真・女神転生オタクくんサマナー外伝~エピソードオブドリフターズ~ (ジントニック123)
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First Encounter

 ──山の長い獣道を抜けると、ド田舎中のド田舎が街になっていた。

 

「……あれ?」

 

 思わずそんな声が口から飛び出た。

 見間違えたのかと何度か目を擦ってみるが変わらない。

 呼吸を整え、精神状態をリセットしても*1目に映るものは同じ。

 とりあえず一度瞼を閉じ、脳味噌をフル回転させて入山前の記憶を掘り起こしてみる。

 

 この辺りは戦後の無計画な土地開発や震災の影響で地脈の流れが阻害され、半ば枯れかけてしまった霊地だ。

 そのせいで人の流出が止まらず、今では高齢の夫婦が数組、こぢんまりと農家を営んで生活している程度だった。

 バスは1日1本、最も近いスーパーは車で2時間とかそういうレベルで過疎ってる。

 トレーニングがてら走ってここまで来たから記憶にはしっかりと刻まれていた。

 

 しかし、実際には田んぼや畑だった場所がそれなりに高いビルが建ち並ぶオフィス街へ。

 慣れてなければ転びそうだった砂利道は車が何台も行き交う舗装された道路に。

 どこからどう見てもそれなりに活気のある地方都市だ。

 

「…………あっれぇ?」 

 

 修行で籠っていた異界が突如として崩壊し、気になって原因を調べようとしたらこの状況。

 崩壊の影響で次元の挟間にでも放り出されて、どこか遠い別の土地にでも転移したのだろうか? 

 いわゆる神隠しというやつ。昔そういう話を実家で耳にしたことがある気もする。

 

「いやでも、遠目で見える看板の地名とかそのまんまだし……あれれぇ???」

 

 あるいは、とても考えたくはない事なのだが。

 

「………………時間が飛んだ?」

 

 

 異界は現実空間から切り離された場所であり、中と外では時間の流れがまるで違うパターンがある。

 中で1時間しか経過していないのに外では丸1日経っていたという事も珍しくない。

 そう考えればこの光景にも説明がつくのだが。

 

「待て待て、ステイステイ。

 あんな吹けば飛ぶような木っ端な異界だぞ? 

 事前に調べた情報でもそんな報告なかったろ」

 

 嫌な方向に傾きかける思考を自分で論破する。

 例えこんな辺鄙な場所を再開発したとしても10年以上はかかるはず。

 たかだか2週間籠っていた程度でそれだけの時差が出るなど、とてもじゃないが笑い話にもならないし出来ない。

 

 そうだ、例え悪魔なんて化け物が日常の陰に存在する世界だとしても。

 自分のようにそれを狩る異能の力を持った人間が居るのだとしても。

 物事には大抵限度ってものがあるのだ。

 

 何せさっきまで居たあの異界は精々スライム程度しか沸かない不人気スポット。

 同業者は中堅どころか新人すら足を踏み入れないから、誰にも邪魔されずのんびり修行出来ると思って選んだくらいに旨味が無い。

 

 紹介してくれた斡旋所──通称“魔労ワーク”*2──の受付嬢も、

 

 “え? 本当にこんな所行くんですか何もないですよ、頭大丈夫? ”

 

 って目で見てきたし。

 だから間違いなくそんなふざけた現象が起きる場所じゃないのだ。

 

「ん、ん~~~…………どうしよマジで」

 

 困った、本当に困った。判断材料が足りなさすぎる。

 明らかに異常事態で、こうなると強大な力を持った悪魔か異能者の企みに巻き込まれている可能性も十分に考えられる。

 

 ソロの悪魔狩り(デビルバスター)なんてやっている身としては判断1つ誤っただけで致命的な事態を招く。

 以前レベル60越えの化け物と戦う事になった時と同じように、ギリギリで生を掴むなんて真似はそう何度も出来る事じゃない。

 だからしばらくその場であーでもないこーでもないと頭を掻きむしりながら考え込んで。

 時々逆立ちして腕立て伏せとかランニングやって。

 

「────仕方ない、行くか」 

 

 大きく迂回して街を避ける事も考えたが、ルート的にどうやっても街に入らなければならない。

 ならここでうだうだ悩んでいてもどうにもならない、進むしかない。

 

 この業界、石橋を叩き壊して新しく作り直すくらいの慎重さは必要だ。

 しかし虎穴にはいらずんば、という言葉もあるようにリスクを恐れるだけでは何も出来ない。

 もちろん備えだけは十全に行うのが前提ではあるが。

 

「符はあんまり無ぇから節約して、服は……ボロいけど大丈夫」

 

 今回は技を磨く事がメインの目的だったのであまり荷物は持って来ていない。

 あるのは普段使いしてる黒染めの外套*3と頑丈なアナログ式腕時計*4

 薬や携帯食料などの道具類。

 そして竹刀袋に入れて隠している愛剣だけだ。

 

 本当は着替えも何着かあったが全部バラバラに破けて使い物にならないので、今着ているのが最後の一張羅だったりする。

 

「……人は普通にいるっぽいし、まずは街を見て回るか。

 気ぃ張って注意してりゃ奇襲されても何とかなるし」

 

 おっかなびっくり、しかし躊躇いなく歩き出す。

 腹を括ったのなら迷わない。

 そもそも、この先でどんな強敵が現れたとしても────。

 

「ぶった斬るだけだ」

 

 畢竟、己に出来る事はそれくらいなのだから。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

「いや、これは斬れねぇよ……」

 

 数時間後、街の片隅にある小さな公園のベンチに座って項垂れていた。

 なんか失業中のサラリーマンみたいになっていた。

 

 母親に手を引かれた子供がこちらを指さして何かを言っているが聞きたくない。

 子供を抱えてものすごい勢いで走り去るのが見えた。

 ちょっと涙が出そうになる。出た。

 

 たぶん、他人が自分を見たら暗黒オーラ垂れ流しているを幻視するのではなかろうか。

 だがそれくらいは……許してとは言わないが多めに見て欲しい。何故なら、

 

「10年どころの話じゃないとかさぁ……」

 

 自分の手には昨日街に入ってすぐ拾った新聞が握られている。

 そこに書かれている日付は20XX年──記憶にある年代より20年以上先のものだ。

 太陽にすかしたり穴が開くほど見つめても数字は変わらなかった。

 タイムマシンを探して自販機の受け取り口に頭を突っ込んだら、警察に通報されて逃げ出す羽目にもなった。

 

「テレビもパソコンも薄い、ケータイは板になってる。

 紙幣の類は旧札とか言われるし、元号は平成じゃなくて令和とかになってるのマジかよ陛下どうなったのよ? 

 挙句の果てには仮面ライダーが両手で数えられんくらい出てる…………夢であってくれ」

 

 錯乱した脳が見せる幻覚にしてはリアリティがあり過ぎる。

 技術面に関しても下手なSFよりまだ理解が出来る範疇での進歩。

 何者かが作り上げた異界だとしてもここまでの規模で、これだけの設定を詰め込むなどまず無理だ。

 

「……連絡先は全滅、やけ食いしたせいで財布の中身も空っぽ。

 どうしようもなく現実かよ」

 

 修行中は連絡を絶つのがマイルールである。

 携帯電話はセーフハウスに置いて来た。

 だから公衆電話──まるで見つからなくて街中探し回った──で知っている番号に片っ端からかけて。

 

 繋がらないか、まるで知らない他人が出るかのどちらかだった。

 あまりのショックとついでに空腹だったので適当な店で食いまくった。

 

 頻繁に連絡先を変えるのが常な仕事関係は仕方ないにしても。

 実家の番号が使われていなかった時が一番堪えた。

 

「…………はぁ」 

 

 思わず空を見上げる。

 曇り一つ無い良い天気なのにちっとも心は晴れない。

 ここが未来だという事実を否定する材料がどんどん無くなっていく。

 突然異国に放り込まれた時と同じ感覚、いやそれ以上に悪い。

 所詮、角度の付いた鉄の棒を振り回す事と、ちょっとした仙術が使える程度の己ではどうしようもない。

 

「………………京都、行ってみるか」

 

 ふと、口から零れたのは久しく戻っていない地元の名前。

 高校卒業と同時に実家を飛び出し早3年。

 学生時代に積んだ経験を生かして悪魔退治と剣の修業を続けて来て。

 生存報告で偶に手紙くらいしか出していなかったあの場所が無性に恋しくなる。

 

「親父含めた親戚全員があそこから離れるなんてまずあり得ん。

 何があったのかくらいは確認しねーと」

 

 純粋に家族を心配してるのか、現実逃避の為の理由が欲しいのか。

 自分でも最早分からないがとりあえず行動方針を決める。

 金が無いから頭の中で現在地から京都までの距離を大雑把に出し、数日走れば着くかなと計算して。

 

「あ?」

 

 匂いがした。

 風に乗って運ばれてきた血の匂い。

 嗅ぎ慣れた──―荒々しい殺意と狂気の残滓。

 

 同時に、ガタガタと背負った竹刀袋が揺れる。

 これがこんな反応をするという事は答えは1つ。

 

「悪魔か」

 

 気が付けば、足がそちらに動いていた。

 どんな時代であろうと、街中でこんな気配を漂わせる悪魔が居たのなら。

 

 ──斬らなきゃ駄目だろ。

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

「さい、あく……なんでこう、悪い方向に行くんだろ……?」

 

 ゼイゼイ、と荒い呼吸を繰り返しながら悪態が零れ落ちる。

 言葉の主は黒色のセーラ服にゴツめのメガネをかけた、それだけを切り抜けばどこにでもいそうな女子学生。

 しかし注目すべきはその容姿だろう。

 

 白銀を溶かしたような銀髪のショートヘアにモデル顔負けのプロポーション。

 何処か幼さが残りながらも美しいと呼べる、少女と女の中間的な顔立ち。

 もし人の集まる場所であれば間違いなく視線を釘付けにする、どこか神秘的な雰囲気。

 

 陳腐な表現をすれば、絵から出てきたような美少女と言った所か。

 

(血は……大丈夫、このくらいなら平気。それよりもこっちだ)

 

 ──―もっとも、今は別の理由で目立つだろう。

 

 黒色で目立ちにくいが制服の所々が赤く染まっており、一目で大怪我を追っているのが分かる。

 無関係の第三者が居れば即座に救急車を呼ぶほどの重傷を負いながら、少女は震える手で顔に掛かったメガネへと触れる。

 

《──System Error──》

 

 レンズ──―ARグラスに表示された文字列が最悪の事態を告げる。

 それが意味するところは1つだ。

 

サイコメトラー若槻美野里Lv28(デモニカ装着時Lv39)破魔・呪殺無効

 

極地用装備(Dスーツ)、使用不能……か」

 

 少女──―若槻美野里(わかつきみのり)は絶体絶命の窮地に追い込まれたという事に他ならない。

 

「そりゃそうだよね、ずっと素人整備で使ってたんだし。

 けどこのタイミングだけは勘弁してよね……っ」

 

 自分のレベルを10以上も底上げしていた生命線とでも言うべき装備。

 “デモニカ”とも呼ばれる異形科学(ストレンジサイエンス)の鎧が完全に使い物にならなくなった。

 そもそも暗黒宇宙( アバドンゲート)──―理事長曰く“シュバルツバース”攻略のために開発された代物なのだ。

 どさくさに紛れて借りパクしていただけの自分がここまで使えていたのが奇跡に近い。

 

(スーツと連動してたCOMPも止まった。

《スキルハック》*5で覚えてた《トラフーリ》が使えないのがヤバい)

 

 通常弾しか入っていないマガジン1つと消耗し切った生身の体。

 それが今の自分の手札でなんとも頼りない。

 大一番の勝負でブタしか来なかった気分だろうか。

 

「ちっくしょー」

 

 ほんの短いため息と共に、背中を近くの塀へと預ける。

 視線を左右へと走らせるが人はおろか生き物の気配さえ皆無だ。

 何せここは()が作り出した狩場(いかい)であり、獲物は自分ただ一人なのだから。

 

「…………なんでこんな事になってんだろ? 

 あたし高校3年生よね、普通は受験とか就職とかそういう事で頭悩ませるもんだよね。

 どうしてこんな命の切った張ったで神経すり減らさなきゃいけないワケ???」

 

 愚痴と共に過去の記憶が蘇って来る。

 天の絆学園──―“学園都市須摩留”における超能力開発の拠点へと、家から近いなんて理由で入学して。

 優れた素質を見出され、奨学金含めた待遇の良さに釣られた結果、自警団である「特別課外活動部」へと入部して。

 都市内に出現した悪魔や暴走する超能力者と数え切れないほど戦ってきた。

 

 折れそうになった事は何度もある。

 後悔して、逃げようとした事も何度だってある。

 死を覚悟した回数は両手の指では数え切れないくらい。

 

 急激なGPの上昇と共に学園都市が自衛隊によって封鎖された時も。

 降臨した黙示録の四騎士が無慈悲に市民の命を刈り取って回った時も。

 そして突如として拡大し始めたシュバルツバースが須摩留を飲み込もうとした時も。

 

 それでも──―仲間と力を合わせて何とか潜り抜けて来たのだ。

 

「こうなったら魔界にでも逃げようぜーってテレポートしたら見知らぬ田舎に1人で出た上、

 あんな訳分からん奴にいきなり狙われるなんて……ひょっとしてあたし、運なさ過ぎ?」

 

 だが、その自嘲を聞かせる仲間はこの場所におらず。

 今まさに、その命運は尽き果てようとしていた。

 

鋭い勘自動効果何かに気付く判定にプラス補正して判定できる

 

「ッ──―!」

 

 背筋に走る強烈な悪寒。

 脳で思考するより早く、本能が回避行動を取る。

 

 直後、大気を震わす轟音と共に。

 数秒前まで美野里が居た場所へと巨大な鉄塊が叩き付けられていた。

 

「ぁああああああっ!!」

 

 余波だけで無様に転がりながらも、懐にしまっていた愛銃を抜き取り襲撃者へと向ける。

 それが無駄な足掻きなのは百も承知だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『────闘え、闘え闘え闘え!!』

 

 やがて、巻き上げられた砂埃から人型のシルエットが浮かび上がる。

 そこに居たのは身の丈ほどある漆黒の大剣を持った()()()()()()

 声を出す器官など存在しないはずなのに。

 本来口があるであろう場所から狂気と執念に濡れた声が響く。

 

『勝者が生きる、勝者こそ生き残る! 

 積み上げた殺戮の数こそ勝者の証である!!』

 

 美野里は何も知らないし分からない。

 目の前の怪物が、先日発生した“受胎”と呼ばれる蠱毒儀式で生まれた魔丞なる存在である事も。

 望まぬ殺し合いの中発狂し、どうしようもなく歪み切った結論(こたえ)に辿り着かされた者である事も。

 

『闘え、技を磨け! 

 闘え、敵を喰らい糧としろ!! 

 闘え、全てを戮し尽くすまで!!』

 

 分かるのは自分を閉じ込められている異界の主である事。

 皆で死に物狂いになって撃退した四騎士たちよりも遥かに格上の相手である事。

 そして────。

 

 ──― ANALYZE COMPLETE ──―

 

魔丞ケートゥLv73物理反射、火炎・氷結・電撃・破魔・呪殺・BS無効

 

 

『それこそが“カバネ”のコトワリである!!!!』

 

 

 理不尽なまでに穴が無い事を。

 

「ざっけんな……っ」

 

 デモニカを装着していた時でさえロクに攻撃は通らなかった。

 例え使えたとしても属性弾も使い切った今、どう足掻いても勝ち目はない。

 

「ざっけんなぁ!!」

 

 それでも吠える、抗う。

 こんな所で死んでたまるかと気炎を吐く。

 絶望に屈しそうな心を奮い立たせ活路を模索し続ける。

 修羅場を切り抜けたと思ったら更なる修羅場で、世界が自分を殺したがってるのかと思うくらいに理不尽であろうとも────

 

「自分からゼロになんてしてやらない……っ!!」

 

 諦めて膝を折った者に勝利の女神は微笑まないのだから。

 

『その意気や善し! 

 ならば我が剣によって散るが良い!!』

 

 しかし諦めなかったとしても生き残れるかはまた別の話。

 現実は少女の決意を容易く踏みにじる。

 

暗夜剣*6剣相性前列の敵1体にダメージ。確率でPALYZE状態。

 

「あ──―」

 

 先程よりも迅い──―美野里の眼では追えない──―踏み込みから放たれる必殺の一撃。

 防ぐことも躱す事も、耐える事さえ不可能だ。

 

 よってここに、若槻美野里の末路は決定付けられた。

 

 

 

「そりゃ駄目だろ」

 

 

 

 ──― 《カバー》*7 ──―

 ──― 《受け》*8──―

 ──― 《禁金符》*9 ──―

 

 

 甲高い金属音が鳴る。

 刃と刃が激しく衝突──―そして拮抗する音。

 

「……え?」 

 

 いつの間にか、美野里の前に一人の男が割り込んでいた

 中肉中背でありながら、服の上からでも分かる鍛えられた肉体。

 髪の色と同じ黒い外套を身に纏った、二〇歳前後の青年だ。

 

 男は手にした刀──―魔丞の大剣と比べれば恐ろしく細い──―で絶死の剣を完全に防ぎ切り、

 

「ぅらあっ!」

 

 ──― 《引き》*10 ──―

 ──― 《霊活符》*11 ──―

 

忽の剣*12剣相性一呼吸の千分の一の時間で切り下す疾風の剣。回避・防御にペナルティ。

 

 あまつさえ剣を弾き飛ばし、反撃さえしてみせる。

 暴虐の化身のような魔丞ケートゥのそれとはまるで正逆。

 荒々しさの欠片もない、無音で放たれる疾風の如き太刀筋。

 薄い光に包まれた白刃が、あらゆる物理攻撃を反射するはずの身を捉えた。

 

『────―!』

 

 一瞬の攻防、予想外の反撃に魔丞と美野里の意識に刹那にも満たない空白が生まれる。

 

「ハイ失礼」

 

 それを狙っていたのか。

 男は美野里を片手で抱えて──―更に言うと胸を鷲掴みにして──―後方へ大きく跳躍。*13

 まるで空を舞うように、軽やかに距離を取る。

 

「──―ってあんた、どさくさに紛れて何処触ってんの!?」

 

「掴むのに丁度良かった……正直役得です。

 後でもっと揉ませてくんない?」

 

 飛んできたセクハラに対し、生き延びれたら必ずグーパンする事を美野里は誓った。

 貞操観念は強い方なのだ、緊急事態とはいえこの返答は許せない。

 ──―それはそれとして。

 

「まぁ、助けてくれてくれたのはありがとう。

 ……で、これからどうすんの? 

 ここで転移アイテム*14使っても異界から逃げられるか正直微妙よ」

 

 助けられた感謝を口にしながら、何故か微動だにしない敵を視界に入れつつ尋ねる。

 傷一つ負わなかった筈なのに行動しない事は疑問だが、今は好都合だ。

 

 まだ窮地を脱した訳ではない。

 だが救援が来た事によりほんの僅かだが希望は見えた。

 くらましの玉や煙幕弾*15など使って逃げ回れば──―。

 

(一瞬だけならCOMPの再起動いけるかも。

 異界の端に辿り着けば《トラフーリ》で無理矢理脱出の可能性だって……)

 

「悪りぃけどそっち系の道具は全く持ってない。

 マジのマジで偶然通りかかっただけだからな。

 ついでに言うと防ぐのはもう無理」

 

 しかし返って来たのはそんな希望を打ち砕くふざけた返事だった。

 役目を果たし粉々になった符を放り捨てながら男はさらに続ける。

 

「やっぱ符術の類は苦手でよ。

 これ一枚作るのに2週間掛かるんだぜ。

 しかも防げて一発程度、不意打ち防ぐお守りにしかならん」

 

 霊活符の方はまだ保つんだけどなー、とか。

 つかあいつ硬過ぎ、防御もしてねーのに通らんとか、などと。

 暢気に宣う男に対し沸き上がって来るのは失望や絶望などではなく怒りと呆れだった。

 

「馬鹿なのアンタ、それともヒーロー気取り? 

 逃げる手段も無しに助けに来るなんて!! 

 あいつがどんだけやばい化け物なのか分からないの!!?」

 

「そこまで鈍感じゃねーよ。これでも目にはそこそこ自信があるし*16

 

 

 

「──―それじゃあ自殺志願者ね。あんた程度のレベルでどうにかなる相手とでも?」

 

 

 

 ──― ANALYZE COMPLETE ──―

 

剣士八瀬宗吾Lv33破魔・呪殺無効、全体的にやや強い

 

 

 最初に見た時から薄っすらと感じていた事が確証に変わった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 男と魔丞ケートゥとのレベル差は40。

 戦い方や工夫でどうにかなる域ではない。

 差が10を超える相手との戦いが偉業の一つである事を考えれば、無謀を通り越して愚行である。

 

 身も蓋もなく言えば要救助者がもう一人増えただけ。

 先程のような斬り合いが成立したのは奇跡のようなもので二度も続かない。

 助けに来た白馬の王子様が返り討ちにあうなど、女児が見たら批判殺到間違いなしだ。

 

「いやぁ、そこを突かれると痛いわな。

 正直暴れてる悪魔が居るから憂さ晴らし兼ねて斬るかー、ってくらいのノリで来たんだけど。

 まさかあんなのが出るとは想定外だろ、うん。

 ツエーのは分かってたが、昔殺し合った魔人よかレベル高いとか信じられん」 

 

「そこは同意だけど……なおさらでしょ。

 本当に何でこんなとこに入って来たのよ」

 

 この異界は美野里のみをターゲットにしたものだ。

 なのにこの男が此処に居るということは、巻き込まれたのでなく後から侵入したという訳で。

 レベル30を超えた猛者でなくとも、中に強大な悪魔が居る事は肌で感じ取れるはず。

 

「わざわざ死にに来るような真似なんかして……馬鹿通り越して大馬鹿よ」

 

 本来なら準備万端でも避けたい相手。

 常識的に考えれば躊躇わずに回れ右をするだろう。

 MAG太りしただけのハリボテでないのは間違いないのに何故そんな事を? 

 

「だって、誰かが必死に戦ってる気配がしたからな。

 そういう奴見捨てるのも後味悪いだろ? 

 あと────」

 

 刀を担ぐようにして構えを取りながら。

 口元に不敵な笑みを浮かべて男──―八瀬宗吾は疑問の答えを口にする。

 

「──―斬れそうな感じがしたから」

 

『──―斬れるだと?』

 

 その言葉に対し、真っ先に反応したのは日野里ではなく沈黙を保っていたケートゥだった。

 

 

禍時:蛮攻マガツヒスキルターン中、味方全体にスキルの消費MPが2倍になる代わりに攻撃ダメージも2倍になる効果を付与する

 

 

 突如として吹きあがるのは、禍々しき赤色のオーラ。

 同時に叩き付けられるのは、凄絶なまでの()()

 全身を刻まれ、バラバラにされるイメージが鮮明に焼き付く。

 覚醒していない者ならば、思い込みだけで斬殺されるであろう()()()()だった。

 

「~~~~~~ッ!!」

 

 意識が飛びそうになるのを美野里は唇をかみ切って堪える。

 先ほど己の命を奪いかけた一撃は本気でも全力でもなかったのだ。

 それを今更ながらに理解させられ、圧倒的プレッシャーで呼吸さえ難しくなる。

 

 だがしかし。

 

『己を斬ると言ったか、数多の屍の山から生まれたこの己を! 

 斬れるというのか、幾つもの闘いの果て生き残ったこの己を!! 

 カバネの王を───闘い続け剣の極致に至ったこの己を!!!!』

 

()()()()()使()()

 

 剣気(ぼうふう)が、宗吾から放たれる剣気(しじま)によって打ち消された。

 彼の周囲だけが、まるで台風の目のように静寂へと包まれる。

 

「剣の極致? ふざけんバーカ。

 そんなもん軽々しく口にすんじゃねぇ」

 

 呼吸が戻り、大きく咳き込む美野里に一瞥もくれず言葉を紡ぐ。

 

「確信したぞ、()()()()()()()()()()

 魔丞だかソープ嬢だかよく分からん種族だがよ」

 

 彼は一切動じていない。鞘に納まった刀身の如く静謐を保っている。

 レベル的には大して美野里と変わらないはずなのに、息1つ乱さず相対する。

 

「これが単なる大悪魔だったら、百に一つも勝ち目はねぇわな。

 だけど──―」

 

 そしてただ淡々と、自分が感じた事実を告げるのみ。

 

「剣の理合(コトワリ)を、剣術(ブレイドアーツ)の何たるかを捨てちまった()()()()なら。

 また話は変わって来る……そう思わねぇか?」

 

『──―吼えたな()()!!』

 

 メキャリ、と鈍い音がする。

 発生源はケートゥが持つ大剣、その柄の部分。

 常軌を逸した握力によって砕けて食い込み、()()()()()()()()()()()()()()

 

『己を擬きと抜かすなら、超えてみせろ我が太刀筋(ブレイドライン)! 

 出来なければ貴様も屍の一つと化すだけだ!!』

 

「上等だよ、まだ龍騎のラスト2話見てねーからな。

 お前ぶっ殺したら最新作まで一気見してやる」

 

 常人には──―少なくとも美野里には──―理解できない概念で話をする剣鬼(にんげん)剣使い(あくま)

 レベル差や種族の差も無視して、殺し合いが成立すると当たり前のように納得している。

 ここは実は違う世界で、自分は異世界転移してしまったのではないかと錯覚しそうになる。

 

(分かんない……全っ然分かんない。()()()()()()()()()!)

 

 この数時間で過去最高の混乱を更新し続けながら。

 それでも美野里の超能力者としての勘が囁くのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()! 

 いやそれが当たり前なんだけど……っ!)

 

 8:2、いや9:1で宗吾の不利。

 理屈をすっ飛ばしてそんな答えが脳裏に閃く。

 むしろ1割も勝率がある事自体出鱈目ではあるのだが。

 

 ならどうするか? 

 

 自分も戦うのは論外だ。

 この体では足手纏いにしかならないし、万全だとしても勝率が下がる気がする。

 であればこのまま後ろで自身の運命を委ねる他ないか──―。

 

「──―冗談じゃない、守られるだけなんてクソ食らえよ……っ!」

 

 そんな惰弱な思考は即座に蹴り飛ばした。

 そもそもの話、出会って数分も経たない男に頼り切りなど癪に障るのだ。

 現実を弁えた上で、敵に舐められっぱなしなのは性に合わないのもある。

 ──―だから。

 

「あたしの力、全部持って行け……っ!!」

 

昂ぶりの歌*17補助魔法味方全体の攻撃力・魔法威力アップ
 

 

 ボロボロの体に鞭打って支援(バフ)スキルを発動する。

 自分単体であれば一手無駄にする自殺行為な選択肢。

 しかしこの状況であれば勝機を引き寄せる妙手に他ならない。

 

「ぜったい……勝ち、なさいよ……」

 

 息も絶え絶えになって、しかし宗吾の背中に視線を向けたまま。

 ばたりと、美野里はその場力尽きて倒れる。*18

 限界寸前の状態でさらに力を振り絞ったのだ。当然の結果と言えるだろう。

 

「──―タイプだぜ、お前みたいな奴」

 

 そんな彼女の最後の足掻きを。

 見方によっては水を差す行為を、宗吾は苦笑と共に受け入れる。

 元より正々堂々や尋常なんて言葉をそこまで気にする性質ではない。

 むしろ、己に出来る事をやり切った彼女に敬意さえ覚える。

 

 ケートゥもそこは同じであるのか、特に気にしたそぶりも見せない。

 あるいは、どのような小細工を弄そうとも叩き潰すつもりなのか。

 

 そして、機が熟したと言わんばかりに。

 

「では、いざ……」

 

『────―勝負!!』

 

 再びの、最後となる激突が始まった。

 

『受けよ我が雲耀、屍を晒すがいい!!』

 

 先手は当然ながら魔丞ケートゥ、首の無い闘争王。

 音の壁を超え、衝撃を撒き散らしながら相対者へと迫る。

 単純なステータスでは宗吾を遥かに上回る故、行動速度(イニシアティブ)を覆す事は出来ない。

 

 

 ──― 《万能プロレマ》*19──―

 ──― 《万能ギガプロレマ》*20 ──―

 ──― 《煌天の会心》 *21──―

 ──― 《切り落とし》 *22──―

 

 

 受胎の勝者が持つ特権、箱庭の王たる権能(マガツヒスキル)による強化。

 血を浴び続ける闘争によって獲得した(スキル)

 この2つが合わさり、あらゆる剣士が目指す奥義は防御回避反撃不可能の魔剣へと昇華する。

 

雲耀の剣*23万能格闘敵前列に万能相性ダメージ。確定クリティカル、防御・回避・反撃不可

 

 名前は同じなれど、中身は最早別次元。

 受胎の中で編み出し、全ての敵を屠った剣戟の極致と信じるもの。

 先程のような術による防御は不可能で、万能無効・反射などという理不尽(ありえないもの)があるはずもない。

 食いしばる余地も無く、一瞬後に八瀬宗吾は命を散らすだろう。

 

「──────―」

 

 ならばどうするか? 

 

 ──― 《構え》*24 ──―

 ──― 《急所》*25 ──―

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 刃圏に入るや否や、音よりも早く動いていたはずのケートゥは後手に回っていた。

 あるはずの無い視線が、驚愕の色で宗吾を射抜く。

 

 最初の交差で呼吸は覚えた。

 肉体の硬さも確かめた。

 弱い部分も暴き出した。

 渾身の一撃も誘い込んだ。

 懸念だった火力不足*26は美野里が補った。

 

 よって今ここに、魔剣を超える秘剣が解き放たれる。

 

「────―“雲耀”」

 

 

雲耀の剣*27剣・風相性剣と剣風による攻撃。回避・防御に-80%のペナルティを受ける。剣そのものか、剣風を問わず、()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『…………見事なり』

 

 紫電一閃。

 幾つもの屍を積み重ねたカバネの(カミ)は、人の剣士によって斃された。

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

「おーい、起きて、起きなさいって」

 

 ユサユサと体を優しく揺さぶられるのを感じる。

 同時に耳を打つのは透き通るようなソプラノ声。

 なんだかものすごく美味しいシチュエーションのような気がしてならない。

 

「う~~ん、つかれれるんだよ~あと5分(棒)」

 

 なので狸寝入りを決め込む事にした。

 当然、寝ている事をアピールするのも忘れない。

 小学校の学芸会で完璧に木の役をやり切った演技力には自信がある。

 

「──―オラァッ!!」

 

「ぶべらっ!!」

 

 顔を殴り飛ばされて跳ね起きた、超痛い。

 無理矢理開かされた視界に広がるのは空中に漂う幾つもの赤い光と崩壊していく異界。

 そして満面の笑顔を浮かべながら額に青筋を立てる銀髪の美少女。

 

「気付け代わりにもう一発いっとく? 

 なんなら鉛玉でもOKだけど」

 

「……かわいい子に殴られるのならってステイステイ。

 本気で腕を大きく振りかぶるのは止めようか」

 

 慌てて止める。

 体が冗談抜きに重い、全身に重りをつけているような感覚だ。*28

 こんな状態で良いパンチを受けようものなら永眠する。

 

「目が覚めたらあんた倒れてるし、相打ちにでもなったのかって心配したのに……。

 ふざけた返事来たらそりゃ怒るでしょ」

 

 正論が飛んできて軽口も叩けなくなる。

 感覚からして10分ほど気絶していただけなのだが、随分な心配をかけさせてしまったらしい。

 

「あー……ゴメン、悪かった。

 でも洒落にならないくらい消耗してるのは本当だから許してくれ

 今ならその辺のスライムにも負ける自信がある」

 

 だから素直に謝る。

 年齢問わず、女を本気で怒らせると洒落にならないのは学生時代に学んでいるのだ。

 

「はぁ? あんたずっと余裕そうに見えてたんだけど。

 レベル70超えた化け物に平然と話して、怪我だって一つも無いじゃない」

 

「んなもん取り繕ってただけだって。

 余裕とか欠片も無かったぞ」

 

 この疲労感は雲耀なんて大技を使った事もそうだが、

 何よりも遥か格上の相手に一切の集中を切らさず、綱渡りを続けたのが大きい。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あんな真似は出来れば二度と御免被りたい。

 ぶっちゃけあと数秒遅かったら集中が切れて死んでいた。*29

 

「倍以上のレベル差の相手を殺しておいて、その台詞は信じらんないんだけど。

 一応聞くけどあんた人間よね? 実は悪魔が化けてるとか?」

 

「先祖に悪魔はいるが分類上は人間だぞー。あとさっきも言ったけどさ。

 あいつが剣士じゃなくて、剣士擬きに成り下がってたからどうにかなったんだ

 斬れたのは、お前さんの協力含めて噛み合わせが良かった結果な」

 

 重い頭を動かして視線を横に向ける。

 そこには大きく抉れたアスファルトと、墓標のように佇む1本の大剣があった。

 それ以外には何も残っていない。

 

 「―――ほんと、綱渡りだったよ」

 

 最初に一太刀浴びせた時点で、普通に雲耀を放っただけでは通らない事を確信した。

 物理反射と純粋な強度*30のせいで掠り傷さえ与えられなかったからだ。

 防御されてしまえば死に体となった所へ反撃でゲームオーバー。

 だから、渾身の一撃を誘ってカウンターをする必要があった。

 それでも無防備な急所を狙って通るのは1~2割。

 正面に居る美少女の助けが無ければ勝率はそんな物だっただろう。

 

「真っ当な()が残ってりゃ、挑発されてた事にも気づいてた筈。

 そもそも構えた剣士に突っ込む愚行もありえない。

 こっちが崩れるまで待つか、遠距離技を使えばそれで終わってた」

 

 闘い続けたとか言っていたが、駆け引きという概念はそこに無かったに違いない。

 威力を底上げした回避防御反撃不可能の万能攻撃など、()()()()()()()()()()()()

 もちろんある種の到達点であり凄まじい技ではあるのだが。

 

「駆け引きとか諸々含めて武術な訳で。

 技だけ上手くなったって脆いだけだ

 ―――そうでなくても、無敵なんてあり得ない」

 

 そんな風に締めくくったら変な生き物を見る目をされた、解せぬ。

 普通の事しか言ってない気がするのだが。

 

「……だからって限度はあるでしょ……本っ当に今日は何なのよもう!?

 世界が滅びそうになって逃げた先で化け物に出くわして、

 その化け物をよく分かんない馬鹿野郎が格上殺し(ジャイアントキリング)とかさぁっ!!」

 

「いい加減に馬鹿呼ばわりは卒業しても良いと思うんだ……って待った。

 世界が滅びそうって何? 俺が異界に籠ってタイムスリップしてる間に何が起きたの???」

 

「そっちこそ何おかしな事言ってんの!?

 須摩留のシュバルツバースが広がって――――」

 

 

 そんなこんなで。

 異界が完全に崩壊するまで、自分たちは噛み合わない話を続ける事となる。

 その後すぐにやってきた『キリギリス』なる組織のメンバーに保護され。

 更になんやかんやで自分たちの身に何があったのか、ここが何処なのかを知る事になるのだが。

 

 

 「あ、そういやお前さんの名前聞いてなかった」

 

 「いきなり話変えるんじゃないわよ―――!!」

 

 

 それはまた、別の話であった。

 

 

*1
《正呼吸》TRPG基本システム。術者本人の精神治癒魔法。事前にかけておいても、次の自分のアクションまで精神的バッドコンディションを防げる。

*2
真・女神転生 デビルハンターZEROより

*3
『アミーゴポンチョ』※真・女神転生if

*4
『G―ラダーズ』※ソウルハッカーズ。本来は女性装備

*5
TRPG200X異形科学。COMPアプリの一つ。倒した敵からスキルを奪取するアプリケーション。

*6
TRPG200X

*7
TRPG誕生篇。集団スポーツで他者のカバーに入る臨機応変の能力を示す。他人が失敗したときに、何らかのカバーとなる能力。チェックに成功すれば他のPCの行動に割り込んで、自分の行動を行える。代わりにダメージを受けるのも可能。この場合、回避は出来ないが防御は可能。

*8
TRPG誕生篇。防御的に使う特技。剣で受けて格闘攻撃のダメージを減少する。素手の格闘技での攻撃を受けた場合、減少した格闘ダメージと同じだけのダメージが相手に入る。威力には剣の威力も含む。

*9
TRPG誕生篇。この符を貼った人物は、金属武器による攻撃によって傷つけられることが無い。符が有効なのは[威力]の分の回数だけ金属武器による攻撃を受けるまでである。

*10
TRPG誕生篇。相手が防御した時、あるいは自分が相手の攻撃を防御した時に、後方に飛び下がって間合いを取り攻撃に繋げる技。チェックに成功すればペナルティ無しで一回、攻撃出来る。相手の回避/防御に威力分のペナルティが入る。

*11
TRPG誕生篇。武器、または所持者に貼り、その武器や拳を霊的な武器に変え威力を上昇させる。さらに、相性特性により物理的な攻撃を半減、無効、反射する悪魔であっても傷つけることが出来る(本家では準貫通扱い)

*12
TRPG誕生篇

*13
《軽巧》TRPG基本システム。身体がツバメのように軽くなり、より高く長く跳躍可能。また、格闘の回避にプラス補正される。1戦闘中(10分)有効。他者にも施すことが出来る。

*14
トラエストストーンなど

*15
どちらも戦闘から離脱するアイテム

*16
《見鬼》TRPG基本システム。人間に化けている悪魔の正体を見破り、悪魔の姿を現させる。さらに悪魔の名前、種族、能力が分かる。

*17
デビルサマナー

*18
状態異常:昏倒(COMA)。MPが0になった場合、一切行動不能になる。

*19
真・女神転生Ⅴ。万能属性で与えるダメージを20%増幅させる。

*20
真・女神転生Ⅴ。万能属性で与えるダメージを35%増幅させる。

*21
TRPG200X。格闘攻撃の成功をクリティカルに変更する。

*22
TRPG200X。武器を使用した格闘攻撃の威力上昇。この格闘攻撃に対して回避・防御・反撃を行えない。

*23
TRPG200X。補助スキル、即時効果スキルとのコンボ

*24
TRPG誕生篇。剛剣の特技。剛剣の使い手は《構え》に入った場合、相手が間合いに入ってきた瞬間に攻撃できる。つまり、相手が自分の攻撃で接近してきたり、何らかの理由で移動してきたりしたら、その瞬間に割り込んで行動可能。

*25
TRPG誕生篇。上級鍛錬の特技。割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。

*26
準物理貫通は「無効」「反射」「吸収」の場合、与えるダメージが70%減少する。

*27
TRPG誕生篇

*28
疲労状態 ※P3

*29
《構え》は次のターンに持ち越せるがMPを消費する

*30
物理・魔法防御点





◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 <剣士> <仙術使い> LV33
シリーズポジション:八瀬三郎(200Xリプレイ・退魔生徒会シリーズ)
          千葉宗吾(200Xリプレイ・退魔生徒会シリーズ)

八瀬童子の1人、すわなち酒呑童子の末裔。
その中でも京都の霊的守護を担う家の出身。
とはいえ、本人曰くそこまでガチガチな所ではなかったとのこと。

学生時代は京都の名門校『加茂玉帝学院』の退魔生徒会の一員として活動していた。
卒業後はフリーのデビルバスターとしてあちこちフラフラしながら剣の修業を積む。

時々奇行に走るのでしょっちゅう馬鹿扱いされるが、戦闘での頭は回る方。
善性の人間である事は間違いないのだが、剣に生きる鬼である事もまた事実。

戦闘スタイルは実家と各地で学んだ剣術メインの前衛タイプ。
気功・タオ・符術を含めた仙術も補助に使うがそれほど高度な術は修めていない。
“現時点では”TRPG基本システム、TRPG誕生篇の技能を使用。
ちなみに一番得意な流派は薩摩示現流屋久島派、またの名を日高示現流。

主要ジャンル:仮面ライダーシリーズ。派生作品含めて履修中。





・若槻美野里 <サイコメトラー><超能力者> <ガンスリンガー> LV28(デモニカ装着時Lv39)
シリーズポジション:若槻美野里(TRPG200X 異形科学)
          エレン宇津井(TRPG200X 異形科学)

北陸日本海沿岸部に存在した“学園都市・須摩留”出身。
好待遇に惹かれて自警団である“特別課外活動部”に所属した結果、色々と大変な目に遭う。

外見は銀髪ショートヘアにモデル並みのプロポーションをした美少女。
人気はかなりあったが、気の強い性格でもあるため彼氏は居た事が無い。

戦闘スタイルは愛銃であるベレッタを使う後衛タイプ。
超能力者由来の能力で情報収集にも長ける。
どさくさに紛れて研究所からパクったデモニカは現在全損中。
“現時点では”TRPG200Xの技能を使用。
ちなみに、本人に自覚は無いがウカノミタマの転生である。

主要ジャンル:ゴシップ



・魔丞ケートゥ Lv73

とある場所で起きた受胎に巻き込まれ、友人も仲間も師も弟子も全てを斬り殺した男。
その事実に耐えられず“自ら首を切り落とした”結果、首無き闘争王へと変貌してしまった。

受胎終了後、覚醒者を狙い打って各地を放浪。
その果てに宗吾に敗れた。





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Colosseum

《レルム》という街がある。

 全国で止まらないGPの上昇、それに伴う悪魔の維持コスト軽減。

 激動たる時代のうねりに呼応し覚醒へと至る者の増加。

 そして魔境と化しつつある地方よりも安全な、GPの低い都心部という需要。

 

 それらの要素を下地に様々な利権、思惑、利益が重なり生まれた覚醒者向けの経済特区。

 武装した者たちが談笑しながら食事し、その横を堂々と悪魔が歩く。

 そんな数年前なら冗談としか考えられない、まるで世紀末のような光景が広がる街である。

 

 よって───当然とも言える話だが───後ろ暗い部分は山のようにある。

 代表されるのは人身売買、および闘技場。

 

 前者はセプテントリオンの騒動における火事場泥棒、いまだに活動を続けるマンハント。

 京都などの関連組織が売り出した凡人(ロバ)たちが中心だ。

 各地の自警組織に対悪が対処しているものの、根絶するには手が届かないのが現状である。

 

 後者は読んで字のごとく、そのままの意味だ。

《王雅》に《拳願会》などの格闘団体が出資して開催される闘技場(デビルコロシアム)

 己の名を売り込むため、鍛え上げた悪魔・造魔の力を試すため。

 あらゆる環境設定(シチェーション)を準備し興行を行っている。

 

 ───これはそんな“表”の闘技場での一幕。

 現環境では力不足としか言えない戦士たちの戦いだ。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

『レディイイイスアンド野郎共!!

 今宵のG30クラス、エキシビジョンマッチを開始するぜえええええ!!』

 

 

 マイクに向かって叫ぶのは白と赤のスーツを着た男。

 この表の闘技場における全試合の解説を行う司会(MC)であった。

 天井や壁面に設置されたスピーカーにより増幅された“熱”の籠った開幕の合図。

 それに反応するように広がる歓声、絶叫、熱狂。

 

 会場に居る人間──―観客たち(オーディエンス)のボルテージも天井知らずに跳ね上がっていく。

 

 これは本来ならそう考えられない事だ。

 G30──―即ちレベル30代クラス。

 数年前ならいざ知らず、今では足切りラインにさえ大きく届かない者たちの試合である。

 身も蓋も無く言えばG50、G40クラス以上の闘技者たちの前座でしかない。

 それが何故ここまでの歓声を受けるのかと言えば。

 

『赤コーナー! 唸る鉄拳は全てを砕くぅっ!! 

 あれは人じゃない、人を殴るだけのマシン!! 

 全自動人間粉砕機ぃいいいいいっ!!!!』

 

 会場東側のゲート、赤色で彩られた登場口から白いスモークがたちこめる。

 やがて、煙をかき分けるようにして中から現れたのは

 全身を分厚い筋肉と防具で覆った堀の深い顔立ちの偉丈夫。

 

 

格闘家ボン・クーラLv44破魔無効、剣・衝撃に強い

 

G()4()0()()3()()、ボン・クーラァアアアアッ!!』

 

 オオオオオ、と一際大きな声が観客席から上がる。

 レベル40代(G40 )クラス3位、“ボン・クーラ”。

 表の闘技場における有望株、レベル50代(G50)への昇格も違いなしとされている剛腕の拳士。

 寡黙かつストイックなそのスタイルが逆に人気の闘技者である。

 

「ボンー! 今日も派手にぶん殴ってくれぇっ!」

「生意気な野郎に現実見せてやってくれよ!!」

「いつも通り有り金全部お前にかけたんだから勝てよ絶対!!!!!!」

 

 そう、これは特別試合(エキシビジョン)

 下の階級の()()()が上の階級の闘士に挑むという、

 本当の意味で見世物的な興業として行われる催しであった。

 

 そのような浮ついた試合(もの)、いつものボンであれば辞退するのが常だ。

 だが、今回に限って彼は何故かオファーを受けた。

 理由は不明───しかしそれが話題を呼ぶ。

 人気がそこそこであるこの手の試合で観客席が埋まっているのはその為だ。

 

『対するは青コーナー! 

 最近話題のニューカマー!! 

 我が一刀に斬れぬもの無ぁあああしっ!!!!』

 

 やがて反対側、西側のゲートからも人影が現れる。

 背面から照らされるライトをバックに、ゆっくりと歩んでくる人影。

 やがて観客たちが目にするのは光沢のある黒と銀のコスチューム。

 黒染めのマントに騎士のような全頭兜(フルヘルム)

 そう、その姿は───。

 

『G30第1位、ザ・ナイトォオオオオオ!!!!』

 

剣士ザ・ナイトLv39破魔・呪殺無効、全体的にやや強い

 

 20年ほど前の特撮、仮面ライダー龍騎に登場するライダーの1人にそっくりだった。

 というよりも───パクリであった。

 

「待ってましたライダー!」

「出たなパチモンヤロー!!」

「子供のヒーローがこんなとこ出ていいんですかぁー!?」

「何で武器は刀なんだよちゃんとダークバイザー持って来い半端野郎が……っ!!」

 

 こちらに上がるのは純粋な応援だけではなくヤジも含まれたもの。

 どちらに人気が───オッズが高いのかも─── 一目で分かるほどの差。

 自称玄人たちからすれば、ヒーローのコスプレをした闘技者などいわゆるガチではないとの判断なのだろう。

 

 だが周囲から浴びせられる罵詈雑言を気にした様子も無く。

 ザ・ナイトは颯爽と会場中央のリングへ駆けあがり、観客席を見渡しながら大声で叫ぶ。

 

「───ここかァ、祭りの場所は……っ!」

 

 思い切り悪役ライダーの台詞だった。

 

『王蛇じゃねぇかキャラがちがぁあああう!!?』

 

 思わずツッコミを入れる司会。彼は龍騎の世代である。

 

 斯くして、リングに相対するのは2人の武人。

 挑まれる側───ボン・クーラは相手を見据える。

 

 こちらに向けてヒラヒラと手を振るザ・ナイト。

 そのふざけた格好に言動が特徴である剣士。

 顔を売る事も目的の一つとされる闘技場において、本名含めた全てのプロフィールを隠している変わり者の闘技者。

 登録直後のレベルと知識不足が目立つ白黒入り混じった戦績から、おそらく地方出身の覚醒者と推測されているがそれだけ。

 分かっているのはここ最近勝率を上げ続け、今ではG30のトップまで上り詰めたという事だ。

 

(……なるほど)

 

 リング周囲の装置(ギミック)が起動し、四方が電流の流れる鉄網で覆われる。

 単なる玩具ではなく、触れれば覚醒者であろうとダメージを負うほどの出力だろう。

 実際、場外で司会が派手なマイクパフォーマンス交えた解説を行っている。

 会場を盛り上げる仕込みの一環であろうが、しかしボンの意識はそこにはない。

 

 試合開始のゴングが鳴るまであと僅か。

 脳裏を過るのは事前に確認したこれまでの試合記録、使うスキルの傾向。

 そして映像の中で閃く白刃の軌跡──―自分が彼と戦う事を決めた理由。

 

(舐めたら喰われる───否、斬られる)

 

 ───これは刃だ。

 触れれば全てを断ち切る妖刀、そういった類のものだ。

 映像越しに感じた印象を、直接相見えて確信する。

 表面だけを見ていては絶対に気付かない、衣装の下に隠されたレベルとは異なる在り方(つよさ)

 

 所詮格下でしかない、などといった感覚は既に捨てて久しいが。

 想定していた脅威度を大幅に上昇させる。

 余裕など欠片もない、持てる全てを使わねばならぬ己が“挑むべき”相手。

 

(……あの“赤目のクイッカ使い”に負けて良かったな)

 

 数年前。こことは違う場所、違う舞台。

 そこで力に驕っていた己を打ち負かした男を一瞬思い出して。

 だからこそ負けてなるものかと、闘志という炎に薪をくべる。

 敵が万物を断ち切ると言うのなら、この拳はそれ事打ち砕くのみ。

 

 

 ゴングはまだ鳴らない───視界から色が消える。

 ゴングはまだ鳴らない───味覚・嗅覚はこの場に不要。

 ゴングはまだ鳴らない───戦いに不要な内蔵機能を停止。

 

攻撃の心得*1自動効果戦闘開始時にタルカジャが発動する

 

 極限の集中力により肉体を戦闘へと適した状態に()()()()()

 長時間は持たないが、元より長引かせる気など欠片もありはしない。

 

 

『それでは────試合開始ぃいいいいいっ!!』

 

 

 ゴングは鳴った────駆け出した。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 マットを陥没させる勢いで踏み出す。

 たわめられた足の筋力が爆発し前方への推進力に変換される。

 彼我の距離は10メートルにも満たない。

 覚醒者であれば半秒も掛からず詰められる距離。

 様子見などしない、観客の事など端からどうでもいい。

 先手必殺で終わらせるべし。

 

 ───その刹那。

 

 

 ─── 《敏速》*2 ───

 ─── 《先手》*3 ───

 

 既に、ザ・ナイトは刀を上段に構え攻撃態勢に入っていた。

 純粋な速力によるものではない。

 反応の良さから来る素早さと、脱力と重心移動を用いた身体操作による初動の違い。

 この男はスペックの差を、達人の技術で埋めてみせたのだ。

 

「ッ───!」

 

 加速する意識の中、ボンは己が遅れを取った事に気付く。

 先手を取った敵は何をしてくるか? 

 決まっている、これまでの試合で多くの闘技者を屠ったあの“魔剣”だ。

 

 攻撃から守りへと意識を切り替える。

 全身の筋肉を固め、続けて腕を交差させ防御態勢に。

 回避は不可能、勢いの乗った体を止められるはずも無い

 無理にしたとしても死に体。致命的な隙を晒すだけである。

 

 砕けんばかりに歯を食いしばり、目を見開く。

 これより来るのはまともに受ければ敗北必死の一刀。

 耐えられるか否かで勝負の行方は変わる

 

 そして、全てがスローモーションに映る視界の中で。

 ボンの瞳に映るザ・ナイトから“それ”は放たれた。

 

「───“雲耀”」

 

 

 

─────斬!! 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「ぁ────」

 

 その軌跡を捉える事さえ不可能な神速の一刀。

 防御する事さえもまるでかなわない。

 灼けるような熱さだけが、自分が斬られたことを伝える証だった。

 

 一歩遅れて、斬撃で肉ごと断たれた大気が破壊の衝撃となって全身を蹂躙する。

 ボンを伝わってリングを粉砕し、鉄網を砕き、観客席にまでうねる大気が届く。

 剣と風による二重奏、人の身に耐えられるはずも無い必殺。

 やがて血まみれの巨体がゆっくりと傾いていき、

 

 

 

「ォ……雄雄雄ォオオオオッ!!!!」

 

 

 

防御Ⅲ*4防御判定に失敗した場合でも物理防御点に12点加えることが出来る

物理耐性*5自動効果物理防御点にさらに体の能力値を加える

「メタルターバン」*6頭部防具物理に強い*7

「テトラジャマー」*8胴体防具装備している間、即死にならない

「力王の篭手」*9腕部防具衝撃(風)に強い。*10

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、事前の情報から相手が何をしてくるのかは予想出来ていた。

 だから防具を始めとした対策は取っている。

 一番怖い即死はテトラジャマーで防ぎ、物理と風はそれぞれの耐性防具を用意。

 こうして先手を取られた場合も当然シミュレーション済みだ。

 

 ボンが再び踏み込む、距離を詰める。

 大技を使った後のザ・ナイトでは咄嗟に反応は出来ない。

 よって、彼我の距離は零へと───超接近戦へと持ち込まれた。

 

(この間合いでは刀は振れないだろう!*11

 

震脚Ⅱ*12補助素手による格闘攻撃の威力に【力×2】

正拳Ⅲ*13格闘攻撃敵1体に剣相性ダメージ。クリティカル時威力3倍。

 クリティカル率・威力上昇。3分割攻撃

 

 距離を潰し、反撃を封じた上で必殺の鉄拳が3連続で撃ち込まれる。

 

 1発目───驚異的な反応速度で回避。*14

 2発目───刀で受けて防御、しかし姿勢が大きく崩れる。

 3発目───。

 

「破ァアアアアッ!!」

 

 掛け声とともにがら空きとなった胸部へと命中。

 肉がひしゃげ、骨が砕ける感触が鎧越しに伝わってくる。

 ───会心の一撃(クリティカル)

 

「がっ……!」

 

 そのまま、ザ・ナイトは破壊された鉄網と勢いよく叩き付けられた。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 一連の流れを追えていた観客はごく僅か。

 殆どの者は何が起きたのかさえ理解していないだろう。 

 覚醒者同士の試合に慣れているはずの司会ですら、何も言葉を発することが出来ない。

 

 リング上で起きた交錯を理解している者───腕の立つDBや闘技者───は思う。

 

 ───終わったな、と。

 

 彼らはボン・クーラという闘技者の強さをよく知っている。

 最新式戦車の正面装甲でさえ容易く貫き粉砕しうる、魔剣ならぬ“魔拳”使い。

 かつて行われた特別試合(エキシビジョン)において、G50の闘技者に土を付けた事もある。

 その正拳は下手に直撃すれば、それだけで終わりかねない威力を秘めているのだ。

 

 そういった点では雲耀の使い手であるザ・ナイトも同じだが、

 しかし今回軍配が上がるのはボンの方だろう。

 

 必殺を凌がれ、距離を潰された上で会心の一撃を受けた。

 自身の攻撃の影響で鉄網に電流が流れなくなっていたのは幸運と言えるがそれだけ。

 例えまだ動けたとしても逆転の可能性はほぼ無い。

 

 多少の距離は空いたとはいえ、まだ十分に剣を振れる距離ではないのだ。

 更に距離を取ろうとした所で、そのような足掻きをする前にボンが動く。

 おそらく数秒後には追撃の一撃が叩き込まれ、この試合は彼の勝利で終わる。

 

 反応は様々だった。

 

 ある者は最後まで見届けようと視線を逸らさない。

 ある者はすでに決着はついたと手元のスマートフォンを弄る。

 ある者は壊れたリングの修繕費が幾らかと頭を悩ませる。

 ある者はザ・ナイトの衣装が何処で売っているのか気になった。

 

 ────だが、それでも。

 

「うわ、マジであいつの言う通りになった」

 

 1人だけ、人目を避けるように会場の端で観戦する銀髪の少女だけは違った。

 呆れの納得の混じった様な口調で、誰にも聞こえないほど小さく呟く。

 

「ってことは───()()()()()()()()

 

 その視線の先、少女の言葉に反応するかのように。

 ───ザ・ナイトが詰みに入った。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 ボン・クーラは見た。

 己の正拳を受け、しかし両の足で立ち続ける目前の剣士を。

 手応えは十分、いなされた感触は無い。

 例え全対応*15の防具を装備していようとそれごと打ち抜けるはずだった。

 しかし現実として相手は倒れていない。

 であるならば───。

 

(アクセサリー、おそらくは活泉系!)

 

 

「生気のリング」*16アクセサリー三分の活泉(最大HP30%増加)

 

 

 経験と知識からザ・ナイトの装備と効果を見抜く。

 コスプレ衣装の下に装着していた為、見た目からでは分からなかった。

 あの格好は正体を隠すだけでなくそういった目的もあったらしい。

 

 だがそれでも1発耐えられただけだ、次はもう無い。

 この距離と鉄網を背後にした地形では攻撃も移動もままならず、

 そもそも消耗した状態では《雲耀の剣》含めた大技を放つ力は残っていないだろう。

 

 詰み────まさしくその通りで……だというのに。

 

(なんだこの……胸騒ぎは!?)

 

 理性ではなく本能が叫んでいる。

 闘技者としての勘が警報を鳴らしているのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ッ!」

 

 一切の逡巡なく肉体は本能の奴隷と化す。

 この場において最も信頼できるのは頭ではなく体の感覚だ。

 促されるままに拳を固く握りしめトドメを刺そうとして、

 

「───()()()()()()()()()()()()

 

 それよりも早く───ザ・ナイトの手が霞む様な速さで閃く。

 

小太刀*17格闘攻撃割込み行動。相手の剣を受けたり、相手が剣で攻撃を受けたり、

あるいは()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()使()()

防御不能、回避-20%の必殺技。

 

 逆腕で引き抜かれた小太刀がボンの腹部、防具と生身の隙間に潜り込み()()()()()

 

「~~~~~~!」

 

 想定外の反撃―――否、奇襲。

 喉から込み上げる血反吐と再びの灼熱。

 しかし耐える、耐えきった、耐えてみせた。

 物理攻撃である以上今の自分には効きが悪い。

 加えて精々内臓が零れる程度、そのくらいで動きが鈍るほどヤワな鍛え方はしていない。

 

「おまけでもう一発な」

 

「切れた電線」*18このアイテムによる攻撃は電撃相性となる。SHOCK率100%

 

 だが残念な事に―――電撃への対策は皆無であった。

 気付けば最初の攻撃で破壊された電気鉄網、そこに繋がっていた電線ケーブルが体に押し付けられていた。*19

 全身に走る電流が肉体を蹂躙し、主の意思を無視して行動不能(SHOCK)となる。

 

(───まさか、最初から……っ!!)

 

 ここに来てボンを最大の戦慄と驚愕が襲う。

 何処まで想定していたのか分からないが、これまでの流れは相手の計算の内だったのだ。

 

 最初に《雲耀の剣》を放ったのは自分ではなくリングを、電気鉄網を破壊する為。

 続いて超接近戦を挑んだ時点で攻撃しなかったのは、自分を誘い出しこの位置まで誘導する為。

 そして自分を感電させた理由は何か───確実に敵を仕留める為だ。

 

「お前さん本気で強かったぜ……搦手無しじゃ無理だったよ」

 

 動けない己への賛辞を聞きながらボンは静かに()()を見据える。

 ゆらりと再び上段に構えられた刀。

 そこに集束する身の毛もよだつ剣気。

 

《雲耀の剣》とはまた異なる“魔剣”の気配を前にして。

 ボンは仮面の向こう側へと視線を合わせ薄く微笑む。

 

「……貴様もな。またいつか戦ろう」

 

 返答の直後、“それ”は解き放たれた。

 

 

根性*20即時使用者のHPとMPをレベル分回復する。

兜割り*21格闘攻撃神速の剣気を命中の瞬間に集束し、固い防具も両断してしまう必殺剣。

防御不能、防具は一切無効となる(防具による耐性も無効と裁定)。

 

 ()()()()()()()()()。《雲耀の剣》に並ぶもう一つの絶技。

 

 食いしばりごと両断されたボンは宙を舞い、グチャリと咲く紅い花と化すのだった。

 

 

 

 

*1
※P5R

*2
TRPG誕生篇。割込行動。判定に成功すればイニシアティブのダイスが1つ、大成功なら2つ増える。

*3
TRPG誕生篇。補助行動。反射神経を鍛え上げ反応する。イニシアティブで振れるダイスを1ターンだけ2個増やす。

*4
※200X 《特定スキルの強化Ⅲ》適用済み

*5
※200X

*6
※真if

*7
対物理。剣相性に対して62.5%

*8
※200X

*9
※真if

*10
対衝撃。衝撃相性に対して50%

*11
誕生篇において、剣術は0距離に持ち込まれると攻撃系の特技は基本的に使用不能

*12
※200X

*13
※200X《特定スキルの強化Ⅲ》適用済み

*14
《追加回避》TRPG誕生篇。一般鍛錬の技能。格闘回避チェックに失敗した場合、再度このチェックを行うことが出来る

*15
万能以外75%

*16
※P5R

*17
※TRPG誕生篇

*18
※200X シネマティック・アイテム

*19
《小太刀》は割込み行動であり連続行動には数えない。シネマティック・アイテムの保持は補助行動として扱われる。

*20
※200X

*21
※TRPG誕生篇




◎登場人物紹介

・ザ・ナイト LV39
『レルム』にある闘技場で話題になって来た謎の剣士。
 仮面ライダーナイトのコスプレをした色物である事もそうなのだが、即死効果のある《雲耀の剣》を始めとした珍しい仕様のスキルを持つ。
 とは言え、次の対戦からはメタを張られるなどして初期は負ける事も多かった。
 最近では知識不足が解消されたのか勝率が上がり、G30の1位になる。
 試合前の賭博において有り金の殆どを自分に賭けていた。

・ボン・クーラ Lv44
 G50昇格間違いなしとされる剛腕の拳士。
 数年前までは己の才能に胡坐をかいていたが、とある“赤目のクイッカ使い”に敗れて以降、己を見つめ直し一から修業をし始めた。
 ボン・クーラという名は戒めの為に自分で付けたものである。
 今回の敗北を受け、自身の視野の狭さを痛感し更なる成長を誓う。
 最近、自分を変える切っ掛けとなった男の業を真似したモノを体得しつつある。

・銀髪の少女
 ザ・ナイトと繋がりのある美少女。
 しょっちゅうナンパされるし、マンハントにも襲われた事がある。
 悪党と外道に鉛玉をぶち込む事に躊躇いは無いらしい。
 試合前の賭博において有り金の半分をザ・ナイトに賭けていた。




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Front Line

 

 室内に響く軽快な音楽―――ジャズが耳に入る。

 他にも武装したDB同士の戦略や装備に関する会話、サマナーとその仲魔のスキル構成や合体先についての雑談が情報として流れ込む。

 しかし、それらが()()()()()()()()()()()()()()ひたすら己の世界へと没入する。

 

「こいつはこうして……いや、こうするべきか」

 

 細心の注意を払いながら、手に持った小刀を動かす。

 生理的な手の震えすら大きなブレとなって邪魔になる、ミリ単位の超精密作業。 

 さほど大きくない木製テーブルの上は、今やある種の戦場と化していた。

 

 何せ毛ほどの失敗も許されないのだ。

 もし手元が少しでも狂えばこれまでの努力の成果は水の泡。

 全てが一からやり直しとなる。

 

 刀を振るのとはまた別の技術、思想、気概が求められる“これ”に対し、今の自分に出来るのは意識を研ぎ澄ませこの瞬間瞬間に成長する事のみ。

 額から流れ落ちる汗さえ拭わず黙々と。しかし大胆かつ繊細に作業を続ける。

 時間の感覚さえもはや曖昧で、どれほどこうしているのかさえ分からなくなってきた。

 

 途中で傍を通りがかったジャック・オ・フロスト(ヒーホーヅラ)が“何してんだこいつ”って気配を出していたが無視する。

 害意があれば即座に斬り捨てていたが、精々飲みかけのジュースをアイスシャーベットにされたくらいなので問題ない。

 むしろ漂う冷気のおかげで、長時間の集中で湯だった頭が冷えてくれるので助かるくらいだ。

 

 そうやって四苦八苦してる内に、無限に続くかと思えていたこの戦いにも終わりが見えて来た。

 

「いいぞ……最高の仕上がりだ」

 

 始めた時は終わりのまるで見えない作業と難易度で心が折れかけた。

 正直、耐性とか装備、ギミック諸々の勉強よりもしんどかったかもしれない。

 やり直し(リテイク)に次ぐやり直し(リテイク)で何度投げ出しそうになったか分からないくらいだ。

 

 だが継続は力なりという言葉があるように、何事も続けてみなければ分からないと言うやつで。

 

「……出来た、完成―――!」

 

 今ここに、全ての工程が完了する―――! 

 

 

 

 

 

「10分の一スケール“仮面ライダー龍騎”木彫り人形!!!!」

 

「お客様、申し訳ないのですが退店をお願いします―――さっさと出ていけ」

 

 

 

 

 人形の完成と共にずっと作業をしていた喫茶店から叩き出された。

 ついでに出禁も言い渡されてしまった。

 流石にドリンクバーだけで4時間は粘り過ぎだったらしい。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「―――って事があってさ。やっぱもうちょっと食い物頼むべきだったかなーって」

 

「いやそれ以前の問題だから。あんたやっぱ馬鹿オブ馬鹿だわ」

 

 追い出された経緯を説明したら二度も馬鹿呼ばわりされた。

 今いる場所は先程まで居座っていた喫茶店とは別の、屋外にテーブルと椅子が設置されたオープンカフェ。

 そこで向かい側の座席に座る、自分を馬鹿呼ばわりした相手を見る。

 

 暖色のセーターに動きやすさを重視したズボン。

 その上からブルゾンを羽織っただけの、どこにでもありそうなシンプルな服装。

 しかし、着ているのが容姿端麗な美少女だと0が5つはある高級ブランド品に思えて来る。

 

 少女―――若槻美野里はこちらの視線に気づいたのか、怪訝な表情を浮かべて口を開く。

 

「なによ、事実でしょーが。

 受験生だってそこまでやらないわよ。

 それとも何? あんたの世界だとそれが普通だったわけ?」

 

「あのなぁ、常識で考えろよ。

 ―――そんな客、普通なら1時間も経たずに追い出されるって」

 

 むしろあの店主は相当理性的だったのかもしれない。

 こっちの作業が終わるまで声一つ掛けずにまっていてくれたのだから。

 もし自分が向こうの立場なら鞘で一発殴っていたかもだ。

 

「……ふんっ」

 

 テーブルの下から飛んできた鋭い蹴りが脛に突き刺さる。超痛い。

 

「てか、そんな事してるんだったら仮面ライダー見てないの消化しなさいよ。

 せっかくiPadとか動画配信サイトの使い方教えてあげたのに」

 

「もっともな意見だがやる事が多いんだよ……っ!」

 

 ズキズキ痛む脛を摩りながら、ここ最近の1日の流れを振り返る。

 

 まず朝早くから起きて基本の型から応用技までの鍛錬と磨き直し。

 次に()()()()()悪魔が使うスキルや相性、表裏合わせた常識含む知識の勉強。

 そしてコロシアムで殴り殴られ、斬り斬られての戦闘経験蓄積と戦法の修正。 

 終わればファイトマネー(とギャンブル)で得た報酬で装備の調整と更新。

 最後はレルムにある古本屋を見て回り、使えそうな魔導書の類を物色。

 

 その合間合間にライダーシリーズ含めたサブカルを消化している訳で。

 

「精神と時の部屋が欲しい、いやマジでね」

 

 結果、恐ろしいほど時間が無い。全っ然足りていない。

 睡眠時間を短縮する術*1は心得ているがそれでもだ。

 正直、動画配信なんて神みたいなシステムが無ければ危なかったかもしれない。

 巻き戻しにも時間のかかるビデオデッキだとどれほど時間が掛かったことか。

 

『ビデオ? 何それ……あ、待った。DVDの前にあったやつか!』

 

『ビデオデッキ? 荼毘に付したよ』

 

『昭和の遺産では???』

 

『平成の前半くらいまでなら使ってたような気がしないでもない』

 

 同時に世代格差(ジェネレーションギャップ)も凄かったが。

 自分にとって最新機器であったDVDでさえ型落ちになりつつある事や、

 PS2がもはやレトロゲー扱いでPS5まで出ていた時の衝撃は凄かった。 

 あるいは、掲示板で教えられた事が事実であると信じたくなかったのかもしれないけども。

 

 そこまで言うと相手は一瞬俯き、黒縁の眼鏡へと触れる。

 

「……異界籠りからトンデモ経験しておいて欲しがるとか、ほんと図太いわね八瀬さん。

 それでこんな異世界(ところ)に飛ばされた癖に」

 

 やっぱり馬鹿じゃない、という言葉を最後につけ足す。

 流石にそれを言われると馬鹿呼ばわりも否定出来ないのでちょっと困る。

 が、それでも。

 

「んにゃ、逆だよ美野里ちゃん。

 こんな最前線(ところ)だからこそだって。

 どうせ踊るなら――― 一番派手な所が良いだろ?」

 

 

 場所が場所なので互いにあえてぼかして話す。

 事情を知らない人間が聞いても理解出来ないか暗喩だと思うだろうが万が一がある。

 

 そう―――異世界。

 正確には幾重にもループを繰り返しているらしかった世界の最前線。

 死に物狂いで体得した秘剣ですら、ちょっと珍しい扱いされる程度の修羅場。

 足切りラインがレベル50、敵も味方も100越えがいるというまさしく魔境。

 

 

 

「色んな意味で強くなる必要がある。俺もお前さんも、お互いにさ」

 

 

 

 あの日、魔丞なる悪魔人間(かいぶつ)から撃破してからもう早1ヶ月以上が経とうとしていた。 

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 戦闘後、しばらく噛み合わない会話を続けていた自分たちだったが。

 異界が完全崩壊した後、蓄積したダメージと疲労で互いに動けなくなってしまっていた。

 状況としては道のど真ん中でぶっ倒れている刀持った野郎と血まみれの女子高生だ。

 

 “あれ、これやばくね? ”

 

 現状の不味さに気付き、冷や汗が背中を流れた。

 このまま一般人に見つかれば、少なくとも自分は通報・逮捕からのブタ箱直行ルートである。

 しかも戸籍が残ってるかも怪しいので、本気でどんな扱いを受けるか分かったものじゃない。

 

 なので死ぬ気で体を動かし、少女を連れて人目に付かない場所へ逃げようとしたところで。

 

『未成年者略取誘拐―――!?』

 

 そんな恐ろしい呪文と共に現れたのは『キリギリス』なる完全武装したDB連中だった。

 

 アナライズの類をしなくても身のこなしだけで分かる、全員が格上の超人集団。

 実際、後で聞いた話だと機械式で平均レベル60だったらしい。超こわい。 

 万全かつサシならともかく、どう足掻いても斬れる相手じゃなかった。

 

 例え後先考えずに修羅に入ったとしても、数の差もあって確実に圧し潰されていただろう。

 なので武装解除してから身振り手振り交えて必死に事情説明と身の潔白を話した。

 途中、魔丞なる悪魔をぶった斬った事を驚かれつつ最終的に彼らも納得したのか、ある程度の監視を受けながら2人とも保護される運びとなった。

 

 これでもし相手がミトレア教団や薔薇十字団系*2の連中だったのなら話は別だが、

 そういう気配じゃなかったし斬るべき相手だと感じなかったのは幸いだった。

 

 ――――しかし、問題はそれからで。

 

 彼らにどこかの大病院へと連れて行かれ、そこで治療と精密検査を受けて。

 最後に幾つかの質問をされてから軟禁される事となった。

 

 扱いとしては正直不満だったが、身元が不確かな人間相手にはむしろ上等かと納得し、

 筋トレしたりよく分からないテレビ番組見たり変身ポーズを決めたりして数日後。

 

 

 “ここは貴方たちの世界ではありません”

 

 数日ぶりに顔を合わせた少女、若槻美野里と共に聞かされたのはそんな荒唐無稽な話。

 映像越しに語るのは何処か死んだ、というか疲れて逝っちゃったような目をした少女。

 手渡された資料に書かれていたのは、俄かには信じがたい、いや、信じられない真実。

 

 世界は今まで数え切れないほど滅んではループしている事。

 自分たちはそんな滅んだ世界の一つから浮上してきた残滓である事。

 そして――――共に生き延びる為に、協力し戦って欲しいという事を。

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「そして最終的に快く承諾した俺たちは戸籍とかの保護を受けつつ、

 地力を上げる為に日夜頑張っている訳だ」

 

「否定はしないけどあんたと一緒にされたくない……」

 

 ひどい言い草である。

 これでも5秒くらいかなり悩んだというのに。

 

「―――あたしはさ、納得出来たよ。

 証拠なんてなくても、この目で世界の終わりを……その始まりを見たから」

 

 美野里ちゃんがテーブルのケーキへフォークを突き刺す。

 そのまま半分千切る様にして持ち上げてから口に放り込む。

 

「んぐっ……敵も味方も、家族も。何もかもがあの暗黒宇宙(シュバルツバース)に飲み込まれて。

 それでも死にたくなかったから、一か八かの空間移動(テレポート)したらこの世界に居た」

 

 それは前にも少し聞いた話だ。

 曰く、彼女の世界には何やらヤバい異空間があって、それの研究・攻略も目的とした街に住んでいたとか。

 ちなみにこの世界にもあったらしいが、数年前に破壊されたと聞いた時は腰を抜かしていた。

 

「あたしは、今でも死にたくないしそれに抗う為なら戦う覚悟はある。

 蹲って目を閉じて耳を塞いで、嵐が通り過ぎるのを待つなんていうのも嫌。

 何処かにいるかもしれない仲間だって探したいもの」

 

 だけど、と一言挟んで。

 

「あんたは違う。

 山籠もりしてたらいきなり世界が変わってただけ。

 …………実感も何も無い筈なのに、どうしてなの?」

 

「ん――――、……」

 

 彼女が言外に問うているのは、何故自分が戦おうと思ったのか。

 それはまっすぐにこちらを見据えた、真剣な質問だった。

 同時に、これまで一度も踏み込んで来なかった疑問だ。

 

 だから、自分も正直に答える必要がある。

 今日まで行動を共にした彼女へと、嘘偽りは許されないし許しては駄目だ。

 

「……まずだけど、あの媛巫女さんを()()()()()()()()感じがしたんだよ。

 出来る出来ないは別として、少なくとも嘘偽りは無いってな」

 

 こっちを利用して悪事を成そう、なんて思惑を疑うより先にそう感じた。

 割とドン引きされるのだが、この第六感(センサー)が外れる事はそうなかったりする。

 シン財閥、もといクレハ・コーポ―レーション*3の殺戮兵器群に囲まれた時もそれで切り抜けられたし。

 

 更に言えば、

 

「それに、実際この目で確認する時間も貰えたろ」

 

 まず初めにレベル100が3体暴れたとかいう地元に向かった。

 ―――おんぼろだった日本家屋(じっか)はタワーマンション、殺伐な青春を送っていた母校は大型ショッピングモールになっていた。

 貰った資料によれば、京都ヤタガラスとやらによってどちらも随分昔に取り潰されたらしい。

 

 次に調べたのは昔よく世話になった日高示現流の連中。

 ―――拠点としていた屋久島が物理的に消滅していた。

 草薙の剣はどうなったんだとか、クソ強かった御当代の婆さんが死んだのかも分からない。

 

 他にも手当たり次第に確認を取った。

 

 自分以上の剣の達人だった、ふんどしと虎徹がトレードマークの自衛隊陸将。

 何度か共闘したり敵対した、青紫の髪と巨乳が特徴の封剣士。

 爽やか王子様系の優男だった、同級生のペルソナ使い。

 関西弁黒魔導士番長に子犬系の後輩等々。

 

 ―――結果は全滅。

 誰一人として知っている相手を見つけることが出来なかった。

 生まれる時代が違う、その周回では現れない事もあるらしいが、自分の場合はかなりのズレがあったようだ。

 

「家族も知り合いも居なくなった、二度と会えない。

 悲しくないかって聞かれたら首を横には振れん。

 ……けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 剣の道に生き、剣の道を征く。

 そんな生き方をしていれば、いつか必ず何処かでくたばる時が来る。

 故に、別れる度に二度と会えなくなる覚悟は常にしていた。

 とはいえ、まさか自分だけが生き残る形になるなんて予想外だったが。

 

「正直言うと、実感は今でも微妙だ。

 色々見たし体感したが、話のスケールがデカ過ぎてピンと来ない。

 でもな―――――」

 

 カチン、と腰に差したままの刀に触れて。己にとっての真を口にする。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 俺にとっちゃ戦う理由は十分に過ぎるんだよ、それでさ」

 

 メシア救世主派、三業会、阿修羅会、マンハント。

 セプテントリオンなる怪物や神出鬼没の魔人たち。

 おそらく居るのであろう黒幕とでも言うべき存在。

 

 今の自分では返り討ちにされるしかないだろう強者、あるいは集団。

 

 その事実に、武者震いと共に口元に笑みが浮かぶのが抑えられない。

 喪失の悲しみと同じくらい興奮している自分が居るのだ。

 この世界でなら、己の剣は更なる高みへとたどり着けると叫んでいる。

 

 ああ、改めて思うが―――やはり自分はどうしようもなく人でなしのクズなのだろう。

 

「まーそれとは別に、ライダーシリーズが無くなるのは許せんから戦うってのもあるんだが。

 ガキの頃から親父のコレクション見て育ったんだぜ、ある意味バイブルな」

 

 そこまで話すと長い溜息が1つ漏れる。

 引き過ぎて縁を切りたくなってしまったのだろうか。

 ぶっちゃけ関わりたくないと言われても納得の感情しかない。いろいろ心配だけども。

 

「……訂正するわ。あんたはろくでなしの剣馬鹿よ。

 あるいは剣狂い?」

 

「他には羅刹剣(ブレードオーガ)とかもあったぞ。

 ほら、あの媛巫女さんも言ってたろ」

 

「思うんだけど二つ名とか中二臭いわねー」

 

 そんな事を言って、残りのケーキを食べてから美野里ちゃんは立ち上がる。

 その表情には何故か呆れの色は無く、ただ静かに微笑んでいた。

 相変わらず女心はよく分からないが―――少なくとも今は縁を切らずに済みそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、会計よろしくね! 嫌とは言わせないわよ。

 さっきの試合、人の反対押し切って有り金ほぼ全部賭けたんだから」

 

「男にはやらなきゃならない時があってなぁ……」

 

 ケーキ一つとコーヒー2つで凄い値段がしていた。

 やはり最前線は物価も最前線だったりするのだろうか。

 

 

 

 

*1
《安息眠》※TRPG基本システム 睡眠による体力の回復を2倍に増す。

*2
TRPG新世黙示録より

*3
TRPG誕生篇・覚醒篇より




◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 <剣士> <仙術使い> LV33⇒Lv42
山から下りたら世界が変わってた系漂流者。
色々と確認したし受け入れてもいるが、元居た世界が滅んだ実感は薄い。
様々な勢力が小競り合いをしていたものの、滅ぼせるほどの奴はいなかった事も理由。

世界が滅んだのは悲しいし、黒幕を見つけたら容赦なくぶった斬るくらいには怒っている。
しかしそれと同等に「オラ、ワクワクしてきたぞ」的な思いもある。


・若槻美野里 <サイコメトラー><超能力者> <ガンスリンガー> LV28⇒Lv36
世界の滅びを目撃した系漂流者。
事情の説明を受けたら納得の感情しか浮かばなかった。
なお、シュバルツバースが破壊済みな事には超びっくりして腰を抜かす。

自分が生きる為、脅威に抗う為に戦う事を決める。
今は半ば流れでコンビを組んだ宗吾と共に地力を上げる真っ最中。
ちなみに元居た世界での仲間は犬と猫。


・ふんどしと虎徹がトレードマークの自衛隊陸将
レベルは20代後半程度だったが、純粋な技量では宗吾を上回る達人。
曰く、変態技に変態技を重ねた“魔剣”の使い手。
仕事回してくれるのはありがたいが、度々勧誘してくるのは勘弁してほしかった。

・クソ強かった御当代の婆さん
齢90を超えていた日高示現流の当主。この世界線では一族ごと存在したかさえ怪しい。
曰く、年の功で雲耀を無刀取りしてくる化け物。
若い頃には帝国陸軍の人型決戦兵器を破壊したとかなんとか。

・青紫の髪と巨乳が特徴の封剣士
香港で仕事をしていた頃に共闘したり敵対した美女。
曰く、甘い展開とか一切ない腐れ縁。
実はこの周回でも存在しているが、残念な事に雌豚となった。



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Manhunt

 

 

 昨今の情勢において『マンハント』と呼ばれる者たちは消滅すると推測されていた。

 元より素人上がりの半グレ、カジュアルたちの集まり。

 弱者を襲って糧とするしかない文字通りの外道共だ。

 

 主な獲物であったDB及び悪魔の平均レベルの上昇により、噛みつく事すら出来ずに飢え死ぬだろうと。

 実際、少数の勢力は弱肉強食さえ出来ず、立ち向かう事も無いまま乾いて死んだ。

 そうでなくとも自警団やマンハントキラー、あるいは治安維持組織によって逆に狩られるか。

 

 ―――しかし、世に盗人の種は尽きまじと言うように。

 予想を裏切りしぶとく活動を続ける者たちもいる。

 

 ある者たちはこれまで通りヤクザなどの手足となり続け。

 ある者たちは『ガイア再生機構』なる組織の鉄砲玉となり。

 そしてまたある者たちは()()()()()()()()()()()()()()()

 

「魔法系はともかく、やっぱ銃対策が一番の鬼門だわー。

 矢とか手裏剣はいけるけど、銃弾(タマ)斬りはまだ体得してないから」

 

「素直に盾持つかガン耐性のある装備すれば? 

 出来るなら悪魔使って射線切るのもアリだけど」

 

「鬼神術*1の類はからっきしでさぁ。

 見るのとぶっ殺した悪魔封じるので精一杯。

 “お前こっちマジ向いてないな”って言われたし」

 

「まぁ、サマナーなんて向き不向きがあるから……。

 だからってシロエウィキとか掲示板で銃弾を斬るコツ調べるのはどうかと思うけど。

 完全にネタと思われてるじゃないの相談スレ」

 

「真面目に質問してるんだが……何でだろ???」

 

 日もやや傾き始めた、人影のまばらな道を歩くのは二人の男女。

 片方は大きめの竹刀袋を担いだ黒髪の男。

 もう片方は銀髪の髪が目を引く眼鏡をかけた少女。

 共にたった今『レルム』を覆う人払いの結界から出て来た覚醒者だ。

 

 そしてその背後から数十メートル離れた場所に人影がある。

 地味なジャケットに帽子と眼鏡の青年、至ってごく普通の通行人らしい風体。

 しかしその目だけは普通とかけ離れた、欲望に濁った色をしている。

 

「―――ああ、このまま予定通りに着きそうだ。先に待っていてくれ」

 

 視線を先に歩く2人からややずらしつつ、青年は手に持ったスマホを操作し通話を開始する。

 一見すれば誰かと待ち合わせをしているように見えるが、事実は違う。

 

「“歓迎会”の準備をもう始める? 随分気が早いな、慌て過ぎじゃないか」

 

 青年―――マンハントの斥候役は仲間に()()の位置と推測する移動ルートを伝えていたのだ。

 

 彼らは最近になって上京してきた地方の異能者や、『レルム』に迷い込んでしまった一般人をターゲットとする人狩りである。

 取引先はもっぱら“裏”の闘技場だったりスナッフ動画の撮影会社など。

 売り飛ばされた者たちがどうなるかなど気にもしない、金になるならそれでいいと考える連中(げどう)だった。

 今も暢気に歩いている―――おそらく地方から出て来ただろう―――2人組に『レルム』内から目を付け尾行していた。

 

(男はどうでもいいが、女の方はかなりの上玉。ありゃかなり高く売れるぞ)

 

 斥候役は訪れるであろう未来を予想し、思わず口元がにやけてしまう。

 ここ最近は狩りの難度も上がった為“遊ぶ”機会も激減してしまっていた。

 おかげで仲間たち全員にフラストレーションが溜まりつつあった所に見つけた極上の獲物。

 

 流石に中立地帯である『レルム』内で仕掛けるのは背後の出資者たちや自警組織に目を付けられるため悪手に過ぎるが、出てしまえば話は別。

 向かう先で自分たちに有利な状況を作り出し、いつも通り数で囲んで嬲り殺しにすればいい。

 

(いざとなりゃあの悪魔もいる、問題は無いさ)

 

 気取られぬようアナライズこそしていないが、おそらくレベルは自分たちの()()()より下だろう。

 加えて、このような街中で嵩張るであろう防具をフル装備しているはずも無い。

 ならば何も恐れる事もなく、哀れなカモへと牙を突き立てるだけ。

 狩りを終えた後の()()()()も期待しつつ、斥候役は一旦通話を切り―――。

 

 

鋭い勘*2部屋の中で隠されたものを探したり、何かの接近に気付くときに使用。

この特技の所有者は眠っていても警戒ができる。

奇襲に対しても使用可能。

 

察気*3気功に分類される技能。

悪魔や害意、罠の存在の察知する。

 

 

「視線がキモイ、反吐が出る」

 

「同感な。とりあえず寝てろ」

 

 

 ―――いつの間にか。

 数十メートルの距離を潰し正面に立っていた2人からそんな言葉をかけられた。

 

破城槌*4格闘攻撃剣相性。鞘から引き抜かないまま、鞘ごと打撃する。

回避に失敗した場合、スタン・チェックを行う。

 

 

 同時に、側頭部へと走る巨人に殴られたかのような強い衝撃。

 砕ける頭蓋とへし折れる頸椎の鈍い音。

 言葉さえ発する暇なく意識は暗転―――そのままアスファルトの上に倒れ伏した。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 東京という狭い故に土地代が都市であっても、使いにくいという空間というものが存在する。

 

 それは周囲の建物の構造、位置関係によるものや交通の利便性が生み出すものが多い。

 いわゆるデッドスペースというやつで、結果としてその周辺は人の行き来が少なくなる。

 以前なら深夜徘徊する子供たちや半グレの集団がたむろする格好の場所として、土地の管理者の頭を悩ませる問題にもなっていたが、このご時世ではそういった者たちも姿を消して久しい。

 

「―――んでイスカンダル木星王の弟子の1人、カサンドラ金星姫って女が団体を引き継いだんだけど。

 この女がとんだ拝金主義者だったせいで1年も経たずに空中分解しちまったのよ、笑えるだろ」

 

「後継者問題でゴタゴタは良く聞くけど……そんな音楽性の違いで崩壊するバンドみたいな魔術結社ってあるの?」

 

 談笑する2人組が歩いているのもまさにそういった場所だった。

 老朽化した廃ビルと廃ビルの隙間にある、路地裏と言うには大きく開けた空間。

 所有者の失踪による土地の権利問題や買い手の無さで作り出された無人地帯。

 

 大型のゴミが幾つも不法投棄され、誰の目にも止まらないまま放置されている。

 今では時たまこうして、極少数の人間がショートカットする為に通るだけのまさしく空き地だ。

 故に人影は彼ら以外になく、数分もしない内にこの場を通り過ぎるだろう。

 

 

 

 ――――何事もなかったのであれば。

 

 

 

「撃てぇッ!!!!」

 

 

軍勢マンハントの群れLv32破魔・呪殺無効

 

 

 怒声と共に響いたのは幾つもの銃声音。

 物陰から飛び出した十数人の人間―――マンハントたちによる一斉放火だった。

 たった2人の人間を殺害するには過剰過ぎる銃弾の雨。

 例え覚醒者でも、耐性を持っていたとしてもその上から削り殺されるであろう火力だ。

 

「いいぜぇっ! 無効も反射もねぇっ!! 

 このままぶち殺しちまえぇえええ!!!!」

 

「きひひひ! 女女女ぁっ!! 

 野郎はずだ袋に詰めて女は玩具にしてから売っ払うぜぇっ!!」

 

 

 彼らの視線の先で踊り狂う2人分の人影に、絶頂の声が幾つも上がる。

 真っ当な精神をした者なら―――業界人であろうと―――あり得ない狂騒。

 人間でありながら人間を辞めた外道に他ならぬ証であった。

 

 やがて、弾を撃ち終え硝煙の匂いだけが惨劇の証となった頃。

 汚れた地面に倒れる人の形をした()()()だけがその場に残される。

 

「……あ? おい、待てよおい!

 こんなになっちまったら蘇生も出来なくね!?」

 

()()()2()0()()()()って言ってたろうが!! 

 この程度で原型留めなくなるとかフカシこきやがったのか!!?」

 

 これに慌てたのはマンハントたちだ。

 

 “弱い、聞いた話と比べて弱すぎる”。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()2()()()()()()2()0()()()()()()()()()

 故にこの数なら銃火器だけで十分と判断し、文字通り蜂の巣にした。

 ここまでは良い。問題は蘇生出来なくなるほど肉体が損壊してしまった事で。

 

(チッ、これじゃ弾の無駄遣いじゃねぇか―――!)

