IS ―Another Trial― (斎藤 一樹)
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1.始まりはいつも突然

 初めまして。斎藤一樹と申します。本作品は当初にじファンで連載していたもので、にじファン閉鎖に伴いFC2小説へと移行していたものを本サイトに転載する形となっています。優しい目で見守っていただけると幸いです。


追記:

2018/07/31 全面改稿
一先ず第一話のみ、改稿し終わったものに差し替えておきます。これ以降の話はもう暫くお待ちください。m(_ _)m


 懐かしい、夢を見た。

 

 

 

「……千冬、一夏。すまないな、お前達とはここでお別れだ。これからはお前達は〈賢木(さかき)〉ではなく〈織斑(おりむら)〉として生きるんだ」

 

 ……お父さん?

 

「……ごめんね、二人とも。でも、もう時間が無いの。なにかあったら、お隣りの篠ノ之さんに助けてもらいなさい」

 

 ……お母さん?

 

 隣を見ると、僕より八つ年上の千冬姉ちゃんは両の手をぎゅっと握りしめ、涙を必死に堪えるように俯いていた。

 

「……なんでお姉ちゃんも黙ってるの? ねぇ、何とか言ってよ…。お父さんもお母さんも居なくなっちゃうんだってさ……。どうして? ねぇ、誰か何か言ってよ…………ッ!」

 

 家の玄関で、叫び声が虚しく響いた。

 

 

 

 ───それが、俺が覚えている、父さんと母さんの最後の記憶。

 

 

 

 

 

 ピピピピピ、と。

 

 枕元に置いておいた目覚まし時計の音に、ゆっくりと意識が引き上げられていく。微妙にぼんやりとした頭で辺りを見回せば、寝る前と何一つ変わらない見慣れた自室だった。

 

 視界が滲んでいたので目元に手をやると、何故か濡れていた。不思議に思い少し考えた後に、先程まで見ていた夢を思い出した。どうやら無意識の内に涙を流していたらしい。

 

「……夢、か」

 

 それにしても懐かしい夢だった、と思いながら時計に目をやると時刻は午前6時。ごそごそとベッドから這い出して最低限外に出られる格好へと着替えてから、部屋の隅へと立て掛けてある木刀を手に取り、庭へ出て素振りを始める。いつも通り百回やったところで素振りをやめ、家の中へと戻る。

 

 今日は高校の入学式。間違っても初日から遅刻するわけには行かないので、日課の一つであるジョギングは諦める事にする。もしそれが原因で遅刻でもしたら目も当てられない。

 

 部屋の中へと戻った俺はそのまま風呂場へと向かい、途中の洗濯籠に着ていたシャツ等を放り込んでからシャワーを浴びるべく浴室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 シャワーで汗を流し終えて自室に戻り、昨晩寝る前にハンガーにかけて部屋の隅に吊して置いた制服に袖を通す。多分これから3年間お世話になる服だ、大事に扱わなきゃな。

 

 ……IS学園。

 

 それが、今日から俺が通う高校の名前だ。世界で唯一の、IS(インフィニット・ストラトス)について専門的に学ぶための学校、IS学園。中学までの友人たちと離れて俺はそこに通うことになったわけだが、とは言え幼馴染みもそこに通っているらしいので少しは気が楽ではある。

 

 相も変わらず漫然と思考しながらも、今までの生活で染み付いた習慣は身体を勝手に動かして料理を作っていく。暫くすると湯気を立てた朝食が机の上へと並んだ。適当に作った割りには美味そうだ。

 

 以前は姉である千冬姉と合わせて二人分の食事を作っていたが、その千冬姉も就職してからは長期休暇を除けば滅多に帰ってこなくなった。そんな一人暮らし生活が何年も続けば、一人きりでの朝食も今となっては慣れたもので。幼馴染みの一人から手解きを受けた料理の腕も上がり、それなりにはまともなものが作れるようになったと自負している。

 

 と言っても、自分一人のためにいつも手間のかかる料理を作るモチベーションは無いので、朝とかは結構簡単なものが多いが。前日の料理の残りがあったら豪勢な部類と言える。

 

 そんな俺の料理についてはさておくとして。

 

 IS学園である。

 

 そもそもISとはとある1人の天才が開発した、宇宙開発用の極めて高性能なパワードスーツだった(・・・)。それが1つの大きな事件とそれに伴うあれこれと面倒な事情の果てに、今では軍事転用が禁じられて競技(スポーツ)用という形に落ち着いたのだった。

 

 そんなISの操縦方法、或いは整備方法について学ぶのがIS学園という教育機関だ。一般的な高等学校と同じ3年間という期間で、普通の高校と同じ内容の教育とISについての知識を叩き込む都合上、IS学園は全寮制である。

 

 俺は特殊な立ち位置なので、例外として通学となるらしいが。

 

 それでもいつ寮に移る事になっても大丈夫なようにと、ここ数日は冷蔵庫の中身を使い切るようは献立を作っていた。その甲斐あってか、今食べている朝食で野菜や肉は無事に食べきる事が出来た。調味料とかは残っているが、まあそちらは暫く持つから良いだろう。

 

 む、また話が料理の方へと流れてしまった。どうも食事中は思考がそちらに流れてしまっていけない。

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終わり一息つく頃には、そろそろ家を出なければ行けない時間となっていた。

 

 IS学園は本州からそう離れていない洋上に建造された人口島(メガフロート)の上に作られている。今日のところはまず家から最寄り駅まで歩いて向かい、そこから電車とモノレールを乗り継いで向かうことになる。

 

 洋上のメガフロートという立地により、本州からの移動手段は本州から延びるモノレールか船、またはヘリコプターに限定される。恐らく侵入者を防ぐためという防犯上の理由もあるのではないだろうか、等と想像してみるが、どうだろう。IS等が襲撃してきた場合等は立地が意味を為さないかも知れないが、多分外部のマスコミ等からの干渉をある程度シャットアウトするための作りなのだろうとも思う。

 

 襲撃者相手にはまた別の防衛機構があるのかも知れないのだし。

 

 IS学園は各国から最新鋭のISが装着者である生徒と共に送り込まれる、新型機の実験場としての側面もある……らしい。この辺りは実際にこの学校に通っている幼馴染みから聞いた話だが。

 

 つまり、IS学園とは機密情報が大量に存在する場所とも言える。それを守るための防犯対策もきっと万全だろう。

 

 

 

 

 

 モノレールを降り駅から出て歩き始めると、程なくして立派な校門が目に入る。言うまでもなく、IS学園のものである。その前で、一人の女性が立っていた。

 

「織斑一夏くんですね?」

 

「はい」

 

「私はこのIS学園の教員の山田真耶です。よろしくお願いしますね?」

 

 そう名乗った女性……山田先生は微笑みながらぺこりとお辞儀をして、そしてそれに合わせてゆさりと2つの山が震えた。正しく震える山である。

 

 こいつは、エースだ。

 

 その(バスト)は豊満であった。

 

「よろしくお願いします、山田先生。以前、テストの時にお会いしましたよね?」

 

「あら、覚えててくれたんですね」

 

 その時は山田先生も忙しかったのか、ちらりと顔を会わせた程度だったが。

 

 じゃあ行きましょうか、案内しますねと言って山田先生が歩き出す。山田先生曰く他の新入生は数日前から寮に入っているらしいので、今日からIS学園に来るのは俺だけということらしかった。

 

 山田先生の後に続いてIS学園へと歩いていくが、それはそれとして周りからの視線と場違い感がすごい。予想してはいたものの、いざこれだけの視線を向けられるとなると少なからずプレッシャーのようなものを感じざるを得ない。

 

 場違いの原因は明白である。

 

 周りが全員、女子だからだった。

 

 ……………。

 

 周りにいるのが全員、女子なのである。

 

 見渡せば、周りはどこも女子、女子、女子。そしてその中に混じるたった一人の男というのが、他でもないこの俺こと織斑一夏であるのだった。女子高の中に一人だけ男子高校生が紛れ込んだ状態、というのが比喩抜きで現在の状況を表したそのものズバリなフレーズである。

 

 ……さて。ISというものが極めて高性能なパワードスーツである、と言うのは先程述べた通りであるが。そんなISにはたった1つ、致命的な欠点があった。出来てしまった。

 

 ISは女性にしか動かせない。それがISの唯一にして最大の欠点であり、……宇宙開発用としては致命的な汎用性の低下を招いてしまったと開発者が悔やんでいた点でもある。

 

 兎も角。

 

「ISは女性にしか動かすことが出来ない」というのが条件というか一般的な認識であった。俺もこの間までそう思っていた。

 

 つまり、必然的にそのISに関して学ぶこのIS学園も、実質的には女子校だということである。名目上は共学となっているけれど。整備科とかは男子生徒が居ても良いんじゃないかと思わないでもないが、そういったケースは今のところ未だ無いらしい。

 

 まあ、その、なんだ。

 

 詰まるところ俺、織斑一夏は。

 

 世界で初めてにして現状では唯一の、ISを動かせる男という存在であるらしいのだった。

 

 貴重なモルモットとも言う。

 

 見知らぬ人々から遠巻きに眺められている現状を鑑みれば、パンダとも言えるかもしれない。

 

 願わくば実験用のモルモットじゃなくて女の子にちやほやされるパンダで居たいものだ、とか考えてみるが。より正確に言うなら楽に生きれそうなパンダでありたい、というのが偽らざる本音というやつなのだが。

 

 まあ無理なんだろうなぁ、と波乱が待ち受けているであろうこれからの高校生活を思い浮かべ。

 

 「この立場、誰か変わってくれないものだろうか」などと思いながら、俺は天を仰ぎつつ内心で深い溜め息をついた。

 

 空は青く遠く、遥か彼方まで広がっていた。

 

 




 今回の小ネタ

始まりはいつも突然……仮面ライダー電王のOP、AAAのCLIMAX JUMPのワンフレーズ。

 ご意見ご感想、質問など受け付けています。お気軽にどうぞ! 質問に関しては、あとがきで質問コーナーを設けてみようかと思っています。これからもよろしくお願いします。





 前書きの通り、全面的な改稿及び追記を行いました。今後順次差し替えを行っていく予定です。


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2.クラスメイトは全員女

 

 孤立無縁、という言葉がある。それは、周りに味方が誰もいないような状況の事。そう、例えばクラス中みんな女子なのに、自分だけ男……とか。

 

 何の事はない、つまるところ今の状態である。孤立無縁、四面楚歌。知り合いは……窓際に幼なじみの篠ノ乃箒という娘がいたけど、救いを求めてアイコンタクト送ったら目ェ逸らされた。薄情者め。

 

 そんなこんなで入学式が終わり、現在はLHR(ロングホームルーム)の時間。2時間目の授業を潰して行うとの事。黒板の前に立った副担任だという中〜高校生ぐらいの外見の山田真耶(やまだまや)先生が、

 

「全員揃ってますね〜?ではでは、ホームルームを始めますよ〜」

 

 何がそこまで嬉しいのかは分からないが、弾むようにそう宣言した。その拍子に、その顔に対して少し大きめの黒淵丸眼鏡がずりっとずり落ちる。

 

 しかし、残念な事にほとんどの生徒はその言葉を聞いていなかっただろう。原因? そりゃあ俺だろうさ。何と言っても現状、「世界で唯一、ISを動かした男」だ。注目の的になったとしても当然だろう。

 

 ……ごめんなさい、山田先生。悪気は無いんです。不可効力なんです。

 

 そんなアウェーな状況の中、山田先生は黒板の前でぱたぱたと腕を振りながら、健気にアピールする。

 

「こ、これから一年間頑張りましょうね〜?」

 

 しかし反応は無い。出来ることならばせめて俺ぐらいはリアクションを返してあげたいものだが、生憎と周囲からの視線というプレッシャーと戦うことに必死で、そこまでの余裕は無い。

 

「じ、じゃあ、自己紹介をお願いします〜。そうですね、出席番号順で」

 

 おお、山田先生がんばった。いや、こうでもして意識逸らさないとキツいんだって。マジで。しかも、俺の座っている席は真ん中の最前列。……何ともまあ目立つことこの上ない。

 

 女子達の自己紹介を聞くとも無しに聞いていると、順番が近づいてくる。……しまった、何をいえば良いんだ?こういう時って。悩んでいると、

 

「……くん。織斑一夏くん〜っ」

 

「は、はいっ!?」

 

 いきなり名を大声で呼ばれた。……どうやら思っていた以上に深く考え込んでしまっていたらしい。驚いた拍子に声が裏返る、という醜態を曝さなかった事がせめてもの救いか。

 

「ゴメンね〜、自己紹介、《あ》から始まって、今は《お》なんだ〜。自己紹介、してくれるかな〜?」

 

 是非もない。やあぁーってやるぜ!と内心で気合を入れれば、「オーケー、一夏!」という声が、どこからか聞こえた気がした。

 

 言うまでもないことだが、あくまでそんな気がしただけである。

 

 しかし、担任の先生遅いな……。会議、そんなに長引いてるのか……。まあそれは今はいいや。取り敢えず、直面している問題をどうにかしないと。自己紹介。失敗すると、これからの高校生活が悲惨な事に成り兼ねない。他のクラスメイトは全員女子なわけだし。溝を作るわけには行かないだろう。しかし、俺にこの場をどうにか出来るような軽妙なトークの才などあるはずもなく。

 

 ワクワクとした女子の視線を背に立ち上がり、口を開く。

 

「えっと、織斑一夏です」

 

 周りの女子から、「もっと他にも何かあるだろ」的な視線がビシバシ突き刺さるが、無いものはしょうがないだろう。こういうの、苦手なんだよ。

 

 溜めを作るように大きく息を吸い込み、堂々と宣言した。

 

「……以上です!」

 

 クラスメイトがずっこけた。リアルにずっこける人とか初めて見た。ノリがいいな、仲良く出来そうだ。

 

 そんな事を思っていると、左斜め後ろから殺気。……上からか。右手を握って拳を作り、力を込めて握ったそれを肩を軸に垂直に打ち出し、

 

 ───ズバァンッ!

 

 という音と共に固いナニカと衝突した。

 

「────ッ!」

 

 叫び出しそうになるほどの痛みを通り越し、声にならない程の痛みだった。無理矢理ポーカーフェイスを取り繕い、後ろを振り返る。そこにいたのは、

 

「……あなたがバーサーカーか」

 

「誰が湖の騎士だ、阿呆が」

 

 俺の姉である織斑千冬が立っていた。その手に持っているのは出席簿。……何で出席簿であんな威力が出るんだ……というかアレを拳で受けずに頭に食らっていたとしたら、果たして無事ですむのだろうか。

 

 そう思っていると、耳をつんざくような「キャアアアアアアッ!!」という嬌声が教室に響いた。み、耳がキーンって……。

 

「本物!本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!サインください!」

 

「お姉様に憧れて、北九州から来ました!」

 

 この学校に来る途中耳に挟んだ噂では外国から来た奴だっていたらしいので、北九州なんてまだ甘い。

 

 きゃっきゃきゃっきゃと騒ぐ女子達に、千冬姉は呆れ気味に

 

「……今年もこんなんばっかか…………」

 

 深い深いため息と共に、呟いた。

 

 ああ、例年こんな感じなのか……。

 

 そんな千冬姉に、山田先生は声をかけた。

 

「織斑先生、会議は終わったんですか?」

 

「ああ、申し訳ない山田先生。クラスへの挨拶等を押し付けてしまって」

 

「いえいえ、私もクラス副担任ですからね〜」

 

 おっとりと山田先生が微笑みながら言った。そして、自然な動作で教卓の前から横に動く。それを見て、千冬姉は教卓の前に立ち、朗々と響く声で話し始めた。

 

「諸君、知ってる者も多いようだが、私が織斑千冬だ。君達新人を、この一年間で使い物になる操縦者に育てることが仕事だ。私の言うことをよく聞き、よく理解しろ。出来ないものには出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。…いいな?」

 

 ……何という暴力発言。我が姉は相変わらずであるらしかった。口調と雰囲気で分かりにくいが、よく聞くと優しい言葉だ、という甘い部分までそのまま。薄々思っていたが千冬姉はツンデレだ。さっきの台詞だって、よく聞くと「分からなかったり出来ないようなら出来るようになるまで見捨てずに教えてやる」という意味と分かる。……いや、分かりにくいわ!

 

 まあ取り敢えず。

 

「こんな感じで自己紹介終わるから、なんか質問とかあったら個人的に聞きに来てくれ」

 

 そう言い残して、俺は席に座った。有耶無耶になってラッキー、というのが正直な感想であったりする。

 

 

 

 




   今回の小ネタ



クラスメイトは全員女……原作第一話のサブタイより

やあぁーってやるぜ!(オーケー、一夏!)……「超獣機神ダンクーガ」の主人公、藤原忍の決めゼリフ

バーサーカー、湖の騎士……Fate/Zeroより。改稿にあたり呂布からランスロットに。





 ご意見ご感想、質問などお気軽にどうぞ。


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3.ファーストコンタクト

 

 

 一、二時間目を使った入学式、三時間目のLHR(ロングホームルーム)。一通り自己紹介も終わり、千冬姉は言った。

 

「それでは次に、再来週に行われるクラス対抗戦に出るクラス代表を決めなくてはならない……が、」

 

 千冬姉がその左腕に嵌めた腕時計をちらりと見遣り、

 

「それは次の時間に持ち越しのようだな」

 

 キーンコーンカーンコーンと、チャイムが鳴った。

 

 

 

 休み時間。中学校時代はよくお喋りとかに費やしたものだが、明らかにそんな空気じゃない。ついでに言うと、そっぽを向いている箒を除けば、そこまで親しい娘もまだいない。そして何より、好奇の視線が増えた。《世界で唯一ISを使える男》というのはやはり世界的なニュースになったようで、当然ながら学校にいるすべての人……学園関係者から一般生徒に至るまでが俺の事を知っている。そして今は休み時間。廊下に目を向けると、他クラスどころか他学年の生徒までいる。……俺は見世物じゃねぇぞ。動物園の檻の中でぐったりと寝そべる、ライオンの気持ちが少し分かったかもしれない。

 

 いっそのこと話しかけてくれればまだ気は楽なのに、互いに互いを牽制し続けているような妙な緊張感が教室内に満ちている。

 

 

 

 IS(アイエス)……正式名称、《インフィニット・ストラトス》。今から八年前、一人の天才によって作られた、マルチフォーム・スーツ。空を飛ぶことが出来るパワードスーツ、みたいな物を想像してもらえると、少しは分かりやすいかもしれない。本来は宇宙空間での活動を想定して作られた、と言うが、宇宙開発は遅々として進まず、《兵器》へと転用され、……各国の思惑により《スポーツ》として運用されることに落ち着いた。

 

 しかし、ここで問題となったのが、《ISは女性にしか動かせない》という事。現状、俺を除く全ての男性は、ISを展開できない。これに関しては制作者であり開発者でもある天才(かのじょ)自身にも理由が分からないらしい。

 

 兎にも角にも、現行の殆どの戦闘兵器はISの前には高価な鉄屑であり、世界の軍事バランスは崩壊した。しかも開発したのは日本人だったため、ISに関する技術は日本が独占。当然、他の国々がそれに対して黙っているはずもなく、IS運用協定……通称《アラスカ条約》が締結され、ISの情報開示と共有、研究のためと操縦者育成のための教育機関と超国家研究機関の設立、軍事使用の禁止等が定められた。

 

 尚、余談ではあるが、これに応じて設立された教育機関がこのIS学園であり、当初は日本が土地の提供から資金提供まで行うことになっていたが、基本的に腰の低い外交が特徴のこの国が珍しく強気に主張し、資金に関しては各国が出し合うことになったという……。

 

 まあそれはさておき、こうなると今度はIS操縦者がどれだけ揃っているか、という点が、即その国の軍事力に繋がるわけで。その操縦者が女性に限定される、となると、どの国も率先して女性優遇政策を施行。これにより《女性>男性》だとか《女=偉い》という図式は瞬く間に浸透し、あっという間に女尊男卑社会の完成。

 

 

 

 そんな事をぼんやりと考えていると、

 

「貴方、ちょっとよろしくて?」

 

「ん?」

 

 何とも言えない緊張感を打ち砕くように、俺に話しかけて来た女子がいた。この空気の中で声をかけて来た勇者の顔を見ようと、振り向く。そこにいたのは、鮮やかな金髪に僅かな縦ロールをかけた、白人の女の子。白人特有の透き通ったブルーの瞳が、やや吊り上がった状態で俺を見つめている。えっと、この娘は……外見的特徴から判断するに、セシリア・オルコットさんか。確かイギリス代表候補生、だったかね?

 

「聞いてます? お返事は?」

 

「あ、ああ。聞いてるけど……どういった用件だ?」

 

 答えると、オルコットさんはあからさまにわざとらしく声をあげた。

 

「まあ! 何ですの、そのお返事。わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

 あ、これは典型的な女尊男卑型の考えの奴だ。俺の苦手な、もっと言えば嫌いなタイプ。ちらりと、左腕に嵌めた桜色のリストバンドのようなブレスレットに目をやる。休み時間は残り数分。せいぜい遊んでやるか。

 

「悪いな、あいにくと俺、君が誰だか知らないし」

 

 本当は知ってるけど。どうやらこの答えはオルコットさんにはかなり気に入らないものだったらしく、吊り上げられた目を細め、いかにも男を見下した口調で続ける。

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」

 

「あ、質問いいか?」

 

 遮るように言葉を挟む。

 

「ええ。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくってよ」

 

 ……言ったな?

 

「代表候補生って、何?」

 

 がたたっ、と聞き耳を立てていたクラスの女子数名がコケたが気にしない。

 

「あ、あ、あ……」

 

「『あ』?」

 

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

 

 おお、怒ってる怒ってる。頭から湯気吹き出しそうなぐらいに。

 

「ああ。知らんな」

 

 ここは敢えてしれっと言ってみた。

 

「……………………」

 

 ありゃ、一周して冷静になってしまった。失敗、失敗。オルコットさんはなにやらブツブツと言い出した。端から見れば危ない人。訂正、少なくとも冷静ではなさそうだ。ママー、あそこに変なお姉ちゃんがいるー。しーっ。見ちゃいけません。みたいな。

 

 ま、やったのは俺なわけだが。

 




 煽っていくスタイル。一夏くんも、ストレスが溜まっていたのかもしれません。この作品の一夏くんは、身内には優しいけど敵意を向けてくる相手にはけっこうキツいという性格です。

 今回は特に小ネタも挟んでなかった…と思うので、ネタばらしは無しで。

 あ、それとFC2小説版からサブタイトルを変更しました。特にたいした意味はないのですが。

 これから8月の間は毎日更新! 出来るといいなあ……。

 ではでは。


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4.よろしい、ならば戦争だ

 

 煽るように言ってみる。

 

「で? 代表候補生って何だ?」

 

「……こほん。国家代表IS操縦者の、候補生として選出されたエリートの事ですわ。単語から想像すればお分かりでしょうに」

 

「へー、そうだったのかー」

 

 我ながら見事な棒読み。素晴らしいね。

 

「そう、エリートなのですわ!」

 

 テンション高いな、この縦ロール。俺が冷めた目で見ていることにも気が付いてなさそうだ。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じになることだけでも奇跡……幸運なのですわ。そこのところ、もう少し理解していただけるかしら?」

 

 調子に乗って何かほざいてるが気にしたら負けだろう。気にしたらストレスが貯まるだけだ。こういう手合いには、適度に無視するかおちょくっておくのが精神衛生上、一番だ。

 

「ほう。それはラッキーだな」

 

「……わたくしを馬鹿にしていますの?」

 

 勿論だ、と言いたいのを堪え、口は別の言葉を紡ぎ出す。

 

「おいおい、幸運だと言ったのは他ならぬ君だろう」

 

「大体貴方、ISに関する基本的な事すら何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね? 唯一、男でISを操縦出来ると聞いておりましたから、少しくらいは知的さを感じさせるかと思っていましたけど、とんだ期待はずれですわ」

 

「そいつは勝手な期待ってもんだ。そもそも、この学園に入ったのは政府からの指示に寄るものであって、そこに俺個人の意志は介在しない。理由は、まあ言わなくても分かるよな? “エリート”なんだしな?」

 

「と、当然ですわ。まあ、でもわたくしは優しい性格ですから、貴方のような人間にも優しくして差し上げますわ。ISの事で分からないことがあれば、まあ……泣いて頼むというのなら、教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

 ……色々と言いたいことはあるが、取り敢えず。

 

「取り敢えずお前さん、“優しい”っていう単語の意味を調べて来ると良い。ああ、何なら俺の辞書を貸してやろうか? 君の国のものとは書いてある内容が違うのかも知れないからな?」

 

「……なッ…………!?」

 

 突然の俺の暴言に反応できなかったのか、口ごもるオルコットさん。おいおい、止まってる暇は無いぞ?

 

「あと、入試ってあれかな? ISを動かして戦うってやつ?」

 

「それ以外にございませんわよ?」

 

「なんだ。……俺も倒したぜ? 教官を」

 

「……はい?」

 

 左手のブレスレットに目をやる。残り、15秒。

 

「……わたくしだけ、とお聞きしましたが?」

 

「そりゃ『女子の中では』っていうオチじゃないのか?」

 

 それに対してオルコットさんは口を開きかけるが、残念だったな、タイムリミットだ。

 

 キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴った。

 

「…………ッ! ……また後で来ますわ! 逃げないことね! 良くって!?」

 

 良くないに決まってるだろうが。二度と来んな。

 

「しかし、見事に典型的な捨て台詞だ。小物臭がしていて実に良い。おちょくった甲斐があるというものだ。そう思わないかい? 相川さん」

 

 右隣りの席に座っている相川さん(フルネームは相川清香、出席番号一番)に振ってみた。

 

「え!? あれ、わざとだったの!?」

 

「当たり前だろ。流石にあの程度の常識は知ってるさ」

 

「…あははー……。……ていうか、あたしの名前、覚えててくれたんだね。あたしの事は清香でいいよ?」

 

「オッケー。これからよろしくな? 清香」

 

「うんっ! こちらこそ!」

 

 相川さん、改め清香は、眩しい笑顔でそう言った。いいね、女の子には笑顔が一番だ。

 

 4時間目。

 

「それでは、この時間は先程言ったように、先にクラス代表者を決めてから授業に入る」

 

 うーむ、学級委員みたいなものだろうか?

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。要はクラス長とか学級委員とか、そのようなものだ。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席を行う」

 

 ざわざわ、と教室がざわめく。面倒そうだな、俺は御免被りたい。

 

「はいっ! 織斑くんを推薦します!」

 

 しまった。フラグだったか。

 

「はいはい! 私もそれが良いと思います!」

 

「ほう。候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わんぞ」

 

 誰も手を挙げない。…え? このまま決定しちゃう感じですかね?

 

「え? 俺がやんの?」

 

「諦めろ。さて、他にはいないか? いないなら無選挙当選だぞ」

 

 んー。まあ、やれって言われたらやるけどさ。そろそろあの縦ロールが動きそうだ。

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 ほら来た。バンッと机を叩いて、オルコットさんが立ち上がった。こっそりと携帯端末のスイッチを入れる。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! このセシリア・オルコットに、そのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 あっはっはっ、お前の存在自体がクラスの恥さらしになりそうだけどな。

 

 誰も何も言わないことに気を良くしたのか、オルコットさんは続ける。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、ただ物珍しいからという理由だけで極東の猿にされては困りますわ! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 ……全く。いいのかね? 仮にもイギリスって言う国の看板背負って来ている代表候補生の君が、こんなに堂々と他国を侮辱して。軽率に過ぎるのではないだろうか。

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ! 大体、文化的に後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で──」

 

 オルコットさんや。ヒートアップするのは良いが、周りの空気を読んでくれないだろうか。主に日本出身の娘達の発してる空気がすごい険悪なのだが。

 

ええい仕方がない、誰も何も言わない様だし俺が言ってやろうじゃないか……これ以上は聞くに堪えない。スイッチ、オフ。

 

「なあ、オルコット」

 

「──ッ! なんですの!?」

 

 少しだけ殺気を添えて、静かに言う。

 

「……お前さん、ちょっと黙れよ。……耳障りだ」

 

 周りの女子が、ヒッ、と小さく悲鳴をあげる。ごめんな。怖がらせちゃって。

 

「そ、そもそも、貴方が──」

 

 尚もオルコットは何かを言おうとするが、

 

「黙れ、と。俺はそう言った筈だぞ?」

 

 その言葉で完全に沈黙する。

 

「そもそも、君は仮にも代表候補生なのだろう? つまり、国の看板を背負ってここにいるはずだ。そんな存在である君が、多くの人が聞いているこの場で堂々と他国を侮辱した。これは二国間の外交問題に発展してもおかしくない。おまけに、この国はISを開発した国だ。……さて、この事が何を意味するのか。分からない君じゃないだろう? 勿論、相応の覚悟があっての発言なんだろうね?」

 

 俺の言葉にみるみるオルコットの顔が青くなっていく。ようやく、自分がしでかしたことを自覚したようだ。

 

 さて、どうするかな? 君は。

 

「…………け、」

 

「……『け』?」

 

「決闘ですわ!」

 

 ……何故そうなるんだ。

 




 0時に更新する予定だったんだ。借りて来た映画見ながらガンプラ作ってたら深夜の1時を過ぎていたけど。そんなこんなでおはこんにちばんは、斎藤一樹です。ISAT、第四話でございます。

 今回の小ネタ。

・よろしい、ならば戦争だ……HELLSINGより。実は私はあまり読んだ事が無い。今度ちゃんと読んでみたいな…。クリーク!クリーク!クリーク!



 今更ですが、この作品では色々なものが原作とは変わって来ています。それはキャラクターの性格だったり立ち位置だったり、ISの構造だったり成り立ちだったり。例を挙げるならば、この世界のISに非固定浮遊部位(アンロックユニット)は存在しません。他にも様々な事が、少しずつ…或いは大幅に異なっています。その辺りの違いも、楽しみながら考察しながら読んでいただければいいな、と思っています。もしよろしければ、どうかこの物語にもうしばらくのお付き合いを。


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5.「決闘ですわ!」「だが断る」

 

 

 ……どうしてこうなった。セシリア・オルコットを追い詰めて、結果的に言われた言葉が、「決闘ですわ!」でしたとさ。

 

 ……ホントに、どうしてこうなった……。

 

「ち、ちょっと貴方、聞いてますの!?」

 

「…ん、ああ、もしかして聞き間違えたのかも知れないから、もう一回言ってくれないかな?」

 

 聞き間違いであってくれ、という想いを込めて尋ね返す。

 

「仕方がありませんわね、ではもう一度」

 

 そう言ってオルコットさんは言葉を区切り、一呼吸置いてから言った。

 

「決闘ですわ!」

 

「だが断る」

 

 ノータイムで即答。明らかに面倒事じゃねぇか。

 

「ッ!? ……な、何でですの!?」

 

 信じられない、といった表情でこちらを見るオルコットさん。よせよ、照れるだろ。

 

「面倒臭いからに決まってるだろうが」

 

「面倒臭いって、貴方……!」

 

「まさか、『決闘を辞退するなんてマナー違反だ』とか言わないよな? 『When in Rome do as the Romans do(郷に入っては郷に従え)』。ここは日本だ。騎士道なんざ知ったこっちゃねぇ」

 

 メリットも大してない。やる必要が見つからない。

 

というかどうしてその決闘を受けてもらえると思ったのだろうか、コイツは。

 

「……そう言って逃げるおつもりですの?」

 

「言いたいのなら好きに言え。この戦い、俺には何のメリットもない。大方、そっちは『決闘で勝ったら先程の言葉を取り消してもらおう』とでも考えてるんだろうが、」

 

 ぐ、と息を呑むオルコットさん。ビンゴか?

 

「こちらが勝ったとしても何も無いからな」

 

「あ、貴方は! これだけ言われても何も感じませんの!?」

 

「ああ、全くな。俺にとって至極どうでもいい有象無象に何を言われようと、気にするだけ面倒だ。それに、分の悪い賭けは嫌いじゃないが、意味も益も無い戦いはしない主義でね」

 

「────ッ!」

 

 怒りからか、オルコットさんは顔を真っ赤にさせる。

 

「あなた、それでも男ですの!? 男なら……」

 

 まだ何やらギャーギャー言っているが、一先ずそれは無視して千冬姉にアイコンタクトを送る。

 

「(どうする? 面倒臭くなってきたんだけど)」

 

「(お前が何とかしろ)」

 

 冷たいお返事で。流石千冬姉、そこに痺れない憧れない。

 

「──聞いてますの!?」

 

「ああすまない、君にクラス代表を渡してやるから引き下がってくれないか?」

 

「納得行きませんわ〜っ!」

 

 うるさいそりゃこっちのセリフだ。

 

「…ああもう仕方が無い、相手をしてやるよ! お望み通りな……」

 

 ため息を吐きながら、渋々と承諾した。

 

「本当ですの!?」

 

「…男に二言はねぇよ」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたら、わたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」

 

「おいおい、イギリスじゃあ未だに奴隷制度が残ってるのか?」

 

「そんな筈がないでしょう!」

 

「ああ、真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいねぇから心配するな」

 

「そ、そう? 何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生の、このセシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

「……で、何を使って競うんだ? まさか、代表候補生ともあろう者が、全くの素人を相手に得意分野であるISで戦おうだなんて、そんな事言わないだろうな?」

 

「うっ……それは…………」

 

「まさかな? それは幾らなんでもアンフェアが過ぎるというものだろう?」

 

「…………」

 

沈黙。どうやら図星のようだった。

 

 ま、ここら辺で許してやるか。

 

「じゃあ、どうせIS学園にいるんだし、ISでの勝負でカタを付けようか?」

 

「……え?」

 

 その俺の提案が余程驚きだったのか、オルコットさんは呆けた顔をする。

 

「そんな訳で、いいですよね織斑先生?」

 

 アイコンタクトを送りつつ、千冬姉に確認を取る。その意図を正しく汲み取ってくれたようで、

 

「ああ、構わん。それでは、勝負は一週間後の月曜の放課後、第三アリーナで行う。それでいいか?」

 

「ああ。オルコットさん、ハンデはどのぐらい付ける?」

 

 ようやく戻って来たらしいオルコットさんに問う。

 

「…あ、あら、早速お願いかしら?」

 

 中々に自信満々だな。

 

「いやいや、俺がどのくらいハンデを付ければいいのかな、と」

 

 そこまで言うと、クラス中が爆笑の渦に包まれた。

 

「お、織斑くん、それ本気で言ってる?」

 

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

 

 クラス中の女子から声をかけられる。まあ確かに、今この瞬間に男女間で戦争が起こったら、三日と持たないどころか三時間で制圧されかねない、といわれているけど。

 

 でもな。

 

「それは『男はISを操縦出来ない』っていう条件下での話だろう? でも、何の因果か俺はISを動かせる。それだったら、男が女より弱いという道理にはならねぇよな?」

 

 という俺の言葉に、成る程、と頷く女子一同。

 

「まあいいや。そんじゃ、ハンデは無しっつーことで……全力全開、最初からクライマックスにやってやるさ」

 

 そう言い放つと、

 

「ええ、そうでしょう、そうでしょう。寧ろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うぐらいですものね?」

 

 オルコットさんは一瞬怯んだものの、それを取り繕うように顔に嘲笑を浮かべてそう言った。

 

「……ねぇ、織斑くん」

 

「ん? どうした、清香。あと、一夏でいいぞ」

 

「う、うん。その、い……一夏、くん?」

 

「んー、呼び捨てでいいんだけど……まあいいや。何だ?」

 

「今からでも遅くないよ? セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」

 

 心配そうに言う。

 

「ありがとな、心配してくれて。でも、多分大丈夫。言ったろ? 男に二言は無いって」

 

 そう言って薄く笑顔を見せると、

 

「う、うん……」

 

 清香は頬を薄く赤に染めた。男に対する免疫はとことん低いらしい。

 

「よし、話は決まったな? それでは授業を始める」

 

 取り敢えず、授業は真面目に聞いておこう。

 




 こんばんは、遅刻する事に定評のある斎藤一樹です。

 今回の小ネタ

・だが断る……有名な返し文句。でも、元ネタがジョジョだというのは意外と知られていない気がする。かくいう私も、そもそもジョジョを読む機会が無かったために知らなかったのだが。また付け加えるのならば、本来この台詞は自分が不利な立場にいる際に、明らかに魅力的であろう提案を断る時に用いる表現であるらしい。よって、本文中の用法は厳密に言うと誤用である。

 さて、第五話です。艦これの夏イベも近づいて参りました。……ISとなんの関係もねえな。ということで今回も質問とか特に来てないのでISに関する事でも。フォルダ漁ってたら、以前にISの待機形態に関して書いたブツが見つかったので、今回はそれをのっけときます。



   待機形態

 ISには、基本的に“待機形態”というものが存在する。待機形態時のISは大体がアクセサリーの形状をとる。もっとも、これらはISのパイロットである女性が、普段から身につけるためにアクセサリーとなっているだけであり、必ずしもアクセサリーでなければならない訳ではない。

 これらの設定はISの開発時に設定することが出来るが、一度フォーマットとフィッティングを済ませてしまうと変更は出来なくなる。どうしても変更したい場合は、それまでの蓄積データを一度消去してから再設定、という手順を踏むことになるのだが、それ以前の蓄積データのバックアップを取るには専用の機械が必要となるため、気軽に出来ることではない。

 IS学園の練習機(打鉄、ラファール・リヴァイブ)のように、フォーマット機能とフィッティング機能を敢えて解除している場合を除き、待機形態時を含めてISは常に装着者の生体バイタルデータを観測し、より適した状態となるように常に微調整を続けている。

 多くの場合、専属搭乗員のいないISは待機形態をとらない。


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6.箒が出て来てこんにちは

 

 

 授業が始まって数分後。

 

「…おい、織斑。教科書はどうした?」

 

 唐突に千冬姉が言った。

 

「あー、大体覚えたし、他の荷物も多かったんで持ってきてないです。多分トランクの中に……」

 

 ズバンッ!

 

 目にも留まらぬ速さで振り下ろされた出席簿を、ペンケースの一番面積が小さい面で受け止めた。相変わらず衝撃が尋常じゃない。

 

どうせ受けるなら広い面で受けた方が、衝撃分散してまだマシだったような気がする。

 

「ほう……いい反応速度だ。ときに織斑、教科書6ページを言ってみろ」

 

「えー、面倒くさ「いいからやれ」はいはい……」

 

 記憶を探る。……あった、確かこれだ。深呼吸をして息を整えてから、口を開く。

 

「『現在、幅広く国家及び企業に技術提供が行われているISだが、その中心たるコアを作る技術は一切の公開が為されていない。現在世界中にあるIS…467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にある。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っている。

 

 また、コアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触、いかなる状況下にあっても禁止されている』

 

 ……でしたっけね?」

 

 正直、現段階で467基のコア全てが無事に稼動してるという保証はないし、もしコアの開発に成功したとしてもそれを素直に他国に公開するとは思えないけどさ。ハイリスク、ハイリターン。この場合はリスクもリターンも大きいが、どちらかというとリスクの方がより大きいだろう。

 

「……まあ、大体合っているな。座っていいぞ」

 

 隣に座る清香の、「すごい!」といった感じのキラキラした視線が少しくすぐったい。

 

 すると、一人の女子がおずおずと千冬姉に質問する。

 

「あの、先生。篠ノ之さんってもしかして、篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 

 ……まあ、そりゃ気が付くか。

 

 篠ノ之束。ISをたった一人で作成・完成させた、稀代の天才。千冬姉の親友にして同級生、そして箒の実姉である。俺から見た束さんは「テンションがおかしい、頭のネジが数本飛んだ美人のねーちゃん」だったが。何度か会ったが、未だに行動が読めない。しかもなまじあちこちのスペックが高いから性質(たち)が悪い。

 

「ああ、そうだ。篠ノ之はあのバカの妹だ」

 

 おいおい、教師がそんなにあっさりと個人情報をバラしちゃっていいのか? ていうか、さりげなく束さん(ウサギ)のことをバカ呼ばわりしてるし。

 

 まぁあの人、また行方不明なんだけどな。あの人だし大丈夫だろ。

 

「ええええぇーっ! す、すごい! このクラス、有名人の身内が二人もいる!」

 

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」

 

「篠ノ之さんもやっぱり天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよっ!」

 

 等と言いながら、授業中にも関わらずわらわらと女子達が箒の周りに集まる。あの娘達にも、多分悪気は無いんだろうけど……。箒の表情を見るに、恐らくその話題はタブーに近いものだ。

 

 取り敢えず、口を開きかけた千冬姉にアイコンタクトを送りながら、女子に声をかけようとして、

 

「あの人と一緒にしないで!」

 

 突然の大声、発生源は箒だった。…あちゃー、間に合わなかったか……。

 

「……大声を出してすみません。でも、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もありません」

 

 そう言い放ち、箒は窓の外に顔を向けてしまった。女子は、盛り上がったところに冷や水を浴びせられた気分のようで、大多数が困惑や不快を顔に出している。…面倒だけど、これはフォローしとかないとマズいな……。

 

「あー、と。すまないが、この件に関しては触れないでやってくれると助かる。……君達にも、触れられたくはない事の一つや二つあるだろ? つまり、そういう事だ」

 

 そういうと、みんな少し俯いて、黙り込む。何人かは「ごめんなさい」と呟いている。……みんな、基本的に根は素直ないい娘達なんだよな。

 

 千冬姉に、再度アイコンタクトを送る。それを受け、心得たとばかりに

 

「それでは授業を再開する。全員、席につけ」

 

 その一言に、全員が席に着いた。

 

 

 

 昼休みになった。どうしようか。もう少し箒のフォローをやっておくべきだろうか。そういう結論に達し、席を立つ。

 

「あ、そうだ一夏くん。あたし達と一緒にお昼食べない?」

 

 相川さんにお昼を誘われた。その後ろにいるのは、布仏さん(本名:布仏本音(のほとけほんね))と鷹月さん(本名:鷹月静寐(たかつきしずね))。良いタイミングだ、調度いい。

 

「おう。……なあ、箒も一緒に連れていきたいんだけどいいかな?」

 

「うん、私はオッケーだよ。本音達もそれでいいよね?」

 

「うん。わたしはいーよー?」

 

「私も」

 

 ん、本人達から了承が出たから良しとしよう。

 

「箒、俺達と飯食いに行こうぜ」

 

 手を差し延べつつ誘うと、

 

「……私は、いいです」

 

 にべもない。

 

「そうか、いいなら行くぞ?」

 

 多分違う意味で言ったんだろうけど、ここは敢えて都合良く解釈させてもらおう。

 

「……そういう意味ではなくて! 結構です!」

 

「成る程、そのお誘いは大変結構なものだと。つまり、行くってことだな?」

 

 多分違う意味で(ry

 

「ああもう、どうしてそんなに私に構うんですか! 放っておいて下さい!」

 

「ヤだね。だってお前、」

 

 ──そんなに寂しそうじゃないか。

 

 そう囁くように言うと、箒は言葉に詰まったらしい。多少なりとも図星だったんだろう。「し、しょうがないですね……!」とか言いながら、頬を染めつつ立ち上がった。

 

 差し出された俺の手を握りつつ、「一人で立てますっ」と何かに言い訳するように言いながら。

 




 今回のサブタイトルは、童謡「どんぐりころころ」のノリ。今となっては何を考えてこのサブタイトルを付けたのかは分からないが、多分何も考えてなかったと思われる。

 こんばんは、斎藤一樹です。FC2版から細部のみ変更してお送りいたしております。今回から本格的に登場した箒ちゃん。原作からあれこれ変えていった事で、箒の束に対する感情もまた少々異なるものとなっています。その辺りは、また追々。

 あ、本文中の一夏の行動は良い子の皆さんは真似しないでください。ちゃんと教科書は持っていきましょう。それではまた、明日の夜にでもお会いしましょう。


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7.あだ名を呼んで……?

