Fate/Yggdrasil (砂原凜太郎)
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カルデアの落日

 衝動書きした。後悔も反省もしていない。必ず続くけど更新時期がいつになるかは未定。


 そう遠くない未来、人類の住む地球は、退廃していた。

 外は汚染ガスで溢れ外出にはガスマスクが必需品。水道水もフィルターを用いなければ飲むことはかなわず、一部の富裕層のみがアーコロジー内で富を独占するスターウォーズの銀河帝国も真っ青なディストピアだ。

 だからこそ人々は逃げた。もう一つの現実、仮想現実のゲームの世界へと。美しい空も、皮から直接手ですくって飲める水も、多くの物で分け合ってもいくらでも湧いて出る富のあるゲームへと逃げた。

 そんなゲームの中でも大盛況を迎えたゲームがあった。その名はユグドラシル。他のゲームとは一線を画す自由度があったが、だんだんと過疎化を迎え、ついに、サービス終了の時を迎えていた。これは、サービス終了時に潜っていた、あるギルドの話。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ささ、藤丸殿、もう一献」

「ちょっと牛若……飲み過ぎだよ。」

「まぁまぁ、今宵は無礼講なのですから。」

「先輩の云う通りですよ、牛若さん。先輩は下戸でリアルじゃ未成年なんですから、あんまり飲ませないようにしてください。というか、貴方もそうですよね?」

 

 ギルド【カルデア】 歴史上の英雄を模したキャラクターメイドをした者たちが集まるこのギルドの最深部。そこでは数々の、このユグドラシルでしか味わえないゲームならではの料理が並び、複数のプレイヤーが飲み食いをする中、鎧や特異な装束を身に纏った者達とは違い、唯一の、現代風の衣服を着た黒髪の青年が、露出の激しい和装の鎧姿の少女に、酒を注がれ、それをなだめる桃色の髪の少女がいた。

 

 彼のプレイヤーネーム(名前)は【藤丸立香】このギルドで唯一伝説の人物の名前を持たない者であり、このカルデアのリーダーだった。

 今日この日、カルデアへと顔を出してくれた一人。かの源義経の幼名、【牛若丸】の名を持つプレイヤーの和装の鎧の少女と、藤丸の後輩でもある、【マシュ・キリエライト】がそれをなだめて居た。

 

「おっと、それは申し訳ない。」

 

 下戸と言う話を聞き、大人しく一升瓶を下げる。

 

「しかし、藤丸殿とは今日でお別れですか。」

「確か牛若は……」

「確かにスラムの出身ですが、そこにももう慣れました。住めば都と言いますから!!」

 

 悲しそうにする藤丸に、胸を張って笑い声をあげる牛若丸。すると、

 

「牛若のは筋がいい。我らが元へと来るか?」

 

 唐突に二人の横から声が響き、一同がびっくりして向いた先に居たのは、骸骨だ。青い炎を纏う荘厳な鎧を身に纏う骸骨が、その眼孔から輝く青い光でこちらを見据えていた。

 

「き、キングハサンさん……」

 

 マシュがその人物の名前を言う。このギルドの最強クラスの一角にして、その恐ろしい見た目からは到底信じられないが年の若いメンバーから『じぃじ』と慕われる男、プレイヤーネームは【ハサン・サッバーハ(山の翁)】アラブに存在したとされる暗殺教団。そのトップ。それも初代の名を持つ彼は、キングハサンと呼ばれている。そして、

 

「確か牛若殿は私よりも年若い。我らが名を継ぐことも不可能ではないと思いますよ。」

「いやぁ、百貌殿に褒めていただけるとは光栄です。」

 

 その会話の場に声を上げ、杯を片手にやってきた紫髪の女性の言葉に、牛若は照れくさそうに頭をかく。彼女のプレイヤーネームは【百貌のハサン】リアルでは山の翁の実孫だという彼女は、暗殺教団最後のハサン(山の翁)の名前を受け継いでいる。この二人はアーコロジー内に住む富裕民だという話だが、聞いた話、他の者たちとは違い、『闇』の側面に深くかかわっている者たちなのだとか。多くは語らないが……彼女たちが利用するプレイヤーネームを見れば、何をしているのかは察しが付くだろう。

