鉄華団と不死鳥の少女 (こーくへぃ)
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01:少女

駄文ですが読んでいただけると幸いです


 火星、鉄華団の本拠地がある荒野の一角にて金属がぶつかり合う鈍い轟音が鳴り響いていた。

 

「すげぇ、さすがあの2人だな。どうやったらあんな動きできるんだよ」

 

 その音源を遠巻きに見物しているのは走り込みをする新入り達である。彼らの目線の先にあるのは悪魔の名を冠した赤い機体と白い機体の2機が模擬戦という形でぶつかり合っていた。

 

 刀と剣がぶつかりギリギリという音が迸る。白い機体、バルバトスを駆る少年のコックピットに通信が入った。本来はAR(エイハブ・リアクター)のせいでMSが稼働している付近の通信は難しいのだが、MSやその武器同士が触れた際には接触回線がつながり会話ができるようになるのである。いわゆるお肌のふれあい通信というやつだ。

 

『ごめん』

 

「何が?」

 

 いつもの自信のかけらも無さそう声で唐突に謝られ三日月は困惑した。

 

『わ、私って整備もできないし……農業を手伝おうにも弱っちくてこんな事しかできないから、なんだか申し訳なくって』

 

「いいんじゃない、それがフレイヤの仕事なんだから。オレもバルバトスから降りたら腕動かないし」

 

 白い悪魔を駆る少年、三日月・オーガスの淡々とした言葉にフレイヤと呼ばれた少女はくすりと笑う。

 

『拾われたのがここでよかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __2ヶ月前

 

 クーデリアからの依頼を終えて約2ヶ月、鉄華団もかなり安定し地球にて手続きのための書類に目を通したり、役所で小難しい話を聞くことを終わらせたオルガと何人かの鉄華団員たちは火星への帰路についていた

 

「ん……?なんじゃありゃ?」

 

 進行先に何やらチカチカと幾つもの光が動き回っていることにユージンが気づいた。星なんかではない、あれは……

 

「救難信号がでてるぜ!?しかもよく見たら船がモビルスーツに襲われてんじゃねーか!」

 

 光の正体は船の出す救難信号と、モビルスーツのバーニアのものであった。船はMSが2機納まるか程度で、現在3機のMS囲まれている。

 

「ミカ!」

 

「うん」

 

 自分たちの活躍から2ヶ月、皮肉にも自分たちが阿頼耶識の有効性を証明してしまったため少年兵やヒューマンデブリを使う悪党が増えてしまった。そのため宇宙を航海中は三日月が瞬時に出撃できるようにあらかじめスタンバっているのである。

 

「バルバトス、三日月・オーガス、出るよ」

 

 青い閃光をイサリビに浴びせながら爆速で前進する。目的はただ一つ、手に持ったメイスで相手を叩き潰すのみ。

 

「……見ないモビルスーツだ」

 

 船を襲っている機体は細い腰、スラスターを内蔵した大きな肩にモノアイをバイザーで覆った特徴的な頭をしており、三日月の言うようにギャラルホルンのグレイズ系統や、タービンズの機体達等と比較しても特徴がほとんど一致しないものであった。

 

「まぁ、関係ないけ……どっ!」

 

 相手のMSがこちらを捕捉した時にはもうメイスを持つ腕がスイングを始めており、一瞬で相手の命を叩き潰した。 

 

 仲間を殺され激昂したのか、別のそれが武器を構えてこちらに突っ込もうとする……が、ボディの一部カラーリングに赤が施されているもう一機がそれを制する。隊長の指示には素直に従うようでこちらへと牽制するように弾幕を張りながら宇宙の闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲われていた船に対し通信を試みるも応答がない。

 

「死んでるんじゃないの?」

 

「こら三日月!」

 

 アトラは不謹慎な発言をする三日月にツッコミを入れるようにペシっと叩いた。

 

「埒が開かないな……とりあえず向こうに入ってみるか」

 

 十数分後、ユージンとダンテその他数名はノーマルスーツを着用し外に出る。ロックはかかっておらず、簡単に中に入ることができた。コックピットのドアを開け中を見ると、入った瞬間に何か液体が顔に付着した。鉄の匂い、赤い水滴が宙を泳ぎまわっていて、またその水滴の出どころと思われる物体がふわふわと力なく浮いている。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 それは少女、ノーマルスーツも着用せず銀色の髪を靡かせていた。

 

 とりあえず救助用のカプセルポッドに少女を詰め込みイサリビへと運びこんだ。命に別状はない程度に見えるが、応急処置の為に巻いた包帯にもう血が滲んでいてなんとも痛々しい。

 

「へぇ、中々かわいいじゃいってぇ!?」

 

 こんな時に碌でもないことを言うユージンにアトラを含む全員からの蹴りが入った。

 ふと、三日月が何かに気付いた様で少女の服を引っ張り、雪の様な背中があらわになる。

 

「み、みみみみみ三日月ィ!?なにをして……えぇ!?こ、これって……!」

 

 顔を真っ赤にして止めようとするアトラは、彼女の背中に見慣れたアレが付いているのを見て驚愕の声を上げる。

 

「おい、これ……阿頼耶識じゃねぇか、しかも3本……!」

 

 白く柔らかで丸みを帯びた美しい女体に3つの“ヒゲ”。

なんとも悍ましい、どう考えてもこの子が普通の孤児などではないのが明らかであった。海賊か、ヒューマンデブリか、それとも……。

 

「とりあえず連れて帰るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄華団拠点、医務室。テイワズより派遣されている医師がベッドに寝かせられ点滴を受けている少女の診察結果をオルガ達に告げるところであった。

 

「栄養失調……とまではいかないけど、ちょっと足りてないみたいだね」

 

「昔のアトラじゃん」

 

「三日月!!!」

 

「なんだよかった……とは簡単にいかねえよ……正直いってかなりの厄介事の塊だぞこいつ」

 

「阿頼耶識をつけてる時点でなぁ」

 

 どうした物かとみんなが頭を悩ませていると、ドタドタと走る音が聞こえてきてドアが勢いよく開いた。

 

「な、なんだよシノ!騒々しいなぁ!?」

 

 シノと呼ばれた青年は息を切らし目を輝かせている。

 

「おい!!なんだあのかっちょいいモビルスーツはよ!!?」

 

「モビルスーツ?」

 

「お前らが持って帰ってきた船に積んであったもんだぜ!?中みてないのかよ!」

 

「あぁ、そういえば……阿頼耶識のことで頭いっぱいで確認してなかったな」

 

「とりあえず来いよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程の船の中にはMSを格納できるようで、真紅と銀のMSとその為のオプションユニット?のような物や武器が納められていた。

 

「この燃えるようなスカーレット!!めちゃくちゃイカすじゃねぇか!!」

 

「おいこれ……ガンダムフレームじゃねぇか……!?

 阿頼耶識にこれ、なんなんだあの子?」



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02:悪魔と少女の名前

文章力はハーメルン最底辺と自覚があります……
厳しい意見があればビシビシ指摘していただけると幸いです


「こいつぁ……驚いた……」

 

 オルガ達が拾ってきたというガンダムフレームを調べていた雪之丞はつい独り言を言ってしまった。この機体、調べれば調べるほどに優れた改修が施されており、300年前の骨董品ということさえ忘れてしまうほどである。

 

「何よりこの武装の数……何を想定してるんだ?」

 

 この機体はほぼ全身に武装が施され、手持ちの武器もかなり用意されており一言で言うなら“殺意の塊”とさえ表現できるモノであった。

 ふと、コクピットの方を見るとダンテが乗り込もうとしていた。

 

「お、おい!勝手に……」

 

「大丈夫だって!これで俺も念願のガンダム乗りだ」

 

 勝手に起動させ、背中に阿頼耶識を接続する。モニターに文字が表示されリアクターに火が灯った。

 

「なになに、こいつの名前は……フェニックス か!

 ……ガハッッッ!!!」

 

 突如ダンテが白目を剥き失神寸前の状態になる。それを見た雪之丞は「またか……」とため息をついた。

 

「懲りない奴だなお前は……おいチビども!ダンテを降ろしてやれ!

 まったく、この武装の数とあのよくわからんユニットみりゃ専用の調整がされてるに決まってるってのに、それに……」

 

 この機体はどうやらOSからして特定の人物が乗らないと拒絶し、負荷をかけるようにプログラムされているようだ。

 

「チェッ!俺も無理かなぁ?」

 

 ライドが残念そうに肩を落とす。それを見た雪之丞はライドの頭をワシワシと撫でる。

 

「まだこんなにチビなのに無理しようとすんじゃねぇ。お前らはまだまだ食って走って寝るのが先だよ」

 

 戦う少年たちを見た時のメリビットの悲痛な声と、涙と、震えを思い出し、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、アトラは例の少女が眠っている病室でリンゴの皮をむいていた。

 

(まだ目が覚めてないけど、話を聞くにお腹が減ってるだろうし)

 

「様子はどうだ?」

 

「あ、オルガ…………ユージン」

 

「な、なんだよ!文句あっかよ!」

 

「ユージン、お触りは厳禁だぞ」

 

「お、俺をなんだと思ってるんだよ!?」

 

「はっはっはっ……ところで、様子はどうだ?」

 

 冗談をひとしきり言い終わった後で本題に入る。この少女には聞くべきことが山ほどあるので出来れば早く目覚めてほしいというのが本音である。

 

「眠り姫ってとこかぁ」

 

「……だからってキスなんてしたらフライパンでお尻引っ叩くからねユージン」

 

「お、お前なぁ……」

 

「あの」

 

 全員が聞き覚えのない声に一瞬かたまり、眠っているはずの少女の方へと視線を向けた。

 少女はオドオドしていて、どうやらこちらを警戒しているようだ。

 

「目が覚めたか、あんたには聞きたいことが山ほどあるんだが」

 

「お、オルガ、そんなにグイッと行ったら体もおっきいしコワモテだし怖がっちゃうよ!」

 

「俺、ユージンって言います!よかったら友達からいっだぁ!?」

 

 オルガとアトラから両膝の裏に蹴りを入れられたユージンが床に倒れ込む。わちゃわちゃしている3人を少女は困惑したような表情で見つめていた。そして一言、か細い声を吐き出した。

 

「あ、あの……ここは……?わ、わたしは……だれ……なんでしょうか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶喪失ゥ!?」

 

 顧問医師が到着して診察をしたところ、どうやら襲われてた際の衝撃で頭を強く打ち、そうなった可能性が高いとの事であった。

 

「薬とか手術とかで治るもんじゃないからねぇ……回復を待つしかないよ。何か記憶がある頃によく関わってた物とかに触れたりすると回復する例もあるみたいだし、色々試してみなさいな」

 

 そういうと診察を終えた医師はペコリと会釈をし、部屋から出て行った。

 

「関わりがある物ねぇ……いや、ガンダムフレームくらいしか浮かばないな」

 

「でも流石に病み上がりからモビルスーツに触らせるのはちょっとな」

 

「お前、えぇと……名前もわかんないんだったな」

 

「あ、名前ならこれかも!」

 

 そう言ってタカキがポケットから取り出したのは青紫と白の金属製のドッグタグで、そこにはフレイヤ・レジーナと彫られていた。

 

「なんだよこれ?」

 

「最初救助した時にこの子が握ってたんだ」

 

 タカキは少女にドッグタグを手渡した。

 

「まぁ、一応それでいいか」

 

「フレイヤちゃんね、へへっ」

 

「ユージンデレデレしすぎ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、ここが食堂!私がご飯作ってるんだ〜」

 

 アトラは記憶喪失なことと、阿頼耶識があるということで流石に一般の施設に預けるということもできず、しばらく身を寄せる事になったフレイヤに鉄華団本社の案内をしていた。

 

「んーと、他に何か紹介する場所あったかなぁ」

 

「あの……」

 

「どうしたの?」

 

 遠慮しているのか人見知りなのかオドオドとしているフレイヤにアトラはニコリと笑いかける。

 

「か、体……洗いたい……です」

 

「あ、そっかぁ。そういや救助されてから一回もお風呂入ってないんだっけ。案内もしてかったし、ちょうどいいかも!」

 

 急遽フレイヤを入浴させる事になったのだが、流石にまだ体に怪我が残ってる子を1人で入らせるわけにはいかないので、ついでにアトラも一緒に入る事にした。

 

「どう?結構広いでしょ!女浴場はほとんど私しか使ってないからピカピカなんだよね〜」

 

「あったかい……です。ちょっと痛いけど……」

 

「よかったぁ〜」

 

(……そこまで大きくはないけど、何あの超整ったものは!?)

 

 クーデリアとは違う負け方をし、自分の胸を押さえて敗北感に打ちひしがれるアトラはフレイヤのことをまじまじと見つめた。怪我の跡がまだ残ってるものの、雪のように白い肌に美しい銀髪、恐ろしいほど整った顔をしていて同性の自分でもつい見惚れてしまう。

 

(でも、なんだろう……美しいけど、すっごい可愛いけど……なんだか美術品?って感じ……)

 

 フレイヤを見つめていると、なんだな本当に同じ人間なのか?と不安にさえなって来てしまう。こちらの視線に気づいたのか、少しおどつきながらもニコリと笑顔を返してくれた。

 

「わ、私の顔……へんですか?」

 

「ううん!むしろすごい可愛いかなぁ」

 

 少しだけ打ち解けた気がしたので、アトラは深く考えない事にした。

 一方その頃、オルガ達にガンダム・フェニックスの事について名瀬より連絡が入っていた。



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03:ガンダムフレーム

 聖なる不死鳥『フェニックス』と不死鳥の悪魔『フェネクス』は別の存在でであり、小説の中での英語表記ではちゃんと悪魔のPhenex(フェネクス)と表記しております。ですが、カタカナで書くと某金ピカのガンダムとごっちゃになってしまうのであえてフェニックスと表記しています(。ᵕᴗᵕ。)


「もうあのガンダムフレームのことが本家(テイワズ)にまで伝わってるんですか?」

 

「あぁ、その通りだ。本家に拾ったガンダムフレームを調べさせてもらう事になった」

 

 艦長席の肘掛けに頬杖をついているこの男の名は名瀬・タービンズ、オルガ率いる鉄華団の上位の組織である。さらにその上にテイワズがあり、そこへの参上が言い渡された。

 

「なぁに、没収しちまおうってわけじゃない。

 まぁ、色々と理由があってな、つい先日のことなんだがテイワズの商船が襲われたんだ」

 

「……そんな命知らずな奴らがいるんですか?」

 

「あぁ、なんとその中にガンダム・フレームらしき機体が確認されたんだ。その直後にお前らがガンダム・フレームを拾ったって事で、そりゃあ何かあるって疑うだろ?」

 

 確かにその通りだ。自分らが潔白だと証明する為にさっさと向かうほうが良さそうだ。そもそもで言えば拒否権なんてあるわけがないのだが。

 

「わかりました、明日には出発します」

 

「おう、すまないな。まぁ、俺も親父もお前らを疑ってなんかいねぇさ。ただ俺らは組織、集団、群れだ。親父は長だからこそ個人の考えだけで何もなしってわけにもいかないんだよ」

 

「わかってます、兄貴」

 

「じゃ、そう言うことでよろしく頼むぞ〜」

 

 通信が終了し、オルガは緊張が解ける。一息ついたところで早速先ほどの内容と明日出発することを団員に伝えるようにユージンに指示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことでフレイヤ、申し訳ないが怪我がまだ残ってるお前も一緒に来てもらう事になったんだが……」

「だ、大丈夫……です。私なんかに、拒否権なんかないですし……」

 

「すまねぇな。……それにしてもお前なぁ、確かにお前の立場だと俺も萎縮しちまうだろうけど、もう少しシャキッとしていいんだぜ?」

 

「す、すいません……」

 

 うつむき、落ち込んだような顔をするフレイヤ。壊滅的なほどに卑屈(?)な性格なのだろうか?

 

「アトラもこの子の世話の為に着いてきてくれ。流石に男にまかせるわけにはいかねぇからな」

 

「うん、わかった」

 

 次の日、支度を性急に済ませてテイワズの本拠地、歳星へと出発した。

 真っ暗な宇宙空間、星の輝きをチリとデブリが遮りイサリビを掠めてゆく。フレイヤとアトラは年少組の相手をする役割を与えられていた。

 

 年少組のチビ達は全員フレイヤの周りに集まっていて、アトラは不機嫌そうにそれを見つめていた。

 

「むぅ……確かに美人だからって……私だって……ブツブツ……」

 

「ねぇ、フレイヤも阿頼耶識ついてるんでしょ!」

 

「しかも3本らしいぜ!」

 

「三日月さんといっしょじゃん!」

 

「え、えっと……!あの……!う、うぁぁ……!」

 

 子供相手ですらオドオドとしていて、落ち着きがない。逆に子供達からは大人気のようでにほっぺを摘まれ横に伸ばされたり、髪の毛をもみくちゃにされていた。

 

 しばらく遊んでいると、今日は早起きだったせいか年少組はウトウトし始め寝てしまった。フレイヤは散々おもちゃにされ絨毯の上でぐったりとしている。

 

「あ、あはは……お疲れフレイヤ」

 

「げ、元気すぎて……私の体には悪い……かも……」

 

 ゆっくりと身体を起こし、いわゆる女の子座りの体制になる。寝息を立てている子供達の顔をまじまじとみて、頬をそっと撫でた。

 

「……かわいい」

 

「そうそう、寝てる時は本当に可愛いんだけどね〜」

 

「うん……でも、起きてる時は悪魔……」

 

 クスクスと笑い合いながら少しずつ打ち解けていくのはなんとなく感じていた。

 

「そう言えばフレイヤって__________」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、大きな衝撃がイサリビに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!なんの衝撃だ!確認急げ!」

 

「もうやってる!こいつはデブリなんかじゃねぇ!こ、攻撃を受けてる!」

 

 一気に慌ただしくなる艦内、全員が瞬時に配置につき戦闘準備を始める。

 

「ミカ!!」

 

「準備はできてるよ。

 バルバトス、三日月・オーガス、出るよ」

 

「ノルバ・シノ!!流星号いくぜ!!!」

 

 白とピンクの機体がそれぞれ発艦する。イサリビの真上に上がって周囲を見渡した。敵の機体はフレイヤを襲っていたのと同じ物で、6機がこちらを囲んでいた。

 

「1人で3機相手かよ!?くそ、昭弘も連れてくればよかったぜ!」

 

「地球の時よりマシだよ」

 

 地球での激闘から2ヶ月、鉄華団は失ったものもかなり多く戦力の再編成が未完成であるため、本部の守護として昭弘とグシオンは居残り組になっているのだ。なのでどうにかして2人でこの人数を相手にしなければならない。

 

「三日月!こう言う時はなぁ……!先手必勝だぜ!!」

 

「俺もそう思う」

 

2つの悪魔は青い炎を撒き散らし、敵を叩き潰さんと爆進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フレイヤ!フレイヤ!落ち着いて!」

 

 アトラはフレイヤの肩を掴んでグラグラと揺らす。どうやら衝撃が起きた後、外を確認した時に自分を襲ったモビルスーツをみてパニックになっているようで、頭を抱え込んでうずくまり、涙をボロボロと流しながらブツブツと呟き続けていた。

 

「嫌だ……怖い……嫌だ……死ぬのは嫌だ……」

 

「フレイヤ……み、みんな!とりあえず急いでノーマルスーツを着て!フレイヤは私が連れて行くから!」

 

 アトラは衝撃で吹き飛ばされた年少組に避難するように伝える為に一瞬目を離した。そして再度フレイヤの方を見た時にはもうそこに居ない。ドアの方に目を向けると、フレイヤがノーマルスーツも着ず、鉄華団から借りた制服のまま部屋から出て行くのが一瞬だけ見えた。

 

「フレイヤ!!!??まって!!!危ないよ!!!

 

「死にたくない……怖い……うぅ……」

 

 アトラの声など全く聞こえてないようで、ボロボロと大粒の涙を散らしながらすれ違う団員達に目もくれず廊下を進んでゆく。その動きはほとんど無駄がなく、普段からは想像できない俊敏さである。

 

 廊下を抜けた先はMSドック、空気は再注入されているようでゲートのロックが作動することなく開いた。

 

「あっ!?おい!ノーマルスーツも着ないで!」

 

 雪之丞が静止する手をすり抜け、赤と銀の鋼の塊にフレイヤは乗り込んだ。上着全てを放り投げ、柔な体が丸ごと露わになる。記憶喪失のはずなのに手慣れたように阿頼耶識のコードを背中の出っ張りへと装着した。それと同時にコックピット内の電子機器が稼働し始める。

 

 

-Basic_OS_Start_up-

 

「グスッ……怖い……」

 

-Operation_control_system_activation-

 

-Verifying_ARAYA-SHIKI_authentication_code-

 

「死にたくない……ヒグッ……死にたくない……」

 

-Code_verification_complete-

 

「うぅっ……!」

 

-F#&^$_system_activated_and_ready_to_go-

 

-GUNDAM-FLAME_PHENEX_ACTIONABLE-

 

「消さなきゃ……!!」




こんな稚拙な駄文ですが、感想をいただけると励みになります!
ここおかしくない?とかここをこうすると良くなるよ!とか書いていただければ満足していただけるものを書く参考になりますのでよろしければっ!


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04:真紅の機体

 遅くなりました!!!
戦闘を文章で表現するのが難しい……参考にいたしますので!ここがわかりにくいとかつまんねぇとかのご指摘もバンバン送ってください!


 ツインアイに青い光が灯り、ギリギリとフェニックスを固定している設備が軋む音がドッグ内に響き渡る。

 

「おい!チビども!急いで空気を抜いてロック解除しろ!この様子じゃハッチもぶち破られるぞ!!!」

 

 急いで空気を抜きハッチをオープンすると、その瞬間フェニックスは床を蹴りイサリビから飛び出てバーニアを最大出力で吹かせ急加速する。

 

 

 

「オルガ!あの赤いやつが発進してる!!!」

 

「なんだと!?」

 

 オルガがそう叫ぶと同時にドックの方からコールが入った。

 

「すまねぇオルガ!かくかくしかじかで止める間もなく飛び出していきやがった!」

 

「そうか、チッ……!」

 

 どうしたものかと頭をワシワシとかきむしる。

 

「しょうがねぇ、数的に相当不利なんだから少しでも頑張ってもらうしかないな。阿頼耶識とガンダムだから多少は戦えるはずだ」

 

 

 

 

 

「こいつらも阿頼耶識使ってんのかよ!?」

 

 シノがイラつきながら敵を攻撃するも、阿頼耶識特有の無駄が少ない動きで回避されてしまう。三日月もメイスがなかなか当たらない様で、同様に少しイラついている様だ。

 

「チッ!鬱陶しいなこいつら……メイス(これ)じゃなくて(あっち)持ってくればよかった」

 

 動きからして自分たちよりはるか格下なのはわかる。しかし阿頼耶識や数的不利、そして敵の息のあった連携のせいでかなり戦いにくい。それに加えて一振重撃のメイスでは機動性の高い敵のモビルスーツとはとことん相性が悪いのだ。武器を取りに行けばシノが1人になり、危険に晒す事になる。何とかしてこれを当てるしかない。

 

 刹那、警告表示が入る。チラリとそちの方を確認した時には“それ”は急接近していた。赤と銀の装甲に青い目、フェニックスは敵機の方へと爆速で接近し背中にマウントしてあった2つの鉈のような武器でコックピットを叩き潰した。

 

 シノや三日月だけでなく敵も不意をつかれたようで全員の時が一瞬止まる。フェニックスは叩き潰した機体を蹴り飛ばし、その反作用で次の目標へと狙いを定める……が、鉈による一撃は剣によって防がれてしまった。こうして生じた一瞬の隙を好機と見たのか、別の敵が剣を振りかぶり攻撃を仕掛ける。

 

「やっと一つめだ」

 

 バルバトスがその振り上げた剣ごと上半身全体が陥没するほどにメイスを叩きつけ、フェニックスを葬らんとする命を奪った。

 それにすら意も介さず、フェニックスは自分の一撃を防いだ剣を弾き飛ばして胸部を蹴り付ける様な動作をする。足がぶつかる瞬間、膝から踵にかけて変形しまるで猛禽類の爪ような形状となる。そのまま胴体を掴み、金属が軋む鈍い嫌な音が敵のコックピット内に響き渡った。敵は引き剥がそうと両腕で足を掴むも全くびくともしてないない。次の瞬間、その足裏から鉄杭が飛び出してコクピットを貫いた。

 

 少し距離をとっていた機体がこちらへ銃弾を数発放つが、フェニックスは瞬時に的確なスラスターとリアクターの重力場による姿勢制御で足を突き出し、先ほど屠ったばかりの敵を盾にする。

 

「捕まえたぜぇ!安全なとこからセコセコと撃ってんじゃねぇ!」

 

 バルバトスとフェニックスに意識を集中していたため流星号のことを失念していたのか、いつのまにか移動していたシノにあっさりと背後を取られ120mmライフルの接射により金属片と赤黒い塊が無重力に撒き散らされあた。

 次の瞬間、閃光が暗い宇宙に迸る。反射的に防御態勢をとったが、何も起きず周囲を見渡すと残り2機いるはずの敵の機体はいなくなっていた。分が悪いと判断し閃光弾による撤退を図ったのだろう。

 

「逃げ足だけは早いな」

 

「その機体!俺が乗りたかったのによぉ!!

 まぁ、にしてもすげー動きしてたなぁ!おーい、乗ってるの誰だ〜?」

 

 シノがフェニックスに触れて声をかけるも中のパイロットは応答せず、それどころかピクリとも動く気配すらない。

 

「どうしたんだ?」

 

『とりあえず持って帰るべきでしょ』

 

 

 

 

 連れ帰ったフェニックスをドックに収容したものの、以前変わらず中からは応答がない。ハッチを開けようとしても中からロックがかけられていたため、ダンテを呼び外側から開けようとしている最中で、三日月、オルガ、アトラ、シノがその後ろで見物していた。

 

 

「にしてもこれに乗ってたのがフレイヤだったとはなぁ?」

 

「ごめん、私止めれなくて……一歩間違えたら……」

 

 アトラはみすみすとフレイヤを逃してしまった事に自責の念を抱いてるようで、ひどく落ち込んでいた。

 

「まぁ、なんつーか……結果オーライってやつだ。あんまり気にすんなよ」

 

「ありがとう……オルガ」

 

 ピピーッ

 

「おっ!いけた!」

 

 ダンテのいじっていたPCが突然甲高い電子音を上げると、ゆっくりとフェニックスのハッチが開き始める。少しずつ見えていくコックピットの中でフレイヤは阿頼耶識のコードが接続されたままふわふわと浮いていた、上半身裸で。

 

「げっ!?」

 

「うわ!?」

 

「うぉぉっ!?」

 

「…………モグモグ」

 

 顔真っ赤にして顔を伏せる者、びっくりして落ちそうになる者、嬉しそうにする者、いつもと変わらない者など様々な反応をする中、顔を真っ赤にしたアトラが大声で怒鳴る。

 

「みんな!!後ろ!!後ろ向きなさい!!!!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 その剣幕に3人が高速で気をつけしながら後ろを向いた。

 

「三日月もだよ!!」

 

 上の空で火星ヤシを咀嚼していた三日月の頭を叩いて後ろを向かせた。

 

「下の誰かー!メリビットさん呼んできて!」

 

「あ、アトラ!とりあえずこれを羽織わせな」

 

 オルガはいつものワインレッドのジャケットを後ろへ放り投げた。

 

「ありがとう」

 

「あと阿頼耶識は意識ない時に外したらまずいから触るんじゃないぞ!最悪、うごけねぇ体になっちまう」

 

「おーい!アトラ!」

 

 下から雪之丞がアトラを呼んだ。それに応えるようにリフトから顔だけ出して見下ろす。

 

「気絶してんなら接続してる間にシステムの方を見ときてぇんだが!!」

 

「うぅーん……それ何人必要なんですかーー!?」

 

「1人助手がいれば間に合うーー!!」

 

「あ、俺!俺やるー!」

 

「おれも!おれも!」

 

 ライドやその他数人が声を上げるが、アトラはそれを却下した。

 

「あなた達はだめ!!ゼッタイ!!!

 ………タカキくん!!!」

 

「えっ!?お、俺!?」

 

「とりあえずメリビットさんがくるまで待っててー!」

 

 

 

 

 パイロット2人と、その他数人はフレイヤが目覚めるまで待たなければならないため食堂で暇を潰していた。料理を作ってくれるアトラがフレイヤの下にいるため、パイロット2人は調理用の豆の缶詰を開けて食べている。トマトベースのスープに浸されているが、温めずにそのまま食べているため絶妙なトロみが不味さに拍車をかけている。

 

「マジでなんなんだアイツは……」

 

「最近よく聞くなぁ、そのセリフ」

 

「そりゃあ、とことん変なやつだからしょうがねぇよ。にしても近くで見てたけどめちゃくちゃすげー動きしてたな!な?三日月!」

 

「うん、それに」

 

 三日月は珍しく少し考えるような素振りをした。

 

「阿頼耶識つけてたけど、なんか雰囲気が違ったな。阿頼耶識なのにまるで」

 

 バン!と大きな音を立てて開き、三日月の話が遮られた。ドアの先に立っていたのはユージンで、その表情はまるで鬼の様だ。

 

「ど、どうしたユージン」

 

「てめぇらぁ!!!」

 

「な、なんだよ」

 

「フレイヤちゃんのお、お、お……」

 

「おっぱいか?」

 

「ら、らしいなぁ!?」

 

「……んだよ、そんなことかよ」

 

「そ、そんな事ってお前ぇぇええ!!!」

 

 ユージンが半泣きでシノに掴みかかり、2人はドタバタゴロゴロと床を転がり回る。他のメンバーはくだらなすぎる喧嘩を無視する事に決めたようだ。

 

 バン!とまた大きな音を立ててドアが開き、その音で全員がそちらを振り向くと、嬉しそうな顔でアトラが立っていた。

 

「フレイヤちゃん起きたよ!!」

 




女性の阿頼耶識使いって全員ノーブラになるんですかね(;´・ω・)
美ν設定だけど大丈夫かなぁ……

↑追記:位置的に全然余裕でフレイヤのおっぺぇは守られました!


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05:目覚め

小説を書いてみて思うのは、毎日投稿して文章も整ってて内容も面白い人達がすんごいなぁって事です( ت ;)


 ここはどこ?私は誰?長い夢を見ている気がする。

 お前は私、私の悪夢だ

 詩がきこえる、知っている詩が。_____が私を見ていて、私を_____としている。

 ____れたのは私

 死にたくない……

 死ね

 いやだ、死にたくない……!

死んでしまえ

 私は

 どうすると言うの?

「私は!!!」

 

「ひゃあぁ!?」

 

 目が覚めるとそこはモビルスーツのコックピットだった。汗だくの体はなぜか上半身が裸でワインレッドのジャケットを羽織っているだけだ。

 

「ふ、フレイヤちゃん……だ、大丈夫……?」

 

 自分を心配する声の方へと目を向けると、アトラがひっくり返ったままこちらを見つめていた。コックピット前のリフトの方ではタカキが尻餅をついてこちらを見つめていた。

 

「あ、アトラ……さん」

 

「気を失ってたんだよ〜!?心配したんだからね!

 あ、ほらタカキくん!早く阿頼耶識外してあげて!」

 

「あ、はい」

 

 タカキは顔を赤らめながらこちらへと乗り込んできて、フレイヤの後ろの方へと回った。

 

「えっと……じゃ、ジャケットを……」

 

 言われるがままにするりと脱いでアトラに手渡すと、震える手がゆっくりと自分の首の後ろの方で何かかちゃかちゃとやり始めた。

 

「それにしても、フレイヤさんってモビルスーツの操縦できたんですね。しかも三日月さん並みの動きでしたよ」

 

「えっと……何のこと……ですか?」

 

「えっ?でもフレイヤちゃんさっき……」

 

 フレイヤの様子を見るに本当に何のことかわかっていない様で、キョトンとした顔でアトラを見つめている。

 

「外れました」

 

「はい、もっかいこれ羽織って!

