見えざる帝国を築きたくて (山吹乙女)
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聖帝頌歌

 お疲れ様です。影の実力者になりたくてを見た結果面白くて、語録が良い事全振りの衝動的に書いた作品です。かなりにわか知識丸出しですので何卒温かい目で見ていただけたらと思います


 もし来世があるなら…いや未来の話はやめよう。私は予言者ではない、「今」の話をしている。

 青信号の横断歩道に差し込むトラックのライト、気を失い顔をうつ伏せにしたトラック運転手が、スローモーションのように動くこの世界でハッキリと見える

 

 走馬灯のように繰り返されるのは一般家庭の生まれだった自分の特筆すべき点がない人生、唯一語るところがあるとするなら中学の時よく連んでいた陰の実力者に憧れていた友達の影野くんは今も元気でやっているだろうか…両親の蒸発でいきなり田舎の親戚に引き取られて別れの挨拶すらまともにできなかった事を思い出すくらいには、未練があった

 

 でもそうだな、やはり来世があるなら…そう考えていた私の体はトラックにすり潰された

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 気がついたら異世界に転生していた。何かの催眠実験だとか、トラックにすり潰されたことや赤ん坊の体になっていることもただの夢だったとかそんなちゃちなことじゃあ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった

 

 没落貴族の元に生まれた私はユーハバッハ・クロスフローリーと名付けられ、クロスフローリー家の次男として育てられた。元々若い時のユーハバッハおじさんに似ていると言われていたが、まさか名前すら同じモノになるとは思わなかった

 ほんの少しここはBLEACHの世界かとも思ったが、蒸気機関車や馬車が主な移動手段な上に、霊子などではない魔法というファンタジー要素もあり、技術が中途半端に進んでいたことから異世界であると思われる

 

 クロスフローリー家は代々銃を扱う一族とされたが、魔剣士の台頭により地位は下がり没落貴族の烙印を押され、されど特別貧しいと言うわけでも無く、豪邸もメイドもいないがこの世界の一般家庭のような立ち位置となっていた。

 代々銃を扱う一族だが、新たな取り組みとして魔剣士のように剣を扱う事を私の世代から取り入れようとし、現在に広く普及している魔剣士に銃と言う遠距離戦法も取り入れ家の再帰も考えているらしく、幼少期から銃の扱いに加え、剣術の指導も入ることとなった

 

「やぁぁぁぁ!!」

 

「…甘いな」

 

 兄との剣の稽古をしているが、私の上段の振り下ろしを易々耐え、受け流すように剣を滑らされ倒れたところにマスケット銃を突きつけられる。もちろん弾は入っていないがこれが実戦なら私は死んでいたと言うことになる

 

「兄さんは強いな、私では到底勝てそうにない」

 

「ユーハバッハも筋はいいんだ、後は筋力と経験だろう」

 

 兄のスタイルは右手に剣を持ち左手にマスケット銃を持つ遠近両立のクロスフローリー流として完成しつつあった

 

 とまぁ、他人から見ると優秀な兄と平凡な弟という構図になっているが、裏では………

 

 

 

「我が名はユーハバッハ、お前の全てを奪うものだ」

 

「ハハッ、ただのガキじゃねぇか!殺せ!殺せ!」

 

 家から少し離れたところで野盗狩りをしていた。今日は大量にいるな

 

大聖弓(ザンクト・ボーゲン)

 

 空中に魔力で固めた刀剣状の矢を十五ほど形作り、野盗に向かって発射する。するとあら不思議、矢が野盗の頭や心臓に全て刺さるじゃありませんか

 

「恐ろしいか?」

 

「ひいっ…」

 

 野盗の仲間の死体で付近は死屍累々となったが、構わず大聖弓を射出する

 特に目的とかはないが、せっかくこの名前で転生したのだから『見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』を作ることにする。それに運良くこの世界の魔法は滅却師(クインシー)の扱う霊子のようにかなり自由に扱える

 

「おらっ!!」

 

 死角から野盗の一人に斬りかかられ、首筋にその剣を受けるがガキーンと鉄を切りつけたかのような音が響く

 

「は?なんで斬れねぇんだよ!それにこの硬さは一体ッ!」

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)、死に行く貴様には名前だけでも教えておく」

 

 魔力を体内の血管に流し、防御力を格段に上げる滅却師の基本技能のようなモノだ。今は使う必要はないが、コレを攻撃用に切り替える動血装(ブルート・アルテリエ)も存在する

 首筋に斬りかかってきた野盗を手持ちの大聖弓で斬り捨てると辺りが静かになった。こういうヤバい魔法とか技術練習は野盗に限る

 

 さて、全部片付いたのなら野盗のお宝を根こそぎ奪っておくか…ふむふむなになに、金塊に高そうな調度品に…げっ悪魔憑きが入った檻か

 でもそうだな、ここは実験として自分の魂のカケラでも仕込んでみるか

 転生者故か自分の魂を他者に分け与える事が可能となっている。その気になれば無差別に魂を分け与え、聖別(アウスヴェーレン)で力の一部を奪うこともできたりする

 膨張した蠢く肉塊は悪魔憑きと呼ばれているが、その者に自分の魂を分け与えるとなんとビックリ、それは金髪全裸の美少女に変わっているではありませんか

 

 いやこの感じはアレだな、この悪魔憑きと言うのは対象の体内で制御しきれなかった魔力が暴走し膨張した結果肉体が原型と留められずに起こった症状のようなモノだな。それを魂を分け与えたことにより魔力のパスが私と彼女の間に出来、暴走した魔力が私に流れ込み正常なモノとなった…と言った感じか

 

「うっ…ここは、私は戻ったのか?」

 

 おや、気がついたようだな、夜の野盗の野営地だからだろうキョロキョロと周りを見ている

 

「おはよう、体は大丈夫のようだな」

 

「貴方が、私を救ってくれたのですか?」

 

「いかにも、私が自らの魂を分け与えお前を救ったのだ」

 

 いかんな、陛下ムーブのようになる。この金髪の美少女の顔が若干ハッシュヴァルトに似ているというのも助長しているな、男装させたら完全にハッシュヴァルトになりそうだ

 

「見ず知らずの私に…なんとお礼をしたら」

 

「ならば私の部下となれ、私は帝国を築く、お前はその最初の部下としてな…してお前の名前はなんと言うのだ?」

 

「今の私に名前などありません、願わくば名前を授けていただけると幸いです。陛下…」

 

 なるほどそうくるか…それなら最初から決まっていたりする

 

「ふむ…ならば今後お前はハッシュヴァルト…ユーグラム・ハッシュヴァルトと名乗ると良い」

 

「ありがたき幸せです。陛下」

 

 こうして私に部下が出来た

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 ハッシュヴァルトの働きにより着々と悪魔憑きの情報が入り、その都度魂を分け与え部下としていく事を繰り返していると、かなりの大世帯になってきた。なのでせっかくだから星十字騎士団(シュテルンリッター)と名付けた

 別に頼んでいたわけではないが、ハッシュヴァルトがどんどん見つけてくる。多分自分と同じ境遇にいた人を救いたい気持ち全振りで動いているのだろう。そう言うこともありこれ以上増えてもいいように本拠地を作ることにした。その場所というのが王都の影だ。そこに魔法で空間を創り、帝国を造る。そのままの見えざる帝国だ

 魔法の万能性様々だな。というか色々応用が利く魔法がもっぱら身体強化ばかりに注目されて、このように影の中に空間を作れることも発見されていない

 

 しかし王都丸々一個分の大きさを影の中に造る作業がかなり過酷で何度も魔力切れになったが、空間そのものは九年の歳月をかけてようやく完成させた。建物とかはまるで作れてないがこれからだな

 ちなみに見えざる帝国に入る方法も簡単で、私の魂を分け与えた存在なら王都の影を媒介としてどこからでも入る事ができる。影に魔法で入り口を作るという事を知る必要はあるがな

 

 言い忘れていたが、ハッシュヴァルトが部下となってからクロスフローリー家は兄の影響もあり少し持ち直したようで、辺境にあった住居は王都に移動した。私が見せている実力ですら並の魔剣士よりは上のようで、少しは貢献できたのではないかと思う

 

「それでは行ってまいります。父上、母上」

 

「うむ、頑張ってくるのだぞ」

 

「気をつけて行ってきてね」

 

 割と忙しかった九年を終えると私も十五歳となり、ミドガル魔剣士学園への入学義務のため学園に入学することとなった。第二の人生でも学園に通わなければいけないというのは億劫な気持ちがあるが、それはそれとして楽しみというのもある

 

 学園からはそこそこ離れていることもあり列車を使うのだが、その駅も少し離れていることもあって歩かねばならない。通学途中に対面からいかにもな男装令嬢がこちらに歩いてくると、私の耳元でボソリと呟いた

 

「陛下、一つ小耳に入れたい情報が」

 

「うむ、わかった。学園の終わりに見えざる帝国に赴こう」

 

 ハッシュヴァルトだな。一度男装を褒めた事があった翌日から男装の割合が増えた、多分私のせいだろう。星十字騎士団からの評判はいいようなので問題ないはずだ

 

「おはようカゲノーくん」

 

「ああ、おはようユーハバッハ」

 

 学園に通って数ヶ月ほど経ったが、その中でも特に仲がいいのがこのカゲノーくんだ。なんというか前世の影野くんと名前も見た目も似ていて、どこか懐かしさを感じるんだ…絶対前世の影野くんとは関係ないとは思うが

 

「それでテストの罰ゲームで王女殿下に告白するって聞いたぞ、アレって本当なのか?」

 

「本当だよ、かなり憂鬱なんだ」

 

 アレクシア王女は同じくミドガル魔剣士学園に通う高嶺の花のような存在だ。彼女は何人もの男を振って撃墜させていってる。振られる事が約束されたようなモノだな、哀れとは思わないが…コレも青春の一つと思っていいだろう

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 僕には友人がいる。ユーハバッハ・クロスフローリーと言う。元々は没落貴族だったが、新しい剣術の開発に伴い多少の持ち直しをした家だ

 

 彼の名前に前世の漫画の登場キャラが頭をよぎり、なんとなく重要人物っぽい気がして普通のモブAを演じる僕としては関わるべきではないと思っていたが、なんとなく会話の波長が合って今でも連んでいる。ちょっと昔の離れて行った友人に見た目が似ているのもあるだろう、馬場くんは今も元気で生きているだろうか

 

 それはそうと罰ゲームでアレクシア王女殿下に告白したらOKされ、今日一日は大変な目にあった。しかし緊急連絡があるのでシャドウガーデンのシャドウとしてこの憂鬱な気持ちを引っ張るわけにはいかないな、しかし緊急連絡とは珍しい、どうしたのだろう

 

「緊急連絡よ、シド」

 

「はいはい、緊急の知らせとはなにかあったの?」

 

 報告に来たのはアルファだな、普段忙しい彼女が来るとはかなりの大事かもしれない

 

「そうよ、我々シャドウガーデンは悪魔憑きの回収に尽力していましたけど、敵であるディアボロス教団とはまた別の新たな組織の存在が発覚し、その者らと交戦した後、悪魔憑きを奪われる形となったわ。死者が出ていないのが救いだけど」

 

 えぇ…僕たちの他に悪魔憑きを狙ってる組織がディアボロス教団以外に他にもいて、僕たちが出し抜かれちゃったの?…よくできたストーリーだな、新しい組織の追加とかまるでバトル漫画だ

 

「ふむ…それは大変だな、その者達の情報は?」

 

「その者らはヴァンデンライヒから来たシュテルンリッターと名乗り、聞いた話だけだけど、その者達の魔力操作は常識の範疇から逸脱しているものだったから報告に来たわ」

 

「なるほど…待て、ヴァンデンライヒにシュテルンリッター?」

 

 ちょっと待て、見えざる帝国に星十字騎士団ってもうそれBLEACHの名称じゃないか…偶然にしてはあまりに出来過ぎている。まさかユーハバッハがその者達の長なのではないのか?まさか…僕が言うのもなんだが、彼はギリギリネームドキャラかもしれないってくらいの立ち位置のはず…もしや僕と同じく実力を隠して…ありえるな

