アサルトリリィ~Episode of Bug Human~ (風斬颯丸)
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ハジマリの時

はじめまして、風斬颯丸です。
今回が初投稿であり、色々と至らぬ点はございますが、皆様のお眼鏡に叶うよう努力していきますので、何とぞよろしくお願いいたします。
アサルトリリィとヒューマンバグ大学のクロスオーバーというのは完全に私の好みであり、人を選ぶ作品となっております。
その為、中にはこの作品を不快と感じられる方も居られるでしょうが、少しでも読者の皆様の日常の憩いとなれるのであれば望外の幸せです。
それでは、アサルトリリィ~Episode of Bug Human~の世界をお楽しみ下さい。


???サイド

 

?「うぅん、ここはどこだ?」

 

気付いたら俺は謎の空間に横たわっていた。

辺り一面何もなく、真っ白な光景が無限に広がっており、地平線が見える。

おかしい、ついさっき俺は横断歩道でダンプカーに牽かれそうになっていた子供を庇って代わりに牽かれ意識を手放した記憶がある。しかし、目を覚ますと病院のベットではなく、非現実的な場所に一人放置されているときた。しかも、ダンプカーに牽かれたにも関わらず身体に目立った外傷がなく至って平然であった。一瞬これが夢だと思い自分の頬を思いっきりつねってみたが痛覚は普通にあり、これが夢でも幻でもなく現実であることを思い知らされる。

 

?「一体全体どうなっちまってんだ‥‥‥‥‥」

 

?「やぁ、やっと起きたんだね。」

 

自分の現状に意味がわからず困惑していると、後ろから突然透き通った声が聞こえ、咄嗟に振り向く。

その声の主の正体を見て俺は思わず放心してしまった。

 

声の主は、男か女かもわからない中性的な顔立ちをしており、白雪のような肌と絹のような金髪、サファイアのような青眼がそいつの美しさをより際立たせている。

服装はまるで古代ローマの貴族が着ていそうな上質な衣を着込んでいる。

そいつの容姿は人間のように見えてまるで浮世離れしており、見つめるだけで謎の安心感と高揚感が湧き出る。

 

?「だ、誰だあんた?」

 

?「ん?私かい?

まあ、君たち人間でいうところの神といっところかな。」

 

?「.......ッ!?」

 

驚いた。

神秘的な雰囲気から只者ではないと思っていたが、まさか神様とは...........

普通なら何を馬鹿なと鼻で笑うところだ、この男の言葉には謎の説得力がある。

 

?「驚いたかい?」

 

?「あぁ、まあぁな。んで、その神様がわざわざ俺の目の前にいるってことは、ここはあの世かなんかで俺は死んでここにいるってことかい?」

 

非日常的な事態の連続に逆に冷静になってしまった俺は眼前の神様にそう問いを投げ掛ける。

正直な所、猛スピードで突っ込んでくるダンプカーを前にして自分の生存が絶望的なのはそれなりに覚悟していた。

大方目の前の神様は、死んだ俺をこれから天国に行くか地獄に行くか裁定するのだと思っていた。しかし、神様の次の一言は俺の予想とはかけ離れたものであった。

 

神「なに、一目みて君を気に入ったから別世界に転生してほしいと思ってね。わざわざ君をここへ呼び寄せたのさ。」

 

?「は?」

 

返ってきた答えがまさかの異世界転生。まるでラノベのテンプレのような展開に俺は思わずすっとんきょうな声を出してしまう。

 

?「どういうことだよ?」

 

神「死んだ君は普通だったら輪廻の循環に従って新たな命として生まれ変わる。しかし、それに待ったを掛けて君を異世界への転生者として選んだのさ。」

 

?「何でそんなことをわざわざ俺に対してやったんだ?人間なんか五万といるんだから、他にも候補いるだろ?」

 

神「確かに君がそのような疑問を抱くのも無理はない。だけど私は何も適当に君を選んだ訳じゃない。

私が君を転生者として選んだのは、君の死因にある。」

 

?「死因?」

 

?「そう。一部始終を見させて貰ったが、利己的な人間が多い現代で自分の命を犠牲に幼子を助けようとする人間なんてそうそういない。そんな君の人間性にある種の可能性を抱いたんだよ、狂巌寺 真人君。」

 

なるほど、そういうことか。身を挺して子供を助けて散った俺の姿を見て思うところがあったのか。

しかし、神様の言う「可能性」というのが少し気になる。

 

真「で、その可能性ってのは何だ?」

 

神「誰かのためにその命を犠牲にできる君ならきっとこれから転生する世界で人々の希望となり得る。僕はそう確信しているんだよ。」

 

真「俺がこれから転生する異世界ってのはそんなに困窮しているのかよ?」

 

神「あぁ、突如として現れた怪物によって人間たちは土地や家族、そして尊厳を奪われ続けている。一応、その怪物に対抗する手段もあるが、成果は芳しくない。はっきり言って人類の存続は絶望的と言ってもいい。だからこそその世界には必要なのだよ、陣頭に立って人々を鼓舞する救世主が。」

 

真「そんなにカオスな世界ならそれこそ知恵も力もない俺は役不足じゃないか。いっそのこと神様であるあんたが救済しちまえばいい話しじゃないか?」

 

神「いや、それは出来ない。創造主たる神が、易々と現世に干渉してしまったら、生きとし生ける者たちは私を頼り自立の芽を奪ってしまうことになる。それだけは避けたい。

それに、何も私は君をそのまま転生させる訳じゃない。

転生するにあたってそっちの世界でも上手く適応出来るように特典を授ける。」

 

特典..........いよいよラノベ臭くなってきたな。

 

真「特典っていったって、色々あるだろ。何をくれるんだ?」

 

神「君をここへ呼ぶ際に前世の君の記憶を覗かせて貰った。そこから君と縁の深いものを特典として選んだ。

その特典というのが..........」

 

真「いうのが...........」

 

俺は生唾を飲んで緊張しながら神様の次の言葉を待つ。

与えられる特典は来世での自分の人生に大きく作用するだろう。ここでふざけた特典であったら俺は来世で生きる気力を早々に失う。今は死んでる身だが。

しかし、次に神様の口から出た言葉は予想の斜め上をいったものであった。

 

神「ズバリ、ヒューマンバグ大学のキャラクターの全能力を自由に行使できる能力だ♪」

 

真「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

まさかのヒューマンバグ大学であった。

 

 

ヒューマンバグ大学..........

今やYouTubeに数多く存在する漫画系チャンネルの中でも絶大な人気を誇る一大チャンネルである。

実際にあった事件や事故、裏社会の真実など所謂「人間がバグった瞬間」というのを主題としており、個性豊かな主人公や登場人物たちによって繰り出される涙あり、笑いあり、躍動感ありのストーリーがその人気に拍車を掛けている。その人気は止まることを知らず、様々なキャラクターグッズの販売やアニメ化に、さらにはコラボカフェまで展開されるほどとなっている。

前世の俺自身ヒューマンバグ大学の大ファンであり、特に好きなキャラは「アーミーナイフの小林」こと小林幸真だ。あのタガが外れまくった狂いっぷりが最高なのだ。

 

神「どうだい?特典としては悪くないだろ?」

 

真「まあ、確かにあのチャンネルのキャラクターは大半がバリバリの武闘派だからな..........」

 

ヒューマンバグ大学のキャラクターの能力は特典としては悪くない。一部を覗いて、あのチャンネルのキャラクターたちは戦闘に非常に特化している。

作中最強と名高い通称「二強」と唄われる伊集院茂夫と瓜生龍臣。今や三つも存在する「ヤクザシリーズ」の武闘派極道たち。規格外のパワーと耐久力を誇る紅林二郎など挙げればキリがない。

そんな彼らの能力を自由に行使出来るのだ。下手したらゴジラとも喧嘩できるかもしれない。

更にそこに佐竹博文の不死性と城ケ崎賢志の頭脳も合わさればもはや無敵と言っていいだろう。

 

だが、それでもヒューバグファンとして譲れないものがある。

 

真「なぁ、神様。ちょっといいか?」

 

神「ん?なんだい?」

 

真「確かにこの能力があれば異世界でもそう簡単に死ぬことはないだろう。だけど今まで戦いとは無縁だった無力な人間がいきなり力を持って何もかも順風満帆でいくわけがないだろ?漫画やアニメじゃあるまいし、必ずいつかはボロを出すに決まっている。」

 

そう、俺が懸念しているのは正にそれだ。

ラノベなどでは今まで平凡だった主人公が神様から特典を貰って異世界へいきなり転生しても、大抵は強大な力で苦もなく敵を倒し、チーレムをこれでもかと堪能するのが定番となっている。

だが、それは結局創作物の中での話であって、現実はそんなに簡単な話ではない。

自身の力を過信して道を踏み外して破滅を迎える者、自分を危険視した勢力との不毛な争いに巻き込まれる者、人によって様々だが、「力の意味」をロクに理解していない人間には悲惨な末路しか待っていない。それは実際に人類の歴史が証明している。

 

    “大いなる力には大いなる責任が伴う”

 

これはマーベルコミックの代表的ヒーローのスパイダーマンであるピーター・パーカーに対して叔父のベン・パーカーが放った言葉であるが、正にこれに限ると言える。

結局の所、自分が持つ力にはそれ相応の責任が付いて回り、それを理解出来ない者に力を持つ権利はないのだ。

 

何より「ヒューマンバグ大学のキャラクターの全能力を行使出来る特典」など、ヒューバグファンとしてそれこそ相応の覚悟と責任を持たなければならないと俺は思っている。

何故なら俺はヒューマンバグ大学というチャンネルを心から愛しているから。

そのチャンネルによって産み出されたキャラクター一人一人に敬意を払っているからだ。(流石に外道は別だが)

 

どれだけの不運に見舞われようとも決して生きることを諦めなかった佐竹博文の精神力

 

寄食と秘境に並々ならぬ情熱を注いだ鬼頭丈二の探求心

 

被害者の無念、遺族の悲しみを汲み取り、自ら修羅の道を歩むことを決めた伊集院茂夫の狂気

 

弱き人々を守るため、邪悪を挫くべくその拳を振るい続ける紅林二郎の正義

 

才能に恵まれなくとも、どれだけ苦境に立たされても決して折れることがなかった小峠華太の信念

 

日本一の極道となるため、日々邁進し続ける久我虎徹の向上心

 

自分を救ってくれた街の人々を守るため、悪を抹殺する瓜生龍臣の贖罪

 

たとえその心が完全に悪へ堕ちようとも決して母に対して失うことはなかった城ケ崎賢志の愛情

 

己の実力はまだまだ未熟なれども、恩義ある兄貴たちに報いるべく闇社会でひたすら跑き続ける阿蒜寛太の根性

 

他にも多くのキャラクターたちがそれぞれ決して軽くない「何か」を背負っており、日々を平凡に生きる俺にとってとても眩しく見えた。

だからこそ、そんな彼らの能力を俺のような凡人が軽々しく行使するというのは、彼らへの侮辱と捉えてもいい。

 

つまり、俺が言いたいのは.............

 

真「だから、そうならない為に俺を鍛えてくれ。

何十年掛かってもいい。俺は彼らに恥じない男になりたいんだ。頼む、いやお願いします!」

 

そう言って俺は頭を下げる。

彼らの能力を完璧に使いこなせるようになるには己をひたすら鍛えるしかない。要領の悪い俺が思い付いた唯一の打開策だ。正直、全ての能力をマスターするには膨大な時間を要するだろう。その過程で何度も挫け投げ出したくなるような時がくる。だけど俺に諦めるという選択肢はない。なぜならヒューマンバグ大学のキャラクターたちは一部を除いてどんな苦境に陥っても決して諦めなかったからだ。そんな彼らの能力を授かる身として、妥協する訳にはいかない。

 

神「..............................」

 

神様からの返答の声が聞こえない。今の俺は頭を下げているため、神様の表情は伺えないが、どこか値踏みするような視線を肌で感じる。

 

神「.........................ぷっ」

 

そうして一分ほどの時間が経った後、神様の口から出たのは返答ではなく、吹き出したような声であった。

次の瞬間...............

 

神「くくく、ふふふ、あははははははははははは!!」

 

真「へ?」

 

突然神様はとても愉快そうに笑い始めた。

思わず俺はすっとんきょうな声を漏らして下げてた頭を上げてしまった。

そうして思いっきり笑った後、神様は笑いのあまり流してしまった涙を拭いながら言葉を続ける。

 

神「ふふふっ、いやすまない。まさか特典を使いこなすために自分から修行を申し込んできたのが、予想外でね。流石は、私が見込んだ人間だ。」

 

真「そ、それで答えは?」

 

神「勿論OKだ。何より君はこれから世界を救う身だ。

救世主殿の頼みを無碍にする訳にはいかないだろ?」

 

よかった。何とか稽古をつけて貰えそうだ。

返答を述べた後、神様はいきなり後ろを向き何やら呪文のようなものを唱え始めた。すると俺達の目の前に虚空から10mは下らないだろう鉄製の重厚な印象の扉が現れた。

 

神「この扉の先に君を鍛えてくれる者たちがいる。着いてきたまえ。」

 

そう言うと神様は持っていた杖を掲げる。

それに連動するかのように目の前の扉が重い音を立てながら開いていく。扉が完全に開かれると神様はその扉の先に向かって足を進める。それを見て俺も慌てて後に続く。

そして、扉の先にあったのは..............

