私の考えた陰実エンド (AYADA)
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私の考えた陰実エンド


 ハッキリ言って自分好みを詰め込んだ内容です。

 ハンターハンターのネタも扱いやすいから組み込んだだけです。

 タグにもありますが原作既読を強く推奨します。

 と言いつつも照らし合わせると齟齬や不満は出て来るでしょうが批判はお手やらかに。


 

 

「ドワァァァァァーーーーー!!!!!」

 

 ディアボロス教団、最高幹部筆頭--ナイツ・オブ・ラウンズ第一席の断末魔の声が響く。

 

 第一席を討ったシャドウことシド・カゲノーは何かを感じ入る顔のまま、誰に聴こえる訳もない小さな声で呟いた。

 

「思い出した」

 

 シドは振り返り、傷だらけになっているシャドウガーデンのメンバーや第一席を討たれたのが信じられないディアボロス教団員たち、そして復活させ損ねた魔人ディアボロスことアウロラと彼女への生贄にされそうになった姉クレア・カゲノーを視界に収める。

 

「やりましたね。シャドウ様!」

 

 ベータが主を称賛し、アルファが掃討戦への移行に号令を掛けようとするのも無視してシドは姉の元に近づく。

 

「……し、シャドウ?」

 

 意識が朦朧とし、体中がボロボロとなっている印象を受ける姉の背に両手をかざし自身の青紫の魔力を注ぎ込んでいく。

 

 少しして魔力が収まるとクレアの顔色も良くなり調子も落ち着いた様子だった。

 

「相変わらず見事な手際ね」

 

「これは一時的なもの--対症療法だよ」

 

 アルファが自慢気に賞賛するがシドは素っ気なく返す。

 

 シドは次にアウロラの方に近づき同じ要領で魔力を注ぐと苦しんでいた彼女の容体は落ち着き、安らかな寝息を立てた。

 

「さて次は」

 

 シドが立ち上がると教団の残党たちが怯えながら剣を構えるが、シドの向かう先は第一席の躯でありそこにスライムソードを突き立てる。

 

「ちょっと!いくらなんでもそれは!!」

 

「そうです!あんまりです!」

 

 アレクシアとローズが行いを抗議するが、シドは全く意に介さずに精神を極限まで集中させある光景をイメージする。

 

 すると躯から黒い魔力が立ち昇り、空中でうねって人が通れるほどの大きさで固定された。

 

「それは黒キ薔薇……なんで今更異界への扉なんか?」

 

 誰一人、意図が理解できないでいる中でシドはフードを下ろして素顔を晒し振り向いた。

 

「し、シドくん……」

 

「……あ、あんたがシャドウの正体」

 

 薄々そうだと思っていたローズ、全く想像していなかったアレクシアは呆然としてしまい。

 

「ああ、やっぱりシドだったんだ」

 

 戦いの中で正体に気付きかけていたクレアは驚くことなく、寧ろ確証が示されたことで納得していた。

 

 一方でシドが素顔を晒したことで、シャドウガーデンのメンバーは戦いが終わったことの宣言だと感じたが黒キ薔薇を発現させたことが分からず、いつも通りに主の深謀遠慮を聞こうと身構えた。

 

「長いこと僕に付き合ってくれてありがとう--済まないけど、君たち……いやこの世界とはさよならだ」

 

「ど、どういうこと?」

「そ、そうです!ラウンズを倒したからって教団を倒し切ったとは……寧ろ大変なのはここからでは?!」

 

 言っていることが丸で飲み込めないアレクシアとローズ。

 

 一方でシドの言葉に意気揚々と答えるように西野アカネが前に出た。

 

「地球--ううん、日本に帰るんだよね。ミノル君!」

 

 そして今度は魔力によって荒廃した故郷を救う--アカネの脳裏にはそう続けるんだと希望に満ちた想像で埋まっていた。

 

 しかし、シドは無表情のままにゆっくりと首を振って否定を示した。

 

「僕が行くのは別の世界--こちら側で言う第一魔界と呼ぶ世界だよ」

 

「魔人ディアボロスのオリジナルが居た世界」

 

「ローズ先輩。魔人ディアボロスなんて居ない--そんなのは妄想の産物だ」

 

「な、何言ってんのよ!現にアンタの後ろに魔人が――――――」

 

「彼女はアウロラ――ぶっちゃけて言えば魔力って言うウィルスに侵された病人。その最終段階になってしまった最初の患者だ」

 