 とりあえず医務室に行って色々診てもらわないと」

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず外傷はないみたい。でも病気とかそういうのは歳星についてからしっかり診てもらってね」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「団長さんにも改めて言っとかなきゃ、顧問医師じゃなくて専属医師を雇えって」

 

 メリビットはニコリと笑ってフレイヤの頭をポンポンと撫でてくれた。大人の女性の包容力に少しはにかんでいると、ノックもなしにドアが開いた。

 

「失礼しまぐげぁっ!?」

 

 入室した瞬間、枕が飛んできてオルガの顔面に直撃した。

 

「な、何するんですかメリビットさ……うっ!?」

 

「あのですね、女の子を診療してる部屋にノックもなしに入ってくるのはマナーも、デリカシーも、常識もないわよ?ほら、フレイヤちゃん今のうちに服着て」

 

「す、すいません……男所帯なもんで……」

 

「出ていきなさい」

 

 

 

 トントン

 

「はい、どうぞ」

 

「し、失礼します」

 

 オルガはペコリと頭を下げて慎重に入室した。

 

「で、どうでした?フレイヤの調子は」

 

「怪我とかはないわね、さらに専門的なことは診察できないからはやく____」

 

「はいはい、専門医のことでしょう?一応兄貴に相談して紹介してくれることにはなってるんで大丈夫ですよ」

 

「それはよかったわ」

 

 オルガはフレイヤと向かい合う様に椅子に座る。

 

「で、フレイヤ」

 

「は、はい」

 

「本題なんだが……まぁ、ガンダムフレームの事なんだが詳しい事教えてくれるか?」

 ふん、こいつに聞いてもを無駄よ

「そ、それが……その……覚えてなくて……」

 

「……いや、流石にそれはお前……ものすげぇ動きしてたしよ」

 それはわたしのちからだ

「あの……本当に……そのっ……ごめんなさい」

 

「まぁ、なんつーか……わかった」

 

「ごめんなさい……」

 

 気まずい雰囲気が流れ、お互いが沈黙する。

 

「ま、まぁ!いつか思い出せるよ!あ、フレイヤお腹すいたよね!今から作るからご飯食べて元気だそっ!」

 

 

 

「ほらっ!ここが食堂……あー!こらーっ!三日月!シノ!豆スープの缶詰こんなに食べちゃったの!?

 というかこれそのまま温めもせずによく食べれたね……」

 

「いやぁ、腹が減っててよぉ!戦闘の後だからさぁ〜!な?三日月」

 

「うん、すごく腹減ってた」

 

「むぅ……まぁ、確かにフレイヤにつきっきりでご飯作るの忘れてた私も悪いかも……よぉし!今からたくさん作るから!まってて!」

 

 

 

 

 

「どう?フレイヤ?」

わるくはないな

「おいしい……です……!」

 

「えへへ、良かったぁ」

 

 いつもオドオドした表情のフレイヤが珍しく笑顔になり、アトラも自然につられてしまった。

 

「なぁ、フレイヤ!」

 

「は、はひぃ!?」

 

 いきなりシノに肩を叩かれ、小柄な体が跳ね上がった。またいつものオドオドとした表情に戻り、震えながらゆっくりとそちらの方を向く。

 

「おっと、驚かせちまったか?すまんすまん。

 にしてもお前の動き凄かったなぁ!今度シミュレーションやろうぜ!」

 

「あ、あはは……わ、私はぁ……えと……えへへ……」

 

「しっかりと話したの初めてだけど……はははっ!お前だいぶ暗いなぁ!」

所詮は____

「え、えへへ……」

 

 楽しそうに背中をペシペシと叩いてくるシノにフレイヤは必死に笑顔を作っている。そこへ食器を持ったヤマギがやってきてフレイヤの正面に座った。

 

「おう、ヤマギ!お前もフレイヤ目当てか〜?可愛いもんなぁ」

 

「…………」

 

(す、すごくみてる……)

 

 シノの言う通り自分目当てかもしれないが、シノの言う様な目的ではないと何となくわかった。ヤマギの冷たい視線に心が凍りつきそうだ。

 

「ふ、フレイヤ……ちゃん!と、隣いいかな……ですか?」

 なんともなれなれしい男だよ

「あ……はい……ど、どうぞ………ゆ、ユージン……さん……」

 

「な、名前覚えてくれてるんですか!?」

 

「あ、はい……ここに来た日に、たくさん話しかけてくれたんで……」

 

「いやぁ、ふへへ!」

 

「ユージン、顔気持ち悪い」

 

「なっ、三日月!う、うるせぇよっ!」

 

 声のした方を見るといつの間にか三日月も近くの席についていた。

 

「ふぅ、これで完成っと!

 ……ん?」

 

 アトラがフレイヤの方をチラリと見ると、気がつけば周りに人だかりができていた。

 

「良かった、仲良くできてそうで♪」

 

(ううぅ……人いっぱいだ……)

 

 フレイヤは沢山の人に囲まれるのが相当に苦手な様で、縮こまって一回り小さく見える。周りからは人気でも、本人が打ち解けるのはまだ先になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 タービンズの戦艦、ハンマーヘッド。そのブリッジにて名瀬・タービンは画面に映し出されたものと睨めっこをしていた。

 

「これが本家(テイワズ)の商船を襲ったモビルスーツかい?」

 

「あぁ、しかも観測されたリアクターの周波数がガンダムフレームと一致したそうだ」

 

 画面に映っている機体は解像度が悪く、細部まで判別することができず、白と淡い紫がベースの機体だと言う事ぐらいしかわからない。そしてガンダムと一緒に映っている他のモビルスーツとして比較してわかることが、異様に大きいと言う事であった。

 

「……照合された機体の名前は?」

 

「ガンダム・クロセル……か」

 




もうちょっと良い文章が書ける様に努力してゆきます_(:З」∠)_


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06:歳星

遅くなりました!

新しいガンダムフレームがどんなのかという妄想は楽しいですねぇ!笑

終盤はちょっと閲覧注意です


 フレイヤの目が覚めてから十数時間後、長い道のりの果てにやっと歳星に到着した。許可が降りたので事前に名瀬に指定されていたポイントからら宇宙港へと入港すると、すでにタービンズの戦艦“ハンマーヘッド”は入港していた。

 

 オルガやユージン達の鉄華団幹部達は名瀬への挨拶の為にハンマーヘッドへと向かう。その間、それ以外の団員は待機との通達がなされた。

 

「オレ歳星久しぶりなんだよな〜!」

 

「歳星ズィヅニーランド行きたいなぁ」

 

 年少組の子供達はどこに行こうか、何を食べようかと楽しそうにしている。いつも出かけるクリュセは主要都市とはいえ、甘い汁を散々しゃぶり尽くされた火星の都市でしかなく、歳星やドルトとは比べるのもはばかられるほどのものでしかない。

 

 どうやらアトラも浮かれている様で、ファッションカタログのお気に入り欄のページを巡ってニコニコしている。

 

「遊びに来たわけじゃないんだけど……どのお洋服買おうかなぁ〜」

 

「ひ、人がいっぱい……いそう……」

 

「クリュセとは比べものにならないくらいいるよ!」

 

「そ、そうなんだ……私……船にいよう……かな」

 

「ええー、もったいないよ!」

 

 歳星への航宙期間中、アトラはフレイヤにずっと一緒にいていくつか感じたことがあった。

 まず微妙にお上品な事。とは言ってもあくまで微妙にというわけで、テーブルマナーが完璧だとかのレベルではなく、笑う際に口元を隠すなどの根本的な立ち振る舞いの事だ。なんとなくだが、その姿はクーデリアと重なる。これは何か彼女のことを知るための材料になるかもしれない。

 次に彼女が見た目よりも幼いような印象を受けることだ。見た目で言えばフレイヤは15〜17歳ほどの様に思えるが、やけに1人で居るのを嫌がったり、寝る時も身を寄せてくるなどしてあえて砕けた言い方をするなら「甘えん坊」と言った感じなのだ。

 そんなことを考えていると、フレイヤはこちらの視線に気づいた様ではにかみながらもにこりと笑った。

 

(妹とかいたらこんな感じなのかなぁ)

 

 ピピッ

 

 フレイヤのことを考えていると、機械音と共に突然ドアが開き数人の少女が部屋に入ってきた。

 

「お、アトラ〜!ひっさしぶり〜!」

 

「ラフタさん!アジーさん!久しぶりですっ!」

 

「いやぁ、ガンダム見に来たついでに会いに来たよ〜!映像でしか見てないんだけどすごい動きしてたね〜!そのパイロットもここにいるって聞いたんだけど……」

 

 ラフタが辺りをキョロキョロと見回すが、該当しそうな人物は見当たらない。ふと何やら年少組達が不自然に横に並んでいて壁になっていることに気づいた。じっとそれを見つめると子供達は冷や汗をかき後ろを気にする様に目線を泳がせる。

 

「…………」

 

 ラフタはツカツカとその壁に向かって歩いて行き、その後ろを覗き込むと、そこには白い髪の女の子が年少組をの服を掴みうずくまってプルプルしていた。その子を羽交締めにして、まるで獲物を獲ったと言わんばかりに掲げあげる。

 

「みっけた〜〜!」

 

「ひぃぃぃぃいいい!!!」

 

 フレイヤはぱたぱたと手足を動かして拘束から逃れようと抵抗するも効果はない様だ。ラフタは満足した様でフレイヤを床に下ろし、そしてマジマジと観察する。

 

「へぇ〜、三日月も名瀬みたいに女の子囲ってるんだぁ、しかも美少女」

 

「なななななななな、何言ってるんですかラフタさん!!!みみみ三日月はそんなことし、しないですよ!!!」

 

 ラフタはの一言にアトラは顔を真っ赤にし、背中をポコポコと叩いて抗議する。

 

「あはは、冗談だって〜

 で、この子はなに?炊事係?」

 

 女の子座りで座り込んでいるフレイヤの癖っ毛だらけの柔らかい髪の感触を楽しむ様に撫でまわし、フレイヤは抵抗は無駄だと判断したのか虚な目で壁を見つめている。

 

「この子があの赤いののパイロットなんですよ」

こいつではない、私だ

「えぇっ?こんな子犬みたいな子が?」

 

 しゃがみ込んでお互いの顔が10センチの距離まで近づける。ほっぺを摘んだりムニムニと揉む。フレイヤは相変わらず無抵抗で虚な目をしている。

 

「しんっじらんないわね……でもこの子……超可愛いじゃない!」

 

 ラフタはそういうと両手でわしゃわしゃとペットを可愛がる様に撫でた。

 

「てゆーかいつまでここにいるの?時間あるし色々いこうよ!」

 

「私たちは待機って言われてて……」

 

「大丈夫だって〜!私たちのせいにしていいからさ!ほらほら〜」

 

 

 

 

 

 

 

 ハンマーヘッドのブリッジにてオルガを含めた鉄華団幹部と名瀬達はモニターに映し出された映像を眺めていた。

 

「こいつが本家を襲った奴らだ。最近の調査で半年前にも取引相手の麟燕会って組織を襲ってたのがわかったんだが……ウチに卸す予定だった機体を奪われて親父も少々腹を立てててなぁ。

 まぁ、どう見てもお前らが拾った奴とは違うな」

 

「一応、これがフェニックスのデータです」

 

「リアクターの固有周波数も違うな。よし、これを親父に提出すっから今日はOKだ。遅くても明後日には呼び出されると思うから、歳星で遊ぶなりしてな」

 

「ウス、ありがとうございます兄貴」

 

 

 

 

 「み、みんなぁ……ど、どこ……ですかぁ……!」

 

 ブティックなどを回っていたのだが、ショーウィンドウの服に見惚れていたせいで女子組達からフレイヤは1人はぐれていた。大人しく待つなりする方が良かったのだが、周りに知らない人だらけの中、焦りで自分から探して動き回りついに元いた場所さえもわからなくなっていた。

 現在は夜らしく、歳星のメイン照明は落とされ、街灯がポツポツと灯り夜を演出していた。

 

「知らない街……知らない人たち……そもそも自分のことさえ知らないのに……」

お前には何もない

 フレイヤは深いため息を漏らす

 

「そうやっていつもひどいことを……」

 

 しばらくトボトボと当てもなく歩いていると、身長が高く痩せている男と、中背ながらも良い体格の男の2人が歩いてくる。服装からしてあまり品性があるようには思えない。

 

「チッ!商売女共が!貞淑ぶりやがってよ!」

 

「しょうがないっスよぉ、博打であんだけ負けちゃあ……」

 

「はぁ〜、日照りだぜこりゃぁ……渇いちまうぜぇ……ん?おい、見ろよアレ」

 

 背が低い方はフレイヤに気づいたようで、下品で下卑た笑みを浮かべた。

 

「へぇ、なかなかの上物じゃないですか?」

 

「この通りはすぐ裏路地だらけだぜ」

 

 汚い笑みを浮かべながら男達はフレイヤと近づいてくるが、ボーッと歩いていたフレイヤはそれに気づかなかった。

 

「オイ、お嬢ちゃん」

 

「……え、は、はい……わ、わわ私……ですか?」

 

「そうそう!

 なぁ……俺たち暇なんだけどよぉ……少しばかり付き合ってくんねぇか?」

 

「え……えっと……わ、私……予定が……」

 

「いやぁ、ダメだね。リスケリスケ!ほら、こっちおいで」

 

「え、ちょ……や……は、離して……くだむぐっ!」

 

 背の高い男に口を塞がれ細い通路へと引き込まれる。フレイヤの腕力では抵抗しても全く効果をなしていないようで鼻歌混じりに抱えられている。そのまま2-3分たつと薄暗く、じめっとした路地裏にまで連れてこられた。他に人の気配はせず、おそらく自分を含めた3人しかいないのだろう。

 

「い、いや……!」

 

 記憶こそないものの、知識はあるフレイヤは今から自分がどうなるか理解した。

 

 4つのごつごつとした骨ばった手がフレイヤの頬、首、胸、腹、太ももを荒々しく弄っていく。

こちらに一切気を使わない、自分が満足することが目的の手つきは、少しずつフレイヤの心を絶望で蝕んでゆく。

荒い息、獣による防ぎ用のない力が細く、白い体を貪らんとしていた。獣に食いつかれた哀れな子羊はこんな気持ちになるのだろうか。

フレイヤの目から涙が勝手に溢れ、歯はカチカチと音を鳴らし、声にならない悲鳴が喉の奥でこだまする。

 

「いや……!やだ……!やめてください……!ゆる……許してください……!いや!いやぁぁあ!」

 

数回、渇いた大きな音が響いて少女のか細い声は止まる。両頬が赤く少し腫れ、その上をさらに液体が垂れてより赤く染めていた。

 

「うるせぇなぁ……死ぬよりマシだろうが。

 その綺麗な顔がブサイクになっちまう前に黙っといた方がいいぜ?」

 

 もう悲鳴などあげられない、ただ嗚咽が混じった消えそうな声で同じ拒絶の言葉を繰り返すのが残された最後の抵抗であった。

 

「何してはりますの?」

 

 花が散る寸前、可憐な女の声に男2人は驚いて振り向いた。遅れてゆっくりとフレイヤもそちらを見る。涙で霞んでよく見えないが、そこには経済圏の一つ、オセアニア連邦でよく見られる衣装と狐耳に錯覚するような髪飾りをつけ、目を細めて薄い笑みを浮かべている女が1人立っていた。

 

「なんだぁ?姉ちゃんよぉ、下手な正義感で自分も同じ目に遭うことはなかったのになぁ?」

 

「ふふ、自分らえずくらしいことしてはりますなぁ?さぶいぼたちますわ。

いい体しといて、それをぶっける相手がこんなかいらしい少女なんて、しかも自分らおこもはんちゃいますやろ?」

 

「な、何言ってるのかわかんねーよ……!」

 

「あんさん方、テイワズの……たしか孫請けくらいの「デミトルズ」でっしゃろ?」

 

「なっ……!なぜそれを!?」

 

「あ、兄貴!こ、この女!」

 

 何かを思い出したかのように弟分らしき男が焦り始め、コソコソと耳打ちする。

 

「な、なんだと!?」

 

「あら、ウチの事知ってはりますのん?

 ならウチがマクマードはんとどんくらい仲良くやらせてもろとるかも知ってはるってことでよろしい?」

 

「チッ!ずらかるぞ!」

 

 そういうと、2人の男は先ほどの威勢はどこへいったのやら、一目散に走って路地の闇へと消えていった。

 女はフレイヤに近づきしゃがみ込み、服の乱れを正して上半身だけ抱え上げた。

 

「自分、ずいぶんひどい目にあってもうたねぇ」

 

 フレイヤはその優しい微笑みにまた涙が止まらなくなり、その胸に顔を埋め声の限り泣いた。

 

「よしよし、もう大丈夫や安心しぃ」




京都弁って難しいですね……一語一語調べてやったのですが、あまりにも手間がかかるのでもしかしたら次回以降明らかな似非京都弁になるかもしれません……

押さえつけられる描写とかは書いてて楽しかったです笑

デミトルズって名前は友達に「めっちゃしょぼい組織名は?」と聞いた時に出てきた名前です!


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07:涙

遅くなりましたぁ
話作りが下手すぎて戦わせれないですぅ(´・ω・`)


 フレイヤは助けてくれた女にお姫様抱っこで抱えられて路地裏から近くの開けた公園まで移動していた。隣にちょこんと座るフレイヤの目元は赤く腫れていて、かなり泣いた様子であった。

 

「よしよし、泣いてへたばらったやろ?ほらアメちゃんあげるわ」

 

「あ……ありがとうございます……」

 

「にしても嬢ちゃんほんにべっぴんさんやねぇ、だからこそあんなとこ1人で歩いたらあかんわ」

 

 ニコりと笑ってフレイヤの髪を撫でる。その触り方は優しくて、触れられてる側も気持ちが良い。

 

「そういや嬢ちゃん名前はなんていうん?」

 

「えっと……ふ、フレイヤ・レジーナ……です……」

 

「フレイヤちゃんね、よしよし

 ところでその服装、鉄華団の人ちゃう?」

 

「え、はい。そう……です……!」

 

「ウチはこういうもんどす」

 

 懐から取り出した名刺をフレイヤにに渡した。

 

「……よ、読めません」

 

「あぁ、こらかんにん!麟燕会(りんえんかい)のオサキ・麟燕・ゾロアートっちゅうもんどす」

 

「おさき……さん……」

 

「のんのん、親しみを込めておさきちゃんと皆には呼ばれとりますぅ」

 

「お、おさきちゃん」

 

「そうそうええこや、かいらしいわぁ」

 

 ぎゅっと抱きしめられ柔らかいものに包まれた。暖かく、良い匂いがして今にでも体を預けてしまいそうになる。

 

「特に」

 

 オサキは抱擁を解くと、フレイヤの頬に触れ息がかかる距離まで顔を近づける。

 

「うぁ……!?」

 

「このおめめ。綺麗な花緑青、ウチの持っとるどの宝石よりも綺麗や」

 

 細めた目の奥に光るトパーズに吸い込まれそうになる様な感覚を覚える。

 

 

「あーーー!!!!いたーー!!!フレイヤーっ!!!…………って、えぇ……?」

 

 突如横の方から聞こえた自分を呼ぶ声にそちらを振り向く。そこにははぐれたアトラやアジー、ラフタがいた。

 

「ふ、フレイヤ……お、おじゃましちゃった……かな?」

 

「え」

 

 冷静に自分達が第三者から見た時にどの様に見えるかを考る。数秒の沈黙の後、フレイヤは真っ青になった。

 

「ち、ちちちち!違う……!ちが……!違いますっ!」

 

「あはは……ま、まぁ木星(こっち)じゃ普通だよ」

 

 アトラ達の勘違いに震えながら否定する。しかし、そんなフレイヤをギュッと抱き寄せてオサキは目を細めた薄い笑みを浮かべた。

 

「フレイヤちゃんはウチのだーいじな子ですわ。この通り、お互い愛し合ってますぅ」

 

「おおオサキさん……!?」

 

「はっはっは

 まっ、ウチは用は済んだからあんさんらにお返ししますわぁ」

 

 そういうとオサキは椅子から降りてまた路地の暗がりの方へと歩き出す。

 

(やはりアレは……)

 

 路地裏の暗がりへと消えてゆく。ニヤリと笑うその表情は、紛れもない捕食者のそれであった。

 

 

 

 

 2日が過ぎ、テイワズのMS工房にてフェニックスの検査が行われていた。フレイヤはフェニックスに乗り込み、阿頼耶識に端末を接続する。コックピットの外からコードを繋いでPCと睨めっこをしていたメカニックが顔を上げてこちらの方を向いた。

 

「こっちは準備いいですよ。あぶないからちゃんと大きな声でコールしてくださいね」

 

「は、はい!

 え、えっと……ふ、フレイヤ・レジーナ、フェニックス……き、起動します……!」

 

 フェニックスの目に橙色の光が灯る。その後、メカニックの指示通りに腕をあげたり首を回したりと操作する。

 

「ふぅむ、動作は良好だね。けど……基本システムは他の子達と変わらないな。ふぅむ、アクセスを拒絶されるシステムがあるが……このFなんとかシステムってのも……」

 

 キーボードを叩きながら怖い顔でブツブツと難しい事を呟いているのを見るとあまりいい結果は出ていないらしい。

 

「とりあえず終わろう。オーバーホールするからあとは休んでな」

 

 

 

 

 試験を終えたフレイヤは別ブロックにて暇つぶしを兼ねた訓練をしている三日月やラフタ達の元へと向かった。

 

「だぁああああ!!!また負けたぁぁああああ!!」

 

「やりぃ〜!シノぉ、阿頼耶識無しじゃそんなもんかぁ〜?約束通りゴッチの新作ね♪」

 

「ち、ちくしょぉ……今月厳しいぜぇ……ん?おーい!フレイヤ!こっちだこっち〜!」

 

 呼ばれたので床を蹴ってみんなの元へ跳ぶ。

 

「わ、わわ、わわわわ!」

 

 しかし強く蹴りすぎた様で、手足をパタパタと動かしクルクルと回転しながらみんなの元へと突っ込んでゆく。咄嗟に三日月が身を乗り出して細い体をキャッチした。

 

「あ、ありがとう……み、三日月くん……」

 

「別に、気にしなくて良いよ」

 

 お姫様抱っこの形になり、フレイヤは昨日ことを思い出したのもあって頬が赤くなる。それを見たアトラは頬を膨らませてそっぽをむいた。

 

「ふーんだ、フレイヤは可愛いもんねーだ」

 

「あ、そうだ!なぁフレイヤ!お前もやってみろよ!」

 

「え、シミュレータ……ですか?」

 

「あ!私もフレイヤとやりたい!」

 

「えっと……私…乗り方わかんないです……」

 

「謙遜しないで!ほらほら〜」

 

 半ば無理やりコックピットに乗せられたが、フレイヤ自身は阿頼耶識無しでのモビルスーツの操縦方法など知らない。しかし、乗ってみるとなんとなく体が覚えている様で、感覚で何がどうとかわかった。

 

「よーし!私が一番ね!」

 

 ラフタが相手をする様だ。同じ様にコックピットに入って席につく。

 

「お、お手柔らかに……」

 

 

 

 

 

「よっわ!」

 

 全く勝負にならなかった。操縦方法こそ感覚的に解れど3次元的な動きに全く対応できておらず、相手の攻撃にも一切反応できていなかった。以前フェニックスで命の取り合いをした時とはまるで別人の様な動きである。

コックピットが開き、グッタリとしたフレイヤが死にかけの人のように這い出てくる

 

「だ、大丈夫!?」

 

「お、おぇぇ……よ、酔っちゃいました……」

 

 真っ青な顔でふらふらしているフレイヤを休ませようとしたが、ヒゲがあるので仰向けにはできずマットの様なものもないのでアトラが座っていわゆる膝枕の体勢になった。

 

(…………なんだろう)

 

 フレイヤの頭に映像が浮かぶ。不鮮明で、どこか遠いところの様な感覚。誰かが眠りにつく自分に“うた”を聴かせていて、何か温かい感覚が体を包み込む。

 

「ふ、フレイヤ?……どうして泣いてるの?」



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08:知らない記憶

遅くなりましたっ



「あー、アトラが泣かした〜」

 

「わ、私何もしてないよ!?

 ど、どうしたのフレイヤ!」

 

「わ、わからないです……なんか、止まらなくて」

 

 身体を起こし、ゴシゴシと目を擦る。原因はきっとさっきのだろう。誰なのか、何の歌なのかははっきりせず、ただその光景が見えただけで何もわからない。

 

「何してんだお前ら」

 

 皆が声のする方へと振り向くと、オルガが立っていた。

 

「……なんで泣いてんだ?フレイヤ」

 

「アトラが泣かした」

 

「わ、私じゃっ!」

 

「……まぁ、仲良くな。

 とりあえずマクマード(オヤジ)さんから仕事頂いたから、明日には出発することになった。

 あぁ、それと……」

 

 オルガが横にズレて後ろを向く。そこにはオセアニア連合でよく見られる服を着ていて、肩までかかった艶のある黒髪の少女が立っていた。

 

「初めましてっ!ウチ、ツカサ!ツカサ・麟燕・スペルピアっちゅーもんです!」

 

 その服装と独特なイントネーションにフレイヤは覚えがあった。

 

「この人は麟燕会、テイワズの取引先の組織で……まァ、色々あってうちへの派遣ってことになった」

 

 頭をかきながら困った様な表情しているオルガを見ると、その色々というのは何やらよくないことの様だ。それを気にせずに少女は一歩前へと出た。

 

「よろしゅう頼んますっ!」

 

 元気な声で挨拶をすると、フレイヤの方を見てニコリと笑う。そしてテクテクと近づいて息のかかる位置まで顔を近づけた。

 

「ほんまやなぁ。姐さんの言うてた通りのべっぴんさんで綺麗な目、してはりますわぁ!」

 

「ひ、ひぇぇ……!」

 

「あ、すんまへん!驚かせてしまいましたわ!

 ウチの姐さんから自分のこと聞いとりますねん!レイプ、あっ……なんか困ってたから助けたって!」

 

「あ……はい……」

 

「ウチ、メカニックやっとりますねん!

 姐さんからはガンダムフレームの事調べ……勉強してこいって事で船乗ることになったやさかい、改めてよろしゅうたのんますみなさん!」

 

 

 

 

 次の日、フェニックスのオーバーホールが終わってないフレイヤとその付き添いのアトラは、テイワズから直接仕事を受けたオルガ達とは別行動を取ることになった。ライドを含めた数人の年少組やツカサも残る様でそれぞれ暇を潰している。

 

 

「しっかしこのガンダムなんですけど、前に奪われた朱雀にむっちゃ似とりますわ」

 

 ツカサがハッチの横をペチペチと叩きながらつぶやいた。

 

「す、朱雀……ですか?」

 

「あぁ、前にウチがテイワズはんに卸すモビルスーツが変な奴らに取られたってのは聞いてますやろ?そのモビルスーツが朱雀ですねん。

カラーリングはここまで紅くはなかったけど、全体的な雰囲気とか機構がむっちゃ似とるわぁ」

 

 突然、ズイッと鼻と鼻が触れる寸前の距離まで顔を近づけてくるツカサ、その行動にフレイヤは体が固まってしまった。

 

「疑っとるわけじゃありませんけど、なんか知ってへんかなぁ?って思っとるんですわ」

 

「し、しししし知らない……です」

 

 真顔でじぃっと目を合わせて離さないツカサに対してフレイヤは目が泳ぎダラダラと冷や汗を垂らす。本当に心当たりがないのだが、ここまで圧をかけられるとやってもいない事を白状してしまいそうだ。

 

「プッ……アハハ!」

 

 ツカサの整った顔が崩れ、真顔から笑顔へと変わる。

 

「ハハハ、冗談ですわ!にしてもフレイヤはん、ほんま美人やなぁ……姐さんは知りまへんけど、ウチは両方いけるクチやさかい、その気があったらいつでも声かけてもろてもよろしいですわ!」

 

 

 

 そういうと鼻歌混じりにスキップしながらコックピットの中へと乗り込んでゆくツカサ。

 

「中身は全然ちゃいますわ。へぇ、こら珍しい……コントロール・シリンダータイプねぇ

 こんな滅多にないシステムよう操縦できますねぇ、やっぱ阿頼耶識がすごいんかなぁ。

あ、あとでそっちも見してもらえまへんか?」

 

(一方的に喋る人だ……)

 

 

 

 

 その日の夜、フレイヤはなかなか眠りにつけずにいた。その原因というのも、急遽増えた女子団員へのとりあえずの対応として、個室だったアトラの部屋に転がり込んで一緒のベッドで寝るという習慣が定着していたのだが、そこへ

 

「ウチも一緒にええですか!」

 

とツカサが言い出したのを断れなかったせいだ。現在の寝床は左にアトラ、右にツカサと挟まれている状況である。

さらにツカサはフレイヤの腕を抱きしめる様に寝ていて、動きにくい状況なのである。

 起こさない様にゆっくりと拘束をといて起き上がり、部屋から出る。ペタペタと目をこすりながらしばらく歩くと、開けた場所に出た。テイワズの工房である。

 

 現在整備されているモビルスーツはない様で、薄暗くメカニックらしき人も数人しかいない。すれ違う人に軽く会釈し、軽く床を蹴ってふわりと浮き上がる。昼と比べて無重力空間での動き方が上手くなったのかフェニックスの元へと器用に着地した。

 

「……フェニックス」

 

 鉄塊に対してその名を呼ぶ、当然返事はない。コクピットのハッチを開けて乗り込み、阿頼耶識を接続する。

どうせお前には動かせない

「……練習するもん」

 

 シミュレータを起動し、CGで再現されたグレイズが画面上に出現した。カーソルを合わせて射撃するも明後日の方向へと銃弾が飛び、次の瞬間には接近され撃破された。

ふん、これじゃ役に立たんよ

「うるさい、役に立って見せるもん」

 

 もう一回、またもう一回と繰り返すも瞬時に撃墜されてしまう。

わからないやつだよ

「私だって……」

ならわからせてやる

 また同じ様に起動するが、今度はグレイズは出現しなかった。代わりに見覚えのない機体が目の前に浮かんでいる。それそのものは知らない、しかし自分の忘却した残滓にそれに関する僅かな記憶が残っていて、フレイヤは身震いした。詳しいことは覚えていないが、それに関する僅かな情報をようやく口から絞りだした。

 

「ガンダム……フレーム……!?」




途中で気づいたのはフレイヤが寝転がってる時に描写的に仰向けなんですが、阿頼耶識があるとできないのでなんかすごい良い感じの阿頼耶識をカバーできるクッションがあるって事で納得してください(^^;;

あとコントロール・シリンダーってのはVガンダムの操縦桿みたいなやつです!


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09:邂逅

すみません更新がめちゃくちゃ遅くなっちゃいました( ; ; )

そう言えば別の作品に似てるとご指摘(?)をいただきましたが、そちらを確認させていただいた所、確かにフェニックスや冒頭の描写がめちゃくちゃ似てました(^^;;
そして文章力や表現力があちらが圧倒的上位互換すぎてなんとも……とりあえず、私はこのご指摘で初めてそちらの作品を認知致しましたので、パクリとかネタ被りとかは多分ない……と思います!

そう言えば以前もネタ被り〜ってコメントを頂いていましたが、この作品のことだったんですね完全にナラティブの事だと思ってました…… 


 真紅を基調とし、銀が混じるそれはまさにフェニックスと同じ姿であった。

 

(たしか、こんなデータは私が確認した限り……なかったはず……!))

 

 こちらを叩き潰さんとバスタードソードを振り下ろしてくるその"ガンダム"。フレイヤは瞬時に背中の鉈を抜いてXの形で受け止めた。しかし、腕を振り上げて無防備になったボディに武装を纏った蹴りが炸裂した。

 

 

 

 

 

ここは「暗黒宙域(ローサイド)」と呼ばれる場所、放棄されたリアクターや電磁波を放つ残骸が散在し、通信やレーダーを拒絶する宇宙の孤島。その中心近くには大きな船があり、その中にあるモビルスーツドックのような場所で、1人の少年が無重力に身を委ねて浮かんでいた。

 

「よぉ、ネツァク」

 

 自分の名を呼びかけられた少年は、声のした方を振り向いた。そこには色素の薄い茶髪の青年が立っており、『よっ!』とこちらに手を挙げている。

 

「ホドか」

 

「ホドかとはなんだホドかとは!