 

「しかし、私はあの場所が心地よいのです。翁殿、そして百貌殿のお誘いは非常に魅力的ですが……残念ながら。」

「相分かった。それは残念だ。」

 

 ペコリ、と頭を下げる牛若丸に、残念だと答える山の翁。

 

「ならば、この一献は別れとしよう。」

「僭越ながら、お付き合いさせていただきます。」

 

 そう言って酒を注ぎ、その口へと運んでいく。種族としては不死者(アンデット)の最上位種族である冥府の王(デスルーラー)である彼に内蔵どころか食堂も存在しないのだが、酒は彼の鎧の奥へと消えていく。それに、牛若も答えた。それを見守る藤丸達に、

 

「虚しいものですな。この世界は、私にとって思い入れのある場所でしたから。」

「そっか、百貌は……」

「えぇ、『私達』が自由に過ごせるのは、この場所のみでした故。」

 

 多彩な術のレパートリーを誇っていた『百の(かお)を持つハサン』の名を受け継ぐ彼女は、その名の通り多くの(人格)を持っている。故に、リアルではその多重人格に苦しんでいた。

 しかし、この世界だけでは違った。変幻自在の影(ドッペルゲンガー)の種族である彼女は、この世界で、人格ごとに分かれ、分身することが出来たのだ。

 一つの身体に一つの人格。その素晴らしらに彼女たちは感謝した。しかし、それもこのユグドラシルがサービス終了する今日で終わりだ。

 

「百貌は……」

「なに、また我らが別れることの出来る空間を探すだけです。すぐに見つかりますよ。」

 

 ははは、と笑う彼女の言葉が空元気であることに藤丸もマシュも気が付いていた。もしそのようなゲームがあるのなら……百貌はとっくにユグドラシルから離れているだろう。そのような顔をしていると。

 

「何暗い顔してんだよ。」

 

 と、声をかける存在があった。

 

「あ、クー・フーリン……」

「ランサーでいいって言ってるだろ?」

 

 と、気さくな笑みを浮かべる青い髪の男性。ケルトの大英雄【クー・フーリン】をプレイヤーネームとし、よくギルド内で『兄貴』と慕われていた彼は、串焼き肉を片手にそう藤丸に話しかけて来た。隣にいた百貌から、あぁ、と納得したような表情を浮かべ、

 

「百貌の嬢ちゃんの事か。あ~、無責任なことは言えねぇけどよ。今見つかんなくても気にすんな。俺は多重人格じゃねぇし、リアルの百貌がどんなふうになってるのかとか分からねぇけどよ……ユグドラシル(コレ)だって新しいゲームじゃねぇ。色々やりつくしてサ終するってくらいには古いゲームだからよ……その内、このゲームの根幹を受け継いだゲームとか、アンタみたいなやつ向けのゲームが出てくるかもしれねぇから、それまで前を向いて生きてたらどうだ? ボウズも、そう悲観すんなっての。」

 

 と、彼は励ましの言葉をかける。

 

「周りを見てみろよ。こんな風に集まれて、こんな風に賑やかなんだ。俺達はリアルでこそ面識がない奴とある奴で分かれてるけどよ、リアルで面識ない奴にも、その内で会えることもあるんじゃねぇか?」

 

 そう笑みを浮かべて二人に次げる。あたりを見渡せば、黄金の盃を掲げる金髪の青年が、緑色の長髪の青年と会話を弾ませ、ドレスのような衣服を着た金髪の少女が、仮面をつけた男や、他の者たちとたむろし会話に花を咲かせている。

 ゾウの様な被り物をした、メガネの少女は、白髪の青年と食事をしながら笑っていた。

 茶髪の青年は、桃色の髪の美少女と、二人でワイワイと賑やかに過ごし、それを壁に寄りかかり見ていた、銀髪の少女は、気に入らないと口でこそいうもののまんざらではない様子だ。

