リコリコの世界にモブキャラとして転生したら、全てのモビルスーツシリーズが造れる件 (野薔薇ファン)
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Prologue
Episode 0 Why does he exist in this world?






久々にリコリスを観ていた時、息抜き程度に書いたやつです。


ちなみに僕は、ちさたき派です。





 


 

 

 

 ()()と言うものは知っているだろうか?

 

 

 

 

 

 

 別に宗教的な意味の方ではなく、創作小説などでよく起こる転生の方である。例えば、何らかの形で不幸にも命を落とした者が、神様みたいな人に人生をやり直してみないかと言われたり、はたまた気付いたら前世の記憶を持った状態で生まれ変わっていたりなど、実に色々な形の転生が存在する………

 

 

 そんな数多くある転生だが、必ずと言っていいほど存在する共通点がある。それはずばり、有能力だ。作品によっては転生特典、恩恵と呼び方は様々だが、それら全てを総称して有能力と呼ばれている。

 

 それらは絶対的な力だったり、転生した人にしか扱えない特別な武器や技だったりと、とにかく転生した先の世界では考えられない常識外れの能力、才能を意味するそして、ここにいる人物もまた、その世界の中では()()()と呼ぶに値する力を秘めて生まれ変わった転生者である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………とは言ったものの……僕はどちらかと言ったら、()()()である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あぁ?………ここは……」

 

 

 

 

 

 

 

 現在僕は………ソファで寝込んでいた。脳まで突き抜けるような光で目を覚ました。明るさに慣れない目を細めて周辺を確認する。

 

 そこには、電源がつけっぱなしのパソコンの画面にこれから創ろうとするモビルスーツの設計図が載っていた。他に見えるのは、コップの中に微かに残っているコーヒーやコンビニ弁当のあまり……

 

「あ〜〜頭いたい………って……思い出したわ……」

 

 この人の体に憑依してから、もう一年半くらいか…………

 

「そういえば僕は昨日、徹夜で()()()()()設計図を見ながら、パーツを造ってたんだっけ……」

 

 だからソファで寝込んでいたのか……そう思うと僕は時計を見た……

 

「朝の10時…………ってやっば!バイトの面接に遅れちゃう!」

 

 ソファから起き上がった僕は、早く地上へ戻るよう……エスカレーターに乗る……

 

「ハァァァァ………相変わらず地上に戻るには長い道だな。エスカレーターを造っておいて正解だったわ。」

 

 そう思いながら、いつも通り……僕の左右並び立っているMS達に挨拶をする……

 

 

 

 

 

 

「おはよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ν()()()()()()()()()()()()()()()()()Z()()()()()()……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ……いつもの朝だな……一体僕は誰と挨拶しているんだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァ…………そもそもなんでこうなったんだっけ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕………暁月蒼夜(あかつきそうや)がこの世界に転生してから……三年…………一般人(モブキャラ)としての人生を送っている………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

「すまない!本当に申し訳ない!」

 

 

「……………え?だ、誰?」

 

 

 

 

 突然僕と初対面である老人……またの名を『神様』がなぜか僕の目の前で土下座をしていた。

 

 

「ほんっとうに!申し訳ない!私のせいで……君の人生は!!!」

 

 

「ちょ!落ち着いてください!」

 

 

 

 僕は、慌てて神様の方に近づき、とりあえず落ち着かせた……

 

 

 

 

 

 辺りを見渡すと……白い空間。さらに僕と神様が座っている和式風の部屋。そして、一台の机には、日本人である僕にとって馴染み深い温かいお茶の入った湯呑み。どうやら神様が入れてくれたらしい……

 

 

 

 

「ハアァァァ………すまんのう……まずはお主に伝えないと行けないのじゃ…」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 

 話を聞くと……どうやら神様の手違いとかではなく神様でさえ予測出来ない死に方をしたらしく正直僕は呆れて笑うしかなかった。僕の死因は心臓麻痺、健康体で外因的な死因でもなければ変な薬物を飲んで死んだというわけでもないし、ショック死なんて万にひとつもあり得ない……

 

 神様でさえ、どうして心臓麻痺になったのか理解できず、死因とかを確認する本には何故か死因だけが黒く塗り潰されて確認不可能だった。まるで僕は悪霊か何かに取り憑かれているんじゃないかと疑うしかなかった……

 

 だけどまあ……正直どうでもいい………前世の僕の人生は最悪だった。

 

 

 

 

 

 前世で両親は早く亡くなり、祖父母に育てられた……けどその祖父母も亡くなってしまった。

 

 それからその後、僕を引き取ってくれる親族もいたが、なぜか事故で亡くなってしまった。それから僕は、ずっと一人…………家族も無く、本当に一人になってしまった。

 

 それで僕は生活費の為に学校を辞める事になった……まぁ、友達もいないし別に悲しむ人もいないだろうけど……

 

 

 そして僕が、バイトで必死に稼ぎ、僕にとって唯一の趣味、“ガンプラ“である“Ξガンダム“を買いに行こうと街中へ出かけたのだが………現在今の状況である……

 

 

 それが原因不明で消え去ったのは納得いかないが、神様のせいという訳でもない。恨むに恨めないし、恨んだ所でどうにもならないのが人生だ。いやもう死んでるんだけど。

 

 すると神様は、不幸である僕にある提案をくれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは……転生である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 いわゆる、神様転生(事故で死んだ俺が目を覚ますと目の前に神様が~)から始まる、チートだらけの原作ブレイクだ。通称『転生特典』と呼ばれるチートレベルの力なり別作品の能力なりを神様とやらに貰い、新たな生を受ける。だけど、それ自体を物語に組み込んでる商業作品は滅多になく、基本的にはネット界隈で有象無象にひしめく二次創作がほとんど……

 

 じゃあ、なんでネットではそんなに人気なのか。それは、このジャンルが作者の欲望を如実に反映するものだからに違いない。実際僕も人気のネットノベル“ハーメ◯ン“や“pix◯v“なども読んだこともあるけど……

 

 

 

 

「さぁ、どんな世界でも良いぞ!なんならお主の好きな世界に転生しても良いぞ!」

 

 

 

 

 そう神様は言ったのだが………僕が転生したい世界は……『普通の世界』である…

 

 

 

「な、なんと……普通の世界じゃと!本当に良いのか!?」

 

 

 神様も驚きを隠せなかった……普通の世界に転生するのにそんなに珍しい事なのかっと聞いてみたけど……

 

 

「当たり前じゃ!お主以外の転生者達を見てきたが、普通の世界に転生したいって者は初めて見たじゃぞ!」

 

 

——あの作品の世界に行きたい!

 

——あの作品のあの野郎をボコボコになるまでぶっ飛ばしたい力が欲しい!

 

——あの作品の全てヒロインをハーレムにしたい!

 

 

………などなど……

 

 最後のは胸糞悪くなる話だけど、初期の頃はそんなのばっかだったようだ。僕が言うのはあれなんだけど………欲が多すぎるんじゃないかな……

 

 っと、そんなわけで神様転生モノに出てくる人……いえばこれから主人公になる者は、ほぼ全てが喜び勇んで転生していく。色欲にまみれた奴ら、登場人物に共感して運命を変えようとする人、単純に好きだった作品の力を振る人、今度こそ生を謳歌しようとする人……

 

 

 

 だけど、正直僕はそんな欲は持ってないし、どちらかと言ったら平和で普通に暮らしたい気持ちである……そう神様に答えたら……

 

「うぅ…………まさか……あんな悲惨な人生を送った若者が……うぅ……」

 

 

 なぜか泣いていた。僕みたいな人が現れた事が嬉しかったのか、それとも感心したのかは知らないけど………とりあえず僕は再び神様を落ち着かせた……結構苦労してたんだな…他の転生者の面倒を見る神様の仕事って……

 

 

「うむ!よかろう!じゃが……流石にお主には何かを与えないと儂の気持ちが落ちるけん!今回は特別に転生特典を三つまで用意しよう!どんな特典でもかまわん!」

 

 

 本来、転生特典を貰えるのは、一人一個のはずだったが………なぜか特別に三つまで用意してくれた。正直、普通の世界に転生するならいらないんじゃないかなっと思うが……一応時間をかけながら考えた………

 

 

 

 

 

 

 僕が手に入れた特典はこれだ……

 

 

 一つは、幸運を上昇する能力。幸運さえ持てば、いろんな可能性もできると思うし。ましてや、ある意味奇跡も来るんじゃないかと考えた。実際僕はこう見えて平和主義、事故や殺人などには関わりたくない。

 

 もう一つは、技術力の頭脳。こう見えて僕は、小中学校での工作の成績は結構自信がある。物作りが好きなので、転生した世界で役に立ちたいと思う。

 

 

 

 

そして最後は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………お主、本当にそれで良いのか?」

 

 正直どうかしていると思うが……だけどこれだけは絶対に譲れない。ガンダムファンである僕にとって、ある意味とても重要である。前世の世界では、欲しいものがあっても値段が結構高かった……

 

 しかも在庫もなくなる可能性もあり、手に入れなかった経験もあった……

 

「ふむ………色々とツッコミたいじゃが……分かったわい!お主の願いは確かに聞いたぞ!」

 

 ……っと神様は杖を宙に回し、僕の体から光が出てきた……

 

「本当にすまなかった……じゃが!お主には新しい人生が待っておる!それまでしばしのお別れじゃ!」

 

 そう神様は僕に言い、僕は満面な笑顔で礼を言う。

 

「ありがとうございます!神様!!」

 

「ふむ、それじゃ送るとするぞ!」

 

 そして僕は……神様に新たな世界へと送られ、光となって消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………が、目覚めた時.....僕は仰向けの状態で倒れていたのであった……

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず固まる僕………正直、なんでこんな所にいるのか……理解ができなかった.........

 

 

 

「(.........ここ.........どこなんだ.....?)」

 

 ゆっくりと立ち上がり、辺りを観察する。キッチンやテーブル.....さらにテレビなど.....まさに“ザ・アパート”っ感じの部屋。

 

「僕は.........転生したのか......?」

 

 とりあえず今は自分の顔を見たい.....そう思った僕は.....洗面台を探しに向かった。

 

「(えっと.........洗面台は.....あった。)」

 

 ようやく見つけた僕は、自分が映っている鏡へと視線を移す。そこに映っていたのは.........

 

 

 

 

 

「...........あんまり変わらないな.......」

 

 

 

 前世の僕の姿とほぼ同じである.........

だけど、どこか違う.....

 

 

 結論から言うと俺は転生に成功したのだろうか.......今、鏡で僕と同じ動作をしている少年がいることが何よりの証拠だ。特に髪型とか色も変わってない....

 

 ただ、違うのは.....グレーの目しかも、かなりの美形というどんな徳を積んだらなれるんだという容姿になっていた....それに.........

 

「なんか.........若返ってないか僕?」

 

 微妙だが......肌が前世より若返っている。それに身長も少し低くなった気がする......

 

「えっと.....とりあえず.....」

 

 情報が無さすぎる.....とりあえず街へ向かってみよう。そう思った僕は、外へ行ける服を適当に見つけ、着替える.........

 

「これでいいか.........ん?」

 

 一応外へは行ける服を見つけた僕は、もう何年も着ていないだろう学生服を見つけた。そこには、名前が載ってあった....

 

「“暁月.........蒼夜”......名前も同じなのか....」

 

 これが今の僕の名前か......苗字は変わってしまったが....幸運にも自身の名前が同じである事は嬉しい事だ.........

 

 

 

「ーーーー行くか」

 

 行き先はまだ決まってないが....とりあえず今の街を見てみたいと....前世と同じ世界だから変わらないと思うが、世界に馴染むように観察をしたい......

 

 

「ーーーーーーへぇ、今僕が住んでいるのって、やっぱアパートなんだよな....」

 

 

 外を出た僕は、今住んでいる場所を確認すると、想像してた通りやはりアパートであった。二階建てであり、結構ボロい....

 

 

 ちょっとだけ豪華な家に住めるのかなっと思ったけど.....そんなに甘くはないんだよな.....まぁだけど今は街の観光だ......

 

 

 

 

 

 

「あ....ついでにガンプラでも観に行こう....」

 

 

 

 

 そうして僕は街中へ向かったが、待ち受けていたのは想像もしない事だった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は.....夕方となり.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとに現実?」

 

 開いた口が塞がらない.....

 

 にわかには信じ難い事が分かった.....

 

 とりあえず分かった事は.....この日本.....否、この世界は僕が知っている世界とは全く別だ.........

 

「はあぁぁぁ....なんなんだよこの世界.....」

 

 今日中に最低限の情報だけを得ることはできたのは喜ばしい事だった。普段ならこの程度の運動では息が上がることすらないのだが、恐らく精神的な疲労のせいだろう。疲れた体を癒すために、夕暮れ時の太陽に照らされた公園のベンチに座っていた。

 

 

 まずいくつ分かった事はある。まず一つ目は、僕が知っている東京とは全然違う.........

 

 この世界に東京の象徴....いわゆる日本の象徴でもあるタワー....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“東京タワー”や

 

 

 

“東京スカイツリー”

 

 

 

 

 

.........が()()()()()().....

 

 

 

 

 旧電波塔っていうタワーが建っていたが....調べたら8年前のテロ大事件で崩れたらしい....しかもその事件以来、今日本は平和になったっと.........

 

 

 

 そしてもう一つ.........それは僕にとってこの世の終わりでもあった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界にガンダムはない.....だと....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時....たまたま僕はホビーショップへ寄っていたのだ。目的はガンダムシリーズのプラモやフィギュアの観察....だがいくら探しても見つからなかった。

 

 なら僕は一か八かのかけで店員さんに赴いた。

 

『ガンダム?そのような商品はありませんが……』

 

 僕の緊張とは裏腹に意味不明な回答が返ってきた。

 

 ならアニメは!っと問い出しても頭上に?を浮かべるだけの受付に僕は慌てて外に出る。

 

 少し駆け足で街を散策して図書館を探し、パソコンを使って調べた.....だが『ガンダム』ってキーワードを出しても見つからなかった。尋ねた人々は皆口を揃えて聞いたこと無い、とだけ....

 

 つまり.......この世界に()()()()()()()()()()()().....本当に()()()()()。まるで最初から無かったかのように.........

 

 あまりの予想外の事に疲弊した僕はその場に座り込んだ。

 

 ........ありえない、あれだけの日本のアニメ界の中.....人気ロボットが誰一人としておらずネット内に一切載ってなかった。

 

「..................なぜだ........」

 

 

 なぜなんだ神様......まさか騙していたのか.....いや、あり得ない。あの優しい老人が僕を騙す.........だけどそう考える以外ない......

 

「.....はあぁぁぁ....とりあえず帰ろう.........」

 

 

 大きくため息を吐いた僕は、もう何処もいかず、まっすぐ家に帰ろうと思った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ードンー

 

 

 ......すると、ある人とぶつかった。すみませんと反射的に謝ってその人を見ると……

 

「あっ?何見てんだ?」

 

「え……あっ、ご、ごめんなさい」

 

「.................けっ!気をつけろ餓鬼。」

 

「す、すみません(うあぁ....こえぇぇ.....)」

 

「たっくよ........っ!!!」

 

 慌てた僕は肩をぶつけた男に謝った途端、男はなぜか慌てた様子で何処かへ消え去った...まるで何かから逃げているような....

 

「(ーーーなんであんなに慌てて.....ん?)」

 

 男が走り去った後、女子中学生二人の2人が後を追いかけているようにも見えた。

 

「(ちょ!?何やってんのあの子達!?)」

 

 あんな危なそうな男にこっそり着いていくなんて........よく分からないが、僕は彼らの後を追った。こっそりとバレないように尾行する....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ....はぁ.....ここって……」

 

 尾行してから十数分、そこは工場だった。

 

 ついさっきまで尾行していた少女達も何処かへ消えてしまった。もしかしたらあの男を尾行していたんじゃないのかっと思っていたのだが.....勘違いしてたらしい.....そう思って今度こそ帰ろうとしたが....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーパァンー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(!?...........銃声!?)」

 

 

 

 

 

 

 前世でよくガンダムシリーズのアニメを観ている時に銃声の音と全く同じ音が聴こえた。再び僕は、こっそり電柱の影から覗く。

 

 

 

 

 

 覗くと同時に驚愕した。

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 男の人はだらけで倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたのか分からない......だが、もっと驚く事があった.....

 

「(!?)」

 

 

 仰向けに倒れている男の隣に、銃を持った少女と、携帯で誰かと電話をしていつ少女もいた....

 

 

「〜〜司令。ターゲットは〜〜」

 

「こちら〜〜至急、現場を〜〜」

 

 

 

 そして理解した......男は射殺されていた。しかもあの女の子に。身体中何発も射殺されていた。よく見ると女の子も拳銃を持っていた。サプレッサー付きで撃てば音が響かない。

 

 

「(な.....なんで.....)」

 

 あまりにも衝撃すぎて声も出なかった。此処は日本。顔立ちは間違いなく日本人の女の子であるはずなのに、十歳くらいの同年代の女の子が銃を持っている筈がない。

 

 

「(に.........逃げないと!!!!)」

 

 

 僕は何かとんでもないことを知ってしまった恐怖心から逃げるように走った。携帯を持ってなくて、警察も呼べない。だけど誰かを呼ぼうとすれば自分が殺されてしまうのではないかと錯覚してしまうほどの恐怖心から家まで走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バタン!!!

 

 

 

「はぁ!はぁ!はぁ!」

 

 

 息切れした僕は、絶対に誰もこの部屋に入らないよう、僕は玄関の扉を絶対に誰も入ってこないよう、頑丈に戸締りをし、便所へ向かった.....そして.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオエェェェ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず吐いてしまった......それくらい僕にとって、充分過ぎるくらいの衝撃だった。この眼はオンオフは出来ない。死を告げてしまうこの眼を初めて怖いと思ってしまった。この日、僕は全く空いていなかった....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ.....はぁ......ど....どういう事だ!?.....ここは普通の世界じゃないだろ!」

 

 

 全部吐き出した僕は、吠えるのだった。近所に迷惑なんじゃないのか......だけど今の僕の頭にはそんな事を全く気にしていない.....

 

「ハハハハ.....そ、そうだ.....これは夢だ......絶対にそうだ......」

 

 きっとこれは全部夢だ....神様転生なんて絶対にあり得ない....そう思ったその時.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《〜♪〜♪〜》

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 僕のポケットに入っているスマホが鳴っていた。だけどおかしい.....僕はこの世界に転生してから誰にも連絡を交換していないし、ましてや教えた事もない.....

 

 そう思い、スマホの画面を確認したら、そこには『非通知』っと載ってあった....

 

「だ.....誰だろう......」

 

 恐る恐る....僕はスマホの通話ボタンを押し、スマホを耳に付けた。

 

「も....もしもs

 

 

 

 

 

 

『おぉぉぉぉ!!蒼夜殿!無事じゃったか!!!』

 

 

 

 

 

 

 

.....か、神様!」

 

 

 その声を聞いた途端....間違いなくついさっき別れたばかりの神様本人であった.....

 

 

 正直....安心感が溢れ出てきた....

 

 

 

『蒼夜殿!本当に無事か!怪我はないか!』

 

「あ.......は、はい.......」

 

 なんでだろうか.....ついさっき別れたばっかりなのに....すぐ再会すると....こんな嬉しい気持ちになるんだな....

 

『そうかそうか.......じゃが蒼夜殿......お主にいくつか謝らなければならない事もあるじゃ.....もちろん....お主自身にも.....』

 

「.....................えぇ?」

 

『正直、お主が混乱しておるのが分かる。とりあえずゆっくりで良い.....なんなら今日は休んで明日にでも話すか....?』

 

「..................いえ、続けてください.....」

 

『ーーーーーーそうか....それでは説明するぞ.........』

 

 

 

 

 

 

 それから神様は、この世界に転生した事についていくつか説明してれた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら僕は、転生ではなく.....()()()()したらしい....

 

 

 

 

 

 

 元々この身体である暁月蒼夜は、ここで毒薬を飲んで自殺していた。

 

 よくよく机の下を調べたら、薬の入った瓶が見つかった。それが毒薬だっと神様から聞いた途端、僕は思わず外へ投げ捨てた。

 

 なぜ僕は、彼の身体に憑依してしまったのか.......本来僕は、赤ん坊に転生し、第2の人生を送るはずだった....

 

 しかし運悪く.......この世界にはもう1人の僕が住んでいた.....しかも死因は自殺。その時に僕が神様に転生させられてしまい、強制的にこの身体に憑依してしまったのだ....

 

『まさか.....こんな事になるとは.....しかもお主を転生した世界が、もう1人のお主がおるとはのう.....』

 

 流石の神様も驚きを隠せなかった.....だけどまさか他の世界に僕のもう1人がいるなんて....やっぱり“マルチバース”って存在するんだな.....

 

『うぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜だがしかし....せっかくお主に最高の人生を送ってあげたのに....これじゃ、全く同じではないか!!!』

 

 ははは.....もはや僕は笑う事しかできない...

 

『蒼夜殿よ!ほっんとうに申し訳ない!まさかこんな事に.....もっと慎重にするべきじゃったわ!!!』

 

 あ〜〜〜、やっぱそうなるよね.....だけどこれで分かった事がある...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーいえ、むしろ感謝してますよ。」

 

『ーーーーーえ?』

 

「こんな何の力も持っていない僕を見守ってくれるなんて....本当にいい人ですね神様。ついさっき....騙されたのかなっと疑っちゃいましたけど、本当にすみません....」

 

『な、何を言う!謝るのは、儂の方じゃ!お主が責任を感じる必要はなのじゃ.........それにな……お主が欲しがっていたガンプラの事も伝えなければならぬのじゃ!』

 

「ガンプラって............ゑ?」

 

 まさか、ガンプラについて話してくれるのか!?っと思わず声を上げてしまう....

 

『お、落ち着くのじゃ!とりあえず、この場所へ向かっておくれ....そこで話す事がある...』

 

 そう言って、スマホの画面に位置情報を送ってくれた。言いたい事はあるが、今は神様の言葉を信じて、目的地へ向かう.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここでいいのか?」

 

 

 アパートからほど近い、海辺の近くにある()()()に着いた。見た感じもうほとんど使ってない。そう思った僕は、目的地に到着した事を神様に伝える。

 

『うむ。ここならお主にある二つの特別な力を使えるな......ホレ、両手でパソコンを操作したみたいに構えてみろ。』

 

 二つの特別な力?.....不思議に疑問を感じたが、とりあえずパソコンを操作する時のように両手を前に出す........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ..................っと、いきなり両手からタブレットらしい物が現れた。

 

 

 

 

「!?」

 

 

『おぉ〜意外と上手くできたのう....それでは簡単に操作してみろ。』

 

 色々とツッコミたい所はあるが、まずはタブレットを操作してみた....そこには疑うほど、僕の目が飛び出そうになった.....

 

「これって....... R()X()-()7()8()-()2()()()()()の設計図!?」

 

 一から全て、びっしりと載っている設計図。よく見るとエンジンの設計なども完璧に載ってあった。だけどそれだけじゃない.........

 

「フリーダム、エクシア、バルバトスまで!.....それだけじゃない、シャア専用ザクⅡやジオングまで.....それにユニコーン!?」

 

 一体なんなんだこれ!?どれだけの設計図が載っているんだよこのタブレット!?

 

『ようやく開いたか.....これで問題なく造れるじゃろうな...』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーは?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー造れる?

 

 

 

 

ーーーーーー何を言っているんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぉ、すまんすまん。説明不足だったな.....つまりこう言う意味じゃ....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お主は、()()()()()()()()()()()()()って事なんじゃ......』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!いくらなんでも無理ですよ!?」

 

『じゃったら試してみろ.....そうじゃな、まずは簡単にフライパンを創ってみろ....』

 

「え.....ふ、フライパン?」

 

『そうじゃ。とりあえず想像しみろ……それがお主のもう一つの力じゃ....』

 

 え.....いや無理だろ.....だってフライパンを作るのに材料が必要なんだよ.....そんないきなり創れっと言われても.........造るわけ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやできたわ........

 

『どうじゃ、簡単じゃろ?』

 

 簡単ってレベルじゃないですって。創り始めてまだ5秒も経ってないよ。なんならカップ麺が出来上がるよりも速い...

 

『今お主が使ったのは、想像じゃ。お主が想像した事で実体化ができるのじゃ.....もちろんMAの組み立てに必要なパーツ、武器、そして原子力なども実体化もできるぞ。』

 

 .........いや確かに便利だけど......そんな能力今の世界に必要なのか....っと神様に語る....

 

 

『お主はもうとっくに見たじゃろ.....少女が人を殺した現場を.....』

 

 

 

「!?」

 

 

 

 その言葉を聞いた途端、記憶が蘇る....あ、やばい...また吐き気が.....

 

 

『実の所、お主が憑依転生した世界は一見普通に見えるが、裏から見れば全く()()()()()()のじゃ....』

 

 あ〜〜〜デスヨネー。やっぱそうだよな....なんとなく分かっていたけど....

 

『残念ながらこの世界について教える事ができぬ。じゃが、正直に言うとお主自身で護れる力を造らなければならない。それに、こう言っては悪いが....お主はこの世界ではただの一般人なんじゃ。」

 

 なるほど.....つまり本来の暁月蒼夜は一般人.....いわゆる()()()()()か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーザ、ザァーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えているうちに、スマホからノイズ音が聞こえてくる。ノイズ音が現れてからドンドン神様の声が聞こえづらくなった...

 

『む.....いかんな.....そろそろ時間が.....蒼y......また連絡すr.....ぞ.......』

 

「神様?.......神様!」

 

 

『あ......せい......お主は.....ひと....では....な....』

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーザァーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからノイズ音しか聞こえない。そう思った僕は、スマホの通話を切った...

 

「ーーーーーーーーハァァァァ.....マジかよ..........」

 

 大きくため息を吐く.....今度こそ一人になった僕は、その場で体操座りする....

 

「ーーーーーこれからどうしよう....」

 

 

 

 

 

 

ーーー頼れる家族がいない.....

 

ーーー頼れる友達もいない.....

 

ーーー頼れる親戚もいない.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に一人だ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「身構えている時には、死神は来ないものだ..........そうですよね、アムロさん....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このセリフは、アムロ・レイがハサウェイ・ノアに掛けた言葉.......なぜかその言葉が脳内に響いたのだ...……

 

 

 

 

ーーーこの世界に転生した時、もう元の世界に戻る事はできない.....

 

 

ーーー今の僕に特殊能力があっても、ただ造れるだけ......

 

 

ーーーそしてこの世界の僕はただの一般人.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーだったら僕は.....」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーこの世界で、一般人(モブキャラ)らしくーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「............生き延びて見せる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして立ち上がった僕.......暁月蒼夜は、本格的にこの世界で生き延びようと自身の運命を動かせたのである.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時は、現代に戻り.........

 

 

 

 

『ア!ソウヤガオキタゾ!!!』

 

『『『『『オハヨーーーーーー!!!!!』』』』』

 

「はいはい、おはよう“ハローズ”。」

 

 昨日徹夜で工場跡の地下で作業をしていた僕は、地上に戻った。いつもと変わらない普通のアパートの部屋....っとは言っても、僕だけ住んでいて、他の部屋はただの空室...

 

 まぁ....一人っと言われても....一緒に住んでいるハロ達、通称“ハローズ”。

 

 

 

 

 

 

 

 僕にとって唯一の友達......AIサポートロボットだけど.....

 

 

 

 

 

 

 

『ソウヤ!ソウヤ!キョウモシゴトヲサガシニイクンダヨネ!』

 

『マダソウヤハ“()()()()”ナンダカラサ!』

 

「うぅ......今の言葉でめっちゃ傷ついたけど....」

 

 グサっと結構心に傷をつけてくるが、彼らの言う通り、今の僕は仕事を探している最中である.........

 

「ハァァァァ.....さっさとバイト探しに行くか......」

 

 

 そう言い僕は、必要な物をリュックにしまい、出かける準備をする。

 

「じゃ.....行ってきま〜す。」

 

『『『『『イッテラシャーイ!!!』』』』』

 

 今日もハローズ達に留守を任せ、僕はバイトの面接へ向かう.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あ〜〜〜今日こそは面接受かればいいんだけどなぁ....)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に転生してから....三年。主人公.....いや、一人の一般人(モブキャラ)である彼は、この世界でどうやって生き延びるのか.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね〜()()()〜〜」

 

「ダメです()()。今日は....」

 

「えぇ〜〜〜いいじゃん〜〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時に偶然すれ違った()()()()に.....出会う日が来るまでは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Episode 0 

 

 

 

Why does he exist in this world(なぜ彼はこの世界に存在するのか?)

 

 

 

 

 






………続くかどうかは、感想や評価次第です。


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本編
Episode 1 喫茶店『リコリコ』




リコリスを初めて見てた時、初めて“百合“の良さに感動した作者(私)。



百合に挟まる奴(男)は死ぬべきという格言があるが……だからこそその可能性がある物語を書くのだ!




だけど忘れないでほしい……作者はちさたき派である!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あ〜〜〜〜〜〜〜〜また(・・)落ちた.....)」

 

 

 

 

 

 もう何回目だろうか....っとバイトの面接を終えた蒼夜だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(ハァァァァ......僕は一体いつになったら面接に受かる事ができるんだ.....)」

 

 ため息を吐く彼は....なぜこんなにも仕事を必死に探しているのか.....その理由は.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.........働いていないからである(・・・・・・・・・・・)………

 

 

 

 

 

 

 

簡単に言えば、無職(ニート)……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際蒼夜は、そんなにお金には困っていない....神様から貰った能力で、札束を制作できる機械も造る事ができた......

 

 

 ※ 一応偽札じゃなく本物のお札だが、違法ではないのかっと心配する一般人(モブキャラ)

 

 

 

 今の彼は、不自由な生活もしていないし、困っている様子もない....

 

 

 だが.......周りの人間が汗水を流して金を稼いでいると言うのに、やはり数秒間意識を集中させるだけで、働きもせずに金を稼ぐと言うのは些か楽過ぎる物であり、僅かに自分が情けなく感じた蒼夜。

 

 

 

 それに、暁月蒼夜が本格的に働こうとする理由がもう一つある……それは………

 

 

『ちょっと君、学生さんだよね?こんな昼間っから一人でゲーセン?』

 

『(け、警察!?)』

 

 

 たまたま昼間にゲーセンへ寄ったら、突然パトロール中の警察官から聞かされる職務質問。一応蒼夜は“今日は学校休みです”っとなんとか誤魔化す事はできた……が、彼を怪しい目で見て来る警察官達の視線が度々見える.......

 

 何せ1年間くらいほとんど地下の研究室でモビルスーツを造っているだけだから.....電気代とかは自身で造った“原子力発電機”のおかげで生活に困ってない。

 

 ただ....流石に何かをしないと気持ちが落ち着かない....もしもさっきの警察官に自分が不良少年だと思わせてしまったら、最悪交番へ連れて行かれる可能性もある。そう思ってとりあえずこの街で働けるバイトを探していた蒼夜。

 

 生憎今の彼は中卒と言う現代社会において就職が難しい肩書を持っている。就職支援も無しに彼が社会でやって行けるのは至難の業だ。それでも幸いに前世の世界と同じ......◯◯蒼夜が()()()()()()()()()()()()()()()()()は高卒認定試験には合格してあったのだ。正直ありがたい。このペースなら今の内にバイトや職業訓練を受けても問題ないだろう。

 

 

 だが.....現実はそんなに甘くは無かった....それは彼にとって最も悪い点の一つであり、悪い癖でもある.....それは....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は.......はじ.......はじめ....ししししって....』

 

 

 

 

 

 そう.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁月蒼夜は大のコミュ症である!

 

 

 

 

 

 

 

 何より、性格も暗い.....人が多くいるのがとっても苦手。しかもただでさえで人と喋るのが大の苦手である.....

 

 

 実は彼....前世の中学時代の頃。この性格のせいで、同学年の生徒と馴染む事もできず、友達一人もいなかった。それからか学校を辞めても、性格もさらに暗くなり、人と話すのが怖くなってきた.....

 

 この世界に憑依転生した時に今度こそ自分自身の性格を変えよう!......っと思ったのだが......生憎全然何一つも変わってない....

 

 あれ以来ずっと地下でモビルスーツの設計や作業を続け過ぎたおかげで、さらに悪化したのであった....その為、どこのバイト先で面接を受けても、全て不採用......前世の世界で採用できたのは奇跡だったようだ。

 

 

 

 

 

 

「(ハアァァァァァ......今のままじゃ仕事が見つからないどころか....一生無職のままだ.....この際何でもでも良い。早く働き口を探さないと……)」

 

 

 

 

 

 

ーーーーもちろん、危ない仕事はしたくない。ちゃんと正式に安心、安全な仕事...…っと言いたいのだが、今は無職(ニート)

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ハァァァァ......とりあえず今日は帰って“フェネクス”を完成しょう...)」

 

 

 

 

 

 

 もうそろそろ夕方なる。今日のところは、帰ってMSを造ろう…そんな事を考えつつ、アパートまでの帰り道を歩いていた時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処からか猫の鳴き声が聞こえた.....

 

 

 

 

 

 

「(なんだ?)」

 

 蒼夜は妙な声がした方向に思わず目を向ける。声が聞こえたのはすぐ近く、僕の頭上だ。

 

 そこに居たのは、猫と木登りをする()()()()()()()()()()()。黄色が掛かった白髪で、横顔だけでも十分整った容姿をしている事が解る....そんな赤服のJKは太い木の枝に座っている猫に手を伸ばしている。

 

「(な、何してんの?)」

 

 

 

 

「も〜この子、迷子で飼い主に届けなきゃダメなんだけど、まさか降りれなくなちゃうなんて!」

 

 

 どうやら彼女は、木から降りれなくなった猫を助けているらしい。

 

 

 

「(ーーーーあ、やっべ。スカートの中、覗きそう.....)」

 

「ほーら、こわくないにゃーい〜こっちに来るにゃー。」

 

 っと、下手な猫の鳴き真似をする。仲間と思わせて捕まえようとしている赤服少女。正直かなり下手だが、彼女の努力が実ってきたのか、猫の警戒心が薄れていき、ほんの少しずつだが近付いて来ている。

 

 

 

 

ーーーーその時。

 

 

 

 

 

 

メッキ

 

「(…ん?今なんか嫌な音が.....)」

 

 

 

 少女は猫と一緒に乗っている木の枝に少し亀裂が入っているのが見えた。そしてその亀裂はあっという間に広がっていく。

 

 

 そして彼女が猫を捕まえた次の瞬間........

 

 

 

 

 

 

 

バッキ!

 

 

 

「(ーーーーーあ。)」

 

「お?おおおぅ!?ちょちょちょーい!やばーい!」

 

 

 

 少女と猫が乗っていた枝が根っこからポッキリと折れ、少女は猫を抱えたまま落下してしまう。高さは少なくとも4~5m以上、転落して地面に体を打ち付ければ流石に無傷じゃすまないだろう。

 

 

 

「(や、やばっ!)」

 

 

 彼女が落ちて来る瞬間、蒼夜は急いで上空へと飛び上がって落下していく少女を向かい、ギリギリで地面に当たる直前で救助する事に成功した。

 

 

「(ぎ、ギリギリセーフ.....)」

 

「え、えぇ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

「(えぇ〜何かいきなり助かったんですけど〜!?)」

 

 地面に落ちそうになった彼女........“錦木千束(にしきぎちさと)”。地面に落下しても“ファースト”である彼女なら“裏の仕事”よりも別に大した事はないが.....なぜか自分と同じ歳である少年に助けられたのだ....

 

「あ......猫......」

 

 なぜか雰囲気が暗い(?)少年は唯一の不安要素を抱えていたであろう彼女に訊く。もしかしたら猫の様な小動物には何かしらの負担が有ったかも知れない。

 

 すると彼女....千束の腕の中から「にゃーん」っと可愛らしい鳴き声が聞こえ、ひょっこり無事だった子猫が顔を出してくれた。

 

「良かった〜〜何処も怪我していないみたい〜〜」

 

「そ......そうか.....」

 

「うん!誰もケガしなくて良かった。」

 

 子猫が無事だった事に安心する様な表情をする少女。だがこの少女もかなり無茶する、まさか猫を助けるために5m近い木に登るとは…....

 

 少年.....蒼夜は、一息吐いて安心していると、千束が、何処か震え声で話し掛けて来た。

 

「あ、あの......…その…そろそろ降ろしてくれると有り難い…かな?////」

 

「っ!?」

 

 瞬間、千束の言葉で我に返る蒼夜。今この状況、端から見れば彼が彼女をお姫様抱っこしている光景その物であり、彼女にとっても、彼にとっても結構恥ずかしい体勢である.........

 

 

「ご、ごごご.....ごめん!(ヤベーーーーーーーーーー!!!人生で一度も女の子を触った事ないのに、触った〜〜〜!?)」

 

「ううん! 私は平気だから…」

 

 急いで彼女を降ろす。彼女は平気そうに振舞っているが、頬が赤くかなり無理をしているのが解る。

 

そ.....そそそ.....の!す、すすみません...ででっっっっした....

 

「い、いいの!そんなに謝らなくて!その…助けてくれてありがとう。」

 

「い、いや……(ヤバイ、彼女の目を直視できない。いざ話そうとすると挙動不審になってしまう!まさか前世でぼっちだった僕ががここで.....しかも女の子を触るなんて!前世で女友達も作った事が無かったのに…何で…)」

 

 予想外の事態に内心頭を抱える蒼夜。人生で初めて女子を触った事で、混乱する彼は彼女に語る言葉が見つからない....

 

「ううん、この子も助かったし、私も痛い思いせずに済んだし、助かったよ。ありがとう!」

 

 やはりお姫様抱っこされた事は恥ずかしいのか、彼女の顔は赤くしながら、千束はお礼を言う。普通ならならビンタを頂いても珍しくない.........

 

「そ.....その猫は、き......君の?」

 

「いや、私のじゃないよ。飼い主に逃げたしたから保護してって頼まれていたんだ〜」

 

 少女に呼応する様に「にゃーん」と再び猫が鳴き声を上げる。野良猫じゃなくて飼い猫だった......通りで人懐っこい訳だ。と言う事は無事保護できたし、今から飼い主に返す感じだろうかっと考える蒼夜。

 

「でも本当に助かったよ、一応あそこの枝、ヒビ入っていたのは解ってたけどさ…まさかポッキリ逝くなんて。」

 

「(いや、危ないでしょ。ヒビが入っていたのを知っていた上で登ったのか。ある意味凄い怖くぞこの人。)」

 

「にひひー、ありがとう。 あっ! そうだ、君名前は? 色々助かっちゃったし、後でお礼したいから教えて!」

 

「え......いや...「いいから教えて!」ぼ....僕は.....暁月......蒼夜.....です。」

 

「蒼夜君ね、私は錦木千束! あ、さん付けとか無しで大丈夫だから。ち・さ・とでオーケー!」

 

「う.....うん....(ヤバーい!初めて女の子に自分の名前を教えた!しかもさん付け無し!?)」

 

 前世の彼は、女友達を作れないどころか、名前さえ忘れられてしまった。だけど彼女....千束…いきなり呼び捨てを許可するなんて流石の彼にとって予想外である....

 

「でさ、蒼夜君。」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして君そんなに言葉足りないの(・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーグッサーーー

 

 

 

 

「それに....なんか変な喋り方(・・・・・)だね!」

 

 

 

 

 

 

ーーーグッサ、グッサーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなりナイフで心に傷をつけてくる。それも完全な会心の一撃どころか、二撃も傷つけられた。別に彼女は悪気で言ったわけでは無かったのだろう....だが、蒼夜にとって精神的なダメージを負えてしまった....

 

「」

 

「あれ?おーい蒼夜君?」

 

「......気持ち.....悪いよね.....」

 

「ーーーーーえ?」

 

「ぼ、僕は......もう帰る....(そうだよな、こんな喋り方じゃ気持ち悪いよな。うん、そうだよきっと....)」

 

「ーーーーーーーいや!ちょ、ちょっと待って!もしかして傷ついたの!?」

 

 いきなり帰ろうっとする蒼夜。もしかして自分は彼に何かとんでもない事を言って傷つけてしまったのか?っと考えた彼女は慌てて彼を呼び止める。

 

「だ.....大丈夫....ちょっと用事を...」

 

「いや絶対嘘じゃん!?もう目が完全に“もうお終いだ”って目をしているよ!?やっぱりさっきので傷ついたの!?それはそれで本当にごめんなさい!」

 

「いいよ....どうせ........気持ち悪いし....」

 

「そんな事ないよ!だって君の声綺麗だし!」

 

「っ!?(......綺麗.....僕の声が?)」

 

 その言葉を聞いた時、彼が思わず止まってしまう。

 

「うん!だってキミ悪い人には見えないし、それに全然気持ち悪く見えないよ!」

 

「ほ.....本当?(え、マジで?)」

 

「そうだよ、もっと自信を持って!それに、私を助けたからめちゃいい人だよ蒼夜君は!」

 

「(........何と言うか…悪い人じゃない所か予想以上の人格者で罪悪感を感じてしまう。何であんなに彼女の事を疑っちゃうのかな.....やっぱり前世と地下で作業し続け過ぎた結果が影響で人間不信になっているのだろうか?)」

 

「にゃーん」

 

 そんな時、脳内で一人反省会を開催している蒼夜と、千束の抱えている猫が「オレの事忘れんじゃねーぞ」と言わんばかりに再び鳴き声を上げる。

 

「ああ、そうだった。この子!」

 

 猫を飼い主に返す事を思い出したかの様に、声を上げる彼女はスマホを取り出し、誰かと通話している。

 

「もしも〜し、()()()!今猫を見つけたんだから.....うん!じゃ〜集合場所は◯◯の公園だね!了解!」

 

 友達だろうか....誰かと通話を終えた彼女は、蒼夜の方を向く。

 

「それじゃあ、私この子を飼い主に返さないとだから。もう行くね!」

 

「う.....うん....」

 

「あ!私ここから近くにある『喫茶リコリコ(・・・・・・)』って所で働いてるから、良かったら来てねー!その時、お礼にご馳走しちゃうからねー!」

 

 そういうと彼女は猫を抱え直し、飼い主にそれを届けるために何処かへと去っていく。

 

 

 

 

 

「(ーーー錦木千束か……歳は僕と同じくらいかな…。確か“喫茶リコリコ”ってお店で働いているって言ってたっけ.....後でgoo◯le先生で調べてみるか…)」

 

 そして今度こそ蒼夜はアパートへ帰る事に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あれ?そういえば彼女が来ている制服(・・)....どっかで見た事があるような.....?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

翌日.........

 

 

 

 

 

「(……本当に来ちゃったよ......)」

 

 錦木千束と出会って次の日。都内の下町の一角にひっそりと佇む喫茶店の前に蒼夜は来ていた。

 

 店の名前は『喫茶リコリコ』。東京都墨区にある錦糸町駅の北口下町の中に建てられた店であり、ステンドグラス調の窓や、花々で飾られた木造の店構えは美しく、思わず目を惹かれてしまう程、オシャレな喫茶店だ。

 

 蒼夜が店に柄にもなく訪れた理由は、言うまでもない.......昨日出会った少女の事だ。昨日彼は、猫を助けていた錦木千束っという少女を助けた礼として少女は店に訪れる事があれば御馳走すると言った。

 

 本当なら行かなくて良いはずだが、こんな自分を誘ってくれたのだ。流石に無視では、胸くそ悪いだろう。

 

「(.….本当にお礼として御馳走してもらって良いのかな?)」

 

 っと、考えながら、扉の前に立ってはいる。だが、どうしても扉を開く事を躊躇ってしまう。なぜなら....

 

 

 

 

 

ーーーガヤガヤーーー

 

 

「(()()()()()!!!)」

 

 

 彼にとって天敵でもある.....大人数。これまでの食生活は、大体いつもチエーン店で持ち帰りしてアパートで食べたり、人混みのない所で食べていた。

 

「(フーーーー......だめだ.....やっぱり行けない......)」

 

 扉の前に『open』って書いてあるが....正直、店の中に入れる勇気が出ない.... 今日もう大人しく帰るとしよう。まだ店の中に入ってないし、自分がここにきたことはまだ彼女にバレてはいないだろう.....そう思って帰ろうとした...その時…

 

 

 

 

「あの........」

 

ひゃうぁっ!?

 

 

 っと思ったら、突如後ろから聞こえた声に吃驚して、思わず何かの奇声の様な声を上げてしまう蒼夜。何事かと思い振り返ると、声の主は買い物袋を持ったツインテールがよく似合っている、黒髪の蒼い瞳の少女だった。

 

「お店、開いてますよ?」

 

「え.....い....いや....」

 

 またしても初対面......しかも女子。この時、蒼夜の頭の中が混乱していた。

 

「もしかして....席を探しているのですか?なら中へ入ってください。多分空いていると思うので。」

 

「いや....その.....「店長。お客さんです!残っている席は空いていますか?」......えぇ!?」

 

 突然店のドアを開けた黒髪の少女。そのおかげで、店の中にいる客達がこちらに目を向けられた。

 

「(ちょ、ちょっと待って!そんなに目を見つめたら......中に入る勇気が!!)」

 

「おぉ〜〜お帰り、たきな.....ってあ〜〜!蒼夜君いらっしゃい!!!」

 

 店の中に入った途端、昨日初めて会った少女....錦木千束と目が合った。

 

「あ……どうも……」

 

「……千束、蒼夜ってもしかして……」

 

「そうだよ!昨日みんなに話してた蒼夜君!いや〜まさかこんな早く再会するとは思わなかったよ〜〜」

 

「(え“!?は、話してた!?)あ...あの.....僕は「はいは〜い、席は空いてるよ!こっちこっち!」.....え!?」

 

 腕を引っ張られ、空いている席へ案内されられる。そして空いているカウンター席へ案内された.....しかも相手は女子に....

 

「ミカさん!ミズキ!クルミ!」

 

 大きな声で店内におそらく自分の事だろうっと他の者に知らせる千束。彼女の声に反応し、三人の男女が振り返る。

 

 杖をついている褐色で背の高い眼鏡をかけている男。レジ打ちをしている女。その隣にいる可愛らしいリボンと腰ほどの長さの金髪を持つ幼女。

 

.....すると何処からか優しげな外国人顔の大柄な黒人男性が彼女に尋ねてきた...

 

「ん?千束、その子?」

 

「ほら、昨日話してたじゃん!私を木から落ちる所を助けた男の子!」

 

「ほぉ....なるほどな。千束から聞いたよ....確か暁月君だっけ?」

 

「は.....はい(うぉ、めちゃ背高!?)」

 

「千束を助けてくれてありがとう。私はミカだ。彼女を助けてくれたお礼だ、今日は好きなように頼んでくれ。」

 

「は、はい。」

 

 ミカ....のお言葉に甘えて空いているカウンター席に腰掛ける。なんだか、さっきあれだけ店に入るかどうかを迷っていたのに、その必要が無い程、気が付いたら、いつの間にか気が楽になった蒼夜。

 

 

 

 

「(さ、さぁ……って。何頼もうかな....)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この店.....喫茶店『リコリコ』ではよくある日常、になりつつある中でふと、彼女の目に留まる一人のお客さんがいた。そのお客さん……暁月蒼夜である。

 

 この時間、そしてお店の雰囲気からは珍しい、男性のお客様。もちろん他にも男性はいるが、ほとんどは常連さん。それ以外だとカップルで来ている人がほとんどで、一人というのは珍しい。

 

 年齢もパッと見た感じ、自分とそこまで変わらないはずであり、おそらく高校生くらいだろう。男性というよりは、男の子、少年という方が言い方としては近い。

 

 人には色々な趣味はあり、喫茶店巡りを趣味とする人も少なからずおり、かつ、昨今ではSNS映えを狙って喫茶店に来る高校生(特に女子高生)も多い。けど、正直言って、”映え”を狙っている風には見えない。

 

 何しろ、席に座ってから何一つも頼んでいない。おまけに、スマホをいじる様子や本を読む、パソコンを打つ等、何か手を動かしているというわけでもなく、肘を机の上に付け、両手を重ねてただ置いてあるメニュー表をボーッと、見ているだけ……もしかして悩んでいるのか?

 

 その様子に、何かあったのだろうか?と思い、少しだけ、彼を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと………ちょっと千束!何ボーッとしてんの!」

 

 キッチンで忙しなく手を動かしている同じくここで働いている中原ミズキは千束に声を掛ける。おそらく彼女の目から見て、サボっているように見えたのだろう。

 

「えっ?あぁ……ごめんごめん!いやね、あの……蒼夜君さ、なーんか不思議だなぁって思って。ほらあそこの男の子。」

 

 そう言って手は動かしつつ、キッチンの方からそのカウンター席に座る蒼夜に目を向けていた。

 

「あぁ〜、木から落ちそうになった千束を助けた“王子様“ね〜。まぁ確かに不思議だけど、でも男の子のお客さんなんてよく来るじゃない。特に、あんたたち目当てに、ね!」

 

 

 

 ースパーン!ー

 

 

…っとミズキは、軽く千束のお尻を勢いよく叩く。意外にも勢いがよかったのか綺麗に音が鳴り響くと同時に、痛烈な痛みが襲いかかってきたため、思わず千束はお尻をさすり、痛みを少しでも飛ばそうとする。

 

 確かにここ最近、自分達が運営しているSNSや食べモグなど、インターネット上で自分たちからの情報発信や、第三者が情報発信を行うサイトでも中々高評価になっており、中でもあそこの店員さんは美人が多いとも噂されており、一部ではファンクラブも出来ている…っとの噂も聞いているため、どうせそういったのが目当てだろうとミズキも踏んだのだ。

 

「痛ったァ!?ちょっとミズキぃ!……まぁ確かにそうなんだけど、ただ、なんて言うんだろうあの蒼夜君……なんか、悩んでる?」

 

「え〜〜〜、そうかな?」

 

「何してるんですか2人とも!注文入ってますよ!」

 

 その2人の手が止まっていることを注意し、急かすように店員でもあり、同時に千束にとってはいろんな意味で”相棒”である井ノ上 たきなが少し荒っぽく声を掛けてきて、2人ともハッとし、それぞれの仕事に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして、忙しかった店内は収まり、店内もほぼお客さんがいなくなったため、働く側もようやく一息つけそうだった……が、唯一、まだ残っていた客がいた。

 

 

 

 

 それは……例の、先程から千束が気になっていた、暁月蒼夜であるのだ。

 

「おい……あの客、蒼夜って奴?なんかさっきからずーっといるぞ。」

 

 喫茶リコリコの最も新しい店員であり、年齢的に見ると子供にしか見えないような長い金髪を持つ少女の“クルミ”はカウンターの向こうのキッチン内という、ちょうど客席から見えるか見えないかのぎりぎりの場所で話しかけてくる。

 

 ちょうど手が空いたということもあり、洗い物など、ここでしかやれないことをやるために、ここで働く従業員全員がここに集っている。

 

「そうですね。それに、席に座ってから()()()()()()()()()()……大分時間も経ってますよね。おまけに......」

 

 

 チラリっとたきなが蒼夜の方に視線を向ける。

 

 よく見ると、メニュー表を逆向きに読んでいる(・・・・・・・・・・・・・・・)のである。しかも本人は気づいていないのか、全く向きを変わろうとしない....ふざけてやっているのか、それとも真面目にやっているのか……

 

 正直、店員としても、店にとっても頭がおかしい客と思うしかない。

 

「一体、何がしたいんでしょうか?」

 

「まぁ人には色々あるんだろう。余計な詮索はしない方が彼のためにもなる。」

 

 喫茶リコリコのオーナーでもあるミカはコーヒー豆を挽きながら、そのお客さんに対し少しの興味は持ちつつも、店と客の一定の距離を保とうと宥める。

 

 しかし、そんな中で唯一黙ろうとしない者が一人いた。

 

 

 

 

 

 

『気持ち悪い......よね......』

 

 

 

 

 

 

 

「(もしかして....)ちょっと声かけてきますねー!」

 

 言わずもがな、昨日、彼の口から聞いた言葉を思い出す、千束であった。

 

「あ、ちょっと千束!」

 

 たきなの声を無視し、千束はその蒼夜に声をかけてみた。

 

「蒼夜君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜マジで頼めないーーーい!!!)」

 

 あれから蒼夜は、メニュー表を持っているが、何一つ頼んでいない。正直、今のところ非常に困っているのだ。

 

 

 

ースマホを忘れたか………違う。

 

ー財布を忘れたか………違う。

 

ーそれとも字が読めないのか……日本語は載ってあるから普通に読める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう…………注文しずらいのである……っと言うよりも、人と喋るのが本当に大の苦手である。

 

 

 

 

 

「(あ〜〜〜だめだ.....全然勇気がでねぇ〜......喋る勇気もない....あぁ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“どうして.....こうなったんだ"……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、この世界に(憑依)転生してからずっと、そればかりを考えている。シンプルに考えれば、これは自分にとって代償なのだろうか。この力……自分にMSを造れる不思議な力を与えた、その代償として、自分は誰とも喋る事もできず、ずっと一人なのか...ということなんじゃないのっと考えてしまう蒼夜。

 

 ただ、自分がいくら回答を思いついたところで、その答えを誰も教えてくれない。

 

 

 

 

 だが、彼にとっての代償とか、特別な力とか……正直そんなの()()()()()()

 

 

 

 

 

 自分は……主人公達が持っている力と願望を持っていない……なれるわけでもない……

 

 

 

 それに……ニュータイプやイノベイター、など……そんな特別な力も持っていないただの人間……

 

 

 

 

 

 彼は、暁月蒼夜は……この世界じゃただの一般人(モブキャラ)………ただ普通の生活を送ればいい……それだけのはずなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼夜君!!!」

 

 

 

 

 

 そんな時、答えのない自問自答をずっと繰り返し続けていたら、千束が話しかけてきた。かなり深く自分の頭の世界に入ってしまったため、周りの声にも全く気付いていなかった。

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 

 

 …………っと素っ頓狂な返事をしてしまう蒼夜。

 

「どうしたの?ずっと考え込んでるみたいでしたけど?」

 

「えっ?あっ?えっ......?」

 

 そう言われて店内の時計を見ると入ってからすでに大分時間が過ぎていた。何十分どころか、よく見たら何時間も経っていた。

 

 まさかそんなに時間経ったのか....と一人驚いてしまう蒼夜。

 

 

「す、すすすす……すいません!」

 

 まさかこんなに時間が過ぎているなんて……流石にここにずっといれば迷惑になるだろう。そう思った彼は、水だけ飲んで、すぐに帰ろうとした。

 

「いいっていいってー!ゆっくり過ごしなよ!それに、まだ何も頼んでないでしょ?」

 

 そのぐいぐい来られる姿勢に若干困っていると千束に“お客さん困ってますよ“っと、青色の着物のような制服を着た女の子“たきな“が、自分に話しかけてきた千束に話しかける。

 

「ごめーんたきなー!で、蒼夜君は何が頼みます?」

 

 屈託のない笑顔に、流石に“いいえ“。という言葉は出てい。慌ててメニューを見るが……迷う時間もなく、とりあえず適当に決めた。

 

「じゃ.......こ、これと……これを。」

 

 メニュー表の中を見て知ったことなのだが、実は……リコリコに来る前、事前に口コミサイトを見ていたのだ。……けど、どれを選べばいいのか全く分からなかったので、とりあえず“パンケーキ“と”珈琲“を注文した。

 

 

 実際、あんなにグイグイ来られては誰であっても注文を断ることは出来ないだろう。それに……こんな可愛い女の子が急に話しかけてきて、正直ドキドキしてするんじゃないのかっと…

 

 

 

 この千束という店員さんもそうだが、今彼女に話しかけてきた“たきな“という店員さんも負けず劣らずの美少女だ。千束という店員さんが元気っ子なら、たきなという店員さんはクール、という印象だ。断言するが、絶対モテるだろう。というか、この2人目当てで通って来る男性客だって絶対に多いはず。

 

 他にも、あの金髪の小さい女の子もだ。おそらく店の奥にいるあの黒人の店主……ミカの娘さん(?)なのかもしれない。金髪ということでおそらくハーフだと思うけれど、顔も整っているしその年代の子として見たらモテるだろう。

 

 そして緑色の制服を着ているお姉さんも、バリバリのキャリアウーマンという雰囲気(?)があり、顔も整っている。おそらくモテるはずだだろう。(※色々と問題点があるけどねby作者)

 

 

「(ハァァ………絶対に僕みたいな人間が入る店じゃないでしょ?)」

 

 完全に入る店間違えたな……っと自分が場違いかもしれないと思えてしまう蒼夜。今になって若干の後悔をしてしまうが、それももう今更だろう。

 

「はい!おまちどうさまでーす!」

 

 そんなことを考えている中で運ばれたパンケーキは、上にフルーツが少し乗った程度の、言ってしまうと、思いのほかシンプルなビジュアルをしていた。これは日本人が思い浮かべる、絵に描いたようなパンケーキに近いものだと思った。

 

 

 

 

 

 

 まさに、ザ・パンケーキ。

 

 

 

 

 

 

 作り立てのパンケーキを器用にフォークとナイフで切り、口に運ぶと......ふわふわの生地と優しい甘さと珈琲の苦さに言葉にならないほど相性が抜群でうまい。焼き方にも凄くこだわっているのだろうな.........

 

 

 

「(あ〜〜〜美味しいな.....)」

 

 

 

 

 パンケーキを食べている時.....この世界に転生してから蒼夜にとって一番美味かった(・・・・・・・)のだという.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの......お、お会計....」

 

「いいのいいの!言ったでしょ!昨日私を助けてくれたからお礼だって!」

 

 食べ終えた蒼夜は、相変わらず言葉が足りない。それに、まさか助けたお礼に本当にご馳走してくれるとは思わなかった。

 

 あんなに美味い珈琲とスイーツを無料で食べれるなんて、もしかしたら自分にとって今日は人生最高の日なのではないか?

 

 

「その......千束さん....」

 

「あ〜またさん付け!もうち・さ・と、で呼んでいいって言ったじゃん!」

 

「あ.....あの....その.....ありがとう.....じゃ....」

 

「あ!待って!!」

 

 アパートへ帰ろうとする蒼夜を呼び止める千束は、彼の手を掴む。

 

「っ!(て、手を掴まれたぁ〜!?)」

 

「ねね、次いつ来るの?」

 

「….........わ、分からない...」

 

「そっか......うん。ごめんね!ただ、また来てくれるかな〜って言いたかっただけ!」

 

「……....また....来てもいい....ですか?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、千束は一瞬キョトンっとするが、すぐに笑顔になり.....

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんだよ!『リコリコ』は困っている人を助けるが仕事なんだからさ!!」

 

 

 

 

 

 

「!..........あ.....あの......」

 

 

「ん?.......どうしたの?」

 

 

「そ......その.......あーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

..............ありが....とう.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うん!ご来店ありがとうございましたー! また来てね蒼夜君!」

 

 活発に手を振る彼女を背中に、蒼夜はアパートまでの帰路を歩み始める。そんな彼を錦木は嬉しそうにブンブンと手を振って見送ってくれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(また来てもいいのか......うん。時間があったらまた行こうかな....)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時.....彼は想像すらしていなかっただろう......

 

 

 

 

 彼女―――錦木千束との出会いが、

 

 

 

 

 そして、喫茶店『リコリコ』との出会いが.....

