太陽系制圧演習記録 (アメリンゴ二等兵)
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事前準備

全ては西暦2113年に起こった。土星の各スペースコロニー、土星衛星地表の基地や都市が国家として独立し始めたのだ。

それに対し地球は土星の貴重資源を守り抜くために、火星はテラフォーミングに必要な、主にメタンを確保するべく地球火星連合軍は土星へ艦隊を差し向けた。

こうして土星、主に各衛星地表で激しい戦いが繰り広げられた結果、土星各国家の独立は妨げられた。

しかし、土星各衛星群は独立をあきらめていなかった。

 

 

 

2163年6月7日 土星 ミマス 第3軌道ドック

 

マッケリー・ミアス整備士はミマス第3軌道ドック第7港へ向かっていた。しかし気分はどこかいつもの時とは違った。他人から見ても分かる程度には。どこか緊張しているようで、しかし高揚とした様子だった。しかし他人から「今日は様子が違うな、いいことがあったのか?」と言われてもマッケリーは「いつもどうりだ」と答えるばかりだった。たった一人、アルト・クロム伍長を除いては。

丁度マッケリーとアルトが出会った。「今日はやけに調子がいいじゃないか、マッケリー」「そりゃあ当たり前だよ、旧式とは言え大型戦闘艦の整備に行けるんだから」

そう、マッケリーにとってある意味記念すべき日だった。なぜならエンケラドゥス警備軍の旗艦、ウィリアム・ハーシェルの見学、、、もとい整備ができるのだから。

「しかし、お偉方は何を考えているんだろうな、各衛星の警備艦隊をわざわざ一箇所に集めるなんてな」アルトがマッケリーに質問をする。「噂では新型艦のテストらしい」マッケリーが答えた。

ここ最近地球火星連合と土星衛星群の対立は再び激化している。

なぜなら土星でも独自で大型艦、それも戦闘艦を建造できる技術力や軌道構造物を手に入れはじめたからだ。地球火星連合は公には海賊対策の一環、という理由で最低でも7割の軌道構造物を明け渡すように土星衛星群に通達しているが、土星衛星群はこれに反発しており、ますます対立が激化しているのである。

「しかし、これからどうなるんだろうな、俺たち」アルトが普段出さない感情、不安感を少しだけ出しながらつぶやいた。「なるようになるさ、きっと長生きできるさ」マッケリーはアルトももちろん、どこか自分にも言い聞かせるように言った。

二人が第7港へ到着するとアルトは「じゃあ艦艇の整備、頑張れよ」とマッケリーに向かって言った。「そちらもな、アルト」二人は別々の通路へ渡っていった。アルトは自分の家、、、もとい艦へ。マッケリーはエンケラドゥス警備軍旗艦ウィリアム・ハーシェルへ。

 

遠心重力区画を抜けてウィリアム・ハーシェルのもとへ向かうとマッケリーの上司とでもいうべき人物、黒井整備士が待っていた。

「おうマッケリー、遅かったな」威勢のいい声がマッケリーを出迎える。「そうですか?そうは言ってもまだ2時間ありますが、、、」マッケリーは不思議に思いながら返事をした。「それが上の都合でな、時間が繰り上げられてしまってな、もう作業が始まってるんだ」

マッケリーは不思議に思った、そんなに急ぐ必要があるのだろうかと。普通に他の衛星を巡るならあまり急ぐ必要はないはずだと、外大衛星群を除いては。

とりあえず悩んでいても仕方がないと考えたマッケリーはウィリアム・ハーシェルへ向かった。

 

ウィリアム・ハーシェルの船体にはすでに整備士があちこちで作業をしているのが見受けられた。艦首から見て兵装プラットホームは光学兵装のレーザー照射機の点検や冷却管の整備、VLSへのミサイルの補充、電磁力を用いた弾頭投射システムの電圧のテスト、艦中央では居住区画の点検、食料等の補充、装甲板のチェック、艦後部では機関の調整、装甲と一体化した放熱板の点検が行われていた、マッケリーの担当は、艦後部機関部の調整だ。

マッケリーはRCSの付いた宇宙服を装着し、艦後部へ向かう。そこでマッケリーは機関部に感銘を受けた。

当たり前だが民間の宇宙艦と軍用の宇宙艦は違いが多い。

その中でも特に違いが大きいのは、やはりエンジンを始めとする機関部だろう。なぜなら、民間船では普通に運用するならば決まったタイミングでエンジンを噴射すればいい。

発電機関に関しては居住性を保てるだけの電力を保てばいいからだ(たまにデブリ除去用の兵装を搭載したものもあるが)。

しかし軍艦ではそうはいかない。惑星間を移動するのはもちろん、敵艦のミサイルや弾頭等を回避するためのマニューバを実行するためのデルタブイ(艦船の航続距離みたいなもの)が必要になってくるからだ。

ともかくマッケリーはウィリアム・ハーシェルの機関に感動した。民間はもちろんのこと、そこらの戦闘艦の出力すらをも上回る機関、核融合炉に感動したのである。

ずっと見続けていたかったが仕事であるので適度なところで作業に取り掛かった。まずは燃料ペレットの燃焼率を調べるところからである。

ウィリアム・ハーシェルはレーザー核融合を採用している。細かい説明は避けるが細かい精度で燃料ペレットにレーザーを照射、ペレットを燃焼させるものである。しかし、艦船、特に軍艦に搭載されるレーザー核融合炉の精度はお世辞にも良いとは言えない。

というのも燃焼効率を上げるとその分設備が大型化し艦船のデルタブイが大きく削れてしまうのである。そのためある程度妥協した設計と出力になるのである。そして今、マッケリーはその使用に振り回されてしまっている。

「あと少し、こうか?いや、下がった」いくらコンソールをいじって数字と格闘してもなかなか「旗艦」にふさわしい数値が見えてこない。

そうして、しばらくいじっていると他の整備士から「おい、どれだけいじってるんだ?」と声をかけられた。マッケリーはふと我に帰り「すみません、どうしてもうまく高効率化しないんです」そうすると向こうから「よし、見せてみろ」とその整備士がやってきた。

「お前、名前は」「マッケリーです、、、あなたは」「原野だ」ぎこちない会話のあとしばらく静けさが訪れた。10秒ほどして原野整備士から口が開いた「お前、、新人か?」「はい、そうです」マッケリーが答える。そうすると原野整備士から「新人にしてはよくできているな」とマッケリーにとっては意外な発言が飛び出してきた「、、、ありがとうございます」マッケリーが答える。「よし、そろそろ作業も終了だぞマッケリー、艦の外に出るぞ」「分かりました」

二人は作業を終え、ウィリアム・ハーシェルの外へ出た。

 

 

ミマス 第三軌道ドック 作業終了から7時間後

 

寝室で休息をとっているとなにやら外が騒がしいのにマッケリーは気付いた。

外に出ると職員皆がドックへ向かっている。聞こえてきた会話の内容から察するに艦隊が出港するようだと気付いた。

アルトも出港しそうだと感づいたマッケリーは急いでアルトの居る第2港へ向かった。

到着したときには丁度出港し始めていた。

残念ながらアルトの乗艦しているフリゲート艦パンドラは見えなかったがウィリアム・ハーシェルを見ることはできた。

艦隊が陣形を整え終えてしばらくするとエンジンから勢いよく排気プルームを噴射し始める。同時に第3軌道ドックの職員は皆帽子を持った手を艦隊に向けて振り始めた。マッケリーも同じく振り始めつつ心の中では2つの感情をいだき始めた。

一つはウィリアム・ハーシェルを始めとした土星衛星群警備艦隊の眺めを見て感動している感情。

もう一つは、、、不安だった。

なぜ今の時期に艦隊を集結させているのか、もう一つはなぜこんなにも艦隊の集結と出港を急いだのか、、、。考えられることは色々あるがともかく、マッケリーはアルトを始め艦隊の乗組員皆が帰還できることを祈るばかりだった。

 



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初演習

2023年3月5日一部単位を修正いたしました


2163年6月10日 土星 タイタン低軌道上

 

 

ウィリアム・ハーシェルを旗艦とする第1艦隊はタイタンの低軌道を飛行していた。フリゲート艦パンドラ、そしてクロム伍長もそこにいた。

「いったいいつまでこんなところを飛行するつもりなんだ、、、」クロム伍長はレーダーのモニターをにらみながら呟いた。しかし、そのつぶやきは砲雷長のロン・レミントンに聞こえてたらしく「仮想敵が見つかるまでさ」と返されてしまった。

 

現在第一艦隊は内大衛星郡のミマスからはるばる外大衛星郡のタイタンへ演習のためやってきたのだ。しかしいつもとは一つだけ大きな違いがあった。それは仮想敵の位置が第一艦隊には知らされていなかったのである。

いつもの演習、特に火器管制演習では仮想敵の位置が安全上必ず知らされることになっていたのだが、今回は火器管制演習のはずなのに一つも敵の位置がわからないのだ。そのため第1艦隊の艦艇乗組員は皆、落ち着いていないのである。

「実は仮想敵がいないなんて展開だったらどうする?」レミントン伍長がクロムに話かける。クロム伍長は、「いや、ここまで艦艇を集めといてそれはないだろう」と落ち着きつつも、どこかそわそわした様子で答えた。

 

それからどのくらい時間が立っただろうか、流石にクロム伍長はイライラし始めていた、ずっと変わらないモニター、静かすぎる居住区、対Gシートに座り続けていることが、全て疲労として乗っかり始めていたからだ。これぐらいならレミントンが言ったとおりに本当に「仮想敵」が嘘の情報でこのまま帰れたらどれほど嬉しいだろうか、そんなことをクロムは考え始めていた。

 

 

2163年6月12日 タイタン低軌道上

 

今日もただモニターを見続ける日になると感じていたクロムにとってはいきなりすべてが遠心分離機にかけられたような日だった。

レーダーに反応があったのだ、仮想敵の反応が。

反応した途端クロム伍長は叫んでいた「レーダーに反応!敵艦です!」クロムにとってはこの上ない喜びだった。なぜなら様々な苦痛や疲労から開放されるのだから。しかし、それは長く続かないということをクロムはまだ知らない。

第1艦隊全艦が敵を補足したらしくウィリアム・ハーシェルから艦艇を敵艦へ加速させるように命令が下った。ロム・アラン機関長が「エンジン再点火します!慣性に気をつけて!」といった途端に、身体が対Gシートへ押し付けられるのが感じ取れた。

だんだん敵との距離が近くなっていく、距離が3万2千キロメートルを切ったあたりで遂にレオン・ノアス艦長が「光学兵装照射準備!各ブロック隔壁閉鎖!」と命令を下した。クロムは緊張し始めていた。いや、全員が緊張し始めていた。この先どうなるかは、誰にも予想できなかった。

距離が2万5千キロメートルを切ったあたりで変化が起きた。敵が光学兵器を使用し始めたのだ。「こんな距離で当たるものか!」航海長が一気に回避マニューバを取り始めたのと同時に第1艦隊全艦が陣形を崩し始めたのがレーダーでわかった。「航海長!ウィリアム・ハーシェルの護衛に回れ!砲雷長!この距離でも構わん!レーザーを照射しろ!」ノアス艦長が叫ぶ。「「了解!」」レミントン砲雷長とデニス・ミデラス航海長が同時に叫ぶ。

戦いはペースを増していった。レーダーでは敵味方ともにレーザ-砲戦が繰り広げられているのがわかる。

パンドラがウィリアム・ハーシェルについたときには距離は両軍ともに有効射程に入っていた。そして両軍ともに撃沈判定を受け、システムをシャットダウンした艦艇も見受けられた。しかし数ではこちら、第1艦隊が上、このまま数で敵を押し切るものかと思われていて時だった。

