シャーレ所属顧問、サオリ先生 (ベレッタM92F)
しおりを挟む

プロローグ
プロローグ―1


「んぅ……」

 

陽気な朝日に包まれながら、私は背伸びをする。

シャーレの前でそんなことをしていたためか、通りすがりの生徒に見られる。

 

「また徹夜?おはよ先生」

「ああ、良くないことは分かっているが……おはよう」

 

軽く挨拶したあと、手を振って別れる。

私も自身の職場に行かねばと、横に置いていた鞄を持ってシャーレに入っていった。

 

私は錠前サオリ。元アリウススクワッドにして現シャーレ所属、並びに顧問として働いている。

私がまだ子どもとしてここにいた時にはキヴォトスの外から来た大人がここで先生をしていたが、今は私が代表としてここにいる。

 

シャーレのオフィスに入ると、山盛りの書類や落書きだらけのホワイトボード、雑に散らかして何があるか分からない机と、見慣れた光景が目に入った。

書類が目に入らないように移動しながら自身の机に向かい、鞄を置く。

そこから仕事に使う道具を出していると、奥から人影が出てきた。

 

「おはようございます、サオリ先生!」

「おはよう、アロナ先生」

 

出てきたのは、透き通る水色の髪に、空と雲のようなカラーリングのセーラー服を着た少女、アロナ先生。

元は先生が持っていたシッテムの箱のOS……らしいが、詳しいことは知らない。

紆余曲折あって体を手に入れ、今はシャーレ所属、正確な役職名は無いが実質的に私の上司に当たる人だ。

今でも書類整理や一日の予定管理など、手を借りっぱなしで頭が上がらない。

 

「ふふ、いつも言っていますが先生はいりませんよ」

「しかし、シャーレ所属で、先輩で……」

「変に真面目ですよね、サオリ先生は」

 

変に……?褒められているのか、それは?

少しモヤモヤとした気持ちになりながら、仕事の準備を進める。

私も準備をしなきゃ、と言いながらアロナ先生は出掛ける格好をしていた。

 

「どこか行くのか?」

「はい、先生が必要な書類を忘れたとのことなので、ミレニアムまでちょっと」

「なるほど、なら急がないといけないな。先生がユウカに怒られる前に」

「あー…それは…おっと、すいません、少し電話が。もしも『アロナ早くしてぇ!殺されるぅ!』……分かりました。すぐ行くので待っててください」

「……もう手遅れみたいだな」

「ですね。では、行ってきます!」

 

いってらっしゃいと言って見送る。

 

私の前に顧問としていた先生は 私に顧問としての役職を渡しながらも、シャーレ所属として活動している。

渡す相手が私で良いのかと思ったが、前よりも楽しそうに活動していて、良かったと今はそう感じている。

 

「もう、どれくらい経ったんだか……」

 

まだそう遠く無いはずなのに、学生でいた頃が懐かしく感じる。

戻りたいかと言われると、そういうわけではない。

アリウスの皆とはもちろん、シャーレで出会った者達とも仲良くしている。

聖園ミカとも。

それだけでなく、キヴォトスの学園にいる子ども達も、とても愛おしく感じる。

昔の私ではとても考えられなかった生活だろう。

 

「ああ、先生に出会って、先生になって、本当に、良かった……」

 

よし、そろそろやるか。

そうしてパソコンを立ち上げ、貯めに貯めた書類を減らそうと立ち上がった。

 

 

その瞬間、パソコンから光が溢れだした。

 

「な、なん――」

 

光はだんだん強くなり、私を包み込むほど大きくなると―私はそこで気を失った。

 

 

 

「忘れ物、忘れ物、っと~……あれ?サオリ先生?」

 

 

 

 

 

「……い」

 

なんだ?誰かの声が聞こえる。

聞いたことのあるような……

 

「……先生、起きてください」

 

二回目に聞こえた声で、私が目を瞑っていることに気が付いた。

ゆっくりと目を開けると、そこにいたのは―

 

「……」

 

―連邦生徒会の七神リンだった。

 

「……は?」

「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは」

 

間違いない、見た目、声からしてリンそのものだったが……私の記憶より若く見えるような……

そんな困惑中の私に気づいていないのか、そのまま話を進めるリン。

 

「夢でも見られていたようですね、ちゃんと目を覚まして、集中してください」

 

今の状態が夢のように感じられるんだが……この感じ、やはりリンで間違いない。

しかし、提出すべき書類を先生と一緒にすっぽかして怒られたのはつい最近のはず、どうしてこうも他人行儀なのか……

まるで、今始めて会ったみたいだ。

 

「もう一度、改めて今の状況をお伝えします。私は七神リン、学園都市キヴォトスの連邦生徒会所属の幹部です」

「そんなことは知っている…はずだ」

「では、ちゃんと起きていてください」

 

おかしい、やはり何かが……

そういえばと、私は図書館の知り合いに借りた本に平行世界を題材にした本を読んだことをふと思い出した。

 

「平行世界…?」

「どうしました?」

「……いや、すまない、寝ぼけていたみたいだ。もう一度今の状況を教えてくれ、リン」

 

兎にも角にも今の状況を把握しなければいけない。

寝ぼけていたことにして、話を促す。

 

「分かりました。先ほども言った通り、私は七神リンです。そしてあなたはおそらく、私達がここに呼び出した先生……のようですが」

「よう?まるで分からないみたいな言い方だな」

「ええ、その通りです。私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」

 

言葉が詰まる。

さっきまでいた所こそ、夢なんじゃないかとさえ思い始めてきた。

しかし、それにしてはしっかりと記憶がある。

じゃあどうしてここにいるのか。

 

「……混乱されてますよね、分かります」

 

私の様子を見てか、そう同情してくれるリン。

 

「こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください。どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」

「……ああ、分かった」

 

きっとそれは、必ずしなければいけない事だと、本能がそう囁いた。

そうして私はリンの後ろをついていった。

 

途中でエレベーターに乗る。

ガラス張りになっていて、外の景色が見える状態になっていた。

それは、何度か見たことがあり、見たことのない景色だった。

 

「キヴォトスへようこそ、先生」

 

……逆に、キヴォトスから出たことがないんだが、なんて、頓珍漢なことを考えてしまった。

 

 

 

うすうすだが、感づいていた。

もしかしてこれは、平行世界の先生の立場になっているのではないか。

道中で先生呼び、エレベーターの中で簡単に説明されたことで疑問を持った。

 

連邦生徒会長が選んだとされること。

 

昔少し、先生からそんなことを聞いた覚えがある。

だとしたら、私はその立場になっているということだが……

とりあえず、今はそれを考えている暇はない。

目の前の四人を見ながらそう考える。

リンを含めた五人の会話を聞きながら状況を整理する。

 

数千もの学園自治区が混乱に陥り、大変なことになっている。

連邦矯正局にいた停学中の生徒達が一部脱出。

スケバンのような不良生徒の暴行頻度が上がった。

出所の分からない武器の不法流通が2000%以上増加etc…

 

そして、連邦生徒会長の失踪。

 

………うむ。

 

よくこんな状態から持ち直したな!?

しかもさらに多くの問題も発生したと聞いた……私達が起こしたのもあるが。

これまで以上の尊敬の念が先生に送られる。

届くかは分からないが。

 

「――それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」

 

一人で整理していると、いつの間にか話は纏まりかけていたようだ。

 

「はい。この先生こそが、フィクサーとなってくれるはずです」

 

疑問は確信となった。

やはり……私が先生になったようだ。

 

「ちょっと待って、そういえばこの先生は一体どなた?どうしてここにいるの?」

「キヴォトスでないところから来た方のようですが……先生だったのですね」

 

……そういえば、私にはヘイローがあるはず、なのに何故キヴォトスでないところなんて……

まさかと思い近くのガラスを見る。

 

ない。

 

次々といろんなことが起きたためか、驚くことさえなかった。

まさに謎が謎を呼ぶ状態だ。

そんな確認をしている間にも、話は続いている。

 

「はい。こちらの錠前先生は、これからキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」

「行方不明になった連邦生徒会長が指名?ますますこんがらがってきたじゃないの……」

 

セミナーの会計担当、ユウカが頭を抱える。

過去でも未来でも、いつも頭を悩ませているな……いつもお世話になります。

というか、生徒会長か……会ったことのない人物に指名されるとは、先生もそうだったのだろうか?

とりあえず、皆の視線がこちらに集まっているので、挨拶をしておく。

 

「錠前サオリだ。よろしく、ユウカ」

「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……って、い、いや、今は挨拶はどうでもよくて……!」

「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」

「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬……え?何で名前を……」

 

あ。

 

「そ、そう呼ばれたのを聞いたんだ!」

「ああ、そうでしたか。でも私、名前呼ばれたかしら……

 

あ、危ない……今私のことを深く話すのは危険だろう。

注意しなければ……

私達のやり取りを聞いていたリンは、それを遮るように話を続ける。

 

「先生は元々連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。

連邦捜査部、シャーレ。

単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒達を、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です」

 

やはりというかなんというか、私がシャーレに、か……

今思えば、それは先生だからこそできたことじゃないか?

私には、あの人ほど、まとめあげれる気がしない。

だが、逃げることはできない。

 

いや、したくない。

 

知り合いにそっくりとはいえ、今のこの子達は私という大人が守らなければならない子どもだ。

間違いなく、あの悪い大人達はいる。

そして、私達も。

傲慢だろうが、やらなければ、救い出さなければいけないんだ。

 

「シャーレの部室はここから約30㎞離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。先生を、そこにお連れしなければなりません

モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」

『シャーレの部室?……ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?』

 

……何か、嫌な予感がする。

 

「大騒ぎ……?」

『矯正局を脱出した停学中の生徒が問題を起こしたの。そこは今戦場になってるよ』

「……うん?」

『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良達を先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』

 

まるで私には関係ないと言うかのように軽い調子で状況を説明するモモカ。

いや、お前の職務では……?

 

『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』

「……」

『まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!』

 

ブツッという音を出して通信は終わった。

リンの顔には黒い影が。

……なんというか、お疲れ様です。

 

「……っ」

「大丈夫か?深呼吸でもするか?」

「だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」

 

そうは聞こえなかったが。

落ち着いた(ように見せている)リンは、私ではない何かを見つめる。

目線の先には、四人の子どもが。

 

「……?」

「な、何?どうして私達を見つめてるの?」

「丁度ここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

 

あ、ついに暇そうって言ったな。

 

「……えっ?」

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

「ちょ、ちょっと待って!?どこに行くのよ!?」

 

スタスタと歩くリンを追いかけるユウカをさらに追いかけるように、私達はついていった。




錠前先生
錠前サオリ・大人の姿。
社会や物事を学び、無事先生になった。
目元や雰囲気が柔らかくなり、子どもという存在を大切にしている。
シャーレの先生を手本としているため、元の身体能力なども合わさって時折突飛な行動をする。
生徒からは人気。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ―2

ヘリに乗り、着いた場所は、まさに地獄絵図だった。

爆発に銃弾の雨。

だが、計画性がない行動に見える。

私なら、もう少しうまく出来るな、地獄絵図は言いすぎたか?

なんてぼんやり考えながら、周りを見る。

 

「なんで私達が不良達と戦わなきゃいけないの!!」

「サンクトゥムタワーの制御を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……」

 

ここにはいないリンに文句を言っているユウカを窘めるゲヘナの風紀委員チナツ。

 

「それは聞いたけど……!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が……!」

「あ、危ない」

「え?いっ、痛!」

 

文句を垂れ流しているユウカに銃弾が当たる。

 

「あいつら違法JHP弾を使っているじゃない!?」

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されていません」

 

そう言葉を放つのは正義実行委員会のハスミ。

即座に近くの転倒した車にカバーして戦闘準備をしている。

 

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう」

 

……そうだ、今の私は先生と同じ、つまり一発だけでも致命傷になりうる。

それに今の私は銃を持っていない。

動きづらいスーツ姿でもあるし、近接戦闘もできない。

そもそも、先生になってからは、子ども達に攻撃しないと心に決めたが。

 

「先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です」

「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……」

「分かってるわ。先生は、戦場に出ないでください!私達が戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね!」

「……」

 

だが、このままぼんやりと立っているつもりもない。

上手くいくかは分からないが、やって見せる。

先生、見ててほしい。

 

「私の指揮に従ってほしい」

「え、ええっ?戦術指揮をされるんですか?まあ…先生ですし……」

「分かりました。これより先生の指揮に従います」

「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」

「よしっ、じゃあ行ってみましょうか!」

 

 

 

ユウカ、ハスミ、チナツ、そしてトリニティ自警団のスズミと共に前線へと向かう。

道中で何人もの不良生徒達が襲ってきた。

 

「てめぇら、連邦の奴らか?ならお前ら、やっちまえ!」

 

アサルトライフル、ミニガンなどの射撃武装にグレネードが次々と降ってくる。

私達はすぐに近くの遮蔽物に隠れ、当たらないように身を屈める。

 

「スズミ、グレネードを」

「分かりました」

 

こちらに攻撃させないように撃ち続けるのは悪くないが……少し密集しすぎじゃないか?

予想通り、スズミが投げた閃光手榴弾にほぼすべて巻き込まれる。

 

「うおぉ!?」

「ま、眩しい!」

 

その隙にスズミとユウカが制圧し―

 

「こ、この!」

 

免れた子にはハスミの一撃が加えられる。

チナツは倒れた子らの拘束をする。

そうして進んでいくが、どうしても数が多い。

 

「どうしますか、先生?」

 

ハスミがそう声を掛けてくる。

周りを見回すが、使えそうなものは――ある。

 

「あの箱、狙い撃てるか?」

「あれですか?もちろんです」

 

ハスミの弾丸は宣言通りに不良達の後ろにある箱を貫いた。

そして、大きな爆発が起きた。

 

「ちらっと大量のグレネードが入っているのが見えた。あれも鹵獲品だろうが……それにしたって無防備すぎじゃないか?」

「さすがです先生!これでもっと早く先に進めます!」

「そうだな、行こう」

 

私達は目的の場所へ走って向かう。

そんな時に、スズミが口を開く。

 

「なんだか、いつもより戦闘がやりやすかった気がします」

「……やっぱり、そうよね?」

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」

「なるほど、これが先生の力……」

「敵の位置や攻撃すべき箇所を指示しただけだ。私よりもっと……いや、何でもない」

 

私の言葉に、不思議そうに首をかしげる四人。

先生の方が、もっとすごい、なんてことは言えないな。

 

 

 

シャーレの部室ともう目と鼻の先というときに通信が入った。

リンからの通信だ。

 

『今、この騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました。

その名はワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気を付けてください』

 

ワカモ、だと?

だとしたら不味いな、あの問題児は先生がいたから、惚れていたからコントロールできた。

私で止めれるだろうか?

 

「っ、新手です!皆さん隠れて!」

 

チナツの声に反応し、身を潜める。

瞬間、また大量の銃弾が一つの風のように飛んできた。

私は四人を指揮し、一人一人確実に対処する。

 

「騒動の中心人物を発見!対処します!」

 

だんだんと進んでいき、ついにハスミが元凶を見つけたみたいだ。

ワカモはハスミと同じスナイパーライフルの使い手。

しかも、銃剣を使った近接もある程度こなせるため、厄介極まりない。

ワカモは少し離れたところに、下っ端と思わしき生徒を複数盾にして構えている。

 

「先に前方からだ、グレネード!」

「はい!」

 

スズミがグレネードを投げる。

しかし―

 

「させませんよ?」

 

―上空で爆発してしまった。

 

「!?、撃ち落されました!」

「流石の射撃能力だな……どうするか」

 

先生ならどうする?

周りには使えそうなものはない。

このまま拘束されてしまうと、いずれは新手に押しつぶされるだろう。

……ユウカには悪いが。

 

「ユウカ、バリアを展開できるか?」

「できますけど、そう長くは持ちませんよ?」

「いい、大丈夫だ。展開して、突っ走るだけでいい」

「突っ走る……って、ハチの巣にされちゃいますよ!?」

「頼む、ユウカしかいないんだ」

「……もうっ、今回だけですからね!」

 

ユウカはバリアを展開してワカモのところへ走る。

もちろん、他の不良生徒が黙ってみてはいない。

ユウカに対して遠慮なく攻撃する。

だが、こちらにはユウカだけではない。

 

「がっ!?」

「ぐえっ!」

 

回り込んでいたハスミとスズミに次々とやられる。

 

「ふむ、なかなかやるようで……あとは任せます」

 

しかし、ワカモには逃げられてしまった。

 

「逃げられてるじゃない!?追うわよ!」

「いいえ、生半可な行動をしてはなりません、私達の目標はあくまでも、シャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです」

「……いいわ、分かった。私達の役目は違うものね」

「罠の可能性もあります」

「そうだな、ワカモは置いておいて、早く向かうぞ」

 

そのまま他の生徒を蹴散らしながら、入口まで到着した。

しかし……

 

「気を付けてください、巡航戦車です……!」

「クルセイダー1型…!私の学園の制式戦車と同じ型です」

「不法に流通されたものに違いないわ!PMCに流れたのを不良達が買い入れたのかも!」

「……つまり、壊しても問題なし、か?」

「そういうことです!行くわよ!」

 

そう意気込んで全員が射撃するも、その厚い装甲に防がれる。

 

「かっ…たいわね!」

「私の弾丸でも、通せないことはありませんが……有効打にはならないでしょう」

「どうしますか、先生……先生?何を……」

 

近くに落ちていたグレネードを手に持ち、指示する。

 

「出来るだけ、奴の気を引いていてくれ」

「まっ、どこに!?」

 

私は駆け出した。

ユウカ達は困惑しながらも、ありったけの銃弾ををぶつけ、気を引いてくれている。

私はバレないように回り込んで……

よしっ、近くまで来た。

 

「先生!?何して……!」

「こっちだ、骨董品」

 

私の声に反応してか、砲身がこちらを向く。

完全に顔を捉えたところで砲身は止まった。

 

「逃げてください先生!」

「先生!」

 

私は右手に持っていたグレネードを―

 

「ほっ、と」

 

―砲身の中に投げ入れた。

入ったのを確認し、すぐさま近くの遮蔽に飛び込む。

そして、花火より大きい音をまき散らしながら、汚い爆発が、地で舞っていた。

キヴォトスの住民は丈夫だし、中の子達も大丈夫……だろう、多分。

 

「よし」

「よし、じゃないです!危ないので次からはやらないでください!」

「わ、悪い……」

 

凄い剣幕でユウカが詰め寄ってきたが謝って事なきを……得て無い様だ。

ハスミ、チナツ、スズミにも、かなり怒られてしまった。

何度か使ったことのある戦法のため、行けるかと思ったが、いらない誘爆を起こしてしまったみたいだ。

逃げるようにリンに通信をする。

 

「シャーレに到着した」

『シャーレ部室の奪還完了。私ももうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう、先生』

「ああ、分かった。……ということで、私はこれで……」

「先生!もう……」

 

私は逃げ足でシャーレの中に入っていった。

 

 

 

そこは、見慣れた道に扉。

しかし少し違うところを見つけながら、目的の地下に向かう。

地下への階段を降り切るとそこには―

 

「あら?」

 

―狐面の怪しい生徒がいた。

とりあえず、挨拶をする。

 

「こ、こんにちは」

「あら、あららら……」

 

急に独特なラッパーみたいな言葉を出して動きが止まる。

まさか、体調不良か?。

 

「おい、大丈夫か?熱とかがあるんじゃ……」

「あ、ああ……し、しし……」

「死?」

「失礼いたしましたー!」

「うおっ、ど、どこへ!?」

 

怪しい生徒(ワカモ)は、何故か謝りながらどこかへ去っていってしまった。

何だったんだ……?

 

その数分後、リンがやってきた。

 

「お待たせしました……何かありましたか?」

「いや、何も……」

「そうですか。…ここに、連邦生徒会長の残したものが保管されています。……幸い、傷一つなく無事ですね」

「……そうか」

 

そう言って何かを取り出しながらリンは近づいてくる。

それは、タブレット状の端末。

 

「これが、連邦生徒会長が先生に残した物。

シッテムの箱です」

 

!、これが……

それを受け取りながら、説明を聞く。

 

「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSもシステム構造も、動く仕組みのすべてが不明。

連邦生徒会長は、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました」

「……」

「私達では起動出来なかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

 

黒い画面を見続ける。

私に、出来るだろうか。

 

「……では、私はここまでです。ここから先は、すべて先生にかかっています。邪魔にならないよう、離れています」

 

そう言ってリンは距離を取った。

………黙っていてもしょうがない、やって見せよう。

 

シッテムの箱を起動させる。

 

画面は明るくなり、文字が羅列する。

その動きが止まった時、一つの文が出てきた。

 

《システム接続パスワードをご入力ください》

 

……困った、心当たりは一切ない。

先生から話を聞いた覚えもない。

ふと、胸ポケットに何かあることに気づいた。

取り出してみると、それは1枚の『カード』だった。

それを眼に入れた途端、脳裏に文章が浮かんだ。

 

……我々は望む、7つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

どうやら正解だったようだ。

シッテムの箱には接続パスワード承認の文字が。

 

《シッテムの箱へようこそ、錠前先生》

《生体認証および認証書作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します》

 

 

 

目の前に、いや、周りは見たこともない教室だった。

壁は一部壊され、机も乱雑に置かれている。

そこに一人、居眠りしている女の子がいた。

 

「アロナ……先生?」

「くぅぅ……くぅぅ……むにゃ……」

「起きてくれ、おい、先生」

「だからぁ……書類はぁ……前日までにはぁ、準備してくださいってぇ……言ってますよねぇ……むにゃ……」

 

どれだけ声を掛けても起きない。

……仕方ない。

 

「……すぅぅ、先生!

