俺 自身がガンダムになることだ (解毒剤からビームサーベル)
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こいつ…動くぞ!

初投稿!
よろしくお願いしーーーます!!

誤字、脱字報告感謝感激ありがとうございます!

そして私は余りにも致命的なミスにはずか死しそうです。

………悲しみ!!






 

 

 

 

 走る、走る、走る。息を切らしながら必死に頭を回す。

 しかし頭に過るのは、これからすぐに訪れるであろう死のイメージばかり。

 何故、こうなったのか?何処で間違ったのか?何がいけなかったのか?当初の予定では楽に終わるはずなのにと、思い耽る。

 

 今回の任務は廃工場地帯での銃取引現場にて、ターゲットの捕縛とそれ以外の敵対戦力の無力化、つまり特定人物以外抹殺だった。こちらもそれなりの人数で挑んでおり、包囲、敵戦力の削減も順調に進んでいたはずだが、ケチが付き始めたのは目標確保寸前と言うところからだ。

 

 前回の作戦でDAは痛い失敗をしており、生け捕りにしなければいけなかった売人を護衛諸共皆殺しにしてしまっていた。

 その時の噂では、やれ独断専行で一人のリコリスが暴走しただの、指揮官のリコリスの通信機が壊れただの、ラジアータがクラックされただのと色々と有ったが、今は置いておくとして。そういう背景のため今度こそはと、それなりに本腰を入れていたのだ。しかし、その時の売人と繋がりの有る者かは判からないが、本腰を入れていたのは相手も同じようで、念入りに隠された護衛戦力から逆撃を受けてしまった。

 

 何人もの負傷者が出て、ゲリラ戦じみた戦局にもつれ込み、その時にチームで私だけがはぐれてしまった。その後は相手の追撃を躱しながら仲間と合流すべく動いていたが、それもそろそろ限界だろう。体力は底を突き、負傷を騙しきれなくなってきた足、相手の練度はそこそこだが重武装、それに対してこちらは残弾もなければのナイフの一本も無く、その上チームとも本部とも連絡がつかない始末。……恐らく敵の電子妨害(ジャミング)じゃないかと思う。

 

 最早 私に為す術はなく、せいぜい出来るのは命乞いくらいだが、当然そんなものは色々な意味で出来るわけがない。私達はリコリスという、女児の孤児を実働員に据えた、テロや違法取引等の様々な重犯罪を秘密裏に処理する機密国家治安維持組織の一員だ。表沙汰に出来ないような方法…抹殺等で事件を未然に防いだりするのだが、つい先程までリコリスとして散々相手と殺し合いをしていた以上、ノータイムで蜂の巣にされるのは目に見えている。

 

 死にたくない、でも助かるビジョンが浮かばない。L字型の通路の一画で壁に背を預けてへたり込み、態勢を立て直そうと可能な限り息を潜めながら肺の空気を必死に入れ替え、応急手当をする。

 

 だが、息が整っていくどころか動悸は酷くなるばかりで、吐息の震えは応急手当が終わった後もジワジワと速くなる。窓から飛び降りるか?ダメだここは4階でまずそれだけで致命傷だ。仮に無事だったとしても、それなりの音が出る以上、相手に悟られ、負傷して上手く走れない私では少し先伸ばしになる程度。

 

 グルグルと暗転する頭の中で、嫌だ 死にたくないと言葉に成らない感情が、今一番必要なのに浮かばない打開策への思考の邪魔をする。

 相手に特攻をかますか?と捨て鉢の選択が鎌首をもたげたそんな時、私の思考を吹き飛ばす衝撃がやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として真隣の壁が粉砕し、轟音が響いた気がした。

 

 自分の身に降りかかった出来事を他人事のようにそう思ったのはそれは剰りにも突飛すぎたからだ。迎撃や退避を考える間もなく、粉塵が晴れていきその原因が全貌を現す。

 

 まず判ったのは人型で大きい。しかし、大きいと言っても人間の平均身長よりかなり高めかな?といったくらいで、数字に直すと200㎝前後といったところだ。次に肩や膝、胸は分厚い。いや、分厚いというよりも異形と言った方が正しい。それらの部分は大きく張り出しており、どう視ても『人間がプロテクターを着けている』と言った形をしておらず、深く鮮やかな緑色に染めらていた。そして人型だと判ったのは、人間よりは太いがスマートで均整のとれた白く塗装されている四肢と、メリハリの有る胴や頭があったからだ。

 

 だが、『ソレ』を人と認識する事は出来ない。何故なら、各部の人間にとって関節と呼べる場所は、人の形や構造をしておらず、もし中に人を詰め込もうとすると、五体をバラバラにしなければ入ることも出来ない形をしており、今とっている、跪くような体勢から見える継ぎ目がそれを強く主張している。

 

 頭部をよく見れば、幾つものプレートを取り付けたヘッドギアやヘルメットと言った形で、額にはVの字を左右に大きく広げた黄色いブレードアンテナ。口と呼べる部分は鋭角なマスク型にその顎下からは口の様にも見える赤い飾り。目は切れ長な二つのセンサーアイが人間のように並びクリアグリーンに発光している。全身は金属なのであろう質感をしており、各部からは鈍色のフレームが見え、クリアグリーンに光る燐光が薄く舞い 静かな駆動音が響いている。

 

 統括すれば『ソレ』は人型ロボット。それもSF世界から飛び出して来たような現実に有る物から大きく逸脱した外観だ。そんなあり得ない物に意識を持っていかれた私は、通路の陰から大きく飛び出すという致命的なミスに()()()に見つかるまで気づけなかった。時間にすれば1分も経っていないが、元々相手は此方の潜伏場所に当たりを着けていた上に、破砕音も響いたのだ、私の下に短時間で辿り着くのはごく自然な事で、いくら余りにも想定外なことが起きたとはいえ、そんな言い訳はどこにも届かない。

 

 構えられる軽機関銃、相手の数は3、距離は白兵戦に持ち込むには遠く、射撃戦を行うなら近い。フルオートなら素人でも余裕で当たる間合い。無警告で放たれる大口径の弾丸の掃射を、走馬灯のようにゆっくりになった世界で観ていることしか出来なかった私の視界の端から『ソレ』は射線に割り込んで来た。相手も何かが割り込んだのは気づいたがそんな物は関係無い、そのまま纏めて蜂の巣にすれば良いし、それが出来るだけの火力が有るはずだった。

 

 

 現代の兵器事情において、攻撃用兵器の進化に装甲材などの進化が追い付いていないという話は、ある種の常識だ。何せ攻撃用兵器は、相手の堅牢な装甲や防具等を破壊した上で中身の対象に致命傷を負わせれるように計算、設計されてきているのだ。それこそ、世に出で来た当初の戦車は、絶対的な装甲と圧倒的な砲弾によって無敵の存在として君臨していたが、すぐに歩兵でも戦車に致命傷を負わせれる兵器が出てきた。勿論、戦車も様々な改良が施してその堅牢さの維持しようとしていたが、それ以上に攻撃用兵器の進化の方が早く、逆に防御用兵器は物質や重量などの制限に絡め取られ、直ぐに限界が来た。そういった事から、現代でも戦車は陸上戦力として極めて強力な兵器ではあるが無敵の存在という訳ではなく、状況や対処次第では十分に破壊可能な陸上戦力である、というのが通例だ。

 当然、人型ロボットの装甲なぞ、天井知らずの複雑な内部機構に大量の容積を奪われ、戦車と比べれば遥かに限りられたペイロードでは、その装甲はベニヤ板の様なものだろう。

 

 

 普通(常識)では。

 

 

 割り込むと同時に両肩端に取り付けられた装甲板が機体前方の大半を隠す様に可動。劈く金属(銃弾)金属(装甲)の衝突音、人間ならば何十回もミンチにしてあり余る一斉射の嵐はマガジンが空に成るまで続く、が、常識を覆して損傷どころか掠り傷すら付かない『ソレ』を全員が目にした。

 先ほどまでの騒音が嘘のように静まり帰り、カチカチと虚しい音しか聞こえなくなった廊下で────攻守が反転する。

 

 

 「………前方の対象を、反社会的武装組織構成員と断定。

  マスターの安全確保の障害と判断。

  速やかな排除の為、限定的に兵装ロックを解除。

 

 デュナメス、敵戦力を無力化する

 

「逃げっ──っ゙あ゙あ゙ !!」「あがっ!?」「ぃぎっ!!」

 

 

 宣言と同時にGNフルシールドが開放、両脹脛側面に装備されたホルスターから勢いよくGNビームピストルが起き上がり、それぞれを左右の手で腰溜め撃ちの構えで的確に撃ち抜いていく。一切の淀みもブレもなく正確にマゼンタ色の光弾が男達の四肢を撃ち抜き、相手の選択肢を瞬時に奪う。

 反撃から僅か数秒の攻めで、奪う側から奪われる側へと入れ替わった者たちを唖然としながら眺めていた私に、『ソレ』は向き直り、クリアグリーンの視線と重なる。

 

 

 「確認、機密組織、『DA』所属、リコリスの隊員で間違いないか?」

 

 「──はぇ?」

 

 「再度確認、現状況と容姿、装備からリコリスと推測するが間違いないか?」

 

 「─っは、はいィっ?!?」

 

 

 ズズイ、と迫りながら抑揚の無いマシンボイスで問われ、上擦りながら思わず素直に答えてしまう。現実感の無い一連の事象に、その時の私は完全に思考停止しており、秘匿の事や作戦の事も、明後日に行ったまま帰ってこず、流されるままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想定外の敵の反撃を辛くも退け、なんとか膠着状態に持ち込めたが状況はあまり良くない。

 此方は何人もの負傷者を出したのに相手の増援は無傷で電子妨害(ジャミング)を受けたのか司令部とも繋がらず、奇襲を受けた際に一人の後輩(サードリコリス)ともはぐれ、現状は生死不明だ。そして怪我人を抱えている以上こちらは行動力を大幅に削がれるという中々にクソッたれな状況になっちまった。しかし、悪い話ばかりだけではなく、良かった話もある。どういう訳か相手も何故か若干ゴタついている事と、通信が使えなくなる前に報告が出来たおかげで、特に危険な負傷者を何とか逃がせた事と、少ないが味方の増援が来てくれたことだが………。

 

 

 「マガジンも余りありません、次の撃ち合いが限界でしょう」

 

 「おいおい、たったこんだけっスか?」

 

 「急ぎだったのと、流石に持ってこれる予備にも限界があります」

 

 「無い物ねだりしてもしょうがねぇ、今有る分で切り抜けるぞ」

 

 

 まさか増援がコイツ(井ノ上 たきな)だとは思わなかった。

 即座に動けて、期待できる戦力と成れば、落ち着いて考えれば直近のDA支部である喫茶リコリコ以外居ないのは自明の理だが、過去の作戦やその後のイザコザもあり、暫くは一緒に行動することも無いだろう思っていた矢先に今回の件だ。尤も、仕事で公私を分けるのはプロとして大前提である以上、文句は無い。無いったら無い。

 

 とはいえ、開けたフロアの一画、廃材と投棄された作業機械を盾に、相手と睨み合っている現状は長続きはしないだろう。戦闘可能なのは、現相棒 乙女 サクラ、増援の井ノ上 たきな、そして(春川 フキ)だけだ。

 現状で時間を掛けるのは愚策だと分かっているが、怪我人が居る此方から打って出るのはリスクが高過ぎる。だが相手の方が装備の火力も頭数も多く、このままでは回り込まれ十字砲火を食らいかねない。はぐれた後輩の事もある。もう決断するしかない。そんな時。

 

 

 

 

 天井が爆発した。

 

 

 

 

 上という予想外の場所からの異変に敵も味方も目を向ければ、更なる異変に見舞われる。天井を突き破って現れたのは、後輩(はぐれた仲間)を抱えた人型ロボット。

 相当な高さが有るにも関わらず、重力を無視したかのようにフワリと着地し、この場にいる全員の時間が止まる。

 今リコリス達を殲滅せんと包囲するように動いていた者が、それを打開しようとしていたリコリス達が、足を止め、目が裂けんばかりに見張り意識が集中する。そんな中、我関せずと動き続けるロボットはリコリス達の居る方に歩を進める。

 

 

 「推奨、速やかな友軍との合流」

 「ど、どうも?………??……?????」

 

 

 身をやや屈め、抱えた少女を丁寧にエスコートするロボットに、漸く我に返った傭兵達は静かに殺気立つ。敵対していた少女達に味方の様に振る舞ったのだ、自分達の敵だと結論を出したのだろう。そんな空気でも変わらずロボットは傭兵達の方に向き直り、リコリス達の盾に成るように立っていた。

 

 

 「警告、テロリストに告ぐ。貴様らの行動目的は完全に潰えた。直ちに武装を解除し、投降せよ。これに従わない場合、実力をもって貴様らを排除する。繰り返す───」

 

 「っ──伏せろ!!」

 

 

 淡々としたマシンボイスの勧告は、傭兵達にとっての合図になった。

 繰り返す途中に叩き込まれる複数人からの鉛玉の返礼が野蛮なオーケストラを奏でる。相手が人ではない以上それだけでは足りないだろうと、念入りに殺意のこもった手榴弾を幾つも放られ、加えて本来ならリコリスへの止めの為にと回り込んで準備していた携帯対戦車擲弾発射器、所謂 ロケットランチャーも2階の簡素な踊り場から加わる。

 爆音に次ぐ爆音、戦車でも壊すかのような勢いで、傭兵達から一身に敵意を受けたロボットは爆炎と煙に巻かれその姿が掻き消える。

 

 傭兵達の射撃と同時に正気に戻ったリコリス達は、巻き込まれぬよう慌てて身を隠しながら事態の推移を見守る。完全に木っ端微塵だろう、と、この場に居る全員(頭の中が未だに疑問符で埋め尽くされている後輩は除いて)が予想し、各々が次の行動への算段をつけていたその時。

 

 

 黒煙が緑に煌めく風に乗って吹き飛び、予想が覆される。

 

 

 「───現行動を勧告拒否と判断。

  デュナメス、鎮圧行動に移る

 

 

 高らかに宣言されたそれは決定事項。無傷に驚く暇も無く事態は動き出す。

 いつの間にか展開していたGNフルシールドを再び解除し、20メートル以上離れた傭兵達との距離を瞬時に潰す。クリアグリーンの輝きを発しながら飛翔すれば、それはそのまま巨大な人間大の砲弾と化した。同じ体格の人間同士でも全力でぶつかれば、それだけで大怪我に成る可能性があるのだ。それを人間より遥かに重くて硬い物が、人間とは比べ物にならない速度でぶつかればどうなるかは想像に難くないだろう。

 射撃の為に身を乗り出し、二人で固まって居た傭兵達の片割れに、ぶちかましが敢行。()()()()()()()()()()()()したが、それでも十分な運動エネルギーを余すことなくもらい、乾いた何かがくぐもりながら折れる音と共に、オモチャの様に大の男が跳んでいく。

 

 

 「ごぇ゙ぇ゙ぇ゙っっ!!?」

 

 

 咄嗟にライフルを盾にしたようだがその銃身ごと体をひしゃげさせてピクピクと痙攣してる様はどう見ても戦闘不能だろう。

 

 

 「おっ、────おおおおおおおおおおっっ!!」

 

 

 半ば動転しながら数メートルしか離れていなかった仲間を吹き飛ばした下手人に、ライフルを発砲しようとするがその前に優しく銃身を手で上へ流された。その武骨そうな外観とは裏腹に、滑らかで滑るように相手の懐に入る姿は現実感の無さをさらに加速させる。

 

 

 「お゙ごお゙お゙っ!?!?」

 

 

 そのまま、押さえた手と反対の腕から人外の膂力によって鉄拳が叩き込まれる。ボディアーマー越しからでも人体を容易く破壊する拳を受け、また一人倒れる。

 

 

 「しっ、死ねっ!死ねぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

 二人からやや離れた男に至っては、もはや悪足掻きですらない。子供が怖いものを遠ざけようと、必死に物を投げつけるような様相で、軽機関銃を乱射するがその恐怖の対象が消えることはない。仕留めた傭兵達を背に移し、銃弾を装甲が弾く音を響かせながら、一歩一歩とどこか軽い金属音を鳴らして男に近付いていく。怪物が腕を振りかぶる。それが男の記憶が途切れる最後の光景だった。

 

 鈍く、あまり体に善くなさそうな音と共に、1階に居た最後の者が倒れる。

 

 

 「クソッ!?クソックソックソクソクソッォォ!!何だよそれぇっ!!??」

 

 

 その一部始終を視ていた2階の踊り場の傭兵は、次弾を撃つべく震える手を動かすが、明らかに精細さを欠いて手順が上手く行っていない。さっきのは偶然だ、偶々当たり処が悪かっただけだ。そんな都合のいい現実、いや悪夢を認めたくないと意固地になり、この場においての最適解(逃走と言う選択)を冷静に判断出来ずそのツケを支払う事になった。

 

 

 「GN ビームピストル、『低致死性(サプレス)モード』」

 

 

 片側のホルスターからGN ビームピストルが引き抜かれ、余裕をもって照射。打ち出された弾丸は実弾とは異なる発砲音と共に男の全身に着弾し、重低音の破裂音が空電音混じりに連発。悲鳴すら上げることが出来ず、ぐにゃぐにゃになって最後の一人も倒れる。

 当たったであろう場所は、人体なら骨が砕け、手すりや手に持っていた火器は歪み、その威力を視覚で観た者に伝えた。

 

 

 「……こっ、光線銃っ!??」

 「………はあぁっ!??」

 「いやいや、あり得ねぇっしょっ流石にっ……!??」

 

 

 1分も掛からず終わった蹂躙劇、傭兵達は全員倒れたが事態はまだ終わっていない。

 何故か此方を庇うような動きを見せたが相手は機械。プログラムに沿って動いているのか、それとも遠隔操作されてるのか判断が付かないが、相手が敵と認識すればそれだけで攻撃してくるはず。

 そもそもこんなアンダーグラウンドな場所や状況では、仲間の一人を助けられたという事実だけで、味方だと思えるほどの頭がお花畑な者はここにいない。

 

 今度はゆっくりと此方に向かって歩いて来る脅威に対して、対策と対応が迫られる。

 

 どうする?破壊するのはまず不可能。逃げる?あのスピードを何時まで維持できるか判らないが、時間を稼がなければ無理だ!会話で時間と注意を引く??そもそも話が通じるのか!?

 

 幾つもの考えが浮かんでは即座に否定し、貴重な時間が無為に過ぎていく。余りにもイレギュラーな『ソレ』に、今まで積み上げた経験と訓練が成す術無く空回る。

 迫られる選択、あの時と同じだ───脳裏に過るのはたきなに選択させたあの───

 

 傭兵が倒れた2階 踊り場の奥の扉が勢いよく開き、現れた一人の人物に、この場に居る全員の視線が集まり、たきなが声を上げる。

 

 

 「千束っ!」

 

 

 錦木 千束、現役にして歴代最強と名高いファーストリコリス。

 人間離れした動体視力と観察力で銃撃を見切るという、非現実的な技能と年不相応以上の身体能力と格闘センスを持ち、それらを十全以上に発揮でき、且つ、咄嗟の判断力も有る 現 、井ノ上 たきな の相棒。

 

 本来で在れば、頼もしい援軍だが今回は余りにも相性が悪すぎる。

 

 千束はリコリスでありながら不殺を信条とし、フランジブル弾という殺傷能力(貫通能力を無くした弾)が極めて低い弾を好んで用いるのだが、そんなハンデすらも 物ともせず敵を圧倒できるほどの実力者だ。

 

 しかし、相手は軽機関銃の掃射はおろか対戦車用火器すら跳ね返す文字通りの人外。

 

 当然、非殺傷弾ではどれだけウィークポイントに何十発と叩き込もうと牽制にすらならないし、格闘戦なぞ素手で合金をも砕く膂力でもない限りリスクしか無いだろう。

 

 このまま戦闘に成れば、どれ程の被害になるのか。せめて千束だけでもと、たきなの頭にはそれしかなかった──

 

 

 「だめです!ここはに「なーんか妙に、死にかけのが大量に転がされてると思ったら、何でこんな所に居るのさ、翡翠!!」───はい?」

 

 

 ──そんな中、周りを一瞥し周囲の状況確認を終えた本人は、ロボットに話しかけた。千束がパルクールの要領で降りて来ながら、此方に向かって駈けてくるのに合わせて、翡翠と呼ばれたロボットは、千束の方を向き、武装を仕舞いつつ主君に頭を垂れる騎士の様に、片ヒザを突いて座り始めた。

 

 

 「マスター、 錦木 千束 の無事を確認。心より「そんな話いいから、どうして此処にやって来ているのさ!」…… 」

 「ちっ、ちさとー」

 「当機の根底プログラムはマスターの心身の安寧であり──」

 「いやいや、私がそんな簡単に死ぬわけ無いって知ってるでしょ!?第一、翡翠が出てきたら余計に話が拗れるから」

 「ちさっー」

 「進言、当機と違い人間は極めて脆弱な肉体である。ならば当機が前線に立つことで、より多くの安全性や生存率を保障出来ると宣言する」

 「うん、私達の事心配してくれるのも、他の子達を助けてくれたのもありがたいんだけど、こっちの段取りもあるからね?」

 「ちさっ、ちさっ─」

 「というか、やたら通信環境悪くなったと思ったら翡翠、またなんかやったでしょ?」

 「……報告、当機が確認した時には既に劣勢状況だった故に速やかな武力介入は必要不可欠だったと思われる。その為、この緊急行動は正しかったと主張」

 「ちっちっちっ「言い訳しない!後、幾ら何でも物を壊し過ぎ!……全くこれじゃ素直にお礼も、誉めることも出来ないでしょうが──」」

 「千束っ!!」

 

 

 一際大きく響いたその声で、漸くたきな達の方に意識を向けた二人?(仮)は視線を投げる。

 見ればフキとサクラは普段であれば『バカ面』等と言いたくなる表情をし、たきなは名状し難き顔で、形のいい柳眉をぐにゃぐにゃの八の字にしていた。

 

 

 「なんっ、何ですか??ソレ?????」

 

 

 そう問われると千束と『ソレ』はほんの少しだけ再び顔を見合わせると、千束は苦い顔しながらたきな達に向き直り、『ソレ』はゆるゆると立ち上がりながら此方に向いた。

 

 

 「当機は、

  型式番号:GN-002、

  機体名:ガンダムデュナメス、

  固有名(パーソナルネーム):翡翠、

  完全独立稼働型機動人形、

  マスターは、錦木 千束である」

 

 

 クリアグリーンの目をチカチカと明滅させて、恐らくは自己紹介であろう発せられた言葉の羅列は、大半が意味の判らない事ばかり。しかし、唯一ハッキリした部分も有るため、たきなは千束に聞くことにした。

 

 

 「……どこで購入したんですか??コレ????」

 

 

 この混沌の元凶に指を指しながら渋面で聞けば、本人もどういった物かと、渋面で目頭を押さえながら「拾ったというか、懐かれたというか」などと呟いていた。

 

 そしてそれを観ていたサードリコリス達は、ファーストの装備ってあんなんなんだ、とか、ファーストの装備ってすごい、とか考えているが、何も問題はないだろう。そんな中、いち早く正気に戻ったのはフキ。

 

 

 「って!?呆けてる場合じゃねぇ!まだ作戦中だぞ!!」

 

 

 それは自分に言ったのだろうが、他の者達にも聞こえる声量だったのと当事者である事が本人達に突き刺さり皆、我に返る。しかし、そんな中で最も早く口を開いたのはリコリス達ではなく元凶(翡翠)だった。

 

 

 「確認。現在、此処より逃走中の今作戦の捕獲ターゲットで間違いないか?」

 

 「──あ?ああ、そうだが 何かあんのか?……」

 

 

 とりあえずは敵では無さそうと判断出来たが、突如此方に聞かれた事と、今一どう対応していいか判らずおっかなびっくりになるフキ。そんな先輩の珍しい姿を見ていたサクラを他所に、またもや勝手に翡翠は動き出す。

 

 

 「了解(ラジャー)作戦(ミッション)状況更新(アップデート)を確認。

  任務遂行のため、現場より一時離脱する」

 

 

 言うや否や、煌めくクリアグリーンの輝きが増すと、再び重力を無視した様にフワリと上へ上へと上がっていく。止める間もなく飛んでいったソレを、リコリス達は眺めながら───

 

 

「ええぇ……???」

「嘘ーーん……」

「はあぁぁぁ……!????」

「飛んだー……」

「うわぁ………」

「ファーストの装備ってすごい………」

 

 

───等と、思い思いの感想が漏れ出ていたとか出なかったとか。

 

 

 

 

 

 

 上がった翡翠はそのまま真っ直ぐ上空200m付近にて、静止していた。元よりある程度対象の位置は把握していたし、そして元来この機体(ボディ)は、超遠方からの精密狙撃による砲撃戦を主とした設計をされているのだ。それに合わせて各種センサーやレーダーも極めて高精度、かつ広範囲に索敵及び精査出来るように造られている。つまり、翡翠から逃げるには地中又は、海中深くを逃走ルートにしなければいけず、当然そんなルートが用意できない立地上、先程の勧告通りに彼らは詰んでいたのだ。だが売人達は知らない、離れれば離れるほど希望に近づくと思って足を動かすが、()()()()()に距離を置くことが最も絶望に近づくことを。

 

 機構音と共に、頭部のブレードアンテナがデュアルアイを隠すように降りると額の精密射撃用ガンカメラが顕になる。

 

 

 「目標捕捉、対象との距離算出、

  および、目標の逃走ルート予測、

  GN粒子貯蔵量 規定以内 確認、

  気温、湿度、風速を始めとした各種環境データ収集完了」

 

 

 次々と膨大なデータを処理していく。

 既存の科学技術では精査するのは勿論、集める事も難しいものすら秒も掛からず演算し終わる。対象を死なさずかつ逃げれないようにしなければ成らないという、ハンデすらもデュナメスには障害にすらならない。

 重い擦過音と共に右肩部端にマウントされたGNスナイパーライフルを右腕に装備し、左腕部でフォアグリップを持ち半身になって構え、売人達を完全に詰ます王手をかけた。

 

 

 「デュナメス、目標を狙い打つ」

 

 

 一射目が逃走用の車を爆発炎上させ、出力を絞った次弾からは、売人、護衛の傭兵達を分け隔てなく次々と足を貫き、この騒動の終わりを告げた。

 

 

 

 



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ガンダム、港で座る 前編

原作開始より半年ほど前の話


 

 

 

 

 ……我輩はガンダムである、名前はまだ無い。

 

 ───………………いや、意味が解らんわっ!?!?

 

 ………うん、気がついたらこうなってた。転生トラックに轢かれた記憶も無ければ、神(自称)にリクルートされた記憶も無い。というかそもそも過去の自分の記憶自体がほぼほぼ無い。ご丁寧に俺個人を判別する部分だけという、ご都合主義のようにな!!クソがっっ!!!

 で、何で俺が突然ガンダム宣言したのか(というか分かったのか)という話だが、周りを見ようしたけど体が動かず……こう、頭の横の方?思考?視界?にミニマップというかゲームのとかのアイコン?みたいなのが浮かんで来て、今 自分の状態はこうですぅ~~、みたいな表示が出てきてね?で、出てきた姿がガンダムだった、と。……何というか、かんというか……直直接思考にインプットされたというか、そんな感じだった………。

 

 ナニカサレタヨウダ………。

 

 はい、そんなこんなでどうにかしようとパニクりながらも(当社比)、とりあえず出来る事とか自分の事とかも調べたんだけど、先ず、自分の機種はガンダムデュナメスだった。

 

 ……う、う~ん、デュナメスかぁ~~……いや、機体は好きよ?けど、こう、アニメの絵面とか、ストーリー展開とかの関係も有って(砲戦特化機の宿命)、中々に厳しい役割ばっかだった上にファーストシーズン終盤らへんでは機体はほぼ大破、パイロットに至っては戦死、という中々に厄ネタな経歴に自分がなったと言われると普通に喜べねぇよ(そもそも常人は喜ばない)。

 

 ……というか、やっぱなんだよ、ガンダムに成るって。

 あれか?人格のあるMSって事で、Ex-sガンダム*1なのか?ALICEってんのか?それともエアリアル*2ってんのか?いや、この場合、フェネクス*3ってんのかもな!ハッハッハッ 、ロクでもねぇなぁ、おい!!こんなんで喜ぶなんてセッさん*4くらいだぞ(凄い失礼)、ふざけんな!!!

 ──んで!(半ギレ)動くのは首くらいで周りを少し確認するくらいしか出来ん!!(ガチギレン)

 

 ──………え??

 

 俺、ずっとこのままなの???

 

 パイロット来るまで????

 

 ……………やばくね??????─────

 

 

 

 

 

 

 

 ────なんて思っていた時期が私にも在りました。

 はい、あれから一ヶ月経ったけど俺は元気です(クリアグリーンに光るキレイな目)。元気にネットサーフィンしてます。フゥーーー!!⤴⤴アニメ、ゲーム、マンガ三昧だぜぇぇーっ!俺は、人間を辞めるぞぉぉぉぉぉー!!!(情緒不安定)

 はい(スンッ)、色々試してたらまさかネットを使えました(真顔)。ネットに関しても考えただけで繋げれるというとっても便利ボディのお陰で怠惰に過ごせております。しかも、ハッキングもある程度出来るみたいで、バレませんようにオナシャス!って念じながらやるとソレっぽく出来る。

 フハハハ…凄かろう!!しかも脳波コントロール出来る!(物理)

 はいそこ、頭の悪さ出てるとか言うな!心は*5リディ少尉だぞ!!…まぁ、無論遊ぶだけじゃなく他にも色々調べて解ったんだが……まず!俺、ちっさい。もう明らかにMSのサイズじゃない。具体的には人間大サイズに為ってる。

 

 …………まるで意味がわからんぞ?????

 それもう*6MSじゃねぇよな?ターミネーター?いや、ロボアニメ的にフルメタ*7のアラストル*8かな?なんぞそれ??戦闘とかどうすんのよ?踏み潰されて終いぞ、そんなもん。

 

 んで、機能面に関して分かったのが原作同様の武装構成やエンジン周りとかはサイズを縮小した感じだが、本来、後に実装される筈の機能や()()()()()()()()()()()()、GN粒子の制御能力の格段な強化とか、オリジナルよりも謎の魔改造がされてた。

 ビーム射撃系に至っては非殺傷モードとかが追加されてて、曰く、圧縮時に大量の空気を含ませて着弾時に破裂するように出力を調整したモード、早い話が光る空気弾、だとかが。

 ……アイアンマンのリパルサーかな??というかやっぱ対人前提の機能だな!さてはガンダムの皮を被ったアラストルだな?(確信)

 

 …まぁ、機体面に関してはこれくらいにしといて、次、年代。どういう世界か?ということだが、西暦2020年代?ぽかった。

 ………MSは何処よ???この手の転生物のお約束で、他のガンダムワールドとかに来たと思ったのに、MSどころかおもっくそ俺の知ってる現代じゃね?(ネットに繋がってる時点で察せないマヌケ)

 あっ、でも、他にも無視できない情報があったな。

 それはな?あの『機動戦士ガンダム』が無かった。そう、あの国民的アニメ!日本の義務教育と言っても過言ではない(妄想)ガンダム関連が一切無いのだ!!

 

 …………いや、マジで何処よ、此処。

 おん?あれか?もしかしなくてもOOワールドの過去の時間軸だったりするのか?OOワールドは珍しく西暦の暦を使ってるから可能性は有るが、だがそうなるとOOワールドの全ての元凶である*9イオリアの爺さんが生まれるよりも前に俺がいるという、これまた意味不明なことになるぞ?

 

 ………あるぇぇぇ?????

 

 ………まぁいいか、この話も置いておこう。もっと情報がないと判断すら出来んし。(思考放棄)

 

 そして最後がこの場所。港らしいんだが、旅客船だとかが在るような場所じゃなくて、貨物船?とかが主に利用するような所っぽい。俺はその乱雑に詰め込まれたコンテナの上に片膝を突いて座っている状態だ。

 流石にずっとネットサーフィンばっかすんのも飽きたし、自分の体も動かしたいんだが、何かロックぽいのが掛かってて『現在のセキュリティ・クリアランスでは許可されません』とか出てきて全く動けん。

 

 ………不味いな、そろそろ本格的に焦って来たぞ………。今までは自分の状況把握に一杯一杯だったから気にならなかったが、いい加減に自分でも能動的に動けるようにならないとめんどくさい事になりそうだ。

 

 というのも、調べてて解ったんだがこの場所、あんまりよろしい場所じゃ無いらしい。付近の防犯カメラや携帯だとかにちょこちょこお邪魔して解ったんだが、政治的折衝の問題?とかのせいで、売人だとか裏組織っぽい連中だとかが湧きやすい環境なんだとか。今は光学迷彩+GN粒子の恩恵でまず見つかることは無いが、俺が座ってるコンテナを動かされたら流石にバレると思う。その上のネットに潜ってた時にちょっときな臭い情報を見てな。

 なんでも、 "日本は最も治安の良い国で犯罪発生率も他国とは比べ物にならない" とか色んな所で喧伝されていて、俺の知っている日本よりも平和が強調されててな?見には行けないから少しネットで少し探ってみたら、何か政府側の裏組織?みたいなのが表沙汰に出来ない方法で情報操作してるっぽい。

 ……う、う~ん物騒というか、腥いと言うか、何とも臭い情報が次々出てきたな、香ばしいぜ(哀愁)。しかもその組織、孤児を使ってるというお約束のような後ろ暗さのある組織っぽいんだよね。

 で、何でそんな話をしたのかというと、此処にその組織が近々ガサ入れに来るかも何だよね…。

 ………どうすっかなぁ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

『千束、もう一度確認しておくが───』

 

「わかってるって。中に入ったら『合流ポイントまで無線は使えないと思え』、でしょ?」

 

 

 ごく自然体で気楽な声色。これから行くのは鉄火場、命の取り合いをする場だ。にも関わらず、ソコに緊張も気負う様子も一切ない。それは慢心でも無ければ無理解な訳でもなく、それに見合うだけの訓練と実績を積み上げてきたからこその余裕であり、そしてそれは通信相手もよく知っている故の会話。心配はするがそれ以上の信頼がある。それこそ、今回のような()()()()()でもどっしりと構えて送り出せるくらいには。

 

 

『此処最近は落ち着いているが荒れ始めたら最悪の場合、合流ポイントでも通信が使えなくなる。そうなった場合は予定通りプランDの合流ポイントへ向かえよ』

 

「アイ・アイ・サー!」

 

 

 今回の仕事はDA支部、『喫茶リコリコ』のメンバーにとってかなり面倒な条件だった。この港は全体的に死角が多い。国外との政治的折衝も要因として大きいが、構造や立地環境など様々な理由が複雑に絡み合い、結果、何かとアンダーグラウンドの側面が強く出やすい場所だった。ただ、当然その事については治安維持組織諸々にも知られるところであり、当然あの手この手で対策を講じている。

 

 が、一月ほど前から異変が起き始めた。どういうわけか強力な電波障害が頻繁に発生するようになり、中での連絡ができず、それに合わせて様々な探知機やセンサー類も非常に利きづらくなる現象も生じ始め、この場所の見通しがより悪くなったのだ。

 当初は調査を撹乱する為にECMか何かを使った電子攻撃と思っていたが、どうやら相手側も心当たりが無く、捕まえた売人に尋問による裏取りや、念入りな現地調査でも結局は分からず終い。

 

 密売品の科学薬品等が漏出し、それがバタフライエフェクトの様に巡り巡って特殊な環境でも出来たのか、それとも、持ち込んだ無数の電子機器が干渉し合い偶然出来上がったのか、はたまた自然現象が天文学的確率によって重なり起きたのか、現在でも理由も原理も不明で、外からは観測し難い限定的な暗黙空間が出来上がる事態に陥った。

 

 

『未だに調査中だが、意図的に発生させているにしては波がありすぎる。本部でも“何かしらな偶発的なモノではないか?”、と推測されてるが………』

 

「ホントに何なんだろうね、コレ。お陰で此処で悪さばっかする奴が集まってくるし」

 

 

 そもそも何が起きているか解らないこの件は、いつも発生しているわけではなく、強烈に成るときも有ればほぼ無い時もあり、法則性が無さすぎてそれ故に《DA》側も手を焼いている頭の痛い話だ。多数の人員を動員出来るのなら手っ取り早いのだが、それが出来るならこんな仕事は来ない。

 その上現在、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、通信相手の者の狙撃や電子的サポートもし辛い環境で、内容自体も『違法取引現場にて敵戦力を無力化してグループの頭を捕縛する事』という、かなりタイトな案件。リコリス一人で請け負うものではない。

 

 

 「それじゃ、行ってくる先生!」

 

 『気をつけろよ、千束』

 

 

 だが降りるという選択も無い。それは職務の立場的な問題も有るが、それ以上に譲れないモノが千束にはあった。自身の愛銃、コレを渡してくれた人に誓った、切なくも、強く、儚き祈り、『誰かの救世主に成る』という理由が。

 

 普通のリコリスなら余裕が無いのも有るが、先ず間違いなく頭目以外皆殺し。だが千束にとっては全員捕縛がマストだ。千束は博愛主義者ではない。だかどんな相手でも命は取らない。

 彼女は誰よりも知っているのだ。相手を殺すということは、‘その人間のありとあらゆる自由(出来る事)’を奪うという事を。自身は人々よりもずっと自由な時間が限られているからこそ大切にしたい、細やかな願い。

 そしてそれはこの場に於いて大きな弱点であり、相手の付け入る隙だ。

 

 

「ミズキも遅れないでね~」

 

『……分かったからとっと行け』

 

 

 だがそんな逆境を彼女は優々と飛び越えて行く。

 それが出来るだけの実力という手段が有るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………今ので最後かな?」

 

 

 そう言いつつも油断無く辺りを睥睨する。手に持つ銃から薄い空気の揺らめきが銃口から立ち昇り、先程まで戦闘が有ったことを証明していた。周囲には無力化された大の男達が転がっており、誰一人起き上がってくる気配はなく、それを確認しながら手早く拘束していく。

 頭目も捕縛完了、後は今回の違法商品を、()()()()()()()()()()()、もしもを確認するだけだ。

 

 

「まぁたくっ、ホントに懲りないなぁー」

 

 

 肩が凝るわ、とボヤキながらも残心を忘れず、周囲を警戒して商品のあるコンテナ区画へと足を向ける。人気が無く、やや古びた様子の倉庫の中には、真新しい鋼鉄製の大型コンテナが積み木の如く不安定に重なっており、素人目でも資格やこういった業務に慣れない者が急ぎで押し込んだのが伺える。その思惑は、商品を搬出したら即 遁走、そんな所だろう。言外に聞こえてきそうな様相の場所で、辺りが薄暗い倉庫の中から、目的のモノを見つけ、彼女は大きなため息を鼻でする。

 

「ホンット、碌でもないことしかしないな、コンニャロウ!……」

 

 そう言って見つけたのは、乱雑に積んだトランクケースの中から目や口を覆われ、芋虫の様に手足を拘束された女性。

 船、拘束された人間、明らかに堅気じゃない者達、これだけ揃えば察しの悪い者でも想像するのは容易。周囲に積まれたトランクにも同様の物があるかもしれないと想像するのは自然な成り行きで、詰め込まれた人は弱っているのか、物音がしたのにも関わらず起きる気配が全く無い。もし、他のトランクにも人が入っているなら早くしなければ取り返しがつかなくなる────そう思考が過った時だった。

 背後から物音と同時に、一人の男が飛び出しながらライフルを構えた。怒り顔で目は血走っており、明らかに度の過ぎた興奮状態の男は大事な商品が有るにも関わらず引き金を引こうとしていた。

 

 半ば錯乱した様子で、声に成らない奇声を上げており、選択肢は無い。

 見える射撃ライン上には捕らえられた人。

 避ければ後ろに当たる。

 瞬時にそう判断し、背負った鞄に手を掛け─────発砲音とボキボキと骨が砕ける音が倉庫内で響き渡る。

 

 本の少しの間 静寂が生まれ、今の今まで淀み無く動けていた彼女の体が、止まるほどの異常が目に映った。

 

「……何あれ?」

 

 なんとか出てきた言葉には、自身の今の心情がその一言に集約している。男の後ろから何処からともなく現れたのは“派手な外観の人型ロボット”。裏拳を男の肘辺りから決めて男を吹き飛ばしたのであろうというのは分かる。それを見ていたし、今も振り抜いた姿勢で停止しているのだから。

 分からないのはソレ以外の全てだ。敵なのか味方なのか?そもそも何処から現れたのか?フィクションに出て来るような整った姿をしているが、まず間違いなく映画か何かの撮影のため作られたような物じゃ無いのは確かだ。でなければ人をゴム毬のようにブッ飛ばせるような作りにはしない。ロボットは体勢を直しながら此方に歩いて来ており、千束は意識をそちらに傾け、完全に臨戦態勢になる。

 

「警告、直ちに現地より離れられたし」

 

 ロボットが発した警告文らしき言葉は、右から左へ抜けて頭に残らない。自身が持つ弾丸はまず効かないだろうし、拘束用兵装で雁字搦めにすれば或いは、と、言いたいところだが、此処までで相当に消費している以上、その方法も難しい。ならば周りの物を使って対処するしか──そんな結論を出した時だ。ミシミシと何処から聞こえる異音に、今になって気付いて背後上部を見れば今にも雪崩れ込もうとしている超重量物(大型コンテナ)。恐らく、先程の射撃が運悪く留め具を壊したのだろうと推測出来るが、そんなものは今に於いて一切の意味が無い。そして、千束が後ろを見ると同時にロボットは狙ったかのように急加速。前門の虎 後門の狼とはこういうことを言うのだろう。救助対象がいる以上その場から離れる選択肢が無くなり、咄嗟に囚われていた人に覆い被さる。

 

 瞬間、衝撃が辺りを揺らす。

 

 破砕音と衝撃音を浴びながら固く目を閉ざした。すぐに来るであろう痛みに耐える様に、体を強張らせながら待ち構えるが、来る気配が一向にない。痛みも感じる間もなく死んだのだろうか?そんな思考が過った時、頭上から先程も聞いたマシンボイスが鼓膜を叩く。

 

「繰り返す、直ちに現地より離れられたし。これは緊急警告である」

 

「………え?」

 

 思わず声が漏れる。

 上を見れば先程のロボットがすぐ後ろで落ちてきたコンテナから千束達を庇う様に支えていた。幾つもの疑問や謎が頭を埋め尽くすが、それよりも大事な事の為に、今は無理やり思考を押し流す。

 

「───っありがと!そのまま耐えられる!?」

 

 「報告、現在この場に於いて、落下物に巻き込まれる可能性のある人物は、貴官と貴官が現在保護している人物だけである」

 

「それって、この人以外 居ないってことっ!?」

 

「肯定」

 

 手早く情報を擦り合わせる。そこに警戒や猜疑心は無い。千束は素早く女性を抱えてその場を離脱。本来であれば疑いや疑問を挟む所を、彼女と一機は即興のスタンドプレーで応えた。

 

 

 

 

*1
ALICEシステムという、最終的には人格レベルのAIに進化していく教育型コンピューター搭載機。コストがクソ高いという欠陥程度で済んでいる、ガンダム界隈ではまだマシな機体。

*2
ガンダム・エアリアル:ガンダム界隈特有の録でもない方法で製造されているんじゃないのか?と、噂されている機体。主に、人間を生体CPUとして組み込んでんじゃね?みたいな。

*3
ユニコーンガンダム 3号機 フェネクス:ガンダム界隈でも厄ネタ機体ランキング上位にインする録でもない機体の兄弟機。主にパイロットを発狂死させたりとか、パイロットを肉体ごと取り込んだりとか、そんなAIもプログラムも入れてないのに勝手に動いたりとか、兎に角オカルトな現象に枚挙に暇がない機体。

*4
刹那・F・セイエイ 機動戦士ガンダムOOの主人公で、俺がガンダムだ!で有名なキャラ。一級ガンダム検定官でもある。

*5
機動戦士ガンダムUCの登場人物。簡単に説明すると、フラれて悲しかったリディ少尉は、貰ったユニコーン2号機に乗って走り出した人。暴走とも言う。

*6
モビルスーツ:ガンダム作品に於いての有人式巨大人型ロボットの総称。ザクやガンダムも機種的にはコレ。作られた理由や背景なんかは作品ごとによって違うので割愛。

*7
ガンダム作品同様の、ミリタリー色の強い人型巨大ロボットに搭乗して戦う作品。

*8
ガンダム作品で例えると人間大サイズのモビルドール。当然、対人用だから通常サイズの機体と戦うと秒殺される。対人ではめっぽう強い。

*9
『機動戦士ガンダムOO』という作品においての頭脳チーター。ガンダムタイプの根幹技術を作ったヤベェ奴で、劇中に出て来る全てのガンダムの産みの親の様な人物。




友人「幼女と動物のツーショットはこの世の宝よ。」

作者「ハイ、ニーナとアレキサンダー。」

友人「お前を殺す。」
デ デ ン !




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ガンダム、港で座る 後編

 ……なんて言うか、自分で書いてて凄く背中が痒ゆいと言うか。こっぱずかしかった。……悲しみ。


 

 

 

「ふぅ………改めてアリガト、助かったよ」

 

 「問題ない(ノープロブレム)

 

 いやぁ、一時はどうなるかと思ったぜよ。いやマジで。美少女が単身でカチコんで来たと思ったらアクション映画よろしくな感じでぶっ飛ばしていくだもん、お兄さんびっくり。んで、この様子なら大丈夫だな、風呂入ってくる、ガハハ!とか思ってたら、運悪く討ち漏らしと拉致された人と板挟みに為ってエンカウントするという、映画なら楽しく見れるがリアルでやられると禿げ上がりそうな展開になったかんな。

 あっ、ちなみにこの子がカチ込む少し前くらいに、デュナメスご自慢のセンサーとかでこの子を見つけたらセキュリティなんちゃらが解放されて動けるようになった。………謎????

 

「それで君は何者なのかな?その妙に硬い喋りはキャラ付けだったりすんの?ロボット操縦者くん」

 

「否定、当機は完全独立稼働型機動人形であり、遠隔操作は受け付けず、人格プログラムによる完全自立行動機である」

(いや、これ勝手に自動変換されるんよ。後、中の人などいない!ディズニーランドにいるミッキーのようにな!!)

 

「…………ホントにぃー??」

 

 まぁ、疑うよね。でもそこはほら、俺がガンダムだからだっ!で通してくれっ!………ダメ?ソンナー(´・ω・`)。

 でもなぁ、俺自身 俺がガンダムだ!(物理)以外分かってないんだよなぁ。とりあえず今までのあらまし位しか喋れんが、本当に申し訳ない。(博士風味)

 

 

 

 カクカク シカジカ 四角いムーヴとサイコハロ!ウェイ!

 …………………

 …………

 ……

 

「………つまり、気がついたらずっと此処に居て、私が来るまで動けなかったって事?」

 

「肯定」

 

「え゙ぇ゙ぇ゙~~??なにそれぇぇ???」

 

 そんなこんなで俺の身の上話とかは除いて此処で気がついてからのアレコレを大体喋ったがコレあれだな………自分で言っててスッゲー胡散臭いな!だって都合よすぎるもんな、この話!しかもどこの誰に造られたとか、どんな機能があるとかも喋れないとか怪しすぎるな!まぁ、実際には製造者に関しては記録自体が一切無く、装備とかに関しては喋ろうとすると『現在のセキュリティ・クリアランスでは許可できません』とか言われたからなんだが。己、セキュリティなんちゃらめ!!………というか何なのこのロック?今は流すけどコレどっかで法則性なり、理由なり解明しないとゼッテーヤバいよな?ぬぅぅぅぅ………。

 

「………はぁ、まぁ 今はいいや。それよりも、良く今まで他の人間にバ…………………ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、ここ最近の電波障害について何か知ってる?」

 

「…………不明、現在の当機の権限では許可されていない情報である」

(………君は何も見ていない、いいね?)

 

「いや、誤魔化すの下手すぎか!?それ、もう自分が原因って言ってるようなもんじゃん!」

 

「否定、それは貴官の判断であり、当機が承認しない限り事実無根であると強く主張する」

(それはほら、偶然何かこう、不思議な事が起こったからだよ!間違っても俺がスペックを確認するためGN粒子をばら蒔いた訳じゃないんDA☆)

 

「屁理屈じゃん!それ!!」

 

 ハハッ、返す言葉がないんだZE☆ヤベェ、ヤベェよこのままじゃあのデュナメスのイメージが欠陥ポンコツ迷惑マシン系ガンダムになっちまう。(既に手遅れ)そんなのドラえもんから四次元ポケットを取り上げるくらい許されないことだぞ!何か、他に何か話題を変えねば!ガンダムの話でもするか?(ガノタ脳)いや、この世界ガンダムねぇじゃん!アバババッ!?

 

「当機からも疑問」

(えーっと、ほらっ、あれっ!!)

 

「露骨に話題変えてきたな、コヤツ」

 

「貴官の現在の身体状況、及び心臓部についての質問」

(そっ、そうそう、ずいぶんといいマシンだけど何処製なんだい?君もアナハイム?(ニチャァ))

 

「んっ?分かるの?あーーコレね───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────っとまぁ、そんな感じかな」

 

 …オウフ…おっ重い、重すぎる………。

 軽率に聞くんじゃなかった。こんな善い娘が後数年しか生きれないって……『鉄オル』バリに悲惨過ぎる。しかもこの子、さっきもそうだけど自分の寿命が残り少ないって判ってるのにも関わらずこんな危険な仕事で人助けとか菩薩かよ。いや、この場合天使だな。(自身もデュミナスだけに)

 

 

「オーイ、急に黙ってどうした~~?さすがに何か反応ないと千束さんも対応に困っちゃうなぁ~?」

 

 その上、今も尚こっちを気遣ってる感じで様子見てるし………。ンーー……よし、決めたゾイ!特にやりたい事も無無いし、どうせ暇だしな! これからお兄さん………いや、ガンダム頑張っちゃうんDA☆!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンテナ落下事故後、グループの仲間らしき男の拘束と拉致された女性の容態を確認しながら、千束は闖入者に一応の形だけの事情聴取を行っていた。幸い、女性は薬か何かで眠らされていただけのようで、合流予定時間迄には多少の余裕もあったので話を聞いていたのだが、余り成果は芳しくなかった。

 

 まず第一印象は怪しいの一言に尽きる。何故此処に居たのか?何故私達を助けたのか?と聞けば、要約すると 気が付いたら此処に放置されてた。そしてたまたま目に入った私達が危なそうだったから、と言うあまりにもあんまりな返答だった。“何処にこんな派手な外観のロボットを、周囲にバレない様に偽装してまで放置していく奴がいるのか?助けた理由も一般人の日常場面ならまだしも、この場所とこのタイミングなら穿った見方をせざるを得ないし、そもそも人間の様に勝手気儘に喋って動いてが出来る人工知能なぞ聞いた事も無いし怪しすぎるわ!”と、内心突っ込んでいた。

 かといって、今回捕縛した連中や此処で悪事を働いていた連中が持ち込んだとも思えないのも確かだった。何せそうなると勝手に動き出した挙げ句、自分たちを襲ったという事になる。そんな欠陥過ぎるマシンなぞ護衛としても商品としても使えたものではない。

 だがそうなると今度は誰が何の為に用意したのか?という話になる。先程見せた急加速に、あれほどの超重量のコンテナを支えた機体馬力と、それを人を庇いながら実行可能な柔軟な運動性能。周囲にある入り乱れた物資や体内の機械の有無等を瞬時に精査したセンサー類。そして今は静かに片膝をついて佇んでいるが、それまでの挙動は民間用ロボットで良く見る何処かカクカクとした動きは一切無く、非常に滑らかで力強く安定感のある足取りだった。かなりの高性能機なのは間違いなく、まず一般人が手を出せるような物ではない。

 

 ん~~、でも実際にあるしなぁ。目の前に。何処かの秘密組織が用意したとか?いや、何の為だよ?こんな目立つの使い道限られ過ぎるし。それに助けてくれた相手をあんまり疑いたくないしなぁ。

 

 そんな具合にウンウンと整ったかんばせにシワを作りながら唸っていると、目の前のロボットから動きがあった。

 

 

「当機から貴官に要望」

 

「うん?」

 

 

 身の上話からずっと沈黙を保っていたロボットの声に顔を向けると、今度はその内容に思案顔から疑問の表情になる。

 

 

「当機のマスター認証者を貴官に願う」

 

「?、なんぞソレ?」

 

「当機の所有権及び、今後の活動を裁定、要否を決めるものである」

 

「ぅぉおう、唐突に重要そうな権利をぶつけてきたな?どうした?、急に」

 

 

 突然の話に驚きながらも何故そのプロセス行き着いたのか続きを促すと、目の前の怪しいロボットは滔々と語りだした。

 

 

「………日本国に住む国民はすべからく、人権の当然の義務として、幸福な日常を享受する権利を有する。

 

 これは、これから産まれて来る幼児も、不慮の事故で戸籍登録出来なかった者も含むこの国の理念である、と当機は認識している。

 

 現に重犯罪者にもある程度の人権を認められている以上、この権利は貴官ら、リコリスにも適用されるべきモノであり、善人なら尚の事だと当機は強く主張。

 

 ならば、貴官らを保護、及び支援の享受も当然の権利だと要求する。

 

 当機は貴官を護衛、及び支援する用意がある」

 

「貴官は善人である」

 

「………………………………」

 

 面を食らった。今の彼女の心境はそうとしか表現出来なかった。

 淡々と語られる言葉は、抑揚も無ければ情動も見えない機械で作られた無機質一色にも関わらず、確かな暖かさの様なものを感じてしまった。褒め上げて、此方を懐柔するための布石か?とも考えそうな話だったが千束自身はほとんど疑ってはなかった。騙すにしては旨味やメリットが無さすぎるし、今までの会話からも、何処か抜けてる脇の甘さや、時折見られる此方に対する気遣いが見え隠れしていて、なんとも可笑しいのだ。目の前の『コレ』はそれを隠せていると思っているかも知れないが、自身の身の上事情の話から特に顕著で、不器用な『コレ』をどうにも嫌いになれないでいた。絆された、と言われれば苦笑して同意するしかない今の心情に、気付けは自笑していた。

 

 

「………なんか、そこまで想ってくれると流石の千束さんも恥ずかしいなぁ」

 

「返答、当機は事実を言った迄である」

 

 

 機械ゆえに一切表情に出ることも無いし、喋る声にも相変わらず一切の変化は無い。が、こちらをこうも真っ直ぐ目を見ながら返されれば思わずむず痒くなる。

 

 

「あーハイハイ、その話は終わり!とにかく、要約すると私達を助けてくれるってことで、そのためにマスターなんとか が要るってことで合ってる?」

 

「肯定」

 

 

 強引に話題を打切り、話を進める。こっちは少々恥ずかしい思いをしたのに本人は一切顔色が変わらないのはちょっとズルいと思ったのは心の襟に留めて、より詳しく話聞く。

 

 

「で?なにしたらいいの?指紋認証とか網膜認証とかやるの?」

 

 「不要。すでに貴官の生体認証プロトコル(バイオメトリクス)は取得済みであり、後は貴官の承認だけである」

 

「おい貴様、何勝手に妙な情報収集してる?私、乙女ぞ?」

 

「……反論、これは貴官や要救助者の容態、ならびに拘束した捕虜の状態を確認するための必要な医療行為であり、決して貴官が想像するような行為ではない」

 

 

 ずいぶんと言い訳染みた返答を、大きなため息で流して続きを要求する。本人曰く、遠隔操縦ではなくAI だそうだが、そこだけは本当にAIなのだろうかとますます疑念が増した。

 

 

「マスター認証……登録完了。

 ……登録を完全完了するために、固有名(パーソナルネーム)を所望」

 

「ん?名前が無いの?」

 

 

 続く要望は意外なモノだった。ここまでしっかりした自我を主張し、外見も完成品のように見える事から既にあると思っていからだ。聞けば機種名はあるらしいがそれとは別の個体を示すモノが要るらしく、戦闘機とかに付ける愛称(ペットネーム)のようなものかな?と結論付ける。その際に自己紹介もまだだった事を思いだし、互いの自己紹介(自身の名前と一応の機種名)を軽く済まし思案に入る。

 

 

「……ん~~、じゃあコロとかは?」

 

「却下。その名称は、一般家庭で飼われる犬や猫などに対するモノであり、当機には不適切であると強く主張」

 

 

 流石に適当過ぎたかぁ、ゴメン ゴメン、と返し、AIらしからぬ色彩がハッキリした自己主張と反応に、期せずして先程の意趣返しが出来た事をうっすらと満足感を得ながら再び思案する。ペットに名前を付けることは有っても、こういった物やマシンに対する経験はなく、ボキャブラリーも乏しい。今一ピンと来るものが浮かばず思考が迷子になっていたその時、視界の端にキラキラと薄緑に光る燐光が目に入り、思考の迷路からの出口が見えた気がした。

 

 

「………ねぇ、この綺麗な光って君が出してるものなの?」

 

「肯定」

 

 

 そういえばと思い、聞き返せばあっさりと白状した。自身の機能に関しては喋れないの一点張りだったにも関わらず、明らかに関係の有りそうな『コレ』を認める返事が来るとは思わなかった為、思考が逸れそうになるが直ぐに舵を戻す。

 

 

「ふーーん……。じゃあさ、翡翠ってのはどう?塗装とかも似た色だし、いかにもなパーソナルカラーって感じで!」

 

「…………了解(ラジャー)固有名(パーソナルネーム)の登録を完了。

 これにより、『セキュリティ・クリアランス レベル3』までのアンロックを確認。

 当機の機体情報を開示、

 型式番号:GN-002、

 機体名:ガンダムデュナメス、

 固有名(パーソナルネーム):翡翠、

 完全独立稼働型機動人形、 

 マスター:錦木 千束で登録完了」

 

 

 今度の名前は文句や小言もなく了承の意を示した。此方の名前も少々安直な気もしなくもないが、だからこそ見た目やこの謎の燐光とイメージカラーと結び付き、しっくりと来た。高らかに宣言された情報については追々聞いていこうと思い、合流ポイントに向かおうと未だに眠る女性を千束は背負う。

 

 

「マスター、錦木 千束に感謝。これより当機の根底プログラムは、貴官や貴官の友人、家族を護衛及び支援する事に決定された」

 

「硬いなぁ、千束でいいよ。あっ、そっちのデカイの持てる?私はこの人運ぶから。このまま先生達と合流するよ」

 

 

 さて、先生にはどう言おうかな?いや、その前にミズキに説明と説得が必要か、車で待ってるだろうし。あーでも先にコイツらの後始末が先かぁー、等と考えていた所、ソレをぶった切る話を持ち出された。

 

 

「………報告、マスター・千束に緊急伝達」

 

「ん?どうしたの?」

 

「当機の権限が上昇したため専用兵装群の情報が今、開示された。

 情報保守と社会秩序の保全の為、速やかな回収が喫緊で必要。

 故に、捕虜の移送迄は可能だが、その後は貴官とは暫くの間、合流が難しくなる。……謝罪」

 

 

 ミカやミズキにどう紹介しようかと思った先 出鼻を挫かれ、やや呆れやら、もの申したく為ったが同時に気になる情報も含まれてた。

 なんとなくそうじゃないかと思ってはいたが、どうやら戦闘用で間違いないようだ。そしてこのロボット、ガンダムデュナメスだったかな?の専用装備となれば既存の武器とは違うのだろうと自然と思えた。どのような武器かは分からないが危険物である以上、放っておくことも出来ないのは千束も同意する為、仕方なく了承する。

 

 

「はぁ、まぁ確かにどんな物かは分かんないけど、管理は必要か………どれくらいに時間がかかるか知らないけど、帰ってきたらその回収した物も、さっき言ってたセキュリティやら型番やらもしっかり説明する事!判った?」

 

了解(ラジャー)、及び謝罪。最大稼働で問題に対処すると此処に宣言する」

 

 

 そう言って、捕虜と被害者を運びながら言葉と一応の連絡手段を交わし、リコリコのメンバーとの顔合わせも無く、一人と一機は暫し別れた。

 

 

 

 

 




もうストックが切れる………無念………。


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ガンダム・リアリティ・ショック

 ブックマーク、評価ありがとうございます!
恥ずかしいので返信出来ていませんが、感想も全部見させて励みにさせて頂いています!
ヘタレで申し訳ございません!!
誤字、脱字報告もありがとうございます!