 

 

 

 

 自分の人生を大きく変える出来事であり、普通の一般人として過ごすはずの人生が大きく変化(・・)してゆく事になるとは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「任務に行きますよ、千束。」

 

「よ〜し!今日も任務頑張るぞ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして彼は知らない.....二人の少女、千束とたきなは、”普通ではない“仕事をしている事を......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





MS達『おい作者……』

作者「は、はい?」

MS達『俺たちの出番はいつなんだ?』

作者「あぁ〜次回話で登場する………………………………っと思う…」

MS達『いや今の間は何!?』


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Episode 2 可能性を持つ三兄弟 & 今の戦い(仕事探し)








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーBAN!!ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(っよし、命中!次は……!)」

 

 

 場所は砂漠地方……白い一角のMS(・・・・・・)に乗っている蒼夜は敵機の一体を撃破することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グポーン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ........っとその時、赤いモノアイでこちらを見つめる量産機ザクⅡ(・・・・・・)。そして、所持しているライフルで構え、

 

 

 

 

 

ダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

………発射された弾が一斉の彼の方へ向かい撃ってくる。

 

「(っ………やっべ!)」

 

 弾丸を避けながら、左腕のシールドをX字にスライドさせ機体の前方に構え、シールドのIフィールド発生装置が飛んで来る弾丸を弾く。

 

 今蒼夜が使っている射撃武装は、頭のバルカンとビーム・マグナムの二つだけである。

 

 特にビーム・マグナムは、一射につき『マグナム弾』と呼ばれる専用の弾倉型Eパックカートリッジを丸ごと一つ使用しているが、装填する弾丸の数は少ない。

 

 シールドで敵の攻撃を防ぎながらザクに迫る。接近するMSにザクはライフルの攻撃を止めヒートホークに持ち替える。

 

「っ.....来る!」

 

 右手に斧を握ったザクが接近戦を仕掛けてくる。蒼夜も左腕のビームサーベルを引き抜き鍔迫り合いに持ち込むと目の前に居るザクの頭部にバルカンを発射する。

 

 弾は頭部に命中しモニターが割れ装甲が凹む。さらに左腕のシールドを横になぎ払い頭部を吹き飛ばすとザクは地上の砂漠へと落下していった。

 

 落下していくモビルスーツに戦闘能力が無いのを見ると次の標的に向かう。

 

「(残り八体......くそ....もう弾丸がない!?)」

 

 マグナムの弾は尽きてしまい、残っている攻撃武装はビーム・サーベルだけになってしまった。

 

 目の前に残っている敵の数.....量産機ザクⅡ。その中には、一体だけの赤いザクⅡ(・・・・・)が無傷のまま立っているのである。

 

 

 

「(よし、………もう一度NT-D(・・・・)を使う!)」

 

 いまだに一回も成功してないNT-Dの使用を覚悟した、パイロットである自分をNT-Dに認知させ、ガンダムに変形することができる。

 

「(頼む!今度こそ上手くいってくれ!)」

 

 そう考えた彼は……機体の装甲の隙間からピンク色の光りが漏れ出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がその時…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーーーーーー!!!!!《Time UP !!!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あーーーーー)」

 

 

 

 突然鳴り響くアラーム音っと同時に、ついさっきまで砂漠だった場所が、いつの間にか粒子のように消えて無くなる。0から9までの数々の数字がまわり湧き上がり、気づいた時にはさっきまでいたザク達も消え去った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

「あ〜〜〜!やっぱりダメか!」

 

 制限時間が経ってしまった為、“現実世界“へ戻された蒼夜は、悔しがっていた。

 

「(それにしても……『デストロイモード(・・・・・・・・)』に変形するのって、そう簡単じゃないんだな……)」

 

 そう考る彼は、コックピットのハッチを開く。外を出ると、そこはさっき戦っていた戦場の砂漠ではなく…いつもMSを開発している地下の作業倉庫部屋である……

 

『ソウヤ、オツカレサマ!』

 

『ハイ!スイブンホキュウ!』

 

「あぁ、ありがとうハロ…」

 

 蒼夜がMSから降りると、ハロ達が汗だくになった彼にタオルとスポーツドリンクを渡した。“仮想空間訓練“をした彼は酷く汗だらけになったため、シャワーを浴びたい気持ちもあるだろう。

 

「ハアァァァァ………やっぱり“サイコフレーム“の扱いって結構難しいんだな……」

 

 長いこと訓練した結果……自分では扱えないかなっと考えた蒼夜。彼はついさっき乗っていた白いMS……“ユニコーン“とその隣に並び立っている黒いMSと黄金のMSも眺める。どちらも見た目は、ユニコーンと同じデザインであり、まるで兄弟の様にも見える…

 

「ははは………さすが宇宙世紀で最強のMSだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニコーンガンダム 1号機

 

ユニコーンガンダムバンシィ(ノルン) 2号機

 

ユニコーンガンダムフェネクス(ナラティブVer.) 3号機

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この3機こそ、今の蒼夜にとって最も扱いにくいMS(・・・・・・・・・)である……そもそもなぜ彼は、仮想空間を使って訓練をするのか。

 

 今まで彼、この3年間、幾つもの機体の操縦をこなすことができた。造るだけでなく、その機体を上手く操縦できるよう日々日々訓練している。だが、流石に外を出て戦闘訓練をすれば、一般人に目撃されるし……最悪間違えて被害を起こしてしまう恐れもある。

 

 そこで彼は、“電脳仮想空間“を開発し、機体のコックピットに乗り込むだけで、ネット仮想ゲームの様に触感や感覚など……まるで本当の戦闘を経験するとこができる。また、陸、海、宇宙など……様々なエリアで戦闘を再現することも可能。

 

 ちなみにさっき戦ったザクⅡ達は、蒼夜が設定した(NPC)である。

 

 

 

 

 まだ全てではないが……大体多くのMSを操縦する事ができた彼だが……なぜかこの3機だけは、彼にとって扱いが難しい……

 

 

 

 

 

「(操作は慣れても……問題なのはサイコフレームを扱えるサイコミュなんだよな…)」

 

 

 

 

  そう……“サイコミュ“である……

 

 

 

 

 そもそもサイコフレーム(・・・・・・・)とは、サイコミュの基礎機能を持つコンピューター・チップを金属粒子レベルで鋳込んだMS 用の構造部材である。その為、ニュータイプ(NT)が発する特殊な脳波である“感応波“を利用し、機体内外の装置の制御を行うシステム。また、脳波を増幅して発信する装置やNTの脳から検出される感応波をコンピュータ言語に翻訳する脳波制御システムなども言われる。

 

 

 

 転生してから三年の間、蒼夜が以前開発したνガンダム、サザビーにもサイコフレームを導入し、操縦のテストをした際、特になんの異常も無かった。

 

 (※この時、憧れのνガンダムに乗り.....操縦できた蒼夜は、嬉しさのあまり発狂したそうだ。)

 

 

 

 

 νガンダムやサザビーの完全実現と安全の確認などもを成功した蒼夜は、今度は新たなサイコフレームの開発を行った。そして……全身サイコフレームの力を持つMS、それが今彼の前に立っているユニコーン、バンシイ、そしてフェネクスの3機である……だが……

 

 

「(なんで上手くいかないのかな………?)」

 

 

 

 

 

 操縦は特に問題はないが、なぜかこの3機が持つシステム『NT-Dシステム』。「ユニコーンモード(・・・・・・・・)」からガンダムの姿である「デストロイモード(・・・・・・・・)」へ“変形”させる際に発動する、特殊管制システム。

 

 

 だが、なぜか発動しない……それどころか、びくともしない。もしかしてどこかのパーツが足りてないのか、それとも設計ミスなのか。そう考えた蒼夜だが、結局どこにも悪い点がなかったので、原因は不明である。

 

 

 

 

「(はぁ〜〜、もしかして僕の事嫌いなのかな……それにしてもやっぱり、“バナージ・リンクス“はすごいや。パイロットの経験もないのに……いきなり乗りこなすなんて……)」

 

 

 

.........っと、UCに登場する主人公“バナージ・リンクス“の凄さを改めて理解した蒼夜は、シャワーを浴びに向かう。サイコフレームについての問題点をいくつか改善したい気持ちはあるが、今の彼にはそんな余裕はない……なぜなら彼にとって……しかしそれ以前の問題がある……それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ハァァァ………明日こそ、バイトの面接受かりますように……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう彼……暁月蒼夜は、未だに無職(ニート)である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あ〜〜〜ここも不採用か〜〜〜)」

 

 またしても不採用と印をうたれた紙を丸めてる蒼夜。本格的に就職しようと決意してから一年くらい経ったが、中々上手くいってない………むしろ不採用し続けるばかりである…

 

「(くそ!やっぱり僕の性格と言語力のせいなのか!? )」

 

 上手く喋れない、性格が暗い、そして何より人と喋るのが怖い……そのせいで今の彼は変わらずの無職のまま、ついに一年経過してしまった。

 

「(ハァァ、前世の世界では5回も落ちてやっとだったのに……)」

 

 そう、前世の彼は必死に高卒認定試験を一発で合格し、バイト先の面接を5回も落ちてやっと就活できたのだった。その為、彼は生活費の為に必死に働いていたのだ。

 

 しかしこの世界の彼は、高卒認定試験に合格を既に受かっていても、全く就活ができていない。それどころか、仕事が一個も見つかっていない。技術力以外の何か得意分野を習得しておくべきだったなっと今更後悔する蒼夜。

 

「(それにしても……)」

 

 はぁ、とため息をついて椅子にもたれかかると今まで不採用だったバイトの面接で言われた言葉を思い出す。

 

『免許証は……無い?じゃあ身分証か何か出してくれるかい?はぁ高卒!?ダメだダメだ!そんな怪しいヤツ雇えるわけがない!』

 

 その他の面接もそうだった……

 

『高卒だって?そりゃあ無理だよ坊主。どっかの治安悪い国ならまだしもココは日本だぜ?それに高卒認定に合格したって……さすがに雇うのは無理ってもんだ……』

 

 まさか理由が高卒認定を合格しただけでダメだったなんて。ならチェーン店ならどうだろうか、そう思って足を運んだが結果は同じだった。

 

『いや、さすがにね………それに君性格暗いし、お客さん逃げちゃうんじゃないのかな?』

 

 性格まで不採用される……それに………

 

『ねーアンタ。もしかして前科持ってるの?ちょっとそれは……』

 

 過去になんの罪も犯していないのに、いきなり前科扱い者にされ、不採用……

 

「(ハアァァァァ……なんにも罪犯してないんだけどな………)」

 

 っとあれこれあった為、また次に面接を受ける所も同じ結果なんじゃないか。そう不安を感じた蒼夜は、とりあえずこれからの事を考えながら、最近流行っている喫茶店でコーヒーを飲む。

 

 喫茶リコリコ……数日前とある少女と出会った事で最近立ち寄る喫茶店だが、珈琲は格別に美味い。今食べる和菓子も其処らの甘味処より遥かに満足の行く味。気が付けばこの数日の内、蒼夜自身の中にとって小さなマイブームとなっていた。

 

「おぉ!蒼夜君いらっしゃい!今日も来てくれたんだ!」

 

 聞こえの覚がある声を聞いた蒼夜は振り返ると、最近知り合った白髪の少女、錦木千束が明るい笑顔で彼の事を見つめる。今思い返してみると、彼女と馴れ初めは、まるでラノベやゲームのシチュエーションの様だった。つい数日前、千束は木に登ったまま降りれなくなった飼い猫を助けようとしており、偶然通りかかった蒼夜がその手助けをしただけだったのだ……

 

 カウンター席に座っている彼は、珈琲を飲みながら、鞄から他のバイトの仕事が載ってある本を取りだして机に広げる。すると、ここの店主であるミカに話し掛けられた。

 

「勉強かい?」

 

「は、はい……」

 

「そうか……今日は客も少ないし、ゆっくりしてていいぞ。」

 

 ミカから許可も取れた事で、蒼夜は次のバイト先を考えながら、ペンを進めていた……

 

「(はぁ………次こそ受かるかな……)」

 

 

 

 もう何回めだろうか……すると周りの客の対応を終えたのか、千束が蒼夜に話しかけて来た。

 

「お?蒼夜君は勉強中?」

 

「え、い、……いや……違う………」

 

 相変わらず、人と喋る時言葉が少ない彼。

 

「へぇ……どんなのやってるの?」

 

「ちょっと千束、一応彼お客さんなんですから、邪魔させてはダメですよ。」

 

 ひょっこりと横から蒼夜が開いている本を覗き込んで来る。それをみたたきなは彼女に注意するのだが、千束は本の中を見た途端、少し驚いたような素振りを見せた。

 

「ーーーーーー蒼夜君、これ何?」

 

「聞いてますか………ってこれは……」

 

「ん〜、何なのどうしたの〜?」

 

 するとそれを聞いたのか、ミズキが割り込んでくる。するとたきな同様、ミズキも驚きを隠せなかった。

 

「ちょっとこれ……バイト探しの本じゃないの。しかもびっしりと……」

 

「はい……ですが、所々にペンで書いた線が載っていますけど……」

 

「そ………それ………不採用……だった……」

 

「「「…………………え?」」」 

 

 バイト探しの本にペンで線を書いたのは、面接で不採用だった時の印。しかしその数は、あまりにも多く、千束達は、驚きを隠せなかった。

 

「ーーーーーーちょっと蒼夜君。一応聞くけど………何回不採用を受けたの?」

 

「…………ひ……ひゃく……二十……ろく……」

 

「「「……………………はぁ!?」」」

 

 あまりにも衝撃的すぎて、思わず声を出してしまう彼女達。当然である、バイト先の面接で不採用される回数は、尋常ではない……しかも百を超えている……

 

「ちょ、ちょっとそれ明らかにおかしいでしょ!?しかも百以上だよ!」

 

「同感です……流石にこれは……」

 

「い、いや………僕は………こんな……だし……」

 

 今の自分の性格を改めて理解した蒼夜は、手に持っている珈琲カップを啜る……

 

 

《……え〜、それでは次のニュースです。防衛省技術研究本部によって新たに開発した陸上自衛隊専用の新装備について紹介します……》

 

 カウンター席に座っている彼は、テレビから流れているニュース番組を目にする。『新装備』って耳に入った時、思わずテレビの方を振り向く。

 

「(へぇ〜、そんなのがあるんだ今の自衛隊に……どんなんだろう?)」

 

 

《………現場の◯◯さん!》

 

 

っっっブッフ!?

 

「うぁ!?ちょ、蒼夜君大丈夫!?」

 

「ゲッホ!ゲッホ!だ、大丈夫……」

 

 

 珈琲でむせてしまったが、それよりのテレビの画面に一瞬映っている所にもっと驚きなそれが映っている。そして再度再びそれを映すと………その『新装備』について、見覚えがある蒼夜……

 

《は〜い!現在私は陸上自衛隊の基地に立っておりま〜す!そして、私の近くにいるのは、いよいよ完成が近い陸上自衛隊の新装備……》

 

「(なんで自衛隊の基地に………ガンタンク(・・・・・)がいるんだ!?)」

 

 テレビに映っている女性の後ろに立っている自衛隊の『新装備』。その見た目や形状は、ガンダムシリーズに登場するMS……“ガンタンク“とそっくりである。

 

 

 

 

“ガンタンク“

 

 

 型式番号RX-75。宇宙世紀シリーズに登場する組織、“地球連邦軍“のMSであり、連邦軍にとって初のMSでもある。見た目は、戦車の下半身に人型の上半身を乗せたようなフォルムを持つ機体。

 地上で大型の機械を2足歩行させることは非常に困難なため、履帯移動は実は意外と理にかなっている機体でもあるが、底部スラスターと姿勢制御バーニアを装備しているため、宇宙空間でも運用が可能。

 

 

 

 

 

 

 だが……なぜかその機体がテレビの向こう側に映っている……しかも自衛隊の『新装備』として……

 

 

 

「(もしかして........いや、そのはずはない.......)」

 

 

 この世界でも自分以外の者がMSを造っているのではないか.......っと蒼夜は考えたが、すぐその考えを拒否した。

 

 

 実際、彼は既に完成したガンタンクや設計図などは、盗まれてないし。それに優秀なAI.....ハローズ達が自宅や基地を一日中警備しているから盗まれたり、ハッキングして侵入する恐れは無い。仮にもしも何かあったら、すぐ蒼夜に知らせてくる。

 

 

 

「(だけど.......よく見たら全然似てないな....っというか、どちらかと言ったら....MSっぽくないな.....)」

 

 

 自衛隊の『新装備』を改めて確認すると、確かにガンタンクに似てもないし....どちらかいえば、The Origin(・・・・・・・・・・) に登場する初期型の方に似ている。

 

 

 

《……そんな中!この“10式戦車改“が今まさに私の目の前で動いております……》

 

 

「じゅ………式?」

 

「あ〜、新しい戦車か……」

 

 するとカウンターの奥の調理室で作業をしていたミカが答える。

 

「新しい……戦車……?」

 

「あぁ、確か……計画したのは丁度一年半くらい前だったかな。自衛隊……っというか、日本にとって、最新国産主力戦車なんだ。」

 

「(へぇ〜、そうなんだ。)」

 

「そうよ。しかもネット内では、『戦車っというより、ロボットじゃね?』っとか、『もしかしてついにマジン◯ーZも造れちゃう?』っとか、色々と結構話題にもなっているのよ。」

 

「それに確かその10式改……だったかな?結構子供にも人気だって言われているそうだぞ。まぁ、男の子の憧れの機械が現代の日本で動いているからな。」

 

 ミカの代わりに答えたミズキとクルミ。確かに多くの子供達が好きになる事も理解する。特に多くの男子にとっては。

 

 

《〜♪〜♪〜》

 

 

「ん?すまない、ちょっと電話に出るぞ。」

 

………っと、ミカは鳴っているスマホを片手で持ち、調理室の奥へ向かった。

 

 

「(へぇ〜、そんなのがあるんだ今の自衛隊に……まぁ〜とりあえずMSではないってことは分かったし、ちょっと安心したな。)」

 

 っと、とりあえずこの世界で自分以外MSを造っていない事がわかった蒼夜はひとまず安心した。そんな中、蒼夜は腕時計を見ると……

 

「(あ、そろそろ次の面接の時間だな……)あ、あの……お…かい……けい…」

 

「はーい!たきな!」

 

「分かりました!ではレジの方へお願いします。」

 

「は、はい……」

 

 相変わらず言葉は足りないが、それでもなんとか頑張って伝えることができた蒼夜。そんな時、レジの方へ行こうと、カウンター席から立とうとすると……

 

「千束、たきな。仕事が終わったらリコリスのs…....むぐ!?」

 

 戻ってきたらミカが何かを話すと、突然千束に口を塞がれてしまう。

 

「はい、先生ストープ!」

 

「店長、あんまり“仕事”についてここで話すと....」

 

 

「す、すまない......」

 

 

 ……っと、二人に謝るミカ。一応千束のおかげで、他の客人には聞こえてないが……

 

 

「(……リコリス……仕事?)」

 

 

 っと……一人だけ……聞こえてしまった……蒼夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この時彼は知らなかった………その言葉を聞いてしまった時、後に彼の一般人(モブキャラ)としての人生が大きく変わることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●○●○

 

 

 

 

 蒼夜がリコリコを出る前の時間………

 

 

 

 

『今日も随分と騒がしいですね……特に千束は…』

 

「まぁ……いつもの事だ……あの子は……」

 

 

 千束が元気よくお客相手にしていながら、調理室の裏では、ミカが携帯片手に頭を抱えていた。最近のスマホは精度が良いらしく、電話口の相手……楠木司令(・・・・)にも聴こえていたようだ。

 

 

「で、そっちの要件はなんだ?」

 

『……何の事でしょう』

 

「とぼけるな、どうせお前の事だ。仕事かなんかだろ?」

 

 

 

 気を取り直し、楠木を問い詰めるミカ。誤魔化しは効かないと悟ったか、楠木が溜め息混じりに応えた。

 

 

 

 

『えぇ、千束とたきなに仕事の依頼を頼みに………しかも政府(・・)から……』

 

「…………なに?」

 

 

 政府からだと……その言葉にピクリっと反応し、鋭い目つきになるミカ。

 

 

「………どうやら、そう簡単な仕事ではないな?」

 

『えぇ………というよりも……ある装備の奪還をして欲しいと……』

 

「ある装備?」

 

『丁度朝のニュースで流れてますよ………自衛隊の『新装備』……』

 

「!…………まさか……」

 

 

『えぇ……そのまさかです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎のテロリストによって盗まれた(・・・・)『10式戦車改』について………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜本編オリジナル兵器〜

 

 

 

〜10式戦車改(ガンタンク擬き)〜

 

 

通称 : 10式改

 

所属 : 陸上自衛隊

開発 : 防衛省技術研究本部(政府)

全高 : 25.5〜26m

本体重量 : 56.0t

全備重量 : 80.0t

 

 

 

 10式改は自衛隊にとって新たな戦力となり、日本最新の国産主力戦車でもある。あの“旧電波塔事件“から10年が経ち、政府は日本の平和の為、新たな装備を造ろうと計画していた。そして何より、あのアラン機関(・・・・・)と関わりがあって造ったのかと……

 

 

 ちなみに開発費は何千億円(・・・・)もかけたらしい……

 

 

 

 

 

 

 

 〜見た目〜

 

 

 見た目は、The Originに登場する“初期型ガンタンク“に似ているが、使っている装備や装甲材質は全く別である。操縦席は、頭部の中。両肩付け根に装備する長砲身の実弾砲と胴体に武装してある何百発も発射するランチャー砲。両腕には、災害の救助活動に使うクレーンやショベルのアームなども武装してある。

 

 もちろん、熱核反応炉(・・・・・)を搭載してないし、装甲材質は超硬合金ルナ・チタニウム(・・・・・・・・・・・・)でもない。見た目は変わっても、外形はほぼ戦車と変わらない。もしもガンダムシリーズの世界に登場するなら、速攻で破壊されるだろう。

 

 

 

 

 

※ 簡単に言えば、図体がデカくなった戦車である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





MS達『おい作者!どういう事だ!?』

作者「ん?」

MS達『ん?……じゃねーよ!俺達の出番は!?』

ガンタンク「しかもなんか僕の偽物が登場してるんだけど!?」

作者「あぁ〜、一応“敵役“を作らないっといけないからっと思って……」

MS達『な、なるほど。っということは次回そこ本格的な戦で俺達登場s……」

作者「いや、次回はあなた達の出番はありませんよ。」

MS達『…………………え?』





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Episode 3  The Pumpkin Head



 まず、お気に入りに入れてくださった皆様、感想をくださった方、ありがとうございます!

 非常にマイペースに進めておりますが、今後とも楽しんでいただければ幸いです。

……というわけで、本編第3話となります。


 今回の話は、リコリコキャラがメインなので、一般人君の登場は、か〜なり少ないです。








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京─────とある海岸沿いの廃工場地帯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通であれば一般人がそこを通ることはまず出来ない。観光ツアーや肝試しなどであれば、入ることは出来るかもしれないが。職員や関係者でもなければ、許可も無く入ることが出来ない場所だ。

 

「あ〜〜〜全く!なーんでDA直属の依頼がよりにもよってこんな所での依頼なんだーーーって感じ!おまけに、物を盗みに行くって私達は泥棒かー!おのれDAー楠木さんめー!」

 

「千束、あんまりそれ以上言うと、またフキさんに色々と言われますよ。後、盗みに行くのではなく、奪還です。」

 

 そんな特殊な場所ではあるが、何気ない会話をしながら千束とたきなは歩いていく。まるでこれが、ごく当たり前のことのように。

 

 千束は喫茶リコリコにいた時とは違い、赤い学生服を着ており、一方のたきなは紺の学生服を着ている。

 

 もちろん、彼女達は観光ツアーなどで入ったわけではないし、肝試しを体験しに来たのでもない。はっきり言って、こんなところに入ることはまずもって不可能であり、着てくる格好としても不適当だと誰が見ても思うが、彼女達にとってこれは仕事着であり、今回はここが仕事場なのである。

 

 

 彼女達は喫茶リコリコの店員であると同時に、もう一つの顔を持っている。

 

 

 

 

 

 

 

 それは─────()()()()としての顔である……

 

 

 リコリスとは、DA【Direct Attack】と呼ばれる、日本の治安維持を目的として結成された組織の実行部隊のエージェントであり、女子高生程度の年齢の女子のみで構成されている。

 

 テロリストや犯罪者等、日本の平和を脅かす者を秘密裏に処理することが目的であり、それだけ聞けば映画でよくある、平和を守る秘密組織として捉えられるのかもしれない。

 

 だが、この組織自体かなりグレー、というより黒い部分がかなり多くあり、それが原因で以前、とある大きな事件が発生しかけた。だが、それも全て、アトラクションのPRの一環ということにされたのだが……といった具合に、実はかなりな隠蔽体質の組織でもある。

 

 そんなリコリスにこの2人も所属しているのだが、……彼女達のメインの職業はリコリスであり、たきなに関しては、1ヶ月くらい前の事件のきっかけでDAから移されたのだ。簡単に言えば、半分クビになっているような状況。そんな彼女達は現在は喫茶リコリコにいながら、DAが受けないような依頼ごとの対応をメインにしつつ、それ以外の日常のお困りごとの解決も行うという、町の御用聞きなんかも行っている。

 

 そして時には、こうしてDAから来る依頼を対応することもある。

 

 なので、喫茶リコリコ自体もただの一喫茶店ながら、その実DAの支部の一つであり。ミカやミズキもまたDAの関係者であり、同時に千束とたきなの協力者でもあるのだ。

 

 今回もまた、いざという時の逃走用の足、ではないが、万が一も兼ね、廃墟の近くの駐車場で、ミズキが車に乗り最悪の事態に備えて待機している。一方ミカは、遠距離からの援護もあり、どこかのビルの屋上で狙撃銃を用意する。

 

 なお、クルミはDAの者ではないが、ある方法で彼女達をサポートしている、協力者の一人だ。

 

『おーい千束ー、たきなー、聞こえてるかー?相手や他のリコリスに気づかれないようにお前達の服に追尾機を付けさせてるからなー。それでずっとお前達の位置情報が分かるから、何かあった時の脱出経路も常にマッピングしてあるから安心しとけー。』

 

 耳に装着している通信機から声が聞こえ、後ろを振り向くと、遠くから黄色いドローンが機械音と共に、ゆっくりと自分達を追跡している。

 

 声の主は、喫茶リコリコ内の、いわゆるスタッフが使う休憩室の押し入れにいる。

複数のモニターを駆使し、大量のデータを同時で確認しつつ、顔にはいわゆるVRゴーグルを装着している。

 

 2人のモニタリングを常に行いながら、彼女達の耳に付けている通信機宛に連絡を取っているのは、あのクルミだ。

 

 実はクルミには、千束やたきなのリコリスとしての顔、と同じように、もう一つ別の顔がある。

 

 それは、彼女がDAでは無く、"ウォールナット"という名の、その界隈では最も有名なハッカーとして知られている人物だ。つい先月、色々あって今は“()()()()()()()“になっている。

 

 見た目は普通の子供なのだが、その能力や趣味など含め、わからない点の方が多いのだが、それでも喫茶リコリコにとって欠かすことの出来ない、信頼出来る大切な仲間であり従業員だ。歳は不明……

 

 

 話を戻し、では何故今回、こんな特殊な場所を歩いているのか……

 

 

 

 

 

 

 

─────それは、今回の依頼は……ターゲットの捕縛とそれ以外の敵対戦力の無力化……

 

 

 

 

…………そして()()()()()()()()()()である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻り、2日前の夜─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千束、楠木からだ。」

 

 

 喫茶リコリコの営業が終了するかしないかというタイミングで電話を持つミカが千束に尋ねる。相手は、クルミ以外の誰もがよく知っている、DAの司令官である楠木という人物からであった。 

 

 そんな楠木からだと言い、ミカは千束に電話を替わるように渡す。

 

「もしもーし。千束はいませーん。また後でかけなおしてくださーい。」

 

 ……と、こちらもまた、いたずら半分本気半分で電話を替わるが、もはやその冗談にも慣れているのか一切怒ることもなく、楠木は鼻で笑った。

 

『相変わらず口の減らない生意気なクソガキだ。お前達2人に頼みたい仕事がある。引き受けてくれるな?』

 

「い〜や〜で〜す。あ!定期健診永久パスさせてくれるなら考えま〜す。」

 

 仕事の依頼に対しても千束は冗談を返すが、そんな千束の冗談を一切無視し、楠木は話を進めていく。

 

『2日後東京近くの廃工場地帯で複数人の傭兵部隊が潜んでいる。そこにフキとサクラも向かう予定だ。お前達は彼女達の増援だ。』

 

「フキさんと………サクラさんもですか?」

 

「……なんで私達なんですか?そっちはフキ達だけで十分でしょ?」

 

 フキというのは、彼女の元同僚であり、リコリスの中でもファーストと呼ばれる、エース的な扱いをされている存在だ。

 

 実を言えば千束もファーストであるが、実力だけで言えば千束の方がフキより上であり、その実力から、DA内部では"最強のリコリス"と呼ばれているのだ。

 

 なのだが、そんな力の差がありながらも互いが互いを意識しているため、わかりやすく言えばライバル、もっと言えば犬猿の仲のような立場でもある。ただ、その様子を見ている人からすれば、ケンカするほど仲がいい、っというようにも見える腐れ縁的な関係だ。

 

 ちなみにサクラと言う物は、フキの現相棒である……

 

 そんな仲間や、他にもリコリスが多くいるDA本部が行えばいい…っと千束は楠木に提案するが……

 

 

『………1か月ほど前からだ。』

 

 

 

 電話越しだが突如、それまでとは話し方の雰囲気が変わり、楠木は語り始めた。

 

『1か月ほど前から、陸上自衛隊の基地で厳密に保管してたはずの『10式戦車改』……通称10式改は、何者かによって盗まれてしまった。しかも相手は、謎の傭兵部隊だ。』

 

「10式………って、あのバカでっかい戦車を盗んだの!?」

 

「司令……ですが、今日のニュースで流れているのは……」

 

 今日の昼、確かに10式改はニュースに流れていた。もしも盗まれていたのなら、なぜ自衛隊の基地にあるのか……楠木はすぐに答えを出す。

 

『本来は、二体も保管していたんだ。一体はさっきたきなが言った通り、本体でもあり、訓練用でもある。』

 

「なるほど………ではそのもう一体が、盗まれた戦車って事ですか?」

 

『あぁ………だがそのもう一体が厄介だ。』

 

「?……厄介とは?」

 

()()()()だ。装備してある武器は全て本物の実弾だ。それに、もし間違えて街中で使用すれば、当たり一面大惨事になる可能性だってあし、……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

「「!!」」

 

 大勢の死者……それが本当のことながらも、一つため息を吐く千束とたきな。その場にいるミカとミズキ……そして別の部屋の押し入れの中にいるクルミも驚きを隠せない。

 

 

『そこでだ、一部の政府から我々DAに依頼を送られたのだ。それが今回の任務だ。今から三日前、ラジアータの解析による自衛隊の基地の防犯カメラに移っていた傭兵の一人を発見した。場所は、廃工場地帯……よって作戦は、ターゲットの捕縛とそれ以外の敵対戦力の無力化………もしも抵抗があれば、すぐに()()。』

 

「そして……盗まれた10式改を奪還せよ……って事ですね楠木司令。」

 

『そうだ。それともう一つ政府からの指令がある。奪還作戦の際、絶対に10式改を動かさないことだ。もしもそれが動き出し、街中で被害が起こしてしまったら、今後の自衛隊の信頼………国としての信頼も無くなるっと言う事だ。』

 

「つまり穏便に済ましてほしいってことか………確かに……この作戦にはサードを向かわせる事は難しいな。」

 

 

 

 

 サードというのは、リコリスのランクであり、一番下でもある。

 

 

 上からファースト・セカンド・サードとなっており、制服の色もそれぞれ赤・紺・ベージュとなっている。基本的に小さい事件に関してはサードに任せている仕事が多い。だが、今回の作戦に関しては、ファーストやセカンドに行かせた方が適正である。

 

『作戦は二日後………場所は海岸沿いの廃工場………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………とはいったものの、本当にあのバカデカい戦車がここにあるのかねぇ~たきなさんや~。」

 

 

 

 

 そして話は戻り現在……

 

 楠木から作戦について聞いた千束は、一映画好き故に見てみたい、という興味本位はあるが……実際は少し疑っている。こうして彼女達は仕事を承諾し、こうして現在他の場所で何処か突入しているだろうフキ達と合流すべく、廃工場に中に入っているっというわけだ。

 

 また、もし本当に傭兵の一人が10式改を動かしてしまった場合、すぐに対策を考えるため、司令部からもドローンを飛ばす。探せば分かるが、こうして外であっちこっちDAのドローンを飛ばしている。

 

 ちなみに……クルミが飛ばしているドローンは、DAに見つからないよう上手く遠くで飛んでいながら、千束達を見守っている。

 

 廃工場に侵入してから数分………たきなは周辺の警戒をしていたが、ポン、と肩を千束に叩かれて意識を戻した。

 

「さぁってっとぉ……どう、たきな?()()()()()()()()()?」

 

「……確認できているのは、三つ先の角に一人と、南の方に潜んでいる一人です。」

 

 

 まるで、世間話でもしながら……といった様子で歩き出した二人だが、内容は不穏なものだった。それと言うのもこの数分間、千束とたきながここへ侵入してくる事は、恐らく読めているだろう。だが、そんな事は建物に侵入してからとっくに気づいていたのだ……

 

 

「いやはや〜、モテる女は辛いですなぁ〜。とはいえ、流石にずっと私達の事を覗き見するのは嬉しくないし、そろそろやっちゃう……物理的に?」

 

「……彼等は恐らく傭兵です。という事は、仕事を依頼した人間……または戦車の強奪作戦の計画を立てた人が居るはずですね。」

 

「う〜ん、だと思うよ。だってほら、あんなデッカい戦車をゲットしたんだから、それなりの警備をつけるよね〜」

 

 

 戦闘部隊の様に行う尾行であり、ただ姿を隠すのみならず、戦闘で優位の得られる配置を意識していた。だからこそ、リコリスには分かりやすかった。今日は上空からドローンでクルミが監視しているため、動きも把握できる。

 

 問題なのは、この事態にどう対処するかだ。

 

 

「いずれにせよ、先手を取られるのは危険です。仕込みは済ませていますし、上手いタイミングでこちらから仕掛けましょう。」

 

「ラジャー!よ〜し!麗しい乙女の魅力で、傭兵さんも虜にしてみせようぞ〜!」

 

「…………」

 

 千束は唐突に、変なポーズを作って決めた。変としか言いようのないポーズを……思わず足を止めるたきな。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………すみません、早くツッコんでください、お願いしますたきな様……」

 

「(えっ!?)……な、なんでやねん……」

 

 

 正直、他人のふりをしたかったけれど、顔を真っ赤に涙目な千束を無視も出来ず、軽く裏手チョップでツッコむたきなだった。その姿は、外の雰囲気が似合わず、これから命懸けの戦いをするとは思えない、ごく普通の女子高生にしか見えない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、命令についてなんとなくわかったんですけど……あのデカい戦車をどうやって回収するんっすか?大体、私達戦車を操縦した事なんて一度もないっすよ。」

 

「余計なこと言うな。それに今は戦車の事を気にするな、今は司令からの命令……テロリストの捕獲に集中しろ。」

 

 一方、千束達と離れた所に歩き回りながら、相手の視界に入らないようつけていく2人組のリコリス。

 

 千束とたきなが着ていたものと同じ、赤い制服を着た()()()()と、紺の制服を着たその現パートナーの()()()()()は、今回彼女達と同じ作戦に実行している最中である。

 

 その理由については、大体事前に楠木司令から聞かされているフキ達もこの作戦についてすぐに承諾した。尤も、司令からの命令を断るなど、リコリスとしてあり得ないのだが……

 

「まぁそりゃ、私だって自衛隊の新しい戦車……10式改でしたっけ?それくらいは知ってますけど………にしたって自衛隊って結構セキュリティ甘すぎなんじゃないっすか……あの戦車を簡単に基地から盗まれてしまって。」

 

「サクラ、それ以上言うな。グダグダ言ってないで、さっさと終わらせるぞ。」

 

 サクラの軽口をフキが流す。この2人がコンビになってからしばらくが経つが、2人にとっても当たり前となったやり取りをしつつ、フキとサクラはバレないようテロリスト達が潜む廃工場に潜入する。

 

「(……まぁ、サクラの言いたいことはよく分かるがな……)」

 

……と言いつつ、実際のところ、口には出さないがフキも少しだけ疑問に思っていた。

 

 そもそもなぜそんな秘密兵器をこっそりと基地からテロリストか傭兵なのかも分からない組織に盗まれることができたのか……むしろ、どうやって実行したのかも気になる。

 

 そんな考えをするフキは、ファーストを長年努めているフキからしてみても想定外の、前代未聞の出来事だった。正直、知りたいのだが……それでも命令とあっては仕事をこなす他ない。そう思い、思考するのを一度止める。

 

「(だけど………まさか増援が()()()()だとは思わなかったな。)」

 

 アイツらとは……千束とたきなの事だろう。落ち着いて考えれば直近のDA支部である喫茶リコリコ以外居ないのは自明の理だが、過去の作戦やその後のイザコザもあり暫くは一緒に行動することも無いだろう思っていた矢先に今回の作戦だ。

 

「…………しっかし、本当に捕獲するだけでいいんすか?」

 

「あぁ、それが司令からの命令だ。できるだけ生かしておく必要があるとさ。」

 

 

 色々と言いたい事はあるが、今はそんな暇はない。とは言え、この現場にいるリコリスは千束、たきな、フキ、そしてサクラの四人だけである。

 

 その時………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!パァン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(!……もう始まってるな…)サクラ、行くぞ!」

 

「了解っす!」

 

 

 

 

 銃声音が聞こえた同時に出す作戦実行の合図。二人は、銃声音が聞こえた方向へ駆け出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー銃声音が鳴る前の時ー

 

 

 

 

 

「っち、本当に一体いつまでここにいなきゃならねーんだ……」

 

 

 長髪の男──傭兵達のリーダーを務める男は、悪態をついていた。

 

 

 依頼主による『10式戦車改』の強奪には成功したものの……今度は海の向こうへ運ばなければならない。そのため、貨物船が来るまでこの廃工場に隠れながら、待ち続けている。

 

「(俺達は、便利屋だとでも思っているのか!?)」

 

 自分達が軽んじられている事も、そして訳の分からない戦車の強奪。何よりも、こんな依頼を受けざるを得ない現状に、腹が立った。

 

 けれども、腹を立てているだけで生活は出来ない。愛する家族と、気の置けない仲間達を養う為、男はこの作戦に参加する事を決意したのだ。

 

 

 

「全員、配置につけ。奴らが侵入してきた……実弾を装填しろ。生き残りたかったら決して侮るな。子供を装ってる殺し屋と思え……」

 

 

 通信機片手に、男は海岸沿いの商業施設の廃工場内で待機する。

 

 誰もが無言のまま各自それぞれの役割を果たそうっと、目的地へ向かう。確認を取ると、既に他のチームが二班、遠方のビルにもチームが一班、到着していた。

 

 

「なぁリーダー、本当にこんな所に噂の“リコリス“が来るのか?」

 

「仕方ねーだろ……“ハッカー“の情報だそうだ。あの戦車を見回りしなきゃならねぇんだ。それに……明日の夜中に船が来る…それまでに死守しろだってさ……」

 

「けっ、マジかよ……結局また今日も退屈な1日になんのかよ……」

 

「そう言うな、明日で全てが終わる。」

 

 傭兵の仲間の一人が文句を言うが、家族を養いにはこうするしかない。何よりこの計画を成功させれば、今まで以上の報酬が貰えるかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ〜あ〜、テステス。ただいまマイクのテスト中〜本日は、晴天の霹靂なり〜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところが突然、配電盤も死んでいるはずなのに、愛らしい声の館内放送が始まったからである。途端、リーダー含め、傭兵達は体を低くし、周辺へ気を配るが……人影は……見当たら無い。

 

 

『もしもーし傭兵さーん?よかったら一緒にお茶でもしますか〜……うーん、やっぱ普通の自己紹介した方がいいかな?』

 

「調子乗んなのクソ餓鬼……っ!」

 

「おいバカ、黙ってろ!」

 

 

 挑発に乗りそうになる仲間を、リーダーが諌める。

 

 

『ま〜分かりますよ。そっちもお仕事でしょうし、色んな都合があるよね。かと言ってね、私達も黙って言いなりになる訳にも行かないので……』

 

 

 そんな中、スピーカーから聞こえる声だけが気楽で、自信満々だ。リーダー格の男は、嫌な予感を覚えた。もしかしたら自分達は、とんでもない人間を相手にしているのでは……と。

 

 

 

 そしてその時……嫌な予感に限って当たってしまう……

 

 

「超痛いけど我慢してねっと!」

 

 

  背後からの声……、っと銃声と共に放たれた。

 

 

「ぁが!?」

 

「ちぃっ、カバーしろっ!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 視界を横切る赤い影。瞬く間に、二人が背中を撃たれた。仲間を助けようと、すぐさまリーダーは、アサルトライフル──AK-47による反撃が行われるも、少女……千束は綺麗に避け続けている。

 

 その隙、射撃を続けながら負傷した仲間を引きずり、建物の中央部……事務所のソファの影に隠れる。

 

 

「い、痛え……っ」

 

「おいしっかりしろ! すぐに応急処置を……あん?」

 

「どうした、重傷なのか!?」

 

「い、いや、それが……」

 

 

 手の空いた仲間が、損傷したボディアーマーを脱がすのだが………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、彼女が使っている弾は、プラスチック弾のような物である事を今知る。

 

 

「(殺す気がない……いや、まさか俺達の事を舐めているのか?)」

 

「ほらほら、おにーさんこーちら!手ーの鳴ーるほーうへ!」

 

「クソがぁ……舐めやがって……!」

 

「馬鹿野郎冷静になれ! 誘い出されたら逆にこっちがヤられるぞ!」

 

 

 自分たちの事を舐めている……正直腹が立ってきた。仲間も同じ思いなのだろうけれど、仮にも戦闘中、冷静さを欠けば確実に負ける。リーダーは怒りを奥歯で噛み殺し、どうにか勝機を見出そうと、瞳を細めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら千束。たきな〜、そっちはどう?」

 

 

 一方の千束は、彼等の見立て通り、呆れるほどの余裕を持って、ハンドガンをリロードしていた。左耳に付けた小型通信機の先に居るたきなが、それを見越したような溜め息混じりの返答をする。

 

 

『なんとか対処しましたが……今ワイヤーで拘束しております。』

 

「そうかそうか。ところで、フキ達は?」

 

『ついさっき確認しましたが、もう後二、三分くらいで千束の方に到着します。私も今からそちらの方へ向かいます。』

 

「うん、分かった。待ってるからね〜」

 

 今頃、裏口から侵入してきていたフキ達、そしてたきなもこっちに向かってくるだろう。その前にできるだけ多くの傭兵達をできるだけ戦闘不能にしたい。

 

『……ですが……やっぱりこの弾、使い辛いですね。』

 

「まぁ〜まぁ〜、そう言わないで。無駄な殺生をせずに済むでしょ?」

 

『そうですけど………やっぱり……』

 

「うん、使い辛いよね……分かってる。それに今回はできるだけ生かしておくことが重要なんだからさ。付き合わせてごめんね、たきな。」

 

 慣れない近接戦闘を強いられ、若干の苛立ちも感じていそうな声のたきなに、珍しく素直に謝る千束。

 

 今頃、傭兵達は、痛みに悶えている事だろう。死なないだけマシなのかも知れないが、千束が押し付けた赤い弾頭の非殺傷弾は、その威力と引き換えにしたか、冗談抜きで真っ直ぐに飛ばず、確実に当てたいなら5mから10m以内に近寄らねばならない。

 

 

『……まぁ、依頼内容の中には、傭兵達の捕虜っと言われましたけど……もしも手に負えないようであれば、私は迷わず実弾に切り替えます。それでいいですよね。』

 

「充分!ありがとう。」

 

『では、私もそちらに合流します。』

 

「うん、お願い。多分こっちにリーダーが居る、あの人を抑えれば……」

 

 

 自販機の影から様子を伺うと、長い髪の男が銃を構えつつ、カウンターに滑り込むところだった。予断なく警戒を行う動きは非常に慣れていて、それなりの戦闘経験を感じさせる。

 

 

 

 

 

 

「(銃口が少しだけブレてる。あの人……迷ってるんだ。)」

 

 

 

 

 

 千束には、相手の動きから次の動作を予測するという特技がある。

 

 

 その精度は、人間としては「異常」であり……実際、銃を撃とうとする動作から射線を読み、銃撃を回避するの事ができる。それらを利用する事により、彼女は相手の感情すらも、ある程度なら読み取る事が可能だった。

 

 

 

 焦り、困惑、悲しみ、憎しみ、喜び、などなど………

 

 

 

 強い感情は、胸の内にあるだけで体の動きに影響を及ぼす。

 

 

 銃撃の回避より精度が劣るけれど、千束には確かに感じられるものなのである。

 

 

「ねぇー! さっさと降参しないー? 今なら依頼人について教えてくれるだけで、何も無かった事にしてあげられますよー!」

 

「う、ウルセェ!そんな事したら商売上がったりなんだよ!!」

 

「……だよねぇ〜」

 

 

 試しに声を掛け、降参させようと提案するが、返されるのは銃弾。苦笑いと共に銃弾を返し、相手のリロードの隙をついて違う遮蔽物へ。ちらりと覗くAKの銃身が、色濃く焦りを伝えていた。

 

 

「クソ!こうなったら……おい!西口に待機しているお前ら、今すぐ援護を……っておい!誰か応答しろ!……クソッタレがっ、この短時間で、オレ達以外全滅だと……!?」

 

「(あ〜フキ達、もう制圧できたんだ……や〜るじゃん。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーバン!!!ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動くな!」

 

「動いたら撃つっすよ〜!」

 

 

  次の瞬間、千束の前に合流したフキとサクラ。

 

「あ〜〜フキ〜〜久しぶり〜」

 

「フン!私はお前に会いたくなかったよ。」

 

「え〜〜そう言わないでよ〜〜それにやるじゃん、他の傭兵を制圧するなんて〜」

 

「な、何!?クソ!やっぱりまだ仲間がいたのか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?何言ってんだお前……()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………え?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません千束!遅くなりました!」

 

 

 

 ……っと千束の前にまた再び現れたもう一人のリコリス………たきながついに彼女の前へ合流する事ができた。そんな彼女にいきなり問いかける千束……

 

 

「………ねぇ、たきな………こっちに来るまでさ、誰かと出会わなかった?」

 

「?………いいえ、さっき交戦してた傭兵達以外……誰も…」

 

「………サクラ君さ、さっきフキが言っていた事本当?」

 

「え?あ〜、まぁ〜ここへ来るまでの間……特に誰も会ってないっすけど…」

 

「……………んん? あのー、リーダー傭兵さん。」

 

「なんだ!? おちょくってんのか!?」

 

「いやいやいや、そうじゃなくて……他が全滅?裏口のチームだけじゃなくて?」

 

「…………は?」

 

「…………千束?」

 

「………え、ちょなんっすかこの空気?」

 

 

 不意に、奇妙な沈黙が広がった。千束達が侵入するより、大きな被害を教えるもの………不安そうな仲間が顔を出していた。

 

 たきなは、独断で西口のチームと交戦はしないはずだし……

 

 フキやサクラに関しては、楠木司令の命令無しで交戦を独断で行うはずがない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり…………()()()()()()()()……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなっ、誰かが紛れ込んでる!警戒s──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千束後ろっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーBAAaaaaaaaaaN!!!!!!ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たきなの叫び……

 

 それに気づいた千束は直感に従って地面に伏せ、急いで横へ跳躍……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーードサ…ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると……スローモーションとなる視界に捉えたのは、リーダーの隣に居た男が、頭に真っ赤な花を咲かせ倒れる姿。千束との延長線上に居たから、運悪く流れ弾を受けたのだ。

 

 

「……………は?」

 

「な、なんだ………何が起きた……」

 

「え………ちょ……はぁ!?」

 

 一瞬で人が倒れた事に困惑し、戸惑うリーダーとその仲間……

 

 

「……だ、誰が撃ったんだ!?」

 

「じ、自分じゃないっすよ!」

 

 

 フキ達が撃ったわけでもない……その時………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ードンー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!……誰!?」

 

 

 

 

 

 一瞬だけ、足音が聞こえた……しかも……重い足音……

 

 

 大急ぎで体勢を整える千束。彼女だけでなく、たきな達や傭兵達も一斉に足音が聞こえる方向へ銃を構える。やがて、足音がドンドン近づいてゆく……

 

 

 

 

 そこには、…………一人の人間が立っていた。

 

 

 

 

 

 黒のライダースーツを着る不審人物が現れた。男か女なのか分からない……まるで、最初からそこに立っていたとでも言うべき、不自然な立ち姿で。そしてよく見ると片手に持っているショットガン………銃口から薄い煙が出ている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼らが驚いたのは、立っている不審人物が突然現れたからではない。彼らが驚いたのは、その人物の頭に付けている()()()……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か……」

 

 

「か……」

 

 

「か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「カボチャを被っている〜〜〜!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不審人物……の顔全体……なぜか()()()()を被っている……しかも顔のように造ってあり、毎年ハロウィンに出てくる……“ジャック・オー・ランタン“にも似ている…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・Is it Halloween today?」

 

 

 もはや理解が追い付かない、あまりにも突飛な登場に、多くの依頼を解決までこなしてきた千束も、こればかりはもう……英語ジョークで、気を紛らわすしかなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにハロウィン日は、まだ数ヶ月先である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(え!?何これ......どういう状況なの!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのカボチャを被っている不審人物の正体は……まさかのとある一般人(モブキャラ)である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして彼は、こうなったのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、今から数時間前の時へ遡ることに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







「(.........)」この後どうしようっと悩む偽物(一般人)

「「「(.........)」」」カボチャを被る不審人物とどう話せばいいのかわからないリコリス&傭兵達






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Episode 4 Why he is wearing a pumpkin?



 いつもブクマ、評価、誤字・脱字報告、感想、ありがとうございます!!

 
 何故、一般人(モブキャラ)である彼がカボチャを被っているかについて明らかになります!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻り………千束達が廃工場に侵入する数時間前……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(よっしゃああぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 口から出していないが、内心で絶叫するほど喜ぶ一般人(モブキャラ)……暁月蒼夜。

 

 

 

 

 

「(ついに………ついにやったぞ!!!)」

 

 

 

 

 なぜ彼はこんなにも喜んでいるのか………それは………

 

 

 

 

「(やっと………やっと()()()()()()ぞーーーー!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、彼……暁月蒼夜は……ついに仕事を見つけることができたのだ…

 

 

 

「(うぅ“〜〜〜ここまで……ここまでの時間は長かったよ……本当によくやったわ…)」

 

 

 

 

 面接が受かるまで、一体どれだけかかったのだろうか……百から先へ数える事をやめた彼だったが、今日の面接でようやく採用する事に成功した……

 

 彼にとって猛烈に嬉しい事であり、今まさに興奮状態である。アパートで落ち着く事ができず、今彼は、自分の心を落ちつかせようと汗をかきながらランニングしている。

 

 ちなみに、彼を採用してくれたバイト先は………とある小さな清掃業会社である。

 

 今でも思い出す、自分を採用してくれた社長の事を……

 

 

『あ〜〜〜、まぁウチ人手不足だから……採用で。』

 

 

 ……っと、適当に蒼夜の事を採用してくれた店長。ただこの社長、不真面目でなんの確認もせず、ただ採用しただけだが……それでも蒼夜にとっては関係ない。むしろ、ここで仕事人として働かせてくれるだけでも彼にとって満足なのだ。

 

 

「(あ〜〜〜やっとこれで無職から解放される〜〜)」

 

 

 

 っと、ようやく落ち着いたのか……彼は内心で冷静になる。

 

 

 

「(僕のバイトが始まるのは、明日の朝からだな……そうなったら今日は帰って早く寝ないと……)」

 

 

 明日のバイト初日に遅れる訳にいかない……そう思い出した彼は、家に帰ろうとする。すると…… ふと視界端に、赤い車が走っているのが映った。一瞬ですれ違うのだが……

 

 

 

 

「(こんなにも暗くなっているんだ。車にも気をつけ…………ん?)」

 

 

 

 

 ……とその時……一瞬だったが、蒼夜の横を通過した赤い車の後頭席に座っている()()()()()()に見覚えがあった……

 

 

 

「(今……千束さんとたきなさん……だったよな……なんでこんな夜中に?)」

 

 

 見間違いではなければ、あれは確かにあれは喫茶店リコリコの店員、千束とたきなで間違いないはずだ……しかも向かっている場所は……

 

 

「ーーーーーあそこって……廃墟化した工場だよな……?」

 

 

 なんであんな所へ行くんだ?と疑問を抱く彼は………

 

 

「ーーーーちょっと行ってみるか……」

 

 と言い、ジャージのフードを深く被り、赤い車が向かった先の廃工場へ向かった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(いや、なんかメチャクチャ怪しいオッサン達がいるんですけど!?)」

 

 

 

 

 廃工場の近くに草木の影に隠れながら、目線先に入り謎の男達が移住している事実に驚く蒼夜。車を尾行していた彼が到着したのは、海岸沿いの廃工場。だが運悪く、尾行してた車を見失ってしまい、廃工場のあたりを探しに回ったら.......

 

 

 

「(さっきまで赤い車を探していたはずなのに……なんか知らないオッサン達がいるんだけど……しかも銃までも持っているじゃん!?ここ日本だよ、普通に銃刀法違反だよ!それに、なんか変なドローンがあっちこっち飛んでいるし!)」

 

 

 

 色々とツッコミを入れる蒼夜は、知らないうちに西側の方へ向かってしまったようだ。そんな彼の目の前には、西口に待機している傭兵部隊の別チームである。さらに彼がここに来る間に少数のドローンが飛んでいるのも目撃する。

 

 

 ※DAやクルミのドローンは、まだ蒼夜の事を見つけていないので、一応一安心。

 

 

「(ちょっと待て………って事はまさか千束さん達があんな危ないオッサン達がいる事を知らずに入っちゃったんじゃねーの!?)」

 

 

 ※正解。ちなみに彼女達は怖いオッサン達の事を既に知っている。

 

 

「おい……本当にここに()()()()()()が来るのか?」

 

「あぁ、間違いない。リーダーが言ってたぜ。」

 

「(ん?リコリス?………なんで花の話をしてるんだ?)」

 

 っと……傭兵の一人が言った言葉を聞いてしまった蒼夜。

 

 

 

 リコリス────ヒガンバナ属に属し、日本を含む東南アジアに広く分布する彼岸花、もしくは曼珠沙華と呼ばれる花の園芸種名。

 

 彼岸花は、秋の田んぼや土手を赤く染める馴染みの深い花で、得に中国・揚子江の流域には多く自生し、日本には稲作の伝来と同様に渡来したのではないかと言われている花。

 

 花言葉は────『独立』『あきらめ』『悲しき思い出』……それが何故今その花の名前が?と疑問を抱く蒼夜。

 

 

「(あれ?そういえば……ミカさんも言っていたような……って!そんな事を考えている場合ではないだろ僕!今すぐ警察に連絡しないと!)」

 

 っと、今はとりあえず警察に連絡をしようとスマホを取り出し、110を押そうとするが……その途中で手を止めた……

 

「(………何話せばいいんだ僕……)」

 

 知っての通り……彼は大のコミュ障である事を。ただでさぁ喋るのが必死だ。もしかしたら、警察が“イタズラ電話“だと勘違いするかもしれない。それだけではなく、正確の場所や特徴なども色々と説明しなければならない。

 

「(クソ!こんな状態になっても話せないのかよ…………いや待てよ……)」

 

 

ーーー警察へ連絡するのは難しい(彼が大のコミュ障が原因)

 

 

ーーー他の者に助けを連絡する(そもそも彼には友達一人もいない)

 

 

 

 

 

 なら、彼が閃いたのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(はぁ〜、結局僕が行くことになるんだよな……)」

 

 

 そう、もはや彼は自分で行かなければならないのだ。だが、そのまま行っても無闇に殺されるだけだから、彼は能力を使いそれなりの準備や装備などを整っていた。

 

 

 

 

〜特殊なライダースーツ〜

 

 

 一見見た目は普通のライダースーツとほぼ変わらないが、そのスーツにはとある特殊な粒子が混ざっている。ガンダムの世界ではならの『ミノフスキー粒子』という粒子をスーツ全体に付ける事で、電波妨害する事も可能。

 

 あっちこっちで回っているドローンに見つからないため、たとえ誰かが自分の事を確認しようとしても、テレビの砂嵐のように姿を隠す事も、追跡機能も止まる。もちろん、弾丸から身を守る防壁力も完璧である。ちなみに、『ミノフスキー粒子』を付けているが、人体に悪い影響は出ないので、安心安全である。

 

 

 

 

 

 

〜武装〜

 

 

 ショットガンやハンドガンなども製作できた。見た目は完全に本物であり、これを持って警察に見つかってしまったら、即逮捕されるだろう。もちろん実弾も装填可能だが、それよりも彼は製作したとある()()()を用意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで聞けば、もはや準備万全だろう……だが、まだ何かが足りない……

 

 

 

 

 

「(さて………問題は顔だな……)」

 

 

 

 

 

 そう、()である。蒼夜は平凡な人生を送る為、どうしても顔を晒したくないのだ。だからこそ、彼は自分の顔を隠すマスクや仮面などを用意する必要がある……のだが…

 

 

 

 

「(あ〜まじで悩むな〜………)」

 

 

 

 

 

 

 

 一応彼は、ガンダムシリーズに登場する仮面キャラを思いつく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜シャア・アズナブル〜

 

 

 

「(ーーいやでもよく考えたらあの角結構目立つな。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ミスターブシドー〜

 

 

 

 

「(………ダメだ、余計に目立つ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ヴィダール〜

 

 

 

 

「(確かに顔全体隠れているけど……なんか息苦しそう……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 などなど……他の仮面キャラを思い浮かべるが、なかなか見つからない……

 

 

 

「(あ〜〜〜、まじで思い浮かべなぁ…………あ、いた。)」

 

 

 

 っと、ようやくキャラの一人を思い浮かべた蒼夜は、急いでそのマスクを作る。そのキャラこそ、前世の世界で“連邦に反省を促すダンス“としてネット上でも話題にもなった事があった......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくよぉ…ここへ来て何で俺達は警備までしないといけないんだよ……」

 

「まぁそう言うな、これも仕事だ。」

 

「そうそう、それに明日でもう終わるし、報酬は今まで以上に貰えるぜ。」

 

「ヘレンの言う通りだ。例え相手が噂のリコリスでもな……」

 

 

 

 傭兵部隊の内、別チームの傭兵達は、廃工場の出入り口できる所を警備している。

 

 

 

「しっかしどうしたのかねぇ……このバカでけー戦車を簡単に強奪できるなんって、今にでも信じられねーよ…」

 

「……お前、知らないのか?」

 

「あぁ、何が?」

 

「あん時基地に潜入できたのは、()()()って名の天才ハッカーがしたらしいぜ。なんでも、依頼主がそのハッカーにもハッキングの依頼を頼んでおいたおかげで俺達は無事に作戦成功……ってリーダーが言っていたぜ。」

 

「はぁ?マジかよ…んな事聞いてねーぞ俺ら…」

 

 警備をしているわりには噂話や雑談をする傭兵達。その数は、四人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし彼らの余裕は一瞬にしてなくなることとなる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐへ!?」

 

 一瞬、銃声音が聞こえた次の瞬間……一人の傭兵の額に赤い花が咲くと共に、倒れる。

 

「W, What the Fu◯k!?」

 

「だ、ダールトンがやられたぁ!?」

 

「クソ!銃を持て!敵は…どこだ!?」

 

 突然の事で残った三人は背中を合わせ銃を構えながら警戒するも次の瞬間には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAN!BAN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴハッ!?」

 

 また一人、赤い花が咲くと共に倒れる……

 

 

「へ、ヘレン!…クッソ!…敵は!?敵はどこにいる!?」

 

「!!!いたぞ!」

 

 傭兵の一人が見つけたっと共に振り向く。二人の目線先に映ったいたのは……黒いライダースーツでショットガンを構える閃光の暗殺者……

 

 

 

 

 

 

 

 

BAN!BAN!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダッ!?」

 

 

 だがその隙に、さらに一人も胸を貫かれてしまう……

 

「く、クソったれが!」

 

 最後の一人は、咄嗟に打ち返そうとするが……

 

 

 

BAN!

 

 

 一発も当てれず、額に赤い花を咲かせてしまい……視界が揺れる中でも、男は目の前の異様な物を被っている不審人物から目が離せない……

 

 

 

「な、なんで…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーカボチャを被っているんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は、手放す意識の中で、相互にそう思った。

 

 

 

 

 最後の一人は倒れ、警備についていた四人の傭兵達は全滅してしまったのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ふぅ………結構いけたな……)」

 

 

 不審人物……蒼夜は、ひとまずなんとか四人の傭兵達を片付けることができた。

 

 不意打ちをしてしまい、少し卑怯なのかも知れないが、今はそんな事を考えている余裕はない。むしろこうもしなければ、こっちが危ない。

 

 

「(それにしても……カボチャか……確かにそりゃ驚くよな。)」

 

 

 蒼夜は、最後の傭兵の一人が倒れす寸前でその言葉が聞こえた。今更だが、確かに今被っているマスクは、完全に悪ふざけにしか思えないだろう……まさに怪しさ100%。そんな時、傭兵達が警備していた所にたまたま置いてあった割れた鏡を覗く。

 

 

「(ーーーーーーうん。やっぱりこれどうみても()()()()()()だよな……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽マフティー

 

 

 

 

 劇場版アニメ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』に登場したテロリスト集団で、ハウンゼン356便をハイジャックした内の一人、カボチャマスクを被るハイジャッカー。軍資金を連邦政府から奪うためにマフティー・ナビーユ・エリンを騙った偽物。

 

 

 


 また、ネット上でその登場シーンがTwitterに転載された事でバズり、彼はネタキャラへの変貌を遂げる事になった。 前世の世界では、Yout◯beやニコ◯コ動画で劇場版の主題歌である「閃光」を流しながら、海外では有名なmemeの『The Pumpkin Dance』のダンスを高速で再生すると共にMADで投稿されたことで、一躍連邦に反省を促すダンスっというネットダンスとして定着し大バズりとなった。

 

 

 

「(ははは今にでも思い出すな。何回も観ていた記憶があるし……あぁ、でもやっぱり二度と観れないのが寂しいな……)」

 

 

 

 

 ただ、残念な事に()()()()()()()()()()。もちろん、前世の頃にほぼ毎日聴いていた「閃光」も存在しない。

 

 

「(懐かしいな……って!こんなことしている場合じゃないでしょ僕。)」

 

 

 今は懐かしい記憶を探っている場合ではない事に気づいた蒼夜は早速廃工場の中へ潜入する。もちろん警戒心を持って…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(それにしても……一応相手がヤバイ人達だからって、人に向けて撃ってしまったのは本当に悪い事したな僕……まぁ、一応()()()()から大丈夫だけど…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーだがこの時、彼は知らなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……後に混沌が起きる事を………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(まだここにもいるな……それに……あっちから銃声が聞こえた気がする…)」

 

 

 

 なぜ彼はここまでの銃を上手く扱う事ができるのか。実は彼、こう見えてFPSゲームなどの趣味もある。前世でもそうだが、夜中までにFPSゲームを遊んでいた記憶でもあり、こっちの世界にでも変わる事 無く遊んでいる。

 

 

 そんなガンダムシリーズ以外の趣味を持っている彼だが、もちろん彼は転生してから三年間、MSを操縦訓練をしているだけではない。対人戦や射撃能力、または運動神経など……一応生身の人間でも戦えるように必死にこの三年間訓練していたのだ。

 

 

 射撃に関しては、アパートの近くの廃工場の地下で射撃訓練をしていた。さらに、仮想空間でも射撃訓練や、本戦のような場所で戦う事ができた。

 

 

 対人戦や運動神経などは、ハローズ達が相手してくれた。とは言っても、ボールとして相手してくれたのではなく、対人間サイズ訓練用のロボットを用意してくれた。そのおかげで、今の彼は、銃の扱いだけではなく、戦える運動神経も手に入れる事ができた。

 

 

 ※ちなみに記憶の中で一番辛かった訓練は、ワンパ◯マンの主人公“サイ◯マ“のトレーニングである。

 

 

 

 

「(っ……近い……)」

 

 

 

 

 っと、目線の先に足音が聞こえる。少しずつ、バレないように近づく……

 

 

 

「(ーーいた……この距離なら……)」

 

 

 

 そ〜っと、音を立てないよう、目線先にいる傭兵の一人をショットガンを構える。射撃位置を外さないよう………ゆっくりと引き金を引き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーードサ…ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(よっしゃ、命中!)」

 

 

 

 また一人を見事に一発で命中する事ができた蒼夜は、警戒心を持ちながらショットガンを構え、ゆっくりと歩き出す……もちろん自身の正体を隠して。

 

 

 

「(さっさと変なオッサン達をどうにかして。その後、千束達が無事かどうかの確認を………ってあれ?)」

 

 

 

 

 っとその時、立ち止まった彼の目線先に立っている人達の中に、自分が無事かどうか心配していたリコリコの二人もいた。彼の目の前には....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほど西口にいた傭兵達の仲間とそのリーダーらしき男……

 

 

 

 

 

 制服を着ている二人の少女達……

 

 

 

 二人の少女達と同じ制服を着ている千束とたきな……

 

 

 

 そしてなぜか、その四人の少女達の手には、()()を持っている…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……え!?何これ......どういう状況なの!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の所、状況を全く理解できていない一般人、暁月蒼夜である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然やってきたカボチャ頭の不審人物に愕然となったリコリスと傭兵達。

 

 

 彼らが驚いているのは、突然やってきたからでも、ショットガンを構えているからではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「(…………なんで頭にカボチャ!?)」」」」

 

 

 

 そう……彼らが驚いたのは、頭にカボチャを被っているからである。ここはもう既に銃撃戦なのに、いきなりに不審人物が現れてくるのを驚くしかないだろう。

 

 

 

「…………おい、お前ちょっと話してこい……」

 

「え“!?な、なんで俺なんだよ!?お前がいけよ!」

 

「はぁ!?ふざけんな!だったらリーダーが!」

 

「言っておくが行かねーぞ俺!あんなカボチャ頭とどう話せばいいんだよ!?」

 

 

 っと、いきなり仲間同士で話し相手になれっと押し付ける傭兵達だが、彼らだけではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーねーたきな。あのカボチャ君とさ話してきなよ。」

 

「ち、千束!?なんでですか!?こういう事なら千束の方が得意はずです!」

 

「む、無理無理!だって相手はpumpkinだよ!?もしかしてあれかな、ハロウィンのコスプレの準備かな〜」

 

「絶対違うでしょ!それにハロウィンはまだ数ヶ月先です!」

 

「う〜〜〜〜………じゃ、フキで!」

 

「……はぁ!?なんで私なんだ!?」

 

「だって君は仕事に熱心だよね〜〜今日はフキ君に譲るからさ…」

 

「ふ、ふっざけんな!お前絶対逃げてーだけだろ!?」

 

「へぇ〜そうですか!じゃ〜、もしかしてあのカボチャ君にかける言葉が見つからないの〜?」

 

「うぅ……そ、それは……ってか!お前も同じだろ!」

 

「あ、あの……じゃ〜自分が…」

 

「「「どうぞどうぞ…」」」

 

「いやちょっと待て!なんで急に譲るんっすか!ってか先輩まで!?」

 

「何言ってんだサクラ。お前ファーストになりたいんだろ?」

 

「………先輩まさかそれで誘導してませんよね?言っておきますけど騙されませんよ!?」

 

 などなど、彼女達も押し付け合うようになった……

 

 

 

 

 

 

「ーーーってかそもそもお前なんだ!?何しにここへ来たんだ!?」

 

 っとここでようやく傭兵の一人がカボチャ頭に向かって問い出す……が……

 

 

「……」

 

「……」

 

「〜〜〜」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやなんか喋れやーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全力でツッコミを入れる男の問いに何故か答え事も無く、言葉一言も喋っていない。それどころか、ショットガンを持ったまま、一歩も動いてない。

 

 

 

「おーいどうなってんだよコイツ!?急に現れたっと思ったら、今度は一言も喋らねーぞ!」

 

「……え、何、なんなの?」

 

「こっちが聞きてーよ!ってかお前らもなんとか言えよ!」

 

「ーーーーよし!フキお願い。」

 

「………おいちょっと待てアホ。なんで私が…「「フキさん(先輩)、お願いします。」」…ってお前らまで!?………あ〜〜〜もう分かったよ話しかければいいだろ!」

 

 ……っとここで、(勝手に押し付けられた)フキも話し相手になる事を決意した。

 

 

 

 

 

「お、おいお前!何もんだ!?」

 

「……」

 

「まさかビビっているんじゃねーだろうな!」

 

「……」

 

「………おい、マジでなんか喋れよ…」

 

「……」

 

「〜〜〜」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで喋れねーんだよお前!!?」

 

 

 

 

 

 

 っと、全力でツッコミを入れるフキにも全く返事をしない。

 

 

「何なんだアイツ!? なんで一言も喋ってねーんだよ!?」

 

「えぇ〜、どうしようたきな。あのカボチャ君一言も喋ってないけど。」

 

「そんな事言われても……」

 

 これだけ声をかけても返事どころか、一言も喋っていない。ほとんど無口である。

 

 

 

 

 なぜなら、カボチャ頭の正体である暁月蒼夜は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(え、何これ!?本当にどういう状況なの!ってかそもそもなんでここに千束さんとたきなさんがいるの!?しかもあの二人も千束さん達と制服と同じ服を着ているよね……っというかなんで拳銃を持っているの!?え、何……今の10代って拳銃を所持しているの?いや、そもそも今の日本は銃刀法違反があるし……だとしたらなんで……)」

 

 

 

 

 自分の思考世界に入ってしまったのである。色々と状況を整理するため、まずは頭の中の記憶を整理している。ちなみに今の彼は、全く千束達の事を気にしていない。むしろ、彼女達が自分の事を話しかけている事もさえ気づいていない。

 

 

「(えっと〜〜〜そもそもどうして廃工場に四人の女子高生がここに?しかも拳銃を持っているし、おまけに怖いオッサン達も銃を所持しているし……ッ!もしかして…………これって………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(映画かドラマの撮影なのかッ!?)」

 

 

 

 

 

 

 ※違います

 

 

 

 

 

 

「(じゃ…さっき飛んでいるドローンは撮影時のカメラ代わり!……確かにそれはそれで便利だ……それにしても、時代もどんどん変わっていくんだな……)」

 

 

 

 ※違います

 

 

 

 

「(ってか、さっきオッサン達が持っていた銃を少し触ったけど、あれも撮影用なんだよな……それにしてもさっきのオッサン達っといい、本物みたいだな。)」

 

 

 

 ※本物みたいではない、本当にガチの傭兵と銃。

 

 

「(あれ………って事はもしかして撮影現場を台無しにしてしまった……ってことになるじゃん!や、ヤバイんじゃんこれ!いつの間にか僕はとんでもないことしている〜!……っというか、もしかしてさっきのオッサン達はエキストラかなんか?……だとしたらもっとやべーよ!もうしばらく起きないよあの人達!)」

 

 

 内心で自分が撮影の邪魔と台無しにしてしまったっと勘違いする蒼夜。しかし自分の勘違いである事を知らず、すぐに彼らを謝ろうとするが……

 

 

「(ーーーーーーーーーだめだ!どうやって喋ればいいんだ!?)」

 

 

 見ての通り、暁月蒼夜は()()()()()()()()()()である。

 

「(あ〜〜〜やべーな、マジでそうしよう……けどこのまま黙って帰らせてくれないよね〜〜って!まずは先に謝るべきでしょ!………いやだけどなんて話せばいいんだよ!?)」

 

 一体この場から正体をバラす事なく、無事にアパートへ帰れるには、どうすればいいのか……っと考えたその時、彼はある方法を閃いた…

 

「(……そうだ……言葉で話さなくても……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?そうすれば、自分が怪しくない一般人、って分かってくれるかも知れない!……よっし!なんとでもなるはずだ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 っと、ここでようやく動き出したカボチャ頭(暁月蒼夜)

 

「うぉ!?う、動いたぞ!?」

 

「な、なんで今!?……ってかなんでショットガンを置いたの?」

 

 突然動き始めた彼に驚く千束達……っが、なぜか構えていたショットガンを一旦壁の近くに置いた。一体何をするんだ…っと警戒する千束達の前で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー突然、踊り始めたーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……………は?」」」」

 

 

 

 

 

 激しく手を振りステップを踏む、腕を動かし胸に当てたり、頭の上に手を構えたりする。たった1分程度の踊りである。

 

 

 

 

「「「「(・Д・)」」」」ポカーン

 

 

 

 

 

 突然の事で唖然としてしまい、開いた口が塞がらない千束達……

 

 

 

 

 

