待っていたのか柱間ァ!(現代で) (駅員A)
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前世が忍者?

 うちはマダラの最期の記憶は、己を「戦友」と呼ぶ友の声だった。

 間違いだらけの人生だった。

 いつから間違えたのか自問自答を繰り返し、過ちを繰り返し、そして結局は無様に利用されて終わった。

 

 だから目を覚ました時、彼は信じられなかった。

 己が失い続けた4人の弟が生きていて、笑っている今生に。

 無限月読は失敗したのにこんな幸せな夢を見ていいのだろうか。

 

 幻術・解の印を組む兄を弟たちは首を傾げて見、真似してまた笑った。

 まだ皆、幼いから笑い声は高かった。

 すぐ下の弟のイズナ以外は記憶通りの笑い声だった。

 

 恐る恐る手を伸ばし、イズナの頬に触れた。

 柔らかい、子供の頬だ。

 

「どうしたの? 兄さん」

 

 数十年に聞く弟の声。

 彼が死んだ時よりも幼く、それでいて懐かしい優しい声。

 

「イズナ……」

 

 頭を撫でると、嫌がることも無く照れた顔で笑うイズナ。

 さらに下の弟たちが僕も、僕も、僕もとマダラに殺到した。

 襖が開いた。

 

「っ……! 父さま……」

「…………そうか。思い出したか。マダラ、私の部屋に来なさい」

「はい」

 

 弟たちが「えー」と口をとがらせると、タジマは優しい声音で弟たちに「すぐ終わる」と言った。

 マダラにとっては青天霹靂の出来事だ。

 あの父さまが優しい声を出す? しかも微笑んでいなかったか? あの父さまが?

 混乱するマダラは父の部屋に入り、正座して向かい合った。

 

「マダラ、うちは一族の宿敵を答えろ」

「……千手一族です」

「そうか……やはり思い出したのだな。いいか。心して聞きなさい」

 

 そうして始めたタジマは話し始めた。

 

「マダラ。私もお前と同じように忍者だった前世の記憶がある。だが、この世界が未来の世界なのかは分からない。忍者なんて空想のものとして扱われる世界だからな」

「確かになんの術も使えない……」

「ああ。どうやらこの世界は科学というのが発達した世界のようだ」

「科学か……。けど、どうして俺と父さまだけにこんな記憶が……?」

「記憶があるのは私らだけではない。他にも似たような者はいる。どんなきっかけで思い出すのかは分からないが、とても突然のことだ」

「俺は一体……なんなんだ?」

 

 困惑しつづけるマダラにタジマは優しく言った。

 

「お前はうちはマダラ。私の息子だ。マダラ、今の世界で生まれ育った時の記憶もまだ残っているはずだ」

「生まれ育った時の記憶……」

「服装も家も前とは違うが、お前は気にせず受け入れられているだろう?」

「そう言われてみれば……」

「今は記憶が混濁しているがじきに落ち着くはずだろう」

 

 タジマにそう言われ、マダラは深呼吸をした。

 

「確かに少しずつ思い出してきました。今は夏休みですね?」

「ああ。…………マダラ。家の近くに水切りができる川がある。好きに行きなさい。なに、イズナたちはいなくなったりしないさ。私が守っているからな」

 

 父の言葉にマダラは家を飛び出した。

 景色は前の世界と全く違うのに、迷いはなかった。

 なぜだか、ここだ、と思える場所があった。

 その川は小さな森に囲まれ、前の世界のあの場所によく似ていた。

 

「ハア、ハア……誰もいねーか」

 

 もしかしたらアイツがいるかもしれない。

 期待していたマダラはガッカリしつつも、足元の石を持って川に向かって投げた。

 あの石が向こう岸に届けばもう一度会える。

 もう弟たちを死なせなくて良い世界でもう一度会える。 

 

 逸る心が手をブレさせ、願掛けは何度やっても成功しなかった。

 けれど、急に後ろから投げ込まれた石がマダラの石を超え、向こう岸へ渡った。

 

「気持ち少し上に投げる感じ。コツとしては……」

「そんなこと分かってる」

 

 振り向くと戦友がいた。

 

 

 

 

 

 目が合った柱間が急に泣き出した。

 

「や、やっぱりマダラも記憶が戻ったんだな……マダラ、マダラぁ……!」

「おまっいきなり泣くんじゃねーよ! 男だろ!」

「今の時代、男も女もそう意識せずともよいのだぞ、マダラ。時代遅れぞ!」

「うっせーな! 俺ぁ、ついさっき記憶が戻ったばっかりなんだ! つーか、お前、来るのがおせーんだよ!」

 

 急に柱間が落ち込みだした。

 

「あんまりぞ。それを言うなら俺はお前よりも3日も早く記憶が戻っていたぞ。遅いのはお前ぞ」

「だーっ! お前、この世界でもその落ち込み癖、直ってねーのかよ!」

「マダラも相変わらず水切りが下手くそぞ」

「この……っ! 時代が変わろうが関係ねー! 今からてめーで水切りしてやる!」

「……次こそ届くと良いな。まあ、出来るなら」

 

 体育座りで落ち込みながら卑屈に笑う柱間に怒るマダラ。

 まるで子供のころに戻ったようだった。

 それを自覚した途端、マダラの勢いは減り、そして気まずそうな顔になった。

 

「ん? どうした、マダラ?」

「お前、記憶が戻ったなら覚えているんだろ? 俺らの最期を……俺がしたことも」

 

 顔を背けるマダラを見た柱間は急に大人びた顔つきになった。

 

「マダラ、記憶はあくまで記憶だ。俺もお前も覚えている。けれど、今の世界の記憶だってある。大切なのは今ここにいる俺たちだ」

「…………今度はただの戦友として酒を酌み交わすこともできるか?」

「ああ! もちろんだ、マダラ! と言っても、今はまだ子供だから酌み交わすのはジュースだな」

「ははっそりゃあ格好がつかねーな」

 

 マダラは柔らかく笑い、柱間の隣に腰をかけた。

 そよそよと川が流れていく。

 死体一つ流れない、綺麗な川だ。

 

 それから二人はたくさん話した。

 今生のことを、主に弟たちの話を。

 

「俺は五人兄弟、お前は四人兄弟。どちらも欠けてねーのか」

「ああ。お前のところの親父さんも記憶があるのだろう? 俺のところもだ」

「そういや、この川のことを教えてくれたのも父上なんだよな」

「なんだマダラ。聞いていなかったのか? 俺らの父上たちは面識があるし、示し合わせて

この川の近くの家を買ったんだぞ」

「はあ?」

「年に一回、酒を飲みに行く仲らしいぞ」

「年に一回ってところが生々しい距離感だな……」

 

 マダラはなんとも言えない顔になった。

 

「まあ、俺が言いたいのは父上たちもやり直しているということだ。今の時代、子供が四、五人いるのは多い方だ。けれど、欠けることなく俺らの弟たちを守ってくれたのだから」

「そうだな。そういやぁ、こっちの父さまは前の世界じゃありえねーほど生ぬるくなってたぜ」

「ガッハッハッハッハ! そりゃあ俺のところも同じぞ! 俺はしばらく父上の顔をまともに見られなかったぞ!」

「俺もそうなりそうだ」

 

 大笑いする柱間にため息を吐くマダラ。

 ふと、マダラの顔が真剣なものになった。

 

「記憶を取り戻したのはお前だけか? 弟たちは?」

「誰も思い出しておらん。俺もお前も同じころに思い出したということは、扉間たちもそろそろ思い出すのかの……皆目見当もつかん」

「こっちもイズナたちは思い出していない。俺としては思い出してほしくねーな」

「それはなんでだ?」

「お前はともかく、俺は弟たちを誰も守れなかった不甲斐ない兄だ。情けねー話だけどよ、そんな兄として見られたくねーんだよ」

「お前は相変わらず繊細な男だのぉ。そんなこと言ったら俺とて、下の弟二人は守れなかった。だからこそ、次は守ると安心させてやらなければいかんだろ?」

「ふん。お前も相変わらずだな。……ああ、思い出したついでに詫びておく」

「なんだ?」

 

 マダラは柱間に向かい合って頭を下げた。

 

「扉間のことだが……穢土転生で蘇ったアイツと戦っていた時、六道の棒をかなり刺して痛めつけた。死体とは言え、悪かった」

「…………顔を上げろ、マダラ」

 

 柱間はマダラの顔に一発、拳を入れた。

 マダラも文句は言わなかった。

 

「この一発でその話は終わりだ。扉間はお前の弟を殺したからお前も胸に溜まるものはあったのだろう」

「ああ。けど、俺は兄として最低の行いをしたからな。イズナのことは本人同士で解決させる」

「そうだな」

 

 夕日の赤が川を染め始めた。

 もう子供は帰る時間だ。

 どちらともなく二人は立ち上がり、別れのあいさつを交わした。

 

「またな」

「ああ。明日も待ってるぞ」

「明日は弟たちと遊ぶから明後日にしろ」

「む……そういえばお主、さっき記憶を取り戻したばかりだったか。仕方あるまい。存分に楽しめ」

「おう。じゃあな」

 

 瞬身の術を使えない二人は走って別れ、マダラはそのまま家まで止まることはなかった。

 

「あ! 帰って来た! 兄さん! どこ行ってたの? 僕たち兄さんと遊ぶの待ってたのに!」

「悪い、悪い。今から遊ぼうぜ」

 

 腰に手を当て、頬を膨らましたイズナを筆頭に、弟たちが「兄さん」「兄さん」「兄さん」とまとわりついた。

 マダラと楽しくじゃれていたイズナが急に悲鳴を上げた。

 

「待って兄さん! その頬っぺたどうしたの? 赤いよ!」

「ん? ああ。どうってことねーよ。こんぐらい」

「誰かと喧嘩? 兄さんを殴ったのは誰っ?! 僕が仕返しに行く!」

「俺が報復された方なんだよ。気にするな、イズナ。それよりもそろそろ飯の時間だ。手を洗って母上の手伝いに行くぞ。飯の後は好きなだけ遊んでやる」

 

 イズナ以外の弟たちは「遊ぶ」という言葉に反応して大喜びしているが、イズナだけはジトーっと兄を見つめていた。

 そんな次男の視線を笑顔で受け止め、マダラはイズナの頭をぐりぐりと撫でた。

 

「もー兄さん! 髪がぐしゃぐしゃになる!」

 

 口を尖らせながらも満更ではないご様子のイズナ。

 そんなイズナを羨ましがって僕も、僕も、僕も、とまた群がる弟たち。

 マダラは小さな弟たちが存在する幸せを噛み締めながら彼らと家で遊ぶのだった。

 




「父さま……それは?」
「人生ゲームだ」
「え?」
「わぁい! 人生ゲーム大好き! ほら、兄さん! みんなでやろう!」
「お、おう……(あの父さまが人生ゲーム?!)」


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対面! 仏間とタジマ

 記憶を取り戻したマダラはそれから毎日弟たちと遊び、時折柱間のいる川へ遊びに行き、と夏休みを満喫していた。

 そんなある日のこと。

 

「忍はいない、チャクラすらもない。こんな世界でどう生きていけばいいんだか」

「戦ばかりしてきた俺らだ。戸惑う気持ちも分かるぞ、マダラ」

 

 マダラと柱間は水切りをしながら人生について語り合っていた。

 持っていた石を見つめるマダラに柱間は語りかけた。

 

「俺らが切望した子供を激しい戦場へ送らなくともよい世界……それが今だ。俺とてあまりにも平穏な世にまだ慣れていない」

「能天気な貴様がか? そんな繊細な奴じゃねーだろ、お前は」

「む、なんぞその言い方は! 俺とて気にすることは沢山ある!」

「フン、ムカつく落ち込み癖もまだ治っちゃいねーようだしな」

「……お主とて、小便の時に後ろに立たれたら止まる癖……まだ治っていないのではないか?」

「なっ! うっせーな! 今は立小便をしない時代だ! そんな癖治す必要もねーよ!」

「厠のつくりは昔とそう変わらんぞ」

 

 からかう柱間に言い返すマダラ。

 次第に二人の言い合いが取っ組み合いに変わっていた。

 

「やっぱり俺らはこうでないとな! 柱間ァ!」

「時代が変わったとはいえ、俺も負けぬぞ! マダラ!」

 

 お互いに身体を鍛え直していた二人が忍組手をしていると、物音が。

 すぐさま離れ、体制を整える柱間とマダラ。

 そんな二人の前に現れたのは二人の少年だった。

 

「そこのおかっぱ野郎! 兄さんから離れろ!」

「兄者! 生傷が絶えないと思ったらやはり喧嘩していたんだな!」

 

 片方はイズナ、もう片方は扉間。

 突然あらわれた弟たちに兄たちは驚いた。

 

「イズナ、何かあったのか?」

「扉間もなぜここに?」

 

 尋ねる兄たちに弟たちは腕を組んで答えた。

 

「最近、兄さんが俺らを放ってどこかに行くから気になってついてきたんだ! この前なんて顔を腫らして来て、きっと悪い奴と会っていると思ったからね!」

「兄者がこそこそと隠れてどこかへ行っていたからな。どうせ捨て犬の世話でもやっているのかと思ったがまさかこんなデカかったとは」

 

 扉間の言葉にイズナが目を吊り上げた。

 

「おい! 兄さんを捨て犬と一緒にするな!」

「貴様も兄者を悪者と決めつけて何様のつもりだ」

「なんなんだよ、お前! どこ小だ?」

「木ノ葉第二小だ。貴様は?」

「木ノ葉第一」

「なるほど、第一小の者か。礼儀知らずなだけある」

「なんだと?! 第二は弱い奴の集まりだもんなぁ! お前はどっからどう見ても弱そうだ!」

「本当に弱いか……確かめてみるか?」

「上等!」

 

 拳を構える扉間とイズナに兄たちが声を張り上げた。

 

「扉間! そういう言い方はよせと言っておるだろう! 手を下げろ!」

「イズナ、そいつにあまり近づくな!」

 

 兄たちが間に入ったものの、弟たちはにらみ合っている。

 

「兄者、なぜ第一小の者と慣れあう?」

「兄さん、あんな奴と遊ぶより僕らと遊んでよ!」

 

 柱間もマダラも困惑顔だ。

 