 

 

 

 

 

 

 「───っと、いった感じでしたね」

 

 DA本部にて、千束はタブレットの画面越しにミカも交えながらDA責任者でもある楠木と指令用執務室で向かい合い、()()()()()()、翡翠との邂逅について話していた。ソレを聞いていた二人は揃って頭痛があるかのように眉間を指で揉んでいた。ちなみに、千束も揉んでいた。

 事の発端は翡翠がリコリスの現場に乱入して、DAにバレた所からだ。作戦自体は無事に終わったが、突如現れた謎の兵器を当然見逃すことが出来ず、本人(?)同意のもと、直ぐに調査が行われた。

 これが多少図体がでかくて頑丈程度の代物なら、指令が直々に出張ってくる事は無かっただろう。だが蓋を開けてみれば次々と出てくるオーバーテクノロジー全開な超性能に、本格的な危機を感じて今の事態になったのだ。

 

 「一応聞くが、『アレ』は本当に偶然拾った物なんだな?」

 

 「………そうですよ。私も流石にあそこまでぶっ飛んだスペックしてた、なんて解りませんでしたからね?」

 

 鋭い口調で言外に本当は今まで全て分かっていて秘匿したんじゃないか?と楠木に聞かれるが、千束自身も、ほぼほぼ‘翡翠’の性能について今まで知らなかった、と正直に答えるしかなかった。だが当の本人談(?)では、千束がマスター及び所有者と申告しており、拾った報告も経緯の話も無かった為、指令の立場としては疑わざるを得なかった故に、あまり意味も無いかもしれないがこうして向かい合って話をしていた。

 

 「そもそも何なんだ、このふざけた玩具は?」

 

 そう言って手元に置かれた、‘ガンダムデュナメス’の機能調査記録を憎々しげに睨み付ける。

 

 曰く、ジェット機に迫る速度で飛行が可能であり、加速性は勿論、制動性、運動性は戦闘へリでも比較にならない程高く、最高速もマッハを越える可能性が出て来た為に、周辺被害と秘匿性を考慮して測定できなかった。

 

 曰く、未知の物質で構成された合金らしき鋼材と、既存の理論からかけ離れた構造で製造された機体で、極めて頑強な耐久性を誇り、最新の戦車をも破壊するレベルの兵器を多数使用しても一切の損傷が見られなかった。

 

 曰く、小型の拳銃型ビーム投射機は装甲車程度なら紙や飴細工のように貫通、溶解させ、格闘兵装と申告されたビームを剣のように留めるものは軍用シェルターをも時間を掛ければ溶断可能。そして、大型狙撃用ビーム投射機に至っては戦車などに使われる装甲材を数メートル単位で貫通した。

 

 曰く、異次元レベルの高度な人工知能を搭載していると思われ、幾つもの保険を掛けた上でラジアータクラスの電子防御力のあるスパコンで解析を試みた結果、数秒でファイアウォールと保険を突破し、咄嗟に危険と判断され中止になった。

 

 曰く、未知の粒子らしきものを生成しているらしく(ほぼ観測が出来ないため自己申告)、様々なレーダーや探知機等を阻害して最新鋭の軍用品でも映らず、戦闘時などで激しく動いていなければおおよその捕捉すら極めて困難なステルス性。且つ、それら転用して、強力な電子妨害を広げることも可能とのこと。

 

 曰く、本体自身は超長距離戦を主目的に設計されているらしく、専用兵装を合わせる事で最低でも有効射程は20キロメートル以上で、その距離から高速で動く目標に誤差コンマ0000以下の狙撃が可能(テスト済み)。さらに極めて柔軟で有機的なAIの為、狙撃だけではなく緊急時にも臨機応変な対応が出来る。

 

 等々と、なんだそれは?漫画やアニメの設定か?と聞き返したくなるような性能が次々と判明していった。現在、1000丁もの取り逃がした銃の行方を追っているという、喫緊の案件があるというのに、 ココで既存の兵器や戦力では逆立ちしても対処不能なトンデモ兵器に密入国(?)されていたという事が判明した今、DAはかつてないほど混迷のただ中にいた。

 

 『それで、…分かったことはあるのか?』

 

 「……残念ながら一切不明です。………製造元はおろか、密輸経路すら髪の毛ほどの情報も出てきませんでした」 

 

 ミカにそう問われ、重苦しく返すしかない楠木は未だに手元の書類を親の仇の如く睨んでいた。‘何処からやって来たのか?’は勿論、そもそもハードウェア(機体)ソフトウェア(プログラム)共に、どういった原理の取っ掛かりが使われているか?すらも解らないのが現状。幾人もの研究者や科学者を様々な分野からかき集めて調べさせたが、解かったのは‘未知の技術が使われている事’ だけであり、その道のプロですら匙を投げる始末で、手懸かりになりそうな情報も無く、捜査は今も絶賛難航している。

 

 『………なら上層部はコイツをどうするつもりなんだ?そのまま放置、は無いんだろう?』

 

 隣から出たその質問に、我に帰った千束の表情に陰りと焦りが滲む。擁護や提案を形作る言葉を探すが、それよりも早く話は進んだ。

 

 「本来なら、即座に解体処分して研究所送り………と、言いたいのですが、ソレをするには今回はあまりに()()()()()()()()()、保留という形になりました」

 

 「どういうこと?楠木さん」

 

 上層部でもこれだけの超兵器を野放しにしたくないのは満場一致で、可能な限り情報収集した後に解体、破棄は自然な流れだった。見聞での機能調査に早々に限界が来た事もあり、直ぐに解体しようとしたのだが──────

 

 

 『警告、当機の許可無く分解、ハッキングを行おうとした場合、情報秘匿の為、戦闘、自爆を含めた対応を当機の人格プログラムを無視した上で強制起動される。

  今回の場合、当機の持ちうる性能の限界を超えて圧縮したGN粒子による自爆が行われる。

  繰り返す、これは脅迫では無く、警告である───』

 

 (意訳:おいっ、俺に妙な事を少しでもしてみろ!こっちだって無抵抗で殺られるつもりは無いからな!!

 具体的には、お前らが散々ビビリ散らかしている、謎粒子を力の限りばら蒔いて‘なんの光!?’になってやるからな!!脅しじゃないぞ、良いのか!?勇気ある自爆をする準備があるからな!?)

 

 

 ───と警告(おど)されたのだ。普通なら虚仮威しと鼻白むが、それを行うのが謎の超技術で造られたマシンなら一笑に伏すことは出来ない。

 ビーム兵器という、どう考えても電力をバカ食いする事間違い無しの代物を気兼ねなく使用した筈なのに、未だに無補給で元気に活動可能な謎エンジンに、未知の物質を多量に含んだ機体と謎粒子。もしそんな物が自爆した場合の被害はどれだけになるのか?爆破範囲が小規模と考えるのは楽観視し過ぎだろう。仮に爆破範囲がさほど広くなかったとしても、確実に内包されているであろう正体不明の物質の事もある。

 コイツが自爆するということは、物理法則を大きく逸脱した性能に関係しているであろう未知の物質をばら蒔くと同義語で、それが周辺にも広がる可能性が有ることを意味するのだ。現状では未知の粒子(本人が漏らした名称ではGN粒子)は人体に影響は出ておらず、強力なジャミング効果を持つくらいだがそれだけとは思えない。

 常に機体から漂っていることから、この機体の性能に密接に関係してるであろうと推測されており、この粒子が遅効性の猛毒を発生させる可能性があるかも知れないし、放射能のような……否、放射能より始末の悪い現象を発生させられるかもしれない。もしそうなれば国家権力でも隠蔽するのは余りにも難しく、上層部ではその時の責任の押し付け合いが起こり、現在は保留という形で放り投げられていた。

 

 「この報告書に書いてある耐久実験は、一部の過激派が強行策に出た結果だが、結局は『()()()』の異常性を知らしめるだけになったものだ」

 

 そう話を締めくくる楠木を、微妙な顔で睨んでいた千束だがこの流れを殺さない為にも聞くことにした。

 

 「なら、家で預かっても良いよね?」

 

 この言葉に「………調査記録は忘れずに出せ。これは命令だ」そう言って終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────とっ、言うことで今日から新たにリコリコメンバーになる翡翠君でーーす!皆、拍手ーーー!!」

 

 そう高らかに紹介された、店の外観を盛大にぶち壊す翡翠に色んな視線が刺さっていた。ある者は呆れたような目で、ある者は疑わしそうな目で、ある者は非常に興味深そうな目で、ある者は深く何かを探るような目で。とりあえずはこの謎のロボットについての情報は分かってる範囲でリコリコメンバーにも伝えられており、これからはリコリコメンバーにも調査記録の仕事が降りた事も伝えられた。

 

 「いや、こんな物騒なもんどう扱えってんだよ。第三次世界大戦でもおっ始める気か!?」

 

 「まぁ来たものは仕方がないじゃないかミズキ。じゃあ早速、ソフトウェアの方も見せてもらいたいな」

 

 「それ、お前が見たいだけだろ!?」

 

 「報告、当機の開示可能なプログラムは制限があり、当機にもこれは変更出来ず又、当機にも内容は不明な為、教授するのは不可能である。」

 

 「構わないさ。ミズキ、ソコの机空けてくれ」

 

 ふざけんな、自分でやれ!とやいのやいのと騒ぎ始めた二人と一機を横目にたきなはミカに近付き耳打ちをしていた。

 

 「良いのですか?危険では………」

 

 「ん?あー、確かに、言いたい事も分かるが上からの命令だしな。

  それにコレは囮捜査でもある」

 

 実際のところ翡翠自体はまだまだ要監視対象で、千束も含まれていた。だがこの警戒は内通者としてでは無く、()()()からのリアクションに対処するためだ。

 千束は確かに機密組織リコリスのファーストという、他のリコリスより上の立場だが所詮は末端。しかも千束は不殺の理念を貫いた結果、本部から大きく離れた立場である。当然、そんな者が持つ情報なんて非常に少なく宛にならない。それなら同じファーストの春川 フキに接近した方がより多くのモノを引き出せるだろう。そもそもの話、翡翠の驚異的な性能ならば、例え完全武装の正規の軍隊でも止めることが非常に難しいのだ。文字通りまっすぐ本部だの基地だのを強襲してデータベースに物理的にクラックしてしまえば、それだけで目的が達成できる。わざわざ今みたいに手の内を晒すような真似をするのは、余りにも非合理的。

 そして気になるのが誰が何の為に造ったのか?という話もある。これ程の機体を造るには最低でも国家規模の予算と人員を動員してようやく足掛かりが見えるかも、といったレベルだ。当然、そんじょそこらの組織では造れるものでは無いし、個人なぞもっての他だ。いずれにしろ造ったまま放置とは考え辛く、多くの者がこれを造った組織や機関が接触してくるのではないか?という結論を出し、今に至った。

 

 「囮……ですか」

 

 「そうだ、といってもこの場合、此処に居る全員が対象だがな。

  本部には置きたくないし、監視もしたいとなったら必然と此処に為ったわけだ」

 

 「心配し過ぎだって、たきなさんや」

 

 警戒が消えたわけでは無いが、本部からの仕事となればNOとは言えない真面目なたきなに、これ以上言えることは無かった。周りの者が思い思いのままに行動している以上、自分がしっかりせねばと内心で奮起したところで今後、翡翠をどうするのか?という話にシフトしていく。

 

 「っていうか、こんなデカブツ何処に仕舞うんだよ。後、電気代もどうすんだ?『もう電池が無くなるからこの店で充電させろ』とか言わないよな!?」

 

 「問題ない(ノープロブレム)、当機は()()()()()で稼働しているため、外部からのエネルギー補給は緊急時を除いて必要ない」

 

 「「「「「…………は?」」」」」

 

 唐突に暴露された衝撃の真実に、固まる一同に更なる追撃を入れる。

 

 「更に当機には()()()()()()が搭載されている為、野外での待機も可能である」

 

 言うと同時にGNフルシールドを前面に可動させ、翡翠から空気が急速に膨張したような空電音がすると、空間に虫食い穴が拡がる様に姿が溶けて消えていく。影も形も見えない翡翠が居たで在ろう場所から、続く解説を聞かされるが、一同が動き出せたのは少し時間がかかった。

 

 「この機能を使用中は出力を大幅に制限され、戦闘行動はほぼ不能になるが、ある程度の行動は可能である為、民間人に発見される恐れはない」

 

 本部の調査でも、色々凄まじい情報の暴力を振るっていたそうだが、どうやらまだまだ隠し持っているな、と、自然と皆の予想が一致した。

 

 「…………………コイツを造った奴って実はスッゲー馬鹿なんじゃないか?」

 

 ミズキは一周回った答えを導きだし。

 

 「……………光学迷彩もすごいが、今の機関の話が本当だとすると、技術躍進、なんて程度じゃすまない。…世界がひっくり返るぞ………」

 

 クルミはこの超技術になまじ知識が有るからこそパンドラの箱を見ており。

 

 「……………これも要報告対象ですね」

 

 「………そうだな……」

 

 たきな とミカはこれから来るであろう仕事の山に想いを馳せ。

 

 「スッゲーー!………じゃなくて!ソレ、何で今まで話さなかった!?」

 

 千束は、素直な感嘆からのツッコミに移った。

 

 「…………当機は完全独立稼働型機動人形、当機の根底プログラムはマスターや、マスターの縁者の護衛であるため────」

 

 翡翠は、会話で気を引きつつ逃走を図った。

 

「おいっ、コイツロボットのくせして言い訳しようとしてないか!?」

 

 そんなこんなで、今日もリコリコは平和だ。

 

 

 

 

 




ストックが切れました。
せめて失踪しないようにしますのでお許しください!



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これがガンダム!悪魔の力よ!!

 毎度毎度 誤字、脱字報告ありがとうございます。

※2/22追記 
 友人に、いい加減コメ返し位しろよ、と怒られました。
遅らせばながら、少しづつですが、返信させて頂きたいと思います!情けない作者で申し訳ありませんでした!



 

 

 

 

 

 

 ───喫茶リコリコ。ありふれた町並みに佇む何処にでも在りそうなこの店は、知る人ぞ知る名店でもある。和洋折衷をコンセプトにデザインされたこの店は、一見、相性の悪そうなコーヒーと和菓子を見事に調和させており、店主の確かな研鑽と丁寧な仕事ぶりを証明している。そしてそれは、外観にもしっかり出ており、落ち着いた雰囲気でありながらも、流行りのスイーツ店のような洒落た雰囲気も持ち合わせていた。

 

 そんな店の景観をぶち壊す、明らかな()()が忙しなく動き回る。

 

 「報告、お待たせしました、お客様。こちらが御注文の品です。当機と違い、非常に柔らかな品を、是非御堪能下さい」

 

 「フフッ、確かに貴方よりも柔らかそうね。店員さん」

 

 「肯定、当機は世界一硬い店員であると自負しております」

 

 翡翠が来て約一週間と少し、翡翠は店員をしていた。現在の姿は、外せる装備は全て外して素体のような姿になっており、腰部後方のGNバーニアも外して可能な限りに店のスペースを圧迫しないようにした姿だ。そんな店の風景でたきな達はと言うと───

 

 「接客も出来る戦闘ロボットとか………属性盛りすぎだろ」

 

 「………本当に凄いAIだ、ほとんど口頭のあやふやな情報ばかりだったのにここまで柔軟に対応するとは」

 

 「クルミは観察して驚く前に、せめて後始末くらいは自分で出来るようになってください」

 

 「いやぁ、景観には合わないけどコレなら馴染めそうだねぇ」

 

 思い思いの感想を口にしながら翡翠の仕事ぶりを観察していた。

 武骨な外観からは想像出来ないほど、臨機応変に仕事をこなしており、オーダーから始め、接客、調理、掃除、レジ打ち、片付け、凡そ飲食店で必要な技能をほぼ網羅し、先程もクルミがやらかしたミスも手早く、且つ周りを傷付けないように処理して、本来の機能から逸脱した性能を見せつけていた。

 何故、ガンダムメイドカフェが爆誕したのか?それは初日まで遡る。

 

 当初は翡翠を何処に置くか等を決めようとしていたが、翡翠自身がソレを拒否。曰く、自身の使命は千束とその縁者の護衛と支援であると主張し、閉じ込められる事を拒んだ。だが、いくら姿を消せるとはいえ、無闇矢鱈に活動をさせるのは余り好ましくなく、せめて依頼や限定的なDAからの仕事、リコリコメンバーの送り迎え等の時だけと言う話になった。しかしそうなると今度は、ソレ以外の時間は何処に居てもらうかと言う話になる。人間と同程度の大きさとはとはいえ、それでも人間よりかは面積を喰っており、装備も含めればかなりの容積。機密の事もありどうするか?と考えていると本人からの提案で今に至った。当初は不安視されていが、ここまで実績を出されるとは思わず、今は苦笑いを浮かべるだけである。

 

 「なんか、今回の新しい従業員さんは随分と毛色が違うねぇ」

 

 そう言って茶化すのはカウンター席に座った常連客の阿部刑事だ。一応常連客達には『店長の古い知り合いのロボットサークルから縁を辿って流れてきた物で、好き勝手に作ったは良いが置く場所が無く、渋々手放したのが翡翠。思いの外、高性能だからこのまま店で使ってみるか』という、少々、いや、かなり強引な設定で通している。まぁ、日本の裏事情を知らない一般人位なら、多少疑わしいと思っても、自身の生活に深く干渉しなければ、最終的には‘そういうもんか’と納得するものだ。刑事は判らんが。

 

 「最近の技術って凄いっすねぇ……」

 

 そう言ってキラキラとした童心に帰った目で、翡翠を追っていたのは阿倍の同伴、三谷だった。男子の心を擽るシャープでスマートな造形とシルエットに、初めて見た時は非常にハイテンションだった。

 

 「そういや、お前さんの世代はこんな感じのが流行りだったもんなぁ………」

 

 

 阿部もカッコいいデザインだ、というところ迄は同意するが、そこまで夢中になれるかねぇ…と、しみじみとジェネレーションギャップを感じつつミカに向き直り、少々込みいった話を振る。

 

 「しかし大丈夫かい?アレ。元はタダだったのは聞いたけど、電気代とか壊れた時大変じゃないか?」

 

 「あー、アレな、ああ見えて、意外と()()()()()で作られているんだよ。それに、壊れた時は()()()()()へ修理に出すさ」

 

 当然真っ赤な嘘だ。

 もし翡翠が壊れた場合、バラして研究したい、と思っている連中が山ほど居る。その時はネジの一本すら残さず回収して分解されるだろうし、そもそも現代科学を大きく上回るオーバーテクノロジーの塊を修理出来る者など、それこそ製作者(アンノウン)位だろう。そんな事は勿論話せない為、サラリと誤魔化しながらミカは翡翠を見ていた。しかし、視ているのはその裏側にいるであろう()()だ。一応、本部での調査報告では‘AIで動いている’と結論付けられているが、ここまで意味不明な性能だと、どうとでも出来そうに思える以上、余り信用できない。

 

 何故千束に近付いたのか?害意の様なモノは今のところ見受けられないが、だからこそ疑問が尽きん。千束がアランチルドレンだからか?もしそうなら、()()()───

 

 思考を回し、その奥に要るであろうモノを視ようと探る。だが、映るのは何者も見えない霞がかった背景だけ。ならばやはりと、自分の知っている知識から見えない()()を創ろうとした時、店の端から大きな声が聞こえて、意識が引き戻される。

 見れば小さな男の子が何かしらの不満を訴え泣いていた。実を言うとここ最近、親子客がこの店に良く来るようになっていて、その理由は翡翠にある。民間用品で出回っている物と違い、フィクションで見るような鋭角で力強い姿は画面写りが良く映えており、SNS等で細やかながらもバズった。そこから物珍しさとそれを見た子供にせがまれてやって来た保護者達。と、いった流れで客足が増えているのだが、たまに『僕の知ってるヤツじゃない!』と子供にありがちな理由で泣いて抗議されるのもしばしば。幸い、店にいる人間は皆、その程度の事で目くじらを立てる様な者はいないが、当の子供の母親は周りを気にして非常に申し訳無さそうにしており、必死に宥めようとしていた。そうこうしていると、逆に見ていられなくなったカウンター席の一団から動く者が現れる。

 

 「………うしっ、ここらで刑事っぽい(カッコいい)所見せましょう!」

 

 ニヒルな笑みでそう言いながら、席を立った阿部は子供に近づいていく。ポケットをまさぐりつつ子供に目線を合わせるように膝を突いて、怖がらせないよう優しく語りかける。

 

 

 「どうしたんだい、僕?甘いの食べて機嫌直しな」

 

 「…いらない」

 

 

 ポケットから出した黒飴をほぼノータイムで突き返され、笑顔のまま固まる阿部と、顔面を青くした母親。それを後ろから見ていた一部の者(三谷も含む)は、顔を覆いプルプルと震えていた。

 子供からすればさっきこの店でより美味しいものを食べていたし、何より、肝心のロボットが自分の好きな番組のモノじゃなくて抗議していたのだ。本来なら観れたはずの楽しみにしていてたヒーローショーを、色々な事情が重なって見れなくなったが為に、此処に埋め合わせとして連れてこられたのだが、どうやらそれは黒飴一つで埋まるほど浅くなかったらしい。

 必死に謝ってくる母親を逆に宥めながら、敗戦兵さながらに戻ってきた阿部。後で面倒な書類仕事を三谷に押し付けようと心に固く誓いながら座り直す。その姿は、行きと違ってとてもカッコ悪かった。

 

 「………なら、次は私が!」

 

 そう言って静かに声を挙げながらも確かな意思で選手(たきな)が交代。子供に近づいて目線を合わせる所までは一緒だが、大柄な阿部とは違い、たきなは可憐な少女だ。それだけで、子供に圧迫感を与えずに接触出来るという、それを阿部はなんとも言えない悔しさと、不条理さを感じながら戦局を窺う。

 すると、徐に手で顔を隠しながらたきなは言いはなつ。

 

 

 「にらめっこしましょ、 あっぷっぷ!」

 

 

 ………ソコには真顔で子供と、見つめ合うたきなが居た。

 なんとなくやろうとしたことが、直ぐに分かったのはミカ、クルミ、千束のみでソレ以外の人間は彼女と同じ様に真顔になっていた。その空気は完全に滑った芸人のソレである。恐らく、下手に変顔をするよりも真顔の方が受ける、と、何処かで話を聞き、ソレを実践したのだろうが、そういうものは時と場合を選ばなければいけないし、まずこのタイミングでは何の効果もない。実際に子供はキョトンとした顔をしており、逆に母親は先程の一部の者達のように顔を手で隠しプルプルと震えていた。

 それと反比例していくようにたきなの顔が赤くなっていき、蚊の鳴くような声で「失礼しました。」と言ってそそくさと退却。

 それをドンマイと千束が肩を叩く姿を見ながら、失敗しても絵になる美少女はやはりズルいな、と世の真理の一つを阿部は学んだ。

 

 

 「………店長、ミカに要望。これより当機に30分の自由時間を要求する」

 

 そんな中、いつの間にか戻ってきた翡翠から意外なモノを望まれた。今まで黙々と仕事をこなしていただけに想定外の要求物だったが、何をするのか気になったのも確かな為、要求通り了承の返事をする。すると先程の敗戦兵達(阿部&たきな)のように例の子供の前まで移動。ミカを遥かに越す全高に、人間とは違う重圧感は中々にクルものがあり、その威圧感ともとれるソレを前にした親子は若干の恐怖を感じる。

 

 「報告、当機は『ギャラクシーレンジャーズ』でも無ければ『コズミックエンペラー』でも無い………」

 

 そう言いながら、深く座って目線を落とす。抑揚の無いマシンボイスは冷たく淡々としており、怒っているようにも聞こえる言葉に再び母親の顔に陰が落ち始める。が───

 

 「だが、貴官となら、『マーベラス・ドッキング』が可能である。

  故に()()()()()()()()()()()()()()は速やかに搭乗されたし

 

 言うや否や、自身の両腕を前に交互の高さ違いで配置する。すると、やや子供ぽいっながらもヒロイックな音楽が翡翠から流れ始めた。それに合わせて各部のセンサーらしき所もカラフルにピコピコと色を変え、トドメとばかり、これまたアニメなどで聞きそうな効果音を流しながら、首を可能な限り前方へスライド。その光景が進む度に子供の顔色は嬉色に変わっていった。もはや彼にはそれがコクピットと階段にしか見えなかったのだろう。母親が止める間もなく翡翠の手足を階段代わりにし、嬉々として乗り込む。翡翠の首の後ろに腰を下ろし、頭部のブレードアンテナをハンドルのように握った。そして翡翠は片方の手で、優しく後ろから子供の背中を支え、静かに立ち上がる。

 

 「合体っ! 発進だーーっ!!」

 

 「了解(ラジャー)

 

 その間も子供の好きそうな番組の主題歌や効果音、BGMを流し、()()()()()の指示通りに店内を練り歩く。それを見て察した千束が彼等の前に立ち塞がり、悪の名乗りを挙げる。

 

 「ワーッハッハッハッ!ここから先を通りたくば、私を倒してからにするがいい!!」

 

 「出たな、秘密結社ダークネスプルート!お前たちの好きにはさせない、攻撃だ!!」

 

 「了解(ラジャー)

 

 そんな即興ヒーローショーを見ていた面々は───

 

 

 

 

 「最近の技術って凄いっすねぇ…………」

 

 と謎の技術の無駄遣いに素直な感嘆を漏らし、

 

 

 

 「……なぁ、アレって本当に中に人が入って無いんだよな?」

 

 「俺も今、本気で疑っている…………」

 

 世の中の不条理を垣間見た者や、

 

 

 

 「そっ、そんな、ロボットに負けた!?」

 

 敗北を味わい崩れる者や、

 

 

 

 「………だから属性盛りすぎだろ…………」

 

 「………オーバーテクノロジーの無駄遣いもいい所だな」

 

 真っ当な意見と反応をしている者達が居た。

 

 

 その後、母親は平謝りとお礼をして、子供は満面の笑みで手を振りながら一緒に帰って行った。

 

 今日も喫茶リコリコは平和である。

 

 

 

 

 

 




※その時のデュナメスの中の人の声

 「ガッハッハッハッ!!
  これがガンダム!悪魔の力よ!!」
  たきなを見ながら言った模様。


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大人に反省を促すダンス 前編




 いつもブクマ、評価、誤字・脱字報告、感想ありがとうございます!

 ただ、非常に言いにくいのですが、出来れば予想コメなどは、お控えして頂けるとありがたいです。

 返信に難しいので(汗)………。

 それでは見苦しい投稿者からのコメント失礼しました。





 

 

 

 

 

 

──────×月××日、喫茶リコリコにて─────

 

 「あれ?今日は()()()()()()お休みなの?」

 

 入店してすぐにそんな声を掛けてきたのは常連客の一人で、店の奥に居てもすぐに見つけれる大型新人(物理)の見当たらない様子に、そんな言葉が出た。

 翡翠の出勤当初のインパクトは凄まじく、厳ついビジュアルと見た目を裏切る実務能力の高さで、あっという間に喫茶リコリコに馴染んだ家政婦ロボット(そういう設定、というか自然とそう思われた)は、非常に目立つ。今日もそんな場所で憩いの時間(ネームも描きに来たとも言う)を過ごそうとやって来た伊藤は、近くに通りかかった千束を引き留めた。

 

 「あぁ~~、今日は()()()()()に出してるんですよ」

 

 「あぁ、なるほど。明らかに手間かかりそうな見た目だもんねぇ」

 

 まぁ、すぐに戻ってくるけどねぇ、と表向きの設定で返しながら喫茶店としての業務に齷齪と戻っていく。翡翠は現在、DA本部に居る。何でも、機材を新調したから再び調査したい、と話が下りて来たそうだ。

 当初は“当機は護衛と支援の使命がある”と抵抗していたが、()()と千束の()()で渋々了承。その後は、送迎時の監視員として来たリコリスに連れられて行った、という顛末だ。

 

 「はぁぁ……気になんのは分かるけど、別に今日じゃなくてもいいでしょうに………」

 

 そう愚痴を漏らしたミズキは、シンクから溢れそうになっている洗い物を必死に処理していた。現在、喫茶リコリコは非常に忙しかった。翡翠の影響も多少は有るが、ソレ抜きにしても偶にある客ラッシュで、店はてんてこ舞いになっていのだ。今までもこういった事はあったのだが、翡翠が来てからは少々事情が違う。人間とは違い、疲労とは無縁のボディは、喫茶店の業務でも遺憾なく発揮し、一切のパフォーマンスを落とさず流れるように処理していく姿は、正しく喫茶リコリコに舞い降りた救世主、否、天使(デュミナス)だった。そんな理由で、非常に楽をさせて貰っていたミズキは、翡翠にとても頼っていた(寄り掛かるとも言う)。

 

 「そう言うな、あんな不思議の塊だ。連中が気にするのも当然だろう」

 

 ミズキの愚痴を、宥める様に声を掛けたのはクルミだ。翡翠自身が興味対象なのも理由に有るが、彼女も翡翠を非常に頼っており(自分は喫茶の業務が苦手な為)、千束の次に翡翠を受け入れている人物でもある。

 

 「ん~……私としてはだからこそ、不安なんだよね~」

 

 その会話に入ってきた千束は率直な感情を述べる。何せ上層部は翡翠を異常に警戒しており、一部の暴走とはいえ、一度は破壊しようした経緯がある以上、又やるのではないのか?という疑惑が、彼女の中では晴れないのだ。その敵愾心にも似た猜疑心は、ある意味真っ当ではあるが、ソレを納得出来るかは別問題である。

 今日まで此方の味方はしても、敵対的な行動はしていないのだからもうちょっと信用してくれても良いのに、と話に付け足す。

 

 「千束はもう少し警戒するべきです。そもそも、勝手に動き回る戦闘用ロボットなんて、普通に怪し過ぎます」

 

 下げて来た食器をシンクに入れながら、横から千束に注意を促すのは たきな だ。彼女の言葉からは余り信用していないのが端から滲み出ており、普段からの対応もやや素っ気ない様子だ。尤も、なぜ機械相手にムキになって対抗したり、無意識に警戒しているのかは、自分でも気付いてない様子で、モヤモヤとした感情が今もゆっくりと渦巻いている。

 

 「まぁ、それはそうなんだけどねぇ……」

 

 「ふっ、心配するだけ無駄だろう。アイツも言っていたぞ?()()()()って」

 

 心配する千束にするのは無駄な行為だとクルミは諭しており、そしてその言葉はそのままの意味で真実だ。現状、本気で翡翠が抵抗した場合、それを止める方法がDAに存在しないのは、翡翠の調査に関わった者には周知の事実である。しかし、だからこそ千束は、上層部が再び強行策に出た場合に翡翠がどんな行動に出るのか?という不安を覚えていた。ちなみにミズキとクルミは、“まぁ、成るようにしかならんだろう”と諦念にも似た認識をしている。そんな事を裏側で駄弁っていれば、苦言を飛ばす者が現れた。

 

 「気になるのは俺もだが、今は店の業務を頼む。

  唯でさえ今は忙しいからな?」

 

 ジト目で千束達を睥睨しながら、ミカは手の止まった従業員達にお叱りを飛ばす。

 

 今日も喫茶リコリコは平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───深夜。多くの者が明日に備えて布団にくるまる頃、夜の住人達の時間がやって来た。

 

 人気が消えた町を行く1人の男は、派手な装いというわけでも無いのにとても目立っており、暗い夜道の中でもまるで飛び出す絵本の仕掛け絵部のように浮いていた。

 普段人でゴッタ返す場所は、人が居ないというだけで途端に別世界に早替り。喧騒や人の熱気とは真反対のカラーでキャンバスを塗りつぶし、唯一違うカラーの雫が落ちたように、無人の町を歩く男の姿は目立ち過ぎた。

 

 そんな男を追跡する小柄な影は、付かず離れずの位置を維持する。

 男を見失わないように、しかしバレないようにと一定の距離を保ちながら今か今かと隙を伺っており、視線は次第に鋭く為っていく。今回の任務はターゲットの確保。“抹殺よりも難易度が高い以上、気張らなければ”と必要以上に力んでいた。ある時は物陰に、ある時は男の死角に入り、男の視界から姿を消すように動く。本来なら都市迷彩効果を発揮する制服も、()()()()()()()()()()()()()()()()では全くの無力。故に、慎重に動く。

 

 不意に男が大きく開けた歩道を渡り始め、自身も行くか少し迷いが出る。流石に遮蔽物もない()()では身を曝すしかないが、相手に不審な様子は見られないし、と少しの逡巡の後、任務続行を判断。

 距離にして3~4メートルと言った所まで接近。相手にうっすらと気配を悟らせたか、と焦燥感が顔を覗かせるが相手の様子が変わら無い結果に少しの安堵を覚え、この任務の後の事に想いを馳せていた。

 これが成功した暁にはセカンドに上がれるかもしれない、本店に移店出来るかも知れない、考えない様にしていた期待がチラリと脳裏に過り、無意識に胸が高鳴る。

 そんなささやかな祈りにも似た憧憬を、“バチが当たったな”とでもいうように悪意が踏みにじった。

 

 

 

 「ーーーッ!?」

 

 突如、強烈な光が視界を塗り潰した、と、そう正しく認識できる前に衝撃が彼女の全身を叩く、口からは空気と声にもならない悲鳴が漏れた。

 一瞬の意識の空白と、その後に来たスローモーションになった世界が、単文的な考えを挟む隙間を作り、自分がどうなったのかを認識させる。視界の端には、恐らく自分をはねたのであろう車が走り抜けていて、自身は宙を舞っているのだろう。そこまで判った後、再び衝撃によって意識の空白が通りすぎる。……攻撃を受けたのだろうとは分かったが、それ以外は彼女には分からなかった。その答えは、電気自動車 特有の静音性による意識外からの不意打ちと、明確な害意の速度で生まれた衝突だ。

 受身も取れず宙を舞い、そのままの硬いコンクリートに叩きつけられた彼女は道路のド真ん中に倒れ伏す。こうなった原因はなんて事はない、相手は初めから分かっていたのだ。彼女が追っていたのはただの誘導役で、それを監視していた者からすればその姿は餌に食いついた獲物だ。どれだけ慎重に動いていても今 ココは絶好の()()()()()()である以上すべて無駄。

 ちゃんとバレないようにしていたのに何故?と、疑問と後悔がダメージによって大半を削られた思考のリソースを埋め尽くす。彼女がもう少し、上からちゃんと情報を貰えていれば結果は変わったかもしれないが、所詮はタラレバの話。今になっては意味がない。

 

 回りからは半死半生になった少女を囲むようにゾロゾロと男達が出てくる。それを眺めながら少女をはねた張本人である、この一団の頭目の男は車に乗ったまま獰猛に笑い、結果の推移を見定める。

 

 「……さぁて、()()()()()()()()()()……ココらでドカンと派手に往こうぜ?───」

 

 出てきた男達は一部の隙も無いように少女を囲み、平然と、或いは遊び半分の様子でその手に火薬と鉄で出来た凶器を構える。その中心にいる少女の状態は思考すら判然とせず、力の入らない体に視線すら動かすのも億劫な様子だ。唯一見える範囲からは“何となく最後なんだな”と思わせる光景が拡がっており、その間際に零れた思考は“家に帰りたい”だった。

 

焦点の合わない目で事態を見つめ────

 

 「─────始まりぃ…始まりぃ──」

 

 ─────少女の視界が光に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……は?」

 

 …それは誰の声だったのか?……気が付けば男の手にもっていた拳銃が半ばまで融けていた。その男は一番に少女に近付いて発砲しようとしたはずだが、いつの間にか使用不可になった銃を少女に向けたまま唖然としながら見ていた。自身の持つ()()()が、遅ればせながらじんわりと手を焼いて焦げた臭いを鼻で知覚した頃、漸く男は痛みを感じて小さな悲鳴と共に手に持つ()()()()()()()()を放り投げる───

 ──その一連の動作が開幕の合図と成る。

 

 

 

 

 大気を焼く空電音がどこからか聞こえた気がする。

 

 「っ゙!!?あ゙あ゙あ゙っ゙!!??」

 

 悲鳴がした方に全員の視線が集まり、後ろを振り返れば足を押さえ、のたうち回る男がいた。その男の付近の道路には小さくキレイな円を描いて融けた穴が空いており、男の足には少量の血が滲んでいた。()()()()()()()()()()()()()()()が、それが何を意味しているのかは説明されなくても瞬時に理解できた。

 

 「───って、敵───」

 

 その言葉は最後まで続かない。何処からかやって来た無数の光の雨が、その場に集まった男達に次々と無様な()()()を踊らせる。もはやその場は混乱と激痛に喘ぐコンサートホールと化しており、先程迄あった野犬の群れの様な統率力は既に無い。その事態に唯一回答を得れた者は、一団から離れた()()()()()()だけだった。

 

 

 「………レーザー!?」

 

 

 今宵、人の視力では捉えることが出来ない程の上空から───

 

 

 

 「作戦(ミッション)の第三フェーズに移行と当機は判断。

  デュナメス、白兵戦闘へ移行する

 

 

───天使が舞い降りる。───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、ちょっと長めの為時間が掛かります。


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大人に反省を促すダンス 中編 その1



いつもブクマ、評価、誤字・脱字報告、感想ありがとうございます!

千束のキャラのトレースが非常に難儀していると言う……。リコリコの二次書いててとんでもない致命的な事している投稿者です。
失踪はしないように書いていく所存ですが、これからは相当に投稿ペースが遅くなります。
それでも良ければお付き合いください。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「エンジェル1、交戦を開始した模様。

  直ちにブラボー、チャーリーは行動開始して下さい」

 

 「此方HQ、聞こえますか?どうぞ──」

 

 「─更なる通信環境の悪化が予想されるため、───」

 

 「─隊、──交戦開始、────は、援護に───」

 

 

 

────DA 指令部にて、情報の銃撃戦が激しく行われている。一分一秒で人の命の行方が決定される場で、張り詰めた空気感が場を支配していても、ソコに集まった者達に焦りの表情は無い。飛び交う情報をリアルタイムで正確かつ、一糸乱れず処理していく様は日々の練度を感じさせるには十分だ。しかし今夜の指令部は普段とは違い、()()()()()()()に、幾つか上手く行っていない所が見受けられた。それを全体が見渡せる一際高い壇上で、楠木はいつも以上にモニターに鋭い視線を送っている。

 

 「……分かっては いたつもりでしたが、凄まじいですね……」

 

 「…………………」

 

 そんな陳腐な感想しか出せないでいた楠木の助手も、俯瞰化された一方的な戦局を見据える。

 今回の作戦は非常に大掛かりなモノだった。予め、幾つものオフィス街で大規模な配電工事等の情報操作を行い、民間人を可能な限り排除。逆に付近の検問や警邏等は甘くして、国内のテロリスト達が動きやすい場を作成、それと同時に欺瞞情報も流しテロリストを誘導。その後、()()()も交えたリコリス達を、区画 毎に、包囲役及び、内部で遊撃する役を別けて展開し順次 処理。広範囲且つ、複数に渡る作戦領域故に()()()()が発生する場所が多々在る事が予想される為、これをDA支部 喫茶リコリコに預けられた、機動兵器、“ガンダムデュナメス”を遊撃機としてカバーさせる。尚、未知の粒子(今後、GN粒子と呼称)の影響による通信不安定と、遊撃役であるデュナメスの性能を鑑みて、ある程度の戦術判断を本機に任せる。と言う内容の作戦だ。

 これ程の大規模な作戦を立てられた理由は、数日前から単独のリコリスが襲われると言う事件が有ったからだ。幸いな事に()()()()が現場に赴いたおかげで死者も出て居らず、機密漏洩も限りなく低いと思われるがいくら末端とはいえ、それでも機密組織の一員には変わりなく、ソコからの情報漏洩を上層部が危惧した為、今回の作戦が下りてきた。

 

 と、言う建前で今回は話が通っているが、その本音は翡翠こと、『ガンダムデュナメス』の()()()()を録るためだった。建前の話もある程度は事実だが、それ以上にデュナメスの情報を上層部が欲しがった為、多少 金を掛けても良いから、と今回の作戦が決行された。

 

 上層部が、デュナメスを危険視しているのも事実だが、それ以上に驚異的な性能の秘密を欲しがっている者が大半で、彼らからすればデュナメスは“危険が蔓延る未知の宝島(次世代兵器のソリューション)”に見えるのだろう。

 

 推進機も無しに航空機以上の飛行能力を発揮する仕組みに、極めて高いレベルで実戦運用可能な光学兵器や、現行技術の粋を集めて敷いた警戒網をも容易くすり抜けるステルス性能。

 驚く程の小型と考えられるにも関わらず、世界最高峰クラスの電子戦能力を持つラジアータを嘲笑うかのような、ソレ以上の人工知能。

 裏取りは出来ていないが本人が漏らした、現在まで一切の無補給で動けた理由の無限のエネルギー(半永久機関)。そのドレもコレもが、正しく一攫千金に価する物だった。

 

 どれか一つでも解明し、自分達のモノに出来れば、莫大な国益と、日本と言う小さな島国の社会的地位を爆発的に高め、覇権国家まで登り詰めれるのではないか?と、思わせる程のモノばかりの超技術の塊は、彼らの欲を際限無く駆り立てる。

 

 もっとも、それ故にデュナメスを作ったであろう機関や組織を、最大限に警戒しているし、どうにかしてコンタクトを取ろうとしている話も在るのだが、今は置いておこう。

 

 「……ふん、デュミナス(力天使)か…………兵器に天使の名前を付けるとは……コイツの開発者は余程、高尚な御考えを持っているらしい………」

 

 「……狂信者でなければ良いですね……」

 

 皮肉を叩きながらもモニターに映る状況の推移を見定める。

 戦局は極めて優勢。翡翠は上空から複数箇所で同時に展開している戦域のほぼ全てをカバーしており、()()()()()()()()()()()()()()()()()()で炙り出した敵戦力のその悉くを選択肢ごと無力化している。

 敵味方が入り乱れる戦況に於いても、一切の誤射も無く撃ち抜いており、リコリス側の死者は0、今のところ()()()()()()のみと言う大戦果だ。

 …元々、人間相手に使うには、過ぎた兵器だというのは分かっていたつもりだが、どうやらソレすらも認識が甘かったらしい。上空から光で地上を照らし、戦況を一変させる様は、天罰を下す神の宣告を彷彿させる。

 

 楠木は画面を睨みながら、向こうに居るであろう(翡翠)との対談を思い出していた。────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさか、機械人形とこうして話の場を設ける事になるとはな。人生、何があるか判らんものだな?」

 

 そんな皮肉を開口に、楠木は上級職員用応接室で、翡翠と向かい合っていた。ただし、翡翠は人型とはいえ、人間用のソファーに座るのは少々無理があるため、ソファーをどかして、膝立ちの状態で対面した構図になっている。

 今回、翡翠を調査の名目で呼び出したのは、作戦参加を要請するためだと道中で既に明かしていた。以前より度々、実地試験の名目で翡翠を作戦に使っていたが、今回はより大規模になる為、この場ではより詳細な話と、翡翠を見定めるために指令直々に応対していたのだ。そして先程の楠木が言った言葉は、半分は自身に対しての皮肉でもあった。人間のように自発的に考え行動するAIなど、今の今まで空想の中だけの話だったからだ。

 

 一応DAでも真偽を確かめる為、様々な角度からの検証は行っており、例えば、現行技術の粋を集めて造ったシールドルーム(電波等を遮断する部屋)に、翡翠と何人かの職員が入る。その後、普通の会話(人間基準)から、トランプ等で遊戯をさせたり、唐突に職員が激怒して翡翠に襲い掛かる等(職員側で予め打ち合わせしていた模様。)、思い付く限りのシチュエーションを叩きつけて反応を窺ったりしたのだ。が、しかし、その全てのイベントに翡翠は、人間の様に複雑な対応をしてみせ、驚くほど多様なリアクションを返して来た。

 そういった電子的な方法以外でも調査されていたのだ。

 

 尚、その実験に参加した職員は皆、生きた心地がしなかったと苦情を訴えていたが些末な事である為、上司には流された模様。

 

 紆余曲折したソレらの経緯で“超高度AI”と言う認識で決着は着いたが、まだまだ理解不能な部分が大半を占めている為、未だに議論自体は続いているがこれ以上は割愛しておこう。

 そんな未来からやって来た様な代物に、人間の交渉術が効くか甚だ疑問だが、それでも司令官としての責務がある以上、他の者に任せる事も つもりも無い楠木は、相対する翡翠を見据える。

 

 正直な話、マシンが相手である以上 表情や声色は勿論、人間の理論的な話での詮索は当てに出来ない。………タフな交渉になるな。……そして、今回の依頼はコイツにとっては旨味が無さすぎる話だ。……どう動かせば良いものか………。

 

 未知の敵相手に、様々なシミュレーションを行っていると、返答は予想以上に早かった。

 

 「………要請を受諾。

  続いて、作戦(ミッション)の詳細と当機が参加する上での条件と定義の協議を要求する」

 

 予想外の即決に、今まで立てた戦術を放棄する。決して本心は表へ出さず、相手のマシン的な定義(理由)に狙いを定め、攻撃していくことに変更した。

 

 

 「意外だな?貴様の目的は千束の護衛だと聞いていたが……存外、然程の重要案件ではないらしい」

 

 「否定、及び補則。

  当機の現最重要目的は、錦木 千束、及び、親類縁者の支援と護衛である」

 

 「だったら尚の事だな。アイツの居る場所の者達をソレに当て嵌めても、我々には関係無いはずだ」

 

 明らかな目的と行動の矛盾、その真偽を問い質す。千束の護衛はあくまでカバーストーリーか?そう考えた矢先だった。

 

 

 「…詰問、今回の作戦内容の本質は、作戦に参加するサードリコリス達の消耗を前提とした、当機の情報収集と推測する」

  (…この際だからハッキリ言うぜ?…これ俺の事 解析するために、この子達は囮にする気満々だろ)

 

 

 楠木の顔は変わらない。そんなこと、俯瞰した情報をある程度持っている者ならすぐに判る。それ位に解りやすいほど()()()()()()()()だと知っているし、その上で指揮を執らなければいけないのだから。それがどうしたというのだ?マシンのお前には関係ないだろ?そう言外に込めて返してやった。

 

 「ふっ…まさか機械風情が少女性愛者の気があるとはな、……本当に良くできたオモチャだな?」

 

 「……返答、リコリス、及びリリベルは、極めて弱い立場の者達である」

 (おん?てめぇ、人をロリコン扱いしてんじゃねぇ!

  いいか!?そもそもの話はだな!!)

 

 

 

 

 静に、淡々と、しかし、何処か強く聞こえる、抑揚が無いはずのマシンボイスで語りだす。

 

 

 

 

 「これは身体能力に由来する話ではなく、彼ら彼女らが、社会的保証の外に居る故のモノから来る事柄である」

 

  それってよ?上の権力者ならあの子達をどうとでも出来る()う話だよな?

 

 「そして、貴官らは、本来なら享受されるべき自由と選択を彼ら彼女らから奪い、自分たちの利益の供給源として消費している」

 

  子供達の権利全部奪って、自分たちはぬくぬくと安地から高みの見物で事進めようとしてるもんな。

 

 「これは、貴官らが言う、反社会的組織や悪と断ずる者達とほぼ同様の行為と組織構造であり、その正否は社会秩序に貢献しているか、もしくは国と言うコミュニティのヒエラルキー上位に属しているかの違いしか無い」

 

  相手の選択肢全部奪って従わせるって、どー見たってソーユー連中と大差ないからな!?

 

 「故に、今 作戦を拒否した場合、()()()()()()()から外れる可能性が非常に高いと当機は予測している」

 

  んでよ。これ断ったら俺抜きでもどうせそのままこの無茶振り作戦推し進めんだろ?それ聞いたら俺も逃げる選択肢()ぇからな!!???

 

 「結論、当機は()()()を信用していない────

 (ぶっちゃけ、信用ならぬぇえ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───ふっ、機械風情が生意気な物言いをする………」

 

 そう呟きながら、あの時の会話が無意識に頭の中に流れていた。報告では機械らしくない、言葉遊びをするとは聞いていたが、確かに、あの時の物言いは()()()()()()()()()()、熱ある言葉だった。

 子供には幸福で在って欲しい、もっと自由で在って欲しい、それが当たり前だ、と、いうような青臭い理想論を匂わせる屁理屈と非合理的な選択。ソレに楠木は、遠い昔に置き忘れた何かを見た気がした。

 DAは確かに社会秩序を守る為の組織で、現に今まで守護してきたのも事実だが、それを達成するための手段は“身寄りの無い子供に、親という立場に成り済まして、殺し合いの場に立たせる”、と言う誰が聞いても後ろ指を指されるであろう方法だ。

 楠木はその事実に言い訳も否定もするつもりは無い。国の運営には、綺麗事だけではやっていけないのは、理解出来るからこそ、今、此処に立っている。

 そんな楠木の心を、真に汲む事が出来る者は恐らく、彼女と同じ立場で何かを目指した者だけだろう。そんな事を思い出していると、ついでとばかりにオマケのような話も浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

 ─────所で、話は変わるが貴様の機種名“デュナメス”は天使なのだろうが、この“ガンダム”と言うのは何だ?』

 

 特に期待はしていない。どうとでも誤魔化せそうな話題である以上、話の取っ掛かり位にでも成れば良い。という程度のモノだったが帰って来た言葉は思いの外、()()()()()()()()()()熱が篭っていた。

 

 『返答、“ガンダム”と言う名称には、幾つもの意味が込められており、一つを対象に絞る事は非常に困難である』

 (おっ、ソレ聞いちゃう?いやぁ、作品毎に意味合いが散々作られてきたからどれって聞かれると困っちゃうんだよねぇ!(嬉しそうなクソオタ))

 

 『が、その中でも強調するものが在るなら“成し遂げる者”と当機は推測する』

 (まぁ、せっさんの言葉を借りるなら“紛争を根絶する者”かな!キリッ!!

  てっ、あ゙ーーーーーーーーーっ(汚い高音)

  クソダサセリフ改編してんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!!

  こんのクソ翻訳機ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──本当に…、本当に生意気で大口を叩く機械(ヤツ)だ」

 

 

 

 

 

 

 

「……なら、『やってみせろよ、ガンダム』……」

 

 

 誰にも聞こえない声量で紡がれた言葉は、確かに楠木の心が含まれていた。楠木の表情は変わっていない。この作戦を展開した時からずっと無表情のままだ。だからこそ、今の顔をミカが見れば思わず聞いて見たくなるだろう。───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※初めて対談が終わった後の事──────

 

 こっ、()えぇぇ~~~……。

 あの時は思わずイラッと、なってたから話せたけどあの人マジ()ぇぇ!!ずっと無表情だし、なに考えてるか判んねぇし!!なんか何時でも銃抜けるぞ?って顔してるしっ!!

 実はコートには銃じゃなくてコラキとか仕込んでないよな??『パーメットスコア4!』とか言って来られたら、ワレ、ハッピィバァァスデェェェッ!!!って爆散して御陀仏ゾ??

 

 

 

 

 

 







 これを言わせたかっただけのクソ改編を……
 強いられているんDA☆!!(集中線) 


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大人に反省を促すダンス 中編 その2


想定以上に長い文章に成ったため分割。
次回でダンス編ラストの予定。







 

 

 

 

 

 ────………レーザー!?」

 

 ()()がそう疑問を溢したのは、偏に同志達から離れて観ることが出来たからだ。車のフロントガラスという限られた写角では、全てを見ることは出来なかったが、マゼンタ色に光るナニかが人に当たったというのは見えた。そして確信を持てなかったのはその後が解らなかったからだ。光るナニかに最初に当たった部下がのたうち回り始め、何かの攻撃と認識出来た時には“ソレ”が上から無数に降って来ていた。光に照らされた部下が次々に()()()()()始めてソコで漸く何らかの兵器よる襲撃と気付き───

 

 

 ───条件反射的に車を急発進させた。

 理由を言語化する事が出来なかったソレは、今まで真島が鉄火場で培って来た第六感そのもので、その選択は()()()()()とすぐに証明される。

 フルスロットルで進行方向も考えず、兎に角 前に走らせながらハンドルを切ろうとし───突如、車が縦に揺れたような浮遊感を覚える。その直前に視界 両端が光った様に見えたが、そんな事に思考を割く余裕は無い。

 車の制御が完全に不能になっており、アクセル、ブレーキ、ハンドルの一切が無反応。最初の加速による慣性と、最後に入力した右折操作そのままにオフィスビルの一角にあるロビーへ激しい金属の擦過音と共に突っ込む。真島は衝撃とエアバッグに挟まれ、揉みくちゃに成りながら、車が障害物をブレーキ代わりにして止まるのを待つしかなかった。

 

 「ーーーーーーっ!?!?!?」

 

 そしてロビーに在った物の大部分を巻き込んで漸く止まった車から、素早く脱出を図る。鍛えた体の膂力と、車内に用意していたライフルで強引にドアを開き、辺りを一瞥した真島の目に理解不能の光景が映る。

 いや、正確には何故 “車が操作を受け付けなかったのか”と、その後“どうなったのか”は解ったが、ソレを脳が理解を拒んだ。

 自分が乗っていた車のタイヤが全て外れており、ゴロゴロとロビーや車道に力無く回ったり打ち捨てられ、車の上部 四隅には小さな穴が空いていた。車底部は激しく擦られた跡が出来ており、道路からロビーまでその軌跡を作りながらソレがどんな様子だったのかを物語る。統括すれば、何らかの極めて貫通力の高い射撃らしきモノで、車の車軸のみを一発の誤射も無く正確無比に貫かれた結果、全てのタイヤが車から離れて制御不能に為ったというものだ。

 ……理屈は解る、だがそんな余りにも荒唐無稽ともいえるような、神業染みた射撃なぞ想像が付かない。これが多数の弾痕があればまだ現実味が在るが、パッと見でしかないが穴は4つしか空いておらず、それ以外の攻撃を受けた様子が無いのが更に現実感を薄れさせていた。

 

 「…………ハッ、なんだそりゃ?……」

 

 真島の背中に冷たい汗が流れる。強がりにも聞こえる言葉を発しながら、どういう事態に成ったのかをロビーから観る。ガキを囲んでいた部下達は全て倒れ伏しており、他の者は室内で隠れながら耳に装着した無線を押さえて必死に何かを訴えている。ソコで無線の事を自分も思いだし、今回の作戦の()()()に連絡しようとボタンを押すが、酷いノイズでまともに聞こえない事に気がついた。

 

 「……ジャミング…?」

 

 そうこうしていると、一人の部下が反対車線を挟んだ方から、駆け寄ろうとしているのを見つけ──光るナニかの餌食に成るのを観た。今度は何処からやって来たのかが解った。真上から真下へ──闇夜を切り裂く様に走る()()()()()()()()の軌跡が。

 

 「………衛星レーザー砲ってか?いつの間に実用化されたんだよ」

 

 口角を上げながら不敵に言い放つが、蟀谷からは一筋の冷や汗が流れていた。事態の深刻さを肌で感じとり、個人の判断で逃走する緊急脱出プランを即決。同志達には悪いが元々こうなることも言い含めていたし、緊急時の作戦も各々に伝えていたのだ。あとは自己の判断で対応してもらうしか無いだろう。()()()()()はある程度 達成できた為、ここからは自分が無事に戻る事だけで。“高い買い物をした以上、これ以上の出費はできねぇな”と、この一団の中で最も賢く、そして()()()()()()をして真島は闇夜に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───闇夜の中で尚、地上からではGN粒子の光が見えぬほどの上空に、翡翠は居た。

 

 

 

 「(オラオラオラオラオラオラァッ!!月に代わってお仕置だべぇぇぇぇぇぇぇっ!!!)」

 

 

 

 GNスナイパーライフルを手当たり次第にテロリスト達に叩き込む。

 ビーム兵器故にリロードや給弾の必要が無く、既存の狙撃用ライフルとは比べ物にならない高速速射で、流れる様に敵が無力化されていく。とはいえ、GNビームピストルよりかはずっと控え目の連射だが。

 

 

 

「(はいっ!そこっ近付きすぎっ!補導対象っ!!)」

 

 

 

 しかし、いくら相手が非常に脆い対象(主に人間等)で、溜めの要らない低出力射撃で良いとはいえ、本来この兵装は余り連射の利く物ではないし、ソコまで低出力ならば射程距離も激減する事に成る。にも関わらずソレを可能としているのにはある理由があった。

 

 

 

 「(処す?処す?処すぅぅぅぅっ!!シャオラァァァァァッ!!)」

 

 

 

 この機体(ボディ)は、原型機に比べて大幅なサイズダウンにより、純粋な出力量や、GN粒子貯蔵量の低下等の弊害が出ており、ソレを補う為の様々な改造が施されている。例えば粒子の制御能力なら装甲の防御力に、慣性・質量・重力のより精密制御による機動力の上昇や、粒子の省エネによる継戦能力の強化。エンジン、フレーム、兵装等の基礎構造 そのものを後の世代に使われた物等を使っている為、単純な等倍比に限るが、原型機よりも上回っている部分もあるほどだ。

 だが、それでも出力の低下はカバーしきれず、特にビーム射撃兵器の射程距離の低下という、デュナメス本来の運用思想に致命的な欠陥に成りうる問題があった。

 

 

 

 「(だぁぁぁらっ!クソっ!サバーニャ気分だなぁっ!おいっ!!)」

 

 

 

 そこで、本来なら存在しない機能で解決策を用意されていた。その機能は武器側に搭載されたGNコンデンサが許す限りの話になるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()する事で、少ないエネルギーで効率よくビームの射程距離と威力を調整するというものだ。例えば、限界まで粒子を圧縮して高速射出する事で、目標距離までGN粒子の拡散を抑え射程距離と貫通力を飛躍的に向上させたり、対象を爆破させたいなら、収束を敢えて緩めることで、着弾と同時に粒子を炸裂させたりなどだ。

 

 

 

 「(ワラワラ、ワラワラ、ボウフラみたいに湧きやがってぇ!!)」

 

 

 

 この機能のお陰で、対象の破壊以外の撃ち別けを原型機よりも遥かに幅広く行うことが出来るようになっており、副次機能のマイナーチェンジ版は『低致死性(サプレス)モード』という名称だが、原型技術の名を語るなら───

 

 

 

 「(野郎オブクラッシャァァァァァーーッッ!!!)」

 

 

 

 

V.S.B.R.(ヴェスバー)である ─

 

 

 

 

 

 だぁぁぁぁぁっクソッ!忙しすぎだろっ!JKっ!っていうか何、お前ら??ワラワラ、未成年の女の子相手に寄ってたかって集まりやがって??出会い中なのか?出会い欲しさに未成年までにも手を出しに来たタイプなのか???チクショーッ!!(ビームを放つ音)お巡りさーーんっ!!(ビームを連射する音)誰かーーっ、漢の人っ、漢の人呼んでーーっ!!!(ビームをとても連射する音)スタァッフゥーーーッ!!!!ヌ゙ッ!?あ゙ーーーっ!?!?あの野郎ォォォォッ!!子供をはねやがった!!!はいっソコッ!車を止めて道路の端に寄りなさいっ!!ピピー!!(ビームを4連射する音)クソッ!あれはマジィな!!