「ひゃあ!?な、何ですか!?」

「やっと起きた……おはよう、か?」

「……サオリ先生?えっと、おはよう…ございます?」

 

最初から先生と呼んでおいてなんだが、目の前の少女は私のことを知っているようだ。

 

「ここ……シッテムの箱の中、ですか?」

「らしいな。私は初めて入ったが」

「ど、どういうことですか!?ここには私と先生しか入れないはず……!?」

「……とりあえず、落ち着いて、聞いてくれ」

 

今の状況を、憶測も交えて話す。

 

「……つまり、サオリ先生は元居たキヴォトスではない、別の世界のキヴォトスに来てしまい、シャーレの先生になってしまった、ということですか?」

「タワーの制御権を取り返していないから、まだ違うとも言えるな。そういうアロナ先生は、どうしてここに?」

「えっと、先生に書類を渡しに行くときに、忘れ物をしてしまって、それを取りにオフィスへ戻っていると、サオリ先生がいなくなっているのに気づいて、それで……」

「ゆっくりでいい、落ち着いて、話してくれ」

「は、はい。少し深呼吸を……すぅー…はぁー……よし。それでですね、真面目なサオリ先生が急にいなくなるのもおかしいと思って、つけっぱなしのパソコンを覗いてみると、急にここに……」

 

なるほど、私と同じようにパソコンから経由してこの世界に……

待て、なら……

 

「パソコンが付いている状態なら、どんどんこっちに来てしまうんじゃないか?」

「た、確かに!でもどうやって、元の世界に……あっ、そうだ!」

 

名案を思いついたかのように声を上げるアロナ先生。

 

「私の今の体は電子状態になっています。ということは、現実の体は元の世界にあるはずです!」

「つまり、アロナ先生だけでも、元の世界に戻れるかもしれないと?」

「はい!やってみます!」

 

そう言ってふぬぬと力みだした。

黙って見守っていたが、少しも何かが起こる気配はない。

 

「……駄目か」

「………!、待ってください!」

 

だが、諦めそうになっている時に何かを感じた様だ。

続いた言葉は、驚くものだった。

 

「……先生!」

「何!?先生だと!」

「はい、直接ではないですが、頭の中に文が。少し、待っていてください……」

 

そうして、目を瞑り、黙り込んだアロナ先生。

数分にも感じられた時間の後、ついに喋り出した。

 

「……先生が私に話しかけている…というより、通信しているのは、サオリ先生のパソコンからみたいです。急に私との連絡が途絶えてしまったため、急遽シャーレに戻ると、私達二人が、正確には私がいなくなった体だけを残してそれ以外に誰もいなくなっていたようです。そうして先生が探していると、サオリ先生のパソコンを見つけたそうです。画面には、何か会話文のような文字があったそうです」

「それが、アロナ先生…と?」

「そういうことです。今先生に現状を伝えました。解決に勤しんでくれているようです」

「……」

 

……解決してくれようとしているのは嬉しい、だが……

私は胸の中の言葉を伝える。

 

「もし、すぐには帰る気はない、と言ったらどうする?」

「……それは、どうしてですか?」

「この世界は、きっと困っている子どもが大勢いる。そして、困難が待ち受けるだろう。それに、悪い大人も。守りたいんだ。先生のように」

「……分かりました。それなら、アロナも協力します!」

「!、良いのか?」

「はい!私も、同じ気持ちで、先生ですから!」

 

そう言って笑いかけてくれるアロナ先生。

私も笑い返して答える。

 

「では、形式的ですが、生体認証をしましょう。近づいてきてください」

「分かった」

「もう少しこちらに、そうそう、これぐらいで……さぁ、この指に先生の指を合わせてください」

「……もしかしなくても、これは先生もやったのか?」

「は、はい、そうですけど……なんですか!」

「いや、他意はないが……なぜキレ気味に……」

 

言われた通りに合わせる。

 

「……はい、これで大丈夫です。記録しました。多分……

「何故だかとても不安だが、信じよう」

 

多分と聞こえた気がするが、気のせいだ。

アロナ先生が大丈夫と言っているんだ、信じる。

 

「それで、今の状況は、連邦生徒会長が行方不明で、キヴォトスのタワーを制御する手段がない、と……」

「ああ、なんとか出来るか?」

「はい、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!少々お待ちください」

 

そう言うとアロナ先生は目を瞑った。

数秒後、目を開いて会話を再開する。

 

「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……」

「流石だな」

「ふふん、楽勝ですよ!それでですね、サンクトゥムタワーは今私アロナの統制下にあります。つまり、今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然ですが……」

「……連邦生徒会に移管できるか?」

「ええ、先生ならそう言うと思っていました。では、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

「ありがとう。私は戻る」

「ええ、お気をつけて」

 

 

 

一瞬の暗闇の後、目の前に広がる気色はシッテムの箱を開く前と同じだった。

横を見てみればどこかに電話をしていたリンがいた。

丁度終わった様子で携帯を仕舞いながら近づいてくる。

 

「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」

「私はやるべきことをやっただけだ。感謝されるようなことはない」

「いえ、連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理が進められるのです。感謝は素直に取っておくべきですよ」

「それも、そうだな。そういえば、ここを攻撃していた生徒たちはどうなる?」

「それはこれから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく」

 

ワカモ以外はほとんど狩りつくされそうだな……

心の中で冥福を祈っておく。

南無阿弥主よラーイラー。

 

「それではシッテムの箱を渡しましたし、私の役目は終わったようですね……あ、もう一つありました。ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介します」

 

言われた通りにについていく。

ついていった場所には見慣れた扉が。

 

「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」

「……」

 

リンは扉を開け、中に入っていき、私もその後に続く。

 

「そして、ここがシャーレの部室です。ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう」

「……私は何をすればいい?」

「シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない…という強制力は存在しません。キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒達を部員として加入させることも可能です」

 

分かって聞いたが、改めて聞くとかなりぶっ飛んだ組織だな。

私が言うのもなんだが問題児多めの生徒達をまとめていた本当に先生は凄かったんだな……

 

「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。つまり、何でもやりたいことをやって良い……ということですね。

……本人に聞いてみたくても、相変わらず行方不明のまま。私達は彼女を探すことに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」

「つまり、私達…シャーレがそれを解決する、所謂何でも屋のように働けばいいんだな?」

「……そう言えますね」

 

私はリンに微笑み、頷く。

 

「分かった。子ども達のためなら、喜んでなんだってやる。任せてほしい」

「……頼もしいですね。その辺りの関する書類は先生の机の上に沢山おいておきました。気が向いたらお読みください。

 

すべては、先生の自由ですので。

 

それではごゆっくり、必要な時には、またご連絡します」

 

そう言ってリンは帰っていった。

私はリンが出ていったのを確認した後、近くの椅子に座る。

きっと、これはまだ始まりにすぎないだろう。

沢山の困難や問題が私や、子ども達に降りかかるはずだ。

それでもきっと、やり遂げて見せる。

私や、先生の愛した、子ども達のために。

 

 

その前にまず、この分厚い書類を読まなくては……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話集
閑話―日常


「………ん、んん………」

 

私は机に突っ伏していた体を起こす。

いつの間にか、寝てしまっていたようだ。

目の前には付けたままのパソコンが、その横にはパソコンをギリギリ超えない量の書類の束があった。

 

「………」

 

ゆっくりとそれから目を逸らし、パソコンの画面を見る。

そこにはネットショッピングサイトが映し出されていた。

それを見て私はだんだんと昨日の記憶を思い出した。

シャーレで活動するにあたって、やるべき書類があったため、それを処理していた。

が、半分を過ぎたあたりから嫌になり、気分転換にチラッとだけ見ようとこのサイトを開いた。

それで、寝落ちしてしまった、というわけか……ん?

私は画面に映る文字が目に入った。

 

《購入完了しました》

 

……そうして一か月コッペパン生活が始まった。

 

 

 

たかだか数千、高くても一万までならそこまで問題もなかった。

だが映るのは『見せられないよ!』という数字。

何を買ったんだと過去の自分を尋問しながら、購入した商品のページを見る。

CDX(コンプリートデラックス)仮面ファイター最終回バージョンベルト》

……ああ、これか。

特撮物を見なかった私が唯一見た作品の主役のベルトだ。

先生に勧められて見てみたが、意外と面白くて少しハマっていたんだ。

世界を無茶苦茶にしようとする悪の組織の部下だった主人公がいろいろな出会いや経験を通して成長していき、最後には悪の組織を倒すというストーリーが私には響いたんだ。

そしてこの最終回バージョンはボロボロになりながらも、立ち向かう主人公に、悪の組織に所属していたころからの仲間三人の力を合わせて出来た幻のフォームで―

 

―不味い、誰かに伝えるわけでもないのに語ってしまった……

面倒なオタクは嫌われると先生は言っていたな。

ユウカに正座しながら。

 

ともかく、おいしいご飯が食べられないのはつらいが、悪い買い物ではなかったんだ。

気にしないことにしよう。

そういうことで嫌々ながらも書類を進めていくことにした私は、日が落ちるまで終わることはなかった。

 

 

 

あれから数日後、来る日も来る日も書類を処理していると、インターホンが鳴った。

誰だと思いながら見てみると、意外にもユウカが立っていた。

 

『先生こんにちは。上がってもいいですか?』

「ああ、どうぞ」

 

何の用事だろうと入ってきたユウカに用件を聞く。

 

「何か用か?問題が発生したなら、解決の手伝いをするぞ」

「いや、そういうわけではないんですが……どちらかというと、先生の方が手伝いが必要そうですけど」

 

私の後ろにある書類を見ながら、そんなことを言ってくる。

 

「う……ま、まあそれはいいだろう?で、どうしたんだ?」

「えっとですね、シャーレは部員を募集している、という噂を聞いたので、事実なら、良ければ私も入部しようかな~なんて……」

「本当か!?」

「きゃっ!」

 

私は近づき、手を取る。

 

「ユウカがとても優秀というのは良く知っている。入ってくれるなら、歓迎しよう」

「せ、せんせ、ち、ちか……!?」

「ん?地下……?あ、近いか、申し訳ない。つい、嬉しくてな……」

 

すぐに手を放し、距離を取る。

ユウカは「あっ……」という声を発し、何故か眉が下がる。

 

「……んん、それでですね、この通り入部したいんですけど、どうすれば扱いになりますか?」

「少し待ってくれ、簡単な書類を書くだけだ。確かここら辺に……おっと」

 

目的とは違う書類を落としてしまう。

ひらひらとそれはユウカの足元に落ちてしまう。

それをユウカは手に取った。

 

「すまない、渡してくれるか?……ユウカ?」

 

しかし、ユウカはピクリとも動かない。

 

「……」

「……おい、ユウカ?」

「これ、何ですか……?」

 

そう言いながら落ちた書類を見せてきた。

そこには一枚の請求書が。

私はゆっくりと目を逸らし、自分の机へ向かい、財布や身分証など、必要最低限の荷物を持つ。

だがそれはいつの間にか近くに寄ってきていたユウカによって阻まれてしまった。

 

「どういうことか、説明してくれますよね?」

「……はい……」

 

私は頷くことしかできなかった。

 

 

 

三十分後、こってりと絞られた私はユウカと一緒にレシートと書類の整理をしていた。

レシートは他に高い買い物をしていないか、そしてわたしがほとんどまとめていないため、家計簿を付けてくれていた。

書類はついでに手伝ってくれるらしい。

思えば、元の世界でも先生と共に力を借りっぱなしだった。

少々口うるさいが優秀で、意外と優しい。

改めて思うと

 

「私(達)はユウカがいないと駄目だな……」

「ふぇ!?な、何言ってるんですか!これからは、自分でできるようにしてください!」

「分かっている」

 

こうして、ユウカがシャーレの一員になった。

 

 

 

 

 

用事があったため、私はゲヘナに寄っていた。

爆破、銃弾、爆破、爆破、銃弾、叫び声……

平和だな……(目逸らし)

争いは多いが、殺しは絶対にしない。

大丈夫、だろう。

多分。

そんなところの川が見える道を歩いていると、一人の少女がベンチに座っていた。

あれは……

 

「空崎、ヒナ?」

「っ、誰……?」

 

ゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナ。

かつて、敵同士だった、その一人だ。

 

 

 

「……シャーレ、ね」

「ああ、何でも屋、みたいに思ってくれていい。便利屋とも」

「便利屋は、嫌だけど……まぁいいや、先生は何でここに?」

「あー……知り合いに会いに、かな。会えなかったが」

「へぇ、残念だったね」

「いや、会えなくて正解だった」

「……?」

 

私はヒナの横に座り、お喋りをしていた。

他愛ない会話だが、それでいいだろう。

キヴォトスの中でも、トップクラスの戦闘能力。

子どもをそんな風には見たくないが、もし奴らがいるとしたら、必要だ。

縁というものはとても大事と、先生も言っていた。

 

「そういうヒナは、何をしていたんだ?」

「……見回り、その休憩」

「そうか、大事だ。適度な休憩は」

 

しかし、結構気難しそうな子だが、よく先生は仲良くできたものだ。

……いつも同じようなことを言っている気が。

 

「……風が」

 

少し強い風が吹いてきた。

ふと横からいい匂いがした。

 

「……?花か?」

「どうしたの?」

「突然いい匂いが……ん、にしては近いな……」

 

目を閉じ、鼻をすんすんとしながら匂いを辿る。

 

「せ、せんせい……?ちょっと……」

「ん……近いな……」

「……っ、先生!」

「おっ!?…と……ヒナ?」

 

目を開けると、そこにはヒナがすぐそこにいた。

……なるほど。

 

「ヒナはいい匂いだったんだな」

「ま、真顔で何言ってるの!……もしかして、先生って変人?」

「……?まともの方だと思うが」

「…やっぱり変人」

 

先生ほどではないはず。

少し不名誉だ。

 

「……そろそろ、行かなきゃ。先生、これ」

 

ヒナは立ち上がり、一枚の紙を渡してきた。

 

「これは?」

「私のモモトークのID。良かったら、登録しておいて。あと、私がここにいたのは内緒にしておいて。先生のことも内緒にしてあげるから」

「そうか、ありがとう。じゃあ、またな」

「うん………楽しかったよ」

 

そう言ってヒナは去っていった。

今日は収穫無しかと思ったが、良かった。

 

 

……さて、この時期はここら辺の探索をしていたはずだが……痕跡すらない、か。

どこにいるんだ、アリウススクワッド。

 

 

 

 

 

とある昼、シャーレのオフィスにいた頃。

休憩でソファの上で横になり、休んでいた。

 

「……ん……」

 

毎日頑張っているんだ、これくらい許されるだろう……なんて考えながらうつらうつらしていると―

 

 

ドガアアアァァァン!!!

 

 

―天井が爆発した。

 

「……っ!誰だ!」

 

すぐさまソファから飛び降り、カバーの体制に入る。

土煙が晴れるとそこにいたのは―

 

「あなたが、私のご主人様ですか?」

 

―メイドだった。

えぇ……?

 

 

 

とりあえず、謎のメイド、アカネと協力して部屋を片付けた。

粗方片付けが完了した後、ソファに二人を座らす。

 

「お掃除楽しかったねー!」

「ああ、アカネが爆弾を取り出したときはどうなることかと思ったが……」

「ふふっ、シャーレに御呼ばれしたとき、少しドキドキしてしまいまして。いわゆる、照れ隠しです」

「そうか……

ところで何でここに来たんだ?あともう一人はいつの間にいたんだ?」

 

色々なことを経験したが、今はその中でも一番の恐怖を感じている。

何故天井を?

一人だけだったはずなのに何故二人もいるんだ?

 

「改めまして、私はC&Cのアカネです。ご主人様にご奉仕させていただくため、こちらに参りました」

「私はアスナだよ!私もC&Cなの!ここに来たのは……なんでだっけ?」

 

C&C、ミレニアムのメイドの姿をしたエージェント達。

話は聞いたことがある。

元の世界でも関わりはあったが、ほぼシャーレの掃除をしてくれたり、仕事の手伝いをしてくれたりぐらいの……

……お世話になってるな。

 

「シャーレは現在、部員募集中とのことなので、入部をと」

「あっ、私もそんな気がする!何か面白そうだったし!」

「えっ……と、入部してくれるのはありがたいんだが、その、C&Cとしての活動とかは大丈夫なのか?」

「ええ、シャーレもC&Cと同じようにキヴォトスの問題事をお掃除するのですよね?なら、無問題です」

「………そう……か…?」

 

会話できているのか不安になってきたな。

ともかく、シャーレの部員が増えるのは嬉しいことだ。

書類を渡し、書いてもらう。

 

「では、早速ですが天井を直させていただきます」

「あー…ああ、ありがとう」

 

最初から入り口から来ればそんなことしなくてもいいんじゃないか……?

そんなことを考えながら、書類にハンコを押す。

 

「……よし、これで二人ともシャーレの部員だ。また、暇な時に来てくれれば……」

「ご主人様」

「どうした?アスナ」

「……何か、隠してる?」

「………どうして、そう思うんだ?」

「なんとなく」

「……そうか……アカネと気を付けて帰るんだぞ」

 

アスナははーいと言って、天井を直したアカネと一緒に帰っていった。

……理論ではなく、直感、か。

 

 

 

 

 

激動の一か月だった……

起こった出来事は少ない方だが、内容が濃かった。

ユウカに怒られたり、ヒナと縁が出来たり、C&Cの二人がシャーレの一員になったり……

……本当になぜC&Cが来たんだ?

ともかく、今日もいい時間だ。

明日に備えて寝よう。

向かわなければいけない学校があるからな。

そういうことでシャーレのソファに寝転がる。

未だにベッドより、ソファの方が寝やすい。

昔に比べたら、それでも豪華だが。

 

「よいしょっと……」

 

………ふぅ。

 

「ここには私達しかいない。出てきたらどうだ?」

「……流石ですね、先生♡」

 

そうして出てきたのは脱獄犯、ワカモだった。

 

「何か用か?私の命は差し出せないが、お茶くらいなら出そう」

「だ、出してくれるんですか!?」

「別に驚くことでもないだろう」

 

そう言いながら電気を付けて、二人分のお茶を注ぐ。

 

「はい、緑茶だが、いいか?」

「あ、ありがとうございます……♡」

「別に立ったままじゃなくていい。座ったらどうだ」

「……優しいのですね♡」

「別に、客人に茶を出すのは当たり前だろう」

 

そう言って私は一口飲む。

 

「そうは言いますが、これでもわたくし―」

「それでも、関係ない。お前は私の生徒だ。別に人を殺したわけでもない。なら、離す必要もないだろう」

「先生……♡」

「しかし、悪いことは叱らせてもらう。お前のため、なんて言っても信じてくれないかもしれないが」

「あなた様が仰るのなら、このワカモ、従いますわ」

 

……謎に、聞き分けがいいな。

まあいい、ワカモがいい子というのは、先生も耳が痛くなるほど言っていた。

 

「そうか、それは良かった。……少し話をしよう。何故、悪い子にはなってはいけないか知っているか?」

「人に迷惑を掛けないようにするため、でしょうか。陳腐ですが」

「いや、違う。悪い子ほど、悪い大人に騙されるからだ。お前達には、そうなってほしくない」

 

切に願う。

もうこれ以上、子ども達には傷ついてほしくない。

だが、ワカモは微笑んで、それを拒否する。

 

「それは、約束出来ませんわ」

「何故だ?」

「もしあなた様が悪い人になってしまったら、ついていけなくなってしまいますから」

「……何故、そこまで私を。お前が気にするほどの者でもないだろう」

「一目惚れ、です」

「一目惚れ?」

「はい。あなたの瞳に。きっとあなた様は、辛い過去があった。しかしそれを乗り越えて今のあなた様がいます。優しく、強い光が込められた瞳を持つあなたが。わたくしには、その瞳と、その瞳を持つあなた様がとても愛おしく感じるのです」

 

………瞳か。

ワカモが私に一目惚れするとは、想像つかなかったな。

 

「ふふっ、そうか。お前もまた、なかなかの変わり者なんだな。……良かったら、シャーレに入部しないか?」

「良いのですか!?でも、わたくしが入っては……」

「別に公表しなければ大丈夫だろう。で、どうする?」

「もちろん、喜んで、ですわ!」

 

そういうことで、ワカモがシャーレの一員となった。

 

 

 

さて、もう寝なければ。

アビドス高等学校に向けて、一休みだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話―風邪をひいたサオリ先生

風邪をひきました。
なのでサオリ先生にも風邪をひいてもらいます。

サオリ先生「えっ」


違和感は突然だった。

朝起きて、すぐに来たのは頭痛。

その次にだるさと寒気。

妙な暑さもある。

これは……

 

「風邪ですね」

「だろうな……ん?」

 

すぐ横を見る。

桃色の髪をしたナース服を思わせる格好に、口元を隠すマスク。

トリニティ、救護騎士団のセリナだった。

 

「……いつも思うんだが、どこから入って来たんだ?」

「そんなことより先生、お身体、大丈夫ですか?」

「そんなことより……?えっと、頭が痛い……げほっげほっ!」

「大丈夫ですか!?横になってください先生……とりあえず、お薬と、冷えるシートは持ってきましたので、飲んで、おでこにつけてください。水は……」

「ん……」

 

セリナが右手に持つ箱を取り、中から()()取り出して口に入れる。

 

「あっ、先生!それはお薬じゃなくてシートです!飲んだらいけません!ぺってしてくださいぺって!」

「ん……ぺ……」

「……そうしてくださいと言ったのは私ですが、何だかイケない感じが……ん”ん、それはともかく、このままでは薬は飲めなさそうですね……」

「………のまして」

「っ、わ、分かりました!あっ、あーんをしてください」

「あーん……」

「っ”!!!はい、お水です。ちょっとだけ起き上がってくださいね」

「よいしょ……っと……っん、っん、……ぷは……」

「お口からお水が垂れちゃってますよ……拭きますから、こっち向いてください」

 

私はセリナに動かされ、行動をするが、状況が把握できない。

今まで引いてきた中で最もしんどい。

 

「お薬も飲みました、シートも張りました。じゃあ、今日一日は休んでくださいね」

「ん……ありがとぅ……」

「お昼からは、別の生徒さんが来てくれますので、それまで、おやすみなさい……」

「おやすみぃ……」

 

私はものの数秒で暗闇へと落ちていった。

 

 

 

体感数分後、お腹が空いて目覚める。

……鼻歌が聞こえてきた。

起き上がりたいが、思考に対して体が一切言うことを聞かない。

すると、何者かの足音が近づいてきた。

 

「……っあ、先生、起きられましたか?」

 

見える範囲で分かる情報は、緑色の格好をしたちっちゃい子が何かを皿に乗せて立っていた。

この子は、ミレニアムの……

 

「先生、分かりますか?ミドリです。先生が風邪を引いたと聞いて、やってきちゃいました」

「ごほっ……ん、ありがと」

「本当に弱ってる……リンゴを剝いてきました。食べれますか?」

「……一人じゃ、むり。食べさせて」

「あ、あーんですか!?わか、分かりました。では、口を開けてください」

「あーん……んく、んく……うさぎだ……」

「!、そうです、よく分かりましたね!」

「……がんばった……」

「ひゃっ、せんせ、なん、頭を……!?」

「ゆび、たくさんけがしてる……わたしのために、ありがとう……」

 

その後も、リンゴを食べさしてもらう。

ゆっくりとだったため、数分後くらいに終わった。

 

「っ///、先生………となり、失礼します」

 

布団の中にミドリが入って来る。

 

「こうすれば、早く治るって聞いたことがあります。先生が眠るまで、いてあげます」

「……じゃ、はなしをしよう……ほかのみなは……?」

「大勢だと迷惑が掛かるかと思い、代表して来ちゃいました。お姉ちゃんは確定で駄目でしたけど」

 

そんな他愛もない話をしていると、数十分後には瞼は完全に落ちていた。

 

 

 

次に目を覚ました時には、大分落ち着いていた。

いい匂いがしてくる。

 

「先生、お元気ですか?」

 

ぱたぱたと近づいてきたのは、黄色の頭巾が似合う少女だった。

 

「フウカ、よく来てくれた」

「ああ、だいぶ良くなったんですね。もう、寝込んでしまったって聞いて、驚いちゃいました」

「すまない、迷惑を掛けたな」

「いやいや、責めてはいません!逆に、こうなるほど頑張っていただいて、ありがとうございます。ところで、お粥、作ってきましたが、食べますか?」

「フウカのご飯は死にかけても食べたい。いただこう」

「もう、先生ったら……私以外に言わないでくださいね?はい、熱いので……ふぅー、ふぅー」

 

フウカはレンゲを持ってお粥を掬い、息を吹いて覚ます。

 

「はい、あーん」

「別にもう一人で食べれるが……あむ、んぐんぐ……やっぱり、フウカのご飯を美味しいな。毎日食べたいくらいだ」

「……それも、私以外に言わないでくださいね」

「……おいし。フウカ、もう一口」

「ふふっ…はい、ご飯は逃げませんから、ゆっくりと食べてくださいね……」

 

そう言われたが、ものの数分で食べきってしまった。

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末様です……先生、今日は寝てください。横にいますから」

「そうする。とはいえ、目が覚めたな……フウカ、お話しよう。ミドリみたいに」

「ミドリ……ですか?」

「ああ、昼……だと思うが、その時に来てくれた子だ。一緒に布団に入って……」

「一緒に布団!?……分かりました、先生、横失礼します」

「ん?急にどうした……あ、フウカも眠かったのか。あまりよくは眠れないかもしれないが……」

「いいですから!失礼します!?……ひゃう……」

「フウカ?どうした、フウカ!」

 

フウカは謎の奇声を発し、それ以上動かなくなっていた。

………そうか、いつも頑張っているものな……すぐに寝てしまったのか。

おやすみ、フウカ、と言って私も目を閉じた。




短くてスマーン!
ラストは次の話の前書きでゆるして
しんどいけど某副反応あかねちゃん比べたらましやわ、ゎはは


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話―まとめ

えー、はい。
風邪かと思ったらコロナでした。
別そこまでは良かったんですが、小説書くためのパソコンを隔離部屋とは違うとこに置いてきてしまったので書けませんでした。(スーパー言い訳タイム)
スマホで書くには面倒すぎやったんや…ストーリー書くの。
じゃあストーリーじゃなくて良くね?ということにようやっと気づいたので書きました。

PS.トキ10連で出ました(火種投下)


《風邪を引いたサオリ先生―その後》

 

目が覚めた。

起き上がってみるが、変な怠さもない。

ということは……

 

「治った、か……」 

 

再度自己確認するが、咳もない、測ってみても熱もない。

今までで最もひどい風邪だと思ったが、治るのも一番だったな。

昔に比べて、いい環境で休めたからか……

ベッドから下りて水を取りに行く。

そういえば、昨日はセリナと、ミドリと、フウカの三人が看病してくれたんだったな。

もしかしたら、それ以外の子達も来ていたかもしれないが。

私のために来てくれるとは、本当に優しい子達だ……

 

……あ、と昨日のことを思い出す。

ミドリとフウカは一緒にベッドに入ったが、移してないだろうか。

水を一口飲み、自分のデスクまで歩き、スマホを取ってモモトークを確認してみる。

沢山の通知が入っていて、一瞬驚きながらも、目当ての相手の欄を探す。

どうやらあの後、自身の学校まで戻り、次の日、つまり今日も普通に過ごせているようだ。

 

風邪を引いたときはどうしようかと思ったが、何とかなって良かった。

モモトークを一つ一つ返信しながら、今日のするべき事を考える。

あー、書類仕事したくないな……

ふと、入り口に箱が置いてあるのが見えた。

郵便物のようだ。

それを中に入れ、開けてみる。

 

「……何故かひんやりする」

 

中には一枚の手紙と―腐らないように保冷剤が沢山入れられたお肉の箱だった。

 

「……」

 

手紙は真っ黒にひび割れたような模様が入っていたので、中を読む気にはなれなかった。

……暇なのか?