 それから、みんなで連れ立って学食に向かった。

 

「ねーねー、おりむー?」

 

 布仏さんが話しかけてくる。

 

「……その『おりむー』っていうの、俺の事か?」

 

 まさかとは思うが。

 

「んー、そだよー。織斑だから、おりむー。どう、どう〜?」

 

 何とも珍妙なあだ名が付いてしまった。しかも感想を求めて来やがりましたよ、このお嬢さんは。俺にどうしろと。

 

「……あー、まあ、君が良いならそれで良いや」

 

 や、決してコメントが面倒になったとかではない。断じて。

 

「んー、じゃあじゃあ、おりむーも私にあだ名付けていいよ〜?」

 

 なんか、交換条件っぽい何かを提示された。

 

「……あだ名、ねぇ?」

 

 さて困った。

 

「……わくわく」

 

 口で言うなよ。

 

「……そうだな、『のほほん』とかどうだ? キムタク的にも、雰囲気的にも」

 

 因みにキムタク的と言ったのは、キムタクというあだ名の由来(木村拓哉→きむ(・・)たく(・・)や→キムタク)から来ている。

 

「おー」

 

 そう言って、布仏さん改めのほほんさんは嬉しそうに両手を挙げた。気に入ってもらえたようで何よりだ。彼女は全体的にだぼっとした改造制服(例:明らかに長すぎる袖、ブラウス→ハイネック、等)を着けているため、腕につられて袖がばさりと動いた。何だこの娘、ものすごい癒される。行動のひとつひとつが可愛い。衝動的に頭を撫でてしまっていた……。……のほほんさん、恐ろしい子……!

 

 箒達は箒達で、少々ぎこちないながらも会話をしているらしかった。鷹月さんも清香も、箒に少し気を使いつつも、普通に自然に会話をしている。うん。あの娘達からの誘いを受けて良かった。この分なら、少なくともクラスで孤立することはなさそうだ。

 

 そうこうしている内に学食に着いた。

 

「さてみんな、何食べる?」

 

 券売機の前に並びつつ問いかける。

 

「んー、私は日替わり、かな……?」

 

「私もそれで〜」

 

「私も〜」

 

「ん、了解。箒、お前もそれでいいよな。何でも食うよなお前」

 

「ひ、人を犬や猫のように言わないで下さい! 私にだって好みがあります!」

 

「あ、今日の日替わり、鯖の塩焼きだってさ。和食好きだったよな?」

 

「あ、はい」

 

「そりゃ良かった。あ、誰か席取っといてくれないか? 五人分」

 

 そう言うと、

 

「あ、はいはい! あたし取ってくる!」

 

 清香が言い、たたたっと駆けて行った。

 

「……元気だな、あいつ」

 

「…あはは……」

 

 鷹月さんは、苦笑いを返した。

 

 

 

「んじゃ、いただきます」

 

『いただきます!』

 

 もぐもぐ、むしゃむしゃ。食べる、食べる、食べる。

 

「あ、そうだ。箒、」

 

「な、何ですか?」

 

「去年、剣道の全国大会で優勝したって? すごいじゃないか。おめでとう」

 

「…な、な……」

 

「お? どうしたよ?」

 

「なんで! あなたがその事を知ってるんですか!?」

 

「いやぁ、偶然新聞で見つけてな?」

 

「……何で新聞なんか読んでるんですか……」

 

「そいつは俺の勝手だろう?」

 

「……まあそうですが」

 

 むすぅっ、と涙目で頬を膨らませる箒。心なしか、その頬が紅い。……これは中々、可愛いらしい。流石幼なじみ、俺の好みを分かってらっしゃる。まあ、恐らく天然でこうなのだが。

 

「……ねえねえ、そういえば織斑くん?」

 

「何だい、鷹月さん? ああ、あと俺の事は一夏でいいぞ」

 

「そ、そう? …じゃあ、私も静寐って呼んで欲しいな。い、一夏くん?」

 

「おう。分かったよ……静寐。何かな?」

 

「えっと。質問いいかな?」

 

「答えられる範囲なら何でも答えるぞ。自己紹介の時も『質問があれば後で個人的に質問してくれ』って言ったしな」

 

「それじゃあズバリ、聞きましょう」

 

「応、かかって来い」

 

「篠ノ之さんとの関係は?」

 

 ずずい、と心持ち身を乗り出して静寐が問うた。期待してくれているところ悪いけど、そう面白いもんでもないんだよな。少なくとも表面上は。感情云々を抜きにすると兄弟子妹弟子といった関係もあったりするけど、まあ今はいいだろう。

 

「数年ぶりに再開した幼なじみ、かな?」

 

「成る程、成る程。それだけ?」

 

「取り敢えずはそれだけさ」

 

 うん。こんなもんだろう。

 

「そういえばおりむー」

 

「何かな? のほほんさん」

 

「せっしーとの決闘、だいじょーぶ?」

 

 大丈夫か、と言われても……なぁ。

 

「あー、……まぁ多分、何とかなるだろう。予測だけど、多分俺も専用機貰えるだろうし、最悪の場合は訓練機で頑張るさ」

 

 予想を言うと、羨ましそうな声を出したのは清香。

 

「え? 一夏くん、専用機貰えるの? 良いなぁ〜」

 

 それに対して、苦笑いしながら答えを返す。

 

「いやいやいや、飽くまで予想の話だよ。そうと決まってるわけじゃない。それに、そんな親切な気持ちだけで専用機を用意してくれるわけじゃあないだろうさ」

 

 そう返すと、みんな一様に不思議そうな顔をした。あ、静寐だけは何かに気が付いたような表情。中々に頭の回転は速いみたいだ。

 

 まあしょうがない。基本的にここに来れるのはIS適正が高く、更に超が付くほどの優等生だけだ。そして、基本的に公立校に比べ、私立校、それも所謂お嬢様学校と呼ばれるような女子校になるほど、その傾向は顕著になる。

 

 ────つまり、この学校にいる多くの女子生徒は、そんな環境で育って来た温室育ちの箱入り娘。こうしたことに疎くても仕方があるまい。

 

「うん、多分だけど静寐が考えている内容で正解なんじゃないのかな」

 

 みんな、キョトンとなっている。しかしみんな可愛いねぇ。弾の奴に、嫉妬で殺されそうだ。

 

 それは兎も角、と声のボリュームを落として言う。

 

「これはまた例の如く想像だが、多分データ採集の為っていう理由と、俺に自衛手段を持たせるっていう理由があると思うんだよな」

 

 そこで一旦区切り、一息付いてから再び口を開く。

 

「まず、データ採集の為っていう方だが、まあ俺は今更ながらといった感じだが、世界で最初にして唯一、ISを動かせる男だ。その俺の存在っていうのは、まあ自惚れているわけじゃないが大きい。それこそ、研究如何ではこの歪んだ女尊男卑の世界を作り変えることが出来る程度には」

 

 また言葉を区切り、俺の言葉が清香達に浸透するのを待つ。数秒ほど間を開けて、話を再開する。

 

「そんな俺のデータを取るには、毎回毎回訓練機を使用するよりは、最初から専用機を与えてしまった方が効率が良い。とまあ、こんなものだろうな。二つ目の自衛手段として、っていう奴に関しては……まあさっきも言ったように、俺の希少性と特殊性が原因だろうな。要するに、最低限自分の身ぐらいは自分で守ってねっていう事なんだろうよ」

 

 言い終えると、

 

「ふわ〜。何か、大変なんだね〜」

 

 しみじみとのほほんさんが言った。その言葉が、今までの堅苦しい感じの空気と対象的で。

 

「……ぷっ」

 

 思わず笑ってしまう。

 

「むぅ、何で笑うのーっ!」

 

 と、のほほんさんがだぼだぼの袖を振り上げつつ、いかにも『私、怒ってますよ』といった仕草で抗議してくる。でも、そんな仕草さえ可愛いらしくて、俺の左手が隣に座るのほほんさんの頭を勝手に優しく撫でた。

 

「…ふにゅぅ……」

 

 すると、膨らんでいた頬も次第に元に戻り、更にはとろけそうな“ゆるっ”とした微笑みを向けて来た。

 

 ……うわぁ、完全にリラックスしてやがる。その様子を見て、他のみんなもくすくすと笑い出した。

 

 こうして、昼休みは穏やかに過ぎていった。

 

 

 




 今回のサブタイの元ネタは、魔法少女リリカルなのはの主人公、高町なのはの台詞↓から引っ張ってきました。
「簡単だよ。友達になるのは、すごく簡単。名前を呼んで。始めはそれだけで良いの。きみとかあなたとか、そういうのじゃなくて、相手の目を見てはっきり相手の名前を呼ぶの。」

 こんばんは、『イツキ』と入力しても『一樹』と変換してくれない事が悩みの斎藤一樹です。大体の場合においては『カズキ』と入力してから変換するようにしています。今度パソコンのユーザー辞書に登録しておこうかな…… ←やらないフラグ

 織斑一夏という、この世界にとってのイレギュラー。その立場は、その価値は良くも悪くも非常に高いです。男性でありながら、女性にしか運用が出来ない筈のISを使用する事が出来る。それが体質によるものなのか、それとも全く別の他の原因によるものなのか。この時点でその理由を知っている者は篠ノ之束と織斑千冬、そして織斑一夏の3人のみ。

 宇宙開発用のパワードスーツとしてのIS、軍事兵器として…またそこから派生した競技用としてのIS。この違いが、一体何を意味するのか。

 思わせぶりな感じで倩倩と書き連ねてみましたが、こういった観点から考察してみていただくのもこの作品を楽しんでいただく一つの方法なのではないかと思います。結構原作から変えていっているつもりなので、あれこれ推理・推測をしてみるのも一興かと思います。……なんか自分からものすごくハードルを上げに行ってしまったような気がする。

 兎も角、これからもこの作品をよろしくお願いします! それでは今回はこの辺りで。ではでは。


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8.「ウノ!」「なん、だと……」

 午後の授業は、ISの装備に関するものだった。少なからず胸が踊る。アサルトライフルやらショットガンやら近接戦闘ブレードやら。しょうがないじゃないか。だって男の子だもの。

 

 そんな感じで、特に特筆することもなく放課後になった。ある者は連れ立って部活の見学に行ったり、またある者は教室に残ってお喋りに興じていたりと、みんな思い思いに過ごしていた。かく言う俺は、というと、

 

「上がり〜!」

 

「あ、私も〜」

 

「私はウノ!」

 

「なん、だと……」

 

 清香と静寐とのほほんさんと、ウノをやっていた。

 

 しかし勝てない。何故だ。現在、まさかの三連敗。

 

「あ、上がりだ」

 

 どうやら今、四連敗になったらしい。

 

「…ぐうぅ……」

 

 もう唸り声しか出ない。バタン、と力無く机に倒れ込む。

 

「あ、ちょ、一夏くん!?」

 

 慌てたような清香の声。なぜこうも引きが悪いのか、今日の俺は。

 

 

 

「で、一夏くんは誰か待ってるの?」

 

「ん、まあ。多分山田先生、もしかしたら千冬姉、もとい織斑先生を」

 

「そういえば一夏くん、織斑先生の前ではちゃんと「織斑先生」って呼ぶよね。やっぱり今は生徒と教師だから?」

 

「んー、むしろ織斑先生がそこら辺に厳しいというか。…仕事とプライベートを明確に分けてる、って言えばいいのかな? 多分学校いる時に目の前で“千冬姉”って呼んだら、出席簿が飛んでくる」

 

『…あ、あはは……』

 

 その光景が容易に想像できたのか、三人とも苦笑を漏らす。

 

 そこに、

 

「あ〜、織斑くん。まだ教室にいたんですね〜。良かったです〜」

 

 山田先生がやってきた。

 

「ええ、恐らくそろそろいらっしゃる頃だろうと思いまして。……やっぱり、寮へ移動ですかね? 政府の方からは『暫くの間は自宅から登校しろ』って言われましたけど」

 

 後半は山田先生だけに聞こえるように、彼女の耳元に口を寄せて小声で話す。

 

「ふわー、よく分かりましたね〜……。聞いてたんですか〜?」

 

「まさか。でも自分自身のおかれている状況を考えれば、自ずと解ります。因みにアリバイはそこの三人が証明してくれますよ、基本的に今日はずっと一緒にいましたから」

 

 ね? と清香達に視線を向ける。なぁに? といった感じでこっちを見てくる三人。何でもないよ、と小さく手を振っておいた。可愛いなぁ、全く。

 

 山田先生は成る程、と頷いてから、部屋番号の書かれた紙とルームキーを渡してきた。ここ、IS学園は基本的に全寮制だ。しかしその特性上、女子寮と職員寮しかない。そしてここで問題となるのが俺という存在である。

 

 まあ恐らく、餓えた高校生男子(客観)を女子高校生の群れの中に放り込むような真似はしないと思うから、俺は職員寮に住むのだろうが。

 

「あ、因みに女子寮ですからね〜?」

 

 ……は?

 

「いやいやいや、何考えてるんですか! 普通、職員寮でしょう!?」

 

「ほえ? 何でですか〜?」

 

 何を言っているかわからない、といった表情でこちらを見る山田先生。…この人も箱入りのお嬢さんだったのか?

 

「俺だって男です。その俺を大勢の女子の中に一人で放り込む。そんな状況で、万が一にも間違いが起こらないっていう保証は何処にもありません」

 

 若干頬が熱くなってきた事を自覚しつつ、言った。それを聞き、山田先生は僅かに頬を朱に染めつつも

 

「大丈夫ですよ〜。本当にそういうことをする人は、多分そんな事言いませんから〜」

 

 にっこりと微笑みつつ言った。それなりに信用、されているって事かね?

 

「あ、でも荷物が、着替えとかが無いですかね〜?」

 

 山田先生が、ふと思い出したかのように言う。

 

「いえ、問題ありません。既にこうなることを予測してありましたから。多分織斑先生が……」

 

「ああ、私が手配しておいてやった。しかし、あの段ボール一箱だけでよかったのか?」

 

 千冬姉、登場。タイミング良すぎる、教室の外でタイミング計ってたりしてないだろうな…。

 

「はい、後は自分で持ってきましたし」

 

「……何処に?」

 

 不思議そうな顔をするので、

 

「ここに」

 

 と左腕を、正確には左腕の手首に付けたブレスレットを見せると、千冬姉以外は更に不思議そうな顔をした。逆に千冬姉は、納得したような顔。

 

「え? どういう事ですか〜?」

 

 見せた方が早いだろう、ということで、実際に見せることにした。

 

「こういう事ですよ。……それ」

 

 右手に集中。イメージするのは、昨日の夜に量子化(インストール)した……。

 

「お〜、おりむーすご〜い!」

 

 イメージを始めてすぐ、右手に光が集まり、旅行用の大きめのトランクが姿を現わした。それをみて、のほほんさんがはしゃいでいる。他の人も、大なり小なり驚いた顔をしている。

 

 一番最初に気を取り直したのは、意外な事に山田先生だった。千冬姉? 頭抱えてるよ。大方、束(ウサギ)さんへの苦情でも考えてるんだろう。

 

「じゃ、じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね〜。夕食は六時から七時、一年生用食堂でとって下さい〜。因みに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります〜。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、その、織斑くんは今のところ使えません〜」

 

「まぁ、当然でしょうね」

 

 そこは妥協すべきところだろう。

 

「あ、代わりに月に一度ぐらいでいいんで、銭湯とか行ってもいいですかね? 出来ればついでに外泊許可も欲しいところですが」

 

「ふむ、考えておこう」

 

「ありがとうございます、織斑先生。あ、山田先生もう一つ」

 

「はい? 何でしょうか〜?」

 

「……その、俺の部屋、個室ですよね?」

 

「いいえ、相部屋ですよ〜?」

 

「神は死んだ〜ッ!」

 

 校舎に、俺の叫びが木霊した。

 




 今日からアリューシャン及びミッドウェー攻略作戦開始。おはこんにちばんは、斎藤一樹です。

 今回は部屋割りのお話。未だに始業式の日の話ですが、もう何話かは日付が変わりません。しばらくお付き合いください。

 今回のタイトルは、「なん、だと……」がやりたかっただけ。確か元ネタは漫画「BLEACH」に登場する台詞が元だったような。

 最後の方の「神は死んだ」発言については、ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの著作中の一文が元ネタです。そこからツァラトゥストラはかく語りきなどの数々の本に引用されるようになったと記憶しています。

 さて、もう一回攻略してこようかな。


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9.簪さんといっしょ

 いつまでも嘆いていても仕方がないので、諦めて自分の部屋に行くことにした。トランクを再び量子変換して、ブレスレットに格納する。

 

「んじゃ、俺は行きます。清香たち、俺の部屋は後でメールするから」

 

 ウノやる前に、それぞれのメールアドレスは交換しておいた。

 

「うん、分かった」

 

「後でね〜」

 

「ばいば〜い」

 

 清香達に別れを告げ、手を振っているのほほんさんに手を振り返しつつ、廊下に集まっていた数えるのも面倒になるぐらいの女子の群れを見る。いやはや、さっきまでは無視していたから特に何も感じなかったが、気にし始めると視線が欝陶しい事この上ないな。

 

 教室のドアを開けると、さっと割れて道が出来た。モーゼの海割りの様だ。そして俺の後をぞろぞろと付いてくる。今度は大名行列か。このまま部屋まで着いて来られると面倒なので、俺はおもむろに廊下の窓に手をかける。そして自然な動作で窓を開け、

 

「とうっ!」

 

 窓枠に足を架け、勢いよく飛び降りた。ここは二階で下は石畳。着地はしやすそうだが、ドジを踏んだら痛い目を見ることになりそうだ。

 

 コケたりする事なく無事に着地し、そのまま寮へ向かう。

 

 

 

 歩きながら携帯電話を取り出し、懐かしい幼馴染の一人に電話を掛ける。確か彼女も、この学校に代表候補生として来ていた筈。

 

 数回のコールの後に、控えめというか内気そうなというか、そんな感じの声が返って来た。通話の相手は更識簪。昔世話になった相手の娘で、幼馴染みの少女だ。

 

それから色々あって、これからその部屋へ向かうことになった。

 

 

 

「…っと、ここか……」

 

 目的の部屋の前で部屋番号を確認し、ノック。

 

「簪、いるか?」

 

「…うん、入って……」

 

「んじゃ、失礼して」

 

 ドアを開けたらそこには着替え中の簪が……、なんていう事はなく、普通に簪がいた。

 

「よう、久しぶりだな、簪。大体一年ぶりくらいか?」

 

「…そうだね、そうなるかな……」

 

「そういえば代表候補生になったんだって? すごいじゃないか」

 

「…そう言う一夏だって、男なのにIS動かしたじゃない……」

 

「俺のは偶然だよ、少なくとも公にはそういう事になってる」

 

「…公には……?」

 

「そ。まあ、聞かなかった事にしといてくれ」

 

「…ん、わかった……」

 

 沈黙。でも、不思議と気まずさは無い。

 

「ところで、そっちの専用機はどんな機体?」

 

 実は俺にも専用機が送られてくる事になっているらしいのだが、まだそれは秘密ということになっているので口にはしない。理由についても何となくどころかほぼ確信に近い物が思い浮かんでいるけど。

 

「…私の機体は、打鉄弐式。打鉄の後継機よ。まだ完成してないけど……」

 

 成るほど、打鉄の後継機ってことは防御重視型か? ちなみに、打鉄というのは日本製の量産型ISだ。機動性よりも近接格闘能力と防御能力を重視して開発された機体で、見た目はさながら鎧武者のような機体である。

 

 

 

 それからあれこれと話していると、コンコンとドアをノックする音がした。

 

「……はい、今開けます」

 

 そう言って立ち上がる簪に、

 

「んじゃ、俺もそろそろ帰るとするよ」

 

 俺も鞄を手に立ち上がりながら言った。

 

「……そう。じゃあ、また」

 

「ああ。またいつか」

 

 先に簪がドアを開け、俺は玄関から靴をとってきた後に窓を開けてベランダから足を踏み出し

 

「……一夏、それじゃまるで間男よ」

 

「あれ?」

 

 ふむ、確かに客観的に見ると〈旦那が帰ってきて慌てて逃げる、妻の浮気相手〉に見えなくもない。

 

「まあいいや。じゃあなー」

 

 ベランダから飛び降りた。ここは二階。大した高さじゃない。というか、今日はよく飛び降りる日だな……。

 

 

 

「……っと、1025号室はここか」

 

 部屋番号を確認、ノックをして声を掛ける。

 

「やあ、同室になった者なんだが。在室かな?」

 

 返事はない。いないのだろうか。ドアノブに手をやり、鍵が開いていることに気が付く。ここから推察される答えは。

 

 ……部屋に既にいるが何らかの理由で返事が出来ないか、未だ誰もおらず最初から鍵が開いているのか。流石に後者は無用心が過ぎるだろうから、恐らくは前者。だとすると、考えられるのは音が聞こえない場所、例えばそう、シャワールームにいるか、はたまたヘッドフォンでもしているか。いつまでも待っていても埒が開かないので、後者であることを願いつつドアノブを捻る。

 

「……失礼する」

 

 意を決してドアを開けると、微かに水音が聞こえて来た。……前者だったか。

 

 素早くこの場合の執るべき最善策を練り、実行。

 

「失礼する、同室になった者なんだが。シャワーが終わって着替えが終わったら呼んでほしい。廊下で待っている」

 

 ごゆっくり、と最後に付け足し、部屋を出る。幸いな事に、そこには誰もいなかった。廊下の壁にもたれ掛かり、ポケットから携帯を取り出して、部屋番号を打ち込んでから清香達三人に一斉送信。これで良し。

 

 一分もせずに清香から返信。

 

「“今から部屋に行ってもいい!?”」

 

 成る程。でも残念ながら、まだ無理だろうな。

 

「“すまない、部屋に入ったら同居人がシャワーを浴びていたので、現在廊下で待機している。だから、まだ無理そうだ”」

 

 そう入力して送信したところで、部屋の中から「どうぞ」と声が聞こえた。聞き覚えのある声だな、箒か?

 

「では、失礼するよ?」

 

 そう言って、ドアを開ける。ベッドに座っていたのは、予想通り箒だった。

 

「い、一夏!?」

 

「おう。一夏さんですよ、箒さん」

 

 驚いた顔の箒に、そう言い、手前側のベッドに腰掛ける。……残念ながら窓側は取られたようだ。

 

「何で貴方がここにいるんですか!」

 

「だからさっき言っただろうが。『同室になった者だ』って。声で分からなかったか? IS学園に男は俺しかいないだろうに」

 

「うっ……。まあそうなんですが」

 

「ま、同室になったのが君で良かったよ。それがせめてもの救いだ」

 

「!? そ、それはどういう……」

 

「いやあ、初対面の見知らぬ女子と部屋を共にするよりは、ある程度気心の知れた君の方が余程良いだろうさ。おやおや、一体どんな意味だと思ったのかな? キミは?」

 

「あ、あなたという人はっ!」

 

「おやおや、お顔が真っ赤だぜ? まったく、何をそんなに興奮してるんだか」

 

「――――ッ!」

 

 口をぱくぱくとさせながら、真っ赤な顔で声にならない声を上げている。相変わらず弄り甲斐のある娘だ。可愛いねぇ。

 

「ほらほら、落ち着いて。な?」

 

 立ち上がって箒の隣に移動し、宥めるように頭を優しく撫でてやると、

 

「……………」

 

 見事に落ち着いた。というか、かなりリラックスしてる。俺の肩に頭を乗せ、もっと撫でて、と言わんばかりだ。

 

 言うなれば、たれ箒。個人的にはのほほんさんと同じぐらい癒される。

 

 昔、箒が隣に住んでいた頃は、よくこうやっていたものだ。さらさらとした、絹糸のような手触りは、未だに変わっていない。八年経った今でも、未だにこいつを落ち着かせられる効果があるとは思わなかったが。

 

 ……そういえばこれでのほほんさんも溶けてたな……。俺の手から何か出てるのか? マイナスイオン的なナニカが。

 

「なあ、箒さんや」

 

「………………」

 

 ……あれ?

 

「……箒さん?」

 

 

 隣に座っている箒の反応がない。聞こえるのは穏やかな息遣いだけ。

 

 …………え?

 

「……もしかして、寝てたりするかな?」

 

「………………」

 

 寝てるらしい。そういえば昔から人見知りな性格だったから、疲れたのかも知れないな。今も人見知りだったら、の話だが。

 

 離れようとしたら、制服の裾をきゅっと掴まれていることに気がついた。そう強い力ではない、寧ろ弱々しいと言って良いぐらいの力だ。振り払おうとすれば、簡単に出来るだろう。

 

 でも。

 

「…ったくまあ、安心しきったような、幸せそうな寝顔しやがって……」

 

 何故だか、出来なかった。いや、したくなかった、という方が正しいか。

 

 ともあれ。

 

「今は寝させておいてやるとするかな?」

 

 久方振りの再会だ。だからさ。……こんな時間も、悪くないだろう?

 

「お休み、お姫様」

 




 今回のタイトルは、某教育テレビの長寿番組のアレのノリ。

 こんばんは、斎藤一樹です。提督の皆さん、進捗どうですか? 私はE-1で未だにボスに行けてません。本命の艦隊はMIのために温存しておかなくてはならない都合上しょうがないとは思うのですが、どうして毎回誰かしらが一戦目か二戦目で大破するんだよ、と。ルート固定以前の問題です。どうしてくれようか。軽空母とか使ってこなかったからマトモなのがいないよ。困った。

 さてさて、今回のお話は箒と一夏君が相部屋になるというお話。この次の話で、入学初日の話は終わる事になります。やっとです。

 取り敢えず今回はこの辺りでお暇しましょう。ではまた。


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10.「……やらないか?」「……?」

 

 現在、17時45分。箒は一時間半ほど寝ていたことになる。結局、掴まれた裾を振りほどけなかった俺は、未だに箒の隣に座っている。することがないので、箒の頭を優しく撫でながら。

 

 しかし、そろそろ起こさないと夕食に間に合わない。可哀相だが起きてもらうとしよう。

 

「箒~? そろそろ起きれるか~?」

 

 肩を揺さぶりながら声を掛けるが、反応はない。

 

「……箒~? 起きないとキスするぞ〜? 胸揉むぞ〜?」

 

「…………」

 

 駄目だ、照れ屋さんで初心な箒がここまで言っても無反応だということは、完全に熟睡してる。どうしようか。

 

「…………それ」

 

 くすぐってみた。セクハラにならない程度に、腹を。

 

「――――――ッ!」

 

 箒の身体が、びくん、と震えた。そして、ぱちり、と目を開けた。

 

「や、おはよう」

 

 爽やかに微笑みかけながら、何事もなかったかのように言った。

 

「な、なな、何してるんですか~っ!?」

 

 返事は拳だった。甘んじて受けた。

 

 

 

「ところで箒さん」

 

「……………………何ですか」

 

「……もしかして怒ってらっしゃる?」

 

「…………もしかしなくても、怒ってます」

 

「…………どうしたら許してくれるかな?」

 

「…………許してなんか、あげませんから」

 

 つん、とそっぽを向いて言う箒。しかしその手が未だに俺の制服の裾を握っていることに、果たして彼女は気付いているのだろうか。

 

 

 

 その後、箒のことを何とか宥めて、どうにか許してもらった。箒の方から提示された条件は、今度一緒に買い物に行くこと。デート? と聞いたら、顔を真っ赤にして「違います!」と叫んでいた。ムキになっちゃって、まあ。

 

「ところで、どうしたんですか? あんな起こし方をするぐらいなのだから、さぞ重要な用件なのでしょうね?」

 

 ジト目で箒が言う。これは、大分根に持っていそうだ。

 

「ああ。そろそろ晩ご飯の時間だからな。起こした方が良いかと思って。食いっぱぐれたくはないだろう?」

 

「ま、まあそうですが…………」

 

「んじゃ、飯食いに行こうぜ」

 

「う、うん…………?」

 

 ……箒さん、ごまかされてますよ? 幼なじみの将来が激しく不安になってきた、今日この頃。

 

 

 

 食堂にて。

 

「そういえば箒、部活とかどうする?」

 

「私は……そうですね、やっぱり剣道部です。一夏は?」

 

「俺は……」

 

 物凄く多くの人がこっちに注目し、耳を傾けている気がした。

 

「入らない、と言うか入れない、と言うか……。まあ、そんな感じだ。ここ、基本的に女子部しかないからさ」

 

 まあつまるところ、そういうことである。入ろうにも入れない。例外は料理部や茶道部、コンピューター部などだが、そういった部活には入る予定はない。

 

 そういえば。

 

「剣道部で思い出した。なあ箒、」

 

「何ですか?」

 

 もっきゅもっきゅとご飯を食べつつ、箒が首を傾げて答える。ああ、癒される……。って、そうじゃなくて。

 

「……やらないか?」

 

 太い声を出して、どこぞの青いツナギの人の声真似をしつつ言う。

 

「何をですか?」

 

 駄目だ、ネタが通じてない。諦めて普通に言う。

 

「久々に、剣での試合を」

 

「ああ、そういうことですか。いいですね、いつやります?」

 

「……明日の放課後とかどうだい?」

 

「大丈夫です、空いてます。場所は……後で部長に相談して、剣道場を借りられるかどうか聞いてみます」

 

「ん、十全。じゃあ、任せるよ?」

 

「はいっ! 楽しみです!」

 

 弾んだ声で箒は言った。弾けるような微笑みを、その顔に浮かべながら。

 

 ……そんなに楽しみなのか…………。

 

 まあ、何はともあれ。

 

「「ご馳走様でした」」

 

 晩御飯? とっくに食べ終わってるよ、俺は。

 

 

 

 自室にて。

 

「そうだ、この部屋のルールとか決め手おいた方がいいかな?」

 

「そ、そうですね。えっと、シャワーはどうします?」

 

「部活の後使いたいだろ? 先に使っていいぞ。原則的に箒が7時から8時。俺が8時から9時で、場合によってはいろいろと変えることにしよう。

 

 それでいいかな?」

 

「はい、問題ないと思います」

 

「で、ベッドは箒が窓側、俺が廊下側。要は今のままってことだけど、それで良いね?」

 

「はい。それと…………」

 

 夜は、更けて行く。

 

 




 どうもこんばんは。リアルの方の都合で数日ぶりの更新となりました斎藤一樹です。

 サブタイにも使われている「やらないか?」のネタは、どこぞの青いツナギを着たいい男のアレで合ってます。阿部さんネタとか大好きですが私はノンケです。

 一夏君の部活の話。IS学園で唯一の男である訳で、だからこそ部活選びにも悩みが。身体能力が男女間でどうしても差がつく事は致し方ない事と言えるでしょうし、その他にも女子の群れに男子が一人だけ入るとなると色々な問題点が出てきそうですよね。いや、基本的に女子しかいないIS学園にいる時点で今更な気もしますけど。

 まあそんなこんなで、一夏君は部活には入らないと決めているようです。部活やらずに鍛えたい、というのもあるかもしれません。メタ的な話をするならば、一夏君が生徒会に入れるようにするための布石という意味も含んでいますけれど。

 それでは今回はこのあたりで。


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11.剣の舞(偽)

 翌日。うん、まあ色々あったよ。結局、俺専用のISが用意されることが正式に発表されたり、それに対して金髪ドリルが絡んで来たり、清香たち以外のクラスメイトと話してみたり。

 

 

 

 そんなこんなで、放課後である。

 

「一夏、準備はいいですか?」

 

 目の前には、剣道着に身を包んだ箒。今は面を外している。うん、剣道着の箒も凛々しくて可愛いな。

 

「おう、いつでもいいぜ?」

 

「その、防具はいいのですか?」

 

 箒は篭手や胴当てを付けているのに対し、俺は飽くまで道着のみ。それに、両腰に一本ずつ竹刀を付けた、特殊な恰好。

 

 真っ当な剣道ではない。それも当然、俺のは剣道ではなく剣術。篠ノ之流剣術に更識家の格闘技術を混ぜ合わせた、実践本位の戦闘術。

 

「ああ、いいんだよ。俺のスタイルはこういうやつだからな。このまま行かせてもらう」

 

「…では……」

 

 箒が面を付け、竹刀を握る。構えは正眼。こちらも左腰から一本引き抜き、正眼に構えつつ言う。

 

「箒、最初に言っておく」

 

「何ですか?」

 

「容赦手加減、一切の必要はない。防具がないから、とか言って油断するな、気を抜くな。君の前に立っているのは、他ならぬ君自身の兄弟子だ。殺すつもりでかかって来い!」

 

「……はいっ!」

 

「……始めっ!」

 

 審判を努めている先輩が言う。

 

 俺達は互いに動かない。互いに隙を伺って、水面下で牽制合戦を繰り広げる。視線で、足の僅かな震えで、指先の細かな動きで、竹刀の切っ先の動きで。

 

 そして。

 

「ハァーっ!」

 

 掛け声を掛けつつ、箒が距離を詰めてくる。

 

 眼前に振り下ろされる竹刀。でも、

 

「……まだ、遅いな」

 

「…………えっ?」

 

 その動揺が命取り。

 

 滑るような歩法で一息に後ろに回り込み、首筋に竹刀の切っ先を軽く当ててから素早く距離を取る。これで、箒は一回死んだ。

 

「…随分と速くなりましたね……」

 

「まあ、ね。かつて君の兄弟子だった男としては、そうそう不様は曝せないだろう? 妹弟子には、さ」

 

「ふふっ。そういうところは変わらないようですが……今日こそ、あなたに勝ってみせます!」

 

「存分に掛かって来い!」

 

「……ハアッ!!」

 

 放たれたのは、胴薙ぎ。竹刀を下から振り上げ、上へと弾くことで対処する。

 

 そこから放たれた上段からの一撃を、今度は竹刀を横に薙ぐ事で弾こうとするが、今度は鍔ぜり合いに持ち込まれる。こうなると、最初に勢いを付けて飛び掛かって来た箒の方が有利ではある。しかし、体重はこちらの方が重いため、拮抗した状態となる。

 

「……どうした? まさか、この程度じゃあないだろう?」

 

 挑発しながら、ぐぐぐ、と力を込めて押し返す。

 

「……当然です。行きますよ?」

 

「応。いつでも来い」

 

 答えた瞬間、箒が離れた。そして、パパパパパアァンッ! と連続して竹刀がぶつかり合う音が響く。

 

「……へぇ、やるようになったじゃないか」

 

「この日、この時のためだけに鍛えてきた、と言っても過言じゃないですからね……!」

 

 面を狙うと見せかけての胴。

 

「随分と一途なこったな!」

 

 右腰の竹刀を左の手で引き抜き、打ち合わせる事で受け止める。

 

「……恋する乙女ですから、…ねっ!」

 

 一瞬だけ後退し、再び打ち合う。一刀の箒に対し、こちらは二刀。単純に考えて手数が倍も違うというのにも関わらず、箒は落ち着いて捌き続けている。箒も強くなったな、昔はすぐに焦れてボロが出やすかったのに。

 

「でも……負ける訳にはいかねぇのよ!」

 

 言葉を交わしながら、互いの振るう剣の速さは加速してゆく。それなのに、箒の表情は喜びを隠しきれないと言った風に笑みを浮かべている。確認する術は無いが、恐らく俺の顔も同じようになっている事だろう。

 

「……いいねぇ、楽しいねぇ! やっぱりいいもんだなあ、こういう斬った張ったのやり取りはよぉ!」

 

「ええ、全くです! やはりあなたではなくてはこうは行きませんからね!」

 

「しかし、そろそろ時間が押してきてる! 名残惜しいが、次で決めさせてもらう!」

 

「……はい。望むところ、と言わせてもらいましょう!」

 

 互いに打ち合いを止め、距離をとる。

 

「いい娘だ。……なら見せてやる。コレが俺のとっておきだ……行くぞ!」

 

 互いが距離をとり、開いた距離は5メートル。それを、瞬間移動が如き疾さで距離を詰め、その勢いのまま竹刀を振るう。そして、

 

 パアァンッ!

 

「………えっ?」

 

 箒が気が付いたときには、もう終わっている。

 

「はい、これで2回死んだ」

 

 箒の後ろ、5メートル。そこから声をかける。

 

「……何をしたんですか?」

 

「分からないか?」

 

「いえ、分かるといえば分かるのですが……」

 

「ああ。要は物凄く速い速さで近付き、胴を薙ぎ、通り抜けただけだな」

 

「……だから防具が無いのですね?」

 

「正解。速度で以て翻弄し、当たる前に避け、受け流し、そうして相手を倒す。それが俺のスタイルだからな。まあ、だからこそ剣道じゃなくて剣術なわけだが」

 

「……成る程」

 

 防具なんて飾りだとは言わないが、俺に取っては邪魔なだけである。偉い人にはそれが分からんのですよ。……適当に思考しているだけなので、深く考えてはいけない。

 

「言ったろう? ……可愛い妹弟子に、無様はさらせん、とな。だから、それなりには鍛えていた」

 

「…貴方は、変わりませんね」

 

「君もな。そうそう、人の本質までは変わらんさ」

 

 言葉で伝わる事がある。でも、それだけじゃない。剣から伝わる事だって、きっとあると思うんだ。

 

 

 




 夏コミ一日目お疲れさまでした、暑い中一般参加して来た斎藤一樹です。

 そんなこんなで、今回の小ネタ。

 剣の舞…サブタイ。元ネタはハチャトゥリアンの組曲、「ガイーヌ」の中の一曲だったと記憶しています。間違ってたらごめんなさい。
 「やっぱりいいもんだなあ、こういう斬った張ったのやり取りはよぉ!」…確かこんな感じの台詞を、機動戦士ガンダム00のアリー・アル・サーシェスというキャラが言っていたような。
 「防具なんて飾りだとは言わないが」「偉い人にはそれが分からんのですよ」…機動戦士ガンダムより、某整備兵の言葉のパロディー。足なんて飾りです、偉い人にはそれが分からんのですよ。



 今回、ガンダムネタ多いな……。それと、今回はFC2から移植するにあたって結構あちこちの表現に手を入れてます。本筋の方には特に手を入れてませんし、伏線に関しても増えたり減ったりはさせてないのでご安心を(?)

 それでは、今晩はこの辺りで。

   二日目は夏コミに参戦出来ない 斎藤一樹


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12.箒とシャワーと生徒会長

 

 剣道場を出て、更衣室の前で箒と別れる。箒は更衣室で、俺は男子更衣室が無いので自室で着替えるためだ。

 

 部屋へと戻る途中、後ろに違和感を感じた。

 

誰か、いる。

 

いや、ホラーな話ではなく。

 

気配は無い。寧ろ、何もないからこその違和感。不自然なほど、ぽっかりと穴が開いていた。

 

「…………どなたかは存じませんが。気配を殺すときは、次からは適度に気配を出す事をお勧めしますよ。あなたは気配をあまりにも上手く消し過ぎた。かえって不自然なぐらいに」

 

 牽制の意味合いも込めて、声を出す。害意は感じないからそう悪い存在じゃあ無さそうだが、さて。奴さんはどう出る?