「扉間よ、そのうち紹介しようと思っていたがマダラは俺の親友ぞ。お主もそのうち奴の良さが分かる」

「イズナ。勿論、お前らと遊ぶ時間だって大切だ。でもな、柱間はそこら辺の奴とは違う。俺が認めた男だ」

 

 言い聞かせる兄たちに扉間もイズナも不機嫌になった。

 

「親友? 奴の良さ? 兄者は何をのんきなことを……さっきも殴り合いの喧嘩を始めていたではないか」

「兄さんが僕ら以外を認めるなんて信じられない! なんか騙されているよ!」

「おい。騙しているのはそっちだ。兄者は人を信じすぎる甘さがある」

「兄さんだって都市伝説をすぐに信じるくらい素直なんだから!」

「兄者は甘いだけじゃなく、平気で夢を大声で言うバカなところもある」

「兄さんは俺たち弟に優しいのに自分一人で背負ってばかりでこっちが心配になるくらいの大馬鹿者だ!」

 

 だんだん逸れる弟たちの話を兄たちが止めた。

 

「扉間、そのぐらいにしろ」

「なあイズナ……俺のことディスってねーか?」

 

 柱間は堂々と、マダラは眉を下げながら。

 そんな兄たちに弟たちは反応した。

 

「兄者は甘い! 先ほどの喧嘩もそこのマダラとやらが吹っ掛けていたではないか!」

「兄さん! 僕は兄さんのことが心配なだけなんだよ!」

 

 うちはも千手も兄弟でわいわいガヤガヤしていたその時。

 兄弟たちがいた河原からそう遠くない茂みからガサッと音がした。

 しかも、それは二か所から。

 マダラと柱間はすかさず足元の石をそれぞれの茂みに投げた。

 

「どうやら考えることは同じようですな、千手仏間」

「のようだな、うちはタジマ」

 

 石を避けながら現れたのは柱間たちの父親である千手仏間と、マダラたちの父親であるうちはタジマ。

そんな父親たちが手に持っていたのはホームビデオ。

 どちらも最新式だ。

 これには子供らもびっくり。

 だが、いち早く次男たちが父を頼った。

 

「父さま! 兄さんがそこの変なおかっぱ野郎に殴られそうだったんだ!」

「父上! 兄者がまた怪しげな者に騙されかけている!」

 

 父親たちはビデオを構えたまま、うんうんと我が子の主張を聞いていた。

 

「いや、まず父さまたちが何やっているのか気にしろよ」

「父上、どうしてここにいるのだ……?」

 

 長男たちは訝し気な顔だ。

 父親たちがそれぞれ真剣な顔で答えた。

 

「柱間、我が子の成長という重大な情報、逃してはならん」

「マダラ、このカメラは光も闇もよく映す。我が子を映すのにちょうど良い」

 

 長男たちはこれ以上問いかけるのを諦めた。

 仏間たちもさすがにずっと撮り続けることはせず、ビデオカメラを下ろして次男たちに向き合った。

 仏間が優しい口調で扉間に言った。

 

「あの者たちはうちは一族だ。扉間、お前がよく家に連れて来るうちはカガミの親戚だ」

「カガミの……? 確かに名字は同じだが……」

「さすがの柱間もうちはに騙されるほど愚かじゃない。これからの千手を率いる男なのだからな」

 

 タジマはタジマでイズナの頭を撫でながら言った。

 

「イズナ、マダラはうちはの男だ。多少の傷は平気だろう」

「でも父さま……兄さまがあのおかっぱ野郎に会いに行くせいで僕らと遊ぶ時間が減ってるんだよ」

「遊ぶ時間が減ったとしても、マダラのお前たちへの愛情に変わりはない。安心なさい」

 

 弟が父親にたしなめられる光景にマダラも柱間も唖然とした。

 以前ならここで殺し合いが始まったというのになんだこのギャップは。

 長男たちの考えていることがタジマたちも分かったのか、少し気まずい顔に。

 

「柱間、扉間。そろそろ帰るぞ」

「マダラ、イズナ。こちらも帰るとしよう」

 

 弟たちは意気揚々と、兄たちは寂しげに父の後をついて行ったが、タジマも仏間も足を止め、お互いに振り向いた。

 そして両方が口を開き、

 

「「来週」」

 

 と声を重ねた。

 まさか話が被ると思わず、お互いにムッとした顔になった。

 

「そちらからどうぞ、千手仏間」

「いや、そっちから話せ、うちはタジマ」

「父さま。用があるならさっさと話した方がいい」

 

 マダラに促されたタジマが口を開いた。

 

「来週末に我が家ではバーベキューを予定しています。これも何かの縁。千手仏間、あなたのご家族を招待しましょう」

「父さまっ?!」

 

 突然の誘いに子供たち、特にイズナが驚いたがタジマは仏間の方を向いていた。

そして当の仏間もムッとした顔のまま言った。

 

「ちょっと待て。来週末は我が家も流しそうめんを予定しているから、うちは家一同で来たらどうだ」

「父上?!」

 

 こちらも扉間が咎めるような声を出したが仏間は意に介さない。

 そんな中、柱間が大喜びで言った。

 

「ならば今週は俺らがマダラの家に、再来週はマダラたちが俺らの家に来ればいいぞ! バーベキューに流しそうめん! どっちも楽しみだ! なあ、マダラ!」

「あ、ああ。楽しみが続けば弟たちも喜ぶ。どうだろう、父さま」

 

 柱間のパスを受け、マダラもぎこちなく父に伺ってみた。

 

「私は構わない。誘いを断るのは失礼に当たるから喜んで行こう」

「マダラの家はああ言っている。父上もそれでいいだろう?」

「少々、予定はズレるが……構わん。では、うちはタジマ。来週の正午に伺う。それでいいか!」

「ええ。お待ちしていますよ、千手仏間」

 

 こうして、兄たちは意気揚々と(マダラは隠そうとして隠しきれていない)、弟たちは不満げながら二つの家族は帰って行った。

 




 マダラとイズナが下の弟たちの突撃を受けている中、父と母はそれを見守っていた。

「おかえりなさい、あなた」
「ただいま戻りました。下の子らの面倒を見ていてくれてありがとう」
「三人ともお昼寝していたからそう大変じゃなかったわ」
「そうでしたか。……来週のバーベキューですが、千手仏間の一家も招待しました」
「あら! あなたのお友達の? とうとうこの日が来たのね」
「友人ではありません。マダラがあそこの長男と仲良くなっただけですから」
「ふふ……そうなの?」

 悪戯っぽく笑う妻の視線にタジタジになるタジマだった。


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ほのぼの町探検

 バーベキューが2日後に迫ってきているためもあってか、その日の柱間はやけにワクワクとしていた。

 そして、マダラも隠そうとしながらもにやけを隠せていなかった。

 

「まさか父上たちがどちらも家族行事に誘うとは驚いたぞ!」

「あの様子だとお互いに考えてはいたようだな。柱間。うちはの火入れは日本一だ。明後日のバーベキューは度肝を抜くぜ」

「おお! さすがは火遁のうちはだな! 確か今は鉄鋼業関連の仕事をしておるのだったか?」

「ああ、そうだ。父上が独自に開発した溶接技術が売りの会社だ」

「俺はてっきりうちは煎餅の社長なのかと思っておったぞ」

「あれは祖父さんの会社だ。親父はそこから出て行って好きにやってる」

 

 二人はいつものように水切りをしながら話していた。

 

「俺の家の流しそうめんも見たらビックリするぞ! 最近の父上は仕事終わりにそうめん台の改良ばかりしておるからの」

「そうめん台の改良? あんなの竹を半分に切るだけだろ」

「そんな生半可なものではないぞ! 今の千手一族は建築の匠だからの。父上の知るすべての技術を込めて作ったジェットコースターそうめんだ!」

「おいおい、マジかよ……ちゃんとそうめん食えるんだろうなぁ」

「美味さは保証する! この俺が!」

「だから心配なんだよ。お前、いかにもバカ舌そうだろ」

「バカ舌……あんまりぞ……ひどいんぞ……」

 

 ズーンと落ち込む柱間にマダラはうげっとなった。

 

「また落ち込みやがって! 事実を言っただけだろ!」

「俺はバカ舌じゃないぞ! マダラは繊細すぎるから料理にもこだわりがあって面倒そうぞ……」

「んだとゴラァ! 母様の料理はどれも完食してるに決まってんだろ!」

「そうか? お主のことだ。味噌汁は出汁から取ったものじゃないと許さないとか言いそうぞ」

「ああ? 出汁から取らねーと味がしねーだろうが!」

「ほれ、そういうとこぞ。今どきは出汁の粉という便利なものがあるのにマダラは世間知らずよのぉ」

「うるせー! 母様はそんな手抜きしねーんだよ!」

「ククク……出汁を取らないことを手抜きと言っている時点で面倒な奴ぞ。どうせ出汁の粉を使っていても気づいていないだけぞ」

「てめー! 今日という今日は覚悟しやがれ!」

 

 いつものように取っ組み合いを始める二人。

 今日はどうやら止めに来る弟たちはいないようだ。

 ひとしきり暴れた後、マダラが柱間に言った。

 

「柱間。お前、こっちの地域は馴染みねーだろ? 案内してやるよ」

「おお! それは楽しそうだ!」

 

 マダラと柱間はそれぞれ川を挟んだ向かいに家が建っていて、学区も違う。

 お互いに川の向こうはあまり行かない場所なため、柱間はさらにワクワク。

 マダラも自慢げな表情を隠しもしない。

 

「そこの店は母様がよく使うスーパーだ。その隣の本屋は種類が豊富でおススメだ。んで、向こうの公園には変なジジイがいるから注意しろ。あと、そこの家にはデケー犬がいてな。弟たちは泣いて怖がるから前を通らねーようにしてるんだよ」

「ふむふむ。川を挟むだけで全く違う場所に感じるぞ! ん? なんだか香ばしい匂いがするの……」

 

 ぐー、と鳴る柱間のお腹。

マダラがニヤッとした。

 

「ちょうど八つ時だ。柱間、今日は俺がご馳走してやるよ」

 

 彼が案内したのは道の角にある小さなお店。

 そこにはお婆さんがいた。

 

「婆さん。せんべい二枚頼む」

「あら、マダラちゃん。今日はお友達と一緒なのね。初めて見る子だわ」

「む! ここはうちは煎餅の支店か! 俺は千手柱間! マダラの親友ぞ!」

「てめっ……よくもんな恥ずかしいことデケー声で言えるな……」

 

 照れと恥ずかしさの混じった表情をしながらも否定はしないマダラに煎餅屋のお婆さんは微笑んだ。

 

「マダラちゃんの親友! そりゃあ腕によりをかけた出来立て煎餅を作らないとねぇ」

 

 わざわざ煎餅を焼き始めてくれたので柱間たちは眺めて待つことにした。

 

「なあ、マダラ。そこの婦人もうちはの者か?」

「いや、ただの従業員だ。でも父さまがガキの頃から店をやっているらしい」

「ほぉ……うちは煎餅はうちは一族が独占しておるのかと思ったが……」

「んな沢山いねーよ。どれだけ煎餅屋があると思ってんだ」

「む……そんなに多いのか?」

「俺も数は覚えてねーけどそれなりにあるらしいぜ」

 

 子供らの会話に煎餅を焼いていたお婆さんが加わった。

 

「マダラちゃんのおじい様は立派な方でねぇ。あなたたちが生まれるすごーくすごく前にあった戦争で夫を亡くした寡婦がたくさんいたのよ。そういった人たちに煎餅屋のノウハウを伝授してくれてお店を持たせてくれたの。私みたいにね」

「ほぉ……この国でも戦争があったことは知っていたがそんな対策を……」

「煙草屋のやり方を真似したんだとよ」

「なるほど。扉間が聞いたら興味を持ちそうな話ぞ」

「お前の弟ならとっくのとうに知ってんだろ」

 

 煎餅が出来上がった。

 

「さあ、熱いから気を付けてね」

「ありがとう、ご婦人!」

「美味そうだな」

 

 店先で二人そろってかじりつき、二人そろってあちち、と舌を出す子供たち。

 お婆さんはニコニコしながらそんな様子を眺めていた。

 

「美味い! さすがうちは煎餅! 見事な火入れぞ!」

「ふん、当たり前だろ。ここの婆さんは祖父さんも認める火入れの達人だ」

「いっぱい褒めてもらえて嬉しいねえ」

 

 うまいうまい! とあっという間に食べ終わった二人は町の探索に戻った。

 

「馳走になったの、マダラ。今度俺の町を案内するときは美味い甘味に連れて行くからの!」

「ま、あんま期待しねーで待ってるよ」

「お前も絶対に美味いと唸る店ぞ!」

 

 ぷんすかする柱間にマダラはカラカラと笑い、柱間もつられて笑った。

 そんな小学生二人に話しかけた人物が。

 

「おおっと、そこの坊ちゃんたち。お前ら金持ってそうだなぁ……」

 

 今どき珍しい学ランリーゼントの不良だ。

 仲間はいないようだが、高校生だからか十分威圧感がある。

 

「おい、そこのお前。ちょっとジャンプしてみろ」

「む? ジャンプか? ほれ」

 

 ぴょんっと思いっきり高く飛んだ柱間が着地すると、ボロボロと何かが落ちた。

 柱間が顔の高さまで飛んだことに一瞬驚いたものの、不良は何かが落ちた音にニヤニヤした。

 

「へへっやっぱ小銭を持ってたか……ってこれドングリじゃねーか!」

「おおっと。いかんいかん。これは板間と瓦間にあげるためだからの」

 

 落ちたドングリを全部拾っていく柱間。

 呆れた顔で見ているマダラに不良は言った。

 

「クソッ! おい、そっちのテメー! ジャンプしろ!」

「ふん。いいだろう」

 

 ぴょんっとこれまた高く飛んだマダラはそのまま不良の顔面を思いっきり蹴りつけた。

 

「ぐえっ!」

「飛んでやったぞ。感謝しろ、砂利」

「おいマダラ! 今は昔と違って暴力沙汰にはうるさい時代ぞ! そうすぐに攻撃するでない!」

「小学生をカツアゲしようとしているのだからこの程度の反撃は構わん。気を失わんように加減はしてある」

「だからと言って、ちとやりすぎぞ! ほれ、泣いておる!」

 

