転生したらゲド・ライッシュだった (色々残念)
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第1話、生まれ変わったらゲド・ライッシュ

思いついたネタを書いてみました


転生というものを自分が体験することになるとは思わなかったが、新たに生まれ変わって生きていけることは悪いことではない筈だ。

 

それでも今生の両親に名付けられたゲドという自分の名前は、もうちょっとどうにかならなかったのかと思わなくもない。

 

いやゲドって、実際どうなんだ本当に。

 

フルネームだとゲド・ライッシュになるんだが、何処かで聞いたことあるような名前だよな。

 

そんなことを思っていたらダンジョンがあるオラリオという場所が存在することを知り、神が地上に下りてきていることも知った。

 

オラリオでダンジョンというとダンまちかと納得したと同時に、ダンまちに登場していたゲド・ライッシュという存在についても少し思い出す。

 

ゲド・ライッシュはリリルカがベルのヒロインになる為の踏み台みたいな存在だったような気がするという感じで、ふわっとした記憶しか思い出していないが、無いよりはマシだ。

 

ダンまちの原作知識が漫画版のダンまちをチラッと読んだことがある程度だから仕方ないか。

 

オラリオに行ってみたい気持ちはあるが、もう少し身体が大きくなってからにしておこう。

 

それまでは冒険者だったらしい今生の両親に色々と話を聞いておくのも悪くはないか。

 

という訳でモンスターについての情報を教えてもらったり、剣の振り方も指導してもらうことができたのは良い経験だ。

 

現在は農家をやっている今生の両親の手伝いも積極的にやっておくことにした。

 

今生の両親と一緒に農作業をやったりもしながら身体を鍛えていくと、前世よりもがっしりとした身体になった。

 

身長がしっかりと伸びるまで身体を鍛えるのは我慢していたが、充分に身長が伸びてからは、ひたすら鍛える日々だったな。

 

しかし転生してゲド・ライッシュになってからやたらと運が良いのは、どういうことなんだろうか。

 

転生特典とかそういう感じのアレなのかはわからないが、運が良いことは悪いことではないと思っておくかね。

 

冒険者になるなら運が良いことは悪いことではないだろうしな。

 

そろそろ冒険者になる為にオラリオに向かうことを今生の両親に伝えておくと、快く送り出してくれることになった。

 

かつて両親が使っていた武器で、まだ使えそうな長剣と短剣を餞別として貰って装備していると、まるで冒険者になったような気分になるが、冒険者になるのはこれからだ。

 

外套を羽織って旅の準備を整えてから出発しようと思ったところで、知り合いの商人の人が偶然馬車で村に現れた。

 

どうやらちょうどオラリオに向かうところだったようで、商人の人が村で購入した農作物を馬車に積み込む手伝いをするなら、ついでにオラリオにまで乗せていってくれるらしい。

 

当然のように手伝いをしておき、オラリオに向かう馬車に乗り込んだ俺は、馬車に揺られながら道のりを進んでいく。

 

到着したオラリオの入り口で神の恩恵を受けていないかチェックを受けてから、馬車に乗せてくれた商人の人の手伝いをしておくと、お礼として2000ヴァリスほどを「オラリオでも頑張りな」という言葉と一緒に貰った。

 

手伝いをしたのは正解だったな。

 

こうしてオラリオに来たら、ダンジョンに入ってみたいところではあるが、まずは神の恩恵を受ける為に、ファミリアに入るのが先になるか。

 

とはいえまともなファミリアじゃないと嫌になりそうだから、ファミリアを選ぶのは慎重にしないといけない。

 

大手のファミリアじゃなくて良いから、まともな神様のファミリアが見つかるといいんだがな。

 

そう思ってファミリアを探している内に行き着いたミアハ・ファミリア。

 

どうやらミアハ・ファミリアには借金があるみたいだが、その借金は眷族の為の借金であるようで、神ミアハが眷族を大切にしていることは間違いない。

 

ここにしようと決めて、神ミアハに眷族にしてもらえるように頼んでみると「このファミリアには、かなりの額の借金があるが本当に良いのか?」と確かめるように聞いてきた神ミアハ。

 

「問題ありませんよ神ミアハ、借金があろうと貴方のファミリアが良いと俺は思いました」

 

神に嘘は通じないので、俺は嘘偽りのない本心からの言葉をしっかりと伝えておく。

 

「決意は固いようだな」と諦めた様子の神ミアハは「わかった、ファミリアにきみを受け入れよう」と俺をミアハ・ファミリアに受け入れてくれた。

 

神ミアハの自室で恩恵を刻まれることになり、上半身裸でベッドに横になって背中を晒した状態になると神ミアハが俺の背に神の血を垂らす。

 

刻まれた恩恵によりLv1となった俺には魔法が発現していたようで、それは速攻魔法であり「リトルフィート」という名前の魔法だったらしい。

 

「リトルフィート」と言うと発動して「大きさよ戻れ」と言った瞬間に解除されるようだ。

 

ダンジョンで実際に試してみるとゴブリンの大きさを縮めることができた。

 

それ以外にも長剣や短剣の大きさを縮めることもできたが、縮小したものを元に戻すのは一瞬で可能だということも理解できたのは悪いことではない。

 

夢中になってダンジョンを探索していると魔石とドロップアイテムで鞄が一杯になっていたので、ギルドで換金してもらってから、ミアハ・ファミリアのホームに戻って稼いだヴァリスを置いておく。

 

再びダンジョンに向かうが神ミアハにマインドポーションを渡されていたので、マインドダウンになることなく魔法を何回も使うことができて、魔法の扱いにも慣れてきた。

 

モンスターに使えば、小さくすることで相手の戦闘力を弱めることができる。

 

武器を小さくすれば奇襲攻撃することができるし、持ち運びが便利になることは確かだ。

 

小さくしたものを元に戻す時に、どれを元に戻すかを選べることもわかった。

 

色々と魔法の検証をしながらダンジョンに潜っていると再び鞄が魔石とドロップアイテムで一杯になったので、ギルドで換金。

 

ホームに帰ってヴァリスを部屋に置いておき、神ミアハにステイタスの更新を頼んでみる。

 

かなり俺のステイタスがアップしていたようで、神ミアハは驚いていた。

 

トータルで400オーバーほどステイタスが伸びていたらしい。

 

そのステイタスについて何かを言おうとして口を開いてから何も言わずに閉じた神ミアハは、どうやら俺に隠し事があるようだ。

 

俺のステイタスを写した紙に不自然な空白があるのは、何か俺にスキルがあるということなのかもしれない。

 

まあ、神ミアハが今は黙っていると決めたのなら、いずれ話してくれるまで待つとしよう。

 

とりあえず今日は疲れたので、また明日もダンジョンで頑張っていこうか。

 

 

 

地上に下りてきた神の1柱である神ミアハは悩んでいた。

 

それは、昨日から新しく眷族となったゲド・ライッシュという存在についてだ。

 

恩恵を与えたばかりのLv1で魔法を発現していたことは、黙っているよりかは本人に教えておいた方が良いと判断してゲドに教えたが、もう1つのスキルに関しては黙っていた方が良いと神ミアハは判断していた。

 

ゲドが持つ異世界転生者という名前のスキルは、早熟する効果だけではなく、神威や魅了を無効化する効果もあるらしい。

 

それを知った神ミアハは、眷族となったゲドを守る為にも勝手にステイタスが見れないように、ゲドの背中のステイタスにしっかりとロックをかけておいたようだ。

 

ゲド・ライッシュという人間が転生者であることを知ってしまった神ミアハだが、そのことを吹聴するような神ではない。

 

眷族となったゲド・ライッシュが悪い人間ではないことも良くわかっていた神ミアハは、私が他の神から眷族を守らねばと決意を固くしていた。

 

ゲド本人にスキルを伝えるかどうかについては、まだ止めておこうと決めた神ミアハは、ゲドのステイタスの伸びが異常なことについては、どうやって誤魔化そうかと頭を悩ませていく。

 

もう成長期ということで、ごり押しするしかないと思っていた神ミアハ。

 

後日、成長期だと言われたゲドは温かい視線で神ミアハを見ていたらしい。




リトルフィート
出典、ジョジョの奇妙な冒険第5部より、敵キャラであるホルマジオの能力
超能力が形を持ったスタンドという力であり、ホルマジオのリトルフィートは大きさを小さくすることができる能力である
自分を小さくして隠れ潜んだり、相手を小さくして弱体化させたりもできる


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第2話、魔帝と書いてカオスエッジと読む

意外と早めに話が思いついたので更新しておきます


冒険者として活動していた俺は、ダンジョンの上層であるなら問題なくモンスターを倒すことができていて、ひたすらヴァリスを稼ぐ日々を過ごしていた。

 

ステイタスの上昇も止まることなく上がり続けており、全てのステイタスの平均値が800まで到達していたりもする。

 

この調子だと直ぐにステイタスが999まで上がりそうだ。

 

やっぱり俺には成長を促進させるスキルが存在しているんじゃないだろうか。

 

冒険者が全員こんなにステイタスが早く上がっていたなら、もっとランクアップしている冒険者が多い筈だからな。

 

神ミアハは俺には「ステイタスの成長期だ」と言っていたが、明らかに嘘であることは直ぐに理解できた。

 

思わず温かい視線で、嘘を言うことに慣れていない神ミアハを見てしまった俺は悪くないだろう。

 

今日もダンジョンに向かってモンスターを倒すと、魔石だけではなく毎回必ずドロップアイテムを落とすのは、俺の運が良いからなのかもしれない。

 

ギルドのアドバイザーの人も口が固い人なので、俺のステイタスの上昇値が高いことも吹聴することはなかった。

 

神ミアハに紙に書き写してもらった現在のステイタスを、ギルドのアドバイザーの人に教えてみると驚いてはいたが、特に騒ぐことはなく、個人情報を漏らすようなことはしないアドバイザーの人。

 

「このステイタスならダンジョンの上層なら、どの階層に行っても問題ないですね」とギルドのアドバイザーの人にもお墨付きを貰ったので、試しに上層を制覇してみることにする。

 

という訳で大きめの鞄を用意してから、ダンジョンの階層を上から順に進んでいき、モンスターを倒しては、魔石とドロップアイテムを回収して先へと進んだ。

 

順調に足を止めることなく進んで行った先で、現れるモンスター達を長剣で切り裂いていく。

 

俺には剣の才能があるようで、元冒険者であった今生の両親よりも剣の腕は上だった。

 

いまだに今生の両親が使っていた長剣と短剣を使っている俺は、剣の消耗を最低限に抑えることができている。

 

それなりに質が良い長剣と短剣を長く使えるように、剣の消耗を抑えることは悪いことではない。

 

刃の立て方を間違えることなく必要最小限だけ切り裂くように、長剣と短剣を使う。

 

大きめの鞄に魔石とドロップアイテムを詰め込んで、ダンジョンの階層を降りていくと、11階層にまで到達した。

 

俺のようにソロではなく、パーティを組んでいる冒険者達がほとんどだったが、連携がいまいちなあたり、パーティを組んだばかりの冒険者達のようだ。

 

そんなダンジョンの11階層に現れたインファントドラゴンが、冒険者達を薙ぎ倒していく。

 

しかもそのインファントドラゴンは強化種であるようで、Lv2に到達している冒険者達の攻撃すらも通用しておらず、なすすべもなく逃げていく冒険者達。

 

武器すらも重荷になると判断したのか、武器まで投げ捨てて逃げていく冒険者までいた。

 

冒険者が投げ捨てた槍を1本拾っておき「リトルフィート」で小さくして隠し持っておく。

 

強化種のインファントドラゴンから逃げようとした冒険者の女性が、つまずいて転び、インファントドラゴンに襲われそうになっていたところを目撃した俺は「助けて」と言っていた女性を見捨てるようなことはしない。

 

通常のインファントドラゴンよりも強力で強固な強化種に長剣の刃筋を立てるように剣を振るう。

 

鼻先を深々と俺に切り裂かれて怯んで下がったインファントドラゴンと対峙する俺の背後には、まだ立てていない様子の冒険者の女性が居た。

 

「早く逃げてもらえると俺は助かるんだが」

 

後ろを振り返ることなく言ってみた俺に対して冒険者の女性は「腰が抜けちゃって」と言葉を返す。

 

深くため息を吐いて、長剣を振るい、剣に付着していた血を落とした俺は、長剣を構え直して言う。

 

「しょうがねぇなあ」

 

力強くダンジョンの地面を踏み込み、強化種であるインファントドラゴンと間合いを詰めて、長剣を振るった。

 

真正面から振り下ろすのではなく斜めに袈裟斬りにして強化種であるインファントドラゴンの鱗に覆われた胴体の皮膚を切り裂き、肉を断っていく。

 

インファントドラゴンの注意が冒険者の女性に向かないように、攻撃が俺だけに集中するように、派手に動いていき、長剣を休まずに振るい続ける。

 

強化種であるインファントドラゴンを相手に危うげなく戦えていた俺に対して、インファントドラゴンは仲間を呼んだ。

 

更に現れた強化種のインファントドラゴンが2頭。

 

インファントドラゴンは希少種だったんじゃないのかと言いたくなるが、そんなことを言ってもこの状況が変わる訳ではないか。

 

動けない女性の冒険者を庇った状態で、合計で3頭のインファントドラゴンの強化種を相手にしなければいけなくなるが、やってやろうじゃないかという気になっていたから問題はない。

 

インファントドラゴン達が狙う標的を俺に集中させる為に、手痛い一撃を入れ続けていき、ひたすらに止まらずに動き続けていく。

 

足を止めることなく駆けて、跳躍し、まるでピンボールが跳ね回るかのように動いてインファントドラゴン達を切り裂いていった。

 

インファントドラゴンという点を乱反射する線の動きで、連続で斬りつけていくと、インファントドラゴン達の動きが鈍ってきたのは間違いない。

 

力を込めた一撃で、1頭のインファントドラゴンの首を斬り落とすと、身体を回転させて尾を振るう攻撃を左右から行ってきた2頭のインファントドラゴン。

 

「大きさよ戻れ」

 

「リトルフィート」で小さくして隠し持っていた槍を元の大きさに戻し、大きさが戻った槍を足場に高く跳ね上がった俺は、インファントドラゴンの尾を飛び越えて、1頭のインファントドラゴンの頭部に長剣を突き刺した。

 

2頭が死に、1頭だけが残ったとしても戦うことは止めないインファントドラゴン。

 

口を大きく開いて突進してきたインファントドラゴンは此方に噛みつくつもりのようだが、俺はそれよりも速く、インファントドラゴンの開いた口内へと長剣による突きを叩き込んだ。

 

強化種であるインファントドラゴンの後頭部から飛び出した長剣の剣先。

 

こうしてインファントドラゴンの最後の1頭も倒すことができた。

 

3頭全てを倒しきった俺に驚愕の視線を向けていた冒険者の女性。

 

絶命した3頭のインファントドラゴンから魔石を抉り出すと、ドロップアイテムである爪や牙に鱗が残る。

 

ありがたくそれは貰っておくことにした。

 

今回は結構な稼ぎになりそうだ。

 

まだ地面に座り込んでいる冒険者の女性に「1人で立てるか?」と聞いてみると「無理そうです」と答えた冒険者の女性。

 

再び深くため息を吐いて、俺は言った。

 

「しょうがねぇなあ」

 

放置する訳にもいかないのでダンジョンを出るまでの間は肩を貸してやり、ギルドの職員に冒険者の女性を任せた俺は、換金を済ませてミアハ・ファミリアのホームへと帰る。

 

ダンジョンで俺が大量に稼いできたヴァリスを見た同じミアハ・ファミリアのナァーザが、とても喜んでいた。

 

俺がダンジョンで稼ぐようになってから安定して借金が返済できるようになり、ミアハ・ファミリアの生活には少し余裕ができていたらしい。

 

とりあえずヴァリスもナァーザに渡したので、神ミアハにステイタスの更新を頼んでおく。

 

神ミアハの自室でステイタスを更新してもらうと、大体が999にまで到達していたが、999を超えて1200まで到達しているステイタスまでもが存在していたようだ。

 

ついでにLv2へのランクアップも可能であるらしく、おそらくは強化種のインファントドラゴン3頭を倒したことが偉業だと判断されたのだろう。

 

ステイタスも充分なので、俺はLv2にランクアップをしておくことにした。

 

Lv2の発展アビリティは、耐異常と剣士と幸運の3つのどれかを選べるみたいだが、俺は迷わず幸運を選んだ。

 

既に運が良い俺が更に幸運になったらどうなるのかを確かめてみたかったからだが、悪い選択ではないだろう。

 

ついでにスキルも発現していたようで、それは「龍の手」と書いて「トゥワイス・クリティカル」と読むスキルであり、様々な力を2倍にすることができるらしい。

 

色々と応用ができそうなスキルだが、ダンジョンで検証するのは今度にしておこうか。

 

所要期間1ヶ月でランクアップした俺は、現在のオラリオでは最速でのランクアップになるそうだ。

 

近々神会が開かれるようで、それに参加するらしい神ミアハは「なんとかゲドには無難な2つ名を勝ち取ってみせる」と気合いを入れていた。

 

「頑張ってください神ミアハ」

 

流石に変な2つ名で呼ばれるのは嫌だった俺は、神ミアハに声援を送っておく。

 

それから俺はギルドに向かい、担当アドバイザーの人にランクアップの報告をしておいたが、アドバイザーの人は流石に物凄く驚いていたな。

 

流石に俺が1ヶ月でランクアップするとまでは、ギルドの担当アドバイザーの人も思っていなかったらしい。

 

どうやってランクアップしたかについて聞かれたので、インファントドラゴンの強化種3頭を、動けない冒険者の女性を守りながら倒したことを答えておいた。

 

「いや何でLv1で、そんなことできるの」

 

困惑を更に深めていながらも大きな声を出さない担当アドバイザーの女性は、個人情報を大切にしてくれているようだ。

 

それから悟りを開いたかのような顔をしたギルドの担当アドバイザーの女性は「うん、きみはもうそういう不思議なヒューマンだと私は思っておくことにするよ」と言って頷いていたな。

 

ギルドへの報告も終わり、ミアハ・ファミリアのホームに戻った俺を出迎えてくれた神ミアハ。

 

「なんとか頑張ったんだが、無力な私を許してくれゲド」

 

そう言って落ち込んでいた神ミアハに、神会で命名された俺の2つ名を聞く。

 

「ゲドの2つ名は、魔帝と書いてカオスエッジと読む2つ名に決まってしまった」

 

どうやら俺の2つ名は、そんな感じらしい。

 

まあ、そんなに酷くないような気がするのは俺だけだろうか。




龍の手、トゥワイス・クリティカル
出典、ハイスクールD×D、敵キャラのジークフリート
龍の手は神器と呼ばれている人に宿る力の1つであり、能力を2倍にするというシンプルな能力を持つ
ジークフリートが持つ龍の手は亜種であり、龍の腕が生えてくるというものになっている


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第3話、椿・コルブランド

話が思いついたので更新しておきます


自分に何ができるのか、確認することは悪いことではない。

 

新しく発現したスキルである「龍の手」こと「トゥワイス・クリティカル」の能力を確認する為にダンジョンに潜ってみた。

 

一定時間自身の能力を倍にすることもできた「トゥワイス・クリティカル」の力は、上層のモンスターが相手では過剰なようだ。

 

「リトルフィート」でモンスターや物を小さくする速度も倍にすることすらもできた「トゥワイス・クリティカル」というスキルの力を上手に使いこなすことができれば、更に俺は強くなることができるだろう。

 

しかししっかりと実戦的な検証をするには中層に行かなければいけないのかもしれない。

 

中層に向かう為の準備を始めることにして、ギルドの担当アドバイザーの人にも中層について詳しい話を聞いておく。

 

サラマンダー・ウールというアイテムがあった方が良いとアドバイスをもらったので、ヴァリスを貯める為に上層でモンスターを狩りまくり、魔石とドロップアイテムをギルドで換金していった。

 

稼いだヴァリスの半分をナァーザに渡しておき、もう半分は貯金しておくという生活をしばらく続けると、サラマンダー・ウールを購入できる金額まで、あっという間に到達する貯金。

 

中層に行くならパーティを組んだ方が良いとも担当アドバイザーの人に言われていたが、それについてはどうしようかと悩んでいた。

 

悩みながらも予備の武器を用意する為にヘファイストス・ファミリアのテナントに向かい、末端の職人達が作った剣に掘り出し物がないかと探していると、テナントに入ってきた職人らしき女性。

 

そのヘファイストス・ファミリアの職人らしき女性が何故か此方に近付いてくる。

 

眼帯をしており、和装の服を着た褐色肌で黒髪の女性が此方に近付いてくるなり「お主が背負ったその得物、手前に見せてくれんか」と俺に言ってきた。

 

どうやら職人らしき女性の目当ては、俺が背負っている長剣であるらしい。

 

粗雑な扱いは全くしていないので見せることに抵抗はないが、何故俺が背負った長剣に興味を持ったのかは知りたいところだ。

 

鞘から引き抜いた長剣を職人らしき女性に手渡してみると「剣の手入れはしっかりとされておるようで、丁寧に使われておるが、この長剣はそれなりに古い物のようであるな」と言い当てた職人らしき女性。

 

「それでも長く長く使えるように丈夫に作られておるようだ。腕の良い職人が作った長剣だと言えるのは間違いない。うむ、これは良い剣だ。職人として良き物を見せてもらった」

 

満足気な職人らしき女性が長剣を返してきたので、背負っている鞘に長剣を戻して納めておく。

 

「それで、お主は何か悩んでおるようだが、手前に手伝えることはないか?」

 

長剣を見終わっても帰ることがなかった職人らしき女性が、そんなことを聞いてきた。

 

「中層に行きたいんだが、パーティを組むにも、組めるような知り合いがいなくてな」

 

誰かに話してみるのも悪くはないと思って俺が悩んでいたことを話してみると、ニヤリと笑った職人らしき女性。

 

「では、良い剣を見せてもらった礼として、手前がお主とパーティを組むのはどうだ」

 

そう言い放った職人らしき女性が冗談ではなく本気で言っていることは間違いないようだ。

 

「出会ったばかりで名前も知らない相手とパーティを組むのは、どうなんだろうな」

 

「ヘファイストス・ファミリアに所属している手前の名は、椿・コルブランドだ。これで名前の知らない相手ではあるまい」

 

椿・コルブランドという名前には聞き覚えがあるが、確かヘファイストス・ファミリアの団長の名前だった筈だ。

 

職人らしき女性の正体は、ヘファイストス・ファミリアの団長だったらしい。

 

「名乗られたからには、此方も名前を言った方が良いか。俺は、ゲド・ライッシュ、ミアハ・ファミリアの冒険者だ」

 

「ふむ、ということはお主がLv2へのランクアップの最速記録を叩き出したカオスエッジか。Lv2でも歯が立たん強化種のインファントドラゴン3頭を女冒険者を守りながら倒したとも噂されておったな」

 

「ちなみにその情報は何処から流れたんだ?」

 

「お主に助けられたらしい女冒険者が言っておったそうだぞ」

 

「そういえば口止めするのを忘れてたな」

 

まあ、黙っているように言い忘れていた俺が悪いと思っておくことにしよう。

 

「それで、お主は手前とパーティを組む気になったか」

 

「此方としては助かるが、良いのか?ヘファイストス・ファミリアの団長が、Lv2の冒険者とパーティを組んで」

 

「構わん構わん、大手のファミリアの遠征に付き合うことも、客からの注文も無いのでな。手前は暇しておるのだ。パーティを組んでも問題はない」

 

快活に笑いながら言った椿・コルブランドは、俺とパーティを組むことに乗り気だった。

 

中層に向かうとしても戦力的には過剰な程に強力なパーティメンバーが見つかってしまったが、これも発展アビリティの幸運に後押しされた俺の運ということになるのかもしれない。

 

悪い相手ではないような気はするので、椿・コルブランドとパーティを組むことにしようか。

 

「よろしく頼む、椿」

 

握手をする為に椿・コルブランドに俺が手を差し出すと、笑顔で手を握った椿・コルブランド。

 

「うむ、よろしく頼むぞ、ゲド」

 

握手をした椿・コルブランドの手は、まさに職人の手をしていたので、そのことを褒め称えておくと喜んでいる様子だったな。

 

これから必要になるであろうサラマンダー・ウールを2人分購入して、ギルドの担当アドバイザーの人にパーティメンバーが見つかったことを伝えておく。

 

そのパーティメンバーが、ヘファイストス・ファミリアの団長である椿・コルブランドであると知ったギルドの担当アドバイザーの人は、何故か遠い目をしていたような気がした。

 

「やっぱりきみはそういう感じなんだね」と言っていた担当アドバイザーの人は、達観したかのような顔で「もう中層に行っても問題ないよ」と俺に言う。

 

中層に向かう準備は万端で、パーティメンバーも遥かに格上のLv5であり、今すぐ中層に行っても何も問題は無さそうだ。

 

という訳で翌日、待ち合わせをしていた場所で椿と合流し、一緒にダンジョンへと向かうと余裕で上層を越えて、中層の入り口にまで進む。

 

「リトルフィート」で小さくしておいたサラマンダー・ウールを元の大きさに戻して椿にも渡しておき、互いにサラマンダー・ウールを羽織った状態で中層の入り口から、中層へと向かっていった。

 

ダンジョンの13階層から出現するヘルハウンドの火炎攻撃は、並みの防具なら溶かしてしまう程に強力であるらしい。

 

だからこそサラマンダー・ウールが必要になるが、火炎攻撃を行わせる前に倒してしまうことができるなら、そちらの方が良いことは確かだ。

 

さっそく現れたヘルハウンドの群れに、力強く地を蹴って素早く突っ込んでいき、ヘルハウンド達に何もさせないように手早く長剣で首を斬り落としていった。

 

もう1つ現れたヘルハウンドの群れは椿が対処してくれたようで、瞬く間にヘルハウンドが切り裂かれて倒されていくのは、流石はLv5だと言える動きなのは間違いない。

 

ヘルハウンドから魔石とドロップアイテムを回収し、鞄にしまって更に先へと進んでいく。

 

現れたアルミラージが投げつけてきた天然武器の斧を避けながら、接近し、無駄に長剣を消耗させることなく、横に振るった長剣でアルミラージの首を斬り落とした。

 

此方の動きを見ていた椿は感心した様子であり、何故か満足気に頷いている。

 

「何で頷いてるんだ?」

 

とりあえず頷いていた理由が気になったので、俺は椿に聞いてみることにした。

 

「力任せに振るうのではなく、技と力を組み合わせて見事に長剣を扱っていたゲドの技量を見ていると、鍜冶師として嬉しくなってしまってな。手前が作った訳ではないが、それでも剣を大切に扱っている剣士を見ると、思わず頷いてしまっていた」

 

そう答えて笑った椿は、鍜冶師としての目で、俺の動きを見ていたようだ。

 

ヘファイストス・ファミリアの団長に、そこまで評価してもらえたのなら、俺の剣の扱いは悪くはないのだろう。

 

それはとても嬉しいことだったが、ダンジョンでは喜んでいる暇はない。

 

現れたモンスターを相手に長剣を振るっていき、倒しながら魔石とドロップアイテムを回収すると、先へと進んだ。

 

ミノタウロスの群れが現れたところで、Lv2になった俺にはたいした相手ではなく問題なく倒すことができた。

 

倒したミノタウロスから魔石を回収して、ドロップアイテムであるミノタウロスの角達も鞄に入れておく。

 

「それだけの角があるなら充分であるな。ダンジョンを出たら、手前がミノタウロスの角で剣を1本打ってやろう。パーティを組んだよしみで格安にしておくぞ」

 

「払える金額にしておいてくれ」

 

「うむ、任せておけ」

 

楽しげに笑っていた椿は、背中を安心して任せられる良いパーティメンバーだった。



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第4話、創薬師

なんとか書けたので更新します


パーティを組んでいる椿と共にダンジョンの中層でモンスターを狩っては、魔石とドロップアイテムを回収し、それを繰り返して鞄が満杯になったらダンジョンから出て、魔石をギルドで換金。

 

ヴァリスよりもドロップアイテムを欲しがる椿には、ドロップアイテムを全て渡しておき、ヴァリスは此方が多目に貰っておく。

 

椿が持ち帰ったドロップアイテムは基本的に、ヘファイストス・ファミリアの末端の鍜冶師達に提供するつもりらしい。

 

俺の剣に使う分のミノタウロスの角は、既に椿は選り分けてあるようである。

 

ダンジョンでしか採れない鉱物である「アダマンタイト」の性質を持つミノタウロスの角は、武器の素材にうってつけだ。

 

俺の剣をミノタウロスの角で打ってくれる椿の工房に向かい、剣の作成を見学することにした。

 

ちょっとの熱では加工ができないミノタウロスの角を加工するために炉の熱を高めていった椿。

 

そんな椿からの指示に従い、工房の窓を開けて工房内にこもる熱を逃がしていく。

 

炉から取り出した赤熱するミノタウロスの角達を束ねて、鎚を振り下ろしていく椿は、真剣な顔をしていた。

 

鎚によって叩かれて鍛造されていくミノタウロスの角が、剣の形へと変わっていき、汗を滲ませながらも鎚を振るう椿の手は止まることはない。

 

ミノタウロスの角であった物体が剣に姿を変える一部始終を、最後まで見届けた俺は、椿・コルブランドという鍜冶師が作り上げた剣を受け取る。

 

その剣の名は「一角」と名付けられた。

 

俺だけの為に作られた長剣である「一角」の値段は、それなりに安くしてはもらったが、中層で稼いでいなければ払えない値段だったことは確かだ。

 

しかし「一角」には、それだけの価値があることは間違いない。

 

ヘファイストス・ファミリアの団長が打った剣というだけではなく、鍜冶師である椿・コルブランドの技術の高さが発揮された「一角」は見事な剣だった。

 

持っただけで手に吸い付くような一体感がある「一角」は、とても振るいやすい良い剣でもある。

 

ダンジョンの中層で実際に振るってみると、すんなりとミノタウロスを両断することが可能であったことから斬れ味も悪くはない。

 

「一角」という新しい武器を手にした俺のダンジョン探索は、とても順調だった。

 

そして中層を攻略するようになってから更にヴァリスを稼げるようになったことで、ミアハ・ファミリアの財政が安定してきたことは確かだろう。

 

借金の返済が完了するのは、まだ遠いようだが、何かあった時の為の貯金をする程度の余裕はできたみたいだ。

 

ひたすら椿とダンジョンに潜って中層を探索しては、神ミアハにステイタスを更新してもらう日々を過ごす。

 

ある程度ミアハ・ファミリアに貯金が貯まったところで、人気がある鍜冶師である椿に鍜冶師としての依頼が入った。

 

これでしばらくの間、パーティでダンジョンに向かうことができなくなってしまったが、鍜冶師としての仕事を椿は疎かにすることはない。

 

「手前が仕事をしている間は、少し休んでみたらどうだ?冒険者にも休息は必要だぞ」

 

椿にもそう言われたので、たまにはダンジョンに向かうことを止めて休日にしてみたが、やることがなくて俺は暇をしていたな。

 

退屈そうにしていた俺に神ミアハが「暇ならゲドもポーションを作ってみるか?作り方は私が教えよう」と言ってきたので、試しにポーション作りをやってみた。

 

初めてだとは思えない程に俺は手際が良かったらしく、驚いていた神ミアハ。

 

俺の初めてのポーション作成は失敗することなく成功し、完成したポーションは、ミアハ・ファミリアで売りに出しても問題ない出来だったらしい。

 

「ゲドには薬師としての才能もあるようだな」

 

神ミアハは、俺が作ったポーションを見ながら満足気に頷いて、そう言っていた。

 

そんな神ミアハに様々なポーションについて詳しい知識を教えてもらう。

 

実際にポーションを作成し、ポーションについての知識も得て、今まで消費するだけだったポーションにも詳しくなったことは、冒険者として悪いことではない筈だ。

 

椿が鍜冶師としての仕事をしている間は中層に向かったりはしないが、ダンジョンの上層でモンスターを倒してヴァリスを稼ぐことは借金があるミアハ・ファミリアには必要なことである。

 

という訳でダンジョンの上層で稼いでからミアハ・ファミリアのホームに戻ってきて、一応ステイタスの更新もしてもらった。

 

すると、俺には新しいスキルが発現していたようだ。

 

「創薬師」と書いて「ドラッグストア」と読むスキルの効果は、薬を作成している間だけ、発展アビリティに創薬と薬師が発現し、更に薬の品質が向上しやすくなるというものだった。

 

薬師としての才能がある俺に、とんでもないスキルが発現したことに頭を抱えていた神ミアハ。

 

とはいえ発現してしまったものは仕方がないので、このスキルの検証も行う必要があるだろう。

 

検証として試しにポーションを作成してみたところ、この前作成したポーションよりも格段に品質が良くて、更に回復効果も向上したポーションが物凄く簡単に作れてしまった。

 

ポーションの最適な作り方が頭に浮かんできたのは、創薬の効果で間違いない。

 

そして回復効果が向上していたのは薬師の効果だろうな。

 

創薬と薬師が組み合わさった「創薬師」のスキルを上手く活用すれば、ポーション以外にも様々な薬を高品質で作成することが可能だということが理解できた。

 

この「創薬師」のスキルは医療系ファミリアにとっては、喉から手が出る程に欲しいスキルなのは確実だ。

 

しかも「創薬師」のスキルを活用して作成したポーションは、味までも良くなっていて、まるでスポーツドリンクのようで非常に飲みやすくもなっている。

 

このポーションを売りに出してみたら物凄く売れそうな気がするので「数量限定で売りに出してみるのはどうですかね」と俺は神ミアハに言ってみた。

 

「確かに間違いなく売れるだろうが、ゲドの負担になるなら私は反対だ」

 

借金の返済が楽になるとしても、それが眷族の負担になってしまうと思うなら迷わず反対する神ミアハは善神だ。

 

眷族を大切にしていない神も多く存在する中で、とても眷族を大切にしてくれる神ミアハと出会えたことは幸運だった。

 

借金があるとしても神ミアハのファミリアに入れて、本当に良かったと俺は思う。

 

だからこそ神ミアハの手助けになるなら、多少忙しくなろうと俺は問題ない。

 

「負担なんてことはありませんから、新作のポーションとして売り出してみましょう」

 

そう言った俺に嘘がなく、無理をしている訳ではないと理解した神ミアハは、俺が「創薬師」のスキルを用いて作ったポーションを売り出すことを了承してくれた。

 

数量限定の新作としてミアハ・ファミリアから売りに出されたポーションは通常のポーションよりも割高ではあったが、飛ぶように売れていく。

 

高い回復効果と、飲んだことのない味が気に入った冒険者が多かったようで、リピーターが続出し、直ぐに売り切れるようになってしまった俺が作ったポーション。

 

かなり好評であることから「もうちょっと多目に売りに出しても」と神ミアハを説得しようとするナァーザ。

 

「あまり目立つのは良くないだろう」と難色を示す神ミアハ。

 

ミアハ・ファミリアのホームでナァーザと神ミアハが、そう話し合っているところをよく目撃するようになったな。

 

俺としてはナァーザが言うようにポーションを多少多目に作っても問題はないが、神ミアハの懸念も理解できる。

 

新作のポーションが、これ以上売り出されるようになれば、他の医療系ファミリアには大打撃だ。

 

大手を含む他の医療系ファミリアに目をつけられるようなことになれば、面倒なことになると神ミアハは考えているのだろう。

 

神ミアハのその判断は、きっと間違ってはいない。

 

だからこれからも新作ポーションは数量限定で売りに出していくのが正解だ。

 

いつも直ぐに売り切れる新作ポーションを用意する為に、俺はダンジョン探索が終わってからは毎日「創薬師」のスキルを活用しながらポーションを作成していく日々を過ごす。

 

そんな日常の最中、新作ポーション目当ての客が更に増えて連日忙しく働いていたナァーザと神ミアハは、だいぶ疲れていたようだ。

 

そこで疲労回復用のポーションを作ってみるのはどうだろうかと考えた俺は「創薬師」のスキルを用いて、疲労回復用のポーションを作り出してみる。

 

エナジーポーションと名付けたそれは、かなりの疲労回復効果があったようで、とても疲れていたナァーザと神ミアハがエナジーポーションを飲むと、直ぐに元気になっていた。

 

ちなみにエナジーポーションの味は、何故かエナジードリンクみたいな味だったが、エナジードリンクよりも効果があることは確かだろう。

 

疲労回復専門のポーションとしてエナジーポーションも売りに出してみたところ、冒険者だけではなく、オラリオの人々にも人気の商品となった。




創薬
出典、チート薬師のスローライフ〜異世界に作ろうドラッグストア〜、主人公のレイジ
創薬という薬の作り方がわかるスキル
レイジは、創薬以外にも鑑定のスキルも持っており、この2つのスキルを使って異世界でドラッグストアを開く


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第5話、スティール

思いついたので更新してみました


ダンジョンに潜ってからミアハ・ファミリアのホームに戻り、ポーションとエナジーポーションを作成しておくのが日課になったが、そこまで負担にはなっていないので問題はない。

 

疲労回復効果があるエナジーポーションの売れ行きは好調のままであり、ミアハ・ファミリアの借金返済は順調だ。

 

数量限定の新作ポーションとは違ってエナジーポーションの方は大量に売り出している。

 

それでも疲労回復効果だけがあるエナジーポーションは他のポーションの需要を奪ってはおらず、基本的には他の医療系ファミリアから文句を言われるようなことはなかった。

 

唯一、借金の回収に来た神ディアンケヒトがいちゃもんつけてきたりもしたが、何だかんだ言いながらもエナジーポーションを買っていった神ディアンケヒトは、最近大人気のエナジーポーションが気になっていたらしい。

 

神ミアハに対して当たりが強い神ディアンケヒトだったが、エナジーポーションを気に入ったようであり、頻繁にエナジーポーションを買っていくようになった。

 

ダンジョンに潜ってからホームに戻って、忙しそうな店舗の手伝いもしてみたが、神ディアンケヒトが来る度に、ナァーザは物凄く嫌そうに接客していたな。

 

「エナジーポーションを買いにきてやったぞ、ミィーアァーハァ」

 

という感じで神ミアハに積極的に絡んでいく神ディアンケヒトは、借金回収の時も毎回のように、神ディアンケヒトが直接ミアハ・ファミリアまで来て回収していくそうだ。

 

大手の医療系ファミリアの主神である神ディアンケヒトは、決して暇な神ではない筈だが、借金回収の為に態々予定を空けておき、神ミアハに対して、マウントを取れる機会を逃さないようにしているのだろう。

 

最近だとミアハ・ファミリアの借金返済が安定してきているので、神ディアンケヒトとしては面白くないのかもしれない。

 

ちなみに神ミアハがミアハ・ファミリアに居ないと露骨にテンションが下がる神ディアンケヒトは、ミアハ・ファミリアの眷族相手には高圧的に出ることはなかった。

 

「ミアハはおらんのか。エナジーポーションを20本だ、ミアハの眷族」

 

今日もミアハ・ファミリアの店舗に来た神ディアンケヒトは、神ミアハが居ないとわかっていても目当てのエナジーポーションを大量に買っていく。

 

「わかりました、ディアンケヒト様」

 

そう言いながらエナジーポーションを用意しようとしていたナァーザは、とても嫌そうな顔を隠しもしていなかった。

 

やはりナァーザは神ディアンケヒトが好きではないらしい。

 

「ええい、そんなに毎回嫌そうな顔をするでないわ!客に対しては、もっとにこやかにせんか!おい、もう1人のミアハの眷族、お主が用意しろ!」

 

ポーションの品出しをしていた俺に向かって言ってきた神ディアンケヒトは、ナァーザではなく俺にエナジーポーションを用意してほしいようだ。

 

「これで良いですか、神ディアンケヒト。いつもエナジーポーションを買っていただいてありがとうございます」

 

とりあえず丁寧にエナジーポーション20本を梱包し、神ディアンケヒトに渡しておいた。

 

「うむ、あの娘は、接客態度がなっておらんかったが、お主は悪くないな」

 

満足そうな神ディアンケヒトは、俺の接客態度を気に入ったようである。

 

俺にとって神ディアンケヒトは、神ミアハにウザ絡みする神ではあるが、そこまで複雑な感情を抱いてはいないので、普通に接客することが可能だ。

 

神ディアンケヒトがそういう神であると割り切れている俺と違ってナァーザは、割り切れていないのかもしれない。

 

それから俺がミアハ・ファミリアの店舗で手伝いをしている時に神ディアンケヒトが現れたら、基本的には俺が接客するようにした。

 

何度も接客している内に神ディアンケヒトと普通に世間話をする程度には打ち解けてしまったが、話してみるとそこまで悪い神であるようには思えなかったディアンケヒトという神。

 

多少ヴァリスに執着するところがあるが悪神という訳ではない神ディアンケヒトは、オラリオには必要な神の1柱であるのだろう。

 

「今日はエナジーポーションを30本だ。用意するのは、ゆっくりで構わんからワシの話を聞くのだゲド」

 

頻繁にエナジーポーションを買っていく神ディアンケヒトは、そう言うと話し始めた。

 

「最近他の医療系ファミリアもエナジーポーションを真似たポーションを作成しとるようであるが、ここのエナジーポーションに遠く及ばぬものしか作れておらん」

 

「そうなんですか」

 

「ある程度の疲労回復効果があるポーションが作れても、ここのエナジーポーションと比較すれば、効果は段違いに低いものだったようだ」

 

「まあ、そう簡単には真似できないと思いますよ」

 

「何を思ったか他の医療系ファミリアは、最大手であるワシにミアハ・ファミリアに圧力をかけるように言ってきおった。どうやら目的は、エナジーポーションのレシピを公表させることらしい」

 

「それって俺に話しても良かったんですか神ディアンケヒト」

 

「構わん。他の医療系ファミリアが何を言おうが黙らせる力がワシにはあるからな。ワシのファミリアがミアハ・ファミリアに圧力をかけることはないが、他の医療系ファミリアには注意しておけ。手荒な真似をしてくるかもしれん」

 

「ご忠告ありがとうございます」

 

「ワシはエナジーポーションが買えなくなるのが困るだけだ。ミアハを助けた訳ではないから勘違いはするでないぞゲド」

 

「わかっていますよ、それでも助かりました。エナジーポーション30本、お買い上げありがとうございます」

 

ゆっくりと話を聞きながら梱包しておいた30本のエナジーポーションを神ディアンケヒトに渡した俺は、感謝の気持ちを込めて頭を下げる。

 

重そうにエナジーポーションを持ちながら帰っていく神ディアンケヒトは、ミアハ・ファミリアに危険が迫っていることを確かに教えてくれた。

 

ならば備えておく必要があると判断した俺は、神ミアハにもこの話を伝えておき、ナァーザにも警戒しておくように言っておく。

 

日課のダンジョン探索を早めに切り上げて、ミアハ・ファミリアのホームに戻った俺は、ステイタスを更新してもらうことにした。

 

神ミアハが驚きながら教えてくれたが、どうやら俺には新しい魔法が発現していたようで、その魔法は「スティール」という名前の速攻魔法らしい。

 

詠唱がなく、名前を呼ぶだけで発動する「スティール」の効果は、対象となった相手から何かを奪うという効果のようだ。

 

実際にモンスターを相手に検証してみた結果、モンスターが持っていた天然武器を瞬時に奪うことに成功した。

 

「スティール」が天然武器を使うモンスターや対人戦で役立つ魔法であることは間違いない。

 

ある日、ミアハ・ファミリアのホームでもある店舗で、1人だけで店番をしていた俺は、店内に侵入してきた不審な人物達に襲われることになる。

 

恐らくはLv3の荒事に慣れた人間達が顔を隠した状態で、邪魔者である俺を排除しようとナイフを振るってきた。

 

「龍の手」のスキルで身体能力を2倍に上げた状態で、俺は連続で振るわれたナイフを避けていく。

 

確実に人体の急所を狙ってきたLv3の人間達。

 

「スティール、スティール、スティール」

 

俺は速攻窃盗魔法を連続で唱えていき、3人のLv3が持つナイフを奪い取っていった。

 

「リトルフィート、リトルフィート、リトルフィート」

 

続けて速攻縮小魔法を連続で唱えて、ナイフを小さくしておく。

 

これでナイフが襲撃者達に武器として使われることはない。

 

武器が突然手元から消えて奪われたことに戸惑っていたLv3達を相手に距離を詰めた俺は握りしめた拳を振るう。

 

拳が当たる瞬間に「龍の手」のスキルで拳の威力も2倍にした俺は、Lv3の人間達の正中線に連続で拳を打ち込んだ。

 

Lv2とLv3でレベル差があったとしても、ステイタスがSSにまで到達している俺が「龍の手」で身体能力を2倍にするとLv3を圧倒することが可能だった。

 

2人のLv3を拳で沈めた俺に対して、短剣の魔剣を取り出した最後の1人。

 

「スティール」

 

当然のように魔法で魔剣を奪い取った俺から、逃げようとしたLv3に容赦なく拳を叩き込んだ。

 

全員倒したところで「創薬師」のスキルを用いて、自白剤を作成しておき、3人のLv3全員に飲ませる。

 

耐異常が効かない自白剤で、軽くなった口で話し出したLv3達が言うには、ある医療系ファミリアにエナジーポーションのレシピを回収するように頼まれたらしい。

 

その医療系ファミリアは、あまり良い評判は聞かないファミリアだったが、今回の1件が明らかになれば、処分が下ることは確実だ。

 

という訳でガネーシャ・ファミリアとギルドに話を通しておき、口が軽くなっているLv3達3人を引き渡しておいた。

 

それから数日後、他にも余罪が判明したその医療系ファミリアはギルドから重い処分を下されて、何人かが犯罪者としてガネーシャ・ファミリアに捕まったようだ。

 

その後、残った眷族達によってファミリア内部で争いが起こったことで、問題の医療系ファミリアの主神が強制送還されてしまい、ファミリア自体が解散ということになったらしい。

 

今回の1件で、ミアハ・ファミリアに手を出そうとする医療系ファミリアは居なくなったらしく、エナジーポーションのレシピが狙われることもなくなった。

 

ちなみに俺はLv3を3人倒しても偉業とは判断されなかったようなので、ランクアップするにはもっと強い相手と戦う必要があるのかもしれない。




スティール
出典、この素晴らしい世界に祝福を、主人公のカズマ
盗賊が持つ窃盗のスキルであり、冒険者になったカズマが最初に覚えたスキルでもある
効果は対象となる相手からランダムに何かを1つ奪うというもの
成功率は本人の幸運が高ければ高くなる
ちなみにカズマは、初めて使ったスティールで女子のパンツを奪い取った


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第6話、グリーンドラゴン

思いついたので更新しておきます


鍜冶師としての仕事を全て終わらせた椿と再びパーティを組んだ俺は、ダンジョンの中層の攻略を行っていった。

 

18階層の安全地帯で休憩している際に、リトルフィートで小さくしていたサンドイッチと水筒を元の大きさに戻してから椿にも渡しておき、一緒に安全地帯で食事をしていく。

 

「ゲドのその魔法は、相変わらず便利だの」

 

座り込んでサンドイッチをかじりながら言ってきた椿は、安全地帯ということもあり、リラックスしているようだった。

 

それでも武器は必ず手の届くところに置いている椿は、油断はしていない。

 

「だいたい何でも小さくできるからな。確かにこの魔法は便利だ。小さくすれば荷物を簡単に軽量化できて、ダンジョン探索に必要な品をしっかりと持っていくことができる。それにモンスターを小さくすれば弱体化させることすらも可能だ」

 

水筒を片手にサンドイッチを食べながら、俺は自分の魔法が便利である点を幾つか言う。

 

随分と魔法も使い慣れてきたのでマインドポーションをそれほど飲まなくてもマインドダウンになることなく、リトルフィートの魔法を連続で使えるようになってきていた。

 

「ダンジョン探索を続けていけば増えていくであろう魔石やドロップアイテムを小さくすることも可能なのは、他の冒険者に羨ましいと思われるかもしれんな。数が増えれば荷物になるのは変わらん」

 

サンドイッチを食べ終えて、俺が鞄にリトルフィートで小さくして入れておいた魔石やドロップアイテムを掌の上で転がしながら言った椿。

 

小さくなった魔石やドロップアイテムを見慣れない物を見るかのように見ている椿は、まじまじと小さくなっている魔石やドロップアイテムを見て、玩具を与えられた子どものような顔をしていた。

 

「俺がモンスターを倒すと毎回ドロップアイテムも手に入るんで、そうやって小さくしておかないと大きめの鞄でも直ぐに入らなくなるだろうな」

 

小さくなった魔石やドロップアイテムを興味津々に見ていた椿の手から魔石とドロップアイテムを回収しておき、鞄にしまっておく。

 

それから椿と一緒に出発する準備を整えて、18階層よりも下に向かうことにした。

 

上層とは比べ物にならないモンスターが現れる中層で戦いながら椿と一緒にダンジョンを突き進んでいき、19階層を越えて更に下の階層へと到着する。

 

現れたバグベアーの群れを相手に俺は「一角」を最適な動きで連続で振るい、毛皮に覆われたバグベアーの首を容易く斬り落としていった。

 

中層のモンスターが相手なら、まるで豆腐でも斬るかのように斬り裂ける「一角」が、素晴らしい剣であることは間違いない。

 

魔石とドロップアイテムを回収しておき、リトルフィートで小さくしてから鞄にしまうと、俺はマインドダウンをしないようにマインドポーションを飲んだ。

 

それからもモンスターと戦いながら先へと進む階段を探す。

 

下の階層に続く階段を発見したので、先に進むかどうか椿と話し合ってみた。

 

俺も椿も、かなり余裕を残したまま戦えているので、更に下の階層に下りても大丈夫だという判断を互いにしていた俺と椿は、更に下に向かう。

 

何度か階段で階層を下りていくと22階層を越えた先に進んでいた俺と椿。

 

問題なく中層のモンスターと戦えている俺は、普通の中層のモンスターが相手ではランクアップすることが出来ないことは確かだ。

 

ランクアップする為には強力なモンスターと戦う必要があるんだろうが、そう簡単に出会えるかはわからないな。

 

俺がそんなことを考えながら24階層に続く階段を下りていると、椿から話しかけてきた。

 

「そういえば一緒に食べたあのサンドイッチは美味かったが、何処の店で買ったのだゲド」

 

「あのサンドイッチは俺が作ったやつだが」

 

「なんと!ゲドは料理まで出来るのか!手前よりも間違いなく料理が上手いな!」

 

「椿は料理は、しないのか?」

 

「料理を作る暇があるなら、手前は鍜冶をやっているだろうな」

 

「ああ、それは何か想像通りだ」

 

「作れん訳ではないのだぞ。それでも手前は、料理よりも鍜冶仕事を優先したいのだ」

 

「まあ、やりたいことをやるのは悪いことじゃないな」

 

「うむ、そうであろう。手前は鍜冶師として更に腕を上げたいと思っているのでな。いずれは主神様すらも超える鍜冶師となることが手前の目標だ」

 

「さて、そろそろ次の階層だ。準備は良いか椿」

 

「ああ、行くぞゲド。次は24階層だ」

 

階層を下りていく最中に行っていた椿との会話を終わらせて、到着した中層の24階層。

 

怪物の宴で現れた大量のモンスター達を相手にしていても、俺と椿は息を切らすことはない。

 

エナジーポーションを作っておいて良かったことの1つは、ダンジョンの探索で感じた身体の疲労を回復することが可能になったことだろう。

 

「ここまで来たなら、宝石樹から宝石の実を収穫してみんかゲド」

 

全てのモンスターを斬り伏せて、魔石とドロップアイテムの回収をしていると椿が言い出した。

 

「宝財の番人のグリーンドラゴンが居る筈だな」

 

24階層最強のモンスターであるグリーンドラゴンが宝石樹を守っていると、ギルドの担当アドバイザーの人が言っていたことを俺は覚えている。

 

教えられた情報が正確なら、宝石樹の番人であるグリーンドラゴンは、Lv2の冒険者でも1人では倒せない程に強いらしい。

 

「手前が倒すので問題はないぞ」

 

Lv2の冒険者では1人で倒せないグリーンドラゴンでもLv5の椿にとっては、容易く倒せる相手なのは確かだ。

 

椿ならグリーンドラゴンを簡単に倒せることは間違いないが、任せきりというのは良くないだろう。

 

「椿に任せれば安全なのは確実だと思うが、グリーンドラゴンの相手は、俺にやらせてくれないか」

 

Lv2でも1人では倒せないというグリーンドラゴンに興味があった俺は、椿に提案してみた。

 

「確かにゲドなら問題ないかもしれんが、危険だと判断したら手前は割り込むぞ」

 

そう言ってくれた椿は、パーティを組んだ仲間である俺のことを心配してくれているようだ。

 

「割り込まれないように頑張らせてもらうさ」

 

会話しながらも手を動かして回収を続けていき、魔石とドロップアイテムを鞄にしまった俺と椿。

 

椿の案内する方向に移動して、到着した宝石樹がある場所。

 

宝石樹の前には、まさしく番人のようにドラゴンの姿がある。

 

グリーンドラゴンと言うからには体色は緑かと思っていたら、身体の色は黒いドラゴンだった。

 

椿は明らかに黒いドラゴンを警戒しており「気をつけろゲド、あのグリーンドラゴンは普通の個体ではないぞ。通常の個体と色が違っておる」と言い出す。

 

どうやら黒い色をしているグリーンドラゴンは普通ではなかったらしい。

 

グリーンじゃないグリーンドラゴンという冗談のような存在ではあるが、確実に強化種のインファントドラゴンよりも強いドラゴンだと、戦わなくても理解できた。

 

龍の手というスキルも発現している俺は、ドラゴンと縁があるのかもしれないな。

 

俺が黒いグリーンドラゴンの前に向かっていくと、此方を見た黒いグリーンドラゴンは大音量で咆哮をする。

 

敵を見つけたモンスターが行うことは1つであり、それは黒いグリーンドラゴンであろうと変わることはない。

 

襲いかかってきた黒いグリーンドラゴンが身の丈の割りには俊敏に動き、飛びかかりながら前足の爪で此方を切り裂こうとしてくる。

 

後方に跳躍して、横に振り抜かれた爪を回避した俺は「一角」を振るおうとしたが、黒いグリーンドラゴンが続けて行ってきた攻撃により「一角」を振るうことは出来なかった。

 

爪を横に振り抜いた勢いを止めずに凄まじい速さで、その場で1回転しながら尻尾による攻撃を行ってきた黒いグリーンドラゴン。

 

素早く地面に伏せ、振るわれた尾による攻撃を避けた俺の頭上を、空気をなぎ払う尾が凄まじい速さで通過していく。

 

当たれば痛いでは済みそうにない黒いグリーンドラゴンの攻撃に、当たってやるつもりはない。

 

伏せた状態から両腕の力で跳ね上がり、立ち上がった俺に黒いグリーンドラゴンが再び身体を横に回転させる。

 

「龍の手」のスキルにより2倍になった身体能力に加えて、更に跳躍力も2倍にし、高く跳んだ。

 

横に回転しながら行う黒いグリーンドラゴンの爪と尾による攻撃を跳躍して回避した俺は、黒いグリーンドラゴンの頭上で構えた「一角」を振り下ろす。

 

堅く強靭な黒いグリーンドラゴンの鱗に覆われた頭部は「一角」による攻撃を奥まで通さなかった。

 

刃筋をしっかりと合わせていても刃が浅くしか通らないのは、皮膚と鱗に肉と骨の強度が段違いであるからだろう。

 

この黒いグリーンドラゴンが中層レベルのモンスターではないことが、実際に斬ってみるとよく理解できた。

 

浅くでも斬られたことに怒ったのか黒いグリーンドラゴンの攻撃が更に苛烈になっていく。

 

攻撃が俺に当たらず空振る度に、更に強く、更に速く、向上していくグリーンドラゴンの攻撃。

 

負けじと此方も「一角」を振るっていき、黒いグリーンドラゴンの身体に傷をつける。

 

無傷の俺と、傷だらけの黒いグリーンドラゴンだったが、互いに有効打となる攻撃は1度も受けていないことは確かだ。

 

血が出ているとしても黒いグリーンドラゴンにとって致命傷となる傷は1つもない。

 

全く動きが衰えることのない黒いグリーンドラゴンは体力も優れているようだ。

 

まるで暴風雨のような黒いグリーンドラゴンの攻撃の数々を回避していきながら、俺は怯むことなく接近していく。

 

黒いグリーンドラゴンに致命の一撃を与える為に、狙う箇所は既に決めていた。

 

片手ではなく両手で持ち、しっかりと構えた「一角」で瞬時に突きを放つ為の体勢になると、力強く地面を踏み込みながら渾身の力を込めた突きを放つ。

 

身体能力を、腕の力を、踏み込みの力を、長剣である「一角」の斬れ味を、そして突きの威力を倍加した一撃は、黒いグリーンドラゴンの目を貫き、確実に脳にまで到達した。

 

遂に倒れた黒いグリーンドラゴンは、もう起き上がることはない。

 

倒した黒いグリーンドラゴンからは魔石とドロップアイテムである甲殻が残る。

 

「このドロップアイテムは手前に預けてくれんか、この甲殻でゲドの防具を手前が作ろう」

 

「椿が作るなら良い防具になりそうだから、是非とも頼みたいところだな。このドロップアイテムは椿が好きにしてくれ」

 

黒い甲殻を椿に渡しておき、宝石樹の実も回収して、ダンジョンから戻ることにした俺は、椿と一緒に階層を上がり、地上まで戻っていった。

 

エナジーポーションのおかげで寝ずに移動を続けても、全く疲れていない俺と椿。

 

ギルドで魔石と宝石の実を換金して、多目に俺がヴァリスを貰ってから、俺と椿はそれぞれのホームへと帰っていく。

 

到着したミアハ・ファミリアで早速ステイタスの更新をしてもらったが、やはりランクアップが出来るようになっていたらしい。

 

黒いグリーンドラゴンとの戦いは偉業であったようだ。



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第7話、竜鱗鎧化

話を思いついたので更新します


ランクアップが可能になったことで、表示された3つの発展アビリティは、耐異常、剣士、頑強の3つであり、俺は耐異常を選んだ。

 

神ミアハにステイタスの更新をしてもらい、Lv2からLv3にランクアップした俺には新たなスキルが発現していたらしい。

 

それは「竜鱗鎧化」と書いて「ドラゴンスキン」と読むスキルであり、まるで竜の鱗のような装甲を身体の上に形成して防御力を凄まじく高めるスキルだった。

 

「竜鱗鎧化」のスキルを用いると身体を装甲が覆い、まるで全身にスケイルメイルを装備しているかのような姿形になるようだ。

 

しかもこの装甲は周囲の魔素を吸収して自己修復するようで、破壊されたとしても魔素があれば直ぐに修復されていく。

 

もしかすると放たれた魔法すらも吸収することが可能なのかもしれない。

 

という訳で実際に魔法を吸収できるか検証する為に、以前ミアハ・ファミリアのホームである店舗に侵入してきた不審人物からスティールで奪い取った短剣型の魔剣を使ってみることにした。

 

ダンジョンで「竜鱗鎧化」のスキルを使い、形成された竜鱗のような装甲に覆われた腕に、短剣型の魔剣から炎を放つ。

 

放たれた炎を確かに吸収していく竜鱗のような装甲は、魔法を吸収することも可能なようだ。

 

そして竜鱗の装甲が形成された腕は、魔剣の炎によってダメージを受けることなく守られている。

 

「竜鱗鎧化」のスキルのおかげで魔法に対しての防御力も格段に上がったことは間違いない。

 

自身のスキルがどんなものであるのか実際に検証してみることは、スキルについての理解を深める為に必要なことだろう。

 

とりあえずダンジョンで「竜鱗鎧化」に可能なことを少し確かめることは出来た。

 

しかし「竜鱗鎧化」の物理的な防御力を確認する為には、上層のモンスターでは力不足だ。

 

ギルドの担当アドバイザーの人に、俺がLv3にランクアップしたことを教えてみて、中層にソロで下りてもいいか聞いてみるとしよう。

 

俺がLv3にランクアップしたことをギルドの担当アドバイザーの人に話してみると「この前Lv2になったばかりなのに、何で1ヶ月でLv3になってるの」と物凄く驚いていたな。

 

「きみがそういう不思議なヒューマンだとは理解していたけど、続けてのランクアップは流石に驚くよ本当に」

 

そう言いながら相変わらず遠い目をしていたギルドの担当アドバイザーの人。

 

「ちなみにランクアップした理由は何かな?」

 

恐る恐る聞いてきたギルドの担当アドバイザーの人は、何故か身構えていた。

 

「Lv5が明らかに警戒する程度には強い、黒い体色をしていた異常な個体のグリーンドラゴンを1人で倒しました」

 

嘘をつくことなく俺が正直に答えると、それを聞いたギルドの担当アドバイザーの人は「何でそんなのとまた戦ってるの」と言葉を漏らす。

 

「確実に通常のグリーンドラゴンとは違うグリーンドラゴンと、何で遭遇しちゃうんだろうね」

 

訳がわからないよ、と言いたげな顔をしていたギルドの担当アドバイザーの人は明らかに疲れているようだった。

 

「これをどうぞ」

 

そっとエナジーポーションを手渡した俺に感謝をして受け取ったギルドの担当アドバイザーの人は、エナジーポーションを一気に飲み干していく。

 

「エナジーポーションは美味しいし疲れもとれるし最高だね。今ではギルドの残業に欠かせないポーションになってるよ」

 

にっこりと笑いながら言ったギルドの担当アドバイザーの人は、エナジーポーションの常飲者でもあったらしい。

 

「ミアハ・ファミリアのエナジーポーションをこれからもよろしくお願いします」

 

とりあえずエナジーポーションを売り出しているミアハ・ファミリアの一員としての言葉を言っておくことにした。

 

「これからもエナジーポーションには、お世話になると思うよ」

 

頷きながら言うギルドの担当アドバイザーの人は、いつも頑張っているのだろう。

 

「応援してますから頑張ってくださいとしか言えませんね」

 

ギルドの仕事を冒険者が手伝う訳にはいかないので、声援だけおくっておくことにする。

 

「応援ありがとう、それで、きみは私に何か確認したいことがあるんじゃないかな」

 

そう聞いてきたギルドの担当アドバイザーの人は、遠い目をしたりしていても此方のことをしっかりと見てくれていたようだ。

 

「Lv3になったのでソロで中層に下りても良いのかを確認したいんですが」

 

ここでソロが駄目だと言われたなら諦めようと思いながら俺は、ギルドの担当アドバイザーの人に確認してみた。

 

「うん、確かにきみならもう、ソロでも中層になら下りても大丈夫だね」

 

ギルドの担当アドバイザーの人はLv3になっている俺なら、ソロで中層に向かっても構わないと許可を出してくれる。

 

「1つ約束してほしいことはあるけどね」

 

付け加えるように言ったギルドの担当アドバイザーの人は真剣な顔をしていた。

 

「1つ約束してほしいことは何ですか」

 

俺はギルドの担当アドバイザーの人に続きを促す。

 

「きみが、無事に帰ってくることだよ」

 

そう言ってくれたギルドの担当アドバイザーの人は、ダンジョンから無事に帰ってくることを俺に約束してほしいみたいだ。

 

「約束します。俺は無事にダンジョンから帰ってきますよ」

 

俺が約束を破るつもりがないことがギルドの担当アドバイザーの人に伝わるように、力強く言葉を発しておく。

 

「うん、ちゃんと帰ってきてね」

 

嬉しそうに微笑みながら言ったギルドの担当アドバイザーの人が、とても良い人であることがよくわかった。

 