 

「あらら。あっさりばれちゃったわねぇ……」

 

 出てきたのは、悪戯好きの猫のような印象を抱かせる水色の髪をした女子生徒。生徒会長、更識楯無(さらしきたてなし)。

 

 知り合いだった。

 

「……何してるんですか、更識家第17代目当主、……更識楯無先輩?」

 

「あら。昔のようにはもう呼んでくれないの?」

 

 ちょっと拗ねたように、唇を尖らせつつ言った。

 

「今の貴女は、〈楯無〉の名を継承したのでしょう?」

 

「今は、プライベートよ? 久し振りに一夏君に、呼んでもらいたいなぁ〜? あと、敬語も無しで」

 

「……分かりましたよ。……刀奈姉(かたなねえ)。これでいいか?」

 

 ため息を一つ。ああ、幸せが逃げていく。

 

 更識刀奈(さらしきかたな)。彼女の本名である。

 

 更識家とは日本に古くからある家系の一つであり、『暗部に対抗するための暗部』としての役割を代々担う家柄である。対テロのカウンター組織、みたいな認識で大体合っているだろう。

 

 その当主は代々〈楯無〉を名乗り、智と武の両方が優れた者が選ばれる。中でも、当代の〈楯無〉は歴代で一、二を争うほどに優れている、との評判である。あるのだが。

 

 目の前にいる、この女子生徒こそが、その当代の楯無である。人を食ったような性格で、人をおちょくったりイタズラを仕掛ける事が何よりも大好きな、彼女が。何となく釈然としないが、実際に有能だから何も言い様が無い。

 

ていうかバレるようにわざと手ェ抜いて気配を殺してたやがったな、この猫娘。

 

「うん。さあさあ一夏君、久し振りにお姉ちゃんがハグしてあげるよ、ハグ!」

 

 両手を広げ、実に爽やかな笑顔でこちらににじり寄ってくる刀奈姉。

 

「ええい引っ付いてくるな暑苦しい! そういうのは簪(かんざし)とやってくれ!」

 

汗を流していない状態でくっつかれるとお互いに不快だろうが!

 

 ちなみに、簪というのは刀奈姉の妹。

 

 言うと、刀奈姉は少し寂しそうな顔になって、

 

「そうだね。でも、簪ちゃんはもう……」

 

 目を伏せつつ言う。

 

「いやいやいや、なに死んじゃった感を出してるんだよ。死んでないだろ? 昨日会ったぞ?」

 

「……私と口をきいてくれないのよ〜っ!」

 

 割と本気の悲哀がこもった叫びだった。哀れだ。

 

 大方この二人の性格とか関係から考えて、簪からは刀奈姉に対してのコンプレックス(さっきも言ったがこんなのでも天才の類なのだった)、刀奈姉からはそんな妹にどう接したらいいのか分からない、と言ったところだろうか。他人に対しては持ち前の『人たらし』っぷりを発揮するくせに、身内に対してはとことん不器用な姉貴分である。

 

 閑話休題。

 

「まあ、それは追々何とかしていくとして。で、どんな用件だ? わざわざあんなにばれやすい尾行して、アピールしてたのには理由があるんだろう?」

 

「そうねぇ。まずは顔合わせ、というか挨拶が一つ。だって誰かさんったら、いくら待っても来てくれないんだもの」

 

「うっ……。て言うか、まだ二日目じゃないか。忙しいんだよ、色々と」

 

待ってりゃその内こっちから行ったのに。

 

「簪ちゃんのとこには行ったのに?」

 

「…………」

 

……思い出したら、という注釈は付くが。

 

 じーっ。

 

 刀奈姉は、何も言わずにこちらをじっと見つめてくる。ばれてーら。

 

「……本当だって。だからその意味ありげな流し目やめろ」

 

「……まあいいわ」

 

 渋々、といった感を隠さずに一旦引いた。

 

「もう一つは勧誘よ」

 

「勧誘?」

 

何の?

 

「そ。一夏君、多分どこの部活にも入らないつもりでしょ?」

 

ご明察の通りである。

 

「……よく分かったな」

 

「当たり前でしょ、一夏君の事だもの」

 

 こればかりは簪ちゃんにも負けられないのよ、と拳を握り締めつつ言う。

 

 薮蛇だったか。

 

これに関してはもう怖いので知らない振りをするに限る。

 

お互いが、というか当事者間での話し合いが既に終わっている以上(そして合意を得ている以上)、そこから先のキャットファイトに男は首を突っ込むべきでは無いのだという事を俺は既に学んだのだ。首を突っ込んだところで、引っ掛かれるのがオチである。

 

「でね、どこにも入らないなら、生徒会に入ってほしいんだけど。どうかしら?」

 

「……成る程、考えておくよ。期限は?」

 

「具体的にいつとは言わないけれど、出来るだけ早めにお願いするわ」

 

「了解」

 

「じゃ、私の話はこれでおしまい。何か質問は?」

 

「ん、じゃあ関係ないけど一つだけ。……布仏本音、っていう娘、知ってるか?」

 

「ええ。貴方の想像通り、あの布仏家の娘よ。簪ちゃんの付き人をやってるわ」

 

「オッケー、質問は終了だ。刀奈姉、携帯のメアドは変えてないよな?」

 

「ええ。何かあったら連絡してちょうだい」

 

「おう。じゃあ、またいつか」

 

「あ、そうそう。一夏君、クラス代表決定戦、頑張ってね」

 

「……ああ」

 

 どうやら、負けられない理由がまたひとつ増えたらしい。

 

 

 

 

 

 部屋に入ると、そこには既に箒がいた。

 

「お、早かったな、箒」

 

「寧ろ一夏が遅いんです。どこに行ってたんですか?」

 

「まぁ、ちょっと勧誘を受けてね?」

 

「?」

 

「さて、俺はこれからシャワーを浴びる予定なんだけど。どうだ、箒も一緒に入るか?」

 

「い、いいい、一緒に入るっ!?」

 

 見ていて面白いぐらいにテンパっている。

 

「ば、馬鹿も休み休み言ってください!」

 

真っ赤な顔で枕を飛ばしてきたので、大人しくシャワールームに退散することにした。戦略的撤退というやつである。

 

 

 

 

 

 布仏家は、昔から更識を支えてきた付き人の家系だ。『布仏』なんて苗字はそうないから、もしやと思ったが。彼女も『裏』側の人間なのか。人は見かけによらないものだ。

 




 こんばんは、E-2のボスが倒しきれない斎藤一樹です。今回のサブタイは、バカテス風というか仮面ライダーOOO風というか、そんな感じです。今日はコミケ2日目、参加した皆さんはお疲れさまでした。私は今日は所用により自宅待機でした。もねてぃさんとか紅い流星さんのとことか行きたかったなぁ……。明日は一般参加しますけどね!

 まあ、それはともかく。今回は、少し前の一夏が部活に入らないフラグの回収でした。次回でようやく、セシリアとの試合の話になります!(試合開始とは言ってない)お楽しみに! コミケで疲れ果てていなければ、明日も更新します。では。


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13.暁の空

 

 とうとうやってきた、クラス対抗戦、その当日の朝。

 

「ねぇねぇ箒ちゃん」

 

「いきなりどうしたんですか、一夏。唐突にちゃん付けなんて」

 

「今日、やっぱり学校を休んだら「ダメです」…ですよね〜……」

 

 ああ、憂鬱だ。

 

 ため息のバーゲンセールである。

 

「まったく、そんなに嫌ならどうしてこういう流れにしたんですか」

 

 考え無しの馬鹿を見るような目でこちらを見つめてくる箒に耐えかねて、自分でも言い訳にしか聞こえない説明をすることにした。

 

「いやいや、俺としては面倒だし戦わずにすませたかったんだけどね? でもそうしないとあの場は、さらに言えばセシリア・オルコットは納まらなかった。何より正面からは千冬姉が『とっとと済ませろ』っていう物凄い強烈なオーラを発してたし」

 

 他にも理由はあるけれど。

 

「…………ああ、成る程」

 

 箒に、ものすごく気の毒そうな目で見られた。ちくせう。

 

 仕方がないので、妥協案。

 

「箒さんや、ちょっとこっちまで来てくれないかね?」

 

 ベッドの中から、手招きする。

 

「……?」

 

 怪訝そうな顔をしながらもトコトコとこちらに歩いてきた箒(部屋着姿)を、

 

「えいっ」

 

「きゃあっ!?」

 

 ベッドの中に引きずり込んだ。最初はじたばたと暴れていたが、抱き締めてしばらくするとそれは弱くなり、最終的に完全に静かになった。

 

 抵抗が無くなったので、くったりと力が抜けて脱力し切った箒の身体のやわらかな感触を、存分に楽しむ。

 

 剣道で鍛えられたしなやかな肢体、さらさらと手触りの良い肌、抱き締めるとその柔らかさと弾力で以てその存在を強く主張する、胸の双丘。

 

 素晴らしいの一言に尽きる。

 

 嗚呼、理想郷は此所にあったのだ。

 

 顎の辺りにある髪の毛から、シャンプーと微かな汗の入り交じった箒の匂いが漂う。その匂いすら愛しくて、俺は思わず箒の事をぎゅっと抱きしめて――――

 

「一夏、ちょっと苦しいです。少し、緩めて……」

 

「あ、ごめんごめん」

 

 箒の言葉に、少し頭が冷えた。時計を見ると、七時半。

 

「箒、そろそろ飯を食いに行かなきゃいけない時間なんだけど、どうする? 俺としてはこのままでもいいぞ?」

 

 抱き締めながらそう聞くと、箒は真剣に悩み始めた。

 

 ので、もぞもぞと手で布団の中をまさぐってみる。

 

「ひゃんっ!?」

 

「あ、悪い」

 

 箒の身体のどこかに触れてしまったらしい。既に抱き合っている状態なので、いまさら、と言った感はあるのだが。不意打ちで触られるのはまた違うらしい。

 

 手につかんだのは携帯電話。メールの確認と、目新しいニュースの確認。

 

「どうするよ?」

 

 ニュースサイトを巡回しながら、重ねて問う。

 

「うぅ……。行きましょう、大変名残惜しくはありますが」

 

 ポソリと、意識せずか箒の口から呟きがこぼれる。

 

「名残惜しい、とな」

 

 ほうほう、これはこれは。

 

「あ、ち、違うんです、コレは違うんです! わ、私はただ、この布団の温もりが名残惜しいだけなんです! 決してこうして抱き合っている事が名残惜しいわけでは「はいはい、分かった分かった」信じて下さいっ!?」

 

 そんなに赤く染まった頬と慌てた様子を見せられては、説得力の欠片も無いというものである。個人的には大変眼福であり、いつまでも見ていたい愛らしさではあるのだが。

 

「取り敢えず、着替えるぞ」

 

 そう言って布団から抜け出し、パジャマ代わりのTシャツとスウェットを脱ぎ捨てる。

 

「い、一夏!」

 

「おう、どうした?」

 

「もっと慎みを「何を今更」…まあ、確かにそうですけど……」

 

 

 

 

 

 特筆する事もなく、放課後になった。ISの基本的な操縦に関しては、土日に色々と教科書やら何やらを使って何となく把握した。しかし、訓練機はすべて貸し出し予約で埋まっており、実戦どころか実践経験は0。まぁそれを差し引いても、面倒には違いない。

 

「しかし専用機がまだ来ない」

 

「我慢しろ、織斑。じきに来る……筈だ」

 

「余計心配になった!」

 

「うるさいぞ、織斑。出席簿を食らいたいか?」

 

「………………」

 

「えっと、……。強く生きてください、一夏」

 

 箒の言葉もどこか投げやりだった。

 

 アホなことをやっていると、

 

「織斑くん、織斑くん〜!」

 

 山田先生が、とととっと走ってきた。やっと来たかな?

 

「やっと来ましたよ〜! 織斑くんの、専用IS!」

 

「来たか!」

 

「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でモノにしろ」

 

 無茶を言われているという認識は、勿論ある。けれど、

 

「言われなくても!」

 

 自分でも驚くぐらい、テンションが上がっていた。専用機という響きは、なかなかに浪漫(ロマン)だと思うのだ。こう、男の子な部分をくすぐられるというか。

 

 ごごうん、と重たげな音をたてて、ピット搬入口のゲートがゆったりと開く。

 

 そこにいたのは、『薄紫』。夕暮れから夜に変わる一瞬の空を持ってきたかのような、鮮やかな薄紫。

 

「…こいつが、俺の翼……」

 

「はい! 織斑くんの専用IS、『宵菫(よいすみれ)』です〜!」

 

 山田先生が言った。

 

「織斑先生、やり方が分からない。指示を!」

 

「分かった。時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。いいな?」

 

「了解!」

 

「背中を預けるように乗れ。そこに座る感じだ。後はシステムが最適化をしてくれる筈だ」

 

 指示に従い、体を動かすその前に、何と無く左腕をISに向けた。何故だか、そうしなくちゃいけない気がした。

 

 すると、左腕のブレスレットがその桜色と同じ色の光を放つと同時に、

 

《――――第一制限、解除……〈曙牡丹(あけぼたん)〉、起動。機体認証、機体名〈宵菫〉、遠隔起動…………機体名〈曙牡丹〉との同調を開始します》

 

 機械音声が響いた。

 

「「「「……え?」」」」

 

 何だこれ。おそらく俺も含めて、皆そんな表情だった。

 

「……あー、織斑先生? ISって、起動する時にこんなに喋るものなんですか?」

 

「バカを言うな、織斑。そんな訳が無いだろう」

 

「でも、実際になんか言ってましたよね?」

 

「え、ええ……」

 

「…………」

 

 …沈黙が痛いぜ。

 

「えっと、その……まああれだ。頑張ってこい、織斑」

 

「え?」

 

「期待してますよ、織斑くん!」

 

「……冗談でしょう?」

 

「頑張って下さい、一夏。私も、ここから応援してますから」

 

 そう言った箒は、期待のこもってるようなそうでもないような、形容しがたい表情をしていた。

 

 ……えー。

 

「…やるしかない、か……」

 

 こんな珍妙な機体を作るのは束さんぐらいだろうから、安全性に関しては恐らく問題ない。しかし得体が知れない、と言うのが何とも。

 

 まあ、いつまでもそうしているわけにも行かないので、先程織斑先生に言われた通りに体を動かす。装甲を開いているIS――宵菫に身体を滑り込ませる。

 

 受け止められるような、包み込まれて優しく抱き締められるような感覚と共に、装甲が閉じた。ふしゅっ、かしゅっという、空気が抜ける音が聞こえる。

 

 更に、左腕から鮮やかな桜色に染まっていく。染まると同時に、宵菫の装甲の形状が変化していく。

 

 そして、右半身が薄紫、左半身が桜色で装甲の形状が左右非対称のISになった。

 

 頭の中に、声が響く。

 

《貴方が、私たちのマスターですか?》

 

 幼さを残した少女の声と、それと対称的な大人びた女性の声、その二つ。同時に、意識にどこか靄がかかったような、何とも言い難い不思議な感覚に包まれる。

 

「どうやらそういう事らしい。俺の名前は織斑一夏。で、君たちは曙牡丹と宵菫でいいのか?」

 

《うん! 私が曙牡丹で、》

 

《私が宵菫です。よろしくお願いします》

 

 幼い感じの声が曙牡丹で、お姉さんな声の方が宵菫らしい。

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む。……呼びにくいから、菫と牡丹でいいか?」

 

《ええ、構いません》

 

《うん! いいよ〜》

 

「じゃあ、菫に牡丹。今のこの状態は何て呼べばいい?」

 

 答えたのは、菫だった。

 

《今現在のこの機体は、〈暁(あかつき)〉と言います…スペックはあまり高くありませんが、本来あるべき機体になるまでの繋ぎのようなものと思っていただければ》

 

《あと大体15分ぐらいでフォーマットとフィッティングが終わるから、それまではこの〈暁〉で頑張ってね〜!》

 

「15分ね……オーライ。それまで何とか持たせて見せよう」

 

 専用機持ちを相手に、素人が少なくともスペックが高いとは言えない機体で挑む。

 

 そんなシチュエーションで、15分も稼ぐ。困難は承知の上。例え大言壮語と笑われようと、それでも。

 

 女の子が二人がかりで、頑張って俺のための機体を仕上げてくれているのだ。

 

 15分ぐらい、稼いでみせなきゃ嘘ってもんだろう。

 

《では、私たちはこれで》

 

《頑張ってね〜、バイバ〜イ!》

 

 という声を最後に、声が響くときに感じていたあの何とも言えない不思議な感覚が消え失せた。

 

 さーて、それじゃこっちもぼちぼち行こうか。

 

「織斑先生、そろそろ出撃します」

 

「分かった。山田先生、オペレーターを頼みます!」

 

「了解しました。……ハッチ、オープン。リニアカタパルト、ボルテージ上昇……固定。」

 

「織斑、その下駄みたいなところに足をはめ込め。……そうだ。そのまま、腰を落として軽く前傾姿勢を保て。ハイパーセンサーは問題ないな? 一夏、気分は悪くないか?」

 

 わずかな心配を滲ませた声に、

 

「大丈夫そうだな。悪くない気分だ」

 

 そう答える。

 

「接続、確認しました。タイミングを織斑くんに譲渡します。発進、どうぞ!」

 

 山田先生の言葉と同時に、目の前にいくつか浮かぶ空間投影ディスプレイに新たなウィンドウが1つ出現した。

 

「そんじゃ行ってくるぜ、箒」

 

「…はい……お気を付けて」

 

 深呼吸を一つしてから、改めて気を引き締めるように言う。

 

「オーライ……織斑一夏、暁! 出るぞ!」

 

 足に力を込めてから、視線入力でカタパルト操作用のウィンドウを操作する。PICで殆どが軽減されているとはいえ、少なくないGが体を襲う。そして、

 

 俺はこの時、生まれて初めて空を翔んだ。

 




 どうもこんばんは、ガンダムマーカーのシルバーが行方不明で難儀している斎藤一樹です。遅ればせながらコミケ3日間お疲れさまでした。朝起きたら喉が痛くて身体もだるい、挙げ句の果てには頭痛もして来る。風邪でもひいたのかもしれません。皆さんもご注意を。

 数日ぶりの更新となりますです、はい。さて、ようやくセシリア戦です。長いわ。13話目にしてやっとだよ。しかもまだ戦闘始まってないし。

 白式? 知らない子ですね……?(すっとぼけ

 それでは今回はこの辺りで。正直、頭がぐわんぐわんとシェイクされてる気分の中で書いてるので文章に自信がありません。明日には治ってると良いなぁ……。


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14.クラス代表決定戦!

 今回の敵は、イギリス製試作型第三世代型IS、《ブルー・ティアーズ》。遠隔誘導型射撃端末〈ブルー・ティアーズ〉という特殊装備が特長の、中〜遠距離戦闘型機。

 

 この〈ブルー・ティアーズ〉を搭載した実戦投入機の一番機だから、機体名も《ブルー・ティアーズ》らしい。ややこしいことこの上ない。

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

 ふふん、と鼻を鳴らし彼女は言った。その顔に浮かぶのは勝者の笑み。戦う前から勝った気でいるとは、程度が知れる。ま、こっちとしてはやりやすいけどな。

 

「何、逃げる必要性が見当たらないからな」

 

 言葉を返しつつ、機体を観察する。砲身とスラスターを合わせたような構造の物体が、バックパックの翼のようなバインダーに二基、リアスカートに四基の合計六基装備されている。……十中八九、あれがブルー・ティアーズだろう。その手には、二メートルを越すスナイパーライフル――暁の中に入っているデータによると、〈スターライトMk−3〉というらしい――が握られていた。

 

「あらあら、レディを待たせておいて何も言うことはございませんの?」

 

「それは失礼した、何分パーティーに着ていくスーツが仕立て上がったのがギリギリでね。レディをエスコートするのには、それに相応しい格好が必要だろう? イイ女なら、遅れた男を笑って許すぐらいの寛容さが必要だと思うぜ?」

 

「ふふふ、お上手ですわね。でも、意外ですわ。貴方、そういう事も言えたんですのね?」

 

「言おうと思えば、な」

 

 言う気がなかったから言わなかったのだ、と暗に告げる。

 

「なら、先ほどの言葉に免じて一つ、最後のチャンスを差し上げますわ」

 

 ライフルを持っていない左手の人差し指をついっと立て、オルコット嬢は言う。

 

「へぇ。チャンスって?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ?」

 

 さも素晴らしい提案であるかのように言う。

 

 実にナンセンスな話だ。

 

「そりゃチャンスじゃねえよ」

 

 そう言って、俺は暁の武装一覧を開き、数瞬迷った後に、ISサイズのサバイバルナイフを、取り敢えず両手に一本ずつ取り出した。何故なら、サバイバルナイフが六本とハンドガンが二丁しかなかったからだ。フォーマットとフィッティングに殆どの容量を割かせた結果、こうなったらしい。

 

 ライフルや中型以上のブレードがあれば嬉しかったのだが、無い物ねだりをしても仕方がない。ここは妥協しなければいけないだろう。

 

「最後通牒、って言うのさ」

 

 左手はだらんと下げたまま、右手に持ったナイフの切っ先をオルコットさんに向けた。

 

「そうですか……。それでは、お別れですわねっ!」

 

 暁からロックオンされていると警告が送られ、同時にオルコット嬢が銃口をこちらに向けつつ引き金に指を掛け、

 

 チュインッ!

 

「あいにく、こっちはそのつもりは無くてね」

 

 レーザーは俺の後ろの壁に突き刺さり、シールドバリアに弾かれ、消えた。

 

「……あ、貴方何をしましたのっ!? 今のは、確実に直撃コースだった筈なのに…」

 

「大したことはしてないさ。銃口から弾道は分かるし、それさえ分かれば躱すのも弾くのも容易いからな」

 

 自分で言っておいてアレだが、容易くはない。生身だったら弾かずに大人しく逃げる。

 

 だが、ISに乗っている今であれば話は別なのだ。

 

「レーザーは光と同じ速さで進んでますのよ!? それを斬るって……」

 

「何、人間その気になれば意外と何とかなるものだよ」

 

 対ビームを目的とした特殊ラミネートコーティングが施されているナイフだからこそできる芸当……というか曲芸である。うん、曲芸染みた行為であるって自覚はある。だからこそ、デモンストレーションには丁度良いだろう。

 

 というか一発弾いたらナイフのラミネート剥げたから、次来ても同じ事は出来ないぞ。

 

「何とかって……」

 

 オルコット嬢は呆れたように呟いた。しかし、そこは重要じゃない。言いたい事がある、だからわざわざここに来た。

 

「……セシリア・オルコット。お前は間違っている」

 

「……何を言っていますの?」

 

 何言ってるんだコイツ、みたいな目で見られた。

 

「…あ、ゴメン今の無しで……話の切り出し方を間違えた」

 

 テイク2行くぜ、と声をかけてから改めて切り出す。

 

「うん、まだるっこしいのは抜きでいこうか。単純に言うなら、俺はお前が気に入らねぇのよ。だから、お前さんの挑発を受けた」

 

「……何ですって?」

 

「例えば、その傲慢さ。世間一般じゃあ女尊男卑なんて考え方が根付いて久しいが…ISを使えるから、女性は男性より偉い。だから、男を自分の下僕のように扱うことに疑問も感じず、寧ろ当然のように振る舞う、それはおかしな話だろうよ」

 

「そ、それは……」

 

「確かに君には力があるのだろう。国家代表の候補生足りえるだけの実力と、専用機という力が。でも、その事を無闇に振りかざして傲慢に振る舞うっていうのは、ちょいと違うんじゃないか?」

 

「………………」

 

「なぁ、セシリア・オルコット。お前さん、何のために力を求め、手に入れた? 女尊男卑の世界でワガママを通すためか?」

 

 クラス代表を決定するこの戦いが行われることが決定されてから1週間。俺が調べた情報は、ISについての知識だけではない。……というかそっちに関しては大まかなところは既に頭に入っているため、実践で使えそうな知識を追加で詰め込む作業だった。

 

 俺が主に調べたのは、対戦相手であるセシリア・オルコットとその乗機、ブルー・ティアーズについて。

 

 そして調べた結論として。俺には彼女が……セシリア・オルコットという少女が、そう悪い人物には思えなかったのだ。

 

 少なくとも調査結果から判断した努力型の人間であるという点だけでも、努力すらせず我儘放題の輩とは異なるという事が想像できた。

 

「…わたくしは……それでもわたくしはっ!」

 

 二発目。首を横に傾け、身体をわずかに横に移動させて回避。向こうさんもその気らしいし、それじゃあそろそろ本格的におっ始めようかね。

 

「無駄だよ。いくら撃っても、君の弾は俺に届かない」

 

 斜め後方に回避しつつ左手にもナイフを呼び出し握らせる。

 

「それは……試してみなければ、分かりませんわよっ!」

 

 降り注ぐレーザーを、躱し、弾き、少しずつ距離をつめる。

 

「ならば覚えておくといい……孤立し、姿を晒したスナイパーなど、」

 

 そして、スラスターを吹かすイメージで一気に距離を詰め、

 

「…恐るるに足らず、ってなァ!」

 

 右手に持っていたナイフ(ラミネートコーティングが剥げている)を投擲し、姿勢が崩れたところに接近してスターライトMK―3を蹴り上げ、その手からもぎ取る。そしてそのライフルを更に左のナイフで切り裂いて破壊しておく。

 

「きゃあっ!?」

 

 至近距離で爆発が起こり、オルコットは悲鳴を上げた。そして、

 

「くっ……行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

 リアスカートの四基のブルー・ティアーズを射出し、機体の周囲に銃口をこちらに向けて停滞させる。背部の二基は銃口を正面にして、両肩に一門ずつのキャノンとなった。そして、新たにスターライトMK−3を取り出し、

 

「さあ、踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 レーザーの雨が、降り注ぐ。

 

 あっ、やっぱり予備のライフルあったのね……。

 

「ダンスパートナーは、君が務めてくれるんだろうね?」

 

 降り注ぐレーザーの殆どは躱せているが、細かい傷が増えていく。元から少なめのシールドエネルギーも、更に150ほど減少している。――――暁が、俺の反応速度に付いて来れていない。俺が速いのではなく、データの更新作業等を戦闘と平行して行っている暁の処理能力が重くなっているのだろう。

 

 予定時刻まであと五分間。何とか持ちこたえてくれよ、暁……!

 

 

 

 

 

 フォーマットとフィッティングの終了まで、あと二分。いい加減逃げるのは飽きてきたし、そろそろこちらから攻めに行こうか。オルコット嬢のダンスの例えで言うのなら、エスコートされっぱなしと言うのは如何なものかという話である。

 

「さて、と。そんじゃあこっちから行くぜ!」

 

「ならば、わたくしもっ!」

 

 レーザーの雨が、更に激しさを増す。しかし、

 

「おいおい! まさかこの程度じゃねぇだろうな?」

 

 そのことごとくを隙間を縫って躱しながら、挑発する。

 

「とんでもございませんわ!」

 

 両手で保持していたスターライトMK−3を右手一本に持ちかえ、左手には新たに呼び出したスターライトMK−3を携え、オルコットは高らかに言った。

 

「さあ……乱れ撃ちますわよっ!」

 

 停滞していたブルー・ティアーズと、キャノンとなっていたブルー・ティアーズが、オルコットが両手に一梃ずつ構えたスターライトMK−3と同時に一斉に火を吹く。

 

 レーザーの雨は、止むことなく降り注ぐ。

 

「そこっ!」

 

 その隙間を縫い、牽制に左手のナイフを投擲。

 

「こんなもの!」

 

 投擲したナイフはレーザーによって迎撃されたが、それも予想通り。

 

 その瞬間は、レーザーは俺ではなくナイフに照準を合わせた。

 

 つまりこちらへの弾幕が薄れる訳で、

 

「甘いっ!」

 

 当然その隙を逃す訳はない。

 

 左手に新たなナイフを呼び出しつつ一気に懐に飛び込み、

 

「かかりましたわね!」

 

 迎撃のためにセシリアの纏うブルー・ティアーズ、その腰部サイドスカートアーマーから合計四発のミサイルが放たれる。

 

「おっと…………、」

 

 だが、それもまた読み通り。近付かれたスナイパーが取る行動など、剣を抜くか爆発物で牽制若しくは迎撃しつつ距離を取るぐらいしかあるまい。

 

 両手のナイフを手首のスナップで回転させながら投げつけてミサイルを迎撃しつつ、爆風を食らわないように暁に宙返りの要領で距離を取り、両手に最後の2本となったナイフを呼び出して保持させながらミサイルが生み出した煙の中へと飛び込む。

 

「中々どうして物騒なモン持ってるじゃないか、なぁ?」

 

 そして右手のナイフを振り下ろすが、

 

「乙女の嗜みです、わ!」

 

 その一撃はいつの間にか構えていた小型のブレードに受け止められていた。

 

 鍔迫り合いが続く。こちらからぶつかった勢いで初めはこちらが押していたが、機体出力の差かじりじりと少しずつ押し返されている。このままでは不利だ、遠からずこちらが押されることになる。

 

 何か次の手を、というところでふと暁の武装を思い出す。

 

 そう言えば、ハンドガンあったよね。

 

 うん。ならやる事は1つ。

 

「この距離なら…」

 

 左手に持っていたナイフを量子変換して戻し、代わりにハンドガンを持たせる。同時に鍔迫り合いをしたままの右手から力を少し抜いて、

 

「えっ……!?」

 

 ブルー・ティアーズを抱擁するかのように引き寄せ、

 

「バリアは張れないな!」

 

 その腹部に向けて至近距離からハンドガンを連射した。

 

 いや、シールドエネルギーによるバリアは当然残ってるが。こういう台詞は気分を味わうためのものだ。というか衝撃すらそのほとんどを吸収できるこのバリアが無ければ、そもそもこんな事はやらない。

 

 さて、オルコットのバリアはどれだけ削れたやら……。うげ、まだ7割りも残ってやがる。

 

 ハンドガンが弾切れになる前にオルコットが離脱したので、右手のナイフも格納してハンドガンに持ち替え、二挺のハンドガンで連射して追撃する。

 

 だが、

 

「これ以上、良い様には……」

 

 オルコットは後退しつつ背部に接続されていた2基のブルー・ティアーズをこちらへと射出した。

 

「させませんわ!」

 

 2基のブルー・ティアーズが、それぞれ違う軌道で迫り、レーザーを放ってくる。

 

 そしてオルコット本人は、自分の周囲に停滞させていたブルー・ティアーズを元のリアスカートアーマーへと戻していた。恐らくはエネルギーの再チャージか。

 

 対するこちらは、武器がナイフが2本のみ。ハンドガンは二挺ともつい今しがた撃ち尽くした。調子に乗って撃ち尽くすべきじゃぁなかったなぁ……。

 

 兎も角、こちらに許される行動は回避しつつナイフで周囲を飛び回るブルー・ティアーズを叩き落とすか、或いは特攻をかけるぐらいだろう。特攻など言うまでもなく論外である訳で、結局のところ頑張って逃げて時間を稼ぐぐらいしか現実的な手は無いのだった。

 

 とは言え、そろそろ時間のはずだ。

 

 ちらりとタイマーを見る。残り、15秒。

 

 ここまで来たらあとは少しだ。

 

 反撃という選択肢を一旦捨て、レーザーをひたすらに避け、躱し、そして。

 

 電子音と共に、空間投影ディスプレイに新たなウィンドウがポップアップする。

 

《単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、〈暁破(デイ・ブレイク)〉発動。及び、一次移行(ファースト・シフト)の準備が完了しました。認証をお願いします》

 

 菫の声が、頭に響く。

 

 ――認証。

 

《認証を確認。一次移行(ファースト・シフト)、開始します》

 

 そして俺は、光に包まれた。

 

 




 やっとここまで来ました。こんばんは、斎藤一樹です。

 以前にもどこかのあとがきで書きましたが(4話辺りだったかな?)、この世界のISに非固定浮遊部位(アンロックユニット)という概念は存在しません。ブルーティアーズのバックバックの形状に関しては、ガンダムF91に近いと言えば分かる人には分かるような。ヴェスバーの位置にビットが左右に一基ずつ装備されています。残りのビットはスカートアーマーに。

 さて。あれです、次回でやっと主人公機の登場ですよ。今回はオリジナル機体での戦闘。暁は左右非対称の機体です。この機体に関しては設定画も何も作ってません。

 それでは今回はこの辺りで。しーゆーあげいん!


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15.「絶望がお前のゴールだ」

 最初に目に入ったのは、白だった。まるで夜明けの光のような、まばゆい白。左右対称になった、滑らかな曲線を主体として構成された流れるような装甲。

 

 騎士甲冑のように流麗で、背中には同じく純白の翼を背負ったその姿は、まるで天使のようにも見えた。

 

 空中投影ディスプレイのウィンドウが開き、機体名が表示される。

 

 ―――白式(びゃくしき)、か。悪くない名だ。

 

「まさか……一次移行(ファースト・シフト)!? あ、貴方まさか、今まで初期設定だけの機体で戦っていましたの!?」

 

 オルコットが、驚愕したように言った。

 

 ……これでようやっと、この機体は俺専用になったってな訳だ。

 

「……残念だったね、セシリア・オルコット。一次移行(ファースト・シフト)を終え、暁からこの白式へと移行した以上、」

 

 ウィンドウを開き、武装一覧を見る。武装は近接特化ブレード〈雪片弐型(ゆきひらにがた)〉しか無かった。

 

 ブレオンかよ。確かにロマンではあるけれど。

 

 取り敢えずその雪片弐型を左腰の位置に出し、刀を引き抜くような動作で抜刀、構える。

 

「これまでのようにはいかないぜ?」

 

 濁流のように白式から送られてくるデータを、オルコットを意識して警戒しながら、頭の中で選別して理解していく。

 

 まず、雪片弐型。かつて世界最強だった千冬姉が、現役時代に愛用していた剣〈雪片〉の、後継たる剣。普段は実体剣だが、刀身にビームを纏わせることが出来るらしい。ビーム兵装は高熱で対象物を溶断するため、物理攻撃と比べてシールドエネルギーを多く消費させる事が出来る。雪片弐型の高出力ビームの場合、シールドエネルギーによる防護を貫通して強制的に絶対防御を発動させる事も可能のようだ。リミッターを外した最大出力時には、絶対防御を含むシールドエネルギーごとの切断すら可能だとの事。相変わらず束さんはマッドなサイエンティストらしい。どう考えてもオーバーキルだよ、この威力。一歩間違えたら人を殺しかねない。

 

 ついでにこのビームは、自機のシールドエネルギーを消費して展開される……って、攻撃に特化しているにも程があるだろうに。使いどころが重要そうだな。

 

 次に、白式のスペック。最大の特徴は、曙牡丹と宵菫の二つのコアを同調させた事により、桁違いの出力を実現させた〈ツイン・コア・システム〉の搭載。その出力の高さと、背部の翼のような大型ウイングを使った超高機動性。

 

 最高速度を見て、少し唖然となった。なるほど、確かにこれなら、ブレオンでもなんとかなるかもしれない。

 

 つまり、雪片弐型を使った高速度の一撃離脱、ヒットアンドアウェイが、この機体の戦い方になるわけだ。

 

 そこまで思考を進めたところで(実際には数秒間)、オルコットが動きを見せた。誘導型のブルー・ティアーズ(以下:ビット)を操り、オールレンジ攻撃を繰り出してくる。

 

 しかし。

 

「遅いな」

 

 白式のハイパーセンサーを使い、見るのではなく、感じる。全てのビットの銃口、そこから弾道を予測し、躱す。数瞬前まで俺の身体があった場所を、六本のレーザーが貫く。

 

 更に、何度も避け続け、オルコットは焦れてくる。

 

「な、なぜ! 当たりませんのっ!?」

 

「無駄だぜ、オルコット。何せ君の動きは、」

 

 レーザーを躱し、そのまま全推力で以て一気に接近。

 

「全て見えている!」

 

 すれ違いざまに、雪片弐型を胴体に叩き込む。

 

「キャアアァァッ!?」

 

 さらにまた反転、切り抜けつつ、ついでとばかりに背部のウイングと手足を使ったAMBACでジグザグ機動を行い、空中のビットを全て切り捨てた。

 

 そしてさらに反転、再びオルコットに近付き、オルコットの放った苦し紛れのミサイルビットを切り捨てつつ、爆発を背後にオルコットを袈裟切りにして、

 

『試合終了。勝者――――織斑一夏』

 

 ……終わったな。

 

「絶望がお前のゴールだ、ってね」

 

 そう呟き、雪片弐型を量子化して格納した。

 

 オルコットはというと、完全にエネルギーを使い果たしたのか、ISが解除されはじめていた。ISが無ければ人間は宙に浮いていられない訳で、つまり。

 

「……ったく、世話が焼ける」

 

 落下を始めたセシリア・オルコット目がけて、その速度を活かして白式で接近、相対速度を殆どゼロにし、彼女になるべく衝撃を与えないようにして抱き留める。

 

 オルコットを見ると、どうやら気を失っているらしい。ISの操縦者保護機能が働いたようだ。

 

「こうして、大人しくしてりゃあ可愛いのにな」

 

 勿体ない。まあいい、興が乗った。

 

「じゃあ、ちょっとの間だけ――お姫様にしてあげよう」

 

 そして、俺はオルコットを俗に言う「お姫さま抱っこ」の状態で抱えたまま、ピットへと戻った。

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、一夏。お怪我は?」

 

 全く心配していない、と言った口調で箒が言った。

 

「俺は特に無いよ。大して被弾しなかったしな。……っと、山田先生。オルコットのこと、頼んでいいですか? 白式でスキャンしたところ、気を失ってるだけみたいですが」

 

「分かりました〜。保健室に運んでおきますね〜?」

 

「お願いします」

 

 オルコットを抱えて、山田先生は出ていった。あの細腕の、どこにそんな力があったのだろう。

 

「取り敢えず、よくやったな、織斑」

 

「……千冬姉。この場には俺と箒しか居ないんだし、口調を元に戻してもいいんじゃねぇか?」

 

「……それもそうだな。わかった、一夏。…………おっと、私ってこんな感じの喋り方だったか? 久しぶりだから忘れてしまった」

 

「……確かそんな感じだったと思う」

 

「そうか。箒も、改めて久しぶりだな」

 

「はい、千冬姉さま」

 

「はは、相変わらず敬語なのだな」

 

 微笑みながら、千冬姉が言った。

 

「しかしまあ、わざわざ口調を変えることも無いだろうに」

 

「教師には威厳とかが必要なんだよ。あまりフランクな感じでは、生徒が着いてこないからな」

 

「大変そうだな?」

 

「全く、他人事みたいに言ってくれちゃって」

 

「まあ他人事だしな」

 

 頑張れ千冬姉。超頑張れ。心の中で応援しておいた。

 

「あぁ、あと一夏」

 

「何だ?」

 

「ISに関する規則があるから、読んでおいてくれ。その左腕のブレスレットが待機状態だ、呼び出せばすぐ展開できる」

 

「了解」

 

 どさっ、という音とともに置かれた、「IS起動のルールブック」というタイトルの冊子。むしろ、電話帳。紙は辞書のようにぺらぺら、文字サイズはかなり小さい。

 

 これは、少々面倒そうだ。

 

「じゃ、俺はそろそろオルコットのとこ行ってくる」

 

「分かった、行ってこい」

 

「お気をつけて」

 

 言葉に手を振り返して、俺はピットを後にした。

 

 

 




 8月ももう終わりですね。どうも、斎藤一樹です。VSセシリア戦、これで終了です。雪片弐型の解釈とかは色々アレンジかけてます。この作品ではこういう扱いなんだ、と考えてください。

 次回は、セシリアとのお話の回。また内容を修正するかも?



