大有双外伝 (生甘蕉)
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ガンダムビルドダイバーズ編 1話

大有双本編に入れるとちょっと混乱しそうになるかもなので外伝てことで


 問:これは誰?

 

 ボサボサの白髪。

 死んだ魚のような目。

 昔ちょっと活躍してその界隈では有名。

 テロリストの友人がいる。

 

 答:俺。

 

 正確には俺のアバター。

 

「いやいやいやいや」

 

 GBNのステータス画面を確認しながらダイバーと呼ばれる自キャラのルックスを否定する。

 おかしい。()のダイバーはこんなのじゃなかったはずだ。

 しかし何度見てもその姿は変わらなかった。

 

 ()の名はナナセ・コウイチ。『ガンダムビルドダイバーズ』の主要登場キャラクター。……で、合ってるよな?

 そう認識できているのは別人格が憑依というか融合してしまっているからで。

 

 別人格の方はぶっちゃけ人間ではない。探査器(プローブ)として様々な世界に派遣される者。オリジナルの能力によって創りだされたコピー、それが俺たち。

 俺のオリジナルは色々あって嫁さんたちとはぐれてしまったんだけど、異世界にいるはずな行方不明の嫁さんたちを探すのが俺の任務だ。

 オリジナルは探索のメンバーが帰還困難になりそうなことから、使い捨ててもあまり心が痛まない人物として自分をコピーした。元々、分身することができるオリジナルではあったが、彼のは分身すると能力が下がる天津飯タイプだったので、それではなく成現(リアライズ)と呼ばれる彼の特殊能力によって自分に似せて作ったフィギュアを“本物”にしてたくさんの俺たちを創ったのだ。

 

 俺たち探査器(プローブ)はオリジナルのコピーではあるが、彼と同じまでの能力を持つ者はいない。そんなことをすれば成現(リアライズ)に必要なEPやMPの数値が無茶苦茶に跳ね上がって成功しないからだ。

 あ、EPってのは感情値ね。エモいポイント。フィギュア等に魂をこめるのに必要。MPはまあわかるよね? マジックポイント。本当はGPって神の奇跡のポイント消費で創られるらしいけど、オリジナルはそれをケチってMPで代用してるため俺たちは制限時間を超えるとフィギュアに戻ってしまう。

 

 オリジナルと同じ成現(リアライズ)までも持ってる探査器(プローブ)はごく僅かだ。俺は持ってるけどね。自慢だよ。えっへん! 呪い以外はだいたい受け継いだコピーなんじゃないかな。レベルの低い劣化コピーではあるけど。

 探査器(プローブ)の数が多くて、オリジナルだけだとEP注入が追いつかないので再会できている嫁さんたちもそれを手伝ったんだけど、俺を担当した(かた)がちゃんとイメージしてくれたおかげさ。オリジナルは自己評価が変に低いから嫁さんたちもEPをこめた方が成現(リアライズ)した時に強いのよ。

 

 そして完成した俺。オリジナルに近い能力を持ってはいるんだけどスキルによる特殊能力を除けば基本的な能力値が低い。一般人以下で身体も満足に動かせないほど。じっとしてるだけなのに動悸、息切れ、目眩がしてHPが減少していく超虚弱体質だった。

 これはEP注入してくれたオリジナルの嫁さんのイメージのせいじゃなくて、成現(リアライズ)できるギリギリまで能力を削ったせい。こりゃ長く保たないかなと俺だけでなくオリジナルもそう判断し、さっさとオリジナルの行方不明の嫁さんたちを探すべく、異世界へとランダム転送させられた。こんな残念な姿を見たら担当した嫁さんが悲しむと思ったんだろうね。

 基本的な装備はちゃんと渡してくれたし「成長も早いはずだから」と慰めてくれたけど、後ろめたい自分へのイイワケだろうね。

 ま、EP俺に注入してくれた方のためにもなんとかして生き抜いて、少しでもお役目を果たしたいところだったのだけれど。

 

 俺は『ガンダムビルドダイバーズ』の世界に派遣されたっぽいんだけどなんかおかしい。

 まず、俺がナナセ・コウイチになっちゃってること。これは世界攪拌っていうオリジナルたちが追ってる案件で説明できる。異世界間の人間同士が融合してしまう異変があるのだ。

 そのおかげで俺がフィギュアに戻る制限時間はなくなったみたい。さらに超虚弱体質がちょっと身体が弱い程度にまでなった。これですぐに死なないで済みそうだ。

 ありがたいが、人間ではないからって割り切っての無茶がしにくくなった面もあるんだよね。「命なんて安いものだ。特に俺のは」ってやつだったのに。

 

 ガンダムビルドダイバーズは生き死になんてあまり意識することない世界観なんだけど、続編の方はそうじゃない。それこそ地球規模で危険になる世界だ。()だけだったら命がけしてもいいのだけど、さすがにこの状態ではちょっとできん。家族を泣かすのはちょっとなあ。

 

 んでさ、融合ナナセ・コウイチとなってしまった俺は現状把握としてGBNにログインしたワケだが、なぜかダイバーが『銀さん』風だったんで困惑してる。

 風っていうか、ほぼ99パーセント銀さんだよね、コレ!? 半袖黒服に着物っぽいのを羽織ってる。ダイバーコーイチがしてた眼鏡はしてないくせに木刀まで持ってる。だけどエルフ耳だけはしっかり残ってるとこが微妙に腹立つ。なに? エルフの銀さんですか?

 冒頭のは箇条書きマジックだからねぇ! 性格とか全然ちげーし!

 

「ふう」

 

 主要人物たちに見つかる前にログアウトしてため息。あとで魔術師風のダイバーに戻しておかなくては。

 なんで銀さんなんだか。そりゃオリジナルは中の人が同じブリットを偽名にしてたことあったけどさあ。

 それともなにか意味があるのだろうか。

 

「ツカサのやつ、高杉になってんじゃないだろうな?」

 

 ふとこぼしてしまったがやばい、似合いすぎる。俺よりドンピシャだろう。GBNの方ではマジに壊し屋(テロリスト)だもんなあ。いやいやいや。

 たしかあいつのダイバーは目つきの悪いハロだったっけ。

 あいつもなんとかしないとマズイか。迷惑チーターは犯罪だよ。

 

 だがそれよりもなによりも、俺の任務が先。オリジナルの嫁さんたちを探さなくては。だけど俺と同じように誰かと融合しちゃってる可能性もある。

 世界攪拌による融合の条件はなにかの共通点。主に名前。

 俺がナナセ・コウイチと融合したのもオリジナルの名前が煌一(こういち)だったせいだろう。回想シーンでオリジナルの好きなガンプラ持ってたりしたのはあまり関係ないはず。

 名前かぁ。ガンダムビルドダイバーズの主要キャラでちょっと考えてみる。

 

 主人公のミカミ・リク。巨乳じゃなかったから陸遜と融合はしてないっぽい。

 ヒダカ・ユキオ。雪……雪蓮こと孫策化はしてなかった。

 ヤシロ・モモカ。彼女が一番怪しい。漢字だと桃香かもしれない。おしの強いキャラも似てる気がする。

 

 この3人さ、実はさっき、家を訪ねてきたんだよね。うん。ガンダムビルドダイバーズと同じく俺の勧誘のために。それで俺が自分が融合しちゃってることに気づいて、ショック受けて混乱してあの子たちには帰ってもらったんだけど。

 けどさ。

 

「3人とも制服が女子用だったんだよなぁ」

 

 ユッキー君は元々女の子みたいな顔だったからまあ納得だけど、リク君まで顔は同じなのにスカートはいていて。しかもよく見ると後ろ髪に1本の三つ編みおさげがあってさ。意外と可愛かったんだよ。

 俺ってショタ趣味はなかったのになあ。いや女の子だからロリコンか。って、オリジナルはロリコンだったっけ!

 

 ともかく、融合でそうなったのか、それともこの世界はガンダムビルドダイバーズに似てるけど微妙に違って元々女の子だったのか確認しないといけない。

 次に会ったときは配給された装備品の眼鏡に内蔵された融合チェッカーを使用しなければ。

 

「記憶とデータの確認でもするか」

 

 ええと、まずGBN。ガンプラバトルネクサスオンラインの略でガンプラを使ったネットゲーム。フルダイブ型なんてオリジナルが知ったら悔しがるだろう。オリジナルもモデラーでゲーマーだからね。

 GBNはガンプラをスキャンしたデータを使うのでガンプラは壊れない。

 GBNの前にGPDってのがあって、そっちは実際にガンプラを動かして戦う筐体のゲーム。ガンプラが実際に戦うのでゲームでガンプラが壊れる。俺とツカサはそれのプレイヤーだった。

 

 あ、GPDからGBNへの移行が進む時に新規女性プレイヤーの大量加入ってのがあったんだけど、これはガンダムビルドダイバーズにあったっけ? ガンプラが壊れないってのが主な理由だったらしい。

 GPDはたしかに男ばっかりで女性プレイヤーは少なかったがGBNは女性が多い。女性プレイヤーの方が多いぐらいで最近は模型店も女性客が増えている気がする。女性向けの模型誌だって発刊されてるのだ。

 変わってしまった雰囲気に耐えられなくてガンプラバトルを離れてしまった俺のチームメイトだっている。

 

 うん。なんか()の知識と()の記憶に齟齬があるようだ。

 まあ、オリジナルの嫁さんたちの多くが三国志武将の女性化した方たちだし、そんな現象が起きている世界なのかもしれない。

 アバターが銀さん化してたのは未だに謎だが。いっそのことこのままにして別アカウントを用意して魔術師風のアバターを使うかね。

 

 俺の今後だがガンダムビルドダイバーズと同じようにリク君たちとGBNのチームであるフォース、『ビルドダイバーズ』に入った方がいいのはわかっている。オリジナルの嫁と融合していないか確認しやすくなるし、GBNをプレイしていればガンプラにEPを注入するのもしやすくなるだろう。プラモやフィギュアへのEP注入は想いをこめること。楽しんでればそれは容易く果たされる。

 続編案件のために成現(リアライズ)用の素材は多い方がいい。

 

 ガンプラバトルは引退したなんて言ってくすぶってる場合じゃない。融合したせいかうじうじと拗ねていたのが馬鹿らしくなってしまった。いーじゃんGBN。元チームメイトたちがやんなくても俺は楽しんでやんよ。

 それにツカサがバカやってるのも止めたい。あ、でも、ビルドダイバーズの連中の成長には少し見逃してあいつを利用した方がいいのかも?

 

 だけど大きな問題があってね。

 

「JCだけのフォースに加入ってどうなのさ」

 

 いやマズイでしょ。独身男性がそんなチームにいるのってね。お巡りさん呼ばれそう。

 ダイバーを女性化しておけば誤魔化せるか? だけどチームメイトには正体ばれてるからオカマ扱いされるか。それは嫌すぎる。

 ならばダイバーをショタ化。それもなんか違うような。

 

 むう。

 オリジナルは妻帯者でしかも嫁さんの数も多い不届き者だけど元は魔法使いだったし、記憶も受け継いでいるけど俺自身は女性経験がない。世間体の前に俺が耐えられるかも疑問だ。

 妹はいるからそれと同じように扱えばいいか。そう思いこむことすれば……大丈夫だろうか?

 

 

  ◇

 

 

 色々考えたあげくに俺は分身することにした。オリジナルと同じく〈分裂分身〉のスキルだって持っているからね。1人の俺はガンダムビルドダイバーズをなぞるように行動して、他の俺は自由に動くことにすればいい。

 ただ、この〈分裂分身〉スキル、オリジナルよりレベルが低いせいで、分身による能力低下が大きい。オリジナルはほぼロスがないのに対し、俺の場合は例えば俺の数値が10だったとして2人になった場合、5と5ではなく、3と3ぐらいの能力になってしまう。だからあまり多くの分身はできない。

 現状では2人が限界か。使ってるうちにスキルレベル上がればいいんだけど。

 

「うぅわ、スゴい脱力感」

 

「マジしんど」

 

 分身して二人に別れた俺。予想以上に身体能力の低下がキツい。日常生活に支障をきたすほどではないが最大値がかなり低下しているので、これは鍛え直さないとマズイかも。

 分身同士で使えるテレパシーを使わずともどちらも同じ考えに至ったようで、二人して同タイミングで頷いてしまった。

 

「さて、どっちがどう動くか決めたらアイテム整理か」

 

「共有スタッシュとポータルのレベル、ギリ足りないかぁ」

 

 スタッシュはヘソクリ領域。ようするによくあるアイテムホックスだ。個人用の異空間にアイテムを収納できる。共有スタッシュはその小隊版。小隊メンバーが名前のとおりに共有する。ただし、小隊はポータルでの移動が全員セットになるため、スキルレベルが高くないと小隊メンバーがバラバラでの行動はやりにくい。

 そして俺は分身によって〈スタッシュエリア・共有〉と〈ポータル〉のスキルレベルも下がってしまっている。分身した片方がポータルで移動したらもう片方も巻き込まれてしまうというワケだ。

 

「ポータル移動時は小隊編成を切って、共有スタッシュ使う時は再編成するしかないか」

 

「面倒だけど仕方ない。ポータル使用する時は必ず連絡入れること」

 

 記憶によればこの世界の地球には魔法はないはず。ポータルによる転位なんて目撃されたら大騒ぎになってしまう。見つかってはマズい。

 早いとこスキルレベルを上げるのが一番だけど、それにはスキルを使わなきゃ上がらない。タイミング見て集中訓練しないとなぁ。

 

 でもその前にここにあるガンプラチェックしておこっと。

 俺がGBNで使うガンプラ決めないとね。ガルバルディリベイクも好きなんだけど、アレ実は火力不足っぽい。榴弾砲もハンマープライヤーも初登場時以外はあまり活躍していないイメージだ。やたら頑丈だけど地味だし。

 そして色。あのアバターのせいで白夜なんとかなんて呼ばれそうでちょっと怖いからパスかね。

 

 やっぱりさ、この世界には本来無い機体を用意すればオリジナルの嫁さんたちも気づきやすいかな?