 シドの言うことが全く理解できないのが大半の中、シャドウガーデンだけは合点がいったと言う顔であり、アルファがそのまま話に入って来る。

 

「やはり、そうだったのね。シャドウ--いえシド、貴方がどうしてそんなに魔力の扱いに長け悪魔憑きを治せるのか。

 そしてどうして教団や未来視に近い予測が出来るのか--貴方は第一魔界に居たことがあるのね。

 おそらく私たちと出会う前に魔界に行った--神隠しの類、そこで魔力の正体を始めとした知識と力を獲得した」

 

 アルファの推測にシドは困った顔をしながら頬を掻く。

 

「いい線言ってるけど、ハズレだ--僕はかつてその魔界で生まれ、そして死んで……更に別の世界での生を経て、この世界に生まれた転生者だ」

 

「転生者……つまり魔界の住人の生まれ変わり!?」

 

 このカミングアウトはアルファも予想外だったか、驚き目を丸くする。

 

「正確には前々世がそうだったかな」

 

 シドは苦笑しながら黒キ薔薇から流れ得た魔力を取り込み、青紫の魔力の剣を作り出す。

 

 

 

 ***

 

 

 

 いやぁ~、思い出せてよかったよ--かなりスッキリした気分だ。

 

 シド・カゲノー、影野実、そしてその前であった自分○○○--前々世だった時の僕の居た世界はプロハンターと呼ばれる凄腕の猛者が居て、僕もその一人だった。

 

 プロハンターは念能力と言う、オーラと呼ばれる生命エネルギーを操作する技術を持つことが必須とされ、僕はその中で〝変化系〟というオーラの性質を変えることに長けた念能力者だった。

 

 自分で言うのもなんだけど、僕はプロハンターの中では何処にでもいる中堅クラスでしかなく、ハンターの称号を示す星持ちや彼らでも手を焼くA級の賞金首なんかには全力を出しても勝てる気がしない程度だ。

 

 でも絶対に追いつき超えて見せる--その気概は持って、修行も経験も積極的にやっていた。

 

 …………そう、あの時までは。

 

 実績と修行を兼ねて僕はある秘境を探索していた--そこでは一般人だけでなく調査しに来たプロハンターも行方不明になる〝神隠しの聖域〟なんて俗称が付けられたほどだ。

 

 当然、反対や止めるようにってのはあったけど、死んだらそれまで--そんな気持ちで僕は挑み………………そして失敗した。

 

 いや、失敗したと思っていただね--だって僕は今、神隠しの謎も把握している。

 

 でも今更持って帰って発表しようとか言う気はない--元より名誉なんて興味ないし、僕自身が満足できないと確信してる。

 

 何故なら僕は確実に弱くなっているから……。

 

 ホントに久々にやったオーラの剣にみんな驚いてる様だけど、僕の本当の能力のメインは実は影の方にある。

 

 僕はオーラを影に展開し、例え〝凝〟を使いオーラを見抜けようとも気付かれない程に違和感なく、影と同化したと言っても過言でない自然な色彩と質感へと変化させる能力を開発した。

 

 目に見えるオーラを形状変化させながら戦い、それで倒せればOK--苦戦するほどの敵には影に展開してるオーラによる死角からの攻撃を喰らわせて倒す。

 カラクリがバレたとしても敵の注意を確実に分散させられ、優位に戦うことが出来るし--予め情報を得て対応策を用意されても同調できるのは自分の影だけじゃないから、いくらでも応用が利くんだよな。

 

 そしてこれは戦闘以外にも使え、偽の影を見せて相手を惑わ(だま)したり誘導したり、気付かれないよう監視したりと結構便利だったりもした。

 

 総じて能力名『陰の実力者になりたくて(シャドウガーデン)』と名付けた。

 

 そう、やっと切っ掛けを思い出した--僕は日本に居た頃から戻りたかった、取り戻したかったんだ。

 

 かつての自分を。

 

 でも日本ではオーラや魔力は架空の産物であり、代用品を求め様々な試みを試したが、それでも諦めきれず結果、魔力を追い求めてあんなことになった。

 

 そしてこの世界に転生し魔力を得ても満足出来ず、陰の実力者プレイに没頭することで気を紛らわしてた--盗賊や謀反人、無法都市の荒くれ者や狂暴化した魔獣なんかをディアボロス教団やその繋がりがあると言う〝設定〟で倒して来たけれど……。

 