 今回の小ネタ

絶望がお前のゴールだ……仮面ライダーWに登場する某赤い刑事さんの決め台詞。

じゃあ、ちょっとの間だけ――お姫様にしてあげよう……緋弾のアリアより、主人公“遠山キンジ”の台詞から。


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16.セシリア・オルコット

 

 わたくしの父は、母の顔色を伺ってばかりの人だった。名家に婿入りした父は、恐らく母に多くの引け目を感じていたのではないかと思う。そんな父親を幼少の頃から見ていたわたくしが「将来情けない男とは結婚するまい」と決めたのは、当然の帰結と言えただろう。

 

 そしてISが発表されてから、父の態度は益々弱いものになった。母はそれが鬱陶しそうで、父との会話自体を拒んでいるような感さえあった。

 

 母は、強い人だった。女尊男卑社会になる以前から女の身でありながら幾つもの会社を経営し、成功を収めていた。厳しかったけれど、憧れの人だった。

 

 でもそんな二人は、もういない。

 

 母も父も、三年前に事故で他界した。越境鉄道の横転事故……死傷者は100人を越える大規模な事故だった。いつも別々に過ごしていた両親が、どうしてその日に限って一緒にいたのか……それは未だにわからないし、きっと真実が分かる日はもう来ないのだろう。一時は陰謀説も囁かれたが、事故の状況がそれを否定した。

 

 とてもあっさりと、両親は帰らぬ人となった。そしてそれからは、あっという間に時間が過ぎた。

 

 手元に残った莫大な遺産を金の亡者達から守るために、考え付く限りの必要と思われる分野の勉強をした。その一環で受けたIS適性テストで、A+が出た。国籍保持のため、政府から様々な好条件とともに代表候補生への勧誘が来た。両親の遺産を守るために、即断した。そして、第三世代装備「ブルー・ティアーズ」の第一次運用試験者に選抜されて、稼動データと経験値を得るために日本へやってきた。

 

 その日本で、彼に出会ったのだ。

 

 織斑一夏。世界最強の、その弟。

 

 第一印象は、無礼な男。なのに今は、そんな彼を存外嫌いではない自分がいる。それが妙におかしくて、笑みがこぼれた。

 

 相手はまだ稼動経験が数時間もないような初心者で、こちらは国家代表候補生。絶対に負けることはないと侮っていた。なのに、届かなかった。わたくしの放った弾丸はその全てを避けられ、弾かれ、届くことはなかった。最初の方はかすり傷程度は負わせることが出来た。でも、一次移行の後は一発も届かなかった。

 

 途中までは掠めていたのは、おそらく一次移行ファースト・シフトのための準備にISの処理能力を割いていたせいで、一夏さんの反応速度に機体が付いて行ってなかったから。

 

 きっと、油断もあった。所詮は素人、そう思っていたし、それは事実だったと思う。なのに、負けた。負けてしまったのだ、わたくしは。

 

 それなのに、あんなに圧倒的に負けたというのに。悔しくないどころか、靄が晴れたようなすっきりとした気持ちさえする。

 

 この感情の正体は、一体何なのか。何となくは答えの出ている問いから目を背けようと、

 

「わたくし、もっと勝利にこだわる性格だと思っていましたわ」

 

 右の手のひらをじっと見つめながら、誰に言うでもなく呟く。次に会った時には、失礼な口をきいたことを謝らないといけない、と心に決めながら。

 

 言葉は、誰に聞かれる事もなく宙に消えた。

 

 

 

 

 

 ピットを出て最初に向かったのは、更衣室だった。先ほどの戦闘で多少なりとも汗をかいてしまったため、シャワーも浴びたかったという事もある。

 

 シャワーを浴びて制服に着替えてから、オルコットが運ばれたであろう保健室に向かう。試合中はテンションが上がりすぎて色々と口走ってしまった事を考えると中々に頭が痛いが、自業自得という他なかった。

 

 それはそうと、右手に抱えた電話帳……もといルールブックが地味に重い。まぁ持ち歩くような物でもないし、この先重さで困ることはないだろう。むしろ読むのが面倒そうだから、そちらで困ることの方が多そうではある。

 

 そうこうする内に保健室に着いたので、深呼吸を一つしてからノックをする。

 

「はい、どうぞ?」

 

 オルコットの答えが聞こえてきた、起きているようで何よりだ。

 

「よう、お邪魔するぜ」

 

「あら、一夏さん。……どうしました、あれだけ大口叩いておきながら不様に負けた、この惨めな敗北者を笑いに来たのですか?」

 

 部屋に入ると、慌てた様なオルコットの声。と思いきや、途中から暗い顔をして自虐的な台詞を言い始める。心なしか、部屋の湿度が上がってじめじめし始めたような気がする。

 

「随分と卑屈になったな……」

 

「冗談ですわ、反省はもう粗方終えましたの。それでご用件は?」

 

 随分とリアクションに困る自虐ネタだった。

 

「見舞いに来たのさ。それなりに派手にやったと思ったけど、身体の方は大丈夫か?」

 

「ええ、問題ありませんわ。もう少ししたらここも出る予定でしたし」

 

「そりゃ良かった。何分ISでの戦闘は初めてだったから勝手が掴めなくてね……バリアがあると頭じゃ分かってるんだが」

 

 そのバリアを削る武器とかもあるわけで、どこまでシールドバリアを頼りにしたものか悩ましいところである。

 

「シールドエネルギーによるバリアがあるので、攻撃しても相手にケガさせるような事は滅多にありませんわよ?」

 

 安心させるようにオルコットが言うが。

 

「なぁオルコット……現役時代の俺の姉について知ってるか?」

 

「織斑先生ですか? 有名ですから勿論知ってますが……それが何か?」

 

「じゃあ千冬姉が使ってた武器も知ってるよな?」

 

「ええ、雪片でしたわね……特殊なビームでシールドエネルギーを削り取る、対IS用ビームソード。確かにあれは例外でしょうけど、そんな武器は早々……」

 

「…と思うだろ?」

 

「え?」

 

「さっき使ってた俺の武器な、雪片弐型って言うんだ……」

 

 後はお察し下さいといったところである。

 

「……マジですの?」

 

 マジなんです。

 

 笑みを描いていたオルコットの口元が、ひくりとひきつった。

 

 実際問題、俺としても中々に頭の痛くなる案件ではある。一歩間違えれば相手を殺してしまう――そもそもISという兵器を扱っている以上は今更な話ではあるのだが、その中でもシールドエネルギーによるバリアを抜ける雪片はとびっきりと言える――武器を初心者に渡すとか、設計者は何を考えているのか。

 

 …そういった点に関しては何も考えてなさそうだな、あの人……。

 

 更に言うならビームソード展開時(この形態を“零落白夜”と言うらしい)はエネルギー消費も激しい。戦闘用に設定されているエネルギー量では、常時展開していては5分と持たないだろう。重ね重ね初心者向きではなさそうだった。普段は使わない方が良さそうである。

 

「その、一夏さん、」

 

 オルコットが口を開いて、そして何かを躊躇うかのようにまたすぐ口を閉じた。

 

「どうした?」

 

 一瞬目を泳がせた後、オルコットは続けた。

 

「まずは、この間の暴言について謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした」

 

 ぺこりと頭を下げながら、オルコットは言った。

 

「いや、俺も言い過ぎた。すまなかったな」

 

「いえ、先に仕掛けたのはこちらですわ。非はこちらにありますから」

 

 困ったように微笑みつつ、オルコットは重ねて言うのだった。

 

 何となく、オルコットの雰囲気が柔らかくなったように感じる。こう、カリカリしていなくなったと言うか。

 

「それと私のことはセシリア、と名前で呼んで下さいな」

 

「あー、良いのか?」

 

「この国では仲が良くなると名字ではなく名前で呼びあうと聞きました。ですので、どうか私のことはセシリアと」

 

 これでこの一件に関しては手打ちというか、仲直りのしるしというか、そんな感じだろうか。

 

「了解だ……セシリア。改めてこれからよろしくな」

 

「はい、こちらこそ」

 

 花が咲くような、といった柔らかな笑顔で彼女は微笑んだ。

 

「ところで、」

 

 とオルコット…もといセシリアは言った。

 

「ところで先ほどの戦闘では随分手慣れていらっしゃるようでしたが、一夏さんは格闘技の経験がおありで?」

 

「おう、以前色々かじったことがある程度だけどな……それがどうかしたか?」

 

 問い返すと、彼女は困ったように微笑みながら言った。

 

「そうですわね……もしよろしければ、お聞かせ願えないでしょうか? あなたが戦い方を学び始めた、その理由を」

 

 理由。

 

 理由、ねぇ……。そう大したものでもないんだけど。

 

「そうだな、近所に住んでた幼馴染みの家が道場を開いていてな。俺がまだ幼い頃から千冬姉が…あぁ織斑先生な、そこで剣道を習ってたんだ」

 

 その道場というのが他でもない、箒と束さんの実家である篠ノ之道場であったりするのだが、そこはまあ割愛しても構わないだろう。

 

「そんなわけで俺は織斑先生が剣道をやっている姿をずっと見てきたからな、『俺もやってみたい』って思ったわけだよ。想像がつくかもしれないが織斑先生は昔から滅茶苦茶強くてなぁ……」

 

「目に浮かぶようですわね……」

 

「そうして始めてみたらこれが中々面白くってな? そこから他の格闘技にも興味をもって……とまあそんなところか」

 

 ふぅ、と一息つく。ちなみに篠ノ之流は剣道だけではなく柔術等の古武術も合わせての篠ノ之流だったりするので、他の格闘技にも興味をもった理由の一端はそこの辺りにもある。

 

 まあそこから色々あって、スポーツとしての格闘技からより実戦的な方向の格闘技へと学ぶ方向性が推移していったのだが、彼女に言う必要はないだろう。

 

 ふむふむ、と小さく頷くように首を動かすオルコット。

 

「成る程、幼い頃から学んでらしたのね」

 

「そうだな、だから戦い慣れはしてたな」

 

 要は彼女が思うような素人というわけでは無かった、というオチだった。そのあたりの油断を突けたのも、先ほどの勝因の一つだろうか。

 

 さて。

 

「じゃあそろそろ俺は行くぜ、また明日学校でな」

 

 椅子から立ち上がり、ドアの方へ向かう。

 

「ええ、それではまた」

 

 ……ああ、だから。

 

「ああそうだセシリア、セシリア・オルコット。最後に一つ聞きたいんだが……」

 

 こんなことを訊いてしまったのは、きっと気紛れという他に無いのだろう。

 

「君にとって、今の世界は楽しいかい?」

 

「ええ、それなりに」

 

「そうか、そりゃ良かった」

 

 今度こそ、保健室のドアを開けて廊下に出る。

 

 きっといずれ、彼女とはまた戦うときが来る。でもそれまでの間は、どうか。共に笑いあえると良いと思う程度には、俺は彼女を気に入ったらしかった。

 

 




 前話投稿から実に3年近くが経過しておりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は何とか生きてます。

 そんなわけで、ハーメルン版ISATの最新話をお届けしました。そもそもこのISATという作品はにじファン、FC2小説、そしてこのハーメルンと掲載サイトを新たにする度に加筆修正を繰り返してきた作品なのですが、今回の話に関しては修正を繰り返した結果、ほぼ全文が書き換えられています。文体も多分変わってしまっているような気がしますし。話の流れ自体には大きく変わりはないと思いますが。……無いよね?

 さて現在は17話の改稿作業中ですが、短かったので18話と結合しようかと思案中です。夏までにここに掲載できると良いな、と思います。


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17.「粗茶ですが」

 

 

「ところで良かったのですか、一夏?」

 

「何がだ?」

 

「いえ、その。…決闘に勝っちゃいましたし、多分貴方がクラス代表になってしまったのでは、と……」

 

 躊躇うように箒が言った。

 

「…………あー、うん。そういやそんな話だったよね……」

 

「…忘れていたんですね……」

 

 一転して、箒の顔が呆れたようなものに変わる。

 

「試合中はテンション上がっちゃってなぁ……」

 

 完全に忘れてた。

 

「まあいいや、それならそれで」

 

「あ、いいんですか」

 

 意外そうに箒が言った。

 

「逆転の発想だよ、その分実戦経験を積めると考えればそう悪いものでもないだろう……多かれ少なかれ面倒を背負うことにはなりそうだけどな」

 

「プラス思考ですね」

 

「そうでも考えないとやってられるかっての」

 

 切実に。

 

 

 

 

 

 とまあそんな会話がセシリアと会った後にあったわけだが。箒に言った通り、いつまでもそれを抱えているわけにはいかないのである。俺としては試合に勝って勝負に負けたといった感じだが、セシリアはセシリアでクラス代表になれず本来の目標を達成出来ていないわけで、どちらも不本意な結果で終わっているこの状況。何ともアレな結末だった。今からでもセシリアにクラス代表を譲った方が良いのではなかろうか。こう、勝者の権限とか駆使して。

 

 そもそもからして本来クラス代表をやりたいセシリアと、面倒だからクラス代表なんてやりたくない俺とでは利害関係が一致した筈なのだ。尤も、売り言葉に買い言葉でそれが台無しになってしまったわけだが。

 

 いやまあ、セシリアがあれこれ言っていた時のクラスの空気の悪さと言ったらそれはもう酷かったし、特に苛立ちが隠し切れていない日本出身の娘達はそれが顕著だった様に思う。

 

 その空気を一旦入れ替えるという意味でも、あの決闘紛いのクラス代表決定戦はきっと必要だったのだろう。

 

 結果がどうあれ。

 

 そういう事で自分を納得させていると、ふとサイドテーブルに置かれた携帯型音楽再生プレイヤーが眼に入った。

 

 …………あー。

 

 アレ、どうしようなぁ……。

 

 半ば自業自得と言える新たな問題に、俺は再び頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 俺の手元には今、携帯型音楽再生プレイヤーが握られているわけだが。何を隠そうこの端末には、セシリアがかましてくれた問題発言の音声データが入ってるのだった。束さん謹製のこのプレイヤーは案の定必要以上に多機能であり、件のデータはその機能の内の1つである録音機能で録音したものである。

 

 この情報をうまく使えばイギリスに対するカードとして使えるだろうし、彼女の国家代表候補生としての資格も問われることになるだろう……辞めさせることも可能かもしれない。

 

 更識の端くれである身としては、この情報を当主である刀奈姉に届けるべきなのだろう。

 

 だが、この件については先程の会話で既にケリがついている。それにも関わらずこの件で何かしようっていうのは、如何なものかとも思うわけだ。

 

 それ加えて個人的な感情としても、俺は彼女の事を気に入っている。なるべくなら裏切りたくない、という気持ちは確かにあった。

 

 

 

 少し迷った末に、俺は……削除ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 翌日。決闘紛いのクラス代表決定戦の翌日であろうが、平日であるならば当然のごとく授業はあるのだった。

 

 このIS学園という学校はその名の通り、ISに関しての専門的な知識を学ぶための特殊な学校である。が、これと平行して普通の高校で習うような一般科目も当然ながら学ぶわけであるし、(整備科志望の生徒は特に顕著であるが)理数系科目は特に高度な内容を勉強することになる。

 

 つまるところ今日はそうした一般科目を学ぶ日であったが、その授業内容に関しては割愛する。

 

 放課後の今、俺は生徒会室に向かっていた。セシリアの発言に関しての音声データについては昨日の対処で良しとするにしても、それとはまた別に生徒会には用事があるのである。

 

 それは言うまでもなくこの間の「生徒会に入らないか」という誘いに対しての回答なのだが、そもそも生徒会に入って何をさせられるのか……もといどんな仕事をすれば良いのかという話を俺は知らされていないのだった。誘われたときに訊いておくべきだったとは思うものの、今となっては後の祭りだ。

 

 

 

 さて。生徒会室まで着いたのは良いが、そもそも刀奈姉が今ここにいるかどうか分からないというのが問題だった。事前に連絡を取っておくべきだったと悔やむが、今更の話である。

 

 意を決して生徒会室の扉をノックする。

 

「はい、どうぞ?」

 

 中から声が帰ってきた。刀奈姉の声ではないが、少なくとも誰かしらはいるらしい。

 

「失礼しま……す?」

 

 果たして生徒会室には二人の女性がいたが、語尾が疑問形なのは予想外の人物がそこにいたからだった。

 

「あれ、おりむー? どうしたの〜?」

 

「むしろ俺が君にそう言いたいよ」

 

 何故のほほんさんがここに。

 

「のほほんさん、もしかして生徒会役員だった?」

 

「もしかしなくてもそんな感じ〜」

 

 そんな感じだったのかと納得したところで、生徒会室にいたもう一人の女性に挨拶する。

 

「お久し振りです、虚(うつほ)さん。ご無沙汰しています」

 

 布仏虚。刀奈姉の付き人であり、恐らくはのほほんさんの姉だろうと思われる。生真面目な性格で、自由人といった感じの刀奈姉とは対照的だが、そうでなければ刀奈姉の付き人は務まらないのかも知れなかった。自由奔放な刀奈姉とマイペースなのほほんさんを相手にする虚さんの胃が心配になる。

 

「ええ、お久しぶりです一夏さん。今日はどういったご用件で?」

 

「刀奈姉に用事があって来たんですけど、もしかしなくても今不在ですかね?」

 

「はい、お嬢様は先程職員室まで行かれましたので暫くお待ちください。今、お茶を淹れますね」

 

 おっとりと微笑んで、虚さんは備え付けのガスコンロにお茶を淹れに歩いていった。その妹であるのほほんさんはというと、俺が座っている応接用のソファーの上で……つまり俺の隣でたれている。上半身はテーブルにぺたりと伏せており、時折むずかるように首が動く。

 

 かと思えば突然むくりと起き上がり、ソファにもたれるようにぐいと伸びを始めた。制服の上からでもそれと分かるその豊満な双丘が、強く自己主張を始めた。ご馳走さまです。箒ちゃんも相当大きい部類だが、服の上から見る限りだとのほほんさんも箒ちゃんに負けず劣らずのボリュームのようだった。素晴らしき哉。

 

 とまあ恐らく無自覚に理性を削りに来ているのほほんさんを不自然にならないように観察していると、彼女の制服のポケットの隙間から顔を覗かせているキーホルダーが何故か妙に気になった。正確にはポケットから顔を覗かせているというよりも、隙間からはみ出てプラプラとぶら下がっていると言った方が正しいかもしれない。キツネをデフォルトしたような、愛嬌のある三頭身のキャラクターだ。

 

「なあ、のほほんさん」

 

「なぁに~、おりむー?」

 

「ポケットからキーホルダー、はみ出てるぞ」

 

「あ、本当だ~。ありがと、おりむー。この子、私のお気に入りの大切な子なんだよ。可愛いでしょ~?」

 

「そうだな。…ところでこのキャラクター、なんて名前だっけ? どうにも思い出せないんだけど」

 

「あ、この子は〈くおー〉っていうんだよ~。九尾の狐で、くおー。知ってるの~?」

 

「……なんか見覚えがあるんだよな。なんでだろ?」

 

「私に聞かないでよ〜っ」

 

 ぱたぱたと袖を振りつつ、のほほんさんが言った。

 

「そりゃそうか」

 

 全く以てその通りだった。

 

 そこに会話が一段落するのを待っていたようなタイミングで、

 

「どうぞ、一夏さん。粗茶ですが」

 

 ことり、と静かに俺の前に湯呑みが置かれる。

 

「粗茶なんてとんでもない、虚さんが淹れたもの以上の美味い茶を俺は未だかつて飲んだことがありませんよ」

 

 これが世辞でも何でもなく本当に美味いのである。

 

「ふふっ、そうですか。そう言っていただけると光栄です」

 

 おっとりと微笑みながら虚さんは答えた。

 

「ねえねえおりむー、お姉ちゃんとおりむーって知り合いだったの〜?」

 

 のほほんさんが言った。

 

「そうだな、かれこれ……10年ぐらい、か?」

 

「そうですね、そのぐらいでしょう」

 

「へ〜、知らなかったな~……」

 

 そう言えば俺も虚さんには何度も会っているのに、のほほんさんには会った記憶が無いな……一回ぐらい会っていても良さそうなものだが。

 

 

 

「たっだいま〜っ! って、あれ? どうしたの、一夏くん?」

 

 当の刀奈姉が来たのは、それから10分後の事だった。

 

 

 

 

 





 お待たせいたしました、そんなこんなでISATの17話です。今回でクラス代表決定戦関連の話は一段落と言った感じでしょうか。次回からは息抜きのクラス代表就任パーティーの話とかを挟んで、鈴ちゃん転入と言った流れになる予定です。少しずつ話が進んでいるようなそうでもないようなと言った感じですが、これでもFC2版のものとは少しずつ流れが分岐していっています。
 別の世界線(つまりFC2小説版)では前話のセシリアとの会話が異なっていた事もあり、セシリアの問題発言を録音した音声データは刀奈の元へと渡っています。という事はつまり、セシリアは意図せずして将来来るかもしれない危機を未然に防いだことになるわけで、偶然とはいえセシリアはファインプレーをしたと言えるでしょう。とは言え、この違いが物語にどんな影響を及ぼすかはまだまだ先のお話なのですが。
 次話は直す箇所が少ない……と良いなぁと思います。サクサク進めたいですね。只でさえ一話あたりの文字数が少ないですし、せめて月一更新ぐらいのペースで行きたいところです。それではまた次回にお会いしましょう。

  追伸:誤字報告・質問等ございましたら感想欄などから是非是非。質問については恐らくネタバレにならない程度にお答えします。


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18.祭とかパーティーは準備してる時が一番楽しい

 クラス代表決定戦をした日から、週末を挟んで月曜日。その朝のホームルームで、にこやかに山田先生が言った。

 

「ということで、クラス代表は織斑一夏君に決定しました〜。ちょうど『一』つながりで、いい感じですね〜?」

 

 ……そうか?

 

 内心で首を捻る俺とは対照的に、クラスの女子達は中々盛り上がっているようだった。……まあいいか、楽しそうだし。

 

 

 

 休み時間。

 

「ねえねえ織斑くん!」

 

「今日の放課後、空いてる?」

 

 俺の机の周りには女子が群がっていた。人気者は辛いぜ、という軽口もこの状況ならあながち的外れでは無さそうである。

 

「おう、空いてる空いてる。どうした?」

 

「えっとね、今日の19時から食堂で、織斑くんのクラス代表就任パーティーやるの!」

 

「でねでね、織斑くんにも来てほしいなぁ、なんて…………」

 

 周りの女子達が矢継ぎ早に説明しようとしてくれるが、同時に何人も口を開くので大変姦しい。だがまぁ、状況は分かった。

 

「そりゃ主役が行かないってわけにゃあいかねぇよな。喜んで参加させてもらうぜ」

 

「本当? やったぁ!」

 

「絶対だよ!」

 

 きゃいきゃいと女子が騒ぐ。そこまで喜んでもらえるとは嬉しい限りだ。

 

 

 

 

 

 さて、本日の授業も恙無く終わったわけだが、現在の時間は大体16時。パーティーは19時かららしいのでそれまでの3時間はヒマになってしまう。ちなみにパーティーの手伝いを申し出たら慌てた様子で断られてしまった。若干の疎外感を感じて寂しいような気もするが、女子だけでやりたい事もあるのだろう。無理にでしゃばる必要は無いだろう。

 

 

 

 

そんなわけで俺は今、生徒会室に来ていた。

 

「はいはい。いらっしゃい、一夏くん」

 

 部屋の中にいたのは、刀奈姉だけだった。

 

 先週生徒会室を訪れたときに俺は生徒会に所属する旨を伝えたのだが、余ってるからと渡されたのは何と副会長の役職だった。ちなみに虚さんは会計で、のほほんさんは庶務とのことだった。

 

「取り敢えず副会長になったから来てみたんだけど、何かやることある?」

 

「無いわね」

 

「無いの!?」

 

 書類仕事とか、俺もやるべきなのでは。

 

「一夏くんは例外よ、特にこちらから呼ばない限りはわざわざ生徒会室(こっち)に来る必要は無いわ。その分をISの訓練に充てて、少しでも強くなって。いざという時は自分一人で戦うこともあるだろうし」

 

 そう、だな。

 

「了解。ISの戦闘に関してはまだまだ弱いからね…その分伸び代もあるだろうから鍛えるのが楽しみだけど。刀奈姉みたいな国家代表クラスにまで届くのは一体何時になるやら……」

 

「いやいやいや、まだIS稼働合計時間が50時間も無いような素人に国家代表が負けたら、国家代表の立場が無いから」

 

「それもそうだ。今度、模擬戦の相手してくれない?」

 

「いいわね、近い内に久しぶりにやりましょうか。稽古をつけてあげるわ」

 

 そう言って、彼女は猫のような笑みを浮かべた。

 

 

 

 ……困ったな、またヒマになってしまった。

 

 

 

 仕方がないので自室に帰ることにしたのだが。

 

「箒ちゃんいる? 今入っても大丈夫?」

 

 ノックと共に声を掛けると

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

 と声が返ってきた。ノックは大事だ、不幸な事故が防げるという意味でも。例え相手が箒であっても、相手が女子である以上はそのあたりの配慮は大切だろう。親しき仲にも礼儀あり、という言葉もあるのだ。

 

 そんな訳で部屋に入ると、そこにはなんと

 

「…何で着替え途中なんだよ!」

 

 着替え中の箒がいたのだった。ちくしょう、前振り全部無駄にしやがった。

 

「一夏になら見られてもいいかと思いまして」

 

 良いのか。確かに今まで箒ちゃんの胸を揉んだりしているので今更といった感は無いではないが。…いや違う、そうじゃない。

 

「箒ちゃん、俺が言うのもアレかもしれないけれどさ、慎み深さとかそういうものを身につけてほしいなって思うんだ」

 

「えっちな女の子は嫌いですか、一夏?」

 

 上目遣いと共に箒が言った。心情的にはカウンターパンチがクリティカルヒットしたといった具合だ。正直ノックダウン寸前だった。

 

「大好きです。……いや、そうじゃなくてだな」

 

 気が付けばそう答えていた。いい加減そろそろ理性の限界だった。着替え途中の箒を見た時点でかなりキていたのに、それに重ねるように先ほどの台詞だ。…もうゴールしても良いよね、という悪魔の囁きが脳裏を過ぎる。おい、天使はどうした。

 

 違うんだ、俺はもっとこう何というか、彼女に慎みというものを持ってほしいのだ。

 

「安心してください、私がこんな姿を見せるのは一夏だけですよ」

 

 それなら良い…のか? 「良くないだろ」という良識・常識と、「でもエロ可愛い箒ちゃんもっと見たくない? 俺だけにしか見せないって言ってるんだしこのままで良いんじゃないか」という欲望に満ちた心の声が胸の内で鬩ぎあっている。

 

「……じゃあ良いか」

 

 俺は欲望に負けた。

 

 箒ちゃん、昔はこんな性格じゃなかった筈なんだけどなぁ…。生真面目というか堅物というか、そんな感じだったのに何故こうなってしまったのだろうか。俺のせいだと言われればあながち否定できない気がするのが悩みどころである。

 

 

 

 

 

 18時30分。IS学園第三食堂には、20名ほどの女生徒が集まっていた。

 

 その中の一人……相川清香が、右手の拳を突き上げつつ口を開いた。

 

「パーティーまであと30分……。みんな、頑張って間に合わせるよっ!」

 

『おーっ!』

 

 残りの女子は、声をそろえて声を挙げた。それから、彼女達はそれぞれ散らばり、机や椅子を動かし始めた。

 

「この机はどこ置いたらいいー?」

 

「それは壁側に運んでー!」

 

「誰かー、この机運ぶの手伝ってくれへんかー!」

 

 わいわい、がやがや。みんな他の声にかき消されないようにと大きな声を出すので、語尾がのびている。

 

 そして5分後。

 

「はいはーい、お菓子とジュースと紙コップ! 持ってきたよ〜っ!」

 

 そこに新たに10名ほどの女子がやってきた。みんな、手に手にビニール袋を下げている。その中身は、ビスケットやらポテトチップスやらといったお菓子と、ジュースや紅茶等の飲み物類、そして紙コップと紙皿。

 

「あ、買い出しお疲れ様!」

 

「飲み物はそっち置いといてー!」

 

 声が飛び交う中で、彼女達の顔は楽しげに輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 7月7日は箒ちゃんの誕生日。というわけで、少々無理やり投稿です。無理矢理なので今回は少々短めです。今回はFC2版だと18話と19話の部分から継ぎ接ぎしながらあちこち書き直したり書き加えたりしています。

 あんなサブタイトルのくせに、実際にパーティーの準備をしているシーンは最後に少しあるだけという半ばタイトル詐欺のような回です。話を少しずつ進めつつ箒ちゃん回になるように書き直したので、上手いこと箒ちゃん回っぽく見えるようになっていると良いなぁと思います。如何でしょうか。まだ足りない? そんな~。

 次回はパーティー本番です。今月中に投稿できたらいいなと思いますが、果たして。それではまた次のお話でお会いしましょう。



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19.「俺はかーなーり、強いぜ?」

 IS学園、第三食堂。そこでは今、「織斑一夏クラス代表就任パーティー」なるものが開催されていた。

 

 

 

 

 

「と、いうわけで! 織斑君、クラス代表決定おめでとー!」

 

「「「「「おめでとー!!」」」」」

 

 女子の声が一斉に食堂に響く。

 

「は、ははは……」

 

 最早乾いた笑いしか出ない。こんな派手なパーティーになるとは完全に予想外だった。

 

 というかまず人数がおかしい。うちのクラス以外の生徒もちらほらいる。……訂正しよう、ちらほらどころじゃなさそうだった。

 

「いや~、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」

 

「ほんとほんと」

 

「ラッキーだったよね~。同じクラスになれて」

 

「ほんとほんと」

 

 おいそこの「ほんとほんと」って返し続けてる三つ編みの女子、お前も別のクラスの生徒だろうが。

 

 まぁそもそもこのパーティーには入場制限は無いので、ここにいること自体に問題は無いのだろうが。きっとこういうものは楽しんだものが勝ちなのだろう。自分の中でそう結論付けると、俺はそれ以上気にしないことにした。

 

「さーて、今日は飲むぞーっ!」

 

 という声も聞こえたが気にしない。流石に酒ではないだろう。

 

 あ、刀奈姉までいた。こちらの視線に気がつくと、ウインクと共に「満員御礼」と書かれた扇子をぱんと開いた……いや、その言葉は違うのではなかろうか。ていうかクラスどころか学年まで違うじゃねぇか。

 

「はいはーい、新聞部で-す! 話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」

 

 そうこうしている内に、パーティーの参加者がまた増えたらしい。周りの女子たちはきゃあきゃあと興奮した声をあげており、新聞部を名乗る彼女はさながらパーティーの余興に呼ばれた道化師の如くである。

 

 その先輩がこちらにやってきた。左腕には『新聞部』と書かれた腕章をつけている。丸メガネに茶色がかった黒髪のショートカット、リボンの色から見るに学年は二年生。胸ポケットにはボイスレコーダー……既に稼働しているとみていいだろう。迂闊なことは言えないだろうと思うと同時に、何かしら面白いことを言ってみたいという悪戯心が首をもたげた。

 

「キミが織斑一夏くん?」

 

「はい。貴女は?」

 

「私は、黛(まゆずみ) 薫子(かおるこ)。新聞部の副部長をやらせてもらってるわ。よろしくね。ハイ、これ、名刺」

 

「これはご丁寧にどうも。本日はインタビューとのことですが?」

 

「うん、アポも取らずに来てごめんね?」

 

「いえ、構いません。むしろ、私の予想より遅かったぐらいです」

 

「あら、私が来ることを予想していたの?」

 

「ええ。生徒会長から、ここの新聞部は仕事が速い、と伺ってましたので」

 

「それは嬉しいわね。彼女と知り合いなの?」

 

「はい、幼なじみです」

 

「へぇー。私も出来る事なら、もっと早く君のところに来たかったんだけどねぇ。なかなか忙しくって」

 

「お疲れ様です」

 

「ありがとう。…っと、そろそろインタビューを始めていいかな?」

 

「ええ、構いません。どうぞ」

 

「じゃあ、まずはクラス代表としての意気込みをどうぞ!」

 

「……ちなみに、どんな発言をお望みで?」

 

「んー……。…『俺に触れると火傷するぜ』、みたいな面白いやつ?」

 

「面白さ優先って、捏造する気マンマンじゃないですか……」

 

 知ってた。というか予想していた。

 

「……ソンナコトナイワヨー」

 

 とは言え。

 

「声が裏返っているうえに片言になってますよ」

 

 そうそう気の効いたセリフが思い浮かぶ訳もないのだった。

 

「……こほんっ!」

 

 あ、誤魔化す気だ。

 

「さて、じゃあ改めて。クラス代表としての意気込みをどうぞ!」

 

「えー…。やるからには全力で勝ちに行きます。…俺はかーなーり、強いぜ?」

 

 例えなりたくてなった立場ではないとはいえ。負けるのは悔しいし、わざわざ勝ちを譲ってやるのも癪だった。インタビューで言うことではないのでここでは口に出さないが。

 

「うん、ありがと。良い台詞が録れたんじゃないかな」

 

「いえいえ、どういたしまして。……捏造、ほどほどにしておいて下さいよ?」

 

「おっけー、おっけー! 充分いいネタがもらえたからね、そのぐらいはしてあげるよ~」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ、次は写真。いいかな?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「じゃあ……セシリア・オルコットちゃん、いるかな? ツーショットでいきたいんだけど」

 

「は、はい! ここにおりますわ!」

 

「じゃあ、そこに二人並んでもらえる? あ、もうちょっと近寄って、握手とかしてみてくれる?」

 

「こうですか?」

 

「――――――ッ!?」

 

 ぼんっ、と音がしそうなほどに、セシリアの顔が赤くなった。どうしたんだ? 男と手をつないだ事が無い、とか? どうもかなりの箱入りお嬢様らしいから、あながちあり得ないとは言えないか。

 

「はい、いくよー。(4532+4859)×4は?」

 

「…え、ええと……」

 

「…37564(ミナゴロシ)、ですか?」

 

「はい、一夏くん正解~」

 

 パシャリ、とシャッターが降りる。

 

「……君達、すごいね…………」

 

「な、何で全員入ってますの!?」

 

 シャッターが切られるまでの僅かなタイミングを狙い一斉に移動したのか、そこにいたすべての女子が後ろに集まっていた。考えてみると、ものすごい団結力と行動力である。

 

 今日の教訓。「女子のパワー、ナメちゃいけない」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日、中国某所。

 

「鈴音(リンイン)、ここにいたか。喜べ、手続きが終わったぞ」

 

「ありがとう、伯父さん! 大好き!」

 

「ははは。そんなに嬉しいか、彼と会えるのが?」

 

「うん! 大体一年ぶりだもん、いまから楽しみよ!」

 

「それは良かった。……さて、軍の方からの命令を伝えるぞ。与えられた主な任務は、IS学園へと赴いての〈中国製第三世代型IS《甲龍(シェンロン)》の稼働・戦闘データ及び関連装備の稼働・戦闘データの採集〉と〈日本に発現したレアケース=織斑一夏と接触・交戦し、その戦闘データの採集〉の二つだな」

 

「主な、っていうのは?」

 

「他には、我が国も第三世代機を投入してIS学園に代表候補生を送ることで、他国に対する牽制と示威行為が出来るんだが、お前は特に気にしなくていい」

 

「良いの?」

 

「ああ、これに関しては君がIS学園に行くだけで達成されるからな。気にする必要はないだろう」

 

「うん、分かった」

 

「ところで鈴音、荷物の準備は終わっているのか?」

 

「あのボストンバッグに全部詰めて用意してあるわよ」

 

「そうか。……取り合えず、話はこれで終わりだ」

 

「待ってなさいよ、一夏…………!」

 

 中国代表候補生・鳳(ファン) 鈴音(リンイン)は、大体日本のある方角を向いて拳を握った。

 

「鈴音、そっちは方向的には日本ではなくロシアだ」

 

「あ、あっれぇー?」

 

 

 

 

 





 前回から2か月ほどの間が空き肌寒い季節となりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか、斎藤一樹です。ISATの19話目をお届けします。

 今回は前回の最後に準備していたクラス代表就任パーティーのお話です。ちょこちょこ書き改めてはいますが、特に新たに書き加えるような場所がなかったので短めとなっています。駄目だ、今回本編も短いからここで書くことがありゃしねぇ。

 次回は恐らく10月中の投稿になると思われます。内容的には鈴ちゃんが転入してくるあたりのお話になる予定です。あー、修正箇所多そうだなぁ……(遠い目

 それではまた次話でお会いしましょう、斎藤一樹でした!


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20.リンちゃんなう!

 

 

「そう言えば一夏くん、1年生に新しく転校生が来るみたいよ」

 

 そう刀奈姉が言ったのは、クラス代表就任パーティーがあった週の金曜日の事だった。

 

「転校生? この時期に?」

 

 今は新学年が始まってからまだ1ヶ月も経っておらず、来週末からゴールデンウィークが始まろうというタイミングである。考えられる原因として思い当たるのが十中八九俺のせい、といった気がするのが輪をかけて頭痛を助長する。

 

 大方俺というイレギュラーの出現に焦ったどこかの国が、情報収集のために代表候補生を送り込もうと画策した。だがしかし何分急な事であったために入学式には間に合わず、このような中途半端な時期の転入と相成った……とまあ考えるならこんなシナリオだろうか。何が面倒臭いって、そんな無茶を通してしまえるだけの政治力だか影響力をもった国からの代表候補生である。今頃職員室は急な転校生に大わらわだろうか。心の底から同情する。

 

 ……なんだろう、厄介事の臭いがぷんぷんするのだが。杞憂のまま終わってくれないだろうか、等と思いつつため息をこぼす。またひとつ幸せが逃げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 そしてその2日後……日曜日。俺は箒とIS学園を出て、本土のショッピングモールへと出かけていた。以前箒と交わした「今度一緒に買い物に行く」という約束を果たすためだ。実質デートみたいなものである。

 

 別々に部屋を出てどこかで待ち合わせ等という事は無く、二人で一緒に部屋を出て学園から駅に向かった。合理的だと思う。そもそも同じ部屋なのだし、時間をずらして出る必要はあまり無いだろう……やるとすれば雰囲気を楽しみたい時ぐらいだろうか。箒ちゃんが望むならいつでもやる所存である。

 

「ところで箒、今日は何を買いに行くんだ?」

 

 学園のあるメガフロートと本州をつなぐモノレールの中で、箒に聞いてみた。箒は大人っぽいデザインの白いワンピースにカーディガンを羽織っていて、俺は程々にお洒落に見えるように履き慣れたジーンズとYシャツにジャケットといった格好である。今日の箒は綺麗系のコーディネートらしい。

 

「そうですね……。洋服でも買いましょうか」

 

 言われてから気が付いた、といった感じで答えた箒。ノープランだったのか。そんな俺の視線に気が付いたのか、箒はわたわたと手を振りながら一生懸命な感じで弁解する。

 

「し、しょうがないじゃないですか! ずっと楽しみにしてた、一夏と二人っきりでのお出かけなんですか、ら……って、いや、あのですね! 何ていうか、そうじゃなくて! ああもう、その「俺は分かってるから大丈夫」みたいな笑い方はやめてください!」

 

 盛大に自爆していた。思わず拍手を送りたくなるぐらい見事な自爆だった。そんな彼女の頬は、林檎のように真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

 

「さて、どこから行く?」

 

 俺の実家の近くにある巨大ショッピングモール、「レゾナンス」。IS学園からだと移動距離にして一時間ほど離れている程度で、この辺りでは一番大きいショッピングモールであり、大体のものはここに来れば手に入るともっぱらの評判である。店以外にもレストラン街や映画館、ゲームセンターなどといった娯楽施設もあり、大変にぎわっている。

 

「うーん、そうですね……。……一夏にお任せします。こういう時は殿方がリードするもの、なのでしょう?」

 

 にっこりとほほ笑みながら放たれたその言葉に、俺が抗えるはずも無く。

 

「……了解だ、レディ。取り敢えずは無難にウィンドーショッピングといこうか?」

 

 無難そうな提案をすることにした。

 

 

 

 箒と並んでぶらぶらと歩きながら、時たま店の中に入って見て回ったり。……どう考えても、デートにしか見えないだろう。現に、すれ違う男性からは物凄い嫉妬の視線を浴びている。無理も無い、箒はとびっきりの美少女だ。どうだ羨ましいか、くれてはやらんがな!

 

「一夏! この服とこっちの服、どっちがいいと思いますか?」

 

 箒が手にとって差し出してきたのは、紺色のデニム地のミニスカートと黒いロングスカート。

 

「ミニスカートで」

 

 ほとんど即答した。

 

「……ちなみに、理由をお聞きしても?」

 

「俺が見たいから」

 

 ミニスカ姿の箒。確かにIS学園の制服もミニスカートなのだが、私服で見るミニスカートはまた違った風情(?)がある。ついでにオーバーニーソックスとか履いてくれたら俺が喜ぶ。

 

「そうですか……。なら仕方がありませんね」

 

 自分で言っておいてアレだが、それは仕方がないのか?