 

 こうなってしまえば遊ぶ遊ばないの話ではない。

 ただの肉塊なぞ売れたとしても二束三文にすらならないだろう。

 売り物を自分たちで壊してしまっては利益ゼロ、それどころか赤字なのだから。

 この程度ならもっと少人数で襲うだけで十分だったというのに。

 

 マンハントたちは内心で悪態を付きながら2人だったモノへと近寄る。

 気分が削がれたどころではない、はっきり言って不快だ。

 カモの質を見誤った愚か者に焼きを入れる事を誓いながら、せめて売れそうなものが無いか遺品を物色しようと手を伸ばし―――。

 

 

 

「まさか伏兵すらいないとか、舐めすぎでしょ」

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は――――?」

 

「死ね」

 

 

式神符*5符に書いた人型に力を込めて、人間の形を取らせる。

ダメージを受けると符に戻ってしまう上、戦闘能力は一切なく、会話能力も低い。

簡単な作業が出来るのみである。

 

 

奇策Ⅲ*6補助1シナリオにランク回数まで使用可能。

このターン、次に行う攻撃1回の対象に中確率でSHOCK状態を与える。

 

 

グレネード*7射撃攻撃敵全体にガン相性ダメージ。

 

 

 カツン、と音を立て地面を転がって来たのはリンゴサイズの球体(手榴弾)

 

 投げ返す事はおろか逃げる事も不可能―――間髪入れずに爆発した。

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 まず若槻美野里がこの世界でぶち当たった最初の問題はデモニカについてだ。

 一言で言ってしまえば、修理する事は不可能近かった。

 その理由として規格の違いが挙げられる。

 

 彼女の使うデモニカは異形科学―――科学と魔法のいびつな融合体である。

 この世界の物とも共通する部分はあるが、所々に解析困難な技術・術式が使用されているのだ。

 よって設計図もノウハウも無い以上、修復にはまず解析から始めなければならず、膨大な時間と労力がかかる訳で。

 当然、そんな事をしている金も余裕も無いので諦めるしかなかった。

 ちなみに“リアルG3じゃん! パチモンと全然違ぇっ!! ”と興奮していた宗吾は残念がっていた。

 

 とはいえ、実はそこまで問題という訳でもない。

 確かにデモニカは強力な装備ではあったが、このインフレ環境では雑魚がちょっとマシな雑魚になるだけ。

 なら地力を鍛え上げ、頼らないくらいに強くなった方が効率的なのだとしばらく寝込んでから気付いた。

 

 そうと決めたのならば行動は早い。

 始めに行ったのはデモニカに搭載されていたCOMP機能と()()()()を引っこ抜く事。

 悪戦苦闘しながら―――何度か宗吾に斬鉄して貰って―――取り外し、紹介してもらったCOMPスミスの協力の下、アクセサリー(メガネ)型COMPへと改造を施したのだ。

 この際、色々とトラブルもあったがそれはまた別の話。

 

 ―――よって今の美野里は本来の力を十全で発揮できる。

 

「コール」

 

―SUMMON――

 

『我ガ主ニ神ノ加護アレ!』

 

屍鬼ゾンビプリーストLv26呪殺反射、ガン・精神無効

 

『ヴぃおおおおおおッ!!!!!』

 

悪霊ラルワァイLv33ガン・呪殺・神経無効、破魔に弱い

 

 

 思考操作によりARレンズから魔法陣が投射展開。

 そこから召喚されるのは司祭服を身に纏った骸骨と球体上の体に髑髏の張り付いた異形。

 精神感応能力を悪魔召喚プログラムで補助する事で*8、特定の技能か技術*9がなければ契約出来ないダーク属性の悪魔を従えて。

 突然の爆発によって混乱するマンハントたちを、()()()()()()()ビルの屋上から見下ろしつつ更なる追撃を行う。

 

道具の知恵・癒*10自動効果戦闘中に回復・補助アイテムが使用可能になる。

悪魔合体によって継承。

 

羅刹の札*11補助アイテム3ターンの間、味方全体の攻撃力上昇。

 

呪縛*12補助種族専用スキル。悪霊・邪鬼限定。

対象のイニシアティブを半分にし、全ての判定値を1段階低下させる。

シネマティック・バトルにおいて、対象は移動を制限される。

これらの効果は対象含む独立部隊全員に効果を及ぼす。

低下系解除の効果によって解除される。

 

バインドボイス*13魔法攻撃敵全体に神経相性ダメージ。

低確率でBIND状態とする。

 

 放たれるのは強化された神経を犯す咆哮と超重力にも似た呪詛。

 二重の拘束を受け、この瞬間大半のマンハントたちは死に体へと陥る。

 

「―――今」

 

「あいよ」

 

 であれば、その絶好の(チャンス)を見逃す()()ではない。

 

隠形符*14この符を貼って動かなければ、敵から姿を隠すことが出来る。

敵が積極的に見つけようとした場合でも、ペナルティを受けた状態でチェックに成功する必要がある。

 

 

 マンハントたちの背後、何もなかったはずの空間が歪む。

 そこに現れたのは刀を腰だめにした―――居合の構えを取る剣鬼の姿。

 転移した訳ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「疾ッ―――!」

 

 短く息を吐く―――抜く手も見えぬ超速抜刀が成る。

 

風神剣*15射撃攻撃抜刀術に分類されるスキル。

敵一列に風(衝撃)相性ダメージ。

素早い太刀筋から発する真空で相手を切る。

射撃かつ魔法攻撃として扱い、直感の判定で回避。

 

 

 殺意の具現と化した颶風が、後列に居た外道たちの首を文字通り刈り取った。

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 自分たちを尾行していた怪しげな男を半殺し、もとい捕縛した後。

 人気のない場所へ運んでから2人が行ったのは情報の抜き出しだった。

 こちらを狙うのが何者なのか、正確に把握する必要があるからだ。

 

 何かしらの陰謀に巻き込まれているのなら相応の対処、身の振り方を考えなければならない。

 本来、自分たちはこの世界にいる筈の無い“漂流者(ドリフター)”なのだ。

 こういった事に関しては敏感過ぎるくらいで丁度いい。

 

 もっとも、美野里がサイコメトリー*16で記憶を読み取った結果、単なるマンハントかつ偶発的なものであった事はすぐ分かったのだが。

 

 ―――問題はその後。

 

 警察などの治安維持組織に通報し牢屋にぶち込んでもらう、あるいはレルムに引き返し姿をくらませる。

 対応策として浮かんだのはこの2つで、すぐに却下した。

 どちらも、特に後者はこの場を凌げたとしても後が続かない。

 この手の輩に弱腰でいた場合、第2第3の同類が現れる事をどちらも経験で知っていた。

 

「じゃあ返り討ちにしましょうか。

 有り金と装備全部頂くのもいいわね。

 とりあえずこいつ洗脳*17して偽情報流しとくわ」

 

「式神で囮作って先にこっちが待ち伏せするかねぇ。

 この手の連中に限らず、奇襲した側が逆にされると脆いし。

 アクセも合わせて変えた方がいいか」

 

 だから自分たちだけで殲滅する事を即断した。元より外道に慈悲など無い。

 取り出せた情報からおおよその人数、装備、戦法、切り札について把握した上で可能と判断したのもある。

 流石に洗脳した相手に爆弾を大量に抱え込ませて突撃させる“卑劣ボム”作戦は宗吾によって却下されたが。

 

 よって、ここまでの流れは想定通り。

 

 式神による囮を使った釣り野伏せで足を止め、意識を上方へと逸らし、背後から斬り崩す。

 隠形しながらの観察により装備と急所を見抜いた上で*18、剣風の威力を向上させるアクセサリー*19を身に着けて放ったのだ。

 結果としてマンハントたちの大半は物言わぬ躯と化していた。

 

「う、うわぁあああああああああ!?!?」

 

 その惨状に、最も早く復帰した男が半ば錯乱しながらも宗吾へと銃を向ける。

 効くかどうかも分からない、自分たちがハメ殺しにされかかっている現状も理解していない。

 ただ、このままでは死ぬしかないという本能的判断が体を反射的に動かす。

 

 

籠手落とし*20剣相性相手が武器を握っている籠手を切る。

回避出来なければ手首を切られて武器を落とし、

治療を受けるまで格闘関係のチェックにペナルティがつく。

リティカル時、相手の腕の防具が破壊されるか、

手首そのものが半ば斬り落とされる。

『骨折』*21として扱う。

 

 

 しかしそれはどうしようもなく遅かった。

 気付けば銃を持っていた両手と白刃が重なり、通り過ぎる。

 残されたのは吹き出す血と皮一枚で繋がる2つの()()だけ。

 

「ふぇ?」

 

「ちょっと失礼」

 

 そんな言葉と共に、宗吾が空いた手で顔面蒼白な木偶の首を掴む。

 抵抗は出来ない、藻掻くのが精々だ。

 恐ろしい程の握力なのもそうだが、払いのけるための腕が無かったから。

 直後―――。

 

「こ、殺せぇええええっ!!」

 

「上にいる奴を先に、くそ足が動かねぇよお!?」

 

「撃ちまくれぇっ!!」

 

 理解が追い付き、恐慌状態に陥ったマンハントたちが引き金を引く。

 しかし統率も何もあったものでない。

 各々が好き勝手なターゲットを狙っている上、照準もブレている。

 

「この位置で当たる訳ないのに」

 

 美野里は一歩後ろへと下がる。

 それだけで下からの銃撃は射線が通らなくなった。

 反撃される際、ビルの構造と利点も考えこの位置に陣取ったのだから当然だ。

 前面に立つ仲魔もガン相性は無効なので意味は無く、近接戦を挑むとしても動きを縛られている以上ここまでたどり着く事はない。

 

「“盾”*22構えてんだよこっちは」

 

 一方で宗吾は“盾”の陰へと隠れた。

 サイズ的に完全に防ぐことは難しいが、防具と合わせて致命傷だけは避けられる。

 弾丸を斬り落とせるだけの域にまだない故に仕方がない。

 今は“盾”から漏れる苦悶の声を無視して、攻撃の波が収まるまで耐え忍ぶだけ。

 

 やがて激しい銃声が弾切れと共に止んだ瞬間―――2人は再び動き出した。

 

王手(チェック)

 

 

愛用の武器*23自動効果習得者のレベルが武器のGPを5上回るごとに、

武器の威力を8上昇させる。

指定:『ベレッタ(GP7)』⇒威力+40

 

制圧射撃*24射撃攻撃敵全体にガン相性ダメージ。

 

 仲魔の魔法と共に、上から降り注ぐ必殺の銃弾がマンハントたちを赤い染みへと変える。

 同時に盾だった物を真っ二つに切り裂いた死の風が、銃弾から逃れた者たちを切り刻む。

 

「クソクソクソがぁっ……! 

 舐めやがって、こうなったらこいつの出番だ!!!!」

 

 そして最後に残ったのは最もレベルが高く、高級な装備を身に着けていたマンハントたちのリーダー。

 宗吾と同じように手下たちを盾にし、ギリギリで生を繋いだ彼は行うのは奥の手にして起死回生の一手。

 血塗れの手に握られたスマートフォン―――悪魔召喚アプリがインストール済み―――から魔法陣が現れ、バッテリーからバチバチと音を立ててつつ膨大なマグネタイトが放出される。

 そして一際大きく輝いたかと思えば、

 

 

『粛清粛清粛清ぃいいいいい!!』

 

 

鬼女混沌の使い魔・ターラカLv55相性:??? 

 

 

 現れたのは4本腕にそれぞれ剣を持った鬼面の女、『鬼女ターラカ』。

 しかしそのレベルは本来ならば30代半ばがいい所なのを大きく上回っている。

 たかがマンハントが従えられるような悪魔ではない。

 

「ぎゃはははは! やっちまえ悪魔ぁっ!!

 こいつらを殺せぇええええ!!」

 

 勝利を確信したかのように男が笑い叫ぶ。それもあながち間違いではなかった。

 魔丞ほどではないとはいえ、格上の強大な悪魔。

 1か月前よりずっと強くなったとはいえ、今の2人でも荷が重い相手であり、

 

 

ギボアイズ*25自動効果アナライズを強化する。

戦闘中、補助行動としてアナライズが行える。

失敗しても相性1種類かBS1種類を指定し、

それが効くか効かないかを知ることが出来る。

COMPアプリの内、サブアプリに分類される。

 

 

 ── ANALYZE COMPLETE ──

 

 

「火炎破魔呪殺魔力に耐性、神経・斬撃無効に氷結弱点。

 これだけは分からなかったけど―――問題無いわね」

 

「応―――斬れるぜこいつ」

 

 それでも、行動に一切の揺ぎ無し。

 終わらせるための“詰み”へと入る。

 

 

『ぃいいいいいいいいいっ!!!!』

 

 

ツインスラッシュ*26格闘攻撃斬撃(剣)相性。目にもとまらぬ二段斬りを放つ特技。

敵1体に対し、近接攻撃力に依存した物理ダメージを与える。

 

 ターラカが繰り出すのは圧倒的膂力による力任せの斬撃。

 回避も防御も決して不可能ではないが、しくじれば一撃死を免れぬ威力を秘めている。

 よって宗吾は大きく体を捻り、刀を担ぐように構えて。

 

使()()()()()跳んで」

 

『了解シマシタ』

 

トラフーリ*27移動魔法味方1名を視界内で瞬間移動させる。

COMPアプリ『スキルハック』によって獲得。

 

 瞬間移動で割って入った*28ゾンビプリーストが代わりにその暴虐を受けた。

 剣相性には若干強くとも*29、2人よりレベルが下の悪魔でしかない。

 当然ながら耐えられるはずもなく死亡するが―――。

 

 

『我ガ恨ミ、受ケ取レ―――!』

 

 

逆恨み*30即時効果種族専用スキル。屍鬼・怪異限定。DEAD状態になる際に使用。

 使用者が攻撃のダメージでDEAD状態になる時、

 受けたダメージの半分を相手に与える。

 この相性は万能かつ防御点無視となる。

 

 屍の聖職者から発せられる逆恨みが、命と引き換えにターラカの体力を削りとる。

 無論、これだけでは倒せない。この程度で死ねるほどヤワな悪魔でもない。

 

 

 だが同時に――― 一手分の時間を稼いだのだ。

 

 

 ――― 《煌天の会心》 ―――

 ――― 《霊活符》 ―――

 ――― 《急所》 ―――

 ――― 『精神向上の札』*31 ―――

 

「―――“雲耀(チェックメイト)”」

 

雲耀の剣*32格闘攻撃神速の剣。目標に対しては剣相性の物理攻撃。

拡散する剣風は風(衝撃)相性の魔法攻撃として扱う。

副効果が発生したらスタン・チェックを行う。

八瀬宗吾の振るう3()()()()耀()の内、最も使いやすい技。

 

 ターラカに斬撃は効かない。

 霊活符を使ったとしても、鉄の刃ではこの悪魔を殺しきれない。

 ―――しかし、風の刃は違う。

 

 技量(スキル)と装備、アイテムによって増幅されたその威力―――18.5倍

 

 原型すら残さず、鬼女とマンハントの頭は見えざる牙に食いちぎられた。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

「……気になったんだけど、聞いていい?」

 

「一番好きなライダーは誰かっていうと難しいんだが」

 

「そっちじゃないわよ」

 

 マンハントを撃退したその日の夜、夕食を済ませる為に入ったレルム内のレストランで。

 注文した料理が来るまでの間にふと、美野里ちゃんが口を開く。

 

「最初に捕まえたマンハント、生きた爆弾にして突っ込ませるの反対したわよね。

 ……どうして? あいつは警察に突き出したけど、どうせ最期は分かってるでしょ」

 

 それを聞いて少し間を置く。

 確かに効率を考えるのならそっちの方が良かったかもしれない。

 自分も無駄に銃弾の雨の中に晒される必要だってなかったかもだ。

 裏の人間なら情報を搾り取られた後でどうなるかなんて分かり切った事。

 だから気にせず、使える時に使ってしまえというのも合理的である。

 

 だけども。

 

「そりゃ必要ならやるさ。

 俺だって最終的にぶった斬れるなら過程は割とどうでもいい派だし。

 けど今回はそうじゃない―――必要ないなら態々外道に手を染めるのはねぇって」

 

 こういうのは割と大事だ。

 誤解されやすいが―――大抵の人間はその通りだろって言う―――自分は斬れるか斬れないかで全てを判断する切り裂き魔(ブレードハッピー)じゃない。

 確かに斬る事しか出来ぬ身だが、それでも人として超えてはならぬ一線を自分なりに定めてはいるつもりだ。

 あのマンハントのような者たちとはそこが違うと信じている。

 

「そういうやり方に頼り過ぎてたら、いつか外道(人外)に堕ちる。

 そうなれば俺の剣は堕落して―――無様を晒す」

 

 この世界に来て初めて戦ったあの悪魔人間のように。

 たぶん、あんな風になる前に自分で自分を斬ると思うけども。

 

「あと仮面ライダーファンとしてはダーティープレイに頼り過ぎるのもちょっと……

 いや悪役ライダーも好きだぞ? 王蛇とかも貫いたゆえの良さが―――」

 

「最後の温度差がひどい」

 

 ため息と共に美野里ちゃんはドリンクバーで取って来たジュースを飲む。

 メロンソーダだった。最近見始めた鎧武の斬月が思い浮かぶ。

 

「……死にたくなかったから、手段は択ばなかったけど。

 必要ないなら……そっか、そうよね」

 

 どこか納得した様子でCOMP(眼鏡)に触る。

 

「今のままじゃあたしも悪霊と屍鬼しか使えないし。

 ちょっと自分を見つめ直す必要あるかも」

 

「そういう時は虚空蔵求聞持法やるといいぞ。

 座禅汲んでひたすらお経唱えるやつ。

 ……俺は相性悪かったけど」

 

「悟りとは一生縁遠そうだものね」

 

 自覚があるので目を逸らす。

 ついでに弥勒菩薩を崇めていた連中の事も少し思い出してしまった。

 再び記憶の底にしまう為に勉強しようとスマホで掲示板を覗くと―――。

 

「……ん? なんだこりゃ」

 

 こんな一文が目に入った。

 

 

 

【レルム】残酷処刑場、殴り込みたいやつ集まれ~! 【裏闘技場】

 

 

 

*1
TRPG基本システム。タオの項目における悪魔に関する術。タオの術者であれば《視鬼》、《見鬼》のスキルは自然に身に付く。

*2
TRPG誕生篇仕様

*3
TRPG基本システム

*4
TRPG覚醒篇

*5
TRPG誕生篇仕様

*6
TRPG200X

*7
TRPG200X

*8
サイコメトラーは《限定悪魔召喚Ⅱ:悪霊・屍鬼》を習得する。

*9
ジャイヴトークまたはジャイブトーキン

*10
真Ⅳ

*11
P5R

*12
TRPG200X COMPアプリ《ハーモナイザー》によって習得。

*13
TRPG200X

*14
TRPG誕生篇

*15
TRPG覚醒篇

*16
TRPG200X 情報を一つ得る(《蛇の道は蛇》と同効果)。

*17
《ブレイン・ウォッシング》TRPG基本システム。

*18
《透視》TRPG基本システム。壁の向こうの物や袋の中身などを看破することが出来る。

*19
『風のピアス』、『嵐のSOUL』真Ⅳ 衝撃プロレマ、ギガプロレマと同効果。

*20
TRPG誕生篇。本来なら《抜刀の構え》が必要だが、覚醒篇要素の追加(技量の向上)により先制権を失う代わりに緩和。

*21
状態異常。手足の骨が折れて行動に多大な支障が出る。全ての行動にペナルティ。

*22
《キャラクターを盾にする》TRPG200X シネマティック・アクションルール。敵味方問わず、同一ブロックにいる別のキャラクターを盾にすることが出来る。アイテムの保持と同じように宣言する。

*23
TRPG200X

*24
TRPG200X

*25
TRPG200X

*26
真・女神転生IMAGINE

*27
TRPG覚醒篇

*28
カバー

*29
真Ⅱでは剣相性に対し75%

*30
TRPG200X

*31
P5R 魔法攻撃力を1度だけ2.5倍にする。カバー前にゾンビプリーストが使用。

*32
TRPG覚醒篇





◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 <剣士> <仙術使い> LV42
傍から見ると斬る斬れないで全てを判断してそうだが、意外とそうでもない。
剣の腕も上がってきているが、そろそろ術方面も力を入れようと思っている。
あと得物の更新の為にも、レベルを上げて業魔殿への紹介状も欲しい。
最近は鎧武を視聴中。何故か薩摩ホグワーツと掲示板で言われる事も。


・若槻美野里 <サイコメトラー><超能力者> <ガンスリンガー> LV36
超能力由来の悪魔使役能力を持つ。使えるのは屍鬼と悪霊のみ。
悪魔召喚プログラムもあるのでそれ以外も使役可能なはずだが、
荒んだ環境にいた影響でアライメントがダーク寄りになっているので難しい。
異形科学の装備と合わせて、かなりエグイ作戦も平気で立てられる。
ちなみに万全の状態であったのなら、ケートゥから逃げ切る事も可能だった。


・何処か死んだ、というか疲れて逝っちゃったような目をした少女
ご存じ媛巫女様。ドリフター関係で更なるダメージを負っていた頃。
映像越しとはいえ面談を行ったのは、魔丞を倒せる実力者というのもあるが
『羅刹剣』(ブレードオーガ)についての記憶もあったから。
曰く、あちこちに濃い面子いた周回だったとのこと。
その割に何故か滅んだ理由は覚えていない。


―――――――――


次回、ワクワク裏社会見学編。




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Show Time

 

 ある程度この街に慣れた者なら知っている事だが。

 現在活動の拠点としている“吉祥寺レルム”には表と裏、2つの闘技場が存在する。

 

 自分が闘技者として連日切った張ったをしているのは前者。

《王雅》や《拳願会》が主催する、精々手足が飛んだり臓物がはみ出たりして死ぬ程度の至って“健全”な場所である。

 仮にお茶の間に流れようものなら大問題間違いなしだが。

 

 個人的には結構いい場所だと思ってはいる。

 なにせ死んでもすぐに蘇生魔法を飛ばしてくれるし、治療含めたアフターケアもばちっちり。

 特に盛り下げない限り、場外から罵声以外の手出しが来ない所も。

 

 それにリング上という限定的な空間とはいえ様々な人間、悪魔との戦闘経験も積めるのも大きい。最近はメタゲームの応酬対策に3対3の集団戦もやっていて、戦術面も含め中々に面白みもある。

 だから見世物になる事を受け入れられるのなら、腕を磨くには適した場所と言えた。

 

 

 ―――では裏がどんな場所なのかと言えば。

 

 

 「おらぁっさっさとその豚ぶっ殺せよぉおおお!!」

 

 「見て見て! あの女ったら土下座して泣き喚いてるわよ!!」

 

 「お・か・せー! こ・ろ・せー! ギャハハハハ!!!!」

 

 

 ゴミ屑のたまり場。

 汚物以下の匂いがする肥溜め。

 人の皮を被った畜生共のパーティー会場。

 

 そんな言葉がぴったり当てはまるくらいに腐り果てた、抑圧された外道共の発散場所である。

 現在は法の緩い海外へ渡る事が出来ないから、このような場所と需要が生まれてしまったのだとか。

 

「…………予想以上に末法だわーここ」

 

 リング上で低レベルの―――おそらく覚醒したての―――少女が複数の人間に嬲り殺しにされ、何が楽しいのか歓声を上げる阿呆共を視界に収めつつ。

 軽く息を吐いて精神状態をフラットにする。怒りは重要だが今は()()不要だ。

 ここで目に付く連中をぶった斬っても意味はない。だから我慢する、我慢するしかない。

 

 ―――そう、本命までは我慢だ。もう少し後で行われるエキシビジョンマッチまでは。

 

 なんでもそこに“レッドアイホーク”なるキリギリスの発起人が処刑対象として出るらしい。

 可能な限り調べて貰った情報だと“隻眼の殺し屋”とか“極道殺し”といったぶっそうなあだ名がある人物だ。

 最前線でレベル100を超える連中と戦う精鋭でもあるとか。羨ましい。

 

 そんな人が悪趣味全開な処刑場を開催する輩なぞに捕まったのは、実はワザとで内側から潰しにかかるのが目的だろうと掲示板には書かれていた。

 恥をかかせて面子を潰せば、勢力としては今後とてもやりにくくなる云々……要は嫌がらせ。

 自分が買う恨みを無視した、実にストロングなスタイルで好みだ。

 

 なので―――“全部アイツのせいにするから暴れたい奴集まれー”という募集に乗ったのだ。

 元々、近所にこういう連中が居るという事自体気に入らなかったし、なんと《王雅》のトップも変装して乗り込む予定なのを闘技者仲間から小耳に挟んだのもある。

 普段は強すぎて出禁喰らってるので、こういう機会じゃなければ戦う姿をお目に掛かれないし。

 

 ちなみに今回美野里ちゃんは不参加だ。

 色々と調べたい事があるらしいし、こういう場所に来るとキレない自信が無いとか。

 正解だったけど。

 

 しかし。

 

「今までそれなりの経験はしてきたつもりだったけど……。

 さすが最前線の世界、クズ度でもレベルがちげぇや」

 

 とめどなく流れる汗を拭いながら思う。

 表の闘技場での伝手を頼り一足先に潜入したのはいいものの、予想以上のクソさにびっくりである。

 これなら他の突入組―――何故か全員仮面ライダー王蛇のコスプレをしていた*1―――と一緒に行った方が良かったかと()()は思った。

 一応王蛇のコスは受け取っているので、開始直前には着替える予定だが。

 

 

 

 

「ちなみに、何であんたはこんなとこに居るわけ?」

 

「――――ヒマつぶし」

 

 

 だから、ふと気になった事を隣の席にいる人物に話しかける。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ワイシャツに黒のズボンというラフな服装の、しかし鷹のように鋭い目をした男はこちらを一瞥してそう返すと、手元の新聞へと視線を戻す。

 この会場の用心棒であろうにえらくやる気が無い。

 こちらの目的もおおよそ察しているだろうに何もしてこないのだから。

 まるで何時クビにされようが構わない、無敵状態な派遣社員のようだった。  

 

 

 

 

直後―――首を狙った渾身の一太刀を躱され、カウンターで心臓を貫かれる。

 

 

 

「―――――」

 

 軽く胸に触れる。傷一つ無い、鼓動を続ける心臓がある。

 当たり前だ―――今のはあくまでもイメージ。

 頭の中で組み立てたシミュレーションでしかない。

 

 現実では趣味の悪いショーが続いていて、端にある観客席に野郎2人が並んで座っているだけ。

 そしてこれまでの1()4()8()()悉くが捌かれ、返り討ちにあっているのを知るのは自分たちのみだ。

 

 

 雲耀の剣―――躱されて死ぬ。

 兜割り――――弾かれて死ぬ。

 刀で防御―――刃がすり抜けて死ぬ。

 構えての割込み―――意味なく死ぬ。

 

 

 先の先も後の先も。カルトマジックを併用しようとも。修羅に入っても。

 現時点での己が行使できる全ての業を以てしても、髪の毛1本断つ事すら叶わない。

 どう足掻いても刃を届かせるためのヴィジョンが欠片も見えてこない。

 圧倒的なまでの実力差。レベルもそうだが技量においても絶望的に負けていた。

 

 男―――推定で魔人がこちらを殺さないのは本人が言っている通りヒマつぶし。

 そして今の自分など取るに足りない雑魚でしかないからだろう。

 あと迷惑料代わりに安ビールとホットドッグのセットを奢ったからか。

 

「くはっ……!」

 

 その事実に。思わず笑いが零れた。

 己への不甲斐なさと、そびえ立つ壁の高さへの歓喜によるもの。

 知識の上で、この世界にはそういう埒外の連中が居る事は知っていた。

 だがこうして、実物を前にするとその出鱈目さがよく分かる。

 

 心が至らない、技が届かない、体が足りない。あらゆる全てが不足している。

 何もかもが無い無い尽しで―――逆を言えば足りない物も逆算出来る訳で。

 

『さあ、さあ、さあ! 

 盛り上がっているかぁ、クソ野郎共! 

 三度の飯よりも血と悲鳴と殺し合いが大好きなろくでなし共!』

 

 そして気付けば、闘技場では最後のイベントが始まろうとしていた。

 残念ながらこの楽しい妄想をする時間もここまでのようだ。

 このタイミングで移動するのは目立つので、気配を消して空気を動かさないようにしながら静かに立ち上がって歩き出す。

 レッドアイホークなる人物の試合は、テレビか何かの映像越しに見せて貰うとしよう。

 

「行くのか?」

 

 その前に。

 今度は視線さえ向けず、退屈さを滲ませる声音で短く問われた。

 

「ああ、そろそろ“祭り”の時間なんでね。

 ヒマつぶし、助かったぜ」

 

 こちらも視線を向けないまま答えて。

 

 

 

 

 

「―――――次会う時は、あんたが死合いたいと思う程度にはなって来るよ」

 

 

 

 

 

 それだけを言って立ち去る。返事は聞こえなかった。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「まあ綺麗に死んだし、おかげで呪いも解けたけどね! 

じゃあ全力でやろうか!!」

 

 

「無理です、殺して」

 

 

 

 それから起きた事を語るならば。

 エキシビジョンマッチは観客たちの期待する展開とは正反対の結果となった。

 即ち―――レッドアイホークによる返り討ち。

 

 誰もがその結果に困惑するが無理もない。

 いかに高レベルのDBとはいえ、状態異常を重ね掛けさせられ肉袋と化していたはずなのだ。

 それを嬲り殺す為に用意された4人のパフォーマーたちも決して無能の雑魚ではなかった。

 

 しかし現実として。

 

 鉄拳の格闘家は泡を吹いて無様に倒れ伏し。

 雷撃使いの凶獣は猛反撃によって腹を抉られ。

 天賦の才を持つ牙は万能物理へのカウンターで頭を吹き飛ばされた。

 

 ただ一人、殺し筋を探っていた薄命の介錯人が頸を狙い一矢報いたものの。

《不屈の闘志》による自己蘇生、及び呪いの解除で万全の状態へと戻った事で心を折られた。

 

 そこからは事前の打ち合わせ通り、王雅のトップと王蛇のコスプレをした集団の殴り込み及び、会場のあちこちに潜んでいた者たちの奇襲が開始。

 多少の抵抗はあったものの、当たり前のように残酷処刑場は強制閉店へと至った。

 背後で糸を引いていた者たちの存在もあるが、この話にそれは関係ない。

 

 これより語られるのはそんな騒動の最中で起きた出来事。

 中心人物であるレッドアイホークとは少し離れた場所で起きた一幕。

 ―――とある剣鬼が、新たな位階へと踏み出した瞬間の話だ。

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 赤と紺の2色が怒号と銃声、激しい戦闘音が鳴り響く中を駆ける。

 一見すれば何処かの学校の制服を着た見目麗しい、この場には似つかわしくない少女たちだ。

 当然、その実態は異なる。

 

 旧ヤタガラス傘下治安実働部隊員『リコリス』。

 女系暗殺組織『彼岸花』から名を変え形を変え、現在に至るまで存続してきた治安維持組織。

 どこにいても怪しまれないという理由で、戸籍の無い少女たちに偽装制服を与え運用する機関。

 

 少女たちはそこに所属する一員であった。

 だが今、この場所にいるのは任務によるものではない。

 ふとした縁で知り合ったレッドアイホークに付き合う形で、彼の戦いを観に来ただけ。

 興味本位が半分以上を占めるプライベートな理由である。

 

 だから、2人が態々戦場と化した会場で銃を取る必要は本来無い。

 いや、治安維持組織の一員である為、ここを潰す行為に協力するのは良い。

 人身売買の販路を潰す事にも繋がる故、上からペナルティを下される可能性も低かった。

 

 しかし、戦うにしても襲撃者たちと共闘し、堅実に行動すべき状況で2人は走っていた。

 例え混乱に紛れていようと、そのような事をすれば敵の目に留まる可能性が高いというのに。

 今この瞬間にも運営側の人間たちから袋叩きを受ける可能性がある。

 

 その事を承知の上でリスクを負う理由は――――

 

「ッ―――千束、確保しました!!」

 

 紺の制服の少女―――井ノ上たきなが叫ぶ。

 辿り着いたのは会場中央、即ちリングの上。

 滑り込むようにして腕に抱えたのは先程倒されたパフォーマーの1人。

 電撃を扱う超能力者で、元リコリス―――たきなの知人であった

 

「よっしゃ、急いで離脱ー!」

 

 油断なく銃を構える赤の制服の少女―――錦木千束が応える。

 

 そう、つまるところ。

 彼女たちはどさくさに紛れて知り合いを―――正確にはたきなの―――助けに来たのだ。

 気付いたのは偶然で、どのような経緯でパフォーマーなどしていたのかは知らない。

 特別親しかった訳でもなく、千束に至ってはたきなから聞いて初めて元同僚だと知ったほど。

 

 

 同じ組織に所属していた事だけが唯一の接点で―――しかし動く理由はそれだけで十分だった。

 

 

 よって身柄を確保した後は安全な場所まで撤退するのみ。

 事前に会場の構造は頭に叩き込んである。現在地と状況から最も良いルートを探って。

 

「ッテメェらそこで何してやがる―――!!」

 

 

軍勢ちんぴらの群れLv25剣・銃に強い、破魔無効

 

 

 ―――会敵(エンゲージ)

 

 怒号と共に複数の銃口―――それも機関銃―――が自分たちへ向けられたのが視界に映る。

 

(やっばっ!)

 

 千束の顔に僅かながら焦りの色が浮かぶ。

 自分は問題ない。例え機関銃相手でも、あの程度の連中が撃つ弾など回避し切れる自信がある*2

 それが己の武器であり、強みでもあるのだから。

 避けて、お返しに神経弾をダース単位でお見舞いすればいいだけ。 

 

 だから問題となるのは―――要救助者を抱えた状態のたきな。

 

 場所がリング上という事もあって身を隠せる遮蔽物も存在しないのだ。

 先手を取り無効化しようとしても、手持ちの火器では数が多すぎて全ての対処は不可能。

 加えて、敵の攻撃に状態異常を齎すものが混じっていればそこから一気に()()()可能性は高い。

 火力差もあって、あっという間に美少女のミンチが3人分出来上がるだろう。

 

物反鏡(テトラカーン)、よりも逃げた方がいっかこれ)

 

 よって即座に迎撃を諦め、懐から煙幕弾を取り出そうとして―――。

 

 

 

―――《カバー》―――

 

 

 

 「―――――俺、参上!!!!!!」

 

 

 

 

 

 全然違うライダーの台詞を吐きながら、王蛇の1人が射線へ躍り込んだ。

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「俺の名前を言ってみろぉ!!」

 

「てめそれもはや仮面ライダーですらぎゃああああ!!」

 

 耳に残る断末魔を無視して縦横無尽に駆け抜ける。

 手当たり次第に外道(かんきゃく)、運営側の刺客を斬り始めてから既に10分以上が経過。

 気付けば、宗吾の周囲に動く者はほとんど居なくなっていた。

 逃げたか、他の面子にやられたかのどちらかだ。

 

「俺は最初からクライマックスだぁっ!!」

 

 だから走って、探して、斬るのを繰り返していた。

 一旦手を緩めるのもありだが、こんな場所に通う輩を逃がしたくない気持ちの方が勝ったのだ。

 決して食べたい放題ならぬ斬りたい放題にテンションが上がっている訳ではない。

 本人も問われれば間違いなく否定するだろう。

 

「えっと……やべぇそろそろネタが――――ん?」

 

 そんな事を呟きながら次の敵を探そうと周囲を見渡すと、

 

 

広角視界*3広い範囲を同時に認識する事が出来る。

後方など死角からの攻撃に対しても通常通り対応できる。

 

 

 視界の端に、年若い少女たちへ銃を向けるチンピラの群れを捉えた。

 

「―――待てやコラ」

 

 肉体が思考というプロセスを破棄。無駄な時間を使う前に反射で行動を開始。

 軽巧により羽毛の如く軽くなった身体が弾丸のように飛び出す。

 結果、1秒もかからず決め台詞を叫びながら射線へと割り込んでいた。

 

(……どーすっかなぁ)

 

 加速する時間の中で、宗吾はふとそんな事を思う。

 

 それは銃撃への対策をしていない―――などという事ではない。

 近くに盾に出来る物は無いが、この状況(対人戦)を想定した装備*4はしている。

 マッスルドリンコを限界ギリギリまで飲んでいる事も合わせて、機関銃の斉射を受けたとしても全力で防御を固めてこの身を盾とすれば少女たちが退避する時間は十分に稼げるはず。

 

 その後で敵を全員纏めて斬ればいいだけの話だ。

 向こうの質と装備、自身の戦力を比較してはじき出した判断。

 相手に隠し玉でもない限り、間違いはほぼないだろう。

 最悪、自分が死んでも後ろの3人だけは確実に逃がせる。

 

 しかしそれは。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 もうここから立ち去ったのか、気配を全く感じないあの魔人を思って。

 未熟に過ぎる自身の全て。至らない、全く足りていないものを思って。

 

(じゃあ…………進まないとダメだろ、なあっ!!)

 

 己が今成すべき、否。なさねばならない事を決める。

 あの男を斬るためには、これくらい出来なければ話にもならないのだから。

 

「――――――ッ」

 

 内息―――丹田で練り上げた生体マグネタイト()*5を全身に張り巡らせる。

 脳の回路、そのギアが跳ね上がり意識は更に加速。

 刹那よりも僅かな六徳の先、より細い虚の瞬間、それよりも遥か果ての浄の境地へと到達。

 僅かな気流の変化、軋む筋肉の音、漂う硝煙と血の匂い、五感で感じる全てを認識し掌握。

 その中で、全ての照準が己へと据えられた事を理解し。

 

 

 宗吾は大きく踏み込み、刀を振る。

 

 

金城湯池*6防御技相性。武器で受ける防御技。

格闘攻撃のみならず、射撃攻撃のダメージに対しても、

受けに使用した武器の威力分ダメージを軽減する。

本来は抜刀術に分類される特技。

 

 

 1つ、2つ、3つ、4つと超音速で飛来する殺意の礫。

 その数だけ閃刃が疾り―――刃鳴となって悉くが散った。

 

(―――出来た、か)

 

 遍く剣技における到達点の一つ、『金城湯池(弾丸切り)

 いつかものにしたいと願い、修行と試行錯誤を続けて10年以上。

 遥か遠い最前線の世界にて。今ここに―――絶技開眼。

 

「…………は?」

 

 呆けた言葉を出したのはチンピラか、千束か、たきなか、それとも全員か。

 秒間数十発で撒き散らされた銃弾が、1発の例外もなく斬り払われたという現実に理解が追い付かない。

 

 避けるなら分かる。防ぐのも分かる。

 そのくらいであれば覚醒者なら珍しくも無いし当然のようにやる。

 装備や魔法によって反射する事も常識レベルの事だ。

 

 しかし、だからと言って。超音速の弾丸全てを刀1本で斬るなどという事は話が別だ。

 そのような行いは無駄で無謀で無理があり。思考に空白が生まれる、生まれてしまう。

 

「間抜け面してんじゃねーっての」

 

 そしてその隙を、更なる領域に踏み込んだこの剣鬼が逃すはずもない。

 

 

 ―――《煌天の会心》―――

 ―――《急所》―――

 ―――《大地鳴動》*7―――

 

乱入剣*8格闘攻撃敵複数体に1~5回の物理属性ダメージ&PANIC効果

 

 無防備を晒す敵へ、急所を狙った会心の剣が襲い掛かる。

 装備による耐性を火力で無理矢理突破して文字通り数人が吹き飛ばしながら。

 剣鬼、八瀬宗吾は仮面の下で絶叫した。

 

「お前らぶっ殺すけどいいよな!! 答えは聞いてねぇっ!!」

 

「せめてキャラは統一しなよ!!」

 

 思わず千束は突っ込んだ。

 

 

 

*1
個人的には好み。あとウルトラマンの悪役? のコスプレをしたのも居た

*2
《アリ・ダンス》、《回避強化》

*3
TRPG誕生篇

*4
『プレートバンダナ』、『生気のリング』など。

*5
気功法において生体マグネタイトは「気」と表現される。

*6
TRPG覚醒篇

*7
TRPG200X。使用者が次に行う格闘攻撃の威力に、使用者のレベルの2倍を加え、クリティカル時の威力を3倍に変更する。

*8
真Ⅲ





◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 
ヒマつぶししてた魔人と出会った事で新たな域へと足を踏み入れる。
なお、チンピラたちは30秒も持たなかった。
今回の件でリコ・リコの面子と知り合ったり、謎のタイガーマスクから業魔殿への紹介状もゲットした。

・若槻美野里 
今回はお留守番。借りてる部屋でノンフィクション勧誘ビデオを視聴中。
相方がスクワットしつつ観てたのを気にしなくなった自分が別の意味で怖くなった。

・錦木千束
王蛇なのに刀振り回すわ電王の台詞叫ぶわキャラぶれし過ぎでは?

・井ノ上たきな
仮面ライダー王蛇は刀を使うのだと刷り込まれてしまった。

・ヒマつぶししてた魔人
実はほとんど会話らしい会話をしていない。
宗吾「隣座っても? 迷惑料代わりにこれ奢るから(安ビールとホットドッグのセット渡す」
魔人「……いいだろう」
彼が宗吾をどう思っていたかは不明。


―――――――――

更新遅くなって申し訳ない。
次回は掲示板回を予定。




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DD CHANNEL:【鍵】最前線で戦う方法を話し合うスレ5【鍵】

ギリギリ1ヶ月空かなくて済みました。


564:【名無しさん@LV上げ中】

 うおおおおお!!!!!!!! 

 これが! これこそが!! 仮面ライダァアアアア!!!!! 

 

565:【名無しさん@LV上げ中】

 観に行ったのかシン・仮面ライダー

 

566:【名無しさん@LV上げ中】

 賛否両論と聞くなー

 

567:【名無しさん@LV上げ中】

 マニアックというか子供向きじゃない感じ? 

 

568:【名無しさん@LV上げ中】

 超人が思いっきり人ぶん殴ったらどうなるかとてもよく伝わったよ

 まー俺らからすれば常識なんですが

 

569:【名無しさん@LV上げ中】

 本物のスプラッタに慣れちゃった身としてはねぇ……

 

570:【名無しさん@LV上げ中】

 慣れたくなかった、慣れなければならなかった

 やっぱ文明残ってるのサイコーなのお! 

 

571:【名無しさん@LV上げ中】

 クソ不味い保存食……期限切れの缶詰め……ううっ!! 

 

572:【名無しさん@LV上げ中】

 グロ画像が広がる中でもまともなメシがあれば

 気にせず貪っていた頃には戻れない!! 

 

573:【名無しさん@LV上げ中】

 その為にもっと強くならなくては……

 

574:【名無しさん@LV上げ中】

 という事で進捗報告ぅっ! 

 レベル上がって30代!! 

 

575:【名無しさん@LV上げ中】

 ボロクソにされて命からがら撤退

 何の成果も得られませんでしたぁっ!!!! 

 

576:【名無しさん@LV上げ中】

 壁ドン! (叩き付けられたという意味で

 

577:【名無しさん@LV上げ中】

 リアル苗床寸前で救出……

 

578:【名無しさん@LV上げ中】

 闘技場とかの対人環境でボチボチ魂の研鑽中~

 

579:【名無しさん@LV上げ中】

 う~ん先は長そうだ

 

580:【名無しさん@LV上げ中】

 異世界トリッパ―はチートが付いてくるものでは??? 

 

581:【名無しさん@LV上げ中】

 最近そういうの少ないっぽいよ

 こういう所でも時代の流れ感じるわー

 

582:【名無しさん@LV上げ中】

 高難易度過ぎるんですよこの世界

 シロエWIKI見ても分かるけど、こんだけ情報拡散しなきゃいけないくらいヤバい

 秘蔵の悪魔リストやら合体魔法のレシピ出回ってて頭抱えた(

 

583:【名無しさん@LV上げ中】

 なんてひどい世界なのか

 

584:【名無しさん@LV上げ中】

 あっ、仮面ライダーキメてて報告遅れたけどレベル50超えましたー

 前日譚のマンガ読んでからもう1回行こうかなー

 

585:【名無しさん@LV上げ中】

 なにっ!? 

 

586:【名無しさん@LV上げ中】

 おめでとう。そして方法を教えろください!! 

 

587:【名無しさん@LV上げ中】

 ほほぉ……いいレベルだな。キサマの修業方法とコテハンは!? 

 

588:【一般剣士@LV上げ中】

 鍛錬

 一般剣士

 

589:【名無しさん@LV上げ中】

 その鍛錬の内容を教えろってのに

 悪魔合体でもしたなら話は別だが

 

590:【名無しさん@LV上げ中】

 やっぱ外法の類? (猜疑の目

 とりあえず詳細ヨロ

 

591:【一般剣士@LV上げ中】

 えっと、まずこの世界に来た時はレベル30代前半で

 ちょうど出くわしたレベル70代の悪魔を何とかぶっ殺して限界超えて

 闘技場で研鑽積みながらレベル40代になったわけ。

 

592:【一般剣士@LV上げ中】

 そこで出来たツテ頼って異界攻略とか犯罪組織ぶっ飛ばすバイトに相方と一緒に参加

 何度か死んだり死にかけながらこの間ようやくって感じかな

 

593:【名無しさん@LV上げ中】

 来た時点で30代なのはドリフ全体で見れば強い方ですねぇ

 ……レベル70代倒したとか嘘でしょ(

 

594:【名無しさん@LV上げ中】

 ホラだろ、どうやって勝つんだ

 

595:【名無しさん@LV上げ中】

 撤収ー

 

596:【名無しさん@LV上げ中】

 勝てたのは相性良かったのもあるよ

 ボス属性持ってたら逆に斬り殺されてたなー

 

597:【名無しさん@LV上げ中】

 最初は目を瞑るとしてやってる事自体は至ってまともである

 研鑽重ねてコネ作ってより上の環境で実戦経験を積む

 

598:【名無しさん@LV上げ中】

 いや待て、こいつまさか噂のキ○ガイ剣鬼では? 

 というか間違いないわ

 

599:【名無しさん@LV上げ中】

 どちら様? 有名人なの

 

600:【名無しさん@LV上げ中】

 東京のレルムを拠点にしてる修羅勢のドリフ

 格上相手だろうが笑いながら斬りかかる危険人物って噂の

 

601:【名無しさん@LV上げ中】

 検証班に付き合って片腕吹き飛んでも、その腕使って殴り掛かる所見た

 あまりにシームレス過ぎて思わず二度見したね

 あと笑顔がコワい

 

602:【一般剣士@LV上げ中】

 ? いや、その程度普通じゃない? 

 腕や足飛んだり目ぇ潰されても動くでしょ。

 

 

603:【一般剣士@LV上げ中】

 あと誰にでも斬りかかる訳じゃないから! 

 斬っていい奴だけ狙ってるから! 

 斬るためには出来る事全部やってるだけだから!! 

 

604:【名無しさん@LV上げ中】

 だからって笑いながらは変態だと思うの(名推理

 何で笑えるのさ??? 

 

605:【一般剣士@LV上げ中】

 強い奴と戦うとワクワクするじゃん。知らないこと経験出来るのも嬉しいし

 ちなみに腕飛んだのは特技の類を反射する防具*1の検証で力入れ過ぎた

 知識は大事だな! 

 

606:【名無しさん@LV上げ中】

 まさしく修羅勢ですねぇこれは

 脳味噌まで戦いに侵されて手遅れですよ

 

607:【名無しさん@LV上げ中】

 これくらいガンギマリなら納得(白目

 真似はとても出来そうにないけれども

 

608:【名無しさん@LV上げ中】

 これで一般剣士を名乗るには面の皮厚過ぎでは? 

 

609:【名無しさん@LV上げ中】

(この世界の最前線組に比べたら)一般剣士

 

610:【名無しさん@LV上げ中】

 ……それなら、納得かな

 

611:【名無しさん@LV上げ中】

 惑わされるな! 

 修羅ってる奴が一般な訳無いから!! 

 

612:【名無しさん@LV上げ中】

 でもレベル100超えてる化け物相手にしてるのに比べたら……

 

613:【一般剣士@LV上げ中】

 まだまだなんだよなぁ

 足切りライン超えた程度でしかないし

 いまだにあの魔人斬れる絵が見えない( 

 

614:【名無しさん@LV上げ中】

 魔人と申したか(恐

 

615:【名無しさん@LV上げ中】

 へ、へぇ……まあ魔人と言ってもピンキリだし

 

616:【名無しさん@LV上げ中】

 魔人と遭遇=死だと思うのだけど

 これは自分の世界だけなのだろうか

 

617:【名無しさん@LV上げ中】

 大体似たような認識だから安心しろ

 

618:【一般剣士@LV上げ中】

 話し戻すけど、レベル上げるのは大事だがそれだけじゃ駄目

 スキルに装備の仕様とか含めて覚えなきゃならん事一杯ある

 武器も一心同体の域まで使いこなして的確な一手を打てるように

 

619:【一般剣士@LV上げ中】

 最低限このくらいこなさなきゃ強くなったとは言えない

 斬れる奴だって斬れない

 

620:【名無しさん@LV上げ中】

 物騒だけど言ってる事は本当にまともだ……物騒だけど

 

621:【名無しさん@LV上げ中】

 ハードル高すぎなんよー

 

622:【名無しさん@LV上げ中】

 検証してる人たちは本当に尊敬する

 ボ卿のコスプレしてたのは目を疑ったが(

 

623:【名無しさん@LV上げ中】

 あのマスク被ってるのは最初何の冗談かと

 

624:【名無しさん@LV上げ中】

 ちゃんと理由あるから! 

 個人情報守るためだかから! 

 

625:【名無しさん@LV上げ中】

 あれがこの世界じゃスタンダードなら怖いって

 

626:【名無しさん@LV上げ中】

 穴埋めが生活の一部なのです

 呼吸も同然(マスク触りながら

 

627:【名無しさん@LV上げ中】

 装備も強さの内なら金さえあれば底上げが……? 

 

628:【名無しさん@LV上げ中】

 問題は1級品買うだけの伝手も金も無い事(定期

 

629:【名無しさん@LV上げ中】

 ぐわあああああ!! 

 持ってた金がケツ拭く紙にしかならねぇからちくしょう!! 

 

630:【名無しさん@LV上げ中】

 大枚はたいた最先端装備がここじゃ力不足だった悲しみ

 売った金でもっと高性能なの買えた時の何とも言えない気持ちががが

 

631:【名無しさん@LV上げ中】

 売れるものがあるならマシ

 ゴミ扱いで処分代払わされそうになったぞこっちは

 払下げとはいえパワードスーツだったのに

 

632:【名無しさん@LV上げ中】

 重くてかさ張るだけの装甲服はその……需要がね(

 

633:【名無しさん@LV上げ中】

 物理攻撃に強くてBC兵器も防げる優れ物ではあるぞ

 ただ電撃に弱いし下手すると火炎にも弱くなるだけで

 

634:【一般剣士@LV上げ中】

 昔知り合いが電撃相性でぶった斬ったら

 誤作動で中身が緊急射出されたの見たわ*2

 

635:【名無しさん@LV上げ中】

 ただの産廃じゃねぇか

 

636:【名無しさん@LV上げ中】

 防具って結局は耐性パズルよー

 絶対の正解なんてないんだからさ

 

637:【名無しさん@LV上げ中】

 うむ、プレートバンダナのような軽減装備も合わせて

 常に考えなければならないからな! 

 

638:【一般剣士@LV上げ中】

 最近ようやく弾丸でも斬れるようになったが、絶対じゃないから対策も必須

 これさえあれば、なんて奴ほどすぐ死ぬ

 って事で自分もそろそろ得物をアップデートしようかなと思う

 

639:【一般剣士@LV上げ中】

 こっちに来てからレベル上げと勉強で忙しかったから後回しにしてたが

 足切りラインも超えたし丁度いい頃合いだろ

 

640:【名無しさん@LV上げ中】

 お、新しい剣にするのか。

 今まで元の世界の使い続けてたのもスゲーけど

 

641:【名無しさん@LV上げ中】

 修羅ってるだけあって良い武器持ってたのか

 

642:【一般剣士@LV上げ中】

 先祖代々伝わる家宝の刀だな。

 高校の時、親父のグラビア本と一緒に雑に置いてあったの持ち出した

 

643:【名無しさん@LV上げ中】

 なにっ、グラビア本と一緒?! 

 

644:【名無しさん@LV上げ中】

 それは本当に家宝なのか

 ボブは訝しんだ

 

645:【名無しさん@LV上げ中】

 ホラ吹き込まれてたんじゃね? 

 

646:【一般剣士@LV上げ中】

 いやマジモンの力ある刀だから!

 悪魔が近くにいると震えて教えてくれる便利機能付きの! 

 わざわざ気配探らなくてもいいから楽で助かってる

 

647:【名無しさん@LV上げ中】

 相性良いですねぇ(

 

648:【名無しさん@LV上げ中】

 斬っていい獲物を求める剣鬼とそれを教える魔剣の組み合わせ

 うーん、ベストマッチ! ビルドかな? 

 

649:【名無しさん@LV上げ中】

 逆を言えばそれだけでしかないのだな。

 他に何か特殊な機能を有していたりはするのだろうか? 

 

650:【一般剣士@LV上げ中】

 特殊なっつーか、これ悪魔と合体して威力が上がるやつなんだけど

 こっちに来る前に合体解除して中身スッカラカンのまんまなんだわ

 だから火力もだいぶ落ちてる

 

651:【名無しさん@LV上げ中】

 えっ

 

652:【名無しさん@LV上げ中】

 え? 

 

653:【名無しさん@LV上げ中】

 む、そうなのか

 

654:【一般剣士@LV上げ中】

 もう自分の手足と同じだからある程度までは問題無かったけど

 これから先の戦いじゃ力不足だし、合体して性能上げる必要がある

 今度異界攻略の仕事する時にでも目当ての悪魔捕まえられるといいんだが

 

655:【名無しさん@LV上げ中】

 つまり合体剣の素体のままで戦ってた……ってコト!? 

 

656:【名無しさん@LV上げ中】

 あの、そんなのでレベル70代をジャイアントキリングしたのあなた? 

 

657:【名無しさん@LV上げ中】

 どう考えても変態です、ありがとうございました

 

658:【名無しさん@LV上げ中】

 うん、こいつの事を参考にしてはいけない(確信

 とてもじゃないが真似出来ん

 

659:【名無しさん@LV上げ中】

 安心しろ、オレもだ

 

660:【一般剣士@LV上げ中】

 ひどくない? 

 普通に頑張ってるだけなのに

 

661:【名無しさん@LV上げ中】

 こわい

 

662:【名無しさん@LV上げ中】

 こわいです

 

663:【名無しさん@LV上げ中】

 普通なんだけどこわい

 

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 カラン、と何かが落ちる音が部屋に響いた。

 空気椅子で読書に励んでいた宗吾が視線を向けると、そこにはPC画面を凝視したまま動かない美野里の姿がある。

 どうやら持っていたコップを床に落としてしまったようで、中に入っていたコーヒーが仮宿のカーペットへと広がっていく。

 

「―――何かあったのか?」

 

 そのただならぬ様子に読んでいた本―――仮面ライダーの漫画―――を閉じて尋ねた。

 何か重大な事件でも起こったのか。

 例えば、以前起きたという怪獣の再出没、あるいは何処かの敵性勢力が襲撃を仕掛けたなどの。

 立てかけてあった竹刀袋から愛刀を取り出し何時でも動けるように準備をする。

 

「…………」

 

「…………あのー、美野里さん?」

 

 問いに答えず、美野里はゆらりと立ち上がった。俯きがちで表情は窺えない。

 しかし、何故か分からないが。

 噴火寸前の火山とか般若の顔が背後に見えるのは気のせいだろうか。

 思わず敬語になってしまった宗吾へ近づくと一言。

 

「……刀出して」

 

「アッハイ」

 

 辛うじて聞き取れる大きさながら、有無を言わせぬ迫力に満ちた声に逆らえるはずもなく。

 宗吾はノータイムで目の前に刀を差し出した。修羅勢でも怖いものは怖いのだ。

 そして、白磁のような白い指先が彼の持つ刀に軽く触れる。

 

 

サイコメトリー*3物や写真に触るだけで、経緯や持ち主の事柄などが分かる。

武器強化*4自動効果習得時、使用武器を選ぶ。

その武器で使用する攻撃スキルを獲得していなければならない。

指定した武器の命中、威力修正を2倍にする。

該当の武器との絆レベル【5】以上が必要。

「鬼神楽*5格闘武器八瀬家に代々伝わる魔剣。

剣合体によりその力を増していくが、現在は何も宿していない。

威力:70(57)*6 命中:11⇒威力:140 命中:22

 

 

 

 

 

 「―――あんた今までこんなショボい刀で戦ってたの!!?」

 

 

 

 この後滅茶苦茶剣合体した。

 

 

 

*1
※デビサマ 「スプリガンベスト」

*2
※誕生篇仕様。電撃を受けた場合10%の可能性で壊れ、着用者をアンダースーツ姿で放り出す

*3
TRPG誕生篇仕様

*4
TRPG200X

*5
TRPG200X「錬気の剣」

*6
熟練度最大。素の攻撃力は真Ⅳの初期装備「サムライの刀」より少し高い程度




◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 
実は中身空っぽの合体剣で戦ってた男。
めっちゃ説教されてから合体プランを練る事に。
個人的なこだわりで「魔剣」という言葉はあまり口にしない。
レベルも上がった事で新しいスキルツリーが解放されそう。

・若槻美野里 
掲示板見てたら相方のとんでもない暴露に思わずフリーズした。
実は低火力の武器を使い込んでいるという点において宗吾と同類だったりする。
最近業魔殿と邪教の館の反復横跳びに慣れてきた。


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Line Of Defense-前篇-

かなり間が空いて申し訳ありませんでした。
長引きそうなので全中後篇です。



 

 アストラル・シンドロームと呼ばれる病気がある。

 幽体離脱症候群とも呼ばれるそれは、罹患すれば原因不明の昏睡状態へと陥る恐るべき病だ。

 実態は精神をとある電脳異界に取り込まれた事による現象なのだが、表向きはそうなっている。

 

 被害者数は国内だけでも数千人以上。

 海外に至っては計測不能なレベルで増え続けている。

 これ以上増えれば病床はパンクし、次のセプテントリオン襲来後の大きな足枷となるのは間違いない。

 

 推測される今後の経済面、介護面における負担の大きさから被害者たちを“脳死判定”とする法案まで通ろうとしているのが現状であり。

 そしてそれを裏で推し進めているのが《八部連合阿修羅会》。

 ―――国内最大の寄生虫(ヤクザ)たちである。

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

「リアルでハビタット計画みたいな事やってるとかさ。

 何度聞いても正気疑うわ、うん。

 ほらあれ……宇宙猫ってやつ」

 

「あたしも初めて聞いた時そんな顔になったわ。

 絶っ対正気でやれる事じゃないでしょそんなの。

 もし素面でやってるなら、正真正銘のサイコパスか馬鹿ね」

 

「なんか昔香港で重サイボーグ(サイバーサイコ)共が電子ドラッグ(VR)キメてたの思い出すな。

 ヤバさで言うならこっちが全然なんだが社会問題なのはどっちも同じな所で」

 

「あ、そっちにもあったんだVR。

 リミッター外した製品流すブローカーが絶えなくていっつも捕まえてたわー」

 

 都市圏最大のアストラルシンドローム収容病院。

 その正面に配置されたそこそこの広さがある広場にて。

 うららかな日差しの差すベンチで2人の男女―――宗吾と美野里は愚痴るように言葉を交わしていた。

 

 一見すれば若い男女のデートにも見えなくはない。

 が、話す内容は逢瀬にしては些か物騒に過ぎる。服装もそうだ。

 素人目には普段着にしか見えないが、身に着けているのは全て偽装された防具とアクセサリー。

 武器も一般人には見られないよう複数隠し持ち、いつ戦闘になっても即応できる状態だ。

 

 加えて、どちらも呆れの混ざった声音に反して周囲の警戒を全く怠っていない。

 親に連れられて来た幼子から、通院のため訪れた老夫妻まで。

 病院を訪れる人間全てをチェックし、違和感があれば内部の同業へと報告を入れている。

 その性質上、警備もほぼ万全に近いこの病院で何故そのような事をしているのかと言えば、

 

「ヤクザ共のカチコミ、あると思うか? 

 俺は今日の晩飯のおかずを賭けてもいい。

 本当は来ない方が一番なんだが」

 

「同じ方に賭けるんだから意味ないわよ。

 “千束”たちいわく、他にもめぼしい候補はあるらしいけど……嫌な事に勘が疼きっぱなし」

 

「世も末過ぎると思うなこんちくしょう」

 

 裏闘技場での一件で知り合って以来、度々仕事を共にするようになった少女。

《喫茶リコリコ》の看板娘にして《リコリス》の一員である錦木千束を通しての依頼。

 ―――ヤクザたちによる襲撃、アストラルシンドローム患者の拉致を防ぐためだ。

 

「昏睡状態の人間使って何する気かは知らんが。

 ぜってーロクな事じゃないよなぁ……てか想像したくない。

 連中の施設襲撃した時も脳ミソ吸出し現場だったし」

 

「想像するだけでも気分悪くなるっての。

 鉛玉撃ち込んでよさそうのしか来ないのが幸いね」

 

「斬っても問題ねーのもな。

 人様の負担に付け込んで身柄の引き受け―――人身売買までやらかしてんだ。

 これ以上堂々と外道働きなんてさせたら駄目だろ」

 

「まったくだわ」

 

 それは2人が以前出くわしたマンハント、その派生形態の一つ。

 一般人の目を気にせず白昼堂々行われる、常軌を逸した蛮行に他ならなかった。

 

 美野里は手元のタブレットに視線を落とす。

 そこに映し出されているのは周辺の監視カメラ映像だ。

 もちろんだが事前に許可は取ってある。

 

 今の所怪し気な物も人の姿も無い。

 道路を走る一般車両と通行人のみ。

 なんてことのない、ありふれた光景だけが広がっている。

 

「……病院狙うとかふざけんな」

 

 ポツリ、と美野里の口から声が零れた。

 怒りと憎悪、そして僅かな悲しみの混じったものだ。 

 許せない、許せるはずも無い。

 こんな光景(へいわ)を壊そうとすることも、何より病院を狙うという行為そのものが。

 

 思い浮かぶのはかつて自分がいた世界。

 学園都市須摩留―――またの名を〈真実の都市(イデアシティ)〉。

 完全支配された労働力(アクマ)を用いてどこよりも発展した最先端都市。

 外から入学した“学生”だった自分は本当の意味で馴染めなかったあの場所。

 

 急激なGPの上昇で暴走した悪魔たちとの戦いに次ぐ戦い。

 当然無傷で済むはずもなく、何人もの仲間が倒れていった。

 そして治療を受けていた都市最大の病院で、

 

『我ハ魔人ペイルライダー! 

 弱者ヨ、コノ蒼キ騎士ニ恐レ慄ケ!!』

 

 突如として現れた四騎士の一画―――ペイルライダー。

 多くの学生が―――即ち覚醒者が―――いたから。

 それだけの理由で襲い掛かってきた魔人。

 

 動けない仲間たちを見捨てて逃げるなど論外。

 全てを守り抜くには力も数も足りなさ過ぎて。

 それでも、皆と死に物狂いで戦ったのを覚えている。

 

 結果として撃退には成功したものの、帰らぬ人となった者も少なくなかった。

 

 あの時とは状況も何もかもが違うが、どうしても意識してしまう。

 口の中にジワリと鉄の味が広がりタブレットを持つ手にも力が入る。

 忘れられぬ怒りが腹の底から湧き上がってくるのを抑えきれず―――。

 

「ほいほい深呼吸……その辺で飲み込んどけ美野里ちゃん」

 

 軽く肩を触られる。本当に触ったかもどうか分からないほどに軽く。

 それだけで荒れ狂いそうになっていた感情の波がスッと納まった。

 

「っ―――」 

 

 別にその程度でどうにかなるような安くもチョロくもない女だ。

 そのくらいの自負はある。

 おそらく気功法あたりで*1マグネタイトを流し込み、こちらの精神を安定させたのだろう。

 だから思ったのは、

 

「……いつも思うけど気安く触らないでよ。

 セクハラよセクハラ。

 私じゃなかったら訴えられるんですけど」

 

「いや今のは軽く触っただけじゃん。

 胸揉むより全然マシだろ」

 

 ホラ最初に会った時みたいに、と手をワキワキ動かす剣馬鹿。

 何か腹が立ったので、とりあえず脛を鉄板入りのブーツで蹴る。

 悶絶して蹲るのを見下ろしながらため息を一つ吐く。

 

「ごめんなさい、ちょっと気負ってたわ」

 

「そいつは何よりだが次は手加減してくれ……!」

 

「だって本気でやらないと効かないじゃん」

 

 などと軽いじゃれ合いも終え、改めて襲撃へと備える。

 先にも言ったが来ないのが最良なのは間違いない。

 しかし物事はそう都合良く行かないのはどちらも経験則で知っている。

 

 ヤクザたちは必ず来る。ここが戦場になるのはほぼ確定事項。

 患者以外の一般利用者もいるこの病院を何としてでも守り抜かねばならない。

 不安はある―――しかし絶望はない。 

 何故なら、この病院を守っているのは自分たちだけではないから。

 

 天魔の力を振るうDBを始めとしたキリギリスの精鋭たち。

 何度も仕事を共にし、その腕前を良く知るリコリスの少女2人。

 葛葉四天王のゲイリンや対悪の警察官たち。

 そして〈最後の大隊〉と呼ばれる漂流者(ドリフター)の中でも最大の集団。

 

 自分たちより強い格上も頼れる相手も数多くいる。

 確かに守る側に比べ、無法者故に手段を選ばぬ事が出来る相手が断然有利だろう。

 だがそれを真正面から跳ね除けるだけの戦力がここにはある。

 

 そして状況が動いたのはこれより数十分後。

 車道を進む3台のマイクロバスが監視カメラに映った後。

 持ち前の勘の鋭さと僅かに見えたバス内部の様子から、即座に他のメンバーへと伝達。

 

 すぐさま近くにいた青年が躊躇いなく道路へと踏み込み、

 

 

「物反鏡」消費アイテム次ターン、味方全員を物理反射にする

《カバー》自分に攻撃を移し替える

 

 

 物理反射(テトラカーン)によって()()()()()宙を舞う車体。

 鈍く響いた金属の音―――それが開戦の号砲となった。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「お前たちをブラッドぱーティーにしてやる!!」

 

「聖戦だおらあああああ!!!」

 

 炎上するバス3台と石化した何人もの人間たちを背景にして。

 白い仮面を被ったトレンチコート姿の外道と緑がかった黒鎧の天魔が吠える。

 互いに繰り出すのは全てを打ち据える万能魔法(メギドラ)と鋼さえ断ち切る2段斬撃(ツインスラッシュ)

 

 遅れて届く破砕音と衝撃が連続し止まる様子を全く見せない。

 互いにレベル60代後半―――この戦場における最高峰(ハイエンド)同士の戦いだ。

 生半可な者では踏み込んだ瞬間に相応の代償を支払う事となるだろう。

 

 こうして戦闘が始まった時点でヤクザたちの初手。

 すなわち悪魔融合車両と爆弾化*2させた覚醒者(ロバ)を使った突撃は失敗に終わった。

 

 中にいた一般人を含める被害者たちは《ペトラレイ》による石化によって無力化(保護)

 状態異常の上書きによって爆発*3も阻止する二重の対策。

 そして後で蘇生を行えば死ぬ事は無く記憶にも残らない。

 

 同時に行われていた動画配信による情報戦。

 これも事前に対策していた電霊とハッカーたちが新作特撮の番宣として偽装し阻止。

 視聴していた人間の殆どは良く出来たCGとしか思わないだろう。 

 

 相手の出鼻を挫く事にはこれ以上ないほど成功したと言える。

 だがこの場に居る者たちは分かっていた―――これは陽動だ。

 正面から派手に仕掛ける事で目を逸らす手でしかないのだと。

 

 今頃は他のルートから病院内への侵入が行われている頃だろう。

 人数的にはそう多くはないはずだが、間違いなく質の高い者たちが向かっているはず。

 残念な事にそちらは内部の人間に対応を任せる他なく。

 さりとてこちらも決して気を抜いて良いわけではない。

 

「さっさと入りこめぇっ!!」

 

「数はこっちの方が多いんだ! 押せ押せ押せ!!」

 

 

\カカカッ/

軍勢ヤクザの群れLv50相性:??? 

 

 

 破壊されたマイクロバスの後方。そこから続々と何台もの乗用車が姿を現す。

 降りて出て来たのは武装したヤクザの集団だ。

 第2波―――すなわち追撃の為に用意されていた人員。

 

 個々のレベルでずば抜けているのは少ないが、まとまった数はそれだけで脅威となり得る。

 仮に1人でも中に入れてしまえば誰かの血が流れるのは間違いない。

 そうでなくとも、既に人を辞めてしまった者も含まれているのだ。

 

 通常の悪魔と同様に意識不明の身体や新生児に情報汚染の被害が及ぶ可能性もある。

 故に―――。

 

 

 

 

 

 「ノーコンテニューでぶっ殺して(クリア)やるよ……!」

 

 

 

 

 速攻で片付けるのみ。

 

 景観のために植えられた街路樹、それを足場として跳躍。

 宙を舞いヤクザたちの上を取った剣鬼の声が響き渡る。

 体を捻るようして構えられるのは妖しげな光を放つ刀だ。

 

 見る者の目を奪う美しくも恐ろしい―――魔剣の類。

 

 反射的に幾つもの銃口が向けられた。

 ヤクザたちの顔に浮かぶのは危機感、あるいは嘲弄の色。

 身動きの取れない空中で、あの姿勢では防御もままならない。

 如何な対策をしていようと、これだけの集中砲火を前にしては無駄に命を散らすだけ。

 

「技借りるぜ“凛子”」

 

―――《搬運功》―――

 

 それを眼にしながら平然と口ずさむのは女の名。

 直後―――()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どこに行っ」

 

 疑問の声は続かない。

 そもそも彼らは違和感を持つべきだった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「―――“雲耀”

 

 

《雲耀の剣》*4万能物理スキル敵前列に万能相性ダメージ。

八瀬宗吾の行使する3つの雲耀の内、最も消耗が少ない。*5

《搬運功》*6気功に分類されるカルトマジック。

外界の気の流れを操作し空間転移(テレポート)を行う。

超人以上ならば他者も含めて可能だがその領域には届いていない。

かつて出会った封剣士の女が得意としていた術でもある。

 

 

 答えは群れの中心、全員の意識の死角()から現れる。

 視線誘導(ミスディレクション)と空間転移を併用した()()()()()()()()()

 上空へ注意を向けたままの木偶(ヤクザ)たちには防御も反応も許されない。

 そして所詮使い捨ての駒(下っ端)である彼らに万能耐性などあるはずもなく、防げるような防具*7も与えられてはいない。

 

 よって最期まで何が起きたのか理解出来ぬまま意識は暗転。

 アスファルトに斬り分けて転がった複数の肉塊と化す。

 

 

 

 

「て―――、んめぇええええ!!?!? 

 やりやがったなこのクソガキャぁっ!!!!」

 

 ―――ただ一人を除いて。

 

 

\カカカッ/

魔族サーヴァントヤクザLv55相性:全体的に強い、破魔無効

 

 

 胸を半ばまで両断されながら耐えきったのは口元に鋭利な歯を覗かせる男。

 サーヴァント―――すなわち悪魔とは異なる生体吸血鬼の下僕。

 物理的に脳を破壊し薬漬けにした、お手軽な強化装置の恩恵を受けた人外だ。

 

 人を辞めた証拠に、今こうしている間にも与えたはずの斬傷が煙を上げながら塞がっていく。

《大治癒促進》などのスキルによる自動回復ではなく、生態的機能によるもの。

 古代より続くカインの末裔、その呪いの力が下僕とはいえ死ぬ事を許そうとしないのだ。

 

「……なるほどな」

 

 そもそも万能相性の雲耀は3つの中で最も威力が低い技である。

 レベル以上の生命力と耐久力を備えた相手を殺せなかった事は別に可笑しなことでもない。

 その事実を踏まえた上で。

 

「まだ届かねーか、俺の剣は」

 

「舐めるなあああ―――!!」

 

 未だ高みへは届かぬと受け止めた言葉。

 それを挑発と受け取ったサーヴァントヤクザの足元が()()()

 かつて人間だった頃とは比べ物にならない脚力による超加速。

 

 音に迫る迅さで狙うのは心臓一点―――この生意気な小僧から抉り出し喰らってやるのだ。

 

 

《怪力乱神》*8物理スキル敵単体に物理属性で大威力の攻撃を1回行う。

 

 

 繰り出されるのは力任せの、だからこそ対応の難しい一撃。

 シンプルに速く強い暴力はそれだけで回避も防御も許さない。

 掠めただけで脳震盪、直撃すれば死は免れないだろう。

 

(こいつでくたばっちまえ――――)

 

《見切り》*9防御スキル相手の武器の長さをセンチ単位で見切り、

攻撃半径すれすれを移動して回避する。

成功時、相手への攻撃権を得る。

 

 だから見切った。

 一歩横へと逸れる、それだけで十分。

 振り遅された凶腕は何もない空間を打撃するだけで終わった。

 

「あれ???」

 

《もがり笛》*10物理スキル抜刀術に分類されるスキル。

対象の喉や首など防御の薄い箇所を切り裂く。

物理防御点を無視する。

 

 同時に抜刀、すれ違いざまに相手の勢いをも利用した断頭の一閃。

 体だけはそのまま前へ転がっていき、頭は明後日の方向に飛んで見えなくなった。

 

「こいつがサーヴァントってやつか。

 概要だけはシロエWIKで読んでたが……頸落とす要領は人間と同じだな。

 終わったら書き込んどかねーと」

 

「いやそんな情報要らないから。

 あんたみたいな変態以外で」

 

 背後からの声に宗吾が振り向く。

 そこにいたのは少し離れた場所で戦っていた相棒の姿。

 装備に汚れこそ見られるが特に目立った負傷はない。

 

「そこはあれだよ、無駄なデータなど存在しない的なやつ。

 それと、そっちの方はどうなった?」

 

「予想通り伏兵とか破壊工作しようとしてた奴らがいて〈最後の大隊〉の人達と叩いたわ。

 流石プロというか、もの凄い連携と十字射撃であっという間に終わったけど」

 

 美野里も戦ったがメインで活躍したのは彼らだった。

 一応デモニカ装着者(ユーザー)だった身として、あそこまで使いこなせるのかと感心したほどだ。

 ―――もっとも、こちらは正規の訓練を受けた訳でもない窃盗犯だったが。

 

「あんたの方は聞くまでも無いわね

 この数を一蹴とか腕上がったんじゃない?」

 

「いーや、まだまだだ。

 一番火力の低い万能の雲耀だからって耐えられちまった」

 

 そもそも小細工を弄してまで放った先制攻撃(雲耀)で仕留めきれなかったのが未熟の証なのだと言い切った。

 究極の一太刀と呼ぶにはあまりにも烏滸がましい。

 

「何回か仕事一緒にした可奈美ちゃんって子がいたろ? 

 あの子ならたぶん出来てたぜ」

 

「ああ、あの中学生くらいの……いやでもレベル相当高そうだったし」

 

「それ言い訳にしたくないんだよなー。

 俺も早いとこあのくらいまで上げたいわ」

 

 他にも忍者らしき少年と一緒に仕事をしたが、彼もまたずっと強かった。

 この業界に年齢など関係ない事は承知の上だが、それでも思う所はある。

 最低ラインに立ったくらいで満足していてはいけないのだ。

 

「この後は予定通り大隊と合流だな。

 流石にこれ以上のお代わりは無いとは思うんだが」

 

「なら連絡入れて千束とたきなたちの方と合流する?

 巡回するならそっちの方が効率いいかも」

 

 美野里の案に頷き、連絡の為装着したインカムに手を伸ばして―――鯉口を切る。

 

 「チッ、最悪……っ!」

 

 舌打ち、そして険しい表情を浮かべ美野里も銃を構えた。        

 気配がする。探らなくとも分かるほど濃密な()()が漂ってきた。

 これに比べれば先程斬り捨てたヤクザたちなどまだマシだ。 

 

 かつん、かつんと戦場に響くのは重苦しい足音。

 やがて視界に入り込んできたのは2つの人影。

 

 姿形は人型であれど―――それは決定的に“外れて”いた。

 

 

 「刺してあげる! (ファックユー)刺してあげる! (ファックユー)刺してあげる! (ファックユー)

 

\カカカッ/

悪魔人間ウィドウLv59(Mag強化済み)相性:全体的に強い、精神・破魔・呪殺無効

 

 

 「キルマム! キルマム! キルキルマム!! 」

 

\カカカッ/

悪魔人間ホラースターLv64(Mag強化済み)相性:物理反射、破魔・呪殺・魔力無効

 

 

 

 片方は黒いレースの喪服を着た、古びたガスマスクに異形の鉄爪を装着した小柄な女性。

 片方はホッケーマスクに横縞のセーター、皮のエプロンを付けた電気鋸(チェーンソー)を持つ大柄な男性。

 

 ヤクザと言うには悪い意味で不似合いで、襲撃者というには納得するしかない容貌。

 どう見ても正気には思えない。そもそも殺意しか振りまいていない。

 まるで別世界から迷い込んできたような2人組で―――自分たちより格上という事だけは確かだ。

 

 

「分断した方が良いなこりゃ。美野里ちゃんは女の方頼む」

 

\カカカッ/

剣士八瀬宗吾Lv55相性:全体的に強い、破魔・呪殺無効

 

 

「了解。今大隊の人達にも連絡入れたからすぐ援護に来てくれると思う」

 

\カカカッ/

サイコメトラー若槻美野里Lv5Ⅰ相性:破魔・呪殺・神経無効

 

 

 挑まない理由はない。引けば間違いなく犠牲者が出る。

 この病院を、患者たちを守ると決めたのだ。

 なら格上だろうと倒して自分たちの力に変えるまで。

 

 

 今ここに―――漂流者(ドリフター)同士の死闘が幕を開けた。

 

 

 

 

 

*1
《正呼吸》精神治癒魔法。MPを倍消費すれば他人にも使用可能。

*2
※DSJ 状態異常「爆弾化」

*3
※真シリーズ・DSJなどでは死亡の次に<石化>が優先される

*4
※TRPG200X

*5
TRPG200Xでのデータ上ではコスト0で使用可能

*6
※TRPG基本システム

*7
「スプリガンベスト」

*8
※真Ⅳ

*9
TRPG誕生篇

*10
※TRPG覚醒篇




次回はなるべく早めに投稿したいと思います。


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Line Of Defense-中篇-

予想より筆が乗ったので投稿します。


 

 

―――〈20xx/xx/xx 大学エリア〉―――

 

 

「―――どこへ行くつもりだね美野里」

 

 背後から名前を呼ぶ声がした。

 振り返ってみても、そこには誰もいない。

 いや、正確に言えば“人”はいなかった。

 

 視線をやや足元へ向けるとそこには1頭の犬が佇んでいる。

 赤銅のような体毛に子供程度なら圧し潰せそうなほどの巨躯。

 そして獰猛なように見えて確かな知性を感じさせる瞳。

 

 普通に考えれば、都市の外の常識で考えればあり得ない事だが。

 声はこの犬から発せられたのだと信じる者はそういないと思う。

 少なくとも学園を訪れる前の自分なら鼻で笑っていたかもしれない。

 

 

 ―――面倒なのに見つかった。

 

 

 過った思いと共にため息をつきながら、無視して正面を向く。

 無駄な時間を使っている暇は無い。

 たぶん、今を逃せばチャンスは二度と転がって来ないだろうから。

 半ば廃墟と化した街中を早足で歩く。

 しかし、自分以外の足音も後ろから着いて来る。

 

「この先は……確か工科大学の研究施設だったな。

 あの場所に何の用がある? 

 許可の無い人間が近づけば警備システムが動くぞ」

 

「…………強盗」

 

 やがて隣に並ぶようにして追いついた犬―――生体兵器(サイボーグドッグ)である“ブラッディ”へ短く答えた。 

 何も言わないままだと遠吠えでもして注意を集めてきそうだったからだ。

 周囲に悪魔の気配は無いが、目的を考えると余計なトラブルを招くリスクは避けた方が良い。

 

 そう、今からやろうとしているのは強盗。つまりは犯罪行為。

 本来取り締まる側の人間、特別課外活動部の一員であった自分がやるべきことではない。

 いや、元々そこまでルールにこだわるタイプではないし必要ならダーティな手を取る事もある。

 そもそも状況が状況なので緊急避難と言えなくもないかもだし。

 

「随分前に問題児(コユキ)を締め上げた時なんだけどね。

 あそこで新型のデモニカスーツ開発してるって情報があったの。

 一から育てるんじゃなくて今のレベルを底上げするタイプ」

 

 歩きながら口に出すのはいつかの仕事の時の事。

 倫理観を投げ捨てた後輩ハッカーを締め上げたよくある事件の一つ。 

 マシンで撥ねて鎮圧していつも通り縄でぐるぐる巻きにした後で、確認がてらに覗き込んだモニターに映っていた情報だ。

 

 厳重なセキュリティを突破する手腕に呆れながらも、興味を引かれたので自分も閲覧した。

 無論、バレたらペナルティが来そうだったので、見た事全ての責任はコユキに擦り付けて誤魔化したけども。

 

「―――病院の件は君の責任ではない。

 むしろよくやった。生き残って、なおかつ多くの人間を守ったのだ」

 

 一瞬足が止まりそうになって、そのまま加速。

 気付けば早足から駆け足になっていた。

 壊れた銃の残骸や薬莢を時折踏み散らして進み続ける。

 

「次も、上手く行く保証はないでしょうが。

 死んだ子だっている、守り切れなかった人だっている。

 何より―――元凶をぶっ殺せてない」

 

 先日あった病院への襲撃。

 レベル50越えの大悪魔―――魔人ペイルライダーとの戦い。

 あれが最後に放った致死の呪いで蘇生の間に合わなかった“学生”が何人もいる。

 しかも自分たちに出来たのは手傷を負わせて追い払っただけ。

 

「このままじゃ、敵を討つ前に全滅する。

 あいつだけじゃなくて他にも最低3体以上は魔人がいるわ。

 なら……手段選んでる暇じゃないっての!」

 

 学園というか理事長にはまだ切り札が残っているのだろう。

 おそらく、アバドンゲート対策の精鋭か兵器辺りが。

 だけどそれを四騎士相手に切らない事からそう容易く使えるものではないのは間違いなくて。

 

「仮に特別課外活動部と風紀委員だけで対処しなければならないなら……なるほど。

 君のやろうとしている事にも納得がいく。

 ―――ただ一つを除いてね」

 

 一拍の間を置いて。

 

「何故私を置いて行く? 

 後輩たちや“シャノワール”はまだ動ける状態ではないが、少なくとも私は大丈夫だ」

 

 どこが大丈夫なのだと言いたくなった。

 確かに特別課外活動部の後輩たちはベッドの上の住人。

 もう一匹の生体兵器(シャノワール)に至っては意識不明ときている。

 だがこいつだって生体部分の幾つか削れて機械化部分が増えたばかりだ。

 

「あんたがさっき言ったみたいに警備システムはまだ生きてる。

 最悪ハチの巣にされるのはあたしだけで十分よ」

 

 ぶっきらぼうにそれだけを答える。

 実際、他の面子の復調を待っている暇もない。

 もう暫くすれば各所で起きた四騎士襲撃の混乱も納まる。

 そうなってしまえば装備は切り札の一つとして安全地帯へと移送されるだろう。

 だからその前に回収する必要があるし、諸々の罪を被るのも自分だけでいい。

 

「では勝手に私も動かせてもらおうか。

 勝手に囮役として暴れるからそちらも勝手にしたまえ

 30分ほどならまあ稼げるだろう」

 

「人間以上に勝手な犬ね。

 帰ったらブラッシングしてあげる」

 

「それは楽しみだ―――では始めよう」

 

 懐から円筒状の物体を取り出し、歯で安全ピンを抜く。

 視界に映るのは鉄柵で囲われた研究施設。

 対人・対悪魔センサーが反応し設置された幾つもの銃座が自分たちを向く。

 

 

 躊躇わずに進み―――煙幕弾を投げ入れた。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

「愛してる! 愛してるの! 愛してるのよ!!」

 

 一方的な愛の告白(ラブコール)を叫びながら女―――ウィドウが()()()()

 地面を、壁を、樹木を、電柱を、車を。

 まるでスーパーボールが弾むかのような高速かつ不規則な立体機動。

 四肢を使って這い回るその動きは、恰好も相まってさながら人間大の蜘蛛のよう。

 

「気色悪いのよっ!!」

 

 返答代わり美野里は牽制の弾をばら撒いた。

 自分はノーマルだし、そうでなくともこんな相手は御免被る。

 だが拒絶の籠った銃撃は当たらない、時々掠めはするものの直撃には至らない。

 

(狙いにくい―――でもっ!)

 

 下がり続ける少女に追いすがる女。

 鬼ごっこと言うにはあまりにもおぞましい光景だ。

 捕まりでもしたらどうなるのか―――あまり想像はしたくない。

 

待って、待って、置いて行かないで!!!!(ウェイト ウェイト ウェエエエイト)

 

 狙いもあったとはいえ、()()()琴線に触れたのだろう。

 どうやら向こうも美野里だけを獲物(ターゲット)と認識したらしい。

 接敵して以降、特に何かを仕掛けた訳でもないのに追いかけ続けている。

 

 そうして一定の距離を保ちながら移動を続け、やがて辿り着いたのは開けた場所。

 襲撃前まで宗吾と話していた広場だった。

 ここならばあのふざけた動きも抑えられると踏んでの誘導だ。

 

(素直に着いて来てくれるかが問題だったけど。

 ……こんな奴にモテても全然嬉しくないわね)

 

 少し遅れてアスファルトを削るような着地音。

 ゆらりと立ち上がったウィドウとガスマスク越しに視線が合う。

 ドロドロとした感情がこれでもかと言うほど煮詰められた濁った瞳。

 

 ―――その辺のDARK悪魔の方がよっぽどマシな目つきをしていた。

 

愛してるわ(アイラブユー)

 

―――《バッドカンパニー》*1―――

 

 

 マスクでくぐもっていても分かる、どこかうっとりとした狂気の滲む声。

 幾つもの魔法陣が背後に展開されマグネタイトの奔流が走る。

 

 

\カカカッ/

妖獣ジャージーデビル×8Lv27相性:呪殺反射・破魔無効

 

 

\カカカッ/

凶鳥フリアイ×4Lv21相性:ガン以外の物理攻撃に強い

 

 現れるのは馬や人に翼が生えたかのような異形の悪魔たち。

 レベルが低いものの都合12体。

 自我を抑制した上で本来の数には届かない*2ものの驚異的な使役数だ。

 

 ならば―――。

 

「仲魔呼ぶならこっちもよ」

 

 

 ―SUMMON――

 

 

『おっと出番かねぇサマナー!』

 

\カカカッ/

鬼女アマゾーンLv43相性:電撃反射、破魔無効、呪殺に強い

 

『ムチャしなさんなよお嬢さん』

 

\カカカッ/

秘神ヤリーロLv48相性:物理に強い、破魔反射

 

『来るがいい邪悪な者ども』

 

\カカカッ/

神樹ハオマLv51相性:破魔・呪殺反射、火炎に弱い

 

 野性的な女戦士、白いマントの青年、樹木と同化したような石像。

 量では負けるが質では遥かに凌駕する悪魔たちが召喚された。

 いずれも異界潰しのバイトに業魔殿と邪教の館の反復横跳びの成果。

 宗吾とは異なる血反吐を吐く努力と涙とマッカの結晶である。

 

 

戦闘開始(オープンコンバット)!」

 

《―――Application Launch―――》

 

 

 ―――《Sリフレクト:テトラカーン》*3―――

 ―――《S烈光の秘法:タルカジャ》*4―――

 

 音声入力によりセットされたアプリが起動。

 自動的に攻撃強化と物理攻撃反射の結界が行使される。

 レベルが上がって《テトラカーン》を覚えた事。

《スキルハック》で《タルカジャ》を一時的に習得した事により使用可能となったアプリ。

 自動発動のため無駄なコストも使ってしまう可能性もあるがそこは承知の上だ。

 

『来なよ雑魚共ぉっ!!』

 

 ―――《挑発》*5―――

 

 女戦士の挑発によって敵の攻撃力/防御力が強化/弱体化される。

 

『まずは様子見っと』

 

―――《テトラジャ》*6―――

 

 白き豊穣神の守りが味方全体を覆う。

 

 ―――「デカジャの石」―――

 

 美野里が強化解除の石を投げ込む。

 そして最後。

 

『消し飛ぶがいい』

 

 ―――《ブラストアロー》*7―――

 

 神聖たる樹木の枝から無数の光弾が降り注ぐ。

 

 レベルが20以上も離れた悪魔からの攻撃、それも強化と弱体化(バフデバフ)を受けてのもの。

 高レベルかつ多少の耐性のあるウィドウはまだしも、その仲魔たちはひとたまりもない。

 事前に行動指示(プログラミング)はしてあったのか、互いにカバーリングする事で被害を最小には食い止めたもののその数を半分にまで減らしている。

 

 

 

 

「あ、はぁ……っ!!」

 

 

 

 だというのに。

 ウィドウは何一つ変わった様子を見せない。

 痛みに悶えるどころか逆に恍惚の声さえ上げていた。

 

(こいつ……何なの?! 

 話に聞いた薬でもキメてる!?)

 

 光弾の直撃を受け破けた喪服から覗く出血が負傷の証。

 致命にはいまだ届いていないが決して無視できるものではないはずだ。

 なのにその狂気は沈静するどころか、ガソリンを注がれたかのように爆発し炎上を続けている。

 

 

「受け取ってぇええええマイラバァアアアアア!!!!」

 

 

 ―――《毒ガスブレス》*8―――

 

 

 絶叫による指示にならない指示。

 生き残った仲魔たち全ての口から放出される緑色のガス。

 視界一面を覆う毒霧を回避し切る事は不可能に近い。

 

「あぐっ!」

 

 状態異常スキルは必中ではない。

 しかし完全な状態異常無効でもなければ耐性をすり抜けることもある。

 よって残念ながら仲魔含めて全員が毒状態へと陥った。

 

 これが1体2体ならばまだしも、数の暴力で連続して喰らえば耐え切れないのは道理であり。

 だが、感覚からしてそこまで厄介な毒ではない。

 

(攻撃力の低下はない、精々体力が削れる程度? 

 何でこんなものを―――っ!!)