担当になっただけの冒険者である俺の無事を願ってくれていた担当アドバイザーの人は、悪い人ではない。

 

そんなギルドの担当アドバイザーの人とした約束は、決して破らないようにしよう。

 

黒いグリーンドラゴンのドロップアイテムである黒い甲殻を使って防具を作っている椿が、防具を完成させるまで、俺はソロということになる。

 

ギルドの担当アドバイザーの人から許可も出ているので、中層に向かった俺は「竜鱗鎧化」のスキルの性能を確かめることにした。

 

竜鱗のような装甲が形成された状態でミノタウロスの攻撃を真正面から受けてみたが、全く揺らぐことのない鉄壁の守りを突破できない攻撃。

 

連続でミノタウロスの攻撃を受けてみても、何も問題はなく、攻撃で身体が動かされることもない。

 

普通のミノタウロス程度の攻撃では「竜鱗鎧化」を突破することは不可能なようだ。

 

その後も中層で検証を続けたが、通常のグリーンドラゴンの攻撃も通用しない「竜鱗鎧化」で形成された装甲。

 

黒いグリーンドラゴンの攻撃なら通用したかもしれないが、今回は遭遇することはなかった。

 

異常個体のモンスターと毎回簡単に遭遇する訳ではないらしい。

 

24階層から下に向かうことはなく、上の階層に戻った俺は17階層で、階層主であるゴライアスに襲われて逃げ惑っている冒険者達を発見。

 

ゴライアスに太刀打ちできるLvではなかった冒険者達は、このままなら逃げ切れずに死んでしまうかもしれない。

 

俺は瞬時に「龍の手」と「竜鱗鎧化」のスキルを発動して、ゴライアスと冒険者達の間に割り込み、身体ごと盾となってゴライアスからの攻撃を受け止めた。

 

「今の内に逃げろ」

 

ゴライアスが振るう拳を装甲で受け止めながら言った俺に対して、冒険者達は「足がもう限界で動けないんだ」と泣きながら言う。

 

背負っていた長剣である「一角」の柄を掴み、鞘から引き抜きながら俺は言った。

 

「しょうがねえなあ」

 

背後に居る冒険者達にゴライアスの攻撃が当たらないように、避けることなく「竜鱗鎧化」のスキルで形成された装甲でゴライアスの攻撃を受け止め続けていく。

 

ゴライアスの攻撃だろうと揺るぎもしない装甲が、凄まじい強度を持っていることは確かだ。

 

しかしいつまで「竜鱗鎧化」のスキルを使い続けられるかが問題となるだろう。

 

検証する為に何回か使っているので「竜鱗鎧化」のスキルを使うことには慣れてきていたが、長時間使ったことはまだ無い。

 

ゴライアスとの戦いは早めに終わらせておきたいところだ。

 

攻撃を受け止め続けながら長剣の「一角」を振るい、ゴライアスの身体に傷をつけていき、徐々に動きを鈍らせていく。

 

拳を横に大きく振るう大振りのゴライアスの攻撃に、合わせる形で振り下ろした「一角」がゴライアスの手首から先を斬り落とした。

 

17階層の地を転がっていくゴライアスの拳。

 

咆哮を上げたゴライアスが此方を踏みつけようとする。

 

頭上から振り下ろされたゴライアスの足を片腕で受け止め、もう片方の腕に握っている「一角」をゴライアスの足の裏から深々と突き刺しておいた。

 

そのまま「一角」を動かしてゴライアスの足の甲を半ばから先端まで斬り裂いていくと、足の痛みに耐えかねたのか地に倒れたゴライアス。

 

この機を逃さずゴライアスに接近していき、倒れたまま残ったもう片方の拳を振るってきたゴライアスの腕を縦に両断。

 

それから更に踏み込んで距離を詰めると、ゴライアスの首を「一角」で斬り落とした。

 

魔石とドロップアイテムであるゴライアスの硬皮を回収した俺は、動けない状態になっていた冒険者達にポーションを提供しておく。

 

「もう動けるよな」

 

冒険者達の疲労や怪我は、俺が提供したポーションとエナジーポーションで回復されていることは確認できた。

 

「いや、あの、今度は腰が抜けて動けません」

 

しかし冒険者達は、今度は腰が抜けてしまっていて動けなかったらしい。

 

深々とため息を吐いた俺は、再び言った。

 

「しょうがねえなあ」

 

冒険者達が動けるようになるまで警護しておき、動けるようになったら一緒にダンジョンから出ることにした俺は、ゴライアスを俺が倒したことは口止めしておく。

 

口止めされた冒険者達は不思議に思っていたようだが、口を滑らせないように俺が厳しく言っておくと激しく頷いていた。

 

これで情報が漏れるようなら原因は、こいつらということになるだろう。

 

もし俺がゴライアスを倒したという情報が漏れたりした場合は、とりあえず、あの冒険者達を、ぶん殴っておくことにするか。

 

さて、このゴライアスの硬皮を椿に渡して、防具を作ってもらうのも悪くはない。

 

そう決めた俺は、椿の工房に向かうことにした。




竜鱗鎧化、ドラゴンスキン
出典、転生したらスライムだった件、ガビル
転生したらスライムだった件の主人公であるリムルの配下となり、蜥蜴族のリザードマンから竜人族のドラゴニュートに進化したガビルが更に進化して手にしたスキルが竜鱗鎧化
周囲の魔素を吸収して自己修復する装甲を形成するスキルであり、凄まじい防御力がある


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第8話、仕事をする幸運

書けたので更新します


ゴライアスの硬皮を防具にしてもらう為に椿の工房に向かうと、椿は黒いグリーンドラゴンが残したドロップアイテムである黒い甲殻を軽装なアーマーに加工している真っ最中だった。

 

既に大体の形は完成しているアーマーは黒い甲殻を元に作られていたからか、黒色のアーマーとなっている。

 

集中して鍜冶仕事をしていても周囲の変化には気付ける椿は、此方を見てアーマーを加工していた手を一旦止めた。

 

「ゲドか、防具はもう少しで完成といったところだが、手前に何か用か?」

 

加工作業の手を止めて聞いてきた椿は、鎚を片手に汗を拭う。

 

窓を開けていても熱気がある中で作業をしていた椿は大量の汗をかいていたようだ。

 

疲れているかもしれない椿の仕事を増やすようで申し訳ないが、せっかく手に入ったゴライアスの硬皮は良い防具になると評判なので是非とも椿には防具を作ってもらいたい。

 

「ゴライアスの硬皮が手に入ったんでな。椿に防具にしてもらおうかと思って持ってきた」

 

そう言ってから俺は、リトルフィートで小さくしていたゴライアスの硬皮を鞄から取り出して、元に戻すと椿に手渡しておく。

 

「うむ、この硬皮はかなり質が良いな、今度はゴライアスを倒したのかゲドは」

 

ゴライアスの硬皮の表面を触りながら言った椿は、俺がゴライアスを倒したと確信していた。

 

「俺がゴライアスを倒したことは内緒にしておいてくれ」

 

言いふらすようなことは椿ならしないとは思うが、一応椿にも口止めをしておくことにする。

 

「確かにLv3に最速でランクアップした後に、ゴライアスまで倒したとなると、悪目立ちするかもしれんな、手前も黙っておくとしよう」

 

納得したように頷いていた椿なら俺がゴライアスを倒したことを吹聴するようなことはない筈だ。

 

「忙しいかもしれないが、ゴライアスの硬皮を使った防具を頼めるか椿」

 

手に入れたドロップアイテムであるゴライアスの硬皮での防具作成は信頼できる職人である椿に任せたい仕事だった。

 

「うむ、手前に任せておけゲド、このアーマーが完成してからになるが、それは構わんな」

 

突然工房に押しかけて新しい仕事を頼んだとしても、快く了承してくれた椿。

 

「ああ、急いでいる訳じゃないから大丈夫だ」

 

椿を急かすことなく集中して職人の仕事に取り組んでもらえるように時間には余裕があることを伝えておく。

 

用件を済ませて椿の工房から立ち去ろうとした俺に向かって椿は言った。

 

「手前が作る渾身の一作は、少々高いぞ」

 

ニヤリと笑う椿に対して俺も言葉を返す。

 

「それじゃあダンジョンで稼いでおかないとな」

 

俺の言葉を聞いて更に笑みを深めた椿に背を向けて、椿の工房から外に出た俺は、ダンジョンに向かっていった。

 

ソロで中層に行き、モンスターを倒して魔石とドロップアイテムを回収していく。

 

「龍の手」や「竜鱗鎧化」のスキルを使用しなくとも中層のモンスターを容易く倒すことが可能になっていたのは、ランクアップしてLv3になったからだろう。

 

ソロでなければ更に下の階層に行くことができるレベルになっていることは確かだ。

 

しばらく加工の作業に入っているであろう椿と再びパーティを組むことが出来るようになるには、時間がかかりそうだった。

 

1人でダンジョンを探索し、中層での活動をしばらく続けていると見慣れないモンスターと遭遇することになる。

 

上半身は女性であり背中に翼が生えていて、下半身は蛇のようになっているモンスターは、間違いなくヴィーヴルという竜女のモンスターだ。

 

襲いかかってくるヴィーヴルは、両手の鋭い爪で此方を引っ掻こうとしてきた。

 

ヴィーヴルの攻撃を避け、力強く地を蹴って踏み込んで「一角」を振るい、ヴィーヴルの首を斬り落としておく。

 

ヴィーヴルの魔石以外にも当然のようにドロップアイテムがあり、それがヴィーヴルの涙と呼ばれる紅石であることは間違いない。

 

幸運の石とも言われるヴィーヴルの涙は、相当な高値で取引されるらしいが実際にどの程度のヴァリスになるかは、換金してみないとわからないだろう。

 

という訳で足早にダンジョンを後にした俺はギルドへと向かった。

 

魔石とドロップアイテムを換金してもらった後に、ヴィーヴルの涙を見せてみるとギルドの換金担当者が「直ぐに上司を呼んできますから待っていてください!」と言い残してギルド内に向かって全力疾走していく。

 

その後、ギルドの上の人が現れてヴィーヴルの涙を確認すると「ギルドのヴァリスだけでは換金できませんので、オークションに出してみるのはどうでしょうか」と提案してきた。

 

少々大事になってしまったが、まとまったヴァリスが手に入るなら問題はないので了承しておくと、喜んでいたギルドの上の人。

 

ギルドにヴィーヴルの涙を預けてからホームに戻って、神ミアハとナァーザにヴィーヴルの涙を手に入れたことを伝えてみると物凄く驚いていた。

 

何故かナァーザは笑顔で俺のことを拝んできたが、その理由を聞いてみると「ご利益がありそうだから」と答える。

 

それを聞いていた神ミアハまでもが「うむ、確かに」と言うと俺のことを拝んできた。

 

まるで福をもたらす神のように拝まれていた俺は「とりあえず拝むのは止めてくれませんか」と言っておく。

 

いつものようにミアハ・ファミリアでポーションとエナジーポーションを作成した俺は、店舗にポーションとエナジーポーションを並べる作業も手伝っておいた。

 

「今日もエナジーポーションを買いにきてやったぞ、ミィーアァーハァ」

 

という感じで相変わらずミアハ・ファミリアのホームである店舗にやってきては神ミアハにウザ絡みをする神ディアンケヒト。

 

ナァーザがやる気がないので、完全に神ディアンケヒト係のようになっている俺が丁寧に接客していくと、神ディアンケヒトはエナジーポーションを20本ほど買っていく。

 

「エナジーポーションのご購入ありがとうございます」

 

丁寧に頭を下げて接客する俺に神ディアンケヒトは機嫌良く帰っていった。

 

それからもエナジーポーションを求める客達が、大勢訪れる。

 

忙しなく働くナァーザと神ミアハに俺は、営業時間が終わるまで休むことはない。

 

忙しい日々を過ごしたところでミアハ・ファミリアの全員がエナジーポーションのお世話になった。

 

疲労が回復されたので、これで明日も頑張ることができるだろう。

 

ミアハ・ファミリアのホームにあるそれぞれの部屋に戻って眠った全員。

 

起床して全員の朝食を作っておいた俺は自分の分を食べ終わると、店舗に並べるポーションとエナジーポーションを「創薬師」のスキルを用いて作っておく。

 

その後、ダンジョンに向かい、モンスターを倒して魔石とドロップアイテムを回収してから、ギルドで換金。

 

稼いだヴァリスをナァーザに渡しておき、店舗の手伝いも行う。

 

ポーションの品出しと接客も丁寧に行い、頻繁に現れるようになった神ディアンケヒトへの対応も俺がしていった。

 

そんな日々を過ごしているとオークションに出品されたヴィーヴルの涙が凄まじい高額で売れたらしく、ギルドの取り分を充分に確保しても、とてつもない額のヴァリスがミアハ・ファミリアに転がりこんでくる。

 

あまりにも凄まじい額のヴァリスに気が遠くなっていた神ミアハが倒れそうになったので、倒れないように支えておいた。

 

この凄まじい額のヴァリスをどうするかということになったが、俺としてはミアハ・ファミリアの借金の返済に使いたいと思っていることを神ミアハに伝えておく。

 

「本当に、それで良いのかゲド」

 

「ええ、構いません。この際借金を全部返済しておきましょうよ」

 

ミアハ・ファミリアの借金は、かなりのものだが、これだけのヴァリスがあれば借金の返済を完了させることも可能だろう。

 

ヴィーヴルの涙で稼いだヴァリスを持って、ディアンケヒト・ファミリアにまで向かうことにしたミアハ・ファミリアの全員。

 

凄まじい額のヴァリスは全て俺が運んでいる。

 

到着したディアンケヒト・ファミリアで神ディアンケヒトを呼び出してもらい、現れた神ディアンケヒトにヴァリスを支払った。

 

「どうやってこれだけのヴァリスを稼いだのだ!」

 

「神ディアンケヒトにだから教えますけど、俺がヴィーヴルの涙を手に入れたんですよ」

 

「ヴィーヴルの涙だと!ゲドが嘘を言っていないようだから信じるが、どういう運をしておるんだ」

 

「昔から運は良い方なので、日頃の行いも良かったのかもしれません。これだけあればミアハ・ファミリアの借金は、利子を含めて全て返済できますよね」

 

「ぐぅっ!確かにこれだけあればミアハ・ファミリアの全ての借金の返済は、充分に可能だ」

 

「じゃあ、借金返済は完了ということでよろしいですね、神ディアンケヒト」

 

「ぐぬぬぬっ!し、仕方あるまい認めようではないか」

 

何故か悔しそうにしている神ディアンケヒトは、神ミアハにマウントを取れる機会が無くなることが悔しいのかもしれない。

 

それでもちゃんと支払いを受け入れてくれる神ディアンケヒトは、悪い神ではないだろう。

 

ミアハ・ファミリアの借金を全て返済した帰り道、晴れやかな顔をしていたナァーザが「ありがとうゲド」と言ってきた。

 

自分の為に借金までしてくれた神ミアハに報いる為に、今まで頑張ってきていたナァーザにとってミアハ・ファミリアの借金の返済が完了したことは、とても喜ばしいことであるのは間違いない。

 

借金が無くなったミアハ・ファミリアの未来は、明るいものになる筈だ。

 

あとは、神ミアハが冒険者達にタダでポーションを渡すようなことがあるので、それをなんとかやめさせておく必要がありそうだな。

 

神ミアハは冒険者達に、タダでポーションをくれる神様だと思われているんじゃないだろうか。

 

そのイメージを払拭する為にも神ミアハには、もうちょっと気をつけてもらわなければいけない。

 

ヴァリスが全く無くて、ポーションが買えないならバイトでもしてヴァリスを稼いでから買えば良いだけの話だ。

 

仕事を探すことなく明らかにタダでポーションを貰いにきている冒険者達にポーションを渡すのは、良くないことだと神ミアハに理解してもらうとしよう。



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第9話、新しい防具

何とか思いついたので更新します


店舗で売り出す為に、俺がエナジーポーションを作成していると、ミアハ・ファミリアのホームに椿が木箱を担いでやって来る。

 

「完成したぞ、ゲド」

 

椿が担いでいた木箱の中身である防具一式を此方に見せて、嬉しそうに笑った。

 

「さあ、ゲドよ!身に着けてみるのだ!さあ!さあ!」

 

どうやら防具一式を寝ずに完成させたようでテンションが妙なことになっていた椿。

 

「とりあえずこれでも飲んで、落ち着け椿」

 

テンションが高めでも明らかに身体が疲れている様子であった椿には、出来立てのエナジーポーションを1本提供しておく。

 

一気にエナジーポーションを飲み干した椿は、疲労が回復されたことで妙な状態になっていたテンションが落ち着いたようだ。

 

「よし、防具を身に着けてみるのだゲドよ」

 

確かに椿は落ち着いたが、それでも防具を俺に身に着けさせようとすることは変わらない。

 

これはもう俺が防具を身に着けないと終わらないと判断した俺は、防具を身に着けることにする。

 

木箱から取り出した防具一式を着用し、ウンディーネ・クロスで作られたインナーの上から黒い軽装のアーマーを装備して、灰褐色のマントを羽織った姿になった俺を見て、椿は満足気に頷いていた。

 

水に耐性があるウンディーネ・クロスで作られたインナーは下層の攻略の為に用意されたもので間違いない。

 

黒い軽装のアーマーは「黒樹」という名であるそうで、異常個体であった黒いグリーンドラゴンの甲殻で作られていて軽く堅固。

 

灰褐色のマントの方は「灰皮」と名付けられており、此方はゴライアスの硬皮で作られており、重量があるが今のステイタスなら問題なく動ける。

 

どの防具も強度は高く、下層でも充分に通用する代物になっていたことは確かだ。

 

通常のマントよりも重さがあった「灰皮」は直ぐに外せるようにもなっていて、少しでも素早く動きたいときは「灰皮」を外して行動することになるだろう。

 

3つの新しい防具の値段を聞いてみると、それなりに高額ではあったが中層で稼いでいたので、払えない金額ではなかった。

 

椿にヴァリスを支払っておき、徹夜していて寝ていない椿には今日はもう休むように言っておく。

 

「うむ、それでは明日はダンジョンに一緒に向かうぞ、ゲド。いつもの場所で待ち合わせだ」

 

そう言って足早にミアハ・ファミリアのホームから立ち去っていった椿。

 

新しい防具の使い心地がどんなものであるか確かめるなら、実際にダンジョンに向かう必要がある。

 

恐らく明日は椿とパーティを組んでダンジョンに向かうことになるんだろうが、今日の内に色々と準備をしておいた方が良さそうだ。

 

店舗で売り出すポーションとは別に、ダンジョンで使う為のポーションも作成しておくとしよう。

 

各種ポーションを作成した後、ギルドに向かって担当アドバイザーの人に、椿とパーティを組んでいるなら下層に向かっても構わないか聞いてみた。

 

「Lv5の椿さんが一緒に居るなら下層に行っても問題ないと思うけど、気をつけてね」

 

そう言ってくれたギルドの担当アドバイザーの人は、俺を心配してくれている。

 

相変わらずこの人は、とても良い人だった。

 

「気をつけておきます。貴女とした約束は破りません」

 

ギルドの担当アドバイザーの人を安心させる為にも、無事に帰ってくることを俺は宣言。

 

約束を破るつもりはない。

 

それから下層で出現するモンスターについての情報も担当アドバイザーの人に教えてもらい、しっかりと忘れないように覚えた。

 

ギルドで必要な情報を入手した後にミアハ・ファミリアに戻ると、神ミアハとナァーザに明日からダンジョンの下層に向かうことを伝えておく。

 

「それじゃあ明日の朝は、エナジーポーションをいつもより多目に作っておいてねゲド。帰ってきたら店の手伝いも頼むわよ」

 

俺がダンジョンから帰ってくるまでの間に、エナジーポーションが売り切れてしまうことを気にしているナァーザ。

 

俺が無事に帰ってくることを全く疑っていないようなので、ナァーザには信頼されているのかもしれない。

 

「そうしておきますよナァーザ。大量に作って置いておくので管理は、よろしくお願いします。店の手伝いも任せてください」

 

明日の朝は、ちょっと忙しくなりそうだが頑張って各種ポーションを作成しておこう。

 

「頑張ってねゲド」

 

ミアハ・ファミリアの借金返済が完了してから笑顔をよく見せるようになったナァーザは、明るくなったのかもしれない。

 

それはきっと悪い変化ではないと俺は思った。

 

「お前なら大丈夫だとは思うが、気をつけていくのだぞゲド」

 

眷族である俺のことを大切にしてくれている神ミアハは悪い神ではなく善神だ。

 

オラリオには数多のファミリアがあるが、眷族を大切にしてくれるファミリアがどれだけあるのかはわからない。

 

「俺はちゃんと、ホームに帰ってきますよ神ミアハ」

 

俺は神ミアハの眷族になれて良かったと思う。

 

「うむ」

 

頷いていた神ミアハは、俺の言葉に嘘がないことを理解していたようだ。

 

その後、明日の朝の為に、各種ポーション用の素材を大量に集めておく。

 

ダンジョンに向かうことなく準備を整えることにした1日。

 

翌日、朝早くから大量にポーションとエナジーポーションを作成しておき、4日間程度なら俺が不在であっても品切れになることがないようにしておいた。

 

これだけポーションとエナジーポーションがあれば俺がダンジョンの下層で、しばらく過ごしても問題はない筈だ。

 

それからミアハ・ファミリア全員分の朝食を作っておき、手早く自分の分を食べた俺は、防具一式を着用して武器を装備すると待ち合わせの場所まで向かう。

 

既に待っていた椿は、直ぐにでもダンジョンに向かいたいようで、かなりはりきっている。

 

それでも昨日よりかは椿のテンションが落ち着いているので、しっかりと睡眠をとっているようだ。

 

椿と一緒にダンジョンに向かい、手早く階層を下りていくと到着した18階層の安全地帯。

 

一旦休憩をすることにして、リトルフィートで小さくしていた水筒と食料を元の大きさに戻して椿に渡す。

 

18階層の草原に座って食事をした俺と椿は、下層についての話しをしていった。

 

「下層の25階層から27階層までに出現するイグアスという燕のようなモンスターがおってな。その攻撃は体当たりなのだが、生半可な防具では貫通する威力があるのだ」

 

「イグアスが不可視のモンスターと言われるほど素早いモンスターだと、ギルドの担当アドバイザーの人が教えてくれたが、確かに頑丈な防具を用意するように忠告されたな」

 

「うむ、下層でも通用する頑丈な防具を装備していなければ危険なのは確実だ。イグアスに身体を貫通されて死亡した冒険者は少なくないのでな」

 

「この「黒樹」と「灰皮」なら問題は無さそうだ」

 

着用している「黒樹」と「灰皮」を撫でながら言った俺に頷いた椿が笑いながら言う。

 

「当然だ、それは手前の渾身の作だからな。イグアス程度に貫通はできん」

 

誇らしげに胸を張っていた椿が、職人としての仕事に手を抜くことはない。

 

イグアスに関しては問題ないことがわかったので、話しを変えることにした俺は気になっていたことを聞いてみる。

 

「そういえば下層には移動型階層主が居るそうだが」

 

「水竜のアンフィス・バエナのことか」

 

「Lv5相当で、水上の地形を考慮するとLv6になるらしいな」

 

「ギルドの情報は間違ってはおらんな。確かに下層の階層主であるアンフィス・バエナには、それだけの強さがあるだろう」

 

納得して頷いていた椿は、ギルドの情報が正しいと判断していたようだ。

 

「双頭の竜でもあるみたいだが」

 

「うむ、首は2つだったぞ」

 

まるで実際にアンフィス・バエナを見たことがあるような口振りをする椿。

 

「その口振りだと、椿は実際にアンフィス・バエナを見たことがあるのか?」

 

「ロキ・ファミリアの遠征に何度か参加した時にな。ロキ・ファミリアの主力が総出でアンフィス・バエナを倒しておったぞ」

 

どうやら椿は、ロキ・ファミリアの遠征に参加したことが何度かあるらしい。

 

「弱いモンスターではないということかな」

 

「階層主であるからな、弱いモンスターではないぞ」

 

「あの黒いグリーンドラゴンと比べるとどちらが強いんだ?」

 

「どちらも見たことがある手前が判断すると、戦う場所が水上の地形であるならアンフィス・バエナが上だと思うが」

 

椿が言っていることは間違いなく正しいのだろう。

 

水上の地形でなら黒いグリーンドラゴンよりも上だというアンフィス・バエナが、強いドラゴンであることは確実だった。

 

「それじゃあ、そろそろ休憩を終わりにしようか椿」

 

「うむ、そうだなゲド。下層にまで向かうとするか」

 

休憩を終わりにした俺と椿は、18階層から下りていき、中層を進んでいく。

 

今回は宝石樹の下に寄り道をすることはなく、到着した25階層へと続く階段。

 

「次から下層だ。気を引き締めて行くぞゲド」

 

「ああ、油断はしない。下層に行こうか椿」

 

短く会話をして、階段を下りていくと到着した下層。

 

現れた下層のモンスターを相手に俺は「一角」を構えた。



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第10話、断ち切る力

思いついたので更新します


下層のモンスターは中層のモンスターよりも格段に強いが、Lv3で「龍の手」のスキルを使った俺なら危うげなく戦えている。

 

水場がある地形であり、水中からいきなり飛び出してくることが多いモンスター達を相手に俺は、使い慣れてきた長剣の「一角」を振るっていった。

 

下層を流れる川から飛び出してきたレイダーフィッシュを下から逆袈裟斬りにして斜めに斬り裂いていくと、続けて水辺から現れたブルークラブ。

 

真正面から突っ込んできたブルークラブが左右で大きさが違う左右非対称な鋏を振るってきたが、関節の継ぎ目に「一角」の刃を通して左右の鋏を斬り落とす。

 

攻撃手段を失ったブルークラブの足の関節の継ぎ目を斬り、動けなくなったブルークラブは放置して次のモンスターに対して「一角」を構えた。

 

大蛇のモンスターであるアクア・サーペンの頭部を正面から振り下ろした一振りで両断。

 

戦っている最中も周囲の警戒を怠ることはなく、追加で現れるモンスター達に不意を突かれることはない。

 

高速で飛び回る燕型モンスターであるイグアスが突撃してきた瞬間に合わせて素早く「一角」を横に振るい、イグアスを真っ二つに斬り分ける。

 

現れたクリスタルタートルの首を斬り落としておき、連続で倒したモンスター達から魔石とドロップアイテムを回収しておいた。

 

金属蟹とも言うべきブルークラブのドロップアイテムは、ブルークラブの鋼殻であり、防具や武器の素材となるらしい。

 

椿としてはもう少しブルークラブを狩って、ブルークラブの鋼殻を集めておきたいようだ。

 

「もう10体ほど狩ってブルークラブのドロップアイテムを充分に手に入れたなら、手前がゲドに新しい剣を打とう」

 

そう言っていた椿は下層での戦いでも疲れた様子は全くない。

 

「新しい剣を打ってくれるのはありがたいが、俺ばかり優先していて他の仕事は大丈夫なのか?」

 

とりあえず俺は気になっていたことを椿に聞いてみる。

 

「他の仕事は先に終わらせてあるのでな、特に問題はないぞ」

 

にっこりと笑って答えた椿は、鍜冶師としての仕事を疎かにはしていないみたいだ。

 

「ならいいさ。それじゃあ椿に新しい剣を作ってもらえるように、頑張ってブルークラブを沢山倒しておくか」

 

自作しておいたデュアルポーションとエナジーポーションを飲み、スキルを使って消耗した体力と精神力を回復した俺は、鞘に納めていた「一角」を引き抜いて片手で持つ。

 

新しい剣というご褒美が待っているとなると、かなりのやる気が溢れてくるが、それは悪いことではないと俺は思う。

 

「うむ、ゲドなら直ぐにドロップアイテムを集められそうな気がするぞ」

 

頷いていた椿が、俺が倒したモンスターは必ずドロップアイテムを落とすことに気付いているのは間違いない。

 

それでもそのことについて深く追求してこない椿は、良いパーティメンバーだ。

 

その後も下層のモンスターと戦っていき、目当てのブルークラブを10体以上倒して手に入れたドロップアイテムであるブルークラブの鋼殻。

 

新しい剣を作るには充分な量の鋼殻は集まったと判断した椿が「今回は、この程度で下層の探索は終わらせるぞゲド」と言い出す。

 

椿の判断に従って、今回は25階層だけの探索だけで終わらせることになり、俺と椿は上の階層に戻っていった。

 

1度も止まらずに、疲労感を感じたらエナジーポーションを飲みながら移動して、凄まじい速さでダンジョンから出た俺と椿。

 

ギルドで魔石を換金すると下層の魔石は良い値段になり、それなりの額のヴァリスとなる。

 

あまりヴァリスは受け取らない椿にはドロップアイテムを全て渡しておき、俺と椿はそれぞれのファミリアに戻ることにした。

 

新しい剣を作るつもりの椿は、数日間は工房にこもりきりになるだろう。

 

しばらくはソロということになるから、ダンジョンの中層までにしかいけないが、中層の魔石でも良い稼ぎにはなるので問題はない。

 

とりあえず下層で戦ってきた俺なら、ある程度ステイタスが伸びている筈だ。

 

神ミアハにステイタスの更新をしてもらうことにした俺は、普段着に着替えるとミアハ・ファミリアのホームにある神ミアハの自室で上半身裸になり背中を晒す。

 

神血を媒介にして刻まれた神聖文字が宿る背に神ミアハの血が滴り落ちていき、神ミアハの指が背に触れるとステイタスの更新が行われていった。

 

なし遂げたことの質と量の値である経験値、エクセリアによって上昇していくステイタスが更新されていき、背中の神聖文字群が塗り替えられて付け足される。

 

「どうやらまた、新しいスキルが発現したようだぞゲド」

 

そう言った神ミアハから手渡された紙には、更新された俺のステイタスが書き込まれていて、新しいスキルも書かれていた。

 

発現した新しいスキルは「断ち切る力」と書いて「エレメント」と読むらしい。

 

実際にダンジョンで確かめてみる必要がありそうだ。

 

とはいえナァーザと約束したミアハ・ファミリアの店舗の手伝いもあるので、新しいスキルを確かめるのは明日になるだろう。

 

店舗の手伝いをしっかりと行っていき、接客も丁寧に行った俺は、エナジーポーションを買いにきた神ディアンケヒトと少し世間話をしながら、丁寧に商品を梱包して神ディアンケヒトに渡す。

 

そんな神ディアンケヒトは神ミアハにマウントを取れなくなってもミアハ・ファミリアのホームにやってきて、神ミアハにウザ絡みしていくことは変わらない。

 

人がそう簡単に変わらないように、不変の存在である神は、もっと変わらないのだろう。

 

ナァーザはやっぱり神ディアンケヒトが好きではないようで、神ディアンケヒトに対応するのは、だいたい俺か神ミアハになる。

 

俺が相手だと普通のテンションなのに、神ミアハが相手だと若干テンションが高くなる神ディアンケヒトは、わかりやすかった。

 

翌日の朝、以前作ったポーションとエナジーポーションの在庫が残っていたので、今日はポーションとエナジーポーションを作成することはない。

 

俺は全員分の朝食を作ると自分の分を食べてから、ダンジョンへ向かっていく。

 

素早く上層を越えて中層に向かったところで、現れたバグベアーを相手に、俺は新しいスキルである「断ち切る力」を試してみることにした。

 

攻撃を待ち、棒立ちしていた俺に突撃してきたバグベアーが腕を振り上げた瞬間にスキルを発動。

 

バグベアーが振るってきた腕を遮るように、俺を中心として形成されたバリアフィールドのようなものが確かにバグベアーの攻撃を防いでいる。

 

どうやらこれが「断ち切る力」というスキルの力であるようだ。

 

まるで空間の繋がりを断ち切られたかのようにバグベアーの攻撃は俺に届かない。

 

「断ち切る力」は「竜鱗鎧化」と同じく防御用のスキルであるが、性質はかなり違っていた。

 

「竜鱗鎧化」は身体を装甲で覆うことで防御力を上げるが「断ち切る力」は俺を中心にバリアフィールドのようなものを形成して、攻撃自体を身体に届かないようにしてしまう。

 

空間を遮断する「断ち切る力」を使っている間は、俺は守られているが、此方から攻撃することはできないようだ。

 

その点は「竜鱗鎧化」と違っているらしい。

 

防御しながら攻める時は「竜鱗鎧化」を使って攻撃していき、完全に防御だけに集中する時は「断ち切る力」を使うという使い分けをする必要があるかもしれないな。

 

それでも「断ち切る力」が有用なスキルであることは確かだろう。

 

使いこなすことが出来れば下層でも通用するスキルになる筈だ。

 

それからは「断ち切る力」の習熟を行う為に、中層のモンスター達の攻撃を「断ち切る力」を使って受けていく。

 

「断ち切る力」で形成されたバリアフィールドのようなものは、ヘルハウンドの火炎攻撃すらも防ぐことが可能だった。

 

物理的な攻撃以外であっても「断ち切る力」のスキルなら防ぐことできると知れたのは悪いことではない。

 

「断ち切る力」の体力と精神力の消耗は「竜鱗鎧化」よりも少し多いが、自作のデュアルポーションとエナジーポーションがあるなら連続使用は充分に可能だ。

 

それに「断ち切る力」の使い所を間違えなければ、あまり消耗することもないだろう。

 

今回は習熟という目的があったので多用したが、普段のダンジョン探索の時は、必要な時だけ使うようにしておけばいい。

 

「断ち切る力」を上手く発動するタイミングは掴んだので、とりあえず今日は、ミアハ・ファミリアのホームに戻っておく。

 

ホームの店舗ではナァーザの手伝いをして、ポーションの品出しと在庫の確認を行っておいた。

 

ダンジョンでは冒険者として、店舗では店員として、休まず働く忙しい日々をおくっていると、ミアハ・ファミリアのホームに椿がやって来る。

 

「剣が完成したぞ!ゲド!」

 

鞘に納まった長剣を片手に、満面の笑みを浮かべた椿が素早く俺の元へと近寄ってきた。

 

テンションが高い椿は、やはりまた寝ていないようだ。

 

「それがブルークラブの鋼殻で作られた剣だな。受け取っても良いか椿」

 

俺が剣を受け取らないと帰ることはない椿から剣を受け取る為に手を伸ばす。

 

「うむ、受け取れゲド!」

 

徹夜明けで完全にハイになっているテンションで鞘に納めてある長剣を差し出してきた椿。

 

長剣を受け取り、柄を掴むと鞘から引き抜いて剣身を見る。

 

色はブルークラブの鋼殻と同じく青いが、まるでダマスカス鋼のような模様がある剣身。

 

軽く振るってみると強度は、かなりのものであり、刃はとても鋭いようだ。

 

「その剣の名は「渦鋼」だ。手前の渾身の一作だぞ」

 

誇らしげに言った椿が、素晴らしい職人であることは間違いない。

 

「大切に使わせてもらうよ。ありがとう椿」

 

鞘に「渦鋼」を納めて、剣を作ってくれた椿に感謝をしておく。

 

「うむ、使い手がゲドなら、剣を打った手前も安心だ」

 

頷いていた椿は、剣士として俺が剣を大切に使っていることを知っていた。

 

何度もパーティを組んでいると、それなりに互いのことには詳しくなっていたのかもしれない。

 

それはきっと、悪いことではない筈だ。




断ち切る力
出典、アクエリオンEVOL、ジン・ムソウ
ジン・ムソウのエレメント能力であり、エレメント能力とはエレメント候補生達が持つ特殊能力で超能力のようなもの
断ち切る力は空間・現象の繋がりを切断する能力
ジン・ムソウが断ち切る力を発動した時は、バリア状のようなものが形成されて銃弾を防いだ


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第11話、助けを求める誰かの声が聞こえたのなら

思いついたので更新します


新しい長剣である「渦鋼」の代金も椿に支払い、再び下層に向かう為の準備をしていく。

 

各種ポーションを自作するついでにミアハ・ファミリアの店舗で売る為のポーションとエナジーポーションも作成。

 

俺がダンジョンに向かっている間に品切れにならない程度には大量に作っておいたポーションとエナジーポーション。

 

武器と防具の手入れも行い、異常がないか、しっかりと確認しながら手入れをしていった。

 

次はダンジョン内で食べる食料も用意しておき、バスケットに入ったそれをリトルフィートで縮小して鞄にしまう。

 

ダンジョンに向かう為の準備を終わらせて、椿との待ち合わせ場所に行くと、既に椿は待っていたようだ。

 

椿と一緒にダンジョンへ入り、上層から中層の終わりまで一気に駆け抜けていく。

 

到着した下層に繋がる階段を下りると、水場がある下層の地形が見えてきた。

 

25階層にある水場から現れるモンスターを相手に「渦鋼」を振るうと、容易く斬り裂くことが可能であり、どうやら「一角」よりも斬れ味は上であるらしい。

 

素晴らしい長剣である「渦鋼」を作ってくれた椿には、深く感謝をしておくとしよう。

 

デヴィルモスキートを両断し、ライト・クオーツが放ってくるレーザーのような攻撃を避けると、迅速に接近し、ライト・クオーツを「渦鋼」で斬り裂いた。

 

先に進んで26階層に辿り着いたところで、襲いかかってきたマーマンの群れを相手に「渦鋼」を構える。

 

水中のリザードマンとも呼ばれるマーマン達は、天然武器のメイスを装備しているようだ。

 

振るわれるマーマン達のメイスを避けていきながら、マーマン達の頭部に「渦鋼」による突きを叩き込む。

 

すんなりと頭蓋骨を貫通し、マーマン達の脳にまで到達する「渦鋼」の刃。

 

絶命して倒れていったマーマン達から魔石とドロップアイテムを回収しておく。

 

更に現れる下層のモンスター達を相手に、俺と椿は戦いを続けていった。

 

ある程度モンスターを倒し終えたと思っていたら水場から更に現れたモンスターが1体。

 

それは希少種のレアモンスターであるマーメイドであり、出会う確率自体が少ないモンスターだ。

 

襲いかかってくるマーメイドを相手に振るった「渦鋼」で首を斬り落とし、マーメイドを倒した後に魔石とドロップアイテムであるマーメイドの生き血を回収する。

 

マーメイドの生き血は空き瓶に入れて保管しておくことにした。

 

とても貴重なものが手に入ったのは、発展アビリティの幸運のおかげかもしれない。

 

それから27階層まで進んだが、アンフィス・バエナの姿はなく、どうやら下層まで進出が可能なファミリアによって倒されていたようである。

 

階層主は再び現れるまでの期間があるようだが、アンフィス・バエナの場合は倒されてから1ヶ月で再出現するそうだ。

 

とりあえず今日の探索中は、下層にアンフィス・バエナが出現することはないだろう。

 

27階層で現れたイグアスの群れが突撃してきたところで、身体能力と動体視力と反射神経を「龍の手」のスキルで2倍にして、構えた「渦鋼」を縦横無尽に振るい、全てのイグアスを斬った。

 

先に進もうとすると真正面から勢いよく転がってくるクリスタロス・アーチンというトゲが生えた大きな球体。

 

本当にモンスターなのかと疑いたくなるような見た目だが、モンスターであるらしく、避けた此方を追尾してくるクリスタロス・アーチン。

 

「竜鱗鎧化」のスキルを用いて形成された装甲で、転がってきたクリスタロス・アーチンを受け止めた俺は、真正面から「渦鋼」を振り下ろす。

 

力任せに断つのではなく、刃筋を合わせてクリスタロス・アーチンを斬ると、真っ二つに斬り裂かれたクリスタロス・アーチンが、もう動くことはない。

 

クリスタロス・アーチンから魔石とドロップアイテムを拾い上げると、リトルフィートで小さくして鞄にしまっておき、鞄からデュアルポーションとエナジーポーションを取り出した。

 

スキルや魔法を多用したことで消耗した体力と精神力を回復する為に、デュアルポーションとエナジーポーションを飲んでいると「少しいいか」と話しかけてきた椿。

 

「どうした椿」

 

「さきほどクリスタロス・アーチンをゲドが受け止めた際に、ゲドの身体を、スケイルメイルのようなものが覆っていたようだが」

 

「俺のスキルの「竜鱗鎧化」を使うとああなるんだよ」

 

「手前の前で、もう1度そのスキルを使ってみてくれんか」

 

そう頼んできた椿は鍛冶師として「竜鱗鎧化」で形成された装甲に興味があったのだろう。

 

いつも椿には世話になっているので、椿に頼まれたのなら断る理由はない。

 

「これでいいかな」

 

俺が椿の前で「竜鱗鎧化」のスキルを使ってみせると、近付いてきた椿が、形成された鱗のような装甲を触ってきた。

 

「ほほう、これはかなりの強度を持っておるようだな。しかし材質が何で、できておるのか全くわからんぞ。何なのだこれは」

 

「竜鱗鎧化」で形成された装甲を触って強度を確かめている椿は、とても楽しげであり、夢中になって装甲を撫で回している。

 

ヘファイストス・ファミリアの団長である椿から見ても、俺の「竜鱗鎧化」で形成された装甲は、今まで見たことのない珍しいものであるらしい。

 

「試しに1枚剥がしてみても構わんかゲド」

 

続けて言ってきた椿は、この「竜鱗鎧化」で形成された鱗のような装甲を剥がしてみたいようだ。

 

「別に構わないけど装甲を剥がせるかは、わからないぞ」

 

装甲を剥がしてみたいという椿からの頼みを、俺は断ることなく了承してみたが、椿が「竜鱗鎧化」の装甲を剥がせるかどうかはわからないな。

 

「ふんっ!ぬうっ!」

 

渾身の力を込めて「竜鱗鎧化」で形成された装甲を剥がそうとする椿だが、鱗のような装甲は全く剥がれない。

 

「ぬああああっ!」

 

下層で戦っている時よりも必死になって装甲を剥がそうとしていた椿が、とても頑張っていたことは確かだ。

 

「はぁはぁ、駄目か、全く剥がれんぞ」

 

しばらく剥がれるか試してみた椿は、少し息を切らしていて、下層での戦いよりも疲れている。

 

Lv5でも剥がすことができない「竜鱗鎧化」の装甲が凄いということは理解できた。

 

ちょっと疲れていた椿にエナジーポーションを渡しておき、飲むように促していると再び現れるモンスター達。

 

「竜鱗鎧化」を解除して「渦鋼」を構えた俺は、下層のモンスター達を斬り伏せていく。

 

下層を探索しながらモンスター達と戦いながら先へと進んでいき、30階層で現れたブラッドサウルスを倒して魔石とドロップアイテムを回収。

 

ひたすら下層で戦うことになったが、各種ポーションは豊富にあるので問題なく戦えていた。

 

今日のところは、これまでだと判断した椿に従い、エナジーポーションを定期的に飲んで疲労を回復させながら上の階層に戻る。

 

上の階層に戻る道のりを、1度も止まることなく進んだ。

 

到着した18階層の草原で、リトルフィートで小さくしていたテント2つを元の大きさに戻すと、1つを椿に提供して、もう1つを自分用として使う。

 

小さくして鞄に入れておいた食料が入っているバスケットも元の大きさに戻しておき、椿の分も忘れずに渡す。

 

「相変わらずゲドのサンドイッチは、美味いぞ」

 

笑顔でサンドイッチを食べていく椿は、直ぐにサンドイッチを食べ終えてしまった。

 

「そこまで美味しそうに食べてもらえたなら、悪い気はしないな」

 

作った側として思ったことを素直に言っておく俺の肩を、椿が豪快に叩いてくる。

 

「うむ、美味かったぞゲド。いつも用意してもらえて手前は助かっておる。感謝しておるぞ」

 

なんてことを言いながら俺の肩を叩き続ける椿。

 

若干椿の叩く力が強いような気がして、耐久が上がりそうだと思ったりもしたが、椿に悪気はないようなので、されるがままになっておいた。

 

きっとこれが、椿の感謝の気持ちなのだろう。

 

そんなことがあったりもしたが、椿とパーティを組んだことに後悔はない。

 

「それでは手前も仕事をするとしよう。その「渦鋼」の手入れは手前に任せておけゲド」

 

俺が背負っている「渦鋼」を指差して言った椿に、鞘ごと「渦鋼」を渡しておく。

 

鍛冶師として「渦鋼」の手入れを行う椿を見ていると、真剣な表情で椿は剣身を確認していた。

 

「うむ、やはりゲドは剣士としての腕が良いな。剣にかかる負担が最小限になるように、丁寧に使われておる」

 

頷いてそう言うと、剣の手入れを終わらせた椿が「渦鋼」を俺に手渡す。

 

「ありがとう椿」

 

受け取った「渦鋼」は、そろそろテントで眠るので、背に戻さずに手に持っておき、手入れをしてくれた椿に感謝をしておいた。

 

その後、テントで眠ることにした俺と椿は、それぞれ別のテントに入って就寝。

 

翌日、テントをリトルフィートで小さくして鞄にしまうと、18階層から更に上に向かう。

 

手早くダンジョンを出て、魔石をギルドで換金した後に、マーメイドの生き血以外のドロップアイテムを椿に全て渡した。

 

それぞれのホームに戻ることになった俺と椿。

 

椿のことを探していたらしいヘファイストス・ファミリアの団員が「団長に依頼が来てます」と呼びに来た。

 

椿は、これから忙しくなるようなのでパーティは、しばらく組めなくなるだろう。

 

別れ際に椿が、背負っていた1本の剣を渡してくる。

 

どうやらその青い剣は魔剣であるようで、魔剣の名は「氷河」であり、氷結させる魔法を放つことができるらしい。

 

椿が作成した魔剣であることは間違いないようだが、何故これを渡されたのか困惑している俺に椿が言った。

 

「手前の勘だが、ゲドに渡しておいた方が良いような気がしてな。元は階層主のアンフィス・バエナと遭遇した際に、足止めする為に用意していた魔剣だが、常に持ち歩いておけゲド」

 

真剣な表情でそう言う椿は、魔剣が必要になるような事態が来ると思っているようだ。

 

勘というものは、当たることもあれば、当たらないこともある。

 

しかし今回の椿の勘は当たりそうな気がしたので、ありがたく魔剣は受け取っておくことにした。

 

「その魔剣は売り物ではないのでな、代金はいらんぞゲド」

 

魔剣の代金は、どうしようかと思っていたが、今回は支払わなくても良いそうだ。

 

「無事に帰ってこい、手前が言うのは、それだけだ」

 

立ち去っていく椿が言い残した言葉通りに、何があっても無事に帰ってくるとしよう。

 

神ミアハにステイタスの更新をしてもらうと、ステイタスの上昇値が相変わらず凄いことになっていて、既にSにまで到達しているものもあるらしい。

 

下層での戦いによる経験値は、かなり高いのかもしれないが、その分だけ危険でもある。

 

パーティを組んでいない今の状態で下層に向かうことは、自殺行為だと誰でも思う筈だ。

 

そんなことはしないようにしようと決めていた。

 

そう決めていたんだが、翌日、中層に向かった俺は、何故か下層に向かう入り口に近付いてしまう。

 

自分でも何で近付いてしまっているのか不思議なくらいだが、自然と足が向かっていたらしい。

 

踵を返して帰ろうかと考えていた俺の耳に、下層から助けを求める声が届く。

 

「竜の手」のスキルで聴力を2倍にすると、よりはっきりと助けを求める声が聞こえた。

 

下層に向かうのは明らかに自殺行為だと理解していても、俺の足は下層を駆け下りてしまう。

 

助けを求める誰かの声が聞こえたのなら、それを聞かなかったことにはできないからだろうな。

 

崩落で塞がっていた下層へと入る入り口。

 

リトルフィートで塞いでいた全てを小さくして道を開く。

 

開いた道の先で、重傷である眼鏡をかけた女性を抱えている犬人の女性が居た。

 

それ以外にも負傷者は多数。

 

恐らくは1つのファミリアが壊滅に近い状態に追い込まれていた。

 

そして、3つ首のアンフィス・バエナという確実に異常な個体の階層主の姿もある。

 

とりあえず、まずは負傷者達の治療から行う必要がありそうだ。



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第12話、アンフィス・バエナ

思いついたので更新
本日2回目の更新です


自分達ならば大丈夫だと、自信を抱いていた。

 

このヘルメス・ファミリアなら、そして頼れる団長が居るのなら、例え下層であっても問題はないとも思っていた。

 

それが覆るようなことが起こる訳がないと、そう思っていた。

 

階層主であるアンフィス・バエナは倒されていて、再出現する1ヶ月後まで現れることはないという情報も入手していた団長に従い、下層まで向かったヘルメス・ファミリアの面々は楽観視していたのかもしれない。

 

それは下層でのアイテム収集を順調に行えていて、団長の指揮下であったのなら、下層のモンスターとも戦えていたからだろう。

 

目的を達成し、後は帰るだけとなったヘルメス・ファミリアの面々は、気を抜いてしまっていた。

 

上がった先の25階層で、居る筈のない階層主であるアンフィス・バエナと遭遇することなり、ヘルメス・ファミリアの団長は逃走を判断し、指示を出す。

 

団員達が全力で走る最中に、アンフィス・バエナが凄まじい咆哮を上げると、崩落した天井が下層の出入り口を塞いだ。

 

団員達の筋力では崩落した天井を簡単に動かすことは出来ず、直ぐには逃げられないと判断したヘルメス・ファミリアの団長は、団員達が逃げる隙を稼ぐ為にアンフィス・バエナと戦うことを選ぶ。

 

双頭の竜だと聞いていたアンフィス・バエナが3つ首であることは奇妙に思ったが、それでも戦うつもりであった団長。

 

空を飛ぶことが可能な自作のアイテムである靴を用いて空を飛び、アンフィス・バエナの注意を引き付けながら、アイテムで攻撃をくわえていったヘルメス・ファミリアの団長は、3つ首であるアンフィス・バエナの頭を1つ爆発させて消し飛ばすことに成功する。

 

それを見たヘルメス・ファミリアの団員達は、団長なら大丈夫だと信じていた。

 

むしろアンフィス・バエナに団長なら勝ってしまうんじゃないかと思う団員達も少なからず居たことは確かだ。

 

しかし、そんなヘルメス・ファミリアの希望は絶望へと変わる。

 

何故ならアンフィス・バエナの中央の首が光ると、団長が消し飛ばした筈の頭が瞬く間に生えてきて再生されたからだ。

 

そして再生されたその頭は、より強靭に、より強力になっていて、更に素早く動くようになっていただけではなく、新たな能力まで身に付けていた。

 

瞬時に放たれた細く蒼い熱線が、ヘルメス・ファミリアの団長の脇腹を貫く。

 

団長が動きを一瞬止められたところにアンフィス・バエナが噛みつくと、振り回してからダンジョンの壁面に団長を放り投げたアンフィス・バエナ。

 

脇腹にある熱線での貫通傷に、腹部にはアンフィス・バエナに深々と噛みつかれた傷がある団長は、ダメージがある状態でダンジョンの壁面に叩きつけられたことで意識を失ってしまう。

 

ハイポーションを使っても完全には回復しない傷に、止まらない団長の血。

 

アンフィス・バエナをなんとかしようと立ち向かう団員達もいれば、団長を逃がす為に出入り口を塞ぐ崩落した天井を動かそうと頑張る団員達もいた。

 

団長のことを任されたルルネ・ルーイは、ハイポーションを何度も使いながら団長の傷を癒そうとしていたが、治ることはない傷。

 

ルルネ・ルーイ以外の団員達も団長の為に頑張っていたが、1人、また1人とアンフィス・バエナの攻撃に倒れていく。

 

いつしか動けるのが自分だけになっていたことにルルネ・ルーイは気付いた。

 

倒れ伏す団員達、塞がらない団長の傷、1人だけ残されたルルネ・ルーイは思わず誰かに何度も助けを求めてしまう。

 

届く筈がないと思っていたその助けを求める声を、聞いていた男が居たことを、直ぐにルルネ・ルーイは知ることになった。

 

崩落した天井で塞がれていた下層の出入り口が突如として開通し、下層に入り込んできた男。

 

重傷の団長を見て、迷わずマーメイドの生き血を使った治療を施して全快させた男は、ルルネ・ルーイに言った。

 

「助けにきたぞ」

 

 

 

1番の重傷者であった眼鏡の女性を助ける為に必要だと判断して、マーメイドの生き血の回復効果を「龍の手」のスキルで2倍にして使用すると、完璧に治療することができたのは確かだ。

 

恐らくは重度の毒も受けていたので、ポーションだけでは回復することは出来なかっただろう。

 

1人だけ負傷していない犬人の女性は、眼鏡の女性のことを任されていて動いていなかったから、アンフィス・バエナに狙われることが無かったのかもしれない。

 

「その女性は、もう大丈夫だが、ここは危険だ。今の内にその女性を連れて逃げろ」

 

「あんたは、どうすんの」

 

「負傷者は、まだ居るからな治療を施して避難させておく」

 

「あんな化け物がいるのに、どうして逃げないのよ」

 

「助けにきたって言っただろう」

 

それだけ言って負傷者の救助に向かった俺をアンフィス・バエナが攻撃してきたが、放たれる熱線を避けながら、負傷者達を回収していくのは結構大変だった。

 

回収した負傷者に、高品質なハイポーションに「龍の手」のスキルを使って、2倍の回復効果を与えて回復させていきながら、1人1人助けていく。

 

持ち込んでいたハイポーションを全て使い切ったところでちょうど最後の負傷者を治療することができたが、デュアルポーションとエナジーポーションは残り少ない。

 

そして中層に負傷者達を全員逃がす為には、誰かが囮になる必要があった。

 

1番元気に動ける俺が適任だと判断して、アンフィス・バエナと戦うことを決めた俺が、魔剣である「氷河」を振るって水場を氷結させて足場を作ると、アンフィス・バエナに近付いていき跳躍。

 

「閉じてろ!」

 

両手で持った「渦鋼」をアンフィス・バエナの蒼い頭の口を縫い付けるように突き刺して、蒼炎を吐かせないようにした。

 

「今の内に行け!」

 

負傷していた者達は、まだ本調子ではないが、動ける全員が必死に逃げていく。

 

下層に俺とアンフィス・バエナだけになったところで、突き刺していた「渦鋼」を引き抜いた。

 

それから連続でアンフィス・バエナを斬りつけていき、傷だらけになったアンフィス・バエナの中央の首が光ると瞬く間に再生していく傷。

 

蒼い頭は蒼炎で積極的に攻撃、赤い頭は紅い霧を吐き魔法を拡散させて防いで防御、中央の黄色の頭は回復といったところか。

 

攻、防、回復とバランス良く揃っているが、まず最初に斬り落とす必要がある首は、回復だろう。

 

そう考えていた俺に、水上でも燃え続けるという蒼い炎のブレスが近付いてきた。

 

俺はスキルである「断ち切る力」を使い、自身に迫る蒼炎と俺の間にバリアフィールドのようなものを形成して防ぐ。

 

その間に、最後のデュアルポーションとエナジーポーションを飲んでおき、体力と精神力の回復を行っておくと、今度は「竜鱗鎧化」のスキルを使用する。

 

形成された竜の鱗のような装甲に覆われた身体は、大抵の攻撃を防ぐことが可能だ。

 

燃え続ける蒼炎の中を突っ切り、アンフィス・バエナに近付いた俺は、次に「竜の手」のスキルを用いて身体能力と跳躍力を2倍にするとアンフィス・バエナの背に飛び乗った。

 

左右の首を動かして此方に攻撃をしようとするアンフィス・バエナの噛みつきを回避して、辿り着いた首の根元で、中央の首を斬り落とす。

 

激しく暴れまわり咆哮を上げるアンフィスバエナから振り落とされないように、長剣である「渦鋼」を背に突き刺して耐えていた。

 

アンフィス・バエナの咆哮によって天井が崩落し、下層の出入り口が再び閉じられてしまう。

 

背中にいる俺ごと潜水しようとしたアンフィス・バエナに突き刺していた長剣を引き抜き、背から飛び降りて避難すると水に潜ったアンフィス・バエナ。

 

潜水していたアンフィス・バエナが再び顔を出したところで魔剣である「氷河」を再び振るい、割れていた氷の足場を再び氷結させて道を作った。

 

蒼い頭から連続で放たれる蒼い熱線を避けながら進み、渾身の力を込めた斬撃で、蒼い頭を生やしている首を斬り落とす。

 

最後に残った赤い頭を生やしている首を斬り落として、終わったかと思っていたら、中央から新たな頭が生えてきた。

 

新たな紫色の頭が生えると、熱線も炎も吐けて、魔法を拡散する紅い霧を身体中から噴出することも可能になっていたアンフィス・バエナ。

 

紅い霧を目眩ましとして大量に噴出させてきたことで、アンフィス・バエナの姿が見えないような状態になっていたが、何も問題はない。

 

次にアンフィス・バエナが行う攻撃が噛みつきであると予想していた俺は「竜鱗鎧化」のスキルを発動して全身を装甲で覆う。

 

ついでに「龍の手」のスキルも使って「竜鱗鎧化」の強度も2倍にしておいた。

 

現れたアンフィス・バエナの頭が予想通り噛みついてくる。

 

紫色の頭のアンフィス・バエナの噛みつきは、俺の「龍の手」のスキルで強化された「竜鱗鎧化」で形成された装甲が軋みを上げる程に強力だったが、それでも何とか突破されてはいない。

 

「龍の手」のスキルで強化されていなければ、突破されて喰いちぎられていたかもしれないが、そうなっていないなら俺の勝ちだ。

 

噛みつかれた状態で「渦鋼」を振るい、アンフィス・バエナの口を裂く。

 

噛みついていたアンフィス・バエナの顎の力が完全に抜けたところを見計らって、噛みつきから脱出すると、怯んだアンフィス・バエナに近付いていった。

 

放たれた熱線を避けながら駆けると、アンフィス・バエナが暴れまわったことで宙に浮いた氷塊を踏み台に跳躍。

 

全力の力を込め、そして刃筋を合わせた「渦鋼」の一撃。

 

それがアンフィス・バエナの最後の首を斬り落とした。

 

今度こそ完全に倒すことができたアンフィス・バエナから魔石とドロップアイテムを回収しておき、リトルフィートで塞がれていた下層の出入り口を開通させると、俺は階段に座り込んだ。

 

流石に今回は、かなり疲れたが、誰も死なせていないなら俺の勝ちだろう。

 

ゆっくりと帰ることにするが、そういえば助けたファミリアが、どこのファミリアか聞いていなかったな。

 

まあ、助けられたのならどこのファミリアだろうと構わないか。



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第13話、ムードメーカー

思いついたので更新します
ムードメーカーをスキルにするか魔法にするか悩みましたが、こんな形になりました



疲れた身体でダンジョンを抜けてミアハ・ファミリアのホームに戻ってきたが、今日は接客ができそうにないので先に休むことを神ミアハに伝えておく。

 

「うむ、しっかり休めゲド」

 

「そうしますよ神ミアハ」

 

短く会話を交わして、自室に戻った俺は装備を外して普段着に着替えると、ベッドに倒れ込んで泥のように眠った。

 

翌日の朝、朝食を作ろうかとキッチンに向かってみると、既にナァーザが朝食を作っている真っ最中であり、皿の用意を手伝おうとすると「ゲドは休んでて良いよ」と言ってきたナァーザ。

 

「ゲドは座っていなさい、私がやるのでな」と席に座っているように言われたので、神ミアハが皿の用意をしていく姿を座って見ていると、朝食が用意されていった。

 

朝食を食べ終えたところで皿洗いをしようかと思っていたら「それも私がやろう、ゲドは部屋でゆっくり休んでいなさい」と言った神ミアハは手早く皿を片付ける。

 

やけに神ミアハとナァーザが優しいあたり、俺がとても疲れていたことを気にしてくれていたのかもしれない。

 

とりあえず今日はありがたく部屋で休ませてもらうとしようか。

 

ゆっくりと部屋で休んでいると疲れはだいぶ取れてきたので、動いても問題はなさそうだ。

 

神ミアハの自室を訪れて、ステイタスの更新をしてもらうと、やはりランクアップが可能になっていたらしい。

 

異常な個体の亜種といえるアンフィス・バエナと、多数の負傷者を助けた後に戦って勝ったことは偉業だったということなのだろう。

 

選べる発展アビリティは、剣士、頑強、神秘の3つであり、レアアビリティである神秘が特に気になった。

 

という訳で神秘を選び、ランクアップした俺は、Lv4ということになる。

 

そしてLv4になった俺には新たな魔法も発現していたようだ。

 

魔法の名前は「ムードメーカー」であり、詠唱の1つは「心理之王、御調子者、調子者、道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」というものだった。

 

どうやら詠唱を途中で変えると効果が変わるという特殊な魔法であるらしい。

 

詠唱の後に、魔法の名前を言うと発動するみたいだが、この「ムードメーカー」が名前を言っただけで発動する速攻魔法じゃなくて良かったと思う。

 

「ムードメーカー」と言っただけで発動してしまうような速攻魔法だったら、会話する度に「ムードメーカー」と言わないように気をつけなくてはいけなくなっていたことは確かだ。

 

それはとても面倒だから嫌だな。

 

「ムードメーカー」が詠唱のある魔法で本当に良かった。

 

この「ムードメーカー」という魔法の効果の1つは、1人1人に1日1回だけ使える運命の改変というものである。

 

1人1人に1日1回だけということは、誰か1人に使った後でも他の人になら1回使えるということになる筈だな。

 

精神力を回復できる手段さえあれば、大勢の人の運命を変えることが可能になるだろう。

 

「ムードメーカー」は運命の改変という凄まじい効果がある魔法でもあるが、使い所を間違えないようにしなければいけない。

 

悪用をするつもりはないが、必要な時だけ使うようにしておいた方が良さそうだ。

 

運命改変以外の他の効果は、思考加速、不測操作、空間操作、多重結界であるようで、魔法詠唱を途中で変えればそれぞれの効果が発動するらしい。

 

共通しているのは「心理之王、御調子者、調子者」という前半の詠唱だけであり、その後に「箒星よ、歩みを速めよ」で思考加速。

 

「恒温の星よ、その熱を燃やせ」で不測操作。

 

「流れる星よ、空を開け」で空間操作。

 

「眩い星よ、重なりあえ」で多重結界が発動するようだ。

 

新たな魔法について思うことは沢山あるが身体の調子は問題ないので、椿に魔剣を渡してくれた礼を言いにいくことにした俺は、鞄にアンフィス・バエナのドロップアイテムを入れると、普段着のまま椿の工房に向かう。

 

工房では、ちょうど1つの鍛冶仕事を終わらせた椿が休憩しているところだった。

 

「ゲドか、どうしたのだ」

 

「魔剣が役に立ったから、礼を言いに来たんだ。おかげで死ぬことなく無事に帰ってこれた。ありがとう椿」

 

「うむ、手前の打った魔剣が役立ったならそれで良い。こうしてゲドが無事に帰ってきたなら問題は何もないぞ」

 

そう言って嬉しそうに笑った椿は俺が無事に帰ってきたことを喜んでくれていたようだ。

 

そんな椿にだからこそ、俺からの礼として渡しておきたいと思ったアンフィス・バエナのドロップアイテム。

 

「これを受け取ってくれ椿」

 

鞄から取り出して椿に差し出したアンフィス・バエナの竜肝。

 

燃焼材として優れているアンフィス・バエナの竜肝は、鍛冶師にとっては悪いものではない。

 

「これは、アンフィス・バエナの竜肝か。ゲドは戦ったのだなアンフィス・バエナと」

 

「ああ、椿に渡された魔剣があったから戦うことができた」

 

「アンフィス・バエナに勝ったということは、ランクアップが可能になったのではないか」

 

「もうLv4にはランクアップしているが、これで下層の探索が楽になりそうな気がするな」

 

