仮面ライダーレイブン (Retsu-)
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第1夜
仮面ライダーレイブン 第1夜 第1幕


 

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「続いて、市街地での市民襲撃事件に関連するニュースです」

「昨夜、アークスシップ6番艦市街地の民家が何者かによって襲撃されました」

「住んでいた30代の夫婦が死亡、子供1人は行方不明となっています」

「現場にはダーカー因子の痕跡が確認され、アークスはこの襲撃をダーカーによるものと推定。

 事件の捜査と全アークスシップ市街地の警備を開始しました」

 

ショップエリアのモニターで朝のニュースが流れている。

惑星ウォパルが発見されて数か月。新惑星に関するニュースは一旦落ち着き、

最近は「襲撃事件」の話で持ち切りだ。

市街地で民家が襲撃される事件はここ2週間ほど頻発していて、昨夜で4件目。

 

ニュースでは一連の襲撃はダーカーの仕業として報道されている。

ダーカーはあらゆるものを侵食して狂暴化させる「不倶戴天の敵」といえる存在だ。

だが、多くのアークスはダーカーが民家を1軒ずつちまちま襲うだろうかと

疑問に思っているらしい。

 

……おれもそう思う。気味の悪い事件だ。

 

 

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おれの名はカラスマ・レツ。オラクル船団の惑星調査隊「アークス」の正隊員だ。

主な任務はダーカーとの戦闘・撃滅。その傍ら、惑星の環境調査……

ナベリウスの地質調査やアムドゥスキアの原住民「龍族」研究とか、

そういう調査の手伝いもやっている。

 

強大な敵と戦う惑星調査隊「アークス」なんて、ヒロイックでかっこいい響きだろ。

だがアークスに所属して数年、ダーカーと戦いながら環境調査の手伝いにも熱心に取り組むなかで

「組織の恐ろしい秘密」の断片がボロボロ出てきた。詳しくは別の機会に話させてほしいが……

とにかくおれはすっかり、アークスを「胡散臭い組織」だと思うようになってしまった。

 

 

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「おーい、相棒!」

 

悶々としながら、デイリーオーダーを受注するためにゲートエリアへ向かうと、

同期アークスのアフィンが手を振りながら声をかけてきた。

 

「相棒、ニュース見たか?また襲撃だって」

「これで4件目だな。ダーカーの仕業だそうだが…」

「それなんだけどさ。」

 

アフィンの声が少し低くなる。

 

「現場にダーカー因子が残ってたらしいし、ダーカーが関係してるとは思うんだよ」

「ダーカーなら市街地丸ごと襲撃しそうなものだけどな」

 

アフィンが眉をひそめる。表情豊かなヤツ。

 

「ただのダーカーなら、な」

「相棒、この前一緒にリリーパで会っただろ、おれの姉ちゃん」

 

 

アフィンが行方を追っている姉、ユクリータ。

彼女はダークファルスの依り代にされてしまい、各地を放浪しているようだ。

以前リリーパで遭遇した際は会話することができたが、

再び行方をくらまして以来目撃されていない。

 

 

「ダーカーじゃなくダークファルス…ユクリータさんが関係してるかもってことか?」

 

うなずくアフィン。

 

「何か目的があって、襲撃を繰り返してるのかもしれないだろ。だったら止めないと」

 

 

ダーカーに目的をもって行動する知性は無いが、

一方でダークファルスは人間と同様の知性を持つ存在だ。

何らかの目的のもと、襲撃を繰り返しているという考えには納得できる。

 

 

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「相棒、一緒に市街地の警備任務に志願しないか。」

 

 

一連の襲撃事件を受け、警備任務は常に募集中だ。

元より警備任務には志願するつもりだったが、運が良ければ襲撃の真相か、

ダークファルスの動向について何らかの情報をつかめるかもしれない。

 

「わかった。昨日襲撃があった6番艦の警備に参加しよう」

 

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第1幕 終わり。第2幕へ続く。



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仮面ライダーレイブン 第1夜 第2幕

 

アークスシップ6番艦の警備任務には午後の募集枠がまだ残っていた。

すぐに志願し、そのまま慌ただしくアフィンと共に6番艦市街地へ出撃。

 

大気中のダーカー因子の数値に気を配りながら市街地を警らするが、

ダーカーの出現予兆となるほどの反応はない。

昨日襲撃があったとは思えないほど街の様子は落ち着いており、

住民も普段通り生活している。

 

「……っと。ここだな」

全焼した家屋にレーザーフェンス。襲撃の被害現場だ。

ダーカー因子を確認してみたが反応は依然弱く、

当然ダークファルス出現の痕跡もない。

 

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「因子反応、すごく弱いな。考えすぎだったのかな」

 

アフィンの表情は暗い。……失踪した姉の手がかりが

空振りともなれば、気持ちも落ち込むだろう。

 

「まあ落ち着けよ。この辺りの人にちょっと取材してみよう」

「相棒…そうだな。よし、あのおばさんに話を聞いてみるよ」

 

アフィンは周囲を見回し、話好きそうなおばさんを見つけて駆け寄っていった。

 

 

アフィンはおばさんに丁寧に挨拶し、慣れた様子で襲撃事件について質問している。

おばさんは一瞬警戒したようだが、すぐに話し始めた。

姉を探して各地を巡る中で身に着けた話術なのだろう。おれは少し感心した。

……まあ、中性的でかわいらしい、アフィンのルックスも多分に影響しているだろうけど。

 

おばさんは昨夜の出来事を事細かに話してくれた。

深夜に爆発音で目が覚め、ダーカーの襲撃かと思ったこと。

ダーカーの気持ち悪い断末魔が聞こえて、

片が付いたのかと安心してまた床に就いたこと。

今朝、襲撃事件のニュースを見て混乱していること。

 

被害者の一家とは顔見知りだったそうだ。

仲の良い家族で、揃って楽しそうに出掛けているところをよく見かけていたらしい。

お子さんは12歳くらいと年少だが非常に優秀で、

企業に技術アドバイザーとして特別に雇用されていたほどだった。

ただでさえ優秀なのに、さらに「頭の良くなる手術」を受ける予定もあったらしい。

おばさんはいろいろと教えてくれたが、次第に話の内容が世間話に変わってきた。

今は警備任務中。あまり立ち話をしていると、オペレーターに怒られそうだ。

おれとアフィンは礼を言っておばさんと別れた。

 

「断末魔を聞いたって言ってたな。本当にダーカーの襲撃だったのかも。」とアフィン。

「ダークファルスなら残留因子の数値はもっと膨大だしな。」

 

ただ、ダーカーが民家を一軒ずつ襲うようには思えないという疑問はまだ残る。

 

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「市街地の巡回に戻ろうぜ、相棒」

 

そそくさと去るアフィンを追って廃屋を後にしようとしたその時。

全焼した家屋の入り口付近に転がっている光沢のある何かに目が留まった。

目を凝らしてみると、子供がつける腕時計型のおもちゃのようだ。遺留品の回収漏れだろうか。

 

おれは腕時計のような物体を拾い上げ、足早に去ろうとするアフィンを呼び止めた。

 

「見てくれ、遺留品かもしれない」

「遺留品?お、懐かしいな」

 

アフィンいわく、「超多機能カスタム時計 ハイパーウォッチ」。

やはり子供がつけるおもちゃの腕時計だった。

電卓や占いに加えて録音機能まで内蔵された多機能腕時計の最新モデル。

アフィンも子供のころ持っていたらしい。

 

「録音機能か…。」

 

昨夜の襲撃事件で被害にあった一家の子供は行方不明になっているようだが、

仮にこのハイパーウォッチが行方不明になった子供の持ち物なら……

可能性は低いが、録音機能で行方の手掛かりとなる情報が記録されているかもしれない。

 

「アフィン、何か事件の手掛かりになりそうな音声が録音されていないか?

……まあないだろうけど」

 

「ああ、念のため見てみるよ」

 

よくできた玩具の時計を操作するアフィン。数秒でわかりやすく顔色が変わった。

 

「相棒…あったぞ。昨日の深夜録音された音声が保存されてる」

 

恐る恐る再生ボタンを押す。

 

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耳障りなノイズの後、聞こえてきたのは銃声と大人の悲鳴。

 

「お母さん!お父さん!」

 

子供の絶叫が続く。泣き声は急にくぐもり、徐々にか細くなっていった。

映画のワンシーンが思い浮かぶ。薬を嗅がせ気絶させる、よくあるシーン。

 

「気が滅入るぜ、次は3日後」

 

襲撃者と思われる男のぼやき声を最後に、音声は途切れた。

 

 

音声ファイルの日時は昨日の深夜。

この音声は昨晩の襲撃を録音したもので間違いない。

被害者は銃で殺害されており、襲撃はダーカーによるものではないことは明らかだ。

行方不明の子供は薬で眠らされ、誘拐されている可能性が高い。

そして「次は3日後」の声。3日後に次の襲撃が決行されるのだろうか。

衝撃的過ぎる音声。言葉がなかなか出てこない。

 

「とりあえずこの時計は保管して…」

「本部に連絡だな、相棒」

 

通信端末のメニューを開こうとすると、

警備任務を指揮していたオペレーターのヒルダから緊急用の回線で連絡が入った。

 

「レツ、アフィン、至急キャンプシップへ戻れ」

 

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指示に従いキャンプシップへ戻ると、再びヒルダから通信。

 

「急ですまないが…レツ、アフィン。お前達は現時刻をもって任務完了扱いとする」

「報酬は正規の額を支給する。安心しろ」

 

簡易モニタ越しに見るヒルダの表情は重い。

 

「そして本部からの通達事項だ。まず先程拾得した遺留品を速やかに提出せよ」

 

ヒルダの声はいつもより低く威圧的に聞こえる。

 

「さらにレツ、アフィンの両名には緘口令を敷き、今後この件への一切の関与を禁ずる」

「違反した場合は懲戒処分の対象とする」

 

このタイミングでの緘口令。

無駄な混乱を防ぐ為にも素晴らしいスピードでの対応だが、おれは言葉にならない不安を感じた。

「ヒルダさん、遺留品ですが音声が…」

「レツ、いいんだ」

 

遮るヒルダ。声色は幾分柔らかい。

 

「お前達が正しい倫理観のもとに行動できる人物で、話したいことがあるのも理解している」

「……だが、私としてもこの件には関わってほしくない。遺留品に記録されていた音声も聞かなかったことにしてほしい」

 

「ヒルダさん、ちょっと……」

「今回は相手が悪すぎる。優秀なアークスであるお前たちを失いたくない。

 指示に従ってくれ、頼む」

 

任務終了通達に加えて本部から突然の緘口令。呆気に取られていると、ヒルダが通信を切り上げた。

 

「話は以上だ。遺留品の提出、早急にな」

 

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ゲートエリアに帰還したおれとアフィンは、あまりのことに話もせず固まってしまっていた。

数分後、アフィンが緊張した面持ちで口を開いた。

 

「ハイパーウォッチはおれがコフィーさんの所に持ってくよ。凄いことになっちまったな」

「ユクリータさんは無関係だったようで良かったよ。しかし……」

 

あの音声。襲撃を繰り返しているのは少なくともダーカーではなく、武器を持った人間だ。

 

「相棒、さっき聞いたあの銃声さ……おれのライフルと似てる気がするんだ」

 

フォトンライフルはアークス内で広く使用されているが、一般流通はしていない。

 

「あの銃声がフォトンライフルのものなら……

 アークスの武器が犯罪者に横流しされているか、あるいは」

 

襲撃の実行犯はアークスの人間で、上層部はその事実を隠そうとしている……考えたくない話だ。

 

 

音声の内容を思い出す。銃声、悲鳴、子供の泣き声。そして気だるげなぼやき声。

 

「子供が心配だ。殺されなかったようだが誘拐されてるかもしれない。それに次は3日後……」

「でも相棒、緘口令もあるしヒルダさんの様子見ただろ」

 

ヒルダは普段、必要最低限の内容しか話さない。

先程はいつになく感情的で、おれ達を必死にこの件から離そうとしているようだった。

 

アフィンの言葉はもっともだ。アークス上層部は秘匿情報に接触した者に容赦がない。

以前、おれがナベリウスの地質調査を手伝った知人の学者……

彼は組織が隠している重大な事実の一端に触れてしまい、暗殺されかけている。

 

子供の行方と次の襲撃が気がかりだが、即座に緘口令を敷くほどの事態だ。

下手に関われば命の保証はない。

 

「…今日は終了だな。お疲れ」

「またな、相棒」

 

釈然としないが、これ以上悩んでも何も成果は出せそうにない。

この日は一旦解散することにした。

 

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第1夜 第2幕 終わり。第3幕へ続く。



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仮面ライダーレイブン 第1夜 第3幕

 

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翌日。デイリーミッションを受ける気にもなれなかった。

 

昨日見つけた襲撃事件の遺留品「ハイパーウォッチ」に録音されていた子供の泣き声が頭の中に貼り付いてしまった。

 

録音の最後に入っていた「次は3日後」という無責任で気だるげなぼやき声には

やり場のない怒りを覚えるし、市街地でおばさんから聞いた被害者一家についての話は乱れた感情をさらにかき乱してくる。

 

幸せに暮らしていた子供が、突然両親を目の前で殺された。

子供自身も誘拐され何をされているかわからない。

次は3日後……事件の日から数えれば明日、また襲撃が発生するかもしれない。

アークス上層部は事件の真相を隠そうとしているように思える。

 

こんな状態なら、誰だって仕事が手につかなくなるだろ。

 

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居ても立ってもいられず通信端末で襲撃事件のニュースを検索しはじめたが、

当然ニュースで流れていた内容以上の情報は出てこない。

昨日のように市街地で聞き込みをすれば多少情報も集まるだろうが、

おれは昨日事件へのこれ以上の関与を禁じられている。

可能な範囲で、今できることは無いだろうか。

 

……知り合いの「情報通」に連絡を取ってみるのは、アリかもしれない。

おれは知り合いの姉妹アークス、パティとティアに電話をかけることにした。

顔が広く、アークス内の様々な事柄に詳しい彼女らは、

もしかすると何か知っているのではないか。

手始めに姉のパティを呼び出してみると、数回のコール音の後、通話が繋がった。

 

 

「はいはいパティです!どったの?」

「お疲れ、いきなりすまない。ちょっと聞きたいことがあって……」

 

 

賑やかな声。任務から戻った所だそうだ。

おれは襲撃事件について聞こうとしたが、電話で話すのはやめた。

回線の傍受ぐらい、アークスならやる。

 

 

「ああ、えっと……実際に会って話さないか」

「なあに?パティちゃんに会いたくなった?……痛!」

 

 

おおかた妹のティアに小突かれでもしたのだろう。

 

 

「まあ、そんなとこ。今日、空いてる時間あるかな?」

 

残りの出撃は夜間で日中は空いているらしい。

20分後、ショップエリアで待ち合わせることになった。

 

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ショップエリアへ移動すると、モニターでニュース番組が流れていた。

「ハーフキャスト」特集。心肺機能のみを機械化する

最先端の医療テクノロジーだ。心肺を機械化することで

血糖値や血中の酸素濃度が最適化され、脳機能が大幅に

活性化するらしい。

 

昨日、市街地でおばさんが言っていた

「頭の良くなる手術」ってこれか。

……おばさんって新しいモノゴトの名前を

意地でも覚えないよな。

 

モニターの中では、少年がはきはきとインタビューに

応じている。

近く、ハーフキャスト化手術を受ける予定だそうだ。

13歳にしてタイレル大学に編入した天才少年……

タイレル大はアークスシップ17番艦の超名門大学だ。

 

来月、手術の為に休学し、実家に帰るらしい。

手術は怖くない。それより研究が捗るのが楽しみで仕方ない。

恐ろしいほど聡明な13歳。

 

記者は感心した面持ちでインタビューを続けている。

少年は大学の寮で暮らしているが、久しぶりに家族に会えるのも嬉しいそうだ。

「家族」というキーワードで、昨日聞いた泣き声がまた頭の中に広がってきてしまった。

 

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鬱々としているところに、パティとティアの声が響く。

 

 

「レツ君おまたせー!」

「パティちゃん声大きいって!」

 

 

パティとティアは「情報通」を自称する姉妹アークス。

所属は戦闘部だがその情報力は本物だ。人当たりの良さと愛嬌で

広い交友関係を持ち、それが彼女らの情報源となっている。

 

 

「君から呼ぶのは珍しいね、デートのお誘い?」

「いい加減にしろバカ姉」

 

 

漫才じみたやり取りで、おれは少し気分が和らいだ。

 

 

「最近連続している襲撃事件のことなんだが、何か情報を掴んでないかな?」

「あー、不気味だよね」

 

 

パティとティアも一連の襲撃を不審に思い、

情報収集を進めているらしい。ただ、この件に関しては情報統制が厳しく

アークス本部に確認しても門前払いだそうだ。

 

 

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「ん、でもね…」

「六芒均衡のヒューイさんに任務で会ったとき、こっそり教えてくれたんだけど…」

「襲撃の被害者がとても似ているの。どの事件も被害者は子供のいる家族で、

両親は殺害…子供は消息が分からないみたい」

 