 

真「こ、これは..........」

 

神「どうだい?驚いただろう。ここは武闘派の神々が日々自分たちを鍛えるために利用している所なんだ。」

 

そこはまるで古代ローマにありそうな石造りの巨大な円形闘技場であった。純白の石材をふんだんに使っており観客席にはギャラリーが一人もいないが、それが逆にこの闘技場のピリついた雰囲気を際立たせている。

 

?「なんじゃ!?こんな所にお主がくるなんぞ、随分珍しいこともあったものじゃな!!」

 

俺が目の前の光景に目を奪われていると、ふと後ろから野太い声が響いてきた。

声のした方に振り向くとそこには二人の男が立っていた。

一人は白いやや薄汚れた胡服を着込み、首に赤い勾玉をいくつも紐で纏めたネックレスを下げ、腰には1m以上はありそうな大剣を下げている。2mは優に越える程の高身長に男はがっしりとした体格をし、無精髭と逞しい剣眉に猛禽類の様に鋭い眼光が男の厳つさを増幅させていた。

もう一人の方はまるで古代ローマからタイムスリップしてきたようなきらびやかな装飾が施された鎧にシマウマの鬣に似た飾りが付けられた兜を着込み、赤いマントを羽織り、右手に槍を左手に長方形の盾をそれぞれ携えている。身体は一人目の男に負けず劣らずの屈強さであり、輝くような金髪と翡翠色の瞳に男は精悍な顔立ちをしている。

二人とも容姿は異なれど、他を圧倒するような強烈な存在感を放っており、素人である俺から見ても彼らがただ者ではないことが理解できる。

 

真「か、神様。この人たちは?」

 

神「彼らはここの主な管理を任されている武神殿と軍神殿だよ。神界でもトップクラスの武闘派で教え方も上手いから君の良い師匠になってくれると思うよ。」

 

え、じゃあこの如何にも人を素手で簡単に殺めちまいそうな方々がこれから俺を鍛えてくれるってこと?

確かにこれ程の実力者たちに鍛えられるなら間違いなく強くなれるだろうが、正直修行に着いていけるかどうか不安になってくる。

俺が心中でそんな風に思っていると、俺を見た軍神様が訝しげな表情で神様に聞いてくる。

 

軍「そこの人間はなんだ?お主の従者でもなかろう?」

 

神「あぁ、彼は僕が異世界に転生させる予定の未来の救世主殿だよ。転生する前に特典を使いこなせるようになりたいから修行させて欲しいと言ってね、君たちに鍛えて貰おうと連れて来たんだ。」

 

すると神様は武神様と軍神様に俺が転生者に選ばれた経緯などこれまでのあらましを話した。

 

軍「ほぅ、幼子を庇って命を投げ打つとは、大層な男だな。」

 

武「がっははははは!!確かに良い目をしておる。これは鍛え甲斐がありそうじゃわい!」

 

そう言って御二方は距離を詰め感心した目で俺を見てくる。正直に言ってガチムチの男たちに至近距離から見つめられるのはなかなかに圧迫感がある。

そんな俺の心境を知ってか知らずか神様は耳元で囁く。

 

神『ちなみに、彼らは確かに教え方は的確だけど修行法はどれもきつくてね。これまで誰一人として最後までやり遂げた者はいない。まぁ、君ほどの男ならきっとやり遂げてくれると信じているよ?未来の救世主殿?』

 

その言葉は俺の不安を更に煽るには十分過ぎた。

 

こうして俺の地獄すらも生温い修行が幕を開けたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ、世界は廻る。

これは物語の序章に過ぎない。

しかし、確実に運命の歯車は動き始めている。

その運命が吉と出るか凶と出るか、それは神すらも解らない。

 

   アサルトリリィ~Episode of Bug Human~

      第1話「ハジマリの時」 完

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
テンプレな神様転生でありますが、狂巌寺真人が如何にして最強の存在へと至ったのか、その過程から物語を展開していきます。
誤字脱字や不自然な表現などがございましたら、感想欄などで遠慮なくご指摘下さい。


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試練そして旅立ち

こんにちは、風斬颯丸です。
だんだんと気温が暖かくなり、春の到来を感じる今日この頃ですが、皆さん如何お過ごしでしょうか?
今回は前回よりもストーリーが長く、人によっては疲れるでしょうが、何卒ご容赦ください。
それでは、第2話「試練そして旅立ち」をお楽しみ下さい。


俺の名は狂巌寺真人。

 

真「はぁ、はぁ.............」

 

武「どうした真人?お主の力はその程度か?」

 

軍「そのような体たらくでは我々を負かすなど不可能だぞ?」

 

師匠たちの圧倒的な強さに心が折れかけている元一般人だ。

 

前世での俺はダンプカーに牽かれそうになった子供を庇って若くしてこの世を去った。本来であれば輪廻の循環に従って現世に生まれ変わる筈であったが、他者の為なら自分の命すらも平然と投げ打つ俺の人となりに可能性を抱いた神様によってその運命は大きく変わった。化け物が蔓延り滅亡の時が迫る異世界の人類を救う為に「ヒューマンバグ大学の全キャラクターの能力」を特典に転生することが決まったが、凡人が身の丈に合わない力を持った時のデメリットを鑑みた俺は、特典を完璧に使いこなせるように修行をつけて貰うことにした。

 

しかし、この修行が俺の想像を遥かに上回るものであった。

 

戦闘に関する修行は武神様と軍神様がマンツーマンで見て下さり、神界トップクラスの猛者なだけありとても効率的な指導をしてくれた。その指導法は神様が言っていた通り常人ではとても耐えきれない壮絶なものであったが。

 

武「遅い。やられてばかりじゃなく少しは反撃せぬか!」

 

真「あばばばばばばば!」

 

ある時は武神様にスポチャ専用の刀でひたすらフルボッコにされ.......

 

軍「見て避けるな!予測して避けろ!」

 

真「ぐほぉ!!」

 

ある時は軍神様に練習用の槍で突かれて腹を貫かれたような感覚に陥り........

 

武「ほれほれ、四方に注意を向けんと死ぬぞ~」

 

軍「もし、一発でも攻撃を受けたら初めからやり直しだからな。」

 

真「む、無茶ですよこんなの~」

 

ある時は実戦と称して100名の屈強なバーバリアンとのガチンコ勝負に参加させられたり.......

 

武「刺したら素早くナイフを捻ろ!内臓を破壊するんじゃ!!」

 

軍「そしてそのまま胸まで裂け!小林幸真のように!!」

 

真「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ある時は小林の兄貴必殺の「グリングリン」を会得するためにひたすらナイフ術を叩き込まれたりと、とにかく楽なものなど一つもなく、何度も死にかけた。(実際に何度か死んでその都度蘇生させられている)また、戦闘以外の能力も使いこなせるようにと神様は他にも様々な神々を教官として紹介してくれた。

例えば......

 

医「針の縫い方が甘い。舐めてるの?」

 

真「す、すいません...........」

 

やたら言い方に刺のある医神様から医術の手解きを受けたり...

 

自「気を付けなよ~。ワニガメは一度噛みついた相手を絶対に離さないからね~。」

 

真「いだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!」

 

自然神様に動植物に関する知識を叩き込まれたり...

 

豊「トンマ、ウスノロ、穀潰し。お前の手は何のためにあるんだ?この万年ペーペー野郎。」

 

真「ひぃぃぃぃぃん!」

 

まるでお伽噺話に出てきそうな老婆の豊穣神様に罵倒されながらメロンパンの作り方を教わったりとピンからキリまで多種多様な知識や技術を身に付けっていった。中でも一番キツかったのはやはり邪神様による拷問の指導だろう。

 

真「ほ、本当にこれをやるんですか.....?」

 

邪「あぁん!?あたりめぇだろうが真人!その程度で躊躇って拷問ソムリエが務まるか!!」

 

地獄からわざわざ取り寄せた罪人をモルモットにした拷問のレクチャーはどんな修行よりも精神にダメージを与え、余りの凄惨さに当初の俺はまともに拷問も出来ずに吐いてばかりいた。当然、邪神様はそれを許す筈がなく、無理やりにでも拷問をさせたため次第に慣れていった。その甲斐あって現在では伊集院先生同様にどのような拷問でも一切躊躇うことなく行えるまで精神が鍛えられている。

 

どの修行も厳しくも的確であり、俺が「彼ら」に近づくために非常に有効であったと今の俺なら断言できる。途中で何度も挫折し心が折れかかったが、俺は諦めるという選択を取らなかった。生憎と俺の辞書には「諦める」という文字は存在しないのでね。

そんなこんなで修行を続けて数年、数十年、もはやどれぐらい経ったのかわからない程の年月が経った頃、俺は突然神様に呼び出された。

 

神「やぁ、真人。久しぶりだね。」

 

真「神様、ご無沙汰しています。」

 

創造主である神様は業務が多々あり、多忙なために俺と会う機会がめっきり減り、今回は久し振りの会合だ。

 

神「君とは最近全然会ってないけど、随分と変わったね。見違えてしまったよ。」

 

真「これも全て修行の成果ですよ。」

 

神様は俺の現在の姿を見て感想を口にする。

長い年月に渡る修行は俺の心身に大きな変化をもたらした。俺の身体は服の上からでも解るほど鍛え抜かれ、筋肉に一切の無駄がなく引き締まっている。顔も地獄のような鍛練の繰り返しによって戦士然としたものとなり、目付きは剣のように鋭く、瞳は氷のように冷たい印象を与える。精神も極限なまでに鍛えぬかれ、今の俺ならどのような理不尽が降り注いでも笑って対処してしまうだろう。全ては修行の賜物であり、ここまで鍛え上げてくれた神々には感謝してもしきれない。

 

俺の言葉に神様は満足気な表情を浮かべると、話しを続ける。

 

神「君はこれまで能力を使いこなす為に様々な修行を続けてきた。どれも常人では到底成し遂げられない厳しいものであったけど、君は見事に乗り越えてみせた。」

 

真「じゃ、じゃあ..............」

 

神「これを以て君の修行を終了とする。今まで本当にお疲れ様。」

 

真「や、やったぁ.......」

 

神様のその言葉に俺は思わず顔を緩め、喜びの言葉を口にする。自分の努力が認められるのは何とも言えない達成感と高揚感が湧き出る。

しかし、神様の話しはまだ続いた。

 

神「よってこれより最終試験を行う。これに合格した場合、君の転生を認めるものとする。」

 

真「最終試験?」

 

神「そう、君が本当に能力を全て使いこなせるだけの実力を備えているのか筆記と実技で試させてもらうよ。」

 

成る程、確かにそれは必要なことだ。修行を全て履修し終わってもそこで得たものが確実に身に付いていないまま転生してもデメリットでしかない。いつか必ず馬鹿を見るのは明白だ。

 

神「ちなみにこの試験で万が一不合格になったら修行を一からやり直してもらうよ。」

 

真「なん、だと....................」

 

神様のその言葉に俺は絶句する。自分から修行を申し込んだ身であれだが、あんな凄惨極まる修行は一度きりで十分だ。それをもう一度やり直すとなると今度こそ廃人になるかも知れない。

そんな俺の様子を見た神様は黒い笑みを浮かべながら俺に励ましの言葉を投げ掛ける。

 

神「というわけで、頑張ってくれよ?

未来の救世主殿?」

 

真「は、はい........」

 

俺にとって負けられない戦いが今始まった。

 

 

 

 

 

まず最初に行われた試験は筆記だった。

医学や薬学、法律に自然科学などその分野は多岐に渡り、どれも現役東大生ですら安易に解けないほど難易度の高いものであった。しかし、長い勉学を経て専門家とも渡り合えるほどに成長した俺の頭脳をもって難なく問題を解いていき、全科目満点という結果を叩き出した。

前世では赤点回避が関の山であったのに我ながら凄まじい成長ぶりだと実感した。

 

続いて実技に入り、そこでも様々な試験を受けた。

オペの実践やハッキングに女装、そして拷問など筆記試験に負けず劣らずの多様さであったが次々とクリアしていき、遂に最後の試験となった。

最後の試験はこれから転生する上で一番重要となってくる戦闘能力に関するもので、闘技場にてこれまでの修行で俺が培ってきた戦闘力を計るらしい。

そんなこんなで神様と共に闘技場に行くとそこには武装した武神様と軍神様の姿があった。

 

武「おぅ!真人、待っておったぞ!」

 

軍「ここに来たということはその他の試験は無事に突破したようだな。」

 

真「武神様!軍神様!どうしてこちらに?それとその姿は?」

 

俺は思わず彼らにそう問いを投げ掛ける。

御二方の今の雰囲気がいつもとは異なり、まるで獲物を前にした獅子のように鋭く圧倒的であったため、何か嫌な予感がする。

そして返ってきた答えはおおよそ俺の予測通りのものだった。

 

武「なに、お主の最後の試験に試験官として立ち合う為に推参したまでよ。」

 

軍「主神殿に聞いていないのか?今度の試験はお前の戦闘力を計る為に我々と手合わせするのだぞ。」

 

真「えぇ.................」

 

その返答に俺は困惑する。

今この方たちは何て言った?

戦闘力を計る為に手合わせする?

神である御二方と人間である俺が?