 

 

 

 時間はあっという間に過ぎて、太陽は天辺を少しばかり通り過ぎた頃合いである。そろそろ昼食にしようか、という事になり、「レゾナンス」の中にあるフードコートに移動した。

 

「何食べたい?」

 

「そうですね…。では、また一夏にお任せします」

 

 箒ちゃんは随分と機嫌が良さそうで、語尾に音符がついていそうな勢いだった。楽しんでくれているようで何よりである。

 

「じゃあ、……あの店にしようか?」

 

 判断を委ねられた俺は、少し歩いた先にある小洒落たオープンカフェに行くことにした。料理も旨く更には値段も手頃な事から、学生にも人気の店である。

 

 店に入ると、すぐさま席へと案内された。昼食時としては早めの時間だからか、適度に混んでいた。

 

「ご注文は?」

 

「すみません、本日のランチってなんですか?」

 

「はい、本日はスパゲッティー・アラビアータ、デザートはレアチーズケーキとなっております」

 

「じゃあ俺はそれで…箒はどうする?」

 

「私もそれでお願いします」

 

「かしこまりました。本日のランチを二つですね。お飲み物は?」

 

「俺はアイスコーヒーを」

 

「私はアイスレモンティーをお願いします」

 

「はい、お持ちするのはお料理と一緒でよろしいでしょうか?」

 

「はい」

 

 店員は注文を復唱し、確認してから戻っていった。

 

「注文が手慣れてましたね、一夏はこういった店にはよく来るのですか?」

 

「まあ、ね。仕事相手と打ち合わせとかで」

 

「……お仕事、ですか?」

 

「あー、うん、まぁ。その辺りはあまり聞かないでいてくれると助かる」

 

「そうですか、分かりました。でも、いつかきっと、私にも教えて下さいね?」

 

「ああ、きっとな」

 

 

 

 昼食を食べ終え、またしばらく買い物をしてからゲームセンターに行った。箒はあまりこういったところに来た事が無いらしいので、格ゲー系統は除外。

 

「リズムゲームでもやってみるか?」

 

「…りずむげぇむ?」

 

「……取り敢えずやってみようか」

 

 実際にやってみた方が早いだろう。

 

 協力プレイの可能なタイプを選び、100円玉を二枚入れてスタート。箒は初心者のため難易度はもちろんイージーモード。選択すると、「えー、イージーモードぉ?」「イージーモードが許されるのは、小学生までだよねぇー?」という、イラッとくる音声が流れたが、無視して決定ボタンを押した。

 

「ほら箒、今だよ!」

 

「えっと、こ、こうですか!?」

 

「そうそう、その調子……っと!」

 

 箒はなかなか筋が良かった。

 

 

 

 帰り道。

 

 夕暮れに染まる街を、お互い何を話すでもなくモノレールから眺めていた。窓の外を眺める箒の夕暮れ色に染まった横顔は、まるで一枚の精巧な絵画のように綺麗で、思わず見惚れてしまっていた。

 

 どれ位そうしていただろうか。そろそろIS学園に到着する、というあたりで、箒がこちらを振り返って言った。

 

「今日はありがとうございました」

 

「……え?」

 

 見惚れていたので、思わず呆けた声を出してしまった。

 

「だって今日は、こんなに楽しかったですから。だから、」

 

 ありがとうございました、と。見た者すべてを虜にするような微笑みを浮かべながら、そう箒は言った。柄にも無くどぎまぎしてしまった。心臓が早鐘を打ち始め、顔の熱さは自分で分かるほどである。そうして混乱していたから、それ(・・)に気が付くのが遅れた。

 

「これはお礼です」

 

 その言葉を聞いて頭が理解する前に、箒の顔が目の前にあって、そして頬に感じる柔らかな感触。

 

「え、ちょっと待って、今のって」

 

「お、お礼ですっ! 唇は、また今度に……」

 

 そう言ってそっぽを向いた箒の顔は、朱に染まっていた。きっとそれは、決して夕日のせいだけでは無かっただろう。初めてのキスというわけではないというのに、どうしてこうも胸が高鳴るのか。

 

 ……わかってるくせに、と声が聞こえた気がした。それを聞こえないフリをして、俺は窓に目を向けた。

 

 IS学園は、もう窓から見える距離にまで近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週が明けて月曜日、朝のホームルーム。

 

「はーい、今日は転校生を紹介しますね~」

 

 相変わらずのどこかおっとりとした口調で、山田先生が言った。刀奈姉からの情報はやはり本当だったらしい。中国の代表候補生らしいが、……穏便に済むといいなぁ、切実に。

 

「はい、入ってきてください」

 

 山田先生の声にがらりとドアが開き、こげ茶色のツインテールの小柄な少女が入ってきた。……顔見知りだった。最近知り合いに出くわすパターン多くない?

 

 彼女は教壇の前に立つと、堂々と口を開いた。

 

「ほとんどの人は初めまして、一部の人には久しぶり。中国から来た凰(ファン) 鈴音(リンイン)よ。これから、よろしく頼むわね!」

 

 

 

 

 

 LHR(ロングホームルーム)が終わり、休み時間。鈴が俺の席の前までやってきた。

 

「ひさしぶりね、一夏。元気だった?」

 

「ああ、そっちも相変わらず元気そうで何よりだよ、鈴」

 

 いえーい、と互いにハイタッチを交わす。緩いノリで付き合える友人って良いよね、と思う今日この頃だった。それが気心の知れた相手なら尚の事だ。学校全体を見回しても一人として同性の生徒がいない、という状況は少なからず堪えるものがある。

 

「ねぇねぇ、一夏くん。凰さんと知り合いなの?」

 

 隣に座っている清香が言うと、周りにいた女子が聞き耳を立てたのが気配でわかった。

 

「まあね」

 

「ちなみに、どんな関係!?」

 

 やたらと食い付きが良い。やはり女子というものは色恋沙汰が気になるものなのだろうか。でもなぁ、

 

「…んー……」

 

 どんな、と言われても。

 

「同じ学校にいた、どこにでもいるような友人関係だよ」

 

「生憎とあたしとこのバカはただの友達よ。」

 

 バカとは何だ。

 

 兎にも角にも生憎のところ、俺たちの関係は恐らく彼女たちが期待していたようなものではないのだった。

 

「ホントに~?」

 

「本当よ」

 

 今日の清香は粘り強いようだった。或いはクラス中の女子生徒から浴びせられる無言のプレッシャーによるものかもしれない。

 

 だから違うってば。浮いた話なんてないからそろそろ勘弁してくれないだろうか。鈴と二人、顔を見合わせてため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 





 めっきり冷え込んで参りましたが如何お過ごしでしょうか、斎藤一樹です。10月分の更新をお届けします。

 今回は鈴ちゃんの転校回……の予定でした。大体その通りではあるのですが、作中の時系列の整理に展開を巻きで行こうという思考が加わった結果、気付けば鈴ちゃんメインの筈が半分以上箒ちゃんのデートで話が進んでいました。流石メインヒロイン(暫定)つよい。

 ところでこの作品、プロット段階でハッピーエンドとバッドエンドの二種類が存在してまして、多分ハーメルン版はハッピーエンドで終わると思いますが…ぶっちゃけまだ確定してません。とは言え決定的な分岐はまだまだ先なので、暫く一夏くんは平穏で過ごせることでしょう。一夏くんの未来はどっちだ。

 次回辺りからゴールデンウィーク編突入と行きたいところですが、果たして。それではまた次回お会いしましょう。


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21.セシリア・オルコットの憂鬱

 

 鈴が転入してきた日から2日後の放課後。緊急会議と言う事で招集をかけられた俺は、ホームルームが終わるとすぐにのほほんさんと共に生徒会室に向かった。既にそこには、刀奈姉と虚さんがいた。

 

「来たわね」

 

「では、私はお茶を淹れてきますね?」

 

 ソファーに座っていた虚さんが立ち上がり、生徒会室に備え付けられたガスコンロへと歩いていった。

 

 

 

 虚さんが淹れたお茶が全員に行き渡り、それで口を湿らせてから刀奈姉が口を開いた。

 

「さて、今日集まってもらったのは、三週間後のクラス対抗戦についての事よ」

 

 ゴールデンウィーク後の事か。それを緊急召集をかけてまで今言うって事は余程の事があったか。

 

「何か問題でもあったのか?」

 

 基本的に、手順の確認ぐらいならメールで済ませればいい話だ。そうしない、或いは出来ないのかもしれないが、なんにせよ理由があるはずだ。刀奈姉は口の前で両の指を絡めて口元を隠す、所謂「碇ゲンドウスタイル」で言った。

 

「一夏君。……『亡国機業(ファントム・タスク)』、という組織を知っているかしら?」

 

 亡国機業。

 

 知っているさ、勿論。

 

 そう返してやりたかったが自重する。これではただの八つ当たりだ。

 

 刀奈姉が言うにはどうやらその亡国機業(ファントム・タスク)が、クラス対抗戦に合わせてこのIS学園に襲撃をかけようとしている可能性があるらしい。どこからの情報かは知らないが、俺が知る必要はないだろう。

 

「それで、その情報の信憑性は?」

 

「60〜80%ってとこね」

 

 想像以上に高いな。

 

 来るかもしれない、と言うよりも来ないかもしれないと言い換えた方が良さそうだ。

 

 だからこそ、対策を練る……或いは伝えるために俺たちが呼ばれたのだろうが。

 

「取り敢えず万が一に備えて刀奈姉に待機してもらうとして」

 

「まあそうなるわよねぇ……」

 

 元よりそのつもりだったであろう刀奈姉は、その日私授業あるんだけどなぁ、と全く残念そうに見えない表情でぼやいた。どう見ても堂々とサボれることを喜んでいる顔だった。

 

 こんなんでもこの学園における最強戦力の一角である。仕事は真面目にやってくれるだろうし、逆に刀奈姉が対応出来ないレベルの相手はそれこそ千冬姉が相手をするぐらいしかないだろう。今の俺では到底無理だ……いや、零落白夜でワンチャン狙いぐらいは出来るか。

 

 兎も角。

 

 現状の最大戦力である刀奈姉だが、彼女が対応出来ないケースも存在する。そう、多方面から同時にアプローチをかけられる場合である。刀奈姉とて身体は1つしかないのだ。

 

 だからこそ、そちらは俺達が対応することになるのだろう。フィジカルな攻撃には俺が、システム関連への攻撃は虚さんが。もしかしたらのほほんさんもそちらに加わるのかもしれない。

 

 でももう一手欲しいよな……。

 

「タッグマッチ形式にしたとすれば、時間稼ぎぐらいは出来ると思うか?」

 

「んー、厳しいんじゃないかしら。まだ入学して一ヶ月よ、クラス代表レベルとは言ってもこの時期じゃあまだ技量は初心者と大差無いだろうし。被害が増えるだけで終わる可能性が高いわ」

 

 再来月の個人トーナメントの時なら行けるかもしれないけど、と刀奈姉。

 

「だよなぁ……」

 

 結局。

 

「俺たちが一秒でも早く駆けつける、って手しか無さそうかねぇ」

 

「そうねぇ……」

 

 受け身で動くしかない、というのが中々に悩ましい話だった。それならせめて、動きやすくなるように準備をしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀奈姉から呼び出された翌日。

 

「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう……その前に。そうだな、織斑とオルコット。あと鳳も専用機持ちだったな?」

 

「はい」

 

「よし、ではまずお前達3人に実際にISによる飛行を実演してもらう……前に出て来てISを展開しろ」

 

 千冬姉の指示に従い、まずは前に出る。

 

 今回の授業は入学後初となる、実際にISを使った授業である。つまり専用機を持ってない生徒達の殆どにとっては、入学後初めてISを触れることになる機会となるだろう。手続きに則って申請すれば放課後に学園所有の訓練機を借りて練習することも可能だが、何分機体の数に限りがあるため予約待ちが長い事もあり、一年生の多くはまだ申請していないものと思われる。そんなわけで、まずは動かせる専用機持ちが実際に見せた方が早いだろうという判断だろうか。

 

 ISを展開する。左腕の白いブレスレットを右手で掴むようにして意識を集中させる。思い描くイメージは、自分の身体に鎧を纏う感じ。このイメージによる展開というものが意外と曲者で、なかなかイメージがわかないのだ。

 

(行くぜ、白式)

 

 心の中で呟くと同時、浮遊感が広がる。左腕から広がる、身体を覆うようなやわらかな暖かい光。光が消えると、白式が展開されていた。

 

「遅いぞ、織斑。熟練したIS操縦者は展開まで1秒もかからん」

 

 無茶言うなぁ……。

 

「熟練も何も、俺はISを操縦し始めてから一ヶ月も経ってないんですが」

 

「今すぐにやれとは言わん。だがいずれ出来るようになれ」

 

 これでも、大分速くなったほうなのだが。

 

 そう思ったのが顔に出ていたのか、苦笑しながら千冬姉が言った。

 

「……心配するな、展開までの時間は乗ってる内に勝手に短くなる」

 

「あ、そういうものなんですね」

 

 拍子抜けだった。

 

「それでは飛んでみせろ。目標は上空50mだ、行け」

 

 ぱんぱん、と手を叩きながら千冬姉が言った。

 

「お先、失礼しますわね」

 

 まず飛び立ったのは、セシリア・オルコットのブルー・ティアーズ。飛行するだけなので、あのスナイパーライフル……スターライトMk−3だったか? ともかく、あの銃は持っていない。

 

 隣に立つ鈴を見る。鈴が装着しているISは、甲龍(シェンロン)と言うらしい。腕が伸びて火炎放射機で敵を焼きそうな名前だった。

 

 甲龍は中国製の第三世代機らしい。基本カラーは黒と赤紫。俺の白式やセシリアのブルー・ティアーズのものとは異なり、足首から下が膝から下の装甲と一体となっているタイプだ。つまり「足で踏ん張る」という動作等、もっと言うと地上での歩行等の動作は基本的には出来ないわけだが、ISの主戦場が空中である事を考えると歩行能力の有無というのは重要ではない。更に足首の関節を設けないことによる強度の上昇や、空気抵抗の軽減等といったメリットもある。

 

 難点は、扱いにくい事。量産型機をはじめとして、多くのISは人体と同様に足首のある構造を採用している。その理由は、扱いやすいから。人間の足首には当然のように関節があり、人間は地面に足をつけて生活している。そうした生活に慣れている故に、常に足首を伸ばした状態で固定されるこのタイプはあまり採用されていない。

 

「んじゃ、次はあたしが行くわね?」

 

「おう。行って来い……落ちてくるなよ?」

 

「落ちないわよ!」

 

 脚部と腰部リアスカートアーマー、サイドスカートアーマーに内蔵されたスラスターに火を灯し、一気に上昇していく甲龍を見上げながら、空間投影型のメニューウィンドウを開いて白式のウイングスラスターの出力パラメーターを僅かに調整する。大掛かりな調整は専用の機材が必要だったりするが、細かな微調整は装着者(パイロット)が戦闘中に変更できるようにメニューウィンドウから変更できるようになっているのだ。

 

 出力を若干制限して、操作性を上げておく。普段は高機動戦闘に慣れるためにスラスターを常に全開にして使っているのだが、今はその必要も特にはないだろう。

 

 鈴が目標高度まで上がったのを確認し、俺もぐっと脚に力をこめつつ背部ウイングスラスターに火を入れる。そして、飛び上がるようにすると同時に背部のウイングスラスターを噴射、続けて脚部スラスターの角度を調節して点火させる。

 

 教科書では『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』とか書かれていたが、訳がわからなかったので結局俺は普通にスラスターで飛ぶイメージを使っている。今までやってきたゲームとかでいろいろイメージは得ているので、俺にはこちらのほうが断然わかりやすい。この方法を思いついたとき、恐らくはISを操縦するような女子はそういったゲームをやらないからあんな面倒なイメージが必要なのではないか、と思ったほどだ。

 

 上空40mに到達……スラスター出力を下げる。49mに到達したところでスラスターを素早く逆噴射して、丁度高度50mで静止する。

 

「ずいぶんと速いわね?」

 

「そりゃ、高機動型だからな。というか速くなけりゃこの機体はまともに戦えないし」

 

 上空で俺と鈴が喋っていると、下から千冬姉の声が響く。念のために言っておくと、インカム越しにである。

 

「織斑、凰、オルコット。急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地上10cmだ」

 

「了解です。では、お先に」

 

 おしゃべりの輪に加わっていなかったセシリアが、先ほどと同じように一番最初に降りていく。うーむ。どうにも壁を感じる気がするんだよな、何となくだけど。微妙に避けられている、というか。クラス代表決定戦でのあれこれはもう決着がついた筈なんだが。

 

「上手いもんだ。さすが代表候補生」

 

「あら、あたしだって代表候補生よ?」

 

「そういえばそうだったな」

 

 

 

 その後、特にアクシデントもなく。二人とも無事に地上へと戻って、授業が続行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりに照らされる部屋の中、セシリア・オルコットはベッドの上で一人悩んでいた。同居人は既に夢の中、明かりはとうに落とされている。

 

「……織斑、一夏…………」

 

 口に出して、呟いてみる。ただそれだけで胸は早鐘を打ち始め、胸は苦しくなる。今までこんな事は無かったのに。知らない、分からない。この想いは何なのだろう?

 

 否。

 

「……これが、『恋』というものなのでしょうか…………?」

 

 その呟きは、誰にも届くことなく消えてゆく。自分が恋をするのは初めてだが、本で読んだ知識から判断すると恐らくそうなのだろう。しかし、今まで感じてきた「男」というものへの嫌悪感、悪感情がそれを認めようとしない。

 

 織斑一夏は、父のような男とは違う。あの戦いで、その事は充分に理解しているつもりだった。それでも、胸の内の想いを受け入れられない。

 

「……まったく、わたくしも大概難儀な性格ですわね…………」

 

 ため息とともに誰にとも付かない愚痴を吐き出す。そしてセシリア・オルコットは、何かを頭から追い出すように頭から布団をかぶった。

 

 

 

 夜は、更けていく。

 

 

 

 

 





 こんにちは、斎藤一樹です。いよいよ寒くなってきましたね、私の懐は年中冬模様です。雪解けが遠い。そんなこんなで11月分のISATをお届けします。この後書きを書いてるのが夜中のためテンションが妙に高いです。自覚はあります。なにせこうしてなにも考えずに文章を書いてると筆が進む進む。毒にも薬にもならない文章ですが、よろしければお付き合い下さいませ。

 今回は言うなればゴールデンウィーク編の前の在庫一掃セールのような回です。複数話から切り貼りした上で書き直す、という形で今回のお話は出来上がっています。エコロジーの精神ですね。違うか。

 今回の話をざっくりと纏めると、「楯無、対策を考える」「一夏、空を飛ぶ」「セシリア、恋をする」の三本です。こう書くとサザエさんみたいですね。

 まず1つ目がゴールデンウィークの後に来るクラス対抗戦についての対策とかのお話。伏線っぽい事も仕込んではおいたものの、このフラグが使われるのはいつになる事やら……。というかこういう対策練る話自体が強度のめっちゃ高い襲撃フラグですよね、あまり折れる例を見ないような気がします。

 2つ目は授業風景です。原作だと箒ちゃんが山田先生からインカムを奪ったり、降下時の停止が間に合わず一夏君がグラウンドに大穴を開ける話ですね。本作ではこの時点で鈴ちゃんがいる上に一組に来たので、当然ながらこの授業にも鈴ちゃんが出席しています。それとは別に本作におけるISの独自解釈も含めた説明回、という側面もあったり。とは言え、この作品でのISについてはこの話を含めてもそこまでがっつり説明してないので、どこかしらで説明を挟まないといけないとは思っています。思っては、います……。

 3つ目は今話のサブタイにもなってる部分ですね。サブタイになっているのに一番短いとはこれ如何に、といった感じのセシリアがメインの申し訳程度のラブコメ描写です。嘘みたいだろ、この後書きより短いんだぜ……。現在の彼女は自分の感情との折り合いがつかず、一夏君と程々に距離を取っている状況です。良く分からないけどモヤモヤするから取り敢えず近寄らないでおこう、みたいな感じ。原作では積極的に一夏に話しかけていた上述の授業のシーンで、一夏君が鈴とばかり話していて影が薄かったのはこの辺りが影響しています。まだ暫く彼女は悶々とし続けるのではないでしょうか。

 そう言えば最近はアズールレーンというゲームにハマっています。楽しいですねアズレン。サービス開始した9月中旬から大体1週間した辺りで始めたのですが、ここ最近はもうFGOをあまりやらずにアズレンばかりやってます。シューティング系のソシャゲを初めてやったのもあって、楽しくて楽しくて。女の子達も可愛いですね、私はプリンツ・オイゲンとケッコンしました。トラック鯖でプレイしているので、どこかで見かけたらよろしくしてやって下さい。プレイヤー名はこちらのペンネームと同じです。

 いつになく長い後書きとなりましたが、今回はこの辺りで。質問や感想も募集しておりますので何かあれば是非。それではまた次回のお話でお会いしましょう、お付き合い下さりありがとうございました。


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22.ロマンと実用性

 そんなこんなで、ゴールデンウィーク初日。箒は実家である篠ノ之神社に顔を出してくるとのことで、朝から出かけている。一泊二日らしいから今日は帰ってこないだろう。

 

 つまり一人っきりだ。相手が箒ちゃんとはいえ、女の子と同居生活というのはそれなり以上に気を使う。

 

 だが、今日の俺は一人きり。思う存分に羽を伸ばさせてもらうとしよう。

 

 ……しかし同時に寂しくも感じる。

 

 ここ一月ほど箒が一緒にいるのが当たり前のようになってきたからか、彼女がいない一人きりの部屋というのはどこか淋しい。同居してた彼女が出て行った後の部屋というのは、こんな感じなのかもしれない……いや、明日には帰ってくるはずなんだけどさ。

 

 ここは一つ気晴らしに体を動かしに行くことにしよう。IS訓練用アリーナの解放時間は10:00からだから、そろそろ開く時間だろう。

 

 部屋に備え付けられたタンスからISスーツを取り出し、服を脱いでから身に付ける。数日後には新しいISスーツが届く予定だから、これを身につけるのもあと数回なので、感慨深いものがあったり無かったり……特に無いな。

 

 そう、新しいISスーツが来るのだ。ヘソの出るぴったりした半袖シャツにスパッツといった形の男性用試作型ISスーツは、着る側としてはかなり恥ずかしいものがある。上半身裸で水泳パンツ一丁の方がまだマシだ。これが着エロというものだろうか。だとしても自分が着てどうするという話である。

 

 その辺りを束さんに言ったところ、じゃあ新しいのを作っちゃおうという話になった。開発者が身近にいるという事の有り難みをこんなところで感じるとは思わなかったが。なお、対価としてこのぴっちりとした試作型スーツを着ている俺の写真を要求されたことは完全な余談である。

 

 ISスーツの上から制服のズボンと上着を羽織り、軽い荷物を持ってから部屋を出た。

 

 束さんから新装備(とその他諸々)が届くのは4日後の予定だ。追加装備が届いてから白式の調整をまとめて行うつもりなので(と言うより、今調整を行っても追加装備の搭載後にまた調整を施さなければいけないので二度手間になってしまうのだ)、マシントラブルが起こらない限りはメンテはお預けである。

 

 廊下をアリーナへと歩いていると、向かい側から見知った顔が歩いてきた。

 

「あれ、一夏くん?」

 

「ん? 清香か。お出かけかい?」

 

 廊下で声をかけてきたのは、一年一組出席番号一番、ソフトボール部所属(だったはず)の相川清香だった。

 

 茶色掛かった髪を肩口までのショートカットに切り揃えた彼女は、健康的に日焼けした肌と合わせていかにも「部活に打ち込む活発な美少女」といった感で、なかなかに魅力的である。

 

「うん、静寐たちと遊びにいこうと思って。い、一夏くんはアリーナに?」

 

 うん、俺を下の名前で呼ぶときに照れが残っているのも初々しくてポイント高い。

 

「ああ、今日は予定が無いからな。明日からは数日間こいつを動かす暇が無さそうだから、今日のうちに動かしておこうと思って」

 

 ぽんぽん、と左腕のブレスレットを叩いて示しながら言う。

 

「そうなんだぁ〜……。専用機持ちも大変なんだね……」

 

「そうでもないぞ? これはこれで楽しいぜ……まぁ大変なことも多いけど」

 

 専用機持ちと言うのは、この世界では「その気になれば国を一個ぐらい滅ぼすことも出来る存在」であることと同義である。だから各国家は自国のパイロットを好条件を出すことで繋ぎ止めようとするし、国によっては家族などの大切な人を人質にして繋ぎ止めさせることもあるという。

 

 ところが、俺は専用機こそ持っているが未だどこの国家にも属してはいない。それもその筈、俺の機体である「白式」はISの発明者である篠ノ之束のハンドメイドにしてハイエンド。最高峰と思われる技術を持って作られた、篠ノ之束の機体だ。

 

 つまりどこの国の技術によって造られた機体でもないので、どこの国にも属していないということなのだが。

 

 問題は、この機体が篠ノ之束の手によるものだという事。絶対的保有数が限定されているISを一機多く所有できる、というメリットも去るものながら、その機体がISの発明者である“篠ノ之束”の作ったISとなれば、喉から手が出るほど欲しいのも頷ける。

 

 しかしながら生憎と、俺はどこかの国に所属する予定はない。「どこかの国の後ろ盾がある」というのは重要な事ではあるが、こちらの後ろ盾は“あの”篠ノ之束だ。後ろ盾という目で見れば、そのカードはほぼ最強といってよい。もっとも、束さん自身はそう行った政治的要素を絡めた駆け引きが苦手だし(宇宙開発を目的として作られたISが軍事用に転用されてしまっているのがその良い例である)、基本的には人と争うこと自体を嫌う人なので、そのカードを動かすのは俺の役目なのだが。

 

 ……もっと言えば、“篠ノ之束”というカードは強力過ぎて迂闊に切れない手札という、小回りの効かなさも内包している。もっとも、それに関してはどこかの国がバックに付いた場合でも同じか。基本的には、チラつかせて相手を動かすというのがこのカードの使い方である。

 

「そうなの? 頑張ってね!」

 

 その辺りの事情を知らない清香は、明るく笑いながら言ってのけた。

 

「ありがとな。清香も、楽しんでおいで」

 

「うん! 行ってきます!」

 

 輝くような笑顔で頷いてから、清香はおどけて敬礼しながら言った。

 

「……行ってらっしゃい」

 

 ぱたぱたと走り去っていく清香を見送りながら、言う。果たして、俺の今の言葉は届いたのかどうか。

 

 本当、見ていて飽きない娘だ。

 

 

 

 

 

 清香を見送ってから、俺は当初の予定通りにアリーナへと向かった。

 

 予め部屋でISスーツを着て来ていたので、更衣室の前を素通りしてそのままアリーナへと向かう。名目上は共学を掲げているこのIS学園だが、そのISを扱う事が出来るのが今まで女性しかいなかった……それが当然であると思われていたため、その実態は限りなく女子校に近い。何が言いたいのかと言うとこの学校は男子生徒が存在することを想定していない作りであり、具体的に述べるとそれは男子更衣室及び男性用浴場が存在しなかったり男子トイレの数が校舎の広さに対して極端に少ないという点となって表れている。

 

 更衣室に関してはアリーナに備え付けられている幾つもの更衣室の内の一つを専用の更衣室として割り当てられているものの、男子浴場と男子トイレに関しては如何ともし難い問題ではある。なにせ部屋のシャワールームには文字通りシャワーしか付いておらず、それ故に毎日とは言わないでもたまには湯船にのんびりと浸かりたいと思うのは、無理からぬことだと思うのだ。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと、のんびりと風呂に入りたい。……ゴールデンウィークの間に一回ぐらい、内地に戻って銭湯にでも行きたいものである。うん、そうしよう。絶対そうしよう。

 

 

 

 

 

 アリーナに入ると、驚いたことに先客がいた。

 

「あ、あら、一夏さん?」

 

「……セシリアか。こんな早くから自主訓練かい?」

 

 まだ午前10時30分を過ぎたぐらいである。十分に早い時間だと言えるだろう。

 

「ええ、まあ。でも、こんな早く…というのはあなたも同じでしょう?」

 

「ま、それもそうだ」

 

 実にもっともな意見ではある。

 

「そういう事で俺もちょっとここを使わせてほしいんだが、いいかい?」

 

「構いませんわ。ああ、それと出来ればでいいのですが…後でわたくしの模擬戦の相手をしていただけませんか?」

 

「いいぜ。あー…それじゃあ午前中はお互い自主練って事で、模擬戦は昼飯食ってからで良いか?」

 

「承知しましたわ。では、それでお願いします」

 

 そう言うと、セシリアは再びブルー・ティアーズからビットを分離させた状態でスターライトMk-3を構え、

 

「お行きなさいっ、ブルー・ティアーズ!」

 

 ビットを操作しつつその手に持ったスターライトMk-3を使い、仮想ターゲットとして出現したバルーンを破壊していっている。しかし、

 

「っくう………! やっぱり上手くはいきませんわね……」

 

 バルーンの周囲に展開するよう動いていたビットの軌道が突然乱れ、そのまま動きを止めた。どうやら、機体を動かすのと同時にビットも並行して操作しようとしているらしい。そういえば、と以前にクラス代表を決めるために行った試合を思い出す。そういえば確かにあのときも、彼女は機体を動かしながらのビット操作は行っていなかった。なるほど、確かにそれは克服すべき弱点だろう。

 

「そんじゃ、こっちもぼちぼち始めますかね……っと。いくぜ、白式」

 

 左手首のブレスレットに右手を添え、念じるようにして白式を展開。

 

「菫、機体のコンディションは?」

 

《特に問題はありませんね。システム、オール・グリーンです》

 

「上等だ」

 

 右手に雪片弐型をコールし、ぶん、とその場で軽く振って感覚を確かめる。よし、問題ないな。

 

「菫、この機体の詳細なスペックデータを出してくれ」

 

《了解しました》

 

 目の前にホロウィンドウが展開され、白式のスペックデータが表示される。まだまだ俺はこの機体を扱いきれていない、って事がこうしてみると明らかに分かる。

 

「そう言えば牡丹、武装って他に量子化(インストール)できないの?」

 

《うん、普通のはね~? 篠ノ之束(おかーさん)が作ったやつ以外は受け付けられないみたい》

 

「不便だな」

 

《ちなみに、マスター以外の方が私たちのデータを閲覧したり調整しようとして端末と接続した場合、ウイルスによりその端末のデータは完膚なきまでに破壊されます》

 

「…なんともまぁ物騒な……」

 

《それだけ機密性に重きを置かれている、と考えて下さい》

 

「ま、当然と言えば当然か」

 

 つまり追加装備が欲しければ束さんに頼めば良い、ってことか。

 

 現状を確認したところで、改めて。

 

「じゃ、行きますかね」

 

 ぐっ、と足を踏みしめてからジャンプするような動作で地面から急上昇。普通の飛び方に加えて、宙返りにバレルロールと曲芸じみた動きも試してみた。白式を動かすのはこれで10回目ぐらいだが……やはりすごいな、この機体は。イメージしたとおりに機体が動く。入試という名目のデータ収集で乗った打鉄とは運動性が全然違う。

 

 

 

 

 

 それじゃあそろそろ、トレーニング開始と行こうか。

 

「菫、ターゲットバルーンを20個出して」

 

『分かりました』

 

 菫がこのアリーナの訓練用プログラムにアクセスして、ターゲットバルーンを20個射出した。ふわふわと漂っているバルーンをすべて破壊すると訓練が終了となる。

 

 訓練用のプログラムはこれ以外にも様々な種類があるのだが、何とIS学園に所属している生徒はこれらの訓練プログラムを無料で無制限に使用できるというのだから、なんとも気前のいい話である。

 

「さあ……振り切るぜ!」

 

 全スラスターの推力を後方に集中展開。ウイングに内蔵されたスラスターも後ろに振り分ける。一息に25メートルほどの距離を詰め、すれ違いざまにバルーンを斬り裂く。そして背部のウイングで方向を変更し、またある時は手足を動かしてのAMBACと呼ばれる技術を使い、一つずつ正確に破壊していく。

 

 そして。

 

「牡丹、タイムは?」

 

《64秒だよ。すごい!》

 

「いや、まだ遅い」

 

《それでも初心者で、しかも近接用ブレードのみの使用としてはありえないほどの早さです》

 

「まあ、確かにそうかもしれないけどさ……」

 

 こんなんじゃ、千冬姉や刀奈姉にはまだまだ届かない。もっと強く、もっと速くならないと。

 

 

 

 

 

 それから暫くランダムな位置に射出されるバルーンを落とし続けたが、

 

「でも、やっぱりブレード一本だけじゃキツいよなぁ……」

 

《射撃戦用の武器が欲しい、ってこと?》

 

「まあせめて、牽制ぐらいはできないとね。どうしても動きが単調になりがちだし、避けられ易くもなるし。絶対防御無効化能力のあのビーム、こっちのシールドエネルギーも消費するんだろ? だったら、必中を狙わないとな」

 

《なるほど、確かにそうですね》

 

 束さんに依頼する武装を考えながら、俺たちはアリーナを後にした。

 

 さ、昼御飯食べたらセシリアとの模擬戦だ。張り切っていこう。

 

 

 

 

 

 

 




 どうもこんばんは、斎藤一樹です。何と11月2回目の投稿です。吃驚しましたか? 私はしました。ええ、作者本人が多分一番驚いてます。という訳で当初の月1投稿という予定を変更し、年内は巻きで行く方針で1つ。

 中途半端なところで切られていますが、これは本来一話だったものが一万字を越えたため分割したからです。続きは明日、12月1日の20時に投稿予定ですのでしばらくお待ちください。

 えーとなんだっけ、そうだ今回の話の解説でもいたしましょうか。今回はゴールデンウィーク一日目の午前の部です。清香ちゃんとかが来たりもしましたが、取り敢えずゴールデンウィーク1日目のイベントとしてはセシリアとの模擬戦がメインです。次回に続くぅ!

 という事でまた明日お会いしましょう。ではでは。


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23.COUNTERATTACK

 

 

 昼食の後。

 

「さて、ルールは普通に『シールドエネルギーが0になったら負け』っていうのでいいよな?」

 

「ええ、それでいいと思いますわ。今回は勝たせていただきます。これ以上、素人に負けるわけにはいきませんので」

 

 キッ、と音が鳴りそうなほどに俺を睨みつけるようにしながらセシリアが宣言する。恐らくは、代表候補生としてのプライドとかがあるのだろう。ISの操縦経験というという点では確かに素人という他無いため、反論は控えることにした。

 

「ま、そう睨みなさんな。綺麗なお顔が台無しだぜ?」

 

「あら、失礼。睨んでいたつもりは無いのですが……。あと、あまりそういう軟派な台詞は吐かない方がよろしいと思われますわ」

 

 うーむ、あまり動揺していなさそうだな。つまらん。

 

「…………ご忠告、痛みいるよ」

 

 あれだ、ネタにマジレスされた気分だ。

 

 

 

 

 

 

 さて。

 

「それじゃ、そろそろ始めるとしようか?」

 

「ええ、お願いしますわ」

 

「了解だ。…牡丹、アリーナにアクセスして」

 

《オッケー! よし、アクセス完了っと! 模擬戦モードを起動するよ?》

 

「ああ、頼む。制限時間は無制限、3カウントの後にブザーを鳴らしてくれ」

 

《りょーかいだよ!》

 

 牡丹が言うと、アリーナの空間投影型掲示板に「00:00」という試合時間の表示(今回は制限時間を無制限にしたため、カウントアップ式になっている)と、試合開始までのカウントダウンが表示される。同時に、アリーナのスピーカーから電子音声によるカウントダウン(英語である)が始まる。

 

《Three! Two! One!》

 

 そして《ヴィーッ!》と、試合開始を告げるブザーが鳴った。

 

「さぁ、行きますわよ!」

 

 真っ先に動いたのは、セシリアのブルー・ティアーズの方だった。後方へと下がりつつ、背部に装備された2基のビットの銃口を肩ごしに正面に向けて、レーザーを連射してくる。さしずめレーザーキャノンと言ったところか。

 

 雨霰と降り注ぐレーザーを躱しつつ、俺は雪片弐型を呼び出す。

 

「斬り裂く!」

 

 脚部と背部のスラスターの方向を調整して、一気に距離をつめる。

 

「そこっ!」

 

 セシリアの放ったスターライトMk−3のレーザーを、PICを素早くマニュアル操作でフルに駆使して急制動をかけ、更に右脚と右肩のスラスターのみを吹かして姿勢を無理矢理変更して回避する。

 

「……ぐぅッ!」

 

 急加速と急制動、急旋回を連続して行ったため、PICで相殺しきれなかったGが身体をギシギシと軋ませた。堪え切れず、食い縛った歯の間からうめき声が漏れる。

 

 しかし、休んでいる暇はない。ブルー・ティアーズの放つレーザーの雨は、今尚俺へと降り注いでいるのだから。

 

「お行きなさい、ブルー・ティアーズっ!」

 

 セシリアの声とともに、腰部リアスカートアーマーに装着されていた4基のビットが射出される。どうやら、背部の2基はそのままキャノンとして用いるらしい。

 

 ISの起動と同時に展開されているハイパーセンサー(視野の拡大・視線認識式のズーム機能等を備えた複合型センサー)の展開レベルを最大まで上げて、セシリアの駆るブルー・ティアーズ(本体)のレーザーキャノンとスターライトMk−3、更に飛来するビットの各砲口とその向きを全て把握する。

 

 敵機にロックオンされた事を知らせるアラートが頭の中で鳴り響く。

 

 PICを制御して、仰け反るように身体を倒してレーザーを回避し、レーザーが途切れたタイミングで背部のウイングスラスターを展開・噴射、機体を強引に姿勢を直立状態へと戻す。

 

 やっぱりブレード一本だけっていうのは不便だ。さて、逃げてるだけじゃ埒も空かないからな。そろそろ、此方からも行かせてもらおうか。

 

 先ほどせっかく詰めた距離も、今のやりとりでまた離されてしまった。

 

 でも。

 

「……行くぜぇ…………っ!!」

 

 燃費こそ悪いものの、白式の加速性能は折り紙付きだ。それを活かさない手はない。

 

 再び喧しく鳴り響く、被ロックオンを知らせるアラートに顔を顰める。ブルーティアーズ(本体)が構えるスターライトMk−3とその背部から覗くレーザーキャノン、更には俺の周囲を飛行している4基のブルーティアーズ(ビット)から同時にロックオンされているらしい。

 

 各砲口の向きから割り出されたレーザーの予測線が、ハイパーセンサーで得られた外部情報に重ねるように網膜に投影される。そのデータを元に、セシリアの放つレーザーの軌道を躱していく。

 

 右から1発。

 

 高度を上げて回避。

 

 左斜め後方から1発。

 

 左にバレルロールする事により回避。

 

 正面からはやや上の方へと2発。

 

 先程とは逆に高度を下げる。

 

 頭のすぐ上を光線が通り抜けていく感覚に、背筋がひやりとする。

 

 普段の生活での情報処理量を大幅に越えた酷使に、脳がオーバーヒートしているような錯覚すらする。

 

 でも、まだだ。

 

 こんなものでは、足りないんだ。

 

 もっとだ。

 

 もっと速く。

 

 必要最小限の動きで避けろ。

 

 知覚領域を意識的に拡大するんだ。

 

 こいつなら、出来る。

 

 白式なら、それが出来るはずなんだ。

 

 

 

 

 以前のセシリアとの戦い……クラス代表をかけた決闘では、彼女自身の油断もあったからこそ一次移行ファースト・シフト後はこちらのペースに乗せることが出来たし、基本的に先手を打ち続けることも出来た。一次移行ファースト・シフト時に発動した〈単一仕様能力ワンオフ・アビリティー、〈暁破(デイ・ブレイク)〉によるシールドエネルギーの全回復による所もあるだろう。その結果の勝利であり、ある意味「勝つべくして勝った」とすら言えなくもない。

 

 それだけの条件が揃っていた前回とは異なり、今回からはそうもいかない。

 

 セシリアに油断はもう無いだろうし、結果として俺は今こうして抜き差しならない状況へと追い込まれている。

 

 ビットと本体による飽和射撃を回避することに手いっぱいで、ブルー・ティアーズへと刃を届かせることが出来ない。白式に射撃武器でもあれば話は別なのだろうが、無い物ねだりをしてもどうしようもない。

 

 レーザーの雨は、的確に俺の動きを封じるように射線を形成している。俺が通り抜けられない程度の隙間しか空いていない。具体的に言うならば、白式の0.3〜0.8機体分と言ったところか。ぎりぎりで見切って直撃こそ避けているものの、もう既に何発もかすり傷という形で被弾を重ねている。それに伴って、シールドエネルギーも初期設定量から大分減ってきている。

 

 これ以上食らい続けると、ダメージレースで勝てなくなる……勝負をするなら、今。

 

 発想の転換だ。

 

 隙間が無いなら、

 

「…………展開」

 

 こじ開ける!

 

 雪片弐型の刀身を展開。ビームの刀身を伸展させる。

 

「…突撃あるのみ、ってね……!」

 

 そして、その状態の雪片弐型で、自身へと迫るレーザーを薙ぎ払う。 

 

「……なっ…………!?」

 

 セシリアが声を漏らすが、取り敢えずは無視。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)とPICを利用した急停止を連続して行い、レーザーの射線の隙間、その空間がより大きいほうへと次々と移動して行く。どうしても被弾してしまうレーザーは雪片弐型を振るう事でかき消し、強引に空間を作る。

 

 一瞬でも気を緩めた瞬間に、俺は周囲を囲むビットとセシリア自身の手で蜂の巣になるだろう。そんな緊張感を抱いたまま、何度この作業を続けただろうか。

 

 遂に。

 

「せあああああああああああぁぁぁあぁっっ!!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 一閃、通り抜けざまに光が走る。

 

 回避しつつも徐々に距離を詰めてゆき、ある程度近づいたところで瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い強引に距離を詰めたのだ。

 

 セシリアの背後に回り込み、

 

「っらぁ!」

 

 再び接近し、下から上へと飛び上がりながら斬り上げる。

 

「……きゃっ!?」

 

 可愛らしい悲鳴を上げるセシリア。しかし実のところ、余裕が無いのはこちらの方だったりするのだ。

 

 雪片弐型のビームソード形態は『相手のエネルギーを掻き消す』という特殊能力を持っているが、その代償としてビームソードを発振している間は絶えずシールドエネルギーを消費していく。そして俺はというと、先程のセシリアの包囲弾幕を捌いて掻い潜る際にビームソードを展開し続けていたわけで。それ以前に少しずつ削られ続けていた分と合わせ、既に白式の設定されたシールドエネルギーは残り15%を割っていた。

 

 対してセシリアのシールドエネルギーは、まだまだ余裕があるはずだ。こちらがブルー・ティアーズへと与えた攻撃は今のところ2発のみ。俺の雪片弐型のような、シールドエネルギーを消費して発動する何らかの武装を使用していないとするなら、8〜9割は残っていると見るべきだろう。

 

 だから、この流れを手放さない。一気に、畳み掛ける!