 

 




ナナセ・コウイチが銀さん、シバ・ツカサが高杉ってのもアリだよなってふと思ったのでつい


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ガンダムビルドダイバーズ編 2話

感想、評価、ありがとうございます


「さて、まずは金策かぁ」

 

 ため息が出てしまうのは仕方あるまい。ナナセ・コウイチ担当の分身と違って俺の方は宿無し戸籍無し。この世界にいない人間だから当然だけどさ。

 同じ人間が2人いるという混乱を防ぐために変身魔法で姿も変えているのだ。

 身分証明はこの世界の電子化が進んでいるおかげで、探査器(プローブ)にも標準装備のチートスマホであるビニフォン(コンビニエンスフォン)で偽装すればまずバレないからいいけど現金入手は難しい。非合法な方法ならば簡単だけど、俺が犯罪者として認識されるとオリジナルの方でGPの入りが悪くなったりとかがあるらしいので、それは禁じ手。

 

 まあ犯罪でなければいいか。

 ガンプラ完成品をいくつか複製したのでそれをインターネットで販売する。

 ちなみに複製はレジンキャストによるものではなく、チートアイテムによるもの。その名も『まな板』だ。うん、マインクラフトで有名なMODアイテムを成現(リアライズ)したもの。おかげで成現(リアライズ)した分身の俺はEPMPを消耗しすぎて今頃ぐったりしている。

 まな板は使用しただいたいのものを複製できる無茶苦茶なアイテムだ。ただし、まな板ではこめられたEPまでは複製できないのが玉に(キズ)。だからEPのこもった複製元は残して複製品を売ることにした。

 インターネット接続はビニフォンでオッケー。プロバイダー契約しないでも接続できるのは便利すぎる。口座開設もできちゃったよ、いいのかねコレ?

 

 それにしてもGBNが世界的に流行ってる世界なだけあって高額で売れるなあ。アップした写真だけでもわかるぐらい出来がいいってのはあるけど、それでもすぐに全て売れてしまったのには驚いた。さらに複製すれば商品は補充できるけどしばらくはいいだろう。全く同じ商品が続くと偽物感が増すだろうから。

 入金確認後、全部発送を終えたら次はガンプラ製作代行の依頼者募集っと。

 

 

 ◇

 

 

 元手が入ったのでガンダムベースに移動。作業スペースをレンタルして作業中の俺に依頼者が現れる。

 

「あなたがケイゼロ?」

 

「ああ」

 

 俺の作品は見るやつが見ればケイワン作ってわかるので関係者っぽくケイゼロを名乗ることにした。同じ流派だからってことで誤魔化すつもり。ビルドファイターズにはプラモの流派があったしね。……そのうちこっちの世界じゃガンプラ道は乙女の嗜みとかなってしまうんじゃなかろうか?

 だってほら、依頼者が女の子だ。うん、GBNは女性プレイヤーも多いからそれはありえるんだけど、それだけじゃなくて。

 

「ええと、まいったな。俺の料金は高いから子供向けじゃないんだが」

 

 目の前の子はマジに女の子で。というか幼女? 小学生ぐらいじゃないのか、この子。

 分身の俺はJCフォース加入に苦悩してるけど、俺の初依頼者がJSって……。

 

「お金ならちゃんと払うわ」

 

「いや、高額だからね。君が良くっても後で親がやってきて返品なんてされると困る」

 

「そんなことしないわよ!」

 

「それは私が保証します」

 

 そう依頼少女の前にスッと出てきたのはメイドさん。あれ? コスプレじゃなくて本物のメイドさん? この子って本物のお嬢様? そういうロールプレイじゃなくて?

 

「GBN用のガンプラがほしいんだよな? まだGBNやるには早そうに見えるが」

 

「問題ありません。支払いはカードでよろしいですか?」

 

「悪いな。カードは受け付けてねえ」

 

「では小切手でよろしいですね」

 

 どうしよう。なんかこのメイドさん美人だけどすごい威圧感で断れそうにない。無茶苦茶な高額ふっかけてもあっさり払いそうで怖いからそんなことできん。受けるしかないのか。

 うっわー、気づけば周囲の注目集めちゃっているよ。これではぞんざいな扱いはできないか。ガンダムベースの職員が変な商売するなって止めに現れる様子もないし。妹ちゃんには会いたくないからいいけどさ。お兄ちゃんだってバレても困る。

 

「わぁったよ。ガンプラは決まってんのか?」

 

「い、いえ。なんでもいいわ。すぐにほしいの!」

 

「なんでもいいが一番困るんだがなあ」

 

 なんだよ、ただGBNがやりたいだけでガンプラには全く興味のないお嬢さんかよ。張り合いのない。

 女の子向けだったらやっぱりSDがいいか? お嬢様らしいからビルドファイターズのお嬢様キャラみたく騎士(ナイト)ガンダムが無難だろうかね。

 少し考えていると、お嬢様は待ちきれなかったのか作業テーブル上の俺が制作中のガンプラを指差した。

 

「それでいいわ!」

 

「これ? ノーマルのV2だけどいいの……って言われてもわかんねえか。まあこれでいいんならあと30分ぐらいで出来るが」

 

「もうできているのではなくて?」

 

 確かにほぼ出来てはいるけど、マジで原作どおりのV2。関節の強化や設定に似せる改造はしたけど、俺独自設定のカスタム化は武器1個だけだ。俺がGBNに慣れるための練習機のつもりで作ってたんだよね。正直この程度で高い金は取りたくない。

 

「このままでいいならレンタルのを借りればいい。それから自分のガンプラを探せ」

 

「いやよ! わたしはそれがいいの! それをよこしなさい!」

 

 なんちゅうわがままお嬢さんだよ。まあ、オリジナルの嫁さんにもこういう(かた)がいたから俺は許せちゃうかもしれんが。

 仕方ない、か。

 

「こいつは塗装がまだ乾いてねえんだよ。対ビーム加工の塗料は乾きがちいと遅くてな。それを待てるか?」

 

「よろしいのですか?」

 

 お嬢さんではなくメイドが聞いてきた。あとギャラリーの中に「対ビーム加工」と聞いて俺の使ってる塗料に注目しだしたやつがいるな。この配合(ブレンド)()ことコウイチがGPDで磨いたもの。『ガンダムビルドダイバーズ』でもガルバルディリベイクの防御力で証明されている。ま、簡単に配合比率は見抜けまいて。

 

「GBN初心者向けに用意していたガンプラだ。ふむ。悪くない選択だろう。お嬢さんは見る目がある」

 

「え、ええ。もちろんよ!」

 

 依頼者を適当におだてながら作業中のパーツの塗装を一部変更する。彼女のおかげで黄金色好きなお嬢様を思い出してしまったささいな意趣返しとして、V2の胸から翼にかけた黄色のVのラインを金色にすることにした。

 といっても普通の金色塗装では黄金感が薄い。かといって金メッキなんて簡単にはできない。あれは業者に頼まないとね。となれば金属パーツ? いやいや、もっと簡単に。

 

「テープ?」

 

「そ。メタルテープ。黄色よりも金色の方がいいだろ? アサルトパーツを追加する時も色が合うぜ」

 

 メタルテープを使えば金属色を出すのは楽だ。パーツの形状にもよるけどね。複雑な曲面のパーツには向かない。

 金色のメタルテープを一度、別の台紙に貼って形が合うように切ってから剥がれにくいように接着剤を塗布したパーツに貼っていく。それだけの作業なのにギャラリーがわく。

 

「スゲエ、一発で合った!」

 

「切る時測ってなかったよね? 見ただけであんなにピッタリ合わせたの?」

 

「胸のカーブも一切皺がなく貼れてる! 曲面に合わせた切れ込み入れてなかったのにどうやって!?」

 

 そりゃ分身して多少腕が下がったとはいえ、融合したのは世界有数のガンプラモデラーだからねえ。モデラー力だけはオリジナルよりも高いのだよ。ふっふっふ。

 メタルテープの使用だってオリジナルが武将の武器モデル製作で多用したから慣れてるのもあるのだ。

 歓声を心地よく聞きながら、さらに剥がれにくいように表面を処理して、と。

 

「指紋が目立ちやすいからここにはあんま触んなよ」

 

「綺麗……」

 

「そうかい?」

 

 今にも手を伸ばしそうな表情でうっとり眺めているお嬢さん。やっぱ金色好きだったか。金メッキ百式、さすがにガンダムベースにもレンタル機では置いてなかったけどあったらそれを選んでいたかもな。

 

 

 ◇

 

 

 塗装が乾くまでの時間、ティータイムとなった。ここに備え付けの自販機のじゃなくて、メイドさんがいれてくれた紅茶だ。どっからティーセットなんて出したんだか。このメイドもスタッシュ持ってたりしないよな?

 

「へえ。兄ちゃんがGBNに夢中で遊んでくれなくなったから、嬢ちゃんがかまってもらうためにガンプラがほしかったワケか」

 

「そうよ! 悪い?」

 

「いや。んなら兄ちゃんに嬢ちゃんのガンプラ作ってもらえばよかったと思っただけ……んだよ、その手があったか! みてーな顔は?」

 

 あ、さっきから俺の口調が気になってるやつもいるかもしれんけど、意識して変えてる。コウイチだってバレないようにね。銀さんアバターは俺が使うことになってるのでそれっぽいイメージ? でもないか。

 

「あなた、天才!?」

 

「ったく。兄ちゃんがどれほどの腕か知んねえけど、次はそいつに相談すっこった。それともこいつは止めとくか?」

 

「ちゃんと買うわよ! はい! これはもうわたしの物なんだから!」

 

 指定した額の3割増しの小切手を握らされてしまった。最初は3倍出すって言ってたのをここまで下げさせたよ。変に疲れる。そんなとこにプライドかけんでいいから。

 

「へえへえ。もう乾いたな。乾燥機のコンセント使えて助かったぜ」

 

 乾燥機といっても専用のものではなく、食器乾燥機をちょっと改造したもの。塗装中の大敵であるホコリも防いでくれるのでこんな人の多い場所での作業では有り難い。

 オリジナルが使っていたやつなんて成現(リアライズ)でもっと乾きが早くなるようにしてしまった。しばらく使い込んでEPが貯まったらこれもそうしておきおたいね。

 

「ほい、こいつはもう嬢ちゃんのもんだ。返品は受付ねえからな」

 

「う、うん!」

 

 お嬢さんはキラキラした目でV2を握りしめながら行ってしまう。お辞儀をして去ろうとするメイドさんに領収書と箱、オプションパーツを渡して初依頼完了、と。

 さて、作業スペースのレンタル時間はまだ残ってるし俺がGBNで使うガンプラ作らんと。銀さんアバターにに新八(ウッソ)の機体って考えてたのになぁ。V2もっかい作る気にもならんしどうすっかな?

 やっぱ、オリジナルが大好きって公言してたセンチネル系にした方が嫁さんたちがもしいたとしても気づきやすいだろうかね。融合してて記憶が混乱しててもオリジナルのこと思い出すかもしれん。

 それとも同じくオリジナルが大好きだけどこの世界にはないマクロス系か? だけど世界の固有原理によって、この世界じゃガンダムが圧倒的に強いっぽい。あとでGBNでそのデータも取らんといかんけどたぶんそんな気がする。

 

 うーん、VF-1Jはガンダム顎に見えないこともないから、V字アンテナとツインアイつければワンチャンいけるかねえ?

 

 

 




ガンダムベースのことは適当
2人の愛機はなんになるでしょ?


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ガンダムビルドダイバーズ編 3話

評価、ありがとうございます


「なんで、なんでだよみんな」

 

 ああ、これは()が見ている夢か。

 まな板を用意するためにEPを消耗したから、少しでも回復するために睡眠を取った? 記憶が曖昧だな。

 けどEP減少中に寝ると悪夢を見やすいんだよなあ。こんな風にさ。

 ()がよく見る夢ではあるけど。あの303E、どこにやったっけ?

 

 ()たちはGBN(ガンプラバトルネクサスオンライン)のようにデータではなく、実際にガンプラを戦わせるGPD(ガンプラデュエル)のチームだった。GPD全国大会優勝を目指していたんだ。

 だけど新たに始まったGBNの隆盛の陰で、プレイヤーを奪われたGPDは廃れていく。

 戦いの場を失ったチームメイトが()を置いてガンプラバトルを引退していった。それを止めることはできなくて。最期に相棒とも言えるツカサまでが……。

 

 

 △ △

 

 

「なんでさ」

 

「すごい熱でうなされていたんですよぉ」

 

「熱? そこまで弱っていたのか……って! なんで君たちが!?」

 

 目覚めた俺の枕元で心配そうに顔を覗きこんでいたのはリク君、ユキオ君、モモカ君の『ガンダムビルドダイバーズ』の主要キャラ3人。君づけしたけど3人ともスカートを履いた制服女子だ。

 ストーカーじみた攻勢で俺をGBNに誘っていたんだけど、ついに家の中にまで侵入するようになったのか?

 リク君、ユキオ君は記憶にある元の顔ほぼそのままで女の子化しているけど美少女といってもいい。モモカ君ももちろんだ。そんな美少女が3人も俺の部屋にいるなんて緊張する。

 

「ピンポンしてもコーイチさん出てこなくて、でも家の中から苦しそうな声が聞こえたんです。もしかしてなんかあったんじゃないかって!」

 

「それで、ナナミさんに電話して鍵をもらって中に入ったら、コーイチさんが倒れてて」

 

「熱がすごいあったんで、とりあえずなんとかベッドに運んで汗を拭いて着替てもらったんです。それで、救急車呼ぼうかって相談してたんですけど」

 

 妹が鍵を渡したのかぁ。あいつめ、なんて不用心な。いや、この子たちが悪いことするって意味じゃなくて、俺がこの子たちに悪いことするのを警戒しろって意味でね。

 

 んん?

 

「ちょっと待て」

 

「やっぱり救急車呼びますか?」

 

「そうじゃなくて。汗拭いて着替え?」

 

「はい。コーイチさん、けっこう締ってるんですね! お腹もたるんだりしてないし、実は結構鍛えてたり!?」

 

 リク君とユキオ君は赤い顔で目をそらし、モモカ君は逆にぐいっと身を乗り出してきた。

 鍛えていたのは探査器(プローブ)の俺の方。オリジナルとEPをこめてくれたオリジナル嫁のおかげで細マッチョといえる程ではないが引き締まってるのだ。融合したから、ヒキコモリ気味でほとんど身体を動かしていなかったこの身体も影響を受けている。

 実は見た目だけで身体はかなり弱っているんだけどね。腹筋も10回がやっとさ!

 

 そのまま布団の中に手を入れて俺の腹をまさぐるモモカ君。ひんやりとした女の子の手が(ほて)った身体に気持ちいい。でも。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「やっぱり! これはなかなかの腹筋ですよぅ。すりすり」

 

「も、モモカちゃん?」

 

「なんて羨ましいことを!?」

 

 って残りの2人も手をつっこんでくるんかーい!

 怖い物知らずのJCのノリには勝てず、しばし腹筋を玩ばれる俺。

 

「うわ、ホントだ。これならウルベ大佐みたいに腹筋で攻撃を霧散させられるかな?」

 

「あれまでムキムキじゃないから! あとあれグランドマスターガンダムだからだろ、って言うかいつまで触っているんだよ」

 

「す、すいません!」

 

 やっと3人が離れてくれた。よかったよ、手がもうちょい下の方に行ってたらマジでヤバかった。いや、美少女JCとの密着に興奮したんじゃなくて! いわゆる疲れ○○ってやつで!

