蒼焔の機影 〜ハワイ攻略作戦編〜 (蒼海 輪斗)
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第一話 天二号作戦

おまたせしました。遂に続編です!

それではどうぞ。


鹿児島 坊ノ岬

 

 巨大な戦艦が沖を航行している。周りには数隻の駆逐艦、軽巡、そして”空母”が随伴している。

 

 中心にいる巨大な戦艦は帝国海軍が誇る、戦艦長門だ。沖縄突入艦隊の旗艦である。その後方に続く空母は、海軍が秘密裏に建造を進めていた改大鳳型正規空母(かいたいほうがたせいきくうぼ)”雷龍”だ。大鳳型と同じく装甲飛行甲板を装備しており、搭載機数は60機を超えている。

 

長門艦長    「まさかこんな空母が建造されていたとはな…。」

 

航海長     「やっぱり”戦闘機”の護衛があるのはありがたいですね。」

 

そうだ。あの空母に積まれているのは戦闘機だけだ。

 

艦長と航海長が話していた

 

その時、

 

偵察員     「敵機!!四時方向、アヴェンジャー雷撃機30機確認!」

 

長門艦長    「なんだと!」

 

 おそらく沖縄近海に展開していた空母機動部隊の艦載機だ。以前の大和のときは合計300機ほどの艦載機に襲われた。

 

長門艦長    「対空戦闘用意!!」

 

伝令兵     「対空戦闘用意!!」

 

対空戦闘用意のラッパが響く。次々と機銃員たちが配置につく。主砲に三式弾を装填する。

 

乗組員     「艦長!対空戦闘用意用意よしです。」

 

長門艦長    「分かった。射程に入り次第迎撃しろ。」

 

 

 

空母雷龍

 

岩本徹三    「敵さんが見えたそうだぞ。」

 

赤松貞明    「もうか。いい電探をお持ちだな、アメ公よ…。」

 

坂井三郎    「そろそろ発艦するか?」

 

西澤広義    「そうですね。次は沈めませんよ。」

 

岩本徹三    「当たり前だ。大和には申し訳ないが、長門は守らせてもらうぜ。」

 

飛行隊長    「全機、発艦準備!」

 

飛行甲板のエレベーターが上がる。

 

士官      「発艦用意…」

 

甲板には蒼色の”零戦”が所狭しと配置されている。この蒼い零戦が”零戦七八型”だ。

 

 零戦七八型は最新鋭のエンジン、”旋風”を搭載しており最大馬力は3500馬力を発揮する。最高速度は730キロを超え、零戦本来の旋回性能も健在だ。防弾性能も以前よりかなり向上している。対戦闘機、対爆撃機戦を想定して作られた最強の零戦である。

 

士官      「発艦始めっ!」

 

 士官が旗を振り下ろした。零戦七八型がエンジン音を轟かせながら次々と発艦していく。その中に西澤たちもいた。

 

 

 

 

米雷撃機1  「敵艦隊が見えてきたぞ。」

 

米雷撃機2  「YAMATOを沈めたのに懲りない奴らだな。」

 

米雷撃機3  「おい、前方になにか見えないか?」

 

米雷撃機2  「はあ、何いってんだ。なにもみえな」

 

ドガガガガガガ!!

 

バァーン!!

 

米雷撃機2  「!!?なんだ!」

 

米雷撃機1  「みろ!第一中隊が落とされているぞ!」

 

米雷撃機3  「奴らに空母なんていないハズだ!一体どこから…!」

 

 

 

岩本徹三   「護衛の戦闘機すら付いてねぇな。馬鹿にしやがって。」

 

赤松貞明   「穴だらけにしてやるよ!」

 

空中戦が始まった。

 

ドガガガガガガ!! ドガガガガガガ!!

 

米雷撃機3  「くっ、ぴったりついてくる!あれが”BullZekeなのか!?」

 

ドガガガガガガ!!

 

ボガァン!

 

赤松貞明   「アメ公は気前がいいな。次々落とせるぜ。」

 

坂井三郎   「おい、ミッドウェーのときみたいにしないでくれよ。」

 

岩本徹三   「安心しろ坂井。あいつはそんなヘマしないぜ。」

 

無線で会話をしながら次々と米雷撃機を撃墜していく。戦闘機の護衛がない米雷撃隊はなすすべもなく無惨に撃墜されていった

 

 

 

 

米空母タイコンデロガ

 

米乗組員    「艦長!雷撃隊が全滅したようです!」

 

艦長      「なんだって!やつらの航空戦力はないんじゃなかったのか!?」

 

米偵察員    「艦長!空母です!敵艦隊に空母がいます!」

 

艦長      「何っ!?空母だと!…直ちに護衛機を出撃させろ!これ以上やられてたまるか!」

 

タイコンデロガから艦上戦闘機グラマンF6Fが発艦していった。

 

護衛機1    「クソッ!ジャップめ!よくもうちの雷撃隊を!」

 

護衛隊長    「全員、全力で敵機を攻撃せよ!」

 

全機      「了解!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

坊ノ岬沖

 

坂井三郎    「おい、もう終わりか?」

 

赤松貞明    「もう全部敵機を落としちまったよ。」

 

 この間、長門や雷龍、その他護衛艦隊は一発の魚雷も爆弾も喰らわなかったのだ。零戦七八型の圧倒的な戦闘力により、全ての攻撃機が撃墜されたのだ。

 

岩本徹三    「おい、見ろ。友達がきたぞー!」

 

水平線の向こうからグラマンF6Fの大編隊が近づいてきたのだ。

 

西澤広義    「きたぞ。」

 

赤松貞明    「グラマン狩りの始まりだ。」

 

 

 

護衛機1    「あれがBullziku。ただ色が青くなっただけじゃないのか。」

 

護衛隊長    「甘く見るな。奴らは…悪魔だ。」

 

 二度目の空戦が始まった。零戦七八型がグラマンの背後につく。グラマンは逃れようとする。しかし、零戦七八型の馬力はグラマンすらも超えていた。たちまちグラマンは機体を撃ち抜かれて、火を吹いて落ちていった。

 

護衛機2    「なんだ!こいつらは!?俺の列機を一瞬で落としやがった!」

 

すると背後に七八型が回り込んできた。

 

護衛機2    「へっ。俺は他の奴らみたいには行かないぜ!」

 

そのまま機体を急降下させる。

 

護衛機2    「(奴らの機体は急降下に弱い。防弾性能は確かに上がったみたいだが、あれほど旋回できるってことは機体が軽い証拠だ。軽い機体は急降下に耐えられない。残念だったな!)」

 

 しかし、予想とは裏腹に零戦七八型は急降下で離脱したグラマンにぴったりと食いついている。

 

護衛機2    「なっ、なんだと!!」

 

坂井三郎    「機体が軽いと思ったのは勘違いだったな。」

 

ドガガガガガガ!!

 

バァーーーン!!

 

虚しくグラマンは火を吹いて落ちていった。

 

赤松貞明    「大したことねぇなぁ。」

 

 赤松貞明が言うように、完全に一方的な戦いだった。零戦七八型は新人でも扱いやすい性能でもあるため、若い搭乗員でもたやすく敵機を撃墜することができた。

 

護衛隊長    「なんなんだ!あの動き!本土空襲のときにはあんなに強いパイロットはいなかったぞ!」

 

その時、一機の零戦七八型に見覚えのあるマークを見つけた。

 

護衛隊長    「あ、あれは桜色の撃墜マーク…。イワモトじゃないか!」

 

その時、後方にその桜色のゼロファイターが回り込んだ。

 

岩本徹三    「そのとおりだ。」

 

ドガガガガガガ!!

 

ボワァーーーーーーーー!!

 

 最後に残った護衛隊長機が撃墜され、空戦は終了した。これで戦艦長門は空襲される可能性が格段に減った。

 

雷龍艦長    「これくらい暴れ回れば大丈夫だろう。」

 

飛行隊長    「そうですね。全機に帰艦命令をだします。」

 

こうして帰艦命令が出された、海軍第一航空団の零戦七八型は雷龍へと帰っていった。

 

敵機撃墜127機、自軍被害 被弾11機、未帰還機なし

 

戦果報告からみてもまさに圧勝だった。

 

空母雷龍 搭乗員室

 

赤松貞明    「今日は大量だったな。17機喰ってやったぜ。」

 

岩本徹三    「俺は21機だ。」

 

西澤広義    「私は坂井さんとの共同撃墜を合わせて12機ですね。」

 

そうこう今日の撃墜機数を西澤たちは話していた。

 

三日後の新聞の一面にはこう書かれていた。

 

                   『戦艦長門、沖縄二突入ス!!』  

 

 戦艦長門は沖縄への突入に成功し、米艦隊と交戦を開始したのだ。航空戦力が壊滅に追い込まれた米軍は劣勢であるとのことだ。

 

こうして”海軍第一航空団”の初陣、”天二号作戦”は成功したのだった。

 

 

 

 

 

次回   復活!!台南航空隊




大日本帝国の逆襲が今、始まる。


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第二話 復活!!台南航空隊

大日本帝国の反撃は止まらない。


1945年 7月1日 台南(現 台湾)上空

 

 四機の米軍機が上空を飛行している。双胴の特徴的な機体をもつP-38ライトニングだ。

 

米エース1   「全機に告ぐ。敵影はないか十分に目を凝らせ。」

 

米エース2   「三番機、四番機、敵影はないか?」

 

三番機     「今のところ何も見つかりません。」

 

四番機     「こっちもです。敵軍機はいないようですね。」

 

 三番機と四番機の搭乗員はそう答えた。しかし、エースパイロットの二人”エドワード”と”スミス”は油断していなかった。

 

エドワード   「そうだろうか…。敵はいないと思うか、スミス?」

 

スミス     「いやエドワード、敵はいるぞ。一時方向だ。」

 

 一時方向には機影がみえる。日本陸軍の一式戦闘機隼だ。

 

エドワード   「あの形状はOscarだな。」

 

スミス     「よし、追跡するぞ!」

 

 四機のライトニングは隼に向けて飛行した。

 

 

 

 

隼搭乗員    「一人での移動は心もとないな。仲間がいれば安心するんだが…」

 

 隼の搭乗員、伊藤龍生が狭い操縦席でそう呟いていた。

 

その時

 

 

 

 

ガガガガガガガ!!