レーダーに新たな反応があったのだ「レーダーに新たな反応!」クロムは叫ぶ「何!?」ノアス艦長は驚いた様子だった。

新たに確認された敵艦は今相手にしている連中と全く違う。なぜならレーダーに反応しにくい上、動きが磨かれたものだからだ。(精鋭部隊、しかもステルス艦か、、、)クロムはそう思った。新たに確認された敵は今までの「仮想敵」とは思えない軌道でこちらに接近し始めていた。

そいつらは有効射程と思しき距離につくと一気に友軍へ襲いかかった。沈める速さも尋常ではなく一瞬にして3隻が沈められた。

「パン、ダフニス、アトラスが沈みました!」クロムはなんとか落ち着きながら状況を報告した。しかしそれでもなを、敵の勢いは止まらず遂にはウィリアム・ハーシェルにも食らいつき始めた。わずか数十秒だった、一瞬にしてウィリアム・ハーシェルの兵装プラットホームの各兵装は破壊判定を受け、機関もズダボロにされ遂には居住区にもレーザーが照射されたのだ、ウィリアム・ハーシェルは一瞬にして撃沈判定を受けた。あっけない最後だった。「これが最新鋭艦の力、、、か」クロムは呟いた。

 

しかし感傷に浸る余裕はない、敵艦がパンドラめがげて突撃し始めたのだ。我に帰ったクロムはすぐさま状況を報告する「敵艦複数!こちらに向かってきます!」ノアス艦長は少しだけ考えた後に艦長にとっては苦渋の決断を下した「これより本艦は艦隊を離れ敵艦隊へと突っ込む」1隻で敵艦隊へと突撃するのは普通ならあってはならない決断だった。しかしこうでもしなければ被害は増える一方だった。しかし逆説的な言い方もできる。それほど乗組員全員を信用していると。

 

「慣性に気をつけてください!一気に行きますよ!」ミデラス航海長が叫んだのと同時に様々な方向からGがかかるのが感じられた。「よーし、今までのお返しだ!」レミントンが叫ぶ。その途端だった、一気にパンドラは戦場の支配者となった。さすがにパンドラは比較的小型なためレーザーの出力も弱いがそれでも善戦した。敵のエンジンを焼き切り、VLSを暴発させ、居住区に穴を開けた。しかし、パンドラ、王者にも限界はある。あちこちで友軍艦を沈めた敵艦がパンドラへと魔の手を伸ばし始めていた。「更にGかかります!」ミデラスが叫び船体も悲鳴を上げ始める。しかしそれほどの機動を持ってしても遂にパンドラは被弾した。

「レーザー砲1,2使用不能!被弾した!」レミントンが報告する。「敵艦16!こちらに迫ってます!」クロムも続けて報告する。そして、遂には機関部に被弾した。「ダメです!機関出力20%!そろそろ停止します、、、!」アランの言葉を最後にフリゲート艦パンドラは遂に撃沈判定を受けた。

 

 

 

タイタン軌道上 パンドラ撃沈より5分後

 

「ひどいざまだな、、、」ノアス艦長はつぶやく。もはや敗北は決定的だった。残存艦艇はすべて大破しており撃破されるのを待つだけだった。演習とはいえ味方が沈んで行く様子を見るのは不快だ。

「もうちょっと、あとちょっとレーザーが照射できていれば、、、」レミントンは悔しそうにつぶやく「あれでも十分だったさ」クロムが慰めるようにレミントンに呟いた。

 

2163年6月12日 第1艦隊は壊滅した

しかしクロム、いやノアス艦長も気づいていなかった。本当の演習の作戦目標がタイタン地表にあるとは一つも思っていなかった。

 

、、、タイタン地表にて激しい戦闘が繰り広げられようとしていた。

 

 



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タイタン地上戦

2163年6月12日 タイタン高高度 

 

 

 

地球特化軌道海兵隊、通称ブルーチームの有翼降下艇に山野勇二等兵はいた。

山野はただひたすら緊張と使命感の重みに耐えていた。ただ純粋にとても重く、しかも全方位からくる重みに耐えていた。それは他の隊員たちにも言えた。ひたすら耐えているのである。しかしそんな彼らを許さないかのように降下艇は大きく揺れ始めた。

揺れるたびに、揺れは不安感となって心だけではなく、身体をも蝕んでいった。長きに耐えこのまま腐ろうとしていた時、救いの手、もとい声がかかった。しかし皆わかっていた。それが新たな地獄の始まりであると。

腐りつつある空気を消し飛ばすかのごとくマット・コルト大尉は声を上げた。

「お前ら!任務の時間だ!」その声の威圧は凄まじく船内にはびこっていた腐れを吹き飛ばす勢いであり、意気消沈としていた隊員たちの目を覚まさせた。「俺たちの任務は着陸地点チャーリーより10キロメートル先にある敵拠点の制圧だ!そろそろ着陸するぞ。全員!準備はいいか!?」「「ウーラー!!」」マット・コルト大尉と隊員たちが叫ぶ。「そろそろ着陸する、揺れに備えてくれ」パイロットが船内に放送を流す。山野の緊張は更に高ぶる。(初めての演習だ、、、くじくわけにはいかない!)山野は決心する。その時だった、船体が激しく揺れた、着陸したのだ。それと同時に降下用のハッチが開く、コルト大尉は声を上げる「よし、全員行くぞ!遅れるなよ」隊員たちはコルト大尉を先頭に敵拠点へ走って行った。タイタンの大気が戦闘用宇宙服越しに伝わる、とても冷たいのが感じられた。

戦闘用宇宙服は防弾と生命維持以外の部分は結構簡略化されている。なぜなら全て充実させようとなると、その分かさばるからだ。圧迫式宇宙服の量産により「動きやすさ」の問題はある程度解決されたがそれでも宇宙服は動きにくいものだ。だからこそ機能を最低限にしても、着心地が悪くなっても、特に軍用宇宙服は「動きやすさ」を注力しているのである。

タイタンの寒さに耐えながら行軍していると早速先に降下していたブラボーチーム、スカウトチームから通信が入った。「こちらブラボーチーム、早速だが敵が道中に防衛拠点を構築し始めている、真っ直ぐ行くのは危険かもしれない、だが、迂回するのも時間が足りないおそれがある、オーバー」それに対しコルト大尉が返事をする「感謝するブラボーチーム。危険は承知のうえで強行突破を試みる、オーバー」しばらくして、スカウトチームから返信があった「それなら近場に岩場があったはずだ、一旦そこに身を隠すといいだろう。スカウトアウト」コルト大尉が皆に呼びかける。「よし聞いたな、敵防衛拠点の5キロ手前で匍匐前進をするぞ、ただし時間はかけられない、急いで移動するんだわかったな?」皆は無言だがコルト大尉は隊員の目で判断した(異論は、、、なさそうだな)。こうして部隊は敵防衛拠点の5キロ手前まで行き匍匐前進を開始した。

 

匍匐前進も素早いものだった。なにせ軌道海兵隊であるそこらの歩兵とは経験が違う。(ここを突破すればあとは安全だ)山野はそう考えた。あと少しで岩場、そこについたら突破する方法をゆっくり隊長と考えよう。そう思ったときだった。突然だった、風切り音が聞こえたのだ。山野はそれが演習用とは言え弾丸であると気づくのに数秒かかった。

「チクショウ!、、、見つかった!仲間が撃たれた!」叫んだのは川島矢島二等兵だった。

「全員急いで岩場に向かえ!走っても構わん!」コルト大尉が叫ぶ。

山野ら隊員は急いで岩場に向かった。残念ながら途中で撃たれる隊員もいたが、助けることはできなかった。こうして数名隊員を失いながらもなんとか部隊は岩場にたどり着いた。コルト大尉が川島に質問をする。「最初に撃たれた隊員はどうなった?」川島が答える。「ダメです、即死でした」。演習とはいえこのようなことを聞くのは不快だと山野は思った。

しばらくの沈黙の後再び通信が入った、悪いニュースだった。「こちら軌道監視艇エピネテウス、悪いニュースだ、敵艦隊がそちらに向かっている、おそらくだが地表爆撃艦も何隻かいることだろう、エピネテウスアウト」

もはや手詰まりだった。防衛拠点を迂回すればタイムアウト、そのまま行こうにも危険、うかうかしていれば地表爆撃艦によって木端微塵にされてしまう。

しかしコルト大尉は答えを出した。

「、、、このまま突破するぞ、山野!川島!俺についてこい!他のものは通信あるまで援護射撃を!」山野らにとっては耳を疑う答えだった(ここを突破するのか?しかも僕らが?)山野の疑問を吹き飛ばすかのごとくコルト大尉は叫ぶ「山野!川島!行くぞ!」二人が走っていくのを山野は慌てて追いかけた。

激しく弾丸が飛び交っているのがわかる、すぐ耳元で風切り音がなっているからだ。

しかし幸運の女神は山野らに微笑んだらしい、一発も当たることなく敵拠点へ到着した、しかし勢いを止めることはない。止まったら死、もはやその勢いだった。

コルト大尉が叫ぶ「止まるな!このままの勢いで敵拠点を叩き潰すぞ!」山野らはとにかく自動小銃を打ちまくった。

体を止めたら死ぬ、指を止めたら死ぬ、寒さに負けても死ぬ、その勢いで敵拠点を制圧していった。気付いた頃には敵は降伏していた。

やっと勝った、山野はそんな気持ちでいっぱいだった。しかし背中をコルト大尉に叩かれて現実に戻った。

、、、まだ拠点が一つ残っている。絶望に陥りかけた山野をコルト大尉は現実的に慰めた。「安心しろ山野、敵はここらへんに集中していた、つまり残りの敵は少ないってことだ」山野はなんとか心を奮い立たせコルト大尉に答えた「そうですね、敵もあと少し、、、頑張ります」。

 

 

激しい激戦もあったが、今なんとか敵拠点の3キロ手前まで部隊は来た。

(あともう少しだ、、、)山野は自分を奮い立たせた。部隊は寒さと疲労で限界に近かった、しかし敵はまだ残っている数こそ少ないが舐めてかかるわけにはいかなかった。コルト大尉は皆に言った「よし他のチームが来るまでここで待機だ、今のうちに体を休めておけ」。ありがたい言葉だった、最も寒さで凍えそうなことを除けば。

数分が過ぎた、予定では数分もしないうちに合流する手筈だったのだが来ないのだ。部隊が不安になりつつあった頃ようやく他の3部隊が敵拠点付近に到着した。

コルト大尉がほかの部隊に状況を聞く「お前たち、遅かったじゃないか、何があった」「こちらでも敵部隊と遭遇、数名がやられました」。状況は思ったより最悪だった、なぜなら他の部隊も攻撃を受けた上、敵拠点の防衛が固くなったおそれがあるのだ。しかし、希望は残っている、こちらには2両だけだが空挺戦車があるのだ。ここまで来たからにはやるしかなかった。

コルト大尉は言った「よし、俺が全体の指揮をとる、戦車を前に出すぞ」。こうして今演習最後の戦闘が始まろうとしていた。

 

2163年6月12日 演習開始より5時間後

 

 

戦闘は最初から激しいものとなった。戦車が前に出て敵弾を防ぎつつ演習用榴弾を撃つ、後ろの歩兵が戦車では狙いづらいところの敵や対戦車兵を撃つ、完璧な流れだった、とある通信が来るまでは。

エピネテウスからだった「こちらエピネテウス!だたちにそこを離れろ!」。しかしそこで通信は途絶えてしまった。コルト大尉は叫ぶ「どうしたエピネテウス!答えろ!」その時だった、目の前の敵兵が倒れ始めたのだ。

「何が起きているんだ!?」山野は思わず叫ぶ、しかし本部からの通信ですべて分かった「こちらHQ、直ちに任務を放棄し撤退せよ、敵地表爆撃艦が爆撃を開始した、繰り返す、、、」。

コルト大尉は叫んだ「お前ら!聞こえたな!?さっさとここから逃げるぞ!敵はすべて破壊し尽くすつもりだ!」こうして部隊全員は撤退を開始した。恐ろしいことに敵はこの状況下でも反撃していた。

