空侵犯の謝罪と国交樹立を求めに来たということが魔信によって本国に伝えられた。またそれらの艦船は未知の金属でできており謎の原理で宙を浮いているとのことだった。

 

 

「にほんこくなどという国は聞いたこともないぞ!」

 

「空に浮かぶ金属の船など信じられるわけがないだろう!」

 

「幻術魔法を使われたのではないのか?」

 

「しかもその国は例の未確認機の国なのだろう?」

 

 

部会の中で発された例の未確認機という言葉がさらに彼らをヒートアップさせた。

 

件の未確認機は先日クワ・トイネの防空網を強行突破し、迎撃にでたワイバーンがその強行によって一機撃墜されたのだ。曰はく、突然未確認機の速度が上がり不可視の衝撃で吹き飛ばされたと。

 

それが迎撃で放たれた火球への回避のために速度を加速させたことで起こった衝撃波だと知るのは先のことである。

 

とはいえ、ロウリア王国とのいざこざで準軍事体制にあったクワ・トイネは領空侵犯に加え数少ない航空戦力を減らされたことで穏健派筆頭であったカナタ首相でさえ意見を統一するのが難しくなるほど会議は紛糾してしまっていた。

 

 

「しかしロウリアに加え、他の国まで相手にするのはどうなのだろうか…」

 

 

そう首相が言う。もう彼らは単なる理屈だけで意見を変えてくれるほど冷静でないと悟り、共通認識として今一番の敵であり最もの問題であるロウリアを使うことにしたのだ。

 

 

「確かに今の我が国に二国を相手にする余裕はないですな。」

 

 

軍務卿がそう言う。どうやら功を奏したようだ。

 

 

「しかし、だからといってそんな無礼を行った国と簡単に国交樹立をしてしまっては国の威信にかかわるのでは?」

 

「では妥協案としてとりあえず今は国交樹立はせず、ロウリアとのいざこざが終わってから対応するのはいかがでしょうか?彼らには一度帰ってもらいましょう。」

 

 

首相が妥協案を提案した。これは案外穏健派以外の派閥にも一定の評価を受け、会議は感情と怒号の吹き溜まりから理性による国家の頭脳へと姿を戻した。

 

 

 

その少し前

 

クワ・トイネ首都で行われる政治部会の会議場の真横に3人の狩人がいた、狩人らは都市用に迷彩が施されたヘルメットと戦闘服を身に着けその周りには複数の小型の器具が付いており肩からはアームのようなものが伸びている。その服装はまさしくパイロットの戦術アビリティであるクローク用のそれであった。

 

 

「こちらタイガー2 通信はクリア、強襲隊は持ち場に付いた。」

 

「こちらタイガー3 狙撃隊も同じく。」

 

 

三人のうちの一人が小声で喋る。

 

 

「こちらタイガー1 了解した。暗殺隊は今から所定の場所へ潜入する。」

 

 

その通信の後タイガー1が丁度定刻になったことを確認し、作戦準備完了の符号を伝えた。

 

 

「CPへ、こちらタイガー1。虎は忍んだ。繰り返す、虎は忍んだ。」

 

「こちらCP。符号を確認した。暗殺部隊は潜入を開始せよ。」

 

「タイガー1。了解。」

 

 

経済都市マイハーク付近に降下した特務隊は誰にも見つかることもなく作戦地域へと向かった。12人の内半数の6人は海軍基地強襲、3人は基地内の司令官狙撃、残りの3人は国の中枢である政治会議にいるであろう政府関係者の暗殺をすることとなっていた。

 

しかしこれらの任務は国交樹立ができなかった場合であり、国交樹立可能かの判断は暗殺隊による政治部会の盗聴によってそれを聞いた日本の政府関係者と総司令がすることとなっていた。

 

 

暗殺任務の三人は通信を終えるとクロークを起動しサプレッサーを付けたCARを構え潜入を開始した。

 

数分で彼らは政治部会が行われている蓮の庭園へと潜入し中央の円卓と適度に離れた木々の間に隠れていた。

 

 

「こちらタイガー1 CPへ、政治部会への潜入に成功した、今から政治部会場に設置した盗聴装置を起動する。」

 

 

「こちらCP、盗聴装置の起動を確認、音声データはクリア これから政府内で会議を行うそうだ。もう少し持ち場で待機しろ。」

 

 

「タイガー1、了解。」

 

 

彼らにとっては政治部会への潜入など赤子の手をひねるようなものだった。光学迷彩であるクロークに気が付くものはおらず、何の障害もなく入ることができた。会議場へ潜入したのち彼らはいつでも任務を行うことができるように匍匐し、銃口を会議場にいる者たちへと向け待機していた。それら狙撃隊や強襲隊も同様であり、それぞれ自身らの持ち場でスナイパーライフルやショットガンを構え命令一つで即座に任務を行えるように準備をしていた。

 

あとは政治的判断だけであった。




お読みいただきありがとうございます。感想やご意見をお待ちしています。



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第五話 決断

話のストックが、ストックがデータごと消えただと…


日本 緊急対策室

 

 

「今の我が国にそのような余裕はないのですよ!」

 

 

対策室で行われている会議では産業大臣が怒声をあげていた。

 

しかしそれには総理ですら納得する理由があった。

 

事の始まりは総理のクワ・トイネへ軍事同盟を結ぶ代わりに貿易を行うことを提案するという発言だった。その発言には産業大臣以外のほとんどが賛成していた。会議は侵攻を主張する産業大臣と外交による解決を主張する総理と平行線であった。

 

 

「我が国の資源はいつ尽きるのかもわからない状況なんです!今だって民間用の燃料や原料を徴収してなんとか持ちこたえているんです。総理もお判りでしょう!?」

 

 

外惑星へと進出した人類はその惑星へと移住し始めた。しかし移住することだけに惑星が使われるわけがなく。当時のほとんどの国家は惑星単位で資源を輸入していた。

 

 

「軍部として発言させていただきますとやはり侵攻は反対です。もちろんやれと言われれば最大限の努力はしましょう。しかし資源がないのです。特に燃料や部品が足りない。」

 

 

「総理、かの国が結論を出す前に行動しなければなりません。どうか決断を。」

 

 

時間は着々と迫っていた。まるで時計の針の音すら自らを急かしているかのようだ。

 

万が一先に結論が出されそれが外交団に通達された場合こちらの提案を聞くことすらしなくなり侵攻しか選択肢がなくなってしまうだろう。彼は占領地におけるパルチザンの厄介さを熟知していた。しかし資源の枯渇によって文明の光が風前の灯火なのも事実だろう。

 

そして彼は決断を下した。

 

 

「今すぐ外交団に軍事同盟の件を提案するように伝えろ。軍はいつでも侵攻作戦を行えるように準備を。外交団を早急に受け入れない場合は作戦を即座に開始する。以上」

 

 

人々が足早に動き始める。判断はクワ・トイネに託された。

 

 

 

 

 

 

クワ・トイネ 政治部会

 

 

議会は話がまとまりつつあった。日本への対応は決まろうとしており、今そこで決議をしようとしていた。その時であった。

 

「会議中にご無礼をお許しください。日本国の外交団から軍事同盟の提案がなされたと臨検隊から入電があり、現場や司令部では処理できない高度な案件のため判断を請いに参りました。」

 

 

ドアから飛び込んでくるのは伝令兵。

 

 

「詳細を話してください。」

 

 

首相が言う。

 

 

「はい。臨検隊が未確認艦隊の外交団と接触したしばらく後本国から遅れて伝令が来たとのことでできる限り早い入電を要請されたようです。そしてその提案についての会談を行うことも同様に要請されています。」

 

 

伝令兵は緊張しながらも言う。

 

 

「突然軍事同盟の締結を提案してくるだと?そんなもの信用できるわけがないだろう!どうせ軍事同盟を利用してこちらに不利益を押し付けてくるに違いない!」

 

「軍務卿、落ち着いてください。そのように決めつけで判断するのはよろしくない。」

 

 

首相がそうなだめる。ロウリアとの関係は今や崩壊ギリギリでありいつ侵攻されるかわからない。この猫の手も借りたい状態での軍事同盟の提案は渡りに船であった。

 

 

「わかりました。一度会談を行うと伝えてください。」

 

「首相!何を言っているのですか!?」

 

「謝罪をし来ている時点でロウリアよりかはマシです。それにロウリアの軍事力はご存じでしょう?」

 

「それはそうですが…」

 

 

軍務卿が黙り込む。何を言おうが彼こそがクワ・トイネの中で最も軍に精通しておりロウリアの脅威と自軍との戦力差を知っているのだ。

 

 

「外務卿、会談の準備を。急ぎましょう。」

 

 

首相が外務卿を連れ部屋から出て行く。

 

首相はロウリアに対抗するには悪魔と契約をすることも厭わないつもりだった。そして相手が悪魔か否かをその会談で見極めるつもりであった。

 

 

 

 

「タイガー1からCPへ、目標が移動を開始した。こちらも移動を行う。」

 

「CPからタイガー1へ、それについては了解した。それと一つ指令が増えた。会談にて貿易が行えないと判断された場合目標の処理後外交団を護衛しながら輸送船まで後退しろ。なおこの輸送船は事前に通達した帰還用のものと同じ船だ。コールサインはミール(運び屋)だ。以上」

 

「タイガー1。了解。」

 

 

会談を行うことになったとはいえまだ作戦は終わっていない。未だに銃口は降ろされていないのだ。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

前書きの通りデータが飛びました。
ァァァッォガァッ(意訳:絶望)


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第六話 対ロウリア1

「やっと一段落つきましたね。」

 

「一段落はな。だがまだロウリアとの戦争が残っている。」

 

 

首相がそう言う。転移直後はストレスで顔色が非常に悪かったが今は少し顔色がよくなっていた。

 

 

「まあ会談が上手くいったのは喜ばしいことだがね。これもそのおかげで飲めているわけだしな。」

 

 

首相の手にあるコップには薄白い湯気を漂わせる()()()()()()()()()()が入っていた。

 

結論から言って会談は日本側が思っていたよりも良いようにまとまった。

 

1 日本側からの謝罪の受け入れ

2 国交樹立

3 食料品等の輸出の開始

4 軍事同盟の締結及びロウリア宣戦布告時に即時参戦することの確認

5 クイラとの国交樹立の援助

 

以上の5つがその要約であった。その中でもクイラとの国交樹立の援助により同様の内容の会談を行って非常に早くクイラとの貿易が開始でき、資源不足が多少だが改善され始めていた。

 

 

「しかし問題はロウリアだ。開戦まではおおよそあと2カ月なのだろう?」

 

「はい。情報部の情報によれば物資の集積や戦力の移動からそのように。しかしあまりにも技術差が大きいため予想よりもずれる可能性が大きいそうです。」

 

 

国交樹立後すぐにクワ・トイネの商団に混ざり工作員が派遣されておりロウリアでは既に情報網ができていた。そしてそこからおおよその開戦までの期間が推測されていた。

 

 

「その間に外惑星派遣軍や航空隊の再編成と燃料と部品の補充。そしてクワ・トイネへの軍派遣か…骨が折れるな。」

 

 

転移による様々な障害から復興するには二カ月では到底足りない。しかしロウリアからの侵攻に何の対処もしなかったらそれこそ復興どころではない。

 

 

「総司令へ軍派遣を行うように通達を。 それと産業大臣に貿易に関する技術流出防止の徹底をするように各種業者へ連絡させろ。」

 

そう指示を出し秘書が部屋から出て行く。彼は束の間の休みを享受した。

 

 

 

クワ・トイネ ギムの町

ロウリアに最も近い町であるギムでは派遣軍主力部隊が駐留していた。

派遣部隊はパラディン級戦車からなる第一機甲師団。実戦豊富な外惑星派遣軍から再編された第三歩兵師団。リーパーやストーカーなどの完全自立型兵器からなる自立機械化歩兵師団。そして一個小隊6人からなる一個パイロット連隊72人が派遣されていた。自立機械化歩兵師団は初めて設立された無人機のみの師団であり、さらにパイロット連隊は各自が一体づつタイタンを連れていることもあり駐留地付近ではギムに住む人々が恐ろしい化け物の住処かのように見ていた。

 

そしてその地の中央にある司令部では今まさに対ロウリアの作戦会議が行われていた。

 

「では作戦会議を始める。」

そう言うは派遣軍団長、そして中央にある卓を囲うように三人の師団長、連隊長がいた。

 

「情報部からの知らせによれば2週間後に連中が攻めてくる。侵攻ルートは地上ではまずこのギムの町に連中の主力軍が、その後または同時に上陸部隊が後方に上陸し挟撃するそうだ。」

卓上にクワ・トイネの航空写真が表示される。写真には都市名、国境とともに自軍を示す青い点と敵軍を示す赤い点が現れる。

 

「戦力は総兵力が約50万。そこから先遣隊として初めに数万の陸上兵力がくる予想だ。海上は4000弱の帆船が確認されている。帆船だ、前近代の海上のみしか動けん艦船ですらない。これは陸上でも同様で連中は剣や槍を使うらしい。」

「軍団長、ですが連中は魔法のような未知なる技術も航空戦力もあるのでは?歩兵師団長として言いますが航空戦力はどのようなものでも脅威ですよ。」

歩兵師団長が不満そうに言った。

 

「最もな意見だがクワ・トイネからの情報によると列強と呼ばれる国々ならともかく、ロウリアには我々の脅威になる魔法はないそうだ。それと敵航空戦力はタイタンに頼むつもりだ。そうだよな?」

 

「ああ、敵航空戦力については我々が引き受けよう。それはそれとして空軍が航空戦力を出し渋る理由がわからんのだがな。」

パイロット特有のヘルメットを被った連隊長がそう聞く。

 

「それについては空軍さんの燃料がいまだに足りんらしい。転移直後のスクランブルも相まってさほど戦力をだせないそうだ。それで今回は海戦の手伝いだけだと。」

「海戦は海 空軍が?」

「ああ、こちらは陸戦だけだ。」

「陸戦に関してはこちらの自立機械化歩兵師団が最前線を引き受けよう。機械は替えが効くが技術を持った練度の高い人材程貴重なものはないからな。」

自立機械化歩兵師団長がそう言って卓上の青い点を前線と思われる場へと動かし展開する。

 

「それはありがたいな。歩兵師団はその援護をする形でいいか?」

「それで良いと思うが最前線には機甲師団も入れていいだろう。敵にタイタンはいないのだぞ?」

「いやはや、機甲師団のことを忘れられたと思いましたよ。」

 

卓の周りが軽い笑いで包まれる。タイタンが出現してからというものその汎用性や火力から陸の王は戦車からタイタンへと移り、機甲部隊はタイタンのいない場所でしか運用されなくなっていた。

 

「連隊からは四分の三の3個中隊54人をそちらの対空防御兼直掩として出そう。リージョン級やトーン級*1がいるから対空防御は大丈夫なはずだ。」

「それは頼もしい!それなら大丈夫そうだな。」

「ではおおよその形はこれでいいな。」

 

卓上には各師団の配置とそれぞれの攻勢方向が矢印で描かれていた。そしてその前線よりもさらに奥にいくつかの青い点が光っている。

 

「作戦の肝はパイロット、お前達にかかってるからな。頼んだぞ。」

「了解。古代の兵器しか持たない連中に文明のなんたるかを教えてくるとしよう。」

 

開戦の時はすぐそこに。

 

 

 

 

 

*1
12発入りの40mmトラッカーキャノンを主兵装とする中距離型タイタン。パーティクルウォールと呼ばれるエネルギーシールドを展開できる。またトラッカーキャノンを当てたりソナーロックによって目標をロックオンすることで肩についているミサイルポッドから追尾ロケットを発射できる。




お読みいただきありがとうございます。
SMRが思ったよりも強くて愛用している今日この頃。
胴体2発ヘッショワンパンは楽しすぎる。


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第七話 対ロウリア2

今回は挿絵有りになっています。


「CPからギムに展開する全部隊へ。ロウリアが侵攻を開始した。速やかに作戦を開始せよ、繰り返す作戦を開始せよ。」

 

CPから派遣軍の全部隊へと作戦開始命令がでる。それに伴って前線右翼と左翼の機甲師団と自立機械化師団の一部が前に出る。

 

「自立機械化師団より作戦参加中の全部隊へ。これよりリーパーによるティック散布を開始する。注意されたし。」

その声とともに戦域へ警報がなされ、タイタンの半分ほどの大きさのリーパーの前頭部から縮小された状態のティックが射出される。

射出されたティックはそのまま蜘蛛のような四つ足と箱形の爆薬を展開する。自走型の自爆ドローンであるティックは展開後生体反応を自動で検知し爆発を行う。

そしてまさにその先にはロウリア軍の戦列がある。

 

 

 

「おい、なんかこっちに来てないか?」

「なんだあれ?虫…か?」

 

ロウリア軍の戦列の最前列にいる歩兵たちは自分たちの方に器用に足を動かし近づいてくる無数のなにかが見えていた。

詳しい姿はわからないが段々と近づいている。

 

「まてこちらに突っ込んでくるぞ!盾を早く!」

 

それに対しロウリアの兵はすぐさま盾を持ち出す。それは非常に早く行われた正しい反応であった。爆発物相手でなければだが。

 

「なんだあれは!盾持ちが吹き飛んだぞ!」

「おいおいまだ来てるぞ!にげっ」

 

戦列に近づいたティックはその細い足からは考えられないほどの高さへと跳躍し空中から突っ込んでいく。

耐爆装備もつけていないロウリア歩兵は歩兵だったものへと変わっていく。

 

そんな中前線の上空ではロウリアの竜騎士150人が飛行していた。

「隊長!なにやら地上で爆発が起きています!」

「地上軍、非常に混乱していますが数はそこまで減っていません!」

 

と地上偵察へ向かわせていた部下達が近づき報告してくる。

下を見れば確かに指揮が崩壊しかけ、ばらばらになっている自軍が見えるが数はそこまで減っていない。

 

「敵のワイバーンは確認されていないが…敵に魔法使いがいるのか?とりあえず先に敵軍主力を叩くぞ!魔法使いがいるならそれで潰す!」

快晴の空ではロウリア軍の竜騎士団150騎が敵本陣を攻撃しに向かっていた。敵のワイバーンは確認されておらず竜騎士たちは自分たちの独壇場であることに浮きだっていた。団長は爆発が敵軍の魔法使いによる攻撃と判断しさらにワイバーンを加速させる。

 

【挿絵表示】

 

 

 

「こちらCP 敵航空戦力を確認、目標座標を送信した。迎撃を開始せよ。」

だがしかし航空機がいなくても航空戦力の無力化は可能である。

各師団の右翼左翼に点在しているリージョン級、トーン級タイタンが迎撃態勢を取り始めた。

 

「ベアー1。データを受信。迎撃を開始する。

 ベアー1から各隊へ、データを全機にリンク。目標の同期を確認。…スマートコア、ザルヴォコア発動の準備を。」

隊長機からの号令でトーン級がソナーを開始し、リージョン級のプレデターキャノンが回転を始める。

 

「目標接近まで残り、3…2…1…。撃ち方はじめぇ!」

 

 

 

「敵部隊を目視!各機編隊を組んで急降下準備!」

 

派遣軍主力を目視したところで竜騎士たちが降下の準備を始める。ワイバーンのいない戦場。彼らの多くがその中で武功を上げることを想像していた。空中から簡単に蹂躙し帰国する、そのはずだったのだ。

 

「隊長!敵陣から赤い光(レーザーサイト)が放たれています!」

「魔法攻撃される前に突っ込むぞ!つづけぇぇ!」

 

隊長が急降下を始めようとしたその時であった。

 

「ガッ…!!」

僚機が突然謎の光弾に射抜かれ撃墜される。

 

「おい!どうした!」

 

助けようと向かおうとする。

しかしゴォォォというジェット音ととも数十機のトーン級タイタンのザルヴォコアによって放たれた数百のミサイルが視線誘導によって襲い掛かる。

一騎に対して十数個というオーバーキルすぎる量のミサイルによって次々とワイバーンが灰へと変わる。

 

「クソッ。一度引くぞ!」

 

生き延びた竜騎士たちが撤退しようとするも、もう遅い。AIによって弾道制御された無数の銃弾が彼らを撃ち抜いた。

 

 

 

「CPへこちらベアー1。敵航空戦力の無力化を確認。指示を求む。」

「CPからベアー隊へ、敵航空戦力の壊滅に伴い全部隊が所定ラインまでの前進を開始した。貴隊はそれらの援護に回ってくれ。以上」

「了解。」

 

CPの無線が混雑しておらず、さらにノイズ一つないことが善戦していることの何よりの証左であった。

同程度の技術同士であったら今頃通信妨害のノイズだらけで同じ部隊からの命令を挙げる怒声や友軍からの支援要請の声で地獄になっていただろう。

 

「ベアー1より各隊員へ、所定ラインまで行くぞ。やりすぎるなよ?」

 

 

 

 

 

その少し前ロウリア軍のギム攻略隊を指揮するジューンフィルアはストレスによる腹痛をなんとか耐えながら部隊を指揮していた。しかもまさに今重大な判断を行う状況であった。

それはー

 

「撤退か、継戦か…部隊の損害で考えるなら撤退なんだがな…」

「しかしあの()()のことです。どんな罰を下してくるか…」

 

そう青ざめた顔で言うのはジューンフィルアの側近であった。

 

「あの残虐なアデムのことだ。それにまだ攻略を始めて少ししかたっていないからな。考えたくもない。しかしな…」

「前線でおきた爆発魔法の規模から敵にかなりの数の魔法使いがいます。ワイバーンが現在向かっていますが…」

「連中手持ちの戦力を全てかき集めて局所的有利を作り出しているのではないでしょうか?それならばここで時間を稼げば上陸部隊が後方を攻撃できるはずです。」

 

側近の一人が前線から届いたと思われる報告書を持ちそう言う。その報告書は走り書きで、前線がいかに混乱しているかが書かれていた。

 

「確かにな…よし。それを理由に援軍を求めよう。伝令兵はいるか!早馬を出す!」

 

少しの間の後そう指示を出す。彼らは前線の兵は全てクワ・トイネのものであると思っていた。それもそのはず、情報を与えないに越したことはないと日本が徹底的に自国の存在をロウリアから秘匿していたのだから。

 

 




お読みいただきありがとうございます。
次話は多分3月序盤、はやければ2月中に上げます。


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閑話 赤

実質2月内投稿


「で。ロウリアは降伏しそうなのか?」

 

首相執務室で報告書を見ながら首相は聞く

 

「手筈通りギム攻略隊を最大限恐怖させ一部を本国へと逃がしました。さすがにここまでの技術差があるとわかれば無謀な攻撃もしてこないでしょう。」

「はあ…軍事に関しては全くの素人だがね。一つ言わせてもらうと一部官僚も含め君たち軍部もみな現代の価値観で見すぎではないのかね。」

「と…いいますと?」

 

秘書官がまたはじまったとばかりに聞く

 

「連中の価値観では城の前まで行って講和を行うのだぞ?しかも我々のような民主主義ではなく絶対王政、つまるところ独裁政治だ。独裁政治の粘り強さは知っているだろう?」

 

往々にして独裁国家は簡単に降伏しないものだとつぶやきながら首相は報告書を持ってきた者に言う

 

「とにかく、報告書は受け取った。しかし軍部には相手の価値観を見誤ることのないように言っておいてくれよ。でないと…」

「首相。まだ別の報告書もございますのでここらへんで。」

「ああ、そうだな。君、ちゃんと伝えといてくれよ。」

 

そういわれた軍部のかわいそうな被害者は執務室を出て行く。こういうとこがなければもう少し評判も良くなるのになぁなどと思いながら秘書官は緊張感を持ち専用の封筒に包まれた最重要の報告書を渡す。

 

「情報部が調査した結果です。やはり連中革命を起こすつもりでした。」

 

秘書官の手元の封筒には重要機密の印がされた調査結果といくつかの写真があった。

 

「やはりか、混乱期に赤どもがなにかしてくるとは聞いていたが…しかしよくこんな兵器を用意できたな。」

 

渡された写真にはCARやR-97などの銃器のほかにもオーガ級アトラス級などのーーートーン級やリージョン級が第二世代のタイタンでありオーガ級アトラス級はその前の第一世代型のタイタン。つまるところ旧型の兵器ーーータイタンと革命用の命令書と思わしき紙が映っていた。

 

「どうやら隣国がささやかな贈り物をしていたようです。しかし連中も最新型のタイタンは渡せなかったようですね。」

「さすがにそこまでの余裕はあるまいて、それでこいつらはすでに?」

「はい、研究部に渡され提供国やその他のデータ分析をしています。」

 

一段落付いたなと首相は背もたれに深く寄りかかる。連日の会議や国会で彼の眼もとには隈ができていた。

 

「これでとりあえず国内は安心だな――」

 

 

 

 

 

 

「などと思ってくれていれば助かるのだがなぁ。」

 

???海域 輸送艦大連 指令室

 

「同志委員長。日本防空圏を突破しました。まもなく目的地へ巡航速度でのAI操縦へと切り替わります。」

「報告ありがとう。君は下がっていい。ああそれと同志パイロット諸君に例のタイタンとのリンクをするように言っておいてくれ。ここなら奴らも検知できないだろう。」

「了解しました。では失礼します。」

 

そう言って()()()()()()()()軍服を着た乗組員は出て行く。

 

「国内での武力革命をおとりにしての外国亡命。なかなかリスキーだがうまくいったな…しかし旧式といえどタイタンをいくらか失ったのはでかいな。」

 

少し中肉のふくよかな体系をした男。先ほど委員長と呼ばれていた彼は立ち上がり格納庫へと向かう。乗組員からの案内を経てその奥へと向かうと、隣国から無理を言って渡してもらったイオン級やローニン級、リージョン級などの()()()()()()()()()が数十機、機体に彼らの象徴でもある「赤」色の輝きを灯しパイロットとのリンクを待っていた。

 

「これはこれは同志委員長。わざわざ見に来てくださったのですか?」

「いやいや同志パイロット。これは我々が資本主義者どもの抑圧から解放されるための第一歩なのですぞ?これほど嬉しいことはないでしょう!」

 

委員長の目線の先には長年の仲であるパイロット部隊長と航空機を含めた残りのスペースに乗せれる限界のタイタン数と同じ数のパイロット。おおよそ連隊分がいた。

 

「確かにそうですな。我々の誇り高き一歩だ。それで…情報封鎖で私たちは目的地を知らぬのですが?」

「たしかに…もう言っても大丈夫でしょう。ふむ、では同志パイロット、この輸送船に違和感を感じましたかな?」

 

そういいながら艦内を見渡す。

 

「む…確かに違和感はありましたな。こう、なんというか輸送艦にしては見た目に余分なものが多いような感じはしましたな。」

「さすが同志パイロット!見る目がある!」

 

委員長は大げさに両手を上げ大きな声で言う

 

「この艦は輸送艦だが地上支援攻撃をできるようにもなっているのです。艦上部にはミサイルポッド、艦下部や側面には機関砲があるのです。」

 

そう言って窓へと手を向けると艦外には秘匿のために格納されていた武装が、展開されている所だった。

 

「なるほど。違和感の正体はそれでしたか…してそれがなにか?」

「地上支援用というのは現代戦での話でこの世界の連中との戦いで使うとなれば虐殺となるのです。」

「なるほど…言いたいことを当てみせましょう。この戦力で他国を乗っ取る訳ですな?」

「そんな悪い言い方をしないで頂きたいですな。正確には()()()()()()()を悪しき権力者どもから解放し、新たな国を作ると言って欲しいものです。」

 

ハッハッハと乾いた笑いが2人の間に起こる。

 

「物は言いようですな。それで目的の国は決まっているので?」

「もちろん!どうやらこの世界では列強と呼ばれているらしいですぞ。」

「列強とは…我々の時代では植民地未満でしょうに…それでその名前は?」

 

おほん。と咳払いをし格納庫内の他のパイロットや乗組員へ聞これるよう大声でしかしゆったりと叫ぶ

 

「同志諸君!今から我々が向かうのはレイフォルだ!かの国は皇帝と呼ばれる権力者によって人民が支配されている忌まわしき体制の国である!我々が人民を解放し、かの国を人民による人民のための国家へと作り替えるのだ!」

 

その声は艦内の全てにアナウンスされる。輸送艦内では指揮所、格納庫、廊下など全ての場所で委員長の宣言への歓声が満ち溢れていた。

今、赤が動き出す。




日付投稿便利すぎる


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第八話 首狩り

 

早馬を出した少し後から前線は膠着状態になった。爆発は収まり、ロウリア兵が前に進むたびに光弾が襲ってくるの繰り返しであった。

しかしそれもすぐに終わる。

 

 

「ジューンフィルア様!お逃げください!ここに敵部隊が来ています!」

 

そう叫びながら走り込んでくる伝令兵にジューンフィルアを含めその側近もみな戦慄した。

 

「待てどういうことだ?前線の兵はまだいるのだろう?!」

 

そう口角泡を飛ばす。みな動揺を隠せなかった。後方司令部、いってしまえばギム攻略隊の頭ともいえるそれは前線から一定の距離があり、予備戦力による防御陣も組まれているはずだった。

 

「敵が前線の横の森林を突っ切ってきました!予備部隊を全て回していますが、謎の光弾で相手になりません!」

「ええい、竜騎士は何をやっていた!」

「援軍は!援軍はまだなのか?」

 

報告に対し彼ら指揮官たちは対応を考え始める。自分たちがやられれば前線が崩壊することなど容易に想像できる。

 

「伝令!緊急電です!」

「今度はなんだ!」

 

またもや伝令兵が飛び込んでくる。こんな戦況なのだ。悪報なのは当然であり、皆その報を望んではいない。

 

「後方が…アデム副将含む後方司令部が完全に崩壊しています!」

「なっ…!!」

 

彼らを誉めるとしたらこのような状況で理性を放棄しなかったことだろう。とその後日本派遣軍歩兵師団長は述べている。

前線からの膠着状態から一向に相手が攻めてこないという情報。そしてクワ・トイネ侵略隊司令部の崩壊、これらが示すことは一つである。

 

「まさか…連中の作戦は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「斬首作戦が完了しました。ロウリア本国から出てきたクワ・トイネ侵攻軍司令部を殲滅後ギム攻略隊司令部も同様に殲滅いたしました。」

 

そう報告を受け派遣軍司令部の主である派遣軍団長はにやりと笑う。

 

「さすがにパイロットの高速機動はワイバーンも捕捉できなかったか。一番の不安要素も大丈夫そうでなによりだ。」

 

満足そうに本国から輸送されたばかりのコーヒーを嗜む。若干の不安要素があったものの無事に成功し喜びが顔から出ていた。

 

「これでやつらは脳の無くなった暴徒だ。いや、もう暴徒ですらないな。ただの群衆か。」

 

 

 

 

遡ること対ロウリア作戦開始時。

 

「第一中隊、作戦準備完了しました。」

 

ギムに位置する派遣軍司令部の横。その森林の前で通常の歩兵とは大きく異なる装備で一人一人が圧倒的な威圧感を放つ部隊がいた。

その独特なヘルメットには歴戦の証であるいくつかの銃痕が刻まれている。彼らは実戦経験豊富な外惑星派遣軍のなかでも、どのような部隊でも基幹要員になりうるほどの練度を誇る者のみで構成されたクワ・トイネ派遣軍第一パイロット連隊の基幹部隊、第一パイロット中隊であった。

 

「最終確認だ。我々はこれより高速機動によって敵司令部側面に回り、斬首作戦を行う。本作戦は速度が命だ!ここにいる者は皆ガントレットで嫌なほど行っただろう。あの危険な方法を。まさかこの部隊に爆発に巻き込まれて下半身を吹き飛ばすやつはいないと思うが…諸君らの練度に期待している。」

 

「「ハッ」」

 

作戦の確認が終わり彼らは作戦を始める。再編された部隊といえども練度は折り紙付きなのだ。

 

「CPからパンサー中隊へ。連中が侵攻を開始した、作戦を開始せよ。」

「パンサー。了解。作戦を開始する。」

「武運を祈る。以上」

 

通信が終わり隊長がヘルメットを被る。そしてヘルメットに蒼い光点が灯った。

 

全員が森へと近づいていく。彼らの手元には()()()()()()()()があった。

 

「全員遅れるなよ!行くぞ!」

 

中隊長がグレネードを足元へと転がしその後すぐに走り始める。そしてグレネードが爆発した瞬間…飛んだ。

 

ドンッ

 

という爆裂音とともに隊長が飛び出していく。そしてそのまま森の木々へとウォールランを決める。

次々と矢継ぎ早に残りのパイロットも森へと入る。一つまた一つと爆裂音が鳴るたびに一人ずつ高速で森に入る。

 

ガントレットと呼ばれるパイロットの訓練場ではパイロットのウォールランとそれと同時に敵を銃撃する訓練が行われる。

そして一定の練度を超えたパイロットはさらに別の訓練を行うようになる。それこそが()()()()

パイロットの使用するフラググレネードは、ピンを抜いて3秒後に爆発する。

そしてそのグレネードは爆発とともに強烈な爆風を伴う。そんな中ある時一人のパイロット(変態)が悪魔のような発想をした。それは…

 

「フラググレネードの爆風で加速すればさらなる速さの高みを目指せるのでは?」

 

そしてこの技法は瞬く間にパイロット(変態)達へと広がっていった。もちろんいくらかの事故も起きはしたが…人は速度を求め続ける生き物だ。走りでは追い越せない速度の壁を、馬、車、列車、航空機と様々なもので超えようとした。そしてそれらはパイロットとて同じである。

今までに体験したことのない程の高速機動は彼らを魅了した。生身では体験できないような高速機動。そんなものを極めた者は尋常でない速度を出す。

そして第一中隊はそんな変態の集まりであった。

 

 

 

 

「隊長。部隊各員が最高速度へと到達しました。目標まで残り10秒。」

 

たくさんの木々が生い茂る森の中を()()()()()k()m()()()で駆け抜けていく。

パイロットがウォールランをするごとに木がメシッと音を立てる。

 

「第一小隊はグラップルでの浸透攻撃。二,三は敵予備戦力の殲滅。四はタイタンフォールし、敵司令官の抹殺だ!敵の副将アデムは重要参考人だから殺すなよ?」

 

「「了解」」

 

「兵は拙速を尊ぶだ。高速機動を見せてやれ!」

 

神速の如き死神の鎌が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 




ウォールラン時速はガントレットRTAの速度を参考。
お読みいただきありがとうございます。
余談なんですけど食パンにキャラメル乗せてトーストすると悪魔的においしいですね。頭の中でカイジルラン時速はガントレットRTAの速度を参考。
お読みいただきありがとうございます。

余談なんですけど食パンにキャラメル乗せてトーストすると悪魔的においしいですね。頭の中でカイジのナレーションみたいな言葉が浮かび続けてました。
まあカロリーも悪魔的なんですけどね。


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第九話 特殊型

一本書きdayo!