 

伊藤      「!?なっ、敵機が後方に!いつの間にっ!」

 

 ライトニング四機が後方から接近し、攻撃を行ってきた。伊藤は瞬時に操縦桿を引いた。隼が左旋回して回避行動に移る。

 

エドワード   「私が敵を追う。三番機と四番機は援護を。」

 

三番機・四番機 「了解!」

 

 

伊藤      「どうする…。逃げ回っていてもじきに落とされる…」

 

 するとその時、上空から新たな機影が現れた。

 

スミス     「?エドワード。上空から新たな機影が接近している。気をつけろ。」

 

エドワード   「機影?…あれは…」

 

 そこまで言い、エドワードは言葉を失った。

 

三番機     「てっ、敵機です!!」

 

 上空から現れたのは、蒼い零戦…零戦七八型だったのだ。

 

スミス     「エドワード!!すぐにOscarから離れろ!上空からBullZekeが接近している!!」

 

エドワード   「なんだとっ!!?」

 

岩本徹三    「みつけたぞ!隼に手は出させないぞ!」

 

 みるみる零戦七八型はエドワードのライトニングの後方についた。

 

エドワード   「だめだっ!!こいつ離れるどころか近づいて来やがる!」

 

岩本徹三    「射線に捉えたぞ。観念しやがれペロ八野朗!」

 

カチィ…

 

 岩本が機銃のレバーをゆっくりと引いた。

 

エドワード   「くっ、スミス。私が迂闊だったのかもしれないな…」

 

ドガガガガガガ!!

 

スミス     「エドワーードーーーーーー!!!」

 

 右翼を撃ち抜かれたライトニングはエドワードとともに、火を吹いて森林へと落ちていった。

 

伊藤      「あれが噂に聞いていた零戦七八型か…。なんという性能だ。」

 

 そのとおりだ。乗っている搭乗員の腕もあるだろうが、まさに神業だった。水が流れるように敵機を撃墜していた。

 

三番機     「くっ…BullZekeがついてくる!!誰か助けてくれ!!」

 

スミス     「三番機!四番機!君たちは現空域から離脱しろ!後は私がどうにかする。」

 

四番機     「分かりました!離脱します!」

 

 三番機と四番機が離脱していった。

 

岩本徹三    「一式戦に告ぐ。直ちに現空域から離脱しろ。あとは俺がどうにかする。」

 

伊藤      「は、はい!」

 

 岩本の指示により、伊藤はすぐさま離脱を開始した。

 

スミス     「クソッ!よくもエドワードをっ!!」

 

ガガガガガガガ!!  ガガガガガガガ!!

 

 ライトニングは零戦七八型へ攻撃を集中させる。しかし、岩本は優れた旋回性能を活かしながら弾丸を回避していく。

 

岩本徹三    「なかなかやるやつだな。だがこの零戦の機動力についてこられるか?」

 

 突然、岩本は機体を急上昇させた。

 

スミス     「逃がすか!!」

 

スミスは七八型を追った。しかし、ライトニングは双胴の機体の為機動性能は極端に低い。

 

スミス     「グッ、曲がれ!ライトニング!曲がるんだっ!!」

 

 重くなる操縦桿を無理に引いた。

 

 

 

その時、操縦桿がフッと軽くなった。

 

スミス     「あ、れ…。なんだ、これ…」

 

 体が浮いている感覚がする。そしてスミスはすべてを悟った。

 

スミス     「まさか、スピン!?」

 

 そうだ。無理に舵を取ろうとした結果、空気抵抗を多く受け機体のバランスが崩れたのだ。こうなったらもう何もできない。

 

 回りながらゆっくりと落ちていく機内でスミスは思った。

 

スミス     「これじゃあ、家に帰れないな…」

 

 機体が地面に叩きつけられ、爆発が起きた。

 

岩本徹三    「…………お前の腕、なかなかだったぞ。」

 

 岩本はそう呟いた。そして一式戦に無線連絡をする。

 

岩本徹三    「こちら七八型。貴機に被害はないか?」

 

伊藤      「はい!救援感謝します!」

 

岩本徹三    「この先に飛行場がある。そこに着陸するぞ。」

 

伊藤      「了解しました。」

 

 零戦七八型と隼が編隊を組んで飛行する。以前はなかなか見れない光景であった。

 

 

 

台南基地(現 台南空港)

 

赤松貞明    「ここが台南基地かぁ。」

 

西澤広義    「懐かしいですね…」

 

坂井三郎    「そうだな。あの頃はまだ太田がいたからな…」

 

 太田敏夫は1942年10月21日のガダルカナル侵攻戦で戦死している。

 

赤松貞明    「あの空に散っていったあいつらの為にも、俺たちが頑張らないとな…。」

 

坂井三郎    「赤松がそんな事言うなんて、珍しいな。」

 

赤松貞明    「気にするな。」

 

 すると、整備兵たちが全力で滑走路へと向かっていった。

 

整備兵1    「二機戻ってきたぞ〜!」

 

整備兵2    「急げ〜!!」

 

赤松貞明    「おっ、岩本が帰ってきたか…」

 

西澤広義    「もう一機はなんでしょうか?」

 

坂井三郎    「あれは隼じゃないか。」

 

 坂井たちはなぜ陸軍の戦闘機が台湾にいるのか不思議がっているようだ。すると、小走りに岩本と伊藤が近づいてきた。

 

岩本徹三    「おう、今帰ったぞ。」

 

赤松貞明    「おい、岩本。お前、今日は何機喰った?」

 

岩本徹三    「ペロ八野朗を二機喰ってやったよ。まあ、奴らのうち一機はなかなかの腕前だったけどな。」

 

坂井三郎    「それで、撃墜したのか?」

 

岩本徹三    「当たり前だろ。まあ、スピンさせたから落としたとは言えないかもしれないけどな…」

 

西澤広義    「それで、彼は一体…」

 

伊藤龍生    「あっ、はい!陸軍准尉の伊藤龍生であります!」

 

赤松貞明    「おう、俺は赤松貞明だ。よろしくな。」

 

坂井三郎    「坂井三郎だ。」

 

西澤広義    「私は西澤広義です。よろしくおねがいします。」

 

伊藤龍生    「はい!こちらこそよろしくおねがいします!」

 

岩本徹三    「そういえば伊藤。お前はなぜこの飛行場にいる?」

 

 岩本も陸軍の搭乗員が海軍の基地にいるのか疑問のようだ。その疑問に伊藤がすぐに答えた。

 

伊藤龍生    「はい!実は本日付でこの台南海軍航空隊に所属になりました!」

 

四人      「!?」

 

 四人は顔を見合わせて驚いた。なぜ陸軍が海軍の航空隊に?

 

伊藤龍生   「実はですね…」

 

 伊藤はここまでの経緯を話すのであった。

 

 

 

 

次回   比島奪還作戦




今回の蒼焔の機影は、オリキャラ伊藤が主役になります。


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第三話 比島奪還作戦

伊藤の口から語られる、ここまでの経緯とは?
そして比島の状況は…


伊藤龍生    「実はですね…」

 

 伊藤はこれまでの経緯を話し始めた。

 

 私は入隊するとき、もともと海軍の軍人になるつもりでした。しかし、海軍には当時私が入れる航空隊がありませんでした。なのでしょうがなく陸軍に入隊を希望したんです。

 

坂井三郎    「なるほど。もとは海軍に入りたかったわけだな。」

 

伊藤龍生    「はい。そうなんです。」

 

 伊藤は続けた。

 

 陸軍に入隊してからは隼の搭乗員として戦っていました。しかし、43年頃からでしょうか。今乗っている隼はかなり旧式化が進んできました。上からは近いうちに三式戦闘機飛燕を送ると言っていましたが、私のいた部隊にはまだ隼と屠龍(とりゅう)しかありません。

なので今だに隼で戦っています。

 

赤松貞明    「まるで前の俺たちみたいだな。」

 

岩本徹三    「まあ、俺たちは練度の差でどうにかしてきたけどな。」

 

西澤広義    「七八型ができなかったら、私達も今だに五二型に乗っていたかもしれませんね。」

 

 しかし、昨日上層部から連絡があったんです。”台南航空隊に異動しろ”と。陸軍なのになぜという疑問は持っていましたが、念願の海軍の航空隊に入れるチャンスでした。これは逃せないと思い、命令に従ったということです。

 

岩本徹三    「じゃあさっき俺が助けたときは、移動中だったのか。」

 

伊藤龍生    「はい。先程は本当にありがとうございました。」

 

岩本徹三    「いい。困ったときはお互い様だろ。」

 

坂井三郎    「そういえば、比島は今どういう状況になってる?」

 

 坂井がそう西澤に聞いた。

 

西澤広義    「確か、大規模空襲作戦がされていると聞きました。」

 

赤松貞明    「大規模空襲か…」

 

 赤松はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比島 ルソン島

 

 次々と爆発音が響き、輸送船団が炎上していく。その空を陸軍の重爆撃機”四式重爆撃機 飛龍”が何十機も飛行している。そして爆弾を投下していく。

 

米兵1     「クソッ!ジャップの航空戦力は壊滅したんじゃないのかよっ!」

 

米兵2     「そんなこと言う暇があったら早く撃ち落とせ!」

 

 すると四式戦疾風(はやて)が低空飛行をしてきた。

 

米兵1     「伏せろっ!機銃掃射だ!!」

 

 疾風の12.7粍(ミリ)機銃、20粍機銃が火を吹いた。

 

ドガガガガガガ!!  ガガガガガガ!!