 

大人は殺され、子供は行方不明。一昨日の襲撃の被害者も同じだ。

 

 

「市街地警備に行った知り合いにも話を聞いたんだけど」

「被害者の人物像、これがまた……どの襲撃も似てるんだよね」

 

 

知り合いが近隣住民から聞いたという情報をティアが列挙していく。

 

被害者は皆、危険とは無縁の家族。

お子さんがとても優秀。

飛び級で大学入学、

学会で論文発表…。

 

昨日市街地でおばさんに聞いた、被害者一家の話と似ている。

 

 

「後はどの家族もお金持ちだったみたい。

 ハーフキャスト化手術って知ってる?」

「ニュースで見たよ。心臓と肺だけ機械化すると頭が良くなるらしいな」

「相当裕福だったんだと思うよ。すっごく高いからね、あの手術」

 

 

襲撃に遭った家族は共通して子供にハーフキャスト化手術を受けさせる予定だったそうだ。

この点も、一昨日の襲撃の被害者と同じだ。

 

 

「優秀な子供を持つ裕福な家族が標的…両親は殺害、子供は行方不明か」

「身代金目的の誘拐かと思ったけど、大人が殺されてしまっているし、多分違うよね」

 

 

パティとティアはダーカーの襲撃という報道をハナから信じていないようだ。

緘口令を思い出し、おれは余計な事を喋る前に礼を言って二人と別れた。

 

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じっとしていると昨日聞いた子供の泣き声が頭の中をぐるぐる回ってしまう。

おれは気分転換がてらカフェエリアへ向かい、情報を整理することにした。

 

今までに発生した襲撃は4件。

被害者は全て子供を持つ裕福な家族。両親は殺害、子供は行方不明。

行方不明の子供達はみな非常に優秀で、ハーフキャスト化手術を受ける予定だったようだ。

そして昨日聞いた音声。子供を薬で眠らせるような声と「3日後」。

 

次の襲撃も、優秀な子供を持つ裕福な家族が標的にされるのだろう。

子供にハーフキャスト化手術を受けさせるほど裕福な家族の数は限られるだろうが、

全アークスシップを見ればそこそこの数にはなる。次の標的の絞り込みには至らない。

警備任務に就く他のアークスの働きに期待するしかないか。

 

 

警備任務といえば……そもそもなぜ襲撃は毎回成功しているのか。

一昨日の襲撃が発生する前、それこそ初回の襲撃が発生してから、

アークスは全てのアークスシップ市街地を24時間体制で警備していたはずだ。

 

 

 

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おれはアークスから支給されている電子端末を起動し、

今週の市街地警備任務の募集を確認してみた。

端末の画面に百数十隻あるアークスシップそれぞれの警備任務が表示されている。

任務への志願者は毎日募集されているが、何故か数隻、募集のない艦があるようだ。

 

ニュースでは「全アークスシップの警備を開始」と報道されていたが、

実際には警備の行われていない艦があるのではないか。

襲撃はそこで発生していた、ということはないだろうか。

 

「次は3日後」の音声を思い出す。一昨日の襲撃から3日後は明日だ。

明日の警備任務リストを開くとやはり募集のない艦が3隻ある。

 

17番艦、62番艦、90番艦。

 

17番艦は先程ニュースで見た天才少年が通うタイレル大学のある艦だ。

彼はハーフキャスト化手術を受ける予定で、今は大学寮で暮らしているという話だった。

 

残りの62番艦と90番艦は大部分が工業プラントで占められた艦で、

裕福な家族が住む場所ではない。

 

となれば……次の襲撃は明日、17番艦のタイレル大学寮が標的にされるのではないだろうか。

 

おれはこの事件への関与を上層部から禁じられている。

下手に首を突っ込み、バレてしまえば懲戒処分だ。昨日のヒルダの様子を見るに、かなり重い……

命に係わる刑罰が下される可能性もある。

 

腕の立つ友人……オーザとマールーあたりに相談するか。しかし下手をすれば彼らも

懲戒対象となるかもしれない。もし推理通りに襲撃が決行されるなら、

犯人とアークス上層部は繋がっている可能性も高い。そんな危険な話に友人を巻き込めない。

 

歯がゆい思いに、頭に貼りついた泣き声がまた大きくなる。

 

懲戒処分はごめんだが、やはりこのまま黙っている気にもなれない。

おれは明日「個人的に」「偶然」17番艦へ足を運ぶことにした。任務ではないため武器は使えず、

直接襲撃を阻止することはできない。だが、匿名での通報ぐらいはできるだろう。

 

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第1夜 第3幕 終わり。第4幕へ続く。

 



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仮面ライダーレイブン 第1夜 第4幕

 

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次の日。本部に怪しまれないよう、おれは丁度開催されていた

「フォトン技術を活用した民間警備システム」の展示会を視察するという「体」で

17番艦へ向かった。

 

展示会の内容に正直興味は無かったが、アリバイを作るために念のため会場を訪れ、

場内の展示を一通り見て回っている。……当然内容は全く頭に入ってこない。苦痛だ。

 

 

展示会場をぶらつきながら、タイレル大学寮を見張ることができるスポットが無いか

携帯端末で検索してみた。

 

マップによると、寮の真横に駐車場があるようだ。

駐車場付近には非常通報ボックスがあることも確認できた。

これはダーカーが出現した際、市民が逃げ込んでアークスに通報できるボックス型シェルターだ。

これなら何処かで車を借り、駐車場に停めて潜伏できる。

異常が発生したら通報ボックスでアークスに匿名で連絡すれば良い。

 

人目のある日中に襲撃が発生する可能性は低い。

おれは展示会を開場時間いっぱいぶらついて暇をつぶした。

(何をやってるんだ、おれは…)

 

夜9時頃、会場を後にしたおれはレンタカーを借りてタイレル大学寮横の駐車場へ向かった。

すでに少し気疲れしていたが、今日のメインはここからだ。

 

タイレル大学寮は郊外の住宅地に建つ10階建ての立派なマンション風。

近くには自然公園もあり、素晴らしい立地だ。

車内からタイレル大学寮を見張ったが、夜が更けるまで特に異常は無し。

 

このまま何も起きないようにも感じたが、

張り込みを始めて約5時間後の午前3時。その時はやって来た。

 

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郊外の住宅街には不釣り合いな装甲車が大学寮の前に止まり、

中から大仰な装甲服を装着した戦闘員が4人出てきた。戦闘員の内1人がマンホールほどの

大きさの円盤状の装置を取り出して設置し、装甲車に内蔵された電子端末を操作している。

 

 

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程なくして、円盤状の装置の真上にダーカー「ダガン」が3体出現した。

2人の戦闘員が特に驚く様子も見せず、武器を取り出して戦闘を開始している。

 

一方で残り2人の戦闘員はダガンには目もくれず、寮の入口へ走っていった。

あの装置は恐らくダーカー誘引装置だ。

わざわざダーカーを呼び寄せて戦闘を発生させ、どさくさに紛れて寮を襲撃する手筈か。

 

 

市街地でおばさんに聞いた話を思い出した。

このやり方なら目撃者がいても「ダーカーの襲撃」ということでうやむやにできる。

これまでの襲撃も同様の手口だろう。とんだマッチポンプだ。

 

おれは静かに車を出て、通報ボックスへ向かった。

走り出したい気持ちだったが、見つかれば一巻の終わりだ。

 

大学寮の入口へ向かった2人の戦闘員は、入り口のオートロック式ガラス扉に

小型の装置を取り付けている。数秒で扉はあっけなく開き、2人は寮の中へ入っていった。

今回のターゲットは恐らくテレビで見た天才少年だろう。

このまま放っておけば、彼は誘拐されてしまう。

通報ボックスに入ったおれは電話機を取り、緊急通報用のボタンを押した。

 

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ボタンを押したおれは血の気が引いていた。

電話機からは砂嵐のようなノイズが聞こえてくるばかりで、

緊急回線に繋がる様子は一向に無い。

「偶然居合わせた一般市民(おれのような)」による通報で面倒な事態が起きないよう、緊急回線はジャミングでもされているのだろう。

 

自らの浅はかさへのいらだちと、目の前で進行していく誘拐に対する無力感が

沸き上がってくる。しかしここで飛び出せば最後、丸腰のおれは何もできず

その場で殺されるだろう。

 

生き残ったとしても待っているのは懲戒処分だ。

何もできず、おれは打ちひしがれてボックス内に潜伏するしかなかった。

 

 

ダガンを片付けた戦闘員2人が寮のほうへ歩いていく。

「本題」である襲撃……誘拐のバックアップへ向かうのだろう。

 

 

 

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すると、気だるげに歩く戦闘員の背後に突如青黒いもやが発生した。

新種のダーカーでも現れたかと思ったが、もやから出てきたのは

群青色の全身アーマーを纏った一人の男だった。

 

 

戦闘員は背後の男に全く気付いていない。

アーマーの男はわずかな物音も立てず、気配すら感じさせない。

姿を視覚ではとらえているのに、そこに人間がいる感じがしない。不気味だ。

 

 

……次の瞬間、おれは驚愕した。アーマーの男は腰に差した刀を抜き、

二人の戦闘員を背後から斬り付けたのだ。

 

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戦闘員の装甲服に青白い電流が走り、

2人共々うつぶせに倒れこんだ。拘束用のスタンモードで斬り付けたのか、

四肢が小刻みに痙攣している。続けてアーマーの男は青い拳銃を取り出し、

戦闘員2人の首筋めがけて発砲した。銃声は無く、戦闘員は動かなくなった。

 

戦闘員の電子端末が装着者の異常を検知したのか赤く点滅しているように見える。

アーマーの男は意に介さず、寮の中へ走っていった。

寮内へ先行した戦闘員を追っているのか。

……だとしたら彼はこの襲撃を阻止しに来た、ということだろうか。

 

 

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数十秒後。寮の5階の窓から、アーマーの男が戦闘員二人の首根っこを掴んで飛び降りてきた。

戦闘員二人がそのまま地面に叩きつけられ、周囲に鈍い音が響き渡る。

……ずいぶん強引な手段だ。さらに男は再び拳銃を取り出し、戦闘員の首筋に発砲した。

 

 

アーマーの男が現れてものの数分。

戦闘員が4人、うつぶせの状態で転がっている。彼の正体はわからないが、

今回の襲撃は阻止された。それは確かだ。

 

 

戦闘員の電子端末が激しく点滅を続けている。

救援を要請しているのかもしれないが、時刻は午前3時45分。

増援が到着するころには夜が明け、誘拐の決行は難しくなっているだろう。

 

身を隠しながらその場を去ろうとしたその時、大きな黒い影がアーマーの男の真上に現れた。

 

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影は鳥とも人間ともつかない化物の姿に形を変え、

アーマーの男をいきなり真上から殴りつけた。不意を突かれた男は

10mほど吹っ飛んでしまった。一瞬の出来事。頭が追い付かない。

 

 

化物は咆哮を上げ、追撃を仕掛けるべく走り出した。

 

 

強烈な咆哮で我に返る。男は大きなダメージを負ったらしく、

倒れこんで立ち上がれないようだ。装着していたアーマーは青黒いもやと共に消滅し、

黒いボディスーツが露わになっている。

 

彼をみすみす死なせるわけにはいかない。おれは男の眼前に飛び込み、

そのまま抱きかかえて寮の物陰まで全力で走った。

任務外でも身体能力はフォトンで強化されている。人を抱えて走ること位は朝飯前だ。

 

 

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物陰まで駆け込み、化物の視界から逃れたところで、おれはかかえた男を地面におろした。

男は存外華奢な体つきをした精悍な顔立ち。戦い慣れているようには見えない青年だ。

 

 

「大丈夫か、しっかりしろ」

「ぐ…君は…?」

 

緘口令を思い出したおれは一旦とぼけることにした。

 

 

「通りすがりだ。凄い音がしたから」

「その身のこなし……君、アークスだろ……

 関与を禁じられているだろうに……どうしてこんな場所に……」

 

 

「関与を禁じられているだろうに」と、彼は言った。一連の襲撃事件に対する

アークス上層部のスタンスを知ったうえで襲撃を阻止していたということなら……

彼は味方と考えていいだろう。

 

おれは遺留品に録音された音声やパティとティアから聞いた情報などで

襲撃の標的を推定したことを話した。

 

 

「そうか、遺留品が…それに情報を集めて…来てくれたんだな」

 

男は息も絶え絶えだ。

 

_______________________________________

 

化物が近づいてくる。いつまでも隠れてはいられない。

かと言ってここは住宅地。化物を放って逃げるわけにもいかない。

 

 

「もうこの際だ、アークス本部に救援を要請しよう…」

 

懲戒対象とされるのは確実だが、市民に被害が出るよりマシだ。

 

「ダメだ…この件で本部は動かない…なあ…頼みを…聞いてくれないか…」

 

「アークスはこの襲撃について戒厳令を敷いている…君も大っぴらに動けないのだろう…」

「だがこのベルトには…身分を隠して戦える装備が格納されている…」

 

 

男はベルトのバックルを取り外し、おれに差し出してきた。

 

 

「僕の代わりに…戦ってくれないか。」

 

男は声を絞り出す。

 

「ここまで来てくれた君の…正義感を見込んでいるんだ、頼む…」

 

「勿論協力する。だが、身分を隠して戦えるってどういうことだ?」

 

「装着すれば生体反応と自身のフォトンを……

 すべて隠蔽できるアーマー……レイブンスーツ……だ」

 

 

纏うことで正体を隠すことができるアーマー。渡りに船だ。

おれはバックルを受け取った。

______________________________

 

バックルを腰に当てると、ベルトが勢いよく飛び出し、

おれの腰をぐるりと1周した。先端はバックルに接続され、

簡単には外れそうにない。

 

 

「スイッチを押せば自動で装着される…武器は…腰に刀が…」

「わかった、後はまかせろ」

 

 

言われたとおりにスイッチを押すと、眼前が青黒いもやで包まれていく。

 

 

【挿絵表示】

 

『Cover up』

『Raven』

『…Complete』

 

くぐもった電子音声がベルトのバックルから発され、

先程男が纏っていた青いアーマーが全身に装着された。手に持っていた携帯端末を見てみると、

おれの反応はレーダーから消えている。生体反応の隠蔽によるものだろう。

 

さらに今まで感じたことのない、力が湧くような感覚……

身体能力が大幅に強化されていることがわかる。

 

 

おれはゆっくりと物陰から歩み出た。次の獲物を見つけた化物は前傾姿勢を取っている。

腹の底まで響くような化物の咆哮。同時に刀を鞘から抜く。

 

 

【挿絵表示】

 

「来いよ、化物」

______________________________

 

仮面ライダーレイブン 第1夜 終わり。第2夜へ続く。

 



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第2夜
仮面ライダーレイブン 第2夜 第1幕


 

【挿絵表示】

 

 

全長2メートルほどの化物と対峙したおれは、間合いを測りつつ敵を観察した。

二本足で立ち、全身には鳥類を思わせる羽毛。

その風貌はこれまで戦ってきた原生生物エネミー、龍族や機甲種、そしてダーカー……

どの種族とも全く異なるものだ。

 

いや、頭部には見覚えがある。「クローム・ドラゴン」……。

眼前の化物の頭部は、アークス研究部の特務機関「ヴォイド」が生み出した

人造龍のそれと酷似している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

全身の各部には拘束具のような装甲が鈍く輝いている。甲殻の類ではなく、

どうみても人工物だ。人の手によって装着させられたものだろう。

人工的に生み出された生体兵器なのだろうか。そんなヤツがどうしてここに?

 

 

【挿絵表示】

 

 

化物は咆哮を上げると共に、赤黒いやり状の結晶を生成して撃ち放ってきた。

結晶を撃ち放つ攻撃には見覚えがある。クローム・ドラゴンの攻撃方法の一つだ。

おれは身をひるがえして結晶を躱したが、化物は続けざまにまっすぐ飛び掛かってきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

謎の青年を一撃で戦闘不能に追い込んだ先程のパワーを見るに、あの化物と正面から

打ち合うのは得策ではないだろう。おれは飛び掛かってきた化物を向かい打つべく走り出し、

前方に飛び出す……と見せかけて、化物の脇をスライディングですり抜けた。

 

空に向かって体当たりすることになった化物は大きく体制を崩した。チャンスだ。

手にした刀ですかさず背後から振り向きざまに斬り付ける。

刀は半端な握り方で振るえばすっぽ抜けそうなほどの、異常な軽さ。(少し肝が冷えた。)

斬撃は化物の装甲と分厚い羽毛にやや阻まれたが、刃は通った。少量の黒い血が飛び散る。

 

痛みに激昂したのか、化物は咆哮を上げながら振り向き、勢いよく腕を振り上げた。

縄のような筋肉が浮かぶ剛腕。手刀攻撃が来る!

