ゼロから始まった神殺し異世界生活 (ノムリ)
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始めまして異世界
生と不死の境界。
欧州においては『アストラル界』とも呼ばれるこの世とあの世の狭間に少年は立っていた。
いや、正確には周囲は焼野原となり、地面の一部や溶解、空気は灼熱となった火と熱、溶岩の地獄絵図の中に居た。
「流石に死にかけたな」
戦闘中にかいた額の汗をお気に入りのパーカーの袖で拭い、黒髪の前髪をかき上げる。
少年は
故に一般の常識は当てはまらず、十二歳の時に神を殺して以来まともや普通という言葉とは縁遠い波乱万丈の生活を送ってきた。
現在は、高校生ではあるが絶賛、神殺しとしての役目として二時間ほどかけてやっと命からがらある神話の神を殺した終え、休むべく自室へ戻るためカイトは主に移動の効果を持つ権能によって『
「はぁっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げながらも体は危険を察知するなり思考するよりも先に動いた。
黒い腕は払いのけ空間へと飛ぼう、とするも腕は一本や二本どころか、自分の周り事包み込む様に覆っていく。
そのまま腕は顔、首、肩、腰、脚に至るまで掴まれ。此方が動くよりも先に後ろへと引っ張っていく。
反射的に権能を発動しようとした時、僅かにそのか細い声をカンピオーネの凄まじい身体機能は拾った。
―――私を殺して―――
涙声にして悲嘆に暮れて少女の声。
その声を理解する前にカイトの意識は暗転した。
@ @ @
「異世界召喚されるとか、勇者の称号持った護堂じゃないんだから俺の役目じゃないだろ」
意識がハッキリした頃には自分は見ず知らずの場所にただ呆けるように立っていた。
カンピオーネとなり、大半の二次元的な出来事は経験してきた。
神様に出会い、そして殺し、奪い取った権能に廚二病乙とネットで言われるような痛い呼称を付けられながらもそれを使って空を飛んだことや時にはタイムスリップして数百年前に行って他のカンピオーネと殺し合いもした。
それでも異世界には足を踏み入れて事はまだ無かった。
「俺もついに異世界デビューですか」
護堂やガスコインは偶に異世界に行ったりしているとは聞いているが自分がそれを体験するとは、と頭を抱えているとすぐ後ろを巨大なトカゲのような生物が引いた馬車的な乗り物が走って行った。
「これはあれだな、取り合えず現状整理と情報収集しないとヤバいな」
少なからずエンタメに触れてきたカイトは、最近ブームとなっている異世界転移、異世界転生ものの行動をなぞる事にした。
ポケットをまさぐれば出てきたのは愛用の迷彩柄のケースのスマホと財布、あとは家の鍵…以上。
役に立つものが…ない。
スマホ…充電が切れれば終わり。
財布…そもそも紙幣は異世界じゃただの紙、硬貨は良くてワンチャンの賭けて質屋。
家の鍵…そもそも鍵穴違うだろ。
「こういう時は、日本で言えば交番。少し古い言い方なら詰所を探すか、丁度良いところに暇そうな店主が」
左右の壁に沿って開かれている露店の一つ。
リンゴやレモンなど見た目は地球と同じものが並んでいる恐らくは八百屋だろう。
「おう兄ちゃんいらっしゃい!何をお求めで!」
「リンゴか、このお金って使える?」
財布から100円を取り出し、店主に手渡すと首を横に振った。
「リンゴ?こいつはリンガだろ。それとこいつは使えねぇな銀貨っつうかコインなのか知らねえが使えねぇよ」
「そっか、悪いね今は手持ちが無いんだというか荷物も無いけど」
「あん、どういうこった」
「よくある置き引きってやつさ、見事に着替えから何もかも入ったカバンごと盗まれてね。財布に入ってた所持金も交通費ですっからかんってわけ」