 

 機銃弾が飛び交い、逃げ遅れた米兵たちを撃ち抜いていった。撃たれた米兵たちはパタパタと倒れていった。

 

司令部

 

司令官     「どうなっている!?なぜ迎撃機は出撃しない!」

 

参謀      「前日の敵艦載機の攻撃によって稼働できる機がないんです!」

 

 作戦前日に、伊四百型潜水艦から発艦した特殊攻撃機”晴嵐”(せいらん)により多数の基地の航空機が破壊されていたのだ。

 

司令官     「空母はいつ支援にくるんだ!このままじゃ、ここもいずれ陥落するぞ!」

 

 実は比島の約八割は帝国陸軍、海軍の活躍により多数の犠牲を払いながら奪還していたのだ。現在米軍の支配下に入っているのはこのルソン島だけである。

 

司令官     「このままではここも危ない!早く防空壕に…」

 

ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 

 空から風切り音が聞こえてきた。米兵たちが見上げると、500キロ爆弾の雨が降ってきたのだ。

 

バァーン!!  バァーン!!  バァーン!!  バァーン!!

 

 次々と爆発音が響く。米軍の基地がまたひとつ撃破された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィリピン海

 

 アメリカ海軍の空母機動部隊が航行している。ルソン島の援護に向かうためだ。旗艦は先程まで沖縄近海にいた空母タイコンデロガだ。

 

艦長      「もうすでにルソン以外の島は奪還されている。なにがなんでもルソンは奪われてはいけない。」

 

航海長     「艦長、これより艦載機の発艦用意を始めます。」

 

艦長      「分かった。なんとか陥落前まで間に合わせるのだ。」

 

 艦長がそう言った。その時、

 

 

偵察員     「水上レーダーに反応!!敵艦隊です!!」

 

艦長      「なん、だと…。」

 

航海長     「どういうことだ!ここ近海に日本海軍がいるわけがない!仮にいたとしても奴らの艦隊は壊滅状態だ。まず艦載機の発艦を急げ!」

 

 航海長がそう叫んだ。しかし

 

偵察員     「偵察機より入電!敵艦隊より多数の航空機が接近中!」

 

航海長     「ふざけるな。日本海軍に空母なんかいるわけがない!」

 

偵察員     「しっ、しかし…」

 

航海長     「しかしもヘチマもあるか!」

 

 さらに声を上げる航海長に艦長は静かに言った。

 

艦長      「いや、航海長。奴らに空母はいる。確かにレーダーにはそのように写っている。」

 

航海長     「艦長…、ですが…」

 

艦長      「戦闘機の発艦を優先させよ。急ぐんだ。」

 

航海長     「…了解しました。」

 

 

 

 

10分後

 

 遂に、アメリカ艦隊上空に攻撃隊が現れた。日本海軍の第一航空戦隊雷龍(らいりゅう)、信濃(しなの)の攻撃隊だ。

 

米軍機銃員   「撃ち方始め!!」

 

 米軍機銃員たちが戦闘機の迎撃を逃れた攻撃隊に向けて機銃による迎撃を開始した。またたくまに上空に向かい弾幕が張り巡らされる。

 

彗星搭乗員   「すごい対空砲火だ。だが必ず爆弾は命中させる。死んでいった同胞の仇だっ!!」

 

カチャ…  ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 次々と彗星艦爆から爆弾が切り離された。まっすぐタイコンデロガに向けて落ちていく。

 

艦長      「取舵いっぱいぃぃ!!」

 

 艦長の指示によりタイコンデロガは左に舵をとった。すぐ右側に先程の爆弾が落ちていった。爆弾が着弾し、水柱が上がる。

 

彗星搭乗員   「くそ!外したか…!」

 

 すると、回頭した方向には魚雷が接近していた。

 

艦長      「!?」

 

流星搭乗員   「またせたな。あとは任せろ。」

 

 

 

 

 

次回   グアム島に向けて…




海軍航空隊とアメリカ空母タイコンデロガとの死闘。この闘いを制するのはどちらか…


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第四話 グアム島に向けて…

海軍航空隊とタイコンデロガとの戦いに終止符を打つのは…
 そして遂に大日本帝国の大逆襲は始まる。
(ちなみに、なぜ信濃が沈んでいないんだよ!って思っている人に解説すると史実では信濃は昭和19年11月29日に沈没していますが、この世界線では雷撃では沈まなかったことにしています)


村田重治    「またせたな。あとは任せろ。」

 

 村田重治率いる流星艦攻隊がタイコンデロガが回頭したのを見計らって魚雷を投下したのだ。

 

艦長      「くっ、両舷全速!!急げ!!」

 

航海長     「両舷全速!急げ〜!!」

 

 タイコンデロガは魚雷を回避すべく全速力で航行を開始した。このまま前進して魚雷を回避するつもりなのだろう。

 

しかし

 

 

 

 

 

江草隆繁    「その間もらったぞ!」

 

カチャ…  ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 上空に待機していた艦爆の神様、江草隆繁の操る彗星艦爆が250キロ爆弾を切り離した。

 

艦長      「しまった…!」

 

 魚雷に気を取られていたタイコンデロガは回避行動が取れず、急降下爆撃を受けた。エセックス級の空母とは言え、複数の艦載機による急降下爆撃を受けては無傷では済まない。

 

バァーン!!  バァーン!!

 

米兵たち    「うわああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 次々と飛行甲板を突き破り、爆発音が響く。さらに艦内弾薬庫にも引火、さらなる誘爆が立て続けに起こった。

 

 さらに先程村田隊が放った魚雷がタイコンデロガの左舷に命中、艦傾斜角21度を引き起こすことに成功した。

 

航海長     「っ!?艦長!お怪我は!?」

 

艦長      「私は大丈夫だ。被害はどうなっている。」

 

 その時、伝令兵は走ってきた。体のあちこちが焼けただれていた。

 

伝令兵     「第一格納庫及び搭載機に誘爆、炎上中!只今消火活動にあたっていますが火の勢いは弱まりません!喫水線下の被雷により浸水拡大!現在艦傾斜角21度!復元は絶望的です!」

 

そして伝令兵は付け加えた。

 

伝令兵     「持って…、30分です!」

 

艦長      「…………」

 

航海長     「艦長、いかがなされますか?」

 

艦長      「もはやこれまでだ。…総員に退艦命令を!」

 

 退艦命令が発令され乗組員が一斉にボートに乗り込んでいく。その光景を江草、村田たち艦爆、艦攻隊の搭乗員一同が上空から見ていた。

 

村田重治    「ミッドウェーの頃みたいだな…」

 

 村田はそう呟いた。

 

 いよいよ、タイコンデロガが左に大傾斜を始めた。爆発音を轟かせながら艦尾から海に沈んでいった。

 遂に、エセックス級空母のタイコンデロガも日本海軍航空隊の攻撃により海に没したのだった。

 

江草隆繁    「…タイコンデロガ、沈みました。」

 

 無線で江草がそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルソン島 米軍最後の基地

 

米司令官    「ここが落ちればジャップたちにフィリピンが渡る。それだけは回避しなければならない。」

 

 なぜなら、ここには石油や鉄などの資源も豊富にあり、この島が再び日本の手に渡ってしまうと日本はさらに攻撃の手を強めるはずだ。戦争のさらなる長期化は避けられない。

 

米参謀     「司令、稼働全機離陸完了しました。」

 

米司令官    「よし、いつジャップがきてもいつでも迎え撃てるようにしろ。」

 

 すると、通信兵が小走りにやってきた。

 

通信兵1    「司令!緊急電です!」

 

米司令官    「なんだ?」

 

通信兵1    「グアム島守備隊からです。読みます。『グアム島にて敵艦隊を発見!敵艦隊編成は戦艦四、空母七、巡洋艦八、その他駆逐艦多数。至急近海の機動部隊に応援を要請する』とのことです!」

 

米参謀     「空母が七隻!?まさか奴らは主力艦隊を温存していたのか!?」

 

米司令官    「フィリピン海にいたタイコンデロガの機動部隊はどうした?この距離だったら発見していてもおかしくないぞ。」

 

 するとさらに通信兵が走ってきた。

 

通信兵2    「司令!フィリピン海に展開していた機動部隊からです!『我、敵機動部隊の空襲を受けつつあり。空母一隻に重大な損傷。その他艦船にも甚大な被害を受け、壊滅状態になりつつあり』です!」

 

米司令官    「まさか、タイコンデロガがやられたのか…?」

 

米参謀     「司令!このままではこの基地どころかグアムまで奴らの手に渡ってしまいます。」

 

 すると、空襲警報が響き渡った。

 

米司令官    「きたか…」

 

 

 

 

 

 

米軍基地上空

 

米エース1   「ジャップが来たみたいだぞ。いくぞっ!」

 

米エース2   「言われなくとも分かってるよ!」

 

 米軍の最新鋭の戦闘機、”グラマンF8Fベアキャット”が向かってくる日本軍機を迎撃すべく向かっていった。

 

 

 

 

 

菅野直     「おっ。見たことのねえ敵機じゃあねえか。まあ、どのみち俺の紫電の敵じゃあねえ。いくぞ!」

 

部下たち    「「はい!」」

 

 菅野直が操る、青く塗られた紫電改こと”紫電二一型”が一機のベアキャットへと向かっていった。

 

部下      「た、隊長!敵機は新鋭機の可能性があります!気をつけてください!」

 

 彼の部下は菅野の警告をした。しかし

 

菅野直     「馬鹿野郎!俺はこんなやつになんか落とされねぇよ。俺よりも自分の心配をしろ。」

 

 とうとう、菅野直が率いる海軍第一航空団の剣部隊(つるぎぶたい)と米軍エース二人が率いるF8F航空隊との戦闘が始まった。

 

菅野直     「おっ、けっこう骨のあるやつじゃねえか。」

 

 菅野の後方にはすでに二機のベアキャットが追尾している。しかし、三四三空の戦隊長である菅野はこの程度ではやられない。

 

 突然宙返りをした。二機のベアキャットのうち一機がついてきた。

 

F8F乗員     「逃さないぞ!」

 

 ベアキャットは必死になってついてきているようだ。

 

菅野直     「馬鹿め。」

 

 すると菅野は紫電改の機動性をいかして、敵機の真後ろに回り込んだ。

 

F8F乗員     「!?なに!!」

 

菅野直     「もらったぞ!」

 

ドガガガガガガ!!

