世界を救った暗殺者はダンまち世界に転移する (一般リターナー兵士)
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000 エンディング→???

はじめまして。

ハーメルン初投稿となります。

久しぶりにFF6やったら何か書きたくなったので勢いで書いた。

続きは書いたら投稿します。


「………………ここなら、誰にも見つからないだろう」

 

少しずつ音を立てて崩れていく瓦礫を横目に座り込む。

 

世界は救われた。

 

俺たちが救った。

 

これから先、救われた世界がどうなっていくのかは()()()()()()()()()()()

 

「まあ、いいか」

 

疲れた。

 

本当に、疲れた。

 

これで、ようやく俺の役目も終わりだな。

 

「ビリー。俺も、ようやくそっちに行けそうだ」

 

()()()()()()ちゃんと介錯したからか悪夢に魘されることこそなかったが、それでも仲間だったお前を助けられなかった俺を恨んでるだろうか?

 

「文句ならいくらでも聞いてやるから、酒でも用意してあたたかく迎えてくれよ」

 

ゆっくりと眼を閉じ最後の時を待つ。

 

「バウ!!バウバウ!!!」

 

と、聞きなれた犬の声が聞こえ閉じていた目を開く。

 

瓦礫だらけの走りにくいこの場所を速度を落とさぬままこちらに向かって走る黒い影が見えた。

 

「インターセプターか」

 

座り込んだ俺に駆け寄って来る相棒。

 

全く、あいつらに気づかれないように離れてこんな場所にいるというのに……本当に優秀な相棒だよお前は。

 

「俺に付き合う必要はないんだぞ?」

 

「バウッ!!」

 

離れる気は、ないのか。

 

そうか、お前は本当に忠犬だな。

 

思えばお前には何度も助けられたな。

 

こんな世界で()()()()()()()()()を知った時、お前の存在には本当に救われたんだぞ?

 

だからこそ、こんな俺の最後にお前を付き合わせるのは忍びない。

 

「頼みがある、インターセプター」

 

手袋を外し、武骨な手に嵌った指輪を外して紐を通してインターセプターの首にかける。

 

「バウ?」

 

「これまで放っていた俺が今更だとは思うんだがな、あの子に届けてくれないか?」

 

おいおい、そんな悲しそうな顔をするなインターセプター。

 

「すまない、インターセプター。こんな俺の代わりにあの子の成長を見守って欲しい」

 

何度もインターセプターの頭を撫でてやる。

 

「………バウ」

 

「行け!インターセプター!!」

 

こちらを何度も振り返りながら離れていく相棒の姿を見送る。

 

「本当に、俺にはもったいないくらいの相棒だよインターセプター」

 

今度こそ、目を閉じる。

 

「…………元気でな」

 

積み重なった瓦礫が崩れていく音が響くが、それも特に気にならない。

 

「思えば、長いようであっという間だったな」

 

この世界で生まれ、育ち。

 

ビリーと出会い、愛することの出来た女と出会い。

 

失って、思い出して、置いていった。

 

そこからは1人で、いやインターセプターと2人で生きてきた。

 

金さえ貰えれば何でもする暗殺者。

 

再び仲間、そう仲間と呼ぶことの出来る彼等に出会ってからはあっという間だった。

 

帝国が動き出したことは情報を集めるまでもなく、すぐに噂になっていった。

 

サウスフィガロでエドガー達を見かけたとき、原作が始まったことを知った。

 

マッシュとカイエンに出会い帝国陣地を突破して、魔列車を乗り越え。

 

サマサに行くことになった時はリルムやストラゴスに会うのが正直気まずかった。

 

魔大陸の時は置いて行かれないか不安だったが、あいつらは俺を信じて待っていてくれた。

 

崩壊した後の世界で力尽き倒れたときは、仲間達に助けられ。

 

その後はコロシアムで待つか悩んだが、己の力を磨く為にコロシアムに行き戦い続けた。

 

わざわざ俺を探し。迎えに来てくれた仲間達と世界を巡り、残りの仲間達と再会し。

 

そして、この瓦礫の塔へ来て……世界を救った。

 

 

「ティナ。平和な世界でならヒトとしての幸福も見つかるさ。諦めずに探し続けてみろ」

 

 

「ロック。今度こそ愛した女を幸せにしてやれよ。あと、さっさと元カノのことは振り切らないとセリスに捨てられるぞ」

 

 

「エドガー。女を口説くのはいいが王としての責務もしっかりな」

 

 

「マッシュ。身体を鍛えるばかりじゃなくて、エドガーを政務の面でも支えられるようにな」

 

 

「カイエン。若い連中を頼む。それと、お前も自分をいつか許してやってくれ」

 

 

「ガウ。ケモノとして育ったお前だが、ヒトとしての幸せをお前なら見つけられるさ」

 

 

「セリス。あの冒険家気取りがちゃんと元カノを振り切ったら、お前の応えを聞かせてやれよ」

 

 

「セッツァー。ファルコンでの空の旅、言葉にすることはなかったが楽しかったぞ」

 

 

「ストラゴス。俺が頼めた義理ではないが、リルムをこれからも頼む」

 

 

「モグ。俺のキャラではないので隠していたが、お前の存在は和んだし癒されたぞ。モルルとは仲良くな」

 

 

「ウーマロ。お前は何を考えてるのか正直よくわからなかったが、お前の力には何度も助けられた」

 

 

「ゴゴ。世界を救おうとした俺達をモノマネしただけだとお前は言いそうだが、世界を救えたのはお前がいたおかげだ」

 

 

 

「リルム。誰より、何より、幸せになってくれ。俺が願うのは、それだけだ」

 

 

 

ふと、身体が宙に浮いた。

 

塔が崩壊し、俺も落ちているんだろう。

 

インターセプターは仲間達の下に辿り着けただろうか?

 

まぁ、インターセプターなら大丈夫だろう。

 

あいつは優秀だしな。

 

インターセプターもこれまで俺に付き合って無茶をしてきたんだ。

 

これからは、リルムの所でゆっくりと過ごして欲しい。

 

 

 

あぁ、そういえば。

 

 

 

またリルムを置いて行く俺を、お前は怒るだろうか?

 

 

 

仕方のない人だと笑いそうな気もするが。

 

 

 

ビリーだけじゃなくて、お前とも話をしなきゃな。

 

 

 

久しぶりに会うんだ、語りたいことも沢山あるしな。

 

 

 

 

 

「あぁ…………俺はこの世界でシャドウとして上手くやれただろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ゼ……………ア…………だ………さい」

 

 

「どう…………ン……」

 

 

「……を………ポン………フ………こ……」

 

 

「…どい………ガ」

 

 

「…ぐに………を………ディア…………リア…………」

 

 

「わ………した………」

 

 

 

 

 




主人公→シャドウ(憑依)

ビリーに「介錯して」って言われた時に前世の記憶を思い出す。

「おま、俺がシャドウとかマジかー」ってなったが、原作とは違いビリーをしっかり介錯した。

その後は原作開始まで時々依頼を受けつつもフラフラと過ごす(娘がいることは覚えていたが、今更俺が会いに行く資格などないなとか考え会いには行かなかった)

原作開始した辺りで本気を出した。

具体的には、ゾドールのオークションで魔石を落札し、ツェンの町で魔石を盗賊から購入。

何か試行錯誤して魔石を装備、時間軸的にロック達より早く魔法を覚えた。

サマサの町からは基本原作通りに行動し、魔大陸で世界を崩壊させない為にケフカを本気で殺そうとしたが失敗する。

世界崩壊後も基本は原作通りだったが、合流後に片っ端から魔石を装備して覚えられる魔法は全部覚える。

(この暗殺者、魔法が本当に大好きだなぁ)とか仲間には思われてた。

「原作シャドウって、暗殺者とはいえ普段から黒の全身タイツに鎧ってダサくない?街中でもこの格好とか街の憲兵に通報されるだろ」とか思い、顔は晒さないが装備には気を使っていた。

世界を救い「おっしゃ原作やりきったぞー」って死のうとしたらまさかの異世界に転移した。



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001 夢 (はじまり)

読んでいただきありがとうございます!

お気に入り登録や感想もいただけて嬉しい限りです!!

仕事もあるので毎日更新とかは難しいですが、なるべく書いていこうと思います。




主人公(憑依シャドウ)の補足↓

・ビリー介錯時に前世の記憶を取り戻したが、それまでの記憶を失ったとかではなく『シャドウの人生+主人公前世』の状態。人格や魂が2つあるとかではない。

・主人公の前世は普通(?)のおっさん。ゲームもアニメも漫画も浅く広くって感じに楽しんでた人。

・前世での死因は、仕事からの帰宅途中に弟の元カノ(ヤンデレ)に弟と間違えられて刺された。




「久しぶりだな、クライド」

 

あぁ、久しぶりだな。

 

お前の声がまた聞けて嬉しいよ。

 

「全く、馬鹿だなクライド。世界を救ったんだ、家族と幸せに暮らしても誰も文句なんざ言わなかっただろうに」

 

それは、そうかも知れない。

 

だが…………許せなかったんだ。

 

俺は知っていた、知っていたんだよ。

 

帝国が世界征服に動くことも。

 

ケフカが帝国の実験で狂うことも。

 

幻獣が、ティナが帝国に捕まることも。

 

魔大陸が浮上することも。

 

世界が引き裂かれ、数えきれないくらい多くの人々が死ぬことさえもだ。

 

「後悔してんのかクライド?」

 

後悔か、しているに決まっているだろう。

 

帝国に忍び込んで厳重な警備をかいくぐり、ガストラとケフカを暗殺することは当時の俺の実力では無理だっただろう。

 

だが、それでもケフカを殺すチャンスなど幾らでもあったはずなんだ。

 

ドマに行くまでの帝国陣地で、その後だってそうだ。

 

魔大陸を浮上させる前に俺が命を懸けてでもガストラとケフカを殺し、レオ将軍にでも帝国をまとめさせるべきだったんだ。

 

講和会議の後であれば、バナンたちリターナーもフィガロも協力してくれただろう。

 

魔大陸でケフカを殺せてさえいれば、魔大陸が落ち世界が混乱することはあったかも知れないが、世界がそのまま引き裂かれることなどなかった。

 

俺が未来を変えられる可能性など幾らでもあったんだよ。

 

救える命があったのに、取りこぼしたんだよ俺は。

 

俺が、俺だけは未来を変えられたんだ。

 

「傲慢だな」

 

かもしれない。

 

それでも、俺は………………。

 

「だから、クライド。お前はまだこっちには来るな」

 

どういうことだ、何を言って。

 

「そのままの意味だ。世界を救ったんだぞ?ちょっとくらいご褒美があったっていいだろうさ」

 

だが、俺は!!

 

「じゃあ、こう言えばいいか?これはお前への罰だよクライド」

 

罰……だと。

 

「その通りさ。世界は救ったが、多くの人たちを救えなかったお前への罰だ」

 

……………………。

 

「だから、まあ…………生きろよクライド」

 

……………………………。

 

「あぁ、そうだ。お前に伝言を預かってんだ」

 

……………………………………伝言?

 

「一回しか言わないからよく聞けよ?」

 

 

 

 

 

「『暗殺者・シャドウとしてではなく、クライドとしての幸せを見つけて欲しい。戦うことばかりではなく、愛する人を見つけて、その人と家庭を作ってもいい。贖罪として死んだように生きるのではなく、貴方自身が幸せになってからこっちに来なさい。それで、リルムを置いていったこと……リルムを置いて1人で死のうとしたことは許してあげますから』」

 

 

 

 

 

「だとよ。愛されてんなクライド?」

 

…………………あぁ。

 

お前もそうだったし、仲間達もそうだった。

 

本当に、俺は身近な人に恵まれていたんだな。

 

「さて、そろそろ時間か」

 

もう、行くのか?

 

「伝言も伝えたし、俺もお前に言いたいことは言ったからな」

 

そうか。

 

「くれぐれもすぐにこっちには来るなよ?伝言を伝えた俺まで怒られそうだしな」

 

そうだな、わかったよ。

 

「じゃあ、またな相棒(クライド)

 

 

 

ありがとう、またな…………相棒(ビリー)

 

 

 

 

 

 




繋ぎの回なので短め。

サブタイトルはファフナー(無印)のパク…………リスペクトぉ!!

もちろん、妻は捏造設定。性格とか何時お亡くなりになったとかわからん。




※作者のやる気が絶好調になりますので

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次回もよろしくお願いします※


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002 覚醒 (めざめ)


読んでいただきありがとうございます!!

とりあえずは、更新はここまで。

明日からは仕事の合間とかにちみちみ書いていこうかな。




夢を見た。

 

懐かしくもあり、儚くもあり、悲しくもあった夢を。

 

あのまま夢の中で語り続けることが出来たのなら。

 

夢に浸り、堕ち続けられたら……それはどれだけ幸福だったのだろうか?

 

だが、夢は所詮夢でしかない。

 

あのドマ城で、俺はそれを学んだのだから。

 

カイエンは己の力不足で亡くした妻や子供と、もう一度過ごせるという幸福な夢を振り切った。

 

なら、俺も振り切らねば仲間達に笑われる。

 

そうだ。

 

生きろと言われた。

 

幸せになれと願われた。

 

それが、俺への罰であると戒められた。

 

ならば、俺はこの夢から目覚め生きなければならない。

 

友に、家族に託されたのだから。

 

 

 

 

 

 

「…………………知らない天井だ」

 

何処だここは?

 

身体を起こし、部屋の中を眺める。

 

掃除の行き届いた部屋、清潔な白いシーツ、微かに消毒液のような匂いもする。

 

病院のような医療施設に運ばれたのか?

 

「俺は、瓦礫の塔の崩壊に巻き込まれたはずだ」

 

瓦礫の塔から近い町と言えばアルブルグかツェンだろうが、こんな場所はあっただろうか。

 

思い悩んでいると扉が開く音が聞こえ、そちらに視線を移すと長い銀色の髪をした少女が入ってきた。

 

彼女はこちらを見るとわずかに驚いたように表情を変えたが、すぐに表情を正した。

 

「ご気分はいかがですか?」

 

「…………悪くはない」

 

彼女は俺に近寄り脈を測り、幾つか簡単な質問をしてきたので返していく。

 

「申し遅れました。私はアミッド・テアサナーレ。ディアンケヒト・ファミリアに所属している治療師(ヒーラー)で、今回貴方の治療を担当させていただいております」

 

ご丁寧な自己紹介だが、ディアンケヒト・ファミリア?なんだそれは。

 

「そういえば、お名前をまだ伺っていませんでしたね」

 

名前、名前か。

 

あんな夢を見た後だからか、今まで名乗っていたシャドウを名乗るのは何か違う気がしてしまう。

 

しかし、まだ俺はかつての名であったクライドを素直に名乗れるほど…………切り替えられない。

 

さて、どうしたものか。

 

「俺は……………」

 

俺が答えに窮していると再び扉が開いた。

 

「やっほー!!あら?目が覚めたのね貴方!!」

 

「アリーゼ、他の人の迷惑になるから大きな声を出すのはやめた方が」

 

騒がしく部屋に入ってきたのは大きな声を出している活発そうな赤毛のポニーテールの少女に、神経質そうな声で注意をするマスクで顔を隠した耳の長い金髪の少女。

 

そして、何だこいつは?

 

胡桃色の長い髪を持つ驚くほど見目の美しい女性。

 

ぱっと見た感じ美しいだけの女にしか見えないが、俺の勘がそれを否定している。

 

いまもアミッドと名乗った少女から静かにするよう注意を受けている2人を微笑ましく眺めているが……目が合ったな。

 

俺の視線に気づいたのか?まあいい。

 

「そこの胡桃色の髪をした女」

 

美人ではあるが、何処か得体のしれない雰囲気を持つ女に問いを投げる。

 

「お前は、何だ?」

 

「貴様っ!アストレア様に向かって何と無礼なっ!!」

 

俺の言葉に金髪の方が何やら喚くが無視、視線は得体のしれない女から外さない。

 

「私はアストレア。アリーゼやリュー達の主神をしている神よ」

 

アストレアと名乗った女はその表情から笑みを消すことなく、そう答えた。

 

………………は?

 

「………………神、だと?」

 

髪ではないし、紙でもないよな。主神って言ってるし。

 

金髪の方は様付けしてたし、本当に神なのか?