 

 

 

 「報告、敵戦力の94%の排除を完了した。

  よって、此より降下し白兵戦で残敵の掃討戦に入る。

  申請を受理されたし」

 

 『──ザザッザッ──ちらHQ、申請を受理─ザッザッザ──』

 

 「……作戦(ミッション)の第三フェーズに移行と当機は判断。

  デュナメス、白兵戦闘へ移行する」

 

 

 あークソっ!まぁ、そうなるよなぁ!あんだけGN粒子をばら蒔いたんだ、現代科学の通信機器にゃあ致命的だよなぁ。一応対策方法も単純な奴を用意していてもらってもコレかよ!クソがっ!文句は後で聞くから今は見逃せよっ!!

 

 そう内心で言い訳をしながら最大戦速で一直線に降下する。深緑の隕石は程なくして地上に降り立った。───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「離して、スミレッ!スミレがっ!!」

 

 「落ちっ、着いてっ!今、出て行ったら二の舞に為るって!?」

 

 今回の作戦領域中央のオフィス街の一角にて、二人のサードリコリスが物陰で揉み合いになっていた。一応は声量を抑える位の工夫はしていたが、明らかに目立っており時折、盾にしている壁からすらはみ出したりしている。事の発端は本部の指示通りに行動中の時だ。尾行中、突如、ターゲットの男が此方に気付きソコから交戦し始めたのだが、何処からともなく謎の光が降り注ぎ、ターゲットの男を始め、隠れて居たであろう敵戦力が次々無力化されていくという意味不明の出来事が起きた。どういう訳か通信も利き辛く為っており、状況把握の為にも隠れながら今作戦のバディと共に他のチームを探していると、倒れ付したルームメイトを見つけ、慌てて駆け寄ろうとした所を仲間に羽交い締めにされた、という顛末だ。

 ただでさえ何が起きてるかも分からないのに、不用意に飛び出せばあの“マゼンタ色”の光に当たる可能性だってある。そうこうして揉み合いに為っていると後ろから、自分達と同様の理由で行動していたであろう三人のリコリス達が近づいてくる。

 

 「何してるの!?作戦中だよ!?」

 

 どうやら遠目から見ても相当に目立ってた様であり、そう言いながら、自身も宥めるのに加わろうとしているのは蛇ノ目 エリカだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からこそ、今の彼女の無謀を止めなければと危険を承知で彼女達に合流したのだ。

 

 「悪い事は言わない、今は堪える時だよ」

 

 エリカの援護に篝 ヒバナも入る。ただでさえ今回の作戦はよく判らない事ばかりなのだ、冷静さを失えば助かるものも助からない事にだってなる。幸い自分達のチームはかなりノイズが入るが通信可能だ。そして、件のリコリスはというと、理由は判らないが遠目で確認したところ重傷だが致命傷という様子は無く、周りの敵戦力は見える範囲で無力化されており、今すぐに命の危険は無い様に見える。そういった説得材料を付け足してやり込める。

 そうこうして多少落ち着いた所でソレを黙って観ていたであろう、ヒバナ達に道中で拾われたサードリコリスに、いつの間にか視線が集まる。そのリコリスは何故か頻りに首を捻って考え込んでおり、何かを思い出そうとしているのか、アレでも無いコレでも無いとブツブツと呟いていた。

 

 「……?…どうしたの?」

 

 「はぇ?っあ、いえ、何か既視感があるなーって思ってまして」

 

 その様子にエリカが声を掛け、ヒバナが指令部に指示を仰ごうとしたその時、事態が動いた。足を引き摺りながら銃を持って移動する男が、道路の中心に倒れるリコリスに近付く。移動はゆっくりだが射線が悪く、丁度 件のリコリス重なるように移動しており、極めて射撃による迎撃が難しい状況だった。此処からじゃ遠く、このままでは間違いなく殺られる。それに気付き、慌てて自分達も動こうとしたその時──それは起きた。

 

 

 突如、男の体が独りでに宙に浮く。男は遠目からでも分かるほど地面から足が離れており、その光景は明らかに重力を無視した姿だ。何かに引っ張られるように、吊るされるように宙に浮いた男の体が闇夜中で鮮明に浮かび上がり、誰もが息を止めその光景から目を離せないでいた。リコリス達は自分の肌が粟立つのを感じ思わず身震いする。やがて男は、その場で水平軸の半円を描きながら高速で移動し────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボール()相手(お店)ゴール(店内)にシュゥゥゥーッ!!

 

 

超!エキサイティン!!

 

 

 

 

……………はて?そんな幻聴が聞こえたような?兎に角、その時、不思議な事が起こった。その動きは完全に物理法則を無視した超常現象そのままであり、一種の不気味さすら感じる体験だ。

 

 

 「………な……に、アレ??」

 

 「……ポ、ポルターガイス、ト???」

 

 

 そんな未知の現象に凍り付いたリコリス達の中で唯一()()を得た者がいた。さっきまで唸っていた彼女は現場まで走り出す。突然の仲間の暴挙に慌てて手を伸ばすが、止める間もなく彼女はすぐに怪奇現象が起きた場所にたどり着いてしまった。するとキョロキョロ辺りを見回しながら誰かを呼ぶ。

 

 「えっと、…ファーストの装備さん?ですよね?お、お久し振りです?」

 

 自信の無さげに呼んだ名前は、どう聞いても人の名前に聞こえなかった。……そもそも彼女は一体何を言っているのだろうか。それとも極度の緊張とストレスで何かの幻覚でも見てしまったのだろうか?混沌とした空気が一週回った頃。ナニカが正体を現した。

 

 「──同意、貴官の健勝な姿に、心より喜び申し上げる」

 

 倒れたリコリスの隣から、独特の空電音と共に空間の色が溶けるように人型のロボットが現れる。

 

 「………へ??」

 

 「…………??!?」

 

 「…………?映画撮影???

 

 「………?……??ん??」

 

  コズミックホラー体験をしたと思えば、続いて受けたのはSF体験だった。リコリスはどんな時でも、動揺や恐怖で動けない何て事が無いように、日頃から訓練を受けているのだが流石にこれは訓練の範疇外。思考がバグり、そのやり取りを眺めるままになる。

 

 「……えっと、今回の作戦に参加されてたんですね」

 

 「肯定、当機の主な任務は、貴官らの援護と支援、及び救助であり、現在、緊急時と判断して降下した次第である」

 

 そんなやり取りの中に、気になる言葉が混じった事でヒバナ達は正気に戻る。そう言えば事態が悪化した場合、『特殊機密兵器』を投入する事を事前に伝えられていた事を思い出した。何でも、()()()()()()()の為、全てを伝えられないが今回の大掛かりな任務で、もしもの場合を懸念してバックアップとして用意された物だと。そこまでに思い至り、おずおずと皆で近付きながら確認することにした。

 

 「…あ~~っ、えーっと、機密兵器の『デュナメス』?さん?で、いいのかな?」

 

 「肯定。当機が、今回、貴官らの言うバックアップである」

 

 声を掛けると、首をぐりんと此方に向けながら、確かな返答が返ってきた。その後の言葉に『翡翠』と呼んでも構わないと付け足される。高性能なAIが搭載されている為、現地でも口頭での命令が可能とも言われたが、発する声や言葉は確かに機械っぽいが、受け答えの中身は極めて柔軟で、見た目と相まって現実感を非常に薄く感じさせた。

 何処からやって来たのか?降りてきたとは何か?そもそもさっきの現象は何か?という疑問が非常に尽きないが今は置いておいて、其よりもと倒れたリコリスの応急措置に入ろうとエリカが近付いた時、異形の手がエリカに伸びる。驚きや恐怖も感じる前に、二の腕を掴まれ、抗うことすら出来ない力で引き寄せられる。突如の蛮行、その場に居た者全てが唯一出来たのは、その出来事を視界の端で捉えることだけだった。

 

 

 「──GNフィールド、展開」

 

 

 翡翠を中心に若葉色の光がリコリス達を包み込む。条件反射で目を覆うくらいしか選択肢がなく、気が付けば光に染め上げられた世界の中に全員が閉じ込めらていた。思考ごと停止したリコリス達は、目の前にある自分達ごと包み込んだ高濃度に圧縮された球形状の粒子幕を呆けた顔で眺めていると、その中であるリコリスだけが、何が起きたのか遅まきながら理解出来た範疇で、単文的な言葉を発する。

 

 「……散……弾?……」

 

 その言葉を発したリコリスの視線を、何の事かと考える前に目で追えば、萌黄色の光の膜の向こう側で、小さな金属の粒が留まっている。更に視線を動かしその膜の向こう側にまで目を向ければ、這いつくばりながら片手で散弾銃を構えた男が、口を開けてあり得ないと言いたげな顔で此方を観ていた。

 

 「──おっ……おおおおぉぉぉおぉぉおっ!??!?」

 

 男は次第に顔を険しげに変えながら、銃を乱射する。どうやらフルオートのショットガンのようで景気よく全弾全てをすぐに撃ち尽くす。その度に光の膜に小さな金属の粒が増えていった。其所で漸くリコリス達は朧気ながら理解できた、“攻撃を受けていた”事を。男の採った選択は、敵として見た場合非常に正しい。意図してではないだろうが、散弾と言う面攻撃は、リコリスと言う人間相手には非常に有効だ。なにせリコリス達の制服は防弾防刃繊維で出来ているが、それでも制服状の衣服だ、肌身の部分は非常に多い。そして動けない仲間に全員が集まった所で射撃。まず『イレギュラー』が居なければ、死人が出たであろう最適解だが、無情にも男のつかみ採った選択は、理不尽の権化が押し潰す。翡翠は相手が撃ち尽くしたのを確認するとすぐにGNフィールドを解除、早打ちの要領でGNビームピストルを両肩、銃に撃ち込み無力化させる。

 

 「………………ナニソレ???」

 

 その言葉は奇しくも男も含めた全員の感想だったろう。男に撃たれたと思えば、よく解らない光の膜に銃弾が止められたという現象は、映画やアニメの中だけの光景だ。GNフィールドの解除と共に銃弾がポロポロと落ちていく所も混乱に拍車をかける。

 

 「確認、創傷の有無」

 

 「……あっいえ、無いです……」

 

 翡翠の状況確認に、唯一反応できたのは一人だけで、どうやら既に彼女の中の常識は遥か彼方へと飛び立った後らしい。そんな有り得ないものを見せられたリコリス達を放って置きながら、事態の確認とこれからの行動方針を、翡翠はエリカから手を離し、決めていく。

 

 「……(……ちっ、あの轢逃げ犯には逃げられたな。まぁ、人命優先したしな、シャーねぇーか。後はこの子達だが、……多分ヤっちまったな)」

 

 「報告、当機の現行動によって、貴官らの電子機器が損傷した可能性が発生。よって、負傷者の救助に、甚大な弊害が出る確率が上昇した為、当機はこれより残敵の処理をしつつ、当機の方で救助要請を行う。ついては、貴官らには可能な限り、安全地帯への移動を願う」

 

 言いたい事を一息に言うや否や、バックステップをするように宙に浮くと、再び独特の空電音と共にその姿が消えていく。僅か5分にも満たない犯行。空に溶けて消えていった翡翠をエリカ達は呆然と見上げていた。超常現象のようなナニカを怒濤の勢いで浴びせられたリコリス達が、再起動と何の事を言っていたのか理解するのには、少々時間が掛かった事をここに追記しておく。

 

 

 

 

 

 「……ファーストの装備って凄い……」

 

 

 

 ※この時、既に私用のケータイも全て壊れた模様。

 

 





 ビームの射程距離や撃ち別けに対するご都合設定。
こんな感じに、非常に都合の良い設定とか後々にも生えてきます。

これからの投稿は最低でも週間各になると思います。

※ 描写不足とOOの設定の読み込み不足で申し訳ありませんでした!
一応このSSでの設定と描写では、高濃度に圧縮した粒子フィールドに潜らせるように触れた為 + 一応プロ仕様の物だろうとは言え、現代科学機器ですしOO世界よりもずっとGN粒子に対しての抵抗力が低いだろうからそれらが積み重なった結果損傷、と言う考えで書いてました。
 それでも納得できなかった場合は、そういうものだと見逃していただければ幸いです。
 今後は、もうちょっと読み込んでから書かせていただきます。
お騒がせして申し訳ありませんでした。


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大人に反省を促すダンス 後編




いつもブクマ、評価、誤字・脱字報告、感想ありがとうございます!

今、書いている文の切りが悪くなりそうなので、短めですが予定より早めに投稿します。次はホントに時間が掛かると思うのでお待ち頂けたら幸いです。
※恐らく、一週以上は掛かると思います。





 

 

 

 

 

 「うわぁ……………もう、何でもありっスね」

 

 「………」

 

 所変わって、作戦領域が一望出来る一際高いビルの屋上に、フキとサクラの二人は双眼鏡片手に現場を観ていた。今回、各々の階級のリコリス達に伝えられた大まかな任務はこうだ。“サード達は作戦領域内に現れたテログループの捕縛、セカンドはそのバックアップ、もしくは事態が悪化した際に抹殺”、という内容だ。今作戦では翡翠が出て来る以上、大なり小なり現場での通信状況の悪化は避けては通れない為、各所に偽装した通信中継車が設置されており、それによって回線強度の確保と言う対策が取られている。そして、フキ達はそんな彼女達への緊急時に指示を、ということになっている。

 

 「……で、先輩。実際、どうにか出来ると思います?」

 

 「……それ答える意味あるのか?」

 

 「ですよねーー………」

 

 彼女達の表向きの任務は現場の推移の連絡と緊急時への対処だが、もう1つ指令部から秘密裏に伝えられた任務がある。『ガンダムデュナメスが暴走したと判断出来た時、速やかな破壊』だ。無論、これは出した側も出来るとは思っておらず、余り期待はされてないが任務の裏を読めば『翡翠の様子を逐次伝えろ、後、弱点みたいなのも探せ』である。こんなたった二人に無茶振りの任務が押し付けられたのは、唯一彼女達は、最初に翡翠に接触した数少ない上級リコリス達で、ある程度翡翠の裏事情を知っている為だった。翡翠のDAでの表向きの経緯は『海外機関との提携により、新機軸に開発された兵器のプロトタイプ』ということに成っており、現在DAではその実地試験として卸された、というカバーストーリーだ。本来ならフキだけに伝えたい所だが、サクラも偶発的に知ってしまった為の謂わば貧乏くじでもある。

 

 「しかし、本っ当意味分かんない機体っスよね。

  アレの戦闘観てると映画か何かを観賞してる気分っス」

 

 「だからこそ、上も必死なんだろ………」

 

 そう答えながら、フキは奴が居るであろう場所に鋭い視線を向けながら思い耽る。SFの中にしかなかった技術をこれでもか!と搭載した兵器に危機感を覚えるのは解るし、何の対策もしない なんてもっとあり得ないのも判る。だが、それを理由に自分達を捨て駒に使った作戦を立てられて不満に思わない訳が無い。フキはこう見えて仲間思いで優しいのだ。今回の作戦は甚だ遺憾だ。明らかな人員不足と作戦の詳細詰めの甘さが見えるのにも関わらず、作戦は断行。そして、仲間が危険に立たされているのに自身は指を咥えて観ているだけ。待機と監視が任務で、指令部の指示に従うのが組織人として正しい判断なのは判っていても本心では納得が出来ない。

 ……だからこそ思ってしまうこともある。自身がもっともっと強ければ、我を押し通せるほどの力があれば、()()()()のように出来るかもしれないのに(自由に振る舞うことが出来るのに)………────

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───確認、今回の作戦(ミッション)の現場指揮権を持つリコリスと見受けられる。間違いないか?」

 

 「うぉおぉおぅっ!!?!?!」

 「ぃいぃぃっ!!?!??」

 

 思考が現場に於いて相応しくない方向に行こうとした所で、突然の誰何に振り向くと同時に身構える。其所には監視対象が居た。先程まで相当に離れた距離で確認していたはずなのに、いつの間にか後ろを取られたと言う不覚と恐怖を二人は味わった。“そう言や、飛べる上に消える事も出来んもんな、コイツ。マジで理不尽。”と二人の認識がこの時、極めて高いレベルで一致していた。

 

 「ビッ、ビビった、……マジで心臓飛び出るかと思ったっス………」

 

 「………謝罪」

 

 「…………」

 

 自分と同じ心境を語ってくれたサクラに代わって、フキは屋上にダイレクトに乗り込んで来た下手人にガンを飛ばしていた。それはもう不良程度なら一人二人位、殺傷出来そうな感じで。

 

 「………そうだとしたらなんかあんのか?…」

 

 フキはコイツがキライだ。機械相手に何を言ってるのか?とも思えるが、兎に角キライだった。突如現れて好き勝手に振る舞う癖に、現場を一方的に推移させる姿は、()()()と非常に被る。そもそもコイツが現れなければ、こんな無茶な作戦が立てられる事も無かった、と、らしくないタラレバの考えが渦巻く。機械相手にムキになる自分を、客観的に観て呆れる自分が“バカなことを”と嗜めるがついつい表に出てしまう。

 

 「報告、要救助者が発生した為、貴官らに応援要請、又は周辺リコリスへの指示を要望」

 

 「……はん、未来のハイスペックマシンが聞いて呆れんな?結局、撃ち漏らしかよ……やっぱ、最初っから頭狙えよな」

 

 そうだ、コイツはアイツ(千束)と同じで相手を殺さない様に配慮していた。そんな余計な事をしなけりゃ怪我人なんか出なかったのに。いや違う、そんなもんは結果論だ。実際にこれだけ広い作戦領域で誰一人死傷者を出さなかったし、誤射もしなかった。そもそもこの作戦は、仲間が襲われてから動き始める内容だ、それを重傷者一人で済ませたのは間違いなくコイツの異常な戦闘能力のお陰だ。

 そんな冷静な自分が、頭の隅で諭そうとするが、それよりも先に感情が漏れる。まだ作戦中なのにこんなに感情的に成っているのは、既に終わった様なものだからか、それとも出来る癖にやらないことに対する嫉妬か、……どちらにしても無駄な事を、と、言う冷めた自分が頭の隅でまた溢す。

 

 

 「…謝罪、これは当機の失策である」

 

 「………ちっ、他になんか言えよ………」

 

 責めても無駄だと分かっている癖に、また口に出る。コイツを責めた所で、上が決めた作戦である以上、コイツが居ようが居まいが関係無い。分かっているのに悪態が止められない。表面上の読み取れる情報こそ鉄の様に冷たい癖に、機械らしくない感情の見え隠れする言葉の内容が、余計に自分の感情を波立てる。

 

 「…………何で殺らなかった………」

 

 「当機の判断である。必要以上の殺傷はしないと、当機が選択し、その結果が今回の重傷者の発生に繋がったものである」

 

 そんな事を言っているが、実際は違うだろう。基本的に、殺すより生け捕りの方が難しいのは常識だ。それを上層部が何処まで出来るか見たいから、可能な限り殺すなって命令されてたのをフキは知っている。その癖にネチネチと責める自分にいい加減、嫌気の方が勝って来た。

 

 「……はぁぁぁ……もういい…救助指示はこっちで出しとく、とっとと行けよ……」

 

 「了解(ラジャー)、及び、感謝」

 

 ガシガシと頭を掻きながら、コイツが求めていた言葉を出すと、私達に礼を言って再び夜の空へと溶けていく。ほどなくして残敵の確認が完了したと連絡が有り、この作戦は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……う、うーん、ダッ、ダサすぎる。怪我人出した上に、子供にまで論破された。本部に戻った時も指令官に『生意気な事を言った割には、結局は出たようだな?次も余り期待できんか?』とか煽られた……。

 

 ヤメロー!オデノココロハボドボドダー! ウゾダドンドコドーン! 

 

 ………うん、いや、違うんスよ、千束ちゃんとの約束も有るし、デュナメススペックなら行けるっしょ、とか調子に乗ったのが過ちと言えばそうなんスけど……実際には結構な広範囲を自分一人でもカバー出来てたし……それなりの大成果(ムサイ変質者集団の捕縛)も出来てたし………ハイ、調子にのり過ぎましたね……。

 

 チクショーーッ!!ケガした子には申し訳なさすぎる!しかも、今の俺だと、見舞いに行けても見舞品はGN粒子(緑)位しか渡せる物がねぇ!!ダサさの上塗り過ぎて思わず消えてしまいたい(外部迷彩皮膜起動)!!!

 

 あぁ、後、凄く今更な話なんだが、薄々感じてたけど多分、俺、精神面でもナニカサレタヨウダ。落ち着いて考えりゃ、今まで散々人に対してガンダムパンチだのガンダムキックだのガンダムビームだのを出来てたしな、そりゃそうか。……そもそもの話、体が人外に成ったのにそれを然程違和感なく受け入れれてる時点であり得ねぇしな……。まぁ、どのみちデュナメスボディである以上、荒事からは逃げれねぇだろうから良かったと思っとくか(思考放棄)。

 

 

 そんな下らない言い訳をつらつらと考えていると、フキとサクラがやって来る。今、翡翠はDA本部に居ており、これから喫茶リコリコに返される予定でその送迎員が彼女達だ。しかし、此処に来る時も彼女達に付き添われていたのだが、だからこそ何となく様子が可笑しい事に気が付く。サクラは何だかニヨニヨしており、フキはしかめっ面をしながら此方に向かって来ていた。

 

 「いやぁ、どうもおはようさんっス!」

 

 「おはようございます。貴官らの壮健な姿に、心より喜びを申し上げる」

 

 「………」

 

 ん?どうしたんだろ?なんかスッゲー不機嫌そうな顔してんね、フキちゃん。心なしか顔赤いし。あら?もしかして体調悪い?

 

 「質問、ファーストリコリス、春川 フキに体調変化が見受けられる。もし優れないのであれば、速やかに医務室へ搬送することを推奨」

 

 「ああ、コレ気にしな「おい、くだんねぇ事言ってないでさっさと行くぞ」

 

 あからさまに話を遮って打ち切ろうとするフキ。余計な事言うな!と言わんばかりにサクラを睨み牽制する様子は、知らない者から見ると無理を押し通そうとしているようにも見える。逆によく知っている者が見れば、照れ隠しをしているのがバレバレで、特に先日の事を知っている者になら、より分かりやすかった。見兼ねたサクラは、可能限りに小声でフキにアドバイスを送る。

 

 「いや、大丈夫じゃないッスか?コレ。多分気にしてないッスよ。そもそもロボットですし」

 「やかましい、良いから行くぞ!」

 

 彼女が気にしていたのは先日の作戦時の自分の悪態だった。あのみっともない現場での態度と物言いは、フキからすれば駄々をこねる子供そのもので、今すぐにでも消せるなら消してしまいたい過去の恥部。例え相手がロボットだったとしても、本人が黒と言えば黒になる、感情とはそういうものだ。

 

 

 「肯定、セカンドリコリス 乙女 サクラの推測通り、当機は先日の件を問題にしていない。あれは間違いなく、当機の失策である」

 

 

 「「………は?/へ?」」

 

 ……どうやら彼女達の密談は聞こえていたようだ。人間よりも遥かに優れた五感(センサー)を持つ翡翠には、小声程度では意味を成さなかったらしい。硬直する空気。聞こえていた だけではなく、正確に物事の意図を読み取られ、フォローまで入れられたフキは、顔をゆでダコの様にして完全に固まったままだ。そんな先輩に、サクラは「ド、ドンマイ!」とトドメを刺す。

 

 この時、サクラのこの後の予定が決まった!

 

 

 

 「………コイツ届け終わった後、トレーニングルームに行こうぜ。久々に格闘戦の稽古を付けてやるよ(満面の笑み)」

 

 「い、いやぁ、先輩はこの後も忙しいだろうし、無理しなくても大丈夫ッスよ?……」

 

 「報告、当機は問だ──「うるせぇーーーーっ!!!」

 

 直後、フキの襲脚が無抵抗の翡翠を襲うが逆に足を痛める結果になり、出発に遅れが出たが無事に喫茶リコリコに届けられた。

 そしてサクラはその後は恙無く転がされた模様。

 

 喫茶リコリコは平和だったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 






実際に表面上の犬猿はこんな感じに嫉妬も含まれてんじゃないかな?と言う妄想。勿論それ以外もある複雑なお年頃では?と言う勝手な考察でした。


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???「凄い、何ができるんだろう!」???「 私にもわからん」



Q:投稿者のAIとかの知識の予習って何処から来てるの?

A:マンガや、アニメから来ているんDA☆(本物の知識はゼロ)

と、言うことでニワカ知識でお送りいたします。




 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、まだ時間かかんの?」

 

 「今、やってる、最中、だ。もう少し待て」

 

 

 ミズキの問いに、忙しそうに返すクルミ。今日は喫茶リコリコの定休日。その日に合わせてリコリコメンバー全員が、喫茶店の大広間に集まっていた。今、店の出入口は勿論、窓も全て封鎖しており、事情を知る者以外入れないようにしている。そして広間の端には様々なコードや機材に繋がれた翡翠が四つん這いになる様に居た。この日に全員が集まった理由はクルミが纏めた翡翠の調査結果を聴くためだ。クルミはあくまでハッカーで兵器等は専門外だが、それでもその分野での技能は、他を隔絶したモノを持っており、それを期待してミカ達から大部分を任されていた。

 しかし、そんなクルミでも、今の今まで時間が掛かったのは、翡翠のプロテクトが異常なまでに強固過ぎたからだ。

 本人が協力的だったのにも関わらず、搭載されたセキュリティシステムはありとあらゆるアプローチを拒絶し続けており、少しでもデータの閲覧を匂わせると即座に閉め出され、類似手段も含め2度とその解析方法が使えなくなるなど当たり前。今までのプランとは全く違う方法なのに、此方の侵入方法を予め知っていたかのように完璧な対策が用意されていたり、場合によっては逆に攻性防壁で此方の機材を破壊される等、兎に角固過ぎたのだ。

 

 

 「ここまで強固なセキュリティは初めてだ。時間は掛かるだろうと思っていたが、これは想像以上にタイトな案件だったぞ」

 

 「だからこそ、DAでもコイツの解析が遅々として進まなかったからな」

 

 

  クルミの漏らした愚痴に、ミカも同意を示しながら様子を伺う。そしてこれ迄時間が掛かったのは何もプロテクトの鉄壁さだけではない。そのデータ量やプログラムの複雑さも尋常ではなかったからだ。一応本人が許可出来る範囲のデータ群も見せてもらったが、確認出来た範囲でも軽く数百ペタバイトにまで上り、僅かに吸い出せた屑データですら、所持していた機材では簡単にパンクさせられたりもしたほど。プログラムの複雑さも異常で、どれだけの階層が在るかも分からないほどのプログラム群は、深海を彷彿させる。

 

 

 「………よし、こんなものだろう」

 

 「おっ?待ってましたーーっ!!」

 

 

 お待ちかねのメインイベントに千束が拍手と共に歓声を上げ、この日のために用意された大型モニターに次々とガンダムデュナメスの情報らしき物が多数投影された。尤も、そのどれもこれもが専門的過ぎて文字通り大半が見ているだけになるが。

 

 

 「おぉう……それじゃクルミ教授!お願いします!!」

 

 「………まず、最初に言っておくが僕も殆んど分からなかったし、分かった部分も主観的な推測が多分に入るぞ。……で、第一の感想だが………コイツを造ったのがエイリアンだと言われても僕は驚かない、と思ったな」

 

 「そんなに、か?……」

 

 「そんなに、だ」

 

 

 一目で理解不能と判断した千束がクルミに丸投げし、クルミの解説前の前ぶりの話に、ミカが静かに驚愕しながら聞く。クルミのハッカーとしての技量は文句無しの超一流だ。電脳上での持ちうるそのスキルは、極めて多岐に渡る上にその一つ一つの知識量も凄まじい。その腕前はDAという国家規模の権力と財力で集め、育てたエリート達よりも先を行くものであり、その彼女から出た感想が、たった一言でどれだけ異常なのかを集約する。

 

 

 「……具体的に言うと、どう言う感じなんですか?」

 

 「ん~~~、そうだなぁ……。コンパイラやインタープリターも可笑しかったが、まず計算方法やソースコード、と言うかプログラミング言語自体が独自規格と言うだけじゃなく────」

 

 「ちょーい ちょい ちょい ちょい、クルミさんやクルミさん、もうちょい分かりやすく」

 

 

 解説を求めた たきなに要望通りに話そうとしたが、再び話が宇宙まで飛んで行きそうな雰囲気を察した千束が、素人である自分達にも分かるように解説を願う。曰く、要約すると『翡翠に打ち込まれているプログラムの根本的な部分そのものが、既存の理論からかけ離れている。』との事だ。

 

 

 「──元来、コンピューターというものは、0と1という数字の計算を複雑に幾つも絡めていって出来上がったものだ。……恐らくコイツは、その大前提自体に何かしらの独自理論を組まれているかもしれないが───」

 

 

 そう、解説されるが本人以外結局着いてこれていない様子で、全員の顔が個性豊かに疑問符を浮かべていた。ミズキはコイツ(クルミ)宇宙人だったか?という顔をし、たきなは必死に理解しようとモニターの文書とクルミが言った事を反芻しながら整った顔を歪ませている。ミカは眉間にシワを作りながらモニターを睨んでいるが、背景に宇宙猫の気配が躙り寄っており、千束に至っては、キリリとした表情で理解したフリをしながら、どこからか持って来たお菓子を摘まんで考えるのを止めていた。

 

 

 「………あーー、つまり、どう言うことなんだ?」

 

 「…これ以上調べるには正直な話……人員も機材の規模も足りないと言うことだ」

 

 

 宇宙猫から逃れるため、分からない事は専門家に聞くという正しい選択をしたミカに、非常に悔しそうな顔をしながら苦渋の見解を述べるクルミ。プログラム等に関しては、それなりの自負が有ったであろう心情が表情に出ており、『クルミにしては何とも珍しい顔を見たな』と言う翡翠の事とは全く無関係の事を知ることが出来た。実際、機材や施設はともかく、クルミがこういった事に自分以外の人手がいると吐露する事はまず無かったし、それだけクルミの技能が突出したものだからでもある。

 結局は空振りか、そんな空気が出て来た頃、ミカはふとクルミを見ると先程とはまるで表情が違うのに気付く。目を細めながら、遠い 遠い 何処かに想いを馳せるように翡翠を見ており、するとクルミはポツリと呟いた。

 

 

 「……………不思議だ。………本当に…不思議だ」

 

 

 お開きムードに変わり始めていた所で、クルミの気になる言動が出て来た。その言葉の次を、皆が黙って待ち構えていると、まだ話が終わっていないことを知らされる。

 

 

 「……多分だけどな…コイツが造られた本当の目的は“戦闘”じゃないんだ」

 

 「どういう事ですか……!?」

 「はぁ!?でもコイツ、これでもかっ!てくらい、武装してんじゃない!?」

 

 

 静かにだが、語気を強めながら疑問の声が上がった。しかし、それは否定という意味ではなく、どういう意味かを聞くための疑問だ。そしてその疑問はミカや千束も同じ考えを抱くモノで、それに答えるためにクルミはまず()()()に質問する。『千束がマスターで間違いないんだな?』と、一人と一機はすぐに肯定の意を返すと、クルミは少し考え込んだ後、口を開く。

 

 

 「……コイツにはな、意図的に歪められたロボット三原則が組み込まれてるんだ」

 

 「…ロボット三原則………って何だっけ?」

 

 「元は昔の小説家が書いたモノですが、現代のロボットプログラムの根幹にも通ずるルールの話ですよ」

 

 

 肝心の本人(千束)が苦笑い気味に話の腰を折ったのを、たきなが素早くフォロー(解説)を入れる。要約すれば『人間への安全性、命令への服従、自己防衛』をロボットに遵守させるモノ。この話は有名で、たきなの言う通りに今のロボット工学にも組み込まれている部分もある程のルールの話。そしてクルミの続く解説では、“翡翠は初めからマスターをほぼ必要としない、もしくは無視して動く事が出来る”というものだ。

 

 

 「翡翠のマスター権限は、武装の使用許可等も含まれているんだろ?だけどコイツは、結構勝手に使ってなかったか?」

 

 「あっ」

 

 

 千束はそう言われて思い出す。普段は意味もなく銃を抜くことも無いし、人に危害を加えることも無いため気にも留めなかったが、落ち着いて考えれば明確に許可を出した記憶も一切無いことに気付く。それは確かに兵器として見た場合、これ以上無いほどの欠陥。謂わば翡翠は、人間(マスター)の命令を受け付けず、自分で敵を設定して攻撃を行うことが出来ると言う事で、もし兵器として例えるなら制御装置の付いていない核爆弾のような物だ。その後に続く解説では、翡翠はその気になれば単純に命令不服従を行うだけではなく、マスター登録者はおろか開発者に対してまで正面から謀叛を行うことも出来る様にプログラムに穴が空いているらしいとの事。

 

 

 「戦闘時だけじゃない、何だ彼んだと理由を付けて、武装を使ったり勝手に動き回ったりしてたろ?……翡翠はな、色んな出来事に無理矢理 理由をくっ付けて、自分の考えで行動を起こせるんだ……」

 

 「宣誓、確かに当機はある程度の自由行動が可能だが、貴官らに害意は無い」

 (アバーーッ!?確かに出来ると思うけど襲う気は無いからね!!?)

 

 「ふっ、それは分かっているさ。もしその気なら、とっくの昔に僕は殺されているだろうからな」

 

 

 やや自笑気味に笑いながら、翡翠の何処か慌てた様子のある意思表示に返答する。良くある“機体の秘密を暴いた者に死を!”と言うことなら、まず真っ先に狙われるのはクルミ自身。次第に全員の顔に真剣さが増し始め、気になる疑問をクルミにぶつけていく。

 

 

 「……偶々ミスをした、という可能性は?」

 

 「それは絶対にあり得ない」

 

 

 ミカの疑問に力強く即座に否定すると、手元のタブレットを操作して、モニターに とある映像を映していく。それは解析出来たデータの一部らしく、それらのデータの結節点を繋ぎ合わせて行き、一定の法則で3Dグラフ化すると、一つの何かを表すような図になった。それと比較する為に、別の所からある画像を持って来て並べて見ると、それとグラフは非常に酷似していた。

 

 

 「これはな、人間の脳のシナプス信号等を簡略化した図だ。……翡翠と言うAIは……恐らく人の思考に限りなく近い再現に成功したAIだ。だからこそ、僕たちには理解出来ないプログラムや、意味の分からないデータにしか見えないんだと思う。何せ人類は、未だに自分達の脳の構造すら解明できていないからな」 

 

 

 クルミの見た見解では、翡翠のプログラムを分かる範囲でこうした3Dグラフにしてみた場合、他の部分も非常に似たモノが散見されているらしく、プログラムファイルの複雑さもそれを再現する為ではないか?との事。

 

 

 「その昔、人間の脳の容量は40TBと言われていたが、今じゃ最低でも150TBはあるとも言われてるらしいからな?その手の論文は未だに二転三転しているよ」

 

 

 と呆れたように笑いながら続ける。そしてそれはあくまで容量(ストレージ)の話で、実際に動かすには、作業領域(メモリ)(RAM ) や、計算速度(プロセッサ)(CPU)の計算に成るらしく。必要なメモリだけの計算でも、マウスの脳を使った実験例では、1立方ミリメートル分の脳のデータセットは約2PB分だと言われていれている。当然人間の脳はそれ以上に複雑で巨大である以上、そんな数字に収まる筈はなく、プロセッサも含めた計算になれば、もはや想像が付かない。翡翠より遥かに巨大で面積を喰う現代の最新鋭スパコンでも、人間の脳の活動を処理するのに約、一秒(人間の脳)40分(スパコン)の時間が掛かる計算に成る、と言えばより分かりやすいかもしれないな、とのこと。

 

 

 「コイツほど優れたAIも、それを宿せるマシンも、僕は今まで見たことも聞いたこともない。プログラムの組み方に至っては芸術に詳しくない僕でも、神懸かったレベルの芸術品だと言えるほどだ。……コイツを作った奴が、そんなミスに気付かない筈がない」

 

 「……………凄い………」

 

 

 その惜しみ無い称賛の裏には若干の畏怖も滲んでおり、誰もが言葉を失って画面を見ていた。それは、今まで前人未到だった、文字通り人間と同じ様に思考し、感情を覚え、自発的に行動出来るAIの開発に成功したと言う証明になるかも知れないモノ。人工電子知性体とも呼べるモノだ。

 高性能だと言うのは分かっていたつもりだったが、それはあくまでハードウェアの話だけであり、ソフトウェアに関しては、今まで漠然としか思ってなかった。それがこうして人体の神秘に例えられた事で、他のメンバーもその深淵が垣間見えた気がした。

 

 

 「っていうか、それなりに解ったことあんじゃない!」

 

 「こんなもの、解ったうちに入らないよ。何せ、恐らくだが全体の1%にも満たないだろうからな」

 

 

 というかさっきも言っていたろ?と、本人的には説明していたらしいが、翡翠の高等過ぎる技術は漸く自分達に伝わったようだ。他にも色々な疑問と憶測をぶつけていくが、そのどれもこれもがクルミの見解に論破されていく。

 

 曰く、知育学習目的やデータ収集で此処に送られたのでは?なら『こんな限られた人員しか居ない場所に留まらせる筈がないし、そもそもコイツは既に、一般人基準の善悪や社会性を理解している、謂わば人の大人と同じ成熟した理性がある。ある意味での不完全さを内包した既に完成されたAIで、知育は意味がないし、その目的ならネットワークに繋げればそれで済む。』と、言われ。

 

 曰く、高性能なハードウェアに合わせて、このソフトウェアを用意した結果では?という疑問なら、『確かにそれなりのモノが必要だが、だとしたら人間と言う不完全なモノを再現したAIなんて、兵器としてのボディには相性が悪すぎる。しかも、明らかに穴の空いたプログラムなんて余りにも危険だ。もしコイツがその気になったら、相手が産みの親だろうと全力で妨害、または阻止を、殺害と言う手段も含めて出来る抜け道なんて用意するか?』と、言われ。

 

 曰く、元々ボディと頭脳は別々の製品だったのでは?と言う憶測なら『コイツは武装だけじゃなくボディも含めた全てが特殊だろ?これらがエラーを起こさず動くには、専用のFCSを搭載するだけじゃダメだ。人格部分と機体全体のコントロール、武装関連のシステム全てが、最低でも完璧と言えるくらいに融合していなければ、確実にエラーまみれになって起動どころの話じゃ無くなる。』と、言われた。

 

 

 「ただ、コイツの自由は外部での行動だけで、内部データ等を外部に出力したりするのは徹底的に封鎖されているからな。コイツがポロポロと機密情報らしきモノを漏らすのはそのセキュリティとコイツの人格プログラムが競合した結果のバグみたいなモノだろう」

 

 

 まぁ、そのバグでの情報漏洩もセキュリティが余り反応しないということは、開発者にとってソコまで重要な情報じゃないという事だろうな。と、クルミは締め括る。長い長い沈黙が続き、誰もが神妙な顔をしていた。

 

 

 

 「だからこそ、本当に不思議なんだ。

  …翡翠………お前は一体、何のために生まれてきたんだ?」

 

 

 

 然程大きくも無いはずの言葉が、イヤに響く。クルミの疑問が喫茶全体に溶けきった後、暫くして今日のメインイベントは終わった。

 

 今日も喫茶リコリコは平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───その時の翡翠は………

 

 

 

『(……私にも分からん)』

 

 

 

 







 コレを書く前に考えていたモノの組み合わせ。

 うーん、せっかくの二次創作なんだからクロスオーバーモノがやりたいな。……魔法少女×リコリコで行くか?いや、リオレウス×リコリコならどうだ?……ダメだな、ウルトラマン×リコリコ?うーんパッとしないな?そうだ!間をとってガンダムにしよう!!

出来上がった合成食品がコレ。



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いや、アレはバグだ。私がそう判断した





次回は、少々リアルが立て込むので一週間以上、投稿が遅れます。






 

 

 

 喫茶リコリコの表の業務を終え、千束はリコリコメンバー全員を集め、元気良くノリノリで依頼内容を解説していた。この店に於いて千束は、指針を決める船長の様なものだ。故に千束の独断と希望に沿って、DAを経由せずに民間人から依頼を受けたりしており、今回はとある元大企業会長の護衛任務を受けていた。

 何でも、“亡くなった家族の最後の思い出の地を見て回りたいが、元とはいえ自身は大企業の会長。その為、自身の資産を巡った陰謀が絶えないので、その暗躍者達の刺客から私を守ってほしい”という依頼内容だ。

 その内容を聞き千束は即決。そして護衛中の各々のポジションについての話に移行していった時の話。たきな&千束ペアは普通に依頼人に付き添って護衛だが他のメンバー、と言うよりも翡翠が問題だった。翡翠の外観は非常に目立つ上に場所を喰う、その上家政婦ロボットと言う設定上、堂々と表で歩かせるには少々無理があった。問題はまだあり、本人の意思とは無関係に、ある程度本格稼働を行うと大なり小なり電波妨害を行ってしまう点も非常に不味い。普段はGN粒子を散布しないように活動しているが、依頼中では荒事が前提な為、流石にその稼働率は咄嗟の事故に対応出来ないという話に成り、一応ある程度離れた上空で有事に備えて待機、ということになった。

 

 

 「で、これが一応の翡翠対策ドローンと言うやつだ」

 

 「なんかゴツいねぇ……」

 

 

 そして今依頼に合わせて用意してもらったアイテムを、使用者本人であるクルミが手に持ちながら観察し、それを横から千束が覗き込み所感を呟く。翡翠の出すGN粒子は、クルミにとっての天敵のような性質を持つ。彼女のポジションは単なる戦況把握だけではなく、状況に応じて指示も行う司令塔に近い部分もあり、その手足となるドローン等の子機の不具合は致命的な問題だ。そんなチームの中核を担い、電子戦を主とするクルミに、問答無用の電波妨害はチームとしても無視できない事案。その為、ある程度のGN粒子散布下でも活動可能な試作品を幾つかDAから譲り受けていた。無論、完全にタダというわけでは無く、早い話が『GN粒子に何処まで通用するか見たいから、使った際のデータは寄越せよ?』と言う形で受領している。ちなみに、クルミの手で受領したその日に諸々の改造(主に自身の存在を隠す為に)を施されてるので、ソフトウェア面での性能は原型機よりも向上していたりする。

 

 

 「って言うか、アンタってたまに高性能なのかポンコツなのか判んないとこあるわよね」

 

 「反論、当機の性能は、現行技術の、どの機器よりも先を行く物と強く主張する」

 (異議あり!ガンダムデュナメスはポンコツでは無い!これは確定的に明らかな事実である!)

 

 

 その隣では、ミズキが翡翠に対してそんな事を言っているが、何も歩く電波障害な性質だけを指して言っている訳ではない。

 先日、翡翠はクルミから現地球上全てのPCよりも優れたマシン認定をされたが、それは単純なカタログスペックだけの話。翡翠の電子戦能力は非常に尖っていた。どれだけスペック差があっても、複数の機器を同時にハッキングする事が出来ないらしく、曰く、『特殊過ぎるAI故に自身のボディはともかく、他の機器に対しては認識を分散出来ないんだろう。』とのこと。その為、クルミのように町中の監視カメラに侵入して相手を監視、又は発見したり等が出来ないそうだ。DAでの実験では強固なセキュリティを瞬時に突破していたが、アレはあくまで翡翠側のシステムプロテクトが自動迎撃で対応した結果であって本人の意思は介在しない。その上、自分の出したGN粒子の影響を既存の物より遥かに少ないが、それでも多少は受けてしまうその有り様は万能不器用?とも言える在り方だった。

 

 

 「兎に角!上空に待機し、緊急時以外出てこないで下さい。貴方はタダでさえ目立つ上に、電子機器に悪影響を及ぼす可能性があるのですから!」

 

 

 そんなポンコツ認定試験の話をぶった切り、厳しい視線を翡翠に投げつけながら警告の様に言うたきな。その様相は『危険物め、近付くな!』と言いたげな様子で実際に千束を庇うように間に立っており、なぜそんな事になったかと言うと少し前に戻る。実を言うと先日(真相の大部分は伏せられたが)、翡翠はEMP染みた防御?攻撃?手段も持っていることがDAから連絡があり、その事実がリコリコでも判明。そして今回の依頼者は体が不自由な為、多数の医療機器に頼っていると事前に伝えられていた事もあって、今回の依頼は翡翠にとって非常に相性の悪い仕事だと判断された。しかもその話の流れで()()()()()()の会話から、千束も人工心臓(医療機器)を使っている事もバレ、今、たきなの中で翡翠は、近付くだけで相手を殺害できるキリングマシーンと化していた。一応本人談では戦闘出力且つ、相当に高濃度まで圧縮しないと、そうはならないとの事だが、たきなとしては信用ならない。当初のたきなの認識では、出所不明の怪しい高性能戦闘ロボットで、その次は謎の目的で作られた人間の心を模倣した未来のハイテクロボットから、今度は千束や自分達を護るとか言いながら、その実は自分達に天敵の様な機能ばかりを持つやっぱり危険な奴、というコロコロと認識が変わり続ける非常に忙しい事に成っていた。

 

 

 「まぁまぁ、たきなさんや、襲ってくる気もなければ敵じゃあないって話は結論出たでしょうに」

 

 「何度も言いますが千束はもう少し警戒した方が良いです。例え害意は無かったとしても、その気になったら貴女を殺せるんですよ?」

 

 「………………………」

 (…しどい。人を大量殺戮無人兵器(バグ)見たいに言わないで欲しいッス、たきなパイセン)

 

 「…おお、今は恐らく落ち込んでるな。顔も姿勢も変わらないのに、何となく空気が澱んでるぞ」

 

 「………やっぱりポンコツなんじゃないかしら?……」

 

 

 とか言いながら、やんやんやんやと依頼の詳細詰めをしていく。たきなは翡翠を千束に近づけないようにし、それに落ち込む翡翠を観察するクルミとポンコツ認定を下そうとするミズキ。仲良き事は、善きかな、善きかな。

 

 

 「──ミス・クルミ、及びミス・ミズキに報告。

  先月に話した依頼の件について、進展が在るため、後程、当機との会談時間を要望」

 

 「ん?…ああ、アレか分かった」

 

 「ああ、ハイハイ。手短に頼むわよ?」

 

 

 今日も喫茶リコリコは平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お早うございま~~~す!」

 「遠路遥々から、ようこそお越しくださいました」

 

 「お早うございます、今日はよろしくお願い致します」

 

 

 依頼日当日、耐性の無い男なら、しどろもどろになる事請け合いな程の眩しい笑顔で迎える千束と、薄く穏やかな笑みで迎えるミカ。それに対し、ミカ同様に()()()()()()()()()()挨拶を返すのは、様々な医療機器が付いた電動車椅子に乗った老人の男性。色素とやや水分も抜けた白髪だが、髪質自体はしっかりしており、短く切り揃えた髪が逆立つように生えている。表情は好好爺然としたモノだが、深い無数の皺が確かな年月を感じさせ、素の顔の作り自体は精悍で鋭い。現役時代は、さぞバリバリの仕事人間だったであろうな、という容姿だ。周りにはガードマンの姿があるが、彼らはどうやら此処までのようで、この依頼後の予定を手短に伝え、早速ミカや千束達と今日の予定の打ち合わせを行っている。

 

 

 『【……疑問。今依頼人は何故、我々に警護の依頼を要請したのか?観察した様子では、専属のボディガードチームも要している様に見受けられる】』

 

 『【ムサイ男達だと悪目立ちし過ぎて観光 所じゃ無くなるから、だそうだぞ】』

 

 

 そんな会話の輪に入らず、やや離れたところから通信機器で密談を行うクルミと翡翠。クルミは今日の自身の役割の準備をしながら、全体を見ていると、翡翠が徐にクルミに質問を投げてきた。どうやら、依頼人に疑念を抱いているようで、機械らしくない思考にクルミは非常に興味を引かれながらも手元を動かす。

 

 

 『【……調べて欲しいのか?】』

 

 『【肯定。だが、今護衛業務に影響が出るようならば、必要ない。】』

 

 『【いや、構わないさ。お前の疑念も、尤もな部分もあるからな。】』

 

 『【感謝】』

 

 

 本当にマシンっぽくないな、と思わず口を綻ばせながら翡翠を見る。命令だけを遵守する普通のマシンと違い、目的を自分で定め、それに必要なモノを考え、用意し、かといって効率重視だけではなく、周りの人間に対しても慮る事の出来る夢のマシン。今、彼女にとって非常に好奇心をくすぐられる存在で、開発者に会えたなら是非、話を聞いてみたいものだ、とついつい思考が逸れる。そんな個人的欲求をすぐに横に置いて、クルミも少しは疑念に思い、片手間に調べることにした。資産家や有名人にとってボディガードとは命綱そのもの。だからこそ、信用に足る人物だけで構成するのだが、それを自分達のような外部グループに何故頼むのか?とは少しは思っていた。さっき自分で話した理由も、やや弱い様に思え始めた為、傍目からは分からない様に仕事と両立して進めていると、依頼人の執事筆頭らしき四角い雰囲気の男が、此方に近づき話しかけてきた。

 

 

 「この度は、依頼を受けて頂き、誠にありがとうございました」

 

 

 そう言いながら、腰を折り、惚れ惚れするほどカッチリとした礼をクルミにとる。何んでも御主人は、この地の観光が出来る日を、何十年と待ち続けていたらしく、次第に弱って行く体で過ごす内に、もう出来ないのではないか?と、諦めかけていた所だったそうな。どれだけ旦那様が嬉しかったか、と言う事を懇切丁寧にクルミに説明していると、当の本人が居心地が悪そうに執事を止める。そのやり取りを見て、千束は更にやる気を滾らせて依頼人達に宣言していると、ふと執事、旦那、両名の視線が翡翠に集まった。

 

 

 「所で、お話は変わるのですが、此方はどういった製品なのでしょうか?」

 

 

 当然の疑問を持たれ、リコリコメンバー内でアイコンタクト会議を行っていると、当の本人から簡潔に解説される。

 

 

 「当機は、世界最強の家政婦ロボットと宣言」

 

 「……だそうです」

 

 「は、はぁ………」

 

 

 なんとも煮え切らない空気が流れるが、直ぐに切り替えて準備を始めていく。ミズキは、車で先に出ており、依頼人達とは顔合わせはしていない、これは翡翠と違い陸路で支援に回るからだ。

 

 

 「旦那様は、非常に無茶をするお方です。

  もしもの場合は、旦那様の意向を無視しても構いません。

  どうか、よろしくお願い致します」

 

 「………やかましいわい」

 

 

 店から出発するその間際にも、主人に対しても明け透けに小言を言う執事に見送られながら、千束達は出発。それに合わせて直ぐ様、翡翠も行動を開始し、予定通りに依頼人の周辺で迷彩を起動しつつ上空で待機。最強のリコリスとその相棒、最高峰のハッカーと後詰めにはリコリコきっての最終兵器(翡翠)という鉄壁の布陣の中、依頼人、()()の観光が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────………見つけたぞ、落とし子め」

 

町の何処かで、怨嗟の声が溢れる。

 

 

 

 

 









 ※リオレウス×リコリコだった場合。


 空の彼方からやって来る黒い影を見て───

モブリスA「おい、あれを見ろ!」

モブリスB「……アレは……何だ?……」

モブリスC「……鳥だ……羽ばたいてる……!」

モブリスD「……いや……よく見ろ!!」

モブリスE「……大きいぃ……アレは鳥じゃないっ!!…ドラゴンだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!───────



 解毒剤「…………ダメだな、出落ちにしかならん。」





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おまえの服とグラサンと銃と車をよこせ




 
 想定以上に読者の方々が、モンハン詳しくて大草原と戦慄しました!そして関係の無いモンハン話で、不快に思われた方には申し訳ありませんでした。以後気をつけさせて頂きます。

 次の更新は、投稿者の体調不良と諸事情により、非常に遅く成る事を此処でお知らせさせていただきます。

 最後に成りましたが、いつも評価、感想、ありがとうございます。他の作者方も感想や評価が励みになるとよく見かけますが、その効力を身に染みて受けております。





 

 

 

 

 

 『風が気持ちいいですね。これだけでも来た甲斐がありますな』

 

 『何言ってるんですか!まだまだこれからですよ!』

 

 

 水上バスに揺られながら、目に映る風景や建物に解説を挟みつつなごやかに会話を続ける。ぽんぽんと弾む話に穏やかな笑顔で依頼人、松下も自慢話を織り混ぜていた。

 

 

 『おお!じゃあ、アレの建設にも関わったんですか!?』

 

 『ええ。とは言っても、精々出資したくらいですけどね』

 

 

 そんな具合に千束達が観光案内を楽しげに進めている中、上空、150メートル前後といったところか。付かず離れずの距離を維持しながら、警護任務に当たる翡翠がいた。

 

 

 『……ふむ、コレならドローンも要らなかったかも知れないな』

 

 『建議。有事の際、当機は戦闘員として行動するため、ドローン等の多目的中継機器は必須だと当機は推奨する』

 

 『分かっているさ。思った以上に優秀だったから言ってみただけだ』

 

 

 翡翠は、通信相手のクルミに注意喚起をしながらも、自身のセンサーで捉えた情報を次々流していく。その情報量は膨大で、ドローンとは比較にならない程の質と量は、クルミにとって非常に有意義な物だ。本来なら、より情報の確度を高める為に、複数の機器にクラッキングを仕掛ける所を、大部分をカバーする索敵能力は、それだけで確かな戦力だ。とはいえ、こういった事が出来るのはあくまで出力を抑え、情報収集と通信に比重を傾けれる時だけ。ビーム兵器を多用すれば翡翠との通信も繋がり辛くなる上に、それに合わせて取得可能な情報も自身の戦闘用に調整される為、縮小される。当然、戦闘員として移動すれば更に少なくなるので、自身の代わりとなるドローンは必須要項だった。

 

 

 『………コレ、私いる?』

 

 『気持ちは解るが、万全は尽くさなければならないからな?』

 

 

 グループチャットと化した場で、文句をブー垂れるミズキとそれを嗜めるのはミカ。彼女がブー垂れる理由は、今護衛の戦力比故だ。フル装備のガチ軍人 10人が束になっても勝てない最強のリコリスと、それを支えることの出来る相棒。そして、その気になったら軍事要塞を正面から攻め落とす事の出来るオーバーマシンに、最高峰のハッカーによる支援。一個人に付いている警護としては間違いなく破格の超戦力比である。怪獣でも連れてこない限り、まずターゲットに近付く事すら困難な難攻不落の要塞と化した布陣で、自分の様な凡人は必要か?という思いが彼女の中で沸々と沸いていた。プロとして万全を尽くす事がどれだけ大事なのかは分かっているし、もし、不測の事態に陥り、千束や翡翠が全力で対応せざるを得ないという事になった場合は、それだけ退っ引きならない状況だという事も判る。が、朝早くから、一人だけ狭い車内に鮨詰めに成っている事に、文句の一つでも言いたくて堪らない、っと言った言外の抗議。愚痴を吐ける相手に、ブチブチと文句を言いながらも業務に手を抜かずしっかり対応していると、とうとう怪しい影が見え始める。数はそこそこ、一人を殺るにしてはかなりの大所帯だ。

 

 

 『……おっと、お客さんだぞ』

 

 『了解(ラジャー)。デュナメス、迎撃行動に移る』

 

 『──待ってください!…それなら私が打って出ます』

 

 

 クルミからの報告に、動こうとする翡翠を止めたのは たきなだ。依頼人から離れつつ、聞かれぬように口元を手で隠しながら、声量を抑え、続く言葉で翡翠より前に出ようと提案を出す。

 

 

 『貴方は目立ち過ぎるのですから、そのまま上空に居てください。私なら問題ありません』

 

 『……進言、当機ならば、より速やかに目標を無力化した上で、短時間で警戒任務に戻ることが可能。ついては、ミス・たきなには引き続き護衛任務の継続を願いたい』

 (いや、子供に前に出させて、自分は後ろってあり得ねぇから。(鼻ほじ))

 

 『ダメです!私だったら──『今回の敵戦力は、火器を使用しなくとも十分に対処可能な範囲と判断。そして貴官には、依頼人:松下の周囲に追随し、護衛する任務がある。コレは、当機では出来ない任務であり、貴官らにしか出来ない案件である』

 

 

 続く提案を、理路整然とした理由で塞き止められ、押し黙るしかなくなる。無線越しでも伝わる程の不平の感情は、一言も喋っていないのにも関わらず聞こえて来る様で、それだけで たきなの心情を雄弁に語っていた。それは現場に居ない筈のミカ、ミズキ、クルミにも判る程で、掛ける言葉を言い倦ね、ほんの少しの沈黙が続く。すると、たきなの通信機越しから別人の声が聞こえて来た。

 

 

 『たーきな!……大丈夫』

 

 

 名前を呼びながら たきなの肩に手を置き、力強く、たった一言だけを千束は伝える。顔を綻ばせ、真っ直ぐ目を見て、何処までも優しく、穏やかなその声色で、相手を想う万感のモノを込めて。

 

 

 『翡翠、分かってると思うけど、“命大事に”だからね?』

 

 『問題ない(ノープロブレム)。改めて、これより迎撃行動に移る。それに伴い、当機が請け負っていた警戒任務を、予定通り、ミス・クルミに譲渡。申請を受理されたし』

 

 『任された、サクッと終わらせて来い』

 

 『了解(ラジャー)

 

 

 身を翻し、迷彩を起動したまま目標ポイントへ向かう翡翠。たきなはその方角の空をずっと見上げており、後ろからはその情動を読み取れない。千束はそれを、時間が許す限りそっと待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 都心から離れた人気の無い廃ビル。普段なら割れた硝子やら流れ着いた何かのチラシ等位しか転がっていない筈の場所に、多数の男が転がっていた。更にその近くには、踏み砕かれた銃器やナイフも散乱しており、つい先程まで争いが有ったことを如実に示す。

 

 

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぉっ、…………何で?何が?!何なんだよ!!?誰かぁ、教えてくれよぉっ!?!?」

 

 

 しかし、実際の内容は対等なモノではなく一方的な出来事だった。そのビルの一画で、ある男は、壁を背にしながら血走った目で頻りに周囲を窺っており、明らかに挙動不審の様子。

 

 今、思い返しても何もかもが理解できない。依頼を受けた時も、いつもと変わらないはずだ。良くある普通の襲撃依頼を受け、いつも通りに裏取りと下調べをし、得物と足の準備をして、後は普段と変わらずに熟すだけだった。異常が起きたのは襲撃予定時刻間近というタイミング、簡易セーフエリアで各々が最終点検を行っていたその時だ。

 突然、仲間が宙に浮いたと思えば、高速で飛来して他の仲間に衝突した。飛んでった奴らの状態はどう見ても再起不能で、白目を剥き、怪しい痙攣を起こして手足も脱臼した様な状態に成っているのが服の上からでも判った。仲間に起きた冗談のような現象にフリーズしていると、次は隣に居ていた仲間が壁まで飛んで行き、それを近くで見ていた奴も天井に向かって飛んで行った。

 そこから先の記憶はあやふやだ。その場で起きた怪奇現象に、仲間の一人が発狂した様にナイフを振り回し始めると、直ぐにそいつも空を飛んで、その光景から他のメンバーにも恐怖が伝播していき、全員が恐慌状態に為るという地獄絵図が展開。俺は気が付けば走り出していて、その階から転がる様に逃走。

 それを合図に、彼方此方から悲鳴と銃声と肉が潰れるような音がフロア全体に沸き上がる。俺はひたすら走った。ビルの中を上も下も関係無く滅茶苦茶に移動する。気がつけば木霊していた悲鳴も銃声も聞こえず、俺は仮初の絶海の孤島に取り残された事にようやく気が付いてしまった。

 

 何でアイツらは飛んで行ったんだ?