 ……誰に弁解してるんだか。

 

「いやー、いいものをお持ちで。堪能しましたー」

 

「モモカちゃん、おっさんみたい」

 

 ガンダムビルドダイバーズならお腹ナデナデされるのは、別に担当がいるでしょーに。ケモノアバターの人が!

 

「アバターでもないリアルの成人男性のお腹を馴れ馴れしく触らない! セクハラだよ。君たちみたいな美少女がそんなことしたら、勘違いして襲われたっておかしくないんだからね。もうこんなことしちゃ駄目だよ」

 

「美少女?」

 

「お、襲われる?」

 

 なぜか3人とも正座して話を聞いてくれている。自分たちのしでかしたことがやっとわかったのか顔も赤い。お説教はしないでもいいか。

 ちょっと変わっちゃったけどガンダムビルドダイバーズのイベントを進めておこう。()の昔話をして、と。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「送っていくよ」

 

「駄目です! コーイチさん病み上がりなんだから」

 

「そういうワケにもいかないよ。熱も下がってるんだ。こんな時間に美少女たちだけで帰すなんてできないって。もしなんかあったらナナミに怒られるからね」

 

 俺が寝込んでいたせいか、気づけば外は暗くなっていた。このまま彼女たちだけで帰すのは心配だ。分身したせいで弱くなってはいるけど、それでも融合前よりは身体も動く。スキルもあるし彼女たちを守るぐらいはできるさ。チンピラがからんでくるなんてベタな展開はないだろうけどね。

 

「ま、また!?」

 

「ちょっと待っててね。着替えるから」

 

「は、はい! また倒れないないように見守ります!」

 

「いや、着替えは見られたくないかな、と」

 

 3人とも頬を染めながらもガン見してるのは勘弁してくれ。そういうことに興味津々なお年頃なんだろうか。こんな美少女たちなのにボーイフレンドもいないのかね?

 

 

 ◇

 

 

 少女たちを家まで送って、ドラッグストアとコンビニに寄り道して帰宅。

 栄養ドリンクを摂取し、冷却ジェルシートを額に貼って準備完了。ガンプラの読み込みはまだいっか。家庭用のGBN機でログインして、と。

 

 GBNロビーにてすぐに女の子と遭遇。この子がサラちゃんか。ガンダムビルドダイバーズと同じ外見、声でほっとする。GBNの方だとおかしいのは俺のダイバーだけだったのかな。ああ、あの銀さんダイバーは分身が使うことにしたので、このダイバーは本来の魔術師風眼鏡エルフである。

 

 ってほっとしたのもつかの間、異変がやっぱりあって。

 アニメと同じ流れで主人公チーム以外の主要キャラにも遭遇したんだけどさ、主人公たちの師匠ともいえるタイガーウルフが変わっていたのだ。獣人アバターなのは変わらないが……獣神?

 

「タイガー?」

 

「タイガーって言うなぁ!」

 

 狼男風のダイバーだったはずが着ぐるみ着たお姉さんになってる。つうかジャガーマンだよねこれ!? FateのGOの。

 ダイバー名もジャガーウルフだそうだ。元々は虎要素が薄かったのにタイガーになっちゃうのか。中の人はアーチャーだったのにさ。

 これって世界攪拌の影響だろうか。GBN世界のダイバーだけが融合しちゃったのか、それともリアルのプレイヤーまでも藤村大河と融合してるのかどっちなんだろう?

 そしてシャフリヤールも女性ダイバー。キャス狐ではなかったのが良かったのか残念なのか。ネカマアバターという線もないワケではないが、きっと女性ビルダーなんだろう。

 漢女ダイバーことマギーさんは変わってなかった。作中一番のプリケツもそのまま。愛機もオカマだからビーム鎌使うんだよね、たしか。

 

 有名ダイバーの質問に「好きなガンダムはEx-S、好きなガンダム作品はガンダムセンチネル」と答えながらも「でもマクロスも大好き」と付け足したくなるのをぐっと堪えた。この世界にはマクロスがないので言ってもわかってもらえないのが悔しすぎる。

 本来なら逃げ出すはずなのだが話を続けていたら、サラちゃんがベンチに座っている少女ダイバーを発見、話しかけていた。

 

「どうしたの?」

 

「え? あ……」

 

 ダイバーにそんなモーションがあるのか少女ダイバーは涙ぐんでいるように見える。だからサラちゃんが気にして話しかけたんだろう。初心者のアドバイザープレイをしているマギーさんもそれに気づいた。

 

「どうしたのかしら? 嫌なダイバーにイジメられちゃった?」

 

「ううん、違うの。お兄ちゃんが」

 

 ってこのダイバー、イリヤスフィールじゃん!? やっぱり融合しちゃってるの?

 事情を聞くためにMSデッキに案内された。有名ダイバーたちも一緒だ。

 

「これ、上手く操縦できなくて。勉強のために登場している作品、一緒に見ようってお兄ちゃん誘ったら、お前にはまだ早いって断られた」

 

 案内されて見せられたのは整備台に固定されたV2ガンダム。胸の黄色いラインが黄金の見事なガンプラだ。

 テレパシー通信で確認しなくても一目で分身の作品ってわかる。ってことはこの子、もしかして分身の製作代行初めての依頼者? なんでイリヤだって気づかなかったんだよ?

 融合のせいでまだ記憶が混乱してるのか、それとも分身がうまくいってなくて記憶が不十分? ……ダイバーがイリヤだけどリアルの方は違うってのもあるか?

 

「こんな時間に子供がプレイしてるのかい?」

 

「明日は学校が休みだから問題ないわ!」

 

 そうなの? いかん、曜日の感覚がおかしくなってる。

 でも風営法に引っかかるから、ガンダムベースでは子供がプレイできる時間じゃないよね。俺みたいに家庭用機でプレイしてるんだろう。

 

「わたし、お兄ちゃんに嫌われてる……」

 

「そうじゃなくてね」

 

「じゃあきっと、お兄ちゃんみたいなかわいー男の子があなたちみたいな綺麗なお姉さんにチヤホヤされるアニメだからわたしに見せないんだわ!」

 

 微妙に間違ってないからみんなのダイバーそんな表情になるよね、アバターよくできているなあ。って、マギーさんだけが反応違う?

 

「まあ! 綺麗なお姉さんだなんて! イイ子ねえん」

 

 いや、あんたに言ったんじゃねえから! オネエに抱きしめられたイリダイバー苦しがってるから!

 Vガンダムは鬱展開が多いからこの年頃の子供に見せるには微妙な気がする。トラウマになったらかわいそうだからこの子の兄も避けたんだろう。……この子の兄って士郎なんだろうかね? かわいい男の子って言ってたけど。

 

「うーん、たしかに君にはまだちょっと早いかもね。このV2が出てくる機動戦士Vガンダムってアニメ作品は主人公の仲間や両親が次々に死んじゃったりしてショッキングな展開が多い。君が落ち込むといけないからお兄さんも止めたんだと思うよ。別のガンダムだったら一緒に見てくれるんじゃないかな?」

 

「でも……」

 

「操縦が上手くできないなら、それこそお兄ちゃんに操縦してもらって見本にすればいい。お兄ちゃんはこの機体を知ってるんだろ? GBNは2人乗りだってできるから一緒に乗って教えてもらいなよ」

 

「そ、そうね!」

 

「コーちゃん、ナイスアドバイスぅ!」

 

 だからマギーさんくねくねしてプリケツ揺らさんといて。

 マギーさんに解放されたイリヤちゃんはウィンドウを操作中。兄に連絡を取ってるみたい。兄もGBNにログインしてるのかな? まあ、あの三角のダイバーギアを使えば、GBNからリアルの方へ連絡もできるけど。

 

「慣れてるんだね」

 

「妹いるもんで」

 

「私と同じだね」

 

 シャフリヤールの妹って続編のキャラかな? やっぱり女性化しちゃってるのか。あ、シャフリヤールは兄弟姉妹が多いんだっけ。中東のセレブさんみたいだし母親も多いのかも。彼女のガンプラ、まだ見てないけど早くみたいなあ。同じことを思ったみたいで。

 

「君のガンプラは?」

 

「まだ迷ってる。こうやってGBNでデータ化したガンプラを見てると色々浮かんでくるなぁ」

 

 整備台のV2、いい出来だけどこうしてGBN内で実際に見てみるともっとイジりたい箇所が出てきてしまうのはビルダーの(サガ)だ。同じく見上げてるシャフリヤールも気になる所があるんだろう。

 

「このV2、愛がこもっているね」

 

 愛か。使ってからカスタム化を進めるつもりだったみたいだけどたしかにEPはこもってるね。意味ありげな視線をこっちに向けてくる狐娘ダイバー。

 ああ、このV2が俺作のだって気づいてるな、これは。ケイワンの作品も知ってたらしいし。

 

「そうね。腰のハードポイントにわざわざアタッチメントまで作って装備してんの、アレさー、木刀よねー。なーんかシンパシー感じちゃう! けど、なんで洞爺湖なのかしら?」

 

 ジャガーさんの指摘どおり、ほぼノーマル設定のV2なのに分身が銀さんダイバーで使うために木刀だけは作っていたんだよね。それを見て目を光らせるシャフリヤール。

 

「この見事な木工技術……まさか模型秘伝帳・木ノ巻! 実在したというのか!?」

 

「いやあのね、つーかよく知ってるね、それ」

 

「まさか君の流派は……」

 

「創一族じゃないからね。あとこれ、俺の作品じゃない。たぶん、同門のやつのだ。製作代行やるって言ってたし」

 

 模型秘伝帳はプラモ狂四郎に登場した巻物だ。全8巻。だけど木と土と金しか出てきてないので残りは不明。そんな設定までよく知ってるなあ。

 ああそうだ、どうせだったら模型秘伝帳を成現(リアライズ)するのもいいかもしれない。

 GBNはプラスチック以外でもOKみたいだからね。ビルドファイターズのプラフスキー粒子だとプラスチック限定みたいだったけどさ。

 シャフリヤールはなんか模型秘伝帳が実在するって思い込んじゃったのか、こっちをずっとガン見してくる。ダイバーだとわかっていても女性にそんなに見つめられると落ち着かない。

 なんとか誤魔化さないと!

 

「あ、そうだ、ガンプラ愛ならこの子たちもすごいよね」

 

 ウィンドウでリク君たちの戦いの動画を流してみる。うん、記憶の『ガンダムビルドダイバーズ』とほぼ同じ。ガンプラも同じで違うのはダイバーが女の子なことぐらいか。ダブルオーダイバーもいいガンプラだ。たしかにまだ作り込みの甘さはあるけど、魂は感じる。EPもたっぷりこもってそう。

 

「うん。彼女たちも素晴らしいね」

 

「あ、さっきの子。お兄ちゃんつかまったみたいだね」

 

 イリヤちゃんが戻ってきた。隣の少年ダイバーがお兄ちゃんか。士郎って言うよりウッソっぽいダイバーだ。その上、新八みたいな眼鏡かけてる。ウッソ八……嘘っぱちってとこね。

 

「ありがとう! お兄ちゃん教えてくれるって!」

 

「そ、その顔、もしかしてケイワンさんですか!?」

 

「え?」

 

「やっぱり! V2を見た時にあなたの作品だって一目でわかりました!」

 

 なにこの子!? もしかして名うてのビルダー?

 え? ガンダムビルドダイバーズにこんな子いなかったと思うんだけど。

 ダイバー見て俺だってわかるって、俺の顔も知ってるの?

 

「お、お兄ちゃん? これを作った人、ケイゼロって名乗ってたよ」

 

「あ、あのね、俺はたしかにケイワンだけど、ダイバー名はコーイチでね、というかよくわかったね? あとV2は俺じゃなくてケイゼロのガンプラだから」

 

「僕、あなたの大ファンなんです。あなたに憧れてガンプラ始めたんです! ガンダムベースのケイワン作のレンタル品は全部使いました! 僕があなたのガンプラを間違えるはずがありません!」

 

 キラキラした目でぐいぐいきてるのがちょっと怖い。美形の男性に好かれてしまうオリジナルの呪い、俺は受け継いでないはずなんだけどぉ! オリジナルが美少年に告白されたのを思い出してちょっと逃げ腰になるのは仕方ないよね。

 

「落ち着いて、ね。本当に俺のじゃないんだ。ケイゼロは同門だから作品が似てるのかもね」

 

「そうなんですか?」

 

「そうなの。よく見ると違いがわかると思う。それよりちゃんと妹さんにV2のこと教えてあげなよ」

 

「は、はい!」

 

 ふう。行ったか。イリヤちゃんとウソ八君はV2に乗って出撃、マギーさんとジャガーウルフもついていった。シャフリヤールとサラちゃんはこっちでモニターするみたい。

 初対面イベントをこなすだけのはずなのに妙に疲れたっつの。俺は挨拶だけしてログアウトした。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 翌日、妹のナナミに引っ張り出されてガンダムベースへ。リク君たちが()がGPDで使用していたガンプラを直す場面を目撃。このシーン、知ってるはずなのに涙が溢れてしまった。これ絶対、涙もろいオリジナルの影響があると思う。

 当然のようにGBNの参加とフォース入りを承諾。

 

「あ、でも俺はGBNを全然やっていないからランクが低くてフォースにはすぐに入れないよ。使用するガンプラも新しく作りたいし」

 

「そんなぁ」

 

 ふう。これでサラちゃんに「駄目人間」って言われないですむかな。というか、始めたてのダイバーがチーム入りできないこのルールはなんなんだかね。パワーレベリングの禁止目的? よくわからん。

 

「あ、あの! コーイチさんのガンプラ製作を見学してもいいですか?」

 

「え?」

 

「リクずるい! ま、また倒れちゃうかもしれないし心配だから私も行く!」

 

「ええ!?」

 

「もちろんボクもいくよ!」

 

 ニヤニヤした妹が肘で俺の脇腹をぐりぐりとつっつく。

 

「モテモテだね、お兄ちゃん」

 

「違うっての」

 

「手ぇ出すなよ」

 

「出さないから!」

 

 心配なら鍵なんて渡すな! こいつもイリヤちゃんみたいに可愛い妹だったらよかったのに。……いや、オリジナルの性癖まで受け継いでたら手を出しそうでマズイか。ナナミでよかった。

 イリヤちゃんあの後、うまくいったのかな。V2の動きに不満なら分身にアフターサービスさせないといけない。

 ケイワンのフォロワーだっていうウソ八君のガンプラも見たい。アバターに合わせてV系だろうか。もしかして兄妹でダブルV2?