 

 一瞬過る疑問―――それが必殺へと至る前兆だと気づいた時には遅かった。

 

 

 ―――《獣の眼光》―――

 ―――《テトラブレイク》*9―――

 

《ペストクロップ》*10物理スキル敵全体に物理属性で小威力の攻撃を1回行う。

状態異常「毒」に貫通大威力。

四騎士が持つ権能、その一端を宿した狂人の一撃。

 

 ウィドウのあり余る狂気が体感時間を超加速。

 クロックアップした思考速度を無理矢理肉体へと反映。

 ブチブチと全身の筋肉が断裂する音を響かせながら、美野里たちの前に躍り出る。

 

「―――さあ受け止めて、私の愛」

 

 物理結界を左の鉤爪で引き剥がし、死病の輝きを宿した右腕から終末の波動()が放たれた。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 ―――女の事を語ろう。

 その女はいわゆる同性愛者であった。

 女のいた世界、時代ではそれなりに容認されてはいたが信心深い家族は別。

 

 幼い頃に自覚し、ある程度成長してから愛する家族に告白するが拒絶され。

 以降は“改心”のため暴力を振るわれる事さえあった。

 それでも自分の為を思ってくれている事は分かったから嫌いにはなれなかった。

 

 そんな女だがある日、全ての悩みが吹き飛ぶほどの恋に落ちる。

 

 職場である製薬会社で出会った美しい()()の女性。

 朗らかに笑うその姿はまるで地上に現れた天使のよう。

 当時、己が間違った生き物なのではないかと思い始めていた女にとって運命の出会い。

 勇気を出して声をかけ、やがて親しくなるのにそう時間はかからなかった。

 

 共に働き、共に食事をし、共に遊びに出かける。

 まるで夢のような幸せに満ちた日々―――その終わりは彼女に恋人が出来た事から始まった。

 

 “結婚を前提に考えているの”

 “親友である貴女には一番に伝えたくて”

 

 初めて出会った時と同じ笑顔を浮かべ、“親友”()に嬉しそうに話す彼女。

 

 過ちは何だったのか。

 家族と同様に拒絶されるのを恐れて同性愛者なのを話さなかった事か? 

 最初から彼女を愛していた事を口にしなかった事か? 

 今の立場に甘んじて先に進もうとしなかった事か? 

 

 いずれにしろ彼女は自分と結ばれる事は無い。

 だって自分と同じように心から恋人の事を愛しているのだと、見るだけで分かったから。

 だから悩んだ、苦しんだ、悲しかった。

 

 悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて悩んで苦しんで悲しくて―――! 

 

 そして気付けば―――会社から盗み出した毒薬を2人に盛っていた。

 前祝いとしてプレゼントしたワインに混ぜて。

 

 床に倒れ悶え苦しむ様子をじっと見続けた。

 必死に助けを求める懇願を無視した。

 涙を流して問われた何故という言葉は黙殺した。

 

 そして彼女たちが事切れた時―――女は既に別人と成り果てていた。

 

 そのまま死体の隠蔽もせずに家へ帰ると今度は家族を毒殺。

 一度は警察に捕まり精神鑑定の為、病院へ収容されるが脱走。

 後にとある殺人ゲームを主宰する組織のスタッフとして拾われ、その手腕を振るう事となる。

 

 ある時、悪魔と合体し更なる力を得た女へ疑問を投げかけた者が居た。

 どうして好きだった相手を、家族を殺したのか? 

 裏切られたと思って憎くなったのか? 積年の恨みを果たしたかったのか? 

 

 女はあっさりと答えた。

 

「私を愛して欲しかったの、私の愛を知って欲しかったの。

()()()()()()()()()()()()()

 

 女―――ウィドウの特徴を挙げるなら毒使いという事以外にもう一つある。

 普段は物静かで淡々と仕事をこなす彼女であるが。

 かつて愛した女性、そして肉親と似た特徴のある人間を見つけると豹変するのだ。

 

 愛を叫び、愛を欲し、愛のままに殺害する。

 蜘蛛の巣に掛かった獲物が逃げられず捕食されるように。

 この女に着け狙われて生き残った者は居ない。

 

 推測するに、ウィドウは生まれ持った性癖や環境によってこうなったのではない。

 誰も、それこそ本人でさえ気づいていなかったのだろう。

 ただ生まれた時から外れていた、愛した女性との出会いは切っ掛けでしかないのだと。

 

 それは異なる世界に辿り着いたとしても変わらない。

 ヤクザたちに拾われ、事実上の鉄砲玉として扱われてもなお。

 目の前の少女―――愛した人(べつじん)へと自らの想いをぶつけるだけである。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 戦いの行く末は決まった。

 これぞウィドウの切り札にして必殺。

 劣化とはいえ四騎士の権能、その一端。

 

 かつて悪魔人間と化した時、才能があったのかあるいは波長が合ったのか。

 病()を帯びた者の命を奪う黙示録の力をその身に宿していた。

 これを受けて死ななかった者などいない。

 何故ならこれは己が愛そのものなのだから。

 

 現に、女戦士と白い豊穣神は体内で増幅爆発した毒によって砕け散った。

 そして神樹たる悪魔とその主も遅れて後を追うように―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ、ああああああああああああ―――ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

不屈の闘志*11自動効果この悪魔(キャラ)が死亡するとき、一度だけHPが中回復する。

美野里の場合は《食いしばり》からの限定的変化。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 確かに耐える事など出来ない、なら気力(ソウル)を以てマグネタイトを強制的に励起。

 無理矢理にでも息を吹き返す。普段の美野里なら困難極まりない荒業。

 

 だが―――。

 

(あの四騎士(くそったれ)共の力に負けるなんて、死んでも御免……っ!!)

 

 

 ただそれだけの意地で困難を無理矢理押し通す。

 

 

『生きているか主よ!?』

 

「死んでないから回復ぅっ!!!!」

 

 ―――《メ・ディアラマ》*12―――

 

 

 同じく《不屈の闘志》で蘇生したハオマから癒しの波動が放たれ1人と1体を癒す。

 確かに必殺のコンボだった、実際に死んだ―――だが生き延びてみせた。

 荒く呼吸を繰り返しながら美野里はウィドウを睨む。

 

 先程までの異常なハイテンションはどうしたのか。

 自分が死んでいない現状に首を傾げ理解が追い付いていない。

 ―――好都合だ。

 

「バッテリー最大駆動……コール」

 

《center》 ―SUMMON――

 

 その隙に呼び出すのは手持ちの中でも最大戦力。

 合体事故で生まれた個体にして今の美野里では消耗が大きすぎる悪魔。

 だが同時に―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「殺りにいくわよ―――!!」

 

『委細承知ぃいい!!!!』

 

 

\カカカッ/

凶鳥グルルLv53相性:破魔に弱い、呪殺反射、精神・神経無効

 

 バッテリーから膨大なマグネタイトを喰らって顕現するのは骸骨に覆われた鳥人。

 現在の美野里よりもレベルが高い故、長時間の戦闘はおろか維持も難しい。

 だが構わない、元よりそこまで時間をかけるつもりも無いのだ。

 

 

 ―――《S烈光の秘法:タルカジャ》―――

 ―――《サイコメトリー》―――

 

 

 再び自動発動する攻撃強化。

 そして先ほどの接触から読み取った情報を元に()()を開始する。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 突如として語られた自らの過去に、ウィドウは肩を大きく跳ねさせる。

 何故知っている? この世界で知る人間などいないはず。

 もしや同じ世界の出身いや実はこの少女本当に“彼女”で―――! 

 

 

 

「こっちも愛とかそういうの語れるような人間じゃないけど。

 これだけは言ってもいい? 

――――格下(あたし)も殺せないような“愛”なんて意味ある?」

 

 

 その言葉に―――思考が止まる。

 何を言っているのか理解できないシタクナイミトメタクナイ。

 

 

「ああごめん。馬鹿にしてるつもりは無いのよ。

 愛は無敵で負けない、なんてあたしも思ってないから。

 でも……もし本気であんたがそう思ってるんだったら」

 

 口元を嘲弄の形に作り、優し気な口調で。

言葉を以て世界を、ウィドウの聖域を踏みにじる。

 

「あんたの言う“愛”ってその程度の物なんだ……かわいそ」

 

 

 

「―――ィエアアアアアアアアアッ!?!?!?!?!?!?」

 

 

 

 それを“彼女”に言われたような気がして。

 狂気が振り切れる、思考が“愛”の証明一色に染められる。

 よってその思考に従って従えた悪魔たちも動き出す。

 

 

―――《毒ガスブレス》―――

 

 

 先ほど同様、妖獣たちの口から毒の吐息がばら撒かれた。 

 加えて2羽の凶鳥が唸り声をあげながら爪を振り下ろす。

 

《毒引っかき》*13物理スキル技相性。敵2体を引っかき毒状態にする。

追加効果の毒は高確率&相性無視で付着する。

 

 

 それは相性を無視して相手を犯す毒爪。

 ウィドウの愛を確実に証明するための狼煙だ。

 次こそは逃さない。必ずやその命を―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

『先程は使い損ねたが此度は違う』

 

『ケケケ、受けりゃいいんだろこいつをよぉ―――!!』

 

 

《カバー》自分に攻撃を移し替える

《ステラカーン》*14防御スキルBSが味方のいずれかに適用される場合に使用。

味方が受ける筈だったBSを相手に反射する。

 

 

 そして呪いは反転した。

 まるで自らの刃で貫かれるように。

 吐息は撥ね返され、爪は守りに入ったグルルに当たり逆に毒へと犯される。

 

 

 

「―――――――え」

 

 

 ―――《ステラカーン》、それは知る者の少ない魔法。

 ほんの一部の悪魔のみが使用する、物理・魔法反射(テトラカーン・マカラカーン)に並ぶ3つ目の反射魔法。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 GPが上昇し解放されたそれを、漂流者(エンズ)たるウィドウが知るはずもなく。

 

 

『俺サマの出番だなぁああああ!!!!』

 

 

《ヤクシャの凶爪》*15自動効果敵が毒状態になったとき、次の連動効果が発動。

ランダムな敵に3回、物理属性の打撃型ダメージを与える。

成功時、ヒットした敵を基礎確率30%で緊縛状態にする。

 

 グルルの目が輝き、次の瞬間には殺戮の暴風と化す。

 これもGPの上昇に伴い解放されたスキル。

 毒状態となった相手に襲い掛かる死の凶爪。

 

 その数6体―――ランダムとはいえ()1()8()()()

 

 

 蹂躙は一瞬で終わった。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「……あ、貴女……愛しい、愛しい貴女……っ」

 

 体の底から絞り出すかのような声。

 全身を刻まれ真っ赤に染まるウィドウは、それでも倒れていない。

 先程の美野里と同じように、執念だけで立ち続けている。

 

 運の悪い事に―――これまでの報いとも―――凶爪の大半に狙われた彼女に戦う力は残されていない。

 生き延びた仲魔は既に全滅し、自らの命も風前の灯火。

 それでもなお、ひたすら愛を語りながら手を伸ばす。

 

「――――」

 

 伸ばされた先にいる美野里は銃を構えるでもなくじっと見つめていた。

 この女の願いや祈り、根本的な部分を知った訳ではない。

 ただ表層的な記憶を読み取っただけ。

 それにしたってとてもではないが共感できるものでもない。

 

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あんたの愛は一方通行なのよ、1人で完結してるし終わってる。

 ハッキリ言って傍迷惑―――だからここで死んでおきなさい」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 遅れて届く狙撃音、そして足元に転がったガスマスク。

 頭の無くなった死体が倒れ込むと同時に、インカムへと通信が入る。

 

≪こちらチャーリー2、ラストアタックは貰ったが構わないな≫

 

「いえ、助かったわありがとう。

 おかげで何の憂いもなく戦えたから」

 

≪そう言ってもらえるとありがたい。では引き続き頼むぞ≫

 

 チラリと射線を辿れば、高所に陣取ったカーキー色のデモニカスーツが見える。

 最初に援護を頼んでいた〈最後の大隊〉のメンバーだ。

 仮にここで自分が死んでいたとしても、彼らがフォローに入ってくれていただろう。

 結局、何処までも1人で戦っていたウィドウに本当の意味での勝ち目など無かったのだ。

 

「何でもかんでも1人でやったって……そうそう上手く行かないわよね」

 

 独り言ちて、すぐ首を横に振る。

 今は感傷に浸っている場合ではない。

 まだ戦いは終わっていないのだ―――なら仲間の為に出来る事をしなければ。

 

「もうひと踏ん張りしますか……っ!」

 

 頬を叩いて気合いを入れ、美野里は再び駆け出した。

 

 

 

*1
※真Ⅳ レベルの高い仲魔をストックから召喚し直す。

*2
DIOシステムを使用。病院内では16体使役している漂流者(エンズ)がいる。

*3
※TRPG200X サブアプリ「リフレクト」手番(ターン)の開始時、セットされたスキルを自動発動。2ターン連続では使用不可。 

*4
※TRPG200X サブアプリ「烈光の秘法」手番(ターン)の開始時、セットされたスキルを自動発動。 

*5
※デビルサマナー 『タル・カジャ』7回分および『ラク・ンダ』4回分の効果。

*6
※真If 味方全員をエナジードレイン・破魔・呪殺から防ぐ

*7
※真Ⅳ 敵全体に銃属性中ダメージ。

*8
※真Ⅴ仕様 敵全体に確率で毒を付加する。

*9
※P5R

*10
真Ⅳ劣化版

*11
※D2

*12
※デビルサマナー

*13
※ 真・女神転生 東京鎮魂歌

*14
TRPG覚醒篇

*15
※D2




後篇もなるべく早めに書きたいと思います。


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Line Of Defense-後篇-

 

 

―――〈200x/xx/xx 陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地〉―――

 

 

 

「君は“魔剣”という言葉が嫌いなのかな?」

 

「…………は?」

 

 疲労困憊で座り込んでいた時、いきなりそんな言葉を投げ掛けられた。

 顔を上げれば、そこに居るのは抜身の刀を携えた鋼の如き偉丈夫。 

 幾つもの勲章の付いた制服を身に纏った1人の剣士だった。

 

 ただし、息も絶え絶えなこちらと違って疲弊している様子は欠片も見えない。 

 激しい戦いを制してなお悠然としたその姿は―――紛れもない達人の証。

 いまだそこへ至らない、未熟たる自分を恨めしく思うと同時に。

 何故そんな事を聞いたのか疑問が浮かんだ。

 

「ああ、答えたくないなら構わない。

 ただ本当に、ふと気になっただけだ」

 

 苦笑しながら刀を鞘に納め、足元に転がった機械の残骸を踏みしめて近づいて来る。

 どうやら表情に出ていたらしい。

 まだ立ち上がれない自分に手を差し出し理由を語った。

 

「出会ってそれなりになるが、君の口からその言葉を聞いた事が無い。

 合体剣や魔晶剣、秘剣という言い回しを使うほどだ。

 だから、何か理由があるのかと思ってね」

 

「……別に、単なる個人的拘りってやつですよ」

 

 差し出された手を取らず、気合を入れてゆっくりと立ち上がる。

 我ながらつまらない意地だが、疲れている程度で手を借りたくはない。

 まだ未成年で世間一般の基準で言うなら子供であろうと、剣士の端くれなのだから。

 相手も特に気にした様子はなく、苦笑しながら手を引っ込める。

 

「―――“魔剣とは、理論的に構築され、論理的に行使されなければならない”

 

 なので、こちらを気遣ってくれた代わりと言ってはなんだが質問に答えた。

 何故自分が魔剣という言葉を使わないのか。

 それこそただの拘りとしか答えようの無い理由を。

 

「言い換えれば邪剣の類。

 特定条件下においてどんな相手でも確実に斬殺する機構(システム)

 剣術の常道から外れた必殺剣―――それが俺にとっての“魔剣”なんです」

 

 敵が何者であれ関知せず。

 屈強な戦士であろうと。無力な幼子であろうと。

 ひとたび抜けば問答無用で等しく斬り捨てる無敵の剣。

 

 人や流派ごとに定義は異なってくるが、少なくとも己はそう定義している。

 だから、それ以外に魔剣という言葉を使わない。使いたくない。

 もちろん、自分のようなやつが少数派なのも承知済みだ。

 

 悪魔の力、超常の力を宿した刀剣。

 あるいは際立った才と修練、工夫の果てに許される習得困難な絶技。

 それらを魔剣と呼ぶ事は納得しているし否定するつもりも無い。

 本当に単なる拘り、もしくは意地の話なのだ。

 

 そもそも―――。

 

「……こう言ってはなんだが、()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()

 

 否定の言葉を即座に肯定する。

 そうだ、どんな相手でも確実に斬り殺す無敵の剣? 

 あるはずがないだろう、そんなものが。

 剣術どころかあらゆる武と言う概念を侮辱している。

 

 覚醒していない愚者同士の戦いならばともかく。

 死んだ程度なら蘇生可能。

 何でもありの異能者同士の戦いでそんな都合の良いものが存在してたまるものか。

 

 仮にそんなものを使えるようになって、縋るようになったら。

 ―――()()()()()()()()()()()()

 角度の付いた鉄の棒を振り回すだけの、無様な剣使いへと堕ちるだろう。

 それならまだ腹を切って死んだ方がマシかもしれない。

 

「だから俺にとっちゃ究極の一太刀―――“雲耀”も魔剣じゃないんすよ。

 まーこれ言ったら殺しに来る連中もいるだろうけど」

 

 というかいた。

 奥義を馬鹿にしてるのかと本気で殺りに来た。

 返り討ちにして簀巻きにして送り返したけども。

 

「なるほど……しかし、私は嫌いではないな。

 むしろ好ましいと思う」

 

 こちらの話を聞き終えるとほんの少しだけ笑みが浮かべて。

 陸上自衛隊統合幕僚長、“後藤陸将”はそう言い切った。

 

「決してあり得ぬ太刀筋(ブレイドライン)

 だがそこに近づこうと先人たちは研鑽を積み後代に託してきた。

 思い描く魔剣(理想)へ進もうとする意志―――実に素晴らしい!!」

 

「いやそこまで大それた事考えてもないんですけど……っ!?」

 

 何か派手に勘違いされたっぽいので焦る。

 届かない剣を目指す意思はともかく、託す云々はまるで意識の外。

 それを言ってしまえば実家の剣術なんて触りしか覚えていない。

 

「やはり卒業後は自衛隊に来ないかね? 

 可能な限り好待遇を約束するが」

 

「職権乱用じゃねーかそれ」

 

 しかし面と向かって否定するのもあれなので。

 ついでに圧の強い勧誘から逃れる為に話を逸らす事にする。

 

 

 

「あーでも―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 足元に転がる機械の残骸―――正確には自分たちを殺そうとしたパワードスーツの成れの果て。

 クレハ・コーポレーションの一部が送り込んだ殺戮兵器群。

 学院との提携で見学に来ただけなのに巻き込まれ、死に物狂いで斬りまくった連中。

 

 その大半を()()()()()()()()()()()()()()剣だけは。

 

 ひょっとすると――――魔剣と呼んでも良いのかもしれない。 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「うぃんうぃんうぃーん! うぃーん!」

 

「らぁああああっ!!」

 

 

 過剰改造された電動鋸と鋼の刃がぶつかり合う音が響き渡る。

 戦場となった駐車場は既に悲惨な有様と化していた。

 刻まれた車が何台も散らばり、舗装されたアスファルトはめくれ地面が露わとなっている。

 

 さながら廃棄場(スクラップヤード)の如き光景。

 車の所有者が見れば悲鳴を上げること間違いなしの状況だ。

 その鉄屑たちの中心で文字取り火花を散らしているのは2人。

 

 剣鬼と殺人鬼、あるいは守護者と襲撃者。

 すなわち八瀬宗吾とホラースター。

 両者の戦いは始まって以降、同じ展開が続いていた。

 

 

「まあああああああああむ!!!!」

 

―――《ぶちかまし》*1―――

 

 脳天から股下まで真っ二つに両断せんと振り下ろされるチェーンソー。

 まともに受ければ絶死間違いなしの一撃。

 

「っとぉ―――!」

 

―――《受け》―――

―――《猛反撃》*2―――

 

 それに刃を絡めベクトルを横へと逸らし、多少肉を抉られながらも強烈な反撃を叩き込む。

 斬られた右肩から血が飛び散るが、ホラースターは大して気にした様子も無い。

 聞く者を恐怖させる爆音と共に再び得物を振り上げる。

 

 まるで互いの命を削り合う、破滅へと向かう輪舞曲。

 本来であれば、格上かつ物理反射の相性を持つ相手に成立する戦法ではない。

 もちろん、これにはタネも仕掛けも存在する。

 

《霊活符》*3補助スキル武器に貼る事で威力上昇及び相性を「-」*4に変える。

簡略化により使いやすくなった代償として、

《準物理貫通》とスキルへの適応は失われている。

《堅気功》*5補助スキル気功に分類されるカルトマジック。

防御力を一時的に2倍にする。

一度使用した後は継続してMPを消費する事で維持可能。

「鬼神楽」格闘武器ナガスネヒコ、アマゾーンと合体済み。

威力:273 命中:130*6

 

 1つ目は悪魔合体によって力を増大させた愛剣。

 異界潰しのバイトに業魔殿と邪教の館の反復横跳びの成果だ。

 以前のままであればここまで打ち合う事は出来なかった。

 

 2つ目は肉体の強度を底上げする気功術。

 全身に張り巡らせた気が、防ぎ損ねたダメージを最小限に抑える。

 

 3つ目は簡略化した霊活符。

 剣術(スキル)にまで効果は及ぼせないが今は通常攻撃と反撃(カラテ)で十分。

 

 そして4つ目は―――。

 

「ブラボー3! もう一度行くぞ!!」

 

「了解!!」

 

 

\カカカッ/

軍勢ブラボーチームLv55相性:??? 

 

 

―――「虚弱性・消毒スプレー」*7―――

 

 

 戦闘音を聞き付けやってきた〈最後の大隊〉のメンバー数名。

 彼らによって投げ込まれる弱体化アイテムでの支援だ。

 拡散するガスの成分がホラースターの筋肉を弛緩させ、一撃の威力を落としている。 

 

 

 これらの内、1つでも欠けていればまともな戦いにならなかっただろう。

 策を弄し、準備を整え、有利な状況で挑む。

 それこそ格上殺しの基本中の基本。

 

 だがそれでも――――。

 

「アイ―――」

 

 ホッケーマスクの隙間から覗く目をギラつかせて。

 架空の殺人鬼をごちゃ混ぜにした格好の男は叫ぶ。

 

 

 

 

「アイ! アム! ホラースタァアアアアアア!!!!!!」

 

 

 

 

《五分の活泉》*8自動効果HPの最大値を50%上昇させる。

《仁王立ち》*9自動効果回避出来なくなる代わりにダメージを半減する。

《地獄のマスク》*10自動効果状態変化になりにくくなる。

《コロシの愉悦》*11自動効果クリティカル発生率が25%アップ。

 

 

 

―――《アカシャアーツ》*12―――

 

 

「がっ……!」

 

 止まらない、止まらない止まらない。どれだけ斬撃を浴びても止まらない。

 肉体の負傷や弱体化など目もくれず、桁外れの一撃を繰り出し続けている。

 達人の技量を以てしても捌き切れない速度と威力。

 宗吾の体へ幾つもの、決して無視出来ない傷が刻まれ始める。

 

「OoooooOoouoooo!!!!」

 

 その事に歓喜する姿はまさしく不死身の怪物(ホラースター)

 標的が息の根を止めるまで襲い続ける理外の殺人者。

 多少の小細工など正面から踏みつぶし、ただひたすら蹂躙する。

 

 ―――時間を追うごとに、戦いの天秤は宗吾の不利へと傾いていく。

 

「ここから援護するだけじゃ駄目だ! 

 あのサムライ殺されるぞ!」

 

 ブラボーチーム、そのリーダーが叫ぶ。

 このまままでは遠からず敗北の未来が訪れるだろう。

 それを覆すのに手っ取り早いのは数による援軍だ。

 

 古今東西、囲んで叩けば如何な怪物とて膝を折るしかない。

 無論ある程度の実力があれば、という枕詞が付くが、可能なだけの力と数をブラボーチームは有している。

 同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「分かってるがやはり近づけん……っ!!」

 

 

《ゲートキーパー》*13自動効果敵・味方の増援パーティは行動できない

 

 

 彼らの正面に存在する不可視の障壁、すなわち()()()()

 後から来た余計な救いの手(デウスエクスマキナ)を払い除ける凶悪極まりない能力。

 自分と獲物以外が狩場に存在する事を拒絶する、殺人鬼に相応しいの結界だ。

 

 これによってブラボーチームは直接肩を並べて戦う事が出来ない。

 銃で撃つ、爆破する、魔法を叩き込む、殴る蹴る。

 あらゆる手を試したが、可能だったのは遠距離からアイテムで支援する事のみ。*14

 だから今は、血に染まり続ける青年をひたすら見守るしかないのだ。

 

「クソッタレ……!!」

 

 デモニカスーツの下から、噛み締めた奥歯が砕ける音がした。

 理不尽は知っていた。不条理を理解していたつもりだった。

 最近では臨海公園地下水道で地獄を見た。

 

 だが、現実は何時だって想像を上回るのだ。

 まさか戦闘行為そのものへの参加を制限されるなど。

 

「本当に地獄だぜこの最前線(せかい)は!」

 

 軍人としての冷たい思考が言う。

 ここは情報収集に徹し、確実に無力化する手段を構築すべきだと。

 戦友としての燃える感情が叫ぶ。

 諦めるな何としてでも助けろ、自分たちに出来る事をすべきだと。 

 

「観察を続けながら何でも試せ!! 

 アイテムはまだ残っているだろう!」

 

「援護を切らすんじゃないぞ、タイミングを外すな!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ただ手をこまねいて観客(ギャラリー)に甘んじるなど許されない。

 自分たちは軍人(プロフェッショナル)―――無能のやられ役はフィクションで十分なのだから。

 

 

 

 

「キルキルキルマァアアアアアム!!!!」

 

 

 

 しかし、その決意さえ無に帰すような雄叫びと共に。

 もはや死にかけの剣鬼へ―――最後の一発が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

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 ・

 

 

 ―――男の事を語ろう。

 その男はいわゆるオタクと呼ばれる人種であった。

 好みは映画、特にB級ホラー映画が好きで平日問わず鑑賞する毎日。

 

 その事を不気味に、気持ち悪く思う人間も多少いたが大した問題ではなかった。

 男のいた世界、時代ではもっと()()()()()()趣味の持ち主はいた。

 それに比べるとまだマシで、特に害も無いと判断されていたからだ。

 

 実際、その評価は間違ってはいなかったのだろう。

 男は高校に通っていた3年間、良くも悪くも問題を起こさなかった。

 人によっては顔さえ覚えていないほど“薄い”同級生だったとも言える。

 

 だが違った。

 男は無害という概念からは程遠い存在であったのだ。

 そう見えていたのはただひたすらその時を待っていただけに過ぎない。

 

 “その時”―――高校の卒業式。

 学生生活の終わりである記念日に、男はあらゆるホラー映画で学んだことを実践した。

 

 1つ、ワイヤーは高速で移動させる事で人体を切断できる。

 1つ、あらゆる場所を封鎖し、閉じ込めておくべし。

 1つ、殺人鬼は顔を隠すべし。

 1つ、油断をするな。

 

 結果、男は卒業式の行われていた体育館を血の海へと変えた。

 卒業生、在学生、教師、保護者、一切区別なく真っ二つにしたのだ。

 かろうじて生き残った者も容赦なく惨殺し、男は悠々と学び舎から巣立って行った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ありふれた人間なんかじゃなくて。

 誰からも恐れられ、忘れられない、正真正銘のモンスターに」

 

 後日、自宅で発見された直筆のメモにはそんな言葉が残されていた。

 ―――全身を刻まれ拷問死した両親の遺体と共に。

 

 この凶行に及んだ男が、殺人ゲームを主宰する組織のスタッフとして招かれたのは幸か不幸か。

 少なくとも男にとって幸福であったのは間違いない。

 なにせ自分を肯定し居場所を与え、殺人鬼(ホラースター)と認めてくれる場だったのだから。

 

 例え異世界に流れ着いて、ヤクザたちの鉄砲玉となってもやる事は変わらない。

 あらゆる者に恐怖と絶望を与え無慈悲に殺して誰かの記憶に刻まれる。

 悍ましき怪物としての役割(ロール)を果たすだけだった。

 

 

 

 

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 ・

 

 

「―――大体分かった」

 

 迫る一撃を前にして、ぽつりと零れたのはそんな言葉。

 

 

《飛燕》*15返し技格闘攻撃を回避する。

その後、攻撃してきた相手に2アクション分の格闘攻撃を行う。

《会心》*16自動効果格闘攻撃のクリティカル率が上昇する。

 

 

 同時に、ホラースターの視界から()()()姿()()()()()()()

 少なくとも、彼にはそうとしか表現のしようがない。

 目標を見失ったチェーンソーが空しく地面へと突き刺さる。

 

 そして視界の外、あるいは意識の隙間から襲い掛かかったのは上下への切り返しだ。

 一息の間に2度の斬撃を行こなう“燕返し”と呼ばれる技法。

 強靭な手首と握力、類まれな身体操作技能に支えられた業。

 回避は勿論の事、防御どころか認識する事すら不可能。

 

 一の太刀が胸を裂き、二の太刀がホッケーマスクを捉える。

 バキリと音を立てて砕けた仮面の下、その素顔が覗く。

 そこにあったのは怪我か何かで二度と見れないような容貌―――などではなく。

 

「……なんだ、意外と普通のツラだなお前」

 

 ごくごく普通の、どこにでもいそうな、ありきたりな青年の顔だった。

 

「ああ……ああ!」

 

「どうしたよ、素顔見られた程度で。

 恐怖俳優(ホラースター)の名が泣くぞ、なあ」

 

 喘ぐような悲鳴と共に、()()()()()()()()退()()()

 有利なのは依然相手でそれは変わりない。だが、明らかに狼狽えている。

 本当の顔を見られ、己のコンプレックスを指摘されたから……否。

 仮にそうだとすれば怒り狂っている筈だろう。

 

 

 

 ―――答えは宗吾の表情にあった。

 

 

 

「笑え、嗤うんだよ……こんな風によぉっ!! 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 画面の向こうの殺人鬼たち(ホラースター)が可愛く思えるほどの表情。

 決して人間がしていいような、許されるような顔ではない。

 

 自らの思い描く画面の向こうの理想が、目の前の現実に打ち砕かれた。

 その事実が彼の根幹(アイデンティティ)を著しく揺るがせてしまったのだ。

 思考が空白化する、狭窄化する―――()()()()()()()()

 

 

 ――― 修羅に入る(ニヤリ状態)―――

 

 

 精神的な高揚による潜在能力の完全発揮。

 先程の攻撃で*17その状態に突入した宗吾は刀を担ぐようにして背に回す。

 更には切っ先を指で摘まみ、力を溜めるようにした独特の構えを取る。

 

 明らかな必殺の意志―――次で勝負を終わらせようとしているのは明白で。

 それを察したホラースターも全身の筋肉を膨れ上がらせながら構えた。

 ここに、最後の激突が始まる。

 

 

「うああああああああああああああっ!!!!!!」

 

「――――――――――」

 

 咆哮―――自分の勇気を鼓舞させるようにして突撃するホラースター。

 静寂―――自らは微動だにせず致命の刃を研ぎ澄ませる八瀬宗吾。

 

 ―――先手を取ったのは殺人鬼。

 

 

《マイティブロー》*18格闘攻撃敵単体にクリティカル率50%の万能属性打撃型ダメージ。

攻撃成功時、連動効果が発動。

「敵ランダムに10回、万能属性打撃型ダメージ」

このスキルは反撃効果の発動を無視する。

 

 

 文字通り命を、魂を削る勢いで繰り出されるのは万能物理攻撃。

 ホラースターの奥の手にして必殺。

 如何なる獲物であれ反撃を許さず殺害する理不尽の権化。

 怪物に憧れた男の人生そのものの証明ともいえるスキルであり―――。

 

 

 

 

 

 

「避けられねーのがお前の欠点だ」

 

 

 

 

《三挫き》*19割込行動心(精神)相性。相手は魔法回避を行う。

失敗すると宣言した行動を止めてしまう。

次の手番まで全ての判定にペナルティを受ける。

 

 

 ()()()()()()()()()

 一瞬で体をバラバラにされたかのような激痛が走る。

 全身が強張り、深海の底に放り込まれたかのように体が重くなった。

 分からない、わからない、ナニモワカラナイ。

 ただホラースターは、自分が死に体にされた事だけは理解した。

 

 

 ―――二階堂平法秘技「心の一方」

 

 

 現在では失伝したとされる剣術の奥義が一つ。

 実際に斬られたと相手に錯覚させるほどの剣気を以て初めて可能となる技。

 “使える”程度には、宗吾はこれを修めていた。

 もし相手に回避する能力、もしくは精神系への耐性があれば話は異なっていただろう。

 

 

 そしてここから繋ぐのは自身が知るとある剣士の太刀筋、その劣化にして模倣。

 かつて自分が目撃した―――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

《フィジカル・エンハンス》*20補助スキル剣・ガン相性の習得済みスキルを指定する。

「属性攻撃」に対応する相性へと変更。

発動済み⇒電撃相性へと変更。

《大地鳴動》*21補助スキル次に行う格闘攻撃の威力に、使用者のレベルの2倍を加える。

クリティカル時の威力を3倍に変更する。

《急所》*22割込行動肉体の知識を学び、急所を見つける。

急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。

《煌天の会心》*23即時効果格闘攻撃の成功をクリティカルに変更する。

《根性》*24即時効果レベル分のHPとMPを回復する。

「紫電のネックレス」*25アクセサリー《電撃ハイブースタ》の効果。

電撃属性の攻撃を1.5倍する。

 

 

 気力(ソウル)を振り絞りボロボロの身体から一振り分のエネルギーを確保。

 愛剣に込められた悪魔の力を開放、背に回した刀身から青白い放電(スパーク)が奔る。

 固定する両手から肉の焼け焦げる臭いと激痛―――無視する。

 

 

「――――やっちまえサムライ!!!!」

 

 

―――「柔軟性・消毒スプレー」*26―――

 

 

 合わせて放り込まれたのは肉体強度を下げる支援アイテム。

 観客では終われない軍人たちの意地。

 それを合図にして、必殺は放たれる。

 

 

 

「秘剣・兜割りが崩し―――“電磁抜刀・威(レールガン・おどし)”」

 

 

 

《電磁抜刀・威》*27格闘攻撃電撃相性に変更。防御不能、防具無視。

複数のスキルを組み合わせた崩し技(コンボ)

行使するまでの過程を含めて一つの技とする。

 

 

 それは元々対マシン・パワードスーツを想定して構築された剣。

 本来なら《雲耀の剣》を電撃相性に変更し威力を増幅、急所に叩き込むというもの。

 言葉にするだけならシンプル極まりないコンボである。

 

 ただ、これには複数のスキルを組み合わせ確実に当てる状況を作る必要がある。

 成立させる為の技量、そこに至る過程を構築する戦況把握能力とやり遂げる為の精神力。

 何かが欠けても成り立たない―――ひどく歪な魔剣擬き。

 

 

 レベルは上がっても、まだ宗吾は完全にものにしたとは言えなかった。 

 

 

 遅れて響く轟音、そして爆風と舞い上がる土煙。

 降り注ぐアスファルトと地面の混合物。

 やがて見守っていたブラボーチームの視界が晴れた時、そこにあったのは―――。

 

「……マジかよ」

 

 大きく斬り抉られた駐車場。帯電する大気とオゾン臭。

 そして剣を振り下ろした姿勢のまま動かない傷だらけの剣鬼。

 それだけだ。

 

 ホラースターは、文字通りこの世から姿を消していた。

 架空の存在に身を落としたのなら、これが当然の結末とでも言うかのように。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 斯くして病院を守る戦いは幕を閉じた。

 ヤクザたちの襲撃を防ぎ、アストラル・シンドローム患者を守り抜く事に成功。

 人質にされていた者たちも殆どが無事確保された。

 

 だがまだ終わりではない。

 アストラル・シンドロームの大本を潰さない限り同じような事は起きる。

 ヤクザたちも同様だ、人間同士で争っていられるにも限界はある。

 近い未来、決着をつける時が来るのは間違いない。

 

 だからこそ、今はそれぞれが出来る最善を尽くすべきなのだろう。

 

 

「あのー! 確かに駐車場と車ぶっ壊し過ぎたのは俺にも責任あるけど!! 

 クソサイコな奴らから守り抜いたんだから結果オーライにならない!? 

 結構ボロボロだから穴埋めるだけでもしんどい!!」

 

「特撮の撮影とかアスファルトの劣化で誤魔化すのにも限界あるって言ってたでしょ。

 弁償はいいって言われたけど、それくらいしときなさいよ。

 あんたなら数時間あればやれるって。私はリコリコでコーヒー飲んで待ってるから」

 

「まぁ頑張りなサムライ野郎。

 貰いもんだがほれ、この菓子でもやるよ。

 終わったら一杯奢るってウチのリーダーも言ってたぜ」

 

「ちくしょう頑張る!!」

 

 夕暮れのブルーシートで囲われた駐車場で、そんな声が響くのであった。

 

 

 

*1
※真Ⅴ 敵単体に小〜大威力の物理属性攻撃。自身の残りHPが多いほど威力が上昇する

*2
※TRPG真Ⅲ 物理攻撃を受けた際、50%の確率で反撃として通常攻撃を1回行こなう。そのダメージは2倍になる。

*3
※TRPG覚醒篇

*4
無属性

*5
※TRPG基本システム&覚醒篇改変

*6
《武器強化》及び熟練度による修正済み

*7
※P5R 3ターンの間、敵全体の攻撃力を低下させる

*8
※デビルサバイバー2

*9
※P4G

*10
※真Ⅳ

*11
※真Ⅳ

*12
※真Ⅴ 敵単体に特大威力の物理属性攻撃。クリティカル時、威力が上昇する

*13
※NINE

*14
※真ⅣF パートナーによるサポート。直接戦闘には加わらない。

*15
※TRPG200X

*16
※TRPG200X

*17
ニヤリの発生条件「クリティカルをヒットさせる」

*18
※D2劣化

*19
※TRPG誕生篇

*20
※TRPG200X

*21
※TRPG200X

*22
※TRPG誕生篇

*23
※TRPG200X

*24
※TRPG200X

*25
※P5R

*26
※P5R 3ターンの間、敵全体の防御力を低下させる

*27
※TRPG誕生篇 《兜割り》




◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 <剣士> <仙術使い> <サクセサー> LV55
メガテン世界で魔剣理論語りだした変なやつ。
無敵の剣なんてある筈がないが、そこへ近づこうと走り続ける事が大事だと思っている。
ちなみに今回使ったコンボは不完全。前提となる技を幾つか習得出来ていない。
愛剣に悪魔を合体させたので新たなスキルツリーが解禁された。
自分で作った穴を埋めた後は〈最後の大隊〉のメンバーと飲み明かした。


・若槻美野里 <サイコメトラー><超能力者> <ガンスリンガー> LV51
四騎士絶対ぶっ殺すウーマン。こいつら絡みだと凄まじい底力を発揮する。
屍鬼と悪霊以外の悪魔も使役出来るようになった。
ついでに邪教の館と業魔殿の反復横跳び地獄を知る事となる。
元居た世界では外から来た生徒だったのであまり馴染めていなかった(と思っている)
“先生”とはあまり絡んだ事は無く、遠目で何度か見た程度。
何故か寂しくなったので途中で飲み会に参加した。千束は爆笑していた。


・ホラースター&ウィドウ
ヤクザに拾われた漂流者。
元居た世界では殺人ゲームのスタッフとして活躍していた。
似たような連中もこの周回に流されている可能性がある。


・最後の大隊
病院を警護していたチーム。
終わった後は宗吾と打ち上げを行う。
美野里が途中参加した時はちゃんと2人きりになるよう距離を取った。


・tips “修羅に入る”
度々地の文で使っていた《ニヤリ》の隠語。
これ以外にももう1つあるらしいが……?

イメージは悪鬼スマイル。


―――――――――

これにて病院防衛戦は終了。
次は昔の話でもやろうかなと考えています。




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Hong Kong 200X

 

 

 香港―――そこは世界でも有数の貿易都市。

 多種多様何でもござれな価値観の交差点、あるいは無法地帯。

 イギリスからの返還以降、驚異的な速さで発展を続けるアジアの要所だ。

 

 しかしそれは光り差す表側は勿論な事、影である裏側でも同じ事が言えた。

 犯罪組織、魔術結社、多国籍企業、国家、個人、そして悪魔。

 あらゆる勢力が入り乱れ、虚々実々の駆け引きと衝突を繰り返す。

 全てはこの地を通る運気の流れ、すなわち龍脈を完全に支配する為。

 

 昨日の友が今日の敵、今日の敵が明日の友など日常茶飯事。

 あちこちで銃弾に魔法が飛び交い、剣戟の音は止む事を知らず。

 それでもなお止まる事の無い、あまねく欲望に満ちた都市。

 

 これが香港の真の姿であり、東京にも匹敵する霊的な戦場の一つ。

 よって、一部の者たちは恐れを込めてこう呼ぶのだ。

 人外魔境、悪鬼羅刹蔓延る地上の魔界―――“魔都香港”と。

 

 

 

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―――〈200x/xx/xx 香港・九龍城地区〉―――

 

 

 

『香港―――滅ぶべし!!!!』

 

 

 それは恐ろしいほどの怨嗟に満ちた声だった。

 怒りと悲哀、絶望と渇望に濡れた叫びだった。

 本当に人の喉から出た物か分からぬ音だった。

 

《異界・九龍城》、かつての巨大スラム街跡地に存在する香港最大の異界にして危険地帯。

 ここ半世紀以上に渡る社会の激変と戦乱により、過剰な刺激を受け続けた龍脈。

 その乱れの果てに自然発生したこの地へ足を踏み入れ、無事生還した者はそう多くない。

 

 だがその最深部、いまだ人知未踏の筈の領域にて。

 呪詛を吐き続けながら何らかの儀式を行う人影がそこには存在した。

 一見すれば仕立ての良い黒のスーツを身に纏った長身痩躯の男である。

 

 名を董建勝―――多国籍企業SEBECの香港支社長を務める才人にして風水師。

 香港を巡る戦いにおいて、その卓越した見識を以て常に有利に立ち回り続けて来た人物だ。

 本来ならこのような場所にいる筈がなく、また今は明らかに正気とは呼べない状態であった。

 

 窪んだ眼窩の奥で光る狂気に満ちた目。

 自らの血さえ使って陣を描き続ける手。

 ひどく歪な形で吊り上がり固まった唇。

 

 常日頃の、余裕に満ちた態度を崩さない彼の姿を知る者なら目を疑う有様。

 見比べれば一目で分かるほどの異様な変貌を遂げている。 

 

『香港、滅ぶべし、滅ぶべし!!!! 

 滅ぼさぬ訳にはいかぬだろう!!!!』

 

 言葉にするごとに指数関数的に高まる力の波動。

 やがて血で描き上げた幾何学的模様の陣が輝き胎動を始める。

 仮に何も知らない者が見たとしても、尋常ではない事態が起きているのは理解出来るだろう。

 

『来たれ来たれ来たれ――――香港滅ぶべしぃいいいいい!!』

 

 

 

 

 

 

「生憎と、その願いを叶えてやる訳にはいかない」

 

 

 

 

 

 

 カツン、と堅い床を叩く足音が響いた。それも1つではなく複数。

 ここに居る董以外、誰も辿り着いた事の無いはずのこの最深部へ。

 凶悪極まりない悪魔蔓延る領域を、確かな足取りのまま乗り越えて。

 ――――滅びを拒絶する者たちが現れた。

 

 

「それは世界の秩序を乱す行いだ。

 ……悪いが阻止させてもらおう」

 

 

\カカカッ/

封剣士秋山凛子Lv3■相性:破魔・呪殺無効

 

 

 最初に口を開いたのは青紫髪の女。

 豊満な体付きと美貌、だがそれ以上に本来左腕のある場所へ装着した機械腕(サイバーアーム)が存在感を放つ。

 どこか昏い瞳と声音に、しかし確かな意思と信念を滲ませて宣言する。

 

「《撼龍》*1だっけか? 最大出力なら街1つ崩壊させる風水の奥義。

 んな事されたら流石に目覚めが悪いんだわ、行きつけの店もあるし。

 ―――だからまあ、斬っていいよな」

 

 

\カカカッ/

剣士八瀬宗吾Lv30相性:全体的に強い、破魔・呪殺無効

 

 

 続けるのは黒髪の男。

 不敵な笑みを口元に浮かべながら腰に差した刀を抜き放つ。

 溢れんばかりの剣気を漂わせ、闘いの時を今か今かと待ちわびている。

 

 

「この都市が消えれば“商品”の売り上げが落ちますので。

 そうでなくとも人の縄張り(シマ)で好き勝手は許しません。

 貴方にはここでお引き取り願いましょうか」

 

 

\カカカッ/

地仙翻香鈴Lv3■相性:氷結に強い、破魔・呪殺無効

 

 最後に告げたのは緑髪の女。

 深いスリットの入ったチャイナドレスを身に纏い、両手には何種類もの符が握られている。

 口調こそ穏やかだが、冷徹な殺意の込められた視線が相手を射抜く。

 

 秩序(ロウ)の封剣士、中庸(ニュートラル)の剣鬼、混沌(カオス)の仙女。

 

 方向性(アライメント)も所属も何もかもが異なる3人の異能者。

 しかしこの場における目的は共通している。

 即ち―――()()()()()()()()()()()()()()()を倒す事に他ならない。

 

 

『邪魔するというのか匹夫共が!! 

 この我を!!!!』

 

 直後、()()()()()()()()

 弾けた血肉が宙を舞い、膨大なマグネタイトと共に違う形へと再構成される。

 悪魔変身、否。これは人間変身の解除。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()

 

 変身に必要としたのは時間にして1秒未満、晴れた血煙の先に姿を見せたのは―――。

 

 

 

 

 

『香港を! 悪徳の都を滅ぼさんとする我を邪魔するならば!! 

 この“カンセイテイクン”が直々に葬ってくれよう!!!!』

 

 

\カカカッ/

魔人カンセイテイクンLv60相性:ガンに強い、精神・神経・魔力・破魔・呪殺無効

 

 

 それは古代中華の衣服を身に纏った赤顔長髭の悪魔。

 この国において武神、商業神として祀られているはずの神格が厄災を齎す存在へと転じた姿。

 生身の人間を乗っ取る事でGPを無視して顕現した正真正銘の怪物。

 

 

 レベル60の魔人――――“カンセイテイクン”に他ならない。

 

 

 

 

「おいおいレベル60のバケモンだぞ初めて見た―――ぶった斬りたい!!!!」

 

――― 《先手》 ―――

――― 《禁金》*2 ―――

――― 《軽巧》 ―――

 

「例え英雄と呼ばれる者であっても斬り伏せるのが我らの運命……ちょうどいいくらいだ」

 

――― 《ドラッグホルダー:パワーゼリー》*3 ―――

――― 《オーバードライブ》*4 ―――

――― 《エキスパートシステム*5》 ―――

 

「弼馬温様よりはマシそうですねぇ。あ、後ろから援護飛ばすので正面任せましたよ」

 

――― 《神格の支援:リベリオン》*6 ―――

――― 《式神召喚》*7 ―――

――― 《幸運な助言》*8 ―――

 

 

 しかし、“万人に等しく凶事と死を撒き散らすもの”たる魔人に対して。

 3人はまるで臆する様子も無く当たり前のように構えた。

 こうなる事は想定していたし、覚悟もとうに決めている。

 そして自分たちが死地に居る事を理解した上で、冷静に判断を弾き出す。

 

 

状況―――圧倒的危機。敗北はつまり香港とそこに住む民の終焉を意味する。

増援―――望み薄。自分達をここへ辿り着かせる為、仲間は死力を尽くした。

勝率―――極めて極小。単騎で挑めば100回殺されてもお釣りがくる戦力差。

 

 

結論―――勝利する以外道は無し。

 

 

 これより始まるのは観客のいない英雄譚。

 魔都香港の命運を賭けた決戦。

 圧倒的なまでの格上に挑む人間の物語。

 

 

「行くぞ」「行こうぜ」「行きましょうか」

 

 

 始まりを告げる宣誓と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「――――って感じで最終的に右腕以外の手足千切れて内臓も幾つか潰れたけど何とか勝った。

 いや死ぬかと思ったなー実際。楽しかったけど」

 

「ごめん言ってる事分かんないよやっさん」

 

 何故か思い切りドン引きされた。解せぬ。

 とりあえず皿に乗せられたおはぎを口に頬張りながら目の前の少女、錦木千束へと向き直る。

 今日はいつもの制服姿ではなく和服ベースの仕事着だ。

 

 この店―――秘密組織リコリスの支部にして、そのカバーである和風喫茶店『リコリコ』

 その看板娘を自称するだけあって素直に似合っていると思う。

 ただ、今はその整った顔がどこか引きつっているのが残念だが。

 

「いやさー、閉店時間過ぎてやる事もやっちゃたし。

 暇だから昔の話して~って言ったらそんな話飛び出るとは思わないじゃん。

 しかもR18指定間違いなしのアクション映画みたいな」

 

「んむっ……シン・仮面ライダーよりも流血描写が激しかったのは認めよう」

 

 いやあれPG12指定だったじゃん、という言葉は無視する。似たような物だろう。

 

 セットの煎茶で口の中の甘さを押し流しながら、改めて当時の事が思い浮かぶ。

 正直、あれは今でも生きてるのが不思議なくらいの激戦だった。

 何か一つでも歯車が欠けていれば、ここでゆっくりお茶をする事も無かっただろう。

 

 コスト度外視、実家の伝手まで頼って符や香に秘薬を用意した姐さん。

 肉体への負荷を度外視してサイバーウェアを過剰使用した凛子。

 無茶なドーピングと刀身への負担を省みずに振るった自分。

 

 文字通り手足が無くなろうが内臓がはみ出ようが無理矢理戦い続けて。

 全員血反吐を吐きながらも掴んだ奇跡的な勝利。

 戦いの影響で異界が崩壊していなければ、そのまま3人でくたばっていたかもだ。

 

 間違いなく人生でトップ10に入る死の危機、であったのだが、

 

「―――でもま、あれ以上の奴がゴロゴロいるんだけどなこの世界。

 レベルだけならこの間殺し合った漂流者(ドリフター)の方が高かったし」

 

 残念な事に、あれクラスの魔人であってもこの世界では丁度いいくらいの獲物扱い。

 今の自分ならサシでも勝てるほどに環境のインフレが激しい。

 こちらの主観ではそう昔の話ではないのに、随分と遠くまで来てしまった。

 

「いや今の時代がおかしいだけだって。

 数か月前までは20あれば十分優秀だったよ……とゆーかさ」

 

 途中で千束ちゃんが複雑そうな表情を浮かべ言葉を切る。

 いつも活発に話す彼女にしては珍しい姿だ。

 数秒ほど言い淀み、やがて意を決してから再び口を開く。

 

「―――あいつらぶつかるよう誘導したの怒ってない? 

 美野里はちょっとだけ小言言ってきたけど、やっさんはどうなのかなって」

 

「? ……あ、あ~なるほど」

 

 最初は何を言われたのか理解出来なかったが、どうやら病院での件を気にしているらしい。

 あの時、自分たちの前に現れたイカれた漂流者の2人組(ホラースターとウィドウ)

 遭遇は偶然ではなく、千束ちゃんとたきなちゃんが遅延戦闘と誘導を行った結果だった。

 それを知ったのは飲み会の翌日、ベッドで寝込んでいた時に美野里ちゃんから聞かされた。

 

「―――いや別に全然気にしてないんだが。

 むしろ強い奴斬れて大満足」

 

 素直に感想を言うとまたしてもドン引きされてしまった。何故だろう。

 美野里ちゃんはともかくとして。自分は問題ない。

 いや、そもそもの話―――。

 

「てか、千束ちゃんは自分が出来る事やっただけだろ。

 むしろそこまでやった後ぶっ倒れたってたきなちゃんから聞いたんだが。

 そこまで頑張った相手に怒るのは常識的に考えると……ちょっとアレだと思うぞ」

 

 それが最良だと考え、自分が持てる全てを尽くした行動であるなら。

 あまり非難する気にはなれない。あくまで個人的な考えだがそう思う。

 実際、あの局面、あの場所で正面から戦えたのは自分たちくらいだ。

 〈最後の大隊〉(ミスリル)の大部分や他のDB……例えばジエン*9なども他の所に居た。

 だからむしろファインプレーと言ってもいい。

 

「なんかさー、やっさんって変な所で常識語るよね~剣キチのくせに」

 

「自分で言うのも何だが俺は割と常識的な方だと思ってる。

 ……本当によく誤解されるんだが」

 

 脳裏を過る退魔生徒会時代の面子や知り合いたちと自分を比較。

 女絡みで暴走する事も無ければ、刺されそうになる事も無かった。

 己が剣に偏っている事を考慮しても、やはり自分はまともな方だと思う。

 

「こういうのって大抵無自覚なんだって。

 けど、そう言ってくれるとなんだか気が楽になったかな。ありがとね。

 ……という訳で話は変わるのですが!」

 

 よっと、と元気な声を出しながら千束ちゃんが座っていた椅子から飛び降りる。

 そのままカウンターまで進むと、棚から大きめの封筒を取り出しテーブルへと置いた。

 今まで何度か見たもの――――次の仕事についての話だ。

 

「先生とたきなは外に出てるから、私から軽く説明するよ~。

 といっても、やるのはいつも通り突貫と急襲だけど」

 

「ん……ヤクザ関係、拉致られたアストラルシンドローム患者の救出か」

 

 仕事モードに意識を切り替え、中に入っていた書類にざっと目を通す。

 書かれているのは金回りや物資の関係でボロが出た、拠点らしき場所の幾つか。

 おそらく患者たちの意識が戻った事で扱いが難しくなった影響だろう。

 そこに仕掛ける、つまり今度は逆に攻める側へ回るいう訳だ。

 

「もちろん本丸じゃねーだろうが、いいな。斬り甲斐がありそう」

 

「あはは、頼もしいねーそういうとこ。

 向こうも相応の防御は固めてるだろうから準備はしっかりしないとね。

 詳しい話は先生たちが戻って来てからにしよっか」

 

 推定される要救助者数と建物の構造を頭に叩き込みながら、ふと店の奥へと向かう彼女を見る。

 その後ろ姿、歩き方に異常はない、体感にもブレは見られない。

 一般人に偽装出来るよう訓練されたプロフェッショナルそのもの。

 

(でも、倒れたんだよなぁ……)

 

 だがそれなのに倒れたと言っていた。

 少なくとも肉体的には健康にしか見えないのにだ。

 勘ではあるが、何らかの状態異常を喰らったとかそういう話じゃない。もっと根本的な問題。

 

 しかし理由は聞いてないし、聞いたとしてもはぐらかされるだろう。

 それなりに信用はあると思っているが、そこまで聞けるほどの信頼は無い。

 仕方ないし当然の事だ―――それはそれとして注意しておく必要があるけども。

 

(何事も起こらなきゃいいんだが)

 

 とりあえず今は――――。

 

 

 

「ちくしょうお前絶対イカサマしてんだろ!?

 なぁ言えよ怒んないから!!」

 

「将棋でイカサマなんか出来る訳ないでしょ。

 あんたが弱くて私が強いだけよ」

 

「おいこれで10連敗だぞ。

 そろそろ諦めたらどうだ?」

 

 

 

 座敷スペースでボードゲームに熱中している相方に話を通すべきだろう。

 座席から立ち上がり、ヒートアップする女子3人組の下へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「おっと、もしもしどうしたんだい雇い主サマ。

 こっちは素敵なバックコーラスを聞きながら仕事の毎日さ。

 使いっ走りの用があるなら喜んで受けるがね」

 

「……へぇ、河岸を変えるのかい。

 確かに最近は“足跡”が多く残ってしまっているからね。

 優れた猟犬ならあっという間に嗅ぎ付けて来るだろう」

 

「最悪放棄して俺だけ戻ってきてもいいって? 

 そりゃこんな使い捨ての駒に過大な評価をありがとう

 嬉しくて涙が出るかもだ――――けど止めておくよ」

 

「ああそうさ。勘だけど……きっと“彼女”が来る。

 特段根拠も無いがそう感じるんだ。

 この世界に流れ着く前からずっと待ち望んでいた」

 

「気持ち悪いとはストレートな感想ありがとう。

 だけど、あんたは強くなり過ぎたからもう関係ないんだろ。

 なら最初に言った通り、オレが戦わせて貰う」

 

「ああ、だからこれで縁切りになるね。

 分かり切っていた事さ。

 こっちはあんた個人に雇われただけの、期間限定の道具だ」

 

「だから情報なんてロクに持ってないし、何処で死んだってかまわない

 実際、オレもあんた以外のヤクザなんて興味が無かったし」

 

「今更だが、あんたの言うバランス論は嫌いじゃなかった。

 元々は偏った既存秩序をぶっ壊す側に居たからね、オレも。

 それじゃ、今まで世話になったよ」

 

 

「さてと。これで本当に根無し草。

 勝っても負けても先は無い、我ながら笑える状況だが……別にいいか」

 

 

 

 

 

「さあ、あの時の決着を付けよう―――彼岸花の少女(マイヒーロー)

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
※TRPG覚醒篇 《風水》に分類される特技。最大威力では街に大きな被害が出る。

*2
※ TRPG基本システム 1戦闘中(10分間)金属による攻撃を弾く。事前に使用済み。

*3
※TRPG200X・IMAGINE 味方1人に対する消費型アイテム1つをいつでも自分に使用可能。10分間、味方1体の与近接ダメージ+50%

*4
※TRPG200X 使用者はCURSE状態になる。戦闘終了かCURSE状態が解除されるまで追加で1アクションを得る。

*5
※TRPG200X アイテム用付加スキルを1つ指定。そのスキルの判定値、威力にプラス補正。

*6
※TRPG200X・P4G シーン、または戦闘終了まで指定した悪魔の魔法攻撃・支援魔法スキルが使用可能。3ターンの間、味方1体のクリティカル率が上昇する。

*7
※TRPG200X 悪魔召喚系のスキル。

*8
※TRPG200X 自分以外の味方の判定値・クリティカル率にプラス補正。

*9
姫の護衛は地底人《ケガレビト》 真・女神転生オタクくんサマナー外伝 (気力♪様)著にて登場





◎登場人物紹介
・秋山凛子 <封剣士><サイボーグ> Lv3■

苦行で左腕を斬り落とした封剣士の美女。
詳細は不明だが、かつての世界では封剣士はほぼ壊滅状態だったとの事。
宗吾とは香港で知り合い、敵対と共闘を繰り返した仲。
剣術もそうだが卓越した気功の使い手でもあり、幾つかの技を盗んでいる。


・翻香鈴 <地仙><符術師> LV3■
シリーズポジション:翻香鈴(200Xリプレイ『ナイト・テイル』シリーズ)

中国マフィアの幹部にして仙女。表向きは輸入雑貨店「大陸棚」の店長を務める。
修行兼仕事の為に香港を訪れた宗吾へタオ、符術を含めた仙術を教えた張本人。
色々あって彼を気に入り仕事も含めて様々な便宜を図っていた。
宗吾自身も「姐さん」と呼び敬意を払っている。
彼女に関しては実家が実家なので中国の何処かに流れ着いてる可能性があると思っている。


・カンセイテイクン Lv60
かつて宗吾が自分の世界で戦った魔人。
本来は《英雄》に分類される悪魔なのだが、魔都香港を取り巻く様々な要因の果てに災いを齎す存在と化した。
人間の肉体を乗っ取る形で地上に顕現し、香港を滅ぼそうとしたところを阻止される。


・tips 《魔都香港》
「別冊FSGI第3号」に記載されたTRPG覚醒篇の追加ステージ。
国内外様々な勢力が入り乱れ暗闘を続ける風水の都。
サイバーパーツの流通事情は日本を遥かにしのぎ、ファッション感覚で改造する者もいるほど。


――――――――――――


1話でちょっとだけ言ってた魔人との戦い。
そして次の話に繋げる箸休め回でした。

しれっと出て来た雌ブタさん。
本編ではどうなっているかは分からない(震


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Danse Macabre -前篇-

前後篇予定。
ちょっと短めです。


 

 

 

 横浜某所、非合法レルム。

 2度に渡るセプテントリオンの襲来と海外との関係途絶。

 それに伴う衰退と人口の流出によって寂れ、過疎化していた所を利用した経済特区。

 

 しかしその実態はヤクザ系列のカバー企業が多くを占める、彼らの影響が強い縄張りだ。

 現に密かに調達した資金に資材、様々な“商品”がこの場所に流れ込んでいる。

 無論他にも似たような場所はあり、此処は氷山の一角でしかない。

 無くなった所でそこまで大きなダメージを与える事は難しいだろう。

 

 だがそれでも。尻尾を出したのならば容赦する理由も無かった。

 このレルムにおいても使われる事無く、埃をかぶっていたはずの倉庫区画。

 特に大型の物がある場所に、人や物資の出入りが激しくなっている事を情報担当が掴んだのだ。

 

 おそらく回復したアストラル・シンドローム患者の抑えや機材の運び出しによるもの。

 安楽死法案の廃案により予定が狂った事でボロが出たのだろう。

 ひょっとすると河岸を変えるつもりなのかもしれない。

 

 だがそんな夜逃げまがいの行動を見逃すはずも、許すはずもなかった。

 ここまで来れば法や建前による追及の阻止も意味を成さない。

 秘密裏に根回しは完了し、政治的な影響が出る可能性は極小だ。

 

 であれば――――。

 

『ターゲットを確認、想定より数は少ないです』

 

『あくまで集積拠点の1つだからだろう。

 この調子ならそこまで高レベルも居ない可能性がある。

 ただサーヴァントの存在には気を付けろ、あれはそう簡単に死なない』

 

『なら死ぬまでぶった斬ればいいと。了解了解』

 

『正面からの陽動は任せて。

 派手に挑発かけるから。この剣バカもいるし』

 

『死なない程度には頑張ってくれ。

 ……監視カメラのハッキング、ドローン制圧準備完了

 タイムリミットは5分に設定、何時でも行けるぞ』

 

 

 雲一つない満月の月明かりが照らす夜空の下。

 武装した集団―――ヤタガラス及びキリギリス、有志の協力者たちの通信が飛び交う。

 ヤクザの拠点、そこへの強襲の為の最終段階。

 目的は構成員たちの殺害か無力化、囚われているだろう人間たちの救出だ。

 

 規模としては大した事もなく、各地で並行して行われている作戦の一つに過ぎない。

 油断は禁物だが、今回集められた戦闘員なら問題なく対処出来る筈。

 後詰めも用意されている以上、失敗はそうそうあり得ないだろう。

 

 だというのに。

 

(……何だろこれ?)

 

 黄色みがかった白色の髪を揺らしながら襲撃チームの1人、千束は銃を強く握り締めた。

 もう十数秒後には作戦が開始される。

 自分たちの役割は背後からの奇襲(バックアタック)

 浮足立った相手の足元を狩り、一気に制圧するのが仕事だ。

 

 こういった事は今まで何度もこなしている。

 いやな慣れもあって、今更怖気付くような感性などとうの昔に忘れてしまった。

 それなのに―――妙に心がざわつくのだ。

 

(嫌な予感っていうのとは違うなぁー、変な感覚だ)

 

 他の面子―――例えば勘の鋭い美野里など―――が何も言わない以上、感じているのは己のみ。

 気のせい、勘違いと言えれば良いのだが、無視するのは難しい大きさだ。

 しかしそんな根拠もない違和感を口にする訳にもいかず、

 

「……千束?」

 

 そんな内心の自問自答を感じ取ったのか。

 共に裏面からの強襲を行う相棒、たきなが声を掛けて来た。

 最近はかなり心配症である故か、視線が何処と無く鋭い。

 ついこの間も安静にしていろと言われたばかりだ。

 

「だいじょーぶだって、ちょっと月が綺麗だなーって思っただけ」

 

 インカムのマイクを切りながら微笑んで誤魔化す。

 下手をすれば無理矢理にでも任務から外しそうとしかねない。

 実際、この仕事を受ける時もやるやらないでかなり揉めたのが脳裏を過る。

 ここに来てやっぱり降ります、は迷惑などというレベルではない。

 

 そもそも、自分もここで止まるつもりなど毛頭無かった。

 

 例えレベル限界に到達していたとしても。

 例え人工心臓がもう付いて行けなくとも。

 例え装備や技量で誤魔化せなくなっても。

 

 相棒(たきな)を1人で戦わせる訳にはいかない。

 腐れ縁(真島)の企みを放っておく訳にもいかない。

 

 まだ自分は戦わなくてはならないのだから。

 違和感の一つや二つ、乗り越えなくては話にならない。

 

 

『各員時計合わせ―――開始』

 

 

 決意を固め直すと同時に作戦が始まった。

 反対側、つまり正面から派手な爆音と衝撃が生じるのを合図に駆け出す。

 

 

 

 自分の感覚が間違っていなかった事を知るのは、すぐ後の事だった。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「てめぇらどこから―――がっ!?」

 

「こっちからも来てるぞ人集めげぁっ!!」

 

 突然の急襲を受けたヤクザ、その下っ端である外道たち。

 レベルは平均して15~20程度。

 突き抜けた戦力は存在せず、数だけが頼みの雑魚集団。

 

 

 ―――その程度であるのなら、彼岸花の少女たちを止める事は叶わない。

 

 

「クリア―――!」

 

 

\カカカッ/

ガンスリンガー井ノ上たきなLv45相性:??? 

 

 

 サイレンサー付きの拳銃で次々と敵を無力化していくたきな。

 先日起きたヤクザたちによる病院襲撃事件。

 そこでサーヴァントたちを倒し続けた事で、彼女のレベルは現在【45】にまで至っている。

 

 足切りライン―――レベル【50】にはまだ遠いが、この程度の者たちであれば十分だ。

 瞳に静かな闘志を燃やしながら、圧倒的な速さで制圧を続けて行く。

 撃たれる前に撃つ、殴る、蹴る。時には学生鞄に偽装した盾で攻撃を防ぐ。

 

 まさしく鬼神の如き活躍。

 しかしそれは前のめりに過ぎるという事でもあり―――。

 

「死ねやぁああああ!!!!」

 

「ッ―――!」

 

 

\カカカッ/

外道タトゥーマンLv40相性:呪殺無効

 

 

 倉庫に置かれていた資材の影で息を潜めていたヤクザからの奇襲を受ける。

 振りかぶった短刀(ドス)が狙うのはその細い首筋。

 即死はせずとも状況を逆転させかねない一撃だ。

 

 回避は間に合わない、防御するには位置が悪い。

 たきなの顔には焦りが、ヤクザの顔には嗜虐の笑みが浮かび――――。

 

 

「あっぶないなーもう」

 

 

―――「神経弾」*1―――

 

 

 すかさずフォローに入った千束によって意識を飛ばされた。(睡眠状態)

 転がるようにして倒れた敵をワイヤーで手早く拘束。

 そのまま背中を合わせるようにしてたきなと並ぶ。

 

「私に無理させたくないからって自分がピンチになってちゃ意味ないでしょ。

 相手がやっさん並みの腕だったら首転がってたって。

 分かったかね、たーきなくーん?」

 

「……すみません、突出し過ぎました」

 

 軽快にいつもの調子でからかう千束に対し、苦虫を噛み潰したような表情のたきな。

 無理をすると倒れてしまう相棒への心配故の行動が、自身のピンチを招いてしまった。

 しかもそこを助けられてしまったのだから己への怒りが沸き上がる。

 

「いつも通り一緒に行くよ……行ける?」

 

「当たり前です!!」

 

 頭は冷静に、心は熱く―――ほんの数秒の休憩をおいて戦闘を再開。

 倉庫の奥から集まってきた増援を前にして、今度は千束が飛び出した。

 

 

「よいしょっと―――!!」

 

 

《アリ・ダンス》*2自動効果自分に向けられる命中率を半減する。

《回避強化》*3自動効果自分の物理・魔法の回避率を5%上昇する。

 最大まで強化済み。

 

 あえて目立つような振舞いで自身に視線を固定。

 当然のように殺到する銃弾、魔法、時には遠距離攻撃スキルの数々。

 それら全てをまるで踊るかのようなステップと踏み込みで回避する。

 

 被害は精々髪の毛数本が舞った程度―――常軌を逸した光景に全員の目が驚愕の色に染まる。

 

 

「そんなに見られると照れるってば」

 

 

\カカカッ/

ガンスリンガー錦木千束Lv49相性:??? 

 

 

 微笑と共に引鉄を引く。(トリガー)

 神経弾、魔力の弾、閃光弾、ハッピーショット。

 マガジンに装填された無視相性の弾丸が次々とヤクザたちを行動不能へと追い込んでいく。

 

「ちくしょう……テメェは一体何なんだよぉおおお!?」

 

 半ば半狂乱になりながら攻撃を続けるものの、1撃とて当たりはせず逆に数を減らすだけ。

 その理不尽に、もはや逃げるなどという思考さえ奪われてしまっていた。

 こうなればもう勝負は決まった様なもの。

 

 これこそが錦木千束の真骨頂にして最大の武器。

 スキルにまで昇華された観察力と反射神経による超絶回避能力。

 生半可な者では指一本振れる事さえ許されない。

 

 仮に、心臓に先天性の欠陥さえなければ。

 かつて所属していた京都ヤタガラスにもっと現代医学の知識さえあれば。

 もっと上の領域へと行けたであろう彼岸花。

 

 ―――救■主になれなかった、ヒーローを目指す少女である。

 

 

 

「なに千束を視姦してるんですかお前ら―――!!!!」

 

 

 

 最後は激怒したたきなの追撃により、この場にいたヤクザたちは全員地に倒れ伏すのだった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「それにしても、随分と脆い連中でしたね。

 いくら拠点に居るからって不用心に過ぎます」

 

 周囲のチェックを終えた後、たきなの口からそんな言葉が漏れた。

 連中、つまりは動かなくなったヤクザたち。

 うめき声を上げてはいるものの死者は1人もいない。

 不殺を旨とする彼女達からすれば珍しい光景ではないが、そう言われると千束も納得がいった。

 

 なにせ―――。

 

「プレバン*4もケブラー*5も付けてなかったからね。

 一番警戒してたサーヴァントも全然だし、此処って予想以上に大した拠点じゃなかったのかも」

 

 吸血鬼の血で強化されたヤクザ―――サーヴァントが1体も居なかった。

 お手軽に強化できる事もあって、それこそダース単位での戦闘も覚悟していたのにだ。

 だが、蓋を開けてみれば驚くほど質の低い者たちばかり。

 

 しかも構成員の誰も彼もがまともな防具さえ装備していなかかったというオマケ付き。

 たきなの言う通り、このご時世にしてはあり得ないほどの不用心さである。

 あからさま過ぎるほどに使い捨て要員としか思えない。

 もちろん正面側に戦力が偏っていた可能性も十分考えられるが、それにしても杜撰に過ぎる管理体制だ。

 

(まるで……)

 

 

 そうまるで―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………いやいやまさか」

 

 脳髄を疾る電流と共に、燻っていた違和感が一気に膨れ上がるのを感じた。

 頸を何度も横に振る。この閃きは常識的に考えればあり得ない。

 何故なら理由もやる価値も欠片も無いからだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(あり得ない……あり得ないのに!!)

 

 平時であればラノベの読み過ぎだろうと笑ってしまう与太話。

 ミカもクルミもたきなも呆れるか笑うだろう。

 しかし今、違和感は確信となって千束に警報を鳴らしている。

 

 

 もし本当にこれが確認ならば―――次はどうするか? 

 

 

「たきな――――」

 

 振り返り相棒へと警戒を呼び掛けると共に、インカムのマイクにスイッチを入れようとして。

 

 

 

 

 

「悪いが、今夜はオレとキミだけのダンスパーティーで頼むよ」

 

 

 

《早射ち》*6射撃攻撃ホルスターに入れた銃器をいきなり抜いて、相手より早く射撃する。

判定成功時、他のキャラクターとは別に1番最初に射撃ができる。

「魔力の弾」*7無視相性の弾丸。敵1体にCHARMを与える。

「強化魅了の札」*8CHARM状態を簡単に解かれないための札。

 

 

 轟音が1つ、遅れて何かが弾ける音と倒れる音。

 

 弾けたのは千束が手に持っていたインカム。

 マイクの部分だけが綺麗に吹き飛ばされ無用に長物と化した。

 そして倒れたのは、

 

「――――ッ!!」

 

 仰向けとなったまま動かない相棒の姿を眼に捉える。

 自分に比べて薄い胸は上下に動いている、死んではいない。

 だが決して無事と呼べる状態でもないのも確かだ。

 何故なら着弾したであろう胸元―――そこに怪しげに光る札が存在したからだ。

 

()()()と同じように少々小細工をさせて貰った。

 しばらくは動けないままだが*9死にはしないさ」

 

 声の源は倉庫の出入り口付近。その陰から1人の人間がゆっくりと歩きながら姿を現す。

 外見は金髪碧眼、長身に赤いコートを羽織った20代そこそこの白人男性。

 美形と評せるその容貌は天井の採光窓から差す月明かりに照らされて、見る者によっては神秘的な印象を与えるかもしれない。

 

 ―――()()()()

 この男の本質はそんな外見からかけ離れていると直感した。

 例えるならそう、獲物を求める飢えた猛獣と表現すべきだろうか。

 その瞳の奥に、身を焦がすほどの熱量が秘められているのを千束は理解する。

 

「仲間撃った奴の言葉信じる?」

 

 気付けば手が動いて銃口を向けていた。

 それを見て男はくつくつと、何処か楽し気に笑い声を漏らす。

 直接見て分かる―――相手のレベルは自分とそう変わらないだろう。

 

 少なくとも以前出会ったレッドアイホーク(佐々木)のような脅威は感じられない。

 自分であっても問題なく対処出来るはずの相手だ。

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 相手は無手だ。先程の轟音―――銃声を聞く限り得物は自分たちと同じ拳銃の類。

 しかし今は構えていないどころか手に持ってさえいないのだ。

 こちらが有利な状況にあるのは間違いないはず。

 

 それでも本能がブレーキをかける。

 反射とか装備とかそういうものを警戒した話ではない。

 もっと根源的な理由だ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「もっともな意見だね……やはりキミは変わっていない。

 少なくともここでは一緒だ」

 

「? お前みたいなのと会ったことあるかなぁ。

 絶っ対忘れられないと思うんだけど」

 

 何やら知り合いと話すような口調だが、こんな相手とは会った覚えは無かった。

 リコリスの仕事人としても、リコリコの看板娘にしてもだ。

 記憶力には自信があるし、そもそも忘れられるような淡い印象ではない。

 

 

「……ああ。それじゃ改めて自己紹介といこう。

 久しぶり、そして初めましてだ」

 

 

 

 

「オレの名は“タスラム”―――キミと決着を付けたいだけの流れ者(ドリフター)だよ」

 

 

 

\カカカッ/

ガンスリンガータスラムLv50相性:破魔無効 

 

 

 漂流者(ドリフター)。それは最近になって現れたここではない世界の住人。

 掲示板では様々な説が流れているが、詳しい事は知らないし、知るべきではない事なのだろう。

 ただ、新しく出来た友人たちのように協力的な者から、敵対勢力に拾われ暴れる者がいる事は知っていた。

 

 状況から察するに男は後者なのだろうが、どこか毛並みが違う気もする。

 とりあえず思ったのは―――。

 

「……人の知らない人間関係持ってこられても困るかな。

 はっきり言って超迷惑なんだけど」

 

「そこは許してくれ、オレにとっては最優先事項なんだ。

 一から十まで全てエゴでしかない事もね。

 ――――時間も押している。いきなりで悪いが始めよう」

 

 瞬間、暴風(ハリケーン)のような戦意が千束を襲う。

 投降を促すという考えは微塵も残さず吹き飛んだ。

 これはもう、力づくで動かなくするようにするしか手は無い。

 

 

「いやなモテ方するなー私!」

 

「 Come On My Hero. Let's Danse Macabre―――!!」

 

 

 月明かりの下、銃声と共に2人だけの死の舞踏会が幕を開ける。

 

 

 

 

 

*1
※真1 無視相性、付与効果:睡眠

*2
※P4・P5

*3
※TRPG200X

*4
※デビルサマナー 「プレートバンダナ」ガン相性の攻撃を10%まで軽減する

*5
※デビルサマナー 「ケブラーベスト」剣相性の攻撃を10%まで軽減する。槍(貫通)や投具にも軽減効果がある

*6
※TRPG誕生篇

*7
※真1

*8
※TRPG200X 退魔生徒会シリーズ

*9
※TRPG200X CHARM状態:魔法で相手の支配下に入ってしまった状態。一時的にNPC化しGMの支配下に入る




後篇もなるべく早めに投稿したいと思います。


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Danse Macabre -後篇-

今回の話は演出過多な所が多いと思います。
それではどうぞ。


 

 

―――〈200x/xx/xx 新宿衛生病院屋上〉―――

 

 

 

 

「今更だけどさ、なんで氷川の下に着いてたの?」

 

 夕暮れに染まる黄昏時。

 屋上に吹く風に、黄色みがかった白色の髪をなびかせながら少女が口を開く。

 そこに込められている感情は純粋な疑問の色のみ。

 

 眼前の、もうそれなりの付き合いになる相手へと向けるにはあまりに今更過ぎるもの。

 だがそうした問いかけが必要な関係である事も事実だ。

 なにせ接するのは大抵が敵対か共闘する時。戦場以外で会った回数など片手で足りる。

 

 いずれも相手の内心を聞く余裕になど恵まれなかったし、そもそも聞く気も無かった。

 考えていたのは何時だって、何度も絡んでくるこの相手を牢屋にぶち込む方法のみ。

 それでも今この時に聞いたのは、これが最後の戦いになると理解しているからだろう。

 

 相手の主―――サイバース社長にしてガイア教団幹部、氷川はここにはいなかった。

 自分達のチームが掴まされたのは欺瞞情報の方。

 おそらくは氷川が目的を達成する為、そして因縁深い女性を誘い出すために撒いたデコイ。

 

 まんまと騙された形になるが、こちらにはもうどうする事も出来ない。

 長きに渡る組織間の決着は彼女たちに任せるしかなかった。

 

「ん……そうだね、最初は何となくだった」

 

 相手―――氷川の右腕でありながら囮にされた金髪の男は、微笑みながら答える。

 口調には一切の怒りや絶望も無く、あるのはただ喜色のみ。

 それも当然だ、何故ならこの状況こそ彼が望んでいたものなのだから。

 

「オレが元々メシアンのクラリックだったことは調べがついているだろう? 

 どちらかと言えば悪魔退治じゃなくて人を撃つ方が多かったがね」

 

「そしてある日、同僚と導師(メンター)を殺害してガイア教団に走った……でしょ。

 理由までは分かんなかったけど、汚れ仕事が嫌になった?」

 

 口にしておいてなんだが、少女はその予測を自分でも信じていなかった。

 目の前の相手はどう考えてもそんなタマではない。

 現に苦笑しながら男も首を横に振って否定する。妙に様になった仕草でイラっと来た。

 

「別に好きじゃなかったが嫌いでもなかった。

 そもそもオレはね……生まれてこの方まともに“感情”ってやつがまともに働いた覚えがない。

 あったのはただ享楽だけ―――それだけを追求して生きて来た」

 

 男は語る、自身の欠落とこれまでの人生を。

 ただの一般家庭に生まれ、感情の欠損を疎まれ教会に放り込まれた事。

 銃の才能を見込まれ徹底的な洗脳教育を受けたが、ついぞ信仰心など欠片も芽生えなかった事。

 ただ面白そうと思ったから、それだけで氷川の誘いに乗りガイア教団へと走った事。

 

「最初は氷川(マスター)の事も飽きるまで付き合う程度のつもりだった。

 静寂の世界だとか? 最愛の女性と共に生きるだとか? 欠片も興味がなかったしね。

 ―――だけどあの日、オレはキミと出会った」

 

 大仰に両手を広げ、今でも鮮明に思い出せる記憶を掘り起こしていく。

 共に任務で初めて出会った日、初めて銃火を交えた時。

 神も奇跡も信じぬ男の言葉に次第に熱が籠り始める。

 

「オレの弾丸は1発も当たらず、逆にありったけの弾丸を叩き込まれた。

 衝撃と痛みと共に、“屈辱”と“怒り”と“恐怖”の感情もね。 

 ―――あの時、オレはキミに殺されて生まれ変わったのさ」

 

 不感の世界に生きて来た男を少女は変えた、変えてしまった。

 彼女が、殺し屋として育てられながら不殺の信念を貫くヒーローであった故か。

 

 

 ―――自分を変えた、救い出した彼女と決着をつけたい。

 

 

 だから彼女に執着し続けてきた、それが己の全てとなっていた。

 その一念だけが、彼女の敵である氷川側へ着いていた最大の理由だった。

 

「えぇぇ……つまり私のせいってこと? 

 いやぁモテる女はつらいですなー、自分の魅力が超怖い。

 っていうか要は質の悪いストーカーじゃん!」

 

氷川(マスター)の事を気に入ったのもあるが……概ねその通りだ。

 キミがそれだけ素敵だったという事で納得してくれ」

 

 少女は呆れ交じりに、男は心底楽しそうに笑う。

 途端、視界の端。遥か遠方で爆発が起こる。

 場所は都内最大の電波塔、その最上階付近。

 響く音に何が起きたのかが分からないほど、2人は鈍くなかった。

 

「……予想通り、あの少女は氷川(マスター)の求婚を断ったか。

 となれば世界の命運を賭けた戦いが今まさに始まった訳だ。

 勝って全てを手に入れるか、負けて全てを失うか……気にならない訳じゃないが」

 

「こっちもそろそろ始めよっか。

 いい加減決着つけたいのは同じだし。

 これ以上の時間稼ぎ(ムダ話)も意味無いんでしょどーせ」

 

 少女はホルスターから拳銃を取り出し近接戦闘用の構え(C.A.R.システム)を取る。

 男の奇襲によって1階へと叩き落された相棒も、他の仲間もここへ上がってくる気配はない。

 十中八九、何らかの妨害工作をされているのだろう。

 

「ご明察。最後の奉公って事で病院内を異界化する仕込みをして貰った。

 彼らが辿り着く頃には終わっているだろう。

 キミの方こそ、硝子の心臓(グラスハート)の調子は十全かい?」

 

 男は無手のまま構えない、それこそが構えである故に。

 魔弾の射手である彼にとって、その程度はまるで問題にはならないから。

 

「誰かさんのせいで新品に取り換えたばっかだっつーの。

 ……ああ、そうだ。最後に提案があるんだけど」

 

 少女―――錦木千束は不敵に笑って告げる。

 

「この戦い、負けた方が相手の言う事なんでも聞くっていうのはどう? 

 そっちの方が盛り上がるでしょ」

 

 男―――タスラムも笑い返しながら言う。

 

「女の子さんがそんな事言うもんじゃない……が、良いだろう乗った。

 後で後悔しても知らないぜ」

 

 

 

 再度の爆発音―――それが決戦の合図となった。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 結論を言おう、()()()()()()()()()

 戦いの最中、電波塔から生じた謎の発光現象が彼らを襲ったのだ。

 おそらく創世の要とされる量子コンピューター「アヌビス」の暴走。

 気が付いた時、タスラムは廃墟と化した建物の屋上で呆然と立ち尽くしていた

 

 原因は分からない。創世が行われるにはいくらなんでも早過ぎた。

 少なくとも開発者である氷川には何の落ち度もなかったはず。

 考えられるとすれば裏で暗躍していた〈ガイア再生機構〉だろうが今はどうでもいい。

 

 重要なのは戦いの決着が付かなかった事。

 この世界に転移したのが己一人である事。

 そしてこの世界でも彼女は変わらない事。

 

 ならばやる事には変わりがない。

 社会の敵と手を組みながらも条件は整えた。

 今こそあの時の続きをするのみ。

 

 

 ――――それがタスラムという男の全てなのだから。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「ッ―――!」

 

 本能による制止を意志力で捻じ伏せて引き金を引く。

 装弾されているのは無視相性の弾丸。

 物理反射結界(テトラカーン)を張っていない以上、反射のリスクも無し。

 

 敵対者―――タスラムの対応を伺う事も兼ねた弾丸は、

 

「―――オレもキミほどじゃないが、避けるのが上手いんだ」

 

 ()()()()()()()()()

 千束は見る、いつの間にかタスラムの手に握られている拳銃を。

 大口径かつ異形の形をした回転式拳銃(リボルバー)

 その銃口から一筋の煙がなびいている。

 

 だが驚愕すべきはそこではない。

 そんな物よりもっと恐るべき事象を目の当たりにしたのだから。

 

(弾を、弾で撃ち落した? 

 銃も構えてなかったのに―――!?)

 

 

《回避強化》*1自動効果自分の物理・魔法の回避率を5%上昇する。

最大まで強化済み。

《クィック・ロードⅢ》*2即時効果即座に銃弾を装填、弾倉の交換が可能。

銃器を装備していなくとも、即座に準備できる。

射撃後に銃器をしまい、別の武器を構えてもよい。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 言葉にすればそれだけ。特殊なスキルもアイテムも使ってなどいない。

 一体どれほどの技量があればそのような事が可能なのか。

 

 ―――戦慄はまだ止まらない。

 

 

「呆けてるならそのまま眠るといい―――レスト・イン・ピース

 

 

《イレイザー》*3射撃攻撃驚異的な集中力でより多くの射撃を繰り出す特技。

1度の詠唱で6発分の装填を行い、敵1体に対して、

射撃攻撃力に依存した物理ダメージを与える。

通常弾を使用。3分割行動(マルチ・アクション)*4

 

 

 鋼の咢から吐き出される怒涛の咆哮。

 拳銃という武器の限界を鼻で笑う、神業を超えた魔の所業。

 ()()1()8()()にわたる牙が千束へと襲い掛かった。

 

「マジか―――っ!!?」

 

 声を吐き出すと共に全てを半ば無意識に任せて回避。

 何発か体に掠らせながらも近くの物陰へと飛び込む。

 冷たい汗が背中を伝うのを感じながら、気配のみでタスラムの様子をうかがう。

 

「ハハハ、流石。

 やはりこんな狙いの荒い技(大道芸)じゃ直撃は無理だね」

 

 外したというのにもの凄く嬉しそうだった。というか笑っている。

 ふざけんなよ、と千束は思った。

 自分以外ならハチの巣になる所だ。

 正面に回っている剣士の彼であっても全て捌き切れたかどうか。

 

(物反鏡……駄目だ嫌な予感しかしない。

 何して来るか分かんないけどそれはやっちゃダメ)

 

 狙いを外れた弾丸が倉庫内を跳ね回る音を聞きながら思考を回す。

 相手は魔弾(タスラム)の名に恥じぬ規格外の腕前の持ち主。

 反射対策の一つや二つは持っているだろうし読まれる。

 

 であれば下手な策を弄しても意味が無い。

 むしろその隙を突かれて状況が悪化する可能性が高い。

 そもそも―――自分に出来る事など元より一つだ。

 

「……いよっしゃっ!」

 

 緊褌一番。腹を括ってから千束は物陰から飛び出す。

 目に入るのは銃口を向けながら微笑むタスラム。

 彼我の距離は約20メートルほど。

 

 ここからでは自分の弾丸は全て弾かれる。

 なら必要なのは超至近距離からの射撃。

 全ての魔弾を避け切って、こちらの弾丸を叩き込む。

 無限にも思えるこの距離(死地)を乗り越えねば勝機は無い。

 

 足のバネを使ってコンクリートの床を力強く蹴った。

 一瞬でトップスピードに入るもののまだ遠い。

 牽制、時間稼ぎも兼ねて連射する。

 

「ハハハハハ!! それでこそだ!!!!」

 

 先程と同じく弾丸を弾きながら、歓声を哄笑へと変貌させて再び発砲(トリガー)

 マシンガンを凌駕する連射速度―――しかしいずれも千束に当たる軌道ではない。

 

「ッ!?」

 

 

《跳弾》*5射撃攻撃銃弾が跳ねるのを計算に入れて射つ技。

敵側の回避に-20%する。

 

 

 訝しんだのは一瞬。答えが()()()()()()襲い掛かかった。

 最初に撃った弾丸、そして今撃った弾丸が壁を、天井を、床を、機材を、時には弾丸同士でぶつかり合い、幾何学的な模様を描きつつ千束へと殺到したのだ。

 1人の射手による多角攻撃という理不尽を前に、流石の彼女も万事休す―――。

 

 

 

「――――!」

 

 

 

《行動予知》*6即時効果自身の回避率を1度だけ上昇させる。

《アリ・ダンス》*7自動効果自分に向けられる命中率を半減する。

 

 

 ()()()()()()()()

 軽やかなステップを踏み、弾雨の中を千束は軽やかに舞う。

 腕に、足に、頬に、髪に掠りはするがせいぜいそれだけ。

 一発たりとも命を削るには届かない。

 ―――彼岸花が死の舞踏を踊り切る。

 

 ヒュウ、とその姿にタスラムは口笛を吹いて称賛した。

 反射神経と観察力だけで成せる事ではない。

 跳弾である以上、タスラムの動きを見るだけであそこまで完璧に見切るのは困難だ。 

 

 だからこちらの狙いを、“意”を読んで精度を上げたのだろう。

 死地へと踏み込んだことで極限まで高まった集中力。

 そして天性の才能が彼女を更なるステージへと押し上げたのだと理解する。

 

「いいね。そうこなくちゃ」

 

 残り10メートル。

 千束は撃たない、この距離でもまだ確実に当てられない。

 牽制の弾さえ相手に利用される事を考慮して回避に専念*8

 ひたすらに距離を詰め、タスラムの一挙手一投足へ全神経を集中させる。

 

 

《ターゲッティングⅢ》*9補助射撃する対象を1体指定する。

使用者が次に行う、指定した対象への射撃攻撃1回の判定値に

+[ランク×20]%の修正を与え、威力を2倍とする。

 

 

 それに対し彼が行うのはやはり発砲(トリガー)

 今度はタスラムを中心にして護るかのように跳ね回る。

 言うならば鉛が織りなすハリケーン。

 その台風の目でゆるやかに、まるで祈りを込めるようにして。

 銃使い(ガンスリンガー)頂点/限界(最果て)は千束へと静かに告げる。

 

 

「―――さあ、勝負しようか」

 

《早射ち》*10射撃攻撃ホルスターに入れた銃器をいきなり抜いて、相手より早く射撃する。

判定成功時、他のキャラクターとは別に1番最初に射撃ができる。

《クイック&デッド》*11射撃攻撃ガン相性。敵全体に銃器による攻撃を行う。

対象となる敵の数だけ弾数を消費する。

 

 

 刹那、跳ね散っていた弾丸が一点に集束。

 そこへ轟音と共に新たな一撃が加えられた。

 結果として何が起こるか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 視界一面に広がる魔弾の壁―――今度は避けられない、避けるスペース自体が潰された。

 どれだけ高い回避能力を誇ろうが、面で制圧されればどうしようもない。

 

 

 

 「っあぁああああ!!」

 

 

 

《盾防御(物理)》*12防御格闘威力に等しい物理防御点、

「剣・ガンに強い」の防御相性を得る。

 

 ()()()()()()

 ここに来て温存していた切り札―――学生鞄に偽装したエアバッグ型の防弾盾を展開。

 連続する衝撃が全身を叩くが風穴は空いていない、動きにも支障は無し。

 

(ここっ!!)