「派遣軍からの急報です。斬首戦術が成功し全軍が殲滅戦を開始しました。」

 

日本軍航空艦隊。それは転移直後に通信が途絶えた宇宙艦隊の残余からなる現在の日本の制海と制空を担う者たちである、しかし主力艦隊が消えたことで戦力が大幅に減少してしまい再建している最中であった。そしてその司令部では現在進行形で作戦準備が行われていた。

 

「陸さんはあの転移でほとんど部隊が減ってないんだからさ、それくらいやってもらわんとねえ。」

「それにまだ作戦を行えるほどの戦力が整っていないと言っていたはずなんですけどね。」

 

CPから送られてきた情報に愚痴をこぼすのは航空艦隊司令部の指揮官たち。

戦艦飛騨を旗艦とする1隻の空母と特務輸送艦などからなる計12隻の日本第一航空艦隊はロウリアの船舶を攻撃するために所定の海域へと向かっていた。

 

「でも敵さんは古代レベルの兵装なんでしょ?なら火力押しでいい気がするけどねえ?」

 

指令室の最奥、その艦の主である艦長は足を組みながらそうつぶやく。

 

「そんなこと言わんでくださいよ艦長。この間の飲みでまた財務省の同期に予算の事で愚痴られたんですから…」

「それを言ったら俺もそんな事財務のやつらから言われたなあ。あいつら臨時予算を組むのは遅いのにそういうとこはしっかりしてるんだよなあ」

 

カッカッカと軽快に艦長が笑うが、財務省の負担は相当なものであった。転移による問題は非常に多く困難なものだった。

 

1 輸出産業の壊滅 

転移し新たな国を見つけやっと輸出ができる!と思った矢先に圧倒的な文明差を考慮しての技術流出防止法。

 

2歴史上類を見ない程の大不況 もちろん財政は大赤字

 

3転移による軍事費の増加 必要経費だからしかたないね。尚臨時予算を度々要求され陸海空軍の予算の取り合いがおこる。

さらにその他の諸問題も加わり財務省や産業省を筆頭とする省庁らはエナドリを箱買いする者が現れるほど業務過多となり、何徹もした職員らが跋扈するそこはゾンビの巣と呼ばれるほどだった。

 

「レーダーに感。敵船舶4400隻だと予想されます。」

 

「よし、仕事の時間だ!輸送艦を前に出せ。」

 

艦長の指示のもと次々と乗組員が動いていく。主力艦隊が消えたと言えども彼らは精鋭であった。

 

 

 

 

 

 

 

特務輸送艦 津軽 艦上

 

「旗艦から攻撃準備命令がでた。各員タイタンへ乗り込め!」

 

第三パイロット大隊の指揮官である甲斐少佐は無線で指示を出した後輸送艦の艦上からスコープを使い敵船団を見ていた。

 

「ほんとうに古代レベルの装備だな…まさか帆船と戦うことになるとは。」

 

スコープの先には帆を広げ風に乗るロウリア艦隊が海を覆い尽くしているのが見えていた。

 

「この戦力だと一方的なマンハントになりそうだな。」

 

片手で抱えたヘルメットを椅子代わりにして煙草を取り出す。艦内は全区域が禁煙であった。

年季の入った銀色のライターで火をつけ煙草をふかしていると声がした。

 

「パイロットの体内から有害物質を検知。直ちに医務室へ向かってください。」

 

独特の女性タイプの機械音声。彼の愛機であるイオンであった。

背中に主兵装のスプリッターライフルを背負いモノアイが青く光っていた。

 

「イオン…前にも言ったがこれは俺の楽しみなんだ。多少の害くらいなら問題ない。」

 

「有害物質のでないモデルが現在は一般的です。パイロット、一般モデルの煙草を推奨します。」

 

「ああ、そうだな。そんなものがあるのか!さすが頭のいいAIさんだよ。」

 

「皮肉を検知。」

 

「で、部隊の状況は?」

 

「艦上攻撃部隊が配置に付きました。またノーススター部隊も準備ができています。」

 

「ノーススターか…あの()()()()()か?」

 

「はい。空中戦仕様のノーススターです。」

 

「研究部も面白いことを考えたな。」

 

ノーススター特殊モデル

ミリシアとIMCとの戦いの中で日本の諜報員が確認した長時間の空中浮遊が可能なノーススター*1はその後APEXプレデターと呼ばれる傭兵団のものであるとわかった。そしてこの戦闘機のような運用法を見た日本の研究者らと一部の物好き軍人らは感銘を受け、即座に予算を要求していた。しかし当たり前ながら予算は下りなかった。が、転移によって流れが変わる。航空機用の燃料が不足し航空戦力の代用としての価値を見出され研究が開始され完成したのだ。

 

そしてそれは艦載機が足りていない航空艦隊にも配備され、今回の作戦にも加えられていた。

 

 

 

「全部隊へ、攻撃を開始せよ。繰り返す攻撃を開始せよ。」

 

「作戦開始命令、発令されました。」

「じゃあ例のノーススターも?」

「はい、発進しました。」

「よろしい。あれは漢のロマンだからなあ…」

「は?…」

「気にするな。」

 

そしてその物好きの一人である戦艦飛騨艦長兼航空艦隊総司令官の眼には艦の左方にいる空母の甲板上に24機のノーススターが見えていた。

背中に一対のジェットエンジンを備え両肩にミサイルポッドを装備したノーススターが編隊を組んで今、白い軌跡を残し、飛び立った。

 

 

 

 

 

 

*1
プラズマレールガンを主兵装とする軽量級タイタン。通常型は3秒ほどの浮遊が可能。また対人用のクラスターミサイルとタイタンを拘束するデザートラップを持ち、狙撃に適した装備を持つ




簡単美味しいトーストレシピ

1食パンの上にチーズをのせる

2チーズの上にふりかけをのせる(かけ過ぎ注意、オススメは鮭のふりかけ)

3オーブンへ食パンをシュュュューット

チーズとふりかけの塩気が案外合います。お好みで刻み海苔か醤油を入れると和風になって美味しいです。


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第十話 不穏

3333文字


ロウリア とある港の酒場にて

 

「ついにうちの国も大陸統一だな。それに船がたくさん来てこっちは商売繁盛よ」

 

荒っぽい海の男が酒を片手に語り掛けていた。酒場はいつもより賑わっていて、客の多くがガタイの良い兵士達だった。

 

「この港からもクワ・トイネへ攻撃を仕掛ける船が出るからね。それで船が来てるんだ。」

 

答えるのはロウリア軍所属の髪を後ろに縛った若い軍医

 

「おお!海からも攻撃するのか!それで、お前もやっぱり行くのか?」

「いいや。今回はこの港で後方待機さ。何しろ数千隻の大艦隊だからね。本当は僕も船に乗って手伝いたかったんだけどねえ。」

「なるほどな。後方ってことは…なにするんだ?」

「うーん…多分竜騎士の治療じゃないかな。クワ・トイネも多少なりのワイバーンを持っていたからね。」

「あーそういうことか。まあ俺はいつも通り漁にでるだけなんだけどよ。」

 

外は月明りが包んでいた。されど飲み始めてから時間が経っているのはたしかだった。

 

「じゃあ僕はそろそろ帰るよ。後方勤務でも誰かを治療することになるかもしれないからね。」

「おう。ここは俺の奢りにしてやるよ。」

 

すっと席を立つと海士がほいと金貨を見せてくる。

 

「そういえばお前まだあれ書いてるのか?。」

「あれ?」

「あー。あれだよ。ああそうだ日記だっけか。」

 

顔が少し赤いのは酒の強い彼がかなり酔っぱらっていることを表していた。

 

「うん。まだ書いてるよ。」

「それ書いてて寝てなかったら本末転倒だからなあ。」

「わかってるよ。そっちも結構酔ってるみたいだから気を付けなよ。また金貨盗まれるからね。」

「おーう…。」

 

そう言って若い軍医は帰路に付く。少しだけ書こうかなと今日の出来事を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

いよいよ明日はロウリアの運命が変わる日だ。この国が大陸を統一したら、もしかしたらあの列強に入れるかもしれない。いや、入れなくても匹敵するくらいの力になるはずだ。そんなときに後方で待ってるだけなのは悔しいけれど誰かが治療を求めてくるかもしれない。僕もこの戦いに貢献できたらいいのだけれども…

今日はいつもより短いけどここで終わる。明日は大切な日だから。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

ページをめくる。ページが何枚も、何枚も、何枚も破かれている。そのさらに後ろに何か書いてある。前の日とは裏腹に字は気が狂ったかのように乱れ、ページは涙が染みついている。何度も誤字をしたのだろうか、文字を消すこともせずに筆で文字を黒く消して文字が書かれている。それはまるで絶望を映したかのようだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

おかしい。なんでなんでなんで。意味がわからない。なんで亜人ごときに。おかしいじゃないか。

 

――――――――――

 

――――――――――

 

昨日港に運ばれてきた負傷者が病院に運ばれてきた。海からクワ・トイネを攻撃するはずだった人達だ。皆生気がない。言葉もまともにしゃべれない。昨日より人が少なかったからなぜかと聞いた。どうやらほとんどがもう間に合わなかったらしい。気が狂い自殺した者もいたという。とにかく一人でも多く助けないと。

 

――――――――――

 

軍から何があったか生存者から聞き取るように命令がきた。相手は体の動かなくなった竜騎士と右手を失った船乗りだった。わけのわからないことを言っている。こっちが気が狂いそうだ。病院は患者であふれている。

初めに竜騎士から話を聞いた。彼が言うには艦隊から鉄竜を見たからと要請があり、本土に敵のワイバーンが来ることはないだろうからと全部隊が掩護に向かったらしい。なんであんなことをしたんだと愚痴っていた。そうしないとやっていけないのだろう。

そのあとから訳のわからないことを言い始めた。彼の言い分ではいきなり鉄の矢が火を噴いてこちらに向かってきたらしい。しかもそれは逃げても逃げても追ってくるらしい。その次に雲の中からとんでもない速さの一つ目の鉄巨人が来た。その巨人は背中から二つの蒼炎を吐きワイバーンよりも速く、高く飛び、こちらに近づいてきた。そしてこちらを殴りつけた。軋むような音とともにワイバーンと竜騎士が潰された。なんとか振り切ろうとした矢先にまた別の鉄の矢に撃たれ海に堕ちたそうだ。

 

まったく理解できない。聞いたこともないものだった。それを聞いた後に彼は顔を青ざめぶつぶつと何かをつぶやき始めた。思い出させない方がよかった。

 

――――――――――

 

朝から治療をしている。3日経ってからまた死人が増え始めた。こんなの許されることじゃない。

 

次に船乗りに話を聞いた。こっちも訳のかわらない。聞こうとした途端に叫びだして来るなと大騒ぎをした。何とか落ち着かせて話を聞いた。

 

「お、俺らが船の上から鉄竜がどこへ行ったかさがしてたらよお、急にあいつらが降ってきたんだ。あの鉄人(ストーカー)が来たんだ。あれは人間なんかじゃねえ!化け物だ!急に船に降ってきて訳の分かんねえ光弾を撃って殺し始めたんだ。まず俺の乗ってる船の2つ隣がやられた。そしたらあいつらどうしたと思う?飛んできたんだ!バーンってな。勢いつけて船から船にジャンプしてきたんだ、うちの船で一番の力持ちが剣で叩き切ろうとしてもびくともしなかった。なんらなら片腕だけで吹き飛ばしたんだ!そんな相手だぞ!逃げるしかなかったんだ…俺が悪いわけじゃねえよ…」

 

とにかく落ち着かせることで精一杯だった。彼らは被害を聞きつけた港の人たちが船を出して助けにきたところで救われたらしい。その鉄人はまだ居て助けに行った輩も複数人殺されたそうだ。

 

そういえばまだあいつが帰ってきていない。あいつの性格なら助けに行っていてもおかしくない。

 

――――――――――

 

朝海岸を歩いていたらあいつがいた。少し体がおかしかったけど笑っていた。なのにこっちの声に反応をしてくれなかった、陽気に声もかけてくれなかった。なんでだよ。

 

――――――――――

 

墓を作っていたら声をかけられた。何をしているのかと。妙な服装をした男だった。話をしたらそれはあなたのせいでは無いと言ってくれた、とても気が楽になった。

男が全ての責任が今の王族にあると教えてくれた。確かにそうだ、あいつらがこんな戦争起こさなければこんなことにはならなかった。港の人も死ぬことは無かった。あの竜騎士だって船乗りだっておかしくならなかった。そしてあいつも…

ああ。そうか、神は死んだんだ。王なんていない。

 

男が共にこの国を皆が平等な国に正さないかと誘ってきた。1つ返事で承諾した。男が言うにはその正そうとする人達の事を同じ志を持つ者として()()と呼ぶらしい。今思い出すと質素な服装だったが、なにか惹き付けるような凄い人だった。彼に渡された赤色のカードはこの国を正すという志を持つ革命の証だそうだ。

もう心は決まっている。僕は同志と共にこの国を正す。彼が言うには同志はロウリアに1万を超える数がいて、この国以外の国にもそれ以上の人数がいるらしい。もしもこの日記を読んでる人がいてともに革命を起こそうと思うのならこの場所へ来てくれ。

 

――――――――――

 

 

ページはここで終わっている。文の下には場所と合言葉が書かれている。

港の近くの丘の上、持ち主が失踪したというその家の中で、本の保全のため日が当たらず比較的涼しい書室にいた。悪寒が止まらない。転移前からずっと行ってきた対テロや防諜作戦、転移後の赤狩りで培ってきた直感が非常にまずい事態だと告げている。それは理性とて同じで即座にこの情報が本国の指針を大きく変えるかもしれないと考え始めていた。

 

共産主義者はまだ生き残っている。さらに他国に根付き勢力を広げている、

 

非常に簡単な文章だがそれだけでも本国の政治家や情報部は腰を抜かすだろう。

 

「まずいことになった。緊急電を総理と情報部へ送りたい。」

「アーチャー。なにがあったんだ?」

 

急いで自身の相方であるオペレーターへコールする。

 

「赤どもがまだ生きている。なんなら連中この国でも革命を起こすつもりかもしれん。」

「本当か?…わかった内閣府と情報部へ特一級緊急電で送る。詳細な資料をデータで送ってくれ。」

「わかった。」

 

内閣会議室へと緊急電のアラートが鳴り、情報部へと伝令兵が駆け込んだのはそのすぐ後であった。

 




次話は少し遅くなるかも

一応の説明
ストーカー
自立型の戦闘用人型ロボット。サイズは成人男性と同じ程度で色は灰色で目が青いモノアイ。武装はLスターという光学兵器でピンク色のエネルギー弾を銃がオーバーヒートするまで撃てる。また体が非常に硬くパイロットの一撃で首や頭の骨をへし折り絶命させるほどの殴りを受けても壊れない。あとロボットなので脚部の力を使ってかなりの距離をジャンプすることができる。尚タイタンなどに踏みつぶされると爆発し、下半身がなくなっても這いずって殺しにくるホラー仕様。


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第十一話 情報

夜だぜぇぇぇぇぇ


日本国 首相執務室

 

「で…なんで君たちがここにいるんだ?」

 

定例会議の後執務室に向かおうとした矢先に秘書官からの来客知らせ、それも情報部の厳重警戒態勢の中で。おかげで首相執務室の前は物々しい雰囲気に包まれていた。

そして警備の中執務室の先にいたのは----

 

「まあ情報部長と参謀長がいるならおおよそなにかは予想できるがね…はあ、さてはロウリアは未だに徹底抗戦の構えなんだな?あれだけ君たち軍部が技術差を見せつければ降伏すると豪語しておいて。」

 

ビクッっと二人の長が肩を揺らす。図星であることは誰が見ても明らかだった。

彼らはその大きな失敗を報告しなければならなかった。特に情報部長は

 

「それに関しては言い訳のしようもありません…まさかあれだけの大敗をしておいてまだ戦争を続けるとは思わず…」

「言い訳はいい。で、情報部長がいるということは多少なりとも変化があったのだな?」

 

それに対して情報部長が返答する。

 

「はい。二つ報告があります。まず地上戦と海戦の結果による影響に付きましては()()()()()()()()()()()なんの影響もございません。」

「つまり王室以外はあったと?」

「そうです。王室では先の戦いの結果を受け止めることができずに未だ抗戦の構えです。しかしながら王室以外の有力貴族に動きがありました。

一部の有力貴族が王室から離反するような動きをみせており、これらを二つのグループに分けることとなりました。一つ目が王国内で謀反を起こし国を掌握せんとする仮称Aグループ。二つ目が王国を裏切り我々へと寝返ろうとするBグループです。

この二つは日に日に増加しておりもう少しでロウリアの貴族の内三分の一が離反することとなります。それに合わせ工作員をロウリアへ複数派遣しさらに離反を進めさせています。」

 

ほお。と首相が笑みを浮かべる。顎に生えた短い白髭を片手でさすりながら口を開く。

 

「なるほど…なら内側から壊すことができるわけか。まあそれに関しては詳細をデータとともに送ってくれ。」

「了解いたしました。」

「で、もう一つの報告は?」

「それが特一級の重要機密でして…」

「よろしい。一度二人きりにしてくれ」

 

首相の鶴の一声で室内の警備員と秘書,参謀長が部屋から出て行く。部屋には静寂だけが残った。

 

「ありがとうございます。ではこれをはじめにご覧ください。」

 

そう言って渡されるのは最重要と書かれた機密文章。

首相がペラペラとページをめくるたびに顔色が青ざめていく。

 

「これは…まずいな。」

「現地の工作員が発見した記録などを基に調べたところ情報部では()()()()()()()()()()()()()と結論がでました。そして首相以外の各大臣にも情報が送られそうになっていましたが取りやめさせました。」

「おいおい、これで革命なんて起きたら今検討中の全案が水の泡になるぞ。」

「それに加えてこれを。」

 

そして渡されるのは文章ではなく偵察機の撃墜記録と特務艦大連という名の艦についての資料だった。

 

「これは?」

「先日行われていた新世界北部のレイフォルと呼ばれる国の精密調査の任についていた偵察機の撃墜記録です。なんとか回収できた撃墜記録から未知の光学系兵器による攻撃と判断されました。偵察機のコックピットとエンジンを未知の光学系兵器が貫き撃墜、機体は回収できましたがパイロット二人は死亡しました。

それに加え反応が消失していた大連の反応が撃墜寸前に感知されており------

「待て。両方とも確かに重要な情報だが繋がりが見えん。どういうことだ?」

 

情報部長が苦虫を嚙み潰したような顔になる。

窓にぽつぽつと雨粒が落ち始めた。

 

「ロウリアにて確認された日本赤軍幹部の情報と撃墜記録等から情報部は…日本赤軍が未だに存続しており新世界にて拡大していることを結論づけました。」

「…確か情報部は転移直後の一斉検挙にて完全に壊滅したと言っていなかったか?」

「どうやらそれも全てブラフだったようです。」

「ならばあの大量にあった兵器類もか?」

「はい。あの兵器らもブラフであったようです。まさかあれだけの量をブラフに使うとは思わず…」

 

転移後の一斉検挙。それは日本が突然この世界へと移動させられた後1週間ほどで行われた日本国内に存在する危険分子を一掃するための情報部と警察の威信をかけたものであった。

結果としては大成功し、各種反乱作戦書や化学兵器どこから来た()のかわからない()銃火器。場所によっては旧式ながらも戦闘機やタイタンすら確認された。

そんなことだから完全に壊滅したと判断したのだ。否、思わざるを得なかったのだ。

 

「見事に騙されたって訳か…それで、ここからどうするつもりだ?」

 

首相の眼が鋭く光った。言葉にはせずとも次はないということを察するには十分だった。

 

「はい。申し訳ないのですが今後の戦略に付きましては参謀長が管轄するものであり…」

「いや、それは大丈夫だ。彼はもう口出ししない(左遷)からな。」

「…わかりました。」

「たのんだ。」

「初めにロウリアについてですがこれは現在再建中の第一航空艦隊と現保有航空戦力の内7割を使用しロウリアの首都ジン・ハークへ威嚇飛行及び敵残余航空戦力の殲滅を行います。これと現在進行中の離反工作によりロウリアは内部から崩壊するでしょう。

次にレイフォルについてですが、これは特務部隊による強襲によって赤軍の頭を叩き組織的抵抗を崩壊させます。」

 

ふむ…と少し悩むように首相が唸った。胸元から煙草を取り出し火をつける、薄暗い執務室に白煙が揺らんだ。

 

「レイフォルについてだがね、報告書では第二世代型のイオンを保有する可能性があると云っているが…最新装備相手に大丈夫なのかね?」

「それに関しましてはまずありえません。第二世代型タイタンは国内軍事技術の結晶ともいえる代物です。同盟国にすら渡せないレベルの機密技術の塊をそんな一組織へ渡すことはありえないことです。」

「ならその光学兵器はなんだったのかね。」

「情報部、研究部、陸軍技術廠の合同会にて携帯型対タイタン兵器で尚且つ光学系であるチャージライフルの設置型、簡単に言えば火力強化版であると判断されました。」

「よかろう。作戦開始に必要な書類をすぐに持ってこさせてくれ。」

「そんなすぐでよろしいので?」

「兵は拙速を尊ぶ…だろ?」

 

煙草を片手ににやりと笑った。

 

「ありがとうございます。それでは。」

 

情報部長が部屋を出て行くと入り口で待っていた秘書官が入ってくる。

 

「いつもの喫茶店へ行きたい、車をだしておいてくれ。」

「お仕事はよろしいので?」

「どうもきな臭くなってきたからな。君も休むなら今の内かもしれんぞ?」

 

よっこらせと重い腰を上げる。政治家になってからの中である腰痛は今日も元気であった。

 

「わかりました。天気予報だとこのまま数日は雨模様だそうですので傘を用意しておきますね。」

「ああ、頼んだ。」

 

二人が執務室から出て行く。部屋に雷鳴が轟いた。




初ZONEキメました


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第十二話 Society2.0

ロウリア王国 ジン・ハーク 王城 会議室

 

「それでこの事態を説明できる者は?」

「「……」」

 

その王の言葉に答えられる者はいない。

 

「…クワ・トイネ攻略隊と後方上陸部隊が乗船していた4400隻の船団及びその支援用の竜騎士が何者かによって壊滅させられました。その詳細な被害としましては----」

「そんなことはわかっておる!それに諸侯の内半分近くが離反していることも!

聞きたいのはそんな事ではない。その何者かがなんなのか、我が国は勝てるのかを聞きたいのだ。」

 

報告していた家臣は恐れを成して沈黙した。

ロウリア王国の最高権力者であるハーク・ロウリア34世の怒りに会議に出席した者たちも委縮してしまう。

 

「もうよい。パタジン、そなたから報告を頼む。」

「はい。諸侯に関しましては妻子を人質として王都に移動させました。そのためこれ以上の離反はないでしょう。しかし未知の軍については現在情報収集を行っており…」

「パタジンよ、つまり何もわからないのだな?」

「申し訳ありません…」

自らが大きな信頼を寄せていたパタジンにすら期待はずれな答えをされ、ハーク・ロウリア34世は怒りより呆れを感じ、ため息をついた。

 

「それで、どのようにしてかの国を屠るのだ?」

「はっ、現在の我が軍の戦力は離反されたにしても40万の兵と400弱の竜騎士という大陸一の軍隊がいます。このうち5万の兵と50の竜騎士を湾岸防衛へと残し、残りの全兵力を持って敵を撃ち滅ぼします。」

「なるほど。防衛を最小限に抑えて攻勢に出るわけだな?」

 

はい。とパタジンは会議室の大机に地図を広げる。

 

「詳細な作戦に付きましてはまず攻勢用の全兵力を国境付近へと展開します。そして----」

 

__________

 

「こちらアタッカー1、目標地点まで残り60。現在高度160000。レーダーに感無し、敵航空戦力確認できず。オーバー」

RC(ロウリアコントロール)からアタッカー1へ、高度3280まで降下されたし。オーバー」

「アタッカー1。了解(ラジャー)

__________

 

「こうすることで万が一戦力を一か所に集中させられてもそれを包囲することができます。これで局所的優位を取られたとしても対応することが出来るのです。また同時にワイバーンもいつでも展開できるようにしておきます。」

「なるほど。して、わしはクワ・トイネには大魔法使いがいるかもしれないと話をきいておるのだが。」

「それに関しましても王国の精鋭魔法使いがいつでも攻撃できるようこの地図にある青色の地点に待機させております。」

「ほお。そしてこの赤い点がワイバーンの待機している場所と?」

「はい。これによっていつでも最短で攻撃ができます。」

___________________

 

「緊急電です!王都上空に鉄竜を複数確認!指示を!」

「全騎スクランブルだ!急げ!」

「国境にいるワイバーンも全て回せ!」

___________________

 

「アタッカー1からRCへ、現在高度5000。敵航空戦力を目視で確認、ワイバーン350だと予想される。接敵まで20。」

「RCからアタッカーへウェポンフリー。繰り返す、ウェポンフリー。ただし民間人には絶対に被害を出すな、目標のみに攻撃せよ。」

「アタッカー1了解。」

___________________

 

「おい!早くワイバーンを全て出せ!残りの防衛用の50騎もだ!急げ!」

「王城で会議をしている方々を急いで非難させろ!魔信急げ!伝令兵もだ!」

「王都襲撃なんてただで済まんぞ!」

___________________

 

「アタッカー1よりアタッカー各員へ。敵航空戦力へ攻撃を開始する。一人30だ。本隊到着前に仕留めるぞ。」

「「了解」」

___________________

 

 

「会議中申し訳ありません!!」

 

パタジンが王と幹部たちに作戦を説明している最中、伝令兵が飛び込んだ。

 

「なんだ。すまないが後にしてくれ。」

「王都上空にて鉄竜が複数確認され、ワイバーン全騎で対応しています!直ちに非難を!」

「「は?…」」

 

避難のために近衛部隊の護衛とともに城を出た。しかし先ほどまで急げ急げと近衛部隊を急かしていた幹部すら黙る光景がそこにはあった。

 

「どうなっているのだ…なぜ、何故()()()()()()()()()()()()()のだ!」

 

空に見えるは鴨撃ちのようにバタバタと堕とされるワイバーン。鉄竜が放つ光弾にも光の槍や光線にも容赦がない。軍を統括していた自分ですら何かわからない。

 

「パタジン…あれは、あの光はなんなのだ!」

「わかりません!私にもなにがなんだかわからないのです!」

__________________

 

「連中の炎も大したことないな。」

「緊張して損でしたね。」

「まあ当たることもないがな。」

 

必死に逃げるワイバーンを後ろから圧倒的な連射力の機関砲で肉片へと変えながら口々に言う。数の差で色々な方向から攻撃をしてきたが鈍足なワイバーンでは意味がなかった。

 

「1より各員へ。トカゲと遊ぶのも終わりにするぞ。そろそろ我らが主役の登場だ。」

「「了解」」

___________________

 

400もいたワイバーンは今や宙に浮かぶ点と成っていた。それに対し空には十数の鉄竜が飛んでいる。

小さな爆発とともに最後のワイバーンが落ちた。それは400騎目のワイバーンだった。

誰もが体を硬直させている。目の前で起こっている出来事を理解できずに。

王国が誇るワイバーンが蹂躙されたこと?それも一つだろう。しかしあと一つある。

彼らの目の前には鉄の要塞が浮いていた。

 

「こんなものに勝てるわけがない…」

 

会議にいた誰かがそう言った。いや、もしかしたら自分かもしれない。

近衛隊に囲まれた前、いや空には鋼鉄でできた巨大な艦が数十隻浮いていた。

しかもその船団の周りには先ほどまでワイバーンを屠っていた鉄竜が数十機浮いていた。

一人兵が逃げ出した。先ほどまで見張り台にいたものだった。

一人は逃げだしたらもう止まらない。指揮官と思われる兵の命令をも聞かず次々と逃げ出していく。

 

「王よ!今すぐお逃げください!」

 

そう近衛兵の声で逃げ出そうとした皆の上を破滅の雨が飛び越えた。

 

 

 

 

 

 

日本軍第一航空艦隊旗艦戦艦飛騨

 

 

「アタッカーズリーダーより入電。トカゲ狩りは終わったようです。」

「よし。航空艦隊の全艦及び航空機に通達。高度を落とせ。」

 

モニターに映るのは戦闘機の光学兵器によってただの炭と化したワイバーンだった。どうやら乗っていた竜騎士に直撃したようで黒焦げになったワイバーンのみが一直線に落ちていた。

 

「アタッカーズリーダーよりさらに入電。目下にロウリア国王とその家臣と思わしき集団を確認せり、と。」

「おお!こりゃあ運がいいな。」

「運がいい…ですか?自分にはむしろ攻撃しずらくなったように思うのですが?」

「まあ、軍事的にはな。」

 

そう言って見せるは()()()()から送られてきた「現代の価値観で考えるな!」というありがたいお言葉の書かれた電子メッセージだった。

 

「だが政治的には違う。彼我の技術差を示すとして前線の兵からの報告は虚報だ。狂言だ。と投げ捨てれたとしてもロウリアの権力者、その当の本人達が直接見てしまったとなれば否定のしようがない。」

「なるほど。では今が技術差を見せつけるチャンスと言うことですね。」

「ああ、そういうことだ。まあワイバーンの撃墜だけでも十分だとは思うがな。よし、前艦へ下令。攻撃目標を各軍事施設へと設定、前艦攻撃を開始せよ。」

 

命令は即座に艦隊無線を通じて全艦へと伝達される。

それと同時に各艦のアラートがキリリと鳴り艦対地ミサイルが炎を纏い撃ち上がる。

攻撃目標は見張り台や湾口などの軍事施設。特に兵舎に狙いが定められていた。これは圧倒的な技術差を見せつける事とともに万が一降伏しなかった場合に兵の睡眠を妨げ使い物にならなくさせるためのものであった。

 

「降伏が先か。兵の反乱が先か。どちらにせよ現地のロウリア兵には同情ものだな。」




Society2.0… 農耕社会の意。まさにロウリア。


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第十三話 終結

新年度の忙しさは異常


 

「…パタジン、我が国は勝てるのか?」

 

誰もいない王城の廊下に木霊する。いなければならないはずの衛兵ですら今やどこかへ逃げている。

カーテンの隙間から夕陽が差し込んだ。

二つの影が遠く伸びる。

 

「暗殺部隊や補給部隊も動員して現在情報を集め計画を…」

「もう、正直に言って良い。」

「…はっ。」

 

王室には今や数少ない王城の守り人である近衛兵がいた。

 

「勝率は皆無かと…まずワイバーンが全滅しました。それに加え例の光の矢により兵舎が片っ端から壊されたことで残りの兵も皆野宿しています、不満が爆発するのも時間の問題でしょう。」

「さらにあれほどの技術力を目の当たりにしたら諸侯らも従わないだろうな。」

 

日本軍第一航空艦隊による攻撃はまずロウリアの航空戦力を壊滅させた。今やワイバーンは0騎だった。

そしてロウリアに対して最も被害を与えたのは兵舎への攻撃だった。ミサイルによる正確な攻撃は兵舎をその土地すら使えなくなるほどに耕した。

兵とて人である。であるならば良質な睡眠がとれなければ不満がたまる。荒地で毎日野宿などとても耐えられるものではない。

 

「今、できる限り早く降伏するのが最善手だろうな…。」

「誠に申し上げにくいですが。その通りかと。」

「パタジン、私はこの国の名誉に泥を塗る愚帝だったか?」

「もし、あの鉄竜を操る国が参戦していなければこの国は大陸を統一し列強に名を馳せていたでしょう。」

「歴史にもし、はないのだ。パタジン。今までご苦労だったな。」

 

そう言い残しハーク・ロウリア34世は頭上の王冠を下した。

 

 

 

 

 

 

 

日本国 とある番組にて

 

 

「えー先日執り行われたロウリアとの講和会議。そしてそれによって決まった講和条約に対して専門家の意見を聞いてみたいと思います。では丸内教授、お願いします。」

「はい。早速ですが条約について軽くまとめてみましょうか。

まず分かりやすいのが領土の縮小ですかね。」

 

番組では戦前と戦後と書かれたロウリア付近の地図が用意されていた。

 

「一目瞭然なのですが、クワ・トイネとクイラの国境付近。ここに新たな国ができていますね。」

「ロウリアの領土の一部が独立したのですね。しかしこれは何故ですか?」

「理由はいくつか考えられますが。まあ一つとしてはロウリアが大きすぎるからでしょうね。」

「確かに戦前ではクイラとクワ・トイネを合わせたほどの大きさですね。」

「いくら戦争に負けて疲弊しているといえどもこれ程大きいとクワ・トイネ、クイラ両国にとっては脅威ですからね。それを取り除くかのように独立した国々は二国のどちらかの属国のような立場になっています。」

「ではパワーバランスのために独立を?」

 

はい。と丸内教授は言った後再び説明する。

 

「まあそうなりますね。独立したのは戦時中に寝返った諸侯ですけどね。

とまあこのように国境の変更があったのですが…一つ専門家の中で疑問が出ているんです。」

「それは?」

「なぜここまで二国に譲歩したのかです。現在我が国は転移によって重度の労働力不足です。にも関わらず人手を持っていかれるというのは何の利点もないのです。」

「しかし戦争は日本、クワ・トイネ、クイラの三国対ロウリアの構図だったので二国に利益があるのは普通なのではないのですか?」

「確かにそうです。」

 

普通でしたら、と続ける。

 

「この戦争において、クワ・トイネ、クイラは何の活躍もしていないのです。」

「そうなのですか?」

「それでは先日公開された政府の資料と元外惑星派遣軍所属であった小山さんとともにこの戦争の流れをまとめてみましょう。小山さん、どうぞ。」

「どうも、小山です。では早速まとめてみましょう。」

 

ホログラムに映し出された全身とともに解説を始める。

 

「まず戦争の発端はロウリアによるクワ・トイネ侵攻でした。クワ・トイネは転移後の日本にとって食料不足を防ぐための最重要地域でしたので軍事同盟に基づき参戦したわけです。」

「この軍事同盟というのは国交樹立後すぐに結ばれたものですね。」

「はい。非常に早いものでしたね。これはかなり異例のもので…おっと、話題がずれてしまいますね。」

 

いけない、いけないと話を続ける。

 

「戦争自体は非常に早く終わっています。技術差が大きかったですからね。」

「たしかロウリアは銃を使っていなかったとか?」

「その通りです。まあ戦争における日本の死傷者がいない時点でお察しですね。」

 

さて、と映し出すは政府が公開した資料。

 

「まず初めての戦闘はロウリアとの国境線で起こりました。いわゆるギムの戦いです。」

「たしか、斬首戦術や新設部隊などの試験的なものが多い戦いだったとか。」

「そうですね。やはり実戦データは重要ですから。

話を戻します。軍の所存としてはこのギムの戦いにて技術差を示し降伏させるつもりでしたが…ロウリアは降伏しませんでした。」

 

そして…と地図を表示する。それはロウリアの主な軍事施設を表す地図でほとんどに赤い×が付いていた。

 

「一度でだめなら二度で、と次に航空艦隊による軍事施設の破壊を行いました。赤い×がその被害箇所ですね。現在はこの攻撃が決め手になったと言われています。」

「なぜこれが決め手に?」

「シンプルに戦争継続能力がなくなったからですね。兵が安眠と食事を取れなくなったら軍隊は終わりですからね。さて、ここで重要なのがこの戦争においてクワ・トイネとクイラの軍が一切戦争に参加していないことです。」

「確かに資料のどこにも二国の軍がいませんね。」

「そうなんですよ。それなのにここまで譲歩しているというのが本戦争のもっともの謎なんです。」

「本日は講和条約についてでした。次回はこの謎について深堀していきます。それではまた来週!」

 

 




次話は早めに出す予定。


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閑話

死んだ目のような暗さだった。想像ではない、実際に死んだ人間の眼は何度も見てきた。乾いた、それでいて気味が悪いほど淀んだ黒。

今自分がいる倉庫もそんな暗さだった。

少し冷えるのは最近感じる悪寒のせいではなくこの暗さのせいだろう。

埃の舞うここではそんな考えをすることすら嫌に感じた。

 

カッ

 

幽々たる空間に足音が響いた。

気づいたら腰の拳銃に片手が伸びていた。悪い癖だなと軽く嗤う。

 

「もう来てたのか。早いな。」

「時間通りは遅刻だと教わってたもんだからな。」

 

奇妙な組み合わせだった。片方は戦闘服を着た体格の良い男。もう片方は倉庫に似合わない糊が効いたスーツの男だった。

 

「それで、わざわざ呼んでなんのようだ?」

「…お前は率直なのが好きだったな。」

「遠回りな必要がなければだがな。」

 

静寂が二人を遮る。スーツの男が歩みを進めた。

 

「今後お前の部隊はレイフォルの赤狩りに行くだろう?」

「ああ、丁度昨日作戦会議だったな。」

「連中の保有する兵器についてはなんと教えられた?」

「第一世代型のタイタンと大量の歩兵装備、それに固定対空兵器が複数だったな。」

「やはりか…」

 

スーツの男は親指を拳に入れた。なにか課題にぶつかった時にいつもこうしていたことを覚えていた。

 

「数週間前からカナリアが鳴いたまま連絡を途絶している。」

「どこの毒を調べてたんだ?レイフォルか?」

「ああ。レイフォルのもそうだ。」

「だがそれだけじゃあ俺を呼ばんだろう。」

 

だろ?と問えばそうだ。と返る。

 

「問題なのは国内で赤の残党狩りを、さらにいえば軍内を見張っていたカナリアが消えた。そして…」

「待て待て…つまり軍に赤がいるって言いたいのか?しかもそんな大胆に動けるほど。」

「わからない。これに関しては上も本腰を入れている。すぐに片が付くはずだ。

で、一番まずいのはその際に哨戒ヘリの撃墜記録が持ってかれたってことだ。」

 

哨戒ヘリ。レイフォルの詳細なデータを求めていくつかのヘリを飛ばしていた。そしてそのうちの一つが赤の基地を偶然発見し、赤によって撃墜されてしまったはずだった。

 

「乗員の保有していたカメラのデータは解析できていたんだが…いささか画質が悪かったり記録が飛んでいたりで使えなくてな。ヘリの記録も解析していたんだがそれを狙われた。」

「そりゃまあ大変だな。でも記録から兵器やらなんやらのデータはわかったんだろ?」

「それについてを言いに来た。お前が聞いた対空兵器ってのはどんなだ?」

 

少し思い出す。確か光学系の超高出力レーザーを使ったものだった。

 

「それなんだがな。撃墜記録の断片的な解析結果によるものだが、うちの(情報部)兵器廠によると第二世代型タイタン、イオンで間違いないそうだ。」

「…第二世代?なんの冗談だ。それじゃあ前提が狂うぞ?」

 

兵器において世代が一つ違うというのは雲泥の差が生まれるものだ。

 

「それが本当だとして技術部は何故言わない?」

「こちらもそれが謎なんだ。うちでわかったのに向こうがわからないなんてはずがない。」

「まさかだが、技術部にまで赤がいるのか?」

「…否定はできない。」

「ほんとうにどこにでもいるな。」

 

少しあきれてそう呟いた。

 

「だからできるだけ気を付けて臨んでくれ。」

「そういわれてもな。上にタイタンを輸送するように言ってみるか。」

「いや、恐らく却下されるだろう。これだけのことができるとしたらそうとう上の者だからな。」

「そうなるといよいよ詰みだぞ。」

「そうならないために言いに来たんだろう。」

 

乾いた笑いが木霊した。

 

「わかった。まあ予定よりも重武装にするくらいなら通るだろう。精々気を付けてみよう。」

「死なれたらこっちも困るからな。隊長さん。」

「まあ大丈夫だろう。」

「お前にしては楽観的だな。」

「俺の感は当たるんだ。それに後釜はもういるからな。」

 

 

 

 

 

キィィ

 

 

「この荷物は?」

「D-5326番だから…そこへ運んどけ。」

 

倉庫に新鮮な空気が入り込む。二人の姿はもうなかった。

 

 

 

 

 

「情報部ももう少し頑張ってほしいもんだな。」

 

倉庫から離れた町の中、人気の少ない路地裏のもう数少ない、骨董屋にでも売ってそうな煙草の自販機の前にいた。

 

「まじか…この種類のやつ売り切れかよ。ネットで売ってるか?」

 

最後のひと箱を片手に歩きだす。集合場所は近くの軍港だった。

 

「にしても…本当に、悪い感はよく当たるんだよなあ。」

 

 




感想をもらえるととてもとても喜びます。


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第十四話 近代化①

風邪君さあ、ゴールデンウィークくらい休めよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ


日本外務省 本省

 

「ですから!無理なものは無理なんです!」

 

今日で丁度10回目を迎えた怒号といえるその声がした少し後、クワ・トイネの外交官が部屋から出てくる。

すでにこの事態に慣れてしまった外務省の職員らから憐みの眼で見られている彼らは落ち込みで背筋が曲がっているのも相まってさながら雨に濡れる子犬のようだった。

 

「また例の?」

「ああ、また軍事技術の供与を求めてきたよ。」

 

怒号の発信源であるその部屋ではその対応に疲れ果てている職員。クワ・トイネに関する基本的な外交を司る長がいた。

 

「また報告書を書かなきゃならん…あああ、また休みが潰れるぅぅ」

 

悲鳴とともに机に潰れるのを秘書が憐みの眼で見る。さもありなん、彼は今日で20連勤を達成していた。

 

「向こうも向こうでなんとか技術供与をもぎ取ろうと必死ですからね。」

「それだってなんの技術を渡すか考えてる最中じゃないか。」

「コーヒーは?」

「アイスで頼む。頭を冷やさんとやってけんな。」

「お疲れ様です。」

 

 

「技術供与」

最近になってクワ・トイネから猛烈に求められている案件だった。求められているのはインフラ、農業、運搬、製鉄エトセトラ…そして特に猛烈に要求されているのが軍事技術だった。

 

「元はといえば向こうの観戦武官が来るのを許可したのが悪いのではないか…まあしなければ信用が取れなかっただろうが。」

 

さてこの要求している軍事技術。もとはといえばそこまで要求されておらず、どちらかといえば運ぱんやインフラ、建築技術を多く求められていた。

しかし事態は対ロウリア戦、その際のクワ・トイネの観戦武官の報告によって変わる。曰はく、

「開戦して一刻足らずでギム攻略隊を全滅させた。」

そんな報告を信じれるはずもなく、クワ・トイネは日本に追加の観戦武官を送る許可を要請し日本は快諾。なんなら信用をとるためと戦艦飛騨の戦闘用カメラの映像を数秒遅れでライブ配信をした。

 

「十数隻で…4000隻以上を?…」

「なんだあの鉄の魔人は…」

 

まあ反応は恐怖や驚きと千差万別だったが、まあそんなことは関係ない。これによってクワ・トイネ政府の重鎮らの思いが一つとなった事が外交官らを苦しめているのだ。

 

「今すぐに彼の技術を!」

 

その一心でクワ・トイネ政府は交渉を始め今に至る。

 

「それにしても向こうはかなり強いカードを持っているからな…」

「食料の輸出ですか。」

「そう。あれだけはやめて欲しいんだよなあ。」

「向こうも向こうで必死ですからね…まあもう少しで軍からも連絡が来るでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

日本軍 総合作戦本部 第一会議室

 

「で、次の議題は…。クワ・トイネへ供与する技術についてだ。」

「正直結構難しい話なんだよな。」

 

航空艦隊指揮官がそう言う。会議には陸軍参謀総長、空軍参謀総長、技術部長、情報部長などの軍の名だたる人物が集まっていた。

 