 

 防御力の高いベアキャットも20粍(みり)機銃四丁の攻撃には耐えられない。またたくまに右翼が分離し、ベアキャットは火を吹いて落ちていった。

 

菅野直     「ふぅ。伊藤たちはうまくやってるか〜?…グアムを頼んだぞ。」

 

 菅野は戦闘中の紫電改とベアキャットをみながらそんなことを呟いていた。

 

 

 

 

 

次回   伊藤の隼




投稿が遅くなり申し訳ありませんでした!この先も遅くなる可能性があるのでご了承ください!できる限りがんばります。


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第五話 伊藤の隼

 グアム島に進撃する伊藤たち。その時伊藤は今までの記憶を振り返る。


 隼は私の愛機です。陸軍に入った当時からこの隼で戦線を戦い続けていました。隼はいい戦闘機でした。海軍の零戦や敵機に比べると、火力や速度は劣っていましたが、格闘戦になれば負ける気はしませんでした。

 

 戦争中期までは…

 

1944年 5月   南部越南(ベトナム)上空

 

伊藤龍生    「くっ、まずい!」

 

ガガガガガガ!! ガガガガガガ!!

 

 伊藤の目の前に写っている敵機は英国(イギリス)軍の戦闘機、”スピットファイア”だ。性能は隼を遥かに超えていた。

 

隼乗員     「うわあああああああああああああああああああ!!」

 

 また一機撃墜された。現在は数ではもちろん性能でも隼隊は劣勢に陥っていた。なんとか僚機だけでも助けようと伊藤は僚機に襲いかかっていくスピットファイアに向かっていった。スピットファイアは今にも僚機を落とそうとしている。

 

伊藤龍生    「させるか!!」

 

 伊藤は、敵機に照準を合わせると、機銃を撃った。

 

ガガガガガガ!!  ガガガガガガ!!

 

 スピットファイアに伊藤の放った機銃弾が撃ち込まれていく。そのままスピットファイアは火を吹いて落ちていった。

 

 ようやくスピットファイアを一機撃墜し、僚機を助けることができた。

 

 

 

 

 

 その日の、戦闘の帰りに伊藤は半分以下にまで減った自分たちの隊を見ながら呟いていた。

 

伊藤龍生    「はやく飛燕(ひえん)が隊に投入されれば、もっと楽に戦えるんだが…。」

 

 三式戦闘機 飛燕は二式戦闘機の後続として1943年頃に開発された戦闘機であり、日本では珍しい液冷エンジンを搭載した戦闘機である。しかし、そのためエンジントラブルが多く、伊藤たちの隊には投入がかなり遅れていた。

 

基地

 

 伊藤はようやく基地へと帰ってきた。疲労がどっと押し寄せてくる。

 

伊藤龍生    「今日は何人やられたんだろう…」

 

 いつも聞く、戦果及び被害発表。今回の我々の被害は半機が未帰還だった。一方で戦果は、敵機八機撃墜のみだった。

 

伊藤龍生    「やっぱり、隼では無理があるな…」

 

 伊藤は自身の乗機である隼をみながら呟いた。伊藤は隊の中でもなかなかの操縦技術を持っていたので、この激戦をなんとか生き延びていた。しかし、中には伊藤よりも優れた腕を持つ、ベテランですら未帰還だったこともある。

 

???     「小隊長。」

 

 急に伊藤に話しかけた人物がいた。

 

伊藤龍生    「小国。どうした?」

 

 伊藤は自身の小隊の隊員、小国雅史(おぐに まさし)に聞き返した。

 

小国雅史    「今日は助けていただきありがとうございました。」

 

 そうだ。あの時、伊藤が助けた僚機は小国だったのだ。小国は練習生時代からの伊藤の戦友であり同じ釜の飯を食った仲間である。

 

伊藤龍生    「そんなことない。仲間が死にそうになってほっとくやつがいるか。俺は無理だ。」

 

小国雅史    「はは、小隊長らしいですね。」

 

 小国は明るい性格の優しい男だった。妻はいないが両親と年の離れた妹がいた。この戦いが終わるまで死ねないなんていつも言っていた。

 

伊藤龍生    「小国、言っておくが絶対に死ぬなよ。」

 

小国雅史    「当たり前ですよ。今まで何回も小隊長から助けてもらったのですから。」

 

 小国は当然といったように答えた。

 

小国雅史    「しかし小隊長、自分になにか会ったときのために、これを持っていてくれませんか?」

 

 そう言って小国は伊藤になにかを手渡した。

 

伊藤龍生    「これは…」

 

 伊藤に手渡されたのは、銀色の懐中時計だった。

 

小国雅史    「親父が御守りにってくれたんです。中には手紙も入っています。」

 

 小国がそこまで言ったところに、

 

飛行隊長    「小国一等兵!」

 

 飛行隊長が小国のことを呼んだ。

 

小国雅史    「すみません、小隊長。行ってきます。」

 

 数機の隼が離陸体制にあった。どうやら緊急の出撃のようだ。

 

伊藤龍生    「小国…。気をつけろよ。」

 

 伊藤がそう言うと、小国は笑いながら返事をした。

 

小国雅史    「もちろんですよ。」

 

 そう言って、小国は愛機へと走っていった。その背中を伊藤はいつまでも見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             伊藤と小国の会話はそれが最後だった。

 

 

 

 

 

 

 グアム島と向けて伊藤は、新しい乗機である零戦七八型の操縦席でそんなことを思い返していた。操縦席の計器類の中にあの懐中時計が下げられている。

 

伊藤龍生    「…小国。」

 

 伊藤はもういない戦友の名を呟く。あの日の夜、伊藤は同僚から小国の未帰還を伝えられていた。未帰還は撃墜、すなわち”死”を意味する。

 

伊藤龍生    「(小国はきっと自分の死期を悟っていたのだろうか…。だから俺にこの懐中時計を渡したのか…。)」

 

 何が何でも守ってやりたかった…。家族の待つ日本に帰してやりたかった。自らの命を賭けてでも守りたかった…。

 

 伊藤の頬に、涙がこぼれた。

 

 

 

 

               「小隊長、頑張ってくださいね。」

 

 

 一瞬、小国の声が聞こえた気がした。

 

西澤広義    「伊藤さん?どうしたんですか?」

 

 無線に入ってきた、西澤の声で伊藤は我に返った。

 

岩本徹三    「おいおい、ここは戦場だぞ。しっかりしてくれ。今まで散っていった仲間達のためにもアメ公に一矢報いるんだろ?」

 

 岩本の声も無線を通じて入ってきた。

 

赤松貞明    「敵討ちも果たせずに死ぬんじゃねえぞ。」

 

 赤松も伊藤に語りかける。

 

坂井三郎    「小国一等兵のためにも頑張らないとな。」

 

伊藤龍生    「!!」

 

 小国の名が出た時に思わず驚いた。

 

伊藤龍生    「坂井さん!なんで小国を…」

 

坂井三郎    「細かいことは気にするな。ほら、もうじきグアムだ。」

 

岩本徹三    「すでに先攻隊が先制攻撃を加えている。菅野たちが抑えてる間に攻略するぞ。」

 

伊藤龍生    「了解しました!」

 

 伊藤も覚悟が決まったようだ。

 

赤松貞明    「死ぬんじゃねえぞ。」

 

伊藤龍生    「その台詞は聞き飽きましたよ!」

 

 伊藤たちは、こうしてグアム島へ攻撃を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

次回   F研究防衛戦




小国のために戦う伊藤。そしてグアム島の攻略を開始する。


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第六話 F研究防衛戦

グアム島の攻略が開始。そして秘密裏にある兵器の開発が進められていた…。


グアム島上空

 

 

ドガガガガガガ!! ドガガガガガガ!!

 

 機銃音が鳴り響く。海軍第一航空団の零戦七八型と米海軍の新鋭戦闘機であるF8Fベアキャットが空戦を繰り広げている。

 

 史実では「最良のレシプロ戦闘機」との呼び名が高いベアキャットだが、堀越二郎ら零戦設計家や三菱重工業のさらなる血の滲むような努力によって生み出された零戦七八型にはあと一歩及ばなかった。

 

米軍乗員    「くっ、なんなんだ!?この新鋭機のベアキャットでも歯が立たない!」

 

ドガガガガガガ!! ガガガガガガ!!

 

 早速一機の零戦七八型が、ベアキャットの後方についた。坂井の零戦七八型だ。

 

坂井三郎    「逃さないぞ!」

 

 ドガガガガガガ!!

 

 二十粍(ミリ)機銃と十三粍機銃が火を吹く。重装甲を誇るベアキャットも二十粍機銃と十三粍機銃の火力には敵わなかった。 

 またたく間にベアキャットは左翼を撃ち抜かれ、海上へと落ちていった。

 

伊藤龍生    「す、すごい…。敵の新鋭機相手に難なく戦ってる。」

 

 伊藤はその驚異的な性能をみせる零戦七八型に驚いている。今までの乗機であった隼とは全く違うエンジンの力強さに怯えてすらいた。(隼二型の馬力は1130馬力)

 

岩本徹三    「どうだ、伊藤准尉。零戦七八型の乗り心地は?」

 

 戦闘そっちのけで岩本が伊藤に無線で話しかける。

 

伊藤龍生    「すごいです!隼とは全然大違いです!」

 

赤松貞明    「そうだろう。お前も早く敵機を撃墜してみろ。」

 

 赤松が伊藤に言った。伊藤は言われた通りに敵機を撃墜したくなった。キョロキョロしてあたりを見回すと、下方を飛行している一機のベアキャットの姿をみつけた。

 

伊藤龍生    「あいつを撃墜するか。」

 

 伊藤は実は空戦が得意であった。今までの空戦で十機程撃墜している立派なエースなのだ。

 

米搭乗員    「ふぅ、この高度までくればそう追ってくる敵機はいないだろう。」

 

 伊藤が狙いをつけたベアキャットは運のいいことに完全に油断していた。伊藤は気づかれないように、敵機の背後に回り込んだ。

 

伊藤龍生    「くらえ!」

 

 伊藤は機銃のレバーを引いた。

 

ドガガガガガガ!!