 

確かに、この女はかつて戦った女神のように美しい姿をしているが………待て。

 

「正義と天秤を司る女神がアストレアという名だったはずだが」

 

前世がてんびん座だったから調べたことがあったが、ギリシャ神話の神だった気がする。

 

「ええ。そのアストレアよ」

 

神を名乗る不審者か?しかも前世の世界の神と同じ名前とはどういうことだ。

 

幻獣の中にはシヴァやラクシュミ、オーディンといった前世の世界の神話に出て来た神と同じ名前を持つ者もいたが。

 

この女も幻獣なのか?しかし、ケフカ亡き後は幻獣たちは世界に溶けていったはずだし、この女からは幻獣の気配もしない。

 

本当にどういうことだ………。

 

「いいのよリュー、私は気にしてないから」

 

「し、しかし!!」

 

2人の声にハッとする。

 

気が付けば警戒を解いて考え事をしていたらしい。

 

こんな得体のしれない雰囲気を持つ者を目の前にして警戒を解くなど、このアストレアという神を名乗る女性の雰囲気がそうさせたのだろうか?

 

「ねぇ!ところで貴方は何者なのっ!?」

 

………………俺が言えたことではないが、この雰囲気の中でよくそんな台詞が吐けるな。

 

「まだ貴方から名前を聞いてないってアミッドから聞いたわ!」

 

ふふんってドヤ顔してるが、空気を読むということをしないのか?

 

「アミッドもリオンだって気になってるでしょ?全身血だらけのすっごい怪しい恰好で倒れてたから闇派閥(イヴィルス)かと思ったけど、確認しても恩恵もなかったし」

 

まぁ!私の勘は悪い人ではないって感じたから大丈夫だと思ったけどね!!とか自信満々に言ってるが、怪しい恰好した血だらけの男を大丈夫と思う勘を疑えよ。

 

「私はアリーゼ・ローヴェル。アストレア・ファミリアの団長でLv.4、二つ名は『紅の正花(スカーレット・ハーネル)』よ」

 

「この娘はリュー・リオン。私と同じアストレア・ファミリアの団員でLv.4、二つ名は『疾風(しっぷう)』ね」

 

赤毛の方がアリーゼで金髪の方がリューね、それはともかく二つ名とかファミリアって何だ?

 

「さあ!今度は貴方の番よ!!」

 

テンション高いなこいつ。

 

ふむ、答えるのは別にいいんだが………。

 

「答える前に幾つか聞きたいことがある」

 

どうも何か違和感というか齟齬のような物を感じるんだが、気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、アストレア・ファミリアが存在してるってことは原作前でございます。

時間軸は次回明かす予定。

二次創作は初めてなんですが、原作キャラの口調とか台詞の回し方とか難しいなぁ。






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003 確認 (ちがい)

読んでいただきありがとうございます!!

お気に入り登録や評価、感想めっちゃ嬉しいです!!!

何とか更新出来ました。


さて、彼女達に幾つか質問をしていた訳だが。

 

「ナルシェ、フィガロ、ゾゾ、サマサ、これらの地名に聞き覚えは?」

 

全員に首を横に振られる。

 

「ガストラ、ケフカ、こいつらの名前を聞いたことは…………なさそうだな」

 

ガストラの段階で首が横に振られた。仮にも皇帝だったのになあのジジイ。

 

これは、まぁ何というか、流石に予想してなかったというか。

 

全くもって意味がわからんぞ。

 

いや、そもそも俺自身が意味のわからん存在なのだから、こういう事態が起こっても不思議ではないのか?

 

「アストレア、最後に確認したい」

 

いや、主神を呼び捨てにしたくらいでこちらを睨むなよ金髪()()()

 

こっちは仲間達と神を殺した事もあるんだ、今更神なんて敬えないんだよ。

 

「神、すなわち超越存在(デウスデア)と呼ばれるお前達に下界の子の嘘は通用しない。たしかそのような話もあったと思うが、事実か?」

 

「どうしてそんな事を聞くのかはわからないけど事実よ」

 

間違ってて欲しかったんだがなぁ、一応確認をしておくか。

 

「俺は()()()()。俺はいま嘘を吐いたか?」

 

さて、どうだ。

 

「神として貴方が嘘をついたのはわかったけど、この確認に何か意味があるのかしら?」

 

なるほど、俺も下界の子として()()されていると。

 

オラリオ、バベル、神、ファミリア、その他諸々っと。

 

本当に何でこんなことになったのか、これがわからない。

 

これまでに聞いた話をまとめていくと…………これは確定なのか?

 

顔を上げここにいる4人、正確には3人と1柱を見渡す。

 

全員不思議そうな顔をしているが、俺が何故このような質問をしたのか理解出来ないのだろう。

 

まぁ、こいつらにとっては神に嘘が通じないのは常識ではあるから仕方ないか。

 

流石に細かくは()()()()()()()し、アストレアという神が()()()()()()のかすら知らないが、仮にも正義を司る神というなら信用しても構わないだろう。

 

「アストレア、これから俺が話す内容に嘘が含まれていたら指摘して欲しい」

 

そうだな……まずは、前提から話していくか。

 

()()()()()()()()()()()()()()。俺の言葉に嘘はあったか、アストレア?」

 

アストレアの顔色が変わったな、他の連中も驚いてはいるようだ。

 

「では、続けるぞ?」

 

「先程も言ったが、俺はこの世界の人間ではなく、元々は別の世界で生きていた」

 

「その世界は滅びの危機を迎えていたが、それに抗う者たちもいた」

 

「そいつらと共に滅びの元凶となる存在を倒し世界を救った」

 

「世界を救った後、死を選んだつもりだったのだがな…………気付けばここで寝かされていた」

 

「まぁ、俺の事情はそんな所だ」

 

おい、沈黙が痛いんだが?何か反応しろよ。

 

アストレアの方に視線を向ける。

 

「…………彼の言ったことに嘘はなかったわ」

 

反応してくれたのは嬉しいが、そうじゃない。

 

もう少し、こう…………何かあるだろ。

 

赤毛ポニーテールと金髪エルフ、銀髪ヒーラーの方を見てみる。

 

赤毛ポニーテールが顔を伏せて震えてんだけど?

 

「……………すっ………」

 

あん?

 

「…………ごい………………す………ごい………」

 

お前、どうした?

 

「すっっっっごいわね!!つまり、貴方は世界を救った【英雄】ってことでしょ!!!!!!」

 

うるさ、声でかすぎんだろ。

 

あと目をキラキラさせながらテンションをいきなり上げるな。

 

本当に、何なんだこいつ……。

 

「だってそうでしょ?仲間と一緒に世界を救ったなんて【英雄】以外の何者でもないじゃない!!」

 

あぁ、そういう類の奴かこいつは。

 

きゃいきゃいと騒いでいる赤毛ポニーテールをつい冷めた目で見てしまう。

 

【英雄】、【英雄】か。

 

「ねっ!アストレア様もリオンも聖女ちゃんも、そう思うでしょ!?」

 

………………それだけは、ありえない。

 

「違うな」

 

思ったよりも低い声が出た。血を吐くような、低く悔いたような自分の声。

 

仕方ないか。

 

これだけは、否定しなければならない。

 

「勘違いをするな。赤毛のお前はローヴェルだったか?俺は【英雄】なんて呼ばれる存在ではない」

 

【英雄】と讃えられるべきは、俺ではなく仲間達だ。

 

「金さえ払われるなら、誰の、どんな依頼でも受けた暗殺者で」

 

俺が【英雄】だと?そんな事認められるわけがないだろう。

 

「世界を救うことになったのも、成り行きに過ぎず」

 

俺が【英雄】だというなら………。

 

「俺は個人的な理由で世界を救おうとしていた奴らに同行しただけ」

 

何故、世界が引き裂かれることを防げなかった?

 

何故、引き裂かれた大地に落ちた者たちを救えなかった?

 

何故、死ぬ必要のない者が数え切れぬほど死んだんだ?

 

「それで結果的に世界が救われた、それだけだ」

 

あぁ…………そうだ。

 

「人を殺し続けただけの俺が【英雄】なわけがないだろう」

 

 

 

 

 





この主人公、実は原作シャドウよりこじらせてたり。

ちなみに、ケフカに止めを刺したのはこいつ。

暗殺者として殺しはいっぱいしたけど、罪悪感や義務感から殺したのはケフカだけだったりする。

ビリー?あいつは愛で殺したよ。


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004 孤独 (なみだ)


読んでいただきありがとうございます!!

お気に入り登録や感想・評価もありがとうございます!!!

起きてマイページ開いたらバーが赤くなってて驚き…。

ランキング見たらルーキー日間のめっさ上の方に見たことあるタイトルがあって思わず3度見しました。

本当にありがとうございます!!



仕事倒したので、今日も更新出来ました。

明日?うん……がんばる。



「言い過ぎた、のだろうな」

 

来客の去った部屋に1人、つぶやきが落ちる。

 

アストレア達3人はファミリアのホームへ、テアサナーレは仕事へとそれぞれ戻っていった。

 

念の為、俺の話を他言することないよう頼んだ。

 

アストレア達からは「異世界の人間とか他の神に知られたら大変なことになるに決まっているから話せる訳がない」、テアサナーレは「患者の個人情報を漏洩するようなことは治癒師の矜持にかけてしません」と言っていたから大丈夫だろう。

 

薄暗くなりつつある部屋の窓から外を覗いてみれば、高い壁に囲まれた街並みが見える。

 

ローヴェルに対して吐いた言葉は、俺にとっては間違っていない。

 

俺が【英雄】なんぞに相応しくないのは確かだが、そんなことはローヴェル達には関係ない。

 

知らぬ者が聞けば、仲間達と俺のやったことは間違いなく【英雄】と呼ばれるに相応しい偉業だろう。

 

世界は救われたのだから、救った者達は【英雄】と呼ばれる。

 

理屈はわかる。理解も出来る。だが、納得は出来ない。

 

「それは、俺の都合だな」

 

そもそも奴らには詳細まで話してはいない。

 

世界が滅びそうになった理由も、元凶となった存在が()()()()()()であったのかも説明していない。

 

なのに、あれでは八つ当たりだ。

 

「何をしているんだろうな」

 

どうも仲間達と旅をしていた時とは違い、感情を上手く制御出来ていない気がする。

 

ケフカを無事に殺せたから気が緩んでいるのだろうか?

 

たしかに、自分の役目を果たすことが出来たことで張り詰めていた糸が切れたような、楽になったような感覚はある。

 

それとも、()()()()()()()()()()()せいだろうか?

 

「まぁ、考えても仕方のない事だな」

 

窓から離れ、ベッドへ腰を下ろす。

 

考えなければならないことは多くある。

 

前の世界のこと、この世界のこと、俺自身のこと。

 

そう、多くあるんだが……。

 

「シャドウ、か」

 

部屋から去る彼女達に名を聞かれた際に、当たり前のように俺はこの名を名乗った。

 

暗殺者(シャドウ)

 

偽物(シャドウ)

 

愚者(シャドウ)

 

俺はこの名前にどういう意味を込め彼女達に名乗ったのだろう?

 

本当の名前(クライド)を名乗っても別によかっただろうに。

 

「難しいものだな、ただクライドと名乗るだけのはずなのにな」

 

素直になるだけというのに、それさえも出来ない。

 

「クライドとして生きて、幸せになって欲しいか」

 

なんともまぁ、どうしていけばいいかわからないな。

 

異世界に1人、俺を知る者など誰もいない。

 

なのに、自分の本当の名前を名乗ることさえしようとしない。

 

こんな俺を見たら、仲間達は何というだろうな?

 

「マッシュは『何を難しいことを考えてんだ!そんなのシャドウの好きにすればいいだろう!!』とか笑い飛ばしそうだ」

 

あいつは脳筋だが、こういう時は率先してこんな空気を壊してくれていたな。

 

「モグは『クポ~!?』とか叫びながらそこらを慌てたように走り回りそうだ」

 

そんな様子のモグを仲間達で眺めながら…………そうか。

 

「……………………あぁ」

 

この世界に、お前たちはいないんだな。

 

もう、お前たちに会うことはないんだな。

 

お前たちに救われることも、お前たちを救うことも、出来ないのか。

 

「1人で死のうとしてたクセに、なんとも都合のいいことだ」

 

二度と会えなくなることなど、覚悟していたはずなのに。

 

「弱いな、俺は」

 

死ぬことは平気だったのに、仲間達に会えないことがこんなにも……。

 

「さみしい、なんてな」

 

あぁ…………なんとも俺らしくない。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「失礼します。シャドウさん………どうかされましたか?」

 

テアサナーレか。扉が開けられる音どころか、声をかけられるまで気付かなかったとは。

 

「食事をお持ちしたのですが、ノックをしても反応がありませんでしたので」

 

灯りも点けていないみたいですし、と言われてもな。

 

「魔石灯だったか?それの扱い方を知らないからな」

 

そんな怪訝そうな顔をするな、説明しただろうが。

 

「そういえば、シャドウさんはそういう事情をお持ちの方でしたね」

 

テアサナーレが使い方を教えてくれた。使い方は簡単だった。

 

似たような物を使ったことがあるな。

 

こういう道具の使い方はどんな世界でも共通なのだろうか?

 

まあ、ヒトとして姿や形が変わらないなら道具にも共通点が出るのだろう。

 

「感謝するテアサナーレ」

 

「出来ればテアサナーレではなくアミッドと呼んで下さい。そちらで呼ばれるのは慣れていないので」

 

そうなのか?テアサナーレよりアミッドの方が呼びやすいから助かるが。

 

「何か言いたいことでもあるのか?」

 

「いえ…………その…………」

 

何やら言い辛そうに俺から視線を外した。

 

しばらくして、彼女は恐る恐る口を開いた。

 

「シャドウさんが、泣いていらっしゃるように見えましたので」

 

………………………そうか。

 

「気のせいだ」

 

「そう、でしょうか?」

 

表情がほとんど変わらない彼女だが、それでも読み取れることはある。

 

アミッド、お前はきっと優しい人間なのだろう。

 

俺の過去を聞いて、何かが彼女の内面に引っかかったのかも知れないが。

 

お前がそんな辛そうな顔をする必要はない。

 

「あぁ………気のせいだ、アミッド」

 

一応は納得したのか、それ以上は言及することなく食事の準備をしていくアミッド。

 

「神アストレアが来る前の問診では食べられない物はないと聞きましたが、食べられそうですか?」

 

並べられた食事は麦粥を中心とした病人食といったものか。

 

「大丈夫だ。聞いた感じ食事などの基本的な文化は前の世界とそう変わらないと思う」

 

無論、神が普通にうろうろしている時点で、神の扱いなどの常識はかなり異なりそうだが。

 

話を聞く限り、前の世界と文明の発展具合などはあまり変わらないように感じる。

 

「いえ、ここに運ばれて来た際は生きていたのが不思議なほどの重症で、治療をした後も3ヶ月近く意識が戻らなかったのですよ?それに、普通は意識が戻っても筋力が落ちて自力で起きるのは難しいはずなのに、普通に1人で起き上がりましたし。問診や検診でも身体に異常が発見できなかったのが不思議で……異世界の方は、そういう身体をしているのですか?」

 

それは、問診のときに言うべきだったのでは?

 

いくら異世界人だからって、同じヒトなのだから身体の構造や強度などは基本的に同じだと…………いや、ちょっと待て。

 

そういえば、セリスは世界崩壊後に1年間意識が戻らなかったのに、起きた後はすぐに生きる気力を失くしていたシドの為に浜辺に行き、魚を取って食わせて元気にさせたとか聞いたぞ。

 

それに俺も獣ヶ原の洞窟で大怪我を負ったが、怪我がある程度治ったらすぐにコロシアムまで行って仲間達が来るまでひたすら戦ってたわ。

 

おや?これは否定出来ない気がしてきたぞ。

 

…………どう答えるべきなんだこれは。

 

どうなんです?という顔でこちらを見てくるアミッドをよそに、俺は用意された食事に手を付けた。

 

味付けは、病院食らしく薄味ではあったが美味しかった。

 

そんな俺を「いいから答えろ」という顔でアミッドは見てくるが、どうしたものか。

 

 

 

 

 




こじらせシャドウはこの辺にして、そろそろ話を動かしていく予定(未定)。

FF6を大人になってまたやったときに

崩壊後の世界であんな美人(セリス)が昏睡してんのに、本当に何もなかったのか?

シドが頑張って守ったのか、そんなことを考える余裕もないくらい絶望していたのか?

そんなことが気になってしまった。

素直に違和感を覚えずやってた子供の頃を懐かしく感じたり。

まぁ、戯言。





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005 前世 (かこ)

今回も読んで頂きありがとうございます!!

お気に入りへの登録、評価、感想…本当に嬉しいです!!