「いきなり高い技術を与えると向こうの文化や習慣を壊しかねんからな。陸軍としても慎重に議論をしたいところだ。」

「議論をするのはいいのですが外務省からなんども急ぐように連絡が来てることも配慮しなければなりません。そこで技術部からの提案があるそうだ。」

 

その司会の声とともに技術部長が声を上げる

 

「正直なところこれでもかなり過剰な供与だと思いますが、将来的に我が国の技術と同等まで彼らを育てると仮定した場合…航空機は初期型のジェット推進型の機体。戦車は現代型戦車の初期型。銃火器は基本構造のアサルトライフルと、まあこのような形を取ろうかと思います。」

「どれも同じ時期のものだな。」

「はい。2000年前後、所謂第二次世界大戦と第三次世界大戦の間期のものとなります。」

「どれも骨董品ばかりだな。」

「しかしその骨董品でも彼らにとってはオーバーテクノロジーなのです。」

 

そりゃそうだ。と各出席者が頷くのを満足気に見て続ける。

 

「現代軍事技術の始まりがこの時代なのです。音の壁を越え万能型の兵器を作製し高速演算のできる機構を搭載する。これができないのならば、まず我々と同等の技術は使えません。」

「それで、詳細は決まっているのか?」

「一応は。まず航空機としては第五世代戦闘機、一応はF-35と呼称されていたとされる機体をベースとしてその改良型を理論と合わせて提供します。次に戦車。戦車といたしましては第3,5世代のレオパルトを使用する予定です。こちらも同様に改良型と理論を提供します。本当はタイタン技術の供与を行いたかったのですが…正直な所ニューラルリンクや高度なAIを理解するのにそうとうな年月を必要とするためタイタンに関しては人員をクワ・トイネから派遣してもらい、こちらで訓練をする。という形になります。」

 

会議室を見渡すと全員がつゆほども不満がないのを確認できた。

 

「では、クワ・トイネへの軍事技術供与は技術部の提案通りでよろしいですね?…わかりました。それでは全会一致でこの案に決定いたしました。では次の議題に移りましょう。先日提案された航空艦隊への臨時予算案についてですが…」

 

かくして会議で決定された事項が外務省へ伝えられそのままの流れでクワ・トイネの外交官らへと伝わる。それはクワ・トイネ軍の近代化への第一歩であった。

 

 



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第十五話 近代化②

日本軍第三特殊訓練場パターンB

 

「21番はだめだな。あれはパイロットに向いていない。」

「30番はいいんじゃないか?流石獣人といったところか。」

 

パターンB、模擬的に再現された、しかし本物と大差のない高く鋭い山々をなんの装備も持つことを許されずに登る訓練生を見ながら監督官が言う。目の前では丁度21番と言われたクワ・トイネの兵士が山から転落するところだった。

 

「この試験で半分でも残ってくれたらいいんだがな…。」

 

今行われているのはクワ・トイネパイロット選抜試験、その第一次選抜試験だった。

クワ・トイネの外交団と軍事技術供与についての話し合いを終えて5日後、非常に早く募集が始まった。対象は一兵卒や竜騎士、将軍まで全ての兵士だった。

圧倒的な技術を誇る国から特別な訓練を受け、最新鋭の兵器を贈られるとあって希望者は全軍の8割にも達し、その面接に一週間を要しての選抜試験。面接でほとんどの者が落とされ100人まで縛られた事もあり試験に参加するのが第一選抜と言われる程の苛烈さから選ばれた者はクワ・トイネ軍内でもエリート揃いであった。

 

「ここからモナークを除く6種のタイタンのパイロットか…本当に6人もパイロットになれるのか?」

「なってくれなくては困る。と、言いたいところだがなぁ。」

 

第一次選抜試験。基本的な身体能力や精神力、判断力を判断するそれは初めに熱帯雨林から始まり砂漠、森林、洞窟、豪雪地帯そして最後に高山といくつかの場所を自分の身一つで乗り越えさせるものであった。

結果として100人いたクワ・トイネ兵士の内60人が不合格。残りは40人となった。

 

 

 

第二選抜試験

 

「なんだよ。なんなんだよここわぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

12と背中に書かれた戦闘服を着た獣人が叫ぶのと共に戦場の女神こと砲撃が着弾した。彼がいるのは鉄嵐吹き合う戦場。いや実際には大体が仮想空間のAIで作られた虚構であるのだが。

第二選抜試験。第一次選抜試験から3ヶ月の銃器等の訓練期間を置き実施される本格的な慣らし。内容は味方陣地から基本的なライフルマンの装備を持っての敵陣地潜入。

本来ならば敵陣地殲滅から敵援軍の撃破。その後攻撃を受けている味方陣地へ帰還し防衛戦という流れだが流石に3ヶ月の訓練のみでは厳しいだろうと簡単にされていた。

 

「12番頭部に被弾判定により脱落。ホログラム終了、回収班は行動を開始して下さい。」

 

大体がホログラム。と言った通り全体の内2割程は本職の兵士。一個歩兵中隊*1約200に加え直掩のパイロット2名が非殺傷弾を用いて攻撃していた。

 

「2,14,37番陣地潜入成功。残り25名です。」

「初めて合格が出たな。状況は?」

「合格者の2,14番は脚部に被弾1、37番は左腕喪失判定です。」

「おお、よく胴体無傷で来れたな。」

 

若干の感嘆とともにホログラムを終了した不合格者群を見れば今度は落胆の声が漏れる。

 

「たかがホログラム程度で恐怖に飲まれるとはな。やはり短期教育ではこの程度か。」

「戦況報告です。」

 

監督室のモニターに本部から派遣された情報官がマップを表示する。

 

「26人は現在4つの集団に分かれています。それぞれ甲乙丙丁と呼称します、またそれぞれの人数は10,6,3,6です。まず最前線の防衛小拠点にて孤立している甲集団については同じく前線に張り付いている第一第二小銃小隊による攻撃によって身動きがとれていません。また多少の反撃はありましたが体を出す度に直掩のパイロットによって狩られ数を急激に減らし残り10となりました。次に乙、前線の主力部隊、まあホログラム群ですが、これと同伴し前線を押し上げ拠点へ向かおうとしています。」

 

「連中には潜入と言ったはずだが?」

「初めての戦場で興奮してそれどころではないのでしょう。実際心拍数が最も上昇している集団です。どうしますか?」

「一応1,2小銃小隊の直掩パイロットに適度に恐怖を与えるように言え。」

「了解しました。3つ目、丙ですが前線右翼の際に展開しており最も連携が取れています。どうやら側面部から侵入しようとしているようで今までの接敵も三人でカバーし合い切り抜けるほどの協調性があります。しかし拠点防衛の任に付くパイロットが検知し急接近しているため時間の問題かと。」

 

その発言とともにマップに表示されている青い3点に急速接近する赤い点が見えた。残り800m。その表示とともに三点が儚く消え赤点は再び拠点へと向かった。

 

「最後に丁ですが…敵役のAI群から装備を強奪し、変装しながら拠点へ向かっています。」

「考えたな。確かに潜入なら…いけなくもないか。」

 

 

数分が経ち仮想空間内では甲乙以外の訓練生は不合格で原隊送りか合格をつかみ取っていた。勿論彼らは丙が長距離から何も感じることができずに頭部に着弾判定を喰らったことや丁のほとんどが重度の被弾判定を喰らいながらもなんとか合格したことを知らない。

そんななか

 

 

「なんだこの金切り音は!」

「わからない!でもとにかく先に拠点へ行かないと!」

「でもどうやって!」

 

仮想空間に鳴り響く警告音。時間切れの合図だった。しかし時間切れとはいえ即座に不合格ではない。

 

「中隊長から各員へ通達。ひよっこ共を現実へ送り返してやれ。」

 

ではどうなるのか?

 

「主力部隊に混ざっている奴らはパイロットに教育してもらえ、俺らは小拠点に籠ってるやつらを叩くぞ!」

 

簡単なことだ。

 

「行動開始!」

 

 

 

 

「時間切れだな。」

「まあ合格者は12人出ました。まずまずでしょう。」

「後は蹂躙を訓練生に味わってもらうだけか。」

 

モニターに映る仮想空間。そのクレーター、いや元小拠点には今もなお迫撃砲の嵐と銃弾の雨が降っていた。

 

「甲集団残り2名。乙集団…」

「こりゃひどいな…。」

 

画面に映るは虐待ともいえるそれ。二名のパイロットが試験内容を忘れた6人の訓練生に鉄拳制裁をしていた。

しかもえげつないことにしっかり重要な部位の骨を折って。

 

「あ、甲集団全員終了しました。」

「ああ、わかった。乙集団はまあ、もう戻してやれ。」

 

 

 

そうして第二次選抜試験が終わる。残ったのは12名、しかしその半分は試験後にPTSDを発症してしまい辞退。結局試験の恐ろしさがクワ・トイネ軍全体に広がり新たなパイロット候補生6名が誕生という結果になった。

*1
小銃小隊4つ 迫撃砲小隊1つ 自立機械小隊1つ




何気にパイロットって初期の攻撃ヘリ的な運用されてると思うんすよね。
後この時代の日本って何個師団くらい持ってるんだろ。


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第十六話 木と鋼鉄

クワ・トイネ軍訓練場?

 

とある大草原に日本軍の関係者十数人とクワ・トイネの政府官僚、軍事卿、そして首相のカナタまで集まる非常に珍しい光景があった。

クワ・トイネ軍対近代化クワ・トイネ軍。技術供与でどれだけ変わったかを確かめる模擬戦である。

 

「では定刻になりましたので模擬戦を開始いたします。ルールは先に部隊が壊滅したら負け、という簡単なものですがここはクワ・トイネ軍の訓練場を仮想空間で再現したものですので兵器や武器は全て実際のものとなっています。」

「仮想空間というのは?」

 

首相のカナタがそよ風の吹く草原で不思議そうにそう問う、周りの官僚も同じような反応であった。皆「かそうくうかん」を「仮想空間」へと変換することはできたがそれでも意味がわからなかった。

 

「専門的なことはわかりませんが仮想空間というのは現実世界と同様な条件下をコンピュータによって再現し、それを脳へと直接電気信号で送り…まあ要するに現実と全く同じ世界の夢のようなものです。ここでは貴方方がいくら物を食べようが実際に腹が膨れることはないし、ケガをしても目が覚めれば元に戻っています。そんな都合のいい空間ですね。」

「…よくわかりませんがなんとなくはわかりました。」

 

仮想空間と言われたここは現実と遜色のないものだった。周りを見渡せば快晴の空と心地の良い風が草を揺らしている。

では、と幾人かの職員が個別に詳細な説明を始める。カナタに近づいてくる職員はいなかったが先ほど仮想空間の説明をしていた風間という男がアイサインを送っている事に気づき近づく。

 

「風間さん、なにか?」

「最終確認のようなものです。例の方々は呼べましたか?」

 

周りに聞こえぬように小声で語り掛けてきた風間に少し近づき返答する。

 

「はい。改革反対派。保守派。ともにその頭を連れてこれました。まあどちらも軍務卿なのですが…。」

「まあ愛国心からの態度でしょう。軍人の職業病の様なものですよ。」

 

風間は苦笑いをしながらそう言うものの目からは甚だしい程迷惑だという気持ちが読み取れた。

 

「あはは…さすがに軍務卿も結果が見えれば考えを変えますよ。」

「そう期待しています。おっと、失礼……ああ、わかった。他のクワ・トイネの方々にも通達を頼む。

どうやら準備が整ったようです。行きましょう。」

「わかりました。」

 

カナタは供与された兵器の概要や仕組みなどは知らされていたものの実際に運用しているところは見たことがない。国内の有力な研究者や学者は日本へ派遣され技術を夜通し叩き込まれているそうだが…さもありなん。これで結果がでれば改革がさらに進むだろうとカナタは確信し官僚らの場所へと小走りで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「普通科、機甲科含む全中隊の準備が完了しました。」

「わかった。最後に全中隊長を呼んでくれ。」

 

敬礼をし模擬的に再現された野営地へと走る部下を見てクワ・トイネ軍の軍事技術供与部隊、日本側からの通称クワ・トイネ試験的近代化連隊の指揮官であるモイジは呟く。

 

「立候補して正解だったな。」

 

目下に並ぶのは日本から供与された数々の兵器とそれらを扱う兵士だった。しかしそれは連隊分。1000人ほどで全軍ではない。これの原因を話すには少々時間を遡る必要がある。

 

―――――――――――――

 

 

「軍務卿としてはこの軍の近代化に反対である。」

「なぜですか!」

 

時は軍事技術供与が決定した二日後の会議。突然の軍務卿の意見に首相カナタとその一派は憤怒した。

 

「我が国にはもとより5万の勇猛果敢な兵士と洗練された竜騎士がいる。それなのにわざわざ向こうに頭を下げてそんなものをもらう意味がわからん。それに未知の技術と騒ぎ立てているがそれがどれほどかもわからんのだ。」

「それは今向こうに実際に見せてもらうよう交渉を…」

「それも供与することが決定しなければ無理の一点張りと聞いていますがな?」

 

会議は首相カナタ率いる改革派と軍務卿率いる改革反対派によって大嵐のようであった。後の日本側の調節官が同情するほどに。

とはいえ全員が全員どちらかの派閥にいるわけではなく多くの者は未だ決めかねていた。そしてその無所属を取り込むため、一つの落としどころにはまった。それは___

 

「試験部隊編成から約半年。新しいことばかりでしたね。」

 

天幕の下、一番に到着した第二中隊の指揮官が懐かしそうに言う。

軍事技術供与が決定してから数日後には日本から軍事顧問団が到着。訓練が始まった。

内容は半年で使い物になるようにするためにフルタイムで入れられ使える技術は仮想空間から増強剤などの薬品まで総動員された。

 

「座学だけはもうしたくないな。」

「同感です。」

 

半年間に基本的な体の使い方や銃火器、兵装の使い方、CQC、各種座学を叩き込む促成どころではないそれは訓練場を不夜城と化させ重度のストレスによる胃潰瘍患者を量産させた。

尚、最先端医療により即座に治療。原隊送りとなる。

 

「作戦は以上だ。我々連隊1000人対10000人だが、あの地獄の半年を過ごしてきた我々ならできると信じている。」

「「了解!!」」

 

全中隊長に作戦を伝え終わり指揮下の中隊に戻ろうと言うとき、第一中隊長が質問する。

 

「連隊長…質問なのですが、あそこにいるヘルメットを被った人達は?」

 

天幕の少し先には異様なヘルメットを被る兵士達がいた。しかしどうもその半分はなんというか畏怖や絶望のような雰囲気をしており訓練中の自分たちと教官を彷彿とさせた。

 

「あれはクワ・トイネ軍唯一のパイロットである6人。その内の半分だ。」

「ではあそこにいる残りの半分は?…」

「可哀そうなことに彼らの専属教官だ。」

 

クワ・トイネ軍のパイロットは結局獣人が2人。竜騎士から3人。素歩兵から一人という割合であり訓練が本格的に始まる前、超高倍率の試験を突破した6人、特に軍の中でもエリートであった竜騎士組は「これなら訓練とやらも余裕だろう。」と特有の傲慢さとプライドを見せていた。

そしてそれに苛立った日本軍パイロットが一人二人三人四人…と増えていき最終的には教官交代制一日20時間訓練という極地へと達していた。当初は睡眠時間が足りない、休息が足りないとなんとか時間を捻出しようとしたがそうもいかず。医務官とコネがあるパイロットたちが専属医務官を就け強引に健康状態を機械とお薬によって保った。さもありなん

 

「パイロットに選ばれた元竜騎士の一人が小官の知り合いなのですが連絡を一度取った時に『緊急連絡でないならやめてくれぇ!こっちは少しでも休みたいんだ!!』と怒鳴っておりました。」

「まあ今回は彼らも参加する。哀れなパイロット達には申し訳ないが頼りにさせてもらおう。」

「終わったら飲みにでも誘ってみましょうか。」

「さすがに彼らの教官もそれくらい許してくれる…はず。」

 

 

 

 

 

 

 

「一万対千とは向こうも馬鹿なことをしたな。」

 

首相や連隊のいる逆側の天幕に軍務卿はいた。彼の目下には伝統的な兵装の歩兵が8500。騎兵が1000。魔法使いが500。そしてワイバーンが30程と歩兵以外はほぼ全兵力が集結していた。

 

「軍務卿殿。そろそろ開戦の合図が鳴ります故お下がりください。」

「わかった。将軍。頼んだぞ。」

 

紋章の飾られた高価な馬鎧を纏った馬に跨るクワ・トイネ軍総大将に軍務卿はそう頼む。彼が軍務卿の役に就いてからの間ずっとともにし、成長してきたクワ・トイネ軍を信用しており負けることなどひとかけらも想像していない。

 

「わかっております。どこの馬の骨ともわからぬ技術を易々と受け入れた奴らなど容易く粉砕して見せましょう。」

 

 

時は中央暦1639年9月14日

軽快なラッパの音とともに近代クワ・トイネ軍の歴史が幕を開けた。

 




コメントや感想くれると僕の健康状態に良い影響があります。


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第十七話 鋼鉄の鞭

誤字脱字報告ありがとうございます。とても助かりました。


轟轟たる馬の蹄が地を削り駆ける。騎兵500の一斉突撃だ。

 

「アイク!連中の座標は!」

 

今か今かと攻撃の準備が整った迫撃砲小隊の一か所で声が上がる。

 

「現在座標D3!目標地点まで後10!」

「いつでも撃てるように準備しとけ!『…FDC(射撃指揮所)から全迫撃砲小隊へ。攻撃を開始せよ。繰り返す、攻撃を開始せよ!』 おい!お前ら聞こえたな!攻撃開始だ!」

 

上等な鎧を纏った騎兵が有効射程内へと踏み込んだ。その瞬間待ってましたと言わんばかりに全迫撃砲部隊から砲声が轟く。

 

「弾着ーー今!効力射!繰り返す、効力射!」

「撃ち続けろ!連中をシミにしてやれ!」

 

山なりに飛んだ砲弾は次々と騎兵を消していく。一つ砲声が鳴るたび地がえぐれ、馬が飛んだ。

そのまま砲を撃ち続けおよそ6発ほど撃ったところで皆が手を止めた。

 

『空域管制より各員へ。敵ワイバーンが超低空で砲撃陣地へ肉薄を開始した。味方航空戦力が迎撃を開始。留意されたし。』

 

「隊長どうしますか?」

「いいや、大丈夫だ。見てろ…」

 

隊長が電子地図とともに少しずづ影の大きくなるワイバーン達を見る。

「3…2…1…今だ!」

 

BANG! 

 

超低空で侵入したワイバーンに頭上から死が降り注ぐ。12機のF-35からなる飛行戦隊だ。

 

「さすが空対空ミサイルですね…そういえば隊長は戦闘機部隊を希望していたとか。」

「次その話をしたらお前が内緒で持ってきた本。全部没収だからな。」

 

 

――――――――――

 

クワ・トイネ軍本陣

 

「報告します!」

 

ガチャガチャと鎧の音を鳴らしながら伝令兵が膝を着いて声を上げた。

 

「突撃した騎兵500全滅!また共に送られたワイバーンも半数以上が死亡し、現在本陣へ帰還中です!」

 

その場にいた全指揮官が苦虫を噛んだような顔をする。それは彼らが意気揚々と実行した自慢の騎兵とワイバーンによる攻撃作戦がいきなり頓挫したからであった。

 

「まだ兵は1万居る。確かに騎兵が消えたのはでかいが何とかなるだろう。」

「これは定石通り歩兵と魔法使いによる攻撃が良さそうだ。戻ってきたワイバーンもそこに回そう。」

 

そうして指示が前線の歩兵たちへと伝わっていく。前線の状況を正確に把握できていないのに。

 

 

 

 

 

「お前もこの違和感を感じるか?」

 

今年で兵の職に就き10年、それも山賊討伐を日々行っている彼にその戦友が声を掛けた。

違和感。首に何かが絡みつき今にも首を噛みちぎらんとしているようなそれ。

 

「ああ、まったく敵の兵が見えん上にあの爆発だ。奇妙すぎる。これで進軍するというのはな。」

「ったく…近代化部隊とやらは本当に気味が悪いな。」

 

騎兵が突撃して少し経ってからの爆発。気味が悪いと思うのも無理がない。

隊の数人が悪態をつく。彼の隊は半分ほどが歴戦の戦士でその半分が新兵に毛が生えた程度の者だった。

 

「隊長。ワイバーンが見えます。…何かに追われている?」

 

新兵で斥候の一人が片手剣を腰に携え、走りながらそう報告する。彼は本隊から数百m程離れた場所で偵察をしていた。

 

「追われている?どういうことだ?」

「言葉の通りです。何か竜騎士が叫びながら回避行動をとっていました。」

「…わかった。それで敵のワイバーンは?」

「見えませんでした。全て自軍の旗と紋章でした。」

 

斥候を任されるほどの観察力と視力を持つ彼が勘違いや見落としをするはずないと確信し彼に新たな任を任せる。

 

「わかった。とりあえず隊の弓兵10人と魔法使い2人を連れていけ。それでなんとか…『ワイバーンが落とされた!逃げろ!』なっ!

全員散開!草に隠れろ!」

 

視界を45度上げれば味方のワイバーンが数騎穴だらけになり落ちていた。即座に戦列を解かせ隠れさせる。

 

「どうなっている!?」

 

 

 

―――――――――――

 

「新兵どもは?」

「敵陣への奇襲を成功させたようです。」

「よし。…しかし面白いことを考えたな。」

 

連隊司令部付近の丘。そこで三人の教官パイロットがヘルメットの付属機能である少し青みがかった高倍率スコープで3つのワイバーンを見ていた。

そのワイバーン達は本来はクワ・トイネ軍の先鋒として攻撃する…はずだった。

しかしそれらが本来背に乗せるべき騎士の姿はなく、そこには3人のパイロットが乗っていた。

 

「あれならば確かに攻撃されまい。」

 

教官の一人がよくやったものだと呟くものの若干体幹が乱れていることを脳内にメモしていた。

 

「三人からタイタンフォールの申請がきました。」

「許可してやれ。」

「了解。では戻りますか。」

 

タッと地を蹴る音がしたと思えば次の瞬間彼らは丘から飛んでいた。丘の麓の司令部へと向かうために。

 

 

 

 

「バレット1.2.3がタイタンフォール。全砲撃部隊へ支援砲撃命令を発令。」

「タイガー、バンカー部隊へ前進命令、各部隊も歩調を合わせ。」

「司令部からホークスへ。D3からE1へ航空支援命令。」

 

司令部では次々と攻撃を開始する命令が発されていた。そして最後の攻勢命令が発される。

 

「全部隊へ通達。所定の行動を開始せよ。繰り返す、所定の行動を開始せよ。」

 

 

 

その命令を聞いたベアー1こと第二歩兵中隊指揮官カル―大尉は自隊へ声を上げる。

 

「聞いたな!攻勢開始だ!全員タングデサントだ、タイガー中隊が俺たちを運んでくれるぞ!」

 

後方から全速力で前進してくるタイガー中隊の戦車へと歩兵が向かっていく。少し経てばタングデサントが完成する。

 

 

「GO!GO!GO!タイガー中隊全車進め!横のバンカー共に遅れるなよ!」

 

前を見れば砲兵隊による砲撃で弾け飛ぶ敵歩兵。横を見れば戦車、戦車、戦車。後ろには土煙と、砲が耕し歩兵が進むを昇華させた光景がそこにはあった。

 

「砲兵ども血気盛んだな!こっちの取り分がなくなっちまう!」

 

戦列歩兵は砲の格好の的。彼らが初めに学んだものであった。

 

「数カ月前までいた仲間もいるので少し気が引けますね。」

「んなこと言ってたらなんもできないだろ!いいから進め!」

 

シミが目立つクレーターにたどり着けば敵の残りが待っていた。敵の本陣はすぐそこだ。

 

「ベアー各員降りろ!攻撃開始だ!」

 

積み荷がなくなった戦車達は待ってましたと砲撃を開始。土煙を上げながら赤外線カメラで歩兵を薙ぎ払っていく。

 

ドンッ!!

 

(ホークス)どもの航空支援だ!さっさと終わらせるぞ!」

 

最初の奇襲により三体のタイタンの蹂躙を喰らったクワ・トイネ軍はさらに砲撃とミサイルで三分の二以上が削られた、そしてタングデサントした歩兵と戦車によって最後の一撃を喰らい壊滅。数刻も経たないうちに本陣まで浸透し戦いは大差で連隊が勝利した。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

「では、全面的にクワ・トイネ軍に対しての訓練を開始してよろしいですね?」

「よろしくお願いします。」

 

その日のうちに無所属だった官僚らが余りの結果に少し青ざめながら近代化賛成派へ変わり、さらに元々反対派であった官僚らからも寝返りが多発、結果として次の会議でクワ・トイネ全軍への近代化が満場一致で決定し、カナタ首相によって日本との話し合いが始まり数日後には訓練が開始されることとなる。

クワ・トイネが本世界で二番目の軍事力を保有することとなることはその数か月後だった。

 

 

 

 

 

 




感想とかよかったらお願いします。
後3日後くらいに次話出ます。多分恐らくきっと気が向いたら。


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閑話 歓迎

レイフォル潜入エージェント コードネーム「ロート」が入手した音声記録。データ破損が深刻であったために完璧な復旧は不可能と判断。

 

 

 

 

 

「やあ████同志。…うん?君はずっと立っていたのか。勤勉だな、よろしい。立ち話もあれだからな、さあ席に座ってくれたまえ。」

 

ガサッ

 

「この資料が気になるのか?ああなるほど。君は自分が何か大失態でもして粛清対象にでもなったと、それか何か上の失敗を押し付けられたとでも思っているようだな。確かにそのような事は起こり得るかもしれんが…そんなに焦らなくても大丈夫だ、むしろ反対の事だからな。」

 

ガっ

 

「これくらいの歳になると立っているだけでも体が痛くてね、私も座らせてもらおう。…まあ話を続けよう。君はいまや『共産党選挙委員会』の一員だ。いいや、降格処分でもないし増しては粛清待ちという訳でもない。……そうだな君はこの委員会についての様々な皮肉や煽り言を聞いているだろう、もしくは君自身も言っているのかもしれないな。

…おっと怖がらせてしまったかな。安心しなさい、ここでの会話はなかったこととなる。そう、例えば「共産党選挙委員会に入れば一生安泰だ!なんたって一生そこから出世もできないからな!」とこんなものを聞いたことがあるだろう。」

 

 

「ああ、やはり聞いたことがあるだろう、いいや、私もこのジョークは気に入っているよ。では我々の仕事が何かは知っているかな?」

 

 

「ハッハッハッ!」

 

「いいや気にしないでくれ。何もしないことが仕事とはな!なかなか面白いことを言うじゃないか!そうだな。君も緊張が解れたようだし我々の仕事を教えよう。では早速だがこの委員会は何をするものだと考える?」

 

………

 

「ああ難しく考えなくていい。名前から想像してくれたまえ、忘れていたが選挙というのは複数人の指名によって代表を選ぶことだ、君たちもやったことがあるだろう?」

 

ズズッ(何かを飲む音)

 

「ああ、わかっているじゃないか。そうだ、我々共産主義者の代表を選ぶ選挙を司る集団だ。君はやはり優秀だな。ではここでさらに質問だ。それはいつ行うのか?書記長を決める?非常に近いがそれは言葉が足りないな。我々の代表は同志書記長だがそれは初めに決まってから変わらない。変わるとしても先に後継者が指名されているはずだ。」

 

………

 

「まあこの質問はわからなくて当然だ、じゃあ何なのか説明しよう。まず何から話そうか…そうだな君は初めに共産党へ招待された時を覚えているかい?そうだ、君がレイフォル王立魔導研究所にいた時のことだ。たしか██月くらいだったかな、あれからもう██も経つのか、時間は早いな。」

 

 

「その通り。君の家に我々共産党の職員が勧誘に来てそのまま集会へと向かっただろう、そうして我々の同志になったはずだ。確かあの時の私の演説に心を打たれたと言っていたな、ああ覚えているよ████について話したこともな。

さて、その職員だが…その職員はどのように我々の一員になった?」

 

 

「またまた正解だな。そう、彼らも同じように勧誘されたんだ。では彼らを勧誘したのは?それもまた共産党の職員だ。ではそれを招待したのは?さらにその前は?何事にも始まりがある。いやいやすべての始まりが神などと云う妄想を語ろうなどというわけではない。」

 

ペラッ(数枚の紙がめくられる)

 

「ここの数字が██頃の、最初期の共産党職員の人数だ。こんな頃からいたのかだって?そりゃあ昔から圧政から君たちを救おうと頑張っていたよ。」

 

 

「読み終わったかな?察しの良い君のことだ、そろそろ予想がついたかな?そう、我々『共産党選挙委員会』の仕事は圧政に苦しむ各国の労働者たちに共産主義を広め救うことだ。そしてその中の書記長を決める選挙を執り行う。まあ共産主義の種とでも言おうかな。」

 

 

「さっきの予想が正しかった?ああ、おおよそは当たっていたが少し言葉足らずだったな。…おいおいそんな微妙な顔をしないでくれ、「言葉足らずは命知らず」って言葉があっただろう。…聞いたことがない?なら覚えておいてくれ、大事なことだ、君と同じ立場だった職員と同じ轍を踏まないためにもな。それで大体は説明したが質問はあるかな?」

 

 

「君は本当に優秀だな、予想以上だ。ここでの会話がなかったことになるからと『はじめの共産党がどこから来たか』を聞いてくるとはな。そして『どのようにできた』ではなく『来た』か……ならば君は我々が『この』世界において圧倒的な技術力を持っていることも気が付いているのかな?」

 

 

「驚くほどの考察力だな。██まで疑っていたとは、まあ会話がなかった事になるといったのは私だ。私の権限で話しても良いことは全て話そうか。…初めに、先ほど『この世界』と言ったが覚えているかな?」

 

 

「よろしい、そう、我々はこことは違う異なる世界から来たのだよ。このコップの中身もコーヒーという飲み物だ、この世界にあるかはわからないがね。…そんな妖を見るような目で見ないでくれ。まあ証拠があった方が説得力があるのかな。」

 

ゴトッ

 

「ウィングマン・エリート*1。元居た世界の銃だ、これを君にあげよう。なあにただのお祝いだよ、使い方は後々教わるだろう。それで…続きを話そうか」

 

 

「おいおい、もうキャパオーバーか?まあこれだけの事をいきなり教えられては研究所所長だった君でもそうなるか…そうだな、詳しい事はこの資料にあるとして、では最後に君の勤務先を教えよう。」

 

(封筒と思われる音)

 

「これは読んだら即時焼却処分をするように。いいな?…よろしい。それでは『グラ・バルカス帝国』へ行って頑張ってなさい。彼の国は皇帝が労働者たちを苦しめている悪しき国だ、それに近々このレイフォルへ侵攻しようとすらしている。まあ勿論この国の労働者たちを解放して例の()()を行えば簡単に防げるのだがね。話は以上だ。」

 

 

「ああ、そうだ最後にこれを言っておこう。

ようこそ同志!我々共産党選挙委員会は君を歓迎する!」

 

 

 

 

*1
APEXでおなじみのウィングマンの完全上位互換。ゴツイ、大口径、高精度のバケモンリボルバー。ヘッドショットが決まればワンパン確定な上に胴体でもデザートイーグル越えじゃねえかっていう銃声とともに弾け飛ばす。



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機密文章
報告書1


前々の話の詳細みたいなものです。読まなくても特に影響は無いです


ロウリア軍クワ・トイネ攻略隊殲滅作戦における報告書

 

 

先のロウリアによるクワ・トイネ及びクイラへの侵攻において我が国は軍事同盟を締結していたクワ・トイネからの参戦要請を許諾しロウリアへ宣戦布告した。本報告書は対ロウリア用戦力として送られたクワ・トイネ派遣軍団と第一航空艦隊及びパイロット部隊による陸上戦,海戦についてを記述する。

 

 

陸上戦

 

一 派遣戦力

 

第一機甲師団 

第三歩兵師団

第一パイロット連隊

自立機械化歩兵師団

 

第一機甲師団は転移前は北海道にて展開していたものの隣国の消滅によって北海道への脅威が消えたことで派兵。

第三歩兵、第一パイロット連隊は転移以前に外惑星にて現地独立勢力や対パルチザン作戦を行ってきた軍団を再編したものであり高練度部隊である。

自立機械化歩兵師団は本作戦が初実戦となる試験部隊である。特徴として自立兵器へ命令を送る者以外は全て機械であり、戦闘員の人間はいない。

 

二 戦闘の流れ

 

13:00頃にロウリア軍約6万が越境を開始。即座にCPから作戦開始命令が全部隊へ通達される。

 

第一フェーズ 陽動

 

自立機械化歩兵師団から作戦参加中の全部隊へ爆撃警報が発令される。またそれと同時にリーパーからティックが射出され敵部隊へ攻撃を開始。

 

前線から自陣右翼へ150の敵航空戦力が確認される。第2,3,4パイロット中隊による対航空戦力への攻撃を開始、150を全て無力化。

 

第二フェーズ 斬首戦術

 

前線右翼方面の森林に高速展開中であった第一パイロット中隊が敵クワ・トイネ侵攻軍司令部を強襲。その後アデムを含む司令官を除き敵予備戦力を殲滅。

司令部強襲後ギム攻略隊司令部へと攻撃を開始し、同時に全軍による一斉攻勢が行われ前線と第一パイロット中隊とで挟撃を成功させる。

 

第三フェーズ 追撃戦

 

敵兵約1000を残しそれ以外の敵部隊の殲滅を開始。敵部隊は鈍足であり、こちらの方が機動力に分があったため数刻も経たずに殲滅が完了した。尚、敵将官以外は本国の食糧事情と有益な情報を持っていないであろうとの事で一切の捕虜を禁止し適切に処理するように厳命を行った。

 

三 被害

 

クワ・トイネ派遣軍

戦死 0名

負傷 1名骨折(リーパーの誤作動により足を踏まれたため)

損失 小銃一丁(前述と同様)

 

ロウリア軍

戦死 58987人

捕虜 将官以外無し

逃走  1013人

 

 

 

 

 

海戦

 

一派遣戦力

 

第一航空艦隊

旗艦戦艦飛騨

  空母大鳳

  特務輸送艦10隻

三個パイロット大隊

 

二戦闘の流れ

 

航空艦隊がレーダーにてロウリア艦隊4400を捕捉。

特務艦が進出を開始、同時に敵航空戦力が確認される。

一個増強パイロット大隊が大鳳から発艦。これらは全てノーススターの特殊モデルである。

敵航空戦力と増強パイロット大隊が交戦を開始

戦艦飛騨による砲撃,機関砲を含む全兵装での攻撃を開始。

敵航空戦力の完全無力化を確認、特務艦4隻に乗艦していた2個大隊のタイタンによる一斉攻撃を開始。

残余特務艦による敵艦隊へのストーカー投下を開始。計600体のストーカーを投下。

3分後 敵艦隊に撤退の兆候が見られる。

5分後 全敵艦隊の無力化を確認

6分後 ストーカーの回収を開始

 

 

備考

敵艦隊無力化後いくつかの敵救出隊を確認。攻撃を開始するも複数の敵船団が離脱を成功する。これらの原因はストーカー回収、タイタン整備のため戦艦飛騨以外に行動可能な艦がいなかったことだと考えられる。

 

 

三 被害

 

ストーカー三体が海中に落下し再稼働不能

ワイバーンの炎によってノーススターの塗装が剥げる。

 

 

総評

陸上戦海戦、共に大きな被害もなく作戦が成功した。また参加していた二つの試験部隊の実戦データを収集できた良い機会であったと言える。

しかし陸上戦力はともかく海上戦力が全く足りておらず敵船団を逃す事となったため海上戦力及び航空戦力の補充、増強が急務である。

 

備考

後日確認された映像データによって敵救出隊の装備から民間人の可能性があるとの指摘が挙げられた。

 

 

 

 

 

 



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機密文章

最重要機密資料に付き各部門の部長、中将以上の将官及び特別許可証を所持する職員以外の閲覧は禁止されています。

またこれ以外の者による資料の閲覧や操作が確認された場合即座に射殺命令が下り、資料データが自壊します。

 

 

「許可証又は確認証を提示してください」

 

「password ●●●●●●●●」

生体認証中

 

 

「権限を確認。資料を提示します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本世界における共産主義の拡大の可能性

 

先日から行われている対ロウリア終戦工作において重大な事案が確認されたため報告する。

一 ロウリアにおいて共産主義者による革命の可能性

二 壊滅したと思われていた日本赤軍の関与

三 北部海域において未確認機の反応が確認された

 

先日から行われている終戦工作においてロウリア沖海戦の海域の近くの港にて共産主義者と思われる者の日記と集会の場所がかかれた紙が確認された(付属資料1,2)そしてこの集会に工作員を潜らせたところ()3()()の市民が確認された。またこれはその集会のみであり全体ではさらに多いと予測される。尚この集会が定例集会や緊急集会などのどの種類であるかは確認されていない。

次にこの集会にて転移以前から国際指名手配されていた日本赤軍幹部が確認された。また偵察が行われているロウリアよりも北部の海域、特に()()()()()と呼ばれる国家の周辺にて未確認機、船隊の反応が確認されていることから日本赤軍が壊滅していない可能性がある。

 

 

第一次緊急報告

 

 

レイフォル自体に諜報員は派遣できていないもののその周辺国から国家改造運動が盛んになっているとの情報があげられる。

レイフォル周辺の海域において特務艦大連の反応を感知。その後反応が消失。

特務艦大連は()()()()()()()()()()()()()()()であるためその他の艦船もこちらの世界へ転移している可能性があげられる。

しかし前述した国家改造運動や前報告書の日本赤軍のことから大連が日本赤軍に確保されている可能性があり、これが本当だとしたら他の船体も赤軍が保持している可能性があり、日本軍内から離反者が出ていることとなり兵の士気に大きく関わるためこの情報は確実に秘匿されるべきである。また本報告書に関与した全職員は箝口令が引かれている。

 

 

第二次緊急報告

 

 

北方を飛行中だったハンター15がレイフォル上空にて日本赤軍のものと思われる基地を発見、その後未確認のの光学系兵器によって撃墜された。

撃墜寸前の映像記録から光学兵器はイオンのレーザーの可能性が高いとの報告を陸軍研究部が報告した。そのため日本赤軍が第二世代型のタイタンを保持している可能性がある。

今回の事例においてタイタンや大連が日本赤軍のものであった場合は迅速に日本赤軍を処理する必要がある。



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戦間期
第十八話 無礼者


多分最長
コメントをログインしていない人でも出来るようにしました!よかったらどうぞ。


「エンジン切り替え成功。フェン国沿岸への着水を開始します。」

 

空中推進式のエンジンから水上型エンジンへと切り替わる独特な機械音とともにこの世界に転移して初めて建造された空海両用型戦闘用艦隊群-元来の宇宙や空中戦に特化した船体ではなく、昔ながらの舵や特徴的な船底を保有するタイプの船体を空海両用にした所謂宇宙戦艦のような見た目ーの5隻の内3隻、戦艦東瀛*1、駆逐艦時雨、村雨からなる臨時フェン国派遣艦隊の乗組員たちの内、手隙の乗組員たちが甲板や窓からやっとこさと肉眼で夕焼けに照らされるフェン王国の街並みを水平線上に眺めた。

