蒼都になったけどバンビちゃんが死ぬほど面倒臭い(※死ぬ) (黒兎可)
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#001.容姿A級性格Z級ヒロインとの遭遇

ふと思いついてしまったので、打ってみたい衝動にかられてしまった・・・。クソ真面目そうなビジュアルから繰り出される渾身のガバが大人気? な蒼都に転生した男の話です。
 
バンビちゃんが原作以上に頭バンビちゃんである可能性があるので、そこはご注意です・・・汗


 

 

 

 

 

 暗闇の底で僕は声を聞いた。深い、その声の主は、その影は、まだ腕も脚も短い僕にはとても大きくて。ただ、全身焼け焦げているのか、僕はその相手が何であるのかを知り得なかった。

 

 ――――そうか、間に合わなかったか。

 ――――ならば已むをえまい。返してもらう、我が血を。

 

 そういって、その影は僕に手を向けた。その手が僕から「何か」を奪い去ろうとしているのは、よくわかった。だけど――――その時、どうやったかは判らなかったけど、僕は僕の「何か」を奪われることに、全力で抗った。抗えた、らしい。良く判らない。

 影の主は、戸惑ったように僕を見降ろしていた。

 

『…………ほぅ? 何故生きているのか。純血(エヒト)であれ「私が」そうしようと思い実行したにもかかわらず。到底、耐えられる訳も無いだろうに』

 

 彼の言葉に、僕はかろうじて息をして、そして吐き出しながら。

 

 

 

「――――()、にたく、ない」

 

 

 

 ただその一言に、影は少し押し黙って、そして大声で笑い始めた。それは心底楽しそうで、大人が子供を見て可愛がるような、そんなちょっとだけ温かなものだった。

 

『――ハッハッハッハ。成程、それもそうか。道理だな。それ「だけで」生き延びた訳でもないだろうが、「視えなかった」のも事実か。

 良いだろう、お前に――――を与えよう』

 

 しゃがんだ影の主に、何かを飲まされた。味は、わからない。喉も、舌も、何もかもが焼け落ちて感覚がロクに残っていない。しゃべれたのだって、どうしてかわからないくらいだったのに――――。

 でも、それから少しして。どういう訳か僕は「戻った」。徐々に、徐々に身体が「戻っていく」、使えるようになる感覚――――。

 

「名は何と言う」

 

 身を起こして、まだ目が「戻り切ってない」僕に、影の主は名前を尋ねる。

 

「……つぁん()………………、…………つぁんとう(蒼都)……………………」

「そうか。ならば、蒼よ、共に来い。お前をこれからも生かしてやろう。生と、死と、その果てのない世界で――――――――」

 

 

 

 ――――運命を乗り越えし、我が息子よ。

 

 

 

 ようやく「戻った」両目で彼を見て。彼の顔を見て、その言葉を聞き、ようやく僕はこの世界の真実を知った――――「思い出せた」。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 バンビエッタ・バスターバインにとって、その蒼都はあまりに想定外の存在だった。

 長い時を経て自らを取り戻しつつある王・ユーハバッハ。彼の率いる滅却師(クインシー)の国「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」の拠点「銀架城(ジルバーン)」。多くのここで暮らす滅却師の内、バンビエッタを中心とした五人組は「スーパースーパーエリート」であると彼女は自負していた。なにせ全員が年端も行かない子供(ティーンエイジャー)である。経年数と言う意味ではなく外見ではあるが。物的存在(器子)を持たない者であるならそれは「霊格的な成長度」を指し示す。故に例えば、小学生くらいに見えるリルトット・ランパードやそれよりも幼いミニーニャ・マカロンなど、現時点で陛下から「認められた証」を受けている彼女たちは、その将来性がかなり担保されている。

 

 そんな彼女たちに慕われている(と本人は思い込んでいる)バンビエッタにとって、既に中学生から高校生くらいに育っている彼女こそが、一番その五人組チームの中でもトップオブトップ、エリートオブエリートであると、そう考えていた。

 陛下が「後継」として考えているだろうユーグラム・ハッシュヴァルト などは置いておくにしても、自らに与えられた序列階位が五本の指に入っていることも、それをより強く意識させている。

 

 だから廊下ですれ違った丸サングラスの男、変な風に切りそろえられた髪型のキルゲ・オピーから聞いた話が、なんだかとても嫌なものだった。嫌というより、ムシャクシャした。

 

「は? 聖文字の序列って強さの階位じゃない? 本当? 正気で言ってるワケ、アンタ? あたしより5つも6つも下だからって嘘ついてるんじゃないわよねぇ。声が良いからって調子こいてんじゃないわよねぇ。はァ?」

「何度も詰め寄らずとも、そのようなことをする必要がありますかね……? 私にはありません。

 現に、私たちの能力には相性というものがあるでしょう。個々人の人格に対し、陛下が力を与えるからこそ、ということになりますから。それに、騎士団長(グランドマスター)が陛下を除いた最上位というその位置は、何がどうあっても変わりませんからねぇ、ハァイ……」

「だからって基礎ばっか鍛えろとか言われても、あたし全然やる気ないわよ。あんた、私相手に手も脚も出ないじゃない。完聖体すら使う必要もないわ、文句があるならあたしを倒してから言いなさい!」

「む、年頃の子供を相手にするのは中々骨が折れますねぇ。特にまだ経験値が浅いからこそ、『最低限の』基礎と言う訳でもなく、より強靭に練らねばならないというのに…………。

 ……おや? 噂をすれば、いらっしゃられますね」

「っ!」

 

 黒い外套を纏った美しい金の髪を持つ男が一人、こちらに向かってくる。背も自分よりはるかに高く、そして身にまとう風格が目の前のキルゲなど比較にならない程に威圧的で、冷たい男。ユーグラム・ハッシュヴァルト。規則的に、ゆったりと響くブーツの音。その一歩一歩に、バンビエッタは何故か、「なんとなく」怖い感情を抱き、頭を垂れる。

 そんな自分とは異なり、キルゲは揚々と当たり前のように胸に手を当て、彼を迎えた。

 

 ハッシュヴァルトはキルゲの前で歩みを止め、彼に向き直る。

 

「ハァイ、ご無沙汰しております騎士団長(グランドマスター)

「ここに居たか。……陛下より直々の推薦だ」

「推薦でございますか?」

「あぁ。先に紹介しよう。陛下が()より見出した在野の滅却師、その末だ。もともとは死体だけでもあれば回収するようにと言いつけてあった――――」

 

 ハッシュヴァルトの話に、バンビエッタは興味がない。だからこそ、少年の姿を見て驚かされた。年頃はミニーニャか、それよりも幼い。5歳くらいだろうか。黒い髪が長く目が隠れており、表情が見えない。唇の嘴にはうっすら切り傷のようなものが残り、よく見ればその「適当に見繕った」ような半端なデザインの半袖半ズボンから見える身体にも傷痕が多く見える。

 

(なんでこんな小さすぎるガキ、連れて来てるのよ……)

 

 そんな男の子……、幼児かちょっと少しその域を出たくらいの男の子は、バンビエッタの顔を見て、少し視線を下に落とした。照れてるのだろうか、まぁあたし可愛いからねー、と。そんなことを思っている彼女だったが、男の子の視線が自分の胸をじっと見ているのに気付いて肩を竦めた。「外」から来てこの幼さだ、おそらくミニーニャと違い見た目通りの年齢だろう。性欲を抱くほどには情緒が育ってはいないだろうと思う。

 

(ママでも恋しいんでちゅか~? なぁんて……)

 

 それに揶揄おうと少し思ったり思わなかったりはしたが、泣かれても面倒だとバンビエッタはあえて額を小突く程度で済ませた。

 ……それこそもう少し自分も「育って」いたら、色々と発散のために「見てくれの良い」男を使って(ヽヽヽ)捨てる(ヽヽヽ)予定のバンビエッタだが。今はまだ未経験(ヽヽヽ)なこと、流石に年端もいかない子供にふる話題でもないかと。そう考える程度には、いかにバンビエッタといえど常識とお友達でいた。

 

 ただ、丁度そんなタイミングで、ハッシュヴァルトの口から聞き捨てならない言葉が出て来る。

 

 

 

「――――既に聖文字(シュリフト)を与えることが決定している。だがそもそも、滅却師として正しくまだ成長していない。そういう意味で、陛下が最もその基礎力に期待をかけるお前を推薦なさった」

「これはこれは……、大変恐縮! 謹んでお受けいたしますとも」

 

「……ッ!?」

 

 その一言は、バンビエッタの外見年齢や性格相応に低い沸点のプライドを刺激した。

 自分たちですら「最低限の基礎」を覚えた後に陛下に見いだされたのだ。いかに自分たちが星十字騎士団(シュテルンリッター)の中でも最も若い位置づけにあるとはいえ、自分たちなりに努力はした(つもりではある)。にもかかわらず、その辺で拾ってきたような子供を相手に何故そんな話になっているのか――――。

 

 意地の悪い「遊び」が思い浮かび、バンビエッタは悪い笑顔を浮かべそうになる。キルゲはハッシュヴァルトとの話し合いに集中しており、こちらを見ていない。ハッシュヴァルトもハッシュヴァルトで自分など眼中にも入っておらず。

 そんな状況で、彼女は男の子の、マントを掴んでいる方と反対側の手をとった。

 

 小声で囁く。

 

「(おいで?)」

「……?」

 

 何もわかってない顔のまま、男の子はハッシュヴァルトの外套から手を放しバンビエッタの手を握る。温かい、というより熱い。子供らしい体温は器子が存在している滅却師である証だろうか…………。

 と、その視線がやはり自分を見て、しかしすぐに下を向く。

 

(照れてるのかしらねー。ま、ちょっとだけ可愛いんじゃない……?)

  

 ちらり、と長い前髪の隙間から見えた顔立ちは悪くない。若干目元が半眼だったが、それを差し引いて小さい子供としてもかなり可愛らしい部類に入る。

 ただそれはそうと、男の子を見て思いついた「自分が思いついた最高に頭良い遊び」の実行を躊躇わないのが、バンビエッタがバンビエッタである所以である。同じ年代くらいのジジ(ジゼル・ジュエル)など「そんなだから、バンビちゃんは頭バンビちゃんなんだよ……」と時々呆れたような顔をすることがあるが、そんな程度でくじける精神性をしていたらバンビエッタは頭バンビエッタなどと呼ばれてはいなかった。

 

 二人が不思議に思わない程度に歩法(飛廉脚)を使って男の子ごと移動し、いつもの四人が戯れてる練習場へ。練習場といっても彼女が向かったその一角は、通称「バンビーズ」の五人が適当に集まってるスペースと化しているので、特に彼女の奇行について四人はとやかくは言わない。

 またぞろ変な遊びでも始めるのか? と、そういう扱いを受けているが、特に気付くわけでもなくむしろ「皆、あたしの言うことに文句言わないわね! やっぱりあたし、皆のリーダー!」と思っているのだから、彼女と周囲の溝は深かった。

 

 さて、そんなバンビエッタは銃を抜き、構える。男の子はそれを不思議そうに見て、頭を傾げていた。

 

「か、可愛い…………! っていうより、バンビちゃん流石にそのくらい幼い子相手に何やるのさ……」

「大人げなすぎるだろ、何かイライラしてんの?」

 

「別にぃ? ただ、ちょっと実力が気になったから、このあたしが直々にオテアワセしてあげるってだけよ」

 

 自分だけ把握してる情報を適当に言うだけ言って片手剣を構えるバンビエッタに、男の子はやはり一切の戦闘態勢をとっていない。男の子は状況が呑み込めていないらしく、逃げる素振りもない。その状態のまま数秒見つめ合い、最初に折れたのはバンビエッタだった。

 

「…………あなた、今からあたしと戦うの! あたしも『聖文字』は使わないであげるから、どれくらい今のあなたが出来るか確認してあげるって言ってんのよ」

「……………………」

「何かしゃべりなさいよ! ちびっ子!」

 

 男の子はやはり困っている様子である。彼の視線が四人にふられるが「実力みるとか言っても」「説得力ないですよねぇ~」「俺でさえ大人げないって思うわ」「流石バンビちゃん、いつも通り頭バンビちゃん」と、次々に感想を言うだけ。特に助けてくれる訳でもないとわかり、男の子は両手を構える。……「ある種の」知識がある人間が見ると、気功波でも放つような、そんなポーズだ。それと同時に、手元に霊子兵装が形成される。なんとなくオオカミの頭というか顎と言うか、そんなものを連想させる形だ。

 とはいえまだまだ未熟。構成が乱暴なことは、その見た目の形成状況がちぐはぐ、所々不必要な穴など開いていることで十分察しが付く。

 

 ニヤニヤ笑いながら、バンビエッタはそんな男の子を煽ろうとする。大人げないし性格が悪い。

 

「へぇ~? 陛下直々に将来、推薦されるってくらいだから、どんなもんかと思ったけど……。大した事なさそうじゃない」

「………………………………」

「…………いや、何か言いなさいよ」

「……………………おねえ()ちゃん」

「何?」

 

 だが彼もさるもの引っ掻くものか、はたまた天然か。

 

 

 

「さっき、すかーと(スカート)なか()まるみえ(丸見え)だった。

 ()えちゃってた、けど、()えなかった。ごめん」

 

 

 

 瞬間、噴き出すジジとキャンディス。リルトットは舐めていた飴を思わずかみ砕き、ミニーニャは一見上品な風に微笑んでバンビエッタを見ていた。

 バンビエッタはバンビエッタで、怒りなのか羞恥なのか顔が真っ赤である。……言葉には別に「そのテの」感情は無かったと思うが、馬鹿にされたというより普通に忠告されたという風な言いぶりで、自らのミニスカート装束に文句がつけられた。しかも年端も行かない子供に。

 

 上等じゃない、と。他のバンビーズの前で恥をかかされたバンビエッタは、割と自業自得でありながらその怒りを攻撃に転嫁することにした――――。

 

 だが、当初の思惑と違って事は思ったように進まない。

 

「ちょっ、ガキ! アンタなんでそんな硬いのよッ!」

「…………?」

 

 無意識か、あるいは生存本能か。男の子の静血装(ブルート・ヴェーネ)、自らの身を護る霊子による血の被膜により、全くと言って良い程ダメージが通らない。遠距離からの神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)はあの腕のオオカミの頭みたいなもので弾かれ、剣戟は静血装で通らず、何回かに一回はそれこそ「()ーッ!」という男の子の両手を合わせて放たれるかめは〇波(神聖滅矢)をくらう始末。バンビエッタも静血装があるのでそこまで大きなダメージにはならないが、持久戦となると問題が変わってくる。

 自分はこれだけ散々動き回ってるのに、男の子は先ほどからその場でほぼ動いていない。これではいずれ、先に集中力や体力が切れるのは自分が先のはず。…………そもそも自分勝手にケンカをふっかけたのはバンビエッタの方だし、散々動き回ってるのも攻撃してるのも彼女自身なので自業自得以外の何物でもないのだが、そこを顧みる神経があったらバンビエッタはバンビエッタではなかった。

 

 いいわ褒めてあげる、と。バンビエッタは肩で息をしながら、体勢を整える。

 

「このあたしをここまで疲弊させたちびっ子はアンタが初めてよ。褒めてあげる」

 

 そもそもちびっ子相手に勝手に自爆しただけじゃ、とジジのツッコミは完全に聞かなかったことにし、ここからは少し本気で行くわと。霊子を周囲に収束させ始め、「本気で殺そうと」聖文字を使う準備を始めた。

 なおこの場のバンビーズ、男の子が陛下直々の推薦で云々の話はさっぱり知らないため、どれだけバンビエッタが綱渡りをしているかについては察しがついていない。よって止める間もなく、バンビエッタの剣に収束した霊子の塊を、彼女は雑に男の子へ向けて放出した。

 それを受けた男の子は、何か行動を起こす前にバンビエッタの「爆撃」に巻き込まれ――――。

 

「“E-爆撃-(ジ・エクスプロード)”――――!」

 

 

 

「――――ハァイ! 彼女いきなり何をやってるんですかねえ!!?」

 

 

 

 と、いつの間にやら駆けつけていたキルゲの絶叫に仰天する他バンビーズ。とはいえ止めに行くわけでもなく、その後ろからハッシュヴァルトが現れて更にぎょっとしてしまう彼女たち。

 

「落ち着け。あの子供もそう簡単には倒されまい。武装はともかく、静血装については陛下も驚いておられた。その上で――――」

 

 

 

 ――――そして、煙が晴れた時。男の子の全身は、まるで「銀のような」色に変質していた。

 

 

 

 流石に予想外だったのか、あんぐりと女の子がしてはいけないような間の抜けた顔をする。ジジたちもツッコミを入れる暇もなく、その姿に声が出なかった。

 ずずず、と。その銀が引いていくのを見ながら、ハッシュヴァルトは解説を続ける。

 

「陛下がお与えになった仮の(ヽヽ)『聖文字』――――“Σ-鋼鉄-(シデロ)”。あの子供は、自らの骨を中心に身体を『特殊な銀』に変化させることができる」

 

 それに静血装を併せれば、簡単には殺されまいと。

 幼子のその、やはりちょっと困ったような顔に、キルゲはどういったものかと困惑した様子となり。

 

 一方のバンビエッタはといえば、ハッシュヴァルトの姿が視界に入っていないせいか。テンションをいきなり上げて、男の子へと駆けより抱き上げ、くるくるその場で楽しそうに回り始めた。

 

「ちょっと待って、ちょっと待って、スゴイじゃないあなた! まだ五歳? 六歳? よね。それでそんな硬さとか、嫉妬しなくはないけど超すごいじゃない!

 ――――あなたなら、あたしが何発能力ぶつけようが死なないわよね? 超、爽快じゃないのそれって! こんなサンドバッグ欲しかったわっ!」

 

「        」(※絶句)

 

 あんまりにもバンビエッタの頭バンビエッタすぎる発言に、キルゲは言葉を失った。こころなしか全身が真っ白に燃え尽きている。ハッシュヴァルトもハッシュヴァルトで色々と面倒になったのか「後は任せた」とキルゲの肩を叩き、その場から立ち去る。

 

 バンビーズはバンビーズで「オイオイ……」「死にはしないから良い、のか……?」と視線を向けながら。中でもジジが「君、苦労するねぇ……、ちょっと助けてあげないと可哀想だなぁ……」などと決意を新たにしているところで。

 

 

 

(やっぱバンビちゃんってトップクラスにクズだなぁ……。性的な遊びをまだ覚えてないかもしれないけど、それ差し引いてもクズだよ、この娘。バンビちゃんのバスター(意味深)がバインバイン(意味深)してなかったら、許されないぞこの美少女の皮被った生存本能の塊ドグサレビッチサイコが。……いや言いすぎだね、ごめんよ、頭バンビちゃんだから仕方ないよね)

 

 

 

 肝心の本人は。抱きしめられ、ついでに首を絞められ始めた男の子、蒼都(つぁんとう)に憑依したその魂は。自らの首を「静止の銀」に変化させて気道を確保しながら、隠れた前髪の下でしらっとした目をしながら、自らに押し付けられる彼女の胸の感触を、わずかに堪能していた。

 案外、ちゃっかり者であった。

 

 

 

 

 



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#002.ブルー・ビジネスシティ

とりあえず2話までは確実に更新したかった。
今回も展開はダイスで作りましたが、やっぱりダイスの女神は頭バンビちゃんなのでは・・・?(最大罵倒)
 
色々独自解釈というか、謎展開やら色々入ってそうですが、そのあたりはダイスということでお目こぼしください汗


 

 

 

 

 

 霊子で構成された蒼都(つぁんとう)という滅却師。その人格は異世界のダレかのものであるが、それは特に変わった出自があるという訳ではない。ごくごく普通に暮らし、ごくごく普通に勤労し、ごくごく普通に賃金の安い労働で汗水流していた、そんな人格だ。彼の今いる「BLEACH」世界の記憶がいくらかあると言えど、そんなに何か特筆するべきものがあるわけでもない。

 ある日、気が付いたら暗闇の中で焼け焦げたまま死にかけていた。そこで何やら知らない誰かと会話を交わした後、気が付けば今の姿となっていた。「肉体側」(?)で覚えていたのは名前くらいで、年齢も定かではない。見た目からしてどう考えても幼児に違いはないが、そのことについてはこの場所、その周囲の誰しもが特別視することもない。ただ一つだけ。

 ただ一言、お前は陛下にその将来を期待されたのだ、と――――。

 

 滅却師の王、ユーハバッハは彼らの祖にして主、父にして神である。その彼に見いだされたと言われてはいるが、蒼都自身、そこまで特殊な教育を施されているというわけではない。基礎技術の面においてキルゲ・オピー、情緒面や基礎教育についてはロバート・アキュトロンがそれぞれ担当している点では、多少は幼児だからと気を遣われてはいる。しかし蒼を「問題児」バンビエッタ・バスターバインの生贄に捧げている(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)時点で、それらのプラスは帳消しだ。

 

 蒼にとってバンビエッタという少女は、意外と知っていることが少ない。というのも、彼のいる世界の原作だろう「BLEACH」において出て来たのは最終章であり、そこにおいて個々別々にスポットがあたった日常回など存在しないのが大きい。

 

 とはいえそれ以外の描写をもとに考えれば、間違いなく「クズ」の一言だ。黙っていれば一見して天真爛漫明朗快活な美少女であるが、その本性は癇癪持ちかつ自己中心的で攻撃的な高慢ちき。言動こそ勝気で可愛らしい風ではあるが、要は子供っぽいだけ、実質は自分の気に入った相手を徹底的に嬲って殺すような(へき)もある。

 現時点においてはまだ未通の部類に入るが、原作本編では気に入らないことがあれば、顔の良い下級兵士を部屋に連れ込み「楽しんだ」後「愉しんで」殺しているような、それこそ神話やらに書き連ねられる酷いお姫様じみた言動もしている。

 そんな彼女の仲良し五人組(だと思っている)な仲間内での評判も、その戦闘力以外は最低値である。実質4人組でグループは回っており、バンビエッタはおかざりの主であった。

 

 もっとも、現時点においてはいまだ原作よりも前の時代であることは察せられる。全員がそれなりに身体的にも(一名除いて)成長した姿であった原作から比べて、全員が幼い容姿をしている。ミニーニャ、一番グラマラスに成長していた彼女でさえ、いまだ幼稚園児か小学校に入るくらいの外見だ。もっとも言動はそれに伴っていないので、その部分には注意が必要であるが。

 要するに、まだ微妙に原作ほど仲が悪くない、しかし軽んじられている微妙な段階。

 この状況において、中学生から高校生くらいに見えるバンビエッタのコンディションはある意味最高潮―――― 一説に、女子高生とは無敵の最強生物なのである。

 

 そんな彼女が、ひょんなことから蒼を「サンドバッグ」として気に入り、自らの下の一般兵士として取り立てたのがおよそ一年前。そこから時間は徐々に経過はしているが、いまだ蒼の身体的成長は起こっておらず。バンビエッタとの「ストレス発散」もとい訓練において、絵面はちびっ子を爆撃しているような最悪なものであった。

 

「あー、もう! ムシャクシャするッ! なんで私の下に誰も就こうとしないのよ一般兵士の男共ッ! キャンディスの方ばっか行くし!」

「そんなこと()われても、こま()る」

 

 空中から複数、霊子で構成された矢を降り注がせ爆撃するバンビエッタ。それに対して、自らの身体を「特殊な銀」へと変化させてその難を逃れている蒼。爆撃は、オオカミの頭を思わせる形に形成された手甲で炎を払い、散る霊圧を防いでいた。

 

(いや、そりゃこんな幼児をボッコボコに毎回してたら、いくら外見良くても怖がって近寄らないでしょ。やっぱりバンビちゃんはバンビちゃんだなぁ…………)

 

 なお、そんな状況において蒼の視線は、バンビエッタの中学生にしてはちゃんと大きく揺れている胸やら、そこそこ肉付きが良くなり始めているスカートから伸びる脚やらヒラヒラしているその下やらに釘付けである。

 基本的に彼女は彼を「そういう対象」として見ていないので、彼からすれば行きがけの駄賃というか、見れるなら見ておこうくらいの軽い感覚であった。

 

 というより、ほぼ全てである。

 

 毎度毎度、能力ゆえ防御していれば死なないとは言え。痛い思いを無理やりさせられている(しかもこの状況自体から脱する方法自体は誰も提供してくれない)とくれば、それくらいの報酬はあって良いと思っていた。

 機嫌が良い時には抱き上げてハグしてくれることもあるので、役得、というよりはそれ以外にバンビエッタの評価をしていないともいえた。

 

 ちなみに似たような理由で、バンビーズのキャンディスもそこそこ評価が高かったりするが、それはさておき。

 

 例によって爆撃で髪がボサボサ、服がすすけている蒼に、少しだけ申し訳なさそうな表情を送る少女。ウェーブがかった強いピンク色の髪をロールに巻いている、今の蒼と同い年くらいの小さい子供、ミニーニャ・マカロン。基本的にマイペースで物腰は丁寧だが、バンビーズとつるんでいるだけあって彼女もそこそこに性格が壊滅しているが、その中でもまだバンビエッタよりはマシと蒼は評価を下していた。

 そんなミニーニャに、バンビエッタは上空から怒鳴る。

 

「あなたもさっさとやりなさいよ! せっかく正式に聖文字(シュリフト)もらってから、まだ慣らし運転してる途中でしょ! あたしのストレス発散もあるけど、あなたもちゃんと使い慣れないと駄目よ、栄あるバンビーズの足を引っ張るんじゃないわ!」

「は、はいぃ……、よろしくお願いしますぅ~」

「うん……、うん」

 

 ぺこりと頭を下げた彼女に、蒼は苦笑いを浮かべる。

 

 聖文字――――ユーハバッハより与えられる、滅却師の力を発展し覚醒させる異能。それぞれが基本的にアルファベットにあてはめて与えられることが多いが、時に例外が存在する。それは、例えば蒼都であり、シャズ・ドミノであり、そしてミニーニャ・マカロンであった。

 なんらかの事情で聖文字を当てはめることに適していない者……、将来的に聖文字を与える前提の場合や、あるいは何らかの戯れか。ラテンアルファベット以外の文字を当てられたそれらは、仮の聖文字と揶揄される。

 

 蒼都の場合なら“Σ”――――鋼鉄(シデロ)

 ミニーニャの場合は“Ε”――――権力(イクシア)

 

 そして数カ月前、ついに正式な聖文字が与えられた彼女のそれは――――。

 

「――――“P-力-(ザ・パワー)”!」

 

 少しだけ自らの腕に力を籠めると、駆け出した彼女は「金属と化した腕の」蒼を殴りつける――――! わずかに腕に痛みを覚え、そして若干「表面が歪んでいる」ことに、彼は表情が引きつった。

 

 ミニーニャの聖文字は、純粋に力を底上げするもの。彼女の腕力で有り、それを司るための全身の筋肉が相対的にという意味でもある。現時点においては「服の腕部がはち切れる」ほどではないが、その時点で既に金属バットくらいなら簡単に捻じ曲げられそうな力をもっているのを、蒼は「身をもって」感じていた。

 

 バンビエッタは、空中で腕を組んでそんな二人の様子を見ている。一応はリーダーを自称していることもあるせいか、多少はミニーニャに気を遣う神経があるらしい。

 もっともそれはミニーニャを慮ってのものではなく「とりあえず大変そうだからイライラ発散させてあげるためにサンドバッグ貸してる私、偉いっ!」くらいの適当極まりないものだった。伊達にバンビエッタは頭バンビエッタと呼ばれてはいない。

 

「ひぃ……、ふぅ…………、ハッ!」

いた()っ!」

「あらぁ、すみませんん…………、準備は大丈夫ですかぁ?」

「ちょっと()って…………、うん、()いよ」

「なら、もうちょっとペース上げていきますぅぅ」

 

 そう言いながらも、ミニーニャの動きはいまいちキレがない。というより、明らかに「自らのパワーに振り回され」、制御が効いていないことが伺えた。

 もともとミニーニャが持っていた「Ε-権力-(イクシア)」であるが、これは周囲の能力を底上げするタイプのものだった。霊力であったり霊圧であったり、収束力であったりと様々な形に分散されていたものである。それが、聖文字の付与と同時に全く異なるタイプのものへと変わってしまったのだ。

 だからこそ、こうして少しずつ蒼を相手に調整している。

 

 普段からそのための訓練はしているが、いまいち上手く行っていなかった彼女だった。それを見たバンビエッタは、一言。『とりあえず全力でそのゴリラみたいなパワー振り回せれば、調整なんてテキトーに出来るようになるんじゃないの? あなた』。その発言の流れで、せっかくだから私の「サンドバッグ」を相手に好き勝手すればいいじゃない、私リーダーなんだし! と、そんな軽い口調で言われて、流石にミニーニャも彼に同情した。

 普段なら彼の面倒をよく見ているジジであったが本日に限り「城」内部にはおらず、悪いタイミングが重なったともいえる。

 

 …………まぁ肝心の本人は、バンビエッタのバスター(意味深)がバインバイン(意味深)なのを見たりして、現在進行形で刻まれている心の傷を癒しているのだが。その視線の流れには横から見ていたので気付いたミニーニャだったが、あまりにも普段の扱いのひどさを知っているのでそのことをバンビエッタに指摘などはしない。

 基本、この時点でもバンビーズはそう仲は良くないのだ。

 

 ただ、何事にも想定外というものは起こりうるわけで――――。

 

「せいっ! はぁ! とぅ――――――おんどりゃッ!

「――――――――わーっ!」

「…………あ、あらぁ……?」

 

 力の出力を徐々に上げていき、ついにマックスがタイミングとして時折出るようになった。そんな瞬間に、彼女のアッパーカットが少年の顎を捉え――――。

 そして、その顎の硬化などによる「質量的な問題」やら「能力的な問題」やらを全て無効化する勢いで、彼女のその腕力(パワー)は相性差というものを全て置き去りにした! 本来なら多少軽減されるだろうその衝撃が、ダイレクトに彼の身体を捉える。やはりパワー! パワーは全てを解決する……!

 

 遥か彼方へと飛ばされ、壁に激突して気絶する少年。

 

 彼のそんな姿を見て、バンビエッタは喜色満面で下降してくる。

 

「やるじゃない、ミニーあなた! あたしのサンドバッグをああも簡単にノすとか、私でもまだ出来てないわよ! ちょっと嫉妬しちゃうわ!」

「え? あの、えっとですねぇ…………、生きてますぅ? 死んでないですよねぇ」

「へ?」

 

 と、ふとキルゲの言葉が脳裏を過るバンビエッタ。いかに新兵、今はただの子供であるといえど、陛下が文字を与えるのを決めるくらいには将来の戦力として正しく見込んでいる相手であること。そして、ある面でバンビエッタと共にあるのは「修行として」最適な環境でもあるかもしれないから見逃すが、流石に命を奪うほどの虐待は止すのだということを。

 つまり、もしこの場で蒼が死んでしまった場合、バンビエッタ自身も色々と危ない訳で……。

 

「ひ、ヒェ…………!? わ、私悪くないわよね! ()ったのはミニーニャだし!」

「は、はぁ!? バンビが好きにして良いって言ったんじゃないですぅかああああ!? 私だって悪くないですぅ~~~~~!」

 

 どちらも身の危険を感じてか、責任のなすりつけ合いが始まっている。

 改めて明記しておくが、比較対象がバンビエッタだからマシという判定を蒼はしているだけで、バンビーズは基本的にクズの集まりであった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

「このままでは()んでしまいます()はぁい(ハァイ)……!」

「そう言われても困ってしまい(ます)ねぇ……」

 

 蒼が駆け込んだ先は、滅却師としての基礎訓練の師匠なキルゲ・オピーであった。銘柄は不明だが紅茶を優雅に飲んでいる彼の私室に、例によって服が汚れに汚れまくった蒼が駆け込んできたのだ。

 

 もともとバンビーズに彼を預けることを良しとしたのは、キルゲである。陛下直々の推薦による教育係としては本来彼なのだが、そもそも彼自身は教え子に甘い面があると思っている。甘いというよりは、頭でっかちと言うべきか。滅却師に限らず、戦士とは実戦において磨かれるべきである、というのは良くある話。その点、授業や養育という面を自分ひとりだけで手掛けてしまえば、箱入りで偏った人物になってしまうのではということだ。ワンオペできちんと人間を育てられるとうぬぼれる程、キルゲは自身の能力を高く見ていない。努力に裏打ちされた実力があるからこその、それは客観的な判断だった。

 その点、バンビーズの周りにいるのは「良くもないが」「悪くもない」。(今の所)性的な方面でもそこまで奔放とは言わず、そっちの情緒面ではまだ悪影響はないと見込んでいる。何かあれば戦闘訓練にかこつけて八つ当たりしてくるだろうが、彼の能力を思えば必然的に技の練度を磨くことにもつながる。

 あとは性格的にグレないよう、星十字騎士団一の人格者と考えているロバート老に頭を下げ通し、紳士的で任務に直向きになり、しかし同時にパンクしない程度にはゆるい部分もある大人を目指して絶賛養育中なのだ。

 

 なので、身の危険を感じただろう蒼が駆け込んでくるのも想定の範囲内。

 キルゲはキルゲで力になってやりたいところではあるが、しかし彼の言葉を聞く限り、どうにも自分では力になれそうにない。だからといってロバート老に頼っても「ジェネレーションギャップというのだろうか」と苦笑いで返される映像が脳裏に浮かんだ。

 

 果たして、そんな彼が推薦した相手は――――。

 

 

 

「良いか? 蒼。――――女の子はオシャレであるべきだから、オシャレは女の子の全てを解決するぜ。なぁに、チワワに睨まれたと思って、大船に乗ったつもりでいな?」

(あっ、駄目だこれ人選ミスしてるよキルゲ先生…………)

 

 

 

 騎士団序列4位、アスキン・ナックルヴァールであった。コーヒー牛乳を片手にした、どこかダンディズムのようなものを感じる「余裕のある」雰囲気の男。彼は蒼にも同じ瓶をわたして、呑ませながら色々と講釈を垂れた。

 講釈とはいっても、女の子の機嫌のとりかたである。だが蒼の年齢相応にかみ砕いたその物言いは、彼の色々独特な言い回しもあって色々と意味不明に拍車をかけていた。

 

 悪い人ではない……のだが、ちょっとズレているという意味で、今回においては蒼の彼への好感度は微妙なところである。

 

 だが、それでも辛うじて解読した話をもとに、色々と勘案し。回復後、バンビエッタに「いぢめ」られながらも時間を作って、数日後。

 訓練に参加せず、どこか自分のパワーを持て余しているミニーニャを、「くんれん(訓練)しない?」と誘った蒼。びっくりした表情の彼女に、蒼は持っていた紙袋から、選んだ一品を取り出した。

 

「これは…………、まくらですぅ?」

あんみん(安眠)できるやつ、だって。……あんまり、くわ()しくないけど」

 

 可愛いものでなくてゴメンと、謝意を含めて伝えた蒼に。ミニーニャはびっくりした顔で彼の顔を何度も見た。

 

ちから()つか(使)えなくてれんしゅう(練習)がんば(頑張)りすぎて、()れてなさそうだったから」

「――――――――あ、りがとう、ございます、ねぇ……」

 

 確かに蒼の指摘した通り、ミニーニャはここ数週間、上手く寝れていない。

 ひとえに自らの「P-力-(ザ・パワー)」の制御が上手く行っていないせいだ―――力の出力により肉体的な疲労が無い訳ではないが、その肉体の疲労度に反して彼女自身の魂魄としての認識が一致しておらず、それがさらに彼女自身を不調に追い込んでいた。それこそ蒼と訓練(?)したときも、そうだったのだが。しかし、とはいえ睡眠はちゃんととっていたので、表面上は問題なかったはずなのに――――。

 

 それを見抜かれたのかと、驚いたミニーニャに。蒼は肩をすくめて笑った。

 

「ちゃんとしてくれたら、しゅぎょう(修行)、なるから。…………バンビおねえ()ちゃんより、まし(マシ)

「嗚呼、それは、そうですねぇ……」

 

 その一言で納得する程度には、バンビエッタの扱いは頭バンビエッタだった。

 なお揶揄された本人は、いまいち何がその二人の苦笑いに繋がっているのか理解していない表情である。きょとんと、不思議そうにしているあたり、やはり良い性格をしている。

 

「わかりました、これでもっとぐっすり寝れたら、もっと頑張ってみますねぇぇ~……」

 

 改めてお礼を言って、枕を抱きしめるミニーニャ。外見年齢が釣り合った幼児同士のそんなやりとりに、バンビエッタは「なんか良く判らないけどヨシ!」と言わんばかりに得意げな笑みを浮かべていたが。しかし数秒して、ふと気づく。

 

 

 

「…………あれ? ねぇあなた、私にもプレゼントとか無いワケェッ!?」

(なんで自分にあると思ってるんだ頭バンビちゃんかこのバンビちゃんは)

 

 

 

 ガーン! と、ショックを叫ぶバンビエッタ。内心の徹底的な卑下(ディスり)を悟らせないきょとんとした表情で見つめ返す蒼と、マジで本気で言ってるのこの子!? と衝撃を受けたようなミニーニャ。どういう種類の感情かはともかく(おそらく想像の斜め上を行く酷いものだろうが)、彼女にも彼女なりに独占欲めいたものがあるらしい。

 とはいえ、普段からの行いはともかく、ショックを受けた様子のバンビエッタは面倒くさい。可哀想と思わない扱いであることはともかく、元気を出させようと色々言葉を選ぶミニーニャだった。

 

 なお外見的には、小学校上がりたてくらいの女の子に女子高生が慰められている構図である。

 

「ジジも言ってますけどぉ~~、あまり鞭ばかりじゃ駄目ですぅよ? 飴だってあげないとぉ」

 

 蒼の普段の視線がバンビエッタの女性らしさ全般へ向けられていることが彼へのご褒美になってないと思う程度には、それくらい酷い傷めつけられ方をしている蒼に対する普段からの同情があるミニーニャ。多少はまともと言って良いのか、バンビエッタを比較対象にするのが間違っているというべきか。

 

 バンビエッタ、しばらく「う~~~~~ん……」と思い悩んだ末に、出た結論。

 

 

 

「じゃあ名前! 名前、考えてあげる! つぁん、なんて言い辛いしダッサイじゃない? もうその頃の記憶なんて全然ないんでしょ? あなた。だったら騎士団の一員として相応しい名前をあたしが考えてあげようじゃない!」

((何を言ってるのかなこの頭バンビエッタ…………))

 

 

 

 二人からすればいまいち異次元の思考をしているバンビエッタであった。

 

 なおそれによって命名された(?)彼の名前、「ブルー・ビジネスシティ」(蒼・都の意)であるが、その話を「改名なさい!」と迫られた話を後日聞いたアスキンは「致命傷だぜ、致命的に……」と一言漏らしたという。

 

 

 

 

 




※本来なら無効化されるはずのPが、あまりにパワフルすぎて無効化される前にぶっ飛ばして大ダメージ


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#003.愛情ゼロの愛情ではない何か(ゼロ)

連続更新は一旦今日まで、明日から本連載に戻る予定です。

バンビちゃんがあまりに頭バンビちゃんすぎてもはやバンビちゃんとしてキャラ崩壊起こしてるレベルなんだけど、明らかにダイスの出目が頭バンビちゃんすぎてダイスの女神もやっぱり頭バンビちゃんかな? って思うので、結果頭バンビちゃんな行動判定になってしまった所については色々お目こぼしください汗


 

 

 

 

 

「――――んんっ! 良いですかねぇバンビエッタ・バスターバイン、並びにキャンディス・キャットニップ。本日、あなた達は訓練場を破壊、現時点において使用不能とさせました。この罪を裁くため、事情聴取と、ペナルティを決めるための会議を行います。

 担当は私、騎士団長(グランドマスター)から直々に丸投げされましたキルゲ・オピーが努めましょう。

 なお本日、スペシャル審問官としてベレニケ君とリジェ・バロ様に来ていただいておりますねぇ、ハァイ…………」

「――――『君たちの嘘すべてに異議がある』!」

「…………」

 

 サングラスの位置を調整しながら頭を悩ませた風のキルゲ・オピー。両者に向かって指を向けてニヤリと何やら能力を使った、銀なんだか金なんだか紫なんだか微妙な髪をした青年、ベレニケ・ガブリエリ。腕を組んだまま無言で圧をかける褐色の男リジェ・バロ。

 そんな三人に見下ろされながら、強制的に正座をさせられているバンビエッタとキャンディスである。バンビエッタはいい加減しびれて来たのか涙目であり、キャンディスは意外と余裕があるのか、膝の先でバンビエッタの膝を小突いて震え上がらせていた。

 

「まず、罪状について異議はありませんねぇ……。弁明だけでも、どうぞ?」

「うっせーな。あたし、悪く無ぇ!」

「な、何よキャンディ! あたしだって悪くないわよ絶対!」

「いえいえ、実行犯はバンビエッタ・バスターバイン、教唆はキャンディス・キャットニップとジゼル・ジュエルより聴取は済んでおりますので?」

 

「「アイツ裏切ったッ!?」」

 

 二人そろって立ち上がろうとし、しかし上手く直立できず転ぶバンビエッタとキャンディス。両者ともに、既にベレニケの聖文字“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”の「何かしら異議を唱え存在を否定/制限する」能力により、直立歩行を出来なくされていたのだ。その上で正座までさせられているので、完全に体罰である。もっともそんなことだけで反省するならバンビエッタは頭バンビエッタなどと呼ばれていないし、キャンディスもキャンディスで頭バンビーズ(※他称)などと呼ばれていない。倒れながらも特に後悔する様子もなく二人の目がその内心を語っていた。

 

 なおベレニケにより「本心を話したいんじゃないのかい?」などと発言を能力で無理やり強制されたりする。

 

「「バレたことについては後悔してる。次はもっとバレないように上手くやる」」

「ハァイ! 全く反省の色がありませんねえぇぇッ!?」

 

 あんまりにもあんまりな返答。彼女たちにガミガミと当たり前に叱責をするキルゲのそれを適当に流しつつ、バンビエッタは「焦土と化した」背後の光景を見た。

 

(いやー、我ながら派手にぶっ壊したわねぇ…………。まあブルー()が居たところだけは、なんか全然大丈夫そうなんだけど)

 

 焦土と化した訓練場――――霊子で編まれた城の広場が、見渡す限りにおいてその地面が焼け焦げ、ボロボロと崩れ去りかけていた。霊子の隷属を待つまでもなく既に構成がギリギリであり、つまりは大体バンビエッタのせいである。

 

 ことのきっかけは今より数時間前。いつものようにバンビーズの五人で、ブルー・ビジネスシティ(蒼都(つぁんとう)だがバンビはこう呼ぶ)を使ってストレス解消……、もとい訓練をつけていた時の事。

 いつも私刑(リンチ)じゃ面白くないからとくじ引きを適当にし、チーム分け。なおその際、ジジは「今日はなんか疲れてるからボク、パス。審判やるよ~」と適当に観戦に回った。

 

 バンビエッタ、リルトットとキャンディスのAチーム。

 ミニーニャと(つぁん)のBチーム。

 

 それぞれ別れた上での戦闘は、意外と拮抗していた。

 

「あらららぁ? 私の“P-力-(ザ・パワー)”を受け止めますかバンビちゃん~」

「当ったり前じゃない! あたし、毎日そこのサンドバッグで訓練してるんだから、つい最近『大きくなった』あなたにだって簡単に負けたりはしないわ!」

「訓練っつーより、あれは只のいじめじゃねーかなって思うんだけど、俺……」

 

 ガリガリとキャンディを齧っているリルトット。真面目に戦闘するつもりはないのか、テンションが色々高まりすぎてるバンビエッタを抑えるために温存しているのか、自らの聖文字は使用せず適当に矢だけで狙撃してフォローしている。

 

 そんなバンビエッタ、何故テンションが非常に高くなっているかというと――――。

 

「――――しっかしアレよねー。二年くらいしか経ってないのにもうキャンディみたいに大きくなっちゃったんだもの!

 でも可愛いあなたも良かったけど、美人なあなたも大歓迎だわ! ねぇ、ミニー!」

「あ~、ありがとうございますぅ、はは…………」

「ミニー、嬉しくなかったら素直に言っていいと思うよ、あたし」

 

 両腕を広げ空中で、大変楽しそうなバンビエッタに、「女子高生くらいに」成長したミニーニャは困ったように微笑んだ。ため息をつくキャンディスの言葉にも、どう答えたものかという「淑やかな」表情。そのスタイルは既に現時点のバンビエッタに迫る勢い、つい数年前まで女の子というべき姿だった面影はほぼ残っていない。

 この二年――――彼女が聖文字を与えられてから、それこそ蒼都も含めて一緒に訓練に励んだ結果。今ではその能力が馴染んだせいか、その「霊格が上がり」、身体的にも大きく成長したのだった。

 

 なお、その点で言えば未だに小学生くらいの姿をしているにもかかわらず、メンバーの中で一番年上なリルトットは「ケッ」と面白くなさそうに唇の端を「大きく変形させていた」。

 

 

 

 なおそんな状況にあって、既に蒼都は考えることを止めている。

 

 

 

 ――蒼都は――やはりバンビエッタは頭バンビエッタだと強く確信した。静止の銀を身体表面に変化・現出させただけでは諸々の頑丈度合いが足りないほどに爆撃されるため、既にその身の霊子はほぼ静止の銀と別な鉱物の合金へと変化させている。彼の仮聖文字“Σ-鋼鉄-(シデロ)”は、最初に発現した能力は「銀への変化」であったが、鍛錬を続けている内に他の金属への変化を可能としていた。

 ただし痛覚は据え置きのままだ。ミニーニャの“P-力-(ザ・パワー)”に全力で殴られた時など、慣れはしてきたが最悪気絶する。バンビエッタの場合でもそれは同様で、そしてどれほど痛覚にさらされようと死ぬに死ぬことは出来ないので――――。

 ――――そのうち蒼都は、考えるのをやめた。

 

 バンビエッタとミニーニャのおっぱいをガン見しながら。

 

(揺れ…………、たわ…………、わ…………)

「……ッ!? ちょっと、何処見てるんですかぁぁ『ブルー』君はっ! めっ、ですよ!」

 

 と、目ざとく彼の視線が成長した自らのだいぶ大きな胸元に集中してるのを察したミニーニャは、バンビエッタの爆撃爆風を柏手一つで蹴散らし(!?)、足早に駆けてチョップ一発。その一撃で蒼都の足は、膝から下が訓練場の地面に埋まった。

 元の外見年代を考えればそこまで不可思議な距離感ではないじゃれ合い方だが、現在の外見から言えば幼児虐待も甚だしい。そこに気が回っていないのか、それとも気にしていないのか。なんだかんだ言って、ミニーニャもまたバンビーズの一員らしい感性をしているらしかった。

 

 なお、その結果が現在のバンビたちの状況に繋がる。

 

 

 

『――――“神の癇癪(ヤルダハトケフ)”!』

『えっ? ――――ッ、“神の独裁(ヤショリニアン)”!』

 

「ヤバ!? いやお前等何考えてんだよ! 俺、庇わないからな!」

「いいぞー、やっちまえバンビ―!」

「(これ後で絶対怒られる奴だ、逃げよっと…………)」

 

 テンションが上がり切ったバンビエッタが、訓練なのに周囲の被害含めて後先一切考えず滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)を発動。つられてミニーニャも悲壮な顔で発動し、両者ともに背中に光の羽根と冠をまとう。

 燃え散りなさい! とけらけら笑い、羽根から大量の弾丸というべきかを雨あられのごとく振り散らすバンビエッタ。一方のミニーニャは、敵側にいるリルトットにアイコンタクトすると、すぐさま自らの羽根からハートの鏃の矢を放ち、彼女に「食べさせる」。

 直後、大慌てで蒼都の背後に回り込み、彼の背中にもう一つ矢を刺しそのまま抱き寄せた。

 蒼都に痛みは走らず、不思議そうに彼女を見る。…………間近にあるミニーニャの顔に、少しだけ照れているようだ。

 

(顔近……っていうか良い匂いがするな、この子。お胸も大きいし。性格は割と破綻してる側なのに…………って、そんな場合じゃないや!? )

 

「(ぜ、全力で防御お願いしますぅぅぅ……!)」

「わ、わか()った……!」

 

 と、硬化させた全身の金属を「さらに延長させ」、まるで小さい金属のシェルターのように成型。そこにバンビエッタの爆撃が降り注ぐ前に、リルトットが生成した矢を蒼都の作ったシェルターに向けて狙撃した――――。

 

 果たして、本来なら蒼都といえど一週間は行動不能になるその大瀑布がごとき炎の泉は。かろうじて蒼都が作り上げた「耐火金属」のシェルターにより阻まれ。

 そして、それ以外のエリア全域が全てボロボロの有様となった。

 

 

 

 かくして城の修復のための資材集め(霊子を使用するため器子ではない強力な霊体集め)を一週間命じられたバンビエッタとキャンディスであるが、当然のように二人そろって真面目にやる気は無かった。

 

 というか、解散早々に愚痴を零し合おうと思ったバンビエッタは、目を大きく見開くことになる。

 

「き、キャンディ、あなたそれ誰よ!? 誰なのよ!!?」

「ははーん、悪いわねバンビ。あたし、もうおぼこ(ヽヽヽ)じゃないんだ」

 

 性格の良い感じに嗤うキャンディス。この時ばかりは普段バンビエッタに対してマウントをとってご満悦といったところだ。一方のバンビエッタは、呆然とした様子でふらふらと壁に寄りかかり、頭を押えている。

 

 何がそんなに衝撃的だったのかと言えば――――キャンディスに「男が出来た」のだ。

 

 なお、名前は別に興味ないらしい。

 

「あたしの配下とか補佐に回った男共の中で、ちょっと『興味ある』感じのがいたから、ちょちょいと味見(ヽヽ)を…………、ね?」

「な、何でなのよ!? あたし、あなたとは別ジャンルで可愛いじゃない! おっぱいだって大きいし! 脚だってむちむちしてるし! なんであなたばっかり、ずーるーいー!

 なんであたしの所にはイケメン来ないのよおおおおおおおお――――ッ!」

 

(そりゃ来るわけ無ぇだろ、そっちの評判最悪だぞこの頭バンビエッタ)

 

 本気かよという目で嘆くバンビエッタに返すキャンディスと、明らかに反応に困った彼女と腕を組んでいるイケメン滅却師。既に幸か不幸か、彼女の見てくれの良さはともかくその本性にある残虐性が広まっていた。主に幼児(蒼都)をサンドバッグにして遊んでいる光景が日常的に見られてしまっていたため、仮に付き合ってもその時々の気分で最悪殺されるんじゃ…………、と悪評が先行しているのである。つまりは自業自得だが、そのあたりに何ら自覚も罪悪感もないバンビエッタであり、そんな彼女にまたイケメンが引いていくという悪魔の永久機関が出来上がっていた。

 さらに、実際に「そういう」状況になったらバンビエッタの行動なら、まさに真実そのものである。バンビーズの面々からも当然肯定されているので、原作と異なり彼女はイケメンと縁がなかった。やったね! まだキャンディスの方が扱われ方がマシだよ多分!

 

 あからさまに落ち込むバンビエッタに同情したわけではないキャンディス。これ後で凄ぇ面倒臭ぇやつだなぁ、とか嫌々思いながら、慰めの言葉を発する。

 

「そんなに男に飢えてるなら、ブルー(ヽヽヽ)育ってから妥協すればいいんじゃねぇの? 初めてはどうでも良い相手とするって相場は決まってるし(あたしは違うけど)。

 まあ、ブルーだったらあたしも顔がタイプじゃないから、大きくなっても手は出さないし」

「……? 何言ってるのよキャンディ。ヒトはサンドバッグと恋愛とかしないのよ?」

 

 三度、コイツ正気か!? と現実を疑うような表情となったキャンディスは、立ち眩みを起こしてイケメン滅却師に抱えられ、おそらく私室へと運ばれていった。

 

 

 

「はぁ~~~~、あたしもイケメンと出会いがあるといいなー。どっかに転がってないものかしらね、適当に『散らしても』後腐れなく殺せるイケメン。あたしの『奪って』『見て』『好きにする』とか万死だし」

 

 既に発言が最初から最後まで頭バンビエッタすぎるバンビエッタである。廊下を歩きながらそんな物騒なことを言うから、通路の向こう側で歩いていた一般滅却師たちが「びくり!」と震わせて道を引き返すのだ。

 こうなったらブルー(蒼都)で暇つぶしでもするかしらね、と。そう思って彼を探そうとして、見つけた。

 

「で、最近どうだぁ? 前言ってた安眠グッズは、それこそ羊さんがおねんねするよりも早くなんとかなったみたいだし」

「うん。みにぃ(ミニー)おっ()きくなった」

 

(げげぇ、アスキン・ナックルヴァール…………!?)

 

 自分よりも序列が上の滅却師の男性。どこか包容力のありそうな余裕ある雰囲気だが、言動が独特すぎてバンビエッタ的には歯牙にもかけない相手だ。ただ以前に試合をしたときに基礎能力でコテンパンに倒されてしまったことがあり、以来苦手意識がある。もっとも完聖体を使えばまた事情は変わってくるが、そこは割愛。

 基本的にバンビエッタ、自分の命が何よりも大事な女だ。仲間意識こそゼロでない程度にはあるが、それはそれとして別問題である。

 

 そんなアスキンが、お気に入りの蒼都(サンドバッグ)と何やら話している。何か変なこと言わないでしょうねぇ、とバンビエッタはコソコソ隠れながら話を聞いていた。

 

「ただ、おかあ()さんとか、()らないから、なんか、さみ()しい」

「致命傷だなぁ……。ブルーって呼び方の時もそうだったけど、アイツらがお前を構ってるのはラブじゃないってーのは、十分判ってるみてぇだな」

 

(余計なお世話よっ! ……って、やっぱりママに甘えたいんでちゅね~ブルーちゃんは~)

 

 完全に嗜虐的な笑みと怒りを浮かべるバンビエッタだったが、そんな彼らにリルトットが声をかけて会話に混ざった。どうやらお菓子を倉庫へ取りにいった道中であったらしい。たまたまではあるが、ブルー(蒼都)とアスキンという組み合わせに興味が湧いたようだ。

 

「ミニーニャに枕あげたの、お前だったのか。アイツ、あれだけはスゲー大事にしてっからな? バンビに取り上げられそうになっても、しっかり抵抗してるし。……あなたのものはあたしのもの! とか言わないで、フツーに借りりゃ貸すだろうにアイツだって……、いやどうせパクるから駄目か」

「致命的じゃねーか。……でもミニーニャは、オシャレさんじゃねーの」

 

(ちょっとあのDのやつ、何言ってるか意味がわからないわ)

 

「ま、元気そうで何よりだよ。俺たち結構、お前のこと雑に扱ってるけど、頑丈だからかバンビも中々手放さないしなぁ……。苦労はかけてる」

「オシャレだねぇ、R・R」

「L・Lな? イニシャル。Rだと違う奴と被るだろ。

 ……ま、俺も止めると後面倒臭いから、別に何もやってやらないけど」

「致命傷だねぇ……」

 

 言いながら頭を撫でるリルトットに、見上げながら蒼都は「リルおねえ()ちゃん、ちょっとまとも!」と楽し気に笑った。自分にはほとんど見せたことのないような、楽しそうな笑みである。

 

(なんであーゆー可愛い表情は見せないのかしらねぇ、あたしには……。その表情以外できないようにしてあげるのに)

 

 そういう所が頭バンビエッタなんだぞ頭バンビエッタ。

 

 その後、騎士団に馴染んだかと言う話題でベレニケを「へん()あたま()」呼ばわりして爆笑されたり。アスキンは流石に「本人のオシャレなんだから、言うんじゃないぞそーゆーことは」と笑いながら諭していた。なおバンビーズ2名は即落ちで噴き出している。

 

みにぃ(ミニー)ちゃんも、へん()いろ()してる」

「そーゆーこと言うなよ? 流石にあのゴリラ力に殴られたくないだろお前も……。

 って、そういえばだけどお前さー。俺たちの中で誰が好きなんだ? いまいちバンビが振り回してる印象しかねぇから、ちょっと気になってる」

「致命的じゃねぇか………………?」(※振り回してるのはバンビーズ全員なため)

 

 リルトットのその質問に、バンビエッタも多少は興味を惹かれる。そわそわと半眼で蒼都の長い前髪を見つめている。別にそのテの感情ではないが、彼女なりにお気に入りのサンドバッグの動向は把握しておきたいらしい。

 

みにぃ(ミニー)ちゃん、()っきくなってきて、()き」

「あ~、まあ妥当って言えば妥当なのか?」

「おっぱい」

「スケベじゃねぇの」

「オイッ」

 

 満面の笑みでペシリと頭に軽くチョップを入れるリルトット。言外にお前は対象外だと言われたような流れである。もっともそのタイプのいじりは慣れているのか、子供の戯言だからか、彼女もまた軽く流した。

 なおバンビエッタ、「おっぱい大きければ何でもいいのアイツ……?」と謎の危機感をあおられる。

 

じじ(ジジ)さんは、やさ()しいけど、ずれ(ズレ)てるからちが()う」

「ズレてるって『判ってる』のかお前? っていうか感想が結構容赦ねーなー、ハハ。

 胸って言えばキャンディスとかバンビもだけど、そっちだったらどっちだ?」

「…………、ばんび(バンビ)ねえ()ちゃん?」

「何で疑問形なんだ」

 

(何で疑問形なのよ……?)

 

 そんなバンビーズ二名の疑問はともかく、色々と話を聞いていたせいもあってかアスキンはいち早く、その理由に気付いた。

 蒼都が髪をいじりながら、照れたように言う。

 

「おねえ()ちゃん、ひど()いけど…………、かみ()いっしょ(一緒)だから。ほんと(本当)の、おねえ()ちゃんとか、おかあ()さんって、いたらあんなきれい(綺麗)ひと(ヒト)だったら、いいなって」

 

 想像以上に重い理由だった。なお蒼都の人格的にはその場で即興でそれっぽい理由をでっち上げただけである。彼にとってバンビエッタはほぼ容姿スタイルだけが全てだった。ただそれは当然外には伝わらない。そっか、と少しだけ寂し気に笑いながら頭を撫でてやるリルトットと、致命傷だぜ……、と目元を手で覆い、天井を見上げるアスキン。

 

 そしてそんな彼らを見ながら、バンビエッタは視線を下に下げる。

 両手で自分の、最近また久々に育ってきた胸を持ち上げながら。

 

(…………ふぅん、こんなモノそんなに良いのかしらねぇ……。まあ? ママがそんなに恋しいっていうんなら……)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 そして後日。

 

「バンビお前…………、そーゆー趣味だったのか。俺、ちょっとお前のこと誤解してた」

「わわわ~~~~! そ、そういうのブルーにはまだ早いと思いますぅ! まだ本当に幼児じゃないですかぁぁ!?」

「バンビちゃん、流石に『迎えてない』子供相手にそれは……(ドン引き)」

「……………………」(※対抗意識煽ったあたしが悪いのかな? 的罪悪感の表情)

 

「ち、違う違う違う! これは、そう! 日ごろサンドバッグとしてしか使ってなかったから、ちゃんと機能が爆裂とかしないで『生きて』るか確認してみようかなって――――」

 

「「「「だから早すぎるわ!」」」」

 

 バンビエッタの私室にて。全裸のバンビエッタが泣きじゃくる蒼都を胸であやしつつ、その視線と手が「ナニか」に伸びようとしている瞬間を目撃され、しばらくいじられることになった。

 

 なおバンビエッタから蒼都に対する好感度の種類は、切れ味が良くて持ちやすいお気に入りの百均で買ったマイはさみ程度のものである。

 

 

 

 

 




※完聖体については以下ですが、OSR師匠側で情報公開されたらそちらに併せるかも予定です
 
バンビちゃん:神の癇癪(ヤルダハトケフ)(少女の発作→癇癪)
ミニーちゃん:神の独裁(ヤショリニアン)(単刀直入→パワーは全てを解決する)


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#004.番外編:NOT KILL THE MONSTER

ご評価、ここ好き、誤字報告、感想などなどあざますナ! 励みになります!
しれっと日刊に載ってたのにびっくりしたので、本当はメゾチャン打つ予定だったけど、せっかくなので感謝の番外編・・・
 
将来的にこうなるよ? と、予定みたいな話です汗 例によってダイス






 

 

 

 

 

「…………この霊圧、まーたバンビちゃんは後先考えないで……。情報(ダーテン)だと、狛村隊長かな? はぁ……」

 

 白いフードに身を纏った滅却師の青年は、そう呟いて深くため息をついた。力なく、まるでいつものことだと言わんばかりの具合である。

 滅却師の国「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」による尸魂界(ソウルソサエティ)の襲撃。瀞霊廷への星十字騎士団(シュテルンリッター)による進撃と、護廷十三隊による防衛戦。奇襲をかける形だったのは滅却師側であり、戦況は明らかに彼等に追い風が吹いている。

 そんな光景が各所で繰り広げられていても、青年はやれやれと言わんばかりに肩を落とした。

 

「――――オイ、お前」

「?」

 

 そんな彼に背後から声がかかる。甲高い少年の、しかし苦虫を噛み潰したような低い声。青年は立ち上がり、その下方を見た。

 

「お前か? ここに来るまでの連中を軒並み『再起不能に』してたのは」

「嗚呼。…………それには、(イエス)と答える」

 

 殺した、とその白髪の少年が、死覇装に羽織をまとった「小さき隊長」、天才少年と呼ばれたこともある日番谷冬獅郎は口にしなかった。事実その通り、フードの青年は戦った死神たちの鎖結と魄睡(霊力内燃臓器)を、共に自らの技で使用不能としていた。

 かつて現世の死神代行、黒崎一護がされたことのあるようなものと同様である。ただし、損壊の仕方が著しく、命こそあれど戦士としてはほぼ再起不能だろう。

 

「そうかよ。少し、驚いた。――――わざわざウチの隊士を中途半端に殺して挑発してきた奴が、こんな所でマヌケにも油売ってるなんてなぁ」

「……………………」

 

 少年の挑発に、彼は応えない。ただ風を切り腕を振ると、その右の腕に、オオカミの上顎を思わせる、蒼と白の手甲が形成された。そこからミシミシと「何かが這い出る」ような音を鳴らし、その顎から三つの長い爪のような刃が生えた。

 少年も、自らの斬魄刀を抜刀し――――。

 

 

「――――霜天に坐せ、『氷輪丸』!」

 

 

 刀剣解放――――。柄尻から鎖に繋がれた三日月の月輪刀が伸び、冷気が放たれる。

 

 それに向けて、青年は刃を向けて構え――――刃の先から光弾のような霊圧の矢を放つ。

 振りかぶり、薙ぎ払う冬獅郎。冷気を帯びた斬撃がその軌跡に沿い、氷の竜を表出させる。

 

 矢と竜が激突――――同時に、青年の構えた手甲爪から、延々と矢が狙撃される。上あごの右、構えたその三つの爪それぞれ一つ一つに霊子が収束し、時間格を置いて絶え間なく、高速で狙撃――――。

 

 砕ける氷の竜と、周囲に散る蒸気のごとき白息。

 

 それを起点に斬魄刀を振るい、冬獅郎は空中で氷の壁を作り出す――――。

 飛廉脚。フードの青年は霊子で足場を形成し、そのまま高速で突撃。

 

 爪に収束した矢で狙撃をし、氷にわずかに亀裂を入れる。直後、その亀裂が再生するよりも前に爪を差し入れ、速度と硬度をもって破壊した。

 砕ける壁を前に、飛廉脚。青年は冬獅郎に迫り、彼も表情を変えず斬り合う。身長差の関係もあり、小柄な彼はやすやすと懐へ。そのまま袈裟斬り、フードの首筋へと斬りつける冬獅郎。

 

 だが、斬れない。

 明らかに皮膚へと接触した斬り応えがあるのに、何かが振動でもしてるように「妙な膜」のようなものが、彼の刃の貫通を拒んでいた。

 

「何、だと……?」

「――――――――面取(チャンファリング)!」

「な――――ッ!」

 

 一瞬の驚愕の隙を見逃すほど、青年は甘くはない。冬獅郎の腹へすかさず蹴りを一撃――――あまりにも体感したことのない「硬さ」の蹴りだった。まるで金属の塊で雑に殴られたような、そんな想像以上に重い一発に、後退させられる。

 

「隊長!」

「……わめくなッ」

 

 だが、それでも。距離を離される隙を塗って、一撃、彼の籠手を斬る程度できず何が護廷十三隊の隊長格か。副隊長、松本乱菊の声に、雑に応じる。

 斬魄刀・氷輪丸。歴代の氷雪系斬魄刀の中で随一の性能を持つその一撃は、容易く青年の右手から肩までを一瞬で凍結させる。

 

「――――これで、テメェの腕は封じた…………ッ。ヘンに手心、加えてるのかは知らねぇが……ッ、この襲撃で、多くの仲間が殺されてるんだッ。こっちは……、加減する気は無ぇぞッ」

「……………………ハァ」

 

 やはり、ため息。そしてそのまま左腕を構え直すと、そこから改めて「オオカミの下顎」じみた手甲と爪が、右腕と同様に形成される。

 

 瞬間、間合いを詰める青年。冬獅郎は右側を庇う青年のそれを、正面から刀で受ける。使い物にならなくなった腕を、そのまま盾代わりにしているのかと。考えもしたが、そんな幻想は激突した時の感触で打ち砕かれる。

 まただ、明らかにその硬度がおかしい。先ほどの蹴りも同様、今まで感じたこともないような強靭な強い「金属の塊」のような――――。 

 

 とっさの判断、瞬間的に冬獅郎は背後へ飛び退いた。突進の勢いを相殺する目的よりも、彼の構えた左腕の爪が振るわれることを恐れた。瞬歩を後方に向け、その場で地面に霊圧を溜めて蹴った――――。

 

 先ほどのダメージが胴体に蓄積している――空中で無理に方向転換し、冬獅郎は足で後方の壁を蹴った。と同時に、相殺しきれなかった威力で罅が入り、また彼の足の内も同様に――――。

 

「――――うぉおおおおおおおおッ!」

 

 だが、そんなものが何だと言うのだ。自らの足表面に氷輪丸の力を使い凍結、折れた骨の状態を固定し、即席のギプスとする。

 そのまま斬りかかる冬獅郎だったが、青年は凍結した右腕を「適当に払う」。それだけで、氷の下にあった「銀の右腕」が露わになり――――。

 

「――――唸れ、『灰猫』!」

「ッ!」

 

 両手の爪による狙撃を、乱菊が自らの斬魄刀でそらした。直撃する高速射撃された霊圧を、空中を漂う灰の塊のような状態となった自らの刀で、クッションのようにして防いだ。

 当然、ダメージは通る。いかに直撃でなかろうと、その密度と速度が彼我の攻防の差を物語っていた。

 

「ちょっと、隊長!? 本当に駄目じゃないですかそれ、昔、志波隊長が『ダイジョブ、ダイジョブ』って言ってた時より大丈夫じゃないでしょ!」

「何も言ってねぇ、松本…………、コイツ……ッ」

 

 改めて倒れる冬獅郎に、乱菊が駆け寄る。起き上がる彼を抱き起そうとするのを払い、前方を睨む冬獅郎。それにつられて視線を向ける乱菊に、青年はやはり深くため息をついた。

 積極的に攻めて来る気配はない。だからといって、このまま見逃して良いような相手ではない――――冬獅郎の決断は、早かった。

 

 

 

 それこそ眼前の青年に言わせれば、早すぎるほどに。

 

 

 

「……やるぞ松本、卍解無しで殺せる相手じゃねぇ」

「ちょ、隊長……! でも、敵は卍解を封じるからって、涅隊長の分析結果が出るまで待つようにと――――」

「――――だから言ってるだろ! そう簡単に殺せる相手じゃねぇ! それに……ッ」

 

 乱菊も気付いた。明らかに冬獅郎の消耗が激しすぎることに。まるで戦うごとに、自らの霊力を相手に吸われてでもいるような……。

 なればこそ、戦線を維持するためにも。自らの霊圧を底上げするために、卍解の使用は必須。

 例えそれを封じる術を相手が持っているにしても、もはやこのままでは何もしないでは、座して死を待つのみとなるのだ。

 

 後を頼むと言い放ち立ち上がる冬獅郎。――――肌で感じる、周辺の隊長格もそろって卍解を発動したことを。彼等もまた、それぞれにそれぞれの必要性をかられての事なのだろう。

 

 そんな一連の流れに、青年はやはりため息をつく。

 

「どうして皆、正体不明の相手に安全策をとらないのかな。あるいは、他に手段を用意していなかったってところなのか……」

「…………ハッ! テメェで言ってたら世話無ぇ、だろ……ッ!」

 

 内容はまるで、こちらを馬鹿にするような。しかし声音は不思議と労わるような、全く以て「妙な」感覚を抱く冬獅郎。つい軽口が出たのも、彼のそんな雰囲気に呑まれてのことか。フードでその表情が見えないまでも、口元が僅かに微笑んだ。

 

 斬魄刀を構え、霊圧を高め始める冬獅郎の耳に聞こえる、青年の独り言。

 

「僕は殺すのも、殺されるのも嫌いだ。痛いのも、我慢にだって限界はある」

「…………」

「だから陛下の作る世界がどうなるかも、本当を言えば興味はないけど――――」

 

 わずかに顔を上げたその目は――――まるで自分よりも年下の少年のように、妙に澄んだものだった。

 

「――――それでもまぁ、バンビちゃんが『殺されない』程度には、適度に、ね?」

  

 意味が解らないが、おそらく仲間の誰かなのだろう。それに対する声音は優し気で、しかしどこかあきらめ気味のようなもので。自分が雛森(幼馴染)へ向ける声音のようなものを感じた冬獅郎は、しかし鈍ることなく刀剣解放を続けた――――。

 

 

 

「――――卍……解…………ッ、『大紅蓮氷輪丸』ッ!」

 

 

 

 顔をしかめる。卍解したが、やはり妙な感覚がある冬獅郎。自らに纏う氷の竜も、それに伴い先ほどまでと比べようもない程の冷気も、普段より何故か霞んでいるような感覚があった。

 卍解を封じるような挙動を、男は見せない。それに対し、自らの卍解を彼は封じられないのだと冬獅郎は驕らず。しかし警鐘を鳴らす自らの戦闘勘に従い、一気に決着を――――。

 

「氷竜旋尾――――!」

「――――重継(ダブルシーミング)ッ」

 

 冷気による猛烈な斬撃――――軌跡に沿って冷気が刃となり、すぐさま凍結するこの一撃を。青年は突きだした左腕の手甲を構え。その爪先が、ゴリゴリと猛烈に「嫌な音を立てながら」、うねうねと変形した。渦を巻くような巨大な盾。それが冬獅郎の一撃を当たり前のように防ぐ。

 と同時に、気付いた――――防いだ傍から、冬獅郎の霊圧がその壁に「喰われている」ことに。自らの竜でさえ、その霊子が徐々に徐々に霧散し、男の周囲で滞留しているではないかっ!