 

 二十粍機銃が火を吹く。いくつもの曳光弾が弧を描いてベアキャットへ向かっていく。

 

米搭乗員    「!?」

 

 ベアキャットの搭乗員は背後からの銃撃に気がつき、回避行動をとろうとした。しかし、遅かった。

 

 伊藤の放った二十粍機銃弾が次々とベアキャットの機体に射し込まれていく。遂にベアキャットの機体から火が吹いた。

 

米搭乗員    「くっ、脱出だ!」

 

 墜落寸前のベアキャットから米搭乗員が飛び出した。そのまま落下傘が開き、米搭乗員はゆっくりと降下していった。伊藤は追うようなことはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが零戦七八型での伊藤の最初の撃墜となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グアム島奪還作戦からしばらくして、伊藤たちは内地へ帰還となった。日本国内で製造されたものをグアム島まで輸送する重巡高雄の護衛任務を命じられたからだ。

 

坂井三郎    「一体何用で俺たちを内地帰還になんかしたんだ。」

 

 日本へ向かう輸送船の甲板で坂井は呟いた。西澤たちもうなずく。

 

西澤広義    「そうですね。重巡高雄の護衛なだけで私達を呼ぶ必要がありましたかね…」

 

岩本徹三    「そうだな。他の連中も最近手が空いてるのにわざわざ撃墜王の俺たちが呼ばれたんだ?」

 

伊藤龍生    「もしかしたら高雄に積んであるものが重要なものだからじゃないですか?」

 

 伊藤はなんとなく思ったことを口にした。すると坂井がいきなり声を上げた。

 

坂井三郎    「それだっ!!」

 

全員      「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後 グアム島南東海域

 

 修理を終えた、大日本帝国海軍の重巡洋艦高雄が佐世保軍港を出港した。数隻の駆逐艦と空母雷龍の護衛を従えて。先日の攻撃により早急にグアム島は陥落、日本軍は手早くグアム島を確保できた。重巡高雄はそのままグアム島に移動するのだ。その道中の護衛が、伊藤たち海軍第一航空団の役目だった。

 

西澤広義    「一体高雄にはなにが積まれているんですかね。」

 

 高雄の周りを哨戒飛行していた西澤が無線を通して坂井たちに話しかける。

 

岩本徹三    「俺たちを護衛につけるくらいだ。相当重要なものなんじゃないか。」

 

坂井三郎    「そう言えば高雄の艦長も積んでいるものがわからないらしいぞ。」

 

伊藤龍生    「一体この艦にはなにが積まれているんでしょう。」

 

 伊藤が疑問を口にしたその時、

 

赤松貞明    「上空に敵機確認!おそらくコルセアだ。」

 

 赤松が敵機を発見し無線連絡した。全機が迎撃体制をとる。追加で空母雷龍から零戦七八型が発艦する。

 

岩本徹三    「いくぞっ!」

 

 重巡高雄を守るべく、海軍第一航空団と米海兵隊コルセアとの戦闘が開始された。入り乱れて数々の曳光弾(えいこうだん)が飛び交う。

 

米兵1     「クソッ!敵機の数が多すぎて重巡に近づけない!」

 

 アメリカ軍は日本海軍の暗号解読により、重巡にとんでもないものが積まれていることは分かっている。なんとしてでも重巡は沈めなければならない。

 

米士官     「あの重巡だけはなんとしてでも沈めろ!何機失ったっていい!」

 

 米士官は先の報告により、上層部よりなんとしてでも敵重巡をグアム島到達前に撃沈せよとの命令が入っていた。米士官は全機が未帰還になろうとも撃沈することに力を注いでいた。

 

坂井三郎    「それはどうかな?」

 

 坂井があっという間に、米士官のコルセアの背後をとった。

 

米士官     「!?なっ、いつのまにっ!?」

 

 坂井が機銃の引き金を引く。とっさに米士官は機体を滑らせて坂井の放った機銃弾から逃れた。

 

坂井三郎    「おっ。やるやつだなアイツ。西澤、聞こえるか。」

 

西澤広義    「はい。今敵機を追尾中です。」

 

坂井三郎    「そっちに一機、腕のあるやつが飛んでいった。気をつけろよ。」

 

西澤広義    「はい。気をつけます。」

 

 陸軍の無線機の利用により以前より海軍は、編隊同士の連携がよくなっていった。(陸軍は海軍よりも質の高い無線機を使用していた。一方海軍では、ほとんど雑音ばかりで使い物にはならなかった)

 

米士官     「よし。周りに敵機がいなくなったぞ。重巡に攻撃するならいまのうちだ。」

 

 米士官は、率いていた艦爆隊に突撃を命令した。艦爆隊は一斉に高雄に向かって急降下を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、伊藤たちやアメリカ軍は高雄に何が積まれているのかを知らない。

 

 

 海軍が陸軍より早期に完成させ、実用化一歩手前という新型の兵器。

 

 

 

 

 F研究…。それは核分裂を意味するFissionの頭文字。つまり重巡高雄に積まれていたのは日本の原子爆弾開発計画により作り出された試作の日本初の原子爆弾、”旭日弾”だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

次回   三百機の爆撃機




投稿スペースがだいぶ遅くなっている…。(反省)
次回投稿はがんばります!


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第七話 三百機の爆撃機

 重巡高雄を守るべく奮戦する海軍第一航空団。その頃、とある兵器がグアム島に運び込まれていた。


高雄艦長    「面舵一杯ぃぃぃぃ!!」

 

 高雄が米艦爆”ヘルダイバー”の爆撃を回避するために、右へ大旋回を行っていた。ヘルダイバーが投下した爆弾が高雄を挟むように海面に着弾する。

 

米士官     「クソッ!外したか…」

 

 コルセアの米士官は悪態をついた。すると、二機の零戦が背後から追尾してきた。

 

米士官     「くっ、またか!」

 

 追尾してきた零戦は西澤と伊藤の乗機だった。二機は連携しながら米士官のコルセアを追いかけていく。

 

西澤広義    「伊藤さん、三時方向に飛行してください。挟み撃ちにします。」

 

伊藤龍生    「わかりました!」

 

 伊藤は西澤に言われたように、三時方向に向かって飛行した。

 

米士官     「?あいつは何をやっているんだ。」

 

米兵1     「隊長!大丈夫ですか!?」

 

米士官     「俺は大丈夫だ。被害はどうなっている。」

 

米兵1     「自分の小隊は自分以外全滅しました!あの戦闘機は我々がかなう相手ではありません!」

 

 零戦七八型とコルセアの性能は大人と子供と同じくらい離れている。武装も防弾も速度も馬力も全て、零戦七八型が上回っている。

 

ガガガガガガガ!!  ガガガガガガガ!! 

 

 三時方向から迫ってきていた伊藤の零戦七八型が機銃を発射した。反応が遅れた米士官のコルセアは瞬く間に火だるまとなった。

 

米兵1     「隊長〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 一人の米兵が叫ぶ。

 

伊藤龍生    「やった!」

 

 伊藤はまたしても撃墜を確認した。これで零戦七八型での撃墜は八機目だ。

 

米兵1     「よくも隊長を!!」

 

 一機のコルセアが伊藤の零戦七八型に向かっていく。照準器に入ったとたんに機銃を撃ちまくった。

 

ガガガガガガガ!!  ガガガガガガガ!!

 

伊藤龍生    「!?」

 

 伊藤はとっさに回避行動をとった。しかし、反応が遅かったこともあり数発の機銃弾の受けた。零戦七八型の防御力は強いが、運悪く発動機に被弾してしまったようだ。伊藤の機の発動機から黒煙が上がる。

 

伊藤龍生    「くっ、やってしまった…」

 

 撃墜は防がれたが、墜落ももはや時間の問題だろう。わずかではあるが少しずつ発動機の出力が下がっている。その時

 

赤松貞明    「伊藤、ここは俺たちに任せてお前はグアムに帰投しろ。このまま戦闘は危険だ。」

 

岩本徹三    「赤松の言う通りだ。ここは俺たちに任せろ。」

 

伊藤龍生    「赤松さん、岩本さん…」

 

 伊藤は決心し、言われたとおりにグアム島を目指した。発動機は徐々に弱まっていくが、グアム島に着くまでは持つはずだ。

 

西澤広義    「伊藤さんの分も頑張らないといけませんね。」

 

坂井三郎    「そうだな。」

 

 少しずつ離れていく伊藤の機を見つめながら、坂井たちは敵機へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グアム島 飛行場

 

整備兵1    「一機戻ってきたぞ!」

 

整備兵2    「エンジンから煙が出てるぞ!」

 

整備兵3    「急げ〜!!」

 

 伊藤の零戦七八型はなんとかグアム島に到着した。途中、敵機に遭遇したりしたが敵は零戦七八型の恐ろしい性能を知っていたこともあり、深追いはしなかった。おかげで伊藤は無事にグアム島へたどり着けたのだ。

 

伊藤龍生    「なんだ…これ…」

 

 飛行場に降り立ち、零戦七八型から降りた伊藤が目をみはる。飛行場の滑走路に見慣れないものがあったからだ。

 

 伊藤が見たもの。それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合計六つの大型のエンジンを搭載した巨大な爆撃機だった。

 

 それも一機のみではない。何機も何機も…。百機以上はある。

 

伊藤龍生    「なんなんだ、この爆撃機は…」

 

???     「富嶽(ふがく)だ。」

 

 伊藤の問に誰かが答えた。伊藤が振り返るとそこには菅野直がいた。

 

菅野直     「どうやら無事に帰ってこれたみたいだな。」

 

伊藤龍生    「菅野さん…。この爆撃機は一体…」

 

菅野直     「俺もグアムに来たときにあったからビビったぜ。陸軍さんと共同開発した爆撃機らしいぞ。」

 

伊藤龍生    「そうですか。…大きいですね。」

 

菅野直     「当たり前だろ。全長46m、全幅63mの巨人機だぞ。爆弾搭載量は最大20㌧、雷撃機仕様の場合は航空魚雷を20本搭載できる。」

 

伊藤龍生    「20本!?そんなにですか!?」

 

菅野直     「この爆撃機には東条首相もかなり期待しているらしく、開発にはかなりの支援をしていたそうだぞ。」

 

伊藤龍生    「それも、こんなにたくさん…」

 

菅野直     「全部で三百機あるぞ。」

 

伊藤龍生    「三百機!!?」

 

菅野直     「そんなにでかい声だすな。」

 