 そして最後に手をお辞儀のようにし、ゆっくりと頭を下げる蒼夜。ダンスを終えた後、元の位置に戻る。

 

「「「「……」」」」

 

「(さぁ〜これでどうだ!これなら普通の一般人だって思えるだろ!)」

 

 全て出し切った後、蒼夜は内心で満足そうにドヤ顔で何度も頷く。我ながら上手くできた。そう確信しながら辺りを見渡す。

 

 誰もが言葉を失っている。どうやらみんな感激(?)して何も言えないのだろう。そう思うと何やらこそばゆい。そして、一拍。間の空いた空気の後に蒼夜が耳にしたのは──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ふざけてんのかお前えぇぇぇぇぇっ!?」」」」

 

 

 

「(………え? )」

 

 

 

 

 

 その場の全員が一致団結してのブーイングの嵐だった。確かに斜め上だ。斜め上過ぎて全員の度肝を完全にぶち抜いた………別の意味で……

 

 

 まさかのブーイングに蒼夜は戸惑いの表情を隠せない。だが、そんな蒼夜の心境などお構いなしに彼方此方からブーイングの雨が降り注げられる。

 

 

 

 

「お〜〜〜〜い、マジでなんなんだアイツ!喋らねーっと思ったら急にダンスしやがったぞ!?しかもこの状況で!」

 

「アイツ完全に舐めているだろ!?」

 

「…………千束。私、今から実弾で撃ちます。」

 

「たきなさん!?ちょっと待って!」

 

「だってよく見てください!突然現れて、何にも喋れない!それに不気味な踊りもしてくる……早くなんとかしないとこっちまでおかしくなりますよ!?それにあのカボチャ頭、もう完全に私たちの事を舐めていますよ!」

 

「(え、もしかしてだめだった?)」

 

 蒼夜のダンス(?)によってより更に混沌と化した戦場、色々な意味で衝撃を与えた彼は一人、訳が分からないといった様子でポカンとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な〜に〜深く考えているんだバカ共が!さっさとあのクソカボチャ頭を殺しちまえばいいだろうがよ!」

 

 

 っと、傭兵の中の一人、ガタイが大きい金髪の傭兵が蒼夜の前でAKを向ける。

 

 

「お、おいベネット!よせ!」

 

「おら〜カボチャ頭さんよ!ここに来た事を後悔しr……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BAN!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グエッ…」

 

 

 

 

 

「「「「…………え?」」」」

 

 

 

 っが……なぜか撃たれたのはカボチャ頭ではなく、発砲っと共に吹っ飛ばされた金髪男の方である。全員の目は飛び出る程に見開いていた。

 

 

「「「「(う、撃ったぁ〜!?)」」」」

 

 

 

 突然の発砲……しかも無言で。……っとその時、なんの音もなく、いつの間にか持っていたショットガンを千束達の方へ向け…… 

 

 

 

 

「っ!みんな隠れて!」

 

 

 

 

 

 何か悪寒を感じた千束は、この場にいるカボチャ頭以外の者達に声を掛け、全速力で走る。彼らも彼女の反応と共に傭兵達の隠れるカウンターに飛び込んだ。そしてそれを追うように銃弾が弾けていく。その中には、一人、また一人へと、傭兵達の額に命中してしまった。

 

 

「なっ、お、おい!?」

 

「あははー、どもー」

 

 悪びれもせず微笑む千束に、とうとう一人になった傭兵のリーダーは銃を向ける事も出来ない。その流れで、また銃声。すると、次はたきな、フキ、サクラがカウンターへと飛び込んで来る。

 

 

「な、なんなんだっすかアイツ!?急になんの躊躇もなく撃ってきましたよ!」

 

「千束、もうこれは話し合いで解決できる話ではありませんよ!」

 

「えぇ〜やっぱ、だめかな?」

 

「見りゃ分かるだろ!司令部!聞こえますか!?」

 

 

 もはや驚くばかりの傭兵リーダーを置いて、この状況をなんとかするリコリス達。そんな中、フキは、DA本部の司令部に小型通信機で連絡を取るが…

 

 

 

 

 

 

「司令部、司令部っ! 応答してください司令部!………クソッ!繋がらねぇ!」

 

「な、なんで繋がらないんっすか!?」

 

「知るか!本部!司令!誰でもいいから繋いでくれ!」

 

 DAの超高性能AI、ラジアータによる恒常的情報支援。それが()()()()()()()により、フキも、かつてないほど動揺していた。そんな姿を見たせいか相棒であるサクラは、不安な表情を隠せない。

 

「千束、ミ──後ろと連結が取れません。さっきから通信機が繋がりません。」

 

 試しに千束とたきなも通信機を弄ってみるが、こちらも繋がらない。

 

「そうだよね〜〜もしかして、あのカボチャ君…なんかしたのかな?」

 

 

 突然の通信機が使い物にならなってしまい、もはやあのカボチャ頭が何かをしただろうっと考えるしかない。状況は、更に想定外にも程があった。

 

「お、おい……どうなってんだ一体。アレはお前らの仲間じゃないのか!?」

 

「どこを見たら仲間だって思えるんだ!?」

 

「うーん、説明したいのは山々なんだけど、とりあえず……共闘しません?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………はぁ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  にっこりっと千束が笑いながら提案すると、リーダーとフキは大口を開けて固まる。寂れた廃墟に、更に混沌化する空気が生まれつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、カボチャ頭(暁月蒼夜)は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーーーーやべ〜〜〜………めっちゃマッチョなオッサンがいきなり銃を向けてきたんだから、びっくりして思わず撃っちゃったんだけど……ってか驚きすぎて、他の二、三人も命中しちゃったんですけど!?)」

 

 

 

 蒼夜は、発砲するつもりはなかった。だが、ついさっき金髪の傭兵がいきなり目の前で銃を向けてきたのを驚いて、思わず慌てて撃ってしまった。つまり、さっき彼の内心ではパニック状況になってしまい、気がついたら二、三人の傭兵達にも銃弾を当ててしまった。

 

 

「(ど、どどどど、どうしよう!?まぁ〜い、一応()()()()から大丈夫だけど……いやだめでしょ!やっぱ謝ったほうがいいんじゃないのか!?……いや、でもよく考えたら一応正体はバレてないし………このまま逃げちゃおうk………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………って!なんか来たあぁぁ!?)」

 

 っとその時、勢いよくカウンターから飛び出した千束は、蒼夜……または、カボチャ頭へと走りつつ、独特な構えでハンドガンを乱射。

 

 

「(ち、千束さぁん!?しかもなんか銃を使って撃ってくるぅ!?)」

 

 

 対する蒼夜は、上手く銃弾を避け、その脇からショットガンを捨て、ハンドガンを取り出して応戦する。もちろん死ぬ事はない……だが、放ったうちの二、三発すら当たらない、いや、正確に答えれば、銃をポイントし引き金を弾いた瞬間、あるはずの千束の体がそこに無いのだ。そんな彼女の動きを見て、蒼夜は驚きを隠せなかった。

 

 

「(え、何今の動き!?)」

 

 

 

ーー明らかに、避けられていたーー

 

 

「っ……こなくそっ!」

 

 

 一方千束は、内心で驚いている蒼夜を気にせず、数歩手前で低い遮蔽物を踏み台に跳躍。飛び越しながら撃ち下ろす。体を低く、着地を見計らって撃つのだが、これもヒラリと躱されてしまう。すれ違う時の、ほんの一瞬……視線が交錯した。

 

 蒼夜は勢いのまま、近くの遮蔽物へと回り込む。

 

 千束も同様に距離を取り、斜めに倒れたテーブルの裏へ。

 

 

「っくー、やっぱダメかぁー」

 

「……なんなんだアイツ…お前の動きを読めているぞ!?」

 

「……千束、あのカボチャ頭は……」

 

「うん、急に現れて、急にダンスして……ピエロかっ──てぇの!」

 

 

 ホッと一息ついたのも束の間、千束はまた彼の元へ突撃する……と見せかけて、回り込もうとする。

 

 

「(ぎゃああぁぁぁぁぁ!?また来たあぁぁぁ!?)」

 

 

 ……っが、その動きを先読みし、今度は連射するが、驚いた事に全く怯まず、こちらを見据えたまま左右に動きまくっている。

 

 どんな理屈かは不明だが、彼女は射線が見えている。それに基づいて、どう動くか決めている。少なくとも蒼夜はそう考えた。

 

 

「(撃っても撃っても当たらないけど!?なんなの!?まさかニュータイプなの千束さ!?……いやでもどちらかっと言ったらトランザムなんじゃね?……っ!)」

 

 

  っとその時、反射的に体を捻る。連なる銃声を聴き、避ける。同時に、カウンターへと引っ込む頭が三つ。脚を狙われそうだった。

 

 

「クソが、避けられた!」

 

「完全に不意打ちしたと思ったのに……っ」

 

「なんなんっすかあのカボチャ!?」

 

「(あっぶねえぇ〜〜〜なんなのあの子達?もしかして撮影の邪魔をしちゃったから怒ったのか!?やっぱり僕のせいなの!?)」

 

 

 

 危うく機動力を奪われるところだった方としては、別の意味でヒヤリとさせられるが、この三年間、体術や射撃を習えたおかげでリコリスである彼女達の動きをある程度読める事ができた。……が、そろそろ身体の限界も近づいてくる。ひとまず、天井を支える太い柱の影に隠れて数秒……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、カボチャ君はさ………()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 っと、不思議に思う彼女…千束は彼に語る……

 

 

 

「千束?……まさか……」

 

 

 一体何を言っているんだっと疑問を抱くたきなは、隣で倒れている銃弾を喰らった傭兵部隊の仲間である男を確認すると……

 

 

 

「(!……生きている……それにこの赤い液体は……血じゃなく、ペンキ?)」

 

 

 死んだと思っていた男達は、死んでいなかった。それに、胸や額にくっ付いている赤いのは血ではなく、赤色のペンキだった。

 

 

「ーーーーまさか、非殺傷弾を……千束が気づいて……でも、どうして……」

 

 

 ー殺さないーっと知らず漏れた問い掛ける。彼女の言葉を聞いてしまい、人柱の影に隠れている蒼夜は……

 

 

 

 

 

 

 

「(いや、別に殺したくないし……殺人犯になりたくないから。それに、何かグロいし…)」

 

 

 

 

 そう、彼は人を殺さない理由は、ただ殺人を犯したくないだけである。だから彼は、人が死なないように作製した特殊弾……()()()()である。一見、千束が使っている弾丸と同じだが、違うと言えば、弾の中には赤色のペンキが入っている。球がどこかに当たると同時に、中のペンキが血の様にくっ付いてしまう。

 

 

「(ってかさ……さっきから火薬の匂いがするけど……もしかして彼女達が持っている銃って本物じゃないよね?……いや、流石にないよね……)」

 

 

 まだ彼は、この状況が銃撃戦である事を気づかす、どうやってこの場から脱出しようと考えた……その時………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー建物内で大きな揺れが起き始めたー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「…っ!?」」」

 

 

 

 

 地震でも起きたのか……っと思う程激しく揺れる。揺れ続ける中、壁や地面などに、ひび割れが起き始まる。

 

 

 

「な、何が起きてんだ!?」

 

 

 突然の揺れに状況が追いつけないフキが叫ぶ。そんな中……

 

 

「………やばい……」

 

「え?何が……?」

 

「…………10式改だ………()()()()()()()()()()()()!」

 

「えぇっ!?」

 

 

 リーダーの口から聞いた千束は、驚きを隠せなかったその時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぶっ殺してやるーーーーー!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として謎の声と共に10式改が下から現れる。そして、左右に武装してあるガトリングを放ち、無数の弾丸がそこらじゅうに広がる。その場にいた他の傭兵とリコリス……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(え、ちょっとこれまずくないいぃィィィ!?)」

 

 

 

 

 ……そして蒼夜も、共に廃工場の崩壊に巻き込まれてしまい。地面の底へ落とされてしまった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同時刻ー

 

 

 

 秘密機関、Direct Attack──通称DA司令部は混乱の極みに…

 

 

「く、楠木司令!10式改が移動しています!」

 

「このままでは、街に向かってしまいます!」

 

「ブラボー、チャーリーも沈黙!安否不明!」

 

「どういう事だ……フキ達の連絡は?」

 

「そ、それが……さっきから連絡が取れません!」

 

 

 司令を努める女丈夫──楠木の冷たい言葉に、どうにか答えるその助手だったが、彼女も戸惑いを隠しきれない様子だ。叱責すべきかと口を開きかけ、しかし無理もないかと溜め息に変える。

 

 

「突然の電波妨害の次は、10式改が動き出す……か。」

 

 

 苦笑と共に、眼前に広がる無数のディスプレイを見やれば、事前情報に基づいて設置された監視カメラが、惨々たる有り様が広がっていた。突如として動き始めた10式改が、止まる事無く先へ進む。その道中には、()()()()()が既に起き続けている。

 

 

 

 

 

 

「このままでは、国の信頼どころか、大勢の犠牲者が出てしまうだろうな……」

 

 

 

 

 

 っと、険しい表情で口から漏れてしまう程、立ち尽くす楠木であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーまた、別の場所では……

 

 

 

 

 

『作業終了!!作業終了!!ハッチオープン!ハッチオープン!』

 

『武装、機体の整備、安全確認……完了!』

 

『ベースジャバーノ確認モヨシ!』

 

『アレ?ファンネルハイラナイノカ?』

 

『アレハ大気圏内デ使エナイカラ今回ハ無シ。』

 

『了解!コッチモ終ワッタヨ!」

 

『了解!ν()()()()()発進!νガンダム発進シマス!!!』

 

 蒼夜のアパート近くの廃工場の地下倉庫では、ハローズ達のかけ声と共に()()()()M()S()が大気圏内用のSFSに乗せながら、夜空へ飛び出した………

 

 

 

 

 その行き先は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






お待たせしました!次回、ついに初のMS戦が始まる!!!


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Episode 5 ガンダム、現代社会に立つ!! 前編




 お待たせしました!


 今回、ようやくあの機体が登場します!


 恐らく文字数は、過去最長だと思います。無駄に長くて申し訳ないです。

 そして、ついに念願のMS戦闘要素があります!めっちゃ、ふんだんに注ぎ込んだつもりです!

 

 


 

 

 

 

 日本は平和な国である………

 

 

 

 

 10年前の旧電波塔事件以来、大きな事件が起きなくなった……

 

 

 

 

 それこそ、とある組織がそうしていた。例え何が起きようと、誰が何をしようとしても、それは全ては消される。なかったことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 何故ならばこの国には裏から人々を守る少女たちがいるから……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今日も日本は平和……………のはずだった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京ーーーーーー街中

 午後22時過ぎ.....

 

 

 

 

 

 

『────今、カメラがその姿を捉えました!もはや、東京の街は壊滅状態となっております!』

 

 

 

 

 日本のテレビ局のヘリに乗ったアナウンサーが、慌ただしい様子で叫ぶ。

 

 ヘリが見下ろすその東京の街は、あっちこっち建物が崩れ落ち、炎が次々と崩れた建物へと燃え移る。市民は必死に逃げている。

 

 

『この惨劇は、正しく10年前の最期の事件、“旧電波塔テロ“事件以来です!一体、東京はどうなるのでしょうか!?そして、なぜ.....1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?』

 

 

 市民を避難場所まで誘導し続ける警察と炎を必死に消化し続けている消防隊。その中、新たな平和の戦車であるはずの『10式戦車改』が、突如として街中で暴れ回っている。その光景を撮影し続ける取材陣は、心が慄きに震えるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドド……!! ドンッ、ドンッ、ドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォン!! ドォォォォンッ────!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃声と爆音のワルツ。さらに咲き誇る炎の花と、空に立ち上る火柱。

 

 10年間平和へ平凡な日常が続いていた日本の東京の街は、轟音と共に銃弾や砲弾に穿たれ、地響きを立てて崩壊していく。家やビルなども炎に包まれ、跡形もなく吹き飛んでいく。10式改は進み続けるほど、街の破壊がさらに増え続く....

 

 

 

 

『げ、現在の所。情報によれば、10式改にはなんらかのコンピュータウィルスに侵されてしまい、制御不能────』

 

 

 そしてこの光景は、ニュースによって全国に中継された。もちろん、後に全世界にも....

 

 

『この行為に対しても、自衛隊は今の所到着しておりません!い、一体!いつ来るのでしょうか!?そして、政府は一体何を考え────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜10式戦車改の操縦席〜

 

 

 

 

 

「ハハハハハハ!!!コイツはスゲーぜ!本当にコイツだけで街丸ごと破壊できるぞ!」

 

 

 

 10式改の操縦席に座っている金髪の傭兵の男、ベネット。街が崩れたり、燃えたりする所を見て大笑いをする。彼こそ、10式改を動かした原因であり。今、東京の街中で操縦しながら暴れている。10式改の武装…ガトリングやランチャーなどを使い、街を一瞬で火の海にした。

 

 

 

 大型戦車の強奪作戦に参加していた傭兵部隊の全員は、それぞれ理由がある。家族を養う為、恋人の病気を治す為の治療費、自分の子に渡すプレゼント……などなど、それぞれ家族と繋がりを持つ理由があった。だが、この男、()()()()だけは違う………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ベネット・キャッシー〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつてこの男は元アメリカ軍人の1人で、当時の階級は大尉。バルベルデの革命の際にも活躍した……だが、彼には銃を乱射する気持ちと殺しを楽しむ残忍な性格があった。そんなある日、指揮官の指示を無視し、降参した敵兵を容赦なく殺し……女、子供も殺した。その為、軍隊は彼をこれ以上軍にいさせてわならないと、作戦から追い出された。また後にクビになったという経歴を持っていた。

 

 

 そんな軍隊を追い出されたベネットだったが、どうしても銃を使って暴れたいと、傭兵部隊に入ったのだ。そんな時だった。彼が傭兵部隊と共に自衛隊の基地に侵入した時、初めて10式改を見て……

 

 

『す、すげぇぇ!コイツはすげぇぞ!』

 

 今までに見た事がない装備を付けてある戦車を目にした。早速使って街で暴れたいと願っていたが、依頼主へ届ける任務だ、戦争を仕掛ける暇はないとリーダーに断られた為、仕方がなく従った。だが、廃工場での隠居生活が続き、彼にとってその日々は、とても退屈だった。だが、そんな今日噂のリコリスと戦えるだけで心が躍る………筈だったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っクソ!あのクソカボチャの野郎!アイツのせいで気分わりーんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れたカボチャ頭によって、邪魔された。ちなみに、ベネットがカボチャ頭に胸を撃たれたが、弾が非殺傷弾で死ぬ事はない。本来なら気絶するはずだったが、彼の身体の硬さのおかげで、今こうして気を失ってない。まだ撃たれた痛みはあるが……

 

 

 以来、ベネットは、そんなカボチャ頭を思い出しながら、ストレス解消の為、東京の街を暴れ回っている。

 

 

 

 

 

「………ハ、ハハハ!まぁ〜い〜や!今はコイツを乗るだけで最高だぜ!」

 

 

 

 と言いつつ、再び街中で暴れ回る10式改………だがこの時彼は知らなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………後に、後悔することを………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜東京の街で混乱が始まる数分前〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『千束!たきな!おいミカ!アイツら全く応答しないぞ!』

 

 何者かが、10式改を起動し街中で被害を起き続けている最中、これまでにない大ピンチに陥っている二人に慌て、クルミは通信越しにとあるビルの屋上で狙撃手として彼女達のサポートをしていたリコリコの店長……ミカに声を荒げ話し掛ける。

 

「あぁ、分かっている!(どうなっているんだ!?さっき突然千束への通信が不能。その次は、廃工場が崩れ落ちた際、10式改が動き出した!それに....さっき楠木から....)」

 

 っとここでミカは、ついさっき楠木との電話越しの話を思い出す。

 

 

『状況は、最悪ですね。10式改については、こちらで何とかしますので、そちらは千束達の安否の確認をお願いします。』

 

 

 街で暴れているだろう10式改も気になるが、今はそんな事を考えている場合ではない。そう考えたミカは、この状況に慌てており、同じく声を荒げながら通信機越しにミズキを呼ぶ。

 

「(今は、千束達の安全を!)....ミズキ!行けるか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わかった!今から行く!!」

 

 その連絡を貰ったミズキは瓦礫化した廃工場に目を向ける。彼女達の安否を急いで確認しに行こうっと車のエンジンをかける……が……

 

 

『ミズキ!クルミの情報だと、千束達は無z………ザーーーーー

 

 

「......えぇ、なんて!?もしもし!もしも〜し!」

 

 と突然、通信機からノイズ音が聞こえる。このタイミングで電波が悪くなったのか?と思ったミズキ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………....何、この音?」

 

 彼女の耳に、突如あり得ないものが聞こえてきた。まるで、()()()()()()()()()()()()()が聞こえた気がような……それにしても近い。そう思って一旦車から降りて、上を見上げると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()は、今起きていることと同じくらい、夢か?と疑いたくなるほど、この世のものとは思えない、異常なものだった。

 

 

 

 

「な……何なの………あれ……」

 

 

 

 

 

 

 するとその時、()()()()()()から離れた巨大な人型が、そのまま地上に落下した。

 

 

「何、今の………って!あそこには千束達が!」

 

 一体今自分は何を見たのか……そのあまりに現実離れした光景に一瞬呆けてしまうが、すぐに気持ちを切り替えた。彼女が目撃したそれが落下した場所は、千束達がいる廃工場だった。ミズキは何かヤバいと感じたのか、急いで車のエンジンをかけ、全速力で向かう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ミズキが()()を目撃するさらに数分前の事〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たきな〜そっちは?」

 

「ダメですね。さっきの瓦礫のせいで通信機が壊れてしまいました。」

 

「こっちもダメっすね。本部と連絡と取れないっす。」

 

 

 

 

 リコリコの仲間や本部に連絡を取ろうっとするリコリス。しかし、彼女達が持っている通信機が使えない。先の落下のせいで壊れてしまったようだ。ちなみに彼女達はスマホを持っているが、あいにく今日は任務の為、持ってきていなかった。

 

 

「いや〜〜〜しっかしすごいな私達!まさかあの落下から生きてこられるなんてさ!」

 

 

 っと、気軽に言う千束と…

 

 

「あぁ……流石に同意するぜ……」

 

 

 何故か、珍しく敵である彼女に同意する傭兵部隊のリーダー……

 

 

 

 

 突然の10式改の起動とガトリングの発砲により、瓦礫と共に落下した後……千束達や傭兵部隊も含め、運良く全員無事であった。怪我や服装もボロボロになってはいるが、それでもあの崩落から生きているって事は彼らにとって奇跡だと思っている。と言う事は………リコリス、傭兵部隊も無事なら……

 

 

 

 

 

 

 

「……で?結局キミは誰なのカボチャ君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 問い掛けて来る彼女に沈黙を続けながら、ポツンとパイプ椅子に座るカボチャ頭考える。あの落下の後、いつも間にか廃工場の中から拾ったのだろうパイプ椅子に座りながら、顎に手を当てる。一体何を考えているんだろうか…。

 

 

 

「ねー、そろそろ何か言ったら?いい加減だんまり止めて欲しいんだけど。」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 ……が、彼女の言葉を無視しているのか、全く返事をしない。

 

 

 

 

「ははは……なぁカボチャさんよ……俺にも聞かせてくれよ。アンタ何者なんだ?」

 

 

 今度は、もう何もかも諦めたかように、乾いた笑をしながらカボチャ頭に問いかける傭兵部隊のリーダー………だが、やはり何も喋ってくれない。

 

 

 

「う〜んそれは私も気になりますけどね〜傭兵さん。……っていうか、これからどうするの?」

 

「…………」

 

 とここで千束は、当相手をリーダーの方に変える。リーダーの手に小銃を持ってはいるが、すぐに捨てる。もう彼には千束達に向ける気はない。むしろ、起きている他の仲間や未だに気絶している者もいる。銃も所持しているが、撃つ力を持っていないだろう。

 

 

「……家に帰るさ。依頼は失敗、ヤキが回ったもんだ。」

 

「そっか。ね、和菓子好き? 今度、うちのお店に遊びにおいでよ。喫茶リコリコって言うんだけどさ、美味しーよぉー?」

 

「ちょ、おいバカ!?」

 

 

 いきなり本拠地をバラすという暴挙に、狼狽えるフキ。リーダーもまた同様であり、千束だけが得意満面で。それに釣られるように、リーダーの彼は苦笑いを浮かべる。

 

「変わった嬢ちゃんだな、本当に……気が向いたらな。」

 

「へへへ、良く言われますからね〜」

 

「……………本当だな、ベネットと違って羨ましいぜ。」

 

「ん?ベネット?」

 

「あぁ………最近入ったばかりの新人だ。ほら、あのカボチャ頭のショットガンで胸を撃たれた金髪頭だ。」

 

「金髪………あ〜〜あの体が大きい人?」

 

「そうだ……非殺傷弾だっけ?あれじゃ流石のベネットでも気絶しねーぜ。それによ……あのバカでけー戦車を動かしたのは多分アイツかもしれない。」

 

「「「「…っ!」」」」

 

 リーダーの口から聞いたリコリス達は、驚きを隠せなかった。確かによくよく思い出したら、崩れ落ちる廃工場から連れてこられた傭兵部隊の数には一人足りなかった。まさかだとは思ったが、とりあえずわかった事はその10式改には金髪の傭兵、ベネットが操作している事だけである。

 

「アイツはあー見えて、戦争好きな馬鹿だ。もしかしたら、今ごろ街中で戦車を使って暴れているかもしれない。」

 

「…っ!たきな!ミズキに連絡を…「通信機は使えませんよ!」……あ〜〜〜そうだったわ!」

 

 一刻も早く、10式改を止める為にミズキを呼ぼうとするが、たきなが言ってた通り、通話できる物はない。先の瓦礫によって壊されてしまい、今は何もできない状況である。

 

「せ、先輩どうします!?このままじゃ、今頃街は壊滅っすよ!?」

 

「んな事はわかっているよ!けど、ここから走って向かっても間に合わないぞ!」

 

 一体どうすればいいんだと考え込むリコリス………そんな中………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カボチャ頭(蒼夜)はっというと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(え〜〜〜〜っと、つまり今僕の目の前にいるオッサン達は本物の傭兵で……そんで千束さんとたきなさん。そして名前の知らない二人の女子高生は、リコリスって組織………か。)」

 

 

 椅子に座っている蒼夜は、内心で再び状況を整理している。10式改が動き出した後、瓦礫っと共に落下したが、彼も運良く助かったのだ。幸いにも、カボチャのマスクが破れていない事はありがたいが、ここで彼は何かがおかしいっとようやく気づいたのだ……

 

 傭兵部隊、謎の女子高生の正体、そして何故かここに自衛隊の新兵器が隠している事……彼は、ようやく全てを理解できたのだ……

 

 

「(じゃ〜〜これって映画やドラマの撮影でも無く……ガチって事か……なるほど、なるほど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、分かるかぁ!?)」

 

 

 

 

 

 ………前言撤回、やはり暁月蒼夜はまだ理解していなかったのようだ。

 

 

「(いやいやいやちょっと待て!そもそもなんで自衛隊の戦車が傭兵に盗まれてんの!?全然ニュースに載ってなかったんじゃん!?というか、何なのリコリスって!もしかして千束さん達の事かな!?)」

 

 ※正解。ちなみに蒼夜は、この時まだリコリスについて分かっていない。

 

「(な、何なのあの子達!?ただの女子高生かと思ったら、まさかの普通に銃を持っているし!と言うかここ日本だよね!?何なの、暗◯教室かなにかなの!?)」

 

 っとこのように内心でパニックを起こしている蒼夜だが、彼はすぐに気持ちを切り替わる。

 

「(…………ってかちょっと待て!さっきちらっと聞いちゃったけど、今あの戦車が街で暴れ回っているって言ってなかった!もしかして何だけど、僕が邪魔したせいで起動させたのかな!?)」

 

 自分が乱入したせいで、10式改を誰かが起動し、街で暴れ回っているのでは無いだろうか。…と責任感を感じる蒼夜。

 

「(ど、どどどどどうしようマジで!け、警察を……いやダメだ!あのデカさじゃ、止められないどころか、対応できる相手じゃない!それに一瞬チラッと見えたけど、所々にガトリングやミサイルも付いているぞ!自衛隊なら………ダメだ、遅かれ早かれ、今ごろ街で暴れ回っているはずだ!)」

 

 数々のMSを開発した彼なら分かる。相手はMSでは無いが、たとえ自衛隊が対処しても、機能が停止するまで被害を起こし続けるだろう。もしも自衛隊が現場に到着するのが遅かったら、東京の街半分以上は大惨事になる。それに……たとえ現場に到着しても、相手は25m〜26mの完全武装の巨大戦車。相手にできるかどうか…

 

 

「(あ〜〜〜〜〜マジでどうするんだ〜〜〜……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………あ。)」

 

 

 

 っとここで蒼夜は、ある方法を閃いた。

 

 

「(ーーーーーいや………でも……)」

 

 

 だがしかし、少々彼には迷いがあった。こんな事をすれば、絶対に自分を狙われてくるだろう………だが……

 

 

「(ーーーーー考えている時間はない!今は……)」

 

 

 すぐに迷いを捨てた蒼夜。もはや考えている時間はない。それに自分が介入してきたせいで被害を起こしてしまったなのかも知れない……それならせめて、人々を多く助けたい。っと未だに責任感を感じる彼。

 

 

「(はぁ〜〜〜こんな事もあろうかと思って()()()()()()()()()()んだけど……まさか本当に必要になってくるとはな……)」

 

 

 もしもの為にあれを用意してくれと廃工場の中に侵入する前、事前にハローズに伝えた。()()()()()()()()()使()()()()()()()と思ったが、まさかあれが必要になってくる日が来るとは、今日まで想像できなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ーーーーーハァァ…………明日、ゼッテーに初日でバイト遅れるな………)」

 

 

 と、ため息と共に、パイプ椅子から立ち上がる彼……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?どうしたのカボチャ君?」

 

 椅子から立ち上がるカボチャ頭。それに気づいた千束は声をかける....が、やはり何も喋らない。

 

 

 

 

ーーーーーその時………

 

 

 

 

「………何か聞こえませんか?」

 

「たきな?…………何が?」

 

「何というか………()()()のような……」

 

「え?戦闘機………そういえばさっきから音が聞こえt……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として、上空から轟音が響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「っっっ!!!!????」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千束達の身に降りかかった出来事を他人事のようにそう思ったのはそれは突然すぎたからだ。先の事を考える間もなく、その原因が全貌を現す。

 

 

 

 

 

「……………え?」

 

 

 

「な……………何ですか………あれ?」

 

 

 

 

 その姿を見て、2人は思わず呟いた。彼女だけではない、他の者も驚きを隠せなかった。まず判ったのは()()()()()()()()。数字に直すと20m以上と言ったところ。次に肩や膝、胸は分厚かった。いや、分厚いと言うよりも異形と言った方が正しく、それらの部分は大きく張り出し、どう視ても『人間がアイア◯マンスーツを着けている』と言った形をしておらず、深く鮮やかな白と黒に染められいる。そして人型だと判ったのは、形そのもの。

 

 だが、『ソレ』を人と認識する事は出来ない。何故なら、各部の人間にとって関節と呼べる場所は、大きさに関しては、人間サイズをしておらず、今とっている跪くような体勢から見える継ぎ目がそれを強く主張している。

 

 頭部をよく見れば、幾つものプレートを取り付けたヘルメットと言った形で、額にはVの字を左右に大きく広げた黄色いブレードアンテナが有り、口と呼べる部分は鋭角なマスク型にその顎下に赤い飾りが、目は切れ長な二つのセンサーアイが人間のように並びクリアグリーンに発光している。全身は金属なのであろう質感をしており、所々から聞こえるエンジン音が薄く舞い 静かな駆動音が響いている。

 

 そして、左肩や盾には、()()()()()()()()()()()()が付いている。

 

 

 統括すれば『ソレ』は人型ロボット。それもSF世界から持ってきたような、現実に有る物から大きく逸脱した外観で、そんなあり得ない物に意識を持っていかれた千束達……

 

 

 

「な…………なんだよ………あれ……」

 

「ろ……ロボっすよ!……あれ完全に!」

 

「ロボ………だと?………だとしてもデカすぎだろ!?」

 

 

 

 突如として現れた巨大な人型ロボット……それ見て、その場で座り込む者も、興奮状態になる者もいるだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RXー93 νガンダム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい!また別の何かが降りてきたぞ!?しかも今度は……ひ、飛行機?」

 

 

 

 巨人……νガンダムを目にした後、更にそこへ新たな巨大な飛行物体……ベースジャバーが、ゆっくりと地上に降りた。νガンダムの近くに着地し、この場にいる全員の時間が止まる。ついさっきまでリコリス達を殲滅しようと動いていた傭兵部隊が、それを打開しようとしていたリコリス達が、足を止め、目が裂けんばかりに見張り凝視する。そんな中、νガンダムはカボチャ頭の前に膝立ちをする。

 

 

 そして、νガンダムは右手を彼の前に出し、コックピットを開ける。カボチャ頭は、そんな驚く様子もなく、ただ右手の上に乗る。そして、手の上に乗っている事を確認したのか、νガンダムはそのまま彼を手に乗せながら、コックピットへ近づける……それを見た者は………

 

 

「…………ちょっと待って……まさかこのロボットってお前の!?」

 

「「「「………えっ!?」」」」

 

 っと、フキの声を聞いた者達は驚きを隠せない。だが、彼女の問いにも答えないどころか、気にせずコックピットの中にに入ろうっとした……その時……

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーね、ねぇちょっと待ってカボチャ君!」

 

 

 

 

 

 それは自分に言ったのだろうが、他の者達にも聞こえる声量だったのと当事者である事が本人達に突き刺さり、手を止めた。後ろを振り返ると、彼を呼び止めたのは千束だった。

 

「もしかして………止めに行くんだよね!あの戦車を!」

 

「……」

 

「だったらさ………お願いがあるの!どうか、街の皆を助けて欲しいの!めちゃくちゃわがままだけどさ……今の私達じゃ、止められない気がするんだ!」

 

「……」

 

「だから………お願い!皆を助けて!」

 

「……」

 

「あの………私からもお願いします!」

 

「!……たきな……」

 

「お願いします!言い方が悪いとは思いますが、そのロボットなら、あの戦車を止められるかも知れません……だから、お願いします!どうか街の皆を救ってください!」

 

「……」

 

 突然、お願いされた千束と頭を下げるたきな。そんな彼女達を見た彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。突如何も言い返せずに入ったのかっと、今一どう対応していいか判らずおっかなびっくりになる千束とたきな。そんな時、νガンダムは再び動き出そうとする……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もちろん、そのつもりだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とコックピットで内心ではなく言葉を出す蒼夜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオォォォォォォォォォ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 再びベースジャバーに乗ったνガンダム。サブフライトシステム(通称:SFS)が何の問題もなく通常通りに作動している事で、戦闘機のようにその場から一瞬で姿を消した。止める間もなく飛んで行ってしまい、もはや千束達は、眺めるしか無かった───

 

 

「あっ………」

 

「行っちゃった……」

 

 その様子を見ていた2人は少し経った後、体の力が抜けたようにその場に座り込んだ。

 

「ねぇたきな………今の全部、夢だったのかな……?」

 

「私もそうだと思いたいですよ………ただ、この状況を見て、ぜーんぶ現実なんだって認識させられてます。」

 

「いや、夢じゃねーだろ………これ……」

 

 この場に残っている者達の目の前には、すでにほぼ大半が崩れ落ちた円柱とその瓦礫。今起こったことは全て現実だと否が応でも認識させていた。

 

「(あれ………さっきカボチャ君が乗っているロボットが向かった先って……)」

 

 

 

 

…………すると……

 

「千束ーー!たきなーー!」

 

 奥から2人を呼ぶ声が聞こえ、振り向くと赤い車が走ってきた。その奥から、車を運転しながら必死に彼女達の前へ到着しようっとするミズキだった。

 

「千束!たきな!大丈b…「ミズキ、ナイスタイミング!!」……へぇ?」

 

「ミズキさん!今から東京の街で被害が起きている所へ向かってください!」

 

「ちょ、ちょっと待って!ついさっきまで連絡できてなかったんだよ!せめてなんか言う事あr「「いいから早く!!!」」……あ〜〜〜わかったわかった!」

 

「ほら!フキとサクラも!」

 

「はぁ!?なんで私が行かn…………あ〜んもう!行くぞサクラ!」

 

「えぇ!?ちょ、先輩!この傭兵達はどうするんっすか!?ちょっと先輩!」

 

 理由も告げず、ミズキに東京の街で被害が起きている場所へ向かいたいと頼む千束とたきな。そんな彼女達と同じように車に乗るフキとサクラ。

 

「あ〜〜〜もう!理由はしっかり聞いてもらうからね!とりあえず出発するよ!」

 

 と、全速力で街へ向かう千束達…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…………リーダー、俺達は……」

 

「……………とりあえず、兄弟(ブラザー)達の様子を見てくれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!はぁ!はぁ!ほら、早く!」

 

「う〜〜〜もう無理だよ……走れないよ〜〜」

 

 

 

 

 現在、東京の街は壊滅状態。街は崩れ落ち、当たり所々に炎が移る。そんな中、小さな兄妹が走っていた。

 

 

 

 少女は駆けていた。必死の思いで駆けていた。どこを向いても崩れる建物、がむしゃらに駆け抜けていく。そのために既に足は痛みを通り越してじんじんと痺れているような感覚が走っている。

 

「はぁはぁっ」

 

 それでもなお、小さな兄妹は駆けていた。

 

「はぁはぁ…父さん!」

 

 –––何のために。

 

 死の恐怖から逃れるためだ。

 

 街中で暴れ回る10式改、周囲から聞こえる爆発音。それらに巻き込まれれば身体など簡単にバラバラになるだろう。死ななくても肉体は抉られ、激しい痛みに襲われる。目もくらむような恐怖。

 

「あなた…」

 

「大丈夫だ!後もう少しで自衛隊の施設だ……急げ!」

 

 そして、その恐怖は少女に限らず一緒に街を駆ける両親、兄も共有しているものだ。頭上を通り過ぎた建物の落下物に怯える母親と焦りを覚えながらも必死に家族を励ます父親の姿、それを見て兄妹も震える足を懸命に動かす。

 

 肩にかけたバックが重い。息が苦しい。身体が、足が痛い。なぜ、こんなことになってしまったのか。どうして自分がこんな目に遭わなければいけないのか……

 

「はぁ…はぁ…」

 

「みんな、もう少しだよ!頑張って!」

 

 母が諦めそうになる自分を励ますようにそう言う。泣きそうになりながらも何とか気合いで走り続ける。

 

「あ、私のくまさん!」

 

 そうして、がむしゃらに走り続けていると何かが自分の鞄から落ちたような感覚を覚える。すかさず横目でそれを見れば、斜面を転がるように落ちていくピンク色の物体…自分の人形の姿が映った。

 

 幼少期から、ずっと大切にしていた熊の人形。その熊の人形は彼女にとって思い出が詰まっている大事なものだった。

 

「そんなのいいから!」

 

 無意識に身体が熊の人形を鳥に戻ろうっと向いてしまったが、そんな少女を引き戻したのは手を繋いでいた母親。馬鹿なことを考えている自覚はあるが、それに反して身体はなかなかその場を離れなかった。

 

「い、いや!私のくまさん!」

 

「お、おい!」

 

「っ!待ちなさい!」

 

 踏ん切りがつかない少女は、無理矢理母の手を離し、人形の元へ向かう。それを見て、いち早く彼女の元へ向かうのは兄だった。少女は、熊の人形を取り戻した事を見事な身のこなしだ。

 

「あ、あった!」

 

「おい!何やってんだ!早く父さん達の所へ戻るぞ!」

 

「う、うん!」

 

 迷惑をかけたという自覚は流石にある。この非常事態に自分の我儘を優先したことを詫びようとした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げてえええぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––兄妹の上空に何らかの影があるのを捉えた。

 

 それは、岩……否。それを見て兄妹の背筋が凍りつく。両親から見れば分かるだろう。兄妹の元へ落下してくる、建造物の一部が………

 

 

 

 

「「あ………」」

 

 

 

 兄妹はこの時、もう死んだっと思った。遠くから聞こえてくる両親の声。逃げろっと聞こえるが、この場から逃げるのは無理がある………そして、兄妹は瓦礫の下敷きに…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………え?」」

 

 

 

 

 ………なることは無かった。彼らは、生きていた。

 

 

 

 

 なぜ、生きていると思った兄妹は、目線を上に向けると………

 

 

 

 

 

 

 壁が…………いや。()()()()が崩れ落ちた瓦礫から自分達を護ってくれた。

 

 

 

 やがて、ゆっくりと手を動かし、二人はその手の正体を目撃する。

 

 

 

「「ーーーわぁ………」」

 

 

 

 そこには、巨大な人……ではなく。巨大なロボットが立っていた。まるで、SFアニメや特撮ヒーローに出てくるような見た目だ。そんなロボットを見た兄妹は、思わずボーっと見て、唖然とする。

 

 

 

「あぁぁ!!!よかった!無事だったね!」

 

 っと彼らの元に母親が駆け寄り、二人を抱きしめた。父親も涙目で、自分の息子と娘が無事である事を喜ぶ。

 

「さぁ!早くにg………っ!何あれ!?」

 

「わ、分からない……だけど今は避難所へ急ごう!」

 

 両親も思わず巨大ロボ………νガンダムに面喰らうが、今はそんな事を気にしている場合ではないと、兄妹の手を今度こそ離さず、避難所へ向かう。その中、兄妹は、自分達を助けてくれたνガンダムに目を離さず、ずっと見続けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らの目に映っているのは、まるで、この世界にヒーローがやってきたかのように見えていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

 先程まで焦りが故に、押し入れでパソコンを忙しなく動かしていたクルミが、突如驚きの声と共に装着していたVRゴーグルを勢いよく、まるで投げ捨てるかのように外した。

 

 その声を通信越しに聞きながら千束達の元へ向かうミカは、思わず足を止めた。

 

『どうしたクルミ!?何があった!?』

 

「わ、わかんない!なんか突然目の前がバグってて……!」

 

 VRゴーグルに映し出されていた目の前の画面が白黒の砂嵐で曇っていたということで、いわゆるコンピューターの何かしらのバグかと思った。クルミは、ミカの頼みでもう一つのドローンを東京の街に飛ばしていた。10式改の解析と、それをどう対処できる方法を探す事である。

 

『今、画面が映らなくなったぞ!?』

 

「わかってる!少し待ってろ!」

 

 当然、その映像をミカのスマホに接続した事で、彼にも観る事ができる。だが、突如映像が何らかのバクなのか、映像が映らなくなった。見当がつかず、その状況を確かめるために、パソコンのキーボードを軽く押すと、クルミはVRゴーグルを拾い上げる。それを自分の目に装着した。

 

 

 

 

 

「………何だ、あれは!?」

 

 

 

 

 

 先程のように、おそらく普通に見れているということだろう。だが、先程までの切迫した状況と異なり、呆然と、何かに驚いているようだった。

 

 それは、クルミにとって、今までに見せたことも、見たこともないその様を不思議に思った。とその時ミカのスマホの映像も復活し、ミカもそれを観ると……

 

 

 

 

 

『…………なん……だと……?』

 

 

 

 

 

 

 ミカもまた、クルミと同じく、映し出されている何かを見て呆然としている。

 

 だが、2人が同様のリアクションを取って驚くのも無理はない。

 

 

 画面に映っていたのは、先程までの10式戦車改………ではなく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────その戦車と同じくらいの大きさの、人型の存在(νガンダム)が街中に立っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜同時刻〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…………なんだお前?」

 

 

 

 10式改を使って、街中で暴れ回るベネットも驚きを隠せなかった。彼の目の前、上空で待機しているベースジャバーから地上に降りた巨大ロボ……νガンダムが立っていた。その目線からは、自分の事を………そして10式改も同様、敵だと思っているだろう……

 

 

 

『……はっ!まさかまた新兵器か!あぁ〜ん!?』

 

 

 だが、ベネットは怖気ずく事なく、スピーカー越しでいつものように暴言を吐く。しかし、νガンダムは、返事をしない。それに、ここへ到着した後、一言も喋っていない……

 

 

『それによ何だよその見た目!ヒーロー気取りのつもりかあ〜ん!?』

 

『………』

 

『……だんまりかよ……まぁ〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶっ壊すけどなぁ〜〜〜!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドドドドド!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 っと、警戒もせず、いきなりνガンダムに向けてガトリングガンを連射し続けるベネット。連射している最中、ドンドン煙が舞い上がる。とここでνガンダムに向かって更に挑発するベネット。

 

 

 

『ハハハハ!!!どうだヒーローさんよ!おたくのボディがボロボロになってんじゃねーのか!?』

 

 

 本来、現代の兵器において、攻撃用兵器の進化に装甲材等の進化が追い付いていないというのは、ある種の常識である。中の操縦席に座っている人間に致命傷を負わせれないように設計されてきているのだ。それこそ出てきた10式戦車改は、絶対的な装甲と圧倒的な砲弾によって無敵の存在として君臨していたが、すぐ現代でも戦車は陸上戦力として極めて強力な兵器だが、無敵ではなく、状況や対処次第では十分に破壊可能な兵器であるというのが常識である。

 

 当然、目の前に立っているνガンダムの装甲など、ベニヤ板の様なものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、ガトリングの弾丸が無くなり、リロードする。その際、舞い上がる煙が徐々に消えてゆく……

 

 

 

『さぁ〜〜ボロボロになった姿を見せてくれ………………

 

 

 

 

 

 

 

 ……は?』

 

 

 

 

 

 だが、νガンダムの姿を見たベネットは信じられなかった。普通なら、どこかが凹むや穴が空くはず……

 

 

 

 

 

 

 そう、普通ではなら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金属と金属の衝突音、普通ならば100回はミンチにしてあり余る一斉射の嵐は10秒以上続いたが、最初の予想と裏腹に損傷どころか掠り傷すら付かない『ソレ』を目にした。

 

 

 

 

『う、嘘だろ………』

 

 

 

 

 

 

 νガンダムに()()()()()()()()()()()()()()()()()。完全に無傷である。

 

 

「(な、なんで無傷なんだよ!?あれだけ撃ったんだぞ!)」

 

 

 驚くのも無理はない……なぜなら、10式改が使っている装甲材とは違って、νガンダムの装甲材は特別であり、()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

 

 

“ガンダリウム合金“

 

 

 

 

 それは、「ガンダムシリーズ」作品に登場する架空の物質。おもにモビルスーツ (MS) などの装甲材として用いられる。軽量かつ高い剛性・耐熱性・耐融性をもち、放射線を遮断する磁性を帯びた素材であるものの、金属として硬すぎる特性をもっている。

 

 先ほど使ったガトリングの弾丸は、普通の戦車が使う“12.7mm重機関銃M2”と変わらない。つまり、何発撃っても穴を開けることも、傷を付ける事も不可能である。

 

 

 

 

 

『く、クソがッ!!で、デタラメだぁ!』

 

 

 だが、そんな現実(事実)を信じられないベネット。リロードはまだなのかと、ガトリングのリロード時間がかかっている事に腹が立ってきた。その時……

 

 

『よっし!もう少しでリロードが終わ……………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーバァーン!!!ー

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 νガンダムの頭部から発射された9()0()()()()()()()()()が、10式改ののガトリングを一つ撃ち抜いた……

 

 

 

『…っ!?』

 

 

 ヤバイっと思ったベネットは、すぐに反撃するが、既に遅かった……

 

 

 

 

 νガンダムは止まる事なくバルカンで、左、右、中心のガトリングを正確に全て撃ち抜き、使用不能にする。さらに次々と急所を撃ち抜き、全てのガトリングを撃ち落とす事ができた。

 

 

 

『な、何だよこれぇぇ!?』

 

 

 

 左右のガトリングが完全に破壊されたことに驚きを隠せないベネット。まさか、ここまで武装を破壊されてしまうなんて、考えもしなかった。そんな時、ベネットは声を荒げ、νガンダムに叫ぶ。

 

 

『お前、お前は一体……何なんだよ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう………とりあえず、一応何とかガトリングは片付けたな……」

 

 

 と、νガンダムのコックピットで一息吐く蒼夜。今、蒼夜はνガンダムに乗り、東京の街を暴れ回っている10式改と対面している。この三年間、MSの操縦訓練をしてきた甲斐があると思った。だが、いまだに彼は、()()している。

 

「油断するな……僕。これは、現実だ……」

 

 その通り……彼が今立っているのは、仮想空間ではない……本物の東京の街であり、本当の戦場(現実)でもある。

 

「本当は、()()()()()()()()()で早く終わらせたいけど……まぁ、あれは大気圏内じゃ使えないんだよね。一応威力の設定ができるビームライフルも使えるけど……あれじゃ逃げている人達に当たってしまう可能性もあるからなぁ………それに炎が多すぎる……」

 

 何か策を思いついたが、一旦それについて忘れ、視線を変え東京の街を眺める。はっきり言って、状況は最悪だ。炎は次々と崩れている建物へ移り、必死に逃げる一般市民……

 

「ハロ、聞こえるか?」

 

『聞コエテイルヨ!』

 

 そんな中、蒼夜は()()()()()()()()()()()ハローズの一体に通信を行う。

 

 

「後どのくらいで、到着する?」

 

『後、20秒デ到着!』

 

「よしっ!ならばできるだけ、多くの人々を避難させてあげて!できるだけ、多くの人を……いや、絶対に多くの人を助けて!それと、炎の消化もお願い!」

 

『『『『了解!了解!』』』』

 

 と、ハローズは蒼夜の言葉に従う。この時、警戒網を張っていた4機は、ハロの操縦により、νガンダムのバックアップを行うために、つかず離れずで追従していた。

 

「………さぁ〜って、もう少し頑張りますっか!」

 

 

 ハロ達に指示を出した蒼夜は、再び視線を10式改に向ける……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーDA司令部ーー

 

 

 

 

 

 

 

 10式改が東京の街を暴れるのを確認されてから、DA指令室は騒然としていた。

 

 オペレーターの矢継ぎ早の状況確認報告に、バックアップ部隊への対応、10式改の対策を行なっている。だが、いくら方法を探しても、次々へと街を破壊し続けている。絶望的であった。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーその時、あまりにも非現実的な光景がモニターに映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体、あれは何なのだ…?」

 

 

 

 街から遠く離れた上空から突如、()()()()()が姿を現したのだ。

 

 

 目視でおよそ20m以上、戦闘機の全長にも匹敵するその巨体は、あまりにも外連味にあふれていて、とても現実のものとは思えなかった。

 

 

 

 そのすべてがあまりに異質で、皆、職務を忘れ見入っていた。

 

 

 

 ーーだが、いち早く正気を取り戻したリコリス司令官、楠木が指示を飛ばす。

 

 

 

 

「各員、これよりあの人型をアンノウンと呼称する!アンノウン周辺にドローン4機を飛ばせ!情報収集を優先させろ!」

 

「りょ、了解!これよりアンノウンに対する情報収集行動を開始します!」

 

 慌ててオペレーターの一人が現場に指示を伝える。とにかくあれが何なのか、新たな脅威なのか、知らなくては……

 

 

 

 

 

 そしてすぐ、アンノウン(νガンダム)に動きがあった。

 

 

 

 

 

 

 高度を下げたかと思うと、一直線に街へと向かったのだ。とてもあの巨体が出せるとは思えない、驚異的なスピードで向かう……

 

 

 司令部に緊張が走る。アンノウンは右手を前に突き出し、まるで何かをつかみ取るかのように向かっている。

 

「ドローンを飛ばせ!状況を把握するんだ!」

 

「だ、ダメです!さっきからドローンが動きません!」

 

「映像が機能停止!何も見えません!」

 

「ら、ラジアータのシステム機能停止!原因不明です!」

 

「何!?」

 

 “ラジアータ”────DAにおいてリコリスの作戦をモニターする際に機密性を担っているAI。 すべてのインフラの優先権を持ち、作戦の全般をサポートする程の高性能。作戦に必要な通信能力、監視カメラ映像、データ収集などは容易く熟す。その気になれば、日本全ての情報を収集する事だってわけがない。

 

 それが、何故、突如としてシステムが機能しなくなったのか。その原因は、νガンダムから散布している()()()()()()()()にあったのだが、DAにはそれを知る由もない。

 

 ミノフスキー粒子はその特性によって機能を撹乱し、電子機器に影響を及ぼす効果を持っている。

 

 

「くっ、何でもいい!今は、復帰に尽力しろ!」

 

 現代の技術は、ミノフスキー粒子ほどの電波妨害にされる経験がない為、通信に受ける影響も著しい。未だにラジアータは動かない…

 

 彼らにとって原因不明の計器やシステムの異常は、これまで以上の混乱を生んだ。通信が出来なければ援護も呼べない。一体現場はどうなっているのかも確認できない。そのことが更に司令部を焦らせる。楠木は、これまでにないくらい驚きを隠せなかった。

 

 

 

「…っ!し、司令!映像だけなら何とかいけます!ですが、音声の復帰はまだ時間かかるかと……」

 

「構わん!映像だけでも出せ!」

 

 

 

 その時、何とかドローンの一機の映像だけを復帰することができた。

 

 

 

 

 

「映像、でます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——そこに移されていたのは、小さな子供達を落ちてきた瓦礫から救っている姿が映し出されていた。

 

「子供を救った……ならば、目的は何だ?」

 

 少なくとも、ここで更に被害を起こす姿も見当たらないと確認され、司令部の空気がほんの少し和らぐ。もちろん、アンノウン(νガンダム)の脅威は健在であり、依然として予断を許さない状況ではあるが。

 

 

 

 

 

 

ーーーそこからドローンが追いついたことにより、より詳細な姿が明らかになる。

 

 

 

 

 

 10式改と対面した途端、いきなりνガンダムに向けてガトリングガンを連射。しかし、いくら撃っても無傷である。再び攻撃しようとしたが、νガンダムの頭部に装備してあるバルカン砲で向かえ撃たれてしまい、逆に10式改の武装の多くが破壊されてしまった。

 

 この規格外な戦いを見れば、自分達はSF世界に迷い込んでしまったのではないかと、疑う者も多くいた。しかも、DAから見てνガンダムは、ハッキリ言ってオーバーテクノロジーであった。

 

 その光景を観た司令部は驚きを隠せない……

 

 

「(いったい、どこの組織があそこまでのものを造り上げたんだ……)」

 

 

 楠木がνガンダムへの視線を向け続ける中、状況は急変した。

 

 

「……っ!?し、司令!新たなアンノウンを確認!これは………上空からです!しかも……よ、()()!?」

 

「何っ!?.........映像を出せ!」

 

 また新たなアンノウンが出たのかっと疑う楠木は、すぐに映像を出すよう指示する。

 

「!!!………なん……だと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーー上空から突如現れた、()()()()()()()……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ベースジャバーから飛び降りるMS救助部隊……ジェガン

 

 

 

 

 

『サァ〜ッテ、皆!人命救助、頑張ロウ!』

 

『『『了解!了解!』』』

 

 

 

 その正体は、ハロ達であり……蒼夜の頼みによって、彼らは、市民の人命救助へ向かうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜本編登場MSオリジナル部隊〜

 

 

 

〜ジェガン救助部隊〜

 

 

 

 劇場版閃光のハサウェイにちらっと登場した、陸上型(救助用)ジェガン。パイロットは、ハローズであり、彼らは基地から遠隔操作で行っている。もちろん、操縦席には誰も乗っていない。

 

 

 背中には、消火器を背負っている。もちろん、救助用なので、戦闘向きではない。武装を所持しているが、持っているのは機能性の低い銃と数少ないミサイルだけ。

 

 

 どのような活躍するのかは、それは次回話のお楽しみに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 難しかった………戦闘要素を書くのがとんでもなく難しかった……


 この場面だけで、原作キャラや、名無しのキャラを書くだけなのに一週間くらい悩んだかもしれません。

 
 そんな訳で、次回、10式戦車改(ガンタンクもどき)戦、後編!







 ※ 次回話は、結構遅くに上げると思います。本当にすみません。



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Episode 6 ガンダム、現代社会に立つ!! 後編



ジェガンA「おい作者。」

作者「は、はい……」

ジェガンB「前回、俺たちの名前を“ジェンガ“って書き間違えたそうじゃね〜か?」

作者「い、いや〜〜ジェガンが何回タイプしてもジェンガになるし〜〜」

ジェガンA B「「言い訳は聞かん!」」

作者「え!?ちょま……ぎゃあぁぁぁ!!」












 いつも誤字・脱字報告、ありがとうございます!by.作者






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!こっちまだ火消えねーぞ!」

 

「消火器の補充はまだか!?これ以上燃え広がると、街が全部燃えちまうぞ!!」

 

「だ、駄目だ!こっちも限界だ!」

 

「クソッ!炎の勢いがどんどん増えてくる!これ以上は……」

 

 東京の街の現場に配備された消防隊が街から溢れ出てくる炎を消化し続けるものの、未だに現場の炎の勢いは止まらず、更に悲惨な現場っとなった。燃え盛り、消そうとしても中々消えない炎。煙に巻かれ、炎に焼かれ、倒壊した建物に押しつぶされる。

 

 

「要救助者を確保!!まだ息があるぞ!!至急担架用意しろ!!」

 

「おい!こっちの子も怪我がひどいぞ!」

 

「せ、先生!もう治療箱が残ってません!」

 

「何だと!?えぇ〜い、探せ!まだ治療する患者が沢山いるんだぞ!」

 

 

 一方、逃げ遅れた一般市民を救助するレスキュー隊。そして、建物の瓦礫や放火に紛れてしまった市民の治療をする救急隊。

 

 しかし、どんな人手も足りていない状況である為に、緊急速報を聞きつけて他の地方からの応援も駆けつけて来た救急隊やレスキュー隊もその救助活動に加わり、消火やレスキュー活動に加わっていた。

 

 

「皆さん!落ち着いて慌てずに避難してください!」

 

「あちらには、炎の勢いが増えています!絶対に近づかないでください!」

 

「お、おばちゃん!そっち危ないから!」

 

 

 消防隊、救急隊、そしてレスキュー隊だけでなく、現場にいる警察官も必死に市民の避難誘導をしている。警察官としての誇りを持って。だが、彼らにとってこの状況は、想像異常であり、炎の熱の暑さのせいで汗を流している。

 

 

 

阿部(あべ)刑事!こっちへの道が完全に塞がれています!」

 

「なにっ!?クソっ!消防隊はどうした!?」

 

「必死に消火し続けていますが、炎の勢いが強すぎて……」

 

「…っち、やっぱりダメか.....だったら他の道を探せ!」

 

「は、はい!」

 

 

 市民の避難誘導をしながら、若い警官にまた新たな指示を出す阿部。

 

 

 この男は押上警察署の刑事であり、喫茶『リコリコ』の常連客の一人でもある。

 

 そんな阿部は、なぜここに来たのか。それは、今から数時間前、自衛隊の最新の戦車、10式戦車改が街へ侵攻してくる………との()()を聞き、阿部や他の刑事と共に行動に出て、市民を避難誘導を始めた。

 

 

 だが、市民の避難誘導が上手く進まず、ついに10式改が街に侵攻してしまい、情報通り街中で暴れ始めた

 

 

 そこからは地獄だった。何の罪もない人がそこら中に転がり、運悪く炎余波を受けた者は、大怪我をする。延々と消えない忌々しい炎を食い止めながら、時には自分の足で動けない人々を運ぶ救助活動を行うも、始まってからもう一時間以上経っている。

 

 

 だが、もう一つ驚く事があった……それは……

 

 

 

 

「あ、阿部さん……あれは一体何なんですか?」

 

「分からん……少なくとも、これは夢じゃねーって事が分かった…」

 

 

 

 

 

 突如として、やって来た巨大人型ロボ(νガンダム)……

 

 

 

 

 

 

 それは、阿部だけでなく他の者達も目を奪われる。まるで、アニメや特撮番組、SF世界に入ってきたのかっと疑うしかない。

 

 

 目撃した人々の中には、スマホを使って撮影している者もいるのだが、今そんな事をしている暇はない。

 

 

 

「……あ、阿部刑事!!大変です!」

 

「どうした!?」

 

「別の建物が崩れてしまい、避難する場所がありません!完全に囲まれてしまいます!」

 

「クッ!思ったより、火の勢いが止まらんな……すぐに探せ!後、他の市民の方の救助も忘れるな!多くの人々を助けるんだぞ!」

 

「は、はい!!」

 

「お、おい……このままじゃ、俺達も……」

 

「弱音を吐くな馬鹿野郎!!それでも警察官か!」

 

 

 

 明らかな劣勢であったが、彼らにも引けない理由があった。

 

 それは、一般市民の安心安全を最優先にすること。だが、他の建物が崩れ落ち、炎の勢いが進んでいる為に、彼らがこうして作業を止まらずに行い続けなければ、今避難を行っている市民に被害が出てしまう。

 

 こうした事情により、周りに集まる炎の勢いに押され、既に受けていながらも彼らは引くに引けなかった。

 

 さらにもう一つの問題もあった。

 

 

「(クソ!さっきから無線機が使えねぇ........なんでだ!?)」

 

 刑事課、消防隊、救急隊などがが持つ無線機が突如繋がらなくなってしまった。その為、情報を伝えるには、自分の足で行かなければならない。

 

 

「(増援は……自衛隊はまだなのか!?)」

 

 

 

 

 

 未だに自衛隊は来ない…………その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい………何だよあれ……」

 

 

 っと、若い警官が空を見上げて言う……

 

 

「どうした!?自衛隊のヘリが来たのか!?」

 

「ち、違います………あれは……ヘリなんかじゃない……」

 

「あ!?お前、こんな時に冗談を言っている場合じゃ…………な、何じゃあれ!?」

 

 阿部も空を見上げると……何かがこっちに降ってくる。

 

 

 

 

 

 

 ーーーその正体は、四体の緑の巨大ロボ(ジェガン)

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、相当な高さが有るにも関わらず、重力を無視したかのようにフワリと着地し、早速動き始めた。大きさは、さっき見えた謎の巨大ロボっと同じだろうか。だが、突然っとやって来たから人々から見れば驚くだろう。

 

 

 

 

「あ、阿部さん!今度は別のロボがやって来ましたよ!しかも、あんなに近く..........本当に何なんですかあれ!?」

 

「し、知らん!俺だって聞きてーよ!」

 

 阿部と後輩の刑事もパニックになる。だがこの後、四体の緑の巨人が何かをやっているのをすぐに分かる…

 

「アイツら………一体何する気なんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

『皆!準備ハ、デキタ?』

 

『『『デキタ!デキタ!』』』

 

『ヨ〜〜〜シ!早速、人命救助開始!』

 

『『『オ〜〜〜!』』』

 

 

 蒼夜の指示で被害現場に到着し、ベースジャバーから地上に降りた四体のジェガン。操縦しているのはハロ達であり、地下の基地から遠隔操作を行っている。

 

 通信越しで呼びかけ合うハロ達は、掛け声と共にそれぞれの役割を持って早速行動にかかる。ちなみに通信機能で呼びかけているので、外部の者には彼らの声が聞こえない。

 

 

 

 

 

 

「クソ!火の勢いが………って!隊長あれ!」

 

「あん!?どうしt…な、なんだ!?」

 

 

 炎を必死に消火している消防隊の元に一体のジェガンが近づて来る。消防隊は突然こっちに近づいてきたジェガンに驚く。

 

 

『消火開始!消火開始!』

 

 

 そんな彼らの驚きを無視し、ジェガンは背中に背よっている消火剤タンクから放水銃を取り出し、タンクの中からホース内に流れてくる水を放水して、一気に炎を消火する。さっきまで勢いに押されていた炎が、ドンドン消えて行く…

 

「す、すげえ……」

 

 その光景を見て、思わず手を止めてしまう消防士達。

 

 

「頑張れー!もう少しだ!」

 

「クソ、だめだ!重すぎる!」

 

 

 また、別の場所で建物の下敷きになってしまった女性を救助するレスキュー隊。しかし、建造物の重さのせいでなかなか救助するのが困難である。しかも、さっきからひび割れ音が聞こえる……いつ崩れるのかも分からない。

 

 

「く……って、何だあれ!?」

 

 

 そんな時、もう一体のジェガンが、突如として現れる。そしてすぐ背中から2本のアームを出し、女性が下敷きになった建物を崩さず、揺らす事もなく、ゆっくりとアームと共に両手で持ち上げる。

 

「!よ、要救助者を確保!」

 

「急げ!まだ助かる!」

 

 ジェガンが持ち上げたおかげで、レスキュー隊はすぐに女性を救助する事がでる。怪我はしているが、女性は無事に助け出す事ができた。

 

 

 その後もジェガンは、アームを使い、他にも建物の中に閉じ込められた人はいないのかを探しながら、作業をし続ける。

 

 

 

 

「おい!こっちの道が塞がれているぞ!」

 

「だめだ!こっちm……ってうぉ!?」

 

 

 他に避難する道を探そうとする警官達。だが、崩壊された建物が邪魔で通る事ができない。そんな時、三体目のジェガンが近づいてくる。すると、スコップの様な物を取り出し、崩壊した建造物を掘り上げる。

 

「何をして…っ!まさか、道を作っているのか!?」

 

 ジェガンがスコップを使い、多くの人々が通れる道を作る事ができた。他の建物がこっちに流れて来ないよう、作業し続けるジェガン。

 

 

 

 

 

「せ、先生!もう医療キットが一つもありません!」

 

「もう、これ以上は……」

 

「何を言っているんだ!まだ怪我している人が沢山いるんだぞ!」

 

 

 別の場所では、大怪我をしている市民の治療をしている救急隊。だが、あまりにも治療を受ける重症者が多すぎる。やがて、医療キットが減っていく中、ついに予備のキットも使い切れてしまった。

 

 

「また重傷者が見つかった……この子を、今すぐ病院に運んでくれ!!」

 

「駄目だ……輸送ヘリが来ない!!このままじゃ、手遅れに……」

 

 とそこに額に十字架のマークが付いているジェガンが近づいてくる。突然現れたことに驚きを隠せなかった救急隊の前に膝立ちをし、両肩と背中のバックパックから数体の四足歩行の無人機ロボットが飛び出てくる。

 

「な、何だあれ!?」

 

 数体のロボットが救助隊の前に近づき、箱を物を置いた。救助隊の一人が、その箱を恐る恐る開けると…

 

「こ、これは……医療キット!」

 

 箱の中には、大量の医療キットが入ってあった。しかも箱一つだけでなく、二、三個…否、それ以上の量がある。それだけでなく、酸素ボンベや薬品まで……更に手術する道具も入ってある。まるで「好きに使ってくれ。」と言っているような、言いたげな感じ。

 

 だが、それだけでは無い。まだ治療されていない人々の近くに寄ると、ロボットの体からアームが生え、治療を行い始めた。これも、流石の救急隊も驚きを隠せなかった。

 

「(あのロボット……治療をしているのか!?それに……一体これだけの量の医療をどうやって……いや、今は!)皆!箱の中身を使って、治療の続きをやるんだ!」

 

「で、ですか……これは流石に怪しいかと…」

 

「今はそんなことを言っている場合ではない!とにかく使うんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

「アイツら……まさか人命救助をしているのか……?」

 

 

 と、阿部は信じられない光景を目にする。突然やって来た緑の巨大ロボ、一体なのをするつもりなんだっとさっきまで警戒はしていたが、まさか人命救助しているなんて思わなかっただろう。

 

 よく見れば、こっちに襲ってくる様子もない。むしろ、本当に自分達の事を助けているんじゃないのか………だが、本当に信じていいのだろうか…

 

「あ、阿部刑事……我々はどうすればいいのでしょうか!?」

 

「こっちに襲って来ません……もしかして味方なのでしょうか!」

 

「そんな訳無いだろこのバカ!どう考えても怪しいだろ!」

 

 

 

ーーどうすればいいのか困惑する者

 

ーー彼らは味方だ!と信じる者

 

ーーそして、信用しない者

 

 

 

 などなど、様々な考えを持つ彼らの中、阿部は…

 

 

「(味方か、敵か……こいつらを信じていいのか……)」

 

 

 阿部も疑問を持つが、いくら考えても人命救助をしているジェガン達は答えてくれないだろう。そこで阿部は、一つの決断を下した…

 

 

「(いや、今は……)お前ら、今から他の隊達にも伝えろ!今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!残っている市民の避難誘導を続けろ!」

 

「えぇ!?し、しかし阿部刑事!上層部に連絡しなけr…」

 

「うるせぇ!!そんな事をしている場合ではねーだろ!」

 

「しかし!本当にあのロボットを信用してもよろしいのですか!?」

 

「ここで焼け死ぬよりマシだ!安心しろ、()()なら後でいくらでも取ってやるさ!だからさっさと伝達してこい!」

 

「「は、はい!!!」」

 

 阿部の指示に従った警官達は、急いで伝達しに向かった。

 

「頼むぜ……お前ら。今の俺はアンタらが味方だって思ってるよ!」

 

 と、彼らが味方である事を祈り、彼も人命救助へ向かおうと足を動かす…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜同時刻〜

 

 

 

 

 

「………ねぇ〜たきなさん……やっぱりこれって夢だよね。」

 

「千束…残念ながら夢ではありません…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い車に乗る彼女達………リコリスが、街に到着する前の話をしよう……

 

 

 街へ向かっている最中……電波の回線が一時的に復帰し、スマホで現場の生中継を行っているニュース番組を観ていた…

 

 

 それは……映像から見る限り、彼女達からとしては言葉が出なかった。

 

 ………映像は、街の中に進行した10式改がガトリングと砲で攻撃し、次々と街中の建物を破壊し続けている。実はこの惨劇が来る前、DAが事前に裏で報告をし、避難誘導を進ませたっとミズキが教えてくれたが……完全にできなかった…

 

 その目で見えたのは……地獄だった。昨日まであったはずの建物は崩れ落ちてしまい、所々から溢れ出てくる炎の海。平和だった東京の街が、消えてしまった…

 

 やがてテレビ画面の外側から聞こえてくる悲痛な叫び声と、人々の困惑と混乱・・・・・・そこで映像は途切れたまま再開することなく終わっていた……

 

 この時、呻くような吐息が、彼女達の口から僅かに漏れる音を運転をするミズキは聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 だが、そんな時に……街についた途端、信じられない光景を目にする…

 

 

「先輩……自衛隊に人命救助ロボットってありましたっけ?」

 

「ーーーーいや……聞いた事ねぇ……」

 

 

 

 

 それは、人命救助活動をしてるジェガン達…

 

 

 

 

 

「…………なにこれ?ここってSF世界だっけ……つーか、さっき私が見ていたあのでかいロボットの他にもまだいたの!?」

 

 

 

 

 と、車の運転席にいるミズキも驚きを隠せなかった。

 

 

 ーーーーそんな時…

 

 

 

「…っ!千束、あれ!」

 

 

 

 たきなが何かを発見し、その方向に指を刺す。彼女達も彼女の声に反応し、視線を向ける。そこには……

 

 

 

 

 

 

 10式改と対面で戦っている、νガンダムである……

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!ミズキ、あそこまで運転できる!?」

 

 νガンダムの姿を確認した千束はミズキに再び運転を任せたいっと頼んだが…

 

「ーーーはぁ!?ちょっと待って、まさかあそこまで行くつもり!?無理無理!ここから結構遠いんだよ!そもそも行ったって、車で通れる道がもう無いんだからね!」

 

「じゃー……私行ってくる!」

 

「えっ!?ちょ、ちs「私も行ってきます!」…た、たきなまで!?」

 

 ミズキの言葉に耳を貸さず車から降り、νガンダムの方へ向かう千束と彼女を追うたきな。

 

「おい!待て!」

 

「ちょ、待ってくださいよ先輩!」

 

 フキとサクラも車から降り、彼女達を追うことになった。

 

「はぁ!?アンタ達まで〜〜!………あ〜〜〜もう!待ちなさいってば!」

 

 そして、ミズキも追う事になった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、νガンダムのコックピット内で10式改の様子を見る蒼夜は…

 

 

「ハロ……そっちはどう?」

 

『避難完了!避難完了!』

 

『コッチモ、避難完了!』

 

『消火モ問題無シ!』

 

『イツデモOKダヨ!』

 

「よし、ありがとうハローズ!(これなら……ビーム・ライフルを使える!)」

 

 通信から聞こえるハロ達から、全ての一般市民の避難完了の知らせを知った蒼夜は、目の前の敵…10式戦車改に再び視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

「(自衛隊の皆さんには申し訳ないけど………今から破壊させてもらいます!)」

 

 

 

 

 これ以上、被害を増やさない為にも……10式改を完全破壊しようと決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(な、なんなんだよアイツ!?)」

 

 

 一方、無傷であるνガンダムと比べて、装甲や武装が完全にボロボロの姿になってしまった10式改。その操縦席に座る…ベネットは、焦りを感じる…

 

 

『(く、くそ……なんで俺がこんな奴に...!)…お、おい!いい加減に黙らねーで!喋ったらどうなんだ!?』

 

 

 外部スピーカーを入れて叫ぶベネット。だが、やはりνガンダムは何も喋ってくれない。

 

『(クッソ!なんで喋らねーんだよコイツ………ん?待てよ……)…そうか……そういうことか……お前、あの時のクソカボチャ野郎だな!』

 

 と、ベネットはここでようやく誰がνガンダムを操縦しているか…その正体に気づいた。自分の殺しの快楽を邪魔したカボチャ頭。今回も邪魔をするのかと思い、ベネットは10式改に付いているもう一つの武装を使うことにした。

 

 

『上等だ!こっちはこっちで、テメーをミサイルでぶっ殺してやるよ!』

 

 

 ミサイル……その言葉と共に、10式改の両肩から、ミサイル砲を展開する。このミサイルは、自衛隊の攻撃用ヘリコプター"AH-1S・コブラ"のと同じ装備であり、搭載されているのは、対戦車用の小型ミサイル。その数は、最大150発まで発射する事が可能。

 

 

『ハハハハハ!!コイツなら、テメーをすぐにこr……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッキューン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベネットがまだ話しているにも関わらず、いつの間にかνガンダムの右手に装備してある銃型の武器、()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 ドーーーーーーーン!!!!