 金髪に鎧姿の、女騎士と言った風貌の女性は褐色肌の青年との会話に花を咲かせ、エジプトの様な金色の衣装を身に纏った青年は、紫の髪の女性と会話し、高笑いを上げている。

 銀髪の小さな女の子が、先ほどの女騎士とよく似た風貌の女性に話しかけ、その二人を見て何やら愉快そうにしていた黒髪の男が、キャプテンハットをかぶった赤髪の女性にシバかれていた

 金髪にサングラスをかけた男は、酒に酔ったのか絡んでくる頭に角を生やした少女に困っており、それを肴に軍服姿の少女が酒を飲んでいた。

 

「嗚呼、楽しいですね。」

 

 その様子に百貌も笑みを浮かべる。

 

「うん。楽しかった。」

 

 それに、藤丸も頷いた。

 

「私もですよ。先輩。」

 

 マシュも、それに同調する。

 

「本当に、楽しかったな。」

 

 いつか会えるかもしれない。今この時が終われば、もう会えるかどうか分からない。その事に、彼の目には涙が浮かび、

 

「また、会えるかな?」

 

 そう、思わずクー・フーリンに問いかけた。

 

「あぁ、会えるだろうさ。きっとな。」

 

 その言葉にクー・フーリンは笑みを浮かべて、豪胆に英雄らしくそう答えて見せる。

 

「じゃあなマスター。また逢う日まで、」

「うん。また逢う日まで」

 

 そう言って、二人でグータッチをしたとき、ちょうど日付が変わり、藤丸達の視界はぷっつりと、真っ暗に途切れた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……い、…ぱい、」

「う……」

 

 次の時、藤丸は自分を起こそうとする声と体をゆする感触に眼をしばたかせた。

 

「あ、先輩、起きましたか!?」

 

 声をかけてくるのは、鎧姿(・・)のマシュ。

 

「マシュ……なんでまだその姿のまま……ッ!! ここは!?」

 

 眠っていた頭が覚醒していく。マシュがこのアバター体という事はここはまだユグドラシルだという事。だがユグドラシルはサービス終了をしたはずじゃ? と辺りを見回せば、そこは宴会場ではなく、最下層の1層上。メインルームと呼ばれる、魔王城などで言う『玉座の間』に分類される場所そこの中央の椅子に座っていた。

 

「キングハサンさんが運んでくれたんです。皆さんは、先輩よりも一足先に目覚めたんです。」

「そうだったんだ。それは」

 

 悪いことをした。そう言おうとした彼に、

 

「目が覚めたっスか~?」

「ガネーシャさん、これは一体?」

 

 間延びした声がかかった。入り口から入ってきたのは、象の被り物の様な物を頭に乗っけてメガネをた、少々ふくよか(・・・・)な体系をした少女だった。インドの神【ガネーシャ】のプレイヤーネームで活躍する彼女は、リアルでは引きこもりらしく、その体系が引き継がれたとしょっちゅう不満をこぼしている。そんな彼女に、藤丸はそう問いかけた。

 

「あ~、いわゆる、ラノベ的な展開? VRMMOでサ終記念にギルドで宴開いて寝て起きたら異世界転移して多的な?」

「へ?」

「あ、何を言ってるんだかわからないと思うけど安心して。ボクも全然わからないぜ☆」

「えぇ……」

 

 きゃぴっ♪という擬音が聞こえてきそうな表情とポーズを決めた彼女は、そう言ってから真面目な顔で

 

「ま~細かく説明すると、ここ、アタシらがプレイしてたユグドラシル……じゃ間違いなくないと思うッス。」

 

 衝撃的なことを口にした。

 

「え? でも僕らの格好はユグドラシルの……」

 

 そう、【藤丸立夏】も、【マシュ・キリエライト】もそう話す【ガネーシャ】だって間違いなく、ゲームユグドラシルのアバターだ。ではここはユグドラシルではないのか、と聞こうとすると

 