「うむ、それはそうなるであろうな。Lv3でもあれだけ戦えていたゲドであればLv4になったのなら、より安定して戦えるようになる筈だぞ」

 

「ランクアップするまでが大体1ヶ月程度なんだが、それだけ色々なことが短期間に凝縮されているような気がするのは、気のせいでは無さそうだ」

 

「確かにゲドがLv4にランクアップするまで半年も経過しておらんからな。しかしそれだけの偉業は確実に達成しておるから不思議ではないと手前は思うぞ」

 

俺の異常なまでの速度のランクアップに驚いてはいるようだが、納得していた椿。

 

以前パーティを椿と組んでいた時に、間違いなく強い黒いグリーンドラゴンと俺が戦う所を実際に見ていたからこそ、すんなりと椿は納得できたのだろう。

 

「それじゃあ、俺はランクアップの報告でギルドに向かうんでな、今日はこれで失礼するぞ椿」

 

「うむ、アンフィス・バエナの竜肝はありがたく貰っておくぞ。それと手前は鍛冶師の仕事が幾つかあるのでな、悪いがしばらくパーティは組めんぞゲド」

 

「椿の本職は職人だからな、そちらを優先するのが当たり前なんだから仕方ないと思っておくさ」

 

申し訳なさそうな椿に、そう伝えておき、椿の工房を後にした俺はギルドに向かった。

 

Lv4にランクアップしたということをギルドの担当アドバイザーの人に伝えておくと、驚くよりも納得していた担当の人。

 

「そろそろきみがランクアップするんじゃないかなと思ってたところだよ」と言ったギルドの担当アドバイザーの人は、いつも通りに何処か遠くを見るような目をしている。

 

「それで、何をしたのかな」

 

エナジーポーション片手に聞いてきたギルドの担当アドバイザーの人は、直ぐに飲めるようにエナジーポーションを事前に準備していたようだ。

 

「3つ首で異常な個体だったアンフィス・バエナの亜種からの攻撃を避けながら大勢の負傷者を助けた後に、その亜種のアンフィス・バエナを1人で倒しました」

 

俺はギルドの担当アドバイザーの人に、一切嘘をつくことなく正直に答えておく。

 

俺の答えを聞いたギルドの担当アドバイザーの人は、一気にエナジーポーションを飲み干すと、深々とため息を吐いた。

 

「どうしてそんなのと遭遇するのと言いたいところだけど、きみだからなあ」

 

そう言いながら諦めたかのような顔をしたギルドの担当アドバイザーの人。

 

「うん、まあ、それだけのことをしたならランクアップするのは当然だね」

 

続けて言ったギルドの担当アドバイザーの人は、ランクアップしたことについては当然だと思ってくれたらしい。

 

「Lv4では、まだ深層には行けませんが、一応念の為に深層のモンスターについて教えてくれませんか」

 

「きみになら教えておいても無駄にはならなそうだから、教えるのは問題ないよ」

 

頼んでみると、快く深層のモンスターについて教えてくれたギルドの担当アドバイザーの人に感謝をしておき、ギルドを去った俺は、ミアハ・ファミリアのホームへと戻る。

 

ミアハ・ファミリアのホームである店舗では忙しそうにしていた神ミアハとナァーザの姿があった。

 

どうやら今日は客が多いらしい。

 

神ミアハとナァーザだけでは大変そうなので俺も手伝っておくとしよう。

 

接客、品出し、在庫確認に、ポーション作成、手伝えることを全て行っておくと、大勢の客がポーションやエナジーポーションを購入して帰っていく。

 

だいぶ人の波が落ち着いたところで、作成したエナジーポーションを明らかに疲れている神ミアハとナァーザに渡しておいた。

 

一気にエナジーポーションを飲み干して一息ついていた神ミアハとナァーザ。

 

エナジーポーションを売り出すようになってから、冒険者以外の客もよく来るようになり、賑わうことになったミアハ・ファミリアのホームの店舗。

 

借金も無くなったことで売り上げをかなり貯金することができているミアハ・ファミリアは、だいぶ安定して稼げている医療系ファミリアである筈だ。

 

それでも新たに入団希望者が現れないのは、ミアハ・ファミリアには借金のイメージがまだあるからかもしれない。

 

そんなイメージがあったとしてもこのミアハ・ファミリアに入団したいと純粋な気持ちで思ってくれる人が現れたのなら、俺は歓迎しておこう。

 

まあ、そんな人は、そう簡単には現れないような気がするがな。

 

ミアハ・ファミリアの店舗での仕事を終わらせて、全員で夕食を食べた後、部屋に戻った俺は発展アビリティの神秘を用いたマジックアイテム作成を試してみることにする。

 

薬品系のアイテムは「創薬師」のスキルを使えば簡単に作成できるので、役立ちそうなマジックアイテムを作成することにした。

 

試行錯誤を繰り返したが、なかなか思うようなマジックアイテムは作成できていない。

 

マジックアイテム作成は、そう簡単な道のりではないようだ。

 

神秘も万能という訳ではなく、幾つか段階を踏んで、マジックアイテム作成が可能になるということだろう。

 

神秘を用いたマジックアイテム作成を教えてくれるような人に、そう都合よく出会えるかどうかはわからない。

 

まあ、マジックアイテム作成は特に急いでいる訳ではないから、暇な時に少しずつ進めていくとしようか。




ムードメーカー
出典、転生したらスライムだった件、ガビル
心理之王と書いてムードメーカーと読むガビルのスキル
知覚速度を早める思考加速、運命を改変する運命改変、気分が高揚している時に攻撃力を上昇させる不測操作、1度行ったことがある場所に空間転移で自由に移動ができる空間操作、様々な効果の結界を重ね合わせてあらゆる攻撃に備えることが可能な多重結界という5つの能力があるようだ
その中でも運命改変は、1日1人には1回だけという制限があるが運命を改変することが可能であり、自身の死の運命などを改変して無かったことにすることができる


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第14話、ヘルメス・ファミリア

思いついたので更新します


鍛冶師として忙しそうにしている椿とは、しばらくパーティを組めないので、俺は新たに発現した魔法である「ムードメーカー」の効果の検証を、ダンジョンの中層で行いながら日々を過ごす。

 

詠唱を変えると効果も変わる特殊な魔法の「ムードメーカー」は精神力の消費が、それぞれの効果によって違っているようだ。

 

運命改変が特に精神力の消費が多く、1番消費が少ないのは、気分が高揚している時に攻撃力を上昇させることが可能な不測操作であった。

 

しかし、特に気分が高揚していない時に使うと無駄に精神力を消費するだけとなる不測操作は、使い所が難しい効果だろう。

 

常に気分が高揚している訳ではないので、自身を強化する時は「龍の手」のスキルを使った方が、使い勝手が良い。

 

不測操作以外の効果は精神力の消費が高いが便利な効果が揃っていて、中でも戦闘に役立つのは思考加速と運命改変に多重結界といったところになる。

 

知覚速度を引き上げる思考加速を使えば、どんな行動をするか判断する速度を早めることができて、戦闘中でも判断を誤ることが無くなる筈だ。

 

死の運命すらも改変することが可能な運命改変があれば、戦闘で受けた致命傷すらも無かったことにすることが可能だろう。

 

様々な効果の結界を重ね合わせてあらゆる攻撃に備えることができる多重結界を使えば、大規模なモンスターの攻撃を防ぐことも不可能ではない。

 

戦闘以外に役立つのは間違いなく空間操作だが、1度行ったことがある場所なら何処にでも自由に移動が可能になる空間転移ができることは、あまり公にはしない方が良さそうだ。

 

この空間操作の効果がバレると、明らかに面倒事になるのは間違いないな。

 

信頼できる相手以外には教えないようにしておこう。

 

教えても大丈夫なのは神ミアハとナァーザと椿くらいだろうか。

 

ギルドの担当アドバイザーの人には黙っておくかな。

 

担当アドバイザーの人は信頼できるとは思うが、ギルドの上が信頼できないから仕方がない。

 

黙っておいた方が良いと俺の勘も言っているので、それに従っておくとしよう。

 

中層で魔法の検証を行いながらモンスターとも戦ってみたりもしたので、一応神ミアハにステイタスを更新してもらうことにした。

 

Lv4

 力:H130

耐久:I98

器用:G257

敏捷:H170

魔力:F369

幸運:F

耐異常:G

神秘:I

 

《魔法》

 

【リトルフィート】速攻縮小魔法

 

【スティール】速攻窃盗魔法

 

【ムードメーカー】詠唱変化魔法

 

詠唱前半

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

詠唱後半

 

「箒星よ、歩みを速めよ」思考加速

 

「道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」運命改変

 

「恒温の星よ、その熱を燃やせ」不測操作

 

「流れる星よ、空を開け」空間操作

 

「眩い星よ、重なりあえ」多重結界

 

《スキル》

 

【龍の手】

・あらゆるものを倍加する

 

【創薬師】

・薬品作成時、発展アビリティ創薬と薬師の一時発現

・作成した薬品の品質向上

 

【竜鱗鎧化】

・体表に魔素を吸収して自己修復する装甲を形成する

・耐久に応じて強度上昇

 

【断ち切る力】

・周囲の空間を断ち切る

・攻撃には使用できない

 

ステイタスはこんな感じになったが、魔力の伸びが良いのは魔法を沢山使ったからだろうな。

 

魔力以外だと器用の伸びが悪くないのは、長剣を振るう時に力任せではなく技を用いて振るい、長剣を長持ちさせるように扱っているからなのかもしれない。

 

中層でも伸ばせるステイタスがあるならガンガン伸ばしていきたいところだ。

 

マインドポーションを多目に持っていって、精神力の回復をしながら、精神力の消費が多い魔法を連続で使っていけば、魔力を更に伸ばせそうな気がする。

 

そんな直感に従って、中層でひたすら「ムードメーカー」の魔法を使いまくってみた。

 

運命改変と空間操作以外の効果を発動させていき、精神力をギリギリまで消費していく。

 

それだけではなく中層のモンスターとの戦闘も行っていき、スキルも武器も使わずに素手で倒してみたりもしたが、そちらも多少は効果があったようだ。

 

Lv4

 力:H130→G221

耐久:I98 →H134

器用:G257→F382

敏捷:H170→G295

魔力:F369→C673

 

ステイタスを神ミアハに更新してもらうと魔力が大幅に上がっており、器用と敏捷も中々の上がり具合となった。

 

やはり精神力の消費が高い魔法を使いまくると魔力の伸びが良いみたいだ。

 

とはいえマインドポーションの材料費もタダではないので、安定して稼げるようになっていなければできない方法だろう。

 

今はソロでも中層で稼げているから問題はないので、魔力のステイタスを大幅に伸ばすことができるのなら、またやってもいいかもしれないな。

 

ミアハ・ファミリアのホームの店舗で色々と手伝いも行いながらダンジョンでマインドポーションの材料費を稼ぐ日々をおくっていると、店舗に来客が現れた。

 

見覚えのある犬人の女性と眼鏡をかけた女性は、以前ダンジョンの25階層で俺が助けた女性達であることは間違いない。

 

こうして無事な姿を見ていると、あの時助けられて良かったと俺は思う。

 

「居たよ、団長!アンフィス・バエナから助けてくれたのはあの人で間違いない!」

 

そう言いながら此方を指差してくる犬人の女性。

 

「そうですか、ようやく見つかりましたか。もう帰っていいですよルルネ。後は私が団長として、お礼を言います」

 

ルルネという名前である犬人の女性を帰らせようとしている眼鏡の女性は、どうやらファミリアの団長でもあるらしい。

 

「何でよ!あたしもお礼言いたいのに!」

 

「貴女が余計なことまで言いそうだからです。早く帰りなさいルルネ。怒りますよ」

 

「ううっ、わかったわよ」

 

「寄り道しないで帰りなさい」

 

不満がありそうだった犬人の女性に帰るように命じて、手早く帰らせた眼鏡の女性が此方に近付いてくる。

 

「お名前を聞かせてもらってもよろしいですか」

 

「ゲド・ライッシュと申しますが、貴女は?」

 

「私はアスフィ・アル・アンドロメダ。ヘルメス・ファミリアの団長を務めているものです」

 

「ヘルメス・ファミリアの団長は万能者という2つ名を持っている高名なアイテムメイカーだと聞いていますよ」

 

「此方も竜殺しの魔帝の噂は聞いていましたが、まさかあの異常な個体のアンフィス・バエナまで倒してしまうとは思ってもみませんでした」

 

「かなり疲れましたけどね」

 

「ヘルメス・ファミリアが無事に生きて戻れたのは戦ってくれた貴方のおかげです。心から感謝します。ありがとうございました」

 

深々と頭を下げてきたアスフィ・アル・アンドロメダさんは、ヘルメス・ファミリアの団長として頭を下げていた。

 

「感謝は受け取りました。頭を上げてください。これでご用件は終わりですか?」

 

「いえ、ファミリアの団長として感謝だけを伝えて終わりではありません。救援の際に使用していただいた物資についても補償を行わなくては、適正価格でお支払いします」

 

「ハイポーション26本に、マーメイドの生き血がありますから結構な金額になると思いますが」

 

「うっ、ちなみにマーメイドの生き血は、どの程度の量を使用したのでしょうか」

 

恐る恐る聞いてきたアスフィ・アル・アンドロメダさんは、使用されたマーメイドの生き血の正確な量を知りたいようだ。

 

「この瓶になみなみ一杯分くらいですね」

 

試験管のようなポーションの瓶が2本入る程度の大きさがある瓶を見せておき、使用されたマーメイドの生き血がどれだけの量だったか教えておく。

 

「そこまで使われてたなんて聞いてないわよルルネ!」

 

既にこの場には居ない犬人の女性に怒っていたアスフィ・アル・アンドロメダさんは、マーメイドの生き血が治療に使われたことは知っていても、大量に使われたことまでは知らなかったらしい。

 

「失礼、取り乱しました。直ぐに支払える金額ではないので、少々お時間をいただきたいのですが」

 

「治療は勝手に俺がやったことですから支払ってもらわなくても別に構わないですよ」

 

「いえ、そういう訳にはいきません。貴方は私の命の恩人でもあるのです。助けてもらった礼は言葉だけでは足りません。是非とも受け取っていただかなくては!」

 

礼を受け取ると言わないと帰りそうもないアスフィ・アル・アンドロメダさんは、熱意がある人であることは確かだ。

 

しかし、大量のマーメイドの生き血の適正価格は、そう簡単に支払える額のヴァリスではない。

 

ヘルメス・ファミリアでも支払いには苦労するだろう。

 

という訳で、使用したアイテムの適正価格であるヴァリスを貰うことよりも興味があることを、俺はアスフィ・アル・アンドロメダさんに提案してみることにした。

 

「実はランクアップした時に、発展アビリティで神秘を取得したんですが、アイテム作りが中々上手くいかないんですよ。高名なアイテムメイカーである貴女に、アイテムの作り方を是非とも教わりたいんです。それを謝礼金代わりにしてくれませんか」

 

「なるほど、私の技術をお望みでしたか。それならば全力でお教えしましょう!まず最初は基本的な魔道具の作り方から教えていきますが、徐々に発展させていきますのでよろしくお願いします!」

 

俺の提案を快く引き受けて、やる気に満ち溢れたアスフィ・アル・アンドロメダさんが、魔道具の作り方を教えてくれるようなので、教わりながら徐々に作り方を覚えていくとしよう。

 

とりあえずこれならどちらも損はしていないような気がするな。

 

まあ、アイテム作りの先生が見つかったことは俺にとっては嬉しいことだ。

 

作りたいアイテムが作れるようになるまで頑張っていこうか。



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第15話、アスフィ・アル・アンドロメダ

思いついたので更新します




アスフィさんに教わりながら魔道具を作成していくと、しっかりとした魔道具を作ることができた。

 

やはり何もわからない中で手探りに進めるよりも、ちゃんとした作り方を教えてもらえる方が上手くいくことは確かだ。

 

目標としている魔道具は完成していないが、動力に魔石を使用する冷蔵庫のような魔道具を作ることができたので、ポーションの素材の保管に使用してみると、素材を長持ちさせることが可能になったらしい。

 

アスフィさんによる魔道具作りの指導は週に5回とかなりの回数であるが、教わる度に技術が向上していくことがわかる。

 

指導を受ける度に1歩1歩、目標とする魔道具の完成に近付いていることは間違いない。

 

魔道具の作成に使う為、ダンジョン内に素材の採取に向かう時もあり、その時はアスフィさんとパーティを組むことになった。

 

近距離では短剣を使用し、中距離では様々な効果の薬品を投げて戦うアスフィさん。

 

その動きは明らかにLv3の動きではない。

 

ギルドに報告しているLv3というレベルよりも強いアスフィさんが、間違いなくLv4であるとわかる。

 

そのことを指摘してみると「レベルを低く偽装しているのは主神からの指示です」とアスフィさんは答えた。

 

神ヘルメスが何を考えているかはわからないが、何か理由があるのだろう。

 

とりあえず俺はアスフィさんがレベルを低く偽装していることはギルドに黙っておく。

 

世話になっている相手に不義理なことをするつもりはない。

 

魔道具作成者でありながら、実際はLv4の冒険者でもあるアスフィさんの主神である神ヘルメスは、今現在オラリオには居ないようだ。

 

ファミリアのことは団長のアスフィさんに任せきりで、オラリオの外を放浪している神ヘルメス。

 

奔放な神ヘルメスのせいで、アスフィさんやヘルメス・ファミリアの面々はステイタスの更新がしばらくできていないらしい。

 

そんな神ヘルメスに対する愚痴のようなことを吐き出してくれる程度にはアスフィさんと仲良くなれたとは思う。

 

とはいえ神ヘルメスが信頼できる神であるとは限らないので、文句を言いながらも神ヘルメスには眷族として従うであろうアスフィさんの前では、運命改変や空間操作を使わないようにしておいた。

 

そうした方が良いと俺の勘が言っていたからでもあるが、この判断が正しかったのは間違いない。

 

アスフィさんが近況を報告する手紙を神ヘルメスに送ってから2週間後、オラリオに戻ってきた神ヘルメスを連れてミアハ・ファミリアのホームにまでやってきたアスフィさん。

 

明らかに疲れたような顔をしていたアスフィさんは、神ヘルメスに振り回されていたのかもしれないが、頑張ってくださいとしか言えないな。

 

俺がそんなことを思っていると神ヘルメスが話しかけてきた。

 

「きみがゲド・ライッシュだね。俺はヘルメス。可愛い俺の眷族達が助かったのはきみのおかげだ。主神として礼を言わせてもらうよ、ありがとう」

 

被っていた帽子を外して真面目な顔でそう言った神ヘルメスだったが、値踏みするような視線は隠せていない。

 

接触してきた神ヘルメスの目的が何なのかはわからないが、この神とはあまり関わらない方が良いということは理解できた。

 

「感謝は受け取りました。ご用件は、それだけですか神ヘルメス」

 

「ミアハ・ファミリアは、かなりの借金があった筈だが、きみが全て返済したそうじゃないか。どんな手を使ったのかな」

 

笑みを浮かべながら聞いてくる神ヘルメスは、ミアハ・ファミリアの借金が全額返済されたことについて、ある程度の情報を掴んでいたみたいだが、全てを知っている訳ではないようだ。

 

だからこそ、俺に対して直接探りを入れてきたのだろう。

 

「運が良かっただけですよ」

 

全てを正直に教える必要はないと判断して、俺は嘘を言わずにそれだけ答えておく。

 

「運が良かったか、なるほど、嘘は言っていないようだね」

 

笑みを更に深める神ヘルメスは、俺から視線を外すことはない。

 

にやけた顔を隠そうともしていない神ヘルメスは、とても楽しそうだ。

 

そんな神ヘルメスの後頭部にアスフィさんの拳が叩き込まれた。

 

後ろからの一撃に思わず倒れそうになった神ヘルメスを俺は一応支えておいたが、アスフィさんは普通に容赦なく言い放つ。

 

「邪魔ですから今日はもう帰ってくださいヘルメス様!私がゲドくんに魔道具作りを教える時間が無くなってしまいます!」

 

眷族であるアスフィさんに、そう言われた神ヘルメスは後頭部を擦りながら、にやけ面を引っ込めると真剣な顔で言った。

 

「そうか、アスフィにもようやく春が来たか」

 

「もう一発!」

 

真剣な顔でふざけたことを言った神ヘルメスの顔面を、固く握り締めた拳で容赦なく殴ったアスフィさん。

 

ぶん殴られた神ヘルメスが普通に吹っ飛んだあたり、結構な威力が込められていたらしい。

 

とりあえず吹っ飛んだ神ヘルメスを回収しておいた俺は、念の為に神ヘルメスにポーションを渡しておく。

 

ポーションを飲んだ後、流石にこれ以上アスフィさんに殴られたくなかったのか素直に帰っていった神ヘルメス。

 

「あの神が言ったことは気にしないでくださいねゲドくん。さあ、今日も魔道具の作成を頑張りましょう」

 

神ヘルメスに見せた怒りの顔から一変して、穏やかな顔で言ってきたアスフィさんは、いつもより指導が優しかった。

 

やけに指導が優しい理由は、ファミリアの主神である神ヘルメスが迷惑をかけたと思っていたからかもしれない。

 

そこまで気にしなくても良かったんだが、アスフィさんは気にしてしまったのだろうな。

 

まあ、優しいとしてもしっかりと指導はしてもらえているので、問題はないと思う。

 

今日もアスフィさんに教わりながら魔道具を作成していくと、完成した作品は、水を凍らせることが可能な魔道具。

 

簡単に氷を作ることが可能なこの魔道具は、暑い日にはとても便利になる。

 

そして、水を凍らせることができるなら、水場があるダンジョンでの戦いを有利にすることも可能な筈だ。

 

発想次第で様々な使い方が思い浮かぶ魔道具だった。

 

俺が目標とする魔道具には程遠い魔道具ではあるが、徐々に近付けてはいるので、この調子で進んでいくとしよう。

 

最近はアスフィさんとパーティを組んでいることを、ギルドの担当アドバイザーの人にも伝えておくと「今度はヘルメス・ファミリアの団長と組んでるんだね」と遠い目をしていたな。

 

「まあ、Lv3のアスフィさんが一緒なら、きみはLv4だし下層にも行っていいと思うよ」

 

担当アドバイザーの人は、アスフィさんとパーティを組んでいるなら下層に向かっても問題ないと許可を出してくれた。

 

許可も出たので、魔道具の材料採取の為にアスフィさんと下層にまで向かう。

 

アスフィさんは神ヘルメスにステイタスの更新をしてもらったらしく、動きが段違いになっていて以前とは別人のようだ。

 

下層のモンスターとも危うげなく戦えているアスフィさんは、ギルドに報告してはいないようだがLv4でも上位の実力者となったのかもしれない。

 

そして俺もLv4になっているので、スキルを使わずとも下層のモンスターと普通に戦えるようになっていた。

 

下層での材料採集を終えて、エナジーポーションを飲みながら休まずに進み、ダンジョンを出ると直ぐに魔道具の作成に移っていく。

 

そんな日々を過ごしながらもミアハ・ファミリアのホームの店舗で仕事を手伝っていき、ポーションやエナジーポーションを作成していった。

 

材料採取が目的だとしても下層の探索を行っているので、更にステイタスが伸びていると判断した俺は、忙しくてしばらく更新していなかったステイタスを神ミアハに更新してもらう。

 

Lv4

 力:G221→D510

耐久:H134→E499

器用:F382→B726

敏捷:G295→C667

魔力:C673→A851

 

更新していなかったステイタスは全体的に伸びており、魔力はAにまで到達していたみたいだ。

 

少し低い力と耐久を伸ばせるように頑張ってみるのも悪くはない。

 

次に下層に向かった時は、力と耐久を伸ばせるように立ち回ってみるとしよう。

 

教わりながらの魔道具作成は毎週毎週続いていき、少しずつ目標へと前進していく日々。

 

雪を生み出す魔道具を作成することに成功したが、目標とする魔道具の完成には、まだまだ遠い。

 

ダンジョンで材料採取をしては魔道具を作成していくと、部屋が魔道具で一杯になってきていた。

 

とはいえ貴重な魔道具でもあるので処分する訳にもいかないのが困り所だ。

 

リトルフィートで小さくしておき纏めてはあるが、それでも部屋が手狭になってきている。

 

どうしようかと思っていたところに、アスフィさんが「この魔道具達はヘルメス・ファミリアで引き取りましょうか」と言った。

 

「助かりますがいいんですか」

 

「ええ、此方としても面白い魔道具が沢山手に入ることは悪いことではありませんから」

 

笑顔でそう言っていたアスフィさんは、俺が作成した魔道具に興味を持っているようだ。

 

小さくした魔道具達をヘルメス・ファミリアにまで運んでから、元の大きさにまで戻しておく。

 

「それではこれが代金です」

 

なんてことを言いながらヴァリスを俺に渡そうとしてきたアスフィさん。

 

「売り物を作った覚えはありませんが」

 

「では、運び賃ということで受け取ってくださいゲドくん」

 

「それにしては明らかに多いような気がしますよ」

 

「感謝の気持ちということで受け取ってください」

 

ヴァリスが入った袋を持ちながら徐々に距離を詰めてくるアスフィさんの距離が物凄く近かった。

 

「わかりました。受け取りますから離れてください。近いです」

 

俺が袋を受け取ると素直に離れていったアスフィさん。

 

目的を達成する為なら手段を選ばなくなってきているような気がするアスフィさんは、少し変わってきているのかもしれないな。

 

「それじゃあ今日は、これで失礼しますねアスフィさん」

 

「明日、ミアハ・ファミリアにまで向かいますので、また魔道具を作成しましょうねゲドくん」

 

いつもと変わらない笑顔で言ったアスフィさんは、明日もミアハ・ファミリアに来るみたいだ。

 

週5回の魔道具作成の指導は変わらず続くようである。

 

アスフィさんは意外と教育熱心だったが、俺にとっては悪いことではない。

 

目標とする魔道具の完成まで、頑張っていこう。



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第16話、ペルーダ

思いついたので更新します


週5回の魔道具作成の指導は相変わらず続いていて、今日も魔道具の材料を採取する為に、アスフィさんと一緒に下層に来ていた。

 

29階層まで下りて材料を採取していると地中から巨大な大蛇のようなモンスターが現れたが、襲いかかってくることもなく身悶えている。

 

このモンスターは、ラムトンという渾名で呼ばれる深層の希少種のモンスターであり、正式名称はワーム・ウェールという名前であるようだ。

 

ワーム・ウェールは上の階層にまで地中を潜行して上がってくる珍しいモンスターであるようで、下層で出会った冒険者達が襲われることもあるらしい。

 

故に凶兆であるラムトンと呼ばれるようになったワーム・ウェールというモンスターは凄まじく巨大なモンスターだと言えるだろう。

 

ワーム・ウェールの強さはLv4相当であるそうだが、身体がとても大きいワーム・ウェールが身悶えているだけで周囲の被害は凄まじいものとなっていく。

 

周囲の地形が滅茶苦茶になり、上の階層に続いている出入り口の階段が、ワーム・ウェールが身悶えて暴れていることで起こった天井の崩落で塞がれてしまった。

 

何故ワーム・ウェールが身悶えて暴れているのか不思議に思っていた俺とアスフィさん。

 

距離を取ってワーム・ウェールを観察してみると腹部が妙に膨らんでいることがわかる。

 

ワーム・ウェールが呑み込んだ何かが体内に居て、その何かによってワーム・ウェールは身悶えて暴れているのかもしれない。

 

そう判断した俺とアスフィさんの考えは正しかったようだ。

 

身悶えていたワーム・ウェールの身体を突き破りながら、凄まじい速度で大量に飛び出してきた槍のような針。

 

かなりの速度で飛んでくる槍のような針に対してアスフィさんは反応できていない。

 

瞬時にアスフィさんの前に出た俺は「断ち切る力」を発動して、槍のような針を防ぐ。

 

断ち切られた空間が太い針を止めていたが、針の先端から滴る毒らしき液体が地面に垂れると、肉が焼けるような音を立てて地面を溶かした。

 

ダンジョンの壁面や地面と天井には針が突き刺さっており、突き刺さった場所が毒々しい色に変色して溶ける程の凄まじい猛毒が、針にはあるらしい。

 

猛毒の針を持つ深層のモンスターで思い浮かぶモンスターが1体居るが、針が異常に大き過ぎることから推測すると、明らかに通常の個体ではなさそうだ。

 

完全に絶命しているワーム・ウェールの身体を内側から引き裂き、ワーム・ウェールの内部からモンスターが姿を現す。

 

蛇に似ている細長い身体に4本の足をして、背中には針鼠のように針が無数にあるそのモンスターの名はペルーダ。

 

蜥蜴のような外見ではあるが竜種のペルーダは、猛毒の針を持ち、灼熱の火炎を吐く危険な竜だと、ギルドの担当アドバイザーの人から俺は教えられていた。

 

しかし伝え聞いていたペルーダとは違うところが幾つかあるな。

 

このペルーダは皮膚の色が濃緑ではなく黒であり、身体や針も大きいことから異常な個体であることは間違いない。

 

そして動きがとても素早く、積極的に攻撃を行ってくるこのペルーダは、常に此方に近付いてくる。

 

この状態で空間操作を使った空間転移を行えば、ペルーダまで一緒に連れていってしまうことは確実だった。

 

地上にまでペルーダを連れていってしまえば、大惨事が起こってしまう。

 

冒険者以外の人々にも被害があるかもしれない。

 

そう思ってしまえば空間操作を使う気にはなれなかった。

 

空間操作を使わずに生きて帰る為には、この異常な個体のペルーダを倒さなければいけないことは確かだ。

 

針に反応できていなかったアスフィさんを守りながら戦っていき、詠唱を始めていく。

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

詠唱を行いながら「渦鋼」を振るって黒いペルーダを斬り裂こうとしたが、堅く黒い皮膚に阻まれて刃が通ることはなかった。

 

「眩い星よ、重なりあえ」

 

凄まじい強度がある黒いペルーダの皮膚に「渦鋼」の刃を通すことは難しいと判断し、ペルーダの攻撃からアスフィさんを守る為の準備を続けて行う。

 

「ムードメーカー」

 

詠唱が完了したことで発動した多重結界がアスフィさんの周囲を包み込む。

 

多重結界を使用している間は「ムードメーカー」の他の効果は使えず、精神力を絶えず消費するが、これでアスフィさんの守りは大丈夫だ。

 

黒いペルーダから放射された灼熱の火炎を俺は「断ち切る力」を使うことで空間を断ち切って防いでおく。

 

アスフィさんのことは多重結界がしっかりと守っていたので問題はない。

 

俺は「断ち切る力」を使った状態で、デュアルポーションとエナジーポーションを飲み、消費した精神力と体力を回復しておく。

 

「断ち切る力」のスキルを解除する前に「竜鱗鎧化」を使用して装甲を形成して纏うと、更に「龍の手」を用いて装甲の強度を2倍に上げておいた。

 

空間が断ち切られていた間は阻まれていたペルーダからの攻撃。

 

それが直撃すると強度を2倍にした装甲の上からでも、強い衝撃が身体に届く。

 

此方も負けじと「渦鋼」で目を狙って攻撃していくが、この黒いペルーダは知能も高いらしく、直撃の瞬間に瞼を閉じて目を狙った攻撃を防ぐ黒いペルーダ。

 

視界を閉じていても此方の位置を正確に把握している黒いペルーダは、槍のような大量の針を凄まじい速度で此方に放つ。

 

連続で装甲に叩き込まれた槍のような針の射出によって、遂に破壊された「竜鱗鎧化」の装甲。

 

直ぐに自己修復が始まったことで猛毒の針は身体にまでは届いていないが、かなりの強度を持つ「竜鱗鎧化」の装甲が破壊されたことには驚きを隠せない。

 

黒いペルーダが射出する槍のような針は、凄まじい威力を持っているみたいだ。

 

槍のような針自体の強度や鋭さが高いと知った俺は、黒いペルーダに攻撃を通す手段を思いつく。

 

「スティール」

 

左手を向けて唱えるのは速攻窃盗魔法。

 

奪う対象は黒いペルーダ。

 

唱えた「スティール」は成功し、俺の左手には奪った黒いペルーダの針が1本。

 

右手に持っていた「渦鋼」を鞘に納めた俺が両手で構えたのは、先ほど「スティール」で奪ったばかりのペルーダの針。

 

その針を槍として用いて俺が放つ突きは、黒いペルーダの皮膚を貫くことが可能だった。

 

宿す猛毒は効果が無いとしても充分に武器として使えるこの針を使えば、ペルーダに攻撃を通すことはできるだろう。

 

瞬時に突きを放ち、ペルーダにダメージを与えていく。

 

槍のような針を槍として扱ってみることが簡単に出来た俺には、どうやら剣だけではなく槍の才能も有ったようである。

 

「龍の手」のスキルで、槍のような針の強度と鋭さ、腕力と踏み込みの脚力、身体能力と突きの威力を2倍に高めた俺は、渾身の突きを繰り出した。

 

黒いペルーダの皮膚を貫いた槍のような針は、確実に黒いペルーダの魔石を砕く。

 

弱点である魔石を砕かれたことで死亡し、ゆっくりと消滅していく黒いペルーダの肉体。

 

残されたのは、ドロップアイテムである黒いペルーダの皮だけであった。

 

結構な大きさがある黒いペルーダの皮を回収し、魔法で小さくして鞄にしまっておく。

 

ようやく黒いペルーダを倒せたと思ったところで疲れが限界に来たのか、ダンジョンの地面に背中から倒れ込んでしまう俺の身体。

 

精神力がガリガリと削られていく多重結界も解除しておくと、此方に近付いてきたアスフィさん。

 

「怪我はなさそうですねアスフィさん。無事で良かった」

 

「ゲドくんが守ってくれたおかげで助かりました。私1人だったなら死んでいたでしょうね」

 

「間違いなくあのアンフィス・バエナよりも格上のモンスターでしたからね。俺もLv4になっていなかったら、死んでいたかもしれません」

 

「剣が通じない相手を、相手の武器で倒してしまうとは思ってもいませんでしたよ」

 

「充分な強度と鋭さがあるなら武器として使えるんじゃないかと思って実際に使ってみたら、意外といけましたね」

 

「危機的状況でも柔軟な発想が大事ということでしょうか」

 

「まあ、なんとか倒せて良かったですよ」

 

疲れた身体を動かして立ち上がった俺は、崩落で塞がれている出入り口で「リトルフィート」を連続で唱えていく。

 

出入り口を塞いでいたものは全て縮小され、簡単に片付けることが可能になった。

 

小さくなった瓦礫を手早く片付けておき、離れた場所に放り投げてから元に戻す。

 

これで他のファミリアが来たとしても通行には問題がない筈だ。

 

「じゃあ、そろそろ帰りましょうかアスフィさん」

 

「そうしましょうゲドくん」

 

俺はアスフィさんと一緒にダンジョンを出ると、直ぐにミアハ・ファミリアに戻る。

 

流石に今日のアスフィさんとの魔道具作成は、お休みということになるらしい。

 

疲れた顔で帰ってきた俺を見た神ミアハは、何かがあったことを直ぐに悟ったようで、俺を無理に働かせようとはしなかった。

 

翌日になり、神ミアハにステイタスの更新を頼んでみると、やはりランクアップできるようになっていたようだ。

 

あの黒いペルーダとの戦いは、偉業だったということだろう。



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第17話、竜撃会心

思いついたので更新します


ランクアップが可能になったことで知ることができた発展アビリティは、剣士、頑強、精癒の3つとなった。

 

今回は精神力の回復速度を早める精癒にしておくことにしたが、ランクアップする前にステイタスを更に上げておこうと思った俺は、アスフィさんと一緒に下層へと向かっていく。

 

到着した下層で魔道具の材料を採取していると凄まじい数の怪物達の宴が起こり、大量発生したモンスター達。

 

中には強化種達も混じっていて、アスフィさんが危険だと判断した俺は多重結界を発動。

 

多重結界でアスフィさんを守りながら、下層のモンスター達と戦っていった。

 

ブルークラブの群れを「渦鋼」で真っ二つに両断していき、マーマンの強化種が横に振るったメイスを潜り抜けて接近すると、正確に魔石を狙った「渦鋼」による突きをマーマンの強化種の胸部に叩き込む。

 

マーマンの強化種の胸に突き刺した「渦鋼」を引き抜くより早く、此方に勢いよく突撃してきたクリスタルタートルの強化種。

 

そのクリスタルタートルの頭を下から蹴り上げて強制的に上を向かせてやり、素早く引き抜いた「渦鋼」で頭部をかち割っておく。

 

デヴィルモスキートを斬り裂き、連続で突っ込んでくるイグアスの群れを全員2分割にした。

 

絶え間無く現れるレイダーフィッシュを十字に斬り裂き、アクア・サーペンの首を斬り落とす。

 

ライトクオーツの強化種が放つ強力なレーザーを全て避けながら近付き、上段に構えた「渦鋼」を振り下ろして魔石ごと水晶の身体を幹竹割りにする。

 

クリスタロス・アーチンの群れが転がりながら大量に押し寄せてくるが、残らず横一文字に斬り裂いておいた。

 

強化種も含めた凄まじい数のモンスターを全て倒しきった俺は、充分な経験値を稼げたと判断。

 

ダンジョンから地上に戻った俺とアスフィさんは、それぞれのホームへと帰っていく。

 

今回も帰還後の魔道具作成は、お休みである。

 

精神的に疲れていたアスフィさんには、しっかりと休んでもらいたいところだ。

 

帰ってきたミアハ・ファミリアのホーム。

 

神ミアハにステイタスの更新をしてもらう為に、手早く移動した神ミアハの自室で、俺は神ミアハに背中を晒した。

 

更新されたステイタスは全てがSSSにまで到達していたので、これなら充分だと判断した俺は、そのまま神ミアハにランクアップもさせてもらうことにする。

 

Lv4→Lv5

 力:SSS1421→I0

耐久:SSS1489→I0

器用:SSS1542→I0

敏捷:SSS1467→I0

魔力:SSS1553→I0

幸運:D

耐異常:E

神秘:F

精癒:I

 

《魔法》

 

【リトルフィート】速攻縮小魔法

 

【スティール】速攻窃盗魔法

 

【ムードメーカー】詠唱変化魔法

 

詠唱前半

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

詠唱後半

 

「箒星よ、歩みを速めよ」思考加速

 

「道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」運命改変

 

「恒温の星よ、その熱を燃やせ」不測操作

 

「流れる星よ、空を開け」空間操作

 

「眩い星よ、重なりあえ」多重結界

 

《スキル》

 

【龍の手】

・あらゆるものを倍加する

 

【創薬師】

・薬品作成時、発展アビリティ創薬と薬師の一時発現

・作成した薬品の品質向上

 

【竜鱗鎧化】

・体表に魔素を吸収して自己修復する装甲を形成する

・耐久に応じて強度上昇

 

【断ち切る力】

・周囲の空間を断ち切る

・攻撃には使用できない

 

【竜撃会心】

・弱点となる部位に攻撃が当たった時、特大ダメージを与える

 

ランクアップした新たなステイタスは、こうなったようだ。

 

そしてランクアップしてLv5になった俺には「竜撃会心」という新しいスキルが発現していた。

 

「竜撃会心」と書いて「ハイパーオラゴニックアタック」と読むスキルは、弱点となる部位に攻撃が当たった場合に特大ダメージを与えるスキルであるらしい。

 

上手く使えば戦いを有利にすることが可能なスキルだろう。

 

しかし多種多様なモンスターが相手の場合、弱点を見極めることも必要になりそうだ。

 

モンスターの弱点を見極める為にも、よく観察することを忘れないようにしないといけないな。

 

翌日、Lv5になったことについて報告する為にギルドに向かうと「またランクアップの報告かな」と言ってきたギルドの担当アドバイザーの人。

 

俺が「そうですよ」と言うと「うん、やっぱりね、そうだと思ったよ」とギルドの担当アドバイザーの人は頷いていた。

 

「それで今回きみは、何をしたのかな」

 

「下層に現れたワーム・ウェールの体内から出現した黒いペルーダを、アスフィさんを守りながら倒しました」

 

「ワーム・ウェール自体が珍しいのに、体内から異常個体のペルーダまで現れるなんて、どういう確率があればそんなことが起こるんだろうね」

 

不思議そうに首を傾げたギルドの担当アドバイザーの人は、俺が嘘を言うことはないと理解しているが、通常とは異なるモンスターと遭遇する確率が高いことを不思議に思っているらしい。

 

「毎回毎回遭遇する確率がおかしいと自分でも思いますよ」

 

ランクアップの偉業が毎回、通常とは異なるモンスターを倒したことによるものである俺も、この遭遇率を不思議に思っていたことは確かだ。

 

Lv1の時は強化種のインファントドラゴン3体。

 

Lv2の時は異常個体の黒いグリーンドラゴン。

 

Lv3の時は3つ首がある亜種のアンフィス・バエナ。

 

Lv4の時は異常個体の黒いペルーダ。

 

この遭遇率は確かにおかしいのかもしれない。

 

そして通常とは異なるモンスターは全てが竜種であったが、やはり俺は竜と縁があるのだろうか。

 

今後も通常とは異なる竜種と遭遇する確率が高そうな気がするな。

 

何が起こっても対処できるようにダンジョンに入る前の準備は怠らないようにしておこう。

 

それはそれとしてギルドの担当アドバイザーの人には聞いておきたいことがあった。

 

「パーティを組んでいるなら深層に向かっても大丈夫ですか?」

 

「パーティメンバーがアスフィさんだけじゃなくて、椿さんも加わるなら大丈夫だと思うよ、きみもLv5になったからね」

 

その3人でパーティを組むなら深層でも大丈夫だと言ってくれたギルドの担当アドバイザーの人。

 

「まあ、できるならもう1人くらい頼れる人がきみのパーティに加わってくれたら、私は更に安心できるかな」

 

続けて言ったギルドの担当アドバイザーの人は、此方を心配してくれているみたいだ。

 

深層に向かっても問題がないパーティメンバーが、もう1人見つかるかはわからない。

 

それでも一応探してみようかと思う程度には、ギルドの担当アドバイザーの人を安心させてあげたい気持ちはあった。

 

まあ、深層探索は急いでいる訳ではないから気長に探してみるとしよう。

 

ギルドでの用事を済ませた俺はミアハ・ファミリアのホームへと戻っていく。

 

ミアハ・ファミリアのホームでもある店舗で俺が手伝いを行っていると、ようやく全ての鍛冶仕事を終わらせたらしく、久しぶりに椿が店舗に現れた。

 

「こうして会うのは久しぶりであるなゲド。少しは手前の工房に顔を出してくれても良かったのではないか」

 

「椿が忙しそうだったから邪魔をしてはいけないかと思ってな」

 

「次からは少しくらい顔を出してくれんか。手前は忘れられてしまったのかと思ったぞ」

 

「今度からはそうするよ」

 

「うむ、そうしてくれ」

 

深く深く頷いていた椿は鍛冶仕事で忙しかったとしても、少しくらいは工房に顔を出してほしかったみたいだ。

 

鍛冶仕事に専念していても他人との交流まで断っている訳ではないらしい。

 

これからは鍛冶仕事をしている椿の工房にも、こまめに顔を出すとしよう。

 

「ああ、そういえば椿に頼みたい仕事があったな。ちょっと待っていてくれ椿」

 

椿には少し待っていてもらって、俺は自室に置いてある黒いペルーダの皮を持ってくる。

 

「これを防具に加工してもらいたいんだが」

 

俺がそう言いながら黒いペルーダの皮を椿に見せてみると椿は興味津々な様子で、黒いペルーダの皮を見ていた。

 

「ほほう、これは色違いのペルーダの皮であるようだが、強度は段違いであるな」

 

黒いペルーダの皮を触りながら強度を確かめていた椿は、とても楽しげに笑う。

 

「椿に作ってもらった「渦鋼」の刃でも通らない強度があるのは間違いないぞ」

 

「ふむ、ならばゲドはどうやってこのペルーダを倒したのだ?」

 

「この黒いペルーダの槍のような針を奪って、槍として使うことで倒したんだが」

 

「なるほど、敵の武器を奪って倒したか。それにしてもペルーダと遭遇したということは深層に向かったのかゲドは」

 

「いや下層で遭遇した。ワーム・ウェールがこのペルーダを呑み込んでいたようで、ワーム・ウェールが出現したと思ったら内側からこのペルーダが現れたんだ」

 

自分でも、どんな確率なんだと言いたくなるような出来事が起こったことを椿にも説明しておく。

 

「うむ、訳がわからんとしか言えんことになっておるな。普通は有り得んぞそんなことは」

 

凄まじい確率の出来事が起こったことを聞いて驚いていた椿。

 

信じられないような出来事でも実際に起こったことだと椿は信じてくれたようだ。

 

椿とそんな会話をしているとアスフィさんもミアハ・ファミリアのホームへとやって来る。

 

「さあ、ゲドくん今日も頑張りましょうね」と言いながら笑顔で店舗に入ってきたアスフィさんだったが、椿のことを見るなり笑顔が真顔になった。

 

「貴女は、ヘファイストス・ファミリア団長の椿・コルブランドですね」

 

「お主は、ヘルメス・ファミリア団長のアスフィ・アル・アンドロメダだな」

 

何故か俺を挟んだ状態で互いを見ている2人。

 

若干空気もピリピリしているような気がするのは、気のせいではないだろう。

 

「ゲドくんとは、随分とゲドと親しいようだが、どんな関係だ」

 

「そちらこそ、ゲドくんをゲドと親しげに呼び捨てにして随分と仲が良さそうですが、どのような関係ですか」

 

気になっていることを聞いているのだとしても険悪になりそうな雰囲気を察した俺は、椿とアスフィさんとのそれぞれの関係を2人に説明していく。

 

椿のことは専属鍛冶師兼パーティメンバーと説明し、アスフィさんのことは魔道具作成の先生兼パーティメンバーと説明した俺。

 

それで何とか納得してもらうことはできたが、何故あんなにも緊迫した空気になったのかは、今は気にしない方が良さそうだ。

 

モテ期でも来たか、とふざける余裕もない。

 

実際どうなのかは、全くわからないし、ただの勘違いだったら恥ずかしいから、それについては黙っておこう。

 

人間関係は難しいな。




ハイパーオラゴニックアタック

出典、モンスターストライク、オラゴン
赤いトンガリ頭をした人型で2頭身のドラゴンであるオラゴンのストライクショットが、ハイパーオラゴニックアタック
ストライクショットとは、モンスターストライクに登場するほぼ全てのモンスターが持っているスキルのこと
ハイパーオラゴニックアタックの効果は、敵の弱点にヒットした際に特大ダメージを与えるというもの


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第18話、クリエイトウォーター

思いついたので更新します


椿とアスフィさんの緊迫した空気も無くなり、ようやく普段の2人に戻った。

 

落ち着いたところで、毎週行っている魔道具の作成を今日もアスフィさんに教わりながら行うことにしたが、どうやら椿も見学していくらしい。

 

「お主らが何を作るのか興味があるのでな」

 

そう言っていた椿が見守る中でアスフィさんに指導されながら作成していった魔道具。

 

完成した品々を興味深そうに見ている椿。

 

「既に充分な基礎は身に付いています。次は貴方の自由な発想で魔道具を作ってみてください」

 

アスフィさんに言われたように、次は自分1人だけの発想で魔道具を作ることになり、何を作ろうか考えてから手を動かす。

 

魔道具の材料は充分足りているので、今回は材料採取でダンジョンに向かう必要はない。

 

完成した魔道具に名前を付けるとするなら、ウォーターボトルという名前になるだろう。

 

水筒型の魔道具であるウォーターボトルは手に持った状態で、設定された魔法の名前である「クリエイトウォーター」を言うと魔法が発動。

 

魔法と言っても大規模なものではなく、飲料水として飲むことも可能な水を生み出す「クリエイトウォーター」の魔法は、1回では大量の水を生み出すことはできないように設定してある。

 

とはいえ壊れるまでは何回でも水を生み出すことが可能なウォーターボトルは、ダンジョン探索でも役立つ魔道具だということは間違いない。

 

試しにアスフィさんと椿にウォーターボトルを使ってみてもらい使用感を確かめてもらった。

 

2人がそれぞれウォーターボトルを持った状態で「クリエイトウォーター」を唱えるとウォーターボトルから水が生み出されていく。

 

用意した3つのコップに注がれる生み出された水。

 

まず最初に俺が飲んでみると味わいはミネラルウォーターのような味わいだった。

 

安全が確認できたのでアスフィさんと椿にもコップを1つずつ渡して水を飲んでもらうと、美味しいと好評である。

 

「これは便利ですね、1つ私にくれませんか」

 

「確かに便利だ、手前も1つ欲しいぞ」

 

完成品のウォーターボトルを実際に使ってみたアスフィさんと椿が自分用に1つ欲しがる程度には便利であるようだ。

 

何個か作ってあるウォーターボトルをアスフィさんと椿に1つずつ渡しておき、しばらく試しに使ってもらうことにした。

 

翌日、椿の工房に向かうと黒いペルーダの皮を防具に加工している真っ最中だった椿。

 

強度が凄まじく高い黒いペルーダの皮を加工するのは一苦労であるようだが、椿なら加工することは不可能ではないらしい。

 

「お主が深層にいずれ向かうなら「灰皮」では防御力に不足があるのでな。この黒いペルーダの皮なら良い防具になるであろう」

 

そう言いながら淀みなく手を動かす椿の手によって、加工されていった黒いペルーダの皮。

 

完成したのは黒いコートとマフラーであり、名前は「ペルーダコート」と「ペルーダマフラー」であるようだ。

 

身に付けてみると「灰皮」よりも軽いが、強度は比べ物にならない程高い。

 

これをよく防具に加工できたと思うが、椿の技術がそれだけ素晴らしいということだろう。

 

「ペルーダコート」と「ペルーダマフラー」を受け取っておき、用意していたヴァリスを椿に支払っておいた。

 

この防具があるなら深層のモンスターからの攻撃も防ぐことができる筈だ。

 

いずれ向かう深層への備えが1つできたが、深層に向かうにはまだ早い。

 

しっかりと準備をしてから深層に向かうとしよう。

 

それから数日後、ウォーターボトルの使用状況を報告に来たアスフィさんと椿の2人。

 

アスフィさんはダンジョン探索に使用してみて、自由に水が使えるありがたさを感じたらしい。

 

椿は鍛冶仕事の合間の水分補給に使っていたみたいだが、充分な水が補給できたことで、新しく水を取りに行く必要がなく、鍛冶仕事が捗ったようだ。

 

それぞれ使い方は違うがウォーターボトルを便利な魔道具だと思ったことに違いはなく、これからも使っていきたいと言ってきたアスフィさんと椿の2人。

 

そんな2人にはこれからもウォーターボトルを使ってもらうことにして、この魔道具が売れる商品になるのかどうかを実際に使用した2人に聞いてみた。

 

「ダンジョン探索系のファミリアに売り込めば確実に売れると私は思います」

 

「手が出る値段なら冒険者以外にも売れそうな魔道具であるな」

 

ダンジョン探索系のファミリアに売り込むことを薦めるアスフィさんと、低価格なら冒険者以外にも売れそうだと言った椿。

 

どちらも売れないとは言っていないので、ウォーターボトルは売れる商品になる魔道具なのかもしれない。

 

値段が安く十数回使える簡易用と値段が高く数百回以上使える長期用の2つを新たに作成してみて、試しにミアハ・ファミリアの店舗で売り出してみることにした。

 

すると簡易用が冒険者を含む幅広い層に売れて、長期用を大手のファミリアが複数買っていくということになる。

 

実際にウォーターボトルを使用した人々からの評判も悪くはないみたいだ。

 

ウォーターボトルが人気である理由の1つは、誰でも簡単に使える実用的な魔道具だからだろう。

 

そして誰でも「クリエイトウォーター」の魔法が使えるようになる魔道具なウォーターボトルを使えば、ちょっとした魔法使い気分を味わえることも人気の理由であるらしい。

 

簡易用なら魔剣よりも遥かに安い値段であるので冒険者ではなくても手が届く値段ではある。

 

その為、オラリオのいたるところから「クリエイトウォーター」を唱える声がよく聞こえるようになったりもした。

 

売れる商品になりそうな魔道具は他にも思い浮かんでいたが、犯罪に使われる可能性があるので、それは作ることはない。

 

小さな火で着火をする「ティンダー」の魔法が使えるようになる魔道具も作ろうと思えば作れるが、放火などの犯罪に使われてしまうかもしれないから、作らない方が良いだろう。

 

ポーションやエナジーポーションに魔道具のウォーターボトルなどを作成してはミアハ・ファミリアで売る日々を過ごしていると、珍しい客がミアハ・ファミリアを訪れた。

 

その客が猛者の2つ名を持つLv7の冒険者、オッタルさんであることは間違いない。

 

店内に入ってきたオッタルさんは真っ直ぐ此方へと向かってくると「ここに水を生み出す魔道具があると聞いた」と言ってくる。

 

どうやらオッタルさんもウォーターボトルを買いに来たようだ。

 

「それはこのウォーターボトルのことですね。簡易用は十数回しか使えませんが安価です。長期用は数百回使えますが簡易用よりも高いですよ」

 

一応客ではあるようなので俺はオッタルさんに2種類のウォーターボトルについて説明しておいた。

 

「そのウォーターボトルとやらの長期用を10個もらおう」

 

説明を聞き、しっかりと値段を確認してから迷うことなく言ったオッタルさんは長期用を買っていくつもりらしい。

 

オッタルさんからヴァリスを受け取ってウォーターボトルの長期用を10個取り出す。

 

「ありがとうございます、袋はご利用になりますか?」

 

「ああ、頼む」

 

水筒型の魔道具であるウォーターボトルを袋に丁寧に詰めてからオッタルさんに差し出すと、オッタルさんは丁寧に商品を受け取った。

 

「ありがとうございました」

 

商品が入った袋を持って背を向けたオッタルさんに感謝の言葉を言っておく。

 

「また来させてもらおう」

 

立ち止まり、それだけ言うと立ち去っていったオッタルさんは、その言葉通り、時おり店に来るようになった。

 

オッタルさんは毎回しっかりと商品を買っていくので、お客さんとして毎回丁寧に接客している。

 

最近オッタルさんはエナジーポーションが気に入っているのか、大量に購入していくことが多い。

 

試しにオッタルさんにエナジーポーションについて聞いてみると「味も不味くはないが、効能も悪くはない」という感想が返ってきた。

 

そして今日もエナジーポーションを買っていくオッタルさんの猪の耳はピンと立っていて、心なしか嬉しげでもある。

 

そんなオッタルさんの耳がへにょりと倒れているのを数日後に目撃することになったが詳しく話を聞いてみると、どうやら主神である女神フレイヤが重い風邪をひいてしまったみたいだ。

 

女神フレイヤが重い風邪をひいたことで、フレイヤ・ファミリアの団員達は奔走しているらしい。

 

明らかにオッタルさんが困っていることは間違いないので「創薬師」のスキルを用いて風邪薬を作っておき、オッタルさんに渡しておく。

 

「感謝する」

 

短い感謝の言葉を言うと、風邪薬を持ってオッタルさんは走り去っていった。

 

更に数日後、ミアハ・ファミリアにまで再び感謝に来たオッタルさんによれば、俺が渡した風邪薬で女神フレイヤの風邪は、すっかり完治したようだ。

 

風邪薬を女神フレイヤに飲ませる前に、耐異常を持っていないLv1の団員達で毒味をしてから飲ませたみたいだが、問題がないと判断してから飲ませるのは当然のことかもしれない。

 

風邪薬という薬自体が今まで存在していなかったから、警戒するのも仕方ないだろう。

 

「お前には感謝をしている。深く礼を言いたい」

 

真剣な顔でオッタルさんは、女神フレイヤの風邪を風邪薬で治した俺に言った。

 

「お前に大きな借りができたが、どう返せばいい」

 

続けて言ってきたオッタルさんは、俺に大きな借りができたと考えているようだ。

 

別にそこまで気にしなくても良いとは思ったが、オッタルさん本人は真面目なので、借りを返そうとすることは間違いない。

 

どうしようかと考えていたところで思いついたことが1つ。

 

「これは、オッタルさんが良ければの話なんですが、俺のパーティメンバーになってくれませんか」

 

そう頼んでみると都合が合う時だけという条件でオッタルさんは了承してくれた。

 

これで深層に向かう戦力は、過剰な程に充分になったが、一応回復魔法が使えるパーティメンバーも探してから深層に向かうことにしよう。




クリエイトウォーター、ティンダー

出典、この素晴らしい世界に祝福を、カズマ
カズマが取得した初級魔法
クリエイトウォーターは水を生み出す魔法
ティンダーは小さな火で着火する為の魔法
カズマはこの2つの魔法を使ってコーヒーを作ったりする


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第19話、薬を必要としている人と押しかけ弟子

思いついたので更新しておきます


外傷を治療するポーションや毒に対する解毒剤は存在していても風邪薬などの様々な薬が存在していないオラリオ。

 

そんなオラリオにこんな薬があったら良いんじゃないだろうかと思って様々な薬を「創薬師」のスキルを用いて作成してみる。

 

風邪薬を筆頭に、胃薬、二日酔いに効く薬、頭痛薬等の身体の内部に効果がある薬や、ハンドクリームや美容に効果がある身体の外側に使う薬等を、ミアハ・ファミリアのホームである店舗で細々と売り出してみた。

 

様々な薬の使い方は売る際にしっかりと教えておき、用法用量を間違わないように教えておく。

 

初めて見る薬を物珍しさに買っていく客がおり、そして実際に使ってみて効果を実感した人々から噂が広まっていったようで、ポーションやエナジーポーション以外の薬が目当ての客が増えていった。

 

オラリオの一般の人々には幅広く様々な薬が売れており、あかぎれに効果があるハンドクリームが好まれているらしい。

 

冒険者達にも薬は売れていて、二日酔いの薬をよく買っていく冒険者達が多いようである。

 

ある日、ロキ・ファミリアの団長であるフィン・ディムナさんが店舗に現れて「胃に効く薬を売ってくれないかな」と腹部を押さえながら言ってきた。

 

どうやらフィン・ディムナさんはストレスで感じていた胃の痛みをポーションで今まで誤魔化してきたらしいが、それにも限界がきていたみたいだ。

 

腹部を押さえているフィン・ディムナさんの状態を見て、普通の胃薬では効果が薄いと判断した俺は「創薬師」のスキルで、今のフィン・ディムナさんに最適な胃薬を作成して渡しておく。

 

受け取った胃薬をその場で直ぐに飲んだフィン・ディムナさんは、胃の痛みが瞬く間に改善されたようで「これは凄いね」と驚いていた。

 

「とても良く効く薬だと評判だったけど、こんなに効果があるとは思ってなかったよ」

 

そう言ったフィン・ディムナさんの顔は、解放感に満ちた爽やかな笑顔であり、胃の痛みに苦しんでいた苦悶の表情とは程遠い。

 

「貴方に何があったのかは聞きませんが、胃痛をポーションで誤魔化すのは止めた方が良いですね。一時的に治っても、また再発しますよ」

 

「それで胃に限界が来ていたのかもしれないね。これからは、ここで胃薬を買わせてもらうよ」

 

「常用するならこの胃薬が良いですよ」

 

胃痛に苦しんでいたフィン・ディムナさんには常用に向いている胃薬をお薦めしてみる。

 

「胃薬にも種類が幾つかあるんだね、さっき作ってくれたのは緊急用なのかな」

 

「そうですよ、普通の胃薬だと効果が薄いと判断して作りました」

 

「その判断は、きっと正しかったんだろうね。おかげで僕は胃の痛みからようやく解放されたよ」

 

とても晴れやかな顔をしていたフィン・ディムナさんは、胃の痛みから解放されたことを心の底から喜んでいるようだ。

 

「再発しないように気をつけてくださいね。ご購入されるのは胃薬だけで良いですか?」

 

「それじゃあ二日酔いの薬も買っていこうかな、ロキとか団員達が二日酔いになって苦しんでる時もあるからね」

 

「毎度ありがとうございます」

 

俺は丁寧に胃薬と二日酔いの薬がそれぞれ入った瓶を紙袋に詰めていき、フィン・ディムナさんに手渡す。

 

そして用法用量を守るように胃薬と二日酔いの薬の使い方と適量もフィン・ディムナさんに教えておいた。

 

「ちなみにこれを守らなかったからどうなるのかな」

 

「用法用量を間違えても身体に害はないようにしていますが、正しい使い方をしなければ効果が無かったりしますよ。二日酔いの薬は二日酔いには効きますが、胃薬にはなりませんから」

 

「うん、用法用量はしっかり守った方が良さそうだね。間違えないように気をつけるよ」

 

袋の中身を確認しながら言ったフィン・ディムナさんは、薬の代金を支払うと立ち去っていく。

 

大手のファミリアであるロキ・ファミリアの団長ともなれば苦労は絶えないのかもしれない。

 

フィン・ディムナさんが胃を痛めていた原因を語ることはなかったが、お客さんの個人情報は知らない方が良さそうだ。

 

薬師として薬を用意して、売るだけに留めておくとしよう。

 

それからも薬を売る日々を過ごしていると、店舗に入ってきたディアンケヒト・ファミリアのアミッドが迷いなく一直線に俺の方に向かってきたかと思えば「風邪薬の作り方を教えてください!」と直角90度に頭を下げながら言ってきた。

 

何故そんなことをアミッドが言ってきたかというと、オラリオ最高のヒーラーと言われているアミッドでも治せなかった女神フレイヤの重い風邪を治したのが、俺の作った風邪薬だったと知ったことが理由であるようだ。

 

自分に出来なかったことが出来たことに悔しいと思うよりも自分では助けられなかったことを悔やむアミッドは、今度は助けられるようになりたいと考えて、俺に風邪薬の作り方を教わりたいと思って行動に移したらしい。

 

ちなみに引き止めようとする神ディアンケヒトを途中まで引き摺ってきたらしく、力尽きて手を離した神ディアンケヒトを放置し、ミアハ・ファミリアのホームにまでやってきたアミッドの意志は固いのだろう。

 

とりあえずアミッドには一旦ミアハ・ファミリアのホームで待っていてもらって、引き摺られていた神ディアンケヒトが無事かどうか確認しにいってみた。

 

ディアンケヒト・ファミリアからミアハ・ファミリアのホームにまで続く道のりの途中で、力尽きている神ディアンケヒトを発見。

 

服が少々汚れてはいるが外傷はないようで、単純に力尽きて倒れているだけである神ディアンケヒトを背負い、ディアンケヒト・ファミリアのホームに運んでおく。

 

ディアンケヒト・ファミリアに神ディアンケヒトを預けてからミアハ・ファミリアのホームにまで戻ると、アミッドは陳列された薬を興味津々に眺めていた。

 

主神の扱いがあんなんで良いのかと思わなくもなかったが、様々な薬について知りたがって聞いてきたアミッドに詳しい説明をしていくと「是非とも師匠になっていただきたいです」と目を輝かせて言い出すアミッド。

 

「創薬師」のスキルがなくても、作り方を知っていれば様々な薬を作ることは可能だ。

 

俺がいずれ死んでも、様々な薬の作り方を知っている者が居れば、オラリオに普及した薬が無くなることはないだろう。

 

既にナァーザに教えている様々な薬の作り方を、アミッドにも教えることに抵抗はない。

 

とりあえず今回は風邪薬の作り方だけをアミッドに教えておくことにした。

 

「風邪薬の作り方を教えれば良いんだよな」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

とてもやる気に満ち溢れているアミッドに風邪薬の作り方を丁寧に教えていく。

 