 

 

 ◇

 

 

 俺のガンプラはガンダム作品じゃないガンダムにした。

 バルディオス? ゴーショーグン? うん。こっちだとGBN内ならばガンダム認定されそうだけど違うよ。

 俺が選んだのはこれさ。

 

「ティターンズカラーっぽいけどちょっと違う?」

 

「あ、コアファイターあるんですね」

 

「ガンダム・ザ・ブラックナイト?」

 

 俺が作ったのはMSではなくPT。ホラーゲームじゃなくてパーソナルトルーパー。そう、ヒュッケバインさ。そのMk-IIIね。

 スパロボのアニメではガンダムっぽいってことで出てこれなかったあれ。ガンダムよりガンダムしてるから、それも仕方あるまい。

 ならさ、だからさ、もうガンダム名乗っちゃってもいいよね!

 ってことで愛機の名前はガンダム・ザ・ブラックナイト。ファイブスター物語の黒騎士のイメージだよ。だから丸い盾も装備している。

 この盾は実はシュルター・プラッテ。アウセンザイターの肩に装備されてるやつだけど、同じスケールでもヒュッケバインに持たせるにはちょうどいい大きささ。ペイントされてる紋章はトロンベのじゃなくて、バッシュの巴紋ね。もちろんファング・スラッシャーみたいに投擲もできる。

 円形の盾があるおかげでバッシュといえば、のパイドルスピアを構えたポーズも再現可能。グラビトン・ライフルでね。

 

 オリジナルも好きなロボだし、この世界にはない作品のこれを使っていればオリジナル嫁も気づくはずだ。

 それに、この世界の地球はガンダム世界にしては平和に見えるけど、続編でピンチになってしまう。だからいつでもプラモが本物にできるようにEPを、つまり想いをこめてなきゃいけない。成現(リアライズ)するためには想いがこもってる必要があるからね。

 その想いであるEPは自分の想い以外でもいい。GBNで有名になればきっとEPも貯まるはず!

 

 他にも色々作るつもり。GBN以外でもオリジナルの嫁さんも探さなきゃいけないし、時間が足りなすぎる。

 だから俺さ、『ガンダムビルドダイバーズ』みたいにガンダムベースの店員にならなくてもいいよね。

 

 働きたくないでござる。

 

 



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ガンダムビルドダイバーズ編 4話

評価、お気に入り登録、ありがとうございます


 当座の資金ができたのでGBNでのプレイを開始した俺。

 リクちゃんたちの成長のためにもあっちの()はアニメとほぼ同じ動きをするとして、こっちの俺は独自に動くことにする。

 続編がなければそんな必要はないんだけど「Re:RISE」に進むと地球がヤバいから、もしもの時のためにね。

 主要キャラがみんな女性化しちゃってみたいだから、アニメどおりに進んでくれるかもわからんしさ。

 

 俺にはオリジナルから受け継いだ成現(リアライズ)があるけど、オリジナルほどの無茶苦茶さはない。プラモを本物の巨大ロボになんてしようとしたらかなりEPをこめてないと無理のようだ。

 だからGBNを楽しみつつ成現(リアライズ)の材料を用意するつもり。

 

 ついでに有名になれればオリジナルの嫁さん探しにも有利になるかも?

 

 分身からのテレパシーで事前情報はあったけど、やっぱりGPDと違うな。自分のガンプラを直接動かしているって感覚はGPDの方が上だけど、ロボットに乗っているという感覚ならGBNの方がすごい。

 

「まあ、モノホンとも違ぇけど」

 

 リアルでロボの操縦をしたことのあるオリジナルの記憶もあるんで、その差異もわかる。やはりゲームだ。

 だがそれがいい。

 ガンプラの出来だけじゃなくて、経験値その他のポイントによるプレイヤー能力の育成もある、と。

 そりゃそうか。まあ、ガンプラとプレイヤーの腕が重要ではあるのだが。

 課金要素は強化パーツか。データがあればキットを成形してくれるってスゴい。あの装置、成現(リアライズ)したいな。

 

「とりあえずランニングしますかね」

 

 GBNを楽しむのも悪くはないが、そのためにもゲーム通貨であるGBコインは貯めたい。リアルマネーが心許ないんで課金はしない方向でいくとなると、GBコインや報酬、アイテムのドロップ率がいいミッションを周回するという、所謂ランニングを行うのが効率がいい。

 

「ったく、ツカサのやつがんばりすぎだっての」

 

 初心者プレイをしているとPKにも遭遇。初心者をカモにそういうプレイをしている奴はチートアイテムであるブレイクデカールを使用するマスダイバーも多いようだ。

 ポイントを稼ぐというより、楽に勝てる対人戦がしたいんだろうなぁ。

 

「大丈夫か?」

 

『は、はい。ありがとうございます』

 

 経験値アップイベント中のレイドミッションに入ったら、見覚えのあるガンプラがブレイクデカール機に襲われていたのでつい助けてしまった。

 

「気にするな。俺はアフターサービスもいいんだぜ」

 

『え? あ、あんたもしかして』

 

「お嬢ちゃん、兄ちゃんと乗ってんのか? よかったな」

 

 助けたガンプラはV2。見覚えがあるもなにも、俺が作ったガンプラである。

 苦戦してたようなのにさすが俺と融合しているやつの腕がいいというべきか、傷ひとつついているようには見えない。

 通信ウィンドウに映るダイバー2人は分身から聞いてたとおりに眼鏡ウッソとイリヤスフィールで。

 

『本当にケイワンさんと違うんだ……でもガンプラはかなり似てます』

 

「ああ、あいつと会ったのか。っと、詳しい話はあとだな。レイドボスはまだ生きている。光の翼は使えるよな?」

 

『はい!』

 

 低ランクでも戦うことが可能なやつなので弱いレイドボスだったが、マスダイバーのせいで生き残ってるのは俺とV2だけ。あいつはボス戦の報酬を独り占めしたかったんだろう。最大ダメージとかラストアタックのボーナスとか。

 レイドバトルだと無効化されるはずのフレンドリーファイアができたのもブレイクデカールのせいか。こっちの攻撃も無効化されなくて助かった。

 一応、V2の攻撃にも当たらないように、こっちの攻撃も当てないように気をつけて戦うか。

 

 レイドボスはアッザム。最低ランクにしてはなんか妙に強いようよな気がするのはもしかしてブレイクデカールの影響でバグった?

 眼鏡ウッソはV2にまだ慣れてないようでそのスピードに振り回されている。敵の攻撃を避けるのが精一杯で光の翼もたいして当てられていない。

 でもお遊びで装備させてた木刀をちゃんと使ってくれてるのがちょっと嬉しい。

 

「ったく、しゃあねえな」

 

 奥の手を使うとしますか。まだ試したことなくて、ぶっつけ本番になるけどゲームだしな。死ぬワケでもガンプラが実際に壊れるワケでもない。問題があるとすれば俺に使いこなせるかどうかで。

 

「上手くいかなくても笑うなよ」

 

 って、回避に集中してて聞いてないね、2人とも。

 

 俺のガンプラはオリジナルの大好きなMSである「スペリオル(S)ガンダム」のカスタムである「ダブルエス(SS)ガンダム」。

 ガルバルディリベイクも迷ったんだけどね。あれって、白くて固くて必殺技がない。うん、銀さんっぽいね。手持ち武器が鈍器なのも拍車をかけてるよね。ツカサのアストレイノーネイムも色味だけだとある意味銀さんカラーっぽい気もするけどさ。いや、万事屋晋ちゃん仕様か?

 スペリオルがオリジナルの大好きなMSであることは嫁さんたちも知ってるかもしれないので気づいてくれ、との希望をこめてのチョイスなのだ。

 

 で、このダブルエス、ただのスペリオルでは当然ない。

 センチネル好きならスペリオルガンダムがダブルゼータ(ZZ)ガンダムを否定しまくっているのは勿論熟知してるんだけど、あえてその要素もぶち込んだ「光と闇が両方そなわり」的な「僕の考えた最強の」アレである。

 頭部に内蔵するのはスペリオルの象徴であるインコムではなく、ダブルゼータのハイメガキャノンに変更。背部ビームカノンもダブルゼータのハイパービームサーベル兼用タイプにし、さらにバックパックにはダブルゼータのに似せた連装ミサイルランチャーも追加。大腿部ビームカノンも当然のように砲身を大型2連装化した重武装高火力な「頭の悪い」ガンプラ。

 

 ダブルゼータっぽくなったからダブルエスであるのだがそれだけではない!

 ビルドダイバーズでGBNでの威力が証明されている有効な装備も追加している。

 GNドライヴなんだけどね。

 GBNのトランザムはガンプラの出来次第で暴走もあるんだっけ?

 

 スペリオルって大きな両肩と両脛にジェネレータを内蔵している設定なんだけど、それをGNドライヴにしてみた。ツインドライヴの時点で同調とか大変なのにそれがカルテット。

 両肩にGNドライヴというダブルオーっぽさもあるからダブルエスという、高火力もこれによって問題なしの、まさに小学生が考えたレベルの最強ガンダムだ。

 あと、GNドライヴの同期はALICEによるサポートでって設定にしてるけど、製作技術でカバーできるかのテストでもある。上手くいったらGコアのもGNドライヴにしてみるのも悪くないかもしれない。

 

「トランザム!」

 

 発動と同時に視界に赤い光が入って、光の翼で高速移動中のV2以上のスピードで飛ぶダブルエス。……スペリオルガンダムは分離か変形しないと飛行能力はない設定だけど、GBNだとだいたいの機体が飛行可能だったりするのはゲーム的な理由だろうけど便利だ。

 

『エスガンダムがトランザム!? ALICEじゃなくて?』

 

 スペリオルをエスガンダムって略すのは特に嫌いではない。逆シャアのνガンダムの初期名称がHi-Sガンダムでそれから逆算してSガンダムって名づけらしいからね。眼鏡ウッソもきっとそれを知ってるんだろう。

 

「ダブルエスガンダムだ! ……う、おおお」

 

 うわ、予想以上に速い!

 ボスアッザムの謎ビームを回避しながらビームスマートガンを発射。っと、ビームがさっきより太い! 眩しい! そうか、ビームスマートガンは元のスペリオルと同じく大腿部ダブルビームカノンの代わりに本体に接続している。ジェネレータであるGNドライヴに直結されていることになっているはずだから、トランザムで威力もアップする。これをダブルバレル化してたらどうなってたんだか。

 

『やった!』

 

『さすがケイワンさんの同門です!』

 

 ごめん、ラストアタックは譲るつもりだったのにトドメさしてしまった。言うと逆にカッコ悪いんで口には出さない。

 

「そっちもたいしたダメージはなさそ……倒した残骸が消えない? こいつ、第2形態とかなかったよな?」

 

『は、はい。……エネルギー反応が増大してる?』

 

「まさか爆発でもするのか? とにかく、いったん緊急離脱しよう!」

 

『了解!』

 

 言ってる間に、モニターには残骸を指すアラート表示で警告音までも鳴り出した。ここは急いで別エリアに待避するべきだろう。

 行き先も設定せず、近場の転送ゲートに全力でダブルエスを突っ込ませる。トランザム発動中の無茶苦茶なスピードで。

 

「なんかヤバい音がしたけど、ゲート壊れてないだろうな?」

 

 あれ? V2がついてきていない? 同じゲートくぐるコースだったよな?

 って警告音が止まらない? まさかトランザムの暴走?

 GNドライヴの状態を確認しようとしたら機体から放り出された。というか、機体が突然消えた。

 

「そんな操作してないのに……」

 

 地面に落下するも、そんなにダメージを受けずに着地。落下死はしなかった。

 

「あれ? 出てこない?」

 

 消えたダブルエスを呼び出そうとしても失敗。破壊されてて動けなくなっている?

 こんなことならケチらずに修復アイテムを買っておけばよかったかも。

 このエリアに修理できるドッグがあるかな?

 ……ここどこさ?

 

 宇宙世紀にはありえなさそうなゆるんだ感じの背景。なんだろう、ギャグ漫画の世界のような? そんなエリアあったっけ?

 

「どうしたんですか?」

 

「え? ああ、このエリアはいったいどこかなって」

 

 他のダイバー、もしくはNPDって略されるノンプレイヤーダイバーかな? いわゆるNPCで、とか考えながら声のした方向に振り向くとそこにいたのは見たことのある少女だった。

 

「ここからもうちょっと行くとSD村だよ」

 

「はい?」

 

 SD村? 漫画「ダブルゼータくんここにあり」の舞台だ。でもたしかGBNにはそんなエリアはなかったはず。

 え? いつのまに実装されてたの?

 というかこのエプロンドレスの少女って。

 

「あ、僕はZ(ゼータ)だよ」

 

「Zちゃん?」

 

「うん」

 

 いや、ZはZなんだけど、ZガンダムじゃなくてZ1型だよね?

 なに? NPDが世界攪拌(ワールドシャッフル)の影響で融合しちゃった? 艦これのZ1と?

 服こそZちゃんのエプロンドレスだけど顔や体は艦隊これくしょんのレーベレヒト・マースになっている少女。

 

「え、ええと……ZちゃんはSDじゃないよね?」

 

「え? 僕はSDだよ。どこからどう見ても……」

 

 そう言いながら自分の手足を見るZ1ちゃん。途中で異変に気づいたのか、自分の顔をぺたぺたさすさすして。

 

「あ、あれ?」

 

「バグじゃないよな? NPDがELダイバーに変化? ……いや、ELダイバーともちょっと違う?」

 

 ELダイバーってのはGBNで産まれた電子生命体でいいんだっけ?

 あれはプレイヤーがいる普通のダイバーと見た目は同じはず。アカウントも持っていてフォースにも入れる。

 

「GBNアカウントは持ってる?」

 

「アカウント? あ、これ?」

 

 むう。完全にELダイバー化しちゃってるみたいだ。プレイヤーが融合しちゃって記憶が混乱してる可能性もあるが、それでも自キャラをSDだって名乗らない…よな、きっと。

 これは世界攪拌(ワールドシャッフル)の名前が同じ部分があるから融合した、案件だろう。ゲーム世界内でも起きてるなんて。いや、タイガーウルフが藤ねえになってたぐらいだからこんなのもありえる?

 

「と、とにかく、村へ行ってみよう。案内してくれるかい?」

 

「う、うん」

 

 そこからSD村は本当にすぐの場所だった。住人は人間サイズ……ドワーフサイズなSDたちだ。少女だけがSD体型のMS少女。まあMS少女タイプは数は少ないんだけど。

 こうなるとオリジナルの嫁さんたちが融合してないか気になるな。あと関係者も。

 MS少女タイプだとグフちゃん、ケンプファーちゃん、リゲルグちゃん、か。グ布ちゃんや権プファーちゃんがあやしい?

 

 オリジナルの嫁の一人であるゆきかぜはもうオリジナルと合流したがその母である不知火は行方不明になっている。そして、シラヌイという換装パックを持つMSがいる。

 まさか強化パックと融合、なんてありえなさそうだが、SD村のマークⅡお兄さんはGディフェンサーをペットみたいにしていた。別個体の生物扱いされてたらあるいは……。

 

 調べねばなるまい。

 なにより、オリジナルより受け継いだオタク魂がダブルゼータくんやアッシマーくんが動いて喋るのを見たいと轟き叫んでいる!