伊藤龍生    「すっ、すみません。三百機もですか…。しかし、こんなにたくさん用意してどこを爆撃するつもりなんでしょうか?」

 

菅野直     「よくぞ聞いたな。教えてやろう。爆撃先は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の日没に、ようやく重巡高雄を守り抜いた海軍第一航空団がグアム島へ帰投する。今回の損害は十四機被弾、または被撃墜だった。戦果のほうは敵機四十機撃墜であった。もちろん坂井たちも無事だった。

 

 

 

伊藤龍生    「坂井さん〜!」

 

坂井三郎    「おっ、伊藤!無事に帰投できたみたいだな。」

 

岩本徹三    「当たり前だろ。これでも十機撃墜の搭乗員だ。簡単にはやられないだろ。」

 

伊藤龍生    「まあ、そうなりますね。」

 

西澤広義    「これは…爆撃機ですか?」

 

 西澤が飛行場に止まっている超高高度爆撃機、富嶽に目を向けた。

 

菅野直     「ああ、そうだ。」

 

赤松貞明    「おお、直、いたのか。」

 

菅野直     「ああ、いたぞ。」

 

赤松貞明    「この爆撃機たちはなんなんだ。」

 

 赤松の問いかけに菅野ではなく伊藤が答えた。

 

伊藤龍生    「この爆撃機はハワイ島を空襲するために作られたそうです。」

 

岩本徹三    「ハワイ空襲だと!?」

 

赤松貞明    「おいおいおい、何言ってるんだよ。ここからハワイまで6000キロも離れてるんだぞ。あいつにそんな航続距離があるわけn」

 

菅野直     「あるぞ。富嶽の航続距離は20000キロだ。」

 

坂井三郎    「20000キロ!?」

 

岩本徹三    「これは驚いたな…。とんでもない航続距離だ。」

 

菅野直     「ああ。俺も初めてみたときビビったわ。」

 

赤松貞明    「それで、これを使ってどうするんだよ?」

 

 赤松がそう問いかけた時、菅野が衝撃の事実を言い放った。

 

菅野直     「お前らが護衛していた重巡高雄の積んでいたものを知りたいか?」

 

全員      「??」

 

 そして菅野は言った。

 

菅野直     「俺たち日本海軍が開発した試作の原子爆弾、”旭日弾”だ。」

 

全員      「!!?」

 

 全員が驚愕の表情を浮かべた。それはそうだろう。そんな極秘物資を自分たちは守るべく米軍と戦闘をしていたからだ。

 

伊藤龍生    「まさか、富嶽を使って…」

 

菅野直     「おっ、察しがいいな。その通りだ。」

 

 菅野は不敵な笑みを浮かべ、付け加えた。

 

菅野直     「…ハワイを火の海にしてやるのさ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

次回   富嶽出撃!!




次回から投稿ペースは戻していきます!(PCの不調が最近多い…)


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第八話 富嶽出撃!!

日本の超重爆撃機、”富嶽”が出撃する…。


1946年 2月1日

 

グアム島

 

 朝の光に照らされて滑走路が明るく光る。

 

 次々とエンジンの始動音が鳴り響く。富嶽が出撃するのだ。今回は三百機の内僅か五機のみだが、富嶽が実戦に投入される。

 

 今回の作戦はハワイ島への往復爆撃だ。危険性を考えて日本海軍が開発した原子爆弾”旭日弾”はまだ投下されないようだ。

 

岩本徹三    「ほんとに俺たちの護衛は必要ないのか…」

 

西澤広義    「岩本さん、まず零戦七八型の航続力を持ってしても富嶽には遠く及びませんし、富嶽だけでもどうにかなります。」

 

坂井三郎    「確かに零戦七八型の航続距離は3800キロだからな。富嶽に遠く及ばない。」

 

赤松貞明    「まさに要塞だな。B公よりもデケェじゃねえか。」

 

菅野直     「言うところ”超空の大要塞”だな。」

 

 ゆっくりと富嶽が滑走路へと向かっていく。圧巻の光景だ。

 

岩本徹三    「さて、ちゃんと飛ぶことができるかな〜。」

 

赤松貞明    「どうせ無理だろ。」

 

 岩本と赤松は今だに富嶽のことを信用していないようだ。

 

 富嶽が滑走路に入り離陸するために速度を上げた。凄まじい轟音が島中に響く。先頭を走っていた富嶽が遂に空に舞った。

 

岩本徹三    「!!」

 

赤松貞明    「!!」

 

 岩本と赤松の二人が驚きの表情を浮かべる。本当に離陸できると思っていなかったからだ。

 

 続いて二番機が飛び立ち、さらに三番機も空に舞った。最後に残った四番機も五番機も無事に離陸し、空の彼方へと飛んでいった。

 

伊藤龍生    「本当に護衛が無くて大丈夫なんでしょうか…。」

 

 伊藤が不安を表す。裸の爆撃機は戦闘機からしてみればおいしい目標だ。護衛のない爆撃機はいともたやすく落とされていくことを伊藤は知っている。

 

 そこで菅野が口を挟んだ。

 

菅野直     「なぁ〜に心配するな。一式陸攻や百式重爆と違って富嶽の防弾性能は最高だ。零戦七八型と同じく自動消火装置を搭載、さらに防護用に12.7mm連装機銃を八基(計画時)搭載している。防御力はピカイチだ。B公よりも対戦闘機戦に特化した超重爆撃機なんだよ。」

 

伊藤龍生    「そ、そうなんですか…」

 

 確かに機銃があるのは伊藤でも分かった。だがせいぜい気休め程度にしかならないと思っていたため、まさかここまでの能力があるとは思わなかった。

 

伊藤龍生    「ほんとに凄い爆撃機なんですね、富嶽は…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 ハワイ 真珠湾

 

戦艦ミズーリ艦上

 

米兵1     「おい、聞いたか。グアムがジャップの連中に取られちまったそうだぞ。」

 

米兵2     「おい、まじかよ。」

 

米兵3     「どうやらジャップの新鋭機はかなりのものらしいな。硫黄島から撤退してきた陸軍兵も同じこと言ってたぜ。」

 

米兵1     「まあ、流石にここまでは来ないな。そんな航続距離を持ってるのは爆撃機くらいだぞ。」

 

米兵2     「まあ、そうだな。」

 

米兵3     「あははははははは」

 

米兵1     「もしかしたらジャップの奴ら、今からここを空襲するかもしれないぞ〜♪」

 

米兵2     「おいおい、勘弁してくれよ…。」

 

米兵1     「なーに本気になってるんだよ。そんなことあるわk」

 

 その時、けたたましく空襲警報が鳴り響いた。

 

米士官     「なにごとだ!」

 

 米士官が声を上げる。

 

偵察員     「敵機接近中!!数五!高度3000!」

 

米士官     「戦闘機かっ!?それとも艦爆か艦攻かっ!?」

 

偵察員     「いいえ!!爆撃機です!!」

 

米士官     「なんだと!!いくらグアムが取られてとはいえ、グアムから6000キロ以上離れているんだぞ!」

 

 米士官が怒鳴り散らす。すると、とうとう上空に航空機が現れた。

 

米士官     「!!」

 

 米士官が空を見上げると、巨大な爆撃機がゆうゆうと上空を飛行していた。

 

米士官     「退避〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 戦艦ミズーリ上空に到達した富嶽爆撃隊は爆弾倉を開いた。

 

爆撃手     「目標、米戦艦ミズーリ!投下角よし!距離よし!…投下っ!!」

 

 爆撃手が引き金を引く。

 

ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 合計100発もの1トン爆弾が戦艦ミズーリの艦上、周囲の艦船、飛行場に降り注ぐ。

 

バァーン!!  バァーン!!  バァーン!!  バァーン!!

 

 次々と爆発音が鳴り響く。飛行場で発進準備を行っていたF8Fベアキャット戦闘機はまともに空襲を受け、発進準備をしていた機のみならず、駐留していた機も瞬く間に破壊されていった。

 

米兵たち    「うわあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 戦艦ミズーリは周辺の艦艇とともに1トン爆弾の複数直撃を受け、両舷から煙を吹く。さらに内部弾薬庫に引火し、艦内で次々と爆発が起こった。

 

米士官     「だめだ!総員退艦!!」

 

 さすがのアイオワ型戦艦でも1トン爆弾の複数直撃には耐えられなかったようだ。みるみるうちに右に傾斜していく。次の瞬間、

 

 

 

ボガァーーーーーーン!!!

 

 ミズーリの第一砲塔付近が大爆発を起こした。そのまま船体は真っ二つに折れ、ゆっくりと海中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

爆撃手     「戦艦一隻爆沈確認!」

 

偵察員     「やったな!!」

 

 富嶽の機内では搭乗員たちがミズーリの爆沈を目の当たりにしていた。米戦艦の撃沈は1941年12月の真珠湾攻撃以来だ。

 

操縦員     「よし、このままグアム島まで帰投するぞ。」

 

 そのまま五機の富嶽は編隊を組み直し、まっすぐグアム島へ帰投する進路をとった。

 

 

 しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガガガガガガガ!!

 

操縦員     「!?なんだ!」

 

 後方より八機のベアキャットが攻撃をしてきた。おそらく上空哨戒を行っていた機だろう。

 

米搭乗員    「よくもやってくれたな!!」

 

 怒りをあらわにした米搭乗員たちが富嶽に猟犬の如く襲いかかっていく。だが富嶽もこれまでの爆撃機とは大違いだ。

 

機銃員     「よ〜し!穴だらけにしてやる!」

 

 富嶽の12.7mm連装機銃が火を吹く。機体のありとあらゆる場所に備えられた八基の連装機銃に守られた富嶽はもはやハリネズミ状態だ。そして容赦のない弾幕が八機のベアキャットに襲いかかっていく。

 

ガガガガガガガ!!  ガガガガガガガ!!

