アサルトリリィ ~月華の乙女たち~ (鵺夜深)
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第一章 入学式編
入学式編 1


 近未来の地球。人類は謎の巨大生命体「ヒュージ」の出現で破滅の危機に瀕していた。

 

 ヒュージとは、ヒュージ細胞と呼ばれる巨大化細胞の暴走が生んだ生命体。

 捕食、寄生、成長を繰り返すことで多様な形状を獲得し、大きさや強さによって等級が分かれる。

 

 スモール、ミディアム、ラージ、ギガント、アルトラといった分類で区別される。

 

 出現はステルス飛行による空からの飛来と、「ケイブ」とよばれる異次元ワームホールから出現する。

 

 ミディアム級までは通常兵器での撃退が可能だが、ラージ級以上に属するヒュージはCHARM(チャーム)でなければ打倒することができない。

 

 CHARMとは、科学と魔法の力「マギ」を結集した決戦兵器であり、そのCHARMと高いシンクロ率を示すのが、10代の女性だった。

 

 だが、全ての10代の女性が高いシンクロ率を誇るわけではなく、CHARMを取り扱えない子もいる。

 

 そして、CHARMを取り扱える彼女達のことを『リリィ』と呼び、次第に英雄視されていくこととなる。

 

 ヒュージと戦うため、ガーデンと呼ばれるリリィ養成機関が世界各地にも作られ、日本国内でも有名なのが、

 

 鎌倉府にある、私立百合ヶ丘女学院、相模女子高等学館、聖メルクリウスインターナショナルスクール等9校。

 

 東京には、御台場女学校、神庭(かんば)女子藝術高校、エレンスゲ女学園、私立ルドビコ女学院等6校。

 

 千葉、幕張科学技術女子。新潟、柳都女学院等、その他、関西、九州、四国、そして、ここ、名古屋府の月華学院を含めて、28校が存在している。

 

 そして、本日、ここ月華学院ではリリイ科の入学式が行われていた。

 

「新入生の諸君、入学おめでとう。月華学院学院長の山口 五十六だ。このご時世、入学の祝辞をごたごた話すつもりはない。ただ、約束だけはして欲しい。死ぬな。例え何があっても、死ぬな。逃げろ。逃げてでも生きて帰れ。」

 

 力の籠った言葉だが、どこか哀しみが混ざっている抑揚。学院長の表情も哀しげに新入生を見ている。

 

 学院長の後ろには、月華学院・リリィ養成科4期生入学式と大きく書かれている幕が貼られている。

 

 講堂と思える場所に集まっている新入生は、学院長の言葉に戸惑いの表情を浮かべている者、ほっと胸をなでおろしている者。周りの様子を伺っている者もいた。

 

 それもそのはずで、リリィとはヒュージと戦うことが使命であり、時には命すら投げうってでも戦う必要があるのに、『逃げてでも、生きて帰れ』と言われると、戦闘に不安を覚えるものは安堵し、覚悟していたものは、戸惑うのも当たり前だった。

 

 そんな生徒達の様子を見ながら、学院長は、

 

「昔の戦争の話ではあるが、木村昌福少将が言った言葉を君たちに送りたい。『帰れば、また来られるからな』。この言葉の意味、各自しっかりと勉強するように。以上、私からの挨拶だ。」

 

 壇上から、新入生の顔、一人ひとりを確かめるように見ながら、下手へと消えていった。

 

 それを、確認してから、別の男性の声が聞こえた。

 

「ええ、講堂を出て、校舎棟の前にクラス分けの紙を掲示しているので、各自確認するように。明日は、一般学生の入学式のため、授業は明後日からになる。間違えて出校しないように。」

 

 その一言で、講堂内の緊張が解けたのか、少しだけざわついた。

 

「あと、中等部からの進学組、および、CHARM持参の者は、クラス確認後は解散。CHARMを当学院にて発注したものは、職員棟の2階の受け渡し所に来てから、帰宅、帰寮するように。では、解散。」

 

 一瞬の静寂のあと、一斉に、生徒たちが動き出したため、講堂の中が騒がしくなった。中等部からの進学組とおぼしき者は友人同士話しながら出口へと向かうと、それにつられるように、他の生徒達もあとに続いた。

 

 月華学院高等部・リリィ養成科。名古屋府(旧愛知県一宮市)にあり、月華学院は87年の歴史がある進学校である。

 

 しかし、2047年~2048年にかけて静岡に突如大量のヒュージが出現し、静岡が陥落。

 

 危機を覚えた名古屋府と関西府は、急遽、2049年に月華学院にリリィ養成科を設立。

 

 翌年の2050年に静岡にいたヒュージの大群が山梨方面を襲い、甲州が陥落。

 

 そのまま、東方面へ移動したことから、名古屋府方面の危機は去ったが、名古屋府内に、ガーデンが存在していないことから、そのまま引き続き、リリィ養成科を継続していくこととなり、今年で4期生を迎えることとなった。

 

 私立の高校でありながら、名古屋府・関西府・政府からリリィ養成に関する費用が公費として支給されており、半私半公という珍しい高校で、授業料等全ての科において、普通の公立より低い。

 

 そのため、リリィ科以外の普通科・特進科の入学希望者は多いが、リリィ科については、他の地域に比べると歴史が浅いため、希望者は少ない傾向にある。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




初めまして 鵺夜深(やよみ)と申します。

以前、DISCODEにて掲載していた作品をこちらに移転させたものとなります。
DISCODE作成分に若干の手を加えながら、掲載していきますが、作成分がなくなると途端に筆が遅くなると思います。ご容赦ください。

予告編のユーチューブはこちら。初心者の作成なので、つたないです。
ご勘弁を。(音声はありません)

動画にある公開予定日は無視してください。
https://www.youtube.com/watch?v=OPo-7jwj_48

画像は月華学院の校章(知人の颯空さんに描いていただきました。著作権は颯空さんにありますので、転載不可です)


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入学式編 2

 校舎棟の前でクラスの確認をした新入生が少しづつ減っていくなか、一人の生徒だけ、その場を動かずに、じっと自分の名前を見つめている少女がいた。

 

 そして、胸の前で手を組み、

 

 「お父さん、私の選択、間違ってないよね。私も誰かを守りたいの。お父さんのように」

 

 そう、ちいさく呟いて目を閉じ、昨夜の母との会話を思い出していた。

 

 「奏(かなで)。あなた、制服着てみたの。」

 

 母は仕事から帰るなり、玄関で靴を脱ぎながら、その少女の名前を呼んだ。

 

 居間から顔だけ出して、母を見ながら、

 

 「おかえりなさい。うん、着たよ。大丈夫だったよ。」 

 

 「お母さん、明日も朝早くから仕事なのよ、あなたの制服姿みれないから、今から着た姿見せてくれない?。」

 

 奏は少しだけ嫌そうな口調で、

 

 「えっ?今から?もう夜だし・・・。」

 

 「どうせ、あなたのことだから、健司や沙耶、それにお父さんにもみせてないでしょ。」

 

 奏の弟の健司は、小学四年生。妹の沙耶は小学二年生。

 

 弟、妹も一緒に居間にいたのだが、母親の言葉に強く興味を示したのは、妹の沙耶。

 

 「あっ、私もお姉ちゃんの制服姿、見てみたい。」

 

 目を輝かせながら訴える沙耶。弟のほうは、別にどっちでもいいかという感じでテレビをみているが、ちらっ、ちらっ、と姉に視線を向ける辺りは、どうやら気になってはいるらしい。

 

 肩にかかるか、かからない程度の長さの髪を触りながら、

 

 「わかったわよ。着替えてくるから、ちょっと待ってて。」

 

 奏は居間を出ると、自分の部屋に向かいながら、顔だけを後ろの玄関に向けて、

 

 「お母さん、ご飯出来てるからね。」

 

 そう言うと、自分の部屋へ戻っていった。

 

 母親は居間に入ると、仏壇に手を合わした。

 

 仏壇には、父親の写真が飾られていた。もともと、奏たち家族は、静岡の浜松に住んでいたのだが、ヒュージに襲われ、避難の途中、奏たち家族を守るために、父は犠牲となった。

 

 母は、仏壇の下にある引き出しから、何かを取り出し、さらには、押し入れも開けながら、少し大きめな声で、

 

 「あ、かなでぇ、今日のご飯は何?」

  

 「ん? 唐揚げ。」

 

 「ありがとね。いつも。」

 

 そう言いながら、取り出したものは、居間のテーブルの上に置き、奏の部屋へと向かった。

 

 「奏、入っても大丈夫?」

 

 母の声が聞こえた時に丁度着替え終わっていた奏は、

 

 「あ、うん。大丈夫。」

 

 奏の声を確認してから、扉を開けた。

 

 奏の姿を見るなり、満面の笑みで、

 

 「うん、そのセーラ服、良く似合ってる。」

 

 奏の前に立つと、少しだけ視線を上に向けないと目が合わないことに気付いた母は、

 

 「あれ?奏、いつの間にか、私より背が高くなったのね。」

 

 そう言いながら、奏の肩に手を置いて、

 

 「もう少し大きめの制服でもよかったんじゃないかしらね。嫌よ、来年着れなくなったって言うのは。」

 

 「いや、それはないと思うよ。」

 

 苦笑いしながら、返す奏に、母は、視線を下に下ろし、セーラーのスカーフを触りながら、

     

 「私は、母親としては、失格よね。」

 

 「えっ?!」

 

 なぜ、突然そんなことを母が言ったのか奏には理解することはすぐには出来なかったが、

 母のすすり泣く声で気が付いた。自分はリリィとして、ヒュージと戦う道を選んだんだと。

 

 「どこの・・・世界に、死ぬかも・・・しれない・・所に大切な娘を行かせる母親がいるのよ。・・・そんなのを、母親って・・・呼べるの?」

 

 涙声の母の声に言葉を失ってしまう奏。 

 

 「・・・・・」

 

 「そうでしょ。・・・だから、私は・・・・母親失格なの。」

 

 奏と視線を合わせようとせず、涙混じりの声で、下を向いたまま話す母に、

 

 「お母さん。」

 

 その一言だけを出すのが精一杯の奏だった。

 その時、母が奏の体を強く、強く抱きしめた。そして、

 

 「奏。あなたは言った。・・・・・進路を決めた時に、私に言った言葉覚えてる?」

 

 「う、うん。」

 

 「あなたは、・・・・言ったよね。守るために月華に行く。」

 

 「うん。」

  

 「私たちと・・・同じような・・・家族を作りたくないって・・・・・。」

 

 「はい。」

 

 「それ・・・聞いて・・・。お母さん、反対できなかった・・・。ううん。違う。反対できるわけないじゃない。」  

 

 「もしかしたら、私、卑怯だった?。あんな言い方して?」

 

 母は、無言のまま、首を横に振っていた。そして数秒の沈黙の後、

 

 「お父さんだったら、きっと、よく言ったって、褒めてくれてたわよ。」

 

 母は、ゆっくりと奏から離れて、涙を両手で拭いながら、笑顔で、奏に顔を向けて、

 

 「奏、武運長久を祈ってるわよ。」

 

 「武運長久?」

 

 疑問形で返す奏に対して、母は、自分の腕を組みながら、

 

 「あら。知らないの?。じゃ、お母さんからの宿題ね。その言葉の意味、調べておいてね。」

 

 奏と母。お互いを見つめあってから、

 

 「さ、記念写真とりましょ。って、わたし、ひどい顔になってるわよね。」

 

 母は、そう言いながら、部屋から出ていくと、弟と妹に

 

 「あなたたち、お姉ちゃんと一緒に写真とるから、玄関に行っててね。」

 

 奏、健司、沙耶の三人が暫く玄関で待っていると、化粧を直した母が、

 

 「ごめんね。待たせちゃって。さ、まずは、お姉ちゃんと健司、沙耶の三人から撮りましょうね。」

 

 普段と変わらない母に戻っていた。

 

 そのあとは、健司と奏。沙耶と奏。健司に頼んで、母と奏で写真を撮った。

 

 小型のカメラ付きの携帯端末では、家族全員では写真が撮れなかったが、母は、

 