 

「はっはっはっ。サイコ長老MK-Ⅱじゃ。SD村へようこそ。鍛冶屋のドムさんに会いにきたのじゃな」

 

 真っ白い髭の生えたSDサイコガンダムMK-Ⅱが現れた。足腰が弱っているのか、手には木製の杖まで持っている。

 

「え? おじいちゃん、そうじゃなくて! 僕の体が!」

 

「彼の刀は有名じゃからのう」

 

「おじいちゃん? ……どうしよう、おじいちゃんがボケちゃった!」

 

 NPDだからそんなに台詞のパターンがないのかな?

 台詞から考えるにSD村は刀入手のイベントがあるのかもしれない。名刀ニュータイプがもらえるんだったら侍や忍者系のダイバーには人気が出そう。

 

「おかしくなってるのは……」

 

 Zちゃんの方なんだよなあ。

 ちっちゃいサイズのSDが動いて会話できるのは嬉しいけど、長老の会話パターン数も少なそうだし、マップオブジェクトの作り込みも甘い気がする。

 このSD村、もしかしたら開発中の未解放エリアなのかもしれない。俺がここにこれたのはバグなだけで。

 

「な、なにかな?」

 

 じっと見つめていたらZ1ちゃんが顔を赤くしてうつむいてしまった。うん、可愛い。

 バグか。

 ブレイクデカールの影響もあるだろうけど、ELダイバーの存在もこの時点ではバグを呼ぶんだっけ?

 運営にバグとして処理されても可哀想だし、この子は保護しておいた方がいいかな。オリジナルの嫁を探す助けになるかもだし。

 

「俺とフォースを組んでくれるか?」

 

「え? う、うん」

 

 登録にはロビーへ移動しなきゃいけない。

 って、移動するためのガンプラが呼び出せないんじゃないか。

 ログアウトして再ログインすれば行けるだろうけど、Z1ちゃんとははぐれてしまう。……ガンダムビルドダイバーズのサラってどうやって移動してたんだろ。

 

「なにナンパしてるのよ!」

 

 いきなりそんなこと言われてしまった。オリジナルの性格の影響を大きく受けているシャイな俺がそんなことできるワケないでしょーに。

 あれ?

 言ったのZ1ちゃんじゃないよな。

 

「キミは?」

 

 Z1ちゃんと同じくエプロンドレスの少女。まさかΖガンダム3号機ちゃん? いや、SD体型じゃないし、顔も艦これのZ3ではない。

 でもなんか気になる。

 エプロンドレスというかアリスドレスがよく似合ってる可愛い少女。

 ……ん?

 

「まさかALICE? ダブルエスなのか?」

 

「あら? わかっちゃったのね」

 

 てへっと舌を出したアリス少女の姿が消えて、MSサイズのダブルエスが出現した。

 え?

 ええ?

 

「綺麗なガンプラだね」

 

「あ、ああ……これでフォースの申請に行ける」

 

 ダブルエスにZ1ちゃんと2人乗りしてみる。スペリオルと同じく、Gアタッカー(Aパーツ)、Gボマー(Bパーツ)、Gコア(コアファイター)にも分離合体できるようにしてあるからコクピットも3つあるけど、Z1ちゃんは俺の隣に立っている。操縦できるかわからないもんな。

 

「ちゃんと動くか。異常はなさそうだし、どうなってるんだ?」

 

「この子、なんか怖かったみたいだよ」

 

 Z1ちゃんはELダイバーらしくガンプラの気持ちがわかる、か。

 怖いってトランザムのことだろうか?

 

「俺は、俺のガンプラを信じている。そうトラブルなんか起きないさ」

 

「あ、なんか喜んでる」

 

 この状況がトラブルなんだけどね。

 ガンプラの出来が良すぎて、ALICEの再現が超AIレベルじゃなくなってああなった?

 むう、よくわからん。

 

 その後、申請のためにZ1ちゃんのポイント稼ぎしてランクを上げて、フォースを結成することに成功。

 フォース名は悩んだ。頭の隅に「万事屋」って浮かんだけどそれを振り払って。

 

「SD村鎮守府。いい名前だね」

 

 フォース名っていうより施設名っぽいけどな。

 

 



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ガンダムビルド○○○○○編 5話

評価、お気に入り登録、ありがとうございます


 なんかあっちの俺が未解放エリアに拠点を築いたらしい。

 GBNのパーティというかチーム、部隊であるフォースの拠点はフォースネストって名称なんだけど、普段は転送で行ける空間にある部屋でどこかのエリアに設置すれば、そのエリアの構造物となる。

 エリア設置のためにはフォースランクやポイントやコインが必要なんだけど、その辺いいのかな?

 

 一応、あっちの俺が運営には報告したんだけどバグで行けちゃった未解放エリアだってことは誤魔化されて「隠しエリアだからひろめないでね」みたいな返答だった。拠点化もなし崩しにOK貰えたみたい。

 いつアップデートでなかったことにされるか微妙な気はするけどね。アプデで拠点ロス……うっ、オリジナルの記憶が!

 

 わがフォースであるビルドダイバーズもアニメと同じく初フォース戦であるイベントバトルを申し込んでその打ち合わせのために謎空間のネストで会議。

 なんだけど。

 

 ううっ、なんかじっと見られてるよ!

 ダイバ忍ことアヤメちゃんに。

 初対面のはずなのにさ!

 

 プレイヤーはフジサワ・アヤ。ダイバーであるアヤメはかなり胸を盛ってると評価される子だ。名前的にオリジナルの奥さんの五十嵐(いがらし)(あや)との融合を疑っていたんだけど、その心配は今のところないっぽい。

 なのに睨まれてる。ツカサがなにか吹き込んだんだろうか?

 アニメのように握手を拒まれたりしてないのに。

 

「あ、あの?」

 

 ぷいっとされてしまった。

 なんか俺、悪いことしたっけ?

 も、もしかしてJCハーレム野郎って蔑まれてるのか?

 女性に嫌われていたオリジナルの記憶が甦る。ビルドダイバーズで一番好きなキャラにこんなことされるのはツラい。

 

 ……仕方ないか。ツカサをなんとかして、前のフォースのガンプラを回収できれば仲良くしてくれると信じよう。

 それより問題はどこまでやるか、なんだよなぁ。

 俺があんまり活躍するとリク君たちの成長を妨げることになるんじゃないかって思えちゃって。

 リク君たちには強くなってもらわないと困る。

 

 ビルドダイバーズの世界は平和なのに続編だと地球がピンチになるからね。いや、ホビーアニメはなぜかホビーで世界の命運をかける戦いが定番っちゃ定番なんだけどさー。

 ビルド系のはそんなの関係なく、遊びだからこそ真剣にやってるのが好感持てたっていうか。だから俺的には続編の評価はちょっと低い。

 

 続編主人公のヒロトの方はどうするかな?

 ELダイバーのイヴは助けたいから、同じくELダイバー化したZ1を仲間にしたあっちの俺がフォローすればいいか。メイが生まれなくなりそうなのはなんとかデータ片を複製してバラ撒くとか考えんと。その辺はツカサ頼りになりそうではある。

 

「コーイチさん?」

 

「あ、ああ。チーム戦の前に会議なんてちょっと昔を思い出して。バトルの戦場はわかってるんだから実際に行ってみるのもいいかもね」

 

 今はこっちに集中しないといけないか。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 ガンダムベースの店員にはなっていないが、展示やレンタル用のガンプラの制作は頼まれているし、人手がほしい時はこうして妹に呼び出される時もある。

 

「データがあればパーツをキットの状態で作ってくれるってスゴいよなあ」

 

 リク君のガンダムダブルオーダイバー用にも出力した、この射出成形機いいなあ。オリジナルも欲しがるだろうからスキャンしたデータ、ハロ通信で送っておこう。

 

「あ、お兄ちゃん。ファクトリーベースにいたんだ。探したよー」

 

「どうした? またガンプラの区別がつかなくなったのか?」

 

「なんで似たのばっかりあんなにあるかな? じゃなくて! ご指名よ!」

 

 は?

 ご指名?

 リク君たちがきたのかな? 仕事中だからGBNのプレイはできないって知ってるだろうに、なにかあったんだろうか?

 不安になりながらも妹に手を引かれた先には2人のお嬢様、それにメイドと執事が待ち構えていて。

 

「あなたがケイワン? ダイバーの面影があるわね。あの時はお世話になりました」

 

 ぺこりと頭を下げる1人のお嬢様はGBNでこの前あったイリヤのプレイヤー。あっちの俺の記憶で知っているよ。

 もう1人も知っている。ガンプラビルド系アニメのキャラだ。

 ただし、ビルドダイバーズのキャラでも、続編のキャラでもない。

 金髪でやや大きめなドリル4本の彼女は「おーっほっほっほ」と笑ってから自己紹介。

 

「私はヤジマ・キャロライン」

 

 え? なんでキャロちゃんが?

 ビルドダイバーズじゃなくてガンダムビルドファイターズのキャラだよねこの子。

 たしかにビルドファイターズのキャラではオリジナルの推しだった気はするけどさ。

 もしかしてこの世界、ビルドダイバーズじゃなくて、ビルドメタバースだったってこと?

 

「は、はあ。ナナセ・コウイチです」

 

 混乱しながらも名乗り返す。

 名刺も作っておくべきだったかな?

 

「あなた、なかなかのビルダーだそうね。私のコーチにしてさしあげるわ」

 

「は?」

 

「ちょっとキャロラインお姉様、私の用事の方が先よ!」

 

「はい?」

 

 え? この子たち姉妹……ではないよな? 顔はあんまり似てない?

 

「この前のV2? はお兄様にさしあげることにしたの。だから、私用の可愛いガンプラを用意して!」

 

「ええと、ケイゼロの連絡先、知ってるよね? あいつに頼んだ方がいいんじゃ?」

 

「だって、お兄様はあなたのガンプラが大好きなんですもの」

 

 むう。そう言われると悪い気はしないが、どっちも同じなんですが。ウソ八君によく見れば違いがわかるとか適当なこと言っちゃったもんなあ。

 

「でもそれなら、お兄さんのガンプラをお兄ちゃんが用意すればいいんじゃない?」

 

 ややこしい提案をするなナナミ。

 

「お兄様、ケイワンさんの作品に手を加えるなんておそれ多いけど、そうじゃないなら自分で改造できるからって、すごい喜んでくれたの」

 

「あれを改良か。それは楽しみだね」

 

「でしょう! だから私も自分の、可愛い! ガンプラがほしいの!」

 

 可愛いを強調するイリヤプレイヤー。可愛いって言われてもなあ。

 まあ、ガンプラを選ぶのに悩むぐらいで可愛いのを作るのは問題ないか。ビルドダイバーズでサラちゃんのボディを作るのは俺なのだからね。

 そうなると、問題はこっちか。

 

「そっちは、コーチって?」

 

「そうよ。私にガンプラを教えなさい!」

 

「あ、あの、ニルス・ニールセンは?」

 

「誰ですの、それ?」

 

 あんたの彼氏で婚約者でしょうが!

 もしかしてニルスまで女性化しちゃってる? ……いや、GPDはビルドファイターズのガンプラバトルシステムと違ってプラフスキー粒子を使用してない。なんで動くかはわからんがプラ粒を使ってないからニルスはGPDに興味を持たなくて、ガンプラに手を出さなかったということかもしれない。

 戦国アストレイも好きなんだけどなあ。

 ……GPD人気が下がってるからニルスはガンプラはやってるけど、ヤジマ商事が彼、もしくは彼女のスポンサーにつかなかったというのもありえる?

 

 

「キャロライン様はお嬢様のご親戚のお姉さんなのですが、ライバルとみなしていた方が最近、ご友人の趣味であるガンプラに染まって、自分にかまってくれないのが寂しいと」

 

「ち、違うわよ!」

 

「それはすみません。私の勘違いでしたか」

 

 なかなかいい性格してそうなメイドさんが事情を説明してくれた。この人もGBNではセラかリズになるのだろうかね?

 真っ赤になって否定するキャロちゃんでだいたい察する。

 でもライバルってチナちゃんでその友人ってセイだよな。

 イオリ・セイ。ビルドファイターズの主人公で重度のガノタ。……オリジナルの奥さんの星と融合してる可能性もあるか? 男の子だったらこのメイドさんはボーイフレンドって説明しそうだし。

 

「ともかく、私がチナさんにGPDで勝てるようにコーチさせてあげるのですわ!」

 

 金髪ドリルお嬢様が得意気にパチンと指をならすと今まで黙っていた執事、というより帝愛で働いてそうな黒服グラサンがやはり無言で小切手を取り出す。……まさかもう1人の主人公っぽいレイジがカイジと融合なんかしてないよな?

 

「そ、それこそケイゼロのやつに頼んだ方がいいんじゃ? ってGPD? GBNじゃなくて?」

 

「それですわ! チナさんをたぶらかすあの女がやっているGPDでこてんぱんにして、目を覚まさせてあげるのですわ!」

 

 あの女、か。やっぱり女の子なんだセイ君。でもリク君たちも女性化している世界だからなあ。会って確認する必要があるな。母親でありヒロイン扱いされることも多いイオリ・リン子は既に稟、凛子のオリジナルの奥さん2人が見つかっているので心配はないけど、他に誰かいるかもしれないからあとでじっくり考えないと。

 そしてセイ君が女の子だからこそキャロちゃんも仲のいい子を奪われたって感じが余計にしているみたいだ。

 

「あれ? お兄ちゃん、GPDって人気ない、よね?」

 

「GBNに比べたらね。俺たちがやっていたチーム戦なんてもう大会もほとんど無いよ。ただ、筐体は高いからね。購入した模型店やゲーム店はまだ稼働させてる場所もあるし、レンタルも前に比べたら安くできる。地域のイベントでも個人戦の小さな大会はあるみたいだよ」

 

 それなりに気を使ったのか、俺にとってデリケートな質問をゆっくりと聞いてきた妹に答える。

 ()は個人戦よりもチーム戦での大会出場を目指していたから、仲間がいなくなってどうしようもなくなっていたんだけどさ。……あいつらと世界を目指すつもりだったのに!

