とあるオタク女の受難(インフィニット・ストラトス編)。リメイク (SUN'S)
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第1話

お久しぶりです、ISオタク女のリメイク作品です。


○月%日

 

IS学園1年1組織斑一夏と接触し、男性IS操縦者の秘密を調査しろという命令を受けた。そういう姑息な指令ではなくブリュンヒルデを倒せ等の戦闘許可を送ってくれば良かろうと思う。

 

まあ、私は彼より一つ年上だ。IS操縦の指導という名目で近づくことは可能だが、私としては織斑一夏よりもイギリスの代表候補生と戦いたい。

 

ん?おお、世界最強と名高い織斑千冬が私を訪ねてくるとは驚きだ。去年は私を歯牙にもかけず無視していたはずだが、どういう用件だ。

 

ふむ、お前の弟を鍛えろということか。しかし、私に頼まずとも自称最強子の生徒会長がいるだろうと言えば「あれはダメだ、それに一夏の指導役としてならばお前が適任だ」と言われる。

 

そうおだてたところで何も返せんぞ。

 

だが、その頼みは引き受けよう。私には及ばないがお前の鍛えたアイツも織斑一夏と接触するためにドイツから来ると聞いている。

 

なぜ溜め息を吐く。

 

あいつもそれなりに頑張っているのだ。お前に認められようと寝る間も惜しんで努力する姿は健気すぎて泣けると聞くほどだ。

 

○月≠日

 

なんだ、この体たらくは?これがブリュンヒルデの弟とは聞いて呆れる。辛うじて動けるのは理解したが、剣を振るうのは遅くISの操縦も下手くそ。まあ、それは仕方ないのは分かる。

 

それでも剣道をやっていれば大丈夫だと言い切る根拠はなんだ。私はお前に時間を割かなくてはいけなくなったのを後悔し始めているぞ。

 

ふむ、そこの篠ノ之箒に剣道からやり直せと言われ、彼女に手酷く教わっているわけか。まあ、それはどうでもいい。それよりもお前は神技的ディフェンスを使えないのか?

 

かつてブリュンヒルデは剣道の見切りとハイパーセンスを利用し、まるで攻撃がすり抜けたかのように錯覚させるほど卓越した防御を使っていたそうだ。

 

私も出来なくはないが、ブリュンヒルデほど素早く動くのは出来ない。あれは人智を超えたなにかだ。おっと不意打ちとはブリュンヒルデも姑息だな。

 

ん?あの程度の投擲なら見ずに避けられる。

 

私の後ろで仁王立ちしているブリュンヒルデにお前もそうだろうと問えば「ああ、当たり前だ。しかし、お前はそろそろ年上を敬うことを覚えろ」と言ってくる。

 

なにを言うかと思えばそれか。

 

生憎と私が従うのは私自身だ。ブリュンヒルデ、いくらお前が最強と言われようと最後に勝つのは私だ。私を従わせたければ私の誇りを打ち砕き、私を屈服させるしか方法はない。

 

○月*日

 

織斑一夏の特訓は極めて簡単だ。

 

まず篠ノ之箒と訓練機を使って試合をする。

 

私と戦うより実力の近い者と戦うのは良い経験を得られる。次は敵の情報を知ること。これはイギリスの候補生の戦闘データを見て、どう対処するべきかを考える特訓だ。

 

それが終わればストレッチをする。余計な疲れを残すのは事故や怪我の原因になりやすい。そうならないためにお互いの身体を良くマッサージし、次の特訓に備えるのも大切な事だ。

 

だからな、篠ノ之箒よ。イチイチ織斑一夏が腰やお尻を触られたぐらいで木刀を振り回すのはやめろ。私は良くてもブリュンヒルデが家具を壊したことを罰しに来るかもしれん。

 

ふむ、やはり触られるのは恥ずかしいのか。織斑一夏、もっと優しく念入りにマッサージしてやれ。こいつがマッサージに慣れるまで毎日やれ。そうすればお前に触られてるのも慣れる。明日の特訓に疲れたまま出られるのは私が困る。

 

そういうわけだ。篠ノ之箒よ、お前は慣れろ。

 

 



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第2話

○月《日

 

織斑一夏と篠ノ之箒の特訓は順調だ。

 

もっとも私の教えを守れているのかは怪しいが、接近戦での立ち回りは良くなっている。とくに瞬時加速(イグニッション・ブースト)の使い方だ。直線的な加速ではあるものの織斑一夏の加速するタイミングのズレは候補生でも驚くだろう。

 

ただ、私も調子に乗りすぎた。彼らに教える必要のない技術も与えたため剣術に関しては私の予想とは違う方向へ成長し、ブリュンヒルデが「私の弟は何になろうとしているんだ?」と問うほどおかしい。

 

それは知らん。

 

私は教えているだけで織斑一夏の師匠になったつもりはない。むしろ私が聞きたいくらいだ。なぜ、ちょっと見せただけで真似る?私の動きを盗めとは言ったが、そこまでやれとは言っていないぞ。

 

ああ、それとだ。ブリュンヒルデ、お前の太刀筋を真似ていたから修正しておいた。いくら弟でもブリュンヒルデの振るっているものは根本的に使うことは無理だと教えてある。

 

男女の骨格や筋肉の違いがある。完璧に真似るのは不可能。それは却って成長を妨げるものだ。まったく弟だからと放置するなよ?

 

○月〔日

 

篠ノ之箒に織斑一夏が好きなのかと問われた。しかし、私はハッキリとアイツは無いと答えておいた。だいたい、色恋に現を抜かすほど私は暇じゃない。

 

ん?ああ、それとだ。

 

篠ノ之箒、お前が織斑一夏を好いているのは納得した。だが、そう悠長に構えていられる時間は少ないぞ。いや、なぜだと聞かれても他国からハニートラップを受ける可能性は無いわけではないだろう。

 

私の言葉にハッとした表情を浮かべる篠ノ之箒の肩を掴み、そうならないためにブリュンヒルデはお前と織斑一夏を同室にした。つまり、お前はブリュンヒルデ公認のお嫁さん候補なのだ。

 

まあ、それが本当かは知らんが。篠ノ之箒よ、お前の一途すぎる愛で織斑一夏を落とせ。そうすれば織斑一夏に近づくものはいなくなり、これからの学園生活は世界最高の彼氏とイチャラブできるぞ。

 

そう言うと篠ノ之箒は学生寮へと走り出し、私は缶コーヒーを飲みながら、さっきの会話を聞いていたブリュンヒルデに私の推測は合っているのかを問うと「…知らんやつに任せるよりかはいい」と答えた。

 

実質、織斑一夏と篠ノ之箒は許嫁ということか。そう私が勝手に納得していると訓練機の標準武装「葵」で斬りかかってきたブリュンヒルデに合わせて刀身に蹴りをぶつける。

 

全く私じゃなかったら怪我しているぞ。

 

○月<日

 

あれは織斑一夏によるものなのか。

 

それとも篠ノ之箒のものなのか。

 

私は彼らの首筋に出来た虫刺されについて問い詰めたい欲求を抑えつつ、殺意の籠った目で見られる篠ノ之箒にクスリと笑ってしまう。私が唆したとはいえ簡単にくっつきすぎだ。

 

まあ、そうなりたいと彼らは想っていたのだろうと考えれば当然の結果だ。しかし、なぜお前たちは私に「付き合うことになりました」と報告をする。私がくっつけたみたいになっているじゃないか。

 

ん?ああ、生徒会長か。

 

いや、私は恋愛マスターじゃないぞ。ただ、あいつらの反応がイラつくから唆しただけだ。好きなら好きと言えば良いものを、向こうからあっちからと待ちぼうけていては奪われる。

 

そうなりたくなければやれと言っただけだ。なぜ、私を崇める。私に教示してほしいと言われても無理だ、まず篠ノ之箒のように相手を探せ。そうすればやりようはいくらでもある。

 

 



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第3話

○月$日

 

今日は基礎訓練ではなく決め手を教える。

 

例えとして挙げるのはブリュンヒルデの零落白夜だ。この技は光子剣、ビームサーベルやフォトンソード等という実体の無い特殊兵装であり、ISの保護バリアの切断を可能とする稀有な代物だ。

 

この能力の他にバリアを無効化する技能を得たIS操縦者は存在しない。織斑一夏、お前の姉が最強たる所以は操縦技術と零落白夜によるものだ。

 

お前には専用機が与えられる。もしかすればブリュンヒルデと似た能力を得るかもしれない。だが、それは数年後になるだろう。

 

今は仮定の決め手を想像し、構築する。

 

ん?私の決め手を知りたいのか。ふむ、私とお前では戦闘のスタイルが違うのだが、お前の参考になるのなら教えてやろう。私の決め手はこいつだ。

 

なんだ、分からないのか?私の必殺技は左手による掴み技だ。ブリュンヒルデと違ってバリアを消し飛ばすことは出来ないが、私の愛機ならバリアその物を握りつぶす事は可能だ。

 

○月⊃日

 

夕方、ブリュンヒルデが部屋にやって来た。

 

どうやら私の指導のおかげで見れる程度には強くなった織斑一夏の試合の日取りを伝えるために訪ねてきたらしい。それは構わないのだが、私は織斑一夏の戦いを見に行くつもりはないぞ。

 

私はドイツの代表だ。

 

あの忌々しい生徒会長の相手もしなければならない。あと私の弟子の教育の件について。いくつか聞いておきたい。

 

あいつの成績の伸びの異常のことだ。

 

お前が彼女に戦い方を教えたというのは本人に聞いている。だからこそ疑問なのだ。なぜ、あいつの動きがお前と酷似し、刀剣の使用頻度が増えた。

 

明らかに思考も可笑しくなっている。以前のあいつは規律には口煩かったが、自分の部下には優しく接する良き隊長だった。

 

それがなぜだろうな?

