ノットポピュラーウェポンズ! (アラママス)
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始まりの街
神との契約。部屋からの解放。


 今、俺の耳が聞こえ、俺の声を発する事ができたのなら、俺は助けを呼んでいただろう。ただし、現在の俺はそれができない。五感が全て消失している。確かに少し、ほんの微量だけ感覚は残っている。ただそれは、布で汚れを拭い取った時の取り残しのように微量で、人の声を聞いたり、自分が今どういう状況にいるかを判別したりすることは不可能だ。俺は時がたてばそのうち状態も良くなるだろうという希望に縋り、ただ待つことにした。

 俺は今、時が流れるのをしっかりと、確実に感じている。頭が狂いそうだった。俺はそろそろやばいと思っているが、何もできることはない。この状況を良くするために何かをするには感覚が必要だ。腕を動かしても動いてるのかどうかもわからない今動くのは危険だ。まだ辛抱強く待つ時だ。

 そろそろ感覚が戻ってもいいじゃないかと思い始めるほど時間がたった時、なら戻してやるといわんばかりに目に刺激が加えられ、視界が真っ白に染まった。眩しく、痛みを感じるのは俺が今まで目を使えていなかった証拠だ。

 だんだんと目が慣れてきて、俺が知らない真っ白な部屋にいることが分かる。他の五感もだんだんと回復している。

 手足も動くようになったのでその部屋から出ようと思った。重そうな扉が壁に設置されていた。開けようと思ったが鍵がかかっている。鍵穴がこちら側についているので部屋に鍵があるだろうと探していると、突然背の高い影が目の前に現れた。それは周りの光を全て吸収しているように黒く見えた。影は俺に話しかけた。

「いきなりで悪いんだけどサァ、僕の眷属になってくれないかなァ。」

「何を言ってるんだ。」

「おっと、そんなに敵対心剥き出しにしないでくれよ。頼みがあるんだ。」

「頼みってのはよくある魔王討伐とかか?そんなのなら断る。」

「違うよぉ、この世界の武器市場が偏ってるから直して欲しいんだヨォ〜」

 市場介入でもしろってのかこれは。

「ちなみに、断ったら?」

「また違う人を探すネェ、これまで五人に断られたし。」

 流石にまた探しに行かせるのもかわいそうだな…

「引き受けよう、その仕事。で、どうやって市場を直すんだ?」

「簡単な話だよ。あんまり使ってる人がいない武器使って無双して気持ち良くなってくれればいいんだ。」

「そういえば、さっき眷属とか言ってたな。神かなんかなのか?」

「もちろん。僕は武器流通の管理をしている神。」

「武器流通の神…」

「そ。普段は武器の需要に応じて供給量を調整してるんだよねぇ。」

「ってことは需要を調整しなければならなくなったってことか。」

「なんでわかるんだィ?」

「話から大体わかった。」

「話が早そうな人だなァ。」

「とにかく、この部屋から出してくれないか?このままでは何もできない。」

「あー、そうだねェ、今扉開けるねェ。」

 部屋にあった扉から鍵が開いた音がした。

 ドアノブに手をかけると、鍵は開いていた。そして俺の実演販売は始まる。



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武器屋の実情と戦鎚

 俺はあの白い部屋から出た。そこはファンタジーのゲームに出てくるような街だった。建物も異世界ものではありふれたデザインで、所謂創作での普通といった感じの街だ。ぱっと見ただけでは特筆するべき箇所は見つからなかった。