 

「さすがね。お兄様がGPDにも詳しいって言ってたとおりね!」

 

 その「さすが」はお兄様にかかっているんだろう。かなりのブラコン。プリズマっぽい? 魔法少女か。ガンダムでも選択肢がないワケじゃあない。

 つうかウソ八君、どんだけ俺の情報集めてんのさ。ちょっと怖いぞ。

 

「世界大会もあるのですわ!」

 

「個人戦のね。キャロ……ライン君はそれに出たいってワケじゃあないよね?」

 

「大会の予選受付ももう終了していますから、そこまでは求めませんわ」

 

 ふむ。フォース戦の準備もあるし、断るつもりだったけどGPDと聞いて()が疼き出してしまっている。

 この子に関わっていれば、ビルドファイターズの子たちとも接触しやすくなるか。

 

「そうだね。モモカ君のガンプラ制作のついでに一緒に教えるのならそんなに手間にならないかな?」

 

「私をついで扱い?」

 

「先約だからね。それが嫌ならこの話はなかったことに」

 

 オリジナルの奥さんたちの確認がちょっと面倒になるかもだけど、直接会いにいけばなんとかなるだろう。ビルドファイターズの方はプラ粉がないならアリスタの暴走もないだろうし、世界の命運がかかることはあるまい。

 だから、こっちの方が重要。地球が駄目になったらいるかもしれない奥さん方もまずいからね。

 

「……仕方ありません。それでいいですわ」

 

「キミのガンプラもその時一緒に作ろうか。自分で作るのも楽しいよ」

 

「わ、私も?」

 

「その後の改造はお兄さんと一緒にやればいい。まずは基礎だけでも、ね」

 

 小っちゃいお嬢様は真っ赤になってゆっくりこくんと肯いた。

 そしてナナミ、なんで黙って考え込んでいる?

 

「GPDの世界大会予選……」

 

「どうした?」

 

「え、ええとね……もしかしてお兄ちゃん、エントリーされているかも?」

 

「え?」

 

 急にワケのわからないことを言った妹。よく見ればだらだらと汗をかいて目も泳いでいる。手の動きもわたわたと挙動不審だ。

 

「い、いやあのね、ずいぶんと前にね、GPD世界大会にガンダムベースでも代表選手を出そうって話があって、でも誰も立候補者がいなくて、ほらみんな、今はGBNばっかりやってるでしょ?」

 

「それで?」

 

「だからお兄ちゃんGPD経験者ですよって説明したら、じゃあよろしくって言われてね。リク君たち紹介する前だったし、お兄ちゃんが立ち直るきっかけになるかもって。で、でも、それっきりその話を全然してもらってないから、GPDも廃れたし、世界大会もなくなったのかなー、なんて……すっかり忘れてた、ごめんね」

 

 はあ、とため息。そりゃ()はチームのみんながGPDを離れて落ち込んでいたけどさ、個人戦にエントリーされてもなあ。しかもガンダムベースの代表枠なんて。

 

「どうなってるか、ちゃんと確認してくれ」

 

「え? お兄ちゃん出るの?」

 

「わからないけど、出るにしろ出ないにしろ、きっちりとしとかなきゃマズイだろ?」

 

 まあ、話がこなかったってことはガンダムベースから代表選手を出さなくなったかか、他に出たいやつが見つかっただろうから、そんなに気にすることもないか。

 

 

 ◇

 

 

 そしてすぐに作業コーナーで講習開始。

 

「工具は用意してる? なければここで売ってるから買ってね」

 

「コーチのおすすめはありませんの?」

 

「あるにはあるけど、結局、手で使う物だからね。自分の手に合った好みのやつを使うのがいいと思うよ」

 

 お高い工具をいきなり揃えそうでちょっと怖い。

 

「はーい。手で千切るのは駄目ってのは覚えたよー!」

 

 お嬢様2人に合流したモモカちゃんも当初は驚いていたが、持ち前のノリでぐいぐいといっているみたいだ。

 

「まずは説明書をよく読んで、パーツの確認。それが済んだら今回は普通に組み立てまで行こうか。改造なし接着なし塗装なしの素組み。シールもまだ貼らない仮組みってことで」

 

「仮、ですの?」

 

「うん。それで持ち帰ってじっくり動かしてみて、改良点を考えてみてくれ」

 

「私、どうしたいかもう考えているよ!」

 

 モモカ君はベースとなるカプルを使ったことがあるから、改良点はまとまってるんだった。

 アデリーペンギンの動画を見せられるんだよね、たしか。

 

「実際に自分で組んでみると、また違った部分が見えてくるかもだからね。それにあのカプルも素組みじゃないからそれとは結構違うんだ」

 

「そうなんだ。あの子もスペシャルだったんだねー」

 

 モモカ君は当然カプル。キャロライン嬢も騎士ガンダム。残るイリ子嬢は悩んだけど結局、HGUCのザクIを選んであげた。いわゆる旧ザクである。

 

「ザクI? たしかに丸っこくてかわいい?」

 

「うん。それを1日号っぽく改造しようと思うけどどうだろう? 魔法の少尉ブラスターマリって漫画に登場したMSなんだ。あとで漫画も見てくれると嬉しい」

 

 こっちの世界でもブラマリがある記憶があるので漫画も探せば見つかる。

 まあ、1日ザクはFZ(ザクII改)を旧ザクっぽくしたイメージだけど。ニコイチしちゃうか? 予算はありそうだ。

 面倒なのはステッキだけどそれぐらいは作ってあげてもいいだろう。

 

「ガンダムなのに魔法なの? あ、魔女ってのもいるんだっけ?」

 

「水星の魔女は魔法使わないからね」

 

 だってイリ子ちゃんだから魔法少女は外せないよね。

 V2に合わせたらVセカンドも捨てがたいが、キットないしね。それともV? 旧ザクが気にくわないみたいだったらV系で見繕うかな。

 

「ちょっとランナーを残してニッパーで切って、カッターで綺麗に切る、ね」

 

「ああっ、パーツ一気に切っちゃ駄目だってば」

 

 少女たちはついでに参加したいと言ってきたリク君とユキオ君のサポートを受けて、無事に素組み完了。オリジナルがしたロリ嫁たちとの勉強会の記憶が役に立った気がする。

 でも、疲れた。カッターの持ち方を教えようと手に触ったら、柔らかくて妙に意識することになっちゃったりして焦ってさ。むこうはそんなに意識してないのに!

 

 オリジナルみたいに早く一線越えて女性に慣れるべきなんだろうか?

 相手がいればなあ。

 

 




リアルの方で不幸があってちょっとしんどい
いつもとノリが違ったらごめんなさい


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ガンダムビルド○○○○○編 6話

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 この世界はビルドダイバーズの世界かと思っていたらそれだけじゃなくてナナセ・コウイチとして動いている()がビルドファイターズの登場人物であるキャロライン嬢と接触したらしい。

 で、俺の方もビルドファイターズの人物から依頼を受けてしまった。

 

「世界大会用のガンプラ、ですか」

 

「ええ。是非ともお願いしたいの」

 

 依頼者はコートで帽子装備のそばかすの女性。見覚えのあるこの女性は。

 

「キララ!?」

 

「な、なんでバレたの?」

 

 だってアニメで見てたからね。

 でもまさかミホシ姿で俺にGPD世界大会用の制作代行の依頼にくるとは思わなかった。キャロちゃんがガンプラ始めるタイミングと違うけど、そもそも完全なビルドファイターズの世界じゃないから世界大会の地区予選もまだ始まっていない。

 ただ、キララはファンに制作代行を頼んでいたんじゃなかったっけ?

 

「な、なんとなく? そ、それで依頼はどうします?」

 

「……よろしく。さっき言ったようにあなたのガンプラなら地区予選も楽に勝ち進められるわ」

 

「自分で作った方が機体を把握できて動きもよくなると思うけど」

 

「それよりも依頼した方が勝てると判断したの。サンプル画像だけでも確信してる。あなたの作品は世界レベルよ」

 

 この人、アイドル修業でガンプラ制作までおぼえた苦労人。だからこそガンプラのできがわかるようになって、勝てるとは思えなかったセイのガンプラに細工をするんだっけ。

 そんな鑑定眼を持つ人に世界レベルなんて言われるとかなり嬉しい。

 

 ミホシが本名なはずで、天地無用の美星との融合の可能性もあるがその兆候は見られないようだ。

 

「お世辞でもありがとう。でも、GPDで勝つガンプラを作るならやっぱり使い手も制作に関わるべきだ。じゃないとこの依頼は受けられない」

 

「そんなに私と一緒に作りたいなんてファンなのね」

 

 いや、GPDに青春をかけた()の部分が黙ってられなかっただけですから。

 たしかにキララ、というかミホシもオリジナルの好きなキャラだったってのもあるけどさ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ファンにバレることを警戒したのかミホシの家でガンプラ制作。一人暮らしの彼女の家で二人っきりなんて妙に緊張していたんだけど。

 

「もうやだ……」

 

「どうした? どこかミスったか? ってザックリやっちゃったなあ」

 

「アイドルなのにこんなことでまたキズモノになって……マイク持つ手が傷だらけなんて……」

 

 作業中に指を切ってしまったミホシが止血もせずにポロポロと涙をこぼす。あれ? こんなに弱々しいとこを見せるキャラだったっけ? 仕事でなにかあったのかな?

 

「事務所も大会に集中しろって他の仕事を減らして……GPDが落ち目なのに」

 

 ああ、ビルドファイターズと違って世界大会もそんなに注目されてないのか。だから自分の現状を考えて泣けてきちゃったと。

 

「ほら、よく見せて。……ちゅぱ……っと。お、思ったより傷は深くなかったな」

 

「ちょ、ちょっと、いきなりなにを?」

 

「応急手当という名の指ちゅぱ?」

 

 俺はオリジナル譲りの魔法スキルも持っているので治療もできるんだけど、それを見られるワケにはいかないからね。指を口に咥えて隠れた瞬間にこっそりと魔法治療をほどこしたよ。

 

「もう、セクハラよ……ってえ!? 治ってる?」

 

「塞がっただけだから一応、絆創膏しとこう」

 

 俺の唾液を拭いて傷跡のない指に絆創膏を巻く。うん、よく見ると彼女の手には他に過去にできた傷跡がいくつかあるな。モデラーの手だ。

 これはオリジナルの無茶苦茶な魔法ならともかく、俺のじゃ消せないか。

 

「ちょっと待っててくれ……あった」

 

 鞄の中を探すフリをしながらスタッシュからエリクサーを出す。異世界に派遣される探査器(プローブ)たちにオリジナルから持たされる標準装備の一つだ。

 

「栄養ドリンク?」

 

 塗料用の皿と新品下ろしたての塗装筆にまたこっそりと殺菌魔法をかけてから、塗料皿をウエットティッシュで綺麗に拭いて、その上にエリクサーをほんの一滴垂らし。ミネラルウォーターを注いで、筆で軽くかきまぜる。

 

「これ、強すぎるから水でかなり薄くしないと。はい、手を出して」

 

「は、はい?」

 

 傷だらけのモデラーの手に希釈エリクサーを筆塗り。ぬりぬりぬりぬり……こんなもんかな?

 

「くすぐったい……嘘? 傷跡が!?」

 

「今度は反対側の手貸して……ちょっと余るか。そうだな、もったいないから」

 

「え? ちょ、ちょっといきなり見つめられると」

 

「動かないで」

 

 頬に軽く手をあててそう言ったら動かなくなってくれた。というか、硬直された? ゆっくりと目まで閉じられちゃったし、なんか勘違いさせてしまったような。

 嫌な汗をかきつつ、残った希釈エリクサーでミホシの顔をぬりぬり。オリジナル作のこれならこの濃度でも効果はちゃんとある。

 

「はい、できたよ」

 

「え? あ、あの」

 

「顔洗って、鏡見てきて」

 

 きょとんとしていたミホシは「なんなのよ」と言いながら洗面台に向かい、しばらくしてすごい勢いで戻ってきた。

 

「そばかすが無くなってる! しかも過労でうっすらできてたクマやシワまで綺麗に消えてる! いったいなにをしたの!?」

 

 そう。希釈エリクサーでもそばかすが消えるのはオリジナルの嫁さんの沙和で実証済み。文の顔の傷跡も綺麗になくなっている。治る前にオリジナルにぺろぺろされてので微妙に残念そうだったけどね。

 

「秘伝のかなり強い秘薬を塗っただけだ。貴重な品だから無駄にしたくなくてね」

 

「あ、ありがとう」

 

 また涙ぐまれてしまった。今度はさっきとは逆方向の涙だろうけど。

 これでガンプラに集中できるかと思っていたら、ミホシは妙に浮かれちゃって自撮りしまくり。肌年齢も若返った彼女の笑顔が魅力的で。

 

「代金はキスでいいよ」

 

 なんてつい慣れない冗談を言ってしまった。

 

「も、もう。しょうがないわね」

 

「え、いやあの、じょ」

 

 冗談だって言う前に唇が奪われてしまった。

 融合前から考えてもファーストキスだったりするんだよなあ。

 

「俺のはじめて……」

 

「ふふっ。ファンには秘密、だからね」

 

「う、うん」

 

 やばい。このままじゃ勘違いしてミホシに襲いかかるかもしれない。そんなことは絶対にできない。

 でも俺、オリジナルと違って結婚してるワケじゃないから別にいいのか? 使徒やファミリアってワケじゃないから子供ができるかもしれないけど責任取ればいいんだし!

 ……あっちの俺と違って、戸籍ないから責任取れないか。

 

「どうしたの?」

 

「なんでもない。予選も近いし、早く完成させてテストしよう」

 

「そうね。今のままでも小細工なしに地区予選突破できそう」

 

 小細工、ね。アニメだとセイ君たちと当たるまで謎の不戦勝だったんだよな。みんな色仕掛けで説得したのかな? どんな手を使っても勝ちたかったんだろうけどなんかムカつくな。

 オリジナルならここで「10倍返しだ。予選突破したら10倍返しだ。おぼえとけよ!」するんだろうけど、俺にはちょっとその勇気はない。

 

「怖い顔してるわよ」

 

「……ちょっと、気分転換しないか?」

 

 

 ◇ ◇

 

 

「気分転換でGBN?」

 

「ああ。って、ダイバーまでキララなのかよ」

 

 ちょうどいいタイミングなのでミホシをGBNに誘った。GPD世界大会で名を上げようとしている彼女だけど、ちゃんとGBNのアカウントも持っていたよ。アバターまでキララそのまんまの姿だったのは、GBN実況動画の仕事も考えていたのかな?