「演習とはいえコイツら、正気か!?」川島が絶叫する、とにかく最後はめちゃくちゃだった。あちこちで弾丸が飛び交い敵味方問わず仮想爆弾によって吹き飛ばされていた。しかしそんな中でも山野、コルト、川島を始めとした数少ない人員は脱出に成功した、あとは敵味方問わず木端微塵にされていった。そんな中本部から連絡が入る「これにて本演習は完了とみなす、総員帰還せよ」。

山野らは安心感とともに不安感を覚えた、なぜ敵は誤爆をしてまでブルーチームを狩ろうとしたのがわからなかったからだ。(案外戦争は近いのかもしれない)山野のみならずブルーチーム、いや今回の仮想敵さえもそう思い始めていた。

 



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タイタンの空で

2163年6月16日 タイタン 第13空軍基地 3時55分頃

 

 

 

ダニエル・レモンド少尉とブライアン・リモア大尉は格納庫へ向かっていた「ここ最近演習の予定でみっちりらしいっスね?大尉」。レモンドがリモア大尉に質問をするが「私語は慎め、可能ならTACネームで呼べ、ランス」と返されてしまった。

(ホント、頑固なやつなこと、、、)と、レモンドは心の中で思いつつ通路を歩く。

歩き続けていると丁度目的地とは別の格納庫から出てきたであろう今回のAWACS、コールサイン「ホークリーダー」ことローウィ・アスト少佐に出くわした。「お、こんなとこで会うとはな、ちょうどいいブリーフィングルームに来てもらおうか」ランスとリモア大尉ことTACネーム「ライト」はブリーフィングルームへ向かった。

 

ブリーフィングルームは思ったより人が少なく静かだった。アスト少佐は部屋の奥の方にあるコンソールを操作するとともに「二人共、かけたまえ」と声をかけた。

二人が席につくとブリーフィングが始まった「結論から言おう。今回の演習は空対空戦だ」。(よし、久々にこのときが来たか!)とランスは思った。アスト少佐は一息置いて言葉を続けた「まずは目標空域に向けて飛行してもらう、空域には無人機をいくつか配備しているこれと模擬戦を行ってもらう。それと、、、相手が無人機だからと言って気を抜くなよ、近くには無人機の通信母機が待機しているからな。0800まで模擬戦を行ったらそこから空中給油をしてもらう、その後また模擬戦を1000まで行い模擬戦は終了、帰還という流れだ、、、質問は?」沈黙が少しの間続く。質問がないと判断したアスト少佐、いやホークリーダーは口を開いた「よし、それでは早速格納庫へ向かうぞ、出撃の時刻は0500だ、少しは余裕があるからなしっかりと準備をしろ。以上」。ランスとライトは席から離れ格納庫へと向かった。

格納庫につくとすでに準備万端の愛機、F/A-44が待機していた。ランスは近くの整備士に声をかける「今日はやけに準備が早いじゃないか」整備士が答える「そりゃあしばらくぶりの空戦ですからね、機体が悲鳴を上げないようにしないとですからね」。ランスにとってなんとなくではあるが心強い答えだった。

ランスは待機室へ向かった、待機室へ向かうと自分のロッカーを開きタイタン専用に開発された宇宙服のような耐Gスーツへと着替え始めた

耐Gスーツは先も言った通り宇宙服のようになっている。これはタイタンの厳しい環境からパイロットを守りつつパイロットに優れたパフォーマンスを提供する環境を作ろうとした結果宇宙服のようになったのだ。しかし、お陰で着たり脱いだりするのは非常に手間のかかるものになってしまっている。

なんとか苦戦しつつも耐Gスーツを着たランスは機体のもとへ歩いて行った。途中で駆けつけた整備士に予想外のことを言われた「ホークリーダーからです、訓練開始を繰り上げるそうです」ランスは「いつから開始だ?」と返す。整備士から「0450からです」と言われたランスは慌て始めた。

ランスは整備士をそっちのけで機体に乗り込んだ。ランスは機体に向かって「よーし久々の空戦だぞ、相棒」というとコックピット内のタッチパネルを操作し始めた。準備が進むに連れて周りの整備士たちの動きも慌ただしくなっていく。エンジンのスタートを終え、キャノピーを閉めた頃、ランスは管制塔に向かって通信を始めた。

「こちらバルキリー1-2格納庫内の換気を開始してくれ。」管制塔が答える「了解したバルキリー1-2、10秒後に換気を開始する」。その通信から10秒して換気システムの稼働音が格納庫内に響き出した。40秒ほどで換気は完了し機体もエンジン音以外静かになった。「バルキリー1-2、これより格納庫のドアを開ける。滑走路にはすでにバルキリー1-1が待機している」ランスは答える「ありがとう管制塔これより滑走路にタキシングする」。

 

F/A-44は滑走路にタキシングし始めた。心なしか管制塔から視線が集まっている気がする。気が乱れそうなのを我慢して滑走路にタキシングをする。滑走路につくとバルキリー1-1、ライトから通信が入った「1-2ホークリーダーはすでに空に飛んだようだ、俺たちも上がるぞ」ランスは「了解です、1-1」と返事を返した。

数分して管制塔から「よし滑走路に異常はなし、離陸を許可する。良い狩りを」ランスたちはエンジンのスロットルを全開にしてタイタンの薄暗い空へと飛んでいった。

 

タイタン上空 7時50分

 

目標空域に到着するとAWACSから通信が入った「よし、予定より早いがまずは長距離から空戦を行う、準備はいいな?」ランスたちは「「ウィルコ」」と答える。

2人は無人機の群れに対してフルスロットルで飛行していく、その時ライトがランスに向けて通信をする。「いつものスタイルで行くぞ1-2」ランスは「了解1-1」と答えた。無人機が有効射程に入った時二人は同時にミサイルを発射した、それと同時に2機は複雑な機動を描きながら無人機の群れに突っ込んだ。「俺が囮になる、お前は機銃で無人機を確実に仕留めろ」ライトがランスに言った「了解」ランスは手短に返事をする。二機ともその機動はとても「人を殺すための機動」とは思えないほど美しかった。二人にとってこれは簡単なものだろうが、一般兵からするととても真似できたものではなかった。無人機はそれに対抗して数と機動性を生かして二人に襲いかかるが、長年組んできた二人からすれば子供の遊びに付き合っているそうなものだった。

二人が空に機動を描いているとAWACSから通信が入った「よし、そろそろ良い時間だ、空中給油を受けろ」。ランスは気づかなかったが結構時間が立っておりタイタンの空は少し明るくなっていた。

空中給油も二人にすれば子供の遊びのようだった。しかしその速さのあまりにいつも空中給油機側の人間がいつか事故を起こすのではないかとひやひやしていることを二人は知らない。

スイッチが入っているのか空中給油の間も二人は静かだった。しかし、そこにAWACSから通信が入る「給油が完了したら今度は二人で格闘戦を行ってもらう」言葉には出なかったがランスにとっては意外な指示だった。反射的に(やはり上層部は地球と火星に喧嘩を売るのか?)と考えたがすぐにこの考えは脳の隅に追いやられた。給油が完了した二人はAWACSの指示が来る前にもう距離をとっていた。「まずはランス、お前から仕掛けろ」ランスはすぐにライトの後ろについた。少しずつ距離が狭まっていく、そしてタイミングは来た。反射的にランスは機銃のトリガーを引いていたがライトには当たらなかった。しかし回避したライトをランスはこれでもかと追い詰める、それと同時に体が押しつぶされそうなのがわかる。二人の動きは完成させられていた、まるで芸術だった。

しかしこれはあくまで空戦、何らかの形で終わりは来る、ライトが雲の中に入る(逃がすか)ランスも雲に入る。しかしランスは判断を誤ってしまった。突然ライトは急上昇したのだ、ランスも追う。しかし雲を抜けた先に待ち構えてたのは、ライトのF/A-44の機首だった。避けるまもなくコックピットに機銃の直撃判定を受けた。

その後も何回か交代交代で攻守を入れ替えて空戦を行ったが遂にはランスが勝つことはなかった。

 

タイタン 第13空軍基地13時頃

 

二人は滑走路に着陸した、そして格納庫へとタキシングしていく。その時管制塔から通信が入る「よしこのまま1-1は第11格納庫へ、1-2は第15格納庫へ入ってくれ、二人共お疲れ様だ」。

ランスはそのまま第15格納庫にタキシングし換気が終わるとコックピットから出てきた。「ああ、今日はやけに疲れたな」ランス、もといレモンドは近くにおいてくれたコーヒーメーカーからコーヒーを淹れ、ゆっくり飲みつつ脳の隅っこに置いていたことについて再び考え出した。(火星と地球に喧嘩を売ったとして俺たちは勝てるのだろうか?勝ったとしても俺は生き残ることができるのだろうか?)

 

戦争の足音はゆっくりとだが近づきつつある、、、



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進展

2163年6月24日 土星 エンケラドゥス 第7都市

 

 

先の演習にて第1艦隊を殲滅した艦隊の旗艦、ジョヴァンニ・カッシーニの艦長こと西井暁少将は頭を抱えていた。(彼らをどのように扱えと言うんだ、、、あっちも人手不足なんだぞ)。

土星連合はとにかく人手が足りなかった。どのくらい人手が足りないかというと、一時期一部の階級を削ろうという話があったほどだ。そして今、西井少将はこれに振り回されていた。

 

数時間前

 

西井少将はミド・スチュアート中将から連絡を受けていた。

「西井君、先の演習についてだが、、、」スチュアート中将が落ち着いた声で話す。「はい、何でしょう」西井少将が返事をする。「報告書によれば、カッシーニを始めとする新型艦の性能試験はうまくいったようだな」ありがとうございますと西井少将が喋ろうとしたときだった。「しかし、一隻の艦のために少し手こずったようだな、少将?」と続けてスチュアート中将が口を開いたのだった。「それは、、、申し訳ございません」西井少将はとっさに謝罪したがスチュアート中将からは「いや、謝らなくてもいい、むしろ興味がある」と西井少将にとって意外な発言が飛び出してきた。

「その君を手こずらした艦の名前はなんといったかな、少将?」西井少将は答える「パンドラというようですが」しばらく間を置いたあと驚くような発言をスチュアート中将はした「彼らに興味がある、この通信が終わり次第彼らについて調べてもらえないかね」。

西井少将は驚いた。ただでさえ人手不足なのに警備艦隊から更に人材を抜こうとしているのだ。

西井少将は異論を出した「しかし、もうすでに精鋭艦隊、、、いえ第11艦隊はすでに満足の行く戦力なのではないでしょうか。それにこれ以上削るのは土星の防衛力低下につながるおそれが、、、」しかし「それを見越してのことだ、我々はまだ戦力を欲しているのだよ、西井君」とスチュアート中将に話を切られてしまった。「、、、分かりました、通信が終わり次第調べましょう」西井少将は仕方なく要件を受け入れた。「それでいい、では頼んだぞ西井君」スチュアート中将はそれで通信を切った。

 

2163年6月25日 エンケラドゥス 第2軌道港

 

フリゲート艦パンドラの乗組員は食堂にいた。

「全くこの前はひどい目にあったな」アルトがロンにつぶやく「そうだな、もっとこう、うまくいくものかと思ってたぜ」ロンが返す。ひどい目にあったのは演習のことだけではない、それは帰還途中に起きた。

第1艦隊が帰還中、仕方がなくデブリの雲を通り抜けることになった際にしっかりとレーザー防護もしていたのだが、不幸にも比較的大きめのデブリがパンドラに直撃したのだ。

幸いにもけが人はいなかったが、パンドラが損傷したがゆえに帰還が数日遅れたのだ。

「もっと監視していればな、、、」アルトは落ち込み気味に喋る「いやいや、防御の担当は俺だからさ、君は悪くないさ」ロンがアルトを励ました。

そうこうしていると突然二人に声がかかった。声の主は機関長のロムだった。「二人共、こっちに来い艦長からだ」。二人は不思議そうな顔をしながらロムのところへ近寄った。

ロンがロムに質問をする「いきなり呼んでどうしたっていうんだ?」ロムが答える「とても大事な話だそうだ、俺たちの人生に関わるぐらい」アルトとロンはその言葉を聞いた途端緊張し始めた。「俺たちなにかしたか?」ロンはアルトに質問をする。アルトは「さあな、行ってみなくちゃわからん」と答えた。