 「あと、もう一枚、全員でね。ちょっと待っててよ。準備するから。」

 

 と言い、一旦、家の中に戻り、すぐに何かを持って出てきた。

 

 母が持って来たものに、奏には見覚えがあった。

 

 「お母さん、それ、お父さんのカメラ?」

 

 三脚にカメラをセットしながら、

 

 「そうよ、よく覚えてたわね。奏。」

 

 「でも、それ、壊れてるんじゃなかったっけ?」

 

 セッティングしながら、母は、

 

 「壊れててもいいの、これで撮ったら、天国のお父さんにもみてもらえるじゃないの。」

 

 母の言葉に納得した奏は、

 

 「そうだね。うん。撮ろう。」

 

 その後、セルフタイマーのセット方法がわからず、時間はかかったが、家族全員がカメラに向かって笑顔を向けた。天国に父に届くように。

 

 

 そんな昨夜のこと思い出し、少しだけ気持ちが楽になったようで、表情が少し柔らかくなった奏だった。

 

 もしかしたら、入学式で、思っていた以上に緊張していたのかもしれない。

 

 一つだけ、軽く息を吐き、空を見上げた。青空だが、所々に白い雲が点々とある。そんな青空に向かって、

 

 「お父さんに写真届いたかな。」

 

 と、小さく呟いた。そして、視線をもとの掲示板に戻し、

 

 「そう言えば、昨日も今日も、同じこと言われてるな・・・。言葉の意味を調べろって・・・。」

 

 そんなことを考えながら、周りを見ると、誰もいないことに気が付き、慌てて、学院の配置図をみながら、職員棟へ向かった。

 



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入学式編 3

 職員棟の2階、CHARMの受渡し場所はすぐに見つかったが、まだ、数名の生徒が残っていたため、奏は少し

待つこととなった。

 

 掲示板の前で少し昨日の出来事を思い出していた時間から考えると、自分しか残っていないかと思った奏は、

 

 『案外とCHARMを受け取る子って多いのかな?』 

 

 と、心の中で感じていた。待つこと10分弱で自分の番が来る。

 

 受け渡し場所には、一人の女生徒と事務職員らしき女性が座っていたが、その女生徒に、

 

 「東 奏(あずま かなで)さんね。」

 

 と、声をかけられた。奏は、

 

 『なんで、この人、私の名前を知ってるんだろう』

 

 不思議に感じたが、その思いは座っている女生徒の言葉ですぐに分かった。

 

 「あなたが、最後だからね。」

 

 笑顔で奏を見ながら言う女生徒。

 

 そう言われて、納得がいったと同時に、自分が不思議そうな顔をしていたので教えてくれたのだろうと思うと、恥ずかしくて思わず顔が熱くなるのを感じていた。

 

 そして、慌てて視線を動かしたときに、その女生徒のスカーフに目が留まった。

 

 月華学院高等部では、セーラー服のスカーフの色で学年が区別されおり、一年生は桜色(薄いピンク)、二年生は紺碧(濃いが明るめの青)、三年生が赤紫(紫より明るめ)となっている。

 

 声をかけてきた女生徒は青っぽいスカーフを付けていたため、二年生だと奏は知った。

 

 「はい、この受け取り証明書にサインをしてね。」

 

  優しい声で微笑みながら、証明書のサインする場所を指で示して教えてくれる先輩に優しさを感じながら、奏は、言われるままに、サインをすると、

 

 「その紙を持って、部屋の中に入って。教導官から、CHARMを受け取ってね。それと注意事項はしっかりと聞いてね。」

 

 「はい。ありがとうございます。」

 

 奏は一礼すると、部屋の中に入っていった。

 

 奏が部屋の中に入ったことを確認したかのうように、入れ違いに一人の男性が、受付にいた女生徒に近づいて来た。

 

 恰幅が良く歩き方もビシッと、まるで軍隊にでもいたかのうような歩き方である。事務職員の女性は男性に向かって一礼するとその場から立ち去ったが、男性は、残って片付けをしている女生徒の傍に来ると、

 

 「今のが、東奏(あずま かなで)君かね。」

 

 確認するかのうように尋ねた。

 

 「はい、おそらくそうですね。本人から名乗ったわけではありませんし、私は、東さんと面識があるわけではありませんから。」

 

 いたずらっぽい笑顔でその男性に顔を一度だけ向けてから、再び机の上の資料やペンを片づけ始めた。

 

 それほど多くないので、すぐに片づけが終わると、突然立ち上がり、姿勢を正すと、

 

 「学院長、この一年本当にお世話になりました。そして、私の身勝手な我儘を聞いてくださり、誠にありがとうございます。」

 

 深々と頭を下げた。そして、ゆっくりと頭を上げると、目には光るものが流れていた。

 

 「大郷君、もう一度考え直していいんだよ。まだ取り消しは出来るからね。」

 

 学院長も女生徒をみながら、優しい口調で意思を確認していたが、

 

 「いいえ、もう決めたことです。それに、彼女が倒れるところを見たくないんです。」

  

 流れる涙を拭おうともせず、笑顔を必死に作って学院長を見つめている。

 

 「そうか。」

 

 学院長は残念そうな顔で言ってから、続けて、

 

 「次の学校はいつからだ。」

 

 「明日が、一年生の入学式なので、明後日から向こうの高校に通うことになります。」

 

 流れる涙をハンカチで拭きながら、学院長に伝えた。

 

 「それと、例のものは彼女に渡していただけましたか?」

 

 「直接ではないが、自然と彼女の目に留まるようにした。恐らく、この後だろうな。」

 

 「フフフッ。そうですね。もうじき、彼女のショーが始まるでしょう。」

 

 笑顔でそう言う女生徒に対して、学院長は感心した表情で、

 

 「しかし、あれだけの事、よく調べたな。」

 

 「いえ、時間がかかってしまって、なんとか間に合ったって感じなので、もしかすると詰め手にかけてるかもしれません。巧妙にしかも陰湿で調べれば調べるほど吐き気がしました。」

 

 嫌そうに顔をしかめながら言う女生徒に、学院長は頭を下げながら、

 

 「いや、あれだけの物的証拠と状況証拠、それに証言まであるんだ。あれで追い詰められなければ、それは私の力不足だ。君には本当に最後まで苦労を掛けてしまった。すまなかったな。しかし、生徒会のマル秘資料まで、どうやって・・・。」

 

 不思議そうな顔の学院長に対して、どこから出したのか分からないが、二本の細長い金属を見せて、

 

 「これで、ひっそりと。」

 

 学院長は一瞬だけ、見てはいけないものを見たような顔をした。それは、正規のカギを使わずに開ける道具。

 

 だが、当たり前だというような顔で、 

 

 「リリィとしては、必要ですよ。鍵のかかった部屋に閉じ込められた人たちを救出するには、必須です。」

 

 そう言いながら、一人で長机を片づけようとする女生徒に学院長は、手を貸した。

 

 学院長と女生徒の二人で長机を予備教室に運びながら、

 

 「ま、確かにそれはそうだが、今のは見てないことにしよう。しかし、惜しいな。君を手放すのは・・・。」

 

 本当に悔しそうな表情の学院長を見てから、

 

 「私は道具を使いますが、彼女なら、どんな扉も蹴破るでしょうから、心配いらないと思いますよ。」

 

 その言葉に対して、学院長はさらに苦虫を潰したような顔をして、

 

 「いや、どんな扉も蹴破られたら、困るんだがな。」

 

 ふぅ。とひとつため息を吐き、

  

 「あれは、先日も教導官室の扉を蹴破ってから、扉は蹴破るためのにある。と、ドヤ顔で言い切ってたからなぁ。とうとう学院長室以外の扉にも足を出しよった。」

 

 「あははははっ、ありましたね。私もその場にいて、肝が冷えました。」

 

 長机を倉庫用の教室に片づけると、その教室に置いていたカバンを持ち、そしてそのカバンの中から、一通の手紙を取り出し、

 

 「学院長、私の最後のお願い聞いてくれますか。この手紙をあの子に渡してください。」

 

 学院長は、手紙を受け取り、

 

 「手紙か・・・・・。直接会って話さないのか?。きっと、恨まれるぞ。俺も君も。」

 

 少しおどけた感じで話す学院長に、

 

 「ええ、でも、恨まれるのは、きっと学院長だけでしょうね。あ、でも、慣れっこですか。いつもの事ですから。」

 

 学院長に対して、失礼な言い方かとも思ったが、そもそも、根はやさしく、一人ひとりに気兼ねなく声をかける学院長で、生徒達からも親しみやすいと評判は高い。容姿からは想像しにくい話ではあるが。

 

 「うむ。違いないな。だが、本当にいいのか、何も言わなくて。思うところもあるだろう。」

 

 学院長が女生徒に視線を向けると、女生徒も、学院長に渡した手紙を見つめていた。

   

 「なるほどな。思いは、全て手紙にか・・・。」

 

 その時不意に、

 

 「学院長、もう一つだけ、我儘聞いてもらってもいいですか?」

 

 女生徒が顔の前で手を合わせてお願いするポーズをとっていた。

 

 「なんだ。」

 

 学院長の持っている手紙を見ながら、

 

 「もうちょっとだけ、この学校を見ておきたくなりました。」

 

 そして、顔を上げて、今できる精一杯の笑顔を見せて、

 

 「校内を自由に歩いてもいいですか。」

 

 その笑顔を見た学院長は、 

 

 『そうか。手紙では書ききれなかった想いもあったか。』

 

 女生徒の表情からそう読み取った学院長は、

 

 「よかろう。悔いの残さぬよう、しっかりと見て回ると言い。だが、そうなると、出会うかもしれんがそれでもいいのか?」

 

 少しだけ意地悪そうな表情で女生徒をみたが、

 

 「はい、それも含めて賭けです。あの子と私の運命が絡み合ってるのか、平行線なのか。あの子がわたしを見つけることが出来るのか、賭けてみたいと思いました。」

 

 遠くを見つめながら、はっきりとした口調で伝えると、再度、一礼をして、向きを変えると歩き始めた。

 

 女生徒の後ろ姿を見ながら、

 

 「大郷君、この手紙、私が彼女に渡すのが遅れたら、会うこともできないがそれも賭けなのか?」

 

 学院長の言葉に、顔だけ振り向けて、

 

 「それも賭けです。学院長がとのタイミングでその手紙を渡すのか。最後まで、御面倒おかけして申し訳ありません。」

 

 そういい、再び、前を向いて歩き始めた。

 

 学院長は、再び、手に持っている手紙を見て、

 

 「その賭け、俺の勝ちじゃな。」

 

 視線を去っていく彼女に向けて、小さく一人呟いた。

 

 「全く、去年の1年生は、最初から最後まで、俺を巻き込みおってからに・・・。」

 

 小さく迷惑そうに呟いたものの、顔は嬉しそうな顔で、彼女の背中を見続けていた。

 




お越しくださり、ありがとうございます。鵺夜深(やよみ)です。

奏ちゃんが第一の主人公ですが、次話に第二の主人公が登場してきます。

ちょっと荒れます。荒れてます。奏ちゃん、まさかの巻き込まれです。

ヒュージはまだまだ出てきません。ただ、色々と癖のある人達が登場してきます。


人物絵についても、知人に描いてもらってますが、先ほど、DISCODE時代のものから書き換えたいと連絡がありましたので、人物絵については先送りとなりそうです。

では、また入学式編 4 も今週中にはアップします。

月華学院をよろしくお願いいたします。


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入学式編 4

 奏はCHARM受け取ると、帰宅する為校内の廊下を歩いていた。

 CHARMは、専用のケースに入っており、3センチ幅の紐がついているが、長さを調整することで肩に掛けれたり、リュックのように背負うことができるようになっていた。今は肩にかけている。

 

 奏は、受け取った時に言われた注意事項を思い出しながら、一人呟いていた。

 

 「えっと、CHARMは出来るだけ肌身離さず持っていること。」

 

 「戦闘、訓練による消耗・破損は学院側で修理可能。それ以外は、個人負担。半年間は無償でメンテナンス・修理は可能と。」

 