 

「そこッ!」

 

 今度は上から斬り下ろす。セシリアがこちらを振り向くが、

 

「遅い!」

 

 その頃には既に俺は離脱している。

 

「もう、ちょこまかと!」

 

 ビットを操る余裕がないのだろう、宙にビットを漂わせたままセシリアは背部のビットとライフルを乱射する。

 

 だが、

 

「そんな破れかぶれの攻撃で、」

 

 ビットを使ったオールレンジ攻撃なら兎も角、今のセシリアはただの固定砲台と化している。回避することも頭から消えているらしい。

 

「やられるものかよ!」

 

 角度を変えながら、何回も斬り抜ける。エネルギー消費が激しいのでビームのエネルギーはカットしているが、雪片弐型は実体剣としても優秀だ。ビームソードより威力は落ちるものの、そこは手数でカバーすればいい。そのための、高速移動を活かした連続斬り抜けである。

 

 セシリアは相変わらず逃げようとせず、ライフルと本体に固定されたビットで懸命に弾幕を張っている。

 

 微かな違和感がちくり、脳を刺激する。

 

 思考の波間に浮かんだ小さな違和感は、次の瞬間にはハイパーセンサーから送られてくる情報の波に押し流された。

 

 PICを操作し速度をゼロに戻してからスラスターの角度を調整、ロックオンされていることを知らせるアラートが鳴ると同時に拡大された視界でライフルの銃口がこちらを狙っていることを確認したところでスラスターを吹かして急加速、レーザーが発射される直前に脚部スラスターを独立して稼働させて機体の軌道を変更、きりもみしながら接近してすれ違いざまに雪片で斬り抜ける。

 

 シールドバリアによりセシリアやブルー・ティアーズ本体には傷こそ付かないものの、そのシールドエネルギーは削られ続けているはずだ(ちなみにライフル等の武装にはシールドバリアーは展開されないらしく、破壊することが可能だ)。

 

 

 そんな操作を何度も繰り返していい加減に脳みそが茹りそうになってきた頃、思考の隅に再び違和感が生まれる。

 

 何故セシリアは距離を取ろうともせず、動かずにいる? 彼女は国家代表候補生だ、素人じゃない。操縦経験も積んでいる筈だ。ならば近接機に近づかれたら距離をとる、という選択肢を思い付かない筈がない。

 

 何故、1つの場所から動かない?

 

 そしてもう1つ、ようやく気が付いた。

 

 セシリアは、目を閉じている。瞬きではない、目を閉じたまま開いていない。

 

 今まで俺がその事に気がついていなかったのは、機体の制御に手一杯でそこまで相手を注視していなかったからだ。

 

 だからいつから目を閉ざしていたのかも分からない。目を閉じているのは何故だ? 何時から、何のために?

 

 

 

 確かに、ハイパーセンサーから送られてくる情報さえあれば、わざわざ目を開いている必要はない。

 

 とはいえ、戦闘中に目を閉じる等という行為には、一般的に考えるならメリットはほとんど無い。そもそも人間というのは(これは大多数の動物に言えることではあるのだが)、基本的には生まれたときから自分自身の眼を開き、その眼から得られる情報を脳で分析する事で生活している。その重要性は、人間が生きていく上で重要となる五つの感覚……所謂“五感”と言われるものの一つに“視覚”が含まれている事からもお分かりいただけるのではないかと思う。

 

 話を戻そう。生まれたときから眼を開けて世界を見続けているのだから、人間は目を閉じるという状態……つまり何も見えないという状態に不安を感じることが多い(リラックスした状態であるならば別だが)。

 

 と言うかそもそもの話、ある程度以上戦闘慣れした者は戦闘の最中に両目を閉じる事はしない。国家代表の候補生ともあろう者が、目を閉じて恐怖に震える……等という失態を演ずるわけもないだろう。

 

 

 

 そろそろスラスター用に振り分けていたシールドエネルギーも心許なくなってきている。このスラスター用のシールドエネルギーが無くなってしまうと機体の防御等に使用しているシールドエネルギー(これが無くなった時点で敗北となる)を消費してしまうので、そいつは避けたいところである。ただでさえシールドエネルギーが無くなりそうなのに、更に自らを追い込む必要もない。

 

「…ぅおおおおぉぉっ!」

 

 次で、決める!

 

 セシリアの横に回り込み、軌道を修正してセシリアに向き直る。擦れ違う瞬間に振りぬこう、と雪片弐型を振りかぶる。そして、幾度目かの突撃。

 

 接触まで、あと300メートル。

 

 まだ、セシリアは眼を閉ざしている。

 

 あと、250メートル。

 

 雪片弐型のビームソードを、発振直前で待機させる。

 

 ビームソードを延ばすのは、すれ違いざまの一瞬だけで充分だ。というかそうでなければこちらのエネルギーが先に切れる。

 

 あと、200メートル。

 

 白式の機体角度をコンマ単位で微調整、軌道を修正する。

 

 あと、150メートル。

 

 セシリア・オルコットが、その眼を開いた。

 

 何故、今、このタイミングで? そんな疑問が浮かぶが、即座にその思考を破棄する。

 

 この距離と速度なら…考えを巡らせるよりも斬るほうが早い!

 

 100メートル。

 

 ブルー・ティアーズのスラスターに火が灯る。

 

 ここに来て逃げる気か? しかし、こちらの方が速い。

 

 75メートル。

 

 セシリアはこちらを向いた。背を見せるつもりはないらしい。

 

 気のせいか、その口が笑みを形作ったように見えた。

 

 50メートル。

 

 こちらを向いたセシリアは果たして、こちらへと接近してきた。

 

 その左手にはいつのまにか近接戦闘用ショートブレード〈インターセプター〉が握られている。構えから判断するならば、刺突攻撃か。

 

 回避ではなく近接戦で迎撃しようとするとは、追い詰められて自棄を起こしたか?

 

 予定外ではあるが、相手は中距離以遠での狙撃戦を主体とする狙撃型機。近接特化型の白式が近距離で負ける筈は無い。

 

 この距離では回避も困難。PICで慣性を殺して速度をゼロに戻してから別方向へと再加速したとしても、おそらく間に合わない。瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使えば躱せる可能性は有るが、既にブースト用のシールドエネルギーが空に近い以上、それも避けたいところだ。折角攻撃を回避したと思ったら次の瞬間にシールドエネルギーが空になってこちらが敗北、何ていう事態は御免被りたい。

 

 つまりこのまま近付いて何とかするしかないわけで、幸いにも白式はそれこそを得意とする機体だった。

 

 彼我の距離は、あと20メートルを切った。

 

 セシリアがショートブレードで狙っている先は、恐らく胴。

 

 接近しつつ姿勢を変更し、右手に持った雪片弐型を両手で持ち左腰に構えなおす。狙うは、篠ノ之流剣術“一閃二断の構え”、その変形。セシリアの振るうインターセプターを一撃目の横一閃で弾き、そこから頭上に雪片を構えなおして縦に振り下ろす……という魂胆である。。

 

 本来は一撃目を放つ際に鞘走りの加速も利用する、抜刀術の応用技だったりするのだが、今回は雪片弐型に鞘が存在しないためその行程を省略する。

 

 残り10メートル。

 

 残り5メートル。

 

 ………今っ!

 

 

 

「……――――――――ッ!」

 

 セシリアがインターセプターを突き出したタイミングに合わせ、雪片弐型を振るう。

 

 しかし、手応えが無い。

 

 まるで何も斬っていないかのように。

 

 見ると、セシリアの手からインターセプターが消えていた。

 

 僅かに、俺の姿勢が崩れる。

 

 想定していた抵抗が手に返ってこなかったため、予定よりも雪片弐型を振りぬき過ぎた。

 

 慌てて姿勢を戻して、本来の二撃目……上段からの振り下ろしへとかまえなおそうとする。

 

 だが。

 

 セシリアはその右手に何も持っていないまま、こちらへ手を突きだしてくる。

 

 雪片弐型は、……姿勢が崩れていて迎撃が間に合わない!

 

「捕らえましたわよ……っ!」

 

 伸ばされたセシリアの右腕が、俺の左腕を掴む。

 

「……ちぃッ!」

 

 雪片弐型から咄嗟に左手を離し、自由になった右腕を振り上げ、雪片の柄を右の掌で半回転させ順手から逆手に持ち変える。

 

「させませんわ!」

 

 セシリアは左手に持ったスターライトMk−3を使い、俺の右手を押さえた。俺の手首と雪片の間に銃身を差し込み、的確に動きを止めている。

 

 不味いな、両手が封じられた。

 

 一瞬の逡巡。

 

「これで、動けませんわね?」

 

 蹴りならばなんとかなるか? いや、この至近距離では難しいか。

 

「動けないのはお互い様だろ? ダンスでも踊る気かい?」

 

 それでも狙撃機と格闘機だ。力比べなら格闘機であるこっちの方が出力は上だろう。

 

「あら、忘れまして? 一夏さん。このブルー・ティアーズの名前の、その由来を」

 

 あくまでにこやかに、セシリアは告げた。

 

 ブルー・ティアーズの名前の由来……?

 

 その時、背後からロックオンされていることを知らせるアラートが鳴った。

 

 その数、4つ。

 

 …………まさか!?

 

「遠隔誘導型射撃端末!?」

 

 たらり、と背筋に冷たいものが伝う。

 

「ご名答、ですわ!」

 

 鳴り続けるロックオンアラート。

 

 振り返れないのでハイパーセンサーで確認すると、案の定4基のビットがそれぞれ俺へと砲口を向けていた。

 

「おいおいマジかよ……」

 

 …詰み、だな。

 

「チェックメイトですわ」

 

 セシリアは笑った。童女のように無垢に、悪女のように艶然と。

 

 次の瞬間、ビットから放たれた四条のレーザーが俺の背中に直撃し、試合終了のブザーが俺の敗北を告げた。

 

 

 

 

 

 

 




今回のサブタイトルはガンダム00の挿入歌から。サーシェスの曲と言えば分かる人には分かるのでは。

さて、12月1回目の投稿です。今回は一夏とセシリアの模擬戦のお話。ゴールデンウィークの1日目、第2パートです。多分次の話で1日目が終了となる予定です。

今回のあとがきは短めでいきます。ではまた次回に。


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24.つまりライフルは鈍器

 試合終了後、お互いに一旦休憩をとりたいという事でアリーナを出て控え室に向かった。

 

「お疲れさん」

 

「お疲れさまですわ」

 

 ぷしっ、と自販機で買ったスポーツドリンクのプルトップを開け、何となく2人で軽く缶をぶつけて乾杯した。何に対する乾杯かは知らないが。

 

「……しっかし、まさか捨て身でカウンターを狙ってくるとは思わなかったぞ」

 

 先程の試合でのセシリアの動きには、不可解な点が幾つもあった。途中からビットの操作をせずに固定砲台と化していたのがその最たるものだろうか。

 

 だがそれも、最後のあのカウンターが狙いだったとしたら説明がつく。

 

「わたくしのブルーティアーズは射撃戦特化型ですから。近接戦闘特化型に対抗しようにも、懐に飛び込まれてはまともに打ち合って勝てるとは毛頭思えません」

 

 くすり、と笑いながらセシリアは言った。

 

「その結果としてのカウンター、か」

 

「そういう事になりますわね」

 

 スポーツドリンクに口をつけ、口と喉を潤す。

 

「それで、あのカウンターはどうでした? 勿論あれで完成というわけではございませんが、格闘型の人からも意見が欲しいのです」

 

 ……ふむ。

 

「そうだな……まずは溜めの長さ、と言うべきか?」

 

「溜め、ですか?」

 

「そうだ。カウンターを打つ前に1ヶ所からずっと動かなかっただろ? 目も閉じてたし。多分ハイパーセンサーでこっちを視て迎撃してたんだろうけど、明らかに怪しい。何か仕掛けようとしてるんじゃないか、って相手に教えてるようなものだよ」

 

 まあ俺は中々気付けなかったんだけどな、と付け加えて言う。この辺りはISでの戦闘経験の不足だろうか。

 

「……なるほど」

 

「というか、何で目を閉じたままで動かなかったんだ?」

 

「そうですわね……動かなかったというよりは動けなかったという方が正確ですわね」

 

「……? …ああ、ビットの制御か?」

 

「そういう事ですわ。現段階では、わたくしはビットの操作が上手くできませんから」

 

「成る程ねぇ……」

 

「現時点でのわたくしは、ビットを操作しながら自分が動きつつ射撃を行う…という本来ブルーティアーズが想定されているマニューバを十全に行うことが出来ません」

 

 悔しそうに言うセシリアは、それでもと言葉を続けた。

 

「そこで今回は割りきって、自分で動くのをやめましたの」

 

「理屈は分かるが、随分と思いきったな……」

 

 全てを無理にやろうとせず、切れるカードのみを的確に使うことで戦う。言うのは簡単だが、実際にやるとなると困難だろう。カードを切ろうにも手札は限られているのだから。

 

 それでも、彼女はそうして俺に勝って見せた。

 

「それと一夏さん。あなた戦闘中、被ロックオンの警報と発射される弾道を予測するもの…或いはそれに準ずるものを見て動いていませんこと?」

 

「おう、正解だ。白式が弾道予測線を出してくれるからそれとロックオンアラートを元に動いてる」

 

 動きを見て分かるものなのか……。さすがは代表候補生、経験値が違う。

 

「やっぱりあるんですのね……」

 

 セシリアは溜め息をついた。何だよ。

 

「それがどうしたのか?」

 

「いいですか一夏さん。一般的なISは弾道予測線を表示する機能などありません」

 

「え、無いの?」

 

「ありませんわ。少なくとも私の知る限りにおいて、それに類するシステムは未だ実用化されていませんわね」

 

 マジかよ。あれ無しでみんな戦ってるのか……すごいな。

 

 というか。

 

「それなのに良くもまぁ弾道予測線の事を見破ったな……」

 

「お忘れのようですけれど、わたくしこれでも代表候補生……エリートですので」

 

 冗談めかしてセシリアは言った。入学直後も似たような台詞を彼女から聞いたが、随分と感じが違うな。

 

「ともかく。わたくしは一夏さんがその弾道予測線とロックオンアラートに基づいて動いていると予測して、ビットを空中で静止させました」

 

「そうだな、ビットを動かす余裕がなくなったんだと思ってたぜ」

 

「えぇ、そう見えていたら上々ですわね。ビットを停止させることで一夏さんにロックオンしている状態を解除し、そこからわたくしは本体からのみ攻撃を行いました」

 

 あれも計算の内、か。

 

「ビットから意識を逸らさせる陽動、といったところか?」

 

「ええ。そして射撃を行いながら、ロックオン機能をカットした状態でビットを少しずつ動かし、とある一点に向けて斉射出来るようにマニュアル操作でビットの射角を調整しましたの」

 

「それが最後に俺を攻撃したトラップ?」

 

「その通りですわ。後は一夏さんがそのポイントに来るのを待つだけ……白式の装備や取れる戦術から考えても、最後に一夏さんが近付いてくるのは予想出来ましたから」

 

 賭けるなら油断が出そうなそこが狙い目でしたね、とセシリアが付け加えるように言う。

 

「あ、でも俺が零落白夜を使って一気にシールドエネルギーを削りに来てたらどうするつもりだったんだ?」

 

「そう出来ないように最初の内にある程度シールドエネルギーを削っておくことで手は打っていましたわ。雪片という剣の燃費の悪さは有名ですもの、一夏さんのものもそうだろうと踏んでおりました」

 

 語尾に音符が付きそうなぐらいに、今のセシリアは上機嫌だった。

 

「つまりなんだ、今回俺は最初から最後まで君の手のひらの上で踊らされてたって事かい?」

 

 天井を仰ぎ見ながら声を漏らす。きっと随分と情けない声が出ていることだろう。

 

「ええ、そういう事になりますわね」

 

 対するセシリアはとてもにこやかだ。

 

 完敗だな、こりゃ。

 

「あー、負けた負けた。今回は俺の負けだ」

 

 俺は両手を上げるジェスチャーで降参の意を示す事にした。

 

 

 

 

 

「それを踏まえた上でどう思われます? それと出来れば、格闘戦に対する助言も頂きたいところですわね」

 

「おう、……んー、多分セシリアも気付いてると思うんだけどさ。あれ、同じ相手に二度は通用しないだろうし、俺みたいな近接特化でもないかぎりは射撃武装で対応されると思うんだよな」

 

「でしょうね」

 

「まあ、近づかれないようにするのが一番ではあるが……マシンガンとかどうだろう?」

 

「……はい?」

 

 怪訝な顔をされた。…流石に説明が不足していたな。

 

「近付かせないようにするためには弾幕を張るのが一番手っ取り早い。君が今使っているスターライトMk−3はスナイパーライフルだ、狙撃は得意でも弾幕は張れないだろう?」

 

「それで、マシンガンですか」

 

「そういう事。まあ連射可能な射撃武装だったらマシンガンじゃなくてもいいんだけどな」

 

 ミニガンとかガトリングガンとか。

 

「……で、近付かれたときは…………ハンドガンで対処してみるか?」

 

「格闘戦をするという選択肢はありませんの?」

 

 少し不満そうにセシリアが言った。

 

「近距離で打ち合うには君の近接用ブレードじゃリーチが足りない、ちょっとキツいんじゃないかな……セシリアってナイフでの戦闘が得意だったりする?」

 

「いえ、そういうわけではありませんが……」

 

「だったら無理に格闘戦をしようとしないで、相手と距離をとりながら射撃で戦った方がいいんじゃないかな……言っちゃ悪いけどそもそもブルーティアーズって機体自体が格闘戦向きじゃないだろうし」

 

 セシリア本人の格闘戦の技量は知らないが、機体特性がそもそも格闘戦に向いてないならば無理に格闘戦をすることもないだろう。セシリアが格闘戦の間合いに慣れていないのか、ブルーティアーズという機体が近接戦に向いていないのか、はたまたその両方なのか、俺には分からないけれど。

 

「さて、ここまでは武装の追加で対処するって方針で話を進めたけど。ここからは今ある武装で何とかする方法を考えてみようか」

 

「出来ますの!?」

 

 食い気味にセシリアが言った。うん、君が求めてたのはこっちの情報だよね。

 

「厳しいけどね……ライフルを鈍器にしたり蹴りをいれたり、ブレードで攻撃を受け止めるだけじゃなくてブレードを投擲してみたりして凌いで距離をとる、って辺りが現実的な対策かな」

 

「極力近接戦はしないという方針に変わりはありませんのね」

 

「懐に飛び込まれちゃやりづらいだろ、その機体」

 

 その長いライフルは近距離では取り回しの悪さも相まって使えず、ビットも使いにくいだろう。

 

「その辺りはまぁ一通り練習して慣れていって、実戦ではアドリブ効かせながら適宜対処するって形になるかな…」

 

「練習には付き合っていただけますの?」

 

「俺でよければ喜んで、ってね」

 

 乗り掛かった船、と言ったところか。こちらとしても練習相手が強くなってくれるのは願ったり叶ったりであるわけだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 

「ねーねー、かんちゃん。今の電話、誰からだったの〜?」

 

 その少女、布仏本音はルームメートの更識簪にそう問い掛けた。

 

「……倉持技研から」

 

 ぽつり、と返された声に眉をひそめる。こぼれた言葉は決して多くはないが、己の主でもある彼女はもとより口数が少ないのでそこは問題ではない。

 

 本音が反応したのは、その声色と表情だった。幼い頃からずっと傍にいたから分かる。今の彼女は、何かに傷ついているのだろう。

 

 それが一体何なのか、本音は知りたかった。本音と簪は、主人とメイドである以上に友達だから。

 

「そっか〜。何て言ってたの〜?」

 

 目の前の少女を安心させられるように、いつものようにのんびりとした口調。

 

「一夏のISのデータ収集をしなければいけなくなったから、打鉄弐式の開発が延期になるって……」

 

 苦々しい顔でそう言った簪に、本音は「うわぁ……」と思った。この問題は、予想以上に自分の手に負えない。かと言って聞かなかったことにして放っておく事も出来そうに無いわけで、どうしたものか。

 

 どうすれば、この状況を打開できるんだろう? 私に何が出来るのだろう?

 

 大事な幼なじみの親友の悩みを前に、何もしないなどという選択肢は彼女の頭からすっぱりと消え失せていた。

 

 その容姿や口調、性格からぼんやりしている印象がついて回るが(そしてそれは確かに彼女の一面ではあるのだが)、実のところ布仏本音という少女の本質はとても聡い。

 

 料理を始めとする家事全般や事務処理は言うに及ばず、最低限の護身術すらもこなす事は可能である。そのあたりは、伊達に布仏の家に生まれてはいない、と言ったところか。

 

 それでも、姉には及ばない。

 

 幸いにして生来の性格によるものか、コンプレックスを抱えて思い悩むことはほとんど無かったのではあるが。

 

 性格が全くと言っていいほど似ていない二人ではあったが、お互いに優秀な姉を持つという点において共感することもあったのかもしれない。

 

 何にせよ、布仏本音と更識簪という二人の少女は10年以上の付き合いのある友人同士であることは間違いの無いことだろう。

 

 そして、そんな彼女――布仏本音が導きだした答えは、「わざとじゃなくても元々はおりむーが原因なんだし、おりむーも巻き込んで何とかしよう」というものだった。簪の性格上、専用機を自ら組み上げた(と言われている)姉に対抗して自分も1人で専用機を作り始めかねない。そして、そうなった時の簪はとても頑固なのだった。

 

 かくして織斑一夏は、己の預かり知らぬところでまた新たな騒動に巻き込まれるのであった。…………南無。

 

 

 

 





 一段と寒さを増す今日この頃いかがお過ごしでしょうか、斎藤一樹です。12月2回目の投稿となります。

 今回は前回のセシリア戦の……何だろう、セシリア視点と言うには語弊がありますし。……反省会? とまぁそんな感じのお話でした。

 それとこれからのイベントフラグですね。打鉄弐式関連の話に関しては特に何も考えていないので、私自身にもどうなるか分かりません。程々にご期待ください。

 そして、ですよ。今回の話を以て(番外編を除けば)FC2小説での連載に追い付いた事になります。感慨深いです。

 ……はい、とうとう追い付いてしまいました。つまりここから先はストックと言うか叩き台が無い状況です。月一更新、続けられるように頑張りますので何卒。

 さて、もうすぐクリスマスですね。世間はクリスマスムード一色と言った感じですが、私は生憎と今年も家族と過ごすことになりそうです。

 ……家族との時間を大切にしてるんですよ。

 そんなクリスマスに縁遠い私も、たまにはクリスマスというイベントに便乗してみようと思います。

 クリスマス特別編です。

 クリスマス、特別編です。

 今まで見つからなかったお相手がそう都合よく見つかる筈もありませんでしたね。

 ……止めましょうか、この話。

 そんなこんなで24日の夜にでも投稿します。時間は……そうですね、22時にしましょうか。今決めました、特に意味のある数字ではありません。中身はもう出来てるのであとは予約しておくだけです。

 それではまた聖夜にお会いしましょう、斎藤一樹でした。



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EX-01.兎は兎であるために 【クリスマス番外話】

注;今回の番外話は、本編の始まる8年前のクリスマスイブの物語です。この時点では一夏くんと箒ちゃんの年齢は8歳、千冬さんが16歳、束さんが15歳となります。以上の点に留意して、どうぞお楽しみください。


 

 12月24日、クリスマス・イブ。篠ノ之家ではクリスマスパーティーに向けて、家族総出で準備が進んでいた。

 

「ここはこのパーツをくっつけて、で、こっちはこのままネジしめて〜」

 

 ……一人の少女を除いて。

 

「にゅふふー、こんな感じで、うんっ、おっけー! 更にここをこうして……」

 

 兎の耳を模したメカニカルなデザインのカチューシャを付けたその少女は、手の中にあるソレ……桜色のブレスレットに繋がれていたケーブルを外し、慣れた手つきで別のケーブルを差し込んでゆく。

 

「どれどれ〜?」

 

 少女の正面にあるモニターにウィンドウが一つ出現し、おびただしい量の文字列が目まぐるしく表示され、下へと流れてゆく。

 

「ふんふん、じゃあここのプログラムをちょこっと弄って〜、」

 

 かたかた、と暫くキーボードを叩くと、

 

「か〜んせ〜い!!」

 

 おもむろに両手を上へと突き上げ、ぐいっと背伸びをする。するとばきばきばきっという音が背中から鳴り、彼女の身体に激痛が走った。

 

「ふ、フオオオォォォォォッ!?」

 

 見目麗しい少女が上げてはいけないような声をあげながら、椅子から落ちて芋虫のように床に転がりビクンビクンと身体を痙攣させる涙目の美少女の姿は、この部屋の内装(広い和室の中に何台ものコンピュータと大量の工具・機械類が雑然と転がっている)と相まって、混沌とした様相を呈していた。

 

 十数時間ぶりに椅子から立ち上がり、すっかり凝り固まってしまった背中の痛みに耐えるこの残念な美少女こそ、後にISを開発・発表した稀代の大天才こと篠ノ之束である。

 

 

 

 

 

 場所は変わり、篠ノ之家の台所。そこには、クリスマスパーティの為にと次から次へと腕によりをかけた料理を作り続ける母・篠ノ之綾子と、その手伝いをするためにぱたぱたと忙しそうに、そして何より楽しそうに動き回る篠ノ之家の次女・篠ノ之箒がいた。尚、父である篠ノ之柳韻はというと、生来の不器用さが災いして妻である綾子から戦力外通告を受けており、篠ノ之家に隣接した道場の中で黙々と寂しそうに竹刀を振るっていたのだが、これはどうでもいい話ではある。

 

 兎にも角にも、こうして時は過ぎてゆく。途中、飢えた兎が台所に乱入するなどといった出来事はあったものの、概ね順調に準備は進んでいった。

 

 

 

 

 

 夕方。篠ノ之家のインターホンが、一組の来客を告げた。

 

「こんばんはー!」

 

「こんばんは、お邪魔します」

 

 出迎えに来た篠ノ之姉妹にそれぞれそう言いながら、彼ら……織斑千冬と織斑一夏の姉弟は篠ノ之家に入った。

 

 

 

 

 

 クリスマスパーティーは、篠ノ之家のリビングで行われた。テーブルの上には、所狭しと色とりどりの料理の載った皿が並べられている。

 

 食事が一段落した頃、

 

「はい、いっくん。プレゼントだよ〜」

 

 束さんはおもむろに立ち上がって、小さな箱を僕に手渡した。そして、箒ちゃんにも同じような箱を手渡した。

 

「……これは?」

 

「開けていい?」

 

「うんうん、開けてみて〜」

 

 言われ、箱を開ける。その中には、一つのブレスレットが入っていた。

 

「ブレスレット?」

 

 思わず、疑問が口を突く。

 

「うん、そんな感じ。腕時計にもなるし、防犯ベルみたいな使い方もできるし、いろいろ機能を盛り込んでみました〜」

 

 使い方とかで分からないことがあったらその子に聞いてみてね、と付け足しながらにこにこと微笑む束さん。……この子、ってブレスレットの事だろうか。後で束さんに聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 パーティーは、そろそろ終わりが近いみたいだ。賑やかなリビングを抜け出して、庭に向かう。篠ノ之家の庭は、立派な日本庭園だ。そこに続く縁側には、束さんがいた。

 

「あれ? いっくん、どうしたの ?」

 

 不思議そうに束さんは言った。パーティーの途中から姿が見えないと思ったら、こんなところにいたのか。

 

「ぼくはちょっと涼みに。束さんは?」

 

「私? 私はちょっと寝てないから眠気を覚ましに、ね」

 

 あの部屋ちょっと暑いよね、と笑いながら束さんは言う。

 

「寝ないと体に良くないよ?」

 

「あはは〜。ありがとね、心配してくれて。でも、もう大丈夫」

 

 ふわりと微笑んで彼女は笑う。その笑顔は何故だかとても儚く見えて、胸がざわりとした。

 

「私ね、いっくん。宇宙に行ってみたいんだ〜」

 

 縁側に腰掛けたまま、華奢な脚をぷらぷらと揺らしながら束さんは言った。それは唐突なようで、

 

「あの広い宇宙で、いろんな物を見てみたい。あの空の向こうには、見たことがないものがいっぱいあると思うんだ。だから私は、それを見に行きたい」

 

 きっとその視線の先にはまだ見ぬ宇宙の星々が広がっているんだろう、と。何の根拠もなく僕はそう思った。

 

「それに私はほら、ウサギだから」

 

 頭につけたメカメカしいウサ耳を指差しながら、イタズラっぽい笑顔で彼女はそう言った。

 

「ウサギならやっぱり、月で跳ねてこそでしょ?」

 

 相変わらず束さんの言うことは変わっていて、冗談なのか本気なのか分からなかったけど。でも、その目はキラキラと楽しそうに輝いていて、彼女が本当に宇宙にいこうとしているんだってことを、理屈じゃなくて心が理解したんだ。

 

「…束さん」

 

「なぁに、いっくん?」

 

「……いつか行けるといいね、宇宙」

 

 宇宙に、行く。言葉にするのは簡単でも、それを行うというのは僕には考えがつかないほど大変なんだろう。

 

「……うん」

 

 でも、束さんなら。もしかしたら、本当に宇宙に行けるかもしれない。なんとなくそう思わせる何かが、束さんの言葉にはあった。

 

 だから僕は、こんなことを言ったのかもしれない。

 

「……もし宇宙に行けるようになったら、僕も一緒に連れていってくれる?」

 

「……うん、もちろん!」

 

 束お姉ちゃんに任せて、と胸を張りながら束さんは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この翌年の初夏。束さんはIS――《インフィニット・ストラトス》を世界へと発表して、世界の注目を浴びることになる。

 

 

 

 




 メリークリスマス、そんなこんなでクリスマス番外編です。今回は唐突に過去編でお送りします。短い。

 今回はアレですね、篠ノ之家が舞台なのに箒ちゃんの影がびっくりするぐらい薄いですね。さすが×××××××(ネタバレ防止のため検閲削除)。そんな本編よりも先に登場する事になった束さんは、本編だと多分5話ぐらい後に登場するんじゃないかと思われます。

 ちょこちょこ本編の時間軸に繋がる話も盛り込めたので「あぁ、これがアレか」みたいに思ってもらえれば幸いです。

 今回の話はFC2版の方からそのまま持ってきたのもあって短いです。あまり直すところもなかったものでこのまま行こう、という形になりました。

 残る話のストックは、にじファン時代にPV記念で公開した番外編1つを残すのみとなりました。こちらもその内機会を見て投稿したいと思います。ちなみに今どれぐらいだろうと思って見て来たら、いつの間にか10000UAを越えていました。ありがとうございます。牛歩のように更新が遅いこの作品も、いつの間にやらこんなに読んで下さる方が増え、感謝することしきりです。これからもこの作品を宜しくお願いします。

 それでは今回はこの辺りで。よいお年を!


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25.楽器が弾ければモテると聞いて

 

 

 

 

 そんなこんなでゴールデンウィーク2日目。

 

 暇なので遊びに行くことにした。

 

「という事で遊びにいこうぜ」

 

「どういう事かさっぱり分からないわね」

 

 さもありなん。

 

 説明しなさいと目で言ってくる鈴を尻目に、鈴のルームメイトであるティナ・ハミルトン嬢を見遣る。

 

 いつもうちの友人がご迷惑をお掛けしてます。

 

 いえいえ、こちらこそ。

 

 そんな無言のやり取りを交わした後に、彼女は後はごゆっくり、とこちらにジェスチャーを送って部屋を出ていった。気を使わせてしまっただろうか。

 

 直後。

 

「鈴が織斑君とデート行くって~っ!!」

 

 ハミルトン嬢のものと思われる大きな声が、足音と共に遠ざかっていった。

 

「ってこら待ちなさいバカティナ!?」

 

 そして鈴が慌てて立ち上がり、彼女を追って部屋を飛び出していった。

 

 ……鈴のルームメイトはなかなか愉快な性格の持ち主らしかった。

 

 

 

 

 

 5分後。

 

「待たせたわ…ねっ!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

 自分より体格が大きいハミルトン嬢の首根っこをつかんで帰って来た鈴は、部屋に入ってくるなり彼女を放り投げた。猫か。

 

 投げられた方も投げられた方で猫の悲鳴のような声だった。猫だわ。

 

 鈴も鈴で彼女をベッドに放り投げていたあたり、彼女達なりのじゃれあいだったのかもしれない。

 

 それよりも、体格差をものともせずハミルトン嬢を片手で投げ飛ばした鈴がヤバい。改めて説明すると鈴の体型は小柄で、筋肉が多いようには見えない。流行りの細マッチョというやつなのか。それにしてもあの細腕で、頭一つ分くらい身長差がある相手を片腕でって、ギャグか。何あれ、ギャグ補正?

 

 鈴がこちらを振り向いて言う。

 

「で。ちゃんと説明、してくれるんでしょうね?」

 

「勿論」

 

 

 

 

 

 とは言え。

 

「そう複雑な話でもないんだけどな。暇だったし、一緒に弾のところにでも遊びに行かないかって誘いに来ただけさ。こっちに戻ってきてからまだ会ってないんだろ?」

 

「まあそうだけど……」

 

 やっぱりか。

 

「じゃあ行こうぜ、もちろん鈴が暇だったらで良いんだけどさ」

 

 その場合は俺一人で遊びに行くだけの事である。

 

「そうね、せっかくだしあたしも行くわ。あのバカたちの顔も久しぶりに見たいしね」

 

「よし、決まりだな。そんじゃあハミルトンさん、こいつ借りてくぜ」

 

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

 ひらひらと手を振るハミルトン嬢。

 

「じゃあ鈴、30分後に校門で良いか?」

 

「いいわよ、じゃあまた後で」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 五反田弾。中学校時代からの俺の友人であり、鈴とも仲が良い。高校に入ってからはロン毛を目指して髪を伸ばし始めているらしい。そんな彼の周囲からの……少なくとも俺たちからの評価は「残念なイケメン」だった。

 

「で、そのベースはどうした?」

 

 弾の部屋に入ると、今まで無かったはずのベースが壁に立てかけられているのに気付く。

 

「ああこれか?」

 

「そうそう」

 

「え、弾あんたバンドでも始めたの?」

 

 興味津々、といった感じに鈴が聞く。

 

「惜しいな、俺は高校である同好会に入ったんだ」

 

 得意げに弾が言う。

 

「……そうか」

 

 なんだろう、嫌な予感というかこう、ロクでもないことの予感がする。

 

 それは隣に立っている鈴も同様だったようで、無言で「どうにかしなさいよ、アレ」と言わんばかりの視線を送ってきている。俺だって嫌だよ。

 

 そんなこちらの様子に気が付かず、弾は楽しげに言葉を続ける。

 

「その名も『私設・楽器を弾けるようになりたい同好会』!」

 

 多分アニメだったら集中線が入ってそうな勢いで弾が言った。

 

「私設、」

 

「楽器を弾けるようになりたい」

 

「「同好会?」」

 

 突っ込みどころが多すぎる。

 

 つまりどういうことだってばよ。

 

「『楽器を弾けるようになりたい』ってことはまだ弾けるわけじゃないのね?」

 

「ああ、練習中だ」

 

 謎のドヤ顔で言い放つ弾。

 

「私設の同好会ってことは学校公認の部活でもないって事?」

 

「ああ、俺たちにそんなものは必要ないからな!」

 

 よく分からない自信に満ちた顔つきで弾が言う。

 

 その 自信は どこから 来るんだ。

 

「ちなみにその同好会の現在の人数は?」

 

「2人だ!」

 

「2人って……」

 

 ツーピースバンドっていう構成はあるが、初心者2人じゃそもそも活動するのが大変なのではないだろうか。

 

 というかそれはただの人数不足では。あ、部活じゃなくて同好会なのってそういう……。

 

「で、もう一人は?」

 

「数馬だ」

 

 御手洗数馬、弾と同様に俺と鈴の中学時代からの友人である。残念ながら今日は来れなかったらしいが。

 

「パートは?」

 

「アンプ」

 

「アンプ!?」

 

 ベース担当とアンプ担当の二人組の音楽グループって何だよ……。

 

「ちなみに設立した理由は楽器弾けたらモテそうだからだ!」

 

「よしこの話題はもう止めよう!」

 

 不毛だ。

 

 頭を抱え始めた鈴を尻目に、俺はこの話題からの勇気ある撤退を選択した。

 

 

 

 

 

「で?」

 

 ゲームをやりながら唐突に弾が言った。

 

「で、とは?」

 

「とはも何もあるか、IS学園だよIS学園。女の園なんだろ?」

 

「女の園ってーかまぁ女子校みたいなもんだしな、それがどうかしたか?」

 

「いい思いしてるんじゃねーのと思ってな、そこんところどーなのよ?」

 

「いい思い、ねぇ……」

 

 いい思い、か。

 

 ……そうだな。

 

「まあ良いことも悪いこともどっちもあるわなってとこかねぇ」

 

「いい方の話だけ詳しく」

 

 見事な食いつきっぷりだった。

 

「遠慮すんなって、悪い方も聞いてけよ」

 

「バッカお前、こういうのは良い部分だけ聞いて夢見てる方が幸せなんだよ!」

 

 身も蓋もない話である。

 

 だが、案外真理かもしれなかった。

 

「じゃあまず1つ。全寮制だからな、夜とかに女子に会うと結構みんな無防備に薄着なんだよな」

 

「おぉぉぉ!」

 

 正面のアホから深い感動が伝わってきた。

 

 同時に横から背筋が凍るような視線も飛んできたが。確認するのがすごい怖いんだけど。

 

「ねえ一夏?」

 

 鈴が猫なで声なのが一層の恐怖を煽る。

 

「はい、何でしょうか」

 

 こちらも思わず敬語である。

 

「あんた、普段そんな風に見てたの?」

 

「そ、それはまぁ私も男なので多少はその、はい」

 

 うっすらと浮かんだその笑みが怖い。

 

「へぇ……そう!」

 

 どすり、と脇腹に重いパンチが入る。

 

「良い、パンチだ……」

 

 どさり、とやや大袈裟に倒れこむと、

 

「い、一夏ぁぁぁっ!?」

 

 とこれまた大袈裟に弾も叫んだ。

 

 茶番である。

 

 鈴はというと呆れた顔でこっちを見ている。上手いこと誤魔化せただろうか。

 

「……はぁ、もう良いわよ」

 

 ため息と共に鈴が言った。許された。

 

「男子ってみんなバカばっかりね……」

 

 呆れ気味に言う鈴に、

 

「男なんて皆そんなもんだぜ」

 

 したり顔でバカ筆頭が言った。否定は出来ない。

 

 そうなの? と目で訊いてくる鈴に、

 

「いやぁ、ぶっちゃけIS学園じゃなくて弾たちと同じ高校行ってたら俺も入ってたかもしれないもん。『私設・楽器を弾けるようになりたい同好会』」

 

 いえーい、とバカとハイタッチを交わす2人目のバカがそこにはいた。言うまでもなく俺だった。

 

 モテたいと思うのは男として当然の感情だからね、しょうがないよね。いや、単純に楽器が弾きたいというのもあるのだが。

 

「え、本気?」

 

「割と」

 

「えー……」

 

 理解に苦しむ、と言った表情で鈴が言う。心なしかちょっと引かれているような。

 

 とは言え。

 

「男子高校生なんてこんなもんだって」

 

「知りたくなかったわね」

 

 疲れた顔で鈴が言った。

 

 

 

 




 まだギリギリ1月だから……っ!

 そんなわけでこんばんは、2018年初となる投稿です。あけましておめでとうございます(今更)。

 今回はゴールデンウィーク2日目、突撃お宅の昼ご飯みたいな感じの話でした。違うか。原作でも残念なイケメンみたいな扱いの弾君、この作品ではどうなるのでしょうか。乞うご期待です(何も考えていない)。そういえば何故か弾の髪形はドレッドヘア、という謎の記憶がありましたが確認してみたらストレートのロン毛でした。どこをどう勘違いしていたんだ……?