その後三人は航海長のデニスと艦長のレオンと合流した。「、、、よし皆揃ったな」レオンは続けて話す「上層部から連絡があった、パンドラの乗組員を集めてこいとな」デニスは不安そうにレオンに尋ねる「やっぱりデブリにぶつかったのがまずかったんじゃあ、、、」レオンは答える「さあな、そのときは謝れば済むだろう」しばらく沈黙が続いたあとレオンは口を開いた「よし、それじゃ通信室に向かうぞ」。こうして皆は通信室に向かった。

通信室に向かうとすでにオペレーターが待機していた「ノアス艦長ですね?」オペレーターが尋ねる「ああ、そうだ」ノアス艦長は答えた。オペレーターは「今すぐ繋げますね」といい作業を始めた。5人は目的の人物が映るであろうディスプレイの前に立った。

それから30秒ほどして目的の人物はディスプレイに映った。

「私は西井暁少将だ。君たちがフリゲート艦パンドラの乗組員だな?」。5人はうなずく、「君たちには伝えなければならないことがある」西井少将は重々しい声で5人に話す。5人と西井少将の間には言葉にできないほどの緊張が走っていた。しばらく間を置いて西井少将は自分の決意を話した。

「君たちには来月付で第11艦隊に移ってもらう、、、早い話が栄転だ。おめでとう」5人はその言葉を聞いた瞬間にへの口になった。(万年平伍長な自分たちが、、、昇進?)アルトは心の中で疑問に思った。が西井少将は待ってくれない「安心したまえ、階級の昇進もさせよう、それに、、、」西井少将の話が進むに連れて、5人の疑問は深くなるばかりだった。なぜ自分たちが、何故このタイミングで、そもそもまだ警備艦隊から人材を引き出すのか、、、など疑問は深くなるばかりだった。

こうして長い通信も終わり5人は食堂に戻っていった。

「いや不思議すぎる、、、」ロンが不安そうにつぶやく「やっぱり戦争のことか?」デニスが言葉をかける「それもあるけど、それなら警備や防衛の艦隊の増設を検討しないかい?」「たしかになあ」デニスはロンの言葉に納得する。そこにアルトが「先制攻撃のため、、、と?」と二人に話しかけた「今考えうる限りではそうだろうな」デニスはうなずく、ロンは「じゃあ僕らとんでもないところに送り込まれるってことか!?」と顔を真っ青にし始めた。「「どういうことだ?」」アルトとデニスはロンに質問をする、ロンは少し落ち着いたあとゆっくりと話し始めた「これは噂なんだけど、死の数秒間って知ってる?」アルトとデニスは物事の深刻さを理解し始めた。

 

死の数秒間、それは恐ろしい、ある種の精鋭部隊になるための儀式のようなものだ。簡単にいえば土星の環に突っ込むと言うものだ。

土星の環は厚さ20メートル程しかないがそれでも大量の石の集まりに軌道速度で突っ込むのは自殺行為だ、並の船や乗組員では一瞬にして蜂の巣かバラバラになるのが関の山だろう。

その儀式のある種犠牲者になる可能性が出てきてしまったのである。

3人は顔をしかめ始めていた。

 

数十分後

 

「よく決定してくれた」スチュアート中将が喋る「、、、ありがとうございます」西井少将は複雑な心境で答えた。

スチュアート中将は言葉を続ける「君には死の数秒、失礼対デブリ雲突入訓練に使う艦の選定を行ってほしい」西井少将は驚いた様子で「私が、、、ですか?」と答えた。スチュアート中将は「そうだ君が行うのだ、なにせ君も昇進する予定だからな」と西井少将にとって驚くべき事実を話した(この私も、昇進だと)西井少将は心の中で驚いた。

「さて対デブリ雲突入訓練の艦はともかく彼らが生き残ってた場合に譲る艦の選定も行わければな」スチュアート中将は忙しさを表現するかのように喋った後通信を切った。

西井少将は呆然としていた。自分さえも昇進するのだ、きっとスチュアート中将も昇進するに違いない。これが意味するのは考えうる限りでは士官を増やすこと、きっと人材の消耗にも対応するためなのだろう。近年の世界情勢、艦隊の攻撃性を考えればやはり、上層部は先制攻撃も視野に入れてるに違いない。

気づけば戦争の足音を不安視する西井少将自身がいた。

 



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トレーサー

2163年6月27日 土星衛星軌道 廃棄ステーション

 

 

コルト大尉は隊員らをデブリの影に隠しながらステーションを監視していた、いつでも突入できるようにだ。

「ブラボーチーム、ドローンの状況はどうなっている」「まだ変化が見受けられません」この数十分この会話ばかりだった、あまりの変化の無さにコルト大尉は不思議に思いつつあった。(そろそろ良い時間のハズだが)コルト大尉がこのまま時間が過ぎいつか正面から突っ込むことになると思い始めていた頃だった。

「見つけました!例のブツです!」ブラボーチームから連絡が入る。「よしこれからウェイポイントロンドンまで隠密で行動するぞ。360度警戒を怠るなよ」コルト大尉らはデブリの影から出て行動を開始した。

ステーションは非常に巨大で複雑で21世紀のステーションとは比べ物にならないほどだ。そのため隠密行動は簡単に思えるがそうはいかない、ここはあくまで宇宙空間だ全方向に監視を置くことができるある意味両チームともに想像力が試されているのである。

「こちらブラボーチーム敵歩哨を確認、そちらに向かっている」コルト大尉は応える「了解、こちらで排除する」コルト大尉らはしばらくその場で待っていると上方向から敵歩哨がやってくるのが見えた。「よし山野、タイミングを合わせて撃てよ」「了解」二人は物陰に隠れタイミングを見計らった。5秒ほどで「撃て!」コルト大尉が合図を出すと同時に二人は弾丸を発射した。歩哨を無力化したところでコルト大尉は「奴らにバレるのは時間の問題だ、ウェイポイントロンドンまで急ぐぞ」と合図を出した。

宇宙空間で迅速に移動と聞くと簡単そうに思えるが実際は難しい体を動かすのはもちろん、RCSユニットの操縦に加え今回は隠密である。下手にRCSを吹かすと熱源探知でバレる下手に体を動かしても目視などでバレるのである。しかし彼らは軌道海兵隊であるもうこんなのは手慣れたものである。

敵の監視ドローンや歩哨に気をつけて進み多少手こずったもののウェイポイントロンドンに着くことができた。

「全員予定の配置につけ、銃撃戦の用意だ」コルト大尉は指示を出す。作業は順調に進んだ。

40秒ほどして「全員配置に付きました」川島から連絡が入る「よし、、、やれ!」コルト大尉が指示を出した瞬間ステーションは一瞬にして地獄となった。

山野は今目の前で起きていることについていけなくなりそうだったがなんとか銃の照準を敵に合わせて打ち始めた。

ステーションのあちこちではトレーサーが確認できた。もし遠目から確認できたら誰もが美しいと思うだろうが本人たちにとってはある意味命をかけた戦いであるのは言うまでもない。

弾丸は演習用とは言え、あらゆるものを破壊していった。発電用のソーラーパネルや使われなくなった核分裂炉、軌道維持用のエンジンノズル、与圧区画の壁等あらゆるものを破壊した。無論兵士もである、流石に宇宙服を破ることはないもののそれでも弾着時の衝撃は凄まじく言葉にできない感情に襲われる。

地獄は4分程続いた。やっとトレーサーが落ち着き始めた、しかしそれは人が減ったからではない。敵がステーション内部に退却し始めたのである。

「クソッ、仕留め切れなかったか」コルト大尉は厄介そうに呟いた。そうこの後想定できるのは一つ屋内戦である。

宇宙空間における屋内戦は非常に厄介である、なぜなら遮蔽物が浮いているのである。つまるところ遮蔽物とともに移動することが可能だったり重力下では考えれない位置から奇襲を仕掛けることも可能なのである。そのため宇宙空間においては防衛側は非常に有利なのである。しかし攻撃側も同じことはある程度できる「ブラボーチームこっちに来てくれ、そしたら爆薬を指示する場所に設置してくれ」コルト大尉が指示を出した。1分ほどでブラボーチームは到着した。コルト大尉はハンドサインで隊員らに突入する場所の指示を出した。

演習時も爆薬の取り扱いには気をつけないといけない。仲間もそうだが敵の位置にも気をつけないと報告書の量が増えるどころか軍法会議にかけられかねない。

全員配置に付き爆薬の設置が終わりあとはコルト大尉の指示を待つだけとなった。コルト大尉は慎重だった先も言った通り敵の位置味方の位置に気を配らないといけないからだ。

そしてその瞬間はやってきた「よし、起爆しろ!」コルト大尉の指示で爆薬が起爆された。ステーションのあちらこちらで破片が飛び散っているのがわかる。しかしコルト大尉らの目的はステーション内部である。

「突入だ!ゴーゴーゴー!」コルト大尉が叫ぶと隊員らも一気に突入した。破片をのけながらステーションに突入しつつ敵兵には弾丸を浴びせた、今度はステーション内部が地獄となった。弾丸は先の通りあらゆるものを破壊した。ステーションの壁から壁の所々についている電子機器、遮蔽物までありとあらゆるものを粉々にしていった。しかしいくら破壊しても敵兵はあふれるばかりに前線に出てきた、コルト大尉は仕方なく「クソ、、、仕方がない、一度ステーションの爆破箇所に退却するぞ!」と指示を出した。

味方たちはゆっくりとだが安全かつ確実に爆破箇所まで交代していった。しかしただ退却しただけではなく所々にブービートラップを仕掛けながら退却したのである。こうしてコルト大尉らは爆破箇所まで後退することに成功した。「これからどうするんです」山野が質問する「こうなったら直接ブツを取りに行くぞ」コルト大尉は「ブラボーチーム、ステーションにどこかちょうどよい亀裂はないか!?」と情報に探りを入れた。すると「あるぞ、目標から60メートル手前に亀裂がある。人一人分のな」。それを聞いたコルト大尉は指示を出した「山野らはここを死守しろ、川島、俺について来い」「了解」こうしてコルト大尉と川島は亀裂に向かっていたが途中で敵に出くわすこともあった。

(流石に守りは薄いが敵も気づいてたか)コルト大尉はそう思いつつ亀裂に向かって進んでいった

亀裂に到達した二人はまずは同時に演習用グレネードを亀裂に投げ込んだ。爆発を確認した二人は慎重に中に入っていった。亀裂側にはあまり敵はいなかった、まず二人は目標のいちを確認することにした。道中かなりの敵に遭遇したが二人にとってはあまり脅威ではなかった。こうして目標にたどり着いたが、雰囲気がどこかおかしかった「、、、何かがおかしい」「そうですね、、、僕もそう思います。とりあえずマッピングして味方の支援に行きましょう」「そうだな」二人はマッピングしたのち、敵の背後に奇襲をするべく進んでいった。

こうして敵の背後についた二人はタイミングを合わせて敵部隊に奇襲を食らわした。

奇襲とは言え非常に鮮やかな技だった。的確に敵の頭部を狙い確実に1発で仕留めていったのだ。それもミスなく。

二人の活躍により味方部隊は危機を脱した、川島は部隊に状況を伝えた。

「目標のブツを確認したんたが。何かがおかしいんだ、とにかく来てくれ」。皆は川島とコルトに案内されて目標のあるところについた。

 

演習開始より2時間後

 