「こんな効能があったなんて」と驚きながらも風邪薬を実際に作っていったアミッドの手際は、とても素晴らしかった。

 

アミッドがオラリオ最高の治療師と呼ばれているのは伊達ではないようだ。

 

作り方を間違えることなく手際良く完成したアミッド作の風邪薬。

 

「実際に効果があるか確かめる為に、風邪をひいてきます!」

 

なんてことを言いながらミアハ・ファミリアのホームから飛び出していこうとしたアミッドを捕獲しておく。

 

「止めないでください!オラリオの医学を発展させる為には必要なことです!」

 

「普通に風邪ひいてる人を探して薬を飲んでもらえば良いだろ!」

 

「そんな都合良く見つからないですよ!」

 

アミッドを羽交い締めにして捕まえた状態で言い争いをしているとミアハ・ファミリアのホームにオッタルさんが来た。

 

「取り込み中に失礼するが、また風邪薬を用意してもらいたい。今度は大量に必要だ」

 

「何があったんですか」

 

「フレイヤ様が重い風邪をひいていたことを遅れて知ったファミリアの団員達が、自ら風邪をひくようなことをする事態が起きて、団員達に風邪が蔓延してしまったようだ。フレイヤ様に風邪が移ることがないように隔離はしてある」

 

「何でそんなことになってるのかは気になりますが、風邪薬は用意しますよ。此方のアミッドと2人で頑張ります」

 

そう言いながらアミッドを羽交い締めから解放すると、フレイヤ・ファミリアの団員達が使う風邪薬をアミッドと一緒に作っていく。

 

アミッドが作った風邪薬と俺が作った風邪薬を混ぜることなく別々に分けておき、それぞれをフレイヤ・ファミリアの団員達に使ってもらうことにした。

 

俺が作った風邪薬を飲んだフレイヤ・ファミリアの団員達は、直ぐに体調が良くなっていたらしい。

 

アミッドが作った風邪薬を飲んだフレイヤ・ファミリアの団員達は翌日になってから体調が良くなっていたようだ。

 

「創薬師」のスキル無しで作った風邪薬でも充分に効果があることがわかったので、他の薬でも作り方さえわかれば問題ないだろう。

 

悪用されたらまずい薬の作り方は教えるつもりはないが、生活に役立つ薬の作り方なら教えてもいいかもしれない。

 

そんなことを考えていたら「教わるばかりで貴方に何も返せないのは嫌です、私に出来ることが何か有りませんか?」と聞いてきたアミッド。

 

オラリオ最高のヒーラーがパーティメンバーに加わってくれたならダンジョン探索は捗りそうだと思ったが、神ディアンケヒトの許可を貰わずにアミッドをパーティメンバーに加えることはできないだろう。

 

そうアミッドに伝えてみると「ちょっと待っていてください」と言いながらアミッドはミアハ・ファミリアから飛び出していく。

 

数十分後、戻ってきたアミッドは「神ディアンケヒトに許可は取ってきたのでダンジョンに行けますよ」と言ってきた。

 

どうやって許可を取ってきたのかを聞いてみても「それは秘密です」と言うだけでアミッドは答えてくれない。

 

何をしたんだとは思うが、アミッドがパーティメンバーに加わってくれるなら、ポーション以外の回復手段が増えることは確かだ。

 

パーティメンバーにアミッドが加わってくれたことは、ありがたいことだと素直に思っておこう。



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第20話、新たなパーティメンバー

思いついたので更新します


ディアンケヒト・ファミリアでも風邪薬を売り出すようになり、ミアハ・ファミリアの風邪薬の売り上げが少し落ちたが、それ以外の薬については売り上げが更に伸びていたようだ。

 

ミアハ・ファミリアを訪れるお客さんの量が凄まじいことになっており、押しかけ弟子のアミッドにまで接客を手伝ってもらうことになる。

 

なんとか全てのお客さんに商品を売ることができたが、神ミアハとナァーザにアミッドが疲れきっていたので、特製のエナジーポーションを作成して俺以外の全員に渡しておいた。

 

特製エナジーポーションを飲んだ全員の疲労は回復したようで、これからも頑張れそうだったが、ちょうど客足が遠のく時間帯になったので俺以外の全員には休憩してもらう。

 

エナジーポーションで疲労が回復していても休める時は休んだ方が良いと俺は思っているからだ。

 

Lv5の俺が1番体力があるので疲れているということはなく、今の俺の状態なら休憩をしなくても問題はない。

 

まばらにやって来るお客さんを相手に俺が接客していると神ディアンケヒトが店舗に現れた。

 

「ミィーアァーハァ、はおらんのか。まあいい、エナジーポーションを30本用意するのだ、ゲド」

 

頼まれたエナジーポーション30本を俺が丁寧に梱包していると話しかけてきた神ディアンケヒト。

 

「風邪薬とやらは中々悪くない薬だな。わしのファミリアでも売り出せるようになったのはアミッドがお主から作り方を教わったからだが、お主は何故アミッドにも作り方を教えたのだ」

 

「風邪薬の作り方が長く残るようにですかね。そうすれば助かる人も増えるでしょう」

 

「どうやらお主には、良からぬ気持ちや風邪薬の作り方を独占しようと思う気も無いようだな」

 

呆れたような顔で此方を見る神ディアンケヒトは、俺が嘘を言っていないことを理解していた。

 

「だが、それについてはまあいい、いやあまり良くはないが、良いということにしておくぞ。話が進まんからな」

 

続けて言ってきた神ディアンケヒトは、まだ何か言いたいことがあるらしい。

 

そろそろエナジーポーション30本の梱包は終わるが、神ディアンケヒトの言いたいことを聞いておくとしよう。

 

「ダンジョンにアミッドを連れていくなら、必ずアミッドを守りぬけ!五体満足で無事にアミッドをわしのファミリアにまで連れて戻ってこい!」

 

神ディアンケヒトが大きな声で言った言葉は、眷族であるアミッドを大切に思っていることがわかる言葉だった。

 

「約束しますよ、神ディアンケヒト。アミッドは必ず守りぬいてみせます」

 

神ディアンケヒトに嘘を言うつもりはない俺は、約束したこの言葉を嘘にするつもりもない。

 

「うむ、ならば良し」

 

頷いていた神ディアンケヒトはアミッドを本当に大切に思っているのだろう。

 

「オラリオ最高のヒーラーを失うことはわしのファミリアにとって大きな損失であってだな、わしは別にアミッドのことを心配している訳ではないぞ」

 

そんなことを慌てて付け加えるように言っていても神ディアンケヒトがアミッドを心配している気持ちは隠せていない。

 

そんな神ディアンケヒトが、俺は嫌いではなかった。

 

梱包した30本のエナジーポーションを神ディアンケヒトに渡して代金を受け取る。

 

「まあ、その、なんだ、お主も無事に帰って来い、ゲド」

 

最後に小さな声でそう言うと神ディアンケヒトは去って行った。

 

神ディアンケヒトは、どうやら俺のことも心配してくれていたようだ。

 

やはり神ディアンケヒトは悪い神ではない。

 

そんなことがあった翌日、すっかり常連になったフィン・ディムナさんが今日も胃薬を買っていく。

 

「これは、とても胃に優しい良い薬だね。つらい毎日もこれがあると頑張れるよ」

 

嬉しそうに胃薬が入った紙袋を抱えながら言ったフィン・ディムナさんは、日々胃薬に助けられているみたいだ。

 

フィン・ディムナさんが毎回買っていくのは常用の胃薬ではあるので毎日飲んでも問題はない。

 

頻繁にフィン・ディムナさんは胃薬を買いに来るが、毎日欠かさず飲んでいるから消費が早いのかもしれないな。

 

それだけストレスを感じていることになるが、最初に店に来た時のように腹部を押さえているようなことが無くなったのは、胃薬がしっかりと効果を発揮しているということだろう。

 

苦しんでいる人を助けることが出来ているなら、薬師としての仕事を出来ているような気がする。

 

そんなことを思っていたら、数日後に何故か変わり果てた姿で現れたフィン・ディムナさんがミアハ・ファミリアのホームである店舗に足を踏み入れたところで、ばたりと倒れた。

 

流石に放置することは出来ないので、店舗の接客等の仕事を神ミアハとナァーザに任せて、倒れたフィン・ディムナさんを俺の自室に運んでベッドに寝かせておく。

 

精神的にも肉体的にも疲労が溜まっている様子だったフィン・ディムナさんが起きるまでしばらく待っていると、数十分後にようやく目を覚ました。

 

見知らぬ場所だと気付いて、周囲を確認しようとしたフィン・ディムナさんは警戒しているようだったが、俺を視界に入れると安堵して警戒を解いたようだ。

 

「ここは何処かな」

 

「ミアハ・ファミリアのホームにある俺の自室ですよ」

 

「僕がどれくらい寝てたかわかるかい」

 

「数十分くらいですね」

 

「数十分か、そんなに寝れたのは5日ぶりだね」

 

「いくら冒険者でも、寝ないと身体に悪いですよ」

 

「急ぎの仕事は、なんとか終わらせたんだけど、ちょっと問題があってね。解決するまで寝られなかったのさ」

 

「問題の内容については聞きませんが様々な疲労が蓄積しているようですし、この特製のエナジーポーションを飲んでもらいますよ」

 

ベッドから身体を起こしているフィン・ディムナさんに、普通のエナジーポーションよりも効果がある特製のエナジーポーションを手渡しておいた。

 

「ちょっと普通のエナジーポーションとは違うみたいだけど、きみが作ったものなら問題ないんだろうね。ありがたくいただくよ」

 

肉体的な疲労だけではなく精神的な疲労にも効果がある特製エナジーポーションを一気に飲み干したフィン・ディムナさんの身体は完全に疲れが吹き飛び、元気を取り戻したみたいだ。

 

「これは凄いね。24時間戦えそうな気がしてきたよ」

 

何処かのエナジードリンクのキャッチコピーのようなことを言い出したフィン・ディムナさんは、特製のエナジーポーションで疲労が回復したことで妙なテンションになっていたのかもしれない。

 

「身体を休めることも仕事の内ですから、しっかりと休んでおいてください」

 

「僕がやらなきゃいけない仕事も終わらせたし、暇ではあるんだけど、身体を鈍らせたくなくてね。ついつい身体を動かしたいと思ってしまうんだ」

 

「そうなんですか」

 

「ファミリアのしがらみに捕らわれないで、ダンジョンで自由に槍を振るいたくなる時もあるかな」

 

「大手のロキ・ファミリアの団長ともなれば、大変なことも多いと思いますし、そんな気分になる時もあるんでしょうね」

 

「たまには単なる冒険者に戻りたいとも思うけど、1人でダンジョンに潜るのは団長の立場としては避けなければいけないんだ」

 

深々とため息を吐きながら言ってきたフィン・ディムナさんは溜め込んでいた気持ちも言葉にして吐き出しているようである。

 

「普通は団長1人ではダンジョンに潜りませんから、基本的には同じファミリアでパーティを組んでいるみたいですね」

 

また疲労やら何やらを溜め込んで店の中で倒れられたら困るので、吐き出させることも必要だと判断した俺は、フィン・ディムナさんと会話を続けていった。

 

「ロキ・ファミリアでパーティを組んだら、やっぱり団長の仕事をしないといけなくなるから、自由とは程遠いかな。それは嫌ではないけど、たまには解放されたいという気持ちも無くはないよ」

 

「まあ、貴方が疲労していた原因がロキ・ファミリアなのは間違いないですからね。たまには解放されたいと思ってしまうのは当然かもしれません」

 

「そうなのかな」

 

「そうだと思いますよ」

 

確実にストレスの原因となっているロキ・ファミリアから解放されたいという気持ちが、フィン・ディムナさんにあってもおかしくはないと俺は思う。

 

「ロキ・ファミリアの団員じゃなくて、僕とロキ・ファミリアに物怖じしない度胸と実力があるパーティメンバーが何処かに都合良く居ないかなあ」

 

何処か遠くを見ながら言ったフィン・ディムナさんは、そんなパーティメンバーは何処にも居ないと思っているようだ。

 

「それなら貴方も俺のパーティメンバーに加わってみませんか。他のメンバーは、椿とアスフィさんにオッタルさんとアミッドになりますが」

 

フィン・ディムナさんが望むパーティメンバーが、何処にも居ない訳ではないと教えるついでに、ものは試しと俺はフィン・ディムナさんもパーティメンバーに誘ってみることにした。

 

「Lv5が2人にLvは3でも希代のアイテムメイカーが1人、現オラリオ最強のLv7が1人に、Lvは2でもオラリオ最高のヒーラーが1人って凄いパーティじゃないか」

 

集まっているパーティメンバーが豪華なことに、とても驚いていたフィン・ディムナさん。

 

「どうやってこれだけのメンバーを集めたんだい?」

 

「まあ、縁があったとだけ言っておきますよ」

 

どうやってこのパーティメンバーを集めたかに興味を抱いていたフィン・ディムナさんに、多くを語ることはない。

 

「それで、貴方もパーティメンバーに加わりますか?特に無理強いはしませんよ」

 

まだフィン・ディムナさんからの答えを聞いていないので、俺は続けて聞いてみる。

 

「きみのパーティに是非とも僕も参加させてもらうよ」

 

フィン・ディムナさんからの返答は笑顔での了承であり、俺のパーティに新たなメンバーが加わった瞬間だった。



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第21話、深層へ

思いついたので更新しておきます



新しいパーティメンバーが新たに3人集まったことを、俺はギルドの担当アドバイザーの人に報告しにいってみる。

 

「新しく3人も集まったんだね。どんな人達かな」

 

そう聞いてきたギルドの担当アドバイザーの人は、俺の新しいパーティメンバーがとても気になっているらしい。

 

「オッタルさんとアミッドにフィンさんですね新しいパーティメンバーは」

 

嘘をつく必要もないので正直に答えておくと、ギルドの担当アドバイザーの人は物凄く驚いていた。

 

「猛者に聖女に勇者って凄いメンバーが揃い過ぎじゃないかな。どうやって集めたの」

 

今度はパーティメンバーを集めた方法が気になっているようだったギルドの担当アドバイザーの人。

 

それぞれに理由があったことを話せる範囲で教えておくと、なんとか納得してもらうことはできたようだ。

 

「まあ、これだけの人が集まったのなら安心して、きみを送り出せるよ」

 

笑顔で言ったギルドの担当アドバイザーの人は、心配事が無くなったかのような顔をしていた。

 

俺のパーティメンバーが椿とアスフィさんだけだった時よりも充実したことで、ギルドの担当アドバイザーの人は安心できたのかもしれない。

 

「約束します。今回も俺は無事に帰ってきますよ」

 

無事に帰ってくることを約束してギルドから戻った俺を、ミアハ・ファミリアのホームで出迎えてくれた神ミアハとナァーザ。

 

神ミアハとナァーザにも深層に向かうことを伝えておく。

 

深層に向かうパーティメンバーについても教えておくと「よくそれだけの面子が集まったな」と驚いていた神ミアハ。

 

パーティメンバーを聞き「まあ、猛者と聖女に勇者まで居るんだったら深層でも無事に帰ってくるでしょゲドなら」と言っていたナァーザは特に心配はしていないみたいだった。

 

深層に向かうことを特に止めたりしない神ミアハとナァーザは、俺がやりたいことをやらせてくれるようだ。

 

そんな神ミアハとナァーザに感謝をしていると「深層から帰ってきたらゲドがミアハ・ファミリアの団長になってね」と言い出したナァーザ。

 

神ミアハも現団長のナァーザが決めたことなら異論は無いようで、特に反対はしていなかった。

 

「俺が団長で、ナァーザは良いんですか」

 

「Lv2の私が団長やってるよりは良いと思う」

 

しばらくナァーザと話してみたがナァーザの意志は固いようで、俺をミアハ・ファミリアの団長にすることを諦めることはない。

 

平の団員にまで戻ろうとしたナァーザを説得して、ナァーザに副団長になってもらうことは納得してもらったが、団長の仕事を完全に覚えるまではナァーザに手伝ってもらうことは多そうだ。

 

俺としてはナァーザが団長でも特に問題は無かったが、ナァーザは気にしていたのかもしれないな。

 

ダンジョンの深層から帰ってきたら団長としての仕事を頑張って覚えるとしようか。

 

それでも直ぐにダンジョンの深層に向かう訳ではないが、パーティメンバーとなった全員の予定が合う日は、あと1週間後にまで迫っている。

 

ダンジョンの深層で遭遇する可能性があるペルーダの毒を解毒する為に、専用の解毒剤も作成しておくことにした。

 

それ以外にも各種ポーションを全員分、多目に作成しておき、リトルフィートで小さくして大量に鞄にしまっておく。

 

各種ポーションを入れてある瓶は頑丈な瓶にしてあるので、小さくしていても全力で握ったりしなければ割れることはない。

 

用意するものは用意して、準備は万端となったので、これでいつでもダンジョンに行けるだろう。

 

そう思っていたら、ミアハ・ファミリアのホームに1人でやってきたアスフィさん。

 

どうやらアスフィさんは自身の力不足を気にしているようで「深層でも通用する新しい武器」について相談しにきたようだ。

 

「自由な発想があるゲドくんなら何か思い浮かぶのではないかと思いまして」

 

そう言ってきたアスフィさんには魔道具関係で世話になっているので、困っているなら手伝おうという気持ちはある。

 

「そうですね、じゃあこんなのはどうですか」

 

思いついた新たな武器はアスフィさんが作成していた爆炸薬や凍結薬等を「創薬師」のスキルで更に改良したものを、高速で射出して撃ち出す筒状の魔道具だった。

 

投げるよりも正確に狙った場所に射出して撃ち出せるように細かく調整していき、完成した魔道具。

 

引き金の付いた筒と、形状がまるでグレネードランチャーのようになったが、扱いやすい形を選ぶと自然とこんな形になっていたみたいだ。

 

まるでグレネードランチャーのような魔道具を使って、アスフィさんとダンジョンの下層で試し撃ちをしてみる。

 

「創薬師」のスキルで改良した爆炸薬の威力は凄まじく、下層のモンスターが集まっていても、小さな1瓶で一掃することが可能であると確かめられたのは悪いことではない。

 

着弾地点の周囲に人が居ないことを確認してから撃たなければいけないが、これで深層でも通用する新たな武器が完成した。

 

扱いには注意して量産はしないようにと伝えておいたが、実際に使ってみて危険度を理解しているアスフィさんなら大丈夫な筈だ。

 

そんなことがあった日の翌日、今度は椿がミアハ・ファミリアのホームに現れて、椿が打った魔剣の数々を見せてきた。

 

主神である女神ヘファイストスを除けば、ヘファイストス・ファミリアで1番の腕を持つ椿が打った魔剣には存在感があるな。

 

並みの魔剣とは比べ物にならない椿の魔剣は、パーティメンバーに魔法砲台が居ないという唯一の欠点を補ってくれるだろう。

 

深層で必要になると判断して、魔剣を用意してくれた椿には感謝をしておかければいけない。

 

深く感謝をしてから、とりあえず椿に魔剣の代金を支払っておくことにする。

 

椿は俺の専属の鍛冶師でもあるので、多少は安くしてくれたみたいだが、それでも数がある魔剣は安くはない値段だ。

 

これも深層に向かう為の必要経費としておくとしよう。

 

そして数日後、ついに全員の予定が合う時が来た。

 

待たせたりしないように時間よりも早く待ち合わせの場所にまで向かっていく。

 

俺が背負っている大きめの鞄にはダンジョンで必要な物が大量に詰まっていた。

 

各種ポーションに解毒剤や食料品と魔道具のウォーターボトルの長期用にテント等がリトルフィートで小さくなって詰まっている鞄。

 

パーティメンバー全員分が入っているので、小さくしても結構な量だが、全てダンジョンでは必要になる物だ。

 

無駄なものは1つもない。

 

かなり早めに向かったので俺が1番早く着いていたようで、誰も待っていたりはしなかったが、遅刻するよりかは良いと思う。

 

時間が経過するごとに徐々に人が増えてきて、指定した時間までには、ちゃんと全員が待ち合わせ場所に来てくれた。

 

全員がしっかりと準備をしてきていることは確かであり、軽装な人は1人も居ない。

 

「それじゃあ、ダンジョンに行きましょうか」

 

俺の言葉に頷いたパーティメンバー達が、それぞれの了承の言葉を言うと、各々が武器を持つ。

 

短剣を持っているアミッドも上層や中層では戦うつもりであるみたいだ。

 

ダンジョンに向かっている途中で陣形について話していく。

 

「オッタルさんが前衛で、フィンさんが中衛で指揮、椿とアスフィさんが遊撃で、アミッドが後衛で回復役。俺が後衛のアミッドを守るタンク役と遊撃の2役という感じでいきたいと思います」

 

「うん、良いんじゃないかな。バランスは悪くないよ」

 

それぞれの配置に、フィンさんは納得していた。

 

「此方も異論は無い」

 

オッタルさんも前衛の配置に異論は無いらしい。

 

「上層や中層では、これの出番は無さそうですね」

 

背負う為の紐が付いた筒状の魔道具を撫でながら言うアスフィさんは、少し残念そうにしている。

 

「魔剣は必要になるまで温存しておくのだぞ」

 

全員に言い聞かせるように言った椿が用意していた魔剣は、パーティメンバー全員に必ず1本は渡されているが、使い所を間違える人は居ない筈だ。

 

「私は回復役を頑張ります!誰も死なせはしません!」

 

宣言するかのように大きな声で言い放つのは、かなりの気合いが入っていたアミッド。

 

オラリオ最高のヒーラーがやる気に満ち溢れていたが、ヒーラーの出番が無い方が良いのは確かだ。

 

それでもアミッドのやる気が削がれるようなことは黙っておくとしよう。

 

パーティメンバーと会話を交わしながらダンジョンに入り、階層を進んでいく。

 

上層や中層で立ち止まるようなことはなく、18階層で一旦休憩して、俺が持ってきた食料品で食事をしてから更に下の階層へと向かっていった。

 

中層を抜けて下層にまで到着したが、足を止めることなく先へと進む全員。

 

下層のモンスターだろうが現オラリオ最強のLv7を止めることは出来ず、前衛のオッタルさんに蹴散らされていくモンスター達。

 

久しぶりのダンジョンに意外と張り切っていたオッタルさんを越えることなく全てのモンスターが倒されていき、あっという間にモンスターの死骸だらけとなった下層。

 

放置してそのままにしておくと下層で強化種が生まれる可能性があるので、手早く魔石を回収しておくことにした。

 

「前衛が強いと、楽で良いね」

 

水場から突発的に飛び出してくるモンスターだけを槍で倒し、槍の長柄で肩を叩きながら笑顔で言っていたフィンさんは、今は前衛のオッタルさんに指示を出す必要は無いと判断したらしい。

 

今のところはオッタルさんとフィンさんだけで対処が可能であるようで、遊撃とタンクと回復役の出番は無かった。

 

「流石は猛者と勇者、新しい武器を使う間もありませんでしたね」

 

「紐を付けて背負っておるその筒は武器なのかアンドロメダ」

 

新しい魔道具を撫でながら言ったアスフィさんに、珍妙な物を見るかのような目で魔道具を見ていた椿が話しかける。

 

新しい魔道具について椿に説明を始めるアスフィさんは、出番が無くて暇だったのかもしれない。

 

周囲の警戒を怠ることなく、俺は回収した大量の魔石を袋に詰めてからリトルフィートの魔法で小さくして鞄にしまっておく。

 

「師匠のその魔法は便利ですね」

 

俺に話しかけてきたアミッドはリトルフィートの魔法に興味があるようだ。

 

「まあ、便利ではあるな。サポーターの役割もこなすことができるから、ダンジョン攻略には役立ってると思うぞ」

 

アミッドとしばらく会話をしているとモンスターの気配を感じなくなったので、周囲のモンスターが全て一掃されたらしい。

 

一旦アミッドの守りをアスフィさんと椿に任せて、鞄から小さくしていたエナジーポーションを取り出した俺は大きさを元に戻し、前衛で張り切っていたオッタルさんに下がってきてもらい、エナジーポーションを渡す。

 

「感謝する」

 

それだけ言ってエナジーポーションを飲み干したオッタルさんは再び前へと戻っていった。

 

誰も負傷することなく下層を順調に進んでいき、ついに到着した深層への入り口。

 

ここからが本番ということになるだろうな。

 

ダンジョンの深層に向かう為に集めたパーティメンバー達と、これから深層へと向かう。

 

用意していた準備は万端で、パーティメンバーにも問題はない。

 

陣形を崩すことなく足を踏み入れたダンジョンの深層。

 

現れた大量のモンスター達を相手に、俺達は戦っていく。



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第22話、階層主

思いついたので更新します


群れで襲いかかってきたのは黒い外皮に赤い体毛で頭から生えた2つの角を持つモンスターであるバーバリアン。

 

大量のバーバリアンを相手に前衛で大剣を振るうオッタルさんを強敵だと判断したのか、バーバリアンはオッタルさんを避けて此方へと向かってくる。

 

「撃つんだ、アンドロメダ」

 

中衛のフィンさんの指示に従った遊撃のアスフィさんが、筒状の魔道具から改良爆炸薬が詰まった瓶を射出すると、強烈な爆炎で此方に近付いていたバーバリアン達を一掃することができたようだ。

 

新たな魔道具が深層でも通用する武器であると証明することができたアスフィさんは、とても喜んでいたな。

 

ちなみにバーバリアンのドロップアイテムは赤い毛で、バーバリアンの毛は油分を含んでいることから、火を着ければ水辺でもよく燃えるらしい。

 

迷宮構造となっている道を進むと今度はリザードマンエリートにスカル・シープとルー・ガルーが混合した群れが左右の分かれ道からやってきて襲いかかってきた。

 

凄まじい物量に前衛だけではなく中衛と遊撃も戦う必要が出てきており、後衛のアミッドを守りながら俺も戦っていく。

 

天然武器の石刃を振るってくる一際大きいルー・ガルーは明らかに強化種だが、武器の扱いに慣れているようで、身体能力だけで武器を振るっている冒険者よりも技を身に付けていたことは確かだ。

 

ルー・ガルーが上段に振り上げた石刃が此方に振り下ろされるよりも速く、横一文字に振るった「渦鋼」でルー・ガルーの両腕を斬り落とし、ルー・ガルーの頭部に突きを叩き込んで倒す。

 

それからも1歩も下がることなく「渦鋼」を休まず振るい、目の前のモンスターを斬り倒していくと数が減っていくモンスター達。

 

大量に現れたモンスター達は全て倒されて、残ったものは魔石とドロップアイテム。

 

それらを回収し、袋に詰めてからリトルフィートで小さくしてから鞄にしまっておいた。

 

更に深層の先に進むと、次はオブシディアンソルジャーが大量に現れたが、移動速度がそれほど速くはないオブシディアンソルジャー達を、アスフィさんの魔道具から射出された新たな薬による爆発が呑み込んでいく。

 

爆炸薬とは違って爆炎は発生しないが強烈な爆発を引き起こす爆裂薬という薬の魔道具をアスフィさんは作成していたみたいだ。

 

魔法が効きにくい黒曜石の身体を持つ岩石系モンスターであるオブシディアンソルジャー達だったが、魔道具による爆発は効果があったらしく、完全にオブシディアンソルジャー達の身体は破壊されていた。

 

オブシディアンソルジャーのドロップアイテムは、魔法が効きにくい黒曜石だが、とても高値で売れるようなので忘れずに回収しておきたい。

 

破壊されたオブシディアンソルジャー達が動くことはなく、全員で魔石を回収していくとドロップアイテムの黒曜石を発見。

 

幾つか黒曜石を回収することができたが、確かに魔法が効きにくくリトルフィートを使っても直ぐに小さくはならなかった。

 

それでもLv5になって魔法の効果が上がった俺のリトルフィートなら、魔法が効きにくい黒曜石でも少し時間があれば、小さくすることは可能だ。

 

黒曜石が小さくなるまでの時間は休憩時間ということにしておき、パーティメンバーの全員には、しばらく休んでもらう。

 

ダンジョンの壁を軽く斬って傷をつけておけば、ダンジョンからモンスターが生まれるまで、しばらく時間がかかるので直ぐにモンスターに襲われることはない。

 

休憩時間に、軽食として用意しておいたビスケットや燻製肉を提供してみると、かなり好評だった。

 

「ロキ・ファミリアの遠征にも持っていきたいね。何処で買った物なのかな?」

 

そんなことをフィンさんが聞いてくる程度には気に入ってもらえたようだ。

 

「両方とも自作なんで、買った物ではないですよ」

 

特に嘘を言う必要も無いので俺が作ったものだと正直に答えておくと納得して頷いていた椿とアスフィさん以外が物凄く驚いている。

 

「美味しい燻製肉はともかくとして、このお菓子も師匠が作ったんですか!」

 

ビスケット片手に近付いてきたアミッドは、特にビスケットを気に入って食べていたので衝撃が大きかったらしい。

 

「そのお菓子も俺が作ったものだけど、不味くはないだろう」

 

「確かに美味しいですけど、お菓子作りも出来るんですね師匠は」

 

驚きを隠せていないアミッドにとっては、俺がお菓子作りも出来るとは思っていなかったようだ。

 

アミッドとそんな会話をしていた俺に、燻製肉を沢山食べていたオッタルさんが不意に聞いてくる。

 

「ミアハ・ファミリアで燻製肉を売り出したりはしないのか?」

 

「今の所は食料品を売り出したりはしないと思います」

 

「そうか」

 

俺の答えを聞いたオッタルさんの返事は短かったが、へにょりと倒れていた猪耳を見れば、オッタルさんが残念だと思っていることは一目で理解できた。

 

「売り出したりはしませんが、材料費を出してくれるなら俺が個人で作ったものを渡すくらいは大丈夫ですよ」

 

「そうか」

 

俺が続けて言った言葉への返事は短かったが、ピンと立った猪耳を見れば、オッタルさんが喜んでいることは直ぐにわかる。

 

オッタルさんの猪耳は感情表現がわかりやすい。

 

しっかり休憩することができて、小さくなった黒曜石も鞄にしまっておき、更に先を目指して進んでいく全員。

 

負傷者を出すこともなく順調に階層を下りていくと、再び現れるモンスター達。

 

バーバリアンにルー・ガルーとスパルトイが混合した白兵戦が強いモンスター達だったが、アスフィさんが連続で射出した爆炸薬と爆裂薬により壊滅。

 

魔石まで砕けていたので回収は出来なかったが、モンスターを素早く排除できたことはアスフィさんに感謝しておく。

 

「まだまだ爆炸薬と爆裂薬は有りますので頼りにしておいてくださいね」

 

筒状の魔道具を構えながら言ってきたアスフィさんは、とても張り切っていたが、やる気がないよりかは良いのかもしれない。

 

Lv2のアミッドの体力のことも考えて、ときおり休憩を挟みながらダンジョンの深層を進んでいくと、風景が変わる。

 

深層の迷宮のような階層が44階層からは、まるで火山のようになっていた。

 

遭遇するモンスターを倒し、全員に各種ポーションを提供しながら先へ先へと進む。

 

到着した49階層は広大な荒野になっていて遮蔽物が無く、フォモール達が大量に押し寄せてくる姿が見えた。

 

「撃ちまくれ、アンドロメダ」

 

指示を出したフィンさんに従ったアスフィさんの魔道具から連続で射出された爆炸薬が遠く離れた場所に居るフォモール達を爆炎で呑み込んで倒していく。

 

「全員、魔剣を用意するんだ。僕の合図に従って一斉に魔剣を振ってくれ」

 

続けてフィンさんは、椿が用意した魔剣を構えながら爆炸薬で数がかなり減ったフォモールを完全に全滅させる為に指示を出す。

 

「今だ!」

 

フィンさんの合図に従って全員が魔剣を振るうと放たれた魔法がフォモール達に直撃。

 

椿の魔剣は並みの魔剣以上の威力があり、ダメージを喰らったフォモール達の動きは完全に止まっていた。

 

「前衛、突撃!」

 

フィンさんの指示に従った前衛のオッタルさんが動きが止まっているフォモール達を容易く狩っていき、あっという間にフォモール達は全滅。

 

それから魔石を回収した後に安全階層の50階層まで移動し、鞄からリトルフィートで小さくしておいた人数分のテントを取り出して元の大きさに戻す。

 

パーティメンバー全員に個別のテントを用意しておき、食料品と水も提供しておいた。

 

「全員武器を出せ、手前が武器の手入れをしよう」

 

俺を含めた全員が椿に近接武器の手入れをしてもらい、ついでに魔剣の状態も確認してもらう。

 

「ふむ、魔剣を使えるのは後数回といったところか。魔剣だけに頼りきっておる者は、おらんから問題はないがな」

 

魔剣の確認と、武器の手入れを終わらせた椿は全員に武器と魔剣を返却して、自分のテントに戻っていく。

 

椿に武器の手入れをしてもらった俺も自分のテントに戻って眠ることにした。

 

翌日になり、朝食として燻製肉と野菜を入れたスープとパンを全員分俺が用意していると、起きてきた他の面々。

 

しっかりと朝食を全員が食べてから後片付けをして、片手鍋に食器やテントをリトルフィートで小さくして鞄にしまう。

 

51階層にまで向かい、カドモスの泉水を回収してから帰ることにしたが、オッタルさんが1人で泉水を守っていたカドモスを瞬殺。

 

その後、全員で手分けして泉水を集めたが、それなりの量のカドモスの泉水を手に入れることができたようだ。

 

マッピングしておいたダンジョンの道を逆走していき、今度は上の階層へと上がる。

 

俺がアミッドを肩車して走り、他の面々も立ち止まることなく走って移動していった。

 

進行に邪魔なモンスターだけ倒して突き進んでいき、徐々に階層を上がっていくと、あと数階層で深層から下層だ。

 

迫り来るモンスター達を突撃して突破していく俺達は一丸となって階層を上がっていく。

 

途中でしっかりと休憩も挟み、各種ポーションを提供して回復も行っておくと、移動速度を落とさずに進むことが可能だった。

 

到着した37階層。

 

「皆、止まってくれ」

 

あと1階層上れば下層といったところで、フィンさんが俺達に止まるように指示を出す。

 

「僕の親指が凄まじく痛んでいるということは、この先に、とてつもない危険がある筈だから気をつけるんだ」

 

冷静に言い聞かせるように言ったフィンさんには、危険を察知する能力があるみたいだ。

 

この先に危険があると理解していても、ダンジョンから帰る為には進むしかない。

 

全員で進んだ先には、37階層と36階層を繋ぐ出入り口の前を塞ぐかのように生えている巨大なモンスターが居た。

 

「明らかに異常な場所に、異常個体の白いウダイオス」

 

痛んでいるらしい親指を押さえながらフィンさんがモンスターの名前を言うと、白いウダイオスは両手にそれぞれ1本ずつ持っている白い剣を此方に向けて振るう。

 

2本の白い剣から放たれた扇状に広がる衝撃波。

 

「全員俺の後ろへ!」

 

肩車しているアミッドごと守るように俺の「断ち切る力」で空間を断ち切ることで、形成されたバリアフィールドのようなものが衝撃波を防いだ。

 

肩車しているアミッド以外の全員を「断ち切る力」で覆うことは出来なかったが、扇状に広がる衝撃波の盾となることはできた。

 

此方が攻撃を防いだことを確認した白いウダイオスは、今度はスパルトイ達を生み出す。

 

白いウダイオスから生み出されたスパルトイは額から角を生やしていて、此方のスパルトイも異常な個体であることは間違いない。

 

「帰宅途中だ、押し通らせてもらうぞ!」

 

大剣を構えてオッタルさんは力強く言い放つ。

 

「きみを倒せば親指の痛みも止むだろうし、倒させてもらうよ」

 

槍を構えてフィンさんは静かに白いウダイオスを見据えた。

 

「私の爆炸薬の出番ですね!」

 

スパルトイ達に筒状の魔道具を向けて連続で爆炸薬を射出しながら言ったアスフィさん。

 

「手前も一働きするか」

 

長刀を上段に構えた椿は、スパルトイ達を待ち構えている。

 

「回復は任せてください!」

 

オラリオ最高のヒーラーと呼ばれるアミッドもやる気満々だ。

 

「それじゃあ、やりましょうか階層主退治」

 

「渦鋼」を構えて言った俺のその言葉を合図に、オッタルさんとフィンさんが白いウダイオスに突っ込んでいった。

 

出てきた階層主には悪いが、負ける気がしない。



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第23話、ウダイオスの白剣

思いついたので更新します


白いウダイオスが両手に1つずつ持つ巨大な白剣を振り下ろし、衝撃波を連続で放つ。

 

発生地点から扇状に広がっていく衝撃波を回避したオッタルさんとフィンさんに、今度は白い剣山を生み出して攻撃するウダイオス。

 

階層主であるウダイオスが視界の範囲内なら何処にでも剣山を生み出すことができるとは知っていたが、白い剣山がダンジョンの地面から生える速度は速い。

 

ダンジョンの地面から生えた白い剣山を避けながらウダイオスに接近した2人は、ウダイオスに攻撃していった。

 

オッタルさんの大剣を受けたウダイオスの肋骨が1本斬り落とされて、フィンさんの槍による突きを受けた肋骨が1本砕ける。

 

積極的にウダイオスに攻撃を加えるオッタルさんとフィンさんを集中して狙っているウダイオスは、此方の相手は生み出したスパルトイ達に任せているようだ。

 

額から角を生やした大量のスパルトイにアスフィさんの魔道具から連続で放たれる改良爆炸薬。

 

骸骨兵士といった外見のスパルトイ達が爆炸薬の爆炎に包まれて破壊されていき、凄まじく数を減らしていった。

 

それでもウダイオスから無尽蔵に生み出されるスパルトイは直ぐ様補充され、再び大量のスパルトイが此方に近付こうとしてくる。

 

ウダイオスを倒さない限り、スパルトイが無限に補充され続けることは確かだ。

 

アスフィさんの爆炸薬にも限りがあるので、無くなる前にウダイオスを倒さなければいけない。

 

アミッドのことも守りながら戦う必要があるが、守る手段はあるので問題はないだろう。

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

アミッドを守る為に魔法を発動することを決めた俺は魔法の詠唱を行っていく。

 

「眩い星よ、重なりあえ」

 

この魔法は後半の詠唱を変えることにより魔法の効果も変わる魔法であり、今回使うのは多重結界の効果。

 

「ムードメーカー」

 

発動した多重結界は人間だけが入れるように設定してあり、モンスターは入ることはできない。

 

白い剣山を生やせないようにダンジョンの地面も結界が覆っているので、多重結界内を攻撃することはウダイオスにも不可能だ。

 

アミッド以外も多重結界に匿えるように結界の範囲内は、6メートルの半球状にしてあるのでパーティメンバー全員が入れるスペースはある。

 

とりあえずアミッドとアスフィさんに椿は多重結界内で待機してもらうことにして、遊撃を行うことにした俺は「龍の手」と「竜鱗鎧化」を発動した状態で、ウダイオスに接近。

 

身体能力と脚力を「龍の手」で2倍にして駆けていく俺にダンジョンの地面から生えた白い剣山が迫るが、スキル「竜鱗鎧化」によって俺の身体に形成された装甲を破れる程の威力が白い剣山には無いと判断し、突き進む。

 

脚部すらも覆うように形成された装甲を貫けなかった白い剣山を足場代わりにした俺は、跳躍力も「龍の手」で2倍にして跳躍し、瞬時に白いウダイオスに迫ると「渦鋼」でウダイオスの頭部を真っ二つに斬り裂いた。

 

通常のモンスターであるなら頭部を真っ二つに斬り裂かれれば終わりだが、異常個体の白いウダイオスは通常のモンスターとは違っていたようで、瞬く間に再生していったウダイオスの頭部。

 

ウダイオスは左右の手に1本ずつ持った白剣を交差させるように振るい、2本の白剣の中央に挟み込んだ俺を渾身の力で断ち斬ろうとしてきた。

 

装甲が軋んでいたことから「龍の手」で「竜鱗鎧化」の装甲の強度を2倍に上げていなければ身体を断ち斬られていたことは間違いない。

 

白いウダイオスの攻撃が俺だけに集中している今が好機だと判断したオッタルさんとフィンさんは白いウダイオスに連撃を叩き込んでいく。

 

大剣による斬撃と槍による槍撃を連続で叩き込まれたウダイオスの身体が半壊していたが、白剣を握る両腕の強度が特に高いようで両腕だけは破壊されていなかった。

 

更に続けて攻撃を叩き込もうとしていたオッタルさんとフィンさんに向けて白いウダイオスは左右の白剣を振るう。

 

オッタルさんとフィンさんはウダイオスの白剣を後方に跳んで回避し、続けてダンジョンの地面から生やされた白い剣山を避ける為に素早く横に跳躍した。

 

連撃で半壊していたウダイオスの身体が再生されて元に戻ると、再び大量に生み出されていくスパルトイ達。

 

「一旦下がってください!」

 

アスフィさんの言葉に従ったオッタルさんとフィンさんに俺は一旦下がり、多重結界の近くまで移動する。

 

多重結界から魔道具の筒先だけを出した状態で爆炸薬を連続で射出したアスフィさんによって、スパルトイ達は数を減らす。

 

スパルトイをアスフィさんが排除している間の時間を使い、多重結界内でオッタルさんとフィンさんにもエナジーポーションを渡しておいた。

 

疲労を完全に回復した状態でウダイオスとの戦いに戻っていくオッタルさんとフィンさん。

 

俺はエナジーポーションだけではなくマジックポーションも飲んでおき、消費した精神力を回復しておく。

 

とはいえ多重結界を発動している最中は常に精神力を消費していくので、定期的にマジックポーションを飲む必要がある。

 

それでも多重結界を維持しておかなければアミッドが危険であることは間違いなかった。

 

アミッドを守る為にも、白いウダイオスを倒すまで多重結界の発動を止めるつもりはない。

 

一定以上破壊されると身体を再生する白いウダイオスを倒すには魔石を砕くしかないだろう。

 

オッタルさんとフィンさんを手招きして呼び、ちょっと思いついた作戦を2人に説明してみると了承した2人。

 

左右から回り込むように白いウダイオスへと接近していくオッタルさんとフィンさん。

 

「渦鋼」を背の鞘に納めて、両手を空けておいた俺は白いウダイオスに素早く近付いていく。

 

真正面から突撃していった俺をめがけて白剣を振り下ろそうとした白いウダイオスに対して俺は左手を向けて魔法を唱える。

 

「スティール」

 

発動した速攻窃盗魔法。

 

相手の持ち物を奪う魔法である「スティール」によりウダイオスの持っていた白剣が1本、俺の左手に移動していた。

 

ウダイオスサイズの白剣は流石に柄が大きくて左手から余っていたが、確かに左手に握られていたウダイオスの白剣。

 

白いウダイオスの右手に握られていた白剣は既に俺が握っていて、右側への攻撃が弱体化していた白いウダイオスにフィンさんが槍で攻める。

 

続けて俺は右手を白いウダイオスに向けて魔法を唱えた。

 

「スティール」

 

再び発動する速攻窃盗魔法。

 

今度は俺の右手に握られることになったウダイオスのもう1本の白剣。

 

オッタルさんの大剣を防いでいた左手の白剣を俺に奪われた白いウダイオスは、無防備にオッタルさんの大剣を身体に受けることになったようだ。

 

左右から猛攻を受けて破壊されていく白いウダイオスの身体は、完全にボロボロになっていた。

 

猛攻によって砕けた胸骨から覗いた白いウダイオスの大きな魔石へ、俺が両手に持つ白剣を投げつけると、命中した瞬間に「竜撃会心」が発動。

 

弱点となる部位に攻撃が当たった瞬間、特大ダメージを与える「竜撃会心」によって盛大に砕け散った白いウダイオスの魔石。

 

魔石を砕かれたことで消滅していった白いウダイオスが残したものは、2本の白剣だけだった。

 

明らかなレアドロップアイテムであるウダイオスの白剣をどうするかで少し全員で話し合うことになったが、最終的には俺とオッタルさんに1本ずつ譲渡されることになったウダイオスの白剣。

 

その後、順調に階層を上がっていき、18階層で休んでからダンジョンを出ると魔石やドロップアイテムをギルドで換金し、全員にヴァリスを分配していく。

 

カドモスの泉水は1瓶をアミッドに渡しておき、残りの瓶を全員に1本ずつ渡しておいた。

 

泉水を医療系ファミリアに売りにいくのか、自分達のファミリアで使うのかは自由ということなる。

 

一応ミアハ・ファミリアの分として用意しておいたカドモスの泉水が1瓶あるからナァーザも文句はない筈だ。

 

一緒にダンジョンに潜ったパーティメンバーの全員がそれぞれのファミリアに戻る前に、俺に近付いてくる。

 

「その白剣を素材として預けてくれるなら、手前がお主に新たな剣を作ろう」

 

椿がウダイオスの白剣で新しい剣を作ってくれるようなので、俺は椿にウダイオスの白剣を預けておくことにした。

 

「オッタルさんは、どうするんですかその白剣」

 

オッタルさんが背負っているウダイオスの白剣を見ながら俺が問いかけてみると、答えは直ぐに返ってくる。

 

「この白剣の加工はゴブニュ・ファミリアに頼むつもりだ」

 

どうやらオッタルさんはゴブニュ・ファミリアに頼んで、ウダイオスの白剣で大剣を作ってもらうつもりであるらしい。

 

「そうですか、ああ、そういえば燻製肉が余ってたんで持っていきますかオッタルさん」

 

「良いのか」

 

とりあえずオッタルさんに余った燻製肉を全て渡しておくと猪耳をピンと立たせて嬉しそうに燻製肉を受け取っていたオッタルさん。

 

「感謝する」

 

感謝の言葉を言っていたオッタルさんの口元が僅かに笑みを浮かべていたのは、きっと見間違いではないだろう。

 

期待するように此方を見ていたアミッドにも余ったビスケットを全て渡しておくと、物凄く喜んでいた。

 

「ありがとうございます師匠!」

 

テンション高めにそう言ったアミッドは、とても嬉しそうな笑顔でビスケットが入った箱を抱えて立ち去っていく。

 

「新しい魔道具が役立ったのも貴方のおかげです、また今度魔道具についてお話ししましょうね」

 

にっこりと微笑みながらそれだけ言うと満足気に去っていったアスフィさん。

 

最後に残ったフィンさんが笑顔で言った。

 

「面白いパーティだったね。組めて楽しかったよ」

 

「それなら良かったと思います」

 

「きみが居たから集まったパーティメンバーだったんだろうね。僕は、そんな気がするよ」

 

「そうなんですかね」

 

「きっとそうさ」

 

笑みを深めたフィンさんが、俺の背を軽く叩く。

 

「指揮をしていたのは僕でも、あのパーティのリーダーは、確かにきみだったよ。またいつか、きみとパーティを組んでみたいね」

 

「まあ、予定が合ったらになると思いますから、それで良ければお願いしますね」

 

「そうだね、予定が合う日を楽しみにしているよ。まあ、胃薬とかを買いに行くから顔を合わせる機会は多そうだけどね」

 

「その時は店員として接客しますよ」

 

「それじゃあ、また今度、客として買いに行くよ」

 

会話を終わらせて去っていったフィンさんの足取りは軽い。

 

俺もミアハ・ファミリアに帰ることにして、ホームへと続く道を歩いていった。

 

特に何事も無く到着したミアハ・ファミリアのホーム。

 

帰ってきたミアハ・ファミリアで神ミアハとナァーザが出迎えてくれる。

 

「うむ、今回も無事に帰ってきたようだな」

 

俺に怪我が無いことを確認して、嬉しそうに頷いていた神ミアハ。

 

「まあ、ダンジョン帰りで疲れてるだろうし、今日は休んでていいからね」

 

ナァーザは特に心配はしていなかったみたいだが、気遣ってくれているようだ。

 

そんなナァーザに土産としてカドモスの泉水を渡しておくと物凄く驚いていたな。

 

1日しっかりと身体を休めてから、翌日のミアハ・ファミリアの仕事を手伝った後に、1人でダンジョンに向かって稼いでいく。

 

椿が作る新たな剣の代金を支払う為には、かなりのヴァリスが必要だと考えたからだ。

 

ひたすら下層でモンスターを倒してヴァリスを稼ぐ日々を過ごしていると、布で包まれた大きなものを持った椿がミアハ・ファミリアを訪れた。

 

布で包まれているものが完成した剣であることは間違いない。

 

「剣が完成したぞ!」

 

剣を包んでいた布を外した椿が見せてきた剣は、ウダイオスの白剣よりは小さい白い大剣。

 

「この剣の名は「白断」だ。お主なら使いこなせるだろう」

 

手渡された「白断」を持ち、試しに振るってみたが、とても素晴らしい剣であると理解できた。

 

強度も鋭さも「渦鋼」を遥かに上回る「白断」は、素材となったウダイオスの白剣が無ければ生まれていない。

 

そして椿の鍛冶師としての腕が無ければ、ここまでの剣にはならなかっただろう。

 

「ありがとう椿、良い剣だ」

 

「うむ、満足してもらえたのなら手前は嬉しいぞ」

 

俺からの感謝の言葉を聞いて、嬉しそうに笑っていた椿。

 

とりあえず稼いでおいたヴァリスと貯金しておいたヴァリスを合わせた6000万ヴァリスを椿に渡しておくことにした。

 

「白断」は、それだけの価値がある大剣だと判断したからだ。

 

「手前はお主の専属鍛冶師でもあるし、この半額でも構わんが」

 

なんてことを言ってきた椿にヴァリスを全額受け取ってもらう為に俺は言う。

 

「椿が素晴らしい剣を作ってくれたことに対する俺からの感謝の気持ちだと思って受け取ってくれ」

 

「むう、ゲドがそこまでいうなら受け取っておくとしよう」

 

なんとか6000万ヴァリスを全額受け取ってくれた椿の身体が、ふらついていたので支えておく。

 

「また徹夜したのか」

 

「うむ、一刻も早く剣を完成させたかったのでな」

 

悪びれずに笑う椿の身体は完全に疲れきっている。

 

「とりあえずこれを飲んでおくといい」

 

「すまんな」

 

特製のエナジーポーションを椿に渡しておくと、一気に飲み干した椿。

 

エナジーポーションで疲労が回復した椿は、元気を取り戻したようで、もうふらつくことはない。

 

「剣も渡して用事は済ませたのでな、手前は戻るとしよう」

 

「しっかりと眠ることも忘れないようにしておいてくれ」

 

「うむ、そうしておこう」

 

俺からの忠告に頷いた椿はヴァリスを抱えて帰っていった。

 

今の椿なら格下にヴァリスを奪われることはないだろう。

 

格上の場合は奪われてしまうかもしれないが、椿よりも格上なら自分で稼いだ方が早いことを理解しているので問題はない筈だ。

 

椿が作ってくれた白い大剣である「白断」を眺めながら思うことは、ゴブニュ・ファミリアに任せたオッタルさんの剣がどんな剣になったのかということだった。

 

きっと悪い剣ではないと思うが、どんな剣になったのかは1度見てみたい。

 

今度オッタルさんに会ったら、ちょっと頼んでみるとしよう。



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第24話、射手の嗜み

思いついたので更新します


ミアハ・ファミリアでの仕事を全て終わらせた後、ステイタスの更新をしてもらう為に神ミアハの自室へと向かう。

 

深層での戦いで、恐らくステイタスが伸びている筈だ。

 

神ミアハの自室で背中を晒した状態になってからベッドにうつ伏せになり、神血で俺のステイタスを更新していく神ミアハと世間話をしてみた。

 

「ミアハ・ファミリアの団長になって仕事が少し増えましたけど、やることはそんなに変わらないですね」

 

「団長とは言っても団員が、副団長のナァーザも合わせて2人しかいないファミリアだからな。大手のファミリアと比べれば、団長のやることは少ないかもしれん」

 

「ミアハ・ファミリアに入団を希望する人も居ないんで、面接をすることもありませんからね」

 

「やはりまだ、多額の借金があるファミリアだと思われているのだろうな。よし、ステイタスの更新が終わったぞ。紙にステイタスを書き写して渡すので、少し待て」

 

「じゃあ、その間に上着を用意しときますよ」

 

神ミアハにステイタスの更新をしてもらい、紙に更新された背中のステイタスを書き写してもらっている間に脱いでいた上着を手に持っておく。

 

「ステイタスは紙に書き写し終わったので服を着ても構わんぞ。新しいスキルも発現していたが、それは自分で確認してみるといい」

 

上着を着てから神ミアハが差し出す紙を受け取り、紙に書かれていた今の自分のステイタスを確認してみた。

 

Lv5

 力:H136→B755

耐久:H127→B734

器用:G248→S971

敏捷:G219→B742

魔力:F375→SS1083

幸運:C→B

耐異常:D→C

神秘:C→B

精癒:G→F

 

《魔法》

 

【リトルフィート】速攻縮小魔法

 

【スティール】速攻窃盗魔法

 

【ムードメーカー】詠唱変化魔法

 

詠唱前半

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

詠唱後半

 

「箒星よ、歩みを速めよ」思考加速

 

「道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」運命改変

 

「恒温の星よ、その熱を燃やせ」不測操作

 

「流れる星よ、空を開け」空間操作

 

「眩い星よ、重なりあえ」多重結界

 

《スキル》

 

【龍の手】

・あらゆるものを倍加する

 

【創薬師】

・薬品作成時、発展アビリティ創薬と薬師の一時発現

・作成した薬品の品質向上

 

【竜鱗鎧化】

・体表に魔素を吸収して自己修復する装甲を形成する

・耐久に応じて強度上昇

 

【断ち切る力】

・周囲の空間を断ち切る

・攻撃には使用できない

 

【竜撃会心】

・弱点となる部位に攻撃が当たった時、特大ダメージを与える

 

【射手の嗜み】

・遠距離武器装備時、発展アビリティ狙撃と千里眼の一時発現

・遠距離武器の攻撃力増大

 

更新された新しいステイタスは、こんな感じになっていたが、新しいスキルである「射手の嗜み」と書いて「シューター」と読むスキルが発現したのは、アスフィさんと一緒に遠距離武器になる魔道具を作成していたからだろう。

 

発現した新しいスキルの「射手の嗜み」を試す為には遠距離武器が必要になる。

 

ボーガンや弓を買いに行ってみるのもいいかもしれない。

 

という訳で武器屋でボーガンや弓を探してみたが、上層や中層くらいでしか通用しないものしか売っていなかった。

 

最低でも下層で通用するものが欲しかったが、弓とボーガンは人気が無いようで、第一級冒険者用の弓とボーガンが売られている店は存在しないみたいだ。

 

こうなったら新しく作った方が早いと判断した俺は、参考資料として購入した弓とボーガンの構造を頭に叩き込む。

 

1人では難しいかと思って椿にも作成協力を頼んでみると「面白そうだ」と了承してもらえたので、まずは強靭な弓とボーガンを作成する為の素材集めが始まる。

 

弓とボーガンの素材は、下層で発見したアダマンタイトを使用することになり、弦はゴライアスの硬皮を使ってみることにした。

 

それから矢に使うブルークラブの鋼殻を集める為に、ひたすらブルークラブを狩る日々。

 

大量の矢が集まったところで、試し射ちをしていき、椿と共に更に試行錯誤を重ねていく。

 

そうして積み重ねた日々により、遂に強靭な弓とボーガンが完成。

 

椿は急な仕事が入ってしまって同行ができなくなってしまったが、俺だけでもこの弓とボーガンをダンジョンで実際に使ってみるとしよう。

 

試す場所は下層だ。

 

リトルフィートで小さくして鞄にしまっておいた弓と矢束にボーガンを、ダンジョンの下層で取り出して元の大きさに戻す。

 

弓を持った瞬間、スキル「射手の嗜み」により、発展アビリティが発現したことがわかった。

 

発現した発展アビリティの千里眼により、遠方に居るモンスターを発見。

 

弓を構えて狙いを定めた矢をモンスターに放つ。

 

狙撃により命中率と飛距離が伸びた矢が、遠く離れたモンスターに命中したことが千里眼によって確認できる。

 

第一級冒険者で無ければ矢を放つこともできない強弓から放たれた矢は、スキル「射手の嗜み」により増大した攻撃力を発揮していたようだ。

 

強靭な弓から放たれた矢による一射で絶命していたモンスターは、もう動くことはない。

 

続けてボーガンも試してみたが、流石に弓ほどの威力はないようでモンスターが一射で絶命することはなかった。

 

それでも下層のモンスターを倒すことはできるので、ボーガンの性能が悪い訳ではないだろう。

 

下層で数十体以上のモンスターを倒し、弓とボーガンの性能を充分に確かめることはできたので、そろそろ帰ることにした。

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

後半の詠唱を変えると効果が変わるムードメーカーの魔法。

 

「流れる星よ、空を開け」

 

今回使うのは空間操作の効果であり、空間転移を使うつもりだ。

 

「ムードメーカー」

 

周囲にモンスターが居ないことをしっかりと確認し、ダンジョンの下層からミアハ・ファミリアの自室まで、空間操作の効果で使えるようになる空間転移で移動。

 

空間操作の効果を使うと精神力の消費が高いが、マインドダウンになるほどではない。

 

一気にショートカットができる空間転移があれば、ダンジョンのどの階層からであろうと直ぐに脱出することが可能だった。

 

行ったことがある場所なら、逆にダンジョン内部に空間転移で向かうこともできる。

 

今なら51階層にまで空間転移で向かえるが、深層のモンスターが空間転移で地上に来てしまわないように、安全階層である50階層から向かった方が良さそうだ。

 

とりあえず下層で入手した魔石とドロップアイテムをギルドで換金してもらいにいくと、それなりの額のヴァリスが手に入ったので部屋の金庫に貯金しておく。

 

必要な物だけにヴァリスを使っているからか、貯金が貯まる速度がかなり早いが、それは悪いことではない。

 

椿の工房にも向かい、実際に完成した弓とボーガンを使ってみた感想を椿にも伝えておいた。

 

「そうか、下層のモンスターでも問題なく倒せたのなら、あの弓は深層で通用するかもしれんな」

 

「もっと強靭な弦があれば、更に弓の威力を高めることができるかもしれない」

 

「うむ、更なる素材を探してみるのも悪くはないか。手前は仕事で手が離せんが、そこはお主に任せよう」

 

「急いでいる訳ではないから、気長に探してみるとするよ」

 

「もし素材が見つかったら手前に見せに来てくれんか。お主なら面白い素材を見つけそうだ」

 

「わかった。良い素材が見つかったら見せに行くよ」

 

椿とそんな約束をして数日後、ダンジョンに向かい、17階層の嘆きの大壁にまで到着。

 

嘆きの大壁から生まれた階層主のゴライアスは、いつもの灰褐色ではなく黒いゴライアスだった。

 

また異常個体かとは思ったが、通常のゴライアスよりも強度が高い硬皮をドロップアイテムとして落とすかもしれないと考えた俺は、黒いゴライアスを倒すと決める。

 

背負っていた「白断」を上段に構えた状態で「竜鱗鎧化」を発動すると、黒いゴライアスに真正面から突っ込んだ。

 

拳を叩き込んでくる黒いゴライアスの攻撃を「竜鱗鎧化」で形成された装甲で受け止めながら、上段に構えた「白断」を振り下ろす。

 

両断されて真っ二つになった黒いゴライアスの右拳。

 

それでも黒いゴライアスは異常個体であるからか、右拳が再生されていく。

 

試し斬りをしてみた感触からすると、通常のゴライアスよりも強度が高いことは理解できたが、斬れない強度ではなかった。

 

そして再生する異常個体のモンスターを倒すなら、弱点である魔石を狙えばいいと俺は知っている。

 

ならば、負ける理由はない。

 

「白断」を振るい、付着した血を落としてから、上段から中段に構え直す。

 

通常のゴライアスと色は違っていても大きさは変わっていないことから、恐らくは魔石の位置も同じ筈だ。

 

狙う場所は胸部の魔石。

 

力強く地面を踏み込み、跳躍。

 

振るった「白断」で黒いゴライアスの右肩から真っ直ぐ横一文字に斬り裂いていき、胸部を通過して左肩まで両断していくと魔石も破壊できたらしい。

 

消滅していく黒いゴライアスの身体。

 

残されたのは黒いゴライアスの硬皮だけだった。

 

黒いゴライアスの硬皮は、通常のゴライアスの硬皮よりも重量があるみたいだ。

 

それでもお目当てのドロップアイテムをゲットすることができたので、多少の重量は気にならない。

 

この黒いゴライアスの硬皮を持って帰ったら、椿に見せてみるとしよう。

 

そう決めてリトルフィートで小さくした黒いゴライアスの硬皮を鞄にしまうと、ダンジョンを出る為に上の階層に上がっていく。

 

いつも空間転移を使うと、便利さに慣れすぎてしまうので、今回は使わなかった。

 

さっそく椿の工房に行き、黒いゴライアスの硬皮を見せると、驚きながらも喜んでいた椿。

 

「多少重くなってしまうが、これで更に弓の威力を上げることが可能になるぞ」

 

仕事が終わっていた椿と一緒に黒いゴライアスの硬皮を弦にした弓を作っていくと、凄まじい強弓が完成。

 

黒いゴライアスの硬皮を使った弓は、通常のゴライアスの硬皮を使っていた弓とは比べ物にならない威力があるようだ。

 

そんな黒いゴライアスの硬皮は、弓の弦の素材として使うだけでは使いきれないほどの量がある。

 

「残った素材は椿が使ってくれ」

 

「良いのか、それならありがたく貰っておくとしよう」

 

残った素材は協力してくれた椿に全て渡しておくことにした。

 

椿なら間違いなく悪用することはないだろう。




狙撃、千里眼

出典、この素晴らしい世界に祝福を、主人公のカズマ

狙撃は飛び道具を扱う際の飛距離が伸び、幸運値が高いほどに命中率が増すスキル
千里眼は遠方の視認、および暗視が可能になるスキル
アニメでは暗視ゴーグルのような緑色の視覚効果となっていた


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第25話、白断と極白の剣

思いついたので更新しておきます


黒いゴライアスの硬皮を弦に使った弓に「ゴライアスボウ」と名前をつけておき、念の為に対人用の矢も作成しておくことにした。

 

ダンジョンの中層、大樹の迷宮に生えている木を斬り倒すと、リトルフィートで小さくしてから運んで、安全階層の18階層で矢の加工を行っていく。

 

完成した対人用の木製の矢には鏃をつけていないので、ブルークラブの鋼殻で作成した矢ほどの威力はない。

 

木製の鏃が無い矢だとしても、ダンジョンの頑丈な木を使って作成した矢は、対人用にするなら充分な威力がある。

 

たとえ鏃が無い矢だとしても人の頭を狙うのは止めておいた方が良さそうだ。

 

対人用の矢を更に作っておいた方が良いかと思ったので、ダンジョンの中層に再び向かって木を伐採していると、奇妙なものを見つけてしまった。

 

それはどう見ても金属製の扉であり、凄まじく頑丈そうに見える。

 

金属製の扉を実際に触ってみて強度を確かめてみると素手で破壊するのは難しそうだった。

 

アダマンタイトよりも強度が高そうなこの扉は、もしかするとオリハルコンで作られているのかもしれない。

 

魔道具作成者として扉を見てみて解ったことは、この扉を開けるには何かしらの魔道具が必要になるということだ。

 

まあ、それでも俺の魔法を使えば、扉自体が開かなくても扉の奥に進むことはできるな。

 

扉の奥に何があるのか気になるところではあるが、とりあえずオリハルコンの扉だけ貰って帰るとしよう。

 

「リトルフィート」

 

速攻縮小魔法を唱えて大きさを小さくしたオリハルコンの扉を鞄に入れておき、ダンジョンから立ち去る。

 