 

どうやって食べようか、なんて考えながら、私はお肉を冷蔵庫に入れ、手紙は捨て…ずに机に投げ置いたのだった。

 

 

 

……そういえば、起きる度に服が変わっていたが、変えてくれていたのだろうか?

 

 

 

《メイドに振り回されるサオリ先生》

 

「……」

「……むふー」

 

ミレニアムに用事があり、それの解決後暇だったのでブラブラをしていると、突然アスナと出会った。

かれこれ五分は顔を見合っている。

挨拶はしたが、どうにも……話が始まらない。

こちらから話しかければいいだけなんだが、アスナは元気に喋りまくるイメージしかないからか、声をかけづらい。

後は前の……野生の勘か、私に隠し事があることに気づいている。

とはいえ、黙っておくのもいけないか。

覚悟を決めて話しかけた。

 

「……なぁ、私の顔に何かがついてるか?」

「ううん、ご主人様ってて綺麗な顔だよね」

「え……急になんだ?ありがとう……」

「あとモデルさんみたいな体型だ。運動とかしてるの?」

「よく言われるが……これと言って何も……ご飯もよく食べるし……仕事が激務くらい……」

「でもいつもスーツ姿だよね……よしっ、いっしょにお買い物に行こっご主人様!」

「何故っ!?」

 

アスナの謎の思い付きで、急遽ショッピングモールに行くことになった。

 

 

 

……のだが、何をしているかと言うと―

 

「これかな、いやこっちかな……」

 

―着せ替え人形化だった。

本当に何故…?

 

「そろそろ、思惑を教えてほしいんだが……」

「ん?えっとね、ご主人様ってお洒落とか全然しないから、もったいないなーって!」

「もったいないとは……?まあお洒落は嫌いじゃないが……そういうのはアスナの方が似合うと思うぞ?」

「私もするよ?その後デートしよ!」

 

デート?

急になんなんだ……いや暇だったし、別に構わないが……

この後も、小一時間ほど続けられ、私は目を回した。

出来た姿は少し昔の私の格好を思い出す、動きやすい格好だった。

違うところを挙げれば、明るめのファッションというとこか。

 

「じゃんっ!どうかな?」

「どうかなと言われても……だが、うん、悪くない」

「頑張った甲斐があったね!じゃあ次私!次はご主人様が選ぶ番だよ!」

「……こういうことは得意じゃないんだが……」

 

女の子の買い物の付き添いは何度かあったが、着せ替えをするのもされるのも、今日が初めてなんだが。

とはいえ、選んでもらった……頼んでないが、まあ選んでもらったし、できるだけ頑張ってみるか。

 

二十分ほど悩み、出来た姿はミニスカートでシャツ姿、腰にジャンパーというなんとも無難な格好だ。

元が可愛いから無難が一番失敗しないことに気づいたからな。

 

「あー……あまり、お気に召さないかもしれないが……」

「ううん、ご主人様が悩んでくれただけで凄い嬉しい!じゃあ遊びに行こっか!」

「ああ、そうだな」

 

 

 

二人分の服を支払い、店を出る。

しかし、突然の事だし、まだ私はこの辺のことを詳しくないんだが……

 

「大丈夫、気の向くままにいってみよー!」

 

ナチュラルに心を読まれたな……

言われた通り、なんとなくで歩いてみる。

アスナは私の腕に自身の腕を絡ませ、歩く。

機械が多いイメージだったが、案外他と変わらない場所もある。

通りゆく人々も、変わらず……

だが、この影ではまだ困っている子どもがいるだろう。

尽力せねば、な……

 

「先生、目がギュってなってるよ」

「ん、ああすまない、ちょっと考え事をな」

「……困ってる子達のため?」

「……驚きすぎると、声も出ないな」

「優しいね、先生は」

「……」

 

……何か、おかしい。

アスナは、もっと激しく遊び回るような子だ。

こんなに落ち着いているのは……風邪か?

 

「……ごめん、もう時間だ。もう、行かなきゃ」

「な、あっおい!」

 

アスナは突然どこかへ走っていった。

……風のような時間だったな……

しかし、本当に大丈夫だろうか……?

 

 

 

 

 

「……ほんとーに、優しいね。昔から、いつも」

 

 

 

 

 

《スイーツパラダイス》

 

「先生、お願いがあります」

 

ハスミが突然シャーレに現れ、そう言葉を放った。

 

「……まずは、久しぶり」

「あっ、すいません。そちらが先でしたね。お久しぶりです。再開できて、嬉しく思います」

「それで、お願いというのは……」

「それはですね……

私と、スイーツパラダイスに行っていただきたいのです」

「……はあ」

 

 

 

ハスミは何故そんな願いを言ってきたのか、トリニティに向かうついでに詳しく教えてくれた。

ハスミはダイエット日々悩んでいるらしい。

いつものように悪戦苦闘しながら過ごしていると、なんやかんやあってスイーツパラダイスの招待券を二枚貰ってしまったそうだ。

最初は涙を流しながら他の人にあげようとしたが、何しろ渡してきたのが自分のことを敬愛してくれている後輩からで、易々と人に渡すのは……となったらしい。

 

じゃあどうするか、そうだ、ダイエットに使おう。

となった。

もう一人に沢山食べてもらい、それを見て我慢力を高めよう、と。

しかしそんな事に他の人を巻き込むわけには……という時に、シャーレの事を思い出したということだ。

 

「ふむ……確かにシャーレは生徒の悩みを助ける立場だから、喜んで協力するが……いいのか?」

「何がですか?」

「私でだ。というかダイエットのことも聞いて良かったのか?女の子はあまり聞かれたがらないらしいが」

「先生には私の事は全て知っておいてほしいのです。そもそもあまり隠してはいないのですが」

「なるほどな……」

「ところで、先生。ミレニアムやゲヘナには行ったという噂を耳にしたのですが、どうしてトリニティには来てくれないのですか?」

 

ぐっ、困ったな……

明確な理由というのはあるんだが……

その理由は…アズサ、あいつだ。

私は前からアリウススクワッドを探してはいるが、こちらの直接の認識はできるだけされたくない。

だが今のところあいつはまだ繋がっている状態。

しかるべき時まで遭遇したくないんだが……

そんなことを言うわけにもいかなく。

 

「たまたまだ。どちらも仕事のためだったからな、近いうちに行こうとは思ってたんだが」

「そうでしたか。それは良かったです」

 

上手く、誤魔化せたか?

……いつかは、私の事を話すときが来るだろう。

その時までは黙ることを許してくれ。

 

 

 

そうして目的のスイーツパラダイスの会場に着いたのだが……

 

「で、では先生、どうぞ……!」

「あ、ああ。それじゃあ、いただきます」

 

そうは言ったものの、食べづらい……!

私の前には一口サイズのケーキが沢山あるが、その反対にいるハスミには一つもない。

そしてそんな状態でなんともいえない顔をしているハスミの前でパクパクと食べ進めていいものだろうか?

 

「せ、先生?どうされました?」

「……なんでもない」

 

しかし私は頼まれた身、やるしかない。

まずはイチゴのショートケーキを……

 

「はむっ」

「!」

「んぐんぐ……こ、これは……!」

「ごくり……!」

 

ほどよいクリームの甘味にイチゴの酸味がマッチしていて…

 

「おいしい…!」

「そ、そうなんですか……!」

 

ハスミは一段と絶望に染まった顔になった。

次は、このチーズケーキに。

!、これは……!

 

「これも、おいしいな」

「うぅ……!」

 

私は多種多様なスイーツを食べ続けた。

モンブランにプリン、マカロンにミニパフェまで。

美味しいと全てに漏らしてしまうが……

やっぱり、そうだな。

ケーキの一つをフォークで刺し、ハスミに近づける。

 

「な、何を……」

「私は美味しいものほど皆で食べたい。ハスミも食べたそうだったしな」

「で、でも、私にはダイエットが……!」

「言おうか悩んでいたが、やはりダイエットは必要か?私には痩せてるように見えるが……それに、食べてる姿の方が似合うと思うぞ?」

「……う、うぅぅ……!」

 

ハスミは悩み続けたが、最後にはパクッと食べていた。

その表情は花のように明るい笑顔が。

 

「おいひい……」

「やはりそちらの顔の方が似合う。とても可愛らしく見える」

「か、可愛く………私、決めました」

「なんだ?」

「ダイエットは明日から頑張ります!」

 

結局するのか……まあ本人が望むのなら、好きにすればいい。

こうして二人仲良く、スイーツを食べたのだった。

 

 

 

次の日のモモトークには、強い悲しみが籠っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話―ミニ

うぅ……遅い上に少なくて申し訳ない……

《追及》
ガバガバ記憶力のせいでアスナがネルのことを先輩呼びしてしまいました。修正します。
えっ、同い年ってマジ?



《サオリ先生とソラ》

 

いつも通り、書類と格闘していた私は、ふとお腹が空いたことに気づく。

机にある時計を見てみれば、もう昼過ぎ。

何かあったかなと思いながら席を立ち、部室にある冷蔵庫を開けてみるが、見事に何もない。

仕方ない、買いに行くか……

 

 

 

というわけで来たのはシャーレのビルにあるコンビニ……に似たもの、エンジェル24。

コンビニじゃないのなら何なんだ?スーパーか?

そんなことはどうでもよく、今の目的は昼ごはんだ。

 

「何にしようか……」

「……」

 

食品コーナーを見ていると、視線を感じる。

まあ、十中八九ここの店員、ソラのものだろうが。

中学生ながら働くその姿はなんというか……心に来るものがある。

しかしそれは個人の事情がある。

こちらがとやかく言うことではない。

私はクリームパンとペットボトルのお茶を手に取り、レジまで持っていく。

 

「い、いらっしゃいませ!」

「それ今言うものか?別にいいが……この二つを頼む」

「えっと、二つ合わせて、286クレジットになります」

 

私はカードを出して答える。

これでお昼が食べられる。

そう考えたとき、一つの疑問が浮かんできた。

 

「ソラ、少しいいか?」

「は、はい!何でしょう!?」

「もう十二時過ぎだが、ソラは昼は食べたのか?」

「そ、それは……」

「別に、言いたくなければ言わなくてもいいぞ」

「そういうわけではなくて……」

 

ぐぅ、と何かが鳴る音がした。

私から出た音ではない、ということは十中八九ソラの腹の音だろう。

 

「……お弁当、持ってくるの忘れまして……」

「お弁当。いつも作っているのか?」

「はい、出来るだけ節約しなきゃいけないので……」

 

自炊も出来るとは、偉いな。

しかし、音が出るほどお腹を空かしているとは、放っておけないな。

聞いてみれば、お金もほとんど持っていないそうで……

仕方ない。

私は少し待ってもらい、多くのパンやおにぎりなどをカウンターまで持っていった。

そして私はこう言い放った。

 

「一緒に食べよう」

「……へ?」

 

 

 

私達は買った物を持ってバックヤードに入る。

私は一旦物をそこにあった机に置き、お茶を飲む。

 

「……ぷはっ。さてと、何から食べようか。ソラはどうする?」

「えっ、えっと……やっぱり私は……」

 

ぐぅ、と先程聞いた音がした。

 

「体は正直だな?」

「う、うぅ……」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめるソラ。

それを見て笑いながら私はクリームパンを齧る。

 

「うん、美味い。ほら、別に残しても構わないから食べないか?」

「……じゃ、じゃあ、おにぎりを……いただきます」

 

そう言って鮭のおにぎりの袋を開け、食べる。

さっきまで少し硬い顔をしていたソラは、柔らかく……柔らかく……

よく分からなかった。

まあ、次々と食べているから大丈夫だろう。

私もアンパン、昆布おにぎりと食べていく。

 

数分後には、そこそこあった食べ物達は綺麗に無くなった。

 

「ふぅ、食べたな。……よくよく考えたらサラダとかもあった方が良かったか?別にいいか。よくないか……」

「あの……少しいいですか?」

 

背伸びをしていると、ソラが話しかけてくる。

 

「なんだ?」

「えっ、えっと……なぜご飯をくれたのかを……いや、先生だからかもしれませんけど!ちょっと、気になって……」

「……私は、お前くらいの頃、いや、もう少し小さかった頃か……満足に食べ物を食べられなかった。お前みたいに働くところもなかったしな。それでも、日々を過ごすため、どうにかして金や食料を集め、なんとか生きていた」

「……」

「今思えば、運が良かったのかもな。私一人だけじゃなく、三人の友達も食わせなければいけなかったし……だからか、さっきまでのお前みたいに空腹で困っている奴は見過ごせないんだ。まあ、困っている子は誰でも見過ごせないが」

 

私は残りのお茶を飲み切り、置いてあったごみ箱に捨てる。

その時の反動でよく食べるようになったし……昔の私では、考えられなかっただろうな。

助けられた後は恩を返さなければと思って何かを受け取ることを拒否していたし……

過去の事を思い出し、懐かしむ。

 

「ああ、それだけじゃなかったな。いつもシャーレを支えてくれている一人でもあったからな、ソラは。その恩返しだ」

「ええっ!?い、いや私ここで働いているだけで……」

「それがありがたいんだ。必要なものを売ってくれる、それだけで、私にとっては嬉しいことなんだ」

 

食料も消耗品も、すぐに買えるというのは本当に助かる。

 

「いつもありがとう、ソラ。…っと、いい時間だ。私はもう戻る。無理はするなよ」

 

私はそう言って出ていこうとする。

 

「あの!」

 

だが、後ろからの声で足をを止める。

 

「いつでも……来てください」

 

私は微笑み、頷いた。

 

 

 

 

 

《アスナと#&と*?=の密談》

 

「……あなた、私達を差し置いて先生と接触しましたね?」

「うん!」

「なんて綺麗なお返事……本当に目的は果たせているんですか?」

「そこはダイジョーブ!問題ないよ。全知さんにもバレてないし」

「その根拠はどこから……勘ですか?」

「カン!」

「悔しいですけどあなたの勘は当たりますからね……信じましょう。こちらも問題ありません。と、言いたいところですが……少し、難航していまして。ああ、達成はいたしますのでご心配なく。……先ほどから黙っているあなたはどうなんですか?まあ私のところより複雑でしょうし、時間もありますので、そこまで急がなくともよろしいのですが」

「……私は、少し気になる者達と接触しまして。そちらの方と関わっています」

「その、気になる者達とは?」

「ゲマトリアです。彼らは私達より一歩以上神秘に対して触れています。少しご教示、いただこうかと」

「なるほど……分かりました。ですが、本来の目的も忘れぬよう……なんて、忘れられるはずがありませんね、私達は。では、今回はこれくらいにしましょう」

「うん」

「はい」

 

 

 

「……?おい、アスナ!そんな路地裏で何して―」

「リィーダァー!」

「抱きつくなぁ!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話―エイプリルフール・パニック

エイプリルフール(遅刻)ネタです。
ネタだからかなりのキャラ崩壊も許してくだちい。


「暇だ」

 

最初はその一言だった。

本当にただただ暇だった。

仕事も珍しく朝に終わり、昼からずっと暇。

かといってゲームする気分ではないし、会話する相手……当番は今日は取っていないし……

見回りでもするか……と考えながらなんとなくカレンダーを見た。

 

四月一日。

 

……よし。

スマホを手に取り、モモッターを開く。

何にしようか……結婚しまし……いや、ありきたりすぎるな。

冷やし中華始めま……本当に来られたら困るな。

うんうん悩みに悩んで決まったのがこれだった。

 

 

『妊娠しました』

 

 

これが、地獄の始まりだった

 

 

 

送ってから数分後、一人ババ抜きをしていると、突然勢いよくシャーレの扉が開けられた。

入ってきたのは、汗まみれのシロコだった。

 

「シロコ?どうしてそんな汗まみれに……」

「アビドスから自転車で来たから……それより、これ」

 

そう言ってシロコはスマホの画面をずいっと見せてくる。

画面には、さっきモモッターで呟いた嘘。

……送ったのは、数分前だったはずだ。

それを見てからシロコはアビドスからシャーレまでひとっ走りした、というわけか。

 

「いやおかしい運動量だな!?水飲むか?取ってく―」

「いらない。これ、ホントなの?」

 

いらないって……えぇ……

本人はそちらの方が最優先みたいだ。

仕方ない、嘘と……いや待て、騙されているのなら、続けてもいいんじゃないか?

 

「ああ、事実だ。実は、少し前から発覚していたんだが、どのタイミングで言い出そうか悩んでいたんだ」

「……そう、なんだ」

「名前は何にしようか、女の子だったら……」

「相手は」

「ん?」

「妊娠してるってことは、付き合って……結婚してるんでしょ?相手は誰?」

 

そこまで聞いて……いやそこは気になるか。

……何も考えてなかった。

ん……いないでいいか!

 

「逃げられたんだ。この子を作って……でも、頑張って育てるつもりだ」

「……そっか。じゃあ二人で頑張って育てなきゃだね……」

「ああ…………ん?今なんて」

 

シロコは私の腹を撫でながら菩薩のような顔で言った。

 

「いいお父さんになるから……」

 

 

そしてシャーレの天井が爆発した。

 

 

「なぜ!?」

「ふっ、ふふふ……あなた様の旦那になるのは……このワカモですわ!」

 

そしてそこから現れたのはワカモだった。

 

「ん……させない……!」

「こちらのセリフですわ!」

 

二人は臨戦態勢になり、そして戦い始めた。

シャーレは戦闘禁止だぞ!

一瞬にして廃墟寸前の部屋になってしまったシャーレの部室はもう、悲惨だった。

止めるにしても私の声は届いていない様子だ。

どうする……!

 

 

そしてシャーレの壁が爆発した。

 

 

「なんで!?」

「……お待たせ、先生。って言いたいとこだけど~……」

「……」

 

入ってきたのはボロボロの状態でお互いを睨みあうホシノとヒナだった。

なぜ戦ってるんだ……

 

「先生、赤ちゃん出来たんだって?私との子でしょ?」

「何言ってるんだ?」

「そこの狂人の言うことには反応しないで。私だったでしょ?」

「何言ってるんだ???」

 

そもそも経験していないだろう!?

そんなことを言う暇も無く争いは激化する。

ホシノとヒナが参戦してしまったことで四つ巴の戦いに……ん?

いや違う、シロコとホシノは共闘している!

 

「先生、ホシノ先輩と会話して決まった。アビドスの皆でお父さんになるから」

「――」

 

人は、驚きすぎると声が出ないらしい。

恐怖である。

怖い。

 

 

そしてシャーレの床が爆発した。

 

 

「今度は誰だ!?」

「あはは……来ちゃいました……」

 

 

ヒフミだった。

阿慈谷、ヒフミだった。

戦車に乗った阿慈谷、ヒフミだった。

 

「……?……???」

 

え……なぜ……?え……?

来ちゃいました???

い、いやいやいや、ヒフミは自分で言うほど平凡な女の子だ、そんなことをするはずがないだろう!彼女が!

強いて言うなら銀行強盗のファウストだったり海に行くために戦車を盗もうとしたりティーパーティーのトップの一人の脳を破壊ぐらいしかやって……

平凡とは……?

 

「な、なぜここに……」

「本当は、美食研究会の皆さんと来るはずだったんですけど、皆さんは正義実行委員会に捕まってしまって……」

「???」

 

謎はさらに加速する。

 

「よく知らないんですけど、先生がピンチで、美食に影響があるとかなんとか……」

「おお……お?おお……んー……?」

 

美食とは。

 

「それで、戦車を盗んできた美食の皆さんにこれを託されて、ここに来たんです。それで……これは今どういう……?」

 

よ、よかった……モモッターは見ていなかったようだ……

 

「実はな、今日はエイプリルフールだろう?それで、昼にモモッターで妊娠しました、という嘘をついたら、大変なことに……」

「だから、今日は周りが騒がしかったんですね……」

 

「「「「嘘?」」」」

 

闘っていた四人の目が一斉に私に向く。

 

「ほらっ、今日はエイプリルフールだ、許してくれる……」

「先生、エイプリルフールは午前中までですよ……」

「……………さて、と……遺書の書き方はどうだったかな……」

 

 

 

 

 

「……つまり、自分が発した嘘のせいでそのような姿に?」

「……そうだ」

 

私はあの後、こってりと絞られ、シャーレ付近の公園にある木に吊られていた。

『私は良くない噓をエイプリルフールの後に吐きました』という看板付きで。

 

「……助けてくれないか?」

「クックック……自業自得かと」

「………だな………あ、前のお肉、ありがとう。美味しく頂いた」

「それは良かったです。代わりと言っては何ですがゲマトリアに「入らんわ馬鹿」そうですか……」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策委員会編
対策委員会―1


サオリ先生は顔がいいことで有名。


荷物の最終確認をする。

食料、水、あとはシッテムの箱。

アロナ先生から食料は多めに持っておけと言われたが、何故だろうか?