 小学生から反撃されると思わず、しかもめちゃくちゃ痛かったせいで不良は地面に仰向けになったままさめざめと泣いていた。

 柱間はしゃがみこんでそんな不良の顔を覗き込んだ。

 

「マダラが悪かったの、若いの」

「ふん。男が往来で泣くなんぞみっともない」

「マダラ! 今は男だなんだという時代ではあるまい!」

「なら先にコイツの時代遅れな髪型と格好を突っ込めよ」

「う、うう……うえーーーーん! 覚えてろぉ!」

 

 自分の顔の高さまで飛ぶ化け物じみた小学生たちが怖くなった不良は捨て台詞を吐き、ピューンと逃げて行った。

 追いかけようとしたマダラを柱間は止めた。

 

「柱間、なんで止めるんだ!」

「別に俺もお前も迷惑したわけではあるまい。むしろ迷惑かけたのはお前ぞ、マダラ」

「ふん。正当防衛だ」

「過剰防衛ぞ。とにかく、次に行こうではないか」

 

 柱間がそう言った時、帰りの時刻を知らせる音楽があちこちから流れ始めた。

 夕方に鳴る『ゆうやけこやけ』の通り、もう空はオレンジ色になっていた。

 

「そろそろ帰る時間か」

「なら川のところまでは見送ってやる」

 

 元来た道をたどる二人。

 ふと柱間が公園に目をやった。

 

「む? あそこの老人が何やら呼んでいるの!」

「おい柱間! あそこの公園のジジイは気を付けろって言ったばっかりだろうが!」

 

 マダラは柱間を追いかけながら止めようとしたが、結局公園内に入ってしまった。

 

「どうした? ご老人」

「ヒッヒッヒ……小僧。ワシと勝負せんか? 面白い遊びを教えてやるぞ」

「あいにく、俺らはもう帰る時間……おお! これはもしや丁半か!」

 

 老人が持っていたサイコロ二つとひびの入ったカップを見て柱間が目を輝かせた。

 

「お! なんだ坊主、お前さんガキの癖によく知ってるなぁ……なら話は早い。これはワシが今日一日で集めた全財産だ」

「それなら俺は今持っている小遣い全部を賭けよう!」

「バカ野郎! お前、小学生がホームレスと賭け事してんじゃねーよ!」

 

 マダラが止めようとするも、柱間はすでに財布の中身を全部出してしまった。

 100円玉が5枚。小学生にとっては安くはない値段だ。

 

「丁、半、どっちだ?」

「丁だ!」

 

 カップの中のサイコロの目の合計が偶数なら丁、奇数なら半。

 果たして。

 

「…………ヒッヒッヒ、ワシの勝ちじゃの」

「ガッハッハッハッハ! 強いのぉ、ご老人!」

「負けてんじゃねーよ!」

 

 全財産搾り取られたくせに元気に笑う柱間にマダラは怒鳴った。

 

「お前なぁ! 俺がせっかく不良から守ってやったテメーの金をこんなあっさりスッてんじゃねーよ! つーかな! 今の時代、賭け事は厳禁なんだよ!」

「現金だけにか?」

「面白くねーよ! ったく、行くぞ!」

「また小遣いもらったら来いよ、坊主」

「おう! その時はまた勝負ぞ!」

「するんじゃねーよ!」

 

 マダラは言いつつもこの時思った。

 柱間(こいつ)はまたここに来る、と。

 

「いやぁ、しかし久々にやったがやはり賭け事は楽しいのぉ!」

「お前……そんなんでよく俺に時代がどうのとか言えるよな。お前がやってること、法律違反だぞ」

「うーむ……しかし賭けは楽しいから仕方あるまい」

「仕方あるまいで済む問題じゃねーよ! ったく。お前、少しは世間の目も気にしろよ」

「相変わらず繊細な男よ。この程度、どうってことはあるまい。まあ、すっからかんになったのはちと苦しいがな! ガハハ!」

 

 いつもの川まで来た柱間が思いっきり笑った時。

 

「兄者! すっからかんになったとはどういうことだ?!」

 

 咎めるような声が。

 柱間が振り返ると弟の扉間がいた。

 

「と、扉間……いや、ちと遊びが過ぎてしまっての。大したことはない」

「大したことはあるだろう! 父上から小遣いをもらったばかりだったのに! 何があった? 変な買い物でもしたか? それかカツアゲにでもあったか? まさかそこのマダラに貢いだわけではあるまい?」

「ふざけんな! 俺は柱間に馳走してやった方だ!」

 

 濡れ衣を着せられそうになったのでマダラが反論すると、扉間が目を瞬いた。

 

「む……そうであったか……兄者が世話になったようですまん」

「い、いや……分かればいいんだよ……」

 

 こんなあっさりと話を分かってくれる扉間を初めて見たマダラは面食らいながらモゴモゴと言った。

 親友と弟が揉めない姿に柱間がニコニコしていたが、弟の鋭い視線が来たことで一転した。

 

「それで兄者。親友とやらに奢ってもらうほどに困窮しているようだが……何をしてきた?」

「い、いや、だからの。マダラが馳走してくれたのは厚意ぞ。俺も今度はマダラに馳走しようと思っていての」

「すっからかんのくせに出来るわけがなかろう! 言え! 今度は何をやらかした! いや、マダラとやら。兄者は何をしたんだ」

「マダラ! 俺とお前の仲ぞ。頼むから内緒で」

「ホームレスと賭けをして全部ぶんどられやがった」

「マダラぁああああ!」

 

 あっさりと言ったマダラに叫ぶ柱間。

 扉間がくわっと目を見開き、兄を思いっきり引きずって歩き始めた。

そのせいで柱間はマダラに恨みごとの一つも言う暇がなかった。

 

「今日という今日は! 兄者! 父上にもきっちり叱ってもらうからな!」

「待て、扉間。これは深いわけがあるのだ!」

「……一応そのわけを聞いてやろう。なんだ?」

「賭けを挑まれたら逃げるわけにもいかんだろ?」

「黙れ! 聞いて損をした! マダラとやら! 俺らは失礼する!」

「おう。明後日はちゃんと来いよ。父さまがバーベキューの準備をして待っているからな」

「マダラ、助けてくれ、マダラぁあああ!」

 

 こうして柱間は弟に引きずられながら川の向こうへと消えて行った。

 ふう、と息を吐いたマダラは振り向いた。

 

「イズナ、隠れてるんだろ? 出て来い」

「……気づいていたんだね、兄さん」

「そりゃあ兄だからな。隠れる必要はないんだぞ」

「だって兄さん、あの千手たちと仲良く話していたから……あの柱間って人だけじゃなくて弟の扉間ってのとも仲良くなったの?」

「いいや。アイツは柱間の弟だ。それ以上に仲良くなる気はない」

「ほんとだね?」

 

 恨めし気に見上げるイズナの頭をマダラは撫でてやった。

 

「さ、帰るぞ。イズナ。迎えに来てくれてありがとうな」

「へへ……兄さん、今日の夜は何して遊ぶ?」

「そうだな……とりあえず賭け事以外で」

「賭け事? そんなこと一度もしたことなかったでしょ。変な兄さん」

「そうだな」

 

 こうしてうちは兄弟は和やかに帰って行った。

 





「父上! 兄者がホームレス相手に賭けを挑んで小遣いを全部スッて来た!」
「ホームレス相手に賭けを挑んだ? 小遣いを全部スッた? …………さ、最近の子供はそういう遊びが流行っているのか……???」
「んなわけなかろう! そんなことする子供、兄者だけだ!」
「は、柱間……そもそもお前、なんで急に賭け事を? あ、まさか……」
「いやぁ、ははは……(前世で俺が賭け事にハマったのは父上が死んでからだったからのぉ……)」
「そうか……(この子にパチンコ、競馬は絶対に教えてはならない)」

 固く心に誓った仏間だった。


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わくわくBBQぞ!

柱間・マダラ  →11歳(小5)
扉間・イズナ  →10歳(小4)
瓦間・うちは3男→ 7歳(小1)
うちは4男   → 6歳(年長)
板間      → 4歳
うちは5男   → 3歳


 バーベキューの日がやってきた。

 その日のうちは家は朝から大忙し。

 特にマダラはタジマと共に準備係なため、買い出しにも着いて行った。

 

「今日は千手一家も来るから心して買いに行こう」

「父さま。多分、柱間の家は良く食う連中ばかりだ。多めの方がいい」

「ああ。千手仏間の食いっぷりで想定済みだ。安心なさい」

 

 マツダCX-8を運転しながらタジマは息子の言葉に頷いた。

 マダラは父の反応にふと思い出した。

 

――そういえば父さまは柱間の父親と年に一回だけ飲みに行く間柄だったか……そんな状態でよくバーベキューになんか誘ったもんだ。……俺らのためか?

 

 マダラは助手席で気になるものの、どう尋ねればよいのか分からず、結局前を向いた。

 そんな息子の挙動に気づいたタジマが尋ねた。

 

「マダラ、どうした」

「……父さまはなぜ柱間の父親たちを家へ招いたんだ? 俺と柱間はともかく、父さまたちはそう親密な仲でもないのだろう」

「ふっ……そんなことか…………我が子を殺し合わずに済む今の世に俺も奴も思う所があった。それだけの話だ」

 

 ちょうど赤信号で止まったタジマはポンポン、とマダラの頭を優しく叩き、すぐハンドル操作に戻った。

 イズナたち弟を撫でる姿をよく見ていたマダラはまさか自分もされると思わず、むずがゆいながらもどこか嬉しく思った。

 

 

 しっかりと肉とその他の具材を買い付けたマダラたちは帰宅した。

 家では母親が子供らの面倒を見ながら待っていた。

 買い物袋を抱えるマダラに気づき、母が声をかけた。

 

「おかえりなさい。マダラ、重たいでしょう。私が持つわよ」

「いや、このぐらい平気だ、母様」

「僕も運ぶの手伝うよ、兄さん!」

 

 イズナを始め、弟たちも「僕も」「僕も」「僕も」と荷物を持とうとする。

 

「兄さん一人で持てるから平気だ! お前らは火を仰ぐようの団扇を用意して居間で待ってろ」

「はーい!」

 

 下の弟たちは素直にてけてけと駆けて行った。

 イズナだけは心配そうにマダラを見るも、

 

「イズナはアイツらの面倒よろしくな」

 

 と兄直々に頼まれては言うことを聞かざるを得なかった。

 母親はそんな息子たちを微笑ましく見つめ、マダラと共に台所へ向かった。

 まだ正午まで時間があるため、肉類は冷蔵庫に保存し、母親は野菜のカッティングに入った。

 マダラは弟たちの方へ行こうと思ったが、調理準備を進める母の姿が気になった。

 

「母様。俺も手伝うよ。一人じゃ大変だろ」

「あら、ありがとうマダラ。でもね、一人じゃないから平気よ」

「え?」

 

 首を傾げたマダラの後ろからぬっとタジマが現れた。

 

「マダラ、こちらの準備が済むまで少し遊んでいなさい。串刺しの時間になったらまた呼びに行く」

「父さま? もしかして、いつもバーベキューをする時は父さまも一緒に調理していたのか?」

「何を今更。家族七人分の準備を一人でさせるのは大変だろう。私だって野菜を切るぐらいできる」

「父さまは火加減を見るのも上手だけど、切るのも上手なのよ」

 

 悪戯っぽく笑いながら母親が言うと、タジマはタジタジになりながら恥ずかし気にそっぽを向いた。

 

「と……父さまが…………」

 

 そりゃあ、前世では猛者たちを切って来た父だ。

 刃物の扱いは慣れたものだろう。

 だけど今世では包丁を握り、華麗な手つきでニンジンを切っている。

 しかも母と一緒に調理場に立ってなんだか嬉しそうだ。

 

 忍者だったころとのギャップをまざまざと感じてしまったマダラはふらふらとキッチンを出ていき、弟たちのところへと急いだ。

 

「相変わらず上手ね、タジマさん」

「ふふ……固いものは全部私に任せてください」

 

 記憶では厳格だった父が母には甘い声を出しているのが後ろから聞こえてしまい、そちらでのギャップからも逃げるため、マダラはさらに急ぐのだった。

 部屋に駆け込むとイズナがびっくりした顔で聞いてきた。

 

「兄さんどうしたの? お化けを見たような顔して」

「ある意味お化けより怖いものを見た……いや、聞いた…………」

 

 とりあえず動揺を鎮めるため、マダラは手当たり次第に弟たちを集め、その頭を順にぐりぐり撫でていった。

 忍のころの記憶と全く違う優しい父に戸惑った時はこの弟セラピーが効果的だ。

 弟たちも大好きな兄に撫でられ大喜び。

 ぎゅうぎゅうと抱き着く弟たちに囲まれ、ようやくマダラは平静を取り戻した。

 

「お前たち、串刺しを手伝ってくれないか。みんなおいで」

 

 なのに、準備を終えたタジマが呼びに来たので再びマダラはビクッとしてしまった。

マダラはとにかく無心で弟たちと一緒に野菜や肉を串に刺し、そうしているうちにショックも和らいだ。

 庭ではタジマがコンロと炭の用意を終え、準備万端となったころに千手一家がやって来た。

 

「本日はお招きいただき感謝する。うちはタジマよ、こちらは土産だ」

「おや、お気遣い頂かなくて良かったのに……ほぉ、これはこれは」

「親族に美味い果物を作る者がいるからその詰め合わせだ」

「見るからに美味しそうです。あとで皆で食べましょう。感謝いたします、千手仏間」

 

 門の前で挨拶を交わす父親たちにしびれを切らした柱間が、タジマの後ろに控えていたマダラに手を振った。

 

「マダラ! 約束通り来たぞ! 今日は楽しみだの!」

「兄者、少しは落ち着いてくれ……」

「柱間兄者、あの人が親友のマダラさん?」

「怖そう……」

 

 今日は扉間だけでなく、その下の瓦間と板間も来ている。

 末っ子でまだ3歳ほどと幼い板間は不安げに柱間の影に隠れた。

 

「板間! マダラはああ見えて弟思いの優しい男ぞ! 怖くなんかないから安心しろ!」

「ほんと?」

 

 初対面の子供に「怖そう」と言われ、密かに傷ついたマダラをそれを隠すため威勢よく挨拶した。

 