 やっと分かった--さっき倒したこの男も悪魔憑きも、そしてアウロラも姉さんもあっちの世界から流れ出たオーラの許容量が多すぎて拒絶反応を起こしていた病人だったんだ。

 

 それは身体だけじゃなく脳や精神にも影響してる--平たく言えばみんな狂ってたんだな。

 

 だから僕の設定を鵜呑みにし、それが連鎖していってこんなことになってしまった…………あっちからオーラが流れ込むのは自然災害だし僕の責任じゃないけど、かつての住人としては思うところがある。

 

 何より遊び半分で考えた設定で病人同士を戦わせてしまった--思い出す前、何も分からなかった頃なら各自の自己責任だと割り切ってたけど、思い出した今となっちゃ流石に責任を感じてしまう。

 

 僕は剣に見惚れてる面々に隠れて影を動かして〝ある作業〟を遂行いてるが、済むまでにはまだ時間が要る--仕方ない、まだちょっと時間を稼ぐか。

 

 

 

 ***

 

 

 

 シドは剣を下ろして、眠っているアウロラに目を向ける--その瞳は憐みに満ちていた。

 

「私を殺して--こんなことを頼まれた時には、どうしようものかと思ったけど、今だったら理想的な形で望みを叶えてあげられる」

 

「彼女も一緒に連れて行くのね。その……第一魔界に」

 

 アルファが遠慮がち言う。

 

「別に呼び方なんか気にしなくていいよ--その方が話し易いなら、僕もそれでいいし」

 

「じゃ、お言葉に甘えて--教団幹部の話じゃ、彼女はこの世界で生まれ、オリジナル……元となった生物は第一魔界から来たとのことだけど、それは向こうの住人が神隠しにあったってことでいいのかしら?」

 

「……う~ん。何分、大昔の事だからかなりの推測が入るけど。

 大昔にやって来たのは念獣--魔力を具現化した物だと思うよ。

 そして死後の魔力は強化されるものだから、それが悪魔憑きって形で厄災をばら撒いた--その最たる被害を受けたのが彼女じゃないかな」

 

「魔力を具現化って、そんなバカなことが――――」

 

「出来るんだよ--それを得意とする能力者はいっぱい居る」

 

 アレクシアの信じられないと言った疑問を一蹴する。

 

「つまり悪魔憑きの化け物じみた醜い変貌は私たち適合者を媒介にして、その念獣が復活しようとしてる現象だったのね」

 

「流石、アルファ。呑み込みが早くて助かるよ--ついでに言えば念獣を生み出した能力者も相当狂気じみてたか、こっちに辿り着く前に死んだんだろうね。

 だからこそ影響を受けた連中は異界の観測とそれを可能とする長い時間を求めた」

 

「全て繋がったわね。魔人の復活、永遠の命、そして魔界の観測--全てはその能力者さんが元の世界に帰りたいって言う帰巣本能が招いたものだったのかもね」

 

「そうだね--会った訳じゃないけど、同じ僕にはその気持ちがよく解るよ」

 

 シドは理解を示した顔だが、それ以外は誰一人として納得出来なかった。

 

 故郷に帰りたい--これだけなら聞こえは良いが、その為にどれだけの多くの苦しみと悲劇の時間が続いて来たのか。

 

 特にその最たる被害者がアウロラであり、彼女と同じ苦しみを味わったクレアは一番納得出来ない気持ちであった。

 

「冗談じゃないわよ……なんで死んでまで迷惑掛けるのよ!大体、こっちに来たのだってただの事故でしょ!なんで私たちがこんな目にあわなきゃならないのよ!!」

 

 我慢出来ずに思いの丈をぶちまけるが、

 

「…………ガハッ……」

 

 クレアは胸を押さえて苦しみだし、抑えた右手には戦いを終え消えかけていた魔法陣が再びクッキリと浮かび上がっていた。

 

「ああ、もう」

 

 シドはクレアの近づいて行く--再び魔力を流して治療するのだと誰もが思ったが、シドの手にあったのは透明な小瓶であり中には青紫の液体が見て取れた。

 

 蓋を開けて口に含み、クレアの顎を持ち上げてそのまま口移しで流し込む。

 

「?!!」

 

「「「ああ!」」」

 

「姉弟同士なんだし、大げさでしょ」

 

 妙なノリが展開されてるのにも構わずシドが口を離すと、顔を真っ赤にしたクレアは覚束ない表情のまま何も言えない状態で固まってしまう。

 