 

 

 

 

 

 銃口から放たれたビームが、見事に命中し、10式改のミサイル砲を完全に破壊した。

 

 

 

『ーーーーーーーは?』

 

 

 今、何が起きた……と、呆然とするベネット。

 

 

 

 

 

 一つのミサイル砲が完全破壊され、警告音が鳴り響く…

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間……ピンク色の光線が再び襲いかかる…

 

 

 そして、その光景を……目にする者がいた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーνガンダムへ向かおうとする千束とたきな…

 

 

ーー彼女達を追う者達も…

 

 

ーードローンで映像を観るミカとクルミも…

 

 

ーーDA本部の管制室のいる者も…

 

 

ーーそして、避難する人々も…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ババババババババババババババババ!!!!!

 

 

 バキューン!!ババババババッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 止まらない光線が、10式改に降り掛かり、次々と装甲を破壊し続ける…

 

 

 

『ひっ!く、クソ!』

 

 

 ベネットも残っているミサイルと機関銃を使ってνガンダムを攻撃しようとするが、気づいてしまったのか、すぐに移動して素早く回避してしまう。その瞬間、ミサイルや機関銃も破壊されてしまった…

 

 

 現代ではありえないビーム攻撃に避け切れず、ついに最後の遠距離装備も破壊されてしまった。

 

 

 

『はぁ、はぁ………クソ……クソ!クソ!』

 

 

 νガンダムからの攻撃を受けてしまい、無惨な姿への変えてしまった10式改。その操縦席から『エンジンの損傷が発生。すぐに脱出の準備をしてください。』と、警告音が鳴り響く…

 

 

『クソ!こんな奴に……こんな奴に……ッ!』

 

 

 

 

 ――まだ彼が、軍人時代だった頃、今まで負けた経験は無かった。一度足りとも無かった。だが……目の前の巨大ロボが現れてから…、形勢が完全に逆転した…

 

 

『な、なんだよこれ……なんで震えているんだ……俺……』

 

 

 そして、身体が突如震え出す。今までにない感覚……それは、紛れも無くベネットの心の奥底から戦場で初めて“恐怖“を感じ始めた。

 

 

 

 

『ーーーヒッ!?』

 

 

 

 思わず、小さな悲鳴を出してしまったベネットの目から見る……

 

 

 それは………自分の魂を狩ろうっとする

 

 

 

 

 

 

死神の目だ

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ……あぁ……』

 

 

 10式改のモニターの向こうで、目の前の圧倒的な力を目の当たりにしたベネットは、恐怖に慄いていた。目の前と、辺りに転がっているのは、爆発炎上のガトリングやミサイル砲などの装備の残骸だった。

 

 無惨な姿になった10式改に対して、完全無傷でありながら、立っているνガンダム。もはや、勝てる未来が見えない…

 

『ああ、あ……あっ……』

 

 そんな中、敗北を知らないベネットの視界がモニターの向こうに映るνガンダムの姿を捉えた。

 

『………ふ………ふざけるな!!!』

 

 恐怖と絶望に頭も心も塗りつぶされたベネットだったが、それを見た瞬間に頭が一瞬で沸点を超えた。10式改の左右から破損された機関銃から、災害用のアーム、ショベルとクレーンに変える。

 


『こんな所で終わらねーんだよ俺は!』

 

 

 キャタピラのエンジン音が鳴り響き……

 

 


『て、テメェなんか……テメェなんか怖かねぇ!』 


 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー野郎ぶっ殺してやるるぁあああああ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベネットは絶叫しながら、νガンダムに向かって、両アームのショベルとクレーンで突進した。だがその時、機体を無理に動かせてしまったせいなのか、内部から破損する音が聞こえる…

 

『ああああああああああああああ────!!!!』

 

 無理に動かしたせいか、炎を纏いつつもνガンダムに向かって突進する10式改。目の前の敵を殺したい、その一つだけの事柄のみがベネットの頭を支配していたのだ。

 

 その執念ともいえる決心が、10式改造を動かしていると言っても過言ではなかった。────が、その盲目的なまでのνガンダムへ向けられた怒りが、ついに果たされることがなかった。

 

 

 

 

 

 

 その男が決めた選択は()()()であった……

 

 

 

 

 

 

 

 向かって来る10式改の前にνガンダムは避ける事無く、ビームライフルを一旦捨て、隙を見てバックパック右側に装備された()()()()()()()()()()()()()を右手に装備し、ピンク色のサーベルを展開する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブォン!!!

 

 

 

 

 

 

 その直後、サーベルを振り回し、10式改の左右のアームを斬り落とし、キャタピラも斬り刻んだ。そして、動かなくなった10式改の……

 

 

 

 

 

 ブォン!!!

 

 

 

 上半身もサーベルで斬り抜かれてしまう……それだけで、10式改は突進と攻撃を止めた。そして、斬られたと共に、操縦席がある上半身は宙へ浮いてしまう……

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーちくしょう……」

 

 

 

 

 そこからスローモーションのように……宙に浮かぶ上半身……その操縦席に座っているベネット。この男の視界には、敵しか映らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーちくしょう…」

 

 

 

  

 直後、下半身が赤熱に歪み、爆散した。

 

 至近距離での爆発にコックピットが揺さぶられ、ベネットは悔しさと痛み、そして振動にも歯を食い縛った。衝撃に耐えるベネットの耳に、危険を知らせる警告音が聞こえる…

 

 

 

 

「────んだ、お前は……」

 

 それと同時にνガンダムが接近…

 

 大破寸前の10式改のコクピットの中で、ビームサーベル斬りかかってくるのを、メインモニター越しにベネットはぼんやりと見つめていた。

 

 

 

「何なんだ、お前は……」

 

 

 

 

 νガンダムの、瞳を見た。

 

 苦しげに歪める表情の中でも、不敵にするその気概を見たのだ。

 

 

 

 

 

 

「お前は………一体なんなんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叫ぶベネットの質問、それに対する答えは無い。されど、νガンダムは宙に浮く10式改の事を見据えながら、サーベル……

 

 

 

 

 

 の()()()()()()()()……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボコォ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「べラボォ!?」

 

 

 

 

 

 

 コックピットごとを拳で()()()……

 

 

 

 

 

 

 殴られたとほぼ同時にベネットの頭に激痛が走る。そこから痛みが波状的に広がって、指先一つまともに動かせなくなった。

 

 

 

 やがて…10式改が、地に落ちるよう空を天井に倒れゆく。視界が薄れる中でも、ベネットは目の前の機体から目が離せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、小さな声が聞こえた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただの一般人(モブキャラ)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────嘘つけ。

 

 

 

 ベネットは、手放す意識の中で…最後にそう思った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

「………やっべ……ちょっとやりすぎたか…?」

 

 とコックピットのモニターに慌てて視線を戻し、破壊した10式改のコックピットを覗く蒼夜。

 

 

「あぁ……よかった……生きてる…」

 

 

 ホッと一息をする蒼夜。細かいガラスの破片や、外壁の残骸が落ちている。それでも、倒れているベネットは生きている……白目を剥いて倒れているが。恐らく、気を失ったのだろう。

 

 

 なぜ蒼夜はそうまでして確認したいのか、その理由は先の他の傭兵達と戦っていた同じ理由……殺人の罪を犯したくないからである。

 

 

「(いや〜それにしても……ビームの威力を自由に設定できるように設計して正解だったな……原作と同じだったら、この人死んでたんだと思う……)」

 

 

 そう、νガンダムが持つビームライフルの威力は、更に街を被害出してしまう恐れもある。だからこそ、以前から蒼夜は()()()()()()()()()()()()()()()ように設計しておいたのであった。つまり、簡単に解説をすれば、つい先程使っていたビームライフルは、原作よりも大幅に威力が下がっているという事である。

 

 

「(ハァァ……とりあえず……殺してはない事が確認できてよかったよ……後は)……ハローズ、聞こえる?」

 

『聞コエルヨ!聞コエルヨ!』

 

「今、状況はどんな感じ?」

 

『一般市民ノ避難大成功!』

 

『火ノ消化モ、大成功!』

 

『マダ治療シテイル人モイルンダケド、今ノ所犠牲者ハゼロ!』

 

「そうか……よかった……もしまだ治療が必要な人を見つけたら、治療してあげて。それが終わったら撤退しよう。後は、自衛隊がやってくれると思うし。」

 

『『『『了解!了解!』』』』

 

 ハロ達に撤退の指示を出す蒼夜は、通信を終える。

 

「ーーーさてっと………どうしようか…これ…」

 

 

「」チーン

 

 

 破損されてしまった10式改のコックピットに気絶しているベネットをどうするのか考える蒼夜。このまま警察に届けようっと考えたが……

 

「(ーーーいや、今νガンダムで届けたらびっくりするだろうな……なんか……もっといい方法はないかな………ん?)」

 

 その時、ふとモニターを動かし、何かを発見する…

 

 

「あれって………千束さんとたきなさん?」

 

 

 

 

 

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

 

 

 

 

 

「えぇ〜〜、何これ……」

 

 

「まさか……ここまで破壊するなんて…」

 

 

 ようやくνガンダムの元へ近ずく事ができた千束とたきな。だが、着いた途端、10式改は既に無惨な姿になり、破壊されてしまった。

 

 

 あの10式戦車改がここまでにされるなんて……それに目的は一体なんなんだ……その理由をたきなだけでなく千束も考えている中、νガンダムの周りを浮遊していたドローン。恐らくDAの物なのだろう……その直後…

 

 

 

 

 

バン!!!

 

 

 

 

 

 

 頭のバルカン砲で破壊する。壊れたことを確信したのか、ドローンだったガラクタは地にバラバラとこぼれ落ちていく。

 

 

「「!?」」

 

 

 つい先程まで味方だと思っていたνガンダムの突然の行動に驚き、味方ではなく、敵で、最後に自分達を消すための証拠隠滅としてドローンを……?と、最悪の事態を想定する。

 

 今までの考えを改め、腕を動かせる範囲で銃をνガンダムに向けて構え、再度警戒態勢を取った。

 

 νガンダムは再び2人の方を向くと、銃口をこちらに向けている様子を見て、右の手の人差し指で、10式改のコックピットを指す…

 

「………調べてみろ……てこと?」

 

 千束がそのポーズを見て思わず言った言葉に特に反応することはなかったが、それでも言葉が通じたのか、手を下ろしてνガンダムは少し後ろに下がった…

 

 その様子に、一応信じることにし、2人も銃を下ろした。そして、コックピットの中を覗くと…

 

 

「…っ!千束!」

 

「………間違いない……さっきの傭兵さんだね…」

 

 

 白目を剥き、気絶しているベネットがいた。彼女達は、再びνガンダムに視線を向けると、まるで「後は好きにしてくれ。」と自分達に伝えているような気がした。

 

 

「……あなたは……私達の味方……なんですか?」

 

 

 

 

 

 思わず反射的に尋ねてしまったたきなの質問に、νガンダムは答えない。やがて、ビームライフルを回収し、別の場所で隠れて待機してあったベースジャバーが近づいてきた。地上に降りたベースジャバーに乗ったνガンダムは後ろに振り返らず、上空へ飛んでいってしまった。その後、一般市民の避難や治療を終えたジェガンたちも、ベースジャバーに乗りながら、νガンダムの後を追う姿も目撃する。

 

 

 

 

 

 

「行っ………ちゃいましたね」

 

 

「………うん…」

 

 その様子を見ていた2人は少し経った後、体の力が抜けたようにその場に座り込んだ。ついでに気絶しているベネットをワイヤーで拘束した。

 

「ねぇたきな………これって夢だったのかな……?」

 

「何度も言わせないでください………ですが、私もそうだと思いたいですよ・・・ただ、この状況を見て、ぜーんぶ現実なんだって認識させられてます。」

 

 2人の目の前には、すでにほぼ大半が崩れ落ちた建物とその瓦礫。νガンダムと10式改が戦った結果あちこちが陥没・ヒビが入った地面が、今起こったことは全て現実だと否が応でも認識させていた。

 

 一体……あの巨大ロボは、なんなのか……そして、あのカボチャ頭は一体何者なのか……など、色々な考えが頭を行ったり来たりしており、とてもすぐには考えはまとまらなさそうだった。

 

 

「たきな……クリーナー……」

 

「スマホ持ってませんよ……それはともかく、あの巨大ロボ……それにあのカボチャ頭は私達の味方……で、いいんでしょうか?」

 

「う〜〜〜ん」

 

 

 味方か敵か……全く分からないまま考える千束。先程まで上空へ飛んでいってしまったνガンダム。今は消えてしまったが、その空を見上げる彼女。それに気付いたたきなは声を掛けた。

 

「千束、どうしたんですか?」

 

「いやさ………あのカボチャ君にさ、伝え忘れちゃったんだよね〜」

 

「伝え忘れた?何を?」

 

 

 千束が漏らした後悔が何かを尋ねたところ、千束はこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「街のみんなを助けてくれて、ありがとう……って。」

 

 

 

 

 

 さっミズキ達を探そう!と千束はすっかり良くなった体で走り出すと、待ってください!と、たきなも走ってその後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 しかし、この時誰もが気付いていなかったことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────そのカボチャ頭が、ただの一般人(モブキャラ)である事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜同時刻〜

 

 

 

ーーDA管制室ーー

 

 

 

 

「あ、アンノウン……上空へ向かってしまいました……」

 

「ドローンで追うことは?」

 

「ダメです!流石のドローンでも高度の限界があります!」

 

「し、司令!追跡が途絶えてしまいました!」

 

「ーーーーそうか……」

 

 

 ついさっき、アンノウン(νガンダム)の解析をしようっとドローンを寄せたが…流石に気付かれてしまい、頭の機関銃…のような武器で破壊されてしまい、映像が途絶えてしまった。

 

 

 その後、ラジアータの機能がいきなり復帰し、急いで再び追跡しようとする……しかし、追跡も不可能となってしまった……

 

 

「アンノウンに関しては後回しだ!今は、自衛隊の派遣を急げ!」

 

「りょ、了解!」

 

 楠木の指示を聞いたオペレーターの人達は、慌てて作業に戻る…

 

 

 指示を出した楠木は少し緊張を解き、軽く息を吐いた、それに合わせるかのように、秘書がどうぞ、と水の入ったコップを手渡した。

 

 助かる。とだけ言い水を口に含む楠木に、秘書はどうしても聞きたかったことを聞いてみた。

 

「あの、司令………あれは……一体なんなのですか……少なくとも…」

 

 怒られることを覚悟の上で、秘書はどうしても先程のアンノウンについて質問をしてみた。しかし、楠木は怒ることもなく……

 

「分からん……少なくとも、アレは日本の技術で作れる物ではない…」

 

 

 とモニターを見る楠木。実は、ドローンが壊される前、音声が取れなくても、なんとか映像を録画する事ができた。

 

 再び映像を見返すと……正直、あれは最先端技術が詰め込まれている。しかも、あの最新式の戦車、10式戦車改よりもだ…

 

 それにあの緑の巨大ロボ……恐らくあれらも先のアンノウンの仲間だろう。

 

 一体どれだけの技術を持ってあそこまで造り上げられたんだと、流石の楠木も口には出さなかったが驚きを隠せなかった。

 

 

「お前は………何者だ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜その頃、νガンダムのコックピット内にて〜

 

 

 

 

 

ヘックシュン!!…なんだ?誰かが噂をしているような………」

 

 

 

 その通り、謎の秘密組織に目を付けられている事に気づいていない蒼夜。

 

「はぁ……明日、バイト遅れるな……しかも初日で……」

 

 そう言うと、明日なんて謝ればいいんだろうと考える一般人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜本編登場MSオリジナル部隊(追加設定)&オリジナル武装設定〜

 

 

 

〜ジェガン救助部隊の4機の機体詳細〜

 

 

 

 

機体:ジェガン(消防型)

 

 

 見た目は陸上型と変わらないが、背中に消火剤のタンクを背負っている。タンクからホースで繋いでいる放水銃を使って、炎を一斉に消火する事が可能。

 

 ちなみに、タンクの中身が空っぽになってしまったら、ベースジャバーが予備のタンクを運んでくれる。

 

 

 また、股間に連邦軍を表すV字マークではなく、炎のエフェクトマークを表している。

 

 

 

 

 

 

機体:ジェガン(作業型) × 2

 

 

 二体とも同じ陸上型であり、どちらも作業型でもある。ただ、その機能性だけはどちらも違う。

 

 

 一体は、背中から左右の作業用アームを展開し、合計四本の腕で崩壊した建物を退かしたり、下敷きになった人々を救助することも可能。

 

 もう一体は、MSサイズのスコップを装備し、瓦礫などで塞がれてしまった場所を新たな道を作ることも可能である。

 

 

 ※ スコップは、ガンダムAGEに登場するデスベラードが使用する武器(?)でもある。

 

 

 

 また、この両機体も股間に、ピッケルやシャベルのエフェクトマークを表している。

 

 

 

 

 

 

機体:ジェガン(救急型)

 

 

 背中に背よっているバックパックから四足歩行の無人機ロボットを出現させる。また、ロボットを使って医療キット箱、更に食料箱も届けてくれる。それだけでなく、ロボット達も人々の怪我や病気の治療を行う事も可能。

 

 

 ※ ガンダム00 二期や劇場版に登場する“オートマトン“と似てはいるが、救急用なので、白と赤のカラーに染められている。もちろん、武装も所持していない。

 

 

 そしてこのジェガンの股間には、十字架のエフェクトマークを表している。

 

 

 

 

 

 

〜ビーム設定〜

 

 

 

 この世界では、ビームの威力を自由に設定する事が可能。以前蒼夜が、MSが使用するビーム兵器の威力を自由に設定できないかと考え、見事に成功した。

 

 ※ この設定でこれからの物語に使用しますので、どうかよろしくお願いします by作者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









 皆さん、いつも感想ありがとうございます!


 少しだけ、物語が動き出しました。


 そして今回、ジェガンの活躍も見られましたね……まぁ〜活躍したのは操縦するハロ達なんだけどね。

 一応この戦いを書く前、一般市民には見られないようにするかどうかを考えましたけど、結果的にその考えがなくなりました。なんせ図体が大きいですから(笑)

 そして、今回リコリコの常連客の一人、阿部さんが登場しましたね。一応彼は刑事なので、もしかしたらこういった災害とかではカッコ良いんじゃないかなと完全に私の妄想です。


 この後どうなるんっと思う方もいるかもしてませんが、それについては次回、書きます。




νガンダム『あれ?ワイのファンネルの出番は?』


作者「地球内で使えないから、今回はパス」








 気づいている方もいらっしゃいますが、ベネットというキャラや彼が言うセリフは、どこかの有名映画のネタですw


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Episode 7 世界の変化




 感想欄でビームについて触れられたので、それについて解説します。

 本作ではビームやサーベルなどの威力を上下設定できるようになるという設定になっております。簡単に例えるなら、今までガンダム作品に登場するビーム武装の威力を下げる事で、現代社会でも被害を少なくする事も可能となっております。



 つまり、一般人君がビームが放射できる武装を使用する時、相手が死なないよう威力を最大限まで低下していたのであります。



 説明不足で本当にすみません…。



 なお、今回はMSの登場はありません。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何事にも時には流れというものがある…

 

 

 

 

 時間、歴史、そして人の意志もそうだろう。

 

 常に絶えず、変化し、そして進化する。それを流れだと人は呼ぶ。

 

 そしてこの世界にも、流れがあった。

 

 始まりは幻想(空想)理想(現実)、そうと気付かなかった妄執か。

 

 いや、彼等が魅入られた力の原点を辿れば、果たして始まりは何時になるのか。

 

 だが、この世界もまた、一つの流れの中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜日本のとある記者会社〜

 

 

 

「それはこっちに回せ!おい君、これはそっちだ!」

 

「編集長!こちらも見ていただけないでしょうか!?」

 

「おい誰か!出雲さんに電話してくれ!」

 

「クソっ!…いつになったら終わるんだ!?」

 

 

 あの事件が終えてから慌ただしく朝一から日本の記者会社が動き回る……恐らくここだけでなく、全国もそうだろう。

 

 人の口は絶えず、その足は止まらず、目は忙しなく文字を追い、耳は常に何かしら、誰かの言葉を聞き取っている。

 

 ひっきりなしに鳴る電話の音が煩い。文字を書く手が疲れた。途切れることなく行われる会議、話し合い、論争に声はしゃがれ、喉はカラカラで痛い。

 

 それでも、誰も止まらない。まるで、一歩でも足を止めれば、乗り遅れてしまうとばかりにせかせかと動き続けていた。

 

 

 その発端は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 しかし、その僅かな間に起こった出来事は、日本全国を急き立てた。

 

 

 

 誰が予想していただろうか……いや、恐らく誰も予想だにしなかっただろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜◯◯県、とある街中〜

 

 

 

 

 

 

「なぁお前、今朝のニュース見たか?昨日東京でとんでもねぇ事件があったんだってよ。なんでも、街が半分以上壊滅的被害を受けたって話だぜ。」

 

「え?マジで………うわ、マジじゃん。」

 

「……何これ、どうしたん?」

 

「いやなんでもよ、東京の街で自衛隊の最新式戦車が暴走したって報道されてんだぜ。まあ、どこまで正確な情報なのかは分からねえけど……しかも昨日のことだぜ…」

 

 

 ビル下町の喫茶店で飲む三人の大学生。その一人が、二人に昨日の事件の事を話していた。当然二人は知らなかったので、スマホのY◯hooニュースの報道を調べていた。

 

 

「おいおい、これって最近話題になってる10式戦車改だっけ?ってか、これ完全に街燃えてね?」

 

「うわ本当だ。この動画よく撮れてんな。」

 

「あ〜、確かYouT◯beにも載ってるぜ。」

 

 と言ってスマホを操作し、その動画を見せる。そこには10式改が東京の街中で暴れ回っている映像が映っていた。当然、彼らだけではなく、この店にいる他の客もそして店以外でも…この事件について見ているだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーあの事件から一夜明けーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本全国の地方から集まる、消防隊、救急隊、そしてレスキュー隊。普段ならそこまでの数を東京の街にには派遣しないはずだが、この被害の大きさを考えればそれを無視してでも駆り出して消火活動や救急活動などに勤しまねばならなかったのだ。

 

 共に指揮しつつ、他の生存者を探す地元の隊と協力して残っている街の消火を行うこと数時間、ようやく応援を要請していた自衛隊が駆けつけてきた。

 

 そうして足りなかった人手を得たことで数時間かけてようやく残りの鎮火に成功するも、それによって判明したあまりにも凄惨な被害者数と、失われた建物や施設の数に皆が沈痛な面持ちとなった。

 

 

 また、東京の街の外れにある避難所に、多くの人が集まっていた。一応確認をすると、死亡者は奇跡的に()()である。

 

 

 なぜなら、DA本部が10式改が東京の街に侵攻してくる事を予想し、秘匿で警察組織に情報データを送っていたのだ。もしも10式改の暴走を街に侵攻する前に阻止できていれば、一部の建物で火災事故が発生と偽の情報を表に出すはずだった。

 

 しかし、結局阻止することができず、街に侵攻してしまった。死亡者はでなかったもの、少なく見積っても重軽傷者含む被害者数は一万人以上を越えている。中には、腕の皮膚を完全に火傷してしまい、もう今後動けないんじゃないのかと思うほどの重症者もいる。

 

 

 そして東京として致命的であったのは、多くの観光客が集まる浅草の有名スポット、“雷門“がこの事件で失われてしまったことと、高額な金額で建設した建物や歴史的な建造物などが完全に焼失してしまったことであった。

 

 

 まさに、旧電波塔事件以来であり、十年ぶりの大事件でもある。

 

 

 後に【10式戦車改暴走事件】と名付けられる事になるその災害は日本の治安を荒らす荒波を引き起こした。これにより、かねてから低調気味であった日本政府の権威は更に低迷し、本格的に彼らの必要性に疑問視を抱くようになっていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

『今野さーん、そちらはどんな状況でしょうか?』

 

『は、はい!現場の熊谷です!こちらは、陸上自衛隊◯◯基地では……』

 

 とあるテレビ番組の画面に東京の陸上自衛隊の会議場が撮される。既に始まっている、会議場を映しながらリポーターが話し始める。

 

『あの事件があった翌日……もの凄い批判の声が上がっています!』

 

 

 その中、様々なカメラのレンズが会議場に向け、一斉に注がれる。

 

 

 その画面の先に映されているのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この責任を一体どう取るのですか!」

 

「説明をしてください!」

 

「自衛隊のセキュリティは一体どうなっているのですか!?」

 

「東京で、私の夫が大怪我を負いました!」

 

「アンタ達が造ったあの戦車のせいで!ウチの家族にも被害があったんだ!」

 

 

 

 

 10式戦車改を保管した基地、陸上自衛隊の責任者と上官、及び10式改の開発者。更にその開発費や計画の案を考えた国会議員も参加。その席に座る彼らの前に、彼らに批判の声を浴びせるマスコミ関係者、更に東京で被害に遭ってしまった人々の関係者達。

 

 

 そして、国会中継、受信料絶対徴取の某公共放送局が筆頭に義務的に中継している。もちろん、ネットサイトの生中継も入るようになった。

 

 

 

 また、掲示板サイトやネット内にて、

 

『自衛隊、ついにやらかす』

 

『平和の掟を破ったアホども』

 

『日本の恥』

 

 

 

 

 などなど、ネット上でのコメントでも、世間は彼らに対する批判の声が段々と広がっていく。なぜここまで批判の声が上がっているのか、その理由は二つもある。

 

 

 

 

 

「議員にお尋ねします!事件当時、貴方が自衛隊の出動を拒否したと言う噂は聞きましたが、それは本当なのですか!?」

 

 

 と、マスコミの男性が国会議員に尋ねる。この会見を行ったのは初めてなのか、議員は戸惑っていた。

 

 

「………え…えっと……それはですね……」

 

 

「何とか言ったらどうなのですか!」

 

 

「「そうだそうだ!!」」

 

 

 更に他のマスコミからの圧がかかり、何喋っていいのか困惑している議員。その時…

 

 

「開発チームの方々に問います!今、私が入手した情報によれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!それは、事実でしょうか!?もしもそれが本当なら、その暴走を止めなかった原因は、開発者であるあなた方が原因ではないのですか!」

 

 

 また、今度は記者の女性も10式改を開発した開発チームに問う。

 

 

「そ……それは……」

 

 

 

 戸惑う開発チームの責任者の回答に記者、マスコミ、そして視聴者の注目が集まる。その回答は……

 

 

 

「じ、()()であります……10式戦車改は、コンピューターウィルスに感染してしまい、この様な事件が起きてしまいました……」

 

 

 集まる中、開発チームの責任者は焦りとした態度で言葉を走らせた。その言葉に記者、マスコミ、そして被害者の関係者は騒然となった。その声を押さえると、今度は、陸上自衛隊の上官と基地管理の責任者はどういった原因で暴走したのかを語っていく。

 

 

「ーーーーー昨夜、私達は、確かに間違いなくいつも通りに機体の検査をしました……あの事件が起きるまでは……」

 

 

「恐らくその時……いや、もっと前から……ウィルスに感染してしまっただろうと………」

 

 

「もっと前からなのですか!?それはつまり……今までずっと気づかなかったと言うことなのですか!」

 

 

「…………はい…………今私達が語っていたのは、文字通りの事実であります。」

 

 

 ーーーーと()()()にはそう解説し、今回の事件の謝罪会見を終える。

 

 

 やがて、今まで戸惑っていた自衛隊の新装備計画を考えた本人、国会議員はこう切り出した。

 

 

 

「今回の事件に責任を感じ、私達は本日より辞任することにしました。関係者の皆様、そして、被害に遭ってしまった皆様も……本当に……本当に申し訳ございませんでした!」

 

 

 

 

 基地の責任者、開発者、そして議員は謝罪の言葉と共に頭を深く下げる………が………

 

 

 

 

 「ーーーーふ、ふざけるな!まだ納得できてないぞ!」

 

 

 「議員!どうか説明をお願いします!今回の事件についてもう一度説明してください!」

 

 

 「こっちの家族にも被害が出てんだぞ!」

 

 

 

 納得できない者、彼らの対し許さない者、そして関係者も大きく批判な声を上げる。そんな声を聞き受ける彼らは、もはや頭を下げ続ける事しかなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーまた、ネット上では…

 

 

 

『うわ、マジかコレ』

 

『はい、政府完全にやらかしたな』

 

『てか開発費っていくらだっけ?結構赤字じゃね?』

 

『責任とれ!責任!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 この会見により10式戦車改に関する者は責任を取り、辞任する事になった。また、政府にも大きな問題があった。被害者に多大なる請求や損害賠償など、毎日頭痛が感じる日々を送るだろう。

 

 

 

 今回の事件が起こった事によって、10式戦車改は今後使用禁止、もしくは破棄処分。そして自衛隊の新たな装備計画も破棄されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーだが、世間が注目するのはこれだけではなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世間では皆、突然現れた「未知」に対して沸き上がっていた。

 

 

 それは……突如街に現れた巨大人型ロボット(νガンダム)……

 

 

 

『10式戦車改暴走事件』はその日のどの夕刊の一面にも印刷されていた。

 

 大きな一面を飾ったのは、νガンダムの姿だった。

 

 とある新聞には、こう見出しがつけられていた。

 

 

『東京の街に、巨大ロボがやってきた!』

 

 

 

 など、ある動画サイトに投稿された東京の事件の映像は、一日で何百万再生もの記録をたたき出したという。特に、アニメファンの人々や特撮ファンにとってとても興奮したのだろう。

 

 日本国のやらせではないかとの声も上がったことがある。しかし、別のアングルから撮影された映像は、何百も別のアカウントで投稿され、実際に東京街にの現場には大きな傷跡が残されているのだ。

 

 そのリアリティ及び事実関係は、敵を撃つ光線銃や光線剣など、安易なCGによる合成ではないことを物語っていた。また、この事件に遭い、そのロボットを目撃した人も多く、人々は『紛れもなく事実である』と取材に来た記者にも話していた。まさに架空ではなく現実である。

 

 

 そして、国会議事堂では緊急特別国会が組織され、その巨大ロボについて議論を繰り広げている。『あれは何なんだ!?』や、『一体どこの国があんな物を造ったのだ!?』と、などなど疑問を持つ者が多かったのだろう。

 

 人々の今一番の関心も、この事件に向いていることだろう。

 

 特に、巨大ロボに対する反応がすさまじい。

 

 連日どの新聞も、そしてネットニュースにも一面を飾る10式改と戦うνガンダムと人々の人命救助をしているジェガン達。

 

 その動画を公開しているチャンネルや、バンダ◯チャンネル(特にロボットアニメ)でも、視聴者や加入者が爆発的に増えたとの報告があった。

 

 テレビ上では、その光景を流すのが、どのチャンネルでも行われていた。

 

 あの事件で10式戦車改が暴走した事に関する話題も確かに存在する。

 

 しかしそれを押しのけて世間の話題をさらっている巨大ロボは、やはり人々の間で爆発的な人気を誇っている証なのだろう。特にロボット好きの子供やロボットオタクの人々にとっては…

 

 

 事件から一夜明けた日本。しかし日本全国ではなく、世界中にも話題となった。すべてのメディアは『日本に突如現れた巨大人型ロボット』に話題となる。もちろん、SNSなどでも大きく話題となり、トレンド一位にもなった。

 

 また、ニュース、新聞、雑誌、ネット…あらゆる方面で、νガンダムについての論議がされている。

 

 

 

開発者に恨みを持つ人物による愉快犯・説

 

どこかの国が日本へ宣戦布告・説

 

未来から来たタイムトラベラー・説

 

宇宙人の地球侵略作戦・説

 

アラン機関が造った・説

 

本物のマジ◯ガーZ・説

 

 

 

 

 などなど、差異はあるが、一番の話題はνガンダムの正体だった。

 

 どのメディアも血眼になって追っている。朝から『巨大ロボ』の単語を聞かない者はいない。当然、会社や学校でも話題で持ちきりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、─────DA本部

 

 

 

 

 

 

「「「「せ〜〜の!」」」」

 

 

 

 

 千束とたきな、そしてフキとサクラの四人はDA内にある警察の取り調べ室のような所で、描いた絵を楠木に見せた。そして、タブレットの画面越しにミカも交じっている。

 

 そして描かれた絵は、差はあるものの一応一致はしていた。

 

 ーーーとは言っても、事前に彼女達から話を聞いて想像した通り、絵はいたってシンプルである。 カボチャのような頭部に目や口、まさにジャック・オ・ランタである……はずだったが……

 

 

 

 千束は……なぜか少女漫画に出てきそうなキャラ…しかも結構美形に。

 

 

 

 たきなは……目と口は正確に書いてあるも、顔の形は独特である。カボチャではなく、ピーナッツである。

 

 

 サクラは……ゲームに出てくるキャラクター( ※ マインク◯フト)

 

 

 フキは……普通である…

 

 

 

 にも関わらず、絵は意外と一致しており、逆に言えば、カボチャ頭の顔はそれほどまでに描きやすい顔、ということなのかもしれない。

 

「ぐふwたきな……それ、ピーナッツじゃん……むぐ!」

 

「なっ!わ、笑いましたね千束!そっちこそ、目と口全然違うじゃないですか!」

 

「どっちも違うだろ!ってかサクラ!なんでゲームの顔なんだよ!?」

 

「いやいやフキ先輩こそ…………………意外と普通っすね。」

 

「お前ぶっ飛ばそうか!?」

 

 

 描いた絵がピッタリ………とまでは言わないが、それでも大まかに見れば絵に関し言い合っている彼女達を横目に、楠木は四人の絵を見ながら、否が応でもやってくる頭痛を抑えようと、片手で頭を押さえながら何度も聞いたことを再び質問してみる。

 

 

「これがお前達が見たあの巨大人型兵器を操縦する正体……一応何度も聞くが、ふざけているわけじゃないんだな?」

 

「ふざけてなどいません楠木司令!私達は確かにこの目で見ました!本当なんです!」

 

「信じてくださいよ〜楠木さ〜ん。」

 

 ここに四人が来てから何度も同じ質問をしているが、返ってくる答えは変わらず一緒だった。

 

 

 事件から翌日、千束とたきなはDA本部へと呼び出されていた。もちろん呼ばれたのは楠木であり、本部にいるフキとサクラも同じ理由である。

 

 

 本来ならば事件のあの日、すぐに来させようとしたが、まだ四人とも整理が出来ていない、とミカからの連絡であり、せめて彼女達にもう少しは休みを与えろという休暇を申請し、仕方なく今日の昼に本部へ来いという事なった。

 

 その間に本部は、映像の解析をしていた。

 

 理由はもちろん、巨大人型ロボット(νガンダム)についてである。

 

 

 廃工場内に侵入した時、ドローンの録画データの中になぜか()()()()()()()()()()()()()()()()。結果、当事者である千束達が唯一の情報源であり、こうして話を聞いている。

 

 そして最も更に頭を悩ませたのが、巨大人型兵器が突如現れ、ピンチに陥っていた街の人々を助け、無傷のまま10式改を撃退したという。しかも、その他の緑の人型兵器も現れ、人命救助を行なっていた。

 

 音声は取れなかったものの、最初この映像を見た時、これは現実なのか、そもそも人が乗っているのか、とドローンの映像をミカに見せ、話を聞いた。

 

 

『あぁ、本当だ。一応、その現場にいた客人に聞いたら、“本物だ、あれは夢なんかじゃない“っと答えたぞ。』

 

 

 間違いなく事実だ、と答えるミカ。

 

 

 ※ ちなみに、ミカはDAが映像を送る前、クルミのドローンの映像で見てはいたが、クルミの存在はDAにも秘密であるため、初めて映像を観た事にした。

 

 

 そして今日、例の当人達に聞いてみても、何度質問をしても結果は同じだった。

嘘をついている可能性ももちろん考え、一応DAで導入しているウソ発見器にもかけたが、結果は彼女達の言っていることは事実だということを示していた。

 

 

「なるほど…そもそも何なんだ、このふざけた技術は?」

 

 

 そう言って手元に置かれた、“アンノウン(νガンダム)“の映像解析調査記録を憎々しげに睨み付ける。映像だけだったが、DAで調査した結果、いくつか分かった事があった。

 

 

 一つ、恐らく未知の物質で構成された合金らしき鋼材と、既存の理論からかけ離れた構造で製造された機体でできている事。なぜなら、10式改が戦車も破壊するレベルの兵器を多数使用しても一切の損傷が見られなかった。

 

 二つ、巨大ロボが持つ大型光線銃(ビーム・ライフル)は、装甲車程度なら紙や飴細工のように貫通、溶解する威力を持っている。わずか数秒で、あっという間に戦車などに使われる装甲材を数メートル単位で貫通した。

 

 三つ、異次元レベルの強力な電波妨害機能を搭載していると思われる。あの日、突如現れてから最高AI・ラジアータの機能が突然停止。だが、巨大ロボが街からいなくなったら、すぐに復旧した。調べた結果、恐らく様々なレーダーや探知機等も阻害する事も可能だろう。

 

 

 と、映像解析したが……なんかの漫画かアニメの設定なのか?と聞き返したくなるような疑問が次々と上がってくる。現在、1000丁もの取り逃がした銃の行方を追っているというのに ここで……しかも日本で既存の兵器や戦力では恐らく逆立ちしても敵わないという、とんでもない兵器(?)が現れたという事が判明した今、DAはかつてないほど混乱していた。

 

 

 

 

 『それで、…分かったことはあるのか?』

 

 

 「……残念ながら一切不明です。製造元はおろか、一体どこの誰が造ったのかすら一つも情報が出てきませんでした。」 

 

 ミカにそう問われ、重苦しく返すしかない楠木は未だに手元の捜査書類を睨んでいた。“一体どこの誰がこれを造ったのか?“そもそも、一体どうやって造ったのかが問題だ。しかし、それすら解らないのが現状だった。

 

 幾人もの研究者や科学者を様々な分野から集めて調べさせたが、結局映像だけでは分からないままである。ハッキリ言って、技術レベルの壁を超えている。

 

 

 

 

 

 

「……本能では未だ受け止めきれないが、現実だと認めるしかないか……」

 

「司令、大丈夫ですか?」

 

 頭を抱える楠木の様子を心配した楠木の秘書が近づくが、大丈夫だと言って払いのけた。

 

 

 

 『………上層部はコイツをどうするつもりなんだ?そのまま放置はないんだろう?』

 

 

 

 隣から聞こえたミカの言葉に、楠木は早く話は進んだ。

 

 

 恐らく上層部でもこれだけのこの兵器を野放しにしたくないのは満場一致で、可能な限り情報収集しただが、映像以外他の情報も無く、捜査は今も絶賛難航している。

 

 

「そうですね……ですが、一つだけ分かったことがあります。」

 

 

『……?というと…』

 

 

「えぇ、このカボチャ頭ですね。」

 

 

 楠木は、四人が描いた絵を指で指す。それを聞いた我に千束の表情に陰りと焦りが滲む。カボチャ頭に対してDAが今後どう対応を取るつもりなのか。

 

 

「楠木さん、カボチャ君は?」

 

「………現状について、可能であれば()()をしたいところではある。それに、あの兵器を操縦しているのはこのカボチャ頭なら、それなりの準備をしなければならない。」

 

 カボチャ頭と巨大人型兵器の対応については今日は一旦止め、方針が決まってもう話すことがなくなったのか、楠木は取調室の出入り口へと向かおうとするが…

 

 

 

 

 

 

「あーそうだ!」

 

 

 

 ーと何か思い出したように、千束は声を上げる。

 

 

 

「なんだ?」

 

「そういえば、カボチャ君についてまだ話してない事があった!」

 

「………何?」

 

 まさかまだ他にも情報が残っているのか、と足を止めさせてでも聞かせたいだろう。だが、もしかしたら、それが有力な情報であれば聞かないといけない。

 

「………それで一体何の事だ?」

 

 

 

 

 

 

 

「カボチャ君、()()()()()()()!」

 

 

 

 

 

 

 

「「『……………は?』」」

 

 

 

 

 説明不足とも言える千束の言葉に楠木と秘書、そしてモニター越しのミカは疑問の声を上げる。

 

 

「(…………まさか…)」

 

 

 と考えた楠木は、一応たきな達の方にも確認すると「事実です」と答えた。

 

 

 

 

 

 

「………調査記録は忘れずに出せ、これは命令だ。」

 

 

 

 再び頭を抱える楠木がそう言って今度こそ終わりを告げる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

〜喫茶リコリコ〜

 

 

 

 

 

 ーーー店内のとある一室の押し入れーーー

 

 

 

 

 仄暗い空間で青白く展開されたモニターが見せるのは、先日の暴走事件にてクルミが飛ばしたドローンが映し取った映像だった。

 

 

 任務先の廃工場から東京の街までの一連の流れを、そのドローンは鮮明に映し出していた。そしてクルミが一番気になっていたのが、音声が取れなかったものの、録画に成功した映像に映る巨大ロボを眺めて、その動きを余す事無く観察する。

 

 新型戦車ーーー10式戦車改との戦闘が長引くにつれて研ぎ澄まされるように動きの荒さが少なくなり、押されていた状況は次第に拮抗し、最後には大型光線銃で圧倒するまでの戦力差。

 

 それを見て、クルミは感嘆の息を漏らした。

 

「………凄い…………コイツは凄いぞ!」

 

 目をキラキラさせ、モニターの映像を観て興奮するクルミ。昨夜、クルミのドローンは何とか無事だった。そしてドローンの映像の録画に成功した彼女は、早速その巨大ロボについて映像を再び確認をする。もちろん解析をするためだが…

 

 

「……っち、やっぱり映像だけじゃ分からない……」

 

 

 何度か調べ直したが、やはり映像だけでは解析する事は不可能である。どんな人間の正体や構造などでも丸裸にすることが可能なウォールナットが調べたのがこの映像だけとはいえ、ここまで手掛かりを一つも入手できないというのは、異常と言っていい。

 

「このビームを発射する銃……ハッキリ言って技術レベルが現代を超えているぞ!いや、それだけじゃない……あの光線剣らしき兵器も、今の技術じゃ造れない……誰だ……一体どこの誰がこれを造ったのだ!?」

 

 一体どこの国が造ったのか。そして一体誰がこの巨大ロボを設計したのか。今のクルミは、この巨大ロボに興味が湧いてきた。だが、調べてから既に丸一日経過したものの、結局情報は何一つ掴めなかった。

 

「確か千束達からの話じゃ……上空へ飛んでいったな……それならどっかの空港の追跡機能をハッキングすれば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴラああああぁぁぁぁぁ仕事せんかーこの引きこもりー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とその時、突然押入れを強く開けるミズキ。

 

 

「み、ミズキ!?急にどうs「どうしたんじゃないわ!今日から仕事だっつーの!いい加減に働きなさい!」…お、おい待て!今僕は忙しいんだぞ!」

 

 

 今日はリコリコの仕事日である事にもかかわらずいつも通り仕事をサボっているクルミ。そんな彼女を押し入れから無理矢理引っ張り出すミズキ。

 

 

「ハアァ………何やってんだ……」

 

 

 そして、毎日の日常にもう聞き慣れたミカは、ため息と共に頭を抱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

〜蒼夜のアパート〜

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーえ?」

 

 

 

 

 

 電話越しから流れてきたその言葉の意味が分からず、蒼夜は、ぽつりと戸惑いの声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 それは、唐突に起こってしまった。

 

 

 

 

 

 

 昨夜、事件日の現場から帰ってきた蒼夜は、明日のバイト初日の出勤の為、すぐに寝た。そして翌日、予想通り朝起きるのが遅かった。そんな彼は急いで朝の支度をしている時、突如バイト先から連絡があった…

 

 

 

 

 もしかして、バイト時間の遅刻で怒られるのではないか。そう考えた蒼夜は、覚悟を決め、電話を出る事にする……が、聞こえたのは……

 

 

 

『ーーーという事だ。それに君は確か……今日からバイトを始める子だったよな……』

 

「は………い……あの……………さっきの……ど、どういう………ことです……か?」

 

 

 かかってきたのは、社長ではなく、バイトリーダーの人であった。しかも、電話をしてきた理由は、自分が出勤時間に遅刻した事ではなく…

 

 

「か、会社が……な……なくなった………もう……()()()()()()……」

 

 

 相変わらずコミュ障である彼。簡単に説明すれば、昨夜の事件で、蒼夜が働くはずだった会社が10式改の爆撃に巻き込まれ、破壊された。当然、その会社には誰もいなかったため、誰にも被害は出ていないのだが、会社が破壊された事で、営業を続けるのは難しいだろうと考えた社長は、本日を持って会社を()()する事にした。

 

 

『まぁ、正直会社の営業は厳しいから別に閉業したって、俺達困らないしな…』

 

「………」

 

『その………君も頑張れよ……じゃあな!』

 

 

 

ツー、ツー、ツー

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 ードタン

 

 

 

 バイトリーダーからの通話が切られ、その場で四つん這いになる彼。

 

 

 

 

「…………は…………はははは……」

 

 

 

 

 突然、乾いた笑いをし、虚な目になった蒼夜は………

 

 

 

 

 

「ーーーーーーまた、無職に戻ったよ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────くそったれぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 心底からの無職に戻った絶望に、雄叫びを上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜DA報告書〜

 

 

 

 

報告書: 巨大人型兵器

 

記録:2022年■月13日

 

コードネーム: アンノウン(後に変わる可能性あり)

 

解説:映像で分かった事は、技術力の違いである。特に、謎の光線銃は、SF世界に登場する兵器ではないかと疑う。

 

 

また、その操縦しているのは、カボチャ頭を被っている不審人物であり、名前、性別、そして年齢も不明。

 

 

 

『今回起こった事件での重要参考人として指名手配、そして巨大人型兵器を捕獲するように優先とする』

 

 

 

 

 

 

 

 






 また、無職に戻ってしまった一般人(モブキャラ)君…






 皆さん、いつも感想本当にありがとうございます。

 毎話必ずくれる人とかもいてとても嬉しく思います。書くモチベに自分にとってアドバイスとなっているので、とても助かっております。

 あと、感想欄で色んな人の考えや感想を知れるのって面白いです。

 質問やアドバイスなどあればよろしくお願いします。


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Episode 8 それぞれの日常



  ※ Episode 4、5、6のタイトルエピソードを変更しました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーとある一軒家ー

 

 

「ーーーーは………何だよ……これ…?」

 

 

 PCモニター以外の光源が一切皆無の部屋で、一人の()()(?)男がそう呟いた。

 

 ー日本に巨大人型ロボット出現!ー

 

 ネット上……またはダークネット、いわゆるインターネットの裏社会でも、唐突に流れ出した情報。発信源は複数存在し、信憑性の高そうなものから便所の落書きレベルまで、様々な形で吹聴されている。

 

 普段なら一笑に付す話だが……

 

 

「ふ……ふふふ……ふふっふっふふふふっ……」

 

 

 男は大きく肩を揺らしつつ、不規則に吐息を漏らす。そして……

 

 

 

 

 

ふっざけるなぁああああ!!

 

 

 

 

 

 椅子を跳ね倒し、絶叫した。声からして憤怒に満ちた表情を浮かべていそうだが、その顔は、“玩具のロボット“のような被り物で隠されている。

 

「このボクがぁ〜!()()()様が直々に引導を渡して考えてやった計画を台無しにした挙句、現代の街にに本物の巨大ロボが出たんだとぉ〜!?フィクションにも程があるだろ!!ふざけるのも大概にしろこんちくしょうがぁああっ!!」

 

 三徹の勢いに任せ、男……ロボ太は叫び続ける。

 

 非常に高いハッキング技術と、自尊心と嫉妬心を併せ持ってしまったロボ太は、依然から天才ハッカーとして名高いウォールナットを敵視していた。

 だが、今ウォールナットが死んだことで、自分が日本最高ハッカー(笑)だと勝手に思っている。(当然だが、彼女が生きている事も気づいていない。)

 

 また、このロボ太こそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、依頼主によって依頼されたのである。本来の作戦なら、10式改を貨物船で運び、日本から出れば、依頼は完了……はずだったが……

 

「勝手に戦車を使って街で暴れたり、なんかアニメみたいなロボットが即撃墜しちゃってよ!おまけに、アイツからの連絡もねーし、依頼料もなんてな、一円も貰ってないぞ!」

 

 先日の大事件…東京の街中に暴れた10式改。そしてその10式改を苦戦することもなく、圧倒的な兵器で叩き潰した謎の巨大人型兵器。そのせいで、依頼主からの連絡も無くなり、依頼料も貰っていない。

 

 

「ふぅ……ふぅ……い、いいや……一旦落ち着こう僕!そうだ…そうだ…まずは…一旦落ち着こう…」

 

 体力が底をついた所で、ようやくロボ太も冷静さを取り戻す。ああいった情報が信憑性を得るのは、ある程度の時間が経過してから。

 

 ロボ太は自分が確かめた情報しか信じない。だが何より、今はこの巨大人型ロボットについて、興味を持つようになった。まるで、心が童心に戻った気分である。

 

「しっかし本当にすごい……本物なのか!?しかもこれ……ビーム兵器じゃん!誰が造ったんだ?誰が一体どこのどいつだ……?よ、よ〜し、全部暴き出してやるぞぉ!そうすれば、今度こそこのロボ太様こそが日本一……いや、世界一のハッカーだと証明するのだぁ!! ぬぁあーっはっはっはっは!!!!!!」

 

 

 椅子に座り直し、猛烈な勢いでタイピングしつつ、追加のエナジードリンクをキメたロボ太は、また大笑いしながら踏ん反り返る。

 

 

 

 

 ーーーが、あまりに角度をつけ過ぎ、椅子ごと倒れて頭を打つのは、この三秒後であった。

 

 

 

 

 

 

〜喫茶店・リコリコ〜

 

 

 

「ううむ〜むむむ〜うぬぅ……」

 

 

 客の全く居ない、喫茶リコリコの店内にて。

 

 和服姿ではなく、赤い制服の錦木千束は、何かしている。

 その顔と言ったら、みずきがこの場に居たとすれば「一週間くらい便秘してる時の顔みたい」と評するだろう…が、そんな苦しげな表情から一転。

 クワっと眼を見開くと、凄まじい勢いで足を前に突きつける。

 

 

「そぃ!……って、なんか違うな〜」

 

 ーと、何かのポーズを決めている彼女。

 

「うーん、おっかしいなぁー……こうじゃなかった気がする〜」

 

 得心のいかない顔で、千束はすぐに動いた。

 

「こうかな~?いや、もっとこっちに〜」

 

「ーーーー何しているのですか、千束?」

 

「おわっ!?」

 

 突然後ろから話しかけられて千束は驚いた。振り返るとそこには、ノートパソコンを持つたきながいた。なぜか、彼女は千束を冷たい目で見る。まるで不審人物を見るような眼差しだ。

 

「まったく、さっきから何をやっているのですか?」

 

「いやその……」

 

 千束は必死に弁明する。さっきからて事は、一体どこまで見ていたのかが分からないが、取り敢えず誤魔化すことにしたのだ。

 

「ほ、ほら!運動だよ運動!」

 

「……嘘ですよね?」

 

「うぅ〜……」

 

「………はぁ、大体さっきから()()()()()()()()()()()?」

 

 彼女の言う通り、千束は運動したのではなく、踊っていたのであった。しかも結構下手でクセが強そうな踊りである

 

「いやほら、カボチャ君が踊っていててさ!」

 

「カボチャ君…………あ。」

 

 とここでたきなは、巨大人型兵器を操縦する不審人物…カボチャ頭が、踊っていた記憶を思い出す。

 

「ーーーー確かに……踊っていましたね……というか、何故千束が真似して踊るのですか?」

 

「それがさ、この踊りに何かあるかな〜と思って!」

 

「……………それ、意味あります?」

 

「そう? ホントは意味あるんじゃ無い?私も気になるんだ。それに、これはきっと何かのヒントでもあるんだよ?」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「うん! だって、あんな踊りをしたらそりゃ何か意味があると思うじゃん………………多分。」

 

「今の間は何ですか?」

 

 とツッコミを入れるたきなだが、一応彼女は納得してくれたようだ。

 

「それはそうとさ、たきなは何しているの?」

 

「え、えぇ……実は、先日の事件映像について観察していました。」

 

「おぉ、真面目ですな〜たきなさん。」

 

 答えたたきなは、客席の机の上にノートパソコンを置き、その映像を千束にも観せる。ちなみに、千束に観せている映像はDAのではなく、クルミのドローン映像記録である。

 

「何度も観ましたが……やはりすごいですね…」

 

「そうだね〜って!これ夢じゃないよね!?しかも何この超最新技術クオリティーは!もはや戦隊ロボじゃん!」

 

「そう……ですよね……」

 

 たきなは、自分自身言っていて気付いたのだが、この巨大人型兵器が、SF、アニメ、または特撮ロボと言われてもおかしくない。更にその操縦者でもあるカボチャ頭も相応しいのだろう。

 

「でも、他に手掛かりは殆どありません。映像だけとはいえ、流石にこれだけでは今の所分からないことだらけですね。」

 

「そうだね……けどさ、カボチャ君が使っている弾も不思議だよね〜」

 

「……確かにそうですね。しかも、千束が使っている特殊な弾丸と似ていますよね。少し、違いますけど。」

 

「しかも()()()()だしね。」

 

「ですね…」

 

 たきながパソコンを作業しながら、情報を整理する二人。

 

「…………ねぇ、たきな。カボチャ君てさ、どんな感じの人かな?」

 

「……どんな人、ですか?」

 

「うん。変な仮面を被って、それに変な踊りをしている割りに、めっちゃ撃ってきたじゃん。しかも、不殺だったんでしょ。やっぱ気になるじゃない?」

 

カボチャ頭。

 顔、性別、年齢、身元、などなど、全てが不明である。

 また、別の意味合いでは、ハロウィンのジャック・オ・ランタンなども存在するが、たきなが抱く印象としては、たった一つ、圧倒的な技術力である。

 

「……やっぱり技術力ですね。あの巨大ロボ、正直今の技術で造れないのではないのか疑うくらいです。」

 

「………まぁ、あんなロボットを造れるレベルくらいだしねー。…………え、そんだけ? 他には?」

 

「……他とは?」

 

「あるじゃん、カボチャ君の事だよ!動きが男の人っぽいとか、逆に女の人っぽかったとか、雰囲気的な仮面ラ◯ダー!とかさ?」

 

「…………」

 

 千束は両腕を広げ、その場で背伸びし一時停止、あざとく小首を傾げる。他にと言われても困ってしまうが、しかし改めて考えてみると、たきなの胸中にも、ある想いが芽生えた。

 

「これは、あくまで一個人の感想ですが…」

 

「うんうんうん」

 

「正直………ふざけているようにしか考えられません。」

 

「ーーーは?」

 

 あんだって? という表情の千束に気付かないまま、たきなは言葉を重ねていく。

  

「どれだけあのカボチャ頭との戦闘を頭の中でイメージしても、勝てる道筋が見えないんです……と言うか、あのふざけた踊りはどうかと思います!」

 

「あーそ、そうなんだー」

 

「そういう千束はどう思うのですか?」

 

「……え。わ、私!?」

 

 今度は、千束に問うたきな。

 

「そうだな〜〜私としては………カボチャ君はいい人だよ思うよ?」

 

「ーーーいい人……ですか?」

 

 千束の答えに疑問を抱くたきなだが、そんな彼女を気にせず続ける千束。

 

「だってさぁ? カボチャ君、誰も殺さなかったんだよね。正体は全然知んないけど、敵対する意思はない、って考えられないかな?それにさ、巨大ロボを使って、街の人々を助けたじゃん!」

 

「それは……そうかも知れませんけど、あの兵器を見れば流石のDAでも野放しには出来ませんよ。」

 

「まぁそれもそうなんだけどぉ……仲良くしといた方がいい気がするんだよねぇ、千束さん的には〜」

 

 と千束はそのカボチャ頭と一応仲良くしたいと考えた。その時…

 

 

 

 

『ジリリリリ〜』

 

 

 

 と店の電話のベルが鳴る。千束は気持ちを切り替え、見た目だけが旧式の受話器を取り上げた。

 

 

「はいはいはーい、毎度ありがとうございまーす!お口に甘味と幸せをお届けします、皆さまの心のオアシス喫茶リコリ…」

 

 

 

くぉらぁああっ! 錦木千束ぉおおおおっ!!