「俺はうちはマダラだ! テメーみたいな弱そうな砂利、いじめなんざしねーよ!」

「やっぱり怖そうだよ!」

「うぐっ……」

 

 板間の素直な反応はマダラを深く傷つけた。深く。

 そんな板間を抱き上げたのは扉間によく似た白髪の美人な女性だった。

 

「ごめんなさいね、マダラ君。末っ子の板間は少し人見知りなの」

「別に気にしてねーし」

 

 マダラは答えながらもなんだか気まずく感じた。

 

――柱間の母親って女版扉間じゃねーか……

 

 前世で扉間の成長した顔も見ているマダラとしては、優し気な女性の顔に小生意気な親友の弟がチラついてしまい、ゾワゾワした。

 

「ここで立ち話もなんですからどうぞ中へ入ってください。もう庭の準備はできております。我が家の者もそこで待っていますよ」

 

 タジマは会話を切り上げ、千手一家を中へと案内した。

 庭ではマダラの母が子供たちと一緒に待っていた。

 親同士は簡単に挨拶をかわし、子供は子供で集まった。

 

「兄さま! 初めて見る子がいっぱいいるよ!」

「小学校でも見たことないなぁ」

「どこの幼稚園の子だろう」

 

 イズナ以外の弟たち三人は興味津々。

 千手側も板間と瓦間が話していた。

 

「瓦間兄者! 僕より小さい子がいるよ!」

「そうだな。俺と同い年の子はいるのかな……」

 

 弟たちは気になってはいるものの、お互いに遠巻きに見ているだけ。

 というのも、二番目の兄のイズナと扉間がにらみ合っていたからだ。

 

「お前も来たのかよ。千手扉間!」

「招待を受けたからに決まっている。まさか貴様、この俺だけ来るなと言いたいのか?」

「そんなことは言ってない。僕の弟たちをいじめたら許さないからな」

「それはこちらとて同じこと」

 

 そんな二人の間に兄たちが乱入した。

 

「扉間、そう気を荒立てるな」

「イズナ、いじめなんか俺がさせないから安心しろ」

 

 長男が主導のもと、初めて顔を合わせる弟たちもようやく自己紹介し合うことができた。

 そして、河原でのことを知らない下の弟たちはすぐに打ち解けた。

 

「板間くんはお肉好き? 今日はいっぱいお肉が食べられるんだよ!」

「やったぁ、お肉大好き! ねえねえ、君何歳?」

「僕は3歳!」

「やっぱり僕より年下だ! 僕は4歳! えへへ、僕の方がお兄さんだね」

 

 末っ子同士で気が合うのか、マダラを怖がっていた板間はうちは家の末っ子に笑顔を見せた。

 瓦間はと言うと、うちは家の三男と四男と話していた。

 

「俺は木ノ葉第二小学校の一年生だ。お前らは?」

「俺も小一」

「僕は来年小学校に入ります! でも、僕らは第一小だから瓦間君とは違うのですね……」

「俺らの家って結構近いからすぐ遊びに来れるぜ。今日は父上の車で来たけど、歩いても来られる距離だって柱間兄者が言っていたから」

 

 柱間は交流を重ねる弟たちを見て目をうるませた。

 それに気づいたマダラはギョッとした。

 

「おい柱間! テメェ、なに泣いてんだよ!」

「だってのぉ、マダラ……俺らの弟が……俺らの弟が談笑しておる……! こんな平和な光景が見られるなんて……!」

「ったく、落ち込み癖だけじゃなくて泣き癖もあったのかよテメーは!」

「そう言っているマダラも目がうるんでおるぞ。俺には分かるぞ」

「うるせーよ! 煙が目に染みただけだ!」

「まだ大して肉も焼いとらんのに……」

「父さま! 俺も焼くのを手伝う!」

 

 柱間の追及から逃れるため、マダラはすでに焼き始めた大人組に加わった。

 それを皮切りに弟たちもバーベキューコンロに並べるお手伝いをやりたがったので、コンロの周りは騒がしくなった。

 そして、肉が焼けるとさらに騒がしくなった。

 

「美味い! マダラ、この肉は美味いのぉ!」

「おい柱間! そこの肉はまだ焼きが甘いからもう少し待て!」

「兄さん! この串刺し、僕が作ったから食べて!」

「ああ、イズナ。ありがとうな。すごく美味いな」

「兄者! それは俺が育てた肉だ!」

「ガッハッハ! すまんすまん! 美味かったぞ扉間!」

 

 子供らは混沌とする中でわいわいと楽しく食べていた。

 大人たちも子供らから目を離さずに焼きながら談笑もしていた。

そんな中、千手家の末っ子板間が父の仏間に近づいた。

 

「父上~! この串刺し、みんなと一緒に焼いたの! 父上にあげる!」

「おおおおおーーー! 板間ぁああ! すごく上手に焼けたなぁ! うーん、すごく美味しいぞぉ! 板間は天才だぁ!」

 

 焦げた野菜の刺さった串をパクっと食べた仏間はデレデレの顔で末っ子を抱き上げた。

 この様子にマダラはギョッとして、柱間はスンとした顔になった。

 

「お、お前の父親……あんなキャラだったのか……?」

「父上は末っ子の板間を特に可愛がっておる……俺もようやく慣れてきたころぞ…………」

「そ、そうか……お前も苦労するな」

 

 大抵の物事は豪快に受け入れる柱間であっても、戦国の世とのギャップが大きすぎる父親の姿について行くのは困難だったらしい。

 初めて見る柱間の静かな顔つきにマダラは少し同情した。

 が。

 

「ふふ……仏間さんもあなたと同じぐらいに子煩悩みたいね」

「……私以外の男を下の名前で呼ばないでください」

「あら、ごめんなさいね。タジマさん。ふふふ……」

 

 いちゃつく両親の声が聞こえてしまったマダラも柱間そっくりの顔になった。

 それに気づいた柱間はマダラを慰めるように肩に手を置いた。

 

「お互い、今の世に慣れるのには苦労するの。マダラよ」

「だな。やっぱりイズナたちは思い出さねー方が幸せだと思わないか?」

「むむ……それもそうかもしれんのぉ……」

 

 柱間の視線の先には扉間とイズナがいた。

 妙にぴりついた空気を醸し出す割にはなぜか離れようとはせず、他にもコンロはあるのに同じバーベキューコンロをつついている。

 

「おい扉間! その肉、あともう少し待て」

「俺の家ではこのぐらいで食う」

「千手家はせっかちだな。火入れに関してはうちはが日本一。黙って言うことを聞け」

「フン、そこまで言うなら待ってやろう」

「そこの野菜はちょうど焼けごろだぞ」

「貴様。人の世話ばかりじゃなくて少しは自分も食ったらどうだ」

「お前に言われなくても食べてるよ」

 

 口調は険悪だが、殴り合いの喧嘩が始まる気配はない。

 そこにうちはの末っ子が来た。

 

「イズナ兄さん、僕もお肉食べたい!」

「よし、兄さんがとってあげるぞ。ほら、これなんかどうだ? ふーふー……はい、あーん!お食べ」

「あーん! 美味しい!」

「ふふ……野菜もちゃんと食べるんだよ。ああ、扉間。そこの肉、ちょうどいいぞ」

 

 末っ子の肉は息を吹きかけ冷ましてから優しく食べさせたイズナは、扉間の方に向いた時だけぞんざいな口調となった。

 扉間はその変わりようを大して気にすることなく、先ほど止められた肉に箸を伸ばし、食べた。

 

「む! 確かに肉汁の旨みがより感じられる……」

「だろう? お前もその程度の違いが分かる舌は持っているみたいだな」

「兄者のバカ舌と同じにするな……にしてもイズナよ。貴様、肉を冷まして食べさせるなんて、少し過保護すぎないか?」

 

 すでにうちはの末っ子はピューンっと別のところへ駆けて行った。

 そのため、再び二人きりになった扉間がイズナに言うと、イズナは表情を険しくした。

 

「なんか文句あるのか?! 可愛い弟が火傷をしたら大変だろう!」

「いや、もし火傷をしたら自分で加減を覚えるだろうが。箸の練習代わりに自分で食べさせたらどうだ」

「俺ら兄弟は父さまが教えてくれたおかげでみんな箸ぐらい使えるんだ! 今更練習なんて必要ない!」

 

 言い争いに発展しそうになった時、二人のそばで食べていた瓦間が「あちっ」と言った。

 すぐさまイズナが気づいてジュースを差し出した。

 

「はい、瓦間くん。冷たいジュースだよ」

「ありがとう、イズナくん」

「どういたしまして。……ほれ見ろ、扉間」

 

 イズナの勝ち誇った表情に扉間は顔をしかめた。

 

「この程度よくあることだ。瓦間、次からは気を付けて食え」

「へへ……柱間兄者がパクパク食べているから俺も平気だと思って」

「兄者は熱湯も平気で飲めるおかしな口をしている。自分も同じだと思うと痛い目に遭うぞ」

 

 なんだか自分の名前が出されている気がする柱間は扉間たちのいるところへ近寄った。

 それにつられてマダラも。

 

「扉間、呼んだか?」

「兄者、無茶苦茶な食い方は控えてくれ。瓦間が真似をして教育に悪い」

「俺はいつも通りに食っておるだけだぞ」

「網から直接冷ますことも無く口に入れるなんて常人のやることではない。なぜそれで火傷しないのか不思議だ」

「そうは言ってものぉ……その方が美味いから仕方あるまい……むぐむぐ。ほれ! やっぱりこっちの方が美味いぞ!」

 

 実際にやってみせた柱間にマダラは危機感を抱き、弟たちを集めて注意喚起した。

 

「いいか? 焼いたものは少し冷ましてから食うように。絶対に柱間の真似をするなよ。いいな? 絶対だぞ?」

「マダラ、それではやれと言っているようなものぞ」

「お前は少し黙ってろ! このいかれ舌野郎が!」

「ひ、ひどいんぞ……バカ舌よりももっと悪くなっとるぞ……」

 

 ズーンと落ち込む柱間は放っておき、マダラはバーベキューが終わるまで弟たちが柱間の真似をしないか見守り続けた。

 




 みんなでバーベキューを楽しんでいた時のこと。
 子供たちで一つのコンロを囲んでいた時、扉間は焼けすぎた野菜串を見つけてしまった。

「(みんな肉ばかり食うせいで焦げてしまったな……)板間」
「どうしたの? 扉間兄者」
「この串はみんなで焼いた串だ。せっかくだし、父上に食べさせてあげよう」
「じゃあ、僕が渡してくる! …………父さま~」

 末っ子から渡された焦げた串を仏間は大喜びで食べるのだった。


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図書館へ行こう!

 現代のうちはマダラは意外にも読書家だ。

 バーベキュー大会を終えた週にマダラは借りていた本を返しに図書館へ行った。

 家から一番近い図書館は町の中でも大きい。

 こういう時に着いてくるイズナは学校の友達と遊んでいて、下の弟たちはそこまで本に興味がないため、マダラ一人で来ていた。

 

「『ぼくらの七日間戦争』はなかなか面白かったから次の巻を……ん? どれが次か分かりづれーな……」

 

 児童書コーナーで顔をしかめながら本を見比べるマダラ。

 その横から「げっ」と声がした。

 隣を向くと、思わずマダラも「げっ」と声を出してしまった。

 

「なんでオメーがいるんだよ、扉間」

「ここが一番大きい図書館だからだ。貴様こそ本を読むようには見えない面をしているくせに……」

「ああ? 出会い頭に喧嘩売って来てんじゃねーよ。ったく、柱間はどこだ?」

「兄者は来ていない。俺だけだ。そっちこそイズナたちはどこだ?」

「あいつらも来てねーよ」

「…………」

「…………」

 

 お互いに柱間を通しての繋がりなため、肝心の柱間がいないとどうにも気まずい。

 マダラは前世の記憶がある分よけいに。

 

「……二作目を探しているなら、『ぼくらの天使ゲーム』だ」

「ん? ああ、ほんとだ。…………」

 

 扉間の言う通りなのは確認できたが、やはり前世の記憶が邪魔するのか素直に礼を言う気になれないマダラ。

 代わりにガンつけしていたら、扉間が抱えている本に気づいた。

 

「お前、ミステリーが好きなのかよ。血生臭い奴め」

「何を読もうと俺の勝手だ」

「しかも江戸川乱歩か。俺はアガサクリスティーの方が好きだな」

「貴様もミステリーを読むなら血生臭い奴だな」

「フン」

 

 それに関してマダラは否定する気は無かった。

 そんな彼に扉間が尋ねた。

 

「しかしだ。まさか兄者のように一番最後から読むなんてしていないだろうな」

「はあ? んなバカなことするわけねーだろ! というか柱間の奴……そんな読み方してんのか?」

「初めの人物紹介だけ読んで犯人が誰か予想し当てるゲームを勝手にやっている」

「あのバカ。本にまで賭けみてーな楽しみ方持ち込みやがって……」

 

 呆れるマダラに扉間も同調した。

 そして再び訪れる沈黙。

 マダラはなんだか気まずくなり、自分が読む本を取って立ち上がった。

 

「さて。俺は弟たちに読む絵本も選ばねーといけねーな」

「絵本の読み聞かせをしているのか? 貴様が?」

「ああ、末っ子はまだ三歳だから字を読むのに慣れてねーんだよ。その割に俺が読み聞かせすれば静かに聞くからな」

「…………バーベキューの時にも思ったが、貴様ら兄弟は過保護だな」

「ああ? 文句あんのか? 弟たちを喜ばせたいと思うのは兄として当然だろうが!」

「い、いや……文句を言っているわけではない……ただ、俺ら兄弟とは異なるから驚いただけだ」

 

 イズナ以上の剣幕でまくしあげてきたマダラにさすがの扉間もドン引きした。

 マダラも本気になりすぎたと恥ずかしくなり、その場を去った。

 扉間もついては来ないけれど、児童書コーナーというのはそう大きい場所ではない。

 本を読もうと席に着けばお互いが目に付く。

 

 かと言って、大人たちがいる場所の席に移動するのも癪だ。

 扉間はマダラを気にしない方向で落ち着いたようだが、マダラは繊細な性格のため、気になりつつも動きたくない、というどうしようもないモヤモヤに陥った。

 