 

フェン王国

それはガハラ神国とともに日本の幾番目かの国交成立国であり日本が他の文明圏へと手を伸ばすための第一歩となることを期待された地域でもあり、対パーパルディアの要所として最重要地域と指定されていた。ならばと日本が使節団を送るのは当然の事であったが、なぜ艦隊派遣をしたかを語るには時計の針を少し戻さなければならない。

 

 

―――――――――――

遡ることクワ・トイネ軍の近代化前、ロウリア国との講和会議後。多少国内が安定したことを受け日本の外務省はできるだけ多くの国家国交を結び貿易の開始や交流を行う、特に「列強」と呼ばれる国の周辺の島国に対し対列強のために同盟を結ばんと複数の使節団を様々な国へ派遣していた。

そしてフェン王国にも同じく派遣されることとなる。

 

 

 

 

 

 

確か高校の日本史以来だろうか、いや、幾日かたまたま取れた休みの日にふらっと立ち寄った文化館で聞いたのが最後であろう琴の独特な、なんとも言えない音色を日本国使節団特命全権大使の高橋は案内された和室のような部屋で聞いていた。

目の前には木製の机と湯気を漂わせる緑茶、そして少し横に幾つかのフェン王国の紋章が記された饅頭らしきものがおいてある。

 

「…まるで日本にいるみたいだな。」

 

ズズっと寝巻きに身を包みながら緑茶を啜ってみれば出国前に飲んだものとは違うが微かに日本と同じ味がした。

 

部屋を案内されその後温泉にまで入らせてもらい旅行気分になっている若手職員を注意した後、個室へ戻るが久方ぶりの和風な雰囲気に自分もなにかと浮かれている事に驚く、しかしそれよりも彼はフェン王国の人間と接触してから僅か数日で()()()()()()の予約が取れたことに驚いていた。

 

「しかし…明日とは早すぎる。それにあの要求も…」

 

茶と2.3個の饅頭を手に部屋から外を眺める。日本では中々見ることの出来なくなってしまった美しい星々が黒に身を輝かせるのを椅子に座り眺めながら高橋は二日前に同僚から言われた事を思い出していた。

 

二日前 日本国長崎港

 

三回目のプォーという船が港から離れる汽笛の音がした時、高橋は同期の近藤と話をしていた。

 

「高橋!久しぶりだな。お前はどこの国に行くんだ?」

 

部下と出港前の最終確認をしていると遠くから元気に片手を上げて走ってくる同期の近藤が見えた。

近藤の少し太った丸っこい体とは相反するキレた頭脳は外務省でもピカ一と言われている。

 

「近藤か!久しぶりだな。こっちはフェン王国だ。そっちは確か神聖ミリシアル帝国だっけか?」

「ああ。どうやら第一列強と呼ばれる国らしいからな。もう緊張してるよ。」

 

ははっと笑顔で笑う近藤にそうは見えないがなと軽口を叩きながら話を続ける。

 

「とはいえお前も大変だろ。フェンって言ったら対パーパルディアの要所だろ。」

「なんとか同盟まで持っていきたいところだよ。しかしあそこら辺の国は価値観が違いすぎるからなあ。」

「一足先に行ったパーパルディアの連中があんなの文明国家じゃない!って愚痴ってたもんな。たしか平等条約が舐めてるとキレられたとか。」

「賄賂も求められたらしいぞ。」

「それは国としてどうなんだよ…まあフェンはそんな悪いうわさも聞かないし、なにより和風な街並みとか言われてたろ。羨ましいぞ。」

 

ブォーという本日三回目の汽笛は軍艦によるものだった。確か列強相手や一部の危険地帯へ向かう外交団には艦隊が割り当てられるとかが事前の全使節団向けに配布された資料に載っていたはずだ。

 

「ありゃあムー行きのやつらだな。」

「ムーって確か…機械文明だったか。」

「そうなんだよ。お前もムー行きのやつらも俺らと同じ科学を使う文明、まあフェンは少し違うかもだが。まあそんなことはどうでもいい、俺の行き先のミリシアルは魔法文明らしい。まったく気味が悪い。」

 

大きく手を広げ本当に嫌だといわんばかりの手ぶりをする近藤は周りを和ませる雰囲気がある。彼が外交上手な理由の一つでもあった。

 

「非科学的なもの嫌いだったな、お前。」

「使節団に研究員を同伴させろって要請したんだがなあ。」

 

と話していると近藤の後ろにきょろきょろと近藤を探している彼の部下の姿が見えた。

 

「おい、後ろ。」

「おおっと、もうこんな時間か。」

 

部下に今行くと声をかけた近藤は彼が乗船する予定の軍艦へと足を向け人ごみに向かう。そして人ごみに溶け込む寸前、振り返った。

 

「そうだ。情報部の連中の話だが、近々パーパルディアとフェンの間で軍事衝突が起こるかもしれないらしい。向こうさんはこっちを取り込もうとしてくるかもな。」

「そりゃあきな臭いな。」

「それだけじゃあない。どうやら列強のレイフォル内でも内戦の予兆が見られて使節団が到着してすぐ帰るように命令されてる。まああれは情報部がなにか()隠している気もするがな。世界中できな臭いことが起きている。お前のとこは大丈夫だと思うが、まあ気をつけろ。」

 

軍事衝突か…それも重要確保地域で。そう思考に更けていたところで彼もまた部下に呼ばれた。

 

 

 

 

 

「陛下、日本国から参られた使節団の方々です。」

 

使節団の到着してから数日後、異例の早さで予定されたフェン国国王シハン四世との会談。使節団総責任者でもある高橋の日記には訳が分からんとだけ記されている。

早さが異常だったことはもちろん、彼らをさらに困惑させたのは共に来た護衛の武官のうち最も腕の立つ者を完全武装で一人連れて来いという要求だった。外交の場で武官を連れて行くのは相手を警戒しているかそれ以上の無礼な行為だと反対意見が多く出たそれはシハン四世による強固な意見によって渋々受け入れられる。

して、到着から3日後。護衛隊の隊長兼情報部エージェントであるパイロットの武田少佐と使節団はシハン四世と顔を合わせることとなる。

 

「日本国使節団特命全権大使の高橋と申します。そしてこちらが」

「使節団護衛部隊隊長の武田と申します。」

「本日はこのような場を用意していただき、誠に感謝申し上げます。」

 

シハンが初めに抱いた疑問は武官の奇怪な面であった、使節団の者たちが着ている黒色のスーツと呼ばれる装束にも同じものを抱いたがそれよりも頭全体を覆うようにできたその黒い面に対しての方が大きかった。最近列強の一つであるパーパルディアとの関係が怪しくなり、一つでも多くの仲間を求めての会談。そしてその実力を図るための武官。その片方である武官が奇妙な姿であることに複雑な思いを抱かざるを得なかった。

 

「うむ。フェン国国王シハン四世だ。日本国の方々、はるばる遠方からよく来てくださった。そしてこちらの無理な願いを聞いてくれて有難く思う。」

「こちらこそ有難うございます。」

「さて、早速本題へ入るとしよう。よろしいかな?」

「はい。」

 

初めに国交樹立の話やら日本の基本的な情報やらを淡々と、事前に配布されてあった資料の確認のような話をしばらくした後、会談前に唐突に、家臣団から全力の反対をされてのにも関わらず決めた「それ」を本当に言うのかと焦りの眼でこちらを見る宰相を一瞥して一つの爆弾をシハンが落とす。

 

「ああ、そういえば武官殿についての話にも繋がるが…我が国はあと少しの時間を経てパーパルディア皇国と戦争状態になる」

「……それは、なんと言いましょうか…」

 

なんだ。と高橋は不思議に思う。夕焼けが差し込む部屋の中以前の同僚の話がふと頭に浮かんだ。

 

「そして武官殿を連れてきて頂いたのは国交樹立の前にそちらの力を見せていただきたいからだ。そしてそのために先日捉えられた山賊と戦っていただきたい。」

「山賊と…戦うのですか?…」

 

予想外の出来事。いや、予想はできたがまさかしないだろうという選択。万が一にも武官が死にでもしたら外交問題では済まないそんな馬鹿みたいな話。それに対して高橋はポーカーフェイスで対応する。

 

「左様。もうすでに準備は整っておりますがな。いかがする?」

「…私共では判断できぬ案件ですので一度本国に連絡をしても?」

「ぬう……まあ、よい。しかし早めに頼むぞ。」

 

そうして高橋は部下に連絡と返答を求めるように無線を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとうに、よろしいのですね?」

 

目の前でヘルメットを片腕で担ぐ武田少佐が問う。共に、それが本国の意図なのかと。人殺しを外交の手段とするのか、と。

フェン王国が保有する闘技場。国旗が幾枚も囲み中央に草木でできた網でできた円があるそれの東西に位置する準備室、その一室に彼らはいた。

 

「ああ。総理と参謀長からの許可が下りている。まあ俺もこれはどうかと思うが…」

 

部下から伝えられた返信は「こちらの実力を見せ勢力圏へ吞み込め」

いうなれば力を示せ、だ。さすがに日を開けて計画すべき、という反論に対して送られたのはさらに驚くべき事だった。

 

「さすがにパーパルディアとのわだかまりが過去最高長に達したと言われたらなあ。」

 

本格的な軍事衝突まで最短で3日。それが決断をした原因だった。山賊の命よりも国の利益を。それが上の判断なのだ。後に皇国監察軍と呼ばれる部隊であり全面戦争ではないことが判明するがそれは今より先の事だった。

 

「わかりました。ならば私も護衛隊長として、一人のパイロットとして相手をします。」

「助かる。こんな無茶な命令は今後一切したくないな。」

「同意です。しかし腹の虫が収まりません。こうなったらとことんやりましょう。」

 

 

 

 

 

「山賊の数をさらに増やせだと?」

 

闘技場の頂上。篝火が照らす最も見晴らしの良い特等席でシハン四世はそう聞き返す。

最初は承諾されないと思っていた山賊との対決。それに対し日本の使節団は山賊との対決、そして海軍の派遣を行うというこちらの予想を大きく上回る提案をした。余程自信があるのかと驚いたシハンは様子見と山賊2人との対決を提案したが…それに対して異議を唱えられた。

 

「2人では実力がわかりずらい。捉えたものを全員出してくれ。とのことです。」

 

家臣の報告に立派に蓄えられた白髭を撫でながら少しの思考をし、すぐにシハンは決断を下した。

 

「わかった。では捉えた10人と戦ってもらうとしよう。」

「しかし万が一向こうの武官が死んでしまっては…」

「自ら提案したことよ。男に二言はないし、死んだとしても戦いで死んだとなれば武士として本望だろう。」

「なるほど、わかりました。」

 

納得したという顔をした家臣が下に降りてから数分後、目下には草木の綱でできた円の中に10の柳葉刀とみすぼらしい服を身にまとう山賊がいた。彼らにはこれで生き残れば釈放されると伝えられていたため戦意は充分であった。

 

「して、日本側の武官は?」

 

そのシハンの問いに家臣が答える。

 

「日本国護衛部隊の隊長が後1分ほどで参られます。」

「ほお、一人で戦うとはな、日本にも武士がいるのか。」

 

山賊たちが相手を知らされ汚く嗤う。その嗤い声は当の相手に聞かれているというのに。

 

「どうやら来たようです。」

「ああ。そうだな。」

 

東の口から足音が響く。土の地面に響く道理などないというのに。

これは足音なのかはたまた幻聴か。しかし場にいる皆が『それ』を認知していた。

 

黒の面と材質不明の黒装束に身を包み、首元には幾年もの間も使い込まれたであろう血潮が香るスカーフが巻かれている。

ゆっくりと、だが確かに進むその姿は妖美な美しさすらあった。

だが武道の道を歩むシハン、いやその家臣、ましてや山賊すらも察せられるほどの濃い圧迫感は彼らに対して一つの認識を作り出す。

獲物に餓えた猛虎が、そこにいた。

ふと気が付いた時には遅かった。

暮れる空に猛獣の蒼い双眼が揺らいだ。

*1
基準排水量 85000t

   全長 350m

全幅  45m

   武装 45口径46cm三連高出力荷電粒子砲四基(前後二基づつ)

      45口径46cm二連光学系砲塔二基(イオン型タイタンと同様の仕組み前後一基づつ)

      対空30mm機関砲16門(左右8門づつ)

      艦対空中型迎撃ミサイル20基

      艦対地小型攻撃ミサイル40基

      艦体艦中型ミサイル20基

汎用小型戦闘用ドローン30機 兵装 小型エネルギーライフル二門

      自立兵器投下兼射出装置10基

同型艦 2隻(本艦含め現時点)

 

概要

 

日本宇宙軍(軍内では伝統的に海軍と呼称)史上初、転移後初の建造艦群のうちの一つ。同地で宇宙へ進出している勢力が確認されていないことから宇宙での艦隊戦を主眼に置いた従来型から大幅に変化した形であり建造元の虎大にとっても初の挑戦となった。

 

特徴

 

本艦は転移によって変化した軍事事情を大きく反映させた艦であり従来と比較してミサイルや小型兵器、機関砲などの数が大きく増加している。これらの理由として転移後の世界においては前と比べ非常に装甲の薄い艦が多く、費用対効果の観点から大型兵器以外での攻撃が効果的とされた為である。

また特筆すべき点として前後に設置された計六基の大型砲台と自律兵器がある。

大型砲台 従来のミサイルを主軸とした艦と違い本艦の保有する砲は宇宙軍内最大の砲である。これは搭載しているミサイルのみでは撃破困難と予想される重装甲目標への対策として使用されることとなった。

自律兵器 対ロウリア戦で本世界において転移以前よりも自律兵器の有効性が高いことが立証されたために本艦に対しては人型自律兵器30機、飛行型自律兵器30機を搭載することとなっておりこのうち人型自律兵器に関しては最大10機単位で射出可能である。

 

また同型艦である██は(編集済み)を█基搭載しておリ縺薙l縺ッ霆阪〒繧ゅ?縺倥a縺ヲ縺ョ隧ヲ縺ソ縺ァ縺ゅk

データを取得できません

      



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第十九話 浸透する脅威

感想送っていただきありがとうございます!


フェン王国闘技場日本国準備室 18:00

 

簡単な激励の言葉を外交官の高橋から掛けられそのまま別れた。高橋らは闘技場の上へと向かう階段の方へと行った。

彼らを見送った後最後の確認だと自分の装備を確認する。腰には数本のパルスブレード*1

背中には対物ライフルのクレーバーがある。

 

「レーダー、液晶、暗視装置含め全装置の正常運転を確認。」

「…装弾完了。」

 

戦場の癖で一つ一つ自分自身へ報告しながら弾を込める。黒色のヘルメットをはめれば準備は整う。少し先に見える淡い篝火の光へと歩みを進めた。

 

ハハッという汚い笑い声がヘルメットで拡張された聴覚に届くのは歩いてすぐのことだった。足を進めれば進めるほど声の主は増えていく、1つ、2つ、3つ…10を数えたところでそれが山賊だと言うことを確信し、足が早まる。

彼は列記とした護衛部隊長だ。専用の訓練も受けていた。だからこそ彼は冷静沈着な兵士であり、日本国陸軍が誇る精鋭パイロットであった。

しかし、それすらも凌駕する物が一つだけあった。それはパイロットの本能だ。

 

…そう、つまり冷静に獲物を見つめる獣だったのだ。

 

 

_______________________

 

「高橋さん、大丈夫なんですかね…」

 

闘技場の観戦席、その一部に座る一団が日本国使節団だった。

日が落ち篝火の明かりのみが照らすそこで、その中でも若手の職員が不安そうにそう聞く。

 

「多分…大丈夫だろう。彼は外惑*2の再編先としてこっちに来たらしいからな。」

「外惑さまさまですね。今じゃ防衛の要ですよ。」

 

外惑星派遣軍。略称として外惑と言われるそれらは転移前の日本においての陸軍内の分類の1つであり、日本の所有する惑星での反乱や敵対惑星への攻撃の任を担い、転移後は対ロウリア、本土防衛を行った実質的な精鋭集団である。

そして彼らの護衛を任されたその隊長も外惑星派遣軍の出身だった。

 

「とはいえ、こんな野蛮な事をさせられるというのは酷いんじゃないですか?」

 

そう言う若手の視線の先には相手が1人と知り舐め腐っている山賊がいた。

 

「それに、もしその武田隊長とやらが1つでも傷付けられたら大恥物ですよ!しかも…」

「…それくらいにしておけ。」

 

財務省上がりのその若手外交官は常日頃から予算喰らいの軍を嫌う部類の人間だ。

少なくとも財務省と軍部は永久に分かり合えないだろうと高橋は思い彼を止める。

だが思った以上にその溝は深いようだ。

 

「しかし、そう仰りますが!…ッ」

 

刹那。全ての会話が止まり皆が一様に視線を向ける。闘技場の片方、山賊と相対するその通路、そこに立つ、件の者へと。

 

 

____________________

 

パッとそこにある全ての視線が闇夜とともに自分に降り注ぐ。パルチザン相手の奇襲作戦を思い出すその感覚に、確かな高揚を覚えた。

 

「なんだあ、そのヘンテコな面は!」

 

山賊の1人がそう煽る。自分からしたら今時刀のみで戦う方が変なのだが、と思う。

ふと左上を見れば高橋がアイコンタクトを取っていた。〖殺れ〗という合図だ。

なればと彼は兵としての任を全うすべく腰へと手を伸ばした。

 

ヒュッという軽快な飛翔音が山賊の1人の面に刃を生やしオレンジに染め上げる。パルスブレードによる索敵も含めた初撃だった。

 

「一つ。」

 

いきなり仲間の1人が死んだことに驚く山賊は即座に戦闘態勢を取った。山賊の本能が彼らにそうさせたのだ。

 

「オラァッ!」

 

最前にいた1人の山賊が縦に刃を振りかざす、それを軽くいなしつつ続いてその後ろから攻撃をしようと刃を振り下ろさんとする後続の空いた首へとデータナイフを捻り込む。

 

「二つ。」

 

ウラ!と素っ頓狂な言葉を上げながらいなされたばかりの山賊の背後からの突撃。

ドンッ

しかしそれは山賊の土手っ腹に空いた穴によって止まる。

肉薄する山賊の腹に銃口を突きつけてのゼロ距離射撃。それは重厚な銃音と即死に近い運動エネルギーと共に山賊へ顕現された。

 

「三つ。」

 

 

 

三を数えた所で彼らは異常に気が付き始める。何かがおかしいと。

 

ヒュッ 刃の風切り音が虚空に二度響いた。

ドンッ 再びライフルが砲声を轟かせた。

 

「四つ。」

 

無様に死にゆく四人目。それによって一人の山賊が狂ったように叫びながら刀を振り回し襲い掛かる。

しかし、うわぁぁぁ、という汚い叫びは首への膝蹴りによりその命と共に消し飛ぶ。

 

「五つ。」

 

…それがきっかけだった。

 

「なんなんだよこいつ!どうなってんだよ!?」

 

恐怖。なにがおきているのかわからない、その未知への恐怖が彼らに連鎖する。

そしてそれを狩人は見逃さない。

 

「クローク、起動。」

 

パイロットの姿が蒼い双眼の軌跡を残し深く黒い闇夜へと溶ける、篝火の炎がふと消えた。光学迷彩であるクローク、その急に敵の姿が消えたという現実は彼らの戦意を挫くには充分であった。

 

「六つ。」

 

一人の山賊の首がどこからともなく現れた刃によって飛ぶ。

 

「七つ。」

 

山賊の一人が逃走を開始する。だがそれは三度目の銃声によって逃走のための脚諸共消えた。

 

「八つ。」

 

慌てふためく残る三人。闇雲に敵の姿を探し続ける一人はヘッドロックによりその脊髄が砕けた。

 

「九つ。」

 

音もせずに骨の隙間を縫い心臓に突き刺さるその刃は一瞬にして命の灯を吹き消す。

 

 

雲の間から光が漏れた、九つの死体があらわになる。そして赤く戦闘服を染め上げた狩人も。

肩から下げられるその対物ライフルは硝煙の臭いがひどく残り、手に持つデータナイフは血が滴り、それを持つ手諸共赤に染め上げている。

血に酔う彼は今や悪鬼の如き様相をしていた。

ひどく乾いたパイロットの本能は今、血によって満たされる。

 

「や、やめてくれ。頼む!もう、やめッ…!」

 

仄かな血潮の臭いが闇夜に溶けた。

 

「…十」

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「…おぞましい。まるで鬼ではないか…」

 

血濡れた闘技場に対してフェン王国の誰かが呟いた。観客席の最上、夜風がいつもより冷たく感じる。

山賊と言えども戦慣れしている者たち、そして装備もフェン陸軍と違えでも大差が無い物。それが示すものは一つであった。

 

「妖術も使えるのか…」

 

王宮武士団十士長のアインがそう呟く。フェン王国側の中で冷静に分析を行えていたのはアインを含む数名の武官のみだった。

そして彼ら武官は狼狽する国王らを置いて少し離れた場所で話し始めた。

 

「一人で十人を相手取ることができるとは…」

「それにあの刃裁きは非常に、なんというか。美しいような技でしたね。あのような者がいる国とは、かなりの軍事力を持つ国の様ですね。」

 

武官の一人がそう言う。

 

「しかしあの者は護衛部隊の隊長といっていたな。つまりかなりの手練れということだろう?さすがにあのような者が何人もいるわけではあるまいて。」

 

アインの上官である武将 マグレブが言った。

 

「とはいえあの妙な妖術や鉄の筒は戦うこととなれば非常に厄介だと思われます。」

 

アインは一人の武官が言った鉄の筒についてなにか既視感があった。どこか…確か先日辺りに行われた今後の方針を決める重要会議で敵対国家の装備を伝えられた時だったか。それは彼ら、つまりフェン軍が現在進行形で警戒しているパーパルディア皇国が使用している物だったはずだった。

その武器は確か---

 

「妖術についてはわからないが、あの鉄の筒は列強の国々、パーパルディアも使用している『銃』ではないか?」

「アイン、それがもし本当だとすると彼の日本という国は陸軍においては列強並みの技術を持つ可能性が出てくるぞ?」

 

にわかには信じられないという目でマグレブは言う。だが本人も例の筒が銃ではないかと薄々勘付いている様子だった。

 

「……彼らのいう軍事同盟とやらに加盟すればパーパルディアに勝てるやもしれないか。」

 

使節団との会談に参加していたマグレブは日本の提案を思い出した。

先の会談で日本が提案してきた軍事同盟、それは()()()()()()()を中心とした同盟を結ぶ代わりにフェン国内への企業進出や貿易を主とした経済的な譲渡、と言えば聞こえはマシになるが、大型船に乗りあれ程の技術力を持つ国の製品を作る企業やそれとの貿易。有り体に言えば経済的な支配を求めるものだった。

 

「しかし対パーパルディアは急ぎの用です。経済の代償もありますがそもそもあの内容では…」

 

しかし軍事同盟と言えども技術のみ、日本自体は参戦しない*3というそれに果たして意味はあるのかと疑問に思っていた。

ここで話していてもしょうがないかと国王らのところへ戻ろうとした時、彼が来た。

 

「あなた方の服装を見るに…武官殿ですか?」

 

音が死んだかのように静かに近づいてきた髭や髪がきれいに整えられた彼は件の隊長であった。ヘルメットは腰に括り付けられ戦闘服は微かに血の臭いがするものの洗浄されていた。

 

「左様だが…どのような要件か?」

 

自らに危険がないとわかっていてもその姿を見れば先ほどの惨劇が目に浮かぶ。無意識の内に警戒心が露になっていた。

 

「いえ、高橋に今後の事について話したいと伝えるように、と命令されまして。伝え終わった後にあなた方を見かけたので寄ってみただけです。」

 

ふと国王らを見るとすでに我に返り使節団との会議のために移動をしようとしていた。中には腰の抜けている家臣らも居たが、まあ大丈夫だろうとアインは声を出す。

 

「先ほどは見事な戦いぶりでした。見とれてしまいましたよ。」

「いえいえ、私もまだ未熟ですので。…おっと。」

 

武田が手に付けたデバイスを確認する。なにかボタンを押したかと思うと再び話し始めた。

 

「どうやら会談は1時間後に最寄りの会議室で行うようです。なにやら体調を崩した方がいるとかで時間がかかると…折角時間が余っていることです、少しお話でもしませんか?」

 

武田が言ったすぐ後、すぐに来た伝令兵も同じ情報をアインらに伝えた。それに対しアインとマグレブ以外の武官を会議室へ向かうように伝える。

 

「そうだな。こちらも聞きたいことがあるが…よろしいかな?」

「いいですよ。まあ軍機によって話せないものもありますが。」

 

周りから人がいなくなったのを見計らい武田は続ける。「ここではなんですから。」そう言うと武田は観客席の会談をゆっくりと降り始めた。

 

「なにか質問はありますか?」

「ではまず私から。貴方が先ほど使っていた光る板はなんですか?」

 

コツコツと階段を降りる足音が三つなる、アインの持つ松明の炎が揺らいだ。

 

「あれは遠距離無線通信機…まあ魔信の小型版のようなものです。」

 

魔信…それ自体はフェンにもある物だが、あれ程小さい、片手程のものは見たことがなかった。

 

「では次に質問しても良いかな?」

「どうぞ。」

「貴殿の使っていたあの妖術。あれは魔法なのか?そもそも貴国は魔法文明なのか?」

 

マグレブは矢継ぎ早に質問をする。先ほどの戦いに自分がいたと想像すると段々と身震いが止まらなくなったからだ。

 

「そうですね~まずはじめに日本は魔法文明ではなく機械文明です。まあ我々が乗っていた船などを見ればわかると思いますが。多分最初の会談の時にお渡しした資料に詳しいことは載っています。」

「機械文明というのはムーのような?」

アインが質問する。

「ムーは今外交団が向かって国交を樹立しようとしていますね。私は国名くらいしか知りませんが恐らくそうでしょう。機械文明と魔法文明の違いは火を見るよりも明らかですからね。」

 

階段の中段ほどまで降りた。闘技場の中心では死体が幾人かの武士に片付けられている。

武田は再び語る。

 

「次に妖術…多分姿を消したやつですかね?」

「そうだ。」

マグレブが小さく頷く。

 

「あれはクロークという光学迷彩ですね。妖術や魔法ではないです。」

武田が腰に付けたヘルメットを取り出す。少し汚れたその先端を綺麗に拭くと、それがかけがいのない友人、長年共にする恋人のように丁寧に腰に着け直す。

 

「迷彩というのは…あの忍らが使っている?」

「忍がここにもいるのは驚きですね。まあ似たようなものです。」

 

武田が驚いたように目を開く、ここにもという言葉に疑問を抱きつつもアインは話を続けた。

 

「しかし迷彩と言えど姿を完全に消すことはできないのでは?」

 

迷彩はその場所の景色に隠れるものだ。草原ならば柳色に、森の中ならば深緑に。篝火の揺れる闘技場で完全に隠れることができる迷彩など想像ができなかった。

 

「まあそれができるのが光学迷彩です。軍機に付き詳しいことは言えませんが光学というのが肝なんですよ。」

武田が言い終わるのと階段を降り終わるのは丁度同じタイミングだった。闘技場を出てすぐの海辺へと武田が足を運ぶ。

 

「…こちらからは少しお願いをしてもいいですかね?」

 

潮風が海の香りを運ぶ。武田が失礼と一言いい煙草を取り出した、マグレブが少し嫌な顔をしたがアインがそれを了承した。

 

「無論。こちらができるものであれば。」

「私も可能な範囲なら。」

 

それに対して二人が快諾する。質問をした借りを返すためだ。

 

「ありがとうございます…ここだけの話でもいいですか?」

「…かまいませんが。」

 

疲れたような声色にアインは驚く。闘技場の一件の直後でもケロッとしていた彼がそのような声をすると思わなかったからだ。

 

「今。共産主義者という者たちがフェン、パーパルディア。それこそ先ほど話題に出たムーへも広がっています。…貴方方にその者たちをこの国から排除してもらいたい。」

「はあ…?」

素っ頓狂な声で答えるマグレブ。「共産主義」という意味がわからないアインも同じ思いだった。

 

「共産主義というのは全ての民が等しく生きようという考え方です。これは特に農民や工場などに就める…まあ所謂労働者という身分の人々から熱烈な支持を得ている思想です。そしてこの思想がこの国にも広がりつつあります。」

 

武田が疲れた顔をする。それは何度も同じことをしたような、失望のような顔だった。

 

「それは…別に良いのでは?ただの考え方です。国が民の考え方にまで踏み込むのは少しばかり…」

「横暴だと?」

アインが答えた。

「はい。」

「…思想というのは厄介なものです。そうですね…マグレブ殿、あなたは国王シハン四世への忠義がありますか?」

 

その質問にマグレブはなにを当たり前の事をと少し怒りを込めて言う。

「当たり前だろう。我々武士は国王に忠義を尽くす者だ。国王のためならこの命。捨てても構わん。」

 

ふっと笑ったかと思うと武田は話す。港のすぐにある居酒屋に数十人の漁師が入るのが見えた。

 

「…それが思想です。」

 

マグレブが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。武田はそれを見ると満足そうに話を続けた。

 

「人は思想のためなら命を惜しみません。思想は薬だが毒でもある。過ぎたるは猶及ばざるが如しという言葉の通りこいつらは紙一重なんですよ。」

 

雲が晴れた夜空には星が煌めいていた、ふぅという音と共に煙草の煙が星空に散った。

その武田の言葉をアインは理解する、しかしまだ一つ疑問があった。

「しかし…共産主義者という者たちの何が危険なのですか?民が平等に暮らすというのは良いことだと思うのですが…」

「そうだ。それに我が国には奴隷などはいないから左程困らんだろう。」

 

二人の問いに武田は言う。煙草の火は消えていた。

 

「等しく生きるというのは特権階級を消すのと同義ですよ。」

「…何が言いたい?」

 

マグレブは聞く。しかし、それよりも先にアインは理解する、特権階級の意味を、武田が何を言いたいのかを。

そしてマグレブに対し武田は目を合わせ、音の凪いだ港へと沁み込むようにゆっくりと告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「…国王など、特権階級の象徴でしょう?」

 

*1
ナイフ状のソナー発生装置。投げて刺さった場所から放射線状にソナーが発生し、敵の位置を表示する。パイロット視点ではオレンジ色のソナーが発生し敵を染めるように見える。

*2
外惑星派遣軍

*3
ロウリアパルチザンの殲滅戦や内政、航空艦隊の再編成や建造に伴い日本は戦争が行えない状態だった










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第二十話 調査報告①

貯蓄切り崩し


『号外 レイフォル危機終結』

 

レイフォルの保護国パガンダ王国によるグラ・バルカス帝国の皇族の処刑から始まったレイフォル危機、一時期はレイフォル対グラ・バルカス帝国の全面戦争の可能性すらあった本件は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という異常な事件によって鎮静化が図られ昨日行われた会議によって正式に終結が宣言された。また、レイフォル側のパガンダにおける鉄鋼、希少金属等の採掘権の譲渡と引き換えにグラ・バルカス帝国との軍事、経済同盟の締結が宣言され、これにはレイフォルの属領や保護国も加わる予定である。

この異常な事件の背景としては―

 

そこまで読んだところで外務省職員の田村はコーヒーの空になったコップを喫茶店の机に置いて新聞を鞄に仕舞い込んだ。理由は単純で自分の知っている事、というより外交に携わる者なら皆認知している、そんな内容しか載っていなかったためだった。

 

「ありがとう。美味しかったよ。」

 

金を支払い店を後にする。扉に付く鈴の音が鳴った。

 

東京千代田区、その内閣府の少し近くの喫茶店にいた田所は時間が12:50になったのを確認すると目の前の内閣府、その中の首相執務室へと足を運んだ。

 

 

 

執務室の手前まで来ると総理の秘書官に少し待つように言われ客人用の小部屋へと案内された。いくつかの装飾品しかないこじんまりとした部屋だがそれよりもさらにじんまりとした顔をした男がそこにいた。

 

「生駒。どうしたんだそんな暗い顔をして。」

 

日本国参謀本部情報部の主である情報部長生駒。彼は田村と同大学出身の友人でありそれぞれが情報を伝えあう、ある種のコネとして互いを支え合っていた。

そして今日は外務省の田村が転移後初の大規模な使節団の一斉派遣、その結果の報告を。情報部の生駒がそれに関する情報部の調査報告を行うこととなっていた。

 

「田村か…そっちは普通に報告するだけだからいいよな…こっちは胃が痛いよ。」

そう言って田村は懐から胃薬と水を取り出した。生駒と反対側の椅子へと腰を下ろした。

 

「報告を変わってやりたいところだが…生憎情報部の事に関しては門外漢なんでね。」

「ほんとに羨ましいぞ…。」

ああ~と嘆く生駒は生気の抜けたような顔をしていた。

 

「てか今首相と話しているのは誰なんだ?もう約束の13時は過ぎてるが…。」

時計を見るとすでに13:10分を指していた。

 

「報告を共に聞く我らが参謀総長に大事なお話をしているらしい。」

「大事な話?」

 

なんだそれはと生駒に問うが知らんという返事だけが帰ってきた。

 

「転移のせいで他惑星にいた参謀総長らが消えちまって代わりに一方面軍の副軍団長だったあいつが参謀総長になったろ?」

「ああ。確かそうだったな。」

「副軍団長が参謀総長に出世なんて異例な事したもんだから歴代の参謀総長に負けじと首相へ色々と提案をしまくってるってのが情報部長の予想だよ。」

 

生駒が手をひらひらとさせる。詳しいことは本当に知らないのだろう。

 

「あー確かにあの人必死そうだったな。そりゃあ大変だ。」

 

二人がざまあみやがれと軽く嘲笑した。自らの出世のために下に責任を押し付けるような性格だった彼は多くの職員から嫌われていた。現に生駒は彼にとって都合の悪い報告書を握りつぶされ首相へ直談判へ行ったことすらあった。

 

「一応外にも聞こえるので程々にしてくださいね。」

 

ふと扉が開き首相秘書が顔を出した。

 

「そういう君も被害者だろう?」

「まあ、そうですけどね。」

 

首相秘書である彼も被害者の一人であった。確か報告が遅れたのを秘書の不手際だと言いがかりをつけられたはずだ。

 

「遅くなり申し訳ありません。どうぞ。」

 

秘書の言葉で荷物を手に取り首相執務室へと入るといつも通り凛とした顔の首相と生駒以上に死んだ顔をした参謀総長が座っていた。これには生駒も驚いたようでこちらをちらりと横目で見た。

 

「遅れてすまんね。さあ、席へ。」

 

首相に勧められ二人と対応するように横並びの二席へと座った。

 

「まず初めに生駒君。君に謝罪したい。」

 

報告会の初めは驚きだった。

 

「参謀総長は本日付で解任する。そして後任として本土防衛軍軍団長の清水を参謀総長とする。」

 

二人が顔を見合わせる。参謀総長が肩を震わせた。

 

「それは…一体どういう…」

生駒が問う。

「赤についての報告の時に彼を辞めさせると言っていただろう。」

「確かにおっしゃられましたが…」

「それがこいつが『軍部は首相の玩具ではない!参謀総長をそんな一声で辞めさせられるか!』と抵抗したのでな。」

 

その言葉を聞き田村は参謀総長の震えが悔しさや怒りであることに気が付いた。

はぁ、とため息を付き首相は続ける。

 

「まあ奥の手(軍部予算案)を使ってこのように辞職へと追い込んだわけだが…なにか言うことがあるだろう?」

 

わなわなと震える参謀総長に蔑んだ目で首相は言った。

 

「生駒…報告書の件は本当にすまなかった…私がもっとしっかり管理をしていれば―

「今の状況がわかっていないのか?」

 

参謀総長の言葉を遮り首相が問う。声が怒りに満ちていた。

 

「君は軍に残れるかの瀬戸際にいるんだぞ?それなのにそんな言い訳がましい事を言うとは…それすら理解できていないのか?」

「い、いえ首相。そのようなわけでは無く―」

「君はもういい。今までの不正も含め処分は後程送らせる。」

 

待ってくださいと言う参謀総長は秘書に連れられ執務室から消える。二人はどういうことだと思考を走らせ首相を見た。

 

「これでまた組織が奇麗になったな。まあ不正を行っていたあいつに見下していた部下に謝罪させ叱責するという罰…いや、私の自己満をしただけだ。利用してすまなかったな生駒。」

 

首相が軽く頭を下げた。参謀総長は首相が解任させようとしていることを知ると態度を一変させ敵対したようだった。

 

「いえ…大丈夫です。こちらとしてもあの人には迷惑を掛けられていたので…」

「本音を言うやつは嫌いじゃないよ。まあ事は済んだ。後程奴の処分や事の経緯は資料にして秘書に運ばせる。迷惑料だとでも思ってくれ。」

 

ハハハッっと笑う首相は一つ仕事を終え満足そうな顔をした。

 

会は続く。

 

 

 

 




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第二十一話 調査報告②

人物

田所     外務省総合外交政策局長
生駒     日本国参謀本部直属情報部情報部長

近藤     対ミリシアル日本国使節団特命全権大使

佐木(さき) 対ムー日本国使節団特命全権大使
大村     対ムー日本国使節団特命全権副使


部屋は不安に包まれた。どういう事だという未知と、自分も飛ばされる可能性があるという不安。

その唯一の例外が1人。それはこの状態を引き起こした張本人、首相だった。

 

「…さあ、生駒、田村、報告をしてくれ。」

 

手をこちらに出しさあ言えと促す首相。

田村は覚悟を決め口を開いた。

 

「ではまず外務省から。転移後初となる大規模な使節団派遣を行い、それに関する報告、特に列強や安全保障上の重要地域について報告します。」

列強や重要地域、とどのつまりムーやフェンの事だ。

 

「初めに清瀬少佐率いる駆逐艦3隻空母一隻からなる臨時編成第一護衛艦隊とともに向かった神聖ミリシアル帝国についての報告です――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このような資料を信頼しろと?」

「心外ですね。こちらが用意した資料をそれほどに疑われるとは。」

 

神聖ミリシアル帝国の外務大臣ぺクラスと相対する日本国使節団特命全権大使である近藤がいるのはミリシアル側が用意したとある会議室だった。

 

「当たり前でしょう。人口3億人に惑星規模での資源開発?