 ……しかしまぁ、ま〜た自分の機体とおしゃべりかぁ?」

 

「機体の調整と接続テストをしただけだ。

 おしゃべりなんて楽しいもんじゃない」

 

「お前が楽しそうにおしゃべりしてるとこなんて見た事ないけどなぁ……それにしても」

 

 ホドは上を見上げ、自分とネツァクの機体を見比べる。

 

「ほんっとにデケェなぁ、お前のガンダム・フレーム」

 

 鉄華団が以前戦ったグレイズアインをも凌ぐ巨体を持ったその機体は、青と白のカラーリングに身を包んでいる。そしてその巨体や色さえも霞むその特徴、全体的なバランスや形状はまさに異形とも言うべき姿をしていた。

 

「この後出発するんだろう。それに、お前の機体のFユニットは不調だと聞いている。こんなことをしてる暇があったら調整を……」

 

「わーってるって!そのためににここに来たんだよ!」

 

「で、任務の内容は?」

 

 「奪還さ。改修し終えたばっかのを持ってかれてアイツも怒ってたからなぁ?」

 

 男はもう一度上を見上げ、自分の愛機を仰ぐ様に手を掲げた。緑を基調としたマッシブな機体、特徴的な牡牛の様な勇ましい金色のホーン、重厚な鎧を押し進めるための巨大なスラスターやバーニアが数多く搭載されている。

 

 

「こいつだって戦いを求めてる、そうだろ?ザガン!」

 

 語りかけられた巨体はこちらをただ見下ろすだけで何も語らなかった。

 

 

 

 

 

 ペチペチと頬を叩かれ、ふわふわした意識が少しずつ戻ってくる。鉄臭い嫌な臭いが鼻をくすぐり、フレイヤの意識は覚醒した。あれは夢だったのか?鼻の下に触れると血が少し固まってベタベタしていて、それなりに時間が経っていることがわかる。

 

「よかった、目が覚めたか」

 

 顔を挙げると、フェニックスのオーバーホールで世話になっている整備士が立っていた。

 

「練習でもしてたのかい?……何にしても鼻血出して気を失うまでやるのはあまり感心しないな。ほら、これ」

 

 男から暖かい濡れタオルを受け取り、固まった鼻血を拭う。

 

「汗もびっしょりじゃないか。ほら、ここは僕が掃除しとくから

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

 コードを外し、コックピットからでる。チラリと後ろを見ると彼はこちらをみていた。

 

「あの人……そういえば名前を聞いてなかったな………」

 

 

 

 次の日、フェニックスのオーバーホールと起動試験が終わり、火星に戻ることになった。その支度のせいで午前中は忙しかったが、一通り落ち着いて明日の12時まで自由時間とのことだった。

 

(あのバックパックユニットも全然接続できないし、壊れてるのかなぁ)

 

「ふ、フレイヤちゃん!」

 

 急に話しかけられて体びくりと跳ねる。振り向くと、歳星居残り組のまとめ役として残った(なぜか志願したらしい)ユージンが頬を赤くして立っていた。

 

「は、はいっ……!な、なななんですか?」

 

「あ、あああ明日まで時間が、あ、あるしよ!、歳星、歳星で遊んで、いいい、行かないか?」

 

 急に話しかけられたフレイヤと単純に緊張しているユージンはどちらも声が上擦っている。

 

「え、はい、いいです……よ」

 

「マジ!?」

 

 フレイヤはこの男、ユージンに対しては他の団員よりも比較的打ち解けていた。鉄華団に来たばかりの頃、アトラの次に話しかけてくれた青年で優しくしてくれて、その後もたまに気にかけてくれていたからだ。

 

「あの、汗かいてるんで……ちょっとシャワー……浴びてきますね」

 

「あ、おう!ごゆっくり〜」

 

 

 シャワー室の扉を開けて中を見渡しても人影はない。1番奥のスペースを選んで蛇口を捻ると冷たい水が吹き出し、小さく悲鳴をあげるが、すぐにちょうどいい温度まで温まった。

 

(そういえば……私ってどんな人だったんだろう)

 

 今更ながら思い出す当然の疑問。なぜか"ヒゲ"を生やし、ガンダムフレームを持っていて、謎の集団が執拗に襲ってくる。どこにでもいる普通の女の子ではないことは明らかだ。

 

「おしゃれとかしてたのかな……?」

 

 首の付け根あたりを指でなぞると、周辺とは全く違ったゴツゴツとしたヒゲが感じられた。アトラやツカサのような『普通の背中』を見ていると、自分があたかも人ならざる化け物のように思えてくる。

 以前のフレイヤがどのような考えを持っていたかは記憶にないが、流行りの服も着づらい他人と違うこの体は、今の彼女にとってはコンプレックスになっていた。

 

 

 

 

 

 シャワーから上がった後は髪を乾かしてすぐに歳星の歓楽街に向かった。事前にユージンがアトラやラフタ達におすすめのお店やおしゃれな喫茶店をリサーチしており、それなりにいい感じのプランを立てていたお陰もあって、フレイヤはなかなか楽しめているようだ。

 

「ど、どう?」

 

「美味しい……です!」

 

「そっか、わざわざ残った甲斐があったよ」

 

 テラス席で幸せそうにケーキを食べるフレイヤを見てユージンもつい笑みがこぼれる。

 

「…………ふ、フレイヤちゃんってこ、好みのタイプとか、あるの?」

 

「好みのタイプ……ですか?……そうですね……や、優しい人……かな。えへへ、ちょっとベタ……ですかね」

 

「うんうん、優しい人……ねぇ」

 

なんともぎこちない2人の会話だが、それでも少しずつ打ち解け始めている様子で、フレイヤの吃りも少しずつ減ってきているようだ。

 

「……あ、俺ちょっとトイレに……」

 

「あ、はぁい」

 

ユージンを見送った後、紅茶を一口すすって、ふぅと一息ついた。これからどこに行こうか、何を食べようかと考えるだけで、楽しくなってくる

 

「すいませーん、相席しても?」

 

 いきなり声をかけられて、フレイヤはビクッと身体を跳ね上げた。目の前には、色素の薄い茶髪の男が立っていた。彼の整った顔立ちは、フレイヤには見覚えがなかった。

 

「え、えっと……い、いちおう一緒にいる人がいまして……」

 

「おーっと、それは残念。

 ……にしても、雰囲気変わりすぎじゃないか?演技?」

 

「え?な、何のことですか?」

 

「あっれぇ?人違い……なわけないよなぁ?俺だぜ?ホドだよ、この顔を忘れるなんてあり得いね」

 

 ホド名乗る男の言葉を聞いて、フレイヤは自分の過去を知っている可能性があるのではないかと考えた。

 

「あ、あの……」

 

「おいっ!」

 

フレイヤが話しかけようとした瞬間、ユージンの大きな声が響いた。急な大声に驚いた2人は目をパチクリとさせた。

 

「ナンパか?フレイヤちゃんから離れろ!」

 

 ユージンが「フレイヤ」の名を呼んだことに、ホドは何か反応を示したようだった。

 

「……フレイヤ?お前がか?」

 

「は、はい。そうですけど……」

 

「…………フッ……ククク……アッハッハッハッ!そうか、今のお前はフレイヤなのか!」

 

 突然笑いだしたホドに、ユージンとフレイヤは意味もわからずキョトンとしていた。十数秒が経ち、笑いも収まりホドはふぅと呼吸を整えた。

 

「デートの邪魔みたいだから、俺はお暇させてもらうよ」

 

そう言うと、ホドは後ろ手に手を振りながら気だるそうに歩いていった。フレイヤ達から見えないその顔をニヤリと歪ませる。

 

(どうせすぐに会える)

 

「何だったんだアイツ……?フレイヤちゃんのこと知ってそうだったけど」

 

「ホド、とか言ってました」

 

 ユージンの額を冷や汗が伝う。

 

(フレイヤちゃんの…………元彼とかだったらすっげぇ嫌だな)




やーっと、私の中で妄想してたガンダムフレームとか色々出せそうです!

次回か次々回こそ戦闘させたいですっ!

…………にしても最初のとことかはもうちょっと自分に表現力文章力があればもっといい感じに描写できたかもしれませんね(~_~;)


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10:覚悟

やっと話数が2桁に突入しましたぁぁああああ!!
モチベが続いてるのも皆様のおかげですっ!( ;∀;)
今回はいつもより長めになりましたっっっ


 あの後、結局ただ軽く街を回って食事をしただけで港に戻ってきた。明日の昼の支度を終わらせて後は寝るだけである。

 

「げぇー、何でよりによってユージンと?」

 

「え、誘われたから……」

 

「フレイヤはんって押しに弱そうですもん、こらいつの間にか男作ってここ出てくんとちゃいますぅ?」

 

「そ、そんなこと……しない!」

 

 フレイヤは顔を真っ赤にしてポコポコとツカサを叩いて、2人はそれを見て笑う。フレイヤはきっとこれが友達なのだと理解した。

 

「ほら、明日は遅刻できないんだから寝るよ」

 

「あ、うん」

 

「はーい」

 

 照明が常夜灯に切り替わり、それぞれが床につく。数分もするとフレイヤとアトラはすぅすぅと小さな寝息を立てはじめた。

 

「…………」

 

 むくりと体を起こしたのはツカサ。左を向き、フレイヤの頬にそっと触れる。

 

(ウチ、フレイヤはんのこと少しずつわかってきましたわ。アンタ、好きとかそういうのないやろ?

フフッ……ウチが正体暴いたりますわ)

 

 

 

 

 次の日、オルガ達は遅れているようで、テイワズから戦艦を一隻借りて火星に帰ることになった。ユージンが臨時艦長に就任し、ラフタとアジーも護衛として同行することになった。すでにフレイヤはラフタにもみくちゃにされているらしく、髪の毛がボサボサになっていた。

 戦艦にはフェニックスとタービンズの2人の2機体が搭載され、さらにプロト獅電がテイワズから2機も提供されたので同じ様に積み込まれた。

 

「あんなもん頂いてもいいんですか?」

 

「はい、会長が鉄華団の強さを買っておられましてね。まだ試作段階ですがデータ取りにも使えるだろうということでウチから提供させて頂いてます。あぁ、もちろん既に阿頼耶識に対応したコックピットにはなっていますのでご安心を」

 

「あぁ……その事なんですけど……いや、ありがとうございます」

 

(ウチは阿頼耶識からは脱却する方針なんだけどな……戻ってから外さねぇと)

 

 

 

 

「あ、動き出した!」

 

「はぁー、また来たいなぁ〜」

 

「次もズィヅニーいこうぜ!」

 

「今回3日連続行ったじゃん……」

 

 年少組がワイワイしてるのを眺めながらアトラとフレイヤはお茶をしていた。

 

「そう言えばツカサちゃんは?」

 

「フェニックスの事知りたいっていうからOKしたら飛んでっちゃった」

 

「そう言えばメカニックだったねあの子、なんか作業着?も独特だよね〜オセアニア連合の人だっけ」

 

「普段着の方はすごく可愛いと思う」

 

 そんな感じで駄弁ってしばらく経つと、雑談の種も尽き、2人はボーッとしていた。食事の時間でもなく、洗濯物もないアトラと、元々仕事が与えられていないフレイヤは、何もやることがなかった。タービンズの2人はドックでシミュレーターでもやっているのだろうか?

 

(私もやったほうがいいのかなぁ、でも別に私明確にパイロットってわけでもないんだよね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、戦艦が大きな衝撃を受けた。眠っていたフレイヤは飛び起き、周囲を見渡すと、固定されていなかったものが床に散乱していた。アトラがうずくまっていて、僅かに頭を押さえている手の隙間から鮮やかな赤が見えたので、フレイヤは急いで駆け寄った。

 

「アトラちゃん!?」

 

 傷を確認すると、幸い小さな傷の様で少し血が垂れていた。

 

「い、いてて……大丈夫、少し頭打っただけ……!」

 

 すると艦内放送がかかり、ユージンの声が聞こえてきた。

 

『ぜ、全体!襲われてる!くそ、何たってこんな船を!』

 

 急いで窓の外を確認すると、確かにチラリとモビルスーツのスラスターの光の様なものが見えた。

 

 

 

 

 その頃、メインブリッジではユージンやテイワズから借りた人員達が事態に対処すべく慌ただしく動いていた。

 

「くそ、テイワズの船見て襲ってくる奴なんてまたあいつらかよ!?ラフタさん達!準備はどう!!」

 

『こちらラフタ、いつでも行けるよ!』

 

『アジーも準備OKだ』

 

 管制員の1人が声を張り上げる。

 

「敵モビルスーツ!4機の内1機はガンダムフレーム!!」

 

「くそ、アトラさん達!敵にはガンダムフレームが紛れてる!おそらく阿頼耶識だ!」

 

 その時、ブリッジ内に通信が入り、画面にはSOUND ONLYと表示された。

 

「どこからだ!?」

 

「どうやら敵のガンダムフレームからの様です!」

 

「はぁ!?何だって!?」

 

『やぁ、テイワズの皆さん、ご機嫌よう!

 突然だが、君らが所有しているフェニックスとそのパイロット、フレイヤ・レジーナの引き渡しを要求する!君らの命との引き換えだ!』

 

 爽やかな男の声が艦内に響き渡る。その声は実に楽しそうに一方的な要求を押し付けてきた。

 

「はぁ!?んな事するわけねーだろ!」

 

『ならば殺してでも奪うだけだぜッ!』

 

「なっ!?く、くそっ!ラフタさん!アジーさん!」

 

『了解!それじゃあラフタ・フランクランド!出るよ!』

 

『アジー・グルミン、出る!』

 

 漏影と百錬が艦から飛び出して敵機に接近する。重い一撃を喰らわそうと剣を振るうも、阿頼耶識特有の生物的な動きで回避される。

 

「くっそーッ!阿頼耶識ほんとにずっこい!」

 

「こいつら……!拙いけどこの動き、あの時のデカブツみたいじゃないか!」

 

 生物的な動きと息の合った連携は、モビルスーツ戦に熟達した2人でさえもうまく捉えきれない様で、こちらの攻撃は当たらず向こうからの攻撃はガードして受けるしかない様な状況だった。

 

「チィッ!鬱陶しいなこいつら!」

 

(でも1番ムカつくのは……!)

 

「雑魚3匹にかまけて静観してるお前だーーッ!」

 

 少し離れた位置から何もせず突っ立っているだけのガンダムフレームに苛立ちを覚えたラフタは、他のモビルスーツを無視して最大出力で突撃する……が、しかし

 

「ぐぁっっっ!?」

 

 他の機体に行動を妨害され、漏影は左肩に蹴りを受けてバランスを崩した。瞬時にバーニアを駆使して姿勢制御を行い、体勢を立て直したが、かなりの負荷がかかったようで、漏影の左腕は軋む音を立てて追従性がかなり落ちているようだった。

 ホドは、その様子を見てわざとモーションが大きめの拍手をしながら楽しそうにしていた。

 

「ハッハッハッ!クピッド達に随分と苦戦してるなぁ!そんなんじゃ俺には届かんぜッ!」

 

 

 

 

 その頃、ライドたち年少組はラフタ達の闘いを見ながら焦りを感じていた。

 

「お、おい……あれやばくね?」

 

「向こうのが多いし、あいつら阿頼耶識だし、アジーさん達めっちゃジリ貧だよ……」

 

 子供達がやばいやばいと言い合ってる中、ライドは何か決心した様に拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

「クソっ、どうすりゃいいんだよ!フェニックスは……ダメだ、フレイヤちゃんを出すわけには行かねぇ」

 

 あの時見たフェニックスの戦いぶりを思い出すと、すぐにでも出撃させたくなる。しかし、フェニックスが不調であることに加え、フレイヤ自身もうまく操縦できないと報告を受けているのだ。下手に出撃させてしまうと死なせてしまう様で躊躇してしまう。

 

 その時、ドックより通信が入った。

 

『ライド・マッス!プロト獅電行きます!』

 

『モッブ・ガーキも同じくプロト獅電で行きます!』

 

「はぁ!?」

 

 ユージンが急いで確認した時には、もう遅かった。ライドともう一人の年少組の少年が獅電に乗り込み、勝手に出撃してしまったのだ。2人は本格的なモビルスーツの訓練を受けていなかったが、阿頼耶識のおかげで熟練のパイロットのような機動で、ガンダムやクピッドを襲撃した。

 攻撃は当たりはしなかったが、アジーとラフタを囲んで翻弄していたクピッドたちを退かせ、2人に体勢を立て直す時間を与えた。ライドは背中合わせのように機体を接触させ、百錬に接触回線を繋いだ。

 

「オレ、ライドです!援護にきま____」

 

『このバカ!!!!!!』

 

 大声で怒鳴りつけられついライドの体が跳ね上がる。

 

『これはシミュレータでも模擬戦でもないんだよ!子供が命の取り合いの場に出てくるなッッ!』

 

「……オレは、オレ達は!あの日、動かなくなった仲間達を踏んで進んだ日から、いつだって命を奪う覚悟も奪われる覚悟もしてきてるんです!だから進まなきゃ行けないんだ!」

 

『………』

 

 その言葉にアジーは絶句した。あの地獄はこの様な自分の半分程しか生きてない少年にここまでの覚悟をもたらしたのかと。

 

『……わかった、アイツらを倒したら次はアンタ達への説教だよ、覚悟しておきな!』

 

「はい!」

 

 アジーやラフタに阿頼耶識の2人が加わり、3対4となれば形成は逆転。阿頼耶識には阿頼耶識、独特な機動に対し張り付く様に追いかける。モッブは敵の攻撃をいなしきり、武器を振りかぶる。

 

「悪いが、そこまでだぜッ!」

 

 振り下ろされる寸前、ガンダム・ザガンの振るう大剣が獅電の腕を小枝のように薙ぎ払った。

 

「お前に生意気さを感じたッ!」

 

 ザガンはモッブの機体に組み付き、腕を引きちぎった。帯電するコードが露出し、細かい部品が宇宙空間に散らばる。さらに背中に蹴りを加え、両腕を失い戦う力を残していない獅電が宇宙に舞う。

 

「モッブぅぅぅううう!!!」

 

 ライドが救出を試みようと爆進するが、先ほどのラフタと同じ様にクピッドに割り込まれ近づくことができない。

 

「さぁ、さよならの時間だッ!」

 

 大剣を横に薙ぎ、刃が接触する瞬間に峰が爆発して威力を高めた。コクピットごと真っ二つになり、大剣より薬莢が弾き出された。ズタズタになった断面が赤熱化しているのを見ると生存はほぼゼロに近いだろう。

 

「あ……あぁ…!」

 

 覚悟をしていても、突然の仲間の死を瞬時に受け入れるにはライドはまだ経験も足りず、幼すぎた。呆然としていたせいでザガンの次の標的が自分だと気づくのが遅れてしまった。

 

「ライドォォオオオ!!!!!」

 

 アジーの悲鳴に近い叫びはエイハブウェーブにかき消され届かない。ザガンは大剣を縦に振りかぶった。

 

「あ」

 

 死に直面して飛び出たのは死を理解した声、獅電の残骸から見るに腕による防御は気休めにするならないだろう。ライドに行使できる最後の抵抗はもはや目を瞑り、少しでも死への恐怖を軽減することだけだった。

 

 

「……………?」

 

 あまりにも長い数秒、いつまでも自分の体が肉塊にならないことに疑問を覚えたライドが恐る恐る目を開ける。画面に映っていたのは赤と銀の機体、変形した足を伸ばし大剣を掴んで押さえ込んでいた。

 

「フェニックス……!?ふ、フレイヤ!?……さん!?」

 

 その言葉に返事をするかの様に青く煌めくツインアイから光が迸った。




爆発させてダメージアップして薬莢吐き出す大剣ってなかなかかっこよくないですか!!
ボトムズのアームパンチから着想をえました!

ザガンにやられちゃったモッブ・ガッキくん、すぐわかると思いますがモブガキの文字りというなかなかやばいセンスな名前かもしれません(^^;

あと三日月とかも絡ませたいんですけど、三日月いたらわざわざフレイヤが戦わなくていいのでは?となっちゃうんでなかなか難しい(^^;

感想とか改善点とか書いていただけると励みになりますっ!どうかっ!どうかっ!

いつも誤字とか文法の不備を教えていただいてる方もありがとうございますっ!


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11:異変

遅くなりましたっ!

バトルシーンは書くのが難しいですね〜、私に画力があれば挿絵とかつけて何とかできたんでしょうけど!


「フレイヤ、落ち着いて……大丈夫だから……」

 

「ハァ……ハァ……大丈夫……大丈夫……」

 

 フレイヤは震えの止まらない体をなんとか鎮めようと、抱擁してくれているアトラの胸板に顔を押し付けて自己暗示の様に大丈夫と繰り返していた。

 

「大丈夫、アジーさん達強いからやっつけてくれるよ」

 

「ありがとう……落ち着いた……」

 

 ゆっくりと立ち上がると、フレイヤは壁に備え付けられたモニターを操作して外の様子を探る。戦っている様子が見やすいカメラを探し、次々と画面が切り替わってゆく。

 

「あ!」

 

 最も見やすいカメラを見つけたので戦いを観察するが、ちょうど漏影が蹴りを入れられる所だった。左肩が帯電する様にバチバチと火花を散らしている。

 

「あ、あ、あ!そんな動きじゃっ!」

 

「ふ、フレイヤ?」

 

 アトラはなんだか様子がおかしいフレイヤに駆け寄り、肩に手を置いた。

 

「あつい……?ねぇ、熱があるよ?

 落ち着いて……」

 

 Tシャツ越しに触れた肌は平常とは思えないほどに熱を持っていた。

 アトラがチラリと画面を見ると、プロト獅電が飛び出しているところで、今この艦にいる人物でMSを操縦できるのはアジーとラフタ、一応のフレイヤを除いて思い当たるのはいない。それにフレイヤは真っ先に気づいた様で、悲鳴にも近い声をあげた。

 

「ダメッ!!ダメだよッ!!もどって!!」

 

「フレイヤ!落ち着いて!さっきから変だよ!?フレイヤ!!」

 

 フレイヤはいきなりアトラの両肩をがっしりと掴んで揺さぶった。

 

「アトラちゃん!みんな死んじゃう!ダメなの!アレと戦ったら!」

 

「わ、わかんないよ!あの人たちってなんなの!?」

 

「……私も、わかんない」

 

 フレイヤは頭を抱えてうずくまり、涙をボロボロと流しながら「ダメ……ダメ……」と呟いている。

 

「行かなきゃ」

 

 いきなり立ち上がってドアの方へ向うフレイヤ、先ほどとまるで表情が変わっていた、本当に同一人物なのかさえ疑いたくなるほどに。

 

「フレイヤ、何する気なの!戻って!」

 

「大丈夫、パイロットスーツちゃんと着るから」

 

「は、はぁ!?違うよ、フレイヤ!」

 

 フレイヤは、フェニックスの検査中に見つかったコクピット内に収められていたという赤と白のパイロットスーツを掴み、部屋から出て行った。アトラは慌てて彼女を追いかけたが、いつもののんびりした印象とは違い、無重力の艦内を泳ぐようにスムーズに進んでゆく。

 

「あの時と……同じ……」

 

 

 

 服を脱ぎ散らしながら、スパッツ一丁の姿を少年たちに見られようが全く気に留めず、パイロットスーツを着用してドックに出た。器用に壁や設備を蹴って、フェニックスのコクピットへ最短ルートで乗り込む。

阿頼耶識を接続すると、画面が光り、細かい文字列が表示されて流れていく。

 

「Fシステムは……不安定。

 でも、いける!」

 

 フェニックスのツインアイには光が灯るが、橙と青が不規則に点滅している。フレイヤは、問題なく動作することを確認した後、ドック内のメカニックや子供たちに通信を飛ばした

 

『固定解除して!早く!!』

 

 ドックの設備制御室内にいたツカサはいつもの子犬の様な少女とは思えない圧に違和感を感じつつも「はいよ〜」とニコニコしながら言われた通りにアンロックし、すぐにブリッジに内線を繋いだ。

 

「ユージンはん!フレイヤはんが勝手に出てはりますわ〜!」

 

『な!!?ちょ、まっ!!』

 

 ユージンが静止する暇もなく艦から飛び出したフェニックスは青い炎を吹き散らしながら驀進する。

 

「お願い……!間に合って!!」

 

 目標を補足するも、すでにザガンは胴体を薙ぎ払う瞬間であった。フレイヤはフルスロットルでスラスターを噴かし、その一撃を防ごうともがく。

 

「やめてェぇええええええ!!!

 

 フレイヤの声は届く事なく、無惨にも機体は両断されてしまった。その瞬間、フレイヤの絶叫と同時に青と橙に点滅していたフェニックスの目が青く迸る。

 

「うぁああああああああ!!!」

 

 フェニックスは足を変形させて突き出し、飛び蹴りをするような体勢でもう一機の獅電に振り下ろさんとするザガンの大剣を掴んだ。

 

「やっと来たのかッ!」

 

 接触回線が繋がった事で中の男の声が聞こえる。その声は楽しそうで、戦いを楽しんでるようにも感じた。

 

「ずいぶん楽しそうにして!」

 

『悪いかよ!こいつらはお前が逃げ出さなければ死ななかったんだぜ!!ケセド!!』

 

 ホドは大剣を引き込み、それを掴んでいるフェニックスを蹴り上げようとする。しかし、フレイヤは瞬時に足を離して体勢を変え、その際に発生した慣性に体を乗せて鉈を振るう。

 

「ハッ、記憶は無かろうと動きに癖が残ってるぜ!」

 

 ホドは大剣を斬撃に対して斜めに構える事で、鉈を滑らせて攻撃をいなした。そして戦いにくいと判断し、大剣を攻撃を受けた際の衝撃にのせてそのまま放棄し瞬時に腰の剣を抜く。

 

「読まれているの!?」

 

「あのユニットもつけてないフェニックスなんてのはァ!恐るるに足らんぜッ!

 そもそもお前に!負けた事なんて!一度もないッ!」

 

「くぅっ……!鬱陶しい……!」

 

 金属のぶつかり合う嫌な音がコックピット内にまで響く。敵の強さを理解したフレイヤは少し距離をとって腰部左右に備わっているレールガンで牽制した。

 

「相変わらずいい射撃だ!近づきにくいが……!

 いいもんを見つけたッ!」

 

 ホドは偏差を読まれないようにジグザグと移動する。どこに行くかは最初から決めていた。                      

 先ほど自分が叩き斬ったその片割れに身を隠し、射撃を防ぎながらこちらへと直進する

 

「なんて……!」

 

自分の攻撃によってボロボロと崩れていくそれを見てフレイヤの目からコクピット内に光が散らばった。

 

「怯えたなーーッ!」

 

 爆進しながら盾をこちらへと蹴り飛ばしてきた。フレイヤはそれを薙ぎ払うわけでもなく、躱すわけでもなく、鉈でとはいえ咄嗟に受け止めてしまった。それによって生まれた死角からザガンか顔を出す。いつでも剣を振り下ろせる体勢のそれは勝利を確信していた。

 

「うぉお!?」

 

 振り下ろす寸前、獅電の上半身がこちらに飛んできたので、それを弾くために動きが止まる。

 

「お前……!」

 

 フェニックスをみると足を上げている体勢で静止していた。

 

「蹴れたのかよッッッ!!!」

 

「あなたはぁぁあああああ!!」

 

 そう叫ぶと同時にお互い切り掛かかり、また鈍い音が2度3度と響く。

 

「こいつ!?鋭くなっている!?」

 

 先ほどよりフェニックスの動きのキレが増し、うまく追えない。

 

「くそ、これは知らないぞッ!?

 お前、本当にケセドなのかよ!?」

 

 フレイヤはホドの一瞬の焦りから生じた隙を突き、武器を弾き飛ばした。

 

「しまった!!」

 

 別の武器を取り出す暇はない。腕でガードしようにもこの状況では数秒間死ぬのが遅れるだけで意味を成さないだろう。

 

「これで貴方は!!」

 

 トドメを刺そうとした瞬間、突然コクピット内にけたたましい警告音が鳴り響く。

 

「なんなの!?」

 

“上”

 

 画面表示と阿頼耶識から流れ込む情報を元にそちらを見るも遅すぎたようで、“それ”はもう高速接近から連続で武器を振り下ろしていた。

 

「うぐぅうッッ!!」

 

 鉈でその攻撃を受け止め、吹き飛ばされないようにスラスターを全開にして何とか持ち堪える。攻撃してきたそれの正体は銀をベースに紫の混じるガンダムフレームであった。

 

『やぁ、ケセド。久しぶりじゃないか』

 

 金属が擦れる音に混じり、パイロットと思わしき声が回線を通して聞こえてくる。まるで人を見下すような口調なのが癪に障る。

 

「だ、誰ですか!?あなたの事なんて知らない!そのさっきから聞くケセ……ってのも!」

 

『あぁ、そう言えば記憶を無くしてたんだったなぁ……?自分がケセドと呼ばれてた事すら覚えてないのか』

 

 そこへホドが通信に割り込んでくる。

 

『イェソド、加勢に来てくれたのか!』

 

『黙れ、お前は失敗したんだ。周りを見ろ』

 

 言われた通りにホドが周りを見渡すと、3機いたクピッドがすべて破壊されており、ラフタやアジー、ライドがこちらへと向かってきているところであった。

 

『全く、怪我させずに捕らえたいなんて我儘を通そうとするからだよ。ケセドとは言え、俺たちと同種なんだ』

 

「貴方は誰なんですか!」

 

『お前もうるさいなぁ、記憶がないんだから話したって意味はないじゃないか。どうせジジイ共に可愛がられてた事だって覚えてないだろう』

 

『おい、そんな言い方は……!』

 

『とりあえずここは撤退するぞ。

 それじゃあケセド、また会うことになるさ』

 

 そういうとホドとイェソド呼ばれた声の持ち主はスラスターから青い炎を散らしながら宇宙の闇の中へと消えていった。

 

『あいつら!逃げる気かっ!』

 

 そう言ってライドはあの2人を追おうとしたが、フレイヤが前に出て制止した。

 

「ダメ、死んじゃうよ」

 

『ふ、フレイヤ……』

 

『そうだよ、さっき死にかけてたじゃん!』

 

『お前は先に説教だ。みっちりとな』

 

 

 4人はモッブの乗っていた獅電を回収し、戦艦への帰路へとついた。




 喋ってるのがオリキャラばかりで鉄血成分不足なので次回かその次くらいにはガッツリ色んなキャラと絡ませたいですねぇ


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12:戦いの後

戦い終わった後から火星に着くまではかなーり端折ってあります!

そういえば私の中にあるフレイヤのイメージを描いたんで貼り付けときます!初めてこの機能を使うのでできてなかったらすみません!


【挿絵表示】


これと言って上手くないのですが、こんな感じかなーってのはなんとなく捉えといて貰えるとうれしいです!今後は挿絵とかも増やせたらいいなぁって思ってます!

クソダサ鉄華団Tシャツはエドモントン事件の後、火星での鉄華団人気によって怪しいアパレルが生み出した物を団員が冗談で数着買って行ったけど余りにもダサすぎて余ってたのが全部フレイヤの着替えになっちゃったので、今のところフレイヤの着替えはジャケットとこのクソダサTシャツが数着です
右下のパイロットスーツなのですが、機械的なデザインに触れたことがほとんどないためマッキーを参考にしたら体格がマッキーになっちゃいました(^^;;

少しでも描ける様にメカデザインを勉強してるので、いつかはフェニックスやザガンなんかも描けるようになりたいです笑


 帰艦し、ドックにモビルスーツを収納する。アジー、ラフタ、ライドが降りてくるもフェニックスはハッチこそ開いているが出てくる気配がない。ドックまで来ていたアトラがフレイヤの名前を呼びかける。

 

「フレイヤ〜?」

 

 返事がないのでとりあえずコクピットまで行ってみるかと地面を蹴ろうとした瞬間、フェニックスのスピーカーがオンになった。

 

『だ、だれかぁ〜……きてくださぁい……』

 

 弱々しい声に何事かと思い、急いでそちらへと向かう。中を覗くと、フレイヤが鼻血を垂らしながら力無くふわふわと浮いていた。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「だ、だいじょばない……体中が痛くって……」

 

 ライドに阿頼耶識を外してもらい、フレイヤを介抱するように外に連れ出す。おでこに手を当ててみるもほんのり温かくて、先ほど感じた病的な熱はもう発してないようだ。

 

 

 

 

「全身の筋肉が損傷してるねぇ」

 

 フレイヤを連れてゆき、シワだらけで真っ白な髪の船医診断してもらうとそう告げられた。それを聞いたアトラとベッドに寝かされているフレイヤは真っ青になる。

 

「そ、そそそそそそれって大丈夫なんですか!?」

 

「いわゆる筋肉痛だね」

 

「……なぁんだ」

 

「なんだとはなんだぁ……いたいんだぞぉ……」

 

 アトラは医者の意地悪な言い回しに拍子抜けしつつフレイヤの弱々しい抗議を無視してホッと胸を撫で下ろす。

 

「ただ……」

 

 医者は怪訝な顔をしてカルテをめくり、顔を近づけた。

 

「筋肉痛ってのはねぇ、筋肉の修復の際に痛みを感じるんだよねぇ。けど、こんなすぐに出るなんて考えられないねぇ。それに……」

 

 医者がフレイヤの肩をペチペチと叩くと、フレイヤ小さい悲鳴をあげて悶絶した。

 

「そもそもモビルスーツに乗ってよく使う腕や背筋が特に筋肉痛になるのはわかるけど、全身が隈なくそうなってるのは変なんだよねぇ……。

 何か変わったことはなかったかい?」

 

「変わったこと……」

 

 フレイヤが何かないかと考えていると、アトラが「そう言えば」と言ってフレイヤの方を見た。

 

「モビルスーツに乗る前のフレイヤの体、すごく熱かったよ。あとなんか変だったし」

 

「変?」

 

「うん、なんだか別人みたいだった。キリッとしてて。今は……よわっちくて頼りないフレイヤ」

 

「わ、わるくちだぁ」

 

 アトラの話を聞いた医者はしばらく考え込んでいたが「わからん!様子見!安静に!」と笑いながら痛み止めを処方してくれたあと部屋を後にした。

 

「ねぇ、フレイヤ」

 

 アトラに名前を呼ばれてそちらをみると、少し頬を膨らませて、じとーっとこちらを見つめていた。

 

「な、なんでしょうか」

 

「すごく心配したんだからね」

 

「うっ……」あ

 

「前もそうやって飛び出しちゃうしさ」

 

「で、でも……」

 

「心配なのっ!