 

「まさか心当たりが?」

 

「無い…わけではないけど、確証が持てない以上、情報収集に徹する他ないね」

 

「貴方はまた、秘密主義ってやつ?…まぁいいわ、それでは報告は以上よ」

 

 ユーハバッハか…明日からは彼に探りを入れてみるか




 お疲れ様でした
 もうこの世界の魔法は霊子のように自由にできるってことを考えてもらえると助かります


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全知全能①

 お疲れ様です
 興が乗り、続きを書いてみた次第です。しかし長くなりそうだったので続く感じになります


 夕陽が差し込む放課後に、草葉の陰から一人の友人が高嶺の花に告白する光景を観察していた。彼は緊張から手汗をズボンで拭い、少し冴えない一般男子高校生を想起させる出立ちで当たり障りのない普通の告白を口にした後、右手をその高嶺の花に差し出す

 するとその高嶺の花…アレクシア王女殿下は友人の…カゲノーくんの手を取り、まさかのOKを出していた

 いやーアレには驚きより笑わされたな、OKをもらった本人ですら予想外って顔をしていたのだから、余計に笑いが込み上げてきた

 

 くつくつと今にも思い出して笑いそうになるところを耐え予定通り見えざる帝国に赴き、報告を聞くことにする

 王都のどこでもいいが、急ぎだろうこともあり学園の人目の無い影に手を置き魔力で入り口を作ると、影に吸い込まれるようにして中に入る。すると私が造った我が帝国が姿を現す

 

 螺旋状に敷き詰めた建物も順調に出来上がってはいるが、まだ外観だけなので内装などはこれから住むものが好きに造っていくだろう

 見えざる帝国の中心に位置するのは銀架城(ジルバーン)と呼ばれる城だが、まだ玉座の間と星十字騎士団全員が座れる長机と豪奢な椅子を置いた食卓のような空間しかない…そのほかの部屋はまた追々だな

 

 城の前に着き、三メートルはある城の扉を開けると星十字騎士団全員が待機していた

 

『お待ちしておりました。陛下』

 

 現在いる星十字騎士団の全員が一斉に跪き、私の到着を待っていた。これはBLEACHのユーハバッハのような独裁政権ではない事が功を奏して、星十字騎士団全員からの忠誠心が厚いと言う事だろう。悪魔憑きの時の肉塊から解放して尚且つ魂を分け与えたことにより特殊な能力と自分の力にもバフがかかっている事も関係しているだろう。私個人としては自分の魂のかけらを分け与えた娘達のような感覚となっていたりするが、星十字騎士団から実際どう思われているのだろうか…

 

「出迎えご苦労…それでは、知らせを聞こうか」

 

 

 

 

◆◆◆

 

「シャドウガーデン?」

 

「はい、陰に潜み陰を狩る者としてその存在を発見したのは、我々が悪魔憑きの回収に取り掛かっていた時でした。恐らく偶然目標の悪魔憑きが被り、現場で鉢合わせたものかと思われます」

 

 会議室兼食卓のような長机に着き、右隣に座るハッシュヴァルトから情報(ダーテン)を受け取る。陰に潜み陰を狩る者とは、まるで私達を狩るような存在ではないか

 

「その者達との交戦は?」

 

「シャドウガーデン側の死者は確認した限りではおらず、撤退にまで追い込むことに成功したものの、シャドウガーデンの構成員はかなりの手練れのようで、血装(ブルート)の使用、および飛廉脚(ひれんきゃく)を晒す結果となりました」

 

「ふむ…交戦した者は、バンビエッタ含む五名か…」

 

『陛下…ここにおります』

 

 入り口付近で席に座らず待機していたバンビエッタ含む五名が左側に飛廉脚で高速で現れて跪く、左から順にバンビエッタ・バスターバイン、リルトット・ランパード、ミニーニャ・マカロン、キャンディス・キャットニップ、ジゼル・ジュエルと並ぶ、別に彼女らはバンビーズと名乗ってるわけではないがバンビエッタがリーダーをしている本当に仲のいいチームなので心の中でバンビーズと呼んでいる

 

 実はハッシュヴァルトに名前を与えてからと言うもの、悪魔憑きを元の姿に戻した者達から忠誠の証として私からの名付けが恒例化したようで、髪型とか髪の色から果ては質問による性格からBLEACHの星十字騎士団から名付けを行い、全員が名前だけは同じの『なんちゃって星十字騎士団』となっている。恐らくハッシュヴァルトが名付けを広めたのだろう…よほど嬉しかったのかもしれない

 

「未知の組織に手の内を晒してしまった愚行をお許しいただきたく思います。つきましてはこれ以降失態がないよう細心の注意を払い_」

 

「待て…未来について話すものではない。私は、『今』のお前の功績を讃えようとしているのだ」

 

 一番左側にいた黒髪巨乳のバンビエッタが震えながら自分を蔑むような言い方をしていたので、気になり途中で遮ってしまった。この子見た目だけでバンビエッタと名付けたけど、性格はゾンビエッタだったんだよね…

 

「…私の失態をお許しいただけるのですか?」

 

「失態など何もないであろう、血装も飛廉脚も我ら見えざる帝国の基本技能、聖文字の能力も完聖体すら見せずましてや敵かもわからぬ未知の組織相手に殺生をせず撤退に追い込んだのだ。これを讃えずして私はお前達の王を名乗れはしない」

 

「…ありがたき幸せでございます。陛下」

 

 これこそ我が見えざる帝国が誇る褒めて伸ばす政権、恐怖政策など仲間割れの危険性とか反逆の原因にしかならないからね

 でも口調だけは厳格なままにしておかないと甘く見られる危険性がある。…まぁ本気で反旗を翻されたら聖別で弱体化させることも出来るが、そう言うことができると知られるとそれこそ恐怖政策にしかならないからね…。ロバートさんにやったように白骨化?アレは多分本当の意味で自分が始祖にならないと無理だよ

 

「大義であった。これからも研鑽を積むことを忘れず精進するのだ」

 

 バンビエッタの肩に手を置き、バンビーズ全員を一瞥し緊張を解いてもらう事にする。やっぱり陛下っぽい喋り方は威圧感すごいからね、萎縮しちゃうもんね

 バンビエッタは畏まって「勿体なきお言葉を…」と言って頬を赤らめていたので、やはりこの褒めて伸ばす方法は二重の意味で裏切らないだろう。バンビーズ五名を席へと座らせると今後の方針を決めることとする

 

「それでは、我々見えざる帝国はシャドウガーデンに対し、ひとまずの静観をとる事にし、交戦は極力避けその全容を掴んでから対応を考える。情報収集に尽力せよ」

 

『仰せのままに』

 

 全員が立ち上がり胸に手を当て敬礼する。私が教えたわけではないがなぜか定着していた…………ハッシュヴァルトかな

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「今宵、私はクロスフローリーの家に帰る事とする。今日は…姉のロイドには体を休めるよう伝えておくように」

 

「はい、お疲れ様です。陛下」

 

 ユーハバッハは一通り書類に目を通すと、自分が対応しなければいけない書類を済ませて見えざる帝国とは別の、表の顔としている家へと帰るため影へと消えていった

 ユーハバッハが帝国を作ったとは言え機能性はまだまだこれからなので、現代でいう会社のような使い方をしていたりするが、裏で動くために表の顔を生かすことはトップの顔が割れることを防ぐ事にもつながるため、一日中はまだ居られない事になっている。ちなみに先日回収された悪魔憑きは、ユーハバッハにより魂のかけらを分け与え元の姿に戻された後「アズギアロ・イーバーン」と名付けられ、未完成の応接室にて様子見となった

 

「私達の王はどうしてあんなにも寛大なのでしょうか…」

 

「大事な部下だからでしょうね」

 

 うっとりとしたバンビエッタに冷静に答えるのは、黒い髪を腰まで伸ばしたロングストレートにマスクをつけた美女エス・ノトである。彼女は口元の火傷が原因として常日頃からマスクの着用をしている

 

「それにしてもバンビちゃん羨ましいわ、ええ羨ましい…」

 

「私も褒められたかったわ」

 

「まぁ…それには同感だな」

 

「うんうんボクもそう思うよ」

 

 リルトットが最初に発言し、ミニーニャ、キャンディス、ジジ*1と続く

 

「今回は咎められることはなかったけど、陛下にお褒めいただけるかは貴女達の頑張り次第よ。場合によっては生け取りにするか無理なら殺してでも情報を奪うか…いずれかの選択を陛下から迫られる可能性はあるわ、心してかかるように」

 

「ユーゴちゃん陛下の前では男口調だよね、みんなの前では普通の口調なのに」

 

「僕が思うにきっと陛下の前では上がっちゃうから、照れ隠しってやつだよ」

 

 ハッシュヴァルトを揶揄うのは、ハッシュヴァルトと特に仲のいいピンク色の髪を編み込んだ美少女バズビー、そしてバズビーに続くのは褐色の肌の銀髪美女エルフであるリジェ・バロであり、痛いところを突かれたハッシュヴァルトが赤面し、星十字騎士団が全員微笑む優しいなんちゃって星十字騎士団が広がっていた。…なおこの中では全員が正妻の余裕を持ち合わせているがユーハバッハはそれを知らない

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 友人が王女殿下と交際して一週間が経過した。アレクシア王女とは接点がないため少し離れた位置から観察することが多くなったが、友人と目が合えば「助けてくれッ!」とその都度目で訴えかけてくる。私にどうしろと言うのだ、告白したのはカゲノーくんだろう…

 

 しかしアレクシア王女の対応は傍から見てもいささか見せつけているように見える。カゲノーくんの友人のヒョロくんとジャガくんが早々に罰ゲームで告白したとカゲノーくんを売ったようなのでそのことが関係しているのかもしれない

 

「クロスフローリーくん…でよろしかったかしら?」

 

 カゲノーくんと王女殿下が昼食中イチャコラしているのをみていると、目についた私にアレクシア王女が話しかけてきた。相手がいるのに他の男に喋りかけるなよ…ほらカゲノーくんが私に押し付けて音を消して逃げていったじゃないか…彼はニンジャか?

 

「王女殿下に覚えていただけるとは光栄です」

 

「そんなに謙遜しないで、貴方のお兄さんの剣技はこの国の剣術の進歩を感じさせるものよ、私は貴方にも期待しているわ」

 

 兄さんルール無用の殺し合いならともかく、純粋な剣技なら私では絶対勝てないからな…銃の腕でも怪しい、弓矢ならいけるが

 

「兄…レイ・クロスフローリーが、この国の役に立っているのなら弟である私も鼻が高いです。それはそうと王女殿下、カゲノーくんがどこかにいかれたようですが?」

 

「え?もう、あの男ったら…」

 

「…傍から見ていると結構お似合いのように見えますよ」

 

 カゲノーくんを追いかけようとして席から離れた王女殿下に聞こえるかどうかの声で言ってみると、彼女はチラリとこちらを振り返ると走り去っていった…

 

 …そんなアレクシア王女が誘拐される数日前の何気ない日常を思い出す。私と彼女の接点らしい接点はそんなところだろう、しかし無関係な人物ではなくなっていた。またカゲノーくんがそのアレクシア王女の誘拐犯の容疑者となっていたが、どう考えてもあり得ないだろう。十中八九ディアボロス教団の隠れ蓑にされたものと考えている。カゲノーくんも災難だな

 

「今夜だな…」

 

「はい、今夜決行されるものかと」

 

 見えざる帝国の玉座に座り、隣のハッシュヴァルトと共に王都の混乱を待つ。シャドウガーデンがアレクシア王女の捜索に当たっていることは諜報担当のベレニケ・ガブリエリが掴んでおり、今夜が最も活発になるのでその混乱に乗じて『アレ』を取りに行く

 すると偵察を任せていたバンビーズが帰還し、王都での破壊活動が活発化されたとのこと

 

「ならば我々見えざる帝国は、ミドガル魔剣士学園に眠るディアボロスの右腕を奪いに行く、同行する者はペルニダ、ジェラルド、アスキン、リジェの親衛隊(シュッツシュタッフェル)、残りの星十字騎士団はハッシュヴァルトの指揮のもと王都でディアボロス教団、並びにシャドウガーデンの動向を偵察するように」