隊員らは目標の入ったコンテナ前に到達した。

確かに雰囲気はどこかおかしいというよりおぞましいものがあった。「一体何が入っているんだ川島」山野が質問をする「いやまだ開けてない」川島が答える。

「よし、、、何が入っているかわからん。総員警戒してコンテナを開けるぞ」コルト大尉はコンテナのコンソールを操作し始めた。全員銃を構える、コンテナが開かれた時、全員おぞましさの意味を知った。

コンテナの中には更に小さな厳重に保管されたコンテナ。だが問題はそっちではない、箱に書かれた黄色の背景に書かれた黒いクローバーのほうが問題だった。

川島が恐ろしげに喋る「これ、、、演習用だよな。な?」全員は黙ったままだった。その時司令部から演習終了の合図が送られてきた。

「、、、とにかくコイツを運ぶぞ。川島、いや山野、手伝え」。

 

川島はこんなことを考え始めていた。

 

いつしか地球火星連合軍の基地を強襲し、これと同じようなものを盗むんじゃないかと、そしてそれを前線で使うのではないかと考え始めていた。

 



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嵐の前の

すみませんかなり期間が空いてしまいました。
下手になってるかもしれないですし誤字脱字もあるかもしれませんが温かい目で見守っていただけると幸いです。
それではお楽しみください。


2163年6月29日 エンケラドゥス高軌道

 

誰が見ても年代物とわかるほど古い船が軌道上を佇んでいた。

船首には対放射線兼デブリ用シールドが溶接されており、船体中央には与圧区画とその後ろに出力は低めの核分裂炉、エンジンには核分裂炉で発生した熱を利用する熱ロケットが取り付けられている…本当にシンプルで古い設計の船だった。

しかしこの船の乗組員の運命はとても重いものだった。

かつてパンドラという小型フリゲート艦の乗組員だった5人組は今、土星の環に向かって飛行しようとしていた。5人組のうちの一人レミントンが弱々しくつぶやく「ああ、あんなところで活躍するんじゃなかった。活躍しなければ…」しかしこのつぶやきは5人組のリーダー、もといノアス艦長にも聞こえてたらしく「気持ちはわかるが弱音を吐いてはいかん。これは任務なんだ」とレミントンは言われてしまった。

しばらくの沈黙が続いた後アランが「…あとどのくらいで出港何だ?」とクロムに質問した。「あと1日ですよ機関長」「チクショウ…あと1日もこの空気に耐えないといけないのか」。

船の中は重々しい空気で満たされていた。というのも彼らは対デブリ雲突入訓練、通称死の数秒間に参加することになってしまったのである。死の数秒間は名前からも察しがつく通り、死亡率の非常に高いものである。そんなものに行くことになって喜ぶ者はそうそういないだろう。

また静寂が船内を支配し我慢の限界に達しようとしたときだった。ミデラスが放った一言で少しだけ救われることになった「皆さん…その、もうそろそろ食事の時間では?」。

食事も簡素なものではあるが地獄のような空気よりかは何倍もましだ。各々食事を取りに船内後方へ行った。

食事を取りまた各々の席に付き食事を取り始めた。とは言え誰もが沈黙の中過ごすと思ってた、そしてそのとおりになるはずだったが。

突然通信が入った。クロムは急いで通信を立ち上げた、通信内容は<そちらの軌道に接近する複数のデブリがある、こちらの指示通り回避せよ>という内容だったクロムは急いでノアス艦長に報告する。

「こちらの軌道に接近するデブリが確認されたようです。至急回避マニューバを」「分かった、航海長回避マニューバを取れ」「了解です。機関長エンジンはどうだ?」「いつでも行けるぞ」。

たったひとつだけの行動とは言え一度命令が下るとエンジンが入るのが旧パンドラ組の良いところであり、今回死の数秒間に選ばれてしまった原因でもあった。

機関に火がつけられいつでもマニューバが取れる体制になったときだった。突然艦長が「皆、聞いてくれ」と言った。皆が驚いたかのように艦長の方へ振り向く。

艦長は言葉を続けた「ここ最近で君たちと任務をこなしてきて君たちの良さがわかって来た、そして感謝している。君たちのおかけでここまでこれたんだ。絶対死の数秒間も乗り越えられると信じている…以上だ」。突然の感謝の言葉に乗組員は動揺したがミデラスは任務をこなした「エンジンに火が入りますよ加速度は0.8G、準備はいいですか?」その言葉で現実に戻った皆はうなずいた。「エンジン噴射回避マニューバ実行」航海長が言った途端船内に慣性重力が発生した。それは皆にとってどこか懐かしい感触がするものだったが一瞬で終わってしまった。

 

それから約1日

 

一度心に火がついたがゆえか船内の空気が地獄のようになることはなく遂に出発の日を向かえた。

「もうそろそろ1日が経ちます、HQからの通信があるはずです」クロムがノアス艦長に報告をする「分かった。ありがとう」。そこにレミントンが「一時期はどうなるかと心配でしたよ」と言ったが、「砲雷長まだ任務中だ、それに山場をくくり向けてもいないのだからな」とまた言われてしまった。

そのタイミングで通信が入った。クロムは通信に出ると<そろそろ出撃マニューバの時刻だ、指定する方向に船首を向けてくれ>との通信を受けた。クロムは同時に受け取ったデータをノアス艦長の席に送信した。

「よし航海長、指示する方向へ船首を向けろ機関長、機関を立ち上げろ」と指示を出した。機関長と航海長は「「了解」」と返事をした。

そしてマニューバ実行のときは来た「機関異常なし進路よし、マニューバ実行まで3…2…1…」航海長が言い終えると同時に船内に慣性が発生した。生死をかけた運命の航海が始まった。

 

 

 

エンケラドゥス低軌道 司令部

 

西井少将とスチュアート中将は通路を歩いていた、司令部に係留されている新鋭艦を視察するためにだ。

スチュアート中将は質問をする「西井君、彼らはやってくれると思うかね?」「そればかりは私にもわかりかねます、しかし人的資源の観点からは成功してほしいものですが…」「そうだろうね、私としても成功してほしいものだよ、それに正直言ってこのテストは何も利益を生み出していないしね」。スチュアート中将の本音を聞いた西井少将は頷いた、同じ思いなのだ。「そういえば今回の新鋭艦の艦名を聞いていませんでしたね、なんというのでしょうか」西井少将は質問をするが「フフ、艦を見てからのお楽しみだよ」と返されてしまった。

こうして司令部の外装に近い通路を歩き続け遂に宇宙と艦を見られる窓のある通路に到着した。

「西井君、見給えあの新鋭艦を」。

艦を見た西井少将は驚いた。なぜなら今まで様々な艦艇を見てきた西井少将でさえも見たことのない艦影だったからだ。

「スチュアート中将…これは?」艦の全体的なシルエットは鋭角的だ、そして何より、武装が見当たらないのである。「驚いたようだね西井君…この間には我が軍独自の技術が使われているのだよ」「…それは!?」「ステルス技術だよ」。

その言葉を聞いた西井少将は驚いた宇宙空間でステルスは意味をなさないはずなのだと。なぜなら宇宙では電波よりも簡単に艦船を発見できる方法があるからだそれは”熱”である。宇宙空間においては艦船は機械や人間の発する熱により内部の温度が上がっていく。それを防ぐためにラジエーターを装備しているのだがこれがステルス性を損なう一番の原因である、ラジエーター自体大きい上ステルス塗料を塗装する訳にはいかない、その上機関を停止させたとしてもしばらくラジエーターは放熱し続ける…だからこそ宇宙では熱探知による索敵が主流であり今後も変わらないはずだった。

「まさか…熱探知さえも妨害する技術を?」「詳しくは言えないがまあそんなところだ」。

西井少将は新鋭艦を見続けた。黒い船体はどこか冷たさを感じさせた。

「ところでこの間の武装は…」西井少将が質問をする「この艦には新開発の速射レールガンを多数装備させている、そして放熱が実質ないことを利用して多数のレーザー砲も装備している。そして…大量破壊兵器も搭載可能だ」「大量破壊兵器というのはその、デブリ放出弾のことでしょうか?」「それもあるがここで言っているのはNBC兵器のことだ」。

この言葉を聞いた西井少将は軽く混乱した。たしかに土星衛星郡は軍を保有している。しかしそれは海賊相手の治安維持程度のはずであり大量破壊兵器は保有してないはずだ。そもそも作るノウハウすらないはずだと混乱した。

西井少将の様子を見たスチュアート中将は言葉を続けた。

「まあ安心したまえ、最悪の状況にならない限り大量破壊兵器を使うことはないよ西井君」「ではその最悪の状況とは?」「こちらから地球火星連合軍に奇襲をかける状況に追い込まれるとか…ね」。

 

西井少将の混乱は悪化した。

 



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死の数秒間

2163年7月1日 土星の環付近

 

 

死の数秒間…それは非常に危険な任務だ。内容は土星の輪を通り抜けるだけだが、それでも幾多の死者を出してきた危険な、昇進のための儀式だった。しかし、死の数秒間はその危険度から撤廃されようとしていた。

今、史上最後であろう死の数秒間が始まろうとしていた。

 

「土星の輪をレーダーに捉えました」クロム伍長が報告する「…分かった」ノアス艦長は重々しい声で答えた。

「いよいよこの時が来たか」アラン機関長が緊張した声で発言した。

ノアス艦長は発言した「航海長、可能な限り被害が最小限になるように船をコントロールできるか?」航海長は自身を持って答えた「任せてください、皆を家まで送り届けてみせますよ」「砲雷長、可能な限りデブリを除去してくれ」「りょ…了解です」砲雷長は不安げながらも返事をした。「機関長、エンジンはどうだ」「バッチリです」機関長も不安げに返事をした。

それから50秒ほどで運命のときは来た。

「もう環が目と鼻の先だ!衝撃に…」クロムが発言した途端だった、艦は激しい衝撃にさらされた。クロムは脳裏で(地球や火星で体験できる雨とやらはこんな感じなのだろうか)と考えた。

衝撃は本当に数秒で終わった。死の数秒間と言われる割にはそこまで恐れるものではなかった。あるいは運が良かったのかもしれない。クロムは安心しきった表情になったが、コンソールを見た途端に顔を真っ青にした。

…艦のあちらこちらで酸素、燃料、冷却材が漏れ始めていたのだ。クロムは急いで艦長に報告する「た…大変です!艦からあらゆるものが出ていってます!」「総員急いでダメージコントロールだ、まずは酸素からだ、バイザーを閉じろ船内の気圧を下げろ」。その途端機関長がコンソールを操作したのだろう、船内の減圧が始まった。「クロムとレミントンはEVA(船外活動)を実施しろ!ミデラス、アランは私とともに船内の修理だ」こうしてクロムらは船外へ出ることになった。

 

死の数秒間が始まって2分後

 

エアロックを経由して船外へ出たクロムらは急いでバイザーの情報を頼りに破損箇所へと移動した。船体はひどくボロボロになっていた。明らかに核分裂炉に穴が開いていて、与圧区画はあちこちにへこみやクレーターのようなものができており、船首の特徴的なシールドに付いてはほぼなくなってるも同然だった。二人はまず与圧区画の後方にある酸素タンクから調査することにした。

外部から見た感じだとそこまで被害はなさそうに見えた「一応中身も見とこうか」「そうしよう、ここで見落としたら命を落としかねない」二人は中身もチェックしてみたところいくつかの亀裂を確認した。レミントンは無言で素早くクロムへリペア用の特殊工具を渡していた、クロムは急いで亀裂へ工具を吹き付ける。二人は協力して亀裂を見つけては亀裂や穴を塞いでいった。

大体塞ぎ終わった頃船内の機関長から通信が入った。<そろそろ酸素漏れは落ち着いてきたようだ、次は冷却材漏れの対処に向かってくれ>。

二人は急いで船体後方の冷却関連の装置へ向かった。到着した二人は外部アクセス用コンソールを使い船体の被害をチェックした。すると意外なことに外部の損傷は少なく逆に内部の配管等へのダメージが大きいことが判明した。レミントンは急いで機関長へ連絡する「こちら砲雷長です、船内のほうがダメージが大きいようですどうぞ」<そうか、航海長には帰れたら一杯奢らなきゃあいかんようだな、ある程度修理したら先に燃料関連のチェックをしておいてくれ>「分かりました」こうして二人は船体を囲うように取り付けられた冷却装置を一周するように確認したが致命傷になるような損傷はなかった。