申し訳ないが文明圏外国家のしょうもない荒唐無稽な戯言にしか聞こえません。それにそんな奇跡じみた、我が国ですら出来ないことが貴方方にできるわけないでしょう。それが出来るとしたら神々か古の帝国くらいでしょう。」

べクラスが訝しみながら問うた。

 

「こちらの技術力に関しましては我々が乗ってきた船で多少なりともわかると思いますが?」

 

その言葉にべクラスは口を閉ざした。彼の記憶に新しい日本国の使節団が乗ってきた軍艦。

それは飛行機械を乗せた巨艦(空母)やそれに追随する3隻の未知の武装の船(駆逐艦)であり、その全てが()()()()()ミリシアルの港までやってきたのだ。勿論ミリシアルとて空中戦艦パル・キマイラという魔帝の遺産である日本と同様に宙を翔る超兵器を保有している。しかし、日本が乗船している船よりも小さい。さらにその技術を目にした瞬間からペクラスはもしかしたら日本は魔帝の遺産を手に入れ急成長した国ではないか、いや本当は魔帝の手先ではないかとすら思っていた。

 

「…わかりました。ではこの資料を正しいと仮定して話を進めましょう。宜しいですか?」

 

近藤はペクラスの発言に驚いた。ここまでしてこちらを疑ってくるとは!これが第一列強と呼ばれる国の傲慢さか…

そう心中で嘯くもここは下手に出る。

 

「はい。そのようにして頂ければ幸いです。」

 

こちらが下手に出たことにペクラスは満足したような顔をして話を続けた。

 

「では初めにこちらからも自国についての資料をお見せしましょう。」

 

満足気だったペクラスの顔がさらに浮きだった。まるでお宝を見せようとする子供のように。

まあそれも下だと見下していた国に対して反論できなかったのだからペクラスの心情は察せられる。きっとなにか自国の自慢をするのだろう。

 

しかし人生で初めて見る「魔法」に対しての近藤の大きな期待は目の前に運ばれた「それ」によってあっけなく破壊される。

 

「…これは?」

と聞けばぺクラスは目の前に二人がかりで運ばれた箱について自慢げに語り始めた。

 

「これはカラーテレビというものです。まあ貴方方が知らなくても当然な代物ですがね。なにせこの世界で色を映せるテレビを持つのは我がミリシアル帝国だけですからね!…おっとテレビの意味を伝えていませんでした。テレビというのは―」

「いえ、テレビの意味は分かります。我が国にもありますし。」

 

ぺグラスの笑みがまたもや消えた。しかしそんな事を近藤は気にしていない、それよりもカラーテレビへの衝撃が勝ったからだ。

第一列強が…カラーテレビ?…それもこんな骨董品のデカ物を?

近藤は目の前の大人一人が抱えてやっとの大きさのテレビを見て目をぱちくりさせた。

 

「そ、そうですか。では我が国についてのビデオをお見せいたします。」

 

ぱっと電気が消えカラーテレビが暗闇に光るも今では想像できない程の低画質に低音質。さらにビデオの内容も事前に日本国内で渡された情報部による調査結果と似たものばかり。

そうしてビデオが一通り終わった時やっとの事でこの世界の第一列強へのギャップを呑み込んだ。

 

「いかかがでしたか?我が国のテレビは?」

「と、とても良い機械ですね…」

冗談じゃない。こんなガラクタを使っている国が世界一の国とは…

その若干の失望がこもった声に今まで自国の名誉のために堪えていたぺクラスの堪忍袋の緒が切れた。

 

「…そのような言い方をなさるのならそちらの技術を見せてもらいましょうか!」

 

会議室にぺクラスの声が響いた。

しかしそれは近藤の予想通りだった。

 

「わかりました。ではお互いに視察団を送り合うのはいかがでしょうか。」

 

近藤の目的、それはミリシアルに日本の力を見せ敵対させないようにすること。そして魔法についての調査であった。ならばこの機会を生かす他ない。

 

「視察団…ですか。」

 

ペグラスは少しの間考え込んだ。しかしそれもすぐに決断を下す。

 

「一応陛下にこの件は相談させて頂きます。恐らく可能ですが。」

 

魔帝の遺物、若しくは魔帝の手先そのものであるというペグラスの予想を確かめるにはちょうと良い提案。そしてこの生意気な国に列強一位の実力を見せつけてやろうという気持ちが彼を動かす。もちろんそれが国益であることも理由だが。

 

「わかりました。良い返事を期待しております。」

「では次の提案について----

 

 

 

 

 

「と、ミリシアルに対しては1度視察団を送りあってから貿易を行うと決まりました。」

 

田村は手に持ったミリシアルについての報告書を仕舞い首相を見た。

魔法文明について無知と言っても過言では無い日本にとって初めから貿易を初めては何が売れるかすらわからない。それならばこの視察団派遣は理にかなっているし、魔法を知ることは技術上、安全保障上必要なことだが…首相は厳しい顔をした。

 

「君は我が国が1度も視察団を受け入れていないことを知っているだろう?現にクワ・トイネを筆頭にこの地域の国々から視察団を派遣させて欲しいという要望が後を立たないのだぞ?」

 

首相の懸念。それは未だに1度も視察団を受け入れていないのにミリシアルのみ許可すれば周辺諸国から反感を買うのではというものだった。

 

「それに元々我が国についての情報秘匿のために受け入れないようにしろと言っていたろ。なあ生駒?」

ギロリと睨まれた生駒はすぐに説明を始めた。

 

「それに関しましては秘匿の必要性が薄まったため大丈夫かと。」

「どういう風の吹き回しだ?」

首相が問うた。

 

「周辺諸国の文明レベルが完全に把握できた為です。元々あれは万が一自国以上の技術をもつ国がいた場合に備えての物でしたから。」

その説明に合点がいったと首相は頷いた。

 

「で、他国の反感については?」

 

田村は鞄から1束の資料を取り出し首相へと渡す。そしてその『大規模視察団の受け入れについて』という資料の解説を始めた。

 

「本件に対しては転移後から検討されていた複数国家の視察団を同時に受け入れる案を基に対応します。」

「1度提案があったあの案か。まあなら大丈夫だろう、それで視察団を送ってくる国はどこなんだ。」

 

外交畑出身の首相は非常に飲み込みが早かった。

そしてまた質問する。

 

「はい。主要な国と致しましてはミリシアル、ムー、クワ・トイネ、クイラ、フェンの5カ国の予定です。」

「ムーとは例の第二列強とやらか。それについての報告を先に聞こうか。」

 

言い終わったのを見計らってかちょうど扉が開き秘書が3人分の珈琲を持ってきた。ふんわりと珈琲の香りが部屋を包む。

田村はその1つを受け取り報告を始めた。

 

「はい、次にムーですが…こちらは同じ機械文明という事もあり友好的でした。」

 

 

 

 

 

新型巡洋艦石狩 艦上

 

「おーあれがムーか!記念館で見たことある見た目の町だな。それにあの船は…」

「大村、そろそろ着くぞ、支度しとけ。」

 

海上10数mの高さを浮遊しながら前進する巡洋艦石狩の小型の甲板上、そこで海の先の街を眺める2人の外交官がいた。

 

「了解した!…それで、一つ質問なんだがあの船はなんなんだ?」

大村が指さした先には小型の艦船が1隻ゆっくりとこちらに向かってくる様子が見える。

 

「あれはムー国の沿岸警備艦艇だな。こちらを向こうの港まで案内してくれるようだ。」

「いや、しかし…なんというか…めちゃくちゃ古くないか?…」

 

手持ちの双眼鏡で確認すれば小型艦船は記念博物館にでもありそうな「それ」、もし今の日本にあんな船があったら間違いなく数百年前の船として国宝扱いだろう。

 

「本国の技術部、歴史家によってなる分析委員会に先程連絡をしたが、ww1かww2の前後の艦船の可能性が高いだと。」

「そりゃ何百年前の船だよ…」

 

 

 

その件の沿岸警備艦艇その乗務員らは一様に困惑に包まれていた。元々日本国の外交官を乗せた軍艦がやってくるという知らせは届いており、全ての沿岸警備艦艇は案内する港まで把握していた。

そして現に目の前にいるムーの最新鋭戦艦ラ・カサミ級よりも1回り、いや2回りほど大きな軍艦それは彼らを大きく驚かせた。

しかし、それと同時に最も大きな困惑が彼らを襲った。

 

「なんで…あの船は浮いてるんだ?…」

 

そう驚く彼らを他所にその軍艦は信じられない程の強さで無線連絡を行う。

 

『こちらは日本国巡洋艦石狩。そちらの所属を問う。』

 

ふと我に返った艦長が無線員に連絡するよう指示し他の科員も忙しなく動き始めた。

 

『こちらムー沿岸防衛隊。日本国に対し外務省からマイカル港へ向かうよう要請が来ている。尚、港へ到着後こちらから迎えを送る。今から我が艦へ追随して頂きたい。』

『こちら石狩。了解した。』

 

そして数十分後

 

「やっと着いたか。」

「案外かかったな。」

そう佐木が愚痴る。後ろには着水し港へ停泊する石狩とその乗務員達がぞろぞろと船旅の疲れを癒しに街へと向かっていくのが見えた。

 

「あんだけ古い型の船だ、承知の上だったが…。」

「俺はああいうの好きだがな。」

そう2人が話していると大正時代のような見た目のレトロな車が近づき、一人の男が降りてきた。

 

「貴方方が日本国の外交官ですか?」

 

小綺麗な服装で現れた外務省列強担当部課長 オーディグスは2人の後ろにある巨大な軍艦への驚愕を隠しながら丁寧に聞いた。

 

「はい、私が使節団特命全権大使の佐木。こちらがその副使である大村です。」

よろしくお願いしますと軽い挨拶を行った後オーディクスは口を開く。

 

「ではお二人ともこちらの『車』にお乗り下さい。」

その言葉と共に運転手が後部座席の扉を開けた。

 

「ありがとうございます。しかし四輪駆動とはまたレトロな…」

「人生でタイヤ付きに乗ることになるとは思いもしませんでした。」

 

沿岸防衛隊からの知らせで列強レベルの実力を持つやもしれぬと判断され対応に当たったオーディクスは到着し初めに見た自分の知る限り最も大きいかもしれない『それ』によってその判断が正しかったことを理解した。そして今彼は1つ疑問に思った。

(反応からすると…車に乗るのは初めてなのか。)

 

そう判断したオーディグスだか実際はただの解釈違いだ。

確かに「タイヤを持つ」車は現在の日本にはない、つまり「四輪」駆動はないのだ。その代わりにタイヤを持たず宙を走る車両を使用していることなどオーディグスは予想すらできていなかった。

 

「今からマイカル空港へと向かいます。その際に我が国の戦闘機をお見せできますが…いかがですか?」

「そちらがよろしいのであれば是非!」

 

大村がその提案に大きく頷いた。ww1,ww2オタクである彼からしたら願ってもなかった。

その後町を眺めながら空港に着いた後、一つの客室に通された二人はオーディグスとの話を始めた。

 

「……オーディグスさん、今回の提案。有難うございます。お礼と言ってはなんですが一度本国に連絡をしてこちらも戦闘機をお見せいたしましょうか?」

 

佐木の提案にオーディグスは困惑する。日本がロデニウス大陸の東にあることは前提情報として認知している、そして彼が言った提案が可能だとしたらそれは遥か彼方にある日本国からムーまで飛行できる戦闘機を所持していることを表す。そのような事は俄に信じられず、別の可能性を考える。

 

「ひとつ質問があるのですが、あなた方は国外に軍事基地をお持ちですか?」

 

…はあ、と困惑する大村、そして佐木は答えた。

 

「クワ・トイネやクイラを含むロデニウス大陸の国々には基本的に有りますね。」

 

日本国内では一般的に公開されていてその国々でも容易に確認できるその情報を教えても問題は無いだろうと判断し佐木が言った事に対しオーディグスは返す。

 

「つまり…貴国の本土から戦闘機を寄越すと?」

「ああ、すみません。爆撃機などをご志望でしたら1度本国に連絡する事も可能ですが…」

「そうではなく、日本国からムーまでの飛行距離を持つ飛行機を、そちらは持っているのですか?」

 

大村の言葉を遮りオーディグスは言った。驚き、あるいは困惑のような何かを込めて。

 

「はい。それが何か?」

 

その大村の返答に対しオーディグスが一瞬驚愕の様相を示しその後すぐにポーカーフェイスに戻った事を佐木は見逃さ無かった。だが佐木が動くよりも早くオーディグスは言う。

 

「すみません。私とした事が、政府へ連絡しないといけない事を忘れていました。可及的速やかに行う必要がある故、一度失礼します。」

 

丁度11:30を指し示している時計をわざとらしく見たオーディグスはそう言い残して部屋を後にした。

凡そ1度政府へ連絡して技術職当たりを連れてこようとしているのだろうと佐木は判断する。

戦闘機の見学はこちらに技術力を見せつけ外交上の先手を取るのが目的であると佐木は推測し、他国のほとんどがワイバーンを使い飛行機を保有していないという現状もその推測を固める事になる。

しかし1つ疑問が残る。佐木は目の前に出されていた一つのコーヒーを手にし、一つ呟いた。

 

「大村、何故あそこまで飛行距離について聞いてきたんだ?」

 

ん?と窓から外の町を眺めていた大村は答える。

 

「あーお前専ら外務畑にいたからあんま軍事はわからんのか。」

「まあ、必要最低限の知識はある。それも外交の延長線上だが。それに関しては門外漢なのは確かだな。」

 

そういう佐木に対して大村は教えてしんぜようと続けた。

 

「佐木、戦闘機の飛行距離がどれくらいかはわかるか?」

「それくらいは流石に知っている。中規模惑星2周分程だろう?まあテレポートを使えばそんなことする必要もないが。」

 

窓際から佐木の前に歩いて来た大村はもう片方のコーヒーを取り言う。

 

「それが()()の戦闘機だ。俺の好きな時代、まあww1ww2前後とかの飛行機の黎明期の機体はそもそもテレポートのテの字もないし、それこそ惑星2周なんてとてもじゃないができなかったんだ。」

「なるほど。つまりムーの飛行機は俺らでいうそれくらいの物だと。そう言いたいのか?」

「その通り。まあ詳細は本国の歴史家達に聞くしかないが。」

 

佐木の隣の席に腰を掛けた大村は手を組み話す。

 

「まあ俺が考えるに、連中は機械文明で飛行機を持つのは自国だけだから見せた所でなんの情報も盗られないとでも思ってたんだろう。しかしうちが飛行機を持っていてその上向こうさんよりハイスペックな可能性が出てきたもんだから驚いてるんだろう。実際のところグラ・バルカスやうちの国、最近で言えばクワ・トイネとかクイラもうちからの供与で保有しているがな。」

「グラ・バルカスっていうと前のニュースの?」

 

前のニュース、それはレイフォルとグラ・バルカスの経済軍事同盟だ。外務省内では最も不可解な同盟として注目されている物だった。

 

「ああ、それだ。まあどんな飛行機かはまだ調査中だがな。」

「なるほど…」

 

それから幾ばくかの聞かれても問題ないような雑談を繰り返し、二人のコーヒーが無くなりムー側から適当な昼食を受け取った所でオーディグスは戻ってきた。

時計は12:45を指し、太陽は昇っている。

 

「本当に申し訳ない。これだけお待たせしてしまって。」

 

食べかけのトーストを急いで食べようとする大村をよそに先に食べ終わった佐木が言った。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。それで、戦闘機に関しては如何様にしましょうか?」

 

大村が食べ終わったのを見計らいオーディグスは返答した。

 

「そちらが可能ならば是非と。こちらの戦闘機は先ほど到着いたしましたので、では向かいましょうか。」

 

オーディグスは一つの嘘をついた。戦闘機が先ほど到着したと、あくまでそのために待って貰ったのだと。

 

「わかりました。大村、エジェイ基地からホーネット2-A*1を一機送るように要請を。」

「了解。」

 

そうして外に出た三人の内、大村が連絡を行った所で会話が続く。

 

「先日軌道に乗った小型衛星を利用しテレポートでこちらに来るそうだ。呼称はピーター。」

「到着までの時間は?」

「5分ほど。」

 

そう淡々と行われていた会話は一人の声で止まる。

 

「日本から、ここまで。五分…ですか?」

 

ムーの一般的な服装をしたその人物はそう言って近づいて来た。

 

「申し遅れました。私は技術士官のマイラス・ルクレールです。」

「ああ、私たちは日本国使節団の佐木と大村です。」

 

どうもと続いた大村達に対してオーディグスは言う。

 

「我々の戦闘機の整備などを行ってもらうために呼んであるんですよ。さあこちらへ。」

 

日本国の技術水準を図るために送られた士官、それがマイラス・ルクレールだ。だがそれがばれてはいけない以上整備士のように振舞ってもらう予定であった。

 

「戦闘機に関しては私が説明をさせていただきます。」

「それは有難い。」

 

そうして彼らは機のもとへ向かう。一人のムーの技術水準とは似つかないカメラを持つ民間人を他所に…

 

 

 

 

 

 

 

レイフォル ()()()()()()() ()()()()

 

研究所、今はもう日本赤軍の本拠地となっているそれの最奥にある所長室。そこへ一束の報告書を持ち一人の人が向かった。

 

「同志委員長。日本国とムー国が接触した様です。」

「ああ、わかった。報告に感謝するよ、同志。」

 

所長室の最奥にある大きな椅子に腰かけ、資料を読むその男。それこそが日本赤軍の重鎮、委員長だった。

 

「では私はこれで、失礼し―

「ああそうだ、同志。一つ聞きたいことがある。」

 

ビクっと肩を揺らした報告者の顔は死に体のそれ。一つ言葉を間違えれば鉱山物調査(強制労働)行きなのだから仕方がない。

 

「そんな驚かないでくれ。これはただ単に質問だ。約束しよう。」

 

恐る恐る委員長を見た貴方に彼は一つの言葉を述べた。

 

 

 

「ただ意見を聞きたいだけなんだがね、ムー国と神聖ミリシアル帝国、どちらの人民を先に開放した方が良いと考える?」

 

 

*1
一話にて登場したファントムの一つ前の機体。第█次世界大戦勃発の寸前までいった、██危機の際に計画を早め急ピッチで作られた機体のため世代は同じだが、その後綿密に計画し直されたファントムに比べ燃費や各種装備の費用対効果の点で劣る。今回の場合防衛任務、哨戒任務にファントムが当てられているため代わりに送られた。




長めのやつを少しずつ方向に切り替えます。
質問や!感想!お待ち!してます!


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閑話 初陣

一発書きだぜェヒャッハー!!
(訳:文化祭疲れた)


 

 

ロウリア共和国及びスマーク共和国等の諸国に対する治安維持作戦への意見書

 

治安維持部隊α及びβ部隊長 第三歩兵師団長 第一即応機動戦闘団団長による連名書

 

本文は数週間前から施行されている治安維持作戦第12号に対する意見文である。

初めに、敵対勢力に対する全面的な武力制圧を行う本作戦は周辺諸国の安全保障上や治安維持のために必要であることは確かに理解できるが、それに対する自軍の部隊数や補給等が非常に不足している事を理解して頂きたい。現代兵器で武装している彼らに対し我々は獅子奮迅しているがそれでも尚部隊の損耗が甚だしくその補給も間に合っていない。付け加えるならば先日から敵対勢力に戦車や戦闘ヘリが見られるようになり、パルチザン以外の見えざる手が加わっている事は明らかである。さらに損耗においても先日戦闘団所属のパイロット3名が戦闘ヘリとの戦いにより戦死し、2名が軽傷。1名が敵戦車主砲の直撃を喰らい重傷を負ってしまう事案や1個小隊がパルチザンに包囲殲滅される等の甚大な被害が報告されている。

以上の事から治安維持作戦第12号に対し速やかな改善案の提示、若しくは撤廃を求む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロデニウス大陸 ロウリア共和国首都ジン・ハーク 第一防衛陣地 日本軍治安維持隊α1

 

「CP!こちらα1!定期便だが数が多い!数は500!至急応援を求む!」

「こちらCP。第二歩兵中隊と第五戦車小隊がそちらへ急行中α1はα2,3からの援護の元、遅滞戦術へ移行し第ニ陣地まで移動せよ。」

 

対ロウリア戦終結後ロウリアは旧ロウリア王国の6割ほどを占めるロウリア共和国、各諸侯らの土地ごとに独立した国家群に分割統治され政治体制も共和制になった事で平和となる……はずだった。

 

「α1了解!直ちに遅滞戦術へ移k---ッ‼

(なに?戦闘ヘリが3機、旧式戦車15両が襲来?急いで対空、対戦車部隊を回せ!)CP!敵戦車と戦闘ヘリが襲来!このままだとこちらが殲滅されかねん!急いでくれ!」

 

だが現実は程遠いものだった。旧体制派である王国親衛隊。赤衛兵と呼ばれる共産主義者などがパルチザンとして暴れており何処から来たかわからない(日本赤軍)兵器で武装しているため、その対処だけでも日本に大きな負荷を背負わせることとなった。

それだけではない。日本、クイラ、クワ・トイネ以外の全てのロデニウス大陸の国家で起こっていると言っても過言ではないそれはこの世界の列強などの各国へ技術が漏れてしまう可能性が大きくあるのだ。今はまだ情報部や宇宙軍艦隊の努力により本国へ持ち帰らせる前に回収(不慮の事故)できているが、それも時間の問題であった。

 

「隊長!敵戦車5両がα2へ、残りの10両と戦闘ヘリ3機すべてがこちらに向かっているとの事!」

「クソッ忌々しいコミ―共が!何処からあんなもん持ってきた!」

 

中世ヨーロッパのようなレンガ造りの町。その一つの道路にある防御陣地から砲声が轟いた。

 

「目標敵戦車群!迫撃砲、弾着--なッ!」

 

観測兵の覗くレンズに映るは全ての迫撃砲の弾が新手の戦闘ヘリの迎撃ミサイルによって落される光景。鉄と炎が舞う光景はむしろ妖美な美しさを持つ。

 

「CP!敵ヘリが計6機へ増加した!遅滞戦術ももう無理だ!直ちに第四陣地まで撤退させてくれ!」

「こちらCP、それはできない。最終防衛陣地後方からパルチザン共が確認された…」

「…つまり我々は包囲されたと?」

「……そうだ。それとすまないがさらに凶報だ。第二歩兵中隊と第五戦車小隊が後方に出没したパルチザンと戦闘を開始した、代わりに今現在第二機械化歩兵連隊が向かっている。到着まで600だ。」

「ッ…了解した。」

「武運を。」

 

CPへ掛ければ最も聞きたくなかった凶報。我々は戦争をしているのか!と叫びたくなるそれを呑み込み声を上げた。

 

「藤井!α2,3と合流を図りたい、急いで連絡を取れ!お前ら、後10分耐えれば援軍が来るそうだ!文字通り命がけで戦え!」

 

ドンッという敵戦車の砲声。陣地の左翼が吹き飛んだそれが防衛線の合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 ジンハーク上空 高度3000 キャリア―1 機内

 

 

「アース、いいか今お前は実戦にいる。まさかだが、恐れてなどいないな?」

 

輸送機の機内、数機のタイタンが積まれた、その最も後方の部分に二人のパイロットがいた。一人はクワ・トイネ軍の5人のパイロットの内の一人、元騎士であるアース。もう一人はその教官であった。

 

「…はい。準備はできてます。」

 

フラットライン*1を抱え目をつぶっていたアースは覚悟を決めた。ヘルメット越しでもわかるその思いは教官にも伝わったようで、よし。と声をかけた。

 

「目的は現在包囲下にある治安維持部隊の救援だ。敵勢力は戦車十数両と戦闘ヘリ6機、それと数百の歩兵だ。いいな?」

「了解!」

 

ブゥーンという独特な機関音とともに高度が下がる、降下はすぐだ。

 

「試練は鉄と血をもって終わる。では、いけ。」

 

覚悟を決めた。下部のパッチが空きヘルメット越しに風が吹き荒れる。

 

「タイタンフォール スタンバイ」

 

 

 

 

 

 

 

ロデニウス大陸 ロウリア共和国首都ジン・ハーク 第ニ防衛陣地 日本軍治安維持隊α1

 

「隊長!」

「α2,3と連絡がとれたか!」

 

携帯型対空対タイタン兵器のアーチャーを使いやっとのことでヘリを堕とした直後、銃弾飛び交う陣地内で声が上がる。

 

「α2は現在こちらへ後退中。3は最終防衛陣地で防衛戦中とのこと!」

「ああ、クソッ。もう対戦車戦闘ができるもんはないぞ!」

 

敵歩兵はやはりパルチザンだからか民兵がほとんどで対処はできているが戦車によって左翼は壊滅状態。それに援軍が望めないのは非常にまずい状態だった。

 

「左翼に手隙のやつらを回せ!前線を崩壊させるな!」

「緊急電です!」

「今度はなんだ!」

 

その場にいた全員が悪報を予期し苛立ったそれはいい意味で裏切られる。

 

「陣地手前D-2に自軍パイロットがタイタンフォールします!コールサインはリッター!」

 

歓声、喜びが一瞬にして陣地を包み込む。それほどまでにタイタンの存在は大きいのだ。

ヒューという落下音は目の前まで来ていた3両の戦車に死をもたらす。

ギギィという金属の潰れる鈍い音と共に落下したそれは戦場の神…タイタンだった。

 

「こちらリッター1、救援が遅くなりすまない。」

 

タイタンの全面ハッチが開き顔を見せるは獣人用に耳部分が加工されたヘルメットを被るパイロットだった。

それに対し冷酷に青く光るモノアイは静かに敵を補足している。

タイタンの下にある、潰れた戦車を円盤投げの要領で戦闘ヘリへ投げつけたのが反撃の合図だった。

 

「いいや!よく来てくれた!野郎共、行くぞ!」

 

反撃の狼煙が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かくしてあの最大規模のパルチザンは殲滅された訳か。」

 

クワ・トイネに新設された郊外の居酒屋、日本人が店主を務めるそこに三人の男がいた。

 

「そんでそれがこいつの初陣でもあるわけだ。お前も聞いたろ?佐木灘。」

 

アースの教官、パイロット連隊の連隊長でもある男がカレイの煮付けを口に運びながらそういった。

 

「俺もβのとこで戦ってたが…確かに聞いたぞ、初陣で戦車7両撃破、戦闘ヘリ2機撃墜らしいじゃないか。」

 

教官の指揮する連隊の次官、佐木灘がビールを飲み干し熱燗へと切り替えながらそう言う。

 

「い、いえ。あれはたまたま運が良く…」

「運も実力のうちだ。新人。なら豪運を喜べよ。」

 

お猪口が空だぞとアースのお猪口に熱燗を注ぐ佐木灘を他所に教官がビールを仰ぎながら続ける。

 

「まあ、これでお前も含めクワ・トイネのパイロットは全員初陣を無事終えたわけだ。これで正式にそっちで部隊編成が行われるだろうな。」

 

ぷはーと三杯目のビールを飲み干しすっかり顔を赤くした教官も熱燗に切り替え再び飲み始める。新たに頼んだ軟骨の唐揚げを摘まんで嬉しそうにそういった。

クワ・トイネのパイロット訓練生5人は先日、五人目が初陣を終え全ての訓練課程が終わったとして正式なパイロットとなった。それに伴いクワ・トイネ軍部隊に編入される予定であった。思い返せば長いようで短かったその思い出に浸りながらアースは今では一番のお気に入りとなったぶり大根を熱燗とともに口に入れた。

 

「まあ教官殿のあの訓練から解放される訳ですからねえ。嬉しいもんですよ。」

ふと教官が箸を止め言う。

「ああ、それなんだがな。喜べ、お前らはもう訓練生じゃあないからな。来週から俺達、日本軍パイロットとの模擬戦だ。」

「……マジですか?」

 

驚きのあまり酔いが覚めたと言わんばかりのアースに佐木灘はこれはいい肴になると笑いながら運ばれてきたばかりのねぎまを頬張った。

 

「まあ、なんだ。とりあえず初陣は無事に終わった訳だからな。それに乾杯といこうか。」

 

夜の町にコツンと3つ音が響く。夜はまだ始まったばかりだった。

*1
AK-47の先端部をごつくしたようなAR




おい待て、期末テストまで1ヶ月切ってるとかふざけるなよ!!!!!


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第二十二話調査報告③

書き溜めがテスト勉強云々で尽きてしまったので次の更新は遅くなります。※まだテストは終わっていない。


「生駒、ムーの航空機はww1中、前くらいの機体で間違いない。解説された武装やエンジンが完全にそれだった。」

『お前が送ってくれた資料から、うちのやつらが分析したが、同じくww1前と言っていたよ。とりあえず続報があったらまた頼む、特にうちの兵器類に関する反応とかな。』

「了解。じゃあまた。」

 

ムー側の航空機 マリンを技術士官からある程度解説され、それから数分後。

佐木は飛行場の端で厳戒態勢でムー軍の兵に見張りをされているピーター1ことホーネット2-Aとそのパイロットを眺めながら情報部長の生駒に連絡をしていた。

 

「佐木ー!そろそろうちの戦闘機の説明するぞ!」

 

遠くから大村が叫んでくる。佐木はその元気さに呆れつつ煙草の火を消し歩き始めた。

 

「では戦闘機パイロットである私、尾沢から説明をさせていただきます。」

 

そこに着くとすでに戦闘機の周りはムーの技術者と話を聞いた航空機パイロットに囲まれており大村とムーの技術者マイラスがこちらに手を振っていた。

すでにムー側から興味津々の人込みを避け大村達の横に着くと佐木もそれを聞き始めた。

 

「本機は我々日本空軍が使用している機体の一つ前の型となっています。しかし世代自体は最新型と同じで発動機等は大差が無い物となっています。次に---」

 

淡々と説明をする戦闘機パイロットにムー側の人々は真剣に話を聞いていた。日本国内やクワ・トイネでも買えるような軍事雑誌の情報程度だがそれでも彼らにとっては未知との遭遇らしい。

そう佐木は思いながらも彼らの反応を分析する。反応、質問、周囲との会話。すべてが重要な情報であり、それを集め思考する。

すると一つの事に気づく。

 

「大村、いいか?」

 

ふと大村が横にいるマイラスを見るが、マイラスは周囲の技術士官とともにパイロットへ様々な質問をし議論し合うのに夢中であった。

 

「ああ。大丈夫だ。どうした?」

「いや、連中の技術をww1付近とすると…もしかしたら戦車の原型のようなものもあるんじゃないか?」

 

はっとした大村がこちらを凝視する。ミリオタとしての本能と外交官として情報収集せねばという信念が交じり合った大村は即座にちょっと調査してくると言い残し去っていった。

そうして相棒もどこかに行き自由な時間が生まれた佐木は少しの思慮をした後、何か良い地酒でも買っていくかと付近の衛兵に許可を貰おうと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘機が周囲の視線を搔き集めた。緑の塗装に囲まれた日の丸を見せつけるように上空を飛んだそれは夕陽を背に、ぐにゃりと虚空に溶けた。

 

「なんだ?」

「あれが例のテレポートか!」

 

ざわざわと声を上げる彼らの後ろに再びそれが空間を歪め、現れた。

 

「やっぱりテレポートもプロペラ以外の航空機も知らないようだな。」

 

富士総合火力演習を見るかのようにホーネット2-Aの曲芸飛行を眺めていた大村はその声に振り替える。

そこには「酒」と書かれた紙袋といくつかの小袋を持つ佐木がいた。

 

「まあそうっぽいな。てかちゃっかり土産買ってんのか。」

「暇だったもんでな、それで戦車は?」

 

ほれ と渡された1瓶の酒が入った袋を受け取った大村は酒を取り出して言った。

 

「それなんだがな…全くと言っていい程見つからなかった。」

「…本当か?菱形戦車くらいならあると思ったんだがな。」

「いいや、俺もよくよく考えてみたんだがな。戦車は塹壕戦の為に作られたのが初めだから正直この世界なら無くても当然の代物だろう。」

 

なるほどなと佐木が納得し、話を終えた時マイラスがこちらに来た。

 

「お二人ともこちらに居ましたか。外務省の者が貿易等についての話をしたいと。」

「ああ、分かりました。今行きます。」

 

そう答える佐木に対してマイラスは何か言いたげにこちらを見た。

 

「…なにか?」

「いや、その…会談ではもしかしたら、多分、恐らく同伴する技術部の者が技術交流を提案するかもしれないのですが…」

 

ああ。と佐木はマイラスが何を言いたいのか理解する。

 

「大丈夫ですよ。こちらとしてもムーの技術は知っておきたいですから。」

 

ほっとした顔でありがとうございますと言ったマイラスは挨拶をして他の技術者の元へと歩いて行く。

 

「いいのか、あんなこと言って」

大村が問う。

「まあ、航空機以外の技術も確認しておきたいからな。この世界には魔法や未知の生物が多くいる、戦車しかり、きっと元いた世界と異なる技術の進化をしているはずだ」

ならいいかと歩き出した大村の後ろを佐木はついて行った。日が暮れ始めたムーの空には薄い星々が煌めいていた。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、クワ・トイネと同じく友好的な交流という訳か。」

理解したと手を軽く上げた首相は次にと続ける。

 

「使節団については、田所に一任する。」

「わかりました。」

「それで…生駒、報告というのは?」

 

ちらりと首相が田所を見た後生駒に顔を合わせる。とどのつまり田所が聞いていても大丈夫な情報なのかという事だった。

 

「この報告は外務省にも注意喚起を含め知らせるつもりなので大丈夫です。」

 

そう言った生駒の顔色は頗る悪い。部屋に入る前の死人の顔よりも青白くなった彼は言う。

 

「そして報告というのがこの書類です…」

 

胃を軽く押えつつ2人の元へと渡された書類。数枚という少なさだがそれは二人を驚愕させるに足る代物だった。

 

 

 

 

『████博士の提言』

 

緊急度の高い要件のため官僚主義的な堅苦しい前書きも言い回しも行わずに本報告書は本題に入るものとする。

 

先日実行された██████作戦にてパーパルディア皇国内の日本赤軍拠点へ一斉襲撃及び破壊工作が成された。幾つかの予想外の出来事もあったが金を握らせたり命令を偽装したりと比較的簡単に処理できた事で作戦は完遂される。

しかし本件はその作戦にて発見された非常に巧妙に秘匿された()()()()の存在と1つの文章について述べる。

 

兵器工場については言わずもがな最優先で破壊せねばならない事案である。当該施設で発見されたのは3つの旧式の銃火器工場と1つの戦車工場である。特に戦車工場については日本赤軍の戦力を大幅に増強させるものとして緊急度の高いものとなる。

 

次に文章について、文章は本報告書に付属されている。そしてその要約したものとしては

・パーパルディアでは拠点が少数しか存在しない

・パーパルディア内拠点では工場と魔法研究所が主である。

・最後に--------

 

 

 

 

 

 

「…生駒、これは本当なのか?」

 

首相が生駒に問う。それはただ単に聞いているというより、どうか嘘と言ってくれと願っている様だった。

 

 

「誠に僭越ながら…確度の高い情報です。」

「申し訳ないのですが…私にはこれが最重要案件だという理由がわからないです。」

 

それとは裏腹に全く意味がわからないと呆けた顔をする田所を生駒は凝視した。

 

「この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という一文の重要性が私にはあまり…」

 

その言葉をしばらく反復させた生駒はああこいつ技術も軍事も畑違いだったなと思い出し解説する。

 

「田所、この世界でうちを除いて1番人口が多い国は?」

「…ミリシアルだな。」

では、と生駒は続けて聞く。

「この世界の今現存する魔法文明で1番発達しているのは?」

「ミリシアルだな。」

 

そこまでいった所で未だに田所が理解していないのを確認し、首相がやれやれと話し始める。

 

「君は畑違いの事に関してはてんでダメだな。」

 

そう言って首相は茶に手を出した後生駒へもう少し詳しく言ってやれと顎をさす。

 

「まあ、要するにだな。兵器工場を自前で用意してさらに人口が最も多い国へ手を出そうとしているわけだ。これでヤバさはわかるだろう?」

 

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした田所に首相は笑う。

 

「さらに加えればミリシアルの魔法技術も取り込んでくるだろうな。」

首相が言う。

「…マズイじゃないですか!」

「その対応をせねばならんっていう話だよ。」

そう言って生駒は首相へ顔を向け、続けた。

「首相、先程の提言からも分かる通り特務機関の研究者からも警告が出ています。そして先程技術廠の者からも現代科学と魔法技術を利用した新技術が完成した場合、質的優勢も連中に取られる可能性があると警告が届いています。」

 

ふむ。と少しばかり顎に手を当て首相は言った。

 

「あいわかった。とりあえずは再三要請されていた対策委員会の設置から始めよう。」

「ありがとうございます。」

 

そうして首相の解散の一言と共に定例報告は終わる。

その日中に対策委員会が作られるという異例の速さに加え、外務省、技術廠、情報部、内閣府、軍部などを跨ぐ大規模な対策委員会はその事態の重大さと緊急性を示すには十分すぎるものとなる。

 

 

そして()()が起こったのはその矢先の事であった。

 

 

フェン沖 臨時フェン国派遣艦隊 旗艦 戦艦東瀛

 

キュイーンという高音とともに橙色の光線が目標の木船の1つを包み込み周囲の海水と共に気体となり消え失せる。

日本の別名 東瀛を冠する戦艦による主砲射撃つまり45口径46cm二連光学系砲塔による砲撃だった。

 

「こ、これが貴国の軍艦ですか?…」

 

塩気香る港そこでフェン王国水軍のクシラは戦々恐々と言った。

 

「あれが水上戦闘を可能とした新造戦艦ですね。」

 

そう答える同艦所属パイロットはどこか目線がおかしい。

彼の目先は件の戦艦ではなく、1つの竜を見つめていた。

 

 

 

 

 

『もうよいだろう!早くここから離れさせてくれ!』

「待て!なにに対してそこまで怯えておるのだ?」

 

フェン沖の海上を飛ぶ一匹の風竜とそれに座禅する一人の男がいた。彼はガハラ神国神軍風竜隊隊長であるスサノウであり、この軍祭にガハラ神国から派遣されたのだったが…その風竜に異変が生じていた。

巨大な日本から来たという船を見てから異常なほどにここから離れたいと騒ぎ出したのだ。

 

『光で何もかも見えんのだ!今は旋回してなんとか飛んでいるが気を抜いたら墜落するぞ!』

「光など見えないぞ?どこにあるというのだ。」

 

そう風竜の上から身を乗り出し周りを見渡すも件の光は見えない。

 

『違う!人間に見える光ではない!我々が使う光だ!…グッ‼』

 

そう風竜がいった瞬間である。ふわっと強い浮遊感を感じたかと思えば海水へと衝撃し、激しい水しぶきを立てた。

 

風竜はレーダー波に類似した電波を使用し索敵やコミュニケーションをとる動物だ。だからこそ彼らはソナーやレーダーの光を視ることができる。

では()()()()()()()()()()()()()()()()日本の軍艦の物をその目で見てしまえばどうなるのか、そしてその光の集合体ともいえる戦艦の45口径46cm二連光学系砲塔による射撃を直視してしまったら?