 

『ハッ!』

 

 

 

 

*1
ジゼル・ジュエル




 お疲れ様でした
 現在のユーハバッハくん含めた現在登場している簡単な星十字騎士団の説明を書いていきます

 ユーハバッハ
 本作主人公、見た目は一護の精神世界で出てきた若い時のユーハバッハ、現在の能力は他者に魂のかけらを分け与える他、滅却師が持つ能力全般

 ユーグラム・ハッシュヴァルト
 男装を好む長身イケメン美女、種族は人間

 バンビーズ
 大体原作ブリーチに出てくる見た目に似ている、種族は人間

 ジジ(ジゼル・ジュエル)
 ほとんどが女性にしか発現しない悪魔憑きだがこの子だけ唯一性別は男性でこの世界基準ユーハバッハと同じくかなりのイレギュラー、見た目はBLEACH原作のジジに酷似、種族は人間

 エス・ノト
 本編に書いた通り、見た目は大体『勝利の女神NIKKE』に登場するメイデンというキャラに酷似、種族は人間

 ベレニケ・ガブリエリ
 金髪の美女、割と一番自分が可愛いと思ってる節がある情報収集担当

 ペルニダ・パルンカジャス
 種族エルフ(他不明)
 
 アスキン・ナックルヴァール
 種族エルフ(他不明)

 ジェラルド・ヴァルキリー
 種族エルフ(他不明)

 リジェ・バロ
 種族エルフ、銀髪ロングの褐色、一人称は僕、かなりの長身で巨乳、星十字騎士団のなかで一番スタイルが良くそのことを心の中で自慢げにしている


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全知全能②

 お疲れ様です
 何故か筆が乗ってしまったので続く形になりました。あと先に謝ります、すいませんッ!


 平時なら学園の警備はかなりの数の騎士団団員が駐屯しているが、王都の混乱故か、ほとんどの人員が街へと回されミドガル魔剣士学園はもぬけの殻となっていた

 

「親衛隊で押しかけなくても良かったかもしれませんね、陛下」

 

「しかし陛下の御身に万が一があれば、と考えるとこのメンバーの方が確実でしょう」

 

 短い黒髪をアシンメトリーで整えたエルフの美女アスキン・ナックルヴァールとそれに答えるのは金髪ロングの女騎士然としたエルフであるジェラルド・ヴァルキリーである

 念のためと我が星十字騎士団で現在の最大戦力を連れてきたが、やはり取り越し苦労であったようだな

 

 なぜこの王都の混乱に乗じて封印されているディアボロスの右腕を取りに来たかというと、更なる力の向上につながると判断したからだ

 何せ今の私の能力は魂を分け与えることだけであり、星十字騎士団は聖文字の能力には覚醒しているものの、それでも原典よりかなりの弱体化を余儀なくされている。ちなみに我が星十字騎士団の聖文字は能力そのものが覚醒する因子を付与しているだけであり、その人個人にイニシャルを与えているわけではない…つまりイニシャルが被ることがあるということだ*1

 BLEACHの陛下とは趣向を変えて配下に自由な能力を与えようとした結果だったが、完璧に予想外だった

 

「ディアボロスの腕の封印場所は把握しておるな?」

 

「………(コク)」

 

 私の声に首を縦に振って答えたのは前髪が顔の半分を覆うほど長く綺麗で口元の黒子が印象的なエルフであるペルニダ・パルンカジャスである。彼女は積極的に声を出そうとはしないが、私が話を振ると必ず頬を赤らめているので緊張している説がある。前世の記憶からギャルに話を振られたオタクくんの印象が強いが、この想像は一種の呪いのようなものかもしれない

 

 封印場所と言われている地下を想像していたが想像通り、学園の真下にある地下に祠が建てられ、そこに某呪術の両面宿儺の指のように包帯で巻かれた腕がまつられるような形で封印されていた

 

「これが…ディアボロスの腕、陛下はコレをどうするおつもりで?」

 

「見ておれ」

 

 リジェから両手で抱えるほど大きな異形の腕を受け取り、聖別(アウスヴェーレン)に由来する力の奪取をしながら聖別についてこれまでの考えをまとめる

 

 BLEACHにおける陛下の聖別と私の聖別の違いであるが、まずBLEACHのユーハバッハは、彼の聖別なら配下の滅却師(クインシー)を骨を残してその全てを奪うことができた描写がある。しかし私の聖別では多くて大体七割くらいの力、少なくて三割程度の力しか聖別によって奪えなかったことが今まで盗賊等に散々やってきた人体実験で証明していたりする。つまり私では聖別によって奪える力に上限ができるわけだがBLEACHのユーハバッハには奪える力の上限はない

 これはひとえにBLEACHのユーハバッハでは彼が始祖の滅却師として君臨し、混血(ゲミシュト)であろうと純血(エヒト)であろうと彼の血をその体に宿していることが影響しているだろうと考えられる。純血であれば尚更生物濃縮のようにユーハバッハの血が濃くなり、ユーハバッハとの関係性が増すことになるだろう

 ここで私の聖別について話を移すが、私の聖別の力の奪取に上限ができる要因として、対象の魔力量が関係していると考えられる。魔力量が少ないものほど、奪い取れる力が多く、魔力量が多ければその分奪い取れる力が減る

 つまり聖別には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、魔力量が多ければそれだけ抵抗されるものだと。しかしその抵抗を無視してしまえる要素として血のつながりの濃さが関係しているのではないかと私は考えた

 おそらくこれは原作BLEACHのユーハバッハにも魔力を霊力と置き換えても通ずる考察ではないかと考えられる*2。ちなみにこの考察が正しければBLEACHの見えざる帝国自体がユーハバッハによる聖別するためだけに育てられた純血滅却師(エヒト・クインシー)養殖場であった可能性すらある。…話を戻そう

 

 つまり封印こそされてはいるものの、抵抗のないディアボロスの腕に内包されている膨大な力を今の私でも全て奪うことが可能であるということになる。そして…

 

「陛下…僕の中に溢れるこの力は?」

 

「おぉ?…なんだかアスキンちゃんすごいことになっちゃってない?」

 

「ッ……」

 

「すごい…この力が陛下からの贈り物、私だけの贈り物…」

 

 ディアボロスの腕が内包している力の全てを奪うことで配下である星十字騎士団全員の力が増す。簡単に言ってしまえば原作BLEACHの能力を持っている者はほとんどそのままの力を、違う能力に目覚めたものも居るがその者もそれに準じるほどの力が解放されたということだ。この未開放のスキルツリーを開放したかのような、喉奥に引っかかった魚の小骨が取れたかのような晴れやかな気持ち…全知全能(ジ・オールマイティ)はひとまずの完成を迎えた

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「成功されましたね、陛下…」

 

 至る所で土煙が舞い混乱の最中にある王都の屋根に、右手に剣を持ち、左腕に盾を付け、長い金髪を揺らしながらその身に注がれる力を感じるハッシュヴァルトは虚空に呟く

 

「…盗み聞きとは感心しませんね」

 

 ハッシュヴァルトは後方の物影へと意識を向け語りかけた

 

「ふふっ申し訳ありません。物思いに耽っていたようでしたので、声をかけようか悩んでおりました」

 

 ハッシュヴァルトが警戒した物陰から、黒い衣装に身を包み長い金髪を携えたエルフが姿を現した

 

「申し遅れました。わたくしシャドウガーデン七陰が一人、名をアルファと申します…どうぞよしなに」

 

「これはご丁寧に、名乗られたならこちらも名乗らなければいけませんね、私は星十字騎士団(シュテルンリッター)のハッシュヴァルトと申します」

 

 ハッシュヴァルトは右手に掴んでいる剣を鞘へとしまい、左腕に盾をつけたまま現在可能な限りで瀟洒にお辞儀で返す

 するとハッシュヴァルトはいきなり背後を振り返り盾のついた片手を構える。直後「ガリッ」というまるで黒板を爪で引っ掻いたような不快な音を盾が鳴らした

 

「ごめんアルファ様、デルタ奇襲失敗しちゃったのです」

 

「大丈夫よデルタ、タイミングは教えた通り完璧だったわ」

 

 その正体は犬型の獣人であるデルタと呼ばれる少女だった。彼女はスライムスーツと呼ばれる特殊な戦闘服で爪を覆い、アルファから伝えられたタイミングで奇襲を行った

 

「二対一か、陛下より交戦は極力避けるように承っているが致し方ないか…。おいでお嬢さん、ワンちゃん、私が可愛がってあげよう」

 

 ハッシュヴァルトは鞘から剣を抜き取る

 

「それではこちらもその『陛下』とやらのことを詳しく教えてもらおうかしら」

 

 アルファはその身に纏ったスライムボディスーツを躍動させ、剣を形作り構える。アルファにそれに合わせてデルタは威嚇するように毛を逆立て爪を構えた

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 まるで天変地異が起こったかのように地面が激しく揺れ、轟音と光が辺りを包み込む

 

「すごい振動ですね、もしかして貴女達の主が放った魔法とかでしょうか?………もう聞いていませんか」

 

 ハッシュヴァルトの前には瓦礫や土で汚れてしまったアルファとデルタが仰向けで倒れていた

 

 位置的に少し離れたところに倒れているアルファとデルタを回収しようとハッシュヴァルトが一歩踏み込むと、音もなく黒い外套を身につけた人物が、ハッシュヴァルトとアルファ達に挟まれる位置に現れた

 その人物は後ろの二人をチラッと確認すると前に向き直る

 

「お前がやったのか?」

 

 その人物からまるで力そのものの奔流と言っても差し支えないほどの魔力を迸り、ハッシュヴァルトに対して明確な敵意を向けた

*1
実際いくつかのイニシャルが被っている

*2
ただし石田雨竜は考えないものとする




 お疲れ様でした
 いやその…原作至上主義の方には申し訳ないとは思います。アルファ、デルタのファンにも申し訳ないと思ってます。でも書いていたらこう言う展開になってしまったんですよね…どうしてこうなったのか…
 普通に展開をその時のノリでアスキンと一護のオマージュの展開を思いついて実行してしまったので少年漫画のような熱い展開にどういうわけかなってしまったんですね…ああ!お客様困ります!低評価は困りますお客様!