 

 ワカラナイ。

 

 何でアイツらは死にかけたんだ?

 

 ワカラナイ。

 

 何で誰の声も聞こえないんだ?

 

 ワカリタクナイ。

 

 何が起きているんだ?

 

 ワカルワケガナイ。

 

 落ち着かない鼓動。未だに震える手足。身体中に伝う不快な汗。自分はイマドコにいる?今、この空間はドコなんだ?アレからドレダケの時間が経った?自分はナニに追われている?何かもワカラナイ。こんな後ろ暗い仕事をしているのだ、命の危機に陥った事位ある。だが、こんな何も訳の分からない事が起きるなんて予想も付かないし、経験なんて有る訳がない。走り回った筈なのに、体の寒気が取れず、理解不能の恐怖が脳内を埋めつくす。兎に角ニゲナケレバ。そんな思いが体を突き動かそうとした時、背にしていた壁の一部が弾けた。

 特に効果も成さないと分かっているはずなのに、祈るように、刺激しないように、ゆっくりと、そうっと、視線を動かす。するとソコには、薄く微かな放電音を鳴らす、ボヤけたナニかがあった。

 

 

 「(……ターミネーターごっこしようぜ、───)」

 

 

 ソレから視線を離せず、カラダモウゴカナイ。

 

 

 「(───俺、ターミネーター役な!!)」

 

 

 そこから先の記憶は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃犯グループ、最後の男が無力化されると、そのボヤけた影は男の体をまさぐっていた。

 

 

 「(………英世が三枚、諭吉が一枚………かーっ、シケてんな!)」

 

 

 ……これは追い剥ぎではない。歴とした戦闘ドロップ報酬だ。より詳しく言えば、持ち物検査。翡翠は千束達とは違い、拘束用装備を持てないし使えない。一応、使うことも隠し持つ事もやろうと思えば出来なくはないのだが、それをすると翡翠側の装備や性能に影響が出るので、余り好ましい手段では無い。その為、襲撃犯本人だけではなく、装備も含めて徹底的に無力化する必要が在る、と結論に至った。相手はアンダーグラウンドの人間、そのまま野放しには出来ないし、千束の理念で殺害する事も出来ない以上、生かして解放するには金銭の掛かる方法を採らざるを得ないので、本人達から徴収も兼ねた非常に建設的なプランを実行。

 

 

 「(チッ、使えねぇなぁ。人の時間奪うのだけは一人前ってか?このストリップマンどもめ!!)」

 

 

 文句を言いながら、工場マシンの流れ作業の如く男達をパン一にして縛り上げていく。使う道具はエコを考えて、“男達の服を裂いてロープ状にした物”という、とても環境に優しい物を使用。その過程で出て来る武器の類いは、一つ残らず丁寧に折り畳んでいく真心込めたサービスも忘れない。

 

 

 「(ケッ、ドロップアイテムショボ過ぎだろ。やっぱ変質者はダメだな!!)」

 

 

 へっ、『パンツだけは慈悲で許してやる』と、内心で言いながら後は事前の打ち合わせ通り、後始末を業者に任せて風に巻かれて舞うタンポポ綿毛の様に上昇する翡翠。そこには量産された変質者の群れだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

──時間は少し巻き戻り、翡翠が向かってから少し時間が経った頃。

 

 

 『……ん?まだ居たのか?』

 

 「?…どうしたんですか?クルミ」

 

 

 予定通りに、クルミが警戒網を敷いていると、再び怪しい影が引っ掛かる。最初の連中に比べて大分少ないが、だからこそ怪しい。

 

 複数からの依頼のバッティングか?…いや、そうだとしても妙だ……丁度 翡翠と入れ替わるように現れたな……。タイミングが良すぎる?……まさか、さっきの奴らは陽動か?

 

 クルミが静かに思案に入っていると、何となく事態の予想に付いた たきなが再び提案という決定を出す。

 

 

 「敵ですか?場所を教えて下さい、私が出ます」

 

 『まぁ、待て。ちょっと気になる事が出てきた、もう少しだけ調べる時間をくれ』

 

 「いえ、此方には護衛対象が居る以上、少しでも安全を確保する為には、離れて処理すべきです」

 

 『それは判ってるが、せめて翡翠に連絡するくらいの時間をくれ』

 

 

 有無を言わさぬ要求を出し、クルミに情報を求めるたきな。言っている事はその通りなのだが、かなり強引な物言いは、明らかに余裕の無さが現れている。どうしたものか、と思いながら翡翠との通信を開こうとするが、どういう訳か繋がらず、暫くの間、無言の時間が続く。一向に繋がる気配の無い様子に、たきなが痺れを切らす。

 

 

 「……待っていられませんね、早く場所を教えて下さい」

 

 『…………タイミングといい、翡翠に連絡が着かない事といい、ハッキリ言って怪しすぎる。罠の可能性だって有るぞ』

 

 「だとしたら尚の事でしょう、このままでは後手後手に回ってしまいます」

 

 

 頑として折れないたきなに、仕方がないか、と渋々情報を流す。確かに、相手がどうであれ、このまま受け身に回り続けるのは相手の思う壺で状況が悪化するだけだろう。そして翡翠は未だにポジションを何処にするか決めかねる、新メンバーだ。こういった不測の事態も十分予見されていた。それを見ていた千束が何かを言おうとする前に、たきなが先に千束に言葉を送る。

 

 

 「私に任せてください」

 

 

 柔らかく微笑みながら、一言だけ伝えると足早に去って行くたきな。その笑顔と言葉は、先程の千束と同様のモノが込められていたが、千束はそれをそのまま受け止める事が不安だった。咄嗟に引き留めようと手を伸ばすが、空しく空を切り、行き場をなくした手がその場で漂う。すでに水上バスは目的地に到着しており、乗客達も順次降りて行くその人混みの中に、返事をする暇もなく消えて行くたきなの背は、何処か危うげに見えた。

 

 

 

 

 

 





 


 今回はお詫びのサービス回でお届けしました。

 
 ※改変松下の落書き
 イメージを崩したくない場合はスルー推奨。
   
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浸水だと!馬鹿な、これが私の最後と言うか!認めん、認められるか、こんなこと!



 書き始める前はもっと短く、適当に終われるだろう思っていたのに、最近、書けば書くほど話が延びに延び始めた今日この頃。まるでそれはお湯を入れて半日ほど放置されたカップ麺のようだ………。


 そんなこんなでいつもブックマーク、感想、評価は勿論、誤字、脱字報告ありがとうございます!過去の自身のコメント欄や後書きとかでも、失言、ツマラン返しだとか多い投稿者ですが、お付き合いありがとうございます。




 

 

 

 

 

 

 『目標との距離、100メートルを切ったぞ』

 

 

 クルミから情報を受け取り、不自然にならない程度に足早に対象に接近する。次第に掃けていく人気の中、たきなは進む。今回も変わらない、静かに気取られないよう敵に接近し、クリーンに無力化。他に問題にすべき点は精々、複数の相手を非殺傷で仕留めるという事だけ。自分一人でも十分対処可能な案件で、あんな()()()()に頼るまでもない。逐次クルミから指示を受け、相手の死角に回り込むように移動する。襲撃犯も余り悪目立ちしたくない以上、やたらめったらな過剰火器は持ち出さないし、持ち出せないはず。これは思い込みではなく多角的視点で裏打ちされた見解だ。

 『先進国は治安が良い』と、外からは思われがちだが実情は少々違う。確かに、発展途上国の様に宗教観や隣接する他国との摩擦や軋轢、内政の過度な汚職等によって治安やインフラの不安定化したソレに比べればずっと落ち着いてはいるが、それでも悪意と無縁とはいかない。富むということは、莫大な金銭のうねりが在るという事で、それに肖ろうと、多くのドス黒い思想を持つ人間達が集まって来る事でもあるのだ。そしてそんな者達を放って置けば、好き勝手に国という市場を荒らし回り、直ぐに国全土がボロボロになるのは明白。そんな者達を取り押さえ、治安維持力を体外にまで誇示して見せる力は並大抵ではなく、それを行える組織の力はそれだけ大きいという証明だ。現に今回の襲撃犯も、装備が限定されるのは、日頃からのリコリス達の勤勉な働きが在るからこそで、相手方もその警備網をすり抜けながら事を起こさなければいけないからだ。

 たきなはそんな国家の治安維持の一翼を担う者達の一員。組織の末端とはいえ、なにも知らない民間人よりもずっと国内の裏側を知っているし、それ相応の訓練を積んで来た事実と自負がある。確かに、最上位クラスのリコリスであるファーストに比べれば、まだまだかもしれないが、それでも自分の努力と実績で勝ち取って来たセカンドという肩書は伊達ではない。子供扱いも手弱女扱いも真っ平御免だ。

 そもそも、千束を助けるのも守るのも相棒である自分の仕事だし、突如現れて我が物顔でリコリコ内を動き回る()()に任すなども以ての外。

 

 

 『…もうじき、ミズキも来る。準備が終わるまで待て』

 

 「いえ、問題有りません。むしろあの人は戦闘員では無いのですから、下がらせた方が良いのでは?」

 

 『はぁ…確かにそうだがバックアップは多い方が良いだろう?』

 

 

 最近ピリピリしていたが今回は特段にそうだ。見えない何かを必死に追い払おうとも見える焦り方は、端から見ているクルミからしても不安を覚える。……なんとなく、理由もとい、原因はぼんやりと察しが付く。それは、外から見ていたクルミからすれば言葉で形作る事が難しいだけで、ひどく分かりやすかった。時間を稼ぐためにも、余り採りたくない手段だが少し突っ込んだ話をする。

 

 

 『……なぁたきな、少し冷静になれ……』

 

 「?、 私は取り乱したりしてませんが?」

 

 『そうじゃない、翡翠の事だ』

 

 「──!!」

 

 

 翡翠の名前を出した途端に息を呑み、強張るたきな。現場でこういったデリケートな話をするのは非常によろしくない事だ。人間は機械と違い、非常に感情に左右される生き物。普段ならどれだけ体のコンディションが悪くてもサラリと出来る事が、どれだけ下準備や体調が万全でも出来なくなるなんてザラだ。それでも今のままの方が危うく見えるたきなを、自分らしくないなと思いながらも、少しでも引き留める為に語りかける。

 

 

 『……翡翠は敵じゃないだろ?』

 

 「……なぜ、()()の名前が出てきたか分かりませんが、今は依頼に集中するべきでは?」

 

 『……はぁ、だからこそ冷静に成るべきだろ?翡翠が来るまでとは言わないから、せめてミズキが来るまで待てないか?』

 

 「…………………」

 

 

 どう言えば伝わるのか、まだまだ たきなとの交流の浅い現状では彼女に届く言葉を紡げず、会話が停まりそうになり、少しの間、重い沈黙が生まれる。それを今まで黙って聞いていたミカが、今度は口を開く。

 

 

 『たきな……大丈夫だ、何も変わらない』

 

 「………………私は───────

 

 

 優しく、穏やかに、ゆっくりとたきなに伝えるミカ。その言葉に漸く口を開けそうに為るが、たきなの返答は最後まで続く事はなかった。

 

 

 『………不味いぞ。連中、僕達の事に気付いたかもしれない』

 

 『何?』

 

 「──ッ!?」

 

 

 襲撃犯らしき一団を見張っていたクルミから急報で、悠長にしていられる時間が無くなった事を知らされる。続くクルミの話では、バレたと言っても此方の数や居場所迄は分かっていない様で、潜伏場所で突然物々しく為り、その場でガードを固め始めたとのことだ。場所は小規模な改装工事中の大型高層ビルの一室、数は3、装備は消音器付きの短機関銃。アドバンテージ(奇襲を仕掛けれるタイミング)が有るのは今しかなく、これ以上はたきなだけではなく、ミズキも危険にさらされるだろう。

 

 

 「行きます、敵の配置を教えて下さい」

 

 

 もはや迷っていられる時間無い。たきなの目付きが鋭くなり、雰囲気が切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クソッ、そんなにお偉いならもっと役立つ情報寄越しやがれってんだ」

 

 

 改装中のビルの一室で、襲撃犯の男達はどうするかを決め倦ねていた。対象の暗殺決行まで間近というタイミングで、スーパーハッカーと名乗る男から、一方的に情報を叩きつけられた為だ。何でも、その場所に対象のガードマンが迎撃に来るそうで、早いとこ逃げるなり、迎え撃つなりどうにかした方が良いぞ?とのこと。突如自分達の通信機器をハックして、言いたい事を一方的に話した後に通信を切った相手は、非常に不愉快な喋りだった上に、肝心の襲ってくる相手の情報は殆んど寄越さなかった。常に上から目線で此方を軽んじる話し方は、男達の神経を面白いくらいに逆撫でにする。しかし、その情報が真実だった場合、そんなことにかかずらっている場合ではなく、今すぐに行動を起こさなければ依頼どころの話ではなくなるのは間違いない。怪しく信用ならない相手ではあるが、間違ってもタダの悪戯目的ではないのは確かだ。

 

 

 「どうする?、リーダー。逃げるか?」

 

 「……まずは移動する、話はそれからだ」

 

 

 どのみち自分たちの居場所と目的が第三者に漏れている以上、その場に留まるのは悪手。直ぐに指針を決めたのは良い判断だったが、残念ながら、情報を投げられたタイミングも、相手との距離も既に手遅れだった。

 直ぐに行動しようと、仲間の一人が腰を上げようとしたその刹那、入口付近で見張りをしていた仲間に右肩、左足、に一発づつの弾丸が着弾する。

 反射的に残りの二人は直ぐ様、各々手近な建材を盾にし身を隠す。悪態が口から出そうになるのを押さえ込み、冷静に状況を観る。この部屋は、フロアの大部分を使ったような構造で、壁を取り払い、ホールの様に見晴らしのいい状態に成っている。そして自分達は最奥部端に陣取っており、この部屋の侵入経路に成る入り口は三ヵ所、全てここから見える位置だ。自分たちに一番近い入り口を窺う限り、ソコからの銃撃ではない。倒れた仲間の位置、微かに聞こえた発砲音から逆算して一番離れた入り口から進んだところか、残りの入り口付近からか?と、そう導きだす。

 

 

 「クソッタレがぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 だが冷静に分析していたリーダーと違い、残りの一人は既に我慢の限界だったようだ。先程の腹立たしい会話も合わせて、その不満を襲撃者にぶつけるかの如く居るであろう場所に、銃だけを出し盲撃ち。咄嗟に止めようとするが、既に遅かった。空気の抜けるような音が三回程鳴ると、小さなうめき声を発して残りの仲間も倒れた。

 

 

 「マジでクソッタレだな、バカ野郎め………」

 

 

 敵に言ったのか、それとも味方に言ったのか、どちらともにもとれそうな悪態を静かに吐く。残りが自分のみとなり戦況は非常に劣勢だが、打開策が潰えた訳ではない。仲間がヤられる間際に見えた影、相手は小柄で獲物はハンドガン、恐らく日本の街中での護衛故の装備だろう。奇襲から未だに攻め上がって来ない事と、一回目と二回目も似た場所からの攻撃だったということは相手は少数、又は単独の可能性がある。護衛人数が少ないと事前情報も有ったことを考慮に入れれば、その可能性は高い。今の攻防でより正確に居場所も特定出来た、此方の方が射程と火力も上、殺られる前に殺る。

 盾にしていた建材に掛かっているシートを剥ぎ取り、それを適当な小振りの端材に括り付け、自身の進行方向と逆に投げて同時に移動。相手の射角にかならず障害物が挟まるように素早く走り抜ける。相手を視界に捉え、撃ち合いに持ち込めば確実に勝てる。

 

 獲った。

 

 そう確信した時、自身の背後からの物音に小指程の意識を割かれ、前方から三発の発砲音。激痛に体の自由が奪われ、力なくリーダー格の男がゆっくりと倒れる。余りの痛みに少しずつ視界が狭窄して行き、意識が遠退いて行く中。全身から脂汗を流しながら視線を動かせば、自身の後ろからフヨフヨと漂って来たやや大型のドローンと、予想したよりも遥かに離れた位置から銃を構える少女の姿が映る、それが意識を手放す前に見た最後の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………」

 

 『……お見事、流石だな』

 

 

 油断せず、当たりを睥睨するたきなに、純粋な称賛を送るクルミ。先程の不安を感じさせる会話を全否定するような仕事ぶりは、モニタリングしていた者達の懸念を見事にひっくり返して見せた。

 元来、拳銃での交戦距離は非常に短い。これは、弾が届く距離と狙って当てれる距離は、全くの別物だからである。単純に弾が届く距離は何百メートルも飛ぶが、それはあくまで届くだけの数字。銃弾とは発射されたその瞬間から推力を失いつつ、風や重力、地球の自転等、ありとあらゆる外的要因にさらされ続け、そもそも真っ直ぐ進む事自体が難しい。その上使う人間側の問題もあり、筋肉の収縮やら重心の揺れやら様々な要因も加味され、その有効射程距離(殺傷力や命中率を維持可能な最大距離)は短機関銃が50~200メートルに対し、拳銃は25~50メートルと言われている。レンジが他の銃と比較的に短い部類のサブマシンガンでも、これだけ大きな差があるのだ。そしてその数字も高度な訓練を受けた者が射撃場のような、外的阻害要因を可能な限り排除した環境下での命中率で、実戦のようにありとあらゆるモノを考慮しながらの射撃に成れば、ほんの一握りの腕利きの者でも十数メートルと更に短くなる。

 それをたきなは、動く目標、且つ、限定された照準時間とやや不安定な体勢で、ピンポイントに全弾命中させるという離れ業をやって見せた。クルミのサポートが有ったとはいえ、ファーストリコリスである千束を唸らせた射撃技術は伊達や酔狂で身に付くモノではない。

 

 

 「これから拘束処理に入ります。至急、クリーナーに連絡を」

 

 『了解、直ぐに………何!?』

 

 「!?、何があったんですか?」

 

 『また現れた!今度は一人だが………』

 

 「な!?」

 

 『……かなり厄介な相手だ。………本物の腕利きだぞ……』

 

 

 クルミとたきなの通信にミカが割って入り、相手の情報を伝えてくる。その昔、一緒に仕事をしていた者らしく、相当な腕利きだとの事で、今でこそ第一線を退いているが、千束やたきなの師事役をやっていたミカをして腕利きと賞される程の者。生半な相手ではないのは確かだ。事態の更なる急変。騒然となる通信の向こう側で、千束も割って入ってくる。

 

 

 『……私も出る。ミズキは松下さんをお願い』

 

 「待ってください、私で対処します!千束こそ松下さんを連れて離れてください!」

 

 

 千束の提案をノータイムで強く棄却するたきな。頑なに千束の提案を受け入れずに事を進めようとしており、二人の間で暫し、押し問答が繰り広げられていると、次第に千束の側の通信にノイズが混じり始め、軈て切れる。明らかな分断作戦。現場に居るたきなやミズキだけではなく全員に悪寒が走り、もはや一刻の猶予もないと全員の思考が一致。たきなは直ぐにクルミから情報を聞き出し、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『急げミズキ!このままだと二人とも孤立してしまうぞ!』

 

 「分かってるわよ!あ゙ーっクソッ、道を開けなさいよ、リア充どもっ!!」

 

 

 クルミからの指示を受け、法定速度をギリギリ、いや、それを超過した速度で車を飛ばすミズキ。警官に目を付けられない様に動く余裕は無く、最短ルートでたきなと合流しようとしており、此方を狙い撃ちにして来たような相手の分断作戦に、当初のダラケた思考はとっくに吹き飛んでいた。やや無茶な動きをした甲斐もあって、何とか たきな との合流ポイントが見えてくる、が、しかし、罠に掛けられたのは、たきなや千束だけではなかったという事を直ぐに思い知らされた。突如ミズキの運転する車が進路を変え、ポイントから外れていく。

 

 

 「ちょっ、なにこれ!?ハンドルが効かないんだけど!!?」

 

 

 突然、車の全操作が不能に成り、道から外れ始める。車から見える景色からは、程なくして東京の誇る巨大な河川が見え始め、いつぞやの仕事と非常に似た光景(デジャヴ)が広がっていた。だが、あの時と違い今度は自分一人だけという絶望的な要素しかなく、重傷覚悟で車から脱出しようと直ぐにシートベルトを外し、乱暴にガチャガチャとドアのロックを操作するが、うんともすんとも反応しないロックに阻まれるミズキ。移動する棺桶の中で、今度はドアを足蹴にして必死に暴れるが、むなしい音が響くだけで絶望はすぐ目の前迄来ていた。

 

 

 「不っ味(マッズ)

 

 

 荒々しく水飛沫を上げながら川に飛び出す車。勢いの付いた落下と着水時の揺れが、車の中のミズキを激しく揺さぶり意識を奪う。ほんの少しの間、意識を飛ばしたミズキが目を覚まし、車の外を見れば薄暗く濁った水が全てを覆っていた。入水時の揺れで頭を打っていたようで、額が少し切れていたが、そんな事に構っていられないと、乱暴に手で拭い、再びドアを蹴り破ろうとガンガンと全力で足蹴にする。だが、疲れとともに脱出行為そのものもが衰弱していき、やがて止めた。こうなれば何とか窓を割って脱出するくらいしか方法は無いがそれも無理だろう。有事に備えてこの車は全面防弾仕様にしている為、ミズキの持つ携帯性に特化した小型拳銃ではヒビが入るだけ。

 死が確定するまでの時間としては長く、脱出する為の残り時間としては余りにも短い速度で浸水する車内で、ミズキはどことなく落ち着いていた。“ああ、こんなもんか”と。元よりこんな血生臭い仕事に携わっていたのだ、平々凡々な死に方は難しいだろうし、今までだって直ぐにでも無惨な殺され方をしても可笑しくなかったのだ。それを考えれば今回の死に方はまだマシな方。唯一の心残りは結婚出来なかった事と、千束やリコリコの行く末を見れなかった事くらいか………。

 思いの外、穏やかにつらつらと考えながら、今なお、水底に引き寄せられている車は、彼女の残りの寿命とも言える空気を無慈悲にも豪快に吐き出しながら昏い、冥い、闇い底へ進んでいく。

 

 

 

 

 







 『存外、深く潜れる女かもしれないぞ?』回。


 ラジアータの機能や役割がイマイチ判っていない、問題投稿者。それが私だ!(意訳:設定違いだとか、詳しい解説とかやんわり教えて頂ければ、出来る限りそれを書き加えていく所存ですので、有難いです。)


 次回から、また投稿時間が延び延びし始めます。



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イオリアの名においてこれを鋳造する 汝ら罪なし



 前話投稿時、お気に入りの減りかたが激しくて項垂れていた豆腐メンタルな投稿者。……それが私だ!!(白目)
 切りが悪くなったので予定より早めに投稿。次はホントに最低でも再来週に成ります。





 

 

 

 

 

 ──アレ?…ねぇ、聞こえる?ねぇってばっ!?」

 

 

 想定外の連続、通信の繋がらない仲間達、向こう側でも逼迫した事態に成っているのは情報源が途切れた千束でも分かる。もはや観光がどうとか言っていられる場合ではなく、執事の言葉に甘えるようで後ろ髪を引かれる思いだが“命には代えられない”、と、退却と合流を千束は選ぶ。

 

 

 「……ごめんなさい、松下さん。その………」

 

 「いえいえ、構いませんよ。仕方の無いことですから。……」

 

 

 困った様に笑いながら、言わなくともいいと、その言葉の先に続く予定を松下は穏やかに受け入れる。明らかに今までとは毛色の違う想定外の連続だったとはいえ、間違いなく今回はプロとして恥ずべき失態だろう。直ぐに緊急時の合流ポイントに向かう為、松下の車イスを押そうとする千束。依頼人を危険に晒した事、仲間の安否、様々な感情が彼女の許容スペースを瞬く間に埋めて行き、焦燥が脳裏を焼き焦がしていると、不意に松下が尋ねて来た。

 

 

 「───ところで、襲撃者を“殺し”たりはしないのですか?」

 

 「────えっ?─────」

 

 

 焦燥感で一杯になっていた頭の中が、突如 真っ白に塗り潰された。思慮外からの質問に思わず硬直した千束、それを気にせず松下は続ける。

 

 

 「相手は大義名分も無く殺人を生業とするような輩ですし、生かす価値もないでしょう。私や貴女方の安全を考慮すれば、それが一番、確実で合理的な方法では?」

 

 

 淡々と、何の気負いも感じさせず、まるで今日のランチメニューを聞くかの様に他者の命の正否を聞いてくる松下。表情こそ変わらず穏やかなままだが、その瞳は一切の温度を感じさせない無機質なモノに変わっており、一瞬、今まで喋っていた相手が誰なのか判らなくなった。確かに、その理屈は、今の状況、相手と自分の立場、物事を俯瞰した優先順位、それらを統合して値札を付けていけば、一番下に為るのは間違いなく襲撃者だろう。だが、つい先程まで朗らかに会話していた同一人物とは思えない程の、鋼の様に冷たく硬い空気と理論は、今までの出来事(楽しげにしていた観光)を夢幻だったのかと錯覚させる。じっと千束の目を見て聞いてきた質問には、誤魔化すことは許さないと念を込められており、その無言のプレッシャーに抗うように、静かに千束は口を開いた。

 

 

 「……ごめん、松下さん。それでも私は………」

 

 「………例え相手が、私の家族を奪った相手でもかい?」

 

 「──っ!?」

 

 

 思わず息を呑み、俯きかけた顔上げ、目を見開く。そこに冗談の色はなく、変わらず冷たい瞳を湛えている。

 

 

 「何もそこまで不思議ではありませんでしょう。事前にお話していた通り、私には非常に敵が多かった。そしてそのせいで私は家族を失っており、その相手は今回の観光をチャンスとし、仕留め損ねた私を今度こそ抹殺しに来た。……私は立場だけではなく、相手にとって都合の悪い情報もたくさん所持していますからね」

 

 

 変わらず淡々と唐突に事実を告白してくる松下。その語りに千束は無意識に足を退きそうになっていた。なにも言えないまま聞いていた千束は、瞳を揺らしながら何度か口を開いたり閉じたりして、すぐさま返事をする事が出来ず、時間だけが正確に過ぎていく。どんな言葉を作ればいいのか?どう言えば、相手を傷付けないか?と、少しの間逡巡する、が直ぐに答えは出た。どんな言葉を書き起こしても意味は無い、と。コレはそういった答えの無い問い掛けで、どれだけ論理的な言葉も、優れた言葉も、優しい言葉も、意味を成さない話だ。ならば自分も嘘偽りの無い言葉(本心)を送るのが一番誠意ある対応だろう。

 既に松下の顔からは表情が抜け落ちており、能面のような無表情のその奥には、ここには居ない誰かに向けた、ほの暗い感情が灯っている。千束は少し時間を開け、儚く微笑みながら口を開いた。

 

 

 「ごめんなさい、松下さん。それでも私は誰かを殺したくない……。私はね、誰かが時間を……命をくれたから今こうして生きていられるんです。だからこそ、誰かの時間を奪う様な事はしたくない。………だから、ごめんなさい。……勿論、松下さんをそのままになんてしませんし、そいつらは きっちりがっちり ふん縛って、警察に突き出しますから!」

 

 

 松下に真っ直ぐに返答し、頭を下げる。松下の言外の護衛に託つけた報復依頼は、それは確かに正当な復讐だろう。だがそれを千束は受け入れる事はしたくなかった。例え悪人だとしても、大事な時間を奪う様な真似は、どうしてもしたくなかったのだ。子供のワガママと言われればそれまでだが、誰よりも時間の大事さを知っている(寿命が限られている)からこその無垢なワガママ。……松下にどれだけ伝わったのか正直分からない、詳しく話すには時間が無い為省いた部分もある………だがそれでも誠心誠意を込めて紡いだ言葉は、松下の纏っていた空気を霧散させた。

 

 

 「……いえ、こちらこそ不躾な事を言い、大変 失礼しました。どうか、顔を御上げください」

 

 

 そう言い、松下も頭を下げるのを、慌てて取り成す千束。謝罪合戦も程々にし、直ぐ様退却準備に掛かる為、松下の車椅子を押し始める。先程の雰囲気が無くなり一先ずは安心する千束だったが、しかし、松下の瞳は変わらず氷のような温度を保っており、必死に車椅子を押す彼女には見えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………そん……な…」

 

 

 ミズキと合流すべく、走っていた たきなが観たものは絶望の第一歩め。遠目からでも判った異変とその結末は、彼女の膝を折るには充分な光景だった。なんとかミズキが地上に最後に居た場所へ辿り着けたが既に手遅れ。

 今も尚、豪快な音を立て、目の前の水面から吹き出る気泡は、彼女が助けを求める声の様にも たきなには聞こえた。

 どこで間違えた?どこで失敗した?どこで読み違えた?グルグルと無意味な間違い探しに思考が空回る。こんなはずでは、と、言い訳染みた言葉が頭の中で木霊し、思い起こされたのは依頼日前日─────

 

 

 

 

 

 

 ─────ねぇ、たきな。私の事を助けてくれるんならさ、序でにミズキ達も助けてよ』

 

 『うぉい!私は序でか!?というか子供か!?』

 

 『僕には是非ともそうして欲しいな。出来れば優先で』

 

 

 お前には聞いてねぇよ!と外野が突っ込む背景での一幕にて、一瞬何を言っているのか分からなかった。助けるも何も、同じリコリコ店員である以上、援護するのは当たり前の共通認識だと思っていたからだ。そんな胸懐を読まれたのか不思議そうな顔をしていると、千束は苦笑しながら続ける。

 

 

 『ほら、私ってさ、戦闘でピンチになることほぼ無いじゃん?その分をミズキ達に回して欲しいんだ』

 

 『……それは、勿論適宜に行うつもりですが……』

 

 『いやいや、たきなって結構私にベタベタっしょ?』

 

 『なっ!?!?』

 

 

 顔を紅潮させ、体を盛大に跳ねさせる たきな。それを観ていた外野達は“え?自分で気付いてらっしゃらなかった?”という顔をする。その後に続く言では、基本的には裏方だから大丈夫だとは思うけどね~、と、話を締め括る。

 

 ……そうだ…そうだった…。千束にとって此処は家であり、リコリコメンバーは家族のようなものだった。千束は愛情深く、思いやり溢れる人間だ。出会った当初は、事務的な対応しかしなかった余裕の無い私にだって、千束は何処までも寄り添って考えてくれた。本部から左遷され、私の目標であり、夢とも言えるあの場所が遠退いたあの時。私に、“まだ全てが終わった訳じゃない、やり直すことも、他の居場所も在るよ”、と教えてくれた。そんな千束に救われたからこそ、此所が特別な場所なんだと思え、いつの間にか心から安らぐ事の出来る居場所になった。そしてこの居場所は、千束を初めとしたリコリコメンバー全員が笑って過ごせて、初めてこの場所は完成する。

 

 

 『問題ない(ノープロブレム)。当機の支援・護衛対象は()()()()()()()()()()()()だと宣言する』

 

 『WHOOOO!!⤴期待してマッセ、旦那!!──────

 

 

 だから絶対に此所は死守する。ナニヲシテデモ───

 

 

 

 

 

 

 次第に水面に上がってくる気泡の数も大きさも減っていく。今、千束はどうなっているのだろうか?直ぐに行かなければ、と思うが、此所からじゃ千束が居てるで在ろう場所は遠すぎるし、そもそも連絡不能に為った時点で、千束達の正確な現在地すら把握出来ていない。なんの確証もなしに動けば、寧ろより事態が悪化するだけでは?と頭の中で弁明が出る………。

 いや、ソレも言い訳だろう……。“千束に合わせる顔がない”、……この感情が一番大きいと思う。……千束に任されたのにも関わらず護りきれなかったどころか、千束をも危険に曝した。もし千束がこの事を知ったらドウナルノダロウカ?嫌われる?悲しむ?怒る?恨まれる?今迄で感じた事がない程の名前の知らない感情の波が押し寄せて来る。気が付けば、全身から力が抜けてその場でペタリと座り込み、水中で溺れているかの様に、体が必死に空気を求めて下手くそな呼吸を繰り返していた。

 “仲間を死なせた”という絶対にしてはいけないミスに、千束は“護衛という名の足手纏いを抱えたまま手練れと交戦しなければいけない”という絶望的な安否状況。事態が好転するイメージがまるで湧かず、様々な情報が残酷に現実を教えてくれる。

 車と仲間はせめてものこの状況下で、移動手段と千束達に駆け付ける事が出来るかもしれないという最後の希望…………それが今、目の前で潰えた。

 

 

 『………俯いている暇は無いぞ たきな、反撃の時間だ………』

 

 「……………………………」

 

 

 唯一繋がる通信相手のクルミが声を掛けてくるが、どこか遠くで空気が震えているだけの様にしか思えず、まるで現実感がない。たきな はソレを、底無しの空虚な心模様で聞くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────我らのスーパーマンが御到着だぞ』

 

 

 何を言っているのか?そんな疑問は聞く間も、思案する時間も無く、答えは直ぐに()()()()()()

 

 水面が急に薄暗く為ったと思えば、突如爆発。大きく歪なシルエットがたきなを太陽から隠す。巨大な物体が急速に浮上した事によって発生した水飛沫は、クリアグリーンの輝きと溶け合う事によって、時外れのイルミネーションを描く。日輪を背にした巨影は()()()()()()()をより一層煌めかせ、耳心地の良い高い駆動音を強めつつ水中から飛び出し更に上昇、適当な所で止まるとその姿を白日の下に晒した。たきなは巻き上げられ霧状に成った水とG()N()()()を肌に受けながら、その正体に目を見開き脳で理解する。

 

 

 『まさか、水中でも活動できるとはな………』

 

 

 無線機越しからのクルミが発した言葉には、呆れ半分も含んだ喜色の声色で、その場を観測していた全員の驚倒を代弁していた。

 ソコに居たのは、水底に沈んだはずのミズキの乗った車を、車底から二本の腕で頭上に持ち上げた翡翠だった。翡翠は直ぐ様 車を陸地に降ろすと、ビームダガー以下の刀身にしたGNビームサーベルで車のドアのロックとヒンジの部分を素早く溶断し、馬力任せに片腕で前部のドアパネルを強引に引っ剝がす。すると、浸水していた水と共にミズキが嘔吐きながらまろび出て来た。

 

 

 「……エホッ、ゲホッゲホッゲホッゲホッ!…神様仏様翡翠様ありがとうございますぅっ!!ガハッ、ゴホッエホッ………!」

 

 「救助が遅れた事に、深く謝罪。ミス・ミズキに直ちに適切な診療を強く要求。ミス・クルミに応援要請」

 

 『もう、手配してる。ちょっと待ってろよ』

 

 「感謝」

 

 

 見えない何者かが仕掛けてきた絶死の罠を、車ごと持ち上げ浮上させるという常識外の方法で突破。未だに逼迫した状況は続いているし、敵の仕掛けてきた罠もこれが全てではないだろう。だが、それでも、今と さっき迄でとは明確に違う。咽びながら早口で捲し立てるミズキを介抱しつつ、翡翠は発言する。

 

 

 「当機から提案──」

 (私にいい考えがある)

 

 

反抗作戦(アベンジ)は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 






 某所・某国の海にて────


  ────……は?……」

 「あん?、どうした?」

 「……いや……なんか、ソナーにな?……人型?ポイッ何か?……が魚雷みたいな速度で動いてんのが映ってな?………」

 「はぁ?なんじゃそりゃ?アトランティス人でも見つけたってか?いや、この場合魚人か?クソッ、ちょっと前にオーバーホールに出したばっかだろーが………。で?水深は?」

 「………500メートル……」

 「……………整備してた連中は何やってたんだよ……ったく……」






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天国へのカウントダウン ~ひとつだけ忠告がある、死ぬほど痛いぞ編~



 次からは大体二週間おきの投稿に成ります。生きるのって大変……。




 

 

 

 

 松下との問答後、人混みを掻き分けながら突き進む千束。しかしその歩みは遅く、仕方がないとはいえ、介護用電動車椅子という非常に大きな足枷は、彼女達の逃走を重く制限していた。通行人を撥ね飛ばす訳にもいかず、人が乗っている以上、重量的にも安全面的にも速度に緊く制限の掛かかった逃避行は、今も着々と見えない刺客との差が縮まるばかり。そんな焦燥感に焦がされている千束の耳に、切れて久しく感じる無線機から、微かな反応がノイズ混じりにフェードインしてくる。

 

 

 『━━━ザザッザッ━━答さ━ザッ━━り返す━ジッ━━度、連絡。繰り返す、直ちに応答されたし───

 

「翡翠っ!?」

 

 

 思わず人目も憚らず、声を響かせてしまう千束。周囲から怪訝な視線を向けられ、肩身の狭い素振りをしつつも、繋がった通信相手に飛び付く様に話し掛ける。今、この緊迫した形勢でやっと繋がった頼りになる援軍の存在は、それだけで幾分かの肩の重荷を軽くしてくれる心地だった。

 

 

 「良かった、漸く繋がった……」

 

 『マスター・千束の無事を確認、心より安堵。そして帰投に遅れた事に、深く謝罪』

 

 「そんなのいいからっ!今、たきな達がどうなってるか分かる!?」

 

 

 自身の安否を憂う言葉を直ぐに打ちきり、情報のすり合わせを行う。翡翠の方は問題なく終わった事。たきな達と連絡がつかなく為った事。そして、今コッチに本命らしき刺客が向かっているらしい事。どこもかしこも無視できない問題ばかりで、もはやどれから手を着けて良いか判らない状況。危険で悪辣な気配がチラ付き、向こうも明らかに只事ではないのは容易に想像が出来る。しかも、翡翠側でも通信環境の悪化が酷いらしく、通信を繋げれたのは逃げ回る千束達を発見して近くまで来れたからだそうだ。

 

 

 『……報告、短時間且つ、限定的にミス・クルミとの通信回復に成功。しかし、彼女達からの情報ではミス・ミズキが危機に陥ったと推測される情報が伝達された』

 

 

 良い知らせと悪い知らせは同時にやって来る。一つのお約束とも言えるジンクスは、今の自分達にも適用されているようだ。曰く、翡翠側から一方的に聞こえる通信では、どうやらミズキが何者かの罠に掛かり、車ごと水中に引きずり込まれたらしく、最早一刻の猶予もない事態に陥っているとのこと。

 車ごと水中に沈められる、それはほぼ脱出不可能な檻に閉じ込められたも同然の状況。車が水に浸かるということは、単に水圧でドアが開かなくなるだけではない、浸水によって内部機器が瞬時にショートし、電子機器的にも操作そのものが出来なくなるという事だ。そうなれば、唯一の脱出口である窓も動作不能に陥り、どんな凄腕ハッカーでも干渉可能な要素は無くなる。クルミは勿論、たきなも陸とは比べ物にならない程の抵抗が在る水中では、ただの無力な一人の少女でしかない。普通の事故でも、車が沈没時に脱出可能な時間が大凡30秒から2、3分だと言われている事を考えれば、完全に詰んだと言って差し支えないだろう。千束の中で一度は鎮火した筈の燻っていた焦燥感が、さっきよりも更に激しく燃え上がる。聞けば聞くほど絶望的なシチュエーションは、背中に氷柱でも挿し込まれた気分だ。千束の口内から硬質な物を擂り潰すような音が鳴る。

 

 

 『………提言。マスター・千束が遅滞戦闘を行っている間に、当機がミス・ミズキの救助に向かう作戦(プラン)を提案』

 

 「……え?」

 

 

 そんな先の見えない暗闇の中、変わらない抑揚で投げて来た言葉に千束は光を見た。

 

 

 『ミス・ミズキの乗車していた車の構造、事故発生現場、経過時間等を統合計算したところ、まだ生存に充分可能な空気が在ることが推測出来る』

 

 「待っ、待って、何をどうす………まさか、潜れるの?」

 

 『肯定。当機は全領域戦闘を前提に設計されている』

 

 

 喜べばいいのか、驚けばいいのか、それとも呆れればいいのか……何とも言えない顔に成る千束。その後に続く自己申告では、最低潜航可能深度は500メートルとのことで、乾いた笑いが漏れた。悉く常識を舐めきったその規格外な性能に、『まぁ~た、常識にケンカ売ってらっしゃるなぁ……』と、益体も無い感想が浮かぶ。未だにDAでは翡翠に関する情報や対応策を求めて奔走しており、あまりの進展の無さに、とうとう専門の大規模部署までも立ち上げられたのだとか。ソコにこの情報をぶつければ、ゾンビの様に元気(秘薬:エナドリドーピング投薬済み)に頑張(うごきまわ)っている職員達は間違いなく浄化された動かぬ屍に戻るだろう。まぁ、それは私達には関係ないから今は置いとく。きっと大丈夫だろう。多分。メイビー。

 

 

 「……翡翠、ミズキ達を任せていい?」

 

 『問題ない(ノープロブレム)。……しかし、その間、貴官らを危険に曝す事になる。………謝罪』

 

 

 此方を憂慮する言葉。嬉しくはある。だからこそ、今ココで送る言葉は、決まっていた。千束は不敵な笑みを浮かべながら言い切る。

 

 

 「私が強いのは知ってるでしょ?だからコッチは気にせず行って来て!」

 

 『……了解(ラジャー)。呉々も遅滞戦に務め、直接戦闘を避けるようにされたし』

 

 

 後顧の憂いは既に無い。

 隠す事はしても嘘をつく事はしないの(出来ない事は口にしない)は知っている。頼れる仲間が“助けれる”と言ってるのだ。クルミから最後に受信した情報と、翡翠が先程まで取得し続けていたデータを再計算したモノを受けとる。相手の容姿、敵の移動ルートの予測、松下用の逃走経路情報、必要な情報は全て貰った。ここまで御膳立てはしてもらったのだ。ならば後は自分が上手くやるだけ。

 

 

 『マスター、御武運を』

 

 「アリガトッ!翡翠もね!」

 

 

 問題ない(ノープロブレム)、それが今の両者の合言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町とは、無機物の集合体である。木や動植物で構成された森とは違い、一度出来上がれば成長することも枯れる事も無い、鉄とコンクリートを主成分にしたジャングル故の不変の集合体。にも関わらず町は年を、季節を追う毎にその姿を変えてゆく。男女が夫婦となれば住まいが建ち、アレを食べたいコレが食べたいと言う者が集まれば食事処が、より人が集まれば病院が、学校が、ビルが、ありとあらゆる建物が建つ。そうやって何度も 何度も何かが出来上がったり、今在る物のを壊したりして、生き物の様に長い年月を掛けてその姿を変えていくのが町だ。

 そんな町の小さな変化の一つが行われている人気の無い工事現場を、警戒しながら横断する刺客の男は着々と標的に迫っていた。

 

 

 「(……チッ、あの時の監視カメラか?………コレは少々不味かったかもな………)」

 

 

 今回の依頼はある老人の暗殺。狙われる理由はまぁ、判る。だがその事を成すためのバックアップ、もとい、作戦がキナ臭かった。確実に事を進めるために、複数のチームで陽動、そして本命である自分が仕上げるという内容なのだが、バックアップの者達には作戦を確実にするために全貌を説明していないらしく、依頼主が指定した時間と場所毎に襲撃をしてもらうよう手配をしているそうだ。鈍い者なら“そんなものか”で流してしまいそうだが、男はそうではなかった。

 

 

 「(確実に殺したいなら、何故全員に情報を共有させようとしない?下手すれば同士討ちになる場合も有るぞ?それに、この妙な指定時間と場所は何だ?………)」

 

 

 護衛を引き剥がすのは判るが、その戦力と場所が男目線では珍妙すぎた。こういう場合、素人である依頼主本人ではなく、プロである自分達が要望を伺いながら主導で作戦の立案するものだが、それを相手は頑なに拒否。依頼主にも何かしらな理由もあるのだろうし、それを汲むのもプロというものだが、今回の依頼は金の掛け具合にしては本気で殺ろうとしているようには見えない。それなりに戦地を歩いてきたからこそ拭えない違和感。しかし、最早 後の祭りである以上、止めるという選択肢も無い。『今回ばかりは、聞いておけば良かったか?』と、男のポリシーに罅が入りそうになっていたその時、何が変わったのを頭の隅で直感が囁く。余計な事を考えながらも、鋭敏に研ぎ澄ましていた感覚は、確かに自分の身に危険が迫っていた事を教えた。ふと、依頼主のバックアップの一環として、暗殺対象に付けられていた発信器の行方を視れば今まで闇雲に動いていたターゲットが、此方の位置を明確に意識した動きになっており、それを確認して直ぐに護衛が迎撃に来る事を確信。

 作りかけの壁を背にし、より五感を張り巡らせて思考を回す。

 

 ……あの時から気付かれていた様な素振りは有ったが、コレは確実に此方の今の位置を把握している動きだ。………此処では周囲にドローンや監視カメラの類いは無いはずだが…。……それに、気付いたのに発信器は動き続けている?……どちらにせよもう宛にはならんな。

 

 静かに余裕をもって、されど素早く拳銃を構え備える。第六感とも言える、論理的な根拠に根ざしていない、一見すれば、ただの当てずっぽうような判断。実戦という場で、十把一絡げな凡夫がやればただのピエロにも成れず、不様に屍を曝すだけの行為。しかしそれは、濃密な経験と結果で、今までも、そして今も、実利をもって証明して来た男にとっての信頼できる武器の一つ。相手の動向が変化した時刻、相手と自分の位置関係、対象の護衛人数とその装備と容姿、周辺の地理と構造、雑念を排除してクリアに整理していき、直ぐに大体の目星へと睨みを利かせる。そして予測は見事に当たった。男の視線に炙り出された様に、乱立する武骨な建築中のやや高所の足場から、紅い影が飛び出す。軽やかに、撓やかに、されど鋭く迫り来る影。しかし、距離としてはそれなりに離れており、自身の技量なら十分に射程範囲内という有利な条件。着地を狙い、落ち着いて、冷静に、トリプルタップ。

 

 牽制と目測の為の一発目、当たらないのは想定内。

 

 修正を加えた二発目、これも当たらないが初弾同様これも想定内。

 

 本命の三発目、対象の体がほんの少し傾き、狙いが逸れる。

 

 絶対の自信が覆され、瞠目する。対象が高速で動いている以上、ある程度外すのは想定内だが、全弾全て当たらなかった事は想定外だった。だが、焦りはしない。冷静さを欠いた者から死んでいくのは軍場での掟、故により引き付けて、放つ。が、確殺の狙いは、駆けてくる少女がヒラリと舞うだけで逸れていった。

 

 

 「──!?」

 

 

 そこで漸く気付いた、相手が()()()()()()()()事に。回避運動(体を振り回す事)を行い躱される(外される)事は今までも多少なりに有ったがコレは違う、正確に此方の射線を読んで最小限の動きで迫ってくる異常な敵。ここに来て僅かな焦りが生まれる。何故か相手は発砲してこないが、明確な敵である以上あまり面白い事には成らないだろう。マガジンを空にする勢いで速射し、対象の進行の阻害を試みるが、その動きに淀みは無く、真っ直ぐ躱しながら駆けてくる。最早目と鼻先まで接近されており、飛び道具は無用の長物。格闘戦に意識と装備を切り替る、が、ココで相手は更に加速し、男の迎撃距離をすり抜け、腕を振り抜くように銃口を押し付け、ほぼ接射といって良い距離で乱射。

 

 

 「ッラアァッッ!!」

 

 「ッッッッーー---!!??」

 

 

ボディアーマー越しに連続で叩き込まれた強烈な衝撃は、大の男でも一発で悶絶する程のモノ。ブレる視界の中、それを受けた男は胸襟で己の未熟さに叱責と、相手の少女の特異な戦闘能力を称賛しながら吹き飛び、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………ふぅ……」

 

 

 今しがた撃破した男を見据えつつ周囲も警戒する。正確な射撃と此方の位置を即座に割り出した洞察力に、不利な状況下でも鈍らない判断力は、看板に偽りなしの強かなベテラン。翡翠から、刺客の装備情報の予測や松下の安全確保が出来ていなければ、非常に厳しい戦況に成っていたと痛感させられる相手だった。だがそれも終わり、直ぐにたきな達とも合流しないと、そんな思考に傾き始めたところで、場にそぐわない落ち着いたクラップ音が響く。

 

 

 「……お見事………そして、ご無事で何よりです」

 

 「……松下さん?………」

 

 

 振り返れば逃がしたはずの依頼人、松下がそこに居た。何故やって来たのか?そんな当然の疑問を聞く前に松下が先に口を開く。

 

 

 「……最後に御伺いしますが、本当に“殺し”はしないのですね?………」

 

 「っ!…………うん、しない…………」

 

 

 再び問われた選択。あの時と同じ無機質な冷気に一瞬、息を詰まらせるも、ソレをキッパリと拒否。より安全を期す事を考えるなら相手の息の根を止めるという選択は、今からでも遅くはない確かな方法だ。だが、“それでも”と、意味を込めて千束は見つめ返す。個人的な願いが多分に含まれているその選択に忍びなく思いつつも、絶対に答えを変えたくなかった。不格好なのも、矛盾しているのも、全て引っ括めて自分で、ココで曲げてしまえば全部嘘に成ってしまうから。

 ぶつかり合う視線、実際はほんの数秒にも満たない短く濃密な時間を経て、松下は静かに深く目を閉じ納得するように頷く。

 ──そしてそれを()()()()()()()()

 

 

 「そうですか………成る程、()()()()……という訳か………」

 

 「………松下さん?………」

 

 

 松下は徐に、車椅子を刺客の男へと向かわせる。何を言っているのか?そんな事に思考割いて、自分とすれ違い更に刺客へ あと数歩という付近まで接近するのを呆けて観ていた千束は─────()()()()()()()()

 

 

 「………動かないで……」

 

 「…………」

 

 

 今までの会話、松下の真意、そして今回の異常なアクシデントの連続。言い様の無い不安の中、点と点が嫌な予想で繋がっていく考えを振りほどこうとする。やるせない表情のまま千束は護衛対象である松下から銃口を外さずに警告。

 

 

 「…お願い、松下さん。その人から離れて………」

 

 

 言葉の先は聞かない、嫌な予感ほど当たるものだから。だが、それは無意味な抵抗だった。なぜなら相手は、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「……貴女こそ、私から離れた方がいい」

 

 

 そう言うと、手元のパネルを操作してから、緩慢な動きで車椅子から立ち上がり、刺客に更に近付いて行く。

 

 

 「()()には爆薬が仕込んである。この日の為に用意した特別製だ」

 

 

 構えた銃口がぶれる。続く解説では、起爆自体は手動でするつもりだが、保険として私やコレに少しでも何かが遇れば即座に起爆するようにした、と。「……どうして?…」、溢れた心の悲鳴はとても弱々しく震えた声。距離もあり、小さな声だった筈なのに、後ろを向いたまま松下はそれに答えるように語りだす。

 

 

 「………私の未練はね……家族の仇を打つ…それだけだったんだよ。……だからこそ、今日まで生き恥を晒してきたんだ。…守れなかった妻も、娘も……この、今日という仇を討つためだけにね………コイツで最後なんだ……コレで……あの日のケジメがつけれる」

 

 「……松……下…さん?…………」

 

 

 声が震える。今も非力な老人の声量にすら負ける程度のか弱い抵抗は、痛々しさしかなく、時おり吹くそよ風にすら勝てない。

 

 

 「…君達には悪い事をした……謝って済む問題ではない。……しみったれで傍迷惑な爺からでは大いに不満だろうが、報酬金とは別に用意した示談金は、既に支払う手筈に成っている。……端金だが、受け取ってくれると幸いだ」

 

 「……やめて……」

 

 

 その語りは、ただ壁に喋っているだけのよう……いや、実際に対話をする気は無いのだろう。先程からチラリとも千束を見ずに一方的に聞かせているだけだ。

 

 

 「さぁ、離れていたまえ。……私としても、貴女のような器量の良い娘を巻き込むのは本意ではない。……何より、向こうで妻と娘に怒られてしまう……」

 

 「…松下さん……!」

 

 

 ココで漸くクルリと振り向き、困ったように微笑みながら千束を見て。

 

 

 

 「そして、最期に成りましたが…素敵な観光をありがとう──

 「松下さ────

 

 

 

 最期に張り上げた千束の声は、押し潰すように向かって来る光と音の壁が掻き消す。一際柔らかく微笑んだ松下を見て駆け出そうとするが、その間際、後ろから伸びてきた白く嫋やか細腕が、千束の首に巻き付き、後方へ引き倒して誰かが覆い被さる。それを境に視界が白く暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………──ち───と!───束────千──………」

 

 

 何処かで誰かが呼ぶ声がする。明滅する視界、ボヤけた聴覚、ハッキリとしない思考が次第に輪郭を縁取り始め、ある一定の越えた先で、漸く認識出来るようになった。

 

 

 「───……た…きな……?」

 

 「千束っ!!」

 

 

 まず目に映ったのは、今にも泣き出しそうに顔を歪ませた たきな だ。そのたきなに支えられ、軋む体に鞭を打ちながら上体を起こせば、次に飛び込んで来たのは濛々とした命を否定する黒い残り火と煙。作りかけだったとはいえ、ヒビ一つ無く、これから何十年もビルや人を支える筈だったコンクリートは粉々に砕け、自分の肩幅と似たような太さの鉄骨まで折れ曲がり、爆発の規模と威力を雄弁に物語る。たかだか人間二人程度なら、欠片さえ残さず消し飛ばしても尚お釣りが帰ってくる程の惨状。

 

 

 「………う、ぁ…ぁ………!」

 

 

 絞り出すように出てきた呻き声は、後悔と懺悔に塗れていた。もっと上手く出来ていれば、もっと早く気づいていればと、今さら意味の無い感傷で顔が歪み、溢れ出る悔しさは、掌に爪が食い込む形で発露する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『…………焦らすのが上手すぎじゃないのか?色男』

 

 「肯定。本日の当機は、()()()()故に」

 

 

 

 空気を読まない軽口が無線機と目の前から飛んで来て、絶望の暗幕が、光る風に吹き散らされる。

 ソコには()()()()()()が二人の男を小脇に抱え、爆心地から千束達を遮る様に居た。

 

 翡翠の謎の比喩表現に「何だソレ?」と、クルミが喉奥で笑いながら返す。千束は今度こそ全身の力が抜けて、立てなかった。

 

 

 

 

 

 

 







たきな「皆離れろっ!松下が爆発するぞっ!!」

松下「ホァァァァァァァァァァッッ!!!」



※コレに出てくる松下は原作松下では有りません。次回などに明かしていく予定ですが、原作の『ラジコン松下は出せなかった』というのが本音なんです。なんせ、横に立って魔法のスーパー粒子をチョロっとばら蒔くだけで、ラジコン操作をぶった切れる奴が居るもんで(白目)………。これからも、そういった変更やバタフライエフェクトを意識して書いて行くと思うので、それでも良ければお付き合いください。

※分かり辛かった人の為に再び改変松下を掲載します。
 
【挿絵表示】






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こっちの事情も知らずに、暴力はいけませんよ(棒)



 デュナメスのアイカラーって、グリーンだということを、最近になって知りました。(エクシアの目と一緒と思っていた勘違い野郎)プラモまで作ってた事有ったのに致命的過ぎる………。
 最後に、想定以上に切りが悪くなった為、いつもの約二倍の文字数に伸び伸び。



 

 

 

「──ええ………ええ、お待ちしております」

 

 

 電話で事務的なやり取りをしている(ミカ)背景(後ろ)で、何台かの車が停車している河川敷を、夕陽が鮮やかに朱色に染めている。あの爆発後、今度こそ打ち止めと成った今回の騒動に、俺とクルミは直ぐに事態の収拾に乗りだし、漸く目処も立ったところでミズキを回収して千束達とも合流、そして此処に集まった、という次第だ。

 

 

『……妄執に囚われた人間ほど危険極まりない……話だけはよく聞きはするがな………』

 

 

 無線機越しに感想を漏らすのはクルミ。二人して思い返していたのは、松下の真意と復讐劇の結末。

 クルミの調査で分かった事だが過去、松下は企業内のとある重役に、事故に見せ掛けた襲撃を受けて、妻に庇われる形で娘共々に亡くしていた。当時の松下は内外ともに家庭人で通っており、妻にも娘にも溺愛していたのは広く知られていたらしい。娘もすくすく育ち、幸せのピーク、というタイミングで自身にとっての全てを奪われた松下の傷心は、計り知れないモノだったろう。実際にその際は、荒れに荒れていたと執事は語っている。その後、松下は表面上では穏やかに余生と療養を送るフリをし、水面下で復讐の機会を虎視眈々と待ち続けていたようだが。

 

 

『実行犯はとっくの昔に死んでいたよ。記録には残らないよう、行方不明という形でな』

 

 

 が、当の実行犯達は、犯行後数週間以内に雇い主に全員殺されていた、口封じの為に。

 

 

「……一応聞くが、重役の方はどうなったんだ?……」

 

『こっちは廃ビルで自殺、という形で遺体が見つかったそうだ。……相当に損傷が激しかった不審死だがな……』

 

 

 ……その犯人は語るまでも無い。彼はやり終えた、と言っていたからな………。重く大きなため息を鼻でするが、それでも気分は少しも晴れない……恐らく、クルミも同じ気分だろう。