こうして一番被害が大きいと思われる燃料関連の確認を始めた。燃料関連の被害は船の構造上目で見るよりも明らかだった。この船は船体の外部にシールドからはみ出ない程度に燃料タンクが取り付けられている構造になっている。つまるところ、ほとんどの燃料タンクが持っていかれてしまっているのである、もはや破損が激しすぎて治すところがないぐらいである。二人は絶望するしかなかった。

 

死の数秒間開始より40分後

 

二人は与圧された船内に戻ってきた。燃料関連の損傷に関しては船内からも把握できたらしく残りの三人もひどく落ち込んでいた。

「これからどうします?」クロムがノアス艦長に指示を求めた艦長は素早く指示を出した「二人共、通信機器はどうだったかね」レミントンが答える「特に損傷はありませんでしたが」「よし船内の道具をありったけもってこい、救助要請を出すぞ…その前にもう一度通信機器を確認してくれ、船内からで構わん」クロムはコンソールを確認した、思ったより被害は軽微であったがやはり通信設備も一部がデブリに持っていかれていた。クロムはこのことを艦長に報告した。「ううむ、やはりか…それでもやるしかない」こうして総出で船内にある電子機器やら工具やらを漁ることになった。

使えるものは何でも集めた。予備のバッテリーやら通信関連の増幅器やら携行型のレーザー通信機まで集めた。

 

30分後

 

こうして電子機器に詳しいクロム伍長とアラン中尉が指示を出しつつ全員で通信機の修繕を開始した。

「この増幅器はこことつなげてください…こことつなげたらダメです」「すまん誰かこのコードを支えてくれ」

本来軍人(と言っても地球火星連合軍基準だが)はありとあらゆる状況下でも戦果を上げるべく様々な教育を施される、特に22世紀に入ってこの傾向は大きくなっていった。しかしこれでは兵士一人にかける費用が大きくなっていく、そのため資金の少ない国家や組織、特に土星警備軍はこの影響を受けやすかった。その結果として今オンボロ艦にいる5人は本来短時間でできるはずがかなりの時間をかけることになっていた。

なんとか通信機器の復旧を終えた5人はようやく稼働させることに成功した。

「これでなんとかなるだろうか」レミントンが不安そうにクロムに尋ねる「なんとかなるさ…きっと」

 

土星高軌道のとある軌道港

 

「起きろマッケリー!仕事だぞ!」「うう、ん」マッケリーは叩き起こされた。

「黒井さん今日はなにもないんじゃ…」「それが今さっき救助要請を拾ってな今すぐ救助することになった」黒井はマッケリーを引っ張るようにしてタンカー船に搭乗させた。黒井は航海士に指示を出した「よし今すぐ出港するぞ」「了解です」

こうしてタンカー船は救難信号を発している船に目がげて飛行していった。

 

「レーダーに反応!軍籍のタンカー船です!」クロムは大喜びで報告したが、「いや、まだだ警戒を怠ってはいかん」「どうしてです?敵陣と言うわけではないでしょうに…」クロムの言葉に艦長は黙ったままだった。

しばらくクロムは警戒していたがやはり味方の反応だった。クロムは艦長に疑問をいだき始めたが、その疑問は通信の声によって遮られることになる「こちら土星警備軍タンカー船だそちらの状況を伝えてくれ」「マッケリーか!?しばらくぶりじゃないか」「クロムか!?どうしてこんなところに…」「それは後で伝えるよ、とにかくこちらの状況を…」クロムは船の状況を伝えた。しばらくの沈黙の後タンカー船からドッキングすると言うことが伝えられた。2分ほどしてドッキングが完了した。

 

2163年7月3日 最後の死の数秒間より全員生還した。

 

 



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フェーベ

宇宙空母、それは比較的新しい艦種であるが2163年現在、まだ力を出し切れていなかった。

原因は艦載機のエンジンにあった。無人とはいえ艦載機である以上小型化を強いられる艦載機はどうしても航続距離に縛りが出てしまうのである。これは宇宙空母の事実上の初陣である火星戦争のときから言われてたものである。それから何度かのブレークスルーを迎えた今でも技術、戦術ともに宇宙空母は他の艦種と比べて未知数なところが多かった。

 

2163年 7月3日 土星低軌道

 

空母フェーベは艦載機の発艦準備をしていた、目標は古くなった宇宙駆逐艦である。

フェーベの艦首では電磁カタパルトと艦載機の準備が進められていた。

「よし、一機目の固定が完了したぞ」「そしたら次は2番格納庫の機体を取り出してカタパルトへ」

ロイ・ボールドウィン大尉と中山俊二大尉は艦載機の発艦準備を進めていた。

ボールドウィン大尉がロボットアームの操作を、中山大尉が艦載機の調整をしていた。

「しかしこのオンボロ艦までも演習に使われるとはな、つい最近まで訓練艦だったのにだったのにな」ボールドウィンが中山に話しかける「そうだな…船の構造や設備が旧式ならまだしも、艦載機さえも旧式だからな艦載機をいずれ交換するならまだしも、そんな空気が一切ないせいで上の考えが掴み取れん」。

二人は愚痴を言いながらも着々と発艦準備を進めていた、もう一機もロボットアームでつかみカタパルトまで移動させ固定する、もう慣れた作業だった。また二人と同じ愚痴を持った乗組員がもう二人艦にいた。

 

CICにて

 

「なぜこの船が実戦を想定した演習に付き合わなければいけないんだ…上層部は総力戦を望んでいるのか?」

「…真相はわかりませんが、どちらにせよこの船では総力戦を生き残るのは難しいでしょうね」。

もう二人とはこの艦の艦長と副長のレイ・オブライエン大佐と黒川正中佐だった。

「母艦の武装が少ないのはいい理解できる、空母だからな」「そうですね、空母が重武装な訳ありませんからね」「しかし問題は艦載機だ、戦闘攻撃機とは名前だけの攻撃機、しかも中古品に軽武装だ、これでどうしろと」「後ほど新しい艦に異動するのでは?」「その余力があるとは思えん、無理をしない限り」。

空母フェーベは土星にとっては初めて自力で建造したといっても過言ではない艦艇だった、しかし初めてである以上完璧とは言い難かった。

初期の頃は確かに貴重な戦力として役立った。活躍し始めたのは第一次土星独立戦争後ではあったものの治安維持においては抑止力、射程ともに非常に強力だった。

しかしこの艦はウィリアム・ハーシェルとほぼ同期である、また艦載機の格納数に重点を置いたがために拡張性に乏しかった。

ウィリアム・ハーシェルが拡張性を活かし未だ第一線で活躍しているのに対し、フェーベは訓練艦として配備されていた、つい先月までは。

「これには裏があるんだろうなあ、君はどう思う?」「最近の噂では土星と地球火星連合との総力戦は避けられないとも言われてますから…なんとも言えないものです」

会話を続けているとコントロールルームから通信が入った。

<こちらコントロールルーム、艦載機の発艦準備が整いました>「艦長、ご命令を」「よし艦載機を発艦させろ、発艦後もあと9機発艦させろ」<了解>

こうしてフェーベから艦載機が発艦していった、その姿はまるで流星のようだった。

 

艦載機発艦から50分後 CICにて

 

「艦載機目標を捉えました」オペレーターが艦長に告げる。

「艦載機に攻撃許可を出しておけ」「了解」CICに緊張が走る。

「オペレーター、ミサイルの弾頭モードはHEATだ」「わかりました」。

「副長、勝率はどのぐらいあると思うか?」「いかに旧式といえども相手は反撃しませんからね、それなりに高いものかと…」。

艦長席のコンソールには近づきつつある目標と艦載機の様子が表示されていた。

(いつ見ても緊張するものだ)オブライエン大佐は静かに思った。

 

ついにその時は来た「艦載機再度加速を開始、目標への攻撃態勢に移りました」「攻撃後回避行動するようにと通信しとけ」「了解」。

ミサイル発射まであと30秒を切った

(無人とはいえ敵艦に攻撃を仕掛けるのは何年ぶりだろうか)オブライエン大佐はどこか複雑な心境に至っていた。

「ミサイル発射まで5…4…3…2…1…」ミサイルが発射された。

コンソールでは艦載機から味方のミサイルの反応が増えた、ミサイルはそのまま敵艦へ向けて軌道を進む、

着弾までは一瞬だった。

前段目標へと弾着した、その瞬間に目標は複数に分裂した。

おそらく余った燃料系統に引火したか、敵艦の構造自体脆かったか、しかし今はもう関係ない。

「敵艦の破壊を確認しました」「よし、それでは艦載機を格納しよう…」

こうして艦載機は帰還軌道へ入った。

 

攻撃より6時間後

 

「ボールドウィン、仕事だぞ」「ああ、もうこんな時間か…」ボールドウィンは体を伸ばしながら再びコンソールへと向かった。

基本的に宇宙空母、特に現代的なものはマスドライバーとマスキャッチャーを組み合わせたものにエンジンを取り付けたような構造をしているそのため帰還時はほぼ全自動での回収となるため負担は発艦時と比べて乗組員の負担は少ないとされている。そう現代的な宇宙空母なら、フェーベのような旧式艦は輸送艦、揚陸艦といったものをベースとしているため回収に負担がかかってしまうのである。

「中山、前回の回収時間は何分だ?」「15分程度だな、安心しろ今回もしっかりサポートする」。

こうしてボールドウィンと中山がコンソールについた瞬間には艦載機は目視できる距離まで迫っていた。

「艦載機逆噴射まで3…2…1…」艦載機が逆噴射をし、ちょうどロボットアームの直下で相対速度がゼロになった「ボールドウィン、まずは3番機から収容しろ」「了解」

ロボットアーム、それも宇宙空間と聞くとあまり速さが出ない印象があるかもしれない。

事実かつて地球上の国家が協力して建造した初期の宇宙ステーションのロボットアーム、カナダアームとも呼ばれたそれは今から見ると稼働速度が非常に遅い代物であった。

しかし現在では姿勢制御技術の進歩によりトルクが大きい、つまるところ稼働速度が早いロボットアームの搭載が可能となった。逆に言えば過去の技術ではトルクの関係で稼働速度の早いロボットアームは載せられなかったと言うわけだ。

ただし、その分繊細な操縦が求められるようになったため、ロボットアームを扱うスペシャリストが必要なのは昔と変わらず、そしてアーム自体もリミッターをかけられることになったのだ。

3機収容した時点でボールドウィンは中山に質問をする「中山、今何分経過したんだ」「6分だな、少し厳しいな」その言葉を聞いたボールドウィンは少し慌て始めた。

別に急ぐ理由はないのだが彼のプライドが許さないのだ。

ボールドウィンは少しリミッターをいじり少し早くした、それに気づいた中山が警告する「間違っても船体を傷つけるんじゃないぞ」しかし彼の耳には入ってないように見えた、いつものことではあるのだが…。

それでもボールドウィンは船体を傷つけることなく全機収容仕切った、やり終えた彼の第一声は中山、いや誰にでも予測できるものだった「よし、何分経過したんだ」「15分、ただ7秒早くなったな」それでもボールドウィンは不満げな表情だった。

 

<艦載機全機収容しました>

「近くの掃海艦にデブリの位置を知らせておけ、我々は現軌道より離脱するぞ」。

副長が機関長に司令する「機関長聞いたな、予定通り巡航速度で現軌道を離脱だ」「了解」

機関に火が灯り慣性が感じられる中オブライエン艦長は乗組員を守りきれるかどうか考え始めていた

 