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全知全能③

 お疲れ様です
 何故か妙に見ていただけていると思っていましたが、ランキングに載っていたんですね!喜ばしい限りです!!!
 前回の残りの続きでしたので今回はちょっと短めです




 爆発音と火の手が人伝に伝わり王都に住む住人は大混乱となっていた。そして混乱する住民を誘導するにも、避難させるにも、収拾させるには人員が必要となり、非番の魔剣士学園の生徒であっても駆り出されることとなる

 

「レイ様、騎士団から出動要請が来ております」

 

「うん、わかった。すぐ出よう」

 

 それは元々が没落貴族の生まれであり、新たな剣術を開拓したクロスフローリー家であっても例外ではない

 最近雇われたばかりのクロスフローリー家のメイドが、長男であるレイに出動要請の知らせを伝える

 

「それじゃ、剣の稽古は今日はこれまでだな…また帰ったら一緒にやろう()()()()()()

 

「分かりました。兄さんも気をつけて」

 

 ユーハバッハは優しく、街に出るレイに手を振った

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 可視化されるまでに高められた魔力が迸る。その膨大な魔力が乗った剣を大きく振り下ろす黒い外套を身につけた男性シャドウは、その剣を金髪の美女ハッシュヴァルトが力を逃がすように盾で受け流す

 そしてハッシュヴァルトは右手に握られた両刃の剣を使うそぶりだけを見せ、フェイントを入れながらシールドバッシュでダメージを与えるべく左腕を前へと突き出す

 動きを見切ったシャドウが二歩、三歩とステップで後退する。この似た攻防を二人は三合ほど繰り返していた

 

 原因は、奥義である広範囲を爆発させる「アイ・アム・アトミック」を使った後で消耗しているシャドウと、現在は燃費のいい静血装(ブルート・ヴェーネ)しか使っていないハッシュヴァルト、勝負を急ぐ必要のあるシャドウと耐久すればいいハッシュヴァルトの構図にあった。特にハッシュヴァルト側は、情報を得るために気を失わせる程度に損耗させたらよいといった思惑があるので、派手に攻める必要がないことも拍車がかかっていた

 

「返事を待たず、いきなり斬りかかるなんて酷いとは思いませんか?」

 

「大事な仲間が害されたのだ、当然の報いだろう」

 

 そして四合目の斬り合いに向かうかといったところで、シャドウの足下に居たアルファが音に気が付き起きあがろうと身を悶えさせる

 

「ぐっ…」

 

「安静にしていろ、直に終わる」

 

「彼女に…攻撃、しては…能力で…」

 

 それだけ伝えるとアルファはまた「ガクリ」と気を失ってしまった

 

「ふむ、時間をかけるのはよろしくありませんか…それなら_」

 

 瞬間シャドウの視界からハッシュヴァルトが消え、一瞬にしてシャドウの利き手とは別の方向に現れ、シャドウはシールドバッシュにより吹き飛ばされた、飛廉脚である

 

「どこの誰かはわかりませんが、貴方には眠ってもらいます」

 

「誰が…眠るって?」

 

 後方に突撃した瓦礫に埋もれ、ケホケホと口に入った砂利と土を吐き出す。そしてハッシュヴァルトが一度見せた飛廉脚を真似るかのようにして、シャドウは足の裏辺りを魔力で身体強化させ一気に力を解放すると、飛廉脚と同じように高速でハッシュヴァルトに近づき右腕のスライムソードを叩き込む

 その攻撃に反応できたハッシュヴァルトであるが威力そのものを相殺することはできず、靴から「ジジジ」と音を出しながら盾を構えた状態でアルファ達から離される

 

 そして衝撃に耐えるように身を縮こませていたハッシュヴァルトが一瞬シャドウから視界を離した瞬間、追い打ちをかけるようにハッシュヴァルトの背中にシャドウが回り込み、スライムソードの一太刀を叩き込んだ

 

 シャドウからして手応えは十分に感じられ、確実に致命傷を与えたと確信したが、逆にハッシュヴァルトに下からの斬り上げを喰らってしまい、魔力により硬化されたスライムボディスーツを貫通し、魔力で強化された肉体にも傷が入る

 

「カハッ…」

 

「しまった…使()()()()()()()()

 

 痛みのあまり反射的に片膝を曲げ、姿勢が崩れたところにハッシュヴァルトが追い討ちで回し蹴りを繰り出すもガードに成功したシャドウは後ろへと後退する

 切られた傷そのものは瞬時に治すことのできるシャドウであるが、失った血と体力は消耗した体から考えるとあまりにも痛手であった

 

「ッ…確かに切りつけたはずだが」

 

()()ですか…」

 

 シャドウの声に応えるように背中をチラッと見せたハッシュヴァルトだが、切りつけられた部分の真っ白な星十字騎士団の隊服は確かに切れてはいるが、その下の陶器のような白い肌は傷一つ付いていなかった

 

「私の『聖文字(シュリフト)"B"』の能力は『世界調和(ザ・バランス)』。私の一定の範囲内で起こる『不幸』を『幸福』なものに分け与えることができます。その能力を使い、貴方の攻撃を『不幸』と捉え攻撃を受けなかったこの盾を『幸福』としてダメージを肩代わりさせ、反撃しました。残念ですが貴方では勝てませんよ」

 

 シャドウは内心、「ハハッ、何だよその能力…」と毒づくも逆に冷静となった頭で、『シュリフト』、『ザ・バランス』、という聞いたことのある単語を反芻する。すると自然と昔の友人が口にしたモノを思い出してきた。

 

[影野くんはもし異能力バトルの世界に行った時、どういう能力が欲しい?………私か?…そうだな、BLEACHのハッシュヴァルトの能力にある『ザ・バランス』かな。あの能力は終始破られることがなかったけど、今に思うと攻略法はないわけじゃなさそうで_________]

 

「勝てるかどうかは、やってみないとわからないモノだぞ?」

 

「なるほど、では今度こそ眠ってもらいます…」

 

 またしても一瞬姿がブレるようにして消えたハッシュヴァルトだが、早いことがわかっているなら対応は可能だと同じように加速するシャドウ。互いの立ち位置の中心で()()()()()()()()互いが剣を振るう

 

「ッ!…」

 

「ほら、勝てないわけではないと言っただろう?」

 

 シャドウは肩から斜めに大きく斬られているものの、見開かれたハッシュヴァルトの瞳には自身の右腕が肩にかけて薄くではあるが斬撃が入っている光景を目の当たりにしていた

 ハッシュヴァルトからするとかすり傷程度とも捉えることが出来るが、問題は()()()()()()()()()()()ことにあった。

 

「タネは簡単、お前の能力はダメージを肩代わりすることだが、ダメージの大小は関係ないし、要は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 シャドウはあの斬り合う一瞬でハッシュヴァルトの攻撃に合わせて自分も斬られ、全くの同時に触手のように伸ばした槍状のスライムボディスーツを盾に攻撃し、左手に出した剣で突きの攻撃をハッシュヴァルトに繰り出した。『幸福』なモノがなければ『不幸』を分け与えられない、そして『不幸』には大小は存在しない、その能力の隙を突かれた

 左手の剣は瞬時に出したことで狙った位置とはズレてしまったがそれでもハッシュヴァルトは聖文字(シュリフト)の能力が発現してから初めてのダメージであった

 

「あの一瞬でこの動き…なるほど、彼女達が言っていたシャドウとは貴方のことでしたか…」

 

「手こずっておるようだな、ハッシュヴァルトよ」

 

 どこか納得をしたハッシュヴァルトの背後の暗がりから突如として男の声が聞こえてくる

 

「はい、戦闘を仕掛けられましたので威力偵察をしておりましたが、相手が先日お伝えしたシャドウガーデンのボスだと分かりました。しかし聖文字を使えば対応可能であるかと」

 

「そうか、ならば放置で構わないな」

 

「はい陛下」

 

「待て、お前は何者だ」

 

 ハッシュヴァルトは冷たくシャドウを睨むが、数刻の後、闇に溶け込む男が口を開く

 

「我らは見えざる帝国、我らは影に潜む者、我らは…全てを奪う者だ___時間だ…時期にこの混乱は収まり騎士団が調査に当たる、戻るぞ」

 

「承知しました、陛下」

 

 ハッシュヴァルトは声のする暗がりに、まるで溶け込むかのように消えて無くなると辺りは先ほどの戦闘が嘘だったかのように夜の静かさを取り戻した

 

「お前は…本当にユーハバッハなのか?」

 

 少年の独白は黒い夜に消えていった。

 

 

 

 




 お疲れ様でした
 Q.どうしてハッシュヴァルトは能力をシャドウ様に喋ったの?
 A.ハッシュヴァルトも少なからず慢心していたし、対応力を測るという名目で一度使用感を経験しておきたかった…まぁぶっちゃけ能力説明した方がオシャレだから

 最初の聖文字がハッシュヴァルトって何かのバグですかね?最初から事象系の能力とかヤバすぎませんかね?誰が書いてるんですか!…はい、私でした。ちなみにこのハッシュヴァルトは身代わりの盾(フロイントシルト)は持っていませんので、戦闘に持っていた盾はただ恐ろしく頑丈な盾ってことになりますね
 ちなみにザ・バランスの独自解釈ですので原作BLEACHと違っていたとしても許してね

 しかしこの作品シャドウ様が主人公してますね、若ユーハバッハくん悪役ムーブがすごいからですかね?でもこれは彼の素なんですよね…


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星章化①

 お疲れ様です。なんだか続きました


 

 もしかしたら僕は…主人公になってしまったのかもしれない。昨夜のユーハバッハらしき人物との会合の時、自然と口から出てきた言葉はまるで『信じていた友人が実は裏で秘密結社を設立し、僕の知らないところで活動している陰の実力者かもしれないと悲しんだ主人公ムーブ』だった気がする。

 このままではまずい、これではモブAどころか考えたくはないが少し…ほんの少しだけ『陰の実力者ムーブ』ですら遅れをとってしまった気がする。そしてちょっとだけ、かっこいいとも思ってしまった

 

 盗賊の派生みたいな人に負けるはずがないと思っていたアルファ達が倒れていたことで少し頭に血が昇っていたのが原因かもしれない

 あの時はそう、ちょっと悪い予感がしてアルファ達がいると思わしき所に駆けつけたのだったか

 

 しかしよく考えてみるとなぜあのハッシュヴァルト*1は自分の能力について説明したのか、そして僕は…どうして自分の能力も自分自身についても説明しなかったのか

 

 あの時は既に奥義を使用した後だったから改めて説明せずに終わったが、万全の状態なら『陰の実力者ムーブ』は僕に軍配が上がるだろう…待っていろ、多分ユーハバッハっぽい人!友人のユーハバッハとの関係性は分からないけど!…今度それとなくアルファにでも聞いてみよう

 

 

 

◆◆◆

 

 

 アレクシア王女殿下がシャドウガーデンより救出された後、数日の休講の末、初の登校となった

 ディアボロスの腕を奪いに行った時は証拠として残りそうなモノはなかったはずだが、学園に行った瞬間不法侵入者として罰せられる可能性もある。

 しかしあの時は姉妹が同じ聖文字の能力に目覚めたロイド・ロイド姉妹の妹の方が私の見た目と能力、魔力痕跡までもを模倣してアリバイ作りのため家にいたはずなので問題ないだろう

 

「今日から皆の剣術指南役に抜擢されたレイ・クロスフローリーだ。前任のゼノン・グリフィが一身上の都合により学園を離れることとなったその代わりとして任された。私が今日から教える剣術も私の家が独自に開発し、私が形にしたもので歴史としても真新しいモノだが、よろしく頼む」

 

 まさか剣術指南役に兄さんが抜擢されるとは思ってもみなかった。確かに実力と言った点なら、剣だけだが私が毎度の如くコテンパンにされているので割とこの人が王国最強のアイリス王女殿下といい勝負どころか普通に勝てるんじゃないかと思っているほどである。というかこの兄さん、聖別が使える私目線でも魔力量もとてつもないが、魔力の身体強化なしでも瞬歩みたいなこと出来るからな、能力チートが私なら身体能力チートは多分兄さんだろう。…更木剣八かよ

 

 しかしこの人の教え方はかなり上手い。転生するまで全くと言っていいほど剣術について触れてこなかった私が剣だけの実力でも学園内で上から数えた方が早いほどに成長させたくらいである。アイリス王女殿下に一目置かれるだけはある

 

「私の家の剣術は少々特殊なもので、基本的に利き手とは逆の手に銃を持つ遠近両立のスタイルを軸とする実践的なものであるが、既存の剣術とは一線を画すモノであるので、申告者のみクロスフローリー式を教えることとする。それ以外のものは既存の王国式の指南を受けてもらうことになるが…とりあえず見せた方が早いだろう」

 

 そういうと兄は腰のベルトにつけられたホルスターから拳銃を取り出した。そう拳銃である

 この世界の主な銃といえばマスケット銃であったが、兄が基礎設計を行い、クロスフローリー家が家の威信をかけて作り出したハンドガンサイズの銃となっている。しかしマガジンなどの複雑なものはなく、ライフル弾のような大きさの弾を装填する一発打ち切りリロードの『トンプソン/センター・コンテンダー』そのもののような銃となっている

 

 この世界において魔力で強化された肉体にダメージを与えるには同じく魔力で強化された剣で斬るなどの方法を用いるが、この銃であれば余程の魔力で強化した肉体でもない限り、ノーダメージはありえない作りとなっている上に、銃と弾そのものと火薬の爆発力すら微弱ながら魔力による強化が施せるので更なるダメージも期待できることとなる…これはアイリス王女殿下も一目置くよ

 

 そして的となる木で作られた人形に向かい、兄は見事なまでの剣術と銃術を融合させたクロスフローリー式のいわゆる『ガン=カタ』を見せる。見せるというよりこの場では魅せると言った方が正しいな、()というより()___(まい)だな。でもこのロマン好きだ…そしてしっかりこれが強いんだ。我が見えざる帝国でも聖文字の能力がなければ対応できるものは少ないのではないだろうか?