おれはバックステップで躱すべく、両足に力を込めて跳躍した。

 

「え」

 

その瞬間、おれの視界は一気に上昇した。眼下には大学寮の屋上が見えている。

 

「やっばいッ!跳び過ぎた!」

 

装着している戦闘スーツ「レイブン」による身体能力強化が凄まじく、

バックステップのはずが想定外の大ジャンプをしてしまったのだ。

いきなりの大ジャンプに化物は混乱し、一瞬おれを見失ったようだが

程なくしておれの姿を見つけたらしい。再び攻撃を仕掛けるべく跳び上がってきた。

 

「クソッ、防ぐしかない!大丈夫かコレ」

 

大幅な脚力強化は頼もしい機能だが、戦闘中の不用意な大ジャンプは自殺行為だ。

スラスターでも付けていなければ、空中では回避行動がかなり制限される。

おれは刀を前方に構え、防御姿勢を取った。

 

化物によって振り下ろされる暴力的な手刀。刀を構えて受け止めた両腕に

強烈な衝撃が伝わってくる。化物の手刀が粗削りだったおかげか、打撃を刀で何とかそらし、

受け身を取って着地することができた。

 

衝撃で若干腕がしびれているが、大きなダメージは無い。刀も無傷。

防御姿勢さえ取れれば「レイブン」の耐衝撃強度はかなり高いようだ。

 

さらに驚いたことに、これだけ派手に動き回っても物音が全く生じていない。

生体反応とフォトンの隠蔽に加えて、異常に高い消音性能も兼ね備えている。

このステルス性こそが「レイブン」最大の武器なのかもしれない。

 

____________________________________________________________________

 

 

【挿絵表示】

 

 

化物は追い打ちを加えるべく猛進する。突進ばかりで芸のない奴だが、

ステルス性を武器にするなら絶好の相手だろう。

 

「隠れて仕留める……やってみるか」

 

ステルス性を活かすなら、まずは化物から身を隠す必要がある。

敵の視界から、一瞬でも逃れなければ。

 

おれは化物の視線をそらすため、手にした刀を化物の横を掠めるように投げつけた。

化物の目は飛んでいく刀を追い、視線はおれから逸れていく。狙い通りだ。

すかさず思い切り跳躍したおれは、大学寮の屋上で着地した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

化物は周囲を見回している。おれの姿を完全に見失っているようだ。

スーツの機能によって、発される気配も音も遮断されている。

「レイブン」を装着している間、おれは視認以外の方法で知覚されないと考えて良いだろう。

一度視界から逃せば、再び捕捉することは困難なはずだ。

 

[Strike Raven READY]

 

くぐもった電子音声と共に、マスクのモニターにシステムメッセージが浮かんだ。

強力な攻撃の発動準備が整ったらしい。跳び蹴りを放つ人型のピクトグラムが表示されている。

……必殺の跳び蹴りなら、奇襲攻撃にもってこいだ。

攻撃を発動するべくモニター内の表示に目線を合わせると、両足にエネルギーが

集中していく感覚が伝わってきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

化物に狙いを定め、屋上から跳躍して急降下。その間も足にエネルギーが集中していく。

そのまま化物の後頭部を踏みつけるような形で、おれは全力の跳び蹴りを叩き込んでやった。

 

強烈な打撃をモロに食らった化物は大きく吹き飛び、ゴロゴロと転がって倒れこんだ。

急降下の運動エネルギーを加えた全力キック。無事ではいられないだろう。

 

「おい……まだ動けるのかよ」

 

化物はうめき声をあげながら地に手を付き、なおも立ち上がろうとしている。

ただ、ダメージは大きいらしく動くのがやっとといった様子だ。

おれは先程フェイントで投げつけた刀を回収した。ここは市街地。

市民の安全のためには介錯するしかない。

 



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仮面ライダーレイブン 第2夜 第2幕

 

渾身の跳び蹴りで戦闘不能に追い込んだ化物を介錯すべく、刀を振り上げたその時。

化物の後方に突如テレパイプが出現した。転送されてきたのは1人。派手な赤い装甲で

身を包んでいる。仔細はわからないが、キャスト種族の男性のようだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

男は転送が完了すると同時に、特殊な形状の銃を化物に向けた。引き金を引くと銃口から

光がゆっくりと伸びていく。化物は光に包まれていき、数秒で跡形もなく消えてしまった。

 

「装備ばカリ大袈裟なボンクラ共ガ……任務失敗はマあいい、

だガな……調整中のプロトタイプを現場の緊急事態に投入すル馬鹿ガいるカ!」

 

時折ガス漏れのように掠れる独特のしゃがれ声でぼやきながら、

男は倒れている戦闘員達にも1人ずつ銃を向けて引き金を引いていった。化物と同様、

光に包まれて消えていく戦闘員。

 

 

【挿絵表示】

 

 

男がこちらへ振り向く。

 

「始末しタ訳じゃアない。この銃はテレパイプガン、ト言っテな。撃った対象を

事前に設定しタ場所へ転送させラレル。便利ダ」

 

戦闘員たちを拠点へ転送して回収したということであれば……この男は襲撃の首謀者か、

作戦指揮者だろう。おれは身構えた。

 

「そう構えルな。もう夜明けダ、今回は見逃しテやル」

「クローム・グリフォン……さっキの怪物に関してはコッチの落チ度ダ。

「調整中の生体兵器なんダガ、お前さんにノさレタ俺の部下がパニクって転送しチまっタ。

市民に被害ガ出ル前に無力化しテクレテ助カッタ。」

 

戦闘員たちが倒される様を、どこかでモニタリングしていたということか。

しかし、戦闘員たちを倒したのはおれではない。「レイブン」の装着者が変わったことに

気付いていないのだ。纏えば正体を隠して戦えると言う話は本当らしい。

 

……それよりもだ。先程まで市民襲撃を指揮していたであろう者が

「市民に被害が出る前に」とは白々しいにもほどがある。おれは少し苛ついて口を開いた。

 

「お前たちは何者だ。ここ最近の襲撃事件もお前たちの仕業だろ。

ご丁寧にダガンまで呼び寄せて……」

 

キャストの男はやれやれといった様子で肩をすくめながら、こちらに近付いてきた。

 

「何者だ、はコっちのセリフだガ……まあイい」

「俺はキリク。研究部……ヴォイド所属ノ、アークスだ」

 

「お前さンが邪魔しテくれタ作戦はヴォイドの正式任務だ。アークス本部も認可してル。

ヒーロー気取りだろウが、これ以上邪魔すレば任務上の脅威としテ排除するぜ」

 

_______________________________________

 

ヴォイド……アークス研究部の特務機関。科学の進歩に多大な貢献を果たしている一方で、

研究に際しては苛烈な人体実験も厭わない非人道的な組織だ。フォトンの才を持つ子供を

勝手にキャスト化したり、能力の低いアークスに負担を度外視した肉体改造を施したり……

その非道ぶりは枚挙に暇が無い。

 

 

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そしてヴォイドの総長「ルーサー」。

40年前、ダークファルス「巨躯」との戦いで壊滅したアークスを立て直した文字通りの超人だ。

現人類の始祖とされる種族「フォトナー」……ルーサーはその末裔らしい。

 

しかし、超人と言っても彼はいわゆる「正義のヒーロー」ではない。

組織としてアークスを立て直した見返りとして、全アークスシップの管制をアークスから

自分へ譲渡させたのだ。

 

現状、アークスはヴォイドの傀儡……操り人形だ。ルーサーへ譲渡されたアークスシップの

管制権にはシップ内の生命維持装置も含まれている。

つまり、全アークス隊員の命はシップの管制を握るルーサーの手中にあると言っても

過言ではないのだ。

 

アークス本部が市民襲撃作戦を黙認しひた隠しにしようとしているのも、

襲撃の首謀者がヴォイド所属の人物なら……納得はしたくないが理解はできる。

ヴォイドの総長が、すべてのアークスの生命を自由にできる立場に立っているのだから。

……ヒルダが言っていた「相手が悪すぎる」ってそういうことか。

 

________________________________________

 

子供達を誘拐した実行犯がヴォイド所属のアークスということなら、

このまま放っておけば十中八九彼らは人体実験に使われてしまうだろう。

1人のアークスとして正面からヴォイドに楯突くことはほぼ不可能だが、

「レイブン」の力を駆使して……身分を隠して、子供達を奪還できないものか。

 

キリクが睨みをきかせながら顔を近づけてくる。

 

 

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「データベースと照合できンな……誰なんダお前」

「アークスかドウカはおろか、種族すラわカらん……なルホど、身分を隠シて

俺たちニ楯突こウというわケか」

 

踵を返すキリク。何でもいい。少しでも誘拐された子供達の情報を引き出したい。

 

「なぜ市民を襲う。お前ら、優秀な子供ばかり狙って誘拐してるだろう」

 

キリクの装飾パーツがわずかに揺れる。

 

「よク調べてイルな、ヒーロー気取り」

「なぜ、カ……上の人間ガ言うニは、『人類の進化と安寧の為』だそウダ」

 

映画の巨悪が良く口にするような、いかにもなセリフだ。

「進化と安寧」とやらが何かはわからないが、やはり研究用のモルモットとして

子供達をさらっているのだろうか。何故「優秀」な「子供」を?

 

キリクはそのまま振り向かず、戦闘員が乗ってきた装甲車に乗り込み、去っていった。

数秒間おれは立ち尽くしていたが、夜明けの光が目に射し込み、我に返った。

レイブンの姿を衆目に晒すわけにはいかない。

 

バックルのボタンを押すと、全身のアーマーはもやと共に消えてしまった。

腰にベルトとバックルだけが残っている。

「レイブン」を託してくれた青年は無事だろうか。化物から身を隠した物陰に戻り、

周辺を一通り確認したが、姿は見つからなかった。

逃げ延びたか、あるいは……。悶々としながら、おれは駐車場に停めていたレンタカーに戻った。

 

_______________________________________

 

レンタカーを返却し、所属シップのマイルームへ帰る道すがら、

おれは疲労した脳に鞭打って現状を整理した。

 

頻発していた市民襲撃は、アークス研究部特務機関 ヴォイドによるもの。

アークス本部はこれを認可している。

襲撃では優秀な子供を狙って誘拐。

その目的は「人類の進化と安寧」だという。

 

キリクと名乗るヴォイド所属のキャスト。

おそらく奴が現場の指揮を担っているのだろう。

「邪魔すれば排除する」などと言っていたが……ここで引き下がる気にもなれない。

今も何をされているかわからない子供たちを案じ、おれは拳を強く握りしめた。

 

 

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仮面ライダーレイブン 第2夜 第3幕

 

市街地からマイルームに戻ったのは朝の8時過ぎだった。

窓から差し込む人工太陽の光が眩しい。清々しいという形容詞がしっくりくるいい朝だが、

おれは部屋に入るや否やベッドに倒れこんだ。頭も身体も疲労困憊だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

深夜の張り込みを決行した結果、市民襲撃の現場を目撃した。

謎の青年に戦闘スーツ「レイブン」を託されて化物と戦うことになり、

さらには襲撃事件の主犯格とみられる男とも接触した。

一晩の出来事としては内容が濃すぎる。頭の中で昨夜の出来事を整理しようとしたが、

おれは数秒で気絶するように眠ってしまった。

 

3時間ほど経ったところで、携帯通信端末の通話呼び出し音が鳴り響いた。

熟睡していた所を邪魔され腹が立ったが、端末の時計を見ると時間は昼前。

今も誘拐された子供たちは何をされているかわからないし、あまりゆっくりもしていられない。

呼び出しは同期アークスのアフィンからだった。

 

「相棒、お疲れ。デイリーミッション一緒に受けないか」

「デイリーミッション?……あぁ」

 

「……相棒、元気ないな」

「あぁいや、昨日眠れなくてな」

 

この状況でいつも通りにアークスとしての仕事をこなす気には正直なれないが……

そういえば昨日はアークスとして何の任務も受けていなかった。

 

アークスにおいて基本的に任務の受諾は隊員の裁量に委ねられている。

歩合制ってやつだ。通常、数日任務に出なくても大きな問題はない。

だが今は、先日の市街地警備任務でおれが遺留品に記録された市民襲撃の音声を聞いたことを

アークス本部に察知され、事件への関与を禁じられた上に緘口令まで敷かれている状態だ。

 

市民襲撃の件を嗅ぎまわっていると知られれば懲戒処分だ。

適度にアークスとしての活動にも勤しんでおかないと本部に怪しまれて面倒なことになるだろう。

丁度いいタイミングだ。おれはアフィンの誘いに乗り、

1時間後にゲートエリアのクエストカウンターで待ち合わせることにした。

 

___________________________________________

 

おれの意思に反して活動の開始を拒む脳。

疲労は抜けきっていないが、そろそろシャキっとしなければ。

熱いシャワーで無理やり脳にエンジンをかけながら、おれは現在の状況を整理した。

 

……頻発していた襲撃はアークス研究部 ヴォイドによるものだった。

パティとティアに聞いた話によると、被害者は優秀な子供を持つ家族ばかり。

どの襲撃でも大人は殺害、子供は行方不明……おそらく誘拐されている。

市街地で遭遇した襲撃の指揮者と見られる男「キリク」。

奴が言うには、アークス本部はヴォイドによる市民襲撃を任務として認可している。

本部は表向き、襲撃はダーカーの仕業として事実を隠蔽していたが。

襲撃の目的は「人類の進化と安寧」とか言っていたが、その真意はよくわからない。

 

……ヴォイドは苛烈な人体実験も厭わない研究機関だ。

現状を放っておけば、彼らに誘拐された子供たちはとんでもない目に遭わされるだろう。

 

アークス本部がヴォイドによる市民襲撃を任務として認めている以上、

1アークスとしてのおれには何もできない。

……だが、おれには昨夜謎の青年から託された戦闘スーツ「レイブン」がある。

このスーツを纏えば、正体を隠してこの非道な行いを止めるために動くことが可能だ。

 

殺されてしまった市民はもう戻らないが、子供たちは……

わざわざ襲撃して誘拐しているのだから、恐らく殺されてはいない。まだ生きている筈。

今動けば、間に合うかもしれない。彼らを救い出せる可能性はある。

……首謀者にはこれ以上襲撃を繰り返す気が起きないようにさせてやろう。

 

義憤というものは目覚まし代わりになるらしい。いい具合に頭が回り始めた。

 

____________________________________________

 

シャワーの栓を締め、おれはバスルームを後にした。これからやるべきことは2つある。

まず1つ目は、誘拐された子供たちの行方について、手掛かりを掴むことだ。

襲撃の指揮者……キリクは「クローム・ドラゴンに酷似した頭部をもつ化物」

を、テレパイプガンとかいう道具で回収していた。奴の話では、あの化物は

「調整中の生体兵器」らしい。

 

となれば、襲撃の首謀者はヴォイドの中でもクローム・ドラゴン関連の研究者だろう。

さらわれた子供たちはその研究者が所属する研究所に、監禁されているのではないだろうか。

幸いなことに、クローム・ドラゴン関連の情報についてはアテがある。

アフィンとのミッション終了後にでも話を聞きに行こう。

 

そしてもう1つ、今後に備えて「レイブン」の性能を把握しておく必要がある。

昨夜の化物との戦闘は何とか切り抜けられたが、危ない場面もあった。

……不意の大ジャンプとか。あれはちょっと怖かった。

ヴォイドから子供たちを救い出す為にも、このスーツで何ができるのか、

留意すべき弱点は無いのか。しっかりと確認しておかなくては。

 

アフィンとの待ち合わせにはまだ少し時間がある。おれは栄養補給ゼリーのパックを

くわえながらマイルームをロックし、謎の青年から受け取ったバックルを取り出した。

「レイブン」を実際に装着して性能をチェックするのが一番手っ取り早いだろう。

バックルのボタンを押すと青黒いもやと共にアーマーが装着され、眼前にモニターが表示された。

 

________________________________________

 

マニュアルを確認したり、実際に機能を発動して試してみたり……30分ほどで

性能の全貌はつかめた。先の戦闘でも実感したが、レイブンは装着することで

おれから発せられる生体反応とフォトン反応を完全に隠蔽する。レーダーには映らないし……

自動ドアも開かなくなるようだ。

この特性によって正体を隠して戦える上に、気配を遮断して敵を欺くこともできるわけだ。

 

レイブンには消音装置も搭載されているようで、装着中はどんなに激しく動こうと

わずかな物音も生じなくなる。気配遮断と消音。目視さえされなければ、

敵に感知されることはほぼないと言えるだろう。すさまじいステルス性能は

心強い武器になりそうだ。

 

一方この特性にはデメリットもある。フォトン反応の隠蔽は、フォトンを体内に閉じ込め、

一時的に体外への放出・出力を不可能にすることで行われるらしい。

つまり、装着中はフォトンウェポンを使えないということになる。

 

代わりに、このスーツが収納されているバックル「レイブンドライバー」には

フォトンを使用しない専用武器が格納されているようだ。

 

 

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一つ目の武器は昨夜の戦闘でも使用した刀。「レイブンヤイバー」というらしい。

刀身にフォトンを使わない代わりに高周波振動で切断力を高めている。

昨夜の戦闘では軽く斬り付けただけで化物の装甲を抉り、出血させていた。

武器としての威力は十分だろう。

 