 そんな体にもなって……」

 

 アトラの真剣な表情に気圧されて目を逸らしてしまう。

 

「ごめん……」

 

「……ううん、こっちこそごめんね。

 あ、お腹空いたでしょ!なんか簡単に食べれるの作ってくるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、フレイヤ達の乗る艦は無事に火星へと到着した。イサリビは先についていたようで、戦艦のドック内にはオルガ達について行っていた団員達がすでに仕事をしていた。

 

「あ〜!やっと帰ってきたぁ〜!」

 

 アトラは久しぶりの故郷の空気を目一杯す吸って大きく伸びをする。

 

「私は艦にいた期間の方が長いからなぁ〜」

 

「おい、フレイヤ」

 

 突然の太い声で自分の名前を呼ばれて体が跳ね上がる。恐る恐るそちらを見ると、ガチムチの男がこちらを見下ろしていた。

 

「えっ、えっ、えっと……あ、昭弘……サン……」

 

 居残りをしていた昭弘とここへきてすぐに歳星へと向かったフレイヤはほぼ初対面に近い間柄で、フレイヤは少し前ようにまだ震えて吃った声色になってしまっている。

 

「昭弘ー!フレイヤを怖がらせちゃダメだよー!」

 

 アトラがやれやれと言った感じで昭弘に注意すると、昭弘は少し申し訳なさそうに頭の後ろをかきながら「す、すまん」と謝った。

 

「いや……怖がらせるつもりはなかったんだが……。とりあえず、俺とシミュレータで一戦やらないか?」

 

「え、えっと……」

 

「あーダメダメ、昭弘!」

 

「ラフタさん」

 

 アトラ達に遅れて降りてくるラフタ達。さっきまで寝てたらしく、少し髪に癖っ毛ができている。

 

「この子実戦じゃすごい動きするんだけどねぇ、何回もシュミレータやらせたけどめちゃくちゃ弱いんだよ」

 

「それは残念です……じゃあ姉さん方、手伝ってくれますか?」

 

「ほんっとに脳筋ねあんた……」

 

 

 

 

 フレイヤは本部内を散策する様に歩いていた。あの後結局シミュレータを試してみたのだが、やはり体が全くついていかず、一度でダウンしてしまった。

 

「それにしても暇だなぁ」

 

 アトラは炊事、ツカサはMSいじりといつも一緒にいる2人はそれぞれの仕事に勤めていた。フレイヤは一応はパイロットという括りになるのだろうが、トレーニングをしようにも全くついていけないのでただ暇を潰すために歩くしかやる事がないのだ。

 

(そう言えば……)

 

 フェニックスを駆って戦った事を思い出す。あの時のことは記憶にあるが、なんとも曖昧にしか覚えていない。起きた事や話した内容はしっかり覚えているのだが、今の感覚的にはまるで夢としてそれを体験していた様な気さえもしてくる。

 

“ケセド”

 

 襲ってきた者たちが自分の名前だと言っていた物。とても女の名前なのか、そもそも人の名前としてもあまり聞き覚えのない言葉だ。

 

(仮に私がケセドだとして、じゃあフレイヤは誰なの?)

 

 握ってたドッグタグに書かれていたと言うだけで、よく考えれば自分の名前という保証は無いのだ。そういえばホドと名乗るあの青年も『フレイヤ』という名前に何か反応していた様に思える。

 

「…………あれ、ここは」

 

 物思いに耽りながらただ歩いていたフレイヤはいつの間にか地下まで来ていた様だ。どこから入ったのかも忘れてしまい、キョロキョロと辺りを見回す。

 

「……ん?誰か倒れて……いや、寝てる?」

 

  少し進んだ先の床にゴロンと誰かが転がっていた。まぁ、該当する人物は1人しか思い浮かばないのだが。

 

 

「三日月……くんだ」




鉄血の最推しが三日月なんですが、ミカとアトラのカップルを汚す(?)のも心が忍びないので好きなキャラとフレイヤをに絡ませにくいってジレンマが……


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13:それぞれの

超遅くなりましたっ
指摘や感想等はバシバシ募集してます!内容関係ない暴言は泣いちゃうので!


 フレイヤは寝ている三日月に近寄り、しゃがみ込んで寝顔をまじまじと観察する。昭弘よりも少しだけ関わりの深いこの少年、そういえば少し前に無重力でのジャンプに失敗した時にキャッチしてもらったのがはっきりと絡んだ最後の時かもしれない。

 

(けっこうぐっすりなのかな?)

 

 そぉっと指を近づけて頬をツンツンと触ってみる。

 

 反応はない。

 

 次は少し強く指を押し込んでみる。

 

(柔らかい……)

 

「なにしてんの」

 

「あ゛゚ぁ゛゚ーー!?」

 

 熟睡してると思い込んでいたフレイヤは思いがけない反応に悲鳴をあげ尻餅をついた。

 

「みみみみ三日月くん……お、おおおはよう!!」

 

「うん?おはよう」

 

「なななななにしてるの??」

 

「寝てた」

 

「そそそっかぁ!……あはは」

 

「…………」

 

「…………」

 

 数分間無言の時が流れる。改めてこの2人はあまり交流がないので、何を話題にしようにも思いつかないのだ。

 

「みみみ三日月くん」

 

「三日月でいいよ」

 

「あ、うん。み、三日月はさ……その……モビルスーツ乗っててさ!」

 

「うん」

 

「た、戦うじゃん?」

 

「戦うね」

 

「その……敵をころ、殺したりするのってさ……こ、怖いとか……その、辛くなったりとか……し、しないの?」

 

 フレイヤは、自分が殺した人数を覚えていたが、そのことに対する実感はほとんど湧いていなかった。そのことを表に出さずに、忘れようとすることで、その心の締め付けを少しでも緩めようとしているのかもしれない。しかし、少しずつそのことを考えるうちに、自分自身が人を殺したという事実が心に重くのしかかってくるのだ。

 

「あんまりそういうの考えた事なかった」

 

「……そうなんだ」

 

「殺さなきゃ殺される」

 

「……」

 

「オルガも、アトラも、鉄華団の仲間がね。

 …………もちろんフレイヤも」

 

(絶対付け足した………)

 

「そっか、そうだよね。ご、ごめんね……変なこと聞いて

 ……も、もうすこしここにいていいかな」

 

「いいよ、俺は寝るけど」

 

「ありがとう……わ、私もなんだか安心したら眠くなってきちゃった」

 

 三日月の隣に寝転がり目を閉じると、少しずつ無意識の沼に沈んでゆく感覚がやってくる。

 

(みんなの役に立てる様になるなきゃ……そのため……に……)

 

 

 

 

 そのころ、暗黒宙域にて

 

 任務より帰還したホドが船を降りると、フレイヤ以上に美しい、これほどに整った顔がこの世にいるのかとさえ思う少女が待ち構えていた。

 

 

「あら、ホドくんじゃない。ケセドを連れもどしに行ったって聞いたけど……おっかしいわねぇ?私にはケセドの姿が見えないんだけどぉ〜?」

 

「……何か用か?ティファレト」

 

「手足の一つや二つ捥いででも連れてくりゃいいのに、あまちゃんホドくんは大好きなケセドにはそんな事できないもんねぇ」

 

 身長差を利用して煽るように、ティファレトは下から覗き込むが、ホドはまったく気に留めず、無視して歩き出した。

 

「そうやって」

 

 先ほどの小馬鹿にする様な感じとは一転して様々な感情が混じった口調にホドは立ち止まる。

 

「みんなケセド!ケセド!本当に不愉快。

 

 私の方が……私の方が優秀なのに!強いのに!!!美しいのに!!!!!!」

 

「…………」

 

「まぁ、いいわ。

 

 アンタが失敗したから私がいく事になったから」

 

「なんだと!?」

 

「私から名乗り出たのよ!もちろんおじいさまには許可を貰ってるわ?

 安心して?殺しはしないから。イモムシみたいにして使いやすくあげるから、後はあなたの道具にすればいいじゃない」

 

 美しい容姿に反して醜悪な表情を浮かべ、低俗極まりない仕草をするティファレトに対し、ホドは激しく胸ぐらをつかんで睨みつけた。

 

「なに?さっきも言ったけど、これはおじいさまの許可も得てる事よ。

 大丈夫、この私の事を愛せばいいのよ。そしたらその下らない怒りも失せるわ」

 

 掴んだ胸ぐらを乱暴に離し、何も言わずにその場を後にするホド。背後からは意地の悪い笑い声が聞こえていた。

 

(俺が……必ず……)

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……腰が痛い……」

 

 少しだけ寝るつもりだったが、いつの間にか夕飯の時間をすぎていた。寝なれない硬い床のせいで身体中が悲鳴の様に痛みを発していた。

 

「あー!三日月!フレイヤ!どこいってたのー!みんなもう先に食べて行っちゃったよ!」

 

「フレイヤと寝てた」

 

「えっ…?」

 

 アトラがフレイヤの方を見ると、腰を抑えて何やら辛そうにしている。

 

「えっ……?えーーーー!!!??」

 

「ど、どうしたの」

 

「ね、ねねねねたって……えーーーー!!!?」

 

「寝た……?あ、あぁーー!!!??ちがう!ちがうよ!ねね寝たってのは一緒に寝ただけで!!!!」

 

「ねね寝てるじゃん!!!??」

 

「そそそそうじゃなくて!その、セ……ア、アンナコトやコンナコトはしししてないよ!!」

 

 お互い顔を真っ赤にしてフレイヤとアトラぎゃあぎゃあと騒いでいる。三日月はいつの間にか席に着いていて、空腹を火星ヤシで誤魔化しながらアトラがご飯を用意してくれるのを待っていた。

 

「けど、まぁ……」

 

「?」

 

「わ、私は3人でも……大丈夫だよ……!」

 

「えぇ……」

 

 

 

 

 

 

 食事や入浴を済ませたフレイヤ達が床につこうとした時、部屋に備え付けてあるPCに1通のメールが届いた。1番近くにいたツカサが内容を確認する。

 

「フレイヤはんにメール来てまっせ」

 

「誰から?」

 

「えっと……フェニックスの試験の時にお世話になったメカニックの人……」

 

 

“フレイヤさん

 

 お久しぶりです。

 

 さっそく本題ですがガンダムフレーム用の装備と換装ユニット完成の目処が着いたので先にデータだけ送っておきます。

 完成したら直接持っていきますので楽しみしていてください。

 

          ヨッド・ターコイズ”

 

「こんな名前だったんだ……」

 

「もう、フレイヤはん、そこちゃいますやろ〜

とりあえず……データってこれかいな」

 

 

 メールに添付されていたファイルを開くと、確かにガンダムフレーム用と思わしき装備等のデータであった。

 

「わぁ、なんかすごくごつい」

 

「ほんまやねぇ、にしてもあんまり他で見いひん様なもんばっかついとるわ……ん?なんやこれ?」




ちなみにヨッドさんは単純に名乗らせるの忘れてたの補足した感じですっ!

原作に存在しないバルバトスのカスタムも許されるはず!画力があればもっとわかりやすくできるんですけどねぇ(´°̥̥̥ω°̥̥̥`)


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14:純白

最近たくさんのコメントを頂いてて大変モチベーションになってます!ありがとうございますぅ!!!
今回は短めとなってます(-。-;


(食べてくれるかなぁ……)

 

 フレイヤはアトラに習って作ったおにぎりを持ってモビルスーツ格納庫に訪れていた。結局昨日の誤解は解けず、アトラにはとんでもない勘違いをされたままなので教えてもらってる時も時も微妙な雰囲気(というよりアトラは気にしてないが、アトラの“3人でもいいよ”というスタイルに少しフレイヤが引いてる)が流れていた。

 

「あ、三日月クン……って……あ、危ないなぁアレ……」

 

 阿頼耶識を接続したまま三日月はバルバトスのオプチカルシーカーにぶら下がり、懸垂をしていた。

 

(そういえば阿頼耶識がつながってないと右腕が動かないんだっけ)

 

 

 

 フレイヤは設備を操作して懸垂をしている三日月の元へと向かい、声をかける。

 

「み、三日月くん!」

 

「ん……フレイヤ。どうしたの」

 

「お、おにぎり作ったんだけど……どう?」

 

 少し頬を染め、おにぎりの入ったランチボックスを差し出しすフレイヤ。三日月はそれを数秒見つめたあと少し微笑んだ。

 

「ちょうど腹減ってたし、貰っていいか?」

 

「う、うん!たくさんあるよ!あ、アトラちゃんに手伝ってもらってさ!梅もあるし、塩握りもあるし、唐揚げもあるし、これも、これだって……」

 

「こんなに持てないよ……」

 

 少し困った様な顔をしつつも、渡されたおにぎりを一旦ボックスに戻し、座っておにぎりを頬張る三日月。

 

「うん、うまい」

 

「ほんと!?」

 

 その頃、格納庫入口を覗く2つの影があった。

 

(ぐぎぎぎ……三日月の野郎ォ……!!フレイヤちゃんのおにぎりをォ……!!)

 

(ぐぎぎぎ……ちゃいますやろぉ……!フレイヤはんはウチが……!!!)

 

 

 キラキラと目を輝かせて、嬉しそうにするフレイヤをユージンとツカサが愛憎混じる物凄い表情で見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇を漂う星々の中、独特なデザインを誇る1隻の宇宙艦が存在した。その艦のブリッジには、まるで神話的な美しさを持つ少女が座っていた。

 

「ティファレト様」

 

 少女の隣に立つ男が話しかけると、ティファレトと呼ばれた少女はやや不機嫌そうな態度を取った。

 

「なに?この椅子に鏡をつけた事には取り合わないわよ?」

 

「いえ、その事ではないですが。

 前方にギャラルホルンの艦らしき物があり、停止命令を受けています」

 

「無視よ無視、ちょうどいいじゃない。

 邪魔をするなら準備運動も兼ねて私が出るわ」

 

「……戦闘を?」

 

「当たり前じゃない、全て壊せばいいのよ。跡形もなくね」

 

 

 

 

 

「ダメです。停船命令、警告共に全て無視されてます」

 

「仕方がない、各員戦闘配置につけ!」

 

 ギャラルホルンは、ティファレトが乗る艦に何度も警告を発していたが、無視されたために実力行使に出ることになった。数分後にはグレイズ4体が出撃し、船に向かって爆進した。

 ティファレトの艦から1機のモビルスーツが飛び出してくる。全体的に曲線が美しい、まるで美術品のような純白を基調とした金の混じる機体だ。

 

『敵艦よりモビルスーツ1機の出撃を確認!ガンダムフレームの様です!キャノン砲らしき物を背負った形状を見るに後方支援タイプと推定!』

 

『フォーメーションテトラで行くぞ!』

 

『『『了解!』』』

 

 

グレイズが接近してきたため近接戦闘には不利だと判断したのか、ガンダムは肩に背負ったキャノン砲らしき武装をパージし、背中から引き抜いたロングソードを両手で構えた。

 

「思い切りはいいが!1機ではこの連携は崩せんよ!」

 

 4機のグレイズは正四面体の様な位置どりでガンダムを取り囲む。確かにこの1機ではこれを突破するのはかなり難しいだろう。

 

ピピーーー!

 

「なんだ!?」

 

 突如嫌な電子音が鳴り響く。何事かと画面を確認すると“LOST”の文字。味方のグレイズが1機撃墜された事を意味していた。しかし目の前の敵は動く素振りを見せていない。

 すると自分の機体が激しく揺れると共に鈍い金属音がコクピットに響く。

 

「ぐああああ!?な、なんだぁああ!?」

 

 画面には自分の乗るグレイズの武器を持つ手が腕ごと弾き飛ばされた事が表示されている。

 

「増援か!?しかし、そんな反応は……!」

 

 ガンダムより少し距離をとって周囲を見渡すと、先ほどパージされたキャノン砲がこちらを向いている。

 

「ま、まさか……!」

 

“LOST”

 

「はっ!?」

 

 気を取られているうちに、味方の搭乗員がガンダムフレームのコックピットに貫かれてしまった。もう一機の仲間は唖然としながら、続けざまにガンダムフレームを攻撃したが、それには振り向かず、認識範囲外から飛来した鉄杭が数本通り抜けると、グレイズは圧倒的な破壊を受け、残骸が散らばった。

 

「なんだよ……!?遠隔兵装だなんて、リアクターがあるんだぞ!!??ふざけ」

 

 理不尽に対する怒りや悔しさを最後まで吐き切る事なく、ガンダムによる一撃でただの鉄塊へと変わった。

 

 ガンダムフレームのコクピットでは、ティファレトが腹を抱えて大笑いしていた。

 

「アハハハハハ!!!いつみても最高ねぇ!私のヴァラクに蹂躙される者の焦燥と何が起きたかも理解できずに死んでいく様は!

さぁて、あとは艦を沈めるだけねぇ……あら?降伏サイン……?」

 

おそらく、先ほどの4機が搭載する全てのモビルスーツだったのだろう。ギャラルホルンの艦はこちらへと降伏を申し出てきた。しかし、ティファレトはそれを受け入れる気は全くと言っていいほどにないようであった。

 

「ばぁーーーっか!!!騎士なら騎士らしく最後まで抗う事ねぇ!!

 手向けにドラコカプトの残弾全てを使ってあげるわぁ!」

 

 

 “蹂躙”

 

 ただその一言に尽きた。彼女は執念深く攻撃を繰り返す。鉄杭をあらゆる角度から撃ち込み、時には自身のロングソードで叩きつぶす。その執拗な攻撃には、ドロドロとした悪意が漲っていた。ティファレトの旗艦の乗組員たちでさえ戦慄し、手を止め、ただただ画面に映し出される彼女の暴虐を見つめていた。

 




ティファレトちゃんはブロンド碧眼です!良い性格をしてます!

三日月を喋らせるのってめちゃくちゃ難しい……^^;


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15:クリュセにて

遅くなりました!!!
実験的に挿絵も入れてみましたが、ちょっと閲覧注意となっております!!あと、リアルがそこそこ忙しくて最初できなかったのでラフ絵になってます。後々清書しようと思ってます!


「フレイヤはん、フレイヤはん」

 

 日曜日の朝、起きて朝食を取ったばかりの暇な時間。鉄華団は交代勤務なのでほぼいつもと変わらないのだが、フレイヤとツカサは休日をもらっていた。

 

「なーに、ツカサちゃん」

 

「ウチ、クリュセ行きたいんです」

 

「うん」

 

「連れてってくれまへんか?」

 

「うーん、連れてってって言われても……私、ここについての知識はツカサちゃんと同じくらいだよ?」

 

「……そう言えばそうでしたわぁ」

 

「アトラちゃんもさそ……」

 

「いや、アトラはんはお仕事とか忙しそうですし、邪魔したらあきまへんわ!あと、ウチはフレイヤはんとでぇとしたいんですわ!」

 

 フレイヤは言葉を遮られ、両手を握られながら熱弁をうける。「そこまで行きたいのなら」という事で2人はクリュセに向かう事になった。

 

 

 

 

 

「おーい、三日月ー!」

 

 雪之丞に名前を呼ばれた三日月は、日課の筋トレ中断し降りてきた。

 

「なに?おやっさん」

 

「フェニックスの事なんだが、ちょっと検査したくてな。乗ってくれねぇか?」

 

「勝手に乗っていいの?」

 

「フレイヤには許可はとってあるからよ」

 

「そっか、わかった」

 

 早速フェニックスに乗り込んでシートに腰を下ろす。鉄華団の所有するモビルスーツのコクピットとは違って全体的に流線的なデザインとなっていて、シートも座り心地が良く、高級スポーツカーの様な雰囲気があった。

 

「変な形の操縦桿だ」

 

『確かに珍しいタイプだな、コントロールシリンダーって名前らしい』

 

「へぇ、慣れれば使いやすそうだね」

 

 三日月が起動せずにカチカチとシリンダーをいじりって手に馴染ませていると、雪之丞が準備完了したと合図が送られてきた。

 

「了解。三日月・オーガス、フェニックス起動するよ」

 

 フェニックスのツインアイに橙の光が灯る。

 

「ぐっ……!!」

 

 阿頼耶識を通じて強い負荷が三日月の体に流れ込んだ。鼻血が顎から滴り、三日月は肩で息をしている。

 

『大丈夫か?』

 

「うん、多分普通に動かせる……けど」

 

 簡単にフェニックスの腕や足を動かしているのを見ると、言っている通り動作自体は申し分ないようである。

 

「何だかこいつ……俺のこと嫌ってるみたいだ」

 

 

 

 

 

「ほぉー、歳星ほどじゃないにしてもそれなりに都会やなぁ」

 

「ほんとだねぇ。そういえば何しにきたの?」

 

「んー……まぁ、オシゴトですわぁ。ほらここ」

 

「……配送会社?バイトでもするの?」

 

「んもぉ〜!ちゃいますってぇ!姐さんに送るものがあるんですわ!」

 

「なぁんだ」

 

「ほな、ウチは色々手続きとかありますからその間好きにしといてくださいな!」

 

 そういうとツカサは中に入っていき、フレイヤは1人残されてしまった。好きにしとこうにも自分もほとんど来たことがないので、土地勘なんてないのである。

とりあえず周りのお店を見て回ることにした。

 

 飲食店を筆頭に色々な店が建ち並び、楽しい雰囲気が街中に立ち込めている。ぼんやりとただ歩いていると、ショーウィンドウに目が留まった。

 

「わぁ……」

 

 煌びやかな照明に照らされるドレス。クーデリアモデルと書かれているそれはフレイヤの心を射止めた。

 

「うわ、すごい高い……あ、この人がクーデリアって人かな?」

 

 写真に映る金髪の美少女につい見とれてしまう。どこかのお姫様なのか?と考えてしまうほどに気品溢れる凛々しい顔だった。

 

「ケセド様♪」

 

 ここで聞くはずのない言葉が耳に入り、即座に音源の方を振り返る。そこには可愛らしいショートの女の子が立っていた。

 

(誰……?)

 

 ニコニコと笑う少女は踵を返し小走りで裏路地へ入っていく。

 

「待っ……!」

 

 フレイヤは慌てて後を追って同じように裏路地へと入ると、横道に曲がる瞬間だけの姿が見えた。さらにそこを追うとまた曲がる瞬間、それが2、3度続いて横道に入ると、行き止まりにその少女がこちらに背を向けて立っていた。

 

「ハァ……ハァ……あ、あの……もしかして、私のこと知ってたりとか……」

 

 フレイヤがそう話しかけると、少女はくるりとこちらを振り向く。

 

「はい!お慕いしております!ケセド様!」

 

 その瞬間、背後から硬いものが猛然と襲いかかり、フレイヤはうつ伏せに崩れ落ちた。視界が揺れ動き、やがて意識が暗闇に包まれた

 

 

 

 

 

 

「んん……はっ!?」

 

 フレイヤは意識を取り戻してすぐに辺りを見わたした。どこかの倉庫にいるらしいが、広々とした空間には何もなく、寂しい静寂が漂っていた。起き上がろうとしたが、後ろ手に縛られた両手が邪魔をする。

 暫くもがいていると、ガチャリと扉が開き、先ほどの少女と男が入ってきた。

 

「あ、ケセド様!起きられたのですね!」

 

 少女はとても親しそうに近づいてきて、フレイヤの胸に顔を埋めて頬擦りした。

 

「あの……あなたは?」

 

「あぁ、そういえば記憶がないのでしたね。ワタクシ、イシュリアと申します!」

 

「は、はぁ……」

 

「うふ、ティファレト様の命で会いにきたんです!では早速、お願いします!」

 

 少女は男にニコリと笑って何かを指示した。その瞬間、フレイヤの腹部に鈍い痛みが走り、一瞬呼吸が止まった。男の全力の拳がフレイヤの鳩尾にめり込んでいて体内の空気が吐き出された。

 

「カ……ハッ……!?」

 

 少女は少し悲しそうな顔をしてフレイヤの頬を優しくさする。

 

「ごめんなさいね。ワタクシ、ケセド様のこと大好きなんですけど、ティファレト様のがもっと大好きなんです。ティファレト様に言われてるからしょうがないのです………」

 

「な……何を……言って……グブッ!」

 

 鳩尾の次は顔面に拳がめり込む。鼻から生暖かい液体が滴る感触があり、口にまで鉄臭さが流れ込む。そして次々に鳩尾、顔面と的確にダメージが入る部位を男は容赦なく痛めつけてくる。

 

「しかし流石セフィラの1人ですね。大の男にここまで痛めつけられてその傷で済むなんて」

 

※閲覧注意

【挿絵表示】

 

 

 イシュリアはフレイヤの頬に頬ずりをした後、お互いの吐息がかかる位置に顔を持ってくる。

 

「ケセド様、キスしても良いですか?」

 

「うぅ……ひゃだ……もうひゃめて……」

 

「あら、それは残念です……せめてファーストキスくらいは貰いたかったのですが……では次お願いします」

 

 男はフレイヤの上に覆い被さった。首筋に強く吸い付き、両手で胸や他の場所を弄っている。

 

「これもティファレト様の命令なのです。申し訳ございませんね」

 

 

 突如、銃声が鳴り響いた。そしてその直後、男の体がずるりと横に崩れ落ちる。男は脇腹を抑えていて、その指の隙間からは服を液体が赤く染めていくのがわかった。

 

 イシュリアは呆気にとられ、数秒間動けずにいたがようやく状況の把握を試みた。どこから撃たれたのかを探すが、誰も入ってきてはいないし、狙撃される様な場所でもない。

 ふと、気づく。可能性をゼロだと断定していたため最初は気づいてはいなかったが、凶弾の発生源と思われる物はフレイヤの手に握られていた。




コメントとか、こうしたら良いんじゃないの?ってご意見があったらぜひお願いします!


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16:もう一つの

遅くなりましたぁ!
そろそろ鉄華団のキャラを活躍させていきたいなーって思います!

ちょっとここ数話は自分でもイマイチかなーって思ってるんですがどうなんでしょうか(~_~;)

それにしてもロボットって書くの難しいですよねぇ……全然かっこよくデザインできません(^^;;


フレイヤはゆっくりと起き上がる。だがダメージは体に残っている様でフラフラと揺れている。

 

「…………」

 

 鋭い獣の様な眼、弱々しい仔犬の様に見えた少女はどこにもいない。

 

 先ほどの仕返しだろうか、フレイヤは口と手に1発ずつ銃弾を打ち込んだ。男は出血多量によって失神している様で、悲鳴を上げることなく痙攣している。

 

「だ、誰ですかあなたは!」

 

 イシュリアは先程までの余裕そうな笑顔が消え、頬を冷や汗が伝う。

 

「ケセド様はそんな眼……しません!

 笑顔が素敵で、暴力的な事は嫌いな人だ!」

 

「…………」

 

(くっ……私も銃を持っておくべきだった……!

 けど………!)

 

 数秒の緊迫した無言の間を銃声が引き裂く。放たれた弾はイシュリアの頬を少し深く掠め血が滴るもフレイヤに組みついた。

 

(指と銃口が教えてくれる!)

 

 しかし、小柄な体のどこからそんな力が出ているのか、イシュリアは組みついた腕を強引に外してくるフレイヤに戦慄する。

 

(馬鹿な……!?肉体強化はほとんどされてないはず!……!!くそっ!)

 

「うおああぁああああああ!!」

 

 イシュリアは何とかフレイヤからの組付をいなし、倉庫から脱出した。

 

「うぅ……!アレは私の知ってるケセド様じゃ……!」

 

 

 

 フレイヤは起き上がり、倉庫の出口へと向かう。殴られたダメージによって足元がおぼつかず、何度も倒れ込みそうになる。

 

 

 外にでるとどこかの裏路地、壁に体を預けながらゆっくり表に出ようと歩みを進めるも、倒れ込んでしまう。そのまま匍匐前進の様にして少しでも進もうとするが、もはやもがいてる様にしか見えない。

 

 痛みと疲労により、闇が意識を包んでいく。やがてその闇に沈むかのように意識は途絶え、フレイヤの体は動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 オルガの元にその連絡が届いたのはフレイヤが搬送された後で、オルガは何人かの団員を連れてフレイヤがいるらしい病院へと向かった。

 

「ここか……」

 

 オルガが扉を3回ノックすると、中から涙声の少女の「はい」という声が聞こえた。ゆっくりとスライド式のドアを開けて入室する。再生治療設備の横で目を腫らしたツカサが座っている。こちらをチラリと向くと、大粒の涙がボロボロとこぼれる。

 

「オ、オルガはん"……!ウ"、ウ"ヂが目をはなじだばっがりに"、ふ、フレイヤがざん"が、こ、こんな風"に"!」

 

「落ち着きな、お前のせいじゃ無いさ」

 

 突っ伏してわんわんと鳴き始めるツカサにオルガは優しく声をかける。

 

「ふ、フレイヤは!?」

 

 後ろから割り込む様に入ってきたアトラが培養液に包まれて眠るフレイヤに近づき、容態を確認する。

 

「うっ……!」

 

 あまりにも酷い有様だった。顔中は青あざだらけで蓋のような物で隠されて少しだけ見える鎖骨あたりにも傷があった。

 

「クソッ!何だよこれ!誰がやったんだよ!」

 

 ユージンは怒りにまかせ壁を殴りつける。拳から血が滲み、壁に滴った。

 

「フレイヤもウチの大事な団員だ。こんなにした奴にはしっかりと落とし前はつけてもらうさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、連れてもこずに逃げ帰ってきたってわけ?」

 

「はい」

 

 ティファレトは手に持つグラスに入っているシャンパンをイシュリアにぶちまける。中身が飛び散り、髪や服にかかった。しかし、イシュリアは意に介してないようで、にこにことした表情を保っている。

 

「ふん……まぁ、ケセドが動けなくなる程度にやったんなら……次の策を考えないとねぇ。もう休んでいいわよ。あ、ついでにこのシャンパン捨てといて、飲んでもいいけど」

 

「……大分残ってますが」

 

「飽きたもん。どうせ馬鹿な信者共から巻き上げてお金なんていくらでもあるんだから、後でいつでも飲めるじゃない?ほら、グラスも」

 

「……わかりました」

 

 

 

 イシュリアは差し出されたグラスとシャンパンのボトルを受け取り裏に下がる。ボトルは通りかかった非番の乗組員にくれてやり、グラスを持ってキッチンへ向かう。

 

「…………」

 

 グラスの洗浄機の前に立ったかと思えば、おもむろに先ほどまでティファレトの口が触れていた部分へと唇を重ねる。そして口を離し、数秒間目を瞑る。

 

「……ぞわぞわしない」

 

 いつもはこの行為の後に恍惚な表情を浮かべているのだが、今日は何とも感じない。代わりに違うものが浮かんでくる。

 

小柄な体、可愛らしい顔、豹変した後のあの鋭い目や殺意。

 食洗機へとグラスを放り込み、自室へと向かったをベッドに身を投げ、天井を見つめる。

 

「ケセド様……」

 

 イシュリアはそう呟いて体を弓なりに反らし、体を熱らせて浅い呼吸を数分間繰り返す。そして最後に深くため息をつき、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 オルガとユージンはフレイヤの病室へと急いでいた。何とフレイヤが目を覚ましたというのである。院内を早歩きで進み、フレイヤの個室の扉を開いた。

 

「「フレイヤ(ちゃん!)」」

 

 そこには着替え中でパンツだけのフレイヤが立っていた。男2人が固まっていると、枕が2つ飛んできてオルガとユージンの顔に直撃した。

 

 

 

 病室の扉を3回ノックして扉を開ける。

 

「失礼します……」

 

 まるでデジャブの様な光景、2人を見つめるメリビットさんとアトラの笑顔がとても怖い。

 

「フレイヤ、貴女も貴女よ?裸見られてるのにほぼノーリアクションだし。

 悲鳴あげてボコボコにして髪掴んで病院中引き摺り回してもいいのよ?」

 

「い、いや……それは迷惑かと……」

 

「にしても……」

 

 オルガは訝しげな表情でもうすでに青あざが薄くなってきているフレイヤの顔をじっと見つめる。

 

「治るの早すぎないか?もう傷口はかさぶたが剥がれ始めてるしよ」

 

「ご、ご飯いっぱい食べたから……」

 

「そうそう、フレイヤったら日持ちするのを3日分ぐらい持ってたのに1日で食べたんだよ!」

 

 フレイヤは手で覆うが、耳が真っ赤になっておりプルプルと震えながら「オナカスイテタンダモン……」と繰り返している。

 

「まぁ、何しても……フレイヤちゃんが無事で良かったぜ!!」

 

 

 

 

 

「それじゃあフレイヤ!私たち帰るから!明日も来るね!」

 

「じゃあな」

 

「ふへへ、フレイヤちゃん、お大事に!こ、今度またデートなんて……」

 

「良いですよ〜」

 

「うおっまじっすk」

 

「オラ、帰るぞユージン」

 

「うおお、ま、また明日!俺も来るから〜!」

 

「明日は幹部会議だろーが」

 

 楽しそうなみんなの声が遠ざかっていき、ポツンとフレイヤだけが残された。

 

「ゲホッ!ゲホッ!」

 

 静かな個室にフレイヤの激しい咳だけがこだまする。肩で息をしながら口元を抑えた手を離すと、殆ど血の血痰がへばりついていた。

 

お前の体は貧弱すぎるよ

 

「私は……普通の女の子だもん」

 

いつまでそう言い聞かせるの?