――こうなりゃ、さっさと家に帰るか。やっぱ弟は俺の弟たちに限る。

 

 マダラは自分用の本と弟たちの絵本をささっと借り、外へ出た。

 が。

 

「待て!」

「なんで追いかけて来るんだよ!」

 

 扉間はすでに本を借りていたようで、マダラが出るのに気付くやいなや追いかけて来た。

 警戒モードで待つマダラに扉間は険しい顔で尋ねた。

 

「貴様に聞きたいことがある。兄者が最近、今まで以上に変なのだが……なにか心当たりはないか?」

「はあ? そんなの俺が知るわけねーだろ」

「いや。貴様と知り合う数日前から変だとは思っていたが、貴様と親友になってからはさらに変になった」

「……」

 

 ようやくマダラは原因に気づいた。

 

――記憶が戻ったからか。柱間の野郎、弟に気取られるへましやがって。

 

 マダラは顔をしかめた。

 

「あのな。俺は変になった柱間しか見てねーんだから分かるわけねーだろ。なんか変なもんでも食ったんじゃねーか?」

「そういう意味ではない。そもそも、兄者はこれまで友人の誰も親友とは呼ばなかった。なのに会って数日の貴様をそう呼ぶなんて何かおかしい」

「気が合うのに日数なんざ意味はねーよ」

「そもそも、父上たちも急にお互いの一家を誘うのも妙だ。まるで貴様らが会うのを待っていたかのような周到さ……本当は貴様と兄者、もっと昔にどこかで会っていたのではないか?」

 

 扉間の核心をつく質問にマダラはジト目になった。

 

――あーーー、柱間の奴がちゃんと誤魔化してねーから俺のとこに聞きに来ちまったじゃねーか。柱間め……

 

 なお、イズナも扉間のように不審に思っていたものの、マダラとタジマがどうにか誤魔化したので一応は納得してくれた。

元々イズナは協調的な子のため、兄と父の言葉を素直に信じることにしたようだ。

 この時のマダラとタジマの心は大いに痛んでいた。

 

「どうなんだ? うちはマダラ」

 

 柱間と仏間親子はどうやら誤魔化しに失敗したのか、そもそも誤魔化しもしていないのか、扉間が疑りぶかいのか、マダラはそのどれもありえるなと思いつつ尋ねた。

 

「柱間とお前の父親はなんて言ってたんだよ」

「フィーリングが合ってビビッと来た、なんてふざけたことを言っていた」

「……」

 

 マダラは叫び出したいのを必死で抑え、代わりに心の中で叫んだ。

 

――柱間ァ! そんな説明でこいつが納得するわけねーだろうがァ! 親子そろって何してんだァ!

 

 怒りで顔をピクピクさせながら答えた。

 

「元々、俺らの父さまたちは面識があったけど、子供同士で気が合うか心配だから家族ぐるみの付き合いは考えてなかったらしいぜ。だからこそ、俺と柱間の気が合ったのを見て父さまたちもちょうどいいと思って誘ったんだろ。お前の父親がそこまで考えていたのかは知らねーけど」

「そうだな。父上の方は本当にフィーリングが合ってビビッと来ただけなんだろう」

「ああ? 納得してんならなんで俺にまで聞いたんだよ」

「貴様が兄者と親密になった理由を聞いていない。そっちは?」

 

――コイツ、聞けばなんでも答えてもらえると思ってんのか? 裏でコソコソされない分、前よりは分かりやすくていいけどよォ……

 

 マダラは複雑な気分になりながらも言った。

 

「俺も柱間も弟をたくさん持つ長男だ。このご時世、四人以上の兄弟ってのは珍しいだろ。だから気が合っただけだ。もしかしたら俺らが赤ん坊のころに父さまたちが会わせたこともあったのかもしれねーけど覚えてねーよ」

「……なるほど」

 

 どうやらこの説明で納得したようだ。

 イズナにも使った言い訳が扉間に効いたことにホッとしつつ、マダラは立ち去る準備を始めた。

 

「もういいだろ。それ以上気になるならもう一度柱間か父親にでも聞け」

「いや、十分だ。俺の家はともかく、貴様の家まで乗り気だったのが気になっていただけだからな」

「はあ? それなら初めっからそう聞けよ」

「もしも貴様が兄者のストーカーだとしたら、素直に聞いてもロクに答えるわけないだろう」

「俺が柱間のストーカー? ふざけんじゃねーよ!」

「ああ。この問答にそこまでの動揺は見られなかったから違うみたいだな」

 

――こいつ、カマかけてたのかよ。

 

 マダラの怒りはさらに高まったが、どうにか抑えた。

 

――まあ、さすがのこいつも前世が忍者だったなんざ思いつかねーか……

 

 忍者の前世は隠し通せたのでそれでどうにか留飲を下げ、マダラは家へと帰った。

 




「扉間! また図書館に行って来たのか? おっまたミステリー小説を借りたのか」
「兄者。頼むからネタバレだけは……」
「やや! こう来たか! まさか……」
「黙れ!」


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石礫式肘打窓破壊二之段

ジャンプでミナト外伝が出た記念


 うだるような暑さの中、マダラも柱間もうんざりした顔で石を川に投げていた。

 

「暑いのぉ~マダラ~」

「うるせぇ! いちいち言うんじゃねーよ! もっと暑くなるだろうが!」

「ひどいんぞ……事実を言ったまでぞ……ただの八つ当たりだぞ……」

「だーーー! 落ち込むな! 余計に暑苦しいだろうが! 暑さのせいで落ち込むスピードが早くなってんじゃねーか!」

 

 柱間はズーンと落ち込んだまま言った。

 

「だから言ったではないか。こんなに暑いのだから俺の家に来れば良いと」

「父さまに連れられていくならともかく、俺がわざわざ千手の家に行くなんてするわけねーだろうが」

「マダラよ。一般的には家族で互いの家に行く方がハードルは高いぞ」

「お前に一般的かどうかなんざ言われたかねーよ」

 

 記憶を取り戻して以来、互いに川で水切りをする仲にはなったものの、マダラは柱間の家へ遊びに行くのはなんだか抵抗があった。

 今のマダラは忍としての記憶だけでなく、ただの小学生として育ってきた記憶もある。

 

(夏休みに互いの家に遊びに行くなんて仲良しこよしみてーじゃねーか! うちはの俺が千手の家と仲良し? 冗談じゃねー!)

 

 約束し合って川で遊ぶのも十分仲良しなのだが、マダラには関係ない。

 

「それに俺がテメーの家に行ってみろ。あの扉間がうるせーだろうが」

「扉間が? なんだ? お前、扉間と遊びたいのか?」

「っざけんじゃねーぞゴラ! 頭から川に突っ込んでやろうか!」

「……それは涼しそうでいいの」

「……確かに」

 

 どうして今まで気づかなかったのか、と怒りたくなるぐらいに飛び込んだ川は涼しかった。

 ついでにアイスでも買おうと二人はびしょ濡れのままスーパーへ向かった。

 すると、停まっていた車をバンバンと叩く子供の姿が。

 

「なんだ? うるせー砂利だな」

「マダラ。あの子供、様子がおかしいぞ」

 

 金髪の幼児―5歳ぐらいだろうか―がぴょんぴょんとジャンプしているものの、フロントガラスから中を覗くことはできていない。

 駆け寄る柱間が尋ねた。

 

「少年よ、どうかしたのか?」

「中に女の子がいるんだ!」

 

 高学年のマダラたちは背伸びせずとも車の中を覗くことができた。

 確かに金髪の少年が言う通り、赤髪の女の子がぐったりとした様子で座っている。

 

「おーい! 大丈夫かー?」

 

 柱間の呼びかけにも応える様子がない。

 

「熱中症だろうな。このクソ暑い中で車に残すならエアコンかけたままにしろよ」

 

 マダラは舌打ちをしつつドアを開けようとするも、ロックがかかっている。

 

「この車の持ち主はどこにいるんだ?」

「そこの砂利が車を叩いても戻って来ねーんだから近くにはいねーんだろ」

 

 マダラは窓を殴りつけた。

 が、ガンガンと固い音が返ってくるのみ。

 

「チッ! 無駄にかてーな。クナイでもありゃーいいのに……」

「マダラ! とっておきのがあるぞ!」

 

 柱間が出したのは水切り用にとっておいた石だ。

 

「お前、また石を持ち歩いていたのかよ。服をダメにするだろ」

「今はそんなことを言っている暇ではない。ほれ、二つあるから一つ貸してやる」

 

 柱間とマダラがそれぞれ石を手に持って振り上げた時。

 

「ちょっと待って!」

 

 金髪の少年が止めた。

 

「割るならあっちで!」

 

 赤髪の少女が座ってるのは後部座席の右側。

 柱間たちはまさにその右側の窓を割ろうとしたが、少年は逆側を指した。

 

「確かに割れたガラスで怪我をするかもしれんの」

 

 二人は揃って左側に回り込み石を窓ガラスに殴りつけた。

 一度では割れない。

 が。

 ガン、ガン、と殴りつけているうちにヒビが入り、ついには二人の拳が窓の向こう側に入った。

 そこまで来たら二人とも肘を使ってガラスをさらに落としていく。

 

「赤髪の少女よ! しっかりしろ!」

「どけ! 柱間!」

 

 マダラがガラスの落ちた窓から入ろうとしたが、小学生の背丈では窓までよじ登るところまでできない。

 

「おい! 柱間お前ちょっと俺の土台になれ!」

「僕が行く!」

 

 柱間を踏み台にして窓から入ろうとしたマダラに少年が言った。

 

「ああ? 砂利は引っ込んでろ!」

「いや、マダラ。俺とお前でこの少年を持ち上げればいい。その方がやりやすい」

「俺が入った方がはえーだろうが」

「さあ、少年よ。任せたぞ!」

 

 マダラの意見は聞かず、柱間は金髪の少年を持ち上げ車の窓へ放り込もうとした。

 もう動いてしまったのなら仕方ない。

 しぶしぶマダラもその手伝いをし、少年はぐったりとする少女に呼びかけた。

 

「ねえ、君! しっかりして! すごい熱さだ……!」

「おい砂利! さっさとその女をこっちに寄越せ!」

 

 マダラに急かされ、金髪の少年は少女を抱きかかえ、窓の外へと掲げた。

 なぜか上裸になっていたマダラが脱いだ自身のTシャツで少女をくるんで窓から出した。

 手を添えていた柱間は少女の額に手をやってうめいた。

 

「ううむ、まずいな……かなり身体が熱くなっているみたいだ」

「この近くに病院は?」

「すぐ思い至らんな。とりあえず涼しいところへ連れて行くぞ!」

「なら柱間、先に行け!」

 

柱間は少女を抱えたままスーパーへと駆けて行った。

その背を見送ったマダラが自身のTシャツをはたくと、パラパラとガラスの破片らしきものが地面に落ちていく。

さっと素早くTシャツを着直したマダラは車の中に呼びかけた。

 

「おい、砂利。さっさと来い」

 

 身を乗り出す少年の首元をむんずと掴んだマダラは少女を救出する時とは打って変わり、乱雑に引きずり出した。

 

「いた!」

 

 柱間たちが割った窓ガラスに残っている部分があったようで、少年の身体にひっかき傷を作った。

 だが、マダラは少年の膝や頬っぺたから血が出ているのも気にせず、さっさと走り出してしまった。

そのため、少年も慌てて後を追いかけた。

 そして気づいた。

 窓を割るのに使った拳と肘から血がにじみ出ている。

 きっとマダラだけでなく柱間も同じように傷ができていることだろう。

 炎天下の中、スーパーの入り口にたどり着くとひんやりとした風が二人を包んだ。

 

「この子の両親を放送で呼び出しましょう!」

「救急車も呼んだ方がいいですよね?!」

 

 先に柱間が少女を抱えて到着していたからか、入り口には大人が集まって騒然としていた。

 金髪の少年はその中心へと駆け寄り、少女の顔を覗き込んだ。

 髪も顔も赤くなってしまっている少女は、しかし冷房のある場所に来られたからかぼんやりと目を開いた。

 

「うーん…………」

「具合はどう?」

「あつい……てばね」

 

 少年の問いかけに応えた少女はまた目を閉じてしまった。

 

「僕がそばにいるからね」

 

 半ば気を失っている少女に呼びかける少年。

 その間、従業員が氷嚢と水で濡らしたタオルを持って来た。

 さらに、買い物帰りらしい中年の女性が少年に言った。

 

「あそこの扇風機あるところに連れて行った方がいいわね。ぼうや、ちょっと退いてもらっていい?」

「僕が連れて行く」

「ええ? ちょっと僕には難しいんじゃなぁい?」

 

 倒れている赤髪の少女と同じぐらいの体格をしているが、金髪の少年は少女をぐっと持ち上げ、とてとてと歩いて扇風機のあるところまで運んだ。

 従業員がタオルや氷嚢を額や太もものあたりに当てている間、女性客は少年に優し気な声で話しかけていた。

 

「あら~、僕、力持ちなのねぇ。その子、あなたの妹?」

「ううん。僕が乗っていた車の隣に停まっていた子」

「あっ知らない子なの?」

 

 そんな会話を聞いたマダラが眉をひそめて言った。

 

「あの砂利ども、知り合いじゃなかったのかよ」

「しかしだな、マダラよ。これからもそうとは限らぬぞ」

「ああ?」

「あの者たち、俺とミトを思い出すのぉ……特にあの少女の髪はミトによく似ておるからの」

「…………」

 

 急に前世ののろけを始めた柱間にますますマダラは眉をひそめた。

 そんな折、バタバタしている騒ぎに寄せられたのか、ようやく少女と少年の親らしき者たちが駆け寄って来た。

 

「クシナ!」

「ミナト!」

 

 親たちが駆け寄り何やら話をしていたが、柱間たちはそれには加わらずに静観していた。

 

「あのガキの救急車だなんだに付き合うのはめんどくせーな。柱間、そろそろ行くか」

「うむ、そうだな。親も来たならもう心配なかろう」

 

 そうして二人はスタスタとスーパーを出た。

 二人とも肘から血が出ていたため、川に戻って血をすすぐことに。

 

「この身体だと医療忍術が使えんのが難儀だの」

「前の感覚で動くとすぐ死ぬのは確実だな。チッ……服にまで血がついちまった……いてっ! まだガラスが残ってたか」

 