 

 次々と曳光弾が飛び交う。早速一機のベアキャットが火を吹いて落ちていった。

 

米搭乗員    「っ!?クソッ!なんて火力だ!」

 

 自国産のB-29でもここまで弾幕を張ることはできない。名の通り富嶽は爆撃だけでなく対戦闘機戦も行える万能の”超空の大要塞”なのだ。

 

米搭乗員    「だめだっ!!引くしかない!!」

 

 とうとう諦めたのか残ったベアキャットが引きかえしていった。

 

機銃員     「やったぞ〜〜〜〜〜〜!!」

 

偵察員     「やるじゃないか!見直したぞ!」

 

 富嶽の機内で歓喜の声が上がる。

 

操縦員     「今日は祝杯だな!」

 

 夕日に照らされて、蒼く塗られた富嶽がグアム島の方角に向けて飛行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回   決戦!!ハワイ攻略作戦




 富嶽は史実では実際は12.7mm機銃ではなく、20mm機銃を四基ほど搭載する計画や自動消火装置ではなく装甲そのものを厚くするなどの計画があったそうです。
 (ちなみにF研究で開発された原子爆弾の名前は自分で決めました)

 次回、遂にハワイ攻略作戦が開始される…!


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第九話 決戦!!ハワイ攻略作戦

海軍第一航空団の全力攻撃が開始される。

今回は少し長めです。


1946年 2月3日 早朝

 

グアム島 日本軍飛行場

 

 飛行場の滑走路に所狭しと零戦七八型が並べられている。すでにエンジンが回されており、出撃の用意をしているようだ。

 

飛行隊長    「本日の作戦を発表する!」

 

 朝礼台に乗った海軍第一航空団の飛行団長である西澤が声を上げる。伊藤たち零戦搭乗員たちは前に整然と整列している。

 

西澤広義    「本日の作戦は富嶽によるハワイへの大型爆弾投下だ。我々海軍第一航空団の任務は富嶽の護衛だ。何が何でも守り通さなければならない。皇国の勝利は君たちにかかっている!」

 

全員      「はい!!」

 

 作戦説明が終わると零戦搭乗員が小走りに乗機に向かっていった。

 

 

 

 それぞれが愛機へと乗り込んでいく。坂井と赤松は零戦七八型、岩本は桜の撃墜マークを描いた零戦七八型、西澤は飛行団長のマークが示された零戦七八型、菅野は蒼く塗られた紫電改こと紫電二一型に、そして伊藤は操縦席に小国から渡された懐中時計を下げた零戦七八型…。

 

 朝日に照らされて、零戦の翼が光輝く。先頭の編隊が離陸を始める。坂井の小隊だ。続いて赤松の小隊、岩本の小隊、航空団長の西澤の小隊、剣部隊長の菅野の小隊。そして伊藤の小国のいない小隊。

 

 伊藤の小隊だけ三機編隊だ。他は四機編隊であり、伊藤の小隊だけ少ない。(大戦末期の日本海軍の航空隊の編隊は三機から四機になっていた)

 

 今回の作戦での海軍第一航空団の戦力は富嶽一機、零戦七八型四十三機、紫電改四機の合計四十八機だ。

 

 零戦七八型は富嶽より航続距離が無いため、途中ウェーク島にて補給を行い再び富嶽の護衛を行う。次に先週占領したミッドウェー島にて再補給を行い、ハワイまで飛行する。

 富嶽が爆撃を行う前にハワイ上空から離脱、そのままミッドウェー島まで帰還することが今回の作戦の内容である。

 

 帰りの燃料を考えるとハワイ上空では30分ほどしか戦闘はできない。

 

ミッドウェーからハワイまで1295海里…、つまり約2400km離れている。零戦七八型の巡航速度で飛行すると五時間はかかる。

 

坂井三郎    「この作戦、ガダルカナルを思い出すな…。」

 

西沢広義    「そうですね。しかも今回のほうが飛行距離は長いですよ。」

 

岩本徹三    「つべこべ言ってないで作戦に集中しろよ。」

 

赤松貞明    「まあ、そうだな。」

 

 とは言いつつも、グアム島からウェーク島までの制海権制空権はすでに掌握(しょうあく)している。一時は敗戦寸前からここまで大日本帝国は勢いを盛り返した。

 

 伊藤たち海軍第一航空団はその日、一発の機銃弾を撃つこともなくウェーク島に到着し、その日の作戦行動は終了した。

 

 

 

 

その日の夜 ウェーク島

 

伊藤龍生    「はああ〜」

 

西澤広義    「疲れましたね。」

 

岩本徹三    「ああ、そうだな。ガダルカナル侵攻戦を思い出すぜ。」

 

坂井三郎    「明日のマルロクマルマルには出撃みたいだ。今日は早く休もう。」

 

赤松貞明    「ああ、そうしようぜ。」

 

 全員が就寝の準備をする。

 

伊藤龍生    「明日はミッドウェーか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1946年 2月4日 早朝 ウェーク島

 

 ここからまた海軍第一航空団が富嶽を護衛し、次はミッドウェー島に向けて飛び立った。ここからは制空権制海権がアメリカに傾いている。米軍は今だにミッドウェー島の奪還を試みているようだ。

 

赤松貞明    「さあ、ここからまた長旅が始まるぜ〜。」

 

 グアム島からウェーク島までは約2417kmだった。ウェーク島からミッドウェー島までは約1901kmほどで、昨日に比べると飛行距離は短いが、ガダルカナル侵攻戦時の距離は軽く超えている。

 

伊藤龍生    「この地域は十分に警戒する必要がありますね。」

 

菅野直     「ああ、そうだな。この間もアイオワ型戦艦がミッドウェーの彩雲から確認されたらしいぜ。」

 

岩本徹三    「空にも海にも気をつけねぇといけないな。」

 

西澤広義    「一番怖いのは、富嶽が落とされることですね…」

 

菅野直     「西澤、そんなに不安がるな。富嶽はちょっとやそっとの攻撃じゃ、びくともしないぜ。対空砲にあたってもそう簡単には落ちないぜ。」

 

赤松貞明    「それに落とされないように守るのが精鋭の俺たちの仕事だろ?」

 

菅野直     「赤松、お前なかなか言うじゃないか。」

 

赤松貞明    「はははは!当たり前だろ!」

 

坂井三郎    「おしゃべりはそこまでだ。護衛に戻ろう。」

 

西澤広義    「ええ、そうですね。」

 

 伊藤たちは各編隊を組み直し、富嶽を囲むように飛行し続けていった。

 

 

 

 

 

 この日も一機の敵機にも、一隻の敵艦にも遭遇することなく無事にミッドウェー島へ到着した。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方

 

 

西澤広義    「明日はマルヨンマルヨンの出撃だ。夜明けとともにハワイ真珠湾へと侵入する。富嶽が爆弾を投下するまで各機は敵機を殲滅すること。それが明日の作戦行動だ。皆が無事帰投することを祈っている。」

 

全員      「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1946年 2月5日 夜明け前

 

ミッドウェー島

 

 まだ夜が明けないうちに、整備と補給が完了した零戦七八型が富嶽とともに出撃する。

 

坂井三郎    「これからが作戦の始まりだ…。」

 

 坂井の言う通り、作戦とは言っても二日間は移動しているだけであった。しかし、戦闘機乗りにとって移動もかなりの体力を消費する。そのため、西澤は補給のついでに数時間の休憩を搭乗員たちに与えたのだ。そのおかげで疲労が抜けきっていない搭乗員はいなかった。

 

西澤広義    「これで万全の状態で米軍と戦えますね。」

 

岩本徹三    「ああ、そうだな。西澤らしいな、そういうところ。」

 

坂井三郎    「俺もそう思う。」

 

西澤広義    「そうですか?」

 

赤松貞明    「ああ、俺もそう思うぜ。」

 

西澤広義    「そうですか。分かりました。絶対に作戦を成功させましょう!」

 

 西澤たちがそう固く決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハワイ島 近海

 

米搭乗員1   「隊長、レーダーに反応あり。日本軍機を思われます。」

 

米隊長     「やっぱり来たか…。いいか。奴らの一人たりともハワイにいれさせるな!」

 

米搭乗員たち  「了解!!」

 

 哨戒飛行をしていた80機ほどのF8Fベアキャットがレーダーの反応地点へと向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊員1     「敵機接近中!!数80機程度!」

 

 先頭を飛行していた西澤の列機の一人が無線報告する。

 

西澤広義    「全機、対空警戒を厳としろ!何があっても富嶽を守り切るぞ!」

 

岩本徹三    「ああ、当然わかってるよ!」

 

赤松貞明    「よしきた!ようやく戦闘か!!叩き落としてやるぜ!」

 

 赤松と岩本はかなり張り切っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 そして遂に、F8Fベアキャットの大編隊が目の前に現れた。

 

西澤広義    「全機!各機にて戦闘開始!!」

 

 零戦七八型、紫電改、F8Fベアキャット、富嶽、F4Uコルセア…。さまざまな機がハワイ近海の上空で大空戦が始まった。

 

 

ガガガガガガガ!!  ガガガガガガガ!!

 

 数々の曳光弾があたり一面に飛び交う。両軍からしたら前も後ろも上も下も敵だらけだ。

 

岩本徹三    「ふぅ、こんな激戦一週間ぶりだぜ!」

 

隊員2     「頻度高くないですか!?」

 

岩本徹三    「そんなこと言ってる暇があったら敵機を撃墜しろ!」

 

隊員2     「はっ、はい!!」

 

 

 

 

 

コルセア乗員  「くっ、振り切れないっ!早すぎる!!」

 

赤松貞明    「さっさと俺のスコアになれっ!」

 

ドガガガガガガガ!!  ドガガガガガガガ!!

 

 赤松に目をつけられたアメリカ軍機は次々と火を吹いて落ちていった。

 

米搭乗員1   「あれは岩本徹三…。間違いない…!サクラが描かれている…」

 

 すると背後に岩本の零戦七八型が回り込んできた。

 

岩本徹三    「よーくわかったな。」

 

米搭乗員1   「しまっ」

 

ドガガガガガガガ!!

 

 また一機米軍機が落ちていった。もちろん数機の日本軍機も落ちていく姿は目にするが、一方的に日本軍が米軍を圧倒している。

 

伊藤龍生    「見つけました!!」

 

ドガガガガガガガ!!  ドガガガガガガガ!!