 

 当然というべきか、兄さんの技術を見て既存の王国式を受けたいと思った者はおらず、腕の怪我で見学だけのアレクシア王女殿下なんて食い入るように見ていたからね

 確か姉のアイリス王女殿下との差がコンプレックスだったはずだが、この剣術なら基礎的で下地がしっかりしているアレクシア王女殿下向きとも言える。単純に攻撃手段に銃という項目が追加されるのだからこの興奮具合もわかるというもの。しかし両手を使う剣術故に今すぐできない事に悔しそうにしているな、「くっ!」って声を漏らしてるし

 

 一緒に指南を受けているカゲノーくんもニヤリと不敵な笑みを浮かべているが…はて、彼ってあんなバトルジャンキーみたいな顔してたかな

 …そういえばカゲノーくんで思い出したが、カゲノーくんと王女殿下は別れたらしい、理由は聞いていないがこういうのはあまり詮索するのは良くないだろう、『親しい者にも礼儀あり』と言った風にいくら友人だからとなんでも聞くのは憚れる

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 学園内のカフェにて、昼下がりのティーブレイクを楽しんでいると、対面にメガネをかけた金髪の縦巻きカールがかかった生徒が座ってきた

 

(へい)___ユーハバッハ様、定期連絡です」

 

「学園で"様"付けは怪しまれるよ、ドールさん」

 

 失言を指摘されて慌てて口を抑えたちょっとポンコ_抜けている彼女はドールさん、本来の名はドリスコール・ベルチという。彼女の持つ『聖文字(シュリフト)"O"』『改竄(ジ・オーバーライド)』の能力により、実際に存在する上位貴族の養子として存在している記憶の改ざんを家の貴族たちに行い、万が一のためこの学園に一緒に通っている見えざる帝国陣営で同い年の同級生だ。月島さんの『ブック・オブ・ジ・エンド』の下位互換のようなものだけど、記憶の改ざんだけでもかなりのスペックを誇る。なにせ、この能力があるだけで見えざる帝国の資金面は考えなくてもいいのだから彼女は十分に活躍してくれている。…ほんと原作のドリスコールさんの『ジ・オーバーキル』とかいう殺意の高い能力に目覚めなくて良かったよ…

 

 ちなみに他にも諜報関連の聖文字を持っている者はベレニケを始め、彼女の家の養子として迎え入れており、各々が学園での過干渉を控えながら日常に潜んでいる。…諜報関連とは言ったが、監視盗聴探索特化の聖文字に目覚めた者はストーカーの素質があるよな…聖文字の因子を与えた瞬間に能力に目覚めた才能には目を見張るものがあるけど限度というものがあるよ、アズギアロ・イーバーン

 

「ではユウくん、最高位(グランドマスター)より定期連絡です。現在王都では漆黒園を名乗る何者かが、無差別に辻斬りを行っているとのことです」

 

 ユウくん…一気にフランクになったな、いや学園ならこれくらいが普通か

 しかし辻斬りか…アレクシア王女殿下を助けたシャドウガーデンとしては妙だな

 ちなみに漆黒園とは見えざる帝国以外でシャドウガーデンを指す名称だ。学園とはいえ誰に聞かれているか分からないからね

 

「その顔はわかります。"妙"…ですよね?」

 

「そうだね、わざわざお姫様を救った白馬の騎士団が辻斬りみたいな真似は妙だからね、言うなれば高潔さというものが感じられないから誰かの作為的な思惑があるんじゃないかな?」

 

「最高位も同じ意見でした」

 

 シャドウガーデンと一戦交えている私の右腕でもあり、星十字騎士団最高位(シュテルンリッター・グランドマスター)であるハッシュヴァルトと同じ意見ならほぼ確定だろうな、しかしその意図まではわからないな。悪名を広めてどうなるというのだ

 

「定期連絡は以上ですが…ところで、今度のブシン祭の選抜大会には出場するのですか?」

 

「ハハハッ、冗談はよしてくれ、今更実戦形式の大会に参加したところで得るものはないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 観客席からは応援とも怒号とも聞こえてくる多種多様な声が飛んでくる。スポーツ観戦をやったことない身ではあるが、前世でのスポーツ観戦もこれくらい観客席が白熱しているものなのだろう。是非とも私も観客席でこの熱気を味わってみたかった。出場選手でなければな…そう、私は今ブシン祭に出場している…

 

 いや待てカゲノーくん、ヒョロくんとジャガくんに嵌められた腹いせに私にもブシン祭の選抜大会の参加登録するというのはどういう冗談だ。というか参加締め切り的にあらかじめ参加登録してたな?はぁ…アレクシア王女殿下にフラれた八つ当たりのつもりか?

 

 何故私がこうまで注目を集めねばならないんだ…このユーハバッハは平穏に暮らしたいだけだというのに…

 激しい喜びもいらない、その代わり深い絶望もない、植物のような生活、それこそが私の目標だった。…まぁ流石に冗談だ。見えざる帝国を造った時点でそんなことは無理だろうからね

 しかし一回戦負けというのもなんというか癪だから、適当に三位辺りを狙っておくか

 ただ問題は最初の対戦相手がカゲノーくんだと言うことだな。出来ればギリギリの戦いを演じたいが、どうやって手を抜こうか…

 

 

 

*1
気がついたアルファ達から聞いた




 お疲れ様でした

 ドリスコールさんの聖文字は全知全能により未来を改変した…まぁ実際、悪魔憑きの時の記憶を忘れたい思いがあるなら自分を含めた対象の記憶改ざんの能力に目覚めることは割とあり得ると思ったので、『聖文字"O"』の能力は変更しました
 [『ジ・オーバーライド』対象に触れることで対象の記憶に自分の存在を上書きさせる。ただし自分の年齢よりも過去の記憶は改ざんできない上に生物しか能力を発動できない]
 ぶっちゃけ月島さんの下位互換ですね、月島さんが凄すぎるだけなんや…なんであの人は人間なのに全知全能に対抗できるんだ?
 

 弟のユーハバッハくんがやべー性能ならその兄もヤバい性能じゃないと説明ができないよな?ってことで、ユーハバッハくんの兄、レイ・クロスフローリーくんは魔力お化けだし、技術が鬼高いし、多分初代剣八くらい剣術がヤバいと思いますね…影ではアイリス王女と比較されてレイ王と呼ばれているとかいないとか

 せいぜい一週間かそれに満たないくらいで、ユーハバッハガチオタク疑惑が浮上したしれっと名前だけ登場したアズギアロ・イーバーンちゃん。最近悪魔憑きから解放されたばかりなので幼女の姿なんだよなぁ

 


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星章化②

 お疲れ様です
 何故か筆が乗りました


「シド、あなたは剣術大会でユーハバッハと戦いなさい」

 

 学園から帰宅したと同時にアルファがいきなり窓から部屋に入ってきたと思ったら開口一番にソレが飛び出してきた。ヒョロが勝手に僕の参加登録をしていた事をどこで知ったのやら

 

「友人だし初戦で当たるのは気が楽だけど、当たるかどうかのそういうのは時の運でしょ?そもそもユーハバッハは出場しないって言ってたけど」

 

「それについては問題ないわ。裏で対戦カードを調整しておいたから初戦で当たる手筈になっているし、ユーハバッハの出場登録もあなた名義で出しておいたから、問題なく彼の実力を確かめられるわ。…それに私もだけど、あなたも彼に対してどこか引っかかっているのでしょ?」

 

 アルファが言うように、僕自身も彼のことが気になっていたことからアルファにユーハバッハの事をそれとなく伝えてから、彼女はユーハバッハの事を調べたらしい

 そして調べた結果、どうやら驚くほど何もなかったとのこと…ユーハバッハのことをストーキングとかしてないよな?僕の知らないところで彼に迷惑をかけてしまったかもしれないことに心の中で合掌した

 

 アルファ曰く、見えざる帝国の『陛下』の正体を考えるなら実力から見てもむしろユーハバッハの兄であるレイの可能性が高いとなった。しかし兄であるレイがシャドウガーデンの七陰として考えても規格外の天才であるのに、その弟が優秀ではあるがそれだけというのは考えづらく、何か裏があるのではないかと睨んでいるとのこと。ほとんど勘だな

 

「それで剣術大会ね…でも僕はあまり目立つことはしたくないよ?」

 

「結果は負けでもいいけど、ある程度の負荷はかけてもらいたいわ。…そうね、十秒ほど彼に本気の一端でも見せてみたらどう?」

 

「いやいや、彼は優秀だけど僕の本気の一端じゃ十秒も保たないよ。…あぁなるほど、それで本気の一端か」

 

「そう…もしコレでシドの攻撃を防げるならユーハバッハは本当の実力を隠していることになる」

 

 なるほど確かに考えたな。コレで僕に負けるようならアルファ達が警戒している設定の『陛下』というのがユーハバッハであろうとなかろうと警戒に値しないことになる。でもハッシュヴァルトの特殊能力かアーティファクトの『ザ・バランス』を考えるなら警戒するのはむしろハッシュヴァルトになりそうなものだが、それでも警戒しておいた方がいいよってことか。ハッシュヴァルトは一戦交えたけど、『陛下』とはまだ戦ったことないからね。幹部を倒さないとボスに辿り着けないのはゲームの定石だし

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 剣術大会の観客席にて、端の目立たない位置に座り大会を見届けている女生徒達がいた。そのもの達は大会の熱気に当てられることはなく、酷く冷静に物事を俯瞰していた

 

「ユーハバッハさんがブシン祭に出るなんて意外ですわね。あの方は出ないものだと思っていたのですが…そのことについて皆さんはご存知で?」

 

 そう口にしたのはショートカットの金髪をおかっぱにカットした女性

 『聖文字(シュリフト)"Q"』『異議(ザ・クエスチョン)』ベレニケ・ガブリエリ

 ユーハバッハにて悪魔憑きから救われ見えざる帝国の一員として、ドリスコールが記憶の改ざんを行い用意した家の養子として学園に通っている

 

「わらわは何も聞いておらぬ、その手の情報はドールちゃんが詳しいであろう?」

 

 ベレニケに応えたのは古風な喋り方が目立ち、左目の泣きぼくろが特徴的な黒髪のロングストレートの女性

 『聖文字(シュリフト)"I"』『氷雪(ジ・アイス)』ツァン・トゥ

 彼女もドリスコール、ベレニケと同じく貴族の仮初の養子として学園に通っており、彼女の役割は主に諜報能力に特化したドリスコール、ベレニケの護衛役として行動を共にしている

 

「私だって聞いてませんよ、ユウくんは確かに出ないって」

 

 ツァンの言葉に応えたドリスコールだが、ドリスコールの言葉の中にツァン、ベレニケ共に聞き捨てならない言葉が出てきた

 

「"ユウくん"って…おぬしまさか…」

 

「あーっ!ごめんなさい、私としたことが()()()お呼びしている呼び方を使っちゃったわ!」

 

「…ベレニケちゃん、ドールちゃんにアレを使うのじゃ!」

 

「了解ですわッ!」

 

「アレ?…ッ!待って!待って!!」

 

 ドリスコールは手を振って静止を呼びかけるが、ベレニケは止まらず能力を発動する

 

異議ありですわ…貴女とユーハバッハさんとのご関係をお教えくださいな?」

 

 ベレニケは満面の笑みで首を傾げながらドリスコールに聞く。しかし言葉尻には目のハイライトを消し、聞く人からすると肝を冷やすかのような声色に変わっていた

 

「〈ユウくんとは本当に何もないよ、呼び方だって指摘されなかったから私が勝手に言ってるだけ〉ね?能力は使わないで?こんなことに使っちゃダメだよ?」 

 

 ドリスコールはベレニケに聞かれた事を一通り喋り終えた後に、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ベレニケの能力『異議(ザ・クエスチョン)』は、ベレニケが異議を唱え、その言葉につながる質問に対して質問された人物は、必ずその質問を嘘をつかずに答えなければならず、自分は答えた内容を知ることができず、聞かれた内容を知ることができず、答えたことすら分からないという恐ろしい能力となっている