 Tシャツを脱いで川の水で揉み洗いをしていたマダラは手を見て舌打ちをした。

 幸い、Tシャツに残っていたガラスの破片は小さく、大した怪我ではないらしい。

 

「相変わらず優しい男だな、お前は。わざわざ服を脱いでガラスの破片からあのおなごを守ったのだから」

「嫁入り前の娘の顔に傷の一つでもつけてみろ。責任とって娶れと言われちまうだろ」

「ガハハ! それはあのおなごにとってもお前にとっても困ったことだな。それとあの少年にとってもな」

「あの砂利か……どっかで見たことのある顔のような気がするんだよなぁ」

 

 首を傾げるマダラに柱間が頷いた。

 

「うむ。アイツは四代目火影だ。おそらくあの赤髪の少女は妻であろう。名前を聞いて思い出した」

「四代目火影? じゃあ、あの女はうずまき一族か」

「おお。だからミトとよく似た髪色をしていたわけだ」

「そういやうずまきミトはこの世界にもいるのか?」

「俺も分からなかったがあの赤髪のおなごの親族にもしやいるかもしれんな」

「千手とうずまき一族は遠縁だろ? お前の親戚じゃねーのか?」

「知らん。昔と違い、今は一族意識というのは薄れてきておる。遠縁と顔を合わせる機会がそもそもない」

「まあ、俺たちうちはもそんな調子だもんな」

 

 最低限の血抜きは終わったようだ。

 その間に二人とも肘の血が乾き始めていた。

 どうやら深めのひっかき傷程度で済んだらしい。

 

「あ。アイス買い忘れた」

「そういえばそうだったの」

 

 結局二人はまたどこかに行くのが面倒になり、この日はそのまま互いの家に帰って行ったのだった。

 




ミナトがクシナに気づいた理由

ミナトが乗っていた車がたまたま隣の駐車スペースに入り、その時にクシナを発見。
その時は元気そうで「あの子かわいいな」と思い、
彼女を窓から見ていたいからミナトも車の中に残ることに。
が、だんだん具合が悪そうになっていくのに気付いて慌てて外に出た時、
柱間たちと遭遇した。


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差せ! 回転寿司!

 マダラ家の一大イベント。

 それは回転寿司へ行くことだ。

 

「みんな、心してかかるように」

 

 ゴクリと気合を入れるタジマとうちはの兄たち。

 無邪気にワクワクしているうちはの末っ子3歳。

 

「ピーナッツちゃんが欲しいなぁ」

「ガチャガチャが当たるといいわね」

 

 ワクワクする末っ子に微笑みかける母親。

 一行はテーブル席へとついた。

 席の上にはガチャガチャが鎮座し、景品のラインナップも描かれている。

 その一つを指さした末っ子が嬉しそうに言った。

 

「あれあれ! ピーナッツちゃん!」

「ああ。俺らで必ず当ててやるからな」

「昼飯は抜いて来たから準備は万端……」

「いっぱい食べるぞ!」

「絶対当てる……!」

 

 気合を入れなおす四人の兄たち。

 その中でもひときわ気合満々なのがタジマだ。

 

「お前たち、食べたいものがあったらすぐに言いなさい。父さまが余すことなくとってやろう。ああ、もちろんあなたが食べたいものも」

「頼りにしているわ、タジマさん」

 

 寿司が回るレーンの真横の席を陣取るタジマに妻は端の席から笑いかけた。

 タジマの向いにはマダラが座り、同じようにどんな寿司も取る意気込みでいる。

 

「まずは稲荷と茶碗蒸しを頼もう。いつも通り、マダラは稲荷が二つ。みんなは一つずつでいいかな」

「父さま! 俺は今日……三つ食べる!」

「そうか……気合を入れているようだな。よし、イズナ。稲荷の合計は?」

「十だよ。僕も今日は二つ食べるから」

「素晴らしい計算力だ。頼んでおいたからみんな、流れて来るものも好きに食べなさい」

 

 慣れた仕草でタッチパネルを操作するタジマ。

 その間、マダラはイズナと協力して父と母の分のお茶を用意した。

そして母はというと、三男、四男と共に子供らのお水を取りに行っていた。

うちは一家はレーンの上流側にマダラ、三男、四男、母親、そして向かいの席にタジマ、末っ子、イズナと座っていた。

 みんなの飲み物が用意されれば寿司パーティーの開幕だ。

 

「父さま、玉子が食べたい」

「これだな。ほら、お食べ」

「マダラ兄さん、僕らマグロが食べたい」

「あ、兄さん、僕もマグロが食べたいな」

「マグロだな……ちょうど連続で流れてきそうだ。母様は?」

「じゃあ私ももらおうかしら」

 

 マダラとタジマで協力して取り、テーブル内でも子供らが端まで流していく。

 見事な連携技だ。

 そのうち、注文していた稲荷が到着する知らせがタッチパネルに来た。

 ビューンと来たのは稲荷が五皿。

 

「先にお前たちで食べなさい。すぐに追加で五皿注文する」

 

 一度に取れる量を考えての分割注文だ。

 マダラと稲荷をテーブルに置いたタジマはすぐタッチパネルに手を伸ばした。

 その時、店員が茶わん蒸しを持って来た。

 

「残り三人分もすぐお持ちしますね~」

 

 一度に七人分はさすがに持って来れなかったようだ。

 

「みんな、熱いから注意してね」

 

 廊下側の席で受け取った母が注意しながら奥へと器を流していく。

 すぐに残りの分も到着したため、テーブルの上はぎゅうぎゅうになってしまった。

 そんな中、イズナとマダラがテキパキと空皿をまとめ、回収ゾーンに落としていく。

 ガチャガチャは五皿溜まると回せる。

 早速、最初のチャレンジが始まった。

 

「わあ! ピーナッツちゃん、当たるかなぁ……」

 

 ワクワクする末っ子とドキドキする家族。

 だが。

 

「ああ……ハズレだぁ……」

「すぐに当たるのも面白くない。まだ始まったばかりだから気にするな」

「そうだぞ。これから当てるんだからな」

 

 口々に末っ子を励ましながら茶碗蒸しを食べる面々。

 そんな中、イズナが手に取ったのは末っ子の茶碗蒸しだった。

 

「ほら、これは熱いから僕がふーふーしてあげる」

 

 末っ子はひな鳥のように口を開けてイズナが冷ますのを待った。

 その様子をマダラはうらやまし気に見た。

 

「な、なあ。俺もやろうか?」

「いや、さすがに僕、自分で食べられるよ」

「僕も」

 

 三男と四男に断られ、ちょっぴり寂し気なマダラ。

 何回かイズナが末っ子に食べさせていたが、見かねたタジマが声をかけた。

 

「イズナ。冷めてしまうから自分の分を食べなさい」

「僕、平気だよ。父さま」

「いいから食べなさい」

「イズナ、母様がふーふーしてあげようか?」

「か、母様! 僕、自分で食べられるよ!」

 

 母にからかわれ、イズナは仕方なく父に役目を代わった。

 そして自分の茶碗蒸しを食べながらふと思い出した。

 

――そういや前のバーベキューの時、扉間の奴にふーふーを過保護だって言われたな。ふん、これがうちはのやり方だ。文句なんか言わせるもんか。

 

「貴様も来ていたのか、うちはタジマ」

 

 突然の声。

 うちは一家のテーブル席を通りがかったのは千手仏間だった。

 そしてその後ろには柱間たちが。

 タジマは末っ子に食べさせながらカッと目を見開いた。

 

「千手仏間! なぜここに?!」

「今日は寿司の日だから家族で来ただけだ。どうやらそっちも同じようだな。やや、奥方。今日も麗しいようで」

「私の妻を視界に入れないでください!」

「いや、それは無理だろう!」

 

 思わず突っ込む仏間に扉間が後ろから声をかけた。

 

「父上。ここは店内だ。立ち止まっては他の客に迷惑をかける。行こう」

「む……そうだな。では我々はこれで」

「ふふ……お騒がせしましたね、うちはさん」

「いえいえ、こちらこそすみません」

 

 通りすがりに仏間の妻とタジマの妻で微笑み合った。

 夫たちはちょっと気まずい表情。

 扉間は、末っ子に食べさせていたタジマを見て、(うわっ! イズナだけじゃなく父親も冷まして食べさせるんだな……)なんて心の中で驚いていたし、イズナも扉間がそう思っていることに気づいた。

 最後尾に板間と歩いていた柱間はうちは家のテーブルに気づいてマダラに手を振った。

 

「おお! マダラ! お主も落花生ちゃんとやらを取りに来たのか?」

「ちげーよ。ピーナッツちゃんだ。あとお前はガチャ回すなよ。縁起が悪いから」

「扉間と同じことを言うなんてひどいんぞ……俺だって兄として弟の欲しいものを当てたいぞ」

 

 落ち込む兄を気にせず、板間も末っ子に手を振った。

 タジマにふーふーしてもらっていた末っ子もそちらに気づいてニコニコした。

 

「あ! 板間君だ! あのね、玉子も稲荷も美味しいよ! あと茶碗蒸しも!」

「じゃあ僕も食べる! 柱間兄者! 扉間兄者が呼んでいるから行こう!」

「うむ! 板間、俺がお前の欲しいものしっかり取ってやるからな!」

「うん!」

 

 てけてけと子供らが歩いた先、そこはうちは家と廊下を挟んだ隣の席だった。

 

「って、なんでオメーらがそっちにいるんだよ!」

「ガハハ! こんな偶然もあるんだなぁ!」

 

 マダラが突っ込むと、柱間は大笑い。

 父親たちはますます気まずそうだが、母たちも次男以外の子供らも気にしていなかった。

 

「父さま~、茶わん蒸し食べたい~」

「おお、すまない。フフ……こうしているとお前らがまだまだ小さかったころを思い出すな。マダラが赤子の頃もこうして食べさせてあげたものだ」

「お、俺に?! そんなまさか! 覚えてねーぞ!」

 

 タジマの言葉に愕然とするマダラに母も笑って加わった。

 

「だってまだ赤ちゃんだったもの。タジマさん、初めのころはすっごい緊張して食べさせていたのよ」

「そ、そうでしたかね……」

 

 いきなり暴露されタジタジになるタジマ。

 そして到着した残りの稲荷。

 マダラはイズナと協力してこちらもテーブルに乗せた。

 

「やっぱ回転寿司は稲荷がねーとな」

 

 マダラは好物を堪能しつつ、茶わん蒸しも食べ進めた。

 一方、千手家のテーブルは盛り上がっていた。

 

「どれも美味そうだなぁ! お、玉子が流れて来たぞ!」

「食いたいと言っていたのは板間だったな。瓦間は?」

「俺は次に流れる赤貝の方が食べたい」

「貝類も美味そうだなぁ! よし、俺も食うぞ!」

 

 うちは家と違い、千手家はレーンに近い席を子供らに渡し、大人たちはタッチパネルで注文している。

 

「お前たち、一気に取りすぎないよう気を付けなさい」

「父上。あおさの味噌汁と茶碗蒸しを頼む。瓦間と板間は?」

「僕はどっちもいらない」

「俺はポテトが食べたいな」

「だそうだ。兄者はラーメンだったか?」

「おお! カニ味噌ラーメンとやらが食いたいの!」

 

 子供らはレーンに流れてこないものを中心に頼み、寿司は流れて来るものからみな好きにとっていた。

 食欲旺盛な子供たちはバクバク食べ、どんどん皿を回収ゾーンに入れていく。

 

「板間! さっそくガチャガチャが始まったぞ! おっ! この馬が一位になれば当たりみたいぞ! 差せ! 差せ!」

 

 競馬を模したゲームが表示された画面に向かって「当たれ」と念じる柱間だが、表示された文字は「ハズレ」だ。

 これには末っ子の板間もがっかり。

 

「ああ……当たらなかった……」

「板間、こういうのは機械で確率が調整されているものだ。食べているうちにアタリも来る」

「扉間の言う通りだぞ板間! まだまだこれからぞ!」

 

 兄と共に末っ子を励ます扉間はついでに念を押した。

 

「兄者。今後、皿を入れるのは俺がやる。兄者は積み重ねるだけにしてくれ。いいな」

「おお、いいぞ! お主、意外とそういうのが好きだったのか」

「違う! 兄者が入れたんじゃ当たるものも当たらん! 兄者の外し方は確率を超えておる!」

 

 バスのボタンを押したがる子供のように、扉間が皿を回収レーンに入れたがっていると思った柱間だが、すぐ本人から否定され、さらに落ち込むようなことを言われてしまった。

 ズーン、と肩を落とす柱間をよそに扉間はバクバクと寿司を食べる。

 

 そうやって千手家もうちは家も食べてはガチャを回していった。

 大家族だからかその回数も多い。

 すると、うちは家の末っ子が大はしゃぎ。

 

「当たったー!」

「ほら自分で開けてみろ」

 

 マダラに渡されたガチャガチャのボールを開ける末っ子だが、すぐにその声が暗くなった。

 

「ああ……ピーナッツちゃんじゃない……」

 

 どうやら彼が欲しかったキャラクターじゃなかったらしい。

 

「待ってろ! すぐに俺がもう一回回してやるからな!」

「マダラ、もうお腹いっぱいでしょ。やめなさい」

 

 末っ子のために気合を入れるマダラを母親が止めた。

 

「しかし一人もう一皿ずつぐらいならいいんじゃありませんか?」

「ダメです。タジマさん、ただでさえこの子たちはいつもより食べているのよ。今日はここで終わり。ピーナッツちゃんじゃなくても可愛いわよ。ね?」

「……うん。僕、落花生ちゃんも好き」

 

 末っ子が自分に言い聞かせた時。

 

「おお! 板間良かったな! 落花生ちゃんが当たったではないか!」

「柱間兄者、これはピーナッツちゃんだよ。まあ、こっちも好きだからいいけど……」

 

 柱間の大声につられて聞こえて来た会話。

 

「ねえ、兄さん……」

「ああ。互いに欲しいものが出たみてーだから交換を申し出るのも手だが……」

 

 マダラは言いつつもためらった。

 

――とは言ってもどう切り出しゃいいんだよ。こっちが欲しいもんが出たから交換しろって頼むのか?