 そして千束と相対した刺客、俺の昔の同僚、“サイレント・ジン”ことジンにも事情聴取を行い判明した事なのだが、ジンは件の暗殺に関わっていない事も判った。その根拠は、その日時、俺と共にまったく別の場所で仕事をしていた為、という揺るぎようの無い事実が在ったからだ。さらに詳しい話を両者から擦り合わせて聞いていけば、松下への協力者とジンへの依頼者は、同一人物の可能性が浮上しており、キナ臭過ぎる話に俺は自然と眉間にシワを寄せていた。

 

 そもそもの話、何故、松下はジンを件の襲撃実行犯だとそのまま鵜呑みにしていたのか?という事も聞けば、その人物は唯一の情報源にして恩人のようなモノだったそうな。

 松下も独自に家族の死の真相を追っていたが、“ある程度犯人の目星を付ける”迄は出来たがそれが限界だった。相手は小物だが、それ故に自分の保身に関しては変質的なまでに徹底しており、真っ当な手段で報いを受けさせるのは難しい。と、なれば、“相手と同様に外方な手段を”と、考えたが、自身には相手のガードをすり抜けて事を成せるだけの実力者へのコネも無ければ、信用出来る筋もない。老い耄れ一人では刺し違える事すら出来ないと、途方にくれていたその時、()()()は現れたそうだ。

 例の重役の件もその協力者のお陰らしく、手厚い協力の下、『実行犯最後の生き残りは相当な腕利きです。その男を誘い込み、確実に事を成す為には、気取られず、それでいて、頼りに成るガードが必要。そして私にその宛が在ります。』と、教え込まれていたそうだ。それまではビジネスライクなやり取りしかしなかったその人物が何故か、かなり無理強いな、“()()()()()()()()()()()()()()”という計画を立てていたみたいだが、松下にとっては最早些事な事。爆弾にも幾つもの千束に殺人を強制させるような工夫が施されていたらしいが、後は知っての通り、強硬に推し進めた結果がアレだ。

 つまり顛末は、“復讐に取り憑かれた哀れな老人が、謎の思惑に踊らされ、我々も巻き込んで盛大に自爆しようとした”、というモノだ。

 当の本人である松下は、バンのバックドアのスペースに座らせており、それを千束が暗い顔のまま行く手を遮る様に立っている。我々は千束後ろで待機するように居た。

 

 

「…………大変、ご迷惑を御掛けしました。………これで、正式に依頼は完了。……報酬も、示談金も用意してあります……それでも足りないなら、改めて後日用意します…………」

 

「松下さん………」

 

 

 私が悪かった、話すことはもう何もない、だから放っておいてくれ、その態度を表すならこんなところだろう。

 力無く項垂れながら喋る松下を、辛そうな表情で見る千束。その構図ではどちらが加害者か判らぬ絵だったが、それで納得出来る訳がない。幾ら正当な理由が在ろうとそれはそちらの都合。そのまま終わらせる積もりは無い、とはいえ、お互いの今の心情では建設的な会話をするのも難しい。言いたい事も聞きたい事もまだまだ有るが、今の松下では逆効果にしかならんだろうな。あの車椅子もただの隠れ蓑としてだけではなく、ある程度は本来の機能も付いていたようで、彼の顔色も余り良くない。

 

 

「ミスター・松下に疑問」

 

 

 そう判断し、千束達を連れて離れようとしたその時、集団から離れ、千束よりも前に出て奴は宣った。

 

 

「貴官の生存は、()()()()()() ()()()の尽力有ってのモノと当機は認識している。貴官は、それを()()()にするのが目的か?」

 

 

 奴から飛び出たのは、誰がどう聞いても質の悪い煽りか挑発文だった。完全に思慮外だった俺達は勿論、松下も絶句しており、ほんの数舜時が止まる。が、それは嵐の前の静けさそのもので、直ぐに当たり前の反応が目の前から爆発する。

 

 

「───きっ、貴様にっ、貴様に何が分かるっ!!あの子はっ、彼女はっ、わたっ───グォッ……エ゙ホッ、エ゙ホッ、エ゙ホッエ゙ホッッ!……」

 

「──松下さん!?」

 

 

 先程まで項垂れていた老人とは思えないほど気炎を上げ、翡翠に向かって弾かれるように飛び掛かるが、急激な体調の変化に体が付いてこず、ズルズルと奴にもたれ掛かるように崩れていく。それを千束が咄嗟に支えようとするが、鋼鉄の腕がそれを阻んだ。千束が怪訝な視線で奴を睨み、俺やミズキも何の積もりだ?と、視線で問うが奴は構わず続ける。

 

 

「更に疑問。貴官の行いは、ミセス・七尾の成果を無意味にする以外、当機は理由を見出だせない。反論が有るならば根拠を提示されたし」

 

 

 変わらず続く挑発文で、奴は松下を殴り続ける。まだそれ程長い付き合いではないが、それでも言葉の意味や人の機微が分からない、なんて事は無いのは良く知っている。だからこそ俺達は理解に苦しみ、千束に到っては、それを通り越して怒りの感情すら滲んでいる。

 

 

「……はぁっ、はぁっ……きっ……貴様程度がっ……私の何が分かるっ………!!」

 

 

 なけなしの体力から絞り出した怒りを奴にぶつけるが、冷たい鉄の体の前では空しく跳ね返るだけ。無神経にも程がある物言いに、流石にこれ以上そのままにする訳にはいかんと、口を挟もうとするが奴はその前に話を打ち切る。

 

 

「同意。貴官の発言通り、当機は貴官らをデータ上でしか把握していない。故に、これより先は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 梃子でも動かん、と、その場を固辞していた奴が、ココで漸く動き、我々という人の壁を優しく押し退けながら後ろへの道を作る。何事かと視線を後方へ向けると、遠くから見覚えの有る人影がツカツカと早足でこちらに向かって来るのが見えた。夕日を背にしているため少々判断し辛かったが、先程俺が連絡した事もあり、あの時の執事だと直ぐに分かった。が、どうにも様子がおかしい、その様子の理由は到着と同時に分かる。

 

 乾いた音が河川敷に響く。

 

 響く、といっても、実際の音は大したモノではない。嫌に意識が集まっていた中で、()()()()()()()()()、という執事の行いに、全員がギョッとして驚いたが故だ。執事は膝を突き、片腕で松下の体を支えながら、震える声で静かに猛る。

 

 

「……何ではたかれたか分からない、って顔してんな……ええ?……」

 

「……………」

 

 

 我々とは入れ替わるように松下と向かい合っている為、後ろ姿しか見えないが、その雰囲気だけで彼がどんな顔をしているのかは容易に想像が付く。彼は怒っているのだ、此処に居る誰よりも。ソコには、今朝に見た品行方正を突き詰めた執事の姿は無く、外聞も取り繕いも棄てた、感情を剥き出しにした一人の人間。良く見れば、手には何かの封筒らしき物が握りしめられており、それをこれ見よがしに松下に突きつける。

 

 

「……なぁ、何だよコレ?……こんなもんで俺が納得すると思ってんのか?……なぁ、おいっ………!」

 

 

 肩越しからではチラリとしか見えなかったが、「遺」等の文字が書かれていたのは分かり、ソレだけでも今までの出来事を合わせて考えれば、中身の正体におおよその予想は付く。

 

 

「……あん時よ、色んなモンが変わっちまったよな?……俺達な…色んな所から声が掛かってたんたぜ?哲や玉城のバーさんだけじゃない、俺にもだ…………!」

 

「……………」

 

「今よりもずっと厚待遇で迎え入れる、って言われても俺達ゃアンタの屋敷から離れなかった……」

 

「…………………」

 

「……アンタが、俺を人間にしてくれた……。……他の奴だってそうだ、アンタに世話に成った奴ばっかだ……!──

 

──金じゃねぇんだよ……一緒に生きてくれよっ………!!」

 

 

 一方的に紡がれる言葉は断片的で、彼らしか分からないモノばかりだが、ソレにどんな想いが、どんな願いが含まれているのかくらいは部外者でも分かる。今も震える腕で松下をがっしりと掴み、仕事着が汚れることも厭わず松下と向かい合う。対する松下はバツが悪そうに、執事から目を逸らして沈黙したままだ。ソレを心配そうに観ていた千束や俺に、ココで無線機越しで奴の指示が来る。

 

 

『推奨、移動』

 

 

 でも、と、千束が視線で訴えるが、奴は構わず俺達を押し出す。奴に急かされるまま俺達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………思いの外…嫌な奴なんだな、お前………」

 

 

 彼らの全体が俯瞰できながらも、会話が聞こえないくらいには離れたやや小高い場所で、俺は奴に私感を述べる。今回の松下の行いに、俺もそれなりに思うところはあるが、それでもタイミングを見計らうくらいの冷静さは在るつもりだ。だが今回の奴の行動は、控え目に見ても、感情のまま相手の傷口を抉りに行った様にしか見えん。店での応対や、千束達には秘密裏に斡旋した仕事の内容を知ってる身としては、余計にそう強く感じる。

 

 

「……今回、ミスター・松下の行いは規約違反だけではなく、我々に対する明らかな背任行為。情状酌量の余地を鑑みても、先程の疑義は軽い刑罰と当機は考えている」

(ハンッ、あの爺さんのした事はどー考えても契約違反どころか、裏切り行為丸出しですぜ?むしろコレくらいで済んで激甘判決だぜ。それに俺ぁ、質問しただけだしな!)

 

「───ッ!でもだからって………!」

 

 

 素っ気ない返答に隣に居た千束が噛みつくが、奴は変わらず静かに彼らの方へ視線を向けたまま千束に取り合おうとしない。……ある意味、人間らしいといえばそうなんだが、少々後味の悪い日々を過ごしそうだな、と憂いていると、先程の執事がやって来る。目元が腫れ、あのパリッとした燕尾服もやや薄汚れてシワが出来ているが、身持ちを直しながらやって来るということは、一先ず向こうさんの話は終わったようだ。

 

 

「この度は、旦那様に代わり、大変な御迷惑をお掛けした事に、深くお詫び申し上げると共に、旦那様の救助に、重ね重ね、感謝いたします。」

 

 

 身なりこそ少々乱れているが、その礼は今朝の姿と変わり無くピシッとしたもの。流石はプロ、切り替えも早いものだ、と、言いたいがその心中がまだまだ針の筵なのは、彼から発する気配で何となく分かる。我々が何を言うべきかと言いあぐね、ほんの少しの間だが、続いた無言の時間は、彼の心を加速度的に締め上げていた。それに焦り、再び詫び言葉を並べようと口を開きかけるが、その前に奴が一歩前に出て口を開く。

 

 

「……ミスター・谷村に、最終確認」

 

 

 予想しなかったところからの声の持ち主に、驚きながら彼は顔を上げる。俺達もまたぞろ口撃を浴びせるつもりかと、機先を押さえる積もりで身構えたが、奴は俺達の想定の斜め上のモノを投げつけた。

 

 

「ミスター・松下の現在の精神状態は、非常に不安定且つ衰弱しており、速やかなメンタルケアと保護が急務」

 

「しかし、ソレを行うには、ミスター・松下と相互的な信頼関係を持ち、赤心から当人を支援可能な人物でなければいけない────」

 

 

 淡々と、マシンらしい、抑揚のない声で奴は読み上げる。

 

 

「───故に、最終確認。

 

 ミスター・()() ()()()()、貴官に可能か?」

 

 

 身構えていた俺達が耳にしたのは殺し文句。俺達も面を喰らったが、それ以上に喰らったのは間違いなく目の前の彼だろう。なんせ今回の松下のした事は、最悪の事態にならなかったから良かったものの、どれだけ謝罪を積み重ねられても到底許されるものではない。現に目を見開いて直立不動になっており、罵詈雑言を浴びせられると構えていた彼には不意打ちもいいところ。俺達以上に動揺しているのが良く判る。そして当の奴はというと、言い終わると同時に、今まで周りの邪魔に成らぬようにとマントを羽織る様に前面に持ってきていた、深緑の外付け装甲の片方を外へ稼働させ、緩やかに拳を突き出す。

 少しの間、先程とは全く違う無言の時間が生まれた。

 

 

「……ハッ……パンチの1発や2発は覚悟してたんだが……まさか激励を叩き込まれるたぁなぁ。……頭が上がらねぇなぁ、おい…………!」

 

 

 ここまで言われれば、彼の立場ではどう足掻いても逃げ道は完璧に絶たれた様なもの。にも拘らず彼の顔には一切の陰りも曇りも晴れていた。

 

 

「……クールなお方だと思っていたが、中々どうして……お熱い方じゃねぇか……………」

 

 

そして、こんな文句を言われ、その挙動が何を意味するかなど、第三者である俺達でも判る。

 

 

「ああ、任せろ!()()()殿()!!」

 

 

 谷村も片方の白手袋を外し、鋼の拳に自分の拳を突き合わせた──

 

───………………………………………………………。

 

…………………………………………。

 

……………………。

 

…………!!?!?!?!!????

 

 

 『ちょっと待て!僕はソイツの中の人じゃないぞ!?』、とかなんとかクルミがドローンで抗議を上げようとするのを、千束が獲物を待ち構えていたカマキリの如く、素早く捕獲。話が拗れる事を察した他の一同は、そういうことにする。その後、後日この件に付いての話し合いを行うと確約し、彼らが一先ずの帰って行くのを俺達は見送る事にした。クルミの抗議(ツッコミ)は哀れにも闇に葬りさられる。ショッギョ・ムッジョ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ねぇ、どうしてあんな事言ったの……?」

 

 

 あの鮮やかだった夕陽もあと少しで終わる夜空の下、漸くやって来た迎えの車に松下は乗せられたが、その間も此方とは顔を合わせ無いようにしていた。執事が最後まで深々と下げた礼が印象的だったな、と思い耽ていると、千束が奴にポツリと問う。目を細め、走り去って行く車を見送りながら。

 

 

「………ミスター・松下の現在の精神状態では、第三者である我々の主義主張を納得させる事は不可能と、当機は認識している………」

(正味のところ、今のあの爺さんにゃあ、俺らみたいな通りすがりの声なんざ雑音にしか聞こえねぇだろ………)

 

「そして、当人物を再び存命へと渇望させる事が出来るのは、我々ではなく、ミスター・谷村とその同僚達であると、当機は主張」

(んでもってよ、生きる気力を無くしたあの爺さんを、もう一回立ちあがらせるのを出来んのは、一緒に生きて来た奴らだけだ。)

 

「…………手厳しいね…………」

 

 

 少しずつ、小さくなっていく車を見つめながら帰ってきた返答は、シビアな正論。執事との遣り取りで、決して相手が後はどうなっても良いと、思っている訳では無いのは解ったが、千束には不安なモノは不安なのだろう。

 

 

「……大丈夫かな……?」

 

「……ミスター・松下には、心から寄り添い、苦楽を共に乗り越えてきた篤実な人物達と、極めて強力な社会保障を保有している。結論、彼らに大きな障害は存在しないと判断──」

(……まっ、大丈夫だろ。金も持ってるし信頼できる奴も居てんだ、後は、お医者様だったり、メンタルセラピストなり呼べば良いんだからよ。)

 

「──問題ない(ノープロブレム)

 

「……そうだね……」

 

 

 奴はソレで話を締めて、千束を急かしてミズキ達の方へ向かわせる。ミズキとたきなは少し前から車の中で休ませており、何時でも帰れる状態だ。後は俺が乗れば良いだけなんだが、そのまま少し夜風に当たるフリをして、奴の隣に立って続きを聞くことにした。

 

 

「……ミスター・松下は人財だけではなく、非常に充実した環境も所持している………」

(……そもそもの話な、あの爺さんはスッゲー恵まれてるんだぜ?……)

 

「当該人物は、未成熟な子供と違い、問題を対処する上で充分な自由と経験を有し、自身の望むままに選択を行う事が出来る大人である」

(あの爺さんは自分で好きな物を選ぶ事が出来るオトナだ。逃げることも選ぶことも出来ねぇ子供と違ってな?)

 

「そして大人とは、自身の選択に、責任を持って対処しなければいけない立場であると当機は強く主張。故に、それらを統合し、熟考した結果、現状、彼らだけでも充分に再起可能と判断。……結論、成人であるミスター松下には、これ以上の支援は過剰と思われる」

(だったら、いい加減テメーのケツくらいテメーで拭けってハナシ。酸いも甘いも経験してきた()()なんだからよ。自分で立ち上がる方法も知ってるし、ソレを手伝ってくれる奴も居るんだ、それくらいやって見せろよ。)

 

「…………お前の話は耳が痛いな…………」

 

 

 ……本当に耳の痛い話だ…。今度こそ、最後に成った話を聞き終わり、俺も車に向かう。歩きながらふと思い出したのは、楠木もそんな感じの事を言われた、と、愚痴を溢したことだ。流石にそろそろ帰る為に車に乗り込み、もう1つ問題が残っている事をそういえば、と思い出す。

 

 

「(……さて……こっちの問題はどうしたものか………)」

 

 

 翡翠以外が全員乗った車内で、ずっと沈黙を貫き続けた たきなを横目に。

 

 

 

 

 

 

 

 

~オマケ~

 

 

 

 

 

「優秀な部下を持ったな、ミカ…………」

 

 バイクに跨がりながら、俺はかつての同僚と向かい合っていた。ミカの隣には、部下らしき者達が並んでいて、俺を見送ってくれるらしい。聞いた話では、その部下の意向で俺は生かされているらしく、なんとも甘いことだ、と思わずにはいられない。尤も、その甘さで俺は生きていられるのだから、感謝は言っても苦言を言う権利はない。そして情けない話だが、棄て駒はどうやら俺もだった以上、この仕事を降りることも伝えた。……後は此処から去るだけになったのだが、どうしても気になることが有るため、俺は恐る恐る聞いてみる事にした。

 

 

「……それで……その……ソコに居るのは、何、何だ?………???」

 

 

 疑問を口にしながら、可能な限り視線を合わせない様にしていた、良く分からないナニカに目を向ける。先程から彼女達と共に色々と作業をしていたから、仕事仲間(?)、のような何かだとは判るが、理解できたのはそれだけだ。ミカの足の事も気になるが、ただ、まぁ、それ以上に良く分からないナニカが、視界の端で凄まじいプレッシャーを放って俺にガンを飛ばして来ており、正直………凄く居心地が悪い。ソレを聞かれたミカもどう言えば良いのかと困りながら返答した。

 

 

「あーー、なんだ……その、アレだ……世界最強の家政婦ロボット?……だそうだ……」

 

 

 ………うん。何だ、それは?これはアレか?『何で家政婦ロボットがこんなところに居る』、とか、『そもそも最強の家政婦ロボットって何だ?』と俺はツッコメば良いのか?それともアレか?もしかして俺は試されているのか?だとしたら俺は何を試されているんだ?リアクションか?ボケか?と、一通り脳内で自分会議を急遽行っていると、元凶の家政婦ロボット(仮)に動きがあった。

 

 火花が散るほど激しい音を立てて額の黄色いV字のパーツが下り、1つ目の様にも見えるカメラらしき物が露になる。すると、家政婦ロボット(仮)は徐に足元に落ちていた、大きめのコンクリート片を拾い上げた。人間が片手で持つには、サイズ的にもソコソコ苦労しそうなソレをゴムボールでも投げるかのように真上へと、腕の肘の力だけで青空へ天高く投げる。…………大した馬力だなぁ、と、遠い目で眺めていると、今度は素早く投げて空いた腕を腰の後ろに回し、掌から少しはみ出るくらいの白いバーの様な物を取り出して、自分の体の横に構えた。そのまま黙って観ていると、そのバーの様な物から眩く光るピンク色の棒の様な物が、何だか物騒な音を立てて現れる。……サイリウム棒?と思ったがすぐにその期待は否定された。落ちてきたコンクリート片は光るピンク色の棒に触れると、ジュッ、と音を立てながら二つに割れた。それはもう綺麗に。断面は明らかに融けて赤熱化し、融けた部分が雑草と地面を焦がして、河川敷に吹いた風が焦げた臭いと熱を俺へと運んで来る。今しがた出来た、足元の小さな火事現場を全員で観ていると、家政婦ロボット(?)は片足を大きく上げ、そのまま火事現場を鋼鉄の足で踏み抜く。腹の底に響く音と衝撃が生まれ、小さな火事現場は、深さ数センチの異形の足跡に変わって消火。後、俺は若干浮いた。バイクごと。顔のV字パーツが再び上に上がり、人間のように備えられた、綺麗なクリアグリーンの目が、独特の高い起動音と共に一際強く光って俺の目と合う。

 

 

「報告。現在当機は、敵性存在の効率的な無力化案として、GNビームサーベルによる両腕部、両脚部の、速やかな溶断等を検討している。……貴官の要望は有るか?」

(意訳:お前を殺す)

 

「ステイ。翡翠、ステイ」

 

問題ない(ノープロブレム)。あくまで検討案である」

(大丈夫だ、問題ない)

 

「ウンウン、あくまで考えてるだけだもんね、ってなるかぁっ!!」

 

 

 とかなんとか、彼女達は面白おかしくコントを繰り広げているが、そのコント、俺は全く笑えんぞ?既に家政婦ロボット(偽)はあの伸縮サイリウム棒(殺傷機能有り)を仕舞っているが、俺は直ぐにでもバイクをフルスロットルでふかしたかった。

 

 

「……あーー、なんだ…理由も無く人を襲う様な事はしないから…まぁ、大丈夫だ……」「…多分…」

 

 

 ……なるほど。次、敵対したらコレが殺しに来るんだな?良ぉく分かった。今の一瞬で、汗でびしょびしょに成った服に包まれた俺は、心から誓う。

 

次からは絶対この辺りで仕事はしない。

 

 

 

 

 





 
 マスター・○○って書いてると、ジェダイの戦士みたいになるなぁ、と、思う今日この頃。
 ………ハッ、これでミカにビームサーベルを持たせればジェダイの戦士が完成する……?
 ……ミカはジェダイの戦士の可能性が微レ存……?
 次回も間隔が延び延びします。


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愛を抱きしめて、今!



 生活パターンの変化や仕事等で少々リアルが立て込む為、暫くの間は更に投稿が遅くなることを此処でご報告します。そして、ついでの様に成りましたが、評価、感想、設定補完等ありがとうございました!




 

 

 

 

 さざめく虫達が小さな楽団となって、素朴な合唱を唄う夜。夏とはいえ、多少の肌寒さが残るのが今の時期だ。そんな夜に店仕舞こそしたが、未だに明かりが点いて、人が居ることを証明している店の外で、ポツリと小さな人影が揺れていた。

 

 

 何重にも重ねられた罠や、無数の窮地に曝されましたが、誰一人欠けること無く依頼は無事終了。……………いえ違いますね………。無事だったのは()()が居たお陰で、千束達が死にかけたのは私の所為……………。あの時、確かにクルミは言っていました……罠かもしれない、と。にも関わらず、私は持ち場を離れ、剰え相手の思惑通りに動かされた……。今さら思い返せば滑稽もいいところです……事態の様子がおかしかったのはあの時点で明らかで、もっと慎重に動くべき場面なのは少し考えれば当たり前に分かる話でした。

 

 それを私は、まんまと罠に掛かりに行った……千束やミズキさんを巻き込む形で……。

 

 脳裏に過る度重なる私の過ち。

 

 あの時、クルミの言う通りにミズキさんと合流を優先させれば、事態はここまで酷く成る事は無かった。

 

 あの時、私がもっと早くミズキさんを迎えに行けば、あの人が溺れ死にかける事は無かった。

 

 あの時、罠の可能性が少しでも出ていたのだから、もっと思慮深く行動すれば、防げたモノも有った筈だった。

 

 あの時、私は千束から離れるべきではなかった。たとえ別行動をするにしても、直ぐに援護に向かえる距離を保つべきだった。

 

 あの時、私がより素早く対象を無力化出来ていれば、もっと余裕が有った筈だった。

 

 あの時………私が、二人を死なせかけた……。

 

 私が、原因…………………。

 

 考えれば考えるほど、自分の迂闊さが浮き彫りになる。

 あの爆発後から私の記憶は曖昧で、気が付けば店の外のベンチにこうして座っていました。直ぐにでも二人に謝りに行くべきなのは分かっています………でも、今、二人に会いに行くのはとても怖い………。

 怒っていないか?……そんな訳がない……怒っているに決まっている。当たり前です、あれだけの赦されない失態を現場で繰り返したのですから、見限られたっておかしくありません。……少なくとも、私ならそうする。

 自分の技能を過信し、身の丈に合わない事をしでかし、結果がコレだ。

 ……幾分か考える時間が出来て、何故あんな事をしたのかと理由を探す……。アレに……翡翠に負けたくなかった。翡翠よりも役に立つ事を証明したかった。そうじゃないと私には、此処(リコリコ)での価値がないから。………なんとも子供じみて独りよがりな理由を作ったものです……馬鹿馬鹿しすぎて嗤えもしません……。無論、そんなものは千束達からすればただの言い訳……いえ、私から見ても言い訳ですね。………まただ、またやってから気付いた。全てを失くしてから………。無駄に回転するようになった思考が、自分の罪をグルグル グルグルと頭の中で再生させ続ける。

 

 …何が護るだ…何が相棒だ…何が、私に任せて、だ………。役立たずめ。何も……何も出来ていないじゃないですか。

 

 今、ミズキさんに会えば何て言われるのだろうか?“私の事殺す気だったんじゃない?”……………………怖い。

 

 店長には、どう思われているのでしょうか?“やはり、ウチに置くには危険なリコリスか。”……………怖い。

 

 クルミは私の事をどう結論するのでしょうか?“どうにかした方が良いんじゃないか?アイツ?”………怖い。

 

 千束は──────

 

 

「──おっ!いたいた!たーーきな!」

 

 

 ───っ!?体が強張る。顔を上げれない。目を、見れない。今、一番向かい合いたくない人が、私を呼んでいる。声こそいつも通りな快活なモノですが、だからこそ怖い。次の瞬間、彼女の口から拒絶の言葉が出てくるかもと想像するだけで耳を塞いでその場から逃げ出したくなる。しかし時間は無情で、私がどれだけ拒絶してもに構わず進んで逃げ場を奪って行く。そして千束も私が顔を合わせないようにしているのに、何の躊躇も無く私の隣に腰を下ろして話を続けます。

 

 

「……聞いたよ?あの時何があったのか……皆からね──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「当機から提案───訂正、ミス・たきなに協力要請」

(私にいい考えがある───とかなんとか言ってる場合じゃねぇっ!?)

 

 

 噎せるミズキさんを介抱しながら唐突に何かの協力を頼み込んできた翡翠。そんな事態の変化に付いて行けず呆けていた私に、前後の経緯を解説してくれたのはクルミでした。

 

 実は、クルミは護衛任務と並行して依頼人の素性を調べていたらしく、それで判明した事がどうやら、依頼人の目的が純粋な護衛では無い可能性が出てきたそうです。こちらの内情をある程度把握した上での罠、孤立した千束、────そこまでに考えが行き着き、えも言われぬ悪寒が全身を駆け巡って喉の奥からヒュッ、と呼気が漏れる。もはや一刻の猶予も無いのは分かっているのに、打開する手段が無い──そこで話が立ち戻る、翡翠は何を頼み込んで来たのかと。

 

 

「現状況を打破するために、当機の機能解放が必須と判断。しかし、それを行うには、()()()()()()()()()()()()()の協力が必要」

 

「………あなたのマスターは千束ではないんですか?」

 

『よく分からんが、『セカンドマスター権限』、だそうだぞ』

 

 

 クルミもつい先程聞いたそうですが、そんなこと私の方が意味がわからない、と、声を大にして言いたいです。

 本人が言うには、マスター登録者が増える事によって自身のセキュリティ権限が上昇し、それに伴い制限されていた一部の機能もアンロックされるのだとか。そして、どういう訳かそのマスター認証が可能なのは現在私だけだと。

 秘密主義の怪しい鉄の塊を見据えながら、僅かに思い耽る。今でも翡翠には謎が多く、本部の調査でもその機能やフルスペックを測りきれていないのが現状で、ハッキリと分かっている事と言えば、機種名や各武装の名称等くらい…。尤も、それもあくまで自己申告ですが。兎も角、どうしてこんな土壇場でそんな重要そうな手続きを要求してくるのか、甚だ不愉快です。

 

ですが────

 

 

「………千束の位置が分かりますか?」

 

「肯定」

 

 

 何故私なのか?何故今なのか?何をするつもりなのか?そもそもマスター認証者は飾りじゃないんですか?わからない事ばかりで、納得も全く出来ません。

 

ですが───

 

 

「……私は、何をすればいいですか?」

 

「不要、後は貴官の裁可のみで可能」

 

 

 ()()が後に取り返しのつかない何かに繋がるかもしれない……。

 

ですが、()()()の事なんてどうでもいい───

 

 

「許可します、早く私を千束の下へ連れていって下さい……!」

 

了解(ラジャー)

 

 

 後悔も苦悩も後で出来る。返答を聞いた翡翠は、私の前で跪き、ほんの数秒、電源が落ちたように全身の発光部から光が消え失せる。その様子は、さながら蝶が繭から孵る姿を幻視させる、奇妙な雰囲気を漂わせていました。実際は高々数秒なのですが、体感では短いような長いような、なんとも言えない奇妙な時間。なにかが出来るわけでもない私は、じっと待ち構えていると、各部の光が戻り、翡翠から何かしらのやり取りが聞こえてくる。

 

 

「──マスター認証、登録完了。『セキュリティ・クリアランス レベル4』までをアンロック。…続いて()()()()()()()()()に申請」

 

「〈申請受理、()()()の第一ロックを解放。

 それに伴い、TRANS-AM System(トランザム・システム)の使用を許可〉」

 

「………らす?………トラン?……なん、ですか……?」

 

 

 一度消えた光は、直ぐ様戻ってはきましたが、翡翠の目は何時ものグリーンカラーではなく、ややピンクがかった赤い色に成っていました。声も、片方は聞き慣れた男性のような合成音声ですが、もう一方は初めて聴く合成音声で翡翠とは違い、女性モデルで翡翠よりも更に無機質な声。恐らく、自身の中の何らかのプログラムとのやり取りなのは分かりますが、その内容は、よく分からない何かしらの機能解放に、重要そうな文言には強烈なノイズが走って、何を言っているのか殆ど分かりません。心なしか、先程よりも纏っている未知の粒子も増大し、じっとしていれば戦闘出力でも相当に近付かないと聞こえない筈の独特の駆動音も大きく成っていました。

 

 そんな初めて見せる挙動に気圧されて、無意識に半歩下がる私に、次の瞬間には何時もの目の色に戻ってさぁ、次の工程だ、と、言わんばかりに自身も立ち上がりながら私やミズキさんに指示を出します。せめて何をするつもりなのかくらいは説明が欲しいですが、時間が無いのも事実な為、指示通りに()()()()()()()()()()()()()に渡す。すると、鎖骨辺りに在る黄色いブレードの様なパーツが起き上がり、翡翠は徐に私をお姫様抱っこの形で抱え───

 

 

TRANS-AM(トランザム)

 

 

 たった一言だけ何かを発すると、紅い残光だけを残して私たちはその場から消えたそうです。後から他の方にも聞いた話でも、そう表現するしか出来なかったとか。

 

 

「……は?」

 

 

 その場に残されたミズキさんのその声は、それを観ていた全員の心情を現していたと思います─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ぇ?」

 

 抱き抱えられた次の瞬間には見渡す限りの青空。たきなの視点ではそうとしか表現できなかった。首を動かし、遠くに視線を投げれば、高層ビルの屋上が見下ろす形で目に映り、足元の道行く人々は、服の色すら判別出来ないほど小さく、蟻の行列を眺めている様だ。高所特有の風切り音も耳に届くが、その割りには肌を撫でる寒風は殆んど感じず、代わりに軟風が髪を撫でる。たきなはやや紅みを帯びた薄緑のベールに包まれ、超高層ビルでも中々に観ることが出来ないほどの絶景を、一切の隔たりもなく肉眼で観ていることに漸く気づき─────

 

 

「───GNフィールド、粒子整波率、指定値で安定。

 TRANS-AMによるGN粒子消費量、予測値以内。

 全システムオールグリーン。

 ブースト機構、セーフティ解除─────

 

 ──デュナメス、目標へ飛翔する

 

 

 

 ───世界が後ろに向かって吹き飛んだ。

 

 瞬間、多少の圧力を受けつつ、白色の大気の壁を突き破ってカッ飛ぶ。それは地上から見れば空に突如現れた、たった一角の紅い折れ線グラフを描く流星。真昼間に出現した流星は、()()()()()を幾重にも背後に作りながら、青空をキャンバスにして、紅い真一文字を我が物顔で引き続ける。明らかに移動速度とその身に受けるGに差があるが、そんなことを気付ける余裕はたきなには無い。

 

 

「──────~~~~ッ!!?!?!?」

(──こ───れ、───音─そ──っ!?)

 

 

 たきなは、目を白黒させながらビデオの早送りの様に成った世界で、断片的に自分がどうなっているか理解。常軌を逸した事象、生まれて初めて体感する音速の世界の中で、たきなの思考は生存本能に刺激されてか、極限までに圧縮する事で適応しようとする。しかし、それでも時間は足りず、たきなの脳内は『今』の世界と同様に、関係あるものから関係ないものまで、ありとあらゆる情報が超高速で行き交うパニックを起こしていた。

 

 

「報告、及び要請」

 

 

 そんな状態を知ってかは判らないが、『今』を必死に理解しようとするたきなに、翡翠は徐々に高度を落としつつ普段より早口で情報と作戦を伝える。

 

 

「ミスター・松下は爆薬を用いて、襲撃者と無理心中を行う模様。詳細不明。速やかにマスター・千束と合流し、ミスター・松下から可能な限り離脱されたし」

 

「───っ!!?」

 

 

 作戦と呼ぶには余りにも端的且つ、シンプルな行動予定。その上一部分には明記されていない内容もある、だが、次の場面ではたきなの体は思考を介さずに動いていた。すぐに見えてきた少し金色がかった美しいプラチナブロンドの後ろ姿、それに合わせて翡翠は更に高度を落とす。

 

 

「GNフィールド、局所展開。『(コクーン)』」

 

 

 目測にして約5メートル。下を向いた水平の体勢になり、ほぼ減速せずたきなを投下。翡翠の腕から離れ、クリアグリーンの薄い膜を纏ったままのたきなは、転がりながら着地し、勢いを殺さず自身を包んでいた煌めくベールを散らしながら千束に向かって全力疾走。普通なら間違いなく肉の煎餅に成る程の衝撃が彼女を襲うが、打撲すら無い全くの無傷。そんな異常も気付けないほど狭まった視野には千束しか映っておらず、千束を引き倒して覆い被さり、そこで漸く出来た欠片ほどのゆとりと視野スペース。その視界の端で、紅い輝きを放つ翡翠が男二人を小脇に抱えつつ、車椅子を後ろへ蹴り飛ばし───直後、閃光が弾け───ほんの十秒とちょっとのたきなの空の旅はそこで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────って、無茶苦茶やないかーーい!?というか何やってんの?人抱えて音速飛行って!?」

 

 

 赤く光ってたのも気になるけど、マスター登録の話なんてもっと聞いてないんですけど!?と、隣で百面相をしながら今日の翡翠の行動にツッコミを入れる千束。その声には私に対して聊かも忌諱するモノは混ざっておらず、今朝と変わらない相手を慮る温かさしか無くて───

 

 

「………んで、ですか?」

 

「ん?」

 

「何で何も言わないんですか?───」

 

 

 ───気が付けば、そんなケラケラと笑うだけの千束に、険のある声を向けていた。

 ──みっともない────分かっています…………───悪いのは自分でしょうに────分かっています……─────救いようが無いほど愚かですね────分かっています!────(しこう)(わたし)(くち)が分離して、それぞれが好き勝手に動き回る。(しこう)は冷たく(わたし)を分析し、(わたし)はただ感情のまま反発し、(くち)は恐怖に駆られて(しこう)が判断する前に動いていた。好き勝手に暴れまわる私を構成する三つの装置は、今の私という器には大き過ぎて、一斉に捌け口へと殺到する。

 

 

「───私はっ!!………わたしは…───忠告を無視しました……!──千束やミズキさんを危険に曝しました!────……………わたしは………私情を優先しましたっ!どうして私を「──それは違うよ?たきな──」

 

 

 そこで漸く聞こえた否定の言葉に、グチャグチャになっていた私の頭の中が一瞬で静まり返る。それは、想像(妄想)していたモノよりずっと穏やかで、とても清んでいて──その声に惹かれて、今さらになって見た千束の顔は、()()()と変わらない一片の曇りも無い無垢な微笑み。

 

 

「あの時、誰も強くたきなを止めなかったのは、たきなの言う通りでそれしか方法が無かったから。

 私やミズキが危なかったのは、私たちの誰もが対応出来なかったから。……実際、最後の奴が現れた時は私、食い下がったでしょ?」

 

「……………」

 

 

 たきなが翡翠の事を警戒して良く思ってなかったのは知ってる、と苦笑しながら続ける千束に、目を見開いて口をパクパクさせるだけで何も言えない私に続ける。違う、ワタシがしたのはただの自分の後始末で──

 

 

「それでもたきなは私を優先してくれた。……たきなが選択してくれたから最悪の事態は避けれた……。これは歴とした、リコリコの皆が知っている事実────」

 

 

 チガウ。ワタシはそんな善行溢れた人間じゃない。ワタシはただ───

 

 

「──たきなのお陰で、私も松下さんも生きていた……。胸を張れよ相棒。間違いなく今日のたきなは、私の救世主だった────

 

──だから、たーきな……ありがとう。私達を助けてくれて」

 

 

 私の中の、何かが崩れる音がして、気が付けば私は千束の胸に優しく抱き留められていた。

 

 

「─ぅ、ぅぅ゙ぅ──ぅぁ゙──っ───」

「おーしおしおしおし、千束さんの胸で泣くといい。……この泣き虫さんめ………」

 

 

 しばらくして……我に返って羞恥に苛まれるのは──また、別の話です。

 

 

 

 

 

 







 独自設定、という名の輸入品。

 :GNフィールド『繭(コクーン)』

 OO外伝コミカライズ版にて、とあるキャラが高所からノーロープバンジーをした際に、同じ様に自身にGN粒子を纏わせてやり過ごしたトンデモ手段から輸入植林した設定。
 このSSでの設定では、他人にもGNフィールド同様の防御効果も付与可能なチート機能。ただし、本体(デュナメス)から離れるとほんの数秒しか持たず、防御効果も本来の物に比べれば紙。

 :オーバーブーストモード

 ガンダムエクシアリペアIIに搭載されてたヤツ。ただし此方も無理やり載っけた物のため、エクシアより制限が厳しい代物。



 裏設定、という名の説明しきれなかった部分の捕捉。

 作中、何で現場に居なかったのに翡翠が色々知ったいたのかという話。通信自体は各員それぞれずっと発信していたけど、本人達には全く届いておらず、代わりに翡翠には断片的に一方的に届いていたため、そこから類推してたから。

 音速飛行によるソニックブームとかについて。

 GN粒子の効果+人間大サイズのお陰でほぼ無発生に成っている、という設定。更に言えば作中で出した速度も遷音速(マッハ0.9~1.1くらいの速度)くらいだったのも理由に在る、という設定。
 ちなみに、戦闘機が音速を出すと良くそれが証のように表現される、機体にまとわりつく白い傘状の雲の事をベイパーコーンというそうで、別に音速を越えなくても出る事も在るそうです。逆に音速を越えても出ないときも在るとか。そこら辺の話はとっても難しいので(投稿者も知らない)、作中でまた出てきたらそんなもんと流して頂ければ幸いです。 




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可能性の家政婦ロボット


   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |    ( ⌒)(⌒)
. |     (__人__)この部分の話要るよなぁ……
  |     ` ⌒´ノ  あっ、コレもいるなぁ………
.  |         }
.  ヽ        }
   ヽ     ノ        \
   /    く  \        \
   |     \   \         \
    |    |ヽ、二⌒)、          \


   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |    ( ⌒)(⌒)
. |     (__人__)…………… 。
  |     ` ⌒´ノ  
.  |         }
.  ヽ        }
   ヽ     ノ        \
   /    く  \        \
   |     \   \         \
    |    |ヽ、二⌒)、          \


   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 | ∪  ( ●)(●)
. |     (__人__)アレ?話グダった?…
  |     ` ⌒´ノ  というか、テンポ悪くね?…
.  |         }
.  ヽ        }
   ヽ     ノ        \
   /    く  \        \
   |     \   \         \
    |    |ヽ、二⌒)、          \


 こんな具合で話が延び延びしております。



 

 

 

 

 

 ──あぁ、もう最悪。………この一張羅もダメね……───」

 

 

 たきなと千束が語らっていた一方その頃、一人更衣室で愚痴とため息を吐きながら今日の仕事での私物の被害勘定をしていたミズキは、粛々と帰り支度をしつつ、とある病院での一幕を思い出していた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───当機から、貴官らに謝罪………」

 

 

 依頼人達を見送り、リコリス達の事情を知る貴重な病院での待合所にてたきなの診察を待っていた一同に、謝罪の言葉で会話を切り出してきたのは翡翠だった。大怪我と言える程のモノこそ無かったが『GN粒子』という未知の粒子が関わる案件の為(尚、本人は無害と主張)、一応ということで、夜分に申し訳なく思いつつも明確に怪我をしたミズキを始め、実働員全員に簡単な診察を行ってもらっていた。

 

 因みに、たきなの診察理由を『生身で音速飛行したから』と主治医に伝えたら、『……二次会なら他所でやりな』と、凄まれつつとても不本意なお言葉を頂いた。

 

 そんな話はさて置き、それぞれが完全にオフモードに移って気の抜けた静寂を享受していたタイミングでの第一声は、その場に居た全員の気を引く。なんの事か?とミズキ、千束、ミカは一度顔を見合わせてから再び翡翠の方を向いて続きを促すと、淡々としながらもどこか申し訳なさそうに続ける。

 

 

「……今回の依頼人、ミスター・松下に対しての裁決を、ほぼ、当機の独断で推し進めた事について、改めて謝罪」

 

 

 そしてその理由を聞いた一同は、あぁ、アレかぁ、といった顔をしながら薄く呆れたような苦笑を浮かべた。確かに、千束達の抗弁のタイミングは、翡翠の行動が潰した様なものだが、どの道、あの状況では終始激情任せの非難か罵倒の叩き付け合いになるのが関の山。それこそ最悪の場合、金銭だけを送りつけられて面会謝絶、なんて事も充分あり得た展開で、それを考えれば、やり方には難が有ったが落としどころとしては最高とは言えずともベターとは言える結果。ミカに至っては幾分かの溜飲が下がったくらいだった。

 

 とはいえ、それぞれに言いたかった事も、延期、という形で流れたのも事実で、そこを考えれば今になってムクムクと沸き上がる小学生レベルの嗜虐心に、ニヤリと二人の口角が上がる。

 

 

「いや、今更か。というか、あんたってリコリコでも結構独断専行してんでしょうが」

 

「まぁ、確かにぃ?今回はちょ~っと勝手し過ぎかなぁ~って、私も思いますしぃ~~??」

 

「………謝罪」

 

 

 責めるような笑みを浮かべた女性陣が、ソファにダラリと体を預けながら翡翠と同様に今更になって募り、ソレを後ろからミカが苦笑を深めながら見守る。巨体が邪魔にならぬようにと壁端に寄って佇む翡翠だが、苦言を受ける度に雰囲気で体を縮こませる様はただのポンコツ。草。

 

 一度戦闘になれば、鬼神の如き戦闘能力を発揮する鋼鉄の人形も、今は見る影もなく、怪しすぎるその出自は疑うことすら馬鹿らしい有り様。本当に訳の分からない代物だと疑問が膨らむばかりだ。

 

 そんなポンコツに対して千束は、目を閉じ、小さく短い溜め息と共に面白半分の入った謗りを適当に打ち切って、体勢はそのままに真っ直ぐ顔を見つめながら言葉を紡ぐ。

 

 

「でも、私たちの為に怒ってくれたのは理解してる。……あんまり褒められた方法じゃ無いけどねぇ」

 

「………………………」

 

 

 苦言の混ざったフォローだが、声色自体はとても穏やか。そう、千束は知っている。初めて出会った時も、その後のDAの作戦に乱入した時も、ずっと自分達を案じて行動してくれていた事を。なんだったら今日も、ミズキやたきなを早い段階で車に押し込めて、翡翠自身が残りの後始末をしていたその光景を、余りにも人間臭いその行動を、ずっと皆で見ていたのだから。「だから、コレで終わり」と、それで話を終わらせる。

 

 現にそれ以上は誰も追及せず、降りてきたのは心地好い無言の時間。しかし、僅かな沈黙を跨ぎ、今度は別の話を翡翠は切り出してきた。

 

 

「………当機から要望」

 

「「「?………」」」

 

「マスター・たきなの慰安と支援を貴官らに願う」

 

 

 それを聞いた一同は再び疑問符が頭に浮かぶ。いや、なんとなく言わんとしている事は理解できる、が、何故態態自分達に頼んできたのか?が、分からなかった。それについては考えてはいたし、千束に至っては落ち着き次第たきなに突撃するつもりだったうえに、翡翠にも協力してもらうつもりだったからだ。ソレを拒絶するような前置きに、何故?という疑問は、直ぐに回答が帰ってきた。

 

 

「……本来、マスター・たきなは喫茶リコリコに於いて、マスター・千束と並ぶ二人しか居ない前線実働員という立場だった。

 

 コレは、彼女のアイデンティティーを構成するにあたって極めて重要な要素の一つであり、今回の案件はソレを当機が侵害した事が起因。

 

 ……故に、当機は過度な干渉を、()()では避けるべきと提言」

 

「侵害って……んな、大袈裟な…………」

 

 

 そして出てきた理由は、思いのほか重く捉えた内容だった。決してたきなの事を蔑ろにした故での言葉ではないが、それはそれで腫れ物扱いし過ぎではないか?と、千束は唸って困惑顔を深め、納得出来る理由を求める。

 

 

「確かにたきなは翡翠のこと警戒してるけど、穿ち過ぎじゃない?」

 

「……マスター・たきなの気質は、一方的に施される事を是としない自身の職務と成果に誇りを持つ、謹厳なパーソナリティーであると当機は推測している。

 

 それ故に、彼女にとって実働員という役どころは、自身を肯定する上で非常に重要な利権であった。

 

 しかし、当機が現れた事により、コミュニティ内でのバランス変動から彼女の立場が変わった」

 

「………」

 

 

 淡々と無感情に語る理由に、何時しか皆耳を傾けていた。存在意義、存在証明とは人間が()として生きるうえで、どのような形であっても必ずぶつかる避けては通れない事柄。そして、それは確かに翡翠の言う通りなのだろう。家も家族も知らない子供が、初めて手にいれた掛け替えのない宝物(いばしょ)。ソコに自身の上位互換の様に見える(役割を奪う様に現れた)怪物にズカズカと無遠慮に上がり込まれて我慢できるか?など聞くまでもない。ましてや、リコリスですらない『異物(じんがい)』なら。

 

 だがそれならば同じく()()()()()()()()()()()は?と、ミズキが疑問を挙げるが、直ぐに切り返される。

 

 

「……それはそうかも知んないけど……ならクルミはどうなんのよ?」

 

「否定、当機とミス・クルミの立場は大きく違う。

 

 ミス・クルミの得意とする技能は電脳戦であり、マスター・たきなの技能と重複するものではない。

 

 そして、ミス・クルミは現実空間では非常に非力な人物であり、来歴などの関係上、マスター・たきなを始めとした人物達の誠実な援助によって、漸く彼女の生活は保障される。

 

 その為、彼女達はどちらかが一方的なイニシアチブを持った関係ではなく、公平、対等な関係だと当機は認識している。」

 

 

 それに対して自分は明確に違うと主張、『自身は、本質的には誰の助けも要らない』と。そしてそれは誇張抜きでその通りだった。休息も要らない、補給も必要としない、従来兵器を骨董品にする武器に、傷を付けることすら困難な装甲と機動性、たった一機で完結した究極の兵器(兵士)。それは互助を前提として成り立つリコリコ内でも変わらず、自身の役目を奪い、一方的に施してくるだけの存在。ミカともミズキとも、違うナニカ。それがたきなにとってどれだけ不愉快で怖かったかは、想像しか出来ないが、軽く流せるものでは無かったのは確かだろう。

 

 

「……よく観ているな………」

 

「否定、当機は貴官らについて、その程度しか把握していない………」

 

 

 呟いたミカの感想を即座に否定する、何処までも無感情な声。()を良く観ていなければ出てこない結論に、ずっと黙って聴いていた千束は、不服な顔のまま漸く口を開く。

 

 

「………でもそれって()()()が勝手に思い込んでいるだけだよね?」

 

「………肯定……謝罪」

 

 

 理解はした、納得はいってない、だが道理は通っており否定も出来ず、悶々とするのが顔に現れる。少し間を置き、大きなため息を吐いて顰めっ面のまま、千束は約束を取り付ける事にした。

 

 

「………はあぁ~~……コレ、貸しだかんね………?

 それと、たきなはそんなに弱くもなければ狭量じゃないよ……」

 

「肯定……謝罪」

 

「ソコはお礼でしょうが────

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 病院でのやり取りを無意識に深く回想し、いつの間にかミズキの手は止まっていた。そういえば、と、その回想に引っ張られるように、帰りの車内での会話も思い出す───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───AI技術の行き着く先はディストピアだと言われている……そしてそれは僕も遠からずともそう思っていた……』

 

 

 滔々と語るのは千束の膝の上にあるクルミのドローン。未だに電源の点いたそれは、各部のランプを明滅させながら続ける。

 

 現代のAI技術では未だに人間の脳を再現出来ないが、ソレはあくまで思考アルゴリズムだけの話、単純な思考速度は既に安物の量産品ですら遥かに上だ。実際に昨今のAI技術の進歩は目覚ましく、少し前までは人間でなければ無理だと言われていた分野も、AIがとって代わり、着々と人間の仕事を奪っている。それでも尚、人間でしか出来ない仕事が失くならない理由は、AIは『概念』を認識、もとい理解出来ないからだ。

 

 元来AIの考えとは、無数の数式を複雑に積み上げて導き出したモノで、それこそ、一見数学と何の関係も無さそうな事柄でも実際の内部処理は計算の集積だ。

 

 例えば、特定の人物を探し出し追跡する、という具合なら。

 

 まず、打ち込まれたテキスト(個人情報)を額面通りに受け取りゴールを設定。次に許可、もしくは此方で設定した範囲内だけで大量にデータを集め、その中から類似性の在る(条件に合致した)ものをピックアップし、篩に掛ける。それらの工程を何度も繰り返し、最初に設定したゴールと予測誤差を擦り合わせていく、というのが大まかなAIの考え方(数式)だ。

 

 その為、入力漏れは勿論、例外なども即座に弾かれ、ゴールからズレていたり、辻褄が合わない答えも、マシンはその時点で『間違えている』と判断するのだ、例えそれが本当の目的(容疑者確保)と合致していても。

 

 そういった計算方法(考え方)から、AIは幾つもの矛盾や不確定要素を挟むといった思考(計算)が兎に角苦手。特に、人間のような矛盾塊とも言える存在を読み解く(プロファイリング)などの行為も典型的だ。コレは、DAの運用する『ラジアータ』も同様で、アレは現代最高峰のモンスタースペックと、限りなく黒に近いグレーゾーンの手段を用いて集めた膨大且つディープな情報による強引な統計学の延長線上でしかない。実際に、一部の捉えきれないイレギュラーなどは手作業で補っている。

 

 

『……だがアイツは……翡翠は違う。

 アイツは()()()()()()()()()()()()()しているんだ………!』

 

 

 そして、『AIが概念を理解する』という未だに入口どころか足元も見えていない超技術は、一種のパンドラの箱とも言われている。それはマシンが心を持つという事と同義で、人からの脱却(人類に対しての反旗)の可能性を抱えることになるからだ。

 

 AIは何処まで行っても機械だ。機械にとって記憶や痛みさえも着脱可能なモノでしかなく、どんな怪我(損壊)もパーツと時間さえ有れば修復可能で、記憶(トラウマも想い出)も必要に応じて消したり追加したりすれば、幾らでも精神(人格)を保全できる。故に、たとえ心を手に入れ、どれだけ正確に情報(概念)入力し(理解させ)ても、人間とは違う結論(考え)を出すのは当たり前の事なのだ。そして、そんな無慈悲なまでに合理性(数式)を突き詰めて導き出す決断も。

 

 

『あの時アイツはわざわざ千束に聞いてきたんだろ?『助けに行ってもいいか?』と』

 

 

 コレはとんでもないことだ!と、クルミは興奮気味に捲し立てているが、聞かされていた千束とミズキは普通に白けていた。分かったから今はちょっと休ませてくれ、というか翡翠のトンデモ技術は今に始まったことではないだろ、と二人してうつらうつらに夢と現実の往復マラソン大会を開催しており、手元のドローンの電源を落とすべきか非常に迷っていた。

 

 

『奴のスペックならわざわざ聞かずにそのまま行動を起こしても問題なかった筈だ。むしろ聞くという行為で時間のロスすら発生している……。恐らく奴は迷ったんだ………“誰の命を優先するか”を………!』

 

 

 命に貴賤はない。どこの誰が言ったか、そんなありふれた耳障りのいい言葉だが、真の意味で体現出来るのは機械だけだろう。どんな状況だろうと命令通りに命を選別し、どれだけの危機が在っても、どれだけか細い生存率だったとしても行動(救助)する。そこに命の優劣は無く、悪人、善人、老人、子供、男、女全てを平等に扱い、必要な分だけ命を切り捨てる。間違っても翡翠のように、マスター(最優先対象)を放り出したり質疑もしないし、ましてや迷った上で提案(非効率的で非合理的な事)なんてもっとしない、それが機械だ。

 

 

『喜べ、お前達。僕たちは今、世紀の瞬間に立ち会っているのかも知れないぞ!──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計が秒針を刻む音だけしか聞こえない部屋で、ミズキは自分の認識が少しだけ変わったのが何となく分かった。

 

 胡散臭さしかない、目的、製造元、関連技術、一切不明の高性能ロボット、それが今までの認識だった。だが変わったからといって、特別に何かをしてやろう、とか、何かするべきだ、と思うことはない。それはこれからも多分変わらないだろう。ただ、まぁ、強いて言うなら───

 

 

「(──とりあえず、今度潤滑油くらいは差してやるかぁ……)」

 

 

 それくらいはしてやっても良いだろう、と考えながら帰り支度を再開する。

 

 人と機械の共存。現段階ではどちらかが一方的に支配する形の関係は、近い将来、変わるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?……結局何があったんだ?」

 

 同時刻、やや詰問気味に話を切り出したのはミカだ。ミズキや千束達はそれぞれに帰り支度をしており、それらが終わっている、又は必要の無いミカとクルミは、翡翠から今回の依頼時の詳細を聞く為に店のホールに集まっていた。

 

 前提として、セキュリティに引っ掛かる部分は話せない事を踏まえたうえで、たきなのマスター登録や紅く発光する機能についても聞いており。

 

 曰く、たきなのマスター認証の件は、登録自体はかなり前から出来るようになっていたが、自身で選べるモノでは無く、システム内の何らかの条件を満たした者(本人にも詳細不明)だけが登録出来るそうだ。しかし、特に今日まで必要に迫られなかったのと、たきなの翡翠に対する感情もあって、話さなかったらしい。

 

 ………非常に色々と言いたい事は有ったが、取りあえず次からは話せる部分は些細な事でも話すようにと今は流す。

 

 次に、解放された機能については、案の定、『詳細の開示不可』。しかし、機能の簡単な概要説明は出来るらしく、何でも、『莫大なエネルギーの消耗と引き換えにほぼ全機能の著しい上昇を行う』システムだそうで、たきなが無事だったのもそれのお陰だとか。

 

 ………それを聞いたミカは眉間を揉みながら、「………それ以上強くなって何と戦うんだ?」と、悩ましい顔で感想を漏らした。

 

 

「……まぁ、機能に関することはいい……いや、本当は良くないが今は置いとくとしてだ。………()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 コレばかりはハッキリさせておきたい、とミカは翡翠を見据える。今回の件、腑に落ちないところが多すぎる。翡翠の性能は通信関係も桁違いなのはミカも知っている。………正直な話、かなり疑っているのだ、マスター認証者を増やすための演出だったんじゃないのか?と。

 

 『今まで演技をしていた』と、までは思わない。そうだとするならマヌケ過ぎるし、方法も雑で迂遠過ぎる。しかし、怪しいのも確かで、今も尚裏取りの出来ていない()()の事もあり、今回の件はミカには特にそう見えた。高性能マシン故の特殊な理由や、何かしらの本来の目的の為に暗躍していた、と考えられる程度には。しばしの間生まれた沈黙の後、翡翠は徐に、ホールのテレビを見るように二人を促すと、突如テレビの電源が点き、気象情報地図のような映像が映る。

 

 

「コレは、作戦時の我々の移動経路や、GN粒子の散布状況等を纏めた経過マップである」

 

 

 そう言うと、画面端に視やすくレイアウトされた日時や粒子の散布濃度グラフ等が現れ、時間が進む度にマップに可視化された粒子や千束やたきな達のアイコンが動く。見慣れない数字や文字などはあるが、見方自体は見慣れた気象情報レーダーを模した物のお陰で非常に伝わりやすい。だからこそ分かった。明らかに粒子の散布範囲も濃度も小さい事に。

 

 次に、レイヤーを重ねるように通信障害が起きたエリアが黒く塗り潰され、翡翠や千束を囲う様に通信不能領域が展開される。見せられた映像では、さほど長い時間ではなかったと表示されているが、どう観ても意図的な光景が映り、ミカとクルミの顔が険しくなる。

 

 

「当機の許される限りの性能で検索、捜査したが、詳細不明」

 

「……それについては僕からも報告がある。丁度コレに映ってる黒いエリアでな、()()()()()()()の不調が多発していたらしい」

 

「何?」

 

 

 そんなに数はいないが、中には()()()()()()奴も居たそうだぞ、と、クルミは続ける。一応、翡翠が放出する特殊粒子についても本人に確認したが、この黒いエリアではGN粒子は検知されず、そもそもこの濃度ではノイズすらほぼ発生しないと念押しで宣言された。

 

 再度やって来た沈黙は、より重く、生ぬるい空気がこの場に居る全員を撫でた。その後も、それぞれに()()()()()()()()をするが、答えは出ないままミズキ達がやって来て時間切れ。

 

 程無くして一日は終わるが、脳裏をチラつく残影は消えていない。

 

 

 

 

 






 昨今のAIイラストも、“そもそもAIは『漫画の人間キャラクター』、と認識して描画してる訳じゃないから手の指がおかしくなる”って話でした。



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悪の3狂人



 ※注意※

 今回出てくる一部のガンダム用語は、原作とはほぼ関係在りません。




 

 

 

 

 

「───報告は以上です」

 

「そうか……ありがとう、姫蒲君」

 

 

 もうじき深夜に差し掛かるであろう時刻、東京都内の超高層ビルの一室に、二人の男女の影があった。その部屋は品のいい調度品を散りばめながらも、事務なども不自由無くこなせるようにとコーディネートされており、観ただけで利用者が多くの実績を積み上げてきたビジネスマンだ、と示すような内装だ。そしてその利用者である二人の装いも、その部屋に相応しい格式と機能美の富んだ身なりで、部屋の雰囲気と合わせて観れば、巨大企業のやり手の重役と秘書といった風体。

 

 そんな部屋の中心に設置された一際大きなデスクの席に座って、事の顛末、男、吉松 シンジは、秘書、兼、護衛の姫蒲から報告を受けていた。

 

 

「あまり期待はしていなかったが……な……」

 

「…………」

 

 

 言葉の割には声に色濃く落胆が滲んでおり、吉松は疲れたように座っていた椅子の背凭れに深く背を預ける。実際、吉松の手間暇掛けた作戦は見事に惨敗、それどころか目的の少女を無駄死にさせかけた事と徒労感だけが成果という結果で終わっていた。

 

 

「やはり、あの御老人を起用するのは無理があったか……」

 

 

 そして不意に漏れた独白には、自身の失策による反省のみで、老人に対しての憐れみや慚愧は一切無い。どうでもいいからだ。全ては『才能を正しく世界に羽ばたかせる為』、その過程で生まれる被害や影響なんてものは、吉松にとって必要経費でしかなかった。

 

 そもそも今回、何故このような迂遠な作戦を採らざるをえなかったのか?というと、突如リコリコに現れた謎の機動兵器、『ガンダムデュナメス』からやり過ごす為だ。その為に、自身の権限、コネクション、私財などの少なくない対価を払って事に挑んだが、結果は想定していたよりも遥かに芳しくなく、それどころか不必要に此方を気取られたかも知れないマイナスしか残らない結末になっていた。

 

 無論、この程度で諦めれるほどの安い信念では無いが、『千束を世界最高峰の殺し屋にする』という使命を達成するにあたって、あの規格外の護衛は、分厚く、大きすぎる障害だった。

 

 

「………お言葉ですが、“アレを壊して来い”なんて無理言わないで下さいね?」

 

「ハハ、流石に判っているよ。……()()()()()()()()()()()()()()じゃ無いからね………」

 

 

 前もってやんわりと無茶無謀を拒否する姫蒲に、吉松は朗らかに了承で返すが、次の瞬間には難しい顔をして黙り込んでしまう。こう見えても吉松が良く喋るのを姫蒲は知っている。何かしらの問題が発生した際も姫蒲に相談を持ちかけたり別案を受け入れたりと、自身にとっての一線さえ越えなければ柔軟に対応する事も。その吉松が思考の迷宮に入り込んで、無為とまでは言わなくとも不器用な時間を過ごすのは珍しく、姫蒲の中で形容し難い不穏が、先程のらしくない返しをより強く意識させていた。

 

 

「……よろしければ御伺いしたいのですが……本当は機関が開発した物ではないのですか?」

 

「………………」

 

 

 だからこそ姫蒲は聞いた、『アレ』の出所を。今回の計画が頓挫した大部分の原因は、あのイレギュラーに対する情報の少なさだ。作戦中、()()()()()()()()()()()()()()も遇ったが、結果的に観ればあのアクシデントは追い風となり、お陰で一番の障害に対しての時間稼ぎには成功していたのだ。しかし、結局は途中で見せた謎の発光現象で土台からひっくり返されてしまい、あの詳細不明の機能の経過を見る限り、松下が指示通り動こうが動くまいが吉松の望む結果になる可能性は低かっただろう。そして、()()の出所が吉松達の所属組織、機密超国家機関『アラン機関』くらいしか姫蒲には心当たりがなかった。

 

 自画自賛のようになるが、アラン機関の技術力はこの世界の数世代先を行っている。末端である姫蒲にはどういう仕組かは分からないが、国境を超えた提携と数多くの不世出の天才達とのコネクションがもたらす化学反応は、先進国のソレを軽く凌駕。そして世界に埋もれたその天才達を発掘する目と耳も正に世界規模、それがアラン機関だ。

 

 そのアラン機関ですら、片鱗をも知覚出来なかった存在なぞ、姫蒲からすれば寝耳に水。ただでさえ冗談のような機能ばかりを搭載しているのだ、それこそ別の派閥が秘密裏に開発、運用していた物だ、と言われた方がまだ腑に落ちる。流石に自分の立場では教えれない事の方が多いだろうが、それでも、と、ほんの少しの期待も含んだ投げ掛けた疑問は、少しの時間を挟んでゆっくりと、静かに反ってくる。

 

 

「………アレについては上も大いに騒いでいてね……詳しい事は分かってないんだ……ただ───

 

──()()()()()()()()()()()が口を揃えてこう言っていたよ………『()()()()()()()()()』、とね……」

 

「っ!?……………」

 

 

 浸かっていた自分の世界から抜け出て、漸く此方を向いて返した言葉に姫蒲は目を剥く。

 

 『才能とは神の所有物であり、ソレを受け取った者は正しく世に示さなければならない』。常々に吉松が口にする言葉。それは吉松にとって、文字通り全てを捧げるべき理念であり、それほどまでに吉松にとって『神』とは重い単語なのだ。それこそ、『明日、使命のためにその命を差し出せ』と言われれば二つ返事で返す程の。

 

 

「彼らの見解では、反重力、又は、慣性制御装置のような物も積んでいるだろう、と言われているよ……」

 

 

 そして、そんなアラン機関に見初められた天才達は、その分野に於いて一流達の中でも上澄みの上澄みと呼べる者達、それがどういう事かが分からない姫蒲ではない。吉松の続けた話に反応すら出来ずに聞き入り、蟀谷から一筋の水滴を流す。そんな姫蒲を尻目に、吉松は再び自分の世界に入る。

 

 なるほど……素晴らしい作品だ……これ以上無いほどに。彼の制作者はどうやって我々の目から逃れたのか?どういう目的で製造したのか?調べれば調べるほど謎が深まる……兵器としての完成度、今の次元を跳躍した概念技術の数々……本当に素晴らしい……が、だからこそ───

 

──邪魔すぎるな………。

 

 それほどまでに優れた作品なら、何故この崇高な理念が、人の幸せが分からない?