「そういえば、名前聞いてなかったねェ」

人不 力量(にんふ りきりょう)だ」

「人不 力量かァ…そのほっそい体には似合わない名前だねェ」

「どうだっていいだろうそんなこと。それより、外に出たが、どこにいけばいいんだ?さっぱりわからないぞ」

「ここは結構複雑だからねェ。迷うのも仕方なしだよォ。

 まずは武器屋に向かってェ。話はそれからだねェ」

 その言葉通りに俺は武器屋らしき場所へ向かった。

 その建物は「武器屋」というよりは「武具屋」と言った方が正確なような気がした。

 店先にぶら下がっている木製の看板には、盾の後ろに剣が交わっているイラストが描いてあった。

 店に入ると、やはり武器と防具が両方置いてあった。

「ねぇ〜これ見てよォ〜。わかるでしょォ〜武器の種類が少ないことォ〜」

 その声はどことなく力無く聞こえた。

「あぁ、これはいくらなんでも少なすぎると思う」

 そう。武器が3種類しかない。

 ショートソード・ロングソード・グレートソードの3つしかない。

「これじゃァ先述の幅もへったくれもないでしョ〜? だから人の助けが必要だったってわけェ」

「今やっと理解した、そんなに焦っている理由が」

「本当にさァ〜神は直接介入できないんだよねェ〜。人に頼もうにもこの世界の元からの住人は話も聞いてくれないしィ」

「今は練習用の武器を買わせてくれ。物流とか以前にこの世界の仕様を確認したい」

 なぜか俺はここが自分の生まれ育った世界ではないと知っていた。理由は自分にもわからない。

 それどころか自分の名前以外の自分の情報は覚えていない。やったことや知識は覚えているが。あの忌々しい何もなかった時間に削り取られたか。

「練習用だったらショートソードだねェ。軽いし技の判定も甘いし」

「技の判定ってことは動きに合わせて何かが発動するタイプの世界なのか?」

「まぁ、そういうこったねェ」

 俺はショートソードを購入し、次に進もうと思った。チュートリアル的な意味で。

「じゃあ、手頃な敵がいるところで練習させてほしい」

「それならこの街出たすぐそこがおすすめだよォ」

 俺は移動した。街を出ると、平原があった。斜面がなくてもひとりでに動く青いスライムや紫色をした上空1メートルぐらいで停滞しているコウモリなんかがいた。ここはどうにも元の世界にあったことは通用しないらしい。

「スライムとはあんまり相手したくないな…」

 俺はスライムと戦うとほぼ死ぬようなゲームを知っている。そのゲームでは、剣や防具がスライムが纏っている消化液によってやられてしまい、使い物にならなくなるという特殊能力を持っていた。

「大丈夫だよォ。そんな変な能力とか持ってないからさァ」

「それじゃあ遠慮なく」

 俺はスライムに近寄り、剣を振った。

 剣は普通に何の変哲もなく振り下ろされ、スライムに当たった。3ダメージだった。

「ダメージは数字で出る世界か。にしてもダメージ低いなおい」

「えーっとね。一応の一応呪いであり祝福でもあるような何かを君にかけさせてもらったョ」

「どんな呪いだ」

「人気が一定以上ある武器の基本性能が下がる代わりに人気が一定以下の武器は基本性能が強化されるって呪い」

「つまり、普通の武器は使えないってわけか。特にあの武具屋に置いてあった3つは」

「そうだよォ。確かに今ある武器はスキルも洗練されてるしィ、そのままでも強いは強いんだけどォ、これだとあんまりにもあんまりだからねェ」

 俺はその戦闘から逃げた。話の流れからして武器変更だろうし。

「ま、使いたい武器があったら言ってくださいなァ。出せる武器と出せない武器はあるけどねェ」

「そうか。ならまずハンマーなんてのはどうだ?打撃武器といったら人気がない武器の筆頭じゃないか」

「いいんじゃないかなァ、よし、使ってみよゥ」

 そう物流神が言うと、現実において戦鎚と呼ばれていた物が出現した。

「なんか、こんな長いもんなんだな」

「剣に対抗するためだよォ」

「ふ〜ん」

「あッそうだ、重さは別に考えなくていいからねェ。カバンに取り付ければ一緒だからァ」

「そういえばバックパックずっと着いてるな」

「それに色々入れとけばいいよォ。中四次元ポケットだしィ」

「そんなもん背負ってて大丈夫なのか?」

「いやいやァ、この世界の住人は全員持ってるもんだからァ、問題ないよォ」

「じゃあ、こん中に食料とか武器とか入れときゃいいってわけか」

「そうだよォ」

「それじゃ、この戦鎚使ってなんかするか」

「だったらギルド行って依頼受けた方いいんじゃない?依頼受けないと出現しないダンジョンとかあるし」

「あーまあそうするか。他にやることもないしな」

「依頼受けるときはどっかのパーティに参加してェ」

「どうして?」

「ソロだと紹介にならないでしょォ?」

「そうか」

 俺はギルドへ向かった。そこはなぜか西部劇風の建物になっていた。ここは特筆すべきところといえば、クエストボードの存在だろう。他の人が受けた依頼が貼ってあり、そこに書き込むことで参加することができる。

 