 

「その子が新しいフォースメンバー? 僕はZ1だよ、よろしく!」

 

 Z1と融合したZちゃんはZちゃんを名乗るとNPDっぽいのでZ1を名乗るようにしている。衣装はZちゃんのままなんだけどね。

 

「キララよ。忙しいからフォース参加はちょっと。ごめんなさい」

 

「ううん。しばらくコーと二人っきりもいいよね?」

 

「コー?」

 

「俺がケイゼロだからK-0、KOでコーってダイバー名」

 

 シルバーさんにしようか迷ったけどね。銀さんアバターでシルバーならオリジナルの嫁さんも気づくかもだから。

 GBNに連れてきたのはZ1ちゃんを紹介するためではない。目的のポイントに移動して、と。

 

「あら? あなたは?」

 

 プリケツのオネェダイバーがむかえてくれる。そこには他の有名ダイバーと知ってる顔もいてすぐに俺に気づいた。

 

「ケイゼロさん!」

 

「キミたちもいたか。あの後、大丈夫だったかい?」

 

 ウソ八君とイリ子ちゃんもいた。

 あとビルドダイバーズの面々。当然もう1人の俺も。

 

「きてくれたんだ」

 

「ああ。お前たちの初陣を見せたくてな」

 

 テレパシーである程度のことはわかってるもう1人の俺(コウイチ)とわざとらしくならない様に意識しながらの会話。

 そう、ついにビルドダイバーズの初フォース戦が行われるので見に来たのだ。

 

「サラ? もしかして君は僕と同じなのかな?」

 

「そう、なの?」

 

 Z1ちゃんをサラちゃんに会わせたくもあったしね。

 うん、仲良くなってくれそう。

 

「ねえ、女の子ばっかりなの?」

 

「GBNは女性プレイヤーが多いみたいだな。GPDより野蛮じゃないって」

 

 キララのジト目での質問にため息混じりの答えを返す。

 

「あ、そうだ。この戦い、キャプチャーした動画流していいか? アイドルの実況付きで」

 

「えっ?」

 

「新人戦とはいえ、有名フォースの1チームとの戦いなら面白くなりそうだからな」

 

 相手チームである第七機甲師団のトップであるロンメルことダイバーナマモノは別アバターでの動画配信はやってるけどこの姿ではそのつもりもないのか納得してくれたので、後で配信するとしよう。リク君たちも喜んでくれたし。

 

「いいのかい? 友人の負ける姿を配信することになるかもしれないよ」

 

「さて。兄弟分を甘く見ない方がいいかもですよ」

 

 ロンメルは軍服を着た大きなフェレットだ。みゅーみゅー言いながら引っ張りたくなるよな。淫獣とは融合していないようでちょっとほっとする。

 観戦者たちと話してる間にフォース戦開始。遅れてチャンピオン登場。

 あっちの俺の愛機はガルバルディリベイクではなく、ガンダム・ザ・ブラックナイト。と名前を変えたヒュッケバインMk-Ⅲ。アニメと同じ展開にするつもりか、武装はグラビトン・ライフルの代わりにハンマープライヤーを手持ちし、背部コンテナのマルチトレースミサイルが榴弾砲に換装されている。

 

「あの黒いガンダムがあなたの同門の兄弟分?」

 

「そう。で、もしかしたら世界大会予選に出てくるかもしれない」

 

「はあ? 嘘でしょ? かなりの完成度よ、あれ!」

 

「当然よ! 私のコーチなんだから!」

 

 ダイバーイリヤがずいっと出てくる。なんかダイバー姿が魔法少女(カレイドルビー)っぽくなってるんだけど? もしかしてあっちの俺がザクI用にって渡したマジカルルビーのせい? いや、布団叩きやハエ叩きよりはマシかもしれんけどさー。

 むう、キャロライン嬢のダイバーはルヴィアっぽくなったりするのかね?

 

 フォース戦は全くと言っていいほど、アニメのとおりに進んで。

 

「あのカプルのコア、まさか、木製?」

 

「そうみたいだ、なかなか硬そうだな」

 

「やはり、模型秘伝帳……」

 

 元々のプチカプルもかなりの強度を誇っていて、同じくメチャ硬なガルバルディリベイクからコウイチの協力がありそうな部分なんだけど、プチカプルの変形って実際のプラモだとパーツを割って外した手足を中に収納っていう「それってどうなの?」な仕様でさ、どうせ球形なんだからと箱根細工っぽい変形で手足が収納できるようになってたりする。もちろん強度も元のより上がってるよ。

 

「サラたち、完勝?」

 

「ああ。いい連携だった。ガンプラの出来もいい。これからが楽しみなフォースだな」

 

 そのうちあいつらと戦うことがあるんだろうか?

 まあうちはメンバー数が少なすぎるし、Z1も当然ガンプラ持ってないから実質ソロなのでフォース戦なんてできないだろうけど。

 

「あとで実況しようね」

 

「う、うん。たしかにこれを配信したら視聴数すごいかも?」

 

 GPD大会の予選出場者であるミホシでもGBNの有名ダイバーやフォースは知ってるみたいだ。アカウントも持ってたし、ガンプラアイドルの基礎知識なのかもしれない。

 

「どうだい? 自分のガンプラ、イメージが湧いてこないか?」

 

「私の、ため?」

 

「そう。独自装備のないガーベラだとちょっとさみしくてね。あ、Z1にもこの戦いを見せたかったのもあるよ」

 

 アニメに出てきたキララのガーベラ・テトラも完成度は高いけど、いってしまえばそれだけでちょい物足りない気がするんだよね。

 あっちの俺も出るみたいだし、セイレイジ組には決勝に行ってほしいけど、ミホシも応援したい。

 セイ君を誑かして彼のガンプラに細工をするようなことはさせないから、かわりにミホシのガンプラが強くなるぐらいはいいだろう。

 

 

 ◇ ◇

 

 

 ミホシによるビルドダイバーズのフォースバトル実況動画は予想以上に閲覧数が伸びて、同時にミホシの仕事がちょっと増えた。そのおかげで、セイ君と接触する時間も取れなかった。

 予定どおり。

 なので代わりに俺が敵情視察だとイオリ模型店を訪ねてみた。オリジナルの嫁さんとの融合も心配だったし。リン子ママが稟か凛子とってのはどっちももうオリジナルと合流してるから大丈夫だけど、セイ君が星との可能性があるから。

 

「いらっしゃいませ」

 

 セイ君は危惧していた星とは融合していなかったようだ。……女の子だったけど。

 

「ぼくの顔になにか?」

 

 うーん。メナド・シセイ(・・)かな? ランスシリーズの。まさかそっちでくるとは。

 これ、操縦がセイ君になっても強いかもしれない。

 仮面のリック・ディアス使いとか出てこないよな?

 

 



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ガンダムビルド編 7話

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 あっちの()がミホシといい感じっぽい。羨ましい。

 初ちゅーまで済ませたというのだから、マジで俺と同じ分身? と疑いたくもなる。

 まあ、俺自身、オリジナルの奥さんの感情(EP)が籠められたコピーでもあるのだ。奥さんたちがこうだと思い込んでいる理想、こうであってほしいという願望の籠められた存在。オリジナルよりも女性の扱いに長けていても不思議ではないのかもしれない?

 それとも、分身した時に女性に慣れている部分はあっちの方に多くいってしまったのだろうか?

 

 俺のまわりにはそういう対象がいないから確認しようもない。

 みんな美少女だけど女子中学生ばかりなんで手は出せないもんなあ。ナナミも可愛いけどリアル妹は対象外。

 ……いや、オリジナルと奥さんたちの年齢差考えたらアリなのかもだけどさ。ヨーコと同じくらいの年齢?

 

 なーんてキャロライン君出場のGPD大会をリク君ユッキー君モモカ君たちと応援しながら考えてしまうのは、この大会が女性限定だからだろう。出場者みんな可愛いね。オリジナルはアレンビー似のイマイ・アリスに注目してたっけ。再登場して活躍してくれるのを期待してた。続編の方で出てもよかっただろうに。

 あ、サザキ君も出場してる。こっちも女の子なのね。融合はしてないみたいだ。

 メナドと融合してるらしいセイ君が出ないのはまだ操縦はレイジが担当だからか。

 それとも世界大会予選のために万が一にもガンプラを破損したくないのかもしれない。

 

「キャロちゃん強いねー」

 

「騎士ガンダム、丁寧に作り込まれてる。さすがコーイチさんの指導だ。あの盾、ビームを完全に無効化してる?」

 

「相手のギャンも出来がよかったのに!」

 

 一応実力はあるサザキ君にキャロライン君は勝ってしまった。騎士ガンダムも損傷無し。俺の伝授したシールドの強度は伊達じゃないのだよ。ある意味盾勝負で勝ったのは嬉しい。

 って問題なのはそこではなく、キャロライン君のライバルであるコウサカ・チナも融合してること。

 イオリ・セイのメナド・シセイと同じくランスシリーズの登場人物で、彼女の親友である見当かなみと融合してると思われる。

 ……「な」しか合ってないじゃん。いや、「う」と「か」もか?

 セイ君のことが好きすぎて彼が融合した相手と縁が深いキャラを引き寄せちゃった?

 まあ、ランス世界にいるよりはこっちの方が不幸じゃない、のかな?

 ちなみにオリジナルは見当の読みを「みあて」だとずっと思っていた。なんでだろうね。まさに見当違いってことなのかな。

 

「あのクマっぽいのもかわいー」

 

「ベアッガイの動きが忍者っぽくない?」

 

「アヤメさんみたいに必殺技あるのかな?」

 

 ガンプラ操縦も上手くなってるみたいだ。火丼の術を使ったりしないかな?

 一応、ガンプラ自体はアニメと同じ感じ。キャロライン君にはそのことは教えてない。っつーか、中に綿が入っているなんて見ただけじゃわからないからね。説明のしようが無い。

 

 チナ君が強くなってるので、準決勝でぶつかった2人はなかなかの接戦。

 だったんだけど、結局はビルドファイターズと同じく、ベアッガイ(さん)に仕込まれた綿によって動きを封じられた騎士ガンダムが敗れてしまった。

 すまないキャロライン君、自然な感じに騎士ガンダムに対策を仕込めなかった俺のせいだ。

 

 

 ◇

 

 

「キャロちゃん、残念だったねー」

 

「キャロラインですわ、モモカさん!」

 

 愛機であるモモカプルと騎士ガンダムの作成を一緒にやったからわりと仲いいんだよね、この2人。

 現在、コウサカというレストランでキャロライン君の残念会中。そう、チナ君の実家である。続編の主要キャラでチナ君の弟のコウサカ・ユウマもちらりと見たがちゃんと男の子だった。融合してないか。華()ってちょっと考えたんだけど違ったみたい。

 

 あと、セイ君チナ君も同席している。こっちは優勝祝い。

 

「私に勝ったんですもの、チナさんが優勝するのは当然ですわ」

 

「あ、ありがとうキャロちゃん」

 

「チナさんまで! キャロラインですわ、キャロレェィン!」

 

 ビルドファイターズとは違い、チナ君が大会で優勝してしまった。やはり融合で強化されているな。かなみの記憶は持っているんだろうか?

 

「ケイワンさん? 本当に世界大会に出るんですか!?」

 

「う、うん。なんか成り行きでね」

 

「GPD引退したって聞いてたけど復帰したんですね!」

 

 そして俺はセイ君に詰め寄られている。ぐいぐいとスゴい勢いだけど、チナ君ほったらかしでいいのかね? チナ君がさっきからちらちらとこっちを気にしてるんだけど。

 

「セイ君、コーイチさんってやっぱり有名なんだ?」

 

「当然だよリク君。巧みなチームプレイとガンプラの出来がスゴくてボクも注目してたんだから!」

 

 主人公2人もなんか仲良くなったみたいでよかった。話題が俺のことってのはちょっと恥ずかしいけど。

 というか、俺のこと知ってたというのは驚きだよセイ君。

 

「は、ははは。セイ君も世界大会に出るんだってね。君と戦えるのを楽しみにしてるよ」

 

「は、はい! ……動かすのはボクじゃありませんけど」

 

 あれ? そういえばレイジ君はまだ見てないな。こんな食事シーンにいないなんておかしいような。

 大食いで赤毛……まさかオリジナルの奥さんの食欲魔人の誰かと融合してないだろうな?

 

「ガンプラは君の作品だろ? それになんか、君は操縦も強くなりそうに思う。操縦感はちょっと違うけどガンプラを壊すのが嫌ならGBNで戦ってみるのもいいかもね」

 

「うーん、うち、まだGBNの筐体入れてないんですよね。そうするとGPDの筐体をどかさないといけないし、GBNの筐体も安くないしで」

 

「ああ、そっか。GPDの筐体を置いてる店、減っちゃったから無くなると寂しいよね」

 

「そうですよね!」

 

 GPDは実際にガンプラを戦わせるシステムが必要な分、筐体はそれなりのお値段がする。家庭用があるGBNとは違う。

 まあGBNの業務用は落ち着いてプレイ出来るように大型のシートがセットになっているから場所を取るのは変わらないか。プレイ時間を考えると客の回転率はGPDの方がいいだろうし。

 

「そうだセイ君、これ知ってるかな?」

 

 ユッキー君がテーブルの上に取り出したのはGBNのデバイスであるダイバーギア。それを操作してある動画を立体表示させた。

 

 

 ◇

 

 

『彼らに必要なのは飴ではなく鞭だったようだ』

 

『以上、ロンメルさんのコメントでしたー』

 

 見せたのはキララ実況による初フォース戦の動画。

 リク君たちはニヤけながら自分たちの戦いを解説してる。

 新人とはいえ、あの第七機甲師団の一員に完勝できて嬉しいのはわかるけど、もう何度見てるんだか。動画再生数に貢献しているね。

 

「これがケイワンさんたちのバトル!」

 

「スケジュールが合えば私もコーチたちの応援に行きましたのに。あの子たちズルいですわ」

 

 キャロライン君はこれなかったけど、親戚だか知り合いだかのウソ八君とイリ子ちゃんは応援に来てくれたんだよね。あれ? そういえばビルドファイターズには幸せそうなウッソ一家が出てたっけ。彼なのかな?

 

「スゴい! ケイワンさんのガンプラ! リク君たちのも!」

 

「えへへへ」

 

「えっへん!」

 

モモカプル(あのこ)、可愛いでしょー」

 

 得意気なリク君たち。俺としてはアヤメ君の零丸で目を見開いたチナ君が気になる。かなみの記憶が戻りかけているのかな?

 ベアッガイ(さん)が忍者仕様になったりして。ちょっとみたいかも。

 

「騎士だけじゃなくて忍者もいるんですか?」

 

「アレはアヤメさんのオリジナルだけど、忍者のガンダムもいるよ」

 

「武者頑駄無によくいるよね、虚武羅丸とか」

 

「Gの影忍を忘れてはいけないよ!」

 

 うんうん、リク君セイ君ユッキー君のTS勢は打てば響くヲタ話相手が増えてテンション高いね。元から少女の子たちはちょっと引いてるけど。

 

「ケイワンさんの黒いガンダムも忍者のイメージですか? それともやっぱりティターンズ?」

 

「いや、アレはガンダム・ザ・ブラックナイトって言って」

 

「私の騎士とお揃いなのですわ!」

 

 ずいっとキャロライン君が身を乗り出してきた。それに張り合うようにセイ君もテーブルに手をついて立ち上がる。

 

「見た目は騎士っぽくないような気もするけど、その名前、格好いいですね。騎士かぁ、いいなぁ」

 

 メナドは騎士だもんな。ランス1では門番だけど、才能はあるからGPDやGBNでも素のセイ君より強くなりそう。だからさっきあんなこと言ったんだよね。

 あれ? これ、メナドの記憶戻ったら製作するガンプラも変わったりするのかな?