 

「あなたは……だれ?」

 

この間まで普通に会話してたじゃないか。記憶の残滓がまばらに残ってるのかねぇ?

 

 しばらくフラフラと揺れるフレイヤ。しかし、意識が保てなくなり、そのままベッドへと倒れ込んだ。ぐらぐらと視界が揺れ、眠りにつくように無意識の沼の中に沈んでゆく。




イシュリアちゃんの描写はかいててこいつ気持ち悪いなぁって思ってました笑

オリキャラばーっか出てますがちゃんと全員話に絡めつつも消化してしまおうと思ってます!そろそろギャラホのメンツも出したいなぁ……収集つかなくなりそうだけど(╹◡╹;)


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17:出発

すいません!リアルがちょっと忙しくて遅くなりました!そしてめちゃくちゃ短いです……キリのいいとこで買ったらこうなっちゃいました……
3日か4日ほどで続きを上げるので少々お待ちいただけると幸いです!


それとお気に入りしてくださってる方が100人超えてました!!こんなスローペースで駄文を垂れ流してる中ありがとうございます!!

何か意見等がございましたらバンバンお願いします!


「無事に退院できてよかったね!」

 

 アトラはトラックを運転しながら病院から迎えたばっかりのフレイヤに話しかける。

 

「…………」

 

 フレイヤは窓の淵に頬杖を付いたまま聞こえていないのか返事をする事もなく外を見ていた。

 

「フレイヤ?」

 

「……ん?あ、ごめん。ちょっと体調悪くって……」

 

「そうなの?大丈夫?」

 

 フレイヤは何か悩みでもあるのかさっきから時折困ったような表情を見せる。しかし、ほんの一瞬で確証が持てないのでなかなか切り出しにくい。

 

(むぅ、せっかくまた一緒に暮らせるのになぁ)

 

 

 

 

 

「フレイヤはぁーーーん♡!!!!!」

 

「わわっ!」

 

 帰って来るなり出迎えてくれたのはツカサの抱擁だった。胸から腹にかけて頬擦りをし、深呼吸の様にフレイヤの匂いを嗅いでいる。

 

「つ、ツカサちゃん!うぐっ……!!あ!?ちょ、どこ触って……うひゃあ!!??」

 

 

 フレイヤがツカサにもみくちゃにされて息も絶え絶えになっている所にアトラが止めに入った。

 

「ツカサちゃん、フレイヤ体調悪いらしいから!」

 

「あ、そうですのん?す、すんまへん……あまりにも嬉しくて……」

 

「ううん、大丈夫だよ!」

 

 その後も鉄華団のみんなはフレイヤが帰ってきたことを喜んでくれているようで、すれ違うたびに声をかけてくれた。軽く返事をしつつ、少しフラつきながら数日ぶりの部屋に入り、ベッドに身体を投げ出した。体調の悪さを少しでも和らげようと、重い体を緩めて柔らかいベッドに寝そべった。

 

「うーー……不便な体だ…………」

 

 

 

 

 

 

「地球支部が攻撃を受けてる!?」

 

 突然の知らせにオルガはつい大声を上げる。画面の先のチャドは後頭部を掻きながら困った様な表情をしていた。

 

『いや……攻撃というか何というか……

 攻撃は受けてるんだが、建物に弾1、2発撃って逃げるってのを繰り返されてて……』

 

「……なんだそれ?」

 

『怪我人とか死人が出たわけじゃないんだが……まぁ、修繕費とか諸々がちょっと嵩んでるって感じなんだ』

 

「……わかった、すぐにそっちに向かう」

 

「げぇ、この前戻ってきたのにまた地球かよ!」

 

 ユージンが心底嫌そうにソファにもたれかかる。

 

「どんなに被害が小さくてもよ、俺たちはナメられたら終わりなんだ。しかも今は大事な時期だ、徹底的に行かなきゃならねぇ。俺たちが日和ったら名瀬の兄貴たちの面にまで泥塗っちまう」

 

 

 

 

 

 数時間後、手続きを終えて宇宙に出た鉄華団の一行は、念の為の護衛として昭弘とシノを火星に残して地球へと急いだ。エドモントン事件でギャラルホルンとのコネができ、“正規ルート”が使えるため、以前よりも早く地球に到着することができるだろう。

 

 順調に進む中、オルガはユージンがやけにソワソワしていて落ち着きがないことに気づいた。

 

「どうした?ユージン」

 

「ん?あ あぁ……いや、フレイヤちゃんの体調が悪いみたいでよ……心配というか……」

 

「……そういえば顔青くして腹痛そうにしてたなぁ?……拾い食いでもしたんじゃねーのか?」

 

「ふ、フレイヤちゃんがそんなことするわけねーだろ!」

 

「あれじゃね?しばらく病院食食べてたから久しぶりにパンチの効いたもん食べて胃もたれしてんじゃね?昨日カレーだったし」

 

「それだ」

 

「それだな」

 

「お前天才かよ」

 

フレイヤの体調について考察し合っている男たちの話を聞いて、通信オペレーターをしているメリビットは小さくため息をつく。

 

(この子達ほんとにバカね…………)

 

 

【挿絵表示】

 




いやぁ、前の絵も今回の絵も清書する時間が取れませんでした……

絵も下手文も下手ですがこれからもよろしくお願いします!


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18:悪魔達の騒乱

ちょっと色々ミスってたので投稿し直しました!!!

遅れましたーーーー!
遅筆なのでテンポ良く進めようと思ってるんですが、描写不足とか色々ありそうですねえ


 「ん……」

 

  目が覚めるといつもの天井、私は大きな欠伸をしてムクリと体を起こした。足元に違和感を覚えてそちらを見やると膝あたりまで下着が下がっていた。私は恐る恐る利き手を鼻に近づける。

 

「ゔ……手洗わなきゃ」

 

 

 この戦艦には乗組員は基本的に相部屋だが、ティファレト様と私ともう1人には専用の部屋がある。というかこの組織において私たち3人の様な存在は“偉い”のである。しかしティファレト様がいくらわがままをいようともここは戦艦、自由度には限界があるため専用の洗面台やトイレは自分専用を主張したティファレト様の意見は妥協され、私たち3人は共用という事になった。

 

「イシュリィ〜」

 

 手を洗っていると、1人の女が私に話しかけてきた。こいつがそのもう1人である。だらしなく着崩した服装に馬鹿みたいで下品なマゼンタの髪色の女、目が痛いからやめろと言っても自分のパーソナルカラーだと言って譲らない。機体だってこの色で染めているのだ。こんな女と気の合う奴なんていないだろう。

 

「あんた、一応ティファレト様からの指定の服なんだからちゃんと着なさいよ」

 

「はぁ〜?こんなのあの人(ティファレト様)の趣味でしかないじゃん。メイド服っぽいの選んでるのってさぁ……自分のコト女王様とかお姫様とか思ってるんでしょ〜。かったるくて来てられないよこんなのさぁ」

 

 いわゆるヤンキー座りと呼ばれる体勢でコチラを見上げながら喋ってるこの女の名前はシャルトラである。

 

「つーかあんたさぁ……常識人ぶってるけど……それ……」

 

「……」

 

 目線の先にあるのは歯ブラシ、洗面台が共用のためティファレト様のもある。というかシャルトラとティファレト様のものの2つ分しかない。

 

「いやさぁ、あんたがティファレト様大好きなのはわかるけどさぁ……こっそり歯ブラシ使ってるのフツーにきっしょいからね」

 

 何も言い返せない。正直自分でも自分はまともな人間とは思わない。私は美しいものはなんでも好きになる破廉恥な女なのだ。

 

「そう言えばさぁ、鉄華団……だっけ?ケセドちゃんがいるトコ。あそこの船を捕捉したらしいよ〜?やーっと戦えるねぇ。ねーほら、いこーよ」

 

 シャルトラに手首を掴まれてドックへと引っ張らられてゆく。

それにしてもこいつは戦うことしか頭にない馬鹿だ。昔はこんなのじゃなかったが、おそらく強化された時に頭のネジが外れたのだろう。私たちの事を末端の信者達は祝福されし者(ガヴリエラ)という聞いてるだけで恥ずかしくなる様な名前で呼んでくる。筋力を薬で底上げし、内臓を人工臓器に置き換え、戦いを恐れぬ様脳に電極を刺していじくり回す事が何が祝福なものか。私たち自身やそれを施した研究者、その他一部は皮肉をこめてガヴリエラを強化人間と呼んでいる。

 

 

 ドックにつくと、ヴァラクに乗ったティファレト様の『遅い!!早くしなさいよ!!!』という怒号に促されさっさとノーマルスーツに着替える。確かにこのメイド服は素早く着替えなければならないパイロットに着せるものとしては不適当だ。意外とシャルトラの言い分にも一理あるものだ。着崩していたシャルトラは既に愛機であるオルトロスの中でセットしている様だ。自分も床を蹴ってコカトリスのコクピットへと乗り込み、阿頼耶識を接続する。

 

 しかし私たちやティファレト様方が怪物や悪魔の名を冠したモビルスーツに乗っている事は信者達は何も思わないのだろうか?きっと思わないから馬鹿な信者を続けているのだろう。まぁ、そんな事はどうでもいい。

 

「また会える……ケセド様……!」

 

 

 

 

 

 

 

 イサリビのブリッジに警報が鳴り響いた。

 

「モビルスーツ接近!数は……3機!!!」

 

 その報告を受けた艦長席に座るオルガは片目を瞑ってニヤリと笑う。

 

「ハッ……!読めてたぜ……!流石に露骨過ぎるだろうよ!お前ら!!!出迎えてやれ!!!」

 

 その声に応える様にバルバトス、漏影が発艦する。

 

「……オイ!フレイヤはどうした!?」

 

 カタパルトにはフェニックスに乗ったフレイヤもいるが、発艦する気配はない。

 

『フレイヤ!!フレイヤ!?』

 

「………あ!?す、すみません!」

 

 急いでフェニックスも出撃し、追いつく為にフルスロットルで爆進する。

 

「……見えて来た」

 

 先頭を突き進むバルバトスのセンサーを通じて三日月の網膜がスラスターの光を捉える。まるで全員が我先にと言わんばかりにスラスターを吹かしてこちらへと向かってくる。

 

「こいつが1番強そうだな」

 

 

 一番速かった先頭の純白のガンダムフレームにメイスを叩きつける。タイミングは完璧だったはずだが、その機体は驚異的なほどの反射速度でロングソードを抜いて攻撃をいなし、少しこちらから距離を取った。その横を淡い緑の機体とシノが好みそうなマゼンタの機体が通り過ぎてゆく。

 

『ハァ?何よアンタ、邪魔!』

 

 聞こえて来た女の声色に苛立ちが乗っている。

 

「オレ達からしたらアンタらが邪魔なんだよ」

 

『ハァ〜〜〜……決めた、お前の手足を引きちぎって豚小屋で飼ってやる!!』

 

 

 

 

 

「ケセド様……!ハァハァ……!どこですかぁ!」

 

 イシュリアはシャルトラに先を越されない様に急いでフェニックスを探すが、見当たらない。

 

「………上!!!」

 

 襲って来たそれは黒いモビルスーツ、テイワズの漏影である。認識するのと同時に両腕に収納されていた二本の刃を突き出して防御した。その横を下品なマゼンタが通り過ぎて行く。

 

「あーーーーー!!!!」

 

『アンタの相手は私!』

 

「け、ケセドさまぁ……!うぅ……あなた……許しません……!」

 

 

 

 

 

「アハハーーーッ!見つけたーーーーーーッッッ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 オルトロスが一対の斧をフェニックスに叩きつけると、フェニックスは鉈を前に出しうまくガードする。ギチギチという金属が擦れ合う音がコクピットまで伝わりこだまする。

 

『うわっ!!?』

 

 接触回線が繋がったことによりフェニックスから情けない声が流れてきた。

 

「あは、本当にケセドちゃんの声だぁ!あははは!楽しもうね!強くなったんでしょぉ!!??」




頭のおかしいキャラを描くのって難しいですねぇ、ありきたりな戦闘狂キャラになりがちですし……次回はガッツリバトル展開ですが、やはりこちらも描写が難しい……!

自分の技術不足が所々に出ちゃってますねぇ( ; ; )


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19:騒乱の行方

バトル回ですねー!今回はかなり長くなっております!
推しである三日月を何とか活躍させたかった!!!
やっぱりバトルを頭の中で考えるのは楽しいのですが、いかんせんそれを出力するとなると100倍のエネルギーを使っちゃいます( ; ; )




金属がぶつかり合い、火花が飛び散る。オルトロスはフェニックスを圧倒し、フェニックスは素早いオルトロスを追いきれずにいた。

 

『あっれーーーーッ?そんなに強くないじゃーん?』

 

「くっ……!あぁっ!?うぁっ!」

 

『ほらほらぁ、死んじゃうよぉ?

 そういえばさぁ、昨日イシュがさぁ……ケセドちゃんの名前ずっと呼びながらお楽しみしててさぁ……めーっちゃ笑っちゃったよねぇ。アイツ可愛い子好きだからなぁ……』

 

「うわぁっ!あ、あなたは!ぐっ!!何を!言ってるんです!!くぅっ!」

 

 鬼の様な猛攻を仕掛けながらも回線の先の少女は、まるでカフェで時間を潰してるかの様に砕けた口調で平然としたまま喋りかけてくる。それがまたこちらのペースを乱し、対応を遅らせてくる。

 

『何って、イシュリアがケセドちゃんでオナニーしてたってこと!』

 

「オ、オナ……!?わ、私で……!?」

 

『べつにケセドちゃんもするでしょ?

 あ、男多いっぽいし誰かとヤってんの?』

 

「誰ともそんなこと……って!」

 

 相手のペースに乗せられて集中できてないことを自覚し、フレイヤは黙った。

 

(乱されちゃだめだ……!集中、集中……!)

 

『えー?反応してくれないとつまらないよ〜ほらっ!ほらっ!』

 

 オルトロスに翻弄され、少しずつ機体に傷が増えてゆく。しかし、フレイヤも少しずつその素早さに慣れてきていた。

 

「そっ、そこっ!」

 

「うぉっ!?」

 

 フレイヤの反撃に驚きつつも上手く反応し受け止める。

 

『へぇ……!本当に動きが違う……!

 な〜んか混ざってるねぇ?あは、あれかぁ!虫ジジイのファイルに載ってたやつ!』

 

「さっきから……!ベラベラと!」

 

「おぉ!?はっやい!全然違うよォ!!?」

 

 先ほどの一方的にシャルトラがじゃれついてた状況から、もはや殺し合いへと変質していた。光が閃を描いて交わるたびに火花を散らしてゆく。

 

「アハハハッ!その中身引き摺り出してあげるよ!!リミッター解除ォ!!」

 

 オルトロスの機体各部あるランプが赤く灯り、オルトロスの動きがさらに激しくなる。

 

『アヒャヒャ!さあ!!地獄を楽しもうよォ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くっ……!シャルの方はどうなってる……!ティファレト様の方は!?)

 

 イシュリアはコカトリスの頭部をキョロキョロと動かして2人の状況を把握しようと試みた。抑え難い狂人達に挟まれて苦労しているのはいつもの事である。

 

「よそ見してんなーーーー!!!」

 

「チィッ!邪魔です!!!」

 

 漏影がこちらへと攻撃してきたが、軽々といなして背中を蹴り飛ばす。有象無象に構ってる暇はないのだ。しかし、即座に体勢を立て直し再度攻撃を仕掛けてくる漏影に苛立ちが爆発する。

 

「本当に!邪魔ッッッ!」

 

 腕の刃を一振り、しかし先程までいなすだけだったコカトリスの刃に殺意がこもっている。

 

「私がッ!あの2人の為にッ!どれだけ苦労してると思ってるんですかッ!」

 

 ラフタに日頃の不満を吐き出す様に叩きつける一撃は見かけ以上に重く、また空間を縦横無尽に駆けるそのスピードは普通のパイロットであれば既に血反吐を吐いてるであろう程の異常な動きであった。

 

「くっ……!なんなのコイツ!!動きがキモすぎる!!」

 

 状況は逆転し、攻め込んでいたラフタがイシュリアの攻撃を必死に防ぎ、躱す。しかしこの状況がこのまま続けばきっとジリ貧になってしまうだろう。しかしラフタは額に汗を伝わせながらも笑う

 

「やってやろうじゃないの!!!!」

 

 

 

 

『どうしたバルバトス!!!!アハハハ!!私とお前では!!!土俵からして違うのよ!!!!』

 

 三日月は苦戦していた。十二分に強い本体に加えて死角からの砲撃、三日月自身のセンスでなんとか致命傷は避けているものの、一部の装甲は抉られている。

 

「いちいちうるさいな、もっと静かにできないの?」

 

『あ"ぁ"!?』

 

 煽り耐性というものが皆無な様で、こちらへと突っ込んでくる。しかし、ド真っ直ぐなんて甘い動きはしてくれず、推力と強化された肉体に物を言わせた恐ろしい軌道でこちらへと向かってくる。

 

「見えた」

 

「あ?」

 

 ヴァラクの動きに合わせてバルバトスがメイスを振るう……が、やはり異常な反射速度でそれを躱されすれ違う様な形になる。

 

『バカねぇ!見えてんのはこっち………あぁ!?』

 

 何か違和感を感じたティファレトはコクピットのパネルを2、3度操作すると舌打ちをした。

 

『へぇ、見えたってそういう事ね?やるじゃない?ふーん』

 

 平静を装ってるが、声に相当な苛立ちがこもっていた。

 

『気づいたのねぇ?ドラコカプトのコト』

 

先ほどの攻撃で三日月が狙ったのはヴァラク本体でもドラコカプトでもない。その2つの間を飛び回っていた小さな“中継機”である。そもそもエイハブリアクターの影響下では基本的に遠隔兵器は使えない。しかしほぼ唯一その影響を受けない通信がLCS、レーザー通信である。

 

 それを用いることによりドラコカプトの操作範囲を底上げし、多少の遮蔽物では切断されないの様にしているのである。逆にいえばそれが破壊されれば操作範囲は半分以下になり、簡単な遮蔽で阻害されてしまうという事と同義なのだ。

 

 

『なに?それくらいでイキってるわけ?ほんとにムカつくわねぇ、さっさと殺してやるわ』

 

 

 

 

 

「アハハハ!!!どうしたのー!?また逃げてばっかじゃーん!!ちょっと本気出したらこうな訳ー!?」

 

「うわぁぁ!!」

 

 重いオルトロスの一撃をなんとか2本の鉈で受け止めた。

 

『まだまだぁぁあっ!!!』

 

 シャルトラがそう叫ぶと同時にオルトロスのバックパックが変形し、手斧を持った2本の腕が現れ、振り下ろされる。

 

「隠し腕ッ!!?」

 

『死んじゃいなぁぁあああああ!!!』

 

 

 フレイヤの世界から音が消えた。迫り来る斧がスローモーションの様に見える。自分が死ぬまでの数秒をゆっくりと味わっていた。

 

死ぬの……?

 

         私が……?

 

      まだ………

 

 みんなと……

           もっと……

 

 やだ

           死ぬのは嫌だ

 

     死ぬのは………!

 

 

 

 

       “私と変われ!”

 

 

 

 

 

 

 ウロボロスは突然バランスを崩しグルリと一回転する。斧と鉈で押し合っていたのだが、隠し腕が振り切る寸前に突如フェニックスが回転したかと思えば目の前から消えたのだ。

 

「くっ!?追えなかった!どこに……ぐあっ!!?」

 

『ははは!遅いぞ!!』

 

 背後からの鋭い衝撃が伝わる。カメラをそちらの方へ向けるとツインアイより青い涙のように光を散らす蹴り付けた体勢のフェニックスがいた。そして全身のバーニアと姿勢制御を駆使してまた2度目の蹴りを放ってくる。蹴りが炸裂する直前に脛から先が猛禽類の爪のように変形し、こちらの背中側を掴み杭を撃ち込もうと構える。

 

「やばいッッッ!!!」

 

 オルトロスは隠し腕を駆使し、フェニックスの足のとある部分を全力で攻撃する。するとどうやら杭を撃ち込む機構が破損したのか不発に終わった。

 

(構造を知ってなきゃ死んでうぁぁあ!!?)

 

 フェニックスは足で掴んでいるオルトロスを投げ飛ばすと同時に腰部左右のレールガンを起動し、オルトロスの右膝と右の隠し腕の関節を的確に撃ち抜いた。

 

「あは!あはは!!なんてエイムしてんのさぁ!!」

 

「久しぶりに戦えるんだ!楽しまんとなぁ!!?」

 

 圧倒的暴力により少しずつ体を失っていくオルトロスをフレイヤは楽しそうにさらに追い詰めてゆく。

 

 

「あは、死ぬ!あはは!アンタ誰だよ!あは!怖い!あはははは!ひぃっ!」

 

 シャルトラは混乱しているのか、顔を涙や鼻水でぐちゃぐちゃにしながらフレイヤの方へとに斧を振り上げ全力で突っ込んで行く。しかしフェニックスはそれすらも軽くかわして残った腕3本も全て薙ぎ払った。

 

「頭が乱れているな、すぐ楽にしてやるぞ!」

 

「ひっ……!あは!あはは!死ぬ!本当に死ぬ!はひっ!怖い!こわ!あひゃ!!」

 

 鉈がコクピットへと振り下ろされる。直撃すれば死は免れないだろう。しかし、途中から急ブレーキを掛けたかのように一気に減速し、コクピットハッチへとぶつかる頃にはナノラミネートアーマーを貫くには不十分なまでに威力が落ちていた。

 

 オルトロスのコクピット内には金属と金属がぶつかる鈍い音だけが響き渡り、シャルトラはパイロットスーツの中に暖かい液体が広がっていくのを感じた。

 

「くっ……!なぜ止める!邪魔をするな!」

 

 フレイヤはヘルメットを外して頭痛に耐えるかのように頭を抱える。

 

「こいつは私私を殺そうとしたんだぞ!」

 

  頭を抱えたままシートに背中を委ねた。

 

 

「逃せばまた来るぞ!」

 

 

「それでもダメって……お前だって人を殺してるだろうが!」

 

 そうこうしているうちに気絶していたシャルトラが目を覚ますと、まだ自分が死んでいないことに気づき、スラスターを全力で噴射させる。

 

「あ!?……くっ!この偽善者が!お前の甘ったれのせいで逃したじゃないかッ!」

 

 

 

 

 

 

『どうしたバルバトス!口だけなのぉ!?』

 

「くっ……!」

 

 ヴァラクに目を向ければカプトに狙撃され、カプトを意識すればヴァラクが攻撃をしてくると言う布陣に三日月は苦戦を強いられていた。

 

なんとかカプトを掻い潜って肉薄し、メイスを叩きつけようと振り下ろした。しかし、死角からまた鉄杭が通り過ぎていき、バルバトスの左腕の肘から先を捻じ飛ばした。

 

 殺しきれないと判断した三日月は即座にヴァラクを蹴って離脱する。

 

 このままではジリ貧である。カプトの残弾数がわかればまだ戦いやすいが、当然ティファレトが教えてくれるはずもない。

 

「だったら……!」

 

「あ!?」

 

 バルバトスはヴァラクから背を向けて加速する。それを見たティファレトは一瞬呆気に取られたかと思えば大笑いし始めた。

 

「アハハハ!!!!!!情けないわねぇ!!!

 逃すかよ!!!!」

 

 ティファレトも最大出力でバルバトスを追いかけてデブリの間をジグザグと潜り抜けてゆく。

 

「このデブリの川でカプトを洗い落とそうってわけぇ?あはは!そんなに生っちょいもんじゃないぞ!!!ほら、もう向こう岸よぉおお!!?」

 

 

 ティファレトは暑苦しいヘルメットを脱ぎ捨て、バルバトスの後を追ってデブリの川を渡り切る。

 

「はは、ここがあんたの三途のひあぁぁあ!?」

 

 視界が晴れた途端に目に映ったのはこちらへと真っ直ぐ飛んでくるメイス

 

「ぬぁあ!!」

 

 間一髪のところで避け、メイスはその横を通り過ぎていった。

 

「くそっ!けどこれで素手……なっ!?」

 

 メイスの次は片腕のバルバトス本体がこちらへと突っ込んでくる。

 

「捨て身ってわけぇぇええ!!!?」

 

 ティファレトは超反射によってロングソードを横に斬り払った

 

「速い!?」

 

阿頼耶識特有の気持ち悪い機動でそれを避けまた通りすぎる

 

(メイスを捨てた分軽く……!)

 

「ハハっ!もう一回デブリの中に逃げようって訳!?けどもう同じ手は使えないわよ!!」

 

 そう言って機体の向きを急速で反転させたティファレトは驚くべきものを見た。カプトを右腕と脇に抱えてこちらへと振りかぶるバルバトス。

 

(まさか……!デブリを通ったのも……!中継機を破壊された方のカプトを私に機体の近くに寄せさせるため……!?)

 

 

 

 三日月の驚くべき戦闘センスに対しティファレトは感心と表現できる感情を抱くと同時に、肉体をいじりまわした自分が、何よりも美しい自分が名も知らぬ雑兵にハメられた事に激怒した。

 

「ナメんなぁぁあああ!!!!」

 

 ティファレトの超反射がここでも発揮され、ロングソードでバルバトスを迎え撃つ。先手を取っていたものの、カプトの重量により刃が僅かに先に到達し、腕ごとコクピットを薙ぎ払う。カプトをヴァラクのハッチへと叩きつけることができたが、腕を先に破壊されていたため威力が殺され、めり込んだものの、破壊するまでには至らなかった。

 バルバトスとヴァラクの戦いはバルバトスの敗北にて決着がついた。

 

「くっ……!」

 

 バルバトスのコクピットの中で三日月は脳震盪を起こして意識を朦朧とさせていた。あと1mでも刃が奥に来ていれば体は限界をとどめていなかったであろう。体を動かそうにも言うことを聞かず、バルバトスもギチギチと音を立てるだけでろくに戦う事はできない状態にあった。

 

 ヴァラクはまだ動ける程度の損傷であり、自分はこのまま殺されるだろうと確信する。意識が宇宙の暗闇へと溶け込んでゆくのを感じる。少しずつ少しずつ、視界を覆う闇が深くなっていった。

 

 

 

 

『ギ……』

 

 

『ギャァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 

 バルバトスのコクピット内に耳をつんざく程の絶叫が響き、三日月は闇から引き摺り出される。音源は接触回線を通じたヴァラクのコクピットから発せられているようで、絶え間ない絶叫と共にのたうち回る様な音が響いてくる。

 

『イヤァアアアアアア!!顔ッッッッ!!私の美しい顔から血がッッッ!!!痛いッ!!痛いィィイッッ!イヤァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 カプトを叩きつけられた際、コクピット内の計器やモニターなどが弾けたのだ。操縦する事に関しては阿頼耶識を通じて微調整できるので不便であるが問題はない。しかし、弾けたそれらは小さな散弾のようになってティファレトに襲いかかった。体はノーマルスーツで無事だったものの、ヘルメットを脱ぎ捨てていた顔はモロにそれを受けてしまったのだ。

 

 怪我を負い錯乱した今のティファレトにはもはや戦闘を続ける事はできず、三日月とティファレトの戦いはティファレトの傲慢による敗北にて決着がついたのであった。

 

 

 しかし、バルバトスも動く事はできずただティファレトの絶叫が響くだけと言う状態が少し続いたところにコカトリスが飛んできた。

 

「ティファレト様!!ティファレト様!?」

 

 触れた瞬間に聞こえた悲鳴にイシュリアは動揺したが、このもう一つのガンダムフレームがこう言うふうにしたのだと理解し、剣を構える。

 

「報いは受けてもらいます!」

 

 しかし、突き出す寸前に弾丸がコカトリスを直撃して体勢を崩す。飛んできた方を見ると腰部のレールガンを起動させているフェニックスがこちらへと飛んできている状況であった。さらに先ほど叩きのしたはずの百錬も同じようにこちらへと向かってきていた。

 

 流石に2vs1という状況では自分でも無理だと判断したイシュリアは、LCSでフェニックスに回線を繋ぐ。

 

「ケセドさ……コホン、赤いガンダムフレーム!こいつ(バルバトス)の命が惜しいなら私たちを見逃してください!」

 

 

「そんな奴の命など……わかった!わかったようるさいな!

 ……ふん、さっさと逃げることね」

 

「……ありがとうございます」

 

 イシュリアは礼を言うとヴァラクを担いで暗闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

「三日月君はちょっと重めだけど脳震盪ね。大丈夫、大した怪我もしてないしこれくらいなら寝てたら良くなるわ」

 

 担架で運ばれていく三日月やラフタを見送ったユージンはわざわざ戦闘後にドックまで来た理由を思い出す。

 

「フレイヤちゃんは?」

 

「さっきモニターで見た時はコクピットにもたれかかってはられましたなぁ、多分相当疲れとるみたいですわ……ってあー!抜け駆けー!」

 

 ぎゃあぎゃあと騒ぐツカサを無視してユージンはフェニックスのコクピットを目指して床を蹴った。無重力の中真っ直ぐ飛び、開いたハッチへと着地して中を覗き込むとフレイヤがぐったりとしていた。

 

「フレイヤちゃん!大丈夫!?」

 

「え?うわぁ!」

 

 ユージンは急いでフレイヤを抱え上げてお姫様抱っこのような体制になる。フレイヤはその状況に頬を少し染めて軽くはにかんでいる。

 

「具合悪いの!?」

 

「いや、ちょっと疲れちゃって……あ、私今汗かいてるから……あ、あんまり顔近づけないで……」

 

「あ、うん、ごめ……ブッ!?」

 

 ユージンが何となくフレイヤを見やると、暑苦しかったからか胸元までチャックを降ろしていて、柔らかそうな白い肌がのぞいているのに気づいてしまった。

 

「あれ、何でしゃがむの?あ!ごめんね重かった!?」

 

「……大丈夫、無重力だし。そんなんじゃないよ」

 

(眼福、眼福)

 

 

 

 コカトリスによってヴァラクをドック内へと収容し、急いで降りて外側からヴァラクのハッチを開く。中にはうずくまるティファレトが嗚咽を漏らしていた。急いで駆け寄り、顔の傷を確認する。

 

「……よかった、これくらいなら再生治療で傷も残らない……救護!!!ティファレト様を医務室へと急げ!!!」

 

 白衣を着た数名に指示通りに動き、テキパキとティファレトを運んで行く。ひと段落ついたので、帰艦した際に真っ先に目についた物の場所へと向かう。

 

「シャル!!あんた先に逃げ帰ってたの!?どう言うことよ!!!!」

 

 オルトロスのコクピットは閉じているため、中にいるだろうと言うのはわかるが、返事はなかった。

 

「……はぁ」

 

(くそ、私もしくじった。感情を優先してしまった……くっ、今の私には休息が必要ですね……)

 

 そう考えたイシュリアはシャルトラを放置してシャワー室へと向かう。

 

 

 オルトロスの中にいるシャルトラは1人でただ笑っていた。目はトロンと恍惚な表情を浮かべ、口元には少し涎が垂れている。

 

「あはは……!こんなにキモチイイんだ!本当に死ぬ直前の……!争い続けてどうしようもなくなった先の恐怖……!あは、あは、あははは……!!」




三日月の格を落とさずに苦戦させるってのはなかなか難しいですねぇ……ただやっぱ敵の強さも際立たせたいってのもあるので、やっぱりそこの微調整が上手い人だと面白い話やバトルを描けるんでしょうね( ;∀;)

感想とか、ご指摘とかありましたらバンバン送ってください!