 そんな姉をじっくりと観察しながらシドは安心した顔で言った。

 

「うん、成功だ。これなら中級の悪魔憑きなら完治させられる」

 

 シドは同じ小瓶と数枚のメモ用紙を出して、アルファに差し出す。

 

「薬のサンプルと調合法だ--見ての通りこれなら悪魔憑きを沈黙させることが出来る」

 

「確かにこれなら特別な技術も要らずに誰でも使える--ミツゴシで築いたルートを使えば広めるのも難しくない。全てはこの為に準備してたのね」

 

 相変わらず抜け目ないと称賛するアルファと同調するシャドウガーデンたち--シドは更に何かを考え込む様子だが直ぐにクレアに向き直った。

 

「え、えっと……」

 

 まだ頬を赤めているクレアにシドは思い切ったように言った。

 

「言って置くけど--姉さんのはまだ治ってない。一時的に抑えてるだけだから、そして姉さんに巣食ってるは今の僕じゃ完治させれない」

 

 この宣告に場の空気は再び緊迫した。

 

「やはり貴方のお姉さんは特別--この場合は千年単位に一人の特異体質と言うべきかしら?

 いずれにしてもアウロラ同様にクレアは第二の魔人ディアボロスロスになってしまう特質を秘めている--そう言うことよね?」

 

 だからこそシドは最低限度しか情報も与えず接触も避けて来た--この真実が知られれば第二の魔人になる前にクレア()を殺そうと言う結論がいつ出ても不思議じゃないから。

 

 シドのこれまでの行動の不可解さにも漸くと合点がいった--そしてこのタイミングでバラしたという事は既に解決策もあると言うこと。

 

 アルファの期待を込めた目を受けて、シドは今ひとつ釈然としない顔で上を向く。

 

 

 

 ***

 

 

 まぁ、そう言うことになるのかなぁ……ちょっと大げさな気もするけど、それで納得なら別にいいか。

 

 スライムを溶かして薬を作り、調合法をメモする--その為の時間稼ぎも終わり、いよいよ締めに入ろうかと言う時にアルファからの絶妙なアドリブによるフォロー。

 

 アルファに関しちゃ、それこそ一番最初に治したんだから精神的にももう安定してると思ってたんだけど、ここまで来てまだ設定を引っ張って来るってことは、根はひょっとしたら僕と同じだったのかな?

 

 と言って今更気付いても遅いし、折角なんで乗っておこう--これでもう最後なんだし。

 

「そう言うことかな--姉さんに定着してる念は根強過ぎる。とても今の僕じゃ外せない」

 

 それだけ死者の念は強い--これを解決するには正式な徐念を行うしか手はない。

 

 その為には……。

 

「貴方がクレアの弟として転生したのは必然だったのかもね」

 

 っとアルファがまた格好いいフォローをしてくれたけど。

 

「それを言いだすと運命論になってキリがないから割愛--重要なのは今のままじゃ不味いってこと」

 

 流石に姉さんもビビったのか、唇を噛んで俯いてる--これ以上引き延ばすのもなんだし、さっさと本題に入るか。いい加減に飽きて来たし。

 

「だから姉さんも僕と一緒にあっちに行こう--ちなみにこれは決定事項だから、頭をひっぱたいて首根っこ引っ掴んで引きずってでも連れて行くよ」

 

「あっちでなら彼女を治せるね」

 

 アルファはやっぱり分かってたか--全く言い淀みがなくて確信した声は説得力を上げてくれる。

 

 くぅ~、捻くれたこと考えてないで、もっとちゃんと相手するんだった--正に後悔先に立たずだ。

 

 でもそんな感傷にも浸ってられない--最後はビシッと決めなきゃ、

 

「そう言うことだね。あっちに戻ってキチンと修行をやり直せば可能だし、僕も本来の強さ……いや、もっと上を目指せる」

 

 と言うか、その途中だったんだ--後退した分、取り戻す為にも早くするか。

 

 僕は呆然としてるアレクシアに目を合わる。

 

「前に訊いたよね--何が目的で、この世界をどうする気なのかって?もう答えは分かったでしょ」

 

 これにアレクシアは悲しそうな悔しそうなとも表現に困る複雑な表情をする--う~ん、この腹黒王女の中で何が渦巻いてるのか、全く持って想像したくもないな。

 

「アンタは魔界に行きたい……いいえ、帰りたかった。そしてこの世界には何の興味もなかったってことね。そこに住む私たちにも…………お遊び半分で掻き回して楽しかったかしら、ポチ?」

 

 最後までその呼び名か--そして負けず嫌いなのも、

 

「正直、君との関りは楽しいとは言えなかったけど、それも含めて今ではいい思い出かな」

 

「ふざけんじゃ―――――」

 

「僕はいつだって真剣だよ」

 

 そう僕はいつだって全力で陰の実力者として振る舞って来た--真の目的を思い出した今となっては確かに余興に過ぎないけど、決してふざけてなんてない!