ランキングに名前見かける度に「は?」ってなる。

皆様に本当に感謝しかないですわ。。。




仕事に負けなかったので、何とか更新。


意識を取り戻して数日が経ち、アミッドから退院の許可が出た。

 

退院の許可が出たとはいえ、俺はこの世界の金など持ってはいないのでこれまでの入院費用が払えない。

 

さてどうしたものかと思っていたら、アストレアから今後の事を話したいと言ってきたので、この数日ですっかり見慣れた病室でアストレアが来るのを待っていた。

 

「ついこの間まで世界を救って死ぬことばかりを考えていたのに、人生とはよくわからん物だ」

 

軽く振り返るだけでも、俺の人生は意味不明だった。

 

子供の頃、初めてやったRPGは『Final Fantasy VI』であった。

 

親に連れられていった中古のゲームソフトを扱う個人ショップ。

 

その店で無造作に積まれていた中古ソフトの中から偶然俺が引き抜いたのが『Final Fantasy VI』で、親に買って貰いウキウキしながら家に帰って早速プレイした。

 

家で留守番していた弟は「兄ちゃんだけにゲームソフト買うなんてズルい!」とか騒いでいたが無視した。

 

初プレイは衝撃だった。

 

重苦しい雰囲気の中から現れるタイトル、子供だった自分にはまだ理解出来なかったが、何か大変なことがあったんだろうなと思わせるプロローグ。

 

殻に攻撃しては反撃をくらい全滅し、爆裂拳がわからぬと全滅させ、蛸にジジイだけが蹴り殺され全滅する。

 

何度も全滅をさせながら物語を進めたが、戦闘だけでなくギミックの進め方がわからない事も多かった。

 

野生児に肉を与えず何度も殴り倒し、獣ヶ原をひたすら歩き回った。

 

ゾゾの住人の嘘に騙され、ジェイソンにはなることは出来ず。

 

私の声は届いていませんと、台本に気付かずオペラは何度も失敗させた。

 

魔大陸ではシャドウを置き去りにし、シドにはまずい魚を食わせセリスは崖から飛び降りた。

 

セッツァーとダリルの回想から海面を突き破り現れるファルコン号、新しいフィールドBGMにテンションがガン上がった。

 

そのテンションのまま飛び回ってたらデスゲイズに全滅させられ、すぐに萎えた。

 

仲間を求めて、デスゲイズに遭遇しないよう祈りながら世界中を飛び回った。

 

覚え方がよく分からなかった青魔法士のジジイを見つけたが無視され。

 

犬は見つけたが飼い主はいなかったし、モルルからのお守りは落としたままだった。

 

首長恐竜のアルテマで全滅し、かつての仲間は全員見つけられず、レベルの足りないまま瓦礫の塔に向かい、行き詰まった。

 

そこで、挑戦することを辞めてしまった。

 

赤やら緑に青が追加されたモンスターにボールを投げつけるゲームのが楽しくなってたり、デジタルなモンスターは学校から帰るとよく墓になっていたが何故か何度も育てた。

 

そうして、何年か経ったある日。

 

偶然友人の家で攻略本を見つけ、それを借りることが出来たので俺は最初からやり直すことにした。

 

友人はご丁寧に裏技まで教えてくれたので、攻略本と裏技で前回と違いサクサク物語を進めた。

 

敵からの物理攻撃か魔法攻撃のどちらかを1ダメージにして、ボスのほとんどはバニシュ→デスで葬った。

 

おどりや青魔法の種類を増やし、野生児はひたすら飛び込ませた。

 

魔大陸ではシャドウを待ち、シドにはうまい魚をひたすら食わせ、崩壊した後の世界ではさっくりデスゲイズをバニデスして仲間を探した。

 

世界中をファルコン号で飛び回り仲間を見つけ、武器と防具を揃え、魔石を集めた。

 

存在すら知らなかったウーマロとゴゴを仲間に加えた。

 

砂漠を歩き回り、口が赤いデカいミミズモドキにデジョンを叩き込み、サボテンダーを殴って魔法を全て覚えさせ、恐竜どもを絶滅させる勢いで狩まくりレベルを上げた。

 

そして、育て上げたパーティーで瓦礫の塔に突入し……ついに、エンディングを迎えることが出来た。

 

攻略本込みとはいえ、過去の自分が諦めた物を乗り越えたあの時の感動は忘れられない。

 

それからも数年おきに最初からエンディングまでプレイしたり、絶対に自分でやろうとは思わないが最少歩数、最少戦闘回数の動画を漁る程度には思い入れのある作品となった。

 

社会人になってからもそれは変わらず、その時期に話題になったアニメを流しながらケフカをしばいた。

 

そして、俺は死んだ。

 

死因は包丁で刺されたことによる失血死。俺を刺したのは何度か家に来た事もある弟の昔の彼女だった。

 

『間違えた間違えた間違えた。この人はあの人じゃない、あの人じゃないのに刺してしまった。私は悪くない、私は悪くなんかない。あの人によく似ているお義兄さんが悪いんだ……』

 

これが、死ぬ間際に聞いた言葉。

 

「弟と俺は全然似てねぇよボケぇ!刺す前に確認しろや!!思い込みが激し過ぎて警察沙汰引き起こしまくったせいで弟と別れることになったんやろお前は!!!!」と叫びたかったが、喉から溢れてくる血のせいで叫ぶことは出来ず、そのまま死んだ。

 

死んだはず、だった。

 

「血だらけのビリーを前にして、俺は前世と呼ぶべき記憶を思い出した」

 

殺してくれと嘆願するビリーを前に、泡のように浮かび上がる前世の記憶と混ざり合っていくクライドの記憶。

 

クライドの記憶にある地名や出来事と重なっていく前世の知識。

 

弟の元カノに刺され、死んだはずの俺が何度もプレイしてきた『Final Fantasy VI』の知識がこの状況が何なのか、未来の俺がどうなるのかを押し付けて来た。

 

死を懇願する親友にして相棒が、狂いそうになるほど溢れる前世の記憶や知識が、逃げ出す事を許さなかった。

 

「そして、俺は…………クライド(シャドウ)となった」

 

気が付けば、泣きながらビリーを抱きしめ……命を奪った。

 

ビリーは、原作とは違い恨み言など漏らさず、俺に感謝の言葉すら述べて、死んだ。

 

その後、ゲームの物語が始まるまで……そして、始まった後もシャドウである為に生きた。

 

生きて、生きて、失敗して、失敗して、世界を救うことだけは成功した。

 

「それで、死のうとした結果がこれか」

 

死んだ後はゲームの世界で、死ねなかった後はアニメだかラノベの世界とは、何の因果なのか。

 

神、バベル、オラリオ、ファミリア。

 

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』

 

たしか、そんなタイトルだったはずだ。

 

『Final Fantasy VI』をプレイしながらアニメを流していただけで、内容はあまり覚えていない。

 

ロリで巨乳な青い紐の神と、初恋拗らせた天然女たらしの兎みたいな少年が出て来るということ。あとは多少の設定くらいだ。

 

原作知識があればとは思わなくもないが……それで何度も失敗しているんだ、むしろない方がいいのかもな。

 

どっちにせよ、友と家族に生きろと言われたんだ。

 

「なら、今度は俺は足掻くよ………仲間達にも顔向け出来ないからな」

 

顔を上げる。

 

「……………来たか」

 

扉がノックされアストレアとリオンだったか?マスクで顔を隠した金髪エルフが入って来た。

 

アストレアは相変わらず柔和な雰囲気を漂わせ、リオンは何やら眉間に皺を寄せた厳しい表情をしている。

 

「待たせたかしら?」

 

「いや、大丈夫だアストレア」

 

リオンの眉間の皺が深くなったが……まぁ、どうでもいいか。

 

話し合いがしたいと言って来たのはアストレアだし、俺もアストレアに用がある。

 

リオンを気にしても、話がややこしくなるだけだ。

 

「単刀直入に言おう、アストレア」

 

さて、何と返して来るだろうな。

 

「俺を雇う気はあるか?」

 

 

 

 

 

 




モグタン将軍を初めて知ったときは衝撃的でしたわ。

最少歩数……飛空艇バグ……終了間際に再走確定……うっ、頭が。

FF6のあのRTA配信動画を見たあと、しばらくドアタイマーの「がこっ」が頭から離れなくなったのは私だけでしょうか。




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006 提案 (はなしあい)


いつも読んでいただきありがとうございます!!

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昨日は仕事が倒せなかったので朝投稿…次は負けない。


「俺を雇う気はないか?」

 

その言葉に反応を返したのは、アストレアよりもリオンの方が早かった。

 

正確に言えばアストレアがリオンに何やら譲ったようにも感じたが、何を考えているんだろうなこの(おんな)は。

 

「何をふざけた事を!自分を人殺しだと言った人間を正義の眷属《アストレア・ファミリア》が雇う訳ないだろう!!」

 

「アストレア様もアストレア様です!やはりこんな男を気にかける必要などなかったのです。ガネーシャ・ファミリアに今からでも引き渡しましょう!!」

 

いや、どんだけ俺のこと嫌いなんだお前。

 

ガネーシャ・ファミリアって都市の憲兵みたいなことをやってる所だろ?俺はこの都市ではまだ何もやっていないぞ。

 

好かれてはいないとは思っていたが、俺が自分を人殺しだと言ったのがそんなにも気に入らないか。

 

まぁ、金の為に暗殺者をやっていた人間を気に入る奴のが珍しいとは思うが。

 

何というか……潔癖過ぎるな。

 

「自身の感情だけで他人を否定するのは()()()()()()()()()()()()()()が、この場は俺とアストレアの話し合いの場のはずだ、邪魔をするな、黙っていろ」

 

「貴様のような者が正義を語るなっ!!!!」

 

「お前が俺の何を知っている?人殺しは正義が語れない側だと決めつけるのが()()()()()か?」

 

「っ!?」

 

おいおい、視線に殺意を混ぜるな。

 

マスクしてるからわかり辛いけど、耳まで真っ赤にして怒るなんて流石にちょっと煽り耐性が低すぎないか?

 

正義の眷属(アストレア・ファミリア)をやっていれば罵声や嘲笑なんぞ散々受けているだろうに。

 

まぁ、それはともかくだ。

 

「アストレア、話し合いをする気がないなら帰れ。それとも、俺を不快にさせることが今日の目的だったのか?」

 

アストレアに視線をやれば困ったような顔をしているが、知らん。

 

「あまりうちの眷属(むすめ)をイジメないで欲しいのだけど?」

 

「このエルフが俺と相容れないのはお前もわかっていたはずだ。それなのにこの場に連れて来たお前の落ち度だ」

 

溜め息をつくな、こっちが溜め息をつきたいくらいなんだ。

 

「それで、何故私達に雇って欲しいと?」

 

「この男の話をお聞きになるのですかアストレア様!?」

 

「リュー、私は彼と話をする為にここに来たの。貴女は自分から今日は私の護衛をすると言ってついて来たはずよね?護衛の役割は、彼と言い争いをすることなのかしら?」

 

意外だな。雰囲気からして甘やかしていると思ったが、締める所はしっかりと締めているのか。

 

「1つ訂正をするぞアストレア。俺はお前達アストレア・ファミリアに雇って欲しいとは言っていない。お前に俺を雇う気があるか聞いたのだ」

 

そう、これはファミリアではなくアストレア個人(神だから個神になるのか?)に対する提案だ。

 

「まず前提としてだが、決してお前のファミリアに入りたいという話ではない」

 

正義を掲げる気などないし、女しかいないファミリアに入りたいとか誰が思うか。

 

「ここ数日アミッドから都市について色々と聞いてな。1年半ほど前の『死の七日間』と最近呼ばれ始めた闇派閥(イヴィルス)との大抗争で、多くの闇派閥(イヴィルス)所属のファミリアを壊滅させたが全て壊滅出来た訳でもなく、残党が地下に潜ったとな」

 

苦い記憶だったのか、アストレアは表情を消し、リオンは顔を伏せた。

 

「地下に潜った闇派閥(イヴィルス)は『死の七日間』ほどではないが未だ活動を続けており、お前達アストレア・ファミリアも対応に追われている、とな」

 

アミッドの話をまとめると、闇派閥(イヴィルス)というのは特に思想を持たないテロリストのような存在なのだろう。

 

ああいうのは表に出て来て暴れてくれている間は対処しやすいが、一度地下に潜られると途端に動きが掴みにくくなる。

 

俺も昔FF6の物語が始まる前にリターナーの本部を探し、リーダーであるバナンを暗殺して欲しいと帝国から雇われ失敗した事があるから、地下に潜った連中を探すことの難しさはよくわかる。

 

原作知識としてコルツ山に本部があることは知っていたが、いざ原作知識を使わずに探してみたら碌な情報すら集まらなかった。

 

まぁ、その経験から情報の集め方や怪しい場所の目星の付け方などを学び……後々リターナーの支部を見つけて帝国から報奨金を貰える程度には成長した。

 

闇派閥(イヴィルス)を探り情報を提供する。提供した情報はアストレアの好きにするといい。アストレア・ファミリアで処理してもいいし、他のファミリアに売り払ってもいい。あと、アストレアが頼むとは思わないが……暗殺も請け負う」

 

暗殺と聞いてまたリオンからの視線が強くなったが……まぁ、無視。

 

「さて、こんな所だが……俺を雇うかアストレア?」

 

リューはこんな男の提案など断って当然です!と言った顔でアストレアを見ている。

 

アストレアなら俺の提案を断らないと思っているが……どんな答えを出すか楽しみだ。

 

「1つ、聞いてもいいかしら?」

 

「ア、アストレア様!?何故ですか!!」

 

暗殺も含むという俺からの提案を断らなかったことに驚くリオンにアストレアは視線を向け口を閉じさせる。

 

「何故、私のファミリアに雇われるではダメだったのかしら?」

 

なんだ、そんなことか。

 

「お前のファミリアが()()()()()()()()からだ。アストレア、お前ならこの意味がわかるだろう?」

 

『死の七日間』で闇派閥(イヴィルス)の幹部のような者を倒したアストレア・ファミリアは民衆からは正義を掲げ、都市と民衆を救った誇り高きファミリアであると認知されているらしい。

 

それはそれで素晴らしいと言えるだろうが、ここに問題が出る。

 

正義を掲げるということは、正義に縛られるということでもある。

 

正義であるからこそ、正義の眷属(アストレア・ファミリア)は正義ではない行動が取れない。

 

正義に反する行動は、自分達と民衆を裏切る行為になる。

 

民衆というのは面倒な生き物だからな。裏切られたと知ったときは特に面倒になる。

 

そこで俺を雇えば何が出来るのか、もし俺を雇っていることが周囲に露見した場合はどうするべきか……それがわからないほどアストレアは愚かではない。

 

「………わかったわ。シャドウ、貴方を私は雇いましょう」

 

多少悩んだようだが、アストレアは俺の提案を受けた。

 

受けたんだが……そこで言葉は終わらなかった。

 

「ただし、条件があるわ」

 

条件?俺の行動に首輪でも着けたいとかか?

 

まぁ、よっぽど面倒じゃなければ受け入れてもいいが。

 

「私の眷属との模擬戦。相手は………リューと戦ってもらおうかしら」

 

 

 

 

 




意図せず地雷を踏み抜いて行くスタイル。
主人公は死の七日間辺りで何があったのか詳しく知らないから仕方ないね(暗黒微笑)
リューをちょっと潔癖な性格にし過ぎたかな?とか思ったけど、仲間を失う前で死の七日間を乗り越えたリューならこんな感じもありそうって事で。

問…リューさん何でこんなに主人公に噛み付くの?嫌いなの??
解…嫌いだし色々と認められない存在。職業・暗殺者ってだけでも厳しいのに、リューからは世界を救ったことを後悔しているように見えてる。あと、自分の主神であるアストレアを敬わないから。
なお、ケフカの存在など真実を知ったら自分の今までの言動で曇る。

問…主人公の転移の時間軸、なんで死の七日間より前にしなかったの?
解…静寂も暴食も1人で倒せそうだし、闇派閥も容赦なく殺していくので全体の犠牲者は減るけど冒険者達のレベルが上がらないし+原作5年程前にすればとある金髪少女がリルムとほぼ同じ年齢になるので。

問…実際、主人公をアストレアが雇うと何が変わるの?
解…二元論が堕天奈落になる。



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007 準備 (ちょうはつ)


いつも読んでいただきありがとうございます!!

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昨日は仕事に負け、お布団に負けと連敗しました。

なので、今日は2話投稿しようと思うのでよろしくお願いします。




「それじゃあ2人とも!模擬戦をやる準備は大丈夫かしら!!」

 

審判は私がやるから!と叫んでるが、これはツッコミ待ちなのだろうか?