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召集

まずは一言
…本当にすみませんでした。3ヶ月ぐらい開くとは思っていませんでした
とりあえず小説を楽しんでいただけると幸いです


「一体何がどうなってんだ…」アランはまるでため息のように言葉を発した、しかしこの部屋にはアラン一人しかいない、ここは個人専用の独房なのだ。

 死の数秒間をくぐり抜けなんとか救助されたのはいいものの、その後何故か土星系の軍用艦に捕まったと思ったらその後独房行きになってしまったのだ、その上救助に来てもらった艦の乗組員のその後もわかってない。

 「…俺たちはただ死の数秒間をくぐり抜けただけだろうに」アランがいくら抗議しようがここは独房、誰にも声は届かない。

 アランはしばらく誰も聞くことのない抗議をし続けたが、諦めの感情が勝ってきたうえそろそろ睡眠時間に達したのか眠気もたまり始めたのでふてくされながらも眠ることにした。

 「はあ、いつになったら開放されることやら」そう呟いて。

 

 

 いつの間にか視界には電子機器が敷き詰められていた(ここはどこだ)アランは状況が飲み込めなかったがアランの体は勝手に動く、その時には思考さえも視界に映る世界に馴染んでいた。

 ここは自分の有する採掘船の船内だ。

 光景の中のアランは船内のチェックを始めた、まずは機関一式のチェックだ…といっても確かにこの船はオンボロだが、船内の様子はデバイスですぐ見られる、無論機関以外もだ。だからこそチェックはすぐに終わってしまった。

 この手の採掘船は一人で運用されることが多い、ライフサポートシステムの設備を減らせるからだ、お陰で暇をどう過ごすかが船員の悩みなのだ。

 アラン自身は大量の本を持ってくることで解決している、ただし本人は媒体が紙であることを望んでいたが居住区の広さがどうしても足りなくなるので電子書籍で我慢している。

 この船は父親から譲り受けた船だ、お陰でどこもかしこも古くなってしまっているが、アンティーク系を好むアランにとっては修理代以外気にすることはなかった。

 「さて、採掘の続きだ」アランは船の採掘装備一式を稼働させる、「近くに良さそうなのは…」と言ってレーダーも稼働させる。

 15キロ先にちょうどいい大きさの岩石を発見したアランは船の熱核ロケットを稼働させる、船体が振動し始めるがアランにとっては不愉快なものではなかった、むしろゆりかごに揺られているような心地よい印象を持っていた。岩石との距離が4キロほどになったので逆噴射を始める。

 岩石との相対速度が0になったのを確認したら、アランはロボットアームを稼働させ岩石を改めてレーダーでロックした。

 これによってロボットアームが稼働しAIによって自動的に岩石を掴む、そしたら採掘を始める手順だ。

 ロボットアームがモニター越しで動いているのがわかる、しかしその速度は絶望的だ。

 経年劣化もあるが、姿勢制御のことも踏まえるとロボットアームの稼働速度は落とせざるを得ないのだ、だからこそアランは一人考えるのだ、今後どのルートで採掘すべきか、船の改修はいつにすべきか、いつ実家に帰るか、彼女とはいつ結婚しようか…そう考えてるうちに岩石を捉えられるのだ。

 (よしこのまま船首の採掘ドリルをくっつけよう)アランはコンソールをいじくり回す、その時視界が暗転する。

 

 

 アランはゆっくりと目を開ける「…夢か、この夢何度見ればいいんだ、こんなの俺には似合わねえよ」

 そう呟いたあとゆっくりと起き上がる、その時だった。

 

 「…アラン中尉」「!、艦長」独房のドアが開いたのだ、「艦長、どうなっているのか説明してください」「わかってる、だがまずは皆と合流してからだ」アラン中尉は独房から出て艦長についていった。

 

 艦長についていくとそこはアランにとって、いや一般兵にとっては驚くべき光景が広がっていた。

 大量の人員に高性能な機器、それはわかるしかし細かいところが違った、どの人員も階級は上、機械類も土星警備軍としては最高級のもので埋め尽くされていた。「艦長、ここは」「エンケラドゥスの司令室の一つだ、それも最高クラスの」ただただアランは驚くしかなかった。

 

 「ノアス大尉とアラン中尉…だったね?」アランが後ろを振り向くとそこには40代後半に見える男が立っていた。アランは尋ねる「あなたは、」艦長が説明する「彼がこの基地の司令、西井暁少将だ」、西井少将はノアス大尉に目で感謝の気持ちを伝えたあと一息置いてから喋り始めた「エンケラドゥス司令部へようこそ、先も説明してくれたが私が西井暁少将だ、詳細は他のメンバーと会ってから話そう」

 アラン中尉とノアス大尉は西井少将についていくと、司令室の奥の方で他のメンバーが席についているのが見えた。「さあ、席にかけたまえ」西井少将の発言の後二人も席についた。

 

 皆が席についたとき、クロム伍長が西井少将に発言した「質問です、自分たちを救助した船の船員はどうなったのでしょうか?」「安心したまえ…とは言いにくいかな、なにせ箝口令が敷かれてるようでな」「箝口令…」そこにレミントン少尉も交じる。「自分からもいいでしょうか」「何かね」「私達たちの扱いはどうなっているのでしょうか?」西井少将は多少口ごもりしたが現在の取り扱いを明かしてくれた、しかし5人に取っては空いた口が塞がらないものだった

 「実は…死亡扱いになっている、表向きには」ミデラス少尉は感情を抑えつつ質問する「…そうですか、しかし今後自分達はどう扱われるんでしょうか」「それも含めて今から説明する」

 西井少将はコンソールを操作し5人のコンソールに情報を送った。一同は驚愕した「これは!?」少将が一番最初に送ったのは現在司令部に繋留中の新鋭艦の画像と基本情報だった。5人はしばらくの間沈黙に包まれていたがノアス大尉が沈黙を打ち破った「…いつこのような艦艇を建造されたのでしょうか」「実を言うと少将である私にも伝えられていないのだ」「それと、このステルス機能とやらは何かの冗談では?」

「司令部が冗談をいう訳がない、クロム伍長」「…はい」「パンドラに搭乗中、レーダーに違和感を覚えたことはないか?」クロム伍長は思い出した。6月10日の演習のときやけにレーダー反射率が低い艦艇が突如として現れたことをしかも現れる前に前兆らしきものがなかったことを、そもそも宇宙でステルス艦らしき反応があったことを。

 クロム伍長は伝える「確かにありました」「それが今送った艦艇なのだ」。「で、これをどうなされるんです?」アラン中尉は驚愕を通り越して呆れた感情で質問した。西井少将ははっきりと発言した「君たちにこれの同型艦を譲ろう、艦名は”ガリレオ・ガリレイ”だ」「これを…譲ってもらえると?」レミントン伍長が疑いながら発言する。「もちろんだ、だが条件もある、まず君たちは土星自治宙域の監視下に置かれる、そして慣熟航行のついでに月まで送ってもらいたいものがある」「送ってもらいたいもの?」一同は質問する「君たちに運んでもらいたいのは軌道海兵隊のとあるチームだ、それと工作員、ついでに君たちもしばらく月で滞在してもらうことになる」クロム伍長が質問する「なぜ月に滞在する必要があるのでしょうか」「実を言うと月共和国がこちら側に付きそうなのだ、そこで政府は有事の連携力強化のため君たちの他艦艇にして9隻ほどを送ることにしたのだ」。

 5人はただただ驚くことしかできなかった、もうそこまで物事は進んでいたことに。

 それでも西井少将は話し続ける。「もし月共和国での仕事が終わったら、そちらから運んでほしいものがある」ノアス大尉は覚悟を決めた様子で答える「…わかりました、運んでほしいものとは何でしょうか」

西井少将は一息置いた後答えた。それは5人の運命のみならず太陽系さえも揺るがすものだった

 「…月共和国より地球火星連合に関わる重要機密と月製の第3世代核兵器を持って帰ってほしい」



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異変

2163年7月7日 土星某衛星軌道

 

「諜報部の奴ら、間違ってないんでしょうね?」「ああ、諜報部は確実にこのデブリ雲で確認したと言っている」

 土星警備軍陸軍宇宙作戦課のロウ・モーガン少尉とドミトリ・ウィード大尉は現在とある軌道にて目標を探していた。

 「しかし今回の目標はたかが海賊の首領でしょうに、なぜ大型艦を投入するんですかねえ」モーガン少尉はウィード大尉に尋ねる「何度も言わせないでくれ…やつは地球火星連と太いパイプを持っている可能性があるんだ、そんなやつをほっといたらこちらにとんでもない損害が出かねん」ウィード大尉は呆れながら答えた。

 ここ最近地球火星連合と土星衛星群の対立は激化している、しかしそれは軍事演習だの宙域の侵犯といった目に見える範囲のことだけではない、当たり前だが諜報においても対立は激化している。

 実を言うと土星は結構不利だった。月独立戦争、木星戦争、小惑星帯戦役といった戦いで敗北を重ねている地球火星連、正確には地球軍は一見するとあまり強くは思えない、しかしそれはこれらの戦いが比較的初期の宇宙戦争であったことに加えて人体改造すら受けた人間のいる地球外の人類に対し、地球人類は貧弱だった。

 だからこそ木星や月は独立できた。それ以降地球軍は諜報や無人化で対応したり人体改造を受け入れることで前の土星での戦争に勝った。それ以降も特に諜報活動に力を入れておりこの方面で言えば地球はトップクラスの力を持っていた。だからこそ土星連合軍は焦っていた、日に日に情報が筒抜けにされているのだから。

 「だからといってジョン・ハーシェル(タイタン軍の旗艦)を向かわせるのはいくらなんでも…」「そこまでだ少尉、俺たちは与えられた任務をこなすだけだ、いいな?」少尉は黙ったままだった。

デブリにしがみつきながら漂うデブリを眺めていたら連絡が入った。<こちらジョン・ハーシェル、未確認の飛翔体をレーダーに捉えた、直ちにそちらに迎え>「「了解」」二人は近くに隠していた小型艇に向かった。その時、少尉は発言した「俺、嫌な予感がするんですよ」大尉もどこか同じ気持ちだったらしく「奇遇だな、俺もだ」と返した。

 

 

40分後

 

二人は小型艇から降り、目標の近くに接近しつつあった。「こんなデブリのさまよう中、なんのようでしょうね」「だからこそ俺たちが調べるんだ、モーガン」母艦からの誘導に従いつつ良い感じに身を隠せそうなデブリにしがみつき目標を探した、目標は案外すぐ見つかった、がなにか異様だった。「大尉、目標は小型の商船でしたね?」「そうだ」「あれじゃないですか?」少尉の指差す方向には確かに小型の商船があったしかしこの宙域のデブリの多さを加味しても明らかに船体の傷が多かった。

少尉が発言する「いくら偽装用の傷だとしても多すぎません?」「そうだな、しかも致命弾もあるな」

「こちらウィード大尉、目標を見つけたがなにか異様だ、変化しないうちに調べる必要がある、突入の許可を」<こちらジョン・ハーシェル、了解した…突入を許可する、また武器の使用も許可する>「了解したハーシェル、聞いたな少尉、行くぞ」「了解」こうして二人は目標へと近づいていった

 

目標はえらく静かだった、たしかに隠密行動ではあるもののそれにしてはえらく静かだった

なんの抵抗も変化もなくエアロックに二人はついたが、問題が発生した「クソっ電源が落ちてやがる」「…吹き飛ばしますか」「えらく頭が回るな少尉、しかしそんなことをしては艦内の空気が抜けるぞ」「そのつもりです、なんか問題が発生したら俺に責任を押し付けてください」「…わかったよ、爆薬を貸せ」

大尉はエアロックに爆薬を取り付け二人は爆薬から距離を取った。「爆破するぞ!」爆薬は小さな光となりエアロックは吹き飛ばされた、がそれだけだった「なっ」「空気がない!?」二人は驚いた基本有事でもない限り艦内に空気はあるものだ、しかしそれはないのである。二人は覚悟した。「何があっても驚くなよ」少尉はうなずいた。