 

 

 

「ひゃいぃんっ!?」

 

 耳をつんざく怒声に、思わず尻尾を踏まれた犬のような悲鳴が上がる。聞き覚えがあるその声は、DAの主任医師である、色んな意味で脂の乗った女医……山岸(やまぎし)である。

 

 

『いつになったらこっちに来るの!体力測定、済ませてないのはもうあんたを含めて二人だけよ!』

 

「あ、あはは……申し訳……ん?()()?」

 

 これでもかと声に乗せられた怒り。知らず、見えもしないのにヘコヘコと頭を下げまくる千束だったが、最後の言葉が引っかかった。

 

 山岸の言う体力測定とは、リコリスとしての活動免許を継続更新するために必要不可欠なものである。遅刻常習犯の千束自身はともかく、この時期になってまだ受けていないリコリスが居るのは珍しい。

 

「ちなみにもう一人って?」

 

『フキよ。まぁ、あの子は色々と忙しいから分かるけど……()()()()()()()()()。』

 

「うぐっ……いいいいやいやいや、そんな事はありませぬぞ〜?わたしだって色々と忙しくてですねぇ……」

 

『はぁ……とにかく!早いうちに来なさい、いいね!』

 

「は〜い……」

 

 山岸が口酸っぱく注意を促すのは、心配してくれている証拠。分かっているからこそ、不服ながらも、千束は小さくなってDA本部行きを承諾した。

 

 そして、受話器を置いて溜め息を一つ。

 

「いやはや、難儀なもんですなぁ〜と。ま、生きてるだけで丸儲けですけども…」

 

「…………千束、今さっき聞こえてしまいましたけど………電話相手は、山岸先生ですよね。まさかまだ行ってないのですか定期検査?」

 

「うぐっ……た、たきなさ〜ん?いや〜それh「行きましょう!」…っえ!?ちょ、ちょっと待って!まだカボチャ君やロボットとかは!?」

 

「それは後にしましょう!今はまず、定期検査に行くことが重要です!」

 

「えぇ〜〜!?」

 

 身体の検査にまだ行っていな千束に対して怒っているたきなは、無理矢理彼女を連れて行こうとするが、何故か行きたくない気持ちを持つ千束。それは、病院へ行きたくない、少女そのものであった。

 

 

 

「え〜〜〜明日がいいn「ダメです!」…はーい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『随分と騒がしいですね』

 

「全く、あの子は……」

 

 千束が犬のような悲鳴を上げた裏では、ミカが携帯片手に頭を抱えていた。電話口の相手……楠木司令にも聴こえていたようだ。

 

「で、そちらではどうなっている?」

 

『……何の事でしょう?』

 

「とぼけるな。あの人型兵器とカボチャ頭とかいう奴だ」

 

 気を取り直し、楠木を問い詰めるミカ。定期連絡のついでと言うには、重過ぎる内容である。誤魔化しは効かないと悟ったか、楠木が溜め息混じりに応えた。

 

『悩みの種、としか言いようがありませんよ。情報一つも見つからないどころか、以降は一切の痕跡を見せず、完全に迷宮入りですね。』

 

「ふむ。言い得て妙、だな」

 

 楠木の言い分はもっともな物だった。

 

 カボチャ……または、謎の巨大人型兵器が日本で確認されてから三日が経過している。つまり、日本で生活しているということにもなるかもしれないし、もしくは海外のどこかに潜んでいるに違いない。

 人間とは生きるだけでも様々な痕跡や証拠を残すものであり、近年ではそれがデジタル的にも記録される。だというのに痕跡どころか、証拠一つも得られていないという事実。しかも、世界最高のAI・ラジアータでさえ、見つかっていない。

 

 

 ※まぁ、蒼夜には優秀なAI達がいるので、見つかることはないのだが。

 

 

『実はDA内でも、アンノウンの処遇を巡って意見が対立しています。』

 

「……と言うと?」

 

『断固処分すべきという強硬派と、奴の巨大人型兵器や技術を取り込むべきという穏健派、ですね。上層部でも割れているのが困りものでして……』

 

「なるほど……」

 

『一応言っておくと、私は強硬派です。』

 

「だろうな。」

 

 気が緩んだのか、楠木は内情の愚痴も溢し始める。厳格な管理体制下にあるDAでも、こうした思想問題は付きまとう。

 

 千束達の報告から判明した、兵器を操縦する正体と、技術と威力のレベル。

 

 これを脅威と見做して、変わらず排除を試みる強硬派。

 一方その反対派は、その技術を手にし、懐柔を目指す穏健派。

 

 これまで一枚岩で活動し続けてきたDAを割ってしまうなど、その影響力が伺えると同時に、ある種の懸念も抱かざるを得ない。このままでは、一つの組織がバラバラになってしまうのではないかと…

 

『………………1()0()()

 

「…………は?」

 

「もしも日本政府があの巨大人型兵器を手にしたら、ぜひ譲って欲しいと、アメリカ政府が出す最高金額は1()0()()()()らしいですよ。それにアメリカだけではなく、中国、ロシア、または各国でも、これに目をつけられていますよ。もちろんアメリカも負けず、今ではもう倍以上も上がりましたよ。恐らく、この先も上がる思いますが…』

 

「いきなりオークションか………で、日本政府は?」

 

『同然ですが、中には日本国の大赤字を回避できる考えを持つ者やその技術を日本の物にしようと考える者も分かれていますね。』

 

「だろうと思った…」

 

 何となく分かっていたミカ。日本だけでなく、全世界も黙っていないだろう。もし日本がその兵器を手にした場合、バラして研究したい、と思っている連中が山ほど居るのだ。下手したら、国家やテロリストなども狙っているだろう。

 

 その時はネジの一本すら残さず回収して研究されるだろうし、そもそも現代科学を大きく上回るオーバーテクノロジーの塊を造れる製作者も知りたいだろう。

 

「一応聞くが、()()()()()()()()()は?」

 

『さぁ、まだ分かりませんね。ただもしも本当にあの兵器がアラン機関が造っていたのだとしたら、何故10式戦車改を破壊する必要はあるのでしょうか?』

 

「……だよな」

 

 

 

〜アラン機関〜

 

 それは、この世界に100年前から存在しているとされている支援機関の名前だ。

 支援対象は「あらゆる分野の天才」。

 スポーツ、文化、学問。ありとあらゆる分野において突出した才能を示した、または示す者に対して、アラン機関は無償の支援を行っている。

 アラン機関の支援者は支援した者に対して接触することが禁じられているため、支援された当人が何の才能を持っているのかは自身で探していかなくてはならないのだが……実際の所、アラン機関によって支援された者たち通称「アランチルドレン」はその大半が己の才能が何であるのかを理解し、その突出した才能を以て世界に進歩をもたらしている。

 

 そして、10式戦車改こそ、アラン機関からの支援でもある。当時のニュースでは、日本でアラン機関が認めた技術の才能を持つ開発者達の報道が流れていた。本来なら、日本にとって誇らしいはずだったが……

 

「まぁ、あの事件が起きてから、世間の目は変わったな……」

 

 とミカは、カウンター席にあるテレビを見る。その画面には、『アラン機関が支援した開発者達は間違いだったのか!?』と、流れてあった。

 

「それにしても……コンピュータウィルスの感染が原因で暴走。なんて、よくそんな()()()()を考えたな。」

 

 先日の記者会見で発表された事実は……ラジアータ機能が出した()()()()である。本当の事実は、10式改を暴走したのは、一人の傭兵の仕業のはずだったが…

 

『戦車が暴走したのは、一人の傭兵の仕業だと世間に公表する訳ないでしょ。もしこれが知れば、日本の治安は悪化、更に国民からの信頼も無くなりますよ。」

 

「まぁ、そうだな……ところで今更だが、あの巨大ロボが映っている映像もラジアータで何とかできたんじゃないのか?」

 

『えぇ……ですが、その時ラジアータの機能が不完全だったため、処理時間前には間に合いませんでした。』

 

 それにあの大きさだ、いくら映像を消そうとしても、人々の記憶には残るだろう。また、今回の事件で結構な大ダメージを負うことになった日本政府。事件に遭った被害者や建物の賠償金なども山ほどの問題が残っている。

 

「と言うか、もしコイツが本当に敵だったらどうする?映像を観たかぎり、リコリスの手で対処難しいだろう。」

 

『えぇ、だからこそ、対処できるようになってもらうだけです。例え相手が巨大兵器だろうと、確実に狩りますよ……』

 

「…………」

 

 ミカの心配など無視して、楠木はこう言い放つ。

 

 彼女がどういう意味合いで、この言葉を使ったのか。それを理解できないままに、けれどミカの嗅覚は、言い知れぬ不穏さを嗅ぎ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 ちなみにミズキは………

 

「どぅふ、うふふひひぃ……いい男ぉ〜〜」

 

 飲んだくれていた………以上。

 

 

 

 

 

 

〜リコリコの一室の押し入れ〜

 

 

 

「………よし、来た!」

 

 

 一方、仄暗い空間で青白く展開されたモニター画面を操作しているクルミは、電波の逆探知を目的としている。と言うのも、彼女が探しているのは、日本全国の空港の追跡機能や監視カメラ機能もハッキングし、先日の事件で空へ飛び去った巨大ロボの場所を特定している。もちろん、目的は巨大ロボを見つける事である。

 

 そのために、まず最初は空港内の機能をハッキングするのが、一番近いとそう考えたのだから。

 

「海外の中継基地は排除、国内に限定……セキュリティはよし……」

 

 ヘッドセットを急いで被り、高速でタブレットをタイピングしながら、音声入力による補助も追加で行う。そうしている内に、検索の結果としては……

 

「ーーーーーちっ、結局見つからなかったな…」

 

 ()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それも、違う場所ばかりで、パっと見では共通点が見当たらない。ましてや、あのウォールナットでさえ、何一つもつからなかった。

 

「………地道な作業は苦手じゃない。どっちが先に尻尾を掴むか……」

 

 顔も名前も性別も分からない誰かに対し、それは挑戦的な笑みを浮かべるクルミ。実は彼女、こう見えてかなりの負けず嫌いなのだ。今のクルミは内心で舌を巻く反面、未知の技術にすこぶる興奮しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜同時刻・DA本部〜

 

 

 

 

 

「面目丸潰れ、だな」

 

 

 ミカとの電話を終え、報告書を執務机へと放り投げ、楠木は革張りの椅子に肘をつく。

 

 10式改の暴走とアンノウン(νガンダム)出現以来、これでもかと突き上げを食らってきたが、事実そうされても仕方のない顛末だった。それにかこつけて、憂さ晴らしをする羽虫が鬱陶しいけれど、甘んじて受ける以外にない。屈辱ではあったものの、それはそれで時間は止まってはくれないのだ。

 

「それで、10式改の強奪の作戦を行った依頼主は誰だ?」

 

「はい、つい先程、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との報告があがりました。もちろん警察を手配したのは上からの指示です。」

 

 と続けての報告する秘書に、片眉を上げる楠木。あの事件の後、10式改を強奪しようとした依頼主が誰なのかはラジアータで簡単に見つけることができた。

 

「強奪した目的は?」

 

「明確ではありませんが、闇オークションで売る予定だとか…」

 

「……そうか」

 

 秘書に対する返事は短い。興味がないのではなく、その逆。言葉が少なくなるほど、楠木は考えている。それを踏まえた上で、秘書は楠木に問い出す。

 

「あの司令………例のアンノウンについて、上層部はなんと?」

 

()()()()()()()()()()、だそうだ。上は随分と焦っているらしいな。」

 

 皮肉屋な笑みを浮かべ、楠木がまた報告書を投げ出す。自身の苦境よりも、上の騒ぎっぷりが楽しいようだった。楠木も楠木で、これまでの鬱憤が溜まっていたのかも知れない。

 

 だが、結局そのカボチャ頭は誰なのかは全く不明である

 

 白人か黒人、男か女、それともアランチルドレンなのか……

 

 様々な可能性が浮かび上がってくる……

 

「それと……念の為に他のリコリスにも、伝えておけ。」

 

「分かりました……ですが、情報はまだ……」

 

「今は映像と、彼女達が描いた絵しかない。」

 

 

 話は終わりだ、と言わんばかりに椅子を回し、背後にあった窓を見やる楠木。秘書も無言で頭を下げ、執務室を後にする。

 

 

 

「…………アンノウン……一体何者なんだ?」

 

 

 

 花散らしの雨は、少し長引いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、蒼夜のアパート近くの廃工場の地下倉庫。

 

 

 DAの捕獲対処となった事を知らず、カボチャ頭──蒼夜が一人、MSの整備格納庫にいた。普通の地下より広いのだけあって、ある物といえば多数の機体と修理道具や予備パーツだけである。とはいえ、これだけの広さを造れる技術は、世界の技術者達に驚かせれるだろう。

 

「…………ハアァァ……」

 

 そんな場所で、MSの機体確認や整備などの作業をしている蒼夜は、大きくため息を吐く。何故なら……

 

 

 

 

 

「ーーーー仕事……どうしよう……」

 

 

 

 

 

 先日の事件でバイト先のだったはずの会社が閉業し、再び無職に戻ってしまった一般人。つまり、また仕事を探さなきゃならないと最初からスタート地点へ戻ってしまった気分である。

 

「ソウヤ、大丈夫?」

 

「大丈夫?大丈夫?」

 

「ハイ、冷タイオ茶ドーゾ!」

 

「あぁ……ありがと……」

 

 そんな落ち込んでいる彼を慰めるハロ達。とそこへ…

 

「大丈夫ダヨソウヤ!例エ、ソウヤハ()()()()()()()()デアッテモ、僕達ハソウヤノ味方ナノダ!」

 

「ーーーーーーーう、うん……ありがとね。」

 

 恐らく悪気はなかったと思うが、一瞬だけ傷つく言葉が聞こえた。それでもハロらしい喋りなのはもう慣れている。別に気になる必要はない。

 

「……………でも………仕事どうしよう……」

 

 

 ーーーが、やはり無職から抜け出す方法はないのかと考えてしまう。そう思いながら、MSの作業へ戻る。

 

 作業中に一滴の汗が、ゆっくりと流れつつあった。

 

 

 

 

 

 






リコリスキャラ達「「「「何なんだコイツは!?」」」」


モブ主「はぁ〜仕事……どうしよう……」

ハロ達『ソウヤ、大丈夫〜?』← 主人を心配するハロ達

MS達『俺らの出番まだかな〜?』


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Episode 9 First work

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜東京、とあるハローワークにて〜

 

 

 

 

「ありませんね。」

 

「…………え?」

 

 

 現在、ハローワークのカウンターの就職先相談所の前に座っている女性の言葉を聞いて、思わず疑問の声を上げる蒼夜。

 

「今の所、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。失礼ですが、暁月さんご自身の性格が原因かと思います。おそらくなんらかの前科者に疑われてしまう可能性もありますし.........なので、その性格を治してから、後日改めて来てくださいね暁月さん。」

 

「ーーーーーーはい……あ、ありが……とう……ご……ざいま……した……」

 

 と、言葉は相変わらず少ない彼は、ため息を吐き、そのまま建物の外に出た。今度こそ、ちゃんとした職に就こうと勇気を出してハローワークへ向かったが、結局答えはいつもと同じどころか、この先どこへ行っても仕事が見つからない可能性があると絶望を与えられてしまった。つまり、今の暗い性格ではどこも雇ってくれなさそうであった。

 

 

 

 

「ーーーはぁ.........くそったれ.........」

 

 

 ーーと、ため息の後、小さな暴言を思わず吐き捨ててしまった蒼夜。相談所で行った会話を思い出し、特に彼にとって一番傷ついたのは.........

 

『あの.....失礼ですが.....前科って持っていますでしょうか?』

 

 ーーなど、何故かいきなり前科持ち扱いされたのが精神的に傷を負ってしまった。

 

 そして疲れたのだろうか、急に体から疲れを感じてきた。疲れた体を癒すために、目先に見つけた夕暮れ時の太陽に照らされた公園のベンチに座る。

 

「(………ハアァァ………結局、ハローワークもダメかよ……)」

 

『ーーーそれでは、次のニュースです。』

 

「………ん?」

 

 と何か聞こえた蒼夜は、振り向く。目に入ってきたのは、高層ビルの上に取り付けられた大きなスクリーン映像。そこに映っているのは、とあるテレビニュース番組では、新人らしい若手のニュースキャスターがそんな事を伝えていた。

 

『先日の10式戦車改暴走事件で突如東京の街に出現した謎の巨大ロボット。これにより、政府は何も知らないと答えたのですがーーー』

 

「(あぁ………そういえば、まだやってたんだな。)」

 

 謎の巨大ロボについて語るニュース番組を観る蒼夜。スクリーンに映っているのは、10式改と戦うνガンダムと人命救助を行うジェガン達。あの事件が終えても、いまだにその話題が続いている。当然分かってはいたが。

 

「(あぁ〜〜何となく分かっていたけど……やっぱ目立つよね〜)」

 

 

『また、この巨大ロボ何ですか、専門の方によればーーー』

 

 

 ニュースキャスターが話している途中、画面が代わり、νガンダムが使うビームライフルやビームサーベルが映っていた。その映像を街の街中の人々が観ていた。彼らの反応は当然の如く様々だ。

 

 マジかよ、と疑う者。

 

 自分達が襲われるのではないかと不安がる者。

 

 現れた巨人に注目する者。

 

 宇宙人なのか、と想像する者。

 

 刺激を与えてくれる存在を喜ぶ者。

 

 ただ、この時点ではνガンダムやジェガン達を注目している人々は、多くいるだろうということは間違いない。また、日本だけでなく、世界中にも注目が回っているだろう。

 

 

『ーーーではここで、専門の方々に詳しいお話を聞きましょう。この巨大ロボについて、どうお考えでしょうか?』

 

『そりゃもちろん危険でしょ。しかも突然東京の街に突然現れ、しかもいきなり光線銃を使ったのですよ?明らかに不法入国と銃刀法違反でしょ。』

 

『ちょっと待てください!この巨大ロボは、街の人々を助けたんですよ!それにこの緑の巨人達も人命救助をしたと、現場に遭った人達からも聞きました。』

 

『それは違いますよ。そもそも、自衛隊の出動を待つべきですよ。』

 

『だったらどうして基地から10式改が脱走し、暴走し始めたのですか?そもそも、今回の事件について管理責任である自衛隊に問題があると私は思いますが!?』

 

『それはーーー』

 

 

 などなど……多数の考えを持つ専門の方々が語る。また、その対処法について多く上げられたのは、捕獲である。と言うより、日本政府が持つ考えだ。

 

「(捕獲か……ま、そりゃそうだよね……)」

 

 なんとなく分かっていた蒼夜。あれだけの迫力を世界中が見れば、そりゃ誰だって手にしたいと思うだろう。そう思った蒼夜は、今後も気をつけようと決めた所……

 

 

『ーーーではここで、事故に遭った人々について……』

 

「(............ん?)」

 

 ーーーふと、いつの間にか街中の取材をしているシーンへと切り替わる。映っているのは、先日の事件で会ってしまった人々達がいた。

 

 

《信じられませんよ……正直、今にでも夢だと疑うくらい。》

 

《私達を助けてくれた巨大ロボットは、きっと良いロボットなんですよ!》

 

《あのロボットがもっと早く出してくれば、被害が少なくなるんじゃねーのか?……えっ!?自衛隊のじゃないのかい!?》

 

《あのロボット……カッコイイ!!》

 

《緑の巨大ロボット達のおかげで、犠牲者が出ませんでした。本当に感謝しかありません。》

 

《あれは守護神様じゃ……本当に...本当にありがとうございます……》

 

 

 現実だといまだに信じらてない者。

 

 感謝する者。

 

 守護神だと勘違いする者。

 

 などなど……リポーターのマイクにそれぞれの人が答える言葉を聞いていると…

 

「(………よかった.......あの後無事だったんだな.......あの人達……)」

 

 結構目立ってしまったが、それでも多くの人々を救う事ができたなと喜ぶが、今の彼はそんな気持ちをしている暇などはない。

 

「(はぁ………でも仕事……どうしよう……)」

 

 どうやってこの世界で仕事を見つける事ができるのか……と、色々なことを思案している蒼夜の視界の端に、ふと街を探索しているときも度々目にした花のように朽ち果ている塔……“旧電波塔“が目に映った。

 

「………そういえば..…なんであんなの放置してあるんだろう……」

 

 

 

 

 

「それはね〜、今はあれ平和の象徴とか呼ばれてんだよ~全く平和とはかけ離れた見た目なのにね〜」

 

 

 

 

 

ひゃうぁっ!?

 

 

 

 

 

 

 っとその時、突如後ろから聞き覚えのある声に吃驚して、思わず何かの奇声の様な声を上げてしまった蒼夜は声の方向に首を向けてみると、そこに立っていたのは金のように見える白髪のショートカットの後ろに束ねられた髪をまとめるリボンと同じ色をした奇麗な赤い瞳の少女……錦木千束がいた。

 

「ヤッホ〜蒼夜君!また会いましたね〜」

 

「………」

 

「……あれ?お〜い、蒼夜く〜ん?」

 

「……はっ!?ち、千束さ、さん……」

 

「あ〜〜また()()()()!どうせほぼ同い年なんだし、そんな気遣わなくていいじゃ~ん。」

 

 いつも通り少ない言葉で返す蒼夜に、頬を膨らませて怒ってますよーぷんぷん、といった感じのアピールをする千束。

 

 ただ、千束を見た瞬間に、若干の緊張を覚える。何故なら、あの事件……廃工場の出来事以来、彼女とたきなのことを少し避けていた。

 

 正確に言うと、そもそも彼女達と同じ制服を着ている二人の少女達と、恐らくあの店の従業員全員含め、そういう店だったのか……と、考えていたら、少し怖くなってきた。

 

 まさか、あの時の彼女達が……()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「(いや待て待て待て!落ち着け自分!まだそうとは決まってない!……きっと.....多分……絶対!)」

 

 自信満々には言えてないが、きっと何か別の理由があるのではないかと....そう信じるしかない蒼夜。

 

 喫茶店リコリコが()()()()()()()()とはいえ、まだ確証がない。それに、もしも自分の勘違いであれば、それはそれで本当に申し訳ないなと罪悪感を感じる蒼夜。

 

 だが……まさかこんな場所で千束と再び会うなんて、予想外だった。正直、今も緊張してビクビクしているのだが、ここで変に何にも喋る事なく帰ろうとすれば、絶対に不審がられるだろう。そう考えた蒼夜は恐る恐る話をする。

 

「あ……あの……どうして……ぼ、僕に……話しかけ……たの…ですか…」

 

 相変わらずコミュ障で言葉が少ない蒼夜。そんな彼を千束は……

 

「う〜ん...何となくかな?特に理由はこれと言ってないよ〜」

 

「………………え?」

 

 そう答えた千束。まさかそれだけなのか、と思い蒼夜は少し視線を逸らすと…

 

「ねぇ〜おかぁさん!今日のご飯は何〜?」

 

「ふふっ...今日はね、カレーだよ。」

 

「本当!?やったーーー!!」

 

 その前に、手をつないでいる母と一緒に家へと帰っていく子供の姿が彼の視界に入った。

 

 

「………」

 

「ねえ。ああいうの、どう思う?」

 

「え………な………何が……で……す?」

 

 と突然さっきの親子に指をさし、突然意味不明な問いを投げかけてくる千束。

 

「蒼夜君さ、あの親子見た時、すっごいホッとしたような顔してたよ?気づいてないの?」

 

 体を折り曲げ、蒼夜の顔を覗き込んでくる千束。そう言われてみると、確か蒼夜の表情は口角が少しだけ上がっており、どこか嬉しそうにも見える。だがあの親子を見て何を具体的に感じたのかは、気付いていない彼自身にも分からない。なぜなら……

 

「………分からない………僕……親も……家族も……いないから……」

 

「っ!ーーーーーーーー」

 

 その言葉に、少女がバツが悪そうな顔をする。流石に踏み込んでしまってはいけない領域に入ってしまって、申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

 

「ご、ごめん……デリカシーなくって………」

 

「い、いいえ………それに………帰っても………一人だし……」

 

「え?………どゆこと?」

 

「………その………僕………今、一人暮らし………です……」

 

 目を開いて口に手を当て、え…と小さな声を発して驚きを現す少女。

 

「し、親戚は?例えば……おじいちゃんおばあちゃんとか?」

 

「……し………親族も……いない……それに……そ、祖父母も……いない……」

 

「………嘘でしょ」

 

 祖父母どころか親戚もおらず、自分と同じくらいの年齢の少年が一人暮らし……というのはそれほどまでに千束にとって衝撃的な事であったのだ。ちなみに千束も一人暮らしだが、蒼夜と違って頼れる人もいるので、寂しくなる心配はないのだが……

 

「蒼夜君、もしかしてだけど……仕事を探している理由て……」

 

「……そ……祖父母が残した……遺産………無くなった………から……し、仕事を……探している……」

 

 簡単に説明すれば、蒼夜は自分を育ててくれた祖父母が亡くなってしまい、彼らが残した遺産で生活をしているが、流石にそれだけでは生活が厳しく、生活費を稼ぐため、今も仕事を探している。

 

「(まぁ……()だけどね…)」

 

 ーーと言うのも、実際彼は、能力のおかげでそんなにお金には困っていない。本当の理由はただ無職(ニート)から卒業する(抜ける)為だけである。まぁ、まだ彼は一つも仕事を見つけてはいないのだが……

 

「………な、慣れてる……から………だ、大丈……夫………です」

 

「慣れてるって……君ねぇ……」

 

 言葉は少ないが、大体何となく理解ができる。そんな彼を見て、これはただ事ではないと千束は感じた。何かできる事が何のか、と考えた瞬間、千束はとある一つの事を実行する事を決めた。

 

「ーーーよっし!」

 

 その一言と共に突然ベンチから立ち上がり数歩歩いたところでくるっと反転する。夕日に背を向けてできた影のせいなのか、彼女の笑みと言葉には少しの寂しさが浮かんでいるようも見えた気がする。

 

「蒼夜君!私についてきなさい!」

 

「(………ん?)」

 

 一瞬何を言っているのか理解出来なかった蒼夜。そんな彼の前に立ち、細く白い美しい手を差し伸べる。

 

「君、仕事を探しているんだよね!だったら私にいい考えがある!」

 

「ーーーーーあ、あの……「ほ〜ら!行くよ〜!」……えっ!?」

 

 戸惑う蒼夜を無視したのか、彼の手を無理矢理取り、どこかへ連れて行こうとする。

 

「あ……あの……どこへ…(ヤベエェェェェェ!!!また女の子の手を触っているよぉ!?)」

 

「大丈夫!この錦木千束様にお任せなさい!!」

 

「ーーーー(え、本当にどこへ連れて行くの!?ってか、手えぇぇぇ!!!)」

 

 ついさっきまで別の事を考えていただったが、やはりただでさえ千人いたら千人が振り向くような、とんでもないレベルの美少女に緊張してしまう。前世の世界で、あまり女の子……というより学校でも友達がいないため、同い年の人と関わってきた経験自体、正直少ない。しかも、女の子の手を触るのがこれで二度目である。

 

 そんな彼を(無理矢理)引っ張られ、連れて行かれた場所は……

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

「よっし!着いた〜」

 

「(あれ……ここって……)」

 

 千束が彼の手を取った後、蒼夜はそのまま引っ張られとあるお店の前に彼女と共に立っていた。

 

「(リコリコじゃ……)」

 

 そう……連れて行かれた場所は、彼女の仕事場である、喫茶『リコリコ』。地域の皆様方に愛されながら細々と営業をしている、小さな喫茶店である。

 

「さぁさぁ入って入って!」

 

「え、ちょ……」

 

 着いてすぐに千束は蒼夜の後ろに回り込み背中を押してきたため、店の中に半ば無理やり入らされた。

 

「たっだいまー!」

 

「おかえりなさい、千束………と、蒼夜さん?」

 

 大きな声で店内に自分が帰宅したことを知らせながら突撃する千束に、レジ打ちをしているたきなが返り、蒼夜の事も気づく。もちろん、ミカ、ミズキ、そしてクルミの三人も彼の存在に気づき、目線を向ける。 

 

「ん?その子って……千束を助けた王子様じゃん?」

 

 そう言って酒を一度カウンターに置いて、ミズキが尋ねる。この喫茶リコリコは普通の喫茶店とは少し違うところがあり、時たま常連さんとの交流を深める為に店の営業時間終了後にボードゲーム大会をすることがある。しかし、そういったイベントの予定は無いし、一体この少年はどういう用件でこの店に入ってきたのだろうか。四人の思っていることはそれで一致していた。

 

「それはね〜〜あ!そうだ蒼夜君!もう知っていると一応名前教えるね!私は錦木千束!んで、こっちのかわいー女の子がたきな!飲んだくれのロクデナシがミズキでー、ちっこいのがクルミ!そして先生……ミカって言うの!」

 

「お〜い千束!誰がロクデナシだ!」

 

 千束の紹介にギャーギャーと文句を言う女、ミズキを無視して会話を続ける千束たちに黒髪の少女、たきなが怪訝な目線を向けている。以前、店へ訪れた客、暁月蒼夜の事は既に知っている。だが、なぜ彼がここに来たのか何の説明にもなっていない。彼がどういう人物なのかという説明をして欲しいたきなは、千束へと質問を投げる。

 

「あの………どういう用で蒼夜さんが来たんですか?」

 

「それはね〜〜私が連れてきたんだ〜!」

 

「千束が?何のために?」

 

「それはね〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 

 

 

「(………………え)」

 

 突然、千束の言葉に内心で疑問の声を上げる蒼夜。

 

「…………え」

 

 もちろん彼だけでなく、たきなも疑問の声を上げる。そんな彼女の表情筋が停止すると同時に、ミズキが驚きのためか口に含んでいたお酒を勢いよく吹き出したり、クルミは正に唖然と言ったような表情を浮かべていた。

 

「(え……どう言うこと……もしかして、ついに無職から卒業……じゃなくて!ま、まさか、ここで働かしてくれるの!?)……あ、あの……どういう……事…?」

 

「あれ、言ってなかったけ?まあまあ、蒼夜君もお仕事欲しいでしょ?だったら一緒に働こうよ!楽しいからさ!」

 

「(………マジか……)」

 

 ついさっきまで、仕事について迷っている状態の蒼夜からすれば、まさかここで働かせてくれるという最高の好条件である千束の誘いを断る理由はない。だが、正直迷いもある………そんな時…

 

「ちょ、ちょっと千束!ちょっとこっちに来なさい!」コソコソ

 

 と、勝手に話を進めている千束をゲホゲホと少々せき込んだでいるミズキが手招きをして、彼女を近くに引き寄せ、耳元でぼそぼそと呟き始める。

 

『は、働かせるってアンタね!できるわけないでしょうが!銃とかいじってるの見られたりしたらどうすんのよ!しかも彼、一般人なのよ!』

 

『そうですよ!それに、DAの事やリコリスの事が部外者に漏れるようなことがあれば、本部に何言われるのか分かりませんよ!』

 

『うーん、そうなんだけどさ〜』

 

 いつの間にか、ミズキの隣に来ていたたきなも、ミズキの意見を後押しするように千束を説得し出す。だが、千束はその二人の意見に不満そうな顔をして反対をする。

 

『そうなんだけどさ〜じゃないっつーの!とにかく、とっとと出てってもらいなさいよ!』

 

『それはできませ〜ん!ぜーったい彼をお店で働かせます〜!』

 

『なんでそんなに頑固なんですか!?いくら人助けだからって、こればかりは認めませんよ!いいから早く追い出してください!』

 

『いーやーだー!』

 

 彼女たちが蒼夜を追い返そうとするのも無理はない。なぜなら、この喫茶リコリコには決して知られてはならない裏の顔があるからだ。

 

 それはこの場所が『Direct Attack』通称『DA』と呼ばれる、国直属の秘密組織の精鋭部隊『リコリス』の活動拠点の一つとして使用されているためである。もちろんDAの存在は完全に秘匿され、一般の人々はその名すら聞くことはないし、世間一般に公表することなど、できるわけがないからだ。

 

 つまり、部外者を雇うのは、このリコリコの従業員である彼らの組織内での立場が危うくなるという事だ。そのためたきなとミズキは蒼夜を店の店員として迎え入れるのを断固として拒否しているのだ。

 

「(………何話してんだろ?)」

 

 そんな会話の中心の人物は自分のせいであんなにも二人が慌てていることなどを知らず、彼女達の返事を待つ蒼夜。

 

「千束……君がそこまで言うという事は、何か事情があるんだろう。それを教えてくれ。」

 

 と、ここで三人の言い合いが多少激しさを増してきたところで、褐色の男、ミカが口を開いた。千束はついさっきまでのおちゃらけた態度を一変させ、凛とした表情で男の方に向き直る。

 

「蒼夜君はね………多分、孤児なの。」

 

 大きく表情を変えはしないが、ミカの顔からは驚きがしっかりと読み取れる。他の二人、そしてクルミも唖然とした表情で蒼夜の事を見ていた。

 

「(..................え、何この空気?)」

 

「親がいなくて、ずっと一人で生活してるらしくて……なので.....ほっとけなかったの……」

 

 手をぎゅっと力強く握って言葉を並べていく千束の気持ちが、ミカに伝わったのか、杖をつきながら蒼夜の元まで歩いてゆく。

 

「..................」

 

「..................(え、なんかスゲー見られてんだけど.........僕なんかやらかしたの!?)」

 

 眼鏡の奥の瞳が、蒼夜の事をまじまじと見つめるミカ。そんな彼の瞳を見て、内心少し怖じける蒼夜。ほんの数秒の思案をしたのちに、ミカが出した答えはーーー

 

「……分かった」

 

「(..................え?)」

 

「ホント!?」

 

 千束の意見を肯定するものであった。

 

「いぃぃ〜やったー!」

 

 と言いながら蒼夜の手と自分の手を繋いでとても嬉しそうに小躍りし始めた。普通の男であればとても可愛い女子と手を繋ぐなど、中々に羨ましい事であるが、蒼夜はそんな表情を浮かべていなかった。しかし内心は……

 

「(手、手をに握られたぁ〜!しかも三度目〜!?)」

 

 再び手を握られる蒼夜は、結構緊張していた。

 

「ちょ…ちょっと待てい!いいの?」

 

「僕もそれについてはあんまり賛成はできんぞ。」

 

 が、喜びを全身で表現する千束とは違い、ミズキは慌てた表情でミカに聞き返しそれにクルミも続くように言葉を重ねる。

 

「流石にそれを聞いて放っておくほど、私は鬼じゃない。暁月君、千束と仲良くしてやってくれ。」

 

「は、はい……」

 

 その緊張感を持った蒼夜の返事にとても優しい笑みで返すミカを見て、クルミももう何も言うまいと思ったのか静かにと二人を見ており、ミズキも観念したかのような顔をして頭をポリポリとかいて、分かったよ〜、と呟いた。

 

 一方で、まだ納得できていないたきなは難しい表情をしていた。だが彼女もここに置いてもらっている身であるため、ミカの意見に反対できないのか、最後には彼女もため息をついて……

 

「店長がそういうのでしたら私も従います」

 

 と、蒼夜の就職をしぶしぶではあるもののたきなも認めたのだった。

 

「んじゃー、明日から早速働いてもらうってことで!よろしく、蒼夜君!」

 

 気を遣ったように伝えてくれる、優しい声色。今、蒼夜は自分なんかが踏み入って良いのだろうかと躊躇はするけれど、それでも一緒に働かせてあげたいと思ってくれる人がいるなんて……

 

 ────人生の中で、初めてだった…

 

「……よ、よろ……よろしく……お……お願い致します……」

 

「いや固いのよ」

 

 深くお辞儀をする蒼夜の背を手刀で突っ込む千束。苦笑しながら顔を上げれば、ミカさんが俺の肩に手を置いて微笑んでくれた。

 

「こちらこそ、よろしく頼むよ」

 

「っ……ありがとう………ございます」

 

 ────そう言って肩に置いたミカの手は、なんだかとてもあたたかく感じた…

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

 

 就活が決まった蒼夜は、開店準備中のリコリコへと来ていた。

 

 

「はいこれ。蒼夜君の制服!」

 

 千束の手によって更衣室から取り出されたのは、その真下に、黒い浴衣染みた和服が一着。制服を受け取り、ミカのように帯の締め方を見様見真似で行い、上から羽織る。

 

 鏡を見て格好を再確認し、これで良いのかと思案しつつミカさんの元へ行く…

 

「き……着替えました……」

 

「あぁ……フッ、似合ってるじゃないか」

 

「どれどれ〜〜お!いいじゃん〜似合ってるじゃん〜!ねぇ〜たきな!」

 

「……えぇ……そうですね……」

 

「え……あ、ありがと……ございま……す……(似合ってる……そ、そうなのか…?)」

 

 

 彼女達から似合っていると、言われて少し自惚れている蒼夜。実は彼、こう見えて和服を着るのが初めてであるため、似合っていないのだろうかと正直自信はなかった。そんな時、皆がいそいそと開店の準備をしている所であった。

 

 自分は何をすればいいのか分からず、蒼夜が立ち尽くしているとミズキに蒼夜〜、と名前を呼ばれた。

 

 

「よーし、今日から早速働いてもらうが……。君、飲食業の経験はあるか?」

 

「な……ないです……」

 

「………調理に自信は〜」

 

「い、家で……なら……少し……」

 

「まぁ〜そりゃそうか。うーん、まぁとりあえず私が客役やるから、君、オーダー取ってみろ。私に呼ばれたらまずは、お伺いします。んで商品名言われたらこの紙にそれを書く。注文を言い終わったと判断したら、以上でよろしいでしょうか。って言って紙に書いた商品名を読み上げてこれを厨房まで届ける。分かったかな?」

 

「は、はい……」

 

 緊張する蒼夜が頷くと、ほいっとミズキから注文用紙とボールペンを手渡される。ここに私が言った奴書くんだぞ。と伝えて、彼女がバーカウンターに腰を下ろす。

 

「君にゃちょっと難しい所もあるかもしれんが、まぁすぐ慣れるだろ〜。じゃ始めるぞー。注文お願いしま〜す」

 

 とりあえず、練習がてら彼の接客の対応を見てみようとミズキが客役になる。最初は上手くないだろうと思った彼女だが……

 

 

 

ご、ごご……ごしゅ……ご注文……を!お、おおおお願い……し、しま……す……

 

 

 

 

 

「…………ひ、ヒデーな…」

 

 一応蒼夜について千束から話聞いたが、どうやら彼は人と話すのが大の苦手らしい。だが、まさかここまで酷いとは、流石のミズキも驚愕している。

 

「お、オッホン!えーとじゃあ、このどら焼きバーガーと団子三兄弟、コーヒーと前茶をお願い〜」

 

ど、どどら…やき。だ、だんご、さ、さん、きょ……だい!こここ、こーひー、ぜんちゃ……

 

 初心な彼にゆっくりと注文をするミズキ。彼女のオーダーに何とか追いついて商品名を注文用紙に連ねていく。書き終わったのか、蒼夜が書く手を止めミズキが確認のために注文表を見に行く。

 

「お、おう………()()()()()()()()()……」

 

 注文の一部は全て載ってあるし、字もそれなりに綺麗に書けてある。だがこれで一つだけ問題点が分かった。それは、彼のコミュ障による言葉である。正直、散々なものであった。

 

「(うぅ……やっぱり……人と喋るのが超苦手……)」

 

 と、内心で自身の喋りが役に立たない事を自覚し、ここで本当にやっていけるのかと心配する蒼夜。

 

「うーん……この調子じゃあオーダー取るのは無理そうだな……」

 

「まぁ〜まぁ〜ミズキ、最初は誰だって緊張するって!」

 

「いや、流石にあの喋りは異常だと思うけど……うっし!じゃあ次教えるから、教えてやるからついてこい!」

 

 一応注文を取ることができた(?)蒼夜は、その後皿の位置だったりコーヒーメーカーの使い方だったりゴミ捨て場の場所など諸々の説明を受け、リコリコ内でのポジションを大体覚えることができた。

 

 そして、喫茶リコリコの開店時間となり、蒼夜にとって、ここでの初仕事が始まったのだった。

 

 結論から言うとまったくもって予想外な事ではあるが、蒼夜は何の問題無く、仕事をこなし続けていた。客を千束が席へと案内した後、無言だが、素早く水とおしぼりを置いていき、“これ持って行ってくれ“と言われればすぐさまそれを各自のテーブルへと配膳していったりなど、問題なく業務をこなしていった。

 

 そして、たきなや千束が合間合間にやっていた雑用業務はほぼ全て蒼夜が終わらせていたため、喫茶リコリコの回転率はかなりいいものとなっていた。

 

 そんな、彼の働きぶりを見てこれで自分の仕事が減る、と不純な動機で喜んでいるミズキもいたが……

 

「よし、いったん昼休憩にしようか」

 

 ピークのお昼時を超え、店内から客がいなくなった店内を見てミカがそう告げる。

 

「(や、やっと休憩か……)」

 

 緊張感が晴れ、息が上りかけていた蒼夜は一度着替え、畳に腰かけてリラックスしている。仕事や作業に関しては、彼にとって楽しく、疲れた感じはしなかった。だが、店の周りに人が多すぎるか、人と会話するのが大の苦手である彼にとって困難であった。

 

 そんな時、同じく着替えを終えた千束とたきなが更衣室から出てきた。

 

「初仕事どうだった、蒼夜君?」

 

「な、なんと………できま……す……」

 

「ホント〜!そりゃ〜良かった良かった!」

 

 彼をここへと連れてきた千束は、蒼夜にこの仕事が合わなかったらどうしよう。などと考えていたが蒼夜のその言葉を聞いてとりあえずその心配はなさそうでほっとした。

 

「蒼夜君、一緒にお昼いかない?私が奢るから!」

 

「え……い、いい……です……か?」

 

「いいよ、いいよ!どこへ行きたい〜?」

 

「……ど、どこでも……だ……大丈夫……です…」

 

「じゃファミレス行こうか!ほらほら支度して〜たきなも早く〜」

 

「待てください千束!」

 

 そして、ファミレスへ向かう三人は、一緒になって店を出ていく。

 

 

「あぁ、青春が眩しい……くっ!やっぱり若さなのか!!」

 

 などと言いながら目を覆って現実から逃げているミズキ。そんな彼女をミカが呆れたような目で彼女を見ていると、奥の和室の扉がガラッと開いた。

 

「おー、ようやく出てってくれたか。全く、おちおち話もできないな。」

 

「んな事言ってるけど、どーせ合法的に仕事サボれて嬉しがってんでしょアンタ」

 

「ソ、ソンナコトナイゾ〜」

 

 とでもいうように口笛を吹いてミズキから送られてくる視線をかわそうとしているクルミ。嘘つけとミズキが呟いたところでミカも店の奥から出現し、クルミに昨晩頼んでおいた仕事について尋ねた。

 

「クルミ、暁月君について何かわかったか?」

 

 彼女に頼んでいたのは、蒼夜に関しての情報である。念の為、彼はどこか怪しいのではないかと調べさせてもらった。

 

「一応で調べてはみたんだがな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 やれやれ、と手をあげて首を振る仕草をするクルミの言葉を聞いて、ミズキの表情が少し驚いたものになる。

 

「へぇ〜天下のウォールナット様からそんな言葉が出るとはね〜」

 

「まぁ、とりあえず来てくれ。」

 

 先ほどクルミが出てきた部屋の押し入れへと二人を案内する。案内したクルミはそのシートに座り、慣れた手つきでキーボートを物凄い速さで叩きだした。そこに映し出されたのは、街中に設置されている大量の監視カメラの映像であった。

 

「ここらへん一体の監視カメラの()()1()0()()()()()の映像を漁ってみたんだが、もちろんアイツの姿はバッチリ映っている。だが、特に怪しい所は映ってないな。」

 

 エンターキーをクルミが軽く押すと同時に、ディスプレイに表示されていた10年分の無数の映像が映し出された。その一つ一つには、仕事を探し回っている蒼夜。その次は買い物へ向かう蒼夜。さらにさらに次の場面に変わると、昨日ベンチに座っている蒼夜と千束がいた。そしてそこで映像は止まって終了した。

 

「……本当にこれだけなのか?」

 

「あぁ……一応、お前の方でも調べたんだろ?ミカ」

 

「……ああ、彼の経歴に怪しいところは無かった。」

 

「つまり、本当に()()()()()()…て事だな。」

 

 スナック菓子を摘みながら鼻で笑うクルミだった。何度か調べ直したが、特にそんな怪しい点もなく、蒼夜が嘘をついている様子も無かった。

 

 しかし、ミカはとある問題について、内心で頭を抱えていた。彼をここに置いておこうと昨日時点では決まっていたんだが、彼をどうしたものか、と悩んでいた。なぜなら……

 

「本当にアイツが一般人なら、ここで働かせるのは少し無理があると思うぞ。何だってここは、普通の喫茶店に見えて、()()()()()()からな。」

 

 クルミの言う通り、彼女の部屋の押し入れには、とある秘密が布団の代わりにたくさん詰まっている。それだけでなく、ここには大量の武器弾薬庫や射撃場まである。そんなものを蒼夜に見られたら、千束達は正体を隠すことなど、到底不可能になってしまうだろう。

 

 もちろん彼を辞めさせればいいの話だが、それはそれで本当に胸糞悪い気分になるだろう。それに…彼はリコリコとは客であって、ほんの少しの間ではあるが、それでも確かに関係を築いてしまった。

 

 だが最悪の場合、もしも蒼夜の存在がDA本部にバレてしまったら、隠蔽の為、他のリコリスたちの手によって射殺されてしまうだろう。

 

 そうなってくると、千束が精神的にダメージを負う可能性も十分にある。かと言って彼女が対処に行けば、引き金を引けなくなってしまう危険にもつながる可能性だってある。

 

 とりあえず今分かったことは、蒼夜にDAの存在を知らせない事と、DAにも蒼夜の事をバラさない事。クルミの件もあり更に仕事が増えたが、リコリコの座敷で会議をする3人の意見は合致していた。

 

「……まぁ……きっとそれが最善だと思うぞ……」

 

「はぁ……これまた面倒な子が来たわね〜」

 

 この判断が吉と出るか凶と出るか。それは今は分からない。

 

 

 

 

ーーーだがこの時、彼らは知らなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 その一般人(モブキャラ)こそが、巨大ロボを操縦した正体である事を気付かず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ、へくしょん!

 

「大丈夫ですか蒼夜さん?」

 

「どーせミズキが三日月の事どーたらこーたら言ってるだけだって〜」

 

「あ……あの………注文……は……」

 

「うん!じゃん、じゃん頼んでいいよ!もちろん遠慮しな〜い!」

 

「(……暁月蒼夜さん………本当に言葉少ないんですね……)」

 

 

 リコリコで険しい表情する三人と違って、ファミレスで楽しく食事をする一人の少年と二人の少女だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜蒼夜がリコリコで働く事になってから二日後〜

 

 

 

 

 

 出版したとある日本の記事にはこう書かれてあった……

 

 

 

 

 

 

『日本に新たな巨大ロボが出現!しかも今度は、()()()()()()!?』

 

 

 

 

 

 

 

 






 速報 : モブキャラ君、やっと就職先見つけました!


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Episode 10 Fly into the sky with Z




ウィング「………じゅ、10話……」ガタガタ

ヘビー「だ、大丈夫だウィング!気をしっかり持て!」

サンド「そ、そうですよ!あっちの世界とは別ですから!」

ウィング「そ、そうだな……皆、心配かけてすm……」

デス「あぁ〜思い出した!第10話て確か原作で主人公が自爆スイッチを押して、ウィングを大破したとか…」

シェンロン「お、おいバカ!」

ウィング「………グッヘ!!」ボーン!

サンドロック「ギャー!ウィングさんが爆発したぁー!?」

ヘビー「め、メディーック!」

デス「あれ?どうしたn「お前のせいじゃー!」…ゴブ!?」


 ※ 嫌な記憶を思い出し、ショックのあまりに爆発したウィングガンダム。現在治療(修復)中の為、今回は出番ありません。なお、加害者であるデスサイズは、シェンロンによってお仕置きされました。





 

 

 

 

 

 

〜JL177便……高度10000メートル〜

 

 

 

 

 

 

 ーーーーハワイ州・ホノルル国際空港から日本・羽田空港までのフライト時間は約9時間半以上……乗客合わせて225名と乗務員10名を乗せた旅客機は何事もなく、飛行は順調......

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーのはずだった……

 

 

 

 

 

 

 

 BoooooooooooM!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉ!?な、なんだ!?」

 

 旅客機の後部から突如聞こえた()()()と共に機体が大きく揺れ、操縦している機長と副操縦士は驚きを隠せなかった。

 

「おい!今何か爆発したぞ!?」

 

「か、確認します!」

 

 すぐさま副操縦士がオートパイロットを解除し、すぐさまエンジン確認を行った。

 

「エンジン異常なし……ランディング・ギア異常なし……あぁ!な、なんて事だ!」

 

「どうした!?そっちで何かあったのか!?』

 

「み、右エンジンに異常が発生!!それに………え、エンジンが炎上しています!」

 

「な、何だと!?」」

 

 副操縦士がそう声を挙げ、機長は驚きを隠せなかった。そんな時…

 

『機長!大変でございます!右エンジンから炎が!!』

 

 客室乗務員....通称CAからの知らせがコックピットに響く。CAは恐らく、他の乗客達にも炎上している右のエンジンを目撃していることだろう。

 

「こちらも状況を把握した!CA!今は、乗客達を何とか安心させてほしい!」

 

『は、はい!』

 

 すぐに乗客達への対策を考えた機長はCAに伝える。だが有事の際、問題の特定は生死の明暗を分けている今、お互いが自らに落ち着くよう言い聞かせ、重厚な緊張感が張り詰めていた。

 

「……松田、緊急救難信号を!」

 

「りょ、了解!メーデー、メーデー、メーデー!こちらJL177便!JL177便!」

 

 副操縦士が緊急救難信号の無線信号を発する。そして、しばしの間……

 

『……こちら……羽田空港……で……』

 

 ややノイズ混じりで聴こえにくいが、今は状況を報告せねばならない。

 

「緊急事態発生!機体の右エンジンが炎上!緊急着陸の許可をーーー」

 

 少し焦っているが、冷静さを忘れず、機体の状態を管制局に伝える副操縦士が言う。しかし返ってきた答は……

 

『……JL177便緊急事態了解。緊急ちゃk………きょ…………ザーーーー

 

「なっ……こちらJL177便!応答を……誰か!?……クソッ!」

 

 ーーと無線が遮断されてしまい、副操縦士が思わず暴言を上げる。

 

「松田!向こうからの連絡は!?」

 

「ダメです機長!繋がりません!」

 

「クッ……なんて事だ……」

 

 副操縦士が問いに答えた途端、機長は絶句する。そして悪いことは更に続く……

 

「なっ!?た、大変です機長!今度は油圧操縦システムにも異常が発生!しかも....どんどん低くなっていきます!」

 

「なに…!」

 

 また他のシステムに異常発生に気づいた副操縦士に驚きを隠せない機長。確認すれば、明らかに油圧機器の圧力が異様に低い。これでは操縦システムが…...そう思ったが機長は、副操縦士に何度も繰り返していた。

 

「別の対策だ!でなければ、大変な事になるぞ!」

 

「だ、ダメです!機体が言う事を聞きません!」

 

 ーーと知らせる副操縦士の乾いた声が、コックピットに虚しく響いた。

 

 

 

ビー!ビー!ビー!

 

 

「まずいぞ……このままでは……海へ堕落してしまう!」

 

 

ビー!ビー!ビー!

 

 

 旅客機のコックピットから鳴り響く警告音……

 

 

 

「き、機長!一体どうすれば!?」

 

「馬鹿野郎!諦めるな!」

 

 緊急救難信号が使えなくなってしまい、加えて油圧機器の低下。今は自分達で何とかするしかないと二人は必死になる.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、機内の乗客席でも乗客達の不安と困惑が伝染したように周囲の席がざわめき始める。

 

  

『──お客様に、お知らせいたします。羽田空港に到着予定でしたが、不慮の事故により現在機体の右エンジンが不安定となっております──』

 

 ──右エンジンが不安定、アナウンスの内容は常識の埒外と言うほどではなかった。アナウンスを聞いた乗客達は一斉にざわめき、それは次第に大きくなり、一人が騒げば別の座席からまた一人……分かりやすい悪循環だ。そして.........

 

『なお、機長は全力で復帰を進めています。なお、機体の揺れが激しいため、乗客の皆様は、シートベルトを強く締めてください。また、緊急事態の場合──』

 

 アナウンスは努めて冷静だったが、乗客はそうではなかった。不明瞭でさらに乗客の不安を煽ってる。気付けば機内はパニック状態となり、乗り合わせていたCAも何とか彼らの混乱を抑えようと必死に落ち着かせてはいるが……鎮火できるレベルを越えてしまった。

 

 やがて........200人以上の乗客からあちこちで不満の声が轟き始めた.........

 

 

 

「お、おい君!本当に大丈夫なのかね!?」

 

「いやだ……いやだいやだ!死にたくない!」

 

「お、お客様!落ち着いてください!」

 

「落ち着いていられるか!?どう責任をとってくれるんだ!」

 

「機長が全力で復帰を進めています!今は、無事に着陸できる事を祈るしかーーー」

 

「落ち着けるかよ!」

 

「か、かぁちゃん、助けて〜!!!」

 

 

 何とかしてくれと頼む者…

 

 死にたくないと願う者…

 

 責任を取ってくれるのかと、乗員を責める者…

 

 絶望する者…

 

 無事に着地できる事を祈るしかない者…

 

 それでも、パニック状態になってしまった乗客達を必死に落ち着かせようとするCA達だが、なかなか収まらない……

 

 

 

(機頭)上がってるぞ、頭を下げろ!」

 

「今もういっぱいです!」

 

 高度6000メートル付近をフゴイド運動やダッチロールを繰り返しながら、JL177便は飛行していた。

 

 既に操縦悍からの操作は意味を成さず、ピッチングやヨーイング、ローリングを不安定に繰り返していた。また客室では、機内の気圧低下を示す警報が絶えず鳴り響き、乗客の不安は増していく。

 

 

 

 乗客達が混乱する中.........

 

 

 

 

 

「(あぁ……神様……どうか助けてください!)」

 

 とある一人の子供連れの女性が無事に着陸できるよう祈っていた。彼女は、夫と息子との三人の家族旅行として、ハワイで楽しい日々を送った。楽しい旅行を終えた家族は今日、日本に帰国する日であったが、まさか高空で右エンジンの破損事故が起きるとは予想できなかったのだろう。

 

「大丈夫だ恭子……きっと機長達が何とかしてくれる…」

 

「あ、あなた……」

 

 今は祈るしかないと、夫である男が妻の手を優しく握り、彼女を落ち着かせる。もちろん、息子である手も忘れず、握り続けている。

 

「大丈夫だ……きっと……きっと無事に到着するさ…」

 

「そ、そうよね……まだ諦めちゃ……だめよね……」

 

 

 

 

ゴゴゴゴッ!!!!

 

 

 

 

 

「ヒィッ!?」

 

「ま、また揺れたぞ!?」

 

「もうダメだ!!」

 

 機体が更に激しく揺れ、もうダメかもしれないと諦めてしまいそうな乗客もいた。機内で抑えきれない程のパニック状態が続いている中……一人の男児が窓の外を覗き……

 

 

「ねぇ、パパ!ママ!見て!飛行機いっぱい!」

 

 

 先ほどの夫婦の小さな息子が目を輝き、機内の窓に向けて指している。こんな状態になっても楽しそうにしている我が子……まだ小さい子供だから仕方がないと思った。

 

「わぁ……カッコいいぃ!」

 

 だが、一番気になっていたのは、息子が窓の外で()()()()()()()()()()()。もしかしたら、自衛隊の戦闘機が来てくれたのか……そう考え、夫も窓の外を見ると…

 

「な………何だあれは........」

 

「あなた?どうしt………え」

 

 夫の驚きに引っかかった妻も窓の外を覗くと、それは()()()()()()()()()()()()()()()()3()()()()()()

 

 それがこちらのスピードをものともせず、迫ってきているのだ。そして、他の乗客やCA達の多くも視界に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、操縦コックピットでも……

 

 

「き、機長……何ですか……あれ」

 

「分からん…少なくとも自衛隊のではない……」

 

 3機の戦闘機らしき機体を目撃する機長と副操縦士も一瞬、自衛隊の戦闘機かと思ったが、形状や色に関しては、全く別だとすぐに気づいた。そして何より……

 

「……少し……デカくないか?」

 

 航空機にしては()()()()()。全長(何の全長?)を超えており、本当に航空機なのかと疑う。それに…ここまで近づいたのにも関わらず、レーダーに反応は無かった。

 

 

 

 

 ーーーとその時……

 

 

 

 

「き、機長!あれ!?」

 

「――――なぁ!?」

 

 更に驚いたことに、それはそのスピードのまま、いきなり()()()()()()()()となった。

 

 左右の翼を引っ込み、所々から胴体や四肢が出現し、機体の中央から頭部が現れる。

 

 また、他の2機とは違い、1機の赤、青、白のトリコロールカラーの航空機の額に付いているアンテナが『V』の字に展開する。

 

「はは………本気かよ.....」

 

 突如として現れた3機の航空機が巨大な人型ロボットへと変形した。それを目撃した、機長と苦笑いをする副操縦士、そして窓の外を覗いている他の乗客達やCA達も、驚きを隠せなかった…

 

 

 

 

 

MSZー006 Z(ゼータ)ガンダム

 

MSNー001A1 デルタプラス

 

RGZー95 リゼル

 

 

 

 

 

 

 近くでも聞こえる大きなエンジン音。すると突然、真横にいた巨大人型ロボ…Zガンダムは、飛びながら旅客機の背中へ移動した。その後、他のMS…デルタプラスとリゼルも、Zガンダムに続き、旅客機の下側や右側へ向かう…

 

「な、何をするつもりだ!?」

 

 ーーと警戒する機長だが、MS達が何をしようとしているのか、すぐに分かる…。

 

 

 

 

 

 旅客機背中に移動したZガンダムは、両手でゆっくりと旅客機の左右を掴む。そして、下側へ向かったデルタプラスもZガンダムと連携するよう、下からもサンドウィッチのようにゆっくりと機体を抑える。二体のMSが旅客機の飛行バランスを安定している間、炎上している右エンジンの方に向かったリゼルは……

 

 

 

 パシューーーーーー!!!!

 

 

 両腕部から消火器の様な装備で炎上している右エンジンの炎に消火剤をかけ、現代ではあり得ない空中での消火活動を行なっている。

 

「な、何だあれは!?」

 

「おい!火がどんどん消えてくるぞ!」

 

 機体の揺れが収まり、三体のMSの存在に気づいた乗客達は、一斉に左右の窓の外を覗く。Zガンダムとデルタプラスは機体の上下にいる為見えにくいが、炎の消火をしているリゼルがよく見える。

 

「何だあれは……腕なのか!?」

 

「おい!こっちも見えるぞ!」

 

「お、お客様!お席に戻ってください!あぁ!シートベルトを外さないでください!」

 

 ついさっきまでの揺れを忘れたのか、乗客達は一斉に座席から立ち上がり、窓の外を覗きに向かう。そんな彼らを座席に戻そうと注意するCA達だが、彼女達の注意を全く聞こえていない。

 

 中には、スマホで写真を撮ったり、動画を撮影している者もいた。

 

「機長!機体のバランスが安定しています!これは……」

 

「分からん……まさかあの巨人達……私達を助けてくれているのか?」

 

 そう考えている内に、目先に目的地である羽田空港が見えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

 

 

 

〜羽田空港・管制塔〜

 

 

 

「おい!JL177便の現在位置はどうなった!?状況を知らせろ!」

 

「ダメです!レーダーに反応がありません!」

 

「西側にも見えません!」

 

「探せ!何があってもJL177便を探すんだ!通信が途絶えてから、まだそんなに時間は経っていないはずだ!!」

 

 管制塔の上部…管制室では、大きく動き回っている。言うまでもなく、こちらに到着予定のJL177便の緊急通報である。だが突然、JL177便からの応答が聞こえなくなり、同時にレーダーからの反応も消えてしまった。

 

「(何故だ………何故レーダーから突然消えたのだ!?)」

 

 ついさっきまでレーダーに反応があったはずのJL177便は、突如途絶えてしまった。行方を知らず、ずらりと並んだコンソールに向き合ったフライトディレクターや担当管制官たちはせわしなく必死に捜索している。中にはもうダメなのではないかと諦めてしまう者もいた……

 

 

 そんな時……

 

 

「な……何だあれは……」

 

 ーーと、一人の管制官が双眼鏡で何かを発見したらしい……

 

「おいどうした!まさか……JL177便を見つけたのか!?」

 

「い、いえ……それが……」

 

「あぁ〜もういい!それを貸せ!」

 

 モタモタしている暇はないんだぞ!と言い、男が持つ双眼鏡を無理やり奪い取り、彼と同じく双眼鏡で上空を確認すると……

 

 

「なっ!?」

 

 

 双眼鏡を付けると、衝撃的な光景を目撃した。

 

 

 ついさっきまで、無線やレーダーに反応が無かったJL177便らしき旅客機と、飛びながら空港の着地点へ向かう謎の三体の巨人達。他の管制官達も驚きを隠せなかった。夢でも見ているんじゃないかと疑う者も多く現れる。そして中には……

 

「あれって………東京の街に現れたロボットに似てないか…?」

 

 と、職場内の一人が語る。

 

 先日東京の街で起きた大事件に、見た覚えがあった。『東京の街に突如現れた巨大ロボ』とも噂はされていた。それがまさか本当にいるなんて......

 

 やがて、巨人達が旅客機をゆっくりと地上に降し、そのまま再び重力を無視したかのように宙を浮くと.........

 

「おい!あれ!」

 

「へ、変形したぞ!?」

 

 再び、()()()()()()()()()()へと変形したした三機は……

 

 

 

 

 

 

 ゴオオオオオォォォォォォォォ!!!

 

 

 

 

 

 上空の彼方へ飛び去っていった……

 

 

 

 

 

 

「おい……今の見たか……」

 

「あ、あぁ……あれは一体……」

 

 

 その様子を見ていた管制官達は少し経った後、何人かが体の力が抜けたようにその場に座り込んだ。その時……

 

『ーーーーこーー17便ーー誰かーー応答を願いーーー』

 

「っ!?まさか、JL177便か!?こ、こちら羽田空港、管制室!そちらは無事なのか!?」

 

『あ、あぁ……こちらも……無事だ……それと……乗客全員……無事だ……』

 

「そ、そうか!待ってろ、今そちらに救助隊を送るからな!おい!」

 

「は、はい!」

 

 先程の巨人達の事を気になるが、今はJL177便にいる人々の安全を確認すべく、急いで救助隊を向かわせるよう、再び大きく動き回る管制官達……

 

 

 

 

 

 そんな光景を見たのは、管制塔だけではなく……

 

 

 

 

「うおすげーー! 映画の撮影か!?」

 

「な、なぁ!今の見たかよ!」

 

「すごいよ!!CGじゃないんだよ!」

 

「おい!今の動画撮ったか!?」

 

 空港のターミナルビルにいる人々も目撃する。そしてその出来事を、スマホで撮影する事にも成功した者も多くいただろう……

 

 

 

 

 

 

 あの後、旅客機にいた機長と副操縦士、そして乗務員と乗客全員怪我なく無事であった。また、この出来事は早速ニュースにも大きく取り上げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日・喫茶店『リコリコ』にて〜

 

 

 

「うぁ〜めっちゃくちゃ話題になってんじゃん〜」

 

「千束、いつまでスマホを見ているのですか?」

 

「だってたきな〜これ見てよ!」

 

 千束が自分のスマホの画面に映っているネットニュースを見せると、隣に座っているたきなから呆れたような声が返ってくる。

 

「それ……もう昨日からずっと話題になってますね……て、いつまで私に話すんですか?もう何回も聞きましたけど…

 

「だってこのロボット!飛行機に変形したんだよ!マジもんのトラン◯フォーマーじゃん!」

  

 未だに昨日の旅客機の右エンジン炎上事件についてまだ興奮している千束。

 

 すると、たきなはその言葉に肩を落として……

 

「······まぁ、千束の言っている事は分かりますけど……」

 

「え?もしかして〜たきなさんもロボットすk……」

 

違います……というか何なんですかこれ……それに変形するなんて……」

 

「………まぁ〜そりゃそうだよね〜」

 

 たきなは頭の中にいっぱい疑問を抱えているようだが、何となく分かっていた千束は深く考えない。

 

 たきなが言っているのは、前日の事件に突如として再び現れた別の巨大人型兵器ついてである。しかも現れたのは東京の街にいたのとはまた別の三体であり、しかも航空機にも変形できるという衝撃的な目撃情報がネット上に上がっており、先日の事件と同様、大きく話題となった。

 

 そして、リコリコにある小さなテレビに映るニュース番組にも……この話題を大きく流している。

 

『巨大ロボが旅客機に接近し、貴方達を救助したというのは本当なのでしょうか?』

 

『事実であります......本当に.....あの巨人達には感謝しかありません。あの時助けてくれなかったら、私達は今頃海の底へ墜落していたかも知れません。』

 

 と、真面目に記者の質問に答える機長は、助けてくれた巨大ロボ達に感謝の言葉を送る。その様子を観ている彼女達。

 

「本当にすごいよね〜まさか空中で人命救助するなんて!」

 

「ですが千束.....流石にDAや上層部も黙っていると思いませんよ。恐らく今頃必死に捜索を行なっていると思いますし…」

 

「確かにね〜東京の街の続きに飛行機に変形するんですもん。」

 

 たきなの言葉に同情し、いつの間にかカウンター席に座っているミズキは返す。

  

「ところでさミズキ、クルミは?」

 

「もうとっくに押し入れで引きこもっているわよ。どーせこのロボットについて調べているでしょうけどね〜あんクソ餓鬼!てか、いい加減に仕事しろー!」

 

 と、千束の問いに答えるミズキがクルミに対して怒鳴る。そんな彼女を苦笑いする千束とため息を吐くたきな。

 

 

 〜カラン♪

 

 

「おぉ〜蒼夜君おはよう!」

 

「お、おは……ござ……います……」

 

 そして、店の開店時間前、普通に蒼夜が表口から入ってきた。

 

「きが……着替えて……いきま……す……」

 

「はいは〜い!まだ開店前だからゆっくりしててね〜」

 

「は……はい……」

 

 未だに言葉は少ないが、そのまま着替え室へ向かう蒼夜。

 

「はぁ〜全く世の中どうなちゃうんだろうね〜」

 

 そう言いながらミズキは、つまんなさそうにテレビ画面に目をやり、こっそりと番組を変える。

 

 が、どの番組を変えても、やはり空港事件の報道しか流れていない.........

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

「(はああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜マジ最悪だぁ〜〜〜.....)」

 

 

 

 

 

 ーーと、着替え室で頭を抱える蒼夜。ため息を吐くほど、未だに彼は()()()()について後悔している……

 

 

 

 

 

 

 

〜時が遡る事昨日の昼過ぎ〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 HIT!!!