まぁおとなしく従っておこう、間違いではないはず。

 

これから向かう場所はアビドス高等学校。

アビドスは現在とても大変な状態になっているらしい。

それも地域の暴力組織による攻撃で。

勿論見過ごすわけもなく、行くのは間違いないのだが……

 

その騒動には、あの()()()が関係しているらしい。

 

『勿論、私達がいた世界とは違う可能性はありますが……』

 

とアロナ先生は言う。

可能性とはいえ、ほっとけるわけがない。

ということで向かうことになった。

 

 

 

の、だが。

アビドスの自治区に着いた所までは良かった。

 

「学校が、見つからないだと……?」

 

遭難してしまった。

学校の場所は事前に調べたはずなんだが……全くと言っていいほど見つからない。

何日も迷い続け、ついには水と食料は尽きてしまった。

多めに持ってきたはずだが、それでも足りなかったか……

 

『だからもう少し持って行った方がいいって言ったじゃないですか!」

「あれ以上持ってしまうと、逆に体力を消費してしまう。今よりもっと悪くなっていただろう」

『むむむ……』

 

感じる渇きを無視するために、アロナ先生と会話する。

しかし……人の気配がない。

家は多くあるように見えるが……

先生から少し聞いたことがある。

アビドスは過去大きな事件があり、それで人が多く去っていったと……

元の世界では、諦めなかったことや、他校との協力もあって少しずつだが戻ってきているらしい。

だがここは違う、絶賛大ピンチ中だ。

誰か通りかかるのを期待して塀を背にして倒れていると、何かが近づく音が聞こえてきた。

 

「……ん?」

 

顔を上げると、そこにいたのは、自転車に乗った一人の女の子だった。

 

「……」

「……」

「……あの……大丈夫?」

「……助けてほしい」

 

本当に、切実に。

 

「あ、生きてた。倒れてたから、死んでるのかと」

「いや、空腹と喉の渇きで倒れていた……あまりこういうことを言うべきではないが、何か、持ってないか?」

「……ホームレス?」

「……」

 

結構ショックを受けた。

思えば昔は似たような感じだったな……いや、働いていたから違うと思いたい。

少なくとも食を求めたことはなかった。

先生はよく奢ってくれたが。

とりあえず、簡単に説明をして、私の状況を理解してもらう。

 

「用事があって数日前この町に来たけど、お店が一軒もなくて脱水と空腹で力尽きた、と」

「ああ……」

 

シロコと名乗った女の子は私の言ったことを反復して状況を整理する。

アビドス所属のシロコ。

私も元の世界で会ったことがある。

つかみどころがないような奴で、先生によく会いに来ていた。

よくあっち向いてホイをせがんでいたな。

 

「ただの遭難者だったんだね」

「今更なんだが陸地で遭難者になるのはかなり珍しいと思う」

「ん、でもここら辺だとよくあること。ここは元々そういう所だから。食べ物がある店なんか、とっくに無くなってるよ」

 

何があったのか、それは知らないが……少し悲しげに見える。

先生から聞いておけば、と思ったが、部外者がおいそれと聞くわけにはいかない、か。

 

「ここに来るのは初めてで、土地勘が無いんだ」

「そうなんだ」

 

正確には来たことはあるが、いつも連れられてだから気にしたことがなかった。

……ん?

遭難者で、そうなんだ。

 

「……んふふっ」

「ん?どうしたの?」

「い、いや、気にしないでく、ふふ、れ……」

「?、まあいいや、ちょっと待って」

 

そう言ってシロコは鞄を漁り始めた。

そして取り出したのは、飲料容器だった。

 

「はい、これ、エナジードリンク。ライディング用なんだけど……今はそれくらいしか持ってなくて。でも、お腹の足しにはなると思う」

「本当か?助かる」

「えっと、コップは……」

 

私はそれを受け取り、そのまま口を付けて飲む。

仕事の時にしか飲まない、対して美味しくない飲み物だと思っていたが、空腹時は何でも美味しく感じるな。

勢いよく飲み、すべて飲み干してしまった。

しまった、飲みすぎた。

シロコに謝ろうと顔を合わせると、何故か顔を赤くしていた。

まさか、怒らせてしまったか。

 

「すまない、飲み切ってしまった。またお礼を……」

「う、ううん、気にしないで」

「気にするなと言われてもな……ともかく、本当に助かった。ありがとう」

 

微笑むと、顔を逸らされてしまった。

やっぱり、怒っている……?

そんな私の不安をよそに、シロコは話しかけてくる。

 

「そういえば、見た感じ、連邦生徒会から来た人みたいだけど……」

「ああ、正確にはシャーレとしてなんだが……」

「!、もしかして、アビドスに?」

 

その問いに頷きで返す。

 

「……そっか、久しぶりのお客様だ。それじゃあ、私が案内してあげる。すぐそこだから」

「……その、実は、お腹がすいて、動けないんだが」

 

昔はこの状態でも動けたんだが……ヘイローが無くなったせいにしておこう。

それも関係しているのはあるだろう。

私の言葉に困ったように首を傾げるシロコ。

 

「うーん、どうしよう……」

「……その自転車に乗せてもらうというのは」

「えっと、これ一人用だから……」

「……だろうな」

 

私でも二人乗りを見つけたら注意する。

危ないからな。

それならどうしたものか……

……そういえば、彼女はキヴォトスでも運動ができる方と聞いたことがある。

自転車に乗って一日で何十キロも走るとかなんとか。

なら背負ってもらうのはどうだろうか。

早速そのことを伝えてみる。

 

「……うーん、まあ、その方がいいか。ロードバイクはここに止めて、と……それじゃ、はい」

「すまない、助かる」

「……あ、待って」

「?、どうした?」

「えっと……さっきまでロードバイクに乗ってたから……そこまで汗だくってわけじゃないけど、その……普段は学校のシャワー室を使うの。予備の服もそこにあるし……」

「……それが、どうした?」

「だから、その、ちょっと匂いが……」

「匂い?そういえば、いい匂いがするなと思ったが、シロコからするな。いや、今は関係なかったか。それで、匂いがどうした?」

「……///い、いや、気にしないで」

 

シロコはそう言って顔を背けた。

さっきからよく顔を背けるが、私は知らぬ間に何かやらかしたか?

考えても分からない。

頭をひねっているうちにシロコが近づいてきていた。

 

「それじゃ、改めて……はい」

「じゃあ、失礼して」

「ん、しっかり掴まってて」

 

私はシロコの背中にしっかりとしがみつき、落ちないようにする。

そうしてやっとアビドスに向かうことができたのだった。

 

ちなみに思いのほか速くて驚いた。

 

 

 

「ただいま」

「おかえり、シロコせんぱ…い?……うわっ!何っ!?そのおんぶしてるの誰!?」

「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」

 

シロコに背負われながら、アビドスの教室に入ると、三人の少女がいた。

その中の一人が純粋に驚き、一人は笑顔でシロコが拉致をしたと言う。

笑顔で言うことか?

 

「拉致!?もしかして死体!?シロコ先輩がついに犯罪に手を……!!」

「皆落ち着いて、速やかに死体を隠す場所を探すわよ!体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それを……」

「……」

 

このまま放っておくと、生き埋めにされかねん。

シロコから降り、声を掛ける。

 

「死体じゃなく、普通に生きている人間だ。アビドスに用があって来た」

「えっ?死体じゃ、なかったんですか……?」

「拉致したんじゃなくて、お客さん?」

 

シロコ、散々な言われ様だが、大丈夫なのか?

 

「そうみたい」

「わぁ、びっくりしました。お客様がいらっしゃるなんて、とっても久しぶりですね」

「そ、それもそうですね……でも来客の予定なんてありましたっけ」

「シャーレの顧問先生の、錠前だ。よろしく」

 

「「「!?」」」

 

「え、ええっ!?まさか!?」

「連邦捜査部シャーレの先生!?」

「わあ☆支援要請が受理されたんですね!良かったですね、アヤネちゃん!」

「はい!これで…弾薬や補給品の援助が受けられます」

 

そう喜ぶ三人の名はアヤネ、セリカ、ノノミ。

この三人もあまり関わってなかったが……いや、そういえばこの子ら……

シャーレの先生になってからは、アビドスで仕事をするときにたびたび世話になったな。

 

「あ、ホシノ先輩にも知らせてあげないと……あれ?ホシノ先輩は?」

「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」

 

 

ダダダダダッ!!!

 

 

そんな会話が聞こえた次の瞬間、銃声が聞こえた。

 

「じゅ、銃声!?」

「!!」

 

部室の窓から校庭の方を見てみると、そこには十数人程度の不良らしき子達がいた。

あれは……

 

「わわっ!?武装集団が学校に接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」

「あいつら……!性懲りもなく!」

「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩!寝ぼけてないで、起きて!」

「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよ~」

 

セリカに連れられてきたのは周りに対して小さめの少女、ホシノ。

こう見えてかなりの知恵や戦闘力があるのは知っている。

先生もよく頼りにしていたな。

 

「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!ああっと、こちらの方はシャーレの先生です」

「錠前だ。よろしく」

「……あ、先生?よろしくー、むにゃ……」

 

……本当に大丈夫か?

今もセリカに頬をぺちぺち叩かれてるが……いや、私は生徒のことを信じると決めたんだ、疑ってどうする。

やるときはやるだろう、多分。

 

「ふぁあ……もー、これじゃおちおち昼寝もできないじゃないかー、ヘルメット団めー」

「すぐにでも出るよ。……ん、そういえば、先生。弾薬や補給品は?」

 

おっと、危ない、忘れるところだった。

すぐにシッテムの箱を取り出し、何度かタップする。

すると、教室に多くの箱が現れる。

 

「先生、これは……!?」

「わぁ、こんなにたくさん、どこからですか?」

「……所謂、秘密道具、という奴だ。さ、呆けてる暇はない、返り討ちにするぞ」

「ん、先生の言う通り。皆、行くよ」

「はーい、皆で出撃です☆」

 

各々弾薬や補給品を回収し、颯爽と飛び出す。

 

「私がオペレーターを担当します。先生はこちらでサポートをお願いします!」

「分かった。全員、気を付けて」

 

 

 

端的に言えば、戦闘は早くに終わった。

それもそうだ、今まで苦戦していたのは補給が絶たれていたからだ。

各々の戦闘能力は高く、雑兵ばかりしかいなかった。

ならば、こうなるのは当たり前、と言えるだろう。

 

「カタカタヘルメット団残党、郊外エリアに撤退中」

 

アヤネの残党の状態を皆に報告しているのを聞きながら、次の手を考えていた。

通信の先からは喜びの声が。

……しかし、アロナ先生が言うにはこれはまだ序章に過ぎないと言う。

誰も犠牲にならないよう、私は立ち回れるだろうか……そんな風につい弱音になる。

先生は、いつもこんなプレッシャーを感じながら戦っていたんだな。

それでも弱音を吐かなかったのは、全て子ども達のため……

今なら、よく理解できる。

 

校庭の方を見れば、戦場に出ていた子達が帰ってきている。

とりあえず、今は労わろう。

 

「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど」

「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよ、ホシノ先輩……勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか」

「先生の指揮がよかったね。私達だけの時とは全然違った」

「いや、私は全然だ。お前たちが強かったからだ。ほら、お茶だ」

 

指揮なんて行うよりもされることの方が多かった。

アリウススクワッドとして活動していたんだから勿論やっていたが……

先生には大きく劣る。

私は全員に飲み物を手渡す。

シロコはありがと、と言って一口飲んだ後、私の言葉を否定した。

 

「そんなことない。どこに敵がいるか、どこに何かあるか、私達のできることや銃の弾数を覚えてたり、凄いやりやすかった。これが大人の力。凄い量の資源と装備、それに戦闘の指揮まで。大人って凄い」

「今まで寂しかったんだね、シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたおかげで、ママはぐっすり眠れまちゅ」

「……えっ、シロコはホシノの娘だったのか……!?」

「いやいや、そんなわけないじゃん、どう考えてみてもおかしいでしょ!委員長も変な冗談やめて!それにその辺でいつもしょっちゅう寝てるでしょ!」

 

なんだ、違うのか。

危うく騙されるところだった。

 

「あはは……少し遅れちゃいましたけど、改めてご挨拶します。私達は、アビドス対策委員会です。私は、委員会で書記とオペレーターを担当している一年のアヤネ……こちらは同じく一年のセリカちゃん」

「どうも」

「二年のノノミ先輩とシロコ先輩」

「よろしくお願いします、先生~」

「改めてよろしく」

「そして、こちらは委員長の、三年のホシノ先輩です」

「いやぁ~よろしく、先生ー」

「ああ、皆よろしく」

 

知ってはいたが、どうやらこの学校にはこの五人しかいないみたいだ。

他に人の気配がしない。

 

「さて、ご覧になった通り、我が校は現在危機にさらされています。そのためシャーレに支援を要請し、先生がいらしてくれたことで、その危機を乗り越えることができました。先生がいなかったら、さっきの人達に学校を乗っ取られてしまったかもしれませんし、感謝してもしきれません……」

「感謝はいらない。子どもを助けるのが私の使命だからな。ところで、対策委員会というのは何だ?」

 

私が聞くと、細やかに教えてくれた。

曰く、アビドスを蘇らせるために集った五人しかいない全校生徒で構成される、校内唯一の部活。

他の生徒は転校や退学で町を出ていったらしい。

そんな学校だからか、住民もほとんどいなくなり、三流のチンピラに狙われるようになった。

そろそろ限界も近く、少しでもシャーレの支援が遅ければ……とのこと。

その説明を終わらせた後、困ったようにアヤネが呟く。

 

「こんな消耗戦を、いつまで続けなきゃいけないのでしょうか……ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているというのに……」

「そういうわけで、ちょっと計画を練ってみたんだー」

「本当か、ホシノ?」

「えっ!?ホシノ先輩が!?」

「うそっ……!?」

「本当か、ホシノ…?」

「いやぁ~その反応はいくら私でも、ちょーっと傷ついちゃうかなー。ほら先生も二回も聞いてきたよ?」

「で、どんな計画?」

「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルが続いているからねー」

 

なるほど、そういうことか。

逆に言えば、数日は襲ってこない、つまり相手も補給をしている。

 

「こっちから仕掛けるわけか。最も一番消耗しているだろう今に」

「うへ、おじさんの説明取られちゃった。ま、先生の言う通りだよー」

「い、今からですか?」

「そう。今なら先生もいるし、補給とか面倒なことも解決できるし」

「なるほど、ヘルメット団の前哨基地はここから三十キロくらいだし、今から出発しよっか」

「良いと思います。あちらも、まさか今から反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし」

 

シロコとノノミはかなり乗り気だ。

うすうす感じていたが、この二人、特にシロコは意外と好戦的だな。

 

「そ、それはそうですが……先生はいかがですか?」

 

そんな二人を見て、困惑しているアヤネは私の意見を聞いてくる。

 

「私も良いと思う。……少々、気になることもあるしな」

「気になること、ですか?」

「ああ、と言っても、そんな重要なことじゃない」

 

今はまだ。

 

「よっしゃ、先生のお墨付きももらったことだし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー」

「善は急げってことだね」

「ええ、今までの恨み、たっぷり晴らしましょ!」

「それでは、しゅっぱーつ!」

 

そうして私達は反撃に移ることになった。




実は晄輪大祭くらいから始め、まだ一章(二月十二日現在)もクリアしていないことをここに告白します。
この罪深き私にどうか許しを。

覚悟で過酷するから。おねがい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策委員会―2

『カタカタヘルメット団のアジトがあるとされるエリアに入りました。半径十五㎞圏内に、敵のシグナルを多数検知。おそらく敵もこちらが来たことに気づいているでしょう。ここからは実力行使です!』

 

アヤネの言う通り、遠くの方から足音が多数聞こえる。

私は皆より三歩ほど離れた距離から、指示をする。

 

「敵は全員、数が多いだけの雑兵だ。更に補給も完全には出来ていない。慢心さえしなければ楽勝だろう。アヤネ、どのルートから来るか、絶えず教えてくれ」

『分かりました』

「ホシノ、盾を構えて進んでくれ。だが、危ないと思ったらすぐに下がれ。攻撃より、お前の方が大切だ」

「うへ、おじさん愛されてるな~、なんちゃって。分かりましたよー」

「セリカはホシノのサポート。近づく奴を片っ端から撃て」

「分かったわ!」

「シロコはドローンを使って敵が使いそうな遮蔽をどんどん壊していってくれ。直接当ててもいい」

「分かった。完璧にやる」

「頼もしいな。ノノミも同じように遮蔽を壊していってくれ」

「了解です☆」

全体に指揮が行き渡ったと同時に、ヘルメット団の姿も見えてきた。

よし、それでは……

戦闘開始だ。

 

次々とヘルメットを被った子達が現れるが、まばらに、統率されてない動きでやって来る。

指示通りにホシノは盾を構え、敵の攻撃を耐えるが、その隙にセリカが次々と撃ち抜く。

シロコはドローンで遮蔽を爆破しながら、爆風から逃れたヘルメットを逃さず撃つ。

ヘルメット団も負けじと撃ち返そうとしてくるが、もれなく全員ノノミにハチの巣にされていた。

時折回り込んで来ようとするのをアヤネから聞き、すぐにそこの攻撃を支持する。

そして、私の宣言通り、特に危なげなく戦闘は終わった。

 

『敵の退却を確認!並びに、カタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫の破壊を確認しました』

「これでしばらくはおとなしくなるはず」

「よーし、作戦完了。皆、先生、お疲れー。それじゃ、学校に戻ろっかー」

 

そうして、私達は学校に戻るのだった。

しかし……ただの不良があそこまでするか?

元の世界では、奴らが絡んでいたそうだし……今回も、可能性は高い、か。

 

 

 

部室に戻ると、アヤネが出迎えてくれた。

 

「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした」

「ただいま~」

「アヤネちゃんも、オペレーターお疲れ」

「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです」

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」

 

重要な問題?

それについて聞こうとする前に、セリカが喋る。

 

「うん!先生のおかげだね、これで心置きなく借金返済に取り掛かれるわ!ありがとう、先生!この恩は一生忘れないから!」

「……借金返済、とは?」

 

それを聞けば、時が止まったかのように周りが止まった。

 

「……あ、わわっ!」

「そ、それは……」

「待って、アヤネちゃん!それ以上は!」

「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし」

「か、かといって、わざわざ話すことでもないでしょ!」

「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに先生は私達を助けてくれた大人でしょー?」

「ホシノ先輩の言う通りだよ。セリカ、先生は信頼しても良いと思う」

「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」

 

そこまでセリカにとって言いたくない事なのか?

……いや、確かに会って一日もしていない奴にそうそう悩みなんて言えない。

私が会ってきた子ども達にもそういう子はいた。

 

「確かに先生がパパっと解決してくれるような問題じゃないかもしれないけどさ。でも、この問題に耳を傾けてくれる大人は、先生くらいしかいないじゃーん?」

「役に立たないかもしれないが、力になりたい。話すだけでも、駄目か……?」

「先生もこう言ってるよー?それとも何か他にいい方法があるのかなー、セリカちゃん?」

「う、うう……でっ、でも、さっき来たばかりの大人でしょ!今まで大人達が、この学校がどうなるかなんて気に留めたことなんてあった!?」

 

……本当に、大人というのはつくづく……

そいつらにも、私に対しても、苛立ちが募る。

 

「この学校の問題は、ずっと私達だけでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……

私は認めない!!

「セリカちゃん!?」

「私、様子を見てきます」

 

そう言うとセリカは教室を出ていった。

それを追いかけるようにノノミが動く。

また静かになった教室で、ホシノは借金について説明をしてくれた。

 

アビドスは今、九億の借金を抱えていると言う。

これが返済出来なければ学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らなければならない、と。

返済できると思えるわけもなく、ほとんどの生徒は学校と街を捨てて、去ってしまった。

街にも人はいなくなり……

 

大きな事件とはこの事だったのか。

元の世界の出来事は全ては聞いていない。

プライバシー、と言っていいかは分からないが、聞くのは、良くないと思った。

さっきのセリカのように、聞かれたくないものもいるだろう。

だから、これからも、元の世界での彼女達の事情は深く聞かない予定だ。

つまり、事情は自分で聞かなければならない。

話してくれるだろうか……

 

「……どうしてそんな借金をしなければなかったのか、聞きたい」

「それは……数十年前、この学区の郊外にある砂漠で、砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。学区のいたるところが砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂がたまり続けてしまい……その自然災害を克服するために、わが校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした……しかしこの片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず……」

「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」

「……はい。最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途をたどりました……そしてついに、アビドスの半分以上が砂に飲まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです……」

「……そう、だったのか……」

「私達の力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっています」

 

借金の返済に、不良のよる学校襲撃。

よくぞここまで耐えたものだ。

もし私達がこうなっていたら……戦闘はともかく、借金は一週間も持たないな。

 

「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて」

「……まあ、つまらない話だよ。で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけ~」

「…そうか。ありがとう、教えてくれて。そういうことなら、手伝おう」

「いやいや、借金のことは気にしなくていいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし」

「そうだね。先生はもう十分になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」

「私はこの委員会の顧問だ。それとも……私は仲間はずれか?」

 

私も、大人に虐げられ、大人に助けられた。

今度は、私が助ける番だ。

絶対に、この子達の未来を掴み取って見せる。

 

「そ、それって……あ、はいっ!よろしくお願いします、先生!」

「へえ、先生も変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて」

「私の先生が変わり者だったからかもな。あの人なら、絶対に見捨てない」

「先生の先生、ってことは、すっごい変わり者じゃーん?」

「それはともかく、良かった……シャーレが力になってくれるなんて。これで私達も、希望を持っていいんですよね?」

「そうだね。希望が見えてくるかもしれない」

 

教室の中は、さっきとは違って、明るい雰囲気になった。

……廊下は少し冷たいが。

軽く談笑し、今日はこれで解散となった。

 

 

 

私は予約していたホテルのベッドに私は倒れこむ。

今までの経験で分かっていたが……一筋縄ではいかないだろう。

とりあえず、今できる準備はしておこう。

 

「アロナ先生。頼んでいたものは出来たか?」

『それが、αはほぼ完成に近いですが、βはエンジニア部の皆さんが熱が入ってしまって……もう少しかかると思います』

「そうか……ありがとう、今日はもう寝てもらっていい。おやすみ」

『はい、おやすみなさい』

 

βか……使わないことに越したことはないが、今の私には戦闘はできないに等しい。

あった方がいいだろう。

……そろそろ、帰って来ただろうか。

 

「呼びましたか♡?」

「っ、いつの間に……前より隠れるのが上手くなったか?ではなく。どうだ、見つけてくれたか?」

「はい、もちろん。渡されたものも、置いていきました。ですが……」

「ん?何か問題でも?」

「いえ……少し疑問だけ」

 

私が帰りを待っていた少女、ワカモは仮面を外し、困り顔でこちらを見る。

 

「言ってくれ。答えれることかは分からないが」

「……なら、お願いします。

 

どうして、あなた様にそっくりなのですか?」

 

「……横に、座らないか?」

「ええ、喜んで」

 

ワカモは私の横に座る。

予測していなかったわけじゃないが…よくやってくれたんだ。

事実を言おうか。

しかし……突拍子も無さすぎるし、お前のことを前から知っていた、なんて言われたら、気持ち悪いだろう。

言い淀んでいるとワカモは私の手を掴む。

 

「あなた様が仰りたく無いのなら、わたくしも聞きません。ですが、どのようなことであれ、あなた様を裏切るようなことはいたしません。それだけは、知っておいて欲しいのです」

「ワカモ……」

 

……言おう。

それが、彼女への通すべき筋だ。

 

「……実は、私が別の世界から来た存在……それもキヴォトスだと言ったら、信じるか?」

「……まぁ」

「お前に探すのを頼んだのは、錠前サオリ、この私だ。彼女はいずれ、私と同じようにこのキヴォトスを混沌の渦に巻き込むだろう。しかし、彼女も被害者の一人だ。私が、私にとっての先生に助けられたように、助けたい。いや、ここにいる全ての生徒、子供達を。だから…助けてくれないか?お前達を助けたいから」

 

自分で言っても分かる、大人にしては恥ずかしいことを言っている自覚が。

助けたいから助けてほしいなんて、間抜けのようなことを言う。

だが、私はそうなんだ。

一人ではどうしようもない、助けたいと願う少女達の力が無ければ満足に立てもしない。

それでも、と言い続ける。

私が目指した、大人もそうだったから。

 

「えぇ、もちろんですわ。あなた様はきっとそれを成し遂げれる。例えそれがどんなに辛く苦しい旅路でも、あなた様は突き進むでしょう。ならばわたくしは、その苦しみの炎からあなた様を守る盾となりましょう」

「ワカモ……ありがとう。優しいな、お前は」

「あなた様がお優しいからです。しかしこのワカモ……わたくしがいるのに、他の女の話をするとは、嫉妬の炎で溶けてしまいそうです……」

「えぇ……お前から聞いてきたんだろう?……ほら、今日はもう遅い。一緒に寝よう」

 

私はそのまま寝ころび、こちらに来るよう誘うように腕を差し出す。

一緒に寝たいかどうかは知らないが、多分嫌な気はしないだろう多分。

……多分。

その行動を見たワカモは動きが止まる。

……やらかしたか。

 