 

御二方の言っている意味が解らず俺は隣にいる神様に声を荒げて質問する。

 

真「か、か、神様!どういうことですか!?」

 

神「どういうことも何もそのままの意味だよ。君はこれから彼らと手合わせするんだ。2対1で。」

 

真「2対1!?只でさえ一柱の神を相手するだけでも無謀なのに正気ですか!?」

 

神「僕は至って正気だよ?これから人類の希望となる者がこれぐらいの試練は乗り越えて貰わないと僕としても転生を許可するわけにはいかないからね?」

 

さも当然と言わんばかりの神様の言動に俺は全身の血の気が引くような感覚がした。神とは俺たち人類にとって超常的な存在だ。そんなのを相手に手合わせするなど花火背負って火事場に突っ込むようなものだ。しかも今回は神界でも指折りの強者である武神様と軍神様を同時に相手しなければならない。俺自身長年の修行でかなりの実力を着けたと実感しているが、この御二方を相手に勝利するなどほぼ不可能に思える。彼らとの修行で何度も手合わせして貰ったが、今に至るまで勝つどころかまともなダメージも与えられずに惨敗を帰している。

そんな俺の不安を察したのか神様は補足を加える。

 

神「それでも流石に彼らを相手に完全勝利しろなんて言わないよ。少しでもフェアにするためにハンデをつける。」

 

真「ハンデ?」

 

武「左様。具体的に申すとまずお主は戦闘不能になるまで戦闘を継続出来るのに対し、儂らはお主から少しでも攻撃を一回食らったら儂らの負けとする。」

 

軍「そして今回の手合わせに際して我々は神器を一切使わずこの一般的な武器で戦い、武器と鎧には行動を制限するための重しが掛かっている。」

 

そう言って武神様と軍神様は俺に自身の武器を見せつける。確かによく見ると普段使用している神器ではなく何の変哲のないごく一般的な武器だ。

俺はそのハンデの内容を聞いて熟考する。

正直ハンデ無しのガチンコ勝負なら俺に勝ち目などゼロに等しいが、ハンデありなら少しだが可能性はあると感じられる。決して自惚れではないがこれまでの修行を経て俺は人としても戦士としても大きく成長できたと自覚している。ここまで来て退いてしまえばそれは今まで俺を育ててくれた神々に対してその顔に泥を塗るようなものだ。何よりも「救世主」として修羅の道を歩むことを決め、「彼ら」の能力を授かった者としてこの程度で諦めていては救えるものも救えないだろう。

俺は覚悟を決める。

 

神「どうする真人?もしこの試験をリタイアするのなら、残念だか今回の最終試験は不合格に「やります」....ん?」

 

真「神様、俺やります。この試験受けます!」

 

俺は決意を固めた表情を向けて神様に試験の受諾を告げる。それを聞いた神様は待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

武「よし!これで決まりじゃな。ならさっそく構えい!」

 

軍「ハンデありとはいえ、手加減はしないぞ。」

 

俺の返答を聞いた御二方はそう言って戦闘態勢に入る。

それぞれの得物を構え、殺気を込めた目でこちらを睨む様は正に猛獣であり、先程よりも纏うオーラが強大になっておりそれだけで相手を殺せそうな威圧感がある。

だが、覚悟を決めた今の俺は怖いもの知らずだ。

 

真「はい。胸をお借りしますよ、御二方。」

 

俺はボクシングを模したファイティングポーズを取ると虚空から数珠を巻き付けたドスを顕現させ、右手に構える。これが神様から授かった「ヒューマンバグ大学の全キャラクターの能力を扱える能力」だ。頭の中でイメージすることで望む能力と武器を自由に行使することが出来、俺は長年の修行を経てこの能力を完全にマスターすることに成功した。ちなみに今俺が使っているのは「ドスの工藤」こと工藤清志の能力だ。

俺は元から鋭い目を更に鋭くさせ、御二方に負けず劣らずのオーラを出す。

 

神「それじゃあ僕はここで観戦しているから、精々頑張ってね~」

 

いつの間に観客席に移動していた神様が俺たちに励ましの言葉を投げる。

こうして俺たちの戦いが始まった。

 

真「.........................」

 

武&軍「........................」

 

開戦当初は実に静かなものだった。

お互い相手の様子を注視するだけでその場から一向に動かない。しかし、御二方が俺の様子を単に伺っているだけなのに対して、俺は動けないだけであった。

 

真(くそ、全然隙がねぇ..........)

 

御二方からは全く隙が見受けらずどのように攻めてもあっさり返り討ちにされるビジョンしか浮かばず攻めあぐねていた。

そうした沈黙が続くこと数分、遂に事態が動き出す。

 

軍「真人、いつまでも様子を伺っているだけでは勝負は終わらんぞ。」

 

武「そちらが動かぬのなら、こちらからいかせてもらうぞ。」

 

真「ッ!!」

 

痺れを切らした御二方が一気に此方との距離を詰めてくる。まるで閃光のような踏み込みは常人ならば視認することすら不可能だっただろう。

だが、生憎俺は普通ではない。

 

武「ふんっ!!」

 

真「ぐぅ!!」

 

先に俺に攻撃を仕掛けたのは武神様だった。

太刀による中段からの横凪に対し、俺は超人的な反射神経でもってドスで受け止める。

しかし、相手は神々の中でも屈指の怪力を誇る武神様であって両手で持ったドスで受け止めるのがやっとだ。

ドスから嫌な音が聞こえる。

 

軍「俺を忘れるな。」

 

いつの間にか死角から接近していた軍神様がこちらに槍の切っ先を向けて刺突体勢に入っていた。

こうなったら.......

 

真「クソッ、近づくんじゃねぇ!!」ドパンッ

 

軍「ふっ.........」

 

俺は片手をドスから離しその手に拳銃を顕現させるとそのまま銃弾を軍神様に放つ。しかし、軍神様はそれを涼しい顔で避けるも一時的に動きを止めることに成功する。

 

武「片手で儂の刀を受け止められると思うな!!」

 

真「ぐわぁ!!」

 

片方の手を離したことにより太刀を押さえていた力が半減し、その結果俺はホームランを打たれた野球ボールの如く遥か空中にぶっ飛ばされる。直ぐ様俺は上手く着地するべく体勢を整えようとするが、そこに迫り来る飛来物が見えた。

 

真「ッ!!」

 

それは数本の矢だった。見ると武神様が鉄弓を構えている。十中八九武神様が仕掛けたものだ。俺は直ぐ様向かってくる矢を両手にそれぞれ顕現させた近代鉈で対処する。

 

真「ぐぅっ!」

 

空中で身体の自由が効かない状態での相手からの攻撃の対応は既に修行で身に付けていたが、それでも武神様から放たれる正確無比の矢は俺に容赦なく襲いかかり、その内の一本が俺の腕を掠める。

すると今度は軍神様が吹っ飛ばされている俺を追っている姿があった。

 

真(俺の着地点に先回りして、下から串刺しにする気だな。)

 

そう予測した俺はロケットランチャーを構える。

 

真「食らえ!ロケットランちゃ~」

 

間の抜けた掛け声と共に放たれたロケット弾は真っ直ぐ軍神様の方に向かっていき、軍神様のすぐ前方で着弾する。生憎軍神様は直ぐ様盾で防御したため被害は免れたが、その間に俺は無事着地する。

着地後辺りを見渡すと武神様の姿がない。

次の瞬間......

 

武「儂から目を離すのは命取りじゃぞ?」

 

真「ッ!」

 

背後から武神様の声が聞こえる。

 

武神様はいつの間にか俺の背後数cmの距離まで接近していた。

 

武「まずは一発貰っとけ、真人!」

 

真「ぐおっ!!」

 

がら空きになった俺の背中を武神様の刀が切り裂く。幸い咄嗟の反射神経で前方に飛び退いて深手を免れたが出血は多い。すると今度は軍神様が槍を構えこちらに突っ込んでくる。

 

軍「先程のお返しだ!」

 

真「チィ!!」

 

放たれる光速の刺突を何とか横っ飛びで回避するが、脇腹を槍が掠める。そのまま俺は御二方にマシンガンをぶっぱなして牽制しつつ距離を取る。

 

真(くそ、最初から覚悟していたが強すぎる。)

 

神界屈指の強者である御二方との手合わせ。

当初はハンデありと聞いて少しは善戦出来る可能性があると高を括っていたが、全く見当違いだ。

目の前のお二方はまるでハンデなど最初からなかったかのように強い。おまけに連携も完璧であり、どちらか一方に対処しているとそれを狙ったかのようにもう一方からの攻撃が襲い掛かる。油断も隙もない。

 

真(こうなったら御二方を分断するしかないな。)

 

俺は内心決断すると右手にロングナイフを握って御二方に突貫する。狙うのは武神様だ。

 

軍「俺を忘れるなと言ったはずだぞ、真人!」

 

それを見た軍神様が横から俺を串刺しにするべく踏み込もうとするが、そんなのは想定済みだ。

 

真「取り敢えずローストポークになっとけ!」

 

軍「ぬぅ!」

 

踏み込む直前に軍神様に向かって数本の火炎瓶を投げつける。火炎瓶は軍神様の前で割れ、燃え上がった炎が軍神様の動きを止める。俺はその間に武神様との距離を一気に詰める。

 

真「いっぺん死んどけ!」

 

武「戯けが!その程度で儂を殺れるか!!」

 

俺の渾身の突きを武神様は難なく避けるとそのまま俺の右腕を掴み、背負い投げの要領で再び空中高くに放り投げる。空中で自由の効かない俺に対して武神様がするのは矢による追撃だ。武神様は俺を撃ち落とすべく矢を構える。しかし、生憎俺は同じ轍を踏まない。

空中で俺は右手をまるで何かを引っ張るかのように動かすと突如として武神様の弓が連動するかのように前のめりに動く。

 

武「ぬおっ!」

 

突然のことに虚をつかれた武神様は矢を見当違いの方向に放ってしまう。今の現象のからくりを説明すると、武神様に投げ飛ばされる直前に俺は隠し持っていた鋼糸を弓に巻き付け、俺と弓を接続したんだ。後は鋼糸を引っ張ってしまえば矢の軌道を反らすくらい容易い。

矢の追撃を受けることなく着地すると俺は力自慢のヒューバグキャラたちの能力をフル稼働して鋼糸を思いっきり引っ張る。これは俺が長年の修行の末に編み出した「能力の重複」だ。複数の能力を一気に引き出すことで強力なバフを得るが、その分精神力を削る。

 

武「ほう、力比べか。なら儂も負けんぞ。」

 

負けじと武神様も弓をしっかりと握りその豪腕で以て鋼糸を引っ張る。

両者による腕力にものを言わせた綱引きならぬ糸引きは、拮抗していた。しかし、突然武神様は何を思ったのか握っていた弓を手放した。俺の腕力で引っ張られた弓はそのまま凄まじい勢いで此方に真っ直ぐ向かってくる。

 

真「しゃらくせぇ!!」

 

俺はその弓を柳葉刀で真っ二つにする。

するといつの間にか距離を詰めていた軍神様が今まさに突きを放つ寸前だった。

 

軍「武神殿の弓を封じたのは見事だ。たが、それだけでは勝利にはほど遠いぞ!」

 

そして放たれるのは無数の刺突。

光速で放たれるそれはまるで何十本もの槍が一気に襲い掛かるかのような感覚であり、俺は柳葉刀で防戦一方だった。その容赦のない突きは俺の身体に次々と切り傷を付けていく。

 

真(クソ!このままじゃあジリ貧だ。)

 

俺が内心愚痴を溢しているとチャンスは突然やってきた。徐々に体力を削られている俺を見て止めを刺す気だったのか軍神様の構えが大振りになる。

それを俺は見逃さない。

 

真(ここだ!)

 

俺は直ぐ様柳葉刀から二刀流に切り替えると放たれた軍神様の必殺の槍をその二刀で以て地面に叩きつける。

そのまま槍を足伝いにして跳躍し軍神様の喉元に向かって突きを放つ。

 

真「食らえぇぇ!!」

 

軍「甘いわぁ!!」

 

だがその渾身の突きを軍神様は盾で防御する。

それだけではなく.......

 

武「お主らだけで楽しむな!」

 

真「がはぁ!!」

 

横から現れた武神様が俺に蹴りを食らわす。蹴りは頬にクリーンヒットし、俺は数m吹っ飛ばされ地面を転がる。何とか体勢を整え立ち上がるも歯が数本折れ、脳にまでダメージがいったのか頭がクラクラする。

だが、戦えないわけではない。

 

真「はぁ、はぁ.............」

 

俺はボロボロになりながらも目の前の御二方を鋭い眼光で睨み付ける。

 

武「どうした真人?お主の力はその程度か?」

 

軍「そのような体たらくでは我々を負かすなど不可能だぞ?」

 

一方の御二方はまだまだ余力を残しているようで余裕が感じられた。

俺は何とかこの状況を少しでも変えられないか思考する。するとふと視界に軍神様の盾が移る。よく見てみると重厚な盾はロケットランチャーの爆撃と先程の二刀の突きによって所々に罅と火傷痕が見える。

俺はそこに打開策を得る。

 

真(まずは軍神様の鉄壁の防御を破る!)

 

右手にアイスピック、左手に拳銃を構えると御二方に向けて狂気的な笑みを向ける。

 

真「ヘーイ、フールゴット ?アイスピックはお好き?」

 

武「軍神よ、あやつ性懲りもなく何か企んどるぞ。

まず儂があやつを押さえるからお主は後方で控えておれ。」

 

軍「承知した。だが、抜かるなよ。」

 

俺の様子に何かあると勘繰った武神様は後方に軍神様を控えさせて、ジリジリと俺との距離を詰めてくる。

それに対して俺は迷いなく御二方に向かって踏み込む。

それは正に稲妻と形容するにも烏滸がましいほどの神速の踏み込み。だが、それを武神様は涼しい顔で対処する。

 

武「やはり来おったか真人!ならば真っ二つにしてくれる。」

 

武神様は再び中段からの横凪を仕掛けるが俺はバク転してそれを回避し、武神様の背後に着地すると武神様を無視してそのまま軍神様の方に駆け出す。

 

武「ぬぉっ!?」

 

これには流石に予想外だったのか武神様は驚きの声を挙げる。俺は追ってくる武神様を拳銃で牽制しつつ軍神様に接近する。それに対して軍神様は槍と盾を構えて迎撃体勢を整える。そして軍神様との距離があと2mの所にまで来て俺は軍神様の顔面に向かって口からあるものを吐き出す。

それは口内のカプセルに収納されていた酸だった。咄嗟に軍神様はその酸を盾でガードするが顔が盾に隠れ視界を一時的であるが奪う。

 

真「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄野田ぁぁ!!」

 

甲高い叫び声を挙げながら渾身の力でアイスピックを盾に突き刺す。アイスピックは盾に深々と刺さり、衝撃で軍神様は数歩後退する。

 

武「真人!儂を無視するとはいい度胸じゃのう!」

 

真「のわぁ!」

 

すると今度は距離を詰めてきた武神様が刀を振る。俺はそれを紙一重で避けると距離をとって右手にインド武器の一つであるウルミンを顕現させる。

武神様との近距離戦は部が悪いと踏んだ俺は中距離からの攻撃が可能かつ相手の動きを封じ込めることに特化したウルミンで対処する選択を取った。

ウルミンを見た武神様は好戦的な笑みを浮かべる。

 

武「ほぉ!ウルミンときたか。ならばその玩具でどれだけ儂とやりあえるか試してやる。」

 

武神様は直ぐ様俺に接近を試みるが、武神様が動く前に俺はウルミンで攻撃する。

 

武「ふん、ちょこまかと鬱陶しい。」

 

軟鉄の刃をしならせたウルミンの斬撃は正に変幻自在。回避は難しく、例え受け止めても食らいつくように刃がしなり、追撃する。相手の動きを止めるのに最適な武器だ。

しかし、流石は武神様だ。ウルミンの縦横無尽の斬撃を冷静に対処している。突破されるのも時間の問題だろう。

 

軍(妙だな。なぜ真人は俺の盾にアイスピックを突き刺した。わざわざ視界を奪ってまで。)

 

一方の軍神様は俺たちの激闘を見ながら俺の一連の行動に対して疑問を抱く。

 

軍(盾の耐久力を削るのが目的か?いやそれが目的なら何もアイスピックにする必要がない。.....ん?アイスピック?................まさか!?)