 

 そんな気迫が通じたのかアレクシアの興奮は収まったようだ--はぁ、よかったぁ。じゃ、次はと思ったけど、

 

「頂きの先には更なる頂があるって前に言ったわよね--魔界に行ってもっと強くなって、結局どうするのよ?」

 

「あっちには今の僕ぐらいのなんてごまんと居るし、もっともっと凄いのも居るんだよ--その高みに僕の憧れが届くのか試したい。それだけだよ」

 

「バッカじゃないの」

 

 ありゃりゃ、ソッポむいちゃったよ--これじゃ締まらないけど、ある意味らしいっちゃ、らしいかな。

 

 そう思いながら今度はローズ先輩に目を向ける。

 

「し、シドくん--その本当に行ってしまうのですか?」

 

 なんか捨てられた子猫みたいな目してるけど--もう僕が居なくても先輩は十分立派な覇王でしょ。

 

 でも同じく最後なんだし、立役者の一人としてここは激励を送らなきゃだね。

 

「先輩は僕が居なくてももう十分やってけます--自信を持ってください」

 

「そ、そんなこと――――?!」

 

 弱音を吐かれる前に頭を下げて黙らせる--駄目だよ、強い王としてこれから生きてくんだからそんな姿見せちゃ。

 

「先輩には感謝してます。先輩がいなかったら僕はここまで清々しい気持ちで終わりを迎えられなかった」

 

「そ、それは……」

 

 そう。ローズ先輩が覇王となる為の物語がなければ、僕の陰の実力者の物語も半端に終わってたかも知れない。

 

 やはり光あってこその影--世界と戦うオリアナ王国の女王ってストーリーを引き立たせるのはこれ以上に無いやりがいがあった。

 

 だからこそ陰の実力者になると言う僕の物語も終わりに出来た。

 

 そして後ろには新しい……いや、半端に終わる筈だった夢がある。

 

 再び挑むことが出来るのも全部、この戦いがあってこそだ--だから本当に感謝している。

 

「僕は一度躓いたけど先輩のお陰でまた立ち上がれました--だから先輩も新しい道で今度は王道を歩んでください」

 

 決まった--そんな手応えを感じながら頭を下げたままで居ると先輩の涙声が聴こえた。

 

 ええ、ひょっとして失敗した?

 

 恐る恐る頭を上げてみると涙を拭いながら朗らかな笑顔を浮かべる先輩の顔--あれはどんな涙なんだ?

 

「もう、ズルいですね--そんなこと言われたら何も言えないじゃないですか」

 

 涙を拭いたローズ先輩は生徒会長時代、いやそれ以上の毅然とした顔になった--ふう、どうやら杞憂だったな。

 

「私はオリアナ王国の女王としての道を行きます--だからシドくん。貴方も絶対に夢を叶えなさい!」

 

「ハ!ローズ・オリアナ女王陛下!」

 

 最高の激励と言う最高の手土産をくれた--やっぱり、彼女が王になったのは間違ってなかった。

 

 よ~し、いい感じに弾みも付いたし、次に最大の難関であろう姉さんに顔を向けると、

 

 バシッと背中叩かれた--完全に不意打ちだったから流石にちょっと痛い。

 

「ほら、挨拶済んだなら、さっさと行くわよ--アウロラもいい加減に待ちくたびれちゃうわよ」

 

 いつの間にかアウロラを抱えた姉さんが、ゲートの前で今か今かしてるのは僕も予想外で、背中を摩りながら状況確認する。

 

「えっと、姉さん--もうこっちには戻って来れないし、父さんや母さんにも会えなくなるんだけど」

 

「ここにたら私、化け物になっちゃうんでしょ--そうじゃなくったってアンタがいないんじゃ…………」

 

 そっぷ向きながらしどろもどろになる姿は何とも珍しい--と思ったのも束の間、再びこっちを向いた眼はギラギラした光が宿ってて、これでもかと闘争心が放出される。

 

 一体この一瞬に何が起きたんだ?