 ちなみに通貨はメリと言い、Mで表される。価値は店を見た感じでは1Mで10〜15円と言ったところか。

 

 いかにも初心者向けっぽい攻略系依頼が発注されてあったのでそれに同行することにした。

 塔の攻略。報酬は3000M。日給にしては随分な額だろう。出発日は明日だ。

「明日か、この依頼」

「普通即日出発ってのは出ないねェ。締め切りが前日になってることがほとんどだよォ」

「じゃ、今日は適当に宿とって寝るかな」

 俺は最安値の宿を見つけた。そしてそこで眠りについた。



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第三話 塔と魔法と進行ルート

俺は前回、依頼を受けていた見ず知らずのパーティに加入した。

そして今回からその依頼をこなしていく。

ギルドへ向かい、パーティの装備を見る。

俺を含めて四人編成で、現在広まっている3種類をそれぞれ装備している。

ただし、俺は戦鎚を装備している。これは現在唯一の「打撃」武器だ。

俺達は問題の塔へ向かった。その道中で自己紹介があったのでその様子も知らせる。

「そういえば、君の名前はなんて言うんだい?僕はリーダーのサリアル。

このショートソードを持ってるほうがレイアミで、グレートはダライオス。よろしくね」

「俺は人不だ。よろしく頼む」

「人不は何を使っているんだい?よければ教えて欲しいな」

一瞬話していいものか迷った。

「俺は鎚を使っている」

「鎚ってのはどんな?」

「ま、こんなのだ。」

俺は武器を取り出してみせた。

「おお、刃がない武器ってのは初めて見た。それって攻撃通るのかよ」

「通るぜ。切ることはできないが、叩き潰すことはできる」

「何やらやべーやつがきた見てーだな」

「ここにきて新武器か…もうここに来て1年経つが…これまでで一回も新武器追加無かったもんな」

マジかよ。あの三種類だけでよく満足してたな。

「少なすぎるとは思わなかったか?」

「「「思った」」」

息の揃った答えだった。

「じゃあ、増えたら嬉しいのか?」

「「「もちろん!」」」

やはり即答だ。

「その願い、俺なら叶えてやれるかもしれねぇ。というかそれをやるために呼ばれたんだが」

「呼ばれた?一体誰に?」

「なんか武器の物流を司る神だか言うお調子者が呼んだんだよ」

「そんなことする神だったかあの神って?」

「神話全部読んだけどそんな人間に助け求めるような神では無かったはず…」

「ま、実際そいつに呼ばれたんだ。武器を増やすためにな」

「とにかく、塔に行って早く終わらせて帰ろうぜ」

そしてまた移動中にこんな話があった。

「物流の神ってどんな人だった?」

「喋りが妙に間伸びした若そうな声してる神だよ」

「いやそういうんじゃなくて、見た目だよ見た目」

「黒い煙のような見た目だった。人間には姿を見せることができないのかもしれないが、もしそうだとしたら無理に見ないほうがいいだろう」

「どうして?」

「どうしてって、何が起こるかわからないだろう?怒り狂って襲ってくるかもしれないし、ショック受けてサポート受けられなくなるかもしれないし」

「あぁ…神ありきなんだな…その任務…」

さらに移動を続けると、塔があった。

その塔は草原に一つぽつんと置いてある形だ。

扉はないように見える。

「扉が見えないが…」

「魔術師の塔なんだ、あそこは。たまに上から飛んでいく時がある。

上から行くのが正攻法だな」

「しかし、あんなところ届くわけないだろう」

「風呪文だ。セライオライメイオゥラ!」

俺には正確に聞き取れなかったが、概ねこんな発音だった。

他の三人の足元から上昇気流が発生し、塔の上まで飛んだ。

無事着陸したところで俺を呼んでいた。

「おーい人不もこっちこいよ〜」

「しょうがない、俺も上に行くか。セライオライメイオゥラ!」

不思議とすぐに覚えることができた。

他の三人と同じように飛び、無事着陸。

「上昇気流に乗るってのは清々しいもんだな」

「しょうがないとか言ってたが、まさか下から行こうとしてたのか!?」

「え?あ、あぁ、そうだが、何か問題あるのか?」

「塔には魔法防御がかけられていて、これまでにたくさんの魔術師が塔の壁の破壊を試したけどダメだったんだ。

相当強い魔法防御だ。伝説級の魔術師でも破壊できない」

「そうか。そういうもんなのか」

「そういうものだ」

完全にこの世界の初心者であることを察せられた目をされた。