 

「――――何、だ?」

 

 感じたことのない怖気――――かつて涅マユリが挙げた滅却師の報告にあったその現象を体感する冬獅郎。と同時に、その渦が「突撃槍(ランス)のように」変形し。空中の冬獅郎、振り下ろした刀を構え直す前の彼に目掛けて、放たれ――――。

 

 灰猫の動員すら間に合わず、彼の腹には大きな風穴が開けられた。

 

 砕ける卍解の氷。空中から落下し倒れ伏す冬獅郎を前に、乱菊は間に合わなかった灰猫を構え直し。

 しかし、青年は右手の爪を左手同様に「嫌な音を立てて」変形させた。形状はまるで手錠のようなそれで――――彼女が身動きするよりも先に、その腕をとり、殴りつけ、叩きつけ、巨大な手錠のようなそれで全身を縛り上げた。

 

「――――ァッ!? こん、な……」

「ハァ…………」

 

 一撃の重さに、やはり体感したことのない「超重量の金属で殴りつけられたような」痛みに、言葉を奪われる乱菊。

 その手から斬魄刀の柄を無理に放させ、やはりため息をついた青年。フードが落ち、その顔が見える――――長い前髪から覗く目元は、案外とすっきりして子供のようである。そんな青年は、とても悲しそうな表情をして、掌大の円盤を構えた。

 

 

 

 瞬間、冬獅郎の卍解を形成する霊子が「吸い上げられ」――――同時に、大前田希千代の鬼道によって全隊へ通達される。敵は、卍解を封じるのではなく奪い取るのだと。

 

 

 

「…………ッ!? 何とか、言えよ……、氷輪丸……!」

「隊長……っ」

 

 突然、自らの斬魄刀に起こった異常に顔をしかめる冬獅郎だったが、状況はそれで終わりではない。まるで当たり前の作業をするように、再び爪の形となった右の手甲を構え。青年はその腕を、冬獅郎の背中に振り下ろす――――。

 激痛とうめき声――――同時に、自らの内から吸い上げられる、「有り得てはならない」その感覚――――。

 

「テメェまさか……っ、俺の魄睡を……!」

「…………『共に生きたものとは共に死すべし』。君の斬魄刀から『その映した魂』は裂かれたんだ。君も、この場でその刀と共に、その『力』に別れを告げてくれ」

「が、ああああああああああ――――――――ッ!」

「隊長――――ッ!」

 

 気絶した少年から爪を抜くと、青年は腕を払い血を散らす。その視線は乱菊らをもう見ていない。どこか遠くへと向けられた視線は、まるでこの世の終わりでも見ているようなもので。

 

「………………逃げれば、僕は追いはしない。しばらくしたら、その錠も消えるから。……これから此処はきっと、今まで見たことのないような『地獄になる』。陛下はそれほどに、護廷十三隊へと強い感情をお持ちだ」

「……ッ! ふざけんじゃないわよ、アンタたち、勝手にこっちに攻めて来ておいて、何居直って――――なんでそんなに、アンタ、やりたい放題ッ」

 

「――――だって、僕は不死身のバケモノだから。怪物って言うのは加減を知らず、好き勝手やるものでしょう?」

 

 

 

 星十字騎士団 “I-不滅-(ジ・イモータル)” ブルー()ビジネスシティ()

  

 

 

 青年は彼女に苦笑いを浮かべ、その場から立ち去る。空中へと飛び出し、他の戦場の状況を観察。

 彼に倒された死神は、命は奪われずとも戦士としては再起不能。意図的に、それは徹底的に行われている。それはある意味で、単純な死よりも生存者の誇りへ泥を塗る行いであり――――。

 

 

 

「…………とはいえ全員『回復の目途が無くならない程度には』残してるから、完全引退まではいかないんだよねぇ、たぶん。

 後この調子だと、日番谷隊長も霊王宮行きになるかな? 流石に回復速度も追い付かないだろうし。…………ハァ、『読者ヘイトを』『買わない程度に』倒すのは面倒だぁ。回り回って僕が自分で処理しないといけなくなるし。

 後たぶん、帰ったらバンビちゃんが奪った黒縄天譴明王で『あーそぼ♡ 死ね♡』してくるんだろうなぁ、ハァ…………。爆裂より打撃の方が嫌なんだよなぁぁ……。あのバスターバインバイン(意味深)め、最近は『昼も夜も』手ごたえ感じなくなってきたとか言ってたし……」

 

 

 

 しかし一人でいる本人は、とても自由気ままとは縁のない。どちらかといえば、死ぬほど面倒くさそうな表情でため息をついていた。

 

 

 

 

 







※バンビちゃんが頭バンビちゃんして原作開始前までずっと頭バンビちゃんな振る舞いを蒼にした結果、目覚めた聖文字


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#005.怪物の片鱗を見る癇癪

重ね重ね感想誤字報告ご評価その他もろもろ感謝でございます! 励みになります!(特に感想)
まだ日刊に残ってる、だと・・・? ということで予定をぶっちぎって、感謝の更新。流石に明日はメゾチャン行きます汗
 
バンビちゃんはどうしてまともな選択肢の展開ダイス目もあるのに、わざわざ頭バンビちゃんな判定を引き当てるんだろうか・・・(哲学)



 

 

 

 

 

 

 星十字騎士団(シュテルンリッター)所属滅却師、“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”ベレニケ・ガブリエリ。本日は気分で髪色をシルバーに紫メッシュとしている彼は、訓練場を後にし廊下で「ふぅ」と一息ついた。壁に背を預けながら、片手で自分を仰いでいる。

 

「やれやれ……、いまだ完聖体(フォルシュテンディッヒ)までは至らずか。バンビエッタなどはすんなりと取得していたというのに、一体何が僕に足りないというのだろう。霊子の操作力を上げるため、常に無手であるという『制約』をかけ、能力の錬磨に努めているというのに…………。

 それはそうと、腹が減ったな」

 

 聖文字(シュリフト)の使用により、霊力発動とそれに伴う霊子の消耗までは、流石の滅却師でも自力で補いきれない。それこそ彼らの陛下であるユーハバッハや騎士団長(グランドマスター)ハッシュヴァルトでもあれば話は別だろうが、基本的に霊子の収束と霊子の吸収は、前者の方が多大に霊力を消費する。

 つまり、一人で永久機関のように霊子の吸収と発散を行うことはできないのだ。その場にとどまっているだけでもないのならば、必然、食事なども戦闘魂魄には必要となってくる。ヒトは霞を食って生きるにあらずで有る。つまり霞食って生きている奴はヒトではないのだと言っても良いかもしれない。

 

「…………おや? 珍しい光景だ」

 

「ほら、あ~ん……。美味いか? 俺の菓子食ってるんだから、ちゃんと育てよ?」

「んく、ん…………、い、(いえす)

「ハハ、最近少しずつ舌っ足らずとれてきたな。大人になってるって訳だ」

大人(おとな)…………? ………………」

「お、オイ何で震えはじめた? ブルー何だ何かあったか? ……やっぱあの時バンビに何かされたか? あ? 大丈夫かオーイ……、ま、とりあえず食っとけや」

「う、うん……」

 

 一般兵あるいは騎士団のうちで料理上手な滅却師が調理場に立つ食堂にて、バンビーズの一人と、それにこき使われてボロ雑巾のようになった姿を日々目撃されている男の子である。彼女の名前は…………、とっさに出てこないベレニケ。一般兵士時代から基本、バンビーズを見たまともな滅却師は見敵退散(サーチアンドエスケイプ)が必須技能である。むろんその見てくれやらの可愛らしさ美しさセクシーさやらに釣られる男も少なくはないが、賢い(と自分で思ってる)滅却師は好き好んで寄り付かない。

 とはいえ正式に騎士団へと召されれば、そういう訳にもいかない。なので最低限、まともな会話が成立する相手を選ぶには選んでいた。

 

 ジゼル・ジュエルは「性別的に」会話に違和感が少ないが、ダブルスタンダードをよくやらかす。

 ミニーニャ・マカロンは蒼がサンドバッグになるまでよく無茶ぶりされて遊ばれていたせいか、発言にあまり責任を持たず徹底して逃げ回る。

 キャンディス・キャットニップは、鋭いタイプのイケメンで物静かな男ならすぐに惚れるし飽きっぽいがそう無体なことはせず、しかし興味のない相手には徹底して短気。

 

 その点から言えば、リルトット・ランパードは比較的マシといえた。基本的に無関心で面倒くさがりであるが、状況を判断する程度にはまともな感性が有りキャンディスと並んでまだ話しやすい。

 

 へ? バンビエッタ・バスターバイン? 仕事は真面目にするが、それはそれとして幼子をああも手ひどく扱う相手に何を期待しろと?

 

 声をかけたベレニケに「やらねぇぞ?」と薄切揚芋なスナック菓子を庇いながらも、最近ブルー・ビジネスシティと「改名を強要されている」男の子の口に運んでいるリルトット。やはりまだまともか、と判断し、本来は蒼都(つぁんとう)と言うらしい彼に視線を向けた。

 と、突然男の子が指をさし。

 

「また()わってる、ヘン(へん)(あたま)!」

「ブボゥッ…………! お前、だからそれ本人に言うのは……」

 

「フッそうかバレてしまったか。そうとも! 僕が噂の、髪の色ヘンなお兄さんさ!」

 

 マジで!? と何故か驚くリルトット。彼女の感性だったらそんな風な罵倒を言われようものなら瞬間湯沸かし器的沸騰不可避なのだが、ベレニケは存外ヒトが出来ていた。おぉ~! と謎の拍手をするブルー()に、フフンと笑いながらポーズを決めたり、新しい謎々を出してあげようとか話しかける。

 リルトット的にはアスキンなどで、ブルーが案外色々な滅却師と交流を作りつつあることを知ってはいるが、邪険にする気配のないベレニケは案外子供に好かれるらしかった。

 

(異議の人……、異議の人…………、印象薄いけどまぁ頭バンビちゃんじゃないからヨシ!)

 

 なお蒼都の内の精神にあたる存在は、原作本編での彼の扱いのせいで記憶がほぼなかったりするのだが、誰も知らず、また言わぬが花であろう。

 はてさて、ベレニケの出すなぞなぞに、ついでとばかりにリルトットも一緒になって答えを考える、ちびっ子とお兄さんお姉さんの(表面上は)微笑ましいやりとりをしたりしながら、会話の流れで何故食べさせていたのかという話になる。

 

「確かキャンディス・キャットニップが、君は自分の御菓子を絶対他人に手渡さないことで有名だと触れ回っていたのを、勝手な噂流してんじゃねぇぜと言って本人の御菓子まで奪い取って食べていたのを見た覚えがあるのだが、流石に幼子相手には違う扱いなのか?」

「何だテメェ、文句あるなら喰うぞ?」

「口の端を変形して脅しをかけるのを止めてくれ!? 君、確か僕の“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”通じなかったろう!!?」

「……リルお(ねー)ちゃん、くいし――――」

「あ゛?」

「――――、えっと、(そだ)(ざか)り?」

「そうそう、そーゆー気遣いは大事だぜ? バンビにゃ通用しないだろうけど」

 

 言いながら頭を撫でるリルトット。小学生くらいの彼女が幼児の男の子を撫でている絵面は中々微笑ましいものがあるが、口にしたら何が起こるかわからないのでベレニケは苦笑いに留めておいた。

 基本バンビエッタと比較されるからマシなのであって、バンビーズもまた頭バンビーズと影で呼ばれているくらいにはアレなのだ。

 

「で? まー別に子供だからあげてるとか、そんな訳ねぇよ。

 ちょっとバンビが思うように能力伸びなくなって来て、ブルーに八つ当たりかましてな。『共通部屋』でやったもんだから、辺り一面血まみれになっちまってミニーニャがぶち切れて大喧嘩になってなー。で、その中でバンビが盾代わりに使って、一緒にボロボロになっちまったもんだから、えーよーほきゅー」

「栄養補給といってもそれをしたところで……(それ以前にブルー呼びは確定でいいのか?)。

 いや、それ以前に傷の修復などはしなくて良いのかこの子は!?」

 

 驚愕するベレニケだが、ノースリーブな外套含めて全身特に傷の様なものは見えない蒼都。流石に着替えさせたか? と思ったベレニケだったが、違う違うとリルトットは言う。

 

「コイツの仮文字の“Σ-鋼鉄-(シデロ)”の効果、どーも身体って概念に服装まで含まれてるらしくってな? 一度金属化して霊子を消耗すると、それと一緒に『再構築』されるってキルゲのオッサン言ってた」

「なるほど…………、嗚呼だから、霊子の補給をする必要があると」

「まあな。普段より大量に霊子消耗して傷を治した分、補填しないでまたバンビが頭バンビなことしたら絶対死ぬだろ? そしたら連帯責任じゃん。どー考えてもロクなことにならねーって」

 

 彼女も彼女なりに、自己保身の意味もあってブルーに構っているらしいが。それはそうとして小さな子供に対する微笑ましい感情も無い訳ではないようなので、やはり彼女は頭バンビエッタ程ではないのだろうとベレニケは納得した。

 

 直後、彼の意識は刈り取られる―――――――。

 

 

 

「――――かぁああああ、つれぇつれぇ、つれぇわ! どいつもこいつも、おれ様の訓練相手としちゃ物足りなくてつれぇわ!」

 

 

 

「あ、この間バンビに服装全部爆破されて全裸にされて入り口に晒されたオーバーキルじゃねーか、ケケケッ」

「傷口に塩を塗りつけるの止めろお前! おれが傷つくだろうが!」

 

 背後からベレニケを一撃で退した大男、ドリスコール・ベルチ。自らの髭を撫でながら、筋肉質な自らの身体を魅せつけるように胸を張り、椅子に座るリルトットとブルーを見下(みお)ろした。いや、表情的には見下(みくだ)したの方が正確かもしれない。

 もっともリルトットは興味無と言わんばかりにブルーにスナック菓子を与えながら自分もつまんでいる。ブルーはブルーで、その前髪に隠れた未だ純粋そうな目で、大男を見上げた。

 

「…………マッチョ(まっちょ)マッチョ(まっちょ)、しぃ」

「ぶはははははは! つれぇわ、お子様にも俺様の格好良さが伝わっちまうなんてつれぇぜ! ははははははは!」

(今の格好良いって感想なのか? っていうか相変わらずコイツ容赦ねぇな形容の仕方……)

 

 忍び笑いするリルトットだったが、ご機嫌な様子のままドリスコールは、がしりと蒼の頭を掴む。そのまま撫でる動きにならないことは、腕からわずかに漏れている霊圧の具合で察することができたリルトットである。「あ゛?」と睨み上げる彼女に、やはり見下したような嫌な笑みで嗤う男。

 

「つらすぎて暇なもんでなぁ、今度こそバンビエッタの奴をボッコボコにして服脱がして晒し返してやろうかと思ったが、気が変わった。坊主、おれの鍛錬相手になれよ」

「…………?」

「言っとくが拒否権はねぇからな! がはははははは――――!」

 

 そう言いながら蒼を立たせるドリスコール。若干足をもつれさせながら、無理やり連れていかれる蒼は、その場で倒れてるベレニケの方を見て「()こしてあげないの?」と困惑していた。

 基本、ここで色々慮って起こしてやるような性格なら、リルトットもリルトットでバンビーズの一員ではなかった。

 

 ただ、あきらかにバンビエッタに対する意趣返し、八つ当たりのためにブルーを連れて行こうとする男の背中に、最低限「聞いてない」と後で絡まれない程度には忠告をしておく。

 

「言っておくけど、死なすんじゃねーぞー? 命の保証はできねーからなー」

「がははははははは――――!」

「聞いちゃいねぇし。アレ、バンビのお気に入りだって判ってやってるんだよな……。

 ま、コイツ起きたら呼びに行かせるか。どうせキャンディスと一緒に、ミニーニャ『提督』の傘下で部屋の大掃除させられてんだろうし」

 

 白目で倒れてるベレニケの顔を靴の踵で軽くふみふみしながら、リルトットは残りのスナックの袋の中へ「変形した口元」を突っ込んで、猛烈な勢いで咀嚼し始めた。

 

 

 

 さて、ところ変わって訓練場。バンビエッタとキャンディスのいい加減な仕事で集められた霊体をもとに修復されたここで、ドリスコールは腕を組み、がははははと蒼を笑い飛ばす。

 

「おれ様は“O-大量虐殺(ジ・オーヴァーキル)-”ドリスコール・ベルチ。いずれ星十字騎士団最強になる男だ! 覚えておけ坊主!」

「…………?」

「おう、こういうのは名乗られたらな、名乗り返すってモンだぜ? そっちの方がカッコ良いからなぁ!」

名乗(なの)る…………」

 

(でも名乗ったところで一瞬で消し炭でしたよねこの人? 意味ないよ)

 

 蒼都の内の人格は、割とシビアな判定であった。

 とはいえ無理やり連れてこられた以上、彼に選択肢はない。既にかなり疲弊しており、聖文字を追加で使用するといよいよもって気絶してしまうのではと言う不安もある。流石に気絶した状態でバンビエッタに発見されなどした場合、一体何が起こる……。そういった恐怖心から、蒼は「なんとなく」習得していた静血装を全身にまとった。

 

「じゃあ行くぜ、おおおおお、らァ!」

 

 手元に形成した神聖滅矢を掴み、槍のように持ちかえ襲い掛かるドリスコール。蒼は両腕に形成した狼の顎風な籠手型の神聖弓を盾に防御する――――視ようによっては、その籠手にすら「血装が乗っている」のだが、その少し変な事実に気付かず、ドリスコールは連撃を繰り返していた。

 

「オラ! どうしたどうした、そんなんじゃバンビエッタだって組み伏せられねーぞ?」

「………………?」

「お? 意味わからねーか? あのビッチ共に囲まれてそういう話題も出てこないってことは……、よっぽど可愛がられてるんだなお前! ガハハ、ますますもってつれぇぜつれぇぜ、ムカムカしてきてなァ!」

「――――っ!」

 

 ほぼ至近距離での、槍の投擲――――籠手を回すのが間に合わず、さらに言えば再生成された矢をその場でマウントポジションから追撃され。蒼はその一瞬で「普通ならば」瀕死となった。本来ならば血装の対応速度が追い付くはずなのだが、どうやら未だ霊子が足りていないと見える。

 左腕は肩から先が欠損し、両脚は折れ、右腕も突然の圧迫でぺしゃんこになり赤黒い。

 

 つれぇわつれぇわ! と大声で笑い飛ばすドリスコール。と、その身からわずかに霊圧が立ち上る。

 

「つれぇ、つれぇぜ……! 前途有望な騎士団新入りの坊主を、このおれが最強になるための礎として有効活用しちまってあー、つれぇわ!」

(あっ、やっぱりリルトットの話を全然聞いていなかったなこの男)

「おれの聖文字“O-大量虐殺(ジ・オーヴァーキル)-”は、殺した相手の霊圧の分どんどん強くなっていく! わかるかぁ? おれの霊力が上がったってことは! お前はもう死んでるってことだ! 普通にやって助からねぇって訳だぜ、あーつれぇつれぇッ!」

 

 痛みに表情こそゆがめているが、特に絶叫などは上げない蒼。そんな彼の様子も気にせず、ゲラゲラとご機嫌に大笑いするドリスコールであるが。

 

 

 

(…………これでもまだ「バンビちゃんの方が酷い」からなぁ)

 

 

 

 当の本人の内心は、意外と余裕だった。

 完全に油断している隙をついて、一気に霊圧を解き放つ――――放った霊子を血装に沿わせて、身体の内側に「新しい身体を」造り出すようなイメージで。自らの骨を軸に、自らの意志だけで動くシステムを構築し、折れた足を「強引に」立て直した。

 

「――――――がはははは、は……、何、だ?」

 

 完全に殺しきったと思っていた男の子が立ち上がる――――乱装天蓋。ある一定以上の技量をもつ滅却師が、自らの身体の損壊を無視して行動する際などに使用される高等技術の一つ。

 もともと彼が、騎士団の中でも群を抜いて基礎技術を鍛錬しているキルゲの下で修業していることを思えば、使えることに納得できなくもないが。いくら何でも、騎士団に来てから数年でその域に至っていると言うのは、いくら何でも早すぎる――――。

 

 実際、蒼は少しだけズルをしている。それは――――。

 

「――――“Σ-鋼鉄-(シデロ)”!」

「おぉッ!?」

 

 自らの「血液を」金属と化し、そこから霊力を強引に全身に廻しているのだ。理屈から言えば乱装天蓋だが、キルゲ本人が見れば「全く見るに堪えませんねぇ……」と呆れることは必定。子供に優しい方のキルゲではあるが、授業はしっかり手を抜かない彼である。

 だが、そんな技であっても、今のタイミングでは使うことが重要であり――――。

 

『――――良いですか? 蒼都。いかに滅却師といえど、生き残るためには時に虚の力すら使わなければなりません。むろん最後は滅却するのは必然ですが! だとしても、我々にとっての敗北は、陛下の手による死以外であってはなりません。

 何より、生き残るのです。そのためなら多少の邪道邪法はなんのその――――』

 

「――――――――!」

「お、オイオイ本気か!? つれぇ、つれぇわ……! 普段どんだけバンビエッタ達から虐められてるんだ……」

 

 蒼は、自らの「ねじ斬られた左腕」を拾い上げ。そのまだ「霊的には」生きている腕を能力で鋼鉄化し、さらには「骨を変形させ」、刃のように成型した。絵面があまりにもひどく、そうなった原因でもあるドリスコールですら声が引いている。

 明らかに、それを実行できてしまうブルー()の精神面が、色々と大丈夫なのかという意味で。

 斬りかかる蒼。自らの霊的な損亡を度外視して全身を鋼鉄化し、さらにはその上に静血装を重ね掛けしたまま、全力で向かってくる彼に、ドリスコールは困惑しかない。直接的な攻撃力はともかく、そんな状態でも「当たり前のように」戦おうとする、その幼児の精神が全くもって酷いことこの上ない。密かに「バンビーズってあれ? ひょっとしてビッチじゃなくてクズ集団……?」などと思い始めながらも、しかしドリスコールはしっかり蒼の攻撃をさばいていた。

 

 そして、全く持って想定外なことに――――ドリスコールの霊圧は「上がり続けていた」。

 

「オイお前よぉ……、それ普通に考えて死んでるぞ? どーしてそのままやってんだよ……?」

「――――――――ッ」

 

 鬼の目にも涙ではないが、ドリスコールとて多少は良心こそある。自分がクズである自覚はあるが、それだって頭バンビエッタまではいかない。

 なのでここまでくると、もはやどうして彼が生き残っているのかすら不思議な有様で――――体の良いサンドバッグではあるが、いっそ哀れに思えた。

 

 だからこそ彼の腹を蹴り飛ばし、距離を取らせ。

 

「……仕方ねぇ。そんなに酷ぇ人生なんざ、ここでオサラバしちまいな! せめて一思いに、楽に送ってやるぜ!」

 

 言いながら腕を空に突き上げるとと同時に、全身の霊圧が収束して柱のように伸びる――――光の、柱。釘打つように内側から幾重も十字が伸び、砕け。

 

『刮目しな、このおれの滅却師完聖体! その名も“――――』

『――――“神の癇癪(ヤルダハトケフ)”』

 

 ドリスコールが自らのその姿を魅せつけようとした、その瞬間。蒼の視界一帯が、すべて「猛烈な爆撃に」さらされた。

 煙が晴れる頃には、完聖体を強制解除されて気絶しているドリスコールの姿が。

 それを見ている真っ黒にすすけた蒼であったが、いつの間にやらその全身の傷は「戻っている」。取れてしまった左腕も、いつの間にか肩にとりつけて「再生していた」。

 

 そして煙が晴れると、上空からミニスカートであることを忘れたように慌てて飛び降りて来るのは。

 

 

 

「馬っ鹿じゃないの!? ヘンな頭のやつに聞いたけど、何をあたしとか、あたしがレンタルした相手以外にぶっ殺されかけてんのよ、あなた! あなたは、あたし専用のサンドバッグなんだから! 他の奴が使いたいって言っても、あたしに断りなくなんてぜーったい使わせないのよ! いい?」

 

 

 

 明らかに心配する部分が異常極まりないその発言を前に、蒼都の人格は「ああやっぱり今日も頭バンビちゃんなんだなぁ……」と色々と諦める。純真なくりくりとした目に似つかわしくない、死んだ魚の様な生気のなさだ。

 そんなこと気にせず彼を持ち上げて、ボロボロに倒れたドリスコールに「いーだっ!」と舌を出し、あまつさえ顎髭を爆破してすっきりさせて「うん、これで良し!」などとご満悦。

 

 そして「ボロボロじゃないあなた……、仕方ないわねぇ、洗ってあげるからついてらっしゃい!」とか言いながら、彼の首をヘッドロック。胸が頭の後ろにあたっている恰好であり、扉の影に隠れていたベレニケは羨ましそうな表情になる。

 が、ブルー()のその真っ青(ブルー)な表情と目を見て、「強く生きろ……!」と一言だけ言葉を送り、後は何も見なかったことにした。

 

 

 

「ってブルー、別に目を閉じてなくてもいいわよ? 流石にサンドバッグ相手に『オトコ』だとか思わないから。ちゃんとした男だったら、私の裸見て勝手に気持ち良くなるのとか万死だから『真っ二つ』だけど」

(ひっ…………!?)

「何、逃げてるのよ? ほらほら、えいっ、かーわーいーいーじゃないのよー」

「うぅ…………、く、くすぐったい……」

「……やっぱりまだ『為らない』わね。皆も言ってたけど、後どれくらい経てば『使える』ようになるのかしら、あなた。ちびっ子な割には…………、って思うけど…………。

 あたし爆破しすぎて、あなたの機能壊してないわよね? 大丈夫よね? バレてキルゲから騎士団長とか陛下に連絡がいって粛清とかされないわよね? あたし……」

 

 

 

 なおこの数日後、ブルーの話し方から舌足らずさがさらに取れ始め。改めてバンビがまたナニか(ヽヽヽ)手を出したんじゃないかという話題でバンビーズは持ちきりになるが、それは別の話である。

 

 なおその件についてバンビエッタ的には、へぇ~こうなってるんだ~的な興味本位以上の感情がないため、蒼都のメンタルには大ダメージであった。

 

 

 

 

 



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#006.ラヴは多分ハワイ旅行中につき当分帰郷する目途は立たず

今回から「残酷な描写」タグを入れました。
元々セウト行くかいかないかだったけど、今回まで含めて完全に「もう無理!」というアレになりました・・・大体頭バンビちゃんな判定結果が悪い()


 

 

 

 

 

「ミニーニャ、それ俺のだから」

「えっ!? いえあの、私のプリンだって容器に名前書いてあって、たった今開けた奴ですよねぇぇ? ……って言ってるそばからなくなってますぅ!? ちょっと、聖文字使うの止めてくれませんか、大人げ有りませんよリルお姉さんっ」

「おー、お前がそう呼ぶのも久々だなー。聖文字貰って身長が私追い越してからは言わなくなってたっけ…………。考えたらバンビの奴は一度もそう言ったことないな。小学生くらいの姿してた頃から、あーだったし」

「…………前から気になっていたんですけどぉ、バンビーズってどういう経緯で結成を?」

「結成ィ? も何もねーよ。元々、俺とキャンディスがつるんでたところにバンビの奴が『だったら、あたしがリーダーやってやろうじゃないッ!』って。

 どーゆー会話してたのか全然覚えてねーけど、アレかな……? 戦闘時にどっちがリーダーやるかみたいな話で。で、勝手に乱入してきて、そんなバンビに釣られてジジのヤローが入って来て、で最後にお前が入って、ブルーが拉致されてきたと」

「拉致ですかぁぁ……(ジジのヤロー(ヽヽヽ)?)」

 

 いつかのように、あるいはいつものように食堂にて。昼食時間と言う訳でもなくお菓子をつまんでいたリルトットに、「お邪魔しまぁす」と対面に座ったミニーニャである。彼女はスイーツを持ってきてたべていたが、時折リルトットから「よこせ」と言われて一瞬で奪われ続けていた。

 なおリルトットは自分の御菓子をミニーニャに渡す気配はない。ブルー()にしていたのは特別中の特別であり、同情なのか親心めいた愛着なのか、といったところだろう。

 まあ、それはそうと頭バンビエッタから離す真似をしない程度には、二人そろって頭バンビーズではあるのだが。

 

 そんなリラックスタイムに、よれよれと全身から煙を上げる巨体が一つ…………。ミニーニャは「あらまぁ」と嫌そうな顔、リルトットは「うげッ」と苦虫を噛みつぶしたような顔。どちらも揃って生理的な嫌悪を示した。

 

「ラヴが…………、あの子にはラヴがないヨネェ……………………」

「デブの裸体晒してんじゃねーぞ変態ペペ、喰い散らかすぞ?」

「ラヴが! ミーにもラヴがないよぉ~~~~!?」

「いや食うのもキモいわ、そんなだらしねぇ肉……、噛み千切ってそこら辺に吐き散らかすわ」

「あら? でしたら私も腕力で千切っては投げ千切っては投げ――――」

「ミーの肉体(ボディ)は幾重もの(ラヴ)で出来てるけど、人に分け与えられるような構造じゃないからね~~~~!?」

 

 本気で悲鳴を上げて涙目になっている男、“L-愛-(ザ・ラヴ)”ペペ・ワキャブラーダ。完聖体“神の情愛”を発動したこともあって、その恰好は放漫極まりない、リルトットいわく「だらしねぇ」肉体をしている。それを下半身におむつなのかパンツなのか一丁という恰好(しかもナニがデカい)。この格好で少女らの前に現れた時点で、十分に犯罪めいた絵面であった。

 なお現時点においてリルトットは相変わらず小学生程のスタイル、ミニーニャは高校生でいえばそろそろ卒業間近か? というくらいの育ち具合である。

 

 閑話休題。杖をついてきたペペに対して、しかし少しクレームを入れたいという彼の言に、リルトットは最低限の同席を許した。……同席と言っても、普段彼が座っている独特の椅子とも円盤とも言い難いものに座らせられ、距離にして2メートルほど遠ざけられているのだが。なお服は破れたのか、そのままの露出狂スタイルにサングラスをかけている。

 

「…………やっぱりボクの扱いにラヴが欠片もないジャン?」

「うっせ、話すことないならとっとと消えろ。で? 何か言いたいことあんのか」

「うぅ……、ちょっと思うことがあたのよぅ、あのキューティなブルーに」

 

「(は? ウチのブルーを可愛いとか言って狙ってますかこの変態? やっぱり肉、抉りましょうかねぇぇ……?)」

「(落ち着け、やるだけの価値もない)」

 

 ペペの扱いについてはともかく、閑話休題。

 

「あの子の情操教育どーなってるの!? 初対面でこの技使ったらいきなり『デブの裸!』とか言って指さしてくるし……、あのオトシゴロの純粋な目でキラキラされてそんなこと言われたら、ミーが(無限大)の愛をもつといえど、ちょっとショック受けちゃったヨネ♡」

「語尾可愛らしくするな、デブの裸」

「全くですよねぇぇ、デブの裸」

「君たち、そのうち覚えておきな……?」

 

 全くもって扱いに愛がないペペではあるが、その一言にリルトットは肩をすくめる。当然である、なにせバンビーズはブルーの教育についてはノータッチだ。そういった振る舞いについてはロバート老が何とかしてくれているだろうと雑に丸投げしているので、バンビーズは特に手を出すことは無い。

 なおペペがいってるのは根本的な情操教育というかマナーというか躾というかの部分だが、生憎とそれが通じるようならバンビーズはバンビエッタとなんだかんだ付き合えてはいなかった。なお実質、陰口を大量に叩いているものとする。

 

 あといい加減リルトットの嫌悪感が限界に近い。先ほどから咀嚼しているスナック菓子の袋が倍速である。それでも一応、バンビエッタによって頭バンビエッタの刑に晒されているブルー()のことについての話なせいか、気にかけて居座るくらいには彼女も心を許しているらしかった。……親心というか、同情と言うか。

 

「ゲッゲッゲ…………、何っていうかー、もっと愛してあげれば良いのに。ラヴ、ラヴ! ラヴ・セイヴ・ザ・ワールド! ラヴ・イズ・ビューティフォ! そうすれば『あんな』武器使おうとか思わないッショ……」

「あ、ああああああああ愛してあげればってそれえええええッ!?」

「お?」「むぅんん?」

 

 突如、胸の中央を両手で重ねて押さえるようにして顔を真っ赤にするミニーニャ。小さい頃にからかっていた時でも中々拝めないその変化に、聡いリルトットは「はは~ん」とニヤニヤする。が、変態の前で公開処刑する必要も無いだろうと、軽く手を叩いて話を続けさせた。

 

「で、何の話だ?」

「武器、武器。さっきミーも騎士団長に散々しごかれて今の状況なんだけど、それじゃなくってアレアレ、キュートなブルーのお手々から『生えて来る』鉤爪。

 アレって人骨でッショ?」

「嗚呼……」「まーなー」

 

 話ながら、リルトットは「この 11 年間」のことを思い出す。それはかつて、リルトットの聖文字や完聖体との訓練……、本当に真面目な話、頭バンビエッタではない意味での訓練であるが。その訓練において「食えなかった」彼の腕の霊子、というよりその「骨」にブルーが着目したことだ。

 それ以来、ブルー()は少しずつ戦闘時、主にバンビエッタによって爆散させられる自らの四肢やら腕やら胴体やらのパーツから、再生に使用する霊子を少しだけ残し、自らの「骨片」を集め始めた。最初は何をやってるのかとリルトットはドン引きしたし、ミニーニャは心が壊れてしまったのかと手料理を振舞い、あまり仲が良くないはずのキャンディスですら自分オススメの恋愛本を持ってきたりするくらいには、外見上病んでいた。バンビエッタ? 「そのままコンソメかテールスープみたいなのでも作るの?」と明らかに正気ではない。

 なお、事情を知っていたのはジジである。ある程度集まった骨片――――「霊的には」まだ生きているそれらを、滅却師の霊子操作能力で死滅させず残していたそれらをつなぎ合わせ、再形成し、左右それぞれ3つ指な鉤爪を二振り作り上げたのだ。そしてそれが出来上がった後、早々にジジに対して「埋め込んで!」と、これまた嬉々として持って行った始末。

 

 いくら事情を知っていたからとはいえ、ジジもこれにはドン引きするかと思われたが…………、意外な事にすんなり受諾した。

 

『ボク、バンビちゃんのこと大好きだけど君が毎回ボロボロにされるのは、心痛めてたからね…………。せめて剣とまともに戦える武器を作りたいっていうのは、大賛成! いいよ、身体に内蔵されてないと「霊的に」死んじゃうんだよね』

『…………なあジジよ、だったら最初からお前あの頭バンビエッタ止めりゃいいって俺思うんだけど』

『バンビちゃんって最近はブルー爆撃してる時の方が最高に輝いてるからね! ジェラルドとかと違って、ちゃんと「痛い」って少し苦しそうにするのが楽しいらしいし』

『そ、そうか…………』

『?』

 

 ジジのダブルスタンダードっぷりに引きつった笑みを浮かべるリルトットと、特に違和感もないらしいブルーであった。

 なおアメコミ知識があるアスキンやベレニケ、某マスク男からは「ウルヴァリ〇!?」「X〇MEN」と驚かれたりもしたが、閑話休題。

 

「あの爪にねぇ……、この間、ボクの『(ラヴ)』があっさり斬られるし、ミーの心も全然『伝わらない』し、ちょっと散々な目に遭ったから……」

「そりゃ朗報だなぁ、俺たちからすりゃ」

「そんな寂しいこと言わないでっヨ!?  ただ、ミーの『愛』が伝わらないってことは、そもそも愛がわかっていないか、愛そのものに『変な考え方』が染みついてるかだと思うのぉ…………。星十字騎士団(シュテルンリッター)1の愛の伝道師たるミー的に、由々しき事態! ってこと!

 で、肝心の彼はどこに……?」

「あー、それならなぁ――――――――現世」

 

 ワッツ? と。困惑するペペに、話は終わりだとばかりにミニーニャの食べ終えたパフェの容器を投げつけ、帽子の代わりにした。なお滴る白い液体なんだか半固形なんだかな物体やらジャムやらチョコレートやらが、ペペの絵面をさらに酷いものにしている。

 そんなにミー、嫌われることやったかな……? と。以前にバンビエッタを洗脳してそれはそれは酷いこと(爆撃)をした自覚のないペペは、寂しそうにその場で首をかしげていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 レンガ造りだったり、あるいは新興の商業ビルが立ち並び始めている時代のニューヨーク。治安的な問題はともかくとして、そんなこと関係なしに蒼都(つぁんとう)は、おつかいをしていた。

 今生における「はじめてのおつかい」である。

 別名、頭バンビエッタによる身の安全とか全く考慮されていないパシリ。

 

 その両手には「M」の文字が刻印された世界一有名と言っても過言ではないファーストフード店の袋が大量に。おおよそ 9 、10 才くらいの子供が持つにはかなりアメリカンサイズな量であり、やや足取りもフラフラしていて色々と危なっかし。それでもしっかり歩いている「ように見せかけながら」、蒼は飛廉脚で微妙に浮遊して安定をとっていた。

 

 そして、居た。背中や胸元、おへそのあたりなどやや露出が見られる、裾の拾いジーンズ姿の美少女。美少女から美女へと羽化しかかっている、成長期の肉体的ラインを持っているのが一目でわかる、バンビエッタである。

 彼女の周囲にはダンシングでオールナイトしてそうな時代を思わせる(※当時としてはナウなヤングの恰好)服装の若者たちが、モヒカン頭の男に引っ張られてバンビエッタから引き離されていた。

 

 そんなバンビと、“H-灼熱-(ザ・ヒート)”バズビーの二人へと歩み寄るブルーだが。彼が持っていた袋を二つ手に取ると、当たり前のようにバンビエッタはブルーの側頭部を蹴り飛ばした。

 倒れるブルー、そんな彼の腹を、靴を脱いだ生足でぐりっと置き、ぐりぐりとストンピングするバンビエッタである。蒼都本人は腹部を金属に変えているのでそこまでダメージはないが、どう考えても普通は一発で通報案件である。バンビエッタの嗜虐的な笑みが完全に大問題だった。

 この光景を見て、既にバズビーに引っ張られたナンパ男たちはドン引きしていた。

 

「おっそいじゃないのブルー、あなた。どこで道草食ってたってワケぇ? ……あっ、ハンバーガー美味しい。食べる?」

「え? えっと……、ぬぐ」

「はい、あ~ん? 間接キッスとか『まだ』気にしない年頃よね? 大丈夫大丈夫、まだまだサンドバッグ卒業は先よ先」

(ヒェ……)

「ほーら吐いたら駄目よー♡ はい、1♡ 2♡ 3♡ 4♡」

 

((何だこの人間の屑みてぇなカワイ子ちゃん…………!?))

 

 それはもうドン引きである。当たり前である。愉し気にストンピングでねじる回数をカウントしながら体重を圧迫し続け、その上で少年に無理やりハンバーガーを食べさせてる絵面はいくらなんでも酷すぎた。マ〇クへの壮大なネガティヴキャンペーンである。

 バズビーすら彼の仮聖文字があるから死にはしないと判ってはいても、どうしてこれを素直に受け入れるようになる前にどうにか出来なかったのかユーゴの奴……、とハッシュヴァルトへ苦々しい思いを浮かべる。

 自分の方を見て来るナンパ男たちに「わかったか? 次からは相手見てから誘えよ、な?」と同情しながら激励し、コクコクと激しく何度も頷いて逃げ出す二人に「頑張れよー!」とエールを送った。

 

 と、ナンパ男たちが尊い犠牲(?)にならず退散した後に気付いたバンビエッタは、不機嫌そうに何度もブルー()の腹を踏みつけた。

 

「あ、あ、も、ぅ! なんでせっかくのイケメンを逃がすのよ、あなた! せっかくキャンディに馬鹿にされないくらいには『経験』積めると思ったのにッ!」

「お前ちょっと自分の発言と普段の行動を顧みてから少しは物言えよ頭バンビエッタ……?

 おー、大丈夫か? ブルー」

「んく…………、ん!」

「無駄にせずにちゃんと食べたか! 偉い、偉いぞ!」

 

 踏みつけるのも飽きたバンビエッタが退いた後、ブルーを起こしながらその頭を撫でるバズビーである。もともと星十字騎士団、ないしはその王であるユーハバッハへと復讐を誓った彼であり、同格とはリルトットなど「話の分かる」連中――――ユーハバッハへの忠誠が絶対ではない連中を除いて敵やゴミ認定なのだが。それでも、いくらなんでも幼子からこのレベルの所業を常日頃から受け続けていた蒼に対しては、思う所があるのだろう。

 

 なお、そうやって褒められてるブルーに向けて、バンビエッタはきょとんとした表情。

 

「…………ねぇブルー、ハンバーガーあげた私に何かお礼の言葉とかないわけ!?」

(いきなり何言い出してんだこのバンビちゃんは相変わらず…………)

「………………あー、なんか悪かったな。俺の方とかで引き取ってやれなくて、当時」

 

 本格的な同情っぷりである。現時点において蒼都の扱いはユーハバッハないしハッシュヴァルトを経由している関係もあり、まともな考えをもったバズビーも意見出来ない状態にあった。

 ……なお一度ハッシュヴァルトと口論にはなったが、その際「…………こっちだって陛下に何度も言ってるんだバズ!」と、つい本音らしきものが零されたのが色々衝撃的だったりしたようだが、それはさておき。

 ブルー()は少し考えた後、バンビエッタへと確認した。

 

「えっと…………、間接キスの?」

「正解! ありがた~~~~く、思いなさいよね! “見えざる帝国”の一般滅却師共だったら垂涎(すいぜん)もので土下座確定なんだから!」

「マジで!? お前、そんな年頃の女の子みてぇな意識する神経あんのか!!?」

「でも、たぶんその、土下座してるところ真っ二つ? バンビお姉ちゃん」

「えっ? そりゃ、当たり前じゃない……? 気持ち悪いしそんなの土下座してまで求めてくる男とか…………」

「あー、わかったわかった。何でもかんでもその顔してりゃ誰も何も言わねぇ訳じゃねーからな……?」

「へぇ……? あなたの“H-灼熱-(ザ・ヒート)”とあたしの“E-爆撃-(ジ・エクスプロード)”、どっちの方が優れてるかいい加減決着をつけない?」

「帰ったらな! っていうか、仕事中だからなお前…………」

 

 いい加減疲れて来たバズビーに向けて、コーラを音を立ててズゴゴゴと飲みながらバンビエッタは周囲を見回す。

 

「そんなこと言ったって――――さっきのイケメン二人くらいしか来ないじゃない!

 本当にいるの? こんな場所に、『滅却師の生き残り』が」

 

 本日、現世での彼女たちに与えられた任務は。いまだ現世にて生き残りをはかり、残っている「かもしれない」滅却師の血筋の捜索である。

 基本的に「半霊体」、「器子」と「霊子」が重なった中間状態にある滅却師は、霊能力が高い人間にしかその姿を確認することが出来ない。……意図的にその濃度を調整することである程度は変化できるが、道に立っていたバンビエッタやバズビーはほぼ霊体状態だったのだ。 

 

 その上で声をかけて来たあの二人は、潜在的な霊能力は高いのだろう。だが、血筋ではない――――そもそも滅却師の純血であれば、バズビーによる背後からの軽い殺気当てに対して血装が走るだろう。その片鱗もないということは、本当に只の一般通過霊力高いサタデーナイトフィーバーだったのだ。是非そのままオールナイトして良いチャンネーを捕まえて欲しいものである。

 

 密かに、というか堂々と頭バンビエッタによる頭バンビエッタの被害者を救ったバズビーであったが、しかしそれはそうとブルーから手渡されたファーストフードを食べながら「味濃いな……」などと愚痴を言っている。現世任務など基本的に「目立つな」「滅却師と悟られるな」「死神や魔女に捕捉されるな」が基本であり、あまり派手に動けない。そうなると必然、楽しみは食事やらくらいになってくるのだが、その点ブルーが選んできたチョイスは中々絶妙だった。

 ビッグマ〇クのボリュームにはバズビーもにっこりである。

 

 だが、そんな程度で満足しない女が一人。決まっている。バンビエッタだ。

 

「飽きたわ。……あっそうだ! ねぇねぇブルー、あなたも飽きたわよね?

 じゃあ映画見に行きましょう! 映画! 最近の映画は凄いのよ~? 箱の中じゃなくて壁に投影されるんだから!

 ちょうどジジの聖文字と同じ名前の映画も上映開始! って言ってたし、行くわよ!」

「あ? オイちょっと待てお前、何目の前で堂々と仕事サボってんだ――――」

「いーじゃない別にッ!

 それに全員こんな場所にいたって、捕まるものも捕まらないわよ。どうせ人間なんて散り散りに好き勝手動いてるんだから。

 あ、ブルーはゴミ、片づけてから来なさいよねー! 券だけはとっといてあげるから♡」

 

 ご機嫌である。その勝気な笑顔とルンルンな振る舞いばかり見て居ればたいそう可愛らしい美少女であるが、言いながら自分が食べた後のゴミをまとめて足元に落として何度も叩きつぶしてからスキップしていく光景はあまりにもあんまりなものであった。

 オイオイと同情が激しいバズビーであったが、律義に片づけ始めるブルー()の姿に涙を禁じ得ない……。頭を撫でてやりながら、一緒にゴミの片づけを始めた。

 

「お前、蒼都(つぁんとう)…………、大変ならタイヘンって言えよ? 俺だけじゃなく、ユーゴだって気にかけてくれてっからな? ……あ、違う、ハッシュな」

「………………? あ、僕の名前か」

「オイオイ、ブルーって呼ばれすぎて自分の名前わからなくなりつつあるんじゃねーかお前……」

 

 言いながら、少しだけ耳に小声で。

 

「(…………あの現世の男たち、バンビエッタに寄ってったところで何も乱暴すらどーせ出来ねぇんだから、その『ちょっとはみ出た爪』は隠しとけ)」

「(あっ、バレてた)」

 

 悪びれる様子も無く、手の甲に這うように出現していた左右それぞれ三本の「小さい銀色の鉤爪」を、ブルーは「肉体の内へと」仕舞った。

 ため息をつくバズビーは、思わず聞く。

 

「まったく、何でお前そんなバンビにボロボロにされてんのに懐いてんだ……? リルトットから、家族が居たらあんな感じの髪とかしてたのかなーみてぇな話は聞いてるけど、もう十年以上経ってるだろ? 俺達の所に来てから」

「…………バンビちゃん、確かに頭バンビちゃんだし、クズだけど――――」

 

 

 

「――――性格は悪くないから」

 

 

 

「はァ!? いや、お前、それ…………」

 

 果たしてあの幼子だった少年がどんな精神的な変遷を経てこんな心境にたどり着いたのやら。胸を痛め、バズビーは今度こそユーゴと真面目に話し合えないかと決意を新たにした。

 

 

 

 なおそんな蒼都にとっての「性格が悪い」判定を受ける相手が誰かと言えば、バンビーズでよく蒼都のお世話をしているジジこと“Z-死者-(ザ・ゾンビ)”ジゼル・ジュエルであったりする。

 

 

 

 

 



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#007.剃刀系女子に寄り添える距離感

バンビちゃんが多少なりとも蒼都に心許し始めた描写として、これで良いのかどうか・・・
 
あっ今回から加入した彼については、例によってダイス結果なのであしからずです汗


 

 

 

 

 

「――――はぁ、帰った帰った。ハイ、ジジおみやげ~」

「何なのバンビちゃんこれ……? 映画のパンフレット?」

「そ! 丁度『公開直後』だったから、あなたの能力と一緒の名前のやつ」

「えぇ…………、ボクの“Z-死者-(ザ・ゾンビ)”の方がもっともっと綺麗なんだけど――――」

「あとネイルだったかしら? はい。

 ミニーは、この可愛い服! フツーに可愛いの選んできたから期待していいわよ!

 キャンディは一緒にいったし要らないと思ったけど、一応こっちでも見つけたからダブらなさそーなの買ってきたわ。ファッション誌と恋愛指南書とトレンドだったわよね? これで大丈夫かしら。

 リルは…………、とりあえず御菓子いっぱい買って来たわ!」

「ありがとうございますぅ……、ってサイズこれ昔のじゃないですかぁぁ!? こんなの今の私が来たら娼婦(コールガール)情婦(プライベートガール)ですぅぅ!?」「オッケイ! ダブりナシ。こーゆーのは外さないよなぁバンビは」「おぅサンキュー。色がドギツイけど」

 

「さーてと、じゃあブルーをボッコボコにしていきますか♪」

 

「「「「何で!?」」」」

 

 現世からの帰還後、口頭報告後にバンビーズの面々へ顔を出して早々これである。バンビーズがたむろしてる共同スペースにおいて(訓練場から場所を移した)、現世のお土産をそれぞれ適当に投げわたし(!)、その後にスキップルンルンにブルー()への襲撃予告を語る頭バンビエッタへ向けて、四人は思わず成大にツッコミを入れた。

 なお当人はきょとんとしている模様。解せぬ……。

 

「何でって……、ここ一週間は全然、あたしの“E-爆撃-(ジ・エクスプロード)”してなかったから?」

「いや、それを日課に考えるの、ちょっと止めてやれよって……。俺でさえちょっと同情するぞ」

「ジジも何か言ってあげてくださいぃぃ! 私も、ちょっとお疲れのところブルー()が可哀想って思いますぅっ!」

「プリプリ怒っててミニーもだいぶ可愛くなってきたねぇ~。まぁボクは、ほら、バンビちゃん全肯定マシーンだし」

「どうでもいいけど、情報文書(ダーテン)まとめてるの誰だって話なんじゃね? バンビお前さ、たぶんブルーに放り投げてきたろ」

 

 キャンディスの一言に「あったり前じゃない!」と胸を張ってドヤッ! と得意げなバンビエッタ。なお誇ってる内容を言い表すと「現世での調査任務の結果報告を年端もいかない普段から爆撃(誇張無)しまくっている子供に書かせ」「あまつさえ書き終わっていないだろう今の段階でさらに爆撃するためだけに連れて行こうとしている」になる。バンビエッタの頭バンビエッタすぎる冒涜的(教育的な意味で)所業を前に、4人はSAN値チェック(正気と良心を咎めた)。バンビエッタと比較すれば、4人には確かにそれなりの良識があるのだ。あるだけで活用される機会は限られてはいるが。

 

 そして肝心のバンビエッタは「そんなのその気になればテキトーにすぐ書けるじゃない? 見聞きしたのを適切にまとめるだけでしょ?」と心底不思議そうである。書類仕事を軽く見ているかのような発言であるが、全くそうではない。嫌味でも何でもなく、例えばブルー()の身体的な耐久度の上昇率やら何やらについては、彼女が意外と筆まめにまとめ考察すら添えて、その資料をキルゲに提出しているのだ。流石のキルゲですら出された書類の細かさと考えの具合の深さに「本当にバンビエッタ・バスターバインが書いたのでしょうか?」と疑うレベルだった。なお走り書きに「次からはもっと内臓をメインに爆撃すること! タノシー!」といったようなものがあったりするため、その疑いに意味はないが。

 そうつまり、実際このバンビエッタは「仕事として与えられた作業」に関しては、意外な程かなり真面目に取り組み完成させる気質である。ある種のプロ意識なのか、集中力が飛びぬけているということか。また仕事時のみにおいてだが、異様なほど面倒見が良く、怒らず共感し、何も知らない一般滅却師のハートを射抜いていたりすることも多いのだが、それはまた別な話。

 

「ちゃんと書き方は教えたし、上手くまとまってないか後でチェックするし、駄目な書き方してたら次からどうやったらうまく書けるか一緒に考えて上げるわけだから、多少『爆発四散させても』問題ないんじゃない? あたし」

「何でそういう所はきっちり面倒見が良いのかってお前は……」

「バンビちゃんだからねぇ……、ってミニーニャ? …………あっ駄目だバンビちゃんが凄い所見て、意外すぎて硬直しちゃってる。でもほら、ミニーニャも仕事教えてもらってる時、バンビちゃん全然怒らなかったじゃん? そーゆーこと、そーゆーこと」

「そーゆーのを普段からやってたら、バンビだってすぐイケメンも寄ってくるだろうにさぁ」

 

「いやだって、仕事は…………、ちゃんとやらないと。あと別に、普段だってヘンなことしてないじゃない、あたし」

((((それは本気で言ってるのかこの頭バンビエッタ・バスターバイン))))

 

 果たしてそんな四人がバンビエッタの頭バンビエッタな言動を止めることが出来たか否かと言えば…………。数時間後、訓練場が火の海に晒されている状況が全てを物語っていた。炸裂する音と共に、飛び散る人体。霊圧の漂い方や周囲の温度上昇の仕方の違いから、“H-灼熱-(ザ・ヒート)”ではなく“E-爆撃-(ジ・エクスプロード)”が発動していることは間違いなく、近くを通りかかったベレニケは両手で顔を覆い「強く生きろ……!」と蒼都(悲しい目をした標的)へとエールを送って遁走した。

 

「ブルー、凄いじゃないの! あなた、段々あたしの“神の癇癪(ヤルダハトケフ)”でも内臓が飛び出ないようになって来て! これならミニーの“P-力-(ザ・パワー)”お腹に喰らっても分解(ヽヽ)しないで済みそうね!」

「――――――――――――」(※爆発音で掻き消されてる)

「えっ何? 何言ってるか聞こえないんだけどー! ちゃんと大声で言いなさいよ、ブルー!」

 

 無茶を言いおる。

 自らの滅却師完聖体を使用し、空中から羽根より落ちる霊子の塊を用いて雑な爆撃を繰り返すバンビエッタ。最近は訓練場の補修側もいい加減慣れて来てしまったのか、初めからバンビエッタの爆撃に「ある程度耐えられる強度」で作成するようになっていた。彼女の頑張りが無駄に滅却師の王国へと影響(迷惑)を与えているのだが、当の本人は「えっ当然でしょ?」という振る舞いである。

 なお蒼都に言わせれば「限度がある」「最低限、話を通して許可をとってからお願いするべきじゃ」となるのだが、実際は裏側で陛下から許可が下りていたりする。当然彼は知らないので、色々とまぁ強く生きる他ないのだった。

 

 そして、爆撃が一通り終了した後。つまりバンビエッタが「飽きて」完聖体を解いた後であるが。爆撃後の霊子の煙の中から現れたシルエットに、「は?」と眉間に皺を寄せた。露骨に嫌そうな顔である。

 

『――――バンビエッタ・バスターバインのこの爆撃力、通常の耐久試練としては過酷なものだな。蒼都はよく耐えている』

 

 そこに居たのは、全身白装束に「鉄甲冑(プレートメール)」のようなものを装着した何者か。その相手を見て「何で乱入すんのよ、ロボ野郎」と舌打ちするバンビエッタ。

 こしゅー、こしゅー、と当時からすれば一昨年ほどかに公開された宇宙戦記(スペースオペラ)映画の敵将軍的な独特な呼吸音を散らすその存在に、蒼都少年は目をきらきらさせた。

 

「べー、げー!」

BG9(ベーゲーノイン)だ。正式名称での呼称を期待する』

 

 彼こそは蒼都やらバンビやらバズビーやらが現世で見つけて来た「新たな仲間」、つい先ほどユーハバッハより仮聖文字を与えられた滅却師……、滅却師? BG9(ベーゲーノイン)であった。

 なお初対面の時点でそのまんまダ〇スベイダ〇のコスプレめいた格好をしていたところを発見されており、こちらに来る際に『同系統の装備がないだろうか、確認させてもらう』と衣装を変えていた。なので「景観に合う」騎士風の恰好になっているのは完全に彼の趣味かセンスで、その素顔すら定かではない。その前後の受け答えに人間味がなさすぎたせいで、バンビエッタからはロボ野郎呼ばわりされているが、それはさておき。

 

 爆撃を中断したバンビエッタはそのまま足早に駆けて来て蒼都を抱き上げヘッドロックするように抱きしめ(というより本当にヘッドロックである)、その体勢のままBG9へと詰め寄る。

 

「あなた、ロボ野郎ねぇ。何あたしがブルーと訓練(ヽヽ)してるのに割って入って来てるのよ! 大体あなた一般兵じゃない、何騎士団専用訓練エリアまで入って来てるわけ?

 巻き込まれたら死ぬのはあなたかもしれないけど、粛清されるかもしれないのは、あたしとブルーなのよ!」

(心配するところが心配するところだし、さり気なく僕まで巻き込んで……。バンビちゃんはいつも通りバンビちゃんだなぁー。

 おっぱいは大きくなってきて、頭の裏の感触は悪くないけど)

 

 もはや蒼都の心は凪である。例によって首を“Σ-鋼鉄-(シデロ)”で頑丈な金属に変換して気道を確保しているブルー()だが、しかしBG9を見る目は不思議そうなものだった。

 

『ブルー? 個体の名称は蒼都(つぁんとう)、ないしは(つあん)であるべきと考えられるが』

「だって、恰好悪いじゃない!」

『それは一体何を基準としたものなのだろうか、バンビエッタ・バスターバイン。基準となる概念を提示してもらえなければ、こちらも判断を下すことが出来ない』

「そんなの、えっと…………、スペル(英文字)で綴ると余計なアルファベット入るのが嫌だし、あたしとしてはキレイに見えないから」

『それはあくまでバンビエッタ・バスターバインの考え方だろう推測する。感想の強要は良い事ではないと――――』

「あーもう煩いわよ、そんな話ミニーが小さかった頃に凄い怒られたから、だからニックネームなんじゃない」

(今でも時々改名を勧めて来てるんだよなぁ……、ブルー・ビジネスシティへ)

「何か文句でもある? ブルー」

「! な、何も言ってないよ、バンビお姉ちゃん」

『そういう強要は一般には虐待と米国社会で学習した』

「な、なんですってッ!?」

 

(それはそうとBG9……、こっちの方だとシャウロンっぽくないし、別人扱いなのかな? いや、まだ何か今後の動きを見ないとわからないけど。文字も僕みたいに仮らしいし)

 

 ブルーがそんな風に一人、内心で原作BLEACHとの違いについて考えていると。

 

「つれぇなー、当然のことを指摘されちまってつれぇつれぇつれぇ、つれぇぜバンビエッタ!」

「は?」

「うぐッ」

 

 揶揄う様なテンションで、実は意外と真面目な話をしようとやってきたドリスコール・ベルチの顔面を八つ当たり気味に爆破一発。クリーンヒットして気絶させた彼を特に退けることも無く、存在すら無視し始めたらしい。あれから十年以上経っているのだが、いまだに根に持っているのだろうか。

 そしてその怒りの矛先はBG9にも向き――――しかし、その足元に形成した霊子の球体(ボール)を雑に蹴り飛ばした一撃は、BG9の「片手剣」によって切り裂かれた。

 

『バンビエッタ・バスターバイン。星十字騎士団(シュテルンリッター)内の情報群(ダーテン)通りであると納得した』

「は? 何それ。あなたの霊子兵装?」

『肯定する。我が仮の聖文字“I-騎士-(イポテス)”による、不屈の騎士の象徴だ』

 

 気が付けば右手に片手剣、左手には円形の盾。ジェラルド・ヴァルキリーが剣闘士であるとするならば、こちらは外見通り完全な騎士スタイルの完成だ。むしろオーソドックスすぎて味がないくらいである。のちの武装群(キャノンやら触手やら)からすれば乖離が甚だしい事極まりないが、文字が「まだ」違うなら仕方ないかと蒼都は一人勝手に納得していた。

 

『これにより、私の肉体は例え損壊しても「代用品」で代替えできる。騎士の意志は残り続ける、という解釈が成り立つようである』

「へぇ? じゃあ、あなた――――こんなにあたしを怒らせたんだから、バラバラにされても文句ないわよねぇ?」

「……! べーげー、逃げて! 僕が受け持つ!」

『肯定不能。この組織の良識を疑う』

 

(まぁ元々アレな集団だしこの滅却師の軍団って。そういう貴方も最後は命惜しすぎて色々アレになっちゃうんだけどね……、悲しいなぁ…………)

 

 バンビの腕から頑張って逃れてBG9の前に立ち、両手を広げて庇う姿勢のブルー。まだまだ小学校低学年程度の年齢なので一見すれば愛らしいのだが、対するバンビエッタの顔が恐ろしい事この上ない。BG9もまだ騎士団の色々と腐ってる(?)空気に慣れていないせいか、まだ良識がある発言である。

 

 そしてそんな状況でバンビエッタの剣が「炎を纏い」振り下ろされそうになった瞬間、それ目掛けて「ギザギザした口のような形状」の鏃な神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)が放たれた。がぶり、と刀身に噛みついたそれは、一瞬にして「炎を喰らいつくした」。

 カン、と蒼の銀色の額に、バンビエッタの曲刀が激突する。

 

 ちらりと横を見るバンビエッタ。そこにはいつの間にかやって来ていた、リルトットが自らの弓を構えて苦笑いを浮かべていた。

 

「何よ、なんで邪魔したのよリル」

「いや流石にお前、自分で勧誘してきた奴を自分の手でざんばらりんは拙いだろって。それこそ俺でなくても止めるよ。粛清されないにしても、ペナルティ喰らうだろうって」

「…………ッ!」

 

 その一言に瞠目し一瞬身震いをしたバンビエッタは、そのまま剣を仕舞い、ブルー()の手を引く。動揺するブルーの素振りなど確認せず、急ぎ足のように訓練場から立ち去る彼女に、やれやれとリルトットはため息をついた。

 

「お前も悪かったな、新入り。アレでバンビはともかく、ブルーは悪い奴じゃないから、まあ程々に見てやってくれ」

『程々というのは不明だが、なるほど…………。ここは低い人間性の集団の巣窟ということは理解した』

「は? 食い散らかすぞ?」

 

 すっと「変形した」口元を見せたリルトットに、BG9は思わず後ずさった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「失礼いたします陛下……、お眠りですか? ハァイ」

「…………嗚呼、キルゲか。良い、その場で。今、夢を()ていたところだ。だが、呼び出したのはこちらだ、そう怖がる必要はない」

「恐縮です。…………それはそうと、少々ご相談したいことが」

「嗚呼、わかっている。ブルーについてだな」

「はて……?」

「…………む? そうか『まだ』か。ならば蒼都のこと、バンビエッタとのことか」

「お察しの通りです。騎士団長(グランドマスター)並びにバザード・ブラックより嘆願が行っているかと思いますが、今一度私めもそれに賛同いたします」

「そう焦るな、と言っても納得はしないか」

「陛下のお考えのこと、余程深い事情があっての『あの』待遇なのだと、このキルゲも考えてはおりますが、その部分につきましていまいち…………。ロバート・アキュトロンとの教育方針についての打ち合わせなども、どこまでこちらでフォローするのが正しくあるかというのも含めまして、ハイ…………」

「気を遣わせてしまっているな。だが…………、あれはそう『歪まない』からな。複雑に考えなくても良い。ただ在るが侭を見て、在るが侭に考えていれば」

「在るが侭、ですか」

「…………あの蒼都の故郷。滅却師としての能力など関わらず、現世、かの国での革命(ヽヽ)で多くの命が堕ちた。蒼都もまた、本来ならその一人であった。

 私の元に運ばれたあの魂は、既に器子との有りようが乖離していた。すぐにでも我が帝国に受け入れるか、それとも『回収し』眠りにつかせるか。あの年代で、あの傷、あの大やけど、あの『拷問具合』……。私も山本元柳斎重國(あらゆる悪性を詰め仕込んだ鬼)ではない。一思いに、眠りにつかせてやるのが正しいと、そう考えた」

「………………」

「だが、違った。事はそう簡単に進まなかった――――あの子供は今際の時、我が聖別(アウスヴェーレン)を前に、自らの身体より『奪われた』滅却師の力を、それにより発生する『静止の銀』による死を、『自らを静止の銀』とすることで回避した」

「……………………はて?」

「フフフフ、お前もそういう顔をするか。私とて、さほど違いはあるまい。

 そう、あの子供は……、おそらく完現術(霊王に由来した力)なのだろうが、自らの手で自らの命をつなぎ留めた。流れ込んでくる辛く、痛い『だけ』の記憶をものともせず。

 私は問うた。到底耐えられるものではない。記憶だけでもそのおぞましさを理解した、その上で滅却師としての『霊的な生存力』すら奪われてなお、みずからのその生に執着するのは何故かと」

「それは、一体…………」

「死にたくない、だ」

「……ハァイ?」

「死にたくない、と。それだけを、食いしばるようにして言ったのだ、あの子は――――本来なら『逃げおおせ』、後に成長した姿で我が帝国に入る可能性もあったあの子供は、しかし巻き込まれて死にかけながらも、それでもなお自らの死への恐怖から逃れんと、無駄に足掻いたのだ!

 これを笑わずにいられようか、キルゲ。これを笑わずにいられようか、キルゲ! 嗚呼そうとも。『恐怖無き世界』において、最も必要なものはこれだ。この感情だ。これが無ければ誰しも自らが何であるかを忘れてしまうだろう。

 故に私は祝福することにした――――その魂の根幹に見えた、わずかな『視えなかった』不滅への道を信じて」

「それは、いささか…………、陛下らしくないと言いますか。いえ、私ごときが陛下の御心を計れるとは思えませぬが」

「私もその自覚はあるがな。だが命を捨てさせるにせよ、その意志だけは忘れてはいかぬと思い直したのだ。我らは、仲間なのだから――――」

 

 なおそうは言っても必要があれば躊躇いなく当然のように聖別を実行するのが、このユーハバッハである。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 どちらがブルー()を洗うかという話で勝負をしかけたミニーと、珍しくキャットファイトで済むレベルの戦闘をしたバンビエッタ。結論から言えば年の功なのかバンビエッタの勝利であったが、そんな彼女は洗い終わったブルーを抱きつぶすようにベッドで俯せに。

 なお仰向けで若干息苦しそうにしてるブルーであったが、バンビエッタの身体的な柔らかさを全力で味わうため鋼鉄化してないあたりは、中々良い根性している。

 

 もっともそんなブルーだったが、突然ぶつぶつ言い始めたバンビエッタには目を見開いて驚いた顔をする。普段ではついぞ見ないような、恐怖で塗りつぶされたような。それこそちょうど現世でパニック映画を見て来たせいもあってか、その劇中に登場する「食い殺される」人物のような動揺っぷりである。無理に強く抱きしめられるブルーは、彼女の反応を伺った。

 

「大丈夫よね、あのロボ野郎、全然死んでないし……、ブルーだって死んでないし、キルゲのオッサンから任せられた仕事はちゃんとこなしてるし、ブルーのお仕事だってちゃんと観てるし、アドバイスだってしてるし……、殺されないわよね、うん。殺されない、殺されない、大丈夫、粛清されない――――」

「バンビ、お姉ちゃん……?」

「――――ッ!」

 

 瞬間的にとっさに蒼の顔を爆撃するバンビエッタ。もっとも彼も彼で慣れているのか、既にその顔面はメタリック極まりない状態でダメージを回避していた。そんなブルーに力なく笑って、バンビエッタは横になる。

 

「…………そうよね、あなたは『死なない』のよね、簡単には。

 こんなクソみたいに弱い姿とか、誰にも見せられないし、見た奴がいたらフツーはぶっ殺してるけど…………、あなたは、逃げないし、言わないし」

「?」

「……本当は判ってるのよ、あたしだって。皆、あたしの陰口言ってるのだって。ミニーもあなたをあたしから引き離そうと最近は露骨だし、リルとキャンディだって『あたしの方から』無理に、寂しくて乱入してグループになった感じだったし。

 ジジはなんか、よくわからないけど」

(その警戒心の無さは色々危ないというか、流石後のゾンビエッタちゃん……)

 

 割と失礼なことを考えている蒼だが、外見上は混乱している表情のままなのでその内心は伝わらない。珍しく気の抜けた顔で苦笑いし、バンビエッタは目を閉じて。

 

「………………でも、怖いもん。あたし、だからこんなクソみたいな生き方しかできない。そんなの、しょーがないじゃないのよっ」

 

 そんなバンビエッタの手を、蒼は自分の小さな手で握り返した。

 その感触に驚いたように、バンビエッタは目を大きく開く。

 

 対面の蒼は、相変わらず前髪で隠れ気味の、まだくりくりとしている目で見つめ返していた。

 

「大丈夫」

「……何が?」

「なんか、良く判らないけれど、大丈夫」

「………………」

 

 一瞬、また爆撃モーションに入りかけたバンビエッタだった、続く蒼の言葉に、その気はなくなった。

 

「――――バンビちゃんがどんなでも、僕は、傍にいてあげるから」

「――――――――」

 

 その一言に、最初はその頬が嬉し気に歪み。しかしヒクヒクとした後、大声で笑いだした。アッハッハと笑いながら、彼女は手を放し、横向きになった蒼の肩をもって、自分の額をくっつけて。

 

 

 

「本気で言ってるのよね? 本当よね? じゃなかったら全部ぶっ飛ばすわよ? あなたにあたし以外なんて誰も目に入らないようにしてやるんだから、リルなんかに『こんな』サンドバッグなんて渡してやらないんだから。絶対、絶対、私の傍を離れちゃ駄目だから、離れるんなら最後には帰ってこないといけないんだから、サンドバッグに断る権利なんてないのよ? 当たり前じゃない、いい? ブルー。そもそもそれが出来ないならそんな無責任なこと言わないわよね? 粛清されそうになったら庇って一緒にいてくれるんでしょ? 性的なそれじゃないってのはわかってるし、そうだったらぶっ壊すし、でもそう考えると本当に死なないんだったらあたしのそういう突発的な――――」

 

(ゾンビエッタじゃなくても怖いよこのバンビちゃん…………)

 

 その後、朝まで延々と病んだ発言を繰り返し続けるバンビエッタに、蒼都はその手で頑張って抱きしめ返すしか返答の方法はなかった。

 

 なおそれでも役得だとか思っているので、蒼都の人格は案外たくましいのかもしれない。ただ、殺され続けて限界値がぶっ壊れた可能性も高いのが玉に瑕である。

 

 

 

 

 



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#008.番外編:THE FLAT

前回の番外編の続きです。将来的にこうなるよ? と、予定みたいな話です汗
例によってダイス結果で展開決めてる感じですが……、バンビちゃんここまで頭バンビエッタじゃなかったはず(震え声)





 

 

 

 

 

 多くの声が飛び交う瀞霊廷において、ある者は恐怖の悲鳴を死神にあげさせ、ある者は音もなく黙々と片づけ、ある者は堂々と張り上げた声と拳とで死神たちに接敵している中――――。

 

 

 

「――――ふっ、やああああッ! はっ! よ! やぁっ!」

 

 

 

 ひときわ元気な声を上げる少女の滅却師が一人。尸魂界への滅却師の王国による進行の、これはほんの一つ。主に男性の死神で構成されているその隊………彼女にとっては何一つ興味がないのだが、その死神の部隊を次々と通りすがりに切り裂いていった。基本的な斬術やら格闘術やらが追い付いている訳ではない。純然たる才能と、霊圧の差であった。

 ぐああ! といったような声が次々と彼女の周囲に飛び交い、特に気にした様子もなくただゲームでもするように楽し気に死神を切り裂く少女。ある者は首、腕、脚、胴体。確実に一撃で再起不能どころか生存不能になるよう、徹底したその殺しぶりは何かしらのプロ意識が働いたものか。

 

「いち、に、さん、よん、ごー、遅い遅い! 遅いわアンタたち、それでよく護廷十三隊なんて大層な名前とか、名乗ってらいられるね! 情報(ダーテン)通りだけど、全然足りないわよ!」

「この小娘、舐めとるんじゃないでぇ!」

「射場さん!?」

 

 独特な釘打ちでもするように部分が飛び出た斬魄刀が彼女の背後から振り下ろされるが。

 

「? 何で自分の位置知らせる訳?」

 

 当たり前のようにその一言と共に、軽く振られた腕の軌跡が「爆裂して」、それが彼の鳩尾に直撃した。炎と、ゼロ距離での猛烈な衝撃――――。射場鉄左衛門は少女の軽々とした動きに翻弄され、そのまま後方へと弾き飛ばされた。

 だが、それでも「死んでいない」。それは、少女の動きに委縮しはじめていた周囲の隊の人間よりも、彼女の好奇心を刺激したらしい。

 

「へぇ? 少しはやるみたいじゃない、オジサン。けれど残念だったね――――そんな程度でこのあたし、バンビエッタ・バスターバインちゃんを倒そうなんて百年早いよッ!」

  

  

 

 星十字騎士団 “E-爆撃-(ジ・エクスプロード)” バンビエッタ・バスターバイン

 

 

 

 自分の胸に手を当てて、堂々と宣言する少女である。もっとも彼女に「育てられた」青年がこの場にいれば「バンビちゃん、霊基準だと百年なんてあっという間なんじゃ……」などとツッコミが入る事必須であったが。

 まあこの場においては、彼女は敵である。気に障ったらそれこそ何を仕出かすかわからず、またそれを指摘する程野暮な相手もいなかった。

 

 そして当然のようにまた惨殺ないし処理(ヽヽ)作業に嬉々として戻ろうとする彼女だったが、その腕が掴まれた。力強く、しかしどこか妙な握られ方をしたと認識したバンビエッタは、ふと視線を上にあげる。

 自らの頭上より見下ろす、恵体巨躯の犬顔がそこにあった。

 

「こんな少女までもが、賊軍の戦士なのか……っ」

「本当にワンちゃんじゃない、こんなワンちゃんも駆り出さないといけないなんて、随分人手不足なんだね! 尸魂界ってッ。

 ねぇ『狛村左陣』隊長さん?」

「ッ!」

 

 知られている。たかが自らの名前、と軽く考えることはできない。この少女の発言には、突如襲われた尸魂界の側として、看過できない情報が多く含まれていた。

 だがその思考を整理する暇もなく、少女は愉し気に剣を連撃してくる。

 

「は、ふ――――やッ!」

「小癪ッ!」

 

 少女の斬撃の軌跡がそのまま霊的な刃――――滅却師であるからには矢なのだろうが、それに複数分解され、狛村を襲う。数本刺さったそれを無視する狛村。致命傷のみを斬り払い、大振りにした自らの斬魄刀を振り下ろした。

 

 その一撃を、少女はひらりと躱すと。ごくごく当たり前のように自らの目の前に形成していた球状の()を彼へ目掛け軽々と蹴り飛ばす。

 

「――――あはっ」

 

 切断された球はまるで「最初からそうであったように」、内部から霊子の煙、ないし霧を放出。砕けた霊子自体が変化したそれを、狛村はおろか背後の死神たちも浴びざるを得なかった。

 途端、狛村の眼前が爆発――――。

 

「隊長―――!」

「――――狼狽えるなッ! かァ!」

 

 煙を振り払うように飛び出た狛村であるが。

 

「やあッ!」

 

 当たり前のように空中で回転し、振り下ろされた少女の刃と正面から撃ち合う。

 まだしも、その刃の峰側から「炎が噴出し」、拮抗していた状況を彼女の側へと好転させた。

 

「轟け、『天譴』―――― !」

「あら?」

 

 だが狛村とて只でやられるわけはない。自らの斬魄刀を解放し、その準物理的な一撃を「巨大な明王の一撃」とする――――。結果、少女のブーストされた刃すら押し返し、彼女の腕を切り落とした。

 ――――落した、はずであった。

 

「何…………、だと!?」

「ふぅん、流石に隊長となると伊達や酔狂じゃないのねー。『ブルーが』言ってた通りというか、ちゃんと情報(ダーテン)読んどいて正解だったよ」

 

 斬られた服の袖には切り傷があるが、それだけである。体表面に青白い線のようなものが浮かび上がり、それが少女の体表面の霊圧密度を変化させ、狛村の一撃が通るのを強く防いでいた。

 仮にも隊長格、卍解せずとも相応に鍛え上げられた霊圧を、しかし少女は当然のように受けた「だけ」であった。

 

「…………あら? ミニーあの子、全然仕事してないなー。駄目じゃない、粛清されたら私でも庇いきれないのに。私、別に重要な役職ついてるわけじゃないし、ちゃんとここが終わったら言いに行かないと」

 

 ぶつくさとあらぬ方向を見て、文句を言っているバンビエッタ。明らかに彼女にとって、自分たちは眼中にない――――下手をすれば「敵として」すら考えてすらいない。少女が癇癪で八つ当たりするような、そんな軽い気持ちで仲間を屠られているかもしれないという事実は、狛村をはじめ七番隊の面々に強い怒りを抱かせた。

 

 

 

「已むを得ん…………、卍解を使うぞ」

 

 

 

「な! 隊長それは――――」

「わかっておる! だがこの少女は、その身目麗しい微笑みで持って我らが同胞を! 仲間を! 共に護廷の人を負った頼るべき戦士を嘲笑し亡き者にした賊! 断じてこのまま返す訳には行かぬ」

 

「そして、卍解を使わず勝てる相手ではない――――ならばこの狛村左陣、賊軍への急先鋒、一番槍を務めてくれようぞ!」

 

 戦意、良し。同時にこの判断は、他の隊長もするとは思っていない狛村ではあった。自らの様な直接攻撃系故に、使用するにもデメリットが大きい卍解だからこそという意図もあり、そして彼は霊圧を高め開放する――――――――。

 

 

 

「卍解・『黒縄天譴明王』――――」

「――――ふふッ♪」

 

 エンブレム状のそれを手元で展開すると、まるでそうなるのが当たり前のように、狛村の斬魄刀が「何かが抜け落ちた」。

 背後の巨体から何かが抜けていく。ばらばらと砕かれた霊子の塊は、その内側にある霊体「そのものに」干渉し、黒くすすけた色へと無理やり染め直されて、吸い上げられた。

 

「天譴……! どうした天譴! 貴公の声が、聞こえぬ……!」

「ホント、馬っ鹿みたい。目の前で何があったかなんて、察するくらい出来るでしょう?」

 

 困惑する狛村を、バンビエッタはそれこそ愉し気に笑う。

 

 

 

「卍解を、奪われた――――!」

「これでワンちゃん隊長さんの卍解は、あたしのもの。

 まー、あんまり馬鹿にすると『ブルーが』煩いし、文句は言わないでおいてあげる」

 

 

 

 直後、鬼道伝いで走る伝令により知らされる、敵のその力の正体。卍解を奪い取るというものは、あまりにも他の隊士の士気に影響した。

 

「をのれ賊軍めが……! 尸魂界へ侵攻しただけでは飽き足らず、我らと斬魄刀との絆すら奪おうと言うのか!」

「『屈服』させておいてそれはないんじゃない、かな? 詳しくは全然知らないけど。

 それじゃっ! 続きといこうかワンちゃん隊長さん!」

 

 斬りかかる少女はやはりどこまでも楽し気で。それ故に、狛村も覚悟を決める。

 大声をあげて隊士を散らした後、自らの斬魄刀に込める霊圧を上げ「明王鎧」その腕を召喚。

 斬魄刀との繋がりが完全に切れているわけではない。わけではないが――――。

 

 自らと同調したその刀の深奥より、その刀の「本来の在り方」を引きずり出すのが卍解である以上。それと同時に引き上げられる使用者の霊圧が不足している事実に、変わりはない。

 

(この少女……、元柳斎殿のような力だと? しかも妙に「器用な」真似をする……)

 

 狛村の推察通りならば。少女は刀を振るう際、小刻みに刃を爆裂させ、その周囲に「気流の渦」を薄く、しかし高速で造り出している。それが徐々に徐々に、物理的に狛村の斬魄刀を削り始めていた。

 あたかも刀に纏わせた炎で、時に斬魄刀すらへし折る山本元柳斎重國を思わせる、それを、不意に幻視する狛村。

 

「く、かああああッ!」

「あら? よっと」

 

 だが、その程度で引けを取る相手ではない。当然だが山本元柳斎に比べ、少女のそれは何もかもが拙い。尸魂界史上「最強」と呼ばれる死神であるかの恩人のそれに遥か遠い。だからこそ隙もあり――――しかし少女は、それすらまるで「普段から」戦い慣れているように、自らの体表面を再び「硬化した」。

 物理的に殴る形になり遠方に弾き飛ばされた彼女は、しかしその場で不意に遠い目をする。

 

「あら?