 

「それにあっちに行けば、もっと強くなれるんでしょ?聞いてる限りだと私にもあっちへの適正ありそうだし」

 

「そりゃ、そうだけど--行っただけで強くなれる訳じゃ」

 

「分かってるわよ--あっちでの戦い方を修行しなきゃでしょ」

 

 うわぁ、こりゃ本気だ--余計なスイッチまで押しちゃったかな?

 

「勿論、キチンと病気を治してからね--でも治ったら、絶対に今度こそアンタよりもずっと強くなってやるんだから、覚悟しときなさい!」

 

 これって宣戦布告?

 

 なんであれ、あっさりとを終わってしまい肩透かし状態になってしまったが、これで終わっちゃ折角の締めが台無しだ。

 

 僕は両頬を叩いて気合を入れ直し、不安そうな顔をしてる西野アカネに目を向ける。

 

「そう言う訳で僕は日本には行けない--でも君を送り返す技術はあるから、薬の量産とそれを向うで広める方法に目途が付いたら、向うの世界も救えるはずだ」

 

「わ、私は世界を救うなんて」

 

「心配しなくていいわ--アカネがこっちに来ちゃったのは部下の独断。私が責任を持って貴女の事情を解決する」

 

 おお、流石アルファ頼りになる--これはもう任せても良いみたいだ。

 

「これがシャドウとしてのシャドウガーデンへの最後の命令ってことでいいかしら?」

 

「うん。満点だ」

 

 アルファの余裕の顔に僕は任せられると確信した。

 

「それじゃ、そろそろいくよ--今まで本当にありがとう。さようなら」

 

 僕はアウロラを抱えた姉さんと一緒にゲートを潜った。

 

 後ろからはアルファの声がしたが掠れてよく聞こえなかった--ま、どうせ、さよならを返してくれただけだな。

 

 

 

 ***

 

 

 

 シドがゲートを潜り別れの挨拶を述べた--アルファは聴こえるかどうかのタイミングを見計らって口を開いた。

 

「さよならじゃないわ。直ぐに追いかけるから」

 

 シドの五感は鋭いが聴こえたかどうかは分からない--でも出来れば届かないで欲しいと願う。

 

 そんな感傷に浸る間もなくアルファはシャドウガーデンに指示を出す。

 

「さ、ぼやぼやしてないで残党狩りの開始よ。

 終わったら戦後処理の準備と並行してこの薬の量産体制の準備に入るわ。

 全世界に悪魔憑きは治る病であることを証明し広めるのよ」

 

 シャドウからの最後の命令--それは今までにない程にやりがいを感じさせ、シャドウガーデンは精力的に行動に移るのだった。

 

 一通りの指示を出したアルファはローズと未だに仏頂面のアレクシアに話しかける。

 

「二人にも王族として協力して貰うことを要請するわ」

 

「要請って、結局名前だけ貸せってことでしょ」

 

「そうだけど、何か不満が?それで大勢が救われるのよ--ミドガル王国民もね」

 

 アルファの指摘に返す言葉が出てこないアレクシア--しかしアルファは無視することなく話を続ける。

 

「そんなに彼に対して言いたいことがあるなら、あなたも一緒に追いかけてみる?」

 

 これにはアレクシアだけでなくローズも興味を惹かれた。

 

「……ホントに出来るの魔界に行くなんて?」

 

「魔界なんて呼んでるけど、聞く限りは私たちとは違う文化と進化を遂げた異世界。

 構造こそ違えど普通に人間は居るみたいだし、第一こっちから向うに行けるのは彼自身が実証したじゃない」

 

「で、でもそれは彼が元々魔界の住人だからで」

 

「その生まれ変わりよ--私たちと根底は変わらないはずよ、少なくとも肉体的にはね」

 

 アルファは背後に控えていたベータにアイコンタクトする。

 

「それに私たちには異世界に渡り帰って来た実績がある--決して不可能じゃないわ。そうでしょ、ベータ」

 

「はい。勿論そんな直ぐにとは行きませんが、やれると自信はあります。お任せください--それともやっぱりアレクシア様は私が信じられませんか?」

 

 ベータは仮面を取って素顔を晒す。

 

「ナツメ先生!」

「やっぱり騙してたのね!」

 

「ハイ」

 

「開き直ってんじゃないわよ!」

 

 憤るアレクシアが落ち着くのを待ちながら再度話しかけるベータ。

 

「それで、どうします?シャドウ様を追いかけますか、それとも諦めますか?」

 