 

「何故、ローヴェルがここにいる?」

 

俺の前には、満面の笑みを浮かべたローヴェルと、どこか違和感のある笑みを浮かべた和服のような服装の黒髪の女。

 

俺の横には、そんな2人を苦笑いを浮かべ眺めるアストレア。

 

少し離れた所には目を閉じ精神統一をしているリオンがいる。

 

リオン以外のファミリアの団員はダンジョンや都市の巡回に行っているとアストレアから聞いたはずなんだが。

 

先に行くと言って俺やアストレアと分かれたリオンが呼んだのか?

 

というか、隣にいる娘は誰だ?お前と一緒にいるということはアストレア・ファミリアの団員か?

 

「この場所で面白いことが起きるって私の魂がささやいたのよ!!あと、この娘は輝夜!うちのファミリアの副団長よ!!美人だからって口説いちゃダメだからね!!」

 

「団長より紹介を受けました、ゴジョウノ・輝夜と申します。Lv.4、『大和竜胆』の二つ名を神々より授かり、アストレア・ファミリアでは副団長を拝命させていただいております」

 

「ちなみに、模擬戦のことはさっきリオンに聞いたわ!!」

 

ローヴェルが何を言っているのか、俺には本当にわからん。

 

面白そうな予感がしたからって来れる場所じゃないだろうここは。

 

都市(オラリオ)の外だぞここ?アストレアが俺をホームまで連れて行く訳にもいかないし、都市内で模擬戦をやればどうしても目立つからってわざわざ都市を出てここまで来たんだぞ??

 

もういいや、ローヴェルについては考えるのはやめよう。

 

「竜胆とは、アストレアの眷属らしい二つ名だが……何故そいつまでここにいる?」

 

ローヴェルはまともな返答をしないと思うので、アストレアに答えてもらおう。

 

「あら、竜胆の花言葉をご存知とは意外ですわ。わたくしの事を知りたいのでしたら、直接問うていただければお答えしますのに……」

 

「ネコを被っている奴に何を聞けと?そんな無様な擬態もわからぬほど俺の眼は節穴ではない。さっさと答えろアストレア」

 

ピキッという音が鳴ったかのように顔が固まるゴジョウノ。ネコ被りが見破られた程度で動揺しすぎだろ。

 

「今日はアリーゼと輝夜で巡回をしていたはずだから、きっと輝夜はアリーゼに連れてこられたのね。あと、貴方には申し訳ないと思ったのだけど、輝夜には貴方の事情を話したわ……その、アリーゼとリューはあんな感じの娘だから、輝夜は口も堅いし冷静な判断が出来る娘だから貴方にも紹介したかったの」

 

勘が異様に鋭いポジティブ馬鹿と潔癖正義馬鹿と比べたら大体の奴は冷静な判断が出来る事になるのでは?

 

「……今回は見逃すが、次からは事前に知らせてくれ。俺の事情がどれほどの劇物なのか、その危険性を説いたのはそちらなのだから」

 

頷いたアストレアからゴジョウノに目を向けてみれば、違和感のある笑みは消え、雰囲気が先程までと変わっていた。

 

「何故、私がネコを被っているとわかったので?」

 

「それがお前の素か。別に大した理由などないが、強いて答えるならお前の笑い方は完璧過ぎた。政争や交渉の場で使われていそうな表情をしていれば違和感ぐらい覚える」

 

エドガーが王様としての立場で話している時の表情があんな風だったからな。

 

「なるほど。今後は気をつけると致しましょう」

 

ネコを被らないという選択肢はないのか……まあいい。

 

さて、そろそろやるか。

 

3人から離れリオンがいる方へ歩く。

 

俺が近づいて来るのを感じたのか、リオンは静かに目を開いた。

 

「一つ、忠告を」

 

「アストレア様に神の恩恵(ファルナ)を授けられている私と、神の恩恵(ファルナ)を持たない貴方では文字通り格が違う。ましてや私はLv.4、オラリオでも実力は上の方であると自負している」

 

「私は加減が苦手で、いつもやりすぎてしまう」

 

「この模擬戦でも、もしかしたら加減を忘れてやりすぎてしまうかも知れない」

 

「貴方に思う所はあるが、怪我をさせたい訳ではない」

 

「アストレア様から頼まれた模擬戦ではあるが、どうか」

 

「戦うことを選ばず、降伏して欲しい」

 

何言ってんだこいつ?

 

神の恩恵(ファルナ)の有無?レベルが高い?これから戦う相手を前に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

いや、違うか。この金髪エルフは俺を敵として認識すらしていない。

 

どうせ自分の方が圧倒的に強いが、アストレアに言われたから仕方なくこの場にいるとか考えているのだろうな。

 

油断ではなく慢心あたりか。敗北を経験したことはあるが、心が完全に折れるほどの敗北を経験したことがないのか、仲間や主神に支えられたお陰で心が折られずに何とかなってきたのだろう。

 

だから、そんな言葉を吐ける。

 

帝国で仲間達がガストラと会食を行い、各所から帝国軍の撤退が決まった辺りのリターナーにこういう感じの奴を見たな。

 

『犠牲になった者達はいたが我々は勝利を手にしたぞ、我々の活動は間違っていなかったのだ』と浮かれてる奴が……ドマ城の惨劇を見てから同じ台詞を吐いてみろと思ったが。

 

………仕方がない。

 

「素直に言ったらどうだ『私より弱いくせに、自分勝手な貴様を気に入らない、本当は完膚なきまでにぶちのめしたい』と」

 

なら、まずは俺を敵であると認識させる必要がある。

 

そうでなければ、わざわざ模擬戦をする意味がない。

 

この模擬戦はアストレアが出して来た俺を雇う条件ではあるが、俺も自分の力がこの世界でどの程度通用するのか確かめる必要がある。

 

だから………。

 

「戦う前からこちらを見下し、結果を決めつける。エルフらしく()()()()()()()のだな」

 

…………全力で煽らせてもらうぞリオン。

 

「それとも、弱者だと決められた俺が、強者であるお前に媚び諂っていないのがそんなに不満か?」

 

「なら喜ぶといい。この場は正義であるお前が、存分に俺を悪に堕とせる、またとない機会だ」

 

「強者が弱者を力で脅し、従わせるのが()()()()()()()()()()?」

 

「どうなんだ、答えてくれよ………正義の味方(リュー・リオン)?」

 

返答は、言葉ではなく攻撃によって行われた。

 

自分の正義を馬鹿にされ貶められた事を理解したリオンは怒りに顔を染め、瞬く間に俺へと踏み込み、手に持った凶器を振り下ろした。

 

振り下ろされる凶器は模擬戦ということで木刀ではあるが、頭にでも当たれば人なんぞ簡単に殺せる。

 

特にLv.4であるリオンの実力を持ってすれば、恩恵を持たない者の頭など踏み込んだ事すら気付かせず、簡単に破裂させられるだろう。

 

「なっ!?」

 

その声は誰が漏らしたのか。

 

ローヴェルか、ゴジョウノか、アストレアか。

 

それとも、恩恵を持たない俺など簡単に倒せると宣言していたにも関わらず攻撃を避けられたリオンか。

 

驚愕した表情を隠そうともしないリオンに反撃することも出来たが、あえて手は出さず口を開く。

 

「どうした?審判をすると言ったローヴェルから開始の合図は出ていないが、不意打ちをするのが正義の眷属(アストレア・ファミリア)のやり方か?」

 

リオンから一歩距離を取り、挑発を重ねていく。

 

「まあいい。ならば来るといい正義を掲げる者よ。その正義が俺に届くといいがな」

 

 

 

 

 




的確にリューさんを煽っていくスタイル。

そして輝夜さん初登場。

問…主人公エルフのこととか詳しくない?どこで知ったの。
解…アミッドにエルフやドワーフ、小人族や獣人とかについても教えてもらってた。

問…聖女アミッド先生ちゃんの密室個人授業?
解…主人公は勉強嫌いじゃないし、アミッドも真面目に話を聞く主人公に内心ウキウキしながら教えていた。きわめてけんぜんなじかん、ひわいはない。




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008 模擬戦 (じつりょく)


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本編を書くことに集中していて、感想が中々返せなくなってきて申し訳ないです。

感想には全て目を通し力を貰っていますし、余裕が出来たら感想も再度返していこうと思ってはいますので……少々お待ちください。

今回は2話続けての投稿となっておりますので、前話をまだ読んでいないという方がいたらご注意をお願いします。






斬り払い(避ける)斬り上げ(避ける)薙ぎ払い(避ける)突き(避ける)

 

模擬戦を行うに辺りアストレアから借り受けた二振りの木製の短刀を使うことなく、体捌きだけでリオンの攻撃を避ける。

 

リオンの得物は木刀、長さと形状、それに振り方から剣ではなく刀として扱っている。

 

動きは速い、二つ名が『疾風(しっぷう)』なのも納得出来る速さだ。

 

蹴り(避ける)(避ける)手刀(避ける)

 

武器である木刀だけでなく、時折体術も織り交ぜた連撃は非常に巧い。

 

これまでの研鑽や経験、積み上げてきた物は確かにリオンが都市の中でも実力者であると自負するに値するだろう。

 

だが……。

 

「遅い」

 

()()()()だ。

 

こちらからは一切攻撃や反撃はせず、服にすら触れさせずに攻撃を避け続ける。

 

模擬戦が始まった当初こそ涼しい顔をしていたが、いまは徐々に顔に焦りが出ている。

 

それでも剣筋はしっかりしているし、息も乱してはいないのは流石ではあるが。

 

「都市でも上位の実力者と言っていた割に、この程度か?」

 

俺は知っている。

 

リオンよりも速く、鋭く、まるで自身の身体の一部のように刀を振るい、研ぎ澄まされた『必殺剣』で敵を斬り捨ててきた(サムライ)を。

 

リオンよりも巧く、重く、ときにはその鍛え上げた肉体を豪快に使い、練り上げられた『必殺技』で敵を叩き砕いてきた(モンク)を。

 

そんな、俺の()()()()()()()と比べれば、リオンの攻撃など避けるのも容易である。

 

「くっ!」

 

俺の言葉に苛立ったのか、先程より少し鋭い一撃が来たが余裕を持って躱していく。

 

エルフであるリオンは魔法も使うはずだが、魔法を使う気がなく、このまま接近戦をしていくならリオンの体力が尽きるまで避け続けることは可能だ。

 

だが、それだけではこの模擬戦をする意味はない。

 

斬り払いを避けた際にリオンから少し距離を取り、()()()()()へ視線を向ける。

 

「ゴジョウノ、その装備している真剣を使って構わない。お前もこの模擬戦に参加しろ」

 

戦いの最中に視線を外され、お前だけでは不足だと突き付けられたリオンの表情に驚きと怒りが溢れていく。

 

「貴様は!!どこまで私の事を馬鹿にするつもりだっ!!」

 

「俺に武器すら使わせることが出来ない分際で何を叫ぶ。お前1人だけでは、俺の準備運動にもなっていないことすら理解できないのか?ローヴェルは一応は審判をしているはずだ。なら、ゴジョウノを参加させるしかないだろう」

 

リオンの怒りは当然だろうが、知ったことではない。

 

ゴジョウノはアストレアに視線を送り、アストレアはしばらく考えたあとに頷きを返した。

 

「本当に真剣を使ってよろしいので?」

 

構わんと無言で示してやる。

 

ローヴェルは何やら不満そうな顔をしているが、参加したかったのだろうか?

 

必要かどうかはさておき、審判をすると言ったのは自分なのだから諦めて欲しい。

 

「では、参ります」

 

「あぁ………来い」

 

先程と同じく、自分からは動かない。

 

「ふっ!!」「せやっ!!」

 

リオンが斬り込めばそれをカバーする形でゴジョウノが位置を変え、リオンの隙を潰すように攻めてくる。

 

それはゴジョウノが斬り込み、リオンがカバーする際にも同じだ。

 

流石は同じファミリアの仲間といった所か、連携も非常に巧い。

 

リオンも先程と比べると攻撃に力を入れている。攻撃した際の隙はゴジョウノが何とかしてくれると信頼しているのだろう。

 

何度か攻撃を避け続け2人の技量を計っていく。

 

武器の扱いや戦闘の技量はゴジョウノの方が上、リオンは攻撃に少し傾倒しているように感じられる。

 

このまま2人の攻撃を避け続けることは出来るだろうが、そろそろ反撃もしていこう。

 

ゴジョウノからの斬り払いを右手の短剣で受け流し、そのままリオンに左手の短剣で突きを放つ。

 

今まで俺が反撃をしなかったからか、咄嗟に避けようとはしたが俺からの反撃はないと油断していたリオンの肩を短剣がかすめていく。

 

「っ!?この馬鹿者が!!」

 

罵声を放ちながらもすぐにリオンをカバーするゴジョウノ。

 

それを見て追撃を辞めて一旦2人から離れ、短刀を構え………。

 

「す、すまない輝夜。助かった」

 

「今まで反撃されていなかった方がおかしいというのに、何を油断していたこの戯けが!!」

 

………会話が終わったのを見計らい、2人へ向け駆け出した。

 

「「っ!?」」

 

狙いはリオンではなくゴジョウノ。

 

彼女の方がリオンよりも技量が高いが、だからこそリオンではなくゴジョウノを狙う。

 

短刀で斬りつけゴジョウノの刀で受けさせ鍔迫り合いのような形に持っていく。

 

「輝夜!!」

 

そして、リオンがカバーに入ろうとしたのを見てから力を抜き短刀で刀を逸らしていく。

 

「なにっ!?」

 

鍔迫り合いの形からいきなり力を抜かれ、バランスを崩し、たたらを踏みそうになるゴジョウノ。

 

それを横目にリオンの位置を把握し、立ち位置をすぐさま調整して回し蹴りを放つ。

 

俺の蹴りはゴジョウノの腹部に命中し、そのままゴジョウノの身体はリオンの方へ飛ばされる。

 

「なっ!?」

 

飛んできたゴジョウノを咄嗟に受け止めることとなったリオン。

 

追撃するいい機会だっただろうが、する気はなかったので距離を取る。

 

受け止めたゴジョウノを下ろし、こちらを睨んでくるリオン。

 

ゴジョウノは絶好の機会だというのに何故追撃をしなかったのか不思議そうだな。

 

「2人になっても大して変わらんか……どうするアストレア、まだ続けるか?」

 

2人から視線を外さぬままアストレアに問いかける。

 

「まだ、私達は負けた訳ではない!!」

 

俺の言葉にリオンは即吠えたが、ゴジョウノは冷静にこちらを見ている。

 

「いえ、貴方の実力は十分わかったわ。ありがとう、シャドウ」

 

「リュー、輝夜。2人もお疲れ様。怪我はないかしら?」

 

すぐさま2人に駆け寄り怪我の確認をするアストレア、そういう所は神らしく慈愛に満ちていると思わなくもない。

 

「3人ともお疲れ様!うん、シャドウって本当に強かったのね!!」

 

そして俺に近寄ってくる、自称審判役。

 

「一応は世界を救った身だ。これぐらいのことが出来なくては説得力もない」

 

「でも本当ならもっと早くに圧倒出来たのに、2人を怪我させないように2人に合わせて実力を調整してたでしょ?本当にすごいわよ!!」

 

…………お前、本当に勘が鋭すぎないか?