「だから、行ってるじゃないっすか。異世界転移って。あ? オタク特有の比喩だと思ったっスか? ところがどっこい夢じゃありません! 現実です! これが現実!」

 

 と、漫画か何かのセリフなのか口調まで変えながらポーズを取ってそう言う。すると、

 

「妙な世界だ。スキルや魔法は皆使える。効果や見た目は明らかにユグドラシルだ。」

 

 と、もう一人、その身に黄金の鎧を纏った白髪の男性が入ってきた。

 

「カルナさん……」

「ということは、やっぱりユグドラシルではないのですか?何故ここがユグドラシルではないと?」

 

 インドの叙事詩マーラバタに登場する、『施しの英雄』と呼ばれる男、【カルナ】をプレイヤーネームとする彼の言葉に、マシュが疑問を投げかけた。

 

「俺達が既に確認した。ここがユグドラシルでないことは明らかだ。」

「あ~っと、カルナさん、ちゃんと理由を言わないとわかんないっすよ。ま、大きく分け3つの理由でここがユグドラシルじゃないのは間違いないっス。」

 

 ガネーシャがそう言ってから言葉を続ける。

 

「まず一つ目が、コンソールが開けないんス。それもアタシだけじゃなくてメンバー全員。それに二つ目の理由として景色が違うんス。カルデアはユグドラシルの氷雪地帯にあったっスよね。でもここは氷雪地帯なんかじゃなくて、一面大草原だったっス。いきなりギルド拠点ごと異世界転移とかまさしく草も生えない状況なんすけど、まぁこれだけならゆうてなんかのバグで済むんすけど……三つ目が異常っす。」

 

 そう深刻な顔で前置きしてから、

 

「NPCが、喋ってるんすよ。」

 

 と、告げた。

 

「NPCの皆が!?」

 

 その言葉に藤丸も驚く。ユグドラシルでは、自分の好きなようにNPCを創り、設定を書き込み、見た目なども自由に設定できる。そこで出来たNPCが、感情を持って喋ってるというのだ。

 

「アシュヴァッターマンが喋った時は俺も驚いた。プレイヤーメイド(俺たち)のNPCだけじゃない。このカルデアにいる職員やメイド、その他諸々のNPCも全て動いている。」

「ね?おかしいでしょ?ユグドラシルのNPCは言語エンジンは持たないので軽い会釈は出来ても、会話はできないようになってたはずっス。アップデート……って線は考えたけどまずないっスね。一人一人が作ったキャラクターに対して個性と喋り方を持たせるのはまずキツイっス。オマケに、サ終宣言してたゲームのサ終が伸びたうえにそんなアプデ、んなことあるわけないっしょ?」

 

 ここまで素材を並べられたら、納得せざるを得ない。藤丸は目を見開いて、驚いていた。

 

「とりあえず、魔術師(マジックキャスター)の皆さんが浮かないように総出でカルデアの入り口をダンジョンっぽく改装してるッス。」

「ありがとうガネーシャ。今の事情はよく分かったよ。それじゃあ僕たちは、ここで待機してよっか。」

 

 それと、ハサンを中心としたメンバーが、周囲の作的に出ているそうだ。それを説明してくれたガネーシャに藤丸はお礼を言い、この椅子に座って待つことにした。

 

「ところでやっぱりこの椅子むず痒いんだけど……」

「先輩はギルドリーダーなんですから。どっしり構えててください。」

「そうだよね~」

 

 この大仰な玉座は自分には不釣り合いだという藤丸に、マシュが笑顔の厚で彼を椅子に押さえつける。この光景は、世界が変わっても変わらないのだなと、カルナが微笑み、それにジナコも賛同する。しばらく見なかった、カルデアの日常風景だ。このひと時に、彼らは微笑んでいた。




 次回、周囲の様子を確認したカルデア一考。遠見の推奨と呼ばれるアイテムを使い周囲の村を探していたら、虐殺の現場を発見する。いてもたってもいられなくなった藤丸がマシュを連れて飛び出すのが、彼らの英霊譚の始まりとなった。次回【ファースト・コンタクト】


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