「……あ、ああ……」

「悪い、嬉しくないか、すまない、未だに人の心を感じ取るのが苦手で……」

「い、いや違います!とても嬉しいのですがっ!少し、心がドキドキしてしまいまして!」

「……嫌な事は嫌と、言った方がいいんだぞ?」

「嫌では絶対無くて!……え、えーっとですね、その、嬉しすぎて、心の余裕が、出来ていないと言いますかっ、いやワカモ、このような申し出、もう二度と無いかもしれません。覚悟を決めなさいワカモ!誰でもない、わたくしの為に!で、では、よろしくお願いします……!」

 

ワカモはゆっくりと倒れこんでくる。

私はしっかりと受け止め、私のすぐ横になるようにゆっくりと下す。

ついでに私の腕を枕にしよう。

そう思い、ワカモの頭の下にある腕はそのままにする。

 

「わ、わわ、添い寝だけでなく、腕枕まで……なんという空間!天国という言葉では生ぬるい!」

「……本当に私のことを好いてくれているのか、まだ分からないが……それを信じないのは失礼だな」

「ふふふ……幸せ……死ぬのかしら、わたくし……」

 

ワカモはふにゃふにゃな顔で笑っている。

そんなワカモは暖かいなと思いつつ、私はそのまま眠りに落ちていった。

 

 

 

少し陽が出ている朝、私は食後の運動に散歩をしていた。

ワカモの作った朝ご飯、美味しかったな、なんて朝のことを振り返りながら歩いていると、見知った黒髪ツインテールが歩いていた。

 

「セリカ」

「わっ!?……な、何っ……!?」

「おはよう。いい天気だな」

「な、何が、おはよう、よ!なれなれしくしないでくれる?私、まだ先生のこと認めてないから!」

 

セリカ本人が言う通り、まだ心を開いてくれないみたいだ。

それでもいい、彼女が危ない目にあったらすぐに助けるだけだ。

それはそれとして、少し悲しい。

 

「まったく、朝っぱらからのんびりうろついちゃって。いいご身分だこと」

「そう言うセリカは、これから学校か?」

「私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ?朝からこんなところをうろちょろしてたら、ダメな大人のみたいに思われるわよ?」

「じゃあ、反面教師にしてくれ。ダメな大人ということは間違いないからな」

……余裕あるみたいで、むかつく。ふんっ、じゃあね!せいぜいのんびりしてれば?私は忙しいの」

「学校に行くなら、一緒に……」

「なんであんたと……ああもう、今日は自由登校日だから、学校に行かなくてもいいの!私もう行くから!じゃあね、バイバイ」

 

セリカは砂埃が立つほどの速度で走ってどこかへ行ってしまった。

……気になる。

何をしているのかすごく気になるが、これで追いかけていったらストーカーだろう。

まともな大人なら、追いかけない。

 

しかし私はダメ大人だった。

 

バレずに追いかけるなんて、得意分野だ。

ついでにセリカを除いた委員会も呼ぶ。

もし悪い大人に騙されている可能性があったら、止めなければ。

 

 

 

「いらっしゃいませ!紫関ラーメンで……わわっ!?」

 

セリカはいた。

ラーメン屋の店員になって。

 

「あの~☆五人なんですけど~!」

「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ」

「お疲れ」

「み、皆……どうしてここを……!?」

「うへ~やっぱここだと思った」

「いい匂いがする……」

 

私の趣味の一つは食べ歩きと言ってもいいくらい、食べるのが好きだ。

食べれない事の方が多かったからか、今はそれまでの分も……今はそういう話ではない。

だが長年の感で言えば、間違いなくこの店は美味い。

 

「せ、先生まで……ストーカーなの!?」

「……じゅるり」

「うへ、先生は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?だから来てみたの」

「というか先生、もう食べることしか入っていませんよね……」

「ホシノ先輩かっ……!!ううっ……!」

「本当は先生からのモモトークだけど、皆黙っとこーね」

 

子ども達の会話を聞き流しながら、壁に掛かっているメニューを見ていると、セリカに声が掛かる。

きっとこの店の大将だろう。

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、お喋りはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

「あ、うう……はい、大将。それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ……」

 

セリカに案内され、五人が座れる席に着く。

 

「はい、先生はこちらへ!私の隣、空いています!」

「……ん、私の隣も空いてる」

「………ラーメン、何にしようか……」

「ありゃ、本当にラーメンで頭いっぱいじゃん」

「……!先生、やっぱりシロコちゃんの隣がいいと思います!」

「……ん?ああ、座ることを忘れていた。失礼する」

 

私はシロコの隣に座る。

……朝もしっかり食べたが、アビドスは広く、すぐにお腹が空いてしまう。

そんな私の隣で、皆が和気あいあいと喋っている―正確にはセリカがいじられてる―が……いいな、こういうのは。

もしかしたら、あいつらともこんな風に……いや、過ぎたことは良そう。

学生ではなくなったが、今ならよく行っているしな。

 

「もういい、もういいでしょ!ご注文はっ!?」

「ご注文はお決まりですか、でしょー?セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃー?」

「あうう……ご、ご注文は、お決まりですか……」

「私はチャーシュー麵をお願いします!」

「私は塩」

「えっと、私は味噌で……」

「私はねー、特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!」

「醤油で、私も炙りチャーシュートッピングを。皆、私が奢るから、もっと頼んでいいぞ」

 

となると、私も増やそうか。

煮卵もいいな……

 

「おおーっ、太っ腹ー」

「ええっ、いいんですか?私も払えますし、先生の分も私が……」

「子どもがそんなこと気にするんじゃない。お前達が美味しく食べてくれたら、それが一番だ」

「先生、かっこいい」

「セリカ、あと煮卵も二個追加」

「意外と健啖家ですね、先生って……」

 

私の予想通り、この店のラーメンは、とても美味かった。

途中、ノノミが「先生にも一口あげます☆」と言ってくれたり、なぜか途中シロコの動きが止まったりといろいろあったが、無事に食事が終わり店を出る。

 

「いやぁー!ゴチでしたー、先生!」

「ご馳走様でした」

「うん、お陰様でお腹いっぱい」

「早く出てって!二度と来ないで!仕事の邪魔だから!」

「あ、あはは……セリカちゃん、また明日ね……」

「ありがとう、とても美味しかった。また来る」

「人の話聞いてた!?もうみんな嫌い、死んじゃえ―!」

「あはは、元気そうで何よりだー」

 

私達はセリカの罵声を聞きながら学校やホテルへと帰った。

今度、ワカモや他の皆もつれて来よう。

そんなことを考えながら、私は夢見心地で歩いた。

 

 

夜にセリカがいなくなるとは知らずに。




サオリ先生の好きな事は友達とのご飯巡りと香水やコスメ用品の購入(自分では一切使わない)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策委員会―3

夜も更けてきた頃、スマホが突然鳴り出した。

出てみると、掛けてきたのはシロコだった。

 

「どうした、もう寝る時間じゃないか?」

『セリカがいなくなった』

「―何?」

『電話は繋がらないし、家にも帰ってない。もしかしたら、誰かに攫われたかも』

 

私はすぐに上着を手に取る。

 

「今アビドスの皆はどこにいる?」

『皆学校の部室にいるよ』

「今すぐそっちに向かう。誰か、学校のパソコンを使える部屋を開けておいてくれ」

『ん、分かった。ホシノ先輩が今動いた。部室と同じ階』

「ありがとう。また後で」

 

私は通話をオフにし、シッテムの箱をつかみ取って走ってホテルを出た。

 

 

 

学校に着き、急いで廊下を歩いていると、ホシノが立っていた。

 

「先生、汗だくじゃん。だいじょぶなの?」

「息は整ってるだろう?これでも運動は得意だ」

「ホントだ、全然息切れしてない。おとと、頼まれた部屋は開けておいたよ。入って入って」

 

ホシノが立っていたすぐ隣がその部屋のようだった。

ずらりと多くのパソコンが並んでいる。

 

「コンピューター室って言えばいいかな、ここは。それで、パソコンを使って何するつもり?」

「私の持ってる権限を使って連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスする。こんなことなら、シャーレからパソコンを持ってくればよかったか……」

 

シッテムの箱とパソコンを持ってきたコードで繋ぐ。

別にシッテムの箱だけでもアクセスできる、というかアロナ先生がやってくれるが、パソコンがあればアクセスまで少し早くなる、らしい。

個人的には画面が大きくなるからいい。

 

「それって、怒られないの?」

「バレなかったらな。たとえバレても始末書を書くだけだ。そもそも、セリカが危ないかもしれないんだ。そうとなったら、何でもやるさ」

「へー、靴舐めでも?」

「当たり前だ……っと、出た。この丸が、セリカが使っていた端末が起動していた最後の地点だ」

「ここって……砂漠化が進んでるとこだ」

「詳しい話は皆がいるところでしよう」

 

データをシッテムの箱にコピーし、コードを抜く。

ああは言ったが、出来ればバレませんように。

もうこれ以上書類は増えないでほしい。

 

 

 

「皆、お待たせ―」

「悪い、少し遅くなった」

「ホシノ先輩!先生!」

 

部室には、アヤネ、シロコ、ノノミが落ち着きなく立っていた。

私はシッテムの箱を机に置く。

 

「全員、これを見てくれ」

「これは……?」

「先生が持ってる権限を使って、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスできた」

「バレたら始末書だ」

「ええっ!?だ、大丈夫なんですか?先生?」

「セリカが無事なら大したことない。ホシノ、説明してやってくれ。後出来ればタオルを貸してほしい」

「よく見たら、汗だくじゃないですか!私が拭いてあげますね☆」

「ん、私が……」

「シロコちゃん、ちゃんと聞いてねー?」

「……ん」

 

何故かノノミに汗を拭いてもらいながら、セリカがいたであろう場所を聞く。

情報によれば、砂漠化が進み、住民がいなくなり、廃墟化したエリア。

治安が維持できなくなり、不良生徒が集まっているとのことだ。

そして、カタカタヘルメット団の主力が集まっている場所でもあると言う。

 

「ということは、やはりカタカタヘルメット団の仕業……!」

「なるほどねー、帰宅途中のセリカちゃんを拉致して、自分達のアジトに連れて行ったってことかー」

「学校を襲うぐらいじゃ物足りなくて、人質を取って脅迫しようってことかな」

「考えていても仕方ありません!急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」

「ああ、今は一分一秒が惜しい。悩むのはその後だ。行こう」

 

そうして私達はセリカ救出に向けて動いたのだった。

すぐに行く、セリカ……!

 

 

 

目的地近くに着くころには、すでに辺りは明るくなっていた。

砂漠化が進んだこの辺りは、やはりと言うか人の気配は無かった。

となると、もう少し先か……?

アヤネがドローンで周りを索敵してるが……何か情報を掴めればいいが。

不安に思っていると、それを払拭するかのようにアヤネから通信が入った。

 

『皆さん、もうすぐ近くにトラックが横切ります。そのトラックは間違いなくヘルメット団のものです。そして、そのトラックの荷台にセリカちゃんの反応が……!』

「私達が来た後から来るなんて、おかしくないですか?」

「夜だったし、砂漠だから車で来るには遠回りしたんじゃない?先生、トラックを止めるにはどうする?」

「よし。シロコ、出番だ」

「任せて。ドローン、展開」

 

近くの埋まった建物に身を潜め、トラックが来るのを待つ。

数秒後、車の走る音が聞こえた。

軽くのぞき込んでみれば、荷台が隠されたトラックだった。

運転席には、ヘルメットを被った人影が。

 

「間違いない、ヘルメット団だな。当てるなら前の方か、シロコ、好きなタイミングで撃て」

「了解………ん、今!」

 

シロコのドローンから放たれたミサイルは見事にトラックに命中した。

トラックは転倒し、砂煙が舞い、運転手は前に飛んでいく。

……痛そうだな。

ヘイローは綺麗そのままなので、放置していて問題ないだろう。

私達は走って荷台の方へ行く。

 

『セリカちゃん発見!生存確認しました!』

 

先行していたアヤネのドローンが発見したらしく、その報告が届いた。

そこには、砂を吸い込んでなのか、咳き込むセリカが。

 

「な、何、爆発!?」

「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」

「!?」

「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いていただと!そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんねー!!」

「う、うわああ!?う、うるさいっ!!な、泣いてなんか!!」

「嘘!この目でしっかり見た!」

「泣かないでください、セリカちゃん!私達が、その涙を拭いて差し上げますから!」

「ああ、ほら、ハンカチだ。すまない、悲しませてしまって……!」

「先生まで!?あーもう、うるさいってば!!ハンカチもいらない!違うって言ってるでしょ!黙れーっ!!」

 

でも目元が赤くなっている、やはり泣いていたんだろう。

生徒を泣かせるなんて、私は先生失格だ……!

 

『あのー、先生、そこまで落ち込まなくてもー……』

「というか、どうやって見つけてきたの!?」

「先生のストーカー力を舐めないでよー?」

「……ん?ホシノ、今不名誉な言い方しなかったか?」

「ばっ…ばっ……!ばっかじゃないの!?

「うへ、元気そうじゃーん?無事確保完了ー」

『前方にカタカタヘルメット団の兵力、多数確認!さらに巨大な重火器を確認しました!徐々に包囲網を構築しています!』

「……よし、さっさと引き上げよう。一点突破だ」

「気を付けて。奴ら、改造した重戦車を持っているわよ」

「知ってる、Flak改良型」

「うへー、硬いんだよねぇ、装甲。先生、何か策はある?」

「何も。しいて言うなら、普通に撃つだけでいい」

「……ふーん?信じてみるよ、先生の言葉。それじゃ、行こうか?」

 

ホシノの号令と共に、私達は駆け出した。

道中でヘルメット団の歩兵が飛び出してきたが、それをホシノを始め、シロコ、セリカが次々と射撃する。

後ろからも追ってくるが、それはノノミが敵がカバーした壁ごと破壊する。

私とアヤネは敵の位置を報告しながら指示をする。

被弾することもなく、問題ないように思えたが、立ち止まることなく学校まで進む足を全員不意に止めた。

 

「出たわね……!」

「Flak……!」

 

全員すぐに近くの物陰に隠れたが、砲撃はすぐ近くに飛んできた。

そこですぐさま私はセリカに指示をする。

 

「セリカ、どこでも構わない。ありったけをぶつけてやれ!」

「わ、分かった!通るか分からないけど……!」

 

セリカの射撃はFlakの前面に命中した。

弾丸は一発も弾かれることなく、穴を空けた。

 

「えっ、嘘!?なんで!?」

「前に戦車で面倒なことになってな。シャーレが開発した重装甲でも軽々と貫ける弾丸だ。アビドスに持ってきた弾は全てそれになっている、全員やってしまえ!」

 

私の声に、皆は銃声で答えた。

……まあ面倒だったのは私の行動に対しての叱りだったんだが。

それはともかく、Flakの見た目は無残な姿に変わっていた。

中の子達は、大丈夫だろうか……

 

 

 

Flakを倒した後、ヘルメット団はもう無理と思ったのか、それ以上追いかけてくることは無かった。

その後は何の問題もなく、学校へ戻ってくることができた。

部室に戻れば、アヤネが出迎えてくれた。

 

「皆さん、お疲れ様です。セリカちゃん、ケガはない?」

「うん、大丈夫。この通り、ピンピンして―」

「―セリカ!」

 

倒れそうになるセリカを急いで抱える。

なんとか、頭を打たなくて良かった。

連れ去られる時に、対空砲を直接撃たれたらしい。

 

「……よく、頑張ったな」

 

そう言いながらセリカの頭を撫でる。

 

「……ん、私が保健室に連れていく」

「分かった、頼む」

 

シロコはセリカを抱え、教室を出て行った。

 

「大変なことになるところでした。先生がいなかったら……」

「うんうん、先生のおかげでセリカちゃんの居場所を逃さず追跡できました。やっぱりすごいです☆」

「確かに、先生はただのストーカーじゃなかったってことだね」

「いや、最終的には見つけたのはアヤネで、救出したのはホシノ達だ。褒めるなら、お前達だ」

 

私はインスタントのコーヒーを人数分用意しながら話を変える。

 

「それより、気になることがある。あの戦車のことだ。いくつか回収したんだが……アヤネ、少し調べてみてくれ」

 

シッテムの箱の機能の一つである収納機能に仕舞ってあった小さめの部品を机に置く。

 

「補給の時も思ったけど、トンデモ機能が盛り沢山だよね、それ」

「ああ、私も最近知った機能だ。ほかにもいろいろあるらしい」

「なんで先生が把握してないんですか……?」

 

急に渡されただけだからな……

ほとんどアロナ先生に丸投げしてるせいでもある。

そんな会話をしているうちに、アヤネの検索が終わったようだ。

 

「先生が回収した戦車の部品を確認したところ、キヴォトスでは使用が禁止されている違法機種と判明しました」

「ただの不良集団が使うには、入手が困難……できない、と断言していいだろう」

「でも、この部品の流通ルートを分析すれば、ヘルメット団の裏にいる存在を探し出せますね!」

「はい、ただのチンピラが、なぜここまで執拗に私達の学校を狙っているのかも、明らかになるかもしれません」

「うん、分かった。じっくり調べてみよっかー」

 

というところで、戦闘の疲れを癒すことになり、一度解散することになった。

 

 

 

私は一度、とある物の確認をするため、シャーレの部室に戻っていた。

進捗は……αは完成しているか。

βは八割くらいまで、か。

エンジニア部は優秀だが、たまに変な機能が付けられている時があるから、少し不安だ。

流石に、異常事態だ、変な機能は抑えるか……

 

………少し、疲れたな。

近くの椅子に腰掛ける。

 

「ふぅ……」

『大丈夫ですか?サオリ先生』

「アロナ先生……ああ、問題ない」

『それにしては、ため息が多く見えますよ』

「……正直、少しだけ。昔はもっと動けたはずなんだが」

『きっとそれは、ヘイローの消失が影響してるでしょうね……体力も、先生ほどじゃないですが、キヴォトスの外の人と同じくらいになってるでしょう』

「……そう考えると、先生は凄かったんだな……こんなに大変なのに、私よりもっと動いてるだろう?」

『いやいや、サオリ先生は一度に激しい動きを多くするじゃないですか。運動量はサオリ先生の方が……』

「そうか?……ふふっ」

 

そんな私を見かねたのか、声を掛け、他愛のない話をしてくれるアロナ先生。

きっと、不安になっていることも見透かされているだろう。

私が彼女達を救い、守れるのか。

無理とは言えないし、言わないが、それでも心には悪い未来ばかり。

アリウススクワッドとして活動していた時と同じだ。

あいつ達を守りたいと思いながらも、いつも思い浮かべるのは皆がいなくなる夢。

 

ある意味、諦めていたんだろう。

先生に助けを求めるまでは。

 

『……そういえば、とある伝言を預かっていました。聞いてくれますか?』

「?、ああ、誰からだ?」

『えっと、個人名は仰られなかったのですが……

 

アリウススクワッド、と名乗る人達からです』

 

「……それは」

『内容は、

「今のリーダーなら、きっとやりたいことが見えているはず」

「それで、辛いことも、苦しいこともありますよね。だから、支えあうんですよね、私達」

「出来ることは少ないかもだけど、いつでも、助けるから。自分の行動を信じて、先生である自分を。

頑張って、さっちゃん」

……だそうです』

 

「――ふっ、普通に名乗ればいいものを」

 

私は両手で頬を強く叩く。

そうだ、私が目指していたのは子ども達から頼られ、助ける大人で、先生だ。

不安のままでいては、助けるどころか、助けを求められない。

それに、今あるのは悪い未来でも、悪夢でもない。

彼女達と現在(いま)だ。

そして、私は先生で、一人じゃない。

 

「行こう。まだ、始まったばかりだ」

『はい、サオリ先生!』

 

 

 

とはいえ、すぐに大きな動きがあるわけでもない。

だが止まっている気もなかった。

ということで今できることをやろうと思い、私はアビドスの保健室まで来ていた。

セリカのお見舞いだ。

寝ているかもしれないので、大きな音を出さないように扉を開ける。

中を見てみれば、セリカは起きており、ため息をついていた。

ベッドに座り、窓の外を見ているセリカはこちらに気付いていないようだったので、声を掛ける。

 

「体は大丈夫か?セリカ」

「……あ、れ……?先生!?ど、どうしたの?」

「お見舞いだ。ほら、リンゴを持ってきた」

 

私は近くの椅子に座り、リンゴを剥き始めた。

 

「別に、いいのに……私なら大丈夫。いつまでもこうしちゃいられないし。アヤネちゃんや他の皆も心配してるし……バイトにも行かなきゃだし」

「そうか……偉いな、セリカは。……懐かしいな、私もバイト三昧だった」

「先生も、バイトをしてたの?」

「いろいろなのをな。ただ、大変だったのは、笑顔を作ることだったが」

「笑顔?」

「ああ、私は愛想笑いが出来なくて、いつも力仕事ばかりやっていた。そっちの方が楽だったのもあるが。たとえば、そうだな……」

 

私はセリカに自身がバイトをしていた頃の話をする。

契約書を書かなくてお金を貰えなかったこととか、子どもの相手をしなくてはならなくて、泣かせてしまったこととか。

セリカは私の話を聞いて、笑ったり、驚いたりしてくれた。

多分、さっきの私のようにいろいろ不安になっていたんだろう。

だから、アロナ先生がやってくれたように私も他愛のない話をして、リンゴを一緒に食べる。

一人じゃないことが伝わっていればいいなと、思う。

 

「……え、ええとね……」

「どうした?」

 

時間も少し経ってきた頃、セリカが何かを伝えようとしてきた。

 

「そういえば、先生にちゃんとお礼を言ってなかったなあって、思って……」

「……」

「あ、ありがとう……色々と……でもっ!この程度でアビドスの役に立てたなんて思わないでよね!この借りはいつか返すんだから!」

「……ふ、ふふっ」

「な、何ヘラヘラ笑ってんの!?」

「いや、悪い……先生になって良かったな、なんて、再確認していた」

「突然何よ!?変なこと言って!……はあ、まったく……じゃあ、また明日ね!」

「……ああ、また明日。おやすみ、セリカ」

「………お、おやすみ、先生」

 

セリカはそう言うと、駆け出して部屋を出ていった。

ああ、まったく……

ほんのひとかけらあった不安さえ、無くなってしまったか。

 

守って見せるさ、先生として。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策委員会―4

今更ながら、感想、評価、お気に入り登録、誤字報告ありがとうございます。
皆様のおかげでやる気と自尊心が上がります。

でもプレッシャーも感じちゃう~!
読み返したりしてると、ここはあーすればよかった、こーすればよかった、というのがとまらない~
地の文書くの苦手なせいで気付いたら会話文ばっかりだったり~!
質も量もあって高頻度で投稿してるブルアカ小説書いてる人ハーメルンだと多いし~!
というか今のところサオリ先生の設定うまくいってるか分かんないし~!
でも評価とか感想とか欲しいし~!
うぅ……小説書くのヘタクソでごめんね……

こんな感じでクソ雑魚メンタルですが、どうにかこうにか書き切りたいとは思っていますので、これからも、良ければ見ていってください。

本音言うとサオリ先生メイド服とかバニーとかチアとか着せて皆の理性を破壊したりあの子とかこの子とイチャイチャするとことか書きたい。というか書く(鋼の意志)


「……それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます」

 

色々あった後日、私達は部室で会議を始めることになった。

私は初めて参加するが、何か進展すると良いな。

 

「本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが……」

「……いつもは真面目じゃないのか?」

「わ、私はいつも真面目だよ!真面目じゃないのはシロコ先輩とホシノ先輩!」

「ん、心外」

「酷いな~、いつも真面目にやってるのに。ノノミちゃーんセリカちゃんがいじめてくるよ~」

「よしよし、大丈夫ですよ☆」

「……やっぱり、ダメかもしれませんね」

 

アヤネがどこか遠くを見つめている。

大変なんだな、進行役は……

 

「ともかく、皆さんよろしくお願いしますね?早速議題に入ります。本日は、私達にとって非常に重要な問題……学校の負債をどう返済するかについて、具体的な方法を議論します。ご意見のある方は、挙手をお願いします!」

「はい!はい!」

「はい、一年の黒見さん、お願いします」

「……あのさ、まず名字で呼ぶの、やめない?ぎこちないんだけど」

「せ、セリカちゃん……でも、せっかく会議だし……」

「いいじゃーん、おカタ~い感じで。それに珍しく、先生もいるんだし」

「珍しくというより、初めて」

 

ホシノとシロコの言葉で、本当に大人達が取り合わなかったことを再認識する。

本当に、この五人でよく頑張ってきたものだ。

この会議で何かいい案を出せると良いが……

今のところ、呼び方で止まっているが。

と、なんだかんだで堅い感じで行くことにしたようだ。

 

「―とにかく!対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産の寸前としか言いようがないわっ!このままじゃ廃校だよ!皆わかってるよね?」

「うん、まあねー」

「反応が緩いな……」

「毎日の返済額は、利息だけで778万円!私達も頑張って稼いではいるけど、正直利息の返済も追いつかない」

 

借金自体は九億もあると聞いた。

利息の返済もできていないとなると……ううむ。

 

「これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したりするだけじゃ限界があるわ。つまり、このままじゃ埒が明かないってこと!何かこう、でっかく一発狙わないと!」

「でっかく……って、例えば?」

 

セリカは一枚の紙を取り出し、見せてきた。

書いてあるのは……ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金……ああ、これは……

 

「これでガッポガッポ稼ごうよ!この間、町で声を掛けられて、説明会に連れて行ってもらったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!」

「「「「「……」」」」」

「これね、身に着けてるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの三人に売れば……皆、どうしたの?」

「却下―」

「えーっ!?何で?どうして!?」

「セリカちゃん……それ、マルチ商法だから……」

「儲かるわけない」

「へっ!?」

「そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな……こんな怪しいところで、まともなビジネスを提案してくれるはずなんてないよ……」

 

さっきまで浮かべていた笑顔から反対の悲しみの表情をセリカは浮かべていた。

か、かわいそうに……

 

「そっ、そうなの?私、二個も買っちゃったんだけど!?」

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」

「まったく、セリカちゃんは世間知らずだねー。気を付けないと、悪い大人に騙されて人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよー?」

「……そ、そんなあ……そんな風には見えなかったのに……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに……」

「大丈夫ですよセリカちゃん。お昼、一緒に食べましょう?私がご馳走しますから」

 

ホシノに警告されたり、ノノミに慰められたり、昨日から散々だな……

……まあ私も騙された経験があるが……止めてくれる人がいると言うのは恵まれてるんだな。

ありがとう先生。

 

「えっと……それでは、黒見さんからの意見はこの辺で……他にご意見のある方……」

「はい!はい!」

「えっと……はい、三年の小鳥遊委員長。嫌な予感しかしませんが……」

「我が校の一番の問題は、全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよねー。生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに、生徒数を桁違いに増やせれば、毎月のお金だけでもかなりの金額になるはずー」

「えっ……そ、そうなんですか?」

 

不安そうな表情で私を見るアヤネ。

私は頷き、答える。

 

「確かに、元々の力もあるとはいえ、生徒数が多いことで力があるのは確かにその通りだな。議員の輩出や連邦生徒会での発言権も与えられる。しかし…増やすとしてもどうやって?」

「簡単だよー、他校のスクールバスを拉致ればオッケー!」

 

……ん?