武器は今のところ「白断」と「ゴライアスボウ」だけで足りているので、持ち帰ったオリハルコンの扉を武器に加工してもらうつもりはない。

 

オリハルコンの扉は大きさを戻せば盾代わりに使えそうだから、小さくした状態で常に持ち歩いておこう。

 

そんなことがあった次の日、ミアハ・ファミリアのホームにやって来たオッタルさん。

 

今回はミアハ・ファミリアの商品を買いに来た訳ではないようで、以前ダンジョン探索で俺が提供した品々の中で、オッタルさんが特に気に入って食べていた燻製肉の作成を頼みに来たみたいだ。

 

「材料費も持ってきている。お前に燻製肉の作成を頼みたい」

 

燻製肉の材料費のヴァリスもしっかりと持ってきていたオッタルさんは、ミアハ・ファミリアへの依頼ではなく、個人的な頼みとして俺に燻製肉の作成を頼んできた。

 

「ちょっと仕込みに時間がかかりますけど、材料がちゃんと集まれば、3日後には燻製肉が完成すると思いますよ」

 

「そうか」

 

無表情で短い返事だったが嬉しそうに猪耳を立たせているオッタルさんは、よほど燻製肉を気に入っていたらしい。

 

「3日後を楽しみにしている」

 

それだけ言って立ち去ろうとしたオッタルさんに、ちょっと聞きたいことがあったので引き止めることにする。

 

「ウダイオスの白剣の加工をゴブニュ・ファミリアに頼むって言ってましたけど、オッタルさんの剣は、どんな剣になりました?」

 

「気になるのか」

 

「ええ、同じドロップアイテムを手に入れた者として、とても気になりますね」

 

「良い剣であることは確かだが、そこまでお前が気になるのなら実物を持ってくるとしよう」

 

「良いんですか」

 

「構わん。少し待っていろ」

 

そう言いながらミアハ・ファミリアを出ていったオッタルさんは、20分もしない内に白い大剣を背負って戻ってきた。

 

「この大剣は「極白の剣」と名付けられている」

 

背負っていた大剣を手に持ち、掲げて見せてきたオッタルさんが大剣の名前を言う。

 

「極白の剣」と書いて「きょくはのけん」と読むらしい。

 

間違いなく第1等級の武器である「極白の剣」は、ウダイオスの白剣を元に加工された大剣であり、ゴブニュ・ファミリアの鍛冶師の腕前が見事なものだと理解できる大剣だった。

 

「白断」よりも大振りな大剣である「極白の剣」はオッタルさんが使いやすいように作成されていることがわかる。

 

オッタルさんの為だけに作られた「極白の剣」は、とても良い剣だと思える剣だ。

 

「その大剣は良い剣ですね。ちょっと待っていてください、俺の剣も持ってきます」

 

オッタルさんに少し待っていてもらって、部屋から「白断」を持ってきた俺は、オッタルさんに「白断」を見せてみた。

 

「この大剣は「白断」という名前です」

 

「椿・コルブランドが作った大剣か。良い腕だ」

 

「白断」を見て頷いていたオッタルさんも「白断」を良い剣だと認めてくれたようだ。

 

同じ素材で作られた大剣だとしても加工した者が違えば、大きな違いが出るのは当然だろう。

 

それでもどちらの大剣も良い剣だと言えるのは、鍛冶師の腕が良いからだった。

 

「極白の剣」をゴブニュ・ファミリアのどんな鍛冶師が作ったかは知らないが、俺に「白断」を作ってくれたヘファイストス・ファミリア団長の椿が鍛冶師として素晴らしい腕を持っていることを俺は知っている。

 

ちなみにオッタルさんが本気で振るっても壊れない「極白の剣」には、不壊属性が付与されているみたいだ。

 

不壊属性が付与された武器は、斬れ味が少し下がるが、基本的に壊れることはないらしい。

 

俺の「白断」には不壊属性は付与されていないようだが、凄まじい強度があるのは確かだ。

 

素材となったウダイオスの白剣が良い素材だったのだろう。

 

互いに剣を見せ合って感想を言い合い、満足したところで帰っていったオッタルさん。

 

それから3日後、用意しておいた燻製肉をバスケットにしまっておき、オッタルさんを待つ。

 

燻製肉を受け取りに来たのはオッタルさんだけではなく、何故か女神フレイヤも一緒だった。

 

「穏やかに暖かさを与える火のような魂を持つ貴方のおかげで、オッタルの魂が更に輝くようになったわ」

 

微笑みながら嬉しそうに言ってきた女神フレイヤは間違いなく喜んでいる。

 

女神フレイヤは、魂を見ることができるようだ。

 

「貴方の風邪薬に助けられたこともあったから、それについての感謝もしておくわね。ありがとう、助かったわ」

 

続けて感謝をしてきた女神フレイヤは笑顔を絶やすことはない。

 

「薬師としての仕事をしただけですが、感謝されるのは素直に嬉しいですね」

 

女神フレイヤからの感謝を受け取り、俺が笑みを浮かべていると、何故か此方をじっと見てきた女神フレイヤ。

 

「どうかしましたか」

 

女神フレイヤに見られていた理由が気になったので、俺がそう言うと女神フレイヤは口を開いた。

 

「貴方の魂の火が、炎になって燃え盛る時は来るのかしら?」

 

期待しているかのように俺に聞いてきた女神フレイヤからの問いかけに答えておく。

 

「自分では確認できないんで、燃え盛る炎になっていたら、報告してもらえると助かります」

 

神に嘘を言っても仕方がないので俺は嘘をつくことなく正直な気持ちを答えておいた。

 

「ふふっ、そうしておくわね」

 

とても楽しげな女神フレイヤからの了承も貰ったので、いずれ俺の魂が炎のように燃え盛っている時があれば、女神フレイヤが教えてくれるだろう。

 

「それじゃあ、オッタルさん。燻製肉は、このバスケット3つに入ってますから、全部持っていってください」

 

重ねた3つのバスケットをオッタルさんに手渡しておくと、受け取ったオッタルさんが僅かに笑みを浮かべていた。

 

「感謝する」

 

嬉しそうなオッタルさんの猪耳が元気に立っていて、喜びを露にしているのは間違いない。

 

「またオッタルの魂が輝いてるわね。とっても喜んでるのがよくわかるわ」

 

オッタルさんを見ながら、そんなことを言っていた女神フレイヤは嬉しそうに微笑んでいる。

 

自分の眷族の魂が輝いていることが、女神フレイヤにとっては嬉しいことなのかもしれない。

 

「行きましょうフレイヤ様」

 

「せっかちねオッタル。強引に着いてきたことを怒ってるのかしら、それともそれを早く食べたいの?そんなに美味しいのなら私も食べてみたいわね」

 

「フレイヤ様の口に合うかはわかりませんが」

 

「あっ、今悲しそうな顔したでしょう。一人占めしたかったのね」

 

「フレイヤ様が、ご所望であるならお望みのままに」

 

「オッタルの魂が凄い勢いで曇っているのだけれど、そんなに食べたかったのね。そこまで食べたい燻製肉がどんな味なのかは気になるけど、輝いていた貴方の魂を曇らせてしまうぐらいなら我慢するわ。貴方一人で全部食べて良いわよ」

 

「感謝しますフレイヤ様」

 

「オッタルの魂がまた輝き出したわね。やっぱり気になるから今度彼に燻製肉を作ってもらう時は私の分も用意してくれないかしらオッタル」

 

「承知しました」

 

そんな会話を終わらせたオッタルさんと女神フレイヤがミアハ・ファミリアから立ち去っていった。

 

とりあえずオッタルさんは俺が作った燻製肉を物凄く気に入っているようだ。

 

数日後、燻製肉を全て食べきったオッタルさんが再びミアハ・ファミリアまでやってくる。

 

「今度は俺だけではなくフレイヤ様の分も頼む」

 

以前よりも多目に材料費のヴァリスを渡してきたオッタルさん。

 

今度は女神フレイヤの分も用意する必要があるらしい。

 

「量が量なんで、今回は4日後に来てくださいね」

 

「ああ、楽しみに待っている」

 

帰っていったオッタルさんは、無表情でも嬉しそうにしていた。

 

4日後、俺が気合いを入れて用意した燻製肉を取りに来たオッタルさんの猪耳がピンと立っているのが見える。

 

「この5つのバスケットに入っているのが、今回の燻製肉です。持っていってください」

 

「感謝する」

 

嬉しそうに燻製肉が入った5つのバスケットを受け取ったオッタルさんは、口端を僅かに笑みの形に緩めていた。

 

オッタルさんが5つのバスケットを抱えて去っていく姿を見送り、ミアハ・ファミリアでの仕事を行っていく。

 

ミアハ・ファミリアの現団長としてギルドに提出する書類も書くことになったが、それほど難しい内容ではないので問題はない。

 

ギルドに書類も提出し、ミアハ・ファミリアのホームに戻って店舗で接客を行う。

 

そんな日々を過ごしていると、オッタルさんがミアハ・ファミリアにまで、またやって来る。

 

燻製肉の作成をまた頼まれるのかと思っていたら、今回は違うみたいだ。

 

「お前に、フレイヤ様が食べる料理を作ってほしい」

 

そう頼んできたオッタルさんは疲れたような顔をしていた。

 

どうやら女神フレイヤは、俺が作った燻製肉をかなり気に入ったようで、俺が作る他の料理の腕も気になってしまったらしい。

 

気になってしまうと我慢ができない女神フレイヤは「実際に作ってもらいましょう」と言い出して、俺を連れてくるようにオッタルさんに命じたようだ。

 

「まあ、料理ぐらいなら構いませんよ」

 

特に嫌なことを頼まれた訳ではないので、俺は快く了承しておく。

 

「すまんな」

 

へにょりと猪耳を倒して申し訳無さそうな顔をしているオッタルさんが主神である女神フレイヤに振り回されているのは間違いない。

 

「それで、何処に向かえばいいんですか」

 

「フレイヤ・ファミリアの本拠地だ」

 

オッタルさんに案内されて向かった場所は、都市第5区画にあるフレイヤ・ファミリアの本拠地。

 

そこは、フレイヤ・ファミリアの面々が日々殺し合いのような戦いを繰り返している場所だった。



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第26話、戦の野

思いついたので更新します


フレイヤ・ファミリアの本拠地である戦の野では、女神フレイヤの眷族達が殺し合いのような戦いを繰り返しているが、オッタルさんにとっては見慣れた光景であるようだ。

 

派閥としては大手の中の大手と言えるフレイヤ・ファミリアの団員達は、いがみ合っている者達が多いようで、忠誠を誓っているのは主神ただ1柱だけらしい。

 

故に女神フレイヤの寵愛を求めて、その愛に見合う為に殺し合いをする女神フレイヤの眷族達。

 

女神フレイヤの神血を分け合う眷族など蹴落とすべき障害に過ぎないという考えを、フレイヤ・ファミリアの団員達が持っているのは間違いないだろう。

 

苛烈なまでのファミリア内競争が引き起こされていることで、他の派閥とは比べ物にならないほどの速度で更なる高みへと上がっていくフレイヤ・ファミリアには、仲間を顧みない強さがあるのかもしれない。

 

突き詰められた個の力の集まりであるフレイヤ・ファミリアは、一致団結して互いを補完し合う組織の力を持つロキ・ファミリアと並んで、迷宮都市の双頭と呼ばれている。

 

そんなフレイヤ・ファミリアの本拠地である戦の野にある調理場へとオッタルさんに案内されて向かった俺は、さっそく女神フレイヤに料理を作ることになった。

 

この日の為に集められた食材は、かなりの品揃えがあり、作ろうと思えば何でも作れそうだ。

 

監視役としてオッタルさんが見守る中で、まず最初に手を洗い清潔にした俺は、新鮮な野菜を使ったサラダを先に作ると、包丁を新たに2本用意して牛の塊肉に手を伸ばす。

 

2本の包丁で牛の塊肉を挽き肉に変えていき、牛の腎臓のまわりにある脂であるケンネ脂も刻んで挽き肉に混ぜていった。

 

ケンネ脂は熱に溶けやすく、クセのない旨みがある脂であり、ハンバーグに入れると味が格段に良くなって、ジューシーなハンバーグになる。

 

塩胡椒で味を整えてから、挽き肉を捏ね、ハンバーグの形を作ってフライパンで焼いていくと、良い匂いが漂ってきた。

 

焼き上がった大きめなハンバーグを1つ皿に乗せて、最初に作ったサラダも彩りを考えながら添えていく。

 

出来上がったハンバーグを丁寧に運んでいくフレイヤ・ファミリアの団員。

 

運ばれていった料理は、毒味役のLv1の団員が1口食べて問題がないと判断してから、女神フレイヤが食べるらしい。

 

迷宮都市の双頭の主神は大変だなと思いながら、食べたそうにしていたオッタルさんにもハンバーグが乗った皿とフォークを渡し、俺は次の品を作っていった。

 

イカのスミを使ったイカスミパスタを、パスタの生地にイカスミを練り込むことで歯が汚れないようにしたものを、美の神に気を使った1品として作成。

 

その次はトウモロコシを使ったコーンポタージュを作ってみる。

 

完成したコーンポタージュは、コーンの甘みを生かした優しい味わいのポタージュとなっており、胃にとても優しい品だ。

 

最後はデザートとして、アップルパイを作ると、料理をした後の後片付けも行っておく。

 

料理に使った調理器具は、洗った方が良いものは綺麗に洗って、水滴を拭いてから元の場所に戻しておいた。

 

作ってみた料理の感想を女神フレイヤに聞いてみようかと思った俺は、ちょこちょこ渡していた全ての料理を食べ終えたオッタルさんと一緒に食堂に向かってみる。

 

人払いがされていて女神フレイヤと毒味役しか居ない食堂。

 

女神フレイヤ用の豪華な席と机が用意された食堂の一角で、毒味役らしきフレイヤ・ファミリアの団員が、アップルパイをフォークで切り取り、一口食べている姿が見えた。

 

幸せそうな顔をしてから「大丈夫ですフレイヤ様」とアップルパイの毒味を終わらせた毒味役。

 

「やっと食べれるわね」

 

嬉しそうな顔でアップルパイを上品に食べていく女神フレイヤ。

 

とても美味しそうに食べているので、女神フレイヤがアップルパイを不味いと思っている訳では無さそうだが、食べ終わった後に感想を聞いてみよう。

 

数分後、アップルパイを食べ終わった女神フレイヤに近付いてみると、女神フレイヤは微笑みながら言った。

 

「ご馳走さま、どれもとても美味しかったわ」

 

聞く前から料理の感想を言ってくれた女神フレイヤは、今回の料理に満足していたみたいだ。

 

「満足してもらえたようで、良かったですよ」

 

「私の専属料理人になる気はあるかしら?」

 

笑みを浮かべたまま聞いてきた女神フレイヤは、間違いなく本気である。

 

そこまで気に入ってもらえたのなら悪い気はしないが、専属料理人になるつもりは無い。

 

「ありませんから、諦めてもらえると助かります」

 

「それはとても残念ね、貴方の料理がいつも食べられたら嬉しかったのだけれど」

 

本当に残念そうにしている女神フレイヤは、俺の料理を毎日食べたいと思っていたのだろう。

 

「料理人を本業にするつもりはありませんよ、俺は冒険者です」

 

「たまに貴方に料理を頼む程度なら良いかしら」

 

「まあ、それなら大丈夫です」

 

「報酬は1回1億ヴァリスにしておくわね」

 

凄まじい金額を料理1回の報酬として言い出した女神フレイヤは、明らかに金銭感覚がおかしい。

 

「それはちょっと高いんで、1000万ヴァリスぐらいにしてください」

 

「1億ヴァリスが貴方の腕の正当な価格だと思うのだけれど」

 

「評価されているのは嬉しいんですけど、1億ヴァリスは高過ぎると思いますよ」

 

「そうかしら」

 

「そうです」

 

その後、なんとか金銭感覚がブッ飛んでいる女神フレイヤを説得することに成功した俺は、やり遂げた気持ちで額の汗を拭った。

 

「料理中の監視役は、次も自分が務めます」

 

主神である女神フレイヤにそう言っていたオッタルさんに顔を向けた女神フレイヤは、悪戯っ子のような顔で話しかける。

 

「オッタル、貴方は彼の料理が、また食べたいんでしょう。調理場で監視役をしていた貴方にも料理は振る舞われていたみたいね。今日の料理は美味しかったかしら」

 

「美味であったことは確かです」

 

表情を崩すことなく素直に答えたオッタルさんの猪耳だけが元気に自己主張していて、オッタルさんの猪耳を見れば喜んでいることは一目でわかった。

 

そんなオッタルさんの元気な猪耳を見ながら笑いを堪えていた女神フレイヤが俺に向かって言う。

 

「貴方が料理している最中の監視役は、これからもオッタルに任せるわ」

 

「オッタルさんなら気が楽なんで助かります」

 

他のフレイヤ・ファミリアの団員とは、あまり関わりたくないと思っていたので、女神フレイヤの提案はありがたいものだった。

 

次の監視役もオッタルさんだと俺が安心していると、続けて女神フレイヤが言った言葉に驚くことになる。

 

「後は、貴方が戦っているところも見てみたいわね」

 

「戦っているところですか」

 

「そうよ。戦っている時の貴方の魂が、見てみたいと思ったの」

 

完全に女神フレイヤの興味本意ではあるが、女神フレイヤの眷族達なら主神の意志に従って行動を起こしてもおかしくはない。

 

此処で戦っておかないと、フレイヤ・ファミリアに後々襲撃されそうな気がする。

 

それは普通に避けたいと俺は思ったので、戦うことにした。

 

とは言え今回は料理を作りにきただけで、武器は何も持ってきていない。

 

「場所と武器を貸してもらえるなら戦いますよ」

 

「武器の用意はオッタルに任せるわ。戦う場所は問題ないわね、ここは戦の野よ」

 

武器庫に向かったオッタルさんを待たずに、楽しげな女神フレイヤが俺を案内する先は、フレイヤ・ファミリアの眷族達が殺し合いをしている場所。

 

そんな物騒な場所で、女神フレイヤは眷族達に言い放つ。

 

「彼を倒せたら、一晩だけ私の時間をあげるわ」

 

俺を指差して、女神フレイヤが言い放った言葉に駆り立てられるように、フレイヤ・ファミリアの眷族達が俺に襲いかかってきた。

 

オッタルさんが俺に武器を用意するよりも早く始まった戦い。

 

武器庫に向かったオッタルさんが戻ってくるのが遅いのは、何かトラブルでもあったのかもしれないが、笑みを浮かべながら此方を見ている女神フレイヤの差し金のような気がするな。

 

襲い来るフレイヤ・ファミリアの団員達を素手で倒して、奪った武器を振るい、Lvが低い相手が死なない程度に加減して攻撃しながらフレイヤ・ファミリアの団員達を倒していく。

 

第1級冒険者であるフレイヤ・ファミリアの幹部は混ざっていなかったので、スキルや魔法を使うまでもなく、襲いかかってきたフレイヤ・ファミリアの団員達を倒すことができた。

 

これで終わりかと思っていると現れたのは、オッタルさん以外のフレイヤ・ファミリアの幹部達。

 

団長のオッタルさんだけを除いて、勢揃いしたフレイヤ・ファミリアの第1級冒険者達は、全員が完全に武装している。

 

「さあ、貴方の輝きをもっと見せて」

 

とてもとても楽しそうな女神フレイヤが、第1級冒険者達を呼んできたことは間違いない。

 

真正面から突っ込んできた槍使いは「女神の戦車」の2つ名を持つ猫人のアレン・フローメルであり、狙いは此方の心臓。

 

胸部に迫る「女神の戦車」の槍を半身になって避けて、フレイヤ・ファミリアの団員達から奪った片手剣を振り下ろす。

 

「チッ」

 

舌打ちと共に後方に飛び退いて片手剣を避けた「女神の戦車」を嘲笑うような声が3回聞こえた。

 

「やはり腐れ畜生では駄目だな」

 

「発情猫では当然の結果だ」

 

「農家の家畜の方が、あの方の役に立っているな」

 

小人族の4兄弟「炎金の四戦士」の内3人が、そんなことを言っている。

 

「群れねぇと何も出来ねぇ小人風情が、殺すぞ」

 

「炎金の四戦士」達に悪態を吐いている「女神の戦車」も口が悪いようだ。

 

どう見てもギスギスしているフレイヤ・ファミリアを見ていると、自分がミアハ・ファミリアで良かったと心の底から思えた。

 

黙って此方を観察している「黒妖の魔剣」と「白妖の魔杖」は動くことはない。

 

連携することなど全く考えていない「女神の戦車」と「炎金の四戦士」は、互いを巻き込むような攻撃でもお構い無しに繰り出す。

 

先ほど倒したフレイヤ・ファミリアの団員達から奪い取っておいた片手剣2本を使った2刀流で、第1級冒険者達の苛烈な攻撃を捌いていった。

 

第1級冒険者達の攻撃を捌く為に使った武器には限界が来ていたが、この武器は使い捨てることを決めていたので焦りはない。

 

放たれた「女神の戦車」の槍による突きを受け流した瞬間、砕け散った片手剣。

 

飛び散る破片を気にせずに放った突き出すような中段の蹴りで「女神の戦車」の身体を強制的に後方へと下がらせる。

 

もう片方の手に持つ片手剣も限界が近いみたいだ。

 

砕ける前に投擲した片手剣を「炎金の四戦士」の1人が持つ大斧が砕く。

 

素手の此方に攻め時だと判断したのか大剣を持つ「炎金の四戦士」が1人で近付いてきた。

 

どうやら俺の能力を何も知らないらしい。

 

「スティール」

 

振るわれた大剣が此方の身体に触れる前に、唱えたのは速攻の窃盗魔法。

 

「炎金の四戦士」の1人が持っていた大剣が俺の手に瞬時に移動していく。

 

奪い取った大剣による一撃を大剣の本来の持ち主に叩き込んでやると、大きく吹き飛んだ。

 

第1級冒険者が振るっても壊れない武器を手に入れることができたので、そろそろ本格的に反撃させてもらうとしよう。



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第27話、フレイヤ・ファミリア

思いついたので更新します


「炎金の四戦士」の1人から奪った大剣は幅広であり、柄は小人族が握り易いようになっている。

 

数打ちの量産品ではなく、特注の大剣であることは間違いない。

 

小柄な小人族が使いやすいように作られている大剣は、俺にとっては少々使いにくい大剣だった。

 

それでもこの大剣は第1級冒険者が振るっても壊れない武器ではあるので、壊れるまでは手放すようなことはしない。

 

槍を振るう「女神の戦車」の攻撃を大剣で捌き、続けて攻撃してくる「炎金の四戦士」3人の攻撃を避けながら反撃を叩き込む。

 

流石に殺すつもりで反撃していないが、フレイヤ・ファミリアの幹部達には多少の怪我を負わせてしまうことになるだろう。

 

軽く汗を流した程度で終わらせる模擬戦ではないし、完全に此方を殺そうと襲いかかってくる相手に対する対処としては間違っていない筈だ。

 

肩と腰の回転に合わせて腕が自然としなるような最適な動作で放つ反撃の一撃。

 

大剣で斬る為ではなく、剣の腹を使って打撃を繰り出すその一撃は、まるでバッティングのような動きになっていた。

 

身体が1本のネジになったかのように回り、末端部位の腕から大剣へと力が伝わっていく。

 

人体の摂理に倣う、腰と肩の旋回運動は、白球ではなく「炎金の四戦士」の1人を捉える。

 

加速するフルスイングが叩き込まれた小人族の小柄な身体が吹き飛んでいき、着用している鎧がひしゃげていた。

 

大剣から伝わってきた感触としては、明らかに肋骨も砕けているだろう。

 

戦える数が減り、4人から2人となっていたとしても「炎金の四戦士」は怯むことなく此方に向かってくる。

 

攻撃に「炎金の四戦士」を巻き込もうとお構い無しな「女神の戦車」の槍による連続の突きが放たれたが、眉間に喉や心臓という急所を狙って放たれた連続突きを大剣で弾き、逸らし、受け止めておいた。

 

「女神の戦車」の槍と、奪った大剣、互いの得物が触れ合う度に火花が飛び散り、激しい金属音が幾度も響き渡っていく。

 

真っ向からのぶつかり合いとなっていたが「女神の戦車」に退くつもりは無さそうだ。

 

「女神の戦車」と戦っている最中の此方に、槍を持つ「炎金の四戦士」の1人と大鎚を持っているもう1人が左右から同時に攻撃を仕掛けてくる姿が見えたが問題はない。

 

槍を振り下ろしてきた「女神の戦車」の槍の長柄を左手で掴んだ。

 

そして左側から大鎚を振るってきた「炎金の四戦士」に向けて槍ごと「女神の戦車」を力付くで叩きつける。

 

右側から槍による突きを繰り出してきたもう1人の「炎金の四戦士」に対しては、右手に持つ大剣の刃で槍の穂先を受け止めた後に、槍を絡めとるように大剣を螺旋に動かす。

 

それから大剣を上に動かし、槍を弾き上げたら、素早く距離を詰めて大剣を振り下ろした。

 

大剣の腹で、兜に覆われた「炎金の四戦士」の1人の頭部に、渾身の打撃を叩き込む。

 

避けられることを考えず1振りに全てを込めた一撃は、かなりの威力があったようだ。

 

明らかに形状が変わって凹んでいた兜と、倒れ込んだ槍使いの「炎金の四戦士」の1人。

 

槍使いの「炎金の四戦士」が失神していることは間違いないようであり、倒れたままの状態で動くことはなかった。

 

「お前が足手まといになって此方にぶん投げられたせいで、アルフリッグまでやられたぞ。どうしてくれるんだ腐れ畜生」

 

「先にやられてるてめえ等が悪いんだろうが、雑魚共。図に乗るんじゃねぇ小人が」

 

1人になった大鎚使いの「炎金の四戦士」は「女神の戦車」と言い争いをしているみたいで、相変わらず仲が悪い。

 

話している最中に攻撃するのはどうなんだろうなと思い、静観していると今まで様子見をしていた黒妖精の「黒妖の魔剣」が此方に疾走して近付いてきて、長剣を振るってきた。

 

Lv6の「黒妖の魔剣」が振るう剣は「炎金の四戦士」よりは鋭いが、攻撃速度は「女神の戦車」方が速いので、問題なく避けることが出来ている。

 

「クククッ、我が女神が望みし一幕を飾りしは剣の舞い。女神に捧げる贄となることを感謝して散るがいい」

 

なんて台詞を吐きながら長剣を振るってくる「黒妖の魔剣」は恥ずかしくないのだろうかと思わなくもない。

 

そんなだから「黒妖の魔剣」は厨二病乙とか神達に言われてるんだろう。

 

「黒妖の魔剣」の長剣と、奪った大剣で斬り結んでいると言い争いをしていた「炎金の四戦士」と「女神の戦車」までもが攻撃に加わってきた。

 

第1級冒険者達による苛烈な攻撃を見切り、最小限の動きで避け、迅速な動きで弾き、大剣を用いて軽やかに受け止めて、流れるような動きで反撃へと移る。

 

大剣による強力な突きを「炎金の四戦士」の大鎚で受け止めさせてから、大鎚を強引に大剣の切っ先で弾き上げ、踏み込んで間合いを詰めていき、兜に覆われた顔面に大剣の柄を叩き込んだ。

 

兜に大きくめり込んだ大剣の柄は「炎金の四戦士」の顔面にまでめり込んでおり、強烈なこの一撃で気絶していた大鎚使い。

 

全ての「炎金の四戦士」を倒し、現在この場に残っているフレイヤ・ファミリアの幹部は「女神の戦車」に「黒妖の魔剣」と「白妖の魔杖」だけだった。

 

まだ此方を観察していて動くことはない白妖精である「白妖の魔杖」は、かけている眼鏡の位置を中指で直しているみたいだ。

 

もしかしたら「白妖の魔杖」は戦うつもりがないのかもしれないが、一応警戒しておくとしよう。

 

「黒妖の魔剣」と「女神の戦車」による猛攻が始まり、止まることなく続いていく。

 

斬撃と槍撃に挟まれながら、全ての攻撃を1本の大剣で受け流していくと、飛び散り舞う火花。

 

俺が空いている片手の掌を向けて「スティー」と言うと素早く距離を取った「黒妖の魔剣」と「女神の戦車」は、速攻窃盗魔法を間違いなく警戒していた。

 

元々スティールを唱えるつもりは無く、フェイントとして「スティー」まで言って隙を作る為だったが、充分な効果があったようだ。

 

速攻窃盗魔法を警戒し、此方から距離を取った「黒妖の魔剣」に瞬時に近付くと、真正面から大剣を振り下ろす。

 

長剣を横にして大剣を受け止めた「黒妖の魔剣」の腹部に、空いている片手で握った拳を容赦なく打ち込むと、腹部にめり込んだ拳によって「黒妖の魔剣」は強制的に息を吐くことになった。

 

「グフッ!」

 

Lv6の黒妖精の腹筋を容易く打ち抜いて、ダメージを与えた高威力の拳。

 

積み重ねられたステイタスが発揮された打撃は、かなりのダメージを「黒妖の魔剣」に与えていたらしい。

 

たたみかけるように下段廻し蹴りを繰り出して「黒妖の魔剣」の足を蹴る。

 

上から下に振り下ろす、蹴りの威力を逃がさない下段蹴りを喰らった「黒妖の魔剣」の顔が痛みで歪んでいた。

 

下段蹴りで軋みを上げていた「黒妖の魔剣」の足は、折れてはいなくとも深刻なダメージを受けていたことは確実だ。

 

先ほどよりも「黒妖の魔剣」の足の動きが鈍っているところを見ると、機動力を少しは奪えたかもしれない。

 

俺がそう思っていると今度は「女神の戦車」が突っ込んできて、槍を振るってきた。

 

激しい槍撃を大剣で弾き、捌いていると「黒妖の魔剣」も長剣による斬撃を繰り出してくる。

 

俺は2人のLv6冒険者からの攻撃を全て受け流しておき、再び反撃を行った。

 

大剣を振るって「黒妖の魔剣」を力付くで吹き飛ばしておき、強制的に距離を取らせておく。

 

それから放たれた槍による突きを槍の長柄を片手で掴んで止めた状態で、もう片方の手に持つ大剣の腹を「女神の戦車」の頭部に勢いよく叩き込んだ。

 

兜などは被っていない「女神の戦車」の剥き出しの頭部に叩き込んだ大剣の腹による一撃。

 

それでもまだ意識は失っていない様子の「女神の戦車」は流石はLv6だが、此方は容赦をするつもりはない。

 

槍の長柄を掴んだ片手を力強く引き、その勢いのまま「女神の戦車」の顔面に、大剣の柄を握った拳を打ち込んで振り抜く。

 

頭部に連続で攻撃を喰らった「女神の戦車」は確実に意識が飛んでいた。

 

「黒妖の魔剣」が縦横無尽に振るう長剣を大剣で弾いていきながら、合間合間に拳で「黒妖の魔剣」を打つ。

 

拳打によってダメージを受けて、徐々に鈍くなっていく「黒妖の魔剣」の動きは精彩を欠いている。

 

「黒妖の魔剣」は、それでも剣を振るうことを止めない。

 

完全に意識を失うまで動き続けて戦い続けるなら、意識を失ってもらうしかないだろう。

 

右手に逆手に持った大剣で下から斬り上げていくと、長剣で大剣を受け止めた「黒妖の魔剣」だったが、此方は更に力を込めて長剣を大剣で弾き上げた。

 

大きく長剣を弾き上げられて、がら空きとなった「黒妖の魔剣」の顔面に、打ち込むのは全力の拳。

 

固く握り締めた左拳による一撃。

 

「黒妖の魔剣」の顔面にめり込んでから振り抜かれた左拳により、完全に意識を失った「黒妖の魔剣」は倒れる。

 

これでこの場にいるフレイヤ・ファミリアの幹部で、無傷で残っているのは「白妖の魔杖」だけとなったが、戦闘態勢に移る様子が全くない。

 

「貴方は戦うつもりはないんですか?」

 

「オッタルが戻るまで、フレイヤ様を守れる幹部は私だけになってしまっているからな。それに無謀な戦いをするつもりもない。まだ貴様は全く本気を出していないだろう」

 

「必要になれば本気を出しますけど、今回は大丈夫でしたね出さなくても」

 

「ふざけた奴だ」

 

「オッタルさんが戻ってこないのは気になりますが、女神フレイヤに俺が戦っているところは充分見せられたと思いますし、そろそろ帰らせてもらいますね」

 

「貴様が帰っても問題がないかフレイヤ様に聞いてからにしろ」

 

フレイヤ・ファミリアの幹部である「白妖の魔杖」の言葉に従い、少し離れた場所から此方をじっと見ていた女神フレイヤの元に近付いて、帰ってもいいか聞いてみることにした。

 

「帰ってもいいですか」

 

「駄目よ、と言ったら貴方は残ってくれるのかしら」

 

「残りたくはないですね。明らかに殺す気で襲われましたし」

 

「貴方の魂の輝きは見れたから、帰ってもらっても構わないのだけれどね」

 

「じゃあ帰りますね、それでは失礼します」

 

踵を返して素早く立ち去ろうとする俺を、女神フレイヤが呼び止める。

 

「また、料理を作りに来てくれると嬉しいわ」

 

「今度は料理だけにしてくださいね。それを守ってもらえるならまた作りに来ますよ」

 

「楽しみに待っているわね」

 

俺からの言葉を聞いて、とても嬉しそうに女神フレイヤは微笑んでいた。

 

ちなみに後日、オッタルさんにオッタルさんが戻ってこなかった理由を聞くと、身体を張った侍女達によって武器庫の出入り口を塞がれていたからだったらしい。

 

女性に怪我をさせてしまうことは避けたいと思うオッタルさんの優しさを利用されて足止めされてしまったようだ。



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第28話、1000万ヴァリスの男

しばらく話が思いつきませんでしたが、ようやく思いついたので更新します


数日前のフレイヤ・ファミリアでの戦いでステイタスが上昇しているかを確認する為に、神ミアハにステイタスの更新をしてもらうことにした。

 

Lv5

 力:B755→SS1092

耐久:B734→SS1076

器用:S971→SSS1357

敏捷:B742→SS1089

魔力:SS1083→SSS1340

 

流石に新たなスキルは発現していなかったが、神ミアハの神血で書き換えられて更新されたステイタスはだいぶ上昇していたようであり、平均がSSでSSSに到達しているものもある。

 

ダンジョンで速攻縮小魔法のリトルフィートをよく使う影響か、魔力も伸びが良い。

 

それ以外のステイタスも伸びていて、ランクアップする為に必要な偉業を達成することが出来れば、直ぐにでもランクアップが可能なステイタスだった。

 

女神フレイヤに料理を振る舞ってから、頻繁にフレイヤ・ファミリアの本拠地に呼び出されることが増えていて、様々な料理を作ることになったが、報酬はしっかりと支払われているのでタダ働きではない。

 

1回料理をする度に1000万ヴァリスが支払われており、週3で呼び出されていることから、毎週毎週3000万ヴァリスを稼げてしまっていた。

 

そんな生活をしばらく続けていると貯金していたヴァリスが容易く億を越えてしまうが、億を越えるヴァリスを支払っていたとしてもフレイヤ・ファミリアは何も問題が無いようだ。

 

資金力も並みのファミリアとは違うフレイヤ・ファミリアなら、毎週3000万ヴァリスの出費が有っても、それ以上に稼ぐことが出来ているのかもしれない。

 

女神フレイヤの為になるならフレイヤ・ファミリアの団員達は、女神フレイヤを害すること以外は何でもするだろう。

 

ギルドの担当アドバイザーの人から聞いた話によると、最近フレイヤ・ファミリアの団員がダンジョンによく潜るようになっていて、ひたすら魔石を換金してから再びダンジョンに潜るということを繰り返しているそうだ。

 

稼いだヴァリスの運搬係りまでいるようで、荒稼ぎしているフレイヤ・ファミリアの目的が何なのかわからないので、ギルドは警戒しているらしい。

 

フレイヤ・ファミリアの面々が女神フレイヤの為に、ひたすらヴァリスを稼いでいるだけだと理解している俺は、とりあえず誤解を解いておくことにした。

 

「フレイヤ・ファミリアの団員がダンジョンで荒稼ぎしているのは女神フレイヤの為ですよ」

 

「凄い額のヴァリスを稼いでいるのが、フレイヤ様の為なのはわかったけど、何であんなに稼いでいるのかな」

 

不思議そうな顔をしているギルドの担当アドバイザーの人に、隠すようなことでもないので真実を教えておく。

 

「俺が週に3回ほど女神フレイヤに料理を作って、その報酬に1000万ヴァリスを毎回貰っているからじゃないですかね」

 

「ああ、だからフレイヤ・ファミリアがヴァリスを稼いでいるのはフレイヤ様の為なんだね。そういうことだったんだ」

 

俺からそう聞いて納得したようで頷いていたギルドの担当アドバイザーの人。

 

「ギルドの上の人にも、警戒しなくて大丈夫だと伝えておいてください」

 

「うん、そうするけど、フレイヤ様から1000万ヴァリスを支払われる料理を作れるって凄いことのような気がするよ」

 

「最初は1億ヴァリスって言われたのを1000万ヴァリスにしてもらったんですけどね」

 

「きみは相変わらず凄いことをしているね。まあ、きみだから仕方ないか」

 

遠い目をしていたギルドの担当アドバイザーの人は、まるで悟りを開いたかのように穏やかな顔をしていた。

 

こうしてギルドの誤解は完全に解けたが、女神フレイヤが1000万ヴァリスを出す料理を作れる男だとギルド内で俺が有名になっていたみたいだ。

 

しかもある日、ギルドの職員が口を滑らせて神々にまで知られてしまったらしく、それを知った神々が俺の元に次々と現れる。

 

自分のファミリアに俺を勧誘してくる神から、タダで料理を作ってくれと頼んでくる神等も居て、相手をするのがかなり面倒だった。

 

フレイヤ・ファミリアの本拠地に向かった際に女神フレイヤへ、最近面倒な神々に付きまとわれていることを言ってみると、翌日から面倒な神々が寄ってこなくなったので、女神フレイヤが手を回してくれたのかもしれない。

 

女神フレイヤに感謝をしておき、週3でフレイヤ・ファミリアの本拠地に料理を作りに行く日々を過ごす。

 

そんな生活をしばらく続けていると、料理の腕が更に上がったような気がした。

 

オッタルさんや女神フレイヤも俺の料理の腕が上がったことを喜んでいて、俺が作った料理を美味しそうに食べてくれる。

 

特にオッタルさんの食べっぷりが凄まじいが、俺の料理をそこまで美味しいと思ってもらえたなら悪い気はしない。

 

女神フレイヤは料理している最中の俺を見たいと思ったようで、フレイヤ・ファミリアの本拠地に特設されたキッチンを使い、女神フレイヤの目の前で料理をすることになった。

 

まるでライブキッチンだなと思いながら、見ていて楽しいと思えるような様々な料理を女神フレイヤの前で作っていく。

 

様々な料理を作る最中の姿も、作った料理の味にも満足してもらえたようで、とても嬉しそうだった女神フレイヤ。

 

全ての料理を作り終えて報酬も受け取り、フレイヤ・ファミリアの本拠地からミアハ・ファミリアのホームに帰る途中で出会った神ガネーシャが話しかけてきた。

 

「俺がガネーシャだ!」

 

「それは知ってますよ」

 

「うむ、そうか。なら良し」

 

「ご用件は何ですか、神ガネーシャ」

 

「近々開かれる神の宴の料理を作ってもらえないだろうか」

 

「1000万ヴァリスを支払ってもらえるなら引き受けますよ。タダで引き受けると面倒な神々が寄ってきそうですから」

 

「1000万ヴァリスを用意するのは不可能ではないが、それだけの腕があると証明してもらいたいとガネーシャは思う」

 

「ああ、それなら、これからミアハ・ファミリアで夕食を作るんで、神ガネーシャも一緒に食べてみますか」

 

「そうしてみよう」

 

という訳で神ガネーシャを連れてミアハ・ファミリアのホームに戻り、夕食を作った俺は席に座る神ガネーシャの前に皿を置く。

 

今日のミアハ・ファミリアの夕食を一口食べた神ガネーシャは「美味い!これは美味いぞ!」と大きな声を上げながら豪快に食事を続けていった。

 

あっという間に夕食を食べ終えた神ガネーシャは仮面で隠れていない口を緩めて笑みを浮かべながらかなり大きな声で言う。

 

「確かに1000万ヴァリスを支払う価値がある料理だった!是非とも神の宴で料理を作ってもらいたい!」

 

「声が大きいんで、小さくしてくださいね。普通に近所迷惑です」

 

「うむ、近所迷惑だったか、ガネーシャ反省」

 

近所迷惑だと言われてちょっとしょんぼりとしていたが神ガネーシャは悪い神ではない。

 

神の宴で出す料理を作る依頼を引き受けても問題は無さそうだ。

 

「貴方が主催する神の宴での料理を作ることは引き受けますよ」

 

まだしょんぼりとしている神ガネーシャに依頼を引き受けることを伝えると、物凄く喜んでいた神ガネーシャ。

 

「この素晴らしい料理を神の宴でみなが食べられるならば、1000万ヴァリスを支払っても惜しくはない」

 

そう言い切った神ガネーシャは、神の宴に来る他の神々のことを考えていたようだ。

 

数日後、開かれた神の宴で、俺が作った大量の料理が神々に振る舞われたが、かなり評判が良かったらしい。

 

盛り上がった神の宴が終わった後に、神ガネーシャから「ガネーシャ超感謝!」と独特な感謝の言葉を言われた。

 

神ガネーシャは変わっている神だが、群衆の主を名乗るだけあって市民を庇護すべき対象だと思っている良い神だ。

 

そんな神ガネーシャのことは、嫌いではない。

 

「何を隠そう、俺がガネーシャだ!」

 

「それは知ってますよ」

 

「今回の神の宴は大いに盛り上がった。まあ「この美味しい料理を作った料理人は誰だ!」と言い出した神もいたが、ガネーシャは黙っていたぞ!ガネーシャ沈黙!」

 

「黙っていてもらえたのはありがたいですね。とりあえず神の宴が盛り上がったみたいで良かったですよ」

 

「うむ、お前のおかげだな!これが報酬の1000万ヴァリスだ!受けとるがいい!」

 

「ありがたくいただきます」

 

「お前には再び感謝の言葉を贈ろう!ガネーシャ超感謝!」

 

神ガネーシャから再びの感謝の言葉と、今回作った料理の報酬の1000万ヴァリスを受け取った俺は、ガネーシャ・ファミリアの本拠からミアハ・ファミリアのホームへと戻る。

 

戻ってきたミアハ・ファミリアでも夕食を作り、神ミアハとナァーザの分も忘れずに用意して全員で食卓を囲んだ。

 

俺の料理の腕が上がったせいか、神ミアハとナァーザに「舌が肥えてしまった」と文句を言われるようになっていて、ミアハ・ファミリアでは俺が料理当番になることが増えていた。

 

料理を作ることは楽しいと思えるので苦ではないが、俺が居ない時の食事をどうしているのかを神ミアハとナァーザに聞いてみると、どうやら豊穣の女主人という店で食事をしているらしい。

 

冒険者達が頻繁に食事をしている店であるようだが、豊穣の女主人は美味しい料理を出す店でもあるみたいだ。

 

まだオラリオに来て1年も経過していないので、俺があまり知らないだけで様々な店がオラリオには存在しているのだろう。

 

豊穣の女主人という店が、ちょっと気になった俺は、神ミアハとナァーザに豊穣の女主人がある場所を聞いてみた。

 

興味があるなら実際に行ってみようということになり、明日は豊穣の女主人で夕食を食べることになったが、外食をするのは初めてかもしれない。

 

俺が稼ぎまくったヴァリスでミアハ・ファミリアには随分と余裕があり、普通に外食をしても問題は無いが、ミアハ・ファミリアに居るときは毎回自炊していた俺には外食という発想自体が無かった。

 

それでもこの世界に生まれ変わって初めての外食に、ちょっとワクワクしていたことは確かだ。

 

翌日、普段通りの忙しい日常を過ごしてから、夕食を食べに豊穣の女主人へとミアハ・ファミリアの全員で向かう。

 

到着した豊穣の女主人。

 

店に入ると空いているカウンター席へと案内してくれた店員の女性はシル・フローヴァという名前であるらしい。

 

此方の注文を聞いた女将のミア・グランドが用意してくれた料理を食べてみると、中々美味しい料理であり、初めての外食が此処で良かったと思えた。

 

様々な料理を俺が注文して食べていると空いていた隣の席にシルが座ってきて、何故か俺に積極的に話しかけてくる。

 

「どうですかミアお母さんの料理は」

 

「とても美味しい料理だと思うけど」

 

「そうですか、それならもっと笑顔を見せてほしいところですね」

 

「自分ならどう作るかをちょっと考えてたから、しかめっ面になってたかもしれないね」

 

「貴方も料理をするんですね、どんな料理を作るんですか」

 

「まあ、色々だけど、内緒にしておくよ」

 

「教えてもらえると嬉しいんですけど」

 

「内緒だから言わないよ。俺が次に何を作るか楽しみにしている女神様に伝わってしまったら、楽しみが半減してしまうからね」

 

「そうですか、残念ですけどそれなら諦めておきますね」

 

残念と言っておきながら、とても嬉しそうなシルは、満面の笑みを浮かべていた。

 

何でそんなに嬉しそうなんだろうかと不思議に思ったが、特に追求したりはしない。

 

食事を終えてヴァリスを支払い、豊穣の女主人から出ようとした時に、シルが言う。

 

「また、来てくれますか?」

 

「外食したくなったらまた来ると思うよ」

 

「それじゃあ、待っていますね」

 

とても華やかな顔で笑ったシルは、やっぱり嬉しそうだった。



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第29話、カドモス

思いついたので更新します


ある日からオラリオに病が蔓延することになり、抵抗力の弱い冒険者以外の人々が病に倒れた。

 

それはギルドの職員も例外ではなく、多くのギルド職員が病に侵されているようだ。

 

今は少数のギルド職員でなんとか仕事を回しているみたいだが、それにもいずれ限界は来るだろう。

 

冒険者以外のオラリオの人々が病に伏しているこの現状が長く続けば、物流が完全にストップしてしまうのは間違いない。

 

蔓延している病自体も厄介なもので、安静にしていれば治るという類いのものではなかった。

 

俺が持つ「創薬師」のスキルで解ったことだが、この病の特効薬となる薬を作る為には、カドモスの泉水が必要になるらしい。

 

オラリオの全ての人々に提供するには数が足りていないカドモスの泉水を急いで集める必要があるだろう。

 

オラリオの物流が完全にストップすれば飢え死にする人々まで出てくるかもしれないからだ。

 

早めに特効薬を作り、完全に病を根絶する為には、カドモスの泉水を素早く確保して、迅速に持ち帰る必要があった。

 

俺はダンジョンに潜る為の装備を用意して身に付けると、唱える詠唱の後半を変えることによって効果までもが変化する魔法を唱えていく。

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

今回使うのは空間操作による空間転移。

 

「流れる星よ、空を開け」

 

繋ぐ場所はダンジョンの安全階層の50階層。

 

「ムードメーカー」

 

空間転移を行って移動したダンジョンの50階層から、素早く51階層に移動してカドモスの泉水を回収する為に先を急いだ。

 

道中で遭遇した黒犀の形をしたモンスターのブラックライノスを「白断」で斬り、巨大な蜘蛛型のモンスターであるデフォルメススパイダーを真っ二つにして、魔石を回収して進む。

 

巨大な蠍のヴェノムスコーピオンやサンダースネイクにシルバーワーム等も現れたが、問題なく処理して魔石を忘れずに回収すると、先に進んだ。

 

到着したカドモスの泉水が湧き出る場所には、当然のように宝財の番人であるカドモスの姿がある。

 

手早くカドモスを倒してカドモスの泉水を回収すると、50階層まで戻り、空間転移で自室に移動してから蔓延した病の特効薬を作成したが、まだまだオラリオの住人達全てに行き渡る数ではない。

 

神ミアハとナァーザに特効薬を渡しておき、病に侵された人々に配布するように頼んでおく。

 

今回は非常事態ということで無料配布になるが、病を根絶することが先決だ。

 

何度もカドモスの泉水を回収していくとカドモスが襲いかかってきても容易く倒すことが可能になっていた。

 

数回程、そんな作業を繰り返していると再び現れるカドモス。

 

しかし今回のカドモスは通常のカドモスと違っていて、額からまるで一角獣のように立派な銀色の角を生やしている。

 

明らかに亜種と言える一角のカドモスは此方を見据えて咆哮を上げると、立派な角を突き出しながら凄まじい速度で突進してきた。

 

フレイヤ・ファミリアの「女神の戦車」が振るう槍よりも速いカドモスによる突進。

 

スキル「龍の手」で身体能力を倍にしてようやく避けることが可能になった一角のカドモスの突進は、とてつもなく速い。

 

なんとか一角のカドモスの突進を避けたところで「白断」を振り下ろすと、瞬時に身を翻したカドモスは銀色の角で此方の大剣を受け止めた。

 

「渦鋼」でも斬れないものを容易く斬ることが可能な「白断」でも斬れない銀色の角は、かなりの強度を持っているようだ。

 

銀色の角で「白断」を弾き上げたカドモスの力は、以前戦った白いウダイオスよりも高い。

 

亜種のウダイオスよりも間違いなく強い亜種のカドモス。

 

身体能力を倍にしただけでは力負けすると判断し、それ以外も「龍の手」で倍にしていき、腕力や脚力も倍になったところで再び攻勢に移る。

 

此方が連続で振るう「白断」に合わせるかのように、素早く動いて銀色の角で「白断」を受け止め続けるカドモスは、角以外で受ければダメージを受けると理解しているみたいだ。

 

どうやら亜種である一角のカドモスは通常のカドモスよりも知能が高いらしい。

 

「白断」を片手持ちにして突進突きを放つとカドモスは銀色の角を真正面から振り下ろして、突進突きを角で受け止めた。

 

その瞬間に「竜鱗鎧化」を発動した俺は、一旦「白断」を手放すと力強く踏み込んでカドモスへと間合いを詰めて拳を握る。

 

そして身体能力と腕力と拳の威力と「竜鱗鎧化」の強度を倍にした状態で繰り出す拳撃を、一角のカドモスの頭部に叩き込んだ。

 

凄まじい強度を持つ「竜鱗鎧化」によって形成された竜鱗のような装甲に覆われた拳は、かなりの威力を発揮して、確かにカドモスへとダメージを与えた。

 

一角のカドモスの弱点となる部位が頭部だったらしく「竜撃会心」も発動していたようで、特大のダメージを喰らったカドモスが少々ふらついていたのは間違いない。

 

手放した「白断」を拾い上げて、此方を睨むような眼差しで見ている一角のカドモスに再び「白断」を振るう。

 

銀色の角に弾かれる「白断」を休まずに振るい続けていき、徐々に間合いを詰めていくと、一角のカドモスは此方の腕を見て警戒を深めているようだ。

 

また殴られるのではないかと警戒しているカドモスは、明らかに此方の腕ばかりを見ている。

 

知能が高いからこそ学習し、次に備えているカドモスは、並みのモンスターとは違っていた。

 

しかし視線が腕に集中しているということは、他が疎かになっているということだ。

 

「白断」を持ったままカドモスとの距離を縮めた俺は、身体能力と脚力と蹴りの威力を倍にした状態で廻し蹴りを放つ。

 

「竜鱗鎧化」の装甲で覆われた足で放った廻し蹴りはカドモスに直撃し、2度目のダメージを与えていく。

 

感じた痛みに咆哮を上げているカドモスは憎々しげに此方を見た。

 

「白断」以外でもダメージを与える手段があると理解したカドモスは、此方の全身を警戒しているようで、些細な動きにも反応するようになる。

 

フェイントを織り混ぜながら攻撃を叩き込んでいく此方に怒り狂った一角のカドモスが、荒々しく暴れまわり始めた。

 

力と速度が亜種のウダイオスよりも高い一角のカドモス、そのカドモスが力任せに暴れるだけで凄まじい脅威となるだろう。

 

吹き荒れる暴風のようなカドモスの攻撃を避けていきながら、握った「白断」を振るっていく。

 

少しずつ斬り傷が増えていく一角のカドモスの身体。

 

止まることのないカドモスの荒々しい攻撃の数々。

 

凄まじい速度と威力を持つ一角のカドモスの攻撃がかする度に、砕けていく「竜鱗鎧化」で形成された装甲。

 

かするだけで身体の内部に響く痛みは、直撃すればただではすまないことを証明していた。

 

ドラゴンとは強力なモンスターであり、強竜と呼ばれるカドモスもまた強力なドラゴンである。

 

更にその亜種の一角のカドモスは、それ以上に強力なモンスターであることは間違いない。

 

銀色の角を振るうカドモスの一撃一撃が必殺の威力を持つ。

 

それら全てを紙一重で回避して、力強く踏みしめた足から伝わっていく力を、連動させるように腰、胴、肩、肘へと進ませて、最後に力が届いた腕。

 

その腕に掴んでいる「白断」に力と勢いを乗せて振り下ろす。

 

一角のカドモスの身体に深々と傷をつけた一撃。

 

カドモスの胴体に刻まれた深い裂傷から溢れていく血液。

 

深い傷を負ったとしても動きを止めることはない一角のカドモスは、更に荒々しく暴れまわる。

 

生命力の強いドラゴンというモンスターは多少の負傷では止まることはない。

 

振るう「白断」を絶えずカドモスの血で濡らしながら、斬撃を叩き込む。

 

素早く距離を取った一角のカドモスは全身に裂傷を刻まれていても力強く立っていた。

 

四肢に渾身の力を込めた一角のカドモスが再び行う突進は、これまで以上の速度がある。

 

直撃すれば、ただでは済まない。

 

俺は以前ダンジョンで手に入れてリトルフィートで小さくしていたオリハルコンの扉を取り出す。

 

「大きさよ、戻れ」

 

一角のカドモスが突進してくる進行方向に、大きさを戻して放り投げたオリハルコンの扉。

 

カドモスの銀色の角が容易くオリハルコンの扉を貫いたが、突進が止まった。

 

角に刺さったオリハルコンの扉を外そうとしているカドモスの隙を逃さず、刃筋を合わせた「白断」の一撃で一角のカドモスの首を斬り落とす。

 

倒した一角のカドモスから魔石を抜き取ると、カドモスの立派な銀色の角がドロップアイテムとして残っていた。

 

オリハルコンの扉に突き刺さったままだったので、銀色の角を引き抜いてから、オリハルコンの扉と銀色の角をリトルフィートで小さくして鞄にしまっておく。

 

それから再びカドモスの泉水を集める作業を繰り返して、持てるだけのカドモスの泉水を集めてから50階層まで移動。

 

50階層で再度空間転移を使って自室に戻ると、蔓延している病の特効薬を大量に作成した。

 

大量に配布していった特効薬により、病に侵された人々が少しずつ減っていき、それからも何度かダンジョンにカドモスの泉水を取りに行くことになったが、オラリオに蔓延した病を根絶することができたようだ。

 

忙しい日々を過ごすことになったが、蔓延していた病も無くなったので、オラリオの流通がストップするようなことはないだろう。

 

一仕事終えたところで神ミアハにステイタスの更新を頼んでみた。

 

Lv5

 力:SS1092→SSS1580

耐久:SS1076→SSS1521

器用:SSS1357→SSS1694

敏捷:SS1089→SSS1576

魔力:SSS1340→SSS1750

 

ステイタスが凄まじく上昇していたのは深層での戦いと、51階層での一角のカドモスとの戦いが原因だろう。

 

神ミアハによれば、偉業も達成しているのでランクアップすることも可能であるらしい。

 

どうやら一角のカドモスとの戦いは偉業であったようだ。

 

全てがSSSに到達していて、充分なステイタスもあるのでランクアップしても問題はない。

 

発展アビリティは、剣士、頑強、格闘の3つであり、どれか1つを選ぶ必要がある。

 

とりあえず俺は、格闘を選ぶことにした。



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第30話、戦場の支配者

思いついたので更新します


ランクアップした新たなステイタスが紙に書かれて神ミアハから渡された。

 

Lv5→Lv6

 力:SSS1580→I0

耐久:SSS1521→I0

器用:SSS1694→I0

敏捷:SSS1576→I0

魔力:SSS1750→I0

 

幸運:B→A

耐異常:C→B

神秘:B→A

精癒:F→D

格闘:I

 

《魔法》

 

【リトルフィート】速攻縮小魔法

 

【スティール】速攻窃盗魔法

 

【ムードメーカー】詠唱変化魔法

 

詠唱前半

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

詠唱後半

 

「箒星よ、歩みを速めよ」思考加速

 

「道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」運命改変

 

「恒温の星よ、その熱を燃やせ」不測操作

 

「流れる星よ、空を開け」空間操作

 

「眩い星よ、重なりあえ」多重結界

 

《スキル》

 

【龍の手】

・あらゆるものを倍加する

 

【創薬師】

・薬品作成時、発展アビリティ創薬と薬師の一時発現

・作成した薬品の品質向上

 

【竜鱗鎧化】

・体表に魔素を吸収して自己修復する装甲を形成する

・耐久に応じて強度上昇

 

【断ち切る力】

・周囲の空間を断ち切る

・攻撃には使用できない

 

【竜撃会心】

・弱点となる部位に攻撃が当たった時、特大ダメージを与える

 

【射手の嗜み】

・遠距離武器装備時、発展アビリティ狙撃と千里眼の一時発現

・遠距離武器の攻撃力増大

 

【戦場の支配者】

・反応速度上昇

 

新たに発現していたスキルである「戦場の支配者」は「オーバーロード」と読むらしい。

 

ダンジョンで試しに「戦場の支配者」を発動してみると、まるで時間が止まっているかのように感じるほど、反応速度が凄まじく上昇していた。

 

このスキルを使えば、素早い動きをするモンスターが相手でも問題なく倒すことができるだろう。

 

とりあえずLv6にランクアップしたことを伝える為にギルドに行き、担当アドバイザーの人にランクアップの報告をしておく。

 

担当アドバイザーの人は、俺がLv6になったと聞いても驚いてはおらず、納得していたようだ。

 

「3ヶ月でLv5からLv6にランクアップしたんだね。どんな偉業を達成したのかな」

 

報告書を書く為に俺が達成した偉業について聞いてきたギルドの担当アドバイザーの人。

 

「額から銀色の角を生やした一角のカドモスを1人で倒しました」

 

嘘を言う必要もないので正直に答えておくと、担当アドバイザーの人は無言でエナジーポーションを飲む。

 

エナジーポーションを一気飲みして一息ついてから口を開いた担当アドバイザーの人。

 

「うん、きみはもう相変わらずだね。Lv5でカドモスの亜種を1人で倒せてしまうなんて」

 

「まあ、かなり強かったですけどね」

 

「そりゃそうでしょう。力だけならウダイオスより強いんだよカドモスは」

 

「力だけじゃなくて速度もかなり速かったですよ。フレイヤ・ファミリアの「女神の戦車」の攻撃よりも速かったですから」

 

「何でそんなのと、きみは遭遇したのかな。普通のモンスターと違うモンスターと遭遇し過ぎな気がするよ」

 

「何で普通じゃないモンスターと遭遇するのかは俺にもわかりませんね」

 

ランクアップの報告を終わらせてギルドから出て、次に向かう先は椿の工房。

 

ちょうど休憩中だった椿に見せるのは、一角のカドモスのドロップアイテムである銀色の角。

 

「この角を使って槍を作ってくれないか」

 

「これは巨大な角であるな、どんなモンスターの角なのか知りたいところだぞ」

 

興味津々で銀色の角を見ている椿は、角の持ち主だったモンスターに興味を持ったみたいだ。

 

「これはカドモスの亜種が額に生やしていた角だ」

 

「ほほう、カドモスの亜種か」

 

まじまじと銀色の角を見ながら、実際に触って強度も確かめていた椿。

 

「このカドモスの銀色の角は、オリハルコンを貫通する強度がある角だぞ」

 

一角のカドモスと戦っている最中に、実際に目撃した情報を椿にも伝えておく。

 

「確かにそれだけの強度はあるようであるな」

 

銀色の角にはオリハルコンを貫く強度があると、角を触って確かめた椿も納得していた。

 

「急ぎではないから、好きなだけ時間を使って、銀色の角で槍を作ってくれ」

 

「うむ、強度が高い素材であるから少し時間がかかるだろうが、そこまで待たせるつもりはないぞ」

 

「期待して待ってるよ」

 

椿の工房を後にして、次に向かうのはフレイヤ・ファミリアの本拠地。

 

戦の野に到着した俺は、オッタルさんと一緒に調理場に行き、今日の料理を作る。

 

オッタルさんと女神フレイヤの料理を作って、最後のデザートまで作り終えたら、女神フレイヤの元まで向かった。

 

今日の報酬である1000万ヴァリスを受け取り、帰ろうかと考えていると話しかけてきた女神フレイヤ。

 

「貴方の魂が更に輝きを増しているのがわかるわ、どうやらランクアップしたようね」

 

「魂についてはわかりませんがLv6にはなりました」

 

「ふふっ、穏やかな貴方の魂の火が更に深みを増して、とても綺麗よ」

 

「魂は見えないんですが、そんな感じになっているんですね」

 

「貴方に触れてみたいと思うこともあるけれど、火傷をしてしまうかしら」

 

「じゃあ止めておいてください。貴女が火傷をしたらオッタルさんが悲しみますから」

 

「オッタルとは仲良くしているようね」

 

「そうですね、オッタルさんは俺にとっては大切な仲間ですよ」

 

「少し妬けてしまうわ、オッタルがちょっと羨ましいわね。私も仲間に加われば大切にしてくれるのかしら」

 

「流石に貴女をパーティメンバーに加えることはできないんで諦めてください」

 

「それはとても残念ね」

 

「それじゃあ、そろそろ俺は帰りますね」

 

「次に貴方が来る時を楽しみに待ってるわ」

 

女神フレイヤとの会話を終わらせて、ミアハ・ファミリアのホームへと戻っていく。

 

戻ってきたミアハ・ファミリアのホームで夕食を作り、神ミアハやナァーザと一緒に夕食を食べた。

 

翌日、ダンジョンで「戦場の支配者」を使いこなす為に連続で使用していると、反応速度の上昇で脳が酷使された影響で甘いものが食べたくなってしまう。

 

ダンジョン内で発見した雲菓子を食べたことで、なんとか落ち着いたが、これから「戦場の支配者」を連続で使うときは、常に糖分の補給ができるようにしておいた方が良さそうだ。

 

という訳で、甘い雲菓子を加工した飴を常に持ち歩くようにしたおかげで「戦場の支配者」を連続使用しても直ぐに糖分の補給ができて、酷使された脳に栄養がしっかりと送られていた。

 

それから発展アビリティの格闘も確かめてみたが、どうやら格闘術に補正が入るらしい。

 

格闘術に関することだと一段とキレが違う動きができるようになり、打撃の威力も上がっている。

 

発展アビリティの格闘が、ダンジョン探索以外の対人戦でも役立ちそうな発展アビリティであることは確かだ。

 

新たなスキルや新たな発展アビリティを使いこなす為に、ダンジョンに潜る日々を過ごしていると、椿がカドモスの角で作った槍が完成したらしい。

 

朝からミアハ・ファミリアのホームにまでやってきた椿が、テンション高めに話しかけてきた。

 

「ついに槍が完成したぞ!さあ、持ってみるのだ!」

 

ハイテンションで銀色の槍を此方に差し出してきた椿。

 

槍は短槍であるようで、そこまで長くはなく、ちょうど素材となった銀色の角より僅かに短いくらいの長さだ。

 