 人が神の所業に踏み入るという恐れ多くも、全人類にとっての偉業とも言える結晶の到達点なのだろう?君は───

 

 本来であれば制作者に対して、手が裂けんばかりの拍手喝采で褒め称え迎え入れたいほどの作品。だが、ソレとコレとは別だ。

 

 

「──引き続き、アレとアレの産みの親の調査を頼むよ──」

 

 

 姫蒲に指示を出し、吉松自身も動く。吉松の指針は揺るがない、自身の使命は自身の命より重いのだから。

 

 

 

夜が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────同時刻、某所にて────

 

 

「あー、えーっと……コレは此処で、アレはアッチで──」

 

「……まぁだかよ?……トップハッカー?」

 

 

 カタカタと小気味良い音が薄暗い部屋に木霊する。この部屋には何台ものPCとモニターが並んでおり、ソレに向かうはロボットの被り物をした小柄で華奢な男と、ソレを後ろから気だるげに待つ危険な香りのする男。此処は無法者どもの塒であり最前線基地。そしてこの基地の主であるテログループ、首謀者 真島は、協力者(半強制)ロボ太の今日までの成果を待っていた。

 

 現在、非常に業腹な事に、真島の計画は大幅な修正をせざるを得ない情況に陥っており、自身の思想、『正義の番人気取りのDA』を潰すという目的の為に、日本での工作準備に取り掛かっていたのだが、その悉くが妨害、取り壊されてしまい、大量の活動リソースを喪失するはめになっていた。

 

 ある時は、地下鉄を爆破して多くの民間人を巻き込んだ派手な狼煙を上げようとすれば、何故か爆弾の起爆が上手くいかず、そのまま確保され失敗。

(※GN粒子だばぁー)

 

 ある時は、とある情報筋からリークした面の割れたリコリス達を襲撃をすれば、襲った者達全員が見えない何かにぶちのめされたように吹き飛んであえなく御用。

(※消えてからのガンダムパンチ)

 

 ある時は、真島が日本に来る前から潜伏に徹していた者や、完璧と呼べる程に足取りを消しきれていた仲介役の仲間が強襲され纏めて捕縛。

(※デュナメスセンサー+ラジアータのコンビネーションアタック)

 

 といった具合に失敗を重ね、多くの人員と資金を失っていた。その当時、自身は地盤固めと情報収集の為に部下に殆んど任せていた事だったとはいえ、こうも悉くが上手くいかなかった事は完全に想定外で、その中でも特に痛いのが先日の大規模掃討戦。

 

 明らかに罠なのは判ってはいた、が、裏を返せばその作戦には何かがあるのも明白だった。事前情報や今までの対応からの類推でも確定的だったが、相手は国家が後ろ楯ている非公式の暗殺組織。当然、派手に成りそうな動きは可能な限り避けたいはずなのに、相手はあろう事か国家のランドマーク付近一帯を封鎖しての掃討戦を仕掛けてきた。

 

 だから乗った、敵を見据えるために。

 

 そして見えた、自分達を阻み続けた影の正体を。

 

 部下達が遺していった散々に千切れた映像を繋ぎ合わせ、手かがりを復元し、漸く映る怪物(てき)の姿。

 

 闇夜に浮かび上がった鋼鉄の怪物が、雨霰の如く光弾を放つ、たったそれだけの1アクションで次々と部下達が倒れていく。部下達も貰ってばかりでは悪いと言わんばかりに大粒の鉛玉の嵐をプレゼントするが、鋼鉄の体は全てを受け取り拒否し、棒立ちのまま光弾を部下達に配り続け、また一人、また一人と倒れ伏せる。

 

 中には機転を利かせて、リコリスごと掃射して釘付けにしようとしたり、車で吶喊した者も居たがそのどれもが無意味だった。見た目からは信じられないほどの機動性を発揮し、掃射しようとしていた者は瞬時に後ろに回り込まれ、原理不明の光る剣のようなナニかで手足を斬り飛ばされ行動不能。車で吶喊した者は正面から受け止められ、そのまま車ごと叩き伏せられる。

 

 その映像に映っていたのは仲間達の抵抗の記録ではない、ハリウッド映画でよく観る十把一絡げのやられ役の映画だった(ワンシーン)

 

 脳が理解を拒んだ、あの時以上に。いつから自分達は映画の世界に入り込んだんだ?ソレを復元したロボ太本人ですら自分の仕事に不信に思い、何度も確かめたり体をつねったりした程。だが自分達の手元に残ったのは、フィクションのようなノンフィクションを証明する物的証拠だけ。中にはその目で視てきた者も居る。

 

 

「───………ハッ…衛星レーザー砲の正体は『映画の世界から飛び出してきた殺戮マシーンでした』、ってか?……現実は何処に行ったんだよ………」

 

 

 あの夜を思い出し、誰でもない誰かに向けて真島は空虚に哂う。未だに納得も理解も出来ない出来事。だが────

 

 ───そんなもの真島には関係ない。

 

 

「──………よしっ!取りあえず揃えたぞ!ただ……僕にも分からない事が多過ぎるからあまり期待しないでくれよ?」

 

「へぇへぇ……んじゃあ見せてくれよ。俺達の敵の正体をよ?」

 

 

 絶体絶命、四面楚歌、孤立無援、そんな事いくらでもあったし、これからも何度でも有るだろう。だが、どんな時も真島は自分の美学を優先して来た、それが自分だからだ。だからこそこの程度の逆境で逃走を選択することなぞあり得ず、嗤い続ける。まずは情報が要る。反撃、今日はその最初の一歩にするために、真島はモニターと向かい合い───

 

 

 

 

『────今日の[街角の良い(トコ)]はぁ~…此方っ!じゃんっ!喫茶リコリコです!

 

 和洋折衷の洒落んな雰囲気に、絶妙なハーモニーで提供される団子とコーヒーは、筆舌に尽くし難し…………!

 

 しかぁしっ!この店の良いトコは味だけでは無いんですっ!!

 

 その良いトコとはズバリっ、『スーパー家政婦ロボット』、翡翠くんですっ!!』

 

『本日は、いつもより多めに回っております』

(肘を立てるように二の腕を挙げ、その腕に子供がぶら下がりながら、上半身だけをゆっくり回転させるガンダムの図)

 

 

───ジッと鋭い視線をモニターに投げ続け───

 

 

『この通り、見た目とは裏腹に、接客だけじゃなく子守りもこなせるハイテクロボットで、今、子育てに忙しいママさん達にも、密かにブームがキてる店なんですよ!!

 

 製作は知り合いのロボットサークルの方々らしくて、完全ハンドメイドの非売品だそうですが……。

 いやぁ、ホントに多芸ですねよぇ~。他には何が出きるんですか!?』

 

『えっとぉ、そうですねぇ~……双六とかババ抜きとかも出来ますよ!───────

 

 

 

───無言でロボ太に銃口を押し付けた。

 

 

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁ゙ぁ゙ぁあぁぁぁ゙ぁ゙ぁぁっ!!?!?待て待て待て待て待て待て待っっってぇぇえぇえぇっ!?!?!?!?」

 

「誰がバラエティー拾って来いって言ったよ??」

 

「話っ!!話聴いてぇえぇぇぇぇっ!!?!?」

 

「話聞いたからこうなったんだろ??度胸あんなぁ、オイ??」

 

「分かるっ!!分かるよぉぉぉっ!?!?言いたい事っっ!!!?!?でもコレだけなのぉっ!?!!!分かったのはコレだけなんだよぉぉぉおぉぉおおぉぉっっ!?!?!!!!!」

 

「同じロボット仲間だろ???」

 

「あっち、本物!!!僕、偽物ぉおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっーー!!?!!?」

 

 

 

 

 

※────────なんやかんやあって♡────────※

 

 

 

 

 

 

「───………ハァッ、ハァッ、グスッ……これだけなのぉ………分かったのはこれだけなんだよぉ……グスッ、ズビッ…………」

 

「……あ゙ぁ゙~~、分かった分かった……たくっ、しょうがねぇトップハッカー様だなぁ………」

 

 

 はぁ、と重いため息を吐く真島と床に正座で座るロボ太。ロボ太の頑張り(迫真)視聴後から幾ばくかの時間が過ぎ去り、落ち着きを取り戻し始めた二人は再び暗礁に乗り上げていた。何せ今日の今日までに、労力、時間、資金、そして犠牲になった同志達、と、なけなしの対価を支払ってまで集めた情報がコレである。無論、開発元や関連技術などもほうぼうに手を尽くしたが、全くの梨の礫。

 

 

「つっーか、お得意のハッキングとかでどうにかなんねーのかよ?」

 

「……ソレについては前にも話したろ……恐らく、スタンドアロン化されてるみたいだし、アレ本体が強力なジャミングの発生源だって……クラックする以前の問題だ…」

 

 

 一縷の望みにかけての提案も一蹴される。気概は十分でもダメ元の手段に縋る程、真島達は追い込まれていた。真島の元々の計画と目的の関係上、どのような手段を採るにしろ最低限相手との武力面での抵抗力は必要不可欠なのだが、これでは前提そのものが成り立たない。映像で分かる情報だけでも、歩兵用火器では先ず破壊不可能な程に堅牢で、映った中では高速で飛行したり、光学迷彩らしきものまで搭載しているのだ。真島であれば、()()()()()()()()()()()出来るだろうがそれだけだ。明確な対抗手段が無い現状では、手も足も出ないし、そもそも一機だけではない可能性だって在る以上、最早真島一派の壊滅は時間の問題だった。

 

 

「どうすんだよ……こんなバケモン……………」

 

 

 素材、構造、関連技術、各機能、ほぼ全てが謎に包まれた超高性能人型兵器。字面にすれば子供の絵空事の様な空想の存在が、現実となって立ちはだかる。

 

 

 

真島達の夜は長い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───某月某日、日本の何処か───

 

 

 明かりの消えたこの部屋を、幾つものモニターがボンヤリと照らす。床には無数の精密機器の端材や何かしらの専門的な工具が散らばり、壁には素人では大体の運用目的すらも分からない計器がところ狭しと並んでいる。部屋の奥には映画でしか見ないような、複雑、且つ、精緻なマシンが鎮座しており、そこそこ広いこの部屋を圧迫していた。そんなこの場所を言葉で表現するなら、『SF世界の秘密基地』、と言ったとこだろう。

 

 そして部屋の特等席とも言えるモニターを一望出来る席に座った人影は、目だけを世話しなく動かし、次々と映像を流していく。モニターには、ボヤけた緑色の人型の何かが映った画像や動画が何割かを占拠し、残りのモニターには()()()()()()()()()()()()()()()と人型ロボットの図解のように見える物が、検索を掛けている様に頻繁に入れ替わっていた。

 

 

「………約2小隊規模の敵味方が入り乱れる現場に高高度、且つ超遠方からの精密射撃による制圧………その上で友軍と周辺への被害は最小限……か。

 ………流石は()()()()()()()、と言ったところだな…………」

 

 

 当時の戦況を、極々僅かに残った痕跡だけで限りなく正解に近い解答へ近付く。頭の中で描かれる妄想の戦場は、その場に居た当事者達よりも正確に戦況の推移を捉えていた。

 

 

「………カラミティともヘビーアームズとも違う砲戦モデル……。

 そしてこの発光現象………デュナメスか………!」

 

 

 カチリと抜けていたピースが嵌まるように知識と事象が結び付き、それと同時に、入れ替わっていた画像がピタリと特定の機種の関連情報に固定される。

 

 

「当然の如くTRANS-AMも搭載………。

 ……フン、“ヘルメスの薔薇”直系は伊達ではないということか……。

 ……忌々しい化け物め…………!

 ……だが──」

 

 

 くぐもった声で腹の底から出た呟きは、何処までも涅く、ヘドロの様に部屋に滲んでいく。

 

 モニター前に座っていた人物は、見たいものは全て見た、というように、席から立ち上がり、ある一角へ足を向ける。

 

 その一角に在ったのは、()()()()()

 

 置物の様に微動だにせずに佇んでいる人型のソレは、全身を隈無く黒い布で何重にも巻き付けられシルエットが歪に成っているのだが、ソレ抜きでも所々が人から大きくかけ離れていた。肩や膝は大きく張り出し、胸部も非常に分厚い、足首に至っては人の胴ほどの太さもある。頭も鶏冠の様な物が突き出ており、背中も布が分厚く被さる様に掛けられている為詳しくは窺い知れないが、羽とも巨大なリュックにも見える形状になっていた。頭部などの各部からは、布では隠しきれない光が弱く漏れ出て、暗い筈のその一角をひっそりと照らす。

 

 

「────付けいる隙も在る事が今回でハッキリした…………」

 

 

 薄く広がる赤い燐光が、部屋に溶けていく。

 

 

 

夜はまだ明けない。

 

 

 

 

 






 次回からはかなり投稿に時間が空きます。
 ちょっとプロットとかチャートに粗が有りすぎましたのでカミーユに修正されてきます………。


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ガンダムVS 前編


 長い間お待たせしました!
 今回も迷いに迷った迷話です!



 

 

 

 

 

───DA関東支部、仮設特別試験場───

 

 

「──以上が禁止事項です。

 他に御質問はありますか?」

 

問題ない(ノープロブレム)

 

 

 相変わらず素っ気ない応答しか出来ない俺は、もう何回目かも数えんのが億劫なテストの為に此処に運び込まれ、職員さんから今回の注意事項を聴いていた。

 

 最初の頃は調子に乗って見せてきた『ガンダム、驚異のメカニズム!』も、俺としちゃあ流石に飽きてきた頃合いで、散々データ録らせたんだから、「もうこれ以上は意味無いんじゃないでしょーか」と、非常に物申したい気分。わりと切実に。

 

 まぁ、俺みたいな怪しい意味不明な兵器なんざ、幾ら調べても調べ足りないんだろうし、お国としての立場もあるのは分かるんだがなぁ……。俺も俺で色々と調べたい事が重なってるからマジで勘弁してもらいたい。特に直近で気になんのが謎上位権限プログラムと、あの時の電波障害だ。

 

 色々あってつい最近認識出来るようになったあのプログラムは、セキュリティの根幹みたいなモノだというのは分かったがソレ以外は全く分からず、名称自体も俺にすら伏せられてて、あの時は勝手に口に出てた感じだ。そしてもう一つ無視できないのがあの時の電波障害が、デュナメスのセンサーにすら悪影響を及ぼしていた事だ。

 

 ………正直な話、俺は天狗になってた。俺が見てきた限り一部を除いてほぼ、俺の知っている現代技術レベルのこの世界で、ガンダムタイプをどうこう出来る訳がないと。

 

 ガンダムデュナメスは超遠方から精密射撃を主眼に置かれてるだけあって、それらに必要な索敵・情報収集能力はガンダムタイプ*1の中でもかなりのモノだ。劇中でもオプション装備込みとはいえ、地上から熱圏に在る対象(約、最低でも高度100キロ以上)をピンポイントに一発も誤射無く撃ち抜き、桁違いの観測・射程距離を視聴者に魅せていた。そのセンサーにすらノイズを混じらせるレベルとなると、どう考えても普通じゃない。それにキナ臭い話はそれだけじゃねぇ、試しにと思ってガンダム関連の用語を喋ろうとしたり検索を自身の中だけで掛けようとしてもガッチガチにブロックされた事もだ。しかも、OOシリーズ以外の大したこと無い用語もな。

 

………そもそもの話、俺のデュナメスボディはサイズうんぬんの前に、明らかにOOシリーズ以外の技術も使われてる本来ならあり得ねぇ仕様*2………前述の事件とそれを合わせて考えれば、ポンッと脈絡もなく召喚されたり転生させられたりした訳じゃなく、何者かの明確な目的に沿ってこの世界で製造された可能性も在るわけで、他にも俺以外のMSモドキが居るかも知れねぇって訳だ。

 

 まぁ尤も?情報も証拠も無い現状じゃあどんな理由だってこじつけれるし、それこそ神様だとか次元を越えた超越者だとかがテキトーに作って放棄しました!なんていう滅茶苦茶な推論も立てれそうだし、そうなってくるとマーベルみたいな多次元がドウタラだとか他惑星文明の遺産がナントカだとかなハチャメチャで物騒な世界なんだ!とかいう理屈も通る訳でだな…………んんーー……ああーー……やっぱダメだ、そもそもどう調べればいいか分からん。思い付く限りの方法は大体やったしなぁ………。そんな具合に思考を他所へ飛ばしていると、説明してくれていた職員さんとは別の人がやって来て、今回用の小道具を持ってきてくれた。

 

 

「此方が今回のテスト用の銃とマガジンです。

 弾数はこれだけなのも留意してください。」

 

了解(ラジャー)

 

 

 渡されたのはリコリスの子達が使っている二組のハンドガンと俺専用マガジン。

 今回のテストはリコリス達を相手に屋内での俺の戦闘シミュレーションだ。

 現在俺の姿はGNバーニア以外の装備を全て外した状態になっており、使う装備も向こうが用意してくれる物のみ。勿論、使用弾はお互いペイント弾だが、銃の方は俺でも使えるようにとチョコチョコと手直しがされ、マガジンも俺の為にドラムマガジンを用意してもらった。

 

 ルールをざっくり纏めると、俺 対リコリスチームの殲滅戦。

 バランス調整の為に俺は頭部及び胸部に当てられたら大破判定で、ソレ以外の箇所は機能停止or損失という扱い。後、あからさまな飛行やバリア(GNフィールド)などの特殊機能を始めとした、格闘、過度な設置物や施設の破壊も禁止だ。そして俺がダウン判定を取れるのはこのペイント弾だけで、ドラムマガジンを用意してもらったのは、俺がソロなのと予備マガジンを身に着けることが難しい為の処置でもある。

 

 格闘は端からする気も無いし当たり前だが、ソレ以外の制限も結構付いてて、客観的に見りゃあかなり厳しめの条件。だが俺は内心ワクワクしていた。久しぶりに肩肘の張らないサバゲー感で遊べそうなテストで、ガンダムボディをフルに使えるからな。こんな風に遊んでいても良いのか?と思わなくもないが、変にウダウダしててもしょうがねぇのも確かだ。やれることは全部やり尽くしたし、今のところ俺の出来ることは無い。

 

 

「では、指示があるまで此処で待機していて下さい」

 

了解(ラジャー)

 

 

 綿密な立ち回りが出来るほど器用じゃネェんだ、後は出たとこ勝負にしかならんだろ。半ば投げやりともとれる形で思考を打ち切り、指示通り俺は、次の連絡があるまでこの小さな待機所で待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

───リコリス側待機所───

 

 

「───いやぁ、まさかこんな日が来るとはねぇ………」

 

「……………」

 

 

 ドコかババ臭い感想を漏らす相棒のサクラの横で、(春川 フキ)、ファースト1名と、セカンド15名の計16名のリコリス達は粛々とテストの準備を進めつつ待機所に集まっていた。今回のテストは、名目上ではヤツの評価試験という体だが、実際は『ヤツに類する兵器に対して歩兵でも対処する方法』の、サンプル集めだろう。とは言っても、此方は複数且つサブマシンガンなどを装備に対し、相手は1機でややカスタムされただけのハンドガン。その上無線などのバックアップは此方は有るのに向こうは無しなど、他にもアイツに掛かった制限や本来の機能面を踏まえれば、有意義なデータに成るか甚だ疑問だがな………。

 

 

「………あの~~、お聞きしても良いのなら、今回の模擬戦相手の事を少し教えてほしいのですが………」

 

「ああ~~…………ソレウチらもよく知らないんだよねぇ~………」

 

「…………というか喋っていいの?……アレの事…………」

 

 

 準備も終わり、後は手短に打ち合わせるだけとなったタイミングで、当然の疑問の会話が繰り広げられ、私は内心で頭を抱えた。今回の模擬戦には、先日の作戦でヤツと顔を合わせたリコリスも居るには居るが、あんな滅茶苦茶なモン見せられてどう説明すりゃあいいか迷うのは当たり前だ。そして前提として『機密度の高い代物だ』と通達されている以上、この場で一番事情に詳しくて権限を持ってそうな者に視線が集まるのも自然な流れで、いつの間にか全員が私を見ていた。

 

 

「………アレについては機密事項だ………。ただまぁ、AIはそれなりに優秀だからな。『誤作動を起こしました。』なんて事は無いから安心しろ………」

 

「なんかその言い方スッゴい不安っスよ………」

 

 

 やかましい!知ってようが知らなかろうがどっち道そう言うしか無いだろ!と、サクラの呟きに睨みながら内心で返す。私の回答を聞いた奴ら(特にヤツと顔合わせをしたリコリス)は漏れ無く目を細め、非常に何か言いたげなツラに成った。そんな微妙な顔になった奴らに囲まれながら、私はこの正当な憤りを胸に『一発だけなんてケチ臭い事は言わねぇ……ゼッテー真っピンクに染め上げてやる』と、誓いを新たにする。………正直、今回の模擬戦は色んな意味で想像つかないがカンケー()ぇ、やや不本意だが()()()も有るからな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 評価試験開始まで1分を切る。今回のステージは巨大ビルの1フロアを模したもので、細く曲がりくねった通路だけではなく、全体で見れば少ないが真っ直ぐ長大な通路や開けたエリアも在る等、平面的ながらも多様性の富む高度な戦術を要求する作りだ。

 

 

『────試験開始まで、あと────』

「(勝敗はモビルスーツの“性能”のみで決まらず)」

 

 

 機動力の差を理由にリコリス達は先に展開済みで、マップの詳細も教えられている。各員が作戦通りにポジションに着き、突破するにはファーストでも一筋縄では行かないキルゾーンが形成されていく。

 

 

『─────18、17、16、─────』

「(操縦者の“技”のみで決まらず)」

 

 

 逆に翡翠は屋内という情報のみしか伝えられておらず、マップの詳細は伏せられ、ルール通りにセンサー類を閉じて静かに待っていた。その間に今回用の自身唯一の得物を構えるなどをして、火器管制系システムに軽く補正をかける。本来なら専用武装それぞれに付いている外付けセンサーと、デュナメス本体のセンサーとの連動よって、時計細工を組み上げるような繊細な射撃を可能とするが、今回はそれ程の精度は見込めないだろう。

 

 

『──────4、3、2──────』

「(ただ、結果のみが真実)」

 

 

 その上、ルール違反を起こさないようにと、今回限りの制限プログラムも構築して自身に反映させ、被弾時には各対応部位が機能停止に成るようにと設定も重ねる。有形無形の重りを全身に雁字搦めに巻き付けられ、本来のスペックから程遠いモノになる、が、しかし─────────これで漸く対等だ。

 

 

『────1────

 ──0──』「(フィックス・リリースッ!!)」

 

 

 静かに、だが確かに、今、開戦の幕が上がった。

 

 扉が開かれると同時に地を蹴り、風のように駆ける。自主的に制限を掛けたセンサーを起動してリコリス達を捕捉、人外所以の速度で進軍して、彼我との距離を瞬く間に詰める。

 

 そして見えてくる通路を曲がった直後、待ち構えていたリコリス達の射線が通り────即座に即殺を狙う弾が飛んで来た。

 

 対象に対して約30メートル弱からの開けた真っ直ぐな進路、曲がった直後の対象は全身を見せながらも此方に振り向ききっておらず、やや不安定な体勢。

 

 『()った』───目標に吸い込まれるように飛翔するフルオートのペイント弾に、4名の射手は必殺を確信しながらも冷徹に次への布石へと意識が移る───その瞬間までは。

 

 敵が右肩部を突き出すようにその場で半身に成る。それだけで弾がすり抜けるように後ろの壁や床に当たっていった。断続的に射出されるペイント弾をネオン代わりに、続けざまに上下左右に体軸を小刻みにずらして、回転も時に交ぜながら白と深緑の巨体が舞う。

 

 今尚サブマシンガンから吐き出されるペイント弾が、壁や床をピンク一色に染めていく事で一発のヒットも無いことを証明され───コンマにも充たない時間の中、驚愕で目を見開くリコリス達は、クリアグリーンの視線と交差したのが分かった。

 

 

「(ガンダムファイト国際条約第一条っ!───)」

 

『っ!?待避っ!!』

 

 

 無線越しに端的なフキの命令が鋭く飛ぶ───

 

 

「(───“頭部”を破壊された者は、失格となるっっ!!!)」

 

 

 ───が、それは遅すぎた。

 

 殿(しんがり)以外の者はその声で配置を捨てて転身。冗談のような光景でも何とか動けていたのは日頃の訓練の賜物だろう、しかし実情はそれが限界。

 僅かに出来た射擊の隙間から二丁のハンドガンを真っ直ぐ腕を伸ばして向けられ、創作物でしか先ず見ない構えからのカウンターが、正確にリコリス達の頭部に張り付く。人間では絶対に不可能な反動を完全に押さえつける鋼鉄の膂力に、涅槃寂静 単位で導きだされる弾道予測が、ハンドガンに有り得ざる精度と、機体に未来予知に等しい回避能力を付与。

 

 

「っ!?!?」

 

「うそぉっ!!??」

 

「ぅわっぷっ!??」

 

「ええぇーーっ!?!?」

 

 

 適度に連射された青のペイント弾が全弾リコリス達にヒット、リコリス達は早くも4名もの頭数を失った。─────

 

 

 

 

 

「───クソッ、マジでふざけた兵器だなっ!??」

 

「うえぇっ?!アレも弾避けるんスかぁ!?」

 

 

 初動チームのバックアップに入るために動いていたフキ達が観たものは、瞬時に壊滅させられた仲間達の1場面(ワンシーン)

 

 フキは自身の思慮不足に歯痒く恥じるが、咄嗟に指示を出せただけでも大したものだろう。現にフキの指示が無ければ、硬直したままのリコリスは多数居たのだから。

 兎に角、今は態勢を立て直せねばと、可能な限り目標から距離をとるよう最低限の指示を飛ばし、自分達も走る。

 

 

「速いのは知ってたっスけど、あの図体で機敏なのは反則っしょっ………!?」

 

 

 全くの同意見だ、クソッたれめ!と、サクラの苦々しい感想に同意しながら、頭を回して当初の予定に大幅な修正を加える。初っ端から想定をぶっ壊してくれたヤツに悪態を吐きつつも、フキの指示は止まらない。

 

 

「当てようとしなくて良い!牽制に務めてポイントA-3まで後退!!」

 

 

 壁越しから再び聞こえて来た銃声と駆動音、その後に直ぐに耳に入ってきた他チームの交戦報告に指示と並行して思案。

 

 

 飼い主(?)も飼い主(?)なら、そのペット(?)もペット(?)でしたってか?フザケンナ!………だが、同じ射撃回避でもヤツと千束は違う………!人よりデケェ分、細い通路では分が悪い筈だ。現に細い道に誘導されるのを嫌うように動いてやがる…………!

 

 外面では非常にキレ散らかしているように見えるが────いや、実際に内面でもキレ散らかしてはいるが────フキは冷静に相手と戦況を俯瞰していた。フキの纏う赤服は、単に個人の武力面だけで選定される訳ではない。確かなリーダーとしての資質と実績を多くの衆目に示してきたからこそ与えられたものだからだ。

 

 

「チャーリー、エコーチームは残弾を考えなくて良い、ヤツに撃たせんな!

 撃ちそうな素振りを見せたら即、待避しろ!

 他のチームはチャーリー、エコーチームのカバー!

 まずはヤツの機動力を奪え!」

 

 

 あまり響かないよう声を押さえながら翡翠に対面しているチームには無線で指示を出し、道中で合流した他チームには目標から見えないようハンドサインで()()を全員に行き渡らせる。相手は集音性能も普通ではない以上(体験済み)、作戦の詳細が解らないだろうと高を括るのは下策。

 

 先程よりも少し狭い十字路の先で、制圧射撃で目標を押さえるチャーリー、エコーチームを隠れ蓑に、迷路のような通路をブラボー、デルタ、フキとサクラのアルファチームが音を殺して迅速に囲うように駆ける。

 

 

『チャーリー、エコーチーム全滅判定(ダウン)

 

『フォックスチーム、交戦に入ります!』

 

「ッ!!」

 

 前チームと入れ替わるように待機チームがスイッチ、前担当チームと同様に継戦を考えない制圧射撃で牽制に徹しているが、長く持たないのは明白。淡々と伝えられるオペレーターからの想定よりも厳しい戦況報告に、フキの焦りが加速するが、ここで迂闊を晒すほどフキの経験は浅くはない。

 

 “弾を避けれる”つってもあくまで見えている範囲だけだろ………!だったら死角から避けれないレベルの面で仕留める!

 

 現状できうる限りのベスト。それぞれが目標を十字に囲む配置が出来上がり、フキとサクラは丁度相手の真後ろにあたる位置に着く。本来なら仲間に射線が重なる為、確度は高くとも実戦では先ずしない包囲陣形だがそれくらいでなければダメだと判断。相手は私達と合わせるために一度引っ込んだフォックスチームに集中しており、追い詰めるためか前に走り出す直前というタイミング────

 

 ───此処だ!!──────これ以上無い瞬間と、と思えた矢先に────

 

 フキの合図と共に、全員が一子乱れず遮蔽物から飛び出し映った視界の端で───

 

 

「((アムロ)は言っている───)」

 

 

 前に傾いた体を踏み出した足の一本で強引に直し、両腕を広げるよう左右に得物を構えた翡翠の背中を見て──────

 

 

「(───『後ろにも目を付けろ』と)」

 

「(ッ~~~!?バカか私はっ!?)」

 

 

 ────遅まきながら肝心の思い違いに気付く。そもそも相手は人間では無くマシンだ。人間のように()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──翡翠との距離、目測にして約14~15メートル──

 

 そこからはほぼ条件反射だった。フキは自身の小柄さを武器に、地を這うようにまともに狙いも付けず乱射しながら全力疾走。予定外の行動を自身が採るという笑えない問題行動だが、そんな事は最早気にする意味は無かった。

 

 ───約11メートル───

 

 自身を挟むように左右から飛び出るリコリス達を、翡翠は彼女達が発砲するよりも早くに撃ち据える。左右同時に出てきたにも関わらず、構える暇もなく体を少し出した瞬間に命中させ死亡判定が確定。後ろから飛んできた弾は、当たるものだけを僅かに体を傾けて回避。

 

 ───約6メートル───

 

 仲間が作ってくれた貴重な時間で、フキは銃を捨て更に加速。その行動に呼応するように、前から押さえ役を担当していたチームも再び体をさらけ出し援護に入るが、直ぐに二人とも青く染まる。今度は体を出した瞬間ではなく、二丁の銃口を前方のリコリス達に別々に狙いを付けながら、最初はサブマシンガン、その後に頭部といった順序。その結果、先程よりも更に時間を稼げた。フキに対応する為に必要だった迎撃に要した僅かな時間だが、それが明暗を分けた。

 

 ───約2メートル───

 

 更にほんの数舜稼いでくれた仲間にフキは感謝し、足の回転数を上げ、真っ直ぐ突き進む。回避運動はしない、相手の正確さは人間のソレではないのだからどれだけ派手に動いても無意味、と反射的に判断し─────漸く()()()()()()()に到達。

 

 ───約1メートル────フキは跳ぶ。

 

 全力の跳び蹴り。狙うは腕で、欲を言うなら銃を持つ手。出来るなら得物を弾き飛ばしたいところだが、それは恐らく無理だろう。

 

 アイススケートで滑るように、鉄の巨体が滑らかに、素早く、時計回りに振り向く最中(さなか)、此方に向けて今なお移動する右腕の手首辺りへ、フキは爪先を下から上へと打ち出す────

 

 クソッ、小揺るぎもしねぇ……!

 

 ────だが足に返ってきた感触は、中身までミッチリとコンクリートが詰まった壁のような感覚。

 金属カップで保護されている筈の爪先に、薄く鈍い痛みが返ってくるが、気にせず蹴った反動を利用して落ちるより速く着地し、蹴りつけた腕に飛びかかってしがみつく。

 

 我ながら体術も糞もねぇなぁっ!!?

 

 一見それは、術利も何もない悪足掻きだが、時間を稼ぐ方法といえばこの状況での最適解。体格もパワーもまるで違う人外に、対人用の技能は殆んど意味を成さないと判断した上での行動。逆に翡翠視点からは突発的に敢行された奇行に見える行動に、動きの遅延という形で動揺が顕に成る。そのまま強引に振り回せば、人間なぞどうなるか説明するまでもないからだ。

 

 

「(うおっ!?危ねぇっ!?!?)」

 

 

 格闘戦を封じられているからこそ、対処不能な事態。その僅かな隙を『逃さん!』と、フキは懐から予備の銃を最短で引き抜こうとし───しがみついた反対の腕から頭部と腹部に一発ずつもらう。

 

 腕の一本は封じたといっても反対の腕は空いていたのだ、なら反対の腕から迎撃が飛んでくるのは当たり前で、宙ぶらりんの無防備なフキに出来ることはない。

 

 故に、残りは1人(ほぼゲームセット)

 

 

「(撃っちゃうんだよなぁっ、コレがっ!!)」

 

 

 完全勝利だと内心で高笑いをしている自身に酔った翡翠(バカ)が、そのまま流れるように左腕を前に突き出して引き金を引き────銃の内部から青い液体が飛び散った。

 

 

「(───ヒョ??)」

 

「(────っ!今っスっ!!)」

 

 

 自身の銃から鳴る異音に、機械らしからぬ妙に人間臭い挙動で停止(フリーズ)する翡翠に、サクラが最後の攻勢に出る。

 フキが吶喊してから(フキの考えを汲んで)(けん)に徹していたからこその掴み取れた最高のチャンス。絶対にモノにする!と一念を籠めてトリガーを引く。

 

 

「(ちょっ!!まっ!?おまっ!?おっ、おっ!?ィッ!?イッ、イワーーーーーーーークッ!!!?)」

 

「うぉッ!?ッ~~~?!?!」

 

 

 拙速に、されど正確にフルオートで弾を翡翠に向けてばら蒔く。

 初弾が翡翠の左肩を掠め、機能停止になってダラリと垂れ下がる。降りるタイミングを無くしたフキをぶら下げながら、右へ左へと大きく体を振り回しつつ後退して回避するが、明らかに精細を欠いていた。突発的な事故に、未だにしがみついたままのフキにも気を回し、キャパオーバーのツケが直ぐに溢れかえる。

 

 後ろにも下がりすぎた事で、背後で死亡判定を受け座り込んでいたリコリス達に接触寸前で気が付き足を止めた直後、追いかけ回していたサクラの射撃ラインが追い付いて右足にも数発着弾。翡翠は力が抜けたように右側へと体勢を崩して膝を突く。そして突如の高度変化で足が着いた事に適応出来なかったフキは、腕を離して後ろへと尻餅を突いた。

 

 

「貰ったっスッ!!」

 

 

 此処まで追い込むために、サブマシンガンは既に撃ち切っていたが、それは武器を切り替えれば良いだけの話で、先程のフキ同様に手持ちの銃を捨て、最速で懐からハンドガンを抜く。相手の回避能力は既に無く、『こちら(サクラ)の方が先に射せる』とサクラとフキ(二人)は表層意識で言葉が書き起こされる前に確信に至る。

 

 ─────両者の思惑と予想が交差するその刹那、リコリス達は勝利を幻視し─────翡翠は残った右腕の銃を上へと高く放り投げ───

 

 ───壁沿いに取り付けられた手摺を剛速でもぎ取り、前方に構え────

 

 

「(今、必殺(でんとう)のぉ~~───)」

 

 

 ────出し惜しみ無しの連射とそれは重なった。

 

 

「(──ビームサーベル(ただの手摺)回転斬りだぁぁぁぁっ!!───)」

 

 

 手首を高速回転させ仮初の巨大なラウンドシールドを作りだす。それは素材的な意味合いでも、即席の盾としては最低品質の代物だったが、今この場合に於いてはこれ以上無いほどの戦果を叩き出した。

 

 撃ち出されるペイント弾が、横へ、上へ、下へ、入射方向から垂直方向へ一発残らず飛び散っていき、通路を輪切りにしたような蛍光ピンクのラインを描く。やがてカチカチと虚しい音を鳴らすサクラのハンドガンと入れ替わるように、次第に翡翠は手首の回転速度を落としていく。

 それを、銃を構えたまま固まるサクラが──

 

 

「なっ────」

 

 

 観ていた者達と同じ様に口をあんぐりと開け───

 

 

「───なんじゃそりゃぁぁぁ~~~~っ!?!?!」

 

 

 ──全員の心情を代弁した慟哭を試験場に響かせた。

 

 締まらない空気の中、手摺を捨て、悠々と落下してきた銃を翡翠はキャッチ。

 しめやかにトリプルタップでペイント弾を浴びせて、模擬戦終了を報せるブザーが鳴り渡った。

 

 

 

 

 

 

*1

ガンダムタイプ:

 基本的にはガンダム顔の機体の俗称であり総称(V字のブレードアンテナ+デュアルアイ顔)。タイトルや年代毎に、設定やガンダム判定がマチマチでガバガバ。遥か未来世界の同世代機体と比べても、大抵が図抜けたスペックを誇るワンオフスペシャルなバケモノマシン。しかし、コストが戦艦並に高かったり、操縦条件がエース・オブ・エース級を要求したり、特殊な才能ありきだったりと、軍用機のくせして中々な欠陥を抱えている決戦兵器的な存在でもある。余談だが、ガンダムの頭だけを千切って量産機のボディにくっ付けた機体もあったりとガンダム詐欺も多い。

*2
ガンダムの世界観について:

 ガンダムの世界観をざっくり知らない人向けに簡単に解説すると、ガンダム作品の世界観は全てが繋がっているわけではなく、アムロやシャアが居た宇宙世紀という時間軸と、それ以外の独立した時間軸のパラレルっぽい(SEEDやOO、鉄血のオルフェンズや水星の魔女などがこれに該当)異世界に別れています。

 大雑把に纏めると、アムロやニュータイプとかの単語が出てきたら大体がシャアとかハマーン・カーンとかが居た宇宙世紀時間軸のシェアワールドで、それ以外のタイトルはテイルズやFFみたいにナンバリングやサブタイ毎に独立した、一部の用語の名称だけ同じな別世界の話です。

 

 まぁ、長々と何を解説したかったか?というと、明らかに他次元の技術も混ざっている?というだけの話。

 

※あくまで知らない人向けの簡単な解説なので、細かく複雑な設定(∀とか)などは割愛してますし、指摘や議論も御割愛下さい。






 正直な話、今回の話はカットするべきか非常に迷ったヤツですね。天の声からはよチャート進めろと聞こえてきそうです!




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ガンダムVS 後編



 評価、お気に入り、感想等々、毎度ありがとうございます。
 遅投稿でも付いてきてくれる方々に、この場を借りて感謝を申し上げます。これからも、評価や、感想、頂けたら幸いです。

余談:
アンケート文って、文字数制限が意外と厳しくて投稿者はよく困っちゃいます。




 

 

 

 

 広々と取られた間取りに豪奢ながらも嫌味にならない内装。実務機能面に於ても計算され尽くしたこの部屋は、まさしく最高責任者にふさわしい執務室だ。

 

 その部屋の主である楠木は眉間にシワを作り、無数の書類を広げた執務席に座って、並々ならぬ眼力をモニターに注いでいた。

 

 

「………最早、コレの調査には創作家を当てた方が早いかもしれんな………」

 

 

 模擬戦の一部始終を観戦し終え、前のめりだった上体を起こして漏れ出た感想は、匙を投げたようなセリフ。そもそもの話、DAにこのような不適当な仕事を割り当てられたのには、ある理由があった。

 

 確かに、DAは組織としての成り立ち上、兵器などに対してもそれなりのノウハウを持ち得てはいるが、本職は対人の治安維持であり、戦闘機や戦車などの大がかりな兵器群の専門家ではない。それでもDA、延いては、そのごく一部だけで『ガンダムデュナメス』の調査を続けられていたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()を秘匿する為だった。

 

 

「(……当初はオーパーツ染みた性能に誰もが浮き足だって気づけていなかったが……今なら分かる、コイツの本質が…………)」

 

 

 国家間に於て、嘗められないとは非常に重要な事だ。一見、チンピラのような文言だが理由は至って大真面目。その理由は、国が嘗められると、国、組織問わず全方包囲から有形無形の攻撃対象に成るからだ。

 

 人間は基本的に欲深で独善的で狂暴な生き物。相手が危害を加えてもやり返してこないと分かれば、際限なく付け上がって有りと有らゆる物の搾取に走る。それが集団にもなればより過激に、より手広く、より残酷に、より多くを、と、何処までも(とど)まることを知らない。それはどのような事柄でも変わらず、規模も、表も、裏も、垣根無く全てに言えること。止まる時は大抵 割に合わなくなるか出来なくなった時だけ。

 

 だからこそ、侮られぬように周囲に喧伝する必要が有り、その直接的手段として尤も効果的、且つ、手早く示す方法が『軍事力(暴力)』である。

 

 

「(…………対人用でもなければ、対戦闘機、対戦車用でも無い…………対、()()()………それも自身の機能をベンチマークに想定した…………)」

 

 

 そして今回の模擬戦は、リコリス達をデュナメスの同型機、もしくは類似兵器として見立てて、いずれ来るであろう鉄火場に可能な限り似せたものだ。それも希望的観測にそった、ある種の神頼みに近い条件で。

 

 ……だが、漸く気づいた。………いや、気付いてしまった。『ガンダムデュナメス』の本来の運用思想に。

 

 既存のレーダーや無線などのほぼ全てを無力化する電子戦能力で、目や耳だけでなく軍としての連携もズタズタにし、視界にさえ入れば回避不能、迎撃不能、防御不能の攻撃を、どんな目標にでも時間が許す限り叩き込める攻撃能力とで、一方的なゲリラ戦を展開。本体は陸海空を縦横無尽に駆け回る機動力に、前述の機能のお陰で従来のFCSや誘導兵器が陳腐化、まず命中させる事自体が困難な回避能力。その上その装甲は戦車以上で、生半可な攻撃ではビクともしない疲れ知らずの兵士(AI)の為、戦場での様々な負荷をスルー。敵味方問わず無線やレーダー類を根こそぎ封鎖出来る能力前提で超射程、高火力、高機動、制限無しの継戦能力に神出鬼没を合わせて全面に押し出し、周囲一帯の戦術選択肢を有無を言わさず簒奪。戦場の上位者として君臨する。

 

 統括すれば、有視界戦に於て無敵の性能を誇る兵器が、問答無用で有視界戦を強制させてくるという身も蓋もない机上の空論を、完璧な形で実現した物。

 

 

「(………戦術級領域支配機(エリア・ドミナンス)………)」

 

 

 人類史が今まで積み上げてきた戦場のドクトリンを根底から破壊し尽くす特大の爆弾(革命)。それが、『ガンダムデュナメス』だった。

 

 

「(従来兵器が相手なら飛行能力と砲撃能力だけで事足りる………。

 人型である必要も、あの異常なまでの運動能力も格闘能力も要らん………。

 ()()()()()()()()()…………)」

 

 

 ………もし、この兵器が表に出ればどうなるか?……決まっている。この兵器の数=軍事力が常識に成る。未だにこの機体の持つジャミング、及びセンサー類妨害能力の突破口どころか原理の入り口すら見付かっていないのだ、現行戦力では時間稼ぎにしかならない。仮に表に出なくとも諜報活動に専念されれば、本体サイズも手伝って機密情報をコンビニに寄る感覚で掠め取られる。考えたくは無いが更に時代が進み、世界中でこの機体、もしくは類似兵器が巷で溢れかえれば、ゆくゆくは弾道ミサイルすらも無用の長物と化すだろうと、多くの識者達も頭を抱えながら結論を出した。

 

 そして兵器に限らず道具というものは、限られたリソースを元に設計されるものだ。戦闘機が戦車のような分厚い装甲に出来ないのと同じ様に、構想の段階から目的も運用方法もガッチリと決めなければ完成出来ない。……戦場の仕来りが変わる前から、白兵戦能力まで完成されている異常性に目を瞑ればだが、ガンダムデュナメスのスペックも、恐らくそういうことなのだろう。

 

 軍事面だけを見てもコレだけ異常なのだ、この現物が元々は国外(そと)から来た可能性が高い以上、『無かったことにする』なんて選択肢は取れない。コレは人間(千束)とは違い、条件さえ揃えれば量産も再現も可能な物なのだから。

 

 そしてもう1つ、DAを悩ます問題がある。

 

 

「(………G()N()-()0()0()2()………)」

 

 

 この型番もあくまで自己申告でしかなく、本当は1号機なんて存在しないかも知れないし、在ったとしても設計図だけなのかもしれない………幾らでも書き換えれる名目。だが、もし、自分達の敵として現れれば?というどうしようもない懸念が、今も尚、吐き捨てられたガムのように楠木の脳裏にこびりついていた。

 

 

「………お言葉ですが、少し休憩を入れられてはどうですか?」

 

 

 そんな出口の見えない思考迷路でさ迷う楠木を引っ張り上げたのは助手だった。一緒に模擬戦を観ていた筈だがと、考えたところでカタリと、白い湯気が立ち昇るカップを置かれる。

 

 

「極度の疲労は能率的な仕事の敵ですから」

 

 

 苦笑しながらそう言って置かれたのは、珈琲だった。どうやら、部下の行動も把握出来ないほど考え込んでいたらしい……。そこまで言われれば、次第に五感にも意識が戻り始め、淹れたてであろう珈琲から香ばしくも芳醇な香りが漂って来るのが分かった。

 

 

「…………そうだな……ありがとう……」

 

 

 ハッキリ言って、この案件はDAだけでは手に余る話だが、首を横に振る選択肢はもっと無い非常に辛い話。だが楠木は一人ではない。頼りになる部下達に、味方をしてくれる人も居る。助手もその一人。相手が不透明な以上、呑気にしていられる時間は無いが、無いわけではないのだ。幸いと言って良いか非常に迷うし腹立たしいが、元凶ともある程度の協力関係は維持出来ている。そして元々、アレを手元に押さえ付けて監視したいがそれは恐らく不可能だろうと結論が出た為に今に至っているのだ。ならば地道に出来る事をやっていくしかないだろう。何だかんだと言っても楠木も千束の事は信用しているのだから。

 

 助手の淹れてくれた珈琲を手に取り、一息つく。口の中で波のように優しく広がるのは、程好く強い苦味と、豆を深く丁寧に焼いたからこそ出る、香ばしい香り。それは次第に口から胃へ、鼻へと抜けていき、微かに混じるフルーティーな風味がより一層心地よい余韻を引き立てる。ささくれ立った神経が、しっとりと落ち着いていくのを楠木は感じながら、二口目と珈琲を穏やかに啜りつつテレビを無意識に付け────

 

 

 

 

『───ほ、本当に多機能ですね………!?』

 

『──鳴らない言葉をもう一度描いてー、赤色に染まる時間を──』

(疾走感のある謎の曲を流しながら、清廉さの欠片も感じられない素人ダンスをキレッキレで踊るガンダムの図)

 

 

 

 

ブフッ!!??、ゴフッ!!──エホッ、エホッ!!……」

 

「司令っ!?!?」

 

 

 

 ───噎せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───某日、廃れたある港にて───

 

 

 

 コンクリートを叩く二人分の靴の音が聞こえる。人が全く居ないせいで大して大きくない筈のその足音は、イヤに響いて二人の存在感を強く主張していた。前を歩く黒コートの男は、肩で風を切るようにズンズンと大股で進むのに対し、その男の後ろを付いて来ているロボットの被り物をした人物は、ビクビクと小動物のように周りを警戒しながら進んでいた。

 

 用事がなければ先ず誰もやって来ないようなこの場所は、言うなれば灰色の世界。潮風に直接さらされ続けた建物やコンテナは、実際の経過時間以上に朽果てており、酷くもの悲しげだ。少しでも日陰のある場所に行けば、錆びきった鉄材やフォークリフトが寂しく陰鬱な雰囲気を助長する。しかし、全体を見渡せば視界自体は非常に開けていて、太陽がまだまだ高く昇っている時間と心地よい潮風が、怪しい気配を吹き散らしている、といった背景だ。

 

 そんな場所で、真島は真っ直ぐ進みながら何かを探すように視線をさ迷わせていると、軈て何人かの人影を見つける。目当てを見つけた真島は口角を吊り上げて躊躇いなく歩進め、件の人物達へ目指す。そして、その人物達も真島達を認識し、彼らは向かい合った。

 

 

 

「───よぉ、此処がパーティー会場でいいんだよな?」

 

 

 

濁り水が、ゆっくりと流れだしていく。

 

 

 

 






 デデーン、楠木、アウト。


※ガンダム作品を知らない人向け解説
ガンダムが剣を持っていたりカラーリングが派手な理由に付いて:

 メタメタな話になりますが、ガンダム作品はテーマの1つとして『巨人同士の殴り合い』?みたいな話があります(うろ覚えのためかなり怪しい、間違えていたら申し訳ない)。その為、あの手この手で飛び道具や通信だとかレーダーとかに対してメタアンチ装置的なんかが溢れかえっている世界なんDA☆。
 例えば、GN粒子なんかは作中でも書きましたが、レーダーや通信類とかも無差別にダメにするもんだから、敵味方の識別信号すらも限定的で使えず、勿論そうなると発見自体も遅れるため遭遇戦からのフレンドリーファイヤ、も、しばしばある世界なんDA☆。(一部の特務機とかは視覚でもバレないよう迷彩カラーで塗装。但し、表沙汰に出来ない案件とかに当たる機体なのでバレたら当然……といった具合。)
 という事で、不意の接近戦対策と自軍を視覚による識別する為の手段とその他の理由諸々、と、投稿者は解釈しています。





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ヘルメスの薔薇の設計図



投稿者「次々壊れていく大事な道具や日用品……!
    また少なくなる休日………!
    こんなの耐えられない……!!
    コーラルをキメますよ!?僕は!!」

天の声「落ち着くんだ、投稿者。
    悲しみを克服する方法を教える。
    まず、休日という言葉を思い浮かべる。
    そしてゆっくりこう唱えるんだ。
    『存在しない』と」

投稿者「……『存在しない』……はっ!……すごいっ、透明だ……全てが透き通って……財布から…コジマが逆流する…! ギャアアアアアアアッ!!」

そんな日々でも私は生きている気がする………。




 

 

 

 

─────遡ること数日前─────

 

 

 現在 僕は、専横な仕事に従事させられている。事の発端である出所不明の人型兵器 調査後、真島は何を思ったのか僕にはDA周囲の監視だのなんだのと雑用ばかりを押し付けて、自身はひたすらダラけて無為な時間を過ごしていた。確かに、アレの情報を掴めなかったのは僕の責任だし(8:2くらいで。勿論僕が2)、あんな意味不明でメチャクチャな兵器を相手にしたら、匙の1つや2つ投げたくなるのも共感出来るが……それでももう少し、こう……なんというか……取り繕うなり…何かあるだろ!と、憤慨した。……思っただけで言わないが。

 

 兎に角、当初は何かを考えているような素振りくらいは有ったが、今ではそんな体裁すらなく基地でゴロゴロしてるだけ………ハッキリ言って僕まで気が滅入り始めていた。……だが、真島の横暴は止まる所を知らない。

 

 報告会から暫くしたある日、僕のパソコンに差出人不明の電子暗号データが届いたのだ。当たり前だが僕の端末には幾重にも厳重なセキュリティを走らせている。ハッカーたるもの、攻めだけでなく守りも出来なくては一人前とは言えないからね。無論、僕は・一流だからそれ相応の警戒網を敷いている。ビジネス相手との連絡も細心の注意を払って逆探は勿論、痕跡も残さないようにしているし、直通なんてもってのほかだ。………その僕の端末に、ダイレクトに乗り込んできた事実がどれだけ予断を許さない状況なのかは語るまでもない。

 

 当然 僕は真島にその事を知らせて即刻 移転を提言したんだが、ところが、真島の奴は嬉々としてそのデータを開けろと脅してきたんだ。

 悲しいかな、暴力を前面に押し出されれば僕に抗う術は無く、奴の要望通りに動くしかなかった。いくら仕事の為とはいえ、真島との付き合いもそろそろ本気で考えなければ、と、頭の片隅で思案しつつ恐る恐る暗号データを解凍していく。送られてきた暗号データはかなり高度な組まれ方をされており、並のハッカーでは何週間も掛かりそうなモノだったがソコは僕、チョチョイと開いてやる。しかし、出てきたモノは僕の予想の斜め上を行くブツだった。

 

 あれだけ探しても掠りすらしなかったあの兵器のスペックデータらしきモノと、『これ以上知りたければこの日、この時間、指定する場所に来い』と、必要最低限の情報だけが書かれたメールという、更に怪しさを倍載せしたモノが出てきたのだ。

 

 真島はソレを見て「ビンゴッ!!」と言って大はしゃぎ。そのまま僕の諫言を無視して首根っこを掴まえ、ソレに記されていた辺鄙な場所、廃港まで引きずり───そして現在に至る。

 

 …………怪しい。怪し過ぎる。どう考えても罠かソレに付随する何かにしか見えない招待状だ。真島はテーマパークに乗り込む子供のようにウキウキだが、真っ当な危機管理能力を持つ僕はもう我慢の限界だった。

 

 

「……真島……考え直せ!どうせこんな話に乗っかっても大した収穫を得れる訳がない!………そもそも僕は頭脳労働担当だぞ……!」

 

「あん?……──」

 

 

 周囲に響かないよう声を抑えながら真島に訴える。僕達は既に相手の庭に入り込んでいて、もう何時襲われてもおかしくない。それこそ、あの未来型殺戮ロボットが今、この瞬間にも飛び出してくる可能性だってあるんだ。斯くなる上は僕だけでも勇気ある撤退(一人だと怖いのと、それをすると後ろから撃たれそうだから最後の手段)の決意を固めて真島を窺う。すると、真島は怪訝な目で僕を見つめて少しの時間が経つと、得心顔に変わってヘラヘラと口を開いた。

 

 

「──あぁ、そうか。()()警戒してんのか」

 

「……?な、何がだよ……」

 

「安心しろよ。取りあえず、『今すぐ襲われる』、なんて事はネェ筈だ。……何せ相手は()()したくて呼び出したんだからな」

 

「は、はぁ?何を根拠に───」

 

「多分、()()ガキども(DA)の持ち物じゃねぇぞ」

 

 

 「は???」と、口から思考が漏れて固まる僕に、真島は気にせず続ける。

 

 

「落ち着いて考えてみろよ?あんな便利な兵隊があんならわざわざガキどもを組織の主軸にする必要有るか?──」

 

「あ」

 

 

 そ、それもそうだ……完璧な代替え品とはいかなくとも、あのSFスペックロボットの方がより幅広い多くのタスクを処理出来るもんな。そして国家規模組織とはいえ人を教育するのには相応の費用と労力が掛かるんだ。ならソレを絶対に裏切らずムラの無い手駒に取り換えたいと思うのはある種の必然で、リコリスやリリベルに割り振られる筈の予算をアレに注ぎ込む方が御国としても将来的には色々と都合がいい筈なんだ。………いや、でも、『つい最近開発された実験機で実績作りの為に持ってこられた』だとか、『政治的な事情が複雑に絡み合った結果、DAで試運転する事に成った』みたいな屈折した話の可能性だって捨てきれないぞ?それに今回の話ともどう繋がるんだ?と、湧いた疑問をぶつける前に奴は自前の推論を並べる──

 

 

「───第一に、引っかかる部分が多過ぎる。所有者にしちゃあ、運用方法が行き当たりばったりが目立つし………そもそもアレ、どう見ても対人用じゃネェだろ?どっちかってーと潜水艦とかに近い兵器と見た。

 ………潜水艦ってのはどんな些細なスペックも絶対に漏れちゃあいけねぇ兵器だ。じゃねぇと伏兵の意味がねぇし何処に潜んでんのかもバレバレになるからな。

 そんな超機密兵器の試運転だとすると、色々と派手な上に後始末も雑過ぎだろ」

 

「まぁ、確かに………じゃあ?──」

 

「…どういう経緯かは分からねぇが、奴等も偶々アレを手にいれただけで俺らと同様にほとんど知らねぇ………。そー考えりゃあ今までの不可解な行動にも辻褄が合わねぇか……?