大尉から船内に入っていった。船内はごく一般的な商船のものだった。しかし壁や床は異常だった。あちこちに血痕や弾痕が見受けられ、死体がそこらを浮いていた。「見えるかハーシェル、後で解析を頼むぞ」<了解した大尉>二人は死体をどかしながら進んでいった磁力靴の足音に時たま異音が入るのが不気味だった。「少尉、死体を見て思ったことはないか」「いきなりなんですか」「連中の傷を見て思うところはないか?」「…」少尉は注意深く死体を観察しつつ通路を進む。足に3箇所の弾痕があったり、明らかに即死するところにあったりとまばらだった。「…他の海賊から恨みでも買われたんじゃないですかね」「…今のところはそうだな」少尉としては早くこの場から早く去りたかった、なぜならこの任務が実質初めてだったからだ。土星軍の質は残念ながら低い、そもそもいくら質が高がろうとも、PTSDになる場合もあるのだ。それが現状名目上は、警備、治安維持中心の軍隊の兵士には負荷は高かった。最も大尉のような実戦をくぐり抜けた兵士は別として。

死体は実にその時の惨状を表現しているかのようだった。

殺意を目に宿したまま死んだ者、苦痛に表情を歪めている者。最期に家族のことでも思ったのだろうか悲しい目をしている死体…実に様々だった。ここまで来ると死体ながら気持ち悪さよりも悲しさが沸き起こってくる。

そんな感情に押し負けそうになっている時大尉が発言した「少尉…気づいたか」「…!、何にです?」「コイツらをよく見ろ」少尉は死体たちを観察する。「…特には何もなさそうですが」「コイツらすべて急所を撃たれてる」「そりゃ当たり前でしょう」「入り口の奴らを思い出してもか?」少尉ははっとした。

入り口の時は海賊がやったのと思っていた、しかしここの、司令室近くの死体を見ればそれは間違いだと言うことに気付かされる。なぜなら死体すべてが急所に一発食らっただけなのである。

「大尉…!」「これは相当まずいことに手を突っ込んでいるのかもな」二人は察した、この惨劇の裏には土星以外の組織が暗躍していることにほかならなかった。「司令室まで急ぎましょう」「そうだな」二人は急いだ。

 

死体をどかしながらついに司令室の前にやってきた。「もう一度爆破する、少尉爆薬を」二人は手慣れた動きでドアを爆破した。本来ならまずい動きだが、何が起きるかわからないので迅速に行動する必要があったからこそドアを爆破した。

「中に人は…!」司令座席に人がいた、二人は急いでその人の方へ向かう。だが結末は予測できたものだった。司令座席を正面に向けると、その人はすでに死体だった。腹部を散弾で撃たれたようだった。「…やはりか、他の情報端末は?」二人は司令室を漁った、がこの船を襲撃した連中は相当慌てていたのに関わらず徹底的に情報は破壊していたようだった。「クソ、何も得られなかったか」その時だった、<こちらジョン・ハーシェル!そちらに未確認の飛翔体が接近中!直ちに退避しろ!>その後の二人の動きは早かった、なぜなら、何かが起こると確信していたからだった。二人は死体の山をどかしながら磁力靴が外れないように走った。エアロックは近いはずなのになぜか遠く感じた、死体の怨念がそうさせているのだろうか。

なんとか二人は船外に脱出し小型艇に取り付いた。「急げ!脱出だ!」小型艇は最大出力で現軌道を外れジョン・ハーシェルとの合流を急いだ。

なお商船の方は二人が脱出して3分後に飛翔体によって木っ端微塵にされた

 

<ジョン・ハーシェルより司令部へ>

今回の任務は地球との深いつながりがあるとされる一海賊派閥のリーダー、通称アクーラの捕獲が目的でした。しかしアクーラはすでに殺害されていたようです。

しかし誰が襲撃したのかについてはまもなく判明するでしょう

今後はどうなされますか

 

<司令部よりジョン・ハーシェル>

先の任務ご苦労だった。

申し訳ないが解析作業についてだが直ちに中止してもらいたい、そしてデータは破棄しろ。

また直ちに司令部の第5宇宙港に来てもらいたい。

次の指示は司令部にて直接下す。

 



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月面

すみません…ネタ切れで死んでました…


2164年6月6日 地球の衛星「月」シャクルトンクレーター上空

 

「付近に地球側の勢力の艦艇はいないようです、艦長」

クロム伍長は冷静ながらも、どこか安心した様子でノアス艦長に報告した。

「わかったこのまま宇宙港からの通信が入るまで警戒態勢を取れ」

 かつてのパンドラの5人組は今や貨物船に偽装した戦略艦ガリレオ・ガリレイに搭乗しており月面に降りれる瞬間を今か今かと待ち望んでいた。

<こちらシャクルトンクレーター宇宙港だ、聞こえるか>

「通信良好です、どうぞ」

<貴艦は第19港へ着陸せよ>

「了解です、ナビゲートをお願いします」

「よし、何ヶ月ぶりかの仕事だな」

ミデラス少尉が言葉を発すると艦内に慣性が発生し始めた。船を垂直にしているのだ。

<よし、態勢は整ったな、そしたらすぐさまタグボートを向かわせる少し待っててくれ>

「それにしても、帰還まで偽装が持つのでしょうか?」

レミントン伍長が不安そうな声でノアス艦長に質問をかける。

「…持つと考えるしかない、今は」

「ああきっと持つさ、いざとなりゃこの艦の真の力を…」

アラン中尉が途中まで喋ったところでノアス艦長が発言する。

「中尉、本艦の任務はあくまで偽装があってのものだ、その場合のことはあまり考えるな」

その時同じく船に乗り込んでいる海兵隊のコルト大尉がブリッジに上がってきた、コルト大尉はブリッジに来たと同時に

「もう月面なんだな?それなら他の冷凍睡眠中の隊員を起こしていいんだな?」

と発言した、それに対しノアス艦長は

「ああ、起こしてもらって構わない、本物の荷物の搬入に手こずってもいかんからな」

ガリレオ・ガリレイには船体外側に多数のコンテナを搭載している。中身はもちろん本物だだからこそ遠征前に乗組員は荷物の搬入の訓練を受けていた、間違っても本物の軍人であることをさとられないために。

「よしそれでは起こしてこよう、起き次第すぐに搬入の準備につかせる」

「コルト大尉、少しは手加減してくれよ、早すぎても不信感を抱かせかねないからな」

「了解です」

コルト大尉は再び下の階へと向かった。

<こちらシャクルトンクレーター宇宙港だ、間もなくタグボートが到着する降下の準備を>

「了解しました、ミデラス少尉降下の準備を」

「わかった任せてくれ、機関長エンジンのチェックを忘れずに」

「了解」

それから20秒後にはガリレオ・ガリレイの船体には無数の小型のタグボートが取り付き始めていた。

「シャクルトンクレーター宇宙港へタグボートの指揮権をこちらに譲っていただきたい」

<了解した7秒後にはそちらの指揮権になる>

「よし、指揮権がこちらのものになった、これより降下する。

ガリレオ・ガリレイはゆっくり降下を開始した。

船体内部ではタグボートとメインエンジンの振動が伝わっていた。

 

降下開始から3分後

 

<着陸パッドまであと6000メートルだ>

「少し北方向へ前進する」

「全タグボート異常なし」

「一度エンジンをカットする、このまま1500メートルまで降下する」

わずかながら船体の振動が収まる。

 

<1500メートル>

「エンジン再点火、出力の調整を開始」

ブリッジには緊張感が走っていた。

<予定では30秒後に着陸だ>

「あとは自動操縦で大丈夫だ」

ミデラス少尉はコンソールを操作し自動操縦に設定した。

<1000メートル>

だんだんと振動が強くなっていく。

<500メートル>

 

<タグボートの連結を解除する>

「了解です、指揮権をそちらに渡します」

ガタガタと連結が解除される音が響き渡る。

 

<100>

クロム伍長はなんとなくレミントン伍長の席を見る、そうするとレミントン伍長はどこか震えているように見えた。

<50>

「もう着陸だな」

ミデラス少尉は安心した声でいった、しかしすぐレミントン伍長が何かを発言しようとした。

が着陸の衝撃で何を言ったのかはわからなかった。

<0、ナイスランディング>

クロム伍長は座席のベルトを外しながら

「シャクルトンクレーター宇宙港誘導に感謝する、通信終了」

と言い、すぐにレミントンの席に向かった。

「おい、レミントン大丈夫か?」

レミントンは

「…大丈夫じゃないですよ…」

と怖がった声で返答した。

クロム伍長はひょっとしてという感じで質問する。

「お前もしかしてコロニーと船舶以外に足をつけたことないな?」

それに対しレミントンは

「…そうなんですよ」

と小声で返答した。

クロムはやれやれといった感じでレミントンのベルトを外し肩をたたきリラックスさせるようにしていた。

 

15分後

 

乗員移乗用の通路がエアロックに連結し始める頃にはレミントンは落ち着き始めていた。

「落ち着いたか?レミントン」

「あ、ああ落ち着いたよ…ありがとうクロム」

その時ノアス艦長が声を発した。

「諸君、長旅お疲れだが、我々の任務は始まったばかりだ、これから月共和国国防軍とともに演習をし、第三世代核兵器を輸送せねばならない、しかし今は一時の休暇を味わってくれ、また荷物の搬入については海兵隊がしてくれる事になっている、以上」

「ようし月の観光に行ってきますか」

アラン中尉は一足早くエアロックに向かった。

「ええと、では自分も一足早く行っております」

アラン中尉に続いてミデラス少尉もエアロックに向かった。

 

ノアス艦長は残った二人のもとに近寄った

「レミントン伍長」

「は、ハイ」

「君は惑星に着陸するのは今回が初めてなんだね?」

「そうです」

「それは大変だったなとしか言えないが、とりあえず初めての地表だゆっくりしていけ」

「わかりました…行こうかクロム」

「そうだなレミントン」

二人もゆっくりとエアロックへ向かった。

 

「ノアス艦長」

「…コルト大尉」

二人はブリッジにだれもいないことを確認したうえで本題に入った

「本当にいいんですかな上からの命令とはいえ」

「…あの書類と間接的とはいえ地球の将校に接することか?」

「そうですその件です、流石にまずいのではないのでしょうか」

「いいかこれはあくまで奴らに対する脅しだ、情報の漏洩ではない」

「しかしだからといっていくらなんでも我が経済圏の事細かな情報と我々の乗っているこの船の航路を渡すのは…」

「多少のリスクはつきものだコルト大尉、確かにこれが奴らの手に渡るのは非常に痛手だが、君ほどの理解できる人間であればわかるはずだ」

「…」

コルト大尉は黙り込んでしまった。

確かに今回地球の将校に渡そうとしている書類は非常に厄介なものだ。

土星圏の各大企業から自治区の細かな経済情報、貴重資源の産出量、そしてそれらの場所。

もう一つはまさしくガリレオ・ガリレイの航路が書かれている。

しかしそれらを攻撃するとなるといかに海賊を買収しようともここまで緻密な情報の下に計画下となると絶対に地球が関与したという事実が浮かんでしまう、それにもう一つ取引があることをコルト大尉は知らなかった。

「君にはもう一つ知らないことがあるようだ」

「…?!」

「奴らからも情報をもらうことになっている」

「な…!」

「流石にこればかりは君にも言えないがね」

ノアス大尉は確かに背負っていた、誰にも言えない取引を。

ひとつは地球のとある将校に情報を渡すこと、これにより若干不利にはなるものの、逆に地球側も手を出しづらくさせること。

もうひとつはその地球側の将校から「地球の政治的弱点」をもらうこと、あわよくばその将校をこちら側に引き入れることだった。

「さて…もう十分だろ、どのみち搬入の時刻も迫っている」

コルト大尉は何も言わずにブリッジをあとにした。



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