 「訓練以外では、人にCHARMを向けない事。」

 

 「CHARMを手放すことは、引退もしくは、死を意味する。」

 

 「あとは、細かいことは、教本と取り扱い説明書が一緒にはいってるんだよね。」

 

ふと、我に返った奏は気が付いた。

 

 「ここ、どこ?」

 

 あたりを見回しても誰もいない。案内図を取り出すが、現在地がわからないので、どうみたらいいのか、判らなくなっていた。

 

 「まじかぁ・・・。入学初日、学校内で迷子とは。ま、でも、学校の中だし、誰かに出会ったら助けてもらおう。」

 

 見知らぬ土地であれば、困ったかもしれないが、学校という狭い空間であれば、どうにかなるだろうという考えが働いた。で、とりあえず適当に歩いていると、どこからともなく声が聞こえて来た。

 

 「陽子、あなた、本気で、それやるつもりなの?」

 

 「当たり前でしょうが、一年我慢したのよ。一年。それに、物的証拠も手に入ったし。今やらずしていつやるの?」

 

 「いや、その証拠って言っても、私たちのレギオン部屋に置いてあっただけで、だれが置いていったのかわかんないでしょ。信憑性はあんの?」

 

 「ある。」

 

 「いやいやいや、っていうか、その自信はどこから来るのよ。」

 

 奏は声のする方に近づいていくと、丁度角を曲がった辺りに二人の女生徒を見つけた。

 

 恐らく、一年生ではなく、先輩であることは間違いないだろう。だが、このまま声も校内を彷徨うより、助けてもらうべきだと判断した奏は、意を決して、

 

 「あのぅ・・・・。すみません。教えてほしいんですけど。」

 

 と、恐る恐る声をかけてみた。

 

 すると、一人の女生徒が、

 

 「あら、あなた、一年生?。どうしたの? こんなところで。」

 

 優しそうな声で、にっこりと笑いながら、手招きで奏を呼んだ。

 

 三つ編みで編んだ髪が胸の辺りまであり、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

 

 奏は呼ばれた先輩に近づきながら、制服のスカーフの色を確認していた。

 

 『スカーフの色が、えっと・・・・こんぺき?だっけ。ということは、2年生の先輩。』

 

 先輩しかいないだろうと思ってはいたものの、やはり緊張感してきて、呼ばれたけど近づいていいのか迷ってしまい、歩くスピードが落ちていた。

 

 それを察したのか、女生徒の方が、奏に近づいてきた。

 

 「もしかして、道に迷ったの?」

 

 奏の肩にそっと手を置いて、優しい口調で語りかけてきたが、奏は緊張のあまり答えることが出来ず、ただ小さく頷くのが精一杯だった。

 

 「万一、校内にヒュージが入ってきても、逃げられるように、あちこち通路になってるからねぇ。」

 

 突然、三つ編みの女生徒の後ろから、もう一人の女生徒が声をかけて来た。

 

 肩にかかっている長い髪を手で、後ろに払いながら・・・・・。

 

 その仕草に、奏は一瞬目を奪われた。

 

 『綺麗な黒い髪、黒というより、漆黒と言った方がいいのかも・・・』

 

 動きの止まって、奏を見て、

 

 「大丈夫?。怖かったの?」

 

 背中まである長い髪の女生徒は、少しかがんで、奏の顔を覗き込むように言った。

 

 その声で、我に返った奏だったが、偶然にも視線が合ってしまい、見つめられていたことに気付くと、体の奥底から熱くなり、自分の顔が赤くなっていくのを感じた。そして、何か言わなければと思い、

 

 「あっ、いえ、その、しゅ、しゅみません。」

 

 言い直しても、さらに噛んだ奏だった。

 

 すると突然、

 

 「こらっ!。田中陽子、授業中なのに、どこいってんの!!」

 

 奏が歩いてきた方から、女性の声が聞こえてきた。

 

 奏を見ていた女生徒が、小さな声で、

 

 「ちっ、やかましいのが来たか。」

 

 そう呟くと、かがんでいた姿勢を元にもどして、

 

 「明花葉(あげは)。あんたこそ、なんでここにいんのよ。授業中でしょ。さっさと・・」

 

 その言葉を遮るように、

 

 「やかまわしいわ。あんたを探すように担任に言われてきたの。本来なら、これって、聡子の仕事なんだけど、彼女、CHARMの受け渡しの手伝いに行ってるでしょう。だから、私が言われたの。」

 

 奏は声がした方を振り向くと、二人の女生徒が近づいてきていた。

 

 「あなた、こっちへ。」

 

 最初に声をかけてきた、三つ編みの生徒に腕をひっぱられて、奏を自分の後ろに隠した。

 

 近づいてきた、女生徒の一人が、

 

 「どうせ、陽子のことだから、なにか良からぬことをしようと企んでいたのは明白。何をしようとしてたの。」

 

 そう言いながら、陽子と呼ばれた女生徒に絡んでくるのは、ツインテールの髪型をした女生徒だった。

 

 「別に明花葉を巻き込もうなんて、これっぽっちもおもってないわよ。」

 

 といいつつ、視線を明後日の方向に向ける陽子に対して、

 

 「陽子、今、視線そらしたわよね。ね。ね。あんた、巻き込むつもり満々で・・いたっ!。」

 

 パシィ!!という音が廊下に響いた。

 

 奏はなんだろうとよく見ると、

 

 ツインテールの女生徒の少し後ろを歩いていた、もう一人の女生徒が、手に持っていた扇子で、明花葉と呼ばれた女性の後頭部を叩いていた。

 

 ほんの一瞬だったが、奏と目が合った時、にっこりと微笑んで、頭を少しだけ下げたので、奏も、同じように、チョコンと頭を下げた。

 

 「澪、なんで私を叩くの、叩くのは、陽子でしょうが。」

 

 澪と呼ばれた女生徒は、手に持っている扇子を自分の顎辺りに当てながら、ゆっくりとした口調で、

 

 「だってぇ、明花葉さぁん、言ってる事とぉ、やってることがぁ、違うんですものぉ。お仕置きですわよ。巻き込まれたくて、ここまで来たんでしょぉ。ダメですよぉ。自分に素直にならなくてはぁ。だって、もう、高校2年生なんですからねぇ。」

 

 先ほど視線が合った時の仕草や今の口調から、奏は幼い子供をあやす母親のような人だと感じた。

 

 澪は、明花葉より、あたま半分くらい背が低く髪は肩にかかる程度、ただ、ふわっとして、カールがかかっていた。

 

 「なんで、澪までいるの。そもそも私たちとクラスは違うでしょうが。」

 

 不思議そうな顔で尋ねる陽子に対して、澪は、

 

 「紫音ちゃんがいないからぁ、みおも、担任に探すように言われたのよぉ。何か変なのに巻き込まれてるんじゃないかって・・・。」

 

 奏の傍にいる女生徒が、

 

 「まぁ。確かに巻き込まれているはするけど。変な事じゃなくて、変なのには正解だけど。うちのレギオンのメンバーだから、仕方ないでしょ。澪。」

 

 レギオン。数名から数十名のリリィたちで構成される戦闘集団。絶対にレギオンに加入しなければならないという決まりはないが、仲間と協力してヒュージを倒す集団。生存率を上げるためにもレギオンに加入するリリィは多い。

 

 この月華学院でも、レギオンを自分たちで組織して教導官に許可を得る、教導官認可制を採用している。

 

 教導官とは、リリィに特化した授業を専門に教える教師の事であり、引退したリリィが務める。

 

 レギオン結成の方法は月華学院では、教導官認可制だが、他校(ガーデン)では、トップレギオン制があり、教導官がメンバーを選出する制度もある。

 

 扇子は開かずに、澪は自分の首辺りに何度も当てながら、

 

 「あっ、でも、そうねぇ。陽子ちゃんと一緒にいるのだから、大丈夫よねぇ。」

 

 大きな声で笑うことはないが、満面の笑みで、言う澪に対して、

 

 「いや、澪、そこおかしいでしょ。陽子だから危ないんでし」

 

 バチン!! 

 

 「っいった~~~い!!」

 

 澪の右横に移動していた明花葉が澪を見ながら言ったものだから、澪の扇子が明花葉のおでこをスナップを利かせた手で叩いていた。いわば、クリティカルヒットである。

 

 「明花葉ちゃん、すこぉしだけ、黙っていようね。いい子だから。」

 

 明花葉は、おでこを抑えたまま、しゃがみこんでいた。

 

 澪は、陽子の方に改めて向き直ると、今までの雰囲気がガラッと変わり、目元も険しく、口調も鋭く変化した。

 

 「陽子ちゃん、勝算は?」

 

 「ある。」

 

 「証拠は?」

 

 「ある。」

 

 「見せて。」

 

 「やだ。」

 

 その瞬間、澪は自分の扇子をおでこに当てて、上を見上げ、

 

 「そこで、ボケるのかぁ。みお、一本とられたなぁ・・・。」

 

 そして、再び鋭い眼光で陽子を睨みつけると

 

 「みせなさい。」

 

 鋭い口調で扇子を陽子の前に突き出した。 

  

 奏は、澪の豹変ぶりとその鋭い視線に恐怖を感じたが、その視線にさらされても、当たり前のように対応する陽子も凄いなと感じていた。

 

 ふと、隣から小さな声で、

 

 「三流の芸人みたいなコント。つっこむべきなの、それともこのままにしとくべきなの。」

 

 と独り言のようにつぶやいている紫音がいた。

 

 奏はその声に

 

 『え?コント?これが?で、放置するの?』

 

 驚きの表情で紫音を見つめるが、服の擦れるような音が聞こえたので、音の方を見た。すると渋々ながら、陽子が制服の中から大き目の茶色い封筒(A4サイズの紙が入るいわば、定形外の封筒)を取り出した所だった。

 

 「陽子、どっからそんなもん取り出してんのよ。っていうか、どうやって、しまっ。」

 

 その陽子の動作に驚いた表情で明花葉が質問するも、再び、澪の扇子が明花葉の後頭部にヒット、

 

 う~~。と、後頭部を押えながら唸っている明花葉には特に気にせずに、陽子は、

 

 「いや、制服の裏に、ちょっとした細工」

 

 言葉を全て言い終わらないうちに、澪が陽子のセーラー服の裾をまくり上げながら、

 

 「陽子ちゃん。それ、みおにも教えて。みおにも必要だとおもうの。」

 

 「陽子、それ私にも作り方教えて」

 

 気づけば、紫音も一緒に覗き込もうとしていた。

 

 「ちょ、ちょっと、紫音に澪、ちょっと、上げすぎだって、ブ、ブラ見えちゃうから。後で教えるから、ちょっと、二人とも、待っててば。」

 

 教えるからという言葉で、ようやく二人から解放された陽子だったが、

 

 「紫音ちゃん、見た?」

 

 「ええ、見た。澪より大きかったんじゃない?」

 

 「紫音ちゃんとみお、同じくらいだったとおもってたけど。陽子ちゃんのは、その上をいってたわよ。」

 

 「澪、それは間違いない。恐らく陽子は着やせするタイプなんだと思う。」

 

 そして、澪と紫音は、ゆっくりと振り向きながら、明花葉を見て、

 

 「明花葉ちゃん。がんばろうねぇ。」

 

 「明花葉、胸だけで女の価値は決まらないから、大丈夫。」

 

 澪は悲しそうな目で励まし、紫音は親指を立てて、大丈夫よ。というような目で明花葉を見つめていた。

 

 明花葉は、両手をクロスさせて、胸を隠すようにして、

 

 「あんたたち二人、そんな目で私をみるなぁ~。」

 

 天井に向かって、一人叫ぶ明花葉だった。

 

 そんな明花葉を誰も気にする様子はなく、 

 

 「明花葉ちゃんを弄るのはこのくらいにして。資料見るわよ。陽子ちゃん。」

 

 気付けはいつの間にか、封筒を手にしている澪だった。そして資料の中身を取り出そうとしたとき、

 

 「澪、紫音、陽子、ちょっと待った。」

 

 どうにか精神的に立ち直りかけている明花葉がストップをかけた。そして、奏を指さしながら、

 