 

お前のように抜き身の剣のような威圧感を纏い、私にも噛みついてきた。まあ、それはそれで私も楽しめるから悪くはない。しかし、あいつは一刻も早く正気に戻さねばならない。

 

あいつ、織斑一夏を敵視しているのだ。

 

○月∃日

 

織斑一夏とセシリア・オルコットの試合は明日だ。

 

篠ノ之箒の献身的なマッサージを受けているであろう織斑一夏の事を考えながら私の脳天に向かって振り下ろされる木刀の側面を手のひらで叩き、僅かに軌道をずらし、木刀を肩に受ける。

 

やれやれ、また相打ちだな。

 

ブリュンヒルデの脇腹に当たった拳を引き戻す。やはり、いつもの授業よりもブリュンヒルデとの訓練は参考になるな。

 

そう思ったことを素直に伝えるとブリュンヒルデは「お前ほど頑丈で私のリハビリ相手になるヤツも早々いないさ。もっとも相打ちに持ち込まれたのは予想外だがな」と言いつつ木刀を構え直す。

 

 



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第4話(織斑一夏)

「なんです、なんなんですの貴方は!?」

 

そう言って六つのピットでレーザーを掃射してくるセシリア・オルコットの表情は困惑と恐怖に満ちていた。彼女からすれば俺は訳の分からないものなのだろう。

 

レーザーの軌道を切っ先をずらすだけで変化させ、一歩も動かない俺は異様で異質で異常な存在に見え、彼女は冷静さをゆっくりと確実に失っていく。

 

段々と意識が研ぎ澄まされる。

 

俺は一振りの刀に成る。

 

正眼から上段へ刀を動かし、レーザーを弾きながら間合いを詰める。一歩前へ、更に前へ。折れない刀と壊れない鎧があれば俺は負けない。

 

「悪いな。オルコットさん、待たせた」

 

ようやく、あの空に飛べる。

 

あの人の目指した宇宙へ向かうための翼で。

 

ゆっくりと浮遊する。

 

箒や先輩との特訓のおかげで安定して飛行は出来る。オルコットさんは憎々しいと言わんばかりに俺を睨み、まだ完全に機能していないISで挑んだことに文句を言う。

 

それは確かに俺が悪い。けど、さっき謝ったと思うんだが彼女は聞こえてなかったのかと考えながら的を絞らせないように揺れるように動き、オルコットさんとの間合いを詰めていく。

 

「これは、瞬時加速(イグニッション・ブースト)!!たった一週間で高等技術を身につけ、くうぅっ!?」

 

俺の振り上げた刀が彼女の操作するビットの一つを切り裂き、爆風と黒煙で彼女の視界を封じるも紙一重で避けられてしまい、俺の刀は空振りに終わる。

 

「オルコットさん、お喋りより戦いに集中してくれ。そうじゃないと本気で戦えない」

 

「この、嘗めないで頂きたいですわね!」

 

「それは違うよ、オルコットさん。これは油断も隙も落ち着くことさえ出来ないだけだ。俺は君の攻撃を受け流す度、何度やられると思ったか…」

 

この言葉に嘘はない。

 

現に俺がオルコットさんを押しているように見えるけど、まだ一撃も彼女に掠りもしておらず、徐々に俺のほうが劣勢になっているのは分かる人には分かるはずだ。

 

袈裟斬り、逆袈裟、左薙ぎ、右薙ぎ、回転斬り、上段突き、代わる代わるに斬撃を重ねる。オルコットさんは辛うじて避ける。だが、だんだんと掠り防御する回数が増している。

 

「朧流剣法"霞斬り"」

 

前進する瞬時加速、後進する瞬時加速、その二つを瞬間的に行う。そうすればハイパーセンサーは一つだけではなく、二つの行動を視界に伝達する。

 

俺の必殺技(仮)の擬似的蜃気楼(ミラージュ)だ。

 

箒曰く「分身の術」だ。先輩は目の錯覚を利用した素晴らしい技だと称賛してくれ。ちゃっかり自分も使えるようになっていた。

 

「とりあえず、まず一勝かな?」

 

俺は刀を改めて見ると笑みが溢れた。これは千冬姉の雪片だ。正確には後継機の主戦力だっていうのは分かってるけど。

 

すごく嬉しい。俺はISを待機モードに変えて、未だに負けたことに呆然としているオルコットさんに駆け寄って手を差し出す。

 

「オルコットさん、これからよろしく」

 

「ふん、次は負けませんわよ!」

 

そう言うとオルコットさんは俺の差し出した右手をハイタッチするように弾き、そのまま帰ってしまった。まあ、何はともあれ。

 

「箒イイィィィッ!!!」

 

いきなり大声を出したことで帰ろうとしていた生徒や教師が俺を見つめる。ゆっくりと呼吸を整えて、アリーナの整備室にいる箒を見上げる。

 

「今、改めて言う。俺と付き合ってくれ!!」

 

しんと静まり返ったかと思えば俺の声よりも大きい声がアリーナに響く。まあ、そうなるよな。そんなことを考えながら顔を真っ赤にしてパクパクと口を開閉させる箒と、こめかみに手を添えてため息を吐く千冬姉に笑ってしまう。

 

 



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第5話

◎月ζ日

 

織斑一夏の祝勝会に参加しないのかと言うブリュンヒルデに「織斑一夏の努力による勝利だ。私の勝利ではない」とだけ伝える。

 

少し残念そうに眉間にシワを寄せながら試合で織斑一夏の使った分身の事を聞かれた。そういえば言っていなかったなと思いながらフォークでパスタを巻き、ブリュンヒルデに与える。

 

あの決め手は初見殺しだ。

 

お前のように視野の広い相手には通用しない不完全な代物だが、さらに研鑽すれば織斑一夏の代名詞になるだろう。

 

それにしても教職員の癖に生徒の前でビールを飲むのはどうなんだ?と聞けば「今は教師ではない。そうだな、ただの弟が心配な姉さんだ」とつぶやき、不敵な笑みを見せてくる。

 

◎月-日

 

織斑一夏と篠ノ之箒は恋人同士だ。

 

その事を聞き回っている中国の転校生と擦れ違った。生憎と関わりを持つつもりはない。それに彼女が織斑一夏を勧誘するためにやって来たハニトラ要員なのは誰もが理解している。

 

篠ノ之箒を羨ましく思うものは多い。

 

しかし、彼女を恨むものは一人もいない。

 

なぜなら織斑一夏によって篠ノ之箒が幼馴染みだった事も含めて赤裸々に公開されたのだ。つまり、IS学園公認の幼馴染みカップルとして受け入れられているということだ。

 

ブリュンヒルデは事実確認に来た新聞部に子供の頃の写真を提供し、篠ノ之箒と織斑一夏の甘酸っぱい幼馴染みエピソードを面白おかしく話すせいか。

 

篠ノ之箒へ向けられる視線は「ISの生みの親の妹」ではなく「健気で可愛い幼馴染み」というものに変わっていた。

 

◎月π日

 

織斑一夏を賭けて勝負しろ。

 

そう宣言する転校生と織斑一夏に庇われてか弱い乙女になっている篠ノ之箒を遠目に眺める。ブリュンヒルデも私の隣で朝食を食べながら「暴力に訴えなければ問題ない」と答える。

 

そして、ここぞとばかりに現れた生徒会長は「花嫁と言えば手料理ね!織斑君の胃袋を掴み取りなさい!」とISを使わないように誘導している。

 

ブリュンヒルデは私の隣で「出来れば美味い飯の作れるやつを嫁にくれ。私は和食が好きだ」と呟きながらサンマの骨を丁寧に取り除いていた。

 

それにしても織斑一夏はモテるな。

 

これ、下手したらハニトラまみれで大変なことになるんじゃないか?と思いながら昼休みに料理対決を決行すると楽しそうに話す生徒会長に呆れる。

 

私の考えなど素知らぬ顔で計画を進めていく生徒会長から視線を外し、篠ノ之箒を見る。現実逃避しているのか、だらしない顔で織斑一夏に正面から抱き締められている。

 

 



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第6話

Ο月Ι日

 

今日も織斑一夏を賭けて勝負しなさい。

 

そう叫ぶ声が下の階から聞こえてくる。あの転校生は諦めるという事を知らないらしく毎日毎日飽きることなく昼休みに篠ノ之箒に勝負を挑む。

 

1組と2組の生徒は一週間も諦めず、ひた向きに織斑一夏を奪い取ろうとする転校生を称賛はしている。だが、ほとんどの生徒は篠ノ之箒を応援し、絶対に奪わせるものかと助力しているのだ。

 

ブリュンヒルデは見守るとは言っていた。しかし、こうも続いては授業妨害でしかない。織斑一夏もハッキリと告白を断れば良いものを。

 

私の言葉に生徒会長が「あの子、告白もしてなければ好きだって伝えてないわよ?むしろ篠ノ之さんを負かせば付き合えると思ってるみたい」とつぶやき、パサッと扇子を開く。

 

『蛇頭蛇尾』

 

それはなんて読むんだ?と思いながら黒板を見ると生徒会長にチョークがぶつかり、私にもチョークが飛んできたが授業は聞いているし、しっかりとノートも書いていると主張する。

 

。月о日

 

織斑一夏に教えた流儀は朧流。妖刀や魔剣など存在するのかさえ曖昧な刀剣を操り、妖怪を斬り伏せるというものだ。

 

もっとも朧村正というゲームに登場する架空の流派に、百と八つ存在する刀特有の剣技を当て嵌めてある。まあ、織斑一夏は知らないようだが何人かは気付いているだろう。

 

私の教授するモノを疑いもせず誠実に学ぼうとする織斑一夏は悪いとは思っている。だが、だがしかしだ。これは滅多にないチャンスなのだ。

 

篠ノ之箒にも虎眼流を教え込んだ。

 

最初は殺人剣に恐怖しながら織斑一夏と特訓に励んでいたが、織斑一夏の成長に負けるものかと張り切ってくれたはおかげで、彼女も架空の流儀を使えるようになってくれた。

 

このまま使える流儀を増やしていけばブリュンヒルデと私に届くかもしれないな。そう考えながら「一夏の浮気者ー!」「浮気なんかしてねえよ!?」「一夏は渡さない!」という声に頭を悩ませる。

 

あいつら痴話喧嘩しかしない。

 

‡月⇔日

 

私のところにやって来た織斑一夏たちにIS学園三大勢力とは何なのかを問われる。まず三大勢力というのを訂正しておこう。

 

あれはファンクラブだ。

 

ブリュンヒルデ、生徒会長、そして私の三人を讃える非公式の同好会である。私は止めてほしいが、調子に乗っている生徒会長のせいで止まらんのだ。

 

付け加えて言えばブリュンヒルデも知らない。あいつは面倒事を起こさなければ基本的に受け身のスタンスゆえIS学園で最も巨大な勢力を持つ。

 