 …………そう、頭が変なニケ(ヽヽ)の奴、死んだんだ。ゴリラはともかくアイツまでねぇ。最近はリルとも戦えるようになってきたっていうのに。

 ブルーは……、相変わらずね。うん、大丈夫、大丈夫」

 

 でもニケどんなバケモノ相手にしたんだか、と。少しだけ言いながら、少女の声は震えていた。

 

「…………まぁ良いわ。なら、せっかくだし『肩慣らし』をしてもいいし?」

「……? 何をする気だ、少女よ」

 

 ふふん、と得意げなバンビエッタは、そのまま先ほど狛村の卍解を吸った円盤――――星章片(メダリオン)を構えると。そこから迸る黒い影の霊圧に、まさかと狛村たちが息を呑む。

 

 

 

「――――じゃじゃーん、ってね?」

 

「明王……!」

 

 

 

 眼前に現れたその巨体を前に、自らの相棒たるその斬魄刀の姿であるはずのそれが、敵の側に回っている状況に。

 飄々と振り下ろされる拳、薙ぎ払われる隊士、潰される隊士。喜ぶべきはそれが彼女の能力だろう火炎、もしくは爆撃に関係しない、純物理的な攻撃にとどまっていることか。

 

 試しにとばかりに、現れた巨大な明王の指先から爆炎を放とうとして――――。

 

「熱ッ!? やっぱ駄目? えー、そうなんだ『そういう能力』なの。それこそアタシよりゴリラとか殺しまくり(笑)にでも渡した方が良かったじゃない。

 まあワンちゃん隊長さんには合ってると思うけれど――――――――」

 

 明王の指先を巻き込んだ爆裂により、その余波「ではない」、シンクロした故にその身に負ったダメージで指先を撫でてるバンビエッタだったが。

 突如として吹き上がった炎の柱に、言葉を失う。

 

 

 

 狛村達だけではない。明らかに、瀞霊廷に先ほどの頬のが迸った結果、その全体の空気が変わった。否――――。

 

 

 

「うおおおおおおああああああああッ!」

「ひッ!? って、な、何よワンちゃん隊長さん……?」

 

 炎を始めとして周囲を圧迫するような、ある一か所から放たれ続ける熱気を帯びたような霊圧に、それに呼応するかのように叫んだ狛村に、バンビエッタは一歩引いた。

 構うまい、狛村は叫ぶ。自らの仲間に、自らの隊士を鼓舞する。

 

「立て! 皆、立つのだ! 元柳斎殿が立っておられるうちに、早々に横たわることは! 護廷隊として在りうべからざる恥と心得よ!」

『――――ッ!』

「我らは護廷十三隊! この瀞霊廷を鎮守し、賊を打ち払うのだ!」

『押、押、押押押押押ォ――――ッ!』

 

 湧き上がる声、闘志。ここよりは、狛村の意志に準じる死兵――――。

 いわゆるゾンビの様なそれとも違う、刺し違えてでも「お前を殺す」という、護廷隊設立の理念のそれが、正しく山本重國の霊圧に触発される形で、この場に満ちた。

 

 それに困惑するのはバンビエッタである――――基本的に彼女の行動原理は、大半が「死への恐怖」に裏打ちされたものであるのだから。故に、眼前の彼等の有りようには、困惑とわずかな恐れが垣間見えた。

 

「……何、何? ちょっと、さっきまで全滅寸前で目が死んでるときのブルーみたいだったのに、どうしったってのよちょっと――――」

 

 

 

「――――士気が回復したってことでしょ、バンビちゃん」

 

 

 

「何奴ッ!」

 

 頭上よりした声に狛村が吠える。そこには白いローブを被った滅却師が一人。途端、明王の右腕が「凍り付いた」。まるで紫ではあるが、氷の竜がその箇所だけを覆い纏う鎧となったように――――。

 馬鹿なと。その龍には見覚えがある狛村であるが。だとするのならば現在の自分たちの状況に加え、そんなものを持っている滅却師が来ているとするならば。

 

 一方の少女は、バンビエッタは彼の出現に表情を明るくした。「ぱあぁ」、とでも擬音で表現できそうな喜色満面である。

 

「あっ! ブルー♡ ブルー♡ ブルーじゃないのッ♡」

 

 まるで恋人に向けるような満面の笑みであったが、そんな彼女の様子を見て青年の口元は引きつる。そしてまるで恋人を抱きしめに行くような軽い足取りで接近した彼女は。

 

 

 

「――――えいっ♡」

「やると思ったッ!?」

 

 

 

 柏手を打つような軽い動きをして、その結果放たれる明王の腕による猛烈な万力をもって、青年を左右から叩きつぶした。

 

 金属に罅が入るような音と言えば良いか、いわく「名状しがたい」音が響く。

 さしもの狛村を始めとした七番隊も、状況が状況過ぎて思わず言葉を失った。面食らったのも無理はない、少女の可憐な笑顔から想像もできないような謎の行動であるし、青年の発言からして仲間割れですらなく日常茶飯事のやりとりのようにすら聞こえる。

 

「…………いや、ここ戦場だから、そういうのは後でね……?」

「うーん、やっぱりブルーはこうじゃないとねぇ。むってき♪ むってき♪ えいっ♡」

「行きがけの駄賃感覚でもう一回擂り潰すの止めないッ!?」

 

 そして言いながら、明王の腕を「こじ開けつつ」、青年は彼女に引きつった笑みを浮かべていた。ローブが今の一撃でボロボロ、服も擦り切れている。明らかに「一度すりつぶした」モーションをした明王に揉まれたせいだろう、先ほどまで小綺麗だった恰好はもはや原形もない。

 だが、そんな服も一瞬「鈍い銀色へと」変化すると、何事も無かったかのように元に戻っていく。よく見ればベルトのバックルがスペード型で、バンビエッタのハート型と対になっているが、それはともかく。

 

「全く何を考えてるんだバンビちゃんは、せっかく火傷してたっぽいから冷やしてあげたのに」

「あっ! それは正直本当ありがとうね。いい子いい子♡

 あとわざわざ私に『ティウンティウン』されに来たのも、いい子いい子♪ あれあれ、メガマ○みたいに」

「それには断じて否と答えるよッ!?

 って、あぁ…………、この霊圧は陛下と、山本総隊長かな? ってことは、早めに卍解引っ込めるよバンビちゃん」

「えー? なーんーでー?」

「幼児化しないで、僕よりお姉ちゃんでしょうがバンビちゃんってば…………」

 

 言いながら姿を消す氷輪丸、否、大紅蓮氷輪丸。バンビエッタもよくわからないまでも、言われるままに狛村の卍解の姿を消す。

 

 

 

 なお、このやり取りの間。狛村たちは彼女たちに斬りかかることが出来なかった。

 

 

 

 明らかに何かが異常であった。バンビエッタ・バスターバインが頭バンビエッタなシーンを見せつけられてSAN値チェック(我を失っていた)というわけではない。青年が登場した瞬間、どうしても彼の不意を打つようなことをすることが出来ないでいた。

 

 それは、彼等は知らないことだが直前に青年の戦った少年隊長も同じ――――否応にでも、その選択をとることが「何故か」悪手であると、身体に、本能に刷り込まれるその在り方。

 

(つまるところ、これもまた奴らの能力か……ッ)

 

 状況を分析する狛村だったが、瞬間、尸魂界の「音が消えた」。否、空気からその振動する分の「何か」が、猛烈な速度で干上がり始めた。

 

「…………何? これ。お肌、カサカサになってきたんだけど」

「能力系統からして、山本総隊長の卍解ってとこだと思う。……鼻水すら乾くんだ、唇よりそっち切れそう。いやマジでヤバイな……(リアル残火の太刀ヤベェ)」

「何か言った?」

「いや、何でも。後はRの仕事(ヽヽヽヽ)だろうから、僕らが関与する話じゃないよ」

「それもそうね。

 ――――じゃあ、お待たせして悪かったね! ワンちゃん隊長さんたち」

 

 再びバンビエッタと、現れた青年が彼等に向き直ったことで、ようやく感じていた緊張感が解ける。剣を構える彼女と、右手に狼のような手甲鉤を出現させる青年とに、今度こそ7番隊の生き残りは走る――――。

 

 その一撃を、バンビエッタを庇うように狛村左陣より受けて。その真っすぐな剣筋と、視線に乗った困惑、疑問の感情に、青年は寂し気に微笑み。

 

 

 

「…………本心はともかく、これは戦争ですから。僕は、そっちがメインではありませんが」

「………………ッ!」

 

 

 

 青年の、蒼都(ブルー・ビジネスシティ)のその一言に、狛村は表情を痛々しく歪めた。

 

 

 

 

 






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#009.約二十年前

遂に訣別譚の放送始まりましたね! というわけで1話。
あちらのかぱぁはナーフされなかった……(動画な分よりわかりやすかった……)
 
聞き覚えのない聖文字だったり完聖体だったり人物名だったりは、こちらで勝手に用意してるやつなのであしからずです汗


 

 

 

 

 

「お前には――――お前が本来受けるはずだった“Ⅰ”の聖文字(シュリフト)を与えよう」

 

 かくしてその日、一人の青年が星十字騎士団、その聖章騎士へ正式に加わった。

 外見は中学生から高校生、ティーンエイジャーの若い方。いまだ霊力の成長率に幅は有るが前髪が長く目元が隠れている。そんな青年は盃にくべられた血を口に含み、呑み、そして「うげぇ」という感情を口元で表した。

 その様を見て、王は、ユーハバッハと呼ばれるこの王国の陛下たる彼は。その黒いシルエットを揺らして、案外楽しそうに笑った。

 

「かっはっは。………不味いか?」

「不敬かもしれませんが、血って別に美味しいものじゃないので、済みません」

「いや、良い。主に鉄のごとき味を美味と言われても、感想に困るからな。尸魂界(ソウルソサエティ)が作った疑似魂魄種族にそういった吸血鬼めいたものがあったか。

 まあ我らの方が、より伝承のそれに近いかもしれんがな。…………死してなお死することを許されぬその命運。孤独を恐れるならば、手を尽くすと良い。戦争の如何に関わらず、可能性はどこにでも転がっているものだ。

 精々励め――――蒼都(ツァントウ)

「………………」

「ぬ?」

 

 ユーハバッハの言葉を前に、頭を下げたまま特に反応を示さない彼。そんな青年を見て少し目を閉じると、嗚呼、と思い出したように、ユーハバッハは目を細めた。こころなし、少し哀れんでいるようにも見える。

 

「ブルー・ビジネスシティは通し名だろうに、蒼都(ツァントウ)よ」

「…………はっ!? あ、は、はいッ!」

「いかに死の危険がないと()えたといえど、あの娘の元で養育させたのは失敗だったか……?」

 

 珍しく遠い目をして困惑した様子のユーハバッハだったが、頭を振り「まぁ良い」と下がるように命じ。部屋に一人になった時点で、ユーハバッハは呟いた。

 

「とはいえ、それが『裏切らぬ保険』である以上、私がその手の趣味に口出しする話でもないか」

 

 さらっと蒼都(ブルー・ビジネスシティ)と呼ばれた彼の、女の趣味をけなしていた。

 その環境に放り込んで特に興味を持たず放置した張本人の台詞ではないが、後日似たようなことを陛下から聞いた騎士団長が内心でちょっとキレたかどうかは定かではない。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 滅却師の王国見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)、その城内。どこか虚圏(ヴェコムンド)虚夜宮(ラスノ―チェス)を思わせる形に拡張されたこの訓練場の一角で、2人の滅却師が霊子を散らしぶつけあっていた。

 

『――――状況確認、完了。ベレニケ・ガブリエリ、其方の“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”と私の“K-殺戮機械-(ザ・キラーマシーン)”の相性と対応については、学習がほぼ完了した。現時点においては、これ以上の進展は見込めないと考える』

 

 片方は騎士鎧風の恰好でありながら、手元からは大砲のようなものを構え霊子を収束し放っていた男、BG9(ベーゲーノイン)

 

「意外と吸収が早かったかな? うん。ならこちらで対応しよう――――“神の問答(インクリジア)”」

 

 もう片方は独特な髪の色をした、にこやかな青年の滅却師、ベレニケ・ガブリエリ。

 彼は両腕を広げて言葉をつぶやき、次の瞬間に光の柱に包まれた。

 それが崩れ解け散る頃に、現れたのは6つの翼を背に生やしたベレニケ。頭上ではなく胴体にフラフープあるいは土星の環のように光のリングが現れ、髪色は銀と金、毛先の紫も含めてほぼ左右均一になるよう調整されている。彼の滅却師完聖体(クインシーフォルシュテンディッヒ)だ。

 

「能力の性質はあまり変わらないが、より『範囲が広くなっている』。せいぜい行動を拘束されながら、新たな活路を見出すと良い!」

『協力には感謝する。人間性が最低の環境でも、探せばマシな部類の相手もいると学習した』

「それには中々同意するけれどもね!」

 

 言いながら指をさし、弾丸の弾速計算のような数式や数字を口走るベレニケ。それと同時にBG9の銃口から放たれた弾丸が、あらぬ方向にねじ曲がり、紆余曲折を得て彼の背部に回り込み直撃した。

 すかさず破損した胴体から「下半身を切り離し」、遠方で再生させはじめるBG9。そんな彼にベレニケは、槌のような大きな神聖滅弓(ハイリッヒ・ボーゲン)を手元に生成し打ち込んだ。

 

 二人が何をやっているかと言えば、BG9の完聖体修得のための訓練であった。

 星十字騎士団に正式加入したのは、彼をロボと慕っていた少年よりも早かったが。それはそうとして覚醒した能力が特殊すぎたせいか、中々次の段階に至ることが出来ないでいた。

 

 BG9の聖文字“K-殺戮機械-(ザ・キラーマシーン)”は、元の仮聖文字“I-騎士-(イボテス)”から派生したにしては物騒極まりないものである。が本質的な部分は、実は変わっていない。

 つまるところ、霊子の肉体以上にその魂、根幹にある人格さえ残すことが出来るのなら、その肉体が何であるかに拘らず「乗っ取ることが出来る」と、そう言う形に派生した。結果として現在の肉体は、霊子の胴体に現世で見繕った器子の重火器となっている。場合によってはそれこそ虚の肉体でも乗っ取ることが可能だろうが、それはさておき。

 そんな能力となってしまったせいで、純粋に自らの滅却師的な修練が上手く行かないというのが、彼の状態であった。

 

 それ故に、能力の派生を封じることが出来る“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”ベレニケに協力してもらえるのは、BG9からすれば感謝しかなかった。

 

 しばらく後、訓練を終えた二人。移動中も生真面目機械的に戦闘の際の攻防の流れなど相談や質問をしてくるBG9に、「ブルーも言っていたが、やはりロボなのでは……?」などとちょっとアレなことを考えながら、肩をすくめて応じるベレニケであった。

 余談だが、最近バズビーやハッシュヴァルトあたりから「ひょっとして星十字騎士団の良心……?」と思われつつあるベレニケの周りには、比較的まともな面々が集まりやすかったりした。

 無論、頭バンビエッタなバンビエッタが問答無用で突如爆撃してくる災害リスクなどは回避できないが。

 

『神の問答、と対訳を充てるのはそういった理由からか。なるほど、制御にまで干渉できると』

「範囲攻撃をしようとすると、他にも考えないといけないことが増えるのだけれどもね。……これですら『概念ごと』喰らってくる、リルトットの“神の乾き(ユベシュエル)”は正直言って意味がわからないけれど」

『上には上がいる、ということか。勉強になる。詳細な説明に感謝をする』

「何、同じ騎士団の仲間だからね。競うことはあっても追い落とすような関係にはならないさ……(やっぱり受け答えがロボっぽいね彼……)」

 

 そんな風に楽しく? おしゃべりしながら訓練場を歩いていた二人だったが、聞きなれない掛け声に顔を見合わせる。BG9の方はモノアイランプ点滅のように「ブォン」と電子音めいた鈍い音を鳴らしながらヘルムの下の片目を赤く光らせ「やっぱりロボなんじゃ……」とベレニケの疑惑を深めながら、二人は少し隠れながら、声のする方へ飛廉脚(BG9はどう見ても足の裏からジェットを吹かしてる様な絵面)。

 たどり着いた先は、十数人の青年滅却師たちが、初級で生成された不定形の霊子兵装を、各々剣や弓などに成形して素振りしている所だ。弓については矢を生成せず、しかし引き絞り、狙いをつけるように。剣や槌など近接武器も同様にだが、中には矢を放つための構えをする面々もいた。

 

 その中心に、件のBG9をロボ! と慕っていた、少し前までは少年だった青年が、つまり蒼都がいる。

 伸びた髪で目元は隠れているが、案外すくすく真っすぐ育った? おかげか目つきはさほど鋭くなく、口元の傷が与えるやや強い印象を和らげている。

 そんな彼は青年滅却師たちの前に立ち、彼等の動きを観察している。状況から見て、コーチングをしているようだった。

 

「…………うーん、ローシュブリア君は近接武器は向かないかもね」

「そ、そうでありますか! マスター・ブルー! 光栄であります!」

「いや、師匠(マスター)も止めてって……、僕よりみんなの方が年上なのに『兄貴!』って呼ばれるのは嫌だったから別なのにしてって言ったけどさ。

 えっと、真面目な話に戻すけれど。ローシュブリア君の剣、弓の構えでプルプル震えてるから、単純にまだ腕力が足りないんだと思う。決戦まで何年あるかわからないけど、今は弓を用意しておいた方がいいと思うよ」

「かしこまりました! マスター・ブルー!」

「マスター・ブルー! 俺には何かないでしょうか!」

「俺にもご教授を! マスター・ブルー!」

「マスター!」

「マスター・ブルー!」

「皆一斉にしゃべらないで……。とりあえず一人一人話すから――――」

 

 何と言うか、ものすごく緩い感じのコーチングだった。フワッフワである。

 さもありなん、保護者として名乗り出たバンビエッタ・バスターバインの暴虐にさらされ続け成長した少年は、しかし青年になっても奇跡的に元の純真さを失わなかったのである。反面教師にしたという説もあるが、結果的に彼は、騎士団の中でも1、2を争うくらいに物腰が柔らかかった。

 そのせいもあってなのか、彼の様な年代の若い滅却師たちから嫉妬されるより、慕われている傾向にある。……基本的に「見えざる帝国」は、ほぼ閉鎖環境である。結果、腕っぷしに自信がある層に関して、熟成される人間性がやや蟲毒めいているため、アスキン・ナックルヴァールを始めとした一部の良識派の滅却師は、年代問わず慕われやすかった。

 

 もっとも、蒼都が彼等から慕われる理由はまた別な事情があるのだが。

 

「補佐官や部下の滅却師…………、ではないね」

『ブルーではなく、キャンディス・キャットニップの配下だったと記憶している』

「うん。皆、イケメンだ」

 

 ブルーこと蒼都の指導をうけている青年滅却師の面々は、その全てが種類こそ違えど、容姿の面でイケメンと呼んで差支えがない面々だった。ワイルド系、純朴系、俺様系、マッチョ系、色々と種別はあるものの、総じて現世の都心を歩けばモテモテだろうことが伺える、そんな滅却師たち。

 彼らはBG9が言った通り、バンビーズのキャンディスが部下の面々であった。

 

 そんな彼らが何故、騎士団への加入前までバンビエッタ・バスターバイン「唯一の」補佐官のようなものであった蒼都のことを慕っているかと言えば…………。彼らのうちの七割近くが、青年が少年であった時代から、つまりバンビエッタの虐待と呼ぶのが妥当な扱いを受けていた姿を見続けていたからだ。

 バンビエッタがバンビーズと自称する滅却師の女性(を主とした)グループは、その全員がバンビエッタの気に入るくらいには美少女や美人と呼んで差支えがない面々である。その中でも特に色恋、というより男性関係でマウント合戦をしていたのが、バンビエッタ本人とキャンディスであった。

 当然二人とも容姿、スタイルともに優れており、霊圧の成長に従い身体も年頃に成長し性長。順当に、順々に、自分の好みと必要性と()に従って、異性に手を出すのは必然である。そのあたりの倫理教育ができる女性滅却師が騎士団にいなかった、というよりも「殺された」のが原因だが、それはさておき。

 この状況に置いて、両者の明暗をわけたのが、補佐官としての滅却師の扱いだった。

 

 キャンディスにとって補佐官は恋人であり、肉体関係を持ち情を通わせ、飽きて別れても部下に据えたまま放流せず、結果として人が増え。

 バンビエッタにとって補佐官に限らず大体はサンドバッグ以下(ヽヽ)であり、肉体関係を交わす交わさずにかかわらず、自らの弱みを見たりイラっと来たらすぐさま処分(ヽヽ)する。

 

 後者に関してはそこまで酷いとは知られていまいが、日常的に何かあれば蒼都少年をズタボロに殺しかけ、むしろ死んでいた方が彼の為と思われる程にしていたのが、結果として一般イケメン滅却師たちを、バンビエッタの色香から正気に戻していた。

 

 つまるところ、人身御供の類である。

 そして何度か蒼都に飽きて他の男性滅却師を誘惑(?)しようとしたバンビエッタを止めて逃がしたりと、そういった行動が人望を集めていた。

 その結果、年齢に関わらずの兄貴呼びであり師匠(マスター)呼びなのは、流石に本人やベレニケたちも回想するまでもなく理解してる。理解していないのは未だにイケメンが部下に立候補したりしないことに嘆いているバンビエッタ本人くらいなものであった。

 

「それはそうと、一体何をやっているのだろう?」

『訓練には違いないだろう。…………全員、飛廉脚でマラソンを開始した』

「本格的に基礎トレーニングのようだ。これは…………」

 

「あたしが面倒見るの、ちょっと無理だし。頼んだらやってくれるって言うから頼んだだけだよッ」

 

 噂をすれば何とやら。ベレニケとBG9が振り返れば、こちらに欠伸を噛み殺しながら歩いてくるキャンディス・キャットニップの姿。どういう事情か、今日はややダボついた現世現代風な服装である。被った帽子の位置を整え、彼女は「珍しー組み合わせじゃんか」とベレニケとBG9を見比べた。

 

「まあ訓練の適性の問題でね。

 それはそうと、彼に頼んだと……。あまり仕事を割り振るのは止めて上げた方が良いのではないかな? ただでさえ本日、昇進したてだというのに」

「そんなのお前に関係ないじゃんかッ。……いや、まあ、今後絡む機会減るかもしれないしってことで、気を利かせてくれたかもしんないけど」

 

 バツが悪いのか視線を逸らすキャンディスだったが、蒼都を慕い一緒に声を出しながら空中でスライドし続ける一団を見て「シュール」と呟いて微笑んだ。こころなし、蒼都を見る目もどこか弟が成長した姿を見守るお姉さんめいている。

 その様を見て、BG9は。

 

『成長して性的な対象にカテゴライズされるようになったから、頼ってみたくなったということか。成程、コミックス・コードはかくも難しい』

 

 などと、とぼけた一言。そうなのか!? とびっくりするベレニケとBG9に「止めろってッ! あたしはバンビみたいに変態じゃないってのッ!」と顔を赤くして慌てた。その反応だと少し言い逃れが難しくなりそうだが、ともかく。

 

「まあ、ガキは流石に対象じゃなかったっつーのもあるけど、最近アイツがバンビが見てないときにバンビに向ける白けた目は結構ゾクゾクするし…………って、そんな話じゃなくって!

 と、とにかく、騎士団同士でそういうことやったらマズいじゃんかっ! 別れたりしたら顔合わせづらいしっ」

「……君は、自分の配下に何人も元恋人が溢れかえっていると思っているのだが」

「いや、皆ちゃんと仲良くできるの選んで手を出してるし。拗れると任務に支障が出るじゃん? そう言うトラブルは起こさないっての。当然じゃんかー」

『理解の外である』

「そこまで執着する恋愛はしないということなのかな……? ふむ」

 

 そんなだからジジあたりに尻軽(ビッチ)呼ばわりされたりもするのだが、仮にもバンビエッタが性格はともかく頭バンビエッタな暴虐をしても任務には支障が無いよう細心の注意を払っていたりするため、彼女もまた自分の趣味と実益のバランスには気を使っているのだった。気を使ったところで、頭バンビーズな点は変わりないのだが。

 

「…………おー、やってんなーお前ら」

「リルじゃん。あ、準備終わった?」

 

 と、そんな風に色々話していると、今度はリルトットが階段を下りて来た。黄色いブーツにダボダボなパーカー姿で、既に口にはキャラメルかガムかハイチュ〇でも入ってるのか、くちゃくちゃと小さく音を立てている。

 そんな風に現代風な恰好が追加されたことで、ベレニケたちもその服装の理由を確認した。

 

「こんなカッコーしてる理由? あー、アレだ。バンビが言い出したんだよ」

『バンビエッタ・バスターバインが?』

「ん。ブルーのやつ、ちゃんと入団したってから、お祝いやろーってなー。そのくせ自分じゃ準備しねーから、アイツ本気でやっぱ頭バンビだわ」

「ちなみに現世でやる予定だっぜ!」

「よく許可が下りたなぁ…………」

「ミニーがちょっと頑張った。

 で、店はジジが予約しに行ってるから、こっちはこっちでその間、少し仕事の消化とかなー。…………って、いや何で自分の仕事ブルーにやらせてんだよ……。俺でさえ気を遣うぞ、お祝い当日じゃねーか」

「うっ」

 

 リルトットの半笑いに、やっぱりバツが悪そうなキャンディス。と、猛烈な赤い人型のシルエットが、高速で上空から飛来。別な出入り口から入ってきた誰かだろうが、その相手はまっすぐ、連帯を組んで空中をスライドしている青年滅却師の一団に突撃していき――――。

 

「いや、ちょっと行動の意味わからないよ、バンビちゃん!?」

 

 右手に生成した狼の(あぎと)がごとき籠手で、剣の霊子兵装を構えて突撃してきたバンビエッタ・バスターバイン(真っ赤なへそ出し現代服)の一撃をそらした。

 と、それを見てバンビエッタは嬉しそうに表情を晴らし、そのままの勢いで蒼都に抱き着く。「ぐぇっ」と声を出しながら、二人そろって勢いよく地面に突き刺さり、砂煙を立ててしばらく前進した。

 流石に空中で停止するイケメン滅却師たちの一団だったが、状況を察したのか一目散にバラバラとなり、キャンディスの背後に集結して隊列を組んだ。アンタたちさぁ……、と呆れたようなキャンディスだが、誰だって命を無駄に散らしたくはないから仕方ないね!

 

『流石に聖文字を与えられ、仮聖文字から能力変更中ゆえにか、自重したと判断する』

「爆撃しないだけを自重と呼ぶのは、いささか苦しい気もするけれどね」

「あんま真面目に考えると、頭おかしくなるぞ。

 おーいバンビー、来たってことはジジから連絡来たのかー?」

 

 リルトットの声に、空中で花火のごとく霊子が爆裂して応えた。

 一方のバンビエッタだが、ブルーこと蒼都に笑顔で頬ずりしながら抱き着いていた。もはや猫かわいがりの域である。かつての二人の関係を前提に考えれば何かがおかしい二人の距離感だが。

 

「ブルー? 前に言ったわよね、あたし。あたしの許可なく他の奴にサンドバッグさせたら駄目だって。忘れたの? ねぇ、ブルー? ねぇ、ちょっと?」

(笑顔なのに目が笑って無いんだよなぁ……)

 

 なお彼も彼で恐怖を抱きながらもバンビエッタの無防備な腰の裏側を撫でて体温を感じて居たり、そこは何も変わらず案外ちゃっかりしていた。

 とはいえ、それはそうと。以前よりはバンビエッタに物申せるようになっている蒼都である。

 

「いや、だってサンドバッグじゃないし。一応、単独任務とか入ったらバンビーズとも別行動増えるかもしれないから、今までお世話になった分は、少しくらいはお返ししないと――――」

「あなた、あたしを捨てるつもり!? ずっとずっと一緒に居てくれるって言ったのに!」

「凄い人聞き悪い感じの言い回しになってるよ!!? バンビちゃんそれで良いの!?」

「よ、良くないけど、何かこう、映画とかで上京するときの、独り立ちする子供みたいなこと言い出したから……」

(一体なんであのハートフルストーリーに感動できる感性持ってるくせに、やることなすこと頭バンビエッタなんだろうこの娘……)

 

 天を仰ぎながらも、ブルーはバンビエッタと額を合わせて。

 

「任務は仕方ないけど、別にどこにもいかないって。バンビ『お姉ちゃん』」

「うん……………………」

「どこにもいかないから、さぁ…………、抱き着きながら首の裏側に爪立てるの止めない?」

「だって能力発動できない今とかじゃないと、滅多にこーゆー攻撃できないもん」

「もんって…………」

 

 面倒臭ぇと思いながらも、目からハイライトを失ったバンビエッタをなだめつつ、蒼都はリルトットたちの方へ彼女をお姫様抱っこして向かった。

 

 なおその後の打ち上げ、現世のカラオケボックスでミニーニャが100点を出してバンビエッタとキャンディスが我先にと張り合ったり、そのすきにジジがブルーとラブソングをデュエットをしようとしてバンビエッタとミニーニャとで一騒動勃発したり、焼き肉屋でリルトットが何枚も何枚もカルビ皿を平らげお財布担当のジジとミニーニャが涙目になったりといった話もあるが、それはまた別な話。

 

 

 

 

 




※バンビーズの現代服については新OPのアレな感じです

※久々だったから盛大に誤字りまくってた騎士団名称とか一部修正


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#010.怪物の目覚め

プロットは出来上がってたんですが、書き上げる時間が全然足りなかったのです…
というわけでサービスで今回は文字多め。例によってダイスで決めてるので謎設定や謎描写についてはご容赦ください…


 

 

 

 

 

「ブルーあなた、早い所正式な聖文字(シュリフト)に馴染まないと駄目よ? まだ全然使えないのよね。無能は陛下によって粛清されちゃうと思うし、何とかしないと…………。

 ちょっと、キャンディ! ミニー! リル! ジジ! みんな協力してあげなさい!」

 

「えぇ何でぇ!?」「ブルーでしたら、喜んでぇ~!」「まぁバンビじゃそーゆーの向かないか、訓練前にバラバラにしちまいそうだし」「ふぅん、今日はどうしよっかな~?」

 

 バンビエッタのそんな一言と共に、ブルー・ビジネスシティこと蒼都の強化訓練が決定した。「助っ人呼んで来るわ! 感謝なさい!」とそこは普段のテンションだったが、飛廉脚を使いわざわざ場内を足早に移動するくらいである。何かしら彼女的な危機感でもいだいているのだろうか。

 それを受けてミニーニャが「がんばりましょぅね~!」と気合十分。ジジは「面白そう!」と気楽な雰囲気。一方キャンディスはバンビエッタの去っていった後ろ姿を見て「ひょっとしてアイツ、ガチか……?」と戦慄した顔をするとともに、リルトットは「グレミィ頼れねぇな」とボソッと一言呟いた。

 

 閑話休題。

 

「“神の独裁(ヤショリニアン)”――――いきますよぅ、ブルー!」

「う、うん……」

 

「2対1たぁ面倒くせぇなー、あぁ――――――“神の乾き(ユベシュエル)”」

 

 いつものように訓練場。幾分かつてよりも様変わりしたこの「影の中に作られた影の場所」とでもいうべき拡張空間にて、ミニーニャとブルーはリルトットと対峙していた。

 なお女子二名は完聖体の使用を躊躇しておらず、ブルーの顔が本当にブルーなのが誰にも見えていないのは内緒である。仮にジジがいても「大丈夫かなぁブルー」と心配した素振りをしつつ、バンビエッタに言われて始まったこの戦闘自体は、一切止めるつもりはないだろう。

 

 なお、彼女たちの恰好の変化は対照的だった。ミニーニャは普段の厚着風なブラウスを脱ぎ捨てタンクトップのような装いに変化し、背中の小さなハートが束になったような羽根から霊圧が延々と放射されている。対してリルトットはノースリーブのようだった腕の部分に白いやや大きめの袖口が出現しており(わざわざ着用した?)、さながらシルエットはナースのようでもある。まあその背中に生えた光輝くも良く見れば「ギザギザ歯だけが」「延々と重なってるような」ギザギザに尖った羽根も含めて、彼女らしいと言えば彼女らしいが。

 

「手加減はするから『死ぬほど痛い』だけで死ぬわけじゃねーけど、それでも気を付けろよブルー。俺もこれ、あんまりうまく制御は出来ないから」

(あ、あれが……! 髪型ヘンなベレニケの完聖体すら余裕で打ち破るっていう、リルちゃんの完聖体…………!)

 

 ベレニケの聖文字“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”が完聖体“神の問答(インクリジア)”であるが、その能力は「相手が使用する霊子の従属を奪い取る」というものである。早い話が霊子のクラッキングに近いことをやらかす技であり、理論的には月牙天衝すら途中でその制御を奪い取って真反対へ打ち返す、どころか斬月から射出される直前に暴発させることも可能だろう。

 その霊子制御能力すら完全に置き去りにすると、当の本人から自嘲交じりに教えられたブルーである。幼い時分から特に関係性も変わらず、バズビーなど一部滅却師たちを兄貴分として、見た目以上に幼い印象のままに青年は成長していた。

 

 なので一切躊躇わず、ミニーニャの背後に回るブルー。現状聖文字が使えないのなら、防御は不能なので攻撃のみに絞ろうと言う事だろう。

 あまりのその迷いの無さに「オイオイ」と苦笑いのリルトットと、むしろ頼られて少し誇らしげなミニーニャ。こちらもこちらで元の外見年齢がブルーと同程度だったこともあってか、見た目の成熟具合よりもやや幼い印象である。

 

「いや、張り切ってるところ悪ィけどそうじゃねーだろって。ブルーお前もよォ、陛下に言われたろ? 聖文字について、多分」

「あ、う、うん。

 えっと……『疑問は、要らぬ。猜疑も、要らぬ。ただ己が魂に、その身をゆだねェ…………、奥底から浮かび上がるそれこそが、お前の聖文字となるだろぉゥ……』って」

「ちょっとブルーゥ!? ふふふッ! くッ!」「お前ッ! 不意打ち止めろ……ッ! く、くそ、意外と似てるな陛下の物まね……ッ」

 

 唐突なブルーによるユーハバッハの物まね芸(?)を前に、ミニーニャとリルトットは噴き出した。腹を抱えて笑っているが、騎士団長にでも見つかれば面倒事になるかもしれないので、一応は抑えている。

 なおサボりでこの場からいないジジやバンビ一人だと心配だと後を付いていったキャンディスがこの場にいれば、お互いに一切の躊躇なく大笑いしているくらいには案外模倣出来ているブルーのそれであった。

 

「く、くくく……、はぁ、はぁ、ま、まぁ、そういうことだ。

 要は、ちゃんと霊力使って戦えってことだろ。全力でやらないと、奥底から何も出てこねぇしな」

「リルお姉ちゃんもそうだったの?」

「…………お、ぉう(その身長とか顔でお姉ちゃん呼ばわりされるとヘンな気分になるなぁ……)」

「リルゥ? 何かしらその反応? リルちゃん、リルゥ?」

「……何だよ、何でもねぇよミニー。だから怖い顔すんなって。呼び捨ても止めろバンビじゃねーんだから。

 まあその調子じゃミニーもしっかりブルーのこと『強化してくれる』だろうから、とりあえず当たって砕けろ、で来い。胸は貸してやる」

「あ、はい」

(まぁ胸はないけどね……)

 

 一瞬だけリルトットの、彼が幼児から青年に育つくらいの期間ですら一切変わらなかった体躯になじんだ胸元の直線(ヽヽ)へ向けられるが、流石にもう口に出しては言わないブルーであった。幼児ならば許されたろうが、流石にこの年代の姿になってからは気を遣うべきであるし、その分リルトットもブルーには優しくしてくれていた。……常日頃の有様から同情も圧倒的に大きいだろうが。

 ちなみにバンビーズの中でブルーからの信頼やら好感やらが(性的なものを除いて)最初にカンストしたのがリルトットであり、リルトットの側もバンビーズの誰より、それこそバンビよりも早くブルーと打ち解けているのは完全に余談である。

 

 なお、そんな和やか(?)な話し合いをしたところで、戦闘結果が何一つ変わる訳もない。

 

 リルトット背部の空間の穴のような羽根から「幾数十もの顎」のようなものが、生物ではなく「顎だけ」そこに存在するようなもの共が這い出て、ブルーやミニーニャの神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)やら臨時で持って来た魂切矢(ゼーレシュナイダー)、果てはミニーニャの超パワーによる打撃の衝撃波すら喰らいつくし、文字通り手も脚も出ず顎たちにかみ砕かれるブルーたちであった。

 リルトットの「死にはしない」の言葉通り、その顎による噛みつきで負傷こそほぼしていないが(甘噛み?)、それはそうとして全身から猛烈に奪い取られる霊圧に、戦慄するブルーである。

 

「リルお姉ちゃん、これ、何なの…………?」

「何なのかって言われても俺だってわからねぇよ」

「毎回思いますけどぉ、私のフィニッシュブローの直撃に噛みついて威力無くすのぉ意味わかんないですもんっ」

「あー、それはアレだ。『衝撃波』と『霊圧』と『爆裂する』って概念をまとめて『喰ってる』ってだけだ」

「「喰ってる……?」」

 

 理解が及んでいないブルーとミニーであるが、リルトットのやっていることは文字通りそんなこと。つまりは「概念干渉」系の能力である。これによりベレニケに霊子操作すら、大本の霊子操作の概念ごと喰らうことで無効化しているというのが正解だ。

 なおバンビエッタ相手だと、実はそう上手くいかない。単純な現在の霊圧差により、爆撃の概念を喰らうよりも先にリルトットの身体が負うダメージが勝ってしまうためだ。なんだかんだと言われてはいるが、実際問題バンビエッタがバンビーズ最強である一幕でもある。

 

 ともあれ珍しく? 頬から出血しているブルーに治療を施しながら汚れをふいたりと、かいがいしく世話を焼いているミニー。そんな彼女を見て「ハハ~ン」とニヤニヤするリルトットだったが、一瞬目を見開いた後すぐさま眉間に皺を寄せた。

 

「バンビたちが一緒じゃねえから偶々なんだろうけど、どんな組み合わせだ……」

「えっ? ……えーっと、これは…………」

「リルお姉ちゃん? ミニーちゃん?」

 

 困惑する蒼都だったが、彼も霊絡を探ってその理由に思い至った。

 

「――――そうつまり、あのバンビエッタにもラッヴがあるとミー思うのよネ。じゃなければ、やっぱりミーのラヴに応える精神が生まれないしぃ。ブルーみたいに」

「ブルーの扱いはちょっと致命傷だからなー。致命的を通り越して、幼児の扱いにしちゃ致命傷じゃねーのよ。……というか、あー、本人たちの霊圧近づいてるのによくしゃべるなぁ。もうちょっとオシャレに優しく触れてやりなって」

 

 階段を下りてやってきたのは、“L-愛-(ザ・ラヴ)”ペペ・ワキャブラーダと、“D-致死量-(ザ・デスディーリング)”アスキン・ナックルヴァールの二人。ハイテンションにアスキンへと話しかけ続けるペペと、若干面倒がってそうながら律義に応答しているアスキンという組み合わせだ。

 なるほど確かに、彼女たちのリアクションも頷ける。バンビーズは以前訓練で、ペペによりバンビエッタが操られた際に全員もれなく彼女の完聖体による大爆撃を受けた経験や、その見た目が色々受け付けないこともあり、ペペ個人に対して全然好意的ではないのだ。

 

「おはようございます」「あぁ」「はい~、おはようございますぅ」

「よぉミニーにリルトットに、蒼都(ツァントウ)聖章騎士(ヴェルトリッヒ)の正式招聘おめでと」

「ゲッゲッゲ、…………む?」

 

 と、あいさつもそこそこに。ブルーの世話を健気に焼いているミニーニャの姿を見たペペは、ゲッゲッゲと笑い声をあげながら少し思案すると、リルトットへと耳打ちしようと近づいた。なお「臭ェ!」と背後から数多の顎を差し向けようとする彼女に「酷い! やっぱりミ―へのラヴ足りないッ!」とサングラス越しに涙目である。

 

「まぁミーへのラヴはともかくとして、ねぇねぇアレ、ラブ? ねぇアレってラヴ?」

「だーから寄るんじゃねぇ、肉達磨ァ! 息が臭ぇ! 歯ぁ洗え! 風呂入れ!」

「んもーぅ、これ一応ミーの聖文字に関係するから、あまりそう言われちゃうとその……、ネ☆」

「致命的じゃねぇの……」

 

 当然のようにアスキン、ドン引きである。騎士団の中でもオシャレさに並々ならぬこだわりがある彼からすると、ペペのその一挙手一投足は生き方として受け付け難いのだろう。

 なおリルトットとて、別に1週間くらいそういうのを適当にしているくらいならツベコベはいわないくらいにはガサツであるが。それはそうとしてペペのそれは月単位というレベルですらないので、嫌悪感も一入で合った。

 

 それはさておき。二人とも特に何かあったというわけではないらしい。道中顔を合わせて、蒼都たちの霊圧を感知して様子を見に来た、ということらしい。

 

「ブルーにはまっだラッヴを教えられていないし……」

「珍しくバンビエッタの奴がいなかったから、何やってるのかと思ってねぇ。その感じだと聖文字の訓練か」

 

 言いつつ、ガス欠とのことでリルトットの完聖体が解除され、それに合わせてミニーニャも解除する。お互いの恰好も普段通りに着込み、若干ミニーの胸元(横乳)を見て残念そうなブルーと、その視線に気づいて顔を赤くして「めっ、ですよぅ~!」とデコピン一発のミニーニャであった。なお威力は“P-力-(ザ・パワー)”準拠なので、軽い一撃でもその場に倒れるくらいの威力である。聖文字がないためそのまま背中から倒れたブルーに、大慌てで抱き起しにいくミニーニャというコントのような光景であった。

 

 と、そんな状況に、上空から強い霊圧を感じる全員。空(天井)を見上げて一歩後ずさると、猛烈な霊子の収束光と共に爆発音(天井が粉砕される音)を伴い落下してくるシルエットが一つ。まるでスーパーヒーローがごとき三転着地をしたその相手は――――。

 

「おぉ、奇跡の男じゃないの」

「ゲッ……! み、ミーちょっとお暇をもらいたいなぁナンテ……」

「ジェラルドか……」

「珍しいですぅね? 全然、私たちと絡みもないのにぃ」

奇跡(ミラクル)の人だ……!」

 

「――――フッハハハハハハハハハ! そう、よくぞ我が(めい)を呼んだ! 蒼都(ツァントゥ)

 だが正しくは! 我が名は!! ジェラルド・ヴァルキリーィイッ!!!」

 

 大声で絶叫するジェラルドの、相も変わらず北欧の雷のヒーローめいたその風貌を前に、ちょっとだけテンションが上がる蒼都であった。BLEACH原作において扱いは何とも言えないところではあったと彼は考えているが、実際問題リアルな人物としてのジェラルドのことは結構嫌いではない。絡みこそ少ないが、案外まともそうだしという理由で。

 話を聞けば、どうやらバンビエッタとキャンディスとが呼んできた助っ人とは彼のことらしい。曰く「どんなに全力で戦っても傷つかないしノリが良いから、躊躇なく殺すつもりで戦えるだろう」とのこと。なおその二人は二人でジェラルドがこちらに来る際に軽く「しごいて」倒して来たらしい。何故? という疑問が一同を支配したが、それにジェラルドは特に答えはしなかった。

 

「我が聖文字“M-奇跡-(ザ・ミラクル)”により、与えられし傷はすべて神の尺度(サイズ)へと置き換えられる!故に気にせず問題はない!」

 

「神様のサイズ……?」

 

「より正確には、民衆の願いを束ねたような力とも言える! 奇跡とは多くが願うことにより発生するもの、故に! 我の身が傷つくこととて、本質的には些事ともいえる! 我が身を使い神の力が権限しているが故に、その尺度(サイズ)の現し方は様々な形として成り立つのだ!」

 

「み、耳がぁぁ……」「さっきから声デケーぇんだよなぁ」「ミー、耳が死んだ」「見た目の雰囲気には合ってるんだよなぁ」

 

 なおさっきからずっと大声ある。リルトットたちも各々好き勝手に言っているが、特に気にはしていないのかにこやかに大声でブルーと話し続けるジェラルドであった。

 

「つまり身体を大きくしたり、傷自体を癒したり、攻撃力とかを上げたりと……。何でもありなんですねぇ」

 

「とはいえ意外と自由度は低いがな、ウルヴァリ……、否、蒼都! 今のままでは聖文字の発露に時間がかかりすぎるのだろう? 短期決着だ、死ぬ気でかかってこい! さっきまで共に完聖体の訓練をしていた、バズビーのようにな!」

 

「バズお兄ちゃんも訓練してたんだ……」

 

「やはりあの火力が相手では、どうしても訓練相手は限られるからな! 我が奇跡の肉体でもなければ、そう簡単には受けきれまい! そのあたりに気を回す性格をしているのは知っているだろう! 本来、人が出来ているのだ! バンビエッタ・バスターバインとは違って! バンビエッタ・バスターバインとは違って!」

 

(奇跡の人にすら頭バンビちゃん扱いされててバンビちゃんはもう駄目かもしれない……、最初から駄目だったか)

 

 残念でもなく当然の評価であり、なんならユーハバッハからもそんな扱いであった。

 なおペペが端の方で「ブルー、どうしてバズビーをお兄ちゃん呼ばわりしてるのかイ?」と聞いたりして、アスキンから意外とあのあたりは仲が良いということが語られたりしていた。たまにバスケとかやって遊んでるというその話に、知らなかったのか驚いた様子のミニーニャもいたりするが、それはさておき。

 

 まずは小手調べということでブルーの矢を延々と受けるジェラルド。とはいえ練度や霊圧こそ上がってはいるが、蒼都の身体における性能はやはり能力頼りな部分が大きい。数発ほど盾で受け流し剣で弾き飛ばすと、「今度はこちらから攻めるぞ!」と丁寧に教えながら、猛烈な速度で踏み込んでくるジェラルドだった。どうやらダメージを受けた分の反動や尺度を、霊圧の上昇に使っているらしい。

 巨大化してこないことに原作読者的な意味で違和感を感じるブルーであったが、とはいえジェラルドも多少手加減しているのか、生成した籠手そのものは砕かれずに殴り合い斬り合いができていた。

 

「うぅ……、ミーこう何て言うか、子供が成長する瞬間見るの好ッキっ! あの虐待現場からよくぞこう、ちゃんと一人前の戦士として戦えるように……、ゲゲゲ、ゲッ」

「泣くんじゃねぇせめてふきんか何か持ってこい、腕で鼻水拭ってんじゃねぇよ汚ねぇな汚デブ…………」

「でもぉ、ブルーって今は“Σ-鋼鉄-(シデロ)”の金属化とかって使ってないですぅ~? こう、腕から爪は出ていないですけど~ぅ、普通あの勢いで切り付けられたら腕が折れちゃってると思うんだけれどぉ~」

「鋼鉄化は上書きされてるんじゃなかったかねぇ。

 ……まあミニーニャの“E-権力-(イクシア)”しかり、こっちの“φ-薬毒-(ファルマコ)”しかり、仮文字時代の力を部分的に引き継ぐってのは有りそうだが」

 

 とはいえ、そこまでブルーも余裕があるわけではない。ダメージが与えられないのはともかく、与えたその分が相手の霊圧に加算されてブルー本人を傷つけていく現状だ。身体の傷も増えるし、血しぶきも飛ぶ。ミニーニャが両手で口を押えて一歩出そうになるのをリルトットが止めに入ったりもしていた。なおそれでも四肢が千切れたり、胴体がバラバラになったりといった事故が起こらないのは、ひとえにジェラルドの“M-奇跡-(ザ・ミラクル)”が持つ権能のたまものといったところか。

 と、ジェラルドがここだけ彼にしては小声で、ブルーに話しかける。

 

「なるほど……! 頑丈さや再生力は聖文字に頼っていたが、そも『許容できる精神性』自体は自前だったということか! ある意味で、蒼都がバンビエッタ・バスターバインに引き取られたのは奇跡だったと言えるかもしれない!」

 

「えっ? あ、あの、それってどういう……?」

 

「無理に話さなくても良い! 我、なんとなく顔を見れば言いたいことは判る故に!

 バンビエッタを『加えた』4人組だけに留まらない、その素直さや純真さは一部の騎士団には甘い毒であったろう! だが陛下がそれを呑み下すと決断したのならば! 我が奇跡はその『チョコラテのような甘さ』を最大限尊重し――――――――」

 

 

 

「――――――――“神の癇癪(ヤルダハトケフ)”」

 

 

 

 そして、ジェラルドが何事かを言い終える前に、訓練場が絨毯爆撃された。

 何考えてんだバンビッ! というリルトットの絶叫が木霊するが、おかまいなく上空から雨あられと降り注ぐ霊子の礫、否、空中クラスター爆撃。

 それが止む頃には、晴れた煙の内側からジェラルドが能面のような顔を上空へと向けていた。

 

「何を考えているか! バンビエッタ・バスターバイン、本当に頭がどうかしているぞ!」

「どうかしてるって何よ、別に全然フツーじゃないッ!」

 

 ジェラルドどころか他四名も一様に「オイオイオイ」という顔をしている。ギリギリ聖文字でも発動したのか、黒くすすけはしているが大したダメージが入っていないアスキン。対照的にギャグ漫画のように髭がアフロのごとく爆発し、なんなら服がボロボロでだらしない全身の肉が丸見えなペペ。

 そしてそんなペペを盾としたリルトットとミニーニャは特に傷一つ負っておらず、「キミたち、いつか覚えてなよ……?」と言い残してペペは倒れた。実際盾とされて逃げなかったのはペペなりのラヴの示し方の一つではあるが、それはそうとして頭バンビーズな2人に思う所は有るらしい。

 

 そして頭バンビーズ筆頭ことバンビエッタが上空から完聖体を解除して降りてくるのを、隣で一緒に降りて来たキャンディスが「だからやり過ぎって言ったじゃんかッ! 前より訓練場頑丈になったけど、絶対怒られるじゃんッ!」と涙目で頭を押さえている。

 

「何よ、外でバズビーが生意気にもあたしの完聖体に対抗するために訓練してるのでも何も言われないのに。あっちの方がむしろ危ないでしょ? 下手したら死神たちに勘付かれちゃう位置だもの。

 それに比べたらあたしの方が億倍マシ! バンビちゃん頭良いのよ!」

「サイコーに頭悪ィこと言ってるぞバンビよぉ……。

 って、いやお前さすがにアレはブルーも死ぬだろ。今、前みたいに再生できないんだろ? ほら、ミニーなんてショックのあまり呆然自失してるし」

 

 リルトットの呆れた声と、目からハイライトが消えて微笑んだまま硬直してるミニーニャを前に、しかしバンビエッタは「大丈夫よ」と真顔を向けた。

 

「だってこのために、あの男にブルーの訓練をさせてたのよ? あたしは部外者、ブルーの訓練相手は、あの男」

「せめて名前で呼べよ、仮面越しだけどスゲー目でお前のこと見てるぞ……」

「リル、うっさいッ!

 とにかく、あの男の『奇跡』ってそういう部分っていうか、運命? みたいなのも操作できるって騎士団長から聞いてるのよ。だからあの男がブルーの訓練を付けてる、って名目状態にしておけば、あたしが全力でブルーを『壊しても』、死なないでいられるはずだって」

  

「だからお前達二人を叩きのめしてからこちらに来たというのに! グレミィ・トゥミュー、傷を治すにしても少しは前後関係を考えろ!」

 

 聞こえてはいないだろうが文句を絶叫するジェラルド。

 そして、こんな話を聞かされたジェラルドがバンビたちを叩きのめしたという話には納得の面々であった。

 

 そして実際、ブルーはといえば……、なんと生きていた。

 四肢が欠損していることもなく、しかし全身が爆撃に晒された結果、その胴体がどうなっているかは推して知るべし。ジェラルドもこれには鼻から上の仮面をずらし、目元を手で覆い空を仰ぐ。

 

「オイオイ、バンビエッタお前なぁ……。いつかイケメンを殺すだろうと思っていたけど、ここまで暴虐を働くか? 男女とかオシャレ云々以前の問題として、人間としてどうかしてるぞ」

 

 ドン引きのアスキンに、しかしバンビエッタは真顔を返す。

 こころなし、こちらのハイライトもない。その目はどこか闇で濁っており、真っ黒でドロドロした何かが見えるような、見えないような。

 

「大丈夫よ、ブルーなら」

「大丈夫ってお前――――」

「ブルーはずっと一緒にいてくれるって言ったもの、だったらこのくらいでどうにかこうにか死んじゃうわけなんてないわよね? あたしに何かあって殺されそうになったら真っ先に盾になって庇ってくれて、それでも死なないし死んでも死なないし戻って来てまた私にボロボロにされるために帰ってくるのがブルーなんだから、そうじゃないブルーなんて存在価値はないし、でもブルーがいないとあたしなんて簡単に殺されてしまう状況もこれから出てくるかもしれないからそれは大事に大事に扱わないといけないって思ってはいるけれど、大事に扱うべきだからこそあたしは全力でブルーの力を上げるために力を貸すしブルーだって――――」

「聞いた俺が悪かったよ。お前と同期のベレニケって凄いんだなぁ……」

 

 方や騎士団でもまっとうな男に、方や騎士団でもどうかしてる女だぜ、と。頭痛を覚えたように眉間を揉むアスキンに、バンビエッタは興味を無くして、ほぼ焼死体スレスレか虫の息の状態の蒼都をじっと見つめる。

 

 特に宗教的なものでも信じてはいないだろうに、わざわざバンビエッタは両手を重ねて、祈るように蒼都を見続け――――――――。

 

 

 

 そして、奇跡のような光景が起きた。

 

 

 

 蒼都の目元から霊圧が吹き荒れ、さながらそのシルエットは翼のようで。しかしその霊圧が蒼都の全身を照らすと、照らされた身体は「銀色」へと変貌。生身の肉体も、衣服も、そろって金属になる様は以前の聖文字そのものであるが、リルトットはその様を見て息をのんだ。

 

 その再生には「霊圧が存在していなかった」からだ。

 

 まるでそれは能力を使用したと言うより、生物が生物としての当たり前の機能でも使ったかのように。彼女個人と仲が良いグレミィですら、その能力の発動には霊圧を伴うにもかかわらず、いっそ不気味なくらいブルーからは何も感じ取れなかった。

 やがて銀色の身体が成形され、傷痕も見えなくなり、普段の青年蒼都の像のようになった後、金属化が解けて、目から噴き出していた霊圧も消失する。

 

「…………もしかして、聖文字、発現しましたかねぇ?」

「うわーッ! み、ミニーお前、急に我に返るなよ……」

「リル、意外とリアクション良いよな」

「うるせぇ。というか――――――――」

 

「よくぞ! よくぞ目覚めた!

 あれほど絶望的な状況からの復帰……、まさしく『奇跡』だッ!」

 

「わっ!」

 

 仮面を戻しはしたが、おんおん泣きながらブルーを抱きしめて頭を撫でるジェラルドのその様はまさに大事故に遭ったが奇跡的に生還した息子へ向ける父親の愛情のごとし。戸惑いはしたが、ブルーは拒否せず抱きしめ返す。「感動的、なのかぁ……?」と何やら自分の正気度が削れる様を目の当たりにしているアスキンはともかく、バンビエッタはそんな蒼都を見て得意げに腕を組んで胸を張った。

 

 ジェラルドはまたバズビーの方の訓練に付き合うとのことで離脱し、バンビーズ四人に囲まれるブルー。結局何の文字になったのかと問うリルトットに、蒼都は遠い目をした。

 

「…………“お前はとく、不滅であれ”、って言われた気がした。陛下に」

「ぶほッ!」「だ! か! ら! ブルーお前よォ!」「――――ッ!」

 

 唐突なユーハバッハの物まねに我慢できず大笑いするキャンディス、抑え目なリルトットに言葉を失うミニーニャ。

 ただその中で一人、バンビエッタだけは頬をヒクヒクさせるのみ。似ているが故にウケはとれているようだが、そのジョークで笑えないのは一体どんな感情に由来してるものか。

 

(……多分、陛下の心象が悪くなったら粛清されるんじゃない? 大丈夫? とか思ってビビってるんだろうなぁ)

 

「あー、気を取りなすぜ。不滅…………、Ⅰならイモータルってところか。まあブルーには一番必要な文字だな、それ」

「言えてる……、ふぎぅ! ま、まだあたしは駄目だ……!」

「キャンディちゃん、どうどう……。

 でも不滅、ですぅ? それだとあんまり、私が庇うような場面が減りそうですねぇ~」

「いや、そういうのって僕の役目ってことなんじゃないかな、多分、うん……。大丈夫、ミニーちゃんも僕が守るよ」

「ふぇ?」

 

 ブルーの不用意な発言に顔を真っ赤にするミニーと、それを見ても特に嫉妬的な感情を出す訳でもないバンビエッタ。既に頭痛を覚えてこの場を立ち去ったアスキンはともかく、かろうじて意識を取り戻したが未だ気絶したフリをしているペペは、死んだ魚のような目をバンビエッタに少しだけ向けていた。

 そして当のバンビエッタは、満面笑顔で蒼都の頭を撫でた。

 

「はい、よくできました♪ じゃあ今日はもう訓練なんて止めなさいよ。せっかくだし皆でゲームでもやらないかしら。この間、現世で買って来たやつあるじゃない? 桃〇」

「〇鉄は友情を破壊するって相場は決まってるから……」(バンビちゃんに対して他四人が友情感じてるかはわからないけどね……、あっ勢い余って抱き着いて来ておっぱい柔らか……)

 

 なお例によって蒼都の内心におけるバンビエッタの扱いも相変わらずである。

 ただ、今回に関しては蒼都としても少し頭に来ていたのか。

 

 

 

「あっバンビお姉ちゃん。今日はリルお姉ちゃんの部屋で寝るから」

 

「「「!?」」」 

「あー、まぁいいけど……、バンビの顔ちょっと見たくないのか…………(まぁ消去法なら幼児体型の俺相手なら間違いも起こらないとか考えてるんだろうなぁコイツ)」

 

 

 

 アイコンタクトで助けを求めた蒼都に面倒見の良さを発揮するリルトットの気安い返事に、「わわ、私駄目なんですぅ!?」とびっくりした様子のミニーニャ、「そういう趣味に目覚めたのか?」と変な風に訝しむキャンディス、そして「えっ…………?」と、まるでこの世の終わりのような顔をするバンビエッタという、ある種の地獄の様な状況が展開されていた。

 

 余談だが、仮にミニーニャの所へ行った場合は本当に「間違い」が起こってしまいかねないくらいには、現在の蒼都は色々精神ダメージが大きかったのだが、それは言わぬが花である。復活の目処なく本当に殺されかけたのは、それなりにトラウマものだった。

 

 

 

 

 




※作画ミス(?)でジジがいてはいけないところにいたので修正しました汗


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#011.癇癪の行方

シナリオ決める際の流れでダイス神が荒ぶりまくった結果、また文字が長くなりましたがご容赦です…
 
例によって独自設定?みたいな描写が多いのもご留意ください……ついにやらかした汗


 

 

 

 

 

 

 とある一室に、三人の滅却師がたむろしていた。

 一人は独特な色をした髪を撫で付けながら手元の大判コミックを見開き「うん、悪くない」など楽しみながら他二人の様子を見守っている。すなわち、一人は小型のテレビにビデオデッキを繋いで映画を見ている、幼少の頃から面倒を見ていたブルー・ビジネスシティこと蒼都。そしてもう一人は、ややぽっちゃりとした体躯にスキンヘッドな小柄な男。眼鏡の位置を調整して「むむむ……!」と食い入るようにアメコミに視線が固定されている男、ジェイムズ。

 聖章騎士(ヴェルトリッヒ)と聖章騎士と副官の聖兵(ソルダート)(本人はセコンドやら付き人やらを自称しているが)という構成であるが、三人とも非常に適当に寛いで遊んでいる様子だ。なんなら部屋自体も何故か現世から取り寄せたわけでもないだろうに畳だったりして、ナチュラルにゴロゴロとしている。

 

「…………何やってるの、あなた達?」

 

 そんな平和な空間に、目を見開いて口を歪めて名状しがたい顔をした彼女が現れた。

 ベレニケとジェイムズの視線がさっと蒼都へと向き、しかし彼は特に嫌がらずに「にぱっ」と微笑んだ。見た目の年代にはそぐうまいが、彼の幼い頃を知る面々には納得の表情である。なお彼本人は「僕って大人になったらこんなお目目くりくりだったかな……? もっとヒ〇リさんみたいな面白フェイスになるんじゃ……」などと自問自答したりもしているが、それはともかく。

 

「あっ、バンビちゃん。どうしたの? 今日は僕がバンビちゃん付きじゃなくなるから、新しい部下を集めようってなったんだよね」

「い、いえ、別に……、新人皆誰も集まらなくて、リルのところから誰か融通してもらおうとしても蜘蛛の子散らしたわけじゃないのよ? うん。あたし、別にフツーだし」

(自分で自分に言い聞かせて納得してる時点で自覚あるんだよなぁこの頭バンビエッタちゃん)

 

 平常運転だなーと遠い目をして乾いた微笑みの蒼都。

 まあそんなこと良いのよと露骨に話題をそらすバンビエッタが近づいてくるのを察知してすっと立ち上がり、彼女の前に立ちはだかった。

 

「邪魔、何のつもりよ。…………ちょ、ちょっと近いっ」

「えっ?」

「な、何でもないわよ。で、何をやってるのよ、あなた達。図書館の手前に勝手に領域(ヽヽ)作ったりしたら駄目じゃない。通行の邪魔になるわよ? ただでさえ最近は人の出入りが多いみたいだし…………、バレないわよね死神共にあたし達が『ここ』に居るってこと。大丈夫よねブルーさ……?」

 

(あのバンビエッタがまともなことを言っている、だと……?)

(アババ、“S-英雄-(スーパースター)”呼ばなくて大丈夫ですかね……!?)

騎士団長(グランドマスター)が最近ちょっと不機嫌だから、小さなことでもビビリ散らしてるんだろうなぁバンビちゃん……)

 

 三者三様の感想はともかく、ブルーと呼ばれた蒼都は「まあその時でも一緒にいるし」と軽くなんでもない事のように答え、「ん」と少し唸った彼女は、帽子を深くかぶり目元を覆い隠した。

 

「まあ何やってるかって言われても遊んでるだけなんだけど……。ほら、ベレニケさんと、えっと、名前知らないんだけれど……」

「グレミィだよ、ブルー」

「あ、あの人がグレミィさんか。リルお姉ちゃんと仲良しの人。……それで、二人で現世に情報(ダーテン)調査しに行ってたよね。

 何か陛下いわく『現世で5つの星が燈る道筋が確定した』とか。で、死神と虚の強大な霊圧がビシバシしてたのを、その残滓というか規模というか、どの程度の脅威の戦いだったのかを調査しに行ったらしいんだけど――――」

「…………どーでも良いけど『頭ヘンなニケ(ヽヽ)』、あなたブルーに色々話しすぎじゃないの?」

「君に頭ヘンと呼ばれるといささか異議を唱えたいことが山のようにあるのだがね! いや、まあどうせ情報(ダーテン)はレポートにまとめる類のものだし、秘匿するレベルの情報も集まらなかったとも。

 それにブルーは幼少期からの付き合いだ、つい甘やかしてしまう」

「ふぅん、せいぜいそうやって足すべらせて死なないようにね」

「!?」

 

 バンビエッタに自らの身の心配をされたようなことを言われて衝撃を受けた顔をしているベレニケと、彼の隣で同じくバンビエッタの正気を疑っている顔をしてるジェイムズ。

 なおブルーはブルーで「どうせ肉壁が減るからとか思ってるんだろうけどね」と内心を察していたりしており、ますます彼女の前から動くつもりが無くなった。ちょっと機嫌が悪くなったら爆裂必至である。

 そんなわけでスっとアイコンタクトする蒼都に、ベレニケとジェイムズは顔を見合わせてから頷いた。そそくさとバンビエッタの手を引くブルーに「な、何よだからさっきから! ちょっと、そんなに積極的になっても爆破しかしないわよ!」と精神異常者がごとき発言。当然のようにスルーしつつ、彼は説明の続きを行う。

 

「ま、まあまあ……。で、アレはジェイムズ君がベレニケさんに現世のアイテムをコレクションしたやつ。今回最新号買って来たって言って、せっかくだからって僕も御呼ばれして一緒に読んだり見たりしてた」

「あたしも呼びなさいよ、そんな面白そうなの!」

「いやでも……、趣味に合わないとか詰まらないって飽きたら投げ捨てるか燃やすかするでしょ」

「あなた、あたしのこと何だと思ってる訳?」

 

(そりゃ頭バンビエッタなバンビエッタ・バスターバインちゃんですともねぇ……、あ、柔らかい)

 

 元の場所に戻ろうと手を引く蒼都の腕を抱きしめ、反対側に引っ張ろうとするバンビエッタ。くしくもブルー本人も異性を意識していないはずだからこその、その躊躇のない抱き着きに、少しだけ下心をもって癒され、そのままつい引っ張られる。

 もっとも元の場所、彼女いわくの図書館へと通じる軒先公道の一角……と形容していいか分からないが、ともあれ西洋風建築のその場所の一角は、もはやもぬけの殻であった。

 

「何でよ! 何で逃げるのよ! いくらあたしが美少女だからってその対応どーかしてるわよね、ブルーちょっとそこに直りなさい!」

「ハイハイ……」

 

 そしてとくに何事かある前に、ブルー本日一回目の爆散であった。

 適当に距離を取って離れた後、彼目掛けて礫の様な霊圧の塊を叩きつけて、そのまま爆破するバンビエッタのそのストレス耐性のなさこそが、蒼都がベレニケたちととったアイコンタクトによるジェイムズのコレクション回収と撤収に通じるものである。

 要するに危険人物への適正な対応というやつだ。

 

 なおその爆散した死体を見て少しすっきりしたのか「ふぅ」と胸元を少し開けて汗を拭い微笑むバンビエッタ。そういうことを幼少期から彼相手にずっとやってるからイケメンが寄り付かないんだぞ、少しは自重しろ。

 

 もっともその蒼都とて、いつの間にやら倒れ伏した下半身の上部に「銀色の物体」が集まり蛹のごとく固まり、人型となった後は何事もなく復活しているのだが。

 

「あなたのソレも相変わらず大概ね。まあ“Σ-鋼鉄-(シデロ)”の時と違って“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)”はちゃんと死んでる(ヽヽヽヽ)感じがするから、前よりちょっと楽しいけどっ」

「…………………………………………」

「何? 何か言いたことでもあるの? いいじゃないブルーってば、あなたちょとくらい死んでも死なないんだから、少しくらいならあたしが殺したって」

「狂人の発げ……、何でもないからまた霊子の塊向けてこないで、ほら」

「ふーんだっ。そんなに嫌ならリルの所にでも泣きつきにいけばいいじゃないっ」

「じゃあミニーちゃんの所に――――」

「――――それは駄目よ。キャンディもダメ。絶対に駄目」

 

 すっと手を差し出し抱き起した蒼都の発言に、突然目からハイライトを失って彼を抱きしめる、否締めあげるバンビエッタ。以前リルトットの部屋で寝た際に「何もなかった」ことがわかったせいもあってか、彼女に対しては警戒心がゼロになったようだが、他についてはまた別であるらしい。歪んだ独占欲の発露である。

 なまじ、これでも本当は自分の性格が色々終わっていることに自覚的なバンビエッタのバンビエッタたる所以であった。

 

 しばらくして機嫌を直した彼女が「せっかくだしバズビーの世紀末頭でも揶揄いにこうか!」と色々アレなことを言い出して、ストッパーもしくはサンドバッグの覚悟を決めて彼女の後ろにつきそう蒼都であったが、その道中での遭遇。

 

「…………おや? 君は蒼都(ツァントゥ)ではないかな?」

「あ、シャズさん。おはようございます」

「嗚呼おはよう」

「ちょっと、何でバンビエッタちゃんのこと無視する訳? バンビエッタちゃんが可哀想じゃないの!」

「それを正気で言っているのだとするならばリルトット・ランパードが毎度頭を抱えているのもうなずけるところであるねぇ」

 

 シャズ・ドミノ。仮聖文字“σ-聖痕-(スティグマ)”を持つ、グレミィ・トゥミューの副官である。仮とは言え聖文字を与えられている以上はいずれ聖章騎士招聘は確定なのだろうが、今のところはそういった話は出てきていない。

 バンビエッタが「知り合い?」と確認すると、蒼都とシャズ・ドミノは顔を見合わせて頷いた。

 

「仮聖文字、実は同じ文字だったから」

「ああ。もっとも蒼都は大文字のΣ(シグマ)だったが、俺は小文字のσ(シグマ)なのだがね。

 まあそんな縁もあり、俺から話しかけてぽつぽつと。能力が少し似通っていたから相談に乗ったこともあるし、グレミィ、俺の上官がリルトット・ランパードの零す愚痴を聞いて苦笑いしているのを見ていたのもあってねぇ」

「愚痴? なんでリル、愚痴なんて零すのよ。せっかく栄えあるバンビーズの一員で、このあたしとずっと一緒に遊んでるのに、そんなの発生する訳がないわよね? よね? ……ブルー、あたしの顔見てよ、どうしたのかしら?」

 

 蒼都は顔を逸らし、シャズ・ドミノはサングラス越しに白けた目を向けた。

 なおバンビエッタ本人は「きょとん」とした無垢な顔であり、それがますます二人の感想に拍車をかけていることだろう。

 

「まあ、あなた達の話はわかったからもうどうだって良いわ。

 行くわよ、ブルー」

「あ、うん。じゃあまた――――」

 

「――――おお、ここにいたかシャズ。探したぞ」 

「ああ、すまないねぇジェロームくん」

 

(えええッ!!?!?!?!?!?)

 

 興味を無くしたバンビエッタが立ち去ろうとしたその時、シャズ・ドミノの後方から霊子で編まれた大量の紙束を抱えて歩いてくる大男。見た目で言えば蝙蝠顔のゴリラとかそういった怪獣の類のものであるが、そんな恵まれた筋肉質な体躯を持つ男が、よっちよっちと大事そうに大量に積まれた書類を落さないように運ぶさまは、どこかコミカルにすら見えた。

 ただそんなことよりも、蒼都の内心を支配している動揺はそのコミカルさだけが原因ではない。

 

(デカい的の人じゃん、何かすごい理性的な声してる……!)

 

 蒼都の魂の大本に有る誰か、あるいは混じった誰かの前世の記憶とでも言うべきものが、その男、ジェローム・ギズバットのことを教えくれるため、そのイメージと現在の本人との間のギャップに衝撃を受けていた。

 彼は聖文字“R-咆哮-(ザ・ロア)”の力でゴリラですら凌駕する大型怪獣がごときオオザルへと変貌し、そのまま超高周波超高圧の叫び声をもってして一陣の体内(脳などがメインと思われる)へと直接ダメージを与える存在である。イメージとしては怪獣が前提であり、つまりは脳筋を想像していた。

 だが実際の彼はというと……。

 

「すまないねぇ、俺がグレミィから受けた仕事だというのに手伝わせてしまって」 

「問題はないさ。一応、『聖文字を頂いた』時期は同期だろう。それにこれは俗人的な作業でもない。馬力が増えればその分作業が終わるのも早くなるはずだ」

「そう言ってもらえると助かるよ。……後で何か差し入れを持って行こうかねぇ」

 

(すごい同期の会社員同士みたいな会話してる…………! なんか凄い仕事できそうな雰囲気してる……!)