軽く振るってみると持ちやすくて振るいやすく、とても良い槍であることは間違いない。

 

「これは良い槍だな」

 

「その槍の名は「銀竜」だ。穂先も柄も全てカドモスの銀色の角を使って作っているぞ」

 

「短槍だから持ち歩きやすいのも助かるな。大剣の「白断」を背負った状態でも、そこまで荷物にならない」

 

「巨大な敵には「白断」で、それ以外の敵には「銀竜」という使い分けもできるように取り回しがしやすい短槍にしておいた」

 

「確かにそう使えばダンジョンで有利に立ち回れそうだ」

 

「まあ、槍を使いこなせるようになるまで時間がかかるかもしれんが、お主なら問題あるまい」

 

「しばらく修行でもしておくよ」

 

「それが良いかもしれんな」

 

快活に笑った椿は、ハイテンションなまま帰っていった。

 

椿のあのハイテンションが、徹夜明けだったことが理由なのは間違いない。

 

椿から受け取った「銀竜」を使いこなす為に、ひたすら槍を振るう日々がしばらく続いた。

 

ある程度「銀竜」を使いこなせるようになったらダンジョンへと潜り、モンスター相手に「銀竜」を振るう。

 

上層ではモンスターが弱すぎて相手にならず、中層のモンスターでも脆すぎる。

 

下層でも簡単にモンスターを倒せてしまい、深層のモンスターでようやく少しは戦いになる相手となった。

 

深層のある階層にあるコロシアムという場所は、絶えず深層のモンスターが殺し合いをしていて強化種が無限に生み出されている場所であるらしい。

 

試しにそのコロシアムへと向かってみると、強化種のモンスター達が一斉に襲いかかってきたが、問題なく「銀竜」を振るい、モンスター達を倒す。

 

絶え間無く襲い来るモンスターを相手に、短槍で突き、払い、斬り、打ち、変幻自在に槍を使っていった。

 

手に入れた山のような魔石を袋に詰めて、速攻縮小魔法のリトルフィートを使って袋ごと小さくしておき、鞄にしまっておく。

 

コロシアムでの戦いは良い経験になったので、またコロシアムで戦うのも悪くはないかもしれない。

 

「銀竜」を使いこなすことができるようになった帰り道で、ユニコーンを発見。

 

ユニコーンを倒すとドロップアイテムであるユニコーンの角が手に入った。

 

とても高い解毒効果があるユニコーンの角は、強力な解毒薬の材料にもなる。

 

医療系ファミリアに売りにいけば高値で買い取ってもらえる筈だ。

 

まあ、俺は売ったりしないで念の為に持ち歩いておくとしよう。

 

以前、マーメイドの生き血を手に入れた時のように必要になるかもしれないからな。

 

ダンジョンから出て、魔石をギルドで換金し、ミアハ・ファミリアのホームに戻ると大量の客が店舗に押し寄せていた。

 

急いで俺も接客を行い、客の波を捌いていく。

 

「エナジーポーションを買いに来てやったぞ、ミィーアァーハァ」

 

ある程度客の数が減ったとしても、まだまだ忙しい時に神ディアンケヒトまでやって来たようだ。

 

「何だこの客の数は!」

 

店内に居る凄まじい客の数に戸惑っている神ディアンケヒトは、押し寄せる客の波に呑み込まれてしまっていた。

 

客の波に呑み込まれた神ディアンケヒトを助け出すと明らかに髪が乱れていて息切れもしていた神ディアンケヒト。

 

「助かったぞ、ゲド」

 

此方に礼を言いながらも完全に疲れきっている神ディアンケヒトにエナジーポーションを売っておき、手早くエナジーポーションを飲んでもらった。

 

なんとかエナジーポーションで復活した神ディアンケヒトは元気に帰っていったが、あの様子だとしばらく来ないかもしれない。

 

まあ、とりあえず今日は接客に励むとしよう。




オーバーロード

出典、ダンボール戦記ウォーズ、伊丹キョウジ

オーバーロードは極限状態まで脳が活性化した状態となった時に発動する能力
周囲の時間が止まって見える程に反応速度が上昇する反面、身体に与える負担も大きい
フル稼働する脳が甘いものを欲するようで、甘い物の携行は必須らしい
伊丹キョウジは常に棒つき飴を咥えている


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第31話、適性のある武器

ようやく思いついたので更新します


自分に剣や槍を扱う才能があることは理解しているが、他の武器を弓以外は殆ど試したことがないことに気付いた。

 

1度気になると実際に試してみたいと思うようになり、椿にも相談してみると、多種多様な武器を椿が集めてくれるらしい。

 

それで実際に使ってみて、適性のある武器を探してみようということになった。

 

数日後、集まった山のような武器の数々から1つずつ試していく。

 

全ての武器を試すには、かなりの時間がかかりそうだったが、1日で終わらなくても続けていくとしよう。

 

様々な武器を試していくと、どうやら俺は短剣にも適性があるようで、自由自在に短剣を扱うことができた。

 

Lvが低い時は、上層や中層で魔石をモンスターから抜き取る際に短剣を使っていたが、武器として使ってみたのは、これが初めてになる。

 

それでも淀みなく短剣を振るうことが出来ていて、流れる水のように滑らかに動けていた。

 

順手から逆手に持ち換えて短剣を振るうと、短剣の刃が空気を斬り裂いて音を鳴らす。

 

武器を使った試し斬りの為に、椿が用意していた鉄棒を容易く断ち斬ることも可能であった短剣は椿の作品ではないようだが、出来は悪くない。

 

どうやらこの短剣は、ヘファイストス・ファミリアの上級鍛冶師が試しに作った作品であるようで、今回椿が集めた武器の数々は、ヘファイストス・ファミリアの鍛冶師達が作った試作品ばかりであるようだ。

 

「Lv6のお主が武器を振るってくれると聞いたヘファイストス・ファミリアの鍛冶師達が、試作品を快く提供してくれたのでな。武器を集めるのには、そう手間はかからんかったぞ」

 

快活に笑っていた椿は、ヘファイストス・ファミリアの団長としての人脈で、今回の武器を集めたことを語った。

 

「まあ、流石に椿でも種類が全く違う武器を短期間で数十種類以上も作るのは不可能だとは思っていたけど、そうやって武器を集めていたのか」

 

「第一級冒険者に自らが作った武器を握ってもらいたいと考える鍛冶師は、ヘファイストス・ファミリアにも数多く存在しておるからな」

 

「なるほど、試作品だとしても鍛冶師達が快く武器を用意してくれた理由は、そうだったのか。多種多様な武器を試してみたいと思った俺にとっては、とても助かることだが、椿は良いのか?」

 

「たまには団長として他の鍛冶師達に刺激を与えることも必要だと判断したまでだ。それに手前は、お主の専属鍛冶師の座を、他の鍛冶師に譲るつもりはないぞ」

 

「それを聞いて安心した。これからもよろしく頼むぞ椿」

 

「うむ、任せろゲド」

 

椿との会話を終わらせて、次の武器を手に取り、適性があるか試していくと、新たに適性がある武器を発見。

 

その武器は斧であり、かつて冒険者になる前に、木を切る時に使ったことがある程度であるが、実際に武器として使ってみると適性があったことは確かだ。

 

風を斬って振るう斧に振り回されることはなく、しっかりと斧という武器を扱うことが出来ている。

 

斧の重さと自らの腕力を全て破壊力に変えることが可能であり、試し斬り用の鉄棒を斧で砕くことも出来てしまった。

 

俺が実際に試してみて、適性があった武器については椿が詳細に記録しているようで、全ての武器の適性を確かめた後、俺に適性があった武器は専属鍛冶師の椿が新たに作ってくれるらしい。

 

それからも俺は椿が集めてくれた多種多様な武器を実際に使って試していく。

 

極東から伝わった刀は、元日本人として扱ってみたい武器だったが大太刀や打刀には適性が無く、俺に適性があったのは脇差だけだった。

 

少し悲しい気持ちにはなったが、脇差を振るう俺の姿は様になっていたようで、初めて刀を握ったとは思えない程に脇差を扱えていたみたいだ。

 

まるで身体の一部や手の延長であるかのように、とても自然に脇差を扱えていた俺は、試し斬り用の鉄棒を、まるでバターを斬るかのように簡単に斬ることが出来てしまう。

 

脇差の素材となっていたのも同じく鉄であり、使った脇差自体も業物という程ではない代物だった。

 

鉄棒と素材に差が無く、脇差も平凡な脇差だったなら、俺の純粋な技量で斬鉄を行うことが出来たということになる。

 

試し斬り用の鉄棒を斬った脇差での斬撃は、見ていた椿が思わず唸ってしまう程、素晴らしい斬撃だったらしい。

 

とりあえず、脇差は短剣よりも適性がありそうだ。

 

それからも他の武器を試していくと、今度は手に装着する鉤爪に適性があった。

 

4本爪の鉄製の鉤爪で引っ掻くような攻撃をすると試し斬り用の鉄棒が、爪の形に抉れていく。

 

「妙な武器に適性があるのだな」

 

「それは俺もそう思う」

 

首を傾げながらも俺の武器の適性を詳細に記録していた椿の言葉には、同意しかない。

 

何でこんな武器に適性があるのか気になるところではあるが、使いたいと思う武器では無かった。

 

「一応適性もあるようなので鉤爪も作っておくか?」

 

そう聞いてきた椿に返す言葉は決まっている。

 

「鉤爪は必要ないから止めてくれ」

 

扱えるとしても欲しいとは思わない武器である鉤爪を用意されては困るので、作成は頼まない。

 

「それでは記録だけ残しておくことにしよう」

 

「そうしてくれると助かる」

 

数日使って全ての武器を試すことが出来たが、鉤爪は記録だけを残しておくことになる。

 

他の適性があった武器は椿に作ってもらうことになっているので、俺は素材を集める為にダンジョンの深層へと向かった。

 

コロシアムで無限に生成される強化種を一通り倒し、ドロップアイテムと魔石を回収していると現れたのは漆黒のスパルトイ。

 

手に持つ骨剣も黒く染まっているスパルトイは、骨剣を構えて此方に突撃してくる。

 

骨の身体の何処にそんな力があるのか、ダンジョンの床が陥没してヒビが入る程の踏み込みから骨剣による突撃突きをスパルトイが放つ。

 

「女神の戦車」よりも速い漆黒のスパルトイの突撃突きを「白断」で受け止めると、漆黒のスパルトイは高速の連続突きを繰り出してきた。

 

凄まじい速度の連続突きを全て「白断」で弾いていくと、今度は袈裟斬りを放ってきた漆黒のスパルトイ。

 

左上から右下、右上から左下、左横から右横と、漆黒のスパルトイは連続で斬撃を繰り出す。

 

更に続けて、左下から右上、右下から左上と骨剣を動かしてから、最後に2回転して漆黒のスパルトイは広範囲を斬りつけてきた。

 

今度は一旦此方から距離を取ると骨剣を構えて突進し、右横から左横に大きく斬りつけてくる漆黒のスパルトイ。

 

様々な斬撃を繰り出し続ける漆黒のスパルトイの攻撃は止まることなく続いていく。

 

漆黒のスパルトイはバックステップで此方の攻撃を避けてから大きく踏み込んで、床に傷跡が残る程に深く、右下から左上に斬り上げてきた。

 

続けて、腰を深く落として骨剣を左下から右上へと大きく斬り上げながら飛び上がり、その後に頭上から骨剣を振り下ろして兜割りを放ってくる漆黒のスパルトイ。

 

右上から左下へと骨剣を動かした後に、漆黒のスパルトイは連続で叩きつけるかのように骨剣を振るう。

 

右下から左上、左下から右上へと骨剣を振るってから、漆黒のスパルトイはその場で軽やかに回転して、骨剣で斬りつけてくる。

 

全てを「白断」で受け止めているが、一撃一撃が重く速い漆黒のスパルトイの攻撃。

 

白兵戦が強いスパルトイの異常個体は間違いなく強いが、此方は負けるつもりはない。

 

真正面から真っ直ぐ振り下ろした「白断」の刃を受け止めさせて接近し、刃を受け止めさせたまま柄を動かして、握っている「白断」の柄を漆黒のスパルトイへと叩き込む。

 

強烈な打撃を叩き込まれた漆黒のスパルトイの胸骨にヒビが入り、体勢も揺らいだ。

 

その状態でも反撃をしようとした漆黒のスパルトイだが、揺らいだ体勢で繰り出す斬撃は甘い。

 

「白断」で漆黒のスパルトイの骨剣を大きく弾き上げて、返す刃で斬撃を叩き込んでいく。

 

此方が「白断」で狙う場所は胸部であり、狙い通りにヒビが入っていた胸骨を大きく斬り裂くことが出来た。

 

直撃した下からの斬り上げで骨の身体を「白断」で断ち斬られた漆黒のスパルトイには弱点があり、斬られて露になった胸骨の中にある魔石こそが漆黒のスパルトイの弱点。

 

再び打ち合わせることになった骨剣と「白断」の刃。

 

何度か打ち合ってから骨剣と「白断」で鍔迫り合いとなった時、露になっている漆黒のスパルトイの魔石を狙い、俺は右手で抜き手を繰り出す。

 

指が漆黒のスパルトイの魔石を貫いて、微塵に砕いた瞬間、消滅していく漆黒のスパルトイの身体。

 

弱点である魔石を砕かれたモンスターは消滅するしかない。

 

完全に消滅していった漆黒のスパルトイが残したドロップアイテムは、漆黒のスパルトイと同じ色をした骨剣だけであったようだ。

 

帰り道で遭遇した階層主のウダイオスと1人で戦うことになったが、慌てることなく落ち着いて戦うことが出来た。

 

黒剣から衝撃波を放ち、無尽蔵に通常のスパルトイを生み出してくるウダイオスを相手に「竜鱗鎧化」を発動した状態で「白断」を構え、迅速に接近。

 

視界が届く範囲なら何処からでも剣山を生やせるウダイオスが、黒い剣山を生やしてきたが、俺の全身に「竜鱗鎧化」で形成された装甲を破る程の威力は無い。

 

ウダイオスが振り下ろす黒剣から放たれて扇状に広がっていく衝撃波も、俺なら簡単に避けることが出来る。

 

このウダイオスが繰り出せる攻撃は全て俺に通用せず、此方からの攻撃はウダイオスに通用することは確実だ。

 

ならば此方が負けることは有り得ない。

 

素早くウダイオスに近付いて跳躍し、頭頂部から「白断」で真っ二つに両断していくとウダイオスの魔石も斬り裂かれていき、消滅していくウダイオス。

 

ドロップアイテムであるウダイオスの黒剣だけが残った。

 

素材となりそうな物は充分に手に入れたので、ダンジョンから出るとしよう。

 

周囲にモンスターが居ないことをしっかりと確認してから空間転移で自室まで戻り、それからギルドで魔石を換金。

 

深層で手に入れたドロップアイテムを持って椿の元へと向かい、全てのドロップアイテムを椿に提供しておく。

 

それなりに大量のドロップアイテムにはなったが、椿なら有効に活用してくれる筈だ。

 

短剣と斧と脇差の素材となるには充分であるので、完成を期待しておこう。



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第32話、新しい武器

思いついたので更新します


椿に武器の作成を頼んでから数日後、ミアハ・ファミリアのホームにまでやって来た椿は、布で包んだ武器を幾つか抱えていた。

 

「完成したぞ!」

 

輝くような笑顔で布で包まれた武器を此方に差し出してきた椿。

 

とりあえず椿に「ありがとう」と感謝をして武器を受け取り、布を外していくと武器の数々が露になる。

 

まず最初に俺が手に取ってみたのは鞘に納まった短剣。

 

鞘から短剣を引き抜いて刃を見てみると刃の色が黒1色であったので、この短剣の素材にウダイオスの黒剣が使われているのは間違いない。

 

今回椿が作成した武器には、素材となったモンスターのドロップアイテムの色が、そのまま残っているみたいだ。

 

試しに短剣を軽く振るって使い心地を確かめていた俺に、椿が短剣の名前を教えてくれた。

 

「その短剣には「黒頭」という名を付けてある」

 

「黒頭」という短剣の名前を確りと覚えておき、鞘に「黒頭」を納めておく。

 

「お主の手に合わせて作った「黒頭」を振るってみて、どう思ったかを聞かせてほしい」

 

「この「黒頭」が大剣を振るいにくい狭い場所での戦いに役立つのは間違いないと思った」

 

「確かに短剣である「黒頭」なら狭い場所でも問題なく振るえるのは確実であるな」

 

「それに「黒頭」なら深層で魔石をモンスターから抜き取る時にも使えそうだ」

 

「ウダイオスの白剣程ではないが、質の良い素材であるウダイオスの黒剣を素材に使って手前が作った「黒頭」ならば、深層のモンスターの外皮を貫くことは可能であるぞ」

 

「充分に戦闘に使えて、持ち運びやすい「黒頭」を常に持ち歩いておくのも悪くはないかもしれないな」

 

一旦会話を終わらせて次に俺が手に取ってみるのは、大振りな刃がついている片刃の斧。

 

片刃の刃だけが黒い色をしていたが、刃はウダイオスの黒剣を素材に作られていて、斧の柄はオリハルコンで作られているようだ。

 

黒い刃と金属の柄が見事に組み合わされていた片刃の斧は、実際に振るってみると、かなり扱いやすい斧であった。

 

この斧が俺の身体に合わせて作られていることは確かだ。

 

「その斧には「黒金」と名付けてある」

 

斧を振るう俺に椿が、斧の名前を教えてくれる。

 

この斧の名前は「黒金」というらしい。

 

「オリハルコンとウダイオスの黒剣という2つの素材を組み合わせるのに手前でも少々手間取ったが、中々の品に仕上がったぞ」

 

誇らしげに胸を張りながらそう言った椿にとって「黒金」は自信作なのだろう。

 

「確かにこの「黒金」は良い斧だ。こんなに良い斧を作ってくれた椿の鍛冶師としての腕は、とても素晴らしいものだと俺は思う」

 

嘘偽りを言うことなく正直な感想を言っておくと、椿は物凄く嬉しそうにしている。

 

「うむ、手前の作った「黒金」を見事に扱うお主がそう言ってくれるなら手前も嬉しく思うぞ」

 

笑顔になっていた椿は、自らが作った作品を褒められて喜んでいたようだ。

 

「そろそろこの「黒金」以外の武器を見てみても構わないか」

 

手に持っていた「黒金」を軽く掲げて聞いてみると頷いた椿。

 

「ああ、構わんぞ。持ってきた武器は全部、お主の物なのでな」

 

作成者の椿が見守る中で、鞘に納まった「黒頭」の隣に「黒金」を置いておき、気になっていた脇差を手に取ってみた。

 

脇差の柄を握ると、手に吸い付くような握り心地がして、凄まじい一体感がある。

 

鞘から脇差の刃を引き抜いてみると、刃の色は黒い色をしていたが「黒頭」や「黒金」とはまた違う黒だった。

 

ウダイオスの黒剣よりも質が良い素材を使われているこの脇差には、漆黒のスパルトイが持っていた黒い骨剣が使われているのは間違いないだろう。

 

「白断」と打ち合って刃こぼれすることもなかった黒い骨剣は、かなりの強度があった。

 

その黒い骨剣を素材として作られた脇差に凄まじい強度があることは確実だ。

 

椿によって新たな武器として生まれ変わったことで、強度だけではなく、鋭い刃を持つ黒い脇差。

 

以前握った鉄製の脇差とは比べ物にならない程に手になじんでいた黒い脇差を振るってみると、まるで最初から身体の一部であったかのように、黒い脇差を自在に操ることが可能だった。

 

「その脇差の名は「骨喰」と決めてあるぞ」

 

椿が言うには、この黒い脇差は「骨喰」というようである。

 

「骨喰」という名は前世の日本に存在していた刀の名前でもあったが、そんな偶然もあるということなのかもしれない。

 

「それにしても、脇差を握ったのが2度目だとは思えんような動きをしておるな」

 

「骨喰」を振るっている俺を観察しながら言った椿は、とんでもないものを見るかのような目で俺を見ていた。

 

脇差である「骨喰」を握った俺の動きは、完全に初心者の動きではなく、使い慣れた熟練者すらも上回るものだったらしい。

 

まるで「骨喰」と一体化しているかのように自然に「骨喰」を振るう俺の動きには一切の無駄がなく、最適な動作で刃を動かしているように見えたようだ。

 

しばらく俺が「骨喰」を振るっていると椿が用意していたのは、試し斬り用らしき金属の棒。

 

金属の棒は表面を黒い塗料で塗られていて、どんな金属であるかはわからなくなっているようだ。

 

「それを試しに斬ってみてくれんか」

 

椿にそう言われて、俺は試し斬り用の金属製の棒の前に立つ。

 

「骨喰」を構えた状態で行うのは自然と身体が覚えていた重心移動であり、平行四辺形をつぶすような動きで繰り出すのは、相手に自らの体重を乗せて引き斬る斬撃。

 

腕の力だけではなく体重すらも利用した技術を使った一撃は、金属製の棒を容易く断ち斬っていく。

 

袈裟斬りに斬り裂かれて、斜めに断ち斬られた黒塗りの金属製の棒が床に転がった。

 

断たれた断面から見える金属の内側を見ると、見覚えがある金属であることは確かだ。

 

「斬れるとは思っていたが、手前が鍛えたオリハルコン製の棒を、いとも容易く斬るとは驚いたぞ」

 

斬られている金属製の棒の断面を見ながら言った椿は、金属の正体を明かす。

 

金属の正体がオリハルコンであったのなら、見覚えがある金属だと思ったのは間違いではなかった。

 

「やっぱりオリハルコンだったのかあの棒。試し斬りに用意するには、オリハルコンは強度と値段が高いと思うんだが」

 

「ちょうど仕入れたオリハルコンがそれなりに余っていたのでな。お主の試し斬り用に使っても問題はないだろう」

 

ヘファイストス・ファミリアの団長である椿にとっては、余っていたオリハルコンを有効活用しただけなのかもしれない。

 

椿が鍛えたオリハルコンを断ち斬れるなら、深層のモンスターを相手にしても「骨喰」の刃が通らないということはない筈だ。

 

「この「骨喰」の強度と鋭さを確かめることが出来たのは、悪いことじゃないか」

 

「オリハルコンを容易く断ち斬れたのは、お主の剣の腕もあってのことだと思うがな。見事な剣術であったぞ」

 

椿から見ても、オリハルコンを容易く断ち斬った俺の動きは見事であったらしい。

 

脇差を握ると、自然と自らの身体の一部だと思えるようになって、自在に扱うことが出来る。

 

新しい武器の中で、最も適性が高いのは脇差であるようだ。

 

椿が持ってきた新しい武器は「黒頭」と「黒金」に「骨喰」で終わりで、合計で3つの武器となる。

 

専属鍛冶師の椿が作った武器であろうとも料金は、しっかりと支払わなければいけない。

 

3つの武器の合計で1億ヴァリスを支払うことになったが、それだけの価値がある武器なのは確かだろう。

 

ダンジョンやフレイヤ・ファミリアで稼いでいるので1億ヴァリスを支払っても問題はない。

 

1億ヴァリスを椿に支払っておくと、大量のヴァリスを運ぶのが大変そうだった椿。

 

ヴァリスを運ぶのを手伝っておき椿と一緒に運んでおくと、女神ヘファイストスと初めて会うことになった。

 

流石に1億ヴァリスという高額な報酬を支払われた時は、椿もヘファイストス・ファミリアの団長として主神に話を通しにいくらしい。

 

「これからは、珍しいドロップアイテムを見つけたら椿だけじゃなくて私にも見せてくれると嬉しいわ」

 

そう言っていた女神ヘファイストスは素材を求める鍛冶師の眼をしていた。

 

俺が珍しいドロップアイテムを入手することが多いと椿から話を聞いて、女神ヘファイストスは興味を持ったのだろう。

 

「構いませんよ女神ヘファイストス、珍しいドロップアイテムを見つけたら貴女の前に持ってくることを約束しましょう」

 

見せるだけなら問題はないと判断した俺は、珍しいドロップアイテムを発見したら女神ヘファイストスに見せることを約束する。

 

専属鍛冶師となっている椿だけではなく自分も珍しいドロップアイテムを見ることができると女神ヘファイストスは物凄く喜んでいたみたいだ。

 

それからはミアハ・ファミリアでポーションを作っては接客して、フレイヤ・ファミリアで女神フレイヤに料理を作りに行く日々を過ごしていくことになる。

 

いつも通りの日常を過ごしながらも俺は空いている時間を使い、新しい武器の数々を装備してダンジョンへと向かった。

 

背負った「黒金」と腰に装備した「骨喰」に「黒頭」の鞘。

 

新しい武器でも問題なく戦えるかどうかを確かめる為に深層へと向かう。

 

深層へと向かう道中で出会うモンスターでは相手にならず、短剣である「黒頭」だけで容易く倒すことが可能だった。

 

強化種を生み出すことがないようにモンスターの魔石を砕いて倒しながら先へと進み、ようやく到着した深層。

 

目的地であるコロシアムへと歩みを進めると、襲いかかってくる深層のモンスター達。

 

俺が素早く振るった「黒金」で頭部を断ち斬られたモンスター達は、もう動くことはない。

 

深層のモンスター達の魔石を「黒頭」を使って抜き取ってから袋に詰めて、リトルフィートで小さくして鞄にしまうと、コロシアムへと足を踏み入れていく。

 

強化種が無限に生成されていく危険な場所であるコロシアムは、侵入者が居ない限りは常にモンスター達が絶えず争っている場所でもあるようだ。

 

そして侵入者が現れた瞬間、争っていたモンスター達は、狙う標的を侵入者へと変える。

 

強化種と化したモンスター達が襲いかかってきた瞬間、腰の鞘から脇差である「骨喰」を居合抜きのように瞬時に抜刀してモンスター達を斬り裂いた。

 

そのまま納刀することなく「骨喰」でモンスター達を斬り裂きながら進んでいると毛皮が赤く染まっているルー・ガルーが石刃を片手に此方に近付く。

 

此方の振るう「骨喰」を石刃で受け止めようとしたルー・ガルーの強化種。

 

しかし石刃で止められる「骨喰」ではなく、半ばから斬り裂かれた石刃ごとルー・ガルーの首が飛ぶ。

 

俺は軽く「骨喰」を振るい付着していた血を落とすと、現れる新たなモンスターを相手に「骨喰」を構えた。

 

今度は強化種のペルーダが襲いかかってくるが、射出された毒針を「骨喰」で斬り払いながら接近すると、口から火炎を放射してくるペルーダ。

 

素早く横に跳躍して、放射された火炎を避けて再び間合いを詰めると、ペルーダの頭部を「骨喰」で両断。

 

何も出来なくなったペルーダの死体の影から飛び出してきた強化種のバーバリアンには、眉間に突きを叩き込んで始末。

 

続けて現れる強化種のスパルトイの骨槍の穂先を「骨喰」で逸らして、返す刃でスパルトイの骨の首を斬り落とす。

 

「骨喰」を鞘に納めて、倒したモンスター達から魔石を抜き取っていると、再び現れたモンスター達。

 

今度は背負っていた「黒金」を構えて、モンスター達の相手をしていくことにした。

 

俺が完全に新しい武器達に慣れるまで、コロシアムのモンスター達には付き合ってもらうとしよう。



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第33話、薬用酒

思いついたので更新します


「創薬師」のスキルを用いれば、どんな薬でも材料があるなら作ることが出来る。

 

作れる薬の範囲も幅広く、殆ど美容用の薬でも、薬であるなら作ることが可能だ。

 

いつも通りに各種ポーションや様々な薬を作っている時に、薬と名が付いているなら、薬用酒も作ることが可能なのではないかと思い付いてしまった。

 

「創薬師」のスキルを用いて試してみると、充分な材料があれば薬用酒を作ることは可能であるらしい。

 

薬用酒と言っても作り方によって色々と違っているようで、生薬や薬草を単純に酒に溶かしたものは加薬酒というそうだ。

 

薬用酒はそれ以外にも一定期間梅酒のように生薬や薬草を酒に漬けた浸薬酒などもある。

 

更には浸麹と仕込み水の中に生薬等を入れてお酒の醸造の過程から生薬を仕込む醗酵薬酒などがあるみたいだ。

 

流石に醗酵薬酒を作る場合は一から酒を作ることになるので、酒蔵が必要になるだろう。

 

そこまで大掛かりになると個人で作るには、かなりのヴァリスと酒蔵の土地と酒を作る時間が必要になることは確かだ。

 

醗酵薬酒に興味がない訳ではないが、それなりの時間を必要とする醗酵薬酒を作るのは後回しにしておき、今回作ってみるのは加薬酒と浸薬酒。

 

購入して用意した酒に「創薬師」のスキルを用いながら生薬と薬草から抽出したエキスを混ぜていき、絶妙なバランスでブレンドしていくと加薬酒が完成。

 

加薬酒を試飲をしてみると酒の味自体も格段に良くなっていて、血行が良くなったのか全身がポカポカしてくる。

 

食欲を増進する効果もあり、弱っている胃腸を癒す効果もあるようで、胃腸にも優しい薬用酒となっていたみたいだ。

 

次に作る浸薬酒に漬け込む生薬と薬草を用意して、購入しておいた酒に漬け込んでおき、密閉してしばらく放置しておくと完成する浸薬酒。

 

時間はかかるが、醗酵薬酒よりかは短期間で完成する浸薬酒の完成を楽しみにしておこう。

 

購入した酒で薬用酒を幾つか作成しておき、直ぐに飲める加薬酒を神ミアハやナァーザにも試飲してもらうと好評だった。

 

「これも売るの?」とナァーザに聞かれたが、流石に材料の酒を購入する必要がある薬用酒までは売り出すつもりはない。

 

薬用酒は試しに作ってみただけで商品にすることはないが、必要そうな人には少し提供するかもしれないな。

 

身体に優しい加薬酒が完成した翌日、ロキ・ファミリアの団長であるフィンさんが青白い顔で、ミアハ・ファミリアのホームである店舗にまでやって来た。

 

「やあ、胃薬を貰えるかな。切らしてしまって困ってるんだ」

 

しばらく忙しくて胃薬を買いに来れなかったフィンさんは最近食欲が無くなってきているらしい。

 

「ちょっと待っていて下さい。新しい胃薬を作ります」

 

「うん、頼むよ」

 

いつもの胃薬では効果が薄いと判断した俺は、フィンさんに新しい胃薬と昨日完成した薬用酒の加薬酒を1本渡しておく。

 

新しい胃薬は直ぐに飲むように伝えておき、薬用酒は食前に飲むようにと教えておいた。

 

直ぐに胃薬を飲んだフィンさんは、ストレスで荒れていた胃が胃薬で癒されて顔色が少し改善されたみたいだ。

 

「胃薬はわかるけど、これは何かな?お酒のようだけど」

 

「ああ、これは薬用酒ですね。生薬や薬草のエキスを抽出して酒に加えた加薬酒という薬用酒ですよ。身体に優しい酒ですから今の貴方でも飲めると思います」

 

薬用酒についてフィンさんに聞かれたので少し説明しておくと「そんなものまで作れるんだね」と笑っていたフィンさんは、まだまだ顔が青白い。

 

「胃薬だけじゃなくて、薬用酒もありがたく貰っておくよ。きみが作ったものなら安心だ」

 

「とりあえず胃薬だけじゃなくて食事もしっかり食べて下さいね。食欲を増進させる効果があって、胃腸も癒すその薬用酒を食前に飲めば大丈夫ですから」

 

食欲増進効果もある薬用酒を飲んで、しっかりと食事をするように伝えておき、フィンさんからは胃薬の料金だけ受け取っておいた。

 

「薬用酒は売り物じゃないのかい?」

 

「ええ、薬用酒は貴方に必要だと思ったから渡したんですよ」

 

「僕は、そんなに疲れているように見えたのかな」

 

「鏡でも渡しましょうか、何処からどう見ても疲れきった人にしか見えませんよ」

 

「やっぱりそう見えるんだね」

 

「自覚があるようで何よりです。次からは、疲れきった状態になる前に来て下さいね」

 

「出来ればそうしたいんだけど」

 

「それが難しいんですね」

 

「うん、そうなるかな」

 

「大手のロキ・ファミリアの団長ともなれば、仕事もそれなりの量になるということですか」

 

「まあ、団長としてやらないといけないことは沢山あるよ」

 

「恐らく貴方は他の人に割り振れる仕事を割り振った上で、その状態になっているんですね」

 

「書類仕事が出来る冒険者はね、ロキ・ファミリアでも貴重なんだよ」

 

「成る程、その一言で状況がわかりました。貴方と一部の人は、とても苦労しているんですね」

 

「たまに槍を投げつけたくなる時もあるけどね」

 

「そこまで行く前に、誰かに相談して悩みを吐き出した方が良さそうですよ。実際にやってしまってからでは遅いですし」

 

「悩み相談とかは受け付けてないのかな、ミアハ・ファミリアは」

 

「特に悩み相談は受け付けていませんが、俺で良ければ話を聞きますよ」

 

「それじゃあ、お願いしようかな」

 

ミアハ・ファミリアのホームにある俺の自室にフィンさんを案内して、俺が椅子を2つ用意すると悩み相談が始まる。

 

「まずは、そうだね。ロキ・ファミリアのある冒険者が、無茶ばかりするから見ていて心配になるし、あまり此方の指示を聞いてくれないことから話そうかな」

 

こうしてロキ・ファミリアの団員達に関する悩みから、主神である女神ロキに関する悩みまで、話せる範囲で話していったフィンさんは、よほど悩みを溜め込んでいたらしい。

 

小一時間は悩みを相談していたフィンさんの話を聞き、助言が出来そうなところは助言して悩みを聞いていると、全ての悩みを話し終えたフィンさんは晴れやかな顔をしていた。

 

「ありがとう、話せる悩みを全て話したらスッキリしたよ」

 

「それなら良かったです」

 

「僕は、きみに随分と助けられているね」

 

「困っている人が居たら助けるのは当たり前ですよ」

 

俺が自然と思ったことを言葉に出して言っておくと、フィンさんは嬉しそうに笑っている。

 

「そんなきみに会えて本当に良かったと思えるね。またミアハ・ファミリアに胃薬を買いに来ても良いかい?」

 

「ええ、いつでも買いに来て下さい。たまに俺は居ないかもしれませんが」

 

「きみに会えるように祈っておくとするよ」

 

そう言って、笑みを浮かべたままミアハ・ファミリアから去っていったフィンさんの青白かった顔は少しはましになっていたようだ。

 

更に翌日、ミアハ・ファミリアのホームにまで押し掛けてきた女神ロキが「薬用酒を売ってほしいんやけど」と頼んできた。

 

どうやらフィンさんが飲んでいた薬用酒を目敏く見つけた女神ロキは、フィンさんに頼み込んで少し分けてもらったようで、それで初めて飲んだ薬用酒という酒を気に入ってしまったらしい。

 

「美味しく飲めて、身体にも優しい、まさに夢のような酒や!神酒以来の運命の出会いっちゅうやつやで!」

 

やたらとテンションが高い女神ロキは、薬用酒がまた飲みたくてミアハ・ファミリアにまで思わず押し掛けてきたようだ。

 

「薬用酒は売り物じゃないんですが、そんなに欲しいんですか。今の薬用酒は市販されている酒に手を加えただけですよ」

 

「手を加えただけであれだけ美味いんなら別物やと思っとるわ。うちも薬用酒が欲しいから売ってくれって頼んどるんやけど」

 

薬用酒を手に入れるまで帰るつもりは無さそうな女神ロキに、いつまでもミアハ・ファミリアに居座られては困る。

 

「売り物じゃないんで、貴方に差し上げるという形なら大丈夫ですよ。幾つか種類がありますから試しに飲んでみますか?」

 

贈答品ということで薬用酒を提供して帰ってもらうことにしたが、実際に飲んでもらって好みの薬用酒を選んでもらおうと考えた俺は、作成した数本の薬用酒の試飲を提案してみた。

 

「飲む飲む、試飲まで許してくれるとは太っ腹やん」

 

用意した薬用酒の試し飲みをしていく女神ロキは、かなり酒好きの女神のようで、直ぐに薬用酒を飲み干していく。

 

「どれも初めて飲む味やけど良い味しとるやないか。この中からどれを選べば良いか迷うわ」

 

「別に全部持っていっても良いですよ」

 

「ほんまにええの?」

 

「構いませんよ」

 

「ちょっと連れて来とる護衛に持たせるわ」

 

一旦ミアハ・ファミリアの店舗から出ていった女神ロキが、ロキ・ファミリアの冒険者らしき相手を店内に引っ張ってきた。

 

「この酒頼んだでラウル。落として割ったらフィンに頼んで、ケツを槍の長柄で全力でひっぱたいて貰うから覚悟しときや」

 

薬用酒数本をラウルと呼んでいる冒険者に渡していた女神ロキは真剣な顔をしている。

 

「マジっすか」

 

薬用酒の瓶を落として割った際のことを想像したのか、顔を青ざめさせていたラウルという名の冒険者。

 

「マジや」

 

そんなラウルに真剣な顔で短く言い切った女神ロキは、嘘をついている様子はない。

 

「絶対に落とさないように気をつけるっすよ」

 

しっかりと薬用酒を抱えていたラウルなら、薬用酒を落として割ることはない筈だ。

 

「ほな、また来るわ」

 

「そう毎回来られても困りますから、来るなら月に1回程度にして下さいね女神ロキ」

 

「せやね、そうしとく。それと薬用酒が売り物じゃないんなら、お小遣いということで勝手にヴァリス渡しとくで。受け取って貰えたら、うちは嬉しいわ」

 

「そうきましたか、わかりました受け取っておきますよ」

 

女神ロキから「お小遣い」を受け取っておくと、渡した女神ロキは嬉しそうに笑っていた。

 

「来月、楽しみにしとくわ」

 

鼻歌を歌いながら上機嫌で去っていく女神ロキの後ろを、薬用酒を数本抱えたラウルが着いていく。

 

女神ロキに提供した薬用酒は加薬酒だけであり、まだ出来上がっていない浸薬酒は提供しなかった。

 

浸薬酒が完成したら、また女神ロキに試飲してもらうのも悪くはないだろう。



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第34話、商品の配達

思いついたので更新します


物を小さくすることが可能なリトルフィートの魔法を使えば大量のポーションや、その他の商品を運ぶことが可能だ。

 

毎回毎回ミアハ・ファミリアの店舗にまで大量のポーションを買いに来るのが大変だと思っているファミリアは多かったようで、お試しで配達サービスを始めてみると、殆どのファミリアが配達を頼んできた。

 

エナジーポーションを大量に購入していく神ディアンケヒトも配達サービスを希望したので、神ディアンケヒトが購入したエナジーポーションが大量に詰まった木箱をリトルフィートで小さくしてディアンケヒト・ファミリアにまで運んでいく。

 

エナジーポーションを運んでいる最中に神ディアンケヒトから聞かされたのは、ディアンケヒト・ファミリアの団長であるアミッドが、再びミアハ・ファミリアに押し掛けるかもしれないということだった。

 

「ワシでもアミッドは止められんからな、お主に任せておくぞ」

 

「前は酷いことになってましたよね。アミッドを止めようとして引き摺られて、力尽きたところで放置されてましたし」

 

「放置されたワシを助けてくれたのもお主だったからな、あれは流石に酷いと思った」

 

そんなことを話している内にディアンケヒト・ファミリアにまで到着。

 

神ディアンケヒトの自室にまでリトルフィートで中身ごと小さくした木箱を運んでいき、指示された場所に元の大きさに戻した木箱を置いた。

 

ディアンケヒト・ファミリアへの配達を終わらせてから、ミアハ・ファミリアの店舗に戻り、別のファミリアに頼まれたポーションを幾つかの木箱に詰めて、全ての木箱をリトルフィートで小さくすると手早く配達。

 

様々なファミリアにポーションを配達していくと、全てのファミリアが、また配達サービスを頼みたいと言ってくる。

 

大量のポーションを頼んでいた大手のファミリアは、頼んだ当日に届く素早い配達がかなり気に入ったらしい。

 

やはり団員が多い大手のファミリアであるほどポーションの消費も多いようで、大量のポーションが必要になるようだ。

 

それからも様々なファミリアが配達を頼んできたが、個人的な配達を頼む人達も何人か居た。

 

フィンさんが個人的に頼んできたエナジーポーションと胃薬に、おまけとして薬用酒も詰めた詰め合わせを用意して、ロキ・ファミリアのホームにまで配達しに向かう。

 

到着したロキ・ファミリアのホームで門番に用件を伝えると、今日は荷物が届くとフィンさんから話を通されていた門番の1人がホームの案内を申し出てくれた。

 

フィンさんの自室にまで案内してくれた門番がドアをノックしてから「ミアハ・ファミリアの団長が商品の配達に来たようです」とフィンさんに伝えてくれる。

 

「入ってもらっても構わないよ」

 

そう言ってくれたフィンさんの言葉に従って室内に入ると出迎えてくれたフィンさん。

 

少し前の青白い顔よりは健康的な顔をしていたので、提供した胃薬と薬用酒は確かに効果があったみたいだ。

 

「この前はロキが迷惑をかけたようですまないね。薬用酒の味を知った酒好きのロキがミアハ・ファミリアにまで、ラウルを連れて突撃していったと聞いた時は、胃がまた痛んだよ」

 

「女神ロキは薬用酒を買いたいと頼んできた程度なんで迷惑という程ではないですよ。薬用酒は売り物ではないと伝えましたが」

 

「数本の薬用酒をきみから貰ったロキが上機嫌で帰ってきたのを見た時は驚いたけどね。薬用酒を贈答品ということでロキに提供してくれたのは感謝するよ」

 

「あの数本程度なら問題ありませんよ。女神ロキには「お小遣い」も貰いましたから、また薬用酒を提供しても大丈夫です」

 

「なるほど、それでロキの所持金が減っていたんだね。僕もきみに「お小遣い」を渡した方が良いのかな?」

 

「流石に「お小遣い」ばかり貰うのは問題がありそうなんでフィンさんは、やめてください」

 

「そうかい、それは残念だね」

 

フィンさんと会話しながらリトルフィートで小さくしている複数の木箱を指示された場所に置き、元の大きさに戻す。

 

「中身は、頼まれたエナジーポーション60本と胃薬に、おまけで薬用酒が3本入ってます」

 

木箱の中身を見てもらい、全ての商品が配達されたことを、配達を頼んだフィンさんに確認してもらった。

 

「ありがとう、こうして当日に配達してもらえるのは便利だね」

 

感謝の言葉を言いながら、さっそく胃薬を飲み始めたフィンさんは、やはりまだ胃が痛んでいたらしい。

 

「ポーションや薬の配達を、ここまで早くやってるファミリアは、他には無いみたいですね」

 

他のファミリアで大量の商品を頼んでも、こうして直ぐに商品が配達されることはないようで、基本的には荷馬車が必要になるようだ。

 

「流石にきみと同じ魔法を持っている人は居ないからね。物資の大量運搬に適した魔法を持っている人も少ないだろうし、大量の商品を頼んだ当日に数十分程度で配達するのは、きみが居ないと出来ないことだと思うよ」

 

フィンさんが言うように、大量の商品を小さくして簡単に運ぶことが出来るのは、今のオラリオでは俺だけなのだろう。

 

「俺の魔法を有効活用してみようかと思って始めた配達ですが、結構他のファミリアにも好評でしたね。短時間で直ぐに商品が届くのが嬉しいみたいです」

 

物を小さくするリトルフィートの魔法を有効活用した結果として、身軽な状態で移動が可能な俺なら短時間で何処のファミリアにも大量の商品を配達することが可能だった。

 

「頼んだ当日に直ぐ大量の商品が届くのは、とても便利で助かるよ。僕もまた頼みたいと思うから、きっと他のファミリアも同じことを思っているんじゃないかな」

 

頼んで直ぐに商品が届くのは、俺の前世では普通のことだったが、今生の世界では普通のことではない。

 

だからこそ様々なファミリアがミアハ・ファミリアに配達を頼んでくる程に需要があるのだろうな。

 

「大量の商品の当日短時間配達は意外と需要があるみたいですね。ミアハ・ファミリアでは俺以外には出来ないことですから、俺の予定が空いてる時だけ出来る限定の配達ということにしておきますよ」

 

ロキ・ファミリアのホームでのフィンさんとの会話を終わらせて、ミアハ・ファミリアのホームに戻ると、見たことのないお客さんが1人居た。

 

そのお客さんは褐色の肌をした女性であり、どう見てもアマゾネスであることは間違い無さそうだ。

 

アマゾネスの女性は商品の配達を頼みにきたようで、大量のポーションとエナジーポーションに加えてミアハ・ファミリアで販売している美容関係の商品も全種類頼むらしい。

 

何処のファミリアまで配達すれば良いかを聞いてみると、歓楽街にある女主の神娼殿にまで配達してほしいとのことだ。

 

女主の神娼殿は、イシュタル・ファミリアのホームであるので、どうやらこの女性は、イシュタル・ファミリアに所属しているようである。

 

大量のポーションとエナジーポーションに美容関係の商品を幾つかの木箱に詰めて、リトルフィートで小さくして歓楽街にまで配達に向かうことになったが、イシュタル・ファミリアの女性が歓楽街を案内してくれた。

 

昼間の歓楽街は静かで歓楽街とは思えない程であるが、日が沈めば賑やかになるようなので、早めに配達を終わらせるとしよう。

 

到着したイシュタル・ファミリアのホームの女主の神娼殿は城であり、かなり広いホームであることは間違いない。

 

アマゾネスの女性に案内されて向かった先の部屋で、頼まれた商品が詰まった木箱を置き、大きさを元に戻した後に商品を確認してもらっていると、カエルに似た女性が現れた。

 

「ゲゲゲゲゲゲ、逞しい良い男じゃないかい。良いねぇ」

 

そんなことを言いながら舐めるような眼で此方を見るカエルに似た女性。

 

舌舐めずりまでしているカエルに似た女性に俺が性的に狙われているのは間違いないようだ。

 

普通に嫌だなと思う気持ちはあったが、顔には出さないようにして帰ろうとすると、カエルに似た女性が出入り口に立ち塞がっていた。

 

「アタイと楽しもうじゃないか」

 

口を三日月のように吊り上げて笑みを浮かべたまま近付いてきたカエルに似た女性。

 

今まで案内してくれたアマゾネスの女性が間に割り込んで庇ってくれようとしていたが、カエルに似た女性は「邪魔だよ!退きなっ!」と言いながらアマゾネスの女性に拳を振るおうとした。

 

アマゾネスの女性の前に出て、カエルに似た女性が振るう拳を受け止めておき、掴んだ左拳を握り締めておく。

 

「ぐっ!このっ!なめんじゃないよ!」

 

俺に握られた左拳が軋んでいても、構わずに右拳を此方に放とうとしたカエルに似た女性は、まだやる気らしい。

 

此方に右拳が放たれる前に、カエルに似た女性の顔面に思わず拳を叩き込んでしまったが、俺は悪くないと思う。

 

死なない程度に加減はしたが、顔面に叩き込まれた拳の一撃で勢い良く吹っ飛んで壁に叩きつけられたカエルに似た女性は失神していたようだ。

 

俺の拳の一撃で失神しているカエルに似た女性は、もう起き上がることはない。

 

とりあえず今の内に帰ろうかと考えていると、騒ぎに気付いたイシュタル・ファミリアの面々が次々と現れた。

 

「フリュネを一撃で倒すなんてやるじゃないか」

 

集まった面々から前に出てきて近付いてきた長髪のアマゾネスの女性が笑みを浮かべながらそう言ってくる。

 

どうやらフリュネとやらが俺に殴られて吹っ飛んでいくまでの一部始終を見ていたみたいだ。

 

「私はアイシャ、歓楽街じゃ見ない顔のあんたは竜殺しのカオスエッジだったか」

 

「そう呼ばれることもありますね。配達も終わりましたし、俺はもう帰りますよ」

 

「こっちは、あんたに興味が湧いてきたところだよ。一晩じっくりと話をしてみたいところさ」

 

「女性に興味が無い訳じゃありませんが、今日はそんな気分じゃないので帰らせてもらいますよ」

 

「アマゾネスが獲物を逃がすと思うのかい」

 

「俺の動きに着いてこれる人が居るとは思えませんが、どうでしょうね」

 

走り出した俺の動きに着いてこれるイシュタル・ファミリアの団員はおらず、疾走する俺の動きを眼で捉えることも出来ていない。

 

余計な荷物がないLv6の俺の速度に着いてこれる奴は居なかったようで、イシュタル・ファミリアのホームから直ぐに脱出することが出来た。

 

こういうこともあると知ることができたのは悪いことじゃないが、歓楽街を案内してくれたアマゾネスの女性が悪い人ではなかったのは確かだ。

 

フリュネとやらから庇おうとしてくれたあのアマゾネスの女性は、普通に良い人そうに見えたな。

 

「そういえば、あのアマゾネスの人の名前を聞いていなかったな」

 

聞いておけば良かったかなと思わなくもない。

 

まあ、次に会うことがあったら聞いてみよう。



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第35話、それは花屋から始まった

思いついたので更新します


ファミリア以外からも商品の配達を頼まれるようになり、配達に向かった先の老夫婦が営む花屋には、最近花屋で働き始めたという小人族の少女が居た。

 

そんな少女の名前は、リリルカ・アーデであるようだ。

 

いずれ関わるかもしれないと思っていたリリルカ・アーデと遭遇したことには驚いたが、サポーターになる前のリリルカ・アーデが何をしていたのかを知らなかった俺としては、完全に偶然の出会いになるな。

 

しかし疑問に思うのは何故花屋で働いていたリリルカが、サポーターになるのかということだ。

 

元気な花屋の老夫婦に寿命が来るようには見えない。

 

それならまた別の理由でリリルカ・アーデは花屋を続けることが出来なくなるのかもしれないな。

 

リリルカ・アーデは、あまり良い評判は聞かないソーマ・ファミリアの眷族だった筈だ。

 

ソーマ・ファミリアの連中なら何をしてもおかしくはない。

 

そう思っていると老夫婦の花屋を見ていた怪しい男を発見。

 

俺が近付いてみると慌てて走って逃げていくあたり、見るからに怪しかった。

 

顔と服装は確認したので、怪しい男の特徴を話して何か心当たりがないか老夫婦とリリルカ・アーデに聞いてみると、リリルカ・アーデには心当たりがあるみたいだ。

 

リリルカ・アーデによると怪しい男は、ソーマ・ファミリアに所属している男であるらしい。

 

ソーマ・ファミリアの男が花屋を見ていたのは、リリルカ・アーデの居場所を確認する為だろう。

 

ろくな奴が居ないソーマ・ファミリアなら、リリルカ・アーデへの嫌がらせの為に花屋を壊すなんてことをする可能性がある。

 

ソーマ・ファミリアによって常連のお客さんでもある花屋の老夫婦の店が破壊されるようなことになったら、俺は物凄く不愉快だ。

 

今日のところは何もされることはないだろうが、いずれ手を出されるかもしれない。

 

とりあえず俺はガネーシャ・ファミリアに話を通しておくことにした。

 

ガネーシャ・ファミリアのホームに向かい、神ガネーシャとガネーシャ・ファミリアの団員達に、老夫婦の花屋がソーマ・ファミリアに狙われているかもしれないことを話しておく。

 

「そのような輩は許しておけんな。よし、その花屋には俺のファミリアの眷族を警備として派遣しておこう」

 

此方の話を聞いた神ガネーシャは老夫婦の花屋に、ガネーシャ・ファミリアの団員を警備として派遣してくれるらしい。

 

群衆の主を名乗る神ガネーシャなら、庇護すべき市民である老夫婦が営む花屋を守ることに手を貸してくれると思っていたが、ガネーシャ・ファミリアの団員が警備までしてくれるなら老夫婦も安心だろう。

 

俺は俺でソーマ・ファミリアについて調べてみることにしたが、ソーマ・ファミリアがかなり評判が悪いファミリアであることは確かなようだ。

 

様々な話を聞いていくと核心に迫る話を聞くことができたが、どうやらソーマ・ファミリアの団員達は主神であるソーマが作る完成品の神酒を餌に、ソーマの酒作りの資金調達の為に競走させられているようである。

 

商品として資金調達の成績上位者にだけ提供される完成品の神酒を求めて、ソーマ・ファミリアの団員達は金への異常な執着を見せているということだった。

 

完成品の神酒を求めるあまり、他者を蹴落とすことに躊躇いを無くしているソーマ・ファミリアの団員達は、まともな状態ではない。

 

そんなソーマ・ファミリアのある団員達が酒場で「サポーターが居れば、もっと稼げるのに逃げやがって小人族のガキが、後悔させてやる」と言っていたようで、リリルカ・アーデが狙われていることは間違いないみたいだ。

 

老夫婦の花屋で働き始めたリリルカ・アーデは、真っ当に働いて笑っていた。

 

優しい老夫婦の元で働けることを嬉しく思っていたリリルカ・アーデは新しい自分に変わろうとしているのだろう。

 

それは、完成品の神酒を求めて犯罪に手を染めるよりも、何千倍も何億倍も素晴らしいことだ。

 

ソーマ・ファミリアの身勝手な理由で、新しい道を歩み始めた彼女の幸せを壊していい筈がない。

 

たとえ後で救われるとしても、彼女の今が不幸せになってもいい理由はないだろう。

 

だったら俺がやることは決まっている。

 

それは、リリルカ・アーデを狙うソーマ・ファミリアの団員達を、あらゆる手段を用いて叩き潰すことだ。

 

ガネーシャ・ファミリアには既に話を通してあるが、ついでにギルドも巻き込んでしまおう。

 

まずは以前女神フレイヤが世間話に話していたロイマンの汚職について詳しい話を女神フレイヤから聞いて、ロイマンを脅すネタを手に入れることから始めてみるとしようか。

 

という訳でフレイヤ・ファミリアのホームに料理を作りに行った際に、女神フレイヤにロイマンの汚職について話を聞いてみる。

 

「そんなことよりも穏やかな火のようだった貴方の魂が激しく燃え盛って凄まじい炎になっていることの方が、私は気になるわ」

 

ロイマンの汚職をそんなことと言って気にしていない女神フレイヤは、俺の魂が炎になっていることの方が気になるらしい。

 

「炎になっていますか。自分ではわかりませんが」

 

「ええ、とても激しく燃え上がる炎のような魂になっているわよ」

 

魂を見ることができる女神フレイヤにしかわからないが、どうやら今の俺の魂は激しく燃え上がっているみたいだ。

 

「そうですか、やる気が満ち溢れているからかもしれません」

 

「何故、貴方の魂が炎のようになっているのか、その理由を私に教えてくれるなら、ロイマンの悪事なんて幾らでも教えるわよ」

 

微笑みながらそう言ってきた女神フレイヤは、俺の魂が激しく燃えている理由に興味津々だった。

 

「簡単に言えば、新しい道を歩み始めた女の子が、これからも笑って過ごせるように頑張ろうと思ったからですかね」

 

「貴方はその子のことが好きなのかしら?」

 

「出会ったばかりですし、恋愛感情は欠片もありませんよ」

 

「それでもその女の子の為に、貴方は頑張ろうと思ったのね」

 

「ええ、そうです。俺がそうしたいと思ったんですよ」

 

「ちょっと妬けるわね。その子が少し羨ましいわ」

 

「貴女でも羨むことがあるんですね。まあ、とりあえず魂が燃え盛ってる理由になりそうなことは話したんでロイマンの悪事について詳しい話を聞かせてください女神フレイヤ」

 

「わかったわ。まず最初に」

 

こうして女神フレイヤからロイマンの汚職について詳しい話を聞くことができたので、うまくこの情報を使えばギルドを動かすことができるだろう。

 

ギルドに向かい、ギルド長のロイマンに伝わるように、俺がロイマンの汚職を知っていることを匂わせておくと、呼び出しがあり、直接ロイマンと対面することになった。

 

ギルド本部のギルド長の執政室で対面したロイマンは、落ち着きがなくソワソワしている。

 

どうやらロイマンは自分の汚職を知られていることが、とてつもなく不安であるようだ。

 

ロイマンが行っている汚職について俺が事細かに語ってやると、顔面を蒼白にしていたロイマン。

 

完全に血の気がひいた顔になっていたロイマンの様子を見れば、ロイマンが汚職をしているのは事実であると理解できた。

 

ギルド長を脅すネタには充分だということも理解できたので、ちょっとした提案をロイマンには受け入れてもらうことになる。

 

勿論拒否するなら、汚職を全てウラノスにバラすと脅しを入れておくことも忘れない。

 

まるで悪魔を見るような目で此方を見ていたロイマンを従わせることには成功したので、ギルドはガネーシャ・ファミリアと連携してソーマ・ファミリアの面々が行ってきた様々な犯罪について、調査をすることになるだろう。

 

評判の悪いソーマ・ファミリアなら叩けば幾らでも埃が出てくる筈だ。

 

それから数日後、老夫婦の花屋に派遣されていたガネーシャ・ファミリアの団員が居ない隙を狙って、花屋を破壊しようとしたソーマ・ファミリアの団員達を俺が全員捕らえ、ガネーシャ・ファミリアに引き渡す。

 

ついでにソーマ・ファミリアの団員達には俺が「創薬師」のスキルで作成した自白剤を飲んでもらって、何をしようとしたのか、今まで何をしてきたのかを全て正直に神ガネーシャの前で話してもらった。

 

ソーマ・ファミリアの団員達から聞かされた様々な悪行に強い怒りを抱いていた神ガネーシャ。

 

犯罪者の巣窟となりかけているソーマ・ファミリアを、このままにしてはいけないと憤るガネーシャ・ファミリアの団員達。

 

そんなガネーシャ・ファミリアにギルドから協力の要請が届き、ソーマ・ファミリアの内部監査をギルドと共同で行うことになるガネーシャ・ファミリア。

 

内部監査当日、ギルドと連携したガネーシャ・ファミリアは、杜撰なファミリア運営をしている神ソーマに怒り心頭の神ガネーシャを先頭にソーマ・ファミリアへと突撃していったらしい。

 

俺が様々なつてを使って調べたソーマ・ファミリアの悪行についての詳細な情報を、ギルドとガネーシャ・ファミリアには提供していたので、ソーマ・ファミリアの犯罪者は全員捕縛されることになったようである。

 

捕縛された犯罪者の中には、ソーマ・ファミリア団長のザニスの姿もあったようで、酒作り以外のファミリア運営をザニスに丸投げしていた神ソーマは、罰則としてソーマ・ファミリアの状態が改善されるまで神酒作りを禁止された。

 

生き甲斐である酒作りという趣味を禁じられた神ソーマは、今度はしっかりと自分でファミリアを運営しなければ、酒作りを再開することができないみたいだ。

 

そして、犯罪者以外でソーマ・ファミリアを脱退したいものが居れば、無条件で脱退させるようにともギルドから通達された神ソーマは、それを受け入れた。

 

リリルカ・アーデは、ソーマ・ファミリアを完全に脱退したようで、これでソーマ・ファミリアに縛られることはない。

 

ソーマ・ファミリア自体がリリルカ・アーデにちょっかいをかけられるような状態ではないので、彼女が狙われることは、もうないだろう。

 

今日もリリルカ・アーデは、老夫婦の花屋で働いている。

 

笑顔で楽しそうに日々を過ごしているリリルカ・アーデは、とても幸せそうだった。

 

彼女のあの笑顔を守れたのなら、俺のしたことは無駄ではなかったと思えるな。



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第36話、特殊火遁術

思いついたので更新します


久しぶりにステイタスを更新してもらう為に神ミアハの自室まで向かった俺は、上半身の服を脱いで神ミアハに背中を見せる。

 

針を指に刺し、自身の指から少量の神血を出した神ミアハが、神血を俺の背中に垂らした。

 

神ミアハは神血を媒介に俺の背中に刻まれた神聖文字を塗り替えて付け足していき、成し遂げたことの質と量の値である経験値をステイタスに反映させていく。

 

ステイタスの更新が終わり、俺の背中の神聖文字を確認していた神ミアハ。

 

俺のステイタスの確認が終わったところで、神ミアハが魔道具のペンと白紙の紙を取り出して俺のステイタスを紙に書き写す。

 

滑らかに紙の上で動いていたペンは俺が以前作った魔道具であり、ボールペンのようにスラスラと書ける扱いやすいペンだ。

 

自分用とナァーザ用に神ミアハ用の3本しかない魔道具のペンは、特に量産は考えていない。

 

更新されたステイタスを紙に書き写して渡してくれた神ミアハに感謝して、俺は紙に書かれたステイタスを見た。

 

Lv6

 力:I0→E428

耐久:I0→F346

器用:I0→C652

敏捷:I0→D514

魔力:I0→C697

 

 幸運:A

耐異常:B

 神秘:A

 精癒:D→C

 格闘:I→G

 

《魔法》

 

【リトルフィート】速攻縮小魔法

 

【スティール】速攻窃盗魔法

 

【ムードメーカー】詠唱変化魔法

 

詠唱前半

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

詠唱後半

 

「箒星よ、歩みを速めよ」思考加速

 

「道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」運命改変

 

「恒温の星よ、その熱を燃やせ」不測操作

 

「流れる星よ、空を開け」空間操作

 

「眩い星よ、重なりあえ」多重結界

 

《スキル》

 

【龍の手】

・あらゆるものを倍加する

 

【創薬師】

・薬品作成時、発展アビリティ創薬と薬師の一時発現

・作成した薬品の品質向上

 

【竜鱗鎧化】

・体表に魔素を吸収して自己修復する装甲を形成する

・耐久に応じて強度上昇

 

【断ち切る力】

・周囲の空間を断ち切る

・攻撃には使用できない

 

【竜撃会心】

・弱点となる部位に攻撃が当たった時、特大ダメージを与える

 

【射手の嗜み】

・遠距離武器装備時、発展アビリティ狙撃と千里眼の一時発現

・遠距離武器の攻撃力増大

 

【戦場の支配者】

・反応速度上昇

 

【特殊火遁術】

・触れた対象を内側から熱する

・発動中と発動後、一定時間熱無効

 

どうやら俺には新しいスキルが発現していたようだ。

 

「特殊火遁術」と書いて「カトン・ジツ」と読むスキルであるようで、ジュツじゃなくてジツなのはニンジャスレイヤーみたいだなと思わなくもない。

 

触れた対象を内側から熱する「特殊火遁術」だが、熱する温度は自在に選べるので、金属製のヤカンに水を入れてから触れて「特殊火遁術」を使えば、直ぐに水をお湯に変えることができた。

 

火を使わなくても直ぐにお湯を沸かせるのは、とても便利だ。

 

生活に役立つだけではなく攻撃にも使用可能な「特殊火遁術」は、触れた対象を内側から凄まじい高温で熱する攻撃用スキルとしても使えるだろう。

 

「特殊火遁術」のスキルを用いれば通常の鉄ならいとも容易く、そしてダンジョン産の金属であろうと内側から熱して溶かすことも不可能ではない。

 

そこまでの高温で熱することが可能でありながら、スキル発動中と発動後まで一定時間の間は熱を無効にすることもできるので、充分気をつければ熱で火傷をすることはないだろう。

 

とりあえず「特殊火遁術」を使いこなす為にダンジョンに潜った俺は、ダンジョンのモンスターを相手に「特殊火遁術」を発動した。

 

まるで体内からマグマが湧き出たかのように、内側からの熱で発火したモンスター達は直ぐに動かなくなる。

 

凄まじい熱で魔石やドロップアイテムも駄目にしてしまうので、モンスターを倒すことだけしかできないが、この「特殊火遁術」は武器が無くても使えるスキルであることは確かだ。