「塔は上から下に行ってェ、最下層にボスがいるよォ」

「うわびっくりした。会話中にくるなよ」

「もしかしてこれか?物流の神って」

「見えるのか?」

「いやまあ、普通に見えるが…黒いもやもやしたもので包まれていてよく見えんな」

「他の人には見えないもんだとばっかり思ってた」

「まァ、塔の構造教えに来ただけだからァ、また後でねェ」

「いきなり来ていきなり帰っていった…」

「アレのことは俺もよく分からん。探索早く進めようぜ」

屋上から降る階段が普通に設置されていたので全員で降りた。

「待て」

「どうした」

「気配が多い」

「一匹づつ釣って倒すか?」

「いいやそんなみみっちいことはせんでいい!」

俺は敵の群れに突っ込んだ。

相手は人型のモンスター十体ほどか。人型なら戦鎚が有利に働きそうだ。

「俺のハンマーを喰らえ!」

剣で回転切りをするように振り回すと、十体のうち三体に当たった。

一体目は鳩尾に当たったようだ。二、三体目のモンスターは衝撃が吸収されたらしく、まだピンピンしている。一体目を担ぎ、すぐに屋上に戻った。

モンスターは追ってこない。フロア間はモンスターの移動ができないようだ。

「おい、もう一体仕留めたのか?早すぎるのでは?」

「なんだこの状態異常は。『ハートブレイク』…」

「心臓破壊しちゃった感じ?」

「いや、これ確か一定時間気絶の効果だったな。」

球技をしているときにボールが鳩尾に当たると一時的に心臓が微細動を繰り返すという。そのときに気を失ったりするらしいが、これも同じことなのだろうか。

「結構強いんじゃないか、その武器。今度俺たちにも試させてくれよ」

「ああ、いいぜ。そのうち工房にも頼んで生産してもらう。この戦場はテスト会場だ」

「テストのためにわざわざ前線に来たのか」

「そうだ」

「やっぱりやばいやつだよ君は…」

「まだまだ中にいる。あと九体だったな」

「多いな、全員で突撃した方が早いか」

「その方がいいと思うわい」

「じゃあ、突撃だ」

幸い階段は広かった。四人で横に並び、

「三、二、一、突撃ー!」

その合図で乱戦が始まる。



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第四話 シェア率と敵の強さと

 俺達は敵の群れに突撃した。敵の数は九体。対する俺達は四人。場合によっては、いや、常識的に考えれば全滅もあり得る数の差だ。

 相手は無属性魔法を頻繁に使用する人型のモンスターだが、無属性魔法の特徴は攻撃力が低い代わりに詠唱速度が速いことだ。俺はまだいいとして、グレートソードを持っているダライオスが辛そうだ。

 他三人の攻撃は確実に当たっているものの、ダメージが異常を感じるほどに低い。

「なあ、その武器の通り悪いんじゃないか?」

「今までこれしか使ってないからな、よく分からないね」

「確かに、最近は入るダメージが少なくなってきた気がするが…気のせいじゃろう」

 妙に落ち着いた声だった。

 今はとにかく目の前の敵の密集したものを排除することに集中することにした。

 結果的に、苦戦を強いられたものの、その階層にいた敵の掃討に成功した。

「おいおい、これをまだ最低3回もやるのか…僕はもう限界だな」

 サリエルが弱音を吐いている。

「なぜじゃろうなぁ〜ちょっと前まではこんな事余裕でこなせたんじゃがな〜」

「珍しいじゃあないか、お前がそんなこと言うなんてな」

 レイアミがそう言った。

「ところで、さっきの武器の通りが悪いとか言っておったが、どういうことじゃ?」

「ちょっと確認してもいいか?」

「ああ、お構いなく」

「教えてくれ、物流神!」

 そう叫ぶと、おなじみの物流神が出てきた。

「ヤッホー、何かお困りの様子だねェ」

「ちょっと説明してもらいたいことがあるんだが」

「何かな」

 俺は先程の武器のダメージが少なくなってきている気がするということを話した。

「あーそれかァ、簡単な話だよ」

「それはどんなことだ!?」

 レイアミも食いついてきた。

「それはね…モンスターが慣れたからなのォ」

 一同はしばらく固まっていた。

「待て、それはどんな意味だ」

「うーん、真面目に解説してもいい?」

「構わんよ」

「まず結論から言うと、モンスターがその武器の攻撃に慣れてきているのねェ。まあどうしてそんなことになってるかって話なんだけど、一種類の武器を使っている人が多ければ多いほどモンスターはその武器に強くなるってことらしいんだよねェ」