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20:2人のフレイヤ

めちゃくちゃ遅くなりましたぁ!!!

相変わらず駄文垂れ流しですが!!!

ぜひ!!!


 ギャラルホルン本部のとある一室。少し広めの部屋のポツンと置かれたデスクにてマクギリス・ファリドは報告書と睨めっこをしていた。

 

「失礼します、准将」

 

 碧眼をチラリと向けると、そこに立っていたのは部下の石動であった。

 

「こちらがグレイス・シーカーが撮影した映像データです。

 ……その報告書、例の「イドラの福音」とか言う宗教組織の……」

 

「あぁ、表向きはただの慈善宗教組織だが……裏では傭兵稼業、人身売買をやってるドス黒い者達だ。確証こそ取れてないが、阿頼耶識どころが人体改造まで手を出してるなんて噂がある」

 

 人体改造という言葉に石動は嫌悪の表情を浮かべる。この世界の多くの人間は阿頼耶識にでさえ吐き気を催すほどのを不快感を覚えるのだ。

 マクギリスは石動から渡されたデータを再生すると、映像が映し出される。

 

「悪い宗教団体というのは一番面倒な相手ですね」

 

「あぁ、その信じるものの為に平気で無茶苦茶な事をやる者ばかりだ。それが正しいと確信するから、周りを見ずに行動するようになる」

 

「興味がおありで?」

 

「……いや」

 

 マクギリスはモニターに映る赤と銀の機体を指差し不敵に笑う。

 

「これに私が求めるものがあるのかもしれない」

 

 

 

 

 

「あっちぃ〜〜!」

 

 降り注ぐ太陽の下、木陰にて休むライド達は地獄のような蒸し暑さに辟易としていた。

 

「ジャパン……地獄のようなとこだね……」

 

 オセアニア連合・ジャパン、本来の目的地である鉄華団地球支部とは遠く離れた地である。

 

「しょうがないだろ……ツカサの地元に降りれただけでフコーチューのサイワイって奴だ」

 

「そうだね、あんなのが来て怪我人が出なかったのがラッキーだよ」

 

 

 

_____1週間前

 

 

 

『全艦に次ぐ!地球に降りるためのコース修正に入る!降下するメンバーはシップに乗り込め!』

 

 オルガの声がイサリビ中に響き渡り、団員達が慌ただしく動き出す。

 

『バルバトス、フェニックス、漏影とバラした方の漏影も全部積んだ!』

 

『おーし、アトラに三日月にアジーさんやラフタさんも乗ったぞー!』

 

 

 降下のための準備がほぼ終わった事を確認し、オルガは席を立ちユージンに譲った。

 

「ユージン、頼んだぞ」

 

「おう!」

 

 最低限の会話と、交差するように腕を組むだけで艦長の引き継ぎを終わらせる。彼らにはこれだけで十分なのである。

 

 

 

 しばらくしてもうすぐ降下ポイントに近づくという時に突如として全艦に警報が鳴り響く。

 

「あぁ!?こんな時にかよ!?この前のやつらか!?」

 

「ち、ちがう!敵は一機!!も、モビルスーツじゃない!!!な、なんだこれは!!?」

 

 オペレーターが補足したそれは人型なんてものではなかった。異形、全身が鋭角に塗れ長いしっぽのようなのを靡かせながらこちらへと猛スピードで突っ込んできてイサリビの前を通り過ぎるを

 

「なんだあのパンクなオタマジャクシみたいな奴はよ!?ってまた来るぞ!」

 

 オタマジャクシ派今度は上を通り過ぎて行き、今度は下、横とまるでこちらを品定めしているかのような動きで周りを飛び回っている。

 

『フレイヤ・レジーナ!フェニックス!行きます!』

 

 イサリビよりフェニックスが飛び出し、オタマジャクシを追尾する。

 

「くっ!バルバトスは改修中だし、ラフタさんのは壊れてるし、アジーさんのは無理やり積み込む為にバラしてるし……くっ、フレイヤちゃんだけかよ!」

 

 

 フェニックスの中のフレイヤの雰囲気が変わり、眉間に皺がよって目つきが鋭くなる。

 

「モビルアーマー!

 ……しかし地球の近くでギャラルホルンに見つからずにか?」

 

 フレイヤが口にしたその名は300年前の厄災そのものの名であった。モビルアーマーもフェニックスを捕捉した様でこちらへと突っ込んでくる。

 

プログラム(ほんのう)のまま理性なく人を殺す機械なんてのは、相変わらず華がない物だよ!!」

 

 高速でこちらへと突進してくるのに対してフレイヤは余裕を持った態度で待ち構える。

 

「フン、真っ直ぐこられても別に……うわぁ!?」

 

 余裕で避け切れると思っていたが、なぜか体が重く反応が遅れてしまった。間一髪で躱すも上手く操縦できずに次の突進、その次の突進もなんとか避ける状況が続く。

 

「クッ……!なんだこれは!?……お前か!

 

 怯えてるんじゃない!お前が表の時に私の強さが出るように、私が表の時にお前の弱さも出てくるんだよ!!!」

 

 攻撃に転じれず、何度目かの回避の直前にオタマジャクシの左右下部が鳥類の脚のような形状に変形した。

 

「しまっ……!」

 

 その腕でガッチリとフェニックスを掴み加速する。その殺人的なまでの加速と機動に内臓が押し潰され口の中が鉄の味に染まる。

 

「ぐ……ぁ……この……!」

 

 なんとか一太刀加えようとナタを振り上げた時に、それは見えた。おそらく腕以外も変形するのだろう。それが予想できる様な機械の隙間に覗くもの。

 

「な……んだ……これは……!ぐぁっ!?」

 

 モビルアーマーはフェニックスをイサリビの方へと思いっきりぶん投げた。

 

「ぐっっ……ぁぁ……!!」

 

 自らが砲弾になるのを避けるために急いで最大出力でスラスターを噴射させてスピードを殺す。なんとか間に合ったようでフェニックスにもイサリビにもかなり強い衝撃が走ったものの無事に張り付くことができた。

 

 

 

「お、オタマジャクシの反応無し!どこかに行ったみたいだ!」

 

「な、なんだったんだ……?」

 

 ブリッジが急いで索敵と状況確認を急いでいると、フェニックスから通信が入った。

 

『ぐ……臓器に……相当な……カハッ……早く、回収……してくれ……』

 

 

 

 

 

「……地球支部に降りようにも時間も場所も大幅にずれたせいで1日以上かかるわね」

 

 色々な計器や画面表示を見ながらメリビットはそう告げる。

 

「けど、またあんなのが来たら戦える奴誰もいないな……一方的にやられちまう」

 

 バルバトスや漏影は戦闘に出すことができず、唯一無事なフェニックスはフレイヤか三日月にしか動かせない。そして三日月とフレイヤは両方とも安静状態で戦えない。

 

「あ、あのー、ウチに提案があるんですけど」

 

 その声の主の方へと全員が顔を向ける。ツカサが申し訳なさそうな笑顔を浮かべながら大画面に表示されたマップに指を刺す。

 

「今からだったらココに降りれると思うんですけど、どうですか?」

 

「……オセアニア連合の……ジャパン?」

 

「……なんかあるの?ここ」

 

「えーと、ウチの所属する麟燕会の第二支部があるとこでしてぇ、ウチ元々そこに居ましたから色々と融通できると思うんですぅ」

 

 

 

 

 

 

 

「で……あれから1週間たったけどよ、ずっと休暇ってのもつらいなぁ。ここのご飯はなんか爺さんが食ってそうなもんばっかだしさー」

 

「しょうがないよ、漏影とバルバトス、両方ともボロボロだったし時間はかかるよ。それにバルバトスは改修なんだからその分時間もかかるさ」

 

「はぁー、フレイヤのおっぱいでも揉んでこようかなぁ」

 

「な、何言ってんだよお前……」

 

「いやぁ……フレイヤってさ、おっぱい揉まれても『なーに?』って感じで全然気にしないんだぜ。あ、これ知ってるの俺含めて数人だから内緒な」

 

「いや……そもそも揉むなよ……」

 

 

 

 

 

 フレイヤは川の上流にて一糸纏わぬ姿で水浴びをしていた。それが落ち着いて岩に腰掛けて足だけ川に浸かっている状態である。

 

「しっかし…………」

 

 フレイヤは腕を組んで顔を顰める。何か悩むときのような表情で木々の隙間から見える空を眺めていた。

 

「交代したものの……戻り方がわからないとは……」

 

“返してよぉ、私の体ぁ”

 

「私だって引っ込みたいさ、こんな茹だるような暑さから逃げられるんだからな」

 

“……そもそもあなたは誰なの?と言うか私どうなってるのこれ?”

 

「それ説明にするにはめんどくさいよ、ジジイの事からやらなきゃでしょ?」

 

“そのお爺さんってだれさ”

 

「はぁ……ジジイってのはぁ……アレだよアレ……うん……?」

 

 フレイヤは頭を抱えて唸るが、なんと自分も思い出せない。なんとなく残滓の様な物は残っているが、ふわふわと頭の中を漂っているだけでその記憶を手繰り寄せれない。

 

「……そうか、この体で頭を打ったからか……それで私の方もお前みたいにパーになったのか。はぁ……半端に記憶がある分モヤモヤするな」

 

“……偉そうな割に結構抜けてるんだね”

 

「うるさいなぁ?そもそもお前がノーマルスーツも無しにあんな小さなシップで逃げるからだ。

 …………それにしても暇だ。体も回復したし暴れたいというのに」

 

“しょうがないよ。三日月くんも一昨日やっと包帯取れた程度だし、どの機体もボロボロなんだから”

 

「荒くれ者でも襲ってこないかねぇ……ん?」

 

 フレイヤが何かに気づき、ペタペタと裸足のまま歩き出し、一本の木の裏を覗き込む。

 

「お前は……」

 

“タカキくん?”

 

「あ、ふ、フフフレイヤさん、こ、ここここれはちがくて!」

 

“……ちゃんと私っぽく振る舞ってね?あなたみたいにするとみんなに怖がられちゃうよ”

 

(わかったよ……うるさいなぁ)

 

「キサマどう……た、タカキクン、どうしたの?」

 

 声をかけるも顔を伏せてプルプルと震えるタカキ、顔をは見えないが耳が真っ赤に染まっている。

 

「い、いや!お昼の時間だから呼んでこいって言われて!!!!」

 

「あぁ、もうそんな時間?わかった、今すぐ戻るよ。

 ……どうしたの?腹がいた……お腹がいたいの?」

 

「ああああああの、ふふふ服!フレイヤさん!服を!」

 

「え……?ひゃ!?」

 

 フレイヤは頬を染めてタカキとの間に木を挟む様に裏側へと回り込む。

 

“そんな大袈裟な”

 

(……うるさい!私は貴様たちみたいに、裸を見られても良いような環境にはいなかったのだ!)

 

 

 

 

 その頃、麟燕会の工房にて三日月は改修されているバルバトスに関してレクチャーを受けていた。レクチャーをしている男の名はヨッド・ターコイズ、フェニックスをオーバーホールしていた男である。

 

「そう言えばなんでアンタがここにいるの?」

 

 三日月が尋ねると、男は少し考え込んで笑う。

 

「愛……かな?」

 

「……意味不明」

 

「まぁまぁ……運命の赤い糸ってのがあるのさ。可愛い可愛い子とね。それより……どうだい?これの乗り心地は」

 

「変な感覚かな……腕をこんな風に動かすのは」

 

「本当は君の為のものじゃないけどね。まぁ、君を助けるのもあの子が喜びそうだから」

 

 三日月はよく意味がわからなかったので無視して、新しい自分の機体の名を確認し、読み上げる。

 

「バルバトス……ファーヴニル」




感想がかなーりモチベーションになってるところあるんで!!あまりにも酷い批判以外は全部受け入れるんでぇーーー!!!


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21:臥竜と鳳雛

遅くなりましたぁ

自分で読み返してて面白いのこれ……?ってなる話が多いですぅ

こんな3桁もお気に入りしていただいて私は幸せ者ですねぇ


「いいからいいから!ぜってー怒られねーからやってみろって!」

 

「ほ、本当だろな……?」

 

「お前あんなに良い子ちゃんぶってたのに結局揉むのかよ」

 

「ムッツリが!」

 

「うるせぇ!俺だっておっぱいが好きなんだよ!」

 

「あ、きたきた!」

 

 年少組が待っていたのは上流の方から戻ってきたフレイヤである。まるで狩をする大型ネコ科動物の様にゆっくりとこちらの動きがバレない様に近づいていき、射程圏内に入った胸を揉みしだく。

 

「ひゃぁ!?」

 

 フレイヤは情けない声が漏らして硬直し、体をプルプルと震わせている。

 

「ふへ、ふへへ……」

 

「この…………!」

 

 殺気を感じた時にはもう遅かった。

 

「ばかものーーーーッ!!!」

 

「ブァーー!!!!」

 

 顔を真っ赤にしたフレイヤのビンタが炸裂し、年少組の男の子は吹き飛んだ

 

「まったく……!」

 

 プンスカと起こりながらフレイヤは去っていったのを確認して隠れていたライドたちは顔を覗き込む。

 

「っかしーなぁ、フレイヤ機嫌が悪かったのかな?」

 

「爆竹みたいな音したぞ、大丈夫か?」

 

「うぅ…………おっぱいなんて嫌いだ」

 

「それは嘘だろ」

 

 

 

 

 夕食を済ませたフレイヤは工房へと向かう。

 

「しかしここの料理は美味しいは美味しいけど、食べた気にならないな」

 

“えぇー?私はすごくおいしかったけど”

 

「味わかるの?」

 

“伝わってくる感じ”

 

「へぇ、不思議だな……ん、あの男……」

 

 そこにいたのは2つのガンダムフレームを弄り回している男であった。

 

“あの人いい人だよね”

 

(……お前はいつか犬に食われるな)

 

“どう言う意味?”

 

(さぁ…………うぁ、目が合った)

 

 ヨッドはこちらにニコリと笑って手を振ってくる。フレイヤはペコリと会釈をし、正直嫌だったがフェニックスの方へと近づいていく。

 

「やぁ、フレイヤ。キミを待っていたよ」

 

「そ、そうですか。ありがとうございます……」

 

 フレイヤはこの男が苦手であった。妙に整った顔、その目に見つめられると、鳩尾の奥がチリチリと痛む気がするのだ。

 

「フェニックスの改修ももうすぐ終わる。本当はバルバトスのもフェニックス用の予定だったんだけど……まぁ、その方がキミも喜ぶだろう?」

 

 ヨッドの手がフレイヤの頬に触れる。

 

“わぁ……王子様みたいな人だね”

 

(どこがだこのスイート女!こんなのただの変質者だよ……!)

 

 フレイヤはその手をグイッと横に払ってあからさまな作り笑顔をむける。

 

「喜ぶとかそう言うのはよくわかりませんね、戦力の強化というのは嬉しい事ですけど。

 ……じゃ、私は今からシミュレータでの訓練あるんで」

 

「おっと、邪魔をして悪かったよ。じゃあ、今度ご飯でも行こうよ?

……まぁ、この辺りは山しかないけどね」

 

 そういうと後ろ手に手を振りながらヨッドは工房の外に出て行った。

 

「しかし…………バルバトスにしても、フェニックスにしても使われているこの技術………あの男……中々に臭いな」

 

 

 

 

「ふぅ……実戦でなければ存分に発揮できるな。実戦だと誰かさんが足を引っ張るからねぇ」

 

“しょうがないでしょ……だって……こわいもん……”

 

「……まぁ、そっか。そりゃそうだよね」

 

“…………”

 

「何で黙ってんだよ」

 

“……なんかいきなり優しくなるの気持ち悪い”

 

「何だお前」

 

“でぃーぶいする人の特徴だよ”

 

「覚えはないけど?」

 

“私が練習してる時に割り込んできてボコボコにしなかった?”

 

「あまりにも弱いから訓練をしてやったんだよアレは。あんな事ができるのも私達とこの阿頼耶識が特別なんだ、誇りに思うんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という事でして、ティファレト様は今動けないんです。なので貴方が代わりに……」

 

 イシュリアが見つめるモニターにはSOUND ONLYとだけ表示されていて、そこからため息のような声が聞こえてくる。

 

『……やだよ。ティファレト様ですらそんな風になる相手でしょ?俺んとこの兵にも大きな損害が出る事になるじゃないか』

 

「……貴方のゴロツキネットワークを使って手配するというのをやって欲しいんですが」

 

『ゴロツキネットワークって言い方やめてくれる?なんかショボく感じるだろ。

 はぁ……わかったよその分高くなる事は覚悟しろよ?」

 

 プツンという音ともに通信が絶たれる。イシュリアは深くため息をついて椅子に背中を預けた。

 

(シャルは最近ずっと蕩けた顔してるし、ティファレト様はあんな風になってるし、まともに指示飛ばせるの今は私だけ……)

 

「はぁ……会いたいな……」

 

 

 

 

 数日後、回収や補給、療養を経て万全の準備を整えた鉄華団は麟燕会から借りた複数の大型トレーラーに数機のモビルスーツ、ワーカー、その他物資を積み込んで出発していた。

 

目的地は海である。ただし真っ直ぐ海へと行けばいいわけではなく、自然の要塞とも言えるこの日本麟燕会本部の山々を越えるのは難しい。だが軍事機密的な都合上で安全かつ最短のルートを通らせる事はできないとの事だ。

 

 緊急で受け入れてもらった上に、格安で工房を貸してもらい数日の生活を融通してもらった以上、これ以上わがまま言う事はできず、数日港までの道のりを少し回り道をする事になったのだ。

 

 しばらく進んで休憩する。茹だるような暑さの中、屋根付きトレーラーの陰でオルガは小さなミニ扇風機の風を浴びながら暑さに耐えていた。

扇風機の風を浴びながら暑さに耐えていた。

 

「っはぁ……前に麟燕会とコネ作ってて良かったぜ……にしても……暑すぎんだろ……こいつは何でこれで眠れるんだよ……」

 

 オルガは隣で寝ている三日月に感心と呆れの入り混じった感情を抱きつつ自分もくつろごうと努力する。

 

 その頃フレイヤは改修を終えたばかりのフェニックスのシミュレータにて、ヨッドによる新しい機能や武装の指南を受けていた。

 

「そこで機体を安定させたらL4を……そうそう、上手だね?」

 

「……というか何で貴方までついてきてるんですか?」

 

「今のバルバトスとフェニックスをみれるのは僕くらいでしょ?アトラちゃんの料理も気に入ったしね。それに団長さんの許可はとってある。

 

「……そーですか」

 

(……それにしても)

 

シミュレータ内のフェニックスを操作しながらフレイヤは訝しげな表情でヨッドを横目に見やる。

 

(こんなシステムを……しかもこの独特なコクピットに合わせてデザインするなんて天才だったとしてもそんな言葉じゃ誤魔化せないレベルだぞ……?)

 

“どういう意味?”

 

(こいつは歳星でこの機体を見てからこれを開発したなんて言ってるが、こんな短時間でそんなことができるわけがない。つまり、こいつもこないだ襲ってきた奴らの一味じゃないかって事だよ)

 

 

 その時、外から「山賊だーーー!!!」と騒ぐ声が聞こえてきた。フレイヤは瞬時にハッチを閉めてフェニックスを起動して立ち上がらせる。

 辺りを見渡すと警戒班の信号弾による赤い煙が立ち上っている。ヒゲを通して伝わる光学センサーの情報からモビルスーツらしきものがこちらへ迫ってきてることを確認した。

 

「いてて、僕も乗っていることを忘れていないかい?」

 

「時間がないんでこのまま戦闘に移りますね?」

 

「冗談だろ……?どちらにせよ僕が乗ってるかどうかに関わらずフェニックスを動かすのはやめておくんだ。まだ試運転もやってないだろう?それに……」

 

 ヨッドはある方向を指差す。そちらを見ると改修されてマッシブなスタイルになったバルバトスが立ち上がり、動き出すところであった。

 

「このような木々に囲まれた狭い地形だと今のバルバトスにとって味方は邪魔になる」

 

 

 

 木々をすり抜けるように現れたモビルスーツは6機、ギョロギョロとモノアイがこちらを物色するように動き回る。

 

『ハーハッハッ!貴様らは麟燕会じゃないようだなぁ?なら怖くはない、数的にも俺たちが有利だ!大人しく物を置いていきゃあ命は取らな……』

 

 全てを言い切る前に音声が途絶える。右腕から伸びた竜の牙とも爪とも思える武装が山賊のコクピットを握り潰していた。

 




バルバトスファーヴニル……どう考えてもナ○クです、ありがとうございました。


割と色んなガンダムのネタも入れてます笑

コメントいただけるとすごく嬉しいです!


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22:フェニックス・フレスベルグ

毎度のこと更新が遅くて大変申し訳ございません!!

リアルがだいぶ忙しくて(言い訳)( ; ; )

今回はいろいろ水気が多めな話かなぁって……自分自身がこういうのが好きなんですが、鉄血…というかガンダムっぽくないんで一応表現とか描写はそんなに長々しないよう控えめにしております!


『な、なんだよそれはぁぁぁぁあああ!!?』

 

 仲間を殺された怒りから、別の機体がバルバトスに飛びかかってきた。しかし、バルバトスは左腕を大まかにその方向に向けると、上腕部から飛び出した鎖のように連なる刃がコックピットを貫いた。

 

「すごい……」

 

 バルバトス・ファーヴニル、その戦いを見ていたフレイヤはつい感嘆の声を漏らす。

 

「こんな物を見せられて突っ立っていられませんよ!」

 

 そういうと、フレイヤは首を鳴らしてレバーを握る。

 

「……さっきも言ったけど僕も乗ってるんだが」

 

「フン、知った事じゃないですね。邪魔にならない戦い方をすればいいんでしょう?というかアンタの前でいい子ぶるのはやめだ、アンタは信用ならない人ですからね。なんなら今この場で頭を打って死んでくれたなら、それが1番良いかもね」

 

「僕はあっちの君の方が好きだな!」

 

「……それはどうも、今寝てるから後で伝えときますよ。まぁ、おろしてあげますよ。急いでくださいね」

 

 ヨッドをさっさと下ろして立ち上がると、バルバトスが更に一機を叩き殺しているところであった。

 

「さーて、フェニックス・フレスベルグ!」

 

 翼のようなバーニアを展開させ、炎のような蒸気が噴き出すと同時に地面を蹴り上げ、高く飛び上がった。空中で静止しているが、まるで地面に立っている時のように安定しており、他の飛行可能なMS、例えばシュヴァルベ・グレイズと比べても推進剤の消費がかなり少ない。

 

「やはりこれは厄災戦の……!

 しかし、確かに阿頼耶識だけでは難しい操作だ……だが!」

 

 

 

『な、なんだ!?うぐはっ!!』

 

 接触回線の先の山賊は仰天したような声を上げた直後、急激な上昇による負荷で情けない声が漏れ出たようだ。

 

「そぉら!最期の遊覧飛行だ!」

 

『うぁあああああああ!!??』

 

 再び上空から急降下し、地面に激突する寸前で、別の山賊の機体に突進して投げつけ、再び空中へと飛び上がった。激突した2機は周囲の空気を震わせるほどの衝撃音を立て、何の様も為せなくなった。

 

「はは、これは良いなぁ!さて、残りは1機……ん……?ちょ、うわぁ!?」

 

 飛んでいたフェニックスが急に不安定になり、バランスを崩す。そして吊っていた糸が切れたように落下し始めた。

 

「ああ、言わんこっちゃない!」

 

 地上で戦いを見守っていたヨッドが頭を抱えてた。

 

「くっ……!推力を……揃えて……!!」

 

 全身のバーニアとスラスターの向きを下側に調整して一気に噴射する。

 

「くそっ!間に合えぇ……!!」

 

 咄嗟の制動が間に合わずにフェニックスは地面に激突し、コクピットにまで強い衝撃が伝わる。

 

「いてて……助かっ……」

 

 モニターに映し出される影、仲間を殺された復讐か最後の1機が持っている武器を仰向けのフェニックスに向けて振り上げていた。

 

「ひっ……!」

 

 フレイヤの体が固まり、防御体勢を取れないまま死が振り下ろされる。

 

「何してん……だっ!!」

 

 直撃する寸前に飛んできたバルバトスの右腕(ファーヴファンガ)に敵のモビルスーツは振り下ろしていた腕を掴まれて握りつぶされる。そしてそちらへと意識を向ける暇もなく左手から射出されたチェーンロッドが巻きつき、引き抜くと同時に胴体をズタズタに引き裂いた。 

 

 

 フレイヤがコックピットの中でただ呆然としていると、突然ハッチが機械音を立てて開く。そこには三日月が立っていて、こちらを見下ろしていた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ…………」

 

 三日月はこちらへ手を伸ばす。

 

「…………あ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

“ん……んぇ……?わぁ?起きたばっかで何この状況?”

 

 

 

 

 

 その日の夜、ある程度進んだ所でキャンプをすることになり、アトラがカレーを拵えて団員はそれを受け取っていた。

 

「お代わりたくさんあるからねー!

 あ、オルガ!はいこれ!」

 

「おう、サンキュー。しっかし自然の中でカレーってのは中々にオツなもんだな」

 

「地球では野宿するときに食べるものはカレーって決まってるんだってさぁ。

 ……そういえばフレイヤは?」

 

「ん……あぁ、なんか落ち込んでるみたいでよ。まぁ、昼に襲われた時のだな」

 

「…………そう、心配だなぁ。私探してくる!」

 

 

 

 

 

 

 団員たちがカレーを食べているところから少し離れた森の中でフレイヤは1人で抱えた膝にを顔を埋めていた。

 

「ヒグッ……グスッ……」

 

“ね、ねぇ……何があったのさ”

 

「エグッ……う、うるさいよ……ヒック……わ、私は……あの時死んでいたんだ……うぅ……負けたんだよ……自らの驕りで……戦士として失格だ……」

 

“よくわかんないけど、この体あなたが食べないと私もお腹空くの感じちゃうみたいだからさ、たべたいなぁ!私カレー好きなんだよなぁ〜!”

 

「うぅぅうううう〜!」

 

“んもーーー!!”

 

 その時、後ろから足音が近づいてくるのが聞こえた。フレイヤは特に振り向くことなく、ただ膝に顔を埋めていた。しかし、足音が隣に来て止まったので、彼女は顔を上げてそちらをチラリと見た。

 

「三日月……くん……」

 

「カレー、待ってきたよ」

 

“わァーーー!!!カレー!たべよーよ!”

 

「グスッ……いい…………」

 

“なんでーーー!!!?”

 

 フレイヤはまた膝に顔を埋める。それを見た三日月は軽くため息をついて、隣にあぐらをかいた。

 

「食べないと力がつかないよ」

 

 フレイヤは特に返事することなく、ただ嗚咽だけを繰り返している。三日月はそれを見て少し前のやりとりを思い出していた

 

 

 

 

『な、名瀬の兄貴!男としての質問があります!』

 

 いきなりユージンが名瀬に深く頭を下げ、それを見た名瀬やアミダ、周りにいたオルガや三日月が何事かとユージンの方を見やる。

 

『お、女の子が泣いてる時って、ど、どうしてやればいいんですか?』

 

 突飛な質問に目を丸くするも、やれやれと言った表情で笑う。

 

『あいにく、俺は女を泣かしたことがないからなぁ……』

 

『お、おお……!』

 

『というのは冗談として……まぁ、理由にもよるがこうやって……』

 

『あら、実演かい?』

 

 名瀬は隣にいたアミダに背中に手を伸ばし引き寄せ、泡に触れる様に優しく抱擁した。

 

 

 

 

 

 その時の話を思い出しながら優しく、包み込む様に抱きしめる。フレイヤの体がピクリと跳ね、三日月の胸の中でプルプルと震えている。

 

 とてつもなく長い数秒が過ぎ、フレイヤが震えながらゆっくりと顔を上げる。涙で目元を腫らしながら、おそらく泣いたこと以外の原因によって顔は真っ赤になっていた。

 

“わ、わぁ……何が起きてるの…………”

 

 フレイヤは混乱した表情で三日月を見つめている。対して三日月は先ほどの続きの場面を思い出していた。

 

 

 

『流石名瀬の兄貴……!抱きしめてあげても泣き止んでくれない時はどうすれば……!』

 

『そりゃお前、こうだよ』

 

『う、うぉおお……!』

 

 目の前に広がる自分の遥か先を行く漢の披露する“オトナナセカイ”にそこに居る三日月以外の団員は赤面しながらそれを見つめていた。

 

(こうか……?)

 

「えっ……んむっ!?」

 

“わ、わぁ!?わぁあああ!?”

 

 唇が重なり、静かな森の中にただ水音だけが響く。

 

「ん……はぁっ……」

 

 絡まりが解け、フレイヤはだらんと脱力した体勢で蕩けた目をしている。ハッとした表情をしたかと思えば頬を教えて顔を真っ赤に染めた。

 

「なっななななな、何を!!!?なっなっ!?」

 

「ごめん、嫌だったか?」

 

「そ、そうじゃなくてっ!……いや、すこし、元気出た……かも」

 

「そう、よかった。じゃあ俺は戻るけど……カレーは……」

 

 その時、フレイヤの腹が大きな音で鳴った。

 

「……や、やっぱりたべる」

 

「わかった」

 

 そういうと三日月は他の団員の所へ戻るため歩き出す。

 

「あ……み、三日月くん!」

 

 呼び止められて再度フレイヤの方を向き直った。

 

「……あ、ありがとう……昼の事も……その、キ……キッキキ」

 

「どういたしまして」

 

 微かな笑みを浮かべてそういうと、三日月はみんなの所へと戻っていった。

 

 

“三日月くんってああいうイメージなかったなぁ”

 

「あ、アンタはうるさいのよ!その、ハグされてる時も、き、きききき……」

 

“キスくらいで大袈裟な……というかあなたもなんかキャラ変わってない?”

 

「うるさいうるさい!あー!お腹すいた!いただきます!!」

 

 




書いてて思ったのはこれほぼ13話…( ・∇・)



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23:団長とフレイヤ

リアルが大変忙しくて全然更新できずすみません!
今月中で改善できると思います!

次の話は明後日、遅くても明々後日には出せるかと思います!