 

 その見た目に反して、騎士団内での挙措が明らかに理知的で思慮深いタイプの人間のそれであった。バンビエッタもあまり知らなかったのか、似たような仰天の表情でジェロームを見ている。

 

「ム? 貴女はバンビエッタ・バスターバインと……、そっちはブルー・ビジネスシティか。正式招聘おめでとう」

「あ、ありがとうございます…………」

「それで、これはどういう状況なのだろう?」

 

 そうは言ってもあまり語ることはない。適当にたまたま三人で話したということを説明すると、今度はバンビエッタが何の仕事をやっているのかを確認した。

 ジェロームが質問を受けたが、答えたのはシャズ・ドミノ。いわく、先日グレミィが現世で大量に蒐集してきた情報(ダーテン)の整理作業とのことだ。何故大量なのかと言えば、ついでに移動中に蒐集した瀞霊廷の情報の抜粋などもあるからとのこと。……基本的には諸事情アリ幽閉されているグレミィであるが、一度外に出ればその一つのきっかけで多岐にわたり何でも出来てしまうのであった。

 

 それはともかく、彼らの仕事を聞いたバンビエッタは、「ブルーあなた、そういえば死神たちの情報(ダーテン)って触れたことなかったよね? 大変だわ?」と真面目な顔でお姉さんぶる。

 

「あたし、バンビちゃんは最強だからそういうの特に読まなくても全然大丈夫だと思うけれど、あなたはちゃんと仕事としてやった方がいいわ。せっかくだから手伝ってきなさい」

「いや、情報(ダーテン)はちゃんと読もうよバンビちゃん……」

 

 アニメにおいて一部セリフの改変はあったが「斬魄刀に人格がある」という根幹設定すら滅却師側の集めた情報網があるくせに知らなかった原作蒼都の低OSR(情けなさ)を思えば、ブルーの発言は当然のそれである。

 そしてある意味驚異的なことに、はぐらかすでもなく文句を言うでもなく「ん、そうね」と軽く応じるバンビエッタだった。否定も言い訳もしないので、後日本当にちゃんと情報を読み込むと考えられる。

 

「じゃあ、バズさんとあんまりケンカしないでね、バンビお姉ちゃん。

 …………えっと、よ、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく。グエナエル・リーよりは性格が良いと陛下からもお墨付きを頂いている、しっかり手引きしてあげよう」

「その仰々しい言い方では、かえって身構えてしまうのではないか? シャズ。レットビィフランク、気楽に構えておくといいぞ? ブルー」

(やっぱり脳がバグりそうなんだよねジェロームさん………………)

 

 そんな流れでケラケラ軽く笑うシャズ・ドミノと、見た目の恐ろしさから想像もつかないくらい優し気にブルーの肩にポンと手を置いて微笑むジェロームに、困惑するブルーであった。

 

 そして資料室に入ってからおおよそ3時間後。バズビーを揶揄い終わって散々爆裂事件を引き起こし、いつ以来かキルゲ・オピーから二人そろって説教を受けた後。「流石にそろそろ終わってるわよね」と気楽に図書館こと「情報(ダーテン)の管理室」まがいなエリアとなっている区画へと足を踏み入れ。大量の書棚が連なるその施設の奥へと足を踏み入れた瞬間、彼女の目のハイライトは死んだ。

 

「…………何、アレ?」

 

 視線の先では。霊子で編まれた紙を分類してバインダーがごとき器子のバインダーのようなものに挟んでいる蒼都の周りで、女滅却師の集団。十人にも満たないが、聖兵(ゾルダート)の中でもリルトットやキャンディスの周囲にいる面々だ。流石に表での活動時は仮面を被っているものの、施設内においては別にそこまで縛りがある訳でもない(キャンディスの所の聖兵など常に顔を出すよう彼女から言われている)。なお、誰も彼もが基本的に外見上はバンビエッタと同年代か少し小さいくらい、つまりはティーンエイジャーあたりなので、それに囲まれている蒼都は外から見ればモテモテそのものに見える。

 バンビエッタ、内心の何かが癇癪玉のごとく爆裂しそうな感覚に襲われ、実際に霊子を癇癪玉のごとく爆裂させるため編もうとしかけたが、しかしまだ今よりは幼かった彼のいつかの夜の言葉が脳裏を過り、一旦深呼吸。大丈夫、あたしは普通、あたしは普通。

 

 自己催眠のように繰り返してから書棚の陰に隠れ、彼女はブルーと周囲の彼女たちのやり取りを見る。そもそも連中、バンビエッタが自分の部下を欲した際に逃げ出した女性滅却師であるのに、どうして蒼都にああもハイエナのように群がっているのか。

 

「あー、僕がどうして聖文字をもらったかといわれても……。そもそもそれがなかったらバンビお姉ちゃんが僕に目を付けはしなかったと思うけど、多分、陛下の気まぐれかなっていう…………」

「本当にそうでございます?」「でもバンビエッタ様の、あの仕打ちに毎度よく耐えてますよね、尊敬します……」「アレやってください! アレ! ウルヴァリ〇!」

「そこまで直接的に言っちゃって大丈夫かな……(※メタ)。まあ、いいけど。はい」

『おぉ~!』

 

 しれっと請われるまま、腕の仕込み鉄爪なども見せたりして、その気安さじみたものに何故かイライラするバンビエッタ。

 

「……そんなところで何をしているんだ、バンビエッタ」

「!?」

 

 そんなタイミングで、控えめに声をかけてきたのはベレニケであった。ブルーを見てそれはそれは恐ろしい顔をしていた彼女を、せめて少しでも抑えられればという兄貴心めいた何かが働いたのかもしれない。

 とはいえ、ぐりん、と振り返った光の消え失せた目のバンビエッタを前に「選択を誤ったかな……?」と冷汗が垂れる彼だったが、それでもまあ「同期」ではあるせいか、意外と当たられ方は強くなかったと思い直し、彼女とコミュニケーションを試みた。

 

「(で、アレ何なの? 何であんなことになってるわけ?)」

「(あんなこととは……、ブルーのことか? いや、そりゃあそうもなるだろう。女性滅却師は数少ないが、ブルーは割とモテる方だぞ?)」

「(えっ?)」

 

 やはりこの世の終わりを目の当たりに絶望したような顔をするバンビエッタに、メッシュを変えた前髪をいじっていたからそんな顔など見ていなかったと内心言い訳をしつつ、ベレニケは説明を続ける。

 

 そもそも幼少期から過酷な生活を送っていた(誰のせいかは言及せず)にもかかわらず特にグレることもなく、騎士団内の滅却師としては異例なほど誰とでも仲良くなろうと接触する。まだ全員とはいっていないが、特に聖章騎士の間でも彼の評判はそう悪くない。

 あの犬猿の仲のように囁かれるバズビーとハッシュヴァルトですら、その姿勢の前には結託して彼の生育環境の改善を相談し合ったりする光景が目撃されたりもしており、その「子育てセラピー」的な何かにより、騎士団内部の空気から若干だが棘が折られているのだ。

 その基点となっている彼本人はしかし驕らず、成長してからは一般兵たちの相談も聞いたり、訓練をしたり仕事をこなしたり、あるいはバンビエッタの知らないところで率先して雑務を引き受けることもあったりと、その顔は意外と広い。

 

 そしてブルーのメタ的視点も加えてもっと言えば、おそらく原作の蒼都よりも早くに“見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)”に引き取られたせいか、その前後で今の人格となったせいか、視線が鋭さ極まりない狂気の様な形になる前の、チョコラテ漬けの様なくりくりとした目つきのままで固定された。

 つまりは、特徴のないイケメンの完成である。

 一般社会的には特徴のないイケメンだが、しかし滅却師の界隈においては「性格に難がない」というのが(一部良識的な面々には)恐ろしくプラスに働く。

 

 ……なおベレニケ本人もその観点から言えばモテそうなものだが、彼自身はまた別な性格的理由から女性と長続きしないのだが、そのあたりは割愛。

 

「(同情票も多くはあるだろうけれど、希少価値というのは何事においても重要なものだ。うん、異論はないだろうバンビエッタ。…………バンビエッタ?)」

 

 そして一通り説明が終わる頃には、バンビエッタの目には光が戻っていた。光が戻ってはいたが、しかしその表情は妙に見慣れないものであった。

 帽子を目深にかぶり直すと、半眼で、しかし何かを決心した目をし。

 

「………………まあ、あの子に『選ぶ権利』なんて当然ないけど、でも本当はそうじゃないってことくらい、あたしだって分かってるし。だったらあたしも、ちょっとは考えないといけないってことよね」

「……バンビエッタ、どうしたんだ今日は本当に?」

「別に、何もないわよ。あたし普通だから。

 でも参考になったわ。ありがとう、頭ヘンなニケ」

「だからその呼び方を…………、ん? ん!!?!?!?!?!?!」

 

 突然感謝の言葉が飛んできて脳が理解を拒んたベレニケはさておき。資料整理中のブルーの元へといくと、「後これだけだからちょっと待ってて」と言われ、そのまま素直に彼の隣でじっと作業を見つめ続けるバンビエッタ。彼女の登場と共に女性滅却師たちはそそくさと姿を消したが、彼女からすればそれは丁度よかった。

 ジェロームたちに挨拶もそこそこに、彼女はブルーの手を引いて空中を舞う。

 

「バンビちゃん? …………えっと、どこに行くの?」

「うち」

「うち?」

「そ、あたしンち」

「……………………?」

「……あ、そっか。ブルーってばお城からほとんど出ないから、知らないのよね。一応城下に家があるのよ。まあほとんど誰も使ってない隅っこの家をあたしが勝手に使ってるんだけど」

「バンビちゃん駄目じゃないのそれ……?」

 

 思わずなツッコミを入れるブルーのそれを無視して、バンビエッタは彼の手を引き、本殿を出た後の区画を行ったり来たり。実際彼女が言った通り、人気のないエリアにて「バンビエッタちゃん参上!」とドイツ語で殴り書きされた門のあるこぢんまりとした家へ。白い壁によってつくられたシンプルなそこは、中に入るとベッドと簡単な机だけのシンプルな部屋に、ボロボロの衣服……、器子と霊子の境界があいまいなそれだが、おそらく現世から持ち込まれたろうその衣服だけが、適当に散らかっていた。

 どれも年代を感じさせるもので、さすがにそれを見たブルーも困惑する。

 

「…………えっと、生前のお洋服?」

「まだ死んでないわよっ。まあここって『境界が曖昧』だし、あんまり意味ないかもしれないけど」

(いや死んじゃったらゾンビエッタちゃん不可避だから、流石にそういう訳にもいかないんじゃないだろうか…………)

 

「それで、一体何で僕を――――むっ?」

 

 そしてバンビエッタの方を向こうとしたブルーの唇が、塞がれた。

 何ら脈絡なく、目を開けたままバンビエッタは、彼の襟首を引き自らに引き寄せ、その唇を奪っていた。

 ディープではない、意外な程初心な、ただ触れるだけというそれは、今までの蓄積で一切「そのテの経験」を積めなかった弊害か。

 

 硬直したままの彼に、唇を離したバンビエッタは言う。

 

「…………あなたがリルのところで寝た時に、何もなかったけど、ちょっと思ったのよ。ずっと一緒にいてくれるって言ってはくれたけど、あたし、あなたに対してそれを信じられる根拠がないって。

 根拠って言うより、メリットっていうのかしら。あなたがあたしと一緒にいるからって、別に得してるわけじゃないじゃない? なのにあたしにばっかり都合良いこと言われても、それじゃ駄目だよ」

(あっ、まともなこと言い出してるってことはおビビリモードになっておられる……?)

「でも正直、どうしたら良いかわかんなかったけど、でもさっきのアレ見て気付いたの」

「さっきのって、ミニーちゃんの所の人たちとか? ……って、何に気付いたの?」

 

 

 

「勢いで『スッキリする』ような関係になったら、お互いメリットしかないじゃない? うん。結婚とかそういうのは考えてないけど、そういう欲求って魂魄でもしっかりあるし。

 うん、やっぱりバンビちゃんってば天っ才!」

 

 

 

(典型的な依存症彼女みたいなこと言い出したぞ頭バンビエッタちゃん!? というか至る結論がそれでいいのか頭バンビエッタちゃん!!?)

 

 まあ原作でもスッキリすることには余念がなかったバンビちゃんなので残念でもなく当然の帰結ではあるのかもしれないが(そして死ぬ)。

 ただブルー視点では、本当に何の脈絡もなくその話が出てきたため、脳と感情が状況に追いついていなかった。元々求めてはいなかったとはいえセンチメンタルさやロマンチックさの欠片もないその急展開である。面食らったのも無理はない。

 

 そんな彼を軽く押し、ベッドに倒す。

 

「ただ、上手く出来るとは思っちゃ駄目だよ? あたしだって経験ないんだし」

「あ、うん…………って、えっと、その、えっ?」

「意味は解ってるでしょ? そういう目で見るなって言った時、毎回あなた()がすくみ上ってたのは見てたし」

「いや、そんな十二歳くらいまで一緒にお風呂に入ってた話をされてもさ、えっと……」

 

 なお肝心のブルーは、色々と恐怖で震えがっていた。ガクブルというやつである。なまじ中の人にこういう経験が有った無かったという問題ですらなく、相手がバンビエッタであるからこその恐怖だ。それこそ今では殊勝な態度だが、何切っ掛けに機嫌が切り替わり凄惨な状況へと早変わりするかわかったものではない。それこそロマンチックさの代わりにスプラッタな光景がセットでお届けされるくらいに、彼女に対する信用がなく、また彼女に対する信頼があった。

 

「大丈夫よ。今日()全部こっち(ヽヽヽ)にするから。…………受け止めてあげるから。だからあなたも、あたしの駄目なところ全部受け止めてくれないと、駄目だよ?」

「あっ、……………………」

 

 ただそんな彼の理性も、上着を脱ぎ捨てたバンビエッタが彼の頭を「挟んだ」時点で、ゆるく、ゆるく、そして素早く溶かされ――――――――。

 

 

 

 翌日、何故かリルトットがスタミナの付きそうなガッツリした肉とニンニクソースのハンバーガーを持ってきて「食え!」と投げつけられたブルーと、それに何かを察したミニーニャが彼をバンビよろしく自分の家へと連れ込むようなことが、あったとか無かったとか。

 

 

 

 

 



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#012.番外編:WALKING WITH WARNING

今回は番外編なので、本編放映前にもう1話更新です
やっぱり前回から展開決定用に振ってるダイス神の頭がどうかしている模様なので色々ご容赦…





 

 

 

 

 

 

「――――石田雨竜、この世に生き残った最後の滅却師(クインシー)だ。

 私はこの者を――――我が後継者に指名する」

 

 変形した十字架、もはやアスタリスクのような形状の黒模様を白装束にあしらった滅却師、聖章騎士たちは、彼等の王であるユーハバッハの言葉にそれぞれ表情を変えた。

 

 尸魂界侵攻後、帰還してからほぼ直後。とはいえそう間を開けるつもりはないと考えているがゆえ、最終決戦目前であると騎士団はそう認識していた。

 それに先立ち滅却師を集めたユーハバッハからの訓示。それに身構えていた面々であったが故に。聖兵級ならいざ知らず、聖章騎士たちは否が応でもその意向によって左右される。

 

 だからこそ突如、ユーハバッハが招いたその見たことのない顔を、違和感をもって見ていた。彼が、自らと同じ壇上にて紹介をし、同時に指名すると言う一連のそれ。

 

 ……まあその中で、特に興味のなさそうな面々もいないわけではない。例えばリルトットならそもそも無表情のまま半眼、BG9は「ブォン」と形容できる音を立ててこちらもリアクションらしいリアクションをとらず石田を見つめたまま。

 なおブルーこと蒼都に至っては、戦慄したような酷い表情のバンビエッタの方を横目で伺って、若干頬が引きつっていた。

 

「どうしてぇ?」

「陛下の後継者……? ちょっと、ブルーどういうことよブルー」

「いや、普通に知らないからねバンビちゃん……」

 

 そんな一部緊張感のない小声のやりとりはともかく。

 

「オイちょっと待てよ陛下! そんなこと言って、それじゃユーゴーは……、ッ! ユーゴーお前……」

「…………………………」

 

 食って掛かろうとしたバズビーを抑える騎士団長、ハッシュヴァルト。

 状況的にハッシュヴァルトを睨みつけるバズビーと、そんなバズビーにばつが悪いのか顔を逸らしているハッシュヴァルト。ブルー視点では若干だが何かが違う様な、そんな光景をユーハバッハは当然のように無視した。

 その後、やはり異論をさしはさむことを出来ないような言い回しを取り閉幕。

 

 談話室に集合した一部滅却師たちは、それぞれの感想や困惑をぶつけていた。

 

「全っ然わっかんねぇ! 何がどうなってんのか全っ然わかんねぇぞ! あの眼鏡何なんだよ、誰か説明してくれよォ!」

「ま、まぁまぁ、バズお兄さん……(しゃべり方完全に一護(チャンイチ)みたいな感じになってる……)」

 

 激昂して壁を殴るバズビーにどうどうとするブルーだったが、彼等の「裏の」事情についてはメタ的な意味で知っているため、あまり強く何か言うことはできない。せいぜい「壁殴ると手、痛めちゃうから」と気遣うくらいだ。

 なおそれで「まぁ、そうか」と一気に冷静になるあたり、バズビーもバズビーで彼に向ける微妙な感情の機微が伺える。

 

「説明か! 誰がする、誰ができる? ベレニケすら喉を潰され引きちぎられ殺された今、我ら騎士団で誰が陛下に真実を問いただせるか!」

『そもそも陛下は“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”に限らずそういった概念攻撃が通用するとは考えがたいと、結論が出ている。故に答えられるのは陛下一人であるが、それで何を納得するのかと言う話だろうな。返答には期待できない』

 

「頭ヘンなニケ……、喉を引きちぎられて………………ッ」

 

 マスク・ド・マスキュリンとすっかり姿形が細身になり声が渋くなったBG9。

 その際にベレニケの名前が出たのに、一瞬ぴくりと眉が動いたバンビエッタは、無表情にブルーの背中を見た。

 それを特に気にするでもなく、リルトットが情報整理も兼ねて口を開いた。

 

「説明もクソも、後継者って話自体が初耳だろーが。納得するしない以前にいきなり話出て来たんだから、俺たち全員トボけんのも普通だろトサカ野郎ォ」

「リルお姉ちゃん、もうちょっと呼び方……」

「お前、この最っ高にクールな髪型の何に文句があンだよ!」

「別に無ぇよ興味も無ぇ。『誰に』アピールしてぇのかとかもな」

「陛下も、もう長くないってことかしら…………?」

「ミニーちゃん?」

 

 そんなことを言いながらバズビーの傍にいるブルーの腕を、不思議そうに微笑みながら引くミニーニャ。身長はミニーニャがブルーよりも20センチ近くは高いため、やや肩のあたりに胸が触れるような位置関係。もっとも彼女は気にせず蒼都の腕を抱きしめ、まるで「ブルーはこっちの陣営ですぅからね?」と主張するような謎の圧がある笑顔だった。

 なおミニーニャがある程度引っ張った後は、ジジが「こっちこっち!」とニコニコ笑いながら自分の隣、キャンディスの後ろ側へと誘導する。そしてそれを見て目を大きく見開いて口をゆがめたバンビエッタに、密かに趣味の悪い笑みを浮かべていたりした。絵面としては、椅子に座ってるキャンディスをブルーとジジの二人で囲っているような、ちょっとした逆ハーレムめいた光景になっている。

 

 なお、流石にそんな異様な人間関係については誰も触れたくないため、表面上は円滑に議題が進んでいる。

 

「キャンディちゃん、いつもみたいにあの後継者クン摘まんでみたらぁ? ブルーと違ってフリーだよフリー、今なら女王サマになれちゃうかも!」

「人のことを売女みたいに言うんじゃねーよッ! そういうの狙うとか意味わからないっ」

「えぇ~? ビッチじゃないみたいに言うじゃ~ん」

「当たり前じゃんっての! 大体そういうのは、まず相手のプロフィールを教えてもらって、自己紹介しあって、お互い一緒に食事して話し合って、ちゃんと距離を詰めて仲良くなって、それで改めて――――」

『確かに売女(ビッチ)の誹りは不適格だと判断できる。正しく仲良くなっているな』

「そうよ? キャンディは売女じゃないのよ、ただ恋多き乙女ってだけよ」

「バンビ、お前…………」

「乙女って年齢(トシ)じゃねーけどな」

「リルちゃん、それ私たちみんなに言えると思うの」

「ま! 恋が多いってことはそれだけ尻軽なことに変わりないってことよね!」

「……ちょっと感動したあたしが馬鹿だった! バンビのバーカ、バーカ!」

「何ですって!? ちょっとキャンディ、バンビちゃんに向かって馬鹿とは何! ジジも何そんなお腹かかえて顔下に向けてるわけ! ブルーまで顔背けてるし」

「――――――――(※大爆笑するジジ)」

「はっはっは! 本音で言い合えるその関係もまたチームアップとしては好ましいと、スーパーヒーローがお墨付きを与えよう!」

「ひょっとして目ェ節穴か、コイツ?」

 

(こ れ は ひ ど い)

 

 原作よりもひどく緊張感が崩壊していた。カオスぶりに拍車がかかっているが、決して自分だけのせいだとは思いたくないとブルーは遠い目をして現実逃避をした。

 なおジェラルド直々に現在の騎士団が、主に子育てセラピー的な何かによって少しだけチョコラテ的に緩和しているということを遠回しに言われているが、ブルー本人はその意味を解釈できていなかった。

 

 ちなみに「お前等平和で良いなぁ……」とぼやくバズビーだが、これを平和と言ってよいかは評価が分かれる所であろう。ベレニケがいれば間違いなく「えぇ……?」とドン引き必至である。なまじ彼女たちが加入してから百年には満たないだろうが、色々と慣れてしまった弊害だ。

 そして、おそらくその普通の感覚が残っているだろうBG9は、うっすらと持っていた甲冑の内側のモノアイめいた発光を落して首を左右に振った。

 

「…………こんな場所で一体何をやっている。内容次第では防音くらいはしておくべきだろう」

「あ、ハッシュヴァルトさん」

「む? ………………、嗚呼……」

 

 そして扉を開けて入ってきたハッシュヴァルトが普段通り冷徹な表情のまま室内を見渡すが、バズビーの何とも言えない目を見て、次にバンビーズがどんちゃん騒いでいる方を見て、こちらもバズビー同様にどこか疲れたような目つきになった。やったね! バンビーズ周りのお陰で、バズとユーゴーに「今の」関係性でも友情と連帯感のような何かが芽生えたかもしれないよ!

 

「何やってるかって言ったら、こっちの台詞だぜ? ユーゴー(ヽヽヽヽ)

 俺はよォ……、陛下の後継者はてっきりお前だって思ってたんだがなぁ。だから俺みたいなのは納得『したことにして』ここに居るんだがなァ」

「バズ……」

「他の騎士団(リッター)だって、その方が文句も無ェだろ。なのにお前はどうなんだよ」

「……………………寝耳に水だった」

「お、おぅ…………」

 

 お互い、気まずい沈黙。ついでにその空気が場に伝播して、同様に沈黙。

 陛下ちょっとボケてないよね大丈夫? みたいなことをハッシュヴァルトがいなければバンビあたりが口走っていそうだ。実際、その理知を「ゆっくりと」取り戻したのはここ100年前後の出来事にあたるため、雰囲気は一緒だが割と言動にボケがあったという認識が一部滅却師にはある。

 

 とはいえ推測はつくがな、と前置きをし、沈黙を破ったのはハッシュヴァルト。

 

「だが、陛下の御意志が全てだ。我々ごときが口を差し挟む余地はない」

「余地はないってんなら、文句あるんだろお前。ちゃんと言ってくれば良いじゃねぇか、立ち位置的に許されンだろ? ……いやまあ、言っても無駄か」

「無駄だろうな。陛下がその気になったら」

「形無しじゃねェか、次期皇帝陛下サマよォ」

「そもそも意見が通った試しの方が少ないさ、バズ」

 

「ナンか本当、ここ十数年仲良くて気味悪ィ」

 

 しれっとリルトットがバズビーとハッシュヴァルトの会話に毒のある愚痴をぼそっと呟くが、それはさておき。二人の視線は「バタフライエフェクトじゃないよねこれも……」と内心冷や汗を流しているブルーを一瞥した。

 

 なお一切ケンカ沙汰に発展しないため特に手を出すこともないアスキンは、バズビーたち二人の疲れたやり取りに見え隠れする感情の機微に「オシャレじゃないの」と少しニコニコ。対して状況を遠方から見守っていたペペは「これもまたラッヴ……、気遣い思いやりのラッヴ……」とゲッゲッゲと笑っていた。

 なおバンビーズも、リルトットとミニーニャも二人の会話には集中して聞いている。気色悪いとは言ったがリルトット的にあの二人の「ここ十数年」以前を知っているからこそ、ケンカに発展しない理由がわからず薄気味悪く観察。ミニーニャは純粋に「仲良いなんて、あんまり知らなかったわぁ」と興味津々といった形である。

 

 そして話し合いに途中で飽きたバンビエッタが、いつの間にやら別な扉を開けて退室。

 原作知識的に嫌な予感を覚えたブルーが「ちょっと様子見て来る」と言い、それには何故かキャンディスが「死ぬなよ」とだけボソっと返していた、

 

 果たしてブルーが見たものは。

 

「アンタ。そう、ストレス『とか』色々タマってるから、部屋に来て。今すぐ」

「はい!? じ、自分がでありますか…………!? えっでもその……」

 

 原作でバンビエッタから声をかけられていたイケメン滅却師、細マッチョ系の彼、キャンディスの聖兵(ゾルダード)が一人であった。騎士団に所属してからはいまだ二十年足らずと日が浅いが、しかし彼は(少なくとも外見は)極上の美少女からの誘いに、明らかに滝汗を流して躊躇していた。

 躊躇と言うより断る前提で、しかしどう言葉を選んだら良いか迷いに迷っている顔である。顔は赤らめておらず青ざめて、一歩勇み足になるどころか一歩及び腰な姿が内心の全てを物語っているだろう。

 

 何よ文句あるの? と不機嫌そうに見るバンビエッタに、その視界(射程圏とも言う)に捉えられ得る他のキャンディスの部下たち一同、揃いも揃って明らかに動揺していた。

 そんな中、いまだキャンディス傘下に入ってから日の浅い、唇にピアスをつけた、どこかチャラチャラした滅却師が「だったらオレ、立候補して良いッスか?」と、下心ある顔で手を上げようとし、そして一斉に周囲から止められた。

 

「止めろお前、命は大事にしろッ!」「霊圧差じゃなくて本能で察っするんだ!」「せめて『兄貴』くらいの頑丈さを身につけて……」「いや、兄貴って正式加入してからはよく血しぶき上げてるんじゃ…………」「シッ! 我々にとってマスターは鋼のボディ、鋼鉄の男なんだッ!」

「えっ、何、そんなに拙いやつなんスかね…………?」

 

「キャンディ、あなた達にどんな教育してるのよ」

 

 腕を組んでぷりぷり怒る様は大層可愛らしいが、霊子が彼女の周囲で微妙に振動しているような気がしたブルーは間髪入れず間に割って入る。……何故そんなものを察知できるかと言えば、こう、惨殺され続けた経験則で? 事前モーションのようなものを本能的に理解する能力をバンビエッタ限定で得たとみるのが妥当だろう。もちろん彼女以外には大して役に立たない類のものである。

 

「ブルー? 抜けて来たのかな」

「いやバンビちゃん、普通にローシュブリア君たち皆死んじゃうから自重してね? ね?」

 

 それはともかく、ブルーの登場に新入り以外の一同は「マスター・ブルー!」と声を上げて直立、からの敬礼姿勢である。特に誰に言われるまでもなかったが、しかし軍隊じみて動いた彼らに、ブルーは「お、お疲れ」と困惑気味だった。

 

「駄目だよバンビちゃん、そうやってイライラしたらすぐ人を使って発散しようとするの」

「えっでも…………、別にエッチなこととかしないわよ?」

「より酷いよバンビちゃん……。良い思いもなく一発で斬り殺そうってことでしょ?」

「うん」

 

 つまり、特に誘惑することもなく即殺宣言であった。

 ナチュラルに日常会話のテンションで肯定する彼女。流石にこれを聞いた新入りも「あれ、ひょっとして地雷どころか核弾頭……?」とそのバンビエッタ・バスターバインの頭バンビエッタぶりに気付く。

 

「でも毎度、あなた相手だと流石にバンビちゃんの良心も痛むんだよ。出撃ちょっと前の訓練の時なんて一日中好き勝手したら、あなたってばミニーの所で寝てたじゃない」

「そのレベルでやったら普通の魂魄は影も形も残らないからね……? 僕以外にもシャズさんとか、ジジさんとか、他にも色々いるし。受けてくれるかは、要相談だとは思うけど」

「あっちは嫌、顔が。あとジジってば女の子よ? 流石に女の子相手にはヤらないよ」

「えっ……(ひょっとしてまだジジさんの性別、気付いていない……?)」

 

 何やら衝撃を受けるブルーと、やっぱり素直な子供みたいなきょとんとした顔で会話するバンビエッタ。そしてその「ヤる」に当てはめる字が「殺る」であると理解できた段階で、新入り滅却師もまた率先して庇いに入ってくれたブルーに向けて、敬意がこもり始めていた。

 

「ま、いいわ。そういうことなら、あなたでスッキリしてあげるから。ついてきなさい」

「ハイハイ……」

「他は誰も来ちゃ駄目よ! …………あ、あと、一応『そっちも』するから」

「えっ? あー、うん。大丈夫」

 

 事情はわからないまでも、そんな会話の末に立ち去った二人に。新入りは先達たちを見て思わず一言。

 

「…………マスターは、偉大だな」

 

『それは本当にそう』

 

 一同、声をそろえた迫真の首肯であった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「あーあーあー! もぅまたこんなに汚して…………、って汚してってレベルじゃねぇぞ!? ブルーどこいった、原形欠片も残って無ぇじゃんかッ!!?」

「うっさい。ブルーの身体だったらここに…………」

「ちょっとバンビちゃん見せないでよ!? ブルーってば小さい頃からかなりご立派なんだから! 僕、照れちゃうもん!」

「きゃー! きゃー! きゃー!」

「落ち着けミニー、いつものことだろ。というかイチモツだけ残して他原形も無いとか本当、お前どうかしてんぞクソビッチ……」

「ま、キャンディちゃんと違って相手は一人だから純情かもしれないけどね~」

「ジジお前、ケンカ売ってるの!? 買うぞ! こっち見ろ、他探してもあたしが怒ってるのお前だけだしッ!」

 

 きょろきょろとあたりを見回してさも自分がキャンディスに怒られていない風を装うジジと、それに怒るキャンディス。別に仏教徒(ブッディスト)と言う訳でもないが思わず両手を合わせてブルーだった仏さんに手を合わせドン引きするリルトットと、顔面蒼白のまま急いで周囲に散らばった「欠片」を集めて自分の手前に置いていくミニーニャ。

 部屋中が真っ赤とかそういったレベルですらないレベルで真っ赤を超えた真っ赤な有様のバンビーズの集合部屋にて事件は起こった。犯人は残念でもなく当然バンビエッタである。その本人は上半身裸なまま上着を着用するよりも先に、スカートの間に指を入れて「ん……♡」と何かを感じ入りながら、案外長く太いナニかを取り出してミニーニャの手前に投げ捨てた。

 

 肉片がある程度集まったからか、数秒置いて「銀色の繭」のごとき何かが一瞬で形成され、それが伸びヒトガタを形作ると、あっという間にブルーの姿に。全裸のその様を見てまたきゃーきゃー叫んで顔を絡めて手で顔を覆い隠すジジ(なお指の隙間からガン見)と、何故か生唾を呑み込むキャンディス。

 ミニーニャは目が死んでるブルーに自分の上着をかけ、「大丈夫、もう怖くないですよぅ~?」とタンクトップ越しに彼の顔を「挟んで」撫でていた。

 

 それを見て「ミニーも早くなったわね~、お掃除(ヽヽヽ)」と他人事みたいなことを宣うバンビエッタ。そう言う所だぞ。

 

「終わって、話してる時だったの、ミニーちゃん……」

「はい……、はい……」

「落ち着いてくれて、もう大丈夫かなって思ったら、一瞬でバンビちゃんの目が真っ黒に染まって……」

「はい…………、今晩は私と寝ますか?」

「うん…………」

 

 体躯はもはやそんなレベルではないが、まるで幼児が母親に縋りつくようにミニーニャの胸元に顔を埋めて肩を震わせるブルー。ガチ泣きだった。ガチ泣きであった。流石にミニーニャも、冷静になった、つまりスッキリしたらしいバンビエッタに文句をつけた。

 

「もう! バンビちゃん、せめて身体は残さないと駄目~っ! ブルーもトラウマになっちゃってるしぃ~!」

「それはごめん、つい……」

 

「つい、でやるレベルじゃないじゃんかッ」

「仮にバンビちゃんをゾンビ化する機会があっても、血は絶対大量に与えないようにしよっと」

「お前の性癖はどーでも良いけど…………、というか何でミニーとバンビが殺し合わないでどうにかなってんだコレ……」

 

 困惑するリルトットの言葉通り、ブルーとかなりベタベタしているにもかかわらず彼女は彼女でミニーニャに殺意や敵意を向けることはないようだった。

 適当に上着を羽織るバンビエッタ。下着はどうやら「ついさっきの大事件」があった際、一緒に燃え散ったらしい。立ち上がり部屋の壁に自分の霊子を浸透させ、専用の引き出しを開けて可愛らしさの欠片もないシンプルな下着を取り出した。

 

「ま、ちょっと落ち着いたからバンビちゃんはもう大丈夫よ。頭良い話とかもできちゃうもの、うん。悩みはつきないけどね、リル」

「お前らの関係がどれだけ拗れて爛れても、俺は責任持てないから何も言わねーけど……」

「というよりバンビ、悩みって?」

 

 

 

「例えばこの帝国――――もっと言うと滅却師の未来について、かしら」

 

 

 

 もしあたし達が負けた場合何が起こるかとか、回避するにはどうしたら良いとか。

 そのことについてどうやら真剣に考えているらしいバンビエッタに、ブルーを除いた一同はそろって目を見開いた。本当に、具体的な将来について悩んでいることであり、かつ自分たちにも関係する悩みであったことが、能天気そうなバンビエッタから放たれた事が意外すぎたせいだろう。

 

 もっともブルーの方はと言えば、ミニーニャの柔らかさと匂いで正気をある程度取り戻しながら、バンビエッタの発言を聞いた感想としては。

 

(要は陛下がボケボケなんじゃないかっていう恐怖と、ベレニケさんっていう身近な人が死んじゃったことで「死にたくない」っていう恐怖が煽られちゃったってことだよね……。さっきもずっと「怖いよ!」「ずっと居て、傍に居て!」「何でもするから一人にしないで!」とか、泣き叫びながらだったしね…………、終わったら「蒸発」させられたけど。

 ちょっと今日はキャパオーバーだよね………………、おもち、やわらか……)

 

 直前まであったことを思い返し、そしてまた軽い狂気に触れたせいで白目を剥きかけていた。

 

 

 

 

 




 



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#013.地獄式荒波の魚釣り

ダイスの結果まさかのジジ回ですが、過去設定関係もダイス振ってるので色々変な話と頭バンビエッタちゃんなことになってるのはあしからずですねえぇ…


 

 

 

 

 

「よォ、二股ヤロー」

「…………………………、ッ」

「うそうそ、冗談だよジョーダン。そんな死にそうな顔すんなって。俺が悪かったよ。

 しっかしミニーのやつもいきなり攻めに転じるたァ思ってなかったけどな~」

 

 いっそ顔色を青から土色にまでしたブルーのその様子に、からかい半分だったリルトットも苦笑い。背後でキャンディスが「色々と予想外すぎじゃんかっ」と引きつった顔をしていた。

 滅却師が「見えざる帝国」銀架城、いつものように一室にて、バンビーズのうち二人とブルーがいた。彼を揶揄ってるのは、リルトットとキャンディスの二人である。リルトットは長いスティック状の菓子をバリバリ食べており、キャンディスは恋愛指南本……、特に修羅場に関する本を読んでいるようだった。

 

 なお、その状況でブルーこと蒼都本人は表情が引きつっている。涙目を手の甲で拭ってから「僕だけのせいじゃないはずだし……」と誰にでもなく言い訳をしていた。

 

「ジジさんは『何か面倒くさい感じだし逃げよっと』とか言って居なくなっちゃうし、ミニーちゃん見たバンビお姉ちゃん凄い顔してたし……、ミニーちゃんもなんか今回は普通に受けて立ってるし……」

「そりゃ、見た目幼児の頃からなーんだかんだ初恋っぽかったからなぁ、ミニーも。いくらバンビの奴と近かったからって言ったって、いきなり喰われた(ヽヽヽヽ)んじゃ黙ってねーだろ」

「あたし的にはバンビ、結構本気だったって方が意外なんだけど。ミニーはこれでもかっ! ってくらいわかり易かったし、揶揄いがいがあったし」

 

 そう、一昨日に自分の中の何かを爆発させたバンビエッタによる、執着心と愛着と一人になる恐怖をこじらせた結果が故の肉体関係に発展。その翌日早々に何かを察したミニーニャに、当日あっさりとこちらも肉体関係に発展。その間にブルー本人は普段通り流されるままであり、どちらに対してどういった感情がどうというのがいまいち見えてこないというのが、バンビーズ残り三人の見解であった。

 

「まあバンビお姉ちゃん、凄い怖がりってだけだから……、怖がりだから恐怖心を全部爆殺したいってだけだから」

「歴史に残る大犯罪者か何か……?」

「頭バンビエッタで良いだろ、頭バンビで。んで、ミニーのやつ何がどうなったんだ?」

「リルお姉ちゃん……、えっと、マジの告白されちゃった」

「ミニーめっちゃ頑張ってるじゃんかっ!」

「おーおー、で結局付き合うのかー? バンビ捨てるのかー?」

「正直、僕の意志がそこにあんまり介在してない気がする」

 

 まとめるならば、ブルー本人はバンビエッタとずっと一緒にいるという約束をまだ小さい頃にしたことがある。それはそうとしてバンビエッタ本人から性的に好きと言う様な類の話はあがっておらず、それは手を出された際も変わっていない。

 大してミニーニャの方は、肉体関係に及ぶ前に初手告白を受けたせいで動揺し逃げる隙を失ってしまったのも原因だった。実際問題、バンビエッタのように頭バンビエッタの刑に処されることもなく、なんのかんのヘロヘロにされていないのがその証拠だ。

 

 そしてそんな案外元気なブルーと、彼の腕に抱き着きながら幸せそうな表情のミニーニャをバンビエッタが見たのが今朝である。速攻で彼をミニーニャから引き離し、口論、両側から抱き着いて綱引き、双方からの色仕掛け、などなど目まぐるしく展開した果て、現在二人は修練場で全力勝負中であった。

 

「バンビお姉ちゃんは好きだけど、そういう恋愛的な感じじゃないし……。

 ミニーちゃんは逆に『そう』見られてるとは思ってなかったから、まだ結論が出せないし……」

「本気で二股野郎じゃんかっ! 早いところ結論だしなって、アンタまで頭バンビエッタになっちゃう前にッ!」

「俺らの所にいてロクな男に育つわけねーだろォが、尻軽ビッチ。

 ま、擁護してやんならコイツってまだ、俺たちん中じゃ一番子供だからなー。環境が悪くて精神が全然育って無ェんだろ。魂魄の霊格的な成長率はともかく、ここ来てから30年ちょっとくらいか? まー、見た目ばっか育ったって中身が見合ってないってことだろ。

 それ言ったら、バンビとかジジも70以上はいってるのにあの落ち着きのなさだし」

(周り周ってキャンディお姉ちゃんとリルお姉ちゃんに飛び火しそうなんですが、いいのかなその言い回しって……。二人の方が圧倒的に年上だよね、バンビちゃんたちより)

 

 ちなみにこれでも、リルトットら含めこの「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」における星十字騎士団の中では若手も若手、ひよっこもひよっこの方である。トントン拍子で聖章騎士に上り詰めたBG9なんて赤ちゃんみたいな扱いを最初されていたくらい、現世とこの場所での魂の経年というのは、色々と事情が異なっていた。余談だがBG9はその人格の安定っぷり(というよりロボっぷり)のお陰で、ちゃんと舐められず大人扱いされているが、それはさておき。

 

 さて、そんな話をしていると、「あ~、嫌だなぁ~」と、珍しく甲高い濁声を慣らす誰かがカーテンを開けて部屋に入ってくる。ジジことジゼル・ジュエルだ。頭部の触覚がごときアホ毛が特徴的な相手である。

 そしてジジは、珍しいことに「ちゃんとした」星十字騎士団らしい制服を着用していた。普段のように自前の服というわけでもなく、聖兵が着用しているタイプのものだ。ちなみにズボンタイプである。

 

 珍しいものを見たと、口をすぼめて「カワイイじゃんっ」とか言っているキャンディスはともかく、リルトットは半眼で、ブルーは微笑んで出迎えた。何を嫌がっているのかと言えば、呼び出しを受けたとのこと。

 

「騎士団長の所の~、あの目がなんか怖い感じの女の人さん? このあと謁見の間の方に来いってさ~。ボク、とくに何もやらかしてないのにィ~」

「おぅ逃げてばっかりだからな最近はよォ、サボり魔常習犯」

「ハッシュヴァルトさんから呼び出しってこと……? 陛下もいるのかな」

「知らな~い♪ でも一人で来いとは言われてないからさぁ~? ね! ブルーも一緒に行こうよ♡」

「あ、うん。いいよ、ジジさん」

「さっすがー! 話がわかる弟をもってボクたちは幸せだぁ~♡」

 

 きゃぴきゃぴした動きでブルーの手を取って胸元に運ぶジジと、それに特に何か思う訳でもなく微笑み返すブルー。あまりにもあっさりと話が決着しており、キャンディスから「何でこんなに好感度高いのさジジって!?」と驚かれたりしていた。

 ちなみに実際問題、キャンディスとジジならジジの方が好感度が高かったりするが、そもそもキャンディスも「ガキは趣味じゃないし」というままこの年齢まで来ているので、そもそもの接点が少ないだけだったりする。

 

 それはともかく、特に何かある訳でもなく天井の高い廊下を歩く二人。急いで来いとも言われてもいないからこそであるが、ジジはジジで蒼都とは仲が良かった。

 

「リルお姉ちゃん、やっぱり一番人が出来てる気がする」

「リルもね~、興味ないことは全然どうでもいいって感じだけど、結構義理堅いよね。ボクもバンビちゃんに引き連れられてバンビーズに入ったけど、すぐに同情して受け入れてくれたし。流石にボクも当時、ブルーほど酷い感じじゃなかったけど、リルちゃんに庇われてから扱いは大分良くなったかな。

 ボクって可愛いからね♪」

 

 ウィンクしてくるジジに苦笑いを浮かべるブルーであるが、当然のごとくジジが「彼女」ではなく「彼」であることは知っている。原作知識様様というだけではなく、幼少期に風呂で洗われた際に、そのことは本人から話されていた。(なお水着着用済)

 

「もともとボクがちゃんと『男の子だった』頃にィ、バンビちゃんに目を付けられちゃってね。まああの時と今じゃ全然印象変わってるから、たぶん覚えてなかったと思うけどさ~。色々、生身じゃ『男の子でいられなく』されちゃったんだよねー」

「……生前の話?」

「死んでないってば~。バンビちゃん()、だけど。

 まぁボクが『女の子になった』後、可愛い可愛いってこっちでも目を付けられて、騎士団で連れまわされたりしながら、ミニーちゃんが入る前はサンドバッグだったしね~」

「バンビちゃん『ジジは女の子だからそういうことしない』って言ってたけど……」

「覚えてる訳ないよ、だってバンビちゃんだし~?

 ただ、それはそうと、そんなバンビちゃんにもまともな春が来るとは……。てっきり適当な男で処女散らして、関係した相手全員ぶっ殺すような、リルちゃんが大っ嫌いなシステムが構築されると思ってたけど」

 

 大体、バンビエッタが原作で見捨てられた原因と思われる理由である。そしてそんな精度の高い予想が立つほどに、バンビエッタの普段の振る舞いは頭バンビエッタだった。

 

「でもブルーもねぇ。いきなりだったよねー。ま、全然気にしてないけど? 全然気にしてないけど? 全然気にしてないけどねー?」

 

 凄い気にしていそうである。もっとも蒼都も負い目を感じる訳でもなく、ただ苦笑いを浮かべるばかり。

 

「そういうのなら早く言って欲しかったな~。まあ、だからといってブルー嫌いになったりしないけど。ホント、ボクたちに囲まれて育ったにしてはすごい素直に育っちゃって、イケメンだし♡」

「でも、それはそうとジジさんってバンビお姉ちゃん好きって訳じゃないよね」

「うん、バンビちゃんなんて大っ嫌い! 百回くらいぶっ殺しても足蹴にできる自信があるよ~! 死んでくれるまで好きになれる気がしないもーーーーんっ♪」

(すっごい満面の笑みで……!)

「でもバンビちゃんの顔と身体は大好き♡ いっそ一生暗い顔してお人形さんみたいに黙っていてくれたらいいのになーって、しょっちゅう思ってる」

(そのお人形さんってラブド……、いやゾンビエッタちゃんになるべくしてなってるよね、原作ってやっぱり)

 

 残念でもなく当然な感想であった。

 伊達に「死んでるトコ大好き」とまで言われていない頭バンビエッタである。

 とはいえ、バンビエッタのまだ(ヽヽ)可愛げがあるような臆病すぎる一面を見ているブルーとしては、素直にゾンビエッタちゃん化を容認したくない気持ちもある。たとえそこに、ジジが今の「女性としての」ジジではない誰かだった頃の、おそらく相当にむごいことをされただろう「男性としての」彼の復讐が、そこに幾ばくか或るのだとしても。

 

「というわけで~、バンビちゃんが死んだらもれなく僕の“Z-死者-(ザ・ゾンビ)”でお人形さんにしちゃうから、ブルーも頑張りなよ? アレでまあ『前よりは』少しマシにはなったし、バンビちゃんも。両極端になっただけとも言えるけど」

「そこはまぁ、うん。…………それに、まあ、僕もジジさんとケンカみたいになるの、したくないし。そう言う所は好きじゃないけど、それでもジジさん好きだから、できればずっと仲良しでいたいから」

「おぅ? おー、おー、おー、ちょっとキュンと来ちゃった。そっかー、ミニーもコレでやられたか……。こーゆーイケメンは無罪かなぁ、まあ顔は前髪長くてよくわかんないけど」

「?」

 

 そうこう話している内に、件の部屋へとたどり着いた。普段なら陛下ことユーハバッハがその奥の椅子に鎮座しているところだが、今は姿が見えない。ブルーこと蒼都の中の人は「嗚呼、今『眠ってる』ってことか」と色々何かを察しているが、それは話の大部分に関わらない。

 リルいわく「騎士団長の腰巾着」である例の側近の女性は、彼等を部屋に入れると戸を閉める。と、がちゃりと外から閂で施錠されたような音が鳴った。

 

「えっ? ブルー、何か嫌な感じがするけど。この間みたゾンビ映画みたいにさぁ」

「嫌な予感って言ってもアレじゃないかな。ここ(見えざる帝国)だと割と平常運転じゃない?」

「そんなのバンビちゃんだけだからーーーー! ブルーってキルゲさんとかロバートお爺ちゃんに情操教育してもらってたけど、それでもバンビちゃんの影響強すぎない? ミニーも男の趣味が悪いのかなぁ」

「自覚はあるって、告白の時に言われた」

「言われちゃってたかぁ……」

 

 精神年齢の低めなブルーと、マイペースを崩さないジジの二人が絡んだことによって、閉じ込められた室内にて膨れ上がる霊圧など完全に無視した、緊張感のない空間がそこにあった。形のない恐怖などで胸は焦がれないのだ、お陰で勇気すらないのである。サツバツ!

 

 

 

 ただそんな状況の二人に関係なく、事態は展開する――――――――具体的には、二人の上半身が急に捩じれ初め、同時に後方に折れ曲がり、否、「折りたたまれ」始めたことだ

 

 

 

「ちょっとーーーー! ブルーーーー! 何これ何これーーーー! 痛いんだけど、泣いちゃうよボクーーーー!」

「僕だって知らないよジジさーん!?」

(でもこの概念攻撃っぽいけどそうじゃない攻撃って、「左手」の人……、あっ、息が……)

 

 ことここにおいても全く緊張感がない二人に、どこからか「コノフタリ……、ダイジョウブカ……?」とくぐもった声が聞こえてくるが、それにリアクションを取れるほどの余裕が二人にはない。

 なんならねじれがさらにひどくなり、ついには首すら180度回り始めていた。そろそろ呼吸器やら何やら色々大変なことになっているブルーと、それでもいまいち余裕のあるジジである。「あっこれボクが頑張らないと駄目なやつかなー? ブルーも死なないにしたって、復活までラグありそうだし~」と、そうこう言いながら遂には「ねじ切れ」「落ちた」首だけで、一言ぼそりと呟いた。

 

「――――“神の眠り(ゲヘノエル)”」

 

 立ち上る紫色の光の柱と、そこから伸びる更なる光の十字。数秒後に晴れたその場に立っていたのは、骨の様な、しかしどこか頭部のアホ毛も思わせるような、シンプルな光の羽根を背負ったジゼル・ジュエル本人であった。

 

「疲れるからあんまり使いたくないんだけどなー。まあこの状態なら多少『干渉できるし』、ブルーちょっと待っててね~!」

 

 言いながら唇を噛んだジジは、そこからにじんだ血を唇にまとわせ、先ほどのジジ同様に首がねじ切れそうなブルーへと口づけるようにして飲ませた。

 バンビエッタやミニーニャがいれば発狂ものの光景であるが、特に本人は重要視していない。

 

 そのまま体内に送り込んだ血を介し、ジジはブルーの全身に浸食していた「何か」を、その接続を「本体から切り」、死なせ、そして「操作した」。

 霊的にも酷くグロテスクな音を立てながら全身が裂ける様になり倒れるブルー。もっとも今回はまだ「損傷が軽い」せいか、銀の繭まで形成せずともすぐさま復活する。もっとも意識がまだ戻っていないのをいいことに、倒れたブルーを膝枕してそのほっぺたをツンツンするような、どこか恋人めいた行動をして遊び始めるジジ。やはりと言うべきか、バンビエッタやミニーニャには見せられない光景である。

 

 と、丁度そんなタイミングで扉が開かれた。向こうには例の側近の女と、騎士団長たるハッシュヴァルト。そして背後にプカプカ浮かぶ「フードで覆われた」「二頭身のような」何者か。フードの下はどんな顔をしているかわからないが、とても人間らしいシルエットをしているとは思えないものであるが、そんな相手三人を見たジジは「えぇ…………」とドン引きしているようだった。現在進行形で何をやっているんだお前とリルトットがいればドン引きされるような行為をしている本人によるドン引きである、ダブルスタンダードの器が違った。

 

「今のって、そっちのフードの人の能力だよねー、ですか、騎士団長(グランドマスター)

「あまりお前達と話すようなこともないだろうがな。一応、挨拶を」

「ウン。……ペルニダ・パルンカジャス。チョットダケ……、タメサセテ、モラッタ」

「試させて?」

「これから同僚になるかもしれないからと、実力を見ておきたいという話があったからな。ブルーは……、巻き込むなと言っただろうがペルニダ」

「オオ…………、ユーハバッハ、ミタイナ、フウカクダ」

 

 ギロリと睨むハッシュヴァルトに軽い応対をするペルニダはともかく。同僚? と首を傾げるジジに、ハッシュヴァルトは説明を続けた。

 

神赦親衛隊(シュッツシュタッフェル)、陛下の親衛隊の新たな一人、その候補にお前の名前も連なっているのだ。ジゼル・ジュエル」

「えぇーーーーーーー!? 何でっ、です!!?」

「セイカクニハ、アスキン・ナックルヴァール……、ソシテ……、キミサ」

 

 いまいち選出理由がわかっていないジジだったが、ブルーに意識があれば多少なりともそこに何か類似性のようなものを見出したことだろう。

 ユーハバッハ直属の聖章騎士は、現時点で三人。ペルニダ・パルンカジャス、ジェラルド・ヴァルキリー、リジェ・バロ。ここにアスキンかジジが加わるとなると、それぞれの得物こそが、その変遷こそに何か存在する共通項――――素手のみから始まり、剣、重火器、そして加わるのが、致死の毒か死の生物兵器(ヽヽヽヽ)。そのいずれもが、人が扱う武器の、戦争の形態の変遷を負っていると。

 

 とはいえ、そのことに気付くわけもなく。またハッシュヴァルトも「強制はしない」と断りを入れる。

 

「あくまでも候補だが、最終選定がお前達二人になっている。とはいえ本人の希望も聞いておくべきだと、私が陛下に打診をした。親衛隊であるならば、本人が望まない形でいるのはそもそもが危険因子となるだろうからな」

「うわぁ、危険因子とか言っちゃっていいのぉ……、です?

 でもまー、そういうことならボクは断りたいんですけどー」

「ソノチカラハ……、ジッサイニ、キョウリョク」

「別に~? 陛下の力になりたくないって感じじゃないんですけどー、なんだかんだ『今の生活』が楽しいんで。それに……」

 

 膝枕をして眠ってるブルーの、やや魘されたような顔を見て。その頬をなぜてから、舌なめずりを一つ。

 

「…………ブルーのことも放って置きたくないので♡」

 

「ソ、ソウカ…………」

「………………」

 

 ペルニダはともかくハッシュヴァルトが壮絶な今にも死にそうな顔をしているのに気づかず、ジジは楽しそうにブルーの頬をまたつつきだし。

 

 

 

「――――――――ハッ!? 何か今、ブルーが凄い頭ヘンなことに巻き込まれてる気がした!」

「何ですぅ~~~~~、それぇ!!?」

 

 

 

 訓練場で聖文字だけを使って殴り合っている二人の女子のうち、頭がおかしい方が何か直感で感じ取っていたりした。

 

 

 

 

 



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#014.独裁と癇癪と嵐の前

運が良いのか悪いのか、ダイスがどうあがいてもスーパースターしか選択させてくれなかったのでアニメにならい? スーパースターと、それはそうとして久々のミニーニャ回
例によって変な描写や設定的なアレはダイス結果なのでご注意です(そしてまた長い)


 

 

 

 

 

「お邪魔するわぁ。ブルー、今暇ですぅ?」

「――――よっ、ほっ。……あれ、ミニーちゃん」

 

 聖章騎士(ヴェルトリッヒ)として正式に騎士団入りしたブルーこと蒼都。その際に供された私室は未だ私物がない。以前の生活においても服以外の私物らしい私物は、任務に必要なもの以外は持っていないのだが、おかげで未だに部屋の印象は真っ新に真っ白のままだ。そこでブルーは上着を脱ぎ、拳法の型とも素振りともつかない動きをしていた。腕には霊子兵装たる狼の顎が両腕に上下で形成され、その先端からは三つの鉄爪のようなものが伸びている。

 そんな彼を見てミニーニャ・マカロンが一番最初にしたのは、まず何よりも彼の部屋の戸を閉めて鍵をかけることだった。

 

「ミニーちゃん?」

「ええ、その、別にヘンなことはないけれどぉ、今のブルーをバンビちゃんに見せたら凄いことになっちゃいそうだから~、入って来れないようにぃ、ね?

 …………せめて上は何か着ないかしら、私もちょっとドキドキしてきちゃうの」

「タンクトップ着てるよね」

「そう言う問題じゃないけれどぉ~(困)」

 

 ミニーニャはそう言いながら少し拗ねたように唇をとがらせ、しかし顔はどこか赤くなりながらちらちらとブルーの方を見つつ、両手の指先をツンツンと突き合わせていたりした。高身長の彼女がそんなあざとい程の乙女チックな仕草をしても他の滅却師なら妙な威圧感を感じるものだが、生憎とブルーはそうでもない。

 お互い幼少期の幼児期から騎士団で育ったような関係なのだ。ミニーニャの方が年上で自分よりはるかに早く大人の姿になったからとはいえ、ブルーにとっての、当時の小さな女の子だった印象が消え去る訳ではない。

 

(それに何と言うか、原作よりも少しキャラが違う気がするし……。これもバタフライエフェクト的な何かかな。まあよく面倒事はスケープゴートされるけど…………。バンビちゃんに比べれば可愛いものだし)

 

 原作より軽減されているとはいえ彼女もそれなりにアレな部分はあるが、相対的にバンビエッタに比べればはるかにマシという結論が出る時点で、今日もブルーは平常運転だった。

 なお色々言いながら、ミニーニャは持って来たバケット(真っ白)の中から都合よく持っていた真っ白なフカフカタオルで、ブルーの顔や体を拭く。時折ちょっと目を大きくしたり、唾を飲んだりしているのを見なかったことにして、ブルーは彼女に何の用事かと問い直した。

 

「要件が特にあるわけじゃないですけどぉ……。一応独り暮らしだし、どんな感じになってるかと思いましてぇ~」

「どんな感じも何もないと言うか。でも、えっと、てっきりバンビちゃんに『あなたの部屋なんてないわよ!』って言われて没収されると思ってたから、色々用意してなかったってのはあった」

「それは確かに、私もびっくりですねぇ~?(謎)」

 

 ブルーとミニーニャの言う通り、バンビエッタは蒼都の幼少期に「あなたのものはあたしのものよ!」と言ってブルーの私物を取り上げて、少し遊んでは興味を無くして爆破を繰り返していたこともあったりするくらいには、彼の扱いが雑である(あまりに酷すぎたためキャンディスがそれは止めに入った)。その時の経験もあってか私物をあまり持つことのないブルーであったが、その時の経験もふまえて色々と予想していた流れである。

 しかし実際は何が起こったかと言えば、特に何か言うでもなく「ちゃんと掃除はしなさいよー!」くらいしか言わず彼の私室については、話が終わってしまった。バンビエッタの今までのあれこれを鑑みて、あまりにもまともな発言である。これにはリルトットを除いたバンビーズの面々一同目を見開いて二度見し、ブルー本人も一瞬何を言われたのか意味を理解できず硬直したりもした。

 

 そして、そんなバンビエッタとブルーを賭けた死闘を繰り広げていたミニーだったが、結果がどうなったかをブルーは(なんとなく怖くて)未だに聞けていない。一つ確かなのは、ほぼ一日おきに二人が交互に自分にべったり「仲良く」することくらいだ。

 

「それで、ブルーは何をしてたんですぅ?」

(あっ可愛い……)

 

 ブルーの隣に寄って人差し指を立てて頬に当てて頭を傾げ、少しだけ唇をつんとしたきょとんとした表情と言えば良いか。意図的にやっている天然なのかはともかく、ひたすらにあざとさを盛りに盛った仕草であったが、そんな彼女の動きに少し癒されつつブルーは爪を「体内に」仕舞った。

 

「この間、ジジさんと一緒にハッシュヴァルトさんと話す機会があってさ。その時、ジジさんが帰った後に完聖体(フォルシュテンディッヒ)の話とか聞いてた」

「完聖体のお話?」

「うん。何かヒントになればってことでさ。

 ミニーちゃんは最初から使えたみたいだから聞くのもアレかなって思って聞かなかったし、バンビちゃんは何か怖いっていうか、嫌がりそう」

「前に聞いた時にすごい顔されたことありますぅ」

「あっ、やっぱりそうなんだ……。それで、リルお姉ちゃんとキャンディお姉ちゃんたちは面倒がって話してくれないし、ジジさんは多分地雷だから」

「あっ、それは知らなかったですねぇ~」

 

 バンビエッタとジジは何かしら過去に地雷が潜んでいそうな話題になりそうで、残る三名も聞くのが難しい。となれば他の誰かに聞くのが適当という話になるのだろうが、そこであえてハッシュヴァルトに聞きに行くあたりが、ブルーのブルーたる所以である。……具体的に言うと「何であたし以外からそんなこと教えてもらおうとしてるの!」とキレたバンビエッタが何かやらかそうとしたときに、それが出来ない相手へと情報収集しに行ったというのが正しいというべきか。なまじ話したくないことだからこそ、それを重要イベントととらえて自分の絶対性が損なわれることに恐怖を感じそうだなー、という見立てである。

 

「それでぇ、能力の練習してたのかしら」

「練習と言うよりは、『切り分け』がどこなのかなって」

「はぁ……?」

 

 上手くは説明できそうにないんだけど、と言って話を濁した彼の脳裏には、先日ハッシュヴァルトから見せられた、ある意味特大の秘密が回想されていた。

 

『――身代わりの盾(フロイントシールド)

 

 そう言いながら、ハッシュヴァルトは帯剣した剣から取り外した「B」と弓を模して描かれた、古いバッジなのかコインなのかというものを掲げて、その手に「盾を顕現した」。滅却師の霊子兵装らしい意匠が施されたそれを見て、素直に驚くブルーへ、ハッシュヴァルトは判り辛いが少しだけ目を細めた。微笑ましく思っているのだろう、と一応そう判断したブルー。

 

『これは私の能力に直接紐づいた武器だが、決して私の聖文字(シュリフト)から派生したそれではない』

『えっ? えっと、滅却師の礼装ではある、んですよね』

半分は(ヽヽヽ)そうだ。そしてもう半分は異なる――――これは完現術(フルブリング)という技術をベースとした武器だからな』

 

 いわゆる原作知識を持っているブルーからすればそれは既知の情報であり、強いて言えば「ポテト(※ハッシュヴァルトのファン俗称)のそれって、そっち由来だったのがこの世界だと確定か……」というレベルの話でしかなかったが。しかし、あえてその話をブルー本人に直々にするという、その事実一つをもって大層驚いた。

 なお、続けて「皆には内緒だぞ?」とウィンクをしてしーっとジェスチャーしたお茶目っぷりもさらに衝撃を受ける原因だったりするが、ハッシュ本人にその自分の行動がどうとられるかと言う自覚はなかった。

 

『詳しく語るのは避けよう。「余計なことを知りすぎていると」、陛下からまた期待されかねない。その割に陛下はお前のことを、雑に扱われる。…………もっと状況改善を願い出ても受け入れないくせにな』

『えっと、それ言っちゃっていいんですか? ハッシュヴァルトさん……』

『この程度の愚痴は陛下もお許しになられる。お前がたまにする陛下の物真似も、以前、遠くから見て笑っておられた』

『えぇ……』

 

 羞恥とちょっとした寒気に襲われるブルー。あのユーハバッハがそういうので笑うのとか一体何を考えているのかと言う正体不明の恐怖に襲われていた、バンビエッタの下で鍛えた「生命の危機」に対する耐性でもって、表情が引きつる程度にリアクションはとどまった。

 そしてハッシュヴァルトは続ける。ブルーの能力も、その“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)”に限らず、もう一つ異なる能力が入り混じっていると。

 

『以前の“Σ-鋼鉄-(シデロ)”でさえ、お前の能力には不可解な点があった。それを鑑みるに蒼都(ツァントゥ)、その身にも何かしら完現術なり、それに類するものが眠っていると考えるべきだろう』

『………………? つぁん……? あっ僕の本名か』

『………………………………』

 

 何も言わずにポンポンと、自分よりやや小さいくらいの身長の彼の頭を軽く撫でてから、哀れむような目をやめてハッシュヴァルトは説明を続けた。

 その最後の部分だけを、ブルーはミニーニャに伝える。

 

「聖文字の能力と、異なる能力、その二つが僕に存在して、現在は同時に使用してしまっている。だからその境目を見つけて、切り分けることで、また新しく見えてくるものもあるだろう、って感じだったかな」

「確かにブルーは、鋼鉄時代も何故か『死ななかった』ですねぇ~。よくよく考えてみると、鋼鉄になるだけじゃバンビちゃんの“E-爆裂-(ジ・エクスプロード)”の『霊子浸透による爆弾化』までは防げないし、その割には五体原形残っていたしぃ」

「そうだね。……昔はそれでよく、ミニーちゃんに盾にされたっけ」

「そ、それは! 私だってまだ“P-力-(ザ・パワー)”を使いこなせていませんでしたしぃ~!(泣)」

「昔って言うと、あの時にプレゼントした枕ってまだ使ってくれてるんだったね。それは、ちょっと嬉しかった。ありがとう」

「ひぅ……、ふ、不意打ちはちょっと反則ですぅ~」

「んー、そんなに格好良いこと言ってる訳でも、そこまでイケメンって訳でもないと思うんだけれどなぁ……」

 

 実際問題、原作と比べて目つきという特徴が無くなってしまっているので、モブのそこそこ顔立ちが整っているキャラ程度の印象しか残らなかったりする。

 前髪をいじるそんなブルーの隣に「距離を詰めて」座り、ミニーニャは「そう言う問題じゃないと私思うの」と、これまた人差し指を唇近くの顎にあてて、頭を少し傾げる仕草。可愛い。そしてあざとい。

 

「刷り込みかもしれないけどぉ、安心感みたいなものがあるの」

「安心感?」

「この人なら受け入れてくれるだろうしぃ、何かあっても一緒に頑張ってくれるんだろうな~、みたいな感じかしら。それに、『護ってくれる』んでしょぅ?」

「それはまあ、うん…………、うん……、空襲とか超絶即死レベルでもなければ………………」

「バンビちゃんやジジみたいなサド超えたことは言わないもの、私。

 でも、見栄を張らないけど頑張ってくれそうなところは~~、大好きっ」

 

 遠い目をし始めたブルーにくすくす微笑み、ミニーニャはバゲットから何か取り出した。サンドイッチである。ボイル野菜にベーコンとハム、トマトなBLT風の、それなりに厚みがある豪華さだ。具材の内容が豪華というよりも、しっかりと作り込んでいるという意味での豪華さは、どこか家庭料理らしさを思わせる。

 

「昼食には少し早いけどぉ、食べましょぅ」

「えっ? あ、うん。……うわ、普通に手作りだ」

「キャンディちゃんに教わったの~。上手に出来てると思うわ? 特にソース」

「手作りソース……! あ、でもそういえばキャンディお姉ちゃん、一番そういうの上手だったっけ…………。リルお姉ちゃんもそつなく熟すけど、レシピ見ながら」

 

 伊達に何人もの相手と色恋を重ねていない、キャンディスの意外と女子力の高い一幕はさておき。あーん♡ したり、あーんし返したりと、バンビエッタが居れば目からハイライトを失い歯ぎしり不可避の光景を繰り広げながら、二人は談笑しつつ昼食。“見えざる帝国”においても数少ないレベルでの、あまりにも平和な風景であった。

 

 

 

「――――ふんむ。吾輩こと“S-英雄-(スーパァスタァ)”に頼るとは、中々人を見る目があるぞブルー・ビジネスシティ! ハッハッハ!」

「いや、僕とミニーちゃんが廊下で話してたらなんかぬっと生えてきて無理やり修練場まで連れてこられたんだけど!? ミニーちゃんも何か言って……、あっ居ない、またスケープゴートにされた……」

「何、照れることはない! ジェイムズ、鍛錬のゴングを鳴らせ!」「ハァイ、ミスター!」

 

 

 

 そして、カーン! というジェイムズが鳴らしたゴングの音と共に、ブルーの上半身と下半身はサヨナラバイバイした。昼食後、誰かに相談できないものかと二人して話しながら移動していたところ、唐突に出現した“S-英雄-(ザ・スーパースター)”マスク・ド・マスキュリンと遭遇したのが運の尽き。あれよあれよという間に修練場に連れて来られて、いつのまにか彼が相談に乗る(という体で殴り合いをする)流れに。

 ちなみに蒼都の場合、以前の鋼鉄化の場合はマスキュリンの一撃で沈むことはなく、というよりそもそも全身金属になるので粉砕すらされずに耐久していたのだが、聖文字覚醒後は金属化がオートではなく再生特化の能力となっているため、今の一撃で腹部が粉砕され何処かへと下半身も飛び去ってしまった。どさり、と落ちるブルーの上半身だが、この状態でも案外ブルーは余裕そうである。血を吐くこともなく、だらーっと五体を投げ出し、遠い目をして乾いた笑いが漏れていた。

 

「これでもバンビちゃんよりマシだからなぁ……、追撃して頭潰してこないし」

 

 強く生きろ。

 

 そんな形で相談する間もなくブルーを一撃で倒してしまったマスキュリンは「そういえば『何を』相談したかったかと言うのを全く聞いていなかったな……、“S-英雄-(スーパァスタァ)”一生の不覚!」などと宣い、途中でブルーを身代わりにしてしれっと逃げ出していたミニーニャの追跡に走り、この場から消え去った。カートゥーンアニメのようなデフォルメされた超人っぷりに「これが理想のスーパースターでいいのかなぁジェイムズ君……」などとぼそっと呟く蒼都。

 そんな彼の下半身を、小さな背丈で引きずってくるジェイムズ。服装は聖兵のものであるが、いかんせん体格にそのデザインが合っていないため、服に着られているように見える。とはいえ年齢は決して幼児でもなく、小さいオッサンと呼称される程度には年齢不詳なスキンヘッドの男がジェイムズであった。

 

「うんしょ、うんしょ……、ふぃ! これで大丈夫? ブルー」

「あー、ありがとう」

「いいってことですよ! ブルーはボクのお友達ですもの! ウ〇ヴァリン!」

「確かに能力的にはちょっと似てると言われて違和感はなかったけどね。ジェイムズから見せられたアメコミでちょっと教わったし。……でも、マ〇ベルよりD〇の方が好きなんだよね?」

「いえいえ! キャラクターはスーパ〇マンの方がシャザ〇より好きですが、ストーリーはデ〇ドプールの方がシンプルで超人的でザッツオールライトですよ!」

「拗らせてるなぁ…………」

 

 そんなアメコミ談義はさておき。ジェイムズによって胴体にくっつけるようおかれた下半身は程なく接続され、もう特に傷ついた状態ですらなく元通りである。陥没したはずの腹部はまだ若干「銀色が抜けない」が、それとて数分もあれば元に戻るだろう。

 ほぇ~、と幼児の様な声を上げながらそんなブルーの再生能力を観察するジェイムズ。

 

「これはボクの“S-英雄-(スーパァスタァ)”には適用できないタイプの能力ですね……。モ〇ビウス的な感じです」

「治り方だけでいうと、それこそ俺チャン的なアレな気もするけど。それこそ本家ウ〇ヴァリン程の回復力には見えないし」

「いえいえ、ブルーのことですからきっと大丈夫です! あんな『死の女神』みたいなのに可愛がられていているんですから!」

「その慰めは何一つ慰めになってないよジェイムズ……、って、『ボクの“S-英雄-(スーパァスタァ)”』?」

「アババッ!? な、何でもないんですよ!」

 

 警戒心が緩んでいたせいか何か致命的なことを口走ってしまったジェイムズである。慌てて誤魔化そうとするが、ことこれに関してはブルー個人のみにおいて問題はなかった。

 

 原作知識からして、彼はマスキュリンとジェイムズ両者の関係を正しく理解している――――すなわち、真に“S-英雄-(ザ・スーパースター)”の聖文字を持っているのが、ジェイムズの方であるということを。

 ジェイムズが思い描いた理想のヒーロー、それを作り出すことこそ“S-英雄-(ザ・スーパースター)”の能力。故にマスキュリンは、ジェイムズが居る場においてはほぼ無敵の超人たりえる。実際問題、バンビエッタの“E-爆撃-(ジ・エクスプロード)”の雨霰すら正面から受けて、本当に身体へ傷一つなく立ち上がれるのは彼くらいなものだ(ジェラルドですら多少は焦げる)。もれなくバンビからは自分を殺しうる相手=抹殺対象の一人的な扱いを受けたり受けなかったりだが、暖簾に腕押しなのはブルーの内心だけの秘密である。

 

 そして、そんなマスキュリンに首根っこを掴まれて、ミニーニャがスカートを押さえながら「ひーとーさーらーいーぃぃぃッ!」と涙声を上げていた。「ふんっ!」と投げ捨てられた彼女は、ブルーたちとは反対方向の壁に軽く激突。ぶつかって痛いくらいの威力に調整されているあたり、その妙な器用さは流石に“S-英雄-(ザ・スーパースター)”というべきだろうか。

 

「何で私をまた連れて来たんですぅ~! せっかくブルーが庇ってくれたから逃げたのにぃッ!」

(ミニーちゃんってば過去の改ざんなんてしようとしちゃって……。実際言ってくれれば庇わない訳でもないけど、どうしてあの子はあの子で何も言わず僕を生贄に捧げて逃げ出すんだろう)

「その肝心のブルーも既に話せない状態となっては、いささか“S-英雄-(スーパァスタァ)”としては片手落ちである。相談をしに来たというのなら、さぁ話すと良い! ただし答えるのは拳になるがな!

 幼気なブルーをあのような目に遭わせて平然と逃げ去るその性根、この吾輩が叩き直してくれようッ!」

「言ってること滅茶苦茶じゃないですぅ~~~~!? もうっ、――――“神の独裁(ヤショリニアン)”!」

 

 実際ブルーを一撃でボロ雑巾にしたマスキュリンの発言の意味不明さにキレ返すミニーニャ。実力差を埋めるためにか完聖体まで使用している。そんな彼女たちを見ながら「ジェイムズ君的にあの発言っていいのかな、あんまりヒーローっぽくないけど……」と思いながら横目で彼を見るが。ジェイムズはむしろブルーの方を見て、「相談事ならむしろボクの方が乗りますよ、ヘェイ!」と両手を叩いて楽しそうにしていた。

 まあ、実際問題妥当な人選ではあるだろうが、それにしたって、それにしたってである。

 

 ブルーとジェイムズが話し合っているのすら聞こえない程に、現在のミニーニャとマスキュリンは拳の応酬をしていた。

 

「ほぅ……、この吾輩の正義の拳を受けてなお立ち向かえるか、あの悪魔の様な女が率いる悪徳の巣窟といえど、善なる心は残っているということか!」

「バンビちゃんだけが頭一つ抜けてヤバいだけって私、思うの……って、全員クズって言ってますねぇ! しかも私の(ヽヽ)ブルーの前で!