「そんなんがあったのか…」

「マジかよ」

「じゃあ新入りがめっちゃ強く見えたのって…」

「モンスターがまだその武器に慣れてなかったからだねェ。」

「それもあったのか、俺に仕事頼んだ理由」

 しばらくして気づいた。

「ん、じゃあ俺にかけた呪いと被ってないか。そのシステム」

「あーその倍率が人不にだけ高く適応されてるだけだよォ」

「そうか」

「あんたらほんとに神と人間の関係?」

「そうだ」「そうだョ」

「いや、なんかそれにしては馴れ馴れしいなって思って」

 その後、しばらく休み、ダライオスが言った。

「今は帰ったほうがいいんじゃなかろうか、全員満身創痍じゃろう?」

「それもそうだ、一時撤退だね」

「武器変えるか…」

 そこで俺は提案をした。

「全員で戦鎚を使わないか?あとついでに工房に一本送っておきたい」

「もちろんだ、これは広めた方がいい」

 街に帰る途中、少し視界が暗くなったような気がした。

「?!」

「どうした、人不」

「いや、なんでもない。疲れているようだ、ッ!?」

「ダメそうだな」

 俺の脳内で誰かの会話が聞こえる。

『大根おろ……もかかるし時…めんど…』

 会話というより収録現場かこれは。まあ誰かの声が聞こえる。何故か聞いたことのないはずなのにひどく懐かしい感じがあった。

『……そんなとき……根スリス……』

 何故か、聞いたことのある、いや、自らの口から出したことのあるような、そんな口調だった。

「大丈夫かよ、そんな体力で」

「いや、今日はもう活動できなさそうだ」

「肩を貸そう。街までは持ってくれよ」

 無事に街に着くことができた。

 それにしても、なんだったのだろうか、あの声は。

 何かを紹介しているかのような口調だった。かろうじて聞こえたところから推察するに、調理器具の紹介だろう。

 

 少し、思い出した。

 

「おいおい、またぼーっとしてるぞ」

「なあ、やりたい事があるんだが、いいかな」

「おう」

「家具の店はあるか?」

「あるな」

「そこにはダミーとかあったりするか?」

「ふつうに売ってるよ」

「ならアレができるな」

「アレってのは…」

「広告だ」

「あぁ…ってことは僕たちは専門外ってことかな」

「そうかもしれん」

「じゃあ別行動かぁ…」

 その後、パーティとは別れ、教えてもらった家具屋にいき、テーブルとダミー、武具屋でプレートアーマー二つとグレートソードを購入し、工房へ。

 工房には、戦鎚を渡し「この武器を作って置いておけばもしかしたら売れるかもしれない」と言っておいた。すぐに作成に取り掛かったので安心だろう。

 そしてその足で街の大通りへ。

 邪魔にならないような場所、直線の真ん中あたりの縁の方へテーブルを置く。

 そこに戦鎚とグレートソードを並べておく。

 そのテーブルの横にはプレートアーマーを着せたダミーを設置。

 そう、俺はこれから「紹介」する。

 この知名度が極限まで低い戦鎚という武器を。



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紹介回 第五話 ウォーハンマー

 今回含め、「紹介回」とサブタイトルにある回には武器を宣伝する文しか書いていません。興味なかったら飛ばして構いません。

 

 見知らぬ男がマーケティングをしている。

「そこのあなた、どうでしょう、知っていますか?刃がない武器があったことを。そうなんです、あったんです。それがこのウォーハンマー。」

 そう言って一本取り出して見せる。

「刃がなかったら攻撃力なんてあるわけないだろとお考えの皆さん、そんなことありませんよ。それどころか、あの刃を弾いてくる忌々しい鎧を着た敵にさえ攻撃が簡単に通ります。」