 

生真面目な軍神様は俺を鍛えるにあたって確実に特典を使いこなせるようにするために参考としてヒューマンバグ大学の動画を全て視聴している。その中には当然「アイスピックの野田」こと野田一が登場する「天羽組シリーズ」も含まれている。

それ故に軍神様は気づいてしまったんだ。

 

何故俺が盾にアイスピックを突き刺したのかを......

 

軍「ふんっ!」

 

結論に至るやいなや軍神様は俺に向かって盾を投げつける。それを見て俺はウルミンから金砕棒に持ち変えると野球の如く武神様に向かって盾を打ち飛ばす。自身に向かってくる盾が危険であると直感した武神様は盾を上空に蹴り飛ばす。

 

その直後だった.............

 

武「ぬぉ!!」

 

真「ぐぅ!!」

 

軍「くっ!!」

 

盾が上空で大爆発する。これが俺の作戦だ。確実に盾を破壊するためにわざと盾に時限爆弾を搭載したアイスピックを突き刺して爆破する、野田の兄貴必殺の「アイスピックアドバンズ」だ。本来であれば刺した3秒後に爆発するが、武神様を上手く軍神様の方に誘導して巻き添えにしようと考えたため、設定時間を長めにしたがそう上手くはいかないか。

しかし、これによって盾は木っ端微塵となり、軍神様の防御の要を奪うことに成功する。

 

軍「.......まさかこのような方法で俺の盾を破壊するとは。

見事だ。」

 

真「ありがとうございます。」

 

軍「だが、その変わり俺は身軽となった。

悪いがここから本気で行かせてもらうぞ。」

 

すると軍神様は槍を両手で構え、纏うオーラをさらに強める。

嘘だろ、あれでまだ本気じゃなかったのか!?

そして軍神様はまるで瞬間移動をしたかのように俺との距離を一気に詰める。

放たれるのは先程よりも比べものにならない刺突の嵐。

俺は咄嗟に金砕棒からリーチの長い朱槍に変えて迎え打つが、刺突の練度が段違いだった。俺は軍神様の槍を急所から外すのに精一杯だった。

 

武「儂を忘れるでないぞ。」

 

真「くっ!」

 

横から武神様が刀を構えてこちらに向かってくる。上段から唐竹割りを仕掛けるつもりだ。

俺は朱槍を右手に持ち変え軍神様の刺突を防ぎつつ、左腕に手甲を装着して武神様の唐竹割りを受け止める。しか、武神様の豪腕で以て振るわれる剛剣の威力は凄まじく、刃が手甲に食い込み左腕に多大なダメージを与える。俺の表情は苦悶に変わる。

それが一瞬の隙を作ってしまった。

 

軍「貰った!!」

 

真「ぐあぁぁぁ!!」

 

軍神様はその隙を逃さず、俺の右脇腹に槍先を突き刺す。反射的に筋肉を固めたためにそのまま貫かれることはなかったが、それでも受けたダメージは大きい。

 

真「くそ、離れやがれ!!」

 

軍「ふっ。」

 

すかさず俺は軍神様に向かって朱槍を振るうが、軍神様は余裕の表情で避け、バックステップで距離をとる。

すると今度は.....

 

武「左腕は貰うぞ、真人!!」

 

武神様は左手を未だ俺の手甲に食い込ませていた刀から外すと、握りこぶしを作りそのまま刀の峰を思いっきり叩く。すると刀は手甲に更に食い込み、遂には腕にまでその刃が切り込まれる。恐らく骨にまで達しているだろう。

 

真「ぐぁ!くそが!!」

 

俺はたまらず拳銃をぶっぱなす。

武神様は腕に食い込んでいた刀を抜くと銃弾を容易く避けながら後退する。

 

真(やはり一筋縄じゃいかねぇな.........)

 

俺は未だ健在な御二方を見て内心そう呟く。

それもそうだろう。相手は全てを超越した神だ。ハンデありとはいえ人間がそう易々と敵う存在じゃない。それでも俺は今もこうして二柱の神と戦意を失わずに対峙している。常人から見たら正気を疑うだろう。今の俺が戦意を失わずにいられるのはひとえに生来の諦めの悪さと修行で培った強靭な精神力が支えているからだ。

とはいえいくら戦意が残っていたとしても、身体の方はそうはいかない。

既に俺の身体は数十箇所の傷を負っており、流血が足元にたまって血溜まりをつくっている。視界も時折霞み、疲労も激しい。余り長くは持たないと俺は判断する。

 

真(さて、どうするか。)

 

俺はこの強大な御二方をどう攻略するか思案する。

ふと俺は前世で視聴したヒューマンバグ大学の動画の一部シーンを思い出す。それは天羽組シリーズで主人公の小峠華太が天京戦争の折に自身より才能に優れた京極組の久我虎徹との一騎討ちで流れた回想シーンだった。

その回想シーンは天羽組の道場にて工藤の兄貴が小峠に自分より才能のある人間に勝つための必勝法を伝授する場面だ。

 

工『小峠、才能のある奴ってのはな無傷で勝とうとするんだ。』

 

工『そん時はよぉ...』

 

工『腹刺させて相討ちに持ち込めえ。』

 

小『え...でも刺されたら死にませんか?』

 

工『馬鹿野郎 それをやれなかったら手も足も出ず

テメェが死ぬだけなんだよ。』

 

工『腹を刺しあった時はなぁ

気合いが入っている方が生き残る。覚えとけ。』

 

正直に言ってこの方法は正気の沙汰ではないが、これを実践した小峠は見事に久我に深手を負わせて見せた。

 

真(ははっ、そうだよな。自分より強い奴に勝つには腹を括るしかないよな。)

 

俺はこの戦いに勝利するために覚悟を決める。

先程武神様に斬り付けられた左腕がまだ使えることを確認すると右手にロングナイフを構える。

次の瞬間、俺はこれまでにない強大かつ圧倒的なオーラを放出する。それは正に周りを圧倒せんばかりの殺気と闘気の奔流だった。これこそ追い詰められた際に発動する一条の兄貴お得意の「修羅化」だ。

 

真「俺はこんなところで負ける訳にはいかねぇ。

   絶対に

     勝ってみせるぞ

           この戦い       」

 

武「ほぉ........」

 

軍「これは.....」

 

俺は戦闘態勢に入りながら死の五七五を詠う。

その羅刹のごとき様相に御二方は感漢の声を漏らす。

そして俺は御二方に向かって駆け出す。

狙うはまず、武神様だ!

 

軍「狙いは武神殿か。だが、そうは問屋は卸さないぞ真人!」

 

それに呼応して軍神様が横から仕掛ける。放たれる光速の槍の切っ先は俺の顔を捉えており、回避は不可能。

それなら.....

 

軍「ぬぅ、貴様!」

 

真「とらへまひたせ、くんしんさま。」(捕らえましたぜ、軍神様。)

 

俺はその刺突を敢えて頬で受け、歯で槍の切っ先をがっちり捕らえる。これでもう抜けまい。

そのまま右手のロングナイフで槍の柄を切り裂き、槍を真っ二つにする。頬に刺さったままの槍をすかさず抜き取ると、武神様の方に直進する。

 

真「いい加減退場して下さい、武神様!!」

 

ロングナイフの切っ先を向け、武神様に急接近する。

 

武「戯けが!そんな直線的な攻撃が儂に効くかぁ!!」

 

真「ぐはぁぁぁ!!」

 

しかし、武神様の下段からの袈裟斬りが俺を襲う。

直前に筋肉で防御力を固めていたとはいえ、下から上に斜めにバッサリと切り裂かれる。血飛沫が舞い、焼けるような痛みでそれが致命傷になり得る一撃であると理解させられる。

だが、今の俺は「この程度では」止まらない!

俺は左手で刀を握っている武神様の両手を刀ごと掴んで固定する。

次の瞬間......

 

真「これで決まりだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

武「ぬおぉぉぉぉぉ!!」

 

がら空きになった武神様の腹にナイフをぶっ刺す。

それでも武神様は超反応で急所を外し、腹を裂かれる前に後ろに飛び退く。

だが、俺からの攻撃を受けたことにより武神様はここで退場となる。

 

武「........よもや同士討ちに持ち込んで儂に一撃入れるとはな。大したもんじゃ。」

 

真「はぁ...はぁ...、ありがとうございます。」

 

武神様は腹に刺さったままのナイフを外すと俺に称賛の言葉を送る。それに対して俺は息を切らしながらもそれに応える。

 

武「儂はこれで退場するとしよう。武運を祈るぞ真人。」

 

そう言って武神様は神様のいる観客席の方に向かっていった。俺はそれを見送ると軍神様の方に向き直る。

 

軍「.....正直同士討ちなんてお前らしくないが、それが功を奏したようだな。」

 

真「..........」

 

軍「だが、その傷ではもう限界が近いだろう?

安心しろ。直ぐに楽にしてやる。」

 

軍神様は腰に下げていた短剣を鞘から抜く。

良く鍛えられた短剣の刃が怪しく光る。

それに対して俺は右手に小林の兄貴の相棒である龍王刀 紫蘭を顕現させ、構える。

互いの殺気がぶつかり合い、場の緊張感が増す。

そして両者は眼前の敵を屠るべく一気に距離を詰める。

 

そこから始まったのは俺にとって正に命を削る攻防だった。

 

真「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

軍「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

両者の得物がぶつかり合い、高い金属音が鳴り響き火花が散る。

だが、俺は数多の負傷と疲労困憊によって身体が思うように動かず、次第に押されていく。

 

軍「隙あり!」

 

真「ぐはぁ!くそがぁ!!」

 

隙をついて軍神様が俺の左目を短剣で切り裂く。眼球が完全に破壊され左目の視界が暗転する。たまらず俺は軍神様の首筋を狙って紫蘭を振るうが、軍神様をそれを屈んで避ける。そのまま間髪入れずに軍神様は俺の腹を容赦なく切り裂く。直前に腹筋を固めていたとはいえこの傷は決して浅くない。俺の顔に苦悶の表情が浮かぶ。

そして........

 

軍「ふんっ!」

 

真「ぐあぁ!!」

 

視界がシャットアウトした左側に回り込んだ軍神様が俺の左肩に短剣を突き刺す。

だがこれは俺にとって大きなチャンスとなった。

俺は短剣を握っている軍神様の右手を掴むと、首めがけて紫蘭を刺そうとする。しかし、紫蘭の切っ先が首まであと数cmの距離に達したところで軍神様に右腕を掴まれ、止められてしまう。

まずい、動きを止められた........

 

軍「この俺に武神殿の時のような手は通用せんぞ?

とりあえず、これで一旦眠っていろ!」

 

真「がぁぁ!!」

 

そこから繰り出されたのは強烈な頭突き。

頭が割れたような感覚と共に俺は後方にぶっ飛ばされ仰向けで倒れ込む。

 

真(くそが、あともう少しの所で.......)

 

視界がぼやけ、身体を動かそうにも全くいうことを聞かない。徐々に意識が薄れゆく中で前世の思い出や神界での修行の日々がフラッシュバックする。俺はこの現象を知っている。死を前にした人間が見る「走馬灯」だ。どうやら俺に限界が来たようだ。

 

真(勝ちたかったな.........)

 

俺は悔しさの余り涙を流し、口を噛み締める。

武神様を退けたことでやっと勝機が見えてきたと思ったが、結局の所俺は一介の人間に過ぎない。傷は簡単には直らないし、死ぬときは普通に死ぬ。始めっから二柱の神を相手に勝利するなんて不可能に近かったんだ。

ここに来て俺の心境に「諦め」の感情が強まっていく。

 

走馬灯の影響なのか、ふと俺はある前世の記憶を思い出す。それは幼少期の俺と数年前に他界した祖父との思い出だった。俺の祖父は仁義と人情を重んじ、正義感の強い人だった。そんな祖父を俺は人一倍慕い、とても懐いていた。幼少期の俺は泣き虫で嫌なことがあるといつも祖父に泣きついていた。それを祖父は優しく慰めるも決まって俺に強い眼差しを向けながらある言葉を口にしていた。

 

祖『いいか、真人。お前はこの先たくさんの嫌なことや辛いことを経験するだろう。だが、決して諦めるな。諦めずに立ち上がればお前は必ず儂よりも強く大きな男になれる。これはじいちゃんとの約束だぞ。』

 

そうだ、じいちゃんのこの言葉があったからこそ、俺は今までどんな苦難も乗り越えてきたんだ。こんなところで立ち止まっていたら天国のじいちゃんに顔向けができねぇ。

 

真「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

消えゆく意識を再び覚醒させ、俺は神界全土を揺るがすほどの絶叫と共にボロボロの身体に鞭を打って立ち上がる。

 

真「俺はまだ負けてねぇぞ.....軍神様.....!」

 

軍「真人.....お前.....」

 

死に身体で紫蘭を構え殺意を込めて睨む様はまるで幽鬼のようだった。俺から滲み出るオーラは殺気、狂気、闘気、執念........あらゆる感情・意志が入れ混じった異質かつ圧倒的なもので、まるで大炎のようにユラユラと揺らめき、周囲の景色を陽炎のごとく歪めていく。

先程とは全く異なる俺の姿に軍神様は言い知れぬ恐怖を抱く。しかし、直ぐにその恐怖を払拭すると止めを刺すべく、駆ける。

 

軍「いい加減楽になれ、真人ぉ!!」

 

真「...............」

 

迫りくる軍神様を前に俺は一歩も動かずに観察する。

不思議だ。確実な死が目の前に迫っているというのに俺の心は不気味な程に落ち着いている。おまけに軍神様の動きがまるでスローモーションのように遅く見える。

 

今の俺なら負ける気がしない!