今なんと……

 

「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないとバスから降りられないようにするのー。うへ~、これで生徒数がぐんと増えること間違いなーし!」

「それ、興味深いね。ターゲットはトリニティ?それともゲヘナ?ミレニアム?」

 

ホシノの言ったことに反応するシロコ。

思ったが、仲がとてもいいな、この二人。

思考回路が一緒なのか?

話が二人の間で盛り上がる。

流石にすぐアヤネに止められたが。

私としてはどれもしたくないな……ゲヘナにはヒナがいるし、ミレニアムにはメイドがいるし、トリニティは駄目だ、論外。

もう二度と相手したくない。

 

と、今度はシロコが声を上げる。

 

「いい考えがある」

「……はい、二年の砂狼シロコさん……」

 

「銀行を襲うの」

 

「……はいっ!?」

「確実かつ簡単な方法。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行。金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいたから」

「さっきから一生懸命見てたのは、それですか!?」

「用意周到だな……」

「五分で一億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」

 

シロコはどこからか出した紙袋から色とりどりの覆面を取り出し、そのうちの青い覆面を被った。

 

「うわー、これ、シロコちゃんの手作り?」

「わあ、見てください!レスラーみたいです!」

「いつの間にかノノミ先輩も被ってますし……」

「いやー、いいねぇ。人生一発で決めないと。ねえ、セリカちゃん?」

「そんなわけあるか!!却下!却下ー!!」

「そっ、そうですっ!犯罪はいけませんっ!」

 

一年組がものすごい勢いで止めると、シロコはしぶしぶ覆面を脱いだ。

私としては、犯罪で未来への道を狭めてほしくないんだが……

いや、私でも先生になれたのだから、銀行くらいはセーフか……?

セーフなわけないか。

 

「はあ……皆さん、もうちょっとまともな提案をしていただかないと……」

「あのー!はい!次は私が!」

「はい……二年の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでご意見をお願いします……」

「はい!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!

 

アイドルです!スクールアイドル!」

 

「あ、アイドル……!?」

「そうです!アニメで観たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです!私達がアイドルとしてデビューすれば……」

「却下」

 

意外にも却下したのはホシノだった。

 

「なんで?ホシノ先輩なら、特定のマニアに大ウケしそうなのに」

「うへーこんな貧弱な体が好きとか言っちゃう輩なんて、人間としてダメっしょー。ないわー、ないない」

「そうか……綺麗な顔をしていていいんじゃないかと思ったが」

「……へっ?何言ってんの先生?」

「何とは……言った通りだが。皆綺麗で、アイドルとしては百点だと思っていた。まあ本人が嫌がるなら止めた方がいいが」

「……ストーカーでロリコンとか、先生じゃなきゃ捕まってたよ?」

「別にストーカーでもロリコンでもないぞ?」

 

凄い不名誉な存在として思われていたのか……

しかし、綺麗なのは本当だ。

一度でいいから見てみたいな。

言い出しっぺのノノミも悲しそうだ。

 

「決めポーズも考えておいたのに……」

 

そう言うとノノミはじゃーんという音が聞こえそうなポーズを取った後、

 

「水着少女団のクリスティーナで~す♧」

 

と言った。

水着要素はどこから……?

 

「何が「で~す♧」よ。それに水着少女団って、だっさい!」

「えー、徹夜で考えたのに……六人でやったら楽しそうじゃないですか?」

「………待て、もしかしてだが、それに私は入ってる……のか?」

「はい、もちろんです☆」

 

やっぱり見たくないかもしれない。

私は駄目だろう、見た目とか、いろいろ。

 

「先生がやるなら~おじさんもやってもいいかな~」

「そうはならなくないか?」

「あのう……議論がなかなか進まないんですけど、そろそろ結論を……」

「それは先生に任せちゃおー。先生、これまでの意見で、やるならどれがいい?」

 

これまで…ということは、バスジャック、銀行強盗、アイドルのどれかから選べと……

バスジャックはさっきも考えた通り、絶対面倒なことになる。

銀行強盗は、シロコの言う通りなら、一億を簡単に稼げるが、犯罪だ。

消去法なら、アイドルだが……アイドルかぁ……

 

水着少女団の、サオリです!

 

うわ……無理だ……

少女ではもう無いし、というかいろいろキツイな……

 

いろいろ喋っている対策委員会役員達に結論を言い渡す。

 

「アイドルのプロデューサーという形で私が参加するのはどうだ?」

「えー?先生もアイドルしないのー?」

「そうです!きっと楽しいですよ!」

「逆に聞くが、見たいか?私のアイドル姿」

「見たい」

「見たいです!」

「み、見たいか見たくないかで言えば……ちょ、ちょっとだけ!」

「だって、先生?五分の四が見たいってさー」

「いやいやいや、おかしいだろう!?五分の四もみたいなんて、おかし……五分の四?」

 

そういえば、一人何も言わなかった子が……

 

「……い……」

「あ、アヤネ……?」

 

「いいわけないじゃないですかぁ!!」

 

「出たー!アヤネちゃんのちゃぶ台返しー!」

「きゃあ!アヤネちゃんが怒りました!非常事態です!」

「うへ~キレがある返しができる子に育ってくれたねえ。ママは嬉しいよーん」

「……アヤネはホシノの娘だったのか!?」

「そんなわけないに決まってるじゃないですか!もうっ、ちゃんと真面目にやってください!いつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばっかり言って!」

 

何人かがギクリと肩を揺らし、冷や汗を垂らす。

私は真面目に考えていたんだが……

 

『さっちゃんって、どこか抜けてるよね』

 

そんなことを言われたのを、不意に思い出した。

 

そして、全員アヤネに説教された。

 

 

 

「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

「怒ってません……」

「はい、お口拭いてー。はい、よくできましたねー☆」

「赤ちゃんじゃありませんからっ」

 

私達は何も進展しなかった会議を終わらせ、紫関でラーメンを食べていた。

ホシノとノノミはアヤネのご機嫌取りをしているが、効果なしのようだ。

私も何かするべきか……?ん、美味い。

 

「……なんでもいいんだけどさ。なんでまたウチに来たの?」

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

「むぐむぐ…ふぁい」

「分かった。チャーシューをみっ……五つ追加で」

「それ先生も食べる気だよね……別にいいけど」

「あと煮卵も頼む」

「ホントにどれだけ食べるの!?」

 

そうして働いているセリカを除いた五人でラーメンを食べていると、一人の少女が入って来た。

 

「あ……あのう……」

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

「……こ、ここでイチバン安いメニューって、お、おいくらですか?」

「……彼女は……」

「ん、先生の知り合い?」

「いや……そっくりさんだ」

「一番安いのは……580円の紫関ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」

「あ、ありがとうございます!」

 

そう言うと、少女は店を出ていってしまった。

全員で首を傾げていると、すぐに先程の少女と、三人の新しい顔が会話しながら入って来た。

 

「えへへっ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」

「ふふふ。ほら、何事も解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

「そ、そうでしたか、さすがは社長、何でもご存知ですね……」

「はあ……」

 

間違いない、彼女達は……

意外と早く出会うことになるとは、これも運命か?

“便利屋68”、私が何度か世話になったことのある奴らだ。

内心嬉しく感じていると、セリカがその四人を席に案内していた。

 

「四名様ですか?お席に案内しますね」

「ん-ん、どうせ一杯しか頼まないから大丈夫」

 

そう言うのは未だに何が入ってるのか分からない鞄を持っている、ムツキ。

 

「一杯だけ?でも……どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし」

「おー、親切な店員さんだね!ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、わがままのついでに、箸は四膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

「えっ?四膳ですか?ま、まさか一杯を四人で分け合うつもり?」

「ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!!お金が無くてすみません!!!」

 

……こちらの世界でも、相変わらず、か。

元いた世界では、私が教師になった後もたまに先生に奢られているくらいお金が無かったみたいだが……こっちでもそうみたいだな。

その時はよく一緒に食べに行ったな……

勢いよく謝る紫色のショットガンを背負っている少女…ハルカにセリカはたじろぐ。

 

「あ、い、いや……!その、別にそう謝らなくても……」

「いいえ!お金が無いのは首が無いのも同じ!生きる資格なんてないんです!虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません……!」

 

面白いくらいネガティブ精神だな……そういえば、うちのヒヨリに似ている。

いつも暗い想像をして、何かと先生にねだって……いや全然違うな?

あいつは割と強欲だった。

大声で叫ぶハルカを白と黒の髪が目立つ少女、カヨコが止める。

 

「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」

「そんな!お金が無いのは罪じゃないよ!胸を張って!」

「へ?……はい!?」

「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生だし!それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ?そういうのが大事なんだよ!もう少し待ってね、すぐ持ってくるから」

 

セリカ……借金で悩む自分達と重ねたんだろう。

優しい子だ、多少口が悪いだけでな。

しかし多分だが余計にお金を使いすぎただけだと思うぞ……

 

「……何か妙な勘違いされてるみたいだけど?」

「まあ、私達もいつもはそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。しいて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

「アルちゃんじゃなくて社長でしょ?ムツキ室長、肩書はちゃんと付けてよ」

 

聞こえてくる会話から頭に浮かぶのは、予想通りという言葉。

部下というの名の友人達に仕事の事をチクチク言われている便利屋68の社長、アルは変な屁理屈を述べる。

それもすぐに論破されているが。

所変われば品も変わると言うが……世界が変わったところで変わらないものもあるものだな。

だんだん声は小さくなり、話し声は聞こえなくなった。

盗み聞きというのも良くない、私はラーメンを食べようか。

美味い。

残り少ないラーメンを啜っていると、セリカがかなり大盛なラーメンを持って便利屋の席へ歩いていく。

 

「はい、お待たせいたしました!熱いのでお気をつけて!」

「ひぇっ、何これ!?ラーメン超大盛じゃん!」

「ざっと十人前はあるね……」

「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよぅ……」

「いやいや、これで合ってますって。580円の紫関ラーメン並!ですよね、大将?」

「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」

「大将もああいってるんだから、遠慮しないで!それじゃ、ごゆっくりどうぞー!」

 

あれを置かれた四人は驚愕し、その後すぐに笑顔になる。

……少し疑問だが、あれはどうやって乗っているんだ……?

 

「う、うわあ……」

「よくわかんないけど、ラッキー!いっただきまーす!」

「……ふふふ、流石にこれは想定外だったけど、厚意に応えて、ありがたく頂かないとね」

 

一斉に啜る音がする。

 

「お、おいしい!」

「なかなかイケるじゃん?こんな辺ぴな場所なのに、このクオリティなんて」

「でしょう、でしょう?美味しいでしょう?」

「あれ?隣の席の……」

 

ノノミが便利屋の四人に声を掛ける。

アビドスの五人は常連で―一人は働いているが―美味しいと褒められたのは我が身のように嬉しいんだろう。

特に社交的なノノミなら、声を掛けてしまうんだろう。

 

「うんうん、ここのラーメンは本当に最高なんです。遠くからわざわざ来るお客さんもいるんですよ」

「ええ、わかるわ。いろんな所でいろんなのを食べてきたけど、このレベルのラーメンはなかなかお目にかかれないもの」

 

いろんなもの……?

アルはラーメンを食べてるイメージしかないが。

 

「えへへ……私達、ここの常連なんです。他の学校の皆さんに食べていただけるなんて、なんか嬉しいです……」

「その制服、ゲヘナ?遠くから来たんだね」

「私、こういう光景見たことあります。いっぱいのラーメン、でしたっけ……」

「うへ~、それは一杯のかけそばじゃなかったけ?」

「ズルズル……」

 

美味い……ん?

カヨコとムツキが何か喋っている。

仕事の話だろうか。

だがアルはそれに気づいた様子は無く、アビドスの皆と会話する。

……そういえば、元の世界ではたまに便利屋達と戦うこともあったが……何故そんなことを今思い出したのだろうか?

その後もアビドスと便利屋はお互いのことを知るくらいに話しながらラーメンを食べた。

 

 

 

私達はラーメンを食べ終え、便利屋を見送っていた。

 

「それじゃあ、気を付けてね!」

「お仕事、上手くいきますように!」

「あははっ!了解!あなた達も学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!じゃあね!」

 

こうして便利屋達は去っていた。

 

 

 

……のだが。

 

「な、ななな……なんですってぇぇぇ!!!???」

 

数時間後、そうアルは学校の校庭前で叫んでいた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策委員会―5

遅くなって本当に申し訳ございません……!

一万文字の名文をぽんぽん出せる人たち何なの?


事の発端は私達が食事を終え、セリカもバイトを終わらせて学校へ帰宅した後、アヤネから大規模な兵力を確認したという報告を聞いた時だった。

私は何か嫌な予感を感じながらも、出動命令を出した。

 

アヤネは部室でオペレーターを、それ以外の私達は急いで準備し、学校を出たのだが……

校門付近にもうすでに敵性勢力―傭兵が集まっていた。

その中には、数時間前に見た面々が。

ノノミがそれに気づき、声を上げる。

 

「あれ……ラーメン屋さんの……?」

「ぐ、ぐぐ……」

「誰かと思えばあんた達だったのね!ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!」

「あははは、その件はありがと。それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ」

「残念だけど、公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす」

「そうだぞセリカ。優しくしたことがまるっきり帰ってくるわけでもないし、彼女達も仕事だ。自分の意思だけで動くと、信用が落ちてしまう。バイトをしてると分かるだろう?」

「確かにそうね…って、なんで先生があいつらのことを庇ってるのよ!」

 

しまったつい口が。

とはいえ、このままでは戦いが終わった後も悪感情がついて回ってしまいそうだからな……

どうにか両者とも矛を収められないだろうか。

 

「へぇー、シャーレの先生もそういうの理解してるんだ?」

「真っ先に否定すると思ったけど……」

「子どもの考えや行動を否定し、押さえつけるのは嫌いなんだ。それに昔、いろいろあってな」

 

裏でいろいろするのは大変なのは身に染みている。

だとしても私は物事を知らな過ぎたが。

契約書…銀行…うっ、頭が……

と、突然アルが口を開く。

 

「ムツキ……い、いま……シャーレの先生……って言った……?」

「えっ?言ったけど……まさかアルちゃん、あの大人がシャーレの先生ってことにも気づいてなかったの!?」

 

「な、ななな……なんですってぇぇぇ!!!???」

 

アルは白目を剝き、あんぐりと大きな口を開ける。

……まさかは思うが、「にも」ということは、あのラーメン屋の時も、アビドスということに気づいていなかった……?

 

「流石にそこまで知らなかったとは私も思わなかったよ!アルちゃん面白すぎでしょー!」

「アル様を騙したんですか……?ゆ、許せません……!」

「えぇ……」

 

どう考えてもそっちのリーダーのミスじゃないか。

だがらしいと言えばらしい。

気付いていたらまず偽物か疑うからな私は。

と、そんなことを言っている場合ではない。

今はこの戦いを止めなければ。

 

「誰の差し金?……いや、答えるわけないか。力尽くで口を割らせるしか」

 

そう言って銃を構えるシロコ。

今更だが攻撃的だな?

よく見れば他のアビドスもやる気満々だ。

 

「ふふふ、それはもちろん企業秘密よ?総員!攻撃!」

「結局、止められなかったか……しょうがない。アビドス、迎え撃つぞ!」

 

そう叫び、すぐさま近くの壁に飛び込む。

敵は便利屋メンバーを後方に、日雇いで雇ったであろう戦闘員を突撃させてきている。

 

「ノノミ、薙ぎ払え!ホシノはそのカバー!シロコとセリカは零れたのを撃て!」

「分かりました!えーい!」

 

ノノミのガトリングが一斉掃討する。

カバーしようとした者も例外なく、吹き飛ばす。

それを免れた者はノノミに反撃しようと射撃するが、ホシノの盾で防がれる。

そしてそこをシロコとセリカが狙い撃つ。

アヤネは敵の位置情報を教えながらドローンで弾薬を運ぶ。

 

「な、ななな……」

「おー、どんどん削られていくね」

「人数が少ない分、個人の戦闘力が高い……そこにあの先生のサポート……キツイね」

「こ、このままじゃまずいわ、ムツキ、ハルカ!やっちゃいなさい!」

「はいはーい!」

「分かりました……!撃って、撃って撃って撃って撃って壊しますっ!」

 

……ムツキとハルカも前線に来たか、面倒だな。

ムツキは火力の高いマシンガンに何故かたまに動いてたまに音が鳴る爆発する爆弾を投げてくる。

中は気になるが、怖くて見たことはない。

ハルカは強靭な精神で銃弾を耐えながらショットガンを乱射してくる。

土壇場の馬鹿力が怖い。

残りの二人は……あそこか。

遠くの方でスナイパーライフルを構えるアルとその隣で立っているカヨコ。

スポッターか。

アルは無くても当てれるだろうと思いながらも、しかしそのおかげで数が実質一減っているのは助かる。

 

「あっぶない!?」

「……っ」

 

前言撤回、いますぐ前線に来てくれ。

ただでさえ高い狙撃能力がカヨコのサポートでさらに高くなっている。

流石に『先生』のサポートほどではないが……それでも面倒だ。

シロコとセリカを的確に邪魔をし、こぼれた敵がじりじりと近くなってきている。

 

「っとと、流石にまずいね……!」

「ホシノ先輩!」

 

ホシノ達にはムツキとハルカがその他と共に攻撃されている。

援護したいが、下手に顔は出せない、か。

アビドスには狙撃手はいない……セリカのライフルは多少長いがスナイパーには対抗できない。

 

「ちっ、スナイパーを持ってる子がいればな……」

「呼びましたか?♡」

「ああ、丁度お前みたいな―」

 

横には狐面の少女がいた。

 

「―びっくりした……」

「ああ!申し訳ありません、呼ばれたと思ったら、つい……」

「いや、大丈夫だ。私が慣れればいい。……頼んでおいたことは?」

「今日の分はもう済んでおります。それで、いかがしましょう?」

「アル……狙撃手を頼む」

「お任せあれ、ですわ」

「先生!いったい誰と話して―って、災厄の狐!?」

 

セリカがこちらを向いて、大声を上げる。

その次の瞬間にはシロコがワカモに銃口を向ける。

 

「先生から離れて」

「安心しろ、仲間だ」

「……」

「シロコ」

 

シロコはしぶしぶ銃を下げた。

悪いが、説明をしている暇はない。

 

「ワカモ、やってくれ」

「はい♡」

 

ワカモは的確にアルとカヨコを狙い撃つ。

……今、二発同時に撃たなかったか?それはダブルバレルどころかボルトアクションだよな?

 

「愛の力です♡」

 

平然と心を読んできたが、これも愛の力か。

 

「あ、あれって……ひゃあぁあ!?」

「……!くっ」

 

「……申し訳ありません、外してしまいました」

「構わない、シロコ、ドローンを!」

 

シロコがドローンを展開し、ホシノ達を攻撃していたムツキとハルカを爆破する。

 

「流石にやば……!」

「うわぁぁぁあああ!」

 

こちらに気づいていなかったのか、ドローンのミサイルは二人に直撃し、他の雑兵は射撃で倒された。

 

「ムツキ、ハルカ!」

「ほらほら、そちらに気を取られていても大丈夫なのですか?」

「災厄の狐ぇ!?いつの間にこんな近くに!?」

 

いつの間にか、倒された子の武器を持ってアル達の方へ向かっていたみたいだ。

怖いな……訓練していた私達よりも強いのはおかしくないか?ヒナしかり、ミカしかり。

ちょっと悲しい。

っと、気を緩めるわけにはいかない、まだ終わってないはずだ。

そう思った次の瞬間、学校のチャイムが鳴った。

 

「……あ、定時だ」

「今日の日当だとここまでね。あとは自分で何とかして。皆、帰るわよ」

 

ぞろぞろと便利屋以外が帰っていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!せめて上の狐をひゃああああ!?」

 

アルがワカモに馬乗りされているが、無視して帰っていく。

災厄の狐と呼ばれるワカモと敵対したくないようだ。

ショットガンを頭に押さえつけられないよう一生懸命に振っているアル。

そういえば、カヨコは……あ、ダウンしている。

しょうがない。

 

「ワカモ、もういい。大丈夫だ!戻ってきてくれ!」

 

大声で呼べば、一秒も満たない速さで来た。

そこそこ距離あった気がするんだが……まあいいか。

ワカモの頭を撫でながら、声を掛ける。

 

「あー……もう勝ち目は無いと思うが、どうする?」

「あ、う……こ、これで終わったと思わない事ね!アビドス!!!」

「あはは、アルちゃん完全に三流悪役のセリフじゃんそれ」

「……あれ、終わった?」

 

便利屋は止める暇もなく逃げ……退却していった。

 

「……詳しいことは分かりませんが、敵兵力の退勤……いえ、退却を確認。困りましたね……変な便利屋まで狙われるとは……一体何が……」

「まあ、少しずつ調べるとしよう。まずは社長のアルって子の身元から洗ってみたら。何か出てくるよ、きっと」

「その前に……そいつと先生の関係を聞くのが先」

 

シロコが険しい表情で私達を見てくる。

さて、どう説明したものか……

 

 

 

「……で、どういう仲なのかな、その災厄の狐とは」

 

私達は部室に戻り、私とワカモ、アビドスに別れ、椅子に座った状態で向かい合う。

 

「……ワカモ、どういう仲にする」

「決めてよろしいのですか?では夫婦で」

「らしい」

「絶対違うじゃん!そっちの願望じゃん!」

 

と言ってもな……まあ普通に生徒でいいか。

 

「シャーレ所属のワカモだ。大丈夫、私達の仲間だ。安心してくれ、危害は加えない」

「あなた様がそうおっしゃるなら……」

「ほら、こう言っているしな」

「全然安心できませんが……」

「ともかく、今はその話をしている場合じゃな「ん、まだ終わってない」……なんだ?」

 

「ん、私の頭も撫でるべき」

 

そう言ってシロコが頭を突き出してきた。

 

「ええ……別にいいが」

「ん、ぅ……」

「わー!私もやってほしいです☆」

「は?あなた様!わたくしにも、わたくしにも!」

「さっきやったから、後でな。腕は二つしかない」

「部室でイチャイチャすんな!」

 

何故かわちゃわちゃした後、普通に解散したのだった。

 

 

 

次の日の朝。

学校に向かうべく歩いていると、アヤネと出会った。

 

「アヤネ、おはよう」

「あ、先生。おはようございます」

「朝早くから、どこへ?私は早めに学校に行くつもりだが……」

「えっと、今日は利息を返済する日でして……色々と準備が必要あるんです。早めに登校して返済の準備もしないとですし、今後の計画も見直さないとなので……」

 

偉いな、さすが暴走しやすいアビドスメンバーのブレーキ役。

……関係ないか。

そういえば、とアヤネが話を変える。

 

「昨日の方々の情報が見つかりました。後ほど学校で詳細をご確認いただけますか?ゲヘナ学園の生徒だったのですが……」

「あっ、先生じゃん!おっはよー!」

「ああ、おはよう……ん?」

 

アビドスにこんな元気な声の持ち主はいたか……?