 

「私も戦いたかったわ!審判するなんて言わなきゃよかったかしら?」

 

そもそも、審判らしいことを何1つしてないだろうお前は。

 

思わずジト目でローヴェルを見てしまう。

 

「何かしら?はっ、もしかしてこの超絶美少女アリーゼちゃんに見惚れちゃったとか!?」

 

「そんな訳あるはずないだろう」

 

本当に、ローヴェルはよくわからん。

 

俺の横できゃいきゃいと騒ぐローヴェルを無視してアストレア達3人に顔を向けると、ちょうどアストレアと目が合った。

 

「満足したかアストレア?」

 

「ええ、恩恵を持っていない貴方に2人が手も足も出ないとは予想してなかったけど」

 

他言出来ないことが増えたとため息をつくアストレア。

 

「正式に貴方を雇うわ。連絡方法や報酬などは、また話しましょう」

 

「わかった。あと数日で退院になるが、それまでに来てくれると助かる」

 

今日も未だに異世界人の身体構造について聞いてくるアミッドに無理を言って抜け出して来たのだ。

 

少々鬱陶しいが、彼女は医療技術の発展のきっかけとして聞きたいと言ってくるので何か無下に出来ない。

 

俺の事を何故か心配してくれているようだしな。

 

「そうね……なら、また明日にでも訪ねさせてもらうわ」

 

「ああ。アミッドにもアストレアが訪問することは伝えておこう」

 

こうして、俺は無事にアストレアに雇われることが決まった。

 

病室に戻ったあと、リオンとゴジョウノと模擬戦をしてきたとアミッドに伝えたら何故か説教が始まった。

 

俺は怪我一つしなかったし、2人にも怪我一つさせなかったというのに…………解せん。

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘描写を書くのは本当に苦手…精進せねば。

 
問…リューさんが使ってる木刀って、まさか?
解…わたしはいつもやりすぎてしまう。

問…なんで恩恵貰ってないのにこんだけ戦えるの?
解…そのうち明かす予定の設定だけど、実はこの世界に転移した際に色々あったから。

問…この暗殺者、何でこんなに対人戦強いの?
解…仲間とちょいちょい模擬戦してたから。暗殺だけじゃなくて真っ向からの対人戦も出来るようになった。仲間達からは鍛錬好きだな(暗殺者なのに戦闘狂の気が無い?)とか思われてた。

問…アストレア様は主人公が恩恵なしでも戦えること知ってたの?
解…神の勘。ここまで強いとは予想してなかった。

問…なんでアミッドに説教されたの?
解…「ちょっとアストレアと都市を見てくる」と言われ、退院後の住居探しかな?とか思って外出の許可を出したのに、それがLv.4を2人も相手に模擬戦するとは何事だってキレた。




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009 契約 (きょうがく)


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今回は繋ぎ回。つらつらと書いた。

アミッドさんに何か変な属性が増えた気がする。

でも、銀髪美少女に迫られるの……いいよね。




どうして、こうなった?

 

「聞いていますか、シャドウさん?」

 

俺の目の前には低い声を出すアミッドがいる。

 

「詳しく、説明して下さい」

 

瞳からハイライトが消え、いつも割と無表情だが……その表情すらなくなったアミッドが、いる。

 

「いま私は、冷静さを欠こうとしています」

 

一瞬ネタか?と思ったが、顔と雰囲気がマジだ。

 

「私は、シャドウさんから、そのような事を、聞いた覚えは、一切ありません」

 

お前もう冷静じゃないだろ。まだ短い付き合いだが、そんな喋り方をするの初めて見たぞ。

 

助けを求めるようにアストレアと輝夜を見るが、アストレアは頭痛がすると言わんばかりに頭を抑えているし、輝夜は珍しい光景を見たと言わんばかりにニヤニヤしている。

 

助けてくれる気は、なさそうだ。

 

「さぁ、シャドウさん。説明をお願いします」

 

本当に……どうしてこうなった。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

そもそも何故アミッドが、あのように取り乱したのか?

 

ことの始まりは1時間ほど前。俺の入院している病室にアミッド、輝夜、アストレアの3人が来た所に遡る。

 

アストレアは昨日話した通り俺を雇うに辺り条件の確認に、輝夜はアストレアの護衛。アミッドも何やら俺に頼みたいことがあるとのことで2人(1人と1柱)と一緒に来たらしい。

 

挨拶を交わし、さっそく話し合いを始める。

 

その際に輝夜からは、ゴジョウノではなく輝夜と呼んで欲しいと言われたので了承した。ゴジョウノと呼ばれるのは好きではないらしい。

 

アストレアからは、かなり俺を高く評価されていると感じさせる条件を提示された。

 

拠点となる建物(闇派閥(イヴィルス)から徴発した建物らしい)の提供、活動資金の提供、必要な武具を制作する鍛冶職人の斡旋もあった。

 

ちなみに、ここの治癒院の入院費用もアストレアから出して貰えることになった。

 

アストレアとの連絡の取り方は、手紙などを使わず基本的には輝夜を介して連絡を取り合うことにした。

 

輝夜が週1回くらいの頻度で俺に提供される建物に来て、進捗状況の確認やアストレアからの依頼を伝達したりすることになるらしい。

 

俺が闇派閥(イヴィルス)を調査する場合、黒もしくは限りなく黒に近い灰色な手段を使うことが予想されるし、そんな人間との繋がりを示す証拠を残すのは正義を掲げる彼女達の主神であるアストレアにとってもリスクになるので、連絡手段について文句はない。

 

わざわざリスクを抱え込む必要もないし、そちらの方がいざという時に俺もアストレアも動きやすい。

 

アミッドの空いた時間に教えて貰ってはいるが、この世界の文字をまだ覚えきれていないので手紙でない方が正直ありがたいのもある。

 

連絡要員が輝夜になったのは……残念ながら消去法である。

 

輝夜以外の候補がローヴェルかリオンの時点で、輝夜以外の選択肢などなかったのだが。

 

いずれはアストレア・ファミリアに所属しているライラという小人族(パルゥム)の娘も連絡要員に加えたいと言われたが、とりあえずは輝夜だけでしばらく運用して様子をみていくことにした。

 

そんな感じでアストレアとは無事に契約を結び、次はアミッドからの話を聞くことになった。

 

アミッドは、アストレアと同じくファミリアではなく自分個人と契約をして欲しいと言い出した。

 

契約の内容としては、アストレアとの契約に反しない程度で構わないので自分にも闇派閥(イヴィルス)の情報を回すことと、俺に戦闘の訓練をして欲しいらしい。

 

対価はポーションなどの治療薬の提供と、俺が病気や怪我をした場合にアミッドが専属で治療を行うこと。

 

俺としては別に構わないとは思った。

 

アミッドに渡す闇派閥(イヴィルス)の情報は輝夜と相談し調整すればいい。訓練も空いた時間に行えばいいだろう。

 

ポーション類はどのみち購入する予定であったから、アミッドから提供されるなら資金を他に回せる。

 

それに、俺も人間なので病気や怪我と無縁という訳ではない。俺の事情はかなり特殊だし、俺の事情を知っているアミッドが専属となって治療をしてくれるならかなりありがたい。

 

しかし、何故アミッドがそんなことを言い出したのか?

 

アミッドが所属するディアンケヒト・ファミリアは怪我や病気などの治療を行い、ポーションなどの治療薬を製造・販売している医療系のファミリアだ。

 

闇派閥(イヴィルス)の情報は、あれば助かるだろうが別に俺から手に入れる必要などない。前線に出ない治癒士(ヒーラー)であるアミッドが戦闘技術を学ぶ必要もそれほどない。

 

基本的に前線に出ない治癒士(ヒーラー)が戦わなくてはならない状況になっている時点で戦略的には負けだ。それは前線が既に崩壊していることを意味するのだから。

 

俺の疑問に対してアミッドの返答は簡潔であった。

 

「私は、治癒士(ヒーラー)として、1人でも多くの人を救いたいのです」

 

闇派閥(イヴィルス)が毒を使うなら解毒薬を、呪いを使うなら解呪薬を準備する。

 

俺からの情報で必要になるであろう薬を事前に知ることが出来れば、それに備えて材料を揃えられる。

 

それだけで、多くの人が救えるようになる。

 

だから、闇派閥(イヴィルス)の情報が欲しい。

 

戦闘技術を学びたい理由も、過去にディアンケヒト・ファミリアは闇派閥(イヴィルス)の襲撃を受けたことがあったから。

 

大抗争以降、闇派閥(イヴィルス)の活動は徐々に下火になっているが、完全になくなった訳ではない。

 

「再びディアンケヒト・ファミリアが襲撃された場合。私が戦うことが出来れば、他のファミリアが応援に来てくれるまで時間を稼げますから」

 

………なんとも、切ない覚悟であると思った。

 

何だろうか、この世界の人間は少し覚悟が決まり過ぎていないだろうか?

 

アミッドもまだ子供と呼んでもいい年齢だろうに、他者の為に自分を犠牲に出来るのか。

 

この世界も大人も子供も関係なく、生きるということに必死にならなければならない世界だったか。

 

FF6の世界もそうだったが、前世の世界とはこういう部分が大きく違う。

 

アストレアにも念の為に確認を取り、アミッドとも契約を結んだ。

 

そして…………俺は、やらかした。

 

言い訳をさせてもらえるなら、無事にアストレアとアミッドと契約を結べ俺は安堵していた。

 

俺はこの世界ではどうあがいても異物だ。

 

異世界から来て、恩恵もないのにLv.4を2人同時に相手にしても圧倒出来る戦闘力。

 

さらに彼女達には話していないが、前世の記憶を持っている。

 

アストレアが理解ある神だっただけで、他の神であったなら相当面倒なことになっていっただろう。

 

故に、問題なくこれからのことが決まり気が緩んでいた。

 

アミッドの覚悟を聞いて、少しだけ感傷的になっていたのもある。

 

契約の話が終わり、先程までと異なり、軽い雰囲気の中で輝夜も加わり4人で雑談をしていた。

 

そこで俺は軽い調子で言ってしまった。

 

「アミッド。戦い方を教えるのはいいが、魔法については何を教えればいい?」

 

「まぁ、運用方法ぐらいしか指導出来ないとは思うが……ん?」

 

俺の言葉に、空気が凍っていた。

 

何だ?どうしたんだ??

 

魔法などエルフであれば基本使えると聞いたし、アミッドも使えると聞いているが、何かまずいことを言ったかと首を傾げる。

 

「………シャドウ。貴方、もしかして魔法が使えるの?」

 

「あぁ。人前で使用はしていないが、この世界でも使えることは何度か確認している……どうかしたのか?」

 

何でそんな大事なことを今まで言わなかったんだこの男は……と、頭を抱え出すアストレア。

 

あれだけ強かったのに、さらに魔法も使えるのか……と、遠い目をする輝夜。

 

そして、突然俺の両肩をガシッと掴んできたアミッド。

 

「…………シャドウさん。どういうことですか?」

 

あの、アミッドさん。

 

「どういう、ことですか?」

 

なんか、雰囲気がすげぇ怖いです。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「申し訳ありません。少々、取り乱しました」

 

「いや、構わない」

 

数分ほどアミッドを宥めると彼女は落ち着きを取り戻した。

 

先程の醜態が恥ずかしかったのか、パッと見ではわからぬ程度に頬を赤くはしているが、まあ落ち着いたならそれでいい。

 

ちなみに、アミッドを宥めるのにアストレアも輝夜も協力してくれなかった。

 

「俺が説明してなかったことが原因だ。気にする必要はない」

 

あんなに食いついて来るとは思ってなかったんだ、すまないアミッド。

 

「………それで、シャドウはどんな魔法が使えるの?」

 

まだ頭を抑えているアストレアが聞いてきたので素直に答える。

 

「分類としては回復魔法、攻撃魔法、補助魔法になるが」

 

全部で幾つになるんだ?メルトンも少ない時間の中気合で覚えたからな……おのれジハード。

 

瓦礫の塔にまで八竜を配置するな。

 

あと、何かトイレに強そうなドラゴンがいたとか仲間達が微妙な顔してたんだぞ。

 

「それらを………そうだな、全部合わせると50程度になるのか?」

 

俺の言葉に崩れ落ちるアストレア。

 

アストレア!?

 

ご、ごじゅうってどういうことなの………か細い声が聞こえて来た。

 

え?そんなに驚愕することなのか??

 

「…………シャドウさん」

 

おや?

 

「詳しく、説明して下さい」

 

あの、アミッドさん。

 

「いま私は、冷静さを欠こうとしています」

 

お前、やっぱりネタを知っててやってないか?

 

崩れ落ちたアストレアを介抱する輝夜。

 

再びハイライトが消えた瞳で俺に詰め寄ってくるアミッド。

 

なんだこの空間は……。

 

どうして、どうしてこうなった。

 

 

 

 

 




アミッドさん強化フラグをたてる。



問…輝夜さん通い妻と勘違いされない?
解…周囲にはバレないようにするから平気、へっちゃら。

問…主人公なんかクソボケかましてない?
解…ここもファンタジーな世界だし、魔法くらい使えても普通に珍しくないやろ?とか思ってる。

問…どうやってメルトン覚えたの?
解…ジハード受け取って即マジで本気だした。仲間達は(この暗殺者本当に魔法好きだなぁって)温かい目で見ていた。


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010 拠点 (じたく)


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前話で自分の表現力の貧しさから混乱させてしまった部分がありましたので補足をちょこっとしようかと↓

他人のスキルやステータスを探ったりするのってマナー違反では?について。

主人公ってアストレア達に実は自分の事をあまり語ってないので、彼女達からすると「世界を救ったらしいし、関わった感じ悪人ではないとは思うけど……善人でもないよね」って状態だったり。
なので、「大丈夫だとは思うけど、規格外の力を持った異世界人だし、もしもの時の為に探り入れとこ」ってなってもおかしくはないかと。

正直、暗黒期のオラリオに突然現れた完全な味方として信用できない、いつか敵になるかも知れない労働契約を結んだだけの意味不明な異世界人のステータスやスキルを探らない方がおかしくないか?と困惑しました。

これは自分の表現力の無さが原因だと思いますので、精進していきたいと思います。

また、主人公が何故こんなに強いのか?何故魔法を使えるのか?なども後々明かす予定であり、設定は組んでいます。

まだまだ拙い文章ではありますが、今後もよろしくお願いします。




昨日は仕事を倒せなかったので……今日は朝の更新となります。



数日後、無事に退院した俺はディアンケヒト・ファミリアまでわざわざ迎えに来た輝夜へ拠点となる物件へと案内されていた。

 

退院する際にアミッドから「退院おめでとうございますシャドウさん。私への報告か訓練以外では私に会いに来ることがないよう、身体には気を付けてください」という祝われているかよくわからない言葉を貰った。

 

実は普通に嫌われているのではないか?とも思ったが、「最初の訓練の日はいつにしますか?」と続けて言ってもらえたので……恐らく嫌われてはいない、と思う。

 

そんなことを考えながらも都市を歩いていく。

 

都市の主要な街道からは外れているが……人通りはそれほど少なくないな。

 

が、やはり活気というものが少ないようには感じる。

 

民衆に笑顔などがない訳ではないが、どことなく空元気な様に見えるのだ。

 

………『死の七日間』という物が残した爪痕は大きいのだな。

 

まぁ、この都市の民衆は世界が引き裂かれ崩壊した直後のあの世界の民衆よりはよっぽどマシに見える。

 

なまじ考える力があると絶望するだけだが、空元気でも立ち直ろうとはしているなら、上等か。

 

「着きましたよ、シャドウ殿」

 

殿って付けるの止めて欲しいんだけど、言っても聞かなかったんだよな。

 

迎えに来た時から何故か丁寧な口調でシャドウ殿って呼ばれているんだが、何故だろう?

 

まあいいや。

 

さて、闇派閥(イヴィルス)から徴発した物件とのことだが。

 

「………本当にこの物件なのか」

 

「不満ですか?良い物件だと思いますが」

 

いや、不満というか。

 

「元々は酒場だったのか?俺に店でもやれと?」

 

「あら、酒場のマスターも似合うと思いますよ」

 

開店するなら通いますから検討されてみては?とか言われても、経営するの面倒だろ。

 

聞けば、酒場を隠れ蓑にして違法な品の取引に使われていた物件だとか。

 

道に面した表は店舗となっていて居住空間への入り口は建物の裏にあるらしい。

 

輝夜が持っていた鍵で扉を開けるとこちらに振り返る。

 

「おかえりなさい、退院おめでとうございます」

 

「……まだ引き渡された訳でもないのに『おかえり』はおかしくないか?」

 

というか、何の真似だ突然。

 

「ここはシャドウ殿の家になるのですから、おかえりと迎えられてもいいと思いますよ」

 

そういうものか?何か違うと思うが。

 

「では、改めて。おかえりなさいシャドウ殿」

 

「……………あぁ、ただいま」

 

おい、せっかく答えたのだから何か言えよ。

 

お前からふってきたというのに。

 

「少し、中を見させてもらうぞ?」

 

動かなくなった輝夜を無視して1人建物の中へ。

 

平屋でそれほど大きくない建物だったのですぐに見終わったが。

 

「庭もあるのか」

 

それほど大きくはないが、悪くない。

 

「気に入りましたかシャドウ殿?」

 

なんだ、再起動したのか。

 

「拠点にするのには十分だ」

 

これには素直に答える。

 

正直もっとボロボロの建物を渡されると思っていたので、ありがたい。

 

輝夜から鍵を受け取り、輝夜に案内してくれた礼とアストレアにも拠点の礼を言って欲しいと伝える。

 

輝夜はこれからホームに戻り、仲間と都市の巡回に行くとのことだったので外まで見送ことにした。

 

「そういえば、こちらを」

 

渡されたのは2つの袋と1枚の羊皮紙。

 

紙によるやり取りはしないはずではと思ったが、どうやら違うらしい。

 

「こちらはシャドウ殿の当面の活動資金となります。そして、こちらの紙はヘファイストス・ファミリアのあるバベルまでの地図となっております」

 

なんでも、アストレアの言っていた鍛冶師を明日紹介したいらしいのだが明日は輝夜の都合が悪く案内出来ないとのことで、わざわざ地図を用意してくれたらしい。

 

ヘファイストス・ファミリアには事前に伝えてあるので輝夜の二つ名である『大和竜胆』の紹介だと言えばいいらしい。

 

で、そのもう一つの袋はなんだ?