 

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二つ目の武器は拳銃。その名も「クロウバレット」。

圧縮ガスを爆発させて弾丸を発射し、弾丸は着弾後数秒で霧散するらしい。

弾丸は攻撃用の弾が20発に閃光弾が5発。予備はなし。

ワイヤー付きの電撃端子を発射する機能もあるようだ。弾数に限りがあるため

戦闘用の武器として過信はできないが 補助的に使うには十分だろう。

 

 

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そして投擲武器「フェザーダート」。翼のような形状のデバイスに

投げナイフが4本収納されている。投げたナイフは自動で手元に戻る優れもので、

通信を妨害する電波を発する機能も搭載されているようだ。

うまく使えば敵に増援を呼ばれて追い詰められるという最悪の事態を防げるだろう。

 

これらの武器に加えて、装着中は身体能力が飛躍的に強化される。

ステルス性能、癖はあるが強力な武装、そして身体能力強化。レイブンを纏うことで

対人戦闘では大きなアドバンテージを得られそうだ。

一方でフォトンウェポンは使えず、ダーカーとの戦闘に関してはかなり分が悪い。

この点は弱点として頭に入れておこう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

スーツに内蔵されたマニュアル内に、特殊機能「緊急脱出」モードも見つけた。

使用すると、事前に設定した地点へ自身を強制転送できるようだ。スーツの損傷度が

一定以上になった場合は自動で発動するらしい。

この機能の世話にはなりたくないところだが、念のため転送先として現在地、

つまりマイルームを座標登録しておいた。

 

_______________________________________

 

気付けばアフィンとの待ち合わせ時間が10分前に迫っていた。

レイブンドライバーを鍵付きの金庫に隠し、ばたばたとゲートエリアへ移動。

アフィンとのミッションが終わったら次は子供たちの行方の手掛かり探しだ。

昨日の化物……「クローム・ドラゴンの頭を持つ生体兵器」について、知り合いの科学者に

話を聞きに行こう。

 



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仮面ライダーレイブン 第2夜 第4幕

アフィンとのミッションはつつがなく終了した。お互い緘口令を意識するとどうにも

気まずくなってしまうため、ミッション終了後はすぐに解散。武装強化へ向かうアフィンの姿が

見えなくなったことを確認し、おれは「クローム・ドラゴン関連の情報のツテ」である

知り合いの科学者「アキ」に電話をかけた。

 

「はい、はい!レツさんですね!こちらアキさんの携帯です」

 

電話に出たのはアキの助手、ライトだった。忙しげな声。

低く唸るような検査機の稼働音も聞こえてくる。

 

「久しぶり、ライト君。いきなりごめん。実はアキさんと会って話がしたいんだ。

クローム・ドラゴンについて妙な噂を聞いて……20分ほどでいいからアポを取れないか」

 

「ちょっと確認してきますが、あまり期待しないでください」

 

「忙しそうだな、すまない」

 

アキは主に龍族を研究している科学者だ。かつてはヴォイドに所属し、

クローム・ドラゴンの研究にも携わっていた。クローム・ドラゴンの頭を持つ生体兵器に

ついても、何か知っているかもしれない。子供たちの居場所に繋がる情報を得られると

良いのだが。

 

数十秒ほど保留音のメロディが流れたところで、再び電話がつながった。

 

「もしもし?」アキの声だ。

 

「アキさん、お久しぶりで……」

 

「やあ。10分後、ショップエリアでいいね?」

 

「え!あ、はい!ありがとうございま……」

 

「よし、では後でね」

 

通話終了。無駄話を嫌う人ではあるが、今日は特に忙しいのだろう。

 

_________________________________________

 

無理に時間を割いてもらったようだし、遅刻はできない。おれはそそくさとショップエリアへ

向かった。モニターでは夕方のニュースが流れている。昨夜の市街地での戦闘が大事に

なっていないか少しハラハラしたが、そのような気配はないようだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

モニターの方向を眺めていると、歩いてくるアキの姿が目に入った。

電話をしてから5分も経っていない。早めに来ておいてよかった。

 

「お久しぶりです、アキさん。忙しいのにありがとうございます」

「いや、構わない。君から造龍の話とあってはね……で、妙な噂というのは?」

 

挨拶もそこそこにといった所だが、話が早いのは助かる。

クローム・ドラゴンの頭を持つ生体兵器について、おれはあくまで「目撃の噂を聞いた」

という体で話した。アークス本部にマークされた状態で、この目で見たというわけにはいかない。

 

「造龍の頭、全身に羽毛と装甲……ああ、心当たりはあるよ」

「!……本当ですか」

 

思わず身を乗り出してしまった。

あの化物を生み出した研究者の情報も聞き出せれば、誘拐された子供たちの

居場所の大きな手掛かりとなる。おれは不自然でない程度に質問してみることにした。

 

「噂の化物、実在するんですね。いや、今後討伐任務が下されたときに備え、情報収集をと……」

 

「そういうことか。だが討伐任務は無いと思うがね」

「おそらくそれは『造龍兵』。ヴォイド開発の生体兵器だね」

 

ヴォイド開発の生体兵器。昨夜、キリクと名乗るキャストも同じことを言っていた。ビンゴだ。

 

「兵器……ですか。それは一体どういった……」

おれはなるべく意外な様子を見せて相槌を打った。我ながら白々しい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

アキは造龍兵について説明してくれた。「造龍兵計画」…あの化物は兵として効率的に

運用するため人間サイズに成長するよう遺伝子操作されたクローム・ドラゴンだという。

攻撃力を高めるため、獰猛な原生生物の遺伝子も組み込んであるらしい。

 

「全く悪趣味な研究さ」とアキ。同感だ。

 

「ただ、あの研究は凍結されていた筈だ。しかし、造龍兵を目撃した噂が流れているのか……」

 

「計画再始動、ですかね」

 

うなずくアキ。造龍兵は高い攻撃力を持っていたが

兵としての制御に難儀したという。

 

「恐らく再開した実地テストの様子を目撃したアークスがいて、それが噂になったのだろう」

 

もちろん実際には噂など流れていない。

情報を聞き出すため嘘を言うのはモヤモヤするが、四の五の言ってもいられない。

造龍兵計画とやらを再始動した研究者の情報を聞き出さなくては。

 

数秒黙考していたアキがやや苛立った表情で口を開いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「研究再開ということは……よくない状況だな」

「造龍兵は制御が難しかった。私も……ヴォイド勤務の頃稼働実験を見たが、

動きは単純でナベリウスの原生生物と変わらないレベルだったよ。」

 

「それじゃ兵として使うのはちょっと無理ですね」

 

「ああ。だから当時……兵隊としていかに動きを制御するかが課題になってね」

アキの表情が曇る。相当嫌な思い出だったらしい。

 

「効率的な統率を可能にする制御装置が作られたんだが……部品に人間の脳を使っていたんだ」

 

なかなかエグみの強い話になってきた。

部品にされた脳は長時間の運用に耐えられず焼き切れてしまったらしく、結局はそれをきっかけに

一旦研究は凍結となったそうだ。

 

「造龍兵計画の再開。あの制御装置に取り付けるために、また誰かが脳を取られる

ことになりかねないな」

吐き捨てるように言うアキ。

 

頭をよぎった嫌な予感。おれは言葉に詰まってしまった。

相次ぐ市民襲撃の犯人は「優秀な子供」を誘拐している。

そこに「造龍兵計画」と「人間の脳を組み込んだ制御装置」。

襲撃の首謀者は造龍兵計画の再始動を進める研究者で……

脳を取り出して制御装置の部品にするために子供を誘拐している、ということではないだろうか。

 

「人間の脳を……誰なんです、そんな制御装置を創り出した研究者は」

 

「無論、ヴォイド所属の……む、タイミングがいいな。彼だよ」

 

アキはニュースの流れるモニターを指さした。

 

________________________________________

 

モニターで流れているのは最近話題の「ハーフキャスト化技術」特集。

心肺のみ機械化することで、脳機能を活性化させる技術だ。主任研究者の男性が

インタビューに答えている。

 

苦虫を噛み潰したような表情のアキ。

「彼はファウ・タオーノス。あのインタビューでは一般のキャスト技術研究者と

されているが、ヴォイド所属の上級研究員だよ」

「私とは担当分野が違うから、面識はないが……造龍兵計画にご執心のようでね。

人間の脳を使った制御装置を開発したのも彼さ」

 

 

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ファウはリポーターの質問に対して笑顔で気さくに答えている。

 

「知の極致へ至りたい人に、大きなチャンスを与える技術です。

高いコストが問題となっていますが、将来的には……」

 

穏やかな話口だが、

その表情にはどこか余裕のない、無理やり微笑んでいるような、そんな危うさが感じられた。

顔が笑ってはいるだけに、何とも不気味だ。

 

アキと顔を見合わせ、おれは眉根を寄せた。

「ああは言ってますが……同時に人間を部品として扱っているかもしれないんですね」

 

昨夜の化物の正体は「造龍兵」。そして人間の脳を使った制御装置。それを創り出した

ヴォイドの上級研究員「ファウ・タオーノス」……彼はハーフキャスト化技術の主任研究者。

襲撃の首謀者はファウである可能性は高い。誘拐された子供は皆ハーフキャスト化手術の

予定があった。優秀な脳の持ち主として目星をつけ、襲撃を命じて誘拐した……ということか。

まだ推理の範疇を出ず、確かな証拠がある訳ではないのだが……

 

アキの表情は暗い。

「文句の一つも言ってやりたいよ。彼の居場所も連絡先もわからないから無理だけどね」

 

ファウの研究所の所在地まで聞き取ろうと思ったが、さすがに無理か。

あくまで一アークスのおれがヴォイドの研究者の所在を知ろうとするのも不自然だし、仕方ない。

 

「造龍兵のこと、教えて貰ってありがとうございました。討伐任務は無いですね」

 

「アークスの兵器だからね。また龍族関係で何かあれば、いつでも聞いておくれよ」

 

礼を言うと、アキは携帯端末で電話をかけながら小走りで去っていった。

作業の進捗についてライトをどやしているようだ。気の毒な助手君。

 

市民襲撃の目的はだいたいわかってきた。造龍兵の制御装置には人間の脳が必要。

造龍兵計画の再始動にあたって、脳を集めるために優秀な子供を持つ家族を狙って襲撃、

子供を誘拐したのだろう。どの襲撃でも両親は殺害されていたが……面倒事を無くすために

消した、といったところか。

 

___________________________________________

 

このままでは子供たちは脳を取り出されてしまう。

しかし、首謀者と考えられる「ファウ」の情報が足りない。元ヴォイド所属のアキでさえ、

研究所の所在地はおろか連絡先もわからないのだ。レイブンドライバーがあっても殴り込む先が

分からなければどうしようもない。焦燥感と絶望感に鼓動が早まる。

 

気持ちを落ち着けるためにカフェへ向かおうとしたところで、携帯端末の呼び出し音が鳴った。

「情報通」姉妹のティア(妹の方だ)からの電話。おれは深呼吸し、平静を装って電話に出た。

 

「もしもし、どうかしたか」

 

「お疲れ様。えーと、そう。ナウラの新作スイーツを買い過ぎてね。少しもらってくれないかな」

 

お菓子のおすそ分けにしてはシリアスな声色に感じる。

 

「丁度甘いものが食べたかったんだ。今なら、ショップエリアにいるけどどうする」

 

「よかった、すぐにいくね。ついでに少しおしゃべりする時間、あるかな?」

 

何か話があるのかもしれない。

襲撃の件についてだろうか。どちらにせよ、カフェは後だ。

 

__________________________________________

 

ショップエリアで待つこと数分。後ろから右肩を叩かれた。

パティが指で頬を突こうとしていると予想したおれは、左回りにぐるりと振り向いた。

目の前には指を突き出したパティと呆れ顔のティア。

 

 

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「お疲れ。お菓子を買い過ぎたって?」

 

「そうなの。はいこれ、ナウラの新作クッキースティックシュー」

 

ティアが手にした箱から棒状のシュークリームを取り出し、手渡してくれた。

 

「生地がサクサクで美味しいよー!……10本は多かったけど」とパティ。

「1本食べて美味しかったからってパティちゃんが調子に乗って

箱入りセット買ったら、賞味期限今日までで……」

「ティアだって止めなかったじゃん!あたし5本は食べたし!」

 

「なはは、ありがとう。いただくよ」

 

漫才じみたやり取りに、少し気持ちが和らいだ。

シュークリームを齧ると心地よい歯ごたえの生地からクリームがあふれ出てくる。確かに美味い。

 

「で、おしゃべりしたいんだったっけ」

 

パティとティアの表情が揃って少し強張る。

 

「昨日話した市民襲撃のことで、知り合いから情報が入ってね」

「ニュースになってないけど、昨日アークスシップ17番艦のタイレル大学寮が

ダーカーに襲撃されたみたい」

 

昨夜の戦闘を誰かが目撃していたのだろうか。頬張ったシュークリームの味がなくなった。

とりあえず初耳、という体で話を聞くことにしよう。

 

「また襲撃があったのか。今回も子供が行方不明に?」

 

「今回、被害に遭った人はいないみたい」

「でもね、人型の化物と装甲服を着た人が戦ってるところを目撃した、

なんて話も出ててね、ちょっとした噂になってるんだよ」

 

やや興奮した様子のパティ。化物と戦う装甲服……多分、昨夜のおれだ。

 

「噂が気になって、17番艦の警備に志願して調査しようと思ったんだけど」

「17番艦だけ募集がないの!今日から向こう1週間ずっと!」

 

襲撃や人型の化物……そんな噂が流れている艦だけピンポイントで警備の募集を無くしたのは、

アークス本部が隠したい何かが17番艦にあるからだと考えているらしい。

 

「襲撃の件で、17番艦?に何かあるかもしれないのか」

 

おれは腕を組んで頷いた。我ながら白々しい。今日はこんなことばかりだ。

 

「その可能性は高いと思う。でもこの件は……深入りすると危ないかも」

「そうそう、今日はそれを伝えたかったんだ。シュークリーム買い過ぎたのもあるんだけどさ」

 

「ダーカーの襲撃があったのに報道は無し。警備任務の募集も停止して……

一般のアークスを遠ざけようとしてるよね、明らかに」

「最近続いてた襲撃にはアークス本部も一枚噛んでて、本部はそれを隠そうとしてるのかも」

 

アークス本部は秘匿情報に触れたものに容赦がない。パティとティアはこれ以上の

調査はやめておくらしい。

 

「きみも気を付けてね。命あっての、ええと何だっけ」

「物種でしょ。でも、気を付けてほしいのはその通り」

 

流石の推理力。引き際の判断も手馴れている。伊達に情報通を名乗ってはいない。

 

「わかった、そうだな。市民襲撃は不気味だが……関わらないほうがいいのかもしれない」

おれは貰ったシュークリームを平らげ、礼を言って二人と別れた。

 

___________________________________________

 

パティとティアに対してはああ言ったものの、誘拐された子供たちが

脳を抜かれようとしている可能性が高いのだ。引き下がる気にはなれない。

さらに有力な情報も手に入った。向こう1週間、17番艦は警備任務の募集がないらしい。

 

17番艦には昨夜化物と戦ったタイレル大学寮があり、そこにはハーフキャスト化手術を

受ける予定の少年……ニュースでインタビューに答えていた「天才少年」が入寮している。

昨夜捕らえ損ねた彼を誘拐するために、キリクの部隊が再び現れるかもしれない。

そしてキリク達に襲撃を命じているのが……おそらく「ファウ」だ。

 

昨夜に続き、またタイレル大学寮で張り込みだ。

もし、キリクの部隊が襲撃に現れたら……レイブンを装着して奇襲・撃破し、

子供たちの居場所を吐かせる。そしてキリクはテレパイプガン……撃った対象を指定した地点に

転送できる道具を持っていた。奪うことができれば、ファウに監禁されているであろう

子供たちを安全に逃がせる。

 

昨夜戦った化物……造龍兵の動きは直線的で、原生生物と変わらないレベルだった。

恐らく制御装置はまだ完成しておらず、子供たちはまだ無事だろう。ただ、一刻の猶予もない。

おれはマイルームに戻ってレイブンドライバーを取り出し、再びアークスシップ17番艦市街地へ

向かった。

 

_________________________________________________________________________

 

仮面ライダーレイブン 第2夜 終わり。第3夜へ続く。

 



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第3夜
仮面ライダーレイブン 第3夜 第1幕


パティ達と別れて数時間後の19時過ぎ。

おれはアークスシップ17番艦のタイレル大学寮付近まで、レンタカーでやって来た。

見覚えのある郊外の住宅地。周囲を見回すと、寮の方向へ歩いていく若者がちらほら。

大学から帰宅する学生達だろう。

続いて目に入ったのは、仰々しい装甲服を装備した戦闘員達だった。

 

 

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驚いたおれは思わず二度見した。フルフェイスタイプのヘルメットを

装着しているため昨日と同一人物かまではわからないが、

纏っているのは昨夜この場所に現れた戦闘員たちが装備していた装甲服だ。

警備をするような様子で巡回しながら、学生とすれ違うと会釈までしている。

後方には赤い体色のキャストが指揮を執っている姿も見えた。

……間違いない。キリクだ。

 

件の天才少年の誘拐を阻止しつつ、キリク達に首謀者の居場所を吐かせようと

ここまで来たわけだが……

奴らがこうも早く現れるとは。張り込みの手間が省けたのはありがたいが、

状況が掴めない。少し情報収集が必要だ。

 

寮に住んでいる学生たちはこの状況について何か知っているかもしれない。

彼らに話を聞いてみるとするか。

おれは念のため、一般市民らしい服に着替えてから車を出た。

キリク達に素顔を見られているわけではないが、アークス然とした格好をした男が

うろついていたら怪しまれそうだ。

 

 

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おれは道を尋ねる体で、近くを歩いていた青年に声をかけた。

 

「すみません、タイレル大学寮はこっちの道で合ってますか?