 許しませぇん――――『一〇倍掌握(テン・カウント)』!」

「ぬぅん!?」

 

 ミニーニャの背部に展開された光の羽根から、ハート型の光が彼女の目の前に集まる。その数は彼女の宣言通りに十。それらをまとめて右手で握りつぶすと、一瞬その右腕が膨れ上がり、目にも止まらないスピードで振りかぶりマスキュリンを殴り飛ばした。

 地面に叩きつけられ、そのまま陥没。白目を剥いてぴくぴくと震えるマスキュリンだったが、その「マスキュリンの口から」、手のひらサイズのジェイムズが新たに「湧いて来て」、「がんばえミスター! 負けるなミスター!」と応援を始める。情景がちょっと悪夢めいていた。

 えぇ? と表情が引きつったミニーニャだったが、そんな小さいジェイムズを「フン!」と叫んで「噛みつぶし」、完全復活したマスキュリン相手に、更に引いた視線を送る。

 

「今のジェイムズさん……? えぇ……? あっちでブルーとお話してますけど、えぇ? ちょっと今の何…………?」

「“S-英雄-(スーパァスタァ)”にはギャラリーが必要である。護るべき罪なき対象であればなおのこと! 故にこの吾輩“S-英雄-(ザ・スーパースター)”は、必要に応じてジェイムズを複製することが出来るのである!」

「正義のヒーローの定義を辞書で調べなおすべきって思うの…………、ギャラリーを自分の回復アイテムとか道具って思ってませぇん?」

「……………………………………」

「あれぇ? ひょっとして図星――――」

「――――輝け、我が“神の威光(ハンニボッヘ)”!」

「誤魔化し方、雑じゃありませぇ~~~~ん!?」

 

 言いながら光の柱を立てず、しかし一気に完聖体のような姿となるマスキュリン。原作における第二形態を経由せず、第一形態たる普段の白装束の上から光の装飾を身にまとった姿は、レスラー然とした服をしていないことも相まってなるほど、確かによりアメコミのヒーローっぽさが際立っている。

 

「さぁ受けるが良い! 我が必殺の――――スター・ロケット・ファルコン・キイィックッ!」

「流石に直撃したら大変なことになっちゃいそうですしぃ……、『三〇倍掌握(サーティ・カウント)』」

 

 両手を広げてハートを三十集め、それを掌握するミニーニャ。そんな彼女目掛けて、空中に飛び上がり完全にライ〇ーキックなポーズを決めて強襲するマスキュリン。

 果たして軍配は…………、マスキュリンに上がった。

 

「きゃあッ!」

「…………む? 我が必殺の空中回転飛び蹴りを喰らって『全身が砕けない』とは、思った以上にやると見える」

 

 超高速キックを正面から、「腕も脚も」ムキムキに膨れ上がらせて受け止めたミニーニャだったが、その威力は殺しきれなかった。受け止めはしたがその彼女が立っていた地面にはひびが入り、しかしそれでも勢いに負けて後方へと弾き飛ばされたミニーニャ。

 今の一撃で解除されたのか、背中の羽根も姿を消している。そのまま後方へ目にもとまらぬスピードで投げ飛ばされ――――――――。

 

「――――っと! い、い、威力凄いな流石に」

「……っ!? ぶ、ブルー!」

 

 そして、そんな彼女を蒼都が受け止めた。彼女から見える状態は、お姫様抱っこである。お姫様抱っこでミニーニャを抱えるブルーに、何か小さなころの胸に秘めていたサムシングがきゅんと来ているような風に何といえない雰囲気で頬を赤らめているが、一方のブルーはそれどころではなかった。

 

 現在の彼は、その下半身が「銀色に変化」しているのみならず。その足を含めた周囲一帯、ジェイムズが立っている地面を含めた周囲まで含めて、まるで氷漬けになったかのように銀色に染め、なんなら彼の足元自体も「地面に溶接されたように」なっていた。

 

 そんなブルーを見て、「ほう……」と何故か満足げのマスキュリンと、こちらもまた満足げなジェイムズ。

 

「よくは判らないが、悩みは解決できたということだな! 流石“S-英雄-(ザ・スーパースター)”! 流石吾輩!」

「あ、あはは…………。実質的には間違ってなさそうなのが何とも言えないなぁ」

「ブルー?」

「あ、何でもないよ、ミニーちゃん。

 ……それはそうと、ジェイムズ。相談に乗ってくれてありがとうね。お陰で色々『判った』」

「ハァイ! お役に立てて良かったです! じゃあまた、参考になるコミックの準備でもしてますね!」

 

 フッハッハッハ! と大笑いしながらジェイムズを肩に乗せて、飛廉脚……にしてはスピードが意味不明なレベルの移動速度で姿を消したマスキュリン。そんな彼らを「嵐のような人たちだ……」と何とも言えない目で見送るブルーを見て、ミニーニャは人差し指で自分の唇をなぞってから。

 

「せっかくだし、このままバンビちゃんたちのところまで運んでくれませんかぁ、ブルー?」

「えっ? 別にいいけど、何それ……、バンビちゃんに見せつけるつもりなの? 結局あの後、二人の対決結果がどうなったかとか色々知らないから、命知らずな発言にしか聞こえないんだけど」

「バンビちゃんも手を抜いてくれてたみたいだけどぉ、一応は引き分けに終わったもの。暴力だと決着がつかないから、後日話し合いしましょうね~ってことでぇ、それまでは日替わりでブルーとくっついていいってことで」

「そういう話、全然聞いてないんだけどなぁ……」

「まあバンビちゃんですしぃ? 私もメリットが大きいしぃ、特には反対しないというか、意外とそういう約束は律義に守るのよねぇバンビちゃん。

 あと、そういう風に私のリクエストも許してくれるくらい、ちょっと変わったってことかしら」

 

 バンビちゃんも成長してるのかしらねぇ、とか何とか言いながら、首に手を回して抱き着く形で、すっとブルーの頬に口づけたりして微笑むミニーニャ。

 そんな彼女の胸が自分の胸板にくっついて柔らかいなぁとか、そんなことを考えているが故にブルーはしばらくそのまま彼女の好きにさせていた。

 

 

 

 なおそんな状態で帰った結果、当然いつもの全員たむろしている一室にてバンビがブチ切れたのは当然な余談である。一時的な共有は許しても目の前でイチャつかれるのは耐えられないからね仕方ないね。

 

 

 

 

 




※ジェイムズとの会話の詳細を入れる隙間がなかったので、そのあたりは多分次回


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#015.番外編:ここまでの一部ダイス結果公開

話数が続いてきたので、ここらで一部登場人物紹介もかねて、振ってきたダイスの結果も少し公開します(途中経過書くと死にそうなくらい長いので割愛)。一部今後のネタバレ? 的なのもありますが、ネタ半分でお読みください・・・色々厄ネタ注意
 
あと原作で未公開な完聖体名やら何やらについてはこっちで作ってるのもあるので、そのあたりは平にご容赦を汗



  




 

 

【人物】

 

・“A-全知全能-(ジ・オールマイティ)”ユーハバッハ・ベルツ

 おそらく既出の人物ではダイスを振られていない方な我らが陛下。ブルーとの初遭遇時の展開決めダイスにより「恐怖なき世界」における「それでもなお生きる意味」とは何か、的な問いへの答えを彼から教えられ、以来、騎士団内部の空気を意図的にギスギスさせていた方針がやや軟化? というより「生きたいという意味を探せる」レベルに少し転換。とはいえいつもの陛下なので、多分何ら感慨もなく聖別も実行する。サイコパスかな?(違)

 ブルーへの興味度は43(1d100ロールベース)に対して、物真似への好感度は81(1d100)。意外と笑い上戸なのかもしれない。

 ファミリーネームはさっきダイスを振って、初期設定の物を採用することに決定。本編でもそのうち出す。

 

・“B-世界調和-(ザ・バランス)”ユーグラム・ハッシュヴァルト

完現術:身代わりの盾(フロイントシルト)

 ブルーへの扱いにより胃を痛めた結果、バズビーとなんかまた仲良くなりつつあるポテト。

 陛下が多少軟化? した影響か、意外と感情をあらわにするようになっている。

 

・“C-強制執行-(ザ・コンパイルソリィ)”ペルニダ・パルンカジャス

 登場はまだ一回だけど、ジェラルドから聞いているのでブルーへの興味はそこそこ(未ダイスロール)。主に「静止の銀」に対して正しく違和感を抱いている。

 

・“D-致死量-(ザ・デスディーリング)”アスキン・ナックルヴァール

From:英吉利 仮聖文字:“φ-薬毒-(ファルマコ)

 皆御存じ我らがオシャレさん。キルゲやロバート老以外では一番古い「まともな」顔見知り。どれくらいまともかというと、ブルーがバンビエッタのことを本気で嫌っていたらすぐさま引き離すくらいにはまとも。観察眼91(1d100)により、死ぬのはともかく結構ちゃっかり色々堪能してたことは見抜いている。

 

・“E-爆裂-(ジ・エクスプロード)”バンビエッタ・バスターバイン

From:独逸 DoB:A.D.1921 DoD:ー 完聖体:神の癇癪(ヤルダハトケフ)(少女の発作) ※ダイスでどの年代に帝国入りしたかを決定し、それを基準に生年など計算

 本作メインヒロイン? にして事実上ラスボスみたいな我らが頭バンビエッタちゃんさん。警戒心が強くおビビり遊ばれる本性を隠すためなら世界くらい滅ぼす狂人メンタル。そんなわけで仲間相手でも一緒に風呂に入ったり寝床への侵入は余程のことがなければ許さない(ダイス)。

 1、2話ダイスにて初手ブルーに対し「恋愛感情」「弟分」「パシリ」「おもちゃ」の四択(1d4)のうち一発で「おもちゃ」を叩きだした上で、好感度が上がりサンドバッグに昇格(?)させたりする。この段階でダイスが大概アレなのはご愛敬。蒼都の綽名のイニシャルがBBなのは、潜在的に「あたしのもの」というアピールがあるような無いような。ブルーに依存していった経緯はおおむね本編通りなので割愛。

 好感度が恋愛射程圏の90(1d100)に入ったのは6話で、それまでは大体60台(1d100)をさまよっていた。

 番外編でのダイス結果だと、ブルーが傍にいてくれると安心して病んで依存しているけれど、ビビリな本性のどこかで「あんまり意見を無視し続けると消えちゃう」とか「ブルーが居なくなったらもう誰も庇ってくれるような奇特な相手は出てこない」くらいには思ってる。

 

・“F-恐怖-(ザ・フィアー)”エス・ノト

From:亜米利加 DoB:A.D.1977 DoD:ー

 未登場。ダイスロール結果、一番最後に聖章騎士になりそうな気配。

 

・“G-食いしんぼう-(ザ・グラタン)”リルトット・ランパード

From:蘇格蘭 DoB:A.D.1836 DoD:A.D.1847 完聖体:神の乾き(ユベシュエル)(神の乾き)※アニメ版:神の飢え(ガガエル)

 バンビーズ良心といえばこのお方。子育てセラピー的な何かに巻き込まれてもあまりキャラが変わっていない疑惑がある。ブルーとの好感度ダイス判定は2、3話の時点でお互い90越え(1d100)と圧倒的だが、恋愛方面へのダイスは50(1d100)を超えず舵を切らなかったので、ガラの悪いお姉ちゃん扱いのまま。

 ベレニケにメタを張れる、というダイス結果をもとに、完聖体が「概念捕食」的な能力を得たことになった。イメージとしては「真理の扉」的なアレで、出てくるのが手じゃなくって光り輝くプライドの顎みたいになっているイメージ。

 

・“H-灼熱-(ザ・ヒート)”バザード・ブラック

 ブルーへの扱いに涙を流した結果、バンビエッタへの好感度が一桁台になった。

 ユーゴーとは「今更なぁ……」くらいに思っているものの、番外編その3(12話)時点ではそこそこ仲良しに戻っているっぽい。

 本編ではチョコラテ度が若干上昇して、チャンイチ化が進んでいる疑惑が筆者的にある。

 

・“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)蒼都(ツァントゥ)(ブルー・ビジネスシティ)

From:中国 DoB:A.D.1970 DoD:A.D.1976 仮聖文字:“Σ-鋼鉄-(シデロ)” 完現術:銀の蒸着(シルバープレッション)(次話か次々話にて登場予定)

 最近自分の本名がわからなくなりつつある主人公。転生者だが中の人が事なかれ主義だったこと、身体がもともと幼児スタートだったこと、バンビちゃんに目を付けられたことで様々な感情が荼毘に付す結果に。それはそうと見た目によらずスケベなので(ダイス)、不可抗力で堪能できるものは全力で堪能するタイプ。

 本来の歴史の流れでは、出身国であったとある事件に巻き込まれた際に家族ともども逃げ、荒んで成長した後に帝国に迎え入れられる…………となるはずだったところを、そのとある事件で家族もろとも惨い殺され方をし、ギリギリ焼け死にかけだったところを帝国に回収される(ダイス)。当時の記憶は陛下をして「あまりに凄惨」だった故に、無意識の自己防衛で忘却している。

 情報(ダーテン)は当然読み込むタイプなので、例の台詞周りはだいぶ変わりそう。

 ちなみに作中で「ツァントゥ」と「ツァントウ」が混同しているが、これは意図的。幼児期は舌足らずゆえ「とぅ」と発音できなかったのを聞いた周囲が、BG9加入まで正しい発音を知らなかったのが原因。

 実はナナナや日番谷隊長が、能力の相性的には悪かったりする。

 

・“J-監獄-(ザ・ジェイル)”キルゲ・オピー

 おなじみ滅却師としての基礎的なOSRの極み。正統派滅却師筆頭。本作ではロバート老ともどもブルーの教育係を引き受けるが、陛下がそんなに真面目に指導しろとか教育しろとか考えていないので、積極的にバンビーズから離すことはしなかった。結果現在後悔(ダイス)。

 そのうちリジェと一緒に「お~は~!」とか言い出すかもしれない。これには陛下も思わずにっこり。

 

・“K-殺戮機械-(ザ・キラーマシーン)BG9(ベーゲーノイン)

From:蘇聯邦 DoB:A.D.1944 DoD:ー 仮聖文字:“Ⅰ-騎士-(イボテス)

 ロボ…………だが本作では肉の有る人間だったことになった(ダイスロール)。もとは色々あってアメリカに流れ着いた映画オタクで、ダ〇ス・ベ〇ダーの恰好をして真昼間から町を練り歩くような変人。1980年台に帝国へとスカウトさて、趣味で騎士甲冑風の服を身にまとうようになり、現在も概ね当時の印象から変わっていない。なお名称は自称(ダイス)

 もともと従軍経験があったりと人間がそこそこ出来ていたが(77(1d100))、覚醒した聖文字の影響で人間性が薄れつつある(21(1d100))。仮聖文字時代の能力は「身体が欠損しても意志が折れない限り別な物体で代用可能」というもの。

 

・“L-愛-(ザ・ラヴ)”ペペ・ワキャブラーダ

 子育てセラピー的な何かに巻き込まれても「良い駒が手に入ったヨ、ゲッゲッゲ」くらいにしか思っていない。もっとも能力が通用しないことから「ひょっとして愛情とか欠片も理解でない育ち方してるんじゃ? 可哀想……」みたいに素で引いている(ダイス)のは、お前どんな面の皮の厚さしてるんだと筆者も困惑。

 

・“M-奇跡-(ザ・ミラクル)”ジェラルド・ヴァルキリー

 もともと騎士団ではあまり人と絡まない(親衛隊は親衛隊で固まっている傾向がある(ダイス))ものの、その中でも比較的周囲に声掛けを行ったり激励をしたりしていた。なのでバンビからブルーの特訓に付き合ってくれと言われたら快く引き受けたが、その内実を聞き出して普通に怒り殴り飛ばした。

 

・“N-全盛期-(ザ・ヌーン)”ロバート・アキュトロン

 ダイス結果、結構とんでもない聖文字に決定しちゃったお爺ちゃん。幼児期はブルーの情操教育を行っていたが、人生とは素晴らしい(ライフ・イズ・グッド・インディード)の精神のもと、ネガティブに流されないように育てたのだけは一応成功したのかもしれない。

 

・“O-大量虐殺-(ジ・オーバーキル)”ドリスコール・ベルチ

DoB:A.D.1963 DoD:ー 完聖体:神の体裁(カヴハゴン)(最後の戦い)

 初登場時からダイスの結果、バンビエッタに散々馬鹿にされる扱いな男。騎士団が訓練用に確保してきた野良虚とかで殺害数を上げて能力を上昇させたりしているが、いかんせん頭バンビエッタには勝てない……ながらも実は「女性として」好き(95(1d100))。なお好みじゃないし性格も嫌いということで、バンビエッタからの扱いはお察し。

 完聖体は遊〇王でいう「ラストバトル!」的な能力なので、とてもではないが使えたものではない。彼は頭バンビエッタではないのである。

 

・“P-力-(ザ・パワー)”ミニーニャ・マカロン

From:加奈陀 DoB:A.D.1964 DoD:ー 仮聖文字:“E-権力-(イクシア)” 完聖体:“神の独裁(ヤショリニアン)”(単刀直入)※アニメ版:神の力(ボーニポラ)

 最近幼馴染ヒロイン面からの彼女面をするようになったミニーちゃん。4歳で騎士団入り(!)して以降はバンビエッタに気に入られてバンビーズ入り(ダイス)し、ブルーが来るまではジジより頻度が低めのサンドバッグだった。逃げ癖は大体この頃に染みつく(主にジジが対象)。マイペースで責任回避に走りがちに育ちそうなところに、中途半端にブルーが挟み込まれた結果、頼る先がブルー個人に集中する形になり、同時にそんな頼って(生贄にして)も嫌な顔せず一緒に遊んでくれたりする彼に、強い好意を抱くようになっていく。

 バンビエッタと違って愛情は純粋なので普通にイチャイチャしたりするが、根っこが変わる訳でもないので逃げる時は判断が早い。

 仮聖文字時代は「霊的バフを周囲に付与できる」ようなもので、本作完聖体はこの延長上にあるような能力だったり(ダイス)。

 

・“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”ベレニケ・ガブリエリ

From:仏蘭西 DoB:A.D.1916 DoD:ー 完聖体:“神の問答(インクリジア)”(異端審問)

 バンビとほぼ同時期に騎士団入りして、当時から「頭ヘンなニケ」と呼ばれるくらいには独特な髪型をしていた(ダイス)。原作でキャラが全然出てこなかった関係もあってか、本作ではダイス結果「歌のお兄さん」的なフレンドリーさに。

 能力的な天敵は、霊圧差を除けばリルトット完聖体のような概念攻撃系。

 

・“R-咆哮-(ザ・ロアー)”ジェローム・ギズバット

 やぁ良い子の皆、元気だったかな? ジェロームだ! BLEACH千年血戦篇が始まるぞ! では、行ってみよう!

 ダイス結果、キャラ付けが何故かビーストのイボ〇コになってしまったムチャゴリラ。流石にこのキャラ付けになるとは思ってなかったので、次登場した時どうしようか筆者に戦々恐々とされている。

 

・“S-英雄-(ザ・スーパースター)”マスク・ド・マスキュリン&ジェイムズ・マスキュリン・ハドソン

完聖体(?):“神の威光(ハンニボッヘ)”(至福の教え)

 つい先日アニメでサヨナラバイバイされたレスラーコンビ。マスキュリンについては次回か次々回で能力詳細のダイス結果を出すので保留。ジェイムズについては、ブルーがウルヴァリ〇っぽいことで好感度が勝手に上がっており、ベレニケも交え一緒にアメコミ映画を見たりアメコミを読んだりノベライズを読んだり考察しあったりTRPGしたりするくらいには仲良し。ジェイムズのファミリーネームの由来はX-MENから。

 

・“T-雷霆-(ザ・サンダーボルト)”キャンディス・キャットニップ

From:伊太利(馬爾太) DoB:A.D.1881 DoD:ー 完聖体:“神の雷鳴(サガタニトート)”(槍の嵐)※アニメ版:神の雷霆(バルバリエル)

 バンビーズ一女子力が高く(ダイス)、意外と真面目に恋愛している(ダイス)ことになったキャンディ。バンビーズで何故か一番ダイス的に好感度の増減も含めて絡みがなく、好感度もそれを反映している(キャンディ→ブルー:29(1d100)、ブルー→キャンディス:63(1d100))。数値をもとに色々ダイスを振った結果、本作では「ガキに興味はない」という扱いに。ブルーはブルーでおそらくおっぱいが大きいから好感度が高かったと思われる。

 なお聖文字授与後は徐々に好感度が上がってきているので(45(1d100))、バンビエッタとミニーニャはちょっと警戒し始めた方が良いかもしれない。

 

・“U-無防備-(ジ・アンダーベリー)”ナナナ・ナジャークープ

 本編未登場だが、事前のダイスでは仲が良いことになっている(好感度判定は未ロール)。能力的にはブルーにとって天敵の一人。

 

・“V-夢想家-(ザ・ビジョナリー)”グレミィ・トゥミュー

 名前だけは何度か出ている、リルトットが時々持ってくるお菓子の出どころ。基本リルトットとは小説版のノリのままということになっているが、ブルーに対しては一度虫けらみたいに摘まみ殺すつもりらしい(ダイス)。

 

・“V-消尽点-(ヴァニシング・ポイント)”グエナエル・リー

 未登場だが、性格が悪いとシャズ・ドミノから名指しされている。

 

・“σ-聖痕-(スティグマ)”シャズ・ドミノ

 小文字のΣが原作表記にならなかったり、本名をジャズと間違えられていたり筆者的にはちょっと申し訳ない。現在はグレミィの部下として雑用やら何やらをしながら顔を売っている途中。

 バンビエッタの爆撃地獄に晒されたことも有るが、すぐに飽きられた。やはり顔が好みではないらしい(ダイス)。

 

・“W-紆余曲折-(ザ・ワインド)”ニャンゾル・ワイゾル

 未登場。本当に何一つダイスが振られていないので、アニメに出て来て描写が盛られるまでにダイスで出番が出てこないことを筆者は祈ってる。

 

・“X-万物貫通-(ジ・イクサクシス)”リジェ・バロ

 ブルーと本編で絡む描写はほぼ無いが、ロバート老の教育の際にちょっと顔を出して、一緒に陛下への忠誠心を教えようと画策したりしていた(ダイス)。結果はお察しである。

 

・“Y-貴方自身-(ジ・ユアセルフ)”ロイド・ロイド(×2)

 未登場だが、あと数話以内で確実に出す予定があるので、今回は割愛。

 

・“Z-死者-(ザ・ゾンビ)”ジゼル・ジュエル(ジゼル・ジュダ・ジュエル)

From:独逸(猶太系) DoB:A.D.1922 DoD:A.D.1934 完聖体:“神の眠り(ゲヘノエル)”(神の地獄)※アニメ版:神の死(アザルビオラ)

 本作では(心は)ガチの女の子。とはいえ元男の子で、生前、見ず知らずのバンビエッタにR18Gも真っ青なことをされた結果人格が一度崩壊、乖離し、男性としての目線と女性としての目線双方からダブルスタンダードを極める人格になる(ダイス)。百合ではないが、性的趣向は男の子なので女子相手にちゃんと興奮出来るというひねくれ具合。ゾンビエッタちゃん化は、彼女の「男性としての自分の復讐」「尊厳の回復」が含まれている(もっとも男性としてはもう戻れない)。

 子育てセラピー的なサムシングに巻き込まれ、生前から比べたらバンビエッタが多少マシになったことに地味に驚愕している一人。ブルーのことは弟分として見ている面と男として見ている面があり、彼の性癖をどうすれば破壊()できるか最近ちょっと悩んでいる。

 

 

 

・“A-完全反立-(アンチサーシス)”石田雨竜

 ご存じ一護の友達、後先考えず友達が友達を助けるために危険地帯へ出るなら文句言いながらも当たり前のように一緒について来てくれる馬鹿。

 番外編だとまだ顔合わせしか出てきていないが、騎士団内を陛下指名でブルーに案内されて、びっくりしたりドン引きしたり胸を痛めたりする予定。

 

 

 

【補足のダイス結果】

 

・バンビーズの結成時期:1940年代ごろ

 

・時間隔けっこうメチャクチャじゃない?:ダイス結果的な問題ですので平に! 平にご容赦を……!(修正かけ始めると収拾がつかなくなる)

 

・死因:ブルー →出血多量および全身火傷による呼吸不全 リルトット → 飢餓状態による栄養失調や免疫不全を始めとした衰弱死 ジジ → ショック死(詳細自重)

 

・生存と死亡の扱い:本作では帝国所属滅却師は「器子」と「霊子」の境界が曖昧になる的な設定で作ってますので、死亡しても魂魄で帝国へ所属できる扱いとしています。また、帝国所属以降の身体成長は、霊子側に寄るので実年齢と噛み合わない感じになります。

 

・仮聖文字の扱い:プレ能力の意味で文字を刻んでいる場合と、とりあえずそれっぽい字を当てている場合がある(判別は可能)。

 

・騎士団内でのバンビエッタの好感度:原作より低いかヤベェ女扱いされている。私室でイケメン殺していたのが所かまわずブルーを爆撃してるからね仕方ないね(ダイス)

 

・完聖体:一応全員分、名称と能力概要だけは用意してるけど、未取得も何人かいる。陛下にはそれでも「何を取得するか」は視えている(ダイス)

 

・ハーレム……?:ブルーがバンビから周囲を庇うことはあれど、自分からバンビーズにアプローチしたりする姿もなく(仮にしても幼児期の延長線上)、またよく死ぬ(死ぬ)ため、人によって感想が異なる。

 

・リルトットはブルーのこと性的に見ないの?:今の所その気はない感じみたいです(ダイス)。追加でリルトットの好感度ダイスを振るとしたら聖別後。

 

・完聖体の扱いについて:どうするか細か後日ダイス振ります。それはそうと、どっちにしても戦闘描写はそっちに合わせて盛るかも…?

 

 

 




 




※アニメでのバンビーズ完聖体描写追加に伴い一部追記


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#016.癇癪嵐と夢大嵐(前)

初の前後編です・・・!(アニメ次回グレミィが出そうな気がするから、所々描写カットしなかっただけとも言う)
 
例によってダイスが粗ぶっているので諸々ご容赦ください・・・


 

 

 

 

  

「頭最っ高に良いバンビちゃんは考えたの、どう勝負したらミニーと優劣を競えるかって! だったらあたし達じゃなくって、ブルーにジャッジさせたら良いじゃない! そしたら平等よね平等、やっぱりバンビちゃんってば天っ才! 大・天っ才! 国民性と言うか人種が出るのかしらね~!」

「贔屓無しだと秒速で負けるぞサイコビッチ」

「サイコビッチ!? 優性人種たるバンビエッタちゃんに何てこと言うのリルってば!?」

「人種云々関係なくバンビだから問題なんだろォが、バンビだから」

 

 リルトットの罵倒にすわ「心外な!」と言わんばかりに目を大きく見開いて抗議するバンビエッタだが、この場にて誰一人としてフォローに回らない時点でお察しである。

 例によってバンビーズがたむろしている集合部屋にて、バンビエッタが両腕を組んで得意げにのたまった。毒を吐いたリルトットはともかく、ジジは「バンビちゃんは今日も相変わらずだな~」と適当に笑っている。キャンディスは「今日は何?」と寝不足なのか面倒そうであり、ミニーニャはミニーニャで「でも私もお洗濯とかちょっと苦手だし……、破っちゃうから」とかブツブツ独り言をつぶやいている。

 肝心のブルーはといえば、シンプルに困っているようだった。

 

(僕にジャッジしてもらうって言ったってさぁ……、いやそもそも何をジャッジしてもらうって話なんだけど、内容によってはこっちもバンビちゃんを庇えないっていうか)

 

 こちらもフォローはなかった。

 現実は非情である。まあ普段から頭バンビエッタちゃんだからね仕方ないね。

 

 それはそうと眼前で揺れるバンビエッタの胸に視線が釘付けだったりするあたりは、ブルーも大概ブルーである。どうしてこう育っちまったかな、と彼を見て肩をすくめるリルトットは、当然のようにバンビエッタの文句をほぼ100%聞き流していた。

 

「はーっ、はーっ、…………まだ文句は言い足りないけど、まぁ良いわ。せっかく呼んでおいて、無駄に待たせるのも可哀想だもの」

「っ!? い、いや、まあそりゃそうなんだろォけど……」

 

 そして「ゲストを呼んでるわ!」と言った手前か、その相手へ最低限の気遣いらしきものを発言したバンビエッタを思わず二度見したリルトットであった。

 

「紹介するわ!

 頭ヘンなニケと、右の方のハゲロイドよ!」

「その呼び方止めてバンビちゃん!? ボク笑いすぎて腹筋おかしくなっちゃう!」

 

 なお紹介文があまりにもあんまりなので「あぁいつものバンビで安心した」と投げやりな顔になるまでワンセットである。

 彼女に言われた通りに連れてこられたのは、相変わらず髪型がトンがっているベレニケ(寝起きなのか遊〇王のような寝癖になっている)と、もう一人。「削がれたように」薄い耳の箇所にプロテクターを装着している、額に「第三の目」のようなものがある青年。こちらも寝起きなのか目をくしくし擦っているが、挙措がそれこそかつてのブルーよりも幼児めいて見える。“Y-貴方自身-(ジ・ユアセルフ)”ロイド・ロイド、その「R」のロイド・ロイドである。

 

 彼らの登場、真っ先にベレニケの髪型を見て爆笑するキャンディスと「せめて顔くらい洗ってから連行しろよクソビッチ」と悪態をつくリルトット。ひとしきり笑い終えてから、続くロイド・ロイドを見て「陛下のお気に入りじゃん、元気してるー?」とニコニコ手を振るジジと、自分の世界から帰ってきていないミニーニャ。

 

「おはよううございます、ベレニケさんとRロイドさん」

「お、おはよう…………、ちょっと待ってくれ、髪型だけ霊子を収束して調整するから」

「……………………」

 

 寝ぼけた目をしながら両手に霊子を集めて髪を撫でつけ、疑似的なワックスのようにして調整するベレニケと、かくん、かくん、と首だけが前後に揺れて首肯しているのか寝ぼけているのか判断がつかないロイド・ロイド。なんなら額の第三の目すら半眼で眠たそうだ。

 非番だろコイツ等と口にするのを止め、リルトットはバンビエッタに足を組み直して確認する。

 

「で、何だよコイツら呼んで来た理由って。ベレニケの方はまだ判らなくもねェけど」

「随分偉そうにふんぞり返ってるけど、寛大なバンビちゃんはそれも許してあげるわ! あたしは寛大だから許してあげるわ!」

(全然許せてなさそうだけど、リルお姉ちゃんが気にせず毒吐けるってだけ少しはマシになったのかなぁ、バンビちゃん…………)

「ブルー、あなたヘンなこと考えてないその顔!?」

「い、いや!? ぜ、全然考えてない、考えてない。バンビお姉ちゃん、今日もキレーだなーって」

「そう? ………………………………う、うん、まぁ良いわ。

 頭ヘンなニケはともかく、ハゲロイドはアレよ! アレ! コイツにブルーをコピーさせるの!」

「コピー?」

「どうしてわざわざー?」

 

 ちょっと赤くなったのを誤魔化す様にテンションを上げたバンビエッタにキャンディスとジジからツッコミが入る。もっともリルトットは「あー、なるほど」と納得したようだった。

 

「ブルーって、何かこう、一部の聖文字(シュリフト)の効きが悪いみたいじゃない? キャンディとかジジとかも、完聖体にならないと上手く効果が通用しなかったり。逆にミニーとかはあんまり関係なさそうだけど」

「あーそれねー」

「ふぇ? 今、私の名前呼んだぁ?」

 

 上の空だったミニーニャにバンビエッタが適当に話の流れを言うと、続けて今回ロイド・ロイドを呼び出した(連行した)理由について語る。

 

「で、傾向から言うと多分、頭ヘンなのが使う能力もあんまり通用しないと思うんだ。ニケの能力でブルーの思考誘導とかしようとしても、上手く行かないんじゃないかなって、バンビちゃん思う」

「だからその頭ヘンという呼び方をいい加減直してもらいたいのだが……?」

「で、思った訳! だったらブルー本人じゃなくって、ブルーをコピーさえ出来れば、そっちに頭ヘンなニケの『異議がある!』も使えるでしょって!」

 

 説明は大分雑だったが、おおむねこれには納得がいった面々である。

 Rのロイド・ロイド、その聖文字“Y-貴方自身-(ジ・ユアセルフ)”の能力は「相手の姿形と精神/記憶を真似する」、つまりはコピー能力である。

 その効果がブルー本人に直接作用するものではないため、おそらくは有効だろうと言うバンビエッタの(意外と冴えた)判断だった。

 

(記憶のコピーとかもあるみたいだけど、大丈夫かな……、一応聞いてみるかな?)

 

 なおそんな蒼都の確認には「変身中の記憶は変身中だけ持続する」と本人が返答したので、このあたりのリスクについては「転生者的に」軽く見積もっているというのはある。

 

「まァ理屈はわからなくもねーけどなァ……、お前大丈夫かよ、陛下の所で修業見てもらってんだろ? 非番っぽいけど抜け出してきて。絶対バンビとか騎士団長に話通したりしてねェだろ」

「許可は別にいらないとも。それに…………、ブルー個人には興味がある。あの陛下が騎士内定を『わざわざ』先送りにしたと、騎士団長が言っていた」

「はァ?」「何それ何それ?」「どういうことぉ?」「先送り……」

「ブルー、あなた知ってる?」「騎士団入りした当時の事は記憶があんまり…………」

 

 ロイド・ロイドの発言により若干混乱を来したが、ともかく。ベレニケは「手早く終わらせて早い所二度寝をしたいんだ…………」と疲れた様子のまま欠伸を噛み殺しているのもあって、早々にロイド・ロイドによる蒼都のコピーが始まった。

 

 そして始まって早々、ロイド・ロイドは後悔した。

 

「クリソツ! クリソツじゃんかっ!」

「おー、本当にブルーみてェだな」

「見分けつかないわね」

「えぇー? でもバンビちゃーん、ブルーの方がヤバい(ヽヽ)よ~?」

「それ見た目からじゃわからないってぇ私、思うの」

「僕よりちょっと前髪が短いかな。…………? あれ、えっと、ロイドさん?」

 

「――――――――――――ベレニケさん、お手洗いに連れて行ってくれない?」

 

 早々に、ロイド・ロイドが変身したブルーは顔色を悪くし、主にバンビエッタを見た瞬間に口元と鳩尾を抑えてうずくまった。

 これにはベレニケも眠気が消し飛び「だ、大丈夫か!? 傷は浅い、心の傷はきっと浅いぞ!」と叫び肩を貸して早々に一時退散。廊下でダボダボと「大量の液体が零れる音」を鳴らし、アスキンの声が「致命傷じゃねぇの!?」と悲鳴を上げたりしていた。急展開にフリーズしているバンビエッタと、何かを察したらしい他のバンビーズが彼女から一歩距離を取り。

 

「えっ? どういうこと? ブルー、何か知ってる?」

「と、特には……、んむ?」

 

「ほら、食っとけブルー」「あんまり今まで話してこなかったけどさ、何か困ったことあったら相談のるからさ、ブルー?」「バンビちゃんはバンビちゃんだよね~、大丈夫だよブルー」「後で膝枕しましょうかぁ、ブルー?」

 

「ちょっと、何いきなりブルー囲って後宮の主に使える女みたいなことやってるわけ!? リルも何でそんな、滅多にしないようなことしてるの!」

 

 バンビーズの残りの面々が、各々に各々らしい方法でブルーをねぎらっている時点で、察しがついていないことが確定している頭バンビエッタである。当然のようにブルー本人は、ロイド・ロイドが吐いた理由について心当たりがあった。

 

(僕がなんだかんだバンビちゃんと付き合えてるっていうのは、「転生者」だっていう前提があるからだから、それをしてゲロ出ちゃうくらいトラウマになってたってことは……、前世の分の記憶コピーは出来てないってことで大丈夫かな?)

 

 密かに安心しながら、ブルーはリルトットの差し出した棒スナック菓子をかじりつつ、何だか見たこともないくらいに哀れんだ目のキャンディスに頭を撫でられていた。

 

 閑話休題。

  

「とりあえず吐き気止めを飲ませて、アイマスクをすることで決着したよ……。アスキン・ナックルヴァールの面倒見の良さに救われたね、こっちのブルーも」

「う、うん…………」※ロイド・ロイドの蒼都

「ちょっと、何をバンビちゃんを見るだけで視神経から浸食してくる新手のホラーのモンスターみたいな扱いしてるわけ!? 異議ありよ、異議あり!」

 

 辛うじて落ち着きを辛うじて取り戻したロイド・ロイドに文句をつけるバンビエッタと、そんな彼女に白けた目を向ける後方のバンビーズはおいておいて。

 とりあえず当初の目的通りに、ベレニケの“Q-異議-(ザ・クエスチョン)”を用いてコピーの方のブルーの「嘘」と「気遣い」を縛る。これで彼が語る話については、おおむね本当の部分が出てくると見て良いだろう。

 

 なお「前世」について説明できないブルーだけは「多分変な形で出力されるんだろうなぁ……」と思っているが、当然そんなことは共有されない。

 

「えっと、大丈夫? ロイドさん」

「だ、大丈夫、だよ……? うん、ブルー、大丈夫」

(僕の顔と声と姿形で何だか凄い怯えてるな…………)

 

 そしてまたいつもの事と軽く見て、バンビエッタを止めなかったことを反省した。

 

「じゃあ、最初に聞くけど…………、あなた誰が一番好きなのよ。あたし達含めて」

「いや、いきなり爆弾放り込んでるじゃんか!?」「私より直球勝負ぅ……」

 

 キャンディスの思わずのツッコミに、本物のブルーは遠い目で苦笑い。一方のロイド・ロイドのブルーの方は、こちらもまた似たような遠目を(アイマスク越しに)して、引きつりながら返答した。

 

「誰がって、いうより、今の状況? 皆といるって、僕、割と、嫌いじゃない、よ? へ、へへ、寂しく、ない、もの」

 

『……………………』

 

 そして一発目からかなり重い返答が返ってきた。ついでに言うと「誰が好き」という質問に建前を取っ払って回答させてこの返答である。バンビエッタはこの世の終わりを目の当たりにしたような顔をしてブルーを見て、そして彼の苦笑いに我を取り戻して、頭を振って気を取り直した。

 

「ん、んんん! じゃあ、手始めにキャンディのことはどう思ってるの?」

「え、えぇっ?」

 

 と、なぜかバンビエッタの隣で少し上ずったキャンディスであったが、もっとも返答を聞いて困惑することになる。

 

「お、おっぱい大きいなって、思ってる」

 

「………………えっ、それだけ?」

「いや、バンビの方が動揺してるじゃん。……いやそっか、ちゃんと『そういう目で』見てたんだあたしのこと……、な、何か変な気分」

「まぁ、ねー? ミニーちゃん」

「あながち否定は出来ないかしらぁ……」

「…………そういやバンビもミニーニャも、乳でけェか」

 

 変な空気になっているバンビーズと、そんな彼女たちを尻目に膝をついて頭を抱える本物ブルーへ、こちらも「どうした一体!? 大丈夫かい!」と気遣うベレニケ。どうやらコピーされた分だろう記憶から彼女たちに対するそれぞれの印象へ、当たりがついたらしい。それ故に返答内容が酷いことになると察しがついたが故の苦悩ではあるが、当然それは誰にも通じない。せいぜい性癖暴露をされて恥じらってる程度にしか受け取られなかった。

 

「じゃ、じゃあ……あたしは?」

 

 なおブルー本人の返答予想もまた、全員に平等に降り注ぐことになるわけである。

 

「ば、バンビちゃんは、か、可愛いと思う、よ? おっぱい、大きくて」

 

「えっ」

「あはは〜、バンビちゃん残念♪」

「キャンディがアレだったんだから、まーそんなモンだろ」

「ブルーそれしかないのぉ?」

「アレだけ嬲り殺されて出てくるのがその感想とか……………………………」(※可哀想なものを見るような目)

 

 意外と今回は復帰の早かったバンビエッタが「納得がいかなーい!」と、うがー! と叫ぶ。

 

「そんなに言うならジジ、ジジについてはどう思ってるのよ!」

「あっ、バンビちゃんそれルールで禁止ー!」

 

「意外と凄い苦労してる人だと思うから、結構気遣ってもらってるっていうか。だから僕もそのあたりは気遣うよね。あと、地味に家事炊事洗濯も最低限できるし」

 

 途端、流暢になるコピーブルー。突然の饒舌を前に「い、いやぁ………………」と、バンビたちも見たことがないほどに照れ始めるジジである。バンビエッタとミニーニャの表情が死んだのは言うに及ばず、キャンディスもまた「えっこの好感度の差は何……?」と困惑気味だ。

 

「何でそんな饒舌になってるの…………。じゃ、じゃあリルよリル! なんか下手するとあたしたちより仲良いし!」

「リルお姉ちゃん…………、可愛くて頼りになって、おっぱい小さい」

 

「あなたのはんだんきじゅん、おっぱいしかないわけ!?」

 

 バンビエッタ・バスターバイン、魂の絶叫である。もともと色目を使ってこないことを前提にサンドバッグにしていた彼女からすれば、その返答は色々と予想外だったらしい。もっともそれでも爆撃しないだけ多少はマシになったと見るべきか、後々のブルーが大変なことになると考えるべきか、ギリギリ「幼児らしい」感想と言う範疇にとどまっていると鑑みるべきか。

 

「バンビちゃーん、動揺しすぎて赤ちゃんみたいな発音になってるの可愛いーぃ♡」

「これ、あんまり手をかけなかったあたし達のせいじゃないよね……?」

「色目使われるよりはマシだけど、言い方ちょっとイラッと来ンなァ」

「リルお姉ちゃんはライバルにならなそうでホッとしたの」

「呼び方昔に戻ってんよ、ミニーニャ。どこもかしこも酷ェもんだ」

 

 呆れたように言うリルトットは、絶賛ベレニケに励まされている本物のブルーに白けた目を向け、そして少し腕を組んで何かを考え込むようなポーズに。

 何やら色々ショックを受けていたバンビエッタは、ソワソワしているミニーニャを見て「何か気づいたら最後になっちゃったけど……」と言いながら深呼吸し、気を取り直した。

 

「じゃあもう最後になっちゃったけど、ミニーはどうなのよ?」

「身長大きくなった」

「…………へ? それだけ? おっぱいすら言わないの?」

「どうして私がオチみたいになってるのバンビエッタちゃん!?」

 

 ミニーニャ・マカロン、魂の絶叫である。なんならおっぱいについてすら言及がなかった。方々それぞれがそれぞれに納得がいかないと言う顔をしている中、どういうこと! とベレニケに向けて剣を付きつけるバンビエッタ。ついでにその瞬間に本物ブルーの首が飛んだのを見て「ひぇ!?」とドン引きしながら尻もちをついた。びしゃびしゃとブルー本人の血が勢い良くまき散らされる。

 

「どういうことなのか説明しなさいよ頭ヘンなニケ!」

「お、落ち着き給え、そして落ち着いて自分の行動を振り返り給え、一体僕に何の罪があると言うのだ!?」

「納得いかないから死刑」

「私刑の間違いじゃなーいー?」

「どっちにしても酷いと思いますぅ~」

「いや、色々言ってるけどこんな理由でバンビも本気で殺すつもりないだろ? ないって言ってくれよ?」

「それは、まあ、あったり前じゃない? 陛下の私兵みたいなあたし達なんだから、理由もなくそこそこ長いのをぶっ殺したら、逆にあたしが殺されちゃうし。もうそこは、昔のバンビエッタちゃんみたいな軽率さじゃないし……。

 って、あなた達あたしのこと何だと思ってるのよ」

 

((((((そこに転がってるブルーの死体を見て自分の胸に手を当ててみろ))))))

 

 言葉にはしなかったが、一同一様に同じようなことを考えていた。

 なお該当する当人も、首から出た血が「銀色に変化し」そのまま遠方にある頭を引き寄せて接着、既に接合部が銀色な事以外は元に戻っている有様だった。

 

 そしてコピーの方のブルーも、ロイドロイドの地が出ているのか「やはり命は大事にしないと……」と椅子に座りながら、ガタガタ足が震えていた。

 

「う、うーん……、ちょっと呼吸器がまだうまく接合できてないっぽいな…………」

「おぉ、しばらく喋んなくて良いぞ。

 で、あー、アレだろこれ多分。やっぱりブルー本人じゃないから、っていうのが一番ネックなんじゃねーの? ロイド・ロイドにコピーさせたところで」

「どういうこと?」

 

 震えるベレニケを庇う訳ではないが、それより上半身を起こしてせき込むブルーの背を撫でてやりながら、リルトットはバンビエッタに半眼を向ける。

 

「コピーって言っても、あくまでベースは『なりきり』なンだろ? 陛下があっちのを傍に置いてるって言うのは、それだけ自分のことを常に見せて、考えを真似させようってことなんじゃねェか。

 だから、あんまり面識がないブルーの真似したところで、上手くはいかないんじゃねーかって話」

 

 リルトットの推論にはある程度納得がいったのか、とりあえず微妙な空気は少し解消されたものの。

 

「それで、そうなると結局ブルーって誰が一番好きなのか―――――」

「上手く本題ボカしてまとまろうとしてんだから、余計な事思い出させちゃ駄目じゃんっ!」

 

 キャンディスが空気を読まないジジにツッコミを入れたあたりで、自分のアイデアが上手く行かなかったことに飽きたのか「じゃあ、またミニーと相談して考えるわ」とこのイベントはお開きになった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 お開きにはなったが、リルトットはブルーの手を引いて、どこかへと連れ立っていた。

 

「リルお姉ちゃん?」

「ま、俺があんまり面倒見てやる話でも無ェんだろうけどな……。普通にやったらゲロ吐いてバンビのことまともに見れなくなるまで放置しちまってたみたいだし、ちょっとくらいは真面目に考えてやんよ」

(そんなに気にしなくても良いんだけどなぁ、結構オイシイ思いもしてると思うし…………、それはそうとリルちゃんのお手々やわらかいな、女の子って感じだ)

 

 面倒こそ見てもらっているが、あくまで一線を引いていたリルトット。その彼女から積極的にどこかへと連れていかれるというのは初めてなこともあり、ブルーこと蒼都は緊張していた。緊張していたが、それはそうとレアなイベントを楽しむ(?)的発想が湧くあたりは、中の人は相変わらず中の人である。

 さて、彼女に連れられて行った先は、普段なら鹵獲された虚が監禁されている銀架城の地下一角。そこに青白いオーラ、明らかに尋常ならざる結界に覆われた檻。その奥に、リルトットが目的としている彼はいた。

 

「よォ来てやったぞ、クズ野郎(ヽヽヽヽ)ォ」

「――――君にクズ呼ばわりされるのは、妙な気分だね。リルトット」

 

 白いジャケットのような制服をローブ付きでまとい、ポケットに手を入れたまま、カールがキュートな金髪をした少年が、檻の手前に立つリルトットとブルーを見た。

 くい、とリルトットが少年を親指で指さす。

 

「こいつ、グレミィ・トゥミュー。あんま面識ないだろ、紹介しとく」

「あ、どうも。えっと僕は――――」

「――――蒼都(ツァントゥ)、というよりはブルー・ビジネスシティの方が最近は正しいかい? 噂はそこのリルトットに聞いているよ。嗚呼、握手することも『この檻じゃ』出来ないが、ま、よろしくね」

 

 片手を上げて微笑むグレミィ。さわやかなその一笑に「うげ」と顔をしかめるリルトット。明らかに嫌がっているように見えるが、お互いに纏う空気は気易い。

 ブルーから見れば、彼女たちの関係については小説版の一節より、意外と悪態をつき合ってお互い話し相手として認識できる程度には仲が良い認識(つまりバンビーズを除いた上でのリルトットのオトモダチという認識)である。

 

 何故そんな彼を紹介したのだろうかと聞けば「こいつ便利屋みてェなもんだからな」と肩をすくめるリルトット。

 

「陛下ほどじゃないけどチート野郎だし、何か知ってるんじゃないかって思ってな。お前の能力とかについても」

「僕の能力?」

「多分だけど、ロイド・ロイドのやつのコピー。あの時はああ言ったけど、本当はロイド・ロイドが『真似しきれない』のが出てくるのって、フツーはわからないレベルなんだよ。ちょっとしたしぐさの違いとか、物言いがズレたりとか、そンくらい。

 それが出来なかったってことは、お前の聖文字、じゃない能力みたいなのだっけか? そっちが影響してるって考えるのが筋だろ」

「う、うん……」

「まーつまり、今まで制御出来てなかったからこうなっちまってたけど、もしちゃんと扱えればバンビの頭バンビな行動とかも、多少は前より楽に耐えられるんじゃねェかって話だ」

 

 なるほど、と頷くブルーと「ま、仮説だけどな」と肩をすくめるリルトット。そんな彼女たちを見て「いつまで手を繋いでいるんだ? 仲良しかい」とニコニコ微笑みながらツッコミを入れるグレミィ。

 ふと見れば、リルトットはいまだブルーの手を引いた状態のままだった。言われて「あァ」とバツが悪そうに言いながら手を離すリルトットである。異性としての意識はそこになく、どちらかというと幼児を相手にしていたような、そんな微妙な生暖かさのある声音だった。

 

「どーにも俺の15%も生きて無ェからなコイツ。ガキ扱いしちまうな」

「見たところ罪悪感みたいなものもありそうだけれど、君にそんな殊勝な心があるとは驚きだクズ女」

「おぅわざわざ指摘するところに底意地の悪さが染み出てんぜクズ野郎」

(やっぱり仲良さそうだな、なんかニヤニヤニコニコしあってるし)

「それで、僕を頼れないかと来たわけか。うん、なるほど…………」

 

 そしてグレミィとブルーの目が合った次の瞬間――――――――。

 

 

 

 ブルーは、宇宙空間に投げ出されていた。

 

 

 

「ぴょっ?」

 

 あまりの超展開に思わず変な声が出たが、そんな彼が状況を観察するよりも先に、彼の四方八方から「隕石が」「彼目掛けて」集まって来て、それこそ惑星に落下する勢いのそれらに押しつぶされ、ブルーはまた死んだ。

 

 

 

 

 



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#017.癇癪嵐と夢大嵐(後)

今回も例によってダイス荒らぶり注意


 

 

 

 

 

 秒速で圧殺され熱量で蒸発させられたブルーだが、気が付けば何事も無かったかのように立っているばかり。

 そして、その場所はやはりというか、色々と想像の埒外だ――――見渡す限り白い荒野、頭上には青い星。遠くには形状の把握が難しい程にまばゆく輝く白い光。クレーターのようなものが遠方に有る事も考慮して、いくつかの情報を掛け合わせ、おそらく月面にいるだろうというのを認識した。

 

 五体を投げ出して倒れたままだったブルーは、上体を起こす。器子依存の存在ではないから酸素は関係ないとはいえ、身体的には「熱くもなく」「冷たくもない」状態のブルー。

 

 そんな彼の目の前に、「檻など関係ないとばかりに」、当然のようにすぐ近くに立つグレミィ・トゥミューの姿があった。ぱちぱち、と両手を叩いて、心の底から感心したように笑う。

 

「凄い凄い! 物理では圧殺できるけど、それ以外の法則は『概念攻撃に近い』ってことなのかな? 普通なら血液が沸騰したり宇宙線で焼かれたり、ともっと酷いことになっているはずなのに」

「――――? ――――、――、………? ――っ! ――――――――!

 ――! ――! ――! ――!」

「何を言ってるか聞こえないよ。……って、あっ、そうか。『宇宙空間』は『空気が無い』か。空気が無いと音は届かないもの、失念してたよ。今『想像するから』」

 

 瞬間、ブルーの口から「空気! 空気!」と連呼していた言葉が成立した。いきなり肺が満たされたこともあり一瞬せき込むが、しかし特に違和感があるわけでもない。ある意味で「異常が通常」というのを、本能的に刷り込まれている状況というようなものが、グレミィの前にいると感じられた。

 

「あ、えっと、ここは……?」

「嗚呼、リルトットのことなら心配しなくても大丈夫。ここは僕と君の二人しかいない。そういう場所だって『想像した』から。ここでの時間経過も、『戻れば一瞬』だと『想像した』から、気にしなくても大丈夫だよ、ブルー・ビジネスシティ」

 

 ニコニコと、表面上だけはとても柔らかく微笑むグレミィ。差し出された手をとるブルーだったが、引き上げて立ち上がらせた彼本人が、どこか納得のいかない表情に変わった。

 

「『ビスケット』は駄目、か。…………『骨抜き』も無理。この調子だと難しそうだけど、やっぱり物理攻撃は通用するってところかな?」

「グレミィさん?」

「嗚呼ごめん。色々『試して』みたかっただけなんだ。他意はないよ。それでは改めて」

 

 そしてブルーの胸を軽く突き飛ばし、次の瞬間には「目の前に太陽」。何か声を上げるよりも先に、ブルーの背中をグレミィが、まるでライダ〇キックするかのごとく飛び蹴りを決めて、そしてその一発でブルーは恒星表面の熱冠風(コロナ)に呑み込まれた。

 

 それにもかかわらず、全身が消し飛ぶほどの熱量におかされても声すら上げられず消えゆくはずであるはずのブルーは、その意識だけはずっと残っていた。

 

『それでは改めて、自己紹介を。

 僕は(ブイ)。“V-夢想家-(ザ・ヴィジョナリー)”グレミィ・トゥミュー。

 星十字騎士団(シュテルンリッター)最強の滅却師にして――――陛下直々にご指名の危険人物さ?』

 

 全身を焼かれ、思考を焼かれ、感情を焼かれ、記憶を焼かれ、とにかくありとあらゆる自身を構成する要素を焼却されながら、しかしブルーに対してグレミィはその状況を変えることはない。

 そして思考が形成できないブルーに、そのほんのわずかな揺らめきすら知覚したグレミィは、届くはずのない長距離からブルーの意識へと「ささやく」。

 

『今「どうしてこんなことを?」って思ったでしょ。そしてこう想像したんじゃないかな? 「もしかしてリルトットとずっと手を繋いでいたことに嫉妬したんじゃないか」って。流石にそれは違うよ。彼女も僕も否定する。でも、お互い否定するけど、外から見たら友人であることは想像できるだろうけどね』

 

 ブルーはやはり、返答すらできない。現状、霊子の「枠」のようなものが辛うじて彼のシルエットを残すばかりであり、その原型は欠片も残っていないからだ。

 

『どうして全身を焼かれつくしながらも、いまだ死なず意識だけはずっと残っているか。そしてこの場にリルトットがいないのか。――――君の想像通りだよ。ここは白昼夢。僕がそう想像した。

 ここでの出来事はほんの一瞬。僕が君と直に対面できないから、触れ合うためにちょっとだけズルしたんだ』

 

 やはり返答はない。そんな太陽の内へ向けて、グレミィは微笑みながら続ける。

 

『僕は空想を現実に出来る滅却師。僕と出会った瞬間から、君も僕の幻想の住人だ』

 

 そっと手を差し出し、指を構え。

 

『そうだね。少し訓練をつけてあげるよ、ブルー・ビジネスシティ。頭の中だけ、じゃ物足りない。手取り足取り、あのリルトットの悩みを解決してあげよっか』

 

 一体何を解決すると言うのだろうかこの男は。

 グレミィがばちん、と指を弾くと同時に、ブルーの周囲に存在していた太陽は姿を消した。

 はっとして顔を上げて、頭上に現れたグレミィを見る。と、彼は次の瞬間には功夫がごとき拳法の構えで殴りかかり、ビシッバシッと音が鳴るように風を切りながら拳や脚を武器としてくる。一撃一撃がそれこそ普通の人間や魂魄なら致命傷の一発。とっさに両腕に神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)たる狼の顎がごとき籠手を形成。その先端から腕の内側より「銀の鉤爪」を生成し、受け流す。

 一撃ごとに重さを増す拳。当然のようにその拳は籠手にも鉤爪にも負けず、なんなら「籠手すら変形させる硬度」と霊子の圧縮率で、ブルーのことをボコボコにしていた。

 

「な、な、な……!?」

(いや原作の印象的にここまで話が通じない相手じゃないと思ったんだけど、一体どうしてこんな…………?)

「ほら、また『どうしてこんなことをするんだろう』って思ったでしょ」

「っ!?」

「大丈夫。心とかは読めないんだ。他人っていうのが本当は上手く『想像できないから』。皆、あんまり関わってこないし。

 今のはだから、ちょっとした想像だよ」

 

 ニコニコ笑いながら、それでいて動きだけは暴力的を超えた勢いで殴りかかってくるグレミィ。いい加減躱し受け流すのが難しくなってきたブルーの腹部に、今までの速度を超えてもはや「光の速度」がごとき拳が刺さる。

 

「――――――――――――ッハ!?」

 

 速度は力。そのままグレミィはなんらダメージを受けた様子もなく、振り抜かれた拳によりブルーは加速を超えて加速。秒が経過するよりも先に「巨大な惑星に叩きつけられ」、そのままマントルを超過し、さらには惑星の反対側を飛びぬけて、宇宙空間に投げ出された。

 ドロドロと溶けながらも「銀色に光り」人体を形成して再生していく彼を見て、やはりグレミィは楽しそうに拍手をする。

 

「凄い凄い! 惑星の核とかさっきの恒星よりは酷くないだろうけど、十分に拷問みたいだっていうのに、いまだ心が折れないって言うのは本当に凄いよ! まるで『完全な精神』だ! 一部のほころびも許されない、安定した魂の在り方」

「それは、あの、よく判らないんだけれど…………、どうしてグレミィさん、僕相手にこんな……?」

「そう、それだよ! 未だに態度も声も変わらないし、ちょっとビクビクしてるだけで『本質的に』『僕を見ている目が』何も変わらない! 蔑みも怒りもない! 勇気はちょっとあるかもしれない!

 そのフラットさはリルトットにも似ているかな? まあ神経が図太いだけだろうけれど、あの女は」

(やっぱリルちゃんの話してる時は少し楽しそうだな、この人……)

 

 おそらく本人にも自覚がないだろうが、ちょっとだけ声音が高くテンションが上がっていることが伺える。もっとも今口に出すと機嫌を損ねるかもしれないので、空気を読んで抱いた感想を胸にしまうブルーだった。

 

「その親し気な雰囲気に応えて、僕も君とは親しくあろうと思うよ。だから疑問に答えようか。『どうしてこんな酷いことをするのか』、だね? いわゆるヘイトコントロールというやつだよ」

「ヘイトコントロール?」

「アンガーマネジメントって言葉を宛ててもいいかかな? ああ。あの女から君の話を聞いて、それなりに苦労しているようだと思ったんだけれどね。そこでちょっと想像したんだ。僕が君と同じ立場だったら、同じ能力をもっていたら、何を考えるかってね。

 ――――――――君、実は結構オイシイって思っているんじゃないかい?」

 

 ぎくり、と。少しだけブルーが震える。

 

今や(ヽヽ)知識としてしか覚えていないけれど、小さい子供は女性の胸部へ特に興味が強いらしいからね。バンビエッタ・バスターバインやミニーニャ・マカロン、キャンディス・キャットニップあたりの話を聞いていると、もしかしてそういうことかと思ったんだ。

 その反応は……、多分図星かな?」

「えーっと……」

「別に悪いとは思わないよ? 僕には関係ないし。自分からは手を出していないし、基本的には目で追ってるくらいだそうじゃないか。

 他人事として聞いても、君が普段から受けている仕打ちと『死亡回数』を数えれば、それくらいの役得で正気を保てるんだとすれば、あえて口出しする必要もない」

 

 じゃあ何で、と。ブルーが続けるよりも先に、グレミィはカッ! と目を見開いて、壮絶に笑いながら、つぶやいた。

 

「でもそれはそうとしてちょっとイラっと来たから、一回くらいは『完全に再生もできないくらい』死んでおこうね?」

「本気で殺しにきてませんか!?」

 

 完全に私怨だった。本人としては自覚はないかもしれないが、リルトットの近くにそんなちゃっかりした男(子供?)がいるのが、可哀想とは言えイライラはしているらしい。

 

「大丈夫。ここは『夢』だから、現実の肉体は無事だよ。僕の想像が正しければ、ここで例え『本当に死んでも』、君は大丈夫なはずだ」

(その予想が外れたらどうなるんですかね……?)

「今『その予想が外れたらどうなるのか』って思ったでしょ」

「その予想が外れたらどうなるの……、ハッ!?」

「わざわざ復唱しちゃうんだ…………。そう言う所は、本当に子どもみたいだ」

 

 ブルーを揶揄うように笑いながら、グレミィは視たこともない程に満面の笑みで。

 

 

 

「その時は大人しく死のうね♪」

 

 

 

 あっこれ駄目かもしれないと。珍しく本気で死の覚悟をしたブルーだった。

 ……いや、珍しくもないかもしれない。比較的最近、聖文字を覚醒させる際にバンビエッタに大爆撃された時のことが、走馬灯のように脳裏を過ったブルーだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「流石に全身の細胞と言う細胞をベースにプラズマ化してエネルギーを取り出して粉砕するのはやりすぎだったかな……? 太陽を凌駕する太陽みたいになっていたし。そのあたりのイメージが通用するってことは、やっぱり僕たちは器子と霊子の境界が曖昧な種族ってことなんだろうけれどもね」

 

 一瞬のうちに影も形も、存在の痕跡すら消滅させたグレミィの発言である。完全に他人事のような言い回しだった。そしてこの状況に置いて、「まさかバンビちゃんより上がいるとは……」と流石に引き始めているブルーの意識である。

 …………そもそも肉体もなくどこで何を思考しているのかという話であるが、さきほどまで彼がいた場所に「銀色の人型」が形成され、何事もなかったかのように復活するのはもはや罰ゲームの類と言えた。

 

「じゃあ次だ。……けれどもその前に。詳しくは知らないけれど、ジェイムズ・マスキュリン・ハドソンから何か聖文字について聞いたんじゃないかい? リルトットから、何か仲が良くて色々話しているみたいだって聞いたけれど」

「えっ?」

 

 困惑するブルーに、彼はニコニコ微笑む。

 

「知っているんだよ、“S-英雄-(ザ・スーパースター)”の能力の正体。僕と彼と、聖文字を与えられた時期が近いからね。彼の方が本体だってことくらいは、多少のよしみで」

 

 だからわざわざ隠すまでもないよと微笑みながら、グレミィは手を振るう。それと同時に、彼の背後に「巨大なロケット」のような、あるいは「巨大なミサイル」のような、先端が妙に捩じれたそれが出現する。

 

「射出台の戦車を含めて、神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)……、なんてね? 僕にはあまり意味がないんだけれど、先端に詰め込まれた『ことごとく器子を破壊しつくし再起不能にする』爆弾みたいな、そんなものをイメージしてみた。『そういう本は』よく聞かせられたから、色々知ってるんだ」

「あ、あの……、アトミックボ――――」

「――――よりも強いイメージだ」

 

 ニコニコ微笑みながらそんなことをブルーに言ってくる様に、思わず彼は一歩後退する。もっとも足場らしい足場はないので、飛廉脚の要領で形成した霊子の足場越しにということになるが。

 

「彼のアドバイスをもとに『新たな何か』に目覚めれば君の勝ち。ここで完全に精神の起源まで含めて『摩耗させ切ったら』僕の勝ち。シンプルで良い鍛錬だと思わないかな?」

「……………………………………」

「そんな普段の子供みたいな目をキツネよりも鋭くしなくても良いよ。凄い顔してるから、ブルー」

 

 すっと、いつの間にか握られていた手鏡を向けられて、そこに映る自分の表情を見てブルーはびっくりした。それこそ原作蒼都を思わせる独特な鋭い目つきになっている。もっとも瞳の大きさというか、そこに宿る光は普段通りなので、内心の苛立ちが思いっきり顔に出ていたということだろう。

 ちなみに余談だが、その表情はバンビエッタが見ていないところで内心のイライラが限界に達した彼が彼女へと向ける目でもあり、キャンディスがちょっとドギマギしたりしている目でもあった。

 

「それじゃ、試合開始――――」

 

 そして何らモーションをすることもなく、全自動で彼の背後のミサイルは起動し、ブルー目掛けて飛んできた。

 色々と、それこそ普段バンビエッタを相手にするとき以上に気疲れしたブルーであるが、それでも目の前の脅威に対して、グレミィによる思考誘導が働く。否、そうなるよう「想像されている」のかもしれないが、それはともかく。

 

 彼の脳裏には、以前ミニーニャとマスキュリンが殴りあっていた際の、彼からのアドバイスが回想されていた。

 

『ブルーは大丈夫だと思うので、教えます。友達だし、場外戦術とって、ボクを殺しにかかってこないから』

 

 そう前置きするあたり、場外で何かされたことがあるのだろうかと勘繰ってしまったが、それは置いておいて。

 

『ボクの聖文字“S-英雄-(ザ・スーパースター)”は、ボクが思い描く理想の英雄を作り出す能力です』

『でも、それは本質じゃないんだそうです』

『陛下によれば、本来はボクがその聖文字の能力であの姿になるのが正しい、ということでした』

『そうでないというのは、ボクの中にあるイメージが、望んでいたものが、文字の在り方を変えたのだと』

 

 望んでいたもの? と。ブルーは彼に聞き返した。

 

『騎士団に入る前、キャップ(ヽヽヽヽ)が星条旗を背負うよりも前に、ボクは守ってもらってここに来たんです。父親が、ボクを守ってくれたんです』

『その父とはもう離れ離れですけど、もう二度と会えないですけど……、それでも! ボクにとってヒーローとは、父のことなんです』

『だから、ボクにとってヒーローっていうのは、「自分を守ってくれる」強い父のイメージなんだと思うんです』

 

 だから、ジェイムズ本人がヒーローになるのではなく、ジェイムズを守るために現れるヒーローこそがマスク・ド・マスキュリンなのだ、と。その説明は、ブルーとしても腑に落ちるものがあった。

 

(とはいえ原作を考えると、多分ジェイムズ君が見てないところでは随分適当なんじゃないかな……。いや、「子供の前では頑張ってヒーローやってる」っていう意味じゃ、本当にお父さんみたいなもの、なのかな?)

騎士団長(グランドマスター)によると、聖文字(シュリフト)っていうのは「本人に深く刻まれているもの」が呼び起こされるんだそうです。だからブルーもきっと、そういうことなんじゃないですかね、ヘェイ!』

 

 深く刻まれているものか、と。そう復唱して、そして脳裏に何か「赤い」映像が一瞬過ったことで、再び銀の爪だけでなく金属化(銀化?)能力も使えるようになったブルーだったが。

 だからこそ、ここまである意味「バンビエッタ以上に」焼かれ続けたことで。それ以上の爆発が、炎が目の前に予兆として存在していることで、彼と彼の内の「何か」が重なり「開かれた」。

 

 

 赤。

  赤。

              赤。

 赤。

ひたすら赤。      赤。

   赤。

赤。

 赤。    赤。

        赤。

   赤。

      赤。

熱い。

  赤。

              赤。

          赤。

 

 

 

 名状しがたい、もはや何も感じ取ることが出来ない。只ひたすら熱と、息苦しさと、「赤い」視界だけがそこにあった。

 

『…………ほぅ? 何故生きているのか。純血であれ「私が」そうしようと思い実行したにもかかわらず。到底、耐えられる訳も無いだろうに』

 

 声が、聞き覚えのある声が、自分に問いかける。それに、果たして自分は何と答えたか?

 何を思い、何を考え、何と応じたか。

 

()、にたく――――――――』

 

 

 

「――――死にたく、ない!」

 

 

 

 現実のブルーはそう叫び、腕から生やした爪をそのまま「横に薙ぎ払った」。

 たったそれだけの動作で、爪から湧き出た「銀色の血」が、爪の延長上に刃を作り、まるでバターでも切るかのようにグレミィの「想像の矢」を掻き消す。

 流石にそれには、グレミィも驚いた顔でブルーの姿を見ていた。

 

「刻まれたもの……? そうだ、だって、僕は『死んでないと』おかしいんだ。いや、そうじゃない――――きっと『もう死んでる』んだ。ここだから『死んでない事になった』だけで、本当なら」

「ふうん……。まあ、リルトットですら餓死(ヽヽ)した後にこっちに来たらしいしね。現世でどうなってからこっちに来たというのは、また別なことかもしれないね。

 それはそうと、どうやら新しい能力に目覚めたってところかな?」

 

 震えながら、ブルーはそのまま爪に纏った銀の血を溢れさせ、どろどろと音を立てて再形成する。爪ごと変形させたそれは、腕から生えた長い剣のようでもある。

 

「…………銀の、蒸着」

 

 それをブルーは振るい、グレミィの「白昼夢を引き裂いた」。

 

「それは、想像の埒外だった――――」

 

 

 

「――――それで、僕を頼れないかと来たわけか。うん、なるほど…………、よし解決した」

「は? 何言ってンだお前……って、オイ、ブルー? どうした、一体どうしたブルー!?」

 

 グレミィのことを蒼都に適当に紹介して悪態をついた、ほぼその直後。特に何かあったわけでもなく、目の前でブルーが膝から崩れ落ち倒れた。見れば白目を剥いて気絶している。何があったのか、否、今の状況なら仕掛人は一人しかいない。

 脈や呼吸は安定しているのを手で確認してから、グレミィを半眼でねめつけるリルトット。

 

「何したんだコイツによォ。バンビのお気に入りなんだから下手なことすんじゃねェよ本気で……」 

「へぇー。…………」

「何だよその目」

「いや、てっきりバンビエッタのことは心底嫌っているものだと思ってたけど。意外と『そういう気を遣う』程度には、仲間意識が芽生えたんだと思ってね」

「仲間意識ィ? 気持ち悪っ。バンビ相手に出来るモンじゃねぇよ。

 でもまぁ、なんだかんだコイツが頑張って、俺がバンビを嫌わないように誘導してるみたいだし。だから少しくらいは気にかけてやっても、腹が空くわけでもないし? 良いだろ」

「………………気づいていたんだ」

「お前、俺何だと思ってンだよ」

「食い意地の張った食いしん坊」

「ただの食いしん坊だったらオメーの所になんて来ねーよ妄想野郎ォ」

 

 そんなことを話しながら、しれっとブルーの頭を膝に乗せて、前髪をどかしてから目を閉じてやるリルトット。それに少しだけ、グレミィは表情を無くした。

 

「…………君も『そういう趣味』なのかな? わざわざそんな棒切れのようなところに乗せて」

「あァ? ……いや馬鹿だろ、ガキ相手にそんな気は起きねーよ。そもそも生前『そんな贅沢出来る環境にすら』いなかったし。前に話したろ?」

「そういう年齢でもなかったろう君。

 まあ、それはそうとして意外と甘やかすんだと思ってね」

「甘やかしちゃいねーよ。…………さっきも言ったけど、あんまアレな扱いしてバンビに返すと後が面倒臭い」

 

 そういうことにしておくよ、と表情に笑顔を浮かべるグレミィに、「だからガキっつーか、俺の体感的に2歳(ヽヽ)くらいが相手だぞ」と呆れるリルトットであった。

 

 なおリルトット側の内心は、近所のオバさんから幼児を預かってあやしている以上の感覚はない。バンビエッタも納得の安全安心枠である。

 

 

 

 

 




※アンケありがとうございました! メゾチャンの方でも書きましたが、本作の方はあちらと合流ナシな感じで進みます。


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#018.背信の剣

アニメで遂に出て来たバンビーズ完聖体! バンビーズ完聖体! 色々テンションが上がっておりましたが、本作でも微妙に適用します。
ただ適用の形がそれぞれダイスで違う感じになったので、そのあたりは追々ということでお願いします…


 

 

 

 

 

「リルお姉ちゃん、いる…………? って、えっ!?」

「いやお前ら、何してるのさ!? 意味わかんないじゃんかっ!」

  

 普段の集合場所に現れたブルーこと蒼都とキャンディスだったが、その場にいたリルトットとジジがしていたことを前に混乱した。

 端的に言えば、二人とも完聖体を発動し、なおかつリルトットの羽根から出現した咢が、ジジの背中の骨の牙を「遊ぶように」噛んでいた。「あっ♡」と微妙な声を愉しみながら上げるジジに「気持ち悪いから止めろ」と半眼なリルトットなので、何かしら遊んでいるわけでも折檻しているわけでもなさそうだが、状況が本当に意味不明である。

 そんな彼女たちに「あァ」と完聖体を解除しながら、リルトットは腕を組んで言った。

 

「ちょっと『削りたい』らしいから、調子を見てたんだよ。どこ喰ってどこ喰わないべきかのな」

「?」

「リル~、それだとブルーもキャンディちゃんもわかんないよ~。

 じゃあボクから説明するね、えっへん!」

 

 こちらも完聖体たる背部の「骨の翼」を解除しながら、ニコニコとあざとい笑顔と愛想を振りまいて言葉を続けた。端的に言えば「完聖体を弱体化させたい」というものである。言葉に詰まるブルー。えっそんなこと出来るの!? という疑問と、そもそも何故そんなことを? という困惑とが同時に出ている。

 そのリアクションは予想していたのか、ジジが「リルけっこう凄いからねー」とニコニコ続けた。

 

「ほらボクー、親衛隊の候補リストに入っちゃったじゃん? それ嫌なんだよねー。みんなと離れ離れになっちゃうじゃん!」

「ドンマイじゃんっ!」

「せいせいするわクソ野郎(ビッチ)

「二人ともボクに対して愛が足りないよ~!? ブルー、ブルーは庇ってくれるよね、ね?」

「えっ? あ、うん」

(性癖とダブスタな所以外はまともな方だし。どっちもバンビちゃんよりはマシだし、クズくて性格悪くてもフツー、フツー、うん)

 

 ブルー・ビジネスシティこと蒼都、完全に「普通」の定義が破壊された後のようである。

 もっともこの場合彼のリアクションがパーフェクトコミュニケーションだったのか、「ありがとー! 大好き!」と楽し気に彼に抱き着いて、その場でぐるぐると何周かした。

 

「あーへいへい、あたし達が悪かったよ」

「ま、真面目な話するとな。俺の“神の乾き(ユベシュエル)”は『概念捕食』効果があるだろ。それ使ってジジの“神の地獄(ゲヘノエル)”から『ウィルス感染能力』だけ削除して欲しいって話だァ。その下調べしてたんだよ」

「つまり親衛隊に任命されかかってる原因の方の能力を、少し弱体化できないかな~って感じ? うん。リルってば、戦闘中は全然制御できないけどこういう時は器用だよね~」

「リルお姉ちゃん、えっと、凄い……?」

「おぅ感想なんか混乱してんよ。ま、実戦で使えなきゃ只のカカシなんだが…………って、長ェ。そろそろ離れとけクソ野郎(ビッチ)

「あう~ん☆」

 

 やや自嘲しながらリルトットは雑にジジの背を引っ張り、ブルーから引き離した。借りて来た猫のようにおとなしく、普通に引っぺがされたジジである。 

 

「上手くすれば完聖体の姿も変えられるし、もっと可愛くしたいなー! 今のままだと聖隷(スクラヴェライ)重ね掛けすると、悪魔の大将とかみたいになっちゃうし」

「悪魔の?」

「あーアレね……、ミニーみたいにハートふりふりしまくンのもどうかと思うけど、可愛くはねーって感じじゃん?」

「首元に髑髏じゃらじゃらして尻尾とか角まで生えた上でパンデミックさせやがっからなァ。前にアメリカの現世でゾンビ殺しに追い掛け回された時とか酷ェもんだったぜ」

  

 ゾンビ殺し? と不思議そうにするブルーに、その話はしたくなーい―! と両手を頭にやってブンブン嘆くように振り回すジジ。

 

「現世の人間のくせに尸魂界由来の斬術なんか使いまくる奴とか、あとサーカスみたいな狂人集団だぜ」

「リル、ボクしたくないんだけどーその話ぃ!

 全くぅ……、『指輪』なんてバンビちゃんが『死に際に植え付けた』だけたっていうのに。ホントやっかいだよ真面目にさ~?