ノノミか、セリカだろうか、と声の方を見てみると、そこにいたのは、便利屋68のムツキだった。

 

「な、ななっ!?」

「じゃじゃーん!どもどもー!こんなところで会うなんて、偶然だね!」

 

ムツキは私に飛び込み、背中に抱き着いてきた。

 

「そうだな。ムツキはどうしてここを?私達は学校に行くから歩いているんだが……」

「な、なんで抱き着かれて平然と会話してるんですか!あなたも離れてください!」

「おっと、引っ張らないでよー……誰かと思いきや、アビドスのメガネっ娘ちゃんじゃーん?おっはよー、昨日ラーメン屋で会ったよね?」

「その後の学校の襲撃でもお会いしました!どういうことですか?いきなり馴れ馴れしく振舞って……それにメガネっ娘じゃなくて、アヤネです!」

 

普段温厚なアヤネが怒っている。

出来れば仲良くしてほしいんだが……

それにとアヤネは続ける。

 

「先生も先生です!どうして何事もなかったかのように……」

「私達、別にメガネっ娘ちゃんたちのことが嫌いなわけじゃないし」

「別に……お互い仕事で敵になっただけだろう?それ以外なら、基本関係ないさ」

「くふふ、先生はいい考えしてるじゃーん」

 

いえーいとハイタッチする私達。

それでもアヤネは腑に落ちない様子。

 

「いっ、今更公私を区別しようということですか!?」

「別にいいじゃん。それにシャーレの先生はあんた達だけのもんじゃないでしょ?だよね、先生?」

「別に物でもないが……いいかアヤネ。世の中にはな……」

「世の中には……?」

「自分を撃ってきた奴すら憎まない者もいるんだ。ちなみに殺しかけた」

「仏か何かですか!?」

 

撃たれたら死にかけるただの先生だぞ。

 

「……あれ、殺し……」

「まあ、私の考えとしては出来れば仲良くしてほしい」

「あはは、それは無理かなー。こっちも仕事だからね。アルちゃんがモチベ高くてさ、適当にやると怒られちゃうから」

 

モチベ高いのか……

オブラートに包んで言えば、何かやらかしそうだな。

アルだし。

 

「ま、いつかうちの便利屋に遊びにおいでよ、先生。アルちゃんも皆も、きっと喜ぶからさ。そんじゃ、バイバ~イ。アヤネちゃんもまた今度ね」

「ああ、またな」

「また今度なんてありません!!今度会ったらその場で撃ちます!」

「はいはーい」

 

ムツキは笑いながら、どこかへ行ってしまった。

そういえば、なぜこの辺で会ったんだ?……まあいいか。

 

 

 

そんなことがありつつも、無事学校にたどり着き、十数分後。

私はアヤネ達と銀行員のやり取りを見ていた。

……カイザーローン、か。

悪徳なところとは聞いていたが……ふむ。

元の世界でもカイザーという名は碌でもなかったはず。

偶然……ではあるまい。

考え事をしていると、支払いは終わったようだ。

 

「……」

「はぁ、今月も何とか乗り切ったねー」

「……完済まであとどれぐらい?」

「309年返済なので……今までの分を入れると……」

「言わなくてもいいわよ、正確な数字で言われるとさらにストレス溜まりそう……どうせ死ぬまで完済できないんだし!計算しても無駄でしょ!」

 

セリカかなり苛立っている。

それもそうだろう、本人の言う通り、気の遠くなるほどの時間を掛けなければ返済できない。

そんなことは想像もしたくないな……だが。

奴らの狙いは金ではない。

勘だが、そんな気がする。

もし()()が関わっているとするなら……間違いない。

金を欲しがる集団ではない。

 

「ところで、カイザーローンはなぜ現金でしか受け付けないのでしょうね?わざわざ現金輸送車まで手配して……」

「……」

「シロコ先輩、あの車は襲っちゃだめだよ」

「うん、分かってる」

「計画もしちゃだめ!」

「うん……」

 

犬の躾か何かか?

ぱん、と音を立ててホシノが注目を集める。

 

「ま、とりあえず先に解決するべきは、目の前の問題の方でしょ。とにかく教室に戻ろー」

 

 

 

教室に戻った後、アヤネが仕切って会議が始まった。

 

「全員揃ったようなので始めます。まずは、二つの事案についてお話したいと思います。最初に、昨晩の襲撃の件です。私達を襲ったのは便利屋68という部活です。ゲヘナでは、かなり危険で素行の悪い生徒達として知られています」

 

そうしてアヤネは便利屋のメンバーの名前と役職を言っていく。

素行の悪い、な……

悪いと言えば悪いが、どうしても善性が見え隠れするからな……特にアルの。

大体悪いことするときは調子に乗りすぎて後に引けなくなった時だ。

……あの時は大変だったな……

元の世界でのやらかしの数々を思い出す。

だが、私の知る中で一番と言っていいほどのリーダーだ。

先生と並ぶぐらい尊敬している。

 

「いやぁー、本格的だねー」

「社長さんだったんですね☆凄いです!」

「いえ、あくまでも自称なので……それで、今はアビドスのどこかのエリアに入り込んでいるようです。今朝も会いましたし……」

「ゲヘナ学園では、起業が許可されているの?」

「それは無いと思いますが……勝手に起業したのではないでしょうか」

「あら……校則違反ってことですね。悪い子達には見えませんでしたが……」

「いえ、それが今までかなり非行の限りを尽くしたようで、ゲヘナでも問題児扱いされているようです」

 

アヤネはその言葉を否定し、危険な存在としての説明をする。

……本人が聞けば喜びそうだな。

私から見てみれば、もっと凄いのがゲヘナにはいるが。

美食家とか……温泉集団とか……

後処理大変なんだぞ……先生が。

会議では、次会った時は取っ捕まえて取り調べをすることになって、次の事案に移った。

……なぜか、アヤネが便利屋に対して恨みがましいような……ムツキに抱き着かれた時と同じ雰囲気がする。

 

「続きまして、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです!先日の戦闘で手に入れた戦略兵器の破片を分析した結果……現在は取引されていない型番だと言うこと判明しました」

「もう生産されていないってこと?」

「それをどうやって手に入れたのかしら」

 

……なるほど、な。そんなものを手に入れる場所は一つしかない

 

「生産が中止された型番を手に入れる方法は……キヴォトスでは『ブラックマーケット』しかありません」

「ブラックマーケット……とっても危ない場所じゃないですか」

「そうです。あそこは中退、休学、退学……様々な理由で学校を辞めた生徒達が集団を形成しており、連邦生徒会の許可を得ていない日認可の部活もたくさん活動していると聞きました」

「便利屋68みたいに?」

「はい。それから便利屋68も、ブラックマーケットで何度か騒ぎを起こしていると聞きました」

 

多分巻き込まれた形なんだろうな……

……この会議中に考えていた事がほとんど便利屋なのはどうなのだろうか。

 

「では、そこが重要ポイントですね!」

「はい。二つの出来事の関連性を探すのも、一つの方法かもしれません」

よし、それじゃあブラックマーケットを調べてみるとしよう。意外な手掛かりがあるかもしれないしね」

 

というわけで、ブラックマーケットへ向かうことになったのだった。

……ブラックマーケット、か。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策委員会―6

遅れあそばせ…

今明かされる衝撃の真実……!


ブラックマーケット。

街一つ分の大きさを誇り、犯罪が横行する場所。

言わばろくでもない場所の一つなんだが……

私がいた世界ではどうなっているのか。

私が子供の頃はそう変わらなかったが、今では連邦生徒会の管理下になっている。

何があったか詳しくは知らないが、先生や各学園の生徒会などが頑張ったらしい。

消すというわけではなく、管理。

なぜこのような判断になったのか、それは先生の一つの意思から。

 

『子供のために』

 

全てはそのために、生かされていた。

ブラックマーケットのおかげで救われた者もいる。

私も、その一人だ……騙されることもあったが。

 

まあそんな事もあり、私にとって感慨深い場所、ブラックマーケットに私達は来ていた。

 

「ここがブラックマーケット……」

「わあ☆すっごく賑わってますね?」

 

アビドスの皆は初めての景色で年相応にはしゃいでいる。

私もこの世界では初めて、過去の景色と比べながら歩く。

ホシノやアヤネが学区外の事を説明しているのを耳に入れながら、周りを見ていると

 

タタタタタ!

 

と、銃声が聞こえてきた。

ふむ、確かにここは犯罪のバーゲンセールだが、ここでそうそう戦闘は起きない。

理由は……っと、そんなことを考えている暇は無さそうだ。

駆け足とそれを追いかける銃声がどんどん近づいてくる。

 

『あれ……あの制服は……』

「わわわっ、そこどいてくださいー!!!」

 

そして、駆け足の持ち主が私にぶつかる。

 

「い、いたた……ご、ごめんなさい!」

「ん、大丈夫だ。お前こそ、だいじょう…ぶ……」

 

ぶつかったのは少女。

とても見たことのある、少女だった。

固まる私の代わりにシロコが代わりに質問する。

 

「大丈夫?なわけないか、追われてるみたいだし」

「そ、それが……」

 

少女が何か言おうとする前に、追いかけてきたと思われるチンピラ二人が現れた。

 

「なんだお前らは。どけ!あたし達はそこのトリニティの生徒に用がある」

「あ、あうう……わ、私の方は特に用は無いのですけど……」

『……!思い出しました、その制服……キヴォトス一のマンモス校のひとつ、トリニティ総合学園です!』

 

アヤネの言う通り、トリニティらしい明るい制服を着た少女……

阿慈谷、ヒフミ。

 

「おぉう……」

 

なぜここに……?

混乱する私をよそにチンピラは自分達の計画をペラペラ喋る。

 

「そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある!だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」

「拉致って交渉!なかなかの財テクだろう?くくくくっ」

「そうか……?」

 

正実は怖いんだぞ?ミカもいるし。

ミカもいるし。

 

「どうだ、お前らも興味あるなら計画に乗るか?身代金の分け前は……」

「「ん?うぎゃあっ!」」

 

喋っていた二人のチンピラはシロコとノノミの当身で倒された。

銃で殴られたようにも見えたが、気のせいだ気のせい。

 

「悪人は懲らしめないとです☆」

「うん」

「あ……えっ?えっ?」

「割とアビドスの皆って脳筋だな……どこもそうか」

 

適当に端の方にチンピラ達を寄せた後、私達は歩いてその場を離れた。

ヒフミは歩いている最中、感謝の言葉を口に出す。

 

「あ、ありがとうございました。皆さんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……それに、こっそり抜け出してきたので、何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも……」

「えっとー、ヒフミちゃんだっけ?それにしても、トリニティのお嬢様がなんでこんな危ない場所に来たの?」

 

よく聞いたホシノ。

……予想はしてるが、流石にそれでここまで来るわけ無いはずだ……

 

「あはは……それはですね……実は、探し物がありまして……もう販売されていないので買うこともできないものなのですが、ブラックマーケットでは密かに取引されているらしくて……」

「もしかして……戦車?」

「もしくは違法な火器?」

「化学武器とかですか?」

「場所が場所だから仕方ないがよくすぐに思いつくな……」

 

私みたいに訓練受けてないだろ……

三人の言葉に困惑しながらも、ヒフミは答える。

 

「い、いいえ……えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです」

「ペロロ?」

「限定グッズ?」

「……」

 

静かに私は空を見上げる。

ええ……

いや知ってはいたが、本当に、この子は……変に行動力が強いな……

まあ、だからこそと言うか、あいつや、私達が救われたわけでもあるが。

それはそれとして危ないのでやめてくれ。

 

「はい!これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!限定生産で百体しか作られてないんですよ。ね?可愛いでしょう?」

「わあ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよねぇ!私はミスター・ニコライが好きなんです」

「分かります!ニコライさんも哲学的なところがカッコ良くて」

 

「……おじさん最近の子にはついてけないなー」

「歳の差ほぼ無いでしょ……ところでシロコ先輩、あれ、可愛く見える?」

「ん………好みは人それぞれ」

「ニコライとかはまだしもペロロはな……」

「先生意外と詳しいんだ、意外」

 

モモフレンズ好きが

大きくなってロボと戦うことになる、と言うとどういう反応するのだろうか……

ヒフミとノノミがひとしきり語り合った後、元の会話に戻る。

 

「というわけで、グッズを買いに来たのですが、先ほどの人達に絡まれて……皆さんがいなかったら今頃どうなっていたことやら……ところで、アビドスの皆さんは、なぜこちらへ?」

「私達も同じようなもんだよ。探し物があるんだー」

「そう。今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて」

「そうなんですか、似たような感じなんですね」

 

そうヒフミが頷いた途端、アヤネから大声が上がった。

 

『皆さん、大変です!四方から武装した人達が向かってきています!』

 

近くに駆けてくる音がする。

その方向を見れば、ついさっき見た顔が。

 

「いたぞ!あいつらだ!」

 

はぁ……ここで戦う意味が分かってるのか?

 

『先ほど撃退したチンピラの仲間のようです!完全敵対モードです!』

「望むところ」

「まったく、なんでこんなのばっかり絡んでくるんだろうね?私達、何か悪いことした?」

『愚痴は後にして……応戦しましょう、皆さん!』

「一点突破で逃げるぞ。シロコ!」

 

シロコは返事の代わりにドローンミサイルをチンピラ達にぶつけた。

悲鳴を上げながら倒れていくチンピラ達を横目にホシノを先頭にして走る。

ここで長く戦闘する必要はない。

ぱっぱと撒くに限る。

 

 

 

私の考え通り、アヤネの指示を聞きながら走っていれば、すぐに撒くことが出来た。

ふぅ、と息を吐いていると、セリカから声が掛かる。

 

「ねえ、なんで戦わずに逃げたの?あれぐらいなら先生の指揮があったら勝てたでしょ?」

「別に必要以上に戦う必要もない。私達は戦いに来たわけではないしな。それに……」

「治安維持部隊……ですよね」

「流石だな、調べてきたのか?」

「そんな、褒められることでは……ここはキヴォトスの危険な場所として有名ですし、ましてや一人で行くなら、それ相応の準備が必要かと思いまして」

 

さすが、優等生。

まて、一人でブラックマーケット行く奴が優等生か?

 

「それに様々な企業が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました」

「……企業、か」

「それだけじゃありません。ここ専用の金融機関や治安機関があるほどですから……」

 

それを聞いたセリカが飛び上がりそうな勢いで声を上げる。

 

「銀行や警察があるってこと……!?そ、それってもちろん、認可されていない違法な団体だよね!?」

「はい……そうです」

「スケールが段違いですね……」

「中でも特に治安機関は、とにかく避けるのが一番です。騒ぎを起こしたら、まずは身を潜めるべきです……」

「ああ、特に面倒なのはその統率力。戦闘するならちゃんとした準備が必要だ」

『その言い方ですと、知ってるんですか?』

「……知り合いが、そう言っていた」

 

危ない、口を滑らすところだった。

だが実際、奴らは強い。

きちんと訓練され、武装もブラックマーケットだからと違法越えを使っている。

私も、銀行のボディーガードぐらいなら一人でもある程度やれるんだが……

 

「よし、決めたー」

 

そんなことを考えていると、突然ホシノが私達の注目を集めた。

 

「……?」

「助けてあげたお礼に、私達の探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」

 

……は?

 

「え?ええ?」

「わあ☆いいアイデアですね!」

「なるほど、誘拐だね」

「はいっ!?」

「誘拐じゃなくて、案内をお願いしたいだけでしょ?もちろん、ヒフミさんが良ければ、だけど」

「……なんだ、そうか……」

「なんで先生が安心してんの?」

 

ヒフミに何かあったら、ヒフミの親友(まだ違う)に殺されるだろ!

私としても、怪我はさせたくない。

 

「ヒフミ、嫌なら嫌と言ってもらって構わない。帰るなら、途中まで送るが……」

「あ、あうう……い、いえ、私なんかでお役に立てるか分かりませんが……アビドスの皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます」

 

……なるほど。

ナギサも入れ込むわけだ。

 

 

 

ということで、ヒフミに案内してもらってるわけだが。

まあ広い広い。

根城にしていたころは気にならなかったが、普通に足腰にクる。

……年か……?

運動量増やすか。

っと、そんなことはどうでもいい。

皆も疲れた顔がほとんどだ。

ついにはセリカが吐き出す。

 

「はぁ……しんっど……」

 

それに続いてノノミや私も続く。

 

「もう数時間は歩きましたよね……」

「その前に走ったりもしたからな……」

 

ヘイロー抜きに普通に辛いぞ。

 

「これはさすがに、おじさんも参ったなー。腰も膝も悲鳴も上げてるよー」

「えっ……ホシノさんはおいくつなのですか……?」

「ほぼ同年代っ!」

 

またホシノの言葉に惑わされたものが一人。

私?私は元の世界で騙されたからもう大丈夫だ。

そこでノノミが何かを見つけたようで、声を上げる。

 

「あら!あそこにたい焼き屋さんが!」

「行くぞ皆!」

「判断が速い!?」

 

お腹空いていたと思ってたんだ。

 

「あそこでちょっとひと休みしましょうか?たい焼き、私がご馳走します!」

「えっ!?ノノミ先輩、またカード使うの!?」

「……その必要はないみたいだよ~」

「皆何味が好きか分からないからとりあえず全員分一つずつ買ってきたぞ!」

「いつの間に!?」

「先生、お金は大丈夫でしたか?後で私が……」

「?なぜノノミがお金を払う必要が?」

「えっと、私が最初に見つけましたし……私が食べたかっただけで……」

「別に、私も食べたかっただけだ。気にすることじゃない」

「でも……「それでもまだ気にするようなら……」

 

私はたい焼きを一つ手に取る。

 

「私と一緒に食べてくれ」

 

そして、それを微笑みながらノノミに渡す。

 

「……はい☆」

「むぐむぐ……ほら、皆も好きに取れ」

「もう食べてる……」

 

あんこ美味い……疲れた体に沁みる……

 

「それでは、いただきます!はむっ……ん-!甘いです!」

「私も食べよっかな。……モグモグ……おいしい!」

「いやぁ、ちょうど甘いものが欲しかったところだったんだー」

「あはは……いただきます」

 

さっきまで暗かった皆の顔に光が昇る。

……よかった、やはり甘いものは正義だな。

じゃあ次はカスタードを……

そう思って取ろうとすると、横から掠め取られた。

横を見てみれば、私が食べようとしたたい焼きを持ったシロコが。

 

「どうしたシロコ?まだカスタードはあるぞ?」

「ん、あーん」

「いや別にまだあるって……まあいいか、あーん」

「そこ!隙あらばイチャイチャしない!」

 

してないぞ。

……しかし、妙だな……

色々あって忘れそうになるが、私達の目的はヘルメット団が使っていた兵器がどこで販売されていたか、それを探ることだ。

だが、これだけ歩いて探してみても、見つからない……

場所どころか、販売ルート、保管記録すら残っていない。

考えられるのは、誰かが意図的に隠しているということ……

だが、ここはブラックマーケット、でかい会社でもここまでは難しいはず、というかほぼ不可能だ。

隠す必要が無い、というのもあるだろうが……

ふと顔を上げ、皆の方を見てみると、丁度ヒフミが私の考えていたことと似たようなことを話していた。

 

「―例えば、あそこのビル。あれがブラックマーケットに名を馳せる銀行です」

 

懐かしいな、そういえばあそこからブラックマーケット生活が始まったんだったか。

 

「ブラックマーケットで最も大きな銀行の一つです。聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているそうです……」

「そしてその、あらゆる犯罪で得た財貨で違法な銃器や兵器となり、別の犯罪に使われる……」

「はい、先生の言う通りです」

「あれ?さっき三つ目のたい焼き食べてなかった?」

「美味しかった」

 

あんこもカスタードも抹茶も全部美味かったぞ。

 

「……そんなの、銀行が犯罪を煽っているようなものじゃないですか」

「ような、ではなくその通りだ。犯罪によって儲け、その犯罪を手助けする……ある意味、ブラックマーケットの長のようなものだ」

「ひどい!連邦生徒会は何やってんの?」

 

セリカが憤るのも分かる。

だが、力だけで見てみれば、ゲヘナやトリニティに劣らないほどだ。

元の世界ならまだしも、今のような敵対状態では力を合わせることもままならない。

ホシノもある程度理解しているようで、セリカを落ち着かせる。

 

「まあまあ、理由はいろいろあるんだろうけどねー。どこにもそれなりの事情があるだろうからさ」

「現実は、思った以上に汚れているんだね。私達はアビドスばかりに気を取られすぎていて、外の事をあまりに知らな過ぎたかも……」

 

シロコはそのように言うが……

 

「……その汚れに、助けられる者もいるんだ」

「え?」

「……気にするな」

 

ふぅ、少し感情を出しすぎた。

少しくらいは、愛着があるんだ、この場所にも。

だが子ども達を騙すのだけは許さないからな。

とそこで、アヤネから通信が入った。

 

『お取込み中失礼します!そちらに武装した集団が接近中!』

「!!」

「こっちに向かってきてるのか?」

『気付かれた様子はありませんが……』

「そうか……とはいえ多少暴れたところを見られてるかもしれない、身を潜めるぞ」

 

相手の死角になるようなところに各自隠れる。

少し経てば、件の武装した集団が見えた。

ヒフミはそれを見て小さく声を上げる。

 

「あ、あれは!マーケットガードです!」

「マーケットガード?」

 

ノノミの不思議そうな声に応えるようにヒフミが説明をする。

 

「先ほどお話しした、ここの治安機関でも最上位の組織です!」

「ちっ、数人なら制圧できるが、あの数は……」

「……少なくとも二桁は簡単に超えてる」

「パトロール……にしてはおかしいように見えるけど。ヒフミちゃん、分かる?」

「うーん……護衛中……のようですが……」

 

そんな風に話し合っていると、数台のトラックが走ってきた。

それを見て、シロコが口を開く。

 

「……あれ、現金輸送車だ。あれを護送してる」

「あれ……あっちは……」

 

トラック……現金輸送車は銀行へと入っていった。

 

「闇銀行に入りましたね?」

「……何か、入り口近くで書いているようだが……」

「あれ……な、なんで!?」

 

そう驚いた声を出したのはセリカ。

目線の先には、渡された書類―集金確認の書類だろう―を書いている男が。

見た気がするが……

 

「あいつは毎月うちに来て利息を受け取ってるあの銀行員……?」

「あれ、ホントだ」

「えっ!?ええっ……?」

「……どういうこと?」

『ほ、本当ですね!車もカイザーローンのものです!今日の午前中に、利息を支払った時のあの車と同じようですが……なぜそれがブラックマーケットに……!?』

 

……悪徳金融。

カイザーの名前を聞いた時点で思い出すべきだった、このブラックマーケットのことを。

犯罪に手を染めてる、もしくはすれすれの奴らが利用しない手は無いか……

 

「カイザーローンですか!?」

「ヒフミちゃん、知ってるの?」

「カイザーローンと言えば……かの有名なカイザーコーポレーションが運営する高利金融業者です……」

「有名な……?マズいところなの?」

「あ、いえ……カイザーグループ自体は犯罪を起こしてはいません……しかし合法と違法の間のグレーゾーンでうまく振舞っている多角化企業で……カイザーは私達トリニティの区域にもかなり進出してるのですが、生徒たちの悪影響を考慮し、ティーパーティーでも目を光らせています」

 

よくそこまで知っているな……いや、ヒフミを溺愛しているあいつが教えたんだろうな。

しかし……ヒフミほど情報を持てというわけではないが、自分達が借りているところに対してほとんど知らないとは……

何年も前から借金を抱えているらしいから、返済で必死だったと考えれば、しょうがないか……

ホシノぐらいは知っていそうだと思ったが。

 

「ところで皆さんの借金とはもしかして……アビドスはカイザーローンから融資を……?」

「借りたのは私達じゃないんですけどね……」

「話すと長くなるんだよねー。アヤネちゃん、さっき入ってった現金輸送車の走行ルート、調べられる?」

『少々お待ちください………駄目ですね、全てのデータをオフラインで管理しているようです。全然ヒットしません』

「だろうねー」

「そういえば、いつも返済は現金だけでしたよね。それはつまり……」

「私達が支払っていた現金が、ブラックマーケットの闇銀行に流れていた……?」

「じゃあ何?私達はブラックマーケットに、犯罪資金を提供していたってこと!?」

 

そういうことだろうな……クソっ、違う世界とはいえ、予想できていたはずだ……!

いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

なぜカイザーがブラックマーケットに流しているか、だ。

 

『ま、まだそうハッキリとは……証拠も足りてませんし。あの輸送車の動線を把握するまでは……』

 

……確かに、アヤネの言う通りだ。

だが、どうやって確認を?

そう言う前にヒフミが一つの案を思い浮かべた。

 

「……あ!さっきサインしていた集金確認の書類……それを見れば証拠になりませんか?」

「さすが」

「おお、そりゃナイスアイデアだねー」

「お前がナンバーワンだ」

「あはは……言いすぎですよ……でも考えてみたら、書類はもう銀行の中ですし……無理ですね。ブラックマーケットでも最も強固なセキュリティを誇る銀行の中となると……それに、あれだけの数のマーケットガードが目を光らせてますし……」

 

案を出したヒフミはうんうん唸って考えている。

巻き込まれただけなのに、よくここまで考えてくれるな……

……申し訳なさが強くなってくる……

 

「うん」

 

そんな時だった。

シロコはカバンから見たことのある紙袋を取り出す。

 

「他に方法は無いよ」

「えっ?」

「まさかな……」

 

シロコの一言にヒフミは目を丸くし、私は目を逸らす。

 

「ホシノ先輩、ここは例の方法しか」

「なるほど、あれかー。あれなのかあー」

「……ええっ?」

 

流石に、あれは無いだろう、あれは……あ。

そういえば……見たことあるような……

 

「あ……!!そうですね、あの方法なら!」

「何?どういうこと?……まさか、あれ?まさか、私が思ってるあの方法じゃないよね?」

 

セリカのその言葉に頷くシロコ。

 

「う、嘘っ!?本気で!?」

「……あ、あのう。全然話が見えないんですけど……あの方法って何ですか?」

 

覆面……水着少女団……

 

「残された方法はたった一つ」

 

アビドス……ヒフミ…………あ”ぁ”!?

 

 

「銀行を襲う」

 

 

覆面水着団だぁああああああああ!!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策委員会―7

誤字報告感想評価ありがとうございます。それらは我らの光であり―


銀行の陰に潜む怪しい六人組。

その中の一人()が、誰かに通信をする。

 

「アヤ…0(ゼロ)、準備はいいか?」

『はい、既に銀行の設備全般を掌握しています。いつでもいけます』

「よし、じゃあ合わせてくれ」

 

そう言いながらタブレット(シッテムの箱)を起動して何かをしようとする。

……なぜ私は三人称で語っているんだろうな。

まあ細かいことはいい、やるぞ。

 

「アロナ先生」

『はい!』

 

アロナ先生に頼み、銀行の電力を全て落としてもらう。

そして全員に突撃命令を出して銀行に入る。

中は阿鼻叫喚。まあ急に電気が落ちたら怖いものだ。

パソコンを使っていたら特にな!

 

「うわっ!ああああっ!」

「うわああっ!」

「なっ、何が起きて…うああっ!!」

「グワーッ!」

「アバーッ!」

 

そんな中にいるマーケットガード達をメンバーが撃って殴って制圧する。

なぜそんなに手際が良いのか……あまり考えるのはやめておこう、ちょっと傷つく。

メインルーム辺りのマーケットガードを倒したのを確認した後、アロナ先生を介してナンバー0に電力を元に戻してもらう。

そして、ドドン!と擬音が付きそうな感じで私達が並ぶ。

 

 

 

そう、私達こそ、覆面水着団だ!

 

 

 

そんなことが起こる数分前。

銀行を襲うと宣言したシロコに驚いた私。

きっとこの時はアルのなんですっての顔みたいになっていたことだろう。声は出ていなかったようで、誰もこちらに気付かなくてよかったが。

私以外に驚いたのはヒフミ。

 

「はいっ!?」

 

なんて可愛らしい悲鳴に似た声を出す。

 

「だよねー。そういう展開になるよねー」

「はいいいっ!!??」

「わあ☆そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」

「えええっ!!??ちょ、ちょっと待ってください!」

 

ノリノリなホシノとノノミに声は届かない。可哀そうだな。

というかお前達覆面付けるの速くないか?

 

「はあ……マジで?マジなんだよね……?ふぅ、それなら……」

 

セリカは覆面を被り

 

「とことんまでやるしかないか!!」

 

と言った。

ヒフミはもはや言葉が作れない。

 

「…………はぁ、了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし……どうにかなる、はず……」

 

ついには最後のブレーキ役のアヤネまでやる気だった、

ヒフミは絶句している。

 

「ん、先生。そういえば先生の分が無かったから、作っておいた」

「あ、ありがとう……」

 

シロコから渡された青い覆面にはTの文字が。

……私も着けることになるとは……運命というのも、数奇だな。

 

「それと、ごめんヒフミ。あなたの分の覆面は準備が無い」

「うへー、ってことは、バレたら全部トリニティのせいだって言うしかないねー」

「は?」

「ええっ!?そ、そんな……覆面……なんで……えっと、だから……あ、あう……」

 

少し前から思っていたが、ホシノ意外と鬼畜だな……

というか言うしかない、じゃないが?最悪の場合トリニティと全面戦争になるぞ……

 

「それは可哀そうすぎます。ヒフミちゃん、とりあえずこれでもどうぞ☆」

 

そう言って何かを渡すノノミ。

って、あれは……!

 

「たい焼きの紙袋?おお!それなら大丈夫そー!」

「え?ちょ、ちょっと待ってください、皆さ…あ、あうう……」

 

抵抗虚しく紙袋を被せられたヒフミ。

紙袋の額の部分には5の数字が大きく描かれていた。

 

「……」

「ん、完璧」

「番号も振っておきました。ヒフミちゃんは5番です☆」

「見た目はラスボス級じゃない?悪の根源だねー、親分だねー」

「わ、私もご一緒するんですか?闇銀行の襲撃に……?」

「さっき約束したじゃーん?ヒフミちゃん、今日は私達と一緒に行動するって」

「う、うわあ……わ、私、もう生徒会の人達に合わせる顔がありません……」

「問題ないよ!私らは悪くないし!悪いのはあっち!だから襲うの!」

「ヒフミが参加する理由にはならなくないか?」

「せ、先生……!」

「でもせっかくなら参加してもらおう。ちょっとした職業体験だな」

「先生……!?」

 

ヒフミから何かを訴えるような目線を感じるが目を見てないので分かりません知りません。

今度ペロロ様の巨大クッション買ってあげるからな……!

 

「それじゃあ先生。例のセリフを」

 

シロコが私にそう言って銃を構える。アビドスチームはやる気満々。

しょうがない、行くか。

 

「……よし、銀行を襲うぞ」

 

 

 

そんなこんなで現在。

 

「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」

「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」

「あ、あはは……皆さん、怪我しちゃいけないので……伏せてくださいね……」

 

シロコ、ノノミ、ヒフミが次々に警告する。……こんな状況でも苦笑いが出るのは大物だな。

 

「非常事態発生!非常事態発生!」

「うへ~無駄無駄~。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー」

「ひ、ひいっ!」

「ほら、そこ!!伏せてってば!下手に動くとあの世行きだよ!?」

 

ホシノ、セリカもどんどん脅していく。

本当に才能の塊だな。犯罪者の。

 

「く、くそっ……!」

 

……ん?何か物音がした気が……

 

「やらせるかよぉっ!」

 

私のすぐ近くの柱の裏に、一人隠れていたようだ。

ハンドガンを構えてこちらに向ける。

 

「三手遅い」

「ぐわっ!?」

 

これくらいの距離なら、すぐに詰め寄って防げれる。銃身を掴んで引き寄せ、床に叩きつける。ついでに銃も奪う。

いわゆるCQCだ。

なに?暴力?子どもには手を出さないが、大人やロボットは知らん。

 

「ん、先…Ms,Tって、意外と強い?」

「凄いねせ…Ms,T!」

「嬉しいような嬉しくないような」

 

銃のマガジンを抜き、投げながら二人の声に反応する。

まあ、こっちに来たばかりの時に、無茶して怒られた時の事を思い出せば、褒められる方がいいか。

 

「うへ~ここまでは計画通り!次のステップに進もう―!リーダーのファウストさん!指示を願う!」

「えっ!?えっ!?ファウストって、わ、私ですか?リーダーですか?私が!?」

「リーダーです!ボスです!ちなみに私は……覆面水着団のクリスティーナだお♧」

「うわ、何それ!いつから覆面水着団なんて名前になったの!?それにダサすぎだし!」

 

セリカの言葉に苦笑いするノノミ。

待て、その名前はノノミが付けたのか……ここから始まったんだな……

 

「うへ、ファウストさんは怒ると怖いんだよー?いうこと聞かないと怒られるぞー?」

「あう……リーダーになっちゃいました……これじゃあ、ティーパーティーの名に泥を塗る羽目に……」

「……そこまで、気にしなくてもいいと思うぞ」

 

そこまで敬うような奴らではないような……

 

シロコが大体の行動をしてくれているため、変な動きをしている奴がいないか見張る以外にやることがない。

即興でよくここまでやる。

……ん?あそこにいる三人組は……アル以外の便利屋?なぜ……ああアルか。

流石に便利屋達には気付かれてるだろうし、小さく手を振っておこうか。

ムツキは小さく笑いながら、ハルカは控えめに手を振る。

カヨコは……何とも言えない顔でこちらを見るだけ。

と、アルは?

周りを見てみると……シロコがいるところから少し離れた場所にいた。

銀行員に銃を突き付けているシロコを見ながら、目を輝かせている。……気付いていないなあれは。

 

「あの、シロ……じゃなくて、ブルー先輩!ブツは手に入った?」

「あ、う、うん、確保した」

「それじゃ逃げるよー!全員撤収!」

「アディオ~ス☆」

「け、怪我人はいないようですし……すみませんでした、さよならっ!!!」

「ここで謝った方が怖くないか?」

 

私達は出口へ一目散に走る。

後ろからマーケットガードに通報している声が聞こえる。

 

「全員、戦闘準備!突破するぞ!」

 

道路には、大量のフェンスとマーケットガード達が。

一斉に銃口がこちらに向くが、

 

「ドローン展開」

「おじさんも行くよー!」

 

シロコのドローンミサイルで多数の敵を撃破。残った者は戦闘を走るホシノが盾を構えながらショットガンで倒していく。

 

「いっきまーす☆」

「どきなさい!」

「あ、あうう……ご、ごめんなさい!」

 

セリカ、ノノミ、ヒフミも続いて撃っていく。

道は空いていっているが……

 

「流石に、訓練された奴らだ。このままじゃ捕まるな」

「冷静に分析してる場合!?」

 

後ろからも追いかけられ、前にもどんどん現れてくる。

本当にマズいな。

 

 

このままだったら、な。

 

 

ドゴオォォン!

 

 

後ろに乗り捨てられていた車が突然爆発する。

 

「な、なに!?」

「なんだろうな?」

「その反応絶対知ってるでしょ!」

 

近くのビルの屋上を見てみると、チラッと一瞬光が見えた。スコープの反射だろう。

軽く手を振っておこう。

これでお前も名誉覆面水着団だ、ワカモ……

 

 

 

「うふふ……あなた様のお力になれるのなら、このワカモ、なんなりと♡」

 

 

 

後方からの敵はワカモが足止めしてくれるようだ。

なら、目の前に集中するだけでいい。

 

「Ms,Tが手を回してくれていたみたいだねー。じゃ、おじさん達は目の前に集中しよっか」

 

ホシノの言葉を皮切りに、前面の攻撃の圧を強める覆面水着団。

私は後方から指示を出す……が、私の指揮って実際どうなんだろうか。

やはり先生には劣る……

 

『っ、先生横です!』

「よっ、と」

 

横から警棒を振りかざしてきた奴を受け流して掴み、投げ……ようとしたが、不良のマーケットガードだったため、そのまま開放する。

 

「危ない危ない……っと、どうしようか……」

「……えっ?えっ?」

「……マーケットガードが困惑してるんだけど……ていっ!」

「ぐえっ!」

「投げられそうだったのに、解放されたらそうもなる」

「というか、銀行の時もそうでしたけど、Ms,Tって強くないですか?」

 

うーむ、戦闘もたいして役に立たないのはな……全員大人だったら殴れるんだが……まあ後で考えるか。

今は逃げること最優先だ。

 

『皆さん、もうすぐ敵の包囲網から逃れられます!』

「よし、皆聞いたな?あともう少しだ、このまま突っ切るぞ!」

「はい!」「うん!」「は、はい!」「うんー」「ん……!」

 

全員の士気も上々、という時に奴は現れた。

 

『皆さん気をつけてくださいっ!ゴリアテです!』

 

アヤネの言葉の後に、奴は―ゴリアテはすぐに現れた。

 

「一介の強盗団にここまでする!?」

「ブラックマーケットでも最大の銀行を襲ったらこうもなりますよぉ!!!」

 

セリカの言葉にヒフミの叫ぶ。

その叫びは辛そうだ。すまない……

そんなゴリアテは悲痛な声には反応せず、バンバン撃ってくる。

何とか全員近くの物陰に隠れて、無傷だ。

だが、長くは持たないぞ……!

 

「っ、ブルー!」

 

困った時のドローンミサイル。しかし……

 

「ごめん、弾切れ」

「もうか……!」

 

クソっ、あれだけ撃ちまくっていたらそうもなるか……こういう時、ミサキのミサイルやヒヨリの対物ライフルが欲しくなる……!

 

「運良くロケットランチャーでも落ちて来ないか……!?」

「じゃあこれいる?」

「ああ、ありがたく使わせて……」

「?ご主人様どうしたの?」

「……知ってるか、人は訳の分からないことが起こると泣くんだぞ」

 

私は涙を流しながら急に現れた()()()にそう言う。

滅茶苦茶ビックリした。こわい。

いやいやいやいや、ワカモとかなら分かるが、なぜここにアスナが!?なぜ!?

しかも多くの銃器を持ってだぞ!?お前そんな奴だったか!?

 

「……嫌だった?」

「そ、そんなことはないが、逆にありがたいが……そっちはどうなんだ?C&Cが簡単に関与していいものじゃ……制服?」

「今日はメイドアスナじゃなくて、女子高生アスナだよご主、いや先生!」

「Ms,Tです」

 

この強盗に先生は関与していません。

 

「今度は誰!?」

「ただの女子高生だ気にするな!」

「どう気にするなって言うのよ!?」

 

アスナを何とか隠すように答える。セリカの言うことはもっともである。

だが好機でもある!

 

「セリカ、受け取れ!」

「ロケラン!?たくっ、しょうがない、ね!」

 

投げ渡されたロケットランチャーを受け取ったセリカはゴリアテに撃ち込んだ。

不意打ちをもろにくらったゴリアテは綺麗にぶっ壊れて倒れた。

 

「よしっ!」

「後はちょっとの敵さんから逃げるだけですね!」

「先生「Ms,Tです」お掃除は任せて、皆と逃げちゃって」

 

アスナのその言葉に驚く。

 

「いいのか?」

「うん、先生の為ならね!」

「先生じゃないです」

 

先生が銀行強盗に関与してるわけないだろ!

 

「じゃ、いってらっしゃい!ご主人様!」

「……無理だけはするなよ」

 

私はアスナの頭を撫で、全員に走るように指示し、そのまま逃げた。

 

 

 

「……んふふ」

 

 

 

ワカモ、アスナの協力もあって何とかマーケットガードの包囲から逃がれられた。

覆面水着団の面々は覆面を脱いで息を吐く。

 

「はひー、息苦しい。もう脱いでいいよね?」

「のんびりしてらんないよー、急げ急げ。足止めが二人いるとはいえ、追ってはすぐ来るだろうし」

 

七囚人の一人と激強エージェントの一人がそうそう逃すか……?

 

「できるだけ離れないと……間もなく道路が封鎖されるはずです……」

「ご心配なく。万全の準備を整えておきましたから☆」

「えっいつの間に」

 

本当に初めて?アリウスでもそう急にはできないぞ?

 

「こっち、急いで」

 

シロコが覆面を被ったまま、私達を誘導する。

 

「あの、シロコ先輩……覆面脱がないの?邪魔じゃない?」

「天職を感じちゃったって言うか、もう魂の一部みたいなものになっちゃって、脱ぎたくないんじゃなーい?」

「シロコ先輩はアビドスに来て正解だわ……他の学校だったら、ものすごい事をやらかしてたかも……」

「そ、そうかな……」

 

確かに、特にゲヘナだったらと考えると……身震いがしてきた。

元の世界でも、何度かやったらしい噂を聞いたことがある。アビドスで良かった……

 

『……封鎖地点を突破。この先は安全です』

「やった!大成功!」

「……アヤネ、声上ずってないか?」

『き、気のせいですよ!覆面被ってて、慌てて脱いだわけじゃありませんし!と、とにかく!本当にブラックマーケットの闇銀行を襲っちゃうなんて……ふう……』

「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってるよね?」

 

ホシノがそう聞くが、シロコはなぜか困惑したような声で返答する。

 

「う、うん……バッグの中に」

 

そう言って鞄を開けると―

 

「……へ?なんじゃこりゃ!?鞄の中に……札束が……!?」

 

―ホシノが珍しく大声を出すくらいの札束が入っていた。

 

「うえええええっ!?シロコ先輩、現金を盗んじゃったの!?」

「ち、違う……目当ての書類はちゃんとある。このお金は、銀行の人が勝手に勘違いして入れただけで……」

「お金を盗むのは犯罪だぞシロコ」

「強盗の時点で犯罪だと思うんですけど……」

 

それは、まあそうだな。

 

「どれどれ……うへ、軽く一億はあるね。本当に五分で一億稼いじゃったよ~」

「こんな大金はほとんど見たことないな……で、どうするんだ?」

「何言ってんの!運ぶわよ!」

 

セリカがそう言って運ぼうとするが、慌ててアヤネが止める。

 

『ちょ、ちょっと待ってください!そのお金、使うつもりですか!?』

「アヤネちゃん、なんで?借金を返さなきゃ!」

『そんなことしたら……本当に犯罪だよ、セリカちゃん!!!』

「ヒフミ、今更じゃないか?」

「ど、どうして私に……!?静かにしておきましょう……」

「は、犯罪だから何!?このお金はそもそも、私達が汗水流して稼いだお金なんだよ!?それがあの闇銀行に流れてったんだよ!それに、そのままにしておいたら、犯罪の武器や兵器に変えられてたかもしれない!悪人のお金を盗んで、何が悪いの!?」

「私はセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、私達が正しい使い方をした方がいいと思います」

「ほらね!これさえあれば、学校の借金をかなり減らせるんだよ!?」

 

セリカとノノミは使用賛成派、アヤネは反対派、か。

私がそう簡単に口を挟むことじゃないな。彼女達、アビドスの話だ。

さて、ホシノとシロコはどうする……?

 

「んむ……そうだね~……シロコちゃんはどう思う?」

「……自分の意見を述べるまでもない。ホシノ先輩が反対するだろうから」

「へ!?」

「ほう……」

「さすがはシロコちゃん。私の事、分かってるねー」

 

ホシノはセリカの目をしっかりと見る。

 

「私達に必要なのは書類だけ。お金じゃない。今回は悪人の犯罪資金だからいいとして、次はどうする?その次は?」

「……」

「こんな方法に慣れちゃうと……ゆくゆくはは、きっと平気で同じことをするようになるよ」

 

シロコ……分かっているか?

いやシロコはお金云々よりもただ強盗したいだけみたいだからな……そっちのほうが怖い。

 

「そしたら、この先またピンチになった時……『仕方ないよね』とか言いながら、やっちゃいけない事に手を出すと思う。うへ~、このおじさんとしては、可愛い後輩がそうなっちゃうのは嫌だなー」

 

「そうやって学校を守ったって、何の意味があるのさ」

 

……暴力、強盗、テロ……たとえ他人を傷つけて自分達を守ったところで、いらないものがついて回るだけだ。

だが、それを思い、行動できるのは、強い者か――間違いを犯して何かを無くした者だけだ。

ホシノ、もしかしてお前は……

 

「こんな方法を使うくらいなら、最初からノノミちゃんが持ってる光り輝くゴールドカードに頼ってたはずだよねー」

「……そう提案しましたが、ホシノ先輩が反対されました……そうですね、きちんとした方法で返済しなければ、アビドスはアビドスじゃなくなってしまう……」

「うへ、そういうこと~。だから、このバッグは置いていくよ。頂くのは必要な書類だけね。これは委員長としての命令だよ」

 

ホシノは毅然とした態度でそう言い放った。

……委員長命令なら、しょうがないな。

 

「……もおおおおっ!!!もどかしい!意味わかんない!こんな大金捨ててく!?変なところで真面目なんだから!」

「うん、委員長としての命令なら」

 

セリカはわけわからんという態度で叫び、反対にシロコはしっかりと頷く。

 

「私はアビドスさんの事情はよく知りませんが……このお金を持っていると、何か他のトラブルに巻き込まれるかもしれません。災いの種、みたいなものでしょうから……」

「……犯罪によって得られるものなんて、自身を燃やす炎ぐらいだからな。分かった。シャーレが処分しておこう」

「任せたよー先生」

 

その時だった。

 

『……!!待ってください!何者かがそちらに接近しています!』

 

アヤネからそう通信が届いた。

 

「何?追っ手か?」

『い、いえ…敵意は無い様子ですが………!?あ、あれは……』

「な、何?誰だったの?」

 

 

『べ、便利屋のアルさん!?』

 

 

何だアルか……アル!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。