 「見るのはいいけど、その子、巻き込んじゃっていいの?」

 

 「「「あっ。」」」

 

 澪、紫音、陽子の三人は、奏を見ながら同じように声を上げた。

 

 紫音は奏に近づくと、

 

 「ごめんね。変なコントにつき合わせちゃって。」

 

 手を合わせて、申し訳なさそうな顔をしながら言い、

 

 「えっと、出口だったよね。ここからだと・・・・。」

 

 出口の方を指さしながら、陽子が説明をしようとしたとき、

 

 「あなた、お名前、教えてくれる?」

 

 と澪。

 

 「東(あずま) 奏(かなで)です。」

 

 澪に問いかけられて、素直に答えた奏だった。

 

 「そう、奏ちゃんというのね、いい名前だわぁ。みおは、2年生で、大目黒(おおめぐろ)澪(みお)。レギオン、ロイヤルナイツで隊長してるのよ。みおのことは、みおって呼んでいいわよ。」

 

 「えっと・・・・澪先輩?」

 

 確認するような感じになったので、語尾が少し上がった奏だったが、澪は目を輝かせながら、

 

 「奏ちゃん、お願い、もぅ一回、呼んで。ね。ね。お願い。」

 

 「澪先輩。」

 

 「うん!!いい!!あぁ、私、2年生になったのねぇ。先輩って響きが心地いいわぁ。」

 

 体を震わせ、至福の喜びを表現している澪の後頭部を、平手で明花葉が叩く。

 

 「いった~~い。明花葉ちゃん、どうして叩くの。みお、何かした?」

 

 「今のその行動自体に問題があることを理解しなさい。澪。」

 

 澪を叩いた手を、痛かったみたいな感じで、擦りながら、

 

 「ごめんね、やかましくて。」

 

 優しく微笑んでから、陽子を指さして、

 

 「私は、そこのバカと同じクラスの下口(しもぐち)明花葉(あげは)。明るい花に葉っぱで、あげはっていうの。レギオンは、エンジェルスピア、よろしくね。」

 

 「はい。明花葉先輩ですね。よろしくお願いします。」

 

 奏は頭を下げた。 

 

 明花葉も先輩と呼ばれたことで、一瞬、悦に浸りそうになったが、そこは澪を恐れて我慢した。

 

 バカと言われた陽子が、何か反論しそうになっていたが、紫音に

 

 「ここは、我慢しなさい。まずは奏ちゃんを開放するのが先よ。」

 

 紫音にささやかれたことで、明花葉を睨みつけただけだった。

 

 紫音と陽子は、奏の背中を押しながら出口へ向かおうとしたが、奏から、

 

 「あの、お二人の名前、教えてくれますか?」

 

 奏が立ち止まって訪ねてきた。

 

 「今は、奏ちゃん、校舎を出ることを考えましょうね。」

 

 と紫音が優しく話しかけ、その横で陽子も頷いてその場を離れようとしたが、

 

 「あらぁ。後輩が先輩の名前を尋ねているのにぃ。教えてあげない、って意地悪な先輩だこと。」

 

 煽るように、澪が言い、奏もとなりで頷いていた。

 

 額に手を当てて、困った顔をしながら、紫音は、

 

 「那智(なち)紫音(しおん)よ。2年生。で、そっちは、田中(たなか)陽子(ようこ)。同じく2年生よ。」

 

 隣で陽子も微笑みながら、もういいわね。という表情で、出口に向かおうとした時、澪が、

 

 「はい、そこの三人、こっちに来る。来なければこの資料、勝手に見ちゃうわよ。それでもいいの?」

 

 険しい表情で、紫音、陽子、奏を睨む澪。

 

 特に、口調が変わった時の澪の怖さは、同じクラスの紫音は良くしっている。

 

 レギオンの隊長として、訓練・戦闘時にしか出さない表情と口調。本当の素の澪はどちらなのだろうかと思ったこともある。

 

 ここは奏を逃がすことを優先すべしと紫音は判断したが、

 

 「私の許可なしに、勝手に見るな!。」

 

 陽子が、澪に飛びかかって資料を奪おうとした。

 

 奪われないように澪は封筒を高く上げたり、くるっと背を向けたいしてかわしていたが、二人揉み合ううちに、封筒の中から資料が飛び出して廊下に散乱してしまった。

 

 澪もさすがに申し訳なく思ったのか。、

 

 「陽子ちゃん。ごめん。」

 

 謝りながら、散乱した資料を集めようとして手を止めた。

 

 「なに、これ。陽子、あなた・・・。」

 

 傍にいた明花葉も澪の持っているものを見ながら、

 

 「これ、噂では聞いたことあったけど、まさかそこまで非人道的なことはしてないだろうって・・・。」

 

 紫音と奏も澪の元に駆け寄り、澪の手のものを見た。

 

 奏は、思わず口元を手で覆い、紫音も苦虫をつぶしたような顔でそれを見ていた。

 

 「あんたたちには、出来るでけ見せたくなかったんだけどさ。」

 

 陽子は、澪からそれを受け取ると、封筒の中に素早くしまった。

 

 「陽子、覚悟、決めた?」

 

 突然、背後から声をかけられて、全員が声の主の方に向き、澪、明花葉、紫音の順に、

 

 「オッテンハイムちゃん。」

 

 「モルデリンテ」

 

 「イザヴェル」

 

 全員が違う言葉をいうものだからが、奏は、首を傾げていた。

 

 その様子を見た陽子が説明をしてくれた。

 

 「彼女の名前は、オッテンハイム・イザヴェル・フォン・モルデリンテ。ドイツからの留学生よ。」

  

 長すぎて覚えきれなかった奏だが、名前であることは理解した。そして、改めてその女生徒を見て驚いた。 

 

 背がかなり低い。高校生には見えない。だが、スカーフの色は紺碧なので、2年生に間違いはなかった。

 

 目はオーシャンブルーのように透き通るような青。髪は綺麗な銀髪。幼い顔立ち。

 

 ひとことで言えば、可愛らしい女の子に見えた。

 

 その女生徒は、奏に軽く会釈したあと、

 

 「陽子。連絡。ない。来た。」

 

 片言の日本語で話す彼女。一瞬奏は日本語が通じるのだろうかと考えてしまったが、

 

 「イザヴェル、ごめん。ちょっと手違いがあって、長引いた。でも、行動はするから。」

 

 「うーーーー。イザヴェル。その呼ばれ方、嫌い。陽子。いつになったら考える?」

 

 とりあえず会話は成立しているようなので、日本語は通じると理解した奏だった。

 

 「いや、今、その話はいいから、準備は?」

 

 「ん?出来てる。遠隔で操作可能。呼び方、早く考えて。もう一年になる。」

 

 ふくれっ面で陽子に絡むイザヴェル。呆れた表情をしながら、紫音が、

 

 「陽子、なんの約束したの?呼び方ってなに?。」

 

 「いや、その、長いからさ、名前。だからもっと短くしたいなって思って提案したんだけど、ご納得いただけなくてさ。」

 

 困った表情をしながら、紫音を見つめるが、冷めた目で紫音は陽子を見て、

 

 「どうせ、変なの提案したんでしょう。具体的にはどんなのを。」

 

 「オッテンハイム。イザヴェル。モルデリンテ。イーちゃん。モルちゃん。リンちゃん。ヴェルちゃん・・・あと、フォンちゃん。」

 

 「ま、最初の三つと最後のフォンちゃんはどうかと思うけど、あなたにしては、真面目に考えたのね。センスないけど。」

 

 呆れた表情で陽子を見ながら、イザヴェルを見る。そして、

 

 「イザヴェルはどんな感じのがいいの?」

 

 やさしい表情でイザヴェルに問いかけると、

 

 イザヴェルは少し考えながら、

 

 「わたしの存在全てを表現したもの。で、短く。」

 

 困惑した表情でイザヴェルをみつめながら、澪が呟いた。

 

 「難易度、高いわねぇ・・・・。」

 

 奏は、もう一度彼女の名前を思い出しながら呟いた。

 

 「オッテン・・イザ・・・モルデ・・・。オ・・・イ・・モ?」

 

 「いやいや、それはいくらなんでも、奏ちゃん。いもはないでしょ。」

 

 と明花葉が笑いながらイザヴェルを見た時、イザヴェルは目を潤ませながら奏を見つめると、

 

 「あなた、私の名付け親。私のすべてが入ってる。紫音、陽子、レギオンでも、それで呼んで。」

 

 そういうと、その場から離れていった。

 

 「ドイツ人の感性ってどうなってんのかしら。」

 

 「明花葉ちゃん。今、世界中のドイツ人を敵にまわしたわよ。」

 

 澪は去っていくイザヴェルを見ながら、明花葉に忠告し、紫音はなんとも言えない表情で、

 

 「あのこの感性の問題よね。」

 

 その場にいた全員が、去っていく彼女の背中を見ながらうなずいていたが、突然、イザヴェルは振り向くと、

 

 「陽子、やるなら時間ない。あと15分。授業。終わる。急げ。あなたの覚悟。見た。」

 

 そう陽子に告げると角を曲がって姿を消した。

 

 「いや、イザヴェル、覚悟って何?。私、覚悟決めなきゃいけないこと、あなたに頼んだ覚えないけど。」

 

 と言いながら、後を追いかけようとしても、澪に腕を握られていて動けなかった。

 

 「陽子ちゃん、やるならやりましょ。みおもあの方々には、御退場していただいた方がいいと思ってましたら、良い機会ですわ。」

 

 やるき満々の表情で陽子を見つめている澪がいた。

 

 明花葉も紫音も同様に陽子を見ながら頷いていた。

 

 その時、突然澪が、

 

 「あ、立ち眩みが・・・・・。」

 

 そう言いながら、バランスを崩して、陽子の背中をあえて押した。

 

 その拍子でバランスを崩した陽子が、文句を言おうと澪を見た時、鋭い眼光で、素早く一度だけ、首をあるものに向けて振った。

 

 その首の先には、廊下には所々にある、赤く光るランプがついてて、通常時には絶対に押してはいけないボタンがある設備。

 

 そして澪の眼光には、

 

 『やれ!』

 

 という意味も含まれていた。その意図を察した陽子は、

 

 「あっ、澪、バカ、何すんの」

 

 と言いながら、素早く奏の肩にかけていたCHARMが入っているケースのファスナーを開けて、CHARMの先端をケースから少し出すと、火災報知器のボタン部分を先端で突き破っていた。

 

 



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入学式編 5

 校内に非常ベルの音が鳴り響く少し前。

 

 学院長室に戻っていた学院長。

 

 背もたれのある見た目、高級そうな椅子に踏ん反りかえり、両手を頭の後ろで組んで目を閉じていた。

 

 その時、扉をノックする音がすると、一人の女性が入ってきた。

 

 「学院長、CHARMの配布は無事に終わりました。」

 

 彼女の名前は、高宮城 茜(たかみやぎ あかね)。月華学院学院長の秘書兼教導官として、リリィの指導にもあたっている。

 

 「無事に終わった・・・か。」

 

 姿勢はそのままで、目を開けた学院長は、茜の姿を見て確認するように言った。 

 

 「ええ、何事もなく。」

 

 茜は、ゆっくりと歩きながら学院長の前まで来ると机の上の資料に目を向けた。

 

 その資料には、奏の顔写真と中学時代の成績などが記されているのだが、特記事項として、ー指輪を使用せずにCHARMを使用した可能性ありー と書かれていた。

 

 通常CHARMを使用するにはルーン文字が刻まれた指輪に自分の血を染み込ませ、自分のマギを指輪を通してCHARMに流すことで契約が完了し利用可能となる。契約しなくともCHARMを振り回せば、それなりの攻撃力は武器としては使えはするが、本来のCHARMの使い方ではないことは事実である。

 

 CHARMといっても、様々な種類があり、斬撃モードや射撃モード、狙撃モード、高出力砲、また、防御力特化型等がある。

 

 第一世代のCHARMは基本、単機能で、斬撃であれば、斬撃しか使えないが、第二世代~第三世代のCHARMは、斬撃と射撃のモードを切り替えることによって、戦況に応じてCHARMの形態を変えることが可能。また、リリィ自身が持つレアスキルと呼ばれるスキルを効率よく使うためのCHARMも開発された。