 

俺と軍神様との距離が3mを切ったところで俺は懐から煙幕玉を取り出し点火すると軍神様の方に投げつける。直後に煙幕玉は煙を吹き出し、軍神様と俺を包み込む。

 

軍「ぬぅ、ちょこざいなマネを........」

 

予想だにしなかった煙幕による錯乱に軍神様は足を止める。その間に俺は煙幕に身を隠し、「朧の鵺」の能力で音と気配を完全に遮断する。

 

軍(煙幕によって視界を遮り、音と気配を完全に消している。今の真人を視覚・聴覚で捉えるのは不可能。だが、あいつは既に多量に出血している...ならば。)

 

視覚と聴覚が意味を成さないと感じた軍神様は俺が今までの戦闘でかなりの量の出血をしているのを思い出し、流石に血の臭いまで消すのは不可能だと考え、嗅覚を集中させ血の臭いを頼りに進む。神界でもトップクラスの嗅覚を持つ軍神様からしてみれば臭いで他者の居場所を突き止めるなど容易かった。

 

だが、今回はその優秀な嗅覚がかえって命取りとなった。

 

軍「...........!」(臭いが強い!そこにいるのか?)

 

数歩歩いた所で軍神様はある一点の方向から血の臭いが強くなっているのを嗅ぎ取った。軍神様は短剣を構え、その方向に意識を集中させる。

 

その時だった。

 

真(貰った!!)

 

軍「ぬおっ!?」(馬鹿な!背後からだと!?)

 

煙を掻き分けて意識外であった軍神様の背後から突如俺が現れる。突然のことに虚をつかれた軍神様は俺の接近を許してしまった。だが、流石は軍神様だ。直ぐ様俺の方に向き直ると、懐に迫った俺を短剣で突き刺そうとする。しかし、その短剣を左掌で受け止めると、紫蘭の刃が軍神様の腹に迫る。

 

そして........

 

真「ハードグリングリーン!!

これで俺の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

軍「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

小林の兄貴必殺の「ハードグリングリーン」が炸裂する。

俺は軍神様の腹に紫蘭を突き刺し、腹から胸まで裂くとその場で倒れる。確かな手応えを感じたことにより、緊張が一気に解け、身体から全ての力が抜ける。

消えゆく意識の中で俺が最後に見たのはこちらを見下ろしながら満面の笑みを浮かべる神様の姿だった。

 

 

 

 

 

意識を手放してから数時間、激闘を制した俺は目を覚ます。意識がはっきりしており、両目の視界も回復している。手を動かしてみると思いどおりに動くためどうやら俺が意識を失ったあと神様が治癒を施してくれたようだ。俺はゆっくり立ち上がると、身体中の傷が完治していることも確認する。

 

武「おぉ!目が覚めたか真人!」

 

俺が目を覚ましたことに気付いた神様、武神様、軍神様が駆け寄ってくる。

 

武「いやはや、まさか最後に血を大量に付着した衣服を囮にして軍神を欺くとはなかなかいやらしい手を使うのお?」

 

真「あははは.........」

 

軍「だが、あれには完全に騙されたぞ。ボロボロの状態であのような戦術を思い付くとは、恐れ入った。」

 

先程俺が軍神様に仕掛けた戦術に対して武神様と軍神様はそれぞれの感想を述べる。何故、あの時俺が全く軍神様の意識外から現れたのか、その理由は簡単だ。

軍神様から視界を奪い気配と音を消しても血の臭いまで消せないと察した俺は全身の筋肉を力ませて一時的に傷口を塞ぎ、止血すると身体中に纏わりついていた血を脱いだ衣服で拭き取り、血で真っ赤に染まりきった衣服を軍神様の近くに放置した。まだ血が乾ききっていない衣服から漂う鉄錆の臭いに釣られて軍神様が隙を見せたと同時に意識外から攻撃を仕掛けたのだ。

運が絡む大博打な作戦だが、今回は上手くいった。

 

すると今度は神様が柔和な笑みを浮かべながら俺に近付き、話し掛ける。

 

神「やぁ、真人。体調の方はどうだい。」

 

真「おかげさまでこの通りですよ。回復ありがとうございます。」

 

神「なに、当然のことをしたまでさ。それにしても君は本当にすごいね。ハンデありとはいえ彼らに勝っちゃうなんて。」

 

真「これも全て今までの修行の成果ですよ。」

 

神「ふっ、そうゆうことにしておこう。とはいえ、これで最終試験は全て合格という訳だ。おめでとう、真人。」

 

そう言うと神様は杖をかざし軽く振る。

すると俺たちの直ぐ横に2m程の大きさのワープホールが現れる。

 

神「あれが異世界に通じる扉だ。早速で悪いけどこれから君にはあそこを潜って転生してもらう。」

 

いよいよこの時が来たか..........

最後の試練を乗り越えやっと異世界への転生するのを感慨深く思う反面、長年過ごした神界を離れることになりどこか寂しくもある。

しかし、そんな一抹の寂しさを俺は振り払う。異世界で滅びの危機にある人類を救うために今まで努力してきたのだ。ここで躊躇う時ではない。

すると今度は神様が杖を俺の目の前にかざす。

 

神「これは僕からの餞別だよ。流石にその格好じゃあみすぼらしいからね。」

 

神様はそう言って杖を振る。すると上半身裸でボロボロのズボンに使い古した革靴とみすぼらしかった俺の見た目が一変する。

高級そうな白のシャツにワインレッドのネクタイ、黒のベストとその上には黒のオーバーコートを着込み、手には同色の皮手袋を付けている。下はこれまた黒のスラックスとブーツを履いている。ボサボサだった髪も綺麗に揃えられており、清潔感があった。

全身黒尽くめの服装と鋭い目付きに逞しいガタイが相まって今の俺はまるで裏社会の殺し屋のような風貌であった。

一気に様変わりした俺に神様は懐から取り出したサングラスを手渡す。

 

神「このサングラスは周囲を見えやすいように改良してあるから、人前では常に付けておくといい。今の君の目はとっても怖いからね。」

 

真「あ、ありがとうございます.....」

 

神様のその言葉に俺は苦笑いを浮かべながらもサングラスを受けとる。長年の凄惨きわまりない修行によって俺の目はまるで人を殺して食ったかのような様になり、異世界の人間とコンタクトを取る上で相手に要らぬ恐怖心を与えてしまうのは明白だった。

受けとるやいなや俺は早速サングラスをかける。しかし、まるでサングラスなど初めからかけていなかったかのように周りの景色が裸眼同様に見える。

 

神「便利だろ?それなら戦闘でも支障になることはない。」

 

真「あぁ、何から何までありがとうございます。神様。」

 

神「いやいや、元々は僕が君に人類の救済をお願いしたんだからこれぐらい安いもんだよ。

.......それじゃあ、準備も整ったことだし行くといい。」

 

真「あ、その前にちょっと待ってくれ。」

 

俺は待ったをかけると武神様と軍神様の方に歩み寄り、深々と頭を下げる。

 

真「武神様、軍神様。今まで俺を鍛えて下さり、ありがとうございました。この御恩は一生忘れません。」

 

武「何を改まって。儂らの方こそ毎日退屈せんかったわい。礼を言うぞ、真人。」

 

武「お前のような優秀な弟子を持って俺は誇らしく思う。異世界でも頑張るのだぞ、真人。」

 

真「はい!.........ただ欲を言うと他の神々にもちゃんと礼を言いたかったんですが.......」

 

武「それなら安心せい。その気持ちは後で儂らがちゃんと他の奴らに伝えておこう。」

 

真「本当ですか!?ありがとうございます。

.....それじゃあ、名残惜しいですが行ってきます。」

 

武「おぅ!行ってこい!!」

 

軍「己の役目をしっかり果たすのだぞ。」

 

御二方との別れの挨拶を済ませると、俺はワープホールに向かう。そして、ワープホールの目の前に立つと後ろで見守る神様に顔を向けて声を掛ける。

 

真「行ってくるぜ神様。」

 

神「あぁ、言ってらっしゃい。頼んだよ真人。僕の子供たちを救ってくれ。」

 

真「おぅ、任せろ」

 

そう言って俺は顔をワープホールの方に戻すと、決意を固め踏み出す。

これからこの先、俺は様々な苦難に見舞われるだろう。

時には挫け、逃げ出したくなるような時が来るかもしれない。だが、俺は決して諦めない。それが今は亡きじいちゃんと交わした約束だからだ。

吸い込まれるかのように俺はワープホールに入っていき、神界を後にする。

 

こうして俺は異世界へと旅立っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武「.......しかしこれで良かったのか?あのような前途有望な若者を死地に送るような真似をして。わざわざ新しく世界を創造して、特典まで細工を施して。」

 

俺が神界を去った後、武神様は神様にそう問いを投げ掛ける。軍神様も黙っているがどこか釈然としない表情で神様を見ている。

 

神「良かった?あぁ、良かったさ。今の彼なら間違いなく僕の望む結果をもたらしてくれるだろう。何せ彼は300年もの修行を耐え抜き、神との戦いに勝利したんだからね。もはやあっちの世界にいる『奴ら』なんか彼の敵ではないよ。」

 

その問いに対し神様は笑みを浮かべながら答える。しかし、その笑みは俺にいつも見せる慈悲深く暖かみのあるものではなく、享楽的で狂気を帯びたとても不快なものだった。そして神様は笑みを絶やすことなく話を続ける。

 

神「天地創造以来、僕は創造主として人間たちの動向を常に観察してきた。初めの頃は見込みのある人間が多く、僕も退屈しなかった。」

 

神「しかし、時代が進んでいくごとにそういった『英雄の器』を有した人間は現れなくなり、それどころか人間たちは文明の利器に頼ってその質を低下させていった。」

 

神「それからの僕はとても退屈だったよ。ここまで墜ちてしまった人類に心底失望し、一時期本気で滅ぼそうとも思った。」

 

神「そんな中で現れたのが真人だったんだ。」

 

神「あれは本当に偶然だったよ。どこかに面白い人間はいないかと下界を見ていたらダンプカーに牽かれそうになっていた子供を助けるために迷いなく駆け出す彼の姿を。」

 

神「そして僕は見てしまったんだ。彼の中に宿る英雄の器を、魂の輝きを。」

 

神「そこからの僕の行動は早かったよ。直ぐ様彼の魂を拾い上げ、相応しい舞台として彼に馴染みのある世界を模して作り、特典も用意した。」

 

神「後は受肉した彼に異世界の人類の救済を依頼するだけだった。案の定、彼は承諾してくれたよ。

何故だかわかるかい?」

 

ここで神様は武神様と軍神様に問いを投げる。

 

武「それはあやつ自身がそう在りたいと願ったからじゃろ。『可能な範囲で多くの人を助けたい。』とよく儂らに言っとたからのぉ。」

 

軍「うむ、それが亡き祖父との約束だと言っていたしな。」

 

その問いに御二方はそう答える。

 

俺がなぜここまで他者のために身体を張れるのか。

それはじいちゃんと交わした「もう一つの約束」が関係している。膵臓癌を患い余命宣告を受けたじいちゃんは死ぬ間際に俺とある約束を結んだ。

 

祖『真人。儂が死ぬ前にこれだけは覚えておいてくれ。お前は将来人間として、男として大成するだろう。しかし、忘れないでくれ。世の中にはお前のように強い人間ばかりではない。自分ではどうすることも出来ず、誰かの助けが必要な人が沢山いる。お前はそういった人たちを可能な範囲で助けるんだ。』

 

この時交わした約束が今の俺を形作った。

それ以来俺は出来る範囲で多くの人を助けるようになった。正直これが俺の独り善がりであることも理解していたがやめることはなかった。

何故なら俺自身がそう在りたいと心の底から願っていたからだ。

 

御二方の答えを聞くと、神様は口角を更に吊り上げ再び話しを続ける。

 

神「あぁ、そうさ。彼自身が人々を救うことを願っているからね。全く、とんだ偽善者だよ。そんなことしても自分のメリットに繋がるかもわからないのに。」

 

神「だが、そんなどうしようもない『自己犠牲の精神』が今後彼を英雄として完成させる上での支柱となるだろう。」

 

神「僕は楽しみでしょうがないよ!これから彼が英雄として成長していくのが!人々の希望としてその強烈な輝きを放つのが!」

 

神様は狂気的な笑みを浮かべながら両手を広げ、空を仰ぎ見る。

 

神「さぁ、見せてくれ『約束の英雄』よ!その魂の輝きを!その勇姿を!君の驚天動地の英雄譚で僕の退屈を紛らわしてくれ!!」

 

そして神様は恍惚とした表情で狂ったように笑う。

その様子を武神様と軍神様はただ黙って見守るしかなかった。

 

     アサルトリリィ~Episode of Bag Human~

       第2話「試練そして旅立ち」 完

 




如何でしたでしょうか?
次回からいよいよ真人が本格的にアサルトリリィの世界に介入します。
それでは、またお会いしましょう。


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邂逅

皆さん長らくお待たせしました。
予定が色々と重なっていたとはいえ、更新が遅れてしまったこと、深く御詫び申し上げます。
それでは第3話「邂逅」をお楽しみ下さい。


俺の名は狂巌寺真人。

 

真「嬢ちゃん、怪我はないかい?」

 

?「え......あ、はい!ありがとうございます。」

 

推しの女の子を危機から救いだした未来の救世主候補だ。

前世においてダンプカーに牽かれそうになっていた子供を救うためにその命を散らした俺は、自らを創造主と自称する神様に見初められ、滅亡の危機にある異世界の人類を救うことを依頼される。その際に渡された特典である「ヒューマンバグ大学の全キャラクターの能力を行使する能力」を使いこなすべく、壮絶かつ過酷な修行に身を投じた。そしてそんな修行をどれ程の年月が経ったのかもわからなくなるほど続け、俺は特典を完璧に使いこなせるまでに成長した。そして迎える異世界への転生を賭けた最終試験。俺は課せられる試験を次々とクリアしていき、遂に最後である戦闘力測定試験にまで漕ぎ着けた。だが、この試験は正に命を削る壮絶なものであった。神界屈指の実力者である武神様と軍神様の御二方を同時に相手取り、一撃与えなければ合格できないという余りに無謀な試験であった。案の定、この試験で俺は御二方にズタボロにされ死の淵に立たされるも、根性と執念にものを言わせて、見事勝利を掴みとって見せた。そして晴れて異世界への転生の資格を手にした俺は世話になった神様たちに別れを告げ、異世界へと旅立っていったのだ。

 

 

真「ここが異世界か................」

 

異世界へ続くワープホールを潜り、一時的に意識を手放した俺は目を覚ますと、寂れた廃墟と化した市街地の一角である建物の屋上に立っていた。辺り一面に広がる市街地の街並みはまるで戦場跡地や被災地のように倒壊し、蘿や苔などの植物が生え何十年も放置されたままであるのが嫌でも理解できた。時折吹く風から潮の匂いがすることからここが海に近い地域なのだと実感する。

 

真「転生して早々に廃墟の街を見ることになるとはな....