 

「こちらは…………」

 

軽い気持ちで聞いたが、輝夜からの返答に俺は言葉を失うこととなった。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

翌日、輝夜から貰った地図を頼りにバベルにあるヘファイストス・ファミリアまで来た。

 

いや、何なのあのエレベーター??

 

こんなクソみたいに高い塔なんだから階段で昇ることはないと思ったが、エレベーターは予想外だわ。

 

ファンタジー世界の歪な技術の進歩みたいなのは本当にわからん。

 

この世界の技術でエレベーターの箱を安全に吊ることの出来るワイヤーとかどうやって作るのだろうか、すごい気になる。

 

FF6世界にいたときも、フィガロ城の潜航設備とかセッツァーの飛空艇ってどうやって作ったんだ?とか気になったが聞くに聞けなかったんだよなぁ。

 

さて、そろそろ現実逃避はやめるか。

 

「何故、アストレアがここにいる」

 

案内された部屋の扉を開けたらアストレアがいた件について。

 

お前、実は暇なのか?ここ数日結構な頻度で俺の用事に付き合ってるけど。

 

まぁ、俺としては都市には不慣れだからアストレアがいてくれるのはありがたい。

 

案内されたこの部屋、プレートに『主神室』って書いてあった気がするから本当にありがたい。

 

「言ったでしょ?鍛冶師を紹介するって」

 

私の神友なのよって、まさか鍛冶の神を紹介する気だったのかよ。

 

「……俺の事情は?」

 

「何も。武器を作って欲しい子がいるって話しただけよ」

 

そうか、ただ神が相手なら話した方がいいのか悩むな。

 

「正直、貴方の事情を他に話さずにいてくれて、貴方が扱える武器を作れそうな鍛冶師がヘファイストス以外思いつかなかったのよね。ゴブニュよりヘファイストスの方が私も頼みやすいし、どういう神物なのかは知っているから。貴方の事情も考えたら下手に子供(眷属)の鍛冶師に頼む訳にもいかないし」

 

それを言われると弱い……弱いんだが。

 

「わかった。だが、武具の依頼を出すか、事情を話すかは俺が決めるが構わないな?」

 

「彼女なら大丈夫よ。というか、貴方の事情を彼女にも話せないなら他の誰にも話せないわ」

 

随分と信用していることで。

 

というか、彼女?ヘファイストスって女神なのか?

 

あれ………ヘファイストスって女神だっけ?男神だった気がするが。

 

まぁ、とりあえず女体化させとくのは前世では古来からの文化だったな。

 

俺が死ぬ前は女体化させ過ぎて、元ネタが男だったのか女だったのかわからん感じになってたし、この世界でもそれを考えることになるとは思わなかったが。

 

「…………それで、そのヘファイストスは?」

 

「いまは眷属の様子を見に行っているわ。でも、もう来るはずよ」

 

その言葉から数分も経たないうちに部屋の扉が開き、ヘファイストスと思われる女神はやって来た。

 

なんというか、これがヘファイストスなのか?

 

右目の眼帯こそ目立つが、普通に美人な女にしか見えんな。

 

男装をしているからか、挨拶を交わしているアストレアと並ぶと絵になるし。

 

「アストレア、その子が貴女の言ってた私に武器を作って欲しいという子?」

 

「ええ、そうよヘファイストス」

 

アストレアとの挨拶が終わったのか、ヘファイストスから何やら探るような、見定めるような視線を感じる。

 

そりゃ気になるわな。

 

神友がわざわざ紹介したいと言ってきた人間だ。

 

さて、何と切り出すべきか。

 

アストレアは俺に任せると決めたのか、今は何も言う気はなさそうだ。

 

どうしたものかとも思ったが、段々考えるのが面倒になってきた。

 

「鍛冶の神、ヘファイストス」

 

()()を見せて反応を確かめるか。

 

「何も言わずにこれを見て欲しい」

 

紹介してくれたアストレアには悪いとは思うが、正直俺は鍛治師を紹介されても手裏剣などの投擲武器が補充できればそれでいいと考えていた。

 

それが、鍛冶の神に武具を依頼することになるとか予想すらしていなかった。

 

闇派閥(イヴィルス)の調査にわざわざ神が鍛えた獲物なぞいらんだろ。

 

「お前が鍛冶の神だというなら」

 

まぁ……ダメになったら流石にアストレアには謝るか。

 

「これだけで俺が何者なのか判断できるはずだ」

 

ヘファイストスの前に置かれたのは()()()()()()()()()()()()()

 

()()トレジャーハンターが俺の言葉を忘れていたが為に、何故か俺が預かることになり、そのまま俺と共にこの世界に来てしまった物だ。

 

 

 

 

 

 





問…嫌われているか気にするとか、主人公のアミッドへの好感度高くない?
解…リルムと近い年齢なので何かと気にしてる。

問…輝夜いろいろ壊れてない?
解…主人公を絶対に敵に回さないよう不快にならない程度に丁寧に接するようにした。主人公に喧嘩を売りまくる某ポンコツエルフにもう絶対に私を巻き込むなよ!と祈ってる。

問…なんで主人公の「ただいま」に固まったの?
解…つまらなそうな顔をしているか不機嫌そうな顔をしていることの多い主人公が浮かべたことに表情に「この男、こんな顔も出来たのか」ってなった。

問…輝夜が持ってた袋に何が入ってたの?
解…主人公がこの世界に来たときに身に付けてたポーチの中身。手裏剣数枚とある1つの物以外は原型がわずかにわかる程度のゴミになってた。

問…主人公がヘファイストスに見せた剣の柄って?
解…どこぞの自称トレジャーハンターが盗んだ物。「これ投げといて」って渡された。「前にもこれは投げても意味がないって言ったよな!」と忙しい中渡されて主人公はキレた。「忘れてた、じゃあちょっと預かっといて」とポーチに無理矢理仕舞われた。主人公は八つ当たりで余ってた沙悟浄の槍を投げた。

問…また主人公が変な物出したけどアストレア大丈夫?
解…へファイストスの横で頭抱えてる。



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011 武器 (へいき)


お久しぶりです(小声)

2024年4月2日でFF6は発売30周年

本当におめでとうございます

記念日から1日遅れてしまいましたが投稿となります





「…………………………」

 

無言で俺が出した物を睨みつけるように観察するヘファイストスと、その横で頭痛を起こしたように頭を片手で抑えるアストレア。

 

「手に取ってもいいかしら?」

 

頷きを返すとヘファイストスは慎重に、それでいて険しい眼で細部まで確認をしていく。

 

へファイストに俺が見せた剣の柄。

 

これは昨日輝夜から受け取った袋に入っていた物で、血塗れで倒れていた俺をディアンケヒト・ファミリアの運んだ際に、一時的に俺が持っていた物をアストレア・ファミリアが預かっていたらしい。

 

何故にディアンケヒト・ファミリアではなくアストレア・ファミリアが持っていたのかといえば、俺の持ち物から身元を割り出せるかどうか調べる為とかだとか。

 

他にも理由はあるような感じではあったが、無事に俺の元に戻って来たのだからそれ以上は詳しくは聞かなかった。

 

袋にはこの世界では使えないFF6世界の硬貨(ギル)や、ケフカとの戦いで折れてしまったダガーに数枚の手裏剣と多少のアイテムが入っていた。

 

そして、()()()()()()()()

 

先程、俺がヘファイストスに見せた剣の柄がアルテマウェポンだ。

 

アルテマウェポンはFFシリーズに出てくる不思議武器の名前で、初登場はFF6だったはずだが…その後のFFシリーズに毎回の様に出て来るようになった剣である。

 

FF6に出て来るアルテマウェポンは美しい細工が施された剣の柄。

 

そう、剣の柄のみだが武器種としては()なのである。

 

どういう意味かというと、FF6のアルテマウェポンは剣の柄から光で出来た刃が形成された……ラ◯トセイバー、もしくはビー◯サーベルみたいな武器なのだ。

 

本当に、意味がわからない。

 

一説ではスタッフの遊び心で導入された武器だとか聞いたことがあるが、真相は知らない。

 

武器の性能としては……何というか、最強にして最弱とでも言えばいいのか。

 

ゲームではレベルとHPが高ければ高いほど刃が長くなりモンスターに大きなダメージを与えられる武器だった。

 

しかも、モンスターの防御力を無視してダメージが与えられるという優れもの。

 

手に入る場所が物語の中盤に入ったぐらいなので、入手直後はそれほどな性能だが……終盤では恐ろしい性能へと変わる。

 

が、攻撃力がレベルとHPに依存しているので、HP減ってしまうと途端に攻撃力も下がってしまうのでHP管理が重要になる武器だった。

 

そんなアルテマウェポンであるが、実物もライ◯セイバーだった。

 

初めて実物を見せられたときは間違いなく俺は呆れた顔をしていたはずなので、あの時は表情が分からない装備をしていて良かったと心底思った。

 

後に仲間たちと何度か検証したが、ただ柄を握っただけでは刃は形成されず、「戦う」という意志を持つことではじめて青白い刃が形成される物だとわかった。

 

刃も傷を負っていたり疲れているときは短く、逆に傷もなく健康な時には長くなったので、武器の仕様としてはゲームとほぼ同じだと感じた。

 

刃が光で形成させているため魔封剣が使えなくなるからとセリスは使うのを嫌がったが、ティナはあっさりと敵が斬れる使い勝手が気に入ったのかアルテマウェポンを使うのを好んでいたな。

 

カイエンは「武器としては間違いなく超一流でござるが、明鏡止水の心を持たせてはくれない武器でござるなぁ」とか称していたか。

 

それに対して「明鏡止水などという凪のような心構えで戦おうとするのはお前くらいだぞ、むっつりサムライ」と言い返したのは、誰だったか。

 

「…………………………なんなのよ」

 

真剣に、いっそ殺意すら感じる眼差しでアルテマウェポンを検分していくヘファイストス。

 

アストレアは頭を未だに抑えながら「なんて物をヘファイストスに渡すんだ」という顔で俺を見てくるが、仕方がないだろう。

 

俺は異世界人で少し前にこの世界に来た。いまはアストレアと雇用関係にあり、恩恵はどの神からも貰っていない。

 

実力としてはアストレアのLv.4の眷属2人と模擬戦をして、傷一つ負わずに余裕で相手出来るだけの力がある。

 

などと言われて素直に頷く奴などいないだろう。

 

神だから俺の言葉は嘘ではないと判断し、アストレアが事実だと説明したとしてもへファイストスが納得するまで時間はかかるだろうし……何よりそこまで説明するのは面倒だ。

 

「自分達に有利になるように交渉をしなきゃならないときは、最初に大きな衝撃を相手に与えるといい。常に自分達が精神的に有利であり、相手は僅かでも不利であり続ける……そんな風に状況を動かしていけば、良い結果を引き込みやすいからね」とは、エドガーの言葉だったか。

 

そのあとに「この方法は多用すると嫌われるから必要なとき以外は使わない方がいいけどね」とも言っていたが……まぁ、今回は必要だったということにしよう。

 

言葉を幾つも重ねるより、鍛治の神に異世界の存在を認知させるのに1番簡単な方法は、異世界の武器を見せることだろう。

 

上手く持っていけば異世界の事を納得させつつ、俺に対して余計な詮索を避けられるだろう。

 

アストレア達にすら話していない事は多いのだからな。

 

「貴方、何処でコレを手に入れたの?」

 

「鍛治の神、お前はコレを何だと考えている?」

 

ちなみに、このアルテマウェポンはティナが使っていた物とは別物で……世界一のトレジャーハンターを自称するロックが戦闘中に盗んできたものだ。

 

あの野郎、これでようやくケフカに引導を渡せると必死に残っている気力を振り絞っていた所に「シャドウ!これを投げろっ!!」と自分はラグナロクを構えながら俺にアルテマウェポンを渡してきたのだ。

 

『眠り』と『マリア』に飛びついて攻撃していたのは見ていたが、その際にラグナロクとアルテマウェポンを盗んでいたとか手癖が悪過ぎる。

 

しかも投げろと言われても、アルテマウェポンは手に持っていないと刃が形成されないので……投げたら刃のない綺麗な剣の柄だ、投げる意味がない。

 

それはアルテマウェポンの検証した時に一緒にいたロックも知っていたはずなのだが、俺に武器を投げさせたいなら構えているラグナロクの方を渡して欲しかった。

 

ちょっと腹が立ったので、その後ロックからラグナロクを奪いケフカにぶん投げることで意趣返しとしたので、よしとしよう。

 

アルテマウェポンが俺と共にこの世界に来ているとは思ってもいなかったが、せっかく此処にあるのだし使える物は使っていきたい。

 

剣はあまり得意ではないが、こいつは便利な武器なので使い所を誤らなければいいだけだ。

 

「これが剣であることは私にもわかる。柄だけで刃がないけど、そんなことは関係ない。鍛治の神である私はこれが剣であると()()()()。だから、剣であるということを前提に調べてみたわ。そしたら何なのよこれは、担い手の生命力を刃へと変える機構をしているなんて予想もしてなかったわよ。しかも、安全装置のつもりなのかただ手に取っただけでは刃は出てこない。あらゆる物が斬れる究極とも呼べる剣を作ろうとしても、使い手が未熟であればあらゆる物が斬れるなどとは言えない。でも、この機構なら担い手に関係なくあらゆる物が斬れる。それはわかるけど、どういう考え方をすればこんな剣を作ろうと思えるのよ。たしかに、担い手のことを一切考えず、ただ剣として優秀な物を作り出すのであればこうなるのは理解は出来る。駆け出しから達人まで平等に斬ることが出来る剣を作ろうとした結果、こういう機構を組み込めばいいというのは理解は出来るわ。鍛冶の神としてはこういうのはあまり認めたくないけど、これは認めざるをえないというか。優秀な武器を鍛え上げることは鍛冶師の本能であり本懐でもあるのだけど、ここまで担い手のことを無視した物なんてどう判断すればいいのよ。あぁ、もう訳がわからないわ」

 

ずいぶんと早口で話したな……専門家特有の早口というやつか?

 

これだけ真剣に考察をしてくれたのに申し訳ないが、アルテマウェポンを誰が作ったとか、どうして作られたとかは俺も知らないので聞かれないといいが。

 

「先程の問い……これが何で何処で手に入れたのか答えよう、鍛治の神へファイストス」

 

さて、それではそろそろ交渉を始めよう。

 

「この剣の銘はアルテマウェポン。この世界とは違う()()()で作られた武器だ」

 

「…………………………………はぁ?」

 

何を言ってるんだという顔をされたが、事実だ。

 

「…………異世界?」

 

「そうだ」

 

「異世界って、あの異世界?」

 

おいアストレア、何故お前はヘファイストスに憐れんだ顔を向けている。

 

俺はただ事実を伝えているだけだぞ?

 

こいつの語彙力が無くなっているのは俺の責任ではないだろうに。

 

その後、アストレアが何とかフォローし正気に戻ったヘファイストスと改めて話を進めたが、俺の武具はヘファイストスが鍛造してくれることとなった。

 

わざわざ神が鍛造せずとも眷属が作った物でいいのではないかと伝えたのだが、俺の存在はヘファイストスの眷属(こども)には悪影響しかないので自分が作ると譲らなかった。

 

存在自体が悪影響とはどういうことだと抗議したが、二柱揃って溜め息を吐かれた。

 

対価については金銭と、異世界……つまりFF6の世界について、アルテマウェポン(こんなモノ)を作り上げた世界がどういうものだったのかが知りたいらしい。

 

これにはアストレアも興味があるから聞きたいと言っていた、茶飲み話程度でもいいからとのことだったので了承をした。

 

話したくない内容は話さなくてもいいと言っていたしな。

 

面白い話があれば作成料金を割り引くとも言っていたが、悠久の時を生きている神が興味を引かれる話などあるのだろうか?