 

 すると向こうから扉間の声が。

 

「板間、あちらはピーナッツ狙いだったが落花生が出たらしい。ちょうど良いから交換を申し出てみろ」

「おお! それはまさにタイミングが良いの! ほれ板間、聞いてみろ」

 

 柱間たちが促している間に、すでに互いの両親は見守りモードに入っている。

 マダラたちも間に入りたいのを我慢し、末っ子たちを見守った。

 すると。

 

「板間くん、落花生ちゃんとピーナッツちゃん、交換しない?」

「うん! ちょうど扉間兄者に言われて僕も聞こうと思っていたところだったんだ」

 

 あっさりと交換し、どちらの末っ子も嬉しそう。

 

――扉間のおかげで解決したみてーな感じで癪だな。まァ……弟の喜ぶ顔が見れたし、ちょっとだけ感謝してやってもいいぜ。

 

 自然とマダラの顔には笑みが浮かんでいた。

 




「父上! もう一度ガチャを回したら次も当たる気がするんだ!」
「ダメだ柱間! お前は競馬の画面が見たいだけだろう! それと馬を見て差せ差せ言うのを止めなさい! どこで覚えて来たんだ! まさか競馬場に行ってないだろうな?!」
「俺は馬が好きで見に行っただけぞ!」
「柱間……帰ったらお前に話がある」


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夏休みが終わった? こういう時こそイザナギだ

「柱間兄者! 朝だよ! 起きて!」

「うう……板間、あと10分でいいから寝かせてくれんか?」

「ダメだよ! ラジオ体操に遅れちゃうよ! 瓦間兄者も早く起きて! 扉間兄者はもう起きてるよ!」

 

 千手家の目覚まし担当は末っ子の板間だ。

 こっそりゲームで夜更かしをしていた柱間は寝ぼけまなこを擦りながら布団から起き上がった。

 本当はこのまま布団に逆戻りしたいが、隣で仁王立ちしている扉間に睨まれてはそれもできない。

 

「毎日毎日、板間はよく起きられるの……ふわぁ」

「子供と老人は早寝早起きだからな。兄者、さっさと布団を畳め」

「扉間もやけに目が冴えているみたいじゃないか」

「俺は30分早く起きて宿題をしていた。夏は朝が一番活動しやすい」

 

 すでに扉間と板間は着替えまで済ませ、板間にいたっては首からラジオ体操のスタンプカードを下げて準備万端だ。

 

「早く行こう!」

「分かった。分かったから板間、引っ張らないでくれ」

 

 のろのろと布団を畳む柱間と瓦間の周りでちょこまかと動く板間。

 末っ子の手伝いもあり、柱間たちも準備万端。

 

「父上、ラジオ体操に行って来る」

「気を付けて行ってきなさい」

 

 食卓で新聞を読んでいた父親に一声かけ、出発だ。

 が、そう進まないうちに柱間が「あ!」と声を出した。

 

「そうだ! 今日はマダラたちのいる学区に行ってみようぞ!」

「兄者、ラジオ体操は学区ごとに分かれているものだ。いきなりよそのフィールドに入るのはよくない」

「俺は別にいいよ。面白そうだから」

「僕もエチゴ君に会いたい!」

 

 エチゴ君とはうちは兄弟の末っ子だ。

 1つ年下の彼を板間はお兄さん気分で可愛がっていた。

 

「よし! 板間もこう言っていることだし行くぞ!」

 

 こうなっては扉間も止めることはできない。

 柱間を先頭に千手四兄弟は川を越え、大きな公園に到着した。

 

「お! やはりここにいたか! おおーい、マダラ!」

「あ? げっ! 柱間じゃねーか。なんでここにいるんだよ。学区がちげーだろうが」

「たまにはこういうのも面白いだろう」

 

 呆れるマダラではあったが、どうやらうちは家の末っ子は違うらしい。

 

「板間くーん!」

 

 大喜びで千手家の末っ子に駆け寄りはしゃいでいる。

 その姿を見るとマダラも(まあ、いいか)と思いなおした。

 さらに瓦間の方もうちは家の三男たちに話しかけている。

 

「なあ、トガク、クロキ。こっちの公園ってカブトムシ捕れるか?」

「ここの公園よりも向こうの空き地の方が穴場だ」

「瓦間君もカブトムシが好きなんですか? トガク兄さんと一緒ですね!」

「トガクも?」

「トガク兄さんは学校の宿題でカブトムシを育てているんです! ね、兄さん!」

「ああ。自由研究は観察日記にしている」

「マジ? 俺も同じ。なあ、お前のカブトムシ見せてくれよ。俺も今度持ってくるからさ」

 

 盛り上がる三男、四男たちの傍らでイズナの方も扉間に話しかけた。

 

「お前、自由研究何にした?」

「複数の野菜からDNAを取り出し比較しているところだ。去年は葉物野菜のみだったから今年は根菜類も抽出している」

「そんなこと家で出来るのかよ」

「父上が誕生日祝いに顕微鏡をくれたからな。そっちは何にした?」

「僕は弟たちと一緒に万華鏡を作った。前にやったゴミ拾いボランティアの時に持ち帰ったガラスを加工して中に入れたんだ」

「ゴミを加工して入れるとはなるほど、SDGsも意識した自由研究ということか」

「そういうこと。そっちのがウケはいいだろ」

 

 そんな話をしているうちにラジオ体操の音楽が流れ始めた。

 地域は違えど体操でやることに違いはない。

 だが、その動きにはそれぞれ個性が出ていた。

 

 弟たちの手本となるように手指の先まで意識するマダラ、全身を大きく動かして楽しげな柱間、弟たちがちゃんとついていけているか気にするイズナ、最小限の動きながらも必要な筋肉をしっかり使う扉間、などなど。

 

「おや、坊主ども見ねー顔だな。第二小の子か!」

「そうだぞ! 今日は友に会いに来たんだ!」

「ああ、うちはの子たちの友達か。ほれ、お疲れさん」

 

 マダラたちの学区のPTA会長がポンポンポン、とスタンプを押していく。

 ラジオ体操が終わったらあとはそれぞれの家に帰宅、なのだが。

 

「瓦間、そっちはマダラたちの家ぞ。俺らはあっちだ」

「俺はトガクたちに着いてく! カブトムシ見せてもらうんだ!」

「瓦間兄者が行くなら僕も行く! エチゴ君と遊びたい!」

 

 下の子たちの反乱に柱間がポン、と手を打った。

 

「おお! なら俺も」

「俺もじゃないだろう兄者! 瓦間! 板間! 母上が家で朝餉を用意して待っている! まさか母上を待ちぼうけさせるつもりじゃないだろうな?」

「うっ…………板間、今日は帰ろうか」

「母上泣いちゃう?」

「うむ……」

「母上が泣いて俺らが父上に殺されることは確実だな。トガク! クロキ! 飯食った後でいいか?」

 

 瓦間の問いに三男のトガクは頷き、その下のクロキも「もちろんです!」と答えた。

 弟たちが勝手に遊びの約束を取り付けている様子にマダラは焦った。

 

(おい、千手の砂利がうちに来るのかよ。トガクたち、いつの間にんな仲良くなってんだ?)

 

 兄たちが遊びの約束を取り付けたとなったら末っ子たちだって黙ってはいない。

 

「僕も瓦間兄者と一緒に行くね!」

「待ってるよ!」

 

 こちらも勝手に約束してしまうので、扉間がいさめた。

 

「瓦間、板間。そんな急に約束したら向こうの親が大変だろう。いきなり見知らぬ他人の子が家に来るなんて親からしたらストレスだ」

 

 板間が首を傾げた。

 

「でも扉間兄者。僕、エチゴ君のお母さんにいつでも遊びにおいでって言われたよ」

「それは社交辞令というものだ」

「しゃこーじれー? 何それ?」

「『いつでも来て良い』とは言ったけど、本当に行っていいというわけではない」

「扉間! よさんか!」

「兄者は黙っていろ! 俺は社会のマナーというものを教えてるにすぎん」

「しかし板間はまだ4歳の子供ぞ。マダラの母君は本心で言ったかもしれないのに」

「どうせ来んから耳障りの良い言葉を言っただけにすぎないだろう」

 

 社交辞令の意味がよく分からない板間は理解できないながらも涙目になった。

 

「嘘を吐いたってこと? エチゴ君のお母さん、嘘つきなの?」

 

 この言葉にマダラがブチギレた。

 

「おい扉間! 俺らの母様が嘘つきなわけねーだろうが! 上等だ! てめーら全員俺の家に来い! うちは流のもてなしをしてやる!」

「兄さん?!」

 

 千手家の子供らが家に来ることに戸惑いを感じていたイズナが驚くも、他の子は大喜び。

 勢いで言ってしまったマダラは気まずさを感じつつ、帰ってから母親に切り出した。

 

「あの……母様。この後、柱間たちが家に来るんだ」

「あら、遊びに来るの? 仲良くなれて良かったわね」

「いきなり見知らぬ他人の子が家に来るなんて親からしたらストレスじゃないのか?」

「ふふ……バーベキューもした仲なんだから見知らぬ子じゃないわ。エチゴは板間君に会いたいって何度も言っていたから喜んでいるんじゃない?」

「母様~! 板間くんが遊びに来るよー!!」

 

 タイミングよく台所に飛び込む末っ子に母親は微笑みかけた。

 

「マダラから聞いたわよ。良かったわね、エチゴ」

「うん!」

「あら、電話。マダラ、悪いけど味噌汁が吹きこぼれないように見ててくれる?」

「ああ」

 

 パタパタと走って家の電話に向かう母親。

 廊下からその声がうっすらと聞こえた。

 

「もしもし……あら、千手さん。ええ聞きましたよ。いいんです、いいんです。どうぞお気になさらず……そうなのよ、やっぱり子供って仲良くなるのが早いわよねぇ。……あら、いいんですか? ええ、ええ……」

 

 その声でマダラは気づいた。

 

「どうやら柱間たちの親が電話してきているようだな」

「板間君のお母様?」

「そうだ」

 

 末っ子と話しながら鍋を見張っているマダラ。

 さらに会話が聞こえて来た。

 

「私たちもまた会いましょうね。前のランチ会のお店、美味しかったからまた行きましょうよ」

 

 この言葉にマダラは目を丸くした。

 

(ランチ会? 母様、もしや柱間の母親と仲良くなってんのか? いつの間に? そういや最近、長電話しているところを見たことあったがもしや……)

 

 早めに電話を切り上げた母親に尋ねはしなかったものの、マダラは自分の知らない間に出来上がっているネットワークに恐ろしさすら感じた。

 用意してもらった朝ごはんを弟たちと食べ、散らかっている子供部屋を掃除しているうちに元気な声が玄関に響いた。

 

「お邪魔するぞ!」

 

 わいわいガヤガヤ。

 千手家の四兄弟の到来にはしゃぐうちはのちびっ子たち。

 

「これは母上からマダラの母君へと預かって来たスイカだ。美味しいぞ!」

「あら、ありがとうね。あとでみんなで食べましょう。それとお弁当も持たせているって聞いたわ。今日は暑くなるから一緒に冷蔵庫に入れておきましょう」

「それはありがたい!」

 

 柱間が差し出したのは巨大なタッパーに詰め込まれた大量のおむすび。

 さらにもう一つの巨大なタッパーには人数分のきゅうりと味噌、魚肉ソーセージが。

 

――大食らい兄弟の弁当ってのはかなりの量だな。

 

 柱間が持って来た弁当は、5人兄弟の弁当を見慣れているマダラでも驚くほど。

 

「母様、スイカは俺が持つよ。イズナ、柱間たちを俺らの部屋に案内しておいてくれ」

「分かったよ、兄さん」

 

 イズナが案内するまでもなく、下の子たちが待ちきれずに部屋へと向かい出した。

 末っ子たちは子供部屋へと、瓦間とトガク・クロキのカブトムシ組は庭に面する部屋へとあちこちへ散らばる子供たち。

 

「この弁当はかなり重いから俺が自分で持っていくぞ! マダラ、台所まで案内を頼む!」

「普通は客人を連れて行くような場所じゃねーぞ。別にいいけど」

 

 さらに柱間はマダラについていってしまったため、残されたのはイズナと扉間。

 

「せっかくだ。貴様が作った万華鏡とやらを見せてもらおう」

「別にいいけどなんでお前そんなに偉そうなんだよ」

「客人だからな」

「社交辞令だなんだ言っていたくせに……」

 

 そう言いつつ、イズナも扉間をもてなしてあげるため子供部屋へと向かった。

 先にいた末っ子たちはすでにおもちゃを広げている。

 この短時間でどうやったのか、うちは5人兄弟で使えるほど広い部屋がおもちゃでいっぱいに。

 

「エチゴ、あんまり散らかしちゃダメだぞ」

「板間! ここはよその家だ! 節度を持って遊べ!」

 

 イズナは早くも片付けながら、扉間は腰に手を当て注意する。

 どうやら末っ子たちは初めての家遊びに興奮しているようで、注意も聞かずにキャーキャー騒ぎっぱなし。

 後から来たマダラも柱間も部屋の惨状に目を丸くした。

 

「なんぞ? 台風でも来たのか?」

「いや、まさか泥棒が入ったんじゃねーか?!」

「何を二人してバカなことを言っている。板間たちが散らかしているんだ。兄者からも注意してくれ」

「兄さん。エチゴが注意しても聞いてくれないんだ。いつもはこうじゃないのに」

 

 4歳児と3歳児に手を焼く次男たちに言われ、柱間もマダラもそれぞれ末っ子を注意した。

 

「板間! やめんか!」

「エチゴ、ここは皆で使う部屋だ。好きに散らかして良いと俺が言ったことはあったか?」

 

 柱間はシンプルに怒鳴り、マダラはネチネチと諭した。

 さすがの長男たちの圧に、はしゃいでいた末っ子たちもビクッとなって手を止めた。

 

「ごめんなさい、柱間兄者」

「散らかしちゃダメってマダラ兄さんは言ってた」

 

 しょんぼりする末っ子たち。

 彼らが泣き出す前にイズナと扉間が間に入った。

 

「さあ、エチゴ。遊びたいおもちゃを選ぼう。ほら、これなんかお気に入りだろ」

「板間。これはお前が気になっていたものじゃないか。使わせてもらえるか聞いてみろ」

 