 彼女の前では誰も隠し事は出来ず、ユーハバッハですら例外ではない

 これは余談だが、彼女が手作りのクッキーをユーハバッハに贈ったところ、「美味しい」と答えたユーハバッハにこの能力を使った過去があり、その結果塩と砂糖を間違えて作ってしまった事を知り、優しい嘘を暴いた苦い経験があったりする

 

「まぁ…今回は大目に見てもいいかのう」

 

「そうですわね…わたくしも能力まで使うほど切羽詰まっておりませんので」

 

「そう?本当に使ってない?私本当に言ってない?」

 

 能力を使ったことすら対象には分からないので、能力を知っているものが使われた場合疑心暗鬼になるが、マウントを取ろうとした自業自得である

 

「これよりブシン祭選抜大会第一試合を執り行う!」

 

「ほら、試合が始まりますわよ」

 

 試合が始まると言われると黙るしかなくなるのでドリスコールはややいじけながら口を紡ぐ

 

「ユーハバッハ・クロスフローリー対シド・カゲノー!試合開始ッ!」

 

 ユーハバッハとシドが向かい合い、魔力による身体強化で加速したシドはユーハバッハに斬りかかろうとする

 それに対してユーハバッハはその場から動かず振られる剣に対して鍔迫り合いで応戦する。しかし次の瞬間、火花を垂らしながらユーハバッハの構えている剣にヒビが入り、真っ二つに折れると剣に力をかけていたシドが一歩、二歩とたたらを踏む

 

「しょ、勝者シド・カゲノー!!」

 

 数秒の沈黙の後、審判が判定を下す

 

「何………だと…?」

 

 沈黙する会場の中で勝者が一番疑問を持っていた

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 『全知全能(ジ・オールマイティ)』は未来を視る…。

 私の『聖文字(シュリフト)"A"』『全知全能(ジ・オールマイティ)』の能力は文字通り未来を視ることができる。私が見た未来では倒れ伏した星十字騎士団の団員と同じく倒れ伏した黒い衣装を身に纏った集団と、膝を付き下を向くシャドウらしき人物の姿

 そして彼に剣を突き刺そうとする私の光景だった。私はともかくとして、他の団員が傷つくのは耐えられん_故に未来を変えさせてもらった

 

 カゲノーくんと二合ほど斬り合った後、十秒ほどその速度と力を急激に上げて仕掛けくる。その『十秒』がおそらく分岐点だったのだろう

 「だろう」というのも私自身、全知全能の能力を使いっぱなしというわけにはいかないからだ。あの能力はただ使用しただけでも現実なのか、能力で見ている幻のなのかわからなくなってしまう。しかも戦いの中という条件付きなのだから大まかな部分と結果しか見れていない

 しかしそれがわかっているなら、こちらは魔力による身体強化の一切をせずにいれば魔力による身体強化が当たり前の戦いでは必ず負けることができる。…奇しくも私が剣を折られる立場とは感慨深いな

 

 しかしどうしてカゲノーくんとの試合が未来の分岐点であったのか…。まさかこの会場にシャドウガーデンの誰かがいるのか?

 あり得るな…。ブシン祭といえば国を挙げての祭りでありオリンピックのようなもの、偵察には人数を割く場合もあるだろう。そこで私は何かヘマをして能力がバレたのかもしれない…。やはりまだまだ危うい立場だな

 

「勝利おめでとう、カゲノーくん」

 

「どうしてわざと負けたんだ?」

 

 カゲノーくんはキレてる訳ではないな、ただ混乱してて困惑が見える

 

「そう見られても仕方がないな…実のところ魔力なしの剣技でどこまで行けるか試してみたかったんだ。兄さんにこれ以上離されると私自身、自分が許せなくなるからな…」

 

 最もらしいことがよく口から出てくるな。その場で考えた出任せなのに

 

「しかし現実はそこまで甘くないようだ…。次の相手は_ローズ会長だがお前ならいける、頑張れよ」

 

 困惑しているカゲノーくんに有無を言わさず会場から去る

 おっと、会場の一番端にドリスコール、ツァン、ベレニケが並んで観戦に来ていたのか。私自身いつのまにか出ることが決定してほとんど当日に知ったことだし、所詮はお遊びと思っていたので彼女達に大会に出ることは伝えていなかったが、伝えた方が良かったかもしれないな

 

 ただ彼女達だけではなく、この若ユーハバッハイケメンフェイスと兄の名前が売れてることもあって私自身そこそこな人気があったりするので、この後他の女生徒に詰め寄られることを考えると説明するにしても見えざる帝国の中だな

 

 

 

 

 

 

 




 お疲れ様でした
 この作品のユーハバッハくんは塩試合になりやすいので扱いが結構難しいです
 現在使える全知全能の能力としてわかりやすく未来予知となっています。おそらくハッシュヴァルトが陛下から一時的に譲り受けた時のような効果になってるはずです。まだ未来の改変は出来ませんね…

 実は学園に通ってる星十字騎士団の三人娘のノリはBLEACHのギャグパート感あって書いてて面白いんですよね
 そして何気にツァン・トゥの能力が『ジ・アイアン』から『ジ・アイス』になってるという。やっぱりツァンは氷輪丸奪ったところが印象深いですからね、仕方がないね


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星章化③

 お疲れ様です。
 何故か続いてます


 見えざる帝国の中央に位置する銀架城(ジルバーン)、その城の正面の扉がギギギと音を立てて開かれ、エントランスの清掃をしていたエス・ノトがその存在に気がつく

 

「おかえりなさいませ、陛下」

 

 ユーハバッハはエス・ノトを一瞥すると窓枠に指を這わせ、人差し指と親指を擦る

 

「埃一つないとは良い働きだ」

 

「もったいなきお言葉を…」

 

 銀架城のエントランスは星十字騎士団は勿論のこと、陛下であるユーハバッハも必ず通るところなので掃除が行き届いていると直接ユーハバッハから褒められると言うことからエントランスの清掃は、連日取り合いとなっていたりする。現在すまし顔をしているエス・ノトだがそのマスクの下では口元をニヤニヤとさせているだろう

 

「現在の星十字騎士団の所在は分かるか?」

 

「はい、最高位はバンビエッタ、リルトット、ミニーニャ、キャンディス、ジゼルを連れ遠征に出陣いたしました。あっ…それと『やることがなくなった』と言ってバズビーも最高位について行きました。他の者であればすぐにでも召集可能かと」

 

 エス・ノトはユーハバッハより聞かれた星十字騎士団の所在を懐から取り出したメモ帳をパラパラとめくり報告した

 

「そうか…であればグレミィは()()()()()

 

「はい、通信機を三機ほど()()()です。いかがいたしましたか?」

 

「そうだな…現在召集可能な星十字騎士団を広間に集めさせよ」

 

「かしこまりました」

 

 エス・ノトはユーハバッハにお辞儀をした後、飛廉脚にてその場を後にした

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 真っ白な長机に豪奢な椅子を備え付けた全星十字騎士団が座れる食卓は、いくつかの空きを残し全員が着席していた

 

「最高位抜きで全員集結なんて珍しいわね」

 

 最初に口を開いたのはドリスコールであり、剣術大会が終了してすぐの帰還である。その言葉には同じくブシン祭終了直後に召集がかかったベレニケとツァンも続く

 

「うーんと〜、バンビちゃん達もいませんわ〜」

 

 ドリスコールに応えたのは言葉の所々が間延びした喋り方が目立つ長いピンク色の髪を携え、星十字騎士団の真っ白な隊服を羽織り、彼女の寝巻きであるネグリジェがあらわとなっただらしない格好の女性

 『聖文字(シュリフト)"L"』『(ザ・ラブ)』ぺぺ・ワキャブラーダ

 

「陛下も余程、急ぎの用事なのでしょう」

 

 同じくドリスコールに応えたのは真っ白な長い髪を携えた雪のような白い肌を保つ赤目のアルビノの女性

 『聖文字(シュリフト)"V"』『方向(ザ・ベクター)』グエナリエ・リー

 

「まぁ、陛下の事だしまた何か考えてるんじゃないかな?」

 

 グエナリエに続いたのは金髪の猫っ気が特徴的でフードを被った少女

 『聖文字(シュリフト)"V"』『夢想家(ザ・ヴィジョナリー)』グレミィ・トゥミュー

 

「集めたのはエス・ノトですし、何か聞いてたりするんじゃないんですかね?」

 

 エス・ノトに話を振ったのはモノクルをつけた落ち着いた印象を受ける茶髪のポニーテルの女性

 『聖文字(シュリフト)"N"』『虚無(ザ・ヌル)』シャズ・ドミノ

 

 シャズ・ドミノに話を振られたエス・ノトは首を横に振り、シャズの問いに答える

 『聖文字(シュリフト)"F"』『恐怖(ザ・フィアー)』エス・ノト

 

「そういや、バズのやつもいねーな」

 

 やや口調が荒く、乱暴な印象を受ける褐色のサイドテールの少女

 『聖文字(シュリフト)"R"』『改作(ザ・リライト)』ジェローム・ギズバット

 

「ん、バズ、付いてった、ユーゴちゃんに」

 

 ジェロームに答えたが、説明は途切れ途切れで言葉足らずな印象を受けるのは見えざる帝国にて唯一の獣人である黒い猫耳と癖っ毛が特徴的な少女

 『聖文字(シュリフト)"U"』『正体不明(ジ・アンノウン)』ニャンゾル・ワイゾル

 

「そろそろ陛下がいらっしゃる。静かにするように」

 

 普段は癖のあるメンバーをまとめている最高位であるハッシュヴァルトが不在のため、星十字騎士団をまとめようと責任感が強いジェラルドが声を発する

 『聖文字(シュリフト)"M"』『奇跡(ザ・ミラクル)』ジェラルド・ヴァルキリー

 

「おお、そーだ、そーだ」

 

 片腕を上げてやる気の感じられない同意をジェラルドに向けたのはアスキンである

 『聖文字(シュリフト)"D"』『歪曲収差(ザ・ディストーション)』アスキン・ナックルヴァール

 

「君はもう少し親衛隊(シュッツシュタッフェル)としての自覚を持ちたまえ」

 

 額に手を置きアスキンにやれやれと呆れた風に声をかけたのはリジェ・バロである

 『聖文字(シュリフト)"X"』『万物貫通(ジ・イクサクシス)』リジェ・バロ

 

 そして声は発さないがその場にちゃんといるペルニダとなる

 『聖文字(シュリフト)"C"』『強制執行(ザ・コンパルソリィ)』ペルニダ・パルンカジャス

 

 ハッシュヴァルト、バンビーズ、バズビー、そしていつ交代してもいいように待機しているロイド・ロイド姉妹を除くと、周りの空気に馴染めないのかそわそわとした居心地が悪そうにちょこんと椅子に座っている赤髪のツインテールの少女を入れて現在の見えざる帝国全戦力となる

 そしてこの少女は星十字騎士団から見てもかなり新しい新顔となっており、ほとんど喋ったことがない者も中にはいるくらいである

 『聖文字(シュリフト)"A"』『解析(ジ・アナリシス)』アズギアロ・イーバーン

 

 城の雰囲気に合わせて付けられた年代物に見える入り口の扉がギギギと音を立て開けられるとユーハバッハが広間に入ってきて一番奥のいわゆる誕生日席に座る

 

「待たせたな…それでは今後の方針を話すとしよう」

 

 

 

 

◆◆◆() 

 

 

「まず初めに質問よろしいでしょうか?」

 

 やはりいきなりの召集であったので生真面目らしいジェラルドから質問が飛んできたので、その質問に私は頷いて肯定する

 

「今後の方針について話されるのはよろしいのですが、最高位_ハッシュヴァルトと他のメンバーが不在の状態でお急ぎされるほどということでしょうか?」

 

「そうだ_これは我が愛すべきお前達の生命にも関わる重大な案件だ」

 

 やはり命の危険となったら星十字騎士団でもザワザワとなるな。中には『愛すべき』という単語に反応している者もいるが、本当のことなので訂正するつもりもない

 