 

 ただし、第二世代は量産型が多いが、第三世代はリリィ固有のレアスキルに依存することが多いため、量産型というより、リリィに合わせて作られるケースやレアスキルに合わせて作られるものが多い。

 

 現在第四世代の開発が進められており、大きな特徴として精神連結による遠隔操作が可能になっている。ただ精神に異常を来すこともあり、まだ実証試験中であり、実用化の目途は立っていない。また、第三世代同様、量産型となる可能性は低い。

 

 開発メーカーも複数あり、国内は天津重工、海外はグランギニョル社、ユグドラシル社等12社。ヒュージ研究機関のG.E.H.E.N.A.。そして、学生でありながら、CHARM開発も手掛ける、百合ヶ丘女学院工廠科の真島百由(ましま もゆ)。柳都女学館の天津 麻嶺(あまつ まれい)も開発者として名を連ねている。

 

 天津 麻嶺は天津重工・総帥の令嬢である。百合ヶ丘女学院に所属している楓・J・ヌーベル(かえで ジョアン ヌーベル)もフランスに拠点を置くグランギニョル社の総帥の令嬢である。

 

 資料を隠す様子も見せず学院長は、

 

 「東奏に会ってみた感じはどうだったか?」

 

 あくまでも特記事項を気にする様子でもなく、その飲み物美味しかったか?みたいな軽い感じで尋ねた。

 

 新入生にCHARMを渡す役目を茜に依頼したのは、東奏の様子を見るというのが一番の目的であった。

 

 「ごく普通の女の子でしたよ。どこにでもいるような。特に資料に記載されているような兆候はありませんでした。それにさりげなく彼女を見ていたでしょう。」

 

 大郷に会うついでに奏の様子をそっと見ていたことを茜は気づいていた。 

 

 茜のその言葉に小さく頷くと、

 

 「ごく普通の女の子か。それが当り前じゃなきゃいかんのだがな。」

 

 「ええ、この学院の子達、みんなそうであってもらいたいものです。」

 

 その茜の言葉を神妙な面持ちで聞くと、ゆっくりと体を起こし奏の資料を閉じ机の引き出しの中に閉まった。

 

 そして、机の上にあるデジタル式の置時計を見た。

 

 「そろそろあの子達が事を起こす時間になるかな。」

 

 「おそらく、そろそろだとは思いますが・・・・・。」

 

 茜は一呼吸おいて、

 

 「この一年、我慢させていた分、相当暴れると思いますけど本当にいいんですよね。」

 

 その言葉に学院長は頭を掻きながら、

 

 「政治的な思惑もあって、リリィ科の生徒達には辛い思いさせていたのは事実だからな。少々は構わんだろう。」

 

 苦笑いしながら茜は、

 

 『いや、少々じゃすまないでしょうけど』

 

 とは言わず、

 

 「学院長にそのご覚悟あれば、私からは何も言いませんけど・・・」

 

 目元だけ意地悪そうな顔で学院長を見つめると、

 

 「お、おい、俺は覚悟しなきゃいけないほど、あれは暴れると言うのか?」

 

 「だから、大郷の資料を見た後に一度確認しましたよね。本当にこのまま彼女に渡していいのかと。」

 

 今更、何を言うんだ。という冷めた目で学院長を見つめた。

 

 ふぅ。と小さくため息をついた学院長ではあるが、わずかだが微笑んでいるようにも茜には見えた。

 

 「ところで。」

 

 改まって茜が学院長に尋ねた。

 

 「名古屋府知事や名古屋府方面軍に喧嘩を吹っ掛ける手筈はどうなってます?。そこを対応していただかないと、彼女達も報われませんよ。」

 

 強い口調で言う茜に対して、学院長は軽く握った右手を左で包むように叩くと、

 

 「あ、それな。そっちは大丈夫。今日に合わせて軍、政府、警察が全て動く。というか、もう動いてんじゃないかな。」

  

 その言葉に、

 

 『動く、動いてるってどっちよ。先に動いててもらわないと困るでしょうが。』

 

 というツッコミは心の中にしまい、

 

 「彼女達はどうでしたか?。」

 

 別の言葉を発していた。

 

 「ああ。さすがに君の教え子だ。予想以上の成果だった。流石といったところだ。エンジェルスピアは。」

 

 エンジェルスピア。月華学院のレギオンで、三年生が4名、二年生1名。

 

 主として、対ヒュージ戦ではなく諜報活動が主な任務。教育・訓練は茜が実質担当。現在は学院長直下のレギオンである。

 

 「ええ、隠密行動に関しては、徹底的に鍛え上げましたからね。その分、戦闘力の強化はできませんでしたけど・・・。」

 

 「それを補填するために、下口明花葉を入れたはずだが・・・。別行動させてる理由は何だね。」

 

 「確かに彼女のレアスキル、ユーバーザインは、諜報活動にはもってこいなんですが、彼女自身の戦闘能力が高いので、それを活かすには、学院で別行動させた方がいいと判断してます。」

 

 さらに茜は付け加えるように、

 

 「いずれ彼女には、別のレギオンを立ち上げさせる予定です。それに、案外、あの子とは、仲いいんですよ。」

 

 一瞬だが、学院長は眉間に皺を寄せたが、表情を元に戻すと、机から茶色の封筒を取り出し茜に渡した。

 

 茜はそれを受け取ると、

 

 『教えた通りに手書きの紙資料。ページを少しづらして割り印もしてる。まずは及第点。あとは内容ね。』

 

 どうやらそれは、エンジェルスピアが調べた資料のようだった。

 

 データで資料を作成すると必ずどこかに痕跡が残る。物理的に完全破壊すれば問題ないが、出来なかった場合そこから情報が漏れないとは言い切れない。

 

 手書きの紙の場合、直接依頼した学院長に手渡せば、それ以外に情報は残らない。コピーやスキャン・カメラで撮影される可能性は考えていない。その場合の前提は、盗まれる、盗み見られる可能性があるということだが、そんなヘマをするようなメンバーを茜が選出するはずはなかった。

 

 割り印については、相手に渡したあとにページ数と並び順を間違えて読まれないようにという配慮である。

 

 茜は資料を見て目をまるめて、

 

 「しかしまぁ、こんなにため込んで。まぁ。」

 

 と驚きの声を上げたと同時に呆れた表情にかわり、

 

 「政府からの名古屋府への対ヒュージ対策費まで過少に報告して横領ですか。」

 

 「まぁ。それについては政府側にも問題があったというか、抜け道を作っていたといった方がいいだろうな。」

 

 学院長はそう言いながら、頭を掻いていた。

 

 政府の対ヒュージ対策費は、全額こそ公開されていたが、各府に配布される金額は非公開となっている。

 

 当初は公開されていたが、ヒュージの出現頻度、人口密度等から各府での配分に差があるのは仕方がないが、その比率において、関東と関西で問題となったことから、各府への配分金額は非公開となった。

 

 非公開となったからといって不満が消えたわけではないが、京都南部に強力なヒュージが出現したことで、関西府の増額が決定し一時的に不満は解消されていた。

 

 ヒュージの脅威を考えれば、悪用はされないだろうという甘い考えが政府にあり、それを利用したのが今回の事件となっていた。

 

 「これって学院への支援金も含まれてますよね。」

 

 資料を指さしながら、呆れた表情で話す茜に、

 

 「学院への支援金は、名古屋府に渡される対ヒュージ対策費の30%と決っていたはずなんだがな。」

 

 「実際に支給された金額と比較すると15%前後しか支給されていないことになりますね。」

 

 「まぁ。よくもやってくれたなって感じだが、政府からの対ヒュージ対策費の約20%と、さらに学院への支給金額の15%を横領。その上」

 

 学院長は次のページをめくるように目で指示を出すと、

 

 「討伐したヒュージの数も、学院側が提出した数値にかなり水増しして政府に出してますよね。月平均で4桁近い差異って。」

 

 呆れてものも言えないという表情で言う茜に対して、

 

 「ああ、ま、そっちは国防軍にも討伐数は報告してたから差異があることは知ってたが、総司令は時が来るまで待てとしか言わなえし。何かあるとは思ったんだが。」

 

 「まさか、総司令も?」

 

 茜がポツリと呟く。

 

 「おいおい、茜、お前と俺の元上官だぞ。人となりは十分知ってるだろうが。それはねえよ。現にエンジェルスピアの調査資料も白と明確に記載してる。」

 

 「いえ、そういう人柄ではないことは十分承知してますが、なにかと発言には問題があるお方でしたので。」

 

 その茜の言葉に、苦笑いしながら学院長は、

 

 「まぁな。だが、それも一般向けではなく、国防軍内部への発言だったしなぁ。」

 

 その発言内容とは。

 

 「一般人が守れないようなら、軍なんかやめちまえ。」とか、

 

 「リリィのお嬢ちゃんだってやってんだ。ギガント級の一体ぐらい倒して来い。」

 

 そして極めつけが、

 

 「ヒュージの進軍がとまれねぇ?だったら、橋に護衛艦ぶつけて少しでも進軍速度落とせ!」

 

 等である。

 

 茜も思い出しながら、

 

 「護衛艦霜月でしたよね。川を逆上して橋をいくつか真っ二つにして座礁したの。しかもその時、総司令自ら霜月に乗艦してましたよね。」

 

 学院長は笑いながら、

 

 「で、ぶつけた後、艦長の伊達さんに向かって、お前。何、ぶつけてんだ。砲使えよ。砲。何のためについてんだよ。あ~あ。霜月をこんなにしちまいやがってこの馬鹿がって、この話聞いた時は、爆笑したよ。俺は。」

 

 笑いながら言う学院長を見た茜は怒った口調で、

 

 「笑い事じゃないでしょ。その伊達艦長、空軍に移動。事実上の左遷でしょ。」

 

 その茜の言葉に、ん?という表情で、

 

 「事実上の栄転だぞ。伊達さん。今は、護衛空母信濃の艦長で、第7護衛団の師団長になってるぞ。空母ということで、空軍の状況も知らないとまずいから、一旦空軍に移動しただけだが、あれ?言ってなかったっけ?」

 

 「聞いてません。」

 

 あれ?という顔で頭を掻いている学院長に

 

 「報連相はきちんとしてください。」

 

 と強く言う茜であった。

 




お読みいただきありがとうございます。

入学式編 第5話です。

ちょっと時間がかかってしまったのは、DISCODEに載せていた第5話を大幅に変更して、色々と追加したので、時間がかかってしまいました。

しかも、DISCODEの第5話が、こちらでは、6話まで続くこととなります。

誤字脱字、文章の流れがおかしい部分はあると思ってますが、まずは掲載したいと思いましたので、アップしました。

アップ後に訂正しますので入学式編6 は、また少しお時間を頂くこととなります。

誤字脱字の訂正で最新表示の日時はズレると思いますが、大幅な流れは変えない予定です。

変ってしまった場合は、6を上げる前にお伝えしたいと思います。

これからも、よろしくお願いいたします。  鵺夜深。


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入学式編 6

 余談は置いといてといった表情をした学院長は、

 

 「その資料にもある通り、着服した金額は反リリィ派組織に渡ってる。」

 

 茜も資料を見ながら、

 

 「まぁ、そうでしょうね。名古屋府知事はその代表格の一人でもあったわけですし。」

 

 その茜の言葉に学院長は、フッと笑みをこぼした。

 

 「何か私おかしなこと言いました?」

 

 不思議そうな顔で言う茜に、

 

 「いや、なに、今、過去形で言ったからな。ちょっとおかしくてね。」

 

 「あっ。つい本音が。」

 

 「恐らくあと1時間でその地位から失脚することになるだろうが、今は一応府知事だからね。」

 

 と学院長は軽く念を押して、

 

 「リリィ不要論。バカバカしい話だ。リリィが世界の敵になる。あほか。政治家の敵、もしくは国家の敵の間違いだろうと俺は思ってる。」

 

 「ヒュージがいなくなったら、リリィを利用して戦争を仕掛けてくる国があるって話ですよね。」

 