あまり気分がいいもんじゃないな。」

 

俺はこのもはや人間社会のテリトリーとして機能していない市街地を眺めながらそう口にする。

それと同時にこれ程の規模の街が廃墟となっているのは神様から聞かされたこの世界の人類に仇なす怪物どもによる影響なのではないかと勘繰ってしまう。

この推測が正しければ、怪物どもは十分に人類を滅ぼしうる力を有しているのは明白であり、人類は正に崖っぷちに立たされているといっていいだろう。

 

真「......まずはどこかに人がいないか辺りを見回るか。」

 

あまり時間を浪費すべきではないと考えた俺はこの世界の人間たちと接触するべく周囲の探索を始める。

まるで進撃の巨人の調査兵団のような軽快さで建物から建物へと飛び移り、この廃れきった市街地の状況を確認していく。

 

真(この街も長いこと放置されてるみたいだし、近くに人がいる可能性は余り高くないかもな。)

 

俺は内心そう感じながら市街地を移動していく。

すると.......

 

ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!

 

突然、耳をつんざくような爆発音が鳴り響いた。

 

真「なんだ!?」

 

突然の出来事に俺は驚きの声を挙げるも、直ぐに爆発音がした方向に視点を当てる。俺から見て十時の方向数キロ先に巨大な黒煙が立ち上ぼっており、煙の中で稲光が走っている。どうやら爆発音の発生源はあそこのようだ。

 

真「転生して早々にアクシデントかよ。

俺もついてねぇな。」

 

悪態をつきながらも爆発の原因を探るべく黒煙が立ち上る方へ俺は跳躍する。

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発音の発生源と思われる地点に数分も掛からずに到着した俺はそこで信じられない光景を目の当たりにする。

 

真「嘘だろ........

あれってまさかアサルトリリィに出てくるヒュージか!?それにあそこにいるのは.....まさか一柳隊!!」

 

そこには胴体に大きな古傷を持った巨大なヒュージとそれと対峙する百合ヶ丘女学院所属のレギオン「一柳隊」のメンバーであった。

異世界と聞いていたが、まさか「アサルトリリィ」の世界だったとは.........

 

アサルトリリィ

それはアゾンインターナショナルとacusによって産み出されたメディアミックス作品であり、50年前に突如として現れた謎の巨大生命体「ヒュージ」によって人類が滅亡の危機に瀕している近未来の地球で、唯一ヒュージに対抗できる科学と魔法の複合体「マギ」を結集した決戦兵器「charm」を片手に儚くも美しく戦う「リリィ」と呼ばれる少女たちの物語だ。アニメの放送やソシャゲの展開に舞台化など多岐に渡り、ヒュージとの文字通り死力を尽くした緊張感のある戦闘や、個性豊かなキャラクターによって展開される人間ドラマなど魅力が詰まっており、中でもリリィたちの間で育まれる愛情は一つの「百合もの」としてその手のオタクたちから支持を受けている。

かくいう俺もアサルトリリィはヒューマンバグ大学同様に熱中しており、推しは今こうして縦に真っ二つになったヒュージの体内から現れたダインスレイフを見て呆然としているシュッツエンゲルの白井夢結を守るためにヒュージのアームに翻弄されながらも奮闘している、一柳梨摛..........て、

 

ヤバい!!

 

真「クソ!」

 

俺は梨摛の方に向かってスピード自慢のヒューバグキャラたちの能力をフル稼働して駆ける。

アサルトリリィのファンだからこそ俺は今目にしている光景が何なのかを知っている。俺が転生したこの世界は間違いなくアサルトリリィのアニメ版「BOUQUET」の世界で、現在一柳隊が相手しているヒュージは第6話にて登場するギガント級ヒュージだ。しかもただのヒュージじゃない。奴は今から2年前の甲州撤退戦において当時アールヴヘイム所属だった夢結とそのシュッツエンゲルだった川添美鈴と戦闘を繰り広げ、結果として美鈴を殺した因縁深き相手なんだ。奴の身体に突き刺さりながら煌々とした光を放っているダインスレイフがその証拠だ。

 

だからこそ俺はこの後の展開が解ってしまったのだ。

 

この世界が原作通りの展開になるのだとしたら、梨摛はこの後ヒュージのアームに包囲されて命の危機に陥る。幸いアームに閉じ込められる直前に吉村・thi・梅が縮地で助けるため、心配は必要ないが目の前で推しがピンチなのを助けずにはいられなかった。

 

真(間に合え!)

 

俺は光の速さで梨摛の元へ駆ける。その途中で今正に縮地で梨摛ちゃんを助けようとしていた梅を横から抜かす。後ろから梅の驚いたような声が聞こえたが、今の俺にはそんなの関係ない。

そして俺はアームの網から間一髪で梨摛を救出することに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

私の名前は吉村・Thi・梅。

百合ヶ丘女学院に通うリリィだ。

唐突だが、今私が所属しているレギオン一柳隊は一つの山場を迎えていた。結成されて間もない私たちは9人一組のリリィによるマギスフィアのパス回しで繰り出されるどんなヒュージも一撃で倒してしまう「ノインヴェルト戦術」を学ぶために、トップレギオンのアールヴヘイムの皆に頼んで防衛任務を兼ねてノインヴェルト戦術の実践を見せてもらうことになった。

しかし、これが思わぬ事態に発展してしまったんだ。

アールヴヘイムと対峙したギガント級ヒュージは放たれたマギスフィアをあろうことか防いでしまったんだ。それを見て天葉がギガント級の防御壁によって止められていたマギスフィアに自分のチャームを叩きつけ、強引に防御壁を打ち破った。マギスフィアはそのままギガント級に着弾し、大爆発を起こすもまるで意に介していないかのように平然としていた。しかし、アールヴヘイムの皆はノインヴェルト戦術によってチャームとマギを損耗したたため撤退することになってしまった。その為私達一柳隊が急遽対応することになり、予想だにしない一柳隊の初陣となったんだ。そして梨摛と夢結は見事な連携でギガント級の胴体を真っ二つにすることに成功するが、奴の体内から露出した一振のダインスレイフを見て夢結が戦闘中にも関わらず硬直してしまった。あのダインスレイフ.........まさか.......?

すっかり固まってしまった夢結にヒュージのアームが迫るがそれを梨摛が弾き、防ぐ。しかし、アームが梨摛の周囲を取り囲み初め、捕捉しようとする。私は直ぐ様梨摛を救出するべく縮地を使って梨摛の元へ駆ける。

その時だった........

 

梅「うわっ!なんだ!?」

 

突然私の横を黒い影のようなものが物凄いスピードで通り過ぎたんだ。私は驚きの余り縮地を止めてしまった。

すると私の接近に気付いたヒュージが身体の裂け目からこちらに光線を放ってきた。

 

梅「くっ!」

 

私はその光線をチャームで防ぐが、空中で受け止めた為に後方に吹っ飛ばされてしまった。幸い直ぐに体勢を直して無事に着地する。しかし、その頃にはヒュージのアームが梨摛を完全に閉じ込めた後だった。アームがまるで球体のように纏り、中にいると思われる梨摛をミンチにしようとアームの網を縮めていき、その都度アームの刃が擦れあって火花が散っている。梨摛の生存は絶望的だった。

 

梅「そ、そんな.................」

 

それを見た私は膝を着き絶望する。今の私の心中は助けられる状況で突然のアクシデントで仲間を救うことができなかったことに対する後悔と大切なシルトを犠牲にしてしまった夢結に対する懺悔の気持ちで一杯だった。

あの甲州撤退戦以降、美鈴様を亡くした悲しみで心を閉ざしてしまった夢結を私は親友としていつも気に掛けていた。自分を苛み続け他人と積極的に関わろうとせず、常に孤独でいた夢結に再び笑顔を取り戻させたのは梨摛の影響が強い。夢結に憧れて百合ヶ丘に入学してきた梨摛は当初は夢結に拒まれながらもその直向きな意思で距離を縮め、今では夢結にとってなくてはならない存在となっていた。

そんな梨摛を私は半ば死なせてしまったんだ。夢結には謝っても謝りきれない。

 

楓「梅様!」

 

私が失意にうちひしがれていると梨摛と夢結を除いた一柳隊の皆が集まってくる。

 

二「ま、梅様。梨摛さんが...........」

 

梅「あぁ、わかってる。私のせいだ...........。

私のせいで梨摛が................」

 

気づけば私は目から大粒の涙を流していた。こんな情けない姿、後輩達の前で見せるべきじゃないけど、今の私にはその考えに至ることが出来なかった。

一部始終を目撃していた一柳隊の皆は、その顔が青褪めている。一柳隊の初陣でまさかリーダーが犠牲になってしまうなんて思いもしなかったから。

 

楓「あ、あ、あり得ませんわ!!あの梨摛さんがたかだか手負いのヒュージごときに討たれるなんて!

そんなこと.......絶対に........」

 

日頃から梨摛に特別な感情を抱いていた楓は梨摛の死を受け入れられず、現実逃避しようとする。しかし、未だ梨摛を閉じ込め続けているアームの網を見て威勢が良かった楓の声も次第に弱々しくなっていく。

こうなったのも全部私のせいだ.........

 

梅「ごめん、梨摛.........

ごめん、夢結...................」

 

私は一目も憚らず涙を流しながら梨摛と夢結に対して謝罪の言葉を述べる。

戦場のど真ん中で本当はこんなことをしている場合ではないんだけど、今はただ自分の失敗で仲間を犠牲にしてしまったという事実が私の身に重くのし掛かる。

他の皆も顔に悲哀な表情を浮かべ項垂れている。

そこには先程までアールヴヘイムが打ち損じたヒュージを討ち倒そうとする気概はすっかり鳴りを潜めてしまっていた。

 

二「み、皆さん待ってください!

あそこから黒尽くめの男性が此方に向かってきています。それに、男性が腕に抱えているのは........

ま、まさか梨摛さん!?」

 

梅「え............?」

 

皆が悲壮に暮れていると、ふーみんがある一点の方向を指差しながら驚きの声を挙げる。

咄嗟に私と一柳隊の皆もふーみんが指差す方向に目を向ける。

 

そこには確かに全身黒尽くめの服装にサングラスを掛けた男が腕に無傷の梨摛を抱えながら、リリィと大差ない跳躍で此方に向かってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は梨摛がアームに捕まるすんでのところで救出することに成功した。俺の腕の中で抱かれている梨摛は一体何が起こったのか理解できず呆然とした表情で俺を見ている。

 

真「嬢ちゃん、怪我はないかい?」

 

梨「え......あ、はい!大丈夫です。」

 

俺は一応安否を確認するために梨摛ちゃんに声を掛ける。そのひと声で我に返った梨摛はまだ戸惑いの隠せない声で俺の質問に答える。

 

真「取り敢えず嬢ちゃんの仲間の所に連れていくから、しっかり掴まっていてくれ。」

 

梨「は、はい!」

 

そして俺はそのまま一柳隊の皆がいる場所へ移動する。無事に到着して、梨摛をゆっくり下ろすと早速梨摛に飛び付く人物がいた。

 

楓「梨摛さ~ん!やっぱり私の運命の方である貴方が死ぬはずないと信じておりましたわ!