 

 距離は詰め切った、相手も大技を使った直後。

 千載一遇にして最後のチャンス―――盾を放り捨て眼前のタスラムへと引鉄を引いた。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 ―――それはふと過った記憶。数日前に友人たちと談笑した時の事。

 

 

「俺でも斬れない銃撃? 

 そりゃいくらでもあるって」

 

「アホほど火力が高いとこちが力負けするし、

 技量が高い相手ならこっちの見切りを潜り抜けて当てて来るからな」

 

「後は攻撃した後の反撃とかも厳しいのがある。

 死に体になってると流石にどうしようもねーわ」

 

「あー……でも、もっと単純な話もあったか」

 

 

 

 

 

「―――攻撃の直前に割り込まれたら(カリキュレイト)防ぐどころか避けるのも無理。

 歯ぁ食いしばって堪えるか、死んでから息吹き返すしかないな」

 

「常識で語りなさいよ剣バカ。

 千束、たぶん真に受けなくていい……と言うか参考にならないからこれ」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 発砲音は2()()

 1つは千束が撃った事によるもの。

 狙いは過たずタスラムの胴体を穿つ。

 

 そしてもう1つは―――。

 

「……あ」

 

 

《神業の早射ち》*13割込/射撃攻撃相手の攻撃に割り込んで射つ恐るべき神業。

相手が攻撃を宣言した時、判定に成功すれば命中する。

失敗すれば次のアクションまで回避・防御は不可能。

ガン相性。必中するものとする。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 1センチ弱の銃創から赤い雫がとめどなく零れ落ちる。

 あらゆる者に触れさせなかった少女を、高嶺に咲き誇る彼岸花を魔弾が撃ち抜いた確かな証。

 

「~~~~~~まだまだっ!!」

 

 しかし致命傷ではない。筋肉を締め上げて出血を抑える。

 重傷ではあれど逆を言えばその程度。

 愚者ならともなく、超人である彼女の動きを止めるほどではない。

 痛みでのたうち回るような真似も京都時代に卒業している。

 

 

「お、おおおおおおおおおっ!!!!」 

 

 

―――「トランキライザー」*14―――

 

 

 そしてそれはタスラムにも言える事。

 絶叫と共に奥歯に仕込んだ気付け薬をかみ砕く。

 薬効成分が特殊弾による状態異常を中和―――ギリギリで意識を保つことに成功。

 互いに手傷を負いながらも、戦いは振出しへと戻る。

 

 

 

(先に撃つ!)

(避けて撃つ!)

 

 

 

 残り5メートル。

 拳銃本来の有効射程距離。あらゆる小細工は意味を成さない。

 回避であれば千束が、早射ち勝負であるのならタスラムが有利。

 

「ぐ……っ」

 

 しかし、如何なタスラムであってもここまで重ねた無茶な銃撃のツケが足を引っ張る。

 銃口を向ける手が遅い、まるで深海の底にいるかのような感覚。

 これでは照準するのは千束の方が早い。

 おそらくコンマ数秒の差で彼女の弾丸が勝負を決するだろう。

 

 

 そう―――錦木千束の心臓が、人工物でさえなかったのなら。

 

 

 ビキリと、千束は体内から響く音を聞いた。

 同時に視界が狭まる。脳に酸素が回らない、血液が全身に行き渡らない。

 これまで何度も経験した感覚―――人工心臓が限界を迎えた事を伝えていた。

 

(こんな、時に……っ!?)

 

 戦闘が始まってから1分程度しか経過していない。

 だがその1分は心臓が使い物にならなくなるほど高密度なものだったのだ。

 気力を振り絞るものの、意識を保つので精一杯―――どうしようもない(チェックメイト)

 

 

魔銃解凍(アクセス、カイラース)!!!!」

 

 そのチャンスを魔弾の射手が見逃すはずもない。

 己に残された最後の切り札にして奥の手―――魔銃の開放へと踏み切った。

 

 グチャリと異音が迸る。グリップに埋め込まれた奇妙な石、《マガタマ》が肉を食い破った音。

 そして血を媒介に生命力、体力、気力、精神力、持ち主のあらゆるエネルギーを啜り出す。

 やがて銃口に集束するのは、それら全てを練り合わせて精製された輝く光球。

 動けない人間一人を吹き飛ばすには十分過ぎる火力があるのは誰が見ても明らかだ。

 

《シュミット》*15―――タスラムの世界においてとある悪魔合体師が考案した超技術。

 マガタマを人体に埋め込まず、()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 かつての主が本懐を果たさんとする彼へと餞別代わりに授けた力である。

 

 

 

「これで、決着だマイヒーロー(千束)……っ!! 

―――レェェエエスト・イン・ピィィイイイス!!!! 

 

 

 

《至高の魔弾》*16万能物理直線上の敵全員を対象とする。

LVと、力~運の能力値を最大で合計1000まで加味し、

装備している武器の攻撃力に依存した物理ダメージを与える。

錦木千束に対してのみ、仕様変更(TRPG200X⇒IMAGINE)

 

 

 

 

 魂からの咆哮と共に放たれる至高の一撃。

 万物を撃ち抜く、文字通り彼の全てを込めた渾身の魔弾。

 これにて決着、いつかの世界から始まった物語は最先端の世界にて終焉を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

「人の友達に何してるんですかお前!!!!!!」

 

 

 

 

 この場にもう一輪の彼岸花が存在しなければ。

 

 

 

 

 

《カバー》*17割込行動集団スポーツで他者のカバーに入る臨機応変の能力を示す。

他人が失敗したときに、何らかのカバーとなる能力。

判定に成功時、他のPCの行動に割り込んで自分の行動を行える。

代わりにダメージを受けるのも可能。

この場合、回避は出来ないが防御は可能。

最近店に通う剣士からコツを教わった。

《盾防御》*18防御格闘威力に等しい物理防御点、盾の防御相性を得る。

 

 

 気合いと根性、執念でBS解除判定に成功(符を引き剥がした)たきなが2人の間へと飛び込んだ。

 目を剥くタスラムを無視して、恐れる事なく魔弾を学生鞄で受け止める。

 

「あ、ぐうぅうあああああああああ!!!!!」

 

 当然、そんなものでこの魔弾を防ぎ切れるはずもない。

 盾ごと肉が千切れ骨は潰れ血が一瞬で蒸発する。

 だがそれでも―――魂だけは決して折れない。

 

 

―――《食いしばり》―――

 

 

「千束ぉおおおおお!!!!」

 

 食いしばったたきなは友の名を叫ぶ。

 今の一発を防いだことで全身見るも無残な有様だ。

 特に両腕はかろうじて原型を留めている程度。

 これでは銃を撃つどころか殴る掛かる事さえ難しい。

 

 だからこそ信じて託すのだ、最も信頼する相棒へと。

 

 

 

「……声おっきいぞ~、たーきな」

 

 

 

《特定絆アクション:絆の回復》*19即時絆レベル7以上を持つ対象がBSに陥り、

回復判定が可能であればPCは自分の手番を

消費してそのPCへ回復安定のチャンスを与える。

この際、+20%ボーナスを与える。

 

 

 友からの声援を受け、意志に満ちた声と共に千束が立ち上がった。

 顔色は真っ青を通り越して白。意識を保っている事すら奇跡的なレベル。

 それでも銃を再び構える―――最後の一発を撃つために。

 

「…………そうか、そういう事だったか」

 

 タスラムは動かない、否、動けない。

 この一撃で文字通り全てのリソースを使い果たした。

 今の彼には指一本動かす力も残されてはいない。

 

 しかし、胸にあったのは悔しさよりも納得の感情だった。

 きっと()()()も、同じように彼女は駆けつけていたのだと思う。

 であれば、かつての世界での戦いの結末も同様に違いないから―――。

 

 

「たとえ魔弾(タスラム)であろうが―――女の子さんの友情は撃ち抜けないってね」

 

 

 とびっきりの苦笑をすると共に胸へと走る衝撃と痛み。

 そのままタスラムの意識は深い闇の底へと沈んでいくのだった。

 

 

 

 

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「千束! こんな拘束甘すぎます!! 最低でも手足の5、6本潰しておかないと!!!!」

 

「いやバイオレンス過ぎるから。ほらほらマジでやろうとしない! 

 落ち着きなよたきなー。両腕の傷開くよもう」

 

 意識を取り戻すと空に浮かぶ満月が映ると同時に、少女の物騒な意見が耳に入る。

 人間の手足は4本しかないのに、と思ったが口にはしない。火に油を注ぎかねないからだ。

 なんとなしに軽く体を動かそうとするが、まるで力が入らなかった。

 

(……ワイヤーで拘束された上で、異能者用の筋弛緩剤を投与して地面に転がされてるか)

 

 感覚から自身の状態を素早く把握する。おそらくさほど時間は経っていない。

 だがそろそろ、他の強襲メンバーも集まって来るはずだ。

 決着がついた以上、別に何かをする気も無いのだが相手からすれば知った事ではないだろう。

 

 ―――これからどうなるか。

 

 一時的とはいえ反社会勢力に手を貸していたのだ。

 それも脅されたとか仕方なく、ではなく己の意思で。

 吐ける情報―――ほとんど無いが―――を吐かされた後はロクな扱いを受けまい。

 

 とはいえ、正直な話。タスラムからすれば先の話など心底どうでも良かった。

 彼女と決着をつける事が自分の全て。

 そして終わった以上、己がどうなっても構わない。

 仮に自分が勝っていれば、その場で頭を撃ち抜くつもりだったくらいなのだから。

 

「んあっ、起きたんだ。

 思ったよりも早かったじゃん」

 

 すると意識を取り戻した事に気付いたのか。

 千束が駆け寄ってタスラムの顔を覗き込む。

 顔色はだいぶ良くなっているようだった。

 

「……やあ、硝子の心臓(グラスハート)の調子はどうだい?」

 

「今のところ平気かな。

 後でk先生に診て貰わなきゃだけど」

 

 互いに先程まで殺し合っていたとは思えないほどの気軽に言葉を交わす。

 後方でたきなが言葉にならない叫びを上げているが意識から外している。

 

「そっちの事情は全然分かんない。知らない事だらけだし。

 でも、とりあえずは落ち着いた?」

 

「ああ……もうやり残した事は無いよ。

 今ここで、死んでもいいくらいにね」

 

 その本心からの言葉に千束が顔をしかめる。

 せっかく誰も死なずに済んだのに、そんな事を言われると腹が立ったのだ。

 

「あのさー、私のこと知ってるなら“命大事に”ってのも知ってるでしょ。

 こっちは敵も味方も誰だろうとそうそう死んでほしくないんだからさ。

 そんな簡単に死ぬ死ぬ言うなよな~お前、頼むから」

 

「―――、……それは、お願いかな?」

 

 愚痴るような言葉に対しふと漏れた質問。何故か無意識に飛び出した言葉。

 それは確かに彼女の耳に届き、

 

「え? ……うん、まぁそうなるかなー」

 

 いつかの約束を思い出す。

 “負けた方が相手の言う事をなんでも聞く”。

 この彼女は知らない、タスラムの知る彼女と交わしたもの。

 

 なら態々守る必要などないが―――生憎とそんなつもりにもなれなかった。

 

「キミは、オレに死んでほしくないと」

 

「だからそうだって言ってるじゃん。

 あとレスト・イン・ピースとか言うの止めてラブアンドピースに変えなよ。

 そっちの方が絶対いいから」

 

「決め台詞なんだがな―――OK My Hero.

 その要望に従おう。なにせオレは負けたからね」

 

 どうやらまだ、死ぬ訳にはいかなくなったようだった。

 これからどうなるか、自分に何が出来るか分からない。

 しかし……命を粗末に扱う事だけは二度とすまい。

 

 静かに笑うタスラムに、千束は疑問符を浮かべながら首をかしげるのだった。

 

 

 

*1
※TRPG200X

*2
※TRPG200X

*3
※真・女神転生IMAGINE

*4
TRPG200Xルール。判定値を分割して同じ行動を最大3回可能

*5
※TRPG誕生篇

*6
※偽典・女神転生改変

*7
※P4・P5

*8
※200X 《回避専念》アクションを消費し、次の手番まで回避判定値+20%

*9
※TRPG200X

*10
※TRPG誕生篇

*11
※TRPG200X

*12
※TRPG200X 「王の盾」付加スキル

*13
※TRPG誕生篇

*14
TRPG200X 即時効果アイテム。自分への攻撃1回に対し、BIND、SLEEP、PANIC、HAPPY、CHARMの確率を半減する。

*15
※ライドウシリーズではなくTRPG200X「退魔生徒会シリーズ」仕様

*16
※真・女神転生IMAGINE

*17
※TRPG誕生篇

*18
※TRPG200X

*19
※TRPG200X




◎登場人物紹介
・タスラム <ガンスリンガー> Lv50
シリーズポジション:長谷部(TRPG版真Ⅲリプレイ『再会』)

過去周回から流れ着いた漂流者。分類上は独立型。
元メシアンだったがガイア教団へと鞍替えした過去を持つ。
生まれながらにして感情の欠落した男だったが、錦木千束との出会いと戦いが彼を人間へと変えた。
それ以降は彼女に執着し、決着をつける事を望んで敵対と共闘を繰り返す。
最終的に決着をつける前に創世の失敗、あるいは何者かの干渉による影響でこの世界へと飛ばされてしまった。
千束との戦いの後、色々と尋問されたが動機とか諸々を聞いてドン引きされてしまった。

レベルはともかく、ガンスリンガーとしては人類最高峰。
魔法も特殊なスキルも無く、人間の成せる技を異能の領域で行使する。(割と例外は存在するが)

実は千束との戦いでは耐性防具の類を一切付けていなかった。
これは手加減などではなく、情報量で差があるから条件をなるべく公平にしたかった故。
フェアプレイ精神、あるいは騎士道精神とも。


・錦木千束&井ノ上たきな
知らない過去と因縁が追い付いて来た。
厄介なストーカーだったがとりあえず解決? したのだろうか。


・八瀬宗吾&若槻美野里
画面外で大活躍。
リコリコ2人組に意外と影響を与えているのかもしれない。


・tips 氷川について
200Xリプレイ「退魔生徒会シリーズ」においてJK(PCの1人)に貢いだ果てに
プロポーズまでしている。
つまりは公式です(
望んだ静寂の世界も要約すると「君と2人きりの世界で過ごす!」
一人の少女に執着するという点ではタスラムと同じだったかもしれない。


―――――――――

次回は久々に掲示板回にチャレンジ予定です。



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DD CHANNEL:【集え】剣術系スキル検証 意見交換スレ【剣士たち!】

すみません、1か月以上間が空きました。
時系列的にはたきなが百合こじらせた会話するちょっと前です。



 

DD CHANNEL:【集え】剣術系スキル検証 意見交換スレ【剣士たち!】

 

 

 

472:名無しさん@LV上げ中

 うああああ! 

 し、失伝したはずの技が残っている!? 

 

473:名無しさん@LV上げ中

 おおお、落ちつけ

 まだまだまだあわてるじじじ

 

474:名無しさん@LV上げ中

 慌てまくってて草

 

475:名無しさん@LV上げ中

 大丈夫? おっぱい揉む? 

 

476:名無しさん@LV上げ中

 なお雄っぱい(

 

477:名無しさん@LV上げ中

 いやだああああ!! 

 柔らかいのが良いのおおおお!!!! 

 

478:名無しさん@LV上げ中

 実際、途絶えたはずの流派が現在まで残っててビックリした

 

479:名無しさん@LV上げ中

 逆に聞いた事ない流派が有名なパターンもな

 

480:名無しさん@LV上げ中

 あと細部が違う所も

 流派の拠点が東京じゃなくて京都にあるとか

 型の一部が別物になってる事も

 

481:名無しさん@LV上げ中

 こうして聞くとマジで違う世界なんだなと突きつけられるね

 

482:名無しさん@LV上げ中

 まー結局は斬り殺すための技術なのは変わりないのですが

 

483:名無しさん@LV上げ中

 そこ変わってたらもはや剣術じゃねーよ

 

484:名無しさん@LV上げ中

 ビームサーベ流とかいう目と耳を疑うSF剣術

 

485:名無しさん@LV上げ中

 頭がイカレたのか疑いましたね

 概要とか骨子を聞いたら納得できない事もなかったけれども

 

486:名無しさん@LV上げ中

 SFでも変わらないものはあるのだ! 

 

487:名無しさん@LV上げ中

 細やかな違いはあれど覚醒者とか悪魔戦闘だと大体似たような認識になるよな

《剣の舞》や《武者車》*1も《かいてんぎり》に《しっぷうじんらい》*2と扱われるみたいに

 

488:名無しさん@LV上げ中

 我が必殺の《睡夢剣》*3が「いやそれ役に立つの?」 って言われたショックががが

 

489:名無しさん@LV上げ中

 浅い眠りに落とす程度なのは正直、うん

 

490:名無しさん@LV上げ中

 グヘヘ、俺の《真空刃》*4は全体攻撃なりぃ

 似たようなもんなら《風神剣》とかもあるけどさ

 この世界とは違うからってまるで通用しないのとは=じゃないのだ

 

491:名無しさん@LV上げ中

 競うな! 

 持ち味をイカせッッ!!!! 

 

492:名無しさん@LV上げ中

 まさにそれよ

 結局戦いなんて自分の得意の押し付け合いって面もあるし

 

493:名無しさん@LV上げ中

 臨機応変に切り替えて行くべ

 それはそうとして失伝していた剣技を覚える絶好の機会でもあるのだが

 

494:名無しさん@LV上げ中

 FOOOOOOO!! 

 この世界は天国ではなかろうか!?!? 

 

495:名無しさん@LV上げ中

 高GPかつ足切りライン50という地獄から目を逸らせばな!!!! 

 ついでに怪獣やら敵対勢力もわんさかいるぞい

 

496:名無しさん@LV上げ中

 生き残るには強くなるしかない! 

 レベルも上げて技も覚えて装備も整えるのだぁっ

 

497:名無しさん@LV上げ中

 それでも死ぬときは死ぬのであゝ無情(

 

498:名無しさん@LV上げ中

 剣鬼さんくらいでしょ、ドリフの剣士でこの環境謳歌出来てるの

 

499:一般剣士@LV上げ中

 う~軍神軍神

 今、軍神を求めて全力疾走してる僕は異界潰しのバイトをしてるごく一般的な剣士

 強いて違うところをあげるとすれば八艘飛びに興味があるってことかナー

 

500:名無しさん@LV上げ中

 名前は剣鬼

 

501:名無しさん@LV上げ中

 名前はキチガイ剣士

 

502:名無しさん@LV上げ中

 名前はライダーオタク剣キチ

 

503:名無しさん@LV上げ中

 名前は剣バカ

 

504:名無しさん@LV上げ中

 出たな自称一般剣士! 

 

505:名無しさん@LV上げ中

 ちわーっす剣鬼さん

 この間女の子と異界デートしてましたねぇ~~~~

 全身血みどろでまるで羨ましくなかったわ(

 

506:名無しさん@LV上げ中

 当たり前のように着替え持って来てたあの子は何なのだ(恐

 

507:名無しさん@LV上げ中

 お、女の子は血になれてるから……

 

508:一般剣士@LV上げ中

 酷い言われようじゃなかろうか? 

 

509:名無しさん@LV上げ中

 鏡見てどうぞ

 で、軍神ってなによ

 

510:名無しさん@LV上げ中

 どうせ斬り殺したいか技を受けたいんでしょ

 八艘飛びって事はヨシツネか

 

511:名無しさん@LV上げ中

 八連続物理攻撃してくるんだっけ

 俄かには信じられんなぁ

 

512:名無しさん@LV上げ中

 自分の知る猛将ヨシツネは1回しか飛ばなかったぞ*5

 八艘飛びじゃない、一艘飛びだよ

 

513:一般剣士@LV上げ中

 お、仲間がいたか

 やはり猛将じゃ駄目だ

 このヨシツネは出来損ないだ、食べられないよ

 

514:名無しさん@LV上げ中

 食うなwww

 

515:名無しさん@LV上げ中

 食うって……いや、例えか

 

516:名無しさん@LV上げ中

 鬼喰いか何かでいらっしゃる? 

 それならば色々と納得だが

 

517:名無しさん@LV上げ中

 美味しんぼネタ通じないのもいるよなー

 

518:名無しさん@LV上げ中

 世界が違うのもあるけど単純に古い漫画だもの

 

519:名無しさん@LV上げ中

 世代の違いを感じるがとりあえず何があった? 

 

520:一般剣士@LV上げ中

 ちょいと格上の剣士の人と斬り合って色々情報交換したんだが

 その時に連撃の概念でヨシツネについて聞いてさ

 実際に受けて斬り返すしたり技覚えたい

 

521:名無しさん@LV上げ中

 なるほどー、死なない? 

 

522:名無しさん@LV上げ中

 俺じゃミンチさえ残らない気がするわ

 

523:名無しさん@LV上げ中

 痛くなければ覚えませぬ、とは言っても限度がねぇ~~

 

524:名無しさん@LV上げ中

 つか斬り返しなんて出来るもんなの? 

 大人しく防御固めるかワンチャン狙って反射技掛けるかでは

 

525:名無しさん@LV上げ中

 やれるんじゃない? 試す気無いけど

 

526:名無しさん@LV上げ中

 やってもいいがその前に心の一方の情報置いてけ

 あれ本気で伝承しか残ってないんだよ

 

527:名無しさん@LV上げ中

 開祖の見使えたという二階堂平法の秘術

 俺でなきゃ見逃しちゃうね

 

528:名無しさん@LV上げ中

 検証勢の一員として受けたがマジで体が硬直する

 精神無効の装備したら効かないんですけどね、ブヘヘ

 

529:名無しさん@LV上げ中

 対策をしていないのは甘え

 

530:名無しさん@LV上げ中

 はい精神ガードキル~~

 

531:名無しさん@LV上げ中

 ありもしないスキルを捏造するな(*6

 

532:名無しさん@LV上げ中

 ふっつーに剣気叩き込むだけじゃ駄目なのはわかる

 あれじゃただの《威圧》*7にしかならねぇ

 

533:名無しさん@LV上げ中

 なんというかこう、こっちの知覚をすり抜けて受ける感じ?

 攻撃に移ろうとした瞬間に意が飛んできて機先を制されてた

 

534:名無しさん@LV上げ中

 呼吸を奪う……プレスに近い感じがするな

 

535:名無しさん@LV上げ中

 あるいは虚空瞬撃か

 

536:一般剣士@LV上げ中

 コツはあるが向き不向きもあるからなあの技

 そもそも本来の心の一方なのか自体怪しいし

 

537:名無しさん@LV上げ中

 はい? 

 

538:名無しさん@LV上げ中

 ふむ

 

539:名無しさん@LV上げ中

 どういう事だ、説明しろ苗木! 

 

540:一般剣士@LV上げ中

 事情含めて語るとラノベ1冊分くらいになるんだけど

 

541:名無しさん@LV上げ中

 長い、3行でまとめろ

 

542:名無しさん@LV上げ中

 悪いが野郎の過去語りに興味は無いんだ

 

543:名無しさん@LV上げ中

 美少女、美少年、美女、美熟女なら……! 

 

544:名無しさん@LV上げ中

 性癖の開示は止めろスレ違いだ

 

545:一般剣士@LV上げ中

 ・学生時代に国津神系の忍者集団と出くわした

 ・紆余曲折あって仲良くなった

 ・技を幾つか交換して、その中にあった

 

546:名無しさん@LV上げ中

 アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!? 

 

547:名無しさん@LV上げ中

 たぶん紆余曲折が相当長いんだろうなとボブは察した

 

548:名無しさん@LV上げ中

 何故忍者が??? 

 

549:名無しさん@LV上げ中

 あー、忍者の剣技。忍者殺法*8の類か

 その中に名前を変えて伝わってたパターン? 

 

550:名無しさん@LV上げ中

 つまりどういう事だってばよ

 

551:名無しさん@LV上げ中

 要はラベルの違いよ

 同じような技でも流派によっては名前も伝授の難度も違うあれ

 

552:名無しさん@LV上げ中

 さっき話してた認識の話みたいなもんよ

 

553:名無しさん@LV上げ中

 納得

 

554:一般剣士@LV上げ中

 そいつらは《三挫き》って呼んでた

 他には「不動金縛りの術」とも

 教えて貰ったのかパクッたか、それか再現したのかはわからん

 

555:名無しさん@LV上げ中

 つーことは心の一方(偽)が正しい? 

 

556:名無しさん@LV上げ中

 伝承と同じ効果があるなら本物と呼んでもいいのでは

 

557:名無しさん@LV上げ中

 仕方ねぇ、確かめて来るから誰かタイムマシンくれ

 

558:名無しさん@LV上げ中

 あったら自分で使っとるわ阿呆www

 

559:名無しさん@LV上げ中

 忍者すごい

 自分の世界だとガイアーズの殺し屋みたいな認識でした

 

560:名無しさん@LV上げ中

 オレの所もそうだったわ

 国粋主義っていうの? 

 護国謳って外国の文化とか技術を全否定するテロリスト集団

 

561:名無しさん@LV上げ中

 こわっ! 忍者こっわ!! 

 

562:名無しさん@LV上げ中

 NARUTOを無邪気に読んでたあの頃には戻れませんねえぇえええ

 

563:名無しさん@LV上げ中

(´・ω・)つBORUTO

 

564:名無しさん@LV上げ中

 私の脳にゴミのような情報を流すんじゃなぁい!! 

 

565:名無しさん@LV上げ中

 ゴミは言いすぎでしょおじいちゃん!! 

 中身は……うん!! 

 

566:名無しさん@LV上げ中

 ゴミかどうかは俺が決める事にするよ

 

567:名無しさん@LV上げ中

 サムライ8さん……あなたはクソだ

 

568:名無しさん@LV上げ中

 そうとも言えるしそうでないとも言える

 

569:名無しさん@LV上げ中

 あなたがクソかどうかは俺が決める事にするよ

 

570:名無しさん@LV上げ中

 天丼やめいw

 

571:名無しさん@LV上げ中

 サムライ8ってなんですか? 

 まだ追えてなくて(現在NARUTO20巻

 

572:名無しさん@LV上げ中

 わしらには救えぬものじゃ

 おすすめはしない

 

573:一般剣士@LV上げ中

 話し戻すけど体得のコツなら後で纏めておくわ

 皆も新しい技とか変わった技覚えたらどんどん書きこんで欲しい

 それ取り込んでさらに成長するから

 

574:名無しさん@LV上げ中

 この剣鬼めぇええ!! 

 いいよ

 

575:名無しさん@LV上げ中

 ぶっちゃけこんなスレに書き込んでるのなんて似たような奴ばっかだろうし

 

576:名無しさん@LV上げ中

 情報交換しつつ切磋琢磨

 ここはオタクの集まる掲示板ではなかったのか

 

577:名無しさん@LV上げ中

 剣術オタクだろどう考えても

 なお剣鬼さんがぶち抜けてるのは揺るがない事実

 

578:一般剣士@LV上げ中

 人を何だと思ってるんだ……!? 

 

579:名無しさん@LV上げ中

 剣バカ筆頭

 

580:名無しさん@LV上げ中

 刀振る事にしか興味ないバカ

 

581:名無しさん@LV上げ中

 ツラだけは無駄に良い馬鹿

 

582:名無しさん@LV上げ中

 怒らないで下さいね、八艘飛び受けたがるなんてバカ丸出しじゃないですか

 

583:名無しさん@LV上げ中

 結論:バカ

 

584:一般剣士@LV上げ中

 お前らなー! 

 ちょっとは自覚はあっても連呼されると傷付くんだぞごらぁ!! 

 お詫びに野生のヨシツネ情報があればご一報ください

 

585:一般剣士@LV上げ中

 野生のヨシツネ、それも軍神のなんていてたまるかああああっ!! 

 

 

 


 

 

 

「やっぱ駄目かー……手持ちにヨシツネいる知り合いは居ないし、どうしたもんか」

 

 スマホであちこちの情報スレを漁るが収穫はゼロ。

 やはりというべきか野生のヨシツネの目撃情報はどこにもない。

 半ば分かっていた事だが、そう都合良く事は運ばなかった。

 

 リコリコのカウンター席―――最近はほぼ専用席―――でコーヒーを啜りながら頭を働かせる。

 先日“鳴神虎春”なる封剣士に聞いた話から、是非とも武神の技を受けてみたくなった。

 しかしあちこち探しても目当ての存在に掠りもしない。

 

 一応都内には手持ちにいるサマナーが存在するらしいが、縁もゆかりもない人間がいきなり頼み込んでも拒否されるだけだろう。

 情報を流す事にも繋がるから金を積んだところで怪しい。

 問答無用でいきなり斬りかかるような真似をする訳にもいかないので非常に困った。

 

 美野里ちゃんにもダメ元で合体して作ってくれないか頼んだのだが―――。

 

『戦略的にも財布的にも無駄だから嫌よ』

 

 などと氷の視線と共に断られてしまっている。

 流石に八方塞がり―――なので思考を切り替える。

 

「……連撃系の技なら一応は使える。

 弄って改良して、機先の奪い合い(プレスターン)でも使えるように組み込むとして―――」

 

 手札の中から幾つかピックアップし脳内でイメージを形作る。

 完成された連続攻撃(八艘飛び)とまではいかずとも、使えるだけの下地はあるつもりだ。

 鍛錬で慣らした後、実戦で試して問題点の修正を繰り返す。

 

(――――()()()9()0()()()()()()()

 もし戦う機会があったとしたら、このままじゃ一矢報いる事すら怪しい)

 

 情報交換という手合わせの後。

 こちらが修行の為に職場(異界)へ突っ込んでいる間、千束ちゃんたち3人は襲撃を受けたらしい。

 それも別の世界の自分―――悪魔人間と化した高レベルの剣士から。

 なんでも違う世界の自分を殺せば強くなれるからと。

 

 聞けば《アリ・ダンス》持ちで斬撃を吸収するという、実に斬り甲斐のありそうな相手だ。

 羨ましい、と思う気持ちは勿論ある。

 自分はなぜあそこで分かれたのかと後悔するくらいに。

 

 そしてそれ以上に。友人が狙われてるのだから力になりたいという思いも。

 ロクデナシの自覚はあるが、親しい相手の命を狙われてスルーする気は毛頭無い。

 美野里ちゃんも話を聞いてから、端末片手に今も座敷席でうんうんと唸っている。

 

 

 

 

 

 ――――結局は自分に出来る事を精一杯頑張る、それだけに尽きるのだろう。

 

 

 

 

 

 「すみません2人とも千束が帰って来ないのですが理由を知りませんか!?」

 

 

 

 

「あーごめん、何にも聞いてねーわ」

 

「クルミなら何か知ってるんじゃないの?」

 

 

 だから、真顔で相棒の居場所を聞いて来るたきなちゃんに対し素直に話すのだった。

 正直、行き先とか目的を聞いていたらゲロってしまいそうな程の威圧感があった。こわい。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

「あーもう!

 やっぱり私じゃこのロック全部外せない……っ!!」

 何だってこんな無駄に固いのよ!!?

 

「徹底的に残留思念消してるからサイコメトリーでもパスワード読み取れないし。

 ……かといって開けられそうなプログラマーも心当たり無いのよねぇ」

 

「須摩留製の最新異形科学……使えればあたしだけじゃなくて八瀬さんの底上げにもなる。

 これを、あの都市の研究者以外で開けられるとしたら」

 

「――――あの超問題児後輩(コユキ)くらいかぁ。

 ドリフター情報の中にあの子っぽいの居たから、一応コンタクトとってみようかしら」

 

 

 

*1
※ 偽典・女神転生

*2
※デビルサマナー

*3
※ 偽典・女神転生 心(精神)相性 追加効果:居眠り

*4
※ 偽典・女神転生

*5
※覚醒篇仕様

*6
※TRPG200Xに存在するがオタクくんサマナー世界では殆ど知られていない

*7
※TRPG誕生篇。声や動きで相手を恐怖させMPにダメージ。大成功時、相手はスタン・チェックを行う。

*8
※TRPG誕生篇における技能




久々の掲示板回、思ったより時間かかってしまいました。
本編ではやべーレイドバトルが始まってるのでこちらも派手な戦いがしたい所。


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Past, Present And Future-前篇-

 

 そこは月明かりに照らされた薄暗い山中の獣道。

 ぬかるんだ地面に露出した樹木の根や小石の数々。

 人の手が一切入っていないそこは、熟練の登山家でも気を抜けない悪路だ。

 

「チッ―――!」

 

 そんな場所を一人の青年が風のような速さで駆け抜ける。

 鍛え上げた脚力とバランス感覚、そして軽巧に物を言わせた走法。

 僅かでも踏み間違えれば勢いよく転倒する事は間違いない。

 

 舌打ちをした青年―――宗吾はそれでもトップスピードを維持し続ける。

 視覚だけではなく足音から広がる反響音を拾って地形と障害物をいち早く把握。

 索敵を行いつつ、障害物競走のように邪魔なものを躱し、時に飛び越えひたすら前へと進む。

 

 一度息を吐いて、むせるほど草木の匂いがする空気を吸い込む。

 走りながらのほんの僅かな休息。同時に背後へと視線を向ける。

 

 

『ニンゲン! クワセロ!!』

 

『コロセコロセコロセ!!!!』

 

『ニクニクニクニクニク!!!!』

 

 

\カカカッ/

軍勢鬼の群れLv50相性:■■

 

 

 ――――鋭く睨みつけた。

 

 視界に映るのは殺意を滾らせ、こちらに追いすがる悪魔の群れ。

 闘鬼、妖鬼、地霊、邪鬼、鬼女―――鬼族に分類される者たち。

 百鬼夜行という言葉はまさしくこれに相応しいと断言する光景。

 

 だが、1体1体の格はそれほどでもない。

 この鬼たち全てを合わせた上で、その脅威はせいぜいレベル50相当。

 数の差はあれど、今の宗吾であれば問題なく対処出来るであろう相手だ。

 

「だあああクソっ!!」

 

 しかし宗吾が選択するのは逃走一択のみ。

 睨みつけるだけで削る様子さえ見せない。

 普段の彼を知る者ならば疑問に思う姿だ。

 

 あるいは頭がおかしくなったのかと思うかもしれない。

 多少の不利程度なら笑って斬りかかる、剣に生きる鬼にそぐわぬ行動。

 

 暗闇の中に立ち並ぶ何本もの樹木、障害物の多い地形で大勢を相手取る危険性。

 いざという時フォローしてくれる味方のいない孤立無援の状況。

 敵戦力の総数がどれほどなのか一切不明。

 

 理由は幾つも挙げられるだろう。

 だが最も大きいのは―――――。

 

 

「鬼神楽どこ行った! 

 てか何で呼び出せねーんだよぉっ!!?」

 

 

 剣士にとって半身というべきもの―――肌身離さず持ち歩いている鬼神楽(愛剣)が何処にもなかった。

 無いなら呼び出そうとしても一切の反応がない。*1

 右手が空しく宙を掻くだけに終わる。

 

 完全な徒手空拳。

 彼に限らず、武器使いが武器を使えないのならその力が大幅に制限されるのは自明の理。

 だからこそ、不本意ながら命がけの鬼ごっこが十数分に渡って繰り広げられているのだ。

 しょっちゅう馬鹿呼ばわりされる彼だが、無策かつ無手で悪魔に挑む阿呆ではない。

 ―――とはいえ、追いかけられている本人からすればたまったものではないが。

 

「そもそも何でこんな事に……っ!?」

 

 口から零れた疑問と共に、ほんの少し前の記憶が呼び起こされる。

 そう、始まりはいつも通りリコリコへと足を運んだ後。

 ―――美野里とクルミがグロッキー状態で倒れているのを発見した事から始まった。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

「な……なんだこの、偏執的通り越したロックの数は……!? 

 ボクの電霊(AI)を使って1割も外せないとは……すまん、少し、休ませてもらう……っ」

 

 その言葉を最後にガクリ、と電源が切れた玩具のようにクルミが机へと突っ伏す。

 おそらく疲労と寝不足によるものだろう。

 寝息を立てながら年齢不詳の幼女は夢の世界へと旅立つ。

 

 とりあえず店の毛布を被せてから、宗吾はカウンターの死にかけへと視線を向けた。

 こちらも負けず劣らずの消耗っぷりではあるが、意識を飛ばすほどではない。

 おそらくは基礎体力の差、日頃からの運動量が違うからだろう。

 

「で、何してたんだよ美野里ちゃん。

 クルミちゃん巻き込んで情報収集でもやってたのか? 

 つか、超人がそこまで疲れる真似するか普通」

 

「んなわけ……ないでしょ……」

 

 気付け代わりの黒い液体を喉に流し込みながら、力の無い返事が返って来た。

 ちなみに今日は休業日である。

 仕事の打ち合わせだけ予定だったので、千束とたきなはまだいない。

 一足先に来て、わざわざコーヒーを淹れてくれた店長(ミカ)は厨房へと引っ込んでいた。

 

(後で礼言っとかないとなー)

 

 お返しに何か買ってくることを考え、頭の中でスケジュールを練り直す。

 そうしている内に少しは復活したのだろう。

 美野里は顔を上げて、テーブルに置かれていた眼鏡を持ち上げた。

 

「“これ”に掛かってたロック解除に挑戦してたのよ。

 クルミの力も借りればもうちょっと行けると思って。

 ……熱中してて気がついたらこんな時間だったけど」

 

 ほっそりとした指でペン回しのようにくるくると回す。

 それは一見すれば無骨な、この少女には似合わないデザインの眼鏡。

 そして美野里のCOMPであり、元の世界から持ち込んだ超技術の産物。

 

「―――学園都市って所の異形科学(ストレンジサイエンス)か」

 

 科学と魔術の合い子―――――異形科学の結晶である事を宗吾は知っていた。

 ボロボロのデモニカスーツから物理的に取り外す手伝いをしたのは彼だった。

 リアルG3のようなスーツを斬る事は非常に残念だったが、良い経験になった。

 

「そういえば、あんまり詳しく話した事なかったっけ。

 これ、正式名称は“タイムマシン・レジスター”っていうの

 正確にはこれに組み込んだ“異形機関”*2のことだけどね」

 

 ピン、と指に弾かれた眼鏡がゆっくりと宙を舞う。

 ガラス部分へと光が当たり、一瞬だけ光り輝いた。

 

「そりゃまた……大した名前だな。

 ひょっとしてあれか、ドラえもんのタイムベルト的なやつ? 

 そんな機能あるならこの世界の数か月前に飛ばして欲しいんだが」

 

「名前が大仰なのは同意するわ。

 ―――名前負けしないスペックがあるのは本当だけど」

 

 ため息をつきながら一拍おいて。

 どこか自分でも信じられないような口調で。

 見た目よりもずっと重い眼鏡をキャッチして美野里は告げる。

 

 

 

 

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 学園都市須摩留、その最先端技術の粋を集めて作られた異形機関。

 こんな小さな眼鏡に、都市の大半が詰まってるって言ったら信じる?」

 

 

 

 

 それは予想斜め上の言葉だった。

 異形科学の栄えた都市、科学と魔術を融合させ発展した世界。

 その核と呼べるものの1つが“これ”なのだと目の前の少女は言っている。

 流石の宗吾も冗談だろう、と軽口で笑い飛ばせる雰囲気でもなかった。

 

「その……随分と凄そうだな」

 

 だから、出た感想も陳腐なものになってしまう。

 理解し切れない事に対し、それはある意味当然の事ではあった。

 彼自身、異形科学の類にはそこまで詳しくは無いのもある。

 

 これがサイバーウェアやパワードスーツならば話は違うのだが、残念な事にコンピューターに関しては素人同然だ。

 漂流した時代的に20年以上の差があるのも大きい。

 スマートフォンやタブレットの扱いには慣れたが、それ以外は今でも不慣れな所があった。

 

「ま、ふつーは信じられないわよね、こんな事聞かされても」

 

「いやそもそもの話、何でそんなモン持ってるんだよ? 

 自警団とはいえ美野里ちゃん一応学生じゃなかったか」

 

「デモニカ盗みに研究所押し入った時、一緒に見つけたの。

 COMPとしては使えそうだったし、ついでに拝借した訳。

 他にも試作品の加速装置( サンデヴィスタン)とか色々あったけどあたしじゃ使えなくて―――」

 

 もう一度予想斜め上の言葉が飛んできた。

 そういえば以前、デモニカはどさくさに紛れて借りパクしたと言っていたのを思い出す。

 厳密に言えば借りパクではないような気もしたが何も言わない事にした。

 

 断片的に聞いた限りでは致し方ない状況だったのだろう。

 生きる為、戦う為に最善を尽くすのは当然の事だ。

 宗吾自身褒められた学生ではなかったので、彼女を咎めるような資格も持っていなかった。

 

「あー、ちなみにそのスパコン? で何が出来るんだ。

 今までも悪魔召喚にスキル自動的に発動させてるアプリ。

 あと倒した悪魔からスキルコピーもやってたろ」

 

「えっと、まず学園都市が世界各地から回収してた場違いな工芸品(オーパーツ)の一部。

 “アンティキティラ島の機械”*3とか“バベッジの解析機関”*4の機能再現でしょ」

 

「ふむふむ」

 

「それと悪魔支配プログラムのサーバーだった“バベル”の機能。

 流石にそのまま使えないと思うけど、上手くやれば悪魔召喚プログラムの補助にはなるかも」

 

「ほうほう」

 

「他には悪魔とマシンの合体に関する情報にサイバーウェアの設計図が幾つか。

『ザ・モノリス』*5―――研究施設中枢に保管されてた研究データも。

 あたしも全部知ってる訳じゃないから、たぶんまだあると思う」

 

「へぇ~~………………まあ、すごいのはわかった」

 

 つらつらと並べられる言葉の羅列。

 とりあえずSFレベルの代物で、使うことが出来れば戦力増加になる事はかろうじて理解出来た。

 あと思ってた数十倍の厄ネタでもあった。

 

(……学生に盗まれる程度の警備で置いとくもんじゃねーだろそれ)

 

 作為的なものを感じるが確かめるのは無理だな、とか。

 迂闊な相手に漏れたら襲われそうだな、とか。

 強い奴が来て返り討ちに出来れば限界超えられそうだな、とか。

 

 次々浮かぶ思考を脳の隅に追いやり、ひとまず話を最初へ戻す事にする。

 

「けど、結局鍵は全然開けられずそのザマって訳な。

 ……クルミちゃん居ても駄目なら無理じゃね?」

 

「普通ならもっと設備と人数(マンパワー)揃えないと確かにそうよ。

 それでもどれだけ時間かかるか分かったもんじゃないけど。

 でも―――こういうの得意な相手に心当たりあるの」

 

「……ひょっとして、この間聞いてた中立ドリフの話か」

 

 思い出すのは先日の模擬戦と情報交換。

 凄まじき魔剣を魅せた女剣士“鳴神虎春”から聞いた中立派ドリフの居場所について。

 美野里の目的の一つ、生き別れた仲間を探すためのもの。

 

「そう、あの2匹探すついでにダメ元で聞いてみてたんだけど……。

 なんかそれっぽい子が首都圏のレルムにいるみたい。

 倫理観ゼロのハッキング常習犯な後輩でね。

 何度しばいても車で跳ねても懲りない子だったけど腕は確かよ」

 

「よくいるよなー、性格破綻してる代わりに能力高いの」

 

 古今東西、何かに突出した人間は何処か“普通”という基準から外れている事が多い。

 宗吾の周りにも何故かそういう人間は多くいた。その分気苦労も相当だった。

 今聞いた話だけでも相当アレな人物なのは間違いないだろう。

 

「いやあんたも人の事言えないから。自覚ないの一番アウトでしょ。

 ………………それに、さ」

 

 美野里は少し言い淀んでから、意を決したように言葉を続ける。

 

「……あんな子でも、あたしの知り合いだから。

 あの後、須摩留がどうなったのかも聞きたいし」

 

「――――、……」

 

 どこか過去を懐かしむ様な、失ってしまったものを思うような声音だった。

 宗吾は何も言えない、言えるはずもない。

 例え関係が複雑な相手でも、元居た世界から残った確かな縁である事は間違いないのだから。

 どのような感情が胸裏に渦巻いているのか、推し測ることは不可能だ。

 

 若槻美野里という少女違って、八瀬宗吾という男は。

 ――――失ってしまったという実感が薄い人間なのだから。

 

「……ハイ、暗い話は終わり。

 明るい話しましょう。クルミの協力でこの機能だけは使えるようになったの」

 

 切り替えるようにパンパンと手を叩きながら美野里が立ち上がる。

 そして、一緒にテーブルへ置かれていた端末を宗吾の方へと向けた。

 画面いっぱいに表示されているよく分からない文字列が視界に映る。

 正直何がどのような意味なのかさっぱりだが、かろうじて読めた部分にはこう書かれていた。

 

「……仮想現実訓練(VRT)?」

 

「装着者の意識を仮想空間に飛ばして設定した状況(シチェーション)で訓練するための機能よ。

 自衛隊高等技術研究所(SDAT-LAB)*6で開発してたやつね。たぶん訓練期間短縮の目的で。

 えっと、マトリックスの戦闘訓練って言ったら分かりやすいかも」

 

「おっ、それなら分かるぞ。

 つーか、脳に直接プラグインしなくても出来るのか。

 メガネするだけで良いとかマジで技術進歩してんだな」

 

 宗吾からすればVR空間へのダイブなど、重改造のサイボーグにのみ許された特権だった。

 それが生身の人間でも可能になるというのだから驚きも相当である。

 ちなみに現実と仮想空間の区別がつかなくなった狂人(サイバーサイコ)を斬り伏せた事もある。

 

「―――せっかくだから試してみる? 

 千束たち来るまでまだ時間あるし、ちょっとくらいなら大丈夫でしょ」

 

 そうして言われるがままに眼鏡をかけて。

 とりあえず銃火器で武装した兵士30人を想定した訓練を設定して。

 意識が光の波に飲み込まれたと思えば。

 

 

 

 ――――なぜか非武装状態で悪魔の群れのど真ん中にいたのだった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「っとお――――――!?」

 

 回想が終わると同時に、開けた空間へと飛び出た。

 そこは朽ち果てた神社の境内、さほど広くは無いが邪魔になりそうなものは何もない。

 あるのは崩れた社とへし折れ黒焦げになったご神木程度。

 それにどこか既視感を覚えつつ、ボロボロに風化した石畳を削るようにして停止する。

 

「……っ」

 

 状況の把握に要した時間は瞬き2回分。

 背後の鬼たちが追い付くのに残り3秒。

 結論――――――それだけあれば十分。

 

『ゲギャギャギャ!!!!』

 

 

《怪力乱神》*7物理攻撃敵単体に物理属性で大威力の攻撃を1回行う。

 

 

 歓喜と狂気を練り混ぜた絶叫を上げて、集団から突出した1体が命を散らそうと襲い掛かる。

 それは無防備に晒された背中を狙った攻撃。(バックアタック)*8

 歴戦のDBであろうと受ければ致命傷になりかねないもの。

 

 だがしかし――――。

 

 

 「阿呆が」

 

 

―――《三挫き》―――

 

 

 あらかじめ来ると分かっているなら話は別である。

 

 振り向きざまに強烈な殺意を()()()()()()

 それだけで鬼の身体は硬直、振り下ろそうとした凶腕は勢いを失った。

 結果、ぼすんと情けない音を立てて宗吾の身体に当たるのみ。

 これでは虫一匹殺す事も叶わないだろう。

 

 最早死に体、晒される無様な隙。

 ―――これは当てずっぽうでも、その場の思い付きによるものでもない。

 敵の命を狙っていたのは宗吾も同じなのだから。

 

 逃走中に軽く睨む(威圧)*9をぶつける事で、事前に通るかどうかの確認はしていたのだ。

 逃げに徹していたのは無策、不利な状況で戦うのを避けていただけ。

 自分にとって有利、最低でも同等の条件の場所を探していたからに過ぎない。

 

 そしてこの場所に辿り着いた時点で目的は達成した。

 よって、愚かにも釣られた間抜けは相応の対価を支払う事になる。

 宗吾は右手の五指を揃えて伸ばし、大きく振りかぶるように構えを取った。

 

 

「―――“雲耀”

 

 

――― 《雲耀の剣》 ―――

 

 

 宣告と同時に()()()()()()()()()()()()()()

 

 空間を引き裂くかのような轟音。

 動きを止められた鬼と背後に居た数体が文字通り()()する。

 肉片を残すどころか断末魔さえ許さない剣鬼の絶技。

 

『グギギャッ……!!?』

 

 それを目撃した残りの鬼たちは慌てたように足を止め、完全に攻め時を見失う。

 機会の喪失、それはすなわち攻守逆転の合図。

 

「剣が無けりゃ剣を振るえない。

 得物が無けりゃ何も出来ない。

 技術が使えなけりゃ戦えない。

 ――――んな訳ねーだろ」

 

 呟くように告げた。

 

 ある意味で剣士である事を捨てる話。

 剣が無いのに剣術を使うという矛盾。

 己の五体を刀剣として見当てる技術。

 

「そりゃ流石に威力は落ちるし、忍者君がやってた……《暗刃》*10だっけか? 

 あれより使い勝手は悪いがよ――――」

 

 ゴキリと、薄煙を上げる右手の骨を鳴らしながら。

 顔に獰猛な笑みを浮かべて言い放つ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――せっかくだから味わってけ」

 

 

《手刀》*11武器を失った際、自らの手を剣に見立てて戦う技。

3倍のコスト消費で剛剣に分類される技を使用出来る。

《受け》を使用する場合、素手の攻撃に対してダメージを反転する効果は無い。

《雲耀の剣》(200X仕様)は剛剣に分類されるものと裁定する。

《無刀術》*12技相性。武器が無い場合に、手を刀に見立てて相手を斬る技。

 

 

 言うやいなや、今度は自ら悪魔の軍勢へと踊りかかる。

 追われていた者が襲い掛かり、追っていた者が襲われるという逆転した光景。

 何者であれ避ける事も防ぐことも許さない、万能の手刀が絶え間なく閃く。

 

 

 ――― 立っているのが一人になるまでさほど時間はかからなかった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「ちょっとー、やっさんマジで起きないんだけど本当に大丈夫?」

 

「頭に熱湯でも掛けてみればどうでしょう」

 

「あまり勧めたくないが、もっと強い刺激を与えてみるか」

 

「それならいっそのこと手足でも撃ったらどうだ?

 いやでもこいつのことだから、勝手に動いて反撃されるかもしれないな」

 

「ごめん、みんなちょっと静かにしててくれる……っ!」

 

 喫茶リコリコのバックヤード、従業員用に使われている座敷スペース。

 そこで美野里に膝枕され横になった宗吾は、目を閉じたままピクリとも動かない。

 幾ら呼び掛けても殴っても蹴っても、かれこれ1時間近くはこのままだ。

 

 途中で異変を感じ、訓練プログラムを中止したというのに宗吾の意識が戻らない。

 誰がどう見ても異常事態。即座にクルミを叩き起こして原因究明を図った。

 だが分かったのはVR機能の影響ではない事。

 それはせいぜいこの昏睡現象の切っ掛けになっただけという程度だった。

 

 騒ぎを聞きつけたミカ、出勤してきた千束とたきなも様々な手を試したが効果は無い。

 混乱の末、顔に落書きまでしてから落ち着きを取り戻した美野里は最終手段に踏み切った。

 

 

《サイコ・ダイブ》*13ESPまたはチャネリングに分類される超能力。

意識を失っているか、受け入れを認めている人物の精神世界に入る。

 

 

 精神侵入(サイコ・ダイブ)、あるいはマインドハックとも呼ばれる能力(スキル)

 対象の精神世界に自ら入り込む力だが、仮に悪魔が網を張っていた場合、下手をすれば自分も戻ってこれなくなるリスクもある。

 だがその可能性は承知の上だった。

 このような状況に陥ったのは自分が切っ掛けである。

 ならば責任を取るのは当然の話だ。

 そもそも―――仮にそんな事が無くてもやっている。

 

「~~~~っ駄目、全っ然見つからない! 

 道場っぽい所に、山奥とか色々あったけど本人の姿が何処にも……っ!!」

 

 が、意気込みとは裏腹に何の成果も得られなかった。

 精神世界をくまなく探しても、宗吾の意識へ接触する事が不可能だったのだ。

 干渉しているだろう存在の気配さえも感じる事が出来ない。

 

「えっと、それってつまりどういう事? 

 やっさん今どういう状態なの???」

 

「考えられるとすればたぶん――――()()()()()()()()()()

 

 人間が持つ無意識、その中でも“個人的無意識”よりさらに下の階層。

 

「“集団的無意識”……ううん、“集団・民族無意識”の階層かも。

 悪魔の血引いてるって言ってたし、ペルソナ使いでもないんだから。

 ()()()()()()としたらそこよ」

 

 専門のサイコダイバーではない美野里では潜れない深度の領域(せかい)

 今の状況ではどうやっても手出しのしようがないという事実が重く圧し掛かる。

 ――――だが、だからと言って諦める訳にもいかない。

 

「ごめん、魔界医師(ファウスト先生)に連絡とってくれる? 

 あの人の協力があれば何とか出来るかも」

 

「はいはいちょっと待ってねー、あと運ぶための足もいるでしょ」

 

「では車の手配をします。

 ちょうどあの自称好敵手(ストーカー)が休憩時間のはずですから、運転手に使いましょう」

 

「仕事の話どころではなくなったな……仕方ないか」

 

「……これボクのせいでもあるのか? 

 騒がしいのにも程があるなまったく」

 

 美野里の頼みに、リコリコのメンバーが淀みなく動き出す。

 彼らにとってこの漂流者2人は決して長い付き合いがある訳ではない。

 しかし、見捨てるほど薄情な繋がりの相手では断じてなかった。

 戦場を何度も共に潜り抜け、築いた絆が確かにそこにある。

 

 だから美野里もやれる事をやろうとする。

 車が来るまでの間、無駄かもしれないが再び精神世界へ侵入しようとして―――。

 

 

 

 

「――――――え?」

 

 

 

 

 途端に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「…………………………おいおいおい、マジかよ」

 

 鬼の軍勢を一体残らず殲滅し、一息ついたところで新たな気配感じた。

 その数は3つ。いまだ姿は見えないが、間違いなく“斬れる”相手だと勘は囁く。

 しかし宗吾は一切の油断なく構えた。“斬れる”と“勝てる”は別の話である。

 1つの油断、過ちで格上が格下に食われるなど当たり前の話であり、宗吾自身それを実践してきた身だからだ。

 

 そして、ここからが本番であろうと意識を一層引き締める。

 この世界がVRなどでない事はとうの昔に気付いている。

 なにせ鬼たちの放っていた殺気は、どう考えても作り物に出せるものではなかった。

 

 だが同時に現実でもない。

 悪魔たちはどれだけ倒してもマグネタイトを放出することはなかった。

 おそらくは外見だけを真似た存在―――シャドウかそれに類する存在。

 

 そこから推測するに、ここは自身の精神世界。

 自分の中に流れる悪魔の(因子)がこの事態の原因だろうと当たりを付ける。

 そうと考えるならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――――だから、姿を現した3()()を目の当たりにしても。

 口から出た言葉とは反対にどこまでも冷静にいられた。

 

 

 

 

「それがマジなんですよ先輩……残念な事ですけど」

 

\カカカッ/

候補者山本総次郎Lv30相性:破魔無効

 

 

「私たちは文字通り悪い夢だ、所詮一時の幻想にすぎん」

 

\カカカッ/

アルカニスト藤原塔也Lv33相性:神経・破魔・呪殺無効

 

 

「まあワシにとっちゃ夢も現も関係ないがのぉ―――久々に喧嘩しようや」

 

\カカカッ/

格闘家風祭新Lv33相性:破魔・氷結無効、呪殺に強い

 

 

 子犬のような雰囲気を纏った、少女と見違えそうになる中性的な男。

 爽やかな顔立ちに鋭い目つきの、日本刀を携えた美丈夫。

 快活な笑みを浮かべながら、硬く拳を握り締める好漢。

 

 

 知っている、知らない筈がない、飽きるほど見た顔なのだから。

 学生時代、力を合わせ戦い、時には争い、共に青春を過ごした。

 あちこちふらつく自分にとって数少ない、友人と呼べた者たち。

 

 

 

 ――――――第128代、加茂玉帝学院退魔生徒会。

 

 

 

 最早二度と会うはずがない、かつての仲間の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
《呼び出し》※200X サクセサーの技能。シナリオ中1回、契約した魔晶剣を手元に呼び出せる。

*2
※200X「異形科学」特殊な魔力を持つアイテム、または施設の事を指す

*3
古代ギリシアで作られた歯車式コンピューター。魔界へ通じる門を開くための機械とされる

*4
バベッジ父子が2代に渡って設定し完成させる事の無かった蒸気式コンピューター。無限に連なるドラムと歯車からなる巨大な機械だが、90%は四次元空間に折りたたまれている

*5
※200X「異形科学」 超能力研究所の本館に当たる研究複合施設。地上部分が黒曜石の石板のような黒一色の薄いビルで、窓も扉も存在しない。元ネタはどう考えても「窓のないビル」

*6
※200X「異形科学」自衛隊の装備開発を行う研究施設。有事の際は近隣の原発を死守する拠点となるように設計されている。

*7
※真ⅣF

*8
※真Ⅲ参照 敵の先制時に10%の確率で発生し、背後から襲われる。敵の命中率やクリティカル率がUP

*9
※TRPG誕生篇 《威圧》 精神相性。MPにダメージ、大成功時にスタンチェックを行う。

*10
※オリジナル(本スレその47) 《忍び手暗刃》 素手で武器スキルを発動可能にする。剣相性を万能相性にする(格闘強化でのみ威力を向上可能)

*11
※TRPG誕生篇

*12
※TRPG覚醒篇

*13
※TRPG覚醒篇&基本システム




前・中・後編予定。
なるべく間が空かないようにするつもりです。


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Past, Present And Future-中篇-

 

 ―――――加茂玉帝学院。

 かつての世界、いつかの京都に存在した教育機関。

 彼の伝説の陰陽師、安倍晴明ゆかりの地にある由緒正しき名門校である。

 ここには良家の子女へ相応しい教育を施すという以外にもう1つ、別の顔が存在していた。

 

 それは日本を悪魔の手から守る防人、すなわち霊的守護を担う人材の育成機関。

 各地から出生を問わずに集められた、才ある少年少女を鍛え上げる為の練兵場という顔である。

 生徒たちはそれぞれの信念や目的の為に、優れた指導者と環境の下で日々修練に励んでいた。

 

 そして、そんな生徒たちの頂点に立つ存在がある。

 名を退魔生徒会―――現役の退魔師である大人たちに比肩する力を持ったエリート集団。

 学院の看板を背負って立つ、まさしく生徒代表と呼ぶべき者たち。

 

 中でも特に歴代最強と呼ばれたのが第128代生徒会。

 結成されてから1年も経たぬ間に、幾つもの大事件を解決へと導いた4人の異才。 

 いずれ日本の未来を背負って立つであろう―――英雄の卵たちである。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

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 ・

 

 

 

 

―――〈199x/xx/xx 加茂玉帝学院生徒会室〉―――

 

 

 

「よーし、全員揃ってるな。

じゃあさっそく反省会始めるぞこの馬鹿共」

 

「ふむ、その前に鏡を見てから話したらどうだ馬鹿」

 

「馬鹿って言う奴が馬鹿なんやで、知らんのかい自分」

 

「あっ、じゃあ僕関係ないですね―――先輩たちと違って馬鹿じゃないんで!」

 

 そのままいつものように殴り合いからミーティングが始まった。

 通りがかった生徒たちは一瞬驚くが、すぐ“またか”と呆れた顔でスルーして行く。

 数分後、これまたいつものように全員床の上で大の字になって寝転びながら、息も絶え絶えに昨日終わった任務について口を開く。

 

「……今回の、件。奈良東大寺の、”機動大仏討伐”だがよぉ。

 正直……どう思った?」

 

「仏像に、憑依する形で……顕現した“魔神ニオウ”*1、実に強敵だった……。

 私たちだけでは……勝てないとは言わないが、相当きつい戦いを強いられたはず、だろう」

 

「だから、……東京の聖華学園と、合同ミッションってことになったやろ。

 向こうも、ちょうど修学旅行の名目で来とったし……」

 

「メタ張った上でぇ……数の暴力って、やっぱり正義だと思いましたよ……ええ本当に」

 

 それぞれの意見を聞きながら、呼吸を整えつつ頷く。

 毎年10月―――旧暦で言う神無月の時期。

 秋の深まるこの頃は、関西方面において霊的事件の件数が普段の数倍に跳ね上がる。

 それに比例して悪魔に襲われる被害者の数もだ。

 

 神々が出雲に向かう儀礼の影響、霊脈の異常活性化、何者かによる人為的な企み。

 理由とされるものは色々と聞くが、どれも確定的なものではない。

 ついでにあまり興味もない。誰かが仕込んだ事なら絶対ぶった斬るが。

 

 自分に、そして自分たちにとって重要なのは2つ。

 1つ目は近隣退魔組織はその辺りの対応に追われ、こんな学生(若造)にも重めの仕事が回って来る事。

 2つ目はごく稀にだが、レベル40を超える高位悪魔の出現もありえるという事だ。

 

 自分としては強敵を斬れる機会に恵まれるのでありがたいが、他の奴にとってはそうではない。

 特に後者は半ば自殺同然、よほど覚悟の決まった奴らしかやりたがらない。

 実際、自ら進んで志願したのは自分たちを除くと両手で数えられる程度だった。

 ガキは引っ込んでろと言われたので、全員倒して力を証明する羽目にもなった。

 

 結果だけ言えば、討伐自体は誰一人死傷者を出さずに終わることが出来た。

 東京から他校の退魔生徒会が修行も兼ねて応援に来てくれたのと、過去に出現した例から悪魔のおおよその能力と弱点が割れていたのもあって、相性の良いメンバーを中心に交代(スイッチ)と回復を繰り返しながらタコ殴り出来たのが大きい。

 せいぜいとどめの一撃(ラストアタック)を取れなかったのが残念なくらいか。

 

 だから問題となるのはそれ以外の所であって―――――。

 

 

 

「はいではまず生徒会副会長、時代遅れのバンカラ野郎(風祭新)くん。

 お前向こうの退魔生徒会メンバーと出合い頭に何やった?」

 

「東京もんの実力を試すべく、気合い溜めてからを地獄突き(パンチ)1発な」

 

「すんでのところで止めてなかったら大事件だぞ馬鹿野郎……っ!」

 

 

 

 未遂だったのに加え、向こうも乗り気だったから助かった。

 信頼や信用、学校間の協力関係含めて色々と本気で危なかった。

 非覚醒者に殴りかからなかっただけマシだと思考を切り替える。

 

 

 

「それじゃ次、生徒会長の不愛想優男(藤原塔也)くん。

 俺がこっちの馬鹿止めてる時何してた?」

 

「決まっている―――向こうの生徒会長へ腕試しを申し込んでいた。

 新のようにいきなりではないぞ?」

 

「そもそも挑むな、挨拶した直後に! しかも任務前なんだが!?」

 

 

 

 どう見ても引かれていたがこいつはお構いなしだった。

 他人にどう見られるかあまり気にしないのは自分も同じではある。

 だが少なくともこいつほどじゃないと確信はしている。というか同じ扱いは嫌だ。

 

 

 

「じゃあ僕は大丈夫じゃないですか。

せいぜい女の子と連絡先交換してたくらいなのに」

 

「それでセーフ判定してる脳ミソ一回見せてくんない? 

 あとで蘇生すっから」

 

 

 

 2人の抑えに回っている間、ナンパに勤しんでいた後輩の見かけは子犬、中身は狼(山本総次郎)を睨む。

 正直、あの場でまともな対応をしていたのは自分だけだろう。

 学院の看板を背負っているくせに、どいつもこいつもフリーダム過ぎるのだ。

 毎度のことで半ば慣れてしまったが、実に肩身の狭い身ある。

 

 

 

 

「おい宗吾。なに自分は真っ当みたいなノリで話している。

 任務終わった後で全員に勝負を挑んでいたのは知っているぞこの剣馬鹿が」

 

「あっちの予定把握した上で、回復アイテムまで用意しとるとか……。

 ストーカーっぽいで自分、キッショいわ~」

 

「今度から近寄らないでくれます?

 剣キチが移っちゃうんで」

 

「はっはっは……謝るなら今の内だぞ馬鹿共

 

 こっちはちゃんと向こうの都合とアフターフォローも考えて申し込んだのだ。

 一緒にされるのは非常に心外で、この3馬鹿から返ってきた答えは――――。

 

 

「「「嫌に決まってるだろバーカ」」」

 

 

 乱闘の第2ラウンドが始まる。

 響く打撃音と罵声、ついでに笑い声。

 高校2年生、秋深まる10月のとある日。

 

 

 

 今はもう遠い――――青春を共に過ごした友人(馬鹿)たちとの、思い出の1ページ。

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

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 ・

 

 

 

 3人の姿を認識した瞬間、半ば反射的に地を蹴って距離を詰めていた。

 選択は速攻一択―――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 こいつらが本物ではない事は百も承知。

 姿形は最後に会った時―――香港から戻って飲み会をした―――と同じだが勘で分かる。

 だが、精神世界に出現したという事は自分の記憶と()()を元に再現された、限りなく本物に近い偽物と想定すべきだ。

 自分の見鬼程度の霊視で耐性まで見ることが出来ている以上、その可能性が高い。

 

 その上で、無手の状況と合わせて考えれば、格上殺し(ジャイアントキリング)の可能性も十分にあると判断する。

 こいつらを相手に油断など、欠片も出来るはずがない。

 無駄な時間を掛ければほんの僅かな勝機を抉じ開けて来るのはよく知っていた。

 

「おっと!」

 

「やっぱ早いな―――!」

 

 一息で間合いに入る。

 前に出ているのは総次郎に新。前衛(フロント)後衛(バック)

 本来中衛(ハーフ)である塔也は後方で距離を取るという、一見すれば歪な陣形。

 それだけで、知っている手札からおおよその戦法を推察。

 

 刹那で弾き出す解答―――()()()()()()()

 

 レベルから来るスペック差もあって先手自体は間違いなく取れるだろう。

 しかしその後が続かない、どうやっても息が切れる。

 捌かれて状況を整えられてから、数の差を活かした削り殺しパターン。

 学生時代に考案し、実践していた作戦の一つ。

 

 

 ならばどうするか――――方法はある、この世界に来てから学んだ事だ。

 

 

「――――――」

 

 カチリと、脳内の回路(スイッチ)を切り替える。

 敏捷性―――それぞれの速さを競い動きが入り乱れる<自由乱戦(スピードバトル)>から。

 戦略性―――それぞれの行動を押し付け圧殺する<機先の奪い合い(プレスターンバトル)>へと。

 

 

《雲耀の剣》*2万能物理スキル敵前列に万能相性ダメージ。

《会心》*3自動効果格闘攻撃のクリティカル率が上昇する。

 

 

 間合いに入った2人に対し容赦なく雲耀を放つ。

 刀が無くとも一撃死させるだけの威力は十二分にある。

 

 

「がっ、ぐぅうう―――っ!!」

 

 

《カバー》*4味方1人に対するダメージと追加効果を自分に移し替える

《逆恨み》*5自動効果約80%の確率で、受けたダメージの50%分を敵に与える

万能または弱点攻撃、弱点硬直中/封印/石化/魅了/混乱/睡眠中、

死亡した時は効果を発揮しない⇒不発

 

 

 それを予想通り、総次郎がカバーリングに入った。

 胴体半ばまで肉を潰し骨を砕き内臓をぶちまけた感触、少し遅れて轟音。

 致命的な一撃(クリティカル)――――だが食いしばり(倒れない)

 

 致命傷をギリギリで堪え、更には体に食い込んだ右腕を掴んで万力のように握り締める姿がそこにある。

 視界に映るのは、口から血を零しながら浮かべる不敵な笑みと不屈の眼差し。

 知っていた、こいつなら絶対そうして来ると。必ず被害を自分だけに留めると。

 

 退魔生徒会でただ一人の後輩、普段は女好きでふざけた態度の癖に最も献身的だった男。

 仲間の勝利の為なら何の躊躇いもなく命を投げ出せるサポーター。

 その証拠と言うべきか、右腕へ爪を立てた指が鋭く食い込む。

 《逆恨み》によるカウンターが不発であろうとも、確実に()を通すための悪あがきだろう。

 

 だから―――――。

 

「助かったぜ、お前だけは真っ先に潰したかったからな」

 

 ()()()()()()()()()()*6

 これ以上何かされる前に左の手刀で首の骨を粉砕―――文字通りとどめを刺した。

 閃光の如き2連続攻撃。躊躇なく前のめりに踏み込む戦闘法則(バトルルール)でのみ可能となる動き。

 速さを競う戦い(スピードバトル)前提の戦法を覆すにはこれ以上ないほど的確だ。

 

「やるのぉ……けど、それ以上は動けないやろ――――!!」

 

 

《連続技》*7補助スキルこのターン、2アクション分の格闘攻撃が可能となる

《鎧通し》*8物理攻撃敵単体に小威力の物理属性攻撃。

3ターンの間、対象の防御力を1段階低下させる

 

 

 崩れ落ちるように倒れる死体の向こう側から感嘆の声。

 同時に、死角を縫って獣の咢が如き双撃が襲い掛かった。

 完成されてない連続動作(マルチアクション)とは異なる、技能(スキル)を用いた2連弱体化攻撃。

 

「ち……っ!」

 

 この姿勢では避けられるはずもなく、大型トラックに跳ねられたような衝撃が体内を蹂躙する。

 軋む骨、撓む肉、裂ける皮―――しかしそれだけだ。

 元よりこの攻撃の威力自体はそこまでではない。

 浪速の喧嘩師の拳では、同格だった頃に比べ大きく変わった肉体を揺るがせない。

 

「むぅ、素では無理か……まいったでこりゃ」

 

「強くなってんだから当然だろ?」

 

 

―――《猛反撃》*9―――

 

 

 苦笑いする顔へ返答と共に裏拳を叩き込む。

 ――――脳漿と共に頭の半分が吹き飛んで散らばる。

 さらに連続して放った貫き手で()()()()()()()()()()()()()

 

 引き抜いた胸から噴水のように噴き上がる血の雨。

 食いしばりを阻止するにしても明らかなオーバーキル。

 場合によっては無駄な消耗、時間のロスとも言えるだろう。

 だがこいつに限ってはやり過ぎではない。

 

 最低でもここまでやらなければ、風祭新という男が止まらないのを知っているからだ。

 不死身の喧嘩番長、そのしぶとさを見誤り地を這わされた連中を何度も見た。

 現に、ここまでやっておいて殴り終えた姿勢のまま倒れないのだから。

 

 前に出ていた2人はこれで無力化した。

 残るは1人―――生徒会時代の指揮官役。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「我がペルソナ“ラグエル”よ―――力を寄越せぇっ!!」

 

 

 

《高速詠唱Ⅱ》*10補助スキル追加で1アクション分の魔法攻撃、支援魔法が使用可能

コストとしてHPの半分を支払う。

ランク回まで使用可能、同じターンに複数回発動可能

《モータルインヘイル》*11支援魔法使用者の周囲にいる敵を、使用者の位置まで引き寄せる

《チャージ》*12支援魔法次に行う力依存攻撃のダメージを上昇させる効果を付与する

《構え》*13相手が自分の攻撃で接近してきたり、何らかの理由で移動してきたりしたら、

その瞬間に割り込んで行動可能。命中率にプラス補正

《煌天の会心》*14即時効果格闘攻撃の成功をクリティカルに変更する。

 

 

 

 抵抗不能の強大な引力が体に襲い掛かった。

 踏ん張ろうとしても徐々に体が引き寄せられていく。

 視線の先、引力の発生元では全身に力を溜め、抜刀の構えを取る塔也の姿。

 

 放とうとしているのは奴の()()に間違いない。

 格上の悪魔を何度も屠ってきた、自分の雲耀にも並ぶ必殺の一撃。

 肉体強度を下げられた(防御力2段階低下)状態で受ければ、間違いなくただでは済まないだろう。

 

 もはや逃げる事も避ける事も出来ない。

 防御したとしても手足の一本は確実に持っていかれる。

 あとを考えればそれは避けたい――――ならば。

 

 

 

《涼風》*15殺気を消し、無造作な歩みで構えの中に踏み込む達人の技

 相手は精神力チェックを行い、失敗すると構えによる効果を喪失する

 

 

 

 ()()()1()()()()()()()()()()()()

 構えた剣士に無策で突っ込むのは自殺行為同然。

 だが逆に言えば―――潜り込めれば最大のチャンスでもある。

 

 涼風、虚空瞬撃、抜き足、あるいは虚狼。

 流派によって呼び方の異なる、相手の知覚、認識の隙間に潜り込む技法。

 効果的な反面、本来ならある程度の観察を要するものだ。

 

 しかし敵が藤原塔也であるならば。

 飽きるほど模擬戦を繰り返し、呼吸の癖まで知り尽くした相手ならば。

 例え目を瞑っていたとしても息を吸うように可能だった。

 

「……さっさとやれ馬鹿が」

 

 息が触れ合えるような距離で視線が交差する。

 自分とは正反対の、戦闘中に一切テンションの変わらない冷徹な口調で。

 詰んだ状況の中で口にした言葉がそれだった。

 

 

 

《毫の剣》*16一呼吸の一万分の一の時間で切り下す超人的な一撃

回避、防御に-60%のペナルティ

回避や防御を行っても、剣風が相手を斬り裂く

 

 

 

 だから無手で放てる最強の剣技を繰り出す。

 肉を引き千切り、衝撃で蹂躙する雲耀手前の2段攻撃。

 ―――友の身体が上下真っ二つに両断された。

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

「ここ、“首塚大明神”だろ。

 3年の時に異界化して、俺らが主をぶっ殺した場所だ」

 

 今度こそ動く者が一人だけになった静寂の支配する境内にて。

 宗吾はまるで誰かに語り掛けるように口を開いた。

 口調自体はいつも通りだが、どこか迫力を滲ませている。

 

 目元は髪で隠され、表情も今一つ分からない。

 ただ、美野里のようにある程度付き合いのある者ならばわかったかもしれない。

 今、この剣鬼が―――とてつもなく怒っているという事が。

 

「……俺も、一応親父や爺様方から話だけは聞いてたからさ。

 自分の起源(ルーツ)って事であんまり楽しくなかったんだよなぁ。

 鬼どもに喰われた被害者も出てたからな」

 

 八瀬宗吾―――彼は“八瀬童子”と呼ばれる者たちの末裔である。

 

 八瀬とは京都の東北。比叡山の手前、山の中腹を指す言葉だ。

 この辺りの民は比叡山への荷物の上げ下ろしを担う反面、京都の貴人や神社に仕える従者として活躍した歴史がある。

 特に有名なのが天皇や上皇の行幸、葬送の際に輿を担ぐ任を担っていた事だろう。

 断絶した時期もあるが、昭和天皇の葬送の際には相談役(オブザーバー)として参加した記録もあるほどだ。

 

 一つ、彼らには広く知られた話がある。

 それは天台宗の開祖、伝教大師こと最澄が使役した鬼の子孫であるという伝説。

 もちろん真実は不明であるが、少なくとも悪魔(鬼族)の血が混じっている事だけは確かだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「さっさと出てこい……こっちも色々と予定あんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『随分と悲しいことを言うじゃないか―――なぁ兄弟』

 

 

 

 

 

 

 朽ちた神社から足音が響いて来る。

 やがて暗がりの中から、月明かりに照らされつつ“ソレ”は現れた。

 外見は中肉中背、端正な顔立ちに黒髪をした20歳前後の男。

 そして手には一振りの刀―――鬼神楽が握られている。

 

 まるで鏡写し、二重存在(ドッペルゲンガー)のように宗吾と瓜二つの姿がそこにあった。

 

 ただ、明確に違う点がある。それは発せられる気配。

 愚者でさえ勘づくであろう、清々しいほどに垂れ流される悪魔の波動。

 相手の正体はもう答えが出ているようなものだ。

 

 八瀬宗吾、彼に宿る悪魔因子の大本、あるいは悪魔としての側面(もう一人の自分)

 すなわち、日本三大妖怪が1体。

 平安の時代、大江山に住み着き京の都を恐怖のどん底へと叩き落した悪鬼。

 かつて現実のこの場所に出現し、仲間と共に討伐した悪魔。

 その名を―――――――。

 

 

 

 

 

「…………………………()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 どこか呆気にとられたように、宗吾は否定の言葉を口にした。

 聞かされていた起源、再現された場所、襲い掛かってきた鬼たち。

 間違いなく自身の宿る鬼の血が、かつて戦った悪魔が関わっていると予想していた。

 

 だが違う、目の前にいる悪魔は断じて酒呑童子などではない。

 例え、かつて打倒したのが分霊だったとしても分かる、見間違えるはずがない。

 気配が違う、空気が違う、圧が違う――――()()()()()()()()()()()()

 

『ああ、その通りだとも』

 

「ッ―――!」

 

 気付いた瞬間、その囁きはすぐ隣から届いていた。

 意識を逸らした覚えは欠片もない。瞬間移動特有の予兆も感じられなかった。

 では先程己がやったように意識の隙間に潜り込まれたのか―――それも違う。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()……っ!!?)

 

 

 その単純極まりない事実に、全身へ冷たい戦慄が走る。

 記憶にある中では、かつて出会ったあの魔人くらいしか比較対象に出せないほどのスペック差。

 斬れる斬れないの直感さえロクに機能していない。

 しかし、それでも――――。

 

「―――ォ、オオオオオ!!」

 

 剣士としての本能が思考を通り越して最適行動を選択していた。

 

 

 

《雲耀の剣》*17万能物理スキル敵前列に万能相性ダメージ。

《会心》*18自動効果格闘攻撃のクリティカル率が上昇する。

 

 

 

鬼神楽()を叩き落す、取り戻すのが最優先!)

 

 万能相性の神速攻撃。狙うのは手元、鬼神楽を握った腕。

 格上と戦うのであれば、無手のままでは話にならない。

 最低でも得物を取り戻さなければ戦う以前の問題である。

 

 故に、その判断と行動は決して間違ってはいなかった。

 

 

――― 【DRAIN】―――

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『けど無関係じゃない―――――その“親”だ』

 

 

《キルラッシュ》*19打撃属性。敵単体に1~3回の中ダメージを与える

 

 

 攻撃を吸収され流れが止まった宗吾へ、お返しのような神速の3連撃が叩き込まれた。

 とっさに腕を挟んで防御したものの*20、出来たのはそれだけだ。

 あまりの威力を殺しきれず、その場から大きく吹き飛ばされる。

 

「が、ぁ……っ!?」

 

 まるでボールのように石畳の上を何度も跳ね、やがて御神木へと激突しようやく停止した。

 息が詰まる、全身に激痛が走る―――全て無視して体の状態を把握。

 直接攻撃を受けた腕は痺れこそあるが使えないほどではない。

 体のあちこちが削れたものの、戦闘行為自体に支障なし。

 

(親……酒呑童子の、親……ってまさか)

 

 並行して先程の言葉の意味を脳内の知識から探り出す。

 酒呑童子の伝承は複数存在するが、親と呼べる存在は限られる。

 その中でも、これほどまでに強力な悪魔となり得るのはただの1()()のみ。

 

 

 ――― ANALYZE COMPLETE ―――

 

 

 ―――ピースが揃った瞬間、見鬼の力がその正体を暴いた。

 

 

 

\カカカッ/

国津神ヤマタノオロチ(ク■ゥ■ー)Lv97相性:魔法喰いボス

 

 

「ヤマタノオロチ……おいおい、スサノオの真似しろってか?」

 

 

\カカカッ/

剣士八瀬宗吾Lv59相性:全体的に強い、破魔・呪殺無効

 

 

『生憎酒はここに無い。素の力で何とかしてみろ兄弟』

 

 

 レベル90越えの大悪魔。レベル差は30以上。

 単独かつ武装無し、勝率は極小どころか那由他の果て。

 ―――ここに、絶望を通り越した戦いが始まる。

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 ヤマタノオロチ―――古事記、あるいは日本書紀に登場する伝説の八頭龍。

 悪魔としての種族は龍王であるが、本来であれば水神に分類される国津神。

 場所が精神世界である故か、宗吾の前には原型に近い形で姿を現している。

 

 

 そして地上のほぼ全てから消し去られた、古き神々しか知らない事実が存在した。

 

 

 国津神―――その一部はクトゥルフ神話の系譜に連なる神性である事。

 ヤマタノオロチは邪神<クトゥルー>に近しい存在だという事

 そしてこの悪魔は数か月前、空港に出現した厄災にして怪獣―――。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

*1
※TRPG200X出典 【レベル44】

*2
※TRPG200X

*3
※TRPG200X

*4
※TRPG200X

*5
※ライドウシリーズ

*6
※プレスターンバトル。クリティカル時、プレスアイコンは半消費となる

*7
※TRPG200X

*8
※真Ⅴ

*9
※TRPG真Ⅲ 物理攻撃を受けた際、50%の確率で反撃として通常攻撃を1回行こなう。そのダメージは2倍になる。

*10
※TRPG200X

*11
※真・女神転生IMAGINE

*12
※真Ⅴ

*13
※TRPG誕生篇

*14
※TRPG200X

*15
※TRPG誕生篇

*16
※TRPG誕生篇

*17
※TRPG200X

*18
※TRPG200X

*19
※P3P

*20
※TRPG誕生篇 《受け》





・Tips

【国津神】
 日本土着の神々。しかしそれには主に2系統の霊脈が隠れている。
 ひとつは素戔嗚尊の血を引く騎馬民族の神々。
 もうひとつはムーの血を引く縄文の神々である。

 かつて琉球古陸に一大神聖都市を持ち神々が居た。
 それはムーの龍神たちである。
 しかし1万6千年前の神々の大戦により、その亜大陸にあったムーは海底に没し、一族は世界中に散っていった。日本と中国、東南アジア、そして南米にその足跡を見ることが出来る。
 こうした龍神の末裔と、高天原を追われた素戔嗚尊の霊脈の結合が、国津神である。

【ヤマタノオロチ】
 越(富山から新潟)から現れた大蛇。ムーの龍神でありクトゥルフに近い存在。
 ネクロノミコンによれば、ムーの主神九頭竜(クトゥルー)は海底奥深くに封印され、八頭龍(ヤマタノオロチ)は倒され、七頭龍(ナーガのアナンタ龍王)は地下世界に逃れたとのこと。

※新世黙示録より引用。


―――――――――

ヤマタノオロチ=クトゥルー、あるいは九頭竜の亜種という半ば独自設定。
新世黙示録の参考にしてるけど割とこじつけ(

後篇もなるべく早く投下予定です。


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Past, Present And Future-後篇①-

書いてる文章長引いたので後編の前半です。
続きもなるべく早く書きます。


 

「うわわ、また血が出た!? 

 先生これって本当に大丈夫!!?」

 

「さっきからペースが速くなってませんかこれ!!」

 

「落ち着いてください。一見すれば派手ですが傷自体は深くありません。

 この程度なら回復魔法と輸血で十分対処可能です。

 2人は予備の輸血パックを準備しておいてください」

 

 都内某所に存在する異能者御用達しの診療所。

 そこの主、魔界医師ファウストは背後で慌てる少女2人を宥めながら的確に確断を下す。

 身に纏う白衣はすでに夥しい量の血で染まっていた。

 

 それは治療によるものでも、ましてや戦闘によるものでもない。

 目の前で横たわる患者の身体が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今の所大きな傷は無いものの、塵も積もれば山となるという言葉もある。

 止血と並行して輸血も行わなければ、流石の超人と言えども死に至るのは避けられない。 

 

 明らかな異常事態だ。本来であれば遠距離から呪詛を受けているのかと疑うもの。

 だが違う。この意識不明の患者―――八瀬宗吾を襲っている現象はそのような物ではない。

 

 確かに最初は《草人呪詛》*1などの遠隔呪殺攻撃を考えた。

 しかし、呪殺対策のアクセサリーを付けても効果がない。

《テトラジャ》などの結界を試しても効果は同じだった。

 そもそもの話、自分の目を以てしても何一つとして前兆が見られない。

 

 ――――であれば答えは1つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正確に言えば精神世界(インナースペース)、そこでの負傷が現実にも反映(フィードバック)されているという所だろう。

 常識的に―――業界の中ではと付くが―――考えればあり得ない事である。

 夢魔などの悪魔に取りつかれた場合などでもそうだが、基本的に精神ダメージは肉体に直接的な影響を及ぼさない。

 廃人化する、肉体が悪魔へと変質する、などといった現象は副次的なものに過ぎないのだ。

 

 だが今、目の前でそのあり得ないはずの例外現象が起きている。

 運び込まれた直後の情報収集(ヒアリング)で得た八瀬宗吾という男の人物像と背景。

 そこから推測に推測を重ね、無理矢理にでも仮説を立てるとするならば。

 

「極端なプラシーボ効果―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 肉体と精神のリンクが常人より密接かつ複雑であるが故、実際に傷を負ってしまっている。

 ……我ながら随分と寝ぼけた事を言うものです」

 

 剣士に限らず、極まった武人という人種は己の無意識さえ意識下に置くという。

 そうする事であらゆる隙を無くす、あるいは隠せる云々。

 矛盾を孕んだ言葉、心理学という学問に真正面から唾を吐く理論。

 

 少なくとも学者肌であるファウストには欠片も理解出来ない概念だ。

 確かに思い込みだけで火傷を負った例は現実として存在するが、幾らなんでも限度がある。

 しかし、そうとでも考えなければ説明がつかないのもまた事実で、同時に今の状況では対処療法しか出来ない事も分かってしまう。

 

 何故なら己の中の悪魔と戦っているだろう宗吾(患者)に対して。

 あくまで優れた魔界医師でしかない自分では手助けする術を持たないから。

 心の中での戦いは、彼の手が届く領域ではないのだ。

 正直な話、単に悪魔に憑依されていた方が対処法がある分何十倍もマシだっただろう。 

 

 無論、だからと言って手をこまねく気もない。

 まず思いついたのはとある“魔剣”を持つ封剣士の少女を呼ぶこと。

 その力を以ってすれば精神への介入は余裕で可能だっただろう。

 

 幸い、宗吾とも面識はあるらしく協力が付けやすい相手であったのだが―――どうやら別件があったようで連絡がつかなかった。

 仮に今すぐ話が通ったとして、向こうが間に合うかどうかも不明だ。

 ならば次善手、不確定な切り札に頼るよりも今ある手札で勝負するしかない。

 

「――――美野里さん、貴女は大丈夫ですか?」

 

「めっちゃ体の中熱いし頭痛と吐き気もするけどまだいける……!!」

 

 

 

 目の前にいるもう一人の人間。

 宗吾の頭を抱えるようにして目を閉じる少女(次善手)―――若槻美野里へと声をかけた。

 

 

 

 自分と同じく全身を宗吾の血で汚しながら、しかし彼女は気に留めた様子も無い。

 正確に言えばそんな余裕が存在しないと言った方が正しいだろうか。

 その端正な顔に玉のような汗が幾つも浮かんでは流れ落ちるのを繰り返している。

 誰がどう見ても、大丈夫などとは口にできる状態ではなかった。

 

「……先生、追加で、もう一本アンプル頂戴。

 “繋がる”には、まだ……出力足りてないの」

 

「“ブースター”*2はこれで4本目です。

 如何に超人といえどもこれ以上の服薬はお勧めできません。

 何らかの後遺症、あるいは“シャーマニック・ハイ”*3に陥る可能性も―――」

 

「そんなの……出てから、考えればいいわよ!」

 

 ファウストの警告に対し、歯を食いしばりながら美野里は途中でぶった切る。

 なるほど、確かにその意見は正しい。

《サイコ・ダイブ》の精度を上げる為とはいえ、既に劇薬を4本も飲み込んだのだ。

 

 現時点で既に過剰摂取状態(オーバードーズ)

 その証拠と言わんばかりに尋常ではないほどの発熱と頭痛が自分を襲っている。

 これ以上の服用は自殺行為で、だが、それでも――――。

 

 

―――《■レコ■ニ■ョ■》―――

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 分かるのよ、勘とかじゃなくて、もっと深い所で。

 それに、ここでイモ引いたら―――絶対自分を許せない!! 