 人が集まってきた。

「さて、そろそろかな。実際に試してみせてみましょう。」

 彼の机の下からはいくつかの練習用ダミーが出てきた。しかもそれぞれには鎧が着せてある。

「この鎧を着たダミーに、このロングソードとこのウォーハンマーで同じように攻撃してみますよ。まずはロングソードから。」

 彼がロングソードでダミーに切り掛かると、まあ普通に窪んだ。

「じゃあウォーハンマーです。さあ感動する準備をお願いします。行きますよ、いいですか?行きますよ。」

 彼はそう言った後、横向きにダミーへウォーハンマーを当てた。

 木が折れる音。あの鉄の鎧を攻撃が貫通したというのか。

「どうでしょう、分かりますか?この違い。ほらー、鎧を脱がせてみると一目瞭然!ロングソードで攻撃した方は中身までは全く攻撃が通っていません!しかし、ウォーハンマーで攻撃した方は、ほら、これ!すごいでしょ!砕けかけていますよ!あの結構頑丈なことで有名なダミーが!」

 どうなんだろう、ヤラセな気もする。

「そうだ、みなさんもしかしたら『どうせお前は慣れてるんだろ』とお思いかもしれないのでこの中の誰かから協力してもらいましょう。」

 周りは静まってしまった。私が出るか。

「えー、いつも使っている武器はなんですか?」

「グレートソードです。」

「おー、それは豪快だ、まぁ今回は簡単なものですよ。まずお持ちの武器であのダミーを1回だけ斬ってください」

「そう…」

 私は普段使っているグレートソードを抜き、目の前の鎧つきダミーを斬った。

 普段通り弾かれる感触があった。ロングソードよりは凹んだか、まあこんな物だろう。

「じゃあ、こっちのウォーハンマーを使ってみてください。」

 渡された物を握る。重い。グレートソード並に重い。

 とにかく、一回振ってみた。

 当てることは簡単だった。

 その先端につけられた石の塊のような物体がダミーに当たった瞬間、あまり聞いたことのない破壊音が聞こえた。

「さてみてみますか。グレートソードは、あー、少し傷がついていますね。」

 まあ普通の武器ならこんなもんだ。

「えーっとこの方が振ったウォーハンマーの方は…あー、ちょっと待ってください、鎧が変に曲がりすぎてて…なかなか…よし、開きました。」

「うわすっげぇ」

「メシャメシャですね。これはすごい、なかなかできませんよこんなに壊すことは。えー、突然でしたが協力ありがとうございました。」

 私は観客の群れに戻る。

「一撃だけでもこんなに威力があるウォーハンマー、一本いかがでしょうか。お買い求めはすぐそこの武具店までお願いします。」

 かなり欲しくなった。

 

 帰りに、協力への感謝として菓子の小袋をもらった。



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塔の攻略に再挑戦

 私があのテレビショッピングのような長い口上を使った武器の紹介をした時から1日が経ち、もう一度メンバーが揃った。

 私から話を切り出した。

「昨日、全員で戦鎚使おうって言ったのには訳があって…」

 私はメンバーにちょっとした作戦を話した。

「確かにそうかもしれんが、どうじゃろう、成功するかのう。」

「最初がダメならまだ安全だし、その後でダメだったら私たちの力不足ですよ。」

「まあ確かにその方が戦いやすくはなるかもな。」

 というわけで、すぐにその作戦を実行しに、昨日の塔へ向かった。

「えー、まあさっき言った通りに、私と同じ動きをしてくれればいいです。」

「わかった。」

 私のものを含めた4本の戦鎚が塔の壁面を襲う!

「やった!少し崩れそうだぞ!」

「もう一回やってみましょう!」

 それが当たった瞬間、その部分の壁面が崩れた。人が通れそうなくらいの。

「よし、次は中にいる敵を外に誘き出すんだ!」

 それはスムーズに実行することができた。ただ、問題があった。

 この塔にもボスがいたことだ。

「じつは、俺らも分かってなかったのよ、塔についてのこと。」

「あら〜」

 ただし、そのボスはさっきまで戦っていたやつの防具をつけたバージョンといった感じで、さらにその防具は金属製だったので好都合だった。その上2・3階の床が崩れ、そこにいた複数の敵は瓦礫に埋もれている。戦線に出てくるにはしばらくかかるだろう。