 って、そんなことより、ブルーとキャンディちゃんはどうしたの? あっ、ひょっとしてデート? デート!?」

「そう言う訳じゃないよ、ジジさん」

「まだ手は出してないじゃん」

 

「「「…………まだ?」」」

 

 リルトットとジジとブルー三人の反応から顔を逸らしてスルーしつつ、キャンディスはブルーの背中を少し叩いて話の続きを促した。

 

「大した話じゃないんだけど……、一応バンビちゃんからその、ね?」

「何で俺の方見ンだよガキ」

 

 面倒くさそうな気配をかぎ取ったリルトット、早々にブルーへの罵倒混じりな苦笑いであった。

 ちなみに物真似ことしなかったが、ブルーがバンビエッタと話し合った結果については次のようなものである。

 

『あなたのあの銀色のを使った訓練したい? あたしじゃ駄目ってこと? ……あ、そうね。いい加減ミニーと決着つけないといけないから、今日もオハナシアイするところだし…………、何よあのダンベルみたいな武器とか、ちょっと面白いじゃないのあの子。格闘技の本とか読み始めてるし最近。

 へ? 本当に話し合いかって? ま、まー、話し合いよ、話し合い。その目がうっさい。

 で、そうねぇ。だったら一番適任なのはキャンディかしら。ジジはこう、物理! って感じの攻撃じゃないから、ブルーの能力で弾けちゃいそうだし。あなたの銀色のやつって多分、そういうものでしょ? リルに関しても「喰い千切ったのに生えて来てやがった」とか前に言ってたから、多分すぐ飽きちゃうと思う。うん。どうしても必要ならやるけど、あの子燃費が悪いから。ミニーに関しては、もう物理的にダメージしか入らないから、あんまり適任じゃないわよね。

 そういうわけで、あたしみたいに直接攻撃系で、霊子の変換効率がすこぶる良くて、完聖体(フォルシュテンディッヒ)があたしより「絶対に弱い」ってなると、キャンディが適任と思うわ。多分、雑誌読んでる時に飲み物とか御菓子とか持って行って頼めばすんなりオッケーしてくれると思うわよ? キャンディってば、あの乱暴っぽさでけっこう女の子らしいっていうか、ガキっぽいところあるし。

 ……………………あっ! で、でも絶対にあなただけで二人きりで訓練とか駄目よ! 絶対! やるんならリルに監督させること! ジジは火に油注ぎそうだから、こういう時はリルを頼るの、良い? ブルー、「これ以上」増えるのは許容できないよ? ボン(ヽヽ)! するよ?』

 

 最後のフレーズと同時にブルーの上半身を「ボン」してるバンビエッタなので、説得力は十二分過ぎた。ちなみに「まあ二人とも裸だし、ブルーの私室だから掃除とかしないでもいいわよね」という軽い気持ちからの、事後愚痴(ピロトーク)完全破壊の一発であったことは完全に余談である。

 

 そしてそんな話を聞いた流れで「面倒臭ぇ」と言いながらもペロペロキャンディ数本を手にもって立ち上がる面倒見の良いリルトットと「おっもしろそー!」と楽し気に立ち上がるジジ。かくしてミニーニャとバンビエッタの二人以外の全員が修練場に集まる形となった。

 

「なんていうか、こうやって一緒に訓練とかすんの初めてじゃん?」

「そうだね、キャンディお姉ちゃん」

「…………っ」

「どうしたの?」

「な、なんでもない……(あんまり意識してなかったけど、その成長したツラでお姉ちゃんって呼ばれるの妙にくすぐったいじゃんか)」

 

 少しそわそわしながらも、そんな自分の鼻をつまんで「ん~!」と気合を入れるキャンディス。独特な気合の入れ方である。思わず苦笑いするブルーだったが、そんな彼にすぐさま腰元から神聖弓を形成すると、チャージもほどほどに雷撃の矢を放つキャンディス。

 “T-雷霆-(ザ・サンダーボルト)”キャンディス・キャットニップ。能力はその名の通り、電気や雷を操作する能力だ。自らの霊子をベースに転換したりと攻撃性に関しては応用の幅が広く扱いやすそうである。

 

「ガルヴァノサイクロン!」

  

「新技だな」

「おぉ~、どっ派手ぇ!」

 

 そしてブルーがその矢を避けるより早く、次弾の雷撃の弓を間髪入れずに連射! 矢自体はあらぬ方向に四方八方放たれるが、まるで「避雷針」か何かのごとく、初段の矢の方向へとつられるように、ブルーの周囲を覆い旋回し、そして着弾。

 びりびりしながら「あばばばばばばば」とカートゥンコミックのように痺れるブルー。「ブルーくそ雑魚みたいで可愛い~♡」とあんまりな感想を言うジジに、隣で飽きれるリルトットはともかく。例によって「銀色に輝き」、すぐさまその電撃状態は解除された。

 

「じゃあ今度は僕の番……」

「おぅ、来るかウ〇ヴァリン!」

「いや確かにそれっぽいけど、その呼び方流行ってるの!?」

「恰好良いならいいじゃんよ! こーゆーのはノリと勢いが良い方が勝つって昔っから決まってるんだ!」

 

 思わずツッコミを入れながら接近するブルー。既に両腕からは鉤爪を作り出し、それを構えて斬るように動く。右手を振り下ろす、と同時に左手の小手先からは球状の神聖滅矢を射出した。

 もっとも、機敏な動きでそれを回避するキャンディス。良く見ればブーツのかかと付近へと、聖隷で稲妻模様のブースターのようなものを作り出し、飛廉脚の移動速度を向上させているようだ。

 

「地力そんなに高くないから、意外とああいう小手先の技術はしっかり使うんだよなァ」

「キャンディちゃんも努力家だよね~。完聖体にも全然満足してないみたいだしさ~?」

 

「いいじゃんか、結構楽しい! ガキの頃だったらあっという間にぶっ倒せそうだったけど、ちゃんと歯ごたえある男に育ったじゃん!」

「え? あ、うん。ありがとう?」

「何で疑問形?」

 

 ちなみにその視線が割とばるんばるん揺れるキャンディスの露出過多な上半身の一部分へと向けられていることに気づかないくらいに、キャンディス本人は戦闘訓練として真面目にやっているらしい。ブルーに関しても決して不真面目と言う訳ではないのだが、いかんせん彼女の服装は色々とお色気が強かった。気が散ってちょっとやり取りが適当になっちゃうのも仕方ないね。

 

「それって、銀色のやつ。名前とか決まってるんの?」

「うん。えっと……、使う時にどうも血がメインで銀になってるみたいだから、血を吹き付けて銀になって強化されるー、みたいな感じで。心音流血の銀による蒸着(ビートプレッシングオブシルバー)とかにしようかなって――――」

「長いじゃん!? いや覚えられないって、もうちょっとシンプルにしなよ。あたしも一緒に考えるから。これでもそういうの得意なんだっぜ♪」

 

 そしてキャンディス、リルトットとも別軸で普通のお姉ちゃん的な振る舞いを始めていた。ジジにしても「意外と女の子」だという判定があるので、このあたりは不自然な振る舞いではないのだが、そこまで強い駄目出しでもなく一緒に技のネーミングとかを考えてくれる付き合いの良さに、意外なものをみたとちょっとびっくりした顔のブルーである。

 

 そんな風に色々と話し合いながら近接戦だったり遠距離戦だったりを繰り返していると、約二名が階段から下りて入場して来た。

 

「お~、なんかまたやってるな」

「バンビエッタは……、居ないね! ヨシ!」

  

 トサカのようなモヒカンを撫でつけてブルーたちを観察するバズビーと、びくびくしながら周囲を見回しているベレニケである。また妙なタイミングで来るなと思いながらも、リルトットは思わずといった形でツッコミを入れた。

 

「今頃地獄みたいな話し合いを別なところでしてるから気にすんな」

「そ、そうなのか? ふぅ…………、寿命が縮まるよ」

「トラウマになってるじゃねェか、ベレニケお前……」

「あれでも少しはマシになったんだがなァ、頭バンビエッタのサイコビッチ」

「本当ねー! ちょっとはマシになったよね、髪の毛一本の毛先くらいさー! ねー! ねー! ねー!

 ――――――――ケッ」

 

(闇が……、心の闇が隠しきれてないよジジさん!?)

 

 最後のオノマトペのところだけ壮絶に死んだ目をして苦悶の表情を浮かべ吐き出すように言ったジジの姿を目撃したのは、幸い遠方からチラ見していたブルーだけであった。 

 

 さて、そんな訓練も段々飽きて来たのか「もうちょっと強いやついくぞ!」と気合を入れ直して、叫ぶキャンディス。そんな彼女に合わせて、ブルーも自身の能力名を叫ぶ。

 

「――――“神の雷鳴(サガタニトート)”」

銀の蒸着(シルバープレッシング)!」

 

 完聖体の光の柱が伸びる。

 対するブルーは、右手の鉤爪を変形させて剣に。それぞれ左右90度折れ曲がり、真ん中の爪は姿を消し、刃同士の中間へ銀色の血が満ち満ちて一本の剣のような形に。以前、グレミィの造り出した「白昼夢」という「(げんじつ)」を切り裂いた、あの剣だ。

 

「えっ?」

「オイオイ」

「うっそ~!?」

「マジかよ」

 

 さて。いかにも変身中というところである彼女に、ブルーは特に気にせず接近し、未だ「防御膜」の役割も果たす光の柱が消えるよりも先に、思いっきり「切り裂いた」。変身途中というところで、未だ霊子が羽根と聖隷の証たる五芒星の輪を形成しかかっている途中での思い切った一撃。まさか攻撃が貫通されるとは思っていなかったこともあり、キャンディスも、同様から反応が遅れる。

 そんな彼女へ向けて、ブルーは鉤爪を解除した左手で殴るようにその隙間に手を突き入れ――――。

 

「――――――――っ、え、えいっ」

「ひゃんッ!?」

 

 直前までは完全に殴るモーションだったが、途中で急減速して指先を突き出し、わき腹を「ちょん」とつついた。

 思わず変な声が出たキャンディスであったが、羞恥で顔を赤くするよりも先に後退するブルーへ「ど、どんな顔したらいいか分かんないじゃんかっ!?」と微妙なキレ方をする。

 

 ついでに柱が砕けて露わになったキャンディスの姿は、稲妻を模した羽根が背部に二つずつと、両肩に雷の球が形成されていた。

  

「な、何で殴るの止めたのさっ! 意味わかんないじゃんか」

「えーっと、ね? …………ちょっとセクハラみたいになっちゃうから言いたくないんだけど」

「早く言えッ!」

「………………お肌綺麗だから、普通に汚すのがもったいなくて」

「えっ――――――――?」

 

 急速展開。ちょっと照れたように言うブルーのその仕草に、謎の不意打ちを喰らったキャンディスは思考停止。ジジはそんな彼女を見て舌なめずりをし、リルトットは「やっぱりハーレム野郎狙ってるか?」と呆れ気味。ベレニケは「戦闘中にああ言える度胸は、果たして培われて良かったものなのかどうなのか……」と悩まし気にため息をついた。 

 なおバズビーは「あの剣みたいなの、使えるな……」と酷く真剣な顔でブツブツつぶやいている。明らかに彼も彼で、何かしらの私怨が隠しきれていないが、この場の面々は察するところがあるのか特に言及せず気前よくスルーしていた。

 

「そ、そそそ! そんなこと今更言われなれてるから、恥ずかしくなんかないし! 真面目にやれってば、ブルーもさ! 戦場だったら死ぬじゃんかッ!」

「大丈夫、僕、不死身っぽいから」

 

「傲慢さがヤベェぞあのガキ」

「個人の不死性だったらボクよりブルーの方が高そうだしね~実際」

「そもそも『死なない確証がある』ほど死んでいる現状の方に疑問を持つべきと異議を唱えたいが……?」

「そういう文句はバンビに言えよハゲ野郎ォ」

「僕はまだハゲてはいないからね!? 染めてても現状は霊体がベースだから頭皮も痛まないしワックスのカスも出ないし!」

「ヒートアップするのがそこで良いのかベレニケ?

 …………うん、『背信の剣』だな。滅却師の能力をぶった切る武器だから、背信者の剣」

 

 意外と古風なネーミングをするバズビーであるが、実際この訓練の後にそのネーミングが採用されたりする。が、この時点では特に興味が無いのか、誰もツッコミを入れなかった。

 どちらかと言えば、リルトットはもっと別な部分に気が回っている。

 

「そんなことより、バズビーお前ちょっとツラ貸せ」

「しゃがめってことか? 別にいいけど」

「なになに、ナイショ話~?」

「お前はあんまりカンケー無いだろ、『ゾンビの力のタネ』が別なところにあるからよォ。

 どっちかっつーと、対策みたいな話か? 滅却師の能力、聖文字だけじゃなくってこれから無効化されるってのも考えておいた方がいいかもなァ。ブルーだけじゃない、死神や虚にそういう力持った連中がいても不思議じゃねー」

「あ゛? 何だって。普通、ああいうのは無理だろ? ユーゴーだって、ブルーくらいなものだって言ってたし。同族の能力に強いっていうのは」

 

 っていうかどう考えてもバンビエッタのせいだろあそこまで強く無効化するの、というバズビーの台詞に肩をすくめて、しかしリルトットは真面目な表情を崩さない。

 

 

 

「有り得ないって切って捨てて死んだらマヌケやんよ、トサカ野郎ォ」

 

 

 

 髪型への直接的な侮蔑にキレ気味の表情になったバズビーを「まあまあ」となだめた後、ジジはリルトットに詳細を聞く。

 

「要は学者とか研究者とか、そんなモンいたら拙いって話だ。下手すると『虚へ耐性が無い』こっちの生態とかも割り出されるだろ」

「研究者? それって、浦原喜助? 情報(ダーテン)にあった」

「だけじゃねェ。虚の方にもそういう変わったのが居ないとも限らないし、何より一番恐ろしいのは死神の方だ。

 ここ百年内で帝国所属でもない滅却師がどれくらい狩り殺されたかって話だろ。片手じゃ済まないってんなら、明らかに研究材料とかにされて色々探られてるって見た方が良いって話」

 

 死神の方のヘッドは色々と狂ってるタイプだろォ映画みたいに、と語るリルトットに、バズビーは半信半疑、ジジの目からはハイライトが消失していた。何かしらジジ本人のトラウマに抵触したのだろうか、喉元のあたりを両手で覆って「大丈夫、大丈夫だよね」と繰り返し呟いていた。

 

 なお戦闘のみに限って言えばその後、キャンディスが雷球から放った大砲めいた雷撃も、あっさりとブルーの「背信の剣」に切り裂かれて無効化されたりして「もっと鍛えないと駄目かな……」と少し落ち込んだり。代打として入ったベレニケと弓合戦をして遊んだりと、割と充実した一日だったりした。

 

 そしてそんな訓練明け、ミニーニャと一緒に帰ってきたバンビエッタが、セーラームー〇的なアニメのVHS(※まだDVDなど出ていない時代)を両手に持ってホクホクしながら、バンビーズ三人に宣言した。

 

 

 

「今から変身シーン作るよ、皆! あたし達がいかに最っ高にキュートでポップでファンタジーなのかを、相対する敵に知らしめながらぶっ殺すって感じよ! 色もみんな違うしね!」

 

 

 

「また意味わからないこと言ってるじゃんか……」

「ブルーの話してたんだよね? 何でそんなオモシロ展開になってるのかなー」

「キュートでポップでファンタジー? ファンキーでヴァイオレンスでクレイジーの間違いだろビッチ」

「ごめんなさい、私じゃバンビちゃんは止められなかったの~」

 

(そう言いながら僕を椅子に縛り付ける時ノリノリだったよねミニーちゃん……、やっぱり能力使ってなくてもパワフルだよね。腹筋とかうっすらだけど割れてるくらいだし)

 

 そしてそんなことを言われながら、部屋の隅で「審査員」と書かれた椅子に縛り付けられているブルーは、遠い目をしながら身じろぎして脱出を試みていた。

 なお拘束方法は能力などでなくロープでがんじがらめな物理だったりするので、ブルーの「銀の蒸着」効果範囲対象外。なお、わざわざ鉤爪を展開するほどのアレな展開ではないだろうとタカをくくっていたりするため、この後五人それぞれの変身ポーズじみた完聖体発動シーンを見て審査することになった。

 

 審査結果については……、言わぬが花だろうか。一番似合っていたのは、花より団子ではあったのだが。

 

 

 

 

 



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#019.白い森で

今回はダイスの結果、多分日常回…、日常回とは(白目)


 

 

 

 

 

 バンビエッタ・バスターバインの朝はそんなに早くない。

 少なくともブルー・ビジネスシティこと蒼都の部屋で寝ている時に限っては、彼女はどこか安心しながらゆっくりうとうと、朝に目を覚ます。

 もっとも朝とはいえど「城の場所」が場所であるため、天に上るのは「外界の光をうっすら収束した」月のようなものばかりであるが。それでも夜間のそれよりはまだ辛うじて光が強いこともあり、朝日と言っても差支えはないだろう。

 そして起き上った彼女は、ブルーの姿がないことに気づいて少し不満げである。とりあえず「霊子で」洗顔をした後、「いつものように」リルトットの私室から内緒でパクってきたミューズリー(※シリアルの一種)を手に取り、冷蔵庫のような装置からミルク瓶と皿を取り出すと、開いてぶっかけて実食する。なお恰好は全裸のままであり、特に周囲の目を気にした様子もないことからそのリラックス具合がうかがい知れた。

 

「ブルーこれあんまり好きじゃないんだよね……。柔らかいパンばっかり食べてるし。リルの御菓子はけっこう食べさせられてる? けど」

 

 適当に朝食を終えて衣服を着用し、これまた「霊子」を収束させて寝癖を整える。指による五本櫛の際地味に静血装を発動し、しっかりと髪を梳いていた。

 ある程度のところで満足したのか、メイクらしいメイクもなく部屋の外に出るバンビエッタ。合鍵でロックをした後、「今日こそミニーと決着つけないとね……」と暗い笑みを浮かべながら廊下を歩いていると。

 

「――――お願いします、ペペおじさん! なんでもしますからお願いしますよ!」

「そういうフレーズは好きな女の子相手にとっておきなさいヨ! ミー相手にそんなこと言って……、下手するとそれ聞いた誰かさんにミー爆発四散されちゃうヨネッ☆」

 

 ブルーが土下座をして謎の椅子のような何かに座って普段通り浮いているペペ・ワキャブラーダ相手に土下座で頼み込んでいる姿が、バンビエッタの目に映った。一瞬で目のハイライトが消失するバンビエッタ。片や自分の「とにかく誰にも渡したくない」男の子が、どう見ても胡散臭くて大人な危ないビデオの()のような姿をしている年齢不詳のジジィ相手に「なんでもするから」と頼み込んでいるのだ。

 思わず衝動的に爆散させようかと脳裏に一瞬過ったが、かろうじて事情を聞こうという発想が浮かんできたのは奇跡であろう。

 

「出来ればミーも代わってあげたいけれど、こればっかりは上の意向だし…………。それに聖文字とかもようやく使い慣れてきたんだよネ? まだまだ安全じゃないってことでしょ、ゲッゲッゲ」

「うーん、そこを何とかなりませんか…………? あの、お金ないですけどせめてお土産とか――――」

 

「何よ、いじめられてるの? ブルー」

 

 ゲゲ!? と、ケンカ腰で現れたバンビエッタに引きつった声を出すペペ。土下座している彼の背中に平然と座り椅子代わりにしながらハート型ポーチの中より、「珍しく」神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)を形成。鏃が爆弾のような形状をした矢を形成して脅すように構える。

 と、そんな下の方からブルーの手が伸びて、バンビエッタの腕をつかむ――――既にその腕は「銀の蒸着(シルバープレッシング)」により銀の右腕と化しており、それに掴まれた瞬間に収束していた霊子が「強制的に」散らされた。

 

「ッ!? ちょっと、何やってるのブル…………、きゃっ!」

 

 そしてその体勢のままバンビエッタを横に倒す様にし、同時に自らの身体もぐるりと高速回転して、彼女を庇うように抱いてごろごろ廊下を転がっていった。「今のうちにー!」という彼の声に応じ、ペペは「恩に着るよ、マジでネ…………」と未だ戦々恐々としながら、椅子の足元に霊子の足場を形成して飛廉脚を使用し退散した。かなりの高速移動ぶりからその本気度が伺える。 

 

 しばらくごろごろ転がった後「いい加減長いっ!」とバンビエッタに言われて、彼女を抱きしめたまま回転を止める。状況的にはブルーが下となりバンビエッタを抱きしめているような絵面だ。

 そんな状況に気づいたバンビエッタは、その気になればすぐキスできそうな距離にある「ふぅ」と一息ついた彼の表情に、身体が硬くなる。

 

「ち、ち、ち、ちかいわよぉ……………………っ」

「えっ、そう? 一緒に寝てる時はいつもこれくらい――――」

「不意打ちは駄目って言ってるの! こここ、こんな弱々な女の子みたいな姿見られたら『殺されちゃう』じゃないっ!!? バンビエッタちゃんは強々なイメージじゃないとダメなのッ!」

(それは普段の頭バンビちゃんな行動を前提として考えている発言なのか、それとも生前のトラウマか何かがあっての発言なのか…………。あっ、おビビり遊ばれてぎゅって抱き着いてくる力強くなっていいなぁ、柔らかい………………)

 

 相も変わらずちゃっかりしているブルーはさておき。「あんなの見せるのなんてあなたくらいなんだから……」としおらしい声なバンビエッタの背中をポンポンしてしばらくあやした後、何事も無かったかのように二人そろって起き上った。

 改めて事情を聞くバンビエッタに、ブルーは何と言うこともないように答える。

 

「現世の調査任務…………?」

「うん。今度はペペさんとかなんだけど、調査先がまた日本みたいだから」

「日本けっこう多いわよね……。アメリカとかロンドンとかには行かないのは知ってるけど」

「今回も情報集めがメインらしいんだけど、代わって欲しかったんだ」

 

 何で? と首をかしげるバンビエッタ。ブルーが一応中国出身なことくらい知っているので、もし現世に行くならそっちを希望するだろうと思っていたからこその確認である。旅行や観光を「ちょっとだけ」目的とするなら間違いなく自分を一緒に連れて行ってくれると確信しているバンビエッタなので、純粋な疑問であった。

 そんな彼女の考えを察しているのか、ブルーは少しだけ照れたように言う。

 

「えっと…………、日本のご飯が食べたくて」

「…………………………………………………………………………、えっ何で?」

(あっ、きょとんとしてて可愛い)

 

 完全に予想外の返答であったため、口を半開きにして目を少し開いて、しばらく思考停止してからの発言であった。日本の古いアニメーションならば「ポク、ポク、ポク、ポク、チーン!」とでも音が聞こえてくるくらいの秒数である。なお頓智がひらめくわけもなく、口元が御留守だったせいで垂れた涎を思わず拭うバンビエッタ。

 そんな彼女を微笑ましく見ながら、ブルーは事情説明。もとは以前にベレニケが現世調査の際に「お土産さ」と持って帰ってきたコンビニのおにぎりやカレーライス(レトルト)。それらを受け取っていたリルトットから「こういうの好きじゃねーから、食うか前髪野郎ォ」と手渡されたのが切っ掛けである。転生元の出身地が出身地であるため、帝国に来てから口にした数々の「微妙に合わない」食事――胃に重すぎたり香りが強すぎたり味が濃すぎたりバランスが全く考慮されていなかったり等々――ではない懐かしい味に、それはもう感激したものだ。なんならそのハイテンションにリルトットもちょっとドン引きしていた。

 もちろん「実際の」心情までは伝えなかったが、その「懐かしい味」という部分についてはことさら思い出して、テンション高く語るブルー。珍しく子供のようなその様子に、ちょっとヘンな気分に陥ったバンビエッタは「そ、そうなの?」と素直なリアクションをしながら耳を赤くしていた。

 

「それはそうと、何で日本の味でそんなに感動したのよあなた。帝国生活長いけど、中国人(シィーズィッシュ)じゃないの?」

「それはそうだけど、テレビとかコミックとか日本のが好きだし…………、心は日本人(リィベンレン)なのかも?」

「ちょっと何言ってるかバンビちゃんわからない」

「えっ?」

 

 そんな話が事前にされたせいか。バンビエッタは「なるほどね……」と何かを納得し、本日の予定を変更した。

 

 

 

「というわけで、今日は日本食? を作るよ!」

 

 

 

「また意味わかんねーこと言い出したなクソビッチ」「でもでも、皆で何かやるのって楽しくない?」「どうして日本の(ジャパニーズ)ですぅ?」「あんまりオイル使わないから好きじゃないんだけどバンビ」

 

 ブルーがバズビーやベレニケ、アスキンらに誘われバスケット(?)をしに行く姿を見送ってから、普段のバンビーズが占領している部屋にて、堂々と宣言したバンビエッタである。

 案の定、唐突な思いつきそのもののような発言にうんざりしたリアクションのリルトットである。半眼でバンビエッタを見ながら「またかよ」と呆れた様子だ。

 

「この間も変身ポーズ作るとかモロ変身みたいなことさせやがって、俺は聖隷したところで『危険度変わらない』からやらないって言ったのに」

「でもリルお姉さん、そう言いながらブルーから一番可愛いって言ってもらっていませんでしたぁ?」

「リルはちっちゃいからねー。魔法少女? っていうの? だと一番似合ってそうだし」

「ブルーって別に『そう言う趣味』じゃないから、純粋に可愛さとかで選んだんじゃん?」

「でも納得いかないですよーぅ(・A・)」

 

「アレはアレでいいんじゃない? というよりそんなに『翼』から『出ちゃう』んだったら、いっそ『翼の周りを』覆っちゃえばいいんじゃないの?」

 

 ぴくり、とバンビエッタのその一言で右側の眉が動くリルトット。まーそんなことより、とバンビエッタ本人は適当に言っただけだったが、彼女は少し思案し始める。とはいえそれもバンビエッタが続けた「ブルーが食べたいって言ってたの!」の一言を聞いて切り上げ、ため息をついて視線を向けた。

 

「日本の食事が食べたいってだけであのペペに土下座までして現世の調査任務代わりたいとか言っていたから、駄目よねミニー」

「はい(レ〇プ目真顔)」

 

「ミニーちゃん余裕がないと声、凄い重いよキャンディちゃーん」

「怖……」

 

 そんな訳で多数決をとった訳でもないが、5人中3人がやる方向で意見がまとまった結果、そういう運びとなった。なおジジは「苦手じゃないけどねー」とのほほんとした笑い、キャンディスは「バンビはともかくミニーをそのまま料理させたら、厨房が原形も残らないじゃんか……」とやれやれといった様子であった。

 そんな流れで道中遭遇した約一名を引き連れて厨房に参上し、一部エリアをリルトットが交渉して貸切らせてもらう。

 

 五人が五人とも聖隷を用いて霊子で造り出したエプロンを着用してから、バンビエッタは胸を張って一言。

 

「で、日本食って何を作ったらいいのかしら」

((((何でそれを最初に決めてないんだこの頭バンビエッタ))))

 

『ほぼ思い付きの行動と断定。行動計画の見直しを期待する』

「…………というか何でコイツいんだよ、このロボ」

 

 リルトットが指さした先、バンビエッタの背後でガシャガシャと鎧のこすれる音が煩いのは、大柄な体躯のBG9である。未だ全体のシルエットは細くなっておらずマッシブさが残っており、組んでいる二の腕の太さがその身体の「出来上がり具合」を現していた。

 

「何か良く知らないけど、現世いた時って軍人? とかで色々渡り歩いたりもしてたって言ってたし、確か。料理とかそーゆーのも詳しいと思って」

『否定はしない』

「そォいやお前とかブルーとかが帝国まで連れて来たんだったな、そのロボ」

 

 ともあれ全員で案を出し合う流れになったが、これは案外高速で決まった。

 

「日本って言ったらやっぱり、アレじゃん? 寿司(SUSHI)!」

天ぷら(TEN-PURA)ですぅ?」

「ラーメンでいいんじゃないかなー? ボク、日本のヌードルが一番美味しかったって、ロバートさんに聞いたことあるよ?」

『インスタントならば高速で完成できると進言する』

「ンなもんある訳ねーだろ。というか手作りするとラーメンとか面倒だろォが。

 とりあえず日本食っていうなら、米炊いて味噌汁作って魚焼くとかで充分じゃねーの?」

 

「リル、あなた詳しいのね……?」

 

 何で? という顔をするバンビエッタに「どーでも良いから早くやんぞ」と適当に流し、そういう運びとなった。

 いっせーの! で「岩」「紙」「鋏」の3チームに分かれる編成を執り行い(要は「ぐーぱー」のアレである)、白米はバンビエッタ・リルトット・ジジのチーム、味噌汁はBG9一人、焼き魚はミニーニャとキャンディスのチームとなった。

 

「じゃ、やるわよ! うん」「がんばろーねー!」「おぅ」

『味噌スープは……、確か「石田宗弦」なる滅却師が残していた情報(ダーテン)に載っていたはず。レシピは確か――――』

「頑張りますよーぅ」「ミニーはまず『まな板を叩き斬らない』こととか『包丁を握り潰さないこと』とかから、な」「は、はいーっ……」

 

 なお開始早々、リルトットのうろ覚えな記憶のため白米(※非日本米)を適当に洗い鍋に入れるバンビチーム、厨房班の滅却師たちからレシピ本を借り受けて「ふむふむ」と情報の入力を開始するBG9、「普通に焼くだけじゃ面白くないじゃん?」とお料理上手らしいことを言ってミニーニャを不思議がらせるキャンディスチームと、それぞれがそれぞれに個性が出ていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「アスキンさん、意外と上手だった……」

「こういうのは普段ダラーっとしてても、たしなむ程度にそつなく熟すのがオシャレなんだぜ? ブルー。まあ、お前さんくらいの年齢でやると嫌味にとられることもあるかもしれないが、時にオシャレは世界を救うんだ」

 

 廊下を歩いて厨房へと向かうアスキン・ナックルヴァールとブルー。既にアスキンは汗そのものを聖隷を使用して散らしていたが、ブルーはそうもいかない。そのため「水浴びする程でもないだろ、まだ」という彼の好意により、タオルを貸されて拭き終えた後だった。

 

「お昼にはまだちょっと早いですよね?」

「いやいや、ブルーはまだ子供なんだから無理すんなよっ。運動したら腹、空くものだろう? こっちに来てからの時間経過と身体の成長以上に色々『アレ』なんだから」

「?」

「おっと致命的だぜ…… 自分の晒されてるアレさをそんなに自覚出来ていないのか…………?

 

 それこそリルトットが以前に言った「俺らの所にいてまともな男に育つ訳ねェだろ」ということである。なんならバンビエッタと仲良く出来ている時点でその人格がどういう状態になっているのか、騎士団内でも良心側のアスキンをしても確認することからは目をそらしていたりするのだが、その辺の事情はブルーには理解されていなかった。

 なお「最も正しく」洞察できていたのはグレミィくらいなので、騎士団の未来はどっちだ。

 

「でもお昼か…………、うーんああ言った手前、カレーとか食べたいな」

「カリーならあるだろ?」

「カリーじゃなくってカレーライス? って言ったらいいのかな。日本のカレーはカレーっていう独自の食べ物ですよ。ラーメンが中国のラーメンと全然違うみたいに」

「ローカライズって奴だなぁ」

「日本のカレーはカリーであってカレーではないし、米国のちょっとアレなお店で適当に供給される泥水なんかじゃないんですよ断じてない」

「何で早口になったんだブルー……? って、お? 何だ、何か『変な霊圧が』溜まってるぞ」

 

 ブルーも流石にこの距離なら気づいた。いわゆる、古い大学の学食もしくは世界最大の家具販売店内にありそうなレストラン風の厨房にて、その座席の一角にいるバンビーズから放たれる、微妙に重苦しい霊圧の具合。周囲を圧すると言うより、どんよりしているような感じを受ける微妙な重苦しさである。

 と、ブルーを見つけたバンビエッタは所在なさげに「こっち!」と手招きする。アスキンを見れば「行ってこい、そして何か上手い事やってあげろよ?」とさわやかスマイル。それに苦笑いしながら、ブルーは「バンビエッタとミニーニャに挟まれる座席」に座った。

 

「で、えーっと…………? えっ? 何、どうしたのバンビお姉ちゃん?」

「……………………サプライズじゃないけど、作ろうとはしたのよ? 皆頑張ったのよ」

 

 そんな言い訳のもとに、ブルーの前にBG9がトーキー映画の使用人ロボのようにロボットダンスめいた動きで配膳したものは。

 銀の器に盛られた「おかゆ」、銀の皿に注がれた「味噌汁」、そして銀の皿にオシャレに盛りつけられた「タラのムニエル」であった。

 

「えっと……、もしかして日本食を作ろうとしてくれたの? …………あ、そうなんだ。うん。えっと、ありがとう?」

 

 困ったように言うブルーだったが、直後BG9からそれぞれの担当内訳が発表された。「空気読めよポンコツロボ野郎ォ」と対面のリルトットの半眼に合わせ、壮絶な顔をするバンビエッタと爆笑しかけるジジであった。

 

 さて、詳細に皿の内訳を語るなら。タラのムニエルは横にマッシュポテトが備え付けてあり、バジルを刻んだものがかっている。オリーブとニンニクのソースの香りが大変美味しそうだ。美味しそうだがこれだけ日本食ではないことに不思議そうにするブルーだったが、「魚焼くならこっちの方が美味しそうじゃんか?」というキャンディスの一言で「どういう流れ」でこうなったかを察した。

 味噌汁については、コーンスープなどのように盛り付けられており、おそらく「ほぼ完ぺきなカット」をされたろう立方体の豆腐? が中央にクルトンのごとくおかれている。ワカメなどは存在していないが、このあたりは見栄えを重視したのだろうか。一見すると変な盛り付けではあるが、漂う匂いから想起される味付けはブルー的になじみ深いものである。

 

 お粥については…………………………………………、お粥。以上。

 

「ちょっとブルー? なんであたし達の作ったのだけ見ている秒数が少ないの? 何なの、感想なんて出すまでもないって言いたいの?」

「えっ!? い、いや、その、お、お粥だなーって」

「ま、テキトーにリゾット作るノリで雑にやったらこうもなるなァ」

「味しないよねー」

 

 まさかの素粥であった。

 とはいえせっかく好意で作ってもらったろうものに直接何か言うのも無粋である(爆殺される的意味も含めて)。ここは日本人たる中の人らしく両手を合わせて「いただきます」である。

 

「…………お粥だ」

「ま、まあね」「コメントなし」「バンビちゃんちょっとプルプルしてて可愛いー♡」

「こっちもまあムニエルというか……? 美味しいけど、あれ? 何だろう香りがちょっと不思議」

「作る時にちょっと昆布? のブイヨンに漬けたからね。流石にムニエルそのままっていうのも味気ないし」「ブルー、マッシュポテトの感想が欲しいですぅけど?」

「味噌汁は…………、!!? あっすごいこれ、凄い…………、普通! 普通に味噌汁だ!」

『この場合は褒め言葉と解釈しよう』

 

 ブルー個人の総評としては、1位BG9、2位キャンディスチーム、3位バンビエッタチームである。具体的には恐れ多いため言葉には出していないが(爆殺される的な意味で)、それでもブルーのリアクションの大きさで色々察しがついたらしい。

 BG9は「当然」という風に微笑んだ……、はずである。声だけがわずかにくぐもった金属の反響音を伴い聞こえてくる。

 キャンディスチームは「結局、私のマッシュポテトの感想が全然なさそうですぅ……」と落ち込むミニーニャに「とりあえずサンドイッチを安定して作れるようになるのが先?」と教育方針らしきものを悩むキャンディス。

 バンビエッタチームは「やっぱり戦犯って、お鍋焦がすくらい大火力だしてたバンビちゃんのせいだよねー」と揶揄うジジと我関せずブツブツ何かをつぶやいては考え事をしているリルトット。バンビエッタ本人は「そもそもお米(ライス)を味付けしないで水でふやかすだけでそもそも美味しいの?」と懐疑的な顔をしながら自分の作ったお粥をなめたりしている。

 

 だが。そんな面々が一様に固まり、ブルーを見て、目を見開いた(※BG9は良く判らない)。

 

 

 

 いつも通り微笑んでいたブルーの目から、涙が流れたからだ。

 

 

 

「ぶ、ブルー、どうしたのさ? 何か魚の小骨でも喉に刺さった? 出来る限り取ったんだけど」

「…………へっ? えっと、何、キャンディお姉ちゃん?」

「ブルー大丈夫? 何か凄い泣いちゃってるけど」

「ジジさん? …………あ、本当だ」

「自覚ねーのかよ」

 

 リルトットの指摘に「ちょっと待って」と指で拭おうとするが、それでも涙が止まらない。どんどん溢れて来る涙に、段々と苦しくなって来て、嘔吐(えず)くような、全身が震えるような、久しく味わっていなかった体感がブルーの中の人たる転生者の精神を襲った。

 この時、彼が考えていたことは――――ひたすらに「現代日本」での自分の生活だった。

 

(嗚呼、嘘でしょ……? こっちに来てから30年くらい経ってるはずのくせにさ、えぇ……? あー、ダメだこれ。

 多分、完全に――――――郷愁の念(ホームシック)だ)

 

 故郷の味。ベレニケが買って来たおにぎりやらカレーやらでテンションが上がったのは、まだ序の口だった。「本来なら仲が悪かった」人々が、自分のために料理を作ってくれたと言う事実すら、その感謝すら忘れてしまう程に。ブルーの、その転生者の人格の胸に去来したごくごく当たり前の生活。通学電車に乗って学校にいったり、友達と遊んだり、それこそバスケをしたりゲームをやったり、旅行に行ったり。それこそ「実の両親」や「少し粗暴な姉」のことも思い出し、何でも無いようなことだったそれらの「頭に残っていた記録」が、正しく「自分自身の記憶」として想起され、呼び戻され、感情の濁流に呑まれた。

 

 いつまで経っても泣き止まず、さらに酷い症状に陥るブルー。おどおどするキャンディスやジジを尻目に、戸惑いながらも「大丈夫ですよ~?」と彼の背中を撫でながら声をかけ続けるミニーニャ。

 

 そして、バンビエッタは腕を組みながら、そんな二人を見ていた。

 

「…………お前は何か慰めたりしねーのかよ、クソビッチ」

「リル、バンビちゃんをそう言うの止めなさい。

 ………………まあ、あたしがあんなことやっても逆効果でしょ」

「そォかよ…………、って、はっ!!?!?!?!?!?!!!?!?!?!」

 

 コイツもしかして何か本当に色々と自分の頭バンビエッタな言動とかそういうのに自覚あったのか!? 的な驚愕に珍しく狼狽するリルトット。

 そんな彼女の反応など気にした様子もなく、真剣なまなざしで泣き続けるブルーの、その「何かが剥がれた表情」とミニーニャとを見て。

 

「…………『どっちが上か』ははっきりさせるけど、独占はしない方がいいかしら」

「あ?」

 

 リルトットの疑問に答えず、何事もなかったかのように立ち上がり。バンビエッタは、雑に「よくわかんないけど甘えなさい!」とブルーの頭を正面から抱きしめた。

 直後、ミニーニャとの取り合いが発生したことにより、その時点で不思議とブルーの涙は収まり、またいつもの苦笑いが顔に浮かんだ。

 

 

 

 

 



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#020.番外編:THE FULLY RESISTANT

ちびっこ隊長登場まで書き切れなかった……。


 

 

 

 

 

「奪った卍解でその隊長を殺す、か。……あまりエレガントとは言えないが、その狙いとは?」

『卍解を無力化した死神など聖兵で十分だと考えられる。我々が聖隷(スクラヴェライ)を必要とする確率すら20パーセントと思われるが』

 

 円卓。星十字騎士団(シュテルンリッター)の聖章騎士たる彼等滅却師の一団は、円形に囲われたテーブルに配置された26の椅子に座っている。それぞれの椅子の背もたれは、各々司るアルファベットに対応して特徴的な衣装が施されており、しかしそのうちのいくつかは既に誰も座っていない。

 ハッシュヴァルトを含めた十七席にそれぞれのメンバーがおり、そのなかで最も奥の席に座るハッシュヴァルトの話を全員が聞いていた。

 

 曰く、彼等の心のよりどころとなっている希望ごと、死神を滅却師の王国で殴殺すると。

 

「卍解がなくとも我らを倒せるかもしれない。

 あわよくば卍解を取り戻せるかもしれない。

 ……仮に取り戻せたところで『万に一つもない』可能性を信じるその希望こそが死神たちの心の拠り所なのだ」

 

「…………」

 

 そして、この場において居心地が悪そうにしているブルーこと蒼都であった。

 

「奴らの力、奴らの半身である斬魄刀もろとも、その希望と絆とを叩き折り。死神どもの身と心に真の敗北を刻み込む。

 ――――それが陛下の御意志に他ならない」

(背景を知ってる身としてはいまいち乗り気にならないって言うか……。あんまり調子に乗っててもどうせ聖別されちゃうだろうしなぁ、気を抜いてると)

 

 酷くシビアな判定であった。原作におけるユーハバッハの「心の通わない」所業、もしくは「心が通っていたからこその」所業を知っているが故の諦観であるかもしれない。

 そして“F-恐怖-(ザ・フィアー)”エス・ノトに対し、半眼で毒を吐くリルトット。

 

『……悪趣味ダケド愉シソウ、ダ』

「冗談は完聖体だけにしとけよ、ヘドロ野郎ォ」

『ヘド……!?』

(あっ、マスク越しだけどお目目まんまる……。意外とリアクション幼いなノトくん)

 

「ヘドロ野郎だかペド野郎だかはどーでもいいの! ワンちゃんだってそうじゃない奴だって見つけ次第斬って斬って斬りまくってやるだけっ」

 

 会話をぶった切るようなバンビエッタのその一言に、しかし彼女に対するブルーのツッコミが入り、その後にドミノ倒しのように連続で続いた。

 

「バンビお姉ちゃん、ペド野郎は流石に天と地ほどの差が……」

「わーお、バンビちゃんったら辛辣ぅ♡」

「キレッキレじゃねェか……」

「変態にされちゃってるって思うの…………」

「バンビエッタお前、ブルーより年上なんだから、もうちょっと『新人』相手にも気を遣った方がオシャレだぜ?」

「言葉選びをしっかりするべきだとこの“S-英雄-(スーパァスタァ)”もサジェスチョンして進ぜよう」

「もう少しまともに教養(エデュケーション)を詰め込んでおくべきだったか」

『気遣いの度合い0パーセント、大人げないと断定する』

 

「ちょっと!? どうしてみんなでバンビエッタちゃんを責める訳!? あたしが一体何をしたっていうのよ!? リルだって酷い事言ってるじゃないっ」

 

「酷いこと言ってるって自覚はあるのね、バンビエッタちゃん」

「モンスター扱いと変態扱いと、どっちがアレかな~、ブルー?」

「どっちもどっちじゃないかな。あと、リルお姉ちゃんも……」

「クソビッチよりはマシだろ『事実しか』言ってねェし」

「いやバンビもリルも、そいつ一応『霊的には』ともかく中身一番ガキじゃんか……」

 

 もうちょっと考えな、というキャンディスの指摘に不満げなバンビエッタと、少し照れたのかいたたまれないのか目を伏せてため息をついたエス・ノトだった。

 

 そしてこの空気のせいで、ユーハバッハからの「見敵必殺(サーチアンドデストロイ)」的な言葉を伝えるタイミングを失ったハッシュヴァルトが、どこか寂し気な目でバズビーの方を見ていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ほぅ! さて…………、『ここまでは』予想通り、かな」

 

 尸魂界の瀞霊廷、その「影」より内に創造されていた滅却師が“見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)”。既に和風建築だったこのエリアの内側一体が洋風のそれに覆いつくされており、「鏡映しに」切り替わったような情景はとても直前までの光景のそれではない。

 

 その周囲を見渡して、ブルーはほっと一息。周囲に比べて多少高い建造物ゆえ、少し遠い所の「霊子の爆発」やら何やらも観測できる。既に戦闘は開始されているが、それでも彼は少しだけ安心したようだった。

 

「………………流石にまだ『霊王宮』から来てないっぽいな、日番谷隊長。もうしばらくは気にしないで大丈夫かな」

「何してるんですぅ、ブルー?」

「あ、可愛い………って、そうじゃなくって、ミニーちゃんどうしたの?」

 

 と、わざわざ中腰になって、ミニーニャが下からブルーの顔を覗き込んで来た。身長差的に結構ギリギリの角度である(おおよそ20センチ前後ミニーニャが大きい)。

 ブルーの問いかけに「こっちの台詞なんですけどー」と人差し指で彼の額を鼻をツンツンすると、起き上ってにっこりと微笑んだ。

 

「暇そうにしてなさそうだったの、ブルー。どうしたのかしらぁって」

「えーっと、ほら。ハッシュヴァルトさんが言ってたよね、『自分が奪った卍解の持ち主』を殺すようにって。だからその隊長さんがいないかなーって」

「鎖結と魄睡……、死神にとっては命みたいなところを壊したんですぅ? よね。流石にそう簡単には戦線復帰できないーって思うの」

「とはいえ『零番隊』ってところの情報(ダーテン)が全然少ないから、完璧にとはいかないかなって。あんまり無茶しない程度に、安全マージンはとっとければとは思ってる。

 …………無茶しないって言うと、BG(べーげー)さんも『復活してから』日は浅いのに、結構無茶してるからね。何て言うか、本当もう完全にロボットみたいになっちゃったし」

「実際『あの身体になってから』時間は経っていなかったかしら…………」

 

 

 

「―――――ってそこーッ! あたしを抜いていちゃいちゃしないの、ミニーもブルーも!」

 

「ぎゃふんっ!?」

「ブル~~~~(@O@)!?」

 

 

 

 しれっと爆発を背後に背負って、その勢いで飛び蹴りをブルーの顔面に喰らわせたバンビエッタ・バスターバインである。その状態から秒速で逆肩車に移行。慌てるブルーの顔を自分の股間で押さえ両足でブルーの首を締めながら、ミニーニャに「真面目にしないとダメよ! ダメ!」と宣言。「どの口が言っているのかしら」と白けた目で見られているが、特に気にした様子もなく、顔が真っ赤になったブルーから降りて、更にボサボサになった髪を直した。

 

「鼻血出てるじゃないブルー、あなた。ダメよ、こんな所でシたくなっちゃっても、バンビエッタちゃんもお仕事中は弁えるんだから―――――」

「普通あの勢いでライダ〇キック喰らったら鼻から血が出るくらいじゃおさまらないからね!? あー、ちょっと治す(ヽヽ)から待って……」

 

 顔面を押さえながら一瞬「銀色に光る」と、折れ曲がった鼻の角度が矯正された。もっとも今回血そのものは残っているらしく、ミニーニャが彼より少し高い位置からハンカチでお世話する。それに「あは♡ ボクもボクも~!」と駆け寄り、ブルーの髪型を手櫛で整え愉しそうなジジ。

 そんな三人に「ふんっ!」と鼻を鳴らすと、マイペースにキャラメルを複数口に放り込んでいるリルトットと「どっちかというとバンビの方がシたいんじゃ……?」と微妙にドキドキしてそうな顔をしてるキャンディスに「あなた達も真面目にやるのっ!」と気合十分といった具合だ。

 

「少なくとも陛下が勝てば、死神にも虚にも殺される恐怖なんてない滅却師だけの世界が出来上がるんだからっ! それだけは間違いないって言ってたじゃない。

 遊ぶのはその後! それまではちゃんとやらないといけないんだからッ」

 

「やけに気合入ってるじゃん」

「ビビリだから仕方ねェだろ。ま、どうせ滅却師だけの世界なんてなっても滅却師同士で争い始めるんだろォがな」

「リルったら悲観主義者(ペシミスト)~! ま、再生なら任せてね?」

「そもそもその前に、命の危険なんてブルーがいれば大体どうにかなると思うの……、病気以外」

 

「良い事言うじゃないミニー! だからとりあえず後先考えず――――目に入った連中は全員ぶっ殺すわよ!」

 

 私に続きなさい! と言うバンビエッタ。そのまま飛廉脚で建物を下り、高速移動高速移動でどんどん離れていく――――「他のバンビーズが着いてきているかを確認しないまま」。

 

「わぉバンビちゃん黒甲虫(ゴキ〇リ)みたいにカサカサ素早ーい♪」

「オメーに言われたら流石にキレんだろクソビッチもよォ、ゴキブリ頭」

「ごごごご、ごっご、ごご、ゴキブリ頭!?

 ち、違いますー! ボクのこれはチャームポイントのアホ毛だしー! …………触角とかじゃないもんっ!」

「というよりバンビエッタちゃん、動きが普通に早すぎると思うの」

「どんだけ気合入ってるんだよバンビ……、アタシらも普通に追いつけないじゃんっ」

 

(あれ? ひょっとして原作で一緒に行動してなかったのってそんな理由……? って、そんな訳ないか)

 

 各々が突如眼前に次々発生する爆発の光を見て、そのあまりの高速乱軌道にリアクションをとっていた。なお実際問題「霊力だけで言えば」バンビエッタがバンビーズではトップなので、本気で飛廉脚を使って縦横無尽に動き出すと誰も付いていけないのは事実だったりする。

 決して彼女が嫌われているからサボっているだけ、というわけではないだろう…………、少なくとも「この世界では」。

 

「えーっと、とりあえずバンビちゃん一人だと『泣いちゃうかもしれない』し、僕も行ってくる」

「行ってらっしゃ~い!」「落ち着いたら私も行きますねー(^ー^)」「無茶すんなよ前髪野郎ォ」「本当、駄目そうだったら無理にバンビに合わせる必要ないからな? ホント、ね?」

 

 キャンディスだけ異常に念押しが強かったが、そんな彼女の一言に苦笑いしつつ、ブルーは背を向け「手のひらサイズの」「メダル状の」アイテム――――星章(メダリオン)を取り出し。

 

「じゃあ、お借りします(ヽヽヽヽヽヽ)

 霜天に坐せ――――――――大紅蓮氷輪丸!」

 

 そして、ごくごく自然に日番谷冬獅郎から奪った卍解を「身にまとった」。

 色は、銀色。形成される氷の鎧は、背中の翼や尾のみではない。右腕からは「背信の剣」が這い出ており、そこに沿うように氷の竜の咢が形成。あたかも本来の大紅蓮氷輪丸のそれを思わせる形となっていた。

 

「わぉ! そっちの方がよっぽど完聖体っぽいよね~」

「ま、ブルーの場合アレは『羽根とは呼べねェ』からな」

 

 苦笑いしてから再度「行ってきます」とだけ言って、ブルーはそのまま飛廉脚を併用して飛翔した。

 

「――――――――さぁワンちゃん隊長さん! 出てこないと皆、あたしの“E-爆撃-(ジ・エクスプロード)”でボロボロにしちゃうよ! 出てきなさーい!」

 

 空中である程度のところ(爆撃の攻撃範囲ギリギリ)で滞空しつつ、ブルーはバンビエッタの様子を伺う。既にバンビーズおよびブルー付きの聖兵たちは、全体の軍団行動に併せて自由編成として分散させているため、爆撃の巻き添えになりはしないだろうが、それにしてはそれにしては、相変わらずの無差別攻撃である。

 そして、その爆撃にさらされている死神たちを見ながら、ブルーはため息。聞こえない程度の声で、ぼそりと呟いた。

 

「……これでも『原作より一週間くらいは後』だと思うんだけど、思ったより準備は終わってないってことなのかな。終わってたら他の隊長格がすぐ出てくるだろうし」

 

 死神側の対処を待ったというよりも、石田雨竜を“見えざる帝国”に馴染ませる時間をとったために多少は時系列に遅れが出ているのだが、その程度ではすぐさまに対策は打たれていなかったらしい。

  

「それはそうとあんまり殺しちゃうと『後に響く』と思うから止めさせたいんだけど、理由がなぁ…………、あっ」

 

 そしてぼうっとしているうちに、バンビエッタの射出した「爆弾が先端についたような」神聖滅矢がブルーにも流れ弾として放たれ。当たり前のように、それを「背信の剣」で切り裂いて無効化した。

 やがてしばらく撃ち尽くすと、ぜいぜいと肩で息をして「疲れた!」と文句を言うバンビエッタ。

 

「全く! こんなに頑張って目立つようにしてもワンちゃん隊長さんも出てこないじゃないッ! つまんないわ、こうなったらバンビーズ全員で――――――――って、あれ? ブルーだけ?」

 

 ようやく周囲の状況に気づいたらしい彼女。子供みたいに地団太を踏みそれぞれの名前を呼び出すが、一応それでも追加で爆撃しないのは多少はしゃぎすぎて疲れたせいだろうか。

 

「まったく皆、リーダーに恥かかせたらどうなるか……、この辺全部更地にしてあぶり出してやるんだからねッ!」

「いや、バンビちゃんたぶん皆動けてないって言うか」

「どうしてよブルー!」

「ロバートさんも昔に言ってたかな。迷子にならないためには後ろの人が着いてきているかを確認することって」

「…………ひょっとして、あたしの方が迷子?」

「かなぁ」

 

 その指摘は色々致命的に彼女の羞恥心を刺激したのか、顔を真っ赤にして「ばかばか、ブルーの馬鹿! もうちょっとオブラートに包みなさいよっ!」とぽかぽか殴りかかってくる。本気のそれではなくじゃれあいに近い威力に、ブルーは内心で微笑ましいものを見る気持ちだった。

 

(殺傷力ゼロで可愛いなぁバンビちゃん…………、普段からこうだといいのに)

 

 前言撤回、普段から心は砂漠のようであった。

 

「っていうよりブルーあなたそれ、奪った卍解よね? 前はドラゴンしか見なかったけど、へぇ…………、そーなるんだ、へー」

「何? バンビお姉ちゃん」

「うん、こう、何て言ったらいいのかしら………………、ストレートに恰好良いわね! あと使いやすそう! ワンちゃん隊長さんのデカブツと違って!」

「ま、あぁあっちにはあっちでメリットはあるから……」

 

 実際、卍解の使用は一度だけのバンビエッタである。どうやら「卍解が傷ついた分」「本体たる使い手も傷つく」という仕様が、彼女としては大層お気に召さなかったらしい。戦闘=自分の命を守るため、という考え方のバンビエッタからしてみれば、使用するだけでリスクが大きい武器など扱に能わずといったところだ。

 

 と、そのままブルーの首に抱き着く形で、飛廉脚を使って器用に位置調整するバンビエッタ。

 

「抱っこ」

「……えっ?」

「だから、抱っこ。疲れたからっ! それにミニーたちの目もないし…………」

「………………ひょっとして結構『怖い』?」

「…………………………………………」

 

 ブルーの言葉に音を出しては答えず、ただ顔を隠す様に彼の胸元に額をくっつけるバンビエッタ。どうやらはりきっていたように見えたのは、空元気だったらしい。いつものような「外向けの」つよつよバンビエッタちゃんというやつだ。

 やれやれ、とは思わない。ブルーは基本的に、ジジのような完全イエスマン(に見せかけた反逆者)ではなく、自分で引き受けられる部分はしっかり引き受けるタイプである。

 なので何を考えているかと言えば、いつものようにちゃっかりしているくらいだ。

 

(卍解状態でお姫様抱っこしながら、バンビちゃんのおっぱいぎゅってしてもらってるこの状況…………、せめて第二次侵攻前だったらなぁ…………。

 ゴメンね日番谷隊長、こんな邪心まみれのまま氷輪丸を使っちゃって)

 

 なんとなくだが、ブルーの右手で竜の咢が、少し呆れたように軋んだ気がした。

 そのまま高度を下ろしていくと、どこか「妙な霊圧」。その主は編み笠を被り、たった今この場にたどり着いたという風だった。

 

『………………貴公たちは、こう、何と言うべきか……』

 

「あっ狛村隊長」

「ワンちゃん隊長さん……? あっ! ちょ、ちょっと待っててッ! 今『つよつよバンビちゃん』に切り替えるから。ブルーちょっと「ぎゅーっ」って抱きしめて! すぐ!」

「無茶ぶりだなぁ……」

 

 言われながらも彼女を下ろしつつ「ぎゅーっ」と抱きしめてあげるブルー(当然「色々と」堪能)。数秒してテンションを取り戻したのか、彼女は快活に笑いながら腕を組み、「編み笠姿の」狛村左陣の前に堂々と立った。

 

「お待たせワンちゃん隊長さん! …………って、何でバケツ被ってるの? 全然オシャレじゃないわよ?」

「そういう理由じゃないと僕、思うんだけどな…………」

 

『…………我が黒縄天譴明王を奪った貴公らには思う所も多いが。わざわざ構わなければ、「今すぐに」対峙する必要もなし。

 この刃は今、元柳斎殿の無念を晴らすため! 故に、わしはユーハバッハの首を取る!』

 

「えっと、何?」

「戦わなければ見逃してくれる、って言ってるんだよ」

「それは―――――――――ちょっとナマイキじゃない?」

 

 すっと、ナチュラルにバンビエッタの視線が鋭くなる。すぐさま自らが持つ星章(メダリオン)を構えるが、そこから「霊圧が抜けている」事実に気づき、ハッとする。

 

「そういうこと。ふぅん…………、だからちょっと『粋がってる』のね」

「そういう言い方ダメだってバンビちゃん。散々ゲームやったんだから、そんな『かませ犬みたいな』言い回ししたら負けちゃいそうじゃない?」

「あたしはそんなに雑魚雑魚じゃないのッ! ちょっとブルー、現実とゲームとか漫画とかをごちゃごちゃにしたらダメなのよ? わかってるの?」

(一番わかってないのはバンビちゃんなんだよなぁ…………)

 

『このような場でなければ、見逃したいところだが……』

 

 苦悩する声に、ブルーは苦笑い。以前刃を交えた時に、彼個人としては一切死神側に含むところはなく、なんなら本当は戦いたくすらないというのを「適当に戦いながら」伝えている。それでも立場上争わないといけないというのも、相手も理解しているだろう。

 だからこそ「原作同様」、ヒーローは遅れて来るもの的煽りをこの後に狛村へとしたバンビに続き、後方から平子真子が現れたことが多少は救済となる。

 

「ここは任せて先に行き」

「えっ? あっちょっと――――」

『すまぬ、平子隊長!』

「――――ちょっと何よ! 逃げられちゃうじゃない、このおかっぱ出っ歯!」

「おかっぱ出っ歯ァ!?」

「あのワンちゃんは、あたしの獲物なのよ! そう指示されてるんだから『指示通りにしないと』いけないのに――――――――」

 

 そして狛村が瞬歩で移動した瞬間、バンビエッタが文句を言いながら足元に霊子を集め始めた瞬間。

 

 

 

「卍解――――――――逆様邪八宝塞(さかしまよこしまはっぽうふさがり)

 

「えっ?」

(あっ)

 

 

 

 そのほぼ直後。なんらノータイムでブルーを爆撃するバンビエッタと、それに慣れたように「あー、いつも通りといえばいつも通りかなー」と遠い目をしてしれっと復活するブルーに、どないなっとんねんお前等!? と平子がドン引きしながらツッコミを入れたりするのだが。

 

 その際のテンションのせいで、当たり前のように平子の卍解、味方同士の認識を誤認させて同士討ちさせる能力を「ブルーが完全に無効化している」ことに気づかなかった。

 

 

 

 

 



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#021.果たされ得る約束

今回も例によってダイス結果が大きく作用しているので、色々謎設定注意…
 
遂に後輩が出来るよ!


 

 

 

 

 

 いつも通り、僕の呼吸が聞こえる。

 呼吸は安定してなくって、僕は僕にできる一生懸命で息をしてるけど、それでも苦しくって苦しくってどうにかなってしまいそうなんだ。

 呼吸っていうのは苦しいものだ。こんな苦しいことをしないと生きられないなんて、生きるって言うのは何て不便なんだろう。

 白い病室。無機質な部屋。高い天井。遠い景色。

 こんな場所で、苦しくてもそれでも生きて居なきゃいけないなんて、僕は一体どうして生きているんだろう。

 

 天国って、苦しくないところかな。

 地獄っていうのは、今よりもっと苦しい所なのかな。

 

 そうだとしたら、怖い…………、怖いなぁ。

 

 誰かに声をかけられることも、それに答えることも出来ないことも。

 僕の命が何一つ僕の自由にできないことも。

 

 生きることも。死ぬことも。

 

 怖い、怖いな…………。

 

 

 

『――――生き残りし者よ。我が聖別(アウスヴェーレン)を超えた魂よ。肉の枷がその命を繋いだことが、結果として今のお前をここにつなぎ留めているか』

 

 

 

 誰かが僕に声をかけて、僕はそっちの方を見る。

 その人は、見たこともない恰好をしていて、見たこともないくらい「真っ黒な人」で。

 

『お前に力を、生きる術を与えよう…………、未だ遠くに眠りし、我が息子よ』

 

 そう言って僕に手を翳したその人の隣で。

 僕より少し幼いくらいの青年が、何だか居心地が悪そうな顔をしていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「――――――――ちょっとリルー!? ブルーの完聖体(フォルシュテンディッヒ)ってば反則なんだけどぉ! ボクの“神の死(アザルビオラ)”の霊体操作すら弾くようになってるしっ!」

 

「オメーそもそも俺に“神の眠り(ゲヘノエル)”弱体化させといて何言ってんだクソ野郎ォ(ビッチ)

「自業自得だと思うの……」

「むしろ元々ジジのに限らず、霊体操作は弾いてたと思うんだけどブルーの“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)”。えっ? というか今まで通じてたの? ジジ、アンタのアレとか」

「ま! これくらい出来て当然ってやつだよ! バンビちゃんの目に狂いはなかったの!」

 

 半泣きで「青白い光に」包まれたブルーから放たれる銀色の「鞭のような何か」から、必死で逃げまどうジゼル・ジュエル。その悲鳴に適当な受け答えをするバンビーズであるが、そこにブルーの声は聞こえない。

 普段ならば苦笑いの一つくらいは聞こえそうであるが、修練場はひたすらに斬撃打撃といった音ばかり。

 

 やがてジジが完聖体の翼を維持できなくなったのを見て終了と判断したのか、ブルーもまたその青白い光を解く。

 顔立ちは特に何か変わったわけではない。ただその目の下には隈が出来ており、目は据わって陰鬱であった。こころなし瞳孔も小さくなっており、ハイライトがない。何かしら精神にダメージを負ったような、そんな雰囲気だ。

 

 倒れて五体をバタバタしながら「こうさーん!」と全力で自己主張していたジジだったが、完聖体を解除したブルーを見ると、ヘッドスプリングで起き上り駆け寄る。

 

「ブルー、ほんと大丈夫? 訓練したいって言ってた時も無理してる感じだったけど」

「…………ま、まあ、うん、大丈夫」

 

 頑張って苦笑いしようとしているようであるが、目に燈る感情は乾いたまま。据わったままの視線に「べー、重症だァ」とリルトットへと視線を送るジジであった。

 とはいえそれを受けたリルトットもリルトットで「珍しいことじゃねェが慣れるしかねーだろォが前髪野郎」とボソっと呟くが、彼本人には言葉をかけられないでいる。

 

 こんな空気感を無視するのは、バンビエッタくらいなものである。

 愉し気に飛び上がって抱き着くと、そのまま彼の頭を背後から撫でる。身長的には既に追い越しているものの、こういった振る舞いは「それ以上の関係になっても」弟扱いめいたものが抜けていない。

 

「やったじゃないブルー! これであなたも粛清リストからは抜けたわ!

 あの『ロボのことは残念だった』かもしれないけど、逆に考えればすぐにメンバー補填とか出来ないみたいだし、あたし達みんな安泰ね!」

「あっ馬鹿」「バンビちゃーん!?」「おいおいおいおい…………(やっぱりちょっとドキッとする)」「少し共感性を磨いた方が良いと思うの」

 

 えっどうして? とバンビーズほぼ全員からの微妙なリアクションにたじろぐバンビエッタと、そんな彼女に気づかれないよう鋭く細めた目で睨みつけるブルーこと蒼都。キャンディスが密かに顔を赤らめていたりするのはともかく、ため息をついて眉間のあたりを揉むブルーであった。

 

 端的に言えば、BG9(ベーゲーノイン)が死んだ。騎士団に搬送されてきたものは遺体のみであり、破損した騎士めいた仮面の下からおそらく初めてその素顔が見えた。顎髭や髪は適当に切っていたと思われる風に無精。意外と痩せている顔立ちは、モンゴロイド系と東スラブ系が混じったようなもの。かけている眼鏡はひび割れており、そんな彼は「目を見開いたまま」「袈裟斬りにされたように」残った半身で死後硬直していた。

 現世にてとある滅却師の一族の痕跡を負っている最中、虚に襲われたらしい。通常戦闘ではまず負けることはないだろうが、何かしら相手の能力かあるいは作戦か。死後その情報が尸魂界へと流れぬよう、騎士団長たるハッシュヴァルト自らがその遺体を回収しに行ったらしい。

 

『陛下の手で導かれた俺達「帝国の」滅却師は、特に原種(ヽヽ)の滅却師へと近づくってロバートの爺さんが言ってたなァ、前髪野郎ォは聞かなかったか?』

『原種?』

『あァ。詳しくは話されなかったが、どーも「器子と霊子の境界」があいまいになるらしい。人間なら魂魄=霊子と肉体=器子に分離できっけど、こっちに居る滅却師は霊子でもあって器子でもあるみてーな話? だったなァ。

 だから「死んでる」俺とかジジの野郎ォも、現世いったってフツーに不都合なく活動できっからな』

 

 リルトットが雑談交じりに以前話したそのセリフが、BG9の死体を、どこかに助けを求めていた男性のその表情と伸ばした手とのそれにが、強く彼の脳にこびりついた。こびり付いて離れず、そして数日たった今ですら影響が出ている。

 例え一度肉体が死んでも、その後に帝国入りすれば特に問題はなかったろうメリットが。そのままデメリットとなって――――すなわち現世だろうと霊界だろうと「死んだら終わり」というその事実が。

 

 ひたすらに、仲の良かった方だったBG9の死が、彼の頭から離れないでいた。

 

(こればっかりはバンビちゃんやミニーちゃんでも、どうしようもないというか……。そもそもBG9死んじゃったけど、原作的にどうなのこれ? もしかして襲名制みたいになるの? 確かにCVの感じがちょっと違ったけどさ……)

 

 様々な面から喰らっているダメージのせいで、心ここにあらずといった状態。回復の見込みは甚だ遠い。

 当然のようにバンビーズの面々は、こういったコミュニケーションには「慣れていない」のもあって、普段のように雑に励ますのすらはばかられている有様だった。

 

 

 

 そんな彼に、ハッシュヴァルトから呼び出しがかかる。

 謁見の間についたブルーは、やはり「誰も座っていない」王座の横に立つハッシュヴァルトから、新たな指令を受けた。

 

蒼都(ツァントゥ)、陛下より直々に現世への派遣任務だ。場所は――――」

「――――日本ですか!?」

「――――フッ、残念だが違うな」

「そんなぁ……」

 

 目の下の隈もとれてはいなかったが、何故かこの時ばかりはテンションが跳ね上がったブルーである。ただ結果的に気落ちすることになったが、そんな彼を見てハッシュヴァルトは少しだけ微笑ましく目を細める。BG9の死体を見た直後の状態に比べれば、多少は持ち直してきていると判断したらしい。

 

 かくして数日後、帝国の出入り口たる四方を柱で囲まれた建物の手前に、ブルーは来ていた。ニット帽に柄の付いたダボダボの長袖シャツに短パンと今時? の若者風な恰好である。以前現世で祝い事をした際にバンビエッタプロデュースで購入した代物だが、若干丈が短くなっているものの着ることは出来たのでそのままの恰好だった。

 そんな彼に、黒いスーツで身を包んだオールバックのハッシュヴァルトが声をかけた。

 

「では、行こう。…………少しファンキーだな」

「あっはい」

(ポテトの口からファンキーとかいう言葉が出た、だと……?)

「…………って、そうじゃなくって、ハッシュヴァルトさん!? えっ何で?」

「今回は私も同行する。陛下から直々の指名だ」

「えっと、もしかしてそんなに凄い何かがあったりするんです? 今回の任務というか。詳細、全然教えてくれてませんでしたけど」

「行けば判る。機密性は少ないが、BG9の事があった上での任務だ。事は慎重に執り行う」

(あってことはもしかして騎士団の団員補充系の任務?)

 

 前髪で隠れているものの疲れような目をしているブルーだが、ハッシュヴァルトの言葉におおよそ任務のアタリをつけた。

 建物から登る光の柱――――「表では」影の柱たるこの流れに包まれ、二人は現世へと転送される。この際さらに「帝国の影の力」で、所属滅却師についてはその霊子が現世と“見えざる帝国”との境界を曖昧にさせ、尸魂界からの感知を困難とするのだが。ブルーからすると体感的に、その「影の力」のかかり方が少し薄く感じた。

 思わずハッシュヴァルトに確認するブルーだったが、彼は肩をすくめて返した

 

「以前、バズビーやバンビエッタ、キャンディス・キャットニップやシャズ・ドミノらと現世に行ったことがあったろう。同じ北米に向かう以上、その時とそう違いはないはずだが」

「でも、何だろう? 多分『無効化してる』訳じゃないんだけれど……。現世、3回くらい行ってますけど、アメリカ一回だけだからわからないってのもあります」

「…………だとするならば、おそらく原因はお前が成長したことだな」

「僕が?」

「違いがわかるくらい感知能力が育った、ということだ」

 

 ポンポン、とやはり頭を軽く撫でると、ハッシュヴァルトは少しだけ微笑む。

 

「米国、もとより北米は1890年代以降『死者の指輪(リング・オブ・ライヴ)』の影響が強い。極東(東アジア圏)泰西(ヨーロッパ圏)のように『尸魂界の管轄局』が存在ないのも、その一端だろう」

「リング・オブ…………、えっと、何?」

「死者の指輪、あるいは生者の()だ。

 お前達で言えばジゼル・ジュエル、リルトット・ランパード、キャンディス・キャットニップの順で詳しいだろう。―――― 簡単な違いで言えば、あちらの虚は『ゾンビ』と同義語だ」

「ぞ、ゾンビ…………って、ジジさんの?」

「おおむねその認識で合っている。……ジゼル・ジュエルが“神の眠り(ゲヘノエル)”を聖隷(スクラヴェライ)した状態で発動した場合に、あれは似たようなことが起こったな」

「えぇ………………?」

 

 根耳に水な発言を聞いて頬が引きつり目は怪訝なものを見るような、変な顔をするブルーであった。以前の話から「アメリカは実は何かヤバい」と適当に覚えていたブルーだったが、その説明でさらに意味不明になる。意味不明ながらも、しかし危険度が高いということだけは理解したブルーだった。

 ハッシュヴァルトはハッシュヴァルトで疲れたように遠い目をする。

 

「現在は尸魂界(ソウルソサエティ)西梢局(ウェストブランチ)が代行を送って管理しているらしいが、とても管理しきれるようなものではないからな。一部、専業の狩人や斬術師が生き残っていると聞いてはいるが…………、ゆめゆめ注意するように。お前は大丈夫だろうが、念には念を入れる」

「了解です」

 

 素直に応答したブルーに「よし」と目を閉じて頷くハッシュヴァルト。なんとなくオーケストラとかの指揮者みたいだ、みたいな感想を抱いたブルーだが、全然関係ないのでその感想は口に出なかった。

 たどり着いた場所はニューヨーク。ここから何かしらの道具を手に取り(小型の羅針盤?)、方向を探りながら「こっちだ」とブルーを誘導するハッシュヴァルト。

 基本的に移動ばかりで、途中途中現世らしく食事をすることは有れど目的地は判然としていない。

 

 そして日が暮れ、深夜を超えて徹夜でたどり着いた先は、とある病院だった。「ジェミニ大学付属病院」と書かれたそこに「器子を曖昧にしながら」進むハッシュヴァルト。見よう見まねで「なんとなく」まねたブルーは、彼に続いて病院の壁を貫通して室内に入り。

 

「この病室は『死』に満ちている。ゆえにこの場所は『夜と言える』だろう」

「ハッシュヴァルトさん?」

「後は、直接聞くと良い。ブルー、ではあちらでまた会おう。

 後はお願いします――――――――陛下」

 

 ――――――――嗚呼。

 

 その声と共に、立っていたハッシュヴァルトの全身が「黒い影に覆われた」。ぎょっとするブルーの前に、そのまま身長もやや変化し、現れ出たのはハッシュヴァルトが着用していたものと同様にスーツ姿の、これまた現世の装いだった彼同様にオールバック姿だったユーハバッハである。

  

「驚いたか、蒼都(ツァントウ)

「えっ? それは、まあ、はい、うん。……こ、こんばんはです、陛下」

「ぬ? フ、ハッハッハ。そうだな、今晩は、だ。

 …………私と全ての滅却師とは『血と影で繋がっている』。とりわけハッシュヴァルトは、その中でも特別な一人だ」

「えっと、だから陛下が出て来ても大丈夫って感じの話なんです? いえあの、いくら何でも陛下が現世に普通に出てきたら、尸魂界に捕捉されないかなって」

「嗚呼、その通りだ。だから『ハッシュヴァルトを経由して』現世に出たのだ。こうすることで、今私を構成する霊子は『ハッシュヴァルト』と共用している形になる。故にある程度の弱体化と引き換えに、私のことを外部から認識するのは困難となっている」

(そういえば原作でこんなシーンあったっけ、記憶がちょっと曖昧だけど。

 ん? ということはつまり今なら「相打ち覚悟」すれば僕でも陛下を殺せる、と……)

「どうした、蒼都」

「へ? あー、いや、何でもないです。オールバック似合わないなーとか思ってないです」

「ハッハッハ! 存外、容赦がないな。ふむ。眉毛がほぼなくなってしまったせいか……?」

 

 一笑した後、眉間が寄っている額および目の上あたりを軽く撫でるユーハバッハ。済みません、と軽く謝るブルーに、再び一笑すると「気にすることもない」と続けた。

 

「ハッシュヴァルトでも、親衛隊でもこうは行かぬ。適度に懐き、適度に倦厭するくらいが丁度良い距離感だろう」

「丁度良い?」

「過激に傾倒するのも、過激に反発するのも、あるいは興味が全くないのも、どれも関係性としてはいずれ危険になるということだ。…………生きるというのは、呆れかえる程に難しく、困難である」

 

 故にこそ「死を祓う」価値がある――――。

 

「さて、気付いているやもしれぬが。これから我々は、おそらく最後になるだろう聖章騎士を出迎えに行く」

「えっと……、Fの字?」

「嗚呼。そして、ある意味でお前とやや近い所に居る子供だ」

 

 近い所? という意味がわからず不思議がるブルーに、ユーハバッハ手を上げ、まるで「何かを掴むように」動かし、数秒そのまま動かず。

 

 

 

 ――――次の瞬間、膨大な霊子がユーハバッハ目掛けて集まってきた。

 

 

 

 いわゆる聖隷による霊子の収束などではない。ここではない何処か、ありとあらゆる場所から飛んできているような、そんな感覚を覚えるブルー。その「霊的な」衝撃に飛ばされそうになるのを、両手から鉤爪を出して床に突き刺し、必死でこらえる。

 やがてしばらくして収まった状況。ユーハバッハは「やはり視えた通りか」と満足げに頷いた。

 

「へ、陛下? 今のは…………」

「――――“聖別(アウスヴェーレン)”。我がこの手と意志により、我が子らが持つ力と命とを徴収し振り分ける、そういった儀だ。

 今『この大陸から』『純血滅却師(エヒトクインシー)足り得ぬ者たち』に限定し、その力の大半を献上させた」

「――――――――――――――――ッ!?」

(えっ? っていうことは、これって――――六年前が近い!? ちょっと待って、今、西暦でいうと何年だっけ!? 黒崎一護(原作主人公)って生まれてる!!? あーもう、現世日本の空座町の調査に一度も行かせてもらってないから全然わかんないやッ)

 

 驚いたり衝撃を受けたりしているブルーであるが、ユーハバッハには当然通じない。

 そもそもBLEACH原作における“聖別”は、ユーハバッハの説明した通りのものであるが、それにより黒崎一護の母を間接的に殺す原因となり、石田雨竜の母親などの直接の死因でもある。おそらく今の言いぶりから、一度に徴収できる範囲というのは限られているのだろうが。こういったことを実行するようになったということは、つまり「そうする必要が出て来た」ということであろう。

 未だ認識が浅かったが、「原作」の足音が聞こえてくる――――武者震いではないが、謎の震えにブルーは自分自身へ困惑した。

 

「さて…………、この場ならば二人きりだ。今の力を見せた上で、お前には一つ教えておこう」

 

 ユーハバッハは額にやっていた手で髪を適当に流し、普段通りのものへ。ネクタイを解き、同時に「影」を纏い、全身が黒く見慣れた服装。ただ着用している元が異なるため、いわゆる「斬月のおっさん」を加齢させたような姿になったというべきか。

 そんなユーハバッハは、ブルーを見てニヤリと笑う。

 

「――――私は何が有ろうと、お前からは“聖別”を使い、その力を徴収はすまい」

「えっ?」

 

 今までのその動きからして、どういう意図があるのか不明慮だったブルーだが。彼のその言葉には、流石に意表を突かれた。BLEACH原作からしてユーハバッハは「必要があるなら」一切の躊躇なく、どんなに親しい相手でもどんなに大事な相手でもその命と力を奪うくらいはやってのける。だからこそ、わざわざ自分に限定してそう言う理由がわからなかったブルーであるが。

 

(……そんなこと言って黒崎一護に殺されそうになったらやったりするんじゃないかな、この人は)

 

 口で言ったことはともかく、いまいち信用が無かった。

 基本的にユーハバッハはその性質上「絶対に嘘が着けない」が、この場合の真実とは彼が真実と認識していることに限られるため、状況次第である程度のファジーさが存在している。なので状況一つでまた何か変わる可能性は否定できないのだ。

 

 ブルーの感想を知らずにか、ユーハバッハはその理由を続ける。

 

「私に徴収された力は、そのまま滅却師の基本能力たる『霊子の絶対隷属』を基礎としたエネルギーへと変換され、我が身にその魂や経験ごと還る。とはいえ、それで『元の持ち主が持っていた』記憶や経験そのものを、この私が扱えるようになるかとはまた別であるが」

「……? えっと、仮に騎士団全員から力を徴収しても、全員の力を使用無敵モードみたいになれるわけじゃないってことです?」

「もしそれが可能ならば、真っ先にぺぺ・ワキャブラーダの命と力を徴収しておるわッ!」

「えぇ…………?」

(い、いや、確かに陛下の霊圧であの(ヽヽ)能力を使えるなら向かう所敵なしというか、零番隊以外はほぼ全員味方みたいに出来るんだろうけれど、なんで名指しで、しかもそんなテンション上げて断言されたんだこの陛下…………?)