 

 閉じていた両瞼が開かれる。

 そこにあったのは強い覚悟に燃える女の瞳だった。

 ファウストだけではなく、輸血パックを抱えて戻ってきた友人2人も思わず言葉を呑む。

 

「だから、お願い……やらせて……っ!!」

 

 少女の願いに、魔界医師は小さくため息をつく。

 ―――止められない。そう悟ってしまった。

 こういう目をした人間を止める言葉は存在しないと経験で知っていた。

 

「―――――千束さん、たきなさん。

 申し訳ありませんが彼女が暴走した場合は対処をお願いします。

 私だけでは正直自信がありませんので」

 

 出来るとすれば相手の決断を支える事くらいだ。

 万が一に備え、戦闘力の高い少女たちに声を掛けながら5本目のアンプルを懐から取り出す。

 これはもう、あとで特別料金を請求せねばならないだろう。

 

「あーもう! 美野里、これ以上の無茶は絶対ダメだかんね!!」

 

「暴れたら速攻で新技ぶち込みますから覚悟しててください!」

 

 赤と青、2輪の彼岸花はそれぞれの銃へ特殊弾の入った弾倉を装填する。

 異常があればすぐさま撃ち抜く覚悟だ。

 出来ればそうなってほしくない事を祈りながら、銃口を静かに向けた。

 

「……ありがと」

 

 ほんの少し微笑を浮かべながら返事をして、

 

「――――――!!!!」

 

 劇薬を勢いよく飲み込み――――美野里の意識は暗転した。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 世界各地の伝承にあるように、悪魔と呼ばれる存在の大半は人間に化ける事が可能だ。

 いたずら好きの妖精として知られる“ジャック・フロスト”や“ジャック・ランタン”でさえ、その気になれば小さな子供の姿を取る事が出来る。*4

 だが、常日頃から人間の姿を取り続ける悪魔というのは実のところそれほど多くない。

 

 単純に変身しなくても人間と然程変わらない容姿の悪魔。

 変身しようとする知性や意識そのものが存在しない悪魔。

 己の姿に誇りを持つ故に、人の姿を取ろうとしない悪魔。

 

 例を挙げるなら他に幾らでも出て来るだろう。

 人間と同等、あるいはそれ以上に千差万別の存在なのだから当然と言えるかもしれない。

 それでも、彼らには根本的な所で共通する理由が一つ存在する。

 力を重視する悪魔にとって最大の欠点(デメリット)と呼べるものが。

 

 

 

 ―――――――つまり。

 

 

 

『どうした兄弟!? いつもみたいにアゲてけよぉっ!!!!』

 

 

―――《なぎ払い》*5―――

 

 

 

()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()*6

 

 

 

「ヅッ―――!」

 

 

《ガード》*7防御態勢を取って敵から受けるダメージを半減する。

クリティカル、状態異常を防ぐ。

 

 

 雑に振るわれた、しかし軌跡を追うのがやっとの一撃を受け止めた。

 ガードに用いた両腕から発する嫌な音が骨を伝わって耳へと届く。

 脳へと走る肉を齧られたような激痛の信号から状態を逆算――――ギリギリで折れていない。

 おそらく数センチでも受けた位置がズレてたら、両腕が肩から捥げていただろう。

 

 本来の力を引き出せない、人間形態の一撃でこれほどの威力があるという証明。

 その馬鹿げた事実に、これまで出会ってきた強大な悪魔(BOSS)が可愛く見えて来る。

 

(だから)

 

 本当にこれで弱体化しているのか疑わしくなるほどの戦闘力だった。

 こちらが意に先んじて行動するよりも速く動くという出鱈目である。

 まともに攻撃を受ければどうなるか、想像しなくとも結果は明白だ。

 

(どうしたって話だ―――ッ!!)

 

 

 ―――かと言って、この剣鬼に“諦め”や“降参”の文字が存在するはずもない。

 

 

―――《猛反撃》―――

―――《会心》―――

―――《急所》―――

 

 

 受け止めた運動エネルギーを利用し、回転ドアのように円運動を開始。

 踏み込みと共に遠心力を加えながら敵の背後、死角の中へと回り込む。

 狙うは無防備に晒されている後頭部、そこへ渾身の反撃を叩き込んだ。

 

 

『―――痒いな、鱗が一枚剥がれたくらいだ』

 

 

 常人なら、並みの悪魔なら一撃死する手刀を受けてなお。

 日本最高位の怪物(ヤマタノオロチ)は小揺るぎもしなかった。

 自信が言う通り、本当にその程度の痒痛しか感じていないのだろう。

 逆に攻撃した宗吾の手から皮膚が破け血がにじみ出しているくらいだ。

 

「……何喰ったらそうなるんだよお前」

 

『人肉っつったら納得するか?』

 

 ため息交じりの呆れ声と堪えるような笑い声が交差した。

 戦闘開始以降、殺し合っていた両者が初めての会話を交わす。

 

『分かったろ、これが人間(お前)悪魔()の差ってワケ。

 生き物いや、存在としての次元がそもそもとして違う。

 なのに………………まだやるのか?』

 

「当たり前の事言ってんじゃねぇよ。

 そりゃ神話の怪物なら次元からして違うのは当然だ。

 ―――でも関係ない。生きてるなら死ぬし斬り殺せる」

 

 挑発するかのように告げた言葉に、一秒どころか刹那も迷わず宗吾は即答した。

 人間と悪魔の差など百も承知。この世界に来る前から嫌というほど知っている。

 しかし、それが一般的に恐怖で脅威であり誰もが諦めを抱く理由になるとして。

 

「死なないなら死ぬまで斬る。

 殺せないなら殺せるまで斬る。

 剣術だけで無理なら策練って術を使って数を揃えて斬る。

 どーしても無理なら逃げて鍛えて準備を整えてから斬る。

 何処まで行っても、どんな世界でもそれだけの話だろ」

 

 少なくとも、八瀬宗吾という人間が止まる理由にはなり得なかった。

 それはこれまでの人生が、彼が歩んできた道程が証明している。

 そもそも、そうでなければ生きてはいないしこの場所に立ってもいない。

 

『ハ、ハハハハ!! そうかそうだよ流石だ兄弟!!!! 

 剣に生きる鬼!! 求道者!! 修羅道を征く者!!!! 』

 

()()()()()()()()()()()()()

 首へ手刀が食い込んだまま、とうとうヤマタノオロチは絶笑した。

 夜闇を裂くような人間に非ざる、人間には出せない大声量。

 

 なんだ、という疑問符さえもが口から出てこない。

 笑い声に込められた超重量が、言葉を紡がせない。

 

『お前の祖で良かった! お前の影で良かった! お前とこの世界に来れて良かった!! 

 言っちゃなんだが、元の世界じゃ俺と繋がる霊格を得られなかっただろう!! 

 こうして相対する事もなくその生を終わらせていただろう!!』

 

 それは歓喜に満ちていた。

 祝福があり呪怨があり、瞋恚があり悲嘆があり、狂気の中に敬意があり。

 あるいは愛にも似ていた。

 

 煩いと思う間もなく、ヤマタノオロチの腕が動きだす。

 これまで一度も使わなかった腕が。

 宗吾の愛剣を、鬼神楽を持つ腕が。

 

 

 

『だけどこうも思うんだ―――()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 

 

《ATTACK》*8剣相性の通常攻撃。

()()()()()()()()()()()()()3()()6()()

 

 

 6つの閃光が疾った。

 宗吾にはそうとしか知覚できなかった。

 遅れて痛覚が全身を刻まれた事と、左腕が斬り飛ばされた事を伝えて来る。

 同時に全身へと広がる衝撃と崩れた体幹バランス―――その場に両膝をつく。

 

 

「――――、――――っ」

 

『流石に《八艘飛び》とはいかんがな。

 その気になればこのくらいはいける。

 聞いていただろう、あの女剣士から』

 

 ヤマタノオロチが大きく血振るいをする。

 技量も何もない、腕の力だけで振った雑な動作。

 それだけで刀身には血の1滴さえ付いてはいない。

 

 宗吾が習得の為に頭を悩ませていた連撃という概念。

 それを技でもないただの攻撃で成してしまうのが悪魔という理不尽。

 わざわざ剣を使ったのは、その事実を身をもって叩き込むためか。

 

 両膝をつき、腰の沈んだ状態で、人間という生き物は機敏に動けない。

 宗吾を殺すなら今がまさに絶好の機会で、しかしヤマタノオロチはそうしなかった。

 先程と同じように。親し気に話の続きを再開する。

 

『なあ兄弟、道を極めるってのは至難だ。

 余計な物をそぎ落としてナンボってのは決して間違った意見ではないだろう。

 それを踏まえた上で聞くが――――()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 嬢ちゃん――――誰を示しているかなど問うまでもなかった。

 宗吾は答えない、ただひたすらに荒い呼吸を繰り返している。

 ヤマタノオロチも返答を待たずに思いの丈を吐き出し続ける。

 

 

『確かに放っておいたら無茶をするタイプだ。

 目的の為なら平気で死地へ飛び込むタイプだろうよ。

 だが……わざわざ心配して力になる必要はあるまい。偶然共闘した、1度助けられた程度で』

 

 ―――それが、それこそが。八瀬宗吾が若槻美野里と共にいる理由だった。

 

 一見すれば冷静のようでいて、その実暴走特急のような少女。

 必要とあらば無理無茶無謀は当たり前。短い付き合いですぐにその在り方を理解した。

 なにせ、問題のある人間は自分含めて相当見慣れていたから。

 

 そして、見捨ててハイさようなら―――そんな選択肢は浮かびさえしなかった。

 

 それこそが欠点なのだと。その甘さが不要なのだと。

 剣に生きる者、強さを求める求道者、修羅道の住人として不純だと。

 彼の中の悪魔は言外にそう告げていた。

 

『だからなあ兄弟、一つ提案があるんだ。

 ―――俺と()()して不純物(それ)を捨てちまえよ。

 人間を超えて、誰よりも強く……どこまでも剣を極められるぜ』

 

 それはまさしく悪魔の誘いだった。

 人を辞めれば更なる強さを、これだけの力を得られると。

 余計な物を捨て、真の意味で剣に生きる存在になれと。

 

『人間を超えた力、耐久性、寿命……得られる物は多いだろう。

 脆い器を捨てて限界のその先へ行こうじゃないか、なぁ。

 これから先の戦いを考えるなら悪い話でもないだろ』

 

 どこまでも真摯な、もう一人の自分の言葉に対し、

 

「―――――ハ」

 

 宗吾は侮蔑の混じった笑いで返した。

 まるで話にならない、分かっていない。お前は一体何を見て来たのか。

 言葉にせずとも、まるでそう告げているかのようだった。

 

『ハァ…………残念だ。

 ならば―――――』

 

 明らかな拒絶の意志を前にして。

 ヤマタノオロチは再び剣を振りかぶる。

 狙うは眼前の死に体にして半身。

 

 

『ここでお前を喰らい、俺が表に出るまでだ!!』

 

 

―――《ATTACK》―――

 

 

 再び閃光が疾った。狙い所は頭部。

 スイカ割りのように打ち下ろし、胴体ごと真っ二つにせんとする重斬撃。

 今度こそ死ぬ、とてもではないが人に耐えられるようなものではない。

 

 

 

 

 

 ――――――当たればの話だが。

 

 

 

 

 

「――――かかってんじゃねぇよ阿呆」

 

 

 

 

《無刀取り》*9素手で相手の刀剣を奪い取る柳生新陰流奥義。

大成功時、相手の刀剣をそのまま叩き折ることが出来る。

判定に成功時、相手の武器を奪い、失敗すれば離す。

どちらにしても敵の刀剣による攻撃を止める。

《集中》*10手番を放棄し、指定した次に行う行動の成功率を上昇させる。

 

 

 

 左足を踏み込み、体重を前方に飛ばし、残された右手を伸ばす。

 両膝をついた時点で、宗吾は次の手の準備をしていたのだ。

 これまでに得た情報から、自分の全てを把握している訳でないのは分かっていた。

 

 だから知らなかったのだろう、日本剣術には着座状態からの技術体系がある事を。*11

 だから気付けなかったのだろう、確実に剣を奪い取る為、鬼神楽による攻撃を誘っていた事を。

 

 如何に目で追えず、意に先んずるのが不可能な速度でも。

 来ると分かっている、ド素人の斬撃であるならば。

 例え隻腕だろうと十分この奥義は通用する。

 

 

 二つの影がすれ違う。

 果たして――――立ち上がった時、宗吾の手には愛剣が握られていた。

 

 

「―――“雲耀”」

 

 

―――《雲耀の剣》*12―――

 

 

 振り向きざまに。音さえ断ち切り、置き去りにする斬撃が放たれる。

 当然ながら素手とは比べ物にならない、どころか。

 どういう理屈か()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『フハッ―――!』

 

 これまでとは逆に、ヤマタノオロチの方が派手に吹き飛ばされた。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

「俺が求道者として見りゃ不純ってのは否定しねぇよ。

 本格的な連中からしたら、実際無駄だらけだろうしな」

 

 吹き飛んだ先、土埃に隠れる半身に視線を送りながら肯定の言葉を送る。

 ヤマタノオロチの言葉は決して的外れなものではない。 

 剣に生き、剣の道を極めんとするならば他は一切不要で捨て去るべき。

 余計余分なものを削ぎ落し、ただひたすらに刃を研ぎ澄ませる。

 

 鋭く、ただひたすらに鋭く。万物を断ち切る域にまで。

 それこそが純粋な剣者としてのあるべき姿、目指すべき場所。 

 その為ならば極端な話、人間を捨てる選択を取る者も確かに存在する。

 

 例えば、相方の少女の買い物に荷物持ちとして何時間も付き合う。

 例えば、特撮番組(仮面ライダー)を劇場版含めて半日以上見続ける。

 例えば、行きつけの喫茶店で店主や店員と談笑しながらコーヒーを楽しむ。

 

 ――――全て無駄であり、そんな事に時間を使う暇があれば剣を振る時間に当てるべきだ。

 求道者にあらず、と言われればまさしくその通り。 

 否定はしない、出来ない、決して間違った事ではないから。

 

 

「でもな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いるかそんなモン。俺の趣味じゃない」

 

 

 意見を踏まえた上で―――そんな(モノ)は自分に必要ないと宗吾は吐き捨てた。

 趣味ではないという極めて個人的な、故に絶対的な理由で。

 

 

「ただ1人で鍛え続けて、鋭く薄くなるだけの孤独の剣。

 ―――“孤絶剣”に先は無いんだよ。

 強くはあっても強靭(つよさ)を持たない……歪んだ末路だ」

 

 

 仮に100年間誰もいない空間で修行を続けた者がいたとして。

 単純な技のぶつけ合いなら確かにその者の方が上回るかもしれない。

 では搦手に対してどうするのか? 籠っている100年の間に生まれた新技術への対処法は? 

 ―――絶無である。手札など1枚たりとて持つはずがない。

 

 特定の環境に慣れた者は違う状況に放り込まれれば容易く死ぬ。

 自分の知識が世界の全てでしかないから、未知への対応に固まって死ぬ。

 天才と呼ばれる存在であろうとも、例外は早々存在しない。

 もちろんこれは極端な例えであるが、そう外したものでもないだろう。

 

 八瀬宗吾という剣士にとって、他者との繋がり()は無駄でも無価値でもない。

 元来武術とはナニカを打倒する為の物。自分以外の存在が居て初めて成立する物。

 繋がりを断って得られるものなど、結局のところ自己満足が精々だ。

 誰かと共に生き、寄り添い戦い学んで、血肉に変えながら進み続けるのが人間なのだから。

 

「自分とは違う誰かが居るから人は成長できる。

 1人で生きられる奴がいないように、1人で極められる道がある筈もねぇ。

 それと、そもそも―――――」

 

 

 

 一拍おいて。

 

 

「人間として生まれて人間として剣を磨き続けて来た奴が。

 人辞めた程度で人の剣術(ブレイドアーツ)を極められるかボケ!! 

 そんなに浅くねーんだよ剣ってもんは舐めてんのか!!!!」

 

 

 特大の怒気が辺り一帯へと轟いた。

 普段の彼とは異なる、静寂の如きものとは真逆の破壊的なエネルギーに満ちた気当たり。

 それだけ宗吾は怒っていた。

 自分の半身、悪魔としての側面を謳いながら根本を理解していない事に。

 何より、剣術をいう概念を安く見られた事に。

 

 悪魔―――それも怪物に類する―――である故かもしれないが、それとこれは別。

 絶対に斬り殺す……彼は()()()()()()()()()()()()()()決意を新たに固めていた。

 

 

『なるほどそりゃすまない。では第2ラウンドだ……!!』

 

 

 声と共に、薄れていく土煙から巨大な影が姿を現す。

 今までの鏡写し(ドッペルゲンガー)ではない。

 宗吾が10人いても届くかどうかといった大きさの、8つの頭と尾を持つ怪物の姿。

 

 国津神《ヤマタノオロチ》―――加減を辞めた(変身を解いた)真のカタチ。

 

 気絶(ショック)の解けた都合16の瞳全てが宗吾を射抜く。 

 先程までとは何もかもが違う威圧感。

 怒りとは反対に冷静さを保ち続けている脳が迅速に答えを弾き出す。

 

 

()()()()()()()()―――足りないのは時間)

 

 

 足りない、自分だけでは届かない。

 どう考えても途中で押し切られる。

 人と悪魔、覆せない性能(スペック)差がある。

 

 加えてこちらは隻腕かつそれなりに負傷している。

 怒りや根性、気合だけでどうにかなるものではない。

 誰がどう見ても詰みと答える盤面。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――宗吾が1人だけで戦うのであれば。

 

 

 

 

 

 

 

「ならここで真打登場といこう。

 前座は大人しく舞台袖で休んでいろ」

 

 後ろから声がして通り過ぎた。

 

「自分なぁ、いくらなんでもやり過ぎや。

 心臓まで潰されたら流石に自己蘇生もギリギリやったで」

 

 後ろから声がして通り過ぎた。

 

「女の子の為ならともかく野郎しかいないとか。

 まーでも、最期くらいは良いでしょこういうの」

 

 後ろから声がして通り過ぎた。

 

 3人の人影が、宗吾の良く知る後姿がヤマタノオロチへと向かっていく。

 分かり切っていた、接敵したその瞬間から。言葉など無くとも伝わるものがある。

 間違いなく最初から()()()()つもりだったのだろう。 

 

 今までずっと、死んだふりをして機を伺っていたのは気付いていた。

 必要な時が来たから、こうして出て来たのだ。

 だから、掛ける言葉は1つだけ。それ以外は侮辱でしかない。

 

 

「……30秒(3ターン)稼いでくれ、頼む」

 

 

「「「任せろォッ――――!!!!」」」

 

 

 

神威・退魔生徒会出動!》*13このスキルは何の効果も存在しない。

ただ、彼らが不動の絆で結ばれている事を証明する。

無価値でも無意味でも無駄でもないもの。

 

 

 本物も偽りも関係ない。

 どちらだとしても取るだろう選択に違いはない。

 ただ友の為に―――漢たちは駆け出した。

 

 

 

 

*1
※TRPG基本システム タオに分類されるカルトマジック。

*2
※ TRPG新世黙示録 瞬間的に使用者の能力値を引き上げる効果を持った劇薬。

*3
※TRPG誕生篇 チャネラーに起こる「狂乱」に類似した特殊な高揚状態。

*4
※ TRPG基本システムより

*5
※ 真if 突撃相性ダメージ

*6
※ TRPGシリーズ 人間へ変身した状態の悪魔は能力やスキルの使用に制限が掛かる。

*7
※SH2及び女神転生シリーズ全般

*8
※女神転生シリーズ全般

*9
※TRPG誕生篇

*10
※TRPG200X

*11
※誕生篇においても《護法の構え》という正座状態の構えが存在する。

*12
※TRPG覚醒篇

*13
※退魔生徒会シリーズ



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Past, Present And Future-後篇②-

 

 ヤマタノオロチにとってその3人は場を温める為の前座であった。

 宗吾の記憶に存在するヤマタノオロチ(自分)と最も縁のある土地―――“首塚大明神”。

 そこを心象風景として再現する際についでに出来た認知存在(人形)

 おそらく、この異界攻略へ参加した面子であったから強く紐付けられていたのだろう。

 

 変わっていた点は互いに知り尽くした関係であるが故か、その人格が本物同然であった事。

 即座に反逆を仕掛けられたが、あえて殺さずに行動を縛った上で宗吾へと仕向けた。 

 その方が盛り上がるし、使えるならなら使おう―――その程度の考えで。

 

 結果としては予想通り瞬殺された訳で、これまで意識から外していたのだが―――。

 

『こいつはどういった理屈だ? 

 何故俺に歯向かえる。一度死んだ程度でどうなるものでも……』

 

 今目の前で有り得ざることが起きている。

 何らかの方法で蘇生したのはともかく、こちらの支配を完全に断ち切るなど。

 創造物の反逆など手垢の付き過ぎたジャンルだが、幾らなんでも理屈が通らない。

 

 

「さてな、私たちの友情パワーという事にしておけ!」

 

「気合い! 頑張る! 根性出す! こんだけありゃどれか一個くらいは当たるわ!!」

 

「クッサイ理屈は嫌いだけど、まあそういう事だよ!!」

 

 

 改めて16の瞳が自分に向かって疾走する弱者を捉えた。

 そう、彼らは弱者だ。覆しようのない事実としてそこにある。

 例え鋼の如き決意と意志を持とうとも、厳然たる実力(レベル)差は残酷な現実を告げていた。

 

 ヤマタノオロチのレベルは90代後半。

 対する3人は平均して30代前半。 

 約3倍の差―――ここまで来ると戦術や装備、スキルで何とかなる次元ではない。

 

 鎧袖一触、誰がどう考えても一瞬一撃で終わる。

 30秒(3ターン)など夢のまた夢の、永遠に等しい手の届くはずのない時間だ。

 ヤマタノオロチの間合いに入るまであと数秒―――それが彼らの稼いだ成果。

 

 

 

 

「―――んな風に舐めてるから駄目なんだよ」

 

 

 

 

《ケミストリーⅢ》*1このターン、使用者は「種別:支援魔法」の消費型アイテムを

同時に【ランク+1】個まで使用できる。

 

 

――― 「バルーンシールド」*2―――

――― 「虚弱性・消毒スプレー」*3―――

 

 

 間合いへ突入する直前、()()()()()4()()()()()()()()()()使()()()()()

 あらゆる攻撃をあらぬ方向へ誘導し無効化する(バルーン)が3つ。

 攻撃力を下げる薬品の含まれた弱体化スプレーが1つ。

 

「これで最低でも10秒(1ターン)かな」

 

 その早業を成したのは山本総次郎。かつての退魔生徒会唯一の後輩。

 直接的な攻撃は不得手であるが、サポートの腕で右に出る者はいない男。

 先程の戦いにおいて、宗吾が彼を最優先で仕留めたのはこの技量を知っていたからだった。

 過去に仲間たちのピンチを幾度も救ったその力を、ヤマタノオロチは知るはずもなかった。

 

『やってくれる』

 

 意識が向く、厄介な真似をしてくれた男へと。

 どれも同じ程度の雑魚でしかなかった認識から、優先的に潰す者を選択する。

 全ての瞳が行動を終えて動けない総次郎を捉えて――――。

 

 

「モテるのぉ総次郎! 熱い視線向けられるとるで!!」

 

「眼中無しというなら無理矢理向かせてやろう」

 

 

 その瞬間を、意識が逸れるのを待っていたと言わんばかりに。

 残る2人は()()()()()()()()()()()()()()()()

 半呼吸以下の僅かな隙に、その巨体の下へと潜り込んだ。

 

 

《牙折り》*4敵単体に小威力の物理属性攻撃。

3ターンの間、対象の攻撃力を1段階低下させる。

《連続技》*5補助スキルこのターン、2アクション分の格闘攻撃が可能となる

 

 

 

 繰り出されるのは弱体化の念が込められた2発の拳と剣による一閃。

 完全に意表を突かれた形となったヤマタノオロチに回避など不可能。

 その攻撃の毒に抵抗出来るはずもなく、全身から力が抜け落ちた。

 

『む……っ!』

 

 

――― 【敵攻撃力:弱体化4段階】―――

 

 

 第128代加茂玉帝学院退魔生徒会。

 彼らは最前線()よりはるか前の時代の人間だ。

 宗吾と違ってレベルはそのままで、足切りラインにさえ届かぬ弱者である。

 

 だか―――舐めてかかればタダでは済まない“修羅”なのも事実だ。 

 確かにヤマタノオロチを倒すというのは不可能だろう。

 しかし、時間稼ぎという条件で考えれば可能性は十分に存在する。

 

 

『……なるほど、考えてみれば兄弟のダチだった。

 これは舐めてかかった俺の怠慢だな。

 ―――詫びに全力で潰そう』

 

 

―――《獣の眼光》―――

 

 

 怪物(BOSS)の瞳が禍々しい輝きを放つ。

 それは己の失態を、この3人を弱者であれど敵と認めた証。

 そして遊びも油断も消え失せた蹂躙の始まる合図。

 

 

《即時デクンダ》*6BOSS側に掛けられた低下系スキルが解除される。

即時効果の消費型スキルとして扱われる。

BOSSは相手の強さを認め奮起する/逆境を克服する。

《ティタノマキア》*7敵全体に中威力の物理属性攻撃。クリティカル率が高い

 

 

 

 弱体化の解除、そして振るわれる万物粉砕の一撃。

 事前に放っていたバルーンがその役目を全うし、3人全員無傷で切り抜ける。

 だがこれは邪魔なものを退けるための、いわば掃除が目的の攻撃だ。

 

 ―――であれば次が本命。

 

「下がれ塔也―――!!」

 

 

―――《カバー》―――

 

《アイスバウンド》*8敵全体に氷結相性ダメージ。

低確率でFREEZE(凍結)状態となる。

《氷結ハイブースタ》*9氷結属性攻撃の攻撃力が50%上昇する。

 

 

 続けて絶対零度の大蹂躙が降りかかる。

 氷結相性である事を見切った新がすぐ隣の塔也を庇う事で再び凌ぐ。

 ――――しかし。

 

 

―――【FREEZE】―――

 

 

「――――ッ」

 

 1人、耐性を持たず捌く術も持たない総次郎には直撃した。

 歯を食いしばり死ぬ事だけは免れたが、代償と言わんばかりに全身が凍り付く。

 更に言えば、ヤマタノオロチはまだ1回動きを残した状態だ。

 

(動けない、回避もおそらく無理。

 僕はここで落ちる(死ぬ)

 

 攻撃の予備動作に入る多頭龍を前に、総次郎は自分が詰んだ事を理解する。

 幸いと言うべきか、狙いはおそらく自分のみ。

 確実に殺す為、念を入れて来たのだろう。

 

 

 ―――なら仕事は果たした。後は任せよう。

 

 

「くたばれクソヘビ……っ!」

 

 凍り付いた口を無理矢理動かして。

 かろうじて動いた左手で中指を立てる(ファックユー)

 それが彼の最期の言葉となる。

 

 

―――《ATTACK》―――

 

 

 ガシャンと、ガラスの割れるような音が響いた。

 正確に言えば出来たばかりの氷像がヤマタノオロチに砕かれた音。

 今度こそ蘇生する事は不可能な、絶対的な死。

 

 

「残り20秒(2ターン)!!!!」

 

―――《牙折り》―――

 

「死んでも倒れん!!!!」

 

《咆哮》*103ターンの間、敵から狙われやすくなり、自身の防御力を1段階上昇させる

 

 

 

 残された漢たちは奮起し、すぐさま次の行動へと移る。

 再び牙を折る剣が炸裂し、怒りの咆哮が注意(ヘイト)を集めた。

 先程と同じ弱体化攻撃に攻撃誘導と防御強化。

 この行動の意図するものはただ1つ。

 

『1人ずつ削りながらの時間稼ぎか……!』

 

 それは文字通り後先考えない、死兵だからこその選択。

 生きる事を端から度外視にすれば、遥か格上の相手でも時間稼ぎは成立する。

 例え認知存在とはいえ、それを平然と意思疎通もせず行えるのがそういないだけで。

 

『いいだろう、なら正面から潰してやるさ』

 

 その挑発にヤマタノオロチは敢えて乗る。

 やろうと思えば抜け穴など幾らでもあるが使わない。

 弱者(勇者)の奮闘を無視するのは()()()()()()()()()()()()()()

 

 

―――《ATTACK》―――

 

 

 1撃目―――新の左腕が吹き飛んだ。

 2撃目―――新の右腕がひしゃげる。

 3撃目―――新の脇腹が噛み抉れた。

 4撃目―――新の全身が叩き潰され。

 

 

「お゛、おおおおおおおっ!!!!」

 

 

《男気》*11DEAD状態でも使用可能。使用者のBSを解除する。

HPが0以下の場合は1で復活する。

気合いと意地による自己蘇生。

 

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 見るも無残な姿になろうとその目は死んでいない。

 そんなものかと不敵な笑みさえ浮かべていた。

 

 時代遅れの番長にして魔導を修めた不死身の男、風祭新。

 宗吾に殺された後で息を吹き返し、仲間全員の蘇生を行ったのは彼だ。

 常人なら確実に死ぬ負傷でも、この熱血漢(バンカラ)を止めるには至らない。

 

『ならこうしよう』

 

 

《カタストロフ》*12敵単体に特大威力の物理属性攻撃

 

 

 不敵な笑みを浮かべた顔ごと、頭が消し飛んだ。

 食いしばりなど出来るはずもなく、残された体は糸の切れた人形の如く崩れ落ちる。

 とどめの追撃を終え、ヤマタノオロチは最後の1人へと問いかけた。

 

『お前は俺に何を魅せてくれる?』

 

 刀を担ぐように構えながら塔也は答える。

 

「別に構わんが―――代金は貰っていくぞ」

 

 

《メガストライク》*13剣技相性と裁定。

敵1体の急所一点を貫く剣技最強攻撃(if)

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

対象とその周囲の敵に対して近接攻撃力に、

魔法効果量の50%を上乗せした物理ダメージを与える(IMAGINE)

藤原塔也が得意とする、雲耀に並ぶ秘剣。

 

 

 直後、激情の込められた斬撃が()()()()()()()()()()1()()()()()()()()

 

 

『ぐおおおお――――!!?』

 

 ここに来て初めて、七頭龍と化した怪物の苦悶の声が漏れる。

 それはレベル差から考えればあり得ない攻撃だった。

 この短時間で何度も見させられたが、これはその中でも極めつけである。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何を驚いている。

 宗吾なら躱すか防ぐかして反撃していたぞ」

 

 アルカニストにしてオールラウンダーの指揮官、藤原塔也。

 ペルソナとして大天使《ラグエル》を使役する美丈夫。

 だがその外見と肩書に反して、本質的な部分は宗吾と負けず劣らずの剣士に他ならない。

 状況も都合も無視して強者に腕試しを挑む分、更に性質が悪いとも言えた。

 

 在学中、宗吾と模擬戦という名の斬り合いを行った回数は数知れず。

 ―――もしどちらか片方がいなければ、互いに秘剣の体得には至らなかっただろう。

 

「これで30秒……」

 

 剣を振り切った姿勢のまま塔也は動かない。

 迫る攻撃の気配を前にして微動たりともしない。

 否、正確に言えば動けないと言った方が正しいだろう。

 

 遥か格上の怪物の首を斬り落とした太刀筋は、間違いなく生涯最高のもの。

 故にその代償と言うべきか、体がまるで鉛のように重く感じていた。

 これでは回避も防御もままならない。

 

『実に“美事”だったぞ退魔生徒会。

 今の世界に流れ着かなかったのが心底残念に思う』

 

 だからこの流れは必然である。

 

 

―――《カタストロフ》―――

 

 

 賛辞と敬意の込められた尾撃が直撃する。

 全身の骨が砕けながらも歯を食いしばる。

 次で終わる、約束した時間は稼ぎ切った。

 そう己に言い聞かせつつ目線は外さない。

 

 

―――《ATTACK》―――

 

 

 そして終わりを告げる連撃が塔也の視界一杯に広がって。

 

 

 

「あいつを―――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ドン、と強い衝撃が襲い掛かった。

 ヤマタノオロチの攻撃ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

《トラップ・カード》*14攻撃スキル、支援魔法の1つを指定する。

⇒《ネクロマ》を指定。

任意のキャラクターの手番開始時、または終了時に

1度だけ指定したスキルを発動させることが出来る。

コストとして悪魔カードを使用。

《ネクロマ》*15DEAD状態の仲間を戦闘に参加させる。

 

 

 それは事前に仕込んでいた保険。

 ()()()()()()()()()()、己が死んだ後に立ち回るため伏せていた札。

 通常、ここまで肉体が損壊していれば高位の覚醒者だろうと蘇生は難しい。

 だがこれは蘇生ではなく死体の操作。原型をある程度留めているなら動く程度は出来る。

 

 塔也が言った通り、ヤマタノオロチは彼を肉片になるまで潰すべきだったのだ。

 そこまでされていれば流石に《ネクロマ》も意味を成さなかっただろう。

 しかしそんな仮定はもう意味が無い。あるのは目の前の現実だけ。

 

 

 ―――見たかいヘビ野郎。

 

 

 喋る口も無いのにそんな言葉が聞こえた気がした。

 実際届いたのはグチャリという異音。

 生者を庇った代わりに再び物言わぬ死体へと逆戻りした証明。

 

 

40秒(4ターン)……どうした、まだ生きているぞっ!」

 

 つまりこの瞬間、目標時間(デッドライン)を通り越した事を意味した。

 続けて挑発するかのように塔也が再び剣を振りかぶる。

 全身から夥しい血を流す姿は誰がどう見ても限界を迎えていた。

 

 まさに虫の息同然。

 剣を構えて立っている事すら奇跡に等しいと言える。

 このような有様で技が使えるはずもなく、悪あがきにすらならないだろう。

 

 

「―――知った事かよそんなもの」

 

 

決意を滾らせ現実(戯言)を踏み潰す

 

 

《絆スキル:回復》*16自分か絆を結んだ対象のHPかMPを

【絆レベル×10点】回復する。

八瀬宗吾との絆レベルは【10】である⇒HP100点回復。

《忽の剣》*17剣相性。副効果発生時、スタン・チェックを行う。

《煌天の会心》*18格闘攻撃を確定でクリティカルとする。

 

 

 魂の底から力を無理矢理引き出して、ボロ屑の器に火をくべる。

 片道切符、行きだけの燃料。使い果たせば本当に終わるのを理解して。

 ほんの刹那、力を取り戻した体が閃光の如く疾走り、怪物へ文字通り()()の一撃を放つ。

 巨体に撃ち込まれた刃、そこから波紋のように衝撃が浸透し―――。

 

 

―――【STUN】―――

 

 

 歯車がズレたかのように、ヤマタノオロチの動きが目に見えて鈍くなった。

 

「見ていたぞ……お前に気絶(スタン)耐性は無い」

 

 宗吾が剣を奪い返した際、反撃として叩き込んだ雲耀。

 あの時、確かにヤマタノオロチが動けなくなっていたのを遠目から確認している。

 だからこの時、ギリギリまで使うタイミングを計っていた。

 急所に捻じ込めば確実に1手稼げると踏んでいたから。

 

 果たして―――その狙いは達成された。

 

「これで50秒(5ターン)……なんだ、意外とやれるものだな」

 

『―――お前たちだからこそ、と付けるのを忘れるなよ』

 

 短い硬直が終わる。

 持てる全てを出し切った勇者たちを称賛しつつ、7つの首が同時に襲い掛かった。

 防御不能、回避など出来るはずもなく、噛み千切られ、潰され、抉られて―――。

 

 

 

 

「……ちゃんと勝てよ」

 

 

 

 

 最後に応援(エール)を残して、彼の命は花と散った。

 

 

 

 

「任せろ」

 

 

 

《集中》*19手番を放棄し、指定した次に行う行動の成功率を上昇させる。

虚空瞬撃・後(カバー)*20他人が失敗したときに、何らかのカバーとなる能力。

判定に成功すれば他のPCの行動に割り込んで、()()()()()()()()()

《慈愛の反撃》と同系統の技能として裁定する

兜割り*21神速の剣気を命中の瞬間に集束し、固い防具も両断してしまう必殺剣。

防御不能、防具は一切無効となる(防具による耐性も無効と裁定)。

 

 

 攻撃を終えた直後、獲物を殺した瞬間。

 その拍子を狙い、絶殺の意志を宿した剣鬼が斬り込んだ。

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 強固な鱗を幾つも断ち切った感触が伝わって来る。

 間違いなく痛打を与えた事を確信しながら、宗吾は勢いを殺さずに駆け抜けた。

 残心を疎かにすれば死あるのみ。格上であるならばなおさらに。

 

「―――――」

 

 十分な距離を取ってから向き直る。

 目に映るのは頭が1つ失われれ、兜割りで大きく一閃されたヤマタノオロチの姿。

 友人たちの姿はない。あるのは彼らだったモノだけ。

 

「―――――――」

 

 こうなるのは分かり切っていた事だった。

 あの3人が限界を超えてくれたおかげで、回復と作戦を立てる時間は十二分に取れた。

 だから嘆きは要らない。感謝するのも後回し。

 今はただ―――敵を斬り殺す事だけに専心する。

 

『よう兄弟、休憩はもういいのかよ』

 

「十分過ぎるくらいにな。

 両腕も使えるし、後はてめぇを斬るだけだ」

 

 切断されていたはずの左腕を見せびらかしながら宗吾は答える。

 一体どういう手品を使ったのか、負傷は欠損含めて完全に回復していた。

 多少の疲労はあるだろうが、ほぼ万全と言っていいだろう。

 

 ―――それでも、決して状況が良くなった訳ではない。

 

 常識的に考えて、格上の強大な悪魔(BOSS)を単独で相手取るのは無謀そのものだ。

 膨大な体力(HP)を削り切るより先に、人間側が力尽きてしまう方が早い。

 先に宗吾が自身で言ったように逃げて準備を整えるべき状況。

 

 しかし精神世界である以上、逃走はどうやっても不可能。

 であれば、こうして正面から立ち向かうのは自暴自棄、あるいは一矢報いるという精神故か。

 ―――否である。

 

 その瞳に諦観は存在しない。

 その瞳に虚勢は存在しない。

 その瞳に蛮勇は存在しない。

 

 あるのは確かな勝利(斬殺)への道筋のみ。

 当然、それを感じ取れない半身(ヤマタノオロチ)ではない。

 心底楽し気に笑い声を漏らす。

 

『クハッ……じゃあお前も魅せてくれよ、あの3人のように。

 一体どうやって俺を斬るつもりなのか!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――こうするのよバケモノ」

 

 

 

 

 

 

 

 その問いに、鈴の音のような少女の声が答えた。

 

 

 

 

 

 

《八塩折之酒》*22自分よりレベルの高い相手に対して状態異常を付与する確率が上がる。

《挑発》*23敵1体を高確率で激怒状態にする。

 

 

 直後、劇的な変化が発生する。

 

 

『がっ、ぁ、あああああああああああああああああああああ!?!?!?』

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 状態異常攻撃を受けた―――言葉にするならそれだけ。

 問題は一切の抵抗も出来なかったという事。

 

 強大な悪魔(BOSS)である以上、相応の耐性は存在する。

 先程気絶状態へ陥ったのは急所に入った(クリティカル)からだ。

 これは違う、まるで異なる。

 

(なに、が―――!)

 

 暴走する感情に翻弄されながらも、怪物は見た。

 

 

 

「あんた、こんなの中で飼ってたの? 

 自分で面倒見れないなら捨てなさいよ」

 

「生憎と気付かんうちに住み込まれててさぁ。

 だから今こうして躾の真っ最中ってな」

 

 

\カカカッ/

サイコメトラー若槻美野里Lv55相性:破魔・呪殺・神経無効

 

 

 宗吾の隣、朧げな姿で共に立つ若槻美野里(不純物と呼んだ少女)を。

 同時に理解した、己が一体何をされたのか。

 

 

()()()()……!? 

 俺に酒を飲ませたのか――――!!』

 

 

神話的弱点*24200Xスポット・ルール。

BOSS悪魔などについて神話的なイメージに基づき、

特定のアイテムが弱点である事にしてもよい。

この場合、スキルがアイテムの変わりを果たしていると裁定する。

また、弱点を突くことによってBOSSが「激怒」*25する事にしてもよい。

 

 

 ―――古事記において。

 スサノオはヤマタノオロチに酒を飲ませ、酔い潰してから斬り殺した。

 その飲ませた酒こそが“八塩折之酒”。

 

 確かに現物はここに存在しない。

 だが、その名を冠したスキルの所有者が傍に居た。

 若槻美野里―――スサノオの娘たるウカノミタマの転生体*26

 相方を助けるため、精神世界への侵入を諦めなかった少女が。

 

 彼女が常に呼びかける声は宗吾の耳に届いていた。

 彼女がこの領域へ辿り着くまで時間が必要だった。

 彼女がボロボロの彼を回復させるのに十分だった。

 

 何もかもが繋がっている。

 何一つとして無駄はない。

 今、宗吾の築いて来た全てがここに集束する。

 

 

「激怒」*27通常攻撃しか行わなくなり、攻撃力は2倍に上昇するが、防御力が半減する。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 普通ならミンチになるが……ここは現実じゃない。

 無理なら幾らでも利く」

 

「現実側でもファウスト先生が回復を続けてる。

 こっちからも私が回復すればまず死なない」

 

 ここは精神世界であり、現実の肉体の縛りが無い分、宗吾の能力は向上している。*28

 曲がりなりにもヤマタノオロチと無手で渡り合えていたのはこれが理由だ。

 継続的な回復と自身の意志力が続く限り、そう簡単に死ぬ事も無い。

 

 例え攻撃力が倍であろうと、通常攻撃のみであるならばまだ防げるし凌げる。

 ならばひたすら耐えて反撃を繰り返すのみ。

 ―――奇しくもそれは、とあるDBが神霊《クズリュウ》に取った戦法と同種のものだった。

 

『ハ、ハハハハハ!!!!!!! 

 こいつは参った流石だ兄弟!! 流石は人間!!!!』

 

 己が嵌められた事実を前に、ヤマタノオロチは再びの絶笑を上げた。

 戦意は衰えない、むしろ激怒状態な分ボルテージが天井知らずに跳ね上がってく。

 期待に違わず、己の半身は確かに魅せてくれたのだから。

 

『我が名はヤマタノオロチ!! 

 水神にして山神! 旧支配者に連なる神である!!!! 

 俺程度乗り越えてみせろ、此処から先へ進みたいのならば!!!!』

 

 

「「―――上等!!」」

 

 

 咆哮―――そして最後の激突が始まる。

 

 

『オラオラオラァッ!!!!』

 

 

―――《ATTACK》―――

 

 

 巨体が大気を打ち砕きながらひたすらに連撃を繰り返す。

 まさしく荒れ狂う自然の化身。

 人など容易く粉砕する純粋な暴力の嵐。

 

 

「皮剥いで捌いてやる……っ!!」

 

 

―――《受け》―――

―――《猛反撃》―――

 

 

 その嵐を剣鬼が片っ端から刻み続けていく。

 対応が間に合わなければ歯を食いしばって耐えてから斬る。

 一度斬った場所を何度も斬り付け頸を落とす事を繰り返す。

 

 

「あーもうっ! ちょっとくらい手ぇ止めなさいよあんた達!!」

 

 

―――《常世の祈り》*29―――

―――《挑発》―――

 

 

 銀髪の少女が後ろに下がりながら挑発状態の維持と回復を続ける。

 一体何故このような大事になってしまったのか頭は疑問で一杯だ。

 しかし半分以上は自分のせいだと受け入れて、成すべき事を成す。

 

 

 この光景がどれほど続いたのだろうか。

 正確な時間こそ分からないが、おそらく10分と経ってはいまい。

 だが―――終わりは必ず訪れる。

 

『ク、ハ、ハハ……』

 

 ヤマタノオロチは笑う、笑い続ける。

 全ての尾と6本の首を落とされ、まさしく死ぬ寸前だとしても。

 この瞬間、崩壊が始まってもおかしくない状態だ。

 残る首1本ではもう笑う事しか出来ないのがその証拠。

 

「……実は第3形態とかねーだろうな?」

 

 対する宗吾も無事ではなかった。

 傷は無いように見えても、内側はヤマタノオロチと比べてそう変わらない。

 軽く一発殴られただけで倒れるだろう。

 それでも―――後一振りするくらいの力は残されている。

 

『ある訳ないだろ。

 俺は間違いなく全力を尽くした。

 だからこの戦いはお前の……お前たちの勝ちだ』

 

 笑うのを止め、半身たる悪魔が()()()()を認める。

 宗吾は返答の代わりに構えを取った。

 刀を担ぐのではなく、前に突き出すような平晴眼の構え。

 何故か、こうした方が良いと自然に体が動いたのだ。

 

「―――いつか絶対1対1(サシ)でてめぇを斬る」

 

『いいぜ、その時をお前の中で楽しみにしてる』

 

 

 音もなく地を蹴った。低空を滑空するような静かな足さばき。

 狭まる間合い。繰り出すべき技、染み付いた動きが浮かんでは消える。

 浮かんでは消えて―――零になる。

 

 

 “やっさん頑張れー! ” 

 “こんなところで死なないでくださいよ!! ”

 

声が聞こえた。

 

 “まだ君には新商品を振舞っていないんだ”

 “ボクにも責任があるから早く起きてくれ”

 

声が聞こえた。

 

 “行け、走り続けろ”

 “気合い出せいダチ公”

 “派手な技見せてくださいよ先輩”

 

声が聞こえた。

 

 

 

 

「いっけぇえええええええええええええ!!!!」

 

 

 

 

声が―――聞こえた。

 

 

 

《応援》*301アクションを消費し対象を応援する。

次に行う行動の判定値に修正を加える。

 

 

 

「―――――――――ッ!!!!」

 

 

 

 過去から現在(イマ)まで積み上げてきたもの全て。

 紡いだ絆が、人の剣術を追い求めた魂が、ここに常理を飛翔し(とびこえ)奇跡を生む。

 

 

 

《我流魔剣・■■■》詳細不明。いまだ完成に至らぬ―――八瀬宗吾だけの魔剣

 

 

 

 

 ――――再現された異界ごとヤマタノオロチは消し飛んだ。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 目を覚ませば、そこは見覚えのない天井だった。

 全身に走る激痛と倦怠感に思わず顔をしかめる。

 視線だけ動かせば、こちらを心配そうに覗くリコリコの面子と医者らしき風貌の男。

 

 ―――そして。

 

「……おかえりなさい、()()()()

 

 どこかほっとしたような表情の、疲労の色が隠せない相棒の姿。

 体勢的に考えて、どうやら膝枕をされているようだった。

 年下の女の子にされるのは初めての経験だが、不思議と気恥ずかしさは感じない。

 

 色々と言うべきことはあるのだろう。

 一体どれだけ無茶したのかとか、助けてくれてありがとうとか。

 だけども、まず最初に口にするのは―――。

 

「―――ただいま、美野里ちゃん」

 

 ここに戻ってきた、まずはそれを伝える事。

 それが正解かどうかは……彼女の笑顔が答えだった。

 

 

 

 

 

*1
※TRPG200X

*2
※真Ⅱ 敵の全攻撃を1回無効化する。

*3
※P5R 3ターンの間、敵全体の攻撃力を低下させる。

*4
※真Ⅴ

*5
※TRPG200X

*6
※TRPG200X

*7
※真Ⅴ

*8
※200X

*9
※P5R

*10
※真Ⅴ

*11
※TRPG200X

*12
※真Ⅴ

*13
※真if&IMAGINE

*14
※TRPG200X

*15
真Ⅱ

*16
TRPG200X

*17
TRPG覚醒篇

*18
TRPG200X

*19
※TRPG200X

*20
※TRPG誕生篇

*21
※TRPG誕生篇

*22
※SH2

*23
※P5R

*24
※TRPG200X

*25
本来は【激怒モード】の事を指すが、この場合状態異常の【激怒】とする

*26
※この女神と同一視されるとある悪魔が《八塩折之酒》を習得する

*27
※P5R

*28
TRPG基本システム。夢の世界では本人の能力値が倍になる

*29
※真Ⅲ 味方全体のHPとバッドステータスを全回復。「サイコメトラー」はLv51で習得する。

*30
※TRPG200X




◎登場人物紹介
・八瀬 宗吾 <剣士> <仙術使い> <サクセサー> LV59⇒60
VR空間に飛び込んだと思ったら自分の精神世界だった男。
己に宿る悪魔因子の源、ヤマタノオロチの打倒に成功した。
イニシエーションの達成、技量の上昇、スキルの習得、
特に“魔剣”へと指をかけたのが大きな成果。


・若槻美野里 <サイコメトラー><超能力者> <ガンスリンガー> LV55⇒56
今回の一件の戦犯にしてMVP。
この後、関わった全員にめちゃくちゃ謝った。
治療費とか迷惑代を稼ぐために宗吾と奔走するが、
その間にユルングが襲来しコユキとはすれ違ってしまった。
―――過剰なドーピングで何らかの影響がある模様。


―――――――――


時系列的にはユルング戦のちょっと前くらい。
参加できなかったのは調整とお金を稼ぐためでした(

他にも書きたい事はあるけど次回予定のintrudeに纏めます。


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Interlude

 

 

 これはほんの一時の交差にして幕間。

 夢から浮上し現実に戻るまでにあった僅かな語らいに過ぎない。

 有っても無くても決して大局に影響を与えず、これまで通り世界は回り続ける。

 

 ―――だがそれでも確かに意味はあるのだ。

 

 例え死者は時を刻まないとしても。

 忘れない者が、背負って進む者が生き続けているのなら。

 決して、忘れ去られる事は無いだから。

 

 

 


 

 

「いやーお疲れ様でした先輩! ナイスファイト!!

 まー半分以上は僕のおかげなんですけど」

 

「何言っとるんじゃ一番最初に落ちたくせに。

 首無し死体になっても動き続けたワイの活躍あってこそや!」

 

「寝言は寝て言え雑魚共め。

 どう考えても痛打を与えた上に動きを封じた私がMVPだろう」

 

 

 気がつけば、目の前で馬鹿共が馬鹿を言っていた。

 視界に飛び込んできた―――嫌な事に慣れ親しんだ―――いつも通りの光景。

 今の今まで死闘を繰り広げていたはずが、いきなり場面の飛んだような感覚。

 

「……………………うっげぇ」

 

 とりあえず、最初に出た言葉がそれだった。

 こういう展開は知っている。漫画でよく読んだやつだ。

 死ぬ直前の脳内会話とかそういった類。

 くたばる覚悟自体は常に決めているが、最期にこいつらが出て来るのは対象外である。

 

「ちょい待ち流石に失礼じゃないですかそのリアクション? 

 僕繊細なんで傷ついちゃうナー。

 詫びになんか面白い一発芸やってくださいよほら早く」

 

「どの面下げて繊細とか抜かすんだよ顔面詐欺師。

 面倒ごと引っ掛けて今まで何回俺らに泣きついた?

 言ってみろ、ん?」

 

「ふむ、私は20件を超えたあたりで数えるのを辞めたな。

 確かギャングのボスの娘に手を出した時だ」

 

「ついでにヤクザの組長の孫娘にも粉かけてたのう。

 キレた組員たちに追い掛け回されてヒイヒイ言うとった」

 

「流石にあの時は死を覚悟しましたねぇ……。

 でもあれはちゃんと理由あったんですよ。どっちも家が勝手に婚約者決めて、

 それで逃げようとしたの助けたらなんか惚れられちゃって」

 

「最終的に暗示で記憶操作と死亡偽装、あと逃亡先の手配までする羽目になったんだが? 

 どー考えても高校生のガキがする仕事じゃなかったぞあれ」

 

 こいつらしい理由を()()()()()()呆れつつ、手近なところにあったベンチへと腰を下ろす。

 ―――今更気付いたが、どうやらここは駅のプラットホームらしい。

 ただし、発車標どころか看板に時刻表、売店や自販機さえも見当たらない。

 

 あるのは遥か先の何処か遠くへと続く線路。

 停車している古ぼけた一両だけの電車。

 そして今、自分たちが座っているベンチ―――このくらいだ。

 

「……これって俺の妄想? それとも既にあの世に居るのか? 

 出来れば前者であって欲しい、いやそれはそれで気持ち悪いから嫌だな」

 

「我儘な事を言うな贅沢者め。

 ……残念ながらどっちでもない。

 強いて言うなら白昼夢と表現した方が正しいだろう」

 

 疑問に塔也が答えながら髪をかき上げる。

 無駄に様になっているのにムカついたので脛を蹴った。蹴り返された。

 ――――あまり痛くない。 

 

「ギリギリ勝って目が覚める寸前ってとこでしょ。

 にしても女の子の応援されて限界超えるとか、先輩も中々やりますねー。

 てっきり剣にしか発情しない変態だと思ってました」

 

「自分、ちゃんと女に興味あったんやな。正直びっくりや」

 

「よし、もう1回殺してやるから首出せ刎ねてやる」

 

 鞘に納まったままの鬼神楽を振り上げると、ゲラゲラ笑いながら距離を取った。

 このノリ、高校時代からまるで成長していない。

 自分たちの歳考えろ20歳児共、という言葉を飲み込んで刀を腰に戻す。

 

 

 ――― ひとつ、息をつく。

 

 

 分かってしまった、どうしようもないくらい。

 この短い会話でも十分過ぎるほどに理解してしまう。

 出来ればそうあって欲しくて、そうあって欲しくなかった。

 此処に居る3人は。今目の前にいる友人(仲間)たちは。

 

 ―――暫くとりとめのない話をした後で切り出した。

 

 

「―――お前らさ、()()だろ。

 俺の認知から生まれた存在じゃない」

 

 

 理屈を超えた先、本能よりもずっと深い場所にて、己の魂がそう叫んでいる事を自覚した。

 

 塔也は何も言わない。

 新は何も言わない。

 総次郎は何も言わない。

 

 先程までのふざけた様子が嘘のように、ただ静かにこちらの言葉を聞いている。

 

「そう考えると疑問も解ける。

 お前らは最初あのデカブツに操られてた。

 ……それが1回死んだ程度で自由になるとは思えん」

 

 精神世界内限定とはいえレベル100に近い大悪魔なのだ。

 そんな奴に縛られた存在が死んだとはいえ制御から解放されるとは思えない。

 ましてや、限りなく再現性が高くとも所詮魂を持たない人形。

 

 起き上がって敵対する事はあっても、味方として動く事はあり得ない筈だった。

 あの時は友情パワーとか言っていたが、それだけで無茶を通せるほど甘いものでもない。

 だからと言って本物だという結論も我ながらどうかと思うのだが―――。

 

()()()()()()

 私たちはお前の認知から生まれた偽物であって、同時に本物でもある」

 

 返って来たのは玉虫色の返答だった。

 ここはぶん殴るべきだろう。

 殴ろうとしたら先に殴られたのでついでに3人とも殴ってやった。

 

「まあ……あれじゃ。

 本物の欠片が認知存在に宿ったとでも言えばいいんか。

 器は偽物でも中身は……薄まった本物やな」

 

「あのクソヘビが引き込んだ場所、“普遍的無意識”の領域に近かったですからね

 そこに残ってた情報残滓が人形に引き寄せられてフュージョンしたってコト。

 自己認識としちゃ死んだのは間違いなく理解してます」

 

「――――――っ」

 

 本物の欠片が再現された偽物に宿った。

 その言葉がストンと胸に落ちる。

 なるほど確かに、それなら偽物でありながら本物というのも間違ってはいない。

 俄かには信じがたいが、あのイレギュラーはそれが理由なのだろう。

 

 だけど、それは。

 

「ああそうだ―――()()()()()()()

 完膚なきまでに、確実に命を落とした。

 お前のように未来に逃げ延びた、なんてことはない」

 

 分かり切っていたはずの事が確定する。

 心の底の底にあった思いが撃ち砕かれる。

 ―――死んだのだ、こいつらは。自分が知らない時に、知らない場所で。

 

「僕らが具体的にどう死んだのかは……あ~、そこは微妙に残ってないな。

 “禍の団”とかいうヤバい連中と戦って、最期はたぶん女の子逃がしたっぽいんですけど」

 

「ついでに言うと五島陸将も日高の婆さんもワイらより先に逝ってもうたわ。

 詳しくは知らんが、くたばる前に相当大暴れしたみたいやで」

 

「…………そうかよ」

 

 込み上げてくる物を堪えるように天を仰ぐ。

 僅かに滲む視界には老朽化し錆びた屋根が映るだけ。

 言いたい事とか聞きたい事が洪水のように頭を巡るが、何一つとして形にならない。

 

 無念無想の境地とは程遠い、雑念に塗れた状態。

 剣士として無様極まりない有様を晒している。

 それでも時間をかけて、ぐちゃぐちゃの思考の中から質問をくみ上げた。

 

 

「なあ……………………()()()()()()()()()

 

 

 それは確認の言葉だった。

 

 この世界に流れ着いて数か月。

 強敵と戦い成長し剣の腕が磨かれる事に喜びを感じている自分がいる。

 もう一人の自分(ヤマタノオロチ)が言った通り、元の世界でこれほどの域に立つことは無理だっただろう。

 

 ―――けれども。

 家族や友人、仲間と最後まで戦えなかった事を悔いる自分がいるのもまた事実だった。

 

 自分がいれば何とかなった、なんて自惚れるつもりは勿論無い。

 結果は変わらず、仲良く死体を晒すのが目に見えている。

 そもそも不可抗力でどうしようもなかった。

 

 だけど、どうしても思ってしまうのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 慙愧に耐えない、という言葉を身をもって思い知らされる。

 だから聞いた、聞かずにはいられなかった。

 こんな自分を、人でなしの剣鬼を恨んでいるかと。

 肝心な時に居なかった役立たずを恨んでいるかと。

 

 

 

 

 

「とうとう頭がおかしくなったんですか? いや元からおかしいけど」

 

「打ち所が相当悪かったのだろう。馬鹿が大馬鹿にランクアップしたか」

 

「可哀想やのう……どんな名医でも治しようが無いわい」

 

 

 

 

 

 目に溜まっていた液体が即座に枯れた。

 ついでに鞘で一閃するが上手い事躱されてしまう。

 流石にこれは読まれやすかったか。

 

「お前らさぁ、ここ茶化す場面じゃないだろ……っ!」

 

「だってキャラじゃないですもん!!

 強い敵いるぜヒャアっ! って風にテンション上げる変態が宗吾先輩でしょ?

 そんな風にナイーブな言葉が飛び出すとかくっそウケるんですけど」

 

「一番死地に飛び込んでは生還してるお前なら大丈夫だろうとは思っていた。

 なにせゴキブリ並みの生命力と悪運の持ち主だからな。

 誇っていいぞ黒光りGめ」

 

「あの剣キチは絶対どこかで戦っとると確信はしとったで。

 けど恨んでるっていうのはあり得んのう。

 むしろ煽り倒したい気分や異界に籠ってた間抜けめ」

 

 返って来たのは予想とは違う、いつものような罵倒と暴言の嵐だった。

 なので普通にキレそうになるのを抑え込む。

 何をどうしたらこんな変な連中が生まれるのだろうか?

 世界の不思議を感じていると、塔也が再び口を開く。

 

 

「じゃあ逆に聞くがな―――()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 呆れ交じりの言葉に息が詰まった。

 恨む? 立場が逆なら?

 思考に空白が生まれるが、答えなど考えるまでもない。

 そして―――それこそが求めていた答えに他ならない事に気付いた。

 

 

「あれこれ考え過ぎや、悩みなく突っ走ってるように見えるくせにな」

 

 新が立ち上がって歩き出す。

 

「先輩は先輩らしく、何一つとして恥じることなく進めばいいんです」

 

 総次郎が立ち上がって歩き出す。

 

「お前は“ロクでなし”ではあるが、決して“人でなし”ではないのだからな」

 

 塔也が立ち上がって歩き出す。

 

 3人はそのまま停車している電車へと向かう。

 いつの間にか、閉じていたはずのドアが開いていた。

 こちらから中の様子は窺えない。

 ひたすら真っ暗な空間が広がっているだけだ。

 

 

 なんとなく分かってしまう―――ああ、もう時間なのかと。

 

 

 拳を強く握りしめる、血が滲みだすほどに。

 痛みで目頭が熱くなるのを無理矢理抑える。

 こいつらに情けない姿は見せたくないから。

 

 ここまでいつも通りのノリだったのだから。

 ならば、最後までそれを貫くべきだ。

 いつものように―――笑いながら別れるべきだ。

 

 ドアの前に立つと総次郎が振り返る。

 

「楽しかったですよ、先輩たちと過ごした時間。

 またいつか、縁があったら会いましょう」

 

「おう、来世あたりでまた馬鹿やろうぜ。

 見つけたら誘ってやる」

 

 子供のような笑顔を浮かべながら電車へ乗り込んだ。

 姿はもう見えない。

 

 ドアの前に立つと新が振り返る。

 

「じゃあの宗吾。先に行っとるで。

 なるべく遅く来いや、出来ればヨボヨボの爺さんになってからな」

 

「その前にお前が戻って来るのが早いかもしれねーぞ。

 むしろ俺がくたばる前に会いに来いよ」

 

 快活な笑顔を浮かべながら電車へ乗り込んだ。

 姿はもう見えない。

 

 ドアの前に立つと塔也が振り返る。

 

「あの美野里という少女、大切にした方がいい。

 お前とつるめる相手は希少だ」

 

「うるせー言われなくても分かってる。

 あとお前より絶対マシだからな」

 

 微笑を浮かべながら電車へ乗り込んだ。

 姿はもう見えない。

 

 そしてドアが閉まり、電車が動き出す。

 はるか先の何処かへと。

 あの世と言える場所か、あるいは来世へと。

 

 同時に自分の意識が白んでくるのを感じた。

 おそらく眠りから覚める前兆、意識が覚醒する寸前なのだろう。

 現実へと帰還するまでもう時間は無い。

 

 だから、その前に。

 遠ざかっていく電車に一言だけ告げた。

 

 

 

 

 

「――――あばよ、ダチ共」

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 目を覚ませば、そこは見覚えのない天井だった。

 

 

 

 

 




◎登場人物紹介
・藤原塔也 <剣士> <アルカニスト> LV33
シリーズポジション:藤原塔也(200Xリプレイ『退魔生徒会』シリーズ)

宗吾の高校時代からの友人。
一見すればクールな美男子なのだが、実際は戦闘狂の気があるトラブルメーカーその1。
同じ剣士という事もあって宗吾とは互いに切磋琢磨した仲。
―――頭では分かっていても、心の底でその死を認める事が出来ていなかった。


・風祭新 <黒魔導師> <番長><格闘家> LV33
シリーズポジション:風祭新(200Xリプレイ『退魔生徒会』シリーズ)

宗吾の高校時代からの友人。
時代遅れの番長で、強そうな奴に喧嘩を売るのが趣味のトラブルメーカーその2。
無手での戦い方を含めた一部の技は彼から学んだ(パクッた)もの。
―――頭では分かっていても、心の底でその死を認める事が出来ていなかった。


・山本総次郎 <候補者> LV30
シリーズポジション:山本総次郎(200Xリプレイ『退魔生徒会』シリーズ)

宗吾の高校時代からの友人。
女好きでしょっちゅう遊んでいた為か、厄介事を引っ張って来るトラブルメーカーその3。
その性格と役割上、割と死にかける事が多く庇う(カバー)の技術が磨かれる原因になる。
―――頭では分かっていても、心の底でその死を認める事が出来ていなかった。

・ヤマタノオロチ Lv97

国津神にして旧支配者、ひいては九頭龍に連なる神性。
宗吾の源流(ルーツ)であると同時に見に宿す悪魔因子の大本。
今回出てきたのは宗吾の側面、悪魔としての彼である。
それ故か直接攻撃を好み魔法はあまり使わない、趣味を最優先するといった行動が見られた。
敗北を受け入れ、今後も宗吾の一部としてそこに存在し続ける。

・remarks
事件後、治療費やら迷惑代にスキルの調整などであちこちで仕事をする事に。
そのせいでレイドバトルへの参加には間に合わなかった。





前話で現実に戻るまでにあった一幕。

これを以て<導師>への覚醒条件
・パーティー全滅
・内面への旅における自己の暗い面との対決
・転生の神との出会い

これらの達成に成功しました。

次回は別視点でレイドバトルの話をやりたいと思います。


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Raid Battle-前篇-

 

 

 東京各所に存在するレルム。

 本来中立地帯であるそこは今、血風吹き荒れる地獄の如き様相と化していた。

 止まらない剣戟と銃声、絶叫と咆哮。熱意と狂気に満ちた戦場。

 

 

「ひやっはあああああ!! ぶっ殺せえ!!!!」

 

「回せ回せ回せぇっつ!!!!」

 

「もっと強い敵出て来いよほらほら!!!!」

 

 

 ―――具体的に言えば精鋭DB達による周回マラソンが原因であるが。

 

 

 そもそもの始まりは<インヴォークシステム>。

 “悪魔を倒せば倒すほど儲かるデビルハントアプリ”。

 悪魔を生贄に捧げ、より強大な悪魔を召喚出来るプログラムがばら撒かれた事だ。

 複数の組織名義から拡散したそれは、最終的にレルムへと4柱の『神』を降臨させるに至る。

 

 

\カカカッ/

女神嘆きに呼び出されしラクシュミLv90

\カカカッ/

凶鳥嘆きに呼び出されし グルルLv90

\カカカッ/

邪龍断末魔の叫びに呼ばれしヴァスキLv90

\カカカッ/

破壊神断末魔の叫びに呼ばれしカルティケーヤLv90

 

 

 いずれもレベル90代の強大な悪魔(レイドボス)

 1体だけで都市を滅ぼす事も容易な災害。

 人の身では抗う事さえ烏滸がましき理不尽。

 

 本来であれば蹂躙され滅びを待つだけの状況だ。

 実際、多くのレルム在住者はしばしの呆然の後で我先にと逃げ出した。

 滅びた世界の敗北者である故に、生きる為に形を持った絶望から背を向けて。

 

 しかし―――用意されていた絶望の脚本は覆った。

 

「物理が通じて棒立ちのサンドバックがいるときいて!」

 

「範囲攻撃を親切な辻パーミッションが軽減してくれる戦場で経験値が稼げるときいて!!」

 

「ヒマつぶし」

 

 

 事前に出現情報を掴んでいた護国組織及びキリギリス含めたDB達による迎撃。

 幾つもの試練と困難を乗り越えた彼らにとって、このくらいはいつもの事。

 特記戦力がぶつかると並行して情報収集からの状況構築、そして数による暴力。

 

 幾らかの被害はあれど、仕掛け人の予想を大きく外れて『神』は倒された。

 ―――問題はその後。

 

「ざーこざーこww

 よっわ、どんびきだよ」

 

「もっと経験値出せばいいのに。

 こんなんじゃ魂の研鑽にならないよーw」

 

「おーい、どっかで見てる黒幕くーん。

 おかわりまだー? 出来ないだろうけどなww」

 

 

「やってやろうじゃねえか!!」  

 

 

 まだ戦いは終わらない。

 煽り耐性の低い黒幕が(コーラル)をキメつつ次なる敵を呼び出したのだ。

 

 

\カカカッ/

破壊神天命を奪うセイテンタイセイLv93

\カカカッ/

幽鬼狂気に侵されたレギオンLv38

 

\カカカッ/

龍神狂気に駆られたガンガーLv60

 

\カカカッ/

龍神狂気に駆られたコワトリクエLv65

 

\カカカッ/

幽鬼狂気に駆られたラフィン・スカルLv66

 

\カカカッ/

幽鬼狂気に駆られたピシャーチャLv72

 

 

 過去周回において幾つもの大陸を滅ぼした天命シリーズ最強の破壊神。

 そして取り巻きとして現れた高レベルのザコ集団(トループ)

 更に1時間後には再び4体の神が降臨するという悪夢のような展開。

 

 

「「「オカワリやったあああああああ!!」」」

 

「なんでじゃあああああああ!!?」

 

 

 

 それに対して狂喜乱舞するDB達(人類悪)と困惑し絶叫する黒幕(ガバガバ女)

 まだ戦いは終わらない、少なくとも彼らが倒し(回り)続ける限り。

 

 これはそんなイベント中に起きた出来事。

 上野レルム―――“シャドウ”なる狂人が出没した場所での物語である。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

『ギギギギィイイイイ!!!!』

 

 ボコリと異音を立てながら叫び声が響く。

 崩壊した壁、砕けたアスファルトより悪魔たちが湧き出て来た証。

 戦闘開始から数時間経過した現在、ローテーションを組んでDB達は対応していた。

 

 戦闘と補充、攻撃と回復。途切れる事を知らない敵の波。

 既に何度も強大な悪魔(レイドボス)を倒してはいるものの、終わりはまだ見えない。

 無論、その事にテンションを大いに上げている者が大半であったが。

 

「ん……。こっちにも出て来た」

 

 そんな集団の一人。セミロングの銀髪に獣耳の、ミステリアスな雰囲気を纏った少女が呟く。

 年若い容貌に反して油断なく銃を構える様は、それだけで歴戦の兵と分からせるものがある。

 事実、彼女は他のDB達と連携してこの戦場だけでもかなりの悪魔を倒していた。

 

 少女―――砂狼シロコは思う。

 

 “戦えている。無力ではない、存在価値はある。”

 

 力不足は否めないが、役立たずではない。

 総てに打ち勝てるような実力も知識も無いが、抗えている。

 此処に居ていい資格が自分にはちゃんとあるのだと。

 後方や別の方面で戦闘を続けている仲間たちと共に勝てるのだと。

 

 このままの調子で行けば絶対に乗り越えられると信じている。

 かつて世界を滅ぼし、逃げ出す事しか出来なかった相手でも。

 

 ただ問題があるとすれば――――。

 

「チィッまた出やがったぞあのキチガイ!! 

 負傷者下げろ、食いしばり切れてないのはカバー入れ!!」

 

「今度は無駄な横殴りのせいで新手が流れ込んできた!! 

 第三陣早めに上げろぉっ!!!!」

 

 近隣から聞こえてくる怒声にまた出た、と表情が少し歪むのを感じた。

 何が、という疑問も意味を成さない。嫌な事に慣れてしまった。

 この戦闘が始まってすぐに湧いて出た狂人の()()()()である。

 

 カウンター状態のレイドボスに攻撃を加え、周囲に被害を出した黒尽くめの男。

 しかも一度や二度に飽き足らずそれを繰り返すというオマケ付き。

 更に言えば、他人だけでなく自分も被害を受けているのに止まらないという狂いっぷりだ。

 

 それ以降も連携や状況を考えない突貫でいたずらに被害を増やし続けている。

 どう考えても正気の沙汰ではない。

 もし仮に確信犯ではなく素でやっているのであれば、さっさと精神病院にある檻付きの部屋にでも放り込まなければならない人種だろう。

 

「あの“シャドウ”とかいうの、さっさと消すべき……!」

 

 苛立ち交じりに、おそらくこの場に居る全員が思っている事を口にした。

 どういう技能(スキル)か分からないが、件の人物は気配を消したまま動いているようだ。

 そのせいで補足は難しいが、目の前に出て来たら撃つ事に一切の躊躇は無い。

 

 ―――そんな事に僅かでも思考を取られていたせいだろうか。

 

 

《かみつき》*1突撃相性。鋭い牙で噛み付く特技。

敵1体に対して、近接攻撃力に依存した物理ダメージを与える。

 

 

「―――まずっ!?」

 

 死角からしゃれこうべ―――“狂気に駆られたラフィン・スカル”の急襲を受ける。

 タイミング的に回避は間に合わない。他のDB達も距離が離れていてカバーは不可能。

 それでも一撃死は無いと即座に判断し、耐えてから反撃の弾を撃ち込む事を考えて。

 

 

 

「油断大敵だぜケモミミ少女(ウルフガール)

 

 

 

《ガンマンの心意気》*2敵が物理・銃撃属性の攻撃をしようとした瞬間に確率で発動。

相手の行動を無効化する。

《クイックロードⅢ》*3即座に銃弾を装填、弾倉の交換が可能。

銃器を装備していなくとも、即座に準備できる。

射撃後に銃器をしまい、別の武器を構えてもよい。

《イレイザー》*4驚異的な集中力でより多くの射撃を繰り出す特技。

1度の詠唱で6発分の装填を行い、敵1体に対して、

射撃攻撃力に依存した物理ダメージを与える。

ショットガンを使用⇒散弾相性に変更。

《銃ハイブースタ》*5ショットガン(散弾相性)でも効果を発揮すると裁定。

銃属性攻撃時の攻撃力を1.5倍にする。

 

 

 四方八方、有り得ざる射角から銃撃の嵐が吹き荒れた。

 攻撃の出鼻を挫かれた“ラフィン・スカル”の動きが一瞬停止する。

 思わず瞬きを1つ―――その間に絶え間ない6連射が髑髏を跡形もなく喰い尽くしていた。

 

「―――――」

 

 あまりにも予想外の光景に思わずシロコは絶句する。

 自らも銃を使う身だからこそ分かった。

 これはただの早射ち―――もはや異能の域に達した銃技だと。

 

「弱点に威力増加(ブースト)した連射を決めれば……まあこんなもんか

 しかしだが、やっぱり合わないな散弾銃(これ)

 使い勝手が好みじゃない」

 

 振り返り、その早業を成した人物を視界に捉える。

 煙を吹くショットガンを担いだ、金髪に派手な赤いコートを着た目立つ風貌の男だ。

 どこか軽薄に微笑んでいるようにも見えるが、その振る舞いに隙は一切存在しない。

 おそらく新手を警戒してのものか。

 状況から考えれば、同業者なのは間違いないだろう。

 

「ん、ありがとう……助かった」

 

 だからまずは礼の言葉を口にする。言うのはタダだ。

 そして寄せ集めの集団戦だからこそ必要な最低限のマナーでもある。

 表社会でもそうだが、これを言えない者ほどロクな扱いを受けない事をよく知っていた。

 

「礼はいいさ、これも奉仕活動(仕事)の範疇でね。

 ただ、恩に感じてるなら一つ頼まれてくれるかい?」

 

 頼み、という言葉にシロコは首をかしげた。

 かなり“出来る”側の人間であろう男の頼みとは一体なんだろうか。

 非常識、不可能、無駄なものでなければ構わないのだが。

 

 その様子に苦笑しながら男―――タスラムは視線で答える。

 シロコも釣られるようにその先を見た。

 

 

「あのクズを殺せぇええええ!」

 

「出て来たら集中砲火しろ!!」

 

「ゴキブリ以下のクソ虫シャドウがぁっ!!!」

 

「瓦礫撤去と並行して見つけたら即報告しなさい!!!!」

 

 

 ―――血走った目に鬼のような形相を浮かべながら叫ぶ集団がそこに居た。

 中には見覚えのある顔も居る。

 レイドボスとの初戦で銃撃相性を弱点に変えていた、近未来的装備の少女だ。

 確か《ブラックフィエンド》なる傭兵集団を名乗っていた事を思い出す。

 

「えらい恨まれてるぜあのまっくろくろすけ(ブラックマン)

 オレが言えた事じゃないが、今までどれだけやらかしたのやら」

 

 遠目からでも分かるほど殺意と怒りが迸っていた。

 全員が全員、シャドウを例外なく毛嫌いしているのが見るだけで分かる。

 追っている狂人とは言っていたが、何をすればあそこまでになるのか。

 シロコはとりあえず考えない事にした。聞いてもストレスなだけだろうから。

 

「……ぶちのめすの手伝うならやるけど?」

 

「それとは別件……いや、関係はあるか」

 

 タスラムが懐からスマートフォンを取り出し画面を見せて来る。

 見慣れた掲示板―――キリギリスのもの。

 その中に立てられたスレの一つ。

 

 

 


 

DD CHANNEL:【上野】狂人出現! 全員警戒せよ【レイド】

 

 

516:名無しさん@レイド参加中

 アホのせいで吹っ飛ばされた。現在群れのど真ん中。

 再生治療必須1名、他同行者無し。脱出試みてるので可能なら援護お願いします。

 現在地点座標―――https://www.google.com/maps/place~

 

517:名無しさん@レイド参加中

 マジでど真ん中じゃねぇか!! 

 数集めるから待ってろ!!!! 

 

518:名無しさん@LV上げ中

 ひょっとしてボスのカウンターに巻き込まれてた奴らか? 

 災難どころの話じゃねーなおい

 


 

 

 再び絶句し、書かれている座標に体ごと向き直った。

 その先には100や200では効かない、ザコ悪魔の群れがひしめいている。

 あの中に、バカのせいで吹き飛ばされた者が居るという事実に思わず眩暈がした。

 

「―――騎兵隊へのお誘いさ。

 いっちょヒーローになってみないかい? 

 ブラックフェンド(加害者の知り合い)や脳破壊されてそうな兄さんにも声は掛けてるんだが」

 

 

 断る理由は無かった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 長引く戦闘の余波により瓦礫の山と化したレルム。

 レイドボスが出現したにしては被害は軽微だが、悲惨な状態である事に変わりはない。

 その中でもザコ悪魔―――最低レベルは38―――が見渡す限り闊歩する地帯。

 いまだにDB達に掃討されず、獲物が集まっている方向へ前進する怪物の群れの中にて。

 

 

 

「もっとスピード出せポンコツぅっ!!」

 

『これが最高速度ですバディ。

 更なる速度を求めるなら改造が要りますね』

 

 

 

 悪路を猛スピードで踏破し、群れの中を縫うように突っ切るバイクの姿があった。

 分類としては大型であろうか。その巨大なボディに反して驚くほどの静音性だ。

 しかし、これは普通に考えれば奇妙な光景である。

 

 いかに静かでも、この大群の中を堂々と突っ切れば確実に見つかってしまう。

 そうなれば四方八方から群がられ、袋叩きに合うのは避けられない。

 ―――だというのに。

 バイクとその乗り手()は悪魔に囲まれるどころか、存在を気取られる事さえなかった。

 

「んな金あるかよ分かってるだろオマエ!!」

 

『失敬、万年金欠赤字マンのバディには不可能でした。

 それよりそろそろ効果が切れるのでは? 

 一旦どこかへ隠れる事をお勧めします』

 

「ええいクソッタレ厄日にも程があるぞ今日は……っ、前方瓦礫の隙間!」

 

了解(ヤー)

 

 急制動(ブレーキ)と共にハンドルを大きく切る。

 そのままバイクは横倒しになり、勢いのまま目的の場所へと滑り込む。

 常人であれば大事故同然、最低でも骨折は免れない所業だ。

 覚醒者である乗り手―――10代後半であろう少年も塗装費を考えるとやりたくなかった。

 

 だが今はそんな甘えた事を言っていられる状況でもない。

 瓦礫で身を隠している間に成さねばならない事があるのだから。

 ―――目を閉じ、意識を集中する。

 

「幻影、希薄、誘導―――≪イルク≫」

 

 

《イルク》*6幻術に分類される魔界魔法。

幻影を纏い、周囲から見えなくなる。()()()()()()()()()()()()()()()

敵は術者の姿が見えなくなる。

術者のあらゆる攻撃に対して回避にマイナス補正を受ける。

 

 

 呪文と共に少年の体内からマグネタイトが消費され、その効果が発揮された。

 幻影―――味方全体への透明化。正確に言えば認識から逸らす魔界魔法。

 この魔法とバイクの速度及び静音性を活かし、ここまで何とか逃げる事が出来ていたのだ。 

 

『お見事ですバディ。

 後は呪文の省略と戦闘中に使用出来れば完璧かと』

 

「それが出来たら苦労しねーんだよポンコツ……!」

 

 毒舌や皮肉を通り越し、もはや罵倒の域にある言葉を発する相棒を少年は睨んだ。

 相棒―――バイクに搭載された高性能AIは悪びれも無く電子音声で答える。

 

『申し訳ありません、わたくし嘘はつけないものでして。

 事実を告げるのがせめてもの優しさと考える次第です』

 

「そんな優しさ要らねぇから。

 出来れば慰めてくんない???」

 

『満足ですか、無機物に慰めて貰うのは?

 流石バディ――― 一人遊びの達人でしたか』

 

「オマエを本気でスクラップにするか検討してる自分がいる……っ!」

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、コントするの……やめなさいよ。

 状況、分かってるキミたち?」

 

 

 

 

 背後からの―――それも息のかかる距離―――声に少年が顔だけ振り向く。

 目に映ったのは血色の悪い顔をした、赤黒く汚れた制服とベレー帽の少女。

 年齢は然程変わらないが、どこかすり切れたような目が印象的だった。

 

 更に言えば機嫌もかなり悪そうだ。

 いつものノリで会話をしていて、すっかり置いてけぼりにしてしまっていたからだろう。 

 加えて、この馬鹿騒ぎもそうだろうが―――。

 

「あと……大きい声出されると、傷に響くの。

 回復魔法で、止血はしたけど……動けるほどじゃないから」

 

 少女には両膝から下が存在しなかった。

 それどころか左腕も肩の部分から喪失している。

 強引に引き千切られたかのような、無残な傷だけがそこにあった。

 

 傷口こそ塞がってはいるものの、血が足りていないのは明白。

 本人の言う通り、とてもではないが動ける状態ではないだろう。

 如何に覚醒者といえども、ここまで負傷と消耗を受ければどうしようもない。

 

 現に、今は少年の背中に括りつけられるようにして固定されている状態だ。*7

 唯一の残された右腕も、力無く少年の服を掴むだけ。

 まさしく瀕死と呼べる姿である。

 

『言われていますよバディ。女心を学ばないツケが来ましたね。

 こういった場合のトークパターンをお出しした方が良いでしょうか? 

 もちろん使えるかどうかは知りません』

 

「火に油注ぐだけだから止めろポンコツ。

 あとゴメン。これがオレらのノリだから許してくれ」

 

 

(―――ムカツクわねこいつら。

 いやアレに比べれば100億倍以上マシなんだけど)

 

 

 口には出さず―――正確に言えば余裕がない―――少女は思った。

 そもそも自分が何故このような状況に晒されているのだろうか。

 決まっている。すべてあの男が、頭のおかしい狂人(シャドウ)が悪いのだ。

 

(銃背負って撃つだけの簡単な仕事って聞いてたのに! 

 あのクズが、また命令を聞かず勝手に動いて!! 

 それだけならまだしも、私まで巻き添えに―――!!)

 

 少女は《ブラックフェンド》―――正確に言えば《ガイア再生機構》に所属する者だ。

 <世界崩壊からの昇格者>(エターナル)とも呼ばれる才人の1人。

 少なくとも、元居た世界では誰もからも認められ褒め称えられた存在である。

 

 紆余曲折あって今の勢力に属する事となったがそれはいい。

 自分は選ばれた者で生き延びた者なのだから恥じる事など何もない。

 ただ、仮にも。非常に認めたくないしそもそも認めている者もいないだろうが。

 一応は味方と呼ばれる存在のせいで死にかけているのは勘弁して欲しかった。

 

 切っ掛けはシャドウがいつも通りレイドボスに不要な攻撃を仕掛けた事。

 運悪く射程内に居た彼女は反撃を受け、更に運の悪い事に直撃(クリティカルヒット)してしまったのだ。

 そのまま勢い良く吹き飛ばされ、意識は暗転。

 

 気がつけば手足が3本欠損、救援を呼ぶための通信機は粉々。

 オマケに武装とアイテムの入ったポーチまでもが紛失(ロスト)

 回復魔法で最低限の治療こそ出来たが、ここまで来るともう乾いた笑いしか出てこない。

 

 正直、自分がサマナーでない事をここまで悔いる日が来るとは思わなかった。

 深海でひみつ道具を全部無くしたのび太以上の不幸だろう。

 しかし、底まで沈んだのなら後は上がるだけとでも言うべきか。

 少女は完全にツキには見放されていなかった。

 

(一緒に巻き添え喰らった凡骨(ロバ)

 こいつを利用して絶対に生き延びてやる……!!)

 

 それは自分と同じく、クズのやらかしに巻き込まれた被害者が近くに居た事。

 ()()()大した被害もなく、しかも高速移動が可能な足(バイク)もあるという僥倖。

 目が合った瞬間、死に物狂いで助けを求めた。

 こんな真似は普段ならばプライドが許さないが、そこは緊急事態なので割り切った。

 

(それにしても……こいつ才能無さ過ぎでしょ。

 幾らロバだからって魔法1つ使うのに詠唱で補助必須とか*8

 

 これまでの道程、時間にして30分も経たない程度であるが。

 最後の生命線と化したこの少年が、何の才能も持たない凡骨なのはすぐ見抜けた。

 魔法を使うのに態々詠唱を使うのは勿論の事、感じられる力自体が弱すぎる。

 

 身のこなしはともかくとして、勘だがレベルは精々40に届くか否かといった所だろう。

 むしろ乗っているバイクの方が本体と言っても過言ではない。

 現地民あるいは漂流者にしてはマシな方でこそあるが、この戦場において圧倒的に力不足だ。

 

 おそらくだが、このレルムに最初から居て逃げ遅れた有象無象の1人。

 勘違いして立ち向かった馬鹿なのも考えられるが、そこは考えない事にする。

 重要なのは生き残る事、今はただその一点のみ。

 

『―――二人共、偵察に出していたドローン*9から情報を受信しました。

 良いニュースと悪いニュースがあります。

 どちらから聞くのがお好みで?』

 

「じゃあ良いニュースから頼む。

 悪い方から聞いたら気が滅入る」

 

『ではまずこの映像を端末に送ります』

 

 思考の海に沈んでいた束の間、そんな会話が耳に入る。

 なんとか頭を動かし、少年の手元にあるスマートフォンを覗き込めば―――。

 

 

 


 

 

『突入準備良いかぁっ!? 

 死にたい馬鹿だけ付いてこい!!』

 

『死んでたまるもんですかぁっ! 

 ダンシ先輩と再会してあの女から逆NTRするまで絶対にぃっ!!!!』

 

『いっぱい狩るにょぉおおおお!!!!!』

 

『途中に居る雑魚は経験値だ!

 襲ってくる雑魚は良く訓練された経験値だ!! 

 レイドバトルサイコー!!!!!』

 

『あのクズどれだけ仕事増やせば気が済むのよ!!』

 


 

 

(…………え? いや何こいつら???)

 

 もの凄く濃そうな連中が映っていた。

 具体的に言うと全員目が逝っている。

 おそらく、たぶん救援部隊だろうか。

 

 確かに助けを求めていたのは知っていたが、こんな面子は流石に予想外だった。

 中には自分と同じ<ブラックフェンド>メンバーの姿もあるが気にしない事にする。

 だがそれでも、生き残りの目が見えたのは事実だ。

 

 少女の口元にうっすらと笑みが浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「ダメ元だったけど……うん、確かに良いニュースだな。

 で、悪いニュースは?」

 

『次はこちらをご覧ください』

 

 

 


 

 

『チッ、ここまで雑魚が集まっているのに何もしないとは。

 頭の無い案山子しかいないのかあの連中は? 

 しょうがない、俺がまた時間を稼ぐ!!』

 

 


 

 

 見覚えのある黒尽くめが雑魚集団を殴りつけている映像だった。

 無駄に大暴れするせいで周囲から次々と敵が集まって来ている。

 あと気のせいであって欲しいのだがこの近くではないだろうか。

 

『あの狂人の仕業で敵の密度が段々と膨れ上がっています。

 バディの幻術精度ではこれ以上の隠密行動は不可能かと。

 ―――救援部隊が来る前に飲み込まれますねこれ』

 

「さっきから思ったが頭湧いてないこいつ???」

 

『今更過ぎるご指摘お見事です』

 

 噛み締めた奥歯が砕けた。

 

(あのっ、生きた産業廃棄物……どれだけ邪魔を!!?)

 

 挙げてから落とされた。一気に絶望の底へと叩き込まれてしまう。

 これはもうどうしようもない。

 修羅場を相応に潜り抜けてきた戦闘者としての勘がそう告げていた。

 

 それは迫る危機だけによるものではない。

 このような状況であれば、自分なら間違いなく取る手段があるから。

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 お荷物を餌として悪魔共の目の前に放り出せば、僅かでも時間が稼げるだろう。

 1パーセント以下かもしれないが生存率は上がる。

 ましてや会ったばかりで名も知らぬ相手同士。切り捨てる事に躊躇を抱くはずもない。

 

(どうしよう、どうしようどうしよう―――!!)