もはや言うまでもないだろう。

 

 

「それにしてもこれ程までに巨大な軍船とは…」

「常々日本の技術には驚かせられるな。」

シハンの言葉にクシラは大きく頷いた。そして二人はその巨船の側面に 幾つもの穴が開くのに気づく。

 

「もしや側面にまで砲があるのか!」

そう驚くシハンに同戦艦所属のパイロットは言う。

 

「あれは砲では無いですね。自律兵器と呼ばれる物です。」

「じりつへいき?…」

 

それはなんなんだ、と聞こうとした瞬間だった。

ヒューと羽音の様なものが聞こえたかと思えばその穴から数機のプラズマドローンが飛び出した。

 

「なんだあれは?」

 

その言葉はプラズマドローンが発射した青く帯電するプラズマミサイルによって返される。

 

ボンッ 数発の青玉が飛び出したかと思った次の瞬間、気付けば残りの木船3つは船底に大穴を開けて沈没していた。

 

「…あのような…小さきカラクリで…」

 

シハンが言った言葉はその場にいたフェン国軍人の総意であった。

こんなものを大量に用意されたら白兵戦など戦闘の選択肢に置いては論外になるだろう。そう直感したシハンは隣にいる宰相へ声をかける。

 

「ただちに日本国の外務官と会談をせよ、特に軍事同盟に関しての要請を急いでくれ。」

 

 

 

 

 

軍祭の会場を驚愕の渦に巻き込んだ件の戦艦。そこでも同様に一つの直感による判断があった。

 

「…有賀艦長、本艦左方、G3海域にアンノウン20機、こちらに接近中、接触まで残り300です。」

 

その知らせは主砲射撃を終えプラズマドローンを収容してすぐの事だった。

 

「…事前通告は?」

「ありません。」

それに対し有賀の船乗りとて、軍人としての感が1つの警報を出す。これは面倒事になるぞ、と。

 

「フェン側に照会をしろ。駆逐艦村雨、時雨を第二種戦闘配置、及びデフコン3へ移行させろ。」

「はっ!」

 

乗組員の一人が走る。それを皮切りに駆逐艦村雨、時雨が第二種戦闘配置に移行した。しかし、悲しいかな、アンノウンが敵対勢力と判明するのはそう遅くなかった。

 

 

 

 



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第二十三話 フェン沖事案Ⅰ

「第一、第二小隊はフェン王国王城へ…いや、先に全騎であのデカブツを焼くぞ!」

 

フェン沖上空、その快晴な空でパーパルディア皇国の監察軍に位置する4個小隊20騎のワイバーンがフェン王国へ懲罰を下さんと向かっていた。元々はフェンがパーパルディアの領土要求を拒んだのが原因、取るにも足らない小国が1丁前に要求拒否などするからだと竜騎士たちは行き高らかにに飛行し、先が雲がかって全体が見えない程遠いが非常に大きく、建物と勘違いするほどの船舶へ狙いを定め今まさに隊を二分し、挟撃を行おうとしていた。

 

 

 

 

 

同刻 戦艦東瀛艦内

 

「アンノウンが2つの飛行編隊へ別れ本艦へ接近中!方位243、B2区画まで侵入!」

 

艦内の一つで声が上がる。それは艦長の有賀にとって最も聞きたくない知らせであった。

 

「フェンへの照会は?」

「現地で解説をしていたパイロットが確認した所、そんな物は知らないと。」

 

ッチと舌打ちを鳴らすがそれは本艦の乗組員の総意だ。所属不明機の対処なのだ、相手が何処の馬の骨かも分からないのだからそのスペックも不明な上政治的配慮もしなければならない。

そのうえアンノウンが向かってくるのは同伴する駆逐艦ではなく戦闘態勢を解除したばかりのこの船なのだ。

目の前の電子パネルに光る20の機影を睨む有賀はその耳で同艦隊所属、駆逐艦村雨からの通信を聞いた。

 

「こちら村雨、ボギー(未確認機)バンディット(敵機)とし東瀛の側面へ配置を転換する。許可を。」

 

ザッと通信が入れば村雨からの迎撃許可及び最適な護衛の為の配置転換の要請。しかしそのように簡単に撃墜して良いのなら苦労はしない。まあそのアンノウンはフェンからの回答と本国の友人(情報部)の教えてくれた情報から敵で間違いないのだが。

有賀は通信用マイクへと向かい村雨の艦長へと返答する。

 

「こちら東瀛、残念だが許可は出来ない。」

「何故ですか?フェンからは返答があったのでしょう?」

 

新造された最新型の駆逐艦、その艦長の任を務める彼は血気盛んに聞いてきた。

フェン王国から知らぬ存ぜぬと返答され、尚且つかの国はパーパルディア皇国などと軋轢がある。よしんばそこらの国の偵察隊だろうと有賀は判断した…がそれとこれとは別問題である。

 

「我々の大嫌いな政治的配慮とやらだ。全く、お上は首輪を繋げたまま戦わせるつもりらしい。」

「本当に忌々しいですね。」

「私も同じ気持ちだよ。」

 

カラカラと軽快に笑いながら有賀は言った。政治的配慮、そう政治的配慮なのだ。戦闘は政治の延長線上だがそれを実行する側からすれば唯の枷でしかないのだ。

 

「では村雨が一度アンノウンへ接触してみるのどうでしょうか?」

 

そうして提案されるは直接確認するという力技。強行偵察ともとれるそれだが有賀は乗った。

 

「ふむ…それなら大丈夫だろう。それでいこう。」

 

村雨の機関部が唸りを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、一隻灰色の船がこちらに近づています!」

先頭を飛んでいた副隊長が魔信によって通信を掛ける。

塩気のかおる上空の空は微弱な北風と快晴の空があるだけで飛行に最適な環境といっても過言ではない。

 

「一隻?…あれか!」

報告を聞いてすぐに灰色の船が姿を現す。先頭を飛行していた彼が見つけてすぐにここまで来たと言うことはかなりの速度を持つ船なのだろう。

 

「…あれが偵察用だったら厄介だな。」

「では先に目を潰しますか?」

 

少しの間を開け言う。

「そうだな、確かにその方がいいかもしれん。」

 

そして彼は二分していた編隊を元に戻し、部隊全体へと声を上げる。

 

「先にあの灰色の小型船を潰すぞ!1,2小隊は急降下、3小隊は超低高度で第二攻撃、4小隊は上空で対空警戒だ!できる限り近くまで行って確実に仕留めるぞ!」

 

 

 

 

 

 

「こちら村雨…アンノウン攻撃をせず、繰り返す、アンノウン攻撃をせず。」

 

なに?、有賀は呟いた。確かに20の機影は4つに分かれこちらに接近している。現代戦であればとっくに戦闘が始まっている。この世界でも交戦が始まってもおかしくない距離だ…

液晶に赤く光る機影は村雨まで残り数百m、なぜ攻撃をしてこない?もしや本当は敵でなく、ただの通達ミス?…そう考えていた所で、一つの考えが頭を過る。

いや、待て。村雨はミサイルを主にした武装だったはず。だとすれば艦についている砲といえば一門の主砲と光学系、物質系のCIWSのみだ。

…ならば対空攻撃能力がないと思われても不思議ではないだろう。ではどう仕掛ける?自分ならばどうする?反撃の心配のない戦場、尚且つ初撃…

 

「確実な、一撃か?」

 

安心して初撃を打ち込めるなら確実に、効果的な一撃を決めようとするはず。ならば連中は!

 

 

 

「こちら村雨!アンノウンが火炎弾を射出!交戦許可を!」

 

村雨艦内の無線で艦長が叫ぶ。村雨直上から降り注ぐ10の火炎弾を速度に物を言わせ避けたが先手を取られたのには変わりない。

 

「ッ,本艦前方に機影、火炎弾5!2発直撃コースです!」

「なっ!衝撃に備えろ‼」

 

その叫びの直後、東瀛からの返答を待つことなく火炎弾が村雨を襲う。ワイバーンから放たれたそれは確かに村雨を燃やしたのだ。

 

「こちらダメコン班!敵火炎弾共に艦後方に直撃、後部CIWS、2基共に使用不可!主砲及び他のミサイル類は全て無傷!」

「わかった!敵ワイバーンは?」

「現在急上昇中です!」

 

クソっと悪態を付けども状況は変わらない。さればとCIWSの緊急修理と詳細の確認を命じた所で無線が飛んだ。

 

「こちら東瀛!村雨、状況を報告せよ!」

「こちら村雨、後部CIWSが使用不可能。現在被害詳細を確認中。」

「…了解。現刻をもってアンノウンをバンディットとし交戦を許可する。東瀛及び時雨がそちらに急行しているが暫くかかるだろう、以上。」

 

無線から流れるは少しの安堵と交戦の許可の知らせ、CIWS以外に大した被害が無いと報告を受けそのまま指令を出す。

 

「対空戦闘用意!アンノウンをα1から20とし攻撃を開始する!」

同時に船務士の一人が言う。

「α1から10、全騎急降下を開始!」

「対空戦闘!ミサイル発射用意!目標α1から10!」

「SAM発射準備よし!」

「全弾発射!」

 

ジリリリとけたたましく警報が鳴りSAMが炎を纏い垂直に飛び立つ。

諸元が入力され自動で目標まで突き進むそれは位置エネルギーを運動エネルギーへと還元し最高速度で突っ込むワイバーンへと…炸裂した。

 

「SAM全弾命中。α1から10全て撃墜!」

村雨のCICの中でそう声が上がる。残りは半分だ。

 

「α11から15までが撤退を開始、16から20がこちらへ攻撃準備をしています!」

「殿ってか!α11から15へはSAM、16から20へは主砲でいくぞ!」

 

ちらりと窓を見れば確かに撤退しようと艦から離れる5騎のワイバーン、レーダーに映る機影から考えればもうすぐに殿の5騎がこちらに攻撃を開始するだろう。

だが遅い。

 

「SAM及び主砲、撃ち方初めェ!」

 

再びけたたましい警報が鳴り、それに共鳴するように村雨の主砲が軽快に砲声を上げる。

静寂に包まれたいたはずの海は何処までも追跡し続けるミサイルへの阿鼻叫喚と一つ砲声がなる度に的確に命を散らす竜騎士の最後の恨み言で満たされたのだ。

 

「目標、全騎撃墜。周辺海域に感なし。」

 

その報告を受け艦長が言った戦闘終了の宣言は艦隊全体を安堵させる。

だがその安堵は艦隊だけの話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて事を…」

 

日本国使節団特命全権大使の高橋はそう呟いた。木船を撃破する日本国艦隊を見ていた時の誇らしげな顔は今や青ざめ、倒れてしまいそうなほどだった。

 

確かに艦隊は相手から先制攻撃を受けていた、最初に迎撃した10騎程は正当防衛でその元の国もまともであれば抗議してはこないだろう。

問題は残りの10だ。明らかに撤退を行おうとしていた、これを戦意が無いのにも関わらず攻撃したといちゃもんを付けられかねない。まあ流石に国籍の確認もせずに攻撃をしてきた時点で向こう側に非があるのは明らかなはずだが…

そう思考に耽ていた所で補佐官が顔を青くしこちらに走ってくる。

 

「不味いことになりましたね…」

「一歩間違えたら戦争だぞ、最優先でフェン側に会談を申し込んで…」

「それが既に向こうから会談を申し込まれていまして。」

「…何?」

 

 

 

 

 

 

 

フェン国の茶室、日本のそれと言われても違いが分からないほど似通ったそこに4人の険しい顔があった。

 

「此度は助太刀を頂き、まずは謝意を申し上げる。」

「助太刀?何の事でしょう。我々は自国の艦隊へ攻撃を行った『所属不明の武装勢力』を迎撃したに過ぎません。」

 

そう淡々と冷たい眼で高橋は言う、この狸めと心中で悪態をつきながら。

確信に至ったのは会談が決まるまでの異様な程の速さだ。今日は軍祭であり本来ならば他国の使節団や同等の人物との会談、そして祭り自体で国王に仕事が入って多忙なはずのそれ、なのにも関わらず会談が即座に気を見計らったかのように申し込まれたのは凡そ元からこの事態が予想済みだったからだろう。

こちらを戦争に巻き込もうという魂胆はもう見抜いているぞ。

そう気持ちを込め若干の睨みにも近い視線でシハンを見つめる。

 

「…ッ何故その様な態度を取られるのです!」

黒髭を携えたシハンの側近、モトムが言う。

「正直に申し上げるのならば我々は其方がこの事態を予想していたと思っているのですよ。」

「そんな訳ないでしょう!我々が謀ったと言いたいのですか!」

 

我慢の限界だと声を荒らげたモトムに高橋は言う。

 

「ならば、何故これ程早く会談を申し込んできたのですか?それにそのタイミングも見計らっての様だ。」

「それは!」

弁論しようとするモトムを遮り高橋が続ける。

「会談を申し込まれたのは何時だ?」

「我が国の駆逐艦、村雨が所属不明の武装勢力の内5騎を撃墜した直後です。」

 

その補佐官の言葉にモトムは口を噤む。元より彼もこの会談に違和感を持っていたのだ、いくら何でもタイミングが良すぎると。だが彼はその理由を知らない、なぜならこの会談を用意したのは…

 

「誠にすまん事をしたな、高橋殿。」

 

今まで一声も上げず黙り込んでいたシハンが口を開けたのはそれが初めであった。

 

「いえ、私どもも無礼なことを申し上げました。」

鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているモトムを他所に続ける。

 

「此度そなた等の船を襲ったのはパーパルディア皇国国家監察軍の者どもだ。」

「パーパルディア、ですか。」

 

パーパルディア、決して良い印象ではない国だ。一足先にパーパルディアへ足を運び、その休暇で一度戻ってきていた外交官との酒の席で色々悪い話を聞いている。曰はく平等条約は無礼だと跳ねられた。曰はく外務局に繋いでもらうための受付に賄賂を求められた。曰く--

例を挙げればきりがない。

 

「現在我々の艦隊が22隻の所属不明艦隊を確認しています。」

「それも監察軍のものであろうな。」

「…我々は『正当防衛』の為に艦隊に対し何かしらの対処を行います。宜しいですか?」

 

暗にそちらの手助けをしたつもりは無いと伝え返答を待つ、高橋にとってはこの現状に対してよりも何もしていないはずの自国を巻き込もうとしたフェンに対しての嫌悪感が強かった。

 

「いいでしょう。この付近の海域における貴国の軍の全ての行動を承認します。」

モトムが言う。

「我々の水軍からも援軍として旗艦剣神を中心とする艦隊を派遣しよう。」

シハンがそう提案する。窓から差し込む日差しが雲で消え隠れしている。

 

「それには及びません。」

高橋はそう言い切った。フェンと共同で迎撃したという既成事実が作られてしまえば後は戦争の道へ一直線だ。

 

「…残念だが仕方あるまい。」

予想外にシハンはすんなりと引き下がり会談は粛々と終わりを告げ皆が部屋を出た。

そしてそんな高橋の元に一報が届いたのはその直後だった。

 

 

 

 

 

「首相、本気で言っているのですか?」

 

戦艦東瀛の小型輸送船発着場、そこで艦長である有賀と高橋が無線を行っていた。

 

「ああ、君たちにはすまんが頼んだぞ。」

そう言って無線を切ろうとする首相を有賀が制止した。

 

「首相、ではせめてその理由だけでも詳しくお教えください!そんな一方的に言われても困ります!」

「そうです、流石に()()()()()()()()()()()など!」

 

無線越しにため息が零れる。

少しの間を開けて無線機のホログラム機能が起動する、青白い光の粒子が段々と集まり形を作る。

それは椅子に腰を下ろした首相だった。

 

「…君達は、今の日本の状態を知っているかね?」

 

そう言う首相の姿は快晴の暖かな空とは真逆の酷く冷酷で、淡々とした、さながら死刑を判決する裁判官のようだった。

 

「今の状況…ですか。」

有賀が言った。

「そういわれましてもおっしゃられる範囲が広すぎて…」

その高橋の言葉に首相は苦笑とともに返した。

 

「…今の日本は過去最悪なレベルの状況だよ。」

 

首相が重い腰を上げ、高橋達に背を向け歩き始めた。光の椅子がぱっと消える。

 

「と、いいますと?」

「君たちも知っている諸問題だ、資源不足や経済不況、それに伴う大量の失業者。どれもニュースを見れば簡単にわかる。」

いいかね、と首相は続ける。

 

「元より惑星単位で資源を使っていたんだ、クイラやクワ・トイネから想像以上の量の資源を輸入できてはいるが、それでも必要量の半分が関の山だろう。それに一部の資源はこの惑星に無いときた、いまや増設されているはずの合成工場を求め国内企業が血で血を洗う戦いをしているよ。それに、そのせいで工場を増設し失業を減らそうとしてもその工場が作れない。今は軍からの募集や、一部の軍事工場に失業者を呼んでいるがそれでも根本的な解決にはならない。」

 

「それが…何か?」

有賀は言った。

 

「率直に言おう。国民が、戦争を、争いを嫌っているのだ。今の彼らは平穏を、安定を求め日々デモを起こしている。要するに、彼らはパンと平和を求めているのだよ。」

 

首相が振り返り言った。

 

「ならば私は、国民の代表として、民主主義の敬虔なる僕としてそれを成し遂げなければならない。…無理を承知で言う、今の日本に本格的な戦争をする程の余裕はない、赤の事もあるしな。」

 

すまないなと言ってそのまま首相は無線を切った。

着々と戦闘準備が進み乗組員が艦中を走り回る音がする。

 

「有賀さん、やれますか?」

高橋は言った。

「…私は軍人です。先ほどは取り乱してしまいましたが、やれと言われれば最善を尽くすまでです。敵は戦列艦との事なので無力化自体は可能でしょう、しかし問題は」

「パーパルディアを如何に刺激しないか、ですね。軍祭に出ている以上我々が関与していることは間違いなくばれるでしょうし。」

 

二人は発着場を離れCICへと続く廊下を歩き始めた。明かりが青白く照らしている。

 

「これ以上我々の姿は見せるわけにはいけませんね。そうなると…」

「連中の船には電子機器が備えられていません。ならば10km程離れた地点からアウトレンジで仕留めましょう。」

「それなら向こうからはこちらを見られないと?」

「相手はそれほど離れていればまずこちらを警戒していないはずです、偵察用のワイバーンも飛ばしていないはずですから間違いないかと。」

 

CICではすでに準備が整っており中央にある大型の液晶が僚艦の時雨と村雨が配置についたことを示していた。

 

「では、頼みます。」

 

三つの鋼鉄の舟が動き始める。

後にパーパルディア国内で噂される沈没海域の戦ことフェン沖海戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 



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第二十四話 平穏の為の戦争

「提督、先に派遣していた竜騎士との連絡が途絶しました!」

雲ひとつ無い快晴の海で報告を受けた提督はふん、と鼻で笑った。

「われわれのワイバーンロードが蛮族如きにどうにかなると?機械の故障かなにかだろう。」

「いや、万が一の事もある。一応警戒しておいた方がいいのではないか。」

「これは、ポクトワール提督!確かにそうですな、通信士!本国に捜索隊を送るように連絡を入れておけ!」

 

初老の細目な男、同艦隊の提督であるポクトワールがそう言う。

 

「まあ今回の戦いは任せます、期待していますよ。」

「ハッ!了解しました、提督!」

「まあ、所詮相手は砲も持たない蛮族だ。警戒するに越したことはないが適度に気を抜いて行こうか。」

「丁度最近懲罰に行った国から良質な酒が手に入ったのですが、戦勝記念にいかがですか?」

 

手をクイっと酒を飲むような仕草をした提督にポクトワールが言う。

 

「それはいいな。是非とも参加しよう!」

 

そう、2人が話していた時だった。

 

『メーデー!メーデー!こちら戦列艦パオス!船底に大量の穴が空き浸水が止まらない!』

「なに?」

 

魔道通信から聞こえるは戦列艦パオスの悲痛な叫び、その方向を見ればすでに船は傾き始めており何もしなければ沈没は絶対だろう。

 

「急いでパオスを曳航しろ!このままだと沈没----」

『こちら戦列艦ガリアス!同様に船底に浸水!』

「またか!何が起こっているのだ!」

 

 

 

 

「5隻浸水、残りは17です。」

「よし。」

戦艦東瀛のCICで声が上がった。

 

「しかし、木船とやらは本当に脆いな。」

「対空用の機関砲のみでこれだけいけるのは予想外でしたね。」

 

日本がパーパルディア艦隊を迎撃したと思われないように艦隊を無力化する作戦、そんな高難易度な作戦に対し有賀は機関砲による浸水というアプローチを行った。

対魔弾鉄鋼式装甲なる装甲を持つことは事前に情報部から伝えられており、それだけが唯一の懸念点であったがそれは全く問題無かったのだ。

 

「産業革命後、俺達の世界は尋常じゃない速度で技術を進めてきた。そんな世界の対空兵器なんだ、ある意味当然な事だな。」

 

いくら魔法技術がある世界と言えども技術は取るに足らないレベル、あのような装甲では小銃の弾やヘリのマシンガンを防ぐのが関の山だろう。

とてもではないが軍艦の装甲としては心許ないそれだ。

 

「…なんだこの機影は…」

ふと一人がレーダーに映る機影を見た。

 

「どうした?なにかあったのか」

「…ッ機影を確認!方位287機種ワイバーンロード!」

 

CICにざわめきが走る。作戦の最重要事項が壊れかける瞬間だった。

 

「このタイミングでか!こちらの位置がバレるまでどれくらいだ!」

「残り60秒です!」

「電子妨害…は意味がないのか。ッチ!全艦へ通告、最後に一度攻撃して全力離脱だ!」

「艦長!ですがまだ敵艦隊は無力化できていません!」

「二次攻撃で少なからず後7は持っていける、半数もやられたら連中は曳航して帰るしか選択肢はなくなるはずだ!」

 

魔道技術かクソッタレと毒付きながらも精確に指示をだす。魔法なのだ、科学でないならジャミングも効かない、全く嫌なものだ。そしてワイバーンのタイミングも気に入らない、なぜこのタイミングなのだ来るならもっと早く来るはずだろう!

 

「全艦機関砲、撃てッ!」

 

第1射撃によりさらに標準が精確になった第二射撃、それは少しの時間差をおいて見事にパーパルディア艦隊を射抜いた。

 

 

 

 

 

 

「メーデー!こちら戦列艦マミズ!何が起こっているんだ!こちらも船底に浸水した!」

「こっちが聞きたいぞ!偵察に出ているワイバーンはどうした!」

ポクトワール提督がそう言う。先程から何か一瞬煌めいたかと思えば次の瞬間には船底に穴が空き船が沈没しかけているのだ。

だが彼とてパーパルディアの精鋭、即座にその戦列艦へも曳航を指示し伝令兵の報告を聞く。

 

「第一偵察小隊からの報告です!我、敵を確認できず快晴の空が広がるのみ。以上です!」

「ならこの現状はなんなのだ!」

 

そうポクトワールが言った瞬間だった。一瞬光が船を貫き足元が揺れたかと思えば自分の真下からゴーッという不穏な音が響き始めたのだ。

 

「ま、まさか…」

「ポクトワール提督!船底から浸水です、避難を!」

 

その海兵の言葉が現実を突きつける。未知の何かに、正体不明の何かに襲われていると。

 

「て、撤退だ!とにかく浸水していない船は全力で他の船のサポート、乗組員は穴を塞げ!」

 

こんなものどうやって本国に説明をつければ良いのやら、嵐が直撃したとでも言った方がまだ納得できる。

 

「こんなもの上から文句を言われるだけだな。」

「いっその事海魔の仕業という事にしてみては如何でしょうか」

「逆に海魔如きに負けたのかと嘲笑されるだけだろうな…はぁ。」

 

緊急用の小型船に乗ったポクトワールはそう言って疲れた目で自身がのっていた戦列艦を眺めた。船の中では必死に沈没させまいと船員が走り回っている。

 

 

「我々は何を相手に翻弄されていたのか…」

 

撤退の指令が叫ばれる艦隊の中シワが増えたような顔をしたポクトワールがそう呟いた。

 

 

 

 

 

その数日後、日本から更なる外交官がフェンへと送られた。そうして行われた会談の内容は、「フェン沖で発生した不祥事について」要は今回は許してやるから今後二度とこんなことすんなよ?という暗の脅しだった。しかし何故暗に言うのか、それにはとある理由がある。

 

 

「本当に客が多いな。」

「そうですねぇ」

フェンのとある港にある土産屋で夫婦が言った。

目の前にはフェンの王城程はあるであろう巨大な客船から次々と降りてくる人の波が見え、なにか四角い手のひらサイズの物を見ながら観光をしている。

 

「すみませーん、会計お願いします!」

「はいよ!」

 

その日本からきた観光客の恩恵はとても大きく国内の大半の店の売上が上昇するほどだった、そしてその恩恵はこの土産屋にも来ていたのだ。

 

「全く昔の日本と、うちの国が殆ど同じとは…珍しい事もあるもんだ。」

会計を終えた老店主がそう言う。

模倣刀や和服、和菓子などの品揃えが揃う土産屋は日本の観光客が帰る時に必ず寄ると言っても過言ではない程の人気を誇っていたのだ。

 

国交成立後日本の観光業者がこぞってフェンへの民間船出航の許可を政府に求めた、初めは有事の可能性があると出航を許可しなかった政府も深刻な資源不足で経済も未だ安定しておらず鬱憤が溜まっている国民を見て許可をせざるを得なくなった。

そして待ちに待った第一便は合計240万人*1にも及ぶ日本人が乗ることになる。

元よりクワ・トイネやクイラなどのパルチザンがいない国では古代ヨーロッパ(2700年代基準)の街並みが見れるとして多くの観光客が訪れていたが、昔の日本の街並みということもありフェンはそれよりも圧倒的に多い人数となったのだ。 咲きに咲く季節の花や和風な建物に心を酔わせ夜では今の日本ではあまり見られなくなった綺麗や夜景を楽しむ、そうして一時期はブームと言えるまでに人気になったフェン旅行で、悲劇は起きた。

 

 

 

 

『在フェン邦人へ一斉避難命令 パーパルディア フェン国へ宣戦布告か』

それが数日後の新聞の見出しであった。

 

「襲撃を受けたのは?」

生駒(情報部)が言うにはニシノミヤコという都市らしい。」

全速力でフェンへ向かう新型哨戒艦島風*2に乗船する2人のパイロットがそう話していた。元々はフェンと日本の中間の海域で哨戒とフェンに一時駐在していたパイロットの回収を行っていた島風だが、パーパルディアによるフェン襲撃の報を聞いて即座に邦人保護のためにフェンへ向かうこととなったのだ。

 

「観光業者によるとフェンへ渡航した日本人の内4分の3はすでに本国へ出航済みだそうです。」

 

そう小隊の内1人がヘルメットの無線を起動し言う。

 

「4分の3って言っても後60万人はいるんだろう。残りの収容はどれくらいで終わる?」

「あと20分程で。しかしニシノミヤコに居る邦人の多数と連絡が取れず最悪…」

「何も出来ずに仏を見ることになるのだけは御免だ。命に変えてでも民間人を守るぞ!」

 

 

 

 

 

そうして240万という未だかつて無い数の日本人の一斉本国帰還作成が行われた。

現時点で動かせる全ての民間船、軍艦、輸送機、そして未だに満足にない燃料を惜しみなく使った作戦である。

だが…

 

 

「本国へ帰還できたのは?」

そう執務室で言うは顔を悪くした首相、その疲れきった顔はさらに悪化する一方だった。

 

「現時点で確認できているのは240万人中230万人です。」

「パーセントで見れば驚く程に手際良くできている、しかし…」

「最悪10万人の国民が惨殺されてしまう可能性があります。」

 

はあ、と首相が溜息をつきながらこの数時間で半分ほどまでに減った胃薬をまた1つ飲み込んだ。

 

「とにかく確認を急がせろ、それとパーパルディア側に至急会談の要請を。」

 

結局確認が取れたのは238万人、パーセントで言えば99%だが残りの1%は2万人もの人であり到底見逃せるものではなかった。そうして在パーパルディア大使館の日本国大使、大野は第三外務局のレミールの元へと向かうのだった。

 

日本の外務官である事を確認し衛兵に通された豪華な欧米風の部屋、そこにレミールはいた。

 

「ごきげんよう、レミールだ。それで、今日は東の果てから遥々どのような用かな?」

そうレミールが不敵に笑う。

「そんな物はお分かりでしょう。フェンにて不当に捉えられた我が国民の解放します。」

そう大野が言う。

 

「ああ、それに関してこちらからもあってな。仕込みが大変だったが面白いものを見せてやろう。」

そう言って衛兵に魔道式映像通信機を持ってこさせたレミールに補佐の若い外務官が警戒心を露わにする。

 

『こちら皇国軍、聞こえますか?』

 

ザザっと音を立てて現れたのは白髭を生やすパーパルディア軍人。

 

「聞こえておるぞ。日本の者に例のものを見せたい、映像の切り替えを頼む。」

『ハッ、少々お待ちください。』

 

数秒のラグをおき現れたそれに2人は絶句し、目を見開いた。

 

「これは…」

「ニシノミヤコで捉えた日本人達だ。いささか数が多くてなあ、捉えるのに苦労したと報告があったぞ。」

 

映像に映るのは目測で1000人以上の日本人、それ程を一斉に収容できる場が無かったのか平原に膝を着かせられ、服は下着以外取られ鎖を繋がれている。

 

「ッなにを!」

「まあ、そのように騒ぐでない。貴様らの品が更に落ちるぞ?」

まあそのようなものは元からないか、と笑いながら続ける。

 

「我が皇帝陛下が慈悲を与えてくださった。この条文に従うなら貴様らの民を解放してやっても良いとの事だ、全く蛮族如きにこんな事…皇帝陛下はなんと慈悲深い方なのだ。」

そう恭しくここにはいない皇帝を崇めるように言うレミールは一枚の紙を大野へ渡した。

 

ひとつ

日本国の国王には派遣された皇国人を置き、それを日本国の主権者とする。

 

ひとつ

日本国は毎年皇国の求めに応じ奴隷を差し出す。

 

ひとつ-------

 

 

そこでゆらりと歪む自らの視界に気付いた、今や紙を持つ手には血管が浮き赤く染っている。

 

「これは…正気で仰っているのですか?」

その問いに怒りを露わにしてレミールは答えた。

 

「何か文句でもあるのか?フェンへ向かった監察軍に貴様らが工作したことはもうバレているのだ、それなのにも関わらずここまで譲渡してやったと言うのに…もうよい。」

 

そう言ってレミールは大野達を衛兵によって無理やり部屋から退席させる、そして次に大野達が見たのは…

 

「なんだ…?」

なにもない質素な部屋その中央に佇む1つの魔道映像通信機だった。

他と違うのはその画面の大きさが先程見たものの4倍はある事だろう。

そして怪しんだ大野は小型だが高画質のカメラを起動し撮影を始めた。

 

「どうだ、驚いただろう。皇国が作った最新型の魔道映像通信機だ、少しミリシアルの力を借りたのが癪だが到底貴様らのような蛮族に作れるものでは無い。」

 

ガチャりと扉を開け入ってきたレミールがそういい通信機を起動する。

そして起動した映像機に映ったのは先程の光景、しかし一つだけ違う所があるそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よくよく見れば小銃から大砲まであるそれに大野を悪寒が襲う。

 

「貴様らの蛮行を許してやろうとしたのに…あのような舐めた態度を取ったのが悪いのだぞ?…やれ。」

 

刹那、映像通信機から爆音と閃光が響いた。凝視する補佐官を置いて大野は叫ぶ。

 

「なんてことを!今すぐに辞めさせろ!」

だがそれすら小馬鹿にするようにレミールは言った。

 

「貴様らのような蛮族共でも射撃の的にはなる物だな。いささか数が多かっだが射撃訓練には十分だな。…あと数日は待ってやる、どうするか返答をよこせ。」

 

淡々と言い残し二人きりになった部屋はどうも冷たい。

 

 

 

 

 

ショッキングな映像が映ります、ご注意下さい。

既に4回は見たそれ、精神的苦痛を抑えるためのものだが今の彼はそれにも関わらず映像を見ていた。

そうして虎大に勤める彼は言った。

…いや、言ったというより自問自答の方が正しいだろう。

「これが…国家のすることなのか?」

 

彼の妻が社員旅行でフェンへと向かったのが数日前、退避命令が発令されたと聞き連絡をしようとしたが一切連絡が取れなかった。共働きで4歳と5歳の二人の子供を養う彼らにとって母の存在はその中心のようなものだ。子供が映像を見て泣く度に彼の心身は痩せ細ってゆく、彼も既に限界が近かったのだ。

そして、そんな中で最悪な再会を迎えることとなる。

 

映像に映る鎖に繋がれた日本人、その丁度中央に居るのが彼の妻だった。

 

『パーパルディア虐殺による死者は現在確認が取れるだけでも1万人を超えており、政府は本日18:00より緊急会見を行うとの事です。尚、この会見に対して首相は全国民に視聴するよう要請しています。また-------』

 

最後に首相からの話とやらを聞いてやるかと手に持つ拳銃を床に置いた、時計は16:30を指しチクタクと針を進めている。

彼にとって数日とも思えたその二時間を超え、ついに会見が始まった。

 

『…まず、初めに首相として話をさせて頂きたい。』

数秒の間を置いて静かにそれが始まった。

 

『転移してから数ヶ月が経ちました。時間とは早いもので、史上類を見ない程の経済危機や資源不足に苦しみながらも我々はもう既に復興に向けて歩みを進めています。そしてそんな中日常を取り戻し平和を享受していました。そしてその平和を築くために犠牲になった者はいませんでした。

…私が一つ、転移後誇ることはなんだと聞かれれば間違いなく軍民問わず死者が一人もいなかった事を上げていたでしょう。』

 

大粒の涙を流し、赤く染まった拳を振るい、叫んだ。

 

『しかし!もうそれは違う!我々は再び理不尽に襲われ万を超える人々が不当に殺されました。このような事は断じて許されるべきではありません!』

 

そして無音となった会見場に息を吸う音が鳴り、声が響く。

 

『日本国政府はパーパルディア皇国に対し宣戦布告を行います。それに伴い戦時体制への移行を行い、我が国の全てを持ってパーパルディアへ償いをさせることを約束しましょう。

私は、日本国政府は、この蛮行を絶対に許さない。』

 

そう言い残し会見場を去った、そして普段ならしつこい程に質疑を飛ばす記者らも無言になるほどの衝撃と怒りが、そこに渦巻いていた。

 

終わりが、始まろうとしていた。

 

*1
京都の一日の観光客数の約10倍

*2

 

基準排水量 5134t

全長120.5m

全幅11.20m

 

武装

主砲 54口径127mm速射砲

34式多機能電子走査アレイレーダー、戦術データ・リンクシステム等の機器と多数の電子戦装備

 

概要

日本軍の哨戒船。珍しく転移以前から本国に配備されていた船であり元々は宇宙戦を念頭に置いたものだったが転移後、転移世界仕様に改修された。

 

特徴

本艦の特徴として日本国宇宙軍艦隊の中で最も優れた電子戦能力と最新鋭のレーダーが挙げられる。

しかしその分艦自体の武装は貧弱であり、又最新装備を多用するため建造費が非常に高くなっている、そのため同型艦は本艦以外に無い。

 



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閑話 鬼退治

誤字脱字訂正報告ありがとうございます。
ここから下は読み飛ばしてもらって構いません、タイタンフォールの知識がある方で読みたい方(モナーク、ヴァンガード級タイタンについての話)はどうぞ。

一応自分の解釈について書いていくのでもしなにか間違いがあったら報告お願いします。

まずヴァンガード級について、これはミリシアと虎大(日本企業)の共同開発という設定のタイタンのため日本軍でも採用されていてもおかしくは無いだろうという考えの基に本作でも登場させています。
次にモナーク級について、訂正報告があるまで普通に自分も書き間違えていたのに言うのもなんですが(呪われた血質の濡血晶さん訂正ありがとうございます。)
これはヴァンガード級のデッドコピー版です。ミリシアのヴァンガード級をIMCが真似して作った奴なのでこれらは同じではなく全く別物です。
この解釈の理由はタイタンフォールの有志wikiでの記載やストーリー序盤のラスティモーサの発言、消耗戦モードでモナークが使えるetc...。

最後にモナークとヴァンガードの違いを。
まず初めにデッドコピーと言ったけど一概には言えない(ゲーム内描写等のみでの判断)ストーリー上でのヴァンガードの仕様は全てのタイタンの武装とコア(APEXでいうウルト、所謂必殺技)が使えるつよつよ超万能型タイタン。
それに対してモナークはヴァンガードの標準装備に少し劣化させたもの(ミサイルが無誘導になっている等)を使用している。

そして両者の決定的な違いはそのコアだと思う。ヴァンガードの標準装備コアはその銃の発射レートとダメージを上げる効果だけどモナークは全く異なり、三段階コアがありそれぞれで自身を強化していくものだ。
例えば体力強化だったら他のタイタンの倍近い体力まで増えるし火力強化ならリージョンもビックリの火力まで上がるとヴァンガードの様な万能型というより文字通り拡張性の凄まじい機体みたいになっている。
って事でモナークとヴァンガードの違いについてでした。

え?途中から敬語じゃなくなってる?うるせえ!自称進のせいで疲れてんだ!