 

 困惑するブルーだが、その理由に思い至らないあたり流石に騎士団での生活が長くなったと言うべきか。すぐさま原作における「斬月のおっさん」を思い出せれば、その正解にはいずれたどり着けるだろうが。

 

 ただ全くのゼロとは言えない、と。ユーハバッハはブルーの目を見る――――その奥の「何かを」捉えようとするかのように、強く見る。

 

「徴収の際に、間違いなくその魂の一部は私の魂に刻まれ、その『元来持っていた』文字もまた私の身へと還元される。知識も、経験も、私の力であるならば、そこに溶け込み、私が私足りうる形のものとして補填される」

 

 故に――――。歩きながら「とある病室を目指しつつ」、ユーハバッハは続ける。

 

「取り込んだ魂の性質は、私に必ず影響を与える。元の私自身に反したものなら大きく目立ちはしないだろう。

 だがお前は違う」

「………………」

「お前の滅却師(クインシー)完聖体(フォルシュテンディッヒ)――――“神の完全(メタハエル)”は、“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)”共々、その使用者たる存在の『完全性を保証する』。幾度傷を受けど、幾度その身体を別なものに変えられど、保証されている完全性に従いお前の存在は必ず蒼都(ツァントウ)と定義されていた形へと回帰する。

 つまり私がお前の力を取り込めば、その性質に従い、私がこうして蘇るまでに『切り捨てた』叡智――――――――他者への深い愛や優しさの根幹すら、取り戻すだろう」

 

 あっ、と。わずかに声に出そうになったが、ブルーはそれを押さえた。

 そうなのだ。少なくとも初代護廷十三隊と戦った当時のユーハバッハは、その大本は「斬月のおっさん」と揶揄されるあの姿のそれと同様なのだ。ユーハバッハの語った理屈は良く判らなかったが、最後の部分を理由とするならそれだけは納得が出来る。

 護廷十三隊により蹂躙された最初の滅却師の国“光の帝国(リヒトライヒ)”。現在の“見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)”の原形たるその国と騎士団とを、尸魂界の戦争で失ったことが。

 

「優しさで戦争には勝てぬ。理解で戦争には勝てぬ。敵たる死神たちからそう教わった――――故にこそ『完全なる我が人格』という贅沢(ヽヽ)は、余暇たる戦後の楽しみにとっておくべきであろう」

 

 その時に仲間の多くを殺され、それでもなお自らすら勝てなかったというその事実こそが、ユーハバッハが現在の人格へと至る大きなトリガーであったのだから。

 

 ただ、そんなことを聞かされ安心できるブルーではない。それが示すことは、つまり。

 

「…………バンビちゃんたちや、他の人からは徴収するのに躊躇いはないってことですよね」

「無論、積極的にはしないが」

 

 つまり今の言葉は、ブルーに関してすら「徴収するなら最後」だという宣言にしかならない。結局のところ、彼自身は安心させる目的で話したのかもしれないが、明確にブルーにとってリスクが大きくなったということになる。

 

 故にこそ、足を止めたその時。彼はユーハバッハに一つだけ願い出て。

 

「………………良いだろう。受理した」

 

 その願いを確約させた上で、「S.N.」とだけ書かれたネームプレートの病室の扉を開いた。

 

 

 

 

 



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#022.恐怖と癇癪と地獄と地雷

ダイスの思し召しと多少悪乗りがあるので、微グロ?および若干ホラー注意


 

 

 

 

 

「――――で、こっちに行くと食堂があって、あっちに行くと親衛隊の皆がいるところに繋がってるから。多分文句言われたりはしないと思うけど、話しかけるのはちょっとだけ勇気がいるね」

「勇気……?」

「うん。アスキンさんは、最近呼ばれてるからもうほぼ確定で親衛隊に選ばれそうだけど、他のジェラルドさんとかペルニダさんとかリジェさんとかは、三人同士で仲良くしてる感じだから。無視はされないと思うけど、霊圧的にも雰囲気的にも、僕はちょっと怖い」

「そう、なんだ。…………怖ッ」

 

 思わず震える「真新しい」聖兵の上着を着用した青年に、ブルー・ビジネスシティこと蒼都は苦笑いした。両者とも同じくらいの身長で、わずかに震えている青年の方が高い。

 廊下を歩きながら、ブルーは彼に色々とこの“見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)”が銀架城(ジルバーン)周辺、立地やら施設やらについて教えている最中だった。

 

 もっとも、ほとんどの感想が「怖……」と返されるものだから、上手い事説明できている自信はないのだが。

 

(外の世界の存在として一番最初に出会ったのが陛下だったもんだから、そりゃ怖いよね……。実際、ほぼ死にかけていたみたいだし、能登(ヽヽ)君)

 

「あれ~~? ブルーじゃん、何してんのー?」

「ブルーじゃない。どしたの?」

 

「あ、ジジさんにバンビちゃん」

「怖い……」

 

 ちょっとどういうことよ人の顔見ていきなり怖いとか!? と、当然のようにブチ切れるバンビエッタ。いきなり腰の剣を抜き構えたりしないあたり、多少は社会性じみた何かが成長したというべきか何というべきか。ジジはそんな彼女を一瞥した後、ブルーの背中に隠れた彼を「ん~~~~?」と楽し気に覗き込む。否、楽し気というよりもやや喜悦に歪んでいるので、どちらかといえば「ニヤニヤ」というより「ニチャニチャ」という粘性が垣間見えるが、それはさておき。

 真ん中分けの黒髪に毛先がやや広がった青年。不安げに見つめる目には光が燈っておらず、どこか陰鬱気である。

 

 そんな彼にこれまたジジも「光の燈っていない」暗い笑みを浮かべて視線を合わせようとすると、怖がっているのかすぐそっぽを向かれてしまう。すぐさま反対側に行き、そっぽを向かれとそれをひとしきり繰り返し、(サド)性を満足させたのかニコニコ笑顔にジジは戻った。

 

「全く、別に食べちゃったりしないよ~新入りクンさぁ。ボクゥ、これでも騎士団の中でも多少は話のわかるほうだってリルからお墨付きもらってるもーん!」

「…………怖い」

「えぇ~~~~? 全く、ブルーも何とか言ってあげてよー」

「あ、あはは……」

(いや、確かそのですね、「まともに話せっけど、それはそーとして頭ン中で自分のことしか考えちゃいねーから会話が微妙に成り立ってねェんだよあのクソ野郎(ビッチ)」とかリルちゃんから言われてたような……)

 

 基本的に性格は(相対的に)悪くはないが、それでもダブルスタンダードだったり色々ブルー的にも擁護できない部分が多いジゼル・ジュエルである。もはや遊び出しているのか「ダブルピース☆」とピースした両手をかまえてウインクしたりあざとさアピールに余念がないが、何一つ件の新入りには届いていない。無常!

 

「一応新入り? でいいのかな。うん。新人のサダ・ノト(貞・能登)君。ハッシュヴァルトさん曰く全体の顔見せは後日するらしいから、それまで案内したり訓練したりしといてくれって」

「怖い……」

「えっと、ノト君からよろしくって」

 

「えっ」

「ちょっとブルー? えーっと、今聞き間違いじゃなければ『怖い』しか言わなかったんだけど」

 

 ちょっとだけ上機嫌にニコニコ微笑みながら新人の彼、サダ・ノトを紹介するブルーである。その一言に困惑するバンビエッタと「あれあれ~?」と苦笑いしながら聞き返すジジであったが。

 

「怖い」

「ずっと病院暮らしだったから、あんまり長文喋れないんだって」

「怖い…………」

「え? あー、うん。こっちに来るときに話てたバンビお姉ちゃんとジジさんだよ」

「怖い……?」

「うん、そうだね! で、ミニーちゃんとかキャンディお姉ちゃんとかも紹介したいけどいないなぁ……」

「怖い……、怖い?」

「リルお姉ちゃんは――――」

「ちょっと待って、ちょっと待って、だから何でそんなブルーは甘々なの!? もうちょっとしゃべらせないと、ブルーが専属通訳みたいになっちゃうよ?」

「いや、多分まだ慣れてないってだけだと思うから…………。これはこれで仕方ないかなって」

「怖い……」

「照れるなぁ…………」

 

「ちょっと待ってちょっと待ってボケ倒さないで! 懐ちょっと深すぎない!?

 ボク基本はボケとツッコミならボケ側なんだから、あんまり慣れないことさせないで!?

 リル~! いないのリル~! ロバートお爺さんの呼び出しとか無視してボクの代わりにツッコミしてよリル~!」

 

 何故それでコミュニケーションが出来るのかと言う会話の応酬に謎の絶叫するジジと、特に興味なさそうにサダ・ノトを一瞥するバンビエッタ。ぼそりと呟かれた「もろそうね」の一言に震え上がったサダ・ノトは、そのままブルーを盾にするように背後に回った。

 

「怖い……」

「それはまあ、そうだね」

(今のは本気で怖いって言ってるよなぁ…………)

 

 ブルーとハッシュヴァルト、ないしユーハバッハの導きによりこの滅却師の王国へと招聘された「死にかけた」少年だったサダ・ノトであるが、コミュニケーションが得意でないながらも少なからずブルーが気にかけてくれていることを理解していた。なので彼がこつこつと「(普通の人には)危険人物」と語ったその筆頭たるバンビエッタに対する、正しい怯え方でもある。

 故にこそのこの頼り方なのだが、ミニーニャあたりが見たら「殺す」と無言で剛腕を振るわれるほどの身代わりの出し方であるのだが、それはさておき。

 

 新人って普通は一発芸とかするものよね、と謎のマイルールを思いついた彼女は、しかし「多少は」精神に余裕が出来たためか、ブルーをじっと見てからサダ・ノトを見やり、その霊的なものと身体的なもろさを再確認した。

 

「ブルーみたいに首飛ばして『噴水!』とか出来ないし……。だったら暇だし、何か面白い話でもしなさいよ!」

「これが、パワーハラスメント……、怖い…………すごい怖い……」

「何ですって!? こんな美少女のバンビエッタちゃん相手に、しっかり言葉喋ったと思ったら何を言うのよ! ブルーちょっとあなた、どんな風にあたしのこと教えたわけ!?」

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」

「あはは……………………………………」

(ちょっと否定できないかなぁ)

 

 ブルーの肩を掴んで前後に揺さぶりながら少し涙目になっているバンビエッタ、そんな彼女を見ながら光を失ったレ〇プ目でニヤニヤ意地悪く笑っているジジ、そしてそんな三者を見て口から「怖い」のフレーズが止まらないサダ・ノト。一つの地獄絵図であった。

 しばらく揺さぶってから落ち着いたのか、バンビエッタがサダ・ノトを見て「で、どうなのよ」と凄む。ブルーが「まぁまぁ」と落ち着けるが、それでも少しは慣れたのか、ごほごほせき込みながら声を搾り出す。

 

「……じゃ、じゃあ…………、怖い話、します」

「…………面白い話しなさいよ」

「いーじゃんいーじゃん♪」

「ノト君的には面白い話なのかもしれないし」

 

 と、バンビエッタを揶揄うモードに入ってるジジはともかく間に入って一応は壁ないしオブラート的な役割を買って出るブルーのお陰で、サダ・ノトも深呼吸を繰り返しながらだが、なんとか話を続けた。

 

 

 




 

 

 

 これは僕の病室で呼吸器を付け替えてくれていた看護婦さんたちがしてた世間話と、僕に愚痴を言ったのをまとめた話。

 看護婦さんは旦那さんと娘さんが家に居て、二人を養うために働いていたらしい。だから娘さんを迎えに行く時、旦那さんと代わりばんこに車で移動してる。

 亜米利加だとスクールの行き来は物騒だから、そこそこ仕事とお金が安定している人はそうやって送り迎えをするらしい。そんなに珍しいことじゃない。

 そんなある日、看護婦の娘さんは「友達も家に来ていい?」と言った。

 看護婦さんは大丈夫だと、友達が遊びに来るのなんて珍しいなんて、そんなくらいに思ってたって言った。最近色々あって元気がなかったから。

 ただ娘さんはニコニコ笑って「いいよ」と、そう言ったらしい。

 

 そしたら、ひとりでに扉が開いて、閉まった。

 

 いきなり目の前で起こったことがよく理解できなかった看護婦さんは、風の仕業か娘さんの友達が外で何かしたかと思ったとか。だから娘さんに「悪戯するんじゃありません」って怒ったらしい。

 娘さんはしゅんとしてたけど、特に何も言い返さなかったから反省したと思って、車を走らせたとか。

 

 普段は後部座席で帰りは寝てる娘さんは、その日は何故かよく看護婦さんに話しかけたらしい。

 

 看護婦さんは運転が苦手で、だから運転中はあんまりお喋りできないのだけど、それでもその日の娘さんは看護婦さんにいっぱいしゃべりかけてたとか。

 そして娘を自宅に預けてまた仕事に行って、僕の呼吸器とか点滴とかつけていった帰り。自宅について、看護婦さんは驚いたらしい。旦那さんはもう眠ってるっていうのに、娘さんが絵本を片手にずっと朗読してたとか。いつまで起きてるのって、お母さんらしく看護婦さんはそうやって言ったんだけど。

 

 その日、いつもと違い娘さんは一人で自分のベッドで眠ったとか。

 

 基本的に怖がりな娘さんは「宇宙人が来たらどうしよう」って言って看護婦さんのベッドに入り込んで一緒に寝たりすることも多かったそうだけれど。少しは大人になったかしらって、忙しかった看護婦さんはそのことを大して重要視していなかった。

 

 その夜、何故か寝苦しかったらしい看護婦さん。異変が起きたのはその翌日。

 朝に目を覚ましても、特に不思議でも何でも無くて、そのままいつも通りに僕の点滴を付け替えようとしたりした。うん、いつも通りだったと思う。だからそのまま、看護婦さんは娘さんの迎えにいこうとした。

 だけど、行けなかった。

 何故かわからないけど、病院の敷地から出ることが出来ない。

 

 病院を抜けてしばらく歩くと、気が付くと病院の出入り口に帰ってきてしまっている。ノイローゼにしては妙だなって思った看護婦さん。ちょっと何かを予感したのか、流石に不可思議に思ったのか、とりあえず旦那さんの職場に電話をかけようとするんだ。

 だけど、電話機の調子が悪いみたいで、こっちのスピーカーの音はあんまり向こうには聞こえない。

 自宅への電話は当然繋がらなくて、やっぱり不可思議に思った看護婦さん。

 

 もう夕方で迎えにいかないといけないのに、と。そんな風に思ってたら、どこかから声が聞こえたらしい。

 娘さんの声。泣き声で、お母さんとお父さんを呼んでる声。

 

 当然、看護婦さんは娘さんの声を探しに行く。どこにいるの? と、名前を呼んで、大声で呼んでたのが煩かったなぁ。

 

 声は、霊安室から聞こえてきてたらしい。

 

 どういうことって、看護婦さんは困惑して、何故か鎖でがんじがらめにされていた扉を開けたんだ。

 そうすると看護婦さんの娘さんが、まるでかくれんぼしてたみたいに看護婦さんの顔を見て、ぱあって笑って駆け寄って抱き着いて。

 どうしてこんな所にいるのって娘さんを叱るように言う看護婦さん。

 

 娘さんは言ったらしいんだ。お友達が、暗いって泣いてるんだって。

 

 ぞわっとした看護婦さんは、すぐに娘さんを連れて部屋を出ようとしたんだけれど、次の瞬間には扉が閉まって。がちゃがちゃと、外から鎖で巻かれる音が鳴って、明らかに嵌められたって思った看護婦さん。別に恨まれるようなこともなかったらしいけど、それはそうとして何がおこるかわからないって。

 銃ですぐ殺さないあたりの意味もわからないから、しばらくしたら解放されるだろうって思ってた。

 

 

 

 ……開けて…………。

 

 …………開けて……。

 

 

 

 娘さんじゃない女の子の声が、看護婦さんに聞こえたらしい。

 どん! どん! って、扉とか箱を殴るような音が聞こえる。

 

 開けて、開けて、って。女の子の声がまた聞こえる。

 

 ――――どん! どん! どん!

 

 開けて、開けて、お母さん。

 

 ――――どん! どん! どん!

 

 娘さんが、看護婦さんを見上げてまた言ったんだ。お友達が、暗いって。狭いって息苦しいって。

 

 ――――どんどん! どんどん!

 

 音は大きく、早くなっていく。看護婦さんの心音も、どんどん早くなっていく。

 

 どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん――――!

 

 

 

 ばきっ。

 

 

 

 箱の釘が抜けるような、そんな音が聞こえて。

 看護婦さんは腰を抜かして、それでも娘さんを抱きしめたまま。

 

 霊安室の冷凍されたボックスが、ぎちぎちって音を立てて空いて。でも、何かが立ち上がったりすることはなかったんだって。

 

 そこで、がしゃん! って音を立てて扉の向こうの鎖が落ちたのがわかったって。

 ほっとしたように娘さんを背負ってから、扉を開けようとした時、右肩に痛みを感じて。

 

 恐る恐る、自分の右側にある娘さんの顔を見て――――――――。

 

 

 

 交通事故にでもあったみたいな、頭が半壊して脳みそとか目が垂れた女の子の死体が、看護婦さんの肉に「齧りついていた」。

 

 

 




 

 

 

「その後、右腕に鎧みたいなの付けた銀髪の男が『鎖が切れてるからもう助からない』みたいなことを言って、チェーンソーで少女の首を跳ね飛ばしたり、結局娘さんも旦那さんも無事だったらしいんだけど、その男のことも他も何一つわからないって言ってた。

 …………あれ? 受けが良くない? 怖ッ」

「意外とけっこう、それっぽい話だったね」

 

 特に声に抑揚をつけていたわけではないサダ・ノトの語りだったが、それを聞いたブルーの脳裏にはなんとなくイメージ映像が出た。直近、ハッシュヴァルトと現世にいった際に聞かされた話もあって、おおよその背景の真相には察しがついている。

 

 おそらく、途中からその娘というのは、少女のゾンビの魂魄と入れ替わっていたのだろう。

 アメリカにおいては虚に該当する存在はゾンビである的なことをハッシュヴァルトが言っていたし、言うなれば看護婦は誘い込まれたのだ。ゾンビが食事をするために。果たしてどこからどこまでがゾンビによる誘導その結果の「白昼夢」のようなものだったかは定かではないが。

 そして銀髪の男とやらが、東やらで言う「死神」に該当する何かなのだろう。

 

 そこまで事情を分解してしまえば怖いも何もあったことではないのだが。いわゆる魂魄的な事情を知らないサダ・ノトにとっては、それなりに退屈しのぎになった怖い話ということだろうか。

 

 そして、ここに効果覿面だった相手が約二名――――。

 否、それはおそらく「怖い話」だけのせいではあるまい。

   

「……ノト君、ひょっとして聖文字(シュリフト)使ってた?」

「怖い…………、バレた、怖ッ」

 

 サダ・ノトの聖文字は「F」。“F-恐怖-(ザ・フィアー)”がユーハバッハより血を与えられて早々に覚醒した、彼の聖文字である。よほどその魂に深く「恐怖」と言う言葉が刻まれていたのか、そのままストレートで完聖体まで体得。BG9の最短記録を優に抜き去ったストレート騎士団任命と相成ったのは、そんな事情からだ。

 もっとも滅却師としての基礎が弱いため、キルゲやロバート、およびブルーを交えての基礎訓練なども今後行われることになるのだが。

 

 それはそうと、怖い話をより怖い話とするためにか、サダ・ノトは自らの聖文字を併用していたらしい。

 

「僕の霊圧に触れた相手は、あらゆるものが恐怖の対象になる。……使いこなせてないから、まだ『ちょっとずつ』だけれど。今はトラウマを刺激するくらいかな」

「トラウマ、かぁ…………」

 

 

 

「――――――――やだ! 出して、出してよッ!? 暗いの嫌なの、息苦しいのは嫌なの、熱いのも嫌なのッ! 息が、息が続かないの…………、意識がどこかに飛んで行っちゃうの、『抜けちゃうの』ッ! 嫌っ、破裂しちゃう! 頭が破裂しちゃう!

 駄目、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて、誰か、誰かァ……」

 

「――――やだよ、そんなの、そんなものまで『取らないで』よ、そんなことしたら死んじゃうよボク、『男の子』なんだよ!? 止めて、止めてよバンビエッタ(ヽヽヽヽヽヽ)ッ!!?

 だめ、駄目、そんな指輪『胸に埋め込んだら』絶対死ぬから! 嫌だよ、何それうねうね蠢いていて、嫌だ、嫌だ、怖い、助けてパパ…………、パパ、パパも、パパの『顔の皮』? あ、あはは、あはははっはははははははっはははははッ」

 

 

 

 その場でうずくまり喉を押さえてジタバタと暴れまわりながら涙と鼻水と涎をまき散らすバンビエッタ。

 そしてブルーの背中に抱き着きながら、目を零れ落ちる程に見開き首から上を痙攣させながら絶叫と「壊れたような」笑い声をあげるジジ。

 

 端的に言って、二名は発狂していた。

 

「どうしよっか、この二人……」

「怖い……」

「一応、ノト君がやった結果だからね? でも、それにしたって、ハァ……。あー、まだ漏らしてないから大丈夫かな? バンビちゃんも」

 

 よいしょっと、とわきの下に手を入れ抱き上げると、そのままバンビエッタを抱きしめて「よしよし」と言いながらあやすブルー。その間もジジが狂ったように笑い続けブルーの首を絞めているところだが、そこは首を銀の蒸着(シルバープレッシング)で金属化して、気道が狭まるのを防いでいる。

 震えながらいまだ自分を抱きしめているのがブルーだと認識できないバンビエッタだが、珍しいことに爆撃などを行うことも、剣を抜くこともなくただただ怖がっていた。

 

 否、あるいはこれが彼女の「本来の」地の部分なのかもしれないが――――。

 

「…………怒らない?」

「えっ? あー、二人ともこうしちゃったことについて? 一応は事故みたいなものだし、どこかで能力も鍛えないといけないだろうし………………」

(それに僕だと「完全に」無効化しちゃってるっぽいから、絶対訓練相手としちゃ不適格だからね、聖文字に関しては…………。

 あっ、バンビちゃんちょっと正気に戻ってきたのかな? 抱きしめ返してくれて、柔らかい…………)

 

 ニコニコ微笑みながらサダ・ノトにそんなことを言うブルーに、状況のあまりにアレな結果になったそれに「聖文字、怖い……」とぼそっと呟くサダ・ノトであった。

 

 

 

 なおこの後、ふらっと立ち寄ったアスキンからドン引きされたり、「親睦深めるって意味なら映画でも見てオシャレ学ぶと良い」とアドバイスを受け、ジェイムズやベレニケと一緒に四人で映画を見たりして、バ〇トマン(1989)に何かインスピレーションを受けたりするサダ・ノトだが、それはまた別な話。

 

 

 

 

 



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#023.見つめる「目」

アニメ最終回良かったですね…! 戦闘シーン多かったり千手丸さんの卍解とか死神図鑑復活とか色々嬉しい誤算も多かったり

そしてそれとは特に関係もなく何故か今回手間取りました汗
今回はちょっとだけおまけあり…!


 

 

 

 

「遠慮はいらねェからな! 行くぜ、“バーナーフィンガー・(フォー)”――――」

「“背信の剣(アロガンツシュヴェールト)”……」

「――――って、一撃かよォ!? がッ!?」

 

 人差し指から小指まで四本を立てたバズビー、その手先から放たれる「熱線の剣」。それを右腕から出現させた銀の剣を用いて「バターのように」切り裂いたブルーは、そのまま「銀色になった」左手で彼の腹部を殴り飛ばす。完現術「銀の蒸着(シルバープレッシング)」で直接腕をコーティングしたことにより、バズビーの無意識に発動していた静血装(ブルート・ヴェーネ)を無効化して通常の打撃を与える。

 つまり「空中の」その場に軽くうずくまるバズビー。

 そんな彼の首筋に剣をつきつけ「一本」とブルーは声をかけた。

 

「なっ納得いかねェぞ……!? だまし討ちっつーか、もっとこう色々あンだろォ!!? というか拳が堅すぎるって、メイスでぶん殴られたみてェな痛さだったぜ!!?」

「ごめんバズお兄さん。流石に『三対一』だと普通に全力で戦えるバズさん残すとどうしようもないっていうか……。

 じゃあ、あとは二人だね」

 

「オイオイ、バズビーの奴はともかく、ありゃ聞いちゃいねェぞ……!?」

「基礎もしっかり鍛えていたということだな。私たちも鍛えねばならないなぁナジャークープ!」

「うるせェ! そのゴリラ顔で理知的なこと言われてもゴリラにしか見えねぇからな!」

 

 訓練、おまけに完聖体縛りとはいえバズビーを高速で倒したブルーに、サングラス越しに冷汗をかく肌の浅黒い男。髪型はアフロで歯はオセロのように着色されている男は、ナナナ・ナジャークープ。「U」の文字の聖章騎士である。

 対する隣に立つ巨漢は、その厳つい容姿に反して酷く態度が理知的だが、ナジャークープが言っていたとおりにイメージとしてはゴリラにしか見えない。ジェローム・ギズバット、「R」の文字の聖章騎士である。

 

 4人はともに空中に霊子を固めて足場としており、横やりの入る余地はない。

 そのまま剣を鉤爪に変化させ、また左側からも爪を生やし、ブルーはジェロームたちへ急接近。

 

「お、おおおお!?」

「こちらで受け持とう――――動血装(ブルート・アルテリエ)! うおおおおおッ!」

 

(あっちょっとゴリラっぽくなった)

 

 にらみつけすぎて白目をむいているような状態となり、さらに上半身の筋肉が活性化したのかパンプアップ。絶叫し牙を剥きながら腕を振りかぶる姿はまさに荒れ狂うゴリラ! リルトットが見れば「ゴリラ野郎」の誹りを免れない程にゴリラな有様である。

 そのまま人語を話さず獣のように襲い掛かる彼の拳を、ブルーは鉤爪で受け流し時に斬りつける。もっともタイミングを合わせ静血装へと切り替えも行っており、見た目の野蛮さからはかけはなれたクレバーな切り替え方をしていた。

 

「聖文字は使わないんですか?」

「確かに身体が大きくなるのは通常は魅力的だが、お前相手では只の的だろう。だったら純粋に技術のみで戦う方が、性に合う!」

「やっぱり理性的だ……!」

 

 そして、しばらくそんなブルーたちの格闘戦を見ていたナジャークープは、「読めたぜ」とニヤリと笑う。

 片手に複数の矢摺籐(やずりとう)があるような霊子の弓を形成すると、ジェロームとブルーが同時に動血装を発動したのを見計らい、4連射!

 

 とっさに何かを察したブルーが、ジェロームと競り合いするのを放棄して、一目散にナナナの方へと接近する。矢自体も交わしたり鉤爪で払ったりしながら襲い掛かる体勢に入るが――――。

 

「正面を警戒しすぎだぜガキが、チキンっぷりは直さないとなぁ!」

「ッ!? 銀筒――――」

 

 ブルーの斬り払った神聖滅矢に仕込まれていた銀の小筒。それらがくるくると回転し霊子を放ち、やがてブルー全体を覆い囲む大きな「U」の文字に。

 

「“U-無防備-(ジ・アンダーベリー)”……、モーフィング・パターン!」

 

 もっともその「U」に沿って発動した聖文字の力は、収束してブルーの全身を覆うよりも前に30センチ前後の位置で急停止。流石にその状態にはナジャークープ自身も「何だァ!?」と驚いた様子だった。

 

「ぶ、ブルーには初めて使ったが……、霊圧の(あな)、『空中にある』ぞ!? どうなってんだッ!!?」

「えっ!?」

「まぁ良い、ほらよッ!」

 

 急接近してくるジェロームとナジャークープの矢。どちらの対処を優先するかという点で、ブルーはジェロームを優先した。滅却師に関する能力、もしくは概念系能力ならばおおむね無効化できる自らの能力を信頼してのことだった。

 空中で、まるで「壁にでも刺さったように」停止した矢と、そこを起点に自らの全身に走った霊子の網が自らの全身を拘束したのを見て、おそらく初めてというレベルで驚愕した。目を見開いて「ほぇ?」と女の子めいた声を出すブルーに、ナジャークープ本人も驚いた様子だ。

 

「ブルー本人に効くわきゃ無いはずなのに……、バグったっつーことか!?」

「……っ、う、動かない――――」

 

「――――これにて、一本ッ!」

 

 そしてジェロームの拳一発がブルーの頬をえぐるように殴り飛ばす! そのまま全身の動きを拘束されたまま、ブルーは地面まで叩きつけられた。

 なお、鳩尾を押さえたバズビーすら「マジかよ」とびっくりした表情だ。

 

 なお下方で拘束されたままのブルーは「当たり前のように」元に戻った状態で、しかし動き自体は拘束されたまま身動きできないでいる。

 

「……能力が無効化される直前で止まったっつーことか? いや、意味わかんねェ」

「こっちだって知らねェっての。一体何がどうなってんだ……?」

「状態だけ見れば『ブルー本人』ではなく『その周囲の空間』を拘束しているように見えるな。……なるほど。対象が本人をとらない場合に限っては、このように攻撃効果を受けてしまうこともあるということか。

 ナジャークープ、解除してやってくれ」

「あ? いや、別にいいけど……良いのか? 前々から思ってたけど、ここまで同族特攻能力持った奴残しといて陛下は何考えてんだか…………。今の内なら頑張れば殺せるんじゃねぇか?」

「いや、そりゃお前よぉ……」

「言われてみると確かに、もし『本当に』裏切られたら弱点になるな。あるいはそれでも騎士団長(グランドマスター)なら抑え込めるということか」

「やっぱ殺そうぜ? 傷口付近にもこっちで能力かけてやれば――――」

 

 ナジャークープの不用意な発言と同時に、三人は背筋に猛烈な寒気を覚えた。霊圧、刺すような冷たさと押しつぶすような暴風がごとき圧と共に「聖隷(スクラヴェライ)」とぼそりと呟かれた少女の声。

 恐る恐る背後を振り返った三人の前に、両腕両脚に霊子の赤く光る甲冑を装着し、背中に鋭角化した左右の翼と、二砲のキャノン砲を備えたバンビエッタ・バスターバインの姿がある。頭上の()の光のせいか逆光となっており、表情は微妙に見えないが霊子の色が映り込んで赤く輝いている目には、光が入り込んでいるにもかかわらずハイライトが見えない。

 

 キャノンは基部を彼女の背中から腰に固定しており、マニュピレーターが角度を調節して前方を向いてバズビーたちを狙っている。なお当然のようにブルーもその射程圏におり、動きを拘束されている関係上その顔は引きつっていた。

 

「早く解放しなさいよ。次、あたしの番なんだよ」

「……わ、わかったって、そうカリカリすんなよ。冗談じゃねぇか」

 

 冷汗を流しながらブツブツと文句を言いながらブルーに対する拘束を解除するナジャークープ。そのまま一目散に飛び去る彼と、それに声をかけながら追うジェローム。バズビーは「殺されるわけにゃいかねェからな……」と呟きながら、リルトットたちがいる方へと向かい。

 バンビエッタ本人は上半身を起こしたブルーに、すっと大砲2門を向け。

 

 

 

「あんな覗き魔に負けてないでよっ! ジジにボロクソに馬鹿にされて頭にくるんだからッ!」

(あ…………)

 

 

 

 そのまま絶叫して癇癪を起したようジタバタすると同時に、大砲から数重数百の霊子爆弾が射出され、そのままブルーを飲み込み「光となった」。

 ブルー!? と後方から絶叫が聞こえた気がするが、バンビエッタは気にしない。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「怖イ…………。ドウシテアノ人ハ、アンナイカレ女ト付キ合ッテルンダロウ」

「付き合ってませんよ~~~~~~、ブルーの彼女(ヽヽ)は私なんだもの(# ^Д^)」

「怖イ……」

「ガキに圧かけんじゃねーよデカ女」

 

 こちらもまた不用意な発言をした誰かに対して、ミニーニャがアルカイックな笑顔で拳を握る。既に二の腕に青筋とパンプアップした膨張が見えており、その誰かは腕を盾にするように構えながら数歩後退した。

 リルトットのツッコミに拳は下げるが、表情と視線は変えずにじっと彼を見る。見られ続ける彼は冷汗をかき、少しだけ「ここ数年」新調したマスクを引っ張って、深呼吸をした。

 

「なんかバンビのやつ、いきなり飛んでったけど…………、何かあった?」

「んふふ~~~~、ボク知らなーい♪」(※本当は聞こえてた)

「あれでクソ女もすげービビリらしいからな。何か嫌なモンでも感じたんだろ」

 

「――――おー! とりあえずこんなンだが、問題ないか『エス・ノト』」 

 

 さり気なく正当を引き当てるリルトットはともかく、遠方からこちらまで飛廉脚で飛んできたバズビーが彼に声をかけると、その彼、現在はエス・ノトを名乗る彼は「参考ニナラナカッタ」と返した。

 

「ブルー、コッチノ“F-恐怖-(ザ・フィアー)”全然通ジナイカラ、参考ニナル戦イヲ見タカッタケド、結局能力便リノ戦闘ダッタ」

「ま、そりゃーな? 噂によりゃ親衛隊のリジェの攻撃も無効化してたらしいし」

「あの超高速まばたき野郎のか?」

「マバタキ……?」

「いや判ンねーよ、その呼び方だと……」

 

 バズビーの感想はともかく、リルトットの蔑称まがいの呼び方に首を「直角90度」傾げるエス・ノト。その服装は以前の聖兵のものではない。身体に密着するような白装束にマントを纏い、口元は白いマスクで覆われている。全体的に「死化粧」のようなものを連想する恰好をしたエス・ノトをちらっと見たキャンディスは、なんとなくブルーの恰好と見比べて「何でこうなったし」と微妙な表情だ。

 

「問題でもありました、キャンディス先輩?」

「いや、問題っつーか……。態度はまだちょっとオドオドしてるけど、何かこう、大分……」

「不気味になった?」

「そうそう――――ってジジ!? ちょっと気を遣った表現考えてたのに台無しじゃんかッ!」

「ええー、だって実際そう思ってたわけだしー」

 

 両手の人差し指を向けて嫌な風に嗤いながら視線を逸らすジジに「あたしは多少まともなんだよッ!」と切れるキャンディス。なおミニーニャは既にブルーやバンビエッタの方に視線が固定されており、リルトットがエス・ノトを見上げて「ボロクソ言われてンぞ」と声をかけていた。

 

「問題ハナイ、デス」

「オメー、俺にはなんか敬語だよな」

「ブルー、凄イオ世話ニナッタッテ言ッテタシ。実際話ガ通ジル方…………デス」

「あー、まぁブルーはなぁ…………。しなくても良い苦労だけなら一番してンだろォし」

 

 主にバンビエッタ・バスターバイン相手にであることは、三者特に口にせずとも共通見解であった。とはいえ現状でも「まだ」マシになった方でもあるし、八つ当たり先がブルーに集中していることもあって被害は騎士団規模で考えれば軽微も軽微である。そのせいもあってか、教育係を担当した一人であるキルゲ・オピーすら「処置なし……、無理な時はちゃんと言わないといけませんよ」と声をかけるに留まる有様である。

 ブルー本人に言わせればオイシイ思いもしているとのことだが、それはそうとして今日も絶好調で彼を爆殺している頭バンビエッタであった。

 

 なお当然のようにブルーから教えられた性格の悪さは、ジジ(大なり小なり)バンビ>ミニー>キャンディス>リルトットだったりするが、そこは空気を読んで言わないエス・ノトである。

 

「…………そういやその恰好、どうしたンだ? 前から聞こうと思ってたけど」

「コレハ……、恐怖」

「は?」

「何言ってんだガキ」

 

 バズビーやリルトットのリアクションに、エス・ノトは目を閉じて心臓の当たりに手をやりながら言う。

 

「自ラガ恐怖ノ象徴トナルコトデ、相手ニ対シテモ恐怖ソノモノトナルコトガデキル。ソウ、見タヒーロー映画カラ教ワッタカラ、ソレヲ実行シテルダケダヨ。自分ガ恐怖ニナレバ、モウ何モ怖クナイ、ハズ」

「いや、バ〇トマンかよッ」

「アメコミ好きだなァお前等…………。漫画なら俺はまだ日本のやつの方が色々楽しいけど。料理漫画とかで外の食べ物イメージしたり」

 

 意外とエンタメ事情が(多少は)現世基準で充実している“見えざる帝国”はおいておいて。

 

 バンビエッタとブルーとの戦闘は、バンビの聖隷した状態での完聖体の攻撃を、徹底してブルーが捌く形となっていた。

 わざわざブルー本人に直撃コースにしない砲撃をし、そこにブルーが「勝手に」行って背信の剣で切り裂き爆裂効果を無効化したりしている。これを確信犯で行っているあたり、バンビエッタも意地が悪い。

 

「ほらほらどうしたの! まだまだバンビちゃんの本気はここからだよ――――二段ジャンプキック!」

「その名前ダサいから後でキャンディお姉ちゃんとかと一緒に考えようね!?」

(OSR値があんまり低いと後々敗北条件に繋がっちゃいそうだし……、白)

 

 中々にアレな内心なブルーは、自分へ向けライダーキ〇クめいた飛び蹴りをかましてくるバンビエッタのそのヒラヒラしているミニスカートから覗く脚やら中身やらに釘付けであるが、それはそうと飛廉脚の先端に形成した球状の爆弾めいたその神聖滅矢を前に表情が引きつる。剣をやめ鉤爪に戻し、両手の爪で彼女の脚が狙う自分の胸部を庇う。

 激突、と同時に「爪が爆弾化」してその場で爆裂爆破! もっとも爆破された後に「1秒もかからず」元に戻った爪であるが、彼女のキックの威力に打撃時に更なる一発が加わったことで、バンビエッタの脚はブルーの胸部を射抜いた。

 とっさのことで銀化は間に合っていなかったこともあってか、跳ね飛ばされるブルー。胸には彼女のブーツの足跡がくっきり残っており、遠方からジジがそれを見てニヤニヤと涎をすすっている。一体何が(かのじょ)の琴線に引っ掛かったかは定かではないが、ぼそりとエス・ノトが「怖イ」と呟いていた。

 

 地面で某犬〇家がごとく「首から上が」地面に埋まった状態で胴体が真っ逆さまに立っているような状態のブルー。そんな彼を見下ろしながら、上空からバンビエッタが腕を組んで降りてくる。見ればキャノンの角度調整がされており、背部に回ってジェットパックのような役割で高度を微調整していた。

 

「全く、ハゲもどき(ヽヽヽヽヽ)たちじゃないんだから……。あたし、別に完聖体ならないでって言って無いじゃない。なんでブルーやらないのかな」

 

 しばらく直立していたせいか、首が限界に来たらしい。ごきっと音を立てて有り得ざる角度で首が曲がり、身体が背中から地面につく。もっとも数秒で「地面に埋まった」頭が光と共に抜け出し、胴体の延長上に再構成される辺りは普段通りのご愛敬。

 遠方から「ハゲたァどういう了見だこのキレッキレのモヒカン見てよォ!」とブチ切れてるらしいバズビーに苦笑いを送るブルー。そのまま頭を振ってから立ち上がり、バンビエッタのスカートのギリギリのあたりをじーっと見た。

 

「な、何よ、何か言いなさ――――、ッ!? え、エッチ! 今時パンチラ狙いとかガキンチョでもやらないでしょーがッ!?」

「“背信の剣(アロガンツシュヴェールト)”――――」

「しょーもないことの防御にそれ使ってるんじゃないよッ!」

 

(いや、だって無効化しないと修練場が「原形も残さず消し飛ぶし」……。それに完聖体はなぁ……)

 

 実際問題、バンビエッタの能力は「自らが霊子に触れた物体を爆弾化する」というものがメインである。この特性を拡大解釈して「爆弾属性を付与する霊子」と「特に何ら変哲もない霊子」とを分けることで、これらを空中で混合させ「霊子の爆弾」としても扱ったりしているが。それはそうと完聖体時に扱える霊子の量を考えれば、ブルーが率先して無効化しておかないと「全員怒られる」から、という配慮がそこにはあったりした。

 なお伝わっているのはリルトットやジジくらいなものとする。

 

「……でもまあ、あんまり練習できてないし、やってみようか。『怖くなったら』言ってね、止めるから」

「う、うん」

 

 とりあえず腹をくくったブルーはバンビエッタに断りを入れる。それに対して妙に素直にうなずいた彼女に微笑み、彼は体勢を変える。両手の爪を出したまま、胸の前で両腕を交差。エジプト王墓のミイラあたりがしていそうなポーズを思わせるそれをして、バンビエッタを見上げながら呟き。

 

聖隷(スクラヴェライ)―――――――――、ん!?」

 

 霊子を集め始めたのと同時に、「世界が歪んだ」。

 いや、より正確には「何かが視ている」ような感覚を覚えたブルー。

 

 

 

 それと同時に、その場にいた滅却師8人全員に、青く輝く「光の柱」が降り注ぎ、全員の姿を覆った。

 

 

 

「怖イ……」

「えっちょっと嫌だ、何かボクの中に『入ってくる』んですけど!? キモいんですけどー、何か『ボクじゃない霊力』が入って来てるー!?」

「百年ぶりくらいじゃんか……」

「キャンディス先輩、知ってるんですぅ?」

「こりゃアレだな…………、まァ悪いもんじゃねーだろクソビッチ共。

 俺よりこっちのトサカ野郎ォの方が詳しいだろ」

「お前等揃いも揃ってこのモヒカン馬鹿にしやがって…………」

 

 自分の身体を抱きしめて目を見開き震えるジジと、似たようなポーズで震えるエス・ノト。特に恐怖はないらしいミニーニャは自分の掌を開いて閉じてを繰り返し「何か」の具合を確かめている。そしてとくに何ら感慨もないキャンディス、リルトットに加え、どこか苦い顔のバズビーである。

 ……まあ髪型に対する暴言への苛立ちも大きいだろうが、それよりも虚空を見上げ、この光の「大本になっただろう」誰かへと、鋭い視線を向ける。

 

「…………聖別(アウスヴェーレン)。陛下がやる、滅却師の命と力の振り分けだ。

 この間『日本で』集めて来た分で現世からはほぼ全部徴収したってユーゴーの野郎が言ってたし、その時の分まで含めてを振り分けてンだろ」

 

 バズビーの言葉の通り、その光によって自らの能力が強化されるのを感じるミニーニャたち。ジジも怯えていた様子だったが「キモい」という感想は変わらないまでも、段々と震えがおさまり「キモーい♪」と楽しそうである。いまだにずっと怯えているエス・ノトとは大違いだが、彼はぼそっと「気軽に与えられるってことは……」と「逆の真実」にも気付いているため、仕方ない所はあった。

 

 当然その光はブルーたちにも影響しており、発動しかかった完聖体の一部、形成途中だった「目から噴き出だすような」霊子の一部が右側からだけ異様な状態になり、「痛い痛い痛い!?」とびっくりしているブルーと。

 

「ダメ、見ないで(ヽヽヽヽ)……………………、もう『真空』は嫌あああああッ!? こんなに息苦しいのなんて止めて! 胸も頭も破裂しちゃうから……、あたしはお父様やお母様とは違うのぉッ! 無実なのッ! 良い子なのに、皆よりも誰よりも良い子にしてたのに――ッ!」

(なんか凄い取り乱してる!? って、それはそうとバンビちゃんもなんとなく「視られてる」のは判るんだ)

 

 他の面々は気付いているか気付いていないか不明だが、ブルーには彼女が言う「見ないで」という意味が正確に伝わっていた。

 

 

 

 それは例えるなら、天空から見下ろす一つの巨大な「目」。

 

 

 

 その「知覚できない」目により、全ての滅却師たちが何かしら「見定められている」。値踏みされている、が正しいかもしれないが、そんな視線がどこかから、自らの全てを丸裸にされているような、そんな感覚。

 どうやらその何かが、バンビエッタのトラウマに直撃したらしい。錯乱しながら爆撃しかける彼女の背後に回り込み、その腕を掴んで「銀の蒸着」で頭部の環やら背中の翼やらを溶かしていくブルー。そのまま動揺する彼女を正面に向けて抱きしめ、何も言わずにそのままじっと光が晴れるのを待つ。

 ブルーが抜けた光の柱は徐々に移動し、バンビエッタと彼とをさらに包み込むよう太く交わった。

 

「ブルー……、あたし嫌なのぉ…………、死にたくないの、死にたくないの。『ギリギリ』死ななかっただけだから、もうあんな想いはしたくないの……」

「バンビちゃん……」

 

 それ以上言葉を続けず、彼の胸に顔を埋めて泣き続けるバンビエッタ。

 そんな彼女を辛そうに見た後、ブルーは光の先を見上げ「本来なら」「知覚できないはずの」「巨大な目」に向けて、一言。

 

「…………約束は守ってくださいよ、陛下」

 

 にやり、と。その一言を聞いた目が、少しだけ笑ったような。

 そんな気配を感じて、ブルーは少しだけ頭を下げて、再度頼み込んだ。

 

 

 

 

 


【おまけ】

・もし“F-恐怖-”トラウマ刺激を本作バンビーズ他メンバーが受けたら・・・

 

ミニーニャ:

「私には何もかもが足りなかったの…………、わがままを通せる体力も腕力も権力も資本力も何もかもが……」

(その場で膝を抱えていじけだす)

 

キャンディス:

「戦争とかもう止めなってさァ! 領土問題とかもう面倒極まりないじゃんかあああああッ」

(絶叫しながら頭を抱えつつ走り去る(逃げる?))

 

リルトット:

「まァ…………『餓死』くらい今更怖くも無ェからな……」

(普段よりもお菓子を多めに食べるのみで錯乱なし)

 

 

 

 

 



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#024.番外編:PRISON FROM SNOWPELLETS

いよいよ帰ってくる番外編… 今回はバトルメイン





 

 

 

 

 

「同士討ちとかそういうレベルちゃうやろ!? 完全にそこのイケメンぶっ殺したやろそこの姉ちゃん、何考えとんねん!? 思わず卍解解除してもうたわ、アホかいッ!!?」

「ブルー殺しちゃったのはアンタのせいでしょ!」

「殺したのに気づいても顔色一つ変えへんのは完全にヤバイ奴やろッ!」

「何ですってーッ!?」

 

「ば、バンビちゃんも平子隊長も、どうどう…………」

 

「お前が一番怒れッ!」「あなたが一番怒りなさいよッ!」

 

(そんなところで息ぴったりされましても……)

 

 困惑するブルーに怒鳴る二人。金髪のおかっぱ風ヘアスタイルな平子真子と、ご存知バンビエッタ・バスターバイン両名である。直前の戦闘中、平子の能力で「敵味方」を混乱させられた直後に、そのせいもあってブルーを爆殺したバンビエッタが顔色一つ変えずにそのまま周囲を爆撃しようとしたのに、思わずツッコミを入れた平子であった。

 なおブルーに関しては、特筆するまでもなくいつも通りという認識しかなかったりする。

 

「ぜー、はー、何やねんお前等…………、なんか調子狂うわ」

「せいぜい狂ってればいいじゃない。……ブルー大丈夫? 『イチモツ』壊れたりしてない?」

「だ、大丈夫、大丈夫…………、ついてるから触らないでね!? 一応敵前だよ!!?」

「それはいいからぎゅーってしてッ! じゃないと今すぐ爆撃したくなっちゃうからッ!」

「えぇ……?」

(一体何がバンビちゃんの恐怖の引き金を引いたんだろう)

「敵に言うのも変やけど……、お前苦労してんなぁ」

 

 どこからか取り出したハンカチで目元を覆い、涙でも拭っていそうな平子である。彼の脳裏に一体どんな映像やら何やらが思い浮かんでいるのかは定かではないが、それはさておき。

 周囲を確認して「アカンわ、相性最悪やんけ」と毒づく平子の一言に、思わずブルーは苦笑い。なんならバンビエッタをより強く抱きしめて、耳の当たりに自分のマントがかかるようにすることで音を上手く遮ってる始末。なおその様子は氷輪丸の翼に阻まれて平子側からは見えないので、バンビエッタはバンビエッタで割と自由に甘えていた。

 さて。事態が膠着すると判断したブルーは、バンビエッタに囁き彼女をこの場から逃がす。最低限のアドバイスはしたせいで、狛村とは別方向へと飛翔するバンビエッタ。

 

 そんな彼女を追おうとする平子の前に、氷の翼を展開したままのブルーが立つ。

 

「何や、あんな大事にしとった彼女だけ先、行かして。ひゅーひゅーって言っとこか?」

「それ言うと後で別な所から怒られちゃいそう何で、パスでお願いします『平子隊長』。

 まあバンビちゃんと平子隊長の相性は悪くないと思いますけど…………、『仮面の軍勢(ヴァイザード)』相手に大事な相手を置き去りにはしませんよ」

「チッ、ンなことまで調査済みかい」

 

 嫌そうな顔をする平子だが、どこか敵意は薄れている。戦意に変な形で水をかけられたせいだろうか、しかし警戒自体は解いていない。否、厳密に言えば警戒を「解けない」。目の前に立つブルーの姿を目にしてから、どうしても目を離すのに躊躇いが生じていた。

 敵として相対した時、どうしてかその存在を見失う事への不安、恐怖、言い知れない無防備さのような薄ら寒さ。そしてもう一つ。

 

「…………何で喜助のあの黒いの、あっちにも送られとん筈なんに、卍解を維持したままいられるんや」

 

 そう、その一点が何よりも不気味である。基本的に既存の滅却師は、あのバンビエッタですら卍解を使用できない。もしくは使用すれば自ずと個人の霊体へとダメージが入る状態であり、そしてそれは星章(メダリオン)を構成する滅却師の霊子にも影響を与えている。つまり本来ならば、浦原喜助と涅マユリとが共同で配った「侵影薬」の効果が出て、卍解は元の持ち主の元へと戻っているべきなのだ。

 それが出来ていないということ自体がおかしいのである。

 

 それには答えず、苦笑いしながら斬りかかるブルー。とっさに「解号なしで」解放した逆撫で受ける。「背信の剣」と激突、飛び散る火花と「銀色の液体」。妙な鉄臭さを感じた平子は、本能的に嫌な予感を感じ咄嗟に後退。と同時に、ブルーは指先を向けて呟く。

 

鎧鱗動血装(ブルート・アルテリエ・アンハーベン)――――」

「おわっとッ!? ばば、卍解――――」

 

 飛び散った血はその場で霊子兵装としての小型の弓を形成。そのまま妙に長い神聖滅矢を形成して光線のように放つ。

 

 瞬間的に卍解した平子は、足場に形成された花弁のような台座に座り込み、幾本の矢を逆撫で受け流す。そのまま花弁が閉じて防御態勢をつくろうとしているが、それよりも先に放たれる血しぶきから生成される矢のなんと多い事よ! ほぼ外から見れば、彼の卍解目掛けて光線が大量に放たれているような有様だ。

 うめき声を上げながら数か所、人体の方に攻撃を受ける平子。ようやく花弁が閉じ切ったものの、その逆様邪八宝塞の内側で腕の傷を押さえて冷汗を流す。

 

(まずいわ……、からめ手が通じひん割に純粋に強い。手数とか反則やろノーモーションのくせに)

 

 がんっ! がんっ! と外から殴られる平子の卍解。思わずその「トラックでも激突したかのような」音に飛び上がりそうになるが、抑えつつもホラーの怪物めいたその所業を前に、深くため息をついて。

 

「…………しゃあないわ。後で喜助にドやされるにしても、ここで死んだら話にならんわ――――」

 

 

 

面取(チャンファリング)――――ッ」

 

 一方のブルー視点で見れば、金色の花の蕾と化した平子に対して、銀一色に染まった左腕を振りかぶって殴りつけているのみ。とはいえ全身に動血装が走っており、その力は並の滅却師はおろか死神のそれでもあるまい。わずかにきしみ、少しだけ金粉のようなものが散る。

 

「……うーん、結構綺麗な卍解だからあんまり本気でぶっ壊したくないんだけどなぁ……」

 

 そしてこの状況においても、ブルーは飄々と感想を零す。決定的にここが戦場であると言う緊張感とは無縁の振る舞いだが、それに対して相手はつっこまず。

 

『――――おおきになぁ。せやけど、悪いなお兄さん。殺すで』

「ッ!」

 

 かたかたと音を立ててわずかにブルーから見た背面の花弁が開いたと同時に、自らの背後に平子の「異常に膨れ上がった」霊圧を察知したブルー。

 見ればそこには、どこか長い髪を連想するような独特の仮面をつけた平子真子の姿――――まとう霊圧は虚のものが入り混じっており、斬魄刀の刀身はそれこそ赤黒く光っている。

 

 それをとっさに右腕の背信の剣(アロガンツ・シュヴェールト)を構えて受けるブルーだったが。刀身と刀身が激突した瞬間に、ニィと平子は仮面越しに笑い。

 

『月牙天衝-―――なんつってな』

 

 接触した刀身から「卍解した霊圧で」虚閃(セロ)を放ち、ブルーのその剣を「叩き折った」。その余波はそのままブルーの身体を袈裟斬りに「真っ二つ」にし、そのまま霊圧の波動とエネルギーの奔流は彼を飲み込み、肉片を弾き飛ばした。

 ブルーの影が見当たらなくなったのを確認してから斬魄刀を鞘に納め、仮面を「握り砕く」平子。ぜいぜいと肩で息をしながら、鞘に収納されると同時に解放の解除された斬魄刀を、杖代わりにして付く。

 

「アレでようやく攻撃が通るんかい…………、はァ、せやけど『(ホロウ)の霊圧で』あれだけひき肉にしたら、流石に再生能力持ちの滅却師でも――――」

 

 と、彼の言葉が止まる。何や、と目の前に現れた「銀に光る人型」のシルエットに、瞠目。

 そのシルエットへ目掛けて、先ほどの虚閃で散らされた肉片、骨片、血液に至るまでもが「同様に」「光の奔流となって」人型へ結集。ほぼ無形の状態だったそこから、背中に氷の竜の翼を背負った元の状態まで回復した。

 そんなブルーは閉じて居た目を開けて、両手をぐーぱーして動作を確かめている。目の前で「霊的な力を伴わない」ような、それこそ「何も感じなかった」その再生を前に、言葉が出ない平子。

 

「……ごめんなさい。僕、そういうのは苦手じゃないんです」

「何…………、やて?」

「僕の聖文字(シュリフト)(アイ)。“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)”。能力は『存在の完全証明』。僕という滅却師の生命を害するあらゆる要因に行き当たった際、その事象を『外側から』検閲して再度別な形で上書きして保存、最も事象衝突(コリジョン)が発生しない場所や状態に再定義、再構成して出力する」

「……………………は?」

「あー、ややこしいですよね。要するに『絶対死なない』ってことです」

 

 説明がやけに回りくどいブルーだが、大体の原因はアスキン・ナックルヴァールに能力を教えてもらった際の、彼の回りくどい物言いが原因である。悪い例を真似てしまった訳だが、実際「厳密には」かなりヤヤコシイ能力なので、リルトットすら匙を投げたという経緯があった。

 傷を負っている状態から「卍解に」「虚化」の二重がけ。瞬間的に上がった膨大な虚の霊圧、それ自体を制御するのもギリギリという有様からのこの現在。表面上はともかく肉体内部は満身創痍である。

 そんな彼に向けて、ブルーは「背信の剣」の基部に生成された、狼の咢のような神聖弓を構え。その先端に球状のエネルギーのような神聖滅矢を収束させ――――。

 

 

 

「ッ!」

「――――破道の三十八『天雷砲』」

 

 

 

 直前で腕の方向を変え、自らの背後へと振り返り射出。

 そのまま自ら目掛けて撃たれた光の大砲と神聖弓とが激突。

 

 衝撃で巻き起こった砂埃を「背信の剣」で振り払うと、そこに現れたのは。

 

「…………!」

(まさか本当に帰ってくるとは)

 

「よォ、また会ったな優男」

 

 青白い外套を纏った日番谷冬獅郎――――何故か額に「眼窩が六つあるような」仮面をつけた彼がいた。

 

「返してもらうぜ、氷輪丸を」

「――――――――」

 

 別に虚の仮面と言う訳ではあるまい。霊圧の質も平子のように変化していない。そしてそんな彼のビジュアルを見たブルーの感想は。

 

(劇場版第二作……? 馬鹿な、当時と千年血戦篇との設定は師匠(原作者)監修といえど微妙に変わっているはずでは!?)

 

 相変わらず緊張感に欠けていた。

 なおブルーの言う通り、色こそ違うが外套は劇場版で日番谷が着用していたもの、仮面は草冠宗次郎が着用していたものを少し変形させたようなものだったりする。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「霜天に坐せ、氷輪丸!」

遮霊霧(シールドガス)!」

 

 合流した松本乱菊に満身創痍の平子真子を逃がさせ、日番谷冬獅郎はブルー・ビジネスシティへと斬りかかる。もっとも本来なら氷結すべき彼の「背信の剣」は、空中に霧散された「銀色の霧」のせいか、上手くまとまらない。

 とはいえ。

 

「……! 相変わらず意地が悪いことを」

「いやその…………、流石に『それだけ上がった』霊圧でこられるとこっちも対処の仕様がさ、うん!」

 

 実際問題、ブルーが空中に張り巡らした「自らの血液の霧」すら、冬獅郎から放たれる霊圧によって散らされ始めている。剣圧もそれこそ以前のものとは比べ物にならず、こころなし右腕の大紅蓮氷輪丸の顔がちょっと誇らしげだ。

 すぐさま左手を銀で覆い殴りつけようとするが「それは前に見たぜ」と、これもまた白打でストレートに対処する。ブルーの動血装により強化された拳すら、その身体から放出する霊圧の差でもって蹂躙する。

 

 正しく「霊王宮で鍛え上げられた」死神としての、最もスタンダードな強さだ。

 

 そのまま拳を押し返されバランスを崩したブルーめがけて、氷輪丸を振り下ろす。それを卍解の翼で受け、弾き飛ばすように空中へと払い――――。

 

「手ごたえが、あれ? ……っ、まさか氷人形!?」 

「――――よく見破ったな」

 

 上空、剣を受けた姿勢で固まった冬獅郎の姿を見て驚愕するブルーの背後、半笑いで声をかけて来る「本物の」日番谷冬獅郎が氷輪丸を振り上げ。

 

「破道の七十八『斬華輪(ざんげりん)』」

「ッ!」

 

 先ほどの平子のような虚閃(セロ)ではないが、その一撃はむしろブルーの内側へと溶けている氷輪丸の霊圧へと直撃した。

 瞬間、彼の胸を突き破って現れる巨大な氷の竜――――背中の翼からそのまま一緒に彼の胴体をえぐるように、無理やりその身体から「這い出た」氷輪丸。その頭上に乗った冬獅郎は、ブルーの倒れた下半身に目もくれず空中で斬魄刀を構え直し。

 

「卍解――――大紅蓮氷輪丸!」

 

 空中で飛び上がり、氷輪丸が冬獅郎へとまとわりつくような形を経て姿を変化させる。色は輝く深い青を称えた水。氷の竜と正しく一体化したその姿。右手の咢が少し唸り声のようなものを上げると、冬獅郎は少しだけ顔をしかめた。

 

「遅ぇって俺のせいじゃないだろ。……何? 結構面白かった?

 いや別に興味は無ェけど」

 

 苦笑いしながら右手の斬魄刀を肩に担ぎ、下方を見る冬獅郎。以前、松本乱菊いわく「怪物」を自称していたらしいあの男。そこから放たれる潜在的な「嫌な感覚」は未だ晴れず。故に警戒を解かず、彼はいつでも斬魄刀を走らせられるように構えていたが。

 

 

 

「――――――――あー、やっぱり戻っちゃったか。割と『天使らしくて』お気に入りだったんだけどな」

「……ッ」

 

 

 

 先ほどの意趣返しではないだろうが、さも当たり前のように「自らの背後に」現れたブルー。だが、冬獅郎はその瞬間に「猛烈な寒気を感じた」。

 一瞬、わずか一瞬だがそこにほとばしった霊圧――――――――おそらく以前の自分なら、あの藍染惣右介を前にした時のように何も感じなかったろうと言う確信を抱く、それこそ「はるか高みから」何かしら手を加えられたと言われた方がまだ理解が出来るほどの、膨大な霊圧。

 

「どんな霊威してやがる、お前」

 

 そう、つまり。バンビエッタたちを始めとして大半の滅却師がその能力を「霊的なそれではない」と感じていた論拠になっていた「霊圧の有無」だが。実際のところ、ブルーが再生する度に霊圧は走っていたのだ――――彼我の差があまりに開きすぎたため、それを霊圧と認識できないほどの差が生じていたのだ。

 それこそ藍染を思わせる圧倒的な霊圧だが、現在は感じずとぼけた顔をした優男が、空中でため息をついてじーっと自分を見つめている姿だけがそこにある。霊圧自体も青年のそれを逸脱せず。

 

 嗚呼つまり、それだけの膨大な霊力は彼が能力を発動した際にのみ働いているということか。

 しかしその霊的な存在階位の高さは、下手をすれば零番隊のそれを上回りかねない。その妙な矛盾した存在の在り方こそが、おそらく本能的に目の前の相手への警戒を解けない理由なのだろう。

 

「なるほど。確かにこれはバケモノだ――――再生することだけで言えばな」

「日番谷隊長?」

「その妙にやる気が無ェのも、お前が自分自身の存在の絶対性に自信があるからってことだ。だがなァ、お前の能力の発動条件は『果たしてどこまでに』作用するんだ?」

「おっとッ!」

 

 瞬間、目の前に左手を構えるブルーだったが、同時にその左腕が「凍てつく」。それを払えば、凍傷で一気にボロボロとなった腕に銀色の光が伸びて覆い改めて腕の形を形成する。その腕を振りかぶって殴りかかるブルーに、冬獅郎は瞬歩で半歩(ヽヽ)ずれ、刀の峰を彼の左肩に当てる。

 同時に凍り付く衣服と、その延長に形成される「左腕の表面のわずかな隙間」の氷――――ブルーの人体を直接凍らせず、表面を覆うように凍結させた。

 

 早っ! と声を荒げたブルーは、そのまま左腕ごと右手の剣で肩を切除。出血を霊子収束で抑えながら飛廉脚で距離を取り、銀の腕の形で再生するのを待つ。

 それを見逃す彼ではなく、氷輪丸で斬りかかる。

 

「やっぱりな。

 今の俺の霊圧なら、お前のあの銀の攻撃はある程度蹴散らせる。

 そしてお前は――――人体に直接作用しえない攻撃を、無効化することはできない」

「…………、いや、やっぱり早いって察するの。流石天才児……」

「褒めても何も出ねェぞ。それに――――これでも200年以上は生きてるからなぁ」

「リルお姉ちゃんと同じくらい!?」

 

 謎の驚愕をする彼に一瞬半眼で笑うと、そのまま彼の「体表面で」斬撃を寸止めする冬獅郎。それと同時に瞬時に形成される氷から逃れるため、ブルーは防戦一方となっていた。

 

「そっちは攻めねぇのか」

「あー、もう! 察されちゃったからこっちから攻撃したら、接触箇所を起点に氷張ってくるよね!? それくらい出来るって情報(ダーテン)で知ってるからッ!」

「急にガキっぽくなったな」

「元々あんまり余裕がないものでッ!」

(むしろ「死ぬ」んだったら復活の目途があるけど、中途半端に拘束だけされると復活できないのはナナナさんに思い知らされちゃってるからなぁ)

 

 的確に弱点を把握して攻撃してくる日番谷冬獅郎に、ブルーは悲鳴に近いトーンで声を上げていた。

 

 実際問題、冬獅郎の読みは当たっている――――ブルーの“Ⅰ-不滅-(ジ・イモータル)”で証明や定義される=復活するための条件というのは、つまるところ「ブルー本人が」「直接害される」ということに限られていた。

 例えば毒、例えば殺傷、例えば感電、例えば損壊、例えば爆裂、例えば精神汚染。いずれの加害においても、それらはブルーの身体へと異常が発生する。精神攻撃すら、大きく区分すれば「脳」への加害だ。故に定義された蒼都(ブルー)という滅却師の「完全な状態」から逸脱したそれらは、外部から「現在の状態」を「元の状態」へと再定義されてブルー本人に上書きされ復活する。

 

 故に、例えばナナナ・ナジャークープが能力を使用したときのように。ブルー本人ではなくブルー周辺の空間を拘束、固定するといったことをされると、彼は逃げることが出来ない。

 故にこの場合、氷輪丸の氷が彼の身体を凍らせず、絶妙な距離と温度で動きのみを封じる牢となるのならば――――。

 

 そしてそれだけの微細な操作も、日番谷冬獅郎には不可能ではない。

 

「こりゃ本格的に厳しいかな…………、ここで使うと思いっきり負けちゃいそうなんだけど、しかたないか。

 外殻静血装(ブルート・ヴェーネ・アンハーベン)

「ッ!」

 

 そして空中で、自らを覆う球状に銀の血を展開。そこに血装を走らせ冬獅郎の侵入を阻むと、彼は手元の武装を解除し、腕を交差させ。

 

 

 

聖隷(スクラヴェライ)――――――――」

 

 

 

 鐘の音と共に、周囲へと散った自らの血や、氷輪丸が作り出した氷を分解してその霊子を収集。立ち上る青の光の柱を前に、冬獅郎は冷汗をかく。

 

 やがて柱が砕けた後。現れたブルーは――――青白いプロテクターを肩、腕、脚部に装着し。首にはなびくような青白いマフラー。そして目元からは、まるで獣の耳のように、あるいはほとばしる血のように、青い霊子が棚引いて放出されている。

 翼らしい翼はない。あるいは目から流れるそれが彼の翼か。

 頭上に()もない。その代わりに、環は彼の腰のベルト、スペードのマークを覆うようにバックルのごとく鎮座していた。

 

「――――“神の完全(メタハエル)”」

 

 ギン、と。目から迸る霊子に、二つの眼窩が開く。剥きだされたそれは、まるでコミックのヒーローがごとき白目であり、妙に目立っていた。

 

 

 

 

 







本当は完聖体の絵を描くつもりだったけど、画力の問題から迫力が全然なかったのでお蔵入りです…


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#025.おかえりなさい

話に納得がいかなかったので、珍しく何テイクかダイス振り直してました。
ということで、アイツが帰ってくる話…ちょっとグロ注意


 

 

 

 

 

 

「限定解除、だと!? 何だそれは――――――――くっ、グリムジョー!」

「砕け散れ――――ッ!」

 

 夜のとある街。霊なるものを目視できる人間にとっては、まだまだ序盤ではあるが大いなる戦いの、その先触れ。

 とある仮面を砕きし虚に斬りかかるのは、全身に氷の竜をまとった少年。護廷十三隊十番隊現隊長、日番谷冬獅郎。

 

 先ほどまで封じられていた霊圧を解放したその能力は、実に元の5倍。

 

 現世への影響を加味することすらないその一撃一閃は、間違いなくその破面シャウロン・クーファンを仕留め、粉々に砕いた。

 

 

 

 砕いた、はずであった。

 

 

 

()からの確認だが身体の同調率、実に94%。これ以上の相手はもはや存在しないだろうと確信する』

「相手、虚だけれど大丈夫? BG(ヽヽ)

『問題はない。もとより我が力は、現在の形に至る以前からそういった仕様で構築されているものである。

 ――――――――拡散せよ、“神の傀儡(フィルトエル)”』

 

 かくして日番谷冬獅郎が凍結した虚は、その全身が氷の内から砕けて無くなる寸前に「闇色に染まり」、間一髪のところでこの空座町から存在を消したのだった。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「ふふ。…………ふふっ」

 

 らしくないほどに喜色を露わにして、スキップをする青年。挙動は幼児のようだが、当然のように見た目の年齢にはそぐっていない。ただ、意外な事にその顔立ちの穏やかさを基準として考えれば、違和感は少ないのかもしれない。

 少なくともバンビエッタ・バスターバインやミニーニャ・マカロンを相手にした場合は。

 

 滅却師の“見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)”において、明かり一つ浮かばぬ空の下でスキップをしながら、ブルー・ビジネスシティこと蒼都はとても楽しそうに空中を「滑っていた」。足元に構築した霊子でスキップをしながらであるが、さながらその動きは動歩道(ムービング・ウォーク)の上でツーステップのスキップを踏んでいるようでもある。手には紙袋が二つであり、周囲の景観に溶け込んでいない「現世の」お土産という風なそれであった。

 

 そんなブルーの隣に、特にスキップを踏まず覗き込みながら飛行する、桃色の髪の女性が一人。

 

「ご機嫌ですね~~、ブルー?」

「ミニーちゃん! 今日も可愛いね!」

「きゃあ!? だだ、大胆なの…………」

 

 長身の彼女はミニーニャ・マカロンであるが、満面の笑みで自分を可愛いと言いながら、普段なら「自分からは」絶対にしないだろうハグまでかましてくるブルーを相手に、さながら小さな女の子のように顔を赤くして空中で固まってしまう。

 そのままお人形さんのごとく、漫符ならば頭から煙でも上げそうな様子のまま、ブルーに手を引かれ移動するミニーニャ。一見すると青春の1ページのようであるが、二人そろって魂魄年齢はともかく実年齢はそれなりに良い年だったりするのはご愛敬。

 

 それはそうとして、自分の「恋人」であるはずの彼の見たこともないようなテンションの高さに、ミニーニャは大きく困惑し、そして照れていた。

 

「ほん、当に、テンションが高いと思うの………………。何か良いことでもあったんですぅ?」

「うん!」

「無垢な笑顔…………ッ、こ、コホン。

 出来れば理由を教えてもらえると嬉しいの。現世でナジャークープと任務だったのは知っていますけどぉ」

「へ? あ、うん。いいよ、別にサプライズとかでもないし」

 

(後多分、テンションが勝手に上がってるのは僕だけだろうしね)

 

 少しだけ冷静になったブルーだが、それでも表情はいつもの6割増しでニコニコとしており、その見慣れない表情をミニーニャは直視できなかった。ブルーから手を放すと「あう~~~~/ ω \」と自分の顔を両手で覆い、しかし指の間からチラリと見てはまた「あう~~~……」と照れに照れていた。

 

「何、現世でもちょっと古めのラブコメみてェなことしてんだよ、ガキ共」

「あっ、リルお姉ちゃん」

「リルちゃんです~~?」

 

 下の方から声をかけられたブルーとミニーニャは、そちらの方を振り向く。相も変わらず身体的な成長が見込まれないリルトット・ランパードが、建物の瓦礫めいた塀と塀の間から、二人を呆れたように見上げていた。

 なお、ミニーニャから呼ばれた「リルちゃん」という呼び名に半眼となり「オメーにちゃん付けだけで呼ばれる筋合いは無ェぞ羊女(ヽヽ)」と吐き捨てた。何かカチンとくるものでもあったのだろうか。

 