友人の忘れ物を届けなくちゃで……」

 

「ええ、このまままっすぐ行けばすぐですよ」

 

……青年はあまり警戒せずに受け答えしてくれた。少し話ができそうだ。

 

「よかった、ありがとうございます。ところで……すごい装備の警備員さんですね」

 

「きのうダーカーの襲撃騒ぎがあったんですよ。

アークスの特殊部隊が暫く夜通し警備するらしいです」

 

「ダーカーが……それじゃ今日は不安ですよね」

 

「そうなんです。怖いからしばらく実家で寝泊まりしようと思ったんですけどね、

寮生は外泊禁止と言われまして」

 

キリクの部隊は警備の名目で寮の周辺を巡回しているらしい。

加えて寮生は外泊を禁じられている。……不自然だ。

彼らが寝静まったころに寮内へ侵入し、昨夜誘拐し損ねた少年を

確実に連れ去るつもりだろうか。

 

見る限り、戦闘員の数は全部で4人。拠点としている装甲車は小型で、控えの人員は

いないようだ。レイブンを装着して奇襲すれば撃破できる規模の部隊だろう。

ただ、今はまだ人目がありすぎる。事を始めるにはまだ早い。

おれはこの後の戦闘に備え、隠れやすい場所をチェックしながらレンタカーで

周辺を見て回ることにした。自然公園の藪や立体駐車場など、

隠れられる場所はそこそこあるようだ。

 

___________________________________

 

 

【挿絵表示】

 

 

隠れ場所に目星をつけつつ、戦闘の下準備を進める。

おれはレイブンドライバーから「フェザーダート」を取り出して、

街路樹の幹や路地裏など目立たない場所に2本ほど刺しておいた。

フェザーダートは通信妨害機能を持つ投げナイフ。起動させればキリク達の通信を

妨害して連携を乱し、増援を呼ばれることも防げるはずだ。

 

22時を過ぎると寮周辺はすっかり静かになった。

キリクは装甲車で待機しているのか姿が見えないが、戦闘員達は巡回を続けている。

誘拐へ向けた作戦行動が始まれば、戦闘員が固まって動いて奇襲をかけづらくなる。

人の気配が無い上に戦闘員が単独で行動している今の内に、動き出した方が良いの

かもしれない。

 

おれは隠れ場所としてチェックしていた、立体駐車場へ向かった。

地下にも駐車スペースがある5階建ての駐車場……行動開始ポイントにもってこいだ。

戦闘員たちの目に触れない地下の駐車スペースでレイブンを装着してから、

上階へ移動して奇襲の隙を窺うとするか。

 

地下の駐車スペースへレンタカーで入場すると、車はほとんど止まっておらず

場内は静まり返っていた。

レイブンドライバーを取り出して腰に当てると、鼓動が徐々に早まってくる。

……行動を開始すれば、本格的にヴォイドに盾突くことになる。もう後には戻れない。

だが、放っておけば誘拐された子供たちが脳を取り出されてしまうかもしれないのだ。

覚悟を決めて動き出さなければ。

 

______________________________________

 

気持ちを落ち着かせようと深く息を吸ったところで、

カツン、カツン、という硬く無機質な音が場内に響き始めた。

 

装甲服を思わせる金属質な音。これはおそらく足音だ。

戦闘員が一人、こちらへ向かってきているのかもしれない。

勘付かれたか?同じ車が寮周辺をうろついていたのが怪しかったか。

……迷っている場合ではない。おれはレイブンドライバーの装着ボタンを押した。

 

[Cover up… Raven…Complete]

 

くぐもった電子音声と共に青黒いもやが立ち込め、

おれの全身にレイブンスーツが装着された。マスクの望遠機能を作動させ、

車の窓から外を確認すると、ライフルを構えてこちらへ歩いてくる戦闘員の姿が見える。

やはり怪しまれていたようだ。この閉鎖空間で増援を呼ばれるのはまずい。

 

[Jamming system start up…active]

 

おれはフェザーダートの制御デバイスを取り出してトリガーを引き、通信妨害機能を

作動させた。これで敵は、無線で連絡を取りあえなくなるはず。

 

 

【挿絵表示】

 

 

どうやら事前に仕掛けたフェザーダートのナイフはしっかり機能しているようだ。

戦闘員は通信機能の異常に気付いたらしく、戸惑った様子で手元の通信端末を

確認している。戻って増援を呼ばれても厄介だ。このまま何もさせずに倒してしまおう。

おれは続いて「クロウバレット」を取り出し、攻撃用の弾丸を装填した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

次は敵の視覚を奪う。視覚を奪うには……光を奪えばいい。

おれは車外へ出て、間髪を入れずに照明を次々に撃って破壊していった。

たちまち場内は闇に包まれたが、レイブンには暗視機能が搭載されている。

面食らっている戦闘員の姿も丸見えだ。

敵もヘルメットの暗視機能をオンにしたようだがもう遅い。

「レイブンヤイバー」を抜いたおれは一気に跳躍し、敵を正面から斬り付けてやった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「グァッ!」

 

斬撃は胴体に命中した。戦闘員は短い叫び声をあげ、その場に崩れ落ちる。

直後、倒れた戦闘員の装甲服から煙が噴出した。レイブンのアーマーには水滴が

付着している。高温の蒸気だったようだ。拘束用のスタンモードで

斬り付けたことで強烈な電流が流れ、装甲服の冷却機能が誤作動したのだろうか。

 

「よし、まず1人」

 

倒れた戦闘員を地下駐車スペースの隅まで引きずり、万一回復しても

すぐには動けないよう手錠とワイヤーで手足を拘束しておいた。

(戦闘員の持ち物を拝借させてもらった。)

 

残る敵は戦闘員3人とキリクだ。うかうかしていると敵が固まって

動き出すかもしれない。襲撃の首謀者の居場所を尋問するのは、

敵全員を無力化させてからの方が良いだろう。

 

 

【挿絵表示】

 



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仮面ライダーレイブン 第3夜 第2幕

 

残りの戦闘員は3人。状況を確認するために屋上へ移動して周囲を見回すと、

戦闘員が1人、この立体駐車場の方向へ向かっている姿が見えた。

「フェザーダート」による通信妨害は依然機能しているようで、

通信端末をしきりに確認している。おれに気付いている様子はない。

単なる巡回でこちらに歩いてきているのだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

近付いてくる戦闘員に視線を合わせると、マスクのモニターに戦闘員の

バイタル情報が表示された。防御力の低い箇所にはマーキングまでされている。

……どうやら頭部に打撃による衝撃を与えるのが最も有効らしい。

正面切っての戦闘で頭部に打撃を当てるのは至難の業だが、今は敵に気付かれていない。

奇襲……ここから飛び降りて跳び蹴りを命中させれば一撃で倒せるかもしれない。

 

おれは周辺をもう一度見回し、他の敵の動きを確認した。

キリクは装甲車で機材を確認しているようだ。残りの戦闘員は大学寮付近を巡回中。

どの敵も距離が離れているうえに通信も妨害しているため、このまま奇襲をかけても

恐らく気づかれないだろう。

 

おれは戦闘員が駐車場の入り口前まで来たところで、屋上から飛び降りた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

無音。急降下で風を切る音さえも、レイブンは消してしまうらしい。

敵の頭部めがけて思い切り足を突き出すと、強い衝撃が足に伝わってきた。

戦闘員は数メートル吹き飛び、うつぶせに倒れた。動き出す気配はない。

装甲服からは先程と同様に蒸気が噴出している。

 

__________________________________

 

[Caution! jamming system battery low]

 

倒した戦闘員を駐車場の地下まで引きずり、拘束したところで

マスクのモニターに警告メッセージが表示された。フェザーダートのエネルギーが

あと30秒で切れ、手元に戻ってくるらしい。通信妨害が中断してしまうのはまずい。

敵の通信が復活すれば増援を呼ばれる可能性がある。多数の敵に囲まれたら終わりだ。

 

フェザーダートのナイフは手元にあと2本あるが、現在地は駐車場の地下。

ナイフを設置しても通信妨害がうまく機能しないかもしれない。

レイブンによって強化された脚力を活かし、階段を跳躍しながら駆け上がって

屋上に出たおれは、即座にナイフを設置して通信妨害機能を起動した。

すると同時に先程設置したナイフが手元に飛来。ナイフは手元の制御デバイスに

自動で収納された。

 

屋上から周囲を確認すると、こちらへ向かって走り出した戦闘員2人の姿が見えた。

通信妨害が数秒途切れ、その間におれが先程倒した戦闘員2人の現在地を

把握したのかもしれない。1分もすれば地下の駐車スペースにやってくるだろう。

……新たに設置したナイフによる通信妨害はしっかり作動している。

幸い、敵はまだおれの存在にも気づいていない様子だ。

 

倒した戦闘員との合流を許せば、ムーンアトマイザーで蘇生されてしまう。

そうなる前に倒してしまう必要があるが……彼らはヴォイド所属の戦闘部隊。

つまり相当腕の立つアークスのはずだ。2人を相手に正面からぶつかっても

勝てる保証はない。レイブンの隠密能力と武装を駆使し、敵を確実に撃破する

作戦を考えなくては。おれは思案を巡らせながら、再び地下へ向かった。

 

地下スペースは先程照明を破壊したため真っ暗な状態だが、戦闘員達は

恐らく暗視機能を作動させて侵入してくるだろう。闇に紛れて不意打ちを

仕掛けるのは難しそうだが……

 

「そうだ、閃光弾」

 

クロウバレットには閃光弾が5発付属している。暗視機能を作動させた状態で

閃光を放てば、敵の視覚に大きなダメージを与えられるだろう。視覚を奪った状態で

消音機能を活かせば、強烈な奇襲を仕掛けられるはずだ。

 

物陰で待機していると、2人の戦闘員の声が聞こえてきた。

 

「反応はここだったな」

「周囲警戒、何かいるはずだ」

 

アサルトライフルで武装しているようだ。下手に飛び出せば斉射を食らうだろう。

敵に攻撃を許さず、一撃で仕留めなければ。

おれは息を潜めつつ閃光弾を装填し、好機を待った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

_____________________________________

 

敵はライフルを構えて周囲を警戒しながら、こちらへ近づいてくる。

おれは戦闘員2人が同じ方向を向いた瞬間を狙い、物陰から閃光弾を発射した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

天井付近で炸裂した弾丸から数秒間強烈な光が迸っている。戦闘員2人は

視覚を失ったようだ。狙い通り、暗視装置が強い光で動作不良を起こしたのだろう。

 

すかさず物陰から飛び出し、背後からレイブンヤイバーで二人まとめて斬り付ける。

装甲服に青白い電流が流れると、やはり蒸気を吹き出しながら戦闘員は倒れ伏した。

 

これで戦闘員は全員撃破だ。

 

____________________________________

 

残る敵は、キリクのみ。この場所まで様子を見にくるかもしれないが、

ここで待ち構えるのは悪手だろう。戦いの中、隙を見て戦闘員の拘束を解かれたり、

ムーンアトマイザーで蘇生されたりでもしたら一巻の終わりだ。フクロにされてしまう。

同じ場所に留まるのは危険と考え、おれは駐車場の屋上から向かいの建物の屋上まで

一気に跳躍して移動した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

戦闘員が全員戦闘不能に陥っている今が、奴を撃破するチャンスだ。

周囲を見回し、キリクの姿を探したがそれらしい姿が見つからない。

 

 

[Warning! Enemy Attack]

 

 

寮付近に停められた装甲車に目を凝らしていると、突然マスクのモニターに

敵の攻撃を知らせるアラートが表示された。

 

「よク会うナ、哀レなヒーロー」

 

聞き覚えのあるガス漏れのようなしゃがれ声。おれは咄嗟に後方へ飛び退いた。

直後、上空から現れた赤いパーツのキャストがおれがいた場所に大剣を叩きつけていた。

……キリクだ。

床には大きな亀裂が入っている。間一髪。この場所をどうやって掴んだのだろうか?

 

「ダーカーの襲撃に備えて寮の警備か。白々しいな、誘拐犯」

 

平静を装い、おれは軽口でキリクを挑発した。

 

「次邪魔すレば排除すルと言っタヨな。さ、やロうか」

 

 

【挿絵表示】

 

 

キリクは動じず大剣を構えている。禍々しい棘を備えたそれは

獣のような唸り声を上げた。趣味の悪い武器だ。

 

レイブンを装着しているおれはレーダーに映っていない。

そして先程戦闘員を倒した駐車場からは移動している。

にもかかわらずキリクはおれの居場所を正確に把握し、奇襲してきた。

このからくりを看破しなければ、レイブンの隠密性能を活かしきれないだろう。

呼吸を整えつつ、おれはレイブンヤイバーを再び構えた。

 



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仮面ライダーレイブン 第3夜 第3幕

 

キリクは大剣を軽々と振り上げて斬りかかってきた。

スイングスピードは並のアークスのそれではない。半端に躱そうとしても当てられると

判断し、おれは刀を構えて初撃をしのいだ。剣はおれの首先で何とか止まり、

強い衝撃がアーマー越しに伝わってくる。パワーも精度も凄まじい。強敵だ。

 

続けざまに大剣が何度も振り下ろされる。刀を振るい、辛うじて

打ち合えているが、このままではジリ貧だ。

 

「戦い慣れテいル……お前アークスダな?」

 

容赦ない連撃を仕掛けながら、独特のしゃがれ声でキリクが問いかけてきた。

 

「オレたチはアークスとしテ任務を遂行しテいルに過ギん。

同じアークスが何故邪魔をすル?」

 

「その任務とやらに納得がいかないからだ。命令に疑問も抱かないのか?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

答えながら、おれはキリクの大剣に生えている棘に刀を引っ掛けて攻撃を打ち払い、

一旦距離を取った。……ヴォイドは市民を襲撃し、それを隠蔽している。

任務だろうと自分たちの行いが非人道的なものだとわかっているはずだ。

 

「昨日も言っタろ。コレは人類の進化と安寧ノための行動ダ……」

 

「子供達をさらった先に進化も安寧もあるものか。

……お前の上司、人間の脳を部品にした制御装置にご執心だそうだな」

 

「ホう?」

 

「ファウ・タオーノス……ハーフキャスト化技術の主任研究者だ。

優秀な……優れた脳を持った子供を大勢知っているだろうな」

 

キリクはやれやれと肩をすくめて見せるや否や、すさまじいスピードで突進してきた。

斬撃を何とか刀で受け止めると、大剣の棘がじりじりと眼前に迫ってくる。

 

「それデ?義憤に駆らレたカ?浅はかな奴ダな」

 

「何が浅はかだ!昨日の化物……あんなモノを制御するために

人の命が脅かされて良いわけないだろう!」

 

言い返しながら打開策を考える。

力では負けている……奇襲を仕掛けて短期決戦に持ち込まなければ

勝ち目はなさそうだ。意表を突くには視覚を奪うのが効果的か。

クロウバレットで閃光弾を放つべく、おれは片手を刀から離した。

 

「昨日の今日でソコまで調べたカ。優秀なアークスだ」

 

キリクはさらに剣を押し込んでくる。ねじ伏せるつもりだろうが、そうはさせない。

 

「それは光栄!」

 

取り出したクロウバレットをキリクの顔面へ向けたその刹那。

 

「ダが所詮はヒーロー気取りダ!」

 

銃を持った左手はキリクに蹴り上げられていた。

咄嗟に刀を横に構えた次の瞬間、両腕に強烈な衝撃が走ると同時に

今まで戦っていた建物の屋上が一気に遠ざかっていった。

 

___________________________________

 

一瞬思考が停止したがすぐに我に返り、状況を把握する。

大剣のフルスイングを正面から防御し、吹っ飛ばされたのだ。

落下する前に体勢を立て直すと、数秒後大きな水しぶきが上がった。

 

 

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どうやらおれは吹っ飛ばされた挙句、大学寮付近……自然公園の池に

落ちてしまったらしい。受け身は取れたものの、全身を鈍い痛みが駆け巡っている。

何とか池から這い出て立ち上がると、血と生肉が混ざったような強い臭いを感じた。

 