「私は追いかけます!」

 

 シドが大切だからと言う思いを胸にローズは即答したが、素直になり切れないアレクシアは複雑な胸中で言う。

 

「そうしてまた裏切るんじゃないでしょね?」

 

 かつて三人で大切な物を守ろうとした約束も脆くも崩れた--そんな苦い思い出がある以上は仕方がない反応だと理解しながら、ベータは落ち着いてそれでいて真正面から向き合って言った。

 

「私の事を信じられないのは仕方ありません。追いかけたいと言う気持ちに嘘がなく目的も一緒と言っても早々に割り切れないでしょう--かと言って何かを差し出してまで信頼を得ようとも私も思えない。ハッキリ言ってあなたと組むメリットなんてありませんから」

 

「あのさ、誘ってんの?それとも喧嘩売ってんの?」

 

 アレクシアに青筋が浮かび、怒りを宥めようとするローズをアルファが制し状況を見守らせる。

 

「では単刀直入にシャドウ様--いえ、シド様に会いたいのとプライドとどっちが重いですか?」

 

「両方よ--もっと言えばあいつに会って言ってやりたいことは山のようにあるわ!」

 

「今度は即答ですか--それでそれが答えでいいですよね?」

 

「組んでやるわよ、なにとでも--それでこの胸のうっ憤を晴らせるならね」

 

 言いたいことを言ったからかアレクシアの声にも少しは落ち着きが戻る--それを見たアルファは話に入る。

 

「決まりね。まずはミドガルに戻って、彼の薬に関しての情報を公表して--段取りなんかはこっちで手を回すわ」

 

「勝手にこんなとこに来て、勝手に会見--私の王女としての立場も危うくなるわね」

 

「その程度の事、いくらでも跳ねのけて見せるわ--なんならアイリス王女を押しのけて、あなたも女王になって見る?」

 

「傀儡の女王二号--はっ、パッとしないわね。けどそれが必要だって言うなら、いくらでも踊ってやるわ。その代わり絶対にあいつの所まで連れて行きなさいよ!」

 

「言われるまでもないわ」

 

 この快諾に初めてこの場に居る者たちの心が一つになった。

 

 その中でアレクシアはシドが消えた虚空に向かい叫ぶ。

 

「待ってなさいよ!そっちに行って絶対にこの気持ちをぶつけてやるんだから!!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 いや~、早いもので戻ってきて二年経った。

 

 戻って来てから、一から鍛え直して漸くと昔のレベルまで取り戻せた--訛ってた分、もっと時間を要すると思ってたけど向うでも基礎修業は疎かにしなかったのが良かったのかな。

 

 それは今も同じで、オーラを集中させて纏と練を繰り返してる--ただそれでも今日はそうはいかないみたいだ。

 

 部屋の外から走り音が聞こえて来る--それも真っ直ぐに僕の部屋に向かって来てるのが分かる。

 

「シド、見なさい!試験受かったわ、これで私もプロハンターよ!!」

 

 豪快に扉を開けてハンターライセンスを掲げるクレア姉さん--もう100%すっかり元気になったけど、比例してパワフルになってはっちゃけてる。

 

 なんだか複雑な気分だ。

 

「姉さん--その名前で呼ばないでって言ったでしょ。今の僕は―――」

 

「だったら私を姉さんって呼ぶのも止めなさい--戸籍上はもう赤の他人なんだから、○○〇」

 

 姉さんが今の……そして前々世での僕の名を言う。

 

 そう、今の僕は前々世での名とIDで生活してる--出来てしまったのだ。こっちに戻ってきた場所はかつての僕が死んだ〝神隠しの聖域〟でそこには朽ち果てた僕の死体があった。

 

 いや~、自分で自分を埋葬するってのシュールな気分だった。

 

 でもライセンスは無事でかつなんとあの時から一年しか経ってないことが分かり、僕は遭難し一年かけて脱出したってシナリオを持って何とか社会復帰を果たしのだった。

 

 姉さんの方も流星街出身ってことで誤魔化して……合法的とは言えないけどなんとかIDを作って堂々と生活できるようした。

 

 とは言ってもそこからが大変だった--ライセンスのお陰で生活には困らなかったけど、徐念師探すのは骨が折れるなんてもんじゃなかったし、自分で習得しようにもこっちじゃ念が不安定になり過ぎて返って危ない。

 

