元帥を狙う者 (アイアンロックス)
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1話

シリアスのシの字も無いギャグもの
ミュラーの一人称が分からなかったので私にしてます


 

 

 

銀河帝国ローエングラム王朝新首都フェザーンのホテルで結婚式が行われていた、それなりに大規模なのは新郎が帝国の要人だからである。

新郎の名はウルリッヒ・ケスラー、帝国の元帥の1人だ。

 

「新婦の親父さんは複雑そうだな」

新郎側の関係者席でビッテンフェルトが言う。

「仕方ないでしょう、娘が紹介したい人が居るのって連れて来たのが二十歳以上年上の憲兵総監の元帥なんですから」

隣の席のミュラーが答える。

「そうだな、しかも皇紀の仲立ちとあってはな」

それも切っ掛けは地球教の柊館襲撃である、テロリストが恋のキューピットもどうかと思ったのでその事は言わないビッテンフェルトであった。

 

「ところで話は変わるが卿は最近妙な視線を感じないか?実を言うと俺はこの会場に入ってからずっと感じてるんだ、いつもよりかなりの人数に見られてる気がする」

ビッテンフェルトが周りを見渡しながらミュラーに言った。

「私もです、でも問題は無いと思いますよ。それにその視線が向けられてるのは主に卿と私と後はメックリンガーとワーレンでしょうから。まあその2人は私達ほどではないでしょうけど」

「なんでそんなことが言えるんだ、地球教や門閥貴族の生き残りとか同盟の奴らかも知れんだろう」

「その視線はいつから感じています?」

「ケスラーの結婚が発表された時くらいからだが」

「ええ、そして今日ケスラーは獅子の泉の七元帥の内3人目の妻帯者となりました」

ビッテンフェルトが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

 

「つまり帝国元帥夫人の座を狙う女性達とその関係者の熱い視線な訳です、マリーカ嬢今はマリーカ夫人という前例が出来ましたからね。何しろ侍女から元帥夫人へ華麗な転身で世間の女性達がまだ4人も独身の元帥がいると気づいてしまった訳です。男やもめのワーレンや芸術家肌のメックリンガーよりは卿や私の方がとっつきやすいんでしょう」

ミュラーが今まで気づいてなかったのかとビッテンフェルトを見ている。

「ふん、知らんなそんなことは。大体真正面から来ればいいではないか。遠巻きで眺めるだけでは何も伝わらんぞ」

グラスのワインをグイと飲み干し呆れ顔でビッテンフェルトが言った。

「声が大きいですよ、卿も私も今やローエングラム王朝の重要な立場にいるんですから振る舞いを考えて下さい。それにそんな重要人物に真正面からやって来る女性はほぼいないんですから」

そう考えればそうだなと思いつつそんな女性とは結婚したくはないと思ったビッテンフェルトであったが、彼はまだ知らなかった自分の現在の立場がどれだけ女性を引き付けるかを。

 

「結婚か」

黒色槍騎兵艦隊旗艦ケーニヒス・ティーゲルの司令室でビッテンフェルトは1人呟く、本人は戦いに次ぐ戦いでそれどころではなかった。だが情勢が落ち着いた今なら改めてそういう事を考える余裕が出来たのだった。ビッテンフェルト本人としては元帥という自身の立場に惑わされず性格も合う料理の上手な女性が自らの伴侶となってくれたらと思っていたが、事態はそれを遥かに上回る速度で動いていた。

 

「失礼します」

入って来たのはグレーブナーだった、参謀長としてビッテンフェルトをよく支えてくれる腹心である。心なしかいつもとは違ってみえるが・・・

「元帥閣下、2週間後の水曜日の夜なのですが個人的な相談をしても構わないでしょうか」

 

「会食?卿と俺がか?」

「いえ、正確には小官と小官の従兄弟とその娘とです」

グレーブナーは不本意だと表情に出ているその顔でビッテンフェルトに頭を下げる。

「何か事情があるんだな」

「何度も断ったのですが、先方に是非にもと言われて。私の家は分家筋で本家には何かと援助されてる身で断り切れず、申し訳ございません」

以前のビッテンフェルトであれば「俺が知ったことか!」等と断っただろうがケスラーの結婚式でのミュラーとの会話か今のビッテンフェルトには影響していた。

「グレーブナー、会食とその場で話すだけだ。それで卿の立場は大丈夫か?」

「十分です、ありがとうございます」

元帥たる者部下の立場や事情も汲まねばなるまい。

 