奇っ怪な者達、それが作戦会議室でトーパ王国軍騎士長であるアジズがその6人に対して思ったことだった。

 

「よくぞ来てくださった。日本からの援軍、感謝する。」

 

よく分からない兜のような物で顔を覆い5人の男は手になにやら鉄で出来た様な杖を持ち背中に太い筒を背負っている、そして残りの一人はその背丈程はあるだろう長さの不思議な形の杖を背負っていた。

だが一番彼が疑問に思っているのは----

 

「日本国対魔王派遣隊部隊部隊長の楢崎です。」

「先にお聞きしたいのですが、あの城の前にいる6体のゴーレムは?」

 

1つ目の数メートルはあるであろう巨人、それらも同様に謎の筒を持っていた。

しかも案内役の話では声を発し思考すらするとの事だ。

 

「あれは我々の使うタイタンです。そちらの言うゴーレムとは恐らく違いますがまあ似たようなものでしょう。」

「分かりました…」

 

初め王都に6人が来た時にはこれ程の少人数しか送ってくれないのか!という怒りが彼の思いだった。しかしその後続々と現れたそのゴーレムの力を計りかねてなんとも言えなくなったのが彼の率直な気持ちだ。

 

「では作戦会議を始めましょう。まずは詳細な地図についてなのですが、見取り図をここに。」

そうアジズが部下に命令し、その箱を開けた時だった。

バサバサと音を鳴らし大量のコウモリが部屋の中央に集まり人の形を作り出したのだ。

 

「お前は、魔族マラストラ-ッ」

そう騎士団のモアが言いかけた瞬間だった。

 

ドンッ

 

耳をつんざくような轟音とともに魔族マラストラスの腹に大穴が空いたと思えば次の瞬間ダダッという音とともにその顔面に無数の穴が空いたのだ。

 

「不明生物の無力化を確認。」

日本部隊の一人がその死骸を軽く蹴り言う。

 

「そちらの反応から敵対勢力と断定し殺害したのですが…大丈夫でしたか?」

 

そう初撃を与えた長杖を持つ楢崎が言いながらアジズに歩み寄った。

 

「いえ…大丈夫です。これは確か…」

「魔族マラストラス、最近王都内に忍び込み100人以上の騎士を殺している魔族です。しかし何故ここに…」

 

そうモアが言った所で日本部隊の隊員は魔族の皮膚や体液などの採集が終わったようで隊員の一人が顔を上げ副隊長へと渡す。

 

「凡そ指揮官を殺害する斬首戦術とでもいった所だろう。いわゆる刺客ってやつだな。」

 

サンプルを腰に着けた収納具に仕舞い込み淡々と副隊長が言った。

そして目の前に広がる現実離れした状況をなんとか呑み込もうとするアジズを他所に日は沈み深い夜が訪れた。

 

 

 

 

 

 

城壁付近の大きな公園、そこが彼らのタイタンに与えられた待機場所だった。そして本来ならば王城の一部屋を与えられたはずのパイロット達も6つのテントを張りそこにいた。

 

「俺が言い出したのにあれだが…お前ら本当にここで寝るのか?」

パチパチと火の粉を上げる焚火を囲んで楢崎が言った。手に持つ棒で焚火をいじる彼の後ろにはタイタンたちがいくつかの本と魔族の死骸を囲んでいた。

 

「ああいう豪華な部屋は落ち着かないからな、俺らにはこの方が性に合う。」

「それに、いっちゃなんですけど向こうの使用人の香水がちょっと…」

 

どっと笑いがあふれたその中で彼らは各々くつろぎ始める。ある者は愛銃を整備し、ある者は木の枝で筋トレを始めた、そして数刻が経った頃。

 

「そういや分析はまだ終わらないんすかね。」

陸軍の特務部隊から選抜された日本国対魔王派遣隊、選抜前の部隊と同様のタイガーのコールサインを持つそれの中で最も若い隊員が言った。

 

「確かにな…TG、あとどれくらいで解析は終わる?」

そう楢崎が左腕にTG-1124と刻印されたヴァンガード級タイタン*1に声をかけた。

 

「後5分ほどで全ての解析が完了します。」

女性型の機械音声がそういう。

 

「だとさ。」

「しかし、魔獣や魔王を分析するってここまでかかるもんなんですね。」

「まあ電子媒体じゃないしな。」

 

そういう後ろで6体のヴァンガードはそれぞれ解析をしている。トーパ王国にある全ての魔獣や魔王に関する書物を借り、内容を収集し討伐した魔族の死体を解剖、そうして得た情報を高度な人工知能と発展した生物学や化学、そして転移後少しづつだが進展している魔法学に当て嵌め生態や弱点を探る。それが彼らのしている事だった。

 

「そういやこの後の休み、お前らなにする?」

「ああ、特別勤務手当で金じゃなく休みがもらえるんだっけな。」

「うちは家内がフェンに行くとか言ってたな。」

「おぉ、いいじゃねえか。あそこの酒は美味いと噂だぜ。」

焚火に掛けられこんがりと焼けた串刺しの蛇をとり副隊長が口に運んだ。

 

「話してんのもいいがそろそろ明日に備えて寝ろよ。」

隊長が気だるそうにテントから顔を出した。

 

「俺も寝るわ。」

 

そう言って彼らは銃を横に置き眠りにつく、夜に星が煌めいていた。

 

 

 

 

 

 

「ウギャッ!」

ゴブリンが阿鼻叫喚とともに消し飛ぶ、ヴァンガードのXO-16による斉射だ。

 

「パイロット、6時の方向、森付近に新手40体、8時の方向にレッドオーガを検知。銃声に反応したと思われます。」

女性型の機械音声がそう言った。レンガ作りの町の中で銃声が度々鳴っている。

 

「わかった。タイガー1から5、6へ、新手の40を頼む。レッドオーガは俺と2、直掩と周辺警戒は3、4だ。行動開始。」

 

即座に6時の方向から銃声と悲鳴が上がった、新手はすぐに片付きそうだ。

しかし本当に数が多いなと呟きながら楢崎は一際高い屋根の上でクレーバー*2を構えうつ伏せになった。

家の下では自身のヴァンガードが街にいるゴブリンを掃討していた、対タイタン戦闘がなく敵の数が多いため別々で行動しているのだ。

 

「タイガー2から1へ、目標を目視で確認、攻撃を開始する。」

小銃が効くかどうかの確認も合わせた誘導攻撃、事前にヴァンガードが予測した所小銃の弾丸程度では…

 

「やはり効果はないか。」

効果無し、まともな生物でない事は明らかだった。

 

「誘導地点まで残り…3.2.1…今だ!楢崎!」

 

スコープにレッドオーガの頭が重なる、風向きと風速で標準を微調整し…

ドンッ

 

「レッドオーガの死亡を確認。」

呆気ないほど簡単にその頭が破裂し体液を撒き散らしながら死体へと成り代わったそれはどすんと音を立て地に伏せた。

 

「こちらタイガー3、残りは大講堂付近の5匹のみ、どうする?」

手持ちのクレーバーを背中に背負い脚に装着したウィングマン・エリート*3を取り出した。街の中央には確かに大講堂がありその正面に数体のゴブリンがなにやら喚きながら周りを見ている。

 

「俺と2.3で大講堂を制圧する、5.6は新手の殲滅後森を見張れ、4は周辺警戒だ。」

そう言い残し手に装着しているグラップリングフックを大講堂に放ちその屋根へと飛び移る、そこには既に副隊長ことタイガー2がおり、その向かいの建物の屋根に3がいて制圧の準備を始めていた。

「いけるか?」

手持ちのウィングマン・エリートを握り直す。

「ああ。」

 

 

 

 

 

 

この日はそのゴブリンにとっていつも通り退屈な日だった。そのゴブリンは他の者とは異なり珍しく剣の才能があったそれも時間があればロードやキングになれる程に、だからだろう、他のゴブリンを見下しただ力で暴れるだけのオーガを馬鹿にしていた。

その醜いほど膨れ上がったプライドは大講堂正面の見張りという仕事に釣り合わず永遠と悪態を着いていた。

「цфр…」

 

大講堂の中で仲間の声がした、魔王の飯となるエルフを見定めているのだろう。

あんな仕事で満足するとは、そう馬鹿にしながら彼は手に持つ剣を軽く振るう。

自分はこれだけ剣を扱えるのに何故こんな雑用なのだ!そう思っていた時だった。

ふと大講堂の向かいの屋根に何かが写った。

「цп?…」

 

なんだ?と手を額にあて上を向いた刹那、その手に激痛が走ったかと思えば体が宙を舞う、次の瞬間彼の視界は迫り来る脚を残し、暗転した。

 

 

 

 

 

「こちらタイガー3 正面口のゴブリンダウン。付近に敵を見ず。」

脚についたそのゴブリンの血を振り払い死体を屋根から落とし、脳天に穴をあけ倒れている4匹を再び確認する。付近に魔物はおらず後は騎士団へ合図し大講堂へ突入するだけだ。

 

「タイガー1から3へ信号弾を撃つ、騎士団をエスコートしてやれ。」

「タイガー3、了解。」

 

ト―パ王国の騎士団は邪魔になるからと楢崎が戦闘区域外で待機させていた、もちろん騎士の誇り云々と文句はあったが。

グラップルでミサイナ地区の端、戦闘区域のギリギリへとたどり着いたのは号弾の赤い煙が少しの雲が薄っすらと広がる空へ上がると同時だった。

 

「大講堂までの魔物は全て処理してあります。そのまま全速力で向かってください。」

屋根から飛び降り騎士たちの前でそう言った。格闘戦によって血にまみれた戦闘服、しかし傷一つないそれが蹂躙戦であったことを表していた。

 

「わかりました。…ちなみに民間人の方は?」

騎士長のアジズがそう聞く。

 

「今のところ生存者は…、しかし大講堂ではいくらか魔獣の声と人間の声が聞こえています。」

そう言い残し再び家屋の上へと飛び移り騎士団の通る道に取りこぼしがいないか警戒しながら大講堂へと向かった。

 

 

 

愛機のヴァンガードが無線をかけてきたのは新手の40体を殺し、さらに現れた20体を殺し終わった時だった。

 

「パイロット、正面の森林付近からブルーオーガの生体反応を検知。」

その聞きなれた男性型の機械音声は淡々とそう報告した。すぐに詳細な場所を確認すればそれと一緒にさらなる増援30も確認できる。

 

「ヴァンガード、援護を頼む。タイガー5から6へ、数が多い。手伝ってくれ。」

「タイガー6、了解。」

簡単に指示を済ませ射撃を開始する。周辺警戒をしてる4を除いた二人のパイロットと一機のタイタンによる十字砲火、オークの体は粉々に砕け散りシミに変わる。

しかしブルーオーガだけは別だった。

 

「この痛みと礫は…太陽神の使いの魔法!」

そうブルオーガが叫び知能があると確認された瞬間彼らは目標を殺害から捕獲へと切り替える。

 

キュィーン

 

甲高い発射音と青白い閃光が走ったと思えば次の瞬間にはブルーオーガは白目を向き膝から崩れ落ちる。

ヴァンガード兵装の光学兵器であるエネルギーサイフォンだ。元々はタイタンの纏うシールド用に開発されたそれはあらゆるタイタンのシールドを大きく削り電気回路を故障させ移動・視認障害を引き起こす。そんなもの生物に当たればどうなるかなど想像に難くないだろう。

 

「こちらタイガー5、ブルオーガを捕獲。騎士団へ輸送をお願いした。そちらは?」

「こちらタイガー1、大講堂の制圧を完了。民間人の護送を騎士団に任せた。」

そう無線を交わし合流を果たす。残りは魔王本陣のみだ。

 

*1
虎大が米国企業IMCと敵対する外惑星現地勢力のミリシアと共同で開発した最新型タイタン、既存の全てのタイタンの武装が使用可能であったり最も高度なAIを搭載していたりと第二世代型タイタンの中でかなり強力な部類の所謂傑作機である。

*2
対物ライフル

*3
デザートイーグルの火力マシマシリボルバーversion




あのゴブリンって人の言葉を話すんですかね。個人的に魔物の言葉みたいな解釈をして書いたんですけど…


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第二十五話 序章

情報コラム タイタンについて

ロマンが詰まった鉄の塊。大抵の任務はこなせる汎用性と歩兵や戦車程度なら軽々と蹂躙する圧倒的な火力を誇る。
基本的に全て単眼で軽量級、中量級、重量級があり右に行くほど機動力が落ち装甲が上がる、ちなみにヴァンガード級とモナーク級は中量級だったりする。
さらに大体のタイタンの機関部は原子炉(詳細は言及されていないが核であることは確か)だったりする。



 

「生駒、まだ怒っているのか?」

 

渋谷駅から徒歩数分にある御用達の小洒落たバー、そこに外務省の田村と情報部長の生駒がいた。

 

「むしろ…よくキレていないと思えたな?」

そう勢いよく空になったグラスを机に置く、マスターが苦笑いとともに注いだウィスキーをクイッと口へ運び続けた。

 

「散々、散々情報部が警告を発し果てには軍部の師団長、連隊長レベルの連名書まで送ってこの始末だぞ?キレない理由が何処にある。」

「その話は聞いたが俺からするとあまり危機的に思えんのだが。」

 

その言葉に驚愕を示した生駒だがこいつは外務畑だったなと思い出し説明を始めた。

 

「いいか、まずお前が知っている通りうちの軍隊はそもそもまともに戦争ができる程の余力は無い。」

「あれだけ散々軍拡をして予算を持っていったのにか?」

「予算に関してはしょうが無いだろう、実際うち(情報部)の予算も減ったしな。」

 

懐から自身のデバイスを取り出した生駒はそのまま机の上に情報が記載された画面を映し出す。

 

「問題は工場と資源そしてロウリアだ。」

「工場と資源は何となくわかるが…ロウリア?」

「工場と資源は言わずもがな、惑星単位でやっていた事が急に出来なくなった、だから工場は一から本土とロデニウム大陸に建設をし資源は周辺諸国から輸入しなきゃならん。」

 

ちょっと待てと田村が遮り言った。

 

「ならこの世界の他惑星へ進出すれば資源も工場も解決だろ?」

「そんな簡単に出来たら産業大臣も医者の世話にならなかっだろうな。」

久々の酒に顔を赤らめ生駒は続ける。

 

「まず調査が足りない。人工衛星こそ出せてはいるが我々がいるこの惑星の調査すら完全でないのに他惑星の環境の調査や元世界との違いを探すには時間がまだまだ必要と技術の奴らが愚痴っているよ。それにもし行けたとしても資源採掘や運搬のための装備や艦船、何よりそれに使う燃料が全く足りていない。服を買いに行くための服がないようなもんだ。」

 

田所が頼んだカクテルを作る音がする。たまにはと生駒を酒の席に誘い出したが…酔うと饒舌になる事を完全に忘れていた。

 

「極めつけはロウリアのパルチザン共だ!」

二度目の空になったグラスをまた勢いよく机に置こうとした所で生駒はマスターの睨みに気づく、一度グラスを割った事のある生駒はある意味要注意人物なのだ。

すまん、と謝り少し冷静になった生駒に田所は聞く。

 

「パルチザンって現地の君主主義者とか共産主義者だろ?確かに数は多いだろうが-----」

「問題は連中がどこから持ってきたか分からない戦車やら戦闘ヘリやらの現代兵器で武装している事だ。」

「ああ、こっちでもその話は聞いているよ。確かそれてクワ・トイネが援軍を師団規模で寄越す提案をしてきていたしな。」

 

赤色のカクテルを味わいながら田所は言った。

 

「一番の問題は連中に対して最新兵器が使えない事だ。裏にコミー共がいるのは間違いない、万が一鹵獲でもされたらただでさえ数的劣勢なのに質的劣勢まで来る事になる。」

「なるほどなぁ。とりあえずこっちが安定するまでは戦争できないって事か。」

「それに追加でひとつある。」

 

ここだけの話だ、と前置きし田所は言い始めた。

 

「日本赤軍残党がいるとされているレイフォルで共産革命の予兆がある。」

「共産革命?この世界では社会主義すら存在しないのにか?」

「だからこそだ。あの思想は刺激がとても強いからな、幸い自称活動家や野党は今回ばかりは静かにしているが…また仕事が増えるよ。」

 

そう言った生駒の顔はどうも暗い。

 

 

 

 

 

 

レイフォル 演説堂

 

 

 

「やあ同志諸君。聞いての通り日本はパーパルディアと戦争状態に入る、幾ばくかパーパルディアの中でも優秀な奴らが戦争回避工作を行おうとしたが…まあ無意味に終わったようだ。さて皆ずっと待っていたであろうこの時を、やっと我々の時が来たのだ!」

 

そう声を上げればレイフォル一大きい演説堂から歓声が巻き上がる。

ああ!なんと愛おしい子羊よ!すでに思考を止め共産主義という思想にただ身を任せる愚かな者達、だがそれでいい!

そのまま党の命令に従い、服従し、狂えばいいのだ!

 

「今こそ我々人民を抑圧し、自由を奪い取った暴虐な官僚共!そして王族へ反乱を起こそうではないか!

 すでに他の属国でも反乱の準備は済んでいる。さあ諸君、解放の時間だ!」

 

その甘言に人々が酔いしれる所を日本赤軍パイロットの奥平は演説堂の裏で蔑んだ目で見ていた。

 

「呆れたものだな、最前線に駆り出されるのは自分たちだというのに。」

「それは俺らにも言えることですよ、奥平さん。」

 

そこにいたのは三十代前半の眼の細い長身な男、日本赤軍第二戦車師団長である矢原だった。

 

「彼ら相手に我々の戦車がやられるとは思いませんが…」

「連中の火砲も黎明期レベルの物だからな、零距離射撃でも貫徹できないんじゃないか?」

 

けらけらと笑う奥平に矢原が確かにそうですねと同調する。質的優勢は圧倒的、数は労働者(肉壁)を含めてレイフォル正規軍とほぼ互角と言った所、どう足掻いてもレイフォルに勝ち目はない…しかし一つだけ、ほんの一つだけ不安な点がある。

 

「奥平さん…作戦の際に日本軍が介入してくる可能性は?」

矢原が眉をひそめて言った。

 

「…まあないだろう。向こうの介入を防ぐためにパーパルディアとの戦争とタイミングを合わせるんだ、それに諜報員からの情報で連中の兵器数も資源も余裕がないことはわかっている。」

「なるほど。」

「万が一に備えて防衛部隊はあるから大丈夫だろう。」

「全力でレイフォル戦へ挑めるという訳ですね。」

「まあ、この世界の列強とやらのお手並み拝見といこうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央暦1640年1月27日 11:00 PM フェン王国ゴトク平野上空 800km

日本陸軍第一軍団所属第一梯団*1司令部直属第13パイロット小隊 コールサイン エコー

 

「エコー1から各員へ無線状況を報告せよ。」

 

タイタン輸送機のウィドウ、その中にいる6機の闇夜のように黒く塗装されたヴァンガード級タイタンの一つから無線が繋がった。

 

「エコー2、ノイズ無し、感度良好。」

「エコー3同じく」

「エコー4こちらも同じ、異常があるやつに報告させた方が良かったのでは?」

 

タイタン達の操縦席でどっと笑いが溢れる、丁度良い緊張感だ。

 

「作戦の最終確認だ。後1分でパーパルディア軍主力の左翼直上に着く、こちらの任務は敵軍の誘引、後に来る上陸部隊へ敵を向かわせないようにする事だ。上陸開始が28日1:00完了予定は2:30、それまで敵主力を抑え続け可能ならば航空戦力の無力化を行う尚本土から第三飛行隊、第五飛行隊が24:00に到着する。

航空支援があるとは言えどもこちらはタイタン6機だ!厳しい戦いになるが諸君らなら完遂できると信じている!以上、作戦開始!」

 

ガコッ

輸送機の床が開きタイタンの固定具が外れる

 

「エコー各員タイタンフォール、スタンバイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央暦1640年1月28日 2:20 AM フェン沖

日本陸軍第一軍団所属第一梯団第三歩兵連隊 コールサイン アンガー

 

目の前の大海原を数十の輸送船が渡っている、海と比べたらちっぽけなその船団も歩兵連隊に属する彼からすれば大舟に乗ったつもりになれる程に信頼出来るものだった。

 

ドンッ

 

潮の匂いが鼻をくすぐる中、ふと目の前に現れつつあるフェン国で音がした、斥候である彼は腰に着けた双眼鏡を目に当てた。

 

「ファントムか…」

 

レンズに映るは爆装の航空機ファントム、爆装をしているという事は第五飛行隊かとブリーフィングの資料を思い出しながら観察を続けると沿岸の監視をしていたパーパルディア軍が蹴散らされているのがわかる。

 

「あれは?…」

 

そう思いさらに双眼鏡の倍率を上げれば一本のミサイルが目に入る。

 

「ヴァンガード級のミサイルじゃないか!」

 

ヴァンガード級の標準装備である汎用追尾ミサイル マルチミサイル

最大15発をそれぞれの目標に対して発射できるそれと同様の形態がそこにあった、そしてそれが意味することは…

 

『アンガー各員へ、これより上陸を開始する!繰り返す、上陸を開始する!尚、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

僥倖!信じられない程に作戦が上手くいっている!先に降下した部隊は確か敵左翼に展開していたはず、それが敵右翼であるこの地点に現れたということはつまり!

敵最前線部隊は壊滅状態であるという事だ!

 

『██!上陸後速やかにバイクで偵察を開始しろ!』

 

そう自分の名を呼ばれた彼は偵察の準備を進めた。

 

 

 

草原 日頃見る演習場を思わせる程に戦場に足るゴトク平野を彼はバイクと共に駆けていた。

既に上陸部隊本隊と降下したパイロットとタイタンは合流し本格的な攻撃の準備を進めている。彼の任務は攻撃成果の報告と万が一敵が変則的な動きをしてきた時用のカナリアであった。

 

「CPからアンガー29へ、現刻を持って貴官らの任務を偵察から成果確認へと移行する、オーバー」

「アンガー29、了解。」

 

無線を切り攻撃を待つ、自身の真上を爆撃の任を終えたファントムが通過した

その直後だった。

 

流星群

 

それを思い起こすほどのミサイルが視界を覆った。

 

「██、どうしたんだぼーっとして。」

そう彼のバディが声を掛けた。

 

「うちは兵器の在庫がなかったはずでは?と思ってな。」

「そういうことか。簡単な話だ、外国からのレンドリースや鹵獲品、後はライセンス生産とかの今後自国で生産しないミサイルをここで使い切るらしい。まあとっておいても整備費がかさむだけだからな。」

「なるほどな。」

 

ジェットエンジンの炎が地へ降り注ぎ爆発が夜を照らす、まさに慶賀(けいが)に堪えないだ。

 

「アンガー29からCPへ、敵前線部隊は全て壊滅、敵死者は目測で5万程。」

 

前に広がるシミ、シミ、シミ。

人の原型すら留められず無慈悲にも爆散したそれとえぐれ、平野とはなんだったのかと疑いたくなるほどに変形したそれを眺めながら報告する。

 

「こちらCP、了解した。これより作戦は第二段階へと移行する、貴官らは本隊と合流し指示を待て。オーバー。」

 

戦争と呼ぶのが馬鹿らしくなる光景がそこにはあった。

*1
作戦の便宜上、数個の部隊に分けたときの各部隊の名称。今回の場合敵の上陸に備えフェン国首都アマノキなどにも部隊が派遣されている。




え?23時ごろ投稿されてすぐに読んだら誤字脱字がひどかった?
君は幻覚を見ていたんだよ(圧)


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第二十六話 苦労人

なぜ…どうして…

「どうしてこうなった!?」

 

目の前に広がる死屍累々、フェン王国のゴトク平野で近衛兵に囲まれながら

パーパルディア皇国第3外務局局長のカイオスはそう叫んだ。

 

 

 

 

遡ること三カ月前 7月23日 在パーパルディア ムー国大使館

 

「ムーゲさん、お久しぶりです。」

 

赤レンガでできたムー国風の大使館の中で階段から降りる赤髪の長袖長ズボンの紳士、ムーゲにそう言った。

 

「久しぶりだね。まあこちらへどうぞ、お茶を!」

 

ムーゲが一階の席へとカイオスを案内し職員の一人が湯気を漂わせた茶を運んでくる。

では、とお茶をカイオスが受け取ったのを見て二人は多少の雑談を始めた、その数刻後。

 

「そういえば、日本国という国をご存じかね?」

「あー確か東方にある国ですよね。数日前こちらの局に使節団が来ていたはずです。」

 

三杯目のムー国産の茶を飲み干したカイオスはそう言った。

 

「それが、どうかしましたか?」

 

それに対しムーゲはここだけの話と付け加え口を開けた。

 

「先日うちの国にも使節団が来たんだがね、そこに同行していた武官の方からの話で日本国は魔法技術に関して非常に深い関心をもっているそうだ。まあうちは科学文明だからその需要を生かせないが…パーパルディアなら生かせるんじゃないか?」

 

そうなんですかとカイオスは返事をし頭の中で日本国の情報を思い出す。

確かクワ・トイネの少し東にある島国で以前来た使節団は礼儀が全くなっていない蛮族だからという理由で追い返したと報告が来ていた。

 

「ちなみにその関心というのは?」

「それがむこうは科学技術文明だから基礎的な所から関心を持っているようだ。」

「なるほど…しかしそれだとこちらが技術輸出をしたとしてもそこまで対価を得られなそうですね。」

「ん…なぜだい?」

 

ムーゲが不思議そうに問うた。

 

「日本は大した技術も持たない蛮国と報告を受けています、その程度の国でしかも島国となれば資源も余り期待できないでしょう。まあ海産物などは取れるかもしれませんが…その程度なら我が属国から輸入*1できますしね。」

 

その言葉に対して表したムーゲの一瞬の訝しむ表情をカイオスは見逃さなかった。

 

「…何か?」

「貴国は…その、日本国と貿易や技術交流をしていないのかね?」

 

日本国との関係を思い出す。属国、貿易国、保護国etc...どれを思い出しても特に関係はない、というより使節団が拒否された以上関係のしようがないはず。いや、確か監査軍の派遣対象であるフェン国と最近国交を結んだとか定期報告書で見た気がするな。

 

「いや、そもそも国交すら開けていないかと。しかしそれ程の国なのですか?その日本国というのは。」

 

一番の疑問はその日本国だ。蛮族国家と報告を受けていたそれのはず。

 

「それほどもなにも軍部にいる私の同期曰くこちらと同じ航空機、そちらでいう飛行機械をもっているらしい。使節団が来た時に向こうの航空機とこちらの航空機を飛ばし合ったようだ、まあその同期が不貞腐れていたからこっちはエンジントラブルかなんかで飛ばせなかったんだろうな。」

 

飛行機械⁉ 機械文明というだけでも珍しい上にそれ程の技術を持っているだと?

 

「それは本当に日本国なのですか?…それ程の国ならば第二外務局、もしくは第一外務局案件になります。さらに言えばそもそもそのような国ならばもっと前から認知しているはずです。」

 

茶の入ったコップを眺めてカイオスはそう言う、茶柱が水面に浮かび小さな水面に緑の波が浮かぶ。

 

「カイオス君。君ならば、予想が付くだろう?」

 

そう薄く笑いながら言ったムーゲの言葉に対しカイオスは思案で返す。

高い技術力を持ちこちらに国交を持ちかけてきた、ミリシアル帝国のように魔帝の遺品で急成長した国家?

いや、あそこは魔法文明だ。

では別の列強が技術供与した傀儡国家か?、ならムーの言っている事は飛んだ茶番になる。

つまり---

「転移国家?」

「恐らくな。」

 

驚いただろう?とムーゲはこちらに向いてにやりと笑う。

驚いたも何もこっちは腰が抜けた思いだ!転移国家だとしたら尋常じゃないレベルの経済力、そして列強レベルの技術力を持つ可能性が浮上してくる。うまく使えば大量に輸出をでき尚且つ技術も…

いや、その前に。

 

「どうして私にこの話を?」

「私と君の仲だから…と言いたいところだが以前君がくれた航空機版竜母という案が技術士官達に喜ばれてね、そのお礼だと思ってくれたまえ。一応仮称として航空機を発艦させる船、航空母艦から取って空母と呼ばれるようになった。

こちらとしても軍機だから他言はしないでくれよ?」

「良かったです。他言は勿論しませんよ。」

 

それから数分もしないうちに大使館を出た、外は日が暮れはじめ心地よい風が吹いている。

しなければならないことが山積みだ。とにかく国交の成立を急ぎ各種輸出可能な魔法技術の審査に向こうの文化や技術の把握など、局員をダース単位で使うしかないな。

 

 

「ってな訳だ。」

「それでその二ホンって国を調べていたわけね。」

 

外務局から徒歩数分の酒屋にカイオスと第一外務局局長のエルトはいた。

 

「ムーからの情報といえども…にわかには信じがたいわね。それでその二ホンとのコンタクトは?」

「向こうはこちらの町の視察やらなんやらで後数日は滞在するらしい、明日の朝にでも呼んでみよう。」

 

まだこの後にも仕事が残っていることもあって机に酒は一つもない、代わりに置いてある水とパンを口へ運んだ。

 

「でも、もし列強並みなら面倒ね。」

エルトが言った。

「それはどうして?」

「外務局監査室のレミールよ。あの方は今の列強国以外は全て見下しているわ、きっと日本を第二や第一外務局の担当にしたらなにかと関与してくるでしょうね。」

「なるほどな、それは面倒な話だ。」

 

レミール、外務局監査室の室長だったか。一度も会ったことはないが陛下と親しい関係と聞いたことがある。

これは不安要素として覚えておかねばと頭の片隅に置いた。

そうして二人は酒屋を出る、まだまだ仕事は残っていた。

 

 

 

「パーパルディアの第三外務局から呼び出しですか?」

 

そう大野が目を擦りながら言ったのはパーパルディア滞在4日目の深夜3時だった。

 

「はい。先ほど馬車で外務局からの手紙が届きました、国交の為明日の午前9時頃に第三外務局の会議室へ来てほしいと。」

 

そう言って入ってきた寝巻き姿の職員から手紙を受け取ると確かにその内容が書いてある。

 

「また唐突だな、あれだけ横暴な対応をしておいて。」

 

数日前パーパルディアの外務局へ行き他国同様の平等条約を提案した時を思い出す。

 

「信じられませんね、こんなもの通る訳無いじゃないですか!最低でも治外法権や関税自主権の放棄くらい入れたらどうなんですか!」

と、これだから蛮族はなど小言を言いながら言われていた。

全く蛮族はどちらなのか…というか関税自主権無くした所でパーパルディアの産業如きでは全く国内産業にダメージは無いのだが。

 

まあそんな事を考えている暇ではない。

「外務局までとなると、急いで準備しないと間に合わんな。」

 

大野たち日本国使節団が宿泊しているのはフェン王国方面の海に面する湾岸都市、そこに停泊している木造船に偽装した小型船だった。

いきなり大型船や軍艦で行ったらどんな対応をされるかわからないというクイラからの助言によるものだったが今では多少の威圧を込めて軍艦でこればよかったと後悔している。

 

「急いで馬車の手配を!それと本国にこのことを伝えておいてくれ!」

 

まあ後に悔うと書いて後悔だ、今はそれより先の事を考えねば。

 

と、思っているのも束の間に午前8時30分外務局迎賓館の前。

深夜3時から向こうの指定した9時までの6時間、業者を呼び馬車を用意し国交成立の為に自国の資料を用意する。もちろん一度行った時から向こうに合わせて調整も行って。

そんな事をしていれば既に時間は6時を迎え車と比べて乗り心地の悪い馬車に数時間揺られやっとの事で着く。

 

「で、30分前に着いても向こうさんはまだ来ていないと。」

 

無慈悲にも着いた先の受付が言うにはまだ担当者は着いていないとの事。

大方今頃やっとこちらに向かって居るのだろう…ほらなんか洒落た馬車の列見えてきたし。

呼んだのは向こうさんなんだからもうちょい早く来て欲しいものだけど…

 

 

「今日は急に呼び出してすまないね。」

とまるで面接のように対面するパーパルディアの三人の外務省員のうち一人、第三外務局局長カイオスと名乗る者がそう言った。

すまないと思うならもう少し余裕を持って連絡を寄越して欲しいのだが、その白髭を引っこ抜いてやろうか。

 

「いえいえ、それで国交の為の話と聞いていますが。」

まあそんな事をすれば外交問題だ、淡々と職務をこなせばいい。

 

「いやあ、前回来てもらった時に手違いがあったようでな、それでもう一度場を設けたわけだ。」

訂正やっぱこいつらヤバい、なんだ手違いって。

しかも自分らはさも寛大ですって顔でこっちを見てやがる!

 

「なるほど、では国交の為の条文の草案を---」

「その前に貴国の国力を知りたいのだが。」

「こ、国力…ですか?」

 

手を組み早くしろとでも言いたげな目で見つめてくるカイオスの側近を尻目に話を続ける。

どうやら国力に応じて不平等条約か平等条約か決まるらしい、なんだその制度は高校の校則の方がまだまともだぞ。

 

「ではまず貴国はいくつの属国を持っているのか教えて頂きたい。」

そう言うのはニヤニヤと笑うタールと名乗った職員。

 

「いいえ、我が国は属国を保有していません。」

そう言ったのを皮切りにカイオスの両端にいた二人の職員が大笑いを始める。

だが、まあ。

 

「なにか?」

と真っ向から聞き返せば向こうは鳩が豆鉄砲を食ったように押し黙る。

外交官のセリフとしては下の下と言えるそれだが始めたのは向こうだから関係ないだろう。

後唾飛ばしすぎだろあの二人。

 

「申し訳ありませんが我が国はそもそも植民地、そちらでいう属国のように利益にならないような物を持とうとはしませんので。」

「なんだと!貴様は皇国の政策が不合理と言いたいのか!」

 

と再びタールが口角泡を飛ばす。

口火を切ったのは向こうだし本国からもパーパルディアは最悪国交が成立しなくてもよいと言われている事だし、まあそこまで気にしなくていいだろう。

 

「不合理など一言も申してはいません、利益になるか否かなど国によって全く違うでしょう?」

「ッ!貴様どれだけ侮辱をすれば!」

「いえいえ侮辱なんてとても!むしろ何故そんなに怒っていらっしゃるか後学のために是非ともご教示頂きたいですね。」

 

そう二人が論議をしている時とある二人の考えが一致した。

 

『やめてくれ!胃が痛い!』

 

それが大野の補佐とカイオスのひたすらの思いだった。

 

「タール、やめんか!オオノさん後程二人で話しましょう。」

やらかした!何故第三外務局の人間が他国を見下さないと勘違いしていたんだ!

外務局の迎賓館で顔を赤くしたタールの小言を聞き流しながらそう嘆く。

元より他の文明圏外の国の様に扱うなと言っておいたはずだが…悪い意味で自分の部下を見くびったようだ。

 

「とりあえず二人は第三外務局で待っていろ!」

そう言って再び会議室へと戻れば日本の外交官のオオノのみが席に座っている。

 

「先ほどは申し訳ありません。」

大野が言った。

 

「こちらこそ部下が申し訳ない。」

 

互いに水に流すことを同意しすぐに沈黙が流れる、しかし先に口を開いたのはカイオスだった。

 

「少し気になったのですが属国が利益にならないというのは?…」

「特に他意はありません。そのままの意味です。」

大野がそう言う。

 

「よければ後学のために意味を教えて欲しいのですが?」

属国や保護国はパーパルディアにおいて国力の象徴だ。確かにそれだけが全てではないが多くの国民や皇族がそう考えそれを基準に時期に上位列強にも勝ちうると思っていることも事実である。

 

「そうですね。まず費用対効果というものをご存じですか?」

「掛かる費用に対してどれだけの効果があったか、でしょう?」

カイオスがそう答える。

 

「そう、それが非常に悪い。一度占領すればまず非常に大きい初期投資が必要となる、常時軍隊を駐屯させる費用、行政府の設置・運用とその人件費、各種インフラの整備、駐在員の医療ケアと上げだしたらキリがない。

もちろん資源が豊かな地域や地政学的な要所ならわからなくはないですがそれも文明が進んでいけば認められなくなります。」

 

驚いた…よもやこれ程考えられているとは。しかしそうなるとやはり…

 

「貴国は、日本国は転移国家なのか?」

そう言うと今度は大野が面を喰らったような顔をする。

 

「どこでそれを?」

「いえ、なんとなくそう思っただけです。」

 

よし!やはり転移国家だ!これは絶対に貿易まで繋がねばならない!

 

 

 

「これで国交成立ということでよろしいですね。」

「…はい。」

 

内容は

・互いに大使館を設ける

・対等な立場で国交を開く

・貿易は後に詳細を詰める

etc(エトセトラ)

 

要するにまあ国交は開いとくけど大規模な国家間交流はまだな、である。

 

「貿易についてなどはいつ決めますかな?」

「まあ早くて数か月後くらいでしょうかね。」

 

パーパルディア側がなんと言おうと結局受けるかどうかは日本次第、有効なカードがなければ戦うことはできないのだ。

 

「では本日はこれで失礼します。」

「こちらこそ。」

 

日本側は部屋を出るころには日が暮れ始めている。

条文の草案を片手に部屋を出て長い廊下を抜け迎賓館の前までいけば朝から迎賓館前に待っている馬車に乗る。

 

「まあ今日は国交が開けた事と転移国家と確証が取れた事に満足するか。」

絶対にこのチャンスは逃さんぞ!そう意気込み馬車の行き先をお気に入りの料理店へと変え向かった。

 

カイオスが胃潰瘍で倒れかけるまで残り二カ月半。

*1
献上とも言う



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第二十七話

※タイタンフォールの再生技術(Gなんちゃらとかのやつ)に設定改変有


Q なんでこんなに次話遅かったんですか?