 次男たちのとりなしもあり、末っ子たちはすぐに機嫌を戻し、今度は決められたスペースで遊び始めた。

 扉間たちもそのそばに座ってイズナの万華鏡を覗き合っている。

 

「よし、マダラ。俺らは何をする? サイコロはあるか?」

「流れるように賭けをしようとするんじゃねーよ。丁半は子供の遊びに入らねーからな」

「良いではないか。俺らの中身は大人なのだから。ガッハッハ!」

「テメーはすっかり賭け狂いになっちまったな。そんなのじゃ将来ロクな大人になれねーぞ。……俺が言うことでもねーが」

 

 忍界を壊しかけた記憶のあるマダラの自虐ジョークを柱間はサラッと流し、おもちゃ箱を漁った。

 

「おお! 花札があるではないか! よし、やるぞ!」

「お前、どうせ弱いんだろ。勝つと分かっている勝負程つまらねーもんはねーよ」

 

 言いつつ、箱から花札を取り出すマダラ。

 

「任せておけ! 俺は賭けが絡まなければ普通に強いぞ!」

「だとしても俺が勝つ」

 

 札を並べてキャッキャする兄たちに扉間は小さくため息を吐いた。

 イズナも心配そうだ。

 

「なあ、扉間。お前の兄さんって賭けが好きなんだろ? 花札なんてやらせていいのか?」

「隙を見つけては賭けをしたがるがマダラ相手であればその心配もない」

「おい、さんを付けろよ。兄さんはお前よりも年上だぞ」

「子供同士の付き合いにそんな他人行儀はいらんだろう」

「散々、社交辞令がどうだとか言ってたくせに」

 

 イズナがチクリと言うが扉間はどこ吹く風。

 万華鏡を覗きこんでは傾け、その形の変化を観察している。

 自分が丹精込めて作った万華鏡にそこまで興味を持ってもらえるとなれば、作ったイズナとしても悪い気はしない。

 

「いくつか図案を作って出来がいいのにしたんだ」

「ほぉ、他にも図案が? 見せてみろ」

「なんで上から目線なんだよお前」

 

 言いつつもイズナは図案を取ってくるためその場を離れる。

 イズナと扉間もはじめほどのギスギスした空気感は薄れているようで、二人きりでもそう気まずくないようだ。

 

 その後、賭けていないおかげか柱間はマダラと引き分けとなり、末っ子たちはキャーキャー楽しみ、三男たちはカブトムシ捕りの約束を取り付け、とうちはと千手の子供たちはそれぞれに楽しい1日を過ごしたのだった。

 




「柱間兄者! 朝だよ! 起きて!」
「うう……いつもより1時間も早いではないか……俺はまだ寝るぞ」
「ダメだよ! 今日はみんなでカブトムシを捕りに行くんだよ! 瓦間兄者も今日は自分で起きたんだよ!」
「そりゃあ瓦間が約束したことだからの……」
「扉間兄者だってもう準備万端だよ!」
「扉間、お前はそこまでカブトムシに興味がなかったはずだが……」
「大きなカブトムシなら高値で売れる。さあ、行くぞ兄者」


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幻術か?!

 夏休みの終わりが近づいて来たある日のこと。

 母親が昼ご飯を作っている間、うちはの五兄弟は昼間に再放送されている時代劇ドラマを眺めていた。

 どうやら末っ子は見たことのあるシリーズらしく、兄たちに説明をしている。

 

「あの全身黒いおじさんが主人公だよ。カンチョーの達人なんだ」

「おい、これは子供が見ていいドラマなのか?」

 

 マダラが新聞紙をひっくり返してテレビ番組欄を確認していた時、テレビから音声が聞こえた。

 

「忍者ハットリよ、北の国に間諜として忍び込み、敵の情報を持ち帰って来い。期待しておるぞ」

「んだよ、間諜か。びっくりしたぜ」

 

 新聞漁りをやめたマダラに対し、うちはの三男と四男はイズナと一緒に首を傾げている。

 三人とも人差し指を突き立てたポーズをしていたのでマダラは訂正した。

 

「間諜ってのはスパイって意味だ」

 

 マダラ自身も勘違いしたため、その顔はちょっと赤い。

 末っ子は兄たちの勘違いも知らず、マイペースにドラマの解説を続けていた。

 

「ハットリは最強ケタ違いの忍者なんだよ。ほら! 見た? 煙と一緒に消えたの見た?」

「瞬身の術でも使っただけだろ」

「しゅ?」

「あー……瞬間移動が出来るなんてすげー忍者だな」

 

 思わず素で言い返したマダラが慌てて取り繕うと末っ子も満足げににっこり。

 その頭を撫でてやりつつマダラは渋い顔をした。

 

――あんなチンケな身のこなしでよくも最強を名乗れたものだな。これのどこが忍だ。火遁どころか印の結び方も間違っている。ったく、製作者はなんも分かってねーな。

 

 今すぐテレビ局に乗り込んで真の忍がなんたるかを教えてやりたいところだが、マダラはぐっとこらえて心の中でヤジを飛ばすだけに留めた。

 その間も弟たち(主に末っ子)はチンケな忍者に歓声を飛ばしている。

 

「ほら見た?! 今の手裏剣飛ばし! 全部敵に当たったでしょ?!」

「うん、エチゴ。ちゃんと見てるから叩かないで……」

 

 どうやら忍者ハットリは末っ子のお気に入りらしく、活躍するたびに興奮してイズナをバシバシ叩いている。

 イズナは助けを求めてマダラに視線を送るも、当のマダラはモヤモヤを抑えるので必死だった。

 

――これじゃあエチゴがこんな雑魚を本物の忍者だと勘違いするじゃねーか! ドラマを作るならちゃんと本物を勉強してから作れよ!

 

 やっぱりクレームのハガキを、いや手紙を放送局に送ろうかと思い始めるマダラ。

 その間も興奮しきっている末っ子は熱く語る。

 

「僕、将来は忍者ハットリになりたいなー! そんでもってカンチョーの達人になるんだ!」

「エチゴ、あまり大声で間諜とは言わない方がいいぞ」

「母様に聞かれたらまずいかも……」

 

 三男と四男がたしなめるも、末っ子は聞かない。

 

「忍者ハットリかっこいいのになんで?」

「それは言ってもいいけど間諜ってワードが……」

「イズナ兄さん、エチゴに教えてあげ……イズナ兄さん?」

 

 四男が呼びかけるもイズナは返事しない。

 弟の異変にマダラは肩を揺さぶった。

 

「おい、イズナ? どうした? イズナ」

 

 顔を覗き込むとイズナが呟いた。

 

「兄さん……?」

 

 呆然とする弟の姿にマダラは悟った。

 

「イズナ、まさかお前……」

「これはどういうことだ? 幻術? いや、僕は死んだはず」

 

 周囲を見渡したイズナが流れるように幻術を解こうと印を結ぶ。

 

「解!」

「いや、イズナ。ここは幻術じゃないんだ。ちょっと向こうの部屋に来い」

「兄さん? ここは幻術じゃないってどういうこと?」

 

 動揺するイズナがハッと気づいた。

 

「そもそもどうして僕の目が見えているんだ?! この写輪眼は兄さんに託したはずなのに!」

「だからなイズナ、とりあえず向こうの部屋に……」

 

 下の弟たちがいる前では説明しづらいためイズナを連れて行こうとするマダラだが、タイミングが悪いことに母親が部屋に入ってきてしまった。

 

「コラ! 静かに待ってなさいって言ったでしょ」

 

 昼ご飯を作っている最中だった母親は叱りながらおや、と思った。

 いつもは弟たちの面倒をよく見ているイズナが騒いでいたからだ。

 

「兄さんの目はちゃんと見えているの?! 僕のこの写輪眼をあげるから……」

「イズナ、だから写輪眼はもう無くてだな」

「写輪眼が無い?! うちは一族の誇りが?!」

 

 片目を手で押さえてマダラに食ってかかるイズナの姿に母親は苦笑い。

 

「あらあら。イズナもそういうお年頃になったのね」

「母様、これは違くてだな。イズナはちょっと動揺しているだけで……」

 

 弟の名誉のために誤解を解こうとするマダラだが、そもそも説明のしようがない。

 母親も曖昧なマダラの言葉をはいはいと流してしまう。

 

「イズナ、忍者ごっこはいいけれどもう少し大人しくなさい。あとちょっとでご飯もできるんだから。いいわね?」

「今はそれどころじゃない! 写輪眼が無くなったんだ!」

「イズナ、いいわね?」

「……はい」

 

 母親の圧にようやく落ち着いたイズナ、ほっと息を吐くマダラ、何が起きたのかよく分かっていない弟たち。

 

「イズナ、飯を食ったら説明する。ひとまずこの世界は安全だから心配するな」

 

 マダラが囁くとイズナは少し間を置いてから頷いた。

 大人しくなったイズナにエチゴが目を輝かせて尋ねた。

 

「ねえ、イズナ兄さん。さっきのポーズってなんの術? マダラ兄さんも前にやってたよね?」

「ポーズ? 印のこと? これは幻術を解くためのもので……」

 

 混乱しているイズナは死んだはずの弟の質問につい答えた。

 慣れた仕草で印を結ぶので末っ子だけでなく三男と四男も目を輝かせる。

 

「イズナ兄さん、忍者ハットリみたい!」

「というか、シャリンガンってなに? うちはの誇りって言ってたけどまさか……」

「僕らって忍者の末裔?!」

「末裔もなにもうちはは忍の家系だ。ねえ、兄さん」

「あー、いや、それはだな…………」

 

 言葉を濁すマダラに弟たちが殺到する。

 

「もしかしてマダラ兄さんも忍者なの?!」

「印を結べるの?!」

「僕らも忍者なの?!」

「お前ら、ちょっと落ち着け! あんまりうるさいと母様が飛んでくるぞ」

「母様は空を飛べるの?!」

「だー! ちげーから! 頼む、マジで落ち着いてくれ」

 

 マダラは弟をなだめながら泣きたくなった。

 

――よりによって父さまが仕事でいないときに思い出すなんて!

 

 兄が弟たちの相手をしている間にイズナもだんだんと前の世界と今の世界の記憶が繋がってきたのだろう。

 かつて前の世界を思い出したマダラもそうだったように。

 

「み、みんな。えーっと、今のはちょっと僕の勘違いでね……ええっと……」

 

 この世界が幻術ではなく現実だと悟ったイズナは冷や汗を垂らした。

 写輪眼が無いことよりも母親の怒りの方が恐ろしいと思い出したからだ。

 ひたひたと足音が近づいてくる。

 しかし、盛り上がったままの弟たち。

 

「みんな、お願いだから落ち着いて!」

 

 イズナの懇願も虚しく、近づく足音がとうとう止まった。

 

  

 

 昼食後、改めてマダラからこの世界のことと前の世界のことを聞いたイズナはぐったりとしていた。

 いや、イズナだけでなくマダラも。

 その周りには、

 

「うちはの誇りがー!」

 

 と片目を抑えてはしゃぐ末っ子と印を結んで遊ぶ三男と四男が。

 

「忍者が出て来る時代劇を見て忍者ごっこにハマっちゃったみたいなのよ」

 

 と夕食で妻に言われたタジマは頭を抱えるのだった。

 

 ちなみに忍者ごっこは千手家でも流行り始めた。

 というのも、奇しくもうちは兄弟と同じ時代劇を見ていた際に扉間もイズナと同じように騒ぎ出したからだ。

 

「これは一体どういうことだ?! また穢土転生か?! いや、これは無限月読というやつか?!」

「まさか扉間! 記憶が戻ったのか?!」

 

 柱間が驚いている間に扉間も流れるしぐさで幻術を解こうとするが、当然なにも変化は起きない。

 

「みんな、ご飯が出来たから手を洗ってきなさい」

「ほぉ。板間たちだけでなく母上まで……よくできた幻術じゃないか」

「扉間! 指を降ろせ!」

 

 術を使おうとした扉間につい反射的に叫ぶ柱間だが、この世界ではチャクラを荒立てることはできない。

 扉間の方もチャクラを練れないことに気づいて眉を寄せる。

 

「妙だなこの身体……いや、そういうことか」

 

 前の世界と今の世界の記憶が繋がり、現状を悟ったものの遅かった。

 

「扉間兄者! 今のなんだ?! まさかそれも忍者の技か?!」

「扉間兄者カッコイイ!」

 

 瓦間と板間が扉間そっくりに腕組みをして指を立てる。

 

「あなたたち……ご飯ができましたよ。それとも食べないでこのまま遊ぶ?」

 

 呼びに来てくれた母親そっちのけで遊び出す子供らにかかる圧。

 昼食後に柱間から改めて説明を受けた扉間は口を尖らせた。

 

「そういう大事なことはもっと早く言ってくれ、兄者。おかげで大恥をかいた」

 

 柱間が縁側で説明している間、瓦間と板間はさっそく庭で忍者ごっこをしていて、「ほぉ、よくできた幻術じゃないか、忍者瓦間」「指を降ろせ、忍者板間」なんて声が聞こえる。

 後片付けにひと段落がついた母親は廊下の電話で話している。

 

「ええ、忍者のドラマでハマっちゃったみたいで……あら、イズナ君も? うちも扉間が特に……そういうのに興味持たない子かと思っていたけどやっぱり年頃なのねぇ」

 

 昼食の間も母親からの生ぬるい視線を感じていた扉間はここぞとばかりに兄に当たり散らした。

 

「瓦間たちは真似をするし、母上に中二病だと思われてしまったじゃないか」

「扉間はまだ小4なのに中二病か! ガッハッハ!」

「黙れ!」

 

 なお、帰宅した仏間が事の次第を聞き、頭を抱えたのは言うまでもない。

 




その後

うちは家
「こっちの世界の忍者は随分と弱いね、兄さん」
「本物を知らない奴が適当に作ったんだろうな。ったく、まともな印も結べず体術もなっちゃいない奴が最強を名乗るなんて……」
「(とか言いつつ、エチゴよりもドラマにハマってるよね兄さん……)」

千手家
「のう、扉間よ。この世界の忍についてどう思う?」
「兄者と比べると慎ましいな。しかし、地形が変わる心配をせんで済む」
「俺とてその心配をしたのは相手がマダラの時だけぞ! ガハハ!」


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