 

しかし「特殊火遁術」を発動する為には相手に触れる必要があるので、攻撃を避けながら相手に接近して手で触れる為の立ち回りを新たに学ばなければいけない。

 

上層、中層、下層のモンスターが相手なら簡単に触れることができるが、深層の強化種や黒い異常個体が相手なら、そう簡単には触れられないかもしれないからだ。

 

それでも深層で幾度も幾度も戦いを繰り返していくと、深層の様々なモンスターであろうと触れて熱することが可能になる。

 

「特殊火遁術」を使い慣れてきたところで、深層のコロシアムに向かうと様々な強化種が襲いかかってきたが、問題なく熱して倒す。

 

数十体以上のモンスターを倒したところで、デュアルポーションとエナジーポーションを飲んでいると、黒いルー・ガルーが現れた。

 

漆黒のルー・ガルーが持っている石刃も、まるで黒曜石のように黒く鋭い。

 

黒い石刃を構えた漆黒のルー・ガルーが姿勢を低くした状態で、疾走。

 

人型で狼頭の黒い獣が、獣の動きで急速に接近してこようと、俺は微動だにすることなく待つ。

 

逆手で下方からそれなりの速度で斬り上げられた黒い石刃を避けて、逆に此方から間合いを詰めると黒いルー・ガルーの腹部に触れた。

 

「特殊火遁術」をいつでも使うことはできるが、通常の個体よりも強力な黒いモンスターが相手であるなら、素手で行う戦いの良い鍛練になりそうなので、これから合計で後9回触れるまでは「特殊火遁術」を使うつもりはない。

 

一旦此方から離れた漆黒のルー・ガルーは、雄叫びを上げながら再び襲いかかってくる。

 

黒い石刃を真正面から振り下ろすルー・ガルーの攻撃を半身になって回避して、力強く踏み込むと今度は漆黒のルー・ガルーの胸部に触れた。

 

これで後は、8回。

 

横薙ぎに黒い石刃を振り払う漆黒のルー・ガルーの連撃を、後方に跳躍して避けていく。

 

黒い石刃で突きを放ってきた漆黒のルー・ガルーの一撃を、高く跳躍してルー・ガルー自体を飛び越えて回避すると同時に身体を反転させて、ルー・ガルーの頭部に触れておいた。

 

後は、7回。

 

漆黒のルー・ガルーが此方の首を斬り落とそうと横に振るった黒い石刃を瞬時にしゃがんで避けると、俺の頭上を通過していった石刃。

 

そのまましゃがんだ状態から飛び上がるように跳躍して、漆黒のルー・ガルーに接近すると再び腹部に触れる。

 

これで次は、6回。

 

両手で握った黒い石刃を十字を描くように振るう漆黒のルー・ガルーの斬撃。

 

黒い石刃が縦に振るわれた時は横に移動して回避して、石刃が横に振るわれた時は下から潜り抜けて避けて近付いていく。

 

描かれた斬撃の十字に触れることなく漆黒のルー・ガルーに近付いた俺は、今度はルー・ガルーの脇腹に触れてみた。

 

今回で合計5回は触れたので後は同じく、5回。

 

前方を連続で斬り裂くように素早く回転しながら黒い石刃を繰り返し振るう漆黒のルー・ガルーだったが、後方に跳んで回避した此方に当たることはなく、空だけを斬る石刃。

 

俺が跳んで避けたことで距離が離れたことを確認した漆黒のルー・ガルーは、此方に飛びかかりながら大胆に黒い石刃を振り下ろしてきた。

 

漆黒のルー・ガルーが振り下ろした黒い石刃は囮であり、本命は空いている片手による爪撃であることは間違いない。

 

此方が黒い石刃を回避したところで爪撃を繰り出す漆黒のルー・ガルーの腕。

 

近付いてくる漆黒のルー・ガルーの腕を素早く蹴り上げて、爪撃を防いだ後、ルー・ガルーと距離を詰めると手早く胸部に触れた。

 

これで後少しになって残りは、4回。

 

漆黒のルー・ガルーが黒い石刃で繰り出した袈裟斬りを、素早くルー・ガルーの後方に回り込むことで回避した俺は、ルー・ガルーの背中に触れる。

 

残りは僅かで、3回。

 

手数が足りないと判断したのか、地面に落ちていたスパルトイの骨剣を手にした漆黒のルー・ガルーは、2刀流で襲いかかってきた。

 

縦横無尽に振るわれ続ける骨剣と黒い石刃は、まるで斬撃の嵐のようだ。

 

巧みな2刀流で斬撃を繰り出す漆黒のルー・ガルーは、攻め手を止めることはない。

 

繰り出されていく斬撃の数々は、徐々に鋭さを増していく。

 

振るわれる骨剣と黒い石刃を全て視認して避け続けていると、漆黒のルー・ガルーは蹴りまで繰り出してきた。

 

放たれた素早い蹴りに同じく蹴りを合わせておき、打つかりあった互いの蹴り足。

 

蹴り足が大きく弾かれたのは漆黒のルー・ガルーの方で、明らかに体勢が崩れており、大きな隙ができている。

 

この間に漆黒のルー・ガルーに接近して、此方が腹部に触れようとしたところで放たれそうになった骨剣による斬撃。

 

その斬撃が形になる前に腕を掴んで止めた俺は、空いている片手で漆黒のルー・ガルーの腹部に、今度こそ触れた。

 

後は残り少ない、2回。

 

俺に片腕を掴まれた漆黒のルー・ガルーが、もう片方の腕に握っている黒い石刃を此方に向かって振り下ろしてくる。

 

腕を離して、此方が距離を取ると接近してきた漆黒のルー・ガルーは、1歩も退くことはない。

 

此方が下がれば、それだけ前に出て距離を詰めてくる漆黒のルー・ガルーは、至近距離で骨剣と黒い石刃を振るおうとした。

 

俺は突き出すような中段蹴りを放ち、漆黒のルー・ガルーを吹き飛ばして強制的に距離を取らせる。

 

それでも前に出て近付いてきた漆黒のルー・ガルーの腕を掴むと、背負い投げて頭からダンジョンの地面に叩きつけた。

 

勢いよく頭から地面に叩きつけられたことで、地面に頭が突き刺さっていた漆黒のルー・ガルーの背中に触れておく。

 

これで残るは最後の1回。

 

ダンジョンの地面から頭を引き抜いた漆黒のルー・ガルーは、頭を左右に振るうと、此方を睨み付けてきた。

 

そして一際大きな雄叫びを上げると此方に突撃してきて、骨剣と黒い石刃を同時に振るい、斜め十字を描くように刃を動かす。

 

刃で描かれた斜め十字を瞬時に後方に下がることで回避していると、漆黒のルー・ガルーは次の斬撃を放とうとしていた。

 

斬撃に勢いが乗る前に此方から接近して、漆黒のルー・ガルーの両腕を掴んで止めると、下から掬い上げるような蹴りを繰り出し、ルー・ガルーの下顎を蹴り上げて強引に上を向かせてやる。

 

上を向いた漆黒のルー・ガルーが此方を見るよりも速く動いた俺の手が、ルー・ガルーの胸部に触れていた。

 

これで最後の1回も終わったので、漆黒のルー・ガルーには、もう用はない。

 

胸部に触れた状態で発動した「特殊火遁術」は漆黒のルー・ガルーを内部から熱し、瞬時に高温にまで到達した熱は、ルー・ガルーを内部から焼き尽くす。

 

熱で完全に胸部にある魔石も破壊された漆黒のルー・ガルーが消滅し、残したものは黒い黒曜石のような石刃だけだった。

 

黒い石刃は天然武器であるようだったが、強度は並みの武器よりも高そうだ。

 

この黒い石刃は持ち帰って椿に見てもらうとしよう。

 

という訳で、リトルフィートで小さくした黒い石刃を鞄に入れてダンジョンから持ち帰り、椿の工房まで向かうことにした。

 

到着した椿の工房では、ちょうど椿が鍛冶仕事をしている真っ最中であり、どうやら武器の試作をしているらしい。

 

そんな椿に話しかけてみると、此方に気付いた椿が笑う。

 

「おおっ、ゲドではないか、元気にしておったか」

 

「椿は、今日も元気そうだな」

 

「うむ、手前は今日も元気だぞ」

 

「実は椿に見てもらいたい物があってな」

 

「ほほう、手前に見てもらいたい物とな」

 

「これなんだが」

 

鞄から取り出して元の大きさに戻した黒い石刃を椿に見せてみると物凄い勢いで近付いてきた椿。

 

「これは、天然武器のようだが、強度は並みの武器以上であるな」

 

黒い石刃に軽く触れただけで強度まで理解していた椿は、流石はヘファイストス・ファミリアの団長だと言えるだろう。

 

「いつも椿には世話になってるから、この黒い石刃は椿へのプレゼントってことにしとくよ。好きに使ってくれ」

 

「良いのか、それはとても嬉しいぞ。これはもう感謝の抱擁をするしかないのう」

 

「喜んでくれて此方も嬉しいが、抱擁は照れるから止めてくれないか。椿は美人だから、しばらくドキドキが止まらなくなりそうだ」

 

「ほほう、それはそれは良いこと聞いた。これはなんとしてもお主に抱擁をしなければならぬな」

 

両腕を広げて、じりじりと此方へにじりよってくる椿は、楽しげに笑っている。

 

「どうしてそうなった!」

 

「そう照れるな、天井のシミを数えている間に終わるから安心するがよい」

 

にっこりと笑いながらそう言ってきた椿は、どうやら強引にでも俺を抱擁するつもりみたいだ。

 

「欠片も安心出来ないが!」

 

その後、飛びかかってきた椿から何とか逃げ切った俺は、しばらく椿の工房に向かうのは止めておこうと判断して、工房に近付くことを止めておいた。

 

次に椿に会ったら、出会い頭に抱き締められそうな予感がしたからだな。

 

きっとこの予感は、間違ってはいないだろう。




特殊カトン・ジツ
出典、ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン、敵のニンジャのプロミネンス
触れたものを内部から強烈に熱して致命傷を与える特殊なカトン・ジツ
その使い手であるプロミネンスは発熱機構を指先にサイバネ移植したソウカイ・ニンジャ
敵の身体を内側から熱で破壊する残虐なジツの持ち主
ニンジャスレイヤーでは、ジュツではなくジツと表記されている


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第37話、クリエイトアース

思いついたので更新します


プランターで薬草を育ててみようと考えた時、こんな魔道具があれば便利かと思って試しに作成してみた魔道具がある。

 

それは栄養が豊富で植物が育ちやすい土を生成する魔法が使えるようになる魔道具であり、その魔道具の名前はアースメイカーと名付けた。

 

アースメイカーの形状は消火器に似ていて、管の付いた筒という形をしているが全体的に色は黒い。

 

誰にでも持てるようにアースメイカーの重さは軽くしてあるから、神の恩恵を受けていない女性でも普通に持てるし、子どもや地上に降りてきた神でも持てる筈だ。

 

このアースメイカーに設定された魔法の名前である「クリエイトアース」を唱えると「クリエイトアース」の魔法によって生成されたサラサラな土が管から勢いよく出てくる。

 

土が出る量は「クリエイトアース」を1回唱えただけで、1つのプランターが満杯になる程度なので、出てきた土に身体が埋もれるようなことはない。

 

実際に「クリエイトアース」で生成された土を入れた4つのプランターで薬草を育ててみることにして、プランターの土に薬草の種を蒔いていると、ミアハ・ファミリアにポーションを買いに来ていた女神デメテルが此方に近付いてきた。

 

「何を育てようと思っているのかしら?」

 

笑顔で聞いてきた女神デメテルは、農業を営む生産系ファミリアであるデメテル・ファミリアの主神だからこそ、何らかの植物を育てようとしている此方に興味を持ったのだろう。

 

「これは薬草の種ですよ、薬草の種類としてはポーションや薬の原料になるものです」

 

特に隠すようなことでもないので女神デメテルには正直に、育てようとしている植物が薬草であると教えておいた。

 

「とても良い土だから、よく育ちそうね」

 

一目見て、プランターの土が良い土だと気付いた女神デメテルは、土の良し悪しを見抜くことも出来るみたいだ。

 

「そうですね、よく育つと思いますよ」

 

「育つのが楽しみね」

 

女神デメテルとそんな会話をした数日後、4つのプランターの薬草は完全に成長して生い茂っている。

 

たった数日で薬草が立派に育っていたことには驚いたが、試しに1つのプランターから収穫した薬草は品質にも問題はなく、ポーションや薬の原料としても充分に使えたので、成長が早いことによる害がないのは確かだった。

 

栄養が豊富で植物が育ちやすい土を生成する「クリエイトアース」の魔法を使うことができるようになるアースメイカーは、作物を育てることにも使えそうだと思ったが、流石にミアハ・ファミリアのホームの近くに田畑はない。

 

「クリエイトアース」で生成された土で作物も急成長するのか確かめてみたいところであるが、勝手に他人の田畑に侵入して土を蒔いていく訳にもいかないだろう。

 

どうしようかと考えながら残り3つのプランターから薬草を収穫しようとしていると、通りすがった女神デメテルが此方に詰め寄ってきた。

 

「数日前から育て始めたばかりなのに、そのプランターで育てた薬草は、育つのが異常に早いと思うのだけれど」

 

種を蒔いて育ててから数日で、収穫できるまで成長したプランターの薬草の成長速度が異常だと気付いている女神デメテルは、理由を知りたいようだ。

 

「隠すようなことでもないので教えますが、栄養が豊富で植物が育ちやすい土を生成する魔法が使えるようになる魔道具を俺が作って、実際にその魔道具を使って生成した土で育てたからですね」

 

「その魔道具は、お幾らなのかしら?」

 

俺が作ったアースメイカーの値段を聞いてきた女神デメテルが、アースメイカーを欲しいと思っているのは間違いない。

 

「アースメイカーは売るために作った魔道具ではないので、土を生成する魔法が使えるようになるアースメイカーの値段は決めていませんが、実験に協力してくれるならアースメイカーを1つお譲りしますよ女神デメテル」

 

「実験とは何をすれば良いの」

 

「デメテル・ファミリアで空いている田畑に、アースメイカーで生成した土を使って作物を育ててみてください。薬草以外の植物も急成長するか知りたいので」

 

「そんなことで良いなら、空いている田畑もあるから大丈夫よ」

 

「それじゃあ、ちょっと待っていてくださいね」

 

女神デメテルに、少し待っていてもらって、俺の部屋に置いていたアースメイカーを1つ持ってきて女神デメテルに手渡す。

 

「思っていたよりも軽いけれどこれが、アースメイカーね。どうやって使えば良いのかしら」

 

俺から受け取ったアースメイカーを斜めに傾けたりして様々な角度から構造を確認している女神デメテルは、興味津々といった様子だった。

 

「アースメイカーを持った状態で設定された魔法の名前である「クリエイトアース」を唱えると管から魔法で生成されたサラサラな土が勢いよく出ます。1回唱えて出る土の量は1つのプランターが満杯になる程度ですね」

 

「なるほど、そうやって使えば良いのね」

 

「アースメイカーの「クリエイトアース」で生成された土で田畑の作物が、どう育ったかの実験結果は忘れずに教えてくださいね」

 

「わかってるわ」

 

「それじゃあ、実験結果を楽しみにしています」

 

女神デメテルにアースメイカーを1つ譲ってから数日後、満面の笑みを浮かべた女神デメテルがミアハ・ファミリアのホームにまで現れる。

 

どうやら女神デメテルはアースメイカーの「クリエイトアース」によって生成された土を畑に使って、作物を育ててみた実験結果を報告に来たらしい。

 

女神デメテルが空いていた畑で育ててみようと思ったのは、じゃがいもだったようだ。

 

さっそくアースメイカーを使って「クリエイトアース」で生成された土で畑を埋めつくし、デメテル・ファミリアの眷族達とじゃがいもの種いもを埋めていった女神デメテル。

 

水やりも欠かさず行い、数日間しっかりと世話をしていると、じゃがいもは凄まじい速度で成長し、たった数日で畑には立派なじゃがいもが埋まっていたらしく、女神デメテルは現物として大きなじゃがいもを持ってきていた。

 

見るからに立派で大きいじゃがいもを食べてみようということになり、女神デメテルがじゃがいもでフライドポテトを作ったが、じゃがいもの味は美味しくて何も問題はないし、中身がスカスカということもない。

 

実験として実際に畑でアースメイカーの「クリエイトアース」で生成した土を使ってみた結果は、立派で美味しいじゃがいもが数日で収穫できたという結果となるだろう。

 

女神デメテルは、これからもアースメイカーを使っていくつもりのようだ。

 

ちなみに「クリエイトアース」を1回唱えただけではプランターが満杯になる程度の土しか出ないアースメイカーで、1つの畑を満たすのは大変だったらしい。

 

元はプランターで使う土を生成する為に作った魔道具だったので、これからもアースメイカーを畑で使うのなら改良する必要があるだろう。

 

女神デメテルに実験へ協力してもらったお礼として、それぐらいはしても良さそうだな。

 

という訳で、オラリオ郊外にあるデメテル・ファミリアの田畑にまで向かい、作成した改良型のアースメイカーを提供してみた。

 

「クリエイトアース」を唱えると管から生成された土が出るのは一緒だが、出る土の量が数倍違う改良型アースメイカーなら、畑を土で満たすのも楽になる筈だ。

 

改良型アースメイカーでも限界が来れば壊れることもあるので、最低でも月に1回はデメテル・ファミリアの田畑に行って、改良型アースメイカーの状態を確認する必要がある。

 

その時は予定を空けておかなければいけないが、事前に田畑に向かう日を決めておけば問題はない。

 

とりあえず来月田畑に向かう日は決めておいたから、他に予定を入れないようにしておこう。

 

オラリオ郊外にあるデメテル・ファミリアの田畑からミアハ・ファミリアのホームに戻ってきた俺は、自室でベッドに横になって昼寝をしようとしていた。

 

重くなった瞼を閉じようとしたところで、俺の部屋の扉がノックされる。

 

俺の眠りを妨げるのは誰だと思って扉を開けると、そこにはアミッドの姿があった。

 

「師匠、不眠を解消する薬の作成方法を知りませんか」

 

寝ようとしていた俺に、不眠を解消する薬の作成方法を聞いてくるアミッドには、特に悪気は無さそうだ。

 

「じゃあ、とりあえず先に俺が作ってから作り方を教えるよ」

 

さっさと教えて今日は早めに帰ってもらおうと思った俺は、不眠を解消する薬を「創薬師」のスキルを用いて作成し、アミッドにも作り方を教えていく。

 

完成した不眠を解消する薬は、睡眠薬のような物になるが、大量に飲んでも命の危険はない。

 

それでも用法用量をしっかりと守るように伝えておき、俺が作った不眠を解消する薬もアミッドに渡しておいた。

 

「ありがとうございます師匠」

 

感謝をして薬を受け取ったアミッドだが、直ぐに帰る気配はなく、まだ何か俺に教えてほしいことがあるようだ。

 

「それで、次は何を知りたいんだ」

 

「以前師匠が作って持ってきてくれていたビスケットの作り方が知りたいです。どうしてもあの味が忘れられないんですよ」

 

どうやらアミッドは、以前パーティを組んでダンジョンに向かった時に、俺が提供したビスケットの味が今でも忘れられなかったようである。

 

俺が提供したビスケットを1番食べていたアミッドが、あのビスケットをとても気に入っていたのは確かだ。

 

俺に作ってくれと言わないで、作り方を教えてくれと言ってきたのは、自分で好きな時に作って食べたいからかもしれない。

 

まあ、俺が作る訳じゃないならアミッドに1000万ヴァリスを請求する必要はないだろう。

 

「菓子作りだけじゃないが、どんな料理も目分量は止めておけよ。作る度に毎回味が変わって安定しないからな」

 

アミッドにビスケットの作り方を丁寧に教えていき、目分量で適当に計量すると作る度に味が変わってしまうこともしっかりと理解してもらった。

 

材料をきっちりと計量して、毎回同じ量で作るように教えておくと納得して頷いていたアミッド。

 

正確に計量した材料を混ぜ合わせて、時間通りに焼きあげたビスケットは、アミッドが望んでいた味に仕上がっていたみたいだ。

 

「できましたよ師匠」

 

焼きあがったビスケットを差し出してきたアミッドの前で、ビスケットをかじる。

 

かじったビスケットは焼き加減も味も、特に問題はない。

 

「うん、よくできてる。これなら大丈夫だ」

 

「師匠のおかげです。ありがとうございました」

 

嬉しそうに笑っていたアミッドは、とても満足気だったな。

 

「このビスケットに関しては、教えることはもうないな」

 

「このということは、もしかして他にもあるんですか師匠」

 

「あるにはあるが、それはまた今度にしよう」

 

「それじゃあ、今度また来ますね。その時は、他のものも教えてください。約束ですよ師匠」

 

「ああ、約束するよ」

 

アミッドとそんな約束をしてから一緒に後片づけをして、キッチンを掃除する。

 

キッチンの掃除が終わったところで、アミッドは帰っていった。

 

それから自室に戻った俺は、ようやく寝られると思ってベッドに横になり、再び重くなった瞼を閉じていく。

 

瞼を閉じて数十秒、後少しで寝に入れそうだ。

 

寝る前の俺が最後に考えたことは、そういえば今生で初めて女性が作ったお菓子を食べたな、ということだった。




クリエイトアース
出典、この素晴らしい世界に祝福を、主人公のカズマ
カズマが取得した初級魔法
クリエイトアースはサラサラした土を生成する初級魔法であり、この土で育てた作物はよく育つ
カズマはクリエイトアースにウインドブレスという手のひらから風を巻き起こす初級魔法を組み合わせ、土を飛ばして目つぶしに使用したりする


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第38話、ポーション研究

思いついたので更新します


アースメイカーで生成できる魔法の土を使うことで、ポーションの原料となる薬草を急速に成長させることが可能になった。

 

プランターに埋めた種から数日で立派に生い茂る薬草になる姿を見ていたナァーザは驚きながらも喜んでいたな。

 

「もっと薬草育てるプランターを増やしてくれないかな」

 

そうナァーザに頼まれたので薬草を育てるプランターを増やしてみると、ミアハ・ファミリアのホームの店舗で売り出すポーションを作る為に大量に薬草を使用しても、それなりに薬草が余る。

 

余った薬草をどうしようかと考えて、思いついたのはポーションの研究に使ってみることだった。

 

液体であることが当然のポーションを固体に変えてみても回復効果は残るかを実際に確かめてみる為に、まずはポーションを凍らせててみる。

 

ポーションを凍らせる為に使ったのは、液体を凍結させることが可能な魔道具であるが、新しく作ったこの魔道具は他にも使い道がありそうだ。

 

液体を凍らせる魔道具の使い道を考えるのは今度にして、今はポーションの研究を優先するとしよう。

 

凍結されて氷になっているポーションに回復効果があるか確認する為に、氷になっているポーションを食べてみる。

 

凍っているポーションを噛み砕いて飲み込んでみると、液体のポーションよりも回復効果が発揮されるまで少し時間が必要になったが回復効果自体は、凍結されたポーションにもしっかりと残っていたらしい。

 

凍っていてもポーションには回復効果が残ると確かめることができた。

 

次はポーションを氷とは別の固体に変えてみるとするか。

 

液体を凍結させる魔道具とは別の魔道具を使い、ポーションを固めて固体にしていく。

 

まるで寒天で固められたかのように、固体へと姿を変えたポーション。

 

以前この魔道具で水を固めて食べてみたが、身体に害は無かったので食べても問題はない。

 

液体を寒天で固めたような固体に変える魔道具を使えば、寒天が無くても羊羮を作れるかもしれないが、それはまた別の機会に試すとしよう。

 

固体となったポーションを食べてみると、舌触りは羊羮のようだったが味はポーションのままであり、とても不思議な感じがした。

 

羊羮のような固体になっていたポーションは、胃で消化されるまで回復効果が発揮されることはなく、直ぐに回復効果が必要な時には適していないようだ。

 

それでも回復効果自体は失われていないので、ポーションとして全く使えない訳ではない。

 

次はポーションで飴を作ってみることにして、作成した飴。

 

ポーションを使った飴を実際に口の中に入れて舐めてみると、微量の回復効果が発揮される。

 

飴になったポーションは、舐める度に少しずつ回復していくというものになっていたが、舐めるだけでは回復効果が微量過ぎて使い物にならなかった。

 

ポーション飴を噛み砕いて飲み込むと、少しはましな回復効果が発揮されたが、それでも少量の回復効果だったのは間違いない。

 

飴にしたポーションは、あまり使い物にならないと思っておいた方がいいだろう。

 

ポーションを完全な固体にする研究は、この程度にしておいて、次はポーションをまた別の形状に変えてみる。

 

身体にかけても効果があるポーションなら、塗っても効果があるのではないかと思い、ジェル状の塗り薬にしたポーションを作成してみた。

 

効果があるか確かめる為の実験台になるのは俺自身であり、消毒した短剣である「黒頭」で腕に軽く傷をつけてから、ジェル状の塗り薬のポーションを傷口に塗り込んでいくと、痛みが和らぎ腕の傷は跡形も無く消えていく。

 

ジェル状にした塗り薬のポーションにも回復効果は確かに残っているようで、傷を癒すことは充分に可能であるらしい。

 

それからはポーションを様々な形に変えて、回復効果が残るか確かめる実験を繰り返す。

 

2日間で、ポーションの形を変える実験は、大体終わったので、次はポーションを濃縮して更に回復効果を高めることができるかを確かめる研究を始めてみた。

 

ポーションの濃縮は順調に進んだが、問題となるのはポーションの味になる。

 

濃縮し過ぎると濃すぎて飲めないということになるようで、まともな味覚を持つものには飲めない味となっている濃縮し過ぎたポーション。

 

身体にかける用にすれば問題はないのかもしれないが、ポーションは飲んだ方が効果があるのは確かだ。

 

飲める程度に濃縮を調整していけば、濃縮したポーションも飲むことができるだろう。

 

試行錯誤を繰り返し、なんとか完成した濃縮ポーションは、並みのハイポーションを越える回復効果を持つ。

 

通常のポーションに使うよりも材料を多く使うが、ポーション用の材料だけを使ってハイポーションよりも上の回復効果がある濃縮ポーション。

 

その濃縮ポーションの味は、濃いめのスポーツドリンクといったところだ。

 

なんとか飲める味にはなったので、これで問題なく濃縮ポーションを飲んで使うことができる。

 

ポーションの研究に合計で1週間使ってしまったが、研究の合間にもミアハ・ファミリアのホームの店舗で接客をしたり、フレイヤ・ファミリアのホームで料理を作ったりもしていたので、とても忙しかった。

 

それでも実用的な濃縮ポーションが完成したので、無駄な時間では無かった筈だ。

 

飲めそうにない濃縮し過ぎたポーションでも霧吹きに入れて、傷口に霧状にしたポーションを吹き付けるように使えば、問題なく役立つだろう。

 

大きめの霧吹きに濃縮し過ぎたポーションを大量に入れて、他の各種ポーションと一緒にリトルフィートで小さくすると鞄にしまっておく。

 

「ペルーダコート」を着用し、首に「ペルーダマフラー」を巻き付けて、腰にベルトを装着すると最初に「黒頭」をベルトに装備。

 

次に「骨喰」の鞘をベルトに固定して、瞬時に「骨喰」を鞘から引き抜きやすいかを確認し、最後に持っていく武器を選ぶ。

 

少し考えた後、今回は大剣の「白断」を3つ目の武器として持っていくことに決めた。

 

「白断」にした理由は、最近「白断」を振るっていないと思ったからだ。

 

身体が鈍らないように定期的にダンジョンには行っているが、最近は他の武器を使ったり、素手で戦っていることが多かったので、大剣である「白断」を使う機会が少なかったのは間違いない。

 

今日は久し振りにダンジョンで「白断」を存分に振るうとしよう。

 

大きめな鞄と「白断」を背負ってダンジョンに向かうと、立ち止まることなく「白断」を振るって魔石ごとモンスターを両断して進んでいった。

 

上層、中層、下層を一気に駆け抜けていき、到着した深層。

 

深層のモンスター達を「白断」の1振りで斬り裂いて倒し、魔石を「黒頭」で抜き取って更に階層を下へと降りていく。

 

エナジーポーションで疲労を回復しながら移動し、休憩を挟むことなく進んで辿り着いた49階層。

 

現れた大量のフォモールを全て残さず斬り伏せた俺が、フォモール達の魔石を回収しているとダンジョンから生まれた階層主。

 

49階層の階層主であるバロールは単眼の巨人であり、伝え聞いた話によると、その1つしかない目から光線を発射することが可能であるらしい。

 

どうやらそれは事実だったようで、バロールは単眼から此方に光線を放ってきた。

 

その速度はかなりのものだが、Lv6の今の俺なら回避することは不可能ではない。

 

放たれた光線を避けながらバロールへと接近していくと、バロールは素早く俺に腕を振り下ろす。

 

巨体の割りには素早いバロールが振り下ろす腕に、俺は拳を叩き込んで弾き返した。

 

まるで硬質な金属のような感触だったバロールの腕。

 

試しにバロールの腕に拳で触れてみてわかったことは、身体の強度が並みのモンスターとは比べ物にならないほど高いということだ。

 

流石は深層の階層主だが、俺の「白断」で斬れないほどの強度じゃない。

 

連続で放たれたバロールの光線を回避して近付き、一文字を描くように横に振るった「白断」でバロールの右足を足首から斬り落としていく。

 

次は瞬時に逆一文字を描くように「白断」を振るい、今度はバロールの左足首を斬り落とした。

 

すると両足首を斬り落とされたことで体勢を崩したバロールがダンジョンの地面に倒れ込んだ。

 

倒れて直ぐに立ち上がることはできないバロールの首が、ちょうど斬りやすい位置にある。

 

容赦なく振り下ろした「白断」でバロールの首を斬り落として倒すと、手早くバロールから魔石を抉りだして、リトルフィートで小さくしてから鞄にしまっておいた。

 

ドロップアイテムとして残っていたのは、光線を発射していたバロールの大きな単眼であり、これもリトルフィートで小さくして鞄にしまう。

 

ダンジョンの深層である49階層での戦いを終えても身体は然程疲れていない。

 

そのまま安全階層の50階層を越えて、51階層でカドモスの泉水を採取してから、空間転移が可能なムードメーカーの魔法を使い、ミアハ・ファミリアのホームにある自室へと帰還する。

 

元の大きさに戻した魔石をギルドで換金してもらってから次に向かう先は、女神ヘファイストスの元だ。

 

珍しいドロップアイテムがあったら見せると女神ヘファイストスと約束していたので、今回手に入れたドロップアイテムのバロールの単眼を約束通りに見せる為に、俺は女神ヘファイストスの元へと向かう。

 

「約束通りに珍しいドロップアイテムを持ってきましたよ。バロールのドロップアイテムです」

 

女神ヘファイストスにバロールの単眼を見せてみると、興味津々といった様子で見ていた女神ヘファイストス。

 

「確かに珍しいドロップアイテムね。これはバロールの単眼かしら」

 

俺が持つバロールの単眼を女神ヘファイストスは様々な角度から見ていた。

 

「そうですよ。光線を発射する部位ですね」

 

「どうやらかなりの強度があるようだけど、加工できない訳じゃないわね」

 

見ただけでバロールの単眼の強度が高いことを把握していたのは、流石は鍛冶神ということだろう。

 

「武器は沢山あるんで、これは防具に加工してもらおうかと思っています」

 

「バロールのドロップアイテムなんて渡されたら、椿がまた喜びそうだわ」

 

「このドロップアイテムを椿に渡しにいくのはもう少し先になると思いますよ」

 

「貴方は何か他に予定でもあるのかしら?」

 

「まあ、個人的な理由ですね。それでは約束通り、珍しいドロップアイテムは見せたので俺はこれで失礼します」

 

「また珍しいドロップアイテムがあったら見せてくれると嬉しいわ」

 

微笑んだ女神ヘファイストスに頭を下げて、その場を後にした俺はミアハ・ファミリアのホームへと戻っていった。

 

ミアハ・ファミリアのホームで神ミアハの自室に向かうと、俺は神ミアハにステイタスの更新を頼んだ。

 

Lv6

 力:E428→B743

耐久:F346→B711

器用:C652→S922

敏捷:D514→A897

魔力:C697→S965

 

 幸運:A

耐異常:B

 神秘:A

 精癒:C→B

 格闘:G→D

 

更新されたステイタスは伸びていて、発展アビリティの精癒と格闘も伸びていた。

 

特に格闘が伸びていた理由は、深層で素手の戦いをしたからかもしれない。

 

素手の戦いは「特殊火遁術」を使いこなす鍛練のつもりだったが、おかげで格闘がDまで伸びていたのは普通に嬉しいことだな。

 

これからも伸ばせるものは伸ばしていくとしよう。



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第39話、バロールガントレット

思いついたので更新します
椿がキャラ崩壊してるかもしれませんが、それでも良ければどうぞ


バロールが残したドロップアイテムであるバロールの単眼。

 

通常の生物の眼球とは違い、光線を発射するバロールの単眼は結晶のような物質となっている。

 

その強度は凄まじく高く、バロールの単眼は、オリハルコン以上の強度を持っていた。

 

しかし巨大な巨人であったバロールの単眼は、そこまで巨大なものではなかったので、防具として加工したとしても、籠手が2つ程度しか作れない。

 

そして、並みの鍛冶師では加工すらもできない強度を持つバロールの単眼を加工できる鍛冶師は、最上級の腕を持つ鍛冶師だけだろう。

 

俺の専属鍛冶師である椿なら、バロールの単眼を加工することが可能な筈だ。

 

ヘファイストス・ファミリア団長でもある椿の腕なら間違いはないだろうし、信頼もしている。

 

問題があるとすれば、椿の工房に向かった際の出会い頭に、椿に抱き締められそうになるであろう俺の心構えだろうか。

 

下は服を着ていても、上半身がサラシだけしか身につけていない褐色美人な女性の抱擁とか、刺激が強すぎるだろう。

 

もう少し椿には自分の魅力を理解してもらいたい。

 

それに、男は直ぐに勘違いするものなのだから、無防備な姿を女性があまり見せるものではないと言いたいところだな。

 

俺が勘違いしてそういうことをしようとしたら椿だって、きっと困ると思う。

 

そこらへんを椿にわかってもらう為には、直接会って話すしかないか。

 

バロールの単眼の加工を頼む為に、どのみち椿に会わなければいけないなら、いつまでも引き延ばしている訳にはいかない。

 

という訳で、オラリオを移動して向かった椿の工房の入り口。

 

扉を開けて工房の中を覗いてみると、俺が以前プレゼントした天然武器の黒い石刃を加工して作ったであろう黒い刀で試し斬りをしている真っ最中だった椿。

 

どうやら黒い刀は完成したばかりのようで、夢中になって刀を振るいながら試し斬りをしていた椿は此方に気付いていない。

 

いきなり抱き締められることは無さそうだと安堵したが、いつまでも椿の試し斬りを眺めていても仕方がないだろう。

 

「椿」

 

とりあえず名前を呼んでみると、此方を振り向いた椿は、眩い笑顔を見せてきた。

 

「おおっ、ゲドではないか。ちょうどお主に貰った天然武器で、手前の新しい武器が完成したところだ」

 

そう言いながら手に持っていた黒い刀を掲げて見せてくる椿。

 

見るからに鋭い刃を持つ黒い刀は間違いなく名刀だ。

 

「業物だな」

 

「うむ、お主に貰った素材が良かったのだろうな。良い刀ができたのは間違いないぞ」

 

嬉しそうに笑いながら満足気な椿は、鍛冶師として良い仕事ができたと思っているようだった。

 

俺が最初に武器を作ってもらった時と比べて間違いなく腕を上げている椿は、鍛冶師として先に進んでいる。

 

「その刀の名前は、決めてあるのか?」

 

「この刀の名は「黒曜」と決めてある」

 

椿が黒い石刃から作り上げた黒い刃を持つ刀の名は「黒曜」であるみたいだ。

 

まるで黒曜石のような黒い石刃から作られた刀には、確かに相応しい名前なのかもしれない。

 

「頼みたい仕事があるんだが、急ぎじゃないからゆっくり時間を使ってくれて構わないぞ」

 

「ほほう、手前に頼みたい仕事か。お主は、また何かしら手に入れたようだのう」

 

にやりと不敵な笑みを浮かべた椿は、完全に鍛冶師の顔になっていた。

 

そんな椿に渡す為に、リトルフィートで小さくしてから鞄に入れて持ってきていたバロールの単眼を取り出して、元の大きさに戻す。

 

「バロールのドロップアイテムであるバロールの単眼だ。これで籠手を作ってもらいたい。手以外を覆う形であれば形状は指定しないので、形は椿に任せるよ」

 

「むう、まさかバロールまで倒してしまうとは思っておらんかったぞ。だが、Lv6に至っておるお主であるなら不可能ではないか。この素材で籠手を作ればよいのだな、手前に任せておけ」

 

バロールの単眼を受け取って堂々と胸を張った椿は、加工を引き受けてくれた。

 

仕事の依頼は、これで終わりだが、俺から椿に言いたいことがあったので言っておくことにする。

 

「椿、以前椿が俺を抱き締めようとした件だが、椿は自分の女性として素晴らしい魅力というものをわかっていないからあんな行動に出たんだと思う」

 

「んんっ!?突然どうしたゲド!?」

 

此方を見ながら若干戸惑っている椿に言いたいことは沢山あった。

 

思い浮かんだことを今日は残さず椿に言っておくことにしよう。

 

「まず、椿は美人だ。綺麗な褐色の肌に美しい黒髪、容姿だって女神にも負けていない。とてもとても美しいと俺は思っている」

 

「ぬあっ!?」

 

何故か唸り声のような声を上げながら此方の言葉を聞いている椿は、褐色の肌を赤らめていた。

 

「性格だって悪くはない。快活でさっぱりした椿の性格は、見ていて気持ちがいいし、嫌いになるようなところはないだろう」

 

「ぬうっ!?」

 

やっぱり唸り声のような声を上げていた椿は、赤く染まった褐色の肌を静かに揺らして震えている。

 

「椿と一緒にいて嫌な気持ちになったことは無いし、いつも良い仕事をしてくれる椿は、頼れる大切な仲間だと思っているよ。そんな椿には、まだ言いたいことがあるから聞いてくれ」

 

「まだ続くのかっ!?」

 

全身が赤くなっている椿は普通に恥ずかしがっているみたいだが、此方は、まだ言いたいことは全て言えていない。

 

「美女と言っても間違いない椿が、下は服を着ているとしても上半身がサラシだけを巻いている状態なんて無防備な姿を見せるのは女性として自覚が足りていない。もっと自分の素晴らしい魅力を椿に自覚してもらわないと、此方は物凄く困る」

 

「むうっ!?」

 

褒められながら注意されているという状況に混乱している椿は、此方を見ながらモジモジしているようだ。

 

「基本的に男というものは馬鹿なので、思わせ振りな行動をされると好かれているんじゃないかと勘違いするから、明らかに薄着で男性を抱き締めようとするのは良くないと思うよ。もうちょっと女性として危機感を持った方がいい」

 

「手前は、お主なら大丈夫だと思ったのだが」

 

普通に心配されていることがわかった椿は、俺なら大丈夫だと思っていたらしい。

 

「椿だって、俺にいきなりこうやって抱き締められたらびっくりするだろう」

 

そう言いながら俺は椿のことを軽く抱き締めてみる。

 

俺の方が体格が良いので、椿は俺の腕の中にすっぽりと収まってしまっていた。

 

「にゅわっ!?」

 

まさか俺にいきなり抱き締められるとは思っていなかったのか、椿は凄まじく戸惑いながら驚いていたが嫌がってはいない。

 

「こうやっていきなり強引に抱き締められたら誰だってびっくりするんだから、そういうところも考えてくれると助かる」

 

腕の中に閉じ込めていた椿を解放してみると、石化でもしたかのようにしばらく固まっていた椿。

 

「それじゃ、バロールの単眼の加工は任せた」

 

無言でゆっくりと此方を見る椿に手を振って、俺は椿の工房から立ち去っていく。

 

最後に椿を抱き締めたのは、ちょっとやり過ぎだったのかもしれないが、いきなり抱き締められたら誰だってびっくりするということをこれで椿もわかった筈だ。

 

思っていたよりも椿の反応が可愛かったのは、やっぱり椿も女性ということなのだろう。

 

自分が女性ということを椿が少しは理解してくれたのなら、今回の俺の行動は無駄ではない。

 

まあ、元々誰彼構わず抱き締めるような椿ではないだろうが、これで此方を抱き締めようとするのを自重してくれるようになればいいんだがな。

 

実際どうなるかは、次に椿に会うまでわからないか。

 

椿に渡したバロールの単眼が、籠手になって防具として完成するまで、気長に待つとしよう。

 

それから数日間、ミアハ・ファミリアのホームで接客をしたり商品の配達をして、フレイヤ・ファミリアのホームで女神フレイヤやオッタルさんに料理を作ったりして日々を過ごした。

 

そしてついに、ミアハ・ファミリアのホームに現れた椿。

 

「バロールの単眼を使った籠手が完成したぞっ!」

 

いつも通りのように見える椿だが、白い籠手を此方に渡す際に、俺と椿の手が若干触れた瞬間、素早く手を引っ込めた椿は間違いなく此方を意識している。

 

まるで乙女のような反応をしていた椿は、確かに恥じらいを持っていた。

 

数日前に俺がした行動は、結構効果があったみたいだ。

 

「その籠手の名は「バロールガントレット」だ」

 

若干此方から距離を取りながら言った椿は、ちらちらと俺の顔を見て、頬を赤く染めているようである。

 

椿の反応が可愛らしいと思いながらも「バロールガントレット」を装備して腕を動かしてみたが、並みの金属製の籠手よりも軽い「バロールガントレット」は身体の動きを邪魔することはない。

 

オリハルコン以上の強度を持つバロールの単眼を加工して作られた籠手である「バロールガントレット」は、凄まじい強度を持っていながら重すぎないという素晴らしい防具だ。

 

手以外の前腕部上部を覆う、白い籠手は元がバロールの単眼だったとは思えない程に、滑らかな流線形の形をしていた。

 

椿の加工技術は、ヘファイストス・ファミリアに所属する鍛冶師の中でもトップクラスだということだろう。

 

「いつも良い作品を作ってくれてありがとう椿」

 

素直に椿に感謝の言葉を伝えておくと、胸を張った椿が言った。

 

「うむ、手前はお主の専属鍛冶師であるからな。渾身の作を毎回提供するのは当然だと思っておるぞ」

 

鍛冶師としての自信に溢れている椿が、素晴らしい腕を持つ鍛冶師であるのは間違いない。

 

「それじゃあ「バロールガントレット」の料金として5000万ヴァリスを渡しておくよ」

 

金庫から取り出した5000万ヴァリスを椿渡す際に、再び椿と俺の手が触れ合って、やっぱり素早く手を引っ込めた椿。

 

どうやらまだ椿は、乙女モードだったらしい。

 

「で、では手前は帰るぞ」

 

顔を真っ赤に染めながら5000万ヴァリスを抱えている椿がミアハ・ファミリアのホームを出ていこうとした。

 

「送っていくよ」

 

そう言って椿の隣に立った俺から少し距離を取った椿だが、嫌がってはいないようだ。

 

会話をしながら椿の工房まで送っていく道中、いつもと違う椿の姿を沢山見ることができた。

 

椿が慣れるまでは、ずっとこんな感じなのかもしれないな。

 

まあ、椿が女性としての自覚を持ってくれたのなら、それは悪いことではないと俺は思う。



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第40話、深層探索

思いついたので更新します


ミアハ・ファミリアのホームである青の薬舗で接客をしていると今日も神ディアンケヒトが現れた。

 

「今日もエナジーポーションの配達をお主の眷族に頼みにきてやったぞ、ミィーアァーハァ」

 

毎回毎回神ミアハにウザ絡みする神ディアンケヒトを嫌そうな顔で見ているナァーザは、嫌悪感を隠せていない。

 

「それでエナジーポーションは幾つ必要なんですか?」

 

「今日はエナジーポーションを50本だ。手早い配達を頼むぞ」

 

とりあえず神ディアンケヒトが配達してほしい数のエナジーポーションを聞き出した俺は、手早く50本のエナジーポーションを箱に詰めてリトルフィートで小さくする。

 

「これを何処に持っていけばいいですか?」

 

「ワシの自室まで頼むぞ」

 

「わかりました」

 

リトルフィートで小さくした箱を持って運び、神ディアンケヒトと一緒に歩いて、ディアンケヒト・ファミリアのホームにまで移動していく最中、神ディアンケヒトが話しかけてきた。

 

「最近アミッドが、やたらとビスケットを作っておってな。ビスケット自体の味は悪くないんだが、流石に食べ飽きたところだ」

 

「そうなんですか」

 

「うむ、ビスケットだけだとしても、菓子が自作できるようになってアミッドが喜んでおるのがわかるから、作るのを止めろとは言えんしな。どうすればいいんじゃろうな」

 

「それとなく別のものを作ってくれるように、頼んでみるのはどうですかね」

 

「それで、作った別のものが不味かったら最悪じゃろうが」

 

「今度アミッドに、ビスケット以外のお菓子の作り方を教える約束はしていますが、教えるのを早めた方が良いんでしょうか」

 

「早めに頼むぞ、ワシはもうビスケットは喰いたくない」

 

げんなりとした顔をしていた神ディアンケヒトは、アミッドのビスケットを嫌になるほど食べていたようだ。

 

神ディアンケヒトに頼まれたエナジーポーションの配達を終わらせて戻ってきた俺は、青の薬舗で接客を行っていく。

 

接客中に、アミッドに教えるお菓子を何にするか頭の中で考えたりもしながら、他のことも考えていた。

 

それは専属鍛冶師の椿と今後どう接していくかであったり、女神フレイヤに作る料理を何にするかであったり、最近アスフィさんと会わないが元気にしているだろうかということであったり、様々だ。

 

そんな様々な考え事の中の1つが、ステイタスを伸ばす為には、どうすればいいかということであったが、Lv6に至っている今の俺は、ダンジョンの浅い階層でモンスターと戦っても、ステイタスが上昇することはない。

 

今よりも更に上を目指すなら、向かうべきはダンジョンの深層だ。

 

今現在、俺が到達している最高階層は51階層。

 

ここから更に到達階層を伸ばすのも悪くはないが、単独行動であるなら、準備は万全にしておかなければいけない。

 

必要な物資を充分に用意して、向かうとしよう。

 

間違いなく必要になるポーション各種を「創薬師」のスキルを用いて大量に作成しておき、速攻縮小魔法のリトルフィートで小さくして鞄に入れておいた。

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

忙しい日常の中で準備を整えた俺は、ダンジョンの深層へ一気に移動する為に魔法の詠唱を開始する。

 

「流れる星よ、空を開け」

 

唱えるのは、後半の詠唱を変えることで魔法の効果までもが変化する特殊な詠唱変化魔法であり、今回使う効果は空間操作による空間転移。

 

「ムードメーカー」

 

ミアハ・ファミリアの自室から、ダンジョン深層にある安全階層の50階層にまで一瞬で、ムードメーカーの空間転移で移動。

 

そこからは上の階層である49階層へ、魔法を使わずに普通に走って移動した。

 

到着した49階層で、準備運動として相手をするのは荒れ果てた大地に50体以上が存在しているフォモールの群れ達。

 

山羊のようにねじれ曲がった2本の大角を持ち、化石のような棍棒を持ったフォモール達が此方に一気に押し寄せて来る。

 

俺は腰の鞘に納まった「骨喰」の柄を握り、漆黒の刀身を抜き放つと、近付いてきたフォモール達の首を斬り落としながら前へ前へと進んでいった。

 

一撃一殺、振るう脇差の黒刃がフォモールを斬り裂く度に、フォモールの首が飛ぶ。

 

絶え間なく振るわれていった「骨喰」の黒い刃は、鋭さを失うことない。

 

ある程度フォモールの数が減ったところで、黒刃を振るって付着していた血液を落とすと「骨喰」を鞘に納める。

 

攻撃を止めた此方に襲いかかるフォモールの1体が棍棒を力任せに真正面から振り下ろしてきた。

 

避けることが容易い速度でフォモールが振り下ろしてくる鈍器を、回避することなく前腕に装備した「バロールガントレット」で受けた理由は、ステイタスの耐久上昇と「バロールガントレット」の防御力を実戦で確認する為。

 

結果としては、フォモールが持っていた天然武器である化石のような棍棒が「バロールガントレット」に叩き込まれた瞬間、へし折れることになった。

 

宙を舞う棍棒の片割れが地に落ちるよりも速く動いた俺の腕は、鞘に納まっている「骨喰」の柄を握ると、居合抜きのように鞘から黒い刀身を抜き放つ。

 

瞬くよりも速く、フォモールの胴体を水平に斬り裂いた「骨喰」の黒刃。

 

真っ二つに斬られたフォモールの胴体が上下に分割されると、盛大に噴き出す血液。

 

返り血を浴びることなく身を翻して、残った僅かなフォモールに接近していくと左右から挟み込むように棍棒を振るってきたフォモールが2体。

 

両腕に装備している「バロールガントレット」で左右から振るわれた棍棒を受けると、やはり棍棒の方が容易くへし折れていく。

 

武器を失ったとしても戦闘意欲は失われていないフォモールが素手で力任せに攻撃してきたが、全てを「バロールガントレット」で受けきるとフォモールの腕だけが痛んでいた。

 

凄まじい強度を持つ「バロールガントレット」を素手で力任せに攻撃すれば、ダメージを受けるのは攻撃した側になるだろう。

 

「バロールガントレット」を破壊できる威力の攻撃ができるなら話は別だが、フォモールの攻撃には流石にそこまでの威力はない。

 

腕が痛んで動きが鈍くなった2体のフォモールの眉間に、黒い刀身の切っ先を素早く突き入れて捻り、2体のフォモールの脳を破壊して倒す。

 

これで現在残っているフォモールは、片手で数えられる程度の数であるようだ。

 

迫り来るフォモール達を相手に「骨喰」を握った腕を上段に構え、短く息を吐くと同時に振り下ろした黒刃で1番近くに居た1体のフォモールを頭頂部から両断。

 

綺麗に脳天から身体を半分に斬り裂かれたフォモールを押し退けて前に出てきたフォモールが2体。

 

残像すらも置き去りにする速度で半円を描くように振るった漆黒の刀身が、2体のフォモールの頭部を半ばから斬り飛ばした。

 

逃げるように此方から距離を取った残り2体のフォモールへと瞬時に接近した俺は、1体のフォモールを袈裟斬りにして、もう1体のフォモールを逆袈裟斬りにする。

 

全てのフォモールを倒し、フォモールの魔石やドロップアイテムを回収していると、ダンジョンから新たなフォモールが生まれた。

 

鮮血のように身体が赤く大きいフォモールは、通常の個体とは違う強化亜種であるのは間違いない。

 

轟くような大音量の咆哮を発した赤いフォモールが、此方に向かって突撃してくる。

 

その動きは通常のフォモールよりも数段は速い。

 

突撃の勢いをそのままに、握った拳を振るってきた赤いフォモールの打撃を、避けることなく「バロールガントレット」で受けた。

 

通常のフォモールとは比べ物にならない力も持っていた赤いフォモールだが、それでも「バロールガントレット」を破壊することはできていない。

 

赤いフォモールは、苛立っているかのように拳による打撃を連続で放つ。

 

放たれた全ての打撃を「バロールガントレット」で受けていると、赤いフォモールの拳の皮がめくれて血が滲んでいた。

 

素手では此方の「バロールガントレット」による防御を抜けないと判断したのか、後方に下がって距離を取った赤いフォモールは、落ちていた天然武器の棍棒を拾うと両手に1本ずつ持つ。

 

そして姿勢を低くして下半身に力を込めた赤いフォモールは、疾走して再び此方に突撃してくる。

 

そのまま棍棒を振るうように見せかけて1本の棍棒を投擲してきた赤いフォモールは、知能も高いらしい。

 

飛来する棍棒を「バロールガントレット」で受けて砕いた俺に、両手で握った棍棒を振り下ろしてきた赤いフォモールに対し、此方は黒い刃で迎え撃つ。

 

下から斬り上げた1振りで天然武器の棍棒を半ばから斬り飛ばし、斬り上げの体勢から淀みなく流れるように身体を動かして黒刃を水平に振るい、赤いフォモールの首を斬り落とした。

 

首を無くした赤いフォモールの身体から勢いよく噴き出る鮮血。

 

素早く距離を取って、噴き出していた血が止まるのを待つと、赤いフォモールの魔石を短剣の「黒頭」で抜き取っていく。

 

魔石とドロップアイテムを入れていた大袋に、赤いフォモールの魔石を追加で入れて、リトルフィートで小さくして鞄にしまった。

 

49階層での準備運動が終わったので、階層を降りて51階層まで移動すると、カドモスが守るカドモスの泉水を集めに向かう。

 

強竜とも呼ばれるカドモスは、力だけならウダイオスよりも強いという強力なモンスターであり、51階層では最強のモンスターだ。

 

階層主を上回る力を持つカドモスを相手にしても、俺のやることは変わらない。

 

カドモスを相手に「骨喰」を振るい、戦って倒す、ただそれだけだ。

 

振るう「骨喰」の黒い刃でカドモスを斬り裂いていき、頭部を両断して倒したところで、魔石を抜き取ってカドモスの死骸を灰に変える。

 

それでカドモスの全てが灰に変わったかと思えば、どうやらドロップアイテムであるカドモスの皮膜が残っていたようで、金色の輝きを放っていた。

 

希少なドロップアイテムのカドモスの皮膜を換金すれば莫大な資金が手に入ることは間違いない。

 

カドモスの皮膜1つで最低でも数百万ヴァリスの価値はあり、状態と質が良ければ1000万ヴァリスでも換金してもらえるだろう。

 

希少なドロップアイテムのカドモスの皮膜は、優秀な防具の素材になる一方で、回復系アイテムの原料として重宝されている。

 

商業系ファミリアにとって、希少なカドモスの皮膜は、何がなんでも手に入れたいドロップアイテムであることは確かだ。

 

カドモスの皮膜は、ギルドで換金するよりも大手の商業系ファミリアに売りにいく方が、高く買い取ってもらえるかもしれない。

 

そんなことを考えながらカドモスが守っていたカドモスの泉水を汲む為に瓶を用意していく。

 

壁にできた割れ目にある小さな岩窟から僅かな量の水が不定期に湧き出ていて、蒼いきらめきを宿す神秘的な泉水が窪みに徐々に溜まっていた。

 

瓶を使って汲んだカドモスの泉水で瓶を満たし、蓋をするとリトルフィートで小さくして鞄にしまって移動を開始。

 

50階層に戻る途中で現れた深層のモンスターを相手に「骨喰」の刃を振るって斬り裂いていくと、斬殺されたモンスターの死骸が大量に残ってしまった。

 

「黒頭」で深層のモンスター達の死骸から魔石を抉り出すと、モンスターの死骸は直ぐに灰と化す。

 

モンスターの身体の一部であるドロップアイテムも、沢山残っていたので、それらと魔石を大きな袋に詰めて再び唱えるのは速攻縮小魔法。

 

「リトルフィート」

 

魔法を唱えた瞬間に縮小していく中身がみっちり詰まった大袋。

 

ランクアップを重ねたことで強力になった速攻縮小魔法は瞬く間に大袋を、手で握れば隠せてしまう小袋へと変えた。

 

小袋を鞄にしまい、素早く移動していくと到着した50階層。

 

精神力の消費量が高い空間転移を使用して一気に50階層まで来て、ドロップアイテムや魔石を小さくする為に多用したリトルフィート。

 

それで精神力を更に消費したので少し休憩することにして、鞄から小さい瓶を1つ取り出すと、それを本来の大きさに戻す為に言葉を発する。

 

「大きさよ戻れ」

 

魔法の効果を打ち消す言葉により、リトルフィートによって縮小されていた1つの瓶が、瞬時に大きさを元に戻した。

 

まるで試験管のような1つの瓶に入っている液体は、精神力を回復するマジックポーション。

 

発展アビリティで精神力を自動回復する精癒を発現しているが、精癒では少々時間をかけなければ精神力は完全に回復しない。

 

そこまで休憩に時間を使うつもりはないので、マジックポーションを飲んだ方が早いのは確かだ。

 

他にも潤沢に用意してある各種ポーションは、まだまだ尽きることはない。

 

それでも全てのポーションを使いきる前に、ダンジョンを出るとしよう。

 

手早く蓋を開けてマジックポーションを飲むと、消費した精神力が確かに回復されていった。

 

俺が持つ「創薬師」のスキルを用いて作成したポーションは、総じて効果が高くなる。

 

通常のマジックポーション以上の精神力回復効果によって、精神力は全快。

 

これでマインドダウンで倒れるようなことはない筈だ。

 

さて、今の状態なら51階層から更に下に降りてみるのも悪くはないかもしれないな。



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第41話、イル・ワイヴァーン

思いついたので更新します


51階層から更に下に降りた52階層で、現れたモンスターを相手に戦っていると禍々しい竜の遠吠えが聞こえた。

 

それは間違いなく地面の下から聞こえていて、52階層よりも下の階層に竜が居ることを教えてくれる。

 

不意に嫌な予感がして、倒したモンスターの死骸から魔石を抜き取ることなく素早くその場から離れると、ダンジョンの地面が爆砕。

 

地面を突き破り昇る轟炎が、モンスターの死骸を蒸発させていきながら天井にまで到達し、51階層を突き破っていく。

 

此方の位置を捕捉しているのか、疾走して移動する度に先程まで居た場所が爆砕していき、地面を突き破って天井へと突き抜けていく紅蓮の大火球。

 

これこそが、58階層の砲竜ヴァルガングドラゴンによる階層無視の砲撃。

 

ギルドの情報は正しかったが実際に体験してみると、階層無視の砲撃とは、とんでもないな。

 

砲竜によって放たれる大火球の砲撃を、立ち止まることなく進むことで回避していると、地面に開いた大穴から現れる飛竜の群れ達。

 

尾まで含めれば3mはある飛竜の群れ達は、イル・ワイヴァーン。

 

紫紺のイル・ワイヴァーンの群れが飛来する度に、手に握った「骨喰」を振るい両断して先へと進んでいると、現れたのは漆黒で大きいイル・ワイヴァーンが1体。

 

明らかな異常個体のイル・ワイヴァーンを警戒して、此方が「骨喰」を構えた瞬間、旋回して飛んでいた漆黒の飛竜の姿が消えたかと思えば、身体に叩き込まれた凄まじい衝撃。

 

周囲に広がる衝撃波と全身に走る痛みは、何らかの攻撃を受けたことによるもので間違いない。

 

謎の攻撃によって「ペルーダコート」の下に身に付けていた「黒樹」が完全に砕けて破片を飛ばし、俺の身体は吹き飛ばされて地を転がる。

 

ダメージがあろうと立ち上がって、立ち止まることなく駆けていき、砲撃を回避しながら先へと進んだ俺に着いてくる漆黒のイル・ワイヴァーン。

 

攻撃をしてきた相手が漆黒のイル・ワイヴァーンだと何となく理解していた俺は、どんな攻撃なのか見極めることにした。

 

「竜鱗鎧化」を発動して、全身を竜鱗のような装甲で覆った俺には並みの攻撃は通用しない。

 

再び姿を消した漆黒のイル・ワイヴァーンを完全に見失った時、とてつもない衝撃が全身に叩き込まれる。

 

凄まじい衝撃波、吹き飛ぶ身体、砕ける「竜鱗鎧化」の装甲、身体には痛みが走っていた。

 

たとえ相手が透明になっていても気配を感じ取ることは不可能ではない。

 

ならば透明化ではない筈だ。

 

漆黒のイル・ワイヴァーンが消えた瞬間、気付けば攻撃を受けていることと発生していた衝撃波から察するに、Lv6の俺でも反応できない速度での攻撃だと予想できた。

 

あの漆黒のイル・ワイヴァーンが見えなくなるのは、まともに視認できない速度で動いていたからだろう。

 

視認できない速度で動く相手、そんな相手に適したスキルを俺は発現している。

 

漆黒のイル・ワイヴァーンと戦う為に発動するスキルは「戦場の支配者」であり、その効果は、時が止まっているかのように思える程に反応速度を上昇させるというものだ。

 

発動した「戦場の支配者」のスキル。

 

周囲の全ての時が止まったかのように感じる程に上昇した反応速度。

 

全て停止しているように見える世界の中で、通常通りに動いていた漆黒のイル・ワイヴァーンが更に加速する。

 

背から火炎を放出し、ジェット噴射の如く加速する漆黒のイル・ワイヴァーンは、まるで戦闘機のようだ。

 

此方が「戦場の支配者」を発動していても、素早く動いているように見える漆黒のイル・ワイヴァーン。

 

下層最速のイグアスを遥かに凌駕する速度で迫り来る漆黒のイル・ワイヴァーンを相手に、構えた「骨喰」を振り下ろす。

 

頭部に迫った「骨喰」の黒い刃に身を捻り、空中で身体を横にした状態で、開いた口に生え揃った牙で刃に噛みつくことで漆黒のイル・ワイヴァーンは、此方の斬撃を受け止めた。

 

そして更に背から噴射する火炎を強めた漆黒のイル・ワイヴァーンは、噛みついた「骨喰」を離すことなく螺旋回転。

 

「骨喰」を手離すことなく握っていた此方の身体も回転することになり、宙に浮く。

 

回転しながら加速した漆黒のイル・ワイヴァーンの勢いは止まることはなく、此方は押される形でダンジョンの壁面に叩きつけられることになった。

 

壁面が蜘蛛の巣状にひび割れて、凄まじい衝撃が身体に叩き込まれたが、それでも「骨喰」は離さない。

 

壁面に押し付けられながら引き摺られて、ダンジョンの壁面を背で削ることになっても「骨喰」を離すことなく握り続ける。

 

それは「骨喰」による攻撃を、漆黒のイル・ワイヴァーンに叩き込む為だった。

 

「骨喰」を握ったまま「龍の手」を発動し、身体能力と腕力に「骨喰」の強度と斬れ味を倍加。

 

漆黒のイル・ワイヴァーンの牙で挟まれて止められている「骨喰」を少しずつ押し込んでいく。

 

徐々に進んでいく「骨喰」の刀身が漆黒のイル・ワイヴァーンの口端を裂き始めたところで、漆黒のイル・ワイヴァーンが「骨喰」に噛みついたまま、牙の隙間から連続で火炎を吐いた。

 

至近距離で続けざまに放たれた轟炎が身体を焼いたが、それでも力を緩めることはない。

 

進んでいった「骨喰」の刀身が、完全に漆黒のイル・ワイヴァーンの牙を抜けた頃、黒い刃が上顎と下顎を分割していき、漆黒のイル・ワイヴァーンの下顎より上の部位が斬れていった。

 

上顎ごと斬り落とした漆黒のイル・ワイヴァーンの頭部。

 

これでようやく倒したかと思ったところで、漆黒のイル・ワイヴァーンの頭部が再生し、瞬く間に元通りになる。

 

どうやら漆黒のイル・ワイヴァーンは、自己再生能力まで持っていたらしい。

 

この漆黒のイル・ワイヴァーンを倒すには魔石を破壊する必要がありそうだ。

 

背の鞄から取り出した2つの小さな瓶を元の大きさに戻し、瓶の中身のデュアルポーションとエナジーポーションを手早く飲む。

 

消費した体力と精神力に疲労感まで回復し、旋回している漆黒のイル・ワイヴァーンを見据え、常に携帯している雲菓子飴を口内に放り込んで糖分を補給した。

 