 

 必死に考える、思考する、思索する。

 交換条件など出せるはずもない。

 対価として何かを差し出す事を約束しても無駄だ。

 鼻で笑って無視されるに決まっている。

 今まで仲間たちが、そして自分が現地民にしてきたように。

 

「―――――ぁ」

 

 一瞬だけ胸元に手をやってすぐに離す。

 使えない手札に価値はなく無駄なだけ。

 目を逸らした過去が応えるはずもない。

 

 諦観。その二文字が心を犯していくのを感じながら――――。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、オレらで囮になって時間稼ぎするぞ。

 ポンコツ、“カクテル”の予備ストック用意しろ」

 

『本日は既に使用済みです。

 致死量を超えますがよろしいのですか?』

 

「使ってから3時間くらいは空いてんだろ。

 せいぜい寿命が削れる程度だ問題無いって」

 

了解(ヤー)

 

 少年は少女を背中から降ろすと、瓦礫の奥へと隠すように押しやった。

 

「…………え?」

 

「今から暴れてアイツら引き付けて来るからそこで隠れてろ。

 幻術もあと10分くらい持つから、なんとか救援も間に合うはずだ」

 

 何の気負いもなく。当たり前のように少年は囮を買って出た。

 息を吸うように敵の群れへと踏み込もうとしている。

 少年(ロバ)にとって格上の怪物たちがひしめく戦場へと。

 昇格者(エターナル)である少女にとっても単騎では死を覚悟する死地へと。

 

 せせら笑ってやる場面だろう。

 身の程を弁えないゴミが馬鹿な真似をしようとしていると。

 嘲笑ってやる場面だろう。

 よくぞ自分の役に立った。無能のロバにしては上出来だと。

 

 ―――なのに。

 

「――――なん、……で?」

 

 無意識に、痛む肺腑から疑問を捻り出していた。

 

 分からない―――何をしようとしているのか。

 分かりたくない―――何故囮になろうとしているのか。

 分かってはいけない―――何が彼を突き動かしているのか。

 

 少年はバイクを起こしながら、振り向きざまに答えた。

 

「いや、戦えない奴を守るのは当たり前の話だろ? 

 特に泣いて震えてビビってるならなおさらじゃん」

 

 

 言葉を失った少女を背にして、少年は愛車と共に飛び出した。 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 視界の先、溢れんばかりの数で悪魔たちが迫る。

 既に幻術の効果範囲を抜け、あちらも少年達を捉えているだろう。

 もう30秒もしない内に戦いの火蓋は切って落とされる。

 

 ―――その直前。

 

<霊薬混合液>(カクテル)心臓直接注射完了。

 応急措置と並行して更に回復薬を投与します』

 

「覚醒、躍動、獣化―――≪ウルバーン≫」

 

 

「カクテル」「ハッスルドリンコ」と「マッスルドリンコ」の混合液。*10

30分間、使用者の最大HP+50%、移動速度+50%

一時的に最大値を超えてHPを回復する。

ただし最大値の2倍を超えると半分に減少する。

⇒HP3倍状態と裁定する。

《ウルバーン》*11覚醒魔法。

WOLF状態となり状態異常回復する。

月齢によってステータスが変動する。

 

 

 少年は常識で考えればあり得ない事を実行した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()D()B()()()()()()()()

 

 加えて、詠唱から行使されたのは獣化魔法(ウルバーン)

 人間の体に宿る休眠遺伝子を覚醒させ、獣性を引きだすもの。

 しかし月齢によって効果が左右されるそれは、現状では然程強化をもたらさない。

 ―――だがそれでも十分だった。

 

 

『多目的支援マシン、ペットネーム“カルラ”

 これより戦闘行動を開始します』

 

「《アーマーモード》起動!!」

 

 薬効により沸騰し加速する意識の中。

 少年が指令(コマンド)を音声入力すると同時に、バイクが一瞬にして()()()()

 数十から数百のパーツが高速で宙を舞い、やがて彼の身体を覆うように姿形を変えていく。

 

 

《マシン搭乗》*12シナリオ終了時までマシン1体を召喚し、搭乗する。

戦闘が発生する場合、その戦闘の間、

使用者のイニシアティブと回避判定値はマシンのものを使用する。

なお、搭乗したマシンがDEAD状態になった場合、効果は解除される。

《アーマーモード》*13条件:魔晶手甲の装備、マシンを召喚または搭乗している。

シーンまたは戦闘終了まで、使用者はダークゾーンと

ダメージゾーンの影響を受けなくなる。

物理・魔法防御点に素材悪魔(マシン)のレベルを追加する。

素材悪魔がヒーホーとニュートラル以外の属性を

持っていた場合、使用者の対応する属性を1点加算する。

 

 

「行くぞポンコツ―――ついて来れるな」

 

『そちらの方こそ―――遅れないでくださいね』

 

 

 

\カカカッ/

強化人間ダイLv37相性:全体的に強い、破魔・呪殺無効

 

\カカカッ/

マシンカルラLv40相性:物理に強い、電撃に弱い

 

 

 現れるのは人馬一体ならぬ人車一体。

 黒鋼の鎧と化した乗機を身に纏う戦士の姿。

 少年―――ダイは眼前に迫る死地へと向けて咆えた。

 

 己がいかに愚かな事をしているのか全て理解している。

 だが万度繰り返しても同じ選択をするのは間違いない。

 何故なら誓ったからだ、元の世界で戦っていた頃より。

 

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 装着完了後、各所に搭載された補助推進装置(スラスター)を全力駆動。

 殺人的負荷は薬物と()()()に遺伝子強化された肉体で無理矢理耐え切る。

 そして―――鋼の流星が悪魔の群れへと突貫した。

 

 

 

 

 

 

*1
※IMAGINE

*2
※SH2

*3
※200X

*4
※IMAGINE

*5
※DSJ

*6
※覚醒篇

*7
※基本システム 状態異常【WOUNDED】(外傷) 両足をやられると歩行不能。 

*8
真・女神転生 ~東京黙示録~など一部の作品において魔界魔法使用時に詠唱をする場面が存在する。

*9
※覚醒篇 「ハニー・ビー」本来はCOMP用ソフトウェア。偵察用の小型ロボット、ハニー・ビー・ドローンを撃ち出し、ビデオカメラで偵察することが出来る。

*10
※IMAGINE&真Ⅰ

*11
※P1

*12
※200X

*13




後篇もなるべく早めに書きたいと思います。



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Raid Battle-後篇-

 

 ―――ツイてない。

 

 まずダイが思ったのはそれだった。

 消耗品の補充と摩耗した装備を整備する為に訪れた拠点近くのレルム。

 そこでまさかの大型悪魔との戦闘(レイドバトル)へと巻き込まれてしまったのだ。

 数日ぶりのオフを楽しもうという気持ちは跡形もなく消し飛んだ。

 

 ―――やるか。

 

 次に思ったのは戦う事。

 もちろん単騎では無謀どころの話ではない。

 せいぜい逃げ回るのが精一杯だろう。

 しかし、幸いと言うべきか。既に自分より格上のDB達が陣形を構えていた。

 

 手際の良さから事前に情報を掴んでいたのかと推測するが後回し。

 一先ずは彼らに交じる形で、現れた『(ボス)』を削る事に専念する。

 途中でアホのやらかしこそあったが概ね順調に、問題なく戦うことが出来ていた。

 

 ―――マジでツイてない。

 

 再び思ったのはボスのカウンターに巻き込まれた時。

 問題となっていた狂人の暴挙が、よりにもよって自分のすぐ傍で行われたのだ。

 咄嗟に捌く事には成功したが、吹き飛ばされた先が悪魔の群れの中という最悪の事態。

 

 ダイにとって死地へと放り出されるのは慣れたものだった。突っ込む事も同程度には。

 だが流石に、今回のような経験(パターン)は初めてだった。

 出来れば二度と味わいたくない。

 

 せめてもの救いは、相棒(カルラ)も特に損傷なく無事であった事だろうか。

 このような状況でも高速移動出来る足があれば、どうにか離脱する目はある。

 愚痴もそこそこにバイク形態のカルラへと跨り、幻術の詠唱をしようとして。

 

 

「たす……けて……お、ねがい……っ!」

 

 

 ―――そこで助けを求める声を聴いてしまった。

 

 気配のする方へ眼を向ければ、手足を3本失った瀕死同然の少女の姿があった。

 元は純白であっただろう制服は真っ赤な血に染まり、反対に顔色は恐ろしいほど蒼褪めている。

 そして、そんな弱々しい瀕死寸前の姿でこそあるものの。

 まず間違いなく自分より格上の実力者であろう事が肌で感じられた。

 

 ―――彼女を助けないという選択肢は無かった。

 

 状況からして自分と同じように巻き込まれたのだろう。

 そして不運な事に行動不能へと陥ってしまった。

 普通なら無視しても当然な状況、言い方は悪いが自己責任である。

 

 だがそれでも、そんな状態の人間を放っておく事は出来なかったのだ。

 戦えない者を、死の恐怖に震える少女を見捨てるなどしたくなかった。

 相手が自分より強いからといって、それは守らない理由となり得ない。

 

 だから、自ら囮となった事にも後悔など無い。

 

 いつも通り―――命尽き果てる事前提で戦い抜くだけであった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「シーンBGM:死闘」*1交渉・逃走不可。死力を尽くすべし。

BGM『Face of Fact -RESOLUTION ver.-』

 

 

 

《―――OPEN COMBAT―――》

 

 

\カカカッ/

軍勢ザコ悪魔の群れLv38~72

 

 

『第一波捕捉―――接敵(エンゲージ)

 

 HMDに映し出される敵の一部。

 エネミーソナーはいずれも格上という事実を残酷に伝えて来る。

 まともに戦えばあっという間にすり潰されるのは火を見るより明らかだ。

 

 よって、必要なのは邪道。

 この数の差を逆手に取った戦法にしか活路は無い。

 ―――意識を研ぎ澄ませる。

 

 

《ATTACK》*2物理属性の通常攻撃。

軍勢の通常攻撃は3~4回。

 

 眼前の相手。懐へと飛び込んできた弱者(ムシケラ)を前にして。

 悪魔たちは機械的に攻撃を加えた。所詮は取り巻き、自我も薄ければ悪意も無い故に。

 ただひたすらに打ち込まれた使命を果たす為、爪と牙の嵐が吹き荒れる。

 

「一回潜り抜けるぞ!!」

 

了解(ヤー)

 

《回避専念》*3アクションを消費し、次の手番まで回避判定値+20%

ダイ及びカルラが同時使用。

《マシン搭乗》中は搭乗者のプラス補正も加えるものと裁定する。

《獣の反応》*4命中・回避を上昇させる(スクカジャ1段階分)

 

 

 それら全て、スラスターによる加減速と急激な方向転換を駆使して()()()

 マシンの性能に頼った強引な回避運動。

 代償に内臓がねじ切れそうになるが気合いで堪える。

 

『スロー、スロー、クイッククイックスロー』

 

「素敵なっ、ステップだなぁご友人(ポンコツ)!!」

 

 死線を駆け抜けながら軽口の応酬。

 そして自らの生存確認と共に、ダイはこの交差で確信を得た。

 

 ―――やっぱり通常攻撃だけか。

 

 レイドが始まって以降、DB達の間で確認と共有がされていた情報を思い出す。

 今湧いているザコ悪魔たちの殆どには()()()()()()()()()()()()。 

 レベルこそ高いが、それに反するかのように手札が貧弱なカモという事実。

 

 弱点も判明しており、まるで倒されるためだけに生まれた悪魔だ。

 これならば、如何なレベル差があろうとダイ達でも食い下がれる。

 ――――もちろん、このふざけた数の差に目を瞑れるのであれば。

 

『前方に第2波確認―――石化弾(メデューサカート)装填』

 

撃て(ファイア)

 

《クィック・ロードⅢ》*5即時効果即座に銃弾を装填、弾倉の交換が可能。

銃器を装備していなくとも、即座に準備できる。

射撃後に銃器をしまい、別の武器を構えてもよい。

《アーマーモード》中は装着者にも効果が適用と裁定。

「SPAS15」*6ショットガン。前列複数体に3~6回攻撃。

⇒石化弾使用。呪殺相性。

 

 

 抑揚のない電子音声と共に、両腕部に装着(マウント)された銃口が火を吹く。

 連射された石化の散弾は前方の新たな群れを捉え、その全てを物言わぬ石像へと変貌させる。

 

『砕かないのですか?』

 

「射線切る壁と新手の足止めに使う」

 

 相棒の疑問に答えながら反転。

 同時に排莢と自動装填の工程を1秒で終了させる。

 そして潜り抜けた方の群れへと2丁のショットガンを構えた。

 

『ア゛アアアアアア―――!!』

 

 

《テトラカーン》*7物理攻撃に対して無類の強さを誇る防護壁を作り出す魔法。

自分自身に対して5分間物理攻撃を反射させる状態変化を付与する。

この効果は「物理ダメージを1回受ける・死亡」の場合にも消失する。

本来は単体効果だが、軍勢であるため全体に適用すると裁定。

 

 

 視線の先で群れの中の1体―――“狂気に侵されたレギオン”が物理反射結界(テトラカーン)を使用する。

 ダイたちの攻撃手段が物理主体と本能的に判断したからだろう。

 事実、1人と1体には()()()()()攻撃に使える魔法系の手札は殆どない。

 

 ―――思考は0.5秒、判断は0.2秒で終わらせる。

 

「ポンコツ、リミッター外してガード専念。

 オレにダメージ通すな」

 

『まったく、マシン使いが荒い方ですね。

 生き残ったら最高級オイルを所望します』

 

 

―――《ATTACK》―――

 

 

 再び蹂躙の嵐が襲い掛かった。流石に今度は回避し切れない。

 射撃の為一度停止した状態である故、全て避けるのは不可能だ。

 鉄を穿つ音と共に、何体かの爪と牙がカルラの装甲へ深々と突き立つ。

 

 

『―――駆動系に問題無し。依然として戦闘続行可能。

 珠の装甲()が傷付いてしまいました』

 

《ガード》*8防御態勢を取って敵から受けるダメージを半減する。

クリティカル、状態異常を防ぐ。

P2において防御時は披ダメージをおよそ1/4まで軽減する。

耐性と合わせて1/8まで軽減。

幾度の敗北と蹂躙に晒されながら磨いた、致命傷を避けるための防御技術。

《カバー》*9味方一人に対するダメージと追加効果を自分に移し変える事ができる。

 

 

「傷は男の勲章って言うだろ?」

 

『生憎ですが私は無性です―――反撃開始(カウンターショット)

 

 

《反撃》*10物理属性の効果を受けた場合、50%で発動。

反撃として通常攻撃1回を行う。

⇒「SPAS15」による反撃。

《リミットブレイクⅡ》*11格闘武器または射撃武器を1つ指定。

シーンまたは戦闘終了まで対象を使用した攻撃の相性は

万能に変更される(スキル本来の相性も無視)。

自動失敗または大失敗した場合、使用したアイテムは壊れる。

 

 

 刻まれたプログラムに従い、カルラの反撃―――万能へと変更された石化弾が群れを撃ち抜く。

《テトラカーン》もこの射撃には意味を成さず、群れのほぼ全てが石化する。

 残されたのは石化に対し耐性のある“レギオン”*12のみ。

 

「ブレードロック解除。

 サポートしろ、止めを刺す」

 

了解(ヤー)筋力補助(パワーアシスト)開始」

 

 腰部に装着されていた剣の固定を解除。

 強化された肉体の内側から唸り声が上がる。

 スラスター点火、再び鋼の鎧が宙を征く。

 

「ッォオオオオオオオッ!!!!」

 

 

《達磨返し》*13敵1体を攻撃。術者のMAXHPにより威力が変わる。

 メギドラオンにも匹敵する剣技。

《アーマーモード》時のみ使用可能。

《リミットブレイク》により剣相性⇒万能相性へと変更。

()()H()P()()()()()3()()()()

《会心》*14格闘攻撃のクリティカル率が上昇する。

 

 

 絶叫と共に、素の状態では不可能な斬撃が“レギオン”を真っ二つに両断した。

 確かな手応えを感じると共に着地。プシュウ、と排熱音が軽く漏れ出す。

 マグネタイトへと変換される様子に目もくれずダイは口を開く。

 

「―――次は?」

 

『第3波、石化した敵()を踏み砕いて接近中。

 接敵まで7秒、実に人気者ですねバディ』

 

「そんな人気は要らねーな。

 障害物多い所のルート探せ、攻撃方向と数を限定させるぞ!」

 

 迫る敵を引き付けながらダイは動く。

 真正面からやれば足止めさえにもならない。

 まだここで死ぬ訳にはいかないのだ。

 

 何故なら彼の勝利条件は敵の全滅でもなければ生き残る事でもない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 銃声と剣戟の音。方向と絶叫が響き渡る。

 戦いは続く。鋼の戦士が踊り続ける限り。

 終劇(フィナーレ)まで時間はそう残されていなかった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「はっ……ぐ、ぅううう……っ!」

 

 レイドボス含めた悪魔たちの暴威によって築かれた瓦礫の山。

 そこから絞り出すようなうめき声が続いていた。

 全身を赤く染めた、右腕一本しか残っていない少女から発せられたものだ。

 

「う、く……っは」

 

 それは痛みを堪え切れず漏らしたものではない。

 今更死にかける程度の痛みで悲鳴を上げる素人でもないのだ。

 理由はただ一つ―――残された右腕を使って這い進んでいるからだった。

 

「ハッ、ハッ、ハッ……っ!!」

 

 ゆっくりとしたその動きはまるで地を這うイモムシのようにも見えた。 

 ガラスの破片、砕けたコンクリートが体を削り汚すのにも構わず少女は這い続ける。

 ―――自ら囮になって突っ込んだ、名も知らぬ少年の元へと。

 

 彼女の仲間が見れば気が狂ったのかと思うだろう。

 わざわざ幻術の範囲内を抜け、死にかけの身体で悪魔がたむろする場所へと向かうなどと。

 事実、これは自殺行為に他ならない。

 

 ダイが囮となって敵を引き付けているから悪魔の姿が見えないだけで、ここが戦場である事に変わりはない。

 今この瞬間にも、悪魔の咢が少女を喰い散らかしたとしてもなんらおかしくはないのだ。

 目的の場所へ近づけば近づくほどそのリスクは高まる。

 

 彼の奮闘が、命を捨てる覚悟で行っている時間稼ぎが。

 何もかもが無駄になりかねない、まさしく愚行。

 

「あ、……っぐむぅあああああっ!!」

 

 

 ―――それでも。

 

 

 少女は向かう、向かわずにはいられなかった。

 理性的な判断とやらは今すぐやめろと叫んでいる。

 命を捨てるつもりかと、あんな凡人は放っておけと。

 

 全くもって同感だった。否定出来ない。

 なのに、それを全力で無視する自分に、もはや呆れの感情しか沸いてこない。

 何故なら、今彼女を突き動かしているのは――――。

 

「もう……捨てた、はずなのに、……なぁっ!」

 

 胸元へとボロボロになった手を突っ込んだ。

 そこから取り出したのは百合の銀細工があしらわれたペンダントだ。

 少女が肌身離さず持ち歩いていた―――過去の象徴。

 

 かつて護国の守護者として戦っていた頃。

 牙なき人々を守る盾とならんとした日々。

 誇りと決意を胸に抱いて歩み続けた軌跡。

 

 自分にとって最も輝かしかった(愚かしかった)時代。

 だがそれは―――GPの上昇により現れた強大な悪魔共によって砕かれた。

 

 鳴らされた喇叭、抗う事は出来ない滅びへのカウントダウン。

 脳裏に浮かぶのは、逃げ惑い隠れるだけで戦おうともしないアリたち。

 必死になって戦う者を安全地帯から口汚く罵るだけのブタ共。

 

 護りたいと願った人たちは何も出来ずに死んだ。

 共に切磋琢磨してきた仲間たちは悉く戦死した。

 後方からの罵詈雑言は誇りと決意をすり潰した。

 

 だから見捨てた、何もかもが馬鹿らしくなったから。

 あんな奴らの為に恐怖を押し殺し、勇気を振り絞る事など出来やしなかった。

 故にガイア再生機構―――世界を渡り続ける集団の手を取ったのだ。

 終わりへと向かう世界など、もうどうでもよくなっていた。

 選ばれた人間として、この窮屈な場所から出ていきたかった。

 

 それからは昇格者(エターナル)の一員として、あらゆる世界を巡る日々。

 他の者と同じく無様な現地民を嘲笑って利用し見下す毎日。

 何者にも重責を負わされずに済む、ぬるま湯のような楽園。

 

 

 ―――それでも。

 

 

「なんで、思い出すかな……今にっ……今になって!!」

 

 うめき声が叫びに変わる。それは怒りの発露だ。

 無責任に自分を責め立てた無能たちへの怒り。

 今こうして自分を死ぬような目に合わせたシャドウへの怒り。

 弱い癖に自分を守ろうと無謀な戦いへ挑んた少年への怒り。

 

 何よりも――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 本当は分かっていた。結局自分は折れただけなのだと。

 自らの信念を貫く事も出来ず、逃げ場があったから逃げただけの負け犬なのだと。

 昇格者(エターナル)という言葉で誤魔化しただけの、惨めな敗北者に過ぎない事を。

 

 強いだけで、強靭さを持てなかった―――何の変哲もない小娘だ。

 だけど、思い出してしまったから。

 

 理想しか知らなかった小娘が小娘なりにしかと抱き続けた原点を。

 かつて胸に宿した想いを。魂を燃やし絶望へと抗い続けた決意を。

 地獄のような世界で、誰かを守るために剣を振るい続けた信念を。

 

「都合のいい事は……分かってる! 

 どの口が、言うんだって! 

 いっぱい、……いっぱい酷いことをしてきた!!」

 

 そして、思い出したからこそ。

 これまで幾つもの世界で行ってきた非道が心を苛む。

 虚構(ベール)が剥がれ、剥き出しになった魂を刃が幾度も刺し抉る。

 

 昔の自分が見れば真っ先に殺しにかかる邪悪の類だろう。

 そんな外道へ堕ちてしまった己の姿に涙が浮かんでくる。

 

 

 ―――それでも。

 

 

「だけど、まだ……、まだ私に、資格が……あるなら!」

 

 歯を食いしばりながら顔を上げて前を向く。

 遥か先で激しく戦闘を繰り広げている誰かがいる。

 膨大な数に飲み込まれ、それでも抗う少年がいる。

 

 あらん限りの力でチェーンを引き千切り、ペンダントを天へと掲げた。

 

「もう一度、力を貸して……誰かを守るために」

 

 逃げ出して。

 許されぬ罪を重ねて。

 無様で情けない姿を晒して。

 

 

 ―――それでも。

 

 

「大事な事を思い出させてくれた―――彼を助けたいの!!」

 

 清廉とは程遠い、我欲(エゴ)に塗れた身勝手過ぎる咆哮。

 ――――その祈りへ応えるように、銀の百合が煌いた。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

『ア゛ギャア゛アアアアアアア!?!?!?』

 

 

 

《自爆》*15肉体を爆弾に変え、特攻後に大爆発する特技。

使用者は死亡するが、直線上の敵全員に対して、

残りHP量の割合に依存した物理ダメージを与える。

 

 

 断末魔の悲鳴を上げながら、辺り一帯を粉砕する爆発が生じた。

 敵はおろか味方さえ巻き込むであろう過剰火力。

 まともな知性があるならこのような―――崩壊しかけのビル内に密集した―――状態で使うはずのない1手。

 

 だが残念な事に。この悪魔たちに知性(そんなもの)はなく、その上味方という概念も無いに等しい。

 共通の目標がいるだけの相手、身も蓋も無く言ってしまえば敵の敵。

 連携も何もあったものではない烏合の衆以下の集団だ。

 

『《緊急防御機構(リアクティブアーマー)》起動します!』

 

「ぶちぬけぇっ!!」

 

 

《緊急防御機構(幸運Ⅱ)》*16自分に対するダメージと追加効果を完全に打ち消す。

レイドボスのカウンターを防ぐために1度使用。

《カバー》*17味方一人に対するダメージと追加効果を自分に移し変える事ができる。

 

 

 爆発によって崩落するビル。

 そこから黒煙を引くようにして鋼の鎧が飛び出した。

 見る者によってはまるでハリウッド映画のワンシーンの如き動きだ。

 もっとも、当人たちからすればたまったものではないが。

 

『行き当たりばったりの自爆とは芸の無い……保険はこれで使い切りました。

 残念ながら次はもう防げませんよバディ』

 

「なら次からは当たらなきゃいい」

 

 僅かな隙間に潜り込み、攻撃と反撃を繰り返す。

 薄氷の上を全力疾走で駆け抜ける時間の連続。

 その甲斐もあってこれまでに都合11もの波を彼らは乗り越えていた。

 

 ――――だが、当然ながら無傷とはいかない。

 幾度も攻撃を受けた鎧の各所からは火花が生じて煙を吹いている。

 どう見ても限界寸前、いつ機能停止してもおかしくない有様だ。

 

状態報告(ダメージレポート)―――現在装甲の66%破損。《自己修復機能》*18完全沈黙。

 それに伴い機体各部に異常発生。ほぼ全て危険水域(レッドアラート)

 残存エネルギー30%以下、弾薬はほぼ払底しました』

 

「……そうか」

 

『ついでにバディのダメージも深刻です。

 内臓2つが潰れて骨もあちこち折れてますよ。

 物理的によく動けるものと感心します』

 

「うるさい、要するにどういうこった?」

 

『つまるところ―――絶好調でございます』

 

「よく言ったポンコツ!!」

 

 

 しかし彼らは諦めない。

 諦めは敗北で、立ち止まれば死ぬ事を理解している。

 活路を見いだせるのは、いつだって走り続ける者だけなのだ。

 

 だから指一本でも動く限り戦う。

 文字通り魂の一片までもを燃焼させ抗う。

 己に出来る最善と次善を取り続ける、それはまさしく弱者の足掻き。

 

 ――――だが現実は思いだけでどうにかなる物ではない。

 思いだけでどうにかなるなら、世界はとうに救われている。

 第13波を乗り越えようとした矢先、ついに死神の鎌が彼らを捉えた。

 

「――――ッ!」

 

 ブツン、とHMDに表示されていた光景が暗転する。

 それが意味するのは外部カメラの機能停止。

 度重なるダメージでとうとう使い物にならなくなったのだろう。

 ならば肉眼で見ればいいだけの話だが、この瞬間は不味い。

 

 接敵の一瞬に視界が死ぬのは、それだけで致命的な隙を晒す。

 薄氷を渡り切れず、ただ深い水底へと沈むのみ。

 

「ギイイイイイイイ!!」

 

―――《ATTACK》―――

 

 よってこれは当然の結果。

 動きのブレた獲物目掛け、凶悪な爪が振るわれて。

 ダイの身体は鎧ごと―――上下へと引き裂かれた。

 

 

 

 


 

 

『助けて……大ちゃん……』

 

 ―――走馬灯(フラッシュバック)

 目の前で実の親に絞殺されようとしている同級生の少女の姿。

 止めようとしても無理だった、体が竦んで動けなかったから。

 泣きながら助けを求める手を握る事が出来なかった。

 

 

『大ちゃんはどうする? 

 僕は彼女についていくよ』

 

 ―――走馬灯(フラッシュバック)

 微笑ながら外道の道へ進もうとする友人の姿。

 殴ってでも止めようとしたが、悪魔の力を前に返り討ちにあった。

 もし何か歯車がズレていれば、自分も同じになっていたかもしれない。

 

 

『大ちゃんは戦うのね。

 きっとそれは、ひどく困難な道のりだと思う』

 

 ―――走馬灯(フラッシュバック)

 恩人にして聖母のような慈愛に満ちた女性の姿。

 遠い異国の地で口にした決意を、ただ静かに受け止めていた。

 最期に、自分を救■主の運命に引き込んだ事を謝罪して逝った。

 

 

『あはははは!! いいよ、遊ぼうよ()()君。

 あんたなんかに何が出来るのか楽しみにしてるわ!』

 

 ―――走馬灯(フラッシュバック)

 少女の形をした人ならざる邪悪の姿。

 魂さえ殺す恐ろしき邪気を纏ったあの怪物に、決して屈しないと誓った。

 最期は半ば相打ちに持ち込んで、怨念の言葉を吐いて消し飛んだ。

 

 

 敵も味方も世界ごと死に絶えて。

 悪運強く自分だけが生き残った。

 いい加減、もう楽になって良い。

 

 

 ――――それでも。

 

 


 

 

 

――― 《食いしばり》―――

――― 《反撃》―――

 

 

「ッァアアアアア!!!!!」

 

 

 

 意識の断絶は一瞬。

 歯を食いしばって死を拒絶し、最後の石化弾を反撃で打ち込んで群れを無力化する。

 次の問題は宙を舞う上半身と下半身。数秒後には出血多量で確実な死が訪れる。

 

 ―――ならば。

 

「カルラァッ!! 近接戦闘形態(インターセプトモード)起動っ!!」

 

 薄れゆく意識の中、文字通り血を吐きながら指令(コマンド)を入力した。

 

 

「悪魔合体ライト」*19戦闘中に通常の悪魔合体ができる。

⇒「マシンと悪魔の融合」

マシン:カルラ(近接戦闘形態) Lv40

《射撃武器》⇒《近接武器》

《獣の反応》

《クイックロードⅢ》⇒《乱入剣》

《電気ショック》⇒《ホールド》

《自己修復機能》⇒《追加格闘威力》

《緊急防御機構(幸運Ⅱ)》⇒《オーバードライブ》

《リミットブレイクⅡ》

《反撃》

 

 

 

『―――ッ再起動(リブート)! 電磁誘導及び機体再構築(アーマーモーフィング)開始!!』

 

 

 息を吹き返した機体が再びパーツへと分解し違う形を取ろうと動き出す。

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もちろんこれではくっつけただけだ。出血は止まらず死に体のままである。

 

 

時間経過(タイムアップ)……遅延措置の効果が出ます』

 

 

 ―――戦闘前の過剰投薬が無ければ。

 

 

《応急措置:薬物》*20薬物の効果の進行を停止する。

有効時間は威力×(10分)

⇒「特級傷薬」*21使用。

 

 再構築した鎧を外骨格として体を固定。

 効果を遅延していた霊薬により傷口を無理矢理癒合。

 少しでもタイミングがズレていればそのまま死んでいたであろう荒業を成し遂げる。

 

 込み上げてくる内臓の欠片を吐き出しながらダイは苦笑した。

 

「ゴフッ……呆れるくらい……悪運ツエーなオレ。

 何度目だよ、こういうの?」

 

『10回を超えてからはカウントを辞めました。

 ……エネミーソナーが14波を感知。

 近接兵装ではこれまでのようには行きませんよ』

 

「さっき言ったろ絶好調だって。

 オマエは補助に徹しろ。

―――回避運動は全部手動(マニュアル)でやる。

 

 

「状態異常:高揚」*22気分が乗って勢いがついた状態。

()()やその他魔法の影響などによって生じる。

誕生篇において「マッスルドリンコ」を使用するとこの状態になる。

⇒急に反射神経が研ぎ澄まされる。全ての攻撃をスイスイかわす。

⇒1/20の確率で生じる効果。《アリ・ダンス》と同補正と裁定。

⇒毎ターンMPを消費する。

《焚きつける》*23相手を煽り、闘争心を焚きつける特技。

対象と、その周囲の敵に対して、使用者に注意を集中させる。

 

 

 獣化魔法(グッドステータス)が時間経過で解け、抑え込まれていた反動―――薬物による高揚(HI)状態へと入る。

 デメリットも多く安定性が低い故なるべく避けていたが、今回ばかりは“当たり”を引いたようだった。感覚が異常なまでに研ぎ澄まされ、あらゆる動きがスローモーションに映る。

 

 だからまだ戦える。

 挑発を行いターゲットを自分へ集中させつつ、更なる時間稼ぎを行う。

 文字通り、その精神力が尽き果てるまで。

 

 

了解(ヤー)、第14波接敵まで6秒!』

 

「最後まで付き合えよ相棒(ポンコツ)!!」

 

 

 そして再び敵の大群へと突入し―――――。

 

 

 

 

 

 

「いい空気吸ってるわね……私も混ぜてよ!!」

 

 

 

 

《両断破》*24斬撃相性。具現化した気を放つ特技。

使用者の前面にいる敵に対して、近接攻撃力に依存した物理ダメージを与える。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「―――ッ」

 

 後方から予想外の攻撃。相棒のセンサーが捕捉するよりも速い何者かによる援護。

 ダイは思わず振り返り、そして見た。

 ―――純白の衣を身を纏う、1人の少女の姿を。

 

「オマエは……」

 

 失っていた手足は元通りになり、姿も多少異なっている。

 それでもダイが見間違うはずもない。

 己が命を懸けて助けようとした、死への恐怖に震えていた彼女がそこに居た。

 

 無論、今でもその瞳には恐怖の色があった。

 死への恐怖が、死地へと挑む恐怖が、蔑まれ否定される恐怖が。

 ダイを遥かに上回る力を持ちながら、真正面からそれを跳ねのける強靭(つよ)さは無いままだ。

 

 それでも―――“勇気”を以て心を奮い立たせ、彼女は今この場所に立っている。

 大切な事を思い出させてくれた彼を助ける為に。

 誰かを守ろうと戦う彼と肩を並べられるように。

 

 

「……教えて、キミと、キミの相棒の名前。

 知ってないと誰も褒めないし、誰も悲しめないから」

 

 次なる敵の波が来る前に、少女は1人と1体の名前を問うた。

 本来ならこのようなタイミングでする事もない自己紹介を。 

 まるで大切な儀式であるかのように、どこか顔を赤らめて。

 

「―――ダイ。今はそう名乗ってる」

 

『高陽親王が傑作の1つ、カルラで御座います。

 以後お見知りおきを』

 

「……うん、ダイとカルラ。

 覚えたわ、絶対忘れない。

 だから―――私の名前も覚えて」

 

 

\カカカッ/

デビルシフターサロメLv60相性:精神・魔力・破魔無効

英傑ジャンヌ・ダルクLv65相性:破魔・呪殺・魔力・神経・精神無効

 

 

「私はサロメ、ただのサロメ―――英傑ジャンヌ・ダルクの悪魔変身者(デビルシフター)

 今から一緒に戦っても良い?」

 

 かつて全てから逃げ出した少女が、今ここに再起を果たす。

 見放されたと、使う資格を失ったと思っていた力を以って。

 昇格者(エターナル)という誤魔化しを捨て去った、1匹の負け犬として。

 

「―――戦えるなら一緒に頼む。

 オレ1人じゃ切り抜けるのは無理だ」

 

『予定を変更。このまま援軍の所まで強行突破を推奨します。

 レディ、貴女もそれで構いませんね』

 

「分かった……一緒に行きましょう(生きましょう)

 

 斯くして2人と1体は死地を駆け抜ける。

 援軍と合流するのはそれから数分後。

 生を拾ったと実感し、全員そのまま後方へと移るのであった。

 

 

 

 

 これはレイド中に起きた出来事。

 上野レルム―――“シャドウ”なる狂人が出没した場所での物語。

 

 救■主に成り損ねた少年と逃げ出した少女、負け犬たちの再起と新たな始まりの序章である。

 

 

 

 

*1
※200X

*2
※女神転生シリーズ全般

*3
※200X

*4
※真Ⅳ

*5
※TRPG200X

*6
※デビルサマナー

*7
※IMAGINE

*8
※P2及び女神転生シリーズ全般

*9
※200X

*10
※真ⅢTRPG

*11
※200X

*12
弱点:電撃、衝撃、破魔 耐性:銃攻撃、氷結、神経、精神 無効:打撃(確率) 反射:呪殺

*13
※真Ⅱ

*14
※200X

*15
※IMAGINE

*16
※200X

*17
※200X

*18
※200X DEAD状態でも使用可能。使用者のCURSE以外のBSを解除しHPを【レベル+体能力値】だけ回復する。

*19
※真Ⅳ

*20
※誕生篇

*21
※IMAGINE 自分のHPを200回復。

*22
※基本システム・誕生篇仕様

*23
※IMAGINE

*24
※IMAGINE




 ◎登場人物紹介
 ・ダイ <強化人間> <グラディエーター> LV37⇒40(限界突破)
 シリーズポジション:大沢俊之(真・女神転生 エル・セイラム)
           神童克彦(真・女神転生 エル・セイラム)

 どこにでもいる漂流者(ドリフター)の少年。
 元居た世界ではとある邪悪の権化と戦っていた。
 才能限界は低く、未だ最低ラインにさえ届かぬ弱者。そして救■主に成り損ねた者。
 戦闘においては強化された肉体と薬物、相棒のマシン。そして不屈の意志を武器とする。
 邪悪と理不尽に屈さない、戦えない者の盾になるという信念はかつての経験から来るもの。
 自らの世界が滅び、今の世界に流れ着いてもそれは揺らがない。
 ―――ただし、金欠には無力なのでいつも頭を抱えている。



 ・カルラ <マシン> LV40(機体によって変動)
  シリーズポジション:なし? 

 ダイの相棒。
 日本で初めてからくり人形を作った人物“高陽親王”が作り上げた傑作。
 核となるパーツを入れ替える事で別の機体でも動くことが出来る。
 最大の特徴は悪魔合体を利用した形態変化。
 近接戦闘形態の他にも電子戦闘形態、魔法戦闘形態など複数の形態を持つ。
 AIでありながら口調は辛辣、毒舌を超えて罵倒になる事も。
 それを抜きにしてもダイとは不動の絆で結ばれている。
 ―――ちなみに今回の戦いで今の機体は再起不能になった。



 ・サロメ <デビルシフター> LV60
 シリーズポジション:太宰春子(真・女神転生 エル・セイラム)
           レッドベアー(真・女神転生Ⅱ及び白刃シリーズ) 

<ガイア再生機構>に所属する少女。
 元居た世界では護国の戦士として悪魔と戦っていた。
 才能限界は高く、英傑の力を身に宿す強者。そして逃げ出した負け犬。
 戦闘においては素の力と変身先であるジャンヌ・ダルクの能力を武器とする。
 力はあれど心はごく普通の少女、それでも勇気を振り絞って戦っていた。
 しかし、最後はへし折れて何もかも見捨ててしまう。
 ―――今回の作戦(マッチポンプ)で運命の歯車が再び動き出した。


 ・同級生の少女
 悪魔に操られ非道に手を染め、後悔し助けを求めた少女。
 必死に助けようとしたが、当時小学生のダイにはどうしようもなかった。

 ・外道の道へ進もうとする友人
 悪魔に操られたことが切っ掛けとはいえ、自ら悪意の道へと向かった友人。
 必死に止めようとしたが、当時小学生のダイにはどうしようもなかった。
 数年後、互いに成長した彼らは殺し合い―――そして永遠の眠りへとつく。


 ・聖母のような慈愛に満ちた女性
 かつて絶体絶命の窮地にいたダイを助け出した女性。
 しばらくの間、遠い異国で共に隠れ住んでいた。
 ―――彼女が悪魔の手によって命を落とした時、抗い続ける事を決意する。


 ・少女の形をした人ならざる邪悪
 人でありながら人でない何か。
 人の遺伝子に潜む邪悪なものが、幾百万もかかって進化を重ね生まれた新たな種族。
 この娘の前では、愛も哀れみも意味を成さない。
 半ば相討ちとなって消し飛んだが、直後に漂流したためダイは死ぬ瞬間を見ていない。






 これでレイドバトル編は終了。
 次回は短編集をやるか戦闘をするか考えています。





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Fragment①

今回は短編3つです。


 

 

「Fragment:礼を尽くすという事」

 


 

突然の手紙を差し上げる失礼をお許しください。私、八瀬と申します。

この度、衛藤様よりご紹介を頂き、お手紙を差し上げた次第でございます。

私は現在、剣の道を極める為、様々な方と手合わせをお願いしております。

衛藤様より、佐々木様が素晴らしい腕前でいらっしゃるということでご紹介頂きました。

ぜひ一度手合わせの機会をお願いできないでしょうか。

不躾な話で誠に恐縮ですが、ご検討頂ければ幸いです。

 


 

 

「―――ヨシッ!」

 

「いやヨシじゃないから。

 また変な事してると思ったら何書いてんのよ、しかも毛筆」

 

 うららかな昼下がり。

 喫茶リコリコのカウンター席、もはや定位置と化した場所にて。

 宗吾は注文したコーヒーに一口も手を付けず、黙々と筆を執っていた。

 

 無駄に真剣な表情かつ無駄に綺麗な字であった為、美野里も終わるまで口を出せなかった。

 だからこうして、宗吾が書き終わるまで待っていたのだが―――。

 

「え、手合わせの願いだが? 

 ノーアポで斬りかかるなんて蛮族極まりないだろ、常識的に考えて」

 

 返って来たのはやはりと言うべきか、馬鹿丸出しの返答であった。 

 思わず美野里の口から思わずため息が漏れる。

 

「いやどの道斬りかかる時点で蛮族でしょ……。

 しかも相手って最前線で戦ってる有名人よね。

 普通断られると思うんだけど」

 

「そん時はそん時だよ。

 今は色々と小康状態らしいし、少しは時間空けてくれるかもだろ。

……闘技場で見た時から戦ってみたかったしな

 

「聞こえてるわよ最後」

 

 小声で呟いた言葉を美野里は聞き逃していなかった。

 一応、そうしたくなる気持ちは分からないでもない。

 なにせ、自分たちは先日起きた大事件(レイドバトル)に参加出来なかったのだから。

 

 ここ最近はヤマタノオロチの1件で周りに掛けた迷惑代及び霊薬の費用を稼ぐため、地方にまで足を延ばしていたのが仇となった。

 掲示板で情報を得ると急いで駆けつけたものの、既に事件は終息済み。

 おまけに宗吾が目当てとしていた“帽子の男”とやらもとうに姿を消した後だった。

 

 その時の宗吾の落ち込みようは凄まじかった。

 魂の抜けたような、という表現がぴったりと当て嵌まる有様だった。

 同時に勃発した宝石争奪戦においては、半ば八つ当たり気味に参戦したほどだ。

 ―――切っ掛けは他の剣士たちが斬りかかれた事を煽ったのが原因であるが。

 

 加えて、今言ったように現在の異界GPは小康状態にある。

 最長で半年程度、短くとも3ヶ月は続くとされる凪の時間。

 つまり、一息つきつつ戦力の増強を図れるという事だ。

 

 新たに得た技能(スキル)の調整と確認。

 仲魔の合体と追加戦力の確保。装備の更新に情報収集。

 やるべき事は沢山あって、その一つとして格上と手合わせするのも間違ったものではない。

 

 問題は―――――。

 

「まあいつもの事だからともかく……普通に頼むのって駄目なの? 

 可奈美(知り合い)が世話になってる相手らしいし、聞いてもらうだけで良くない?」

 

 視線を宗吾の隣の席へと向ける。

 そこに置かれているのは今日の仕事帰りに購入したフルーツの詰め合わせ。

 そして……ここ数日の異界潜りで入手した数種類の宝石が納まった箱だ。

 

 悪魔由来の宝石―――数を揃えれば能力が上昇するという情報が判明し、現在100倍以上のバブルが起きている代物。

 自分達の強化の為に集めるのは最優先で、そうでなくとも売れば纏まった金にはなるだろう。

 それを手土産として差し出すのは流石にどうかと思う所がある。

 

 一言で言えば―――()()

 天井知らずに価値の上がり続けている物を差し出す。

 最前線で戦う人間とのコネ作り、という事を踏まえてもこれは重過ぎではないだろうか。

 可奈美が慕っている相手なのを考えても、逆に変な疑いを持たれる可能性も捨てきれない。

 

「―――美野里ちゃんの言いたい事も分かるけど、こっちはお願いする立場だからな。

 なら疑われようと礼を尽くさなきゃ駄目だ……細かいけどそういうの守るのは大事だぞ」

 

 いつになく真面目な口調で返答があった。

 宗吾は書き上げた手紙を封筒へしまってから美野里に向き合う。

 彼女を見つめるその瞳は、ふざけた様子の無い真剣味を帯びたものだった 

 

「血で血を洗う生活ばっかだと忘れられがちになるけどさ。

 “こういう事”が出来ない奴ほど社会から弾かれる。

 そんなのどうでもいいって輩ならともかく、俺も美野里ちゃんもそうじゃないだろ」

 

 無礼討ちという言葉があるように、礼を欠いた者が殺される時代もあったのだ。

 時代とともにそういう事も少なくなったが、少なくともまともな扱いはされない。

 裏の世界で生きるものだからこそ、守らねばならない一線がある。

 

 ―――不要な敵を作らない、周囲に好印象を持ってもらう。

 そういった意味においても、一定の理にかなった言葉だった。

 

「……うん、ごめん軽率だった。

 確かに宗吾さんの言う通りだわ」

 

「あーいや……偉そうな事言っといてなんだけど。

 美野里ちゃんの意見も間違ってる訳じゃないからな。

 俺がかしこまり過ぎてるって言われたらその通りだし」

 

 しゅんとした顔を浮かべる美野里に、思わず頭を掻きながら宗吾は言葉を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「俺も中学生(ガキ)の頃は無遠慮に直接お願いしてた時期もあってさ。

 特に道場破りする時は毎度毎度フクロにされて―――」

 

 

「ごめんあたしの納得と反省返してくれる???」

 

 

 

 ちなみに、可奈美を介して送られた申し込みの手紙であるが。

 

 

 後日―――了承の返事が返って来るのだった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「Fragment:MMM」

 

 

 

「いらっしゃいませご主人様!!!!」

 

 

 恥ずかしさを無理矢理誤魔化すような大声が、少々手狭な店内に響く。

 発生源はメイド服の上にスカジャンという、前衛的スタイルの店員から。

 小柄な体躯に整った顔立ち、そして吊り上がったキツめの眼差し。

 一見すればチンピラ子供、あるいは悪ぶった小学生程度にしか見えないだろう。

 

 だが―――瞳の奥から滲み出る迫力はどう見ても素人ではない。

 

 例えるなら血に飢えた肉食獣、あるいは獲物を噛み殺す猟犬と言うべきか。

 迂闊な真似をすれば次の瞬間には、頭が弾け飛んでもいてもおかしくない。

 やるかどうかは別として、それが実行可能なだけの力を彼女は持っている。

 

 よって随分な挨拶を受けた2人―――宗吾と美野里は思わず目をぱちくりさせた。

 

 この店を訪れたのは本当に偶然だった。

 仕事の達成報告と報酬受け取りの為に足を運んだオタクの聖地こと秋葉原。

 治安悪化もあり、数か月前と比べれば人通りも少なくなったがそれでも賑わいの絶えない街。

 

 指定された場所で依頼人と話を終えた頃には―――稀にある騙して悪いが案件ではなかった―――昼過ぎであった。

 

 時間的に今からリコリコに向かっても遅くなる。

 そう判断した2人は近場で食事を済ませる事にした。

 最近の騒動で閉店した所も多いが、それでも適当に歩けば飲食店はそこそこ目に付く。

 

 そういう訳で訪れたのがこの店―――『メイド喫茶スクワッド』だった。

 

 選んだ理由は特にない。

 強いて言うならば、一度くらいはメイド喫茶に入ってみたかった事。

 次に最初に目に留まった店だから、という程度のものだ。

 

 だから彼らは知らない。

 この店が表向きはドリフター互助のDB拠点である事を。

 実際はそれを隠れ蓑にした抵抗組織(レジスタンス)<ブラックフィエンド>の拠点である事を。

 

「ねぇこの店ってまさか」

 

「だろうなぁ……荷物は少し離しておくか」

 

 座席へと案内された後、2人は足元に置かれたカゴへ手荷物を入れる。

 ―――当然、持ち歩けるよう偽装された武器ごと。

 そしてやや離れた位置、すぐには手に取れない場所へと()()()()

 すると、こちらにさりげなく向けられていた視線が最小限のものとなった。

 

 おそらく非武装状態である事をアピールしたからだろう。

 一般の客ならともかく、それなりに“出来る”相手が来たのなら当然の対応だ。

 よって気分を害する訳もなく、テーブルに貼られたメニューへと目を走らせる。

 

「初めての方限定ぴなもえセット……お嬢様限定きゅんきゅんセット……。

 話には聞いてたけど、色々スゲーなおい。

 マジでこんなのあんのかよ」

 

「私もネット知識でしか知らないからなんとも。

 学園都市でメイドって言ったらメイド部(C&C)の連中くらいだったし……」

 

 美野里の脳裏を過るのは“Cleaning&Clearing”と呼ばれた精鋭部隊。

 何度か共同任務を―――戦場はそれぞれ別だった―――した仲だ。

 メンバーの顔こそ知らないが、その活躍はまさしく獅子奮迅。

 任務失敗の話は噂さえ聞いた事もない。

 

(私がいなくなった後、どうなったんだろ……考えても意味無いか)

 

 とりあえずメニューから適当にオムライスセットを注文する。

 流石にメイドさんと写真セットは―――主に美野里の―――羞恥心が勝ったので止めた。

 思わず宗吾が苦笑するとテーブルの下で脛を蹴られた。

 

「しかしまあ、本場の使用人(メイド)が見たら複雑な顔しそうだな。

 批判とかも結構あるんだろ? こういう店って」

 

「そういえば宗吾さんの世界、っていうか時代はまだなかったんだっけ」

 

「なんか噂で聞いた事あるくらいか。*1

 ……あ~、そういやちょうどそれくらいの頃か。連中とやり合ったの」

 

 連中、という言葉に美野里が首をかしげる。

 どうやら興味を惹かれたようだった。

 注文した品が来るまでの時間潰しも兼ねて口を開く。

 

 

 

 

 

「ああ――――MMM、“もっともっとメイドさん”って奴らがいたんだよ、俺の世界」

 

 

 

 

 

『ブフォッ!?!?』

 

『ちょ、ネルさんどうしたんですかいきなり!?』

 

 少し離れた場所で吹き出すような声がした。

 

 

 

「ごめん、なにその……イカれた言葉」

 

「そう思うだろ、俺も思う。

 なんでもロンドン発祥のメイド保護組織? とかいう連中でな。

 マジカルメイド教団とかの秘密結社相手にメイド保護って名目のカチコミしてた」

 

「ひょっとしてハーブキメてない???」

 

「俺は正気だしあいつらは素で狂ってたわ、うん」

 

 しみじみと呟きながら宗吾は頷く。

 思い返すだけでも随分な連中であったと思う。

 自分も真っ当とは言い難いが、アレに比べればマシでありたいとも。

 

 メイド愛好家たちがメイド保護の為に結成した“MMM”。

 メイド服を脱がして無理やり寝巻きにする“水銀旅団”。

 男装こそが女にしか出来ない最高に男らしい行為と謳う“バレット・ボーイ・ラバーズ”

 自分たちこそ真祖と宣う“大英帝国マジカルメイド教団”。

 

 秘密結社、組織はいつの時代どの国でも数あれど。

 ここまで螺子の外れたのはどの世界でもそういないだろう。

 ―――むしろいたら困る。

 

「特に俺が見た限りだと……水銀旅団が特に酷かったか。

 欲望の塊っつーか、ほとんどは女の子の写真を撮るために集まった集団。

 そのためならどんなえげつない事も平気でやってやがった」

 

 なにせスタンバトンでメイドを気絶させてまで写真を撮るほどだ。

 至近距離から胸の谷間撮影、スカート内部激写、縄で縛って緊縛写真に仕立てあげるなどやりたい放題。

 しかもその撮った写真は有料サイトにアップするというオマケ付き。

 

 これが活動内容の一部でしかないというのだから救いようがない。

 他にはどんな事をしているのか、当時の宗吾は知る気にもなれなかった。

 そもそも出くわした瞬間斬りかかっていた。

 

「あいつら全員寝間着に枕ってふざけた装備のくせにしぶとくてな。

 正直斬りごたえはあったが……自分から積極的に関わりたくない類」

 

「安心して私もだから。

 そんなの見たら、逃げるか鉛玉ぶち込む自信ある」

 

 

 

『嘘だろ、マジで実在したのか……』

 

『あのネルさん? 本当に何してるんですかそんな所で???』

 

 こっそり聞き耳を立てていた店員がそんな事を呟いたが、2人には届いていなかった。

 

 

 

「んで、そんな面白(キチガイ)集団なんだが日本を舞台に大乱闘おっぱじめてさ。

 終いには過剰反応した“矛ノ会*2”……右翼の連中と合わせて5つ巴の抗争に発展して」

 

「地獄みたいな展開ね」

 

「ちなみに俺は“矛ノ会”の傭兵として戦う事に……」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「その件に関しちゃ反省してる」

 

 ちょうど武者修行のため香港へと渡る前。

 路銀稼ぎと修行も兼ねて依頼を受けたのが間違いであったと宗吾は語る。

 彼の人生トップ10に入る失敗だった。

 

「最終的に全部いい感じに(トップ連中ぶった斬って)削ったら日本から出ていったんだったか。

 ―――――この世界にもいないよな?」

 

「いてたまるか」

 

『……いるかもしれねえんだよな』

 

 

 

 その後、注文したオムライスを完食し2人はリコリコへと戻るのだった。

 なお、しばらくスカジャンメイドの少女が頭を悩ます事となるが。

 ――――それはまた別の話である。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「Fragment:先輩を探して三千里」

 

 

「ちくしょーまたダメだったぁああっ!! 

 どこにいるんですかせんぱああああい!!?」

 

 

 都内に数多く点在するサマナー御用達の施設―――“邪教の館”。

 悪魔合体を主なビジネスとするこの場所に、少女の絶叫が響き渡る。

 幸いにも、よくある合体事故での絶望の叫びではない。

 

 施設の奥、休憩所(バックヤード)で項垂れる少女のものだ。

 少女の前方、少々小さめのガラステーブルの上にあるのは都内全域の地図。

 そして放り出されるように置かれた水晶製の振り子(ペンデュラム)である。

 

「ここまでやっても駄目って事は何処かの結界か異界で匿われてる。

 ……あるいは、最初からこの世界にいないかね」

 

「絶対にいます、私の乙女の勘(サイドエフェクト)がそう言ってる」

 

 机を挟んだ向かい側からの言葉に対し、がばりと少女は顔を上げた。

 

 

\カカカッ/

チャネラー九条ななみLv52

 

 

 さらさらとした銀髪に紫水晶のような瞳。

 人形のように整った容姿と白磁の如き肌。

 絵画から出てきたと形容するしかない姿。

 

 すれ違えば10人中10人が振り返る―――そんな美少女だった。

 

「そして再会したら素敵! 抱いて! あの女と別れて!!

このコンボを決めるんです絶対―――!!」

 

「はいはい頑張れ頑張れ、応援してるから」

 

 ――――ただし中身は非常にクセがあった。

 というよりクセしかない。

 幻想を一瞬で壊すタイプの人間である。

 

 呆れながらななみの向かいにいた人間―――美野里がコーヒーに口をつける。

 ……微妙、否、不味い。

 インスタントなのもあるが、ミカの淹れたリコリコの物に舌が慣れた弊害であろう。

 残すのも嫌なので一息に飲み干す。

 

「ふぅ……実際、超能力者(私たち)の勘は結構当たるからともかく。

 縁のある物使ってダウジングしても駄目なら地道に探すしかないでしょ。

 私もそうしてるし」

 

《マップ・ダウジング》*3ESPまたはチャネリングに分類される超能力。

探し物、失せ物や人など地図の上で振り子を使って探し当てる。

サイコメトリー能力を合わせて使えば、尋ね人の持ち物などから

イメージを持つことができ、成功率にプラス補正。

 

 

 美野里が彼女、九条ななみと繋がりを持ったのは偶然だ。

 よく利用している邪教の館のバイトで、自分と同じ漂流者(ドリフター)の超能力者。

 そういった共通点から話をするようになり、やがて“先輩”とやらを探している事を聞いたのだ。

 

 なんでも元の世界では、自分も少し巻き込まれたあの“受胎”とやらに関わっていたらしい。

 敵を投げては千切りを繰り返すうち、“先輩”と逸れいつの間にかこの世界にいたとか。

 話の内容からして相手は彼女持ちかつ、ななみの一方的な片思いであるようだが。

 

 しかし、探している相手がいるという点では自分と同じである。 

 だからこうして、合体や調べ物の合間を縫って互いに失せ人探しの協力をしている訳だ。

 ―――もっとも、どちらも成果はいまだにゼロであるが。

 

「フフフ……探すためには衣食住揃ってなきゃ駄目なんです。

 その為にはこんなブラック環境で働くしかないんです。

 カオスのおじいちゃんのとこで弟子入りしてた経験があって良かったのか悪かったのか」

 

 ここじゃマネカタからカツアゲできねー、などと呟いているが美野里は無視する。

 悪魔合体師はどこでも過労死寸前まで扱き使われる状況だ。

 仲魔の合体計画をあれこれ考えている身である。

 酷な話ではあるが、ななみにはこのまま頑張ってもらいたかった。

 

「でも、先輩から預かったこの“婚約マガタマ”に“婚約ヒモロギ”使っても駄目とか……。

 この間のレイドで手に入れた宝石売り払って、もっといい触媒買おうかなぁ?」

 

「無駄遣いだから止めなさい。

 それとなんでも婚約って付けるのも」

 

「これも既成事実作戦ですよ。

 岸波白野(あの女)から逆NTRするためには取れる手は打たないと。

 先輩が諦めるまでぜぇったい諦めないって誓ったので……っ!!」

 

「倫理観はともかく、その熱意は素直に凄いと思う」

 

 自分も仲間や知り合いを探す身だが、これほどの熱量があるとは決して言えない。

 そういった点で、この少女はすさまじい意志力の持ち主だろう。

 ―――真似はあまりしたくなかったが。ぶっちゃけストーカーである。

 

「……そういえば、あんたの言う先輩ってどんな人なの? 

 今まで詳しく聞いた事無かったけど」

 

「ん、先輩ですか? 

 名前は“ハクジ・セイト”っていって、私はあだ名のダンシ先輩と呼んでいたんですが―――」

 

 少々早口になりながら、ななみは想い人について語り出す。

 

「性格はちょっとスケベで優しくて明るくてどこか抜けてて、割と考え無しで突っ込んで後悔する事もしばしばあるんですがそこも可愛くてぶっちゃけ濡れる時も、ではなくキュンとする時もあってスケベで何だか放っておけなくてでも仲間がピンチだと駆けつけて助けてくれるんです。それとカッコつけてる時は空回って悶える事もあるけど自然体の時はさらっと良い事も……初めて会った時なんて私がチンピラに絡まれているのを――――」

 

「うん、もういい分かったから。

 先輩が大好きなのはよく分かった」

 

 あまりのマシンガントークに美野里は途中でストップをかけた。

 おそらく、この休憩時間が終わるまで永遠と話し続けていたのが直感に頼らずとも分かる。

 

「……それに、たとえ私を知らない違う先輩だったとしても。きっとこう言うと思うんです。

 “覚えてなかったらもっかい自己紹介すればいいんだよ”って」

 

 最後に、ななみは少しだけ微笑んで締めくくった。

 

「ループだの並行世界だの今は棚に上げます。

 ―――とにかくあの人と会って話す。全てはそれから。

 その為ならどんな困難だって乗り越えてみせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――隣に彼女がいたら?」

 

「正面から寝取りに行きますが何か???」

 

 

 美野里は思った―――恋の情熱は出来る限り程々にしておこうと。

 あと顔も知らぬ先輩に心底同情するのであった。

 

 

 

 

*1
世界初の常設型メイド喫茶「Cure Maid Café」は、2001年3月、秋葉原で開店

*2
※新世黙示録 文学者「三島由紀夫」の遺志を継ぐ右翼組織。日本独自の美しい精神文化が失われていく中、これを守り、強く育む事を目的とする。

*3
※基本システム




次回、レルム内でのちょっとした事件()を予定してます。


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“Blood star” vs “Sword sorcerer” -前篇-

時系列的には本スレ様よりも少し先の話です。


 

 

 ―――その日は朝から調子が良かった。

 頭は雪を溶かした水のように冷たく冴え渡り曇り1つありはしない。

 肉体はかつてないないほど滑らかに自らの意志へ忠実に従う。

 

 この世界に来てから―――否。

 間違いなく己が生涯最高の状態である事を宗吾は確信した。

 今ならば、習い覚えた技全てを。

 

 過去のいつよりも速く。

 過去のいつよりも強く。

 過去のいつよりも鋭く。

 

 十二分に繰り出すことが出来るだろう。

 その自信がある。根拠のなき妄想では断じてない。

 言葉にする必要のない確信としてだ。

 

「――――――」

 

 呼吸を1つだけ行う。気がつけば息をするのを忘れていた。

 就寝前の鍛錬を終えて寝ていただけのはずなのに、心拍が際限なく高まり続けている。

 このまま口から心臓が飛び出したとしてもおかしくないと納得するほどに。

 

「は、はは……そうか、そういう事か―――今日なのか!」

 

 ベッドから下りるやいなや、愛剣を掴んで部屋から出る。

 このまま拠点の外へと飛び出し、本能が命ずる場所へ向かうつもりだ。

 何故己がこうまで昂っているのか―――理由など今更問うまでもない。

 

 

 

「……行くの?」

 

 

 

 ―――その前に、背中へと声が投げかけられた。

 

 足を止め振り返ると、既に着替え終えた相方の姿がそこにある。

 今の時刻は体感的に日が昇る寸前といった所だ。

 普段の彼女の起床時間からすると随分早い。

 

 おそらく、いや間違いなく。宗吾が起きるよりもずっと早い時間からそこに居たのだろう。

 ひょっとすれば眠らずに待っていたのかもしれない。

 今日この日、一体何が起こるのかを無意識に感じ取って。

 

 

―――《■レコ■ニ■ョ■》―――

 

 

「ごめん、行く。悪いが下手しなくても死ぬ」

 

 相方の瞳に浮かぶ不安を見抜き、その上で宗吾は謝った。

 今から自分が行おうとしているのは、客観的に見て自殺行為同然だ。

 常の彼であればこのような無謀をそうそう犯すはずもない。

 

 だがそれでも―――これだけは譲れない。

 剣士として、剣者として、剣の道に生きる剣鬼として。

 

 しばらくの間、無言で目を合わせ続ける。

 やがて、いつものように呆れ交じりのため息が美野里から零れた。

 

「ほんと馬鹿なんだから。

 ……なら私も行くわ。いいでしょ、観客(オーディエンス)くらい。

 それと――――」

 

 一歩踏み出して隣に並び立つと、美野里は抱えていた物を宗吾へと差し出す。

 それは丁寧に手入れされた防具一式。

 来る日の為に、仕事で各地を巡りながら集めたものだ。

 

「これ忘れてどーすんのよ。

 興奮するのは良いけど暴走は駄目。

 時間の余裕はまだあるんじゃないの?」

 

「……ああ、そうだな。悪い助かった」

 

 当然だがこの絶頂は長続きもしなければ無償の物でもないだろう。

 翌日には燃え尽きた蝋燭のようになっていても不思議ではない。

 しかし、美野里が言うように時間的はまだある。

 

 無意識に先走っていた心に、自分もまだまだ未熟と苦笑して受け取った。

 余裕のない剣には焦りが生まれ、焦りのある剣には隙が生じる。

 なら今は、少しでも余裕を作らねばならない。

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 剣士として、現時点の己が全てをぶつけなければならない相手と。

 死力を振り絞り魂を燃え上がらせてなお届くかどうか分からぬ怪物と。

 

 恐れがある―――死ぬ事ではなく剣が届かないかもしれない事が。

 興奮がある―――“あの日”以来、ずっと待ち望んでいた時が来たから。

 決意がある―――必ず斬ってみせると。

 

 運命の時は、すぐそばまで迫っていた。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 


 

DD CHANNEL:【鍵】帽子野郎ぶった斬る 5【鍵】

 

 

456:名無しさん@LV上げ中

 駄目だな宝石ある程度揃えても斬れる絵が見えねぇ

 

457:名無しさん@LV上げ中

 同じく。

 躱されて輪切りにされました!

 

458:名無しさん@LV上げ中

 こっちはあの万能魔法で命削られてから首チョンパ。

 そもそも速過ぎるってあいつ。

 

459:名無しさん@LV上げ中

 イメージだけでこれだぞ。

 ブーストもいいがやっぱ地力を上げんと話にならん。

 

460:名無しさん@LV上げ中

 なのでレイド復刻はよ(

 

461:名無しさん@LV上げ中

 アウラ、経験値寄越せ

 

462:名無しさん@LV上げ中

 数揃えて斬りかかればワンチャン?

 戦いは数だよ兄貴!

 

463:名無しさん@LV上げ中

 サシで斬り殺したいんだよ!!!!!

 

464:名無しさん@LV上げ中

 魔人相手にサシで挑もうだなんて……

 頭おかしくありません???

 

465:名無しさん@LV上げ中

 >>464 そうか、本音は?

 

466:名無しさん@LV上げ中

 そうですか、本当は?

 

467:名無しさん@LV上げ中

 隠さず言えよ。

 どーせここにいるのは全員同じだろ。

 

468:名無しさん@LV上げ中

 あのつまらんって顔を首ごと斬り落としたいよぉおおおおおお!!!!

 もちろんタイマンでな!!!!!

 

469:名無しさん@LV上げ中

 物理は通るんだ、貫通なくても斬れはする。

 問題は当たらないことであって。

 

470:名無しさん@LV上げ中

 反撃なら物によっては必中ですが火力も手も足りませんね。

 

471:名無しさん@LV上げ中

 物反鏡使って突っ込んだ阿呆もいたっけ。

 当然の如く貫通されてたが。

 

472:名無しさん@LV上げ中

 どう見ても抜けてくる気配でしたのに。

 躱すか防ぐの2択でしょう。

 

473:名無しさん@LV上げ中

 防ぐ方はともかく、あっちは命中と回避にバフデバフってくるから避けらんねー

 ソロだと解除する暇も無いんだぞ。

 

474:名無しさん@LV上げ中

 2回行動したい、切実に……っ!

 

475:名無しさん@LV上げ中

 そんなに動けてもお前じゃ結果は変わらねーよw

 と、実際斬られたサイボーグ剣士が申します……

 

476:名無しさん@LV上げ中

 実体験かい!!!!

 

477:名無しさん@LV上げ中

 ガチガチに防具固めるのは前提。

 意味ない? そうか、しらん。

 

478:名無しさん@LV上げ中

 地方巡って修行するかー。

 誰か一緒に行くやつおりゅ?

 

479:一般剣士@LV上げ中

 上野レルム、匂いがした。

 斬りに行くから見たいやつ来い。

 

480:名無しさん@LV上げ中

 は?

 

481:名無しさん@LV上げ中

 あ?

 

482:名無しさん@LV上げ中

 はい?

 

483:名無しさん@LV上げ中

 マジで、行くわ

 

484:名無しさん@LV上げ中

 先越されたぁー!!?

 

 

 

 


 

 

 

「何してるの?」

 

「んー、ちょっと連絡をな。

 たぶんこれでいいや」

 

 スマホを弄り終えると空いた方の手に持っていたピザ、その最後の1ピースを一息で頬張る。

 最近よく食べるようになったお気に入りの1つだ。

 口の中に広がるチーズとベーコンの塩気、ケチャップの酸味をマッスルドリンコで胃の中に流し込みながら、宗吾と美野里は所々瓦礫の転がる道を行く。

 

 彼らが今いるのは都内に複数存在するレルムの1つ――――“上野レルム”。

 つい先日、レイドボスと言う名の経験値()が降臨し激戦区となった場所だ。

 

 現在は崩れた建物の解体と建て直しも進み、大部分は元に戻っている。

 しかし主要な道を少し外れると、放置されたままの箇所もちらほらと目に付く。

 実際はまだまだ荒れた状態―――租界というよりスラムに近い。

 

 その証拠と言わんばかりに、すれ違う人間たちもどこか昏い色を瞳に宿しているものが多い。

 監視に取り締まりを行う傭兵や自警団も数が少なくなっている状況だ。

 おそらく、警戒心が少ないものは物陰にでも連れ込まれてロクな目に遭わないだろう。

 

 本来であれば仕事でもない限り、この2人が訪れる理由はない。

 ただなんとなく、宗吾が勘任せにぶらついた先がここだったという話。

 そのまま歩く、ひたすら歩き続ける。

 

 時折雑談を挟みながら曲がり角を曲がる。

 積み重なった瓦礫によって作られた道なき道を進む。

 途中で浮浪者の集団とすれ違い、胡乱な目で睨まれながらも無視して――――。

 

 

 

 

 

【 とてつもなく恐ろしい気配がする 】

 

 

 

  

 ざあ、と一陣の風が2人の頬を撫でた。あるいは死神の鎌が喉を掠ったのだろうか。

 ……否。勝手にそう感じただけだ。

 この先にいる()の発した戦気が見せた、脳の錯覚に過ぎない。

 

 

 

 それは闘戦の化身者だけが放ち得るもの。

 

武を奉じ、戦を生とし、争剋を己の意味とする者、特有の芳香。

 

 純正の凶気、心を犯す猛毒に他ならない。

 

 

 

「―――――カハッ」

 

 しかし宗吾は笑う、怯え竦むどころか歓喜を露わにする。

 これが意味するのは取るに足らぬ雑草ではなく。

 これより死合うに足る者と認められた証拠である故に。

 

 その様子に努めて平静な口調で美野里が言葉を紡ぐ。

 

「ここで見てる……あたしは、ここに居るから……っ」

 

「ああ頼む――――見届けてくれ、美野里ちゃん」

 

 ここで己の戦いを見届けて欲しいと、ある意味最も残酷な願いを口にする。

 彼女の本音、今すぐ引き返して欲しいという思いを理解した上で。

 返答代わりに、美野里は全力でがら空きの背中を叩いた(押した)

 

 

 

 

【 先に進みますか? 】

 

 

 

【 はい 】
 
【 いいえ 】

 

 

 ―――――ここに来て進む以外の選択肢など存在しない。

 

 

 剣鬼は少女を残し、ゆっくりと歩を進めていく。

 少しばかり進むとそれなりに開けた場所に出る。

 おそらく元は公園か何かであったのだろう広場だ。

 

 人か悪魔が相当大暴れしたのか、戦闘による破壊跡が他の場所よりもかなり目立つ。

 地面や瓦礫に残る変色した血痕がそのすさまじさを伝えていた。

 ある意味で闘技場(コロッセオ)と呼べるかもしれないその場所に―――――男がいた。

 

 羽飾りのついた大きな帽子に赤と黒地のロングコート。

 全てを射抜くかのような金色の瞳と鋭い目つき。

 背中に背負っているのは身の丈ほどある巨大な剣(エスパーダ)。 

 そして、先程から自分を襲っている戦気の発生源。

 

 その姿を見間違えるはずもない。

 かつて裏闘技場で出会った時とは異なる戦装束であろうとも。

 曰く、万人に等しく凶事と死を撒き散らす悪魔。

 

 

 

 

“魔人”がそこにいた。

 

 

\カカカッ/

魔人阿修羅(マタドール)Lv87

 

 

 即座に鯉口を切る。同時に相手も剣を抜き放つ。

 どちらも言葉を発さない。前口上どころか名乗りさえもしない。

 視線、呼吸、剣圧。この場においてはそれだけで十分過ぎるから。

 

 

 ―――戦いの火蓋が切られた。

 

 

《スピードスター》*1悪魔のバトルスピードへの影響が50%増加する

 

 

 魔人が加速する。風よりも速く、音よりも疾く。

 必中必殺を確実のものとすべく、死の舞を踏む。

 半端な者には反応さえ許さない、絶殺への引金。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のほうが疾い」

 

 

 

《スピードスター》悪魔のバトルスピードへの影響が50%増加する

 

 

 

 

 

 魔人は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「これは―――」

 

「初手は貰う」

 

 

 

 

「鬼神楽」草薙の剣*2+魔晶剣*3

《ATTACK》*4剣相性の通常攻撃。

草薙の剣の通常攻撃は前方複数に1~3回

《宿曜経》*5敵・味方とも戦闘中の自動効果が発生しない。

ヤマタノオロチが保有する能力の1つ。

 

 

 本来ある筈の物がない違和感が生んだ一刹那にも満たぬ停滞。

 大多数の者にとっては隙とも言えぬ空白。

 その間隙に―――必斬の意志を以て3つの閃刃が疾った。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

「――――なんだありゃ?」

 

「大道芸の練習か、こんな所で」

 

「はえーなぁ……早過ぎて何してるのかも見えないって」

 

「高レベル同士で遊んでやがんのさ、いい御身分だぜ」

 

「……でもすごい。本当に斬り合ってるみたいだ」

 

 

 ―――人が集まる。

 

 上野レルム復興のために働く作業員。

 小金稼ぎの途中で通りがかった小悪党。

 やる事もなくぼうっとしていた浮浪者。

 

 善人悪人老若男女、それどころか人か悪魔かさえも問わず。

 まるで炎に誘われる蛾のように。

 多くの者がそこで足を止め、その光景に見入っていた。

 

 かつて公園として存在していたレルムの一画。

 その中心で行われているのは2人の剣士による、息継ぐ暇もない()()()()()()

 片方が相手の刃をギリギリで避けてから斬り返す。

 ただひたすらにその繰り返し。

 

 どれ一つ取っても同じ太刀筋はなく、また同じ避け方は一度たりとてない。

 無限に近くある剣の型を延々と続けているように見えるだろう。

 

 

 ―――最初に通りがかった者が見つけてから、()()2()0()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……どうする?」

 

「んなもん何もしない一択だろ。

 割り込む余地あるように見えるのかお前」

 

「ゼッテー死ぬよなぁ……よりにもよってオレらのシフト中に面倒な事しないでくれよ」

 

 その異常さを、これが遊びでも大道芸でもない事を理解する者たちもいる。 

 例えば、このレルムの警備を担当するDBたち。

 連絡を受け現場に急行したはいいが、繰り広げられているのは目を疑う光景だった。

 

 先日このレルムを襲った《神》とついでに多数の剣士を輪切りにした魔人。

 その魔人相手に単独で渡り合う若い剣士。

 この2名による人知を超越しかける()()

 

 現状の戦力では鎮圧する以前の問題なのをアナライズせずとも肌で感じる。

 仮に一歩でも間合いへ踏み込めば、その瞬間膾斬りにされる未来しかない。

 よって自分達に出来るのは待機。この斬り合いの結末を見届ける事だけだ。

 

「一応聞くけどさー、あそこで動画とか撮ってるバカはいねぇよな?

 いたら斬り殺したいんだけど。

 つーか斬るわ」

 

「何人かそれらしき動きを見せましたが問題ありません。

 某が剣気を飛ばして動きを止めましたので。

 余計な騒ぎをするのは後にしましょう」

 

「《ボンボルド(検証班)》くらいは許してやれよ。

 今後の参考になるかもだ……結果はどうあれな」

 

「……なるほど、帽子野郎の業を幾つか殺してやがるのか。

 道理で俺らが殺られた時の動きが無い訳だ。

 なるほどねぇっ!!」

 

 例えば、掲示板のコメントを読んで駆けつけた剣士勢。

 その多くは人類悪による採集決戦(レイドバトル)後の宝石争奪戦で()()()()()()()()()()。 

 マタドールにどのように斬られたか、どのように死んだか。

 敗北者の習いとしてその情報を提供する事となった。

 

 なので将来的にはリベンジをするつもりではあるが―――今は見に徹する。

 古今東西あらゆる剣士が夢見る剣戟の頂点、それを魂に刻み付けるために。

 いずれその領域へ辿り着く、研ぎ澄まされた刃よりも鋭い誓いを胸に秘め。

 

「おやおや、これはどういう事でしょうか」

 

「一見すればただひたすらに攻撃と回避の繰り返し。

 ここまで当たらないのも非常に珍しいですが―――」

 

「あれほどの魔人であれば1ターン(手番)に3行動はするはず。

 ですがやっているのはただ斬り返すだけ」

 

「手加減でしょうか?

 しかしそのような雰囲気は欠片も見えません。

 あの青年が何かしている可能性もありますね」

 

 例えば、一部のメンバーから情報提供を受け現場に到着した《黎明の手》。

 複数のビデオカメラを回しながらこの戦いを記録する。

 情報があまり出回っていない魔人のデータを抜く貴重な機会だ。

 同時に誰もが真剣に推論と考察を重ねながら目を離さない。

 

「複数回動かない理由?

 それは簡単ですよ」

 

 とあるボンボルドが他のボンボルドの疑問に答えた。

 

 

「彼らの中ではまだ終わっていないのですよ、1手目が。

 あれは攻撃と回避ではなく、()()()()()()()()()()()()

 ……言っておいてなんですが自分でも信じられませんねこれ」

 

 

 ――――全てのボンボルドが絶句した。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 戦いとは読み合い、そして忍耐の競い合いとも言える。

 筋肉の収縮、重心の位置、視線の向き、呼吸の仕方etc。

 自身が得られる遍く情報から対象の行動を予測し、それに対応する動きを繰り返す。

 やがて相手が、もしくはこちらが崩れた一瞬に勝敗は決するのだ。

 

 もちろんこれは数ある戦闘理論の1つに過ぎない。

 共通する部分はあれど明確な差異がある戦法。

 あるいは根底から異なるロジックも存在するだろう。

 人の数だけ、歴史を重ねた分だけ戦い方は無数に広がっていくのだから。

 

 

 ―――ただ、この瞬間において要求されるのは忍耐である事に間違いなかった。

 

 

《見切り》*6相手の武器の長さをセンチ単位で見切り回避する。

回避の代わりに使用し、成功したら相手に1回攻撃できる。

相手は回避や防御にペナルティ。

攻撃権を得るスキルなので反撃に対する反撃も可能と裁定。

 

 

 鼻先に魔剣(エスパーダ)が掠らせながら、お返しと言わんばかりに反撃する。

 しかし胴体に風穴を開ける事を企図した刺突に手ごたえはない。

 精々がロングコートの端を掠めるに終わる。

 

 

《見切り》*7相手の武器の長さをセンチ単位で見切り回避する。

回避の代わりに使用し、成功したら相手に1回攻撃できる。

相手は回避や防御にペナルティ。

攻撃権を得るスキルなので反撃に対する反撃も可能と裁定。

 

 

 弾丸よりも速い刺突を見切り、マタドールが反撃する。

 悪魔が持つ異能(スキル)ではなく、能動的に使う技巧(スキル)を以て。

 使わないだけで使えない訳ではないと言わんばかりに。

 積み重ねた死山血河と鍛錬の果てにある太刀筋が襲い掛かった。

 

 

「――――――」

 

 

 頸、胴体、腰を狙った3連斬を再び見切り、もう一度斬りかかる。

 戦闘開始から今まで、この終わりの見えない繰り返しだ。

 一体どれくらい続けているのかもう分からない。

 時間間隔は曖昧で、一瞬のような気もすれば一時間のような気もする。

 

 

 分かるのはこの連鎖が永遠ではない事。

 刹那でも気を抜けばその瞬間終わる事。

 そして―――()()()()()()()()()()()

 

 

 第一に、宗吾はマタドールの防御相性をある程度知っている。

 

 特にこちらのメインである物理は素通し―――反射でギリメかる心配は少ない。

 これが人間なら装備で幾らでも変えようがあるが、悪魔である以上その可能性は低いだろう。

 主にマタドールと交戦経験のある者―――千束や輪切りにされた剣士から入手した情報だ。

 特に疑う必要もない。

 

 第二に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一見何処までも続くようなこの舞踏であるが。

 実はマタドールがその気になればいつでも終わらせられるものに過ぎない。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうすれば手番が向こうに回る。

 己に能力強化を行い命中率を上げてから改めて攻撃すれば良い。

 探りも兼ねて通常攻撃、そこから大技に繋げるといった所か。

 

 宗吾が行っているのはスキルによらない通常攻撃。

 鋭さこそあれ、魔人の膨大な体力からすれば微々たるものでデメリットは無いに等しい。

 合理的に考えればとうの昔にそうするべきで……魔人はその札を最初から放棄している。

 

 

 何故か―――それは魔人が闘牛士(マタドール)だからに他ならない。

 

 

 闘牛士とは赤きカポーテを纏い、華麗なる体捌きで猛牛と闘う戦士だ。

 断じて相手の突進を正面から受け止めるような真似はしない。

 それは単なる力自慢であり、闘牛士としての存在意義(アイデンティティ)を揺らがすだろう暴挙だ。

 

 無論、この魔人は通常の悪魔とは異なる。

 情報生命体であるゆえ困難な自己矛盾も平然と行えるに違いない。

 むしろその思い込みさえ戦略に組み込んでくるだろう。

 

 だから結局はシンプルな、しかし最も譲れない理由。

 

 

 ――――ここで引けば負けを認めた事になる。

 

 

 かつて取るに足らぬと思った剣餓鬼の挑戦、純粋な剣腕の競い合い。

 興が乗ったのもある。そして乗った以上逃げる訳にはいかない。

 例え兵法と分かっていても―――漢には意地とプライドがある。

 

 

 

 

「「―――――――――!」」

 

 

 

 そこから更に数十合を重ねて。

 互いの動きのクセ、呼吸、思考の掌握と先読みを続け。

 やがて風切り音や踏み込みの音さえも無駄なものとして削り切り。

 

 「――――ッ」

 

 静寂の世界での斬り合いの最中、宗吾の目に汗の雫が飛び込んだ。

 幾千幾万のパターンに紛れ込んだ変数(イレギュラー)

 これ自体は問題ない、反射で目を閉じるような鍛え方はしていない。

 だがしかし、視界がほんの僅かに滲んだのは事実。

 

 それを闘争の化身が見逃すはずもなく、僅かな歪みに斬り込んで――――。

 

 

 

 

 ―――《見切り》―――

 ―――《ATTACK》―――

 ―――《急所》―――

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 八瀬宗吾は人間だ。悪魔と違って生理現象は存在する。

 飛び散った汗が目に入る事など、血が流れ込むより可能性は高い。

 だから想定している。だからそこを突いて来る可能性も承知の上。

 

 よって―――急所を狙った刃がマタドールを捉えた。

 深々と頬骨を削り、帽子とピアスの付いた耳が鮮血と共に宙を舞う。

 続いて胸に刻まれた十字傷は会心の一撃(クリティカル)が通った事を示した。

 

 観客のどよめきが広がるが、どちらも意に介さない。動きが止まる。

 宗吾は愛剣を通して伝わった初撃の感触に。

 魔人は己の見切りを超え正面から斬られた事に。 

 

 そして互いに現実が意識へと追いついた瞬間――――――。

 

 

 

「……カ、ハハハハハハ――――ッ!!!!」

 

 

 剣鬼が笑う。たとえ一時の幻想であろうと、白刃で捉えたことに歓喜して。

 

 

「……ク、ハハハハハハ――――ッ!!!!」

 

 

 魔人が笑う。たとえ一時の幻想であろうと、この身へ届かせたことに歓喜して。

 

 

 永劫に続くと思われた死の剣舞が終わる。

 ()()()()はここまで。

 真の死合いはこれより始まるのだ。

 

 

 片や戦場界を制覇する畏怖すべき魔戦士(ブラッドスター)―――マタドール。

 

 片や戦場の常軌を逸して羽撃く魔剣士(ソードソーサラー)―――八瀬宗吾。

 

 優劣勝敗は武の神であろうと知り得ない。

 

 

 ―――地を蹴ったのは同時だった。

 

 

 

*1
※D2

*2
※デビルサマナー

*3
※200X

*4
※女神転生シリーズ全般

*5
※NINE

*6
※誕生篇

*7
※誕生篇




後篇もなるべく早めに書き上げます。


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“Blood star” vs “Sword sorcerer” -後篇-

 

 

 

―――〈199x/xx/xx 加茂玉帝学院グラウンド〉―――

 

 

 カキン、と金属特有の甲高い音が響く。

 それは持ち主の手から得物―――刀が弾かれた証。

 刀はくるくると回転しながら放物線を描き、やがて地面へ突き刺さるように落下する。

 

「これで5連勝……気分はどうだ、ん?」

 

「最悪極まりねーよ、色々と」

 

 刀を弾いた側―――藤原塔也は軽く挑発するように笑って残心を解く。

 刀を弾かれた側―――八瀬宗吾は荒く息を吐きつつその場へ座り込んだ。

 

 放課後、生徒会の仕事が無い日に偶に行う1対1の模擬戦。

 そこで宗吾は塔也相手に5連敗を喫していた。

 剣士同士で互いの手札をよく知り、実力も拮抗する2人だ。

 大抵の場合は一進一退で、どちらか片方に白星が偏る事は珍しい。

 

 これは塔也が急激に腕を上げた結果……という訳ではない、むしろその逆。

 

 

「当たり前だ―――そもそも風邪を引いて絶不調の相手に負けるか馬鹿め」

 

 

 単純に、宗吾がまともに戦えるような体調でないのが全てである。

 

 前日、疲弊した状態でも剣を振れるようと滝に打たれながら修行したのが原因だ。

 当然のように風邪を引き、普段の半分も技のキレがない。

 挙句、今度は風邪のままでも戦えるようにと無理に模擬戦を挑んだ結果がこれであった。

 

「馬鹿じゃねーよ、馬鹿は風邪引かないって諺知らんのか。

 国語の勉強し直して来いよ」

 

「それは風邪を引いた事にも気付いていないという意味だ。

 お前はいっその事小学校からやり直せ馬鹿」

 

「俺は気付いてるから関係ねーな、この馬鹿生徒会長」

 

「馬鹿な事言って論点をずらすな書記の癖に」

 

 ちなみに、彼らの役職はくじ引きで決めたものである。

 近くで訓練をする生徒たちが“またやってる”、“馬鹿のゲシュタルト崩壊”と呆れ顔になるが2人は止まらない。

 そのまま口論は一層ヒートアップしていく。

 

「そもそも何故“休む”という選択肢が無いのだお前は!? 

 生徒会は基本的にブラック企業ではない。

 病人は大人しくしていろ!!」

 

「調子最悪でも剣振らなきゃいかん時もあるだろーが! 

 それに備えて何が悪い!? 

 いつも万全で戦えると思ってんのかバーカ!!」

 

「前提として自己管理が出来ていないだけだろう!

 しつこく頼み込んでくるから付き合ったが今日はこれで終わりだ。

 家に帰って剣を振らず静かに寝ろ、いいな!?」

 

「……もう1回くらい駄目か?」

 

「断る」

 

「どうしても?」

 

「くどい」

 

「そうか………実はお前の妹ちゃんと総次郎がデートしてる。

 俺はその足止めを頼まれてるんだわ。

 どうだビックリしたか?」

 

「―――キサマヲコロシテアイツモコロス」

 

 塔也(シスコン)が修羅と化して剣を振り上げ、合わせて宗吾も愛剣を拾い上げる。

 

「よっしゃあもう1回やろうぜ!!」

 

「そこをどけぇっ! 妹はまだ中学生だぞ!!? 

 あの害虫(バカ)の傍に居たら妊娠させられる!!」

 

 そのまま本日6度目の模擬戦、もとい時間稼ぎが始まった。

 なお結果は乱入して来た新が両者殴り飛ばして無効試合。

 一方で総次郎は総次郎で新たなトラブルに巻き込まれていたが、それはまた別の話である。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「シーンBGM:創痕」*1交渉など無い、逃走はあり得ない。死力を尽くすべし。

 BGM『創痕』

 

 

 

 

「―――まずは探るか」

 

 

 

《疾風の咆哮》*23ターンの間、敵全体の回避と命中を一段階低下させ、

味方全体の回避と命中を一段階上昇させる。 

《乱れ打ち》*3手技属性、敵全体に物理小ダメージ。

敵全体に魔封(沈黙)の追加効果。

 

 

 マタドールが動く。

 疾風を身に纏い放たれるのは魔封じの刺突。

 これまでの物よりなお鋭くなった一撃。

 宗吾は回避の為に体を捻るが躱しきれない。右肩が抉られる。

 

 

――― 【PROTECTION】―――

 

 

 ()()()()()()()()()

 剣を伝いマタドールが感じたのは、鉛に沈められたかのような重い手応え。

 魔封も入った様子が無い、否―――()()()()()()()()

 思考と並行して手首を返し、再び刃を走らせる。

 

 

《ATTACK》*4剣相性の通常攻撃。

その斬撃は単体にて複数度(1~3回)刻む。

 

 

――― 【PROTECTION】―――

 

 

 3太刀、いずれも急所を狙った斬撃の内2つは回避。

 残る1つは腹を裂いたが、返って来たのは先程よりも硬い感触。

 鷹の如き鋭い眼が切り裂いた服の下―――白き輝きの鎧を捉えた。

 

白桃海青(対刃物)だな」

 

「結構苦労したんだぜ、手に入れるの」

 

 

《猛反撃》*5攻撃してきた対象に中確率で剣相性ダメージ。

防御力無視及び必中。

⇒オプションルール採用。

本来は剣相性のみだが、格闘攻撃であるなら万能含めて発動する。

とあるデビルサマナーとの模擬戦で完成させた。

《急所》*6割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。

直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。

急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()、マタドールの心臓へ柄頭による打撃が叩き込まれた。

 大気が爆散する音を伴う、肉体強度を無視した2連打。

 木っ端悪魔なら原形を留めず粉砕されるであろう威力の反撃。

 魔人はあえて踏み止まらず、勢いを利用して数歩分の距離を取る。

 

(ニヤリ中、だがそれ抜きにしてもあの動き。

 やはりこの青年―――!)