 呆れた表情で茜が学院長を見る。

 

 「ああ、そんな企てをする国家や政治家だけが彼女達の敵になるだけで、何もしなければ普通の女の子だよ。人類が生き残るために彼女達は戦っているのに、人類同士で殺し合うために戦うわけなかろう。それを企んだ時点でその国家は滅ぶさ。リリィ達の手によって。」

 

 そう言い、学院長は、再び、椅子の背もたれに体重をかけて、両手を頭の後ろで組み、

 

 「これは、俺の予測、想像、そして願望でもあるんだがね。」

 

 と一言前置きを言い、

 

 「そもそも、ヒュージがいなくなるということは、マギそのものがなくなるということであって、マギがなくなれば、リリィとしての力もなくなり、普通の女の子に戻れると俺は思っている。」

 

 その学院長の一言は茜の想定にはなかった一言で、驚きの表情と安堵の表情が入り混じっていた。

 

 「もし、それが事実なら彼女達も本当の意味で普通の生活が送れますが、来ますか?そんな時代。」

 

 そして茜は願いを込めて学院長に尋ねるが、

 

 「来て欲しいもんだ。」

 

 目を閉じながら、小さく呟く学院長に、少しでも希望を持った茜はその言葉に少しだけ後悔した。

 

 

 学院長は再び目を開けて、引きだしの中からさらに資料を取り出した。

 

 「実はここからが問題なんだが。その金の流れについて調べたものもあってだな。」

 

 学院長は、茜に向かって別の資料を投げた。

 

 「さらにその金額の大半が複数の企業に流れていたことが分かった。」

 

 投げないで、きちんと手渡してくださいというような顔をしながら、しっかりと受け取った資料を見た茜の表情が変わった。

 

 「これ、ゲヘナの関連企業じゃないですか。しかも複数社に金額を分けて。」

 

 驚きというか、怒りも混じったような声で、今にも学院長に飛びつきそうな勢いでいう茜に、平然とした態度で

 

 「ああ、それについては公にはなっていないから、府のアホたれが知らなくても仕方ないんだが。」

 

 その学院長の態度を見て、

 

 「あなたは、それをご存じだったんですか?」

 

 「総司令からの資料でな。」

 

 茜は再度資料を見て、

 

 「良く調べられましたね。」

 

 学院長は両手で顔を覆い両方の人差し指で鼻の上あたりを擦りながら、

 

 「俺もここまで予測してなかったからなぁ。良く調べたよ。あのオッサン。でも危ない橋渡ってなきゃいいんだけどねぇ。」

 

 茜も小さく頷く。そして一言。

 

 「さすがに彼女達もここまでは突き止められないわ。」

 

 呟いた。その言葉に、

 

 「おいおい。エンジェルスピアの面々を叱るなよ。彼女達は自分達の仕事を完遂した。事実は予想のはるか上だっただけだ。」

 

 「私もそこまで鬼じゃありません。逆にここまで手を出していれば、叱責してます。調べる前に報告しなさいと。」

 

 その茜の言葉に頷きながら、

 

 「まもなく政府、軍、警察も動く。名古屋府知事や側近、関係者も終わるだろうよ。」

 

 「これで、この学院の反リリィ派連中もおとなしくならざるおえないでしょうね。」

 

 「ああ、で、後任の人事の候補を上げておいてくれ、退役した軍人でも構わん。指導者向きのもの・・・」 

 

 ジリリリリリリリリリリリリリリリ

 

 話の途中でけたたましい音が校内に鳴り響き、そのあとに、人工的な音声で、

 

 「学院長室が爆発。火災も発生している模様です。全生徒は校庭にすみやかに避難してください。繰り返します、学院長室が爆発、火災も発生している模様。全生徒は校庭に避難してください。」

 

 茜はクスクスと笑いながらい、

 

 「あら、ここが爆発ですって・・・・。あの子は、相当あなたに対して、嫌悪感を持っているようですわね。きちんと話してます?」

 

 「いや、爆発って。あれは、俺を抹殺しようとでも思ってるのか。」

 

 「ふふふっ。それはどうでしょうね。そこは、あなたの出方次第でしょうね。」

 

 「この学院に入学させてから、あの子が俺に対して、一線を引いてしまっていて、全く会話にならん。そこは、女性同士どうにかしてくれんか。」

 

 困り顔でいう学院長に、茜は一言、

 

 「あなたの判断は正しいと思ってますよ。でもあの子に何も説明もせず、同意も取らずに勝手に入学させたのはあなたの落ち度です。」

 

 「いや、しかし、あのままでは、あの子は・・。」

 

 「だから、結果は正しかったと、その手段が間違っていただけです。あの子を私たちで引き取った時から、あなたの判断は間違っていません。きちんと話せばわかってくれるとおもいますよ。」

 

 そう言い切る茜だが、心のなかでは、語尾に ー多分ー とつけていた。 

 

 「いや、だからな。その思春期の女の子の扱いは・・・。」

 

 困惑している学院長をよそ目に、

 

 「はいはい、そろそろ動かないと、本当に爆発しますよ。陽子ちゃん。最後はあなたが出ていかないと。」

 

 「はぁ・・・・・」

 

 大きくため息をついた学院長は、ようやく椅子から立つと、茜と一緒に学院長室を出た。

 




いつもお読みくださりありがとうございます。

う~ん。今思えば、5と6分ける必要あったのかなって思うぐらい6の分量が少なかった気がする。

5が長すぎた気もするけど、切るところがなかったというのも事実で。
6はあまり読みごたえがないかもしれませんが、ご容赦ください。

入学式編の目途もついてきました。恐らく8か9ぐらいで次に行く予定です。

7についても、以前書いていたものに手を加えなければいけない状況なので、来週?再来週?ぐらいになりそうです。(早ければ、今週末ぐらいは無理だろうな。きっと)

申し訳ありませんが、筆が遅いので、お待ち頂けると幸せです。

入学式編と次の編の間に、簡単はキャラクターの紹介と各キャラの絵(颯空さん作画)を入れる予定です。

では、アサルトリリィ ~月華の乙女たち~ をよろしくお願いたします。

                          鵺夜深


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入学式編 7

 校庭には、避難してきた生徒達が、各クラスごとに並んでいた。

 

 常日頃から、避難訓練を実施しているため大きな混乱こそなかったが、事前通達なしで学院長室が爆発ともなれば、ヒュージが襲ってきたのではないかという噂も出るなど生徒達に緊張も走ったが、ヒュージ襲撃時はサイレンが鳴り響くはずが、今回は非常ベルだけだったことなどから、整列する生徒達に大きな動揺は見られなかった。

 

 各クラスの委員長は決められた手順通り、クラス全員がいるかどうかを確認すると生徒会へ報告する段取りとなっていた。

 

 「3年A組、全員います。」

 

 「3年E組、同じく全員。」

 

 「2年B組、全員揃っています。」

 

 生徒会は生徒会長1名に副会長2名、会計2名、書記1名、庶務3名からとなっており、生徒会長と副会長の2名は、毎年6月に行われる生徒会長選挙にて選出。残りは、生徒会長と教師で相談の上指名される。

 

 避難の際は、生徒会長と副会長の3名だけで対応する規定となっており、他の各クラスと行動を共にしていた。

 

 各クラスの生徒が並んでいるほぼ中央辺りにその3名が立っており、3人いる真ん中の生徒会長に各クラスの委員長が報告、そのやや後ろにいる二人の生徒会副会長の内一人は、その報告を受けるたびに手帳に記述していた。

 

 「あと、報告に来てないクラスはどこ。」

 

 そう言いながら、メモを取っている副会長を手招きし、副会長の持っている手帳を見て、

 

 「2年A組、C組、D組。報告はまだなのかしら。」

 

 不機嫌そうに声を荒げて叫ぶと、呼ばれたクラスの委員長は生徒会長に駆け寄った。

 

 「2年A組 2名所在不明。下口明花葉と田中陽子。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、生徒会長はあからさまに嫌な顔をA組の委員長に向けた。

 

 「2年C組 3名所在不明。大目黒澪、那智紫音、大郷聡子。」

 

 「2年D組 1名。イザヴェル。所在不明です。」

 

 「はぁ?3年生は全員揃ってるのになにやってんの2年生は。たるんでるんじゃないの?」

 

 生徒会長の後ろで2名の副会長も相槌を打っている。

 

 「も、もしかしたらですが、学院長室の様子を見に行ったのかもしれません。一応、二人はリリィですから。」

 

 恐縮しながら言う2年A組の委員長をひと睨みすると、

 

 「リリィ・・・。まったく、疫病神でしかないわね。噂ではヒュージを呼び寄せるとも聞いてるし、この学院にリリィなんて必要ないのにね。」

 

 と後ろの副会長に同意を求め、副会長も生徒会長の言葉にうなずく。

 

 「まぁいいわ。見つけ次第、私の前に連れてきなさい。言うこと聞かなければ、生死は問わないから。」

 

 ニヤリと不気味な笑顔を向け、全ての生徒に聞こえる声で、

 

 「いい、ここでは一般科の生徒が上なの。リリィは、おとなしく私たちの言うことを聞いとけばいいの。逆らう奴はこの学院から去ればいいだけの」

 

 突然男性の声が生徒会長の声に重なり、

 

 「探す必要はない。今いないものは、学院長室を爆破した疑いありと見た。各教員は見つけ次第確保。また、警察へも至急連絡。」

 

 細見の50過ぎの男性が生徒会長に近づきながら言う。

 

 「教頭先生。」

 

 生徒会長は、その男性をそう呼ぶと一礼していた。

 

 教頭は生徒会長に小さく頷きならがら、手に持っていたマイクで、

 

 「全校生徒の皆さん、現在、当学院において、殺人未遂犯が侵入しております。安全が確保できるまでは、一旦この場で待機していてください。」

 

 一瞬生徒達の間にざわめきが起こるも、

 

 「なお、リリィ科の生徒については、明日以降の登校は禁止、追って学院から通知が届くまで自宅、寮で謹し」

 

 「誰が殺人犯だって。この害虫め。害虫はやっぱり煙がお嫌なのね。揃ってお出ましとは。」

 

 教頭の声を打ち消し、校庭に響く女生徒の声。学校内のスピーカーからその声は聞こえていた。

 

 あたりを見回す、教頭や職員、生徒達。

 

 校舎の正面玄関から、陽子を先頭に、澪と明花葉が後ろに続き、その後ろに紫音と奏がいた。

 

 陽子は、ゆっくりと校庭に向かいながら、

 

 「いままで好き勝手にやりたい放題。それも今日で終わり。覚悟しなさい。生徒会共。」

 

 紫音が不思議そうな顔で、前を歩く陽子に、

 

 「殺人犯じゃなくて未遂犯。それに、あんた、マイクなんてどっからだしたの。まさか、また、制服?」

 

 その質問に対して、ふりむきもせず、ただ、マイクを手で覆い、声を拾わないようにしてから、

 

 「さっき、イザヴェルがくれたのよ。」

  

 額を手で押さえて、小さくため息を吐く紫音だった。

  

 校庭では、陽子達に気がついた、教頭が何かを叫んで、それに呼応するかのように、数名の教職員が陽子達に駆け寄ってきたが、陽子は素早く、

 

 「奏ちゃん、CHARM貸してね。」

 

 奏の傍に近寄り、慣れた手つきでケースからCHARMを取り出しと、

 

 「近寄るんじゃないわよ、教頭の犬共、マギは入ってなくても、串刺しには出来るわよ。」

 

 その陽子の言葉に、紫音は頭を抱えながら、

 

 「これって、まずくない?」

 

 「ええ、大いにまずいわよ。ヒュージ討伐・訓練以外でのCHARMの利用違反、一般人に対してCHARMの使用違反、そして傷害未遂、殺人未遂にあたるわよ。」

 

 同じく頭を抱えながら話す明花葉。

 

 扇子を開いて口元を隠してはいるが、笑みを浮かべながら、

 

 「これよ、これ、こういう展開を澪は待ってたの。」

 