幼い時見慣れた天井を見上げてビッテンフェルトはベッドに横になっていた。グレーブナーの従兄弟とその娘との会食は取り敢えず乗り切った、だがそれは始まりに過ぎなかった。それを知った黒色槍騎兵艦隊の幹部達、更には戦隊の司令や各艦の艦長クラスまでが続々と同じような事を言い出したのである。やれ妹だやれ従姉妹だ親類友人知人恩師の娘と流石に耐えきれなくなったビッテンフェルトは休養することにした。出撃も無ければ訓練も当分先だったのでこれ幸いと艦隊司令部全員に休暇を半ば無理矢理取らせて自分は最低限の護衛と実家に逃げたのだった。

 

「フリッツ!お茶いれたよ!」

母親の怒鳴り声を懐かしく聞いて階下に降りる、そしていれてくれた紅茶を飲みながら束の間の平穏を味わっていたビッテンフェルトだったがドサリとテーブルに置かれた物に平穏は破られた。

「飲みながらでいいから目を通しといてよ」

「なんだこりゃ?」

「何ってあんたの見合い相手よ、言っとくけどまだこれの十倍は来てるんだから」

ビッテンフェルトはあんぐりと口を開けた。

 

「俺は見合いなんて、勝手に決めないでくれ」

「何言ってんだい!元帥ともあろうモンがいつまでも独り身な方がおかしいだろう、早いとこ孫の顔見せろこの親不孝者が!」

母親の剣幕にたじたじとなるビッテンフェルト。

「それにあんたの同僚のケスラー元帥だっけか、その人も若い奥さん貰ったんだろ?そのケスラー元帥より若いあんたが結婚しないでどうする」

思わぬ所でケスラーの結婚の流れ弾を喰らってしまった、おのれケスラーあのロリコン憲兵総監め。

「ただいま。おおフリッツ帰ってたのか」

父親の帰宅にビッテンフェルトは助けを求める。

「親父、お袋が見合いを」

「分かってる、母さんそんなモンは何人かと会ってそれっきりでいいんだ。誰とも会わないからチャンスがあると思って続々とやって来る」

どうやら何人かとは会わないといけないようだ。

「それとなフリッツ、今晩3人で食事にでも行かないか?」

「3人だけなんだよな?」

流石にビッテンフェルトは学習していた。

「後からワシの友達とその孫娘も来る、会って食事するたけでいいんじゃよ、いい娘さんだぞ」

「あんたまた勝手にそんなこと決めて」

「お前こそ好き勝手してるじゃないか」

いつものように口論を始めた両親に気づかれないようビッテンフェルトはその場を離れると、実家から逃げ出した。

 

場末の酒場でビッテンフェルトはエールを片手に溜め息をついた、こんなことならいっその事戦場で暴れてた方がよかった気がする。

「どうした若いの?溜め息なんてついて?」

隣の席の酔っ払いが尋ねたが追い払う気にもなれず正直に答える。

「最近はままならないことばかりで気が滅入ってな」

酔っ払いはそんなことかといった顔でエールのジョッキを掲げてぐいっとあおると

「そんなことはこいつを勢いよく飲み干せば気にならなくなるさ、そうだろう?へへへへ」

今のビッテンフェルトにはその言葉がとても有り難く、早速その助言に従って残ったエールを飲み干す。

「いい飲みっぷりだな若いの」

「いや、あれこれ悩んだ自分が馬鹿みたいでな」

ビッテンフェルトは近くにいた女性の店員にエールを2杯注文すると1杯を酔っ払いに差し出す。

「いいのかい?」

「ああ、飲んでくれ」

「それではお言葉に甘えて、カイザーラインハ・・違ったカイザーアレクにプロージット!」

「プロージット」

 

酔っ払いは寝てしまった。退散しようとしたビッテンフェルトはエールのジョッキの底に紙が張り付いているのを見つけてそれを取った

(気が向いたら連絡を下さい元帥閣下)のメッセージと連絡先が書いてあり、店を見渡すと先程の女性店員がウインクをした。

 

「逃げ場が無いではないか!!!」

勘定を済ませて深夜の路地に出たビッテンフェルトの咆哮が夜の街に響いた。

 

果たして次々と来襲する女性達の攻撃を掻い潜りビッテンフェルトは理想の伴侶を得ることができるのか、銀河の歴史がまた1ページ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




グレーブナーの実家とビッテンフェルトの両親はオリジナル設定です


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