「防具は気にしないで攻撃していい。それがこの武器の強みなんだからな!」

 どうやらレイアミは私が行った戦鎚の紹介を見に来てくれたらしい。

「せいっ!」

 ボスに向かってレイアミが戦鎚を振る。

 ゴッという鈍い音が鳴り、胴体部分の鎧が凹んだ。ボスは怯み、よろめいた。

「ぬおりゃ」

 ダライオスも続けて戦鎚をレイアミが当てた箇所の近くに当てる。

 ボスの鎧は少し割れた。少し体に刺さっており、皮膚からは薄い色をした血液が滲み出していることがわかる。

「もう少しだ」

 サリアルも続いて攻撃しようとするが、ボスは負けじと反撃してきた。私の方だ。

 『ハンマー』がゲームに採用される場合、防御面はからっきしであり、攻撃を防ぐことは難しいものと相場が決まっている。だがこれは現実で使われていた『戦鎚』だ。それなりに素早く、防御面も考えられている。

 私はボスの大剣が振り下ろされる前に前に踏み出し、その長いリーチによって繰り出される速度を全てボスの鎧へと解放した。

 ボスはまるで人が死ぬかのように死んだ。死体は残っている。

 一応どんな感じで死んでいるのか確認することにした。

「うーん、これはどういう死に方かな?」

「内臓破裂と失血ってとこですかね、臓器がありそうなところを押しても反発感がない」

「これは対人戦では喰らいたくないのう」

「まったくだ」

 その時、ガラガラという音がし、目線をそちらに向けるとさっきの2、3階にいた奴らが瓦礫の山から脱出してきていた。

 それらはこちらに襲ってきた。

「戦闘不能にだけさせて帰るぞ」

 サリアルがそういうと、他のメンバーが普段使っていた武器を取り出し、持ち変えた。

 サリアルが言いたいのはこういうことだ。必ずしも『死亡』させる必要はなく、『戦闘不能』にする。つまり、四肢を欠損させたり、脳しんとうなどで戦闘を継続することが不可能になる状態にするということだ。多分そうだろう。

 戦闘中の光景は凄惨だった。普通に戦うよりもそれは見るに耐えないものだった。普通に考えれば足首を失って這って移動する敵なんて見たくもないものだ。

 まあとにかく、塔の攻略は終了したので、ギルドに帰ることにした。

「すいません、私が言い出したのになんですが、塔壊しちゃったけど大丈夫ですかね?」

「大丈夫だ、あれは勝手に生えてくるものだからな。」

 サリアルはそう答える。

「そう。あれはダンジョンの一種だから、知らないうちに湧いて出てくるものなの」

 レイアミもそういう。

「そうなんですか」

 ギルドに到着し、依頼が完了したことを報告すると、一人当たり3000Mが報酬として支払われた。

 報酬はグループに支払われるのかと思っていたのだが、参加者全員の個々に宛てて報酬が支払われるようだ。ハンティングアクションやクエストという概念のあるMMORPGによくあるシステムだ。

 

 このクエストの後、私はその世界での『普通』の過ごし方をし、戦鎚を作ってから1週間が経った。

 いつもの黒いもやが目の前に出た。

「調子はどうよォ?」

「まだこの世界には慣れていないですが、なんとかやれてます」

「そう。ところで、いいお知らせがあるのォ」

「聞かせてください」

「戦鎚の武器市場シェア率が2%をこしたのよォ」

「初週で2%って、ほんとですか?!」

 まさかこんなに早く買う人がとは思わなかった。

「ちなみに、現在何人ほどがこの世界に?」

「ざっと五万人ほどかなァ。」

「ってことは、買った人は単純計算で1000人くらいですか」

 思ったよりも買ってくれた人がいた。これから広まっていくのだろうか。

「使う敵を選べば普段使っている剣以上に使いやすいって評価があるねェ」

「おぉ、いい評価のレビューはもらうと気持ちがいいですね」

 どっかに評価を書いておくところがあるのだろうか。

「まあ悪い評価もあるねェ。柔らかい敵には効果が薄いってさァ」

「打撃ですからね、そりゃそうでしょう」

「いやいや、この世界の住人は打撃武器一個も知らなかったんだからァ、こうなるのは当然よォ。というか柔らかい敵に効きやすい武器って今ないと思うけどォ」

「なら、次作るなら柔らかい敵にも効きやすい武器でしょうね。」

「あ、そうだ。武器を作る能力移しておこうかァ。私じゃちょっと知識が足りない可能性もあるしィ」

「そんなことしていいんですか」

「大丈夫大丈夫」

「ちょっと不安ですが」

 神の掟とかに触れないか心配だ。

「じゃあ移すよー」

 そんな軽く言われても。

「はい、移し終わったよ」

「え?もう?」

 私の体には何も変化がない様に感じる。

「それじゃ、次の武器楽しみにしてるからねェ」

 行ってしまった。

 そういえば私は1週間の間、クエストに行っていなかった。

 武器屋の売上から2%程度貰っていたので、生活するだけならそれで十分だったからだ。そろそろ行ったほうがいいだろう。

 次は建造物攻略じゃなくて素材を集めるほうがいいな、そう思いながらギルドへ向かった。



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もっとリーチを!