A ハァ… 困ったなァ
 模試の後ACが発売されちゃうなんてェ…

 来年の共通テストが待ってくれてるみたいだから
 急いで追いつきたいけど

 体が闘争を求めちゃって 全然動けなくてェ…
 


日本陸軍ロデニウス方面軍第ニ軍団司令部直属第二十六パイロット大隊付きタイタン整備場

 

「軍曹!タイタンの弾薬補給と修理はまだか!」

「今やっとります!10分程お待ちを!」

 

元ロウリア王国首都ジン・ハークから十数キロ離れた市街地の離れにあるその整備場は現在進行形で大隊のタイタンの内過半数を超える24機のタイタンの応急修理及び補給を行っていた。

そのサウナのような暑さの中で整備兵は皆服を黒く染め大玉の汗を拭っている。

 

「司令部から翼包囲されている第十三歩兵連隊の救援命令が発令されている!俺の中隊分でいいから五分で終わらせろ!」

「「了解ッ!」」

 

そう命令を出す同隊第二中隊長の如月大尉は目下でタイタンの脚部を修復している整備兵を一瞥し隣接している作戦室へと向かう。

 

現在の日本陸軍は総勢50師団それを本土防衛軍、パーパルディア方面軍、諸島防衛隊そしてロデニウス方面軍の四方面軍に分割していた。

その中でも本土防衛軍は10個師団、現在戦争中のパーパルディア方面軍は13個師団、諸島防衛隊2個師団、ロデニウス方面軍はクワ・トイネやクイラ防衛用の第一軍が12個師団に未だ元ロウリア王国に蔓延るパルチザン用の第二軍が13個師団と如月が所属するロデニウス方面軍は最も大きい部隊であった。

 

そして第二軍団司令部直属の二つのパイロット大隊が一つ第二十六パイロット大隊は現在進行形で対パルチザン戦を行っていた、しかし

 

「なぜあそこまで兵器の質が高いのだ…」

修理が完了したばかりのパイロット用ヘルメットを息を切らして走ってきた整備兵から受け取りそう呟く。

 

 

 

『ロウリアパルチザン戦』

 

後世で転移後初の現代戦と言われたそれは日本陸軍へ多大な被害を及ぼした、もちろん本来ならばロウリアの技術力程度では奇襲して数人の歩兵を倒す程度が関の山だろう。

パルチザン活動が始まった当初、日本兵は皆そう思っていた。

しかし戦闘が始まると全く違う現実が姿を現す。

 

「第三歩兵連隊からCPへ!所属不明の(パルチザン)30両を超える機甲部隊と戦闘を開始!至急援軍を!」

「パルチザン共戦闘ヘリを出してきやがった!」

「情報部はなにをしていたァッ!?」

 

そんな無線が飛び交うレベルの戦場がそこにはあった。

旧型とはいえ歩兵の脅威となりうるレベルの機甲部隊、戦闘ヘリ、少数ながらの初期型タイタン。

とてもロウリアの物とは思えないそれ。

さもありなん、前線部隊の被害は少しづつ拡大していく。

 

それはパイロットとて違いない。彼らの大隊も連戦に続く連戦により機体が損傷しそれでも尚攻撃を仕掛けてくるパルチザンに対してタイタンを用いないパイロットによる攻撃を余儀なくされていた。

 

「第二中隊、傾注!」

作戦室に集合した隊員に副官がそう言う、彼らもまた疲労が溜り目に隈が付いている。

 

「1時間前に戻ったばかりだが再び出撃だ!戦力の逐次投入なぞ愚策も良いところだが仕方がない!」

「中隊長殿、第三大隊はいつ戻ってくるのですか?」

「今はまだひよっこ共の世話をしている、戻ってくるのは3日後だと。」

「仕事には困らなそうですな…」

 

彼らの負担が増えた原因はもう一つある。

話は2日前に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィーンとマイクの音が会場に響いた。

ロウリア大陸日本共同パイロット訓練第一期生、そうデカデカと書かれた横断幕を最奥とし200人つまり日本陸軍*1の0.0002%が数人のクワ・トイネ及びクイラの軍人と共に礼装を着てパイプ椅子の上で待機している。

一見少ないように見えるそれだが実際はかなり多い数であり本来6人の小隊、36人の大隊からなる少数精鋭のパイロットからすると200人は一気に数個大隊を編成できる数であり転移後有事に備えて、と促成教育をした成果といえる人数であった。

 

「とりあえずパイロット試験の合格及び初実戦お疲れ様。

私はこの会の司会をする西住少佐だ、宜しく。」

 

そう黒いヘルメットと戦闘服を身につけた司会が言うとすぐに幾らかの資料が職員によって配られた、新人パイロットに向けてと書かれたその束は彼らに自分達がパイロットになったことを改めて実感させるだろう。

 

「まあ聞いての通り新人パイロットへのオリエンテーションのようなものだ、そう緊張する事はない。」

 

と口先だけは言うものの目の前にいる新兵に毛が生えた程度のそれに期待は微塵もない。

タイタンパイロットは航空機パイロットと同じく最低でも尉官、とどのつまり少尉以上の階級だ。

軍の中でも十数%の階級に若くして入り尚且つ精鋭と言われるパイロットとなる、これ程に自尊心を湧き出させ傲慢になることもそうそうないだろう。

 

「とりあえず今から事前に配布されたaからgの個別番号に従ってグループに分かれてくれ。」

 

そうマイク越しに命じられた新兵たちは訓練の様にキビキビと指定のグループのテーブルへと各々動いていく、プログラミングされたかのように統一された動きは彼らが幾度もの訓練をこなしてきた事を想像させる。

しかしそれだけだ。

 

歩くだけならそこらの歩兵でもできる、パイロットに求められるそれではない。

 

「では各グループごと担当者について行ってくれ。」

 

そう言い残し西住は会場裏へと歩いて行く。

そして裏でカメラの映像を確認している岡部少尉へと声をかける。

ガタイのいい中肉丸顔の男、隊の中で射撃と機械いじりを得意とする彼はこの会で新兵の評価を任されていた。

 

「岡部、皆それぞれ別れたぞ。」

「少佐、こちらも仮想空間の準備が終わりました。隊員達も仮想空間内で戦闘準備を終えています。」

仮想空間内を映し出している液晶には確かに高台から仮想空間の街を見下ろす自隊のパイロット達と計7つの歩兵中隊が見えた。

 

「よし、ならもう今から始めてしまうか。」

「了解です。」

大きく要らぬ程に肥大した自尊心とプライドを打ち砕く方法、その中でも一番強力な物を西住は選んだ、つまり実力行使だ。

 

「しかし上層部もいきなり新兵の練度確認をしろとは…唐突なことを言いますね。」

「まあそう言ってやるな、正直俺も促成教育とやらがどれほどかと気になっていてな。」

「まあぱっと見は見栄えの良いだけって感じですけどね。」

「それだけかどうかはこの後わかるだろ、さ、やるぞ。」

 

ちなみにだが彼ら第三パイロット大隊は元々使節団として来る予定であった列強諸国や同盟国に訓練や演習を見せるために招集された部隊だった…が、それもパーパルディアと戦争が始まったことによりその計画ごとおじゃんとなった。

 

 

『さて新兵諸君、オリエンテーションの初めは戦闘シュミレーションだ。』

そう各部屋に放送を入れ新兵共が仮想空間に入るのを見守る。

 

グループ分けは簡単でaからgの7つのグループに30人弱づつの編成となっている。

しかしこのグループ分けにも訳がある、それは初実戦の場所だ。

基本的に大半の新兵はパルチザン掃討戦が初戦だがaグループのみは違う。

彼らの初戦は対テロ戦、本土に残る日本赤軍残党との交戦が初戦である。現地勢力に兵器とその扱い方を教えただけのパルチザンと違い転移前の隣国などから裏で訓練を受けていた赤軍との戦いによってそれぞれの意識や練度は同じ教育のはずだが文字通り天と地の差があった。

また他にもクワ・トイネやクイラ、その他の同盟国からのパイロット養成員からなるbグループもあるがこれは獣人などの高度な身体能力やこの世界の人間特有の魔法などを特異性を生かそうという試みの元作られたグループだった。

 

『転送先にいる敵役のパイロット1個大隊と歩兵7個中隊を貴官ら7グループ全員で殲滅せよ、目標は以上だ…あぁ先に言っておくとパイロットは我らが第三パイロット大隊そして歩兵は第五歩兵師団どちらも外惑の部隊だ。以上』

 

その放送のすぐ後から次々にグループが仮想世界へと転送されていく。

 

【挿絵表示】

*2

 

そして彼らの無線内容も。

 

 

 

 

同時刻 

ロウリア大陸日本共同パイロット訓練第一期生 aグループ グループリーダー灰谷少尉

 

『戦闘シュミレーションつっても実際はパイロット200人対大隊32人みてえなもんだろ?作戦も何もないじゃあねえか。』

グループ内ではなく七人のグループリーダー間の無線で最も血気盛んなdグループリーダーがそう言った。

 

新兵グループでは全体無線、各グループ内でのグループ無線とリーダー間のリーダー無線があり現在進行形でどのように行動をするか話し合っていた。

目標は敵部隊の殲滅、つまり敵側が全滅判定*3を受ける三割を倒すための作戦建てだ。

 

『一個大隊対六個大隊強となれば平押しでもいけるだろう、そう考えるとこれは被害をどれだけ抑えて任務を執行できるかという問題ではないのか?』

『だとすれば彼我の練度差を考えて即席の一個小隊で敵パイロット一個分隊を相手にする手隙の小隊で歩兵を始末しよう。』

『それはいいな!ではまずそれぞれのグループから一個小隊規模の斥候を出し情報を集めるようにしよう!』

 

などとやり取りをするc,e,fグループリーダーの音声をaグループに音声共有をしていた灰谷は悲しげに聞いていた。

 

「…だそうだが、まさか歩兵をこれ程までに軽んじるとは。」

「先輩たちの言う通りでしたね。」

 

転送先の灰色の質素な家屋の中で副官の河瀬少尉はそう言った。

先輩、つまり彼らの初陣である対日本赤軍残党戦での先達パイロット達が言った言葉だ。

 

「『パルチザンや現地勢力*4相手が初陣のパイロットは歩兵を軽視しやすい、彼らにとって歩兵は正規軍ではない非正規軍となるからだ。』と作戦後におっしゃっていましたね、だからこそ貴官らは幸運だとも。」

「その分同期の中では最悪な初陣だがな。」

 

実際aグループの初陣である戦いでは新兵パイロット50人が投入された…しかし結果は今の彼らの通り死者12重軽傷者31と五分の二近くが復帰できなくなった。

だが彼らはその最悪の中で気づく、訓練された完全武装の歩兵の強さを、そしてそれすら赤子の手をひねる様に捻りつぶす()()()()()()()()パイロットの力を。

 

 

   ―――再生―――

 

それはパイロットが死んだ時、しかし頭は無事であった時に行われる人工体への脳移植*5である。

端的に言うならば死者蘇生、だがそれは自らの技術が物を言うパイロットにおいて絶対的なアドバンテージとなる。

 

「うちからも一個小隊を斥候として出すが…パイロットと接敵したら絶対に交戦をしないようにしてくれ。」

 

 

「死」という教育料を支払って得るそれは者によっては一生のトラウマとなりまた別の者は数回の実戦以上の経験となる。

その点でいえば敵役となる第三パイロット大隊は方面司令部直属の名に見合う実力、最も少ないもので10度の再生を平均で言えば13の再生を繰り返した文字通りの精鋭であった。

 

『こちらgグループ斥候、東の方角グリッドF2にてパイロットと歩兵と接敵!共に中隊規模!』

 

と早速の接敵報告。

一個中隊、つまり12人のパイロットだ、それに加え歩兵も中隊規模でいるとなれば新兵パイロット30人では荷が重い。

 

「リーダー、一個小隊を援軍に回しましょう。」

河瀬が言った。

 

「そうだな…和賀さんの小隊をまわ―『こちらcグループリーダー!高速道路正面からニ個パイロット中隊規模と三個歩兵中隊が接近中!至急応援を!』

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------

 

同刻 敵役第一パイロット中隊 

 

「第二、三中隊が敵複数グループと会敵、戦闘を開始しました。」

「これはあいつらを叩き直すためのものだ。できるだけ歩兵に役を渡してパイロットは適度に蹂躙しろ。」

 

敵gグループの側面に展開する第一中隊で西住はそう言った。

眼前には歩兵を狩ろうと馬鹿みたいにビルから飛び出た新兵がその獲物によって蜂の巣にされている最中だった。

 

「パイロットは歩兵より頑丈だが火力を集中させられたら死ぬ。教育課程の一番初めに教わる事ですよ、アレ。」

 

副官の河瀬の言葉にまあそう言ってやるなと苦笑いするもののその視線には落胆が映っている。

 

 

_____________

 

第二十歩兵小隊第五分隊

 

9人目が蜂の巣になりビルの下へと落ちたところ、つまるところ一個半小隊分のパイロットを失ってから新兵は無闇に突撃してくることを辞めた。

彼らは歩兵などただの的だと狩人気取りでこちらを狩りにきたのだろうがそうは問屋が卸さない。

確かにパイロットは歩兵と比べ戦闘服や各種技術により頑丈になっているがそれとて一人の人間であり歩兵分隊が火力を集中させれば落とすことは出来るのだ。

 

「今のうちに装備を整え直せ!また来るぞ!」

そう同分隊の大西軍曹は部下に声をかけ自身の持つアサルトライフル フラットラインをリロードする。

 

彼らの所属する中隊は外惑星派遣軍所属であり戦闘経験豊富な一級線の部隊だ。

正規軍パイロットに劣るとは言え数々の現地勢力パイロットとの戦闘を行い幾度も死にかけ仲間が死に、死地を超えた彼らはそれこそパイロットの絶対的な強さもそれに驕り死んだ者達を知っている。

そしてそれで言えば彼ら新兵は後者であった。

 

『全部隊へ通達、敵部隊中央を第二パイロット中隊及び第三、四歩兵中隊が突破。殲滅戦を開始せよ。』

 

中央突破

とどのつまり敵左翼右翼をそれぞれ包囲したという事だ、本来パイロットが7個中隊もいればされるはずも無いそれだが無闇に突撃をし数を減らした彼らに対してならば容易であった。

とまれ歩兵の攻撃に対して兵を割かずパイロットへの迎撃に集中してしまったのだろう、二個中隊規模の歩兵の浸透を許した彼らに再起の機会はない。

 

「いくぞ、包囲戦の時間だ。」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「で…結果分かったのが促成教育の失敗だと?」

机上に置かれた対パーパルディア戦争の承認待ちの書類の束に囲まれ『パイロット促成教育の変更案』と記された歩兵師団長とパイロット大隊長名義のそれをペラペラと捲りながらまた少し痩せた白髪の首相は言った。

 

「いえ、失敗という訳でもございません。」

「…自信と驕り気質だけは最高級の練度、高品質なボーイスカウトと皮肉まで入れられておいてか?」

ギロリと紙束から移した視線に思わず当の報告をしていた梅津()()()()()はたじろぐ、

何を言おう目の前にいるこの隠居していてもおかしくないような老人こそ50にして戦後最年少の内閣総理大臣となりその後の不祥事の責任を負い退陣したにも関わらず現在まで計三度も総理となった正真正銘の化け物なのだ。

そしてそんな化け物からすれば参謀総長ですら一人の公務員に過ぎない事は前任の彼が身をもって証明してくれた。

 

「促成教育なので練度が低いのは仕方のない事なんです!」

「じゃあどうするんだ?うちの国には自称パイロットの役立たず共を養う余裕はないのだぞ。」

「今回の見分から新兵パイロットの訓練課程に初実戦後の実戦型強化訓練を追加することとなります。」

「詳細は?」

 

首の皮一枚つながった、とほっとした梅津に首相は早く言えと催促する。

 

「はい、初実戦後仮想空間にて参謀本部直属の第一パイロット連隊が直接訓練にあたります。さらにこの仮想空間では現実と同様の痛覚などの感覚系を使用します。」

日本軍が使用している仮想空間は実際よりも痛覚などの感覚が抑えられている。理由は単純で一時期感覚を現実と同じにした際に仮想空間で死亡した者たちのPTSD発症率が尋常でなかったから、

本来一度しか経験しないはずの「死」という現象を額を打ち抜かれて即死ならまだしも、腕や腹を砲で、手榴弾で吹き飛ばされて出血死、タイタンに踏みつぶされて圧死などという体験をして立ち直れる者は皆無なのだ。

 

「新兵がダース単位で潰れるだろうな。」

「はい…しかし仕方がない事です。」

はあ、とため息を付く首相の顔は暗い。

 

「…仕方がない事、か。…わかった、だがこれ以上面倒ごとは増やさないでくれ給えよ?」

「…重々承知しました。」

「諸島防衛隊の将校はまだまだ空きがある、いつでも書類()にサイン()する準備はできているからな。下がれ。」

 

参謀総長を下がらせた首相は独り窓に黄昏る。

夕陽が落ちる日本の空、その遠い向こうのパーパルディアでは今も多くの日本人が虜囚として捕らえられているのだ。

今は胸に仕舞われた煙草を吸う時間すら惜しい。

だが、そのために人の死を数字で見るようなことになってはいけない。

それは「死」の責任から逃れる事に他ならないのだから。

 

 

*1
総勢100万人

*2
×は歩兵中隊、●×はパイロット中隊

*3
組織的抵抗が不可能な状態。社員の3割が抜けたら通常業務ができないような感じ

*4
ここでは外惑星での反乱勢力のこと

*5
行う装置などの質によっては記憶を失う。



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第二十八話 始まり

一発書きだぜ


 

 

クワ・トイネ公国 経済都市マイハーク

 

男は涼しくなり始めた季節とは対称に額に大粒の汗を滲ませ荒い息遣いで港を目指し走っていた。

手に持つ茶色の革鞄をこれでもかと握りしめ家屋の間を逃げ回るように抜けていく。

 

「どこまで追ってくるんだ!」

 

そう悪態を付いた所で状況は変わらない。

港に停泊する回収船までは残り4kmと言ったところ、既に16は居たであろう自分と同じパーパルディア諜報員も数を7つにまで減らし今も現在形で日本国の追手であろう者に追われている。

 

「ックソ!こいつだけは命懸けで持って行ってやる!」

 

革鞄の中身は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そう書かれた重要書類の束だった。

元より日本国へは数度に渡り諜報員を派遣し情報収集を行おうとしていたが…結果は最悪、一人として彼らが戻る事は無くむしろこちらの情報を吐く始末だった。

 

ならば、と本国の諜報部が考えたのが今現在の諸悪の根源であるクワ・トイネへの諜報作戦。

日本国から支援を受けていると言えどもクワ・トイネの諜報機関は出来たての赤子と言ってもいい程出来が甘い、確かにもう後数年もすればパーパルディアの驚異になりうる程の恐竜的進化をなし得ているが今はまだまだ。

だからこそこうして機密資料を盗む事が出来た、そして本国へ戻る事も出来るはずだったのだ。

日本国の諜報機関が来るまでは。

 

初めに大陸における通信拠点が尽く破壊された、奴らどうやってかは知らないがこちらの魔信を行った所を探知出来るらしい、全く忌々しい事に最初に行われた通信拠点への攻撃で唯一の通信専用員のカースとサルトが捕縛された…そしてこれを皮切りに地獄の追跡劇が幕を上げた。

 

連中どうやってかは知らんが最近開発されたばかりの自決用の薬に一度本国に戻り施された対尋問訓練すら突破しあの二人から情報を吐かせたらしい*1

それから一斉に他の諜報員の抹殺が始まった、どうにか殺される前にクワ・トイネ政府から情報を取れたもののその代償にこの追われようだ。全く釣り合っていない。

 

「占めた!」

 

南へ走り赤レンガ造りの住宅地を抜けた先、経済都市マイハークの港へと伸びる大街道だ。

 

「割に合わん損失だがこいつだけは持ち帰らせて貰う!」

 

人混みに紛れれば奴らも強硬策には出れないはず、そしてその人の流れのまま船に乗り脱出する。

そう考え家屋の間を抜け出そうとしたその時、南の空に登る太陽とそこに映る一つの人影。

それだけを認識し男の意識は暗転した。

 

 

 

同刻 日本国参謀本部情報部隷下特務パイロット大隊

コールサイン オーネスト(誠実)

 

右手に握られたリボルバー ウィングマン・エリートから放たれた大口径の一撃は的確に目標のパーパルディア諜報員の頭部を貫いた。

 

「残りは?」

「アトラスとパイパーが残りを仕留めました、任務は終了です。オーネストはこのまま現地エージェントと合流し輸送機まで向かって下さい。」

 

オペレーターの指示に従い道を進み現れた現地住民風の服装をしたエージェントと合流すれば輸送機はここから数キロ先らしい事がわかった。

「お疲れ様です、道中はこちらで用意した車を使用します。」

「ああ、ありがとう。」

 

クワ・トイネ向けに改良された軽自動車を動かし輸送機へと向かう、クワ・トイネの近代化は急激に、多様な分野で行われ工業からインフラまで日本主導で進んでいた。

その甲斐もありコンクリートの車道は走り心地が良い。

 

「任務完了か…」

そう呟き彼はヘルメットを外した。

 

 

 

 

 

 

 

「大陸のパーパルディア諜報員殲滅が完了しました。」

「よかったよかった!これで安心だ!…とでも言うと思ったか?」

 

そう真顔で言い放った情報部の長である生駒は情報部の部下からタブレットを受け取りそこに映る大陸のパーパルディア諜報員の掃討状況を見る。

既にロデニウス大陸中の国家にいる諜報員は全て消されるか捕縛され残りが居るとしたら未だにパルチザンの絶えないロウリアくらいとなっていた。

 

「あんな失態を犯した原因は?」

重要機密の流出、それに加えもう少しでそれを諜報員共々回収されそうになるという近代日本の諜報機関において前代未聞の大事件に生駒はそう問うた。

 

「パーパルディアの諜報力、そしてなによりクワ・トイネの諜報機関を見誤りました。」

「……続けろ。」

 

今回はクワ・トイネ諜報機関の訓練のために展開していたエージェントや特務部隊がいたから良かったもののこのような失態は情報部の信用を失墜させる事になってしまう。

あの目ざとい首相のことだ、きっともうこの事も把握しているだろう。

 

「クワ・トイネについては、まず防諜の訓練が不足していました。」

「それは知っているしそれについて聞きたい訳じゃない、知りたいのはパーパルディアの方だ。」

 

クワ・トイネの訓練状況はこちらも知っている。確か今は防諜はそれを必要とする程高度な国家が他に無いため後回し、という方針だったはずだ。

そう、つまり---

 

「何故、それ程諜報力の無いと言われていたパーパルディアが盗み出せたのだ?」

 

単純にして最大の疑問。

どうしてかの者らにそれ程の技術があるのか、そしてそれはどのように得る事ができたのかだ。

 

「それなのですが…ここ数ヶ月前からマークしていた者が行方不明と成っています、そのため未だ予想の段階ですが第三者(赤軍)から教わった可能性が高いかと。」

「…なるほど、ある程度はわかったから原因の完全な特定を急いでくれ。首相には俺から言っておく。」

 

通販サイトにアクセスし胃薬の追加注文を行った生駒はそのまま視線を部下に移し言った。

「それで次に…例のミドルマンは?」

 

ミドルマン つまるところ仲介者の意を持つそれはパーパルディア国内に潜んでいた反戦派勢力の事だ。

元々は両国の貿易や技術協力を望んでいた彼らは開戦後からなんとか講和を漕ぎ付けようと情報部を通して日本政府と協力関係にあった。

 

「残念ですが…どうやら強硬派筆頭のレミールによって潰されてしまった様です。」

「…詳しく頼む。」

 

やられてしまったか、と悔しげに呟いた生駒は目の前の部下に事の顛末を話させた。

「パーパルディア第三外務局局長カイオスを筆頭とした講和派は開戦直後から軍の将軍や皇族に根回しを行っていましたがそれが内通者によってレミールに密告されてしまったようです。」

 

戦前からこちらにあらゆる手で接触を図り挙句の果てには戦争が無ければ実行される予定だった異世界国家の使節団の来日に加わる事になる程に有能な外交手腕をもつ局長カイオスだったが…どうやら謀事に関してはエミールの方が1枚上手だった様だ。

 

「それはまた難儀なこったな。」

「最低でも左遷、基本的には一族諸共処刑のようです。」

「見せしめか…しかしカイオスは処刑されていないのだろう。」

 

タブレットにある死亡者一覧の中にはカイオスの名は見えずそこまで上でない職員が処刑されていた。

 

「どうやらカイオスの処刑に対し外務局内からの反対が強かったようです。」

「あいつも何気に人望があったんだな。で、今はどうなっている?」

「詳細な場所はわかりませんが…現在は軍に政府からの役人の様な立場で派遣されているようです。」

「外務畑の人間を軍に?さすが独裁国家だな、予想外を突いてくる。」

 

反戦派が捕らえられる事は戦争の長期化の可能性が増大することと同義だ。今までの反戦派を主軸とした講和工作やパーパルディア内の権力者への接触は今後不可能になるだろう。

また新しい案を考えなければな…と顎に手を当て呟く。

 

「しかし…ここでうだうだするのもアレだな、よし。外行くぞ。」

 

そう言って生駒は部下とともに部屋を出る。朝はまだ肌寒かった空気も昼には暖かくなり紺色の上着を腕に掛け階段を降りる。

情報部が保有している都内の敷地を抜け数分歩いた先にある丘、その頂上にある公園は人が流れる首都を一望することが出来た。

 

「じゃあ…本題だ、作戦に参加する部隊の準備は?」

「先鋒の上陸部隊、後続の機甲、機械化部隊は共に大陸にて準備を済ませています。それに加えて上陸支援艦隊と航空隊も。」

 

準備は万端だなと言って自販機から二つの缶コーヒーを取り出した生駒は片方を若いその部下へと投げて言った。

 

「唯一の懸念点はこちらの諜報員が消息不明になっているレイフォルですかね。」

「だな。しかしレイフォルからパーパルディアにまで移動できる兵器をやつらは保有していない。」

 

パーパルディアの航空戦力はワイバーン、それに艦艇も大した物ではない。

 

「で、本命の陽動作戦部隊は?」

「はい。()()()()()()()()()()()()()()()は最終段階へと移行しXday*2には必ず間に合います。しかし…」

 

そう若手の部下は言い淀んだ。

 

「しかし、なんだ?」

「流石に海軍にこの作戦の為だけに()()()()()()()()と言うのはやりすぎだったのでは?海軍から横暴だと怒りの声が出ています…。」

「あーそういうことか。なら関係ないな、連中は航空機を用いない特殊作戦用の輸送可能な艦船が欲しい等と予算会議でのたまっていたはずだ。」

 

そしてその研究費用のために情報部の予算がいくらか減らされたのだから仕方のない事だろう。

 

「…早期決着、そして一瞬でも早く平穏を得るために、この作戦を成功させるぞ。」

 

そう言った生駒は晴天の空、その先にあるレイフォルの方角に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Xday パーパルディア皇国属国アルタラス

 

「アイアンリーダーから各員へ、敵守備隊は無力化された、次の目標へ移行せよ、繰り返す、次の目標へ移行せよ。容赦はいらん、滅茶苦茶にしてやれ。」

 

 

街は業火と泣き喚くパーパルディア兵の叫びで満ちていた。

作戦は砲煙弾雨と血の犠牲によって始まったのだ。      回想録 滅亡の皇国の一文

*1
実際は尋問を行っていない、脳から別の機械の体に記憶を移せるほどのテクノロジーがあったら…そりゃあねえ?

*2
作戦日



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第二十九話 客寄せパンダ

お久しぶりです。
修学旅行に模試に部活と色々用事が溜まっていたもので投稿が遅くなりました。
今後はもう少し早くできるとは思うのですがね…
後コメントや誤字脱字報告して下さった方々に感謝。

※尚、例にもれず一発書きの模様


 

Xday 7:00 パーパルディア皇国中部

 

『ローダー1から各員へ、作戦開始まで残り3時間だ、荷物の運搬を開始せよ。』

 

小型無線の電源を切り家屋の間から抜け周囲を警戒していた2人と共に手早く荷台を引く。

亜人種ではない人間種の風貌にパーパルディアの属国の民が着ている服、しかし服に覆われたその三人の腰のガンホルダーには確かにハンドガンのP2020が仕舞われていた。

 

「こちらの目標時間までは?」

「残り1時間です。」

二人とは違うパーパルディア国民の服を着た荷台の上の隊員が腕時計を見てそう答えた。

 

「すると運搬までは30分程か、ペースを上げるぞ。」

「「了解」」

 

短く会話を終えた三人は戦時中のはずなのに全く普段と同じ生活を送るパーパルディア国民の波に潜んでいく。

属国の奴隷が荷台を引いているなどパーパルディアでは日常茶飯事だ、蔑むどころか気にすることすらしない程にこの国には奴隷文化が染みついている。

そんな腐った空気を吐き出し彼らは目的地を目指し始めた。

 

 

 

 

 

「おいトール!なんかでけえ荷台が来てるぞ!」

「アァ?今日はなんもこねえはずだぞ。」

 

トールと呼ばれたパーパルディア軍飛行場の門番は門前の小屋の中から監視塔の同僚にそう言った。

 

「でも来てるもんはしょうがねえだろ。」

「つっても予定表にもなんも書いてねえぞ。」

 

机上の紙束を漁るがどこにも今日荷台が来るなど書かれていない、むしろ最近皇国に喧嘩を売ってきた二ホンとやらへの戦争のために一部の物資を飛行場から運び出した程だ。

「ったく、しょうがねえな。」

 

気だるそうにトールは銃を手に取り小屋を出る、暖かな日差しに目を細めながら坂を上る荷台を見れば確かに大量の荷が乗っている。

二人の奴隷とそれを指揮するパーパルディア人、よく見る荷物輸送だ。

 

「止まれ、本日この飛行場に来る荷台は無いはずだが何用だ。」

 

そう言うと荷台の上の男が弱弱しく答える。

 

「は、はい。この飛行場の竜騎士様のご実家から戦の景気付けにと大量の酒やらなんやらが届きましてそれを運んできたのです。」

「ならばなぜ連絡がなかった?」

貴族は特権階級だから唐突になにかを行う事はある。しかし景気付けの品などならば事前に連絡し荷下ろしの人手や場所を求めたり早馬で手紙などを届けに来るだろう。

 

「それがフェンにあった元々荷を運んでいた船の港が二ホンとかいう国に封鎖されてしまいまして、陸路で別の港へ動かしやっとの事でここまで来たもので…船だって属国の朝貢船に便乗したそうで連絡する暇がなかった様です。」

 

確かにフェンの一部を支配していた懲罰部隊が二ホンに攻撃されていたな、とトールは酒場の噂で聞いたことを思い出した。

 

「なるほど、それは大変だったな。よし、荷物を確認したらここを通そう。」

 

 

そう言ったパーパルディア兵士は荷台を上り中身を調べ始める。

だがそんな事をされた所で意味はない、荷は正真正銘パーパルディア属国やパーパルディア本国で売られている銘柄の酒や衣服なのだ。

 

「通っていいぞ。」

 

兵士が門を開け中への道が開く、基地は巨大な一本のワイバーン用滑走路を中心にワイバーン用宿舎、兵舎、倉庫、司令部と広がっている。

 

『こちらローダー3、運搬を完了した。これより潜伏を開始する。』

『ローダー2、同じく。』

 

倉庫番へ用を告げ荷を中に降ろし荷台を倉庫の真横に着ける。

荷を解くためにと倉庫の角へと一つの鞄と箱を抱え淡々と歩いた。

 

『ローダー1から各員へ定刻となった、誘導装置を起動し武装せよ、繰り返す、装置を起動し武装せよ。』

 

箱に入った誘導装置のスイッチを入れ鞄から戦闘服と小銃を取り出す、標準的な市街地用の戦闘服と小型のアサルトライフルのR-201そしてナイフとサブウェポンを慣れた手付きで身に着けていく、そうして息を潜めながら倉庫の湿った暗闇の中でガチャリと弾倉が填め込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コツコツと青色の電灯が光る通路を歩き抜け機体の中央部へと向かう。

ずんぐりとした見た目に縦長な機体、彼女が乗っているのはタイタン輸送専用の航空機ウィドウであった。

 

「準備は?」

「少佐、基礎モジュールの整備及び出力調節は完了しましたが追加弾薬やバッテリー、超高高度降下用シールドは今取り付けている最中ですが…まあ通信システム自体は使用可能です。」

「了解した、そのまま続けてくれ。」

「はっ‼」

 

目の前で長期戦闘を見越した弾薬や予備用バッテリー、そして今回の任務のために外付けの強化シールドが取り付けられている緑色のシャーシの巨人。

それこそが彼女の初陣からの愛機で数々の戦場に対応すべく改良が加えられ続けた最初期型のモナークだ。

 

「おかえりなさいパイロット。」

 

グレーの服を着た整備兵から整備に使っていた梯子を借り軽々と登りコックピットへと入ればモナークAIの女性型音声が聞こえる。

 

「中隊の無線チャンネルに繋げて。」

「わかりました。」

 

暗いコックピットの前面に広がる液晶の左上に彼女のコールサイン アイビス1とその部隊章が表示され、それに続くようにその中隊のコールサインが次々と現れた。

 

「全員いる?…ok、作戦開始まで残り3時間、体調は大丈夫?」

「そりゃあ皆大丈夫でしょう、隊長、俺たちに作戦の前日の飲酒を禁止したのを忘れたんですか?」

アイビス2が陽気に言えばあれ程キツイ事はない!と中隊から笑い声が上がる。

 

「…それで、作戦の詳細をそろそろ教えて欲しいんですが。」

「ん?私もそこまで知らんぞ?」

知らんものは知らん、そうあっけからんと答える彼女は今の平常運転だ。

 

『…え?』

「まあ詳細は情報秘匿のためにこの作戦の基幹部隊であるタイガー大隊の隊長と一部の要員にしか伝えられていないんだ。だからこそこうやって中隊全員を一つのチャンネルに集め待機させているわけだが---『あーマイクテスマイクテス』

どうやら始まるようだな、ブリーフィングの時間だ。」

そう言い残し画面に中隊以外の様々な部隊章が現れ始める。

 

 

 

 

作戦に参加する全部隊員がチャンネルに入り自分の声も滞りなく聞こえている事を確認しモノアイの裏側の暗闇で声を発した。

 

『これより本作戦のブリーフィングを行う、俺はタイガー大隊大隊長だ。まあタイガー1でもタイガーズリーダーでも好きに呼んでくれ。まず本作戦は後に続く上陸作戦、そしてパーパルディア国内での作戦の先鋒の役割を担っている。まあ聞こえはいいがいつも通りの使いっ走りだ。』

 

そこまで言った所で画面を操作しチャンネルに資料を表示する、これで全員の画面にも表示されるはずだ。

幾人もの人のアイコン達にいくつかタイタンのアイコンが映ったこれが示すのは作戦の投入戦力だ。

 

『これが本作戦に投入される兵力だ、特殊作戦にしてはかなり大規模だろう。参加部隊は我々参謀本部直轄タイガー大隊、中央本隊直属のアイビス中隊、各方面軍から強奪…いや拝借した二個中隊、そして最後に歩兵とパイロット混合の7個コマンド部隊だ。』

 

白い対翼に紅一点、その名の通りトキを思わせる部隊章のアイビス中隊は確か降下作戦を得意とする部隊でタイタンフォールからの強襲に優れている。

残りの二個中隊も片方は市街戦用にロデニウス方面軍が温存していた特化部隊、もう片方は本土防衛軍の機動力特化の即応部隊とどちらも申し分のない練度の部隊だ。

 

『混合コマンドの名の通り彼らも我々に匹敵する熟練兵共だ、なにせ情報部から1個、海軍から6個選抜して出してもらったからな。』

 

歩兵とてロウリアパルチザン戦で数々の殊勲を立てた部隊を借りて(上からの圧力でゴリ押したとも言う)きた代物だ。

 

そして何より、本作戦は軍の各部門の選抜部隊が行う文字通り軍部の威信をかけた作戦だ。

犬猿の仲…最近は多少なりともマシになった関係の陸海軍の選抜部隊だ、自身らも含めミスなどしたらその方の面目は丸つぶれだろう。

つまり皆が背水の陣、これは面白い作戦になりそうだとにやけ顔になる。

 

『では詳細を話そうか。』

 

 

 

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国エストシラント海軍軍港 11:30 作戦開始30分前

 

 

「おい、なんだあれ。」

「舟か?」

「司令部へ照会を急げ!」

 

皇国の首都たるエストシラント、その軍港の哨戒兵達は目の前に急速に近づきつつある小さな黒船を警戒していた。

 

「おい魔信が繋がらないぞ!」

一人の兵士が叫んだ。

 

「…は?待て待て!どういうことだ!」

そうもう一人の兵士が慌てて叫んだ。

 

港を離れた監察艦隊が消息を絶ってまだ数日、警戒態勢がより強固になり兵の数も増えていた。

そんな中での不明な船に一同は手に汗を握っている。

 

「…だぁから魔信が繋がらないってッ---‼」

「そうじゃねえ!なんで、なんであの船は帆もなにもなく()()()()()()()()()

 

黒い点だったその船達は今やその輪郭をはっきりと表している。

こうなればもう間違い用はない。未知への恐れを押しのいて彼は叫んだ。

「敵襲!敵襲!迎撃しろッ!」

 

訓練や想定ですらあったことのない異常事態の衝撃から我に返った砲台の兵が装填を初め火をつけようとしたその瞬間

 

「おいおい!あの船もう港に入ってくッ―

 

 

 

 

混成コマンド部隊のパイロットが放ったそのロケットランチャーは確かに港の砲台を打ち抜いた。

それに続くように後続の5隻からも放たれた弾頭が灰色の軌跡を残し爆発する。

聞き慣れた崩壊音とともに砲のあった石台が海へと崩れ落ちていく。

呆れるほどにあっけない。

 

『敵砲台の無力化を確認!全員上陸用意!』

 

無線から流れた第一コマンド部隊隊長からの声で同部隊の笠次は自身のアサルトライフルであるR-301を握り込む。

天気は晴天なれども波高し、輸送艇のふちにかかる海水を気にせずに湾内へ突入すればやっとの事でパーパルディア側が発砲を始めた。

 

「やはり連中こちらの攻撃に焦っているな。」

ゴリラと陰で呼ばれるスキンヘッドの仙波分隊長がそう言った。

がたいも声もでかい分隊長は小声ですら大声に聞こえる。

 

「射撃がまばらですね。」

来る弾といえば各々があてずっぽうに撃ったものくらいだ、とても当たるようなものではない。

もうすぐ砂浜という距離まで来ているのに弾の一発もこないのは彼我の技術差の明確な証左だ。

 

「この機を逃すような事はせん、全員上陸戦闘用意‼ミンチにされたくなければパイロット共の前には立つなよ!」

「「了解‼」」

 

潜水艦で港まで近づき100人程の歩兵パイロット混成コマンド部隊で強襲。

しかもこれが複数箇所で行われているのだ、海の下からの脅威など微塵も想定していない連中からすれば寝耳に水もいいところだろう。

 

ガシャンッ

 

「降りろ降りろ!さっさと行くぞ!」

衝撃と共に輸送艇の扉が開けられれば認知するよりも早くパイロットが文字通り飛び出し攻撃を始める。

敵として会えば死神でも味方ならば女神だ。

一挙手一投足が武器であるその動きはもはや戦争芸術の域に達している。

 

「目的は敵部隊の()()と港機能の破壊だ!深追いして死ぬ間抜けはいないだろうな!」

 

足跡が広がる砂浜を走り抜け港の土を踏み込む、すでに固定兵器は無力化され警備隊もその多くが撃退され奥で少数の銃声が聞こえるのみだ。

 

「制圧を開始するぞ!パイロット共に続け!」

 

行動開始、南の海岸から倉庫群へと足を進め制圧を始める。

「クリア!」

「クリア!」

「こちらもクリア!」

 

いともたやすく過半数の制圧が終わる、そもそも上陸地点周辺のここにほとんど兵はおらず大体は逃走かもう既に亡き者となっているから当たり前の事ではあるが。

 

ドンッ

 

10個目の倉庫を制圧し外へと出た時凄まじい爆音とともに風が飛び込む。

ヘルメットを抑えながら爆発の中心へと目をやれば上陸地点の東にある船の停泊所から見事に白煙と炎が上がっている。

輸送艇で運べてかつ最も高い火力の爆薬を最大量持ってきたのだ、潜水艦内で近くを通るたびに心拍数が上がった事を考えればこれも奇麗な花火に思える。

 

「花火で一杯、といきたい所だが…パイロット中隊から連絡だ。停泊所、司令部、通信施設を破壊、港機能の破壊に成功との事。」

「つまり?」

笠次が言う。

「ああ、第一作戦は完了した、これより俺達は先鋒部隊の囮になる。」

 

ごくりと皆が唾を飲み込む、第一作戦 港の破壊、そして第二作戦の囮、つまり今から来るであろう敵部隊と持久戦を行うと言うことだ。

皇国の客寄せパンダに成れという単純明快な任務だがこちらにあるのは限られた弾薬と少数の兵士、辛く厳しい戦いになる事は想像にかたくない。

笠次がこの作戦に参加したくなかった最もな理由がこれなのだ。化け物の様な戦闘能力と装備を持つパイロットならばいざ知らずこちらは生身のライフルマン、誰が死にたくて参加するのだ。

 

 

「喜べ、手当はいつもの3倍らしい。」

「分隊長なら部隊長に直訴してもっと増やせたのでは?」

隊の中堅がマガジンを込めながら軽口を叩く、倉庫と倉庫の間には土嚢が組まれ簡易的な防御陣地が出来ている。

 

「ハッハッ!わかった、この任務が終わったら掛け合ってやる、全員金を貰う前にくたばるなよ!酒は大勢で飲んだ方が楽しいからな!」

みなが口々に軽口を叩く、まだふざけられる程度には余裕がある。

いい兆候、笑う事すらできなくなったらその戦場はもはや死に体だろう。

 

「笠次、いいか?」

そんな中歩兵用の迫撃砲を組み立てているとそう仙波分隊長が喋りかけた。

 

「はい。なんですか?」

「…その、申し訳ないがお前は先ほど到着したパイロット一人とうちの大沢の三人で臨時部隊を組んでもらう。」

モウシワケナイ?分隊長が、今あの分隊長が謝った?

 

「臨時部隊、ですか?」

悪寒しかしない、今すぐに手に持つ迫撃砲を投げ出したいほどに。

 

「そうだ、この方面の予備戦力…まあ端的に言えば火消し役だ、戦闘中数に押されてキャパオーバーになった所へ救援に向かってもらうための部隊だ。」

「…マジですか?」

「マジだ。作戦は第二段階に入った、先鋒部隊が成功すれば一気にここへの圧力は弱まるが、その前に一度敵の大規模攻勢を耐えなければならん。」

ポリポリと申し訳なさそうに頬を搔きながら言われれば絶望しかない。

なによりもまずいのはパイロットと行動することだ。

パイロットと部隊を組んでの共闘、それが意味することはあの異常なまでの機動力に生身で追いつけと言う無理難題、言葉の通りのラン&ランだ。

 

「恐れながら拒否権などは?」

「すまんな。」

端的な否定を渋々受け入れ二人が待っているという高台へと向かう。

真上に昇りつつある太陽は強く地面を照らしている。

もうすぐ冬だというのに突き刺すような日差しだ。

ここでしくじれば先鋒部隊の作戦が失敗するかもしれない、それは作戦全体の失敗と同義だ。なればやるしかない、やらざるを得ないのだ。

 

快晴の空と軍靴の音の中で

質量と時間の試練が始まろうとしていた。




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