そんなことを織斑一夏たちに話したら「なにしてんだよ、千冬姉ぇ…」と肩を落とし、私の派閥はどうなのかと聞いてきたので少数精鋭だと答える。

 

私の動きを真似て強さを求める。

 

あれほど期待できるやつらは中々いない。私を踏み越えてブリュンヒルデも踏み越えていけば戦士として更なる高みへと行けるだろう。

 

 



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第7話

#月¥日

 

ついに篠ノ之箒が怒った。

 

彼女の「私と一夏の生活を乱すのはやめてくれ!もうお前に構っているのも疲れるし、そのせいで一夏と過ごせる時間が減っているのだ!」という声が食堂に響く。

 

私は篠ノ之箒の気持ちは分からない。

 

だが、ようやく再会できた幼馴染みに告白されて恋仲になれた。しかし、いきなり現れた転校生に「あんたは彼の恋人に相応しくない、さっさと別れなさい」と言われているのだ。

 

それはすごく悲しいだろう。

 

ブリュンヒルデも朝早くに騒々しいと苛立っていたのが嘘だったのかと思うほど素早く動き、篠ノ之箒を抱き締めながら「落ち着け、誰もお前から一夏を奪ったりしない。ゆっくり深呼吸しろ。よし、一夏はこいつと一緒に保健室へ行け」と伝える。

 

いつもそれぐらい動けよ。

 

そんなことを思いながら凰鈴音に説教をするブリュンヒルデを見つめる。やはりブリュンヒルデは弟思いの優しいやつだな。

 

そろそろ私も教室に行くか。

 

#月≫日

 

とうとう我慢の限界を迎えた織斑一夏の言葉に凰鈴音が言い返し、明後日に決闘するそうだ。セシリア・オルコットは呆れながら篠ノ之箒に付き添い、二人の勝敗を予想している。

 

織斑一夏に新しい技術を教える。

 

凰鈴音は中国代表候補生だ。

 

おそらく固有武器に『衝撃砲』を搭載しているのは確実である。お前が一撃も貰わずに勝つことは難しい。だが、この剣術を使えるようになれば勝機は飛躍的に上がるだろう。

 

まず第一前提として『剣術とは何か』だ。

 

お前の習っていたという篠ノ之流は剣道。分かりやすく言えば整えられた正しい道だ。それなら剣術はなんだ?と考えてみろ。

 

そう剣術とは確実に相手を斬り殺す技法だ。現存する格闘技や武術は衰退し、殆んどの流派は殺人術を伴う技法を破棄もしくは秘匿している。

 

それは何故だと思う。私の問いかけに少し悩み、ゆっくりと「今の時代に使う必要がないからですか?」と聞き返してきた。

 

うむ、それも正解だ。

 

しかし、答えはもっと単純だ。

 

もう殺人術は『いらない』のだ。剣術だって人を正しく出来るし、殺人術も組み換えれば立派な手段になる。詰まる所、私達の気分次第という事だ。

 

∃月↓日

 

織斑一夏の基礎能力を底上げするためにISの操縦に掛かる負荷を増やしてある。一歩踏み出すだけで全身に重りが付けられたかのように錯覚するのは私も経験済みだ。

 

私のところまでギチギチと軋む音が聴こえたかと思えば織斑一夏の斜めに振るった雪片弐型が突風を作り出し、アリーナの壁面に亀裂を刻み付ける。

 

今のは私の想定していたモノとは違うのだが、まあ真古流"飯綱"を使えるようになったのは嬉しい誤算だ。私も似たような技は出来るが、やはり男に比べると筋力的に劣っている。

 

私の言葉に驚いたような表情を浮かべる織斑一夏に呆れながらブリュンヒルデも男に組み付かれたら逃げ出すのは容易ではない。

 

むしろ押し倒される可能性もあるのだぞ?

 

そう織斑一夏に言えば「確かに千冬姉って俺より小さいし、荷物運びも俺の方が早く終わらせてる。……実は千冬姉ってツンツンしてるだけで箒とおんなじで可愛いのでは?」と謎の答えに辿り着いた。

 

こいつ、やっぱり変わってるな。

 

 



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第8話(篠ノ之箒/織斑千冬)

私の恋人の一夏と(自称セカンド幼馴染みの)凰のエキシビションマッチを仲良くなれたオルコットや先輩と一緒に座って見守る。

 

「このバカ一夏ァ!!あたしとの約束も覚えてないくせに、なに彼女なんか作ってるのよおぉ!」

 

「ぐっ、おわぁ!?約束って…酢豚のことか?あれは断っただろ!」

 

「ふっざけんなあぁぁぁ!!!!!あたしの一世一代の告白を「いや毎日酢豚は無理だよ、ごめん」ってなによ!?」

 

ただの痴情の縺れかと勘違いしそうになるが一夏の恋人は私だ。いくら告白していようと断れたのだから諦めるのが筋というものだ。

 

オルコットはハァ…と深い溜め息を吐きながら「英国紳士なら赤点ですわね、なぜ篠ノ之さんは彼と付き合っているのか理解できません」とつぶやき、先輩は「ふむ、致命傷は避けられているな。特訓の成果とはいえギリギリ及第点だ」と言う。

 

確かに一夏は女の子に優しくする事が多くモテているのは事実だ。イギリスの紳士というのはよく分からないけれど、私からすれば凰の告白を断ってくれただけで百点満点だ。

 

「スゥーーーッ、噴ッ!!」

 

一夏が全身を力ませる。

 

私のいる観客席にまでギチギチと筋肉の軋む音が聴こえてくる。いったい、なにをするつもりなんだと首を傾げた次の瞬間だ。一夏の振り上げた雪片弐型を起点として突風、いやカマイタチが発生した。

 

「……Japanese ninja magic」

 

「オルコット、普通に話してくれ」

 

「…んんっ、失礼しました。まさか織斑さんが侍ではなく忍者とは知りませんでしたわ。篠ノ之箒さん、あれが日本の忍術"フウトン"なのですわね?ああ、もしや篠ノ之さんは織斑さんの仕えるお姫様なのかしら?それもそれでいいですわね、どうなんですの?私としては主従の関係を越えて結ばれたお二人を応援するのは吝かではありませんが、いえ見守るのも友人として必要なスタンスですわね!」

 

「む?むぅ?」

 

オルコットのとてつもない早口に驚くよりも何を言っているのか分からず、チラチラと先輩を見て助けを求める。しかし、先輩は私とオルコットでも一夏と凰でもなく空を睨み付けていた。

 

ギャリイィィィィンッとアリーナを塞ぐバリアを吹き飛ばし、真っ黒な何かが落ちてきた。あれはなんだろうかと考えようとした瞬間、つんざくような悲鳴が響く。

 

「リン、お前のなにか知ってるか?」

 

「ううん、なにも知らないわ。とりあえず、無力化したほうが良さそう、ねぇ!!!」

 

そう凰が言うと同時にゴウッという二対の大刀を振り上げ、一夏と戦っていた時の無鉄砲な動きとは違う。まるで舞踊のごとく軽やかに空を飛び、侵入者に大刀を叩きつける。

 

一夏も加勢しているが侵入者の動きは精密で一撃も与えられていない。どうする、どうすればいい?私に何か出来ることはないのか?と考えていると先輩が肩を叩いてきた。

 

「な、なんですか?」

 

「ブリュンヒルデに許可を貰った。お前も加勢しにいけば勝機は上がる、いけるな?」

 

私は先輩の差し出してきたものを見る。

 

それは日本代表候補生に与えられる予定(・・・・・・・・・・・・・・・)のISの一つだ。私は迷うことなくそれを受け取り、そのまま左手首に装着する。

 

「篠ノ之箒、白鴎…参る!!」

 

私の身体を包んだISは『白鴎』の名の通り。美しい白色の装甲に翼状のスラスターを搭載しており、カタログでは第三世代最速の機体だ。

 

「新手かって、箒!?」

 

「あんたも白色、お揃いなんてずるい!」

 

「う、うむ、お揃い、ふふ…」

 

「くっっっっそムカつくわね!」

 

ぎゃーぎゃーと喚く凰を押し退け、右手に現れた日本刀型装備でレーザーを斬り伏せる。一夏がやっていたから私にも出来るのでは?と考えていたが、これは思っていたよりも怖いな。

 

「一夏、凰、まずはアイツを倒すぞ!」

 

 

〈アリーナ管理室〉

 

 

私はハァ…と溜め息を吐いた。

 

おそらくアイツがお膳立てのつもりで寄越したであろう謎の機体は一夏と篠ノ之、それから凰によって無力化されつつある。

 

織斑は冷静に攻めているが決め手が使えないことに焦りを感じている。篠ノ之も初戦闘ゆえ拙い戦い方だ。凰は衝撃砲を多用し、視線によって弾道を予測されてしまっている。

 

「それで?なぜ、お前は動かない」

 

私は観客席に座ったまま動こうとしない生徒を画面越しに睨み付ける。お前が戦えば数秒で倒せるだろ。どうして、一夏たちに任せるんだ。

 

しかし、そいつは動くどころか逃げもしない。徹底的に見守ることに集中しているのか、あるいは一夏たちを品定めしているのか。

 

まったく面倒なやつだ。

 

 



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第9話

Ω月Ε日

 

織斑一夏、篠ノ之箒、凰鈴音、彼らの活躍によってIS学園への侵略行為は未然に防がれた。セシリア・オルコットも戦闘ではなく避難誘導を率先して行ったおかげで、誰も怪我をしていない。

 

その事を表彰するとブリュンヒルデが教えてくれた。私は良かったじゃないかと言うと「それだけならな。ここ数日、私たちは毎日のようにあの無人機のコアは我々のところで奪われたものだと主張するバカとの話し合いだ。本当に疲れる…」とつぶやき、またビールを飲んだ。

 

私はそうかとしか言えない。

 

やはり独り身だかっ、いきなり頭を叩くんじゃない。なんなら男を紹介してやろうかと思ったんだが、すごい顔だな。

 

如何にブリュンヒルデといえど婚期が遅れるのは怖いと言うことだろう。私の言葉に「嘘だったら殺す」と言いながらカタログのように提示したお父様の知人や部下の写真と詳細を見せる。

 

Ω月&日

 

学園新聞に大きく『恐怖!?ルンルン気分の織斑千冬』と書かれた文字と写真、あと携帯を見てにやけるブリュンヒルデの写真がある。

 

織斑一夏は「いったい、なにがあったんだ。あんな千冬姉見るのははじめてだぞ!?」と職員室に乗り込んだため放課後の特訓は出来なくなった。やはりブリュンヒルデの緩んだ顔は珍しいのかと思う。

 

あいつはアホなのか?

 

そんなことを考えながら篠ノ之箒と特訓をする。最近は剣術の引き出しも増えてきた。まだまだ私やブリュンヒルデには届いていないけれど、候補生としては上位に入るのは確実だ。

 

‰月∨日

 

明け方に凰鈴音が訪ねてきた。

 

どうやら織斑一夏の成長の手助けをしていると勘違いされたらしい。しかし、いきなりやって来たというのに「あたしのトレーニングも手伝って!」というのは身勝手すぎる。

 

そう思いながらジャージに着替えてグランドに向かう。放課後や休み時間に特訓するのが授業に差し支えなくて良いのだが仕方ない。

 

私に向かって右正拳突きを放ってきた凰鈴音の腕を左手で弾きあげ、寸止めの突きを顔に向かって放つ。それを何度か繰り返し、大雑把すぎる動きと大振りを直すように伝える。

 

それにしても織斑一夏や篠ノ之箒とは違うな。

 

やはりベースとなっている中国拳法の動きが邪魔しているんだろう。ISは飛行して戦うことが多い。なにより中途半端に学んだせいで上手く身体を動かせていない。

 

どうしたものか。いっそのことブリュンヒルデに押し付けるのもありだな。……とりあえず、私の動きを真似ることに集中してくれ。

 

 



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第10話

ヶ月∀日

 

また朝のホームルームで凰鈴音と織斑一夏が暴れたのか。怒りに満ちたブリュンヒルデの居合斬りボンバーという掛け声が聞こえてきた。

 

そういえば深夜にやって来たブリュンヒルデとキン肉マンを見たな。やはりブリュンヒルデは和風のキャラクターが好きなのだろうか。

 

あとで聞くとしよう。

 

そう考えながらブリュンヒルデの説教する声に「うらやましい」やら「私もされたい」とかつぶやき、どんよりとした空気になる教室で生徒会長に「貴女なら止められるのに行かないの?」と言われる。

 

なぜ、そうなるのだ。私が止めにいくより副担任が止めるだろうと言えば「いや、あの先生じゃ怒ってる織斑先生は止められないでしょ?」と言う。

 

確かにそれはそうだ。私は生徒会長の言葉に納得する。しかし、そうなるとIS学園でブリュンヒルデを止められるのは私とお前だけになるぞ?

 

私がそう言うと優しげな笑みで「この話はやめましょうか」とつぶやき、そっと扇子を開いてまた文字を見せてくる。

 

『現実逃避』

 

やはり日本語は難しい。

 

Å月⌒日

 

どうやら転校生が来たそうだ。

 

篠ノ之箒の話によると男装している女の子らしい。だが、織斑一夏はまったく気付いておらず、普通に接しているとのことだ。

 

ただ、私の部屋に来て「一夏のやつは唐変木で鈍感なんです。か、かかか彼女である私を優先してはくれますが、どうも転校生に付き添ったりして、いや寂しいわけではないのだ!?本当ですよ、本当ですからね!!そもそも一夏のやつは奥手すぎで、ようやくチューを……なんでもありません」と叫び、かわいそうな自滅した篠ノ之箒を落ち着かせる。

 

そういうのは、どうでもいい。

 

私が聞きたいのはハニートラップの可能性があるのかどうかだ。篠ノ之箒、これは前にも言ったと思うが織斑一夏は稀有な存在だ。

 

彼のDNAは貴重で手に入れればISの秘密に近づけると考えるものいる。まあ、わかりやすく言えば篠ノ之箒から織斑一夏を横恋慕したら……あいつは話は最後まで聞けと教わらなかったのか?

 

Å月∃日

 

凰鈴音と篠ノ之箒、セシリア・オルコットに説教される織斑一夏を見かけた。ブリュンヒルデになにかあったのかと聞けば「お風呂で見たらしい」と言う。ああ、なるほど、そういうことか。

 

私は賢いので近づいたりはしない。織斑一夏が全面的に悪いのは明らかだ。ブリュンヒルデも反論は出来んと呆れながら携帯を見つめている。

 

ブリュンヒルデは順調に花嫁への道を進んでいるのは構わないのだが、私としては世間に婚期や恋人が出来ない理由を説明してほしいと思っている。

 

まあ、というよりもブリュンヒルデが交際したら世間も恋人を作ろうと躍起になるはずだ。そう彼女に言うと「私を起爆装置みたいに言うな、馬鹿者」と言われたが事実なので謝罪するつもりはない。

 

 



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第11話

Π月Ζ日

 

織斑一夏に手を引かれて頬を赤く染めるシャルル・デュノアことシャルロット・デュノアに、ムスッとした篠ノ之箒を教室から見下ろす。

 

よく耳を澄ませば「一夏のあほ!ばか!えと、あんぽんたん!」なんて罵倒なのか分からない声が聞こえ、なんとも甘酸っぱい雰囲気だ。

 

そしてセシリア・オルコットの「お二人とも授業が進みませんわ」やら「イチャイチャしたいのでしたら寮でしてくださいまし!」と叫ぶ声も聞こえる。

 

そういうのはブリュンヒルデの役目だろうと思い、彼女を見ると私を睨み付けていた。どうやら裏社会の人間を紹介したのは失敗だったようだ。

 

あとで別のやつを紹介しよう。

 

∨月↓日

 

私の弟子で、ブリュンヒルデの教え子、それがラウラ・ボーデヴィッヒだ。私とブリュンヒルデを除外すれば間違いなく最強に数えられる。だが、どうにも思い込みが激しくてな。

 

ブリュンヒルデと私が日本に留まっているのは織斑一夏のせいだと盲信し、お前を倒せばドイツに戻ってくると信じているようだ。

 

私はラウラ・ボーデヴィッヒに目的のブリュンヒルデを越えていないので帰るつもりはないと伝えたところ。織斑一夏がいるからと譫言のように呟き、現時点で分かると思うがお前の命を狙っている。

 

まあ、そう気負うことはない。

 

ブリュンヒルデも説得を試みている。たとえラウラ・ボーデヴィッヒが無惨にもボコボコにされていても自業自得の結果だ。

 

織斑一夏は黙っていればいい。こうやって篠ノ之箒と朝食を食べていれば、すぐにブリュンヒルデが解決するだろう。もしもの時は私がラウラ・ボーデヴィッヒの勘違いを正す。

 

ヶ月ゑ日

 

ラウラ・ボーデヴィッヒのゲルマン忍法に翻弄されるセシリア・オルコットと凰鈴音を上空に投げ飛ばし、私に向かって飛んできたワイヤーを避け、ラウラ・ボーデヴィッヒに歩み寄る。

 

私の教えた技にワイヤーを織り混ぜるとは良い考えだ。しかし、模擬戦をするならブリュンヒルデか教員に許可を貰うのがIS学園のルールだ。

 

凰鈴音、セシリア・オルコット、お前達の奮闘は見させてもらったが現役軍人の口車に乗るのはやめておけ。ほら、ラウラ・ボーデヴィッヒも行くぞ。私も一緒にブリュンヒルデに怒られてやる。

 

私がそう言うと「次のタッグトーナメントだ。そこで貴様らを潰し、織斑一夏を抹殺する。覚悟しておくことだ」と宣言してしまった。

 

アリーナの出入り口を見るとブリュンヒルデが立っていた。なぜか織斑一夏と篠ノ之箒は抱き合って震えている。

 

ふむ、そういうのが恋人のハグなのか。

 

ブリュンヒルデも今度のトーナメントで来日する恋人候補と会えるのだ。そんなに怒らずとも良いだろう。なぜ、私の頭を叩いたんだ?

 

 



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第12話(織斑千冬)

普段のスーツやジャケット等ではなく白色のノーカラーのシャツワンピースにカーディガンを身に付け、私はIS学園と日本本土を繋ぐモノレール乗り場の前に立っている。

 

数年前にドイツで出会った好敵手に紹介された恋人(もしかしたら結婚してくれる)候補と待ち合わせ、彼が到着するのをソワソワしながら待ち望む。

 

「(少し早かっただろうか…。いや、これくらいが普通のはずだ。一夏だってデートするときは早めに出ていたし、たぶん問題ない)」

 

「すまない。遅くなっただろうか?」

 

「……あっ、い、いいえ!私も今来たところで」

 

そう言って話しかけてきた金髪の美丈夫を見上げる。目測180cmはある彼に驚きつつ、どことなくアイツに似ている雰囲気を感じる。

 

「先ずは自己紹介を。私はリヒャルト・シュトロハイム、いつも愚妹が御世話になっております」

 

リヒャルト・シュトロハイム。そう名乗られて漸く理解することが出来た。あいつ、よりにもよって親族を紹介してきたのか!?

 

いや、まだ慌てるな。

 

とりあえず落ち着くんだ。アイツの親族だからと警戒するのは失礼だ。しかし、よくよく考えると一夏や先生以外に異性と話したことがない。

 

〈IS学園モノレール乗り場付近〉

 

私の歩幅に合わせて歩いてくれるシュトロハイムさんを篠ノ之にオススメされた喫茶店に連れていき、一緒にコーヒーを飲んで過ごす。

 

何の曲なのかも分からないクラシックの心地好い音色に聞き入りながらシュトロハイムさんの仕事について教えてもらい、かなり軌道に乗っていると詳しく話してくれる。

 

「そういえば千冬さんは日本古武術の使い手だと聞いているのですが、私も武術を学んでいるもので。もし宜しければ流派を教えていただけますか?」

 

「私は篠ノ之流です。シュトロハイムさんは?」

 

「シュトロハイム家に伝わる武術ですよ。愚妹の手当たり次第に織り混ぜたではなく正統派だと自負しています」

 

シュトロハイム家の武術なんて使っているところを見たことないのだが?と思いながらもシュトロハイムさんの話を聞けば聞くほどアイツの存在が分からなくなってきた。

 

「リヒャルト・シュトロハイムとお見受けする」

 

そんなことを考えているとただならぬ雰囲気を醸し出すか男が話しかけてきた。シュトロハイムさんを睨んでいるのがどういう関係なのだろうか。

 

アーデルハイド・バーンシュタイン、私はここでヤツと事を構えるつもりはない。なにより麗しき女性の前だ、血腥い戦いはやめておけ」

 

「お前のような男と二人きりのほうが危険だ。レディ、どうか私をご一緒しませんか?」

 

「はあ?千冬は私と話しているのです、さっさと立ち去りなさい」

 

「(こ、これは少女漫画でよくある『お前にこいつは渡さねえ』というやつなのか!?しかも外国のイケメンに取り合われている!モテ期、これが私のモテ期というものなのか!?)」

 

私を挟んで取り合うイケメンを見上げる。

 

どちらもかっこいい。そして、なによりも強者の気配を纏っている。そんな彼らが私を取り合っていると思うとラブコメのヒロインになったと勘違いしてしまうではないかぁ!!

 

 




『リヒャルト・シュトロハイム』

漫画版「餓狼伝説2」に登場するキャラクターです。
ヴォルフガング・クラウザーの息子であり、誤って彼に殺されてしまうのですが、この世界線ではオタク女の存在によって生きています。


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第13話

ゎ月♭日

 

私は織斑一夏と篠ノ之箒に呼ばれブリュンヒルデの寮母室に来ているのだが、いきなり彼女に「これからよろしく頼む、義妹よ」と言う。

 

なぜかすごい顔で織斑一夏に見られたので私のお兄様を紹介したと伝えると泣き出した。どうしたのかと聞けば「千冬姉は結婚できないんだろうなって、ずっと思っていたんだ」と話してくれた。

 

まあ、それはどうでもいい。

 

ブリュンヒルデが義姉になろうと打倒するべき目標であることに変わりはない。むしろ堅物でうるさいお兄様を貰ってくれたこと。

 

私は感謝している。お兄様はきっと戦いに明け暮れる人生なのだろうと思っていたんだ。ありがとう、ブリュンヒルデ。

 

ρ月Σ日

 

ブリュンヒルデの婚約は世界を震撼させた。

 

ずっと女尊男卑の象徴が結婚するのだ。男をバカにしている暇はない。一刻も早く結婚しなくては!と世界中で焦っているそうだ。

 

実に情けない。

 

女は偉いとふんぞり返っていた女性権利派はブリュンヒルデの「行き遅れたいのか?」の一言であっけなく瓦解し、今や婚活に勤しんでいる始末だ。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒに関しては私が織斑一夏と従兄弟の関係になってしまったせいか。どう接すれば良いのかと困っている。

 

もっとも私としてはラウラ・ボーデヴィッヒが憎い相手に話しかけ、友好関係を築こうと頑張っている姿を見れただけでも満足だ。しかし、ブリュンヒルデ信者からすると私は邪魔物らしい。

 

やれブリュンヒルデは至高の存在だ。やれブリュンヒルデは騙されている。男なんかにブリュンヒルデが靡くはずがない。

 

あまりにも酷い、とくに最後のやつは。

 

ブリュンヒルデはひとりの人間だ。自分の家族を愛し誰かに恋だってする。それを止めたり否定する権利は微塵もない。

 

さっき「男なんか」とか言ったやつ。お前がIS学園に通えているのは実力か?いいや、断じてお前の実力ではない。

 

この学園に通えているのはお前の両親のおかげだ。お前のために心身を磨り減らし、お前の夢を叶えるために頑張っている大人のおかげだ。

 

私はお父様に報いるためにIS学園で研鑽している。それこそ私なりの恩返しだ。そしてシュトロハイム家こそ最強と証明する。

 

その気概のないやつらに織斑一夏とお兄様を否定する権利はない。

 

З月κ日

 

トーナメントのパートナーを探していると生徒会長に捕まった。どうやら先日の叱責で勉強に励み始めた生徒がいるそうだ。

 

そうか、それはいいことだ。

 

生徒会長にトーナメントのパートナーは決まっているかと問うと「いいえ、まだよ?というよりも私と貴女は代表だから出ちゃダメよ?」と言われた。

 

せっかく私が育てた篠ノ之箒や織斑一夏とは戦えないということなのか?と聞けば苦笑いされながら肯定され次があれば頑張りましょうねと励まされた。

 

 



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第14話

▲月$日

 

織斑一夏に相談したいことがあると言われ彼の寮室に入った瞬間、私は自分の軽率さに悲しくなった。左頬の腫れた織斑一夏の後ろにいるのはパジャマ姿のシャルロット・デュノアと不機嫌な篠ノ之箒だ。

 

いったい、なにがあったんだ?と嫌々ながらも織斑一夏に聞けば「ハニートラップされるかと思って箒を呼んだら叩かれた」と言われた。

 

それは見れば分かる。

 

私が聞きたいのは篠ノ之箒とシャルロット・デュノアに両腕をホールドされている訳を聞きたい。どうせ、彼女に優しくしたのだろう。

 

そう言うと篠ノ之箒が「その通りです、お義姉様。私というものがありながら一夏は女に優しすぎるのです。見てください、このケータイの連絡先を!ほとんど女ですよ!?」と騒ぐ。

 

まあ、お前たちのラブコメはIS学園の名物だからな。私達は大いに楽しませてもらっている。だが、それに巻き込むのはやめてくれ。いくら私が最強でも関わりたくないものはある。

 

Α月∬日

 

シャルロット・デュノアと篠ノ之箒による織斑一夏争奪戦を観戦しながらブリュンヒルデにそれとなくお兄様との関係は進んでいるのかを聞く。

 

私の反応を楽しむようにブリュンヒルデは「毎日毎朝毎晩メールでやり取りしているぞ?おかげで他の先生から嫉妬されてな?困っているよ、はっはっはっ」と言い笑う。

 

なんだ、ただの自慢話か。

 

私はまだ夕食を食べ終えていないブリュンヒルデを席に残し、さっさと空になった皿を乗せたトレーを食堂のおばさまに差し出す。

 

≪月⊥日

 

織斑一夏にトーナメントで勝ち抜くために新しい必殺技を作りたいと言われた。篠ノ之箒を頼ればいいんじゃないのか?と思いながらも彼と手合わせを繰り返して動きを修正する。

 

一応、織斑一夏は私の義弟になる。

 

お兄様の恋人となったブリュンヒルデも義姉だ。ただ、どうも世界では「生身で最強なのに織斑千冬も加わったのか」と戦々恐々しているらしい。

 

もっとも織斑一夏を狙っている派閥は少なからず残っており、私と篠ノ之箒、ブリュンヒルデの牽制のおかげで鎮圧は進んでいる。だが、シャルロット・デュノアと凰鈴音はまだ諦めていない。

 

あわよくば彼の第二夫人になろうとお互いを牽制し、私の助力を得ようとしている。そんなことを織斑一夏に言うと「俺は篠ノ之箒が好きだし、彼女を愛している。それは絶対に揺るがないし変わらない」と笑顔で宣言した。

 

うむ、それはいいのだが。

 

篠ノ之箒がすごい形相をしながら幸せそうに倒れたのは構わないのかと聞けば瞬時加速を駆使して彼女のもとへ向かってしまった。

 



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第15話

ヴ月≡日

 

篠ノ之箒の姉を名乗るメカニカルなウサギ耳の変態と遭遇してしまった。というよりもだ。なぜ、彼女はIS学園に堂々と侵入し、私を罵倒しているのだろうか。

 

彼女は「お前のせいでちーちゃんが変わった!お前のせいで箒ちゃんがおかしくなった!お前のせいでいっくんが弱くなった!」と叫ぶ。そして、私を許さないと言い残して消えた。

 

それ、私が悪いのか?

 

明らかに彼女の発言は間違っている。

 

まずブリュンヒルデは変わっていない。むしろお兄様と恋仲となった事で余裕を持つようになった。篠ノ之箒も可笑しくなっていない。彼女なりに答えを導き出しただけだ。

 

そして、織斑一夏は弱くなどなっていない。

 

自分の大切な人を守るために強くなろうとしている途中だ。彼女は自分の想定していた予定と違ったため焦った挙げ句、予定通りに進まないのは私の存在によるものだと思い込んでいるのだ。

 

そうなると彼女は現実逃避していることになるのだが、ISの創造者がそれでいいのだろうか。なんて考えながら布団に潜り、そっと目を閉じる。

 

^月:日

 

織斑一夏の必殺技を考える。

 

彼と言えば『雪片弐型』だ。

 

ブリュンヒルデの愛刀の後継に該当する日本刀型兵装に加え、彼女の得意とした高速移動による戦闘スタイル。それと酷似したスタイルを得意としており、候補生にも劣っていない。

 

私の言葉に照れる織斑一夏とムッとする篠ノ之箒を落ち着かせ、ホワイトボードに弱点となりうる『直線的高速移動』『集中力の持続』『手数と経験の無さ』を伝える。

 

まだまだ改良点はあるが現段階でお前より強いのはラウラ・ボーデヴィッヒとシャルロット・デュノア、そして篠ノ之箒だ。

 

私の言っていることは正しい。織斑一夏、お前は篠ノ之箒と戦えば確実に負ける。その理由はお前と一緒にいるからだ。

 

篠ノ之箒は剣道で優勝するほど鍛練を重ねており、お前はアルバイトのブランクもある。だが、もっとも重要なのは観察力だ。篠ノ之箒は相手の全体を見る『観の目』を理解しているが、お前はまだ分かっていない。

 

お前に足りないのは観察力だ。しっかりと相手を観察し弱点や間合いの取り方、動きのクセを見極めろ。それまで篠ノ之箒とデートは禁止だ。

 

私がそう言うと「そんな横暴です!週に一度のお楽しみを奪うなんて、いくら先輩とて許せません!」と篠ノ之箒が騒ぎ、それに続いて織斑一夏も「お家デートもダメなのか!?」と叫んだ。

 

∫月⇔Δ日

 

ブリュンヒルデとお兄様のデートの話を羨ましそうに聞いている女教師から紹介してくれと頼まれた。私の自己判断で呼んで良いのならお父様の関係者を呼べるには呼べるが、それでいいのだろうか。

 

しかし、私の友人も紹介していいのか?と聞けば女教師の圧力に押されドイツで出会った知り合いを紹介してしまった。

 

べつに問題はないはずだ。かなり変わっているやつもいるがIS学園の教師なのだから普通に倒したり追い払ったりはできるだろう。



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第16話(ラウラ・ボーデヴィッヒ)

「おはようござ、シュトロハイム様!?」

 

「おや、ボーデヴィッヒ少佐?」

 

私は教官の居るであろう寮母室を訪ねるとリヒャルト・シュトロハイム様がいた。なぜ、どうして、こんなところに?私はあまりにも突然の出来事に驚きつつ、すぐに姿勢を正す。

 

ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら教官の寝室にいらっしゃる理由を問う。そんなもの分かりきっているというのに私は期待しているのだ。

 

シュトロハイム様は偶然にも教官の寝室に来ていただけだと。しかし、私の期待はあっけなく砕かれた。シュトロハイム様は教官を訪ね、私はたまたま居合わせただけである。

 

「ラウラか。なにか用事でもあるのか?」

 

「あっ、いえ…何でもありません」

 

がちゃりと音を立てて開かれた寮母室の扉から出てきた教官を見て、私は情けなさと惨めな気持ちに押し潰されそうになる。

 

あまりにも教官がキレイだったのだ。

 

私のように煤けた兵器の臭いを纏うものとは違う。

 

まさに教官はシュトロハイム様とお似合いの気品溢れる女性だ。私は逃げるようにその場を去り、だんだんと涙のせいで視界が滲んでいく。

 

「ハァ、ハァッ、くそ、なぜだ!?」

 

私の様なものが話し掛けることすら烏滸がましい高貴な御方と恋仲となった教官を羨んだ事はあれど憎んだ事は一度もない。

 

彼女は私を強くしてくれた。

 

「それなのに…どうして、胸が痛いんだッ」

 

私は誰もいない更衣室の壁際に座り込み、シュトロハイム様が言って下さった「強くなったな」という言葉を思い出す。

 

シュトロハイム様のかけてくれた、何気無いな一言が教官の言葉より師匠の言葉よりも心に残っている。私は教官を憎んでなどいない、いないはずなんだ。あの人のおかげで、私は強くなれたんだ。

 

「辛い、辛いのです、シュトロハイム様……」

 

ぽつり、ぽつり、私は独り言を呟く。決して誰にも届くことのない、私の、ラウラ・ボーデヴィッヒの醜い嫉妬を吐き出す。

 

どれだけ欲深く求めようと届かないと知っていながらシュトロハイム様に見初められた教官を羨み、自分のほうが先に好いていたのだと叫び、彼女を妬んでしまう浅ましい自分に嫌悪する。

 

ああ、もしも叶うのなら……

 

私はシュトロハイム様のを授かりたい。

 

浅ましく醜い感情で埋め尽くされながら私はシュトロハイム様と仲睦まじく逢瀬に出掛けていくときに教官の見せた優しげな笑みに、ぎりっと歯を食い縛るように耐える。

 

「うっ、うぅ、ああぁぁあ…うあぁぁぁッ!!!」

 

ああ、やっぱり、だめだ。

 

 



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第17話

∪月・日

 

明らかにブリュンヒルデの剣技を完璧以上に模倣しようとするラウラ・ボーデヴィッヒに違和感を感じ、率直になにかあったのかを問う。

 

彼女は戸惑いながらも「私は、私は卑しい女です。教官の婚約者であるシュトロハイム様に愛してほしいと願い、私を育ててくれた教官に嫉妬しているのですッ」と涙を流して話してくれた。

 

お前もお兄様を愛してしまったのか。

 

しかし、私が言えることはひとつだけだ。ラウラ・ボーデヴィッヒよ、お前の愛は抑えることは不可能だ。我らが祖国の習わしに従い、我が兄を落としてみせろ。

 

それでも無理ならば愛人や妾になるつもりでブリュンヒルデとお兄様に突撃すればいい。お前を見捨てたりなど絶対にしない。

 

∩月∋日

 

早朝、ブリュンヒルデがやって来るなり殴りかかってきた。どいうつもりだと聞けば「貴様、義妹のくせに浮気を進めたのか!!」と叫ぶ。

 

私は後押ししただけだ。

 

我らは乙女だ、たくさん恋をするぞ。なにより年下のラウラ・ボーデヴィッヒに負けるような義姉など私はいらん。

 

そう言うとブリュンヒルデはラウラ・ボーデヴィッヒのところへ向かうと言い残して出ていった。とりあえず、この壊れた扉を捨てないといけないのだが、さすがに一人で運ぶには重すぎるな。

 

むかつくほど気持ち良さそうに眠っている生徒会長を叩き起こし、この鉄屑を捨てにいくから手伝えと言ったら「トーナメントに向けて、私達はがんばっているのよ?だから、もう少しだけ寝させて!私は徹夜なんてしたくないのよ!!」と怒られた。

 

ふむ、そうか。それなら仕方ない。私だけで捨てにいくとしよう。ついでだ、学生寮の掃除しておけばブリュンヒルデも機嫌を治すはずだ。

 

まったくお兄様の婚約者になったからと浮かれすぎているんじゃないのか?

 

Н月З日

 

ラウラ・ボーデヴィッヒが晴々とした表情でブリュンヒルデと並んで歩いているのを見かけた織斑一夏が「まさか義理の娘にっ!?」とか驚いていたが、そういう関係になることはないだろう。

 

そんなことを話しているとセシリア・オルコットと凰鈴音、シャルロット・デュノアによる織斑一夏の勧誘が勃発した。

 

そういえばトーナメントは来週だったか。

 

まあ、私は出られないがお前達の成長を期待し応援している。強くなれていたら本気で相手してやる。精々、負けないように励めよ。

 

私が言い残して帰った後、織斑一夏も篠ノ之箒も含めた五人でアリーナを半壊させるほど戦っていたというのを生徒会長に聞かされ、なぜか私のミスだと言われたが私は悪くないだろう。

 



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第18話

!月゜日

 

篠ノ之箒の放った無明神風流殺人剣"みずち"を避け続ける織斑一夏にアドバイスを送ろうとしたが、そっとサングラスをかける。

 

どうやら無数に放たれたみずちは偶然にも無明神風流の奥義の一つ青龍になったようだ。織斑一夏は保護バリアがあるとはいえ風を防ぐことはできず、ズタズタにされてしまった。

 

私が教えたとはいえ篠ノ之箒は強くなるのが速くて素晴らしいものだ。まあ、織斑一夏も頑張っているのは認めるが直線的すぎるな。

 

そう傷だらけで落ちてきた彼に伝える。

 

すごく悲しそうな目をしている。だが、私ではなく篠ノ之箒に看病してもらえ。そうすればプチお見舞いデートを楽しめるだろうと言った瞬間、織斑一夏に無数の銃弾と衝撃波が打ち込まれた。

 

とりあえず、織斑一夏は棄権だな。

 

◎月$日

 

私のせいだと文句を言うアホな後輩たちを投げ飛ばし、蹴り落とし、殴り倒して鎮圧する。まったく私は篠ノ之箒に言ったのだ。

 

お前たちが見境なく襲うから織斑一夏は女の子たちを警戒して、大切な恋人の篠ノ之箒との関係が深くなっているのが分からないのか?と告げる。

 

すると、シャルロット・デュノアが私を睨み付けながら「じゃあ、どうすればいいんですか!僕はみんなより出遅れているし、女の子っぽさはあるけど、篠ノ之さんには叶わないんですよ!?」という本心を叫び、それに同調するように凰鈴音までも騒ぎ始めた。

 

そういうのは本人に聞け。

 

もっとも私がいるかぎり織斑一夏と篠ノ之箒の寮室に向かわせるつもりはない。私がそういうとブチギレたふたりが襲いかかってきた。

 

セシリア・オルコットは優雅に紅茶を啜りつつ私に吹き飛ばされるふたりを見つめ、にこりと微笑んだかと思えば「はんっ、無様ですわね!」と言い放ち、満足げに座り直した。

 

あいつも変わったな、悪い方に。

 

×月『日

 

セシリア・オルコットと二人きりは初めてだ。とはいえ貴族同士の会話なんて社交界の不満や異性のことで盛り上がるだけだ。

 

しかし、私の家と関係を結びたいと言ってきたのは意外だ。彼女のことは面白い後輩だと思っているが、さすがに織斑一夏を見て「NINJA観察が日課ですわ!」と言われると反応に困る。 

 

たしかにゲルマン忍法は使える。

 

だが、それは私が個人的に学んで会得しただけであってドイツに忍びはいなくはないが私とラウラ・ボーデヴィッヒくらいだぞ。

 

その「えぇ、分かっていますよ。そらは秘密なんですよね?」みたいな顔はなんなのだ。私はうそは言っていないぞ?と言えば「いずれゲルマン忍法というのも教えていただきますわ、それでは失礼します」と言い残して食堂を出ていった。

 

あいつ、すごい変わったな。

 

 



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第19話

∧月※日

 

織斑一夏の棄権を破棄せよ。

 

そう通達されたと私に話してきた生徒会長を訝しげに見ながらも理由を問うとやはり天災の名前があげられる。しかし、単なる客引きのつもりなら篠ノ之箒だけでも十分のはずだ。

 

考えられるのは織斑一夏の敗北を望んでの命令だ。彼は世界で唯一ISを起動させた男だ。人体実験に使いたいと考えるものも多い。

 

とくにドイツなんて改造大好きだ。私の専用機もカタログスペックは破格だが私以外に乗りこなせる代物じゃない。

 

そんなことを生徒会長と話しながら織斑一夏の今後について案を出し合う。それにしても意外なものだ。数週間前まで織斑一夏のことは要注意と言っていただろ?いったい、どういうつもりなんだ。

 

私の問いかけにとモゴモゴする生徒会長。どうやら聞かれたくないらしい。まあ、それは追々だな。ただし篠ノ之箒から奪おうとするなよ?

 

どうも織斑一夏は年上に靡きやすい。

 

◇月℃日

 

 

私達の会話を盗み聞きしていた二年生・三年生による織斑一夏誘惑大作戦を生徒会長と一緒に眺めているとブリュンヒルデが現れた。

 

まずは落ち着けと諭そうとするブリュンヒルデの言葉を遮り、ブリュンヒルデに「自分は婚約者いるからって調子に乗るな!」「私達だって灰色の学生生活に色がほしいんです!」「だいたい、なんなんですか!?ドイツの名門貴族の嫡男と結婚ってふざけてるんですか!?年増の癖に良い思いしやがってよぉ!」という思い思いの言葉を彼女にぶつける。

 

あと最後のやつの顔は覚えた。

 

それと生徒会長も聞こえていないと思っているのかは知らんが「いいぞ、いいぞ、そのまま婚約解消されろ」なんて言うのはやめろ。

 

私にまで余波が来るかもしれないだろう。

 

ああいう面倒には関わりたくない。

 

あっ、ブリュンヒルデが怒った。おお、すごいぞ。ただの生徒名簿帳なのにISの武装を受けた上に叩き折っている。私の言葉に生徒会長がそっと視線を逸らしてアイマスクをつけた。

 

×月{日

 

篠ノ之箒にどうにかしてほしいと泣きつかれた。しかし、そういう経験の少ないというよりも経験皆無の私が口出しできるものなのかと聞く。

 

すると、篠ノ之箒は「そんなものはどうでもいいですから一夏を助けてやってください!あいつは上級生に襲われ過ぎて、もう二日も寝てないんです」と重苦しく言ってきた。

 

お前のせいだぞと生徒会長を睨みつけ、篠ノ之箒に引っ張られるがまま学生寮の自室に立て籠っているという織斑一夏を助けるために向かう。

 

私はいるのだろうか?なんて思いながらも扉の前でブリュンヒルデが「早く出てこないと篠ノ之箒の首をへし折るぞ」と脅迫している姿を見て、思いっきり溜め息を吐いた。

 

 



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第20話(織斑一夏)

タッグトーナメント当日。俺の予想に反してラウラ・ボーデヴィッヒとシャルは意外とコンビネーションが良くかなり手強いチームになっていた。

 

もしかしたら負けるかもしれない。

 

「なあ、箒。その…大丈夫か?」

 

「ああ、問題はないのだが。姉さんから出場するなとか私が強い専用機を作ってあげるなんて連絡が多くて疲れているが平気だ」

 

「それは平気でいいのか?」

 

そう突っ込んだのは悪くないと思う。

 

あの人はきっと努力している箒を見ていないんだろうな。なんて考えながらアリーナに飛び出る。ふたりとも気合いが入っているのはわかるけど、すごい形相だな。

 

「ボクだってタッグ組みたかったのに、なんだよ。そんなに篠ノ之さんのほうがいいの?ボクに『助ける』って言ってくれたのはウソなの?」

 

「いや、俺が言ったのは『困ったことがあったら手伝うぞ』だ。あと俺がこの世で一番愛してるのは篠ノ之箒、こいつだけだ」

 

俺がそう言うと箒が俯いてしまった。シャルはシャルで怨めしげに箒を睨み付け、ラウラ・ボーデヴィッヒはどこか羨ましそうに箒を見ている。

 

ふとラウラ・ボーデヴィッヒのISに違和感を感じたその時だった。いきなり泥のようなものが彼女を包み込んだかと思えば千冬姉の専用機に似たなにかが現れた。

 

俺は見ただけで理解した。

 

こいつ、千冬姉と先輩のISの良いところだけを組み合わせた継ぎ接ぎだ。ただでさえ人間を止めてる二人のパワーやスピード、テクニックも無理やり人の形に押し込めてるようなもの。そんなことをすれば器は、ラウラ・ボーデヴィッヒは壊れる。

 

「ルオォオオオォオォッ!!!」

 

「ちょ、ちょっとボーデヴィッヒさん!?」

 

いきなりの出来事に反応の遅れたシャルがラファールごと吹き飛ばされアリーナのバリアにぶつかる。ああ、くそ、マジか。パワーに関しては二人並みはあるということが判明した。

 

「ぼーっとするな、一夏ッ!!」

 

「わかっ、てるよぉ!!」

 

今のは瞬時加速……いや、そんな技術的なものじゃない。ただの突進だ。それなのに俺よりも速い。ギリッと悔しさのあまりラウラ・ボーデヴィッヒを睨み付け、歯を食い縛ってしてしまう。

 

「ごめん、箒。あっちで気絶してるシャルのこと任せてもいいか?」

 

「それは構わない。だが、どうするつもりだ?おそらく今のあいつはお前より強いぞ」

 

「ああ、たぶんな」 

 

俺を探して身体を捻って起き上がるラウラ・ボーデヴィッヒを見つめる。あいつは千冬姉や先輩を真似ているだけだろ。

 

まあ、それでも俺は確信してる。

 

「あいつを倒せば『最強』には近付ける」

 

その言葉にキョトンとする箒だったが、すぐに大きな溜め息を吐いた。そりゃそうだ。いきなり、そんなこと言われたら困るよな。

 

「まったく仕方のないやつだ。行ってこい」

 

「……おう!」

 

うん、やばかった。さっきの箒の笑顔、すごい嬉しそうなのにしょうがないなって感じのかわいい笑顔だった。すげぇかわいい。

 

おれ、かわいいしか言ってないな。

 

「ウオォラァッ!!」

 

「グッウゥ!?」

 

ただの振り下ろしを避け損ねるなにかを睨む。千冬姉なら避けていた。先輩なら攻撃していた。そんなことを考えながら剣を振るう。

 

横薙ぎに吹き飛ばされ、袈裟斬りに裂かれ、唐竹で打ちのめされる。弱い、弱すぎる。本当のこいつなら避けられる攻撃だ。

 

千冬姉の剣筋、先輩の身のこなし。どちらか片方を選べば少なくとも俺を倒せるだろう。しかし、継ぎ接ぎになったのはお前だ。

 

「だけど、そんな泥まみれで俺に勝てると思ってるのか?さっさとそこから出てこいよ、ボーデヴィッヒイィィィ!!」

 

渾身の一撃を叩き込む。ぱっくりと裂かれた泥を押し退けて彼女の手が現れ迷わず、その手を掴んで引き寄せた瞬間、ラウラ・ボーデヴィッヒがISを起動した。

 

「あれに関しては礼は言う。だが、私を人形のように扱ったアレは許さん!ゲルマン忍法"シュトゥルム・ウント・ドランク"!!」

 

そういうとラウラ・ボーデヴィッヒはブレードを展開して高速回転する。ゲルマン忍法のところでセシリアが反応してたけど、あれは無視しておこう。俺のこと未だに忍者だと思ってるし。

 

「つええぇりゃあぁぁぁぁっ!!!」

 

すげぇな、まるでドリルだ。

 

そんなことを思いながらもなにかを突き抜け、爆風と爆発に背を向けて立つラウラ・ボーデヴィッヒは格好良かった。

 

 



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第21話

∃月♡日

 

1年生の臨海学校を見送り。

 

私と生徒会長はIS学園に侵入してきた多国籍企業の一つ『亡国機業』の構成員とやり合っている。教員陣営によるバックアップのおかげでIS抜きの格闘戦のため向こうは殆んど非武装みたいなものだ。

 

それに生徒会長も知らない間に随分と変わった技を身につけたらしく構成員を容易く蹴散らし、私の動きを不完全ではあるが模倣した。

 

ならばと両手を大きく左右に広げ、踏み込みと同時に集束させたエネルギーを両手に乗せてカイザーウェイブを放つ。

 

私は唖然としている彼女に「やってみろ」と言うと生徒会長は「さすがに無理よ!」なんて怒り、プンプンと書かれた扇子を投げつけ、私のとなりにいた構成員を吹き飛ばす。

 

確か不知火流忍術だったか?と思いながら立ち上がってきた構成員の後頭部に踵落としを決めて彼女をもう一度見つめる。

 

お父様に楯突いたチンピラの仲間が使っていたと聞いたような気もするが、おそらく生徒会長とは違うやつなのだろう。

 

♡月〓日

 

今日も今日とて生徒会長は鬱陶しい。

 

ここ最近はトレーニングに付き合ったりしていなかったことも加味して仕方ないと割り切っているが「不知火流忍術の技を試したいの!ねえ、いいでしょう?一回だけ、ほんとに一回だけ!」とつけ回してくるのだ。

 

あまりにもうるさいので叩いてしまった。

 

その日は平和に過ごせた。

 

▲月°日

 

また、天災がやって来た。彼女は自分がどれだけ素晴らしいのかを語り始めた。だが、私の勉強を遮ろうとするのはやめろ。

 

それから延々とISについて話すので仕方なく聞いていると彼女は「じゃじゃーん!これが最新型のIS『紅椿』だよ、箒ちゃんにプレゼントするんだ、よろこんでくれるかなぁ?」と言う。

 

そういえばもうすぐ篠ノ之箒は誕生日だった。

 

私もなにか用意するか。そんなことを考えながらムカつくほど楽しそうに笑っている天災を見る。この瞬間だけ見ればただのシスコンだな。

 

天災による天災のための素晴らしい計画について語る彼女は楽しそうだ。しかし、ブリュンヒルデのいるかぎり、その理想は叶うことはないだろう。

 

なぜなら彼女には婚約者がいる。世界がおかしくなれば結婚どころではない。下手したら愛弟子に婚約者を奪われるかもしれない。

 

そういうわけだ。

 

私はお前の夢に付き合うつもりはないし、お前の計画を邪魔するつもりもない。ただ、少し若者にアドバイスをする。困っていれば話を聞き、その手助けをすることもある。

 

そんな立場の人間で私はありたい。

 

 



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第22話

ヶ月⊥日

 

ブリュンヒルデから何度も「一夏と箒が消えた」という連絡を受けた。そういうのは現地のやつらで解決しろよ。と思いながら生徒会長に詳細を聞く。

 

現在進行形で暴走しているIS『銀の福音』によって織斑一夏ならびに篠ノ之箒は撃墜、迎撃に出向いていた他数名は撤退を余儀無くされたそうだ。

 

これは、かなり深刻だな。

 

私のつぶやきに頷いた生徒会長は学園外でのIS使用許可書を見せてきた。まさか私に手伝いに行けと言うつもりか?

 

私の問いかけに満面の笑みでサムズアップする生徒会長の親指をへし折り、私が出向くのはオカドチガイというやつだと説明する。

 

だいたい、私が助けてばかりだと甘えるだろ?と言うと生徒会長は驚いたような表情を浮かべた。どうしたのかと聞けば「あなた、バトル大好きじゃない。なのに、なんで?」と聞き返してきた。

 

確かに戦うのは好きだ。

 

しかし、まだまだ強くなれる者の成長を妨げてまで戦おうとは思わない。なによりブリュンヒルデや生徒会長、お前達という強敵を相手しているほうが私は楽しいよ。

 

@月∴日

 

私の部屋に押し入ってきた生徒会長をぶちのめし、さっさと出ていけと廊下に放り投げる。まったく困ったらすぐ私のところに来るのはやめろ。

 

しかし、織斑一夏たちは大丈夫だろうか。

 

まだまだ未熟なやつらばかりで、ブリュンヒルデも心配している。とくに織斑一夏は土壇場で盛り返すことは多いが、どうも集中力に欠けている。

 

そんなことを考えながら天災の話していたISを篠ノ之箒は使うのかと疑問を抱き、篠ノ之箒の日本代表候補生として勝ち取った『白鴎』はどうなるのかをまた考える。

 

おそらく生徒会長の妹に渡せと言われるか、あるいは天災の作ったものを提出せよと言われるのだろう。そう考えて、すぐに納得する。

 

♭月∧日

 

織斑一夏と篠ノ之箒の帰還について。

 

私は徹夜でブリュンヒルデに聞かされ、はじめて授業中に眠ってしまった。生徒会長もさすがにイタズラはしてこなかったが、なぜか楽しそうだ。

 

なにかあったのか?と聞けば「私の簪ちゃんがISをひとりで完成させたの!」と話し始めた。いや、まてまて。どつして、そんなことを知っているんだ?

 

お前はここ数日間は寮室と生徒会室を行き来する生活を送ってばかりだっただろう?と伝えると満面の笑みで「安心して、ただの盗撮と盗聴よ!」と私に言ってきた。

 

いや、さすがにそれはだめだろ……。

 

そう呟いてしまった私に何人かがうなずき、何人かはドン引きして生徒会長を見ていた。そりゃそうだ。自分達の倒そうとしているのがただのシスコン変態お姉さんなんだからな。

 

 



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第23話

Η月ゐ日

 

織斑一夏のISは進化を遂げた。

 

いや、織斑一夏だけではない。

 

篠ノ之箒のISもまた進化している。どちらと戦うのも楽しみだが、あまり手に入れたばかりの力を過信するのはやめておけと私は告げる。

 

すると、ふたりは面白い事を言い出した。

 

今なら私を倒せると言うのだ。なるほど、なるほど、それは興味深いものだ。だが、私がいつ本気を出して戦った。

 

私はブリュンヒルデにお前たちを鍛えてくれと言われ、優しく手解きしてやった。本気の戦闘など一度だって仕掛けた覚えはない。

 

むしろその逆だ。私はいつも殺さないように手加減し、お前が強くなるのを見守っていた。まあ、そんなことはどうでもいい。

 

この際だ。ハッキリと教えてやる。

 

お前達の遊戯に付き合うつもりはない。

 

私と戦いたければ少なくとも生徒会に選ばれるほど強くなるか。ブリュンヒルデを含む教職員に認められることだ。

 

ゞ月÷日

 

私のところにブリュンヒルデが来た。

 

どうしたのかと問うと織斑一夏たちに鍛えてくれと言われたそうだ。私と戦いたいというのは本心だったのかと驚きつつ、とくになにもしていないと彼女に伝える。

 

一瞬、ブリュンヒルデがキョトンとした顔になるもすぐに戻ってしまった。なにが面白いのか私に向かって「楽しみにしておけ」と言い残し、そのまま帰っていった。

 

なんなんだ、ブリュンヒルデのやつめ。私はなにを楽しみすればいいんだ?と考えながら眠りについた。ただ、なんとなく楽しいことがある。

 

そう考えると明日が楽しみに思えてきた。

 

‰月√日

 

織斑一夏と篠ノ之箒に呼び出された。

 

いったい、どういうつもりなのだろうか?なんて思っているとラウラ・ボーデヴィッヒとシャルル・デュノア、セシリア・オルコットに凰鈴音まで勢ぞろいで出迎えられた。

 

ブリュンヒルデと生徒会長に何事かと問い掛けると「貴女に挑戦するそうよ、みんなで」と言ってきた。つまりはあれなのか。

 

まさか私を倒すつもりなのか?

 

たった四人だけで未だに代表にさえ選ばれていない候補生が、この私を本当に倒せると思っているのかとブリュンヒルデに問う。

 

ブリュンヒルデは沈黙したまま答えない。

 

なるほど、その反応からして本気というわけだな。だが、お前は一つ間違っているぞ。お前達は私とISによる戦闘を望んでいるのは分かっているが、残念だが私の専用機を見ることはない。

 

これは慈悲でもなければ手加減でもない。シュトロハイム家の歴史に則り、素手によってお前達という若き戦士を相手してやる。

 

正真正銘、私の生身での本気だ。

 

さあ、死ぬ気で掛かってくるがいい。

 

 



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第24話(織斑一夏)

「織斑一夏、篠ノ之箒、次はどっちだ?」

 

そう言うと先輩はIS学園の指定制服のブレザーを投げ捨て、ゆっくりと歩み寄ってくる。千冬姉と向き合ってるときと似た感覚、いや威圧感だけなら先輩のほうが上かもしれない。

 

「白鴎、紅椿!」

 

「…良いだろう、来い」

 

俺の隣を抜け出した箒が左右の手にIS主力武器の二振りの太刀を呼び出す。今まで真っ直ぐに正道を進んでいた箒が二刀流を駆使し、生身の先輩と渡り合っている。

 

篠ノ之流の足捌き、先輩に教えられた剣術、それらを織り混ぜた篠ノ之箒の完全独自の我流によって先輩の身体に傷跡が出来た。

 

「今だ、一夏ァ!!」

 

「ああ、分かってる!」

 

俺は箒が後退すると同時に駆け出す。

 

ひとりじゃ先輩に勝てない。だけど、俺には箒がいる。先輩の突きを太刀で受け止め、刀身を殴って押し返す。ふわりと先輩が宙に押し出され、そこを箒が狙って斬りつけるも避けられる。

 

まだ、先輩はISの腕部分を展開しているだけ。俺達はほとんどISを展開した状態、辛うじてスラスターや脚部は展開していないけど。もう完全展開しても可笑しくない。

 

「どうした、私に勝つんじゃなかったのか?」

 

少しガッカリしたようにつぶやき、俺の胸元を掴んで持ち上げるとボディにえげつない威力のパンチを叩き込まれる。千冬姉に予め見せてもらったシュトロハイム家の伝統芸の一つだ。

 

「ごほっ、ごえぉっ!?」

 

「だ、大丈夫か…?」

 

ああ、マジでやばい。

 

ただのボディに一発で死にかけた。俺のそばに駆け寄ってきた箒に大丈夫だと伝えながら立ち上がり、未だに静観を続けている先輩を見る。

 

さっきもそうだ。

 

先輩は攻めれば勝てる瞬間を、わざと見逃している。俺達が弱いから、そうやって調整しているんですか?と言いかけ、すぐに思い止まる。先輩がそんなことするはずがないからだ。

 

「カイザアァァァッ……ウェイブッ!!」

 

俺が考え込んでいると先輩は両の手を大きく左右に広げ、地震と錯覚する程の踏み込みと同時に突き出された両手から光弾が放たれ、俺達を呑み込んだ。

 

『カイザーウェイブ』

 

どの試合でも必ずと言っていいほどトドメとして繰り出される先輩のとっておきの必殺技が俺達を吹き飛ばした。千冬姉の一撃より重たくてキツい衝撃に蹲ってしまう。

 

ああ、やっぱり先輩は強いなぁ…。

 

「まだ立つのか」

 

「えぇ、私は強くなったと…まだ伝えきっていません。なにより私は貴女に勝ちたい。この(IS)となら貴女にだって勝てる、いや勝ちます!」

 

「は、ははっ、そうだよな。まだまだ先輩に強くなったって伝えきってないもんな。先輩、俺達は何がなんでも勝ちに行きます。覚悟してください!」

 

「そうか。ならば私も本気になろう」

 

そう言うと先輩はフルスキンのISを纏った。ラウラのシュバルツェア・レーゲンにも見えるが違う。武装が一つもついていない。

 

こじつけるように言えば爪だ。

 

先輩の専用機の武器は鋭利な爪しかない。

 

「さあ、来い。()一夏(・・)!!」

 

俺達は顔を見合わせた。だって、この数ヵ月間ずっとフルネームで呼ばれていた。それが初めて、名前だけで呼ばれたんだ。嬉しくないわけがない。

 

「「はいっ!!」」

 

俺達は先輩に向かって駆け出す。

 

縦横無尽に振るわれる三振り太刀を簡単に捌き、先輩は刀身を弾いて反撃してくる。顔面を殴られながら切り返し、腹部を蹴られながら突き返し、だんだんと先輩に太刀が掠り始める。

 

「ギガティックサイクロンッ!!」

 

十数回も連続で行われるタブルラリアットを受け、俺と箒は空中に放り出される。マジかっ。先輩、こんなこともできるのかよ。

 

「これでトドメだ…カイザアァァァッ!!!」

 

「箒イィィッッ!」

 

「ああ、任せろ!!」

 

俺は箒を太刀で打ち出す。

 

「良い動きだ。だが、甘い!」

 

「なっ、があぁぁぁっ!!?」

 

先輩がカイザーウェイブを繰り出すよりも先に箒の袈裟斬りが彼女の身体を裂き、夥しい量の鮮血が舞い上がる。

 

しかし、先輩はこれも予想していたのか。勝ったと油断した箒を打ちのめし、さっきのダブルラリアットで吹き飛ばした。

 

「ありがとう、箒。ようやく先輩に近づけた」

 

俺は先輩の腕を掴んで力任せに投げ飛ばし、ゆっくりと太刀が下段に構える。この技は先輩に使うってずっと決めていた。

 

「百鬼乱閃」

 

すべての技を解き放つ。無数の俺の幻影が先輩に飛びかかり彼女を翻弄する。

 

「これが蜃気楼の到達点。俺のとってきです!」

 

「確かに良い技だ。しかし、お前も甘いな…」

 

そう言うと先輩は真っ正面から突き進んで俺を殴り飛ばした。ああ、くそ、勝てると思ったんだけどな。薄れていく意識の中で楽しそうに笑う先輩を見たような…気がした。

 

 




今回のお話で最終回です。

読んでくれてありがとうございました。

次回作も出したら読んでくださいね。


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