お怪我はありませんか?どこか痛いところは?」

 

梨「か、楓さんくすぐったいよ。」

 

もちろん梨摛大好きっ子の楓・J・ヌーベルだ。

梨摛を抱きしめ、外傷はないか身体をまさぐり始める。特にお尻の方を念入りに触っており、下心満載だ。だが、その顔は仲間の生存を素直に喜ぶ表情となっている。

 

ミ「一時はどうなるかとヒヤヒヤしとったが、無事で何よりなのじゃ!」

 

雨「本当に....良かった.......」

 

他の一柳隊の面々も集まり皆梨摛の生還を喜んでいる。すると今度は梅が梨摛に抱き付いてきた。

これには思わず梨摛も驚きの声を挙げる。

 

梨「わっ!?梅様?」

 

梅「梨摛......良かった、無事で........」

 

普段の天真爛漫な彼女とは思えないほど梅は目尻に涙を浮かべ心から梨摛の無事を喜んでいる。

梅のそんな心情を察した梨摛は優しげな表情で梅を抱きしめ返す。

 

梨「はい。私は大丈夫です、梅様。

あちらの人が助けてくれました。」

 

神「貴方は一体..............」

 

鶴「................................」

 

梨摛のその一言で一柳隊の面々の視線が俺に集中する。

そこにはいきなり現れた俺に対する戸惑いや疑念が感じ取れた。特に鶴紗は懐疑的な目を俺に向けてくる。

 

真「.....悪いが挨拶は後だ。あそこの嬢ちゃんをほっといていいのか?」

 

そう言って俺は親指をある方向に指しながら言う。

指差した先にはヒュージに梨摛を殺されたと勘違いした夢結がルナティックトランサーを暴走させて暴れまわっていた。

 

夢「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

白雪のような髪を揺らし、血のように赤い瞳を輝かせ、身体の至るところに傷を負いながらも戦うその姿はまるで鬼女そのものだった。

 

梨「お姉様.............................」

 

二「夢結様、なんて戦い方...........」

 

ミ「あれじゃあ近寄れんぞ。」

 

梅「可愛いシルトを放っておいてなにやってるんだ。」

 

神「夢結様、ルナティックトランサーを..........」

 

その余りの暴れっぷりに一柳隊の面々は唖然としている。しかし、この暴走を止めなければ、このままでは彼女の命も危ない。

梨摛はグングニルを握っている手を強め、その顔に決意の表情を浮かべる。

 

梨「私、行かなくちゃ.............!」

 

楓「梨摛さん!今の夢結様は...........」

 

楓の静止も聞かずに梨摛は夢結の方に向かっていってしまった。梨摛の性格上、こういう時真っ先に行動に移してしまう猪突猛進な所がある。そういうところが梨摛の魅力でもあるんだが。

とはいえ、年端も行かない少女たちが戦場に臨もうとしてる中で大の大人が指を咥えて見ている訳にもいかない。

 

ここは一肌脱ぐか。

 

真「しゃーない。俺も出来るだけサポートするか。」

 

楓「はぁ!?貴方、一体何を言ってますの!?」

 

梅「そうだぞ!ここは私たちに任せて、あんたはどこか遠くに避難を................ッ!!」

 

俺に対して避難勧告を出そうとした梅は思わず言葉を失ってしまった。

なぜなら俺が発しているオーラと殺気に圧倒されたからだ。

武神様と軍神様との命を削る手合わせを経て、俺は戦士としての格が更に上がった。今の俺は身体から放たれるオーラだけで他者を萎縮させ、その殺気で対象者以外の存在にも言い様のない恐怖を与えてしまう。

そんな俺の地獄の獄卒も裸足で逃げ出すような様相に、一柳隊の皆は背筋に悪寒が走り、顔から冷や汗を垂らしている。特に二水と雨嘉といったメンタルが余り強くない面々は顔を青褪めさせ、涙目になっている。

 

真「南無阿弥陀仏....南無阿弥陀仏....」

 

俺は南無阿弥陀仏を唱えながら一振の日本刀を顕現させ、ゆっくりと鞘から刀を抜く。刀身が陽光の反射によって目映い煌めきを放つ。

 

真「悪因悪果。非道の限りを尽くす仁義外れは、この剣の錆とする。」

 

そう言って俺は刀を構えると、雷のような踏み込みで眼前のヒュージに向かって突貫する。

当然、自信に迫る敵をヒュージが見過ごすはずがなく、まるで蛇腹剣のようなアームを俺に向かって放つ。

 

雨「あぁ........!!」

 

二「危ない!!」

 

この時彼女たちは俺がヒュージのアームの餌食となり、細切れになる結末を想像し、顔を絶望の色に染める。彼女たちにとって俺はマギもチャームも持っていないただの人間だ。ヒュージと戦う術を持っていない人間が無謀にもヒュージに挑んで、今まさにその命を散らそうとしているように見えるんだろう。

 

だが、生憎俺はただの人間ではない。

 

俺は迫り来るヒュージのアームを.............

 

真「ふっ。」

 

目にも止まらぬ神速の斬撃で切り捨てる。切り捨てられた奴のアームが宙を舞い、青の鮮血を撒き散らす。

 

一柳隊「「「「「「「.......は?」」」」」」」

 

目の前で起きた非現実的な現象に一柳隊の面々は呆気ない声を漏らす。彼女たちは一瞬俺が何をしたのか理解出来なかったのだ。しかし、振り抜かれた刀と切断されたアームを見て、俺がヒュージの触手を刀で切り捨てたことを自覚した。

 

二「ど、ど、どいうことですか!?あの人、リリィでもないのにヒュージを傷つけましたよ!?」

 

鶴「あの刀、チャームじゃないよな..........?」

 

神「梅様、あの人の動き見えましたか?」

 

梅「い、いや見えなかった。気付いた時にはあいつ刀を振り抜いていたぞ。」

 

リリィでない人間がヒュージに傷を負わせたという事実に驚愕する者、俺の視認することすら許さない斬撃に戦慄する者など反応は様々だが、彼女たちは漸く俺が普通の人間ではないことを悟る。

 

楓「えぇい!こうなってはヤケクソですわ!

このまま何もせず突っ立っているのは、リリィの名折れ。私たちもあの殿方に続きますわ!」

 

しかし、このままじっとしていても拉致があかないと察したのか彼女たちは楓のその一声を皮切りにヒュージへ突貫する。

 

こうして、なし崩し的に俺と一柳隊の共同戦線が展開された。

 

 

 

 

梨「お姉様!!」

 

遂に夢結の元へ辿り着いた梨摛は夢結に向かって叫ぶ。

 

夢結「ッ!!」

 

しかし、悲しみと憎悪を滾らせある種の暴走状態にある夢結はそんな梨摛に対して容赦なくブリューナクを振るう。本来なら素人の梨摛と百合ヶ丘のエースである夢結では実力に歴然とした差があるが、夢結との特訓の成果なのか夢結の凶刃を防ぐことが出来ている。

 

梨「お姉様、聞いてください!

傷だらけじゃないですか!」

 

夢結のチャームを受け止めつつ、梨摛は語り掛ける。

だが、夢結の苛烈で容赦のない攻撃によるチャームのダメージは大きく、梨摛のグングニルの刃に罅が入る。

 

楓「梨摛さん!普通なら今ので2、3回斬られておりますわ!」

 

ミ「敵に集中せんか!」

 

正直な所、戦場のど真中で狂乱状態の仲間を実戦経験の浅い人間が抑えるのはリスクが大きい。夢結の場合は親交の深い梅や実戦経験が豊富な楓、神林などが対処に当たるのが妥当なんだが、アサリリファンの俺だからこそ確信できることがある。

 

今の夢結を止められるのは梨摛しかいない。

 

戦いの場において感情論に頼り過ぎるのは危険であるが、俺は梨摛が夢結に対してどのような思いを抱いているかを知っている。彼女はシュッツエンゲルを亡くし後悔と悲しみに苛まれている夢結の心の支えになりたいと本気で思っている。これはもはや単なる憧れから来るものではない。他者の心に寄り添える梨摛の「優しさ」がその原動力となっているんだ。 

だから俺は信じている。

梨摛の優しさが必ず夢結を救い出してくれることを。

 

真(頼むから原作通りに事が運んでくれよ......)

 

俺はヒュージの攻撃を軽くあしらいつつ、二人の動向を注視する。

梨摛は自身のチャームを捨てると丸腰の状態で夢結にゆっくりと近づき、そのまま夢結を優しく抱きしめる。それはまるで悲しみのあまり暴れまわる子供を慰める母親のような暖かさがあった。

 

梨「私なら大丈夫です。ある男の人が助けてくれたんです。」

 

抱きしめられた夢結は明らかに動揺が見られたが、それでもチャームを上げて梨摛を背中から突き刺そうとしている。しかし、それを意に介さず梨摛は真剣な表情で夢結に告げる。

 

梨「ここを離れましょう。」

 

夢「........だめ。あのダインスレイフは、私とお姉様の.............だから..........」

 

梨摛ちゃんのその提案に対して夢結は拒絶する。その表情は今まで見たことがないくらいの悲壮さに溢れていた。

 

梨「お姉様!」

 

夢結のその姿に梨摛ちゃんは並々ならぬ事情があると察するが、次の瞬間には梨摛ちゃんは再び真剣な表情を浮かべると強い声で夢結を呼び、そのまま彼女を抱えて戦線離脱する。

 

雨「行って、梨摛!」

 

梨「すみません!直ぐ戻りますから、ちょっと待ってて貰います....アイタッ!」

 

何とか二人が離脱する展開にもってこれたが、今のシーンはいつ見ても梨摛ちゃんのどこか抜けているところが良く表現されている。 

 

梅「大丈夫か梨摛?」

 

梨「大丈夫です~」

 

鶴「本当に大丈夫か?」

 

これには梅や鶴紗から心配の声が挙がる。

 

雨「待ってろって?」

 

神「持ちこたえろという意味でしょうね。」

 

梅「人使いが荒いぞ、うちのリーダーは。」

 

ミ「どうする?ワシらも他のレギオンと交替するか?」

 

ミリアムはメンバーが欠けている現状のリスクを鑑みて他のレギオンとの交替を提案するが、それを楓が拒否する。

 

楓「ご冗談でしょ!リーダーの死守命令は絶対ですわ!」

 

二「そこまでは言ってないと思いますけど、楓さんに賛成です!」

 

楓のその言葉に、彼女におんぶされている二水も賛同する。更に楓はある一点の方向に視線を向けながら言葉を続ける。

 

楓「それにあそこの殿方は、退く気は毛頭なさそうですわよ?」

 

その視線の先にはたった一人でヒュージを翻弄する俺の姿があった。ヒュージの攻撃を最低限の動きで躱し、反らし、防ぐ。動きの一つ一つが洗練されており、背後や死角からの攻撃も冷静に対処し、一切の隙を見せない。逆にヒュージは俺の動きに付いてきておらず、既に身体中に十数箇所の傷を受けており、どちらが優勢かは火を見るよりも明らかだった。

 

ミ「ギガント扱を完全に手玉に取っとる....」

 

鶴「あいつ、本当に何者なんだ?」

 

神「わかりません。しかし、あの方のお蔭で戦局はこちらに分があります。」

 

彼女たちにとってそれは異様な光景だったが、同時に戦局が自分たちの優勢に傾いていることを確信する。

だが、梅の方は俺の様子を見ながら内心別の考えに至っていた。

 

梅(あいつ、笑ってる。この戦いを楽しんでいるのか?)

 

梅はヒュージと戦いながらもまるで新しい玩具を見つけた子供のように嗤う俺の姿を見て、薄ら寒いものを感じた。

 

 

 

 

 

俺は目の前のヒュージとの戦いを通して、わかったことが2つある。まず1つ目は俺とヒュージとの間にある差だった。ヒュージは俺を屠ろうと必死に攻撃を仕掛けているのに対し、俺の方はそれを余裕で対処する。今の俺にとってヒュージの動きはスローモーションのように遅く見え、力も強く感じない。当初はリリィでしか倒すことが不可能なギガント扱に対して俺の戦闘力が通用するのか不安だったが、今はそのギガント扱をまるで脅威に感じていない。その証拠に奴は満身創痍で明らかに損耗しているのに対して、俺は汗1つ掻いておらずまだまだ余力があった。そして2つ目は俺がこの戦いを「楽しい」と感じてしまっていることだ。戦いというものを純粋に楽しく感じてしまうことははっきり言って異常だ。しかし、今の俺の心の内はそんな感情でいっぱいだった。

 

圧倒的な力で敵を圧倒するのが快感だ。

 

強者を奢る者を蹂躙するのが愉快でしょうがない。

 

俺の力を前に戸惑い恐れおののく敵の姿が滑稽だ。

 

どうやら俺は長大かつ凄惨極まる修行と特典の影響で既に精神が常人とは異なるものに変貌してしまってるのかもしれない。だが、それでも構わない。戦いを恐れ尻込みするよりもずっとマシだ。

少しでも戦いを有利に動かせるなら俺は幾らでも狂ってやる。

 

真「ひひっ♪︎」

 

俺は顔に狂気にまみれた笑顔を張り付けながらそんな覚悟を胸に得物を振るう。

それは正に生者の魂を刈り取る死神のようだった。

 

 

 

 

戦況は俺と一柳隊の優勢となっていた。一柳隊の皆は結成されたばかりとは思えない見事な連携で、着実にダメージを加えていき、奴のアームも残り1本となった。

 

梅「あのダインスレイフ、絶対に取り戻す。」

 

楓「無論です。ヒュージがチャームを扱うなんてあり得ませんわ。」

 

梅は奴のアームを足伝いに縮地を発動して駆ける。目指すは奴の体内に突き刺さるダインスレイフだ。あれがアールヴブヘイムのノインヴェルト戦術を防いだからくりである以上、回収しない手はない。

 

梅「てりゃぁぁぁ!」

 

縮地で一気に距離を詰めた梅は、ダインスレイフが突き刺さっている裂け目に向かってダイブする。無事に着地し、そのままダインスレイフを握り抜き取ろうとする。

しかし、思った以上に深く突き刺さっているのか梅一人の力では抜けない。

 

梅「あぁ、くそ!」

 

しかし、そこへ駆け付けた楓と鶴紗が同じくダインスレイフに手を掛ける。

 

梅「お前ら.....」

 

楓「急ぎましてよ。」

 

そのまま三人はダインスレイフを抜くべく力を込める。そんな三人に対してヒュージのアームが迫るが、それを俺が逃す筈がない。

 

真「させるかよ、ボケ。」

 

俺は迫りくるアームを刀で弾き飛ばす。

俺たちのそんな様子を見て二水は自身のチャームを構え戦闘に臨もうとするも、如何せん実戦経験が乏しい彼女は恐怖と緊張の余り足がすくんで動けないでいた。

 