 

 

 

「よっし!命中!」

 

 高度10000メートルの上空で、WR形態(ウェイブライダー)に変形しているZガンダムを操縦する蒼夜。そんな彼は、上空でとある訓練を行なっていた。

 

『訓練終了!訓練終了!』

 

「はいはい、ありがとうハロ。」

 

 通信越しから聞こえるハロの声に応答する蒼夜の前に現れた2体のMS、デルタ+とリゼルが近づく。もちろん操縦しているのは、基地から遠隔操作を行なっているハロ達。

 

「ハロ。記録の方はどんな感じ?」

 

『結果発表!結果発表!100点中76点!』

 

「う〜〜ん、まぁまぁかな……しっかし、やっぱMSと違ってWRの操縦て難しいな…」

 

 MSからWRに変形できるZガンダムだが、MS形態に比べるとWR形態の方が運動性こそ劣るが空力的飛行は大幅に上がっている為、操縦に慣れなければならないと、今回このような訓練を行なっていた。もちろん飛行訓練を行なっているのだけではなく、同じ形態のままの戦闘訓練も行なっていた。

 

 そんな同じWR形態にも変形できる二体のMS、デルタプラスとリゼルにも訓練に協力してもらった。とは言っても、戦闘訓練で使用したのはレーザーポイントで当てるだけである。機体のどこかに当てるだけで、『撃墜』と認識される。もちろん本当に撃墜するわけではない。簡単に言えば、ゲーセンにあるシューティングのような感じである。

 

「76点か……ちょっと微妙だけど……今日はこのくらいにしておこうかな…」

 

 本当ならもう少し訓練したいが、もうここでおしまいにしようと決めた蒼夜。その時……

 

『12時ノ方向二旅客機発見!12時ノ方向ニ旅客機発見!』

 

「え、マジで?」

 

『マジ!マジ!』

 

 ハロ達の報告を聞いた蒼夜は、Zガンダムのコックピットのモニターで12時方向に向き、操作しながら旅客機を探す。

 

「おぉ…本当だ。まぁ流石にこっちに見つからないだろうし……というか……

 

 

 

 

 

 

………なんか煙出てないあれ!?」

 

 

 モニターで拡大しなければ分からなかったが、よく見たら旅客機から黒い煙が出ているのが見える。

 

「まさか、エンジンの故障!?」

 

『正解!正解!』

 

『コノママダト、()2()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

「つ、墜落!?」

 

 旅客機が墜落してしまう可能性の計算結果を既に終えたハロ達からそれを聞いた蒼夜は驚きを隠せなかった。

 

「(やっべーーーどうすんだ!助けに………いや、ダメだ……でも……どうすれば……)」

 

『ソウヤ?ドウスルノ?』

 

「…………」

 

 悩んだ末、蒼夜が出した答えは……

 

 

 

 

 

「飛行戦闘訓練中止!これより、()()()()()()()()()()()!デルタプラス、リゼルは僕と一緒に!残っているハロ達は、旅客機を無事に着陸できる場所をすぐに特定してくれ!」

 

 

 

 

『了解!了解!』

 

 ハロ達に指示を出した蒼夜は、WR形態のZガンダムのエンジンを全速力で旅客機の方へ向かう。そんな彼をデルタ+とリゼルもエンジン全開で後を追う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あぁ〜〜〜最悪だ……マジでゲロ吐きそう)」

 

 ーーーと、昨日の出来事を思い出し、考えなしで行動したことに後悔する蒼夜。当然だが、あんな行動をすれば流石に世間に目を向けられたり、ニュースやネット上にも再び大きな話題になり流れている。とはいえ、今更後悔しても仕方がないし、時間は巻き戻すこともできない。そう考えた彼は……

 

「(…………まぁ、助けたんだからいいかな……)」

 

 意外と早く気持ちを切り替え、リコリコの制服に着替えた蒼夜は、今日も仕事を頑張ろうと(内心で)張り切っていた。

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 一方、DA本部その中にある、司令の執務室は今異様な空気になっていた。楠木が執務室にある椅子に座り報告を聞いていた。

 

「報告は以上です」

 

「そうか……はぁ....」

 

 楠木はため息を吐き、顎に手をやり呻くように呟いた。

 

 それもそう、昨日羽田空港に突如とした全く別の巨大人型兵器が出現したとの報告があった。最初その報告を聞いた時は、は?と思わず何人かが声を出てしまった。

 

 そして当日の映像をラジアータの解析よって、本部は映し出されるモニターを見ていた。そこで見ていたのは、東京の街で出現したとは全く別であり、しかも()()()()()()()()()というあまりにも衝撃的な光景を見て驚いてしまった。

  

 楠木はすぐに指示を出しラジアータに映像分析を行わせたが、出た結果は同様、ほとんどUnknownとしか出てこなかった。もちろん上層部からは、何としてでも解析するんだ!と、完全に大半の仕事を押し付けられている状況。

 

 

 そんな出来事を思い出す楠木は、報告書の下に目線を落とす……

 

「一体何者だ……コイツらは……」

 

 再び頭を抱え、考え込んでしまう楠木………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ、ヘックシュン!!(なんだ?また誰かが噂をしているような………)」

 

 

 

 再び謎の組織に目を付けられている事に気づいていない蒼夜は、今日も元気よくリコリコの仕事を頑張っている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜DA報告書〜

 

 

 

 

報告書: 巨大人型兵器× 3機

 

記録:2022年6月◯◯日

 

コードネーム: 数が多いため、未だに検討中

 

解説:航空機にも変形できる事が分かり、しかもその変形時間は()()()0().()5()()

 

 

 『またラジアータの解析により、()()()()()()()()7()0()%()

 

 

 






 今回は、初の可変機MSを登場させました!本当は、Zガンダムだけを出す予定でした、流石にZだけでは難しいかと思って、今回はデルタプラスとリゼルにも人命救助に協力させました!

 一応EX-Sガンダムも可変機なんですけど、あれってどう見ても航空機に見えないので、今回は出番無しです。後の物語に登場させる予定です。

 それでは、次回話もお楽しみに!


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Episode 11 喫茶店リコリコでの日常



 
 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京・錦糸町─────喫茶店『リコリコ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜ん君か....最近入った新人....ねぇ君、名前は?」

 

「あ……あかつ…き……蒼…夜…です」

 

「歳は?」

 

「じ、十七……です」

 

「へ〜〜!じゃあたきなちゃんより一個上だから...千束ちゃんと同い歳だね!」

 

「は…はい……」

 

「ねぇねぇ、顔が良いって言われない?」

 

「え……えっと……」

 

 客から呼ばれ注文かと思ったら、そこには常連客である方々にいつの間にかまんまと捕まってしまった蒼夜。そして流れるように座布団に座らされ、しかもなぜか老人やお姉さん方、そしてお子さん連れの女性までもが蒼夜に興味を持ったのか根掘り葉掘り聞いてくる。

 

 

ーーーそもそも、どうしてこうなったかというと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜時は少し時間を巻き戻し〜

 

 

 

 

 

 暁月蒼夜が喫茶店リコリコの店員になってから、一週間……

 

 

 

 客人用のテーブルや椅子を素早く綺麗にしたり、皿洗いなどの雑用業務の仕事をしているだけ。この一週間、ほとんど多くは雑用の仕事しかしてないが、それでも蒼夜にとってここで働かせてくれる事を恩を感じ、文句を言わず仕事をこなしている。もちろん、リコリコのメンバーも彼の働きに感謝している。

 

 

「(よし、皿洗いは終わったと……次は……)」

 

 皿洗いを終えた蒼夜。次は何をすればいいんだと考えた時、畳に座るお客さん───女子校生二人が手を挙げているのに気付く。

 

「あの〜、すみません〜」

 

「は、はーい!たきな!」

 

「すみません千束!こっちも少しかかります!」

 

「分かった!ミズキ……はダメか………じゃ〜蒼夜君!」

 

「(……え、僕?)は……はい……」

 

「ちょっとお願い〜!あそこの畳に座っているお客さんの注文を取ってきて〜!」

 

「(………注文を取る……僕が………いや、む、無理無理無理!)」

 

 客人の注文を取ってきてくれといきなり千束に頼まれた蒼夜。別にいやだ、という訳ではないが、ご存知の通り暁月蒼夜は大のコミュ障であり、人と喋るのが一番苦手である。

 

「おねが〜い!こっちも忙しくてさぁ〜それにあの小娘!また仕事サボったな!」

 

 ※ ちなみにクルミはいつも通り押し入れの中で巨大ロボについて、猛烈に調べているんで、完全にサボっている。

 

「こらこらミズキ……すまないが、注文取ってきてくれないか。」

 

「………は、はい…(はぁ、出来るだけやってみるか…)」

 

 ミズキの次に店長であるミカにもお願いされたら、もはや断りずらくなった蒼夜。ここで仕事をくれた事に感謝と少しでもリコリコの皆の役に立とうと不安と共に勇気を出し、割と駆け足で座敷まで向かう。

 

「ふーーーーはぁーーーー」

 

 自分にとって初めての接客だからかだろうか、緊張で若干鼓動が早くなった気を感じる蒼夜。靴を脱いで畳を踏み締めると、蒼夜の接近に近付いた女子校生二人が、目を丸くして此方を見上げた。

 

「ご……ご注文を……う…伺い……ま、ます…」

 

「「……」」

 

「(……あれ……なんかすげぇ見られてる。え、なんか顔に付いてるかな……それとも何か対応が違うかな…?)」

 

 蒼夜が近づいてきた途端、何故か女子校生二人の顔の頬が少し赤くなり、蒼夜を見て呆然としてる。

 

「……あ…あの………」

 

「っは!……あ、えっと、えと……あ、この新作一つ!」

 

「わ、私も!」

 

 と、頼まれた新作パフェの名前をメモに取る蒼夜。

 

「し……新作……二つ……の……飲み物……は…」

 

「……珈琲を、二つお願いします。」

 

「か、かしこまり……まs「あ、あのっ!」っ!?」

 

 張りの良い声で呼び止められ、びっくりし思わず振り返る。変わらず赤い頬のまま、女子学生の一人が此方を見上げて口を開いた。

 

「こ、此処で、バイトしてるんですか!?」

 

「……は、はい………い、一週…間前……から……です……」

 

「え!?そ、そうなのですか!?」

 

「……は………はい……」

 

「そ……そうなんですね……」

 

「………そ、そそそれじゃ……ごゆ……くり……」

 

 少し言葉が足りないが、何とか会釈を返し、今度は学生二人とももお辞儀で返してくれる。注文に間違いが無いか再度確認しながら、カウンターまで戻ると……

 

「(はぁ!はぁ!はぁ……な、何とか耐えたぞ〜)」

 

「お、おう……お疲れ……」

 

 緊張感が晴れ、激しくなん度も息を吐く蒼夜。ついさっきの会話は人と話すのが苦手な蒼夜にとって、とても長かった。そんな彼に声をかけるミズキだが、何故か彼女は目を細め、蒼夜の事を見ている。

 

「ふ〜ん…なるほどね〜、JKにウケた訳だ……」

 

「………え?」

 

「言葉はともかく、顔面の偏差値はやたら高いな〜」

 

「(……顔?え、どう言う意味?)」

 

 ミズキの言っている意味が分からない蒼夜。カウンター越しにミカさんが軽く顔を近付け……

 

「まぁ、ミズキが言っている意味は間違いじゃないんだがな。」

 

「え?」

 

「さっきのお客、()()()()()()()()()()〜わよ。」

 

「(……え…)」

 

 ミズキから聞いた蒼夜はチラリと後ろを振り返って見ると、先程の二人の女学生達がこぞって此方を伺うように自分の事を見つめていた。すると目線が合った瞬間、慌てるように二人同時に顔を逸らし、学校の本などを使って隠そうとする。しかしよく見ると、彼女達の頬はやや赤く見える。

 

「……え?」

 

「いや、自覚無いんかい。」

 

「(惚れてる……いや、いやいや……まさか……ね……)」

 

 確かに前世の世界、◯◯蒼夜は学校を辞める前、女子校生達とは会話もした事も無く、好かれる事も無かった。

 

「と言うか、アンタが来てからリコリコが大きく変わったわよ〜特に女の客が増えたし!〜〜〜もう!これじゃいつまで経ってもいい男見つからないわよ〜〜」

 

「?」

 

 と、ミズキからその言葉を聞き、蒼夜は一体何のことか、その時まだ理解できなかった。

 

 実はこの一週間、リコリコのTwit◯erや口コミには、"黒の作務衣姿で働く若い男の店員"と、話題となっていた。そんなことがあったのかと、現在のリコリコは、週末ということもあってかこの日は一段と盛況であり、店内はまさに戦場、とも言えるような状況であった。

 

「は、はーい!ごめん蒼夜君!またお願い!」

 

「(え!?ま、またぁ!?)は、はい!!」

 

 普段店主のミカしか男性店員はいないはずだったのに、突然の新しい店員が入った時に疑問に思った客や常連客も多くいたが、その少年の働き姿を見て気に入る人も多く上がった。

 

「えっ?君SNSにいなかったよね?新しく入ったバイトさんですかー?」

 

「は、はい………いっ…一週間……前から……です…」

 

「え!?もうそんな前からかい!?だめだよ〜君めっちゃくちゃイケているんだからさ〜〜もっと頑張りなさいよ!」

 

「あ………ありが…とう……ござい……ます……」

 

 

 特に彼の黒髪とアメジストのような灰色の瞳が特徴的だった。容姿は女性を十人連れてくれば、まず間違いなく全員が彼を()()と言うだろう。

 

 そんな時、カウンター席に座っている一人の客の女子学生は、蒼夜を呼び止め……

 

「あ、あのっ!」

 

「っ!は、はい……」

 

「しゃ、写真撮っても……良いですか!?」

 

「(………え、なんで?)」

 

 何故か、写真まで撮られると強請られる時もあった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜それから時間が経ち、現在に戻り〜

 

 

 

 

 

 

「ーーーえ、そうなのかい!?」

 

「この子が千束ちゃんの……!」

 

「いやいや!たきなちゃんのじゃないの〜」

 

「ひゃ〜甘酸っぱ〜い!」

 

「(ひ、人多いぃぃぃ!な、なんで!?しかもなんか女性陣に滅茶苦茶見られてる。なんかウットリされてるし……しかもなんかこっちじっと見つめているしぃぃぃ!?)」

 

 大人数相手に人と喋るのが苦手な蒼夜は苦戦し、内心で何をどう話せばいいのか困惑している。そんな状況を萎縮してると、向かいに座る伊藤と名乗る女性が、なぜか怖い形相で蒼夜を見据えていた。

 

「千束と出会ったのはいつ?何処で?」

 

「(め、目が怖っ!?)………こ、こう…えん……です……」

 

「ふむ……面白味に欠けるわね……」

 

「伊藤さん、ネタに詰まってるからって聞き過ぎですよ〜」

 

「ちょっと待って!もう少しだけ!ねぇ、千束とたきなちゃんの事をどう思ってる!?」

 

 この伊藤という女性は漫画家であり、ネタ帳と漫画のページだといくつか思われる紙がテーブルの上と下に散らばっている。もしかして、僕を漫画のネタとして使えると思ってるのこの人?と思った蒼夜は、正直なんて答えればいいのか分からなくなった。

 

「(……てか、いつまでやるのやるのこれ!?もう30分近くやってない!?)」

 

 終わりが見えない中、常連客達から近い視線を突き刺してくる。何故こうも興味を抱かれてるのか……と首を傾げている蒼夜は疑問を抱く。そんな中、常連の阿部さんがニヤニヤした表情で……

 

「千束ちゃんとたきなちゃん、そして君のやり取りをたくさん見る事ができるんだなぁ〜いやぁ〜青春だねぇ、楽しみが増えちゃったなぁ〜」

 

「せ……せい……春……?」

 

「多分、この子分かってないわよ〜鈍感ね〜」

 

「ど……どん………かん?」

 

「……なんか俗世にまみれてない純粋さを感じる」

 

「汚しちゃいけないと私のサイドエフェクトが言ってる気がする!」

 

「千束ちゃんもたきなちゃんも大変だね〜〜〜」

 

「(……や、ヤベェ………何言ってるか全然分からん……誰か〜助けて……)」

 

 もう状況が追いつけない蒼夜は助けを求めようとカウンターの方を見るが、千束達は何やら微笑ましそうに此方を見るだけ。そして、蒼夜に向かって親指を出し…

 

 

『揉まれて来い』

 

 

ーーーと目が言っていたようにも見えた。つまり、彼らの助け無しである。

 

 

「あ……あの……そろそろ……もも戻り……ます……」

 

「あ、待って!最後に誕生日は?」

 

「(え、それも聞くの!?)……じゅ……11月……11日…です…」

 

「そっか!うん、ありがとう!またお話ししようね〜」

 

 自身の誕生日を常連客達に教えた蒼夜は、ようやく解放された。

 

「はぁ〜〜〜〜(な、長かったあぁぁぁ……)」

 

 カウンターの奥へ戻った蒼夜は、緊張感が晴れ、大きく息を吐いた。そんな時、彼の元にたきなが近づいてくると……

 

「……蒼夜さん。その……お疲れ様です……」

 

「……あ、ありが……とう……たきな……さん……」

 

 たきなも同じ気持ちであったため、なんとなく蒼夜に同情する。そしてこの時蒼夜は思った。もう今日はあんまり喋りたくないと………そう願ったはずだったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では恒例の……閉店後のボドゲ大会開始しま〜〜す!!」

 

「「「いえ〜〜〜い!!!」」」

 

 

 

 

「(……なんでやねん)」

 

 

 

 

 閉店後であるはずなのに騒がしい店内。何やらボードゲームとカードを囲っている。そこにはいつにも増してテンションの高い千束と、普段の物静かな彼女としては珍しくテンションの高いクルミ、そして彼女達と一緒にテーブルを囲む常連客の姿があった。

 

 今日はリコリコの常連達も交えた閉店後のボードゲーム会(通称:ボドゲ会)が開かれる日である。当然だが、蒼夜は全く知らない。

 

 

「締切明日だって言ってたっすよね?」

 

「きょ、今日の私には関係ないし〜〜」

 

「まぁ〜よしましょう、仕事の話は」

 

「はは……実は自分も業務中でな……へへへ」

 

「ちょっと阿部さん、大丈夫なんですか〜?」

 

「まぁ〜まぁ〜そんなことより!早く始めましょうよ!」

 

「とうか……このメンツ問題児多すぎん?」

 

「そりゃ言っちゃダメでしょう!」

 

「じゃあ、順番決めるぞ〜」

 

「(……え、本当になんなのこれ?てかもう閉店時間だよね?それにボドゲってなに?流行ってんのかな………ていうか、今さっきチラッと聞いちゃったけど、()()()()()()()()()!?てか阿部さんて刑事なの!?しかも勤務中って言ってたけど、 刑事がそれやっていいのか!?)」

 

「早く始めましょうよー!」

 

「じゃあ順番決めるぞー」

 

 既にカードの束を両手にゲーム開始の催促をするのは北村。それを皮切りに、クルミが音頭を取り始めた。最近此処へ来た割に、クルミがみんなと打ち解けるのが早くて素直に驚いていると、すぐ隣りに立っていた錦木が、カウンター向こうで片付けをしてる蒼夜に声を掛けた。

 

「ねぇ〜蒼夜君!一緒にやろうよ〜!」

 

「え……で、でも……やり方……わから……ない……」

 

「大丈夫大丈夫!私が教えてあげるから!もちろんたきなもね〜!」

 

「……千束、私はやるとは一言も言ってませんが……」

 

「まぁ〜まぁ〜そんな事気にしないの〜」

 

 気にしますよ、と小さく息を吐くたきな。そして、他の常連達の声が……

 

「って事は、もう暇でしょ?」

 

「蒼夜くーん!ほらおいでよ。たきなちゃんもこっちこっち!」

 

「どうだ、蒼夜もやってみるか?」

 

 伊藤、山寺、そしてクルミと次いだ再三の誘いを受けた二人。その時……

 

『ーーでは、次のニュースです。先日羽田空港にて突如として現れた新たな巨大ロボについて専門の方々はーーー』

 

「見てくださいよー!昨日、羽田空港にいた巨大ロボ!」

 

「うぁ〜やっぱりすごいね〜」

 

「あぁ、これかぁ。確かにすごいな。」

 

 北村が指さすのはニュースを流している小型テレビ。それを見た伊藤と阿部が反応する。そのテレビでは、先日旅客機を救い、羽田空港にやってきたZガンダム、デルタプラス、そしてリゼルの三機の映像が映されていた。映像では、すでに羽田空港地域が映っており、アナウンサーが現場で話している。

 

「わぁ〜やっぱり何度も見ても凄いな〜」

 

「えぇ……ネタ集めには良い感じの資料になりそうでしたから、先日からちょっと調べてみましたよ。」

 

「最近では宇宙人説や、未来説も出てきましたよ〜」

 

「あ〜〜もう!飛行機にも変形できるならそれもそれでネタとして使うと思ったのに〜!」

 

「あははは、そういえば伊藤さんも新しい漫画のネタとして使っているんだっけ?」

 

 朗らかに笑う米岡の横から、芳醇な香りと温かそうな湯気をくゆらせたコーヒーカップが静寂を縫って配膳されるも、巨大ロボットについて仮説や考察などを話し合っている。

 

「あぁ……確かにコイツは未知数だ……てかめっちゃ知りたいぜ!」

 

「おや、クルミちゃんもこういうロボットに興味あるのかな?女の子にしては、めずらしぃね〜」

 

 クルミの目がキラキラしている様子を見て、今どきの女の子は特撮やアニメに登場するロボットにも興味を持つようになったのかと米岡がそう思い、時代の流れというものを感じてしまう。

 

 しかし、現に巨大ロボが街や空にも目撃されている。それは空想(虚構)ではなく、現実(事実)である。当然だが、この事実を観ているのは日本ではなく世界中にも注目を集めている。

 

「そういえば阿部さん!何かこの巨大ロボットの裏付けとか、他にありそうな話ってないんですか!?」

 

 そんな時、伊藤は巨大ロボットの詳細について、刑事である阿部に問いかける。もちろん他の常連客達も興味津々で、真剣な眼差しではある。 まぁ、伊藤に関して一番の理由は漫画の新たなネタ集めではあるが。

 

 そんな、カウンターでコーヒーを楽しんでいた阿部刑事は、毅然とした態度を以て国家の治安を守る警察官らしく、職務と捜査で得た情報の漏洩など──

 

「いやいや、それらしい情報は出てないねぇ。まぁ…確かに俺もあの時……東京の街で見たぞ。しかも俺の近くいたのは、あの緑色の四体の巨大ロボだ。もちろん捜査会議やら特別対応室にも呼ばれ、何度も質問されられてさ……はぁ、あん時はマジで大変だったし、家に帰れなかったんだぞ。」

 

 

 と、ため息を吐く阿部刑事はあっさりと口蓋を開き、口外してはいけない警察として得た情報を暴露した。とは言っても、明かしても別に問題はないので、結果として情報の漏洩には繋がっていない。

 

 再び皆が難しい顔で考え事をしていると、伊藤さんがふとあることに気づいた。

 

 

「そういえば、蒼夜君は巨大ロボットについてどう思う?」

 

 

 

ガッシャ!

 

 

 

 伊藤が蒼夜に向けて発言した時、何か崩れた音が聞こえた。

 

 

「おぉ?大丈夫、蒼夜君?」

 

「だ、だだだだ大丈……夫です……」

 

 千束の心配に返事をし、落としてしまった調理道具を慌てて拾い、元の場所に戻した。先程の伊藤の質問に答えるのだが、彼の内心では……

 

「か………かっこ……いい……と……お、思い……ます……(あっぶねぇ〜〜〜〜マジでバレたかと思った〜〜)」

 

 突然名を呼ばれた事で、一瞬バレてしまったのではと勘違いしてしてしまった蒼夜。事実、今話題となっている巨大ロボを操縦している正体は、この少年である。

 

「だよね〜〜やっぱ男の子だよね〜蒼夜君は。ところでさ皆、あのロボットを操っている人って、誰だと思う?」

 

「あ〜〜そうだな………もしかしたら未来か、別の世界からやってきた!……とか?」

 

 

 ※ 正解

 

 

「いやいやそれもないんじゃないんですかな〜〜実はその正体って………まだ学生さんだったりして?」

 

 

 ※ 正解

 

 

「それとも〜〜〜結構私達の近くにいたりして!」

 

 

 

※ 結構ではない、既にこの場にいる

 

 

「ちょっと皆さ〜ん、漫画とかアニメ見過ぎですって〜」

 

 色々と考察や想像を語る常連客達だが、ほぼ事実である。一応バレてはいない事が分かった蒼夜は、次は食器を棚の方へ戻す。すると「あ、待って!」と千束から声をかけられて振り返る。千束は、蒼夜に元へ近づき、座敷から降りてくる。

 

「食器、運ぶの手伝うよ。」

 

「え……で……でも……」

 

「なら、私も手伝います。その方が早いですし。」

 

 そう言って、千束とたきなも食器を棚へ戻そうと蒼夜の仕事を手伝う。

 

「あ……ありが……とう……ござ……います……」

 

「いいっていいって!それに私達同い年なんだから、敬語はいらないと思うよ!あ、そうだ!明日、リコリコお休みだから!」

 

「(え、そうなん?)……な、何故……ですか?」

 

「あ……え、えっと〜ちょっと人助けの……お仕事だよ〜ね、たきな」

 

「え……あ、は、はい!」

 

 すると、たきなの表情が千束と同様、一瞬で曇る。まるで()()を誤魔化すように声を漏らし、彼女達の目線があっちこっちに飛び交う様にも見えた。それに対して蒼夜は、ただ純粋に気になっていた。

 

「(もしかして………()()()()()()()()()()()()()()()……?)」

 

 先日の廃工場で、傭兵達は千束達の事をリコリスと呼んでいた。しかも彼女達は、拳銃までも所持していた事も分かった。本当なら、今すぐにでも()()()()()()()()調()()()()()()()()()だが…

 

「(………いや、今は……まだ調べなくていいかな……)」

 

 正直、調べたくないという気持ちを持っている蒼夜。ここで働かせてくれた事に感謝している。それに、こんなにも自分を受け入れてくれたリコリコのメンバーが本当に怪しい組織なのかも疑う。

 

 だからこそ、()()リコリコメンバーである彼女達の事について調べないで一旦様子を見ようと決めた蒼夜。

 

「それでさ〜蒼夜君どうだった?」

 

「……え?」

 

「リコリコに入ってから一週間だし〜蒼夜君どうだったの?」

 

「………そ、その……」

 

「ふむふむ」

 

「す……凄く………た、たの……楽し…かった……で……す………」

 

「「……っ」」

 

 食器を一度カウンターに置いて、再び千束とたきなの方に向き直る。すると、彼女も彼の言わんとしてる事を感じ取ってくれたのか、改めて彼女達も蒼夜に向き直る。

 

 そうして、直視できない程に嬉しそうな笑顔で……

 

「うん………私も、一緒に働けて楽しかった!」

 

「私も……楽しかったです…」

 

「────」

 

 千束、そして珍しくたきなも満面な笑顔を蒼夜に見せる。そんな彼女達の威力(笑顔)を見せつけられている彼は、言葉にならない声を上げそうにもなる。

 

「(〜〜〜あぁ、やっぱ無理だわ……彼女達の笑顔の破壊力……やっぱこっち見ないで。ただでさえ異性に耐性無いのに、これからほぼ毎日彼女と顔を合わせる事になるの〜〜〜)」

 

「ちょっと千束ちゃんまだ〜?もう始まってるけど〜」

 

「たきなちゃんと蒼夜君もおいでよ!」

 

「おーい!こっちはもう勝負見えるんだが〜」

 

 常連客達やクルミにも呼ばれ、千束は、飛び上がりそうな程に高揚した気持ちを抑えて、蒼夜の右手を掴み取って、満面の笑みで彼に伝える。

 

「うっし!じゃ〜早速ボドゲ開始じゃ〜」

 

「あ、待ってください千束!ほら、蒼夜さんも…」

 

「え、は……はい……」

 

 そうして、また軽く笑ってくれるたきな。そこから派生して、二人をボドゲ大会に参加してた常連客達やクルミの元へ連れて行く千束。

 

 

「(ああ……本当に……良いお店……)」

 

 

 きっと何処を探しても見つからないだろう……と、蒼夜は純粋にそう思った…

 

 

 

 

 今日もリコリコは平和である

 

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「そういえば蒼夜君てさ〜な〜んか笑顔足りないんだよな〜」

 

「(………え?)」

 

 

 店の開店前の時間、準備をしていた途中、千束が蒼夜の顔を覗き込んでくる。口数が少ない蒼夜は、あんまり人の前では笑顔見せた事がないし、逆にこの性格になったせいで笑顔が減ったのかもしれない。蒼夜自身は全く気にしてはいないのだが、それでも千束にとって少し不満顔だったらしい。

 

「まぁ……そうですね……確かに千束の言う通りかもしれません。」

 

「そうよね〜なんて言うだろう……もっと表情がほしいわよ〜」

 

 たきなとミズキが顔を見合わせて言う。そしてミカも頷いて同意しているが、クルミに関しては、特になにも思っていないのか肯定も否定もしていない。むしろ、興味梨である。

 

「(ひ……表情……か……)」

 

 蒼夜は鏡に映っていた自分の顔を思い出す。正直、自分でも何を考えているのか分からない顔だと思った。しかし、彼女達からそう思われたのなら、尚更するべきであろう。

 

「もっとほら…笑顔!笑顔!ほら!たきなも真似して!」

 

「えぇ!?わ、私もですか///…」

 

 千束は手本とばかりに満面の笑みをつくった。たきなも恥ずかしそうになりながら、同じように笑っている。彼女たちの笑顔を眺めて、蒼夜もできる限り笑顔をつくってみた。そして結果……

 

 

 

「……こ、こう……?」

 

 

 

 

「「「「「ーーーーー」」」」」

 

 

 しかし、彼の笑顔がどうだったのだろうか?それは、リコリコメンバーの表情を見れば分かった…

 

 

 

 千束は引きつった笑みを浮かべ

 

 たきなはポカン、と口を開いたまま

 

 ミカは何も言えずに困り顔

 

 ミズキも眼を見開いて驚愕している

 

 クルミは口元をヒクヒクと引きつらせていた

 

 

 

「……ごめん………笑顔は、もう少し練習てことで……」

 

「………はい……」

 

 こうして、彼にはもう一つの課題…“笑顔の練習“が追加したのであった……

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

 そして翌日……

 

 

 

〜東京湾にほど近い、廃工場〜

 

 

 DAよりリコリコに課された任務。その内容は、廃工場を拠点とする麻薬密売組織の制圧、及びに犯人グループの捕縛。

 

 そんな、東京湾の海の中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グポーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 複数のMSが赤い瞳を光らせながら、水中移動をしている。

 

 

 

 そしてその中には……

 

 

 

 

 

 

 

 

《♪〜♬〜♩〜♬〜》

 

 

 

 

 

 

 

 音楽……()()()()()を流しながら、大型シールドのような装備に上に寝そべているようにも見える一機のMSが、腰部に装備している二つのブースターを使い、水中移動しながら目的地である廃工場へ向かっていた……

 

 

 

 

 








 次回……水中戦開始……



 今回は、リコリコ内での日常会話について書きました!それでは、次回話もお楽しみに!

 感想・評価もありがとうございます!


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Episode 12 Jazz music in the Ocean





「ジャズが聴こえたら、俺が来た合図だ」



イオ・フレミング (機動戦士ガンダム サンダーボルト)


 

 

 

 

〜とある漁船〜

 

 

 

「いや〜山田さん!今日はいい天気ですな!」

 

「おうよ!もしかしたら、今日は大量かもしれんな!」

 

 

 

 朝一番から漁船に乗る男達は笑っていた。今日の天気は晴れであり、もしかしたら釣れる魚も大漁ではないかと考える者もいた。

 

 

「さ〜って!今日も頑張りまs……」

 

 

 

 

 

 

 

 ズガガガーーーーーン!!!!

 

 

 

 

 

「「「「 !? 」」」」

 

 

 ーーと突然、漁船が激しい波の揺れに襲われたのだ

 

 

「おぉ!?な、なんだぁ!?」

 

「わ、分からねぇ!?さっきまでそんなに揺れてなかったぞ!」

 

「まさか鯨じゃねーだろうな!?」

 

「バカ言うな!こんな街近くに鯨は来るわけねーだろ!おい西田!レーダーに反応は!?」

 

「そ、それがありません!!」

 

 突如激しい揺れが起きた事で船上で混乱する男達だが、少しすればすぐに収まった…

 

「ーーーおい!ゆ、揺れが収まったぞ!!」

 

「な、なんだったんだ今のは……?」

 

 激しい揺れが無くなったが、それでもまだ疑問を抱く漁船に乗る男達。だが、彼らは知らない……

 

「や、やっぱり……鯨なんじゃ…」

 

 それは、鯨でも他の生き物ではなく………

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()を………

 

 

 

 

 

 

 

 

〜東京湾にほど近い、廃工場〜

 

 

 

 

「先程、クルミの情報通りなら、ここの地下室ですね千束。」

 

「うん、そうだね。」

 

 

 

 DAにより依頼され、リコリコに課された任務。その内容は、この廃工場を拠点とする麻薬密売組織の制圧及び、組織グループの捕縛である。

 

 今回も、千束とたきなのコンビで任務へ向かっていた。クルミのハッキング能力により工場内の全ての送電と回線を遮断し、1階を警備していたグループ制圧。そして、残っているグループが潜伏していると思しき地下に向かう途中、千束はこの場所の雰囲気とは全く似合っていない、女子高生らしい会話を始めた。

 

「そういえばたきな〜蒼夜君の事をどう思う〜?」

 

「……蒼夜さん…ですか?」

 

「そうそう!蒼夜君がリコリコに入ってから一週間なんだけどさ〜たきなから見てどうかな〜と思って。」

 

「……正直に言って……彼は、普通のどこにでもいる一般人ですね……まぁ、口数は少ないですが…」

 

「あー、まぁ言われてみれば、そうだよね〜」

 

 暁月蒼夜の事について会話している二人はまだ敵は残っていないか、慎重に確認しながら話す。物音も聞こえず、今のところは安全のようである。

 

「………ですが……」

 

「ん?」

 

 工場の地下に続く階段室を前にして、物陰に隠れながら、様子を窺う。

 

「いい人です、蒼夜さんは……本当に……」

 

 恥ずかしそうに、少し頬を赤くするたきな。

 

「……え〜なになに〜たきなさ〜ん?もしかして、蒼夜君に興味あるの〜」

 

「ち、違います…そういう千束はどうなんですか?」

 

「え、私?……う〜んなんて言うんだろうな〜〜」

 

 なんて言葉にすればいいのかを考えながら、千束はたきなと共に少しづつ階段の入り口へと近づく。なるべく音は立てず、鞄から閃光弾を取り出す。

 

「……まぁ〜たきなと同じかな〜蒼夜君、本当にいい人だし。」

 

「………一応分っていると思いますけど、蒼夜さんは私達の本来(リコリス)の存在はまだ知っていませんよ。」

 

「え?……あ、あぁ〜そうだね〜」

 

「それに……バレるのは時間の問題だと思いますけど……」

 

「そ、そうなんだけど〜」

 

 ついさっきまでハキハキと喋っていたはずの千束が、歯切れが悪そうに言葉を切っていく。

 

「う〜ん……なんと言うか……放っておけなかったんだよね〜それに……居てくれた方が、私にとって嬉しいというか……なんというか………」

 

 ────嬉しいだと?

 

 聞き慣れない単語を耳にしたたきな。よく見ると、千束も少し頬を赤くしたり、何故か楽しそうに語る表情。

 

「………それだけなのですか……てっきりもっと別のかと………」

 

「え……な、何が?」

 

「その……蒼夜さんの事が…あ、()()……とか……」

 

 自分が言った言葉なのに、なぜか恥ずかしそうになり、更に頬を赤くするたきな。

 

「あれ?ーーーハッ!ち、違う違う!そんなんじゃなくってぇ……あ〜もう!」

 

 

 何かを察した千束は、閃光弾のピンを抜き、思いっきりドアを開けて投げ込む。

 

 

 

 

キーン!!!

 

 

 

 直後、閃光が散る

 

 

 

「うぁ、な、なんだ!?」

 

「クソ!前が見えねー!?」

 

 

 すると、下の方から悲鳴と転げ落ちる音が聞こえ、階段を駆け下りる千束と遅れないようについて行くたきな。

 

「そ、そう言うたきなはどうなの!?蒼夜君の……あ、()()なんじゃないの!?」

 

「……は、はぁ!?どうしてそうなるのですか!?」

 

「クソ…目がm…ぐへ!?」

 

「なんだk……ぐほ!?」

 

 閃光弾で一時的に視界を曇らせたグループの一、二人を千束の非殺傷弾で撃ち込み、気絶させるレベルで無効化する。

 

「だって!一緒に働いていた時、なんかたきな嬉しそうだったじゃん!」

 

「おい!いたz……BAN!……ヒッ!?」

 

 二人の前から現れたもう一人のグループ仲間がアサルトライフルで反撃しようとした直後、たきながライフルのグリップ部分を狙い撃ち、敵対組織達の手から強制に離れさせる。その隙、ワイヤーで拘束する。

 

「ち、違います!!そう言う千束も同じでは!蒼夜さんと働いていた時、千束も嬉しそうな表情出てましたよ!!」

 

「し、してないよ〜!」

 

 

 BAN! BAN!

 

 

 敵を無効化し、ワイヤーで拘束する。そんな繰り返しをしながら、何故か女子高生らしい言い争いをする二人。

 

 やがて、最後の敵一人を拘束し、廊下を抜け地下の最奥部の前へとたどり着く。

 

「大体!千束こそーーー」

 

「なんだと〜このやろ〜〜ーーー」

 

 しかし、未だに言い争っているリコリスの二人……そんな時……

 

 

 

 

『ゴラアァァァァ!いい加減にせんかぁ〜〜〜任務中に女子高生らしい恋愛会話してんじゃねーぞ!この馬鹿女子どもがぁ!!!』

 

 

 

 彼女達の耳に装着してあるインカムからミズキの怒鳴り声が入る。実は、彼女達の会話は通信越しにミズキとミカ、そしてクルミにも聞こえていた。ちなみにミズキは、車に乗り彼女達の脱出経路の為、別の場所で待機している。

 

 

『いや、ただ羨ましがっているだろお前?』

 

『黙らっしゃいこのクソガキが!』

 

 

 ーーーと、珍しくミズキに対してツッコミを入れるクルミであった……

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 その後、一旦女子会話を止めた彼女達は、任務に集中した。結果としては、全ての敵を無力化することに成功。だが結局、予測していた敵の数が多すぎた為、千束とたきなの二人は弾切れ寸前で重傷を負わせ、何とか制圧。

 

 更に地下には大量の商品が保管されていた。しかし、肝心の組織リーダーはどこにもおらず。恐らく逃げられたようだ。

 

「千束、この通気口……恐らくここから逃げたのでは?」

 

「え〜うっそ〜〜ハリウッド映画の名シーンかい!あぁ〜映画を観る時間が~〜」

 

「……はぁ……」

 

 悔しそうに言う千束に呆れるたきなは軽くため息を吐く。“こんな時まで映画ですか……”といわんばかりの顔である。

 

『残念ながら、残業確定だなお前達。とりあえず、上の階に戻って……いや待った』

 

 

 ドローンを使い、現場のオペレートしていたクルミから突然静止の指示を送る。

 

 

『………まずいな…』

 

「クルミ?」

 

『この工場、すぐそば海だろ?武装船が乗り付けてきたぞ』

 

「え!?」

 

「まさか、増援!?」

 

 こちらに向かってくる武装船……恐らく、増援を呼んだのは逃げたリーダーの仕業なのかも知れない。だが、彼女達が持つ弾丸はもう残りわずか。

 

 

 

 

 ドーーーーン!!!

 

 ドドドドドドドド!!!!

 

 

 

 

 そして突如、上の階から破裂音や機関銃音などが鳴り響く。

 

 

『おいおい、あいつらまじか……めちゃくちゃお前達に向かって撃ってくるぞ!無人航空機に無人車両……武装船まであるぞ!しかもコイツら全部、()()()()だ!』

 

「うっわ、超最悪じゃん……てかちょっと待って!ここにいる人達も!?」

 

「…っ!恐らく……ここを跡形も無く破壊するでしょう……例えここにまだ仲間がいたとしても……」

 

「えぇ〜何それ超ひどいじゃん!たきな!」

 

「はい!急ぎましょう!」

 

 

 急いで地上へ戻り、現場からすぐに撤退しよう走り出す二人。相手が軍事兵器、しかも無人機を大量に使用しているのなら、いくらファーストである千束でも苦戦すると思うし、相手にはならないだろう。

 

 急いで地上へ向かったその直後、階段方面から轟音と土煙が上がっている。二人は、ちらっと隙間から外の様子を確認する。そこには小型ミサイルを武装している無人航空機が上空に飛び回ったり、地上には降りた無人軍事車両があっちこっちと動き回っている。しかも海には武装船が見え、その数は3隻もある事が確認できた。どれも全て、軍隊物である。

 

 

「……どぉーする…これ?」

 

「……ど、どぉーしましょ?」

 

 

 顔を見合わせる二人。こうなっては外へ出る事も難しいだろう。かといって、このままここにいては、いずれこの廃工場の下敷きになってしまう可能性が高い。そう思ったその時、インカムにミカからの通信が入る。

 

『二人とも!無事か!?』

 

「おお、先生ナイスタイミング!て、これが無事なわけないでしょ〜!」

 

「クルミ!他に出口は!?」

 

『待ってろ!今見つk……お、おい!なんだあれh………ザーーーーーーーー』

 

 ーーとその時、クルミが何かを驚いたかのような声を上げると同時に突如通信が途絶えてしまった。

 

「あれ?……もしもしクルミ!」

 

「店長……ミズキさん!?……ダメです千束!通信が…」

 

 インカムからの通信が途絶えてしまい、ミカ達の声が聞こえなくなってしまった。

 

 

 

 ーーーと、その時……

 

 

 

《bgm:サンダーボルト、メイン・テーマソング》

 

 

 

 

 

「「………え?」」

 

 

 突然、インカムから音楽…ジャズ曲が流れ始めた。

 

 

「え……な、なんですかこれ?」

 

「わっかんないけど〜でも〜なんか先生が好きそうな音楽だね〜」

 

「あぁ〜確かに……て!!そんな事言っている場合ですか!」

 

 突然インカムから流れ出し始めた音楽に戸惑いを隠せない彼女達。

 

 

 

 ーーーーーその時……

 

 

 

 

 

BooooooooooM!!!!!

 

 

 

 

 

「「…っ!?」」

 

 

 

 少し遠くから何かが爆発したかのような音が響く。それもさっきより音が大きく。

 

 そして、先ほどまで鳴り響いていた銃声がいつの間にか徐々に減っていた。途端に静まり返る工場内に、更に戸惑う千束とたきな。

 

「い、いったい何が…!」

 

「……落ち着いてたきな。たぶんだけど、向こうで何か起きているかも……」

 

 身構える彼女をなだめる千束……すると突如、天井が崩れる音が聞こえた。

 

 

「!?こ、今度は一体……」

 

「分からない……だけど何かが……て!た、たたたきな!」

 

「ど、どうしたのですか千束!?」

 

「あ、あれ!!」

 

 

 そう言って何かを見つけたのか、慌てて天井に向けて指をさす千束。それを聞いたたきなが振り向くと、そこには()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「え、え、えぇ〜〜〜!?」

 

 

 それを見たたきなも驚きを隠せなかった。突如天井から、赤い瞳……()()()()を左右上下へと動かし、個性を持った形の身体をしている二体の巨大ロボットが彼女達を覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

「な……なんなんだ……あれは一体何なんだ!!」

 

 場所は変わって、そこは東京湾に浮いている3隻の内、1隻だけ全長が大きい武装船。

 

 そしてその操縦室にて、聞き慣れない中年の男の罵声が響き渡る。後れて、この船にも乗っている他のグループの肩がわずかに竦む。

 

 この男こそ、麻薬密売組織のリーダーであるのだった。

 

「わ……わからねぇ……」

 

 リーダーの罵声を向けられている仲間の一人は、険しい顔で答えた。

 

「だ、だけど……レーダーに反応は無かったぞ!」

 

「なに!?そんな馬鹿な!!」

 

 突然拠点だった廃工場に何者かが侵入してきてきたと報告が耳に入り、急いで廃工場から脱出した。そしてやむおえまいと武装兵器を使い、工場丸ごと侵入者の下敷きにしようと考えた。

 

 だがその直後、突如海面から現れた異形の身体を持つ謎の巨大ロボット集団が海面から浮上し、多数の無人機を破壊し始めた。近くにいたはずなのに、なぜかレーダー探知機には反応が無かった。上空から飛んでいる無人航空機の映像を確認すると、巨大ロボ……水陸両用MS達は、無人機が放つ弾丸を受けてはいるが、傷どころか、穴一つも見当たらなかった。

 

 

 

MSM-03 ゴッグ

 

MSM-03C ハイゴッグ

 

MSM-04 アッガイ

 

MSM-04G ジュアッグ

 

MSM-07 ズゴック

 

MSM-08 ゾゴック

 

MSM-10 ゾック

 

AMX-109 カプール

 

 

 

 

 向かってくる無人車両機を、素早く爪で攻撃するゴッグとズゴック。

 

 その他、アッガイ、ジュアッグ、ゾック、そしてカプールの五機も、105mmバルカン砲やランチャー、メガ粒子砲などを放ち、敵対する無人機を次々へと撃墜する様子も確認できた。

 

 一方、廃工場内に取り残されてしまった兵達は、ハイゴッグとゾゴックによって工場の外へ運ばれている。

 

 

「クソ!なんなんだアイツらは!?……というか……このクソ音楽はなんなんだ!?一体どこから流れているんだ!?」

 

 

《〜♩〜♪〜》

 

 

「わ、分かんねぇ!?さっきから消そうとしても全然消えません!」

 

「向こうからの通信もできねぇ!ボス!どうすれば!?」

 

 突然、他の船に乗っている仲間との連絡が途絶え、代わりにジャズ曲が突然流れ始めた。しかも、通信の電源を切っても、ずっと流れ続けている。

 

「もういい!残っている無人航空機を出し手動操縦に変えろ!それと、武装を対戦車ミサイルに切り替えろ!」

 

「い、イエッサ!!」

 

 急いで仲間に指示を出し、残っている無人航空機を全て出動させると同時に対戦車ミサイルを発射するよう命じた。本来なら使う必要はないと思っていたが、相手があれでば最早使わざるを得ないと感じたのだろう。

 

「おい!こっちは準備完了だ!」

 

「見てろデカブツ!目に物を見せてやるぞ!」

 

 自動操縦から手動操縦に変え、発射位置の配置に着いた複数の航空無人機。

 

「た、ターゲット!ロックオン!」

 

「よっし!今だ!うt……」

 

 

 

 

 

 

 

ババババババババ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「「「「………へぇ?」」」」

 

 

 

 

 ーーー今、なにが起きたのだ……

 

 

 

 

 

 突然の事で組織グループは戸惑う。突如海水から何かが放たれ、あれだけあった筈の無人航空機に命中されてしまい、破壊されてしまった。

 

 

ーーーその時…

 

 

「ぼ、ボス!また海から何かが……て!な、なんだありゃ!?」

 

「…っ!?今度はなんd……は?」

 

 

 先程のMS達と同じく、水中から飛び出し、地上に着陸する新たな機体。しかも、これまでと違く、今度はちゃんとした人型であり、白、黄色、そして黒の3色が重ねたカラーリングのMS。

 

 腰部に装着してある特徴的なユニットや、左腕に装備してある大型シールド。右手には大型アサルトライフルも装備してある。

 

 そして、額には『V』の文字が……

 

 

 

 

 

 

RX-78AL アトラスガンダム

 

 

 

 

 

「ーーーーな、何をしている!アイツも敵だ!早く撃て!!!」

 

「…っ!?い、イエッサー!」

 

 つい見惚れてしまった仲間の一人をボスの怒鳴り声で覚まし、残っている無人機のミサイルで一斉発射する。

 

 

 

 

ーーーだがその直後……

 

 

 

 

 突然やってきた謎のMS……アトラスガンダムは、右手に武装してあるアサルトライフルから3本柱の長型銃・()()()()()を装備し、多数の無人機に向け……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッキューーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 雷撃音と共に発射され、全ての無人機が吹き飛ばされてしまい、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「「「「………は?」」」」

 

 

 

 

 

 そんなあり得ない光景を見た組織グループは思考停止になり、思わず間抜けな声を漏れてしまった……

 

 

 

 

レールガン

 

 

 アトラスガンダム専用の武装レールガンであり、機体の全高に匹敵するサイズの大型火器だが、本機のパワーであれば片手で軽々と扱うことが可能。火薬を用いる一般的な実体弾火器よりも遥かに高速度の初速を得られる点が特徴で、3本の給電レールによる電磁誘導で実体弾を加速・発射する。そしてその威力は、長距離からなら現代の戦車どころか、重装甲のMSをたったの一撃で撃破できる事も可能である。

 

 

 

 

 

「な……なんなんだ………なんなんだアイツは!?」

 

 

 

 そんな時、ボスは思わず声を荒げ、アトラスガンダムに向かって叫ぶ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暁月蒼夜()()、アトラスガンダム、着任しました」

 

 

 

 

 

 

 

「……あ〜〜これ、マジで言いたかったやつ〜〜」

 

 

 ーーーと、アトラスガンダムのコックピット内で、どこかの()()()()()()()()()()のモノマネをした蒼夜。そして、一応彼は少尉では無い。

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 時が遡る事、数分前……

 

 

 

 

『水中訓練、終了!水中訓練、終了!』

 

「フゥゥ……だいぶ水中にも慣れてきたな僕……」

 

 

 東京湾や相模湾より少し遠い海中で、アトラスガンダムを操縦する蒼夜。そして彼の目の周りには、ズゴックやアッガイなど、ジオン系の水陸両用MS達が近づいてくる。

 

 実は彼、先日の上空訓練で世界中に注目されてしまったため、しばらく外では訓練しないことにした。だが、海の中ならバレてしまう心配はないだろうと考え、つい最近まで完成したアトラスガンダムの水中訓練を行なっていた。

 

東京湾にほど近い、廃工場 ただ水中で動き回るだけでなく、以前の訓練と同じよう、戦闘訓練も行なっていた。それが目の前にいるジオン系の水陸両用のMS達であり、もちろん操縦しているのはハロ達である。

 

 それにここは海の中。流石に前回のように他の人々に目撃される心配はないだろうと思った蒼夜………その時…… 

 

 

「さて……そろそろ基地にもd…『報告!報告!』…うぉい!?どうしたのハロ!?」

 

『東京湾二近イ廃工場ニテ、武装船ヲ確認!場所ハ、1時ノ方向!』

 

「ぶ、武装船……マジか……」

 

『マジ!マジ!』

 

 何か嫌な予感をした蒼夜は、コックピットのモニターで1時の方向に向き変わり、映像を拡大する。そこには、多数の陸上や飛行用などの無人機を使って廃工場に向け、攻撃し続ける様子が見える。

 

 更に、他のハロ達が追加で現場を解析すると、武装船に乗っているグループの正体は麻薬を密売する犯罪組織であることも報告する。

 

「麻薬、犯罪組織……なんか映画みたいだな………でもなんで工場に向かって撃っているんだ?……ハロ、工場の中に人がいないのかを調べてくれ。」

 

『了解!了解!』

 

 通信越してハロ達に新たな指示を出し、廃工場の中に人がいないのかを解析させる。そして直後、すぐに解析は終了したのであった。

 

『解析完了!解析完了!』

 

「お、ありがとうハロ…………て!?ち、千束さん!それにたきなさんまで!?」

 

 解析を終えたハロは、蒼夜のモニター画面に載せる。廃工場内には、倒れている人々と、この場からどう抜け出そうと険しい表情を出している千束とたきな。そんな彼女達がなぜあんな所、と大きく驚く蒼夜。しかも、武装船の攻撃を受けられている状況。

 

「(な、なんであんな所にいるの!?……もしかしてリコリスと………いや、今は!)…ハロ!あっちの状況はどうなっているの!?」

 

『工場内二イル人ハ、現在無事デアル!』

 

『デモ!コノママデハ、アト5分クライデ、廃工場ハ崩壊。』

 

『中二イル人達ガ、潰レル可能性アリ!』

 

「……っ!」

 

 

 廃工場の下敷きに潰される可能性があると、ハロ達から聞いた蒼夜は、驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

『うん………私も、一緒に働けて楽しかった!』

 

『私も……楽しかったです…』

 

 

 

「……っ!」

 

 

 その時、昨日彼女達から聞いた言葉を思い出した蒼夜は、脳内に響いた…

 

 

 

『ソウヤ?ドウスルノ?』

 

「……………ふぅ……」

 

 一旦小さな息を吐き、蒼夜は指示を出す。

 

 

 

 

 

「水中訓練中止!これより、敵対組織の無効化と工場に残っている人達を外へ脱出!もちろん君達……()()()()()()の力を見せつけてやれ!」

 

 

『『『了解!了解!』』』

 

 

 ハロ達に再び新たな指示を出した蒼夜は、2基のサブレッグのブースター (もしくはスラスター)を全速力で目的地の方へ向かう。そんな彼をジオン水泳部も、後を追う……

 

 

 

 

 

 

「ジャズが聞こえたら、僕が来た合図だ…」

 

 

 

 

 ーーーと、蒼夜は向かっている最中にジャズ曲を流す……()()()()()()()()()()()()……

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 これまでになかった相手に苦戦する組織グループ。こっちからの反撃を繰り返しても、全く効いていないようにも見える。

 

「ええぃ!あいつら!いきなり水中から好き勝手に!」

 

「ぼ、ボス!大変だぁ!船のアイツら捕まってしまった!」

 

 音信不通だった兵達の武装船が捕まってしまったと部下である一人の声が響き渡ったことで、組織のだれもが耳を疑い、動きを止めてしまう。

 

「(な、なにぃぃぃぃぃぃ?!)」

 

 ボスは内心で叫び、急いで外の状況を確認する。

 

 そこには、いつの間にか海面に頭を出していたジオン水泳部は、2隻の武装船をワイヤーなどを放ち、見事に捕獲。それからその2隻を強制的に地上の元へ連れてかれ、船の中にいた仲間達は全員外へ追い出された。

 

「お、おいどうするんだ!?」

 

「助けに行くか……」

 

「バカ、よく見ろ!もうこっちの武器は残り僅かだぞ!」

 

「だが────」

 

 操縦室にいた仲間達が困惑する間、ボスである男の髪の毛は、数本パラパラと抜け落ちて宙を舞う。

 

「(な、なぜだ……なぜこうなったのだ!?)」

 

 さっきまでの戦力の状態はこちらが有利だった。しかし、今となっては形勢逆転。もはや、勝敗は見えていた。

 

「ボスどうすればいいんだ!?」

 

「「「「ボス────!」」」」

 

「────む、むぅ……」

 

 操縦室にいた兵達や部下のほとんどがボスの指示を請う。

 

「そ、そうだ!無人機は「もう全部使っちまったよ!」……クソ!」」

 

「な、なぁ…俺達が降参すれば、命だけでも助けてくれるんじゃ…」

 

「バカが!そんなわけねーだろ!!」

 

「ひ、ヒィッ!す、すんません!」

 

「えええいもういい!ここから撤退だ!脱出用の潜水艦を用意しろ!」

 

「て、撤退ってどこ────?」

 

「────場所は中国か台湾!アイツらと連絡が取れん以上、もう既に捕まっていると見ていい!」

 

 

 

 

 

 

「ハロ!船にいた人達は?」

 

『死亡者ゼロ!死亡者ゼロ!』

 

「そうか……後は、あそこに残っている船だけだな…」

 

 組織のボスが乗っていた武装船以外、全てに無人機を破壊し、組織仲間だと思われる者達を次々へと拘束する。後は、1隻の船を捕獲するだけだったその時…

 

『報告!報告!現在、武装船二乗ッテイル人ハ、潜水艦デ脱出ヲ確認!』

 

「あれ?じゃ〜あの船は…」

 

『遠隔操作二変更サレタ!』

 

「あ〜〜やっぱりな……じゃ、もう壊していいってことだよね?」

 

『正解!正解!』

 

「よっし……ならちょっと行ってくる!」

 

 そう言い、一旦レールガンとブレードシールドを捨て、腰部に可動アームを介して接続されてある2基のサブレッグをスキー板のように脚部に装着し、最大出力で武装船に向かって飛びかかる。

 

 向かってくるアトラスガンダムに武装船は、載せている武装の全てを使い攻撃してくるが、そんな攻撃を軽く避けながら、止まらず向かってくるアトラスガンダム。その隙に、両肩部に収納されてあるビームサーベルと取り出し、サーベルを展開。そして、徐々に船の先端に近づき……

 

 

 

 

 

 

 

ビィィィィィィ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 武装船を一刀両断に真っ二つに破り、炎を上げながらゆっくりと沈んでいってしまった。そして、船を撃墜した事を確認した蒼夜は、もう一つに指示を送る。

 

 

 

「ふぅ………後は、脱出した潜水艦だけか……ハロ、()()()()()()。」

 

『了解!了解!』

 

 

 

★★★

 

 

 

 一方、なんとか潜水艦で脱出した組織グループは、先程の戦いでアッサリと撃墜されてしまった武装船を見て愕然とする。

 

「ば……バカな……たった1分で撃墜だと……」

 

「ボス…俺達、これからどうすれば……」

 

「……今は、中国か台湾へ向かうぞ…(クソ、なぜだ!? なぜこうも簡単に……まさか、あれが()()が言っていたリコリスなのか? いや、あり得ん……そもそもあのような兵器も持っているなんて一つも聞いてないぞ!?……ならば────)」

 

 

 

 

 

 

ドン!!!

 

 

 

 

 

「────ヒィ?!」

 

 ーー突然、前方に何かにぶつけたかのような揺れが起き、ボスは思わず素っ頓狂な声を出してしまう。そしてその直後、潜水艦の機体が揺れ始めた。

 

「お、おい!何が起きている!?」

 

「わかりません!レーダーに反応もありません!」

 

「ぼ、ボス!大変だ!!」

 

「ーーこ、今度はなんだ!?」

 

「この潜水艦……ぜ、全然前へ進まねぇ!ーーというか、全然動かねぇ!」

 

「……はぁ!?」

 

 

 ゴゴゴゴゴゴ………

 

 

 

「(ーーな、なんだこれ!?動きが早くなってーーー)」

 

 

 激しい揺れが収まらず、それは、まるで何かに捕まってしまい、潜水艦ごと押し連れて行かれているような感じであった。艦内の浮遊感が体を襲ったと思えば、徐々にジェットコースターのように速度が段々と上がっていくことに実感が追いつく。

 

 

 

「「「「ほぎゃあああああぁぁぁ!!!???」」」」

 

 

 

 目の前が真っ白になって気を失いそうになる部下達の叫び声と共に、ボス自身も気が遠くなるくらい叫んでいた。

 

 

 

 

★★★

 

 

「お〜、派手にやったなー…」

 

「………そうですね……」

 

 千束の言葉を聞き、たきなは改めて周りを見渡す。さっきまでいた工場はその姿を大きく変え、もはや原形をとどめていない。武装船や無人機によっていたるところが穴だらけになり、強度の足らなくなった柱が折れ、そこから天井が崩れ落ちている。

 

 だが、先程の二体の巨大ロボ、ハイゴッグとゾゴックによって助けられ、制圧した麻薬組織の雇われ兵達も救助した。

 

 そして、先程地上へ無理やり連れ出された武装船に乗っていた兵達も無事であり、中にはジオン水泳部達の力に恐れていたのか、素直に降伏した。その隙に、千束とたきなは一応念の為にワイヤーで拘束したのであった。

 

「ですが……あともう一つの武装船を完全に破壊しましたよね…」

 

「う〜ん多分だけど……潜水艦で逃げちゃったかも。」

 

「え!?どうして…」

 

「あんだけ爆発したのにさ、全然血とか出なかったじゃん。ほら!映画の緊急脱出シーンとかで……」

 

「(………ここでも映画なんですか……)」

 

 なぜ潜水艦で逃げたのかと解説する千束だが、ほとんど映画ネタである。そんな彼女に呆れ、軽くため息を吐くたきな。

 

 

 

 

 

ーーーーその時……

 

 

 

 

 

 

ザッパァーーーーーーン!!!

 

 

 

 

 

 

「「ーーーーーえ?」」

 

 

 

 

 

 海中から何かが飛び出たのような音が聞こえ、恐る恐る視線を向ける千束とたきな.......そこには……

 

 

 

「「ーーーーー」」

 

 

 あまりにも驚きすぐて言葉も出ない二人。二人の前に姿を現した。それは他の巨大ロボと違って、全長を超えている赤い驚異的な機体。そして、両腕には先程千束が言ってた通り、麻薬密売組織のメンバーが乗っているだろう潜水艦を軽々と持ち上げている。

 

「ち……千束!な、ななななんなんですかあれ!?」

 

「わ、わかんないよ!何あれ!?モ◯ハンの新しいモンスターですかぁ!?」

 

 千束とたきなから見れば、巨大な生き物に見間違えても仕方がないだろう。だが、生き物でもなく、局地専用兵器モビルアーマー(通称:MA)である。

 

 

 

 

AMA-X7 シャンブロ

 

 

 

 

 

 

 ードン!

 

 

 

 

「「…っ!?」」

 

 持ち上げた潜水艦を自分達の前に置くシャンブロの行動に対し、少し驚く千束とたきな。そしてその隣に近づいてきたズゴックは、爪を使って潜水艦の装甲を簡単に剥ぎ取る。作業を終えたズゴックは離れ、二人は恐る恐る潜水艦の中を覗くと……

 

 

 

 

「「「「ーーーー」」」」チーーーン

 

 

 

 

「………気絶してますね……」

 

「あちゃ〜〜本当だね……」

 

 潜水艦の中にいた組織のボスとその他の部下達は、白目を剥いて倒れ込んでいる。そんな彼女達は視線を変えると、目的を果たしたのか、ジオン水泳部は次々と海中に入り遠くへ泳ぎ去っていった…

 

 

 そして、地上に残ったアトラスガンダムも海中に入ろうとした時……

 

 

 

「待って!」

 

 

 ーーと突然、千束に呼び止められる。そんな彼女の声が届いたのは、少し後ろを振り向くアトラスガンダム。

 

 

「もしかして……乗っているのはカボチャ君だよね!?……あの時!まだ言ってなかったけど…街の人達を助けてくれて、ありがとーーーーーー!!」

 

 

 あの時とは、恐らく先日で起きた大事件……東京の街の事だろう。それを思い出した千束はアトラスガンダムに向けて感謝の言葉を言うが、結局アトラスガンダムは何も答えないまま、すぐに振り返り泳ぎ去って行った……

 

 

「ーーーーあっ……行っちゃったね……」

 

「……でも良かったじゃないですか千束……ちゃんとお礼が言えて…」

 

「ーーーうん!……でも、あんなでっかいのも出てくるなんて、正直びっくりしちゃったよー」

 

 “さ、私たちも仕事仕事!”そう言ってインカムを付け直す千束。確かに、自分達は任務の途中だった。気絶している組織グループの拘束と、ミカ達に連絡しなければならない。それに、また新たな巨大人型兵器が現れたことも報告しなければならない。

 

「………まだ、色々とやらなきゃいけない仕事が増えちゃいましたね。」

 

「そうだね〜〜…でもさ!気持ちを切り替えて!残りの仕事も片付けましょう!」

 

 そう言って肩をたたく千束。そしてたきなも、頬をぱちんと両手で挟み込む。その時、クラクション音が聞こえ、振り返ると車で迎えに来たミズキが見えた。

 

「………はい!!」

 

 そんな二人は、車の方へ向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーありがと………か……な、なんか恥ずいな………」

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

「クルミ、あの後他に残った組織の仲間は?」

 

「ドローンで確認したが、今のところ残っている仲間はいないな。」

 

 休暇日、喫茶リコリコの店内の押し入れの前で、仄暗い空間で青白く展開されたモニターに映っているのは、先程の廃工場の出来事であった。

 

 廃工事現場に至るまでの一連の流れを、クルミが送ったそのドローンは鮮明に映っていた。そこに映るアトラスガンダムとジオン水泳部の戦闘や、大型MA…シャンブロを確認する。それを見て、クルミは感嘆の息を漏らした。

 

「………すごいな……まさか水中機能までもあるのか……それにあの赤いやつはなんなんだ!?……あの大きさでまでも造られるとは……想像できなかったな………」

 

「……あぁ……これは、楠木に山ほど報告する必要あるな……」

 

「それにあの巨大人型が持つ武器……まさかレールガンなのか!?……SF世界で最も惚れそうな武器だぜ!」

 

 面白い、更に興味が湧いてきた。その光景を目の当たりにしてなくても、この映像を見てれば驚きを隠せない。それに、陸、空の次は水中までも戦闘できるという恐ろしい技術力の差だ。そんなクルミは、思わず声を漏らした。

 

「コイツはまさに────いわゆる“才能”て奴かもな……」

 

「……っ」

 

 その一言に、ミカがピクリと反応する。そんな彼の様子をクルミはチラッと彼の様子を見上げながら、ミカはふと思った事を口にしてみた。

 

「クルミ…この巨大兵器は()()()()()()()()()()()()は?」

 

「……残念ながらまだ分からん。だがもしこれがアランではなかったとしたら、案外コイツらを造った開発者の才能を認めれるんじゃないか?まぁ、こんだけの技術力なら、支援する必要があるかだがな。」

 

「……さぁ、どうだろうな……」

 

「……?」

 

 冗談半分で告げたクルミ。それなのにミカはまるで、何か心当たりがあるかのような反応を見せてた。

 

 

 

 

 

 

「(……()()()、この存在をお前が知ったらどうする……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

「そう言えばたきな、あの人型ロボット以外にもまだ他にいろんな種類がいるんだね。しかも目は一つだけだったし!もうあれじゃん、ほら!モンス◯ーズ・イ◯クのマ◯クみたいだったな!」

 

「……いや、なんでディ◯ニーなんですか……それにあの茶色のロボット……」

 

「ん?」

 

「………か…可愛い……です……」

 

「……………え?」

 

 

 ※ 速報:この時、たきなはアッガイの事を気に入ったそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜本編登場MSオリジナル部隊(その2)〜

 

 

 

 〜ジオン水泳部〜

 

 

 「機動戦士ガンダム」およびその派生作品に登場した、ジオン公国軍の水陸両用モビルスーツの総称。水中という特異な環境での戦闘を想定し、海洋生物を思わせるデザインを持つMS(MAのシャンブロ)。

 

 本来なら、『ジオン水陸部隊』と名づけるはずだったが、これに関して蒼夜は“名前がややこしいから、水泳部に決定!“と部隊名を変更したのであった。そしてこのような決定となったMS水陸部隊…通称、現代の世界にジオン水泳部が誕生したのであった。

 

 

 

 

 

 







ジオン『俺たち、ジオン水泳部!!!』

アトラス「一応俺、ジオンの技術も造られてんだけど……連邦側なんだよな……」



 大変お待たせしました!! 今回、ジオン水泳部とアトラスガンダムの登場回でございました!水泳部であるシャンブロ君は登場するかどうか悩んでいましたが、今回は登場させました!