 さりげなく不謹慎なことを口ずさむ澪。そして、なんとなく巻き込まれてしまった奏は特にどうしたらいいのか迷いながらも、後ろからついていくことしか出来なかった。

 

 そんな陽子に対して、教頭は、

 

 「田中、とうとう本性」

 

 「やかましいわ。この二次元バーコード頭、あんたにも聞きたいこと山ほどあるけど、後からよ。」

 

 「「「二次元バーコード?」」」 

 

 紫音、明花葉、奏が不思議そうな顔をしたのに対して、澪は、スカートのポケットから学院支給の端末を取り出すと、

 

 「昔あったのよ、こういうのが。」

 

 端末からあるサイトを開いて、紫音、明花葉、奏に見せて、

 

 「専用の機械で読み取ると、商品の値段とかが見れる仕組みになっていたそうよ。」

 

 そのバーコードの絵を見て、理解した紫音と明花葉だった。

 

 教頭もその意味を知っていたらしく、顔を真っ赤にしながら、

 

 「お、お前、年長者に向かって失礼にもほどがあるぞ。」

 

 怒鳴っているが、CHARMを向けられているため近寄れない。

 

 陽子は、生徒会長の前、数メートルまで近づくと、手に持っていた封筒から、何枚かの紙を投げつけ、

 

 「リリィ科の生徒からの学院への要望書、全て、生徒会判断、そして、バーコード判断でやってたわよね。」

 

 生徒会長は鼻で笑いながら、

 

 「当たり前でしょ。生徒からの要望は、生徒会、もしくは教頭判断って決って」

 

 だが、陽子は言い切らせないうちに、

 

 「それは普通科の要望の判断でしょうが。リリィ科の要望に関しては、学院長判断と決っていたわよね。」

 

 生徒会長は、投げつけられて地面に落ちている要望書を拾いながら、

 

 「くだらない要望なんだから、生徒会・教頭判断で十分よ。」

 

 そして、

 

 「シュッツエンゲル契約の採用。また、同学年でも実力差がある場合は、契約を認めて欲しい?。バッカじゃないの?」

 

 それを聞いた紫音は、一瞬だけ嫌な顔をした。それを見た明花葉は、紫音に、

 

 「紫音、知ってたの?あれ?」

 

 首を横に振る紫音。澪は嬉しそうな顔で眼を輝かせている。

 

 生徒会長は、要望書を上に掲げて、ひらひらさせながら、

 

 「不純同性交友みたいなこと、認められるわけないじゃないの。リリィ科ってバカしかいないのかしらね。」

 

 と他の生徒を見回しながら、次の要望書に目を向け、

 

 「学院長の即時解任?。一生徒にそんな権」

 

 言いかけた時、教頭は生徒会長に近寄り、要望書を奪い取ると、

 

 「いや、これは、認めてもよいのではないか。うん。今すぐ承認してやろう。」

 

 と胸のポケットからペンを取り出して、嬉しそうにサインを始めた。

 

 その様子を陽子達が出てきた校舎の陰から、飛び出そうとする学院長を茜が止めていた。

 

 「いや、お前、あれはダメだろう。あの要望書は・・・。」

 

 「大丈夫です。もう学院の教頭ではありませんから。解任手続きは終わってます。先ほど軍司令から連絡がありました。サインしても何の効力もありません。」

 

 「いや、しかしだな。教頭解任でなくて、俺の解任って、あの子はそんな要望まで出してたのか。そんなに俺が嫌なのか。」

 

 落ちこむ学院長だが、

 

 「陽子ちゃん言ってたでしょ。あなたがこの学院にいる限り、又は、あの子がこの学院にいる限りは、父親とは思わないって・・・。」

 

 「いや、まぁ。確かにそうなんだが・・・。」

 

 なんとも言えない表情をしている学院長に向かって、茜はため息をつき、 

 

 「では、教頭の解任時間を細工して、あの要望書を通しましょう。そうしましょう。そうすれば。」

  

 その茜の言葉に対して、一瞬だけ考えてしまった学院長だが、慌てて首を振り、

 

 「いやいやいやいや、それもダメだ。お前も意地悪なこと言うねぇ。」

 

 苦笑いしながら言う学院長に対して、少しだけ怖い表情で、

 

 「あなた、今、一瞬考えましたよね。ダメですよ公私混同は。」

 

 言い終わると、引きつった笑顔で笑いながら、学院長の足を強く踏みつけている茜だった。 

 

 校庭では、サインが終わった教頭が、大切に要望書をズボンのポケットにしまい、笑みを浮かべながら、

 

 「リリィ科の生徒も、たまにはいい要望を出すんだな。ま、今後も考えてやってもいいが、あっ、でも今後はないがな。」

 

 嫌らしい笑みを浮かべて話す教頭の豹変ぶりに困惑しながらも、生徒会長は次の要望書を読み上げた。

 

 「リリィ科の生徒の生徒会長選挙立候補の許可? 毎年出てるやつよね。これ。」

 

 嫌そうな顔をするしながら、生徒会長は言うと、さらに、

 

 「いつヒュージとやらにやられてしまうかもしれないリリィを生徒会の役員にしたら、それこそ生徒会が運営できないじゃないの。そんなことも判らないから、リリィってバカなのよね。あはははは。」

 

 高笑いしながら、他の生徒達を見ている生徒会長だが、その言葉で校庭にいる生徒の雰囲気が一気に変わった。特にリリィ科の生徒達は、鋭い視線で生徒会長を睨みつけていた。

 

 陽子も、

 

 「おい、こ」

 

 言いかけた時、後ろにいた明花葉が、陽子の肩に手を置いた。そして、陽子の横に並ぶと、

 

 「今の言葉は撤回してください。生徒会長。」

 

 高笑いをやめた生徒会長が、明花葉を見て、

 

 「あんた誰よ。」

 

 「私ですか。ま、一応、そこのバカと同じクラスの下口明花葉といいますけど。先ほどの言葉撤回していただけませんかね。」

 

 「私も同意見です。今、撤回していただければ穏便にすませます。」

 

 冷静な口調で、紫音も続いたが、

 

 「なに、あなたも、同じクラスなの?」

 

 「いえ、クラスは別ですが、彼女が所属しているレギオンの隊長なので。」

 

 その言葉に対して、苦虫をつぶしたような顔で、

 

 「レギオン・・・・。部活?いえ、生徒会では認めてない組織だから、所詮、ただの仲間の集まりでしょ。」

 

 ドスン!!

 

 重い重低音を立てて、生徒会長の足元、約1m前に何かが飛んできた。

 

 「あれ、澪、怒りのあまり、手元がくるっちゃったかな。」

    

 顔は笑顔だが、目が怒りに満ち溢れている澪が、扇子を投げていた。

 

 明花葉が思わず、

 

 「澪、あんた。今何投げた?」

 

 「えっとねぇ・・・特注の鉄扇。」

 

 その言葉に、紫音と陽子が驚きの表情で澪を見て、

 

 「あなた、そんなものどこに持ってたの?」

 

 「スカートの中にね。でも、ここじゃ見せらんないわよ。」

 

 その言葉に紫音は小さく、

 

 「陽子と一緒じゃないか。」

 

 と呟き、明花葉も澪を見ながら、

 

 「うちの制服、そんなに簡単に作り替えちゃっていいの?」

 

 「いや、別にスカートを作りかえたわけじゃないわよ。足に扇子を収めるベルト撒いてるだけよ。」

 

 どこか嬉しそうにいう澪。

 

 紫音は澪の話し方が変わってることに気付くと、

 

 「澪、話し方変ってるけど・・・。」

 

 「当り前じゃない。あんなゆったりとした話し方、キャラづくりよ。キャラ。本当の澪はこっち。」

 

 1年同じクラスにいた紫音は初めて見せる澪の本当の姿に驚いた顔をし、明花葉はどことなく冷ややかな目で澪を見たが、二人とも同じことを思っていた。

 

 『『ふーん。それでも、自分の事は、澪って呼ぶんだ』』

 

 「こらそこ、人の話聞きなさいよ。あんた、いったいなんなのよ。」

 

 「「「あっ。」」」

 

 ようやく生徒会長が何かを言っていたことに気付いた三人。

 

 「そこの隊長のクラスメイトだけど。それがどうしたのよ。」

 

 タメ口で言う澪に対して、

 

 「あんた、全く関係ないじゃない。部外者は引っ込んで・」

 

 ドン!!

 

 再び、鉄扇が、今度は、生徒会長の靴すれすれの場所に刺さっていた。

 

 「部外者じゃないわよ。澪もリリィだし。」

 

 そして、さらに鉄扇をスカートの中から取り出し、生徒会長に向けると、

 

 「さっさと、そこに土下座して、謝れよ。せ~んぱい。」

  

 怒りに満ちた表情で生徒会長を睨みつけていた。

 

 澪の凄みなのか、澪の態度に不満なのかわからないが、生徒会長は小刻みに震えながらも、

 

 「なんであんたたちに謝んなきゃいけないの。それより、そんな態度取っていいの?。私に逆らったら、パパに言えば、あんたたちなんて、即刻退学よ。」

 

 勝ち誇ったような顔で言う生徒会長に対して澪が、

 

 「ふん、下等生物の言うことなんてたいしたことないでしょ。それに善悪の教育もできない子供の親なんてたかがしれてるでしょ。」

 

 「か、、、下等生物。誰に口聞いてんの。私のぱ。」

 

 「黙れ、下等生物。人間の言葉話してんじゃないわよ。」

 

 ひと睨みしたうえで、

 

 「いま、澪の耳は、謝罪の言葉しか受け付けてないの。それ以外は雑音でしかないのよ。それとも、この鉄扇で、二度と言葉しゃべれなくしちゃおうかしら・・・。」

 

 不気味な笑みを浮かべる澪。

 

 「てめぇ、ふざけたこといいやがって。」

 

 澪の挑発に完全に切れたようで、言葉遣いも大きく変わり、いまにも澪に飛びかかろうとする生徒会長。

 

 そして、来るなら来いよ。と、鉄扇を投げようとする澪に、

 

 「澪、やめな。あんたが手を汚す必要なんてない。あんたの手はまだきれいなんだから。」

 

 今まで黙っていた陽子が、言葉で澪を抑止し生徒会長を睨む。

 

 やはりそこはリリィである。その凄みのある睨みは生徒会長の動きを止めた。

 

 視線は生徒会長を睨んだままで、優しい声で、

 

 「奏ちゃん、これ。返すね。」

 

 手に持っていたCHARMを差し出すと、奏は陽子に近づきCHARMを受け取った。

 

 それを確認してから陽子は、ゆっくりと生徒会長の方へと歩き始めた。

 

 陽子、紫音、明花葉、澪の4人からは異様な雰囲気が出ており、生徒達も教師達も身動きできない状態だった。

 

 陽子は生徒会長に近づきながら、声音だけは少し優しく、

  

 「まぁ、生徒会長の言う通り、私たちはいつ命落とすかわかりませんから。言い分もわかりはしますけどね。」

 

 そう話しながらさらに近づき、澪が投げた一本目の鉄扇をとるために一度しゃがむと、鉄扇を持ち上げた時、思わず、

 

 「おもっ。」

 

 一言呟き、振り向いて、

 

 「澪、これ、重さどんだけあんのよ。」

 

 驚きの表情で澪を見て、しゃがんだまま、鉄扇を回転させながら、澪に投げた。

 

 澪もその回転に合わせるかのように、何事もない表情で鉄扇を音もなく受け取ると、

 

 「ほんの1.5kg程よ。3本持ってるけど・・・」

 

 そう答えると、慣れた手つきで、スカートの中にしまった。

 

 「全部で4.5kgって、あんた足太くなんよ。」

 

 「やかましいわ、陽子には言われたくないわ。」

 

 澪の言葉を聞きながら、一瞬だけ笑みを浮かべた陽子が立ち上がり、再び歩きながら、

 

 「先輩。でもさぁ。人としてやっていいことと、悪いことぐらい区別つけましょうよ。」

 

 生徒会長の目の前まで来ると、一枚の写真らしき紙を生徒会長の目の前に突き付けた。

 

 「これ、あたしの顔の写真ですよね。ところどころ、破けたり禿げたりしてますけど。」

 