「鉄くさ……血か?」

「今のところ大して痛くないが、大ケガに気付いて昏倒するパターンか……?」

 

全身を触って確認したが、アーマーに大きな破損はなかった。

マスクのモニターにも特に異常は表示されず、徐々に痛みも引いてきた。

この鉄くささは出血によるものではないようだ。

 

ふと池に目をやると、自分が落下したあたりの水が石鹸水のように虹色に光っていた。

よく見ると、水には油のようなものが浮かんでいる。すくって嗅いでみると、

先程感じた血のような強烈なにおいがした。鉄くささのもとはこの油のようだ。

 

「何だ、これ……」

 

油はおれが落ちた場所以外には浮いていない。体を手で拭って嗅いでみると、

やはり血のような強いにおい。水に浮いている油は、恐らく池に落下した時に

レイブンのアーマーから落ちたものだろう。

しかし、アーマーに元からこんな油がついていたとは考えにくい。

 

今までの行動を振り返ると、思い当たる点が1つ。

戦闘員の装甲服から噴出していた蒸気だ。彼らを倒すたびに浴びてしまっていたが、

この油はその際に付着したのかもしれない。においに気付かなかったのは

緊張状態のせいか……あるいは時間経過でにおいを発する物質という可能性もある。

 

キリクはこのにおいを何らかの手段で正確に感知し、おれの位置を把握して

強襲してきたのではないか。戦闘員達に油が噴き出す装置を装備させておき、

戦闘員が倒された場合は自らにおいを辿って敵対者を始末にかかる手筈。

……隠密性の高い敵を、マーキングしてから叩く周到な手段だ。襲撃を阻止しに

おれが現れることを、キリクは予測していたのかもしれない。

 

キリクは間もなく追撃に現れるだろう。このままでは危険だが、この状況は

チャンスでもある。においさえ無ければ、敵は視覚以外でおれを感知する手段を失うのだ。油を洗い落とせば、においを辿ってきたキリクをこの場所まで引き付けて奇襲できる

かもしれない。池の水に潜り、全身をこすると多量の油が浮きだした。

 

全身を洗い終えて周囲を確認すると、丁度いい高さの建物が公園に隣接していた。

急いで屋上まで跳び上がり、閃光弾を再装填したクロウバレットを構える。

キリクは池に残った油のにおいを辿って、おれが落ちた池までやってくるはずだ。

 

十数秒後、予想通り池の前にキリクが現れた。手にした大剣を様々な方向へ向けて

確認するような素振りを見せている。剣でにおいを感知しているのだろうか。

……そういえばあの剣は獣のような唸り声をあげていた。

仔細はわからないが、敵はおれを見失っているのは確かだ。

 

___________________________________

 

 

【挿絵表示】

 

 

おれは跳躍しながら閃光弾を発射し、炸裂と同時に体を回転させて斬りかかった。

 

「ッ!シャラくさイ!」

 

手に伝わったのは鈍い衝撃……斬撃は防がれた。

キャストのくせにどういう勘をしているんだ、コイツ。

だが閃光弾は効いたようだ。キリクは大剣で反撃してきたものの大きく空振りした。

おれが見えていない。

 

「お前の策は見切った。ふんじばって尋問させてもらう!」

 

空振りの隙を突き、おれはキリクの右腕を斬り飛ばした。大剣を握った前腕部が吹き飛ぶ。

 

「……ウォラアァッ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

キリクは全くひるまずアイカメラを換装し、飛び回し蹴りを放ってきた。

凄まじい速度のカウンターキックで、レイブンヤイバーは弾き飛ばされてしまった。

さらに跳び蹴りで弾丸のように突っ込んでくるキリク。

 

「良いゼ!その浅はカな正義!力ずくデ押し通シてみろッ!」

 

「聞き取りにくいんだよ!カタコト野郎!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

おれは突撃するキリクを飛び越え、全力でその頭を蹴り落とした。

 

______________________________________

 

頭部に打撃がクリーンヒットし、キリクは昏倒した。

すかさず拘束用のワイヤーを取り出し、手足を拘束。襲撃部隊はこれで全員撃破だ。

だがこれで終わりではない。

市民襲撃の首謀者……「ファウ」の居場所を聞き出さなければ。

おれは銃を眉間に突きつけ、キリクをムーンアトマイザーで蘇生した。

 

「お前たちの上司……ファウの居場所を教えろ。

それから昨夜お前が使っていたテレパイプガン……アレもよこしてもらおうか」

 

目を覚ましたキリクは暴れもせず、転送装置を作動させて特殊な形状の銃……

テレパイプガンと、カードキーのようなものをおれの足元に落とした。

 

「……装甲車のキーだ。ファウの研究所の座標ガ登録さレていル。好きに使エばいイ」

 

あまりにも素直すぎる。おれはすぐには拾わなかった。

 

「どういうつもりだ」

「造龍兵計画はお前ノ言う通リ、非人道的なモノだ。

だガ、人命を守ルことを考え抜いタ果ての産物でもあル」

 

静かに語りだすキリク。

 

「個人ノ命と、人類の進化ト安寧。どちラが重いカ。天秤にかケて良いのカ。

オレは何ガ正しいのか、ワカらなくなっタ」

 

「……お前ノような真っスグすぎる甘ちゃんを、オレは待っテいたのかモしれン」

 

「昨日お前が現レた時、こうスることに決めタ。お前を誘い出シて戦い……

オレが勝テばそレでいい。だガ万一負ケたラ……オレが諦めた正義に、

未来を託す。そういうコトにシた」

 

「おい、さっきから何を言ってる」

 

おれに負けた場合は未来を託す?意味が分からないが、抵抗してくる気配もない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「お前は正義を貫ケる力と信念を持っていルかな。

貫いた正義には責任を持テよ、クク……」

 

本当に抵抗の意志は無いらしい。銃を突き付けたままテレパイプガンと

カードキーを拾い、おれはキリクの前を去った。あとはファウのもとへ向かって

子供達を救う。きっと大丈夫だ。

 

……その時は、そう思っていた。

 



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仮面ライダーレイブン 第3夜 第4幕

戦闘開始から約2時間後、深夜0時過ぎ。

奪った装甲車に搭載された自動運転システムを起動し、おれはファウの研究所へ

向かっていた。ナビデータによると研究所はこのアークスシップ17番艦の病院に

併設されているらしい。

目的地まで30分。その間、役立つものがないか車内を物色することにした。

 

装甲車の荷室に積まれた小型コンテナに目が留まる。

コンテナの表記によると、戦闘員が纏っていた装甲服の予備が入っているらしい。

研究所内部へ潜入するときの変装として役立ちそうだ。

コンテナのボタンを押すと、光の粒子が体に纏わりつき、次の瞬間には

全身に装甲服が装着されていた。装甲は軽量で動きやすく、暑くもない。意外と快適だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そうこうしている内に、車は研究所の入り口前に到着した。

深夜のため、併設している病院は消灯していたが、研究所の方は窓から明かりが

漏れている。昼夜問わず研究に勤しんでいるということか。熱心なことだ。

車から降りると、守衛室から男が1人こちらに向かってきた。

 

「キリクさんの班だな、予定時刻よりだいぶ早いがどうした」

 

守衛担当のスタッフだろう。首にはIDカードを下げている。

奪えば潜入しやすくなりそうだ。

 

「ええ……確認が必要なサンプルが見つかりまして」

「サンプルだと?」

「降ろすのを手伝ってもらえませんか」

 

おれは男に荷室へ向かうよう促した。

レイブンヤイバーを取り出し、後ろ手に隠して男の背後に忍び寄る。

どうやら少し怪しまれているようだ…身分を改められるのはまずい。

 

「おい、そんな連絡は……」

「来ていないですよね」

「グッ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

男が振り返ると同時にスタンモードで斬り付けると強烈な電流が迸り、

男はその場に倒れ伏した。 

目を覚まして通報されでもすれば面倒なことになる。男の首からIDカードを

取り上げ、装甲服に収納されていた手錠で男の手足を拘束しておいた。

 

このまま装甲車の荷室で眠っていてもらおう。

少し気の毒だが、明日には誰かが見つけてくれるはずだ。

 

__________________________________

 

IDカードはそれ自体が電子端末で、研究所内のマップや研究員の現在地が

見られるようになっていた。リストからファウの名前を探すと「第5実験室」で

「勤務中」の表示。奴は実験室で一人、何かをしている。嫌な予感が頭をよぎり、

おれはマップを頼りに第5実験室へ急いだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

装甲服を脱ぎ、再びレイブンを装着。続いてフェザーダートを取り出して

通信妨害機能を起動した。通報を封じた状態でファウを脅し、子供たちの所まで

案内させたらキリクから奪ったテレパイプガンで彼らを逃がす。

転送先は一旦マイルームで良いだろう。

第5実験室の扉は目の前。おれは手筈を確認しながら、深呼吸した。

 

扉はロックされていたが、IDカードをかざすとすぐに開いた。

検査機や書類でごちゃついた室内に、ニュース番組で見覚えのある男の姿。

ファウはこちらに一瞥もくれず、熱心にキーボードを打ち込んでいる。

部屋の奥には呻き声のような冷却音を上げる箱状の機械。

 

 

【挿絵表示】

 

 

おれはクロウバレットを取り出し、ファウの足元を狙って発砲した。

 

「ファウ・タオーノスだな。手を上げろ」

 

突然の銃撃にファウは恐怖と混乱が入り混じった表情で数秒硬直し、

首に下げたIDカードを何度か触った。通報を試みているのだろう。

 

「手ェ上げろと言ったろ。あと、ここはしばらく圏外だ」

 

足元にもう1発発砲するとファウはその場で跳び上がり、ゆっくりと両腕を上げた。

床にキーボードが転がる。

 

「君は誰だ。い、今時強盗か?」

 

「違う。誘拐した子供たちはどこだ」

 

「誘拐……?」

 

震える声でとぼけるファウ。

 

「優秀な子供を狙って、キリクとかいうキャストの部隊に市街地を襲撃させただろうが」

「造龍兵の制御装置に脳を組み込むんだろ、いい趣味だな」

 

おれはファウの眉間に銃を突きつけた。

 

「彼らは今、VR訓練中で……」

「だったら訓練室まで案内しろ」

 

突きつけた銃を押し込む。

 

「案内も何も…今そこで訓練中なんだよ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ファウの視線の先には唸るような冷却音を上げる箱型の機械。VR訓練…。

次の瞬間、おれは悟ってしまった。この箱型機械が脳を組み込んだ制御装置だ。

遅かったのだ。

 

____________________________________

 

「この外道がッ!…ッ!?」

ファウの首を掴むとフォトンの電光が激しく迸り、おれは思わず後方に

飛び退いてしまった。護身用の装備「シールドライン」だ。小賢しい。

 

「く、訓練中だと言っただろう。心配せずとも彼らの脳は生きている。

……君、造龍兵を知っているんだな」

 

肩で息をしながらファウが語りだした。

 

「生体脳ユニットで制御した造龍兵は、アークスに代わる対ダーカー決戦兵器になる!

素晴らしい研究だと思わないか!」

 

「そのくだらない兵器を研究するために子供の親を殺し、身体から脳を取り出す……

許されると思うか」

 

「く、くだらないだと……?」

 

突然目つきが変わったファウが、ギラギラとした眼差しを向けてこちらを睨みつけてきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「馬鹿な義憤に駆られてこんな所までやってくる奴が、随分とわかったようなことを

言うね!人類とダーカーの戦いが始まって40年余り、毎年どれだけのアークスが!

市民が!死んでいるか知ってるかい!?」

「知らないだろうな!君みたいな奴は!馬鹿だから!」

 

鬼のような形相で捲し立てるファウ。

 

「教えてあげよう!約500万人だ!40年間毎年!去年も!今年だってそうなる!」

「戦いを終わらせるには、画期的な戦力強化が必要だ……だがアークス隊員は一部の

天才を除いて、強くなる前に戦死する!ちっとも育ちやしない!だからアークスに

代わる尖兵……造龍兵と制御装置で戦いを終わらせるんだ!」

 

「市民を犠牲にしてか?」

 

「小さな犠牲さ!長期的に考えろ!戦いが早く終わればその何倍もの命が救われる!」

「戦いが終われば軍事開発に回された資源を医療分野にまわすことだってできる!

それで救われる市民が!未来どれだけいるか!すべては人類の進化と安寧のためだ!」

 

……キリクの言葉を思い出す。

「造龍兵計画は人命を守ることを考え抜いた果ての産物」ってそういうことか。

おれは目先の命に囚われ、早期の戦争終結を邪魔しているのか?

しかし、未来のために生贄にされる命があっていいとは思えない。

以前、市街地で見つけた遺留品に残された子供の声は悲痛なものだった。

 

「……子供たちを部品にする理由は?未来のためなら大人が身体を張れよ」

 

「大人の脳は人間の脳として完成されてるんだ。制御装置としての運用に

耐えられない……でも子供の脳はね、成長しながら制御装置に適応できるんだ!」

「だからね!戦術と戦略を理解して運用できる優秀な子供の脳が!

これからの未来のために、いま必要なんだよ!」

 

あまりの剣幕に言葉に詰まったおれをよそに、ファウはふらふらと

よろめきながら床に転がっていたキーボードを拾い上げた。

 

「あぁ、そうだ……有用性を身をもって知ってもらおう。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

キーボードの打鍵音が響くと、眼前に黒い影が出現した。

影は見覚えのある化物の姿に形を変えていく。昨夜戦った化物……造龍兵だ。

けしかけてくるつもりか。

 

「生体脳ユニットと造龍兵の強さ、体感するのが一番早い」

 

ファウがキーボードをさらに叩いた次の瞬間、眼前の造龍兵がおれの視界から消えた。

直後、マスクのモニタに右からの攻撃を知らせるアラート。

造龍兵の手刀がおれの右腕をかすった。咄嗟にステップで躱し直撃は免れたが、

レイブンの装甲は熱を持って煙を上げている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

昨夜戦った時とは動きの次元が違う……今の動きだけでもわかる。

制御された造龍兵は多くのアークスより高い戦闘能力を持っているのは確かだ。

だが、制御装置には子供の脳が使われているのだ。こんな兵器をアークスの代わりとして認めるわけにはいかない。

そして子供たちの脳はまだ生きている。彼らを救う方法を探し出すためにも、

この場を生き延びなくては。

 



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仮面ライダーレイブン 第3夜 第5幕

 

【挿絵表示】

 

 

造龍兵は素早く接近し、両腕のクローで攻撃を仕掛けてきた。

左右から揺さぶるような連撃が、防御の甘い箇所を正確に攻めたててくる。

辛うじて対応できていたが、徐々に加速する攻撃におれの反応が追い付かなくなってきた。右肩、左腕、右腿。弾き損ねた攻撃が掠り、レイブンのアーマーに傷がつき始めている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

これが……子供たちの脳を組み込んだ制御装置の力か。

制御された造龍兵の攻撃動作には隙がない上、おれの隙は的確に突いてくる。

空間認識能力も非常に高いようで、ダイナミックな動きをする割に、床に散乱した

部材に躓いたりもしない。まるで目が二組付いているかのようだ。

戦闘能力はすさまじい。造龍兵と制御装置が共に量産されれば、

ダーカーはたちどころに殲滅されるだろう。

だが、それは多数の子供たちが脳を抜かれて部品にされることを意味する。

 

「君、照合できないがアークスだろう!