 

 記憶を掘り起こす。

 かつてヒマつぶしで雇われていた裏闘技場。

 目の前の青年とはそこで遭遇している。

 

 仕事中、安ビールとホットドッグを奢られたのだ。

 その返礼としてイメージトレーニングに付き合った。

 ソウルはともかくとして強さはまるで足りていなかった。

 

 時間から逆算しても、己とここまで戦える力を得られるはずがない。

 外法によって無理矢理力を上げたとしてもここまでは不可能。

 自らの内にある知識、経験を総動員し導き出される答えは1つ。

 

 

「貴様“ゾーン”に入っているのか―――面白い!」

 

 

「ハイ:HI」*7グッドステータスとして扱う。

⇒「全能力が一時的に倍になる」

1/100の確率で発生する効果。

「絶好調」*8攻撃力・防御力・命中・回避・クリティカル率が上昇、バステ付着率が低下

「ニヤリ」*9・攻撃ダメージはおおよそ3倍に上昇。

・クリティカル率アップ。

・スキル命中率100%  

・弱点および被クリティカル攻撃が無効化する。

 

 

 それは極小の確率で発生する一時の幻。

 200%のポテンシャルを発揮するという奇跡のような現象。

 実質レベルが倍になったに等しく、当然ながら自らの意思でなれるものでもない。

 

 ただこの日、この時、この瞬間だけは。

 奇跡ではなく目の前の魔人を斬り伏せるという執念が引き寄せた必然であり。

 

 

\カカカッ/

剣士八瀬宗吾Lv60(120)相性:全体的に強い、破魔吸収、呪殺無効

◆防具

 頭:Aマックスヘルム(全対応)

 胴:白桃海青(対刃物、体+2)

 足:ローラーブレード(速度・回避率上昇、速+3)

 手:鬼神の小手(呪殺無効、力+2)

 アクセ:悪魔のピアス(HP20%アップ)

「命中のバンビーノ」*10命中率上昇、攻撃回数複数の攻撃回数が多くなる。

 

 

 剣鬼―――八瀬宗吾は本来なら届くはずもない超越者の域へと足を踏み入れていた。

 

「カハッ! ありがとよぉっ!!」

 

 

《デスバウンド》*11敵単体に2~7回、力依存の中ダメージ。

 術者のHP最大値が大きいほど威力が上がる。

 ヤマタノオロチを打倒し手に入れた連撃の業

《急所》*12割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。

 直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。

 急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。

 

 

 歓喜と感謝の叫びと共に7つの剣閃がマタドールに喰らい付く。

 魂の励起(ニヤリ)により回避は不可能。

 極限まで威力が跳ね上がった致命へと至る斬撃(クリティカル)は、膨大な体力を持つ魔人であろうと無視出来るものではない。

 

 

 ―――手番が回る。

 

 

「ならこれはどうする」

 

《疾風の咆哮》*133ターンの間、敵全体の回避と命中を一段階低下させ、

味方全体の回避と命中を一段階上昇させる。

《魂砕波》*14万能相性。特殊魔法攻撃。

対象のHPを1にする。

 

 加速と減速の咆哮、続けて魔人の手より放たれるのは魂砕く波動。

 生命力そのものに干渉し極限まで削り切る死神の鎌。

 闘牛士/殺す者(マタドール)たる彼が有し、多くの敵を死へと至らしめた殺戮の魔法である。

 

 

「―――そいつは()()()

 

 迷うことなく、宗吾は刀を振った。

 

 

《魔法防御Ⅱ》*15魔晶剣と魔晶杖で使用可能。

回避の代わりに使用する。

魔法攻撃1回に対し、魔晶剣(杖)の威力修正を魔法防御点に加える。

魔晶剣(杖)の属性攻撃に対応する相性の攻撃だった場合、

その相性に「強い」ものとして扱う。

この判定にクリティカルした場合、ダメージと効果を完全に打ち消す。

⇒無効と裁定する。

《絆スキル:判定値上昇》*16判定値を「絆レベル×10%」上昇する。

⇒剣士仲間たちとの絆を使用。

⇒彼らとの絆レベルは【4】である。

 

 

 空間ごと死神の鎌(万能魔法)は斬滅された。

 

 “魔法防御”―――魔晶剣を持つ者が使う対魔法用の防御技法。

 理論上、例え万能であろうと嵌まれば必ず軽減、もしくは無効化する。

 だがそれは飛来する弾丸を斬るよりもはるかに難易度の高い―――少なくともこの魔人相手には―――芸当だ。

 これまでの観察があったとして、初見の魔法相手にここまで上手くいくはずもない。

 ならこれは偶然か? ―――否。

 

 


 

「うおっしゃぁああああ! 

 やりやがったアイツ!!」

 

「体張った甲斐がありましたなぁっ!」

 

「残念です、あれも私が先に攻略したかったのですがね」

 


 

 

 少し離れた場所で観戦する集団の1つから大声が上がった。

 宗吾と同じ剣士であり、魔人に輪切りにされた経験のある者たち。

 彼らがその身で受けた技を全て、()()()()()()()()()()()()()()()()成果である。

 

 そして、マタドールもこの結果に一瞬目を見開く。

 無形たる魔法、それも万能の力が破られた事を目の当たりにして。

 宗吾が何を行ったのか理解した後、湧き上がったのは“それでこそ”という思い。

 

 この程度で躓くようであれば、端から単独で挑む真似はしないだろう。

 こちらの首を取る為、この青年はあらゆる準備をして来たのは間違いない。

 ―――よって、次に放つのは()()()()()()()

 

 

もう一つの地球は嘲笑う(アンティクトン)

 

 

《アンティクトン》*17魔法攻撃。敵全体に万能属性で特大ダメージ。

攻撃力・防御力・命中・回避率を一段階低下させる。

 

 

 再びの万能魔法。

 だがこれは先のものとは比較にならない精度と密度だ。

 生命力を削るどころか、まるで存在その物を否定する神の裁定に他ならない。

 

 ―――斬って防ぐのは困難。

 ―――躱すのはそれ以下。

 ―――受けるのは論外。

 

 論理的思考ではなく第六感で判断。

 よって宗吾が選んだのは第4の手段。

 

 

「平成ライダーの数知ってるか? ―――20人にも居るんだぜ」

 

 

《形代》*18人形を作って、術者の身代わりに使用する。

 本人の代わりに呪詛返しや()()()()()()を受ける。

 符術に分類されるカルトマジック。

 

 

 同時刻、宗吾の部屋にある自作のフィギュアが1つ砕け散った。

 

 “呪詛移し”。

 古来より存在する人形を用いた呪詛、あるいは呪い避けの術。

 消耗品かつデメリットもあるが、魔法および数少ない万能への対抗手段として、宗吾は普段からコツコツと製作していた。

 彼の場合、作れるのは最も思い入れの深い仮面ライダーのフィギュアである。

 

 無論、宗吾は純粋な術師ではない。あくまで補助目的に修めているだけ。

 1つ完成させるだけでも困難であり、実を言えばストックの数はそれほど多くない。

 ただ総数を知らぬ以上、相手にとっては1手無駄にするリスクを背負う。

 

 馬鹿のように万能を連打するなら話は変わるが―――そのような手合いでもないだろう。

 視線が交錯する。

 

「卑怯と思うか?」

 

「いいやちっとも!」

 

 

 ――― 修羅に入る(ニヤリ状態)―――

 

 

《デスバウンド》*19敵単体に2~7回、力依存の中ダメージ。

術者のHP最大値が大きいほど威力が上がる。

ヤマタノオロチを打倒し手に入れた連撃の業

《急所》*20割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。

直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。

急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。

 

 

 魂の励起(ニヤリ)、そして再び7つの剣閃が走った。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 瓦礫まみれの公園は、今や剣戟による神楽の舞台と化していた。

 ある種の芸術の域に達した魔人と剣士の殺し合い。

 それに魅入られた観衆から離れた位置で、美野里は事の行く末を見守っていた。

 

 ここまでは良い。ほぼ最善の展開を引けている。

 相棒の連撃―――卑劣滅多切りと呼んでいる―――はこれ以上ないほど命中し、対して魔人の攻撃はそれほど深手を負わせてはいない。

 この日の為に、彼の魔人を知る相手から超能力を用いた情報収集(サポート)を行ってきたのだ。

 その集大成がこの光景と考えれば当然とも思える。

 

 それを踏まえた上で―――()()()()()()()()()()()()

 

 まず前提として人間と悪魔では基本性能が違う。

 10も上回れば単位が。40も超えれば別次元に。

 例え実質的なレベルで上回っていようと、厳然な力の差がそこに存在する。

 

 まして相手は強大な悪魔(BOSS)なのだ。

 人間であれば消し飛んでお釣りがくる斬撃を10回以上受けてなお、マタドールの体力は半分も削れていないだろう。

 単独で戦う選択肢自体が間違いであり、徒党を組まねば人に勝ち目はない。

 

 ―――だというのに。

 

「……全っ然諦めてないんだから。

 斬り殺せるって欠片も疑ってないわよねあれ」

 

 今なお剣を振るう相棒は敗北の可能性を全く考えていない。

 自身の力を過信した愚か者だからでは断じてない。

 心が勝利を疑えば、その時点で押し込まれると知っているからだ。

 

 斬る、絶対斬る、斬り殺して勝つ。

 力を使わずともその意思が手に取るように分かる。

 

 別の場所にいる馬鹿仲間(剣士)たちも似たようなものだ。

 ああいった人種がまだまだいる事にゲンナリするが、今はいい。

 どの道、美野里はこの戦いに割り込むつもりはない。

 

 そういう約束をしていたし、説得は全て暖簾に腕押しだった。

 だから―――自分の出番はまだここではない。

 

「あんだけ苦労したんだから―――勝ちなさいよ宗吾さん。

 負けたらタダじゃ済まないわよ」

 

 自分の感覚ではなく、自分の相棒を信じて。

 少女は応援を口にした。

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 ―――手番が回る。

 

 

《疾風の咆哮》*213ターンの間、敵全体の回避と命中を一段階低下させ、

味方全体の回避と命中を一段階上昇させる。 

 

 三度目の咆哮。

 流れる血を置き去りに、音すら許さぬ速度でマタドールが駆ける。

 最速最短距離で敵へと向かう弾丸のような疾駆。

 構えは下段、切り上げを狙ったもの。

 疾走とは相性の悪い構えだが、魔人の身体能力はそれを誤差とした。

 

(大技が来る―――!)

 

 意に先んじて宗吾の肉体が回避運動に入った。

 しかし強化と弱体化を重ねられた状態だ。

 回避(当たり)を引ける確率は1割以下。はっきり言って分の悪すぎる賭け。

 

 かと言って素直に喰らってやるつもりは毛頭ない。 

 加速(オーバークロック)する意識の中、迫る刃と鈍い動きの肉体が競争が開始する。

 迫る、逃げる、迫る、逃げる、迫る、逃げる―――果たして。

 

 

《見切り》*22相手の武器の長さをセンチ単位で見切り回避する。

回避の代わりに使用し、成功したら相手に1回攻撃できる。

相手は回避や防御にペナルティ。

攻撃権を得るスキルなので反撃に対する反撃も可能と裁定。

 

 

 決め手は前方に出していた左足だ。

 膝を全力で後方へ向けて押し伸ばし、全身の退避に成功。

 動いた距離はほんの僅か。それでも、予測される斬撃の軌道から僅か数ミリ単位で脱出。

 ―――見事、回避(当たり)を引く。

 

(いける、剣を振り切った所にまた連撃を叩き込んで)

 

 

 

 

「甘い」

 

 

 

 

《雷霆蹴り》*23足技属性、敵2体に物理ダメージ。

術者のHP最大値が大きいほど威力が上がる。

魔人のHPで放たれる蹴りは想像を絶する。

 

 

 ―――都合のいい錯覚を知る。

 

「ぐ……がっ!?」

 

 激痛と衝撃が共に現実を突きつけた。

 知覚から発生源を逆算。受けた場所は胸。

 おそらく胸骨と肋骨が粉々に砕けている。

 防具が無ければ見るも無残な状態になっていたに違いない。

 

 原因を推測する。

 おそらく、予想していた軌道とタイミングがズレた事が負傷の理由だ。

 

(なんでズレた……っ!?)

 

 目に映るのはマタドールが斬り上げた姿勢。そして不自然に片足の浮いた状態。

 脳に電流が走る。

 彼が一体何をしたのかを宗吾は理解した。

 

()()()()()()()―――!?)

 

 西洋剣術の一部にはそういった奇襲目的の技法がある事を思い出す。

 おそらくはその応用。

 攻撃の最中。回避される事を悟り、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 恐るべきは常軌を逸した即応能力。

 人間を上回る知覚機能、積み上げた戦闘経験によって磨かれた“勘”が合わさって成るもの。

 喰らった側だというのに称賛せずにはいられない超絶技巧。

 

 だが―――これは前段階に過ぎない。

 

(マズイ、浮かされてる!)

 

 斬り上げを受け、衝撃で両足が地面から離された。

 これが意味するのは1つ。身動きの取れない死に体にさせられたという事。

 これより放たれるであろう“本命”への対処が極めて困難となる。

 

 

「では踊ろうか―――“血のアンダルシア”」

 

 

《血のアンダルシア》*24敵複数に物理属性で大威力の攻撃を4~12回行う。

 

 

 これまで宗吾が放ってきた7連撃を上回る9()()()

 ()()()()()使()()()()()の、マタドールが代名詞たる絶殺の絶技。

 血のように赤い輝きを放つ刃に刻まれ、剣鬼は勢いよく吹き飛び地面へと叩きつけられた。

 

 それを見た観衆からどよめきの声。

 何が起きたのか理解していないのが大半だが、それでも剣士が追い込まれたのは分かる。

 

 ある者は思った―――流石にこれで終わりだろうと。

 ある者は思った―――そろそろ鎮圧に動くべきかと。

 ある者は思った―――今更だが逃げた方がいいなと。

 剣士達は思った―――ここからが本番だろうと。

 検証班は思った―――もっとデータが欲しいから頑張ってくれと。

 美野里は思った―――まだあの馬鹿は終わらないと。

 

 

 

「…………すげぇなぁっ今の業!!!!」

 

 

 

 興奮を隠し切れない声と共に、跳ね上がるようにして剣鬼は起きた。

 誰がどう見ても重傷だ。傷口からとめどなく零れる血は傷の深さを物語っている。

 出血量からして持って1分程度……だというのに、その瞳には爛々とした輝きが宿っている。

 

 当たり前の話である―――“血のアンダルシア”(アレ)を見て昂らぬなら剣士ではない。

 

 マタドールは思った―――当然立つだろうと。

 ()()9()()()()()4()()()()()()()()()猛反撃(返し技)を受けていたのだから。

 交差の際、斬り落とされた左の小指を見る。

 死に体にされながらも最善手を掴む、天性の勘を磨いた果ての生存技術。

 

 正直、今の業で仕留められると確信していた。

 それを見事外されたのだ―――魔人もまた昂りを隠し切れずに口元が歪む。

 

「カハハァ―――ッ!!」

 

 吹き飛ばされた距離を詰めるように、今度は宗吾が疾走を開始する。

 迅い、しかしマタドールには及ばない

 これでは不十分。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でなければ、魂が励起した(ニヤリ)状態でもない限りこの魔人を捉えるのは至難の業。

 

 ―――ならば、捉えられるようにするまでの話。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(これは、速度が一定ではない……惑わしか)

 

 

 すぐさまマタドールは宗吾の狙いを看破する。

 彼が行ったのは歩幅を()()()させる事だ。

 速度を一定にしない事で敵を幻惑し間合いを狂わせる歩法。

 マタドールとは正反対の、スペックに頼らぬ人智の技術。

 

惑わされれば攻撃を受け、逆に見切れば斬り捨てられる。

 

「いいだろう、来るがいい」

 

 ならば迷うまでもない。

 立場を入れ替え、此度はマタドールがカウンターの姿勢を取った。

 半端をすれば剣鬼の命脈はここで尽きる。

 

 

 ―――魔人が待つ。

 ―――剣鬼が征く。

 

 

 間合いが狭まる、際限なく。

 指呼の間が対話の間に。対話の間が斟酌の間に。

 それさえ過ぎて―――互いの瞳の中に、己の姿を視認した。

 

 

「「―――――ッッ!!」」

 

 

《見切り》*25相手の武器の長さをセンチ単位で見切り回避する。

回避の代わりに使用し、成功したら相手に1回攻撃できる。

相手は回避や防御にペナルティ。

攻撃権を得るスキルなので反撃に対する反撃も可能と裁定。

 

 

 マタドールが気を吹く。

 足を蹴り出し全身を射出。

 迸る刃、狙うは眼前の宗吾。もはや吐いた息さえ届く距離。

 

 間合いを完全に見切り、繰り出すのは《冥界破》*26

 周囲一体を全て破壊する斬閃にして破滅の嵐。

 回避不能、確実に断ち切った自信がある。

 

 

 

 ―――なのに何故、魔剣(エスパーダ)は血に濡れず空を斬るに終わったのか? 

 

 

 

 時間の流れが遅くなる(オーバークロック)

 かろうじて動かせる眼球だけをゆっくりと上に向けた。

 これといった理由は無い。強いて言えば風に違和感があったから。

 だがそこに、明快にして異常なる答えがあった。

 

 マタドールの頭上、体を前に屈め宙返りしつつ。

 刀を担ぐように構えた剣鬼がそこに居た。

 歯を剥き出しにして笑う口元から零れるのは一言。

 

 

 

「―――雲耀」

 

 

 

《雲耀の剣》*27一呼吸の十万分の一の時間で切り下すと言われる神の剣。

回避や防御に-80%のペナルティ。

たとえ、回避や防御をしても、音速を超える刃先の速度によって

剣風が相手及び相手の後方にいる敵全てを切り裂く。

対象となった者は、射撃回避をする。

剣そのものか剣風かを問わず、

この攻撃によって最終的に1点でもダメージを

受ければ打撃のショックが全身に伝わって瀕死となる。

もちろん、HPが0未満になれば即死する。

《踏み込み》*28補助動作(手番を使用しない)

一瞬の踏み込みによって移動のペナルティを受けず攻撃可能。

直後の攻撃に対し、回避・防御の判定値が威力分低下する。

《急所》*29割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。

直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。

急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。

 

 

 宗吾は信じていた―――この魔人は確実に間合いを把握すると。

 見切った上で、己を斬り裂く剣を振るってくると。

 だから、その未来を捻じ曲げた。

 

 見切られたと確信した瞬間に跳躍、そして回避からの即斬。

 創作の中だけにしか存在しない筈の剣――“鬼走り”*30の亜種。

 魔人の勘を文字通り飛び越えて、神速の刃ががら空きの背中へと叩き込まれた。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 膝を折って着地―――宗吾は勢いを殺さぬまま駆けて距離を取る。

 振り返ったのは互いにほぼ同じタイミング。

 目にしたのは楽しげに笑う魔人の顔。

 

 自分も同じように笑っているのだろう。

 しかし、修羅に入って(ニヤリ)はいない。

 流石に曲芸染みた真似をしつつ致命(クリティカル)に入れるのは難しかった。

 

 頭の中の冷静な部分が現状を分析する。

 こちらの残り体力は1割あるかどうか。

 対する相手はようやく半分を割ったという所か。

 

 斬り殺すには渾身の7連撃(デスバウンド)を2、3回は入れる必要があるだろう。

 そして非常に残念な事に、そんな余裕は体のどこにも残されていない。

 大技は使えてあと1回が限界といったところか。

 

「上等……っ!」

 

 笑みを深める。

 1回でも剣を振れるなら十分過ぎるほどだ。

 ここに来て、宗吾から発する剣圧が最大のものとなる。

 静謐さを保ったままの、触れれば思い込みだけでショック死しかねない気当たり。

 

「ハッ、ならばもう一度だ」

 

 それを一身に受け、返礼としてマタドールも同等の剣圧を発し相殺する。

 ()()()()()、物理的な影響力を持たぬはずの力が現実を犯す。

 

 マタドールは敵を、全身を血に染めた青年を見た。

 その命は既に風前の灯火。この圧は蝋燭の炎が燃え尽きる前の最後の輝きだ。

 だからこそ気を抜く訳にはいかなかった。

 

 手負いの獣は信じられない力を発揮する。

 残された全てを燃やし、目を焼かんばかりに輝きを増すソウルを前に手を抜くなどあり得ない。

 マタドールもまた瞳の奥の炎へ薪をくべ続ける。

 

 ―――最大の敬意()を持って殺さねばならない。

 

 温存していた札を切る。

 

 

《挑発》*31敵全体の防御力を2段階下げ、攻撃力を2段階上げる。

《気合い》*32一度だけ自分の物理攻撃力を2.5倍に強化。

 

 

 独特のステップを踏み、敵の防御を弱めつつ力を溜める。

 ギチリ、と肉と骨の軋む音が内側から響いた。

 これより放たれるのは文字通り必殺を期したもの。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「“血のアンダルシア”」

 

 

《血のアンダルシア》*33敵複数に物理属性で大威力の攻撃を4~12回行う。

踏み込み(赤のカポーテ)*34補助動作(手番を使用しない)

一瞬の踏み込みによって移動のペナルティを受けず攻撃可能。

直後の攻撃に対し、回避・防御の判定値が威力分低下する。

使わないだけで、使えない訳ではない。

 

 

 形なきカポーテを振るい、世界さえ叩き割る12の赤き閃光が宗吾へと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

佐々木さん(ダーリン)傷つけた借り、熨斗つけて返しちゃってよやっさん♪」

 

 


 

 

 

 刹那、マタドールの耳にあり得ざる幻聴が届いて―――――。

 

 

 

 

「そうか―――こうやるのか」

 

 

無行の位(ブレイドスティール)*35相手の格闘攻撃に対する反撃技。

この特技を使用すると、相手の格闘攻撃が反射される。

反撃に分類されるスキルであり()()()()()()()()()()()()()

⇒物理反射と裁定。

《絆スキル:判定値上昇》*36判定値を「絆レベル×10%」上昇する。

⇒錦木千束との絆を使用。

⇒彼女との絆レベルは【7】である。

 

 

 12の刃を受け止め、それらを剣先から柔らかく流し、廻り出すように前へと射出。

 膨大な運動エネルギーを体内で循環させつつ。

 すれ違いざま、鏡写しのように―――全て叩き返した。

 

 

―――【盗芸:血のアンダルシア】―――

 

 

「なにっ!?」

 

 マタドールは己の業に打ち据えられた。

 先程の宗吾と同じく、いやそれ以上の勢いで吹き飛び、地面に転がり続ける。

 札を温存していたのはマタドールだけではない。

 

 模倣剣技(ブレイドスティール)

 千束(友人)の力を借りねば成功しなかったであろう、一度限りの切り札。

 最大の効果を発揮する時を狙い、抱え落ちする覚悟でこの瞬間まで伏せ続けていた。

 企みは成功し、魔人の姿勢は大きく崩れた。

 今ここに千載一遇のチャンスが訪れる。

 

 

 ――― 修羅に入る(ニヤリ状態)―――

 

 数十メートル先。

 ダメージを無視して起き上がったマタドールは見る。

 ()()()―――切っ先を向けるように構える剣鬼の姿を。

 直後、魔人の本能が最大の警鐘を鳴らした。

 

 そう、八瀬宗吾に勝機があるとすれば……最初からこれしかない。

 これまでの剣の応酬は、ここに至る為の布石。

 膨大な体力を半分以上消し飛ばしうる、彼だけの“魔剣”。

 いまだ完成に至らずとも、ニヤリ中ならばある程度は補える。

 

「今度は俺の全霊だ―――受けろよマタドール」

 

 

《我流魔剣・■■狼》詳細不明。いまだ完成に至らぬ―――八瀬宗吾だけの魔剣

《絆スキル:判定値上昇》*37判定値を「絆レベル×10%」上昇する。

⇒若槻美野里との絆を使用。

⇒彼女との絆レベルは【■】である。

 

 

 

 その日、上野レルム全域に原因不明の地震が発生した。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

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 ・

 

 

「っ……皆さん無事ですか?」

 

「衝撃でひっくり返った程度です、問題ありません」

 

「おやおや、土埃が凄まじいですね。視界が殆ど塞がっている」

 

「カメラは死守しました。撮影を続行します」

 

 パラパラと降り注ぐ砂を払いながら、《黎明の手》の検証班たちが辺りを探る。

 メンバーの誰かが言ったように、視覚は役に立たない。薄暗い土煙だけを映すだけ。

 しかし音は別だ。

 

 何があった、魔法でも使ったのか、爆発した―――そういった声が耳に届く。

 自分たち以外のギャラリーが発する声だろう。

 悲鳴や絶叫の類は聞こえる範囲では存在しない。

 

 少なくとも、離れていた者たちには然程影響は無いようだ

 精々が転んで腰を打った程度……異能者であれば事故にもならない。

 

「“一般剣士”殿*38が何かしましたね。

 おそらく彼の奥の手……剣技であるのは間違いないですが。

 記録を後で見返すとして――― 一体何したんだよあいつ」

 

「地が出てますよ。今は検証班の1人として振舞うように――――ッ!」

 

 ボンボルドの1人が窘めた瞬間、一際強い風が吹く。

 人為的な気配の無い、純粋な自然現象。

 戦場を覆う土埃のベールが払われ、開けた視界の中で観衆たちが目の当たりにしたのは。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、それが貴様の“魔剣”か」

 

「人である事を誇り、人であり続けようとするが故の業」

 

「俺が使ってもこれだけの威力は出せないだろう」

 

「――――惜しかったな」

 

 

 

 

「完成していれば……食いしばれなかった!」

 

 

 

 

 右上半身が吹き飛び、残された手に持った大剣も半分に折れた魔人の姿。

 そして魔人の反撃(蹴り)が胸へと突き刺さり、肺腑を完全に潰された剣鬼の姿。

 

 

 

《食いしばり》*39HPが0になる攻撃を受けた時、DEADの状態になる代わりにHP1とする

《反撃》*40剣相性の攻撃を受けた際、回避の代わりに使用する。

攻撃してきた対象に剣相性のダメージを与える。

この反撃に対する回避や反撃は行えない。

オプションルール採用により、格闘攻撃に反撃可能。

真Ⅴにおいてマタドールは習得している。

 

 

 

 誰もが息を呑む。

 マタドールとは逆に宗吾は食いしばれなかった。

 限界寸前まで消耗した所に想定外の反撃を受けたからだ。

 ―――命の灯火は消え、後は敗北の躯を晒して終わるだけ。

 

 

 

 

「ま だ だ !」

 

 

 

 

《男気Ⅱ》*41使用者のBSを解除し、HPが0以下の場合は1にする。

このスキルは使用者がDEAD状態でも使用できる。

ランク回数まで使用可能。

 

 

 燃え残った物をもう一度燃やし、気合いと根性、男の意地で息を吹き返した。

 まだ終わらない、終わってなるものか、絶対に斬るという決意。

 そのまま空いた手でマタドールの胸倉を掴み上げた。

 超至近距離―――手番が回り、魔人の折れた剣が閃く。

 

 

 

3度の斬撃が腹を裂いた(ATTACK)

 

男気Ⅱ(ま だ だ )! !」

 

3度の刺突が頸を刻む(ATTACK)

 

食いしばり(ま だ だぁっ )! ! ! !」

 

 鍛え上げた腹筋と壊れかけの防具で刃を止め、執念で固めた首の骨は断たれる事を許さない。

 目と目が合う―――最後の交差。

 

 

 

「「オ、オオオオオオオオッ!!!!!!!」」

 

 

 

 

―――《猛反撃》―――

―――《ATTACK》―――

 

 

 

 カキン、と金属特有の甲高い音が響く。

 刃が届いたのは―――宗吾の方が速かった。

 

 この結末に至った原因を挙げるなら2つある。

 1つ目はマタドールが口にした通り、技が完成していなかった事。

 参考とした鳴神虎春の物と同様に、空間に威力が逃げたのが大きい。

 

 2つ目は武器だ。

 鬼神楽は間違いなく名刀であり業物。

 1流のDBが振るう武器にも決して負けない代物である。

 

 

 ――――魔剣を1度放つ、そこが現状における限界だった。

 

 

 よって、マタドールの剣は心臓を貫き。

 宗吾の剣は頸に当たった所で折れて宙を舞ったのだ。

 

 

 

 

 

 

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 ・

 

 

 

 柄から手を離し、よろめくようにしてマタドールは数歩下がる。

 気を抜けば霊核が壊れかねないほどの消耗状態。

 戦闘を終えた事で少しは体力が戻ったが、*42それでもまだ危ういままだ。

 

 同時に―――そのような事が些事に思えるほどの満足感に満たされている。

 

(実に良き闘争、良き死合いであった)

 

 眼前の、立ったまま息絶えた青年に改めて視線を向ける。

 歯を剥き出しにして、心の底から楽しそうな笑顔だ。

 これまで数え切れないほどの強敵と刃を交えて来た。

 しかし、本来であれば2、3合で終わる程度の。

 人間の剣士1人相手にここまで追い詰められたのは、流石の魔人も初めての経験であった。

 少なくとも……この青年の事は生涯忘れないだろう。

 

「……む?」

 

 ふと、気配を感じる。

 敵意は無い。さらに言えば興味さえ感じない。

 漁夫の利を取りに来た無粋な輩ではあるまい。

 

 やがて、剥き出しになった土を踏みしめながら1人の少女が近づいて来た。

 ボロボロのマタドールを無視し、心臓を貫かれた青年を見つめて一言。

 

「―――馬鹿。馬鹿過ぎるでしょ、こんなになって。

 斬り合いにしか興味ない馬鹿、剣に欲情するヘンタイ!

 なんでそんな風に笑ってんのよ……っ!!?」

 

 最後は怒鳴りながら少女は青年を横たえると、心臓に突き刺さった剣を抜いて反魂香を使う。

 ついでに1発ビンタをするとガハッ、と呼吸が戻る音。

 どうやら無事蘇生に成功したらしい。

 だが、よほど消耗が激しいのか意識は戻らず気絶したままであった。

 

「…………っ」

 

 無言で抱きしめる。

 壊れ物を抱くように優しく、赤子を守るように強く。

 その表情は安堵の一色だ。

 

「その青年の女か……どうも縁に恵まれた男のようだな」

 

「……満足してるんでしょ、この人と斬り合って。

 余計なのが来る前にさっさと行きなさいよ。

 私も……今は何もしない」

 

 マタドールの言葉に答えず少女―――美野里は冷たく返す。

 実際その通りだ。

 今は観戦していた剣士たちが動いているがいつまでも持たない。

 

 このままでは余韻に水を差す者が確実にやって来るだろう。

 マタドールとしても今日のヒマつぶしの成果は十分過ぎた。

 美野里の言う通り踵を返し、この場から離れようとして―――。

 

「餞別だ、剣と一緒にくれてやる」

 

 土に埋まっていた何かを、美野里に向けて蹴り飛ばす。

 危うげなくキャッチした手には、シンプルなデザインのピアスがあった。

 宗吾が初めて一太刀入れた際に耳と一緒に斬り落としたもの。

 

「起きたら伝えろ。

 それは再戦の証だ……次に死合う時を楽しみにしているぞ」

 

「―――言っとくけど、その時は私も戦るわよ。

 二度も人の男ボコらせるか」

 

 最後に、宗吾に匹敵する殺意を背中に浴びつつ。

 死の運び手たる魔人は音もなく姿を消すのだった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

「…………負けたのか俺」

 

「起きてすぐ言うのがそれ? 

 ―――負けたわね。常識で考えたら当然だけど」

 

「修行が足りなかったかー……。

 まあいいや、生きてるならリベンジ出来る。

 って訳で一から修業を―――」

 

「今は休んでなさいよ馬鹿。

 言っとくけど、次は私も混ざるわよ。

 魔人相手にタイマンはこれっきりだから」

 

「……どうしても?」

 

「ダメ、ゼッタイ。

 あと無茶に無茶重ねたんだから動けないでしょ。

 そもそもあんたの剣折れてるから先に修理しないと」

 

「言われてみると全然力入らんな……って折れた? 

 俺の幻覚とかじゃなくてマジで折れたの???」

 

「ほら、真ん中からポッキリといってる」

 

「ぁ、ああああああっ!! 一応家宝がぁっ!!?」

 

「ちょっ、くすぐったい膝の上で頭動かさないで!」

 

 

 

 この後、2人はいい笑顔をしたレルムの警備責任者に捕まるが。

 それはまた別の話である。

 

 

*1
※200X

*2
※D2

*3
※真Ⅱ

*4
※女神転生シリーズ全般

*5
※200X及びオプションルール採用

*6
※誕生篇

*7
※基本システム

*8
※P3

*9
※真Ⅳ

*10
※SH2

*11
※デビルサマナー

*12
※誕生篇

*13
※D2

*14
※真Ⅳ

*15
※200X

*16
※200X

*17
※真Ⅳ

*18
※誕生篇

*19
※デビルサマナー

*20
※誕生篇

*21
※D2

*22
※誕生篇

*23
※真Ⅱ

*24
※真Ⅳ・F

*25
※誕生篇

*26
※真Ⅳ・F 敵全体に物理属性で大威力の攻撃を1回行う

*27
※誕生篇

*28
※誕生篇

*29
※誕生篇

*30
藤沢周平の短編剣豪小説「宿命剣鬼走り」あるいは「刃鳴散らす」の魔剣“昼の月”

*31
※真Ⅲ

*32
※真Ⅲ

*33
※真Ⅳ・F

*34
※誕生篇

*35
※覚醒篇

*36
※200X

*37
※200X

*38
宗吾のHN

*39
※女神転生シリーズ全般

*40
※真Ⅴ⇒200X&オプションルール採用

*41
※200X

*42
《勝利の小息吹》 真Ⅴにおいてマタドールは習得している。





・Result

八瀬宗吾 Lv60⇒58
・メイン武器である鬼神楽が破損。
・レルム内で戦闘行為を行った事で1週間の無償警備(タダ働き)が課せられる。
(戦闘を行ったのが廃墟区画、及び相手が魔人であったため軽いものに)
・12連撃を模倣した事で技に何かしらの影響?
・折れた魔剣(相気の杖)、カポーテピアスを入手。
(本人は使いたがらないが美野里に押し切られた)
・ちょっとは有名になったかもしれない。

若槻美野里 Lv55
・キレて本音が出た。
・片鱗は出ていたがかなり重い女である。


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Training Day/Be A Wolf-前篇-

ギリギリ一ヶ月空かずに済みました。
時系列的には漫画さんとの模擬戦の少し前くらいです。


 

 

 

―――〈現行周回 20XX/XX/XX 東京某所・修練場〉―――

 

 

「ぷげらばっ!!」

 

 

 鈍い悲鳴と共に、道衣を身に纏った人間が宙を舞った。

 そのまま重力に従い天井近くから床へ叩きつけられた後、潰れたヒキガエルのように痙攣するのは10代半ばほどの少年だ。

 

 全身に広がる滅多打ちにされたような痣。

 正常な位置からくの字に折れ曲がっている鼻。

 焦点がまるで合っていない1対の瞳。

 その姿は満身創痍という言葉を文字通り体現している。

 

 そして、それは彼だけではなかった。

 周囲にも同じように転がる同世代ほどの少年が3名。

 状態は誰も彼もが似たようなもの。

 普通なら病院へ連れて行き精密検査を受けねばならないだろう。

 

 しかしその内の1人―――顔が半分潰れている少年が荒い息を吐きつつ口を開く。

 

「起きてるかぁ、お前ら……?」

 

「し、白い髭生やしたジジイがマッカ寄越せって、追いかけてくる幻が……」

 

 頭蓋を割られ滝のように血を流す少年が返答した。

 

「おかしいな、会長のおっぱいに挟まれて優しく介抱されてた筈なのに」

 

 片目と耳が抉れている少年が返答した。

 

「ハッ! ……そうか、夢だったんだな。

 好きな幼馴染が年上のチャラ男と付き合い始めたなんて」

 

 自由落下後、僅かな失神の間に失恋がフラッシュバックしていた少年が返答した。

 

 

「うっし―――ならもういっぺんやれるな。

 あと最後。BSSは現実だから諦めろ」

 

「……ちくしょぉおおおお!!!!」

 

 

 ボロボロな状態とは反対に、それぞれ余裕のある答え。

 当然の話だ―――今ここにいる人間の全ては覚醒者。

 生命反応(HP)がある限り真の意味で動きが止まる事は無い。

 

 回復魔法もあれば治癒する道具もありふれているこの世界の、悪魔業界で戦い生きる者なら備えて当然の精神性。

 十数秒の僅かな休憩を終え―――1人は泣きながら―――立ち上がる。

 

 全員の瞳には強い感情の炎が宿っていた。

 怒り、あるいは嫉妬、あるいは情景、あるいは八つ当たり、あるいは―――。

 そして細部こそ違えど、根本で共通する思いは同じ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()一本取ろうという決意に他ならない。

 

 

「―――ようやく温まって来たか」

 

 

 不敵な笑いの含まれた声がした。4人の視線が1つに集まる。

 その先にはTシャツにジーンズというラフな格好の青年がいた。

 木刀を軽く担ぐように構えた、少年達より少し上程度の若者。

 

 だがその身から発する威圧は並大抵ではない。

 気分はまさに蛇に睨まれた蛙―――腹を括ってそれぞれ一歩踏み出す。

 恐れを乗りこなしつつ戦うのは()から教わった事だ。

 

「しっかし楽すぎるな。

 ハリセン……いや布切れ1枚で“指導”してやろうか?

 それくらいハンデがあれば十分だろ」

 

 青年はポケットからハンカチを取り出し、ヒラヒラと目立つように振る。

 

 あからさまな挑発。

 分かり切った侮蔑。

 煽りに装った誘導。

 

 彼らは冷静に思考を張り巡らせる。

 張り巡らせた果てに―――同時に血管がぶち切れる音がした。

 煽り耐性、もとい沸点がそれほど高くなかった故に。

 

 

「「「「ぶっ殺してやるこのクソ教官殿!!!!」」」」

 

 

\カカカッ/

軍勢修練会門下生Lv40(各自20~30)

 

 

「やってみせろよ生徒共―――!」

 

 

\カカカッ/

導師 八瀬宗吾Lv60

 

 

 この後、修練会の門下生たちが笑顔の教官に一太刀浴びせるまで()()は続くのであった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 ―――“修練会”と呼ばれる組織がある。

 

 未覚醒者、霊格の上がらない人間たちを中心にした基礎互助会。

 身も蓋も無く言えば、昨今のインフレする環境に追いつこうとする者の集まりだ。

 

 宗吾達は現在、とある伝手からここの指導依頼を受けていた。

 元より需要こそあったが、本来であれば外様かつドリフの彼に回ってくるようなものではない。

 だが――――ここ1年での環境変化と同じように事情は常に変動する。

 

 切っ掛けはつい先日発生した東京各地のレルムにおける大規模戦闘(レイドバトル)

 それに関連するかは不明であるが、GP上昇の抑制が起きた事。

 現在はいわば小康状態―――3ヶ月~半年程度と推測される凪の期間と推測されている。

 

 であれば。

 

 余裕のある今の内に少しでも強くなろうと死に物狂いになる者。

 弱い人間を今の内に選別しようとする者。

 這い上がろうとする弱小を蹴落とそうとする者。

 張り詰めた精神を解す為、オタ活を兼ねた休養に入る者。

 

 こうした者たちが多くなる訳であり。

 

 結果として、修練会は一時的なキャパオーバーとなってしまったのだ。

 現在彼らの指導を行っているのはガイア系、中立系組織に所属する人間のボランティアが殆ど。

 もちろん、ボランティアと銘打っているが、その目的は芽の有る者のスカウトである。

 

 しかし、どの組織でも新戦力追加は重要度も高いが、非常にばたついているのが現状だ。

 追加で人間を派遣するのは難しく、手が足りなくなるのは当然の帰結だった。

 よって猫の手も借りなければならなくなった訳で。

 最低限の信用はある臨時指導者の1人として宗吾は雇われたのである。

 

 

 ただ、問題があったとすれば1つ。

 

 

 「―――って訳でシゴキに残った4人を重点的に教えてる。

 今頃は……治療終わって寝込んでるんじゃねーかな。

 最後糸が切れた人形みたいに倒れてたし」

 

「うん、やっぱりあんた人に教えるの向いてないわ」

 

 

 ―――名選手が名監督であるとは限らないという話である。

 

 

「確か最初20人くらい預かってたわよね?

 なんで1週間で五分の一にまで減るのよ……」

 

「気合いの問題だろ?」

 

 正午もやや過ぎた時間帯。

 修練会の所有する施設の一画、休憩所として利用されている場所で宗吾と美野里は昼食を取っていた。

 他の利用者とは利用するタイミングがズレたのか、今ここにいるのは彼らだけだ。

 

 ちなみに美野里も指導者として雇われていた。

 担当するのは非覚醒者が中心に、力に目覚めていない、あるいは扱いが不慣れな者たち。

 戦力になるには時間がかかり過ぎるので、目的としては後方で働ける人員増加の為だ。

 

 アイテム作成や儀式の補助など、低レベルであろうと人手はあればあるほど良い。

 ESP系の能力は覚醒を促す切っ掛けとして適性が高いのもあって、宗吾とは逆に抱えている人数は多かった。

 今の所辞めた人間はいない。

 

「実際の所、俺に教えられるのなんて剣の振り方と体の作り方。

 あと限界超えるための心構えくらいだしなぁ。

 でも正直逃げた連中は必死さが足りんと思う」

 

「気持ちは分かるけど、よーく聞きなさい。

 ひたすらボコられるて苦しいだけのトレーニングなんて拷問だから。

 誰だって逃げたくなるわよ普通」

 

 相棒から呆れられた視線を向けられ、ばつの悪くなった宗吾は頭を掻く。

 言う事は分からなくもない。

 成果のまるで見えない鍛錬を続けるというのは中々に辛いものがある。

 

 自分も昔そういった事をやらされていた時はきつかった。

 本当に正しい事なのか、こんな物を続けていていいのか。

 悩み戸惑ったのは1度や2度ではない。

 

 だが、決して無意味ではないと断言できる。

 宗吾とて、別に何も考えずに無茶を課している訳でもないのだ。

 

「俺が見てたのは才能限界、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのは知ってるだろ。

 あの程度乗り越えようとする気概がないと無理だって。

 最初に説明したし会長さんにもちゃんと言ってあったんだが……」

 

「で、残ったのが根性ある数人だけなのは仕事としてどうなの。

 指導役としてクレーム来そうなもんだけど」

 

 

 

 

「―――いえ、八瀬さんはそのままで構いません。

 クビは考えていないので引き続き残った方の指導をお願いします」

 

 

 

 第三者の声がした。

 他に誰もいない故、離れた位置まで声が通っていたのだろう。

 部屋の入口から手荷物を抱えた人物がやって来る。

 

 褐色の肌に相反するような銀髪。

 低身長でありながら胸の部分が大きく膨らんだ改造済みの巫女服。

 そして柔和な美貌を携えて微笑む麗人。

 

 

\カカカッ/

符術師 ヴァズィ・ウリムェングLv50

 

 

 修練会における事実上トップ―――ヴァズィ・ウリムェング。

 そして今回の仕事における雇い主でもあった。

 

「おっと会長さん。そっちも休憩か?」

 

「ええ。ついでに頼まれていた物を渡そうと思って来たら話が聞こえたもので」

 

 軽く挨拶を返しつつ、ヴァズィは2人がいるテーブル席へと座る。

 その際、大きく揺れた物を宗吾は見逃さなかった。

 見逃さなかった事に気付いた美野里は相棒の脛を蹴った。

 

「言っちゃなんだけど、いいの?

 着いて来れる奴だけ着いて来いってスタイルはこういう所と相性悪い気もするんだけど」

 

「そうかもしれませんが、私個人としては必要だと思いますよ。

 甘くしたところで、それこそ本当に無意味になりかねませんから。

 ……実は先ほど、私の方に門下生の数名から相談が来ていました」

 

「相談?」

 

 ええ、と少し間を置いて宗吾の質問に答える。

 のんびりとした口調だが、どこか愚痴が混じっているようにも聞こえた。

 否……実際に愚痴なのだろうこれは。

 

「―――限界を超えるにはもっと別の方法はないのかと。

 思いつく限りあれこれ言ってましたね、あれは。

 ちなみに八瀬さんの指導から逃げた面子です」

 

「……一応聞くけど、例えば?」

 

「例えばそう、高レベルの悪魔を捕獲してからそれを殺すとか。

 強いDBに引率して貰う……あと、覚悟を決めて人間を殺す、なんていうのもありましたか」

 

 そんな相談(戯言)を聞いて。

 

「いやそれ()()()()()

 

「んなお手軽に限界超えられたら俺もっとレベル高かったぞ」

 

「ですよね~~~」

 

 言葉にした後、3人揃って同時にため息が漏れた。

 呼気と共に吐き出された思いは1つ。

 ―――才能()()という言葉を甘く見過ぎている。

 

 まず、才能限界というものには2つのタイプが存在する。

 

 1つは大器晩成型。

 レベルを上ために膨大なMAGが必要で、それによるほぼ進化というべき成長を遂げるタイプ。

 牛歩の如き歩み、若木が大樹になるほどの時間を要するが、完成した時の強さは別次元となる

 

 こちらは良い。

 時間がかかるという点で現環境では致命的になりかねないが、まだ上がる芽が存在している。

 腐らず修練を重ね地獄を潜り抜けるだけでいい―――もちろん若木の内に死ぬ事もあるが。

 

 もう1つは()()()()()()()()()()()()()

 卵の殻に覆われているように固く、何度も何度も叩いても叫んでも上がらないタイプ。

 ―――これはもうどうしようもない、1個の生物としてそこが終点なのだ。

 技を磨くか装備を整える方向に舵取りした方が建設的とさえ言える。

 

 後者を突破するとすれば、文字通り死んだ方がマシな経験を経る。

 強大な悪魔を安全策を抜きで打倒する。

 自分が生まれ変わるほどのMAGを吸収する。

 あるいは―――。

 

()()()()()()()()()()()()

 ……それまでの自分とは違う領域に飛ばなきゃならん。

 道なき道を、自分の手1つで切り拓くのと同じだ」

 

「イヤボーンみたいなノリでしょうね。 悪堕ちでもいいですが」

 

「それだと最悪外道になりそう」

 

 基本的に後者の限界突破はパワーレベリングでは出来ない。

 MAGは入れど、己の殻を破る事は決してない。

 その個人にとっての“偉業”を成し遂げなければ扉は決して開かない。

 

 そして宗吾、美野里、ヴァズィ。彼らはそれを経験した事がある。

 持てる全てを行使して強大な悪魔を打倒した事も。

 絶望に打ちひしがれ、それでも膝を折らず立ち上がった事も。

 だからこそ、門下生の言葉がただの都合の良い幻想でしかない事もよく分かるのだ。

 

 宗吾はこれまでの人生を振り返った。

 中学時代の無軌道な道場破りから始まり、高校時代に仲間と共に潜り抜けた幾多の戦い。

 “雲耀の剣”を体得するべく、屋久島で平家の怨霊をひたすら相手にした日々。

 

 香港での修行時代には十中八九死ぬ相手とも斬り結んだ事もある。

 特に記憶に焼き付いているのは異界・九龍城における“魔人カンセイテイクン”との戦い。

 それと―――。

 

 (“マッカーサー”と悪魔ヘリ相手の()()()……楽しかったけど惜しかったな)

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()

 それを討伐、または足止めするべく集められた各組織の紐付きによる総力戦。

 50人がかりで囲んで殴ったにも関わらず、最後まで立っていたのは自分含めて2人のみ。

 

 街中で平然と巡航ミサイル(トマホーク)を撃ち込んできたのもあるが、あれは純粋に強かった。

 這って向かう力すら残っておらず、後方で控えていた香鈴(姐さん)の部下に抱えられ回収。

 宗吾はそこで無念の途中離脱(リタイア)となったのだ。

 

 (んで結局、DASU(ダークサマナーユニオン)と封剣士の主力が三業会の頭と相打ちになったんだっけか)

 

 辛うじて生き残った凛子から聞いた話では“魔盾”のコピー品、そしてDASUのトップである“黄金のGUMP使い”が召喚した悪魔の力で何とかなったとの事だったが、そこはあまり詳しく覚えていなかった。

 

 ―――ここで思考が逸れている事に気付き一旦リセットする。

 

「……あるとすりゃ古い方式で覚醒儀式(イニシエーション)やるくらいか?

 あれならまだやれない事もないが……」

 

「もっと無理でしょ。

 安全な修行を指導できる導師がまず見つからないわよ」

 

「そんな伝手もありませんし、大人しく偉業にチャレンジした方が速いですね。

 そう思って私も伝えませんでしたし」

 

 古式の覚醒儀式―――手っ取り早く行えるとすれば“悪魔の憑依と克服の勝利。”*1

 だがそれをやるならば合った悪魔を見つけ、いざとなれば介入出来る導師の存在が必要不可欠。

 一応宗吾は導師の域にこそあるが……どう考えてもそちらに関しては向いていない。

 もう1つの条件である“熾烈な修行の完了”を達成させる方がまだ可能性がある。

 

 つまり結論として。

 

「例外除いて、強くなるのに近道なんてありゃしない……だな」

 

 ―――楽に限界を超える方法など無いという事だった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 それから数日間、特に何事もなく時間は流れた。

 

 

「うごらばぁっ!!」 

 

「ヒデブギャッ!?」

 

「まそっぷ!!」

 

「俺が先に好きだったのにぃいいい!!!!」

 

 変わった事があるとすれば、まず宗吾が受け持つ門下生たちがしぶとくなった事だろうか。 

 互いに連携し庇い合い、手加減しているとはいえ宗吾相手に戦える時間が伸びてきている。

 幾度も叩き伏せられ、辛酸を舐めさせられた経験がレベル以外の強さを伸ばし続けていた。

 

「……BSSをOSSに変えても同じじゃね?」

 

「夢見るくらい良いだろこのクソ教官っ!! 地獄みたいな現実でもそれくらいさぁっ!?!?」

 

「あんたに勝って限界超えれば、きっと会長がおっぱい一揉くらい許してくれる……っ!!」*2

 

「いい加減あの白髭ジジイに追われる日々から抜け出したい―――!」

 

「つーかいつまでも余裕こいてんじゃねぇぞオラァッ!!!!」

 

「良し―――じゃあ練習中の必殺技使うけど死ぬなよ」

 

「「「「……えっ?」」」」

 

 

 無論、最終的にぶっ飛ばされる事には変わりはないのだが。

 その日、彼らは4人仲良く天井に頭から突き刺さるのであった。

 

 他には、空いた時間でヴァズィと話す機会が増えた事だろう。

 休憩時間や仕事が終わった後、数冊の本を片手に教えを受けている。

 そも、彼がこの仕事を受けた理由はこれが目的でもあるからだ。

 

「それにしても意外というか……八瀬さんってかなり多芸ですよね。

 術の腕はともかく、知識自体はかなりありますし」

 

「鍛錬の一環で気功術は修めてたからな。

 あと通ってた学校じゃ符術系が盛んだったから、下地だけならそれなりだと思う」

 

「では基本的な術もそこで?」

 

「いや、香港で修行してた時にマフィアの幹部やってた人に教えて貰った。

 本人曰く水簾洞育ちとか言ってたなー」

 

「……それ本当ならガチの仙人では???」

 

 なお、授業中思わず視線が胸に行くのだが、後で必ず相棒から脛を蹴られるのであった。

 

 

 そうして短いながらも濃密な時間は矢のように過ぎて。

 依頼の最終日、傷だらけながらも脱落せず残った4人に対し、最後の試験として宗吾が真剣を持ち出した時――――。

 

 「すみません八瀬さん、とんでもない事が――――!!」

 

 血相を変えてやって来たヴァズィの嘆願と共に、事態は急展開を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

*1
※基本システム 超人へ覚醒する方法の1つ

*2
妄想である




今回の話は原作者のほびー様より頂いたプロットを元に書きました。
次話もなるべく早く書き上げたいと思います。


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Training Day/Be A Wolf-中篇-

 

 

 

 

――― 過去周回〈200x/xx/xx 香港公園〉―――

 

 

「―――んで、結局あのアホは戦闘中行方不明(MIA)扱いか。

 それも天尊流星との戦いじゃなくて残党狩りで」

 

「連合の生き残りごと地対空ミサイル(スティンガー)の釣瓶打ちだ。

 骨さえ見つからない以上そういった扱いになる。

 もっとも、撃ったのが結社の味方なのは笑い話にもならんが」

 

「人置いてったバチが当たったんだよ、似非神父らしく。

 ……上に恵まれなかったのは素直に同情するけど。

 むしろ今まで消されなかったのが奇跡か?」

 

 香港の中心区、かつてイギリス軍の駐屯地であった場所に作られた都市公園。

 普段は市民の憩いの場であり多くの人間が訪れるが、まだ早朝である為か人の姿は殆どない。

 その中の散歩道にて、若い男女がゆったりとした速度で歩きながら話している。

 20歳になるかならないかといったくらいの、整った容貌が目を引く2人組だ。

 

 傍目から見れば散歩がてらのデートに映るかもしれない。そう見える程度には絵になっている。

 しかし、会話の内容はフィクションか妄想を疑うほどに物騒なものだった。

 逢引きにしては醸し出す雰囲気も重々しく、甘い空気からは対極に位置するだろう。

 

「今回はクズ同然の無能とはいえ、大司教の甥を見殺しにしたのだ。

 遺体も原型を留めないくらい粉々にしてな。

 ゴタゴタに紛れて報復される可能性は十分あったが……あのタイミングだけは予想外だった」

 

「いくらなんでも死亡確認も取れない状況でやるか普通?

 ……ぶっちゃけ死んだふりして逃げてんだろ“レイン”のやつ。

 財布の中の100ドル賭けてもいい」

 

「賭けにならないだろう。

 あれの生き汚さはお前とタメを張る。

 どうせまたどこかでサマナー狩りをしているに違いないさ」

 

 つい先日、香港中の勢力が手を組んで行った三業会への強襲。

 あるいは世界の裏で暗躍していた巨大組織との戦争。

 そこで共に立ち向かった腐れ縁の生を2人は確信していた。

 

 返還前の香港で育ったゆえか西洋名(ウエスタンネーム)を好み、元テロリストという異色の経歴を持つ神父。

 その悪運の強さとしぶとさ、生きる事への執念はよく知っている。

 枷と化した組織から抜け、どうせどこかでまた狩りを続けているに違いない。

 次会う機会があるかどうか分からないが―――初手で敵対しない事を期待するだけだった。

 

 それから無言で舗装された道を歩く。

 

 時期的には冬も近いが、香港は年間を通して温暖な気候が特徴だ。

 各所に植えられた花―――香港では最も身近な花であるバウヒニア―――を眺めつつ、やがて開けた場所、いわゆる太極拳広場にまで来ると女が足を止める。

 青みがかったポニーテールを揺らしながら女―――“秋山凛子”が問いを投げかけた。

 

「八瀬、お前はこれからどうする? 

 相変わらずあの女マフィアの下で傭兵の真似事か」

 

「それ以外あるとでも? 

 ……実際今の魔都香港を纏められるの姐さんくらいだろ」

 

 向き直って男―――宗吾が答えた。

 この時、宗吾は香港に古くから根を張る地元マフィアの下で働いていた。

 扱いとしてはボスの食客であり、積極的に抗争の前に立つ立場である。

 当然、そんな立場である以上目の前の女―――秩序側に立つ封剣士の凛子と斬り結んだ経験は1度や2度では済まない。

 

「香港の大半を支配してた三業会は龍頭(ドラゴンヘッド)に兵隊も消えて虫の息。

 DASU(ダークサマナーユニオン)銀翼十字結社(シルバーウィンガー)のアホ共も撤退して勢力図は穴だらけ。

 今ここで伸し上がろうとする連中がどれだけいるよ?」

 

 “香港風水師協会”*1、“東方教会”*2、“水鬼”*3、“黄王五獣拳”*4、“海武士(うみんぶし)*5

 巨星が墜ちた直後から力ある者たちは既に動き出している。

 圧倒的支配者が居なくなれば後釜を狙い躍起になるのは当然の摂理だ。

 利権に1枚噛もうと外部勢力―――SEBEC香港支社やアルゴンソフトも裏で物資を流している。

 

 天尊流星との戦いで―――主に異界化もしていない街中で爆撃を繰り返した狂人の仕業―――香港の表社会にはすでに無視出来ない影響が出ている。

 過激派によるテロ扱いにするにしても限界はあり、これ以上余計な爪痕を残せば更なる厄介事を招くだろう。

 早期かつ可能な限り丸く状況を収められるとすれば、宗吾が“姐さん”と呼ぶ彼女くらいだ。

 

「世話になってる身としちゃ、力になるのは当たり前の話だと思うんだが―――」

 

「本音は都合良く暴れられるバックと相手が欲しいだけだろお前」

 

「…………まあそうとも言う。

 あと放送中の仮面ライダーのビデオ持って来てくれるんだよあの人。

 こっちじゃどうやっても見れねーし」

 

 即座に本音を見抜かれて明後日の方を向く。

 そこに私情が多分に挟まっている事も否定出来なかった。

 

 戦える場所が多いほど。

 斬り合って腕を磨ける機会があるほど。

 自分にとって都合のいい展開である故に。

 表向きは貿易商をやっているのもあって趣味関係の品を融通してくれるのも大きい。

 

 一部では剣餓鬼(ジェングァイ)羅刹剣(ブレードオーガ)などと呼ばれるのも納得だと凛子は思った。

 ついでにいい歳して特撮好きなのはどうなんだとも。

 

「……てか、お前の方はどうなんだよ。

 長老も逝っちまったんだろ。なら崑崙に戻るのか? 」

 

 ジト目の視線から逃げる為、宗吾も聞き返した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを扱う事になった彼女たち封剣士は見習い含めてほぼ壊滅したと聞いている。

 

 大陸版の葛葉一族、といった程度の知識しか持たないが喜ばしい状況ではないだろう。

 武術の流派と同じだ。後立が、受け継ぎ伝える者が居なければ先細って消えるしかない。

 長い歴史がある分、培ってきた多くのノウハウが失われるだろうと宗吾は思っていた。

 

 凛子は軽く目を閉じ、首を横に振って口を開く。

 

「いや、組織としては既に死んだも同然だ。

 生き残った武装侍女団に技術を教える事も……私には向いていない」

 

「いやそれは分かる。感覚派っぽいしお前」

 

「どの口が言う……っ!!」

 

 一瞬だけ般若のような顔になってから咳払いし話を続ける。

 

「とにかく再建はやる気のある者に任せて、私は野に下る事にした。

 ―――具体的には特別対策室*6に誘われている」

 

「うっわ警察とか商売敵じゃん。

 ―――つまり、これまで通りと」

 

「ああ。共闘出来る時は共闘するが、普段は敵同士だな。

 馬鹿をやっていれば遠慮なく斬らせてもらおう」

 

「それはそれで構わんのだが、うん。

 ……なら一応こいつ返した方が良いか? 

 結局使わなかったけど貴重品だろ」

 

 宗吾は懐から楕円系の金属板を取り出すと凛子に差し出した。

 知識があるものならば、いわゆる刀の“鍔”だというのが分かるだろう。

 日光を反射し鈍く光るそれは、どこか普通の金属とは違うようにも見える。

 

 ―――これが天尊流星および魔剣への対抗手段と誰が思おうか。

 金沢総合学術研究所にて極秘裏に開発されていた装備。

 通称“魔盾”―――イマージュを制御する物質で作られた異形科学(ストレンジサイエンス)の最先端。

 ()()()()()()()()()()()()()()Z()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いらん。天尊流星が消え、魔剣シリーズも“天空頭脳”ごと破棄された。

 リンクした魔剣の近くに居なければ効果を発揮しない以上、単なる鍔に過ぎない。

 そもそも管理は下っ端のじゃないからな、好きにしろ」

 

「んじゃお守り代わりに持ってるわ。

 そういやここだけの話、血の紅衛兵(ブラッド・レッドガード)*7の連中が―――」

 

「なら第三秘書室*8とも連携が―――」

 

 

 ―――この数日後。

 

 

「レインはどこ!? 知っているんでしょう答えなさい黄色いサル(イエローモンキー)共!! 

 答えないなら内臓引きずり出してブタの餌にでもしてあげる!! 

 大丈夫、私はリベラルなの。薄汚いアジア人相手にもきちんと祈るから!!」

 

「一息で矛盾してるんじゃねぇぞこのキチ〇イがぁっ!! 

 あのアホこんな地雷置いて行きやがって!!」 

 

「奴もアジア人だが……この女頭の中身はどうなっているのやら!!」

 

 

 2人揃って正真正銘の外道(クズ)修道女から襲撃を受ける事になるのだが。

 それはまた別の話である。

 

 


 

 

 ―――悪鬼外道。

 それは人の道を外れ、悪しき鬼へと成り果てた者。

 それは人の心を失い、恥ずべき畜生へと堕ちた者。

 

 悪人、狂人、呼び方は複数あれど本質は変わらない。

 人でありながら人を辞めた、悪魔同然の人間モドキ。

 故に、それは決して人を超えた事の証ではないのだ。

 

 1人殺せば人殺し、100人殺せば英雄などという言葉があるが。

 どこまで行ってもそれはただの記録あるいは功績でしかない。

 限界を超える壁などではない、ただの独り善がりな自己満足。

 

 

 だからその光景は醜悪極まりなく、凄惨と呼ぶに相応しかった。

 

 

「ぁ、たすけ、ッ―――!!」

 

 助けを求めた直後、頭を踏み潰され路上の華と咲いた男。

 

「やめて、てめてぇええええ!!!!」

 

 身に着けていた衣服を剥がされ、下卑た欲望に蹂躙される女。

 

「死にたくない死にたくない死にたくながっ!!」

 

 潰された手足をばたつかせ、なお逃げようとする背中に刺さる刃。

 

「――――、――――!!!!」

 

 戯れで魔法の的にされ、生きたまま焼き尽くされた人型のナニカ。

 

 

 まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図である。

 

 

 そこは都内に存在する非合法レルムの1つ。

 何か後ろ暗い事情がある者ばかりの、今ではありふれた区域。

 その一角でこの人道踏み躙る下種の所業が行われていた。

 ―――最近の時勢を考えても、はっきり言って異常な事である。

 

 如何に此処が低レベルの漂流者(ドリフター)が多く集まる租界。

 身も蓋も無く言えば治安最悪の区画とはいえ、このような無法が許されるはずもない。

 正義や倫理といった意味ではなく、実利の面での話だ。

 

 こと暗黒街の中においてですら、無秩序の中に一定の秩序というものが存在する。

 自由と何をしても許されるという言葉を履き違えた愚か者が地面の染みになるように。

 無差別に殺し回る連続殺人鬼(シリアルキラー)が容赦なく魚の餌にされるように。

 

 暗黙のルールを破れば街の支配者から、あるいは共同体からの報復が必ず襲い掛かって来る。

 全てを返り討ちにする力でもない限り、それは確定した未来だ。

 そして下手人たち―――血に染まりながら悦に浸る4人組もそれを理解していた。

 

 

「どうする。このへんで河岸変えるか? 

 あっちも本腰入れたのか、見つかってから逃げるのも一苦労になってきたぜ」

 

「くひっ、あのさぁ。いい加減逃げるのも飽きて来たろ。

 そろそろ返り討ちにしてやるってのはどうだ。

 今の俺たちなら出来る……もう雑魚嬲るのも効率悪ぃーしなぁ……っ!!」

 

「ヒヒヒ、イイネイイネ、サイッコーニクールデス」

 

「女いたらこっちにくれよ、次は犯りながら殺りたいんだ」

 

 

 理解した上で、止まる気も辞める気も、恥も後悔も一切抱えていなかった。

 その未来に到達する前に、全てを薙ぎ払う力を得られれば問題無いと。

 まるで子供のような考えで欲望を優先する。

 

 哀れな獲物たちを嬲り殺して得たMAGを浴びながら、リーダー格の男が愉快気に嗤う。

 それを聞いた他の者たちも釣られてゲラゲラと嗤い出す。

 頭の中は次の玩具でどう遊ぶかで埋め尽くされている。

 ―――救いようがなかった。

 

 とはいえ何度も同じ事を繰り返してきたせいで、段々と足が付く時間が短くなってきている。

 如何に非合法レルムとはいえ、危険集団の情報というものはある程度出回るものだ。

 ひょっとすると賞金まで掛かっているのかもしれない。

 

 だがそれにしても手が回るのが予想よりかなり早い

 小賢しい彼らは追手―――おそらくは役立たずの修練会(古巣)が動いた事を察していた。

 

 そう、彼らは修練会の門下生だ。

 それも、宗吾の元から途中で去った者たち。

 その中でヴァズィに他に限界突破の方法は無いか尋ねていた面子である。

 

 切っ掛けとしてはそう複雑なものではない。

 宗吾の修行法にはついて行けず、かといって他に方法は無いと断言され。

 それでもなお、少しでも楽に限界を超える方法は無いかと、彼らは彼らなりに方法を模索し、調べ上げ―――見つけてしまったのだ。

 修練会の資料室、その奥に眠っていた古の覚醒儀式について記された書物を。

 

 当時、平均レベル24程度の彼らが目を付けたのは“悪魔の憑依と克服の勝利”について。

 自らの身に悪魔を憑依させ克服、勝利するという覚醒儀式だ。

 藁にも縋る思いでそれを実行に移し……見事、全員が成功した。

 少なくとも個人的な認識においては。 

 

 後はもう坂から転げ落ちるかのような展開だ。

 器が拡張した絶頂感から、彼らは容易く外道へと堕ちた。

 効率よくMAGを得る為、狙うのは悪魔ではなく手頃なレベルの漂流者(ドリフター)

 初めての殺人でも良心の呵責や躊躇いはまるで感じなかった。

 

 殺しても足が付きにくい、または罪にならないレルムへと潜伏しひたすら狩り続ける。

 見つかりそうになれば逃げて、別のレルムでも同じことを繰り返しては逃げて。

 今では最低でもレベル50代、リーダーに至ってはレベル70代にまで至っていた。

 

 彼らは強さを得る事に一切の躊躇いは無い。

 MAGを浴びる事で上がり続けるレベルと万能感が凶行を更に助長させた。

 いつの間にか殺し犯して奪うMAGの味に魅入られているのもあるだろう。

 既に、自分たちの口元や指先が異形となりつつある事にさえ気づかぬほどに。

 

 頭にあるのはただ一つ。

 なぜもっと早くこの方法に辿り着かなかったのか。

 

 

 ―――最初からこうしていれば面倒な修行などせずに済んだ。

 ―――苦しい思いをして体を鍛えるなんてまるで意味がない。

 ―――レベルさえ上がれば小賢しい戦法などに頼らずに済む。

 ―――また壁にぶつかれば、もっと強い悪魔を降ろして勝てばいい。

 

 

「これならあの偉そうなクソ剣士も余裕で殺せるぜ。

 もうこっちの方が強いんだからな。

 延々と素振りと半殺しを反復横跳びさせやがって」

 

「何が“痛くなきゃ覚えねぇ”だよなぁっ! 

 そんなのしなくても強くなれるっつーの」

 

「スポコンナンテジダイオクレ、モウカセキダヨ」

 

「最後まで残ってた連中も馬鹿だよなー。

 どうせ今も意味無く汗水垂らしてんだろ、壁超えられない無能の癖にさ」

 

 ―――おそらく、あの指導者たちは自分たちが抜かれる事を恐れたのだろう。

 ―――積み重ねて来た努力を容易く抜かれる事が嫌だったのかもしれない。

 ―――次に会う時はいたぶって分からせてやろう。

 

 踏み躙った命にまるで頓着せず、外道たちは好き勝手に思いながら歩み続ける。

 無念と不条理、血と涙と汚物に塗れた花道を。

 

 

 

 ――――当然、そのような道を逝くのであれば。

 

 

 

 

「まずは一当て」

 

――― 「物反鏡」*9 ―――

――― 《■界■》 ―――

 

 

 

 待っているのは相応しき末路(おわり)だけ。

 

 

 

 直後、百メートル以上離れた距離から流星の如き“何か”が炸裂した。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

「がっ……あぁあっ!!?」

 

 一瞬暗転した意識。

 直後、腹のうちから漏れ出る悲鳴により覚醒する。

 続いて知覚したのは己が路面の上を何度も跳ね続けている状況だった。

 

(なん、だ―――っ!?)

 

 4人の外道、そのリーダー格である男は混乱の極致にある。

 それでも降ろした悪魔の影響か、咄嗟に()()()()()をアスファルトに突き立て減速を図る。

 ガリガリと音を立てながら10本の長いラインが刻まれた時、ようやく体が静止した。

 

「……くそが、どこのどいつだ舐めやがって!!」

 

 痛む体を怒りを以て奮い立たせながら立ち上がる。

 ここでようやく自分たちが奇襲を受けたのだと理解したのだ。

 その証拠に、周囲へ視線を走らせるが仲間はおろかレルムの住人の姿さえ見えない。

 

 ―――先の一撃はこちらを分断し、狙いの場所へと誘導するための物。

 

 かつての、十把一絡げの弱者であった頃であればそれだけで即死していたであろう攻撃。

 勝手に震えていた唇を、歯を食いしばる事で抑え込む。

 昔の話は関係ない。今の自分からすればダメージはあれど致命傷には程遠いのだから。

 

(落ち着け、こんな傷全然大した事ない。

 さっさと逃げて治せばいいだけの話だ)

 

 湯だる頭を無理矢理冷やし、どう撤退するか思考を回す。

 長居は無用、それどころか死を招くのは明白。

 仲間との合流は欠片も考えていない。

 あっても精々が囮役になってくれれば上等と言った程度だ。

 

 かつてあったかもしれない身内への情は跡形もなく消えていた。

 それはきっと、同じ状況にある仲間たちもそうなのだろう。

 即座に踵を返しレルムの結界、その外縁部へと最短距離で抜けようとして―――。

 

 

 

 

「―――ヘタクソが、頭使って逃げろよ」

 

 

 

「奇襲攻撃」(ボーナスアタック)*10敵エンカウントシンボルに切りつける。

先行戦闘によりランダムに発生。

相性無視で敵全体にダメージを与えてから戦闘を開始する

 

 

 

 何の感情も宿さない声と共に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この瞬間まで気づけなかったリーダー格の男に反応が許されるはずもない。

 音さえ残さぬ斬撃で、逃げようとしていた逆方向へと斬り飛ばされる。

 

 

「ぁああああああああっ!!」

 

 

 肉を断たれた激痛に堪え切れず絶叫、同時に肩から腰へ走る斬傷から血が噴き出した。

 あと一歩でも踏み出していれば真っ二つに両断されていた―――そう思わせるほどの一閃。

 憑依を乗り越えた事で得た鋼鉄の如き肉体強度、物理への耐性を難なく突破する技の冴え。

 

 リーダー格の男は知っていた、それほどの腕を持つ剣士の事を。

 拷問と見違うほどに過酷な修行だけ課してきた、あの役立たずを。

 自分たちと同じ漂流者(ドリフター)でありながら頭一つ抜けた強さを持つ剣鬼を。

 

「“馬鹿でも戦えるけど頭使わないと勝てないし生き残れない”。

 ―――そう教えたはずなんだがなぁ」

 

 暗がりから姿を見せたのは黒髪に整った容姿の、どこにでもいそうな格好をした青年。

 ただ手に持った刀と、ぞっとするほど静かな声音が只者でない事を悟らせる。

 人の形をした処刑刀……そんな印象が思い浮かぶ。

 

 八瀬宗吾―――修練会に雇われたかつての指導者の姿がそこにあった。

 

「この無能がぁあああっ!! 

 今更偉そうに教官面するんじゃねぇ!!!!」

 

 地面に転がったこちらを見下すように、何の感情も宿さない視線を浴びて男が再度激高する。

 フラッシュバックするのは何度も痛めつけられた屈辱の記憶。

 いつの間にか腰に差した剣を抜き放ち、血走った目で宗吾を睨み返していた。

 

 まさに感情に支配され、気に喰わない相手を排除しようとするだけの外道だ。

 罠、伏兵の可能性、撤退を考える思考力はどう見ても残っていない。

 これでは叫ばない分、自我無しの悪魔の方が幾分かマシと言える。

 

 哀れみと失望が半分、責任感が半分混じった心持で宗吾は口を開いた。

 

「自分が狙われる理由について、説明しなくても分かるだろ? 

 修練会(雇い先)の顔に泥塗ったんだ……首出せよ。

 今なら余計に苦しませずに介錯してやるから」

 

 それはせめてもの慈悲だった。

 短い期間、それも納得出来ず勝手に辞めただけとはいえ。

 彼らの指導を行ったのは紛れもなく宗吾なのだ。

 もう少し上手く教えていれば、このような事態にはならなかったのではないか。

 そう思う程度には責任感があり、義務があると考えていた。 

 

「不意打ちが上手く言った程度で調子乗ってんのか教官殿。

 今までの借り含めて、バラバラに引き裂いてお礼参りしてやるよ……っ!」

 

 ―――慈悲は殺意と狂気に払われた。

 事ここに至っては是非も無し。

 

「そうか、なら―――」

 

 同時刻、異なる戦場でも最終通告が成される。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「あたしさ、あんた達みたいなのが一番嫌いなのよね」

 

「何もしないのは筋が通りませんし……趣味でもありませんので」

 

 

\カカカッ/

サイコメトラー若槻美野里Lv58

 

\カカカッ/

符術師 ヴァズィ・ウリムェングLv50

 

 

「オンナドモ、イキナリオソイヤガッテェッ!!!!」

 

「達磨にしてから犯し殺してやるよぉおおおおお!!」

 

 

\カカカッ/

外道ヘカトンケイル(本名喪失)Lv64?

 

\カカカッ/

外道 ギリメカラ(本名喪失)Lv66?

 

 

 

―――非合法レルム北通り―――

 

 

若槻美野里&ヴァズィ・ウリムェング

VS

下劣畜生ヘカトンケイル&無惨嘲弄ギリメカラ

 

 


 

 

「会長な、すっげえ大変なんだよてめえらのせいで」

 

「後でどんな責任取らされるのか……髭ジジイに相談しなきゃ」

 

「あのおっぱい様が心労で倒れでもしたらどうしてくれるんだおい」

 

「お前……よく見たらあのチャラ男に似てるからコロス」

 

 

\カカカッ/

軍勢修練会門下生Lv45(各自20~30)

 

 

「……何勝てる気になってんだこのザコ共がっ!!」

 

 

\カカカッ/

外道チェルノボグ(本名喪失)Lv58?

 

 

―――非合法レルム西広場―――

 

 

修練会門下生

VS

愚挙蒙昧チェルノボグ

 

 


 

 

 

「最後の授業だ―――格上に勝てば限界超えられるぞ、頑張れ」

 

 

\カカカッ/

剣士 八瀬宗吾Lv60

 

 

「ほざけよたかがレベル60程度の癖に……格上はこっちだ」

 

 

\カカカッ/

外道 ヨシツネ(本名喪失)Lv72?

 

 

―――非合法レルム南駐車場―――

 

 

八瀬宗吾

VS

奸悪無道ヨシツネ

 

 


 

 これより始まるのは3つの盤面による鬼退治ならぬ外道退治。

 人面獣心の畜生を狩るべく集った者たちの戦い。

 ―――そして、言い方を変えれば失敗の後始末。

 

 失った命は戻らない。

 尊厳も誇りも涙も何もかも。

 それでも、剣を取らねばならぬ時が来た。

 

 怒りを、責任を、悲憤を、決意を―――殺意を込めて。

 ここに死闘の幕が上がる。

 


 

 

 

*1
※覚醒篇(別冊FSGI3号) 香港の風水師の連絡網。個々の風水師たちは独立しているが、街の霊的危機を前に結束する。

*2
※覚醒篇(別冊FSGI3号) アレイスター・クロウリーが作った著名な魔術結社。アジアの魔術的な支配を企てていたが、風水師たちに敗れ地下に潜伏している。

*3
※覚醒篇(別冊FSGI3号) マカオと香港の沿岸に巣くう窃盗団。ベトナムから調達したガンボートなどで武装した現代の海賊。異界化した島に基地を持つ。

*4
※覚醒篇(別冊FSGI3号) 香港武術界の制覇を目指す新興の武術団。実戦での強さを示すために鏢師(ボディガード)として活動している。

*5
※覚醒篇(別冊FSGI3号) 旧琉球王国の秘密結社「海人」の武闘派。沖縄唐手の精髄「内殿手」、神通力や風水を用いる。香港から琉球、日本列島に続く龍脈の異変を追って香港に現れた

*6
※覚醒篇(別冊FSGI3号) 香港警察特別対策室。香港警察のオカルト担当窓口。風水に詳しい特別調査官が事件に取り組む。

*7
※覚醒篇(別冊FSGI3号) 中国陸軍九龍特別師団の別名。香港駐留の中華人民共和国の特務部隊。陸軍から特別に選ばれた狂暴な兵士が集められている。

*8
※覚醒篇(別冊FSGI3号) 香港特別区行政長官第三秘書室。香港を統治する行政長官の特別行動部隊。本土共産党とやり合いながら香港の自立を守ろうとする。

*9
※ 真Ⅲ

*10
※SH2




・Tips

【DASU】(出典:真・女神転生 デビルサマナー TVドラマ版小説)
 ダークサマナー・ユニオン。黒暗召喚師連盟。
 ダークサマナーの連合組織にして悪魔ビジネス業を成す者たちの集団。
 選挙での当選、政敵の抹殺、次期戦闘機導入の決定権、スターになるための力、テロへの協力、異性をモノにする為だけの罠。
 それらの見返りとして活動資金や拠点、超法規的行動特権、財界&政界への影響力、時には生贄の為の犠牲人体などを得ている。
 宗吾の世界において、この組織のトップであった『黄金のGUMP使い』が封剣士やその他の勢力と協力し天尊流星と相討ちになったらしいが詳細は不明。

【銀翼十字結社】(出典:真・女神転生 デビルサマナー TVドラマ版小説)
 シルバーウィンガー。全ての宗教における共通概念「悪魔」を滅ぼすための特務チーム。
 超宗教間において結成された対悪魔秘密結社。
 キリスト教、仏教、儒教、ロシア正教、ユダヤ教、イスラム教、ヒンズー教、アルメニア正教、グルジア生教、ブードゥ教に至るまで、一般的には敵対し合っている宗教派閥が裏で手を結び協力し合っている。
 メンバーは個々の出身を公にしない事をルールとしているが、問題はそれなりに発生している。また、上層部には嫌な噂が絶えない。
 宗吾の世界において、三業会との決戦時に主要メンバーの大半を失って弱体化したとの事。

【魔剣Z】(出典:魔剣X アフターストレンジデイズ)
 封印されていた魔剣シリーズの最終ナンバー。
 魔剣計画は幾多の失敗が続いていたが、コードネーム=マキ―ナ、コールサイン「X」ナンバーにおいてついに完成した。
 だが本来はコールサイン「Z」が最終形態かつ完成体になる筈だった。
 封印された理由はコロラドの米宇宙軍のコンピューターをクラックして、アジア軍域の核の全弾発射を命令しかけたため。
 天尊流星を滅ぼす確実な方法であり、目的達成のため最短確実な選択肢を取ったとの事。
 魔剣シリーズの試作品は破棄されたが、実際はXのパーツ・バックアップ用と人工知能研究のためZ含めた幾つかのプロトタイプは残されていた。
 少なくとも宗吾の世界において魔剣Zはそういった存在である。

【天空頭脳】(出典:魔剣X アフターストレンジデイズ)
 魔剣シリーズの頭脳とでも言うべき人工衛星。
 魔剣の柄部分にはハイパービットの集積回路・人工知能推論部が収められており、人間同様に思考し感情さえもある。
 だが柄部分のみの容積と規模にして人間の頭脳に匹敵する人工知能を育成し得る訳もなく、そのためのドレッド・データベースは地球周回軌道上のコンピュータ衛星が担っていた。
 魔剣シリーズは全て同じデータベースを共有しており、これと遮断する事で強制停止に追い込むことが出来る。
 宗吾の世界では技術的な問題からこういった仕組みが取られていた。

【魔盾】(出典:魔剣X アフターストレンジデイズ)
 天尊流星および魔剣シリーズへの対抗手段。
 イマージュを制御・抑制する物質で造られている。
 相模所長が超極秘に開発し、その彼を恐れた故に天尊流星はイマージュごと教授を誘拐した。
 理論上は魔剣と一緒に握らなければ発動しない。
 宗吾の世界ではこれの研究データが流出し、結果として魔剣とリンクしていれば持っているだけで効果を発揮するまでに進化した。
 これが切っ掛けとなり、最終的に三業会との決戦へと至る。


     
          


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Training Day/Be A Wolf-後篇-

 

 

 ギリメカラとヘカトンケイル。

 今や本名さえも失った彼らは外法に手を染める前、すなわちただの人間だった頃は場の状況に流されるだけの存在であった。

 いわゆるどっちつかずの風見鶏、あるいは日和見主義者と呼ぶべき者。

 

 それ自体は別に珍しい事ではない。

 むしろ世の大多数は“そう”である。

 秩序と混沌、善と悪、光と闇。

 

 殺さなければ何をしても良い非殺主義者。

 力を絶対視し弱者をいたぶる邪悪な信奉者。

 自分のやりたい事のみに殉ずる求道者。

 世界そのものを破壊し作り直す開放主義者。

 

 そういった方向性(アライメント)のどれかへ極端に傾けない。

 大抵は中間地点、その近似値をふらつくものだ。

 昨今情勢もあってか、ある程度は外れる者もいるが根本は変わらないだろう。

 

 そして、どれかの色に染まらなければならない、などという決まりも無いのだ。

 何かを捨てなければ強くなれない訳ではないのは、現在の環境が証明している。

 しかし、だからと言って―――――覚悟まで半端なままではどうしようもない。

 

 修練会に属する者、とりわけ漂流者はその傾向が顕著だった。

 流されるまま逃げ延びてこの世界に辿り着き、必要に迫られて力を得ようと藻掻く。

 自らの意思で力を求めた者も勿論いるだろうが、大体はそうである。

 

 だから、彼ら2人が簡単な限界突破法を求めたのも結局はそれ。

 つるんでいた面子のリーダー格であった男に言われるがまま資料を漁り、そこで見つけてしまった“造魔ノ法”なる怪しげな儀式に軽い気持ちで挑んだ。

 

 それがどのような結果を招くか、深く考えもせずに。

 上手くいくだろう、失敗しても大したことじゃない。

 そんな甘い考えの人間が精神闘争で勝てる筈もなく。

 

 結果、外道たちの中で彼らが最もかつての面影を残していなかった。

 かつての口調も性格も―――今や外見すら豹変し別物と化している。

 只人であった頃はまだあったはずのモラルはどこにも見当たらない。

 

 まさに魂の残響さえ残さぬ変貌。

 悪魔人間を通り越したケダモノの類。

 この瞬間にも摩耗していく記憶の残量が、彼らだったモノのタイムリミット。

 

 自業自得と言えばその通り。

 全ては自己責任で何もかもが自分に返って来る。

 選ばない、流されるという選択を取った彼らの結末がこうだったという話。

 

 ――――与える慈悲など、欠片も存在しなかった。

 

 

「コール」

 

 

 ―SUMMON――

 

 鈴の音が響くような声。

 同時に音声入力によって眼鏡型COMPが起動する。

 所有者である美野里のマグネタイトを喰らい、魔法陣と共に姿を現したのは2つの異形。

 

『主よ、御命令を』

 

\カカカッ/

英雄 ハゲネLv57相性:物理反射

 

 

『格上なんですけどー! マジカー!!?』

 

\カカカッ/

幽鬼ガキLv38相性:呪殺無効、火炎・破魔に弱い

 

 

 全身を黒い装束で包み剣を携えた武人。

 紫がかった肌に子供程度の身長の鬼。

 以前、病院で戦った時とは異なる仲魔。

 

 レベルアップと度重なる遠征という名の資金稼ぎの合間に組み直した手札。

 インフレする環境に追いつく為、何処かにいるはずの友人を探す為。

 そして相棒と肩を並べて戦う為に得た、若槻最乗という少女の新たなる武器であった。

 

 

 《―――Application Launch―――》

 

 

《S烈光の秘法:スクカジャ》*1手番(ターン)の開始時、セットされたスキルを自動発動。 

味方全体の回避・命中が1段階上昇(真Ⅲ)

《ハイアナライズ》*2対象1体の悪魔のデータを見る。

ギボアイズ*3アナライズを強化する。

戦闘中、補助行動としてアナライズが行える。

失敗しても相性1種類かBS1種類を指定し、

それが効くか効かないかを知ることが出来る。

「回避専念」*4次の手番(ターン)まで自身の回避率+20%する。

プレスターンバトルの場合でも同様とする。

 

 

 同時に発動するのは回避・命中増加の支援(バフ)とアナライズ。

 奇襲をかけた今、選択するのは機先の奪い合い(プレスターンバトル)

 ―――次に動いたのはヴァズィだった。

 

「では私は魔法対策を」

 

 ―――《魔鏡神符(マカラカーン)*5―――

 

 懐や袖から大量の符が飛び出し、味方の周囲に張り巡らされる。

 

『ここは待ちましょう』

 

 ―――「待機」―――

 

 黒衣の騎士は動かず呼吸を次へと回す。

 

『下げろ下げろ~』

 

 ―――《フォッグブレス》*6―――

 

 ガキの口からどす黒い煙が吐き出され外道たちにまとわりつく。

 

「―――大体分かった」

 

 ―――「虚弱性・消毒スプレー」*7―――

 ―――《ハイアナライズ》―――

 

 最後に呼吸が1周した美野里が敵の攻撃力を弱体化させつつ再びアナライズを実行。

 

 

 ―――手番が回る。

 

 

「アメェンダヨカンガエガ!!」

 

《会心の覇気》*8自身に次に行う力依存攻撃が必中になり、

必ずクリティカルになるチャージ効果を付与する。

 

 叫んだのはもう言葉さえ怪しい、()()()()()()()()()()()外道ヘカトンケイル。

 力を弱められようと関係ない。レベル差と必中かつ急所に入るのであれば大抵は死ぬ。

 これまでの漂流者狩りで何度も実践してきた事であり、結末はいつも一緒だった。

 だから今も同じだろうと考え無しに力を滾らせる。

 

「原型は留めとけよ、後で遊ぶからさー」

 

 それは共にいる外道ギリメカラも同じだった。

 すぐ後に訪れると思っている“お楽しみ”の時間に思考を割かれ、適当に呼吸を回すだけ。

 

 

「ヒィイイヤッハァアアアアア!!!!!」

 

 

《 暴れまくり》*9敵全体ランダムに2〜5回中威力の物理属性攻撃。命中率は低い。

《 会心専心》*10クリティカル時ダメージが上昇。代わりに通常時のダメージが低下する。

《 物理プロレマ》*11物理属性で与えるダメージを上昇させる。

 

 

 武器を持った手を振り回しながらヘカトンケイルが突進する。

 技も何もない素人丸出しの動き、例えるなら子供のグルグルパンチ

 しかし掠っただけでも人を容易に挽肉へと変える、純粋たる暴力。

 まともに喰らえばそれだけで勝敗は決しかねないだろう。

 

 

『迂闊』

 

「甘いのはそちらです」

 

 

 だが―――それは悪手であった。

 

 

《カバー(手番放棄済み)》味方1体をカバーする。

対象⇒ガキ

《カバー》*12集団スポーツで他者のカバーに入る臨機応変の能力を示す。

他人が失敗したときに、何らかのカバーとなる能力。

判定に成功時、他のPCの行動に割り込んで自分の行動を行える。

代わりにダメージを受けるのも可能。

この場合、回避は出来ないが防御は可能。

《神明鏡符》*13符を使用した防御技。

この符を貼った人物は、1回だけ格闘攻撃を反射する力を得る。

 

 

 物理を反射する黒衣の英雄が、符術の使い手たる麗人が。

 それぞれ味方を庇い合い、貫通を持たない暴力を完全にはね返す。

 結果、どうなるか。

 

「……ヒャ?」

 

 自身の暴力に、ギリメカラと違って物理反射を持たない外道は打ちのめされた。

 反射されたエネルギーによって折れ曲がる両手と潰れた複数の目。

 意識が現実へと追いつかず、間抜けな声が零れる。

 

 

 ―――手番が回る。

 

 

「……試すか」

 

 再び《スクカジャ》を自動発動させながら、ゆらりと美野里の体が前方へ傾く。

 ガンベルトに差し込まれた愛銃は抜かず、倒れる力を推力に変え無手のまま駆け出す。

 向かうのは口元から長い牙を生やした外道ギリメカラ。

 

(なんだぁこのアマ?)

 

 見るからに後衛タイプの女が突っ込んできた事にギリメカラは違和感を抱く。

 とはいえ白兵戦は自分の土俵だ。

 あらゆる物理をはね返すこの剛体が負けるはずもない。

 

 耐えて次の手番で確実に終わらせる。

 厄介なサマナーを潰せばあとはどうとでもなる。

 そんな絵を頭で描いて―――。

 

 

「―――夢見てんじゃないわよ」

 

 

《狂■の■■》物理貫通を得る。物理属性で与えるダメージが20%増加。

命中率とクリティカル率が40%増加。

美野里に目覚めた新たな力の1つ。詳細は不明。

《■■の舞■》味方全体を会心状態にする。

敵単体に4回、物理属性の打撃型ダメージを与える。

美野里に目覚めた新たな力の1つ。詳細は不明。

《会心》*14クリティカル率上昇。

サイコメトラーが習得する。

彼ら彼女らは意外にも格闘面でも強くなる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「がっ、あああああああああ!!!!」

 

 反射の壁を紙切れのように裂いて急所へと刺さる4つの軌跡。

 それは紛れもなく物理耐性を無視する貫通攻撃だった。

 想定外の事態にギリメカラから苦痛に満ちた絶叫が響く。

 

『参る』

 

 

《忠義の斬撃》*15敵単体に物理属性で大威力の攻撃を1回行う。ニヤリ時即死付加。

 

 

 続けて呼吸が回ったハゲネがヘカトンケイルに一閃。

 主の敵を屠る忠義の業が決して無視出来ない傷を刻み込んだ。

 どちらも会心とはいえ、格上相手にあり得ない火力……無論タネはある。

 

『いいもん持ってるなぁオマエラー! 