 結局、正式な修行を積んだ徐念師に任せるのが一番ってことで方々駆けずり回ったんだよな。

 

 それにアウロラもとっくに寿命が過ぎてるのを念によって生かされてる状態だから、徐念したら程なくして息を引き取った--せめてベッドの上で安らかに逝けたのは幸いだった、そう思いながら手厚く葬った。

 

 そうして主だった問題を片付けて漸く自分の為に時間を使えてたのに。

 

「それは姉貴分ってことで--それと水差すようだけど、ライセンスだけじゃプロとは言えないよ」

 

「分かってる。念を習得しなきゃ認めて貰えないんでしょ」

 

 声にワクワクが籠ってる--ずっと教えろって煩かったもんなぁ。

 余りにウザいから、その為にはライセンス取得の為に試験をと持って行って……何度か落ちてる間に修行のやり直しをする予定が、まさかルーキーの一発合格って。

 

「これで修行する資格は満たしたわね--早速、始めるわよ」

 

 そう言って姉さんは纏を披露してみせる--そうだったね、姉さんもずっと頑張ってたんだよな。

 

 僕は姉さんの隣に立ち同じく纏をする。

 

「じゃ、一緒に基礎からやって行こう」

 

「望むところよ--直ぐに追いついてやるんだから」

 

「それ、私も混ぜて欲しいわね」

 

 唐突に背後からした声に振り向くと黒いオーラが渦巻いて……ゲートじゃん、しかもさっきの声は。

 

「久しぶりね。シャドウ」

 

 中からは案の定、アルファが表れた。

 

「ふふ。その顔、初めてあなたに勝った気がするわね」

 

 え、そんな顔してんの僕?

 

 いやいや、そんなことはいい……それよりもなんでアルファが?

 

 ゲート制御できる技術があるのは知ってるが、それでもピンポイントにこの世界に来るなんて不可能に近い。

 

 僕みたいにかつて住んでいて深い思い入れがあるなら、深層心理や本能ってやつで手繰り寄せられるけど、むこうにはこの世界に辿り着けるようなのはもうなかった筈だ。

 

 仮に僕を目標に探し出したとしても人間の他に多くの生物がいる世界の中から探し出すなんて砂漠から米粒を見つけるような…………ホントにやってのけたのか?

 

「いや~、素直に脱帽だよ。そして改めて久しぶり、アルファ」

 

 素直な感想を言って思わぬ再会に驚いてたが、姉さんが憮然と割って入って来た--それもかなりの不満顔だ。

 

「ちょっと、何しに来たのよ?」

 

「ふふ、クレアも久しぶり--もうすっかり元気みたいで良かったわ」

 

「そんなのいいから答えなさい。何しに来たの?言っとくけどシドはもう渡さないから!」

 

「だ、そうだけどみんなはどう思う?」

 

 アルファが背後のゲートに語り掛けると、他の七陰やアレクシアにローズ先輩が姉さんと同じくらいの不満顔で覗き込んでいた。

 

「大分時間が掛かったけど、ゲートの制御と応用はここまでこぎつけたの」

 

「自慢するのはいいけど、僕は戻る気は無いよ」

 

「ええ、分かってるわ--今日来たのは私たちの世界とアカネの世界における魔力流入への対策にあなたを雇いたいの」

 

 アルファはスライムボディスーツをかつての僕のフードコートに変化させた。

 

「新生シャドウガーデンの長としてね--数多の世界における魔力災害にあなたの力を貸してちょうだい」

 

 懐から封筒を取り出し『魔力災害対策における計画書』と題されたものを渡される--もやは完全にお役所仕事だな。

 

 正直、あまり好みじゃないけど昔のよしみで目を通すと、第一項目に〝混乱を避ける為に秘密裏に〟って文言があった…………。

 

 やれやれ、陰の実力者ごっこは終わらせたつもりだった…………なのになんだろうな、この胸に来る高鳴りは?

 

 なんとも抗いがたい湧き上がる興奮--やっぱりまだまだやり切れてなかったか。

 

 陰の実力者になるって願いは。

 

 僕は念を展開しかつてのスライムボディスーツを模したローブを再現する。

 

「いいだろう--これもまた必然だ」

 

 アルファの手を取り承諾を示すとゲートの向こうで皆も喜び、クレア姉さんも仕方ないって顔してる。

 

 全くそれじゃ、久々にやるか。

 

「我が名はシャドウ--陰に潜み、陰を狩るもの」

 

 陰の実力者の物語はまだ終わらない。

 




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