 鈴ちゃんとのコミュ回的な予定でしたが、出来上がったのは何か違うシロモノでした。なんでや。蘭ちゃんが出るところまで行きつかなかったので次回に続きます。今月は試験とかいろいろ忙しかったので短くなってしまいましたが、その分2月分は長めに書こうと思います……。

 そう言えば始まりましたね、アーキタイプブレイカー(以下アキブレ)。みなさんやっていますか?私は事前登録したのにこれから始めるという有様ですが、設定的に行けそうならこの作品にもアキブレのキャラをねじ込んでみようかと思います。

 ソシャゲといえばあれですね、アリス・ギア・アイギスやってます。シタラちゃん推しですがうちにいる☆4が夜露ちゃんだけなので、夜露ちゃんずっと使ってたら夜露ちゃんがめっちゃ可愛くなってきます。あとバージニアちゃんも好きです、良いキャラしてます。

 それではまた次回にお会いしましょう。斎藤一樹でした。


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26.前射特格BD格N前特格

更新履歴

2018/05/16 スペース等の修正


 

 

 そんなこんなで昼。

 

「お兄、ご飯だって……って一夏さん!?」

 

 ドアを開けて顔を覗かせたのは弾の妹、蘭だった。ラフな格好なので今日はオフなのだろう。

 

「よう、邪魔してるぜ」

 

 左手でゲームのコントローラーを操作しながら、右手を上げてひらひらと手を振る。

 

 俺が片手操作をしている隙に、ここぞとばかりに弾がコンボを決めてこようとする。セコい。だが馬鹿め、その動きは予想済みだ……あっ。

 

「ちょっとちょっと、あたしもいるわよ?」

 

 読んでいた漫画から顔を上げて言う鈴。画面の中では、弾の操作するキャラクターが俺の操作する機体にソードを突き刺していた。

 

「……と鈴さんも」

 

 格闘からブレイド投擲に派生してくる弾。

 

「へー、あたしをついでみたいに言うとはいい度胸じゃない、蘭」

 

 弾のキャラクターが、きりもみ回転しながら俺のキャラクターを切り刻みつつ地面へと叩きつける。

 

「あはは、これぐらいはスキンシップってことで一つ……」

 

 苦笑いを浮かべながら言う蘭。この二人は相変わらず仲が良いようだった。弾のコンボが終わるまでこちらは何も出来ないので、蘭達の方を見る余裕が出来てしまった。

 

 バウンドした俺のキャラクターにきっちりと追撃で斬り抜け二段格闘を入れて打ち上げたところに、踏みつけでダウンを取ってくる弾。きれいに一連のコンボを決められてしまった。こいつ腕を上げたな。

 

 起き上がりを狩ろうとしてくる弾の機体に、特殊移動技で距離を取りつつ両手に持ったハンドガンで弾をばら撒いて牽制する。

 

「じゃあこの試合終わったら飯な」

 

「だな」

 

 等と二人で言いつつも、お互い負けで終わる気がないのは弾の攻め方を見ても明らかだった。隙を見せればその瞬間に相手の弾幕に当たり、そのまま体力を削られるであろう事は想像に難くない。

 

 俺のキャラクターは距離をとって弾をばら撒くのが得意だが火力が今一つで、その分を手数で補うタイプと言うべきだろうか。一方の弾のキャラクターは射撃もこなせるが、その本領は距離を詰めてから様々な格闘攻撃でダメージを稼ぐことにある。

 

 勝つのは、どっちだ。

 

「白い方が勝つわよ」

 

 と鈴が言った。

 

 ……どっちだ。

 

 

 

 

 

 弾の家は五反田食堂という食堂を経営している。鍋を振るっているのは弾と蘭の祖父の厳さんで、年齢に見合わぬ筋骨逞しい姿が特徴である。いつだったか両手に一つずつ中華鍋を持って、それぞれ微妙に具合を調整しながら振るっているのを見たときは、流石に自分の目を疑った。八十過ぎだと言うのにパワフル過ぎる。

 

 そんな五反田食堂は味が良くてお値段もリーズナブル、と中々繁盛しているらしい。中でもイチオシは「業火野菜炒め」で、味付けや火加減が絶妙な逸品である。

 

 そんな五反田食堂のテーブルの1つで、俺たちは昼ごはんをいただいていた。選択肢がカボチャ煮定食の一択しか無い代わりにタダでご馳走になっている。ありがたい話である。ご馳走さまです。

 

「私、IS学園を受験しようと思うんです!」

 

 同じくかぼちゃ煮定食の付け合わせのたくあんを片手に、蘭が言った。そう言えば君は今年が高校受験か。

 

「あれ、でもあんたの学校って私立の中高一貫じゃなかったっけ?」

 

「それも大学進学率の高いお嬢様学校。勿体ねぇよなぁ……」

 

 鈴の言葉に弾が返す。

 

「という事で、一夏さんと鈴さんにIS学園の生徒ならではの視点からの意見をいただきたいんですが」

 

 どうでしょう、と蘭が言う。そりゃ構わないが。

 

「鈴、任せた」

 

 構わないが、それはそれとして説明役は鈴に投げる。

 

「なんでよ、一夏から説明してあげたら?」

 

「俺は唯一の男子なんて言う特殊な存在だからな、同じ女子の目線から話した方が良いだろ……なんか気がついたことがあれば俺も補足するから」

 

「はいはい、分かったわ。そうね、まずは……」

 

 鈴が話し始めるが、弾は少し不満そうな顔だ。

 

「どうした、浮かない顔して」

 

「……いや、なんでも」

 

「あぁ、もしかして妹が全寮制の高校に行ったら寂しいのか?」

 

「バッカお前、そういうんじゃねぇよ。ただ……ちょっと心配なだけだ」

 

「……そう悪いとこじゃねぇぜ、あそこも」

 

 普通に過ごす分には、多分。生徒会長になろうとしたりなったりすると、闇討ちしたりされたりとエキサイティングでスリリングな学生生活が送れるようになるらしいが。

 

「分かっちゃいるが、競技用だって言ってもISって兵器を扱うんだ。不安にもなるさ」

 

「……そうだな」

 

 ……兵器、か。確かに今のあれは兵器だ、白騎士事件と呼ばれる一件以来そう扱われるようになってしまった。むしろ安全なスポーツの道具としか思っていない輩よりも、弾はよほど今のISを理解してるだろう。

 

 でも、そもそもISがどんな想いで作られたかを知っている身としてはちょっとヘコむ。

 

「どうした、今度はお前がため息をついて」

 

 怪訝そうにする弾に、何でもないと返して。

 

 俺は食事を続けることにした。

 

 

 

 

 

 夜。

 

「あ、お帰りなさい一夏」

 

 弾の家からIS学園の自室に帰ると、箒が本を読んでいた。どうやら俺よりも早く帰ってきていたらしい。

 

「ただいま、箒。おばさん達は元気だった?」

 

「はい。久しぶりに一夏にも会いたいから今度連れてこい、って言われちゃいましたけど」

 

 少し困ったような笑顔で箒が言う。

 

「じゃあ今度は俺も一緒にお邪魔しようかな。また柳韻さんに稽古もつけてもらいたいし」

 

 篠ノ之家の人にもさんざんお世話になったからなぁ……。実の息子のように面倒を見てもらったのだし、たまには顔ぐらい見せておくのも親孝行になるだろうか。

 

「ええ、是非。きっと二人も喜ぶでしょう」

 

 世の中には土日は休みの高校もあるらしいが、IS学園は午前中だけとは言え土曜日も授業がある。行くなら夏休みのどこかになるだろうか。今から楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴールデンウィーク3日目の朝は、あいにくの雨だった。日課のランニングを早々に諦めた俺は、釣られて目を覚ました箒を伴っていつもよりも早めの朝食と洒落込むことにした。

 

「やっぱりこの時間だと人が少ないですね」

 

「そうだな、ゴールデンウィークで帰省したりしている人もいるかもだし」

 

 いつも10代女子の声で溢れ返っている食堂は、今日は随分と静かだった。普段俺達が朝食を食べに来るのは7時過ぎだが、今は6時だ。それも相俟ってか、周りを見渡せば見慣れない顔が多い。

 

「今日はどうします?」

 

 箒の声に、ちらりと食堂の窓を見る。相変わらず雨が降っていた。

 

「……外に行くのは明日にして、今日は部屋でのんびりするか」

 

「……そうですね」

 

 遠い目で箒が言った。

 

 ゴールデンウィーク用の宿題も出ていることだし、今日のうちに片付けておけば明日以降また遊べるだろう。

 

「ところで箒、宿題進んでる?」

 

「はい、実家に帰ったときにもやってたので4分の1ぐらいは終わってます」

 

「……俺もやるか」

 

 そういう事になった。

 

 

 

 

 

 お互いに分からないところを教えあったりしながら宿題をやっていると、あっという間に昼になった。このペースならば俺も箒も夜には終わるだろう。何と言うかこう、すごく高校生らしいことをしているなという妙な感慨深さを感じる。普段はISと言うパワードスーツを動かすためのあれこればかりをやっているからだろうか。

 

 IS学園にも世間一般の高校と同じように通常科目があるとは言え、ここはISについてを学ぶための専門学校であるわけで。やはりと言うべきか、授業の比重が傾くのはIS関係の方なのだった。勉強が好きなのかと言われると決してそういう訳ではないのだが。

 

「一夏って意外と英語出来ますよね」

 

「意外て」

 

「ほら、どっちかというと一夏は理数系じゃないですか」

 

 そう言う箒は文系女子で、得意科目は歴史や地理らしい。

 

「ISの発表以降は日本語が世界的に広まったとは言え、文系だろうが理数系だろうが英語はついて回るだろ?」

 

「まあそうかも知れませんが」

 

 何故日本語が世界的に広まったかと言うと、ISに関する論文が日本語で提出されたからである。束さんは英語を大の苦手としていた。俺はそれを知って「万能の天才という訳ではないんだな」と思った記憶があるが、他者とのコミュニケーションに消極的な束さんが英語に興味を抱かなかっただけという可能性は捨てきれない。

 

 もし英語でISの基礎理論に関する論文を書いていれば。もしかしたらISはもっとスムーズに世界に認められたのかもしれない、なんて思わないでもないけれど。日本で理解を示してくれる人がいなくても、もしかしたら理解を示してくれるような海外の研究者の元へと論文が届いたのかもしれない、なんて事も考えないではないけれど。

 

 でも現実はそうはならなかったし、白騎士事件を境にISは軍事兵器として見られるようになってしまった。その結果だけが、全てなのだろう。

 

 そもそも、ISの関連技術は当時の技術水準から逸脱していた。現実味の無い夢物語と評されるのも無理はない……と言えなくもない。シールドエネルギーという人類にとって未知のエネルギーを使うことを前提としたISは、電気エネルギーを基準とする既存の技術とは体系も考え方も違うのだ。

 

 閑話休題。

 

 英語の話に戻ろう。束さんが書いたISの論文が日本語だったため、ISが知られるにつれて日本語は広まった。

 

 しかしISに関わらない多くの人々は、そこまで日本語を重要視しないだろう事は想像に難くない。故にこそ、世界で最も多くの人が話せる英語を俺達も学ばなければいけないという訳らしい……まあ俺も平均程度に出来るというレベルでしか英語を使えないのだが。

 

「ていうか箒が英語苦手すぎるだけでは」

 

「うっ」

 

 目を逸らすな。

 

 英語が苦手なのは姉妹共通なのかも知れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4日目。箒ちゃんとデートをして。

 

 そして、5日目の朝がやって来た。

 

 

 

 






 某アニメを見ていて「ヘルシェイク弾」というネタを思い付きましたが、恐らく日の目を見ることはないだろうと思います。

 お久し振りです、2月と3月合併号みたいな感じでお届けしますISATの26話です。サブタイトルのやっつけ感がすごい。近況としてはスマホが壊れ、やってたソシャゲの内の半分が復旧出来なくなりました。アリスギア……アキブレ……オルガル……即応戦線……うっ頭が。特に結構長く細々とやっていたオルガルとレベマ夜露ちゃん(水着もゲット済み)がいたアリスギア、何気に☆5がゴロゴロいたアキブレが痛い。

 さて、今回は前話に引き続き五反田家に遊びに来てるところからスタートです。前回出そびれた蘭ちゃんが顔を見せたり、この世界についての設定をモノローグで補強したり。箒ちゃんのデート(2回目)はカットされました。少し前に似た話やったばっかりだからね、しょうがないね。

 最初の方で弾が一夏に決めていたゲームのコンボは、某アクションゲームの実在のコンボがモデルです。多分分かる人には分かるんじゃないかという気がします、何とは言いませんが「前射特格BD格N前特格」です。この一連のコンボ、火力やカット耐性以上に動きが好きなんですよね。一夏君の使ってたキャラクターも同様にモデルがありますが、どの機体なのかという明言は避けておきます。でもアンカーによる特殊移動技を持った二挺拳銃使いです。

 次回はいよいよ満を持して彼女の登場です。主役(メインヒロイン)は遅れてやってくる。お楽しみに。


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27.あの人参ロケットどうなってるんだろうな。

更新履歴

2018/05/16 スペース等の修正


 ゴールデンウィーク5日目の朝。

 

 日課の早朝ランニング中に巨大な人参を見かけた。より正確に言うのなら、巨大な人参型の正体不明の機械である。人が1人乗れそうなサイズであることを考えると、ロケットだろうか。

 

 ……現実逃避をやめて真面目に考えるならば、十中八九この人参モドキの持ち主は束さんだろう。俺が近寄っても無反応な辺り、今この機体は無人なのかも知れない。千冬姉か箒のところにでも行っているのだろうと判断し、その場を離れる。後で会う約束をしているし、用事が済めば白式の反応を頼りに束さんが会いに来るだろう。

 

 あ、でも束さんもここ何年かは箒から距離を取ってるっぽいから、多分箒のところにはいないか。じゃあ千冬姉の所なんだろうけど……連休中の生活リズムとか生活態度が我が姉ながら不安で仕方がない。またビールの空き缶が山になっているんだろうか。一晩中飲み続けているのでもなければまだ寝てるんだろうけど、その辺りは束さんに任せよう。千冬姉とそこそこ長い間幼なじみをやってるんだし、対応の仕方はきっと分かっているだろう。

 

 束さんを信じて、俺はそのままランニングを続けることにした。

 

 

 

 

 

 今日は箒は四十院さんや夜竹さんたちと遊びに行くらしい。クラスでボッチになっていないようで何よりである。特に四十院さんは、部活が同じ剣道部だからか仲が良いらしい。おっとりしている四十院さんが剣道部に所属している、という事が少し驚きではあったが。

 

 そんなわけで、今日は午前中から部屋には俺1人だった。箒を見送った今は束さんを待つ身である。箒が既に出掛けた旨は連絡済みだ、まだ返信が来ないが多分そろそろ来るんじゃなかろうか。そう思っているところに、ちょうどコンコンとノックの音が聞こえた。

 

「へいへい、今開けますよっと」

 

 ドアを開けるとそこには、

 

「いっくんお待たせ~♪」

 

 何故かIS学園の制服に身を包んだ篠ノ之束の姿があった。

 

 いや、本当に何でだよ。

 

「何でまたそんな格好を……」

 

 コスプレみたいだな、という感想を呑み込んでそれだけ言う。素材が良いから勿論似合っているが、矢鱈とエロい。端的に言うと胸周りがとても窮屈そうだった。IS学園の制服はそこそこ布地に余裕を持たせた作りのはずなのに、胸周りを見ればそれはもうパッツンパッツンである。

 

 もしこの制服の胸周りがボタンで留めるタイプだったら弾け飛んでそうな勢いだったが、IS学園の制服はホック型の金具で留めるタイプである。弾け飛ぶことはないだろう……金具が壊れるかもしれないが。

 

 いや、待て。

 

 上着はホック式だ。とても窮屈そうだが、それでも何とかその巨大な双子山を詰め込んでいる。

 

 ……ならば、その下のワイシャツは? そこはどうなっている?

 

 ワイシャツは結構タイトだ。姉に似て巨乳な箒ちゃんは、結構ギリギリでワイシャツを着ている。なら、その姉であり箒よりも更に大きな胸を持つ束さんは……!?

 

 そう、弾け飛ぶのではない。そもそもボタンが閉まっていないのでは……!?

 

 そこまで考えが及んで、俺は束さんの胸を二度見した。

 

「いっくん、見すぎ」

 

「ウッス」

 

 二度見というかガン見だった。束さんの声が心なしか冷たい。

 

「似合ってるかどうかはその顔を見れば分かるから良いとして、いくらなんでも胸を見すぎなんだよ。揉んでみる?」

 

「揉む」

 

 間髪入れず伸ばした手は、無情にもぴしゃりと叩き落とされた。

 

「食い付き良すぎて束さんドン引きだよ」

 

 返す言葉も無い。

 

「そこに山があるから登るのだ、って言いますし」

 

 目の前に山があれば仰ぎ見たくもなるのである。だからきっと俺は悪くない。そういう事にならないだろうか。ダメか。

 

「で、そもそも何でうちの制服着てるんです?」

 

「ほら、束さん有名人だし? 目立たないように変装とかした方が良いかと思ってね!」

 

「むしろ悪目立ちだよ!」

 

「え~……」

 

 変装とかに気を使おうとしたところは良いが、着地の仕方を思いっきり間違えている。もうちょっとこう、この人は自分の見た目を考えてほしい。その辺りは束さんの同居人に期待したいところだけど、あの娘束さんの事は何でも肯定しそうだしなぁ……。

 

 ちなみに変装とかを考えなかった頃の束さんは、移動式ラボの最寄りのコンビニに全身ジャージで通っていた。尤も、あの篠ノ之束がジャージ姿でコンビニに来るという事自体が世間一般のイメージからかけ離れているため、意外と気付かれないのかも知れなかった。

 

 そんな茶番はさておき。

 

「久し振りです、束さん。大体1ヶ月ぶりですね」

 

「うん、久し振りいっくん。背ぇ伸びた?」

 

「1ヶ月でそんな伸びるか」

 

 ISの開発者にして稀代の天才、篠ノ之束が俺の目の前にいた。

 

 

 

 

 

 篠ノ之束という人物は俺にとってどんな相手か、と言われると少々返答に困る。俺の姉の親友であり、俺の幼馴染みの姉。俺たち姉弟の面倒を篠ノ之家に家族ぐるみで見てもらっていたので、俺にとっても幼馴染みの近所のお姉さん、といった存在でもある。文字で見るとややこしいな。

 

 とまあこれが俺と束さんの、世間一般に知られているであろう関係である。篠ノ之束と織斑千冬が友人関係にあったことは広く知られていることであるし、俺が千冬姉の弟である事もまた周知の事実である。俺にISの適正が見つかったと全世界に報じられた後、どこぞの週刊誌が俺と束さんの関係を虚実織り混ぜながら好き勝手書いていた事は記憶に新しい。潰れれば良いのに。

 

 そしてこの問いが表には出せない、つまりあまり大声では言えない類いの関係性も含めるとなると、そこに幾つか言葉を付け加えなければならないだろう。

 

 それはパイロットとメカニックだったり、或いは師弟関係だったりと色々あるが、中でも一番分かり易く簡潔な単語で表すならば『共犯者』だろうか。

 

 お互いに目的は同じで、目指す未来も同じ。

 

 だからこその、共犯関係。

 

 

 

 

 

「お待たせいっくん、白式のデータ全部見終わったよ~」

 

 いつものウサ耳アリス服に着替えた束さんが言った。

 

「早いですね、まだ10分ぐらいしか経ってませんよ」

 

「まあ束さんだし?」

 

 答えになっていないが説得力がすごい。この情報処理能力の高さも、束さんという天才の持つ高い能力の1片でしかないのが恐ろしい話である。

 

「それでだねいっくん」

 

「はい」

 

「……ちょっとお話しようか?」

 

 …あれ、どこかでフラグミスった?

 

 束さんは笑顔のはずなのに眼が笑っていないのでとても恐い。これ結構マジで怒ってるやつだ。え、何?

 

 取り敢えず腰掛けていたベッドの上で正座をする。

 

「いっくんは戦闘中、相手からの射撃ってどうやって回避してる?」

 

「どうやってって、そりゃロックオンアラートと弾道予測線を見て……」

 

 そう答えると、束さんは頭を抱えつつ馬鹿を見る目でこちらを見てきた。何故だ。

 

「いっくんさぁ、バカでしょ」

 

 とうとう直接バカと言われた。何でさ。

 

「あのねいっくん、普通の人はそんな事しないの」

 

 セシリアも似たようなこと言ってたな。そもそも普通のISには弾道予測線の表示機能なんて無いとか。

 

「でもそれは白式の装備が剣1本しかないからで」

 

 そう言い訳をしようとしたが、束さんは首を横に振る。

 

「ちーちゃんの暮桜もブレオンだったし白式とおんなじ弾道予測線表示機能もつけたけど、いっくんみたいな事にはなってないよ」

 

 むしろ俺の場合はどうなっているというのだ。

 

「端的に言うよ。いっくんの今の戦い方は、脳に負担がかかりすぎてる」

 

 脳に、負担? 言われてみれば確かに、戦闘中と戦闘後に頭が痛むが。

 

「Oh,脳」

 

 場の空気を和らげるためにふと思い付いたジョークを言ってみるが、言った直後に死にたくなった。言わなきゃ良かった。

 

「……いっくん?」

 

「ほんとすんません」

 

 視線の圧が増した。もう正座を通り越して土下座である。どうか鎮まりたまえ。

 

「でもあれってそういう風に使うものじゃないのか?」

 

 ジョークがすさまじい勢いで滑ったので、次善の策として話題を逸らす事にした。

 

「いっくんは多分、予測線とかを一々全部視てから避けてるよね?」

 

 確認するように束さんが言う。

 

「ええ、まあ」

 

 見なきゃ分からんと思うのだが。

 

「それだよ」

 

「どれですか」

 

「弾道予測線とかをちゃんと視て確認して、それを回避する……って言うのが問題なんだよ」

 

 そう束さんは言った。

 

「じゃあどうすれば?」

 

 見なきゃ良いのだろうか。

 

「見なければ良いんだよ」

 

 そんな無茶な。

 

「そんな無茶な、って顔をしてるけど。出来る筈だよ、ちーちゃんはそうやってた」

 

 こちらの感情が筒抜けだった。

 

「ISにはハイパーセンサーがある事、そしてハイパーセンサーの役割は以前教えたよね?」

 

「はい」

 

 宇宙空間での活動を目的として開発されたISは、前後左右に加えて上下の状況を知ることが出来る必要がある。その為に開発・搭載されたのがハイパーセンサーである。

 

「ハイパーセンサーは、確かに視力を強化する。でもその本質は、知覚能力の拡大にこそある。つまり……一々見る必要はないんだよ。感じるだけで良いんだ、必要最小限の情報以外は受け流してみて」

 

 受け流す、か。言葉にすると簡単そうだが、やるととんでもなく難しそうだ。

 

「分かりました、練習しておきます」

 

「頑張って。練習して詰まったらちーちゃんに訊いてみると良いよ。ちーちゃんも同じことやってたはずだから」

 

 千冬姉が割と感覚派であることが不安要素である。

 

「だからさ、いっくん」

 

 束さんは言った。

 

「あんまり、無理しないでね?」

 

 そう言ったその顔は、たまに見せる真面目なもので。

 

「……頑張ります」

 

 改めて見るとやっぱりこの人顔が良いな、等と考えながらそう答えるしかないのだった。

 

 

 

 

 

 その後、昼食を挟んでから白式についてのあれこれの話し合いに入る事になった。ちょうど良いので常々思っていた事を言おうと思う。

 

「白式って剣が一本あるだけじゃないですか」

 

「うん」

 

 それがどうした、といった顔の束さん。

 

「追加装備って載せられないんですか?」

 

「難しいかな、既に拡張領域(バススロット)が結構カツカツなんだよね」

 

 束さんは首を振りながら言う。頭上のウサ耳がゆらゆらと揺れた。だがこちらも諦めない。そこまでなら俺も知っている。

 

「量子化させずに、外装を換装する形で武器を追加する事は?」

 

 変化球ならどうだ。

 

「出来るけど、製造と調整にちょっと時間かかるよ?」

 

 出来るのか。

 

「出来るなら是非」

 

「でもブレオンってロマンじゃない?」

 

 束さんも食い下がる。いや、ロマンは分からないでもないが。

 

「ロマンだけじゃ勝てんのですよ」

 

 剣一本は、正直キツい。

 

「じゃあ何が欲しい?」

 

 欲しい武器は色々あるが、白式の高機動近接機と言うコンセプトを考えると。

 

「動きを阻害しないガントレッドのようなシールドと投擲用としても使えるダガー、あとはアンカーですね」

 

 近接戦での立ち回りを考えるならこの辺りだろうか。

 

「射撃武器は良いの?」

 

 束さんがからかうように言う。

 

「白式に射撃管制システム入ってないでしょうに」

 

 そう問い返すと、

 

「あっはっは、やっぱり知ってたんだね」

 

 束さんは悪びれた様子もなく笑った。

 

 確信犯だ。

 

「でも意地悪で入れなかった訳じゃないんだよ?」

 

 半笑いのまま言う束さん。意地悪でなかったことは本当かもしれないが、その半笑いのせいで信憑性に欠ける感はある。

 

「いやいや、本当だって。白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が当初の想像以上に容量取っちゃってね~」

 

 そう言いながら椅子から立ち上がった束さんは、俺が座るベッドの隣にすとんと腰掛けて、そのままごろんと後ろに倒れる。その豊満な胸がゆさりと揺れ、また元に戻った。おい待て俺のベッドの匂いを嗅ぐな。

 

「零落白夜ですか?」

 

 あれがコア2つ分のスロットの容量食ってる原因なのか。

 

「うーぅん、違うよ?」

 

 あっさりと彼女はそう言った。

 

「え、違うって」

 

 白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)って零落白夜じゃないのか? 燃費最悪というデメリットがあるとは言えあれだけのチート紛いの能力、単一仕様能力だと思って疑いすらしなかったが。

 

「そもそも白式はね、いっくん」

 

 むくり、と束さんが上半身を起こし、そのまましなだれかかるように俺の上半身にもたれ掛かってくる。右腕に柔らかい感触が伝わってたまらない気分になるが、鋼の理性(自称)でルパンダイブを堪える。お互いに受け入れてりゃ問題ないんじゃないかとか思わないでもないが、今すごい大事な話してる気がするから我慢だ。後で覚えてろよ。

 

 俺が一人理性と戦っている間にも話は進む。

 

「白式はこの束さんが対IS用のISとして作り上げた機体なんだよ」

 

 柔らかな息が耳元を擽る。

 

 待て。

 

 対IS用のIS?

 

 それは知っている。

 

 IS学園に来る以前、束さんから直接そういう機体を送ると聞いた。

 

 だからこその零落白夜、という事ではないのか?

 

 俺は白式という機体について、最初から勘違いをしていたのか?

 

「白式はね、いっくん。王様なんだよ」

 

 体をこちらに預けたまま足をぱたぱたと揺らしながら、束さんは言った。

 

「王?」

 

「そう、王様。ISの、王様なんだ」

 

 ISの王。その言葉に含まれている意味を考える。黙り込んでしまった俺に、束さんは言葉を続けた。

 

「まあ、コアの人格は女の子なんだけどね。白式は、束さんが対IS戦のために作った子だよ。それまでに作った宇宙開発用の白騎士、競技用の暮桜とは根本的に違うんだ」

 

 束さん……IS開発者、篠ノ之束に「対IS戦用」と言わせる機体、白式。ぞくりとした。

 

「今はリミッターをかけて競技用のレベルまでスペックや機能を制限してるけど、戦いの時は解除できるようにしてあるよ」

 

 でもね、と束さんは続ける。

 

「単一仕様能力ワンオフアビリティー……切り札は、まだ使えないんだ。調整が済んでないから、まだ封印されてる。調整自体は今も白式の内部でやってるみたいだけど、当分かかりそうだね」

 

 ふぅ、とため息を吐きながら束さんは言った。喉乾いちゃった、と言う束さんに冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して渡す。ついでに俺は先程まで束さんが座っていた椅子へと腰かける事にした。ああも引っ付かれたままだと話に集中出来やしない。

 

「単一仕様能力が調整中って……白式の単一仕様能力は零落白夜じゃないんですか?」

 

 先程から気になっていた話だ。いや、束さんの口ぶりから考えると違うであろう事は明らかであるが、束さんの口から聞きたかった。

 

 束さんはチッチッチと口で効果音を出しながら指を振った。

 

「それじゃあ久しぶりに授業の時間です」

 

 その豊かな胸の谷間から眼鏡を取りだし、すちゃりとかける束さん。四次元ポケットかよ。

 

「ちなみに今のどう? ムラっときた?」

 

「まさかのメガネに驚きの方が強いかな……」

 

 眼福であったのは確かなのだが。

 

「ちぇー、まぁそれは良いや。それじゃあ束先生のはちみつ授業、はっじまっるよ~」

 

「あ、今回こんなノリなんだ」

 

 いや、いつもこんなノリという気もするが。

 

 それにしてもこの束さんノリノリである。

 

「さていっくん、前に教えたはずだけどもう一回復習ね。第三世代型ISの特徴は何だったでしょうか。はいどうぞ!」

 

「えーと、『単一仕様能力の人工的再現、若しくは近似する武装を搭載しているIS』、でしたよね?」

 

「うん、正解。まぁその分類分けしたの私じゃないんだけどね。単一仕様能力を人工的に再現した装備とかイメージインターフェースとか、それっぽい感じの謎テクノロジーが使われてる装備を持ってることが条件なんだけど、そこの辺りを踏まえた上でもう一回白式の事を考えてみようか」

 

 どうでも良いけど「謎テクノロジー」と「ナノテクノロジー」って響きが似てるよね、と言う束さんにそーですねと生返事を返しつつ、考える。謎技術の固まりであるISを世に送り出したアンタが謎テクノロジーとか言うなとも思ったが、優先順位が低いからツッコミは後回しだ。

 

「イメージインターフェイスを利用した特殊装備って、要は単一仕様能力を人工的に作ってしまおう、或いは再現してしまおうって考えのもとに研究・開発されたものなんだよね」

 

 白式も第三世代機だ。ならば、単一仕様能力を再現した装備が搭載されているはずで。

 

「……あー、何となく分かったぞ、この話のオチ」

 

「考えてみれば当然の話で、いつどんなものが発現するか…そもそも発現するかどうかすら分からない単一仕様能力をアテにするよりも、それに準ずる特殊能力を自分達で開発して組み込んだ方が使い勝手は良いわけだよね」

 

 それはつまり、

 

「雪片は……零落白夜は、第三世代機体特有の単一仕様能力を再現した特殊装備でしかないってことか?」

 

「うんうん、頭のいい子は好きだよ」

 

 花丸あげちゃう、と言いながら束さんはつい、と右の人差し指を一本立てた。その動きに連動して、束さんの前にホロウィンドウが幾つか出現した。その内の一つを指の動きで俺の前に飛ばしながら、束さんは言う。

 

「白式に搭載している雪片弐型は、ちーちゃんの暮桜に装備されてた雪片の発展型。そこのところは、多分いっくんも知っての通りだよ」

 

 ミネラルウォーターを口に含んで、束さんは言葉を続けた。

 

「発展させるといっても、方向性は一つじゃないよね。威力の強化やエネルギー効率の上昇、軽量化とか小型化するのもそう。雪片弐型が強化されたのは、エネルギー効率の上昇。零落白夜を展開出来る時間は、ちーちゃんの雪片……ややこしいからこっちは壱型って呼ぼうか。壱型の2倍以上になってるはずだよ」

 

 すごいだろう、と言わんばかりのドヤ顔を決める束さん。胸を張った拍子に、その大きな双丘がぶるんと揺れた。いや、丘というよりも山だな。箒もかなり大きかったと思うが、見たところ束さんはそれ以上だ。遺伝子は良い仕事をしている……って違う。思考が逸れた。

 

「逆に考えると、千冬姉はアレの半分以下の時間しか戦えなかったのに世界一になれたのか……」

 

 やっぱりあの人おかしい、と再認識したところで。

 

「ちーちゃん曰く『近付いて剣を振るだけの簡単なお仕事』らしいけど」

 

「開発者・技術者としての一言をどうぞ」

 

「そんな簡単に出来る訳ないからね、念のため言っておくけど」

 

「まぁそうですよね」

 

 知ってた。

 

 相変わらず存在自体がバグみたいな人だった。

 






 今回は以前から2000字ほど書いていたものがあったため、それを加筆修正して更に書き足せば四月中旬、もしかしたら上旬の内に投稿できるかもしれない! そう思っていた時期が私もありました。気が付けばそれから数週間が経ち、月が変わっておりました。何てこったい。

 そんなわけでISAT、4月分の投稿になります。遅れた理由は新学期が始まったとか風邪引いたとか色々ありますが、その内の1つに「予想以上に分量が増えた」というのがあります。最近は一話あたりの文字数を4000~5000文字程度としているのですが、今回は何と7000字を超えました。ざっくり1.5倍ですよ。でも分けるには微妙な分量&一気にやりたい内容だったという事もあり、このような形になりました。

 本編が半端なところで切れてるように見えるかもしれませんが仕様です。あの後は二人でいちゃついたりたまに真面目な話をして、そして箒ちゃんが部屋に帰ってくる前に束さんが帰るという流れでしたがカットされました。そこの内容は多分R-18未満の筈。きっと。

 今回の話は以前からやろうと思っていた話のひとつです。白式の単一仕様能力が実は零落白夜ではない、というのは結構前から考えていたのですが、更新が止まっている間に公式が同じネタやっててビックリしました。公式がこっちに寄せてきたな、と思ったり思わなかったりしましたが、そのネタをやっと書けたのが今回なのでこっちの方が後出しになってしまいました。しまった。

 そう言えば私は主にスマホからハーメルンで文章を書いているのですが、何故かスマホからだとスペースが反映されません。何故だ。前話と合わせて来週辺りにPCから修正しますのでご容赦下さいな。

 これで書くことは全部書いたかな? そんなこんなで今回は束さん回でしたが、次回の内容は未定です。取り敢えず今回でゴールデンウィーク編は終了となります。長かったような短かったような。お次は5月中に投稿できることを祈ります。ではまた次回お会いしましょう、斎藤一樹でした。



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28.ダンスはうまく踊れない

 ゴールデンウィークが明けた。

 

 ゴールデンウィークが明けるとどうなる?

 

 知らんのか? クラス対抗戦だ。

 

「頑張ってね織斑くん!」

 

 今朝の俺は人気者だった。

 

「応援してるよ!」

 

 ホームルームが終わって休み時間になると、周りをクラスメイトの女子達に囲まれて口々に激励を受ける。

 

「ああ、任せとけ」

 

 俺もそれに応える。ああ、任せておいてくれ。

 

 

 

「学食クーポンは、俺たち一組がいただく!」

 

 

 

 そう俺が宣言すると、ギャラリーは大盛り上がりである。

 

 クラス対抗戦で優勝したクラスには、それから半年の間学食で使えるクーポン券が与えられる。その事が知らされたのはつい先程のホームルームでの事だった。

 

 でもこれ、専用機持ちが集められた1組が微妙に有利な気がする。代表候補生は他のクラスにもいるとは言え、専用機持ちは1組に纏められている……つまり現在、他のクラスには専用機を持っている生徒はいない。

 

 もちろん専用機持ちの代表候補生以外には勝てる、等と慢心する気は無い。無いが、専用機を持っているかいないかでISの合計搭乗時間は大きく変わってくるし、合計搭乗時間は熟練度にほぼ直結すると言える。

 

 IS学園が保有する訓練用ISの機体数は30機。これはIS学園の生徒数を考えれば少ないと言えるだろうし、全世界でコアが467個しか存在しない事を考えれば多いとも言えるだろう。

 

 しかし、生徒が自由に使うには明らかに足りない。IS学園の練習機は授業の他、放課後や土日には個々人の自主練習用に貸し出されるが、その予約は1ヶ月先まで常に埋まっているとの事である。ちなみに制度上、1ヶ月以上先からは予約が出来ないことになっている。IS学園設立の頃はこの制限が無かったが、際限無く予約が増えたためこうなったらしい。然もありなん。

 

 そんな訳で、現在は毎週月曜日の17時から開放される、職員室前の受付BOXに申請書を入れていくという方式に改められている。月曜の放課後には職員室前に長蛇の列が出来る、というのはIS学園ではお馴染みの光景の1つである。

 

 話が逸れた。

 

 クラス対抗戦の話だった。

 

 専用機持ちと戦うことにはならないとは言え、各クラスに代表候補生はいる。クラス代表を選出するなら、一般生徒よりも強い代表候補生を選ぶ事だろう。何で俺は代表候補生でもないのにクラス代表なんてやってんだろうな。

 

 まあ良い。それはもう終わった話だ。

 

 若さとは振り向かないことなのである。あばよ涙、よろしく勇気。

 

 少なくとも4組は、日本の代表候補生である簪がクラス代表になったと聞いた。他のクラスは忘れた。

 

 兎にも角にも、油断は出来ないのである。

 

 という事で。

 

「セシリア、今日の放課後空いてるかい?」

 

 俺が今日の訓練の相手に選んだのはセシリアだった。

 

「あら、デートのお誘いかしら?」

 

 くすりとセシリアが微笑む。

 

「ちょいとダンスの練習に付き合ってほしくてね」

 

 残念ながら、ワルツは踊れないが。

 

 今日のところは俺が一人で踊るだけの予定だ。

 

「分かりましたわ、では放課後に」

 

 二つ返事で快く引き受けてくれるセシリア、有り難い。

 

「サンキュー、アリーナの申請はこっちでやっとく」

 

 何かを勘違いして期待していたらしい周りの女子達が一斉にがっかりした顔になった。悪いな、浮いた話じゃなくて。

 

 

 

 

 

「で、わたくしはどうすれば良いのでしょう?」

 

 放課後、第3アリーナ。

 

 そこで、俺とセシリアはISを纏った状態で対峙していた。

 

 ……ちなみに新型のISスーツはしばらくお預けということになった。この間束さんが来た時に受け取るはずだったのだが、再調整が必要になったため一旦持ち帰ることになったらしい。その為、暫くはまだこのスーツにお世話になる事になりそうである。

 

「今日は回避訓練に付き合って欲しくてな。俺は一切攻撃しないで躱す事に専念するから、セシリアにはビットやライフルでひたすら俺に射撃をして欲しい」

 

「一夏さん、そういう趣味が……?」

 

(ちげ)ェよ」

 

 引くな引くな。

 

 性癖満たしてもらうために呼んだわけでは断じて無い。性的嗜好的にも、そういうのはちょっと。

 

「まあ良いですわ、付き合って差し上げます……代わりに今度わたくしの訓練にもお付き合いいただきますわよ?」

 

 気を取り直したようにセシリアが言う。

 

「勿論だ、その時は全力でやらせてもらうぜ」

 

 この後めちゃくちゃ特訓した。

 

 

 

 

 

 IS学園生徒会。生徒会長である更識楯無を筆頭に、会計に布仏虚、マスコット……もとい庶務に布仏本音を据えた少数精鋭のチームである。

 

 そして未だ特に仕事をしていないが、一応俺がそこの副会長でもある。決してサボっているわけでは無い、「特に呼んだとき以外は生徒会の仕事はしなくて良いから、その分ISの訓練やって早く強くなって(意訳)」という会長命令を受けたが故である。どちらかと言うと俺は書類仕事の手伝いをしたいのだが。

 

 何せ、見るたびに虚さんが忙しそうにしているのだ。のほほんさんは予想の通りに書類仕事が苦手だったし(本人曰く「私がいる方が仕事が増える」)、刀奈姉は刀奈姉で中々真面目に仕事をしない。より正確に言うならば、隙あらばサボる。そうして、唯一真面目な虚さんの仕事が増えていくのだった。

 

 人、それを貧乏クジと言う。

 

「で、クラス対抗戦の話って聞いて来たんだけどさ」

 

 昨日の夜に「クラス対抗戦の件で話があるから、明日の放課後に生徒会室まで来るように」と連絡を受けた俺は、こうして生徒会室へとやって来たわけだが。

 

「……書類、溜まりすぎでは?」

 

 書類が山と積まれている。

 

 またサボってたな?

 

「これが平常運転なのよ」

 

 しれっと刀奈姉が言うが、その後ろに控える虚さんを目を向けると彼女は無言で首を振った。本来はこんなに溜まらないらしい。

 

「つまりサボるのが平常運転、と」

 

「こ、これは違うのよ」

 

 冷や汗混じりの笑みを浮かべながら刀奈姉が言う。

 

「打ち合わせは一旦後に回すとして、取り敢えずお説教から始めましょうか……虚さん?」

 

 え、と虚さんの方を見る刀奈姉。

 

「ええ、そうですね……最近のお嬢様のサボり具合は少々目に余りますので」

 

 刀奈姉の笑みが引き攣った。

 

 この後30分程お説教タイムとなったが、いつの間にかのほほんさんは生徒会室から姿を消していた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ気を取り直して、クラス対抗戦の話を始めようか!」

 

 先程までの醜態を誤魔化すかのように、「反省」と書かれた扇子を閉じつつ刀奈姉は声を張り上げた。いつの間にかまた戻って来たのほほんさんがユルい笑顔で「おー」と声をあげた。……本当にマスコットみたいな立場だな、と思ったがそれ以上に神出鬼没キャラになっている。この娘怖い。

 

 それはそうとして、クラス対抗戦の話だ。

 

「方針としては以前決めた通り、私と虚が校舎で待機。一夏くんと本音ちゃんはアリーナの方で待機していて。一夏くんはクラス代表っていう立場を利用してピットで待機ね。本音ちゃんは一夏くんの整備クルーって事にして一夏くんと一緒に動いて」

 

 整備クルー?