 使わせてもらったぜぇえええ~~!!』

 

 

《グリード》*16敵のみに影響する戦闘中の自動効果が、味方にも影響するようになる。

NINEにおいてガキが所有するスキル。

《会心専心》*17クリティカル時のダメージが上昇する代わりに通常時のダメージが低下する。

《物理プレロマ》*18物理属性で与えるダメージを上昇させる。

 

 

 敵対者の自動効果(パッシブスキル)を味方へと適応するガキの能力。

 足らぬ足らぬもっと寄越せと叫ぶ幽鬼の食欲が牙を剥く。

 そのまま再び《フォッグブレス》を放ち、呼吸がヴァズィへと渡る。

 

「出番ですよ、“オシラサマ”」

 

『キャハ! 分かったの!!』

 

 

\カカカッ/

神樹オシラサマLv21相性:破魔・呪殺・精神無効、火炎に弱い

 

 

 行うのは悪魔召喚。符より現れるのは樹木が着物を着たような悪魔。

 ヴァズィの普段は細目な瞼が静かに開かれる。

 その瞳にあるのは普段の優しさと正反対な冷徹さだけ。

 腐り切った汚物、あるいは屠殺場の家畜を見る目だった。

 

 

《式神(役鬼)》*19悪魔を召喚し使役する。

手番は使用しない(補助動作)と扱う。

魔鏡神符(マカラカーン)*20味方全体へ魔法攻撃を1ターン防ぎ敵に反射する。

《沈黙のささやき》*21敵味方全て対象、万能相性。

魔法(特技)を使用出来なくなる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

このスキルが発動時、反射状態なら以降も効果を発揮しないと裁定。

 

 

 そして発生するのは万能相性の封殺結界。

 以前の大規模戦闘(レイドバトル)において猛威を振るったスキル殺し。

 対抗手段がなければボスさえ抗えない殺し間であった。

 

「今からあんた達を削り殺す。

 MPはまだまだあるし、アイテムもありったけ持ち込んでるからリソース切れは無い。

 そっちも使いたいなら使っていいわよ……使える頭残ってるとは思えないけど」

 

 再び呼吸の回ってきた美野里が駄目押しに《テトラカーン》を使用して告げた。

 

 

 ―――手番が回る。

 

 

「ア……ウウウウ」

 

「待て、待ってくれ頼むから」

 

 デバフを重ねられ牙さえ捥がれた外道たちは何も出来ない。

 意味のない呻き声を上げるか、無駄な命乞いをするかのどちらか。

 自棄になって攻撃する事も、亀のように丸くなって奇跡に縋る事さえもしない。

 如何な彼らでも、自分たちが詰んでしまった事を理解した故に。

 

「あなた方は同じことを言った相手にどうしましたか?」

 

「泣いてこっちがミスるのを祈れクズ共」

 

 外道2体がこの世から姿を消すのに、そう長い時間はかからなかった。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 チェルノボグは外道たちの中で最も小心者だった。

 楽に限界を超えたい、しかしなるべくリスクは冒したくない。

 だから儀式を行ったのは最後で、降ろす悪魔も他の3人に比べて弱くした。

 

 そのおかげだろうか、外見に人格の変質は最低限で済んだと言える。

 勿論外道である事は変わらないが、それでもリスクを計算する頭は残っていた。

 だから、内心ではこのレルムでの“修練”を最後にしばらく身を隠す心算であった。

 

 GPが低下傾向にあるとはいえ、国内が混沌とした情勢にあるのは変わらない。

 さらに自分のような()()()であれば隠れる場所は幾らでもある。

 ほとぼりが冷めれば名と顔を変え、また地道かつ低頻度な“修練”に戻ればいい。

 

 それがどれほど浅い考えであるか自覚もなく。

 机上の空論、取らぬ狸の皮算用と思いもせず。

 脆く儚い、容易く砕け散るだろう妄想をした。

 

 故に―――彼の顔面へ叩きこまれた一撃は痛烈に現実を突きつける。

 

 

「ふんくるばっしゃぁああああああ!!!!」

 

 

「シャドウジャック」*22敵複数体に3~5回攻撃する。

ヘアリージャックの魔晶変化武器。

《狂乱》*23「ヤケクソ」状態に入る。本来は「狂乱」となるスキル。

“心の一方影技・憑鬼の術”とも。

失恋(BSS)の痛みとやるせない怒りを力に変える。

汝はチャラ男、罪ありき……と言うか死ね!! 

《大虎》*24ヤケクソ状態だと通常攻撃の威力が上昇する。

《双手》*25通常攻撃が、小威力+通常の2回攻撃になる。

《獣の反応》*26命中・回避率を上昇させる(スクカジャ1段階分)

「突進」*27誕生篇における戦闘ルールの1つ。

全力移動と格闘攻撃の組み合わせ。

最低でも身長の2倍以上の直線距離を全力移動し格闘攻撃を行った場合、

そのダメージに【力】の能力値を加えることが出来る。

 

 

 意味不明の雄叫びと共に放たれるのは、両手に持った棘付き棍棒による連打

 装備品の重量さえ自身のウェイトとして扱う、介者剣術の流れを汲んだ業。

 そして失恋と脳破壊と怒りと絶望が生みし狂乱(ヤケクソ)の嵐だ。

 

「死ねぇっ! 詫びろ!! 償え!! ! 

 あ゛あ゛あ゛あ゛――――!!!!!!」

 

「人違いしてんじゃねーよこのキチガイ!?」

 

 計12回―――チェルノボグは反応さえ出来ず格下の相手に殴られ続けた。

 

 無論、この程度でやられるはずもない。

 同格以上ならばともかく、レベル差が2周りはある相手なのだ。

 ダメージはあるものの、まだ体力には余裕がある。

 

(早くこいつを殺す。散々殴りやがって―――!)

 

 目の前の―――BSSされた門下生を屠らんと細身の剣を振り上げた。 

 狙いを定めて、血走った目と視線が交差する。

 凶器を両手に持ち涎を撒き散らしながら咆える姿ははっきり言って狂人だ。

 しかしどれだけ外見がアレでも殺せる相手なのは間違いなく―――。

 

 

「ちなみにそいつ、失恋が切っ掛けでアストラル・シンドロームになった。

 で、その間にチャラ男くんと幼なじみちゃんは出来ちゃった婚というね」

 

 

「ムダ話」*28敵の行動回数を1回減らす。

白髭の老人から逃げる、あるいは時間を稼ぐ為に磨いた話術。

使用する度、パテント料として老人へマッカを支払う必要がある。

 

 

 絶妙なタイミングで言葉が挟み込まれた。

 本来であれば何の影響も無い筈の雑音。

 しかし、何故か無視する事の出来ない不思議な声音。

 

 それは“1/fゆらぎ”と呼ばれる声だからこそ成されるもの。

 三途の川にて実践を重ねた話術と合わさり、振り下ろした剣筋を僅かにブレさせる。

 そのブレによって生まれた隙間へ、獣のような俊敏さで潜り込まれ必殺は外された。

 

「そろそろデバフが切れる。

 重ねるぞ巨乳好き」

 

「了解、筋肉マン。

 あと巨乳好きじゃない―――褐色巨乳が好きなんだ」

 

 

《威嚇》*29敵の攻撃力最大低下する。

敵の攻撃力最大強化する。

《デカジャの石》*30敵の能力上昇を打ち消す。

 

 

 すかさず残る2名―――筋肉マンと巨乳好きと呼ばれた少年―――が攻撃力低下のデバフを掛け、手番が1巡する。

 

 戦闘開始以降、この光景が延々と続いていた。

 

 三途の川常連の門下生。

 幼なじみをBSSした門下生。

 分厚い筋肉を持った門下生。

 褐色巨乳好きの門下生。

 

 宗吾が指導し最後まで残った4名は格上相手に十分過ぎるほど食らいついている。

 素のポテンシャルの高さはもちろんあるだろう。

 だがそれ以上に積み重ねて来た連携力、そして覚悟と執念が彼らをここまで強くしていた。

 

「はぁはぁ……俺もう、新しい恋探そうかなぁ」

 

「おい、幼なじみNTR系のASMR音量全開で流せ。

 こいつを正気に戻すな脳破壊を継続しろ」

 

「私、彼氏が出来たの(裏声)。

 幼なじみだから祝福してくれるよね?(裏声)

 キミはずっとずっと一番の友達よ!!(裏声)」

 

「思い出せ、武〇弘光先生の作品一気読みの荒行を! 

 思い出せ、読了後に湧き上がった殺意の波動を!!」

 

「うがあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 強くなる為、生き残る為、そして最後まで戦い抜く為。

 レベル以外の武器を研鑽し手を尽くした者たち姿がここにあった。

 

「…………ふざけやがって」

 

 ギチリと、チェルノボグが歯ぎしりをする。

 それは自分(格上)を相手にふざけた態度で戦い続けている事への怒り。

 そして人を捨ててまで得た力に食らいついて来る元同門たちへの嫉妬。

 

 思考能力が昏い感情によって燃え上がる。

 脳裏に過っていた適当に崩して逃げるという案が破棄される。

 残されたのは全員纏めて殺してやるという意志のみ。

 

 剣の柄を砕けるほどに強く握りしめ、大きく足を開く。

 意識を機先の奪い合い(プレスターンバトル)から自由乱戦(スピードバトル)へと無理矢理変更。

 言葉による妨害があるというならば、それよりも速く動けばいいだけだ。

 

「死ね」

 

 放つのは《血祭り》*31、敵全体を恐怖で犯す斬撃。

 カバーした所で半分は確実に落ちるだろう威力。

 チェルノボグは躊躇いなく、その技を解き放つ。

 

 

 

「やってみろ、それで俺の筋肉が斬れるか試してみな」

 

 

 

《気に障る存在》*32攻撃目標になる確率が50%上がる。

《鉄壁》*33敵の攻撃による被ダメージ時、一定確率でガード効果が発動する。

《ガード高揚》*34ガード時に受けるダメージを激減する。

 

 

 ざくり、と鈍い音がした。

 

「…………あ?」

 

 何故かチェルノボグは《ブレイブザッパー》*35を筋肉マンと呼ばれた少年へ放っていた。全体を薙ぎ払うはずだったのに、気づけば彼一人に攻撃を繰り出していた。

 

 攻撃の瞬間、自ら前へと飛び出し意識(ヘイト)を惹き付ける。

 視線誘導からの行動制限、三途の川常連の門下生とは異なる妨害法。

 

 無論、2周り以上格上からのスキルによる攻撃。ただでは済まない。

 防御に用いた腕は両方斬り落とされ、刀身は肩から心臓近くまで深く食い込んでいた。

 傷口は勿論の事、口の端からも大量の血が流れ出ている。

 

 ――――しかしそれだけだ。

 

 生体反応は消えていない、目が死んでいない、何より《食いしばり》さえ切っていない。

 圧倒的なまでの暴力をその身一つで完全に受け切っていた。

 

「マッスルドリンコキメて火力も落としてなかったらヤバかったかもなあ……っ!!」

 

「こっちの《ドーピング》*36も忘れるな。

 褐色巨乳美女以外にはやりたくないんだよ本当は!」

 

 せり上がった血を吐き出しながらも少年は笑う。

 笑いながら―――全身に力を籠め、食い込んだ剣を筋肉で完全に固定。

 同時にチェルノボグの足を踏み潰し、刹那だが動きを封じてみせる。

 

「殺す! コロス! ロス! ロォオオオオスッ!!!」

 

「棒立ちだな間抜け」

 

「会長苦しめた罰だっ!!」

 

 

《慈愛の反撃》*37攻撃を受けた際、仲間が反撃を行う

 

 

 その刹那、棍棒、銃、剣。

 3人の仲間たちがそれぞれの武器を叩き込む。

 一糸乱れぬ総攻撃にたたらを踏んでチェルノボグが後退する。

 

「雑に払えると思ったか、雑魚だけに? 

 舐めんなよ腰抜けの根性無しが」

 

「あのクソッタレの教官に何度三途の川送られたか。

 あれに比べりゃずっとマシなんだよ、てめーなんてな」

 

「死ぬときは会長のおっぱいに挟まれて死ぬと決めている。

 故に死なないし、逆にお前を殺す」

 

「八つ当たりのサンドバッグに最適だなぁ……っ! 

 チャラ男撲殺の礎となって散れ!!!!」

 

 チェルノボグが原型を留めない挽肉になるまで、残り十数分だった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 外道たちのリーダーであるヨシツネは漂流者(ドリフター)である。

 他の者たちもそうだが何か特別な背景がある訳でもない、十把一絡げの存在。

 だからこそ、そんな状況から脱しようという気持ちが人一倍強かった。

 

 なにせこの世界は強くなければ生き残れない。

 かつては超越者とも呼ばれたレベル50を上回る怪物たちがゴロゴロしている環境下で、弱いままでいるのは純粋に恐ろしかったのだ。

 噂で漂流者(ドリフター)を狩る者たちの存在を聞いてから、その気持ちは日に日に高まっていった。

 

 最優先なのは自らの身を守れるだけの強さを得る事。

 しかし教官の課す修行と彼らの言う格上殺しの試練では時間が掛かる上リスクも大きい。

 何より、辛く苦しいだけで自分にはまるで合わなかった。

 

 故に求めた、簡単に強くなれる方法を。

 手っ取り早く限界を打ち破り、更なる強さを楽に得られる手段を。

 そうしなければせっかく永らえた命を今度こそ失ってしまうかもしれないから。

 

 強迫観念に突き動かされるまま、身近な相手に声をかけひたすら資料を漁った。

 少なくとも、正真正銘の外道へ堕ちる前はその程度の……楽な方向に流されるどこにでもいる人間だったのだ。

 運が良ければ何も見つからず、また別の道へ向かう可能性もあったかもしれない。

 

 ―――彼にとって不幸だったのは4点。

 

 資料室の奥、誰からも忘れられたような本の山に目当ての物があった事。

 儀式に干渉し、いざとなれば中断出来る導師が居なかった事。

 そもそも見つけた資料が不完全で、安全性に関する記述が抜け落ちていた事。

 そして―――高望みして高レベルの悪魔を降ろそうとした事。

 

 その結果、精神闘争において瞬時に魂はすり潰された。

 軍神の欠片と言えど、せめぎ合うにはあまりにも差があったのだ。

 故に、残ったのは外道と化したヨシツネ―――その擬き。

 

 名前と力だけは似ている、ただの血に酔った悪魔である。

 

 

「いい加減にくたばりやがれぇえええ!!!!」

 

 

《鎧通し》*38敵単体に小威力の物理属性攻撃。

3ターンの間、対象の防御力を1段階低下させる。

《貫通撃》*39敵単体に中威力の物理属性攻撃。相性を無視して貫通する。

 

 

 閃光の如き速さ(2回行動)で繰り出される弱体化と相性無視の斬撃。

 大勢の人間から奪ったMAGにより底上げされたそれらは、人間一人など容易く引き千切る力を秘めていた。

 事実、これまで抵抗のため剣を取った漂流者(ドリフター)たちは軌跡を追う事すら出来ず命を散らしている。

 

 

「―――駄目だな」

 

 

「回避専念」*40次の手番(ターン)まで自身の回避率+20%する。

プレスターンバトルの場合でも同様とする。

《■■》*41格闘回避、防御、反撃の成功率を上昇させる。

本来は■■■に分類されるスキル。

抜刀術の奥義に通ずるものがある為、例外的に使用が可能。

 

 

 だが―――当たらない。

 

 

 剣閃が予め軌道に()()()()()()宗吾の刀へ触れると、あらぬ方向に逸らされ空を斬る。

 手応えらしい手応えなどまるでない。まるで霞を斬ったが如き感触。

 どれもこれも見当違いの方向へと導かれ不発に終わる。

 

 まるで先読みされたかのようにヨシツネの攻撃は捌かれ続けていた。

 力で大きく上回る筈の暴力を、軽妙なる業にて翻弄する。

 軽きを以て重きを凌ぎ、遅きを以て速きを制す。

 

 いわゆる柔剣……その極意。

 

 無論、レベル的には相手が格上である以上、全てを回避出来ている訳ではなかった。

 防御してダメージを軽減したのもあれば、避け損ねて直撃を受けた傷もある。

 しかし、いずれも最小限で致命傷には程遠く、戦闘行動に支障は見られない。

 

 対して―――。

 

「“意”が見え見えなんだよ、もう少し隠せ。

 だからこんな簡単にいなせる」

 

「また偉そうに訳分かんねぇ事を―――」

 

「なら死ね」

 

 

《デスカウンター》*42物理型攻撃に対し50%の確率で発動。

3倍の威力で通常攻撃を行う。

()()T()R()P()G()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

未だ不完全であり、銃撃に対しては発動不可。

クリティカルも発生しない。

《急所》*43割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。

直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。

急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。

「鬼神楽」草薙の剣*44+魔晶剣*45

草薙の剣の通常攻撃は前方複数に1~3回

《物理・銃撃貫通》*46物理・銃撃属性で攻撃する時、

耐性・無効・吸収を無視してダメージを与えられる。

ヤマタノオロチより奪い取った能力の1つ。

 

 

 

 理解及ばぬ外道に急所を狙った回避不能の刃が3つ疾る。

 ヤマタノオロチの力を喰らって得た、物理耐性をものともせぬ死へと至る反撃。

 浅くない斬傷を刻みつつ、突っ込んだ勢いのまま前方へと投げ飛ばす。

 

 アスファルトの上で何度も転がされたヨシツネは……確実に死の淵へと追い込まれていた。

 

「ギッガァッ……クソ、クソがクソが! 

 俺の方が強いんだぞおかしいだろ!! 

 何でさっさと死なねえんだこのペテン野郎!!?」

 

「ペテンなら引っ掛かってるお前が悪い。

 ほら、もう一度見せてみろよ。

 次は届くかもしれねーぞ」

 

 悲鳴染みた悪態―――現実を認められない喚き―――を受け流しつつ、宗吾は攻めない。

 ひたすら回避、あるいは防御に集中し続けている。

 攻撃はカウンターに絞り、自発的な攻撃は一切行っていなかった。

 

 無法を尽くして得た力を否定する為。

 新たな剣技の使い勝手を確認する為。

 

 理由は複数あるが―――最も大きいのは。

 

「ヨシツネなんだろ、見せろよ“八艘飛び”。

 ずっと探してたんだが中々縁が無くてさ。

 ……それともこのまま抱え落ちするか?」

 

 かつて聞いた軍神の業、連撃の完成系たる()()()()()()

 それを自らの身で受け、斬り返し盗む為だった。

 

 

《ドリンク各種》*47特定の能力値を1.5倍する。

BARでオーダーできるドリンク。

数種類あり、それぞれに効果が違う(効果は次の満月まで有効)。

飲んだドリンクの効果はすべて反映される。

酒の効果が切れるとランダムで軽いBSとなる。

 

 

 マッスルドリンコと合わせてドーピングを行っているとはいえ、分の悪すぎる賭け。

 そもそも盗める可能性などかなり低い。

 悪い言い方をすれば自殺行為に等しい考えである。

 

「―――カハッ」

 

 それら全てを理解した上で、剣鬼は笑う。

 あらゆる経験を血肉に変える必要があるから。

 でなければ、あの魔人に挑むなど夢のまた夢だと理解しているから。

 だからこれは、外道に堕ちた元教え子に要求する最後の授業代。

 

 ―――お前の全てを寄越せ、それから殺す。

 

 そうとしか聞こえない挑発にヨシツネは一瞬激昂しかけるが、寸での所で踏み止まる。

 ここで使ってしまえば向こうの思う壺。

 むしろ何かを仕掛ける為に誘っている可能性もあるのだ。

 

 膨れ上がったプライドを無理矢理押し殺し、彼が選んだのは―――。

 

 

「ぶっ飛べ……っ!!」

 

 

《メギドラ》*48敵全体に万能相性ダメージ。

NINEのヨシツネが習得する。

 

 

 ()()()()()()()2()()()

 どんな相手でも通じるまさしく“万能”の攻撃。

 かつては使う事さえ夢のまた夢であった超絶魔法。

 この瞬間まで、それこそ仲間にさえ伏せていた手札だ。

 

 魔法反射(マカラカーン)もこれの前には意味を成さない。

 例え殺せなくとも相当な痛手は与えられる筈。

 消耗は大きいが、もう1度繰り返せば勝利は確実なものとなる。

 

 

 

「―――夢見てんじゃねえよ」

 

 

《魔法防御Ⅱ》*49魔晶剣と魔晶杖で使用可能。

回避の代わりに使用する。

魔法攻撃1回に対し、魔晶剣(杖)の威力修正を魔法防御点に加える。

魔晶剣(杖)の属性攻撃に対応する相性の攻撃だった場合、

その相性に「強い」ものとして扱う。

この判定にクリティカルした場合、ダメージと効果を完全に打ち消す。

⇒無効と裁定する。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 厳密には威力を減衰した上で、防具によって被害を最小限に抑え込んだ。*50

 それでも傍から見れば、髪の毛が少し焦げた程度の被害しか確認出来ない。

 剣鬼にとって、単なる万能魔法はさした脅威でもなかった。

 

「まだドーピング分も削れてないんだが? 

 ―――それしかないなら終わりだ」

 

 

《デスバウンド》*51敵単体に2~7回、力依存の中ダメージ。

術者のHP最大値が大きいほど威力が上がる。

ヤマタノオロチを打倒し手に入れた連撃の業。

《急所》*52割り込みで使用。肉体の知識を学び、急所を見つける。

直後の攻撃で急所を狙ったり、わざと外したりできる。

急所を狙った場合はダメージ2倍、外した場合はクリティカルしない。

《会心》*53クリティカル率上昇。

 

 

 硬直した外道を容赦なく刻みながら宗吾が終わりを告げる。

 

 既にヨシツネは限界に近い。

 積み重ねた負傷、技の連発による消耗。

 止まらない出血と流出するMAG、荒い呼吸で上下する肩。

 

 この状態では逃げる事さえ困難。

 このままでは間もなく死ぬ―――その確信が彼の中に芽生えた。

 

「……そんなに、見てぇなら――――!」

 

 

「チャージ」*54使用後に1度だけ、物理スキルのダメージを倍以上にする。

 

 

「見せてやるよぉおおおおおおっ!!!!!」

 

 

 咆哮、そして跳躍。

 恥も何もかも捨てて、周囲の建物を足場に縦横無尽に跳ね回る。

 残像すら捉えるのが困難な高速機動。

 

(殺す、これで殺せなきゃ死ぬ……っ!!)

 

 死を拒絶する意思が、ヨシツネに限界を超えさせていた。

 儀式で手に入れて以降、この瞬間まで使った事は無かったが、もうこれしかないと信じて。

 視線を千切り背後へ、加速し続ける鼓動(ビート)に全てを込める。

 

 

 

 

―――《はっそうそび》―――

 

 

 

 そして、ヨシツネの象徴たる技が放たれた。

 

 

 

 

 

 

「―――――」

 

 

 

 

 

 

 対して宗吾は。

 軽く横に逸れて躱してから、がら空きの腹部を蹴り上げていた。

 飛ばされるのは空中、翼無き者の自由を奪う殺し間。

 

「…………なんで?」

 

 内臓が潰された痛みも知覚出来ぬまま、そんな言葉が零れる。

 己の渾身がハエでも潰すかのように簡単に躱された事への疑問。

 問いへ答える者など誰もいない。

 そんな上等なものが、この外道に与えられるはずもない。

 

「―――考えてみりゃ当然だった。

 外道に堕ちた輩に軍神(英雄)がシンボルを使わせるはずもねぇ」

 

 だからこれは剣鬼の独り言だ。

 当てが外れた事への失望と納得の言葉。

 死を目前に遅延する世界で、強化された聴覚が拾う終わりの声。

 

「使えて“八艘飛び”じゃなくて“一艘飛び”*55

 昔やり合った猛将(ニセモノ)のやつが精々だろ」

 

 “ヨシツネ”とは悪魔を調伏し、悪魔と共に戦い、民草を護る―――護国の剣たる悪魔。

 

 そんな悪魔が、自らの代名詞と呼べるものを外道に許す筈もないのだと。

 慢心し格下相手に使う必要もなかった故、この瞬間まで気づけなかった。

 

 

「芯なく義なく道外れた愚物。

 ―――ふさわしい惨めさで死ね」

 

 

 侮蔑の言葉と共に幕が閉じる。

 

 

《■界■》使用者の周囲にいる敵に対して物理ダメージを与える。

《飛霊八方》*56幽体離脱の術。MPを使って分身を作り出す。

分身のダメージは本体が受ける。

タオに分類されるカルトマジック。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 粉砕された外道ヨシツネは最後まで、奇襲直後に背後を取られていた理由を考えもしなかった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

――― 現行周回 十数日後 ―――

 

 

 

「……あんた本当にやるの?」

 

「もちろん」

 

 目的地へと向かいながら、最近お気に入りのピザを口にする相棒を見る。

 明らかに楽しそうだ。遠足前日の小学生と例えられるかもしれない。

 それもその筈。なにせ以前から申し込んだ果し合いをこれから行うのだから。

 向こうにもスケジュールがある以上、今更断るのは失礼だと美野里も当然分かっている。

 

 それでも――――。

 

「昨日やっと修練会関係のゴタゴタが片付いたのに……。

 何回か死んだんだからちょっと休もうって気は無いの?」

 

「ワクワクは止められねぇ……ってのは半分冗談で。

 調整も兼ねて少しは休むって、これ終わったら」

 

 美野里の言葉に流石の宗吾も少し苦笑いで返した。

 

 “修練会門下生が起こした虐殺事件”。

 

 当然これは業界に広まる事となった。

 だが幸いと言ってはなんだが珍しい事ではなく、被害者も非合法レルムの住人が主だった以上そこまでの騒ぎにはならなかった。

 無論、ロクな管理も出来ていないなどの声もあり、スポンサーが幾つか撤退。

 修練会から去る者も少なくはなかった。

 

 ここまではまだ良い。

 問題は―――被害を受けた非合法レルムを支配する者たちからの報復。

 全てではなく極一部ではあったが、修練会の拠点が襲撃を受ける事もあった。

 

 最後の仕事としてそれら全てと戦い、交渉し、手打ちとして。

 

 諸々が片付いたのがつい昨日の話である。

 契約期間は超えていたが、そこは気にしていなかった。

 ヴァズィとも連絡先を交換した上で、笑顔で終われたのだから上々だろう。

 

「そういえば最後に弟子4人と戦ってたけどどうなったの。

 もしかして負けた?」

 

「いや、試運転で《宿曜経》使って戦法崩しつつ速攻で片付けた

 

「大人げなさ過ぎでしょ……」

 

 卑怯、汚い、せこい、等と色々言われたが、全部無視してぶっ飛ばした事を宗吾は伝える。

 それでも、誰一人として最後まで折れはしなかった。

 今回の件で限界突破に成功したので、彼らはこれから更に伸びて来るだろう。

 

「相性悪いのもいるって知れて良かっただろ。

 絶対リベンジするって言ってたしさ......っと、ここか」

 

 やがて目的地―――千束に紹介されたリコリス所有物件へとたどり着く。

 すでに先方は中で待っている。

 かつて闘技場で見た赤目の解析屋、最前線で戦う凄腕のデビルサマナーが。

 

「じゃあ、挑ませてもらいますか」

 

「男ってやつはもう……」

 

 武者震いと共に笑う宗吾。呆れるながらも離れない美野里。

 並びながら、彼らは同時に建物へと入るのだった。

 

 

 

*1
※200X&真Ⅲ

*2
※200X&退魔生徒会シリーズ

*3
TRPG200X

*4
※200X

*5
※デビサマ 防御魔法 全体 魔法攻撃を1ターン防ぎ敵に反射

*6
※真Ⅲ 3ターン敵全体の回避率と命中率を2段階ダウン

*7
※PR5 3ターン攻撃力33%低下

*8
※真Ⅴ

*9
※真Ⅴ

*10
※真Ⅴ

*11
※真Ⅴ

*12
※誕生篇

*13
※誕生篇

*14
※200X

*15
※真ⅣF

*16
※NINE

*17
※真Ⅴ

*18
※真Ⅴ

*19
※基本システム

*20
※デビサマ

*21
※ソルハカ

*22
※デビサマ

*23
※誕生篇改変

*24
※P3

*25
※デビサバ2

*26
※真Ⅳ

*27
※誕生篇

*28
※真Ⅳ

*29
※デビサマ

*30

*31
※P5R 敵全体に大ダメージ。低確率で恐怖状態にする。

*32
※デビチル

*33
※SH2

*34
※アバドン王

*35
※P5R 超特大ダメージを与える。クリティカル率が少し高い。

*36
※真Ⅳ 戦闘中、味方全員の最大HPを30%上昇させる。

*37
※SH2

*38
※真Ⅴ

*39
※真Ⅴ

*40
※200X

*41
※誕生篇

*42
※真ⅢTRPG&200Xオプションルール

*43
※誕生篇

*44
※デビルサマナー

*45
※200X

*46
※SH2

*47
※真Ⅱ

*48
※NINE

*49
※200X

*50
※デビサマ 「Aマックスヘルム」デビサマの全対応は万能も半減する。

*51
※デビルサマナー

*52
※誕生篇

*53
※200X

*54
※P4G

*55
※《はっそうとび》 覚醒篇 敵全体に物理攻撃1回を行う。

*56
※基本システム&覚醒篇




◎登場人物紹介

八瀬宗吾 Lv60⇒??⇒60
暴走した門下生の中で最も強い奴を斃した事でレベルアップ。
しかし以降のゴタゴタで何度か死んで結局据え置きのまま。
《デスカウンター》にはまだ先がある模様。
修練会での仕事を終えた後、念願だった漫画好きと戦う事に。


若槻美野里 Lv55⇒58
新しい手持ちが登場。
サマナーとしても順調に成長している。
以前の無茶なブーストが原因なのか強力なスキルが使えるようになった。
最近、宗吾と距離が近いとは千束の談。


修練会門下生4人 Lv30以上
最後まで残った宗吾の教え子たち。
全員変な方向に覚醒したかもしれない。
いつか宗吾にリベンジする事を誓い修練に励んでいる。
以下は彼らのスキルデータ。

・三途の川常連
《ムダ話》※真Ⅳ 《ルレオタ》※LBSP 《マジックシール》※P2
《逃走加速》※P3 《応援上手》※デビチル 《水に流す》※デビチル
《存在感無し》※デビチル 《食いしばり》※シリーズ全般

・筋肉マン
《威嚇》※デビサマ 《カバー》※誕生篇
《気に障る存在》※デビチル 《ガード高揚》※ライドウシリーズ
《鉄壁》※SH2 《1分の活泉》※シリーズ全般
《慈愛の反撃》※SH2 《食いしばり》※シリーズ全般

・褐色巨乳好き
《ドーピング》※真Ⅳ 《メディラマ》※真Ⅱ
《リカームドラ》※真Ⅲ 《フォッグブレス》※真Ⅲ
《形代》※誕生篇 《霊活符》※覚醒篇
《玉女喜神術》※基本システム 《食いしばり》※シリーズ全般

・BSS
《狂乱》※誕生篇改変 《大虎》※P3
《双手》※デビサバ2 《反撃》※真ⅢTRPG
《回避強化》※200X 《獣の反応》※真Ⅳ
《会心》※200X 《食いしばり》※シリーズ全般




大分時間が掛かりましたがこれで修練会編は終わりです。
次回からマタドール戦以降の話となります。


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Fragment②

1ヶ月以上空いてしまい申し訳ありません。
次話はなるべく早めに書くつもりです。


 

 

 

 

「Fragment:Rebirth/Remake」

 

 

 

「最初に言っておく―――こいつは直せぬ」

 

「………………マジで?」

 

 告げられた衝撃の事実にたっぷりと間を置いてから宗吾は視線を下へと向ける。

 炉から放たれる殺人的な熱気に満たされた室内。いわゆる鍛冶場と呼ばれる場所。

 そこの長年使い込まれただろう金床の上に乗せられた、真っ二つに折れた刀が目に映った。

 

 銘は鬼神楽―――彼の愛剣にして実家で代々受け継がれてきた名刀。

 今まで幾つもの死闘を共に潜り抜けて来た、まさしく半身と呼べる相棒。

 魔人(マタドール)と死闘を繰り広げた末にこのような無残な姿へと成り果ててしまった為、先日此処へと持ち込んだのだ。

 

 それが直せない―――再起不能であると彼女は言う。

 

「待って、ステイステイストップ! 

 そりゃ確かに折れてる、綺麗に真っ二つだ真ん中からポッキリいってる!! 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!?」

 

 通常、刀剣というものは折れたらそこで終わりである。

 創作(フィクション)でよくあるように、折れた物を繋いで直すなど不可能だ。

 折れた刀身を材料に1から鉄を鍛え直すというのが精々だろう。

 

 だが、それは一般的な刀剣の話。

 力を持つ剣の類―――合体剣あるいは魔晶剣―――であるなら話は別。

 一定以上の腕がある魔匠ならば多少のコストはかかっても修復は十分に可能なのだ。*1

 現に、宗吾は高校時代と武者修行時代を合わせればこれまで4回ほど折った経験がある。

 

 いずれも己の未熟が原因であり、更なる研鑽を誓ってここまでやって来た。

 過去周回から時を超えてなお、絆を結び魂を通わせて共に強くなって来た。

 だから、目の前の鍛冶師の言葉はそう簡単に受け止められるものではない。

 

「何か足りねー物があるなら持ってくる。

 芯鉄に使ってるヒヒロノカネか? 

 それとも――――」

 

「すまん、言葉が足りんかった。

 正確に言えば“今は”じゃな……だから揺さぶるのは止めい!」

 

 

\カカカッ/

魔匠正宗Lv57

 

 

 宗吾に肩を掴まれ前後へと揺さぶられながら、魔匠・正宗は言葉足らずを謝罪した。

 その姿は一見すれば小学校中学年ほどの幼女……もとい少女にしか見えない。

 古びた作業着から覗く華奢な腕も、槌どころか枝を振る事さえ難しそうだ。

 鍛冶師などという肩書からはどう考えても程遠い。

 

 ―――しかし、それは見かけだけに限った話。

 

 ほんの僅かな所作から感じさせる老練さ。

 幼い声音に乗る幾千霜もの年月を経た重み。

 碧眼の奥から覗く大木のように揺らがない在り方。

 

 少し会話をするだけでも外見を否定する情報は山のように入って来る。

 直接聞いた事はないが、間違いなく実際の年齢は宗吾の倍以上はあるだろう。

 小耳に挟んだ話では妖精種(ドヴェルガー)の血を引く悪魔人間であるらしい。

 そもそも、初対面は拉致しようとした馬鹿を自ら返り討ちにしていた時だった。

 

「…………今は?」

 

 行きつけの喫茶店(リコリコ)のミカに紹介して貰って以降、装備のメンテナンスを幾度も頼んでいるのでその腕前も人柄も十分に知っている。

 少なくとも仕事に誇りを持ち、そこに虚言を混ぜるような人物でないのは確かだ。

 一旦手を放し、そのまま話の続きを促す。

 ―――それはそうとして、もし仮に適当を言っているなら再び揺さぶるつもりだが。

 

「うむ、では一から話すぞ。

 おぬしが工房に折れたこいつを持ち込んだ後、わしはすぐ修復にかかった。

 幸いにも破損状態は酷くなかった故、手間も大してかからんはずであったが……」

 

 ――――だがしかし。

 折れた鬼神楽の刀身を軽く撫でながら一拍おいて。

 

「途中でこちらの干渉が弾かれた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 誓って工程を間違えた訳でも材料をケチった訳でもない。

 ……わしも鍛冶師を生業として長いが、こういった事は数えるほどしかない」

 

 それはまさしく青天の霹靂。想像だにしない出来事。

 刀自身が修復を拒否するという謎の事態。

 目を白黒させる宗吾に構わず正宗は説明を続ける。

 

「聖剣や魔剣は意志を持つ物が多い。

 時に主へと忠告や警戒を促す事もある。

 こいつも口こそ利かんがそういったタイプじゃろ? *2

 

「悪魔が近くに居たり不意打ちされそうになると震えて教えてくれたりするしな。

 じゃあえっと、まさかのストライキ……それともまさか愛想尽かされたか?」

 

 修練前の刀礼と毎日の手入れを怠った事はないが、それでも扱いが雑に過ぎたか。

 そもそもが実家から勝手に持ち出したので正式に継承した訳でもない。

 無茶に何度も付き合わせた事も含め、拒絶される理由にはそれなりに心当たりがあった。

 

「それならおぬしはとうの昔にくたばっておろう。

 逆じゃ逆―――己の不甲斐なさに憤っておるのよ、鬼神楽(こやつ)は」

 

 可愛いもんじゃな、と付け加えた正宗の言葉に反応してか。

 カタリと音を立てながら一瞬だけ鬼神楽の柄が震える。

 不甲斐なさ……それが何を意味するのか分からないほど宗吾は鈍くない。

 

「不甲斐なさって……ありゃ完成してない技に頼った俺の責任だろ、どう考えても」

 

 ―――思い返す。マタドールとの最後の交錯を。

 

 未完の、不完全な“魔剣”では殺しきれず、拡散した破壊力の一部は刀身へと牙を向いた。

 むしろその時点で砕けず、反撃しようとした時まで形を保っていたのは奇跡に等しい。

 少なくとも不甲斐なさを感じるのは己1人で十分の筈。

 

 そんな考えが表情に出ていたのだろう。

 呆れながら正宗がため息をつく。

 

「阿呆、()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

 おぬしが刃を振る事を求めて、こやつは応えられなかった。

 屈辱、怒り、後悔……意思ある剣なら感じて当然の話じゃ」

 

 力の有る無しに関わらず、刀剣とは使い手が何かを斬るために存在する。

 その役割を最後まで果たせない時点で意味は無く価値も無い。

 観賞用のレプリカにも劣る、角度が付いただけの鉄の棒切れだ。

 

 ―――そんな事は、とてもではないが受け入れられないだろう。

 

「だからこそ、ただ直るのではなく先を求めておる。

 次からは二度と折れない、最後まで使命を果たしてみせると。

 こやつなりの意地……要するに“もあぱわー”というやつじゃな、うん」

 

「もあぱわーって、言葉にすんのは簡単だけどなぁ……。

 具体的にどうやってって話なんだが?」

 

 もう一度宗吾は鬼神楽を見る。

 直せない、直らない理由は理解した。

 使い手として、半身としてその意を組んでやるべきだろう。

 だが現実問題、これ以上の強化は難しいものがあるのも事実なのだ。

 

 性能的に言えば鬼神楽は“草薙の剣”に匹敵する。

 これは合体剣における事実上の最終段階であり終着点。

 一昔前ならば一握りの一流のみが振るえた武器である。

 

 実際は流れ者の一般DBである宗吾が知らないだけで、まだ強化には先があるのかもしれない。

 キリギリスの掲示板や修練会で閲覧した資料にはそれらしきものも僅かにだがあった。

 しかし、その手の代物は最前線で戦う人員に回されるべきものだ。

 

 将来的にはともかく、現時点でレベル60そこそこの剣士が手に出来る可能性はかなり低い。

 考えられるとすれば鬼神楽の力をさらに引き出す事だが―――。

 

(そもそもこいつは素の力の強化を求めてる訳で、それじゃ意味がない)

 

 宗吾としても強く出来るなら越した事はないが無理なものは無理。

 加えて、身の丈に合わないものを振れば自滅するリスクもあるので強過ぎても駄目。

 はっきり言って手詰まりである。

 

「正宗さん、不可能かつ都合が良いのを承知で言うけどさ。

 今すぐ俺に使いこなせる範囲かつ、こいつが納得出来る強化ってあるか?」

 

 頭を掻きながらなんとなしに宗吾は尋ねる。

 別に良い返事は端から期待していない。

 ただ何かきっかけになれば儲けものといった程度の問いかけ。

 

「童貞小僧が妄想する理想の女性並みの無茶ぶりじゃな。

 そんなもんあるか……と、普通なら言うが。

()()()()()()()()()()()()

 

 ―――再び衝撃の事実が告げられた。

 

「…………え、マジで???」

 

 思わず顔を上げると、悪戯が成功したかのような少女の笑みが見える。

 正宗は近くの作業台まで歩くと、そこに置かれていた一振りの刀を手に取った。

 少し離れた場所かつ背中越しである為全体像は見えにくい。

 

「以前おぬしらが新宿地下の異界で《餓鬼王国》を相手にした時を覚えておるか?」

 

「美野里ちゃんがあのガキを仲魔にした依頼だろ。

 数は多いしかなり強い個体も居たから忘れられねーって」

 

 それは修練会での指導依頼を受ける前の出来事。

 宝石購入の資金稼ぎかつ修業のため手頃な仕事を探していた宗吾達は、新宿地下各所に存在するガキの集団(トライブ)を間引きする依頼を紹介された。

 本来であれば自衛隊が任務の一環として処理する案件だ。

 

 民間人かつ無関係の宗吾たちが関わる余地は一切ない。

 だが、昨今の多忙を極める状況によって間引きに割く人員に不足が生じたせいか。

 負担軽減の方法あるいは苦肉の策として一部の担当がフリーのDBへと委託されるようになっていたのだ。

 

 結果から言えば―――これが大当たりの仕事であった。

 

 彼らの担当した区域は高GP環境下で勢力争いをするうちに、蟲毒のように強くなっていったガキが多かった。

 中には特殊な能力を持つ個体、宝石含めた希少なアイテムを貯め込んでいる個体も複数いた。

 その際美野里はとあるガキを仲魔にし、宗吾は何故か囚われていた浮遊霊を助け出したのだが―――。

 

「おぬしが浮遊霊から礼に貰ったという()()

 この刀を打つのに使った材料の残り。

 時間はちと掛かるがこれだけあればわしなら出来る。

 久々に面白い仕事となりそう故、値段はサービスしてやろう」

 

 正宗は刀を鞘に納めると、振り返りながら宗吾へと投げ渡す。

 それなりの勢い――― 一般人なら顔面直撃確定―――だが問題ない。

 軌道に合わせて危うげなく刀を掴み取る。

 

 ずしりとした重みを感じ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ―――!?」

 

 刹那にも満たない瞬間。在り得ざるモノを見る。

 幻視するのは鮮血舞う闘争の舞台と死を招く無謬の刃。

 叩き込まれるのは首を刎ね腹を裂き魂が寸毫まで刻まれるイメージ。

 

 理解する、これは聖剣でもなければ魔剣でもない。

 

 これは使い手を呪うモノ。

 これは使い手を嗤うモノ。

 これは使い手を喰うモノ。

 

 いずれ使い手を破滅させるモノ――――“妖刀”の類であると。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 どう頑張っても妖刀になってしまったが、おぬしなら使いこなせよう。

 喰い殺されんよう十分注意しろよ」

 

「カハッ、予備の刀にしちゃ随分と物騒なこった。

 適当に形整えてくれるだけで良かったんだが……助かるよ」

 

 空いていた腰の定位置に妖刀を差す。

 鬼神楽とは重さも長さも微妙に異なる。

 重心や間合いの把握、振る際の調整も必要だろう。

 

 それ抜きにしてもとんだじゃじゃ馬だが、間に合わせの代刀には丁度いい。

 この程度使いこなせなければ、あの魔人に本当の意味で追いつけるはずもないのだから。

 

 

 

 

 

「…………それにしても随分凝った造りだなーって。

 いやホント、どんだけ手間暇かけたのか怖いくらい。

 その、聞くんだけど。割引とかある???」

 

「分割払いはやっておるから安心せい。

 高ついても構わんといった自分の迂闊さを呪え」

 

 

 

 

 

 後日、行きつけの喫茶店にて。

 諸々に掛かった費用は宝石を揃えるよりは安ついたと愚痴るのであった。

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「Fragment:物語の終わり、あるいは前日譚」

 

 

 

 

―――〈過去周回 20XX/XX/XX 須摩留市・アバドンゲート付近〉―――

 

 

 

 ――――そこは既に死地だった。

 

 須摩留市沿岸部臨海公園。

 学園都市・須摩留の中でも人気のあるスポットの1つ。

 つい最近までは、放課後に多くの学生たちが訪れる憩いの場であった。

 

 それが今やスクラップと化した兵器に防衛機構の廃棄場だ。

 綺麗に整えられていたはずの芝生や花壇は戦闘の余波で根こそぎ抉られて。

 大人でも遊べる最新式の遊具は原型を留めないオブジェに姿を変えている。

 かつてを知る者なら、この光景に目を疑う事は間違いない。

 

 ―――原因は分かり切っている。

 

 本来であれば日本海を一望出来るはずの場所へと穿たれた黒い巨大な孔。

 それを囲みつつゆっくりと広がる、接近物を分子レベルまで分解するプラズマの壁。

 そして、その内側から溢れるように這い出す悪魔の群れ。

 

 アバドンゲート―――あるいは暗黒宇宙(シュバルツバース)

 

 そう呼称される、都市を襲うかのように出現した大厄災。

 此処ではない何処か、魔界ですらない彼方へと繋がる門。

 以前から前兆はあったらしいがここ最近急激に拡大を始め、悪魔たちがその力を振るい始めた。

 

 ―――もちろん何もしなかった訳ではない。

 

 しかし異形科学の粋を集めた兵器による迎撃は数日で敗北。

 風紀委員を始めとする力を持った生徒たちでも遅滞戦闘が限界。

 学園都市の実質的支配者である生徒会長には対抗策か避難計画、あるいはその両方があるようだが具体的には伏せられたまま。

 噂の“ガイア再生機構”とやらも動かず、都市の……世界の終わりまで秒読み段階かもしれない。

 

 ―――だから今、自分がこの場所にいるのは間違ってるのも理解している。

 

 本来なら数十人単位で動き守りに徹するべき状況。

 なのに防衛線は遥か後方。すなわち敵地のど真ん中。

 いつ囲まれて嬲り殺されてもおかしくはない。

 

 加えて仲間には何も伝えずここまで突貫したので援軍も期待出来ない。

 特攻とさえ呼べない、自殺行為を通り越した愚行中の愚行。

 普段の己なら間違っても行わないと断言出来る。 

 

 頭では分かっている―――ただ心が無視した。

 逃げろと理性が叫ぶ―――でも体は従わない。

 自分は死にたいのか―――むしろ殺しに来た。

 

 

 ―――仲間の多くが傷付き、殺された。あの4騎士の一角(ペイルライダー)によって。

 

 

 こんな所で死にたくないと泣きながら息絶えた子がいる。

 余計な負担になりたくないと生命維持装置を自ら外した子がいる。

 奴の呪いを受け今なお病毒に苦しめられている子がいる。

 

 次に襲撃を受ければ無事な者たちもどうなるか分からない。

 いや、確実に前回以上の犠牲が出るだろう。

 一度撃退した以上、本腰を入れて来るのは間違いないからだ。

 

 そして気付かなかったが……どうやら自分はそれを許容出来ない性質らしかった。

 外部からの転入生だとか、光輪(ヘイロー)を持たないはぐれ者だとか。

 今まで心の何処かで気にしていた事が些事に思える程に……()()()()()

 

 

 ―――殺す、最低でも皆が逃げる時間を稼ぐ。

 

 胸の内で燃え盛る炎は留まるところを知らず。

 

 ―――殺す、皆を守るために。その為なら手段は択ばない。 

 

 敵を討つべくあらゆる規則に道理を踏み躙った。

 

 ―――殺す、もう誰も失いたくないから。

 

 激情に突き動かされながら障害を乗り越えて。

 

 

『にははは……! え? 責任? なんですかそれ? 

 あ、ちょっとマシンに乗るの止めてってうわあー!!?』

 

『風紀委員がこれぐらいで痛がるはずないだろ……って待て! 

 市街地でロケットランチャーなんて止めろ!!?』

 

 ふと思い浮かんだのはピンク髪の問題児と銀髪の友人の姿。

 今まで散々手を焼かされたあの後輩をもはや責められまい。

 友人の方も今回ばかりは呆れる事さえしないだろう。

 

 ある意味、後輩以上の被害を出してしまっているし()()()()つもりなのだから。

 

「…………ん」

 

 操作していたタブレットの電源を落として短く息を吐く。これで準備は完了。

 装備も素人整備であるがなんとか終わらせた。肉体の疲労も薬で誤魔化せる。

 敵の本拠地近く(ここ)へと辿り着くまでかなり消耗したが、最悪あと1戦持てば十分。

 

 後は放たれた矢のように目標へ向かって突き進むだけだ。

 スクラップと瓦礫の山で作った仮初の拠点から這うようにして抜け出すと、沈み始めた太陽に光が目に刺さる。

 ほんの数時間でも悪魔に見つからない環境が必要だったとはいえ、無理な姿勢でいたため体の節々が音が鳴った。

 

 軽く息を吐いてから意識を研ぎ澄ませて――――。

 

 

「―――準備は整ったか。では決戦と行こう美野里。

 幸いにも悪魔たちは然程うろついてはいないようだ」

 

「ったくしょうがないニャア!

 言っておくけどこっちは死ぬ気ねーからニャ!!」

 

 

 待っていたかのように声が掛けられた。

 この無謀に付き合い、周囲の警戒をしてくれていた2()()の物。

 足元を見ればそこには赤色の犬と黒色の猫が佇んでいる。

 

「最後にもう1回だけ聞くわ。

 ―――良いのねブラッディ、シャノワール。

 仮に生き残ってもアンタらまで責任問われるわよ」

 

 

\カカカッ/

サイボーグドッグブラッディLv28

 

 

「私は勝手に動くだけだよ。

 だから気にする必要はないさ。

 それに、君を置いて逃げたら一生後悔しそうだ」 

 

 

\カカカッ/

サイボーグキャットシャノワールLv28

 

 

「ぶっちゃけ私は逃げたいニャ。

 何故かサーバーと繋がらなくて悪魔支配プログラム使えニャイしさあ。

 ……けど逃げた先に楽園なんて無い。それなら身内と一緒に地獄に行くニャア」 

 

 

 特別課外活動部の一員にして入学当初からの付き合いである生物兵器たちが答える。

 数日前にこっそりと抜け出した際、動物特有の直感で追いつかれてしまったのだ。

 人間の足で振り切るのは不可能で―――まあ、終わりを共にするなら悪くない。

 

 

「そう……じゃ、行くわよ。腹括りなさい」

 

 

 

 《―――Application Launch―――》

 

 

《“Babbage”……START!》

 

《“Antikythíron”……START!》

 

《“Babel”……START!》

 

《“Alexandria”……START!》

 

 

 メガネ型のデバイス―――“タイムマシン・レジスター”―――へと触れる。

 同時に召喚と同じ原理で現れた鋼の装甲が全身をくまなく覆った。

 次世代型極地用装備―――デモニカスーツの起動。

 

 連動して異形機関のロックが解除され、網膜ディスプレイに使用可能な機能が表示される。

 脳が破裂しかねないほどの情報が流れ込むが気合いで無視。

 少し震える手を無理矢理抑えて手元のスイッチを押す。

 

 直後、爆発と炸裂音。そして異音を上げながら再起動するマシンたちの姿が遠目に映った。

 

 持ち込んだ爆薬とまだ動かせた兵器を遠隔操作し囮として、雑魚があちらに引きつけられている内に本命を叩くというシンプルな作戦。

 逆を言えば複雑な策を立てられる余裕も無かったのだが……()()()()()()()

 

 

 マップ・ダウジング、そして量子コンピューターの演算によって補足したペイルライダー()は他の悪魔たちと違って表示された位置から動かない。

 近くに他の反応もあるが取り巻き辺りだろう。

 少なくとも、戦闘中に余計な乱入を心配する必要はない。

 

 ―――あるいは、向こうも自分が殺しに来たことを把握しているのか。

 

 だとすればそれはそれで好都合だ。

 

 

「アバドンゲート手前の埋立地! ナビゲートするから足は任せた!!」

 

 

《コンピュータ操作(異)》*3情報を一つ得る。

異形機関「タイムマシン・レジスター」のスキル。

本来は習得スキルとの交換だが、その制限は解除されている。

 

 

「了解、振り落とされるなよ2人とも!!」

 

 

「特殊ハーモナイザー」*4召喚以外の契約をした悪魔を強化する。

契約者は降魔、悪魔変身、魔晶変化武器装備中に

種族専用スキルの使用が可能となる。

《獣の跳躍》*5種族専用スキル(聖獣・魔獣)。

使用者は1回の移動の機会を得る。

近くにいる任意の味方もともに移動可能。

 

 

『振り落とされるなっておま、首輪噛んでニャァアアアア!!!!?』

 

《思考性無線》*6声に出さなくても無線による会話やデータ交換が可能となる。

本来はこのスキルを習得した者同士限定だが、その制限は解除されている。

 

 

 

 そして、音も色も何もかもを置き去りにして。

 自分たちは死病を撒き散らす黙示録の騎士の元へと向かう。

 断崖への疾走、早過ぎる終わりへの片道切符。

 

 

 その果てに何があるのか――――この時はまだ予想だにしていなかった。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

―――〈現行周回 20XX/XX/XX 恵比寿影異界突入数時間前〉―――

 

 

 

「…………結局、あたしのした事って意味無かったのかな」

 

 ぽつり、と力無い声が2人だけの廊下へ零れた。

 少し先を歩いていた宗吾が振り向けば、そこにはどこか遠くを見るような少女の姿がある。

 普段の、先程までの気丈な様子はすっかり鳴りを潜めていた。

《新世塾》―――自衛隊の皮を被った外道たちへの襲撃前にしてはやや似合わない表情だ。

 

 客観的に考えれば無理もないだろう。

 偶然再会した顔見知りから聞かされた内容―――守りたかった後輩、親しかった友人の死を知ってしまえば。

 

 覚悟はしているつもりだった。

 理解はしているつもりだった。

 自分がいれば何とかなったとも思わない。

 それでも胸を刺す痛みが止まらないのだ。

 

 今でも目を閉じれば鮮明に思い浮かぶ光景。

 後先考えず死力を尽くしたペイルライダーとの戦い。

 そして()()()()()()()()()()()()()

 

 もちろん機能停止寸前のデモニカを動かし追撃を図ったが、同じタイミングで穴からあふれ出した魔人たちの群れと急速な拡大を始めたアバドンゲートが行く手を阻んだ。

 

 距離としては1㎞あるかないかで追いつく前に飲み込まれるのは目に見えた状況。

 怒りに駆られたまま追いかけていれば確実に死んでいただろう。

 

 

『美野里、無理矢理でもテレポート*7して逃げるニャ!! 

 魔界でも何処でもいい……自分から生きる可能性をゼロにするニャアッ!!!!』

 

 

 それでもギリギリで踏み止まれたのは仲間のおかげだ。

 死に体になりながらもなお、無線を介して伝えたあの言葉が無ければこうして生きてはいない。

 滅びから生き残れたならそれで十分とも言える筈。

 

 だがどうしても考えてしまうのだ。

 復讐より、皆と共にいる事を選べば良かったのではないかと。

 そうすれば最期まで心配をかける事もなかったのではないか。

 

 切り替えねばならない状況で思考がブレたまま。

 このままでは宗吾にも迷惑が掛かるのにどうしようもない。

 その焦りが更なる思考の迷路へと己を誘うのを感じて―――。

 

 

 

「野郎ぶっ殺してやるってノリで動いたなら意味あると思う。

 少なくとも自分はスッキリするな」

 

 

「あんたに聞いた自分が馬鹿だったわ」

 

 

 

 思わず美野里は目の前に男へと脛蹴りをお見舞いしていた。

 

 脛を抑えて跳び回る姿を絶対零度の瞳で睨みつける。

 どう考えてもデリカシーに欠ける言葉だ。

 そもそも宗吾(剣キチ)聞く事自体が適切ではないのだが。

 

「まあ聞け、俺は美野里ちゃんの後輩とかは知らん。

 死んだ人間の気持ちも代弁出来る訳じゃない……けどな」

 

 痛みを堪えながら、宗吾は話を続ける。

 友人家族全てを失った者として。

 多少なりとも別れを告げられた者として。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 後悔するなとは言わんが、その時の気持ちまで否定したら何もかも茶番になるだろ?」

 

「―――――っ」

 

 それは、ある意味無責任な言葉だった。

 自分勝手に過ぎる台詞とも言えた。

 我が道を行く男だからこそ飛び出た助言だった。

 

「ウジウジ悩むより“これで良かった”って思う方が前向きになれる。

 後ろ向きになり過ぎてたら更に取り零すモンが増えるしな。

 全部失って無かった事も知れたろ?」

 

「…………その言い方ズルい」

 

 万人を納得させるには程遠く、むしろ怒りを買うには十分過ぎて。

 美野里にとっては……この瞬間は霧がかった思考を晴らすモノであった。

 

「どうしても頭こんがらがったままなら後方で支援要員やるか? 

 別に無理する必要ないぞ」

 

「……ふざけた事言うな、放っておいたら死ぬ剣キチ鉄砲玉野郎のくせに。

 あんただけ先に行かせて後悔するのは却下よ」

 

 美野里の目に気勢が戻る。元より悩みを引き摺る性質でもない。

 弱気になって悲劇のヒロインぶる趣味は欠片も無いのだ。

 後で生き残った面子とも話をしなければならないのだから止まっていられない。

 

 

「無理に突っ込んで足引っ張るんじゃないわよ。

 ただでさえ慣れてない剣使ってるんだから」

 

「慣らしは大体済んでるって。

 そっちも向こうの対悪魔兵器には気を付けろよ」

 

 

 軽快に言葉を交わして2人は並んで歩を進める。

 向かう先は訓練を受けた軍人たちが待ち受ける戦場。

 足取りに恐れはあれど躊躇いは無かった。

 

 

 

 

 

*1
※200X 《アイテム修復》 壊れたり故障したアイテムを1つ修復する。

*2
※ 白刃一閃の所有する「五光」、退魔生徒会シリーズに登場する「章姫」は主と会話するシーンが存在する。

*3
※200X

*4
※200X

*5
※200X

*6
※200X

*7
※ 誕生篇サプリメント「合体の書」「未修得特技の瞬間発動」命運を消費する事で超能力系統の特技の中から未修得の物を1つだけ使用できる。




◎登場人物紹介
・正宗 <魔匠> LV57
シリーズポジション:正宗(TRPG200X)
          ドワーフの鍛冶屋(真Ⅱ・TRPG200X)

都内でひっそりと店を開く見た目は幼女の鍛冶屋。
優秀な腕前で研鑽も忘れないが、最近のブラック環境は勘弁して欲しいので宣伝はしていない。
時折状況を考えない馬鹿に拉致されそうになるが返り討ちにする実力もある。
とはいえ、ひっそりやるのもそろそろ限界かと遠い目をする事もある。
「老人を扱き使って欲しくない」とは本人の弁。


・ブラッディ <犬><サイボーグ><アルカニスト> LV28
シリーズポジション:ブラッディ(TRPG200X)
          ニュートン(偽典・女神転生)

学園都市・須摩留で製造されたサイボーグドッグ。
ペルソナ使いの能力を再現する機能も付加されている。
紳士的な性格で暴走しがちな美野里の抑えに回る事も多い。
それはそれとして、必要と判断したら無茶にも最後まで付き合う。
美野里と同時にテレポートしたはずだが現在行方不明。


・シャノワール <サマナー><猫><サイボーグ> LV28
シリーズポジション:シャノワール(TRPG200X)
          
学園都市・須摩留で製造されたサイボーグキャット。
サマナーとしての能力以外に半神アヌンナキとしての力も持つ。
気が強いが面倒見が良く、仲間意識も強い性格。
美野里の無茶には文句を言いつつ、何だかんだで一度も逃げた事は無い。
美野里と同時にテレポートしたはずだが現在行方不明。




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Demon Blade -前篇-

 

 

 

 東京都渋谷区恵比寿。

 

 複合商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」を中心にモダンな建物が並ぶ、都内でも屈指の人気を誇る街だ。

 高級店だけでなくリーズナブルな値段の飲食店も混在するこの場所は、昼夜問わず人の姿で賑わっている。

 ある意味でこの日本という国の活力、あるいは光と呼ぶべき物を可視化出来る土地と言えるかもしれない。

 

 ―――しかしそれも半年以上前の話。

 

 GP上昇に伴う大小合わせた悪魔事件の連続発生。

 善悪問わず己が利益と目的、あるいは欲望の為に暗躍する勢力の数々。

 世界に終わりを齎す7つの災厄たるセプテントリオンの襲撃。

 崩壊世界より流れ着いた道徳観念の薄い一部漂流者の存在。

 

 他にも様々な要素が重なりに重なった結果、日本という国の治安は悪化の一途を辿っている。

 特に地方などは高GPにより出現した悪魔の事もあって目も当てられない有様だ。

 当然、その影響はこの恵比寿にも如実に見て取れた。

 

 例えば、警棒どころか重装備で巡回する警察官。

 例えば、死角が消える程増設された監視カメラ。

 例えば、防犯シャッター設置に踏み切った店舗。

 

 かつてとは異なる、ある種の重苦しい空気へと支配された街並み。

 行き交う人々の表情にも笑顔の中にどこか堅いものが混じっている。

 本心から楽しめている人間は極少数……否、それ以下か。

 とはいえ、大多数が仕方ない事だと納得し受け入れているのも確かだ。

 

 いつか慣れる、いつか元に戻る、いつか何とかなる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()と、大抵の人間はそう信じて止まないのだから。

 

 

 

 ―――この街の裏側に、直視出来ないほど悍ましい闇が広がっているとも知らずに。

 

 

 

 

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 ・

 

 

―――〈現行周回 200x/xx/xx 恵比寿影異界・新世塾基地〉―――

 

 

 そこは見渡す限りに広がる砂丘だった。

 砂に埋もれた駅の残骸らしきものが、かつて存在した文明の名残を思わせる程度の光景。

 仮に何も知らない人間に対し、此処が都内であると言っても信じては貰えないだろう。

 

 恵比寿に重なるようにして存在する見えざる領域―――影異界。

 かつて存在した世界の残骸、または偶然残った欠片。

 土地自体に信仰が焼け付きパワースポットと化した事で生まれた箱庭の成れの果て。

 

 本来なら全て失われたはずの静寂だけが広がる空間。

 だが―――そこにあり得ざる物が在った。

 

 一言で言ってしまえば“鋼の城”だろうか。

 ただひたすらに合理性と実用性だけを突き詰めた無骨な外観(デザイン)

 温かみを一切廃し、凍るような冷たさを隙間なく積み上げた石と鉄の建造物。

 

 知識ある者なら現代防衛学に基づいて建てられた軍事基地であると分かるだろう。

 その証明と言わんばかりに、内部の訓練場では完全武装の兵士たちが自動小銃を構え射撃訓練を行い、巨大な格納庫の中では対悪魔用人型兵器が所狭しと並んで整備を受けていた。

 

 まさしく秘密基地と呼ぶべきもの。

 憲法法律その他諸々を無視するとしても、これが自衛隊の精鋭ならさぞ頼もしい。

 護国の戦士、名も無き勇敢な防人。税金泥棒、不要な軍隊。

 そんな呼ばれ方で一部の民衆から尊敬と批判を集めるかもしれない。

 

 ―――だが違う、実態はまるで異なる。

 

 動きや装備自体は自衛隊の物であるが、彼らは正規の部隊ではない。

 本来所属する部隊の認識番号も使えない、存在しないはずの兵士だ。

 

 名を『新世塾』―――無原罪の世界を嘯く巨大秘密結社。

 政財界と自衛隊の一部を取り込んだ、大義を建前にあらゆる人道を踏み躙る畜生の群れ。

 国家という肉体を蝕むガン細胞、あるいは寄生虫である。

 この基地はそんな者たちの拠点の1つ。国に隠れ戦力確保を行う為の製造・実験場だった。

 

 

「ア゛ァあ゛あああああ゛!!!!!!」

 

 

「思ったより反応の良い“素材”だな、これなら完成品も期待出来そうだ」

 

「正直言うともっと安定した製造法が好ましいんのだけど……。

 ま、無いものねだりしても仕方ないわね。

 上にもっと“素材”の確保を陳情するしかないかしら」

 

 ―――その最奥部。

 厳重な警備に守られた研究エリアにて、白衣に身を包んだ研究者たちがせわしなく実験を繰り返していた。

 

 ある者は端末に幾つものデータを打ち込み。

 ある者は実験の追加指示を行い。

 ある者は泣き叫ぶ“素材”を無理矢理拘束台に乗せて。

 ある者は使い終わった“素材”を腑分けし用途別に加工する。

 

 止まらない悲鳴と響く絶叫をBGMにして、換気し切れず漂う鉄臭さの中で。

 平然と、当たり前のように―――ネガティブな感情を失ったかのように。

 

「ダメだ、やっぱり他の機体に比べて動きが鈍い。

 一応聞くが駆動系に異常は無いんだよな?」

 

「何回も点検しましたよ、全て問題無しです。

 やはり光結晶の“素材”が悪かった可能性が高いかと。

 ……初期ロットとはいえ、不良があったのはこの機体だけですからね」

 

「そう結論付けるのはまだ早い。

 俺たちが気付いていない欠点がどこかにあるのかもしれないんだ。

 徹底的に調べ、原因究明して次に繋げる―――それが科学者って生き物だろ?」

 

 そんな場所の片隅で2人の研究員が真剣な表情を浮かべながら意見を交わしていた。

 目の前にあるリフトに固定されているのは重装備のマシン《光脳改修型X-2》。

 新世塾の主戦力―――対超人制圧用の付くが―――となるべく作られた人型戦車だ。

 

 最新の量産型、その内の1体に生じた謎の不調を探るのが彼らの仕事だった。

 しかし、会話通り上手く行っているとは言い難い。

 なにせ何処をどう調べても問題となる部分が見つからないのだから。

 

 この機体はX-1による試作と試運転を経てから製造された初期ロットのものだ。

 故に初期不良の可能性自体は十分にあるのだが、原因不明は流石に洒落にならない。

 演算装置である光結晶が不良品だというならまだいい。

 

 しかし可能性は低いがそれ以外の、自分たちの気付いていない問題であれば大事である。

 仮に他の機体にも同じ欠点があれば、そこを突かれ無原罪の世界という理想郷への落とし穴となるかもしれない。

 新世塾の一員として、技術者としてそんな事は断じて認められない。

 

「一度魔盾の装甲を外して動かしてみるか。

 最低限の、それこそ骨格部(フレーム)部分だけなら何か変わるかもしれん」

 

「では人を呼んできますね、あと整備用クレーンの準備も」

 

「なるはやで頼む。そろそろ飯の時間だからな」

 

「どうせここで食べるんだから関係ないでしょうに……」

 

 義務と使命感。科学者としての矜持を胸に彼らは今日も研究を重ねる。

 大義を建前に。攫ってきた漂流者や超人を解体し制御AIへ作り変えて。

 

 ―――邪魔外道を当たり前として行う者にはいつか必ず報いが訪れる。

 

 だから誰も気付かなかったのだろう。

 周囲の人間がその場から視線を外した瞬間。

 機能停止しているはずの《X-2》の単眼カメラ(モノアイ)が僅かに動いた事を。

 

 

 

 

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―――〈 恵比寿影異界 4時35分00秒 〉―――

 

 

 

 恵比寿影異界の基地《自衛隊防衛研究所》

 その一角より激しい爆音と火柱が生じた。

 

 ヤタガラスを中心とした新世塾基地の襲撃作戦。

 その陽動担当部隊による挨拶代わりの一発である。

 

「緊急警報! 敵襲アリ、敵襲アリ!! 

 直ちに急行せよ!!!!」

 

「X-1とX-2起動準備、歩兵部隊前へ出せ!!」

 

 

 予想外の奇襲。する事は慣れていてもされる事には慣れていない兵士たち。

 しかし訓練の賜物か、動揺と混乱も最小限に迎撃態勢を整える。

 常識的に考えるのであれば新世塾側に敗北は無い。

 

 城攻め3倍の法則と言うように、敵の拠点に攻め入るのは相応の戦力が必要だ。

 今回の場合、防衛側には多数の火力に超人と戦う事を想定した人型戦車まである。

 地の利、数の利がある以上まともに戦えばまず返り討ちに出来るだろう。

 

 だがそれはあくまで常識的かつ万全の状態であるならの話。

 今の状況は残念ながら当てはまらない。

 

 第一に、基地の戦力の多くはミスリル攻略の為《楼極島》へと出払っている。

 彼らの所有する潜水艦と人員(そざい)を奪う作戦行動を利用された形だ。

 まさか狙われている事を承知で囮役になるなど想定さえしていなかった。

 己が常に狩る側だと錯覚した者が足をすくわれるのは当然の事。

 

 そして―――。

 

 

「時間だ―――突入開始」

 

 

「一気に行くぞ!」

 

 

 襲撃側には非常識な敵を幾度も倒してきた凄腕DBたちが揃っていた事だ。

 

 

 襲撃開始より5分後。

 各チームがそれぞれの担当場所にて接敵及び交戦を開始。

 外道無法の終わりが始まる。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 新世塾基地内部。

 物資搬入を想定し広く造られた通路では銃声と怒声が響いていた。

 

「敵の数は!?」

 

「悪魔含めて10体以上確認……物理反射持ちも混じっています!」

 

「JOKER兵とX-1の残りを前に出すんだ、絶対に近づけるんじゃない!!」

 

 

\カカカッ/

HUMAN天誅軍・暁Lv52相性:神聖無効、暗黒・精神・神経耐性

 

\カカカッ/

マシンX-1 光脳改修型Lv55相性:全体的に強い、神聖・暗黒・神経・精神無効、電撃弱点

 

\カカカッ/

JOKER兵ファブニールLv53相性:全体的に強い、打撃、戦技弱点

 

 

 ずらりと並んで展開するのは新世塾側の戦力。

 

 天誅軍と仮称された幾人もの兵士たち。

 光結晶……人間の中枢神経系を素材とする演算装置を搭載された非人道兵器(X-1)

 そして人間にシャドウを被せる事で作り上げた量産型マレビトことJOKER兵。

 

 これまでに多くの漂流者と超人、そしてミスリルの一部を叩き伏せた暴力。

 並の相手であれば鎧袖一触に出来る圧倒的戦力の証明。

 

「夢でも見てるのかオレ達は……っ!!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼らにとってまさしく悪夢そのもの。

 質の悪い冗談、白昼夢としか言えない光景であった。

 しかし、何度目を擦ろうともこの現実は覆らない。

 

 床に転がっているのは死体と残骸の山。

 斬られて、撃たれて、悪魔の爪や刃に砕かれた味方だったモノたち。

 中には正式量産型であるX-2の姿まである。

 

「おのれ、何なのだ貴様らは―――」

 

「通りすがりの剣士だ、覚えて逝け」

 

 

 思わず吐いた悪態交じりの罵声に対し、返らない筈の答えが来た。

 発生源は()()―――周囲の味方全員が一斉にそちらへ武器を向ける。

 視認して狙いを定める暇など無い。

 半ば反射の領域で各々が銃弾、斬撃、息吹(ブレス)を勘任せに叩き込む。

 

 

 

「《金翅鳥王剣(デスカウンター)》」

 

 

金翅鳥が天翔けた。

 

 

金翅鳥王剣(デスカウンター)*1物理型攻撃に対し50%の確率で発動。

3倍の威力で通常攻撃を行う。

⇒段階1:クリティカルが発生する。

⇒段階2:いまだその領域に至らず。

《双手》*2通常攻撃が、小威力+通常の2回攻撃になる。

面倒を見た教え子から学んだ(パクった)技。

《■■》*3格闘回避、防御、反撃の成功率を上昇させる。

本来は■■■に分類されるスキル。

抜刀術の奥義に通ずるものがある為、例外的に使用が可能。

《気合い》*4一度だけ自分の物理攻撃力を2.5倍に強化。

「闘牛刀(相気の杖)」*5攻撃力:245 命中:75 回数:2-4

追加効果:PANIC 能力補正:力+4 運+2

二つに折れたマタドールの魔剣。その片方を打ち直した物。

《大業物Ⅲ》」*6格闘武器の威力と命中に+15する。

ランクⅢ:装備中CURSE状態となる。(真1)

CURSE状態である限りクリティカル時の威力を3倍へと変更する。

「カポーテピアス」*7銃反射、破魔・呪殺無効

命中・回避率を大きく上昇(龍の反応)

 

 

 まず最初にX-1が()()()()()()

 魔盾による強固な装甲をものともしない、翼を広げたかのような8つの閃光によって。 

 同時に下手人は()()()()()()()()を利用して床へと一瞬で着地。

 射線から外れた安全地帯へ―――敵からすれば対応不能の殺し間へと移動していた。

 

 故に、新世塾側には最早どうする事も出来ない。

 続けてJOKER兵が同じ運命を辿り、兵士たちは距離を取る前に首から上を喪失。

 最後に残った指揮官が一矢報いようと自爆する前に縦に分かれた人体模型と化す。

 

 ―――わずか5秒にも満たない早業であった。

 

「……まだ太刀筋が甘いか。こんなG4擬きの急所(スキ)が斬れんとは。

 あと一介のファンとしちゃリアルでやるなと切に言いたい。

 いやあれはあれで嫌いじゃないけど」

 

 周囲の敵を一掃し静かになった通路にそんなぼやき声が響いた。

 血振るいをして刀を鞘へと納めた剣士―――宗吾のものだ。

 無論、敵地である以上警戒は怠っていないので柄は手を掛けたままであるが。

 

「あのさぁ。銃弾潜り抜けてながら壁から天井走る大道芸やって言うのがそれ? 

 突っ込むならもうちょっと普通に突っ込めないの」

 

 後方で牽制射撃を行っていた美野里から呆れの混じった声が届く。

 宗吾が振り返ればちょうど仲魔と共に遮蔽物に使っていた機材を乗り越えた所だった。

 現在出しているのはハゲネ、ガキ、グルルの3体。

 いずれも大した消耗は見られない。

 

 同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()口を開く。

 

「狙いバラして圧力下げながら、上下に()()()()のは結構有効的だぞ。

 軽巧の心得がある奴なら力込めて踏める足掛かりがあれば重力の縛り無視して―――」

 

「悪いけどカンフーの達人じゃないから説明されても分かんない。

 絶っっ対真似できないから!」

 

「いやそんな複雑なモンじゃないって。

 まず瞬発のタイミングと重心移動、筋骨の連動と血流のリズムを覚えりゃすぐにでも」

 

「まず複雑って言葉を辞書で引きなさい馬鹿」

 

 符術による分身で見かけ上の数を誤魔化すのは分かる。

 仲魔がいるとはいえこちらが寡兵なのは事実。

 なら少しでも多く見せようとハッタリをかますのはおかしくもなんともない。

 

 実際美野里もその案には乗ったのだ。

 サイコメトリーを駆使し敵の情報も探りながら攻撃を行っているが、なるべくなら有利な状態で仕掛けたい。分身を先行させれば奇襲にも余裕を持って対応出来るし、相手のペースを乱せるのもこれまでの経験でよく知っている。

 

 しかし、だからといって。前衛型DBでもそうやらない曲芸突撃は勘弁して欲しかった。

 ついでに変態染みて来た剣技を当然のように繰り出すのも。

 

「今のところ殺し間に引きずり込まれる前に叩けてる。*8

 だけど向こうも本腰入れる頃だろうからそろそろきつくなってくるかも。

 一応ハゲネに持たせた切り札もあるけど……クソみたいな鉄砲玉作戦は止めなさいよ」

 

「流石に侵入者ぶち殺しゾーンに無策で入る訳無ないから。

 大人しく紳士的に暴れてるって」

 

 大人しく紳士的に暴れる、という矛盾に満ちたパワーワードが飛び出した。

 美野里が笑いながら額に青筋を立てて1歩踏み出し―――。

 

 

 

 『侵入者wo発keんしまsiたぁっ!!!!』

 

 

 

\カカカッ/

サイボーグX-3・ソルジャーLv68相性:全体的に強い、神聖・暗黒・神経・精神無効

 

 

 大気を震わす轟音と共に、壁をぶち抜いて新たなる人型戦車が現れた。

 巨大な槍と銃器を持った、量産型とは明らかに異なる動きの特殊機体。

 

「こいつは―――っ!?」

 

「さっき通信で言ってた機体!!」

 

 名をX-3―――新世塾の特化戦力。

 超人の中でも上澄みを想定して設計された存在。

 その中でもシュバルツバース調査隊のデータを用いたデモニカ複製体(デッドコピー)である。

 

 

―――《ムラマサコピー》―――

―――《準物理貫通》―――

―――《封魔追加》―――

 

 

 死者の尊厳を踏み躙って作られた殺戮人形が狙うのは悪魔使いたる少女。

 距離的にも戦力的にも、一番痛い部分を再現された戦闘経験が狙い穿つ。

 カバーには誰も間に合わない、必殺の一槍が背後から心臓を抉り―――。

 

 

 

 

 

 「―――舐めんな鉄屑野郎」

 

 

 

《カウンターストライク》*9回避の代わりに使用する。

攻撃を完全に回避し、反撃として1回射撃攻撃を行う。

反撃必中、確定クリティカルを失う代わりに回数制限を撤廃。

最近千束の動きを見て自分なりにアレンジしつつ覚えた。

《クイックロードⅡ》*10即座に銃弾の装填、弾倉交換が出来る。

ランクⅡ:銃器を装備していなくても即座に銃器を準備できる。

必要ならば装備している武器を地面に落としてもよい。

最近たきなと一緒に金髪の銃使いから盗んで覚えた。

「MP5マシンガン」*11敵単体に3~6回攻撃。

「劣化ウラン弾」*12全ての悪魔に対して猛毒付与効果を与える銃弾。

これは毒無効耐性にとっても付与判定を与える。

《八塩折之酒》*13自分よりもレベルが高い相手に対し状態異常付与率が上昇する。

 

 

 

 跳躍、回避―――そして宙返りからの発砲(トリガー)

 迫り来る死を文字通り飛び越えて。

 逆転した視界の中で友人(千束)の技を再現した反撃射撃が繰り出される。

 

 狙いは装甲が薄いであろう関節部。

 ガキの《グリード》によって《準物理貫通》はコピー済みだ。

 耐性程度ならば問題無く突き破れる。

 結果、強度の低い部分を貫いた猛毒の弾丸は着弾部から演算装置(中枢神経)たちまちを犯していく。

 

『入ったな毒がよぉおおおお!!!!』

 

 

―――《ヤクシャの凶爪》―――

―――《毒追撃》―――

 

 

 そこを狙い振り下ろされた凶鳥の爪が深い損傷を刻むが……止まらない。

 格上かつ特殊機体である故にこの程度では倒せない。

 このままでは態勢を立て直し、大技を繰り出して来る可能性が高だろう。

 

 そして―――この場の全員がそんな事を許すはずも無かった。

 

「―――――」

 

 まず美野里が手を伸ばす。

 銃を持たない手を、視界の中で敵に重なるように。

 眼前の敵を屠る方法……()()()()()()()()()()()()()()()

 

『魔人が溢れるまでどこをほっつき歩いてたんですか。

 貴女を慕っていた後輩も、心配してたイオリも放置して』

 

 幻聴が耳朶を打つ。リフレインするのは数時間前に聞いたばかりの過去の顛末。 

 驚愕、悲しみ、絶望……そして怒り。

 精神の中で破滅的なまでに連鎖する感情の大爆発。

 今にも脳が沸騰しかねないほどに高まる思いの丈。

 

 それら全てを腹の底に飲み込んで―――()()()()()()()()()()

 

 

 ―――それはESP系超能力における極地。

 ―――それはペルソナ使いの亜種、あるいは似て非なる異能。

 ―――それは学園都市須摩留においても僅かな例しか確認されなかった稀少技能。

 

 これまで何度か朧げな幻像として出ていたそれは。

 過去と言う最後のピースが追い付いた事で完成に至った。

 

 

「―――出てこい」

 

 

 可憐な唇から、血を吐くように絞り出した声で呼ぶ。

 何もない空間を握り締めて。

 自然と思い浮かんだその名を。

 

 

 「エイト・マハーヴィディヤーズ!」

 

 

 

《エクトプラズム》*14PCと同じ能力を持つ別のキャラを作る。

 回復はMPを消費すればいくらでも可能。

 戦闘が終了すると消えてしまうが、MPを消費すれば維持も可能。

 霊動に分類される自己のエーテル体に形を与え、物質化する能力。

 術者の意思により操作されるエーテル・プラズマのフィールドとも。

 

 

 

 名前を呼ぶと共に美野里の背後に形を結んだのは青い肌に3つの目。そして左右合わせて10本の腕を持った美女の姿。

 悪魔と呼ぶには希薄で、ペルソナと呼ぶには違和感がある人型の幻像(ヴィジョン)

 

 須摩留の頂点であった生徒会長曰く、自らの魂のイメージを現実に出力する力。

 Stand by me(傍に立つ)という意味でそのヴィジョンはこう名付けられた。

 

 

「……“スタンド”、まさかあたしが使えるようになるなんてね」

 

 

 これまで朧げな姿で顕現させていたスタンド―――“E・M(エイトマハーヴィディヤーズ)”に苦笑しつつ。

 美野里はX-3へと躊躇いなく突撃した。

 本来銃使いである彼女の距離ではない……が、今は違う。

 床を激しく踏みつけながら、勢いよく背後の幻像(ヴィジョン)が10の拳を振りかぶって―――。

 

 

 

 『オラオラオラオラオラオラ!!!!!』

 

 

《狂乱の■■》物理貫通を得る。物理属性で与えるダメージが20%増加。

命中率とクリティカル率が40%増加。

美野里に目覚めた新たな力の1つ。詳細は不明。

《反乱の舞踏》味方全体を会心状態にする。

敵単体に4回、物理属性の打撃型ダメージを与える。

美野里に目覚めた新たな力の1つ。詳細は不明。

《会心》*15クリティカル率上昇。

サイコメトラーが習得する。

彼ら彼女らは意外にも格闘面でも強くなる。

 

 

 連打(ラッシュ)連打(ラッシュ)連打(ラッシュ)―――怒涛の連打(ラッシュ)

 

 全ての想いが圧縮されたかのような鉄拳の雨。

 輝く広大な知識を持つ者(マハーヴィディヤー)の名には似つかわしくない暴力の嵐。

 特化戦力であるはずの英雄模型(デッドコピー)はあっという間に拉げて変形しスクラップ寸前のボロ屑と化す。

 

 

『戦闘Zっこ、う可NOう……!!』

 

 

 ―――それでもまだ倒れない。

 

 歪んだ機体(ボディ)を計算に入れた上で姿勢制御を行い2本足で立つ。

 再現データとはいえシュバルツバースを駆け抜けた者たちなのだ。

 各所から火花を散らしながらも、動ける限りは槍を構えようとする。

 

 

 

「出来りゃ本物のあんたと戦いたかったよ」

 

『御免!』

 

 

 ―――2つの影が飛び出した。

 

 

 

―――《冥界波》―――

×

―――《冥界波》―――

 

【 多重攻撃発動! 】

 

 

《羯磨冥界陣》*16敵全体に斬撃相性攻撃。

物理攻撃力、魔法攻撃力を半減させる。

冥界波を重ねる事で放つ多重(合体)攻撃。

 

 

 宗吾とハゲネが、英雄と剣士が同じ技を同じタイミングで繰り出す。

 それによって引き起こされるのは合体攻撃。

 冥界の門を開き敵を葬る技が昇華された()()()

 

 

 英雄を冥府へ送るべく(カルマ)の意を冠した合わせ技を受け、X-3は断末魔さえ残さず消し飛んだ。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 その後も幾らかの戦闘を経つつ作戦は順調に進んでいた。

 陽動、襲撃、そして救助。

 参加した者たちはそれぞれの役割を的確に果たし、確実に敵を屠っていく。

 

 そして作戦終盤。

 ”漫画好き”一行が最深部へ辿り着き司令官たる“菅原バスク”対峙した同時刻。

 

 

「…………は、あ? 何よこれ……っ!?」

 

 その光景を見た美野里が言葉を失った。

 背後に控える仲魔も、隣で目を鋭くした宗吾も同じだ。

 

 敵を倒し通路を抜けた先の区画にあったのは一面に広がるどす黒い赤。

 

 天井も、壁も、床も同じ色に染まっている。

 絵の具が何なのかは臭いだけで嫌と言うほど分かってしまう。

 その元になったモノも……執拗なほどバラバラにされた人間が辺り一面に散らばっていた。

 

 

「―――非戦闘員だ、たぶんここの研究者。

 んで全員斬り殺されてる」

 

 冷えた思考の中、宗吾は状況を分析する。

 血に染まって分かりにくいが、犠牲者は全員白衣を着ている事からおそらく研究者。

 いずれの死体も断面が綺麗過ぎる故、斬り殺されたのだと一目で分かった。

 

 問題は―――誰がやったのか。

 

 それぞれが受け持った担当エリアを考えれば他のDB達による線は薄い。

 仕事である事も含め、ここまで非効率に……()()()()()()()()()()()()をする理由も無いだろう。

 新世塾側で内ゲバがあった可能性もあるが、そちらは更に低い。

 

 であれば。

 

「まさか―――第3勢力?」

 

「らしいな……来るぞ」

 

 言葉と同時に宗吾が抜刀。

 同時に全員が戦闘態勢に入る。

 

 今いる区画の奥、暗がりの中に“何か”がいる。

 

 聞こえるのは鉄が軋み肉を踏みつける異音。

 感じるのは全てを刻む様な凄絶なる殺意。

 作戦開始以降最大となる本能の警鐘が彼らを襲う。

 

 宗吾は笑って、美野里は目を細める。

 やがて遥か前方、血飛沫でまだらとなった照明の下にソレは姿を見せた。

 

「…………あれってX-2?」

 

 外見だけで言えば、これまで倒してきたX-2と同じものだった。

 強いて言うなら飛び道具の類が一切装着されていない事。

 腰部に接続された一振りの刀 (ムラサメコピー)が存在するだけか。

 

 ―――だが違う。

 外側は同じでも中は別物だ。

 周囲の空間が歪んで見えるほどに熱量の有る殺意。

 そんなものは決してマシンに放てるはずがない。

 そして殺意を向けられるという事は敵対する存在である証。

 

(こいつ――――)

 

 美野里が思考する前に相手が動く。

 腰を下ろし片足を前へ出す。

 身体を捻りつつ半身だけを前に向けるように、手は剣の柄を握り締める。

 

 その姿……構えに覚えがあった。

 いつも宗吾が鍛錬で行っているものだ。

 初めて出会った時に見せたものと同じ。

 

 厳密に言えば記憶にあるものとは細部が異なる。

 美野里は詳しくないが流派とやらの違いだろう。

 だが方向性(コンセプト)はそう変わらないはずだ。

 

 すなわち、間合いに入った者を先んじて斬る迎撃態勢(カウンター)

 しかし距離は優に数十メートルは離れている。

 あんな場所で構える意味があるとは思えない。

 

 魔法系の攻撃なら防げないのは宗吾で何度か実践済みだ。

 何の意図があるのか美野里には読めず――――。

 

「――――マジかよ」

 

 何を意味するのか理解した宗吾が冷や汗と共に驚愕の声を発した。

 

 

 

《無想の型》*17瞳を閉じて気の流れで敵の行動を読み解く構え。

あらゆる光の状態によるペナルティを無効。

判定に成功すれば敵を切った直後も構え状態を維持出来る。

相手の回避と防御に威力分のペナルティ。

抜刀術における奥義とされる技。

《縮地Ⅲ》*18このターン、攻撃の対象を「1体」に変更する。

その攻撃の対象は回避判定に-[ランク×10]%の修正を受ける。

後列にいても攻撃が可能になり、後列に対する攻撃も可能になる。

ランクⅢ:「前列」を「1列」に変更できる。

《ムラマサコピー》*19敵単体に物理ダメージ。

3ターンの間ペルソナを使用できない

《封魔追加》*20通常攻撃・物理系スキル使用時、中確率で対象をCLOSEにする。

《剣神の武威》*21物理貫通を得る。自ターン開始時、次の連動効果が発動。

「味方全体を会心状態にする」

自身が生存中、味方全体は次の効果を発揮。

「自身が会心状態のとき、物理命中率が15%増加。

クリティカル時に与えるダメージが20%増加」

 

 

 ―――()()()()()()()()()()

 

 棒立ちの案山子5体目掛けて、神速を超えた居合が炸裂した。

 

 

 

 

―――新世塾基地・第2研究区画―――

 

 

 

\カカカッ/

剣士X-2・フツヌシLv86相性:全体的に強い、神聖・暗黒・神経・精神無効

 

 

機巧剣神フツヌシ VS 八瀬宗吾&若槻美野里

 

―――死 闘 開 始 ! ―――

 

 

 

 

 

 

 

*1
※真ⅢTRPG&タ■タ■コ■ボ

*2
※デビサバ2

*3
※誕生篇

*4
※真Ⅲ

*5
※真Ⅱ

*6
※200X

*7
※真Ⅳ

*8
※広い通路にまで引きずり込んで囲んで叩く必殺の罠

*9
※200X改変

*10
※200X

*11
※真1

*12
※偽典・世紀末サバイバルガイド

*13
※SH2

*14
※基本システム

*15
※200X

*16
※NINE

*17
※誕生篇

*18
※200X

*19
※P2

*20
※デビサバ

*21
※D2





・Tips

「金翅鳥王剣」
これまで積み重ねて来た経験を元にデスカウンターを改良・発展させたもの。
特に漫画好きとの模擬戦とマタドールとの死闘の影響が大きい。
いまだ完成はしていないらしい。
名前の元ネタは一刀流の開祖こと伊東一刀斎が師である鐘巻自斎から伝授された奥義の1つ。
様々な流派を学んだ宗吾であるが基本は一刀流の系譜であるので験を担いで名付けた。


「エイト・マハーヴィディヤーズ」
美野里が発現させたESP系超能力の極地。
これまで朧げな姿であったが、過去の顛末を知った事で完全覚醒を果たした。
手札として選んでいないスキル及び、“自覚していない”能力も含めて8つ使用可能。
最大で3体まで召喚可能な美野里の4体目の仲魔と言えるかもしれない。
名前の由来はシンガポールのメタル・バンド「RUDRA」のアルバム。





ジョジョが作中で存在しないのをいい事に勝手に出しちゃいました(



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