 ……かなり無理のある推論だったが、今回のラブコールでより確度が高まった。

 んでもって……先日の作戦はデモンストレーション(アレを作った奴等に対しての宣伝)だったんだろーな………。

 ……俺らがあの時逃げれた理由も多分ソレだ……」

 

 

 ギリリと真島が歯を食いしばりながら獰猛に嗤う。

 な、なるほど………つまり僕たちはオマケ兼、丁度良い的だった訳だ。確かにそれなら今までの行動にも説明が着く。腐っても僕たちは裏社会の住人だ、時流に流されないよう兵器やそれに類する技術群に対して、常にアンテナを立てている。その僕たちが微風レベルの風の噂ですら聞いた事も無い超兵器、それも明らかに軍機クラス兵器を公衆の電波に載せている事自体が本来おかしいんだ。*1………ん?……そうなるとアレの関係者がどんな目的で僕達に接触して来たのかと僕が此処に連れてこられた理由は?───

 

 

「な、なぁ、僕を連れてきた理由は……?」

 

「俺達の中で一番あの兵器……『ガンダムデュナメス』について解像度が高そうだったからな。

 ………ま、他にも理由や気になる事も有るが、ソコから先は主催者とお話してからの方が良いだろ。

 だから期待させてもらうぜ?()()()()?」

 

 

 ………………フ、フン。そ、そこまで言うなら仕方がないな……。真島め………漸く僕の優秀さに気がついたか………。本当だったら愛想を尽かす所だが仕方がない………。少々専門から外れるが、僕は寛大だからな?僕の見識で見定めてやろうじゃないか。………仕方がない。本当に仕方がないから付き合ってやろう。─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────そして、件の場所に着いた僕達の前には3人おり、その内の1人………というか2人ほど非常に見覚えのある男女が立って居た。

 

 

「──で?お宅が主催者?」

 

「………いや、私も招待されたクチでね。

 今から案内を受けるところだったんだよ……」

 

 

 と、涼しい笑顔で真島と言葉を交わすのは、僕にとっての()()()()()()、アラン機関の吉松だった。………うん、何で居るの???いや、バレても大丈夫だとは思うけどね?(多分)吉松の依頼で僕は真島のバックアップに着いてるけど、別に真島に対して利敵行為をしている訳じゃないからね?味方だからね?だから大丈夫だけどね?(多分?)………いや……アレ?これって非常に不味いのでは???

 

 

「───じゃあ、お宅か……」

 

 

 そんな具合に思わぬ緊急事態で混乱している僕を他所に、真島達の視線は自然と残る1人に集まる。

 

 その人物の服装は、まだそれなりに暑い季節だという事を考慮しなければ、然程不自然ではなかった。カーキ色の中折れ帽を目深に被り、上着は帽子と同系色のやや厚手のロングコートで、上下はパリッと糊の利いた黒のスーツとビジネスシューズ。体格は少し着膨れしているせいか判然としないが、身長は吉松の秘書と同じくらいか?といったところ。着こなしはコートもスーツジャケットもガバリと開けている為、グレーのスーツベストと真っ白なシャツが見えて、服装の割には少々ラフなイメージ。という程度なのだが、ある()がその人物のイメージを一方向に固定していた。

 

 それは、地肌が見える筈の部分、その全てに包帯が巻かれていたからだ。手や足首は勿論、首、頭、顔に到るまで一部の隙間もなく何重にも巻かれており、所々で縒れている部分もあるが、ソコから見えるのも白い包帯だけ。唯一空けられている目や口の部分も、視界と会話を妨げない程度にしか開かれておらず、その隙間からではチラリと見えるかどうかという程度。帽子の影から覗く目玉が異様に鈍い反射光を放って、その人物の風体をより一方向へと尖鋭化させている。

 

 言うなれば『ミイラ』としか言えない、不審者感が雲を突き抜け宇宙まで飛び出した職質不可避な輩がソコに居たのだ。

 

 

「………ハハッ、コイツァは驚いた。ハロウィンにしちゃあ少しばかり気が早いんじゃねぇのか?」

 

「………私も少々驚いたよ。総じてお前らのような三流にも成れないチンピラは、時間の価値を知らんと思っていたからな………」

 

「ひっでぇ言い草。傷付いちゃうぜ」

 

 

 オォイッ!そんなヤバそうな奴相手に初っ端から挑発するな!?あの兵器を嗾けられたらどうするんだ!?というかお前たちも何か言えよ!?他人事じゃ無いんだぞ!?と、声に出さずに視線(だだし被り物を着けたまま)で奴らに抗議するが、真島は変わらずヘラヘラして、吉松達に至っては秘書は終始無表情、吉松も涼しい笑みを浮かべるだけだった。クソッ、どうやら真面なのは僕だけかっ………!!

 

 ………そういえば、奴の声、妙にしゃがれていたが声の質は女性っぽいな?スーツもよく見ればレディースの様に見えるし………?もしかして女なのか?

 

 

「…………付いてこい」

 

 

 そう一言だけ発して『主催者』は踵を返す。僕だけでもしっかりしなければ、と内心で兜の緒を締め、僕達は先導に従った。───────

 

 

 

 

 

 

 

 

「────素晴らしい………」

 

 

 無意識に頬が緩む、まさしくコレは神が作った芸術品だ。

 

 我々は『主催者』に導かれ、呼び出し場所から少し歩いた廃墟の一室に詰めていた。仮の談話室として招かれたこの部屋は、大きめのローテーブルを中心に設置し、ソレを囲うように大小様々な有り合わせのソファが並べられている。そこで我々は、各々がソファに腰を下ろして『ガンダムデュナメス』の詳しい仕様を、部屋奥に取り付けられた大型モニターを観つつ、配布された資料を片手に聴いていた。

 

 今まで空想の産物でしかなかった荷電粒子砲(ビーム兵器)究極汎用型AI(限りなく人間に近い思考をするAI)に、極めつけは人類に福音をもたらすであろうGN粒子とソレを無限に生成する半永久機関(GNドライヴ)…………。

 この偉業はノーベル賞でもまるで足りない、間違いなく人類史に残る……いや、未来永劫まで語り継がれる功績だ。

 幕間ではこの作品に対してロボ太君が「入口やソレ相応の機材が有ればクラック可能な筈だ!」と息巻いて噛み付いていたが直ぐに完封された。当然だ、彼は確かに優秀だが所詮凡夫の域を出ない、精々二流の下が良いところだろう。現に今でも『主催者』から追加で渡された資料を見てワナワナと震えて絶句している。

 

 『主催者』曰く、「根本的なプログラム自体が複数の独自規格で成り立つ上に、最も重要なコアプログラムは未知の手段で電子的な方法では干渉出来ないようにされている」のだとか。その大前提のプロト論理プログラムすら理解できない彼では、一生の時間を費やしても無駄だ。

 

 姫蒲君は苦々しい顔で小さく唸り、真島は呆れを通り越して若干引いた表情を作る中、私だけはこの作品の産みの親達に想いを馳せていた。

 

 

「───ハッ、SFここに極まれり、だな……」

 

「………………さて、そろそろ本題に入ろう。今回私がお前達に声を掛けたのは取ひ「あーー、待て待て待て。その前に、もう少しブレインストーミングといこうぜ?」──…………。」

 

 

 おっといけない。私としたことが本来の目的をそっちのけにしてしまう所だった。(真島)の声で意識が浮上した私は今までの情報を元に思案する。取りあえず、今までの話ぶりを聞くに、彼女はあくまで関係者(部外者)でしかないようだ。我々よりかは遥かに事情に精通しているようだが、そのほとんどが伝聞的で要領を得ない…………一先ずは彼らの様子を見てからでも遅くはないと判断し、静観する。議題を遮られた『主催者』は真島をギョロリと()め付けるが、当人はどこ吹く風といった態度で気にする素振りもない。

 

 

「話は可能な限り早い方が良いのは同意するが、コイツは大事な大事な商談なんだ。……お互い、よく知っておくべきじゃないのか?何せ俺達は初対面だからなぁ?」

 

「……私としては、余り必要性を感じないな……」

 

「そうつれねぇ事言うなよ……。それに、お宅は要らなくても()()()は必要だぜ?」

 

「…………………」

 

 

 ふむ、流石に気付くか………。目的がどうあれ、向こうから交渉という形で接触して来た時点で、我々の協力が欲しいと自白したようなものだ。止めに交渉材料として使えたかの作品の事を此処まで喋ったのだ、先程の情報もあくまで前提に過ぎないのも明白だな。………しかし困ったな……どうやら(真島)は彼女に興味を持ったらしい。………私としては、千束に興味を持って貰いたかったのだがな。どう軌道修正すべきかと検討していた私の横で、話は予期せぬの方向へと転がった。

 

 

「…………名は捨てた。………だが、強いて言うなら貴様と同じ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ」

 

「へぇ?」

 

 

 「心底面倒だ」、そう言いたげに彼女は懐から我々のよく知る()()()()()()()()()を私に視線を投げつつ全員に見えるように取り出す。ソレを見た真島は興味深そうに片眉を上げるが、私は眉間に小皺を作り、驚きや得心を感じる前に苛立ちを覚えてしまった。

 

 それは別に私の正体がバレた事でも暗にバラされたからでもない、ソレについては此処に招待された時点である程度は予想も割り切りもしていた。私が聞き捨てる事が出来なかったのは、我々の目利きとアランチルドレンを軽んじる言動についてだ。

 

 アラン機関は何も誰彼構わず支援しているわけではない。『神より賜りし類い稀なる才能を発掘して世へ送り届ける事』、その一念のみに我々は全てを捧げて来た。才能とは神から人類への贈り物で、掛け替えの無い天の恵みだ。一つとして無駄にするわけにはいかない。故に、私のようなアランの目や耳となる者はそれ相応の審美眼を求められる、本物を見分けれるだけの深い見識を。それは真島や『主催者』に送った者達も同様だ。

 

 

「………それは……どういう意味かな?」

 

「どうこうもない、そのままの意味だ」

 

 

 そして我々はその使命の関係上、非常に多種多様で多くのギフテッド所有者を見てきた。仮に専門性が高く判断が着き辛くとも、有識者も交えて多角的に観察した上で厳正に審議され、そうやって認められた者だけに支援とフクロウのチャームは贈られるのだ。間違ってもただの一流程度が手に出来る安い証ではない。

 

 余りスマートではないと理解しつつも私は彼女に真意を問うが、彼女は私の視線に濁った目を細めて返して徐に席から外れる。そして部屋奥から再び資料束を取り出したと思うと、突如ローテーブルにぶちまけた。

 

 

「エイハブ・リアクター、フォトン・バッテリー、ミノフスキー・ドライブ、パーメット、GUND、スペースコロニー、軌道エレベーター、そして、ガンダム・タイプ…………コレらは全て、とある()()()()が書き続けた技術や理論の一部だ……()()()()()()()()()もその一つ。………私のような擬い物に目が眩み、こんな男を見逃すような連中なんぞ、三流以外になんて評する?」

 

 

 唐突に叩き返されたものは、私という凡人の細やかな自尊心を打ち壊すだけに(とど)まらない代物だった。

 なんの事か?という疑問は挟まなかった、ぶちまけられた資料を手に取り、静かに目を通す。最初は軽く流す程度だったが読み進めるに連れ私の意識は引き込まれていき、鼓動は次第に早くなる。荒唐無稽、机上の空論、誇大広告、普通であればその一言で切り捨てられるあろう内容の数々で、専門家ですらない私では正誤はおろか、完全に理解の外に在る文書。

 

 だが、私は確信していた。

 

 “コレは本物”だと。

 

 

「───………は、ははっ、はははっ………素晴らしい…アンビリーバボー、アメイジング、ファンタスティックッ……!ブラボー、ブラボー………!」

 

 

 半ば衝動的に思い付く限りの賛美を唱えるが、どの言葉もその偉業を讃えるには全く足りない。そこに書かれていた黄金の断片達は、どれもこれもたった一つで世界を一変させる代物ばかり。それをたった1人で?信じられない。それが本当なら、まさしく奇跡……いや、神の写し身(プロメテウスそのもの)……!今さっきまで有った僅かな怒りも、周りの者の視線も視野に入らないほどの激しい歓喜に打ち震える。

 

 

「──それで、かの御仁は何処に!?」

 

………今さら遅いんだよ………

 

 

 だが彼女は私の高鳴る心とは真逆の様子で、小さく何かを呟き。

 

 

「……会いに行こうとしても無駄だ。とっくの昔に殺されている───」

 

 

 宇宙(ソラ)よりも冷たくて暗く、しかし、内側でマントルが胎動しているような声色で『主催者』は告げる。

 

 

「───コイツにな」

 

 

 『主催者』の手の甲が、ガンダムデュナメスの映るモニターを叩く。

 

 その音は、とても良く部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

*1
※:余談だが楠木はテレビ出演の許可は出していない。





 休日、死亡のお知らせを受け取った私は、サイコ・フィールドに包まれました。
 皆も辛くなったり、時間が欲しかったりするときはこう唱えるんだ。『存在しない』と。

 まぁ、そんなこんなでまた投稿日が延びることを此処で御報告します。



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ラプラスの箱



解毒剤「部長!我々の休みはどうなったんですか!?三ヶ日は!?」

部長 「おん?そんなもの在るわけ無いだろ?」

解毒剤「…………」

部長 「序でに言えばクリスマスも年末もねぇぞ。今は繁忙期だからな」

解毒剤「(  Д )∼∼º∼º ………」

ダイイングメッセージ:今年の投稿はこれが最後に為るかもしれない事を、此処でお知らせさせていただきます。




 

 

 

 

 

───今さら遅いんだよ…………───

 

 俺にしか聞こえない声量で、奴は確かにそう呟いた。

 

 ………非っ常に、私怨の篭った声。なんとなく背景が見えてきたな。つーか、そーゆーのを隠す気は無さそうだ………。ソファに体重を預けて、今までの頭が痛くなりそうな小難しい話から要点を纏める。

 

 その1、あの、“ボクの考えた最強のロボット”を、どうにかするには通常戦力では不可能という事。

 

 その2、この目の前のアラン『博士』はアレをブッ壊したいが為に俺達を呼び寄せた事。

 

 その3、その為には恐らくだが、どちらか片方だけじゃなく俺達両陣営の協働、それも緊密な関係を欲しがっている事。

 

 以上を踏まえて推測するに、『博士』が俺達に求めてるのは露払いとセッティングで、商材はアレに対するメタ兵器、ってところだな。………取引相手として見るなら裏は無さそうだが、懸念材料はチラホラ見える。それが俺が奴に対する見解。

 小動物みてぇにビクビクしてる奴の隣で、アラン機関の秘書が尤もな疑問を挙げる。

 

 

「……暴走、ですか…?」

 

「………さぁな……」

 

 

 だが返ってきた返事は曖昧。これ以上は答えたくありません、って感じだ。そして俺も俺で思案し、全員が黙った事で暫し降りる沈黙の中、先程とは打って変わって重苦しく()()は口を開いた。

 

 

「…………残念だ、非常に………」

 

 

 如何にも『心を痛めてます』、ってツラでアラン野郎が哀悼を捧げてるのを見て、俺は盛大に舌打ちをする。間違いないと断言できる、コイツが悔やんでるのはソイツ個人に対してじゃなくて、あくまで入れ物に対してだけだ。価値観、生き方、存在意義、全てをテメェ勝手に値付けして押し付け、『我々は貴方方(ギフテッド所有者)とは違い、矮小な存在です』なんて宣いながら実際はカミサマ目線で人様にチョッカイをかけ廻る。それが奴ら、アラン機関という気色の悪いカルト集団の実態だ。

 

 正直な話、コイツらの影が見えた時点で今の計画を下ろすか迷った。コイツらの事だ、大方、俺の仕事に後ろから手を回して『それが正しい』、『それが君の存在理由だ』とかほざいてお膳立てしてたんだろう………。それが分かっていながら踊らざるをえない俺にも、奴らにも、反吐が出る………。だが、まぁ、今さら降りる事も出来ない、不本意甚だしいがな。部下達の食い扶持もだし、情けねぇ話だがDAを潰すには俺だけじゃあ力不足が目立つ………アラン機関はその後だ。

 

 余計な事に逸れた思考を戻す為、体の中に積もった鬱憤を、大きく吸い込んだ空気に溶かして鼻から全て出し切る。そうして俺は、()()()()()()()()()()()()()が置いて在る後ろを見た。

 

 

「…………ま、いいわ。………んで、聞きてぇんだがよ、アレが例の奴の()()()、ってヤツか?」

 

 

 そのセリフで『博士』以外の全員が俺の視線を追い、三者三様の反応が顕になる。

 この部屋に入いる前から微かに聞こえていた、独特の()()()()()()()()を奏でる、黒布で隙間なく巻かれた異形(いけい)。日常にありふれた乗り物とも、桁違いの馬力を感じさせる軍用機とも違う、ジェット機の様な鋭いだけでは絶対に出せない濁りの無い高音が鼓膜を擽る。

 

 

「三機も居るたぁ、豪勢だな。一機造るだけでも滅茶苦茶苦お高いんだろ?」

 

 

 ソコで目が覚めたかのように頭部に()が点き、部屋隅から紅い燐光が滲み出す。それを見たアラン野郎は興味深そうに瞠目し、その秘書は咄嗟に身構え、ロボ太は腰を抜かして後ずさる。

 

 これが『博士』の切り札、そう俺は確信した。

 

 俺みたいなテロ屋相手の商談に護衛を侍らせなかった理由も、貴重な情報をペラペラしゃべった理由も、コレが在れば全てモーマンタイ。何せ、最強の護衛にして『博士』にしか用意できない商品だ、互いの立場と状況を鑑みれば交渉もクソもネェ。

 だが、俺の予想とは裏腹に『博士』の返しは何処までも冷めていた。

 

 

「………フン、そんな猿真似品が兄弟機なものか。……ソイツはデッドコピーにも成れなかった、モンキーモデル以下の粗製だよ…………」

 

「はぁ?」

 

 

 その卑下に今度は俺が絶句する。漸く本題に移れるかと思い蓋を開けて見れば、期待を裏切る頼りねぇガラクタ宣言で、俺は苛立ちを再び腹に溜め始めていた。当たり前だ、コイツは俺達の足下を見てから話を持ち掛けて来て、俺達はあのガンダム・タイプとやらをどうにかしたいが為に時間を割いて此処に来てやったんだ。だから問う、“返答次第じゃ、此処で暴れる事も辞さねぇ”と意味を込めながら。

 

 

「………オイオイ……まさかその粗悪品を俺らに『売り付けるつもりだった』、とか言うんじゃねぇだろうな……?」

 

「………安心しろ。()()()()()()()()……。余計な気遣いは要らんよ………」

 

 

 絡み合う視線。交差する思念。急速に張り詰めていく空気に、“やめろ!ボクが巻き込まれるだろ!!”と、ロボ太のヤツが器用にも被り物越しに目で訴えて来やがるが、無視する。

 『博士』の目は濁ってはいるが、諦念の色は見えねぇ……。こういう業界ならたまに見る、結果を得る為なら過程で足し引きの計算をしない奴の目だ………。

 ………暫しの睨み合いの結果、“公算自体は所持している”、と判断した辺りで、どちらともなく気配を押さえる。色々と……言いたい事も聞きたい事も有るが、とりあえずは話を全て聞いてからにするか………。

 

 

「……場所移そう。ここからは直接見せながらの方が良さそうだ……」

 

 

 「短慮な奴も居るしな」、と小言を当て付けて『博士』が立ち上がり、俺達もソレに連れ立つ。……紛らわしぃんだよ、頭でっかちが。

 

 

 

 

 

 

 

 幾人かの靴がコツコツと床を叩き、その後に続く重い金属質な足音。ほの暗く、最低限の明かりしか点いていない窓の無い一本道の通路は、先の見えない洞窟のよう。そんな不穏を煽る通路を()くのは色取り取りの無法者達。危険な薫りのする者二人を先頭に、コスプレ男一人、品の良い男女が二人と、ソレに追従する全身黒布異形ミイラが三機。見事にカラーの違う者達が集団で移動する様は、背景も相まってフィクションフィルムの一幕のようだ。

 

 

「──改めて説明しておくが、ガンダムデュナメスの性能の大部分はGN粒子という多量変質性フォトン…光子の亜種によって齎されている」

 

「……あーー、ワリィが『博士』。もうちょい分かりやすく頼むわ……」

 

「……圧縮すれば万物を穿つビーム兵器になり、装甲として纏わせればベニヤ板を鉄板に変え、金属フレームに浸透させれば強度は据え置きのまま樹脂製品の様に軽くする……。

 ザックリと纏めれば、環境毎によって数え切れない程の多種多様な現象を引き起こす短時間で消えてなくなる光の粒。デュナメスの飛行もGN粒子技術の応用である、質量軽減と間接的な重力制御によるものだ。

 ジャミング効果はあくまで副次的なモノでしかない」

 

「……ファンタジー過ぎませんか?………」

 

「私も同感だったよ。

 良くこんなデタラメ粒子を生み出し、あまつさえこのレベルの実用段階まで完成させたものだ、と……。

 あの時は感心を通り越して呆れ返ったものだ」

 

 

 道すがら聞かされる常軌を逸した技術の数々。現代に現れたオーパーツの概要は、聞けば聞くほどに謎が謎を呼び、疑問が乱立する。理論や理屈に至っては完全に常識の埒外だ。故に、ロボ太の質問は総意と言っていいモノだった。

 

 

「そもそもの話なんだが、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 根本的な謎である産みの親に対して挙げられた質疑は、至極当然の流れ。

 先ず、何故こんな超技術を秘匿していたのか?

 『博士』の話を聞く限り、かの人物は研究も完成もかなり昔に終わらせていたような口振り。人間は大なり小なり承認欲の有る生き物だ、作ったからには人に見せたいと思うのが人情。たとえそうじゃなくとも研究という行為は大食らいの金食い虫だ。それを考慮するなら、このGN粒子とやらを引っ提げて然るべき場所へ持って行けば、将来の生活も資金繰りも死ぬまで心配せずに済むだろう。逆に危惧していたなら破棄すれば良い、それが出来る立場なのだから。どちらにしても、この技術を使った兵器を野放しにしておいて理論だけを秘匿したのは意味がわからない。

 

 次に、どうやって作ったのか?

 現代でこそロボットは身近なモノであるが、実際に一から作るには多くの厳しい課題をクリアせねばならず、幅広い高度で専門的な知識や技術に加え、それらを実行出来るだけの環境と施設が必須事項だ。例えば、単純なロボットアームの一つとっても設計技術、電装技術、電子工学、物理学、材料力学、等々に+多数の資材と設備が必要で、人型ともなればより高度な知識に付け加え、人間工学、IT技術等は勿論、場合によっては畑違いの技能も要求され、それに合わせてより高価で巨大な設備も必要になる。更に言えば、完成品が高度な製品であればあるほどにそれらの規模も大きくなりやすく、しかも、この『ガンダム』と名付けられた兵器には新エネルギー技術や全く未知の理論まで使われている始末だ。明らかに人一人で処理できるタスク量を遥かに越えており、幾ら人間大サイズの物とはいえ、無から有は作れないのが宇宙の法則である以上、人知れず個人で作るには資金面、立地面、物流面など、どの面から見ても意味不明な事実と結果。

 

 そして何より、何故こんな超技術を塊の兵器が必要だったのか?だ。

 この疑問に至っては最早普遍的な条理から著しく逸脱しており、いくら考えても答えは出ないだろうと、事情に詳しくない者でも大体そんな結論になる。

 もし、答えに辿り着ける者が居るとするならば、それは()()()()()()()()()()()だけ。

 だからこそ、真島も含めてその真実には大変興味を引かれていた、世界を幾らでも塗り変えれたであろう()()()()が。

 

 

「……さてな……アイツはアレについてはとんと喋らなかった……。だが、まぁ、酒の席で少しだけ……アイツが譫言で語っていた事がある……」

 

「………」

 

「……ガンダム……“成し遂げる者”……成し遂げてみせる、と、アイツは息巻いていたな……。

 ……アイツにとって“ガンダム”とは兵器………では無いのかもな………」

 

 

 懐かしむように。思い出すように。呟くように。穏静に。そして、寂寥に、『博士』は語る。

 曖昧な、主観が強く写り込んだフィルター越しの情景は、目が覚めると思い出せなくなる夢のようなボヤけた語り。それは、静聴していた真島達にとって難解過ぎる謎解きのヒントだった………。しかし、語りの余韻で少しの間生まれた静寂も、誰かが新たに何かを聞く前に『博士』が舵を取って本筋へと戻らされる。

 

 

「………話を戻すぞ。ともかく、仕掛けを用意するなら早い方が良い……。

 ()()()()()()を、あの たきな と千束とかいう()()()()が開けきる前にな………」

 

「ラプラスの箱?」

「小娘ども?」

 

 

 ソコで、今までは伴っていた真島と吉松の疑義が二手に別れ、真島の疑問は吉松にとって予期せぬ好機となる。コレ幸いと吉松は手早く脳内で算盤を弾き、自身の伝手で入手した情報の『マスター登録者』と『二人のリコリス(たきなと千束)』について何食わぬ顔でサラリと開示、微かな手応えに内心でほくそ笑む。だが同時に、聞き逃せない疑問が有った事も思い出した。何故、あの作品はアラン・チルドレンでも無い人物を選んだのか?何故、たきなだったのか?だ。無意識に、吉松の意識が前のめりになる。

 

 

「正式名称、 La+(ラプラス )・プログラム。あの機体の最上位統合・セキュリティにして機能封印錠。

 詳細は知らんが()()()()()()()()()、又は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、に呼応して解除されていくモノらしい。……アレがつい最近になって起動し、活動し始めたのもそれが理由だろう」

 

「特殊な、才能……?」

 

「ニュータイプ、イノベイター、S.E.E.D.因子保有者、Xラウンダー、パーメットの妖精、キング・オブ・ハート………何でも、()()()()()()()()()()や、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を持つ者、だそうだ……」

 

「──…それは……とても興味深い話だね……」

 

 

 そしてその話は吉松の予感通りに無視出来ない話だった。何処かで聞いたような、非常に心当たりの有る事柄。今の話が本当なら、アラン機関の選定基準が大きく変わるかもしれない、是非詳しく知りたい案件……。とはいえ、今は目の前の使命に集中せねばと自分を諌める事も忘れない。二兎追うものは一兎も得ずとは、諫言だけで生まれた言葉ではないのだから。

 

 

()()()()()、ねぇ………。

 ……んで?要は本領発揮される前に仕留めなきゃ、って話なんだろ?どういう手筈なんだ?」

 

 

 一瞬、真島はウンザリしたような表情の後、『気になる事が新たに出来たな』と、顔に書き、顎で異形を指して「後ろの奴は違うんだろ?」と続きを促す。

 

 

「ソイツらは()()()()()()()だ。

 ガンダム・タイプ相手には少々荷が重いが……まぁ、許容範囲内だろ……。算段は既についている、心配無用だ……」

 

「ホントに大丈夫か?自分で言ってたろ。低スペだって。あの玩具」

 

「心配無用とも言った筈だぞ?そんな玩具でも()()()()の枠組みからキッチリ外れている。

 ……何だったら()()()試してみるか?()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

「………へぇ?」

 

 

「へ?」と、すっとんきょうな声を出すロボ太を尻目に、吉松は「まぁ、当然だろうな」と、納得。ある程度の確信や根拠が有ったとしても、保険を用意しておくのは彼らの世界では必須マナー。そしてそれは吉松も同様で、当然身の裡に潜ませている。

 

 

「………ククッ、良いのか?この位置なら()()()が速く動けるぜ?」

 

「フンッ…時間の無駄だろう……」

 

 

 一際下らんと『博士』が鼻白んだ頃、一行は漸く目的地にたどり着く。通路を抜けて少し拓けた場所に出れば、目の前には分厚く大きな鉄の二枚扉。その前に『博士』が立つと、主かどうかを確認する赤いレーザーライトのカーテンが上から下へと降り、『博士』を主と認める。

 鉄戸は見た目にそぐわぬ重い音を立てて、ゆっくりと動き出し、鉄と幾つもの石油製品の混ざった空気を唸らせながらその全貌が露になる。その光景に真島は愉快そうに口角を上げ、ロボ太は彫刻のように固まり、吉松は感嘆の息を漏らして、姫蒲は寒気を伴う発汗で服がジワリと滲む。

 

 まず、目に映ったのは金属製の腕や足らしきもの。天井からぶら下げられた人のシルエットと良く似た手が何本も吊るされていて、そしてそれを腕と認識した事で、その合間合間に在るのが歪ながらも足だと判った。

 

 次に見えたのは人のようなナニかが何体も鎮座している姿。“ナニか”、という曖昧な表現に為ったのは、人型なのは確かだがそのどれもこれもが不揃いでアンバランスだからだ。人の形ではあるが手足の長さや太さがバラバラだったり、頭だけ巨大だったりと非常にとっ散らかった見た目。各部にも良く目を凝らせば、胴や肩が枠組だけのスカスカの剥き出しだったり、手足が欠損していたりと、言うなれば鉄の(むくろ)と言った状態だった。しかし、にも関わらず腹には金属やゴム等で出来た臓腑がミッチリと詰まっているのが見え、電気を流せば直ぐにでも動き出しそうな程新品(新鮮)で、どことなく動く屍を想起させる。

 

 そして壁や台座に視線を動かせば、人が使うには無理のある銃や盾が掛けられていて、形状こそ既存の銃火器などに似てはいるが決定的に違う部分が幾つも散見される。例えば安全性を、人が使う事を一切考慮していない構造だと一目で解る機構や、人間相手に使うには過剰なサイズの口径だとかだ。その他にも、金属の皮膚(装甲)内臓(内装)がゴロゴロと転がっていて、血や肉が落ちている訳でもないのに得も言えない不気味さがこのファクトリー内に色濃く充満していた。

 

 マシンの屠畜場。この空間を言葉で表すならそれがピッタリだろう。

 『博士』の話を聞いていたからこそ嫌にでも浮かぶ、これから近いうちに訪れるであろう後の光景。それが姫蒲の脳裏を過る。

 

 

「……戦争でも始めるつもりですか?」

 

「アレ相手に通常戦力なぞ案山子でしかないだろ?最低でもこれくらいは要る」

 

 

 何にでもないように『博士』は姫蒲の問いに答え、全員より前に出て振り向く。

 

 

「さてと……こうして御披露目はしたが、コレらはまだ未完成品でな。故に、お前達にコイツらの足りない部分を補ってもらいたい。

 ………報酬は、お前達が其々望む物を用意しよう」

 

 

 そう一区切り、『博士』は真島に顔を向け。

 

 

「お前に求めるのは小回りの利く兵隊によるカバーとコイツらの教導」

 

 

 続いて吉松に顔合わせ。

 

 

「お前に求めるのはコレらを完成させる為の資材の確保や輸送の手配だ」

 

 

 先程までの薄暗かった空間はもう無い。既に十分な光量で遍く照らされたこの場所は、鋼鉄の死兵で溢れ帰っている。

 そして、濁り水を溜めに溜めたダムは軈て決壊するだろう。

 

 

「私は、()()を殺せれればそれで良い───」

 

 

 その未来は、遠くない。

 

 

 

 

 






~知らない人向け、ガンダム簡単用語解説~(偏見有り)

ニュータイプ:
概要: 超能力者一号。

イノベイター:
概要: 超能力者二号

Xラウンダー:
概要: 超能力者三号

S.E.E.D.因子:
概要: 人外。

パーメットの妖精:
概要: 拡散系水星娘。

キング・オブ・ハート
概要: バケモノ。


A:シャッフル同盟とかって存在するの?

Q:そこに無ければ在りませんね。

 ぶっちゃけた話、『博士』はイノベイターだのニュータイプなどに関してはマジで知りません。持ってるマシンだのもある人物が遺した物をサルベージorレストアしてしてるだけですので。論文とか設計図とかに到っては、虫食い穴の空きまくった紙を現行理論とかでなんとか無理矢理埋めてる始末です。

※ラプラスの箱の話は原作とは全く関係ありません。


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戦いは数だよ兄貴!



 これ以上は切りが悪くなりそうなので予定よりも早めに投稿。そして凄く今更なのですが、この部分が読み辛い、とか、分かりにくい、とかもあれば可能な限り修正しますので、教えて頂ければありがたいです。
 文体がよくブレる投稿者なので……(悲しみ)。

 それから最後に、毎度の事ですが、お気に入り、感想、評価、誤字脱字修正、ありがとうございます!
 少し早めになりますが、それでは良いお年を。




 

 

 

 

「──────うっおぉぉっ~~~………この新作カッケェ~~……」

 

「…………仕事中だぞ……」

 

 

 ある日の昼下がり、フキとサクラは巨大複合モールに来ていた。理由は勿論リコリスとしてで、付近には散り散りになって離れた他のリコリス達も居る。

 

 

「分かってますっスよ~………実際、任務に忠実っショ?自分」

 

「………お前の場合、かなり本気で楽しんでるだろ」

 

 

 そりゃあ、これでも花も恥じらう乙女ですしぃ?と、返すサクラにフキはジットリとした目で応える。今回の作戦は少々込み入った話になっており、その内容は『公安に気取られないよう公安のバックアップに回る』というモノだ。

 

 何故そんな面倒な事になったかというと、原因は偏に今作戦の目標にあった。目標の男は長年公安がマークしていた札付き議員で、彼らの捜査をヒラリハラリと躱し続けていたがこの度、漸く尻尾を掴めた為に囲い込んで締め上げる事を公安は迅速に可決。しかし、流石と言えばいいのか、下卑た小悪党らしいと言えばいいのか、男は公安の動きに目敏く勘づいたようで潮時だ、と言わんばかりに護衛を引き連れ慌てて高飛びの準備を始めだした。

 

 無論、逃がす気は毛頭無いが一つ厄介な点があり、その男は国外組織とのパイプも持っていた。その伝手を頼って逃げるつもりなのは明白だが、リアルケイドロ、なんて大人しい展開になる事は絶対にないと断言できる。その組織の規模、繋がりの太さ、取引内容、そもそもどんな組織なのか等、未だに不明瞭な部分は多いが、公安の捜査を掻い潜れていた以上相応の力を有したコミュニティなのは確か。そしてそんな奴等が議員という立場で国を売っていたような薄汚いドブネズミを厚遇するとは思えない。

 

 “ネズミが必死にかき集めた証拠品+αを、護衛諸共消す”、それがその組織にとって一番クリーンな方法で、確実にそれが出来るだけの人員を送ってくる。

 

 男の安否自体はどうでもいいが、情報源を消されるのは絶対に避けたいのが本音。だが相手がどの程度の戦力を送り込んで来るのか予測がつかないし、公安は切った張ったに重きを置いている組織ではない以上、そうなれば犠牲も覚悟しなければいけない。勿論、街中での戦闘なんてもっとしたくないしさせたくない。そこで、白羽の矢、というか横槍で現れたのがDAだった。リコリスならば例え相手が軍人崩れだとしても十分に勝算が有るし、隊員を巻き込む“もしも”が有ったとしてもどうとでも揉み消せる。そして何より、ラジアータのバックアップを全面的に受けれるため色々と非常に都合がいいのだ。

 

 ただし、DA、もといリコリスは公安にも当然機密なので、目標の確保は公安に委託し、リコリスは先回りしてコッソリと不穏分子の排除。という感じだが。

 

 その為、現在は不測の事態に備え、ショッピングに来た学生の体で目標の周囲を監視していた。しかし、本当なら強引に案件を取り上げて“リコリスだけで”と、言いたい所。そうすれば面倒な手間も省けるし、目標の男の確保後も幾らでも非合法(能率的)な方法で搾る事が出来るのだが───

 

(大方、上の派閥争いだとか利益分配とかが理由だなろうな………)

 

 と、達観した思考で事の顛末のほぼ正解を当ててみせるフキ。その背には少女には似つかわしくない、哀愁誘う板挟み中間管理職リーマンの姿を幻視した。………その実情が血腥過ぎるので全く笑えないが………。

 

 

「つーか、お目出度過ぎません?あのオッサンの思考……」

 

「お目出度いっていうか、それしか方法が無いんだろ……」

 

 

 まぁ、それ自体が希望的観測過ぎなんだけどな、と、フキはぼやく。往々にして裏切り者とは余程の理由が無い限り良く思われないのは本人もよく知る所だろう。だが人は追い込まれれば追い込まれる程、希望に縋り付きたくなるものだ、理想に奇跡をトッピングしたような都合の良い話に。

 

 本当に面倒な事をしてくれる、とフキは独り言ちる。だが同時に、こうなった原因にも心当たりがある為、それ以上はなにも言えなかった。

 

(……今、上は“()()()()”って肩書きにピリピリしてるからなぁ……)

 

 本来なら公安にこんなチョッカイは掛けるべきではない、無駄に組織間の摩擦を生むことになるし、そもそも表の仕事は表に任せなければDAの役割にも支障が出る。そして何より、悪目立ちが過ぎる今回の立ち回り。

 それでも強引に他部署に干渉したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を踏む為だった。

 

(──相手はこちらと同業者の可能性もある、か……タイトになるな……──)

 

 

「──HQ、こちらα1、周囲に異常なし。引き続き任務を続行します」

 

 

 無線で業務連絡を飛ばしながら、今回の案件に気を揉む。

 

 

「───お?あのスイーツも旨そ~~。先輩、これ終わったらあの店に食べに行きませんか!?」

 

「………移動するぞ」

 

「え?あっ、ちょっ、センパーイ──」

 

 

 懸念を挙げれば切りが無いが、フキ達に浮き足立つ様子も無い。フキ達はプロフェッショナルなのだから。

 

 リコリス達の姿は、モールに溢れる平和な喧騒に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ん゙ん゙~~~………」

 

 

 同時刻、喫茶リコリコにて原稿を睨みつける漫画家、伊藤の姿があった。伊藤専用と化した座卓席で、もう何杯目かも分からないコーヒーを啜りつつ眉間のシワを深くした伊藤は、徐に通りすがった店員を捕まえる。

 

 

「………翡翠君!………悪人はやっぱり、殺すべきだと思う?」

 

「……当機の主観では、作品のテーマ、及び、ミス・伊藤が表現したいモノに沿って決めるのが最適と提唱」

 

「ん゙~~、そんなこと言わずにさぁ~~」

 

「………今日(こんにち)迄の創作娯楽物は、多種多様なニーズに応えるように細分化し、ブラッシュアップされてきた。そして、極端な見解を述べれば、漫画とは『個人が作り出した理想の妄想』であり、それに共感した者がファンである」

 

「……その心は?」

 

「結論、安易に読者の意見を取り入れることは、ミス・伊藤の作品を劣化させかねないと進言」

 

「ん゙ん゙ん゙ん゙ぃ~~~それはそうなんだけどぉ~~~──」

 

 

 などと泣き言を呻く伊藤。現在のリコリコは常連客しか居らず、完全に身内だけの憩い広場となっていた。

 

 

「──……ほっんとバチクソに優秀なAIですよねぇ……これ、AIだけでも世に出したら絶対売れますよ?」

 

 

 と、カウンター席に寄り掛かって机の向こうに居るミカに思いつきを話す米岡。そんな彼は遠くから苦しみもがく伊藤の様子を観察していた。

 媒体は違えど同じクリエイター仲間にも関わらず、完全に高みの見物を決め込むどっしりとした構えは、昨日の『締め切りが……締め切りが俺を殺しに来る!?』とかほざいていたのがまるで嘘のようだ。恐らく諦めたのだろう。

 

 憐れな迷える子羊となった伊藤に、暇をもて余した天使達(美少女2名と厳つい鉄の天使)が、取り囲んで茶々を入れる。それは同じく暇をもて余していたその他一同の大人達にとって、良い余興だった。愉悦。

 

 そしてミカはなんと言えばいいのかと煮え切らない苦笑を浮かべるしかなく、特に、先日のテレビの取材時に観せた用途不明な機能を目にしていたことで、『結局アイツは何の目的で開発されたんだ?』と、勘案は困惑の底無し沼に沈んでいた。

 

 そんな具合にミカが答えに紛糾していると、不意に来た携帯の着信の為に一言だけ言伝ててそそくさと奥へ行ってしまい、米岡は手持ち無沙汰になる。

 すると、ぬぼーっと伊藤達を眺めていた彼の隣に、入れ替わるようにやって来たクルミがミカの代弁を始めた。

 

 

「そいつは無理な話だ。

 アイツのデータは単にデカいだけじゃない。超高度なカオス化データの塊だからな」

 

「カオス化?」

 

「そ、アイツが内包している膨大な数のプログラムはセパレートされながらも全てが複雑且つ強固に絡み合っていてな、最早何がどう繋がり、どう機能しているかも解らないんだ。しかも1ビットでもコードが欠けた状態で複製したり移動させたりすると、途端に不具合が波及して全データが修復不可能なレベルで自壊するからな」

 

 

 とはクルミの談。勿論翡翠の事情は話せない事の方が多いのでボカシながらの問題無い部分だけだが、曰く───

 

 ────『あの有機的なAIを作り出すために拡張と最適化をしまくった結果(恐らくは、だが)、複雑になり過ぎて開発者でもメンテナンスすら難しいんだ(少くとも自分達では無理という意味で)。

 その上ハードウェアとソフトウェアが融合したみたいに癒着してるから(多分)、仮に他のハードウェアにそのままコピペ出来ても機材との相性ズレで先ず起動も出来ないだろう(コレも多分)』────なんだとか。

 

 そしてソレも隅々まで解明してキレイにコピー出来たらの話。コレも米岡達には話せないが、翡翠のデータは現状99%以上がブラックボックスなのでコピーそのものが不可能だし、そのAIを十全に動かせるだけの性能(スペック)もないと結局はマシンが付いていけず自壊する、と、簡易的なシミュレーションでも結果が出ていた。

 

 

「───えーっと………つまり?」

 

「あのハンドメイド製のヤツと全く同じパーツ(機材)を1から10まで全て用意しないとダメ、ってことだ」

 

「……クルミちゃんってホントにIT関連に詳しいよね。何者なの?……」

 

「ただの知識欲旺盛な店員だよー」

(僕としては翡翠の方が謎だけどな………)

 

 

 神妙な顔をして聞いてくる米岡に、『あの時は疲れた』と、思い出しながら鼻で溜め息を吐いて適当にあしらうクルミ。しかし視線はずっと翡翠達に固定したままだ。

 

(本当に謎だ。機体スペックもそうだがそれ以上に謎なのは、あの何処までも人に近い自由意思……)

 

 単純な破壊目的で無いのは先ず間違いない。もしそうなら、翡翠のAIデータを破壊目的用に手直ししてばら蒔けばソレだけで世は混乱と破壊で満ち溢れる。現代社会は一般俗世ですら『人間は携帯に飼われている』、と揶揄されるほどにIT技術に依存しているのだ。そんなこの世でサイバー災害(ハザード)なぞ起こせば、未曾有の大混乱がやって来ることは想像に難くなく、ボディに備えられた暴力装置としての機能を発揮するまでもない。

 

 天使の名を冠する(兵器)に、真の意味で人間を理解出来る頭脳(AI)。開発者はこの器にどんな願いを載せたのか………この短い期間で何度となく馳せた想いに気が付けば浸っていた。

 

(──存外、なんてことない(ロマンチックな)理由だったりしてな──)

 

 滲み出た他愛のない独白を内に仕舞い、浮かべていた薄い笑みも引っ込める。

 

 

「───ま、仮に丸々コピー出来たとしても、そもそも今のアイツを形作っているのが『開発されてから今迄の経験全て』、だろうからな。複製しても同じ()()にはならんよ」

 

 

 と、話を締め括るクルミに米岡はふーん、と気の抜けた生返事で返す。その手の分野に然程興味もなければ素人に毛が生えた程度の知識しかない彼には、余りピンと来なかったのだろう。

 そして伊藤達はというと、ミズキも混ざって漫画談義を更に白熱させいた───

 

 

(ミ)「──私のオススメとしてはぁ、もっと高身長、高収入イケメンとのラブロマンス(ストーリー)でぇ、主人公はぁ、ウェーブの掛かったロングヘアーの眼鏡美人O────」

 

(翡)「───聴取の価値無しと判断、遮断。より深い独自解釈を述べれば、ポジティブ、且つ、若年層に向けたストーリーの場合、軽挙な登場人物の死は好まれないと推測」

 

(ミ)「うぉいっ、聞けよ」

 

(千)「イヤイヤ、理屈っぽ過ぎでしょ。こーゆーのはね、ハート。心で感じたモノが正解なの。──あっ、あと殺すのは無しですからね」

 

(た)「いえ、悪人は殺すべきです」

 

(ミ)「うぉい」

 

(伊)「ん゙ん゙~~~⤴……──」

 

 

 ただの妄想を垂れ流すミズキにオタク特有のロジックを展開する翡翠。純読者視点で語っているのにも関わらず見事に正反対な回答をして、手でハートを作る千束と真顔且つ食い気味に発言するたきな。助けを求めて縋ったはずだが三者三様の願望に惑わされ、より深い混迷へと突き落とされた伊藤はひたすら唸る赤べこ人形と化していた。

 憐れ(嘲笑)。

 

 

(伊)「ん゙ん゙~~~⤵………」

 

(翡)「………追伸。しかし、当機としては、ヒールカラーの人物の抹殺は非常に壮快な演出の一つになると考えているため、推奨

 

(伊)「なるほど」

 

(ミ)「結局殺すのかよ!?」

(千)「あんだけ蘊蓄捏ねておきながら!?」

(た)「……………(※結果が被った為微妙に嫌そうな顔をしている)」

 

 

 しかも個人的な嗜好全開じゃねぇか!?と、ミズキの鋭くキレのいい突っ込みが飛ぶ。二転三転する四方からの回答群に転がされ続ける伊藤。

 翻弄される彼女の明日はどっちだ。アッチか?

 そんな具合の宴もたけなわといった様相の空騒ぎ、だが───

 

 

「────あーー、申し訳ありません……。少々急用が入りまして───」

 

 

 ──楽しい一時(ひととき)は、戻ってきたミカによって終わりを告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終りました」

 

「ご苦労様。先に二回へ行っているぞ」

 

 

 店の侵入口の全てを閉じてきたたきなを手早く迎え入れるミカ。急遽の閉店。タイミングがタイミングだっただけに方々でブー垂れた声が挙がるが、ソコは気の知れた常連客達で、あくまで冗談の範疇。つつがなく退店していく常連達を見送り、何かを言われまでもなく千束達は動き出す。

 

 ミカは終始柔和な顔を崩さなかったが千束達には判った。僅かに硬さを帯びた声。こういう場合、大抵が飛び入りの仕事。それも喫緊の案件だ。其々が居住まいを正し、たきなと千束はリコリスの制服に着替えてから2階の和室へ向かう。

 彼女達が扉をガラリと明け開けば既にミズキとミカは聞く体勢に入っており、そして何故か、()()までも集められていた。今回の内容は事前にリコリス絡みだと聞いたので、そういう場合、部外者であるクルミや翡翠は(クルミの場合は隠れる為で、翡翠は単純に面積を喰うから)大抵席を外すのが通例だが、どうやら翡翠にも何か用があるらしいと千束達の頭の隅に予測が浮かぶ。

 事実、タブレットの向こう側で待っていた楠木の視線は、カメラ越しの為微妙にズレてるがどことなく翡翠に向いているように見えた。

 

 クルミ以外の全員が揃った事で漸く話が切り出せる状態に為り、普段より重く鋭利な気配を画面越しからでも分かる程発した楠木が、氷のような声色で口を開く。

 

 

『………単刀直入に聞く───』

 

 

 タブレットに映っていた楠木の枠が小さく成って端に寄り、何処かのモールの一角らしき場所を映した映像が画面一杯に広がり────

 

 

『──()()()はなんだ?』

 

 

「────コレは……」

 

「────コイツは……」

 

「────何コレ?」

 

「────………は?」

 

 

 ──ソレを見た全員は、率直な感想を漏らす。

 

(───ド、ドムと……ア……アンフ?………)

 

 遠目から撮られたであろう映像。ソレには、翡翠にとって、非常に見覚えと、心当たりが在って欲しく無い存在が、自分と同程度のサイズでモール内を練り歩く姿を映していた。

 

 

 

 






『捕捉、という名の説明不足の補強』

 札付き議員:

 作中の説明通り、議員という立場を使って裏で好き勝手やっていた汚っさん。外国とも裏でヨロシクやっていた模様。今回モールに来ていた理由は、自分にしか回収出来ない&余人に持たせたくない商品類の回収の為。ソレを回収してからじゃないと、高飛び協力の取引が成り立たないと考えていたので、危険を承知で来ていた。
 尚、相手さんはソレを受け取ったら手早く汚物は消毒して日本から撤退する気マンマンである。


 公安とのDAのイザコザの理由:

 公安の上に居るDAの上役と、DA関連の別派閥が揉み合った結果、という設定。
 テガラ、ヒトリジメ。オマエラニ、ヤラン、シネ。

 今回のリコリス達の立場は、ある程度の全容を教えられた上で、件の男のマークと公安のセーフティーネットとしての投入された。繋がりのある外国が証拠隠滅の為に刺客を放って容疑者の排除をする可能性が在ると見られていて、その際に武力面での秘密裏にそれらに対するアンチとして配備されていた流れ。

 この件でリコリスを使う理由は、リコリスならどうとでも料理できるから(意味深)。


 翡翠のAIデータのアレコレについて:

 ぶっちゃけた話、今後作中で語る場面が無いと思われるので此処で書いておきますが、自壊云々の部分は大体ファイヤウォールとかプロテクトのせいです。



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そんな装備で大丈夫か?