 

「整備は任せて~バリバリ~」

 

「やめて!?」

 

 がおー、と両腕を顔の高さまで上げて威嚇するのほほんさん。ぷらりぷらりと揺れる長い袖が愛らしい。

 

「大丈夫、本音ちゃんの整備の腕は確かよ。私が保証するわ」

 

 俺の訝しげな視線に気がついた刀奈姉がフォローするように言った。のほほんさんを見る。がおー、とまた威嚇された。全く怖くない。

 

「……マジで?」

 

「信じ難いかもしれないけれどマジよ」

 

 マジなのか……。ソファーに腰を下ろしたまま天井を仰ぐ俺の前に、虚さんが淹れ直したお茶を置いてくれた。それを啜って気を取り直す。相変わらず虚さんの淹れるお茶は旨かった。

 

 ぱん、と気を取り直すように扇子を開きながら刀奈姉が口を開く。

 

「状況次第では零落白夜を使って施設を一部破壊してもいいわ。一夏くんは襲撃者のところに向かって対象の撃破、もしくは足止めをお願い。撃破するのが厳しければ増援が来るまで持ちこたえるだけでもいいわ」

 

 珍しく真面目な顔で、彼女は言葉を重ねた。

 

「とにかく被害を最小限に。一般生徒に犠牲者を出した時点で私たちの負けよ」

 

 ぱちり、と扇子を閉じつつ告げられたその言葉の重さに。

 

「任された」

 

 返す言葉は短く、決意は固く。

 

「……怪我人一人出さずにやって見せるさ」

 

 俺は宣言するように言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




 現実世界でもゴールデンウィークが終わりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。あとがきがやたらと長い斎藤一樹です。5月分の投稿となります、今月は間に合いました。

 今回はクラス代表戦の前準備とかの話です。前話で束さんにダメ出しされたところを何とかしようと一夏くんが特訓したり、イベントの時の防犯対策の最終確認とかそんな感じ。次回は予定通り行けば、またちょっと作中の時間が飛んでクラス代表戦が始まる辺りからスタートです。

 あと、今回は試験的にルビと太字のタグを導入してみました。今後、既に投稿済みの話にもルビは導入していく予定です。

 この先の展開をどうするか、今話にどんな事をどこまで書くかで一週間ほど悩みましたが、その結果は皆さんが読んだ通りです。イベントとイベントの間の繋ぎの話って、良いネタが浮かばないとちょっと内容に困ったりします。息抜きに設定を思い付いたフレームアームズ・ガールの話を書いたりしてましたが、公開するかは未定。

 そう言えばこの作品に感想が来ました。随分と久しぶりに来たな、と嬉しくなって見返してみたらハーメルンに移してから初めて戴いた感想でした(ちなみにこれ以前で頂戴した感想の内、最も新しいものは約三年前にFC2小説で戴いたものでした)。そりゃ久しぶりと感じるわけだ。

 ここからは少し真面目な謝辞を。「感想って貰うと嬉しいものだな」という、物を作る上で当たり前の、そして大切な事を久方ぶりに思い出せたように思います。本当にありがとうございます。今話が多少なりとも早く書き上がったのは、間違いなくあなたとあなたの感想のお陰です。

 以下、本文の補足とか。


・知らんのか

 コブラのアレ。知らない人は「コブラ 知らんのか」で画像検索。本当はゴールデンウィーク編の時に入れようと思って忘れてたネタ。


・学食クーポン券

 鈴ちゃんまで一組に入った事で「流石に他のクラスが不利だろう」ということになり、クラス対抗戦の景品がグレードダウン。多分例年通りだったら景品はデザートのフリーパス(だっけ?)のままだった。


・職員室前の長蛇の列

 月曜日の朝8時とかだった頃もある。申込のために徹夜して授業中に寝る生徒がそこそこいたので放課後に。学生の本分は勉強です。


・元チョロイン

 一夏への好感度は高いけど、これ恋愛対象じゃなくてライバルポジでは……? 作者は訝しんだ。


・この後めちゃくちゃ特訓した

 束さんに言われた「視覚に頼らずハイパーセンサーで相手からの攻撃を感じる」という訓練を延々とやった。でも「これ、読んでも多分面白くないのでは……?」と思い至り全カット。なお訓練の結果はあまり芳しくなかった模様。


・そう言えば千冬は一夏がアホな動かし方してる事に気が付いてなかったの?

 気が付いてたけど一夏がISの動き方に慣れてないからだと思っていた。一夏が「こういうものだ」と思っていたとは想像していなかった模様。千冬さんも色々忙しかったので、一夏の普段やってる練習風景は見れてない。


・隙あらば脱走して書類仕事サボるウーマン

 更識としてのお仕事で抜け出すこともあるが、最近はただサボっていただけだったのでお仕置きされた。デスクワークは好きじゃない。


・貧乏クジ担当

 IS学園生徒会はこの人のお陰で回っています。


・改変でイベント全カットの中国代表候補生

 最近あたしの出番無いんですけど!





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29.Rock you

「おりむー、白式の最終チェック終わったよ~」

 

 クラス対抗戦当日。試合を間近に控えた俺は、整備クルーとして同行してきたのほほんさんと一緒にピットにいた。

 

「言われた通りにスラスターの噴射量を制限しておいたけど、良いの?」

 

 差し出された白いブレスレットを受け取ると、ぱたりぱたりと袖を揺らしながらのほほんさんが言った。

 

「ああ、今回は万が一に備えてエネルギーを節約していかなきゃならないからな」

 

 お客さんがいつ来るかは分からないが、歓迎する用意はしておかなきゃな。

 

「……舐めプ~?」

 

 ぽつりとのほほんさんが言った。

 

「違うっての」

 

 人聞きの悪い。

 

「燃費を良くして戦いやすくした、と言ってほしいね」

 

 白式は元々スラスター出力が高過ぎるほどに高い。そのおかげで速いのは確かだが、代償として燃費も悪い。この調整で長所は多少殺す事になったが、その分扱いやすくなっているというわけだ。

 

 アリーナの広さを考えると、トップスピードまで持っていってもすぐに減速することになる。つまりこれもまたエネルギーの無駄に繋がる。

 

 スラスターの噴射量を絞れば加速も緩やかにはなるが、少なくともクラス対抗戦の内では問題にならないだろう。問題は十分な距離の無い距離で急加速、等という無茶をしなければならないかもしれない襲撃者が相手の場合だが……今悩んでも仕方があるまい。

 

 当然、今と同じだけスラスターの出力に制限をかけた状態での慣らし運転は既にやっている。検証の結果「この位までなら減らしても大丈夫」「これ以上減らしても性能が下がる以上に燃費が良くならない」と言ったラインを狙い、今回のスラスター噴射量をどこまで制限するかを決めたのだ。

 

 とまあ小細工はしたが、ここから先は出たとこ勝負。噴射量を制限して踏み込みが足りなくなって負ける、という可能性もある。避難指示の放送はいつでも流せるようにしたし、万が一の時の助っ人も鈴に頼んだ。色々と出来る限りの仕込みはやった、後はあちらさんが来ないことにはどう転ぶか分からない。

 

 時計を見れば、時間は試合開始の5分前になったところだった。

 

「そろそろ時間だな」

 

 行くぜ、白式。

 

 心の中でそう呟き、左腕のブレスレットを人差し指と中指の2本の指で撫でるように擦る。2秒と少々の後、白式が展開された。一秒の壁は未だ遠く、高い。

 

 だがそれもその内早くなるだろう。最初の頃から考えれば、展開までの時間は半分程度にまで縮まっているのだ。だから今はこれからの試合に集中する。

 

「それじゃあ先ずは第一試合、張り切って行ってみようか」

 

 いってらっしゃ~い、というのほほんさんの間延びした声にひらひらと右手を振って応えつつ、俺はピットから飛び立った。

 

 

 

 

 

「やあ、ゴールデンウィークの時以来か」

 

 クラス対抗戦の第一試合、1組vs2組。2組のクラス代表は、鈴のルームメイトのティナ・ハミルトン嬢だった。

 

 彼女が纏うのは、フランスはデュノア社のラファール・リヴァイブ。拡張性と整備性が高く、素直でクセがない。良い機体だ。生憎俺が乗った事は無いしこれからもその機会は無いだろうが。

 

「そうだね、もっと私たちの部屋に遊びに来てもいいんだよ?」

 

 歓迎してあげる、といたずらっぽく笑いながらハミルトン嬢が言う。

 

「前向きに検討しておくよ、ハミルトン嬢」

 

 肩を竦めながらはぐらかす。

 

「固いなぁ……ティナでいいよ、ティナで」

 

やや呆れ気味にハミルトン嬢が言った。

 

 ティナ・ハミルトン。IS学園にいる他国からの留学生という存在は、その国の代表候補生……或いはそれに準ずる実力の持ち主であることを意味する。彼女の場合は……カナダだったかの代表候補生だった筈だ。

 

 油断は、出来ない。

 

 互いにISを纏った状態で、表面上は和やかに会話が進む。試合開始のブザーが鳴るのを待ちながら、嵐の前の静けさとでも言うべき僅かな時間を楽しむ。

 

 そして、

 

「Let's,」

 

「んじゃあ、」

 

 ブザーが鳴る。

 

「Rock 'n' Roll !!」

 

「始めようか!」

 

 動き出すのは同時。

 

 俺はハミルトン嬢……もといティナに向かって一直線に距離を詰めながら/彼女はこちらに向けて両手に呼び出したサブマシンガンを構え、

 雪片弐型を左腰の位置に呼び出してそれを右手で握り/引き金に指を掛けながら背面のスラスターに火を点し、

 すれ違い様に抜刀するように抜き打ちの横一閃を繰り出す/距離がゼロになる直前でスラスターを吹かして急上昇しつつ引き金を引いた。

 

 俺の初撃は空気を裂くだけで終わり、ティナは俺の頭上を飛び越えるように移動しながら二挺のサブマシンガンから弾をばら撒いた。

 

 速度を殺しきらない程度に減速しつつ、バレルロールで身を捩るようにして軌道をずらしながら射線から逃げる。アリーナの壁に沿ってこちらも上昇し、高度を合わせる。

 

 そして、試合開始時よりも高度の上がった場所で再び対峙する。挨拶替わりの一合を交えた程度ではお互い息も乱れず、大したダメージも無い。小手調べは終わりってところだろうか。

 

「うんうん、思ってた以上に良い動きね。ISを動かしてからまだ1ヶ月なのが嘘みたい!」

 

 楽しそうにティナが言う。

 

「お眼鏡に叶って光栄だぜ、レディー」

 

 まだまだ行けるわね? と眼で問う彼女に笑みで応えると、満面の笑みが返ってきた。

 

「期待以上よ、もっと楽しくバトルが出来そう!」

 

 ウッキウキである。楽しくて堪らない、といった様子を隠す事なく笑顔にのせて振り撒くティナは実に魅力的だったが、試合中に口説かないだけの分別はある。

 

「じゃあそろそろ続きをやろうか?」

 

 雪片を正眼に構え直しながら声をかける。

 

「OK、全力でね?」

 

 じゃこん、と両手のサブマシンガンに拡張領域(バススロット)から取り出した新たなマガジンを挿し込んでリロードしながら、ティナが笑う。

 

「勿論さ」

 

 じり、と互いに動かないまま十数秒が経つ。少し剣先を揺らして誘ってみると、焦れたように弾丸が数発飛んできた。

 

 その弾丸を左斜め前に飛び込んで避けると、そのままくの字を描くような動きで近付く。ティナはバックステップで距離を取りながら右手のサブマシンガンで弾幕を張ってこちらを牽制しつつ、左手の装備をサブマシンガンからショットガンへと持ち変える。

 

 そしてそのショットガンの銃口が向く瞬間、

 

「食らうかっての……!」

 

 スラスターを一旦カットしつつPICのマニュアル制御で慣性を殆どゼロにして、再びスラスターを使いバク転を行う。六十二口径のIS用連装ショットガン〈レイン・オブ・サタディ〉から吐き出された2発の弾体が数瞬前まで俺がいた空間を突き抜け、ショットシェルから放たれた無数の散弾が俺の爪先を擦っていった。

 

 今のは危なかったと冷や汗をかきつつ、バク転の勢いのままティナの斜め下から仕掛ける。再びこちらに向けられるショットガンの銃口の方向から斜線を予測し、先程放たれた2発のショットシェルから拡散した散弾の拡散範囲を元に割り出された次弾の予想拡散範囲が、空間投影ディスプレイの1つに三次元的に表示される。

 

 回避は……キツいな。なら!

 

「これで!」

 

 雪片を投げ、囮とする。

 

 投げられた雪片はティナが上体を反らすことで避けられたが、咄嗟に避けたからかショットガンの銃口も逸れた。

 

 その隙を待っていた!

 

「そら、よっとォ!」

 

 スラスターを一気に吹かして懐に飛び込み、

 

「きゃっ!?」

 

 右の回し蹴りでショットガンを弾き飛ばす。

 

 動揺させられたのは一瞬だけだった。ティナは素早く右手のサブマシンガンをこちらに向けて構える。対応が早いな。

 

 引き金が引かれる前に左手でそのサブマシンガンを掌で外にずらし、射線を外す。明後日の方向に放たれた弾には目をくれず、そのまま一息に横縦横と裏拳を3発頭部に叩き込む。

 

 勿論こちらの拳はシールドバリアに防がれたが、シールドエネルギーを削ることが目的なのでこれで良い。シールドバリア越しに脳を揺さぶれたら儲けものだとは思っていたが、この程度の衝撃はシールドバリアで吸収されるらしかった。

 

 サブマシンガンを押さえている左の掌でそのままサブマシンガンの銃身を掴んでティナの右腕を引き寄せ、更にその右腕を俺の右手で掴んで彼女を地面に向かって投げ飛ばす。

 

「Heaven!」

 

 ティナは叫びながらもすぐには体勢を立て直さず落下する。反撃よりも距離を取ることを選んだらしい。こちらに遠距離攻撃の手段が無い事を考えると妥当な判断である。

 

 そのまま地表付近まで高度を下げると携行している武器をサブマシンガンからライフルへと変え、両手で構えたそれでこちらを狙ってくる。

 

「投げ飛ばしたのは失敗だったかな……」

 

 ティナは背を地面に向け、仰向けの状態で低い高度を飛びながら射撃を行っている。正確な射撃だ。こちらも高度を下げて距離を詰めようとするが、少しでもその素振りを見せれば頭を押さえるように弾丸が飛んでくる。

 

 上手い。避けさせる牽制の弾と避けさせた先に置いておく本命の弾を巧に使い分け、こちらのエネルギーを削りつつ動きを制限してくる。ブルーティアーズによるオールレンジ攻撃を繰り出してくるセシリアが相手の時とはまた違ったやりにくさがある。

 

 雪片が手元にあれば実体剣の部分で盾の代わりに弾丸を防ぐことも出来なくはない (本当に「出来なくはない」程度だが) が、その雪片はさっき自分でぶん投げたわけで。結果として避けきれず、じわじわと被弾が増えてシールドエネルギーは減っていっている。このままじゃジリ貧だ。

 

「……しゃーねぇ、ちょいと無茶をやるか」

 

 現在のシールドエネルギーはまだ8割といったところ。これならば、多少無茶をやっても問題はないだろう。

 

 やることは簡単だ。まずは腹を括って、後は……

 

「飛び込むッ!」

 

 回避運動をやめて、一瞬だけ空中で停止。照準をこちらに合わさせて、ロックオンアラートが鳴った瞬間にがくんと急降下。意図的に晒した隙へと引き付けられた攻撃は俺の頭上を通り過ぎ、俺は地表へと減速無しで突っ込む。

 

 地面へと激突する直前に背部ウイングバインダーと脚部のスラスターを最大噴射して急ブレーキをかけ、更にPICを使って完全に勢いを殺す。

 

 地面に向かって行ったスラスターの噴射でアリーナの地面から砂埃が巻き上げられ、一時的にスモークを炊いたのと同じ状態になっている。相手の視力を奪った今の内に雪片を回収しておかないとな。

 

 

 

 

 織斑一夏。織斑千冬(ブリュンヒルデ)の弟で、つい数ヵ月前まではISについて全くの素人だったハズの彼は、その経験の浅さを感じさせない動きで私と戦っていた。

 

 彼が駆るIS〈白式〉は、織斑先生が乗っていた暮桜と同様に剣一本だけを装備した機体だ。一撃必殺と言っていい攻撃力を持つ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)〈零落白夜〉と、それを当てる為の高い機動性を併せ持った機体。

 

 圧倒的な速さで敵の攻撃を掻い潜り、圧倒的な火力で相手を倒す。単純且つ明快なコンセプトのこの機体は、そのシンプルさ故に型に嵌めることが出来れば極めて強力であり……そしてそれ故対策もされ易い。

 

 武装の少なさは機体の扱い易さに直結する……という訳では必ずしもない。勿論、多すぎては初心者には扱い難い機体となるだろう。だが、剣一本だけと言うのはそれ以前の問題だ。複数の武装を扱う煩雑さや操作の複雑さよりも、武装は剣が一本だけしかないというのはデメリットが大き過ぎる。

 

 さらに売りの一つである圧倒的な火力を実現する単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)〈零落白夜〉は、同じものを搭載していた暮桜のものと同じデメリットを抱えているならば、非常に燃費が悪い。簡単に言うならば、初心者向きとは到底言い難い機体だ。

 

 だけど。

 

「この状況、押されてるのはこっちの方ね?」

 

 シールドエネルギーはお互いまだ大して削れていない。それでも、どちらが押しているかと言われれば彼の方だろう。そしてその事が、堪らなく楽しかった。

 

 強い相手と戦うのは好きだ。元々スポーツやFPS系のゲームが好きだった。だから、彼……織斑一夏が想像以上に強かったのは私にとって嬉しい誤算だった。とは言え、もちろん私だって負ける気はない。

 

 だから、まずは。

 

煙幕(スモーク)替わりの砂煙、剥がさせてもらうよ!」

 

 拡張領域(バススロット)からリボルバーバズーカ〈リュコス〉を取り出して肩に担いで構える。シリンダーに初弾と次弾は時限式信管のものを装填し、3発目から6発目は通常の成形炸薬弾を装填。時限式信管のタイマーはこの距離なので発射後一秒にセットして、白式が巻き上げた砂煙の中へと2発……中央からやや右と左の空間へと撃ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 




 6月分の投稿です。今回からクラス対抗戦の話に入ります。一回戦の対戦相手はティナ・ハミルトン。鈴が原作と異なり1組に編入されたため、2組のクラス代表は彼女になりました。

 戦闘シーン書いてたらキリのいいところで5000字を超えたので今回はここまでということで。当初の予定の半分くらいで予定文字数に達したあたり、計画性の無さとかが露呈してる気もしますが気にしない。次回で試合を動かして、その次ぐらいで襲撃でしょうか。

 今回そんな後書きに書く事が無いですね……何か書く事があれば追記するか次回の後書きに回します。質問等あれば感想欄にお願いします。




・万が一の時の対応をそれとなく鈴ちゃんにお願いする一夏くん

 セシリアはともかく、鈴ならある程度巻き込んでも大丈夫だろう……という一夏くんの無意識の甘えが出たシーン。詳しく言わなくても鈴だったら何とかするだろう、という信頼と甘えが入り交じった複雑な感情。


・IS学園にいる留学生はエリート

 比率として日本人多すぎじゃろ、という原作の印象から辿り着いた結論。他国からの留学生枠は日本国内向けの一般入試とは別に取られている説。日本以外の国にもISの訓練校があるらしいですしおすし。


・カナダ代表候補生、ティナ・ハミルトン

 原作のどこかで国籍出てたっけな、と調べてみても見当たらなかったので捏造。『「ティナ」という名前は英語圏とかオランダ語圏の名前だったので英語圏から探そう→ヨーロッパは色々いるしアメリカ辺りからの留学生にしよう→アメリカはダリルいたからその上のカナダにしよう』という思考でカナダ出身に。尚、暫く書いた後にアキブレのコメット姉妹がカナダ出身だったことを思い出すの巻。ほら、あの娘達まだ中学生だし乗ってる機体特殊だし…… (必死の言い訳)。 コメット姉妹が本作に出るかは未定。
 なお作者がチキンの為、あくまで一夏くんが「カナダだったかの代表候補生だったはず」と言っているだけ……という予防線も張っている。その辺りちゃんと覚えてる方がいらっしゃいましたら感想で教えていただければ幸いです。


・遠距離攻撃は剣で対処しようとする一夏くん

 避けるか切り払うかしか対抗出来ないから仕方がない。セシリア相手だと"連射の出来ないスナイパーライフルとビット&零落白夜で掻き消せるレーザー弾"なので、ステージと技量とか次第でメタ張れる。でも連射の利く実体弾で押されると一気に不利がつくあたり相性ゲーみたいなもの。そもそもブレオンの時点で相性ゲーである。


・リボルバーバズーカ〈リュコス〉

 しれっと出てくる本作のオリジナル装備。砲身後部に複数のカートリッジ(最大6つ)を取り付ける事が出来、一々カートリッジを交換したり装備を持ち替えたりする事なく複数の弾種を適宜運用可能にする……というコンセプトで試作された大口径のバズーカ。IS側からの操作で最大6発まで、任意の弾種を任意の順番で予め装填出来る。
 自動装填機構と複数のカートリッジ、更にリボルバーバズーカの名前の由来となったシリンダーが後部に集中しているため、一般的なバズーカに比べ後部が特に重い。
 欠点として「毎回弾種を選択して装填しなければならないため面倒くさい」というものがあり、咄嗟の迎撃などには向かない場合も。また、重い・バランスが悪いと言った取り回しの悪さも難点と言える。一方リボルバータイプのシリンダーを組み込まれているため、シリンダーに装填さえされていればバズーカにあるまじき連射速度を誇る。
 本装備の改良型である〈ニュクテウス〉ではオート装填機能(任意でONとOFFを切り換え可能)が実装され、弾種を選択しなくても勝手に装填してくれるようになった。しかし勝手に装填されるため、異なる弾種を運用する際は使いにくい。……が、カートリッジをすべて同一の弾種で統一する事で、前述の連射速度と合わせ驚異的な制圧力を発揮するようになった。むしろこちらのモデルでは、この使い方をされる方が多い。

 いわゆる「フィクション系バズーカ」であり、現実世界の「単射式携行型ロケットランチャー」を指すバズーカとは名前以外の関連性は無い。






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30.単眼の巨人(キュクロプス)

2019/02/10 スペース表示のミスを修正
2019/07/11 脱字1ヶ所修正


 

 スモークとは異なり、砂埃は晴れるのが早い。故に行動は迅速に行わなければならなかった。

 

 急降下の最中に雪片の場所を確認しておいたので、雪片の回収はスムーズに出来た。だが、無茶な逆噴射はスラスターに多少なりとも負荷がかかったらしい。空間投影式ディスプレイにオーバーヒートを告げるウィンドウがポップし、アラートが鳴る。

 

 幸いにもそこまで酷い症状ではなかったので、緊急用

冷却材のカートリッジを1つ消費してオーバーヒートを解消する。

 

 この程度でオーバーヒートが起こるってのもおかしな話だとは思うが、どこか内部の設定をミスってるのかもしれない。この試合中は持ってくれると良いのだが。

 

「さーて、と。第2ラウンド開始と行こうか」

 

 両手で握り直した雪片を構え直し、砂埃から飛び出す用意をしていると、またアラートが鳴った。

 

 相手のラファールに搭載されているであろう火器は、セオリー通りなら全て実体弾の筈。事前に調べた彼女の戦闘スタイルも複数種類の実弾火器を使い分けて中距離を維持するものだった。

 

 俺の調べた情報がブラフで、今までの戦闘で光学装備を使って来なかったのがラファールには本来装備されていないビームランチャーを切り札とするため……というのも思い付かないではないが、その可能性は低いだろう。何せ光学兵器は実体兵器よりも容量を食う。様々な火器を使い分けるというティナのスタイルには合わない。

 

 そしてビームランチャーの拡散ビームによる面制圧攻撃を初めとした高火力のビーム攻撃が来ないならゴリ押せる。

 

「仕掛けるッ!」

 

 飛び出した直後、俺の左右を弾体が通過し、後方で爆発した。……バズーカか!?

 

 今まで煙幕代わりに隠れていた砂埃がバズーカの爆風で吹き散らされ、ティナと視線が重なる。彼女の右肩には案の定大型のバズーカが担がれていて、その砲口は当然ながら俺を狙っていた。

 

 地を這うように低空飛行でティナへと迫る。バズーカが発射される。加速して避ける。後方に着弾、後ろから来る爆発の衝撃はPICで誤魔化す。再びバズーカが発射される。弾道予測線の先は……俺の前方!

 

「……っらァ!」

 

 無理矢理に右へとロールして白式の軌道を変え、直撃を避ける。しかし爆発の衝撃からは逃れきれず、無理な回避と合わせて大きく姿勢を崩してしまった。

 

 そしてもちろんティナはそんな隙を見逃すような相手ではない。

 

「貰ったよ!」

 

 弾道予測線が示すのは直撃コース。バズーカから2発連射された弾体が俺へと迫る。

 

 こうなりゃ一か八かだ、ぶっつけ本番だがアレをやる!

 

「ところが……」

 

 まず雪片を軽く地面に突き立ててそれを支えに、ISのパワーアシスト機能を使い逆立ちするように身体を上下逆さに持ち上げる。そしてそのままPICを使って機体を上昇させつつ雪片を引き抜きながら、更に半回転分前転して上下を戻す。

 

 無茶苦茶なマニューバの結果、バズーカから放たれた弾は俺の足元をギリギリで通過していった。

 

 あっぶねぇ。

 

 元はと言えば弾とよくやってるアクションゲームのキャラクターの動きを参考に、真似出来ないか……あわよくば戦闘に活かせないものかと以前から考えていた動きの1つであり、考えてはいたもののアクロバティック過ぎて酔いそうなので実行を断念していたものでもある。

 

 いざやってみたら酔う以上にPICのマニュアル制御が思いの外に面倒臭かったが。

 

 そしてこの動きには派生技がある。それが、

 

「ぎっちょんっと!」

 

 上昇してからの浴びせ斬り。

 

「Damn!」

 

 俺の振り下ろした雪片を、ティナもブレードを呼び出して受け止める。

 

 だったら、

 

「崩させてもらう!」

 

 背部のウイングスラスターを点火、鍔迫り合いの形で拮抗している状況を崩しにかかる。

 

「やらせないよ……ッ!」

 

 右手に持ったままだったバズーカを投げ捨て、左手一本で保持していたブレードを両手で構え直すティナ。そのままこちらへと力を込めて押し込もうとしてくる。

 

 かかった。

 

「崩すと言った!」

 

 PICを使い、上から雪片で叩き斬るように力を加えていた状態から白式を少し後方へと動かしつつ、雪片も斜め後ろへと角度を変えてティナの力を後ろへと流す。

 

「おっと……!?」

 

 ティナはブレードを突き出す形で、空中でつんのめるように姿勢を崩した。

 

 ボディががら空きだぜ、ってな!

 

「獲った!」

 

 伸びきった腕の下に潜り込むように懐に飛び込み、その胴に零落白夜を展開した雪片を押し付けるようにして斬る。

 

「……ッまだだよ!」

 

 シールドエネルギーをごりごりと削るこちらの攻撃に対して、密着状態のティナが取った手は膝蹴りだった。

 

 こちらの首を狙う軌道でブレードを引き戻しつつ、回し蹴りの要領で膝を入れてくる。ブレードを振るってくる腕をこちらの左腕で押さえつつ、振るわれた左膝をこちらも右の膝をかち当てて受け止め、その勢いのまま後退して距離をとる。

 

 今の零落白夜の押し付けでかなり削れたはずなんだが。ティナはと言えば未だ不適な笑みを浮かべたままだ。ポーカーフェイスか、一発逆転の策でもあるのか。警戒するに越したことはないが、慎重になり過ぎてもこっちがジリ貧で負けるだけだ。

 

 距離を取ってからすぐに消したとは言え、先程の零落白夜で削れたのはこちらのシールドエネルギーも同じだ。元よりこの機体は短期決戦型。今回はスラスター等のエネルギー配分を調整したものの、長期戦向きでないことに変わりはない。

 

 じり、と構えたままお互い動かない。

 

 なら、そろそろカードを切ろう。

 

 切り札(ジョーカー)は持っていれば安心なお守りでは無い。切れる時に切らなければ意味が無いのだ。

 

 憧れたあの姿は、繰り返し飽きることなく見返したあの姿は、例え瞼を閉じようとも鮮明に思い浮かぶ程に焼き付いている。

 

 後は、それをなぞれば良い。

 

 行くぜ、千冬姉直伝!

 

「はぁッ!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)!!

 

 背部のウイングスラスターが生み出した爆発的な加速により一瞬で距離を詰め、そのまま横をすれ違い様に零落白夜で撫で斬る。

 

「Oops! まだそんな隠し玉があったのね……でも!」

 

 斬り抜けてからPICで機体を急停止させて反転し、向き直る。今度は斜め下から斬り上げを放とうとするが、ティナが振り向き様にサブマシンガンを向けてきたので、慌てて雪片の軌道を変更させて射線を遮る。

 

 あの振り向き様の一瞬で、危うく綺麗なヘッドショットを決められるところだった。

 

 そして、危なかった……等と気を抜いてしまったのが運の尽きか。

 

 俺の視線を彼女の身体で遮るようにしてティナが左手で隠し持っていたのは、小振りなグレネードランチャーだった。

 

 そしてその砲口は今、俺へと向けられていて。

 

「……冗談だろ?」

 

 スローに感じる時間の中。

 

 つうと一筋、頬に嫌な汗が伝う。

 

 直後、俺は腹に衝撃を受けて吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わり……って感じじゃなさそうね」

 

 ゆらりと銃口から白煙を立ち上らせるグレネードランチャーをゆっくりと下ろし、ティナは呟く。

 

 先程のグレネードランチャーの一撃は会心の一撃と言って差し支えの無いものであった、とティナ自身は感じている。しかし同時に、これで勝負が着くとは思えないとも感じていた。その証拠に未だ試合終了を告げるブザーは鳴っていない。

 

 左右のマニュピレーターに保持していたサブマシンガンとグレネードランチャーを量子空間に格納し、代わりに先程使用したライフル……51口径アサルトライフル〈レッドパレット〉を両手で構える。

 

 彼……織斑一夏はトリッキーな動きも織り混ぜながらこちらの攻撃を避け続け、あまつさえ隙を見つけては攻撃を仕掛けてくる。

 

 アレでISを起動させてから未だ半年も経っていないというのが恐ろしい。

 

 悪い冗談よね、と呟いきつつ構えたライフルの照準を織斑一夏に合わせる。そのままトリガーにかけた指に力を込め、

 

 熱源反応。

 

「ッ!?」

 

 それは半ば本能で身体が勝手に動いた結果だった。

 

 上空から高エネルギーの熱源反応が出現し、それを知らせるアラートが鳴り響くのとほぼ同時。ティナは全力で、自らの駆るラファールに後方へと跳ばせた。

 

 直後、アリーナの中心部に光の柱が突き立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に光が降り注いだのは、吹き飛ばされた俺にティナがライフルの銃口を合わせた直後だった。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で回避した後に再度間合いを詰めて反撃、と頭の中で算段を立てたところでふと視界の上端辺りに光が見え。

 

 直感に従って右斜め前に加速させる予定だったのを急遽変更し、アリーナ外壁に大体沿うように多少歪な螺旋状を描きながら白式を上昇させる。

 

 数秒の後に光が消えた頃には、アリーナ中央部の地面はガラス状になるまで赤熱化されていた。

 

 上空には右腕と一体化した巨大な砲口を此方に向け、単眼を怪しく光らせる……多少アンバランスながらも人型をした機体がこちらを睥睨していた。

 

 ……野郎、アリーナのシールドバリア抜きやがったな。何処のどいつか知らないが……いや、十中八九は刀奈姉が言っていた亡国機業(ファントム・タスク)と見て良いだろう。兎も角、あの火力は不味い。

 

「ティナ、無事かい? 怪我とか無い?」

 

 螺旋移動から直線移動へと切り替え、ティナの近くへと機体を寄せながら訊いておく。

 

「こっちは平気だよ。それよりアイツ……」

 

 上空の所属不明機(アンノウン)から視線を外さず警戒したまま、ティナが答える。

 

「ま、どう見ても楽しくお茶しに来た様には見えないよな……知り合い?」

 

「生憎と眼が1個しかない知り合いには心当たりがないかな」

 

 軽口を叩きながら、武器を構え直す。

 

『織斑、そちらはどうなってる!?』

 

 管制室から千冬姉の慌てた声が通信に乗って飛んで来た。

 

「正体不明の……どうも全身装甲(フルスキン)タイプと思われる機体がこっちに砲口向けてきてます。そちらでも確認してると思いますが、先ほど放たれたビーム火力はアリーナのシールドバリアを貫通して余りある程のようです。大至急で観客席の生徒達の避難を」

 

 なるべく落ち着いて要点を伝える。しかし、

 

『こちらで色々試しているが、アリーナのセキュリティにハッキングをかけられている。各部のドアが閉鎖されている為、現状では生徒の避難が行えない』

 

 マジかよ。

 

 千冬姉から返ってきた通信に思わず舌打ちが出そうになる。アリーナと観客席との間にはシールドバリアに加えて緊急用のシャッターが降りているが、あのビームの前ではどれほどの効果があるか定かではない。

 

 上空では件の所属不明機(アンノウン)が右腕をゆっくりと振り上げていた。前腕から砲身と一体化した右腕には砲身下部に沿うように大型のプレートが垂直に備え付けられており、先程の大出力のビームと合わせて考えれば放熱板を兼ねたヒートブレードの役割を担っているであろう事は想像に難くなかった。

 

「ッ散開!」

 

「Roger!」

 

 それぞれ左右に別れて回避運動を取ったところで、俺達の間を単眼の機体がブレードを振り下ろしつつ急降下していった。

 

 そしてズドンと大きな音を立てて2本の脚で着地した所属不明機(アンノウン)は、直立したままこちらをその眼でじっと観察している。

 

 何だ?

 

 何を狙っている?

 

 何が目的だ?

 

 素早く思考を走らせる。

 

 いや、目的を探る以前に問題がある。

 

 あの機体をアリーナ内へと降下させてしまった。アリーナにハッキングが行われて避難の目処が立たない以上、迂闊に動けばあの大出力ビームの流れ弾で観客席に被害が出る。

 

 仕掛けるなら上空から、となるか。

 

 コア・ネットワーク経由での通信で刀奈姉に連絡を取り、こちらに所属不明機が一機出現した旨を伝える。向こうも事態は把握していたようで、しかし別動隊等への警戒の為に校舎からは離れられないらしかった。生徒会室では虚さんがハッキングに対処しているらしいので、そちらの護衛としての役割もあるのだろう。

 

 それでも、アリーナ(こっち)の増援については別口でアテはある。

 

「と言うわけだ。援護よろしく」

 

『はいはい、任せなさいな。ピットに向かえば良いわね?』

 

「ああ。頼むぜ、幸運の女神サマ(ラッキーチャンス)

 

 おどけて言うと、通信の向こう側で呆れたように鈴はため息をついた。

 

「んじゃあ取り敢えず、まずは様子見ってことで1つ」

 

 援護頼むぜ、と傍らのティナに言い残して所属不明機に向かい急降下。エネルギー節約の為にビームを消した雪片を実体剣として振り下ろす。残りエネルギーは、これから未知の相手とやり合うには些か心許なかった。

 

 所属不明機はブレードを構えて応戦するのではないかと予想していたのだが、予想に反して今まで使用していなかった左腕部を重々しく持ち上げ、これまた前腕と一体化したガトリングガンをこちらへと向けた。

 

 また厄介なもん持ってんなお前は! 連射系実弾武装とか苦手なんだよ白式(こっち)は!

 

「こっちも忘れないでよね!」

 

 上空からティナのライフルによる牽制射撃が飛んでくる。そのお陰でガトリングガンの銃口が俺からティナの方へと向き直る。その隙を逃さず、素早く背後へと回り込んで雪片を振るうが。

 

 ぐりん、と腰が回り右腕部のブレード部分で雪片を受け止められてしまった。なんだこの可動。中にいるのが誰かは知らないが腰を痛めるぞ……。

 

 余計なお世話かもしれないけどさ。

 

「サンキューティナ、そのまま牽制頼む!」

 

 Wilco.と返答が来たのでそのまま近距離に張り付いて様々な角度から攻撃を試みる。その内数度、胴体部や脚部に浅くとは言え攻撃を当てる事が出来た。

 

 出来たのだが。

 

 当たってしまったのだ。装甲に、零落白夜を使ったわけでもない攻撃が。

 

「こいつ、まさか……?」

 

 全身装甲(フルスキン)の硬さに頼った、シールドバリアが無い特殊な機体?

 

 いや、多分そうじゃない。

 

 シールドバリアを無くすメリットは無い筈だ。

 

 ならば。

 

 シールドバリアを持たない機体なのではなく、シールドバリアを展開出来ない機体なのではないか?

 

 そこまで思考を進めたところで、鈴から通信が入った。

 

『ピットに着いたわ。でも降りてるシャッターはまだしも、シールドバリアは突破出来ないわよ?』

 

「零落白夜でシールドバリアを斬り裂く! ティナ、暫くロック引けるか?」

 

「オッケー、任せて!」

 

 答えると同時にティナは高度を下げつつ、今まで牽制としての至近弾に留めていた射撃を直接当て始めた。今の内だ。

 

 所属不明機(アンノウン)から離れて距離を取ると一瞬だけガトリングガンがこちらを向きかけたが、ティナの射撃によってロックが外れた。

 

 その隙に俺はピットの入り口まで戻り、零落白夜を起動させてシールドバリア目掛けて振るい、穴を開けた。

 

「お迎えに上がりましたお嬢様、ってな」

 

「お互いそんなガラじゃないでしょ、良いから行くわよ」

 

「仰せのままに」

 

「そのネタ気に入ってるの?」

 

 気の抜けたやり取りをしながら左右に別れ、俺は零落白夜を消した雪片で、鈴は両手に携えた2振りの巨大な青竜刀で同時に左右の斜め後方から攻撃を仕掛ける。

 

 しかし。

 

「避けて、2人とも!」

 

 ティナの声を聴いて反射的に背面のウイングバインダーを動かし、白式を急上昇させる。

 

 直後、振り向き様に放たれた拡散された(・・・・・)ビームが脚部に当たり、白式のシールドエネルギーがごりっと減った。

 

 拡散されてこの威力かよ!?

 

 収束された照射ビームがアリーナのシールドバリアを貫通したのも然もありなん、といったところである。

 

「一夏、大丈夫!?」

 

「まだ生きてるよ、そっちは?」

 

「こっちは当たってないわよ」

 

 鈴は上手いこと避けられたのか。

 

「……で、こいつどうするの?」

 

 鈴の問いに、俺とティナは顔を見合わせた。

 

 

 

 

 




 大変お待たせしました……いや本当マジでお待たせしました。ISAT第30話、お届け致します。

 季節は夏が過ぎ去り秋を越えて冬に入り、年も変わって何と約8ヶ月ぶりの更新となりますが私はまだ生きています。

 そんなこんなで5000文字を越えても今一つキリが悪いまま7000文字近くまで延びたので、一旦更新です。クラス対抗戦編は次回で戦闘終了、次々回で戦後処理とかになるんじゃないかなと思います。多少巻いても全然戦闘シーン短くならないんでそこに関してはもう諦めました。

 あとは何ヵ月も前に第1話を改稿・追加修正したものに変更しました。本筋に影響は無い範囲のものですが、興味を持っていただけたならご一読下さい。

 ISと言えばアプリ版も終わりましたね……。暫くログインしてなかったらサービス終わっててびっくりです。アプリで追加されたキャラクターは記憶を頼りに書くことになるかそもそも本作には出てこないか、果たして。「そもそも原作再構成モノなんだから多少性格が違ったところで」と言う気もしますが、そこを考え出すと「そもそもそのキャラクターを出す必要はあるのか」という話にもなるので悩ましいところです。

 詰まるところ何も考えてません。



 ・オーバーヒート

 いつもの出力のつもりでスラスターを噴かし過ぎた一夏くんのミス。試合後に戦闘データを見たのほほんさんに「自分でスラスター噴射量の数値指示しておいて忘れてたんだー?」とからかわれ、恥ずかしい思いをしたそうな。慣らし運転とか大事だと思うんです。



 ・隠し持っていたグレネードランチャー

 本来はライフルに取り付けるための小型のもの。元々は今回の試合でティナが使用したアサルトライフル〈レッドパレット〉のアクセサリーパーツで、小型のグリップとトリガーが付いているため手持ち使用も可能となっている。装弾数は一発。白式との戦闘で接近戦をする事になるであろうと想定したティナにより、今回はライフルに取り付けず近距離での切り札として使用された。



 ・幸運の女神と書いてラッキーチャンスと読むやつ

 有沢まみず作品全般好きなんですよね。ネタ元は残念ながら打ち切りになってしまったらしいのが悲しいところ。



 ・所属不明機(アンノウン)

 IS原作再構成の煽りを受けてリストラ食らったゴーレムくんの代役。チャームポイントは不気味に光る頭部の単眼(モノアイカメラ)。何でカメラのレンズが光ってるんだよ、とジオン系とかのモノアイ機を見ながらたまに思うが格好良さの前には些細な問題なので。些細な問題なので!(強調)




 それではまた次回でお会いしましょう。第2話の修正版は近日中に、次話は春頃に投稿出来れば良いなぁと思います。

 



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