 

「むー、オレのだって、ガンダムってことでコーイチさんのとお揃いだよ」

 

「リっくんずるい!」

 

 そこ張り合うとこなの、リク君? そして君はオレっ子だったね。

 

「じゃあボクたちもガンダムだからお揃いだね」

 

「いや、ガンダム使いばっかだからね」

 

 本来なら()はガンダム使いじゃないし。ツカサとタンデムなのはガンダムだけどね。

 ……ツカサも世界大会予選見ているのだろうか?

 あいつ、GBNにブレイクデカールばらまくなんて悪させずに、GPD世界大会にエントリーしてりゃよかったのに。

 ()と同じくチーム戦でトップになりたかったのか。

 

「でも、アイドルの実況ってそんなのあるんだね?」

 

「ガンプラアイドルなんていたんだ」

 

「GPDの世界大会予選にも出てるみたいだよ」

 

 セイ君たちが戦う相手です。そしてもう1人の俺のパートナー。

 

「ケイワンさんは世界大会予選、あのガンプラで出るんですか?」

 

「なんか予選は出ないでいいみたい。ナナミさんの話だと少しでもGPDを盛り上げるために決勝大会の枠が多いんだって。ガンダムベースはシード扱い。まあコーイチさんの腕なら予選に出ても突破するだろうし!」

 

「そうですよね!」

 

 世界大会か、ため息しか出てこないぞ、まったく。

 どうやらGPD世界大会のガンダムベース代表は俺で決まっていたらしい。

 ガンダムベースで代表者を選ぶ試合とかしないのかと思うが、今さら代表者選出戦をやるのもあれだし、そもそも出場者が集まらなかったらガンダムベースとしても体裁が悪い。まあ、未だにGPDやってるやつは個人でも出るか。

 

「ガンプラは別のやつだよ。……予選に合わせて急いで仕上げたのにな」

 

「え? ブラックナイトで出るんじゃないの?」

 

 驚くリク君たち。

 そりゃヒュッケもといガンダム・ザ・ブラックナイトで出るのも悪くはない。オリジナルの奥さんたちが気づくかもだしね。

 でもせっかくだから別のガンプラにもEPを貯めておきたい。GBNと違ってGPDは実際にガンプラを動かし、ダメージも受けるから修理、メンテナンスは欠かせない。その分EPは貯まりやすいだろう。

 

「うん。いろいろ試したいんだ」

 

「コーチはヤジマ商事が全面的にサポートしましてよ!」

 

 キャロライン君はいつのまにかヤジマ商事を俺の正式スポンサーにしてしまった。マジでニルス・ニールセンのポジションを奪うことになるなんて思わなかったよ。救いは俺のことを彼氏だの婚約者だの言ってこないことか。年の差があるから対象には見られないんだろうね。

 あの天才なニルスがいてくれた方がサラちゃんやZちゃんたちELダイバーのリアル(こっち)でのボディを用意する際に助けてもらえそうなんだけどなあ。俺とツカサでやるしかないのか。

 

「商社勤務、とはちょっと違うけど就職できてよかったね、コーイチさん」

 

「就職とは言わないだろ、たぶん」

 

「ええっ、じゃあ永久就職?」

 

「今時そんな言い方しないし、それは主婦になることだろ」

 

「もう、モモちゃんったら」

 

 モモカ君のボケに少女たちも笑うが、あれ? おかしいな。キャッキャうふふな感じじゃなくて、うふふふふふふというか、にゅふふふふふふふふって妄想ダダ漏れ系の笑い声が聞こえるような……。

 

「コーチが望むなら……。私の帰宅を出迎えてくれるエプロン姿のコーチ。悪くありませんわね」

 

「いつもの、作業用のじゃなくてフリフリエプロンのコーイチさん」

 

「お風呂にする? ご飯にする? それともガンプラ? ってやつだよね!」

 

「お風呂でガンプラは合宿でやってみたいよね」

 

 なに言ってんの君たち? 特にユッキー君。こっちの世界じゃプラモ狂四郎は基礎教養なの?

 

「裸エプロンじゃないだけマシ、なのか」

 

「それだ!」

 

「ガンプラ男体盛りも捨てがたいよリっくん!」

 

 いったいどんなプレイなんですかそれは?

 女性、それも少女の群れの中に男1人はキツすぎる。分身できるとはいえ、オリジナルはよく耐えられているなあ。

 大きくため息。やはりミホシといい雰囲気なあっちの俺が羨ましい。

 ……まさか魔法使い卒業してないだろうな?

 

 



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ガンダムビルド編 8話

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 ミホシは順調に世界大会予選を勝ち進み、ついにセイ君たちと戦うことに。ビルドファイターズのように不戦勝ではなく、ちゃんと戦って勝利して、だ。

 セイ君かわいい。レイジは男だった。セイ君とくっつきそうで、かなみらしいチナちゃんは心配になったりしてるんだろうか?

 

 残念ながら俺はミホシのセコンドにつけず、観客席から応援することになっている。だってアイドルだもんな。余計な男が側にいたらマズイでしょ、やっぱりさ。

 失敗したのは席がミホシファンの一団の側だったということ。

 彼らの声がまる聞こえで試合に集中できん。

 

「おお、ミホシ殿がこちらに手を振ってくれた!」

 

 いやたぶん、俺に手を振ってくれたんだよ。言わないけどね。

 あとミホシ殿って呼ばれると天地無用の方を思い浮かべてしまうのだが。

 

「最近ミホシさらに可愛くなってね?」

 

「まさか男が?」

 

 ぎくっ。

 って、別に俺が彼氏ってワケでもないか。

 

「も、もしかして枕営業で男を知って、色気が出た?」

 

「いやいや。彼女の事務所はガンプラアイドルなんてニッチを狙うぐらいだがその分、枕営業をしないので有名なのでござるよ」

 

 そうだったのか! 知らなかった。

 いや、事務所の人にも協力者だからってミホシに俺、紹介されたけどさ。そんなことは言ってなかった。……言うものでもないか。

 だいたい枕営業をしないので有名って普通、そんなことしてるって知られたらまずいでしょ。このファンの思い込みじゃね?

 

「ほら、あのGBNの実況動画に引っ張られるようにミホシ自身の動画も伸びているからな。それが影響しているのではないか?」

 

「うむ。知名度と同時にファンも増えている。今が大事な時であろうよ」

 

 ううむ。大事な時、ねえ。そう聞くと勝たせてあげたい。

 キララのガンプラもビルドストライクに負けないぐらいには仕上がってるはずだし、キララ自身の操縦テクニックも鍛えた。いい勝負はできるはず。

 ビルドファイターズのようにセイ君と接触してビルドストライクに細工をするようなセコい真似をしてないのでむこうも全力だけど、その分キララにも油断もないよな? ビルドブースターの仕組みを推察したってネタばれかましてあるから、最後まで気を抜かないでくれ。

 

 祈るような気持ちでセイレイジペアとの試合を見守る。

 さすがに小細工なしの完全状態のビルドストライクに圧勝はできなくて、ほぼ相打ち状態に射撃が決まり、双方の動きが一種止まった。だが、ビルドストライクはビルドブースターを分離してそっちを脱出機、つまり本体として可動させ、キララのガーベラ・テトラ改にトドメをさそうとする。

 

『隠しギミックがあるのは私も同じなんだから!』

 

 キララの声が観客席にも響く。同時にガーベラ・テトラ改も分離した。

 

『そうか! ガーベラ・テトラは元々、ガンダムGP04として設計されていた物! コア・ファイターがあってもおかしくはない! そして、ガーベラ・テトラのシュツルム・ブースターによってコア・ブースターとなっているなんて!』

 

 ここまで聞こえる解説ありがとうセイ君。ビルドブースターのパクリって言われなくてほっとしたよ。ガーベラブースターはシュツルム・ブースターのおかげでまるでオタマジャクシみたいな外見だ。

 

「うむ。GP03にもコア・ファイター仕様があったな」

 

「あれならシーマ様を助けられるのう」

 

 さすがはキララのファン。ガンダムにも詳しいようだ。ビルドファイターズではキララのガンプラを製作するぐらいの連中。あとでゆっくり話をするのもいいかもしれん。

 

 ガーベラのコア・ファイターとビルドブースターの戦闘。すまないユウキ・タツヤ。ブースターどうしの空中戦、先にやっちゃったよ。

 機動性はガーベラブースターが上のようで巴戦ならば有利っぽかったが、ビルドブースターはすぐに一撃離脱気味の戦いへと切り替える。戦闘センスはさすがレイジか。

 

「むう、火力面ではむこうが有利でござるな」

 

「本来、脱出機として用意した設定ならば高火力はおかしい。そうキララは考えたのであろう。わかってるわかってる」

 

 考察するキララファンたち。いや、ガーベラブースターはビームマシンガンをセットして攻撃する予定だったんだが、分離時にそれに失敗したみたい。もうちょい内蔵火器を用意しておくべきだった痛恨のミスだ。

 ビルドブースターの大型ビームキャノンを回避してはいるが1発でも貰ったら……。

 

「ああ!」

 

 ファンたちの悲鳴が上がる。ガーベラブースターが破壊されてキララは敗れた。

 くそっ、俺がセコンドにつくことできてればもう少しアドバイスができたのに!

 

 

 ◇ ◇

 

 

「負けちゃった……」

 

「すまない。俺がもっとブースターの設計を作り込んでいれば」

 

「ううん。私の操作ミス。そばに支えてくれる人が立っているあの子たちを見てたらちょっと苛ついていた」

 

 え? やっぱり俺がセコンドにいればよかったってこと?

 

「手を振ったのにあなたは返してくれないし!」

 

「ええ? ……ごめん。キララのファンたちがそばにいたからニワカの勘違い野郎って思われそうで怖くてさ。でも、ちゃんと応援はしてたぞ」

 

「うん。声援は届いた。だから最後までがんばれた。……がんばったから、ご褒美もらえる?」

 

 キララメイクのままでで潤んだ瞳のミホシの顔が近づいてきて。

 

 

 ◇

 

 

 負けちゃったってことはミホシのサポートはここまでってことで。

 正直もう少し続けていたかったけど、ビルドファイターズのように世界大会レポーターの仕事がくる可能性は高いだろう。セイ君たちとのバトルもなかなかのものだったし。

 

「アイドル、がんばれよ」

 

「え? なにもうお別れみたいな雰囲気になってんの?」

 

 そんな驚いた顔をされるとは思わなかった。そして一瞬だけ、泣きそうにも見えてしまったので焦る俺。

 

「い、いや、残念ながら予選突破できなかったから俺の仕事はここまでだろ? あとはもう、キララのアイドル活動には邪魔になるだけだ」

 

「私の貞操を奪っておいて、ヤリ逃げする気?」

 

 うっ。俺だって彼女と一緒にいたい。初めての(ひと)なんだから。

 でも、俺にはオリジナルの嫁さんたちを探すって使命がある。それに地球のピンチにも備えなきゃいけない。

 

「そ、それはそうなんだけど……プライベートでのお付き合い、続けてくれるってこと?」

 

「当然。責任とってもらうわ」

 

 そう微笑む彼女はみとれてしまうほどに綺麗で。

 ああ、希釈エリクサーの美肌効果とさっきの行為による女性ホルモン増加の影響だろうか、なんて現実逃避する俺の脳。

 

「せ、責任って……」

 

「世界大会は残念だったけど、落ち目のGPDよりもGBNに注力するのも悪くないわ。この前の動画も伸びてるし」

 

 確かに。さっき確認したら予選での戦いでキララが注目されたのか、今まで以上に閲覧数の伸びがよかった。もっと実況動画でファンを作ろうって言いたいのかな?

 

「これからもよろしくね」

 

 即答できなかった。キララはフェリーニとくっつくって思ってるからだろうか。

 女性化している人物が多いこの世界でGPD出場選手は男性のままが多いみたいだ。GPDが男性向けでGBNが女性向け、なんて棲み分けを提唱している奴もいるぐらいだし。

 落ち目のGPD陣営がそう持ち込みたいんだろうかね?

 

 その上、フェリーニのことがなくても俺には秘密がある。この姿も名前も偽のもの。本当の自分を知られたら、嫌われたりしないだろうか不安だ。

 

「……え、ええと、あんなことをしちゃってから言うのもあれなんだが、俺は俺じゃない。顔だって本当の顔は違うんだ」

 

 不安だけどミホシに黙っていることができずに話しだしてしまっていた。惚れちゃってるのかな、やっぱり。

 

「本名ですら教えてくれてないものね。ナナセさん」

 

「えっ?」

 

 どうしてその名前が?

 俺の姿、あっちとは違うように魔法で変えて、口調だって意識して荒っぽくしてるのに。

 

「あなたに惹かれ始めてから私だって調べたわ、あなたのこと。興信所使うか迷ったぐらい。でもその前にヒントはあなたが与えてくれた。GBNに誘ってくれたでしょ」

 

「あの時もあいつとそんなに話はしていなかったはずだが」

 

「でも、ガンプラと戦い方は見れたわ。その後、GBNでビルドダイバーズの戦いもいくつか見た。ガンプラも戦闘の癖もあなたと全くといっていいほどにそっくりだった。同門だから、では済ませられないほどに。なぜかしら?」

 

 え? そりゃガンプラの作成と同時に、GPDとGBNでたっぷり戦闘訓練したけどさ。それで俺の正体がわかったってこと? マジでスゴいんですけど。

 

「ケイワンは私もチェックしていたビルダーだったもの。ダイバー名はコーイチ。本名はナナセ・コウイチ。彼の作品によく似ていたからあなたに世界大会用のガンプラを発注した」

 

「そう、か」

 

 POMっと変身魔法を解除する。この姿でミホシの前に出るのは初めてだ。緊張が半端ない。

 

「……本当にそうだったのね。GPDの技術の応用?」

 

 ビルドファイターズの最後でサラちゃんの素体となったモビルドール・サラを考えると、外見を変えるぐらい確かにできそうな気がしてくる。顔とか表情が動いてたからね。

 

「魔法だって言ったら信じてくれる? ちょっと違うけど似たようなもんで俺とあっちの俺が分身してる」

 

「え? ……GBNのコーイチはコピーされたAIとか考えていたんだけど、魔法?」

 

「ああ、そっちの方がまだ信じられそうか。コピーってのも間違いじゃないし。俺もあっちの俺もコピーだから」

 

 この際、全部話してしまうことにする。人間じゃないって嫌われたらそれまでだ。

 

 



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