 さらに続けて、

 

 「これ。踏んでますよね。靴跡もついてますし・・・。会長が踏んだんですかね・・・。あっ、でも、靴跡とか違うのがあるので、踏ませてたんですかね。」

 

 嫌味たらたらに言う陽子に、

 

 「わ、わたしは・・・・・」

 

 陽子は手に持っていた写真を離すと、写真は生徒会長の足元に落ちた。

 

 「親にいわれませんでしたぁ?。人の頭や顔を踏んだりしてはいけませんって・・・。あっ、でも、会長の父親はあれですよね。平気で踏んでますよね。」

 

 その言葉に対し、生徒会長は怒りを込めて、

 

 「パパを侮辱する気、パパを怒らせるとあんたなんか。」 

 

 「わたしなんか、即退学でしょうね。名古屋府知事ですからねぇ。」

 

 その陽子の言葉に気を取り直したのか、

 

 「そうよ、謝るんだったら、停学程度で許してあげ」

 

 と言いかけたが、陽子の顔を見て続きの言葉が出てこなかった。

 

 「陽子!!レアスキルはダメよ!」

 

 紫音が叫ぶ。

 

 その言葉に、澪、明花葉も慌てて陽子に駆け寄ろうとするが、陽子は近づくなという風に手を挙げて、

 

 「大丈夫、ちょっと脅しただけよ。」

 

 陽子のレアスキルはルナティックトランサー。バーサク状態となり、戦闘力が強化されるが、意識がもうろうとなり、手加減どころか、場合によっては、敵味方の判断もできなくなることもある。

 

 万一、こんなところで発動すれば、他の生徒にも影響が及ぶと判断してとっさに叫んだ紫音だったが、

 

 「いや、大丈夫じゃないでしょ。一般人に対しての攻撃レアスキルの発動未遂にあたるわよ。」

 

 頭を抱えながら呟き、明花葉も、紫音の肩に手を置いて、

 

 「紫音も苦労が絶えないわね。あんなのと一緒だと。」

 

 紫音は明花葉の手を取ると、目をキラキラと輝かせながら、  

 

 「明花葉。わかってくれるよね。なら、後で、半分はお願いね。反省文と始末書。」

 

 明花葉は、一瞬だけ嫌な顔をして紫音から顔をそむけたが、それでも、

 

 「ま、しゃーないか・・・・・。」

 

 そう紫音に伝えながら、澪をみた。

 

 澪は、嬉しそうに笑みを浮かべて陽子を見つめており、明花葉は、そんな澪を見ながら、巻き込んじゃえと心に誓った。




時間がかかってしまい申し訳ございません。 鵺夜深です。

ちょっと、色々と精神的に参ってしまうこともあって、更新が遅くなりました。

入学式編7です。

本当はもっと長かったのですが、分割しました。

次回はもうちょっと早く更新したいなって思ってますが・・・・。

どうなることやら。

自分のペースで書いていくので、更新が遅いのは勘弁してください。

では、次回、入学式編 8もよろしくお願いいたします。

頑張って今月中旬を目指します。



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入学式編 8

 その時、生徒全員の端末が一斉に鳴った。

 

 生徒が持っている端末は、学院支給の端末で、これはリリィも一般科の生徒も所持を義務づけられている。

 

 学校からの連絡や授業時間の変更等で連絡、生徒同士のコミュニティとしても利用される。そしてヒュージ出現の際は、出現した場所や数と近隣のシェルターの場所等が表示される仕様となっている。

 

 一般科の生徒はそれを見ながら避難。リリィは、それを見て討伐や警護にあたる。

 

 紫音は、奏が端末を持っていないことに気付くと奏の傍に近寄った。

 

 陽子は心の中で、

 

 『このタイミングで、ヒュージ出現?、空気読めないやつよね。』

 

 と思いつつ、自分もスカートのポケットから端末を取り出した。

 

 しばらく、画面が暗いままなので、他の生徒達も訝しげな表情で端末をみていたが、端末に映像と音声が再生され始めた。

 

 「おい、あんたらさぁ・・・あいつ、一年の田中のファンなんだってぁ。」

 

 「い・・・いえ、ち、違います。」

 

 上からの映像ではあるが、女生徒が5人。場所は、どこかの女子トイレ。どうやら、天井からの隠し撮りのようである。

 

 それでも、映像の解像度は高いため、女生徒のうち3人は、生徒会長と副会長の2名であることは明らかだった。

 

 その3人で他の2人の生徒を囲んでいた。

 

 生徒会長は副会長の二人に任せて、後ろの壁にもたれて、眺めている。

 

 副会長のショートカットの方の生徒が、

 

 「あんたたち二人があいつの事を話してるって聞いた奴がいるんだよ。」 

 

 「い・・・いえ、そ、それは、その。」

 

 もう一人の肩までの長さの髪の副会長が、

 

 「その、なんです?。あなたたちが、嬉しそうに話をしてたというのは事実だよね。」

 

 二人の生徒を追い詰めていく。ようやく一人の生徒が、

 

 「実は、先日ヒュージに襲われそうになった時に助けてくれたのが、あの方がいたレギオンの方々。」

 

 「はぁ?お前、今なんて言った?。あの方?。」

 

 ショートカットの副会長が、睨みつけるようにその女生徒の顔を覗き込む。

 

 「あ、い、いえ、そ、その。」

 

 「あいつは、一年だぞ。わかってんのか、お前の後輩だぞ。それをあの方って。お前バカか?」

 

 陽子は、その映像を見ながら、

 

 『イザヴェルの仕業よね。これ。こういうこと出来るのはあの子ぐらい。やってくれたわね。この映像あること知ってて、だからあの時。』

 

 陽子の頭の中に、先ほど、イザヴェルと会った時の言葉が過ぎった。

 

 『覚悟見た。』

 

 陽子は頭の中で、彼女の言葉の意味を考えていた。

 

 『おそらく、覚悟決めろとか、覚悟見せろって、言いたかったんだろうけど・・・。』

 

 そして、端末に視線を移すと、映像の中の生徒会長がなにやら取り出して、トイレの床になにかを放り投げていた。

 

 「ま、いいや、ファンじゃないっていうんなら、それ、踏めるでしょ。さっさと踏んでね。」

 

 にこやかな笑顔で言う生徒会長に対して、女生徒達は、

 

 「いや、顔写真を踏むって、それは人として・・・。」

 

 肩までの長さの髪の毛の副会長が、

 

 「大丈夫なんじゃない?だって、あの子は人じゃないでしょ。人じゃないものは踏んだって問題ないでしょう。」

 

 優しい口調でそっと女生徒の肩を抱きながら、耳もとで囁く。

 

 その映像を見ていた明花葉が、

 

 「いや、陽子、いつから、なにかの宗教の教祖様になったの?」

 

 「そうねぇ・・・澪、思いついたわ。陽子狂信教の教祖。」

 

 「そんな、生半可なもんじゃないわよ。澪。悪魔以上の何か得体のしれない、恐怖心を煽る何かの教団の教祖ってとこよね。」

 

 最後は紫音だった。

 

 その紫音達の言葉に、生徒会長は、

 

 「あんた、お仲間にもそういう風に思われてたんだ。所詮、あんたは、化け物なんだよ。」

 

 勝ち誇った顔で言う生徒会長には、見向きもせず、陽子は映像を見続けていた。

 

 「で、でも、ここトイレだし。上履きだって・・。」

 

 「別にいいじゃん。なんなら、ピーとか、ピーを踏んだ上履きでそいつの顔踏んじゃってよ。ねぇ、ほら、早く。」

 

 笑いながら、言う副会長に対して、ためらう女生徒だが、

 

 「さっさとやれよ。会長もお待ちなんだからさ。いつまでも待たせんじゃねぇよ。」

 

 そういうなり、無理やり女生徒の体を押して、写真の上に足を置かせた。そして、さらにその女生徒の足の上に自分の足を置き、力強く踏みつけた。

 

 「い、痛い。やめて。」

 

 という女生徒に対して、さらに、足を踏みつけ、その様子を楽しそうに見つめている生徒会長が映っていた。

 

 そして、そこで映像は終わった。と同時に、陽子は、生徒会長へ向かって走った。

 

 生徒会長も一瞬身構えたが、その横を陽子は通り過ぎ、生徒達の方へ向かっていた。

 

 『お願い、あの先輩方、まだこの学校に残ってて・・・。辞めてないで。』

 

 そう呟きながら、生徒達を見ながら走り、他の生徒達とは少し離れたところで二人が一緒にいるのを見つけると、自分のスカートが汚れるのも気にせず、二人の前で土下座して、

 

 「ごめんなさい。申し訳ありませんでした。先輩方にあんな思いさせてしまって、本当にもうしわけありません。」

 

 地面に頭をつけて謝る陽子に対して、

 

 「ううん。貴方が、あの時、助けてくれなかったら、私たちはヒュージに殺されてた。あなたは命の恩人なの。」

 

 「ごめんね。私たちが、あの人達に逆らえないばかりに、逆にごめなさい。辛い思いさせてしまって・・・・。」

 

 そう言いながら、陽子の傍にしゃがみ込む。

 

 「いえ、私たちは、リリィです。ヒュージと戦うのが私たちの役割、皆さんを守るのも私たちの役割ですから。」

 

 陽子は、顔をあげ二人を見て、

 

 「私は守りたい。いえ、私たちに守らせてください。まだまだ、未熟で頼りないかもしれないけど・・・。」

 

 その陽子の言葉に、二人は顔を見合わせてから、陽子に、

 

 「お願い出来る、私たち、いえ、ここにいるみんなを守ってくれる?」

 

 陽子の手を取り、立ち上がらさると、他の生徒達に向かい、

 

 「この学院、いえ、全てのリリィはきっと私達を、皆んなを守ってくれる。彼女達はそのために命を懸けてる。」

 

 「確かにリリィは私たちとは違う、でもみんな背や体格、顔も思考も違う。誰一人だって同じ人はいない。それは個性であって、否定していいものじゃない。」

 

 「彼女の手を取って分かったの。温かい。私たちと同じ血が通ってる同じ人間なんだって。化け物なんかじゃない。私たちは戦えない。だけど、同じなんだって・・・。もう、見下すのはやめようよ。みんな・・・。」

 

 涙ながらに訴える二人の女生徒に、周りの雰囲気も変わってきていた。

  

 「先輩、ありがとうございます。これで少しはこの学院のリリィも学院生活を楽しめそうです。」

 

 陽子は、もう一度二人に頭を下げてから、ゆっくりと歩きながら、表情は険しく、

 

 「さてと、生徒会長さんよ。あんたは、人としてやっちゃなんねぇことをやったことぐらいは理解してんだろうな。」

 

 周りの雰囲気が変わったことで、生徒会長達も戸惑っていたところに、さらに陽子の気迫に委縮し、小さくなっていた。

 

 場の雰囲気は完全に陽子達の流れになっていたところに、その空気を読めない者、教頭(二次元バーコード頭)が、

 

 「田中、年上に対してその口の利き方、なっとらんなぁ・・・・。お前、退学だ。今、この場で退学」

 

 陽子の怒りというか、リリィ科生徒全員の怒りが頂点に達した瞬間、

 

 「そこの二次元バーコードは黙ってろ。」

 

 校内のスピーカーから別の女性の声が校庭に響き、さらに、

 

 「田中、そこを動くな。それ以上は手を出したら、私が許さん。」

 

 

 




毎度お読みいただきありがとうございます。 鵺夜深です。

入学式編第8話です。

予定より早くアップできて、ホッとしています。

継続してお読みいただいている方がいるので、そこは励みとなってます。

文章とか表現とか至らない部分が多いので申し訳なく思ってますが、

自分では限界です。本当、語彙力なくて・・・・・。

さて、入学式編はあと、2~3話で終わる予定です。

次の編に行く前に、簡単な人物紹介を入れる予定です。

頭の中では色々な話は作れてるのですが、いざ文章になると難しくて。

まだまだ、なが~いお話になると思ってます。

どうか、末永くお付き合い頂ければ、幸いです。

鵺夜深




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