 私は前回、塔の攻略に成功し報酬を受け取った。さらに武器を生成することを私個人でもできるようになった。武器屋からは頼んでも無いのにお金が送られてきた。私は訝しんだがその後すぐに「きっと戦鎚のお礼だろうな。」と想像がついた。

 今回は新しい依頼を受けにいく。冒険者としての役目だからだ。もっとも、この世界での冒険者というのは某巨人漫画での調査兵団のようなものだが。遠征して目的のものを排除する。まあ普段はその辺のもの集めて売ってるような人もいるが。

 さて、ギルドに着き、依頼の一覧を眺めていると何やら面倒だから依頼したようなものがある。こういう依頼は普段出ないのだが。

「野草摘みの依頼ですか。どれ、どんな野草が必要なのか見てみましょう。」

 ゴールデンクレセント…。まあ睡眠薬に使われる薬草だ。峠の上によく生えているらしいが、博物館の植物エリアでしか見た事がない。見つけられるだろうか。まあ受けるのだが。

「このゴールデンクレセントの依頼受けさせてください。」

 聞くと、受付は言う。

「ちょっと待って、なんかここから最寄のゴールデンクレセントが生えてる所に『初心者狩り』が徘徊してるらしいの。」

「そんなのがこういう世界にもいるんですか?」

「たまに出るね。こういうことする人はずっといなくならないんだから。」

「まあそれは良いとしてこの依頼受けますね。その『初心者狩り』もなんとかしましょう」

 私はとりあえず問題の場所に行ってみた。最寄の場所っていうのは受付の人が教えてくれた。

 そこに着くと、分かりやすく『来る人を待っている』姿勢だった。

 奴は防具を着ていた。ダンジョンかなんかで拾った装備だろうか。店には売っていない防具だ。そんなことよりも、大事なのは奴の武器だ。あの塔の敵はダガー程度だったからなんとかなったものの、奴が大きい武器を持っていたとしたら今の武器、戦鎚では厳しい。

 恐る恐る近づくと、やはり襲ってきた。私を初心者と勘違いしたのだろう。

 奴が持っていたものは、考えうる最悪なものだった。グレートソードだ。グレートソードは長い・太い・重いと三拍子揃った大型武器で、リーチが2メートルはある。とても背負って歩けるものではないが、この世界の鞄が優秀なので背負うことができる。

 とにかく、戦鎚で戦うことは無謀だ。奴はグレートソードの割に攻撃が素早い。一旦逃げる。

 少し逃げたら、追ってくることはなかった。あそこに止まっておきたいのか。

 あれを倒す方法は3つ。1つ目は戦鎚を持ち、攻撃をかわしつつ確実にダメージを与える方法。2つ目はこちらもグレートソードを使うことだ。3つ目、新しい武器を作成して倒す。3つ目が現在取ることができる手段のうちもっとも手っ取り早く、最も確実な手段だろうと思う。

 戦鎚で戦おうにも近づけるかどうかわからないし、グレートソードを持ったとしても練度はあちらの方が圧倒的に上。なので新しい武器を作成する。

 

 今回作るのは、『斧槍』

 なんで槍じゃないんだよと思っただろう。だがこれには理由がある。

 槍では刺突、打撃攻撃ができるが、斧槍ならこれに加えて斬撃もできる。どっちにしろ「リーチの長い武器を作る」目的は達成できるが、ロマン重視で。

 

 さて、作ったはいいものの、長く作りすぎたかもしれない。3.5メートル。まあいいでしょう。あれを倒した後にこの武器をまたマーケティングしようかね。あれから1ヶ月くらいしょっちゅう戦鎚のマーケティングしてたから、そろそろ武器変えようかと思っていたところだ。



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