 正直、水中戦を書くのに、マジで難しいかった……


 そして、昨日の水星の魔女 season2 第13話観ましたでしょうか?正直、展開が早すぎて思考が追いつきませんでしたw。これからどういった展開が出てくるのか、超楽しみですね!


それでは次回、投稿先は少し延びますが、よろしくお願いします!



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Episode 13 隠蔽、秘密、そしてアフロ



 2023年4月22日に、SIDE-Fにて新発売のRG……MSN-04FF サザビー。買うかどうか正直迷う作者.........


 いつもブックマーク、感想、評価、誤字や脱字報告なども本当にありがとうございます!コメント欄になかなか返事を返せないのが多い自分ですが、これからもよろしくお願いします!


 なお、今回もまた、別の勢力に目を付けられてしまう一般人…


 

 

 

 

 

 ーーとある漁港

 

 

「なぁ中田さんや!今日のニュースを観たかい?」

 

「あぁ俺も観たぞ。なんでも…()()()()()()()()()()()()()()()が起きたらしいじゃないか?」

 

「自分もニュースで観てびっくりしたわ!なんでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()したんだっけな……そしてそん時に出た炎が廃工場に移っちまい、大きな火事が起きたんだっけ?まぁ…その時人もいなかったし、結果的には大惨事にはならんかったけどな。」

 

「全くだ………それはそうと岩山さんよ、あの()()を聞いたことあるか?」

 

「…噂話……いや、知らんけど?」

 

「確か海難事故が起こった後の事かな……昨日、魚を捕りに向かった1隻の漁船が()()()()()を目撃したんだって話なんだ。」

 

「奇妙な生物……なんだいそれは?」

 

「なんでも、巨大生物らしきものが海の中に泳いでいたとか……」

 

「それ…鯨じゃないんか…?」

 

「いやそれが……目撃した船員が言うには、()()7()0()m()()()だってよ……」

 

「な、70!?そんなバケモンみたいな生き物が海の中にいたのか!?」

 

「いや海の中だったから、ボヤけてて見えにくかったし、ほんの2、3分でどっか行っちまったらしいぜ。」

 

「へぇ〜もしもそんなのがいたら、それはぜひこの目でみたいな……」

 

「そうだな……なんでも彼らはこう呼んでいたんだ……」

 

 

 

海の亡霊

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 ーー場所が変わって、とある一軒家……

 

 

 

 

 

 

「...........なんだよ........マジでなんなんだよこいつら..........」

 

 

 PCモニター以外の光源が一切皆無の部屋で、ロボ太がそう呟いた。先日東京湾近くで起きた廃工場での光景をドローンからの映像を観ていた。

 

 実は彼…ロボ太はとある新たな依頼主によって仕事を頼まれていた。依頼内容は、取引相手である()()()()()()()()()だった。

 

 監視をしていたその時、突如何者かが廃工場に侵入したことを気づき、見つかる前に急いで地下から脱出し、事前に用意した武装船に乗れと指示を出したロボ太。そして、組織グループが船に乗った事を確認し、後は国外へ逃亡するだけのはずだったが……

 

 

『あのクソ共をぶっ殺してやらねーと気がすまぇんだよ!』

 

 

 ーーと、組織のボスがロボ太の警告を無視し武装船などを使い、勝手に攻撃体制に入ってしまった。指示に従えと急いでボスに伝えたその時、突如通信が途絶えしまい、ボスとの連絡ができなくなってしまった。

 

 一体何が起きたんだと、急いでドローンの位置を変えるロボ太。操縦する偵察用のドローンを通して、映像から信じられない光景を目の当たりした……

 

 

「……なんだよ……地上や空だけじゃなく、水中までも動くのかあの巨大ロボット共は!?しかもあの赤い奴!一体どうやってあんなデカいのを造れるんだよ!?」

 

 

 どうやって造った……もっと知りたい……と、興味と興奮の感情が混じっているロボ太。興奮しているせいなのか、体温が一気に上がり、被り物の下から徐々に汗が吹き出てくる.........

 

ーーーーするとその時……

 

 

 

 

 

《〜♩〜♪〜》

 

 

 

「!?」

 

 

 机の近くに置いていたスマホが鳴り、少し驚いてしまったロボ太。スマホを取り、着信ボタンを押す。そしてそれを耳に当てる。

 

「な、なんだよ…びっくりさせやがって…はい、もしm…『おいハッカー』…っ!?」

 

『コイツはどう言うことだ?しかもなんかアイツら捕まっちまったそうだな……てか、お前のせいで取引できなくなったんじゃね?』

 

 声の主は男である。だがその声を聞き覚えているこそ、ロボ太は眉をひそめた。今、ロボ太が電話相手している男こそ、今回の依頼主でもある。

 

「ま……“真島(まじま)”!?」

 

『おいおい電話にかけただけでそう怖がるなよ。それともあれか、お前の家に直接行ってあげようか〜?』

 

「(こ、コイツ〜〜〜)」

 

 最初に会ってからロボ太は、この真島という男はあんまり気に入らなかった。今すぐにでも通話を切りたいと思っていたのだが、今は真島に話す事が山ほどあると、一旦冷静を取り戻すロボ太。

 

『つーかよ、見つけたのか?何もかも隠蔽にできる裏の存在…r「今は、それどころじゃないんだ!」……あ?』

 

「アンタの取引相手の組織が隠れていた場所で、とんでもない奴らが現れたんだぞッ!!もちろん、この目で見たんだ!!」

 

『………おいおい、早速言い訳か?それにとんでもない奴らってリコリスの事か?ならそこまで驚く程……』

 

「違う、そっちじゃない!いいから僕の話を聞け真島!リコリスじゃなくて、巨大人型ロボが出たんだ!!しかも今度は、今まで見た事も無い……全く別の奴だ!!」

 

『······なに?』

 

「お前もテレビのニュースとかでも観たことあるだろ!?東京の街に空港に出てきて、今じゃ世界中でも話題になっている謎の巨大人型ロボットだ!しかも今度は、水中までも動いていたんだぞ!それだけじゃない、中には70m以上のバカデカい奴もいたんだぞ!!架空(フィクション)じゃなく……現実(リアル)だ!」

 

 ロボ太は焦りながらもスラスラと真島に説明する。途中から全く聞き取れなかった言葉が通話に入ってきたが、それでも真島は黙ってロボ太の話を聞く。

 

『………おいハッカー、写真とか映像…撮れたのか?』

 

「…え?」

 

『だ・か・ら、その巨大ロボが出てるて証拠だ。写真か映像を撮ってんなら、こっちに送れよ。』

 

「あ、あぁ……映像なら撮れたぞ!ちょ、ちょっと待ってろ!今そっちに送る…」

 

 通話相手…真島にその映像を送るロボ太。あれだけ話したが、やはり自分の口からだけでは信じて貰えないだろうか。そしてその映像を送った後、どういうわけか送った映像を観ているだろう真島の声がピタリと止まっていた。

 

『……』

 

「………お、おい……」

 

 突然…沈黙となった真島。流石に不審に思ったロボ太は、思わず真島に尋ねると……

 

 

『……くっくっくっ……』

 

「………へぇ?」

 

 

ハハハハハハハハハハハハ!!!!

 

 

「…っ!?」

 

『すっっげーなんだよこれ!?テレビとかでも観てたけどよ…こっちの方が全然観やすいじゃねーかじゃねーかハッカー!』

 

「……」

 

『おい見ろよこの黄色い奴!レールガンを持ってるんだぞレールガン!SF映画とかでよく観ていたけどよ……現実にもあるってことじゃねーか!しかも、この赤い奴も…確かに結構デケーな!こんな奴らがいたら、奪った銃よりも価値があるぞ!』

 

「……」

 

『おいハッカー!よく撮れたな!褒めてやるぜ!』

 

「お……おう……」

 

 不気味な笑いで興奮する真島の反応を耳に入り、思わず引いてしまったロボ太。そんな時、真島は思わず声を漏らした。

 

『最初、てっきりお前はあのウォールナットよりマジで使えねぇ奴だと思ったんだがよ、意外と役に立ってんじゃねーかお前。』

 

「……な、何ぃ!? 今なんつったぁ!!それにもうとっくに死んだアイツの名前を出すんじゃねーよ!いいかよく聞け!僕は日本…いや、今じゃ世界一のハッカーだぞ!!」

 

 ロボ太は声を荒げて機嫌が悪そうな声で言ったいるが、電話の相手である真島は、そんな彼の言葉に全く興味を持たず、とりあえず適当に受け流す事にした。

 

『はいはい〜わかったわかった……それで、そのロボット共の居場所は追跡できたのか?』

 

「……いや……それが、追跡ができなかった……と言うより……途中から電波の調子が悪かったみたいだったから……」

 

『……ッチ……んだよここぞって時に使えねぇな……』

 

「わ、悪かったな……(今コイツ、舌打ちしたぞ!)」

 

『……まぁいい……じゃ、仕事追加だ世界一のハッカー様。』

 

「………ちょ、ちょっと待て……追加だと?」

 

『あ?なんだ、不満か?』

 

「い、いや……そうじゃなくて……」

 

『そうか、なら要件言うぞ。あの巨大ロボット共の特定か解析して、そしてそいつらを造った開発者とかなんでもいいから調べろ。もちろん大至急だ。』

 

「ーーーーーはぁ!?ま、待て待て待て!なんでそうなるんだよ!?それに、依頼の期限日はもうとっくに終わったんだぞ!!」

 

『追加だ、追加。それにお前のせいで取引相手の組織が捕まっちまったんだぞ。』

 

「うぐ…っ!」

 

『もちろん報酬は出す。言っておくが、もしも情報を見つけなかった場合、お前の家に行って直接潰しに行くからな。あ、もちろんリコリスの存在も忘れんじゃねーぞ。』

 

「な、なんでだよ!?…というか、それ完全に脅迫だr...『じゃーな、世界一の天才ハッカー様〜』お、おい!待てーーーー!!」

 

 

《ツー、ツー》

 

 

 直後、真島からの通話が切れ、再び一人となったロボ太は、肩を大きく揺れつつ、全身を猛烈のように震わせる。

 

 

あ、あんにゃろ〜〜〜好き勝手にいいやがて!!!

 

 

 思わず椅子を跳ね倒し、絶叫するロボ太。

 

 

「上等だコノヤローーー!!!だったらこっちもこっちでリコリスだろうが巨大ロボットだろうが!全部暴き出してやるわぁ!そしてこのロボ太様こそが日本一……いや!世界一のハッカーだと今度こそ証明してみせる!!!!!!」

 

 

 椅子に座り直し、猛烈な勢いでパソコンのキーボードをタイピングしつつ、持っていたエナジードリンクを一気に飲み干すロボ太。リコリスの存在や謎の巨大人型兵器の集団について、調べ始めるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜〜マジでメンドクセーなアイツ……まぁ、まだ使えるから別にいいけど…」

 

 ロボ太への通話を切った緑のアフロ頭の男……真島(まじま)がそう口に出す。現在彼は、大型ワゴン車に乗っており、運転は部下達に任されている。本来なら今日、麻薬組織と取引するはずだったが、組織のほとんどがリコリスに捕まってしまったのであれば向かう必要は無いと、アジトへ引き返す事になった。

 

「しっかし……コイツらマジでなんなんだ?本当にSF映画とかに出てくるメカじゃねーか。ボト◯ズか、ゲッ◯ーロボのパクリか?」

 

 送られた映像を未だに観続けている真島。実は彼、東京の街で現れた謎の巨大人型兵器の存在に興味を持ち始めた。それから、航空機に変形するロボットや今回の水中移動もできるロボットが現れてからも、まるで童心を取り戻したかのように大いに注目している真島。

 

 映像を観ている最中、車内に取り付けたスピーカーから部下の一人の声が聞こえた…

 

『真島さん……取引先の組織なんですが……残念ながらやはり組織のボスも含め、全員捕まっちまったそうです…』

 

「だろうな……しかもどれもこれも、メディアには海難事故になったらしいじゃねーか……ハッ!全く、バランス悪すぎだろ…」

 

『はい。それと真島さん……この巨大人型兵器なんですが……取引相手だった組織のボスにも伝えてなかったんですかい?』

 

「くっくっ……そりゃ、あんな奴らが来るなんて思ってなかったからなぁ……マジでごめんだわ〜」

 

 部下の疑問の言葉を受けて、真島は思わず不適な笑みを出してしまう。捕まってしまった組織に対して謝る真島だが、その様子を見れば()()()()()()()()()()()

 

「ともかく……報告は以上だ。それに今頃、例のハッカーが調べてくれるし……今はアイツの結果報告を待つぞ。」

 

『……了解』

 

 部下からの報告を聞き終えた真島は、通話を切り、再び視線を映像の方に向ける。その口元は歪に上がって、同時に楽しげな声も漏れ出す。

 

「いいねぇ、やっと面白くなって来た……そうでないと、バランスが取れないもんなぁ〜……くっくっくっ……」

 

 

 真島は誰に聞かせる訳でなく、ただただ思うままに紡がれる言葉。

 

 

「おいお前ら、アジトに戻ったらやる事があるぞ。取引は結局ダメになっちまったが。まぁ、面白いもんを見つけたし.....色々と調べたい事が増えたからなぁ……」

 

 

 

 

★★★

 

 

 

〜翌日〜

 

 

「(………やっぱり無いな……)」

 

 あの出来事が起きてから翌日、今日も喫茶店リコリコへ向かっている最中である蒼夜。

 

「(昨日、東京湾近くの廃工場にて海難事故が発生……怪我人、及び被害者はゼロ…)」

 

 仕事場であるリコリコへ向かいながら、スマホでニュースサイトを見る蒼夜。

 

「(……だめだ……やっぱりどのニュースにも載ってない……)」

 

 不思議に思う蒼夜が語る。それもそのはず、昨日起きた出来事とテレビや新聞などにも載っている内容とは全く違かった。あれだけの爆発や煙が上がったりなどがあれば、流石に少し遠く離れている人々にも気づき、目撃されるだろう。しかし、記事の内容を見れば海難事故として載っていた。

 

「(どうなってんだ……まさか隠蔽なのか……それに……どうして千束さんとたきなさんが……あんな所に…)」

 

 そして、以前から気になっていた千束とたきなの正体。自分と変わらない年齢の女の子なのに普通に拳銃を持っていた。しかも彼女達だけではなく、彼女達と同じ制服を着ていた二人の少女。そしておそらく、残りのリコリコの店員であるミカ、ミズキ、そしてクルミもそうに違いない。

 

「(“リコリス“……この言葉と何か関係あるのかな……やっぱり一度、ハロ達に調べてもらった方がいいのか……ん?)」

 

 リコリスについてハロ達に調べさせて貰おうと考えた時、蒼夜のすぐ横を二人の女子学生が通り過ぎていた。

 

「(…っ!あの制服……)」

 

 二人とも自分と同年代であり、べーシュの学生服を着ているのだが、その「学生服」にすこし引っ掛かり、身に覚えがあった。なぜならば、千束とたきなが着ているのと全く同じデザインであるからだ。

 

「(………そういえば……最近たまに見かけるな……)」

 

 その制服はブレザーともセーラー服ともボレロとも分類できない不思議なデザインをしており、おそらく、毎日この目で目撃したいたかもしれない。さらに、学校指定と思われる校章をつけており、女子学生だと思うだろう。

 

「(………いや待てよ……そもそも、彼女達の学校はどこなんだ?)」

 

 蒼夜にとって疑問に思ったのは、一体彼女達は、どこの学校に通っているのか…または、なぜ拳銃を所持しているのか……

 

 

 

 そう考えているうちに、いつの間にかリコリコに着いてしまった蒼夜。

 

 

 

 〜カラン♪

 

 

 

「おぉ〜おはよう蒼夜君!」

 

「おはようございます蒼夜さん。」

 

「お、おは……ご……います……」

 

 相変わらず人と喋る蒼夜の口言葉は少ないが、それでもなんとか彼女達にそして、カウンター席にいるミズキと厨房室にいるミカにも挨拶する蒼夜。

 

「めっずらしぃね〜蒼夜。まだ店開く時間じゃないのにさ〜」

 

「(え………あ、ほんとだ。)」

 

 ミズキに言われ、時計を見る蒼夜。確かに、開店前時間よりも少し来るのが早かったらしい。千束とたきなの二人を見れば、彼女達はまだ着替えておらず、制服のままである。

 

「………」

 

「……あの、蒼夜さん……どうかしましたか?」

 

「…っ!?…い、いえ……な、なん、なんでも……あり……せん……」

 

「え〜〜嘘!そんな事ないじゃん!私達の事を見てたよねぇ〜たきな!」

 

「はい……まるで、私達に何か言いたいような……」

 

「(や、やべぇ………なんか変に思われる……てか……近い!)」

 

 蒼夜は思わず彼女達の制服を長く見つめてしまった。不審に思われたのか、彼女も反撃と言わんばかりに顔を覗き込んでくる。真正面から見る顔は、間違いなく美少女そのものだった。

 

 もう誤魔化す事ができないと思ったのか、蒼夜は勇気を踏み出すことにした。

 

「(クソ!こうなったらやるしかない!)……あ、あの……し、ししし…しつ…もん……いいい…です……か……」

 

「えぇ!なになに〜!てかいいよ敬語なんか使わなくてさ!」

 

「千束……もう……すみません蒼夜さん。それで質問とは?」

 

「……が....学校.......…」

 

「「………え?」」」

 

 蒼夜の言葉に、千束とたきなは少し嫌な予感を感じ始めた。

 

「そ……その……せ、制服……別の…h、人が…同じの...着ていた....ので……ど...どこの...学校...なのか…と........」

 

「…蒼夜君……その人って……女の子?」

 

「は…はい……」

 

「……一応聞きますけど.....着ていた制服の色…覚えていますか?」

 

「……べ、……べージュ……色……です……」

 

 言葉は所々途切れてはいるが、それでも蒼夜にとって長く喋れた事でもあり、彼にとっても純粋な疑問。一週間以上蒼夜と一緒に働くリコリコのメンバーもなんとなく彼の言いたい事が分かってきたのか、徐々に慣れてきた。

 

「え、えっと〜〜」

 

「その……ですね……」

 

 だがその疑問を聞いた千束とたきなの表情が少し強張る。一瞬で曇り、焦って何かを誤魔化すように声を漏らしたり、目線があっちこっちに飛び交う様にも見えた。彼女達だけでなく、ミカとミズキも少々真剣な表情になる。そしてよく見ると、彼女達と同様、額から小さな汗が流れているのを見える。

 

「「「「………」」」」

 

「(………あれ…もしかして……なんかまずかったか………)」

 

 突然沈黙になってしまった彼女達の様子を見て、蒼夜は内心困惑する。自分は何かまずいことでも言ってしまったのだろうかと自信が発言した記憶を思い出す。しかし、特に口に出して問題ある発言は一切見当たらなかった。

 

 そしていつの間にか、よくわからない微妙な空気が広がる。これは流石にまずかったのと思った蒼夜は、何か別の話題を切り替えようと脳内の細胞をフル回転させる。しかし自身も焦っているのか答えが全く出てこない。

 

 そんな時、千束が“みんな、一旦集合!“…と、蒼夜以外のメンバーを呼び寄せ、蒼夜に聞こえないよう、コソコソと呟き始める。

 

「(ちょ、ちょい皆!ど、どどどどうする!?)」

 

「(し、知りませんよ!どう答えるつもりだったのですか!?)」

 

「(えぇぇ〜〜とぉ……ゆ、雄◯高校?)」

 

「(あ〜〜なるほどなるほど…将来プロヒーローになる為の……てアホか!そんな漫画に出てくる高校が現実にあるわけないだろ〜!そんなんで誤魔化せると思ってのか!?)」

 

「(むぅ……困ったな…)」

 

 どう誤魔化そうと悩むたきな。どこぞのヒーロー漫画に出てくる学園の名で誤魔化そうとする千束。そんな彼女の提案にツッコミを入れるミズキ。そして、蒼夜の問いになんて答えればいいのか迷うミカ。

 

 

 

ーーーその時。

 

 

 

彼岸花(リコリス)女子専門高等学校、だろ?」

 

「「「「(く、クルミ!?)」」」」

 

 微妙な空気となってしまった窮地を救ったのは、手にタブレットを持つ小柄な少女…クルミだった。そんな彼女が突然高校名を口に出してはいたが、そのような高校を全く聞き覚えがない。 

 

「スマホで調べてみろ蒼夜。検索したらすぐに出てくるぞ。」

 

「いやいやちょっと待てい。そんな高校あるわけn…「あ、あった…」……え?」

 

「その……あ……ありまし……た……」

 

「…ちょ、ちょっと蒼夜君……それ……見せてくれる?」

 

「は…はい……」

 

 千束に言われ、彼女達にもスマホで検索した高校のサイトを見せる蒼夜。そこに載っているのは、『彼岸花女子専門高等学校』とサイトがあり、サイトの中には、二人と同じ制服を来ている少女達が勉学やスポーツなどを楽しんでいるかのような描写も載っていた。

 

「(………確かに……本物だな……)」

 

 開いたサイトを見れば、二人が通っている学校であると信じるだろう。だが、そのサイトを見た千束とたきなの反応は、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「ちょ……クルミ…あんた…これどうやって…」

 

「おいおい何言ってんだミズキ…()()()()()()()()()()()()()()()()?な、店長?」

 

「――あ、あぁ……そうだな……」

 

 意図的かそうでないか、目の前に現れた助け船にミカは飛び乗った。そしてクルミの出現は、ミカだけでなく千束達にとっても助け船であった。

 

「…そ、そうだよ彼岸花高校!私達そこの高校なんだよねぇ〜たきな!」

 

「……そ、そうですね千束。」

 

 稼がれた時間で、千束はごまかす理屈を思いつき、クルミに言われ高校が自分達が今通っている高校だと答え、たきなもそれに乗っかかる。そしてミズキも「あ、あ〜〜そうだったわね〜!」と焦っているようにも見えた気がするのだが……。

 

「それよりミカ、食材切れたんじゃないのか?千束とたきなは高校の課題があって忙しそうだし……なんなら代わりに蒼夜に任せればいいんじゃないか?」

 

「……そうだな。すまない蒼夜君…食材の買い出しへ行ってきてもらえないのだろうか?無論、お金はこちらで渡すよ。」

 

「え………は、はい……」

 

 ついさっきまでの彼女達の様子が怪しかったが、()()()()()()()()()()()蒼夜。そして、ミカから買い物リストの紙と必要なお金を渡され、店で使う食材の買い出しへ向う事になった。

 

「じゃ……い…行って……きます……」

 

「おう!行ってらしゃ〜い蒼夜君!」

 

 千束はもう一度振り向いて元気よく笑顔を送ると、ドアに手を掛ける蒼夜。そして、入って来た時と同様に店内に鐘の音が響き渡った……

 

 

 

カラン♩

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

「「「「………フゥゥ〜〜〜〜」」」」

 

 

 蒼夜が店から買い出しへ向かって行くのを確認し、学校の疑問についてすっかり立ち消えたことに千束達は緊張感から解放され、息を大きく吐くと同時に安堵に包まれた。

 

 そんな時、千束は助け舟となったクルミに近づき、抱き付く。

 

「ありがと〜クルミ!助かったよ〜〜」

 

「おぁ!?い、いきなり抱き付いてくるな!」

 

「本当に助かりましたクルミ……ですが……さっきのサイトは?」

 

「あぁ……僕が()()()()()()()()()()()()()()()()だ。もしかしたら、蒼夜がお前達の通っている学校について聞きにくるんじゃないのかと思って、事前に用意してたんだ。もちろん、そんな学校は現実に存在しないのだがな。」

 

「だろうな。ともかく、感謝するぞクルミ。」

 

「おう。後でお手製デザートを食べさせろよミカ。」

 

 ーーと、クルミの要求に“フッ、了解した“と答えるミカ。

 

「いや〜〜〜しっかし一時どうなるかと思いましたよ〜ねぇ〜皆さん!」

 

「そうだな……だがな千束。これはあくまでも一時的だ。アイツにバレるのも時間の問題だぞ。バレされたくないなら、誤魔化し方を変えた方がいいと思う。」

 

「うぅ……そ、それは……そうだね……」

 

 昨日の廃工場の任務先でも、たきなに言われた事を思い出す。確かに彼は、自分達と違って()()()()()()。住む世界が全く別なのだ。そんな時、ミカがクルミに対して問い出す。

 

「まぁそのくらいにしておけ……それよりクルミ、私も質問していいか?」

 

「おう、なんでも聞いてくれてもいいぞ。」

 

「なら質問するが……()()()()()()()()()()()()()()()()()のか、その理由について教えてくれないかクルミ?」

 

「おや、もう気づいたのかミカ?」

 

「まぁな……あんな()までもつけられば、流石に気づく。」

 

 店の食材が切れた事と学校の課題の事……それらはクルミが出した嘘である。なぜそんな嘘をつけなければならないのか、その答えはすぐに分かる。

 

「まぁ、そうだな……実はお前達に見せてもらいたい事があるんだ。もちろん、蒼夜には内緒だぞ。」

 

 そう言って、手に持っていたタブレットを開くクルミ。そして少し操作をすると、先日と昨日の現場で現れた謎のロボット軍団の写真や映像などが現れてきた。

 

「これは巨大人型兵器の……もしかして、何か分かったのですかクルミ!?」

 

「まぁ落ち着いて聞け………最初に言っておくが、()()()()()()()()()()()()()()。東京の街、空港、そして昨日二人が向かった現場に現れた奴らも、世界のあらゆる情報をハッキングし、何度か調べたが……何一つ答えが見つからなかった。もちろん、追跡なども行ったが……結局それでも見つからなかった…まるで亡霊みたいだ……」

 

「……そんなに……」

 

「あぁ……悔しいが……」

 

 険しい表情をするクルミは、千束の問いに答える。そしてそんなクルミの様子を見る千束は内心で驚愕する。

 

 クルミ……ウォールナットとして、ハッカーの能力は文句無しの超一流だ。電脳上での持ちうるそのスキルは、極めて多岐に渡る上にその一つ一つの知識量と凄まじい腕前を持つ。もしかしたら、彼女なら世界中のあらゆる国家秘密も見抜かれるんではないかと疑う。

 

「つまりその……どう言う意味なのででしょうか、クルミ?」

 

「簡単に言えば、これ以上調べるには……僕にとってもうこれが限界なんだ…」

 

 だがこの時、非常に悔しそうな顔をしながら初めて自身の限界を知るクルミ。実際、ネットワーク内の情報全てを調べられる事ならともかく、クルミがここまで苦戦するとは誰も思わなかったのだろう。

 

「だが勘違いするな、僕はまだ諦めたわけではない……それにコイツらを造った開発者……一体どんな奴で、どんな技術で造ったんだ……」

 

 ーーと、ポツリと呟いたクルミ。彼女はこう見えて負けず嫌いであり、求める答えを未だに諦めず探し続けている。

 

「………てかさ、そもそもコイツらの目的なんなの?戦争とかでもすんのか?」

 

「それはだな……あくまでも僕の考察だが……恐らくコイツらの目的は()()()()()()気がするんだ。」

 

「…っ!?どういう事ですかクルミ!?」

 

「いやいやいやちょっと待てぃ!こんなビーム兵器とか持っておいて戦争が目的ではない!?じゃあれか、世界征服とかでもするんのか!?」

 

 語気を強めながらたきなとミズキの疑問の声が上がる。

 

「いや違うなミズキ。目的は不明だが、恐らく世界征服ではないと思う。それにお前ら、思い出してみろ……そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………あっ」

 

 クルミの疑問の言葉を聞いた千束は、“言われてみれば“…と思い出す。東京の街で10式改の暴走を止めたが、その操縦者を殺していない。更に、昨日の現場で敵対していた麻薬犯罪組織のボスや部下達も含め、誰一人殺していなかった。それにあの乗客機をなんの理由もなく救っていた。

 

「そのロボットを操縦した正体……カボチャ頭もそうだ。アイツも千束と同じ非殺傷弾を使ったんだろ?」

 

「あぁ……私が造った弾と少し似ていた。」

 

 ーーと、クルミの問いに答えるミカ。先日の事件で、カボチャ頭が使っていた弾などを回収し、解析をしていた。使った素材は別だが、それでも千束が使っていた非殺傷弾と同じだった。

 

「なんか……まるで千束みたいですね。」

 

「そうだな……殺さない意思……技術力の差……その答えを持つカボチャ頭に聞いてみたいぜ…」

 

 そう言ってクルミはタブレットを動かし、千束とたきなが描いたカボチャの()()()似顔絵を出す。

 

「でもさぁ〜?カボチャ君、結局誰も殺さなかったんだよね。あの巨大ロボットをどうやって造ったのかは知らないけど、いい人……って考えていいんじゃないかなぁ?」

 

「千束………そうかも知れませんけど、まだ分かりませんよ。それに今頃、DAどころか……上層部も黙っているとは思いませんよ。」

 

「だよね〜まぁそれもそうなんだけどぉ……私としては、仲良くしといた方がいい気がするんだよねぇ、千束さん的には〜」

 

 そう言って、気怠げにミカが出したコーヒーを飲む千束。

 

 

 

 

 そんな時、クルミは思わずとある疑問を漏らす……

 

 

 

 

 

「なぁ、もしかしてなんだが……そのカボチャ頭の正体って蒼夜じゃないのか?」

 

 

 

「「「「…っ!」」」」

 

「よくよく思い出したら……千束達と初めて対面したカボチャ頭は結構無口だったんだろ?蒼夜は別に無口ではないが、そんなに喋らないんだから…一致するんじゃないか?」

 

 確かに言われてみれば…と内心で考えるミカとミズキ。そんな彼らは、千束とたきなの方に振り向くと……

 

 

 

 

 

 

「「蒼夜君(さん)が、カボチャ君(頭)……」」

 

 

 

 

 

 〜ホワンホワン

 

 

 

は、はは初め……して!……か、かぼっちゃ……で、です……

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いや、ない(です)ね。」」

 

 

 暁月蒼夜とカボチャ頭が同一人物であると想像し、脳内再生するが、クルミの疑問にアッサリと否定する千束とたきな。

 

「そんなわけないじゃんねぇ〜たきな!」

 

「同意見です。彼は一般人ですし、普通に銃を持っていたら銃刀法違反ですからね。」

 

「いや!それお前がいうんか〜い!」

 

 ーーと、たきなにツッコミを入れる千束。だがこの時彼女達は知らなかった…

 

 

 

 それが、事実であると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ、ヘックシュン!!(なんか最近くしゃみ多いな………)」

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

〜DA本部・司令室〜

 

 

 

「ーーーー以上、リコリコからの報告書でした。」

 

「ご苦労……はぁ……」

 

「あの司令……大丈夫ですか…?」

 

「大丈夫……というより、正直苦戦しているさ……はぁ……」

 

 一方その頃、秘書から送られた報告書に目を通して、二度もため息を吐く楠木は頭を抱える。

 

「……まさか……水中機能までも付けているのか…この巨大兵器は……」

 

 その理由はもちろん、新に出現した巨大人型兵器についてである。リコリコのメンバーであるミカから送られた、昨日の現場で起きた出来事をドローンで撮影した映像記録も観ていた。

 

 ※ ちなみに、ドローンはミズキが操作していた、ということにしている。

 

 頭を悩ませる種となっている千丁の銃が奪われた事についてもだが、今最も悩まされているのは、東京の街に現れてから次々と目撃すると巨大人型兵器。そして今回も、陸、空の次は、水中までも活動できるのかと疑う楠木。

 

「(しかし………この巨人が持つ兵器、そして赤い奴も……一体どこの組織がこんな物を造り出したんだ……いや、そもそも組織と呼べばいいのか?)」

 

 送られた映像の中、楠木にとって驚くべき二体の戦力。一体は、額に『V』の字を付けている巨大人型(アトラスガンダム)が武装している長型銃で敵対無人機を全て破壊する程の破壊の威力。そしてもう一体は、潜水艦を簡単に持ち上げれる程の怪力を持つ動物型(?)の巨大兵器(シャンブロ)

 

「(……こんな奴らが我々に敵対すれば、恐らくこちらに勝ち目はないと思う…)」

 

 資料に目を落としながら愚痴をこぼすようにぼやく楠木。

 

「司令…上層部はなんと…」

 

「すぐに捕獲しろか、もしくは対処しろと言われたが……流石にこれを見ると不可能だな……できればアプローチを取りたいんだが……」

 

 秘書の疑問をすぐに答える楠木。対処や捕獲は流石に難しいだろうと考えるが、アプローチさえ取れば、協力者としてDAの戦力になるという期待もある。

 

 だが、逆に敵対組織…もしくはテロリスト側だった場合、間違いなく戦力の差で国の治安維持に大きな影響を与えかねないという危険性になるだろう。そして何より、あの最高AI・ラジアータでさえ、解析や追跡なども行いさせたが……結果は全て不明だった。

 

「……一体何者だ……こんな技術を造れる正体は?」

 

 再び頭を抱え、考え込んでしまう楠木。正体が誰なのかが分からない以上、脅威とみなすのが妥当だろう。それに相手は自分達より遥かに上の技術を持っている。下手に考えも無しに手出しすれば、予想より状況はこちらの方が悪化するだろうと考えた方がいい。

 

「ともかく、情報は少なすぎる。全職員に伝達しろ。情報警戒のセキュリティレベルを5〜6にまで上げ、なんとしてでもあの兵器を造れる正体の尻尾を捕まえるんだ。もちろん、どんな手を使ってもだ…」

 

「はい……では、失礼します。」

 

 楠木からの新たな指示を聞き受けた秘書は一度御辞儀し、司令室を出る。そして、司令室に残った楠木は、再び報告書に目線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸、空、そして海………今度は宇宙……いや、そんなまさかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

〜蒼夜がリコリコで働く事になってから1ヶ月近く経つ〜

 

 

 

 

 

 そんな日常の中……とあるニュースが、再び大きな話題が流れていた……

 

 

 

 

 

()()に現れた、新たな巨大人型ロボット!?国際宇宙ステーションの事故から滞在クルー達を全員救助!』

 

 

 

 

 





 ようやく緑アフロの事…真島さんが登場しましたね。原作でのロボ太との出会いは地下鉄事件でしたが、今回この物語では少し早めに出会いました。ちなみにこの時の二人は協力関係ではなく、ただの依頼者(真島)と受取人(ロボ太)です。

 そしてついにカボチャ頭の正体を……のはずだったが、千束とたきながすぐに否定し、怪しい人物リストから外された一般人君(笑)

 そして、皆さんお待ちかね…次回話の舞台は宇宙!正直宇宙に関してはどうしようかと、色々悩みましたね(笑)。次回登場するMSですが、次回はアナザーシリーズのMSが登場します!



 Next Gundam’s HINT!!

 オーブ、国際救助隊、空白の二年、そしてMA形態……


 それでは次回もお楽しみに!





 劇場版名探偵コナン・黒鉄の魚影……めっちゃくちゃ良かったわ〜〜さ、今日も水星の魔女を楽しもう!



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Episode 14 Go to the SPACE


リアルで忙しすぎて、投稿するのすっかり遅れてしまいました。

お待ちいただいた方々には本当に申し訳ありません。

というか、水星の魔女の第14話と第15話が衝撃すぎるって……

それではどうぞ。




グエル〜〜〜(ネタバレ注意)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙……または無重力空間とも呼ばれており、地球の外に広がっている空間の事。一般的には、地球から約100km程度離れると重力が弱まった影響で大気がほとんどなくなり、宇宙空間とみなすことができる。 地球と宇宙空間との境界は大気圏と呼ばれ、大気の層の中に存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

暁月蒼夜がリコリコで働く事になってから1ヶ月近く……

 

 

 

 

 

 

 

 とある街中の高層ビルの壁面に取り付けてある大型モニターから流れているニュースは、新たな話題や今後の社会についての問題なども語っていた。

 

 そして12時丁度になった時、新たな速報が入る。

 

《ーーえぇ…現場から追加情報が発表されました!新型こうのとりの投入はーーーーえ!?今なら衛星からの映像でも見られるのですか!?た、たった今!衛星からのライブ映像に切り替わる事もできるとーー》

 

 新型こうのとり……通称、新型宇宙ステーション補給機(略称: HTV-X)が地球の更なる上空……宇宙へと舞い上がった行く光景をカメラの映像に抑えている。

 

「凄いねえ〜もうこんなにも綺麗に見えるんだ〜〜」

 

 美しく白い髪で特徴的な髪色に赤いリボンを付けた少女…千束は、飴を口の中で転がしながらそんなことを口にしていた。そんな彼女は目を輝かせていた。

 

「いいな〜私も行ってみたいな〜宇宙!」

 

 興奮気味に話す千束に対して、隣でそれを眺めていた長い黒髪の少女……たきなは呆れながらに呟いた。

 

「千束……流石にそれは無理があります。宇宙へ行くのに相当なお金や訓練なども必要ですから、気軽には行けませんよ。」

 

 そもそもなぜ彼女達は街中に歩いているのか。

 

 今回の依頼……小さな犯罪グループの制圧。その依頼をとっくに制圧できた彼女達は仕事を終え、リコリコへ戻っている途中であった。

 

「たきな〜、私も宇宙飛行士になって月に行ってみたい〜」

 

「だから無理ですって……もう……」

 

 でもでも、と顔を近付けて、千束はたきなを真っ直ぐに見つめながら目を輝かせていた。まさに彼女は、本当に世間に溶け込んだ女子高生の姿。リコリコへ向かいながら、千束は(いつも通り)興奮気味だった。

 

 こんな話をしている間にも、補給機は宇宙へと上がっていく。テレビに映るニュースキャスターが、興奮した様子でアナウンスしていた。

 

《今、流れている映像をご覧になられていますでしょうか!?今、宇宙へと上がっていきます!!電力供給量の20倍を使用した事により、わずか3分でISSに到着すると事前に計画しておりました!そしてその新型には、物資を運ぶだけではなく、なんと……ISSの新たなる施設にも変形できるという驚きの機能もついております!》

 

《いや、すごいですね〜……これもまた、()()()()()()()()()()によって成功された新型補給機。まさに、新たなる時代への凄まじい技術ですな!》

 

《本当ですね……ではここで、公表されている補給機の仕組みについてお話ししたいとーーー》

 

「すごいな〜宇宙って……あ!そういえばたきな!実は昨日、UFOらしい物体の目撃情報が出たんだって!」

 

「ゆ、ゆーふぉ……ですか……?」

 

 突然何を言っているんだこの人は、と少し困惑のたきな。そんな彼女の様子を気にせず、千束は話を続ける……

 

「なんかでっかい透明な船みたいなのが上空に飛んでいたの目撃したんだって!それを目撃した人達は、宇宙船なんじゃないかと言われてさーーー」

 

「あ、もしもし山岸先生。千束が頭を打ったみたいで……」

 

 千束の発言を聞いた直後に、なんとなく予測していたたきなは、期待もしていなかった様子で担当医師である山岸に電話を掛けようとする……

 

「おいコラ!何やろうとしてんだ!?」

 

 少しの憤りを見せた千束に対して、残念そうな目で彼女を見るたきな。それほど彼女にとって、興味を示さずに溜め息を漏らした。

 

「だって…千束がそんなオカルトな話を信じるなんて、何か病気でも…」

 

「誰が病気だ!…っというか、私をそんな残念そうな目で見ないで!?」

 

 ーーと、たきなに対してツッコミを入れる千束。

 

「もう〜〜………思ったんだけどさ……あの巨大ロボットも宇宙へ行けるのかな?」

 

「……それは……」

 

 再び話を変える千束に対し、たきなは未だに正体不明の巨大人型兵器の存在を思い出す。確かによく考えて見れば、あれだけの技術力があれば、宇宙へ行く事も簡単なのではと考える。

 

「ーーー確かにそれも考えてみれば……いや、でも流石にそれはないと思います。なぜなら宇宙というのは無重力空間ですし……」

 

「えぇ〜〜そうかな〜…まぁ、全部私の想像だけど〜」

 

 ふとそう言いながら千束はたきなに視線を向ける。

 

「……」

 

「……あれ?たきなさん?」

 

 だが、突然千束の言葉に反応しなくなったたきな。よく見ると、たきなは大型モニターを見上げ、何かを驚いたかのように目を大きく見開いているようにも見える。

 

「たきな……どうしたの?」

 

「千束、あれ……」

 

「え?なになにどうしt………え?」

 

 千束もたきなと同じ視線になり、彼女も目を大きく見開く。

 

 

 

 ーガヤガヤ

 

 

 

「お、おいあれ……」

 

「ねぇ……あれ大丈夫なの?」

 

「なんか……ヤバくない?」

 

 彼女達だけではなく、街中に歩いている多くの一般市民も騒ぎ始め、大型モニターに注目する。また、テレビに映るニュースキャスターも突然困惑し始める……

 

 

 

《え、えぇ……と……何が起きているのでしょうか……映像から確認したら……()()()()I()S()S()()()()()()様子が……あれ?え、映像が消えました……あのこれは……えぇ!?中継中止ですか!?あ、あの!ちょっとまーーーー》

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 〜時は少し遡り〜

 

 

 

「ハロ、そっちはどんな感じ?」

 

『順調!順調!』

 

『12ト13ノ方ハ、マダ少シカカルケド、今ノ所異常ナシ!』

 

「よし……なら一旦休憩だ。向こうの班にもそう伝えてくれ。」

 

『『了解!了解!』』

 

 蒼夜からの指示を受けた二体のハロ達は、電動バイクらしき乗り物を利用しながら、作業を続けているだろう他の班の伝達しに向かう。

 

「ふぅ……やっぱり設計があっても……実際に開発すると大変だな……」

 

 小さくため息を吐いた蒼夜は、()()()()()()()()()()()。気分転換に窓の方へ移動する。

 

「何度も見て思うけど……やっぱ青いなぁ……」

 

 そう語る蒼夜は、窓の外から見える青い球体……()()を眺めている。

 

「まさか……ただの一般人が月にいるなんて、誰も思わないだろうな……」

 

 

 そう……暁月蒼夜は現在、地球から約38万kmも離れた()()()()に建設してある大規模な都市や施設にいる。そしてその基地の名は、“アナハイム・ムーン“

 

 蒼夜にとってもう一つの秘密基地であり、他のMSなどの開発を行っている場所でもある。そもそも蒼夜はどうやって宇宙、それも月へ上がってこれたのか……

 

 昨日から蒼夜は、母艦・プトレマイオス2(通称:トレミー)に乗り、宇宙へ舞い上がる事ができた。もちろんトレミーには、光学迷彩機能も付いており、地球にいる人々に目撃される事も無く、衛星などの地球上の監視システムの機能を防ぐ事も可能である。

 

「あぁ〜〜〜今思い出したけど……大気圏に突入したり帰ったり……もう何回だっけ?……でも、やっぱまだ慣れね〜なぁ〜」

 

 一人でそう語る蒼夜は。作業場に置いてあるタブレットを取り、画面を操作しながら、新たなシステムの設計図や格納庫の観察モニター映像に変える。

 

「それにしても……二つの課題を探るのに結構苦労したな〜……まぁ、この月で基地を造るのに結構時間が掛かったけどね……」

 

 二つの課題……それは蒼夜にとって、最も苦労している。そのうちの一つは、開発に成功したとある新たなシステム……

 

 

 

サテライトシステム

 

 

 ガンダムXに搭載されたエネルギー変換及び供給機関の総称。また、ガンダムXが装備している超高出力砲・サテライトキャノンにも繋がる。月の太陽光発電施設から受信したスーパーマイクロウェーブをシステムを用いて充填したエネルギーをダイレクトに発射する事によって、一瞬にして広範囲を殲滅するほどの大規模な砲撃を行なう事も可能。

 

 

 

 そしてもう一つの課題は……顔以外の装甲は付けておらず、身体のほとんどは内部構図だが、格納庫で開発中の新たなる機体……

 

 

 

 

GNT-0000 ダブルオークアンタ

 

 

 太陽炉搭載型のMSであり、2基のGNドライヴを胸部とGNシールドに搭載している機体。また、起動開始時から既に安定可動領域に達している事も計算し、更に2基のユニットを物理的に直結させるという画期的な構造を採用している。

 

 そんな二つの難関な課題は、後一週間程で完成する予定。しかしなぜか、ハロ達と一緒に開発した蒼夜は深く考え込む。その様子はまるで、“どうしてこんなシステムを造ってしまったのか…“と、迷っているようにも見える。

 

「造った自分が言うのはあれなんだけど………()()()()()使()()()()()()()()かな〜」

 

 ーーとそう口に出す蒼夜。

 

 まず、サテライトキャノンについてだが…ハッキリ言って今の世界で使う必要があるのかを迷っている。なぜならその威力は、スペースコロニーを一撃で破壊出来る程の火力を持ち、放射される光束は宇宙艦を容易く呑み込んでしまう程の太さが有り、恐らく島すら破壊する事も可能な規格外の破壊力を有する可能性もある。

 

 そしてもう一つは、ダブルオークアンタ(通称:クアンタ)。そもそもこの機体は()()()()()()()()()である。しかし、蒼夜はイノベイターではない為、メインの機能である「クアンタムシステム」どころか、この機体を扱えるかどうかの問題である。

 

「(サテライトキャノンやクアンタが持つGNバスターもそうだけど……あれって威力半端ないんだよな〜〜……てかそもそも何で造ろうと思ったんだろ?この前()()()()に頼んで、この二つのシステムの使い道があるかて調べさせたんだけど………今の所ないんだよなぁ〜〜)」

 

 そう内心で言いつつ蒼夜は、格納庫へ移動しようとした……その時……

 

「さて……残りの整備はどうし…『ソウヤ!ソウヤ!』…ん?」

 

 そう聞こえた蒼夜は振り向くと、もう一体のハロが電動バイクでこちらに向かっていた。やがて、ブレーキをかけながら、蒼夜の前で止まる。

 

「どうしたハロ?何かあっt……『偵察部隊ジン達カラ報告ダヨ!』…えっ、マジ?」

 

『マジ!マジ!ソレト、映像モ見レルヨ』

 

「……あ、じゃ……お願い……(あれ、なんかすごい嫌な予感がするけど……)」

 

 

 

 ZGMF-LRR704B 長距離強行偵察複座型ジン(通称:偵察部隊ジン)

 

 

 アナハイム・ムーンの警備担当にも任された偵察型のMS部隊であり、大体5〜6体のジン達が仕事を行っている。だが、ジンの主動力にはバッテリーなどの消耗がある為、休憩も入りながら常に偵察の仕事を交代で行っている。操縦を任されているのも、ハロ達である。

 

 そんな報告を耳に入れた蒼夜は嫌な予感を感じながらも、ハロから送られた映像を大型モニターで観る事にする。

 

「ありがとうハロ。まぁ、ここは宇宙だし……流石に……

 

 

 

 

 

 

 

いや、なんかやばい事になってる〜〜〜!?

 

 

 

 早速モニターで映像を確認した蒼夜は、驚きを隠せなかった。そこに映っていたのは……

 

 

 地球から送られてきただろう何かが、国際宇宙ステーション(通称:ISS)に衝突した様子が蒼夜の目に入る。しかもよく見ると、ISSの建築物などが既に崩壊している。

 

「……え、なにこれ……てか中にいる宇宙飛行士さん達大丈夫なのこれ!?」

 

『ヴェーダノ予測ダト、ISS二イタクルー達ハ、今ノ所全員無事……』

 

「ほっ……そうか。それならよかっt……」

 

『タダシ、3時間弱デ全員死亡スル可能性アリ。』

 

「ーーーいや、全然ダメじゃん!?

 

 ホッと安堵するも束の間、ISSのクルー達が全員死亡してしまう可能性があると、ヴェーダからの予測を耳に入る蒼夜は叫ぶ。しかも、地球からの救助は不可能である事も予測。しかしそんな彼の様子を気にする事なく、ハロは話し続ける。

 

『ダケドヴェーダガネ、ソウヤガ今スグ助ケ二行ケバ、マダ間二合ウンダッテ!』

 

「…っ!そうかそれなら………あ〜〜〜」

 

 今すぐにでも助けに行こう……と決めた途端、途中で少し悩む蒼夜。流石にこれ以上目立ちすぎては、今後なにが恐ろしい事が起きるのではないと考えてしまう。だが、助けられるはずの宇宙飛行士達を見捨てれば、罪悪感を感じる……

 

「………」

 

『ソウヤ、ドウスルノ?』

 

「……………考えている場合じゃないな……!」

 

 迷いを捨てたのか、ハロに新たな指示を出す蒼夜。

 

「作業一旦中止!これより、ISSの宇宙飛行士達の人命救助作戦を開始する!」

 

『了解!了解!』

 

「よっし!急いで他のハロ達にMSの凖b…『モウデキタヨ!』…はっや!?」

 

『ヴェーダガ事前二準備シタンダヨ!』

 

「………ヴェーダマジすごいな……ちなみに準備したMSは何?」

 

『エクリプス!ツイデ二、“マニューバストライカー“パックモ追加装備シタヨ!』

 

「流石ヴェーダ、そこまで予測済みか……よっし、行くぞ!」

 

 そう言って彼は、先程ハロが乗っていた電動バイクに乗り、ハロと一緒に格納庫へ向かった。そしてわずか1分で到着し、蒼夜を待っていたかの如く1機のMA形態のMSが照らし出される。

 

 格納庫に到着した蒼夜は、パイロットスーツに着替え、ヘルメットを被る。着替え終えた蒼夜は、MSのコックピットに乗り込むと同時に格納庫のハッチが開き、コックピットモニター画面を起動した蒼夜の前には、宇宙空間が見える。

 

《エクリプス、発進準備完了!行ッテラシャイ、ソウヤ!》

 

 

「ありがとうハロ!暁月蒼夜、エクリプス、行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 ゴオォォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 管制を務めるハロの合図と同時に蒼夜はエクリプスのエンジンを起動させ、飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国際宇宙ステーション(International Space Station)略称:ISS

 

 

 

 

 

 地球の遥か上空の高度400Kmの低軌道に位置する居住可能な人工衛星でありNASA(アメリカ)やJAXA(日本)など、各国の宇宙機関が参加する多国籍共同プロジェクトであり、宇宙ステーションの所有権と使用は、政府間条約と協定によって確立されている。また、このISSで行なっている仕事は、宇宙生物学、天文学、気象学、物理学などの分野で科学研究を行う微小重力と宇宙環境の研究所として機能している。

 

 そして現在、国際宇宙ステーション……ISSに各国の宇宙飛行士達が滞在している。日本、アメリカ、ロシアの計7名の宇宙飛行士達がISSに滞在している。そんな彼らは今日、新型補給機を受け取る……はずだった……

 

 

 

 

 

 

 ゴワアァァァァァァァァン!!!

 

 

 

 

 

『ヒィィィィ!?ま、また揺れたぞ!?』

 

『あぁ〜クソッ!何が新型補給機だ!こんなポンコツを造った整備者の奴らに提訴してやる!』

 

『アレック落ち着け!訓練時代を思い出すんだ!』

 

『平野さんも落ち着いてください!』

 

『おい!そっちはどうだ!?』

 

『ダメだ……こっちもひどくやられている……』

 

『あ〜〜〜くそったれ!どうしてこんな事に!!』

 

 

 滞在クルー全員は宇宙服を装着しており、再び激しく揺れるISSだった建物。その一部である破損した施設の船外に命綱をしっかりと付けている状態。彼らは今、非常に深刻な状況に追い込んでいる。

 

 そもそもどうしてこうなったのかを説明しよう。

 

 以前クルー達は、地球から新型補給機が送られてくる事とその補給機が船内を拡大する機能がある事を事前に知らされた。そして今日、補給機が見えたクルー達は、ISSに取り付けられたロボットアームで補給機を掴み、ドッキングするはずだったが……突然、補給機がISSに衝突してしまった。

 

 こちらに向かってくる補給機のスピードが止まらず衝突してしまい、そのせいでISS内でのシステムがおかしくなってしまった。そして衝撃が起きたせいで、ソーラーセールも折れ曲がったり、パネルの破片が飛び出ている。

 

 そんな危険な状況になったISSの船内にいたクルー達は、急いで脱出ポッドで脱出しようと向かうのだが……

 

 『クソ……脱出ポッドも使えないなんて!』

 

 ISS緊急事態の時に使用する唯一の脱出ポッドも壊されてしまった。もはや彼らは地球へ帰還する事も不可能となってしまった。

 

『メーデー!メーデー!誰か応答を……クソ駄目だ!通信システムも使えない!』

 

 無惨な姿となってしまったISS。加えて通信システムも使えなくなってしまった。しかも、酸素の補給も間に合う事ができず、装着している宇宙服の酸素残量は残り3時間くらいである。

 

 

 

ー 音も無い宇宙空間に取り残されてしまい…

 

ー 酸素も残りわずか…

 

ー 助けが来る事も不可能…

 

 

 もはや彼らは、絶望的な状況に追い込んでいるのだ……

 

 

『あ、あぁ……もうだめだ……俺達……ここで死ぬんだ…』

 

『馬鹿野郎!何諦めてんだ!』

 

『いや……彼の言う通りだ……正直私も……』

 

『何言っているのですか!?まだ諦めるのは早いですって!』

 

『クソ!……何か方法はないのか!?」

 

 既にこの状況で絶望する者。そんな彼らを必死に励ます者。そして、この状況からどう生き延びようと必死に考える者……

 

 

 

『(……せめて家族にメッセージを……)』

 

 

 

 そんな中、一人のクルーが崩壊したISSから持ち出した二つのビデオカメラの内の一つに目線を向ける。もしかしたら、自分はここで死ぬかもしれない……そう思った彼は自身の愛する家族に伝えるメッセージ動画を送ろうと考え、撮影しようとした時……

 

 

 

 

『お、おい………なんだあれ?』

 

 

 

 

 ーーと、もう一人のクルーが何かを発見したかのように通信越しで仲間に語る……

 

 

 

 

『おいヘレン……こんな時に冗談はよせ………は?』

 

 そんな彼の声に反応したクルーも振り向き、1機の航空機(?)を目撃する。そして他のクルー達も振り向くと、彼らも“それ“を目撃し、驚きを隠せなかった者も多くいた。

 

『あ……あれは……()()()なのか?』

 

『もしかして……助けが来てくれたのか!?』

 

『バカ、よく見ろ!あんな航空機みたいな飛行物体が普通に宇宙へ飛んでいるなんておかしいだろ!』

 

『……ていうか……こっちに向かってきてね?』

 

 突如、クルー達の前に現れた謎の航空機。しかし、彼らは疑問を抱いていた。なぜ……あんな航空機らしき謎の飛行物体が、普通に宇宙空間を飛んでいるのか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーその時……

 

 

 

 

『…っ!?お、おい見ろ!!』

 

『『『……っ!?』』』

 

 そして次に彼らが大きく驚いたのは、その航空機が突如、M()A()()()()()M()S()()()へと変形する。

 

 両脚や両腕などが出現し、機体の中央から頭部が現れ、180度に回転する。そして、額には『V』の文字が……

 

『………嘘だろ.....』

 

 突如として宇宙空間に現れた謎の飛行物体が巨大人型ロボットへと変形した。それを目撃したクルー達は、驚きを隠せなかった…

 

 

 

 

EW452HM+MVF-X08 マニューバ・エクリプスガンダム

 

 

 

 

 

『平野さん……あれって……地球でも話題になっている謎の巨大ロボなんじゃ……』

 

『あ、あぁ……俺もそう思った……確か、東京の街とかで……』

 

 突然自分達の前に現れた、謎の巨人。思わずも取れてしまった。その時……

 

『ーーーな、なぁ……あの巨人の頭……なんか()()してないか?』

 

『あん?…ほ、本当だ……』

 

 自分の達前に現れた巨大ロボ……エクリプスガンダムの額から一つの光が何度も点滅しているのを目撃する。短い点滅や長い点滅を何度か繰り返しているようにも見える。

 

『まさかこれ……モールス信号じゃないか!?』

 

『何だって!?本当か!?』

 

『えっと………“敵ではない……貴方達を助けに来た“……だと……』

 

『助けに来た……俺達を!?』

 

『よかった〜……やっぱり僕達を助けに……』

 

『バカかお前!?どう考えでもおかしいだろ!』

 

『でもこのままじゃ……ずっと僕達宇宙空間に閉じ籠ったままですよ!』

 

 突如現れたエクリプスから救助受託。それを受け入れる者や受け入れない者も…意見が完全に別れてしまった。しかしよく見ると、自分達の事を攻撃しないのか、敵意を見せない為、両手を上に上げている様子。

 

『………俺は……受け入れようと思う……』

 

『……なっ!?ほ、本気かお前!?』

 

『ここで死んでしまうよりマシさ!責任なら後でいくらでも取ってやる!』

 

『いや、だけど……』

 

 っと、既に仲間の一人がエクリプスからの救助受託を受け入れると決めた時……

 

『お、おいお前ら!あ……あれを見ろ!』

 

『あぁ?どうs………な……何じゃあれ!?』

 

 中の一人が言う方向を見るクルー達。その方向を見た途端、更に彼らは驚きを隠せなかった。

 

『What the f◯ck is that!?』

 

『何だあれ……()なのか?』

 

『100……150……いや、全長200m超えているぞ!』

 

『おいおい何だよあれ!?マジでいい加減にしろ!スターウ◯ーズの世界じゃあるまいし!』

 

 更に彼らを驚かせていたのは、突如やってきた青と白の二色に混ざった巨大な船……クサナギ……

 

 その時、エクリプスの額から新たなモールス信号が送られる……

 

 

 

 

ーこの船に乗ってくれー

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

「ふぅ〜何とか全員助ける事ができたな…」

 

 オーブ宇宙戦艦・クサナギの中に入っていくのクルー達の安否を確認した蒼夜は、ひとまず安心する。

 

「しっかし……こっちはこっちでひどいな……」

 

 クサナギとは反対方向に振り向き、ISSの状況を確認する蒼夜。既に無惨な状態となったISS。宙に浮かぶ破片などが見え、とても住める状況でもないくらいな酷く壊れかけの状態となってしまったISS。ちなみに、飛び散っている破片や宇宙ゴミなどは、地球に落下しないよう、クサナギに搭載していた複数のMS部隊…“M1アストレイ部隊“や複数のボール部隊によって、回収し続けている。

 

「(どうしようかな………このまま宇宙飛行士さん達を地球へ帰らせる事はできるけどなぁ……)」

 

 今からなら普通に彼らを地球へ帰還させれる事も可能である。しかしそれでは、彼らの宇宙研究としての努力が全部水の泡になってしまうかも知れない。

 

「(修理できないかな……ちょっとヴェーダに聞いてみるか)……ハロ、ヴェーダに……」

 

『ヴェーダガネ、修理デキルテ言ッテタヨ!』

 

「はっや!?てか、僕がなんか言う前もう!?」

 

 ISSを修理できないかとヴェーダに聞く前に、M1アストレイを操縦しているハロが通信越しで早々に答える。

 

『ツイデニ、修理用ノパーツモ造ッテモラッタヨ!』

 

「…………マジか……ヴェーダすげぇな……」

 

 改めてヴェーダの予測機能の恐ろしさを知った蒼夜。そして蒼夜の前には、M1アストレイやボール部隊が何やら複数のパーツらしき物を持ってきた。

 

「……まっ、本当は色々とツッコミたいけど……とりあえず、ISS修復作戦開始だ!」

 

『了解!了解!』

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 一方その頃……

 

 

 場所が変わって、クサナギの艦内では……

 

 

 

《ーー艦内では酸素がある為、宇宙服などは不要です。また、奥へ進んで左側の通路の両扉へ向かっていただきますと、休憩所でございます。繰り返します。艦内ではーー》

 

 

 M1アストレイによって艦内へ連れて行かれたISS滞在のクルー達はアナウンスの声を聞く。ここは空港なのか……とツッコミを入れる者もいるが、その中でとある発言に疑問を抱く。

 

「ちょっと待て……酸素があるって事は……これを脱いでもいいってことか……よっし!やってみる!」

 

「お、おいバカ!お前何やって……」

 

 と、いきなり仲間の一人が恐る恐るヘルメットを取り外すと……

 

「…………お、おい!ここ……息できるぞ!」

 

「何!?だったら……ほ、ほんとだ!」

 

 息ができると確認できた彼らは次々とヘルメットを取り外す。そして彼らは、警戒をしながら艦内の奥へ進み、両扉が見えた。

 

「あった……嘘じゃないんだな……」

 

 そして、その両扉は自動で開き、クルー達は恐る恐る中に入ると……

 

 

 

 

 

『『『『──────』』』』

 

 

 

 

 休憩所と言われた場所に入ったクルー達は言葉を失い、その光景に思わず驚愕する。

 

 目をこれでもかと大きく剥かせて驚きを顕にしており、中には口を大きく開かせて腰を抜かしている者もいた。

 

「……なぁ……これが今俺たちが乗っている船……なのか?」

 

「船というか……もはやここ……家じゃねーか…これ…」

 

「というか……本当にお邪魔しちゃっていいのか?」

 

 彼らが目にしたのは、ソファや大型テレビ、更に冷蔵庫や浴室なども見えた。ちなみに休憩所以外、MSデッキやこのクサナギの操縦室など、他にも部屋はあるが、それは流石に見せれないよう、扉を封鎖している。

 

 しかし、そんな事を知らないクルー達は、この休憩所だけで驚きを隠せなかった。

 

「み、みんなこれを見ろ!ドリンクバーに冷凍食品まであるぞ!」

 

「今気がついたんだが……ここは無重力ではないのか!?いや待て……そもそもどうやってこんな技術を!?」

 

「それだけじゃない……ここはどう考えても部屋だ……いやむしろ!私達が知っている技術よりはるかに差があるぞこの船!」

 

「おいお前ら大変だ!このテレビもそうだがこれも見てくれ!ここにプレ◯テ5があるぞ!」

 

「「「「いやなんで!?」」」」

 

 冷蔵庫にテレビなど、地球にある普通の一軒家とほぼ同じ生活品が置いてある。そして、テーブルの上には紙一枚が置いてある。そこには、“どうぞ、ごゆっくり“と、書かれてあった。

 

「(どうして私達を助けに……一体、何が目的で…)」

 

「お、おいお前ら!外を見ろ!」

 

「ん?……どうしt……な、何をやっているんだ彼らは!?」

 

 一人のクルーが叫び、窓の外に向くと……先程自分達を助けてくれた巨人達が、崩壊したISSを分解している様子を目撃する。しかし、よく見ると……

 

「なぁ……あれって……」

 

「あぁ………まさか……修理しているのか……ISSを……」

 

 エクリプスを中心に、M1アストレイやボール部隊がそれぞれ崩壊したISSのパーツを取り外し、加えて新しいパーツなどを付け替えながら修理する様子が彼らの目に入る。そんな時、一人のクルーが持ってきた二つのビデオカメラの内の一つを起動し、目の前の光景を撮影し始める。

 

「お、おい何やってんd「このカメラを使って撮影するんだ!」…はぁ!?」

 

「何でもいい!写真でもビデオでもいいから彼らの様子を撮るんだ!………この現実(事実)を……世界中に見せなければ……っ!」

 

 録画ボタンを押してから……彼は……ISSの修復が終わるまで、撮影をし続けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜ISSの修復作戦を始めてから約3時間半くらい〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「な………何ということだ……」

 

 クサナギの艦内の休憩所にいたはずのクルー達は現在、修復されたISSの中にいており、呆然とする。

 

 ISSの修復は無事完了したと、アナウンスから聞かされたクルー達は、修復したと思われるISSとクサナギがドッキングした通路を通り、ISSの中に入る。そして、恐る恐る状態を確認すると…

 

「これは………一体どうやって……」

 

「……というか全て………元通りになってるぞ!」

 

「おい見ろこれ!俺達のスマホもあったぞ!無くなったかと思ったぜ〜!」

 

 必要な素材や食料だけでなく、それ以外の多く必要な物や施設の形状までも…まるで時間を巻き戻したかのように全て元通りになっていた。

 

「こんな事ができるなんて……彼らは一体……」

 

「おい!ハッチが勝手に閉まったぞ!?」

 

「何!?」

 

 そう聞こえ振り返ると、いつの間にかハッチが締められ、徐々にISSから離れてゆくクサナギ。クルー達は慌てて窓の外を覗く。そこには、エクリプスガンダムが再び“MA“形態へと変形し、全MS&ボール部隊を回収したはクサナギは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙の遠くへ飛び去っていった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、行ってしまった……」

 

「リーダー……今すぐこの事を報告しなければ…」

 

「あぁ……まだやる事があるな……」

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 あの出来事の後、クルー達は早速通信機能を使い、宇宙局に連絡する事ができた。また、NASAやJAXAでのメインモニターに彼らの姿が映り、管制官達は職員たちから歓声が湧き上がった。

 

 

 そしてすぐに彼らの姿を見せようと、テレビやネットなどにも上げる。もちろん、生中継として。そして彼らが無事である事を伝え、視聴者も歓声も湧き上がっていた。

 

 

 

 

《心配をしてくれた皆様に感謝します……ですがその前に……どうしても皆さんに、この映像を観て欲しい………》

 

 

 

 

 そう言って、一人のクルーが画面を切り替える。“これは、宇宙で…私達の目で見た出来事であります…“と、伝え、そこには、クルー達が記録した映像が映し出された。

 

 

 

 

 そしてその映像を再生した瞬間、全世界の人々は言葉を失っていた……

 

 

 

 送られた映像には、自分達の予想を超えるモノが映っていた……

 

 

 

 突如やってきた巨大人型兵器……エクリプスガンダムとM1アストレイ部隊とボール部隊。そして映像を変えると、今度は巨大な船…クサナギが映っていた。

 

 

 

 

 

 その光景を人々はどう思うのだろうか…

 

 

 

 

ーーあの巨大ロボは、宇宙までも行けるのか!?

 

ーーあの巨大な物体……宇宙船!?

 

ーーやっぱりあの巨大ロボの正体は、宇宙人だったのか!?