「単刀直入に言おう、私は全知全能(ジ・オールマイティ)により未来を視た。その未来では倒れ伏し、言葉を発さぬ骸となった星十字騎士団のメンバーも中にはいた」

 

 全知全能の能力で未来を視たことによりその信憑性が増し、飄々としていることが多いアスキンですら、その言葉を重く受け取っていた

 

「このままの戦力では我々は絶対ではない_そこで王都並びにそれ以外の国から殺人を犯したものまたはそれ以上の重罪を犯したものを()()()()()見えざる帝国にて集め、ドリスコールの記憶改ざんを用いて雑兵_聖兵(ゾルダート)を結成させることとする。ドリスコールには今まで以上に苦労を強いることになるが構わないか?」

 

「ハッ!陛下のお力になれるのなら、喜んでこの身を削りましょう!」

 

 ドリスコールが立ち上がり胸に手を当て敬礼する。確かにこの場では気が引き締まっていいな。ハッシュヴァルトが遠征から帰ってきたらそれとなく褒めておこう

 

「ドリスコールとベレニケは別行動を取ることが多くなる。故にツァンの負担も多くなるだろう。そこでドリスコールの護衛として新たにアスキンを同行させる。ツァンはベレニケを変わらず護衛するように」

 

「「はい陛下、仰せのままに」」

 

 アスキンとツァンが敬礼をして了承してくれる

 元々管理が行き届かなくなると危惧して聖兵の導入は見送っていたが、未来で視た光景では聖文字で強化されても我々の被害がゼロでないというのだから、シャドウガーデンも侮れないだろう。むしろ侮っていたからこその被害であったのかもしれない

 故に聖兵は数による面での制圧に加えて、記憶の改ざんを行い聖別(アウスヴェーレン)の抵抗をゼロの状態にして仕舞えば星十字騎士団の蘇生と強化も行える。犯罪者に限定したのは居なくなったところで誰も困らないことと、私自身の感性のどこかでまだ甘さがあるからだろう

 

「新たな兵士の編成はジェラルドに一任させる。期待してるぞ」

 

「はい陛下、仰せのままに」

 

 責任感の強い彼女なら雑兵だろうとある程度役には立つ兵へと育ててくれるだろう…いかんな悪役のような思考となってしまっている_今更か

 

「そして最後に、ここからが重要な案件だ。私の愛すべき配下を未来で亡き者にした者たちだが_その者達がシャドウガーデンであることが判明した。故に本腰を入れ、かの者たちを調査することとする。アズギアロ・イーバーン、出番だ」

 

「はっはいぃ、陛下ッ…」

 

 私にいきなり呼ばれて直立不動で立ち上がる赤毛の少女、アズギアロ・イーバーン

 彼女の能力は『解析(ジ・アナリシス)』、肉眼で対象の顔を見ることによりその者を二十四時間、三百六十五日、常に俯瞰の視点により監視と盗聴をすることができ、尚且つそのものにとって一ヶ月以上の付き合いがあると判断した者の顔と名前をリストアップさせることができる

 諜報においてこれ以上ない最高の能力とも言える。この能力のせいで彼女を見えざる帝国から出すことはないので、どうにか不満がないようにしなければならないのが玉に瑕だな

 

 彼女が口頭により、自身の能力を説明すると彼女を称賛する声が溢れかえる。無論えげつない能力ではあるがそう言った言葉は聞こえてこない、普通に自分の能力の方がえげつないことが多いからであり、ブーメランとなってしまうからだな。特にリジェなんてヤバい、名前からして万物貫通なんだからヤバくないわけない

 ただリジェだけに関して言えば試しに聖文字を与えた時、あわよくば万物貫通が目覚めてくれればと思い聖文字を"X"にしたのだが、本当に目覚めてくれるとは思わなかった。ちなみにリジェはハッシュヴァルトの次に見えざる帝国陣営に加わったメンバーであり、お試し感覚で聖文字を最初に与えたこともあるので、「最初に陛下より能力を授かった」と自信満々に言えるだろう

 

 そして彼女の能力を使うため、ブシン祭で感じた違和感を頼りに()()()()()()()()()()()()()()()()()

 すると彼女の能力の影響により一つのモニターのような映像が空中に映し出され、その付近には縦長のモニター画面が人の顔と名前を映して幾重にも連なって反映される。イメージ的に未来の世界の宙に浮く謎のAR技術のモニターが一番近いだろう

 

 そこに映し出される顔と名前を照合させていくと…そうか、()()()()

 

「シド・カゲノー、お前がシャドウだったか…」

 

 

 

 

 

◆◆◆




 お疲れ様でした
 幹部勢揃いの回でしたね。でも続きどうしましょう?ノリと勢いで書いてしまったので全く次の考えがないんですよね…割と毎回ではあるんですけどね…

 能力っぽいものが普通に漢字だけでなんとなくわかっても意外と想像が膨らむんですよねぇ。あとこの回を見ていただくとわかりますが、組織の幹部が二つ名と一緒に紹介されるパターン好きなんですよ
 ちなみにこの星十字騎士団の能力はなんとなく漢字から、防御寄りや精神系や過去が関連しそうなものが多いのは悪魔憑きという過去があったからですね。ぺぺの『ザ・ラブ』は割と露骨ですが、上手く設定に組み込めたと思ってます

 
 


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星章化④

 お疲れ様です。前回から期間が長くなっちゃいましたね…元々思いつきだったから仕方がないんですけどねぇ…


 ブシン祭の選抜大会が終わり寮の部屋に帰宅するとまたしても窓からアルファが侵入していた。彼女はドアから部屋に入ろうと言う気概がないのだろうか

 

「シド…あなた、ユーハバッハにすぐ勝っちゃうってどういうことよ」

 

「いやーこれは仕方がないよ、あいつ剣にも体にも魔力強化してなかったんだ。まるでこっちの出方がわかってるみたいにね」

 

 正直、割と負けず嫌いなところがあるユーハバッハがわざと負けようと考えなければ、僕というモブ相手に手を抜いた状態で負けることはないとあいつの性格を考えると自ずと答えが出てくる。絶対三位入賞くらい狙ってあとは面倒だから手を抜くとか考えただろうし、そもそもあいつは兄に対しての劣等感を持つような奴ではないからな

 

「出方が分かってるって…でもあなたが言うのなら本当にそうなのかも。私が…一歩及ばずなところで引き分けたハッシュヴァルトとか言う人物もアーティファクトか不思議な力を使っていたし」

 

 盛大な記憶の捏造を見た気がする。

 

「…ボロ負けじゃなかった?」

 

「おかしなことを言うのね、どこかで頭でも打った?病院で診てもらった方がいいわよ」

 

「ソウデスネー」

 

 しかし不思議な力か…一定範囲の魔力を吸収するアーティファクトもあるにはあるみたいだけど、ハッシュヴァルトの聖文字は本当に別の世界の力と考えた方がしっくりくるからな。ハッシュヴァルトがそうならユーハバッハだって"アレ"を本当に持ってる可能性もあるからな。

 

「もしかしてユーハバッハは未来を視ていたり」

 

「あなたってジョークを言うこともあるのね。面白いわよ…笑えないことを除けばね」

 

 やっぱりアルファは優秀だな、ユーハバッハが未来を視ることができることもしっかり選択肢の候補に入っている。僕の場合は一応前例ありきでそうかもって当たりをつけただけだけど

 でも実際に手合わせした僕の感想と、アルファ自身の可能性が合致しちゃったからなまじ笑い事じゃなくなってるんだよね。

 

「でも未来が視えたところで完全に対応することは無理そうだよ。考えてもみてよ、未来なんてものは無数にあるものだよ?それを今から起こるであろうことを瞬時に判断して行動に移すとして、確実な精度で出来ると思う?」

 

「そうね、普通に考えたら出来ないと思うわ、でも_」

 

 アルファが言葉を繋げようとしたが、僕がその言葉を遮る。

 

「そう、でももしもがあった時の為に、瞬時に未来に起こる出来事に対応ができることを計算に入れなければいけない…僕たちシャドウガーデンならね」

 

「はぁ…そんな眉唾物の話も考慮しないといけないって頭の痛い話ね」

 

 もしユーハバッハが未来を視ることができたとしても、おそらく未来の改変まではできないだろう。もし仮にできたとしたらそれこそ世界征服なんてあっという間にできてしまう

 そういう気がなくてもどこかに王国の一つや二つは作ってもおかしくはないだろうからね。アルファから聞いた話だと、王国周辺でも聖都リンドブルム方面からもそれらしき動きがない以上、出来たとしても未来の予知がせいぜいだろうしね

 しかし、アルファ達はどうしていきなり能力バトル物みたいな設定まで組み込んできたのだろうか?相手も上手い具合に合わせてきてるし…ごっこ遊びにしては出来すぎてる………考えすぎか

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 カゲノーくんがシャドウガーデンのシャドウだと分かったが、正面からの衝突はまだまだ出来ないな。無理に正面衝突をした結果が双方痛み分けのぶつかり合いだろうからな

 

 しかしアズギアロの聖文字の能力でシャドウガーデンの構成員が分かってきたが、多すぎてこちらが把握しきれないレベルとは思ってもみなかった。末端の末端でもかなりの数があるとはいくら個の力で凌駕している我々だろうと戦力差は歴然だ、層が厚すぎる

 これでは迂闊に手出しができない…しかしあの組織力なら吸収できたほうが得ではある。どうにかトップのカゲノーくんをドリスコールの改竄(ジ・オーバーライド)の能力でカゲノーくんの命の恩人という記憶を植え付けたらあるいは…

 

 こうして元々高校生の一般人である私が今後のことについて学校の席に着いて思考していると、体の中の魔力が吸われるような少しの気怠さを体感した。いや本当にこれ魔力吸われてるな?聖別(アウスヴェーレン)は私の専売特許のはずだが…そしてそうこうしていると、廊下の方から大勢の足跡が慌ただしく聞こえてくる

 

「全員動くな!我々はシャドウガーデンだ」

 

 学校に黒ずくめのテロリストが侵入してきた。突拍子もないな、学校にテロリストが襲撃してくるって厨二病患者の頭の中かな?

 明らかに前に見たシャドウガーデンの構成員の質より数段劣るから、コイツらは偽物だとしても緊急事態ではあるので、見えざる帝国に召集後私の近くに影を通して出動するように知らせる。グレミィの能力があったからここまで自由の効く指示がボタン一つで完了する。グレミィ様様だな

 

 それにいい機会だ。テロリストを根こそぎ捉えて聖兵(ゾルダート)に変えてしまえば騎士団の命のストックが増える。学校にテロ起こす奴なんて碌な奴らじゃないからな

 

「ここがどこだか分かってないようね、ここは魔剣士学園よ?正気の沙汰とは思えませんね」

 

 そういえば生徒会の説明でローズ会長が教室に来ていたか…テロリストと険悪な雰囲気を出していてこのままでは見せしめでやられるような展開だが、見たところ力量的にローズ会長の方がテロリストより強いだろうから心配ないだろう。最悪、我が星十字騎士団のシャズがなんとかする

 

 ローズ会長がテロリストと対峙していたが、魔力を上手く練られない一瞬を突かれて斬られると言ったところにカゲノーくんが身代わりになった

 攻略対象が目の前で死んだんだが…いや生きてるか、ハッシュヴァルトの話ではカゲノーくんはいくら斬られても傷が治っていたようだし、最悪シャズがなんとかしてくれる

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「陛下からの知らせで緊急性はないらしい召集だが…今集まれる全員来たのか」

 

 銀架城広間に1番早く着いたジェロームが口を開く。そこには遠征で遠出をしているハッシュヴァルトとバンビーズとバズビー以外の星十字騎士団が集まっていた。

 

「それは当然でしょ、陛下からの直々の召集よ?ここのみんなは陛下から集まれって言われて集まらない人はいないわ」

 

 そして最後に着いたエス・ノトが皆の言葉を代弁して話し、その言葉にうんうんと頷く

 それからは各自のタイミングでユーハバッハのいる学園に影を通して侵攻する

 

「おや?魔力が吸われている」

 