「ン……朝か……」

 

 いつのまにか日が昇っている様で、テントの隙間から差し込む光に顔を照らされて俺の意識は覚醒した。

 

「おはようオルガ」

 

 声のした方をチラリと見ると、数人の眠る団員の中、寝癖でボサボサの三日月があぐらを描いて座ってこちらを見ていた。

 

「おう、ミカ。今何時だ?」

 

「7時12分」

 

起床時間の約50分前、俺は上体を起こして大きな伸びをした後、首を鳴らして脱力する。テントの外からはほんのりカレーの匂いが漂っていて、おそらくアトラが朝飯の準備をしてくれているのだろう。

 

「ちょっと外の空気吸ってくる。8時になったらこいつらや他のテントの奴らも起こしといてくれ」

 

「わかった」

 

 

 散歩がてらに森の中を散策する。適当な木に朝一番の小便をくれてやり、気持ちの悪い見た目をしためちゃくちゃうるさい虫の大合唱の中を歩いていく。気候が安定した火星と違って地球の、特にこのジャパンの暑さは朝からでも猛威を振るってくる。

 

「確かこの先に……」

 

 キャンプからすぐ近くに川があったはず……というか川が近いからキャンプ地として決めたんだが。

水のせせらぎが聞こえ、そのまま進むと、幅3車線か4車線程度の川が見えてきた。

 

 時間はまだまだ余裕があるので少しばかり川で涼みつつ、かいた汗を流そうと思い服を脱ぎ捨ててゆっくりと川に足を入れる。

 

「うおっ……」

 

 いきなり全身を水につければ心臓が止まってしまうんじゃないかと思うほどの気温と水温の差につい声が漏れてしまう。

 

 少しずつ体を慣らして体を清めていると、50Mほどの離れた上流に人影をみつけた。小柄な体に銀色の髪で向こうを向いている。あれはおそらく……

 

 

「フレイヤ……?」

 

 その人影がふり帰るとこちらに気づいた様で手を振ってきた。無視するのもアレなので、手を挙げて返事を返すと、あろう事かこちらへと向かってくる。

 

「なっ!?」

 

 今の自分は全裸、名瀬の兄貴の様に女慣れしていれば冷静に対応できたのだろう。しかし、19歳でろくに女性経験もない俺にそんな余裕はなく、あたふたしていると少しずつフレイヤが近づいてくる。自分が裸なのは十分まずいが、なによりもまずいのはフレイヤも一糸纏わぬ姿である事だ。

冷静であれば急いで服の場所に走るなんてこともできたのだろうが、もう遅かった。

 

「団長さん!おはようございます!」

 

「お、おう……フレイヤ……」

 

「団長さんも水浴びですか?やっぱりシャワーがないと……ってわぁ!?い、いきなり座ってどうしたんですか?」

 

「な、なんでも……うぉ!?」

 

 色々とまずい為に座ったが、そのせいで目線が低くなり、フレイヤから目を背けざるを得ない状態になった。

 

「お、オイ……お前も座れ……」

 

「え……でも流石に冷たい……」

 

「いいから!」

 

「わ、わかりました……ヒィッ……つめた……」

 

 プルプルと震えるフレイヤを尻目に、自分を落ち着かせる為に数分間浸かっておく事にした。この冷たさならすぐにおさまるだろう。

 

 

 

 しばらくしておさまったのでお互いに服を着てキャンプへと向かって歩く。相変わらず暑苦しいが、気温とは別の火照りがまだ残っていた。

 

「お前なぁ、もっと恥じらいとか持った方がいいぞ……」

 

「え、でもただの裸ですし……あ、でもじっと見られたら流石に恥ずかしいかも……」

 

「うーん……」

 

 こいつは前からそうだ。ガキたちに胸を揉まれても、尻を叩かれても気にしていない。時折、全く雰囲気の違う鋭い目つきになったり、1人で何かを喋っていたりと色々な点で変わっている。こんな風体でモビルスーツを操縦することもピカイチだと言う。

 

「……で、やっぱり皆さんには恩返しがしたいんですよ」

 

「まぁ、すげぇ襲われてたからなぁ

 

「そのせいで記憶も無くして……あはは」

 

 歩きながらフレイヤの首の後ろ、シャツから覗く突起に注目する。3本の“ヒゲ”、三日月と同じ。こんな少女があの手術に3回も耐えたというのだろうか。

 

「ひゃっ!?」

 

 つい手を伸ばして触れてしまった。フレイヤの体が跳ね、女の子らしい声が飛び出る。頬を染めてこちらをじと〜っと見つめてくる。

 

「だ、団長さん?」

 

「す、すまん」

 

 もしかして触って許されるのはガキどもだけなのか?……って、何をしてんだ俺は……これじゃ変質者じゃねえか。

 そうこうしている内にキャンプが近いようで、カレーの匂いが漂ってきた。フレイヤのお腹がなる。

 

「あ……」

 

「腹減ってんなら俺に構わずさっさと食ってきな」

 

「え、えへへ……これじゃなんか私が食いしん坊みたいですね」

 

「いや、お前は食いしん坊だぞ」

 

「うぅ……」

 

 ちょっと頬を染めてはにかんだフレイヤの頭を軽く撫でて他の男どもを起こしにテントへ向かう。

 

「……さて、今日も仕事だな」

 

 

 

 

「フレイヤはん……」

 

「もぐもぐ、ん……なぁに?」

 

「それ……何杯目ですか?」

 

「よ、4杯目……」

 

 少し恥ずかしそうにしながらも食べる手を止めないフレイヤと軽く呆れるツカサは朝食の席についていた。

 

「よくそんなに食べはりますね……」

 

「アトラの作る料理が美味しいからしょうがないでしょもぐもぐ」

 

「まぁ、確かに美味しいんですけど……でもこの体のどこに脂質やら糖分がいってるんですかねぇ」

 

 ツカサはフレイヤのお腹やら二の腕やらを揉んで感触を確かめる。

 

「んー、なんかフレイヤはん筋肉ついたんとちゃいます?なんか前より締まりが良くなってますわぁ。あぁ、十分柔らかいんですけどね」

 

「そう?まぁでもパイロット続けてたらこうなっちゃうんじゃないかな……昭弘さんとか、三日月くんとかムキムキじゃん」

 

「いや、あの人らはまた違うとおもいますけど……」

 

 

 

 

 鉄華団がいる場所からそれ乗りに距離のある山の巨大な洞穴、入り口から見れば一見暗闇が広がっている。しかし、少し進めば灯りがポツポツと点在していて、それを辿ると洞穴や崖を利用した一種の集落のようなのができていた。そこに巣食うのはいわゆる山賊と呼ばれる者どもであった。

 

「んでお頭、どうするんです?」

 

 お頭と呼ばれた男は他の山賊に比べてかなり若いようで20才弱程のようである。

 

「フン、気に入らないねぇ。ティファレトの飼い犬に指図されるのは……だが……」

 

 欠けたグラスを口につけて中の液体を口に流し込む。浮いた氷がぶつかり合いカラカラと小気味のいい音を立てた。

 

「俺達はアイツらに懐を握られてるようなもんだからねぇ、やるしかあるまいに。

 ………にしても何がセフィラだよ。クソみたいな宗教団体のモルモットのくせに、大層な名前で呼ばれていやがるよ」

 

「落ち着いてくださいな、そんなモルモットの1人のあんたが握りしめたらグラスが割れますぜ」

 

「フン、失敗作の烙印だけで子飼いの山賊紛いの事やらされるんだ、(いか)れずにいれるかよ。……だが、ちょうどいい」

 

 その男は邪悪な笑みを浮かべる。

 

「今回のターゲットはケセドだ。個人的には恨みはねぇし、なんなら好きだったセフィラだが……へっ、殺さなけりゃ良いんだ、あとは自由だよ」

 




よく考えたら団長と全然関わってなかったですね!


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24:不穏

遅くなりました( ; ; )
言い訳はできません……ただ6月からは少しスピードは上がれると思います!


 鉄華団は補給も兼ねて、倒した山賊達のMSを売る為にスギミノと呼ばれる町に立ち寄っていた。町そのものはそこそこの規模なのだが、流通の要所の一つらしく人が多い。建物も町に立ち寄る様な者のニーズに応えて工房や倉庫が多く、そこに簡易的な宿泊施設が備わっているようだ。その内の一つの工房を借りることになった。

 

「とりあえず寝る場所は豪華じゃねぇが……テントよりはマシだな。とりあえず明日は売り払うMS査定があるから、出発は明後日だ。支部の方はあれから特に襲撃もねぇみてーだし、知らぬ土地だ、安全に行くぞ」

 

 

 団長の元に集まっての簡単な話が終わったあと、各自自由行動ということになった。殆どの団員は飲食店や居酒屋が立ち並ぶ繁華街へと向かったみたいだが、フレイヤとアトラとツカサはちょっとした食材だけ買い出しに行って簡単な料理を作って食べることにした。

 

「これ、うちの大好物ですねん。肉じゃがって言うんですけど」

 

「わぁっ……」

 

「美味しそうだねぇ」

 

 初めて見る料理、しかも大量のそれを見てフレイヤは目を輝かせる。流石は地球、肉が形成タンパクではないのだ。

 

「ふっふっふっ……そしてこれ!」

 

「なにそれ」

 

「ビールですわ!焼酎もありますよ!楽しくいきましょ、楽しく!

……あれ、2人ともあんまお酒得意やないんですか?」

 

「私飲んだことない」

 

「わ、私もかな……」

 

「んふふ、2人とも子供じゃないんですから知っとくべきですよ!特にフレイヤはん、あんたこの中で1番年上でしょ!」

 

「んん……確かに年齢はそうだけど……」

 

「ほら!」

 

 勧められるがままに一口、慣れないアルコールの味を我慢しながら胃に流し込む。体が熱くなって少しずつぼんやりとしてくる感覚はフレイヤの知らないものだった。

 

「……これがおいしいのぉ?」

 

「びーるっちゅうもんは、喉で飲むもんです!爽やかさがいいんですよ!」

 

「よくわかんないなぁ」

 

 

 

 

 

 しばらくたって、フレイヤは慣れないアルコールの熱を冷ます為にベランダの柵に体を預けてボンヤリと空を見上げていた。

 

「月……おっきいなぁ……」

 

 何やら懐かしさを感じる満月をただぼーっと眺めていると、カラカラと後ろからはきだし窓が開く音が聞こえた。

 

「アトラはんはもう潰れてまいましたわ。

 そんなとこで黄昏てたら蚊に刺されまっせ〜」

 

 ツカサはサンダルを履くと少しふらつきながらフレイヤの隣に、同じように柵に体を預ける体勢になる。

 

「大丈夫、私の血なんて汚れてくるから」

 

「…………?フレイヤはん、時々変なコト言いますよね」

 

「そう?」

 

「時々、誰と喋ってるかわからんようになる時があるんです。子供っぽい時もあればやけに落ち着いた雰囲気の時もありますし」

 

「そんなコトないけどなあ……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 数分間の沈黙が流れる。

 

「ウチ、拾い子ですねん」

 

「いきなりどうしたの」

 

「昔話したくなる時ありますやん?」

 

「……記憶ないし」

 

「私はありますから!」

 

「強引」

 

 ツカサは口に当てた缶を傾けてビールを一口流し込んだ。

 

「3歳の時に麟燕会に拾われたらしいんですわ。そんで、みんなに可愛いがられて、心がピリピリしてたんですわ」

 

「ピリピリ?」

 

「姐さんにおんぶされて夕暮れを散歩した時とか、お布団で絵本読んでもらってる時とか、とにかく幸せな時に心がピリピリするんです」

 

「よくわからないけど…………」

 

「友達とかにはピリピリしないんです。でも、フレイヤはんと初めて会った時、ピリピリしたんです」

 

 ツカサは話の合間にも一口、また一口と缶を傾ける。

 

「初めて、他人なのにピリピリしたんです。えへへ、なんなんでしょうねコレ」

 

「実は姉妹だったりして?」

 

「……多分、本当にフレイヤはんが好きなんです」

 

「私もツカサちゃんは大好きだよ?」

 

「……そういうのじゃなくて……はぁ、良いですもん、ふん」

 

 不機嫌そうにフレイヤの胸に顔を埋める。フレイヤは困惑するも特に抵抗はせずに背中をさすってあげた。

 

「ツカサちゃん、飲み過ぎなんじゃ……」

 

「んん……あったかい……フレイヤはん」

 

 少しずつ抱きしめる力が弱くなっていく。そしてツカサの体を支える力も弱くなっていき、そのままフレイヤに寄りかかるように体を預けてゆく。

 

「変な子だなぁ」

 

“……難儀だな。そして今のお前は鈍すぎる。……まぁ、自分の人格の変化に気づけと言うのが難題だけど”

 

「どう言う意味?」

 

“そのうち分かるさ、「フレイヤ」さん”

 

 

 

 

 晴れ渡る空、1日の自由時間として商店街に出たフレイヤとツカサは二日酔いの気が残っているものの、なんとも清々しい朝である。こんな日には美味しいものを食べようとレストランへと向かっていた。

 

「良い朝だねぇ」

 

「フレイヤはん、お酒強いんですねぇ。アトラはんなんかまだダウンしてましたわ。

 

 

 そ、そういえばウチなんか昨日恥ずかしいこと言ってた気がするんですけど……」

 

「そうだっけ?」

 

「んん……」

 

「なんかすごい可愛かったよ!」

 

「酔っ払うと別人なんです、忘れてくださいよ」

 

「あはは、よくわかんないけど……あ、ここ通ると近道みたいだよ」

 

 フレイヤが指差したのは裏路地、2人はそこへと入っていく。人気がなく、表通りから少しずれているため比較的静かである。

 

「そういやツカサちゃんって良い匂いするよね」

 

「そうですか?」

 

「うん、アレだね。雅な匂いがする!」

 

「……私の匂い嗅いだんですか?」

 

「うん、昨日抱きつかれた時匂いがしたよ!」

 

「う、ウチそんなことしてたん……」

 

「うん!好きって言われたから私も好きだよーって!」

 

「…………」

 

 笑顔のフレイヤの顔を赤くして俯くツカサは裏路地を進んでゆく。表通りからさらに離れて人気はもはやなく、街中だというのに静寂に包まれていた。

 

“オイ!後ろだ!”

 

 瞬時に振り返るフレイヤ、2人の男がこちらに飛びかかってきているところだった。

 

「く……!ぬぁ!!!」

 

 驚異的な反射神経で体を倒し、地面に背中がくっつく。男の体が上を通り過ぎてゆき、倒れた体を数秒もかからずに体勢を立て直した。

 男がこちらを振り返り再度飛びかかってくる。次は避けられないのは確実である。

 

「ふん、バカが!」

 

 起き上がる際に砂を掴んでいたフレイヤは男の顔面にそれを投げつけていた。男が低い悲鳴をあげて目をおさえている時に、フレイヤの全体重を乗せた飛び蹴りがガラ空きの胴体に炸裂した。男はうずくまってうめきながら腹を押さえている。数秒後、腹を弄って何かを探しているそぶりを見せる。

 

「探してるのはこれかな?」

 

“わ、いつの間に取ったの!?”

 

 涙でぐしゃぐしゃの赤くなった目でこちらを見ながら狼狽える男は、片手で目を押さえながら片手を上げていた。

 

「フン、大の男が情けないね」

 

“……もう1人いなかった?”

 

「そう言えば…………あれ、ツカサちゃんは!?」

 

 ツカサと男は既に居なくなっていた。フレイヤから汗が噴き出す。

 

「くそっ!」

 

 男の肩に蹴りを入れると、男は簡単に倒れ込んだ。

 

「くそ……!クソッッッ!また油断した……!」




百合はよくわかんないんですが、なんか良い匂いしそうですね。
個人的には汗臭い男の絡みも好きですし、ヤマギとシノみたいななんか……なんというか……ちょっと上手く形容できないんですけど、ああ言うの好きです!

そう言えばツカサちゃんですが、元々アトラにやらせたかった役回りをやってもらってるんですねぇ。キャラが酷い目に遭うのが個人的なフェチズム(ティファレトの顔に裂傷が走るとか!)なんですが、流石に原作キャラにやるのは恐れ多いので、ほぼスケープゴートですね!なのでツカサちゃんがいると、自動的にアトラの存在がうすーくなっちゃいます……流石に原作キャラの腕が飛ぶとか、死ぬとかを描くのはかなり難しい……

次回以降ペース上げていけるかなぁ、と思います!


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25:最悪に踏み出す一歩

やっぱり原作キャラと絡ませるのが難しいですねぇ

キャラをしっかりと再現したいので半端なキャラになりそうだと出し渋っちゃうんですよねぇ(^^;;

その点オリキャラはやっぱ使いやすいし比率が高くなっちゃうのかもしれません(´・ω・`)

アニメを見直して勉強せねば!


「こちらが買取査定額です。ご了承いただけるのであればこちらにサインを」

 

 オルガがサインを書くと、業者の男は会釈とありきたりなビジネス的な挨拶だけして帰っていった。

 

「思ったより高く売れたな」

 

「あぁ、全体的にそこまで大きな破損がなかったからみてぇだな。コックピットは取り換えれるから汚れは気にならねーし」

 

「さーて、出発は明日の昼だし……飲むか!」

 

「おう、またしばらくテント生活になるんだし、ベッドで寝れるうちに色々やりてぇな」

 

 明日からまた始まる仕事に向けて英気を養うための計画を楽しそうに話していると、何やら外が騒がしいことに気づいた。

 

年少組(ガキども)が鬼ごっこでもしてるのか?」

 

 倉庫の入り口の方へと向かって歩き出すと、ジャラジャラと鎖を引きずる様な音が聞こえてくる。

 

「…………ッ!?な、何じゃありゃあ!?」

 

 入り口から現れたのはフレイヤ。しかし、明らかに様子がおかしい。というか様子どころじゃなく何もかもがおかしかった。

 

 鋭い目つきに乾いた赤黒い何かが付着している両手、鎖を引きずっていて、その先には、おそらくそれなりの距離を引きずられたことが原因であろうボロボロの服を着て、何度も殴られた様な跡がある男が繋がれていた。

 

 

 倉庫内にいた団員全員が状況を飲み込めず、ただ唖然とした表情でフレイヤを見つめている。

 

「………お、おい。なんだそれは……」

 

 他の団員と同じ様に固まっていたオルガだったが、やっと口を開いた。

 

「後で話します」

 

「……後でってお前」

 

「布と金槌」

 

「……」

 

「布と金槌を用意してください」

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、てめぇら人間違いってのはどういう事だ!!」

 

 部下の首を締め上げね怒鳴りつける男の名はシャオと言った。この男は強化手術の被検体であったが、失敗作の烙印を押されてこの山賊の元へ流れ着き、力でボスまで登り詰めた男であった。

 

「俺はケセドって女を連れてこいって言ったんだよ!!!」

 

「で、でもお頭は、その……ケセドって女は別嬪だって……!」

 

「可愛いとか以前にどう考えても日本人じゃねーか!このクズがッ!」

 

「俺はこっちが好みだったもんで……!」

 

「バカがーーーッ!!!!」

 

 怒りが完全に爆発したシャオは怒鳴り上げ、無能な部下を殴りつける。ほかの仲間と思わしき者たちはビクビクとシャオに怯えている様だ。

 

 拘束されて猿ぐつわを噛まされているツカサは、シャオを睨みつけて抗議するかの様にモゴモゴと声にならない声をあげていた。それが耳障りだったのかツカサの方へと固い足音を立てて近づいてくる。

 

「なんだよ、なんか文句あんのかよ」

 

 シャオは猿ぐつわを外すと口を挟む様に両頬を掴む。

 

「なんや、あんたら何もんなんや!くそ、これほどけや!!」

 

「あ?何だお前、状況わかってんの?」

 

「こんな女1人にこんなもんで縛ってほんま笑えるわな!恥ずかしくないんぐぁッ!!」

 

 掌が頬を通り抜け、ツカサの言葉は中断された。口の中が鉄の味に染まって吐きそうになる。その後も往復ビンタによる乾いた音が響くのが1分近く続いて、それが止んだ時には静かな部屋の中に少女の嗚咽だけがこだまする。

 

「ウグッ……あんたら……ヒック……許さへんから……グズッ……」

 

「へぇ、まだそんなこと言えんのね」

 

 ツカサの髪を掴み持ち上げる。涙と粘液と血でぐちゃぐちゃになりながらも睨みつけてきた事にシャオは少しだけ感心した。

 

「随分と不細工になっちゃったなぁ?

 そうだ、お前に教えといてやるよ。」

 

「………?グズッ」

 

「女が男に捕まった時に1番やっちゃいけねぇ事はなぁ、反抗する事なんだよ。

 ……にしても、女ってのは本当にしょうもない生き物だよなぁ?」

 

 掴まれた髪が放され、床に顔を埋める。ダメージから顔上げられないツカサの耳には布が擦れ、落ちる音が届い聞こえた。

 

「女である事が弱点なんだぜ?」

 

「ムグッ!?」

 

「女に生まれた事を後悔しな」

 

 

 

 

 金属で肉を叩きつける音が鳴り響く。倉庫にて、あの地獄を体験した鉄華団の面々でさえも気分が悪くなって外に逃げ出すものが続出する中、フレイヤは淡々と固定された男の指へと金槌を叩きつけていた。指の先から約1cmずつ確実に潰していく。

 

「これで2本目だな」

 

 フレイヤはそう言いながら男の猿ぐつわを外す。涙を流しながら顔をぐちゃぐちゃにする男はゼェゼェと肩で息をしている。

 

「また質問するぞ。貴様のアジトはどこだ、ツカサちゃんはどこに連れてかれた。次は2本いくぞ」

 

 その拷問は質問に答えなければ布を口に突っ込み、潰し終えるまで次の質問まで答えることすら許されないのである。

 

「…………ぐぐ………」

 

「残念だ、3本目いくぞ」

 

「ひぃっ!わ、わかった!わかったからもう.…やめてくれ!

 

「こ、ここから………」

 

 男は息も絶え絶えに自分の味方の情報を話し始めた。一通り男が話し終えると、フレイヤは拳を男の顎にめり込ませ、意識を失わせた。

 

「一応この人手当しといて」

 

 そういうとフレイヤはフェニックスの元へと歩き始める……が、オルガが肩を掴んでそれを静止した。

 

「フレイヤ、流石に説明しろ。何が何だか……」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

「准将、すでにご報告は受けていると思われるのですが」

 

「イドラの福音の事だろう?」

 

「そうです」

 

「宇宙で事が起きてる間は私の力で隠せてはいたが……やはり流石に極東の土地となればそうはいかんな」

 

「ジャパン支部が確保に動いてるみたいです。元々盗賊紛いのことをやっているイドラ関係者を追っていたところに迷い込んできたみたいですからね」

 

 マクギリスは軽く悩む様な素振りを見せる。

 

「ふむ、直接私が向かうとするか。せっかくセブンスターズの一席に就いたのだ。それを使わないではあるまい。あの少女にも直接会ってみたいしな」

 




6月はペースを上げていきます!


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26:笑顔

6月からペース上げます(大嘘)

ごめんなさいっ!( ; ; )
出力する能力が低すぎて遅くなっちゃいました!!


「……説明って、何をですか?」

 

 肩に手を置かれたまま、振り返らずにフレイヤは聞き返す。

 

「この男が何なのかと、今のお前がどうなってるかだ。いつも通りですってのは流石に遠らねぇだろ?」

 

「……ツカサちゃんが攫われたんですよ?」

 

「だから情報を整理しないと救出作戦を建てようにも」

 

「一刻も早く助けるのが先じゃないですか!?」

 

「フレイヤ!!」

 

 フレイヤはオルガの手を肩に感じながら、しっかりと握り返す。オルガは抜こうとするが、その手は動かない。自分よりもずっと背の低い少女がどこからそんな力を湧き出させているのか、まったく理解できない。

 

「私のせいで攫われたんです!!私が助けに行かっ……!ぐぅっ……!!三日月……くん……!」

 

 興奮するフレイヤを三日月が後ろから絞め上げる。いわゆる裸絞めと呼ばれる状態で、動かない腕を首にかけて左手で思いきり絞めこんでいる。

 

「団長はオルガなんだ。フレイヤも鉄華団の団員なら、オルガの命令を聞くべきだ」

 

 ギリギリと締め付けられ、解こうとするも呼吸が遮断されうまく息ができない。

 

“そこまでにしておくんだ、キミは感情的になりすぎる”

 

(ぅ……く……あな……は……………)

 

 

 

 

 

 

 三日月がフレイヤを絞め落としてから20分ほどが経った。オルガは団員たちに指示を出してツカサ救出のための準備をしている間、フレイヤの目覚めを待っていた。椅子に座らせ、両手親指を結束バンドで縛ると言う簡易的で負担の少ない形で拘束している。

 

「……こいつから話を聞かん限りにはな」

 

 オルガは改めてこいつは変なやつだと思った。今までのフレイヤを見ていまだにうまく芯が掴めない。今考えればフレイヤとしっかり絡んだことなんてほとんどないのだ。強いて言えばこの間の川での事くらいである。

 

「いや、あれは……」

 

 こんな事を考えている場合ではないのはわかっているものの、誰にと言うわけでもないが、誤魔化すように頬を人差し指で頬をかいた。、

 

「団長さん」

 

 不意打ちの呼びかけについビクリと体が跳ねる。フレイヤの方を見るとコチラを見つめていた。何とも不気味な目、まるでこちらを全て見通しわかっているかのように据わっているのだ。

 

「…………お前」

 

「やぁ、ご機嫌よう。……この拘束は解いてくれないかい?意外と辛いんだよこれが」

 

 

 

「ふぅ、ありがとう。女の子を拘束するなんて奇特な趣味をお持ちだね、団長さん」

 

 オルガはフレイヤの軽口を無視して観察する。子供らしい時、女の子らしい時、やけに目が鋭い時とはまた違う雰囲気を醸し出している。

 

「ははは、そんなに警戒しなくても良いよ。この化け物、とって食ったりはしないさ」

 

「単刀直入聞くが……お前は、その……」

 

「多重人格かい?」

 

「……あぁ」

 

「そう思うのも無理はないかな。まぁ、厳密には違うけどね」

 

 フレイヤは足を組んで髪をいじりながらこちらを薄い笑顔を浮かべて見上げてくる。

 

 

「……よくわかんねぇけど、記憶はあんのか?

 自分自身の事も、フェニックスの事なんてのも」

 

「もちろん知っているよ」

 

「……だったら話してくれないか?」

 

「んー……」

 

 フレイヤは唇に人差し指を当て少し考えるような仕草をする。

 

「嫌だね、断る」

 

「なっ!?」

 

 オルガの反応を見てフレイヤは楽しそうにくつくつと笑った。そして膝に肘をついてニヤついた表情のままオルガを見つめる。

 

「甘っちょろいね、君は。もし本気ならボクの拘束を解かず、答えないと答えたボクを暴力で屈服させ、ひん剥いて答えるまで嬲るのが正解だよ。

 まぁ、ボクはそんな事されても答えるような事はないんだけどね」

 

 フレイヤはゆっくりと立ち上がり、オルガに近づいて後ろ手に組んでさらにニヤついた表情を浮かべた。身長差があるため、背伸びして顔を近づけている

 

「その甘さは仲間を殺すよ。ただ進むだけでは命は守れない」

 

「…………」

 

「まぁ、意地悪しようってわけじゃないんだ。

 時が来たら話すさ、いまはその時ではない。今はフレイヤの望むべき事、あのツカサという娘を助ける事を優先すべきであって、余計な邪念は君の甘さにさらなるノイズをもたらすよ」

 

「……?

 お前はフレイヤじゃないのか?」

 

「ボクもフレイヤだよ?」

 

「……これが終わったら話してくれるのか?」

 

「期待してもいいよ」

 

「……嫌なやつだなこのフレイヤは」

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、みんなごきげんよう」

 

 フレイヤは作業中の団員たちに気さくに話しかけたが、彼らは不思議そうな表情で彼女を見つめる。

 

「くっくっくっ、みんなキョトンとしていて可愛らしいじゃないか」

 

「……ツカサを助けるためにみんな急いで準備してくれているんだ。茶化すような真似はやめろ。

 大体、お前はツカサはどうでもいいのか?」

 

「全くもってどうでもいいね」

 

「…………」

 

「けど、色々と不都合なのさ。ボクたちは簡単な存在じゃないからね。さて、ボクはフェニックスで待機しているよ」

 

 

 

 フレイヤがモビルスーツを積んでいるトレーラーの方へむかうと、三日月やアジー達、そしてそれらパイロット達に軽食をわたしているアトラがいた。

 

「やぁ、パイロットの皆さんご機嫌よう。ある程度の事は団長さんから聞いてるだろう?」

 

「…………」

 

 パイロットたちは半ば警戒する様な目でフレイヤを見つめ、その視線を受けたフレイヤは薄い笑顔を浮かべたまま腕を組んでいる。ほんの少しピリついた空気を和らげようとアトラがフレイヤに近づいた。

 

「あの、これ……お、おにぎり……」

 

「おや、ありがとうアトラ」

 

 ニコリ微笑みかけるフレイヤにアトラは少しだけ怯んだ。顔は同じなのにこちらを見透かす様な目や低い声色のせいで不気味さを感じるのだ。

 

「……ん?」

 

 フレイヤはふと横を見るとラフタが目の前に立っていることに気づいた。少し高い身長からこちらを見下ろしてくる。そして次の瞬間、プレイヤの髪をわしゃわしゃと揉み、匂いを嗅ぐために顔を埋め始めた。

 

「うん、ちゃんとフレイヤ!この髪質と匂いは間違いなくね!」

 

「はは……変な確認方法をとらないでくれないかい。ほら、もう出発みたいだよ。みんな準備しよう」

 

 フレイヤに促されるようにそれぞれ自分の機体に乗り込む。

パネルやスイッチをすこし弄ったフレイヤは軽くため息をついた。

 

「ボクではこいつの力を十全には発揮できないか。まぁ、これで十分だろう」

 

 薄く笑う少女を乗せたトラクターが動き出した。




次回はバトルですかねぇ。小説で戦わせるって難しい…


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27:自分勝手

思ったよりバトル要素は少なめになりました。

言い訳できないくらい多発で申し訳ございません!


 目的地まで向かうトレーラーに積まれたフェニックスの中で、フレイヤはくつろいでいた。他の団員達はそれぞれ作戦のイメージトレーニングをしたり、緊張した顔で武器を磨いていたりと様々である。

 

「たかがメカニック1人に、それも飛び抜けて優秀というわけでないのにここまでやるとはねぇ……ん?」

 

 フレイヤが半ば呆れた様な表情でめんどくさそうにシートに肘をついてくつろいでいると、モニターに“SOUND ONLY”と表示され、通信が入る。下には“HOD”という文字。

 

「おや?おやおやおや?キミも地上に降りてるのかい?」

 

『いや、宇宙だ。戦艦から直接フェニックスへと飛ばしている』

 

「へぇ、自分の劣情を抱く少女のために組織の技術を濫用とは、キミの部下達も報われないね?」

 

『そういうわけではない!

 しかし……まさかお前が出てきてるとはな』

 

「嫌かい?まぁ、そうだろう

 あっちがよかったかな?」

 

『そういう問題ではない。お前達がいないことがあの子の幸せだからだ』

 

 フレイヤは心底バカにした様にくつくつと笑う。

 

「素晴らしい騎士様だね。実に感動的だ、おかしくて涙が出てくるよ」

 

『なんだと?』

 

「くっくっくっ、そう怒らないでくれよ。バカにするつもりはなかった」

 

『フン、本題だが……ティファレトがまた動き出した。やつ自身まだ動けないらしいが、宇宙に上がった時に迎え撃つ気らしい。』

 

「これはこれはご忠告ありがとう。しかしそれだけの為にこんなことをやってるのかい?こんな通信、組織の技術でも相当に大掛かりだろう?」

 

『フレイヤのためだ。もちろんお前は消えていいフレイヤだ、蛇女。

 そろそろ時間だ、じゃあな』

 

 ホドからの通信はプツリと音を立てて切断された。彼が残した最後の言葉、フレイヤに対する嫌がらせとしては最大に効果を発揮した様で、常に涼しげな表情だったフレイヤは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「実に……不快な言葉だよ」

 

 

 

 

 

 目が覚めると三畳ほどの狭く薄暗い部屋だった。ひんやりとした室内と自分の体の形に温まった床、悍ましい臭いに吐き気を覚えながら起きあがろうとするが、体は諦めているかの様に力が入らなかった。

 

 静寂の室内、自分の呼吸する音だけが頭の中で木霊する。この部屋にいた男達が大慌てで部屋を飛び出していき、扉の向こうの廊下でバタバタと行き来している音を聞いてから何の気配も感じない。

 

 

「たすけて……フレイヤはん……」

 

 その微かな声は誰に届くこともなく、闇に吸い込まれた。

 

 

 

 

 とある山の中、自然に囲まれ長閑な場所。天気は良く、清々しい雰囲気醸し出し……てはおらず、金属と金属のぶつかり合う轟音が響き、鳥は飛び上がり、鹿は走り出す。

 

「こいつらただの盗賊じゃないの!?数多すぎでしょ!!」

 

 フレイヤ、三日月、アジー、ラフタ、ライドの5人は4機を葬り、残り14機のモビルスーツに囲まれていた。それぞれはあまり練度が良くない様で、数さえいなければ早々に全て鉄塊へと変わっていたであろう。

 

「それにしてもこいつら、モビルスーツに乗り始めて半年も経ってないんじゃないか?弱すぎる!」

 

 アジーは冷静に相手の攻撃をいなし、反撃しようとするが別の敵が攻撃してきて上手く戦えない。

 

「チッ……持ってくればよかった……!」

 

 山岳の勾配が多く、木々が生い茂っているこの場所では、どうやらバルバトス・ファーヴニルに搭載されている武装はかなり相性が悪い上に、まだ武装への三日月の理解が及んでいない為にうまく戦えない。

 そして全員が薄々違和感を感じ取っていた。おそらくこの敵達はまともにこちらを倒す気はない様で、まるで何か時間を稼いでいる様に思えていた。

 

「まぁ、時間を稼がれるのはこちらも好都合だけどね。突入組が上手くやってくれるさ」

 

 三日月達が上で暴れている間に、オルガを含めた歩兵が制圧しようというのである。これは鉄華団の得意戦術の一つであり、想定した訓練を幾度と重ねてきた為、半分が十代後半程度でもまるで特殊部隊の様な動きをしていた。もちろん本職の者達と同等というわけにもいかないのであるが。

 

「この体で言うのもあれだが、少年兵というのは実に……グッ!?」

 

 余裕綽々としていたフレイヤは突然の頭痛に顔を歪める。

 

「まさかっ……!冗談……だろう!?