 

アストレアとヘファイストスと雑談を交えながら、俺が希望する武器についての詳細を伝え、防具の寸法などを測る。

 

大方の話し合いを終え、ヘファイストスに礼を伝え部屋から出た……のだが。

 

闇派閥(イヴィルス)の活動が下火になっているとはいえ、まだ治安が安定していないのに神が護衛も連れずにオラリオを出歩こうとするはどうかと思うぞアストレア」

 

何故か護衛を連れてきていないアストレアをホームまで送っていくことになりそうだ。

 

「私は一人でも大丈夫だと思ったのだけど、眷属(こども)達に護衛を連れて欲しいって言われてしまったからバベルまではアリーゼと来たのよ。帰りは貴方にお願いすればいいかなと思ったからアリーゼには帰りの護衛は断ったのだけど……ダメかしら?」

 

自由か、この女神。

 

この言い方だとアストレアにとって護衛を連れずに都市を歩くことは割と普通のことらしいが。

 

「リオンに見つかると貴方と喧嘩になるかも知れないから、もしリオンがいたら隠れなきゃいけないわね」

 

自由だな、この女神は。

 

「俺が断っていたらどうするつもりだったんだ?」

 

「貴方は断らないでしょ?」

 

まぁ……この後に予定がある訳でもないから構わないか。

 

星屑の庭(ホーム)まで護衛を頼むわね、シャドウ」

 

「わかった。お前のファミリアには借りもあるし引き受けよう」

 

ついでに、アストレア・ファミリアのホーム周辺の地形を覚えていくか。

 

使う機会がなければないでいいが、覚えておいて損はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 





問…シャドウって剣使えるの?
解…ゲームと違って現実なので装備制限はない。ただ、1番しっくりくるのがナイフなので、結局ナイフばかり使ってる。



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012 剣姫 (おさなご)


前回、かなり久しぶりの投稿にも関わらず「待ってた」コメントを沢山頂けました。本当にありがとうございます。

評価も、お気に入りも本当にありがとうございます!!

ただ、ちょっと前書きで報告をさせて下さい。

関係のない方々には本当に申し訳ありませんが、読んで下さる方の中にはハーメルンに投稿されている方もいると思うので、注意喚起も込めて。

前話を投稿して何日か経ったある日、マイページを開いたら前話の誤字報告が来ていました。

自分としては誤字報告は本当に大変ありがたいです。投稿前に何回か読み直しますが、それでも見落としますし。

しかし、話の内容が変わるくらい大量に文章を修正させようとするのは、もはや誤字報告ではないのです。

文字数にすると数百文字は修正される感じでしたし。

本人は善意のつもりなのかも知れませんが、同じような事を今後もされるとはっきり言って迷惑なのと、ボタンを押し間違えて修正してしまう可能性もあるので報告者の方はブロックユーザーに送りました。

ハーメルンに投稿している方には「誤字報告で内容が変わりそうな修正を出してくる人もいるのか、誤字報告が来たらちょっと気をつけよ」程度に思っていただければと。

以上ちょっとした報告でした。

色々と書きましたが、普通の誤字報告に関しては本当に感謝しています!!




「ハズレではないが、アタリとも言い難いな」

 

都市の一角、それも大通りからさほど離れていない場所にあった闇派閥(イヴィルス)の拠点から脱出し、夕暮れ時の裏路地を歩く。

 

拠点は既に撤収されていたが、残されていた痕跡から推測するに撤収されたのはごく最近。

 

余程慌てていたのか、撤収作業を行なった奴らが知らなかったのか……隠し金庫に資料が残されたままというのはどういう事なのだろうか。

 

普通に考えると罠でしかないと思うのだが、拠点の撤収の仕方があまりにも雑過ぎたので判断が難しい。

 

拠点にたまたま泥棒が入り、荒らされていた部屋を確認した闇派閥(イヴィルス)の構成員がそのまま残っていた物を集めて拠点を引き払ったと言われても信じられるくらい隠滅がされていないのだ。

 

バレてもいいと考えているのか?これでは素人のごっこ遊びの方が余程気を使って暗躍しているぞ。

 

これが闇派閥(イヴィルス)が仕掛けた情報戦であれば、指揮をした者は大した奴だ。

 

ここ2ヶ月で潰した幾つかの拠点から集めたり、構成員から()()()聞き取りをした情報から考えると、どうも何かを企んでいる気配はあるのだが、計画が穴だらけで行き当たりばったりな感じが強い……闇派閥(イヴィルス)はまともに暗躍をする気があるのだろうか?

 

「まぁいい。手に入れた資料をチェックし、その後はアストレアに投げよう」

 

『死の七日間』や、それ以前より闇派閥(イヴィルス)を相手にしていたのだ、俺よりも手に入れた情報を上手く使うだろう。

 

そういえば……明日はアミッドとの訓練の日だったか。

 

最初は治療師(ヒーラー)のアミッドに対して何を教えようかと思ったが、防御を主体とした短剣術を教えてみたり、前世で聞き齧った合気道や柔術を教えたらそれがアミッドには綺麗にハマったらしく、「シャドウさんに訓練をつけて貰うようになってから、暴れる患者を簡単に制圧(しずかに)させられるようになりました」と報告されたな。

 

この間は「貧乏人からチマチマ金を取るのではなく、金持ちから金を毟れ」と主神が喚いたので、イラっとしてつい投げ飛ばしたと言っていたな。

 

出会った頃よりもずいぶんアグレッシブになった気がするが、俺の勘違いだろう。

 

前世でも医療・介護の仕事をしていた奴はストレスを抱え込んでいたし、治療師(ヒーラー)も似たような職だ、アミッドにもストレスがあるのだろう。

 

…………世話になっている身として、何か差し入れでもするか。

 

アミッドの訓練にはたまに輝夜やアリーゼが乱入して来ることもあるが、あいつらの思考回路は本当にわからん。

 

特にアリーゼだ、あいつは何かおかしな電波でも受信しているのか?

 

「輝夜の事は名前で呼ぶのに私のような美少女を名前で呼んでくれないなんてそんなのズルいわ!!」などと名前呼びを強要し。

 

「聖女ちゃんと2人で秘密訓練!?ダメよ!そんなの聖女ちゃんがおじコンになってしまうわ!!」と意味不明な叫びをあげ……たまに輝夜と訓練に参加するようになった。

 

素直に名前で呼んで欲しい、訓練に自分達も参加したいと言えとアリーゼにキレた俺は悪くないはずだ。

 

過去のアリーゼの奇行を思い出し、小さくため息をつく。

 

ようやく住み慣れてきた家に足を進めながら明日の訓練内容を考えていると……ふと、違和感を覚えた。

 

自分の直感を信じ、一歩その場から下がる。

 

俺がいた場所に閃いた銀と金の線。

 

「…………子供、か」

 

血や埃で少し汚れてはいるが流れるような美しい金髪に、表情は乏しく無表情に近いが、それでもかなり整った顔立ちをしている少女に俺は斬りかかられたらしい。

 

軽鎧に獲物は細剣(レイピア)、いやあれは刀剣(サーベル)か。

 

小人族でないなら歳はリルムとそう変わらないように見えるが………やり辛いな。

 

考え事をしていたとはいえ、斬りかかられるまで少女の接近に気付かなかったとは相当に鈍っているな。

 

「何処の誰だか知らんが、何のつもりだ?」

 

「…………っ!」

 

答える気はなしか。血の気の多いことだ。

 

振り下ろされた剣をナイフを抜いて弾く。簡単に弾かれたことに一瞬驚いた顔をしたが直ぐに立て直し、少女は剣を続けて振ってくる。

 

斬り上げ(弾く)斬り払い(弾く)突き(弾く)

 

容易く避けられる少女の斬撃を、わざわざナイフを使って弾いていく。

 

へファイストスが鍛えたこの黒塗りのナイフ、銘は『影楼(かげろう)』だったか。

 

何度か勝手にダンジョンに入ってモンスター相手に試し斬りはしたが、人を相手に使ってなかったので試してみたが……割と雑に剣を弾いているのに欠けや歪みが出る気配もなしか。

 

流石は鍛治の神が鍛えた逸品といった所か。この少女程度の実力者を相手にするなら全く問題はないな。

 

力はそれなり、反応の良さや速さはあるが、技はないに等しいくらい未熟。

 

剣の振りや力の込め方、間合いの広さからして対人ではなく対モンスター用の剣だなこれは。人を相手にするには無駄が多過ぎる。

 

それでも、この歳にしては良く動けているが……同格や格上の人を相手にするには経験が足りていない。

 

相手にしてみて、感覚的にアリーゼや輝夜と同じLv.4、もしくはそれより下のLv.3くらいだと思うが……冒険者のレベルは見た目から判断が出来ないからわからんな。

 

無表情でわかり難いが、剣を弾かれ火花ばかりが舞い俺の血が全くに散らないことに少しずつ焦りが顔に出ているか。

 

この程度の攻防で焦りが出るとは、精神的な部分までは神の恩恵(ファルナ)も成長を助けてはくれないらしい。

 

目覚めよ(テンペスト)!!」

 

攻撃が全て弾かれることに耐えきれなくなったのか、俺から距離を取り何かを唱えた。

 

少女の周囲や剣が揺らいで見えるが、魔法か?

 

詠唱はなかったようだが、詠唱なしで発動する魔法もあるのか。

 

攻撃が飛んで来てはいないので攻撃魔法ではない、となると付与魔法か。

 

少女の周囲に地面の塵が舞い上がっているようにも見えるが、先程聞こえた名称はテンペストだったか。

 

テンペスト……テンペスト()か…………風をまとう付与魔法、情報収集をしているときに聞いたことがあるな。

 

金髪の少女、人形のように無表情で整った顔立ち、風の付与魔法、レコードホルダー、ダンジョン狂い、二つ名は『剣姫』だったか。

 

「お前、アイズ・ヴァレンシュタインか。ロキ・ファミリアの主神のお気に入りが通り魔の真似事か?」

 

相変わらず返答はなしか、関わったこともない少女から何故俺は襲われているのだろうか?

 

先程より格段に速く踏み込まれ、斬りかかられる。

 

「っ!?」

 

だが、それだけだ。

 

「魔法を使うことでより速く、より重くもなった。が、この程度か」

 

魔法を付与されたことにより少女……『剣姫』の斬撃は先程より速く重くはなったが、俺からすれば大して変わらん。

 

眼で追えなくなる程速くなった訳でもなければ、剣がナイフで弾けなくなるまで力が上がった訳でもない。

 

先程と同じように『剣姫』の剣を弾いていく、剣筋が雑になり焦りを取り繕うことすら出来なくなったな。

 

それだけ、『剣姫』にとって魔法の使用は奥の手だったということか。

 

さて、しかしどうしたものか。

 

突然襲われたとはいえ『剣姫』に傷をつける真似は出来るだけ避けたい。

 

僅かでも怪我をさせるとロキ・ファミリアの主神が犯人捜しとかやり出しそうで、そうなると俺の行動が制限されかねない。

 

かと言って、これ以上続けると焦った『剣姫』が勝手に自爆して怪我をしそうな気がするし。

 

ナイフの性能チェックなどやらずに、最初から相手にしなきゃよかったか。

 

本当にどうし…………………なんだ?

 

敵意?殺気?此処より少し奥、『剣姫』の後ろにある路地からか?

 

焦っていて平静ではないとはいえ、こんな敵意を受ければ何かしら反応くらいしそうだが『剣姫』の様子に変化はない。

 

ということは、この敵意は俺にのみ向いている?『剣姫』の救援か?

 

なら、これを利用しよう。

 

これまでより大きく剣を弾き『剣姫』に距離を取らせる。さて、誰が来ているやら。

 

「これ以上は無傷で済ませてやるのが面倒だ。ここで引くなら追いはしないし、後から問題にする気もないが……どうする?」

 

気配が変わったか?であれば、『剣姫』の救援で間違いないか。

 

「『剣姫』、お前には言っていない。後ろに居る貴様に言っている」

 

俺の言葉に応えるように路地より出てきたのは、翡翠色の髪をしたエルフの女。

 

背後にあるのは魔法円というやつだったか?魔導の発展アビリティを持っていて、魔法を発動すると出てくるとかだったか。

 

俺に対する敵意は変わらず厳しいままだが、何処となく雰囲気に気品があるが……こいつ、まさか。

 

「リヴェリア?どうして??」

 

やはり、リヴェリア・リヨス・アールヴだったか。エルフの中でもハイエルフと呼ばれる王族でロキ・ファミリア副団長の『九魔姫(ナイン・ヘル)』。

 

『剣姫』の保護者代わりとの噂もあったな。『剣姫』はダンジョン狂いとして有名だからか、ダンジョンに潜って中々帰って来ない『剣姫』を探していたという所か。

 

魔法円を出したまま『剣姫』を庇うように警戒しながら俺の前に立つ姿を見るに、保護者代わりという噂は嘘ではないらしい。

 

「貴様は、何者だ?」

 

誤魔化すことも出来るが、此処は素直に話せることを話した方がいいか。

 

「答える義理はないが、まぁいい。傭兵のような物だ、とある奴に雇われて闇派閥(イヴィルス)について調べている」

 

警戒は解かないか、俺が本当の事を話しているか判断が付かないだろうから当たり前か。

 

「何故、アイズと戦っていた?」

 

「突然斬りかかられたから応戦しただけだ、俺ではなく『剣姫』に聞け」

 

『九魔姫』がアイズと『剣姫』に声をかけると、『剣姫』はきょとんとした顔をしながら……。

 

闇派閥(イヴィルス)じゃないの?」

 

……と、答えた。

 

「何故、俺を闇派閥(イヴィルス)だと判断した?」

 

「黒くて顔を隠してたから」

 

確かに黒の外套に、顔の下半分が隠れる黒のマフラーのような物をしているが……それだけで闇派閥(イヴィルス)と判断して襲いかかって来たのかこの少女は。

 

「信じるかは知らんが、俺は闇派閥(イヴィルス)ではない。それにしても九魔姫(ナイン・ヘル)、ロキ・ファミリアでは怪しい奴にはとりあえず斬りかかれと教えているのか?」

 

たしかに都市の治安はお世辞にも良いとは言えず、時間帯と場所を考えると俺は怪しい奴にしか見えないだろうが、『剣姫』は一体どういう教育を受けているのだ?

 

それと、『剣姫』が聞いていた年齢の割に精神的にかなり幼い印象を受けるな……この感じだと噂通りダンジョンに通うこと以外に興味がなく人との関わりが薄いのだろうな。

 

ティナも……幼い頃はこのような感じだったのだろうか?

 

ティナとは違いきちんと保護者がいるようだし、これから精神的に成長出来る機会は『剣姫』のが多いのかも知れないが。

 

しかし、勘違いで襲われたのかと考えると馬鹿馬鹿しくなるな。

 

ナイフを鞘に納める。これ以上やる気はないという空気を感じとったのか『九魔姫』もそれで魔法円を消し、こちらに頭を下げた。

 

「本当にすまない、アイズの誤解だったようだ。完全にこちらの不手際だ。謝罪の場を設けたいのだが、どうだろうか?」

 

『剣姫』の頭を押さえて無理矢理頭を下げさせているが、謝罪の場か……いらんな。

 

この言い方だと、ファミリアとして謝罪をされる可能性もありそうだ。

 

ロキ・ファミリアの団長である『勇者(ブレイバー)』は頭がかなり切れるという噂であるし、頭が切れる奴に余計な詮索はされたくはない。

 

仮にロキ・ファミリアのホームに連れて行かれた場合、『勇者(ブレイバー)』だけでなく神が出てくる可能性もある。

 

嘘を見破る神に恩恵を受けていないのに『剣姫』を軽くあしらえるなどと知られたら、面倒な事になるだけだな。

 

「引けば問題にするつもりはないと言ったのは俺だ。なら、謝罪は不要だ『九魔姫(ナイン・ヘル)』」

 

2人に言葉を投げ、早々にここから立ち去るとしよう。

 

「待ってくれ!せめて名前だけだけでも教えて欲しい!!」

 

「この場では何もなかった、それがお互いの為だ。そうだろう、ロキ・ファミリア副団長?」

 

ロキ・ファミリアは都市二大派閥の片割れで、『剣姫』は主神のお気に入りである。

 

相手が闇派閥(イヴィルス)かどうか確認せずに襲いかかったなど、将来有望な『剣姫』の経歴やファミリアの傷になるような出来事などは、ロキ・ファミリアを蹴落としたい者にとっては嬉しいネタでしかない。

 

幸い顔をはっきりと見られた訳でもない。仮に名前を教えてしまえば、そこから俺の事を探される可能性もある……何も言わず、なかった事にした方がお互いの為だろう。

 

彼女はロキ・ファミリアの副団長というだけでなくエルフの王族ということだし、俺が『九魔姫』ではなく副団長とわざわざ呼んだ理由くらいは察してくれるだろう。

 

エドガーも言葉が少なかったり、そもそも言葉が通じないような仲間の言いたい事を上手く察してくれていたし、種族は違えど同じ王族ならそれくらい出来るだろう。

 

マッシュ?あいつはあいつで仲間達とコミュニケーションを取るのはエドガーと変わらないくらい上手かったな、ガウやウーマロとは特に仲が良かったし。

 

「精神年齢が変わらないからだろ」とは誰が言ったのだったかな。

 

そんな懐かしい事を思い出しながら『剣姫』と『九魔姫』の元から去る。

 

もう面倒事は嫌だったので、念の為に遠回りをし、追跡して来る者がいないか確認しながら俺は家へと帰った。

 

 

 

 

 

 




話を動かしたかったので、ちょっと時間も飛ばしてみた。

問…ヘファイストスが鍛えたナイフ、なんで銘が『影楼』なの?
解…銘に関しては完全にフィーリング。最終的に『影楼』にするか『影狼』にするか悩んだけど、そのうちもう一本ナイフを増やす予定なので『影楼』にした。

問…『剣姫』ちゃん、いくら何でもあんな酷い理由でシャドウ襲うか?
解…原作で似たようなことやった前科持ちだから、正直やりかねないと思う。





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013 酒宴 (うたげ)


読んでいただきありがとうございます!