「なんとも災難なやつだな」
「でだ、店主。この辺りで兵士の詰所は無いか」
「詰所ならこの通りを真っ直ぐ言って二個目の十字路を右だ、それとルグニカ王国じゃ兵士じゃなくて騎士だぞ」
店主が指差す方向に顔を向けると確かに少し離れているが十字路が見える。
説明されて事を忘れないように頭の中で繰り返しながら兵士ではな騎士と訂正した店主の言葉を思い返す。
騎士か、時代は中世くらいなのか、と予想を立てながら、100円玉を受け取る。
「物も買えずで悪いね、お金が出来たら買いに来るからそれまで待っててよ」
「しかたねえな、今回限りのサービスだぜ」
説明されて道を歩いて行こうとすると、店主は頭をガリガリと掻きながら流石に荷物を盗まれて事を不憫に思ったのか真っ赤のリン…ガを掴み取るとカイトに向かって投げ渡した。
「おっと、こりゃありがたい。店主、名前は」
「カドモンだ」
「覚えた。次は袋に一杯のリンガを買いに来るから用意しておいてくれよ」
「期待せずに待ってるよ」
少し強面ながらいい笑顔で見送ってくれてカドモンと別れ、説明されて道を進んで行くと、簡易な鎧を着た騎士たちが数人で話している。
「すいません」
「ん、なんだ?」
「この辺りで質屋とかないかと」
「質屋?荷物なんも持って無いのにか」
「いや荷物が盗まれたから手持ちの物を売ってお金にしようかと」
両手を広げて何も持っていないアピールをすると、騎士は不憫そうな顔をしながら棚から細巻きにされて一枚の布を取り出した。
「地図で説明してやるから中に入れ」
「ありがたい」
机に広げられて大きな地図にはこのルグニカ王国の全体は記載されていた。
「此処が今いる詰所。目的の質屋は此処だ。こっちが貴族が住んでいる所だから何か問題が起こると平民だと危ないな。あと東側は貧民街がある、近づくほど宿なんかは安いが治安は悪くなるからあまり近づくなよ」
騎士は地図を指差しながら教えてくれた。
貴族に貧民街と新しい単語がいくつか出てくる。
「貧民街には盗品を売り買いしている場所があるから、質屋で売れなかったとしても買い取ってくる可能性はあるが、騎士としはあまりお勧めは出来ないな。こんな所だ」
どうだ、とこっちを見てくる騎士。
「ありがたいよ。場所を知らずに歩くと色々と危ないからな。あと気を付けた方が良い事ってあるか」
「いまは王選の為に色んな勢力が出来りしているから気をつける事だな」
「王選?」
「この国はいま王がいないんだ」
「居ないってどういう?だって王国って名前なら」
「王族は流行り病で全員が死亡。いまは外部から竜の巫女を選出する為に期間なんだ」
「そっか、それならあちこちがバタバタしているだろうから特に貴族関連は気をつけないとな」
「そうしてくれ、これ位で大丈夫か」
「ああ、ありがと。取り合えず貴族と貧民街には近づかないようにするよ」
「そうしてくれ、厄介事を起こされても困るからな」
軽く騎士に礼と挨拶をして詰所を出ると既に日は傾き夕暮れになっていた。
「急がないと日が暮れる、日本ならともかく見知らぬ土地で野宿は不味いな」
急ぎ足で教えてもらった質屋に向かおうと足を進めた瞬間、世界は灰色と黒色に褪せた。
「は?」
視界はどころか頭にすら黒い靄が掛かったかのように曖昧となり。
自分が立っているのか、座っているのか、はたまた浮いているのかすら分からなくなる。
意識がはっきりした頃に、目を開くとそこ数時間前の路上だった。
周りを軽く見渡すと、少し離れて所にはリンガをくれたカドモンの露店があり、日はいまだ正午近いのか天辺にある。
「時間が…巻き戻ったのか」
カイトは思わず、神かカンピオーネ並みの権能が発動したのかと考えずにはいられなかった。
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