 今キミが出る気かい……!?」

 

 動きが止まったフェニックスに対し、敵のモビルスーツが剣を振るう。しかしまるで見切ったかの様な動きでそれを鉈で受け止めた。コックピットの中のフレイヤの目つきが変わる。余裕を持たない少女の瞳、ただ冷酷に言葉を告げる。

 

「……邪魔しないで」

 

 接触回線を通じて聞こえたその言葉が盗賊が最後に聞いた声だった。轟音を立ててコックピットが潰れる、鉈による一撃で。

 

「待ってて……ツカサちゃん!」

 

 そう呟くと、作戦を無視してフェニックスが高く飛び上がり、突入組が向かっている場所へと飛び立った。

 

「ちょ、フレイヤ!」

 

「あの嫌なフレイヤの予想通りだ、落ち着くんだよライド!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルガ達はフレイヤが捕まえてきた男を拷問して得た情報をもとに侵入経路として最も適しているとおもわれる洞窟の入り口の方へとモビルワーカーで向かっていた。

 

「ん……?おあぁあ!?」

 

 大きな影が横切ったかと思えば轟音を立ててフェニックスが舞い降りた。唖然としていると、コックピットが開きフレイヤが出てきた。虚に見下ろすその眼は美しく、まるで宝石が埋め込まれてる様に無機質であった。

 

「ツカサちゃんのとこいくんでしょ」

 

「…………」

 

「乗せて」

 

「…………わかった、乗れ!」

 

 時間もなく、この状況でフレイヤが素直に言うことを聞くはずもないので望み通りにする事にした。気休め程度にフェニックスに木々でカモフラージュを施し、フレイヤはオルガと同じモビルワーカーに乗り込んだ。

 

 数分進むと、直径約5mほどの洞窟が見えてきた。拷問に掛けた男によると、本丸から少し離れた場所にあるこの穴は見張りが手薄で、もし大きな騒ぎが起これば比較的簡単に入り込めるとの事らしい。

 

「……嘘じゃねぇみてぇだな」

 

 万が一の事があった場合、倉庫に残った団員によるノンストップで足の指全てを同じ様にすると脅しておいたおかげか本当のことを言っていたらしい。

 

(まぁ、やらせれねェけどな……)

 

 入り口から少し進むと岩肌はコンクリートの壁にかわり、扉が点々としている。中を開けてみても空部屋だったり、適当なものが置かれてるだけなどを繰り返すだけで埒が開かない。

 

「この辺りはあんまり需要な区画じゃなさそうだな」

 

 という事で一旦扉は開けずに奥へと進む事にした。長い廊下をすすむと曲がり角に差し掛かる。変わり映えのない景色と、敵が全く居ない事に退屈と油断をしていた16歳程の団員が隊より少し前に出た。

 

「オイ、逸るのはわかっけど列を……」

 

 曲がる寸前にオルガの呼び止めに振り向いた瞬間、その団員は側頭部に何か衝撃を受けて倒れ込んだ。そして横向きに寝転がったその目は半開きで焦点があっておらず、頭部付近から何やら黒い液体が床に溜りを作っていた。




励みになりますんで宜しければ感想とか批評とか残してくれるとありがたいです!


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28:憎悪の淵に

すみませんどんどん書くペースが遅くなってますね(^_^;)


 倒れた団員が作った血溜まりは広がってオルガの靴を汚す。オルガは溢れ出さんとする感情を歯軋りして抑え込んだ。

 

「くそッ!逸るから……!

 てめぇら!気をつけろ!待ち伏せしてやがる!」

 

 しかしオルガの言葉を無視してフレイヤは曲がり角に近づき、何かを投げた。

 

 その瞬間、凄まじい閃光と爆音が響き渡る。おそらく部屋を漁ってるうちに見つけたスタングレネードという奴であろう。

 

「うぉあああ……!?」

 

 閃光は壁に阻まれて軽減されたものの、窓のないコンクリートの廊下では音はこちらまで襲ってきた。

 

 耳鳴りでうまく聞こえなかったが、おそらく4発の発砲音がして、独特な酸化臭が鼻を刺激する。

 

 フレイヤの方を見ると、銃を下ろして佇んでいた。恐る恐る曲がり角の先を覗いてみると約10m強離れた場所で男が3人いた。しかし、脳天を撃ち抜かれて動かない者、首元から大量の血が流れて痙攣してる者、肩の付け根をを抑えて苦痛に顔を歪ませている者と状態は三者三様である。

 

(……瞬時にこの距離で撃って4発中3発当てるのかよ)

 

 

 フレイヤがさらにもう1発撃ち込むと、生き残っていた男から力が抜け、骨がぶつかる鈍い音がして動かなくなった。

 しかしフレイヤも反撃を受けたようで、太もも部分を銃弾が掠めて膝丈のパンツごと浅く抉られて皮膚の内側がのぞいている。

 

 しかし自分の怪我すら意に介さずに歩き出した彼女の肩をオルガが掴んで止める。

 

「焦る気持ちわかるけど、せめて止血しろ」

 

 しかしフレイヤは振り向いてオルガを見上げて睨みつける。

 

「離してください、少しでも早く助けたいんです」

 

「フレイヤ、落ち着けよ……!」

 

「やめてください……!早くいかないと!」

 

 勝手に先に進もうとするその肩を掴んでいるオルガだが、フレイヤの馬鹿力に少しずつ引っ張られていく。

 

「この……!!」

 

 体重をかけて後ろに引っ張ると、フレイヤの体が反転して目が合う。

 

「いい加減にしろ!!」

 

 そう叫ぶと同時に鈍い音が鳴りフレイヤの小柄な体が壁に打ち付けられた。

 

「だ、団長!流石に女の子にパンチは……」

 

「フレイヤ!お前本当にいい加減にしろよ……!

 ……テメェ、まさかツカサが助かれば他のやつなんてどうでも良いと思ってんじゃないだろうな?」

 

 その言葉にあひる座りで鼻血を垂らしながらオルガを睨みつけていた表情が強張る。

 

「ち……ちが……わたし、そんな……」

 

「……だったら、なんでミカ達をほっぽり出してここに来てんだよ」

 

「…………それは」

 

「今そこに倒れてる奴だって、お前にとっちゃツカサよりも印象が薄いやつかもしれねぇ。けどな、俺は団長だ。全員を守る義務がある」

 

 フレイヤは黙りこくって俯き、少し震えているように見える。オルガは頭に手を置いて優しい口調で語りかけた。

 

「もう少し、俺を信じちゃくれねぇか?」

 

 数秒間、お互いが沈黙する。そして沈黙を破ったのはフレイヤの弱々しい「……はい」という返事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りは山賊どもの寝床みてぇだな」

 

 あの後特に山賊とも遭遇せず、さらに奥に進むと扉が連なっていて中は薄い毛布やしわくちゃのシーツなどが雑に散らばっていた。おそらく鉄華団の襲撃に対して大慌てで出て行ったのであろう。

 

 特に何もなさそうなので隣の部屋に移ることにした。ドアノブに手をかけて捻ろうとした瞬間、ふと少し離れた場所にある扉に注意が向いた。

 

(…………)

 

 うまく説明はできないが、何か嫌な予感を感じたのだ。フレイヤはドアノブから手を離し、恐る恐るその扉に近づく。オルガ達もフレイヤの動きをみて、その扉へと注意を注いだ。

 

 そのドアノブを握って恐る恐るとびらをひらく。少し錆びているのか、この静寂の中喧しく感じる音を立てて扉が開いてゆく。胸にざわめく嫌な予感を飲み込んでゆっくりと覗き込んだ。

 

「ウッ……!」

 

 まず吐き気を催す生臭さに顔を背け、一瞬呼吸を整える。そしてその臭いを吸い込む覚悟を決めてもう一度中を見る。

 

「……!!」

 

 そこには裸の人間がいて、こちらに背を向ける様に横向きに寝転がっていた。小柄な体と柔な線からして少女である。

 

 ゆっくりと近づいて手を振るわせながら肩に手を置いた。

 

「……ツ、ツカサちゃん」

 

「ヒッ……」

 

 自分の鼓動にもかき消されそうなほど小さな声、そして何かボソボソと言っている様に聞こえる。

 

「も、もう……ていこう……しませんからぁ……」

 

 ツカサはノソノソと体を動かして受け入れる様な体勢を取る。

 

「もう、いたいのは……い、いやです……」

 

「______ッッッ!!!」

 

 顔を見た瞬間、鼓動の音が強まって体が熱くなるのを感じた。強く握りしめる拳は震え、こめかみに青筋が浮き出る。

 

 遅れて入ってきたオルガが異変に気づいて駆け寄る。

 

「うっ!?」

 

 オルガでさえ口を押さえて目を背ける。そしてすぐに扉の外で警戒している団員に対して「急いで2-3枚毛布を持ってこい」と指示を出した。

 

「……フ、フレイヤはん……?ゲホ……フレイヤはんやぁ……」

 

 ツカサの目に涙が滲む。

 

 声……これ程に枯れるのはどれだけ泣き叫んだのだろう。赤く腫れた目元と、滲むだけの目……どれだけの涙を流したのだろう。

 

「フレイヤ、急ぐぞ」

 

 オルガは急いでツカサを毛布で包み、抱え上げる。オルガの声や表情から自分と同じ様に怒りを感じている様だ。

 

(どうしてこうなったの?)

 

“クククッ……ボク達が原因なのはまず間違い無いだろうね”

 

 オルガを追って廊下へと出る。

(わたしのせい……?わたしがいたから……?)

 

“落ち着いて!そんなに怒ったら危ないよ!”

 

 体が熱くなって頭痛が走り、ふらつきながらもオルガ達に追いついた。

 

(わたしはなにをすればいいの……?)

 

“解放しろ!怒りは戦いの糧だよ!”

 

 

 

 

 

「4……!」

 

 バルバトスの腕がMSのコックピットを握りつぶし、手を開いて金属片やオイル、肉塊の混じった形容し難い物を振り払う。

 

「マジでなんなのこいつら!?どんだけ出てくんのよ!!!

 下手したらタービンズ(ウチ)よりMS持ってるじゃん!!」

 

 フレイヤが抜けてから7機のMSをラフタ達は屠っていた。相手が弱いからこそどうにかなっているが、明らかにただの山賊ではあり得ないMSの所有数に少しずつ疲労が蓄積していく。

 

「もぉっ、オルガ達まだなの!?」

 

 突如、爆音と共に土煙が舞う。その砂塵に浮かぶ黒いシルエットと赤い点の光。それが晴れると同時に禍々しいMSが佇んでいた。

 

『……アァン!?フェニックスはいねーのかよォ!?せっかくこのカクエンを持ち出したってのになぁ!?』

 

 カクエンのモノアイが有機的に動いていて、状況を把握しようとしている様だ。

 

『オイてめェら!無理に倒さなくていいから押さえとけよォ!?俺がタイマンで1匹ずつぶっ殺してくからなぁ!

 ……まずはテメェだぁ!!』

 

 ラフタの駆る漏影に青龍刀の様な武器を振り上げて飛び掛かるカクエン。三日月が割って入ろうとするも、ラフタに付いていたMSがこちらに回った様で、1人で6機に囲まれてしまい手が出せない。それに相変わらず戦わずにその場に抑えつける為に動いてる様で相手の攻撃を防いだり避けるだけでもなかなかに体力を使ってしまうのだ。

 

 

 漏影はクラブで迎え撃つ様に構えるも、まるで生物の様にそれをすり抜けて胴体へと攻撃が迫った。

 

『バカがッッッ!!ネズミですらねェ奴がが俺見てーなモルモットに勝てるかよォ!!」

 

「うぐっ!あぁあああ!!!」

 

 何とか無理やり防御し、青龍刀をいなした。しかし、完全に威力を殺せたわけでなく、左腕と左足に負荷がかかって動きが鈍った。

 

「ラフタ!」

 

 アジーが援護に向かおうとするも、やはり三日月と同じ様にまるで鳥籠の様に囲まれて身動きができない。

 

『ほら、これでもう1匹目だ』

 

 勝利確信したシャオはおおきく振りかぶって振り下ろす。ラフタの命が散る寸前、シャオは後方からきたそれに対し武器を振り迎え撃った。鉈と青龍刀がぶつかり合って火花が散る。

 

『来たかッッッ!!ケセドォ!!!』

 

「お前かッ!!!お前だなァァア!!」

 

 フェニックスのツインアイが激しく点滅した。




よろしければ感想とかお願いします(╹◡╹)


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29:憎悪、怒り

すみません!かなりおそくなりましたぁ

この半年近く交通事故にあってリハビリしてまして先日お箸でお豆つまめるくらいまで回復できたんです( ; ; )

しばらくペン握るのも辛かったけどやっぱリハビリって大事!!!

まだ文字打つのも大変なのでスローペースの更新になります!


 火花を散らして激しくぶつかり合う金属の鈍い音が周りの木々を震わす。

 

「うぁああああああ!!!」

 

「ケセドぉぉああああああああ!!!!!」

 

 カクエンの一撃がフェニックスの脇腹を捉える。その一撃を鉈で受け止めるが、カクエンのパワーの前に吹き飛ばせる。

 

「ぐ、ぁぁあ……!」

 

「死ねッッッ!!!死ねやァァァァアーーーーーッッッ!!」

 

 叩きつける一撃をすんでの所で回避する。圧倒的な攻撃にフェニックスは逃げ回ることしかできない。

 

「くっ……!なんで……!」

 

「く、はは……!馬鹿が……!馬鹿がッッ!馬鹿がァーーーッッッ!」

 

「うぅッ!あぁ!!」

 

 攻撃を防御するも、感情任せの連撃にフェニックスはおされてゆく。

 

「俺はなァッ!テメェらみてェになァ!お行儀よく改造なんてされてねェンだよォッッッ!!!!引き摺り出してッ!!!ぶち犯してやるッッッ!」

 

 

 鼻血を垂らし、目を充血させながらシャオは昂らせる。異様な女への執着心と衝動のまま突き進むシャオは彼の言う通りある程度の安全性を踏まえた強化など受けておらず、圧倒的な暴力を行使する事に関しては命を削って他のセフィラと同等かそれ以上の力を発揮していた。

 

「あの女も良かったぞケセドォ!あんなに抵抗してたのに殴れば開くんだぜェ!?」

 

「くそ、お前はッッッ!殺すッ!!!!殺しやるッッッ!!!!」

 

 怒りに任せて鉈を叩きつけるも、全て防がれて反撃を喰らう。コックピットへの直撃は交わしたが、代償に左腕は捩じ切られた。

 

「まだよォッッ!」

 

 追撃の蹴りを入れられて木を薙ぎ倒しながらフェニックスは大地に転がった。

 

「フレイヤ!!!」

 

自分に貼り付いていたモビルスーツの最後の一機を再起不能にしてアジーはカクエンに飛びかかる。カクエンはそれを軽々と避けると、漏影の両足を捻り飛ばした。

 

「てめぇーらに構ってる暇はねーんだよォッッッ!雑魚がッッッ!!!!」

 

 カクエンはフェニックスにつかみかかり、ギリギリと金属の擦れ合う音が木々を震わせ、押し倒すかのような形になる。

 

「ケセドォッッッ!ケセドッッッ!!!ケセド様ァッッッ!!俺はッッッ!あんたの事がーーーッッッ!」

 

 もはやカクエンの動きは欲望を吐き出すだけの獣のようである。

 

「俺ら失敗作に優しかったセフィラはあんただけだッッッ!だから俺はアンタに決めたんだッッッ!!

わかってくれよォーーーッッッ!!」

 

「気持ち悪いんだよッッッ!!!」

 

 殺す気で攻撃してもやはりカクエンの方が優勢で、体勢を崩されて倒れ込む。カクエンは斧を振り上げて今にも振り下ろさんとしている。

 

「ゼェ……ッ!俺のモノにならねぇのならァッッッ!!!死ねやァーーーーッッッ!!!」

 

 振り下ろされた斧に、フレイヤは恐怖した。

しかし、湧き上がる憎悪、殺意は恐怖(きょうふ)さえも塗り替える。

 

 それに応えるかの様にフェニックスの肩や背中の装甲にあたる隙間から赤い光が噴き出した。その真紅はまるで血飛沫のように迸りあたりを照らす。

 

「クソッ!殺すゥッ!殺すッ!!」

 

「ハァッ!?なんだよそれはァ!?」

 

 いきなりフェニックスの出力が上がりカクエンは吹き飛ばされて地面に転がる。そのまま馬乗りの体制になると、コックピットに当たる部分を拳で何度も殴り続ける。

 

「くそっ!やめろぉぉおお!!」

 

 反撃しようとしたカクエンの腕は簡単に引きちぎりられ、もはや抵抗できなくなってしまった。おそらく次の一撃で装甲は剥がれシャオが剥き出しになるだろう。援護を求めて辺りを見渡しても、自分の手下達はほとんど潰されているようだ。

 

「やめろっ!くそッ!お前も!ティファレトも犯せずに死ねるかよッ!?」

 

 もう一度フェニックスを見た時はもう拳が振り下ろされる瞬間であった。

 

「うぁあああああああああああああ!!!」

 

『フレイヤァアアアア!!!上だァアアアアあ!!!』

 

 アラートが鳴り響く、状況を確認するより前に上空から接近していた“それ”の影が目の前を横切った。

 

「な、なにが!?……ハッ!?」

 

 カクエンがいない。慌てて見上げると、その異形な姿に戦慄した。

 

“巨大”

 

 まるで神話に登場する龍を連想させ、おそらく上半身とも言えるような部分には4本のアーム、そして下半身にはヒレ?のような物やサブアームが連なっていた。

 

「返せ……!返して!!」

 

 上半身のアームの一つに潰し損ねたカクエンが握られていた。フレイヤは自分の獲物を取り返そうとフェニックスのバーニアを全開にした。

 

 

「ガッ……!?ハァッ……!!?」

 

 フレイヤの鼻から鮮血が噴き出し、白目をむいてのけ反る。フェニックスもガクガクと震えたかと思えば膝をついて機能が停止した。

 

「今更……逃すかよ」

 

 飛び上がったバルバトスの右腕から射出されたワイヤーとクローがMAの機体に食い込む。MAは身を捩って振り解くが、次は左腕が襲いかかり逃さない。

 

 激しい音を立てて2つの化け物が絡み合い、空気がビリビリと震える

 

「……あれじゃ化け物が2体いるようなもんだな」

 

 オルガたちは空を見上げて2体の龍がぶつかるのをただ見ることしかできなかった。

 



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30:思惑

遅くなりました〜

リハビリまだまだ続いてます!


「さすがティファレト様!スコアでまた一位を取られたのですね!」

 

「美しい上に知的でお強いなんて!」

 

 取り巻きたちが自分を賞賛する声は、何とも心地よい。童話に登場するような金の糸のような髪や、精巧に作られた人形のような端正な顔。彼女の名前はティファレト。ここ、“スクール”と呼ばれる場所で生産されている強化人間の成功例の一人だ。9歳ながら、強化を施された彼女の肉体は成人男性のアスリートに匹敵し、動体視力や反応速度はまるでプロボクサーの攻撃を軽々にかわすほどだ。

 

「ふふん!この私がここでの最初のセフィラだからね!しかも9歳で!!」

 

 取り巻きたちは絶え間なくティファレトを褒め称え続ける。もちろん、彼女たちにはティファレトへの敬意がいくらかはあるものの、主に占めているのは将来的に彼女が握るであろう権力にしゃぶりつくヒルのような精神による物である。もちろんティファレトは盲目的ではないのでそのことを理解していた。

 

(ふん、くだらない虫どもね。お前たち程度じゃ私の駒使いも務まらない……ん?)

 

 ティファレトは2人の少女と、その2人にガッチリと腕をつかまれながら建物の影に引きずられている銀髪の少女を見た。好奇心に駆られて近づき、施設の影から覗いたところ、銀髪の少女がちょうど顔にビンタをくらい、尻餅をついていた。

 

「てめー、ほんとムカつくんだよ。媚女が」

 

「アンタみたいな落ちこぼれが、“先生”のお気にってだけで評価されやがってさぁ?」

 

 銀髪の少女は目に涙を浮かべながらもニコリと笑顔を作る。

 

「チッ……!そういうのだよ!お前のそういうとこがムカつくんだよ!」

 

 振りかぶって銀髪を殴りつけようとする腕が止まる。驚いて後ろを振り向くと美しい少女がこちらの腕を掴んでいて、それに気づくと同時に顎に衝撃が走って体が崩れ落ちる。

 

「ティ……ティファレト!」

 

「あぁ?いつからお前みたいな小虫が様をつけなくて良くなったの?」

 

「クソッ!お前みたいなぐえ"っ……」

 

 狼狽えるもう1人の鳩尾にティファレトの拳がめり込み、白目を剥いて倒れ口から泡を吹いて倒れた。

 

「やっぱり私すごいわねぇ……で、あんた」

 

 銀髪の少女はビクリと体を震わせて恐る恐るこちらを見る。不安そうな目が合うと、涙を浮かべたままこちらにニコリと笑いかけてきた。

 

「……アンタ、悔しくないの?」

 

「…………」

 

「はぁ、イライラするわね!?アンタ名前は!?」

 

 少女はまるでこちらの事を化け物かというような目で見つめ、刺激しないような素振りでニコリと笑う。

 

「わ、私は…………」

 

 

 

 

「ん………」

 

 ふと気がつくといつもの自分の部屋であった。豪勢な天井の装飾に出迎えられ、私は上体をおこし、モゾモゾと動いてベットから降りて洗面台を目指す。豪勢な金の装飾の入った鏡を見ると、そこには大きな傷のある自分の顔が写っていた。

 

「ひ………ひぃっっ!?ひっ!ひぃ!?いやっ!いやぁああああああああ!!!」

 

 鏡の砕け散る音で冷静になる。震えの混じった呼吸を落ち着かせ、ヒリヒリと痛む拳をさすりながらもう一度残骸に映る自分を見ても傷は見当たらない。

 

「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!!クソッ!クソッ!クソァァアアアアアア!!!アイツ殺すッ!殺すッ!殺す殺してやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから3日、フレイヤはほとんどの時間をフェニックスのコクピットで過ごしていた。あの戦いで気絶し、目が覚めたときには阿頼耶識が繋がったまま毛布で包まれていた。話を聞いたところによると三日月が奮闘し、大ダメージを与えたもののシャオ共々取り逃してしまったようだ。

 

 今でもあの時のツカサを思い出すだけで吐き気がする。彼女に起きた状況を知っているのは突入組と幹部、女性陣のみであった。ツカサは言葉を発することはなくなり、ただひたすら毛布にくるまっていて、たまに聞こえる啜り泣く声が胸を貫いて、フレイヤはいつも逃げ出してしまうのだ。

 

「もう……いやだ……」

 

 フレイヤは頭を抱えてうずくまる。泣きたくなくても涙は止まらない。霞んだ手のひらを見つめ、人の指を叩き潰した感触を思い出して、体が震える。

 

「違うの……私はそんなんじゃ……私はいい子なの…………」

 

 突然コックピットが開き誰かがこちらを覗き込んだ。

 

「ヨッドさん……」

 

「やぁ、様子を見にきたよ」

 

  ヨッドは端正な顔でこちらに微笑みかけてくる。そして手を伸ばし、フレイヤの頬に触れた。

 

 

「……私のせいなんです。私がいるから、弱いから……」

 

「君のせいじゃないだろう?」

 

 ヨッドの優しい目にフレイヤは引き込まれそうになる。全てを委ねたくなるような優しい目。

 

「あ…………」

 

 ヨッドの顔が少しずつ近付いてきて、お互いの息を感じる距離になる。2人の唇が重なる____

 

「いやっ……」

 

 ____すんでの所でフレイヤの手がヨッドを押し退けていた。

 

「……ごめんなさい」

 

 フレイヤはコックピットからさっさと逃げ出そうと縁に手をかける。しかし、ピタリと動きを止めてこちらを振り返った。

 

 その表情は先ほどと全く違っていてまるでイタズラ好きな少女のようにクスクスと口元を押さえている。

 

「くすくす、フラれちゃったねぇ」

 

「……あの嫌味ったらしいのが出てくると思ったが」

 

「キモいのは嫌なんだってさぁ」

 

 フレイヤは無邪気な子供のように笑う。

 

「……君は何だ?」

 

「え?何って?」

 

「僕は嫌味ったらしいのも、戦闘狂のも知っている。オドオドしてるのだってね。僕は研究所にいたし、フレイヤを作る時にもいた。

しかし君を知らない」

 

「あれぇ、私の時はいなかったの?

 ん、強いて言うなら……隠し味?」

 

 顎に人差し指を当てて首を傾げるフレイヤ、あざとさも混じるその雰囲気はまるで小悪魔のようだ。

 

「あ、ちなみに私ならいつでもキスくらいしてあげるよん」

 

 わざとらしい投げキッスにヨッドは浅くため息をつく。

 

「やめておくよ。僕が欲しいのは君じゃあない」

 

「そう?ざんねーん」

 

 

 

 

 3日後、目的の港町に到着し、経営組は荷物の仕分けや輸送船の申請などで忙しく動いている。しかし、それ以外の団員は実に退屈な時間を過ごしており、特に年少組は手伝うべきことがない状況だ。

 

「なぁ、最近空気重くね?」

 

「まぁ、ほらみんな忙しいのと……この前のフレイヤのアレ……がさ?」

 

「うんわぁ、思い出すだけできついよあれ……」

 

「連れ去られてよっぽど怒ってたんだなぁ、フレイヤ…………」

 

 しばらく沈黙が続いた後、ライドが立ち上がった。

 

「……フレイヤの話してたらおっぱい揉みたくなってきた」

 

「……俺はいいや」

 

「俺もパス、猫で忙しい」

 

 何か嫌なことを思い出したかのような表情で頬をさする者と、やけに猫が多いこの港を楽しむ者など他のメンバーも同じように揉みに行く気配はないようだ。

 

「なんだよノリ悪いなぁ……俺は行くぞ」

 

 

 

 

 

「港からは出てないと思うんだけどなぁ……ん」

 

 ライドがふと曲がり角を見ると、白い髪が風になびき、それがおそらくフレイヤと思わしきものであると気づく。

 

「おっ!いた!」

 

 ライドがフレイヤを追いかけて曲がり角を曲がろうとした瞬間、聞こえてくる音にゾッとして立ち止まる。音から想像できるそれに震える体を動かし、恐る恐る覗き込んだ。その瞬間、喉の奥が凍りつき、足の力が抜けて尻餅をついてしまった。

 

(な、なんだよ……何してんだよ……!?)

 

 白い髪の少女が何かを何度も踏みつけ、蹴飛ばしていた。言葉にするのも悍ましい光景で、吐き気が込み上げる。何よりも異様なのは、イタズラをする少女のようなクスクスという笑い声がその光景の先から聞こえてくる。

 

 抜かした腰になんとか言うことを聞かせて立ち去ろうとするもフラフラと安定しない。やっとのことで立ち上がり逃げ出そうと足を一歩前に出す。

 

「なにしてるの?」

 

  すぐ後ろから聞こえた声、特に凄んでいるような声色でもなく状況さえ違えばただの日常のワンシーンとして処理するだろう一言にライドの体は固まってしまう。振り向くか、前に進むか、動かず返事だけをするか。次の行動の選択肢だけが頭の中で回り続けているがどれも行動に移せない。数秒の沈黙ののちライドの肩に手が置かれる。ぴくりと体を震わせ、壊れた人形の様に後ろをぎこちなく振り向いた。

 

「んぐっ…!?んむちゅっ!?」

 

 口を塞がれたかと思いきや中にぬるりとした物が侵入してきてライドの口の中を弄ぶ様に動き回る。

 

「んちゅ…んぷっ……んんっ!ぷはぁ!?な、なにを……」

 

 やっとの事でフレイヤの優しい拘束を振り解き彼女と目が合っあ。その瞬間、ゾクリと体に小さな感覚が走り、ライドは無意識に走り出していた。

 

(あ、あの目……人を殺す時の三日月さんと同じっ……)

 

 一方フレイヤは走り去るライドを見つめながらクスクスと笑っていた。ライドの言う“目”、ちゃんと笑顔を作りながらもその面の奥には獲物を喰らう獣の目が覗いていた。

 

「はぁーっ、キスちょぉ気持ちいい〜……やっぱり生身は最高だなぁ〜!

ん〜、それにしても気になるのはぁ……三日月・オーガスくん、!なんであんなに強いのかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『シャオの回収、完了しました。現在再生治療室に運び込んでいます』

 

「やぁ、ご苦労」

 

 高級そうな椅子にふんぞり帰り、スーツとオールバックの男の名はイェソド、ホドやティファレトと同じセフィラの1人である。

 

ホド(ぼうや)ティファレト(クソガキ)には?」

 

『恐らく気付かれていないかと思います』

 

「上出来、やっぱりスクール育ちのガキどもはまだまだ詰めが甘いなぁ?」

 

『やはりイェソド様の様に……』

 

「おい、そのキッショい名前で呼ぶなよ。

 俺にはアヴル・アヴリールって名前があるんだ。俺は宗教は嫌いでね、金にはなるが稼ぎ方が楽しくない」

 

『申し訳ございません』

 

「次から気をつけりゃいいさ。

……にしても鉄華団ねぇ、ケセドを囲ってる集団か。フッ……上手く使えそうだ」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、三日月くーん」

 

 フレイヤの猫撫で声と頬を突く感覚に三日月は目を覚ます。安眠の邪魔をした犯人の方をチラリと向くとニコニコとニヤニヤの間の様な表情でこちらを見下ろしていた。

 

「……なに」

 

 三日月は安眠を妨害され少しだけ不機嫌そうに頭を掻いて上体を起こす。フレイヤはクスクスとまた笑うと隣に座った。

 

「隣座っていい?」

 

「もう座ってるじゃん」

 

「そうだね!」

 

「はぁ」

 

「私の事ってさ、みんな知ってるんだっけ?」

 

「心がたくさんあるってのは」

 

「おー、偉いねぇ」

 

 心底めんどくさそうな表情でこちらを見つめてくる三日月に対してフレイヤはそれを楽しむかのように口元を抑えて笑う。

 

「はぁ……で、なんの様なの?」

 

「んー、私ね!ちょっと三日月くんの事気になってるの!」

 

「俺の事が?」

 

「そうそう!三日月くんちょぅ強いしさ!結構顔もかっこいいし、ちんちくりんなとこも結構好き!」

 

 ピッタリと密着する様に体をすり寄せ、お互いの吐息を感じるほどに顔を近づけるフレイヤ。三日月はそれに対して少し困った様な、迷惑そうな表情で見つめてくる。

 

「俺は今のフレイヤは嫌いだよ」

 

「え」

 

「ウザいし」

 

「ん゛……」

 

「うるさいし」

 

「ん゛ん゛……」

 

「いつものおとなしいフレイヤの方が俺は好きだよ」

 

「私だってフレイヤだよん?」

 

「でも心が違うんなら別人なんじゃない?」

 

「うーん、沢山あるけど違うのとはまた別なんだよね」

 

「よくわかんないけど、とにかく俺は嫌いだよ」

 

「なんでぇー!!私もチューしたい!!!」

 

「嫌いな奴とはやんないよ」

 

「嫌いな奴って!……ん?好きな奴とはするの?」

 

「うん」

 

 フレイヤは少し首を傾げて考えると、ガッテン言ったようにハッとした。

 

「じぇらしぃ……だけどまぁ、そっか……」

 

少し悲しそうにした後、クスクスと笑いだす。

 

「私はこれからも貴方のことを知りたいと思ってるよ」

 

「そう」

 

(備えないとね……“あれ”が出てくる前に)




ライドが見た光景は最初は描写してましたが自分でもキツかったんでわかりにくくしてます


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