 

 

 

 

 

《ーーー嘘だと思うかもしれませんが……私達は確かにこの目で見ました!これは、紛れもなく事実です!それに……彼らは何の理由も無く、私達を助けてくれました。本当に……本当に感謝しておりますーーー》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、リコリコでもメンバー全員は、同じくテレビの画面に釘付けとなっていた。

 

 

 

「うぁ〜〜何なんだあのロボット……宇宙まで行けるの……ってか!規模デカすぎんだろ!つーか、マジでどうやって造ったんだよあの宇宙船!?大体アンタは何にも言わんのかクルミ!?」

 

「………なんなんだ……」

 

「………あん?どうしたん?」

 

「ーーーー何なんだアイツら……地上、空、海だけでなく、宇宙だと!?しかもあの宇宙船みたいな船は一体なんだ!?恐らく全長200m以上……しかも、あのISSをたったの3時間半くらいで修復しただと……いくら何でも早すぎるじゃないか!?だけど問題なのは、いつ、どこで、どうやって宇宙に上がれたんだ!?クソ!情報が少な過ぎる!もっと……もっと何か情報が欲しい…!!」ブツブツ

 

「………ちょ、ちょっと、どうしちゃったのあれ?」

 

「………完全に壊れちゃいましたね。」

 

「もうこの話題が広まってから、クルミがおかしくなちゃったよ〜」

 

「むぅ……これはしばらくあの状態続くだろうな……」

 

 

 興奮状態になったクルミの姿を見た四人は、思わず引いてしまう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、DA本部でも………

 

 

 

「……」

 

「あの……司令…」

 

「……今は何も言わないでくれ……」

 

「ですが、上層部から…」

 

「頼む。今は……」

 

「………はい…」

 

 

 いつも以上、深く頭を抱える楠木がそう言う。秘書も何となく察し、彼女は楠木に対してこれ以上何も言わないようそっとしておいた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、別の場所でも……

 

 

 

 

「ははは!!マジかよコイツら!とうとう宇宙にまで行けんのかよ!!つーか何なんだよあの戦艦!完全に宇宙戦艦ヤ◯トじゃねーかよ!いいぜ……最高にめちゃくちゃ欲しくなったじゃねーか!!!」

 

 とあるアジトで緑髪のアフロ男……真島は興奮状態で笑い出し始めた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜(語彙崩壊)!!!!

 

 画面越しではあるが、同じく興奮状態となったロボ太は、言葉にならないほど語彙を崩壊する。そんな時、真島は自身の愛銃を画面に映っているエクリプスガンダムに当てる…

 

 

 

 

 

「お前が現れてから………興味持っちまったぜぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘックシュン!!!!(な、なんだ!?急に寒気が!?)」ガタガタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜DA報告書〜

 

 

 

 

報告書: 巨大人型について……

 

記録:2022年●月●3日

 

コードネーム: 今の所、正確に決まっておらず…

 

解説:陸、空、海、そして更に宇宙空間まで活動できるとの事。現在、調査中…

 

 

 『また、ラジアータの解析により、脅威になる確率は90%』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜本編登場、基地&システム〜

 

 

 

 アナハイム・ムーン

 

 

 月の裏側にある月面都市&施設であり、蒼夜にとってもう一つの秘密基地でもある。月でしか開発できないシステムを設計したり、開発などを行っていた。太陽炉やサイコフレームなどの開発も月で行なっていた。また、蒼夜が月で地球を眺めているシーンについてだが、裏側ではなく“月の中“から眺めている。つまり、月の中でも都市や施設を建設しているので、正確には月全体を基地として建設している。

 

 また、月にも光学迷彩機能も付けており、衛星から見る月の姿はただの月にしか見えていない。ちなみに、基地のロゴマークは原作でお馴染みの『AE』と表している。

 

 

 

 

 

 ヴェーダ

 

 建造された量子型演算処理システムであり、世界最高の性能を有している量子コンピューターでもある。蒼夜が太陽炉MSを開発する前に完成した機能であり、そのおかげでエクシアやデュナメスなどの多くの太陽炉MSを開発する事に成功する。

 

 蒼夜が管理権限を持っている為、ヴェーダは蒼夜にしか従わない。最近は、ハロ達と友情関係を結びついてきている様子もあり、時にはハロ達にもデータを共有している。もちろん蒼夜にとっても喜ばしい事である。

 

 

 

 ※もしもクルミかロボ太がハッキングしようと仕掛けてきたら、“なんなんだぁ今のはぁ・・・?“と、僅か数秒で対処できる。DAのラジアータに関しては、()()()()()()()()にしか見えていない。

 

 

 

 

 

 

 






 む、難しかった………宇宙シーンはマジでむずかったぞ……




 感想欄の中には、“御禿様が手掛けた作品全部ない“、と勘違いされている方もいますが、重戦機エルガ◯ムや伝説巨神イデ◯ン、その他の作品は本編に存在します。あくまでも“ガンダム“という全シリーズだけが本編の世界に存在しないだけです。



 結構バカ長くなったのですが、ここまで読んでくださって本当に感謝します。

 それでは皆さん、次回もお楽しみに…

 感想・評価、いただけたら幸いです。



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Episode 15 部屋に入る時は、必ずノックしよう






「これが若さか…」



クワトロ・バジーナ (機動戦士Zガンダム)


 

 

 

 

 

 

 

 宇宙での出来事から翌日……

 

 

 

 

《昨日の12時過ぎに突如宇宙に現れた新たな巨大人型ロボットについてですが、滞在クルー達が撮れた映像を確認した専門家によりますと、“これは間違いなく本物だ“と、正式に発表されました。また、アメリカでも────》

 

《この映像が本物であることから、政府は謎の巨大人型ロボットについて早急に緊急会議を行なっています。現時点では全く何も分かっていないことから、総理はこの事について────》

 

《全く信じられません!これは…本当に現実なのでしょうか!?また、公開された映像はネット上でも大きく話題となっています。なお────》

 

 

 現在、どのテレビのニュース番組でも昨日の昼に起きた事故……【ISS衝突事故】について、大きく報道されていた。その話題は、日本だけでなく、全世界でも持ち切りだった。

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは、新型宇宙ステーション補給機(略称: HTV-X)である。日本の新たな進歩の為、いくつか計画を積み重ねながら、ようやく完成する事に成功した宇宙開発局。そして昨日、新型補給機をようやくISSへ送る事にも成功。しかしその直後………計算ミスが原因なのか、向かって行く速度が止まらず、ISSに衝突してしまった。

 

 それどころか、衝突したせいでISSが崩壊してしまったという大惨事を起こしてしまった。また、昨日の事故で無事だった彼ら、滞在クルー達から当時の出来事について聞くと、“私達も危うく死んでしまう所でした…“と、答えていた。

 

 これを観た人々は、新型補給機の開発を行なったJAXAやNASAなどの各国の宇宙航空局研究科の開発チームに対し、強く批判の声を浴びせる。しかも驚くことに、開発チームの中には、自衛隊の新型戦車の実用化計画、10式戦車改の()開発者もいたのであった。

 

 当然、それを知った世間は……

 

『また同じ過ちを犯したのか!』

 

『アラン機関に支援されたのに失敗しやがって!』

 

『責任とれ責任!』

 

 ーーなどなど、更に批判の声が多く上がっていた。

 

 この事により、今回の事で責任を取って辞任する研究員も増え、新型補給機計画も当然破棄されてしまった。実用化が完全に失敗してしまったという残念な結果となり、開発費や計画も全て“無“へ帰ってしまった。当然ながら、計画を提案した日本政府にとっても大きな損害でもあった。

 

 

 

 

 しかし、それよりも世間の目が注目を向けているのは、別である。

 

 

 

 

 

 それは、宇宙に突如現れた新たな巨大人型兵器と謎の宇宙船……

 

 

 

 

 ISS滞在クルー達が、その映像を全世界に見せると、それを観た人々は驚きと興奮を隠せなかった。最初は信じられない者もいたが、徐々に話題が広まり、ついにはその映像が本物であると判明すると同時に人々は大きく驚愕した。

 

 当然、その映像を観た多くの学者や専門家など、彼らは揃って言葉を失う事となった。

 

「信じられない………これは本当に現実か……」

 

「一体どんな技術で造ったんだ……この船は!?」

 

「全長は200m以上……クルー達から聞けば、船の中では無重力では無かったと……ええい、この映像だけでは分からん!」

 

「たったの3時間でISSを修復しただと……お、おい!さっきの映像に戻せ!」

 

 彼らの驚愕と悲鳴は、この映像に映っている巨大人型ロボットによって引き出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃……アメリカ合衆国・ニューヨーク州、NY市マンハッタンでは…

 

 

 

 

国際連合 (略称:国連)

 

 

 

 国際連合憲章の下で1945年10月に設立された国際機関であり、現在国際社会に存在する国際組織の中では最も広範・一般的な権限と、普遍性を有する組織でもある。現在の加盟国は役196ヵ国であり、彼らの主たる活動目的は、国際平和と安全の維持、経済・社会・文化などに関する国際協力の実現である。

 

 そんな国連本部の中、国際連合総会会議場では、緊急特別会議が行われていた。会議中の中、各国の代表達は日本代表に目を向けていた。

 

『日本代表に質問します!東京でも暴走事件、並びに羽田空港、更に今回、ISS滞在クルー達を救助とISSの修復を行なっていた謎の巨大人型兵器に本当に心当たりないのですか!?』

 

『これで三度だ!しかも今度は宇宙!ただ、その内の二つは、日本に現れています!本当にご存知ないのですか!?』

 

『アメリカの研究員達が映像解析した所、“この技術は今の我々の時代では造れない“と答えられました!日本代表は何かご存じなのか!?』

 

 ーーと多くの質問をする各国代表。その彼らの前に立つ、日本代表は…

 

 

「そ……それは……(一体何回答えればいいんだ!?あの巨人について我々は本当に何にも知らないんだぞ!むしろ、こっちが知りたいわ!!)」

 

 

 一体何を話せばいいのか全く分からなくなってしまい、戸惑いを隠せない日本代表は酷く汗をかいていた。“何も知らないんだ“と、いくら答えを返しても全く信じてもらえず、同じ質問を答えたり否定したりの繰り返しである。また、日本政府代表部の人々も代表と同じくらい焦っている。

 

 しかし、そんな彼らの様子を気にする事なく、各国代表は次々と日本代表に追い討ちをかけ続けている。

 

 

 

「(あぁ……もう……代表の仕事…辞めたい……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、とあるテレビのバラエティ番組でも大きく取り上げられていた。

 

 

《だから宇宙人ですって!これは間違いなく宇宙人の仕業ですって!》

 

《あのね〜将司さん……宇宙人好きなのはわかりますけど、これは流石にどこかの国の秘密兵器なのでは?例えば、アメリカとか…》

 

《いいえ!これは間違いなく本物の宇宙人です!それに映像で見た巨大な船、あれは完全に宇宙船です!》

 

《地球に……しかも日本に現れたのは、私達人類の調査をしていた可能性が高い!更にこれも見てください!彼らの行動はすべて、人助けですよ!もしかしたら、私達人類と友好関係を結ぶ為なのかも知れません!》

 

《ちょ、ちょっと待ってください!一旦冷静に考えましょう!そもそもどうしてーーー》

 

 更にテレビだけでなく、YouT◯beで投稿された動画でも……

 

《あのフリーメイソンと繋がっている可能性が高いーー》

 

《アトランティスやムー大陸などの古代文明は、本当に存在していたーーー》

 

《ピラミッドやモアイ像、更にあの有名なストーン・ヘンジを造ったのは、実はあの巨大ロボット達ではないかとーー》

 

 ーーなどなど、宇宙人説や都市伝説などのオカルト話が大きく盛り上がっている。当然ながら、SNSでも大きく話題となり、あらゆる方面で出す議論が多く広められていた。

 

 

《ついに宇宙人と会える時代がキタァァ!!》

 

《地球に降りたのは、やっぱり友好関係?それとも地球侵略?》

 

《そもそも、一体どこから来たの?》

 

《やっぱり古代文明じゃないのか…》

 

《この宇宙船、もう完全に宇宙戦艦ヤ◯トだろ?》

 

 

 

 

 たったの一日……その話題と真実が、全世界を急き立てた。この騒動が収まるのは、まだ少し時間がかかりそうである……

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

「クソ〜〜〜……なんで見つからないんだ〜〜〜」

 

 一方その頃、PCモニター以外の光源が一切皆無の部屋でロボ太が呟く。あのISS衝突事故から翌日、ロボ太は猛烈に何かを探していた。もちろん探しているのは、謎の巨大人型兵器集団である。そして真島からも…

 

『いいかハッカー、何がなんでもこのロボット共の居場所を探せ。ついでに言っておくが、リコリスの居場所も探すの忘れるんじゃねーぞ。バランスを取らなきゃな〜』

 

 と言われ、大半無茶な仕事を任された(押し付けられた)ロボ太。

 

「探せ探せって………もうあれから丸一日経ったんだぞ〜!!」

 

 そう叫びながら、飲み干したエナジードリンクを適当に放り捨てる。“カンッ! “と音が鳴り、部屋の床には大量の空き缶が落ちていた。しかもこれらはすべて、ロボ太が飲んでいたエナジードリンクである。

 

 

 ※ エナジードリンクを大量に飲みすぎると、カフェインや糖質の摂りすぎにより体に悪影響を及ぼす事もあります。1日に2本以上も飲んでしまうと、カフェインの過剰摂取の恐れがありますので、注意しましょう。: by作者

 

 

「1日…24時間!あれこれセキュリティ内部に侵入したけど……こんだけ探しても何にも見つからないなんておかしいだろ!どうなってんだ!?おまけにこっちは一睡もしてないんだぞ!!」

 

 探し始めてからロボ太は、コンピューターネットワーク内で世界中のあらゆるセキュリティに侵入し、謎の巨大人型兵器について探し続けている。しかし、あれこれ探し続けても、巨大ロボットに関しての情報が、何一つ見つからなかった。

 

 流石に一人では探しきれないと分かったロボ太は、ネット上で知り合った他のハッカー達にも協力して貰っているが、残念ながら結果は同じく、何にも出てこなかった。協力してもらっている者達の中には、“ウォールナットなら可能では?“…と言われ、これまで発したことのない怒声をあげならブチギレるロボ太。

 

 何故、これだけ探しても見つからないのか。その原因は、量子コンピュータ“ヴェーダ“がシステム内に侵入させまいと、セキュリテイを守っているからである。DA本部に設置してあるAI「ラジアータ」と比べられば、ヴェーダの方が万能である。しかし、そんな事を知らず、ロボ太は苦戦し続ける。

 

「あ〜〜なんでないんだ〜〜リコリスよりもムズイ!!……ってかコイツも!ウォールナット、ウォールナットって……もうウォールナットは死んだんだよ!!!………ハッ!そうだ!」

 

 ーーと、何か閃いたロボ太は自身のスマホを取り、相手の連絡先を決めてから鳴らし始め、スマホを耳に当てる。

 

 

《〜♪〜♩〜》

 

 

「頼む……早く電話に出てくれ〜」

 

『ーーーーはい、もしもし?』

 

「おぉ!電話に出れたぁ!」

 

『おや?その声はロボ太ですか?あれからどうですか、真島との関係は?』

 

 ロボ太の電話相手は、以前彼が受けた依頼……“ウォールナットの暗殺“を依頼された()()()()()()である。また、その依頼主から“テロリストである真島の依頼を受けろ“と言われ、追加依頼を受ける事になった。

 

「あ〜もう最悪だよ!おたくらの依頼主であるボスにさ……って、今はそんな事を言っている場合じゃない!アンタらのボスに聞きたい事があるんだ!」

 

『聞きたい事?』

 

「今話題になっているあの巨大ロボットだ!ほら、今もニュースで話題になっているあの謎の巨大人型ロボット!」

 

『巨大人型ロボット……なるほど。それはつまり、私達が知っていると?』

 

「おぉ、そうだ、その通りだ!話が早くて助かる!アンタらのボスは何か知っているんじゃーーーー」

 

『“知らない“』

 

「ーーーーーーーへぇ?」

 

『“知らない“と仰っています。ちなみになんですけど、私も何一つ知りません。』 

 

「………う、嘘だぁ!あんな宇宙まで行ける巨大ロボットをアンタらが知らないわけないだろ!?」

 

『知っていれば教えています。それに貴方は日本最高のハッカーですから、調べる事ができるのでは?』

 

「うぐっ!そ……それは……『それと、忘れてはいないと思いますが、うまく真島とバランスを取ってください。それではこれで…』…え?ちょ、ちょっとまーー」

 

 

《ツー、ツー、ツー》

 

 

「ーーー」

 

 

 唯一の希望が崩れ落ち、向こうからの通話が切れてしまい、一人となったロボ太は、全身を猛烈に震わせる。

 

 

「ーーーバランスを取れって………コイツマジでーーー!!!」

 

 

 

 

 ズリッ

 

 

 

「ーーーーーあ」

 

 

 ドゴォン!!!

 

 

 その時、床に捨てたエナジードリンクの空き缶を軽く踏んでしまい、バランスを崩し、その場で転んでしまったロボ太。

 

 

 

「ーーーーチク……ショウ………」チーン

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 〜同時刻〜

 

 

 一方別の場所で、ロボ太からの通話を切った一人の女性……姫蒲(ひめがま)は、自身の前に座っている()()()()に目線を向ける。

 

「どうやら、ロボ太は相当苦労しているようですね。」

 

「だろうな……」

 

 輪郭線の薄い背広姿の長身で、黄土色の髪を七三に分けている男は、姫蒲に対し無感動に返す。また、男の紺色のスーツの左襟には()()()()()()()()()()()が付いていた。

 

 夕日の差し込んだシックな調度品が置かれたオフィス。パソコンには流れるニュースやその他の映像や画像などが、パソコンの画面をでかでかと占領している。

 

「確かに……ロボ太君が苦戦する訳だ……」

 

 男は優しく、それでいて冷酷な微笑みを浮かべて画面に映っている映像を観る。

 

「まさか……宇宙にまで現れるとは……想定外だね……」

 

 そこには、複数の謎の巨大人型兵器の姿が映り込んでいた。

 

「東京の街に現れた時………正直、私も驚いたよ……」

 

 

 

 

 

 

〜アラン機関〜

 

 

 スポーツ、科学、文学、芸能など、あらゆる分野の天才を世界中探し出し、無償の支援を行なっているが、その中には“殺し“の才能までも含まれている。例えそれが、後に凶悪な殺人鬼になってしまう才能だろうが、戦争を起こしてしまう程の才能であろうが……アラン機関にとっては“神からのギフト“であり、手段を選ばずその者に支援を送り続けている。 才能を開花させるためであればチルドレン同士に殺し合いをさせる事も厭わないし、逆にチルドレン同士が何らかの形で手を組む事になっても、咎めるような規則はない。

 

 しかし、東京の街に現れた謎の巨大人型兵器は、アラン機関からしてもかなりイレギュラーな存在である。なぜなら、その巨人の存在は支援したのでもなく、初めて見るどころか、最初から存在すら知らなかったからである。

 

 さらに驚く事に、機関が支援した10式改を無傷のまま、圧倒的な戦力で撃破してしまった。しかもそれだけでなく、航空機を救った変形機や宇宙に現れた新たな巨人や母船についても、大きく驚かされていた。この事について、組織内部であらゆる情報を調べたが、“アランチルドレン“である記録は一切載ってなく、結局どこの国がどうやって造ったかも不明である。

 

 本来アラン機関の役割は、世界中にいる天才を探し出して無償の支援を行う事。その支援する者の『才能』には見境する必要もなく、正か邪かの区別もしない。だが、謎の巨大人型ロボットに関しては、アラン機関内部では賛否用論であった。

 

 賛成派は、この巨人(MS)達が現れてから新たな才能を持つ者が生まれる可能性があり、今まで通りに黙認する。

 

 反対派は、才能を持つ者を邪魔してしまう可能性も考え、この世界から排除しようと試みる者もいた。

 

 未だに組織内での結論は、まだ出ていない。

 

 

 しかし、そんな組織のエージェントの一人でもある男は、そんな事をどうでもいいと思ったのか、特に気にしていなかった。

 

 今男は、画面に映っている巨人達……MS達の活動をまるでSF映画を観ているかのように楽しんでいる。特に彼は…この映像中で陸上や水中での戦闘をとても気に入ったようだ。ちなみに水中の出来事に関しては、テレビやネット上には公開されていないが、ロボ太から送られた映像を男が観ている。

 

「素晴らしい……もしもこれが、“才能“であるならば、我々はその者に援助を惜しみなく与えなければならない。神からの才能をこの世界で輝かせる可能性があるからこそ、私達“アラン機関“の使命なのだ。例えそれが、国の一つや二つをひっくり返す事だとしても……」

 

 と、楽しそうに語りながらも、男は姫蒲に問い掛ける。

 

「そういえば、新型補給機を開発した彼らは今どうしているんだい?」

 

「先日の自衛隊新型戦車の失敗に続き、今回の新型補給機にも失敗してしまい、もはや次の計画を進む自信が無いかと。しかも、世間からの批判の声が多く……もはや()()()()()かと思いますが……」

 

「うむ……彼らには確かに『開発』の才能があった。アラン機関は彼らの支援をしていてね。もしも成功していれば、我々も支援し続けようと思っていたのだが、まさかこんな事になっているとは残念だよ。恐らく、アラン機関は彼らを()()するだろうな……」

 

「そうですか……それは残念ですね。」

 

 処分……それを聞いた姫蒲はどうでも良さそうに返すが、男も特に気にする様子もなく、会話を続ける。

 

「しかし、今私はこの巨人達に非常に興味を持っているよ。地上、空、海、更に宇宙まで行けるとは……一体どこの誰が造ったのだろうか。ぜひ一度だけ、その開発者に会ってみたいものだ……いや。もしかしたら、()()となら……」

  

 男は、赤い制服の少女を脳内に浮かび、面白そうに呟くと、姫蒲がつられるように無機質な声で男に話しかける。

 

「何やら……楽しそうですね……」

 

「あぁ……いろんな意味でね……」

 

 

 画面に映っている映像を再び目を向ける男……吉松(よしまつ)シンジ

 

 

 特に、地上、空中、水中、さらに宇宙での活動をしているMS達の姿を眺めている吉松の様子は、まるで“新しいオモチャを見つけた“かのように、ニヤリと笑う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

へ、ヘックシュン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「うぉい!?大丈夫蒼夜君?」

 

「もしかして、風邪ですか蒼夜さん?」

 

「だ……大丈……夫です……(なんか最近、誰かに見られているような視線が…)」ブルブル

 

 その頃、喫茶店『リコリコ』では、メンバー達の昼休憩が行われていた。そんな中、流しっぱなしにされているテレビからは、昨日の衝突事故についてのことが流されている。

 

《この事件により、人々は……》

 

《アメリカでは昨日、◯◯大統領はこの事について……》

 

《謎の巨大人型ロボットについて政府は、捕獲する事に…》

 

 テレビの番組を切り替えるミズキ。しかし、全ての番組はニュース報道しか流れており、ほとんどの内容は謎の巨大人型ロボットである。それを眺めながら、ミズキもやれやれと息をつく。

 

「はぁ〜〜、昨日からもうず〜っとこの話題ばっかりだわ〜」

 

「そうですね。SNSでも、結構話題になりましたし……」

 

 たきなはスマホの画面を見ながら語る。SNSでは、“宇宙人説“や“◯◯の都市伝説“など、多く投稿されていた。

 

 同じく千束も自分のスマホでたきなとSNSの反応やネットニュースを見ており、彼女も難しい表情をする。

 

「う〜〜〜ん……でも宇宙飛行士さん達を助けたんだよ。しかも、アイ……なんちゃらを直してくれたんだよ〜」

 

「ISSです。確かにそうかもしれませんが……未だに彼らの目的は分かりませんよ。」

 

「そうだよね…………それはそうとさ、蒼夜君はどう思うの?」

 

「(ギック!?)……い……いい……ロボット……達だと……思いま…す…」

 

「だよね〜〜やっぱり男の子はそう思いたいよね〜!」

 

「いや、男子全員がそうとは思いませんが……千束。」

 

「(あっぶね〜〜〜〜、一瞬バレたかと思ったわ〜〜)」

 

 ーーと勘違いし、内心で焦る蒼夜。それもそのはず、宇宙に現れた新たな謎の巨大ロボット……エクリプスガンダムを操縦していたのは、蒼夜であり、宇宙での活動も行ったのも彼と彼の友達…ハロ達とヴェーダも同じく、宇宙での救出と修復活動を行なっていた。ちなみに蒼夜は昨夜、宇宙から地球に帰還したばかりである。

 

「まぁまぁ〜、それはそうとクルミは?」

 

「昨日からまた引きこもりよ。ど〜〜〜せ、このロボットについて調べているでしょうね、働きもせずにあのクソガキが!」

 

「でしょうね……ところで、店長は?」

 

「楠木と電話しているらしいわよ〜〜〜」

 

「え?司令とですか?」

 

「ん?……楠木……司令……?」

 

「たきな!ミズキ!」コソコソ

 

「ーーーーーあ、やっべ……」

 

「…っ!え、えっと…「あ〜〜ほ、ほら!く、楠木さんというのは、先生のお友達で、私達が勝手につけたニックネームだよねぇ〜たきな!」……そ、そうでした!ですよね、ミズキさん!」

 

「へぇ!?……あ、あ〜そうだったわね〜」

 

「(……今一瞬、誤魔化したよね……)」

 

 

 

 

★★★

 

 

 

「なるほど、つまりそっちは未だに進展なし……ということか。」

 

『えぇ、正直悔しいですが…今の所有力な情報は何一つ見つかりませんね。』

 

 一方、調理室の裏側でスマホの画面を見るミカは、ビデオ通話しながら、画面越しの映っている楠木と会話している。なお、二人が会話している内容は、謎の巨大人型ロボットの事である。

 

「それで、上層部の方はどうなんだ?」

 

『もちろん黙ってはいませんよ。特に多かったのは、あの巨大人型兵器をなんとしてでも捕獲、もしくは破壊しろと命令出されていましたからね。』

 

「捕獲はまだ分からないが……そもそもあれを破壊する事なんてできるのか?」

 

『さぁ、少なくとも私は不可能だと思いますよ。なぜなら向こうは、光線を放つ兵器どころか、宇宙まで行ける技術力を持っているので。』

 

「あの映像を見る限り、まだ見せていない他の兵器を持っていると考えてもいいだろうな。しかしどうするつもりだ?ただでさえラジアータでも、未だに正体どころか、居場所すら見つけられていないんだろ?」

 

『えぇ、それこそ本当に苦労しますよ。もちろん、()()()()の方も……』

 

虎杖(いたどり)……()()()()の方も動いているのか?」

 

 

 

 

 

 

〜リリベル〜

 

 

 

 簡単に答えれば、少年版リコリス。また、リリベルの指揮官は虎杖と言う名の男が司令であり、リコリスの司令でもある楠木と同程度の権限を持っている。ちなみに、旧電波塔事件に因縁があるのか、多くのリリベルは千束の事を()()()としてみられているらしい。

 

『当然、東京の街で起きた事件以来、上層部の命令で既に動き始めていますよ。まぁ、向こうもまだ何一つ情報を見つかっていないらしいですがね。』

 

「まぁ、そうだろうな…………それはそうと楠木。」

 

『…ん?』

 

「お前、()()()()()……大丈夫か?」

 

『……』

 

 ミカの問いかけを聞いた楠木は、謎の間を開ける。画面越しであり、ミカの視点から見れば、楠木の目には少しクマができているようにも見え、髪も少しボサボサになっている。

 

『ーーーその……上層部から追加の仕事を任されていまして……昨日から…』

 

「………そうか……」

 

『では、この後仕事が残っていますので、また連絡します。』

 

 そう言って、楠木からの通話が切れる。

 

「楠木……………お前も苦労しているな……」

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 そして時は、午後6時後半となり……

 

 

「(ふぅ、今日も仕事頑張ったわぁ〜〜)」

 

 

 営業終了時間となったリコリコで、調理室での掃除を終えた蒼夜は、私服に着替えようと、更衣室へ向かう。

 

「(楠木……司令……これもやっぱり、リコリスとなんか関係あるかな……)」

 

 ーーと、昼で彼女達から出た言葉を思い出しながら、蒼夜は更衣室のドアを開ける。

 

「(まぁ、とりあえず帰ってから考えrーーーー)」

 

 その時、途中で言葉を途切れた蒼夜。開けたドアのその先には…………

 

 

 

 

 

 

「………………え」

 

 

「ーーーーーー」

 

 

 

 

 

 店の制服を脱いだばかりであろう()()姿()()()()が、蒼夜の目に入ってしまった……

 

 

 

 

 

「え………え………」

 

「ーーーーーー」

 

 

 

 

 思わない展開で、彼らは固まってしまった………

 

 

 

 そして数秒が経ち、千束は火が出そうなくらいみるみる顔が真っ赤に染まる。

 

 一方、蒼夜は………

 

 

「(ーーーーえ………な……………へ……)」

 

 この状況に追い付いていないのか、内心では完全に困惑している……そして更に……

 

 

 

 

「千束!蒼夜さん!店長から買い出しを頼まれていますけど、何か…………え?」

  

 

 

 いろんな意味で最悪な状況となった更衣室に、たきながやってきた。しかし彼女がここへ来た途端、彼女の表情は、信じられない光景を見てしまったかのような表情を表している。

 

「え、え、えぇぇ………」

 

 たきなも同じく困惑し、徐々に顔を赤くする。

 

 

 だがその直後、ずっと下着状態である千束は、顔をさらに真っ赤にし、自身の右手を強く握り締めた。

 

 

 

 そして彼女は勢いよく、蒼夜の方に向かって飛び出す。

 

 

 

「(…………え………)」

 

 

 その場で未だにポツンと立っている蒼夜は、目の前に千束の右手がこっちに接近している事に気づく。

 

 

「(ーーーあ、これは………)」

 

 

 ヤバいやつだ……と危機を感じた蒼夜だが、既に遅かった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼夜君のエッチィィィイイイイイイイイ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 ボッコォ!!!!

 

 

 

 

 

「ーーぐへ!?」

 

 

 

 

 

 

 千束の口から出たその言葉ともに蒼夜は殴り飛ばされ、壁に背中をうちつけるのだった。何より、千束が蒼夜の顔面を殴った時の握力は、完全に仕事(リコリス)モードである。

 

 

 

 

 

 そしてこの時、蒼夜は内心で静かにこう語った………

 

 

 

 

 

 

 

 

「(これが、“の◯太さんのエッチ!“、と言うやつか…)……カハッ……」チーン

 

 

 

 

 

 

 

 意識が朦朧としている中、彼はそう思った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 

 ミカとの通話を終えた楠木。その時、ビニール袋を持ってきた秘書が現れた。

 

 

 

「司令、頭痛薬を買ってきました。どうぞ…」

 

「あぁ……助かる。」

 

「いいえ……それとこれも…」

 

「ん?………これは……」

 

()()()です。一応、念の為に……」

 

「…………すまん……」

 

 

 

 ※ どうやら、頭痛だけでなく、胃腸にもダメージを負ったらしい楠木司令。

 

 

 

 

 






 裏の組織…アラン機関、しかもあの“吉さん“に目をつけられている一般人君。さぁ、今後どうなりますかね〜(笑)


 次回からは、しばらく日常回であります。また、ようやくリコリコ原作シーンに突入です。


 それでは、次回もお楽しみに!


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Episode 16 分からない事があれば、調べる事!


 最近リアルが忙しすぎて、投稿するの日々が遅くなるかも知れません。お待ちいただいた方々には本当に大変、申し訳ありません。これからもどうか、よろしくお願いします。


 そして昨日、水星の魔女の第17話を観ました。ネタバレはしませんが、私としての感想は……






 二週間後には待てへんって〜〜〜(泣叫ぶ)




 

 

 

 

 

 時刻は、丁度太陽が沈んでいる頃……

 

 

 

「蒼夜さん……その、大丈夫ですか?」

 

「だ……だい……丈夫……です……」

 

 

 スーパーで買ってきた食材などが入っている袋を持ち歩きながら、蒼夜とたきなは、リコリコへ帰宅している途中であった。そんな中……

 

「……左頬……やっはりまだ痛みますか?」

 

 そう語ったたきなは、湿()()()()()()()()()()()()()を見ながら、心配する声で彼に尋ね。そんな、自分の事を心配してくれたたきなに蒼夜は……

 

「だ、大丈夫……です…(って言ってるけど、まだ全然イテェよ〜〜)」

 

 大丈夫であるとは言ったものの、内心では千束に殴られた左頬の痛みはまだ感じているようだ。

 

 

 

 そもそも何故蒼夜は、こうなってしまったのか説明しよう。

 

 時は買い出しへ向かう前、リコリコでとある事故(ハプニング)が起きてしまった。それは、蒼夜が着替えている途中だった千束の下着姿を見てしまい、それに激怒したのか、千束は思わず蒼夜の顔を殴ってしまった。

 

 しかも千束は、完全仕事(リコリコ)モードの握力で殴ってしまった為、蒼夜は意識を失ってしまった。やがて数分後……蒼夜が目覚めた時、左頬に湿布が貼られている事に気づき、貼ってくれたのは店長のミカである。

 

 また、今回の事故についてたきなから事情を聞いたミカは、“すまない暁月君、次からは立て札を付けるよ“と、更衣室での新たなルールを追加する事にした。

 

 

「(あ〜〜まだ痛え……ってか千束さん、“パー“じゃなくて、普通に“グー“で殴りかかって来たんだよなぁ……)」

 

「蒼夜さん……今更なのですが、わざわざ買い出しの手伝いまでしてくれなくても…しかももう就業時間は過ぎていますし……」

 

 本来なら、蒼夜の就業時間はとっくの1時間前くらいに終えたはず。しかしなぜか蒼夜はアパートへ帰らず、たきなの買い出しを手伝っているのだ。もちろん今回彼らが向かった買い出しは、ミカから頼まれていたのである。本来なら千束にも手伝ってもらうはずだったが……

 

『なんか気分悪いから行きたくない!!!』

 

 ——と、先程の事故のせいなのか、珍しく断る千束。

 

 流石に今回ばかりは自分のせいだなと、事故について責任を感じた蒼夜は、千束の代わりにたきなと買い出しへ向かう事になった。

 

「(蒼夜さん、大丈夫でしょうか?)」

 

 帰り道の中、たきなも内心で蒼夜の事を心配する。まだ彼女がDAにいた頃、先日の任務の出来事によって、千束と同じリコリスのファーストである少女、“春川フキ“に左頬を殴られた経験もあった。

 

「(それにしても千束、この前電話でフキさんに対して、“なあにも、殴ることないでしょ!?“、と言っていた記憶もありましたけど……たまに殴るんですね。)……はぁ」

 

「?……ど、どう……しま……した…?」

 

「あ!いえ……特に何も問題ありません。」

 

 ——と軽く誤魔化すたきな。そんな時、いつの間にかリコリコに到着したようだ。そして二人は、目的地であるリコリコを目の前にした所で………

 

 

 

 

 

 

 

んなぁぁぁぁあぁぁ!!!!!

 

 

 

 

 

 

「「……っ!?」」

 

 

 突如、リコリコから叫び声が聞こえてきた。“一体なにが起きたんだ!?“と思った二人は、恐る恐る中に入ると……

 

 

くやじぃいいいい!!!

 

 

 

「「———え?」」

 

 

 叫び声の正体でもある千束は、何やらゴーグルのようなものをつけており、おもちゃのように見える銃を持っているそして彼女の隣には、いつの間にかクルミが座っている。ゴーグルからは線が伸びており、その線はテレビへとつながっていた。また、テレビ画面には…

 

 

「“LOSE“……?」

 

 

 と、大きく表示されていた。どうやら千束はネットゲームをしていたようだ。

 

 

こいづぅうううう!!!

 

「ムキになりすぎだろ……」

 

「だってクルミぃ!この人の名前がムカつくんだも………あ」

 

 二人が帰ってきたことに気が付いた千束。しかし、蒼夜だけに対しての反応は少し違かった。

 

「………」

 

「あ………ち、千束…さん……」

 

「———ふんっ」プイッ

 

「………え?」

 

 蒼夜が錦木へと視線を向けると、逸らされてしまった。そして更に千束は、蒼夜に向けて追い打ちをかけるべく言葉を放つ。

 

 

 

 

「…………変態」ボソッ

 

 

 

 

 ────グサッ!

 

 

 

 

「(うぅ……め、めっちゃ怒ってるやん……)」

 

 千束から冷たい小さな声で言われ、精神的なダメージを負ってしまった蒼夜。確かにあの事故に関しては完全に自分のせいではあるが、“変態“と言う言葉を受けた彼は、流石に傷付いてしまった。

 

 そんな蒼夜を無視し、たきなの姿を見た千束はゴーグルを外し、彼女の手を掴んだ。

 

「たきな!たきな! いいとこに〜!」

 

「な、なんです?」

 

「これやって! これやって!」

 

「え?……「いいから、いいから!」…ちょ、千束!?」

 

 たきなを連れてきた千束は、彼女に緑色のおもちゃの銃を持たせ、更に彼女の顔にゴーグルを被せる。

 

「....これは……リアル……ですね……」

 

 たきなの目に映っていたのは、明らかに現実世界ではない場所。左上にはマップと時間が表示されており、右下には体力とアーマー、そして使っている銃と弾数も表示されている。

 

「さぁ、さぁ!その手に持ってる銃を構えて!」

 

「こ、これですか?」

 

 先ほど持たされたおもちゃの銃をゴーグル越しで見ると、そこには銃があり、手は完全にアニメキャラの手に変わっていたのであった。“一体何が始まるんだ“、とたきなが困惑していると、画面中央に突然『Ready』の表示が現れ……

 

「仇をとってよ~、それじゃぁ〜スタート!」

 

「………は?」

 

 千束から謎の合図とホイッスルが鳴るとほぼ同時に、目の前の角から謎の生物がたきなの方に撃ってきた。

 

「……ッ!!」

 

 その時たきなは、思わず仕事モードとなり、ほぼ反射的に体を倒し、続いて銃を構える。正確に当て続け、その場でリズムをとって撃っては避け撃っては避けを繰り返すたきな。

 

「うわぁああヤバイヤバイヤバイ!!ぶつかる〜〜」

 

 しかし、思ったよりもたきなの動きが激しくなり、千束とクルミは慌ててちゃぶ台だとかをよける。しゃがんだり、横にステップしたりするたきなは、ついにバク転をした。

 

 

 

 その時………

 

 

 

 

 

 千束は見てしまった、()()()()()()()()()()()……

 

 

 

「……ッ!!!?」

 

 

 

 声にならない叫び声をあげた千束は、“なん…だと!?“と言わんばかりな顔をクルミの方を見るが、そのクルミはちょうどこちらを見たらしく、すぐに反対方向に向き、テレビの画面を見て感嘆の声を上げたいた。

 

「お~!」

 

「え?」

 

 

 

『Winner Winner Chicken DInner!!』

 

 

 すると画面には、勝ち文句を表示された画面を見て、千束は喜びの声をあげた。

 

「勝った、勝ったよ! よっしゃ~〜〜!」

 

「……喜びすぎでしょう……」

 

「さすがだな、たきな!」

 

 そんな中、三人の様子を見て蒼夜は……

 

 

 

 

 

 

「(———見てない……僕は……なぁ〜んにも見てないぞ〜〜)」

 

 

 

 ——と、見てはいけない光景を()()()()()()蒼夜は、何も見なかった事にしようと自分自身を誤魔化しながら、スーパーで買ってきた物を頼まれたミカに確認して貰おうと、調理室の奥へと歩いて行った。

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 ゲームでの盛り上がりが終えた後、蒼夜はカウンター席で水を飲んだり、クルミが箱に中に片づけている中、千束は椅子に座り、腕を組んで考え込んでいた。

 

「……………クルミ……蒼夜君……」

 

「…っ!は、はい……(やっと名前を呼んでくれた!?)」

 

「ん~?」

 

「……………たきなのパンツって、見たことある?」

 

「…………ブフッ!?」

 

 ここで千束は突然、意味不明なことを尋ね始めた。それを聞いた蒼夜は、思わず口から水を吹き出しそうになっていた。また、クルミは千束の質問に対して……

 

 

「あるわけないだろ」

 

 

 ——と即答で答えるクルミは、先程遊んでいたテレビゲームを押し入れに仕舞いながら、彼女からの意味不明な質問をバッサリと切り捨てた。そんな千束は、面白くなさそうに口を窄める。

 

「ちぇ~。なんでも知りたいんじゃないのかよ〜」

 

「なんだぁ、ノーパン派か?」

 

「いやいやいや〜〜〜」

 

「なら何履いていようが、たきなの自由だろう?なぁ、蒼夜?」

 

「……へぇ!?」

 

「そうじゃなくて〜〜〜ってか蒼夜君はどうなのよ?」

 

「ケッホ!ケッホ!……な……なん…で……僕?」

 

「だって蒼夜君…………見たんでしょ、たきなのパンツを?」

 

「———(ギック!?)」

 

 再び千束から冷たい声で質問され、一瞬口を閉じてしまった蒼夜。確かにあの時、たきながゲームをしていた時にバク転をした最中、千束と同様その場にいた蒼夜もたきなの……下着を見てしまたようだ。

 

「私〜見ちゃいましたからね〜……蒼夜君が、たきなのパンツを見たのを〜」

 

「(………やばい……めちゃ睨まれてる………てかめっちゃ近い……)」

 

「——と言うかさ………私の下着姿を見て、次はたきなのパンツを見たってどう言うつもりなんですか〜」

 

「え………え…っと…(た、確かに見ちゃったけど……で、でも……見たのはほ、ほんの一瞬だから!……というかそもそもあれは……どっかで見たことがあるようなぁ……)」

 

「おいおい千束、それくらいにしておけよ。コイツ、困っているぞ。」

 

「………」

 

 蒼夜の助け舟となったクルミにそう言われた千束は、何か決意をしたように椅子から立ち上がり、更衣室の方へと向かった。

 

「……おい蒼夜、アイツどうしたんだ?」

 

「さ………さぁ……(あれ?なんかすごく嫌な予感が……)」

 

 “バンッ!“と、ノックもせず、更衣室の扉を無理やり開けた時の音が聞こえ、その瞬間、時が止まった。一体向こうで何をしてるのかは見てないので分からないのだが……

 

「……なんですか」

 

「———なに……これ……」

 

「………下着です」

 

「そうじゃなくって………男物じゃん!」

 

「(…………あ〜やっぱりか……)」

 

 ──と、盗み聞きをしてしまった蒼夜は納得していた。たきなが履いていた下着……それは、紛れもなく男物のトランクスだった。しかし何故たきなが、トランクスを履いているのかは理解できなかった。だがその直後、たきなから衝撃的な理由を聞いてしまう……

 

「……これが()()なのでは?」

 

「し、指定ぃ!?」

 

「(なるほど指定か……ってちょっと待てぃ!指定だと!?……はっ!ま、まさか……たきなだけじゃなく…リコリスにいる女の子全員は……揃いも揃って男物の下着を履いてるって事!?)」

 

 ——と、衝撃的な事実(?)を聞いてしまった蒼夜は、この時内心で……“リコリスって、結構いろんな意味でヤベー所だな…“と語った。

 

 

 

 

 

 

 

 バンッ!

 

 

 

 

 

「聞かせて貰いましょうか?」

 

 

 その後、帰る身支度を早々に済またたきなと共に店の表へ向かい、カウンターの机を勢い良く叩く千束は、カウンター向こうで腕を組むミカを睨むような表情で問い詰めていた。その光景をクルミも眺めており、先程彼女達の会話を盗み聞きしてしまった蒼夜も眺めていた。

 

 そして驚くことに、たきなの下着を用意した正体は……

 

「(まさかのミカさんだったとは……流石に僕も驚いたわ……)」

 

「……“店の服は支給するから下着だけ持参してくれ“……と…」

 

「どんな下着が良いか、分からなかったので……」

 

 ミカは特に悪びれずに答え、それに続くようポツリと説明するたきな。二人の会話を聞いた千束は溜め息混じりで問い質す。

 

「だからって何でトランクスなのぉ〜〜」

 

「いえ、店長が……」

 

「………好みを聞かれたからな……」

 

「あ〜なるほどなるほど……ってアホかぁ〜!」

 

「(………マジか……とんでもない事を聞いてしまったな……)」

 

「でも……履いてみると結構開放的で……」

 

「そうじゃなぁい!……あぁ〜もうたきな、明日十二時駅に集合ね……」

 

 そう言って、千束はたきなの隣りを通り過ぎ、そのまま店の扉に向かう。

 

「仕事ですか?」

 

「ちゃうわ!パ・ン・ツー!買いに行くの!」

 

 千束はそれだけ言うと、リコリコを出ていく.……直前、顔を出し……

 

「あ、制服は着てくんなよ。私服ね、私服〜〜」

 

 

 〜カラン♪

 

 

 ——と言い、大きく鈴の音が鳴ると共に、今度こそ出て行った……

 

 そんな時、たきなはミカの方を向いて尋ねる。

 

「……指定の私服……ありますか?」

 

「ん~〜〜」

 

 たきなから語られた質問に、ミカは天井を見上げて押し黙った。そして蒼夜も、自身のアパートへ帰ろうと、リュックを背負い立ち上がった。

 

「ミ……ミカ……さん……お先に……失礼……します…」

 

「あぁ、お疲れ様。」

 

「おぉ、じゃーな〜」

 

「……」

 

「(……あれ?……もしかしてたきなさんも無視?)」

 

 ——と、今度はたきなまでも自分の事を無視したのかと感じた蒼夜だが……

 

「………蒼夜さんは行かないんですか?」

 

「…………え?」

 

「ですから明日、()()()()()()()()()()()()()()()()?その……下着買いに行くの……」

 

「………………ほぇ?」

 

 たきなの口から出た言葉に、蒼夜は茫然とした。そしてその隙、彼の口から思わず変な声を出してしまった。

 

「(え……待って……もしかして今………さ、誘われてるの!?たきなさんの下着買いに行くのを………しかも、たきなさん本人に!?)」

 

 当然だが、たきなから……しかも女子からの誘いは、彼にとって初めてである為、動揺を隠せない蒼夜。

 

「?……どうかしましたか?」

 

「はっ!い、いえ!……そ……その………明日……し、シフト……が……あり……ます……」

 

「あぁ、別に明日、シフト休んでてもいいんだぞ暁月君。」

 

「(ほらねたきなさん……店長だって…………はぁ?)」

 

「それに明日、客が来るのが少ないし……常連客達しか来ないだろうけどな。」

 

「お〜〜てことはあれか!明日もボドゲーやるのか!」

 

「フッ、まぁ〜な。」

 

「(………いや……いやいやいやちょっと待て!……ボドゲーを楽しんでいるクルミさんは置いといて……店長であるミカさんがそんな事を言っていいのか!?と言うか、そもそもリコリコって、そんな軽々とシフトをお休みしてていいの!?めっちゃめちゃホワイト企業すぎんここ!?)」」

 

「と店長はそう言いましたけど……つまりこれで蒼夜さんは、明日シフトは無いと言う事になったので……明日の用事は特にないですよね?」

 

「……わ…わか……らない……です……(いや決めつけるのはや〜………まぁ確かにそうなったかも知れないけど………ってかちょっと待て。それってつまり、明日僕と千束さんとたきなさんの3人で下着買いに行くって事でしょ……なんで僕まで………一応言っておくけど……僕こう見えて男だよ?)」

 

「なら、一応千束にもお伝えしますね。それに、蒼夜さんの意見も聞きたいと思いまして……」

 

「(い、意見?)」

 

 たきなから意味不明な言葉を聞かされた蒼夜は、嫌な予感をしながらも、理解できなかった。だがその直後……

 

「蒼夜さん」

 

「は、はい………」

 

 

 

 

 

 

 

「……蒼夜さんの好みな下着………ありますか?」

 

 

 

 

 

 

ヒューーーーー

 

 

 

 

 

 ——と発言し、リコリコ内での気温が氷のように一気に低下した……

 

 

 

 

「———」

 

 

 あまりにも衝撃的な発言をしたたきなに蒼夜は、硬直した。また、その場に立っているミカとクルミも、“マジかコイツ……“と言わんばかりな顔をしており、たきなの発言を聞いた二人も思わずドン引きする。

 

 それもそのはず……相手は16歳の少女。そんな少女……たきなが真顔で男でもある蒼夜にお好みの下着を聞いてくるのは、彼にとっていろんな意味で恐ろしかった。“彼女には恥ずかしいと言う言葉を知らないのか…“と、疑うくらいヤバかった。

 

「それで蒼夜さんは、どんな下着……またはどんな色がお好きですか?青か白……それとも黒ですか ?」

 

「(………ちょ、ちょっと待て……まさかこれ…ガチで答えないといけないの!?)」

 

 普通の男性が『自分のお好みの下着は◯◯だ!』……と女性の前で言ったら、社会的に気持ち悪いし、最悪わいせつ行為の疑いで警察に捕まってしまう可能性も高い。

 

 しかし、たきなはそんな事も気にせず蒼夜に質問攻めする。だが、流石の蒼夜もなんて答えればいいのか分からない。そんな彼はもう耐えられたくなってしまったのか、慌てながらも、逃げる様さっさとアパートへ帰ろうとする。

 

「あの!……ぼ……僕は……もう……か、帰り……ます!!」

 

「あ!蒼夜さ——」

 

 

 〜カラン♪

 

 

 そう言って蒼夜は、たきなが何かを言う前にリコリコを出て行ってしまった……

 

 

「……たきな」

 

「クルミ?なんでしょう?」

 

「千束もそうだけど………お前の方が結構ヤベーな……」

 

「うむ……」

 

「………?」

 

 蒼夜が出て行った後、クルミがたきなに対して語り、ミカもクルミと同じ気持ちでもある。もちろんたきなは、二人が言っている意味を理解できなかった。

 

 

 だがこの時、彼女はまだ知らなかった。後に先程の質問をした後悔と恥ずかしさを知る時が……

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

「(……なんか、めっちゃ疲れたなぁ………)」

 

 一方、リコリコからアパートへ帰ろうとする蒼夜は、帰りの通路で歩いて行った。先程のたきなとの会話のせいで、何故か仕事よりもいつも以上疲れが溜まっているようにも感じていた蒼夜は大きくため息を吐いた。

 

「はぁ……(もう今日は帰ってねy………

 

 

 

「どしたの、そんなデッカいため息吐いて?」

 

 

 

 …………ヒョエ!?

 

 

 ——とその時、その時、突如横から聞き覚えのある声に吃驚して、思わず奇声の様な声を上げてしまった蒼夜。声の方向に首を向けてみると……

 

「ち……千束……さん?」

 

「おっす〜お疲れ〜てか、驚きすぎでしょ〜」

 

 あのまま自宅へ帰ったのだと思っていた千束が立っていた。まさか忘れ物取りにリコリコへ一旦戻る途中だったのか。そう思った蒼夜は、思わず千束に問う。

 

「わ………忘れ………も、物……です……か……」

 

「え?……あぁ〜違う違う……そうじゃなくてぇ……」

 

 どうやら、忘れ物を取りに戻って行く途中ではないらしい。しかし千束は、手元で指先を弄りながら俯いたまま、なに話そうかと悩んでいる様子。

 

「…………」

 

「(………あれ?急に黙ったぞ?)」

 

 一体どうしたんだ、と思った蒼夜。すると直後……

 

 

 

 ———スッ………

 

 

「………っ!?」

 

 

 突如、()()()()()()()()()()()()()()。触られた感触にすぐ気づいた蒼夜は驚きを隠せなかった。当然だが、暁月蒼夜は前世の世界でも同様、女子に手を握られる以外、自身の顔を触られる経験も無く、今回初めてである。

 

 そんな中、千束は蒼夜の左頬に湿布が貼っているのを一瞬見つめる。

 

「ちょ………ち、ち、ち、千束……さ、さささ、さん!?」

 

「…………ごめん……」

 

「………へぇ?」

 

「その………今日の事で……」

 

「(………え?なんの事……)」

 

「ほ、ほら……その……殴った事……」

 

「………あ……」

 

 なんの事なのかさっぱり理解できなかったが、“殴った“と言う言葉を聞いた途端、蒼夜はすぐに理解できた。殴った事……それはつまり、リコリコでの更衣室で、蒼夜が千束の下着姿をうっかり見てしまった事故の事だろう。それを蒼夜は“あぁ〜“と言わんばかりの顔で、すぐに思い出した。

 

「後……さっき蒼夜君に“変態“て言っちゃって……だから、その………本当にごめんなさい!」

 

 ——と、蒼夜に向けて頭を下げる千束。

 

「……だ、大丈夫……」

 

「………え?」

 

「そ、その………も…もう……大丈夫………なの……で……」

 

「……お、怒ってないの?私の事が……嫌いになったりとか……」

 

「いえ……ぜ……全……然……だ……大丈…夫…(まぁ、元々僕が悪いし…)」

 

「そ、そんな!……だって……あんなに強く……こことか!」

 

「……っ!(ち、ちちち……近い!?)」

 

「あ!ご、ごめん!痛かった!?」

 

「い……いえ!その……だ、だ……大丈夫……です……」

 

「で、でも!あぁ〜どうしよう…………はっ!そうだ!!」

 

 とここで、千束は何かを閃いた。

 

「ねぇ蒼夜君!明日、来るよね!?」

 

「いや……そn………(ちょっと待って……なんで知ってるの?)」

 

「さっきたきなからメール送られたんだけど、明日蒼夜君も来るんでしょ!」

 

「(はっや!?もう千束さんに伝えたの!?いくらなんでも早すぎませんかたきなさん!?)」

 

「じゃ……こう言うのはどう!明日、奢ってあげるよ!それならどうかな!?」

 

「(………え……それって……)」

 

 

 ────今、千束さんにも誘われているって事!?

 

 

 “女の子からの誘い“……当然だが、蒼夜は前世の世界でも経験した事の無いし、中学時代でも女子学生から誘われてもいない。それを目の前で……しかも、先程のたきなと同様、千束からの誘われに、どう返事をしようかと動揺する蒼夜。

 

「も、もちろん!たきなのパンツを買いに行くだけじゃなくて……その……色々と遊びに行くこともできるし……なんなら、欲しい服を買いに……つまり…お、奢り……そう!奢りみたいなものだよ!!」

 

「………な…………なる……ほ…ど……」

 

「だから…………ど、どう……かな?」

 

 —と、何故か恥ずかしそうにする千束が、蒼夜にこう告げてる。今、彼女の表情はいつもリコリコで見かける彼女らしい笑顔とは別。まるで、どこか自信がなさそうな……不安そうな顔が蒼夜に見えていた。

 

「(———あぁ〜〜〜〜やめて……マジで勘弁してよ〜〜……そんな顔を見せたら、逆に断りづらいじゃん……)」

 

 本来蒼夜は、明日の買い物に行かないつもりだった。もちろん千束が知っているなら、この場で断ろうと思っていた……はずだった……

 

 しかし今、千束の表情を見てしまうと……何故か、逆に断りづらくなってしまった…

 

「(ヤベェ………めっちゃ迷う……どうしよう……ってか千束さん……僕の返事を待っているんだよねぇ………でもやっぱり……断ろうかな……)」

 

「ど、どうかした…蒼夜君?」

 

「…っ!い、いや……そ……の……(断るんだ……今、ここで断るんだ暁月蒼夜!)」

 

「…?」

 

「……そ……その……(うぅ〜〜〜でも………やっぱり〜!)」

 

 

 悩んだ末、蒼夜が出した答えは…………

 

 

 

 

「………あ………した……」

 

「……え?」

 

「……あ……明日………何時……に……しゅ……集合……で……すか…」

 

「……っ!」

 

 相変わらず言葉は足りないが、そう答えた蒼夜は恥ずかしそうに顔を逸らしながらも、千束に告げる。そしてその答えを聞いた千束は、見惚れる程に嬉しそうな表情をする。しかも、満面な笑顔で……

 

「(……ヤベェ……めっちゃ可愛い……)」

 

 そんな、彼女の表情を見た蒼夜は、思わず見惚れてしまった。

 

「———う、うん!時間は、十二時……あ!後ちなみに駅は、北押上駅だよ!」

 

「え、あ……は、はい……」

 

「よっし!じゃ、私がたきなにそう伝えるね!じゃあ、私はこっちから帰るから……また明日ね、蒼夜君〜〜!」

 

「……え……あ……ちょ……」

 

 彼女の嬉しさが勝っていたのか、彼に手を振りながら帰路に向かい走って行く千束。そんな、彼女の走って行く姿を蒼夜は、ただ見ている事しかできなかった。

 

「…………行っちゃった……」

 

 走って行ってしまった彼女のその姿が見えなくなった頃、通路で一人となった蒼夜も、千束とは反対側の帰路へ向かい歩くのであった。

 

「……はぁ……結局断らなかったわ………」

 

 一人となった蒼夜はそう語った。しかしそんな彼には、寝る前にやる事が増えたようだ。

 

 

 

 

「………明日、どんな服に着ようかな……帰ったらヴェーダに聞いてみるか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

翌日、北押上駅前にて……

 

 

 

 

『北押上前』と書かれたある看板の駅前で千束は、スマホを触りながら二人の到着を待っていた。

 

 白パンツに黒シャツ、そしてその上から赤のコートを着ている。彼女の服装は、時代の流行ではなく、自身に似合うようにもしたが、ここへ到着する二人にも分かりやすいようにコーディネートもしたのであった。

 

 そして時刻は十一時五十五分。ちょうど集合五分前になった頃……

 

「お待たせしました。」

 

「おぉ、お~う…………新鮮だな…」

 

 そこには、普段使ってる学生鞄を背負い込んだ私服姿のたきなが現れた。今考えてみれば、千束にとってたきなの私服を見るのはこれが初めて。そしてたきなの服装は、下は黒のジャージ。上はグレーのTシャツ。そして背中には、リコリスの鞄…

 

 すると、千束はニコリと微笑みながら(目は笑っていない)、たきなに向かって口を開いた。

 

「銃持ってきたな、貴様」

 

「……ダメでしたか?」

 

「抜くんじゃねえぞ」

 

 リコリスが銃を携帯しても許されているのは、リコリスの制服を着ている者だけ。

 

 それ以外の、例えばまさに千束の目の前にいるたきなの服装の状態で銃を抜こうものなら、当然のながら即座に通報され、普通に逮捕されるだろう。

 

 その時、たきなの視線が千束の顔から下に移る。

 

「千束………その衣装は自分で?」

 

「衣装じゃねぇ……」

 

 二人が一連のやり取りをしている中、たきなはある事に気づく……

 

「それで……蒼夜さんは?今日は来れると…」

 

「え?……あぁ、蒼夜君ね。もうすぐ来るかと思うんだけど———」

 

 

 

 

「お……お待た……せ……し…しま…した……」

 

 

 

「……っ!」

 

「うぉ、びっくりしたぁ!?」

 

 ——と突然、何者かが声を掛け、思わず驚いてしまった千束とたきな。さらにその聞き覚えのある声の主の方に、二人が振り向く。

 

 服装は、下は黒のチノパンに上はグレーのTシャツ。さらにその上から黒いジャケットを羽織っており、フードを深く被っていた。そして背中には、何故かリュック…

 

「………もしかして……蒼夜君?」

 

「……え?」

 

「は………はい………」

 

 その正体は、暁月蒼夜であった。と言うよりも、その服装の雰囲気からしたら、まさに『The 不審者』という感じでもあった。

 

「(うぅ……結局来ちゃったよ……てか昨日、ヴェーダに調べてもらったけど…今僕が似合っている服装はこれだけなんだよなぁ……てかこれ、やっぱり地味じゃないかな……)」

 

 ——と内心で思い、正直自信がない蒼夜。と言うよりも、ヴェーダによって調べられた服装が多数見つかり、その内の一つであり服装こそが蒼夜にとって着やすかったようだ。

 

 そしてそれを、千束が蒼夜の服装をチェックし始め……

 

「なんというか……結構……地味だね…」

 

「(や、やっぱり!?)」ガーン

 

「蒼夜さんも自分で衣装を用意したんですか?」

 

「え………い、衣装……?」

 

「だから衣装じゃねぇって……あぁ、気にしないで蒼夜君…」

 

「は……はぁ……」

 

「はぁ……色々とツッコミたい所はあるけど……とりあえず二人とも、行くよ!早くしないと置いてっちゃうぞ〜!」

 

「分かりました。行きましょう、蒼夜さん。」

 

「………あ、は、はい!」

 

 色々と言いたい事がありそうだったが、とりあえず目的地である方へ目指す千束とたきなが歩み始め、その後蒼夜もその足で進める。

 

 

 

 こうしてこの日、彼らにとって最初の買い物(デート)が始まるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ〜

 

 

 

 昨夜、蒼夜のアパートにて……

 

 

 

「へいヴェーダ、明日僕が着ていく服装を教えてくれるかな?」

 

『すみません、よく分かりません』

 

「……ナンデ!?」

 

 

 ヴェーダを完全にS◯ri扱いしていた蒼夜…

 

 

 

 






 もうご存知だと思いますが、みんな大好きリコリコ第4話に突入しましたね!

 ついでにヴェーダは、完全にSir◯扱い(笑)


 それでは、次回話もお楽しみに!


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Episode 17 服装のセンスは大事である!




 大変、一ヶ月以上投稿が遅れてしまって、まことに申し訳ありませんでした!


 そして昨日、水星の魔女の第22話を観ましたが、私としてはとてもよかったです!

 ボサボサ頭のミオリネに、ケナンジさんの大人の鏡としてのシーンが私にとって一番よかったですね!

 それにガンダム・キャリバーン、カッコよすぎだろぉぉぉ!!!

 それでは、本編へどうぞ!


 

 

 

 

 駅で無事に合流できた事で、北押上駅から大型ショッピングモールへ向かう事になった3人。そんな時、目的地へ向かっている途中千束はたきなに対し、服装に着いて語り始めた。

 

 

「一枚も持ってないの、スカート?」

 

「制服だけですね……普通そうでしょう。」

 

 ショッピングモールへ向かっている途中、千束がたきなに問いかける。彼女達の会話の中、どうやらたきなはスカートを一枚も持っていないらしい。

 

 スカートを履かないたきなが語る理由は、ひらひらしているものが引っかかる可能性や、素肌をさらしているが故のケガをする可能性があるらしい。スカートを購入する必要性を感じないたきな。

 

 ※ しかし本当の理由は、リコリスとしての仕事の邪魔になってしまう可能性が高いからである。しかし、一般人である蒼夜が近くにいる為、誤魔化しながら、このような理由で語る事にしたたきな。

 

「ねえ〜買おうよ〜たきな。絶対に似合うって〜」

 

「……よくわかりませんし、千束が選んでくれたら...」

 

 その時、たきなの口から出た一言が、千束の心に火をつけてしまった。

 

「……え、いいの!? おぉやった~!テンション上がる~〜〜!」

 

「……...」

 

「(おぉ……めっちゃテンション高いな……千束さん……)」

 

 たきなの服を選べる事になり、今日一歓喜の声を上げる千束。そのまま両手を広げて駆け出していくのを、たきなと蒼夜は呆然と眺める。

 

「……千束は、何故あんなに嬉しそうなんでしょう?」

 

「さ…さぁ……」

 

「あ!そうだ!蒼夜君のも私が選んでいい〜?!」

 

「………え?」

 

「ほ〜ら昨日言ってたじゃん!なんか買ってあげるって!ねぇ!ねぇ!私が決めてもいいよねぇ〜!」

 

「い……いや……その……」

 

「ねぇ!ねぇ!いいよね!?」

 

「………は……はい……」

 

 —と、迂闊にも蒼夜が思わず発言をした事で、千束は更に目を輝かせる。

 

「え、本当!?やったーーーー!!!めちゃめちゃ、テンション上がる〜〜〜!!」

 

「(…………なんで僕まで……)」

 

「……蒼夜さん………その……ドンマイです……」

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 場所が変わって、リコリコでは……

 

 

 

 

 

《♪〜♩〜♪〜》

 

 

 

 

 クルミがリコリコにある風呂場でゆったりと湯船に浸かりながら、彼女が行い続けていた謎の巨大人型ロボット達のとは別の捜査を行っていた。音楽を聴きながら、捜査をするクルミ。

 

「武器相場に変動無し……か……」

 

 彼女が行っている捜査は、千丁の銃の行方である。あれだけの大量の銃を入手し、どこかの闇市場で売っているのかを確認したが、それらしき情報は一切出てこなかったようだ。

 

 

 〜ガラガラ

 

 

 —とその時、風呂場の戸が開く音が聞こえた。

 

 

「テメー………なにしてんだ?」

 

「見てわからんか……風呂だ」

 

 

 そしてその戸を開けたのは、ミズキである。そんな彼女は、風呂に入っているクルミを見て問いかけ、彼女の口から答えを聞いたミズキは…………

 

 

アホかー!営業中だぞー!

 

 

 —と、強制的にクルミを風呂場から引っ張り出した。

 

 

 

あぁぁぁ〜〜〜

 

 風呂場から出されたクルミは、脱衣所の扇風機で声を震わせている。ミズキはそんな彼女を平坦な眼差しで見ながら、クルミの捜査結果に疑問を投げかけた。

 

「相場に変化ないから何なのよ?」

 

「闇市場にまかれてないってことだよぉ〜うぉ〜」

 

 ミズキの問いに答えたクルミは、扇風機の風に負けたのか後ろに転ぶ。

 

「千丁も銃を眺めてどうすんだ?腕は二本しかないのよ?ましてや、あの巨大人型ロボットじゃあるまいし。」

 

「五百人兵隊がいるんじゃないか?」

 

「軍隊か!?そんなのDAが見つけないはずないでしょ〜」

 

 —と、そんな風に二人が話していると……

 

『お〜い、君達〜』

 

 店のカウンターから、ミカの声が響く。

 

「はいは〜い!ホラ、あんたも着替えて手伝いなさいよ。三人は夕方まで帰ってこないんだから……」

 

「あいよ〜」

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

一方その頃、3人は……

 

 

「お~!いいじゃん、かわいいよたきな~!」

 

「………あの……」

 

「あ!こういうのはどう?ジーンズなんだけどさ〜」

 

「ち…千束?」

 

「おぉー!たきな、めっちゃ可愛いよ!」

 

「………ど、どうも……」

 

「ねぇ蒼夜君!これどうよ!可愛くない!?」

 

「……は、はい……(なんか……長くね?)」

 

 目的地であるショッピングモールにて、たきなの下着を買うべくショップの中の店へ訪れた千束達。しかし何故か、突如たきなのファッションショーが始まっていたのであった。

 

 千束に選ばれた服を試着室で何度も着替えるたきな。もちろん適当に選んでいるので無く、夏にピッタリな涼し気な服をチョイスした千束は、たきなにあう色合いの服を正確に選んでいるようだ。

 

 そうして最終的にたきなが決めた服装