 

米搭乗員2   「うわあああああああああああああああああああああ!!」

 

 続いて伊藤がベアキャットを撃墜する。やはりベアキャットの性能は零戦七八型に及ばないようだ。

 

米隊長     「くそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。…!!」

 

 米隊長が目を疑う。富嶽がハワイ上空に侵入していたからだ。それにたいした損傷も受けていないようだ。

 

富嶽爆撃手   「まもなく爆撃地点!」

 

 爆撃手が照準器から爆撃地点を覗く。爆弾倉が開き、日本初の原子爆弾”旭日弾”が姿を現す。

 

米隊長     「やらせるかっ!!」

 

 米隊長が富嶽へと向かっていく。

 

機銃員     「こっちにくるんじゃね〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 機銃員が機銃を撃ちまくる。その弾幕をかいくぐり、米隊長の操るベアキャットが富嶽に襲いかかる。

 

機銃員     「まずいっ!!」

 

ドガガガガガガガ!!

 

 機銃が火を吹いた。

 

 

 

 

 そして次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 米隊長のベアキャットは火を吹いて落ちていった。

 

機銃員     「!?」

 

 後ろには伊藤の零戦七八型がいた。

 

伊藤龍生    「なっ、なんとか間に合った…」

 

 伊藤は富嶽が襲われているのを発見し、全速力で護衛に向かったのだ。

 

富嶽操縦員   「助かりました。ありがとう。」

 

伊藤龍生    「いいえ。無事でよかったです。」

 

 

 

 

 

 

 まもなくして、米軍機が複数の零戦七八型に追われるほど数が減少してきた。

 

西澤広義    「全機!ハワイ上空から退避!!できるだけ島から離れろ!!」

 

 西澤が無線で全機に通達する。原子爆弾の爆発範囲は広い。全機がハワイ上空から次々と離れていった。

 

米搭乗員3   「あいつらいきなり逃げ始めたぞ!」

 

米搭乗員4   「なにをするつもりだ…。」

 

 富嶽の爆弾倉から一発の大型爆弾が、遂に切り離された。

 

 切り離された大型爆弾、”旭日弾”はゆっくりとハワイの島々に向かい落ちていく。

 

富嶽搭乗員   「早く離脱だ!!」

 

 慌てて富嶽も離脱していく。

 

 

 

 

 

 

 

 地上では何人もの米兵が空を見上げていた。

 

米兵1     「あれは一体…」

 

米兵2     「なんだ…」

 

 

 

 その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旭日弾がハワイで炸裂した。

 

 轟音が響き渡り、恐ろしい威力の爆風がハワイを襲う。森林は次々となぎ倒され、建物は崩壊していく。上空で先程まで戦闘を行っていたベアキャットも一瞬にして灰になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして巨大なきのこ雲がハワイ上空に浮かんだんのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

伊藤龍生    「…本当にこれで、よかったのだろうか…」

 

 きのこ雲を風貌越しにみつめながら、一人伊藤は呟いた。

 

 

 

 

次回 第二章最終話 皇国の大反攻




ハワイ島を遂に攻略した海軍第一航空団。次回、第二章最終回へ…


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第十話 皇国の大反攻

ハワイを制圧した大日本帝国。さらなる反攻作戦が計画される。


1946年 3月末

 

 ハワイ島に停泊していたアメリカ軍の太平洋艦隊は、海軍第一航空団の富嶽による原子爆弾投下により壊滅、残存した守備部隊も沖縄防衛戦の終結でハワイに急行した戦艦長門、榛名、伊勢、日向の艦砲射撃により全滅。

 後に帝国海軍の陸戦隊がハワイに上陸、ハワイを完全に占領した。この戦闘による死者数は日本軍は海軍第一航空団の搭乗員74名、陸戦隊102名であった。一方アメリカは一般人も含め、死者数は3万人規模に登った。

 

 アメリカ軍による硫黄島原爆投下作戦が失敗してから、旭日弾が使用されたハワイ決戦が世界で初めての原子爆弾投下となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1946年 4月上旬

 

グアム島 基地

 

 兵舎の中で、宴会が開かれている。

 

西澤広義    「今回はみんなよくやってくれた。ありがとう。みんなのおかげでハワイ作戦が成功した。これは日本の勝利への大きな原動力だ。今日はみんな飲んでくれ。乾杯!!」

 

全員      「乾杯〜!!!」

 

 宴会が始まった。全員が色々と飲み合ったり、笑い合ったりしている。よほど作戦の成功が嬉しかったのだろう。坂井も岩本も赤松も、そして西澤もみんな笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、伊藤だけは笑っていなかった。

 

伊藤龍生    「…………」

 

ずっと兵舎の入り口に座り込み押し黙っている。

 

岩本徹三    「おい、あいつどうしたんだ?」

 

 伊藤の様子に気づいた岩本が赤松に話しかける。

 

赤松貞明    「さあな。もしかしたらだけど罪悪感でもあるんじゃないか?」

 

 確かに今回の作戦では敵国といえど旭日弾を投下したことにより、少なからず民間人も犠牲となっている。

 

岩本徹三    「ちょっと行ってくるぜ。」

 

坂井三郎    「一人にしといたほうがいいんじゃないか?」

 

岩本徹三    「安心しろ。心配ない。」

 

 岩本徹三が外で座っている伊藤に近づいていく。

 

岩本徹三    「隣いいか?」

 

伊藤龍生    「い、岩本さん!?え、ええ、どうぞ。」

 

 岩本が伊藤の横に座る。空を見上げると満点の星空が輝いていた。

 

伊藤龍生    「岩本さん。私達がしたことは正しかったんでしょうか?」

 

岩本徹三    「ん?」

 

 伊藤が岩本にそう話しかける。

 

岩本徹三    「やっぱり、気にしてるんだな…」

 

伊藤龍生    「…はい。…戦争ってくだらないですね…。」

 

岩本徹三    「えっ?」

 

 思いもよらぬ言葉に岩本は一瞬固まる。

 

伊藤龍生    「あっ、今のは気にしなくていいです。…ただ、いつも思うんです。人はどうして争うのか。ともに生きていけないのか。」

 

岩本徹三    「…そうだな。」

 

伊藤龍生    「えっ?」

 

岩本徹三    「俺もそう思ったことがある。ラバウルにいた頃だ。ガダルカナルのときも何人も死んだ。戦局が不利になってからも何人も死んだ。寂しかったな…。」

 

伊藤龍生    「そうですね…」

 

岩本徹三    「だけどな、誰かを生かすためには誰かを殺さないといけない。それが戦争だ。」

 

伊藤龍生    「…はい。」

 

 伊藤が返事をする。

 

岩本徹三    「でもなあ、やっぱり俺もお前の言う通り、戦争はくだらねえと思うぜ。」

 

伊藤龍生    「そうですか…?」

 

 岩本の思うもよらぬ返信に伊藤は驚く。岩本は続けた。

 

岩本徹三    「早く終わさねえとな。こんな戦争。」

 

 岩本のつぶやきに伊藤は笑って返事をした。

 

伊藤龍生    「そうでうね。早く平和な国にしましょう。」

 

岩本徹三    「ははは、そうだな。」

 

 その様子を坂井たちは、部屋から温かい目で見守っていた。

 

赤松貞明    「おい西澤。確かもうすでに次の作戦が計画されたんだよな?」

 

西澤広義    「はい。作戦のためにハワイに海軍第一航空団が移動する必要があるらしいです。」

 

赤松貞明    「その前に一度本土でひよっこたちの訓練をしないとな。」

 

西澤広義    「そうですね。」

 

赤松貞明    「それで俺たちはハワイまでなにで移動するんだ?空を飛ぶのはもう疲れたぜ。」

 

坂井三郎    「俺達は輸送船で、零戦は空母で運ばれるらしいぞ。」

 

赤松貞明    「今度はちゃんと護衛艦をつけてもらいたいな。」

 

西澤広義    「ははは、そうですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1946年 5月上旬

 

 大日本帝国の快進撃は止まらなかった。”皇国の大反攻作戦”が開始されてからドイツは秘密裏に日本に資材などの援助を行ったため、大東亜戦争はますます長期化した。まもなく終戦だろうと油断していたアメリカは日本軍の大反撃をまともに受け、日本の勢力回復を許してしまった。

 5月上旬には日本軍によりスエズ運河を封鎖されてしまったため、アメリカは喜望峰経路からしか太平洋戦線に移動ができなくなった。

 さらに前線基地であるハワイも日本軍に占領されたため、アメリカ軍は戦争初期の日本軍によるアメリカ本土上陸作戦が近いうちに実行されると考え、本土の防衛力を増設していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本 松山基地

 

 海軍第一航空団の本拠地。史実では第三四三海軍航空隊の本拠地である。(この世界線では三四三海軍航空隊は海軍第一航空団に吸収されているため存在しない)

 

 零戦七八型が二機空を舞っている。伊藤と練習生の演習だ。地上では多くの練習生や団員たちが見物している。

 

練習生     「よし、あともうちょっと…」

 

 練習生が伊藤を射線に捉えようと必死に後方につく。対する伊藤は軽々と練習生の零戦七八型を振り切る。

 

練習生     「あ〜、あと少しだったのに…」

 

 演習が終わり飛行場に二機の零戦七八型が着陸する。伊藤と練習生の二人が降りてくる。

 

練習生     「参りました。伊藤少尉は凄い腕前ですね。」

 

伊藤龍生    「そんなことありませんよ。坂井中尉や西澤少尉には全然敵いませんよ。」

 

練習生     「そうなんですか。」

 

伊藤龍生    「そうなんですよ。私も練習生時代よく模擬空戦をしてもらいましたが、一度も勝てませんでしたからね。」

 

練習生     「凄い人たちなんですね。」

 

伊藤龍生    「ええ、それもそうですけど…」

 

 伊藤が振り返り、自身の倉庫へ運ばれていく零戦七八型を見つめながら言った。

 

伊藤龍生    「大切な人への思いが、人を強くするんですよ。」

 

 伊藤の零戦七八型の操縦席の計器に小国から託された懐中時計が下げられている。銀色の懐中時計は青い零戦とともに夕日を浴びて光輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

第二章 完




 これにて第二章終了です!ここまで読んでくださりありがとうございます!最終章もどうかご期待ください!


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