二「わ、私も行かなくちゃ.....」

 

梨・夢「待って!」「待ちなさい!」

 

そんな二水に対して待ったを掛ける者たちがいた。何を隠そう梨摛と夢結だ。どうやら無事に説得に成功したようだ。夢結の表情は先程の憎しみと悲壮に埋もれておらず、今は眼前のヒュージを倒さんとする強い覚悟が見て取れた。

 

二「梨摛さん、夢結様!」

 

梨「二水ちゃんはそこにいて!」

 

二人は抜群のコンビネーションでヒュージに銃弾を加え牽制する。その隙に梅たちはヒュージからダインスレイフを抜き取ることに成功する。

 

梅・楓・鶴「「「抜けた!」」」

 

そのまま三人は間髪いれずにその場から離脱する。その直後ヒュージの裂けた身体の表面から左右共に無数の光線が放たれる。相変わらずこのシーンはいつ見てもヒヤヒヤする。

三人が無事にダインスレイフを回収したのを見計らって他の面々も一旦退いて態勢を立て直すようだ。

 

神「貴方も、ここは私たちと退いて態勢を立て直しましょう。」

 

真「いや、俺はこのまま奴を抑えておく。その間にあんたらは打開策を考えておいてくれ。」

 

俺に対して神林がそう声を掛けるが、俺はそれを断る。このまま全員が戦線離脱するよりも一人でも十分に戦える奴が残ったほうが、奴の気を引けるしその間に一柳隊は作戦を立てる余裕が出来る。

そんな俺の考えを理解してか神林は食い下がることはなく了承してくれた。

 

神「.......わかりました。どうか御武運を。」

 

真「あぁ、任せろ。」

 

そう言うと神林は皆が集まっている場所へ向かっていった。こうして再び俺とヒュージのタイマンとなる。

当のヒュージはここまで自身をコケにしてくれた俺に対してアームの切っ先を向けながら明確な殺気を放つ。しかし、俺からしてみたらその程度の殺気、武神様や軍神様に比べれば鼻くそ以下だ。

俺は刀から榊原周の双剣に持ちかえると、殺気を剥き出しにして構える。すると先程まで威勢の良かったヒュージが俺の殺気に当てられて一瞬たじろぐ。しかし、生物の生存本能なのか直ぐ様俺に向かってアームを放った。それを俺は跳躍する形で避けると、そのまま上から奴のアームを斬り付ける。

 

ヒ「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

いきなり自身のアームを斬られたヒュージは悲痛な叫びを挙げる。あぁ、痛いだろうな。だが、てめぇに姉を殺された夢結の痛みはこの程度じゃねぇんだぞ。

俺は奴との距離を詰めると胴体を袈裟斬りにする。

そこから始まったのはスピードにものを言わせた蹂躙劇だ。ヒュージの周囲を縦横無尽に駆け回り決して付け入る隙を与えず追い詰めていく。奴の身体は大小数十箇所の傷で埋め尽くされ、もはや手負いの獣同然だ。しかし、流石はギガント級だ。戦闘力もさることながら、耐久力もミドル級やラージ級の比ではない。満身創痍だというのに生存への欲求なのか闘志を失っていない。

 

最も俺がその気になればギガント級の一体や二体倒すことは容易い。では、なぜ目の前のヒュージに止めを刺さないのか。その答えは奴が他のヒュージと異なり、夢結や梨摛、そして一柳隊の成長に必要な存在だからだ。夢結にとっては自分のシュッツエンゲルを実質殺した仇敵を討ち過去との見切りを着けるため。梨摛にとっては夢結の因縁深き敵を共に倒すことで二人で前に進むため。一柳隊の皆にとってはこれから人類のために戦うレギオンとして立ちはだかる壁を越えるためだ。それ故にこのヒュージを外野の俺が倒す訳にはいかないんだ。アサルトリリィのファンだからこそリリィたちの成長を妨げる真似は極力避けたい。

だから今回俺は裏方に回ったんだ。

 

真(正直、彼女たちの成長のために目の前の敵を敢えて倒さないなんて、些か傲慢だが........)

 

真(まぁ、精々彼女たちの良い踏み台になってくれギガント級さんよぉ。)

 

俺は内心でそう思いながら黒い笑みを浮かべ双剣を振るうのだった。

 

 

 

 

 

一方の一柳隊はある建物の屋上で無事に合流していた。

特にダインスレイフの回収という一仕事を終えた梅たち三人はそれなりに体力を使ったのか床に膝を着けてくたくたといった感じだ。

 

梅「はぁ~、取り返したぞ。」

 

楓「死守命令、果たしましたわ。」

 

梨「だ、大丈夫ですか皆さん?」

 

そう皆の安否を問う梨摛の目にダインスレイフが映る。

 

梨「これが、あのヒュージに.........」

 

梅「これ、やっぱり夢結が使っていたダインスレイフだな。傷に見覚えがある。」

 

夢「えぇ。」

 

夢結の親友として長年連れ添ってきた梅のその言葉には十分な説得力があった。夢結の方もダインスレイフを一瞥し彼女の言葉を肯定しているため、当たりだろう。

すると夢結は今度は、いまだに一人でヒュージと戦闘を続けている俺を見ながら梨摛に質問する。

 

夢「梨摛、もしかしてあの人が?」

 

梨「はい。あの人が危ない所を助けてくれた方です。

名前はまだわかりませんが......」

 

夢「まさかリリィでもないのにギガント級を圧倒する人間なんて未だに信じられないわね。」

 

百合ヶ丘のエースとして幾多の修羅場を潜り抜けてきた夢結をしても目の前の光景は現実離れしており、その表情には僅ながら動揺が見て取れた。

 

ミ「しかし、なんという苛烈な戦い方じゃ。ヒュージの方はまるで対処出来とらん。」

 

鶴「あいつ、あのままヒュージ倒しちまうんじゃないのか?」

 

神「いえ、あの方は私たちが持ち直すまで時間稼ぎをして下さるそうです。」

 

梅「だとすると早く打開策を考える必要があるな。」

 

梨「あの.......」

 

神林のその言葉に皆が早急に打開策を考えようとした時梨摛がある提案を打ち出す。

皆の視線が一気に梨摛に集中する。

 

梨「私たちでやってみませんか?」

 

楓「何をです?」

 

楓のこの質問に対し、梨摛は右手に握っていた「あるもの」を見せながら言葉を続ける。

 

梨「ノインヴェルト戦術です。」

 

彼女の掌の上にはノインヴェルト戦術の専用弾があった。

 

 

 

 

 

 

俺とヒュージの戦闘は完全に俺が主導権を握っていた。奴のアームは全て切り捨てられ、もはや奴に残された攻撃手段は光線による牽制のみであった。しかし、ゼロ距離からの銃弾も容易く避ける俺の反射神経の前では光線などまるで意味を為さず、全て空を切る。逆にヒュージは図体が大きい分狙いやすく、俺の攻撃を防ぐことが出来ていない。

俺からしてみれば目の前のヒュージはもはやサンドバッグ同然だった。

 

真(これまで散々多くの人を殺してきたんだ、一柳隊が止めを刺すまで嬲ってやるよ!)

 

すると一柳隊の皆が退避した方向に一点の光が見えた。

その光は青、黄、緑、紫、赤、橙と色を変えていっている。間違いない、ノインヴェルト戦術の魔法球の光だ。

どうやらこの戦いもいよいよクライマックスのようだな。

 

梅「あんた、今から私たちがあいつにノインヴェルト戦術を仕掛けるから退いてくれ。巻き込まれると危険だ。」

 

すると魔法球のパスを終えた梅が俺にそう言葉を掛ける。他のメンバーは時間稼ぎのためにヒュージを抑えていた。

 

真「あぁわかった。頑張れよ。」

 

梅「おう!」

 

俺の激励に梅は親指を立て、屈託のない笑顔を向ける。

相変わらず太陽みたいに明るいな、梅は。

 

楓「あはは♪︎私の気持ち受け止めてくださいな梨摛さん!」

 

梨「み、皆のだよね?」

 

神林から魔法球を受け取った楓は白く輝く魔法球が付着した自身のチャームの切っ先を向けながら梨摛ちゃんに向かって半ば突撃する。それを梨摛ちゃんは戸惑いながらも受け止めるが、チャームの耐久値が限界を迎え刃部が折れてしまう。

 

楓「私の愛が強すぎましたわ!!」

 

夢「いいえ、もう限界よ。無理もないわ。」

 

そのまま魔法球は明後日の方向に飛んでいってしまうが、それを夢結が受け止める。そして無事に魔法球を受け止めた夢結は新たなパートナーと最後を飾るべく梨摛に手を伸ばす。

 

夢「梨摛、いらっしゃい!」

 

梨「お姉様!」

 

敬愛するシュッツエンゲルからの誘いに梨摛は笑顔を浮かべそれに応じる。梨摛は夢結の方に向かって跳躍し差し出された夢結の手を握る。

 

夢「行くわよこのまま。」

 

梨「はい!」

 

二人は互いの身体を密着させるとチャームを合わせる。すると魔法球はそれに呼応するかのように眩いばかりの光を放つ。

 

夢「大丈夫。出来るわ!」

 

梨「はい!」

 

そして二人はチャームの切っ先を真下のヒュージに向け、魔法球を叩き込む。

 

夢・梨「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

それはさながら罪深き怪物に断罪の鉄槌を下す戦乙女の如く、美しくも勇ましい姿だった。

まともな防御も出来ずに魔法球を食らったヒュージの身体から死の前兆といわん限りに強烈な光が発せられる。

忌まわしき仇敵に止めを刺した夢結は光に照らされながら、隣の梨摛に言葉を掛ける。

 

夢「梨摛。私はあなたを信じるわ。」

 

梨「お姉様?」

 

その時の彼女の表情は迷いのない、とても晴れやかな笑みを浮かべていた。

 

楓「なにをやってますの!?」

 

ミ「さっさと離れるのじゃ!」

 

するとそこへ一柳隊の皆が駆け付け、二人を抱えると直ぐ様ヒュージから離れる。

その後、巨大な青白い光がヒュージを包み込み、稲光と轟音をたてながらヒュージをこの世から完全に葬りさった。

 

真「これにて一件落着てか?」

 

その光景を眺めながら、俺は達成感を胸に笑みを浮かべるのだった。

 

 

こうして俺と一柳隊の共同戦線は俺たちの勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギガント級との激戦を終え、マギも体力も使い果たした一柳隊は草原に寝そべりながら空を見つめていた。空には大小の雲が浮かび、沈み行く夕日が西の空を赤く染めていく。青白い粒子のようなものがいくつも空中を舞いとても幻想的だった。梨摛と夢結は暫く呆然と空を眺めていたが、やがて互いの顔を見合わせる。すると夢結は梨摛に対し朗らかな笑みを向けると、それに梨摛も答えるかのように同じく笑みを浮かべた。

 

そんな仲睦まじい雰囲気をぶち壊すようで悪いが、俺は彼女たちに話し掛ける。

 

真「よお、嬢ちゃんたち。やったな。」

 

梨「あ、貴方は.....」

 

俺の存在に気付いた一柳隊の皆は我に帰り直ぐ様立ち上がる。

 

真「最後のあれ凄かったぞ。お兄さん思わず見とれちまったぜ。」

 

梨「えへへ.....」

 

俺の称賛に梨摛は照れ臭そうに笑う。うん、可愛い。

すると今度は夢結が俺の方に歩み寄ると深々と頭を下げる。

 

夢「梨摛から全て聞きました。私の妹を危ないところから救っていただき、更には加勢までしてくださりありがとうございました。」

 

夢結に続き、他の面々も頭を下げて御礼の言葉を口にする。

 

真「いやいや、俺はやるべきことをやったまでだ。礼はいらねぇよ。」

 

夢「それでも、貴方のお蔭で梨摛や皆が助けられたのは事実です。どうか私たちの気持ちを受け取って下さい。」

 

そこまで言われたら素直に受け取るしかないな。

 

真「.......そうかい、それならその気持ち有り難く受け取っておくよ。......っと、そういや自己紹介がまだだったな。俺の名は狂巌寺真人。訳あって今は浮浪の身だ。」

 

梨「私の名前は一柳梨摛っていいます。よろしくお願いします真人さん!」

 

夢「白井夢結と申します。」

 

楓「楓・J・ヌーベルと申します。以後お見知りおきを。」

 

二「ふ、二川二水といいます。よ、よろしくお願いします。」

 

ミ「ミリアム・ヒルデガルド・V・グロピウスじゃ。長いからミリアムでよいぞ。」

 

雨「王雨嘉です。よろしくお願いします...」

 

神「郭神林と申します。気軽に神林とお呼び下さい。」

 

鶴「.......安藤鶴沙。」

 

梅「私は吉村・thi・梅だ。よろしくな、マー兄!」

 

俺の自己紹介を皮切りに皆それぞれ自分の名前を明かしていく。梅に関しては早速俺をあだ名呼びしているが。

 

真「梨摛に夢結に楓に二水にミリアムに雨嘉に神林に鶴沙に梅だな......よし、覚えた。

一仕事終えて疲れているところ悪いが皆に頼みたいことがあるんだ。」

 

俺は皆の名前を復唱すると表情を真剣なものに変えて、そう言う。

この世界に転生して俺が最初に立てた目標である、「現地人との接触」は無事に成功したと言えるだろう。少なくとも目の前の一柳隊には好印象を与えることが出来た。

なら次は...................

 

真「俺を百合ヶ丘女学院理事長代行・高松咬月さんに会わせてくれないか?」

 

交渉の時間だ。

 

 

 

 

     アサルトリリィ~Episode of Bag Human~

          第3話「邂逅」 完

 

 




いかがでしたでしょうか?
真人のヒュージをものともしない圧倒的な戦闘力。これから彼は更に驚異的な活躍を見せていきます。
それでは次回でまたお会いしましょう。


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