どうだい、君達が戦うより戦争が早く終わりそうだろ!」

 

勝ち誇ったように叫ぶファウ。

 

「この……ッ!」

 

おれはクロウバレットを取り出してファウに向けた。直後、造龍兵が

カバーするような動きでこちらに接近し、銃を弾き飛ばそうと腕を伸ばしてきた。

予想通りの動きだ。造龍兵のクロー攻撃を刀で受け止め、

おれはクロウバレットで造龍兵の肘に狙いを定めた。至近距離で関節を撃てば

動きを鈍らせられるはずだ。

 

トリガーに指をかけたところで、刀にかかっていた力が弱まり、

造龍兵が突然飛び退いた。再び両腕のクローを構えてはいるが、動きが目に見えて

遅くなっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「エネルギーが…仕方ない、輸液システムを…」

 

苛立った様子でキーボードを打ち込み始めるファウ。

どうやらエネルギーが十分ではない状態で激しい攻撃を仕掛けたことで、

造龍兵はガス欠を起こしたらしい。このチャンスを逃すわけにはいかない。

一気に踏み込んで斬り付けるべく足に力を込めると、造龍兵は力をためるように

その場にしゃがんだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

造龍兵の全身が黒いもやで包まれていく。これは……強力な攻撃の

予備動作のように見える。危険を察知したおれはその場に踏みとどまった。

ファウは造龍兵にエネルギーを注入しようと、無防備に突っ立ってキーボードを

打ち続けている。

 

「……!おい、伏せろッ!!」

 

ファウに向かって叫んだ次の瞬間。

 

「え」

 

造龍兵の纏うもやから黒い影の棘が伸び、ファウの胸部が貫かれていた。

 

____________________________________

 

 

【挿絵表示】

 

 

ファウが断末魔の叫びをあげるより早く、胸部を貫いた影の棘から大量の黒いもやが

放出され、ファウの全身を包んだ。影の棘は無数に生成され、おれの方にも迫ってくる。

 

なんとか躱しながら、ファウの様子を見てみると、

放出されていたもやは徐々に薄れながら消えていた。

……いや、消えたのはもやだけではない。ファウの姿が跡形も無くなっている。

 

「まさか……食ったのか……?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

咆哮を上げる造龍兵。同時に衝撃波が発生し、おれは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。意識が飛びかけたが何とか持ちこたえて眼を開くと、造龍兵の姿が

変化しているように見える。装甲があった箇所には黒ずんだ甲殻。背中からは触手の

ような影が揺らめく。ファウを食ってエネルギーを補給すると共に、自己を強化したのか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

造龍兵は制御装置に向かって歩いていく。次は制御装置を取り込むつもりか。

造龍兵と制御装置が一体化してしまえば、装置に組み込まれた子供たちの脳を救い出す

ことがいよいよ難しくなってしまう。そんな事態は何としても避けたい。

おれは制御装置の前に立ちふさがるように飛び出し、渾身の力で両袈裟斬りを放った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

確かな手ごたえがあったが、造龍兵はダーカー「ダガン」を呼び出し、

盾代わりにして斬撃を防いでいた。ダガンは造龍兵の拳でコアを握りつぶされて

死んでいるようだが、甲殻は殆ど傷付いていない。

反撃が顔面に迫る中、おれはレイブンヤイバーの特性を思い出した。隠密性のために

刀身にフォトンを使用していないのだ。ダーカーの甲殻に効果が薄いのも当然だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

造龍兵の拳がおれの顔面に叩きこまれ、脳が揺れるほどの衝撃が走る。

幸い意識は保てている。おれは受け身を取り、即座に刀を構え直した。

……視界がおかしい。左側だけ妙に鮮明だ。顔面に手を当てると、手はおれの素肌に

触れた。マスクを割られたのだ。直後、マスクのモニタに警告が表示された。

 

 

【挿絵表示】

 

____________________________________

 

[Emergency bail out system active]

 

マスクの破損により、緊急脱出機能が起動したのだ。脱出までのこり30秒。

転送先は……確かマイルームに設定されている。このまま逃げ帰る訳にはいかない。

この場で造龍兵を倒せずとも、子供たちの脳だけでも救い出したい。

おれはテレパイプガンを取り出し……直後、自身の無力さを再認識した。

 

テレパイプガンで制御装置を撃てばマイルームへ転送できるが、転送したところで

装置に組み込まれた脳の生命を維持する手段をおれは持っていない。

脳を抜かれてしまった時点で、どうやってもおれ一人では子供たちを救えないのだ。

脱出まで20秒。造龍兵が追撃を仕掛けてきたが、反応が遅れた。防御が間に合わない。

 

眼前に迫る造龍兵の手刀。脱出まで10秒……防御も脱出も間に合わない。

手刀の直撃を覚悟した刹那、背後からフォトンの光線が発射された。

造龍兵は光線を回避して飛び退く。振り返ると、見覚えのある華奢な青年……

あの日、おれにレイブンドライバーを託した謎の青年がライフルを構えて立っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「生きていたのか、あんた…」

「逃げてくれ。君にここまでさせるつもりはなかった、申し訳ない」

 

青年はおれをカバーするように造龍兵の前に立ちはだかっている。

直後、脱出装置が作動。おれの身体はテレパイプ空間へ飛ばされた。

 

__________________________________

 

気が付くと、おれはマイルームで立ち尽くしていた。

視界に急激に広がる、静かな自室。日常空間。直前までの死闘がまるで

夢だったかのようだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

……夢なんかじゃない。ここにあるのは情けなく、救いもない現実だ。

結局誰を救うこともできず、おれは逃げ帰ってきてしまったのだ。

 

___________________________________

 

仮面ライダーレイブン 第3夜 終わり。最終夜へ続く。

 



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最終夜
仮面ライダーレイブン 最終夜 第1幕


 

 

【挿絵表示】

 

 

造龍兵……兵器としては、たしかに強い……

だが制御装置には子供の脳が……

量産したらどれだけの子供が脳を取られる……?

 

あれ、制御装置…逃がせたっけ?

いや、生命維持のやり方がわからないんだった……

首を突っ込んでおいて、何もできなかった……

 

……あれ?おれはファウの研究所に潜入して……造龍兵と戦って……

 

「ヴヴヴヴヴヴ!!」

 

床に転がった携帯端末のバイブレーションが耳障りな音を立て、おれは目を覚ました。

疲労で気を失い、眠ってしまっていたようだ。

……あぁそうだ、研究所での戦いでレイブンスーツの緊急脱出機能が作動して、

マイルームへ戻ったんだ。

 

「いかん、携帯の呼び出しに出ないと…誰からだ?」

「…っ!?」

 

呼び出しは「六芒均衡の六」ヒューイからだった。

六坊均衡はアークス内で特に優れた実力を持つ六人の精鋭。

実質的なアークスのトップだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ヒューイとは任務や探索の途中でよく会い、顔見知りとなっていたが……

今まで直接連絡してくるようなことはなかった。

上からの命令に背いて、襲撃事件に深入りしていたことがバレてしまったか?

 

_________________________________

 

「はい、レツです」

「おぉ!繋がった!ヒューイだ!急ですまんが、聞きたいことがあってな」

 

聞きたいこと……鼓動が少し早まる。

 

「と、言いますと…」

「ああ、いや!会って話した方が良いなこれは!座標を送る!この場所に来てくれ!」

 

スピーカーが音割れしている。相変わらずすごい声量だ。

端末に表示された座標はナベリウス森林深部。一般のアークスは進入禁止のエリアだ。

 

「この場所、入れないのでは?」

「今は大丈夫だ!俺がいるからな!キャンプシップは手配しておく!すぐに来れるか?」

 

他の隊員がいない場所でおれに「聞きたいこと」となると

やはり襲撃事件のことだろうか。

 

「わかりました。すぐ向かいます」

「話が早くて助かる!では後で!ァ!ホント!なる早で頼むぞ!」

 

霞がかった頭がはっきりしてきた。

レイブンを装着してキリクや造龍兵と戦ったことがバレている?

いや、それ以前に……暴走した造龍兵はどうなった?

研究所を脱走して市民を襲ったりしたら……

 

中途半端に首を突っ込み、結果的に逃げ帰ってきた自分の不甲斐なさに苛立ちが募る。

だが暴走した造龍兵を倒すことも、制御装置に組み込まれた子供たちの脳を救うことも、

おれ一人では無理だ。

 

まずはヒューイに言われた座標に向かおう。

後にどんな処分が下されるかわからないが、もう今は彼に相談する以外に

できることはない。

 

急ぎゲートエリアへ向かうと、周囲のアークスの様子は普段と変わらず、

といった印象だった。緊急任務が発令されている様子もない。

 

今のところ暴走した造龍兵による被害が出ているわけではないのだろうか。

何にせよ、ナベリウスに向かわなければ。ヒューイが手配したキャンプシップに

乗り込み、おれは森林エリアへ急行した。

 

______________________________________

 

 

【挿絵表示】

 

 

キャンプシップから森林エリアに降下後、10分程度で

進入禁止と表示されたゲートを見つけた。ヒューイに指定された場所はこの奥だ。

 

「やあ!!早いな!そのまま入ってくると良い!!」

 

進もうとするとゲートの奥からヒューイの大声が響き渡り、思わずビクついてしまった。

 

「シールドを解除してある!さあ!」

 

 

ゲートを抜けると、ヒューイが腰に手を当てて仁王立ちしていた。

 

「しばらくぶりだな!戦技大会以来か!」

「ですね。お久しぶりです。……それで、聞きたいこととは」

 

ヒューイはうなずき、空間に映像ウィンドウを投影する。

 

「まずはこの映像を見てくれ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

映っていたのは昨夜のおれと造龍兵の戦いだった。謎の青年に

援護されたところで、映像が途切れている。

 

「これは17番艦の研究所で、セキュリティカメラに写っていた昨夜の映像だ!」

「単刀直入に聞こう!この青いアーマーを装備して戦っているのは!

これ……レツ……きみだよな」

 

確信に満ちた目。これはごまかせないな。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ここでの話は君と俺だけの秘密だ!正直に教えてくれ!」

 

「……おれです」

 

「やっぱりか!フォトンも生体反応も隠されていて、俺以外は

誰も気付いていなかったが……」

 

身のこなしに見覚えがあり、すぐにわかったらしい。

そういえばヒューイとは戦技大会で手合わせしていた。それにしたって、身体の

動かし方だけで人の見分けがこんなにハッキリと付くものだろうか。

 



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仮面ライダーレイブン 最終夜 第2幕

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……ああ、俺は罰を与えるために君をここへ呼んだわけではない!

それはおれの仕事じゃない!」

 

ヒューイは芝居がかった仕草で肩をすくめて見せた。

 

「もう一つ聞かせてくれ!君が戦ったこの化物……弱点はあるか?」

「俺はこの化物の討伐を引き受けたんだが……あまり時間がない!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

昨夜おれが脱出した後、アークス本部は匿名の通報によって造龍兵の暴走を認知。

討伐部隊を向かわせたそうだ。しかし程なくして、ヴォイドが造龍兵の暴走を

隠蔽するために研究所を爆弾で吹き飛ばすようアークス本部に命じたらしい。

 

だが研究所には病院が併設されている。そんなことをすれば巻き添えになってしまう。

そこでヒューイが待ったをかけ、造龍兵の討伐を自ら名乗り出てくれたそうだ。

 

「あの化物の…弱点」

 

「映像を見る限り苦戦していたようだが…何か掴んでいないか!

 万全を期したくてな!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

造龍兵の戦闘力の決め手は「制御装置」だ。

壊してしまえば、ヒューイの敵では無い。無いのだが……。

あれを壊せば、装置に組み込まれた子供たちの脳は死んでしまう。

 

しかし、彼に造龍兵を倒すための情報を渡さなければ病院が

爆破に巻き込まれてしまう。

もう犠牲者を増やしたくない。おれは言葉を絞り出した。

 

「造龍兵は戦闘行動を機械で制御しているんです。

制御装置を破壊すれば……戦闘力は落ちる」

 

「おお!単純明快!……でもなさそうだな。何かあるのか?」

 

おれは事の顛末を全て話した。

暴走している化物はヴォイドの生体兵器で、制御装置には人間の子供の脳が部品として組み込まれていること。

相次いでいた市民襲撃は子供を誘拐して脳を取るためにヴォイドが仕組んでいたこと。

証拠が録音された遺留品を拾ってすぐに、本部から事件への関与を禁じられたこと。

レイブンドライバーを手に入れ、正体を隠して誘拐された子供達の行方を追った

結果……今に至ったということ。

 

「あの市民襲撃事件、俺はレギアスに止められて探らなかったんだが……

君は本部の命令に背いてまで動いてくれたのか」

 

「命令違反ですし、結局誰も救えていない」

 

ヒューイは大げさに首を振って見せる。

 

「君の命令違反がなければ、子供の脳を使った兵器が量産されていたかもしれん!

とにかく、装置の破壊という手は無しだな」

 

「で、君は昨夜、どうしようと考えた?」

 

おれはテレパイプガンを取り出し、ヒューイに差し出した。

 

「この道具、テレパイプガンは撃った対象を任意の場所に転送できるんです。

誘拐された子供たちをこれで逃がそうと思っていたんですが…」

 

「既に脳を取られて、制御装置に組み込まれた後だったんだな」

 

「制御装置をテレパイプガンで転送して、子供たちの脳だけでも

逃がそうと思ったんです。でも……転送した後に脳の生命を維持する方法が無くて」

 

大げさにガッツポーズをとるヒューイ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なるほど!脳の生命維持さえできれば、制御装置を転送して造龍兵の力を削げるな!」

「君自身じゃ無理でも、ほら!何かツテがあったりしないか!?」

 

単純な話だがその通りだ。自分だけではどうにもならないなら、協力者を募れば良い。

「アキ」……元ヴォイド研究員の彼女なら、何とかできるかもしれない。

そういえばアキは造龍兵や制御装置についても知っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ヒューイさん、心当たり……あります」

「よし!それなら……っと通信か!ちょっと待ってくれ!」

 

「ヒューイだ!首尾はどうだ!」

 

現場で造龍兵を抑え込んでくれているアークスからの通信のようだ。

 

「……ああ、わかった!すぐに俺も向かう!俺が着いたら退却していい!もう少し

 持ちこたえてくれ!あと、制御装置……箱型の機械!絶対に壊したらダメだぞ!」

 

通話を終えたヒューイがこちらに振り向く。

造龍兵は制御装置を体内に取り込もうとしているようだ。派遣されたアークスが

攻撃を続けており何とか阻止できているが、長くは持たないらしい。

 

「俺は今から現場のアークスに加勢する!レツ、君がやるべきことはわかるな?」

 

「脳の生命維持手段、確保します!」

 

ヒューイはおれの肩を叩いた。

 

「キャンプシップを手配しておく!片が付いたら君が現場に来て決着をつけろ!

その、テレパイプガン?の扱いに俺は慣れていないからな!」

「昨日装着していた、あの青いスーツで正体を隠してOKだ!子供を救おうと

動いた君が上層部に粛清されたらかなわん!」

 

「ありがとうございます……わかりました」

 

自分一人では手詰まりに思えた事態が再び動き出した。

アークス本部への不信感から誰の手も借りずに動こうとしていたが、

それは間違った選択だったかもしれない。

ヒューイは転送装置で現場へ急行した。おれも急いでアキに連絡を取らなくては。

 



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仮面ライダーレイブン 最終夜 第3幕

 

早速アキに連絡しようと通信端末を取り出すや否や、電話がかかってきた。

電話の主は何とアキその人。手間が省けたが、妙な胸騒ぎがした。

 

「もしもし、アキさ……」

「やあ。この前話した造りゅ……っと……」

 

言い淀むアキ。造龍兵の情報はヴォイドの極秘事項だ。

アークス本部やヴォイドによる回線傍受の可能性を考えたのだろう。

 

「龍族……龍族の化物だよ。この前話しただろう?」

 

龍族の化物……造龍兵を言い換えたのか。

 

「あれですね、この前ロビーで教えてもらった……」

「ああ。知り合いから聞いたのだが……あの化物、どうやら暴走しているらしい」

 

妙なことになっている。誰かが造龍兵の暴走をアキに伝えたのだろうか?

 

「君、化物の噂を聞いたのだろう?杞憂であればいいのだが……

しばらく背後に気を付けた方が良い。」

 

ヴォイドは不祥事のもみ消しのためには手段を選ばない組織だ。

そして、アキには「造龍兵の噂を聞いた」体で話をしている。

「ヴォイドがおれに口封じの刺客を送る」ことを彼女は危惧しているのだろう。

 

「なるほど確かに……気を付けます」

 

ただ、造龍兵と戦うときは常にレイブンを装着していたため、

身分は隠せているはずだ。刺客のリスクは小さいだろう。それより今は、

脳の生命維持について相談しなければ。

 

「アキさん、その化物についてこちらからも相談が……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

説明を始めようとしたところで、

「パキッ」という小枝が折れたような音が背後から聞こえた。

この場所に一般のアークスは入れない。エネミーか、あるいは本当に刺客か。

何にせよ電話は一旦切った方が良さそうだ。

 

「お客さんが来たかも……後でかけ直します」

「何?おい、無理をするな」

 

__________________________________

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うおッ!?」

 

電話を切って振り向くと、黒い戦闘服を纏った男が樹上から飛び掛かってきていた。 

手にはナイフを握っている。咄嗟に後方へ小さく飛び退いて躱すと

男は大きく空振りし、体勢を崩しながら着地した。

 

「おいおい…あんたは味方だったじゃないか」

 

男の姿には見覚えがある……というより会ったばかりだ。

レイブンドライバーをおれに託してくれた青年だ。 

昨夜の戦いで造龍兵に追い詰められたおれを間一髪で救ってくれた彼に、

今は刃を向けられている。訳の分からない状況に混乱する脳を冷却するように、

おれは小さく深呼吸した。取り乱している暇はない。早いところ撃退して

アキに連絡を取りなおさなければ。

 



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仮面ライダーレイブン 最終夜 第4幕

 

 

【挿絵表示】

 

 

青年は無言で斬りかかってくる。凄まじいスピードだが狙いは甘い。

大振りの斬撃を躱すと、刃の表面には電流と火花が迸っていた。

……電磁ナイフってやつか。

 

電磁ナイフは刺突して刃から電流を流すことで敵を気絶させる武器だ。

電源が内蔵されているため柄が重く、振り回しての斬撃には向いていない。

実際、攻撃は容易に躱せている。

 

青年は空振りしても気に留めず、ひたすらに斬り付けてくる。 

無駄な動きが多いが、踏み込みやスイングスピードは異様に速い。

身体能力は通常のアークスよりはるかに高いのだろう。

 