「戦場の支配者」の連続使用には糖分の補給が必要になるが、それは酷使された脳が糖分を欲しているからだろう。

 

口内で雲菓子飴を転がしながら「戦場の支配者」を発動しておくと、ちょうど旋回を止めた漆黒のイル・ワイヴァーン。

 

加速する漆黒のイル・ワイヴァーンの突撃によって巻き起こる凄絶な衝撃波。

 

先程よりも速いそれを喰らって吹き飛ぶ身体を空中で立て直し、ダンジョンの壁面を蹴って一直線に漆黒のイル・ワイヴァーンへと接近する。

 

狙うのは、胸部の魔石。

 

此方が「骨喰」で放つ刺突の一撃を、背から火炎を噴射して加速することで回避した漆黒のイル・ワイヴァーン。

 

反応速度も並み外れている漆黒のイル・ワイヴァーンに攻撃を当てることは難しいが、当てられない訳ではない。

 

「骨喰」の黒刃による斬撃を、漆黒のイル・ワイヴァーンに叩き込んでいく。

 

傷だらけになろうとも自己再生していく漆黒のイル・ワイヴァーンは、此方の斬撃に慣れたのか徐々に回避することが増えていた。

 

ギリギリで避けられて、漆黒のイル・ワイヴァーンに当たることがなくなってきた「骨喰」の斬撃。

 

漆黒のイル・ワイヴァーンと高速戦闘を繰り広げていると、此方を完全には捕捉できていない砲竜の砲撃が、先程までいた場所に遅れて上がってくる。

 

数体のヴァルガング・ドラゴンによる砲撃があろうと、身体能力を倍加して高速で動き、反応速度も上昇させている俺には当たることはない。

 

52階層を疾走し、壁面すらも足場にして駆け抜けて、漆黒のイル・ワイヴァーンに肉薄する。

 

既に倍加されている身体能力に加えて、瞬間的に攻撃速度を「龍の手」で倍加し、今までギリギリで攻撃を避けていた漆黒のイル・ワイヴァーンが反応できない速度で翼を斬り落とした。

 

飛べなくなって落下していく漆黒のイル・ワイヴァーンの胸部へ「骨喰」を突き刺して魔石を破壊すると、灰となった漆黒のイル・ワイヴァーンの身体。

 

灰の中に残っていたのは、重さは軽いが強度が高そうな黒い甲殻だけだった。

 

漆黒のイル・ワイヴァーンと戦ったことで結構疲れたので、今回のダンジョン探索は、この程度にしておこう。

 

ヴァルガングドラゴンの砲撃が放たれる前に、ドロップアイテムである黒い甲殻を掴んで走り出した俺は、52階層を逆走していく。

 

砲撃によって床に開いている大穴の数々を飛び越えて進み、51階層に逆戻りしてから、更に50階層まで立ち止まらずに戻った。

 

飲めない程に濃縮しているポーションを全身にぶちまけて、身体に残っていた火傷を手荒く癒す。

 

それから詠唱によって効果が変化するムードメーカーの空間転移を用いると、ダンジョンの50階層から一気にミアハ・ファミリアのホームにまで転移。

 

帰ってきた完全に安全な場所で深く深く息を吐く。

 

度重なる戦闘とスキルの多用により精神的に疲れきっていた俺は、装備を外して普段着に着替えると、ベッドに横になって眠った。

 

夢を見ることなく続いていた眠りから目覚めると3時間は眠っていたようだが、精神的な疲労感は完全に無くなっていたので問題はない。

 

これから何をしようかと考えたところで、52階層で手に入れたドロップアイテムの黒い甲殻を思い出した。

 

漆黒のイル・ワイヴァーンが残した黒い甲殻は、珍しいドロップアイテムであることは確かだ。

 

俺が手に入れた珍しいドロップアイテムを見せることを約束している女神ヘファイストスに、ドロップアイテムを見せにいくのも悪くはない。

 

という訳で、女神ヘファイストスの元に向かい、黒い甲殻を見せてみることにした。

 

「これは、竜の甲殻のようね」

 

一目見て、今回のドロップアイテムが、どんな素材であるか理解していた女神ヘファイストス。

 

瞬時に素材を見抜く眼力は、流石は神匠と言われる鍛冶神といったところだ。

 

「漆黒のイル・ワイヴァーンが残したドロップアイテムです」

 

「貴方は竜の壺まで到達して、生きて帰ってきたのね」

 

「こうして今ここに生きて立ってるので、そうなりますよ」

 

「色違いのイル・ワイヴァーンは強敵だったのかしら」

 

「速度が、とんでもなく速かったうえに自己再生能力まで持っていたんで、倒すのにはちょっと苦労しましたね」

 

「そうなのね。ちなみにこの黒い甲殻だけれど、まるで羽根のように軽くて、これだけ凄まじい強度がある甲殻というのは珍しいわ」

 

「確かに軽いのに強度が高いですよね、その甲殻」

 

「貴方は、これで椿に何を作ってもらうのかしら」

 

黒い甲殻に触れながら言った女神ヘファイストスは、此方をじっと見ていた。

 

「愛用していた軽装のアーマーが、漆黒のイル・ワイヴァーンとの戦いで完全に破壊されてしまったんで、椿には新しい軽装のアーマーを作ってもらおうかと思っています」

 

「この素材を使えば良いアーマーができそうね」

 

そう言って黒い甲殻に触れたまま笑っていた女神ヘファイストスが、珍しいドロップアイテムを見れたことで喜んでいたのは間違いない。

 

「それじゃあ、また珍しいドロップアイテムが手に入ったら見せに来ますね」

 

「楽しみにしておくわ」

 

女神ヘファイストスの元から移動して向かうのは、椿の工房ではなく、ミアハ・ファミリアのホームにある神ミアハの自室。

 

扉をノックして、部屋に神ミアハが居ることを確認してから中に入ると、俺は神ミアハにステイタスの更新を頼んだ。

 

「これは驚いたな。ランクアップできるようだぞ、ゲド」

 

俺の背の神聖文字を見て驚いていた神ミアハが、Lv7へのランクアップが可能であることを教えてくれた。

 

どうやら漆黒のイル・ワイヴァーンとの戦いが偉業となっていたみたいだ。

 

「とりあえず、上がっているステイタスを更新しておくぞ」

 

神ミアハの神血によって行われたステイタスの更新。

 

俺の背の神聖文字を確認してから紙にステイタスを書き写した神ミアハ。

 

「これが今のゲドのステイタスだ」

 

ステイタスが書き写しされた紙を差し出してきた神ミアハに感謝して、紙を受け取る。

 

Lv6

 力:B743→SSS1541

耐久:B711→SSS1798

器用:S922→SSS1637

敏捷:A897→SSS1624

魔力:S965→SSS1763

 

紙に書かれていたステイタスは、そうなっていたが、今回は耐久も凄まじく上がっているようだ。

 

現在のステイタスの確認を終えた俺は、ランクアップによって発現する発展アビリティがあるかどうかを聞いてみることにした。

 

Lv7で発現する発展アビリティは、剣士、頑強、敵感知の3つであるらしい。

 

とりあえずこの中では敵感知が気になったので、俺は敵感知を選ぶことにした。




敵感知

出典、この素晴らしい世界に祝福を、主人公のカズマ

敵感知は盗賊スキルの一つであり、近くにいる敵の気配を感知し数も把握することが出来る
相手を敵だと考えていれば、モンスターだけでなく人間も感知可能


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第42話、健全化と秘伝の治癒

思いついたので更新します


Lv6→Lv7

 力:SSS1541→I0

耐久:SSS1798→I0

器用:SSS1637→I0

敏捷:SSS1624→I0

魔力:SSS1763→I0

 

 幸運:A

耐異常:B

 神秘:A

 精癒:B

 格闘:D

敵感知:I

 

《魔法》

 

【リトルフィート】速攻縮小魔法

 

【スティール】速攻窃盗魔法

 

【ムードメーカー】詠唱変化魔法

 

詠唱前半

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

詠唱後半

 

「箒星よ、歩みを速めよ」思考加速

 

「道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」運命改変

 

「恒温の星よ、その熱を燃やせ」不測操作

 

「流れる星よ、空を開け」空間操作

 

「眩い星よ、重なりあえ」多重結界

 

《スキル》

 

【龍の手】

・あらゆるものを倍加する

 

【創薬師】

・薬品作成時、発展アビリティ創薬と薬師の一時発現

・作成した薬品の品質向上

 

【竜鱗鎧化】

・体表に魔素を吸収して自己修復する装甲を形成する

・耐久に応じて強度上昇

 

【断ち切る力】

・周囲の空間を断ち切る

・攻撃には使用できない

 

【竜撃会心】

・弱点となる部位に攻撃が当たった時、特大ダメージを与える

 

【射手の嗜み】

・遠距離武器装備時、発展アビリティ狙撃と千里眼の一時発現

・遠距離武器の攻撃力増大

 

【戦場の支配者】

・反応速度上昇

 

【特殊火遁術】

・触れた対象を内側から熱する

・発動中と発動後、一定時間熱無効

 

【健全化】

・状態異常回復

・スキルを使用した対象に一定時間の状態異常無効を付与

 

【秘伝の治癒】

・自身を含め、周囲に自動回復の効果と風耐性上昇の効果を一定時間付与する

 

Lv7にランクアップしてみると回復系のスキルが2つも発現していたようだ。

 

「健全化」と書いて「レストレーション」と読むスキルは状態異常を回復し、スキルを使用した相手に一定時間の状態異常無効の効果も付与することができる。

 

自分自身にも「健全化」を使用することが可能なので、厄介な毒が相手でも「健全化」を使える状態なら問題ない。

 

「秘伝の治癒」と書いて「ヒーリング」と読むスキルは、自身を含めた周囲に自動回復効果と風耐性上昇の効果を付与することが可能なスキルだ。

 

自動回復効果と風耐性上昇の効果は長時間続くものではないが、それでも回復が可能となるのは悪いことではないだろう。

 

新たな2つの回復系スキルは使用する度に精神力を消費するが、凄まじく消費する訳ではないので、回復系スキルを多用しても直ぐにマインドダウンになってしまうようなことはなかった。

 

スキルで状態異常の回復や治癒が可能になったことで、鞄から解毒剤やポーションを取り出して飲むという手間が省け、ダンジョン探索がよりスムーズになるのは確かだ。

 

それでも素早い精神力の回復にはマジックポーションが必要になるので、ポーションが不要になってはいない。

 

ダンジョンに向かう時には、これからも各種ポーションを用意しておかなければいけないな。

 

ちなみに新しい発展アビリティの敵感知は、近くにいる敵の位置や数が正確にわかるというもので、目で見なくても敵の位置と数が把握できるようだ。

 

視覚に頼ることなく敵を感知することが可能な敵感知は、ダンジョン内で役に立つ発展アビリティだろう。

 

ランクアップしてLv7になったことを担当アドバイザーの人に報告する為にギルドに向かい、ギルドの職員に頼んで担当アドバイザーの人を呼び出してもらった。

 

「今日は、何の報告かな?」

 

エナジーポーションを片手に握りしめながら聞いてきた担当アドバイザーの人。

 

「ランクアップしてLv7になりました」

 

俺がそう答えた瞬間、片手に握りしめていたエナジーポーションを一気に飲み干していた担当アドバイザーの人は、エナジーポーションを気付け薬代わりにしているみたいだ。

 

「はぁ、きみがLv6になってから2ヶ月しか経過してないのに、もうランクアップしたんだね。今度は何を倒したのかな」

 

軽くため息を吐いて、此方を遠い目で見ながら言ってきた担当アドバイザーの人は、ランクアップした理由が聞きたいらしい。

 

「漆黒のイル・ワイヴァーンを倒したことが、ランクアップした理由だと思いますよ」

 

嘘をつく必要もないので、倒したモンスターのことを正直に担当アドバイザーの人に教えておく。

 

「漆黒のイル・ワイヴァーンって、またきみは異常な個体と遭遇したんだね」

 

不思議なものを見るかのような目で此方を見た担当アドバイザーの人は、その後頭を抱えていた。

 

「まあ、異常な個体とは、よく遭遇していますね」

 

俺はダンジョンでは通常種よりも明らかに強力な色違いのモンスターと遭遇することが多いので慣れてしまったが、担当アドバイザーの人は全く慣れていないようである。

 

「うーん、とりあえず漆黒のイル・ワイヴァーンに関する情報を教えてくれると助かるかな」

 

通常種とは違うモンスターの情報が少しでも欲しいようで、情報提供を頼んできたギルドの担当アドバイザーの人。

 

「わかりました」

 

以前教えてもらった竜の壺の情報は役立ったので、そのお礼としてギルドの担当アドバイザーの人に、漆黒のイル・ワイヴァーンの詳しい情報を教えておくと「何でこんなの倒せたの」と担当アドバイザーの人は再び頭を抱えていたな。

 

そんなことがありながらもギルドへのランクアップ報告を終わらせた俺は、漆黒のイル・ワイヴァーンのドロップアイテムである黒い甲殻を持って、椿の工房へと向かった。

 

工房の中に入ると椿は休憩中だったらしく、俺が以前提供したウォーターボトルを使って水分補給をしていたみたいだ。

 

「休憩中に悪いが、ちょっといいか椿」

 

椿がコップに入れた水を飲み干したところで話しかけてみると、振り向いて此方を見た瞬間から、俺が持っている黒い甲殻に目が釘付けだった椿。

 

「その黒い甲殻は、どんなモンスターのドロップアイテムなのか教えてくれんか」

 

黒い甲殻を見つめながら目を輝かせている椿は、ワクワクしているように見える。

 

「これは漆黒のイル・ワイヴァーンのドロップアイテムだ」

 

どんなモンスターのドロップアイテムであるかを教えながら、物凄く興味津々な椿に黒い甲殻を渡してみた。

 

「これは羽根のように軽いが、凄まじい強度があるのう」

 

黒い甲殻を持って重さを確認しながら、凄まじい強度があることを理解していた椿は、とても楽しげに笑う。

 

「忙しいかもしれないが、その甲殻で、軽装のアーマーを作ってくれないか」

 

「構わんぞ、手前もこの黒い甲殻を加工してみたいと思っていたところなのでな」

 

俺の専属鍛冶師でもある椿に鍛冶仕事を依頼してみると、椿は快く引き受けてくれた。

 

「急いではいないから、好きに時間を使って軽装のアーマーを作ってくれ」

 

特に急いではいないので、此方は椿に時間の指定をすることはない。

 

「うむ、任せておけ」

 

自信たっぷりに胸を張っていた椿に任せておけば、あの黒い甲殻を軽装のアーマーに加工してくれるだろう。

 

椿に漆黒のイル・ワイヴァーンのドロップアイテムの加工を任せて、ミアハ・ファミリアのホームである青の薬舗に戻ると、青の薬舗は客で賑わっていた。

 

客の数が落ち着くまで俺も接客に加わっておくと、しばらくの間は忙しく働くことになる。

 

客の数がまばらになり、神ミアハとナァーザだけでも接客に問題がなくなったところで、フレイヤ・ファミリアのホームに移動していき、調理場で監視役のオッタルさんと合流。

 

今日も女神フレイヤとオッタルさんに料理を作り、作った料理の感想を聞いたりした後、報酬の1000万ヴァリスを受け取って帰ろうとしたところで話しかけてきた女神フレイヤ。

 

「貴方の魂が更に深みを増しているけれど、ランクアップをしたようね」

 

笑みを浮かべて此方を見る女神フレイヤの目には、俺の魂が見えているのだろう。

 

「そうですね、Lv7になりましたよ」

 

神に嘘を言っても仕方がないので、ランクアップしたことを正直に認めておく。

 

「あらあら、追いつかれてしまったわね、オッタル」

 

監視役として着いてきていたオッタルさんを見て、にこやかに笑った女神フレイヤは、眷族であるオッタルさんの反応を待っているようだ。

 

「フレイヤ様、この身を更に高める為に、試練に挑む許可を頂きたい」

 

表情を変えることのないオッタルさんの言葉は静かだが力強く、強い意思が感じられる。

 

「許可するわ、貴方の魂の輝きを私に見せなさいオッタル」

 

そんなオッタルさんにフレイヤ・ファミリアの主神として、対応した女神フレイヤは女神としての威厳に溢れていた。

 

「感謝します、フレイヤ様」

 

女神フレイヤに頭を下げたオッタルさんの身体から溢れ出した戦意は凄まじい。

 

オッタルさんはランクアップする為の試練に、全力で挑むつもりのようだ。

 

「ちなみにどんな試練に挑むつもりなんですか?」

 

水を差すようで悪いとは思ったが、ちょっと気になったので、オッタルさんが挑むつもりの試練の内容を聞いてみる。

 

「バロールの単独討伐だ」

 

そう答えてくれたオッタルさんには残念なお知らせをしなければいけない。

 

「バロールは最近倒してしまったんで、復活するまでしばらくかかると思いますよ」

 

オッタルさんには正直に教えておいた方がいいと思ったので、最近バロールを倒したことを教えておく。

 

「そうか」

 

言葉短く、そう言ったオッタルさんだが、頭部の猪耳がへにゃりと倒れていた。

 

へにゃりとなっていた猪耳が語るように、オッタルさんが残念だと思っていたのは間違いない。

 

何故かオッタルさんに悪いことをしてしまったような気になった俺は、何か埋め合わせができないか考えてみる。

 

頑張って考えてみて、異常個体のモンスターとの遭遇率が高い俺と一緒にダンジョンに潜れば、オッタルさんがランクアップできるようなモンスターと遭遇するかもしれないと思ったので、協同でのダンジョン探索を提案してみることにした。

 

以前俺とパーティを組んでいた時に、色違いの白いウダイオスという亜種と遭遇したことを覚えていたオッタルさんは、確かに俺と一緒なら通常とは違うモンスターと遭遇できるかもしれないと判断したようだ。

 

「いつダンジョンに向かう」

 

乗り気になっていたオッタルさんの猪耳は、真っ直ぐピンと立っている。

 

元気を取り戻しているオッタルさんの猪耳を見て微笑ましい気持ちになりながら、これからの予定を確認してみたが、直ぐにはダンジョンに行けそうにない。

 

「すいません、今週は女神フレイヤに料理を作らなければいけないので無理ですね」

 

「そうか」

 

俺からの返事を聞いたオッタルさんの猪耳は、やっぱりへにゃりと倒れてしまっていた。

 

物凄く申し訳ない気持ちになったが、女神フレイヤとの約束を守ることも大切だ。

 

オッタルさんには、しばらく待っていてもらうとしよう。




健全化、秘伝の治癒

出典、オクトパストラベラー大陸の覇者、薬師テオ
健全化はテオのバトルアビリティであり、味方の状態異常を回復して、さらに状態異常無効化の効果を付与する 
秘伝の治癒もテオのアビリティであり、味方前衛全体にHP自動回復と風耐性アップ20%の効果を付与するというもの


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第43話、遠征

思いついたので更新します


女神フレイヤとの約束通り、いつもより多目の週5で料理を作りに行く日々にも終わりが来て、ようやく予定が空いた。

 

オッタルさんとの遠征に備えて各種ポーションや食料品にテントなど、ダンジョンで必要になりそうな物資を用意していると、ミアハ・ファミリアのホームにある俺の自室にまで押しかけてきた椿。

 

「頼まれていた軽装のアーマーが完成したぞ!」

 

笑顔でそう言いながら軽装のアーマーを包んでいた布を外し、中身を見せてきた椿は、テンションがやたらと高い。

 

「寝る間も惜しんで作り上げた。手前の渾身の一作よ!」

 

寝る間も惜しんで作り上げたというのは嘘ではないようで、椿の目の下には、うっすらとだがクマがある。

 

「さあ、身に付けてみるのだ!」

 

どうやら椿は徹夜明けで、ハイテンションになってしまっているようだ。

 

椿から差し出された軽装のアーマーを受け取って身に付けてみると羽根のように軽い軽装のアーマーは、重量で身体の動きを邪魔することはない。

 

それだけの軽さがありながら、黒いグリーンドラゴンのドロップアイテムで作られた「黒樹」を遥かに上回る強度を持っているアーマーは「バロールガントレット」にも劣らない防具だった。

 

「そのアーマーの名は「黒閃」と名付けてある」

 

漆黒のイル・ワイヴァーンのドロップアイテムで作られた黒いアーマーは「黒閃」という名前であるらしい。

 

「凄まじく軽く、並外れて堅固な良いアーマーだ。今回も素晴らしい仕事をしてくれたみたいだな」

 

毎回素晴らしい作品を作ってくれる椿が、俺の専属鍛冶師となってくれたことは間違いなく幸運だ。

 

「うむ、喜んでもらえたなら手前も嬉しいぞ」

 

頷いて嬉しそうに笑っている椿には、しっかりと報酬を支払っておくとしよう。

 

「じゃあとりあえず5000万ヴァリスを支払っておくよ」

 

金庫から取り出した5000万ヴァリスを椿に手渡そうとすると、ヴァリスの入った袋を手で遮った椿が言った。

 

「漆黒のイル・ワイヴァーンの黒い甲殻は面白い素材だったのでな、2500万ヴァリスでも構わんぞ」

 

半額に値引きしてくれたことはありがたいが、鍛冶師である椿の堅実な仕事にはしっかりとした報酬を支払う必要がある。

 

「5000万ヴァリスをそのまま受け取ってほしいんだが」

 

「むう、珍しいドロップアイテムを夢中になって加工できて、鍛冶師としての腕も上がった手前の方が、逆にヴァリスを支払いたいぐらいなのだがなあ」

 

珍しい素材を加工できたことで、鍛冶師として腕も上がり、それをとても喜んでいた椿は、逆に此方にヴァリスを支払いたいとさえ思っていたみたいだ。

 

「それでも俺は、しっかりと報酬を受け取ってほしいと思う。正当な報酬は、命を預けられる防具を作ってくれた専属鍛冶師への感謝の気持ちだと考えてくれ」

 

俺の正直な気持ちを言葉にして椿に伝えておくと、深く息を吐いて嬉しそうな笑みを浮かべた椿。

 

「そこまでお主に言われては仕方がないか、大人しく全額を受け取っておくとしよう」

 

俺から5000万ヴァリスが入った大袋を受け取った椿は、大金の入っている大袋を片手に持つ。

 

Lv5の椿なら5000万ヴァリスが入った大袋でも片手で軽々と持ち運べるだろう。

 

「近々ダンジョンに行こうと考えていたから、新しい防具が間に合って良かったよ」

 

「そうか、それなら手前も頑張った甲斐があるのう」

 

再び楽しげな笑みを浮かべていた椿が笑顔のまま、ふらりと倒れてしまいそうになったので、抱きかかえて支えておく。

 

「大丈夫か?」

 

「すまんすまん、流石に丸4日も寝ていないのは堪えたようだのう」

 

鍛冶仕事に没頭して、4日間も睡眠を取っていなかった椿の身体が、限界を迎えているのは確かだ。

 

身体を休める為にも、速やかに睡眠を取る必要があるだろう。

 

「このまま帰るのは大変だろうし、工房まで運んでくよ」

 

「すまんな、一気に眠気が押し寄せてきて、眠くて仕方がないのだ。ここは甘えさせてもらおう」

 

抱きかかえていた椿を背負い、5000万ヴァリスが入った大袋を片手に持って椿の工房にまで運んでいき、仮眠用のベッドに椿を寝かせてから、ベッドの近くに5000万ヴァリスが入った大袋を置いておいた。

 

気持ち良さそうに眠っている椿は完全に熟睡していて、そう簡単には起きそうにない。

 

椿が寝ている間に盗みに入られたら、ベッドの近くに置いた5000万ヴァリスも普通に盗まれてしまいそうな気がしたので、椿が起きるまで椿の工房の警護をしてみることにした。

 

数時間経過するまで起きることはなかった椿だったが、眠りから覚めたらすっかり元気になっていて、もう倒れてしまいそうになることはなさそうだ。

 

これなら警護を終わらせて帰っても問題無いと判断した俺は、椿の工房からミアハ・ファミリアのホームにまで戻る。

 

そして再びダンジョンに潜る為の準備を整えていき、大量に用意した物資をリトルフィートで全て小さくして鞄にしまった。

 

武器の手入れもしっかりと行い、軽く振るって調子を確かめてみたが、どの武器も問題はない。

 

これで準備は万全で、いつでもダンジョンに向かうことが可能だ。

 

という訳で、フレイヤ・ファミリアのホームに向かい、オッタルさんを探してみると、ホーム内を歩いていた女神フレイヤの背後に付き従っているオッタルさんと侍女達を発見。

 

失礼のないように先に女神フレイヤに挨拶をしてから、女神フレイヤの護衛として付き従っているオッタルさんに、しばらく俺の予定が空いていることとダンジョンに向かう準備が整っていることを伝えてみる。

 

するとオッタルさんは女神フレイヤから遠征の許可をもらうと、女神フレイヤの護衛を侍女達に頼んで呼び出してもらった「白妖の魔杖」に手早く引き継いだ。

 

「装備一式を用意してくる。戦の野の入り口で待っていろ」

 

それだけ言って装備一式を取りにいったオッタルさんが戻ってくるまで、言われた通りに戦の野の入り口で待っていると、軽装の防具を身に付けて3本の大剣を背負った状態で現れたオッタルさん。

 

背負っている2本の大剣はミスリル製で間違いなく第1等級武装だが、3本目の一際巨大な大剣こそが最も強力な武器である「極白の剣」だった。

 

以前オッタルさんとパーティを組んでいた時に遭遇した白いウダイオスを倒した際に手に入れたドロップアイテム、2本の「ウダイオスの白剣」の内、オッタルさんに譲られた1本を素材としてゴブニュ・ファミリアによって作成された白大剣。

 

不壊属性まで付与された特殊武装でありながら、第1等級武装並みの斬れ味を持つ凄まじい武器である「極白の剣」を持ってきているということは、オッタルさんは全力で戦うつもりなのだろう。

 

ミアハ・ファミリアのホームにまでオッタルさんには着いてきてもらい、俺が装備を着込んで武装するまで、しばらく待っていてもらった。

 

インナーを着用し、軽装のアーマーの「黒閃」を装備してから上に「ペルーダコート」を羽織り、首に「ペルーダマフラー」を巻き付けておく。

 

黒1色の「ペルーダコート」に覆われた両腕の前腕に、白い「バロールガントレット」を装着し、腰にベルトを巻き付けると、短剣の「黒頭」と脇差の「骨喰」の鞘をベルトに固定。

 

背中に白い大剣である「白断」を背負い、全てが銀色な短槍の「銀竜」を片手に持つ。

 

小さくなった様々な物資が大量に詰まった鞄を最後に背負い、オッタルさんと一緒にダンジョンへと向かった。

 

上層、中層、下層では、立ち止まることなく突き進み、全てのモンスターの魔石を破壊しながら先に進んだ。

 

エナジーポーションで疲労感を回復しながら先へ進んでいくと到着した深層。

 

深層で現れるモンスターには強化種が度々混じっていたが、Lv7に到達している冒険者の相手にはならず、両断されて死骸を残すモンスター達。

 

手早くモンスターから魔石を抉り出していく俺と少し離れたところで、ミスリルの大剣を振るってモンスターを倒すオッタルさん。

 

「極白の剣」を使うまでもないと判断し、深層のモンスター達を相手にミスリルの大剣を振るうオッタルさんは、全てのモンスターを1振りで倒していった。

 

倒されたモンスター達から抜き取った魔石と、手に入ったドロップアイテムを大きめの袋に詰めていき、リトルフィートで袋ごと小さくして鞄にしまう。

 

ダンジョン内を移動しながらエナジーポーションを飲んで疲労を回復していくと、立ち止まらずに進むことが可能だ。

 

階層を更に下へ下へと降りていき、到着した49階層には大量のフォモールが存在していたが、バロールの姿はない。

 

幾らでも湧き出てくる通常のモンスターとは違って、1度倒されると、ある程度の日数が経過しなければ復活しない階層主。

 

倒されたバロールが復活するまで、通常は日数が経過するまで待つ必要があるが、ダンジョンで異常な事態と遭遇することが多い俺なら何かが起こるかもしれないと思っていた。

 

そして、それは確かに正しかったようで、49階層のダンジョンの壁面が大きくひび割れたかと思えば、生まれ落ちた巨人。

 

それは通常のバロールとは違っており、まるで阿修羅のような姿をしている。

 

中央の頭部に加えて左右から1つずつ生えた3つの頭を持ち、腕刃を生やした6本の腕を持つバロールは、単眼の巨人であることは変わっていない。

 

しかし単眼でありながら頭が3つある為、3つの眼があるバロールは、恐らく3つの眼全てから光線を放つことが可能だろう。

 

6本に増えている腕も攻撃手段として使ってくるのは間違いない。

 

「ダンジョンで試練に出会えたことに、感謝しよう」

 

阿修羅バロールを見据えて大剣を構えたオッタルさんは、静かにそう言うと阿修羅バロールに突撃していく。

 

連続で放たれた阿修羅バロールの光線を回避して近付いたオッタルさんに振り下ろされた3本の腕。

 

振り下ろされた阿修羅バロールの腕にオッタルさんがミスリルの大剣を叩き込んだ瞬間、砕け散ったミスリルの大剣。

 

大剣を砕こうと勢いを止めることなく振り下ろされていった阿修羅バロールの腕を、後方に跳んだことで避けたオッタルさん。

 

「強度は鍛えられたミスリルよりも上か」

 

冷静に言葉を発しているオッタルさんに動揺は欠片もない。

 

背負っている「極白の剣」の柄を握ったオッタルさんは、巨大な白い大剣を構えた。

 

「行くぞ」

 

白塊のような大剣がLv7の力で振るわれ、阿修羅バロールに叩き込まれていく。

 

金属で金属を削るように、少しずつ削られていっている阿修羅バロールの身体。

 

阿修羅バロールもただやられているばかりではなく、単眼から光線を放ちながら腕を振るう。

 

オッタルさんは放たれた光線を回避し、振るわれた阿修羅バロールの腕に連続で「極白の剣」を叩き込んだ。

 

折れることのない不壊属性が付与された白大剣が、バロールの腕と打つかり合うと凄まじい金属音が響き渡る。

 

阿修羅バロールは、1本の腕ではオッタルさんに力負けすると判断したのか、糸を縒り合わせるかのように3本の腕を絡め合わせて1本に束ねてしならせると、凄まじい速度で鞭の如く振るった。

 

人間の腕の構造では考えられない阿修羅バロールの攻撃。

 

迎え撃つのは、白大剣。

 

Lv7の冒険者から放たれた斬撃。

 

オッタルさんが振り下ろした白大剣と阿修羅バロールの束ねた腕が真正面から打つかり合う。

 

一瞬の拮抗、力と力の打つかり合い。

 

力負けしたのはオッタルさんの方で、白大剣を握ったまま足で地を削り、地面に両足で線を引きながら後方に吹き飛ばされたオッタルさん。

 

「手伝いは、いりますか?」

 

此方の近くまで下がってきたオッタルさんに、手伝いが必要かどうかを聞いてみる。

 

「不要だ。この試練には1人で挑まねばなるまい」

 

そう言い切ったオッタルさんは、1人で阿修羅バロールを倒すつもりのようだ。

 

通常のバロールよりも明らかに強力な阿修羅バロールを1人で倒せば、偉業となるのは間違いない。

 

手伝いが不要であるなら、せめてオッタルさんの戦いを見届けるとしよう。



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第44話、猛者

思いついたので更新します


阿修羅バロールの3つの頭にあるそれぞれの単眼から連続で発射されていく光線。

 

まるで豪雨のように降り注ぐ光を、壊れることのない白大剣を盾に防ぐオッタルさん。

 

「銀月の慈悲、黄金の原野。この身は戦の猛猪を拝命せし」

 

白大剣による防御を行いながら詠唱を開始したオッタルさんは、魔法を使うつもりらしい。

 

「駆け抜けよ、女神の神意を乗せて」

 

短文の詠唱、僅かな時間で完成する魔法。

 

解放された凄まじい魔力。

 

短い詠唱の間に、連続で放たれていた光線の雨が止んだ。

 

「ヒルディス・ヴィーニ」

 

詠唱が終わり、魔法の名を言葉にした瞬間、発動した魔法によって、白大剣に黄金色の光が集束する。

 

ただでさえ巨大な白大剣が更に肥大化したかのように思える程の魔力光によって、激しい光を帯びた白大剣が黄金の色に包まれていた。

 

尋常ではない魔力の高まりが、発動した魔法が見かけ倒しではないことを証明していたのは間違いない。

 

光輝く黄金色の大剣を、担ぐように上段に構えたオッタルさんは、阿修羅バロールへと突撃していく。

 

近付くオッタルさんを迎撃する為に、三面六臂の鬼神の如き姿をしているバロールは、3本の腕を1本に束ねて鞭のように扱った。

 

1つに束ねられた阿修羅バロールの太く大きな腕が、凄まじい速度で薙ぎ払うかのように振るわれて、放たれる一撃。

 

1度は打ち負けたそれに、黄金色の光を帯びた白大剣を叩き込んだオッタルさん。

 

衝突した阿修羅バロールの腕による一撃とオッタルさんの黄金の斬撃が、凄まじい衝撃を巻き起こす。

 

今回打ち負けたのは阿修羅バロールであり、大きく後ろに弾かれたバロールの束ねた腕は、明らかに傷ついていた。

 

白大剣が打ち負けることなく段違いの威力を発揮できた理由は、オッタルさんの魔法だろう。

 

「ヒルディス・ヴィーニ」は恐らく純然な超強化の魔法であり、それによって強化された斬撃は、阿修羅バロールの腕による一撃に打ち勝った。

 

蓄力を介さない力の増幅、単純な力の上乗せだが、Lv7のオッタルさんの力が強化されれば、正しく必殺の威力となる。

 

バロールの腕を弾き返した後も、白大剣に宿った黄金の輝きは失われておらず、それは必殺の威力を持つ一撃が連発可能であることを現していた。

 

阿修羅バロールが腕を大きく弾かれて体勢を崩している隙を逃すことなく更に接近したオッタルさんは、雄叫びを上げて跳躍し、黄金の光を帯びた白大剣を振り下ろす。

 

バロールに叩き込まれる黄金の斬撃。

 

白大剣でも僅かに削ることしかできていなかったバロールの頑強な身体が、黄金の輝きに斬り裂かれていく。

 

阿修羅のようなバロールの身体から流れ落ちる血液。

 

確かにダメージを与えられて、損傷したバロールの身体。

 

与えられた痛みで、怒りに満ちた阿修羅バロールが咆哮を上げる。

 

原始的な恐怖をもたらすモンスターの咆哮の中でも、阿修羅バロールの咆哮は特に強烈なものだったが、それでもオッタルさんは揺らぐことはない。

 

3つの頭にある単眼で、オッタルさんを見ていた阿修羅バロールの3つの単眼が光輝くと、バロールの全身が光に包まれていた。

 

巨大な2足の足で地を蹴り、躍動する阿修羅バロールがオッタルさんに近付くと、左右合わせて6本の腕を連続で振るう。

 

放たれる拳の弾幕。

 

速度を重視した凄まじい連撃。

 

殴打を喰らい、打ちのめされて吹き飛ぶオッタルさんを追って、阿修羅バロールは再び打撃を放つ。

 

標的に目掛けて繰り出され続ける阿修羅バロールの攻撃が止まらない。

 

反応速度を上昇させる「戦場の支配者」のスキルが無ければ、Lv7の俺でも視認できない速度の連続攻撃が放たれ続けている。

 

身体が光に包まれてから、明らかに上昇している阿修羅バロールの速度。

 

白塊のような白大剣による防御も間に合わず、巨大なバロールの拳を連続で受け続けているオッタルさんは、見るからにボロボロになっていた。

 

それでもオッタルさんの眼差しから力強さは失われていない。

 

響き渡った獣のような咆哮。

 

発動されたのは獣人にのみ許された獣化のスキル。

 

逆立った頭髪、歯は牙に変わり、筋肉が隆起して、より強靭になった身体。

 

獣化により強化されたオッタルさんは、凄まじい速度で放たれる阿修羅バロールの拳に白大剣を叩き込んだ。

 

白大剣に斬り裂かれて、深々と裂傷が刻まれた阿修羅バロールの拳。

 

ランクアップに等しい力をもたらす獣化によって、阿修羅バロールの上昇した速度に反応できるようになったオッタルさんの反撃が始まる。

 

白大剣の斬撃が、阿修羅バロールに幾度も叩き込まれ、傷だらけとなったバロールの身体。

 

阿修羅バロールの単眼から光線が放たれ続けようと、白大剣を盾にして前に進み続けたオッタルさんは、雄叫びを上げながら跳躍し、光線を放ち続ける単眼へと白大剣で斬撃を繰り出す。

 

凄まじい轟音、強烈な爆発。

 

白大剣で繰り出された斬撃の威力と暴発した魔力により、砕けて爆発した1つの単眼。

 

完全に破壊された阿修羅バロールの1つの頭部。

 

光線を放つ部位である頭部が1つ減ろうと致命傷には程遠く、残り2つの頭部を持つ阿修羅バロールは、まだ生きている。

 

オッタルさんは明らかに先程よりも体力を消費している様子であり、いつまでも獣化を発動したままではいられないようだ。

 

獣化している最中のオッタルさんは、体力と恐らくは精神力を大幅に消費しているのは間違いない。

 

速度が上昇した阿修羅バロールの動きに、獣化でステイタスが強化されていなければ反応できていないオッタルさんは、獣化を発動していられる間に阿修羅バロールを倒す必要がある。

 

それをオッタルさんも理解しているようで、阿修羅バロールとの戦いに決着を着ける為に、魔法の詠唱を開始した。

 

「銀月の慈悲、黄金の原野。この身は戦の猛猪を拝命せし」

 

詠唱を行うオッタルさんが盾として構えた白大剣に叩きつけられるのは、阿修羅バロールが束ねた腕。

 

響き渡った激しい金属音。

 

速度が上昇したことで威力も高まった阿修羅バロールの豪腕により、身体が吹き飛ばされようと続いていくオッタルさんの詠唱。

 

「駆け抜けよ、女神の神意を乗せて」

 

解き放たれる尋常ではない魔力。

 

「ヒルディス・ヴィーニ」

 

完成した呪文、発動した魔法によって、再び黄金の輝きを纏う白大剣。

 

握った白大剣を上段に構えたオッタルさんは咆哮を上げながら阿修羅バロールへと突撃していく。

 

オッタルさんの一撃を止めようと、阿修羅バロールが腕を振るって攻撃を放つ。

 

直撃したバロールの腕、しかしそれでも止まることなく前へと進み続けたオッタルさん。

 

黄金の光を帯びる白大剣の柄を両手で握ったまま跳躍したオッタルさんから、必殺の一撃が放たれる。

 

輝く黄金の光を纏う、白大剣の斬撃。

 

阿修羅バロールを脳天から斬り裂いていく斬撃には、獣化と超強化が合わさり、尋常ではない威力があった。

 

真っ二つに両断された阿修羅バロールは魔石も砕かれていたようで、完全に灰と化す阿修羅バロールの身体。

 

阿修羅バロールの腕から生えていた腕刃だけがドロップアイテムとして残っている。

 

鍛えられたミスリル以上の強度を持つ阿修羅バロールの拳に、数え切れないほど殴打された身体であろうと、しっかり2本の足で立っていたオッタルさん。

 

阿修羅バロールとオッタルさんの戦いは終わり、勝者となったのはオッタルさんだった。

 

戦いを見届けることはできたので、身体がボロボロのオッタルさんを治療しておくとしよう。

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

素早くバロールの腕刃を回収し、治癒をしている間に、モンスターの邪魔が入らないようにする為、魔法を詠唱していく。

 

「眩い星よ、重なりあえ」

 

発動するのは後半の詠唱を変化させると魔法の効果も変わる詠唱変化魔法。

 

「ムードメーカー」

 

今回発動する効果は多重結界であり、半径が5m程度の大きさである半球状の結界内には、俺とオッタルさんだけが入れるように設定してある。

 

たとえ深層の階層主であろうと破壊できない多重結界の中は、完全に安全だ。

 

多重結界の中で俺のスキル「秘伝の治癒」を発動し、スキルの自動回復効果でオッタルさんを癒しながら怪我の状態を診ていく。

 

「これは、身体全体の骨のどこかしらにヒビが入っていて、折れている骨も何本かあります。それに全身が重度の打撲状態ですね」

 

身体の全ての骨にヒビが入っていて、折れている骨が何本もあり、全身が重度の打撲状態だったオッタルさんの身体。

 

「そうか」

 

短い言葉を発したオッタルさんは身体が痛んでいようと、いつもと変わらなかった。

 

「とりあえず治療していきますね」

 

本人が平気そうな顔をしていても怪我人であることは間違いないので、オッタルさんには治療が必要だ。

 

「すまんな」

 

短い言葉だが、オッタルさんが申し訳ないと思っていることは確かに伝わったので、俺ができる限りの治療を施すとしよう。

 

ハイポーションよりも効果が高い濃縮ポーションをオッタルさんには何本か飲んでもらって、濃縮し過ぎて飲めないが回復効果は更に高いポーションを塗り薬に加工したものをオッタルさんの身体に塗る。

 

ジェル状の塗り薬となったポーションを丁寧に塗っていくと、オッタルさんの打撲が癒されていくのがわかった。

 

その間にも「秘伝の治癒」を発動し、スキル「龍の手」で自動回復の回復効果と持続時間を倍加しておき、オッタルさんを癒す。

 

内側からも外側からも回復効果の高いポーションで癒して治療していき、俺のスキルである「秘伝の治癒」で自動回復もされていったオッタルさんは、動いても身体に痛みがないぐらいには回復したらしい。

 

それからオッタルさんにはマジックポーションとエナジーポーションも飲んでもらい、精神力と疲労も回復してもらった。

 

多重結界を解除し、元気になったオッタルさんと一緒に49階層から下に降りて、安全階層の50階層で休憩することになったが、俺が用意していた燻製肉を見たオッタルさんは目を輝かせていたな。

 

顔の表情は全く変わらないが、燻製肉をほうばるオッタルさんが幸せそうにしているのは、猪耳を見ればわかる。

 

「沢山用意しているんで、まだまだありますからね。水もどうぞ」

 

「感謝する」

 

夢中になって大量の燻製肉を食べていたオッタルさんに、ウォーターボトルのクリエイトウォーターで出した水もコップに入れて渡しておくと、言葉少なめに感謝してきたオッタルさん。

 

簡単な食事を終わらせてからテントを2つ用意して、1人1つを使って就寝。

 

眠りから目覚めたところで、朝食の用意をする為にテントから出ると、オッタルさんは既に起きていて白大剣で素振りをしていた。

 

怪我をしていたオッタルさんが元気になっているのは良いことなので、剣の素振りを止めさせることはなく、手早く朝食を作っておく。

 

燻製肉と乾燥野菜を入れたスープにパンという簡単な朝食だが、オッタルさんは美味しそうに食べてくれたので、味に問題はなかったようだ。

 

今回の遠征の目的はオッタルさんが偉業を達成することだったが、オッタルさん1人で通常よりも強力な亜種のバロールを倒したことは偉業で間違いないので、目的は達成されたのかもしれない。

 

「貴方は既に偉業を達成したと俺は思いますけど、これからどうします」

 

手早くテントを片付けて、リトルフィートで大きさを縮小し、鞄にしまいながら、次はどうするかをオッタルさんに聞いてみた。

 

「急ぎ、ダンジョンを出るぞ」

 

試練に挑むという目的を達成したオッタルさんは、ダンジョンに長居するつもりはないらしい。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

ダンジョン内を高速で駆けていき、遭遇するモンスターは魔石を狙って一撃で始末し、上の階層へと上がっていく。

 

止まることのない移動を可能としたのは、移動しながら飲んでいたエナジーポーション。

 

疲労を回復するエナジーポーションを定期的に飲んでいたおかげで、立ち止まることがなくても身体は全く疲れていない。

 

止まらず移動を続け、ついにダンジョンを出たところで、俺が鞄から取り出したのは深層のモンスターから回収した魔石とドロップアイテムが詰まった大袋が2つ。

 

リトルフィートで小さくしていた大袋を元の大きさに戻し、オッタルさんに大袋を1つ差し出したが全く受け取ろうとしないオッタルさん。

 

「お前のおかげで、俺は試練に挑めた。施された治療にも感謝をしている。それは全てお前が持っていけ」

 

どうやらオッタルさんは、今回深層のモンスターから回収した魔石やドロップアイテムを俺に全て渡すつもりのようだ。

 

「それなら、あの亜種のバロールから回収したドロップアイテムぐらいは受け取ってください。これは貴方が勝ち取ったものです。貴方が持っていくべきだ」

 

そう言いながら俺が亜種のバロールから回収しておいたバロールの腕刃を、元の大きさに戻してオッタルさんに差し出すと、俺の言葉を正しいと思ってくれたのか、このドロップアイテムだけは受け取ってくれたオッタルさん。

 

その後、フレイヤ・ファミリアのホームに戻っていくオッタルさんと、ギルドに換金に行く俺は別行動となる。

 

深層のモンスターから回収した魔石とドロップアイテムは中々の稼ぎになり、今回の遠征で使用したアイテムの費用を20倍にした程度は稼げていた。

 

それでもこれはオッタルさんに渡す筈だった魔石とドロップアイテムを譲られた結果なので、実際は半分の10倍程度だったのは間違いない。

 

オッタルさんの付き添いとはいえ一応は俺も深層に遠征したので、ステイタスが上がっているか確認する為に、神ミアハに頼んでステイタスを更新してもらった。

 

Lv7

 力:I0→F374

耐久:I0→F352

器用:I0→D581

敏捷:I0→D537

魔力:I0→C695

 

 幸運:A

耐異常:B

 神秘:A

 精癒:B

 格闘:D→C

敵感知:I→G

 

リトルフィートをよく使ったからか魔力が特に伸びていて、器用と敏捷も伸びているようであり、発展アビリティの格闘と敵感知も伸びていたみたいだ。

 

遠征の結果としては悪い結果ではないだろう。

 

それから数日後、ギルドから正式に、オッタルさんがLv8に到達したことが発表された。

 

ランクアップしたオッタルさんの2つ名は、変わらず猛者のままであるらしい。



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第45話、潜伏者

此方の更新を期待している人がいたので更新しておきます
今回は短めです



オラリオがオッタルさんのLv8到達で、少々賑やかになっていようが、日々の生活がいきなり変わる訳ではない。

 

ミアハ・ファミリアのホームは今日も大量の客で溢れていて、接客するのも大変だったが、ピークを過ぎれば客の数も減ってくる。

 

人の波もある程度落ち着いてきて、訪れる客が少なくなってきたところで、ナァーザと神ミアハを休憩させておき、俺1人で接客を行っておくことにした。

 

訪れる客には丁寧な接客を行い、商品の配達を頼まれた俺は、休憩が終わったナァーザと神ミアハに店を任せて、商品の配達に行く。

 

配達するのは大きめの木箱で9箱ほどになるが、中身はそれぞれ3箱ずつにハイポーションとマジックポーションにエナジーポーションが別々に入っているが、頼まれた商品の数は多い。

 

リトルフィートを用いて木箱を小さくして運んでいるから嵩張ることはないが、ここまで大量のポーションを頼まれたのは久しぶりになるな。

 

以前ロキ・ファミリアが遠征に向かう前に、かなり大量の各種ポーションを頼まれたことを覚えているが、配達は問題なくても大量にポーションを作成するのが大変だった。

 

今回の配達先はアポロン・ファミリアだが、これだけのポーションを用意するなら、大人数でダンジョンにでも行くのかもしれない。

 

アポロン・ファミリアの評判は、あまり良くないが、商品を購入した客であるなら客として扱うとしよう。

 

商品の配達も終えて、ミアハ・ファミリアのホームに戻ると、そろそろ店じまいの時間となっていた。

 

ホーム兼店舗である青の薬舗の戸締まりをして、俺が作った夕食をミアハ・ファミリアの全員で一緒に食べていると「更に腕を上げたなゲド」と神ミアハに言われて、料理の腕を褒められることになる。

 

俺が作った料理にナァーザも「凄い美味しい」と喜んでいて、今回の料理を食べた神ミアハとナァーザの反応は悪くない。

 

夕食も食べ終わり、それぞれが部屋に戻った後、俺は再びポーションの研究をしてみることにしたが、今回は腐らないポーションが作れるかを試す。

 

スキル「創薬師」を用いて腐らないポーションを作れるかを試してみた結果、完成した完全防腐ポーション。

 

腐ることがない完全防腐ポーションは、長い年月が経過しようと問題なく使えるポーションである。

 

しかし腐らないポーションを売りに出すと、様々な問題がありそうだ。

 

完全防腐ポーションが売れる商品になるのは間違いないが、ポーションを必要とする人々が腐らないポーションだけが欲しいと思うようになれば、それ以外のポーションが売れなくなるだろう。

 

もしそうなればポーションを売っている他のファミリアが、潰れてしまってもおかしくはない。

 

それで他のファミリアに恨みを買えば、俺が不在の時にナァーザや神ミアハが狙われてしまう可能性がある。

 

腐らない完全防腐ポーションは商品にはしないで、俺個人が使うものにしておいた方が良さそうだ。

 

翌日、店をナァーザと神ミアハに任せてダンジョンに向かった俺は、深層にあるコロシアムに向かって、最近接客ばかりしていて鈍っていた身体を存分に動かす。

 

無限に現れるコロシアムのモンスター達を銀一色の短槍で突き穿ち、ひたすらに身体を動かして、モンスターと戦い続けた。

 

自身の身体の一部であるかのように短槍を扱い、流れる水の如く滑らかな動きで、モンスター達の頭部を銀色の穂先で貫く。

 

エナジーポーションで疲労を回復し、強化種も含めた大量のモンスターとの戦いを続けて、倒したモンスターの数は300体。

 

鈍っていた身体が思い通りに動くようになってからコロシアムを出た俺は、ダンジョンからも出ることにした。

 

リトルフィートで小さくしていた深層のモンスターの魔石が詰まった大袋6つを、ダンジョンを出てから元の大きさに戻すと、ギルドで魔石をヴァリスに換金。

 

300体分の魔石を換金すると凄まじく稼ぐことができたが、椿に武器や防具を作ってもらう時の為に貯金しておくとしよう。

 

それから神ミアハにステイタスを更新してもらったが、どうやらステイタスがかなり伸びていたようで新しいスキルも発現していたらしい。

 

Lv7

 力:F374→S986

耐久:F352→S975

器用:D581→SS1034

敏捷:D537→SS1017

魔力:C695→SSS1373

 

 幸運:A

耐異常:B→A

 神秘:A

 精癒:B→A

 格闘:C→B

敵感知:G→F

 

《魔法》

 

【リトルフィート】速攻縮小魔法

 

【スティール】速攻窃盗魔法

 

【ムードメーカー】詠唱変化魔法

 

詠唱前半

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

詠唱後半

 

「箒星よ、歩みを速めよ」思考加速

 

「道化の星よ、運命を変える奇跡をここに」運命改変

 

「恒温の星よ、その熱を燃やせ」不測操作

 

「流れる星よ、空を開け」空間操作

 

「眩い星よ、重なりあえ」多重結界

 

《スキル》

 

【龍の手】

・あらゆるものを倍加する

 

【創薬師】

・薬品作成時、発展アビリティ創薬と薬師の一時発現

・作成した薬品の品質向上

 

【竜鱗鎧化】

・体表に魔素を吸収して自己修復する装甲を形成する

・耐久に応じて強度上昇

 

【断ち切る力】

・周囲の空間を断ち切る

・攻撃には使用できない

 

【竜撃会心】

・弱点となる部位に攻撃が当たった時、特大ダメージを与える

 

【射手の嗜み】

・遠距離武器装備時、発展アビリティ狙撃と千里眼の一時発現

・遠距離武器の攻撃力増大

 

【戦場の支配者】

・反応速度上昇

 

【特殊火遁術】

・触れた対象を内側から熱する

・発動中と発動後、一定時間熱無効

 

【健全化】

・状態異常回復

・スキルを使用した対象に一定時間の状態異常無効を付与

 

【秘伝の治癒】

・自身を含め、周囲に自動回復の効果と風耐性上昇の効果を一定時間付与する

 

【潜伏者】

・スキル発動中は、敵の意識が使用者に向くことはない 

・スキル使用者が触れている間、触れた相手にも同様の効果が発動

 

新たなスキルは「潜伏者」と書いて「ハイドアンドシーク」と読むスキルであり、敵から隠れることに特化したスキルであるみたいだ。

 

うまく使えばモンスターなどにバレないように不意打ちすることが可能になるかもしれない。

 

試しにダンジョンで「潜伏者」のスキルを使ってみると、俺が目の前に居ても気付くことのないモンスター達。

 

流石に此方が攻撃すればモンスターも気付くが、真正面からでも不意打ちすることが可能な「潜伏者」のスキルは、ダンジョン攻略に役立ちそうだ。

 

特に52階層で遠距離砲撃を行ってくる砲竜が、此方を探知できないようになれば、砲撃されることも無くなるだろう。

 

詠唱によって効果が変化する「ムードメーカー」の魔法で空間転移を行った俺は、安全階層の50階層にまで移動し、階層を降りていくと52階層で「潜伏者」を発動してみた。

 

砲竜達は「潜伏者」のスキルを発動中の俺を探知できていないようで、階層無視の砲撃が行われることはない。

 

遭遇するモンスター達も俺のことには気付いておらず、襲われることなく普通に通り過ぎることができる。

 

戦闘を避けながら、ついでに52階層からマッピングを始めてみると、落ち着いて地図を作成することが可能だった。

 

「潜伏者」のスキルがなければ、こんなに落ち着いてマッピングすることは不可能だった筈だ。

 

ダンジョン内で地図を作成する時も役立つスキルであると、知ることができたのは悪いことではない。

 

その後も階層ごとに地図を作成していき、52階層からの詳細な地図を作成していく。

 

階層を隅から隅まで練り歩いて地図を完成させると、階層を降りてマッピングを続けていった。

 

階層無視の砲撃が行われることのない階層は静かであり、地図の作成も捗る。

 

ゆっくりと休憩しながら地図を作成していてもモンスターに襲われることもなく、下の階層から砲竜の砲撃で攻撃されることもない。

 

「潜伏者」のスキルは精神力の消費もそこまで多くはないようで、発展アビリティ精癒の精神力回復があれば、長時間の発動が充分に可能だ。

 

流石に眠っている間は発動できないので、仮眠を取ることまではできないが、有用なスキルであるのは確かだろう。




潜伏

出典、この素晴らしい世界に祝福を、主人公のカズマ

身を隠すことが出来る盗賊スキル

潜伏スキル発動中は、敵の意識が使用者に向くことはない 
潜伏スキルを使った状態のカズマが相手に触れれば、触れた相手も一緒に潜伏することが出来る
ちなみにこのすばの世界では、アンデットには潜伏が効かないようなので、居場所が普通にバレるようだ


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第46話、ヴァルガング・ドラゴン

なんとか思いついたので更新しますが、本日2回目の更新になります
今回も短めです



階層ごとに詳細なマッピングを行いながら深層を降りていき、到着した58階層。

 

そこには同胞である筈のモンスター達を喰らっている巨大な青い竜達の姿があった。

 

飛竜のように前肢が巨大な翼となっている筈のヴァルガング・ドラゴンに太く強靭な四肢があり、翼を持たない竜となっている明らかな亜種で、同胞すらも喰らう強化種。

 

大きさとしては15メートルを越える巨大な青い竜、そんな強化亜種のヴァルガング・ドラゴン達が3体も存在している。

 

3体は連携して深層のモンスターを喰らっていき、血肉ごと魔石を貪っていた。

 

これ以上魔石を喰らって強化される前に倒しておいた方がいいと判断して、白大剣を構えた俺は「潜伏者」を発動したまま、青い砲竜に斬撃を繰り出す。

 

白いウダイオスのドロップアイテムから作られた白大剣は尋常ではない斬れ味を持つが、青い砲竜の鱗の強度は並みではなく、斬り裂くことなく青い鱗に弾かれた白大剣。

 

「潜伏者」を用いた不意打ちは失敗し、青い砲竜に此方の存在が気付かれて放たれた砲撃。

 

瞬時に「断ち切る力」を用いて空間を断ち切り、青い砲竜達の砲撃を防いだが、連続で絶え間無く放たれ続ける砲撃が止まる気配がない。

 

生身で受ければ確実にタダでは済まない砲撃の威力は、通常の砲竜とは比べ物にならないほど高く、連続で行われる砲撃の速度も早いようだ。

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

砲撃を防御する「断ち切る力」を用いたまま行う魔法の詠唱。

 

「流れる星よ、空を開け」

 

後半の詠唱によって効果が変わる詠唱変化魔法で、今回使う効果は空間操作。

 

「ムードメーカー」

 

空間操作による空間転移で転移するのは、砲撃が放たれ続ける現在地から少し離れた反対の場所。

 

青い砲竜達の真後ろに転移した状態で「断ち切る力」を解除した俺は「竜鱗鎧化」を発動して全身を竜鱗のような装甲で覆い隠す。

 

スケイルメイルを着用したかのような外見となった俺は白大剣を背負い、銀色の短槍を片手に駆けた。

 

身体能力と脚力に速度を「龍の手」で倍加し、止まることなく疾走しながら「戦場の支配者」を発動して反応速度を向上させて、青い砲竜達から放たれる砲撃を避けて進む。

 

凄まじい速度で放たれ続ける砲撃を避けきれずに直撃し、全身を覆い隠す「竜鱗鎧化」の装甲が砕けようが、爆炎で身体を焼かれようが前に進むことを止めることはない。

 

身体能力だけではなく腕力と投擲力も「龍の手」で倍加して投擲する銀の短槍。

 

凄まじい速度で飛んだ短槍が1体の青い砲竜の眼球に突き刺さった瞬間、更に身体を加速させて全速力を出した俺は跳躍する。

 

そして全ての勢いと身体能力に脚力と蹴りの威力を「龍の手」で倍加した状態で、渾身の飛び蹴りを短槍の石突に叩き込んだ。

 

オリハルコンすらも貫く強度を持っていた亜種のカドモスの角から作られた短槍は、とてつもなく鋭く凄まじい貫通力を持つ。

 

蹴りによって押し込まれた銀の短槍の穂先は、青い砲竜の眼球を貫いただけで止まらず眼底を貫通し、頭蓋骨を砕いて脳にまで到達していたようだ。

 

青い砲竜1体を完全に絶命させたところで、背から砲撃を放って加速した他の青い砲竜が此方に前肢を振るう。

 

避ける間もなく叩き込まれた青い砲竜の太い腕による攻撃で、勢いよく殴り飛ばされた俺は再生していた「竜鱗鎧化」の装甲も砕かれてしまった。

 

青い砲竜に殴り飛ばされて血を吐きながらも、立ち上がった俺は腰の鞘に納まった脇差の柄を握り、居合の構えを取る。

 

黒い刀身の脇差は、漆黒のスパルトイが持っていた黒い骨剣を素材に作成されたもので、白大剣と打ち合っても折れることがなかった骨剣は強度が高く、黒い脇差の強度も相応に高い。

 

放たれる砲撃を避けながらも意識を脇差に集中し、居合の構えのまま、青い砲竜へと接近し跳躍。

 

鍛えられたオリハルコンすらも両断することが可能な黒い脇差を空中で抜刀し、繰り出した居合は、スキル「龍の手」で威力と斬れ味を倍加されて、青い砲竜の胸部を斬り裂く。

 

それでも青い砲竜の魔石までは到達していない黒い刀身を翻し、納刀することなく砲竜の胸部へと突き刺した。

 

両手で握った柄に渾身の力を込めて、居合で斬り裂かれた青い砲竜の胸部に突き刺した黒い脇差の刀身。

 

骨肉を貫いて魔石まで到達した脇差の切っ先が、魔石を貫いて破壊する。

 

そうして2体目の青い砲竜を倒したところで、背から砲撃を連続で放って凄まじい速度で加速してきた3体目の青い砲竜が体当たりを仕掛けてきたらしい。

 

再び避ける間もなく直撃した3体目の体当たりで、撥ね飛ばされて宙を舞った俺の身体。

 

とてつもない威力の攻撃が直撃した全身が凄まじく痛いが、持ってきていたポーションは全て割れてしまっているようだった。

 

空中で体勢を立て直しながらスキル「秘伝の治療」を自分に用いて、自動回復の効果を発動させておき、回復力と自動回復の時間を「龍の手」で倍加しておく。

 

無事に帰れたなら、割れないポーションの瓶を開発するのも、悪くはないかもしれない。

 

俺がそんなことを考えて着地した瞬間に青い砲竜が砲撃を連続で放つ。

 

放たれた大火球の砲撃を回避していると、青い砲竜は最初に俺に倒された同種の死体へと近付いて、何の躊躇いもなく喰らいつく。

 

強化種でもある青い砲竜の魔石を血肉ごと喰らった同種は、更に強化された状態となり、より強力な存在となったのは間違いなかった。

 

深く息を吐き、武器を構えた俺に、咆哮を上げた青い砲竜が放つ砲撃。

 

強化された青い砲竜から連続で放たれた砲撃は、明らかに威力と速度が増しているようだ。

 

「断ち切る力」で空間を断ち切り、砲撃は完全に防いだが、発動中は精神力を消費する「断ち切る力」は、いつまでも使えるスキルではない。

 

「心理之王、御調子者、調子者」

 

「流れる星よ、空を開け」

 

「ムードメーカー」

 

後半の詠唱によって効果が変化する魔法を再び唱えて、空間転移を発動しながら「潜伏者」も同時に発動した。

 

頭上の空間に転移した俺に「潜伏者」の効果で気付いていない青い砲竜。

 

空中から落下しながら脇差と短剣の黒い刀身を振り下ろし、青い砲竜の両目を潰す。

 

目で見えない位置から相手を捕捉することが可能な砲竜は、両目を潰されようと此方の位置を正確に把握しているようだが、此方が何をやっているのかが見えなくなったのは確かだ。

 

放たれる砲撃を避けながら回収したのは、青い砲竜のドロップアイテムである牙。

 

スキル「竜鱗鎧化」で装甲に包まれた手に、短剣ほどの大きさがある牙を握り、駆けた俺は前に進む。

 

避けきれなかった砲撃が直撃しようと止まらずに、青い砲竜の胸部に牙を突き立て、スキル「竜鱗鎧化」で装甲に覆われた拳を牙に叩き込んで、更に深々と押し込んだ。

 

牙によって魔石を破壊された青い砲竜が倒れ、砲竜の身体が灰となる。

 

これで戦いが終わりかと思えば、怪物達の宴が発生し、大量に生まれた58階層のモンスター達。

 

それから襲い来る全てのモンスターを倒し、ようやく終わった58階層での戦い。

 

武器と魔石にドロップアイテムを回収してから空間転移でダンジョンを出て、自室に戻った俺は、とりあえず身体をポーションで治療しておくことにした。

 

ハイポーションと塗り薬のようになっているポーションで治療してから、疲れた身体をしっかりと休めておく。

 

次の日、神ミアハにステイタスの更新を頼んでみると、ステイタスがかなり上昇していただけではなく、ランクアップも可能になっていたらしい。

 

Lv7

 力:S986→SSS1452

耐久:S975→SSS1578

器用:SS1034→SSS1569

敏捷:SS1017→SSS1642

魔力:SSS1373→SSS1846

 

 幸運:A

耐異常:A

 神秘:A

 精癒:A

 格闘:B→A

敵感知:F→E

 

ランクアップする時に選べる発展アビリティは、堅守、魔防、剛身の3つのようだが、今回は堅守を選んでおくことにした。

 



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