コメント、お気に入り、評価も本当にありがとうございます!!

コメ返しまでちょっと手が回りませんが、コメントは全部目を通しています……暖かいコメント本当に嬉しいです。

前話の前書きで誤字の話をしておきながら、よりにもよってサブタイを誤字った愚か者の私です。コメント見て慌てて直しましたわ。

今回は繋ぎ回だったり。

特殊タグを効果的に使うのって難しいですね、アニメーション増し増しのプレゼンみたいになりますわ。

次回は納得いくか諦めるまで書く予定なので……更新時期は不明な感じになりそう。



「みんなで楽しくお酒が飲みたいわ!!」

 

こいつは本当にどういう思考回路をしているのだろうか?

 

早朝という訳では無いが、まだそれなりに早い時間だというのに……突然家にやって来て挨拶もなしに第一声が「酒が飲みたい」とは、どうすればそうなるんだ。

 

「輝夜、説明を頼む」

 

アリーゼに聞いてもどうせまともな答えが返ってこないのはわかりきっているので、アリーゼの後ろで苦笑しながら俺に一礼をする輝夜に説明を求める。

 

「おはようございます、シャドウ殿。稀によくあるアリーゼの唐突な思い付きです。最近はシャドウ殿の活躍もあり闇派閥(イヴィルス)のゴミ共も大人しいですから、この機会に少し息抜きをするのも悪くはないかと。それに、そろそろライラをシャドウ殿に紹介したいとアストレア様も仰ってましたから」

 

稀によくあるじゃなくて、普段から思い付きで行動している事のがアリーゼは多いだろう。

 

そういえば、少し前にアストレアから俺との連絡役を輝夜以外に増やしたいと提案されていたな。

 

都市の巡回とダンジョンの攻略に加えて、輝夜には副団長としての仕事もあるから忙しいのだろうと思い、アストレアの方で人を選び、必要なら俺の事情も話していいと許可を出した覚えがある。

 

紹介される予定のライラという名にも覚えがある。たしか小人族の団員で、二つ名は『狡鼠(スライル)』だったか。

 

「酒を飲むついでに新しい連絡役を紹介するのは構わないが、場所はどうするんだ?俺とアストレア・ファミリアが一緒に酒場などに居たら目立つだけだぞ」

 

「そうね!私のような美少女が一緒にいたら目立っちゃうわね!だから、考えたわ!!此処でやればいいのよ!元々は酒場だったのだからピッタリね!!」

 

アリーゼの容姿が整っているのは客観的には事実なのだが、何故そうも自信満々なのだろうか。

 

少しは遠慮というか謙虚さを身に着けるべきな………いや、謙虚なアリーゼとかアミッドに治癒魔法を頼むことになりそうだ。

 

「参加するのはシャドウの事を知ってる私と輝夜、ライラにアストレア様。リオンはシャドウと喧嘩になっちゃうかもだから、ホームでお留守番ね」

 

「そして、開催は今日の夜よ!!」

 

ドヤ顔で宣言されてもな、こっちの都合を聞いてからにして欲しいのだが。

 

「アストレアやライラという奴はそのことを知って……ないのか」

 

輝夜が無言で首を横に振っていた。アリーゼめ、何も考えず完全にノリで話しているな?

 

思わずため息が出た。まぁ、アリーゼの突拍子もない言動にもここ数ヶ月で慣らされてきたのだ、このくらいならまだ大人しい方だ。

 

「輝夜、適当に金を渡す。お前らの酒の好みなど知らんから、つまみと一緒に買うといい。あと、アストレア達への連絡も頼む」

 

「アストレア様とライラへの連絡はわかりましたが、アリーゼが言い出したことですし、酒などの費用はこちらで出しますよ?」

 

闇派閥(イヴィルス)から回収した金が残っている。この際だから減らしておきたい」

 

闇派閥(イヴィルス)が非合法な手段で集めた奴らの活動資金だ、俺は必要以上の貯蓄も散財もしないのでかなり残っている。だから、使える機会があるなら使っておきたい。

 

「正義の眷属としては素直に受け取り難いお金ですね。しかし、せっかくのシャドウ殿からのご厚意ですし、受け取らせて頂きます」

 

「あ、私シャドウの作ったご飯が食べたいわ!!」

 

こいつ、本当に自由だな。

 

「なら輝夜と一緒に買い出しに行って材料を買って来い」

 

なんだ輝夜、何か言いたげな微妙な表情で俺を見るな。

 

「いえ、なんだかんだ文句を言いますがシャドウ殿はアリーゼには甘いなと」

 

「多少は自覚はしてるが……断ったら断ったでうるさいだろ」

 

了承しても拒否してもウザ絡みされるのは変わらないのだ、なら僅かでも被害が少なくなる方を選んでおけば俺の気が楽だ。

 

部屋から金を取って来て、アリーゼと輝夜に渡して買い出しに行く2人を見送る。

 

こうなったのなら仕方ない………気は乗らんが、準備するか。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「お邪魔しますシャドウさん」

 

「お邪魔するわ。これ、お土産ね」

 

「私もお邪魔するわね」

 

何故か、アストレアと一緒にアミッドとへファイストスも来た件について。

 

いや、どうせアリーゼが誘ったのだと思うが……誘ったのならそれはそれで構わないが、事前に言って欲しかった。

 

アリーゼに聞けば「伝えるのを忘れていたわ!!でも、お酒はみんなで飲んだ方が美味しいもの!聖女ちゃんとヘファイストス様ならシャドウの事を知っているから大丈夫!」とか言いそうだ。

 

実際、後でアリーゼに聞いたら似たようなことを言われた。

 

「それで、お前がライラか」

 

アストレアの横にいる桃色の髪をした少女。

 

小人族を間近で見たのは初めてだったが、歳はアリーゼ達とさほど変わらないはずなのに、本当に子供にしか見えんな。

 

というか、何やらガッチガチに緊張した顔でこちらを見てくるんだが、どういうことなのだろうか?

 

「お、お初にお目にかかります。アタシじゃなかった、自分はライラと、い……申します!」

 

これ、緊張しているのではなく俺のことを怖がってないか?

 

「アストレア、俺のことをこいつにどう伝えたんだ?」

 

「私は事実しか伝えてないわよ?」

 

アストレア曰く、異世界から来た暗殺者でアストレアと個人的に契約を結んでいる。

 

この事をアストレア・ファミリアで知っているのはアリーゼ、輝夜、リオンのみ。

 

ファミリア外ではディアンケヒト・ファミリアのアミッドとへファイストス。

 

今は輝夜が俺との連絡役をしているが、輝夜の負担が大きいのでライラにも連絡役をして欲しい。

 

「で、他には何を伝えた?」

 

さっきの内容だけでこんな風になる訳がないだろう。

 

「私はさっき貴方に言ったくらいよ。アリーゼか輝夜じゃないかしら?」

 

ライラに視線をやると、首を縦に振っていた。

 

「まぁいい。アリーゼ、4人を席に案内してくれ。輝夜は酒と料理の配膳を頼む」

 

へファイストスから土産を受け取り、アリーゼと輝夜に指示を出し、中断していた調理に戻る。

 

といっても、もうほとんど出来ているので適当に皿に盛り付けて終わりだが。

 

年齢的にアミッドに酒を飲ませてもいいのだろうか?たしか13か14だった気がするが。

 

「アミッド、お前は酒を飲めるのか?」

 

「あまり強くはないですが飲めますよ?」

 

飲み過ぎてしまったら魔法も使いますから大丈夫ですと言われても、お前の治癒魔法は酒の酔いに効くのか?酩酊を状態異常(デバフ)と考えれば効くかもしれんが。

 

というか、酔っていても問題なく魔法は使えるのか?最近は並行詠唱とかいう動き回りながら魔法詠唱を行う技術の練習をしていると言っていたから、それで魔力操作の精度が上がったのだろうか?

 

ふと……魔法で船酔いを治そうとした馬鹿を思い出した。

 

馬鹿は魔法を使った後「だいぶ楽になっ……うっ」と呻いていたな。

 

酔いの原因である船から降りていないのだから、一時的に楽になった所で無意味だろうとは思ったが、面倒なので指摘はしなかった。

 

「酒精の弱い酒も用意してある。好きな物を飲むといい」

 

「はい。ご配慮ありがとうございます、シャドウさん」

 

まぁ、酒と船の酔いは違うだろうし、アミッドが飲み過ぎるようなら適当に止めればいいか。

 

出来た料理を皿に乗せ、輝夜に渡してテーブルに酒と料理を並べてもらう。

 

アリーゼにはグラスに酒を注いでもらって、それぞれに渡してもらった。

 

「みんなお酒は持ったわね!それじゃあ、乾杯はシャドウにしてもらいましょう」

 

「ここまで仕切ったのだから、そのままやればいいだろうに……まぁ、特に言うことはない。アリーゼの思い付きとはいえ集まってくれたのだ、適当に飲んで食べてくれ、乾杯」

 

乾杯、と声が響く。

 

アミッドが果実酒、それ以外の奴らはエールが注がれたグラスを鳴らす。

 

「これ凄く美味しいわ!聖女ちゃんも食べてみて!!」

 

「………美味しい。これシャドウさんが作ったんですか?」

 

「すげぇな。普通に金取れるぞこれ」

 

「えぇ。これだけの料理を作れるなら、シャドウ殿は酒場のマスターでもやればいいのに、勿体ない限りです」

 

「お疲れね、アストレア。最近は特に忙しいみたいだけど、大丈夫なの?」

 

「ありがとうへファイストス。そうね、もう少しと言った所かしらね」

 

女が3人集まれば姦しいというが、少女が4人に女神が2人だとなんと呼ぶべきなのか。

 

あとアストレア、お前やお前のファミリアが忙しいのは闇派閥(イヴィルス)が悪いのであって俺のせいではないからな。

 

俺はお前に奴らの情報を流しているだけだ。

 

各々酒は進み、料理が少なくなって来たので追加を出す。

 

どんどん減っていくのだが、お前ら普段どんな物を食べているんだ?そんな必死になって食べるような物ではないだろうに。

 

しばらく飲み食いをした後で、ライラとの顔合わせもしたが、何事もなく無事に終わった。

 

話し合いの最中に、何故俺のことをそこまで怖がっていたのか理由も聞いた。

 

アリーゼと輝夜に色々聞いたが、Lv.4で戦闘能力が高いリオンと輝夜の2人を相手に模擬戦をして怪我ひとつしない。また、2人に怪我をさせなかった実力者を相手を前にして怖がらない方がおかしいとのことだった。

 

あと、たまに行われている訓練の内容も聞いたらしい。

 

訓練の内容と言われても、アリーゼと輝夜が反応出来るギリギリのラインを見極めた攻撃を行い、2人に対処させているだけなのだが?

 

工夫している点といえば、慣れさせないように注意しながら油断した頃に死角から攻撃を入れたり、不意打ち対策にわざと殺気を込めずに急所を狙った攻撃をするくらいだ。

 

最初は何も出来ずに死亡判定を何度もくらった2人だが、最近は反撃まで出来るようになって来ている。

 

その程度なら俺以外にも出来る奴はいるだろうと抗議したが、話を聞いていた全員に「何を言っているんだこいつ」という顔をされ首を横に振られた……解せぬ。

 

「輝夜やアリーゼと仲良くしてくれているみたいで嬉しいわ」

 

「輝夜には世話になっている。アリーゼは色々と振り回されることが多いがな」

 

こちらに来たアストレアに言葉返すと、くすくすと酒を片手に笑われた。

 

いい笑顔をしているが、えらく上機嫌だな。酒を飲むとこうなるのか?

 

「アリーゼ、あれで貴方に甘えているつもりなのよ?貴方を振り回してるのも不器用に甘えているの。あの子、色々と無理が出来ちゃう子だし。自分一人じゃ出来ることが限られているのを知っているから、周りや仲間に頼ったり出来る子だけど……誰かに寄りかかったりするのは苦手なのよ」

 

「輝夜も貴方には随分と心を許しているわ。輝夜は育ってきた環境が少し特殊だったから、すごく警戒心とかが高いのにね。そういえば、ライラも連絡役にするって伝えたら、とても嫌がったのよ?どうしてかしらね、シャドウ?」

 

そんなことを言われてもな、それにお前のその表情は主神というより、姉か母親のようだぞ。

 

「私の娘たちをよろしくね、シャドウ」

 

俺は答えを返す代わりに無言でアストレアのグラスに酒を注いだ。

 

わざわざ答えなくても、アストレアならこれで理解をするだろう。

 

俺の言いたい事とアストレアの理解が違う可能性もあるが、それは知らない。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「どうかされましたか?」

 

「輝夜か。少し、思い出したことがあった」

 

あいつらと酒を飲み交わした回数は少なかったな。

 

セッツァーやエドガーとはたまに飲む機会があったが、ロックとは機会に恵まれなかった。

 

ティナやセリスはあまり酒を好まず、カイエンも似たようなものだった。

 

マッシュは静かな酒が苦手で、飲む時はモグやガウ、ゴゴとウーマロを捕まえて騒々しく飲んでいたな。

 

ストラゴスはこっそり酒を飲もうとするリルムに子供だからまだ早いと説教していたか。

 

説教から逃げてきたリルムに水で薄めた甘めの果実酒を渡したら、後でティナとセリスにバレて俺まで怒られたこともあったな。

 

「それと、この光景も悪くない。そう、思っただけだ」

 

酔ったアリーゼがアミッドに絡んで、アストレアがアリーゼを窘め。

 

ライラが呆れたような顔をして、輝夜がフォローに入る。

 

そんな他愛のない光景をヘファイストスが静かに酒を飲みながら眺めている。

 

かつての仲間たちとは叶わなかった。

 

もしかしたら、瓦礫の塔で死を選ばなければ叶っていたのかも知れない。

 

ケフカを殺し、平和になった世界であれば……きっと。

 

未練だな。

 

だが、それでいいのかも知れない。

 

かつて叶わなかったからこそ、俺はこの光景を尊いと感じられる。

 

こんな光景を、また見てみたいと思えるのだから。

 

 

何故、俺は忘れていたのだろうか

 

現実は無慈悲で、残酷で

 

気が付くと、大切なものは

 

いつも、手の届かない場所で

 

零れ落ちてしまうということを

 





問…シャドウって関わるの女性ばっかりだけど、男の知り合いはいないの?
解…たまに飲みに行く酒場で名前も知らない猪人の男と静かに酒を飲み交わしたりはしてるよ

問…その猪人って美の女神ガチ勢の人?
解…いぇす

問…シャドウとその猪人ってどっちが強いの?
解…シャドウ。猪人は最低レベルを1つ上げないと勝ち目はない



『次回予告』

「私が残るわ!だって、私はアストレア・ファミリアの団長なんだもの!!」

「愚か者め、私を心配するなど100年は早いぞ。ポンコツエルフのクセに」

「恩恵が、きえ、た」

「ライラぁぁぁぁ!!やれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「生きてさえいてくれれば、私が絶対に治します」

「オラリオを滅ぼすためだ!!まずは貴様ら正義を名乗る愚かぐぎゃっ!?」

「フレイヤ様の御心のままに」

「すまない、都市(オラリオ)の為だ」

「アリーゼ、輝夜。頼むから存分に恨んでくれよな」

「嫌だ!!嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「帰ったら、シャドウに素直に甘えてみようかなぁ……なんてね」



次回 『014 悪夢 (ジャガーノート)』





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