今は攻撃を躱せているものの、おれのスタミナが持たなくなる可能性もある。

このままでは危険だが、任務中ではないため武器はロックされて取り出せない。

レイブンを装着……できるほどの隙があるわけでもない。

格闘で仕留める以外に選択肢はない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

訓練生時代に対人格闘術を叩き込まれたときは何の役に立つのかと思ったが……

今まさに役立ちそうだ。どうにか隙を作って反撃しよう。

斬撃を払いのけながらしゃがみ込み、おれは足元の小石を手に取った。

(石は最も身近で攻撃的な武器らしい……訓練で教官に聞いた。)

 

 

【挿絵表示】

 

 

ナイフの追撃をかわし、相手の顔面めがけて石を投げつけると、

青年は咄嗟に腕で目を守った。明確な隙。こちらのターンだ。

 

おれはナイフを握っている手を蹴り上げ、そのまま肩を腕で固定しつつ

肘から先を「曲がらない方向」へ思い切り曲げてやった。

青年の腕は動かなくなり、手からナイフが転がり落ちる。

 

「ここまでだ」 

 

おれは青年が落としたナイフを拾い上げ、首筋に突きつけた。

やはり電磁ナイフだ。電撃用スイッチが付いている。

青年は肘を壊されたにもかかわらず、声も上げずに俯いている。

 

「命の恩人にこんなことはしたくないが、今は時間がない」

「電撃で気絶したくなければ、退いてくれないか」

 

 

【挿絵表示】

 

 

青年は穏やかな表情で口を開いた。

 

「無関係だった君に、もう迷惑をかけたくなかった。気絶させてドライバーを

返してもらおうと考えたんだ」

 

「斬りかかられたら十分迷惑だ……普通に話しかけてくれ」

 

「話しても結局力ずくになったと思う。君は決意が固そうだし」

 

……それはそうかもしれない。

 

_______________________________________

 

 

【挿絵表示】

 

 

青年から事情を聴いてみると、

彼は「造龍兵の制御装置に子供たちの脳が組み込まれている」ことを知っていた。

これから子供たちの脳を救い出すために、ファウの研究所へ向かおうとしていたらしい。

その前におれを気絶させてレイブンドライバーを回収し、ついでにテレパイプガンも

拝借しようとしていたというわけだ。

 

「……子供たちの脳を救い出したとして、そのあとの生命維持は

どうするつもりなんだ?」

 

「僕の知り合いがヴォイドの元研究員でね。彼女に頼んだら引き受けてくれたよ」

 

どうやらおれと全く同じことを考えていたようだ。

それに「ヴォイドの元研究員」の女性。まさか……

 

「おれも脳の受け入れ先を探してたんだ。あんたが声をかけたのは、

アキさんという人じゃないか?」

 

青年は驚いた様子で少し目を見開いた。

 

「世間は狭いね。その通りだ」

「僕はヴォイドで生み出された次世代アークスの実験体さ。

アキは僕の調整を担当してくれていた。育ての親みたいなものなんだよ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

次世代アークスの実験体……アキが調整担当……

やや混乱しているおれをよそに、青年は続けた。

 

「アキが突然担当を外されてからは酷かった。瞬発力や再生能力を高めるために

かなり無理な改造を施された」

 

肘を動かしながら話す青年。さっきおれが壊した肘はもう治りはじめているらしい。

 

「死んだほうがマシと思ったけど、気付いてしまった。

研究所から逃げ出すための力が自分にはあるってね」

 

今から半年ほど前、青年は自らと同じくヴォイドで研究中だった

レイブンドライバーを強奪して研究所から脱出。

以降はアークスシップ市街地に潜伏しながら、ヴォイドへの妨害活動を

続けていたらしい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なるほど。一昨日の夜、市街地でレイブンを装着して

ヴォイドの襲撃を阻止していたな」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ああ。結局失敗して、助けてくれた君にドライバーを託して……

今に至るということだね」

 

青年は可動域を確かめるように肘を動かしている。もう治ってしまったのか。

 

「……それで、だ。襲いかかっておいて都合がいい話だけど、

ドライバーを返してくれないか。君にこれ以上迷惑は」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「それはダメだ。おれにやられるようじゃ、今の造龍兵を出し抜くなんて無理だぞ」

 

押し黙る青年。嫌な言い方をしたが、ここは引き下がれない。

 

「子供たちの脳は、おれが必ず救い出す」

「だから、逆にお願いだ。ドライバーをあと少しの間だけ貸してくれ」

 

青年は数秒目を閉じた後、頷いた。

 

「わかったよ。たしかに君が動いた方が成功率は高いか」

 

「勝手を言ってすまない。終わったら、ドライバーは必ず返す」

 

彼が今後もヴォイドから身を隠すために、レイブンは必要な装備だろう。

 

____________________________________

 

青年はゆっくりと立ち上がりながら口を開く。

 

「アキには制御装置をまるごと転送すると伝えてある。転送先の座標は……これだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

空間に投影されたウィンドウには座標を示す数列が表示されている。

おれはテレパイプガンを取り出し、転送先座標を登録した。

 

「その座標に転送すれば、自動で生命維持を開始できるようにセッティング

してあると聞いている。転送後、アキに急いで連絡を入れたりしなくても大丈夫だよ」

「あとは、これを」

 

青年はポケットから透明なテープのようなものを取り出し、手渡してきた。

 

「レイブンの応急修理用テープだ。フォトンの漏出は防げる

……たしかマスクが割れていただろう?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「すまない、恩に着る」

「そうだ、昨日のお礼を言ってなかった。危ない所を助けてくれて本当にありがとう」

 

「僕も一昨日助けてもらったし、お互い様さ」

「子供たちの脳、救ってあげてくれ。君を巻き込んだ僕が言うべきでは

ないかもしれないが」

 

「ああ、任せろ」

 

青年から差し出された右手を、おれは強く握った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そういえば名乗っていなかった。僕はアウル。くれぐれも気を付けて」

「カラスマ・レツだ。また会おう……ドライバー返すしな」

 

アウルは頷くと大きくジャンプし、森林の奥へ消えていった。

 

脳の生命維持の算段は付いた。後はヒューイと連携して造龍兵を抑え、制御装置を

転送すれば子供たちの脳を救い出せる。彼らの身体や殺された家族はもう戻らないが、

脳が無事なら子供たち自身はキャストとして生きていくことができる。

このまま制御装置の部品にされ続けるよりは遥かにマシなはずだ。

 

子供たちを襲った理不尽への怒りに身体が熱くなっていく。リベンジ開始だ。

 



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仮面ライダーレイブン 最終夜 第5幕

 

[Repairing……]

[Photon leakage stopped]

[……Complete.]

 

「フォトン漏出ストップ……?これで合ってるのか?」

「……おおっ、モニタが復活した」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ヒューイの手配したキャンプシップ内。

おれはレイブンを装着し、破損したマスクをアウルから受け取った

修理用テープで補修していた。見た目は何の変哲もない透明テープ。

本当に効果があるのか正直半信半疑だったが、

マスクの破損個所にテープを貼り付けるとフォトン漏出はすぐに止まり、

マスク内のモニタまで復活した。

 

通信端末を見ると、アキからの着信が何件も入っていた。

「刺客」の話をしている途中でいきなり通話を切ってしまったし、

心配してくれているのだろう。しかし、今ゆっくり話している暇はない。

後で怒られそうだが「無事です。また連絡します」と、

ショートメッセージだけ送っておいた。

 

これで準備は万端だ。キャンプシップのテレプールは、

昨夜造龍兵と戦った研究室と直接つながっているとヒューイからは

聞いている。

飛び込んだらいよいよ最後の戦いというわけだ。おれは一旦ヒューイに

連絡を入れることにした。

 

「ヒューイさん、準備完了です。制御装置の受入れ先の算段は付きましたし、

スーツも直った。いつでも行けます」

 

「意外と早かったな!いや、この化物……隙が無さ過ぎて怖いぞ!

こっちに来たら援護を頼む!」

 

「わかりました。では、行きます!」

 

_________________________________

 

テレプールに飛び込んだおれの身体はテレパイプ空間に送られた。

早くなっていく鼓動。おれは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出しながら

手筈を確認した。

 

「ヒューイが造龍兵を抑え込んでいる間に」

「テレパイプガンで制御装置をアキの元へ転送」

「後はヒューイと協力して造龍兵を倒してしまえば」……終了だ。

 

転送が完了し、目を開けると見覚えのある研究室の風景が広がった。

すぐ目の前で、ヒューイが造龍兵と激しく打ち合っている。

手にしているのはワイヤードランス。一般アークスも使用するモデルだ。

すさまじい速度で繰り出される彼のラッシュを、造龍兵は影のような

触手を伸ばして防いでいる。造龍兵は大きなダメージこそ負っていない

ものの、ヒューイの連撃に釘付けの状態だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「よく来た!ごらんの通り、こいつは俺が抑え込んでる!制御装置を

早速逃がしちゃってくれ!」

「了解……ッと!?」

 

テレパイプガンを取り出し制御装置に接近しようとしたおれを察知したのか、

造龍兵はこちらにも鋭い槍のような触手を伸ばしてきた。

バックステップで躱して再び制御装置に接近しようとしたが、

造龍兵は触手の槍をさらに無数に生成して攻撃してくる。

 

走って躱しながら制御装置に近付くチャンスを伺ったものの、

装置が近くなるほど槍での攻撃が苛烈さを増す。

これでは制御装置をテレパイプガンで転送する隙が無い。

ヒューイは造龍兵にラッシュをかけ続けているが、

造龍兵は依然攻撃を防いでいる。ヒューイのラッシュを凌ぎながら

おれに攻撃を仕掛ける余裕があるということだ。

 

「すまん!ワルフラーンを使えばごり押しで倒せそうなんだが、

あれはすごい熱を発して機械を故障させたりするから……マズいだろ!?」

 

ヒューイの声が室内に響き渡る。ワルフラーンはヒューイの「創世器」。

凄まじい威力を持つ彼専用の炎の鋼拳。

使えば造龍兵などひとたまりもないが、確かに熱で制御装置が故障すれば、

組み込まれた子供たちの脳はどうなるかわからない。

今は「普通の」ワイヤードランスを使ってもらうしかない。

おれは一旦テレパイプガンをしまった。

まずはなんとかして造龍兵の力を削がなければ。

 

「おれが隙を作ります。何とか今の武器でヤツを封じてください!」

「よし!頼むぞ!!」

 

ヒューイの攻撃は今の武器でもかなりの威力のはずだ。造龍兵をかく乱して

防御を疎かにさせてやれば、勝機は十分にある。

____________________________________

 

おれはレイブンヤイバーを取り出し、造龍兵の背後へ向かって走り出した。

再び触手の槍が無数に伸ばされおれに迫ってくる。躱しきれない槍は

刀を振るって捌きながら、ひたすらに造龍兵の背後へ向かう。

死角から絶え間なく攻撃を仕掛けられれば、

ヒューイに対する防御が甘くなるかもしれない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

何とか造龍兵の背後を取ったおれはクロウバレットを取り出し、

攻撃用の弾丸を連続で撃ち放った。残っていた弾丸は10発。

狙いを少しずつずらしながら全て撃ったが、

造龍兵は影の盾を生成して弾丸を1発ずつ正確に防いでいた。

造龍兵は振り向かずに反撃の槍を伸ばしてくる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「まだだッ!」

 

槍をジャンプで躱し、そのまま造龍兵の後頭部へ向けて

おれはレイブンヤイバーを投げつけた。

造龍兵は再び影の盾を生成。刀は盾に食い込んだが弾き飛ばされてしまった。

その間もヒューイの攻撃は続いていたが、有効打は与えられていないようだ。

 

造龍兵の反撃を躱しながら、おれはレイブンヤイバーを回収した。

ヒューイの凄まじい攻撃を防ぎながら、背後からの連続攻撃も

正確に防ぐとは……。

 

「おいおい!あの連撃を見ずに防いだぞ!

背中にも目がついてるんじゃないか!?」

 

ヒューイの声色は明るい。余裕綽々といった印象に、おれは気を持ち直した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「背中にも目がついている」……。

 

たしかにそう思えるほどだ。

造龍兵は自身の周囲からの攻撃に対して異常に早く、正確に反応する。

制御装置の力によるものだろうが、それにしても死角からの

攻撃まで完璧に防げるのは不自然だ。

それこそ目が背中についていなければ……。

 

ふと研究室の天井を見ると、四隅に取り付けられた小型カメラが目に入った。

防犯カメラにしては数が多い気がする。造龍兵の視覚補助用カメラ、

ということは無いだろうか。

カメラと制御装置が繋がっていて、造龍兵への攻撃を全て把握したうえで、

回避や防御をさせているのだとしたら。……もしかするかもしれない。

 

フェザーダートを取り出したおれは、ナイフを造龍兵に

投げ付けるそぶりを見せた。

即座に反応した造龍兵は、背中を影の盾で覆っている。狙い通りだ。

 

「……お前が防ぐべきは、そこじゃないぜ」

 

天井の四隅に向かってナイフを投擲する。

慣れない投擲武器には不安があったが、ナイフは全てカメラに命中。

直後、造龍兵は触手の槍を伸ばしてきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

カメラを壊したのは正解だったようだ。

狙いはでたらめで、躱すことは容易い。

カメラという「背中の目」を失い、おれが見えなくなったのだ。

 

[Strike Raven READY]

 

必殺の跳び蹴りの発動準備が整ったらしい。

これで決着をつけなくては!

おれは造龍兵の頭上へ向かって跳躍し、足を突き出して突撃した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うオリャァァァァッ!!」

 

キックが造龍兵の後頭部に命中すると同時に、

ヒューイの打撃も造龍兵の顔面にクリーンヒットした。

大ダメージを負った造龍兵は膝から崩れ落ちたものの、まだ

立ち上がろうとしている。

 

「よし!ナイスだ!!ホールディングカレント!!」

 

ヒューイの両手から伸ばされたワイヤーが、造龍兵の全身を瞬時に拘束した。

さらにワイヤーを激しい炎と電流が伝っていく。炎のダメージと感電で、

造龍兵は完全に身動きを封じられている。とんでもない威力。

……おれの知っているホールディングカレントと違う。

 

「今だ!やれ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

おれはテレパイプガンを取り出し、制御装置に向けてトリガーを引いた。

銃口からゆっくりと伸びた光が、制御装置を包み込んでいく。

数秒後、制御装置はその場から消えていた。テレパイプガンの液晶に

「転送完了」のメッセージが表示されている。その直後。

 

「目醒めろ!!破拳!!ワルフラーン!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ヒューイの雄叫びが響き渡った瞬間、造龍兵の全身が一気に燃え上がった。

ヒューイが創世器で造龍兵を殴りつけたのだ。

見たこともないようなまばゆい炎の中で造龍兵は倒れこんで動かなくなり、

その身体は徐々に灰となっていった。

 

制御装置はアキの元へ転送でき、造龍兵も撃破できた。作戦は成功だ。

 

____________________________________

 

「うまくいった!すべて!一件落着だ!」

「ありがとうございます。……おれにチャンスをくれて」

 

ヒューイはおれの中途半端な人助けを体を張って支援してくれた。

感謝をしてもしきれない。装置を受け入れてくれているアキにも、

今後どうにかして礼をしなければ……

 

「さ、君は早く脱出した方が良い。本部の命令に背いて動いているんだしな」

「すみません、この恩には必ず報います。」

 

今はヒューイの言うとおりだ。おれはレイブンの緊急脱出機能をマニュアルで

作動させ、脱出することにした。

 

____________________________________

 

「ヒューイさん!すぐに脱出を!」

 

おれが緊急脱出のメニューをマスクのモニタで表示させたところで、

ヒューイの部下と見られるアークスが研究室に飛び込んできた。

ヘルメットで表情はわからないが、かなり焦っている様子だ。

 

「おいおいどうした、落ち着いて状況を説明してくれ」

 

部下の背中をさするヒューイ。

 

「ヴォイドの特命で、アークス本部が、ば、爆撃機を……!

ここはあと10分ほどで爆撃されます!」

 

造龍兵は撃破されたにもかかわらず、研究所を爆撃……

それがヴォイドの特命なら、この場所で行われていた非人道的な

研究が表ざたにならないよう、証拠を早い段階で消し去りたいのだろう。

 

しかし、すぐ脱出という訳にはいかない。

この研究所には病院が併設されているのだ。このままでは市民が

巻き込まれてしまう。

 

「何だと!病院の避難は!事前に進めておくよう言っただろう!」

 

ヒューイは万一の場合に備え、部下に命じて併設された病院の

患者やスタッフを避難させていたらしい。

 

「ほとんど完了していますが、コールドスリープ患者の転送がまだ……

あと15分はかかります」

 

「その状況で脱出しろというのか?」

 

ヒューイの声はいつものような大声ではない。

だがその声色には確かな怒りが感じられる。

ヒューイは正義感の塊のような男だ。彼に民間人へ迫る危機を放って

脱出することなどできないだろう。……無論おれにだって無理だ。

 

しかし……爆撃機はあと10分でやってくる。

今からできることは、あるのだろうか。

 



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