 そう口にするのは白いフードを深く被った猫っ毛が特徴的なグレミィである

 グレミィが影から出てきたのは、全生徒がシャドウガーデンを名乗るテロリストの要求で大講堂に一箇所に集められた後のもぬけの殻となった校舎の中だった

 

「おいおい嬢ちゃん、困るよ。俺たちシャドウガーデンの要求には従ってもらわないと…じゃないと学校のお友達は全員殺されちゃうからね〜」

 

 誰もいない校舎を散策していたグレミィだったが、後ろからシャドウガーデンを名乗るテロリスト二人組に捕捉され、男達はグレミィを見てニタニタと笑う

 

「おじさん達シャドウガーデン?情報(ダーテン)にあった人たちより弱そう、僕の方はハズレかぁ」

 

「何言ってるか知らないが、一人くらいつまみ食いしてもいいよな、どうせ殺すんだろ?」

 

「一人ぐらい別にいいだろ、たっぷり可愛がってやろうぜ」

 

 「殺すなよ〜」と忠告を受けたテロリストの片方はグレミィに剣を振り上げながら走って近づく

 

「おじさん達面白いな〜、僕に勝つと思ってるの?想像してごらんよ、おじさんの手に持ってる剣すごく重そうだよ。自分の腕の骨が飴細工だったらそんな剣持てないね」

 

 瞬間グレミィに近づいていた男の腕がポキポキと音を立てて重力に負けるように地面に向かって落ちていく

 

「は?腕、腕が!俺の腕がおかしいぞ!!!」

 

「何遊んでんだよ、さっさとしろよ〜」

 

「遊んでんじゃないだよ!俺の腕がおかしいんだって!コイツ…コイツが何かしたんだ!!」

 

 両腕の骨がボロボロになって皮だけのようになってしまった男にグレミィは近づく

 

「僕は星十字騎士団(シュテルンリッター)、"V"『夢想家(ザ・ヴィジョナリー)』のグレミィ、僕は自分が想像したことを全て具現化できるんだ。想像してごらん?君たちが相手にしているのは星十字騎士団(シュテルンリッター)最強なんだってことを…ね」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「はぁ…自分のやってることが無駄だってわからないんですか?…分からないから止めないのでしょうけどね」

 

 学園の中庭に出たのは陶器のような白すぎる肌と、真っ白な長い髪が特徴的な女性、グエナリエ・リー。彼女は四方をテロリストから袋叩きにあっているが、彼女から半径1mほどの距離に見えない壁でもあるかのように男達は彼女に近づけないようになっていた

 

「なんで、近づけられねぇんだ!」

 

「おかしいだろ!なんかのアーティファクトか!?」

 

「絶対何かカラクリがあるはずだろ!探せよ!」

 

「探せって言われても!」

 

 男達のやり取りを見ていたグエナリエは「はぁ…」ため息を吐き目の前の男に向けてデコピンの要領で人差し指を曲げ弾くと、男は背中に位置していた校舎の壁に激突してぐったりとし、校舎の壁がパラパラと地面に落ちる音がこの空間を支配した

 

「この世界にはベクトルと言われる力の向きが必ず存在する…あぁ、これは世界の法則の話です。そのベクトルの向きを自由に変えられるこの私、"V"『方向(ザ・ベクター)』のグエナリエ・リーに貴方達ごときが勝てるわけないでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 お疲れ様です。
 魔力吸われてるのに聖文字の力は普通に使えるんだ?って思ったそこの貴方、それは次辺りにわかると思います

 この作品のグレミィ、グエナリエ、シャズは多分親衛隊くらい強い


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星章化⑤

 お疲れ様です。
 このあとやりたい展開が出来たのでそれに向けてちょっと書いてみました。


「それで二人とも何か言い訳はありますか?」

 

 呆れとイライラが混じった声の主は、茶髪のポニーテールにモノクルをつけた女性、シャズ・ドミノである

 そしてその声の主の前で正座をさせられているのはグレミィとグエナリエである。ちなみに正座が精一杯の謝罪の形であることはユーハバッハから聞いていた

 

「えーと、相手の人が鬱陶しくてつい…」

 

「わかるわグレミィ」

 

 言い訳をするグレミィに同意するグエナリエの反応は飛廉脚並みに早かった

 

「だからと言って、人の原型を留めていないほど力を使う理由にはならないはずですけど?」

 

 シャズが指差した方向には、およそ四名分の肉片の山と二十リットルほどの血溜まりがあった。なおグレミィの居た廊下でも似たような光景があったそうだ

 

「陛下からの要望は生け捕り、この程度の仕事もまともにできないから親衛隊に任命されないんですよ?」

 

「それ僕が本当に落ち込む話だからやめてくれない?」

 

 グレミィとグエナリエの仕事はとにかく雑だった。世界の法則である力の向きのベクトルの変更が出来たグエナリエと、自分の想像したことならなんであろうと具現化できてしまうグレミィは、ディアボロスの腕の力を取り込み星十字騎士団の力が上がる前から強すぎて加減をしてもこの有様になるので、ユーハバッハもどうしたものかと考えていたが結果として、親衛隊という別の枠組みを作りグレミィとグエナリエを外すことで、直してもらおうと画策していた…結果はあまり変わらなかったが

 

「シャズが居るから大丈夫かな?_と…」

 

「やりすぎるあなた達のお目付役で、私も親衛隊に選ばれなかったこと、今言ってもいいの?」

 

「ごめんなさい…」

 

 結果、グエナリエとグレミィはめちゃくちゃ謝ったが、似たようなことはこれで三回ほどなのでまた続くのだろう

 

「はぁ、だから私がついていないとダメなんですよ…」

 

 シャズは指をパチンと鳴らすと、肉片だったシャドウガーデンを名乗るテロリストの男たちは一人ずつ死ぬ前の状態に戻った

 『聖文字(シュリフト)"N"』『虚無(ザ・ヌル)』シャズ・ドミノの能力は事象の初期化、過去にあった出来事の一つを"拒絶する"ことが出来る

 仮に人が一人死んだとする。その人物の出来事から死亡したという事象を拒絶すると、死んだという出来事がなくなり生きているという結果だけが残る。そして他の人からすると見た目だけなら死者の蘇生をしたように映る

 シャズ・ドミノの能力は生物にしか効果を発揮しないが、効果範囲は自分にも適用でき、自分が死んだ後でもオートで能力が発動する。事実上の不老不死であった

 

「テロリストの死を私は"拒絶する"…私の能力は、かなり体力を使うから…息切れ…しやすいんですよ…」

 

 見るからにぐったりとするシャズを申し訳なさそうにグレミィとグエナリエは支えると、とりあえず捕えたテロリストを見えざる帝国に送り、学園のテロリストを探しながら一ヶ所に集まっている大講堂に向かうのであった

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 テロリストから盛大に体を斬られたが、モブ式奥義『10分間のハートブレイク』により、蘇生に成功した後、人質が大講堂に一塊にされているのを確認した僕は、屋上から意味深に見下ろす陰の実力者ムーブに徹していた。学校の占拠、警備の騎士団の全滅、隠れている生徒がいないかの巡回、どれもこれもテンプレで素晴らしいのだけど…気になることがある

 

「アイツらTPOをまるで弁えてない!真昼間からあんな目立つ黒い服でウロウロして!黒い服を着るなら夜って相場が決まってるのに!」

 

 やはりことを起こすとしたら夜だろうと言うことから、校舎にいるテロリストをチマチマと狙撃していく

 

「あまり人を殺さないでくださいよ、僕らの仕事が無くなっちゃうので」

 

 僕自身テロリストの狙撃に夢中になって警戒を怠っていたわけではない、気がついたら背後にその人物がいた

 振り返ると、長身で銀髪の長い髪で褐色のエルフの女性、その服装は白色が主体のタイトスカートで僕が知る星十字騎士団の制服と同じものだった

 

「やだなー殺す殺さないって物騒なこと言わないでくださいよ、僕はただテロリストから逃げていたら、たまたまこの場所に来ちゃっただけなんですから」

 

「ふふっ隠さなくてもいいですよ、僕らはシャドウガーデンの構成員とか色々知っていますので…ねぇ、シャドウガーデンのシャドウさん?」

 

 僕の正体がバレてる…何故バレた?僕の変装は完璧だったはず。考えたくないが七陰の誰かか?_まさか………僕がただの厨二病患者とか吹聴してないよね?一応身内同士のごっこ遊びだと思ってたのに裏切ることなんてないよね?

 

「ああ、自己紹介がまだでした。僕は星十字騎士団(シュテルンリッター)、『聖文字(シュリフト)"X"』『万物貫通(ジ・イクサクシス)』のリジェ・バロ、陛下の最高傑作です。」

 

 さてどうしたものか…相手は僕の正体を知っているけど、わざわざ手を出そうと言うことはなく最初に会話から入ってきたところから考えると、戦闘する気はなさそうだし…うーん………まぁ夜まで暇だったしお喋りするか

 

「その陛下の最高傑作ってなに?すごいの?」

 

「めちゃくちゃすごいですよ!なんてったって、最初に陛下から能力を賜ったのも僕ですし、その能力もどんな防御も貫通するし、どんな攻撃も無効化しちゃうんですよ!陛下と初めて会った時だって___」

 

 うーん、見た目はクール系だったのに、好きなことになると早口になっちゃう系のオタクっぽい人だな…残念美女って感じだ

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「リジェはシャドウの監視についてくれてるけど、ちゃんと仕事をこなしてくれてるでしょうか………なんだか戦闘音がするわね?」

 

 校舎を散策しているのは長く黒い髪と黒いマスクに目のハイライトが消えた顔が特徴的なエス・ノトである。彼女は校舎のある一室の近くを通ると戦闘音を聞きつけ、飛廉脚で近づく。すると桃色髪の女の子がテロリストに襲われているところを、騎士が庇っている光景を目撃した

 

「む、新手か」

 

「ギャハハ、丁度雑魚の相手に嫌気がしていたところだ!見ればわかる。お前、俺に匹敵するくらいの使い手だろ?このレックス様のなあ!」

 

「アイリス王女が立ち上げた騎士団…確か紅の騎士団だったかしら、その二人がテロリストから女の子を守るために交戦状態、とりあえず片付ける問題としては…テロリストかしら_」

 

「なに戦場でぶつぶつ喋ってんだッ!」

 

 レックスと名乗ったテロリストは持っていた刀でエス・ノトに斬りかかるが『静血装(ブルート・ヴェーネ)』の防御を突破することはできなかった

 

「なんだこれ…鉄か?_魔力で防御したとしても素肌の硬度がおかしいだろ、そもそも今は魔力の働きを阻害してるはず…」

 

「恐怖しましたか?…それともこの状況下で、魔力がちゃんと機能しているところが気になります?」

 

「へっ、恐怖だぁ?んなもん俺様にあるわけねぇだろ!」

 

「未知とは恐怖です。しかし知らないというのは考え方によっては幸福でしょう_『聖隷(スクラヴェライ)』」

 

 そうエス・ノトが口にすると、周囲の吸収されようとしていた魔力が逆にエス・ノトに集まり取り込まれると、可視化される程の魔力の迸りを発現させる

 

「嘘…だろ…周囲の魔力の収束__いや違う!魔力の完全隷属だと!?んなもん人の域を超えてんだろ!」

 

「恐怖しましたね?」

 

 目元しか表情が見えないエス・ノトだが、誰が見てもわかるようにその顔をニヤリと歪ませた

 

「ひぃ…た、助け」

 

 窓から逃げようとしていたレックスと、それに続こうとしていたテロリストはエス・ノトが周囲で発生させ発射した楔のような形の魔力で出来た矢に射抜かれるとガクリと膝を落とし倒れ伏す

 

「出力は調整しておきました。死ぬことはないでしょう、トラウマは残るかもしれませんが…」

 




 お疲れ様でした。
 長くなりそうだったので限りました。この章の和数が長く…
 アニメBLEACHでキャンディスが聖隷を使ってたので多分使わなかっただけで、実は星十字騎士団は標準技能みたいに使えるんじゃないんですかね?
 ちなみに織姫とウルキオラの絡み好きでした


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