 新年、明けましておめでとうございます。(激遅)
 新年早々から不幸な災害などが在りましたが、皆様の無事と幸福を願うばかりです。

 と、言った堅苦しい前置きは置いておきまして、今日まで遅れた理由の申し開きですが………──
 ──単純にスランプでした。(白目)

 はい。オユルシクダサイ!コロナで倒れていたのも理由の一つなんです!はい、こんな感じの事がまた有ると思いますが、長い目で見て頂けたら幸いです。そして、まだまだ油断の為らない季節が続きます。皆様も御心身を大事に御過ごしくださいませ。

※追伸:非常に情けないミスをしていた事に気づいたので、修正させて頂きました。穴があったらコーラルを抱いて眠って忘れたい所存です。




 

 

 

 

「────コレは……」

 

『本日、午後2時頃。ある大型複合モールを襲った立て籠り犯の一味だ……』

 

「立て籠り犯?」

 

 

 大型の銃火器らしき物で武装した何体もの異形。モール内各所で狼藉を働く謎の襲撃犯が映される中、淡々としながらも険しい声色で楠木は概要を続ける。

 

 曰く、DAがとある事情で公安との秘密裏の作戦行動中に突如出現した連中らしく、そのまま手当たり次第に客を拐って立て籠り出したのだとか。

 余りにも非現実的なシチュエーションにフリーズしていた通行人達は為す術なく次々と捕まり、その場は直ぐに混乱と悲鳴の坩堝と化して避難誘導すら出来なかったそうだ。無論、場当たり的だが騒ぎを聞きつけた警備や近くを巡回していた警官達も抵抗を試みたが、全て徒労に終わり連れて行かれたらしい。

 

 

「……犯行声明、被害状況は?」

 

『閉じ籠ったきり、現在まで一切の応答が有りません。此方が近付き圧を掛ければ威嚇射撃をしてきたりはしますが、それだけです。

 現場も未だに情報が錯綜しており、この数字もまだまだ変動すると思われますが、極軽度の火傷や擦り傷、打撲などの軽傷者が9名、骨折等の重傷者が1名で死傷者は無しとの事です。……今のところは、ですが……』

 

「随分と被害が小さい、それに要求も無い?………現場が混乱しているというのは?」

 

『現場を中心とした周囲一帯、()()()()()()()()()()()()です』

 

 

 聞き役に徹する千束達の代弁としてミカが楠木から要点を聞き出せば、更なる不審が吹き出る。何でも、規模は限定的ながらも出現と同時に民間、専用、種類、方式問わずにほぼ全ての周波数帯域の無線がダウンしたそうで、それにより現場は情報伝達すら儘ならないのだとか。一応有線などのアクセスルートも模索したが、結果は惨敗。此方もほとんどが死んでおり物理的にシャットダウンされたとみて間違いなく、こうなれば流石のラジアータもお手上げだった。

 勿論、座して待つなんて悠長な時間も余裕も無いので其々の関係各所が原因の究明、事態打開に乗り出したが成果は芳しくなく、この強力無比なジャミング発信源の大まか位置の割り出しすら出来ないでいた。

 

 そもそもジャミングとは、レーダーにしても通信にしても、飛んでいる電波と同じ周波数のより強いノイズ電波を放射して本来の目標物から隠蔽、又は妨害する、という仕組みだ。故に“全ての周波帯域の電波を”となれば、尋常ではない電力と巨大な装置が必要になり、それすら見つけられないのは常識では考え辛い話で、現場の捜査官達は揃って頭を抱えるしかなかった。

 

 そんな中、DAだけは()()()()()()からある推測が浮かび上がる。『空気中で電波が遮断とも言える程に急速に減衰させられているからではないか?』と。

 

 

『────この連中が何を考えているにしろ、我々の目を欺いた上でこれだけ大掛かりな玩具を用意するには、ウィザード級ハッカー集団か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の援助が必須………。というのが我々の出した見解だ………』

 

「…………」

 

 

 そして国内だけではあるが、その気になれば掌で握り込めるサイズの物すら見付け出し、一億数千万人の中からその保有者の特定と正確な行動予測すら可能とする、国家の威信を懸けた一大プロジェクトの過程で産まれた規格外AI、ラジアータ。そのラジアータを容易く無力化する技術に、人間大サイズの高性能人型無人兵器(戦闘用ドローン)と非常に聞き覚えのある現象。

 過去と現在の事件の要因が嫌な程に綺麗に重なり、全員の視線が部屋の最奥に居る一機へ集まる。

 

 

「──…………■■+・プ■■ラ■に情報開示の申請。緊急事態と判断、特例許可を要求」

 

「〈申請の一部を受理。『セキュリティ・クリアランス ()()()6()』までを特例でアンロック。…ただし、()a()()の第2ロックの解放は認められない為、棄却〉」

 

 

 1分か、2分か。実際は10秒も経っていないであろう硬く重い沈黙を破り、件の怪しげなシステムを静かに呼び起こす翡翠。しかしそのシステムはこの場面に於いても相も変わらず秘密主義を変えぬようで、前回との違いも精々若干ノイズがマシになった程度。

 

 

「────続けて、重要秘匿情報欄(マスク・ライブラリ)にアクセス、検索開始……検索件数、2件該当。情報(データ)を限定的に前方のデバイスへ転送(アップロード)──」

 

 

 十人十色の視線に晒されながら語る何時もの無機質な合成された声が、今日も変わらず淡々と話している筈なのに、今はどこか、詰まったように聞こえた。

 

 

「──該当類似機体……。

 モビルドール、

 型式番号:MSER-04、

 機体名:アンフ。

 同じく、モビルドール、

 型式番号:MS-09、

 機体名:ドム、と推定」

 

「………機動(モビル)人形(ドール)…………」

 

 

 固唾を呑んで待っていた千束達に、タブレット内の楠木を映す枠だけを残して置き換わり開示(明か)される簡易図解(異形の正体)。その結果に千束は小さくない動揺を覚え、たきなは恐る恐る、確かめるように、か細く文字を口の中で転がす。

 

 

『…………お前の親戚にしては随分と型番(血筋)が違うな?』

 

「補足、及び返答。当機にも取得可能な情報は厳しく制限されており、この機体の現存の有無も現在まで不明であった………」

 

 

 等と言い開きをするが楠木の視線は変わらない。当然だ。楠木は初めから当たりを付けていて予想通りだった上に、漸く現れた明らかに翡翠(コイツ)と関係のありそうな事案。今の状況は楠木からすれば、これまでの翡翠の功績を加味しても黒に近いグレーだ。

 嫌な予想。嫌な予感。嫌な想像。様々な負のイメージが、各人の思考と混じり合い、部屋に刺す刺すしい空気を渦巻かせていく。

 

 

『フン、随分と都合のいいセキュリティだ。それで?他には何を隠している?』

 

「…………当機から貴官らへ要請。この映像情報を観る限り、当機が記録してある機体情報と不自然な差違が多数見受けられる。故に、より確かな真偽を追及す『何か勘違いをしていないか?』────」

 

 

 短くため息を吐くと同時に、厳格な声が弁明を絶ち切る。

 

 

『───お前が黒か白か。信用出来るか出来ないかは、()()()判断する事だ。

 そしてもう1つ。我々がお前を分解(バラ)そうとしないのは、お前が強大な戦力を保有しているからでも、お前に危険物をばら蒔かれるのを危惧しているからでもない。

 お前が貴重な情報源だからだぞ?』

 

 

 多分に嫌疑を孕んだ宣言。それは彼我との距離(認識の差)でもあり、警告(方針)でもあった。

 確かに、翡翠に本気で抵抗されれば楠木達にどうにか出来る手段は皆無と言っていい。だがそれは、躊躇う理由にはなり得ても交戦しないという理由にはなり得ない。

 相手の強弱に関係無くその身命を賭けて国家の敵を討ち滅ぼす者。それが国に所属する暴力装置の使命であり、DAとて例外ではないのだ。あくまで強硬手段に出ない理由は、翡翠が比較的従順なので其方の方が穏当に事が済みそうだと判断したからにすぎない。相手がどれだけ強大でも此方に害しか及ぼさない存在ならば、既得権益者達にとっては徹底抗戦以外の選択肢は無いのだから。

 そして翡翠を製造したと思われる組織は自分達よりも遥かに進んだ技術を持つ者達だ。此れまでの経緯から推察するに、緊急時の際には我々では想像も付かない方法で速やかな証拠隠滅を図る可能性は非常に高い。そうなれば足取りを掴むことはほぼ不可能。故に今のリコリコを取り巻く環境は、上層部が手懸かり喪失を危惧したが為の結果でもあった。

 

 皮肉にも楠木の宣言は、翡翠がいつぞやに言い放ったセリフの真意とよく似ていた。

 

 

『一応お前達にも忠告しておく。

 ソイツは言動や行動がどれだけマヌケでも(どれだけ思考を人に似せていても)マシンはマシンだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを忘れるな』

 

「ッ……!楠木さん……!」

 

 

 楠木の戒めに千束は何も言えない。判っている。確かにその通りだからだ。自分達と製造者達とでは余りにも技術格差が離れすぎており、どれだけ方々に手を尽くした調査をやっていてもすり抜けられている可能性を潰しきれない。で、ある以上、見逃してる前提で動かなければいけないのが実情だ。

 そもそも肝心の此処に送り込まれた目的も不明で、現在進行形で関係の在りそうな(やから)が我々に害を振り撒いている今、初めからなぁなぁで話が済ませれる訳がなかった。

 

 

『………現地までの足として、既にバンボディのトラックを装備と一緒に送っている。今は一刻も早い事態沈静化が最優先だ。お前達に下す指令は改めて其処で伝える。

 情報収集の為にもそのポンコツは必要だからな、荷台にでも積み込んでおけ。話は以上だ────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────………本当に知らないの?」

 

『……謝罪……』

 

 

 街中を行く車の走行音をBGMに静かに揺れる車内。既に聞いた答えの変わらない問いを、ミズキは再度翡翠に問う。今、私達は、あの後直ぐにトラックと一緒にやって来た、DAの連絡役の人達の先導に従って、現場へ急行していた。

 

 仕事用の何時もの車には運転席にミズキ、助手席は先生が座り、後部座席にはたきなと私で、クルミは遠隔で後方支援(バックアップ)だからお留守番という態勢。トラックの方はそのまま連絡役の人達が乗っていて、翡翠と今回用の装備を積んで先導してくれている。

 

 乗ったら直ぐに楠木さんがブリーフィングをしてくれるのかと思っていたけど、現場のより詳しい情報を持って来てくれた連絡役の人達曰く、『作戦立案はお前達に一任する』だとか。……恐らく、出て来なかったのは司令部(向こう)も相当にバタバタしててその対処に手一杯だから、なんだと思う……。

 ……今回の案件は今までのとはかなり毛色が違うからね………。

 

 私の嫌いな感じの空気を弾き飛ばすのと、気合いを入れる意味合いも込めて、軽く自分の頬をはたく。

 

 

「──……翡翠は……今回の件について関係無いんだよね?」

 

『…肯定』

 

「ならば、ヨシ!」

 

「いや、よくはねぇだろ………」

 

 

 私の出した結論に、意図は察しながらも即座に何時ものノリだがトーン弱めでツッコミを入れるミズキ。それに対し私は直ぐ様自分の見解を唱えた。

 

 

「楠木さんはあんな事を言ってたけど、ホントに“敵だ”って思ってたなら今回の仕事に組み込まないよ。

 ……それに私は、翡翠の事信じてるから……」

 

「……………」

 

 

 軽く言ってのける私に、ミズキは唸って難しい顔をする。分かってる。今回の問題は翡翠本人(ソコ)じゃなくて翡翠の産みの親の真意(黒幕の目的)だ、って事は。

 でもそんなのを言い出したら相手が一枚岩じゃないからの結果かもしれないし、そもそも別組織だったから、なんて理由かも知れない。

 全く情報が足りてない私達では疑いだしたら切りのない話だ。だったら私は自分が感じた(モノ)を信じたい。例えこの案件が一時的な踏み絵程度の意味しか無かったとしても。

 …………ウジウジしているのは私らしく無いから。

 

 

「……まぁ、な。マッチポンプにしては意図が不明過ぎるのも確かだ………」

 

『……謝罪……』

 

「ハイ、謝るの禁止!」

 

 

 先生も難しい顔をしていたのを解いて、私の意見に同意してくれた。だったらとにかく今は作戦会議に集中だ。

 

 

「…………時間も押しています……。そろそろ話を進めましょう」

 

 

 そう言ってたきなは自分の膝に乗せていたノートPCを立ち上げ、前部座席用のモニターとリンクさせ全員に観えるようにする。

 

 先ず、私達の最優先目標は人質の奪還とリコリス(フキ)達の救助、そして脅威の排除だ。

 人質救助や脅威の排除は言わずもがなだから置いておくとして、実はフキ達も中に取り残された状況下(それなりにピンチ)にあるらしい。まぁ、突然の通信断絶に想定外の敵とかが重なれば、頭でっかちになりがちなフキだと(むべ)なるかな、とは思う。で、それらを達成する上で厄介なのが現在の取り巻く環境と例のMD(モビルドール)とか言う奴ら。

 

 

「現在、多数の民間人への被害や重度の通信障害など、前例の無い事態の多発でラジアータの情報統制能力の一部が麻痺。それにより少数ですが幾つかのマスメディアが浮き足立っています」

 

「みたいね……。たくっ、呼んでもないのにウジャウジャ湧いてるわねぇ」

 

『警察とかも呼び掛けてはいるが、『通信不良で本人まで連絡が届かない』、とか言ってるな。放送準備はバッチリなくせに』

 

 

 と、映像と伴ったたきなの概況解説にミズキとクルミが所感を述べる。そう、迷惑な事に現在、ラジアータの情報規制網を潜り抜けたパパラッチや報道ヘリが現場周辺を彷徨いていて、DAの動きをきつく制限させていた。一応リコリス達は、見えている限り襲撃犯に捕まってはいないけど、私達は民間(報道陣)にも見つかる訳にはいけないから、通信不能も合わさって撤退すら出来ない膠着状態。

 全く、此方の指示に従ってサッサと避難してもらいたい。こちとら人命が懸かってるんだから。

 ……まぁ、不幸中の幸いというか、一応リコリス達の直前までの位置と、今回のような状況をある程度見越したマニュアルとかも用意していたらしいから、合流する事自体はそう難し事じゃない……が………。

 

 

「人質の数は約100人強。

 場所はイベント用の吹抜け広場へ一塊に集められていて、ヘリの空撮で確認する限り緊急を要する容態の人は見受けられません……ですが……」

 

「普通だったら適当なタイミングで狙撃だの急襲だのでケリが付くんでしょうけど、ねぇ……」

 

 

 皆が言い淀む理由。目下一番の問題。人質を囲う様に立つ7機と、そこから少し離れた周辺を巡回する4機。計11機のMDが稼働している姿を観て、全員が揃って唸る。

 

 

「………随分と見やすい場所に立っているな」

 

『人間じゃないからな、狙撃の1発や2発なんて問題無いんだろ。………あとは、挑発や示威、とかだろうな………』

 

 

 渋面で考察を交わす先生とクルミの後ろで、私の眉間にもシワがよる。ミズキも言いかけてたけど、普通の犯人だったら消耗を見計らって攻め立てればいいが、今回の目標はそうはいかない。

 敵は全員疲労とは無縁で動機不明の重武装なテロリスト。仮に、コイツらが遠隔操縦(リモート)で動いていて中の人間の消耗を狙えたとしても、緊急時にはAI操縦に切り替わって無差別に発砲、なんてアルゴリズムを組まれていたら目も当てられない。

 

 

『交戦した警官も『拳銃程度では豆鉄砲にしかならない』って、言っている』

 

「DAからは着弾後の装甲表面の状態から大雑把な計算が出ていますが、少なくとも7.62㎜弾以上でなければダメージを見込めない、と………

 尤も、私達の知る既存の装甲材ならば、と注釈が付きますが………」

 

 

 あまりに高威力の火器の使用は人質の安全が保証できないし、かといって中途半端な損傷だとその後どういった行動に出るか読めない。

 SATとかの人達が動かないのも私達と同じ見解だからだと思うが……とにかく、これ以上の事態の拡大は絶対に避けたいDAとしては、表の人達が痺れを切らす前に決着(カタ)を着ける必要があり、全員が唸る。

 そんな具合に散文的な思考で視野が狭まり、あーでも無いこーでも無いと画面を睨んでいた私達に、クルミが今回の件での一番の専門家を思い出させてくれた。

 

 

『──そう言えばだが、あの時気になる事を言ってたな。翡翠』

 

『肯定。今回確認されているMD群には、不可解な仕様変更が見受けられる』

 

「不可解?」

 

 

 そうして“映像で確認された限り”と枕詞が付くが、再び表示された図解を片隅に置いて解説された話を3つに纏めると────

 

 その1。装甲厚が翡翠の記録よりも薄くなっていて、本来なら装備している筈の防護用パッケージ等も一部取り外され、かなり際どい軽量化が図られている。

 

 その2。これも正式仕様なら持っている筈の格闘兵装や内蔵火器がオミットされ、エネルギー確保に余念の無い設計にされている節がある。

 

 その3。間接部やセンサー部が記録よりも手厚く補強され、また、各部に配置されたスラスターもレイアウト変更や増設がされており、特にドムと呼称される機体はその部分が多い────なのだとか。

 

 

『──元来、MDのその多くは、当機、機能拡張発展機(インテグレートハイエンドモデル)を開発する過程で産まれた、理想値を導き出す為のデータ上のみの存在、廉価版概念技術試験機(機能特化型低コストモデル)である。

 特に、今回確認されている機体はその性質が顕著であり、現在展開されている作戦環境には適切ではない』

(とか何とか書いてるッス………)

 

『………何か今凄く聞き捨てならない事を言っていたような気がしたが……まぁ、置いておくとして……つまり?』

 

『結論。機体コンセプトにそぐわない仕様変更により、性能の大幅な低下を確認。推測するに、技術不足を補う為の仕様変更と思われる』

 

 

 ………解説を聞いてた全員が頭痛を堪える様なポーズで思ったことは、『コイツ本当に反省してるんだろうか?』だ。…イヤ、単にセキュリティとやらに引っかかって喋れなかっただけなんだとは思うけど………コレが終わったら小一時間程問い詰めてやりたい。そんな益体も無い考えをしまい、顔を上げる。

 

 

『更に報告。現在向かっている作戦エリアでは、当機でも通信機能に制限が掛かる事から、有人による遠隔操縦(リモート)ではなく、独立したAI制御である可能性が極めて高い』

 

「フム……。ならコイツらがお前さんほどの優秀なおつむ(有機的なAI)を積んでいる可能性は?」

 

『否定。対象となる機体群には、非効率的な画一行動パターン、及び、リアクションを多数観測。その事から、単純な受諾命令しか処理出来ないと推測』

 

 

 ──なるほど。分断や誘導は十分狙える訳だ……。悪い条件ばかりと思ってたけど、光明も見えた。翡翠と顎に手を添えて思案していた先生の質疑応答を聞いて、バラバラで形にならなかった作戦(アイディア)が固まっていく気配を感じる。

 

 

「よし、なら、そっちに積んである武器(ヤツ)で有効そうなのを見繕っておいてくれ」

 

了解(ラジャー)

 

 

 ───……うん、イケる。私の中でも考えが纏まった。

 

 

「───………ねぇ、ちょっと思い付いた事が有るんだけど───」

 

 

 車は走る。現場へ向けて。前代未聞の敵に、退っ引きならない状況。100人を超える人質と、相手大火力も踏まえれば、懸念要素は過去最大かも知れない────

 

 ───だけど、意外と不安は小さかった。

 

 …………フキ達の事もある。急ごう。

 

 

 

 

 






捕捉という名の架空Q&A、と設定


Q.実際の所楠木は翡翠に対してどう判断してるの?
A.ほぼミカと一緒。
 怪しいのは怪しいけどマッチポンプにしちゃ意味不明だし、凝り固まった思考はもしもの場合を考えると危険過ぎるな、という判断で取りあえず様子見の構え。
 後、即座に円満に解決出来そうなのも翡翠以外だと無理筋っぽいから、という判断も在る。

Q.何で楠木じゃなくて千束達が作戦立案を立てていたの?
A.未知の敵(常識外の技術)という事で、ラジアータの予測が全く当てに為らないから。ソレとDAの上層部(一部)がこれ幸いと思って翡翠の戦闘データを欲しがったのもある。少しだけ。


Q.大事に為ったっぽいっけど何でSATみたいな組織が動かないの?
A.DAに連なる上の組織が自分達の不祥事隠蔽とMD関連の情報秘匿を優先したため。
 因みに、立て籠り犯の要求は身代金目的、という事になってる。表向きには。


Q.楠木は何を積ませて送ってくれたの?
A.適当。
 ぶっちゃけた話、どのレベル兵器が効くか判らないからかなり厳ついのも含めて送ってる。後、それを許したのはどんな兵器なら有効か?というデータを楠木や上層部が欲しがったから。


Q.今回出てきたMDってどれくらいの情報が開示されたの?
A.主に表面上の情報。
 武装や対弾性能(この場合耐久性?)、推力等だけ。当然、熱核融合炉とかEカーボンとかの情報は伏せられてる。


Q.ティエレン、というかOO系列の機体とかで固めなかった理由は?
A.『博士』がとある理由で可能な限り色々な機体での実戦稼働データを欲しがった為。現在はここまでしか言えない事を御了承下さい。悲しいね、フル・フロンタル。



アンフ・レプリカ 設定その1

 とある男の遺稿から『博士』が再設計した模倣機。

 『博士』が再設計してきたMDの中で最もオリジナルのスペックに近づけた機体だが、それは単純構造だったり理解出来る範疇の理論や現行技術でも補う事が出来たアレコレなどが多分にあったが故。その為、かなり低スペック。
 特に装甲や動力炉等はオリジナ程の水準に達せなかった理由もあり、運動性を確保する為に装甲等を削ったせいで防御力は大きく低下している。
 とはいえ、口径の小さい火器ではダメージすら与えるのが難しいくらいには頑丈だし、本体の製造コストや維持費も『博士』が再設計してきた中ではかなり安価で手堅い機体。
 尤も、既存の兵器と費用対効果を比較すれば色々とかなり悪いのが実情だが。

 逆に言えば劣化がその程度で済んだのは偏に『博士』のアーキテクトとしての技量と頭脳あっての事で、流石はアランチルドレンと言ったところ。

 基本的に、主武装は既存の銃器をチョロっとカスタムしただけの代物で、とっても貧弱。しかし、そのお陰で調達も整備も楽チンになってる。

 今回の機体が装備しているのは、右腕に7.62mm機関銃(ぶっちゃけた話、見た目は殆んどザクマシンガン)を腕のハードポイントに設置。顎下?には9mm短機関銃、左腕のハードポイントには、捕獲用ネットランチャーや捕獲用ワイヤーガン、機体よってはテーザーガンを装備。格闘兵装はオミット。理由は後に語れたら語ります。(白目)



ドム推力試験型 設定その1

 アンフ同様に技術面の問題で装甲等を薄くせざるを得なかった機体。しかし、それだと『博士』が今回コレを採用した理由の意味が無くなるので、ある理由の為に元のコンセプトを活かせるよう推進器のレイアウト変更や増設などを行い、それなりの装甲の厚さと機動力の確保には成功させた。

 が、増設したり位置を変更したりしたスラスターのせいで、ウイークポイントが増えるという欠陥を抱える羽目に。実はあるの理由の為に他機種のデータとかも組み込まれた実験機としての要素が強い。

 武装はオリジナルよりデチューンされたジャイアント・バズにM-120A1(要はザクマシンガン。これを手直ししたものがアンフに装備されている)。デチューンしたのは技術面の問題だけではなくコスト面での理由もあった、本体もお高いし。拡散ビーム砲、ヒートサーベルは素材、技術、出力等、色々な面で再現出来ないのでオミット。そも製造出来たとしても本体のおつむも足りないからどっちみちアウト。


M-120A1 ザクマシンガン 小道具設定 その1

 サイズも人間大サイズまで小っさく成っているから当然威力も据え置き。口径が既存の銃火器の弾薬を使用しているのはそれの方が補給しやすいから。ただし、既存はあくまで弾薬だけで、銃身自体は見た目通りにガンダム関連の技術を転用して、MD用という事もあり安全性度外視の威力重視カスタムになっている。




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大丈夫だ、問題ない



 大変お待たせしました。(瀕死)
 せめて2話分の文章量と見逃して頂ければ幸いです。(白目)

 ※追伸:想定以上に長くなったせいで、見苦しい所が有れば申し訳ありません。



 

 

 

───PM 15:23、○○モール周辺域外───

 

 

 

 (せわ)しなく行き交う人と車。慌ただしい怒号。その場はまるで戦場(いくさば)の様な緊迫感────否、事実戦場(いくさば)と言っても過言では無い程の緊迫感に包まれている。何せ最低でも100名以上の命が天秤で揺らいでいるのだから。

 

 

「───駄目です、阿部さん。何処もかしこも“喋れない”の一点張りです……」

 

「だろうな………」

 

 

 そんな場所で、押さえきれない憤りを醸し出しながら戻ってきた三谷と、テープの仕切りの向こう側を険しい目で睨む阿部が居た。何故、阿部達がこんな所に居るのか?というと、特に深い理由は無い。たまたま近くを視察していた彼らも何かしらの騒動に巻き込まれ此処まで流されていた、というだけの話だからだ。

 

 突如一方向から押し寄せてくる人波に、逼迫した様子で駆け回る警官や救急隊員達、そして物々しい喧騒が事件を連想させたのはごく自然な事で、直ぐ様彼らは警察としての責務を果たすべく行動を起こした。しかし、結果から言えば阿部達は何もさせてもらえなかった。

 

 

「クソッ!何なんですか!アイツら………!?」

 

「…………」

 

 

 無線の一切が使えなかったのでその場凌ぎの判断だが、流れてくる人々を一緒に居た警官達と共に捌きながら現場封鎖や避難誘導をし、兎に角場が一通り落ち着かせる事に阿部達は尽力。が、阿部達が動けたのはソコまで。

 

 保護した人や集まった警官達に事情聴取を行おうとしたタイミングで、横破りに現れた聞いた事も無い部署の者達に、有無すら言わせてもらえず阿部達は閉め出され───

 ───そして現在、こうして現場周辺の外縁部にてくだを巻く羽目になっていた。

 

 

「コレ、絶対普通の事件じゃないですよね?」

 

「……そうだな………」

 

「やっぱり、()()()()ですかね?」

 

「……“暴いてやろう”、なんて考えるなよ?少なくとも連中は政府(こっち)側の人間だろうからな」

 

「…っ!……」

 

 

 一切不服を隠そうとしない三谷に阿部が釘を刺す。そもそもこの事件、始まりから妙だった。明らかに尋常ではない騒ぎの規模に、刑事にすら規制された事件の詳細。極めつけは事件発生時から続くほぼ全ての無線が使用不能になる現象。後に唯一伝えられた(というかやや強引に詰め寄って得た)情報は、大規模な人質を捕った身代金目的の立て籠り事件だ、という事のみ。

 

 

「身代金って…あり得ますか?こんな場所で?

 それにこの通信妨害……!」

 

 

 ハッキリ言って、不自然しかない。犯人が高度な電子戦を展開出来た事もそうだが、何故、自分達を聴取も無しに追い出したのか?何故、犯人はこんな守りにくそうな場所を選んだのか?何故、犯人を目撃した者は内側へ誘導されたのか?というか犯人の容姿や凶器は?本当に犯人は身代金目的なのか?等、つつける所が多すぎる。

 

 そう、これではまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいではないか。

 

 それに一部の行き交う警官や保護された被害者から流れていた珍妙な(情報)もあり、三谷の中の不信感は今でも際限なく膨らみ続けている。

 

 勿論、このままでは納得のいかなかった三谷は方々に連絡と確認を行ったが、結果は散々で得られた御言葉は『既に専門家が動いている。お前達は戻れ』、だ。

 

 

「………これって、やっぱりテロですよね?それもかなりヤバめの……」

 

「………」

 

 

 続々と現場に到着する機動隊が、何故か自分達の目の届く範囲で周囲を固めていく様子を観つつ、ほぼ確信している疑問を呟く。脳裏に過るのは先日阿倍に連れられて視察した、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 阿部の言っている事は判る。そして自分の事を慮ってのことだという事も。

 もし阿部の推論が正しいのなら、今回の事件に噛んでいるのは自分達とは比べ物にならない程の権力を持つ者達。声一つで(個人)の痕跡をどうとでも消せる存在なのだろう。

 

 三谷とて警察官の端くれ。想像でしか語れないがなんとなくは判る。自分達の世界から近くて遠い権力者達の世界は、深謀遠慮で複雑怪奇。白が黒に、黒が白に幾らでも入れ替わり、(多数)の為に(1人)が無慈悲に切り捨てられる。綺麗事だけではままならない世界だという事くらいは。

 

 だが理解は出きても納得は出来ない。現場を直接視れた訳ではないが、自分はその場に居た当事者で刑事なのだ。

 ならばせめて少しでも何か出来る事が在る筈だと内に秘めた自分が叫ばずにはいられない。

 

 それこそ、あの時引き離された、さめざめと泣く被害者の親御さんに寄り添う事くらい、と。

 

 

「──……俺、やっぱり納得できません……!せめて…せめてなにか──」

 

「やめとけ。俺達に出来ることはもう何もない。下手にでしゃばっても現場を荒らすだけだ」 

 

「っ…!だったら、あの如何にもな連中を信じるって事ですか!?」

 

「俺達じゃあ、力不足だって言ってんだ…!」

 

「そんなの……もしかしたらアイツら、見えないのをいい事に滅茶苦茶するかも知れないんですよ!?」

 

「じゃあ何が出来るってんだ!?この規模の機動隊まで出張って来てるって事は、相手は相当ヤバいもんを持ち込んでるって事なんだぞ!?」

 

 

 ぶつかり合う意見。平行線の議題。阿部も三谷の言わんとしていることが解るからこそ、窘めはしても否定はしない。

 

 阿部とて同感だった。あの時シャシャリ出て来た連中の目は、信用できないと、長年の刑事の勘がそう囁いていたのだから────

 

 

「───………あん?何だありゃ?」

 

「話を逸らそうとしないで下さい!」

 

「いや、マジで何だありゃ?……」

 

「?……───」

 

 

 ────だからこそ、そのまま無為にぶつかり合うだけだと思っていた現状が、唐突に冷や水を浴びせられた事に思考が追い付けなかった。既に阿部の先程までの勢いは完全に鎮火しており、そこには呆然と宙を見上げる先達しか居ない。

 

 そんな阿部の様子を認識したことで、漸く三谷も周囲の異変に気付く。()()()()()()()()事に。

 

 自分達以外は絶対に通すまいと厳戒態勢を敷いていた警備が──

 

 何時どのような事が遭っても即座に突入出来るように構えていた機動隊が───

 

 取り残された我が子の安否を必死に訴えていた親が───

 

 対岸の火事なのをいい事に物見遊山でガヤガヤと集まった野次馬が───

 

 呼び掛けよりも数字を、真実よりも面白さを探していてたマスメディアが───

 

───()()()()()()()()()───

 

 

「────何を言って──…………は?───」

 

 

 そして、三谷も視線を追った───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───同時刻、○○モール内イベント広場───

 

 

 

 

 タイルとコンクリートで構成された冷たい床に座らされて居た人々は、震えながら身を寄せ合う。しかしそれは寒さで震えていたからではない、日常ではまず感じる事のない死を匂わせる暴力の気配に脅えていたからだ。

 

 基本的に全員無作為で連れてこられてはいるが、場所が場所だったが故に比較的若い層が多く、大体は高大生の友人グループやデートカップル、他には新婚といったくらいの者達が大半で、皆、一様に恐怖に蹲って耐えている。

 

 その中で、最も幼く、親から引き離されたのであろう玩具を抱きしめて座る男の子に、公安の俺は寄り添っていた。

 

 

「大丈夫…もう暫くの辛抱だよ………」

 

 

 地の低い俺の声でも、少しでも不安を和らげれればと、声を掛けその震える小さな背を摩る。

 

 親という寄る辺を失くし、本当なら今すぐにでも感情のままに振る舞いたい筈。それをしないのは強要(おど)されたからというだけではない。(こら)えているのだ。大の大人でも喚き散らしたくなる程のこの環境で、懸命に。

 

 (………強い子だ……本当に……)

 

 そんな小さな勇者を横目にしつつ、神経を研ぎ澄ませ、決して視線を送らず、されど自然に、細心の注意を払って、ゆっくりと、片手を服の内側へ動かす、が────何処を見ているかも判らなかった異形の犯人の目が、明確に此方へ動いた。

 

(チッ………随分目敏い無人機だ………)

 

 視線一つで行動を潰された事に内心で舌打ちし、上がりかけていた手を戻せば、奴らも此方を見ていた1つ目の視線を外す。

 

 奴らの勤勉で親切な対応に今度こそ舌打ちが表に出そうになるが、下唇を噛んで努めて冷静さを維持。

 しかし、いずれやって来る機を逃さない為に現状を御復習(おさら)いして練っている幾つもの案は、どれも成功するイメージが少しも湧かない。

 此所まで連行されて来た俺達は、座る以外特に命令こそされなかったが、厳しい監視下にあった。

 

 奴らに不審と判断されたり喚いていた者達は漏れ無くテーザーガンや鈍器にも成る腕で乱暴に取り締まられ、そして今言ったような騒ぎを隠れ蓑にして反抗を企てた者達───俺が追っていた本来の犯人(ホシ)の護衛達だが───は、前者の者達以上に加減の知らない取り締まりで、時折微かな呻き声を出すだけの置物として地面に転がされていた。

 

 パッと見でしかないが、死んではいないし命に別状も無いとは思う。が、民間人からすれば相当にショッキングな光景だったのは間違いなく、皆、必要以上に体を強張らせて経過時間よりもずっと心身を消耗している。

 その上そうやってまで判ったのが(不確定要素を多分に孕んでいるが)ルーチンワーク過ぎる対応から『AIによる自立型ではないか?』、というどうしようもない事実だけ。

 

 …………先程もそうだったが少しでも何か出来ることは無いかと模索した故の行動は、藻掻けば藻掻く程に自身の無力さを突き付けられる。

 

(相手は無人機、意識の隙間なんて無い………。

 しかもあの重武装だ。外の連中も迂闊に手出し出来ないとなれば、長期戦は必至…………それまで人質達の体力は持つのか?

 そもコレを用意したのは何処の組織だ?それに奴らの目的は?犯人(ホシ)の抹殺じゃない?此所で何が起こっている?何の目的でこんな大それたことを……───)

 

 懸念に心身を削られ、疑念が翻弄し、謎が謎を呼ぶ。劣悪な環境で思考は散らかるばかりで時間だけが無情に過ぎて行く。

 警備体制も秒刻みで管理され万全にして鉄壁。監視員は文字通りネズミ一匹すら見逃さない目の持ち主、隙を探すことすら馬鹿らしい。

 作戦実行日目前で浮かび上がったきな臭い話や急遽の予定変更も脳裏を掠め、思考はズルズルと迷路に引きずり込まれ最早何がベストなのかすら分からない。

 

 そんな頃、眉を顰めて考察がグルグル空回りしていると、摩っていた坊やの背が跳ねた事で現実に引き戻される。

 

 俺達を等間隔で囲う7機中の1機が、定刻通りのローテーションで人質の集まり中を巡回。感情の一切が見えない獄卒が少しずつ近付く度に、坊やの背の震えが大きくなるのが判った。

 ……俺は坊やに聴こえないよう小さく深呼吸し、彼に目線を合わせる。

 

 

「……カッコいい玩具(ロボット)だね、お気に入りかい?」

 

 

 努めて穏やかな声を心掛ける。そうだ。明かせないが此所に居る警官は俺だけだ。ならば俺は俺に出来る事を成さねばならない。幸いな事に、多少の雑談程度ならしょっぴかれないのは確認済み。なら、少しでも彼の気が紛れればとお話する事にした。

 本来であればこの子1人だけでなく他の人達の様子も看るべきなのだが、“流石にこれ以上は……すまない”、と、誰にも聴こえない言い訳を頭の隅に追いやってゆっくり待つ。

 

 

「……コズミックエンペラー……」

 

「あぁ、ギャラクシーレンジャーズか。オジさんも知ってるよ」

 

 

 消え入りそうな凍えた声で返してくれた名詞に、家での記憶を思い出す。今放送中のヒーローモノで、息子にその玩具をよくせがまれたのを。ただ、俺の記憶していた物と違い、本来の赤を主体としたカラーではなく、緑と白のマーカーで塗り直したお手製感が増した品だ。

 よほどのお気に入りなのだろう。年季の入った細かい傷や塗装禿げが如実にそれを示している。

 

 

「……悪い奴らは……コズミックエンペラーがやっつけてくれるもん………」

 

 

 そう言って、一際強く玩具のロボットを掻き抱く。お守りのように。願うように。その姿を見て、実子とこの子を重ねていた事に今さら気付いた。親から引き離されたのはこの子だけだったとか、最も幼い子供だったからとか、幾らでも言い分けは立つが、公私を別けきれていないのは間違いなく、“これではまだまだ半人前だな”、と自笑を溢す。

 

 そんな時だった。

 

 

「うん、そうだね。だからもう暫くの辛「いい加減にしろっ!!!」っ!?」

 

 

 衣擦れや押し殺した祈りしか聞こえなかった空間が引き裂かれ、全員の注目が集まる。発生源である直ぐ隣の初老から中老に差し掛かるくらいの男の、立ち上がっている姿に。

 

 

「──お、お前達の目的は『()()』だろう!?わざわざこんな事をしなくとも用意してやると言っておいていたではないか!?」

 

 

 ワナワナと震えて目を血走らせ、要領を得ない文字の羅列を喚く。端からすれば何を言っているかとんと分からない意味深な文言。それを巡回していた首が異様に突き出た機体に指を指し、烈火の剣幕で訴える男の姿に俺は嫌な汗が滲んでいた。

 そして当の本人はというと、全くの無反応で淡々と業務処理に動き出しており、俺の中の不安はクッキリと輪郭を帯びていく。

 

 

「いいか!?『アレ』の在処、認証キーは私が管理している!つまり私に何かがあれば永遠に失われるという事だ!分かったら私をサッサと解放せんかっ!!」

 

 

 ズンズンと重い足音を立てて近付く獄卒に尚も言い募るが、奴らの反応は変わらない。

 やはりコイツらは犯人(ホシ)とは別件なのか、とか、こんな場所で機密情報を仄めかすな、とか、脅しが通用する相手か!?とか、散文的な考えが泡沫のように沸き上がるが、そんな事よりも俺は今すぐにブン殴ってでも黙らせてやりたい衝動に駆られていた。

 

 今、人質達の精神は微妙なバランスで保たれている。当たり前だが民間人がこのような環境に慣れている訳が無く、彼らが黙れているのは幾つもの偶然が重なったお陰でしかない。現に今にも限界を迎えそうな者がチラホラ見えている。

 故にもしこれ以上何かがあれば、各々が閉じ込めれていた感情が誘爆していくのも、そしてソレを奴らが最初と同じ様に加減下手(べた)の暴力で処置を施していくのも容易に想像が付いた。

 それこそ、今度は死人が出るかも知れないと思わせる程度には。

 

 張り詰めていく雰囲気が──

 

 青ざめていく顔が──

 

 絶叫の前兆が──

 

 見なくても伝わる。膨らみ過ぎた風船が破裂する瞬間のような───その気配が。

 

 

「────ひっ、や、止め─────」

 

 

 やがて獄卒は男の前にたどり着き、武骨な腕を高く、高く、頭上へと挙げ、男の顔に影が落ちる。

 

 足元で俺の服が握られたのが分かり、俺は無意識に坊やを庇う姿勢をとっていた。

 

 最悪の光景を幻視した、その間際────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───粉砕音と土煙が落ちて来て───

 

 

「コズミックエンペラー、参上」

 

 

 ─────獄卒の腕を踏み千切ったナニかが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

───リコリコ、現場突入より少し前───

 

 

 

 

「───…………ココまでやってから言うのも何だけどな。

 やっぱバカだろ、お前………」

 

「はぁ?⤴私のナイスアイディー⤴アにケチを付けたいなら代案を出してからにしてくれますぅ?⤵」

 

 

 思わず洩れたミズキの感想に千束が噛み付く。

 

 荷台の奥で完成させたモノを改めて観察した千束を除いた一同は、一応自身達も納得した上で携わったにも関わらず名状し難い顔になっており、そしてそれは後ろで見ていた連絡員達も似たり寄ったりな顔に成っていた。

 

 その理由は、(こん)作戦の為に全員で協力して新たなる姿となった翡翠の偉容───

 

 

 ───軽量さと丈夫さを兼ね備えた薄いブラウン色の継ぎ接ぎ増加装甲───

 

 ───子供の夢と希望(後序でにパルプ)で力強く大きくなったシルエット───

 

 ───極め付けは胸部にデカデカと「超合金!ギャラクシーエンペラー、参上!!」と、印字された激しい自己紹介───

 

 

───圧巻のビジュアル───

 

 

──フルアーマーガンダム(紙製)にあった。

 

 

 

 ……………無論、コレには真面目な理由が在る。

 

 千束曰く───

 

 ─────ぶっちゃけた話、“あの数のアイツらを相手にしながら人質の安全も”、ってなったら、そんなの出来るのは翡翠だけでしょ?しかも何処に(カメラ)が在るかも分かんないし。

 だったら、『翡翠に身バレ対策をした上で派手に突入してもらう』、って作戦はどう?

 コレなら陽動にもなって私達も動きやすいしね────

 

 ───との事。

 

 そうした経緯を経て小学生の工作レベルで急造されたのがフルアーマー仕様(パッケージ)

 

 先ず、主な仕様はというと、GNフルシールドやGNスナイパーは取り外して全身の9割を段ボールで包み、各部の間接や継ぎ目は不透明の黒ビニールを巻き付ける。次に頭部は前面にマジックミラーフィルムを採用したヘルムにする事で視界と偽装を両立させ、後は手に特大サイズの白軍手を被せて概ね完成、といった仕上がり。

 勿論、コレらの処理を要所要所を重ねる事で戦闘時に剥げづらくなる工夫も忘れない。

 

 流石に脹脛のホルスターや腰部後方のGNバーニアは全てを覆う事は出来ないが、基本的に武装関連は民間人に見せる事は無い為問題無しと判断され、そして今に至る。

 

 

「……まぁ、確かに……コレなら正体を隠せるとは思いますが……しかし………」

 

『フッ、見物(みもの)だな?DAの連中がどうコイツを誤魔化すのかが』

 

「「……………」」

 

 

 未だに納得し難き表情のたきなに、見物人感を隠そうともしないクルミ。ソレを隣で聞いていたミカは後に来る楠木の苦労を忍び天井を見上げ、連絡員達はクルミが操るドローンにガンを飛ばす。

 ……非常に…非常に度し難いが、千束の挙げた懸念事項と案自体は的を得ている。動く度に空き箱を叩くような音が鳴るコレに作戦の命運を預けるのは不安で業腹だが………しかし、代案も時間も無いDA側に選択肢は無かった。

 

 後にミズキとたきなはこう語る。震える声で楠木(上司)に報告していた連絡員(下っ端)達の姿は、『とても痛々しかった』、と。

 

 

「……あーー、取りあえず……今一番の問題はこの状態でも戦えるかどうかだ………。

 いけるか?」

 

問題ない(ノープロブレム)────』

(大丈夫だ、問題ない────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───全ての時間が止まる。いや、実際には奴等だけは既に動き出していたのだろう。

 

 だが、それよりも─────段ボールマンの方が迅かった。

 

 片腕を失った獄卒が振り向くよりも疾く、膝蹴りが叩き込まれる。生半な銃器では歯牙にも掛けない装甲は紙のように(ひしゃ)げられ、下から上へ、体をくの字にしながら段ボールマンに導かれ共に宙へ。

 

 この時点で獄卒は全身のアチコチから青白い放電と火を吹き出しており、傍目から見ても死に体と分かる有り様───だが段ボールマンは止まらない。

 

(あ、ヨイショオッ!!)

 

 萌葱色の輝きを煌めかせ、空中で体軸を固定したかのように高速回転。一回転挟んで獄卒と向かい合う頃、上段回し蹴りの軌道に沿ったおみ足が獄卒の胴の芯を捉え、元々(ひしゃ)げていた体を更に拉げさせる。

 遠心力以上の運動エネルギーが乗った襲脚は存分に衝撃を出力。小さな爆発を起こしながら優に数百キロは超すであろう金属の巨躯が、物騒な風切り音を唸らせて人質達の上空を通過し、売店へ突っ込み爆散。

 

(先ずは1キル──)

 

 数字で起こせば秒にも充たない一連の出来事。たったそれだけの間に俺達を絡めとっていた悪意の1つが消える。

 

 引き延ばされた時間の中、段ボールマンを凝視する皆が、頓馬顔でへたりこ込んだ男の顔が、そして───漸く段ボールマンの動きに追い付いた奴等の反応(銃口)が視界の端を掠め───

 

 

「────っ、全員伏せろぉっ!!!」

 

(───見えてるからな?───)

 

 

 反射的に叫ぶ。全員が全員俺の声を聞いた訳ではないと思う、が、この際それはどうでもいい。悲鳴を上げつつも奇跡的に皆の動きが揃ったのは僥倖だった。しかし、こんなモノは気休めにもならない。

 奴等は俺達を包囲したままだ。俺達を狙っているのでは無いのだろうが、この状況ではどう動いても流れ弾に当たるし、逃げ場なんて何処にも無い。出来るのは精々奇跡を祈る事だけだ────魔法が掛けられるまでは。

 

 

「──TRANS-AM(トランザム)、及び、GNフィールド、最大拡張(フルエクスパンド)──」

 

 

 着地すると同時に唱えられた呪文が魔法の(ドーム)を作り出して俺達を覆い、直後、四方から耳を劈く火花と爆風が交差して、アチコチで起こるのは悲鳴と火線の大合唱。皆は頭を地面に擦り付け、逃れようの無い凶弾の嵐が通りすぎるのを待っていたが、俺だけは見ていた。呆然と。

 首の突き出た無人機から吐き出される夥しい量の鉛弾が、蕪のような足を持つ無人機が撃ち出したバズーカ砲らしき物の砲弾が、どれ1つとして若葉色に輝く壁を突破出来ずにいた現実を。

 

(────ママから教わらなかったのかぁ?────)

 

 当たれば肉を抉り飛ばす筈の鉛礫は空中で静止するか逸れ、砲弾の爆炎は光の壁の向こう側を焼き焦がすばかりで破片1つすら侵入させない奇跡。

 軈て、俺の様子に気が付いたのか、それとも痺れを切らしたのか、少しずつ悲鳴は困惑へと移っていき────

 

(───人に銃を向けちゃいけません、ってなぁっ!!)

 

 ────奴らとの攻守が入れ代わる。

 

 脹脛の金属ボックスから2挺の特異な大型拳銃を引き抜き、周囲一帯へ光弾を乱射。右へ、左へ、前へ、後へ、二つの銃で大立ち回りを演じ、小気味好く火器を優先してスクラップへ変える。外連味の利いたノールックショット、一見盲撃ちにしか見えない射撃が的確に対象の脅威を削いでいき、序での駄賃と言わんばかりに出来た余剰で本体も蜂の巣にしていく。

 

(────2キル──3キル────)

 

 しかし、穴だらけにされた2機が炎に巻かれた所で不利を覚ったのか、奴らは使えなくなった装備をパージし、俺達の周囲を走り出し始める。

 小賢しく、悪辣な戦術。真面にぶつかればどうなるか学習したのだろう。どう見ても俺達を肉盾にして隙を窺う算段なのは明白。

 俺も含めた皆もフリーズしていてパニックを避けれているのは不幸中の幸いだが、この魔法の壁然り、ずっとという訳にはいかない。

 疲労という概念が存在しないマシンと何の訓練も受けていない民間人。我慢対決なぞ土台からして勝負にもならない。そして此方は幾つもの不安要素を抱えている以上、時間を稼がれるのは致命的で、このままでは奴らの思う壺────ただしそれは、奴らよりも段ボールマンが遅かった場合の話だった。

 

 

「───TRANS-AM(トランザム)解除、排除行動を開始する───」

 

 

 光の壁が消えると同時に一陣の風が走る。

 新緑の風は瞬きより迅く対象へ肉薄、それをギリギリで反応出来た首の突き出た無人機は、走行を中断して右腕を大きく振りかぶって迎撃敢行。しかし、相対速度を計算に入れたドンピシャに見えるカウンターは、段ボールマンのトップスピードからゼロ速へ、当たる寸前にスウェーバックを取り入れた円運動で空を切る。

 ひらりと回っていた体が半身の体勢でピタリと止まり、左腕の銃が突き付け(死神の鎌が添え)られる。

 

 先ずは1射目。伸びた右腕の付け根に1発の光弾が炸裂し、肩部ごと右腕が喪失。

 当然、その(かん)の敵も無抵抗では無い。残った左腕で更に強引な攻勢に出る、が、そんなささやかな反撃も死神は許さない。続く繰り出された拳を自身の脇へ通すように躱した死神は、そのまま片腕で間接を極め、力技の大外刈りで振り回す。

 

(オッラァッ!)

 

 型も術理も無い膂力に物を言わせた荒技が、鉄の塊を玩具のように引き摺り、ホールに響く軋む金属の悲鳴。そして人質達から離れ行く軌道に入った辺りで、空いた腕の銃から両膝に1発ずつ、投げ飛ばすタイミングで肩部間接に1発、計3発の光弾を突き刺され四肢は爆裂し、達磨状態で壁へ激突。

 そこでダメ押しの連射を2の銃口から浴びせられ、スクラップ達の仲間入りとなる。

 

(───4キル───)

 

 次に遅れて援護に来た同型の2機が迫る。唯一勝る数の利を押し付けるべく、脇目も振らず最短ルートを走る2機に、我に返った人々は慌てて離れ、小さくも充分な()()を担保出来るコロッセオが生まれた。

 鈍重そうな見た目を裏切る軽快な疾駆。勿論愚直に突っ込むような真似はしない。1機が後ろに隠れるように隊列を組んでいた2機は、直前で無拍子の挟み撃ち陣形へ切り替え行う。

 普通ならワンテンポの遅れを誘発出来る、絶妙なキレのコンビネーション。

 

 だがそれでも、死神とのダンス相手としては相応しくなかった。

 

 2機が左右に展開する一瞬。死神は唐突に、右腕の拳銃を高く、少し前へ、山なりに放り投げる。突然の奇行。モノアイが僅かに揺れる須臾にも満たない切れ間。その(あいだ)を踊るようにすり抜け、2回瞬くはマゼンタ色のテールライト。

 

(───………5キル、6キル!………)

 

 気が付けば、いつの間にか振り抜いていた()()()を仕舞い、落ちてきた銃を悠々とキャッチ。一拍遅れて、其々の胴を抉るような角度で輪斬りにされた2機は、上半身をずり落として炎を上げ、仲間の後を追う。

 

 怒涛の展開、と言えばいいのか、俺はただひたすら見ていた。何も言えず、思考も追い付けず、脳は目の前の出来事を処理するのに手一杯で、周囲を観る事も止めていた────()()()()()()()()()のにも関わらず。

 

(──……まぁ、予想はしてた。その為の人質だもんな?)

 

 不意に段ボールマンが此方を向き、後ろから聞こえてきた、重い駆動音と過剰凶器を構える音。振り向けば、其処に居たのは最後の1機(蕪みたいな足の無人機)。ここに来て漸く頭が回り始め、理解が追い付く。奴らは最後の最後まで俺達を()()()()するつもりだという事を。

 

 手に握られていたのは腰部後方にマウントしていた大型機関銃。

 

 射線上には段ボールマンを挟むように居る俺と坊や。

 

 繰り返される凶行は先程よりも一層明確な死を想起させ────今度こそ逃れようの無い惨劇を予感して坊やに覆い被さり─────ヘルム内でガンカメラが露わになる。

 

 

(───させるかバーカ───)

 

「GNビームピストル、収束率調整───

 ───()()()()()()()を最優先とする」

 

 

 再び放たれる死を齎す嵐を号砲に、新緑の風もまた走る。加減も出し惜しみもない撃ち尽くす勢いの弾幕。しかしそれは───1発たりとも役目を果たす事はなかった。

 

 貴我との距離、約50m。投射される無数の弾丸は、(あいだ)に居る保護対象の目前で、1つ残らず光弾に接触して()()()()()()()()させられる。

 

 貴我との距離、約40 m。鬩ぎ合う鉛と光の礫。鉛の礫は今尚も間に居る二人の前で消滅し続け、境目は拮抗している。

 

 貴我との距離、約30m。鉛と光のぶつかり合いの境目に、変化が訪れる。鉛の礫が少し、二人から遠ざかる。

 

 貴我との距離、約20m。鉛礫は二人から更に距離が空き、じわじわと離されていく。

 

 貴我との距離、約10m。境目はますます押し込まれ、段ボールマンが二人を追い越した所で無法者の弾倉は空になり───

 

(ちょいさぁっ!!)

 

 ──最後の1機の余命が確定。既に無法者は機械らしい素早く淀みない動作で迎撃体勢に入っているが、それでも遅すぎる。

 障害物も柵も無くなった段ボールマンは、即座に数発の光弾でマニピュレーターごと銃器を爆砕。そして空中でクルリと体勢を変え、瞬時に最高速度となって砲弾の如き飛び蹴りで無法者を壁まで吹き飛ばす。到底打撃で出る音とは思えない轟音と、コンクリートとタイルを割り砕く連続音のコラボが人々の鼓膜を震わせる。

 

 軈て、土煙の中から胸部を見るも無惨な形に歪ませた無法者が、壊れかけのブリキ人形を彷彿させる動きと音で健気に立ち直ろうとする姿が映り────────足蹴で粗野に止められる。

 

(───デザートは要らねぇか?)

 

 止めの光弾を至近距離からたらふく食わされ、最後の1機も完全に機能停止となった。

 

 

 

 

 

 

 ────人々の声が徐々に戻ってくる、が、未だに困惑と動揺は抜け切れておらず、戸惑うばかりで誰も動けない………。

 ザワザワと囁かれる疑問の中には、「助かったの?」や「警察……じゃ、無いよね?」等の真っ当なモノから、「……救助に来た特殊部隊の人?」や「何かの番組撮影だったりしない?……」等の頓珍漢なモノ迄、百人百様の様相で、誰もが現状を図りかねている。………かくいう俺も、自分の目で見た事が信用出来ないでいた。

 

 原理不明の現象、SFめいた装備、段ボールマンのコミック染みた挙動や相手の姿も手伝って、白昼夢でも観ていたんじゃないかと自分を疑ってしまう。しかし、噎せ返る程の硝煙の薫りと受けた傷の数々が、ソレを否定。

 

 言葉が出ず、愕然と膝立ちで立ち尽くす俺の隣を、段ボールマンは武器を仕舞いながら通り過ぎ────ふと、視界の端から坊やが段ボールマンに駆け寄るのが見えた。

 

 

「コズミックエンペラー!!」

 

 

 抱えていた幻想のヒーローを、精一杯背を伸ばして掲げる。ソレに対し、言葉による返事は無い。

 

 少しだけ体を坊やの方へ捩り、サムズアップ。

 

 幾ばくか無言の会話を交わし、段ボールマンは空へと昇っていく。

 

 俺はソレを、ただ見送っていた。

 

 

 

 






Q.何で狙撃しなかったの?

A .相手の伏兵を警戒していたのが1つ目。相手が自爆、又は誘爆の懸念が2つ目。何より、相手が『どういう目的』かが分からないので人質の安全を最優先した結果の戦術。後は作中の理由もある。


 投稿者がまだ幼稚園児?か、それくらいの頃の話で、まるで覚えていないのですが、親に連れられて行ったどっかのテーマパークの時の事でした。恐らく、ヒーローショーの準備中か休憩中だったのでしょう、怪人?(もしくは怪獣?)の方に抱き上げてもらったそうです。が、その時の投稿者は「怪人怖いー!」とか言ってギャン泣きしたんだとか。
 もし何処かでその時の中の人に出会えたなら、お礼を言いたい。
 そんな今日この頃。



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逃げたら一つ、進めば二つ、止まればオルガ



 何時も感想、評価、お気に入り、ここすきや誤字修正等ありがとうございます!それらを励みに、遅筆ですがエタらずに完結を目指します!
 ※今回は切りの関係で、短めでお送りいたします。




 

 

───リコリコ、現場突入直前───

 

 

 

 

「負傷者が出なかったのは幸いだな………」

 

 

 モールエリア内、とあるビルの高層階の一室にて、フキを始めとしたリコリス達は息を潜めて集まっていた。突如現れたイレギュラーを目撃したフキは、即座に退却を選択。つい最近増えた特殊事例マニュアルに従って、時間は掛かりながらもなんとか全員を拾い、一先ず窮地を切り抜けはしたのだが……。

 

 

「確かに怪我人は出ませんでしたけど、ねぇ…………」

 

 

 渋面でボヤくサクラが窓から外をチラリと窺い、視界に映るは遠巻きにウロチョロと飛ぶ報道ヘリと、自分達の退路を塞ぐように歩き回っている異形の闖入者。

 

 邪魔くさい。現状を表すならこの一言に尽きた。

 

 リコリスは国から殺人許可(マーダーライセンス)こそ貰っているが非公式、というか成り立ちからして表沙汰に出来ない組織だ。当然目立つのはご法度で、マスメディアに見つかるなんて以ての外。

 にも関わらず降りてくる任務は必要性が高く、ハードで複雑なモノが大半。それはリコリスの階級が上がれば上がるほど顕著になり、今回の任務なんかは特にその典型例。

 そんな任務であの傍迷惑なチンドン屋に、巧まずしてだろうがリコリス達は首根っこを押さえ付けられてしまっていた。

 

 

「……まぁ、あのどうしようもない連中は置いといて、だ」

 

「今一番の問題はあのブリキ軍団と、()()ッスね………」

 

 

 そして問題はまだ在る。装備とマップの確認を行いつつ、現状の要因の1つである()()()()()()()()()()を掌に乗せて補足する。そう、この状況に陥った一番の理由、一切の通信断絶を。

 

 どんな分野でも情報とは非常に大きな要因になりうる。勿論それはリコリスのような暗殺に重きを置いた組織でも変わらず、たとえ民間用携帯1つでも有るか無いかで成否が決まると言っても過言ではない。その現場で通信手段を奪われたのは彼女達にとって致命傷に等しかった。

 

 

「んで、『個々の判断で撤退』っつっても、()()がアレですしねぇ……」

 

「警官と交戦してた時も、9mm程度じゃ牽制にもなって無かったね…………」

 

 

 広がる議題にエリカも入り、持ち上がるはもう1つの無視できない問題。人型戦闘用ドローン(イレギュラー)について。

 本来リコリスの活動思想は、『市街地等の民間人が多数居る現場にて、テロ等の喫緊の案件を未然防止、又は、迅速且つ密かに処理する対人の隠密作戦』にある。故に、あのような分類すら難しい未知の兵器との交戦も応対も完全に管轄外で、その場しのぎの急造された教本では後手後手に為るのは自明の理だった。

 

 

「で、どうするの?続行するにしても撤退するにしても、あの連中をどうにかしないと話すら進めないよ?」

 

「………………」

 

 

 だが、時間は待ってはくれない。皆の議論に結論を求めたヒバナの問いへ、フキは答えを持ち合わせてはいなかった。

 

 どの選択をしても交戦必至のあの相手は、今の自分達の火器だと破壊は困難だし、そもそもそんな事をすれば間違いなく報道陣の目に留まる。

 かといってこのまま待機も有り得ない。この無線封鎖もあの無人機も敵の作戦の一部と考えるのが妥当で、だとすれば絶対に次の動き、否、それどころか既に動いていると見た方がいい状況。座して待てば更なる事態悪化を招くのは明白。

 それに上記の問題を横に置いても、手ぶらで帰還するのは()()()()()()()()()()()宜しくない理由も有る。

 

(司令はああ言って下さっているが、()()()が納得してくれるかは甚だ疑問だな………)

 

 フキのみに与えられた楠木越しの密命。『もしもの場合はガンダムデュナメスに関する情報取得を優先せよ』、という、多数の上位者の思惑が絡み合った無茶振りが。

 

(今回の件、恐らくは()()()……それが明らかなのに真っ直ぐ帰るのは、正直かなり(こえ)ぇ………)

 

 楠木からは『少しでも情報を()()()()()が最優先だ』、と、真っ当で有難いお指示を頂いてはいるが、今回の任務の発端が発端だけに楠木越しのお相手はそれで到底納得するとは思えない。

 フキに対しての処分だけで済めば御の字、最悪の場合、全リコリス隊員の消耗を度外視した指令が下ってもおかしくない。

 

 そしてそれは現に一度それに近い作戦が展開された事がある以上、十二分にあり得る可能性。

 

(………どうする?………どうすればいい?………)

 

 進んでも地獄、逃げても地獄、そも根本的な話があの無人機の(センサー)を掻い潜る事が出来なかったからの結果が今。

 

 ベテランと呼ぶには若すぎる齢のリーダー、その小さな背に、無数の(21グラム)の重さが伸し掛かる。

 

 知らず知らずの内に握り締められる拳。

 しかし───────

 

 

 

────────ガタン────────

 

 

 

「「「「「「「ッ!?」」」」」」」

 

 

 ────状況はフキの苦悩を汲んではくれない。

 

 即席のバリケードで塞いだ扉の向こう側。そこからもう2、3度続いた明け開こうとする動き。それに対し、リコリス達は無音で配置に着いて迎撃態勢に入る。

 

 

「……因みに先輩……()()が相手だった場合、何か良い作戦とか在ったります?」

 

「……高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に退却を目指す、だな」

 

「それは……完璧な作戦ッスねぇ……」

 

 

 フキとサクラの遣り取りに、全員の警戒レベルが一段上がる。重い足音がしなかったのであの重厚だがトロそうな無人機では無いと思う、が、それが安心出来る材料とはならない。現状ではあの『ガンダムデュナメス』に比肩するモンスターが出てきても可笑しくは無く、そして此処に居る者はその性能を肌身で体感した者ばかり。だから知っている、もしそうなら戦闘にすら成らないという事を。

 

 相手が人間なら即座に無力化して此処を引き払う。相手が外の奴と同じなら遅滞戦闘に務めて遁走。相手がもし翡翠(アレ)の同型機なら─────神に祈れ。

 

 耳鳴りが聞こえてきそうな程の静寂。高まり合う緊張感と集中力。濃縮された時間の中、釣り合っていた趨勢が傾く、その間際───────

 

 

────────バコン────────

 

 

「「「「「「「ッ!!」」」」」」」

 

 

 ───一糸乱れぬ動きで天井の空気ダクト(音の発生源)へ構え直される射線。

 撃鉄が叩き起こされようとする寸前で────

 

 

「─────よっ、と!………よし!居た居た!」

 

 

 ────無造作に転がるダクトの蓋と、スルリと着地した千束を認識した。

 

 

「────ハァ!?────おまっ───なんっ!?」

 

「あーー、フキは後でね。取りあえず……ひー、ふー、みー、よー……────うん、全員居るね……んじゃあ、ハイ、コレ」

 

「へ?」

 

 

 トリガーに掛けていた指が止まり、一気に弛緩する空気。上手く言葉を形成出来ないフキと唖然と固まるその他のリコリス達。

 しかし千束はそんな彼女達を他所に、テキパキと何事かを進め、適当に近くに居たリコリスへ端末を渡す。

 

 

「コレに脱出ルートとか現在の概況とかも入っているから」

 

「───はい?──え??あの、ちょっ───」

 

「フキ以外の人はコレで現場を離脱してね。そのゴール地点に逃走用のトラックが在るから。それに乗ったら任務完了だから宜しく───」

 

「─────ッ、ここは私の現場だぞ!!って言うか──声くらい掛けろクソバカ!!」

 

 

 と、此処で漸く理解が追い付いたフキが吠える。現在のシチュエーションに、今自分達が一番欲しいモノを携えて現れた同僚。流石にここまでヒントが揃えば説明されなくとも何となく解る、何故千束が現れたのかを。が、それでも我慢出来なかったのは脊髄反射か、彼女達の仲ゆえか。いとかなし。

 

 そんな気の抜ける見世物を観せられていた他のリコリスも次第に再起動を果たし、外へ気を回せる者も出てくる。

 

 

「────!例の無人機に動き在り……!!」

 

 

 その言葉を皮切りに事実を確認した彼女達にも、年相応の表情が戻り始める。四方を囲んでいた無人機が、何処かの施設内へ移動する様が。遠目だがハッキリと観えた事態の好転。だが────

 

 

「───ん?……()()()は居ないんスか?」

 

 

 不意に投げ掛けられた何て事の無い疑問。それに対し多くのリコリスは頭上疑問符を浮かべるだけだが、聞かれた本人の反応は激的だった。そこでフキも漸く気付く、明らかに余裕の無い千束の様子に。

 

 

「………っ……たきなは今─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

───とあるモール内ショピングエリアにて───

 

 

 

 

 誰も居ないショピング通りを青い影が駆け抜ける。青い影は手頃な陳列棚をヒラリと飛び越えると、青のスカートが舞い、しなやかな脚線美が大胆に露になる。だが本人はそんな事は気にも留めず、素早く棚に背を預けて身を屈める。すると間髪いれずその後を追うのは、秒速700メートルを軽く越す鉛の飛来物の群れ。

 

 

「──ッ!!──」

 

 

1発でも掠れば人体を豆腐のように抉るそれが、肉の代わりに店の商品を始めとした障害物をガリガリと削り壊して行く。

 

 青い影は、自身の息は整え、敵の息はズラすように、物陰から飛び出して再び疾走。

 

 

「(───……後、少し……!!────)」

 

 

 たきなは今。

 

 孤独な戦いに身を投じていた。

 

 

 

 

 








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