(まあ、アレでリルちゃんって僕やミニーちゃんよりはるかに年上だから、何かそういうのは嫌なのかな。…………むしろ子供っぽくて可愛い気がするけど)

「前髪野郎ォ、オメー今なんか失礼なこと考えたろ。殺す」

「ちょ!? 待って待って、お土産買って来たからちょっと勘弁してよリルお姉ちゃんッ!」

「お土産ですぅ?」

 

 うん、と言いながら、ブルーは菓子折りの小箱を一つ取り出して、下まで降りてリルトットに手渡す。「気が利くじゃねェか」と言うとリルトットは少し「浮かんで」ブルーの頭をひと撫ですると、そのまま後方の銀架城(ジルバーン)まで一足先に飛び去って行った。

 

「…………ブルー、何か顔が赤いけれども。どうかしました?」

「へ? あ、いや、うん、何でもないよ」

(リルお姉ちゃんに頭撫でられたのとか、何か久々すぎてくすぐったいや)

 

 付き合いが長くなってきたからこその照れはともかく。

 

「よう、かん?」

「うん。餡子(ソイ・ジャム)のゼリーみたいな感じのやつ」

「それも日本のなんですぅね~~。……やっぱりブルー、変な所で日本贔屓?」

「否定はあんまりしないかな」

 

 じゃあ戻ろうか、と話しながら、ブルーたちもリルトットに遅れて銀架城へと飛行して向かった。

 道中、ミニーニャから「どういう任務だったんですぅ?」と聞かれるも、ブルーは微妙にはぐらかす。というより、上手く説明できないといったところか。

 

虚圏(ヴェコムンド)に行って影に潜入して情報収集……、瀞霊廷は『何代か前の十一番隊隊長』さんのせいで、あんまり調べちゃいけないってなってた話だってのは、知ってるよね」

「一応、情報(ダーテン)はそう書いてありますね~」

「でも、あっちもあっちで情報収集って言うのも、『新しい王様』になった人が色々アレすぎて、僕とかナナナさんくらいじゃないと上手く行かなそうって話で」

「それがどうして現世に行った話になるんですぅ?」

「若干説明が難しいかなぁ――――っと、面取(チャンファリング)!」

 

 ミニーニャとお喋りをしていた途中、ブルーはミニーニャを抱きかかえ急停止しながら、高速で右腕から鉤爪を生やすと、その先端から「銀の血」を放出し、瞬間的に大きなドームを形成。

 次の瞬間には、そのドームの周囲で轟音と爆撃音のようなものが鳴り響き、密かにミニーニャはブルーの腕の中で震えていた。

 

 概ね両者ともに仕立人については想像がついているが、あえてゆっくりとドームを解きながら、抱き合ったまま上空を見上げる。

 

「――――――――帰ってきて早々、あたしを除け者にしてイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャしてるなんて良い度胸ね、二人とも」

「バンビエッタ、ちゃん……!?」

「あっ、バンビちゃんただいま!」

「こっちも凄い度胸してると思うの……ッ!!?」

 

 目からハイライトを失ったバンビエッタ・バスターバインだ。自らの周囲に複数の弓を展開し、爆弾のような球体がついた霊子の矢を大量につがえて射撃したらしい。空中には弓だけがプカプカと浮かび上がっており、更にそれらの弓へとまた霊子が収束して矢を形成しかけている。

 そんなバンビエッタに、なんら気負いもなく緊張感もなく帰宅(?)の挨拶をかますブルーである。それを受けたバンビエッタは表情を変えず「ええ、お帰り」と言いながら霊子兵装の剣を抜き放ち。

 

「でも気に入らないから、とりあえず7回くらい死になさい!」

「もう、バンビちゃんは…………。いつもながら仕方ないなぁ」

 

「……いつもより懐が深すぎる気がするの。本当に機嫌は良いのかしら」

 

 ミニーニャを庇うように彼女の前に出たブルーは両手を広げてバンビエッタを満面の笑みで迎え入れ。バンビエッタもバンビエッタで、光を失った目のまま暗い笑顔でブルーの心臓に剣を突き立て、そのまま何度も彼を「体内から」爆殺した。

 

 

 

 閑話休題。……休題できなそうなほどの致命傷を負っているのが一人いるが、どうせ直るので休題。

 

 

 

聖櫃(アーク)? って、それ何でよ。あのロボの残骸から騎士団長(グランドマスター)が作ってたやつよね。あの白い四角い奴。

 わざわざ持っていってたの?」

「うん。というより、情報収集よりそっちの方が本題だったみたいでさ。僕、知らされてなかったんだけど」

「バンビエッタちゃん、しっかり情報(ダーテン)読み込んでる……!?」

 

 ミニーニャとバンビエッタに挟まれる形で(特に物理的には挟まれていない)、ブルーは二人に顔を行ったり来たりと向けながら話をする。既に城の廊下であり、人の気配はない。

 そもそもナナナ・ナジャークープがメインで引き受けていた任務は、かつて「BG9(ベーゲーノイン)」を自称した一人の滅却師、その死体からハッシュヴァルトが作り出した、とあるアイテムを持っていくことだったらしい。

 

「普通の霊子は十分溜まったから、敵対種族の霊子を溜めることで、その『生存本能を呼び覚ます』、っていうことらしい」

「どういうことよ」

「ナナナさんもよくわかってなかったし、あんまり深く突っ込むとアレかなって」

「使えないわねぇあの白黒出っ歯」

「それ、リルトット先輩が使ってた罵倒だと思うの」

「いいじゃない分かり易いし。それで? 何でわざわざ現世にまで行くことに――――」

 

 

 

『――――その続きは、私の口から説明しよう。相も変わらずブルーを爆殺しているようだな、バンビエッタ・バスターバイン』

 

 

 

 は? と。背後からかけられた声に、バンビエッタは一瞬思考が止まる。

 何処か聞き覚えのある物言いと、その霊圧の感覚。まさか、と冷汗をかきながら振り返るバンビエッタとミニーニャ。

 

 そこに居たのは痩身の男。身長はミニーニャに迫らんと言う程に高く、白い死覇装を纏い、頭の後ろには黒く短い三つ編み。そして顔面には、「どこかで見覚えのある」騎士の頭部鎧をデフォルメしたような、あるいは()で構成し直したようなもの。

 その仮面めいたものの奥から、鈍い光が三人を見つめていた。

 

「う、そ…………!? ロボ、あなた生きてたの……?」

 

『その質問には、否と答える。以前「BG9」を名乗っていた個体としての私は、完膚なきまでに死んでいる』

 

 かつて虚に殺されたはずの滅却師、BG9は感情もなく、淡々と言葉を続けた。

 BG(べーげー)もお帰り! と笑顔でサムズアップするブルー。そんな青年に、サムズアップを返そうとして、しかし「手首から先がない」自らの手を見て数秒固まり、二回首肯して返答とした。

 

 嘘でしょ、と。有り得ないものを見たような光景を前に、バンビエッタは自分の身体を抱きしめて震える。

 一方のミニーニャはブルーの笑顔の理由に合点がいったらしく、それなら納得ですかねぇとこちらも微笑んだ。

 

「このロボの人、頼りになるお兄さんみたいなものでしたしね、ブルー。

 ……それはそうと、見た目とか全然違うのに声は一緒なんですぅ?」

『たまたまだ。声紋の一致率は驚異の89%だが、特に狙ったという訳ではない』

「その話し方、本当にロボの人ですね~~~~」

 

「――――――そんなの、有り得ないじゃないッ! あたし見たのよそのロボ野郎の死体ッ! ちゃんと、落ち込んだブルーと一緒にッ!」

「バンビちゃん?」

 

 ガタガタと震えながら、バンビエッタは震えた手で霊子兵装の剣を握り、BG9へと突き付ける。わずかに涙目になっているそんな彼女に、やはりというべきかBG9は振る舞いを変えない。

 

『繰り返すが、かつてBG9を名乗っていた滅却師は死んでいる』

「じゃあ、あなたは何なのよッ!? 幽霊の世界で幽霊が出るとか馬鹿みたいなこと言うんじゃないでしょうねェ!」

『その理屈を言えばこの城の滅却師は「霊子」と「器子」との境界が曖昧故に、生者も死者も同時に存在していると記憶しているが。

 そこのブルーとて、「器子」換算で言えば生存率は――――』

「うわあああああああっ!」

 

 バンビちゃん!? と、ブルーが止めに入るよりも先に、その剣はBG9の胴体を凪いで、上半身と下半身を真っ二つに分離させた。

 これにはミニーニャも一瞬絶句。追撃で爆破させようとするバンビエッタを、ブルーは背後から羽交い絞めにして「面取(チャンファリング)!」と銀のドームで覆う。……ご丁寧にお土産の袋は外に放置しているあたり、この後の展開に予想がついているのだろう。慣れたものである。

 

 ドーム越しに息絶え絶えなブルーの声と、連続した爆撃が聞こえており、ミニーニャは少しだけ「逃げちゃいましょうか」と呟いた。

 

「…………いや逃げンなよ、どう見ても犯人バンビだろォが同罪にされるぞオメー」

「りり、リルお姉さんッ!?」

「お、動揺しすぎだぜ。呼び方、だいぶ昔に戻ってんよ」

 

 そして背後からぬっとあらわれたリルトット。ブルーのお土産だろう羊羹をガジガジと「口を変形させながら」齧りつつ、半眼で銀のドームとミニーニャ、胴体からぶった切られたBG9らしきものを見る。

 

「……現行犯だなあのサイコビッチ。いや、つーかロボ野郎ォの霊圧するぞコレ? 何がどうなってんだ」

「私も事情は知らないっていうか。……あっ! 今ならまだジジさんが居れば治せるんじゃ――――」

 

『――――それには及ばない。全体の破損度50パーセント、このレベルならまだ“神の傀儡(フィルトエル)”の適用範囲内にある』

 

 はァ!? と声を荒げて一歩後退するリルトットと、死体のようになっている上半身の方から「電子音めいた声が」聞こえたことで、ミニーニャも思わず腰を抜かした。

 次の瞬間、「血の出ていなかった」上半身の断面からウネウネと、虚の髄を思わせる触手めいた何かが這い出る。それら複数の触手は倒れたままの下半身へと延び、断面へと入り込み、ぐちゅぐちゅと「肉を裂くような」音を立てながら上半身の方へと引きずり、そして接合した。

 

 何事もなかったかのように立ち上がるBG9。その、いっそエス・ノトが得意そうなホラーめいた光景に、リルトットは「エイリアン野郎にでも改名すっか?」などと世迷言を呟く。彼女も彼女で混乱しているのだろうが、さておき。

 

 その光景を「解除されかかった」ドームの内側から目撃したバンビエッタは、むしろ冷静さを取り戻した顔でBG9のことを見ていた。

 

「…………そういうこと。だったらむしろ納得したわ、安心安心。

 それ、あなたの完聖体ってことよね」

 

『肯定する。我が“神の傀儡(フィルトエル)”は、我が仮聖文字“I-騎士-(イポテス)”の性質をより極端としたもの。

 ――――この身は既に滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)「そのもの」。我が能力核となる聖櫃(アーク)が無事であるならば、我が意志は何度でも、いかなる物をも「乗っ取ることで」、この世界へと再臨する』

 

 つまり、こういうことである。

 聖櫃……、かつて死亡したBG9の聖文字“K-殺戮機械-(ザ・キラーマシーン)”の本体(ヽヽ)たる核の立方体の物体。それにハッシュヴァルトをはじめとした一部の聖章騎士が数年間、霊力を注ぎ込んだことで彼の「意志」が復活し。生存本能を虚たちの霊圧溢れる場所でより刺激されたことで完全に覚醒へと至り。

 覚醒早々に「我が肉体の適合率が高い個体を捕捉。追跡を依頼する」と言われれば、ブルーがそれに応じない訳はない。現世へと向かう数体の破面たちの後を「影」伝いで追ったブルーとBG9(の本体)。

 

 その結果、現世にてとある破面を自らの肉体として決定し、それを「奪い取る形で」復活したのが、今のBG9ということだ。

 

(滅却師としての霊的な弱点は、すでに肉体がないことで無理やりクリア。虚だろうと何だろうと強制的に寄生できるっていう形みたいだけど、絵面は完全にアレなんだよなぁ……、シャウロンェ……。まあ復活してくれたことの方が何倍も嬉しいんだけどさ)

 

「というわけで、BGお帰りなさい! ってことなんだけど……、もう殺さないよね、バンビちゃん」

「あなた、あたしを何だと思ってるの? ()とかみたいなものならいくらでもぶち殺すけど、陛下の力だっていうのならやらないわよ。下手したら粛清されちゃうじゃない」

(やっぱり怖がるポイントが変なんだよなぁこの子…………)

「もっと気にするところが一杯あると思うの……」

 

 相も変わらずなやり取りをするブルーたちを見て、そして呆れた様子のリルトットを一瞥すると。新生したBG9は自らの身体を見て「今後を踏まえればバンビエッタ・バスターバインの攻撃に巻き込まれて破損する確率、百パーセント。改造が必須と考える」と、ぼそりと呟いた。

 

 

 

 

 


【おまけ】

 

「そういやオメーの技、名前なんて付けてたか? チャンファリングとか」

「キャンディお姉ちゃんから『溶接系のネーミングとか使ったら恰好良いんじゃないか』って。せっかく蒸着ってつけたんだし」

「キャンディがなぁ…………、なんか色々理由着けてベタベタする回数増やしてやがるし、やっぱり狙われてンのか? オメー」

「流石にそれは……、ないよね?」

「オレに聞くなよ前髪野郎」

「いや、そこはまぁ、一番お姉ちゃんだし、人生経験積んでそうだし」

「おだてたって安っぽい味したキャンディくらいしか出さねェからな。……年だって『死んでから』重ねた方が長いとかいう次元じゃねェし。無駄な年月だよ大体なぁ。

 ま、それはそうと俺は別に『オトされ無い』から、気楽なモンだけどな」

「僕もそういうつもりは無いというか……。まあ、可愛いですけど」

「何で敬語になってンだよガキが、はっ」

(いや、性格的にはリルちゃんが一番安心できるけど、リルちゃんはグレミィさんのだと思うし。……カップリングなのかコンビなのかは、突っ込むのは野暮だと思うけど)

 

 なおこの後、本当に合成着色料ごってりの蛍光ブルーな色をしたペロペロキャンディ―をもらったとか何とか。

 

 



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#026.役者は果たして誰なのか

息抜きのような、ちょっと重要な部分もあるような無いような、そんな回です
 
※大体破面編終了くらいの時系列


 

 

 

 

 

 それは、エス・ノトのこんな不用意な発言から始まった。

 

「ソウイエバ……、影カラ出テノ調査トカハシナインデス? 潜入トカ」

 

 潜入? と、たまたま食堂でばったり会ったブルーとジジのコンビと一緒に昼食中。エス・ノトはふとした疑問としてそんなことを言った。

 曰く、情報(ダーテン)収集の任務といっても危険度に応じて騎士団の中でも下位から上位に割り振られるのなら、ブルーたちはそういったことに出向いたことがないのかという、そういった疑問らしい。

 

 つい先月か、BG9復活にまつわるあれこれでテンションが上がったブルーという珍しい光景があったりしたものの、その際にブルーはナナナ・ナジャークープと共に調査に出向いていたのだが、それとて影に隠れての任務である。実際に霊圧を押さえるなり何なりして、現世での長期調査といったようなことを、ブルーたちは経験したことがなかった。

 

「大体バンビちゃんのせいじゃないかなー?」

「ジジさん?」

「ソレハ、ドウイウコト? ……ッ!? 怖イッ」

 

 自分の手前の皿に盛られているサラダのトマトに、フォークを逆手に握ったまま「ガンッ!」と叩きつける様に突き刺しながら話をするジジ。その際に刺さった勢いで飛び散った液体とそれに向けるジジのほの暗い目を前に、エス・ノトは軽い悲鳴を上げた。

 なお、特に気にした様子もないブルーは平常運転と言えば平常運転である。

 

「んー、はむはむ。トマト、トマト。

 えーっと、ほらもともとバンビちゃんってさ? リルとかキャンディちゃんが二人でコンビしていたところに、後から割って入ったみたいなんだけどさ? その時、どうも無理やり聖文字使って二人ともボッコボコにして、バンビちゃん拒否できないように力見せつけてから入ったらしいし。今も昔もそーゆーとこあんまり変わってないよねー!」

「その話、僕、初耳なんですけど……」

「リルもブルーにはお姉ちゃんぶってるしー、恥ずかしいんじゃないの?

 ま、それでー、その話って当然だけどキルゲのおっさんとかロバートお爺ちゃんには伝わるし、騎士団長(グランドマスター)だってそういうのは知ってると思うんだよね。僕の性別(こと)も普通に知ってるみたいだし」

「ツマリ……、怖イ?」

「間違ってはいないかなぁ……、あはは…………」

(ここ十数年で当たり散らす対象は大体僕に固定されるようになったけど、それ以前は当然、原作のバンビちゃんな訳で……、やはり頭バンビエッタは頭バンビエッタか)

 

 つまるところ、情緒不安定のチーム編成不適合者である。なんなら実力が高いばかりに色々問題にはされていなかったが、平然と仲間を背中から撃つことに躊躇いのない精神性と、他者からは判り辛い本人の地雷を引いた瞬間の一気呵成振りから、制御できないと判断されたのだろう。

 結果としてバンビエッタを刺激しない方向に回ったのか、あるいはそういった些事にエネルギーをとられることを回避したのか、彼女が自らの周囲に置く面々の大体にそういう声がかからなくなった、というのがジジの推測だった。

 

「潜入任務とか、どう考えても長期任務になるじゃん? 協調性皆無だと色々アレだよね~ってことかなって! ね! ね!

 ――――ケッ」

「怖イ」

「ノト君大丈夫? どうどう…………、」

 

 突然荒んだ表情で心の闇が表出しかけているジジに怯えるエス・ノト。思わずそれを宥めながら、ブルーもブルーで普段のバンビエッタの言動を思い描き一言。

 

「確かに演技とか苦手そうだし、あんまり我慢強くないからねバンビちゃん。朝三暮四とか凄い苦手かな。日本風に言うと、泣かぬなら、殺してしまえ、ホトトギス」

「何で鳥?」

「ソウイウ諺デスネ」

 

 ちなみに「鳴かぬなら」なので、誤字である。

 

(それに、前に一回ポリネシア〇しようとかバンビちゃんから言い出したけど、結局初日で計画破綻したし………………、誘惑と我慢に弱いと言うか、命がかかってない案件の引き金の軽さよ)

 

 若干のシモネタ思考であるが、そんなことは表面上伝わらないので「ブルーをしてもそういう発想になるのかぁ……」と言う具合で、ジジは酷く納得していた。

 そしてエス・ノトは「怖イ」を連呼する。

 

「ノトくん? 一体どうしたのさ」

「悪魔ノ話ヲスルト、悪魔ガヤッテクル」

「何でことわざ?」

(噂をすれば影が来る、と一緒だっけ意味。…………えっ?)

 

 

 

「――――面白い話をしているじゃない、あなた達」

 

 

 

 あっ、と表情が凍り付くブルーとジジ。エスノトは白目を向いて視線を逸らす。

 ブルーの背後に現れたバンビエッタが、ハイライトを失った目でブルーの頭を抱きしめ、その首に手をかけた。

 

「食事は終わった? なら行くわよブルー。ジジもいつもの所に来るのよ。あんまり急がなくていいけど」

「う、うん…………、わかったよバンビちゃ~ん……」

「え、えっと、あの、バンビちゃん?」

「いいのよ判ってるわ、どうせあたしが悪いんでしょ。でも気に入らないからちょっと来なさいッ!」

「わわ!? あ~れ~~~ ……」

 

「怖イ……」

 

 見た目にそぐわない幼さを感じる声音で、襟首をつかまれ引っ張られていくブルー。そのままバンビは彼を自室まで連れ込み、そこから十数分後、妙にすっきりツヤツヤした顔で出て来てから。

 

 

 

「というわけで、今から皆でバンビーズ一番の演技派滅却師(クインシー)決定戦やるわよッ! あたしたちが美少女ってだけじゃないことを、騎士団の皆に知らしめてやるのよ! 特にブルー! ブルー! ブルー! 審査員は例によってブルーよ!」

 

 

 

「またこのパターンなのかよ、バンビ……」

「今回はブルー、縛らなくても良いの? バンビエッタちゃん」

「なんとなくこーゆー展開になる気はしてたんだよね~」

「知らしめるも何も、暴力的で頭ハッピートリガーのヤベェ女だってほぼ全域に広がっちまってるだろォがサイコビッチ」

 

 サイコビッチは止めなさいッ!? と絶叫してリルトットに指さすバンビエッタ。勢いで言ったせいで、今のリルトットの言い回しがバンビエッタ一人を示した悪口であることまで気が回っていない。

 そんな彼女の様子を、特に拘束はされていないものの微妙に疲れた様子で、若干内股になりながら蒼都(ブルー)は引きつった笑みを浮かべていた。そもそも全員適正ないのでは? という発想が出てこないあたり、やはり毒されているブルー・ビジネスシティこと蒼都である。

 

「とにかく、あの新入りにブルーもジジもこのあたし、バンビエッタちゃんが演技できないーみたいなこと教え込んでたから、それは違うって二人に教えてあげたいの。

 あたしだってやる時はやるのよって所、見せてあげるわ!」

「やる時はやるっつったって、()る時は()ってるし、()ることは()ってンだろ」

「後ろ半分はミニーもかな~?」

「ふえぇぇ!?」

「また微妙にギリギリなこと言うじゃんか……。

 って言っても、演技とか何やるのさバンビ。まさかとは思うけど、全員で演劇するーとか言い出さないよな。あたし達、そんな時間さすがに無いし……。陛下もあと数年で侵攻とか言ってるから、遊べるのは今のうちに遊んでるし、訓練するのは訓練してるし」

 

 ようやく完聖体も強化出来そうな感じになって来たからさぁ、と言うキャンディスに、そんな時間かかることはしないわよ、と腕を組んで胸を張るバンビエッタ。

 

「バンビちゃんは頭良いの。頭良いってのは、情報の精査と決断が早い事だってあたし思うのよ。だからもう一目見て、誰も言い訳できないくらい優劣がつく感じので良いんじゃないかしら」

「その頭の良し悪しの言い回しについては、どうなんだろうね……」

(研究職とかのタイプを完全否定している感じがするし)

「何よ、文句あるのかな? ブルー」

「文句と言うか何というか…………。まあ、それは後でね。続けて続けて」

 

 ニコニコしながら促すブルーに、一瞬大きく見開いて「そ、そう」と慌てたように視線をそらすバンビエッタ。

 

「というわけで、さっき作って来たんだけど…………、ブルー、返して?

 はい、じゃ~ん! くじ!」

「シンプルだなオイ」

 

 そしてバンビエッタが机の上に置いたのは、いかにも手作りらしい段ボールに穴の空いた箱。いわゆる抽選券でもおなじみなタイプのくじで、中には紙でお題が書かれているらしい。

 覗き込んで、1枚2枚どころか数十枚はありそうな有様のそれに「結構多いな」とリルトットは肩をすくめ、手元の小袋からグミを一粒食べた。

 

「ちょっとお試しに引いても良いですぅ?」

「いいよ」

「では…………、えっと、『お姉様の保育士さんが仕事に疲れた弟分を甘やかす』? えっと、何ですぅ、お題のシチュエーションというか、指定が濃い気が……」 

 

 お試しと言うことで引くミニーニャは、他にも2枚ほど「年上の異性に慣れていないハイスクールの引っ込み思案の子」やら「場末のネット掲示板でさらし者にされることにちょっと快感を覚え始めてる女の子」やら、微妙にシチュエーションが濃い指定。

 困惑している彼女に、バンビエッタが「それ、ブルーの書いたやつだから」と平然と宣った。

 

「演技力を試すお題でしょ? だから一見して、すぐにイメージしづらい感じのを作らせたの」

「作らせたって、オメー ……」

「多分、十分くらいしか時間なかったんじゃない?」

「無茶ぶりだと思うの」

「う、うるさいわねっ! 別にいいでしょ、じゃあ早く引きなさいよ!」

 

 何だか周囲の視線が半眼になり、なんとなく居心地が悪くなったバンビエッタだったが。そんな彼女たちを尻目に、ブルーの方へとキャンディスが近寄って、耳音でボソボソと確認した。

 

「(…………これひょっとして、ブルー、あんたの趣味入ってる? この「毒舌でツンツンしてるけど根はやさしい彼女」とか)」

「(えっと……、バンビちゃんには内緒で)」

(流石に時間がなかったから、勢いで設定とか書いたやつは僕の性癖も入ってるよなぁ……。それはそうと、覗き込まれるとおっぱいの谷間が至近距離でこう、ありがとうございますっ)

 

 あ~、と何かに納得したようなキャンディスは、ふとブルーの視線に気づいて「そういうのは一応バンビとかミニーにしときなよ」とツンツン額を小突いて苦笑いしてからバンビエッタの待ち受けるくじを引きに行った。

 

 果たして、それぞれの引き当てたお題は…………。

 

 

・1番手:ミニーニャ「年下の甲斐甲斐しい奥さん」

 

 ロングスカートタイプの私服の上からエプロンを羽織ったミニーニャが、さもブルーが今、自宅の扉を開けて帰宅した風の流れで微笑み、出迎える仕草をする。

 

「……あっ、お帰りなさい? ブルー」

「え? あ、僕が普通に旦那様設定でやるんだ……」

「いいじゃないですか。それでは、えーっと、ご飯にしますか? お風呂にしますか?」

「…………、ご飯って大丈夫? 作れる? ミニーちゃんってまだ、包丁壊しちゃう(ヽヽヽヽヽ)から持てないんじゃ……」

「何かいいました?」

「あっ可愛い……、ウインクあざとい…………」

「それではお風呂にいきますかね~。はい、これお着換え、洗濯物…………」

「……ビリビリだね」

「ここ、こんなはずでは…………、私にお嫁さんは早いっていうんですかブルー!? えいっ」

「全力でハグするのは止めないかな、首ねじ切れちゃうから!」

 

(いつものミニーちゃんだよね、うん。あっ、でも首から上は柔らかくて天国だから、多少は……、多少は……、あっリルちゃんが絶叫しながら止めに入ってる。バンビちゃんは放置してるなー、そっかー …………)

 

 

 

・2番手:バンビエッタ「照れ屋の下級生」

 

 水兵服、日本のアニメーションにでもありそうな制服姿に、前髪を整えて垂らして視線を隠し、そのままブルーの背後に回り込んだバンビエッタ。不意打ちをするでもなく、そのまま抱き着き、何も言わず何もせず。ブルーも困惑して、これには言葉が出てこなかった。

 

「…………」

「あの、バンビちゃん、どうしたの? ずっと僕の背中に隠れて」

「怖い……、です」

「それノト君のキャラと被ってるから…………。あと、照れるっていうより怖がりの方のキャラな気が……」

「うっさい、です。…………先輩は、私の肉壁になってればいい、です」

「肉壁って何か物騒なフレーズが飛んできた気がするんだけど!?」

「大体、先輩が悪いん、です。あたしだけ、一番大事にしないから、あたしがこんな、振り回されてる、です。……先輩は、ずっとあたしと一緒にいればいい、です」

 

(演技力自体は確かに思ったより高いけど、何かをはき違えてる気がするんだよなぁ……。あっでも、いつもよりストレートにぎゅーってしてるせいか、顔が真っ赤みたいだから、それは可愛いかな? 爆殺してこない分には)

 

 

 

・3番手:キャンディス「社歴十年くらいの先輩OL」

 

 わざわざ誂えたのか黒いミニスカートなスーツ姿で、ブルーと肩を組んで気楽に笑うキャンディスである。

 

「はーい、カンパーイ!」

「えっ? あ、か、かんぱーい…………、どういう設定? キャンディお姉ちゃん」

「こう、会社のプロジェクトが一つ終わった後の、二人っきりの飲み会?」

「わかった、うん。…………何か似合うね」

「何だとー? あたしが大雑把だと言いたいのかコイツめー」

「あう、あう、あう……、ほっぺた指でぐりぐりしないでくださいよー、酔ってるんですか?」

「酔わなきゃ仕事なんてやってらんないじゃんかっ。エコノミックアニマルじゃないんだから、仕事っていうのは苦役ッ! 苦役が終われば余暇(バカンス)! このバカンスのためにあたし達は働いてるんだから。最近入ったばっかでまだまだここの会社、慣れてないだろうけど、あんまり気負いすぎないでさ、な? もっと気楽に構えてなよ。

 大丈夫、仕事がなくなってもすぐには死なないしさ。……万一のときはあたし起業するから、ウチの会社入ればいいじゃん?」

 

(うん、普段のキャンディちゃんっぽくありながら、ちゃんと設定は準拠してるな。……あんまり私情も出してる感じはないし、設定も練った上でやってるから、意外と受け答えも変じゃないし)

 

 

  

・4番手:ジゼル・ジュエル「カリスマ恋愛占い師」

 

 特に着替える訳でもなく、普段通りのジジが、聖隷(スクラヴェライ)で造り出した髑髏水晶もどきを前に、いかにもな占い師風のポーズをとる。

 

「むむむ……、見えます! 視えます! あなたの運勢が」

「はい、えっと…………、どんな感じです?」

「ズバリ、ハーレムです」

「……えっ?」

(いきなり何を言ってるんだ、この(ジジさん)

「基本的に■■■がもげれば良いと思うけど、それはそれで勿体ないし~、だからといって■■■■されて■■する分の量で■■しない程度には■■なのは正直に言えば羨ましくもあるけど~、それはそうとして■■■■■■■■■■――――」(※自主規制)

 

「中止だ、中止ッ! 教育に悪いだろォがコイツ!

 オメー少しは真面目にやれこのクソ野郎(ビッチ)! 真面目にやらなくても限度考えろッ!」

「えぇ~! リル、それだとつまんないんだけど~~~~!」

 

 

 

・5番手:リルトット「アパートの心優しい大家さん」

 

「…………あー、いや、俺参加するとか言ってねェんだけど」

「ダメよ、やりなさいよリル」

 

 帽子をとって頭をかくリルトットに、バンビエッタは両腕を組んで言う。面倒くさそうに視線を逸らすリルトットの様子に、むしろ不思議そうなバンビエッタだ。

 

「何、負けるのが嫌とかそんなこと? 結構前だけど、変身ポーズ決めた時とか一位だったじゃない。そこから陥落するの、嫌なの?」

「いや、別にそんな拘りはねーけど、オメーらよォ……」

 

 ちらりとブルーの方を見て、「やりにくいったら無ぇぜ」とどこかやり辛そうなリルトット。

 そんな彼女の様子を見て、ブルーは何かを察したように頭を下げ、そしてジジも気付いた。ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべて、リルトットに顔を近づける。

 

「あ~リルってば、さては照れてる~?」

 

「なん、えっ、何…………?」

「――――」

「いや爆撃準備すんの止めなってバンビさぁ!? いや照れるくらい普通にあるじゃんかっ! (あたしだってブルーの睨んだ顔とか凄いイケメンだからドキドキするし……)」

「何か言った? キャンディ」

「い、いや、何でもないけどさ」

 

 混乱しているミニーニャに、何故か即刻殺意をみなぎらせるバンビエッタ。それでもキャンディスの窘めで辛うじて実行を制止するくらいの冷静さを得たとみるべきか、何と言うべきか。

 いや照れるくらいフツーだろ、とリルトットは帽子をかぶり直す。

 

「別に全裸とかじゃなけりゃ、恰好には文句つけねーけどよ。審査員がブルーだから、ブルーから如何見えるかって前提で演技してンだろ?

 俺からすりゃ、コイツはガキの頃から見てる訳だし、何かこうしっくりこねーっていうか、わかるか? 別に『そういう』話じゃなくても、やり辛ぇだろーが」

「あぁ~ ……」

 

 キャンディあたりは年代が近いからか、なんとなく察する物があったらしい。気恥ずかしいことに違いは無いのだが、そのしっくり来ないような感覚は微妙な感情の機微と、関係性に依存する物だ。

 とはいえそんな「自分の裁量から外れる」部分を、バンビエッタが考慮する訳もなく、結局は押し切られることになったリルトット。以前に比べて、彼女もまたバンビエッタに対しては態度が軟化している証かもしれない。

 

 とはいえ、それが良くなかった。

 

 小さい背に合わせてニット生地の長袖ワンピース(ミニスカート)にミニーニャが着用していたエプロンを借りる形で装備したリルトット。帽子を取った上で「大家っつーなら、髪あんまりアレだと邪魔か」と言いながらリボンで適当に後ろにまとめ、軽いポニーテール風に。

 そんな恰好になった彼女は、数秒思案すると。

 

 

「――――あら、こんにちは。ブルーさん。今日も学校ですか?」

 

 

 

『だ、誰!?』

 

 ブルーすら含め、ほぼ全員が目を見開いて呆気にとられた。そこに居たのは、普段の毒舌を欠片も表に出さず、ほんのり微笑んで相手を気遣う一人の女性である。少女らしい容姿であるはずのリルトットから、少女らしからぬ包容力に加え、どこか年下の子供なら感じ得る、年上の女性らしい独特の色気すら漂っていた。

 思わずジジすらごくりと唾を飲み込む時点で、その変貌ぶりの大きさがうかがえる。

 

(もはやキャラ崩壊の域では……? いや、アニメのCV的にはそんなに違和感がある演技でもないけど。

 というか僕たちからアレなリアクションとられてるのに、毒一つ吐いてこないリルちゃん、凄い新鮮だ……)

 

「ブルーさん?」

「へ? あ、えっと、はい。……えー、はい、学校、帰りです」

「あら、そうですか。最近寒くなってきましたから、色々気を付けてくださいね?」

「は、はい……」

「そうだ。今日、ウチのペットの誕生日なんで、何かお祝いしようと思ってたんですよ。せっかくですから、ブルーさんもウチに来ませんか?」

「い、いいんですか?」

「はい! 美味しいチキンを用意しておきますね。それとも…………、日本のカレーが良いですか?」

「カレー大好きですッ!」

「フフフ、私も好きですよ。では、準備が出来たら連絡入れるので、それまでお待ちくださいね――――」

 

(普通に美人のお姉さんって感じが強すぎて、リアクションに、困る)

 

 

 

・結果発表:優勝、リルトット

 

「何でよ!? あたし、頑張ったよね!」

「流石にあそこまでキャラ変されると、勝てる気がしないと思うの……」

 

 ミニーニャの一言の通り、ブルーもそうだがバンビエッタ以外の感想もまた満場一致で、優勝はリルトットであった。

 

「メンバーの中で、全く自分の性格とか出さなかったって意味でも、優勝じゃんか」

 

 演技をしている、というよりも自然な風で、特に設定を練ったわけでもなくすんなりと納得させられる。そのあたり一連の流れをふまえて演技力と言われてしまえば、実際問題リルトットの一人勝ち状態である。

 

「リルにあんな特技があるなんて、ボク知らなかったな~」

「特技っつーか、ブルーの読んでる漫画見てだよ。大家っていって、そういうのがあったって思ってな」

「キャラクターの演技をしたってことか、なら納得かな~。

 ……って、ブルー? どうしたの、リルから顔逸らして」

 

「い、いや、その…………」

 

 そして、リルトット本人から作戦の内訳を聞き出していたジジだったが、それよりも挙動不審気味なブルーの方が気になるらしい。リルトットの肩を持って「ほいほいっと」と彼の視線の先に向かえば、リルトットと目が合うたびに緊張したように視線を逸らすブルー。

 リルトットもリルトットで、そのブルーの挙動に釣られて微妙に緊張したように、少しだけ頬が赤い。

 

「……いやオメー、しっかり成長してンだからよ。俺相手に色気づいたら犯罪だろーが前髪野郎ォ」

「そ、そういう訳じゃないんだけどさ、あ、あはは…………」

(さっきの大家さんのイメージが脳裏にこびりついて、なんか直視できないというか……)

 

 お互い微妙な空気である。

 あれあれ? あれあれ? と困惑しているジジであったが、すぐさま「ひょ!?」と声を荒げて、リルトットの肩をもったまま後退。

 

 ジジさん? と聞き返すブルーの左右に、ミニーニャとバンビエッタが、それはそれは見たこともない程の満面の笑みを浮かべて立っていた。

 

「行くわよ、ミニー」

「ええ、バンビエッタちゃん」

 

「あれ? えっと、二人とも一体どうして――――あ~れ~ ――――」

 

 そして彼女たちはブルーの腕をそれぞれ抱きしめる形でロックすると、そのまま集合部屋から外に出てブルーを何処かへと連行していく。……おそらく彼の私室か何かだろうが、それを見送りながらキャンディスは「仲良しになったじゃん」と苦笑いを浮かべた。

 

「本日二回目かぁ~。ブルー頑張れっ」

「自分で企画して自分で自爆してりゃ話にならねェンだよなぁ、あの小鹿女」

「まーそういう隙のあるところが良いんじゃない? 『殺す理由も作り易くて』」

「オメーの私怨は理解しちゃいるけど、程々にしとけよ。ブルーのアレがこっちに向くとか、悪夢でしかねェぞゴキブリ野郎」

「ゴキブリも野郎も止めてよねッ!? ぼ、ボク、普通の女の子だしー。こんなに可愛いんだから女の子だもーん!」

 

 慌てたように抗議するジジを軽く無視して、リルトットはブルーの去っていった入り口の方を見やり。「やっぱ無ェな」とニヒルに微笑んでから、再びグミ粒を取り出して齧り始めた。 

 

 

 

 


【おまけ】

 

「そういえばだけど、結局バンビちゃんとミニーって、ブルーのことどうするか決まったんだっけ。どっちかが独占するーってことでしばらく喧嘩してたし」

「知らねェけど共存してるっつーことは、何かしら落としどころが出来たっつーことじゃねェのか?」

「あれ? 二人とも知らなかったっけ。

 バンビから聞いたんだけど、共存ってよりは……、囲うことにしたらしいじゃん」

「「囲う?」」

「色々やりあって、どっちもいないとダメだって結論になったから、最終的にブルーが決めるまでノータッチにしようってことで、二人で順番とか当番とか決めてやってるって」

「えっブルーに選ばせるつもりなの?」

「選べンのかあの前髪野郎。そのあたり、全然ガキのままなんじゃねーのか」

「まあ、こういうのは野暮だし。あたしもあんまり人の事言えないから、ほら」

「ハッ」

「流石、尻軽キャンディちゃん。自分の部隊を自分の過去の男で構成するだけあるよね~」

「かか、過去の男とか言うなって!? たまに別れた相手ともまた付き合ったりしてるしッ」

「その付き合うのと別れるのの周期が早すぎンだよなぁビッチ」

 

 

 



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#027.最期まで自覚すらなかった

※痣城剣八が卍解をやめたので調査が本格化して、いよいよ決戦の準備が始まってる騎士団


 

 

 

 

 

「おっじゃましまーす。ブルー以外に先客二名……? あれ、一人だ。

 というかリル? 何でブルーの部屋に。どうしたの? って、あれ? んーブルーを膝枕…………、ひざ……、えっちょっと待って、首だけ!? えっリル第一容疑者!!?」

 

「違ェし、あんま大声出すなゴキブリ野郎ォ。騒ぐと小鹿女に見つかンだろォが」

「あ、あはは…………」

(リルちゃん何か凄い甘ったるい匂いがする……)

 

 何の用事があったわけでも無く遊びに来たジジが目撃したのは、ブルーこと蒼都(ツァントゥ)の生首を膝の上に乗せて、それを抱きしめるように覆いかぶさって半眼を向けるリルトットの姿であった。

 ブルー本人は首が切断された状態だというのに断面を銀色に輝かせ、大したことはなさそうに苦笑いを向けて来る。

 そんなブルーの頭頂部に顎を乗せて、どこかつまらなそうに前髪をくるくる巻いたりして戯れているリルトット。ブルーの頭の中は後頭部に柔らかさを感じなくて悲しいなど中々失礼な感想が飛び交っているが、知らぬが仏か、予想はしているか。

 

 だからゴキブリは止めて!!? と悲鳴に近い声を上げてから、再度事情を問うジジに、はぐらかすでもなく面倒そうなリルトットである。

 

「今キャンディス(ビッチ)に色々もの持って来させてるから少し待て。つーかオメー何しに来たンだ?」

「えぇ~? なんか~、そろそろ戦争近いからって訓練場に人溢れて来たからエスケープ的な~? バンビちゃんもミニーも珍しくやる気になってたし。あの場にいたら、それこそ見かけなかったブルー探して来いって言われそうだったから逃げてきちゃった☆」

「二人ともやる気になってるの?」

 

 首だけとは言え不思議そうに聞くブルーに「そだよー」と答えつつ、ジジはしゃがみ込んでブルーの顔を覗き込み、訝し気に表情を歪める。

 

「ねぇリルー。ブルーって普通すぐに再生すると思うんだけど……、どうしてまだ首チョンパされたままなわけ?」

「僕にもよくわからないんだよ、ジジさん」

「だァから外に運べねェんだろォが。普通に廊下歩いてて、首だけ転がったの目撃した俺の気も考えろよ? 普通にぶっ殺されるんじゃねェかってビクビクしたからな」

「その節はどうも……。うん、でもその…………、ちょっと怯えるリルお姉ちゃんは可愛かったです」

「へぇ~? ボクも見たかったな~、リルのカワイイところ」

「前髪野郎ォはともかくオメーはアウトだクソ野郎(ビッチ)が」

 

 少しキレながらも何故かブルーの口に袋キャンディを、ちゃんと包装を剥がしてから放り込んでるリルトットであるが、そのあたりの心の機微はさておき。

 

 実際問題何が起こったかと言えば、ブルー的には「わからない」が正解である。

 朝一番に廊下を普通に歩いて訓練場へ向かっていたのは覚えているが、気が付けば首だけ残ったまま転がっていた。以上である。

 首のみなので「銀の蒸着」の基点となる爪を扱うことも難しく、また何故か再生がかからない状態。この姿を見つかればバンビエッタやミニーニャが一体何をしでかすか、考えるだけでも恐ろしい。

 

(犯人捜しとか言いながら城全域を爆撃とか暴力で粉砕とかし始めるんじゃないかな……。恐怖しかないんだけど、僕が大事にされてるってことでもあるから、ちょっとそれはそれで嬉しい気もする。

 まあどうせ僕ごと粉砕するんだろうけど。怖い……)

 

 エス・ノトのようなことを言いながら戦々恐々としていたブルーであったが、そんな彼を見つけたのが菓子袋を持たず霊子兵装で傘を形成して、杖のようにして歩いていたリルトット。

 

 首だけ転がっている状態。必然見上げる形でリルトットの顔と、伸びる彼女の細い脚の根本にあるミニスカートの中身を目撃しながら、頬が引きつるブルー。

 

『…………縞々』

『オメーその状態で随分良い根性してンじゃねェか変態野郎ォ』

 

 照れるでもなく一度蹴り飛ばすリルトットだが、秒速で再生するので面白くも無ェと彼の頭を持ち上げ傘をさす。彼女も彼女で、バンビエッタに首だけなブルーを見られると色々問題になることはわかっているので、あえて隠したのだ。

 そのまま何でこんな状況になったか記憶にないという話をすれば、とりあえず一度オメーの部屋に行って作戦会議だ、という流れとなり、現在に至る。

 

「それで、キャンディお姉ちゃんに御菓子とか持ってきてッて感じになって」

「頭使うと腹減ンだよ」

「事情はわかったけど、それはそうとしてどうしてリル、ブルーそんなベタベタしてんの?」

「切断面が斜めになってっから、そのまま置くと真っすぐ立たねェで転がるからな。流石にちったー可哀想じゃねェか」

「あらまぁ、リルってば優しー」

「フツーだろフツー。この状態を見つけても、前髪野郎相手にいつも通り爆撃しかねねェ奴もいるからなァ」

「……えっ? さ、流石にそこまで気が狂ってはいないんじゃないかと――――」

「だよね! バンビちゃんならブルーのことだって関係ないもん! ねっ! ね!」

「おーおー心の暗黒面出てンよ腐れ野郎ォ」

「くくくくく腐ってないもんっ!? 後、女の子だもん!」

 

 匂わないよね? 匂ってないよね? と、慌てて唐突にくるくるその場で回りはじめ自分の腕やら服の中やら、体臭を気にするジジ。何かしらの自覚でもあるのか、妙に必死である。

 

「…………おし、バンビたちいないよな! 食い物とか持って来たよリル。

 って、うげっジジまでいるし……」

「何ーその反応。ボクを差別するの反対ー!」

「いや、こういうのって関係者が増えれば増える程、発覚のリスク上がるやつじゃんか。そういうセオリーってやつ。

 ……あ、ブルーも何か食べる? これ、柿〇種とか」

「ありがとう、でも今、クリームソーダ味の飴舐めてるから……って〇の種!? うわ、ピーナッツ付きのアレだし!!?」

「ハ〇ピーターンもあンぞ」

 

 そんな形で、しばしリルトットが「思考するのに使うエネルギー」とのことでおやつタイム。珍しく自分だけで独占せず、ブルー含め四人で分け合う流れだ。

 好意を無駄にするのもアレだということで飴をかみ砕いたブルーに「あ~ん♡」と細長いライスチップを食べさせるジジや、ちゃんとストローを持ってきてコーラを飲ませてやるキャンディスやらはさておき。

 

 

 

「それで、僕のところまで来たと。別に僕は、レクター博士とかではないんだけれどもね」

「檻ン中でも大体城のことは全部把握済のくせに何言ってやがンだクソ野郎ォ」

 

 

 

 そしてリルトットは、ブルーの生首を「変形させた口で咥え」隠しながら、グレミィ・トゥミューの檻まで来ていた。

 キャンディスとジジはグレミィの元へと行くと言えば「パス」「怖い怖い怖い怖い!?」と拒否。特にジジの拒否っぷりが尋常ではなかったが、そのことを追求するよりも先に「見つかると拙いからとっとと行くぞ」と移動。上手い具合に上から覆いかぶさりつつも、ブルーの視界を確保させつつヨダレを垂らさないあたり、能力の扱い方を相当心得ているとみるべきか。

 

(まるでワニのお母さんが赤ちゃんを運ぶ時のアレみたい……)

 

 もっともブルーの感想としては、色々失礼極まりないのだが。このあたりは平常運転として、表には出ないので問題にはならなかった。

 グレミィあたりは生首状態でリルトットに抱え直されているブルーを見て、少しだけピクリと瞼が動きはしたが、今回はそれ以上の攻撃を仕掛けてくることは無かった。

 

「色々考えてオメーに仕事させんのが最速だって判断だ。早くしろ」

「実際菓子を食らって何も考えてないのと同義だろうに。でも、ふぅん…………。その状態っていうのは、中々僕としても色々大変そうで共感するところだけれどね、ブルー。

 それで? 僕は何を想像すれば良いのかなクソ女」

「バンビとミニーに見つからねェように、コイツの胴体を探せって話だ。再生してねェっつーことは、肉体が消しとんじゃいねェってことだろ。だったら身体は身体でどっかに隠されてるって思う」

「それだと結局、首が切断されている状態に変わりはないから死んでると思うのだけれど……。そこのところ本人はどう思っているのかな? ブルー・ビジネスシティ」

「へ? あー、えっと……」

 

 ブルーは少しだけ思案すると、乾燥した唇を一度だけ舐めて。

 

「僕の“I-不滅-(ジ・イモータル)”っていうのは、僕の身体の状態というか、情報と言うかを上書きするみたいな能力みたいなんだけれど、本当だったら僕の状態を完全に上書きして復活しないと仕様的におかしいんだよね。

 グレミィさんが言ったみたいに、本当なら『首だけの状態で生きられるはずはない』から死んでないとおかしい。でもこうしてずっと生きてるって、やっぱり何か変というか……、バグってる?」

「バグ?」

「ゲームとかの話じゃねェからなオメー。

 ……って、オメーは檻ン中ずっといるからゲームとかはやらねェのか」

 

 要は想定外な不具合みてーなやつのことだ、とバグについてざっくり説明するリルトットである。悪態はつくが、こういうところで気を遣えるあたりが、騎士団内でも相当にひねくれているグレミィ相手でも交友関係を成立させている一因なのかもしれない。

 リルトットの話を聞いて、少し目を閉じて押し黙るグレミィ。と、ニコリと微笑んで彼女を見返して「想像してごらん?」と問いかけた。

 

「想像してごらん? もし仮に犯人がいるのだとして……………………、その犯人がブルーを今の状態にしてしまった時、何を考えるか」

 

「何を考えるか?」

「バンビちゃん…………?」

「まァ、それだろうな」

 

 わざとにしろ、わざとでないにしろ。ブルーをこんな有様にした相手がいるのだとすると、今のバンビエッタなら事故を装う余裕もなく大爆殺を仕掛ける可能性は十分あるだろう。

 なお肝心のブルーごと巻き込んでの大爆殺なのは玉に瑕である。

 

「ブルー暗殺計画みたいなものはナナナ・ナジャークープあたりがシャズに持ちかけたりすることはあるが、実行に移せてないというのを教えてあげるよ。

 まあ、そういうレベルの情報ならこっちで確保しているからね。まず間違いなく計画犯ではない」

「じゃあ何だよ」

「わからないかな? そんな僕ですら――――陛下が今何をしようとしているのかすら知ることができる僕が、補足できていないという事実を」

「補足できてねェだ? 何言ってんだ妄想野郎」

 

(捕捉できてない。確認できない。…………消失? あっ)

 

 グレミィの言ってる言葉を反芻し、何かに気づいたブルー。リルトットは心当たりがないようだが、容疑者たる相手の能力を思えば妥当であろう。グレミィ本人も「存在までは」忘れ切っていないが、補足できないと言うことは消失しているということに違いはあるまい。

 そして目ざとくブルーが気づいたという事実に気づいたグレミィは、にこりと微笑みながら「後は状況証拠をまとめようか」と笑いかける。

 

「ブルーも、想像してごらん? この場合、一番安全な場所はどこか。何か問題があった場合、すぐさまそれを解消できる方法があるとすれば――――――――」

「――――――――現場のすぐ近く。つまり、ずっと僕の首の後を付いてきていたってことですよね、グエナエルさん」

 

 グエナエル? と。その名前をまるで聞き覚えが無いような顔をしてブルーの頭頂部を見たリルトットだが、次の瞬間にぞわりと嫌な霊圧を感じる。

 

「…………見つかってしまったか、このわしの完璧な“V-消尽点-(ヴァニシングポイント)”が。しかし逃げた理由はわかっているみたいだから、色々許してくれ?」

「元に戻るのならね。……あー、思い出した」

 

 目の前に現れた、妙にファンキーな髪型をした老人。視線は両目ともに前を向き、ブルーやリルトット、グレミィ三人を見つめて、少しバツが悪そうにしている。原作より微妙にまともな顔だ、とアレなことを考えるブルーはともかくとして、グレミィは肩をすくめ、リルトットは疲れたように相手を見た。

 彼の名はグエナエル・リー。聖章騎士団、二人のVの文字のうち一人である。

 そんな彼を見て、もうひとりのVたるグレミィは「意味の分からないことをして、消そうか?」などと物騒なことをつぶやきながら微笑み、グレナエルを震え上がらせている。

 

「わ、わし、未だに色々頑張っとるから勘弁……! 人の命の扱いが軽すぎるわいっ」

「悪いけれど、僕にとってこの人生っていうのは全て『想像の産物』でしかないからね。生きるのも、死ぬのも、すべては僕の認識の中でだけさ。

 つまり、僕の世界において神とは僕のことを指す」

「オメーが死んでも世界は勝手に周ってるから、そりゃオメーの世界だけの話だろォが実験体野郎」

 

 震えあがっているグエナエルであるが、彼が背中に担いでいる「首の切断面が銀に光っている」ブルーの胴体が、全てを物語っていた。

 

 グエナエルの能力たる「V-消尽点-(ヴァニシングポイント)」、これは主に三つのフェーズで構成されている。光学情報で認識できなくなる「認知消失点」、物体としての干渉ができなくなる「物性消失点」、他人からその存在を忘却され認識すらできなくなる「存在消失点」。

 本人は然程強いわけでも無いが故に、これらの極端な隠蔽能力でバランスがとられているといったところなのだろうが、今回の彼はこの「認知消失点」までのフェーズを使い、一時的に自らと、自らが持つブルーの肉体の認識を隠蔽した。

 

 そしてそれが解除されたことで、ブルーも記憶が戻ってくる。どうやらこの「認知消失点」というのは、ベレニケの問答強要のようなそれではなく、非攻撃能力にカテゴライズされるらしい。

 

(いまいち何が違うのかわからないけど…………、この第三フェーズの能力を試したいって言ったのが、バグった原因かな)

 

 そう。ブルーとグエナエルは、訓練場で一度出会っている。

 まだ人が全然いなかったタイミングの早朝、訓練場というべきか修練場というべきか、そこでたまたま遭遇したグエナエルは、ブルーに「能力の検証がしたいから付き合ってくれ」と頼んだのだ。

 ブルーならば大体の傷は意味をなさないし問題はないだろうという軽い気持ちでの頼み事であり、ブルー本人もそれなりに能力を使いこなしているが故の傲慢さと油断から、これにOKを出す。

 

 そして「存在消失点」を使用した状態でブルーの首を掻き斬った結果が、今の状態だった。

 

『こ、こんな…………、わしは知らんぞ!? わし、悪くないもん!』

(もん、ってさぁお爺ちゃん……。いや伊達にグレミィさん由来な人ではないってことなんだろうけど、それでも、もんってさぁ…………。

 でも原作だと、フェーズを上げると自分も物理的に干渉できないとか、そういう縛りはあったと思うんだけど。何か違うのかな?)

 

 おそらくはブルー自身に、自身の状態を上書きしている何かからすら、グエナエルが認知されなかった影響なのだろうか。とにもかくにも能力が誤作動している現状、とりあえず部屋に持って帰ってくれというブルーの言葉に従い、胴体を背負って頭を抱えて、えっさらほっさら必死で小走りしていた老人だった。

 それが、廊下の向かいからリルトットが来る気配を感じ「わし悪くないもんッ!」と存在消失をした結果、廊下に転がるブルーの首だけが残り続ける状態になったというのが、真相である。

 

 一通り話を聞き終えたリルトットは、半眼でグレミィたちを見比べてため息をついた。

 

「……逃げる理由とかは理解できねーでもねェが、だったら俺が来たってわかった時点で解除して話通せば済んだ話だろォが痴漢ジジィ」

「痴漢!? い、いや、わしそういう欲は色々あって無縁なんじゃが……。

 それはそうとして、そこのグレミィから色々、お前のことは言われているからの。いらん悪感情は買わぬが吉じゃろうし」

「言われてるって何をだよ」

「…………これは、まぁ野暮じゃな」

「あ?」

「ん?」

 

(何で当事者のグレミィさんとリルちゃん両方ともが理解してない顔してるんですかね……)

 

 年長者として完成しているせいか、グエナエルはリルトットとグレミィの両方を見てニヤニヤと笑い、対する両者は困惑しているまま。

 

「……とはいえ、わしが言うのもアレだが、大丈夫かあの二人?」

「二人とも色々、大変だから余裕ないんですよ」

 

 ブルーはブルーで察しがついているものの、直接指摘をする愚を犯すことは無い。例え死なないとはいえど、馬に蹴られて死ぬ趣味はないのだ。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 ちなみにブルーの身体についてだが。

 

「全く、ブルーはあたしがいないとやっぱりダメダメじゃない!

 ――――“E-爆撃-(ジ・エクスプロード)”で、粉々にして治してあげるわ!」

「あ――――――――ぅ」

(やっぱりこうなるんだよねぇ…………)

 

 結局ハッシュヴァルトどころかユーハバッハにすら相談すれど解決策が見つからなかった結果、バンビエッタの「一度粉々に粉砕して再生させたら戻るんじゃない?」の案が採用され、今日もブルーは汚い花火となる運びであった。

 

 ちなみにちゃんと戻ったのを確認し、ミニーニャが一息ついたのは当然であるとして。

 

「い……、生き残っただけでも、ラッキーと言っておこう…………」

「キモっ!? ゾンビ映画の下手なゾンビより凄いことになってるけど!!?」

 

 そのミニーニャに思いっきりぶん殴られたせいで、グエナエルの頭蓋が損傷したり目の位置がおかしなことになったり口元が引っ張られたりして、ビジュアルが原作のそれになったことは余談である。

 

 

 

 

 



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#028.番外編:THE BROKEN SNOW STAR

そろそろ千年血戦篇時系列突入近いので、もしかしたら次回も番外編かもです(ダイス次第)





 

 

 

 

 

 一つの戦いが終わった。……瀞霊廷に壊滅的な被害を出しながら。

 主に物理的な戦闘結果として、この領域の一角が灰燼に帰するほどの熱量と縦横無尽さと自由自在さをもってして行われた最強同士の戦闘により、もはやこの場に残るものはない。

 

『言ったろ? 指一本だって使わずに君を殺してみせよう、とね。

 さっきの戦いも、力も、この体も、すべては僕の想像の産物。言葉どおり確かに僕は君に指一本だって使っちゃいない。まあ、死んだのは僕なんだけどさ。

 ……あぁ、そろそろ…………、僕の想像力も、限界だ』

 

 そのうちの片方、やせた青年は自らより打ち上げられた「死体たる本体」を見やり、肩をすくめ、陽炎のように消えていく自らの手を握り、対戦相手たるボロボロな男へと苦笑いを浮かべた。

 

『寂しくなるよ。この先の何も想像できない世界を想像するとさ。……嗚呼でもこんなタイミングで思い出すんだから、やっぱりブルーが言ってた通りもう少し自省すべきだったかな』

「……あ?」

『君には関係ない話だよ、更木剣八。只済まなかったね、散々期待させておいてあんまり食い下がれなくて。

 ――――――――それじゃバイバイ、チビ女。どうやら僕は君の事、案外好きだったらしい』

 

 空を見上げて微笑む彼の表情、崩れる目元のそれがわずかに涙の輪郭のように見えなくもなく。そして聖章騎士団“V-夢想家-(ザ・ヴィジョナリー)”グレミィ・トゥミューは死んだ。

 その残した言葉に微妙なやるせなさを感じたのか、どこか自分の何かを重ねたのか。大男、更木剣八は刀を構えたまま無言のまま。

 

 とはいえすぐさま足元に落ちていた、自らと共にあった少女の衣服を見て、慌てたように彼女を探させる程度には正気ではあったのだが。

 

「やれよビッチ」

「ビッチ言うなってさ。――――電削雨(エレクトラスコール)!」

 

「…………あ?」

 

 突如として剣八へと降り注いだ電撃の雨に、色々と気が抜けていたせいか全身を焦がす剣八。不意打ちめいたその一撃に卑怯だと言う声が聞こえてくるなか、仕立人の片方たるリルトット・ランパードは瓦礫の上から無表情に見つめる。

 ゆらめくマントに案外小柄ではない少女の体躯。帽子を少しだけ目深にかぶり、彼女は剣八を観察。もっとも次の瞬間には滑るような霊的歩法をもって剣八の横を通り過ぎ、その場に転がっていたグレミィの本体(ヽヽ)たる死体の核を蹴り上げ、纏っていたマントで覆った。

  

「邪魔だァ!」「ぶっ殺すぞガキッ!」「い、いや、何かヤバイ気配ムンムンだから少し慎重にした方が――――」「荒巻テメェびびってンならすっこんでろ!」

 

「ウチのエース一人テキトーにぶっ殺す更木剣八相手だ、このくらい当然だろォが唐変木共。

 ……ガータークランチ」

 

 自らの口を変形させてその死神たちの大半を食い散らかすリルトット。「不味ぃ」と文句を言いながらもじろりと残りの連中を見やる。

 

「ガキとかいってもテメェ等より年上だろォがなぁ。……小鹿女がこっち来る前に片づけンぞ。面倒くせェから全員かかってこい」

 

 

 

 星十字騎士団 “G-食いしんぼう-(ザ・グラタン)”リルトット・ランパード

 

 

 

 何だあのガキ!? と混乱する十一番隊。流石に目の前でホラー映画も真っ青なくらいあっけなく、人体が損壊し転がる仲間たちを前にすれば、いかに戦闘のスペシャリストなどと揶揄される彼等とて躊躇はする。

 そのうちの何人かが気づく、自らに迫るハート型の霊圧の結晶に。輝くハートの霊圧は、リルトットとは対照的に大きなシルエットの元へと集まり、その彼女は投げキッスでもするような動きで息を「ふぅー」と吹きかけ。

 

二〇倍掌握(トゥエンティカウント)聖母の吐息(マザーブレス)

 

 その一息だけでも大嵐のような威力を発揮し、射程圏の全員は一直線に弾き飛ばされ、全員もれなく壁に激突しその上でめり込まされた。複雑骨折どころの騒ぎではなく、虫の息ですらない。純粋な「力の暴力」がそこに存在した。

 そんな彼らを見やり、手でメガホンを作って声をかける長身の彼女。

 

「ムダですよ~~ぅ、皆さん死ぬんですから、隊長さんの元になんて駆けつけられないですし~~」

 

 

 

 星十字騎士団 “P-力-(ザ・パワー)”ミニーニャ・マカロン

 

 

 

「ぐわァ!?」「な、何が起きてやがる……!」「お前等来るんじゃねェ!?」「わ、わわ……」

 

「フフフ……、ボクが出たら何も言わずにすぐ斬っちゃうんだもん。可愛いポーズとかとる暇ないよね~。そんなにボクの血を浴びたかったのかな?

 ぶいっ」

 

 そしてそんな彼女たちの猛攻とは別方向から、「肌が浅黒くなった」死神たちを従える少女は、両手でピースをしながらニヤリとドヤッとした雰囲気を出した。

 

 

 

 星十字騎士団 “Z-死者-(ザ・ゾンビ)”ジゼル・ジュエル

 

 

 

 そうして徐々に徐々に勢力が削られていった結果、逃げきれずこの場に残る一部の十一番隊が固まり全方位に刃を向けているのを、上空から彼女はニヤリと笑い。

 

「――――電削雨(エレクトラスコール)

 バカ共一か所に集まったなら一網打尽だし、ナイスプレーじゃね!? あたし達!」

 

 先ほどのように雷の雨を落し隊士たちを絶命させた彼女、露出度の高い服を着用した滅却師は、ニヤリと笑いながら他のメンバー三人を見回して、サムズアップを向けていた。

 

 

 

 星十字騎士団 “T-雷霆-(ザ・サンダーボルト)”キャンディス・キャットニップ

 

 

 

 そんな彼女に「あの馬鹿女いなけりゃこんなモンだろォが瞬間湯沸かし器」などと無意味に罵倒するリルトット。いきなり口悪!? と驚きながらも、彼女はリルトットの隣へと回りその顔を覗き込んだ。

 

「ンだよ」

「リル、機嫌悪い? 何かいつも以上に表情死んでるけど」

「……クズ野郎ォが最後の最期に面倒クセーこと言い残しやがったせいだ。別に大したことでもねーし、深い意味も無ェ。…………問題は無ェ」

「そうなら、まあ別に良いんだけど……。アンタ、あたし等ん中じゃ一番冷静って評判なんだから、そこは大事にな」

 

「キャンディちゃんはすーぐプッツンするからねー。頭バンビちゃんまであと一息! ブルーからもモテモテになれるかも?」

 

 ブルーはともかくバンビ扱いだけは止めろォ!? と絶叫するキャンディスに、顔を合わせる煽るジジである。

 そんなジジの横に降りて来たミニーニャは、一度伸びをするとファイティングポーズを構える。

 

「ミニー、どうしたのさ」

「ブルーも言ってましたけど、そう簡単に死ぬとは思えないの。あの更木剣八」

「いくら特記戦力っつったって、あたしの電撃まともに喰らって何もない訳が――――」

 

「よぉ」

 

 そしてキャンディスの発言が終わるよりも前に「霊圧を感じさせない」走法で現れた更木剣八が、キャンディスに斬りかかった。

 はっとして一瞬動きが遅れた彼女は、とっさの判断で左腕に静血装を走らせる。

 目論見は功を奏しなんとか切断まではいかなかったが、しかし切断されなかっただけで一撃は重症だった。

 すでに骨と皮だけでつながっているような、それ程に斬撃の衝撃は強く。肉は胴体より離れかけ、激痛でキャンディスは表情をゆがめた。

 

「――――ァ! 何、テメェ……!」

 

一〇倍掌握(テンカウント)兄弟の拳(ジュールフィスト)

 

 そのまま殴り飛ばすミニーニャの拳を受け、しかし当然のように自らの斬魄刀で受け、もろとも傷一つつかないまま地面へと叩きつけられる。

 起き上った更木剣八は、ぼんやりとしたように上空の四人を見上げた。

 

「全然芯に一発お見舞いできなかったと思うの……」

「うげー、死にかけの動きじゃないにゃ~~ん、誰がトドメ刺すかって話でもないし~」

「グレミィと闘り合ってなんでまだ余裕あるんだよっ、バケモノか! ジジ、再生!」

「だァから特記戦力なんだろォが。俺たち騎士団の瀞霊廷侵入最大の障害の一つだった痣城剣八を正面から叩き潰した野郎だぞ、『本気になる前に』全員で叩く」

 

 え~~~~と面倒がるジジはともかく。リルトットはグレミィだったモノをくるんだマントを、霊子兵装で編んだ傘に乗せて適当に投げる。あれがクッションの役割を果たすことで、最低限破損は回避できるという算段なのだろう。

 そんな四人はそれぞれ腰のベルトに手をかけ、弓を形成しようとし。

 

「――――――――あン?」

 

 そして瀞霊廷に響いた音に、「上空から落下してくる誰かの霊圧」に、四人と剣八は上空を見上げた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「…………何、だ?」

 

 日番谷冬獅郎は袈裟斬りに三つの斬撃を受け、その場に倒れた。

 それがあまりにも当然のようなそれであったため、彼は今の自分の状況に理解が追い付いていない。

 

 そんな彼の背後に立つ「妙な外装を纏った」滅却師の青年、ブルーと呼ばれていた彼は、光り輝く目元の白目じみた眼球で日番谷の姿を一瞥した。

 

「……テメェ、何しやがった」

「…………やっぱり当然のように立ち上がってくるか。って、出血もう止まってるし。どういう絡繰りだろう」

「カラクリも何も見たままだぜ優男。『血管同士を氷で繋いだ』だけだ」

「力業なくせにまた繊細なことを…………」

 

 見た目の容姿はどこか獣じみた印象になったとはいえ、青年の挙措には何一つ変わりがない。そんな相手だからこそ、つい軽口も出てくる。気安い関係と言う訳でもないのだが、どうにもこの青年の平和ボケした雰囲気は、苛立たせる以上に日番谷の戦意をそいできていた。

 立ち上がる日番谷は、自分の傷痕をひと撫でする。以前の自らならば出来なかっただろう「分子同士の結合」そのものを狙い撃ちしたような凍結であるが、霊王宮での修行による「自らの斬魄刀」の在り方と、それを前提とした鍛え直しによる能力の扱い方の再学習により、日番谷の氷結系斬魄刀使いとしての実力は依然と雲泥の差となっていた。

 

 例えるなら、ブルーを相手とした際の「その体表面にわずかに空間を開けた状態での凍結」など。本体たる人体を凍らせない凍結など、流石にそこまでの繊細な扱い方は、以前の自分であるならば「想像は出来ても」実践するのはかなりの集中力が必要だったことだろう。

 

 だからこそ、それで身動きを封じられるはずの青年が変貌した今の姿を前にした後の動きが、不可解を超えたものであった。

 

『僕の“神の完全(メタハエル)”は、完全証明される僕という定義に僕の行動結果(ヽヽヽヽ)まで含まれる』

『……意味がわからねぇ』

 

 青年が先に語った能力について。変貌したことに対する驕りというよりも「フェアじゃないから」みたいな感情がにじみ出ているせいで、これもまた日番谷は微妙な表情となったのだが。そう語った彼が軽く爪を構えた次の瞬間――――。

 

『ちゃんと気張ってくれないと「一撃で終わる」かもしれないんで、それだけは先に断りますよ。

 ――――――――約定(コミットメント)

 

 そう、彼がそう言葉を発した瞬間に、日番谷は切り裂かれて倒れ伏していた。

 超高速移動などではない、まるで漫画のページが丸々1ページ抜け落ちているような、次の瞬間ではなくそもそもが「0から100」としか思えない程に一変し、彼から発された尋常ならざる霊圧を感じ取った瞬間には、もう自分は倒れていた。

 

「何が起きた……」

(落ち着け。あの優男のことだ、もうヒントは出しきっているはず)

 

約定(コミットメント)――――」

 

 思考を再開した瞬間に、再び先ほどの傷痕に沿うように新たな斬撃。

 

約定(コミットメント)――――」

 

 そして砕かれる大紅蓮氷輪丸の翼。

 

約定(コミットメント)――――」

 

 それに驚愕する暇もなく、いつの間にか「地面に叩きつけられた自分自身」――――。

 

「――――約定(コミットメント)

「――ッ、そういうことか」

 

 最後の振り下ろされる爪については、目の前に氷の分厚い壁を形成することで難を逃れたが、目の前の滅却師が一体何をしていたのか、理解はできないまでも、事実ベースで説明することだけは出来るようになっていた。

 

 再び氷輪丸の翼を身にまとい、地面を凍結。そのまま起き上りながら瞬歩を滑るようにスライドして後方へと退避し、自らの周囲と相手の周囲に何重もの氷の壁を張る。あたかも巨大な迷宮のような様相となった一帯の中で、日番谷は自らの背部、卍解の一部たる氷の花弁を見る。

 残り、3枚。

 

「……タネも仕掛けもないとするなら、アイツの能力は……、テメェの行動から『過程を省略する』。言い方に合わせれば、行動結果が完全に達成された状態までを保証するってところか」

 

 それは、ある意味で未来改変ともまた異なる力。

 行動を始める前にそれが「終わっている」と確定することにより、因果関係が逆転し過程そのものを消し飛ばしたうえで結果そのものを現実世界へと上書きする能力。

 

 ブルー個人の完全性を保証していたそれは、いまやブルーの行動結果を「行動を起こす前に」世界へと上書きする能力へと強化されていた。

 

 やってられねぇ、と愚痴る日番谷だが、攻略法が見えていないわけではない。

 

(遠方でバカスカ、俺の氷の壁を斬りつける音が聞こえる。もしその過程の省略が何でもかんでも好き勝手にできるっていうなら、氷を砕く音は一発のみ。あるいは氷を砕かず、すぐさま俺の近くに瞬間移動とかになるはずだ)

 

 そういったことをせず地道に攻撃しているということは、その能力もまた強すぎるが故の制限があるのだろう。

 

(トドメをさすようなアイツの一撃。氷の壁を手前に作った時に、俺に刺さらず壁を破壊していたっつーことは……、効果の範囲は、おそらく奴の視界か霊的な索敵範囲に入るか否か)

 

 おそらくは前者だろうとアタリをつけた日番谷だが、同時に苦笑いが浮かぶ。

 それはつまり、こちらの攻撃範囲に入った瞬間、イコールで相手もこちらを瞬殺しうる可能性を示唆している。

 

 故にこそ、彼の脳裏には。嫌味のように妖艶に笑う、自らの新たな師匠たる彼女の姿が思い描かれていた。

 

「ある意味じゃ『動く』ことの究極系みたいなものだな。『止まる』俺とは対極ってことか」

 

 ――――あの性格の悪い和尚が、そちをあえて自分より先に妾の元へ差し向けたということは、そちがここで得るものは、天上の羽織物だけではないということ。

 

 ――――氷とは何なのか。物体とは何なのか。あちらの洋では四大属性などと分けられてはいるが、妾もあれは嫌いではない。物体が内包する力をどういう形として成しているか、その説明にはとくもってこいじゃ。

 

 ――――これからそちが学ぶべきは、世界の細工のこまやかさ。伊達や酔狂で山本(えい)字斎を超える才を秘めている訳でもあるまい。ならばその全て、この妾の手で縫い直す(ヽヽヽヽ)

 

 ゾクゾクと、嫌な寒気が走る日番谷。何やらトラウマがあるのか、両手で自分の身体を抱き目を見開いて震える。漫画的なデフォルメ描写が似合いそうな具合であるが、頭を振り我に返る日番谷であった。

 立ち上がり、背後の氷輪丸の花弁を一瞥し。

 

「六方氷晶、積もる過程は時間がかかる。コイツが砕けるまでの時間というのも、そういうことだ。

 だが生憎と、今の俺は『原理を理解している』――――」

 

 そして斬魄刀を天上へと向け、霊圧を放ち。吹きすさぶ霊圧は、その全てが一気に水へと変化し、その場からどんどん凍結していく。

 あたかも日番谷を中心として覆い隠す様に、徐々に徐々に削れる氷の迷宮を飲み込むように、嵐はドームのような形で凍結していき、その領域を急速に拡大していく。

 

「大天空千年氷牢――――!」

 

 その遠方で、ひたすらに直線的に壁を「動作せず」削っていた完聖体のブルーは、「うわぁ……」と相変わらずな様子で引いていた。

 

「あーもう、これだから天才って苦手なんだよなぁ……。確実にこっちに対策してくるし。

 というか、アレってもしかしなくても早まる(ヽヽヽ)んじゃないのかな? …………出来る限り大技で、早い所本体と戦わないと。

 この際、こっちのスタミナとかは一旦度外視しないと無理だよなぁ…………。ちょっと『隕石だったもの』の霊子借ります、グレミィさん」

 

 右手をかかげるブルー。と、その右腕の爪が「背信の剣」へと形状を変え、周囲から霊子が収束していく。その霊子は漏れなくすべてが銀の血液へとその存在のあり様を変え、徐々に、徐々に巨大な銀の金属球のようなものへと姿を変える。

 

 その大きさが5秒、10秒と経過するごとに、径を倍々に増していき、もはや先ほどのグレミィが落とした隕石に迫ろうかと言う大きさのそれへと変貌。

 

工場崩落(コラプション)…………、約定(コミットメント)。砕けろッ!」

 

 変貌したそれが、ブルーの発言と同時に「氷のドーム」と化したそれを砕き散らして――――――――。

 

 

 

 

「――――――よぉ、待たせたな優男」

 

 

 

 いつの間にか「凍り付いた」銀の金属球の上に立つ、長身のシルエットの誰か。

 身に纏っていたあのマントの下には氷のコート、あるいは氷のグローブやブーツのようなもの。身につけたそれらに着られることのない、その黒と白のシルエット。

 

「……ゴメンねノト君、助ける余裕なかっただけじゃなくて、僕もダメかもしれないよこれ。黒崎一護も降りてきちゃったみたいだし」

  

 現れた青年(ヽヽ)の姿を見たブルーは「遅かったか……」と、表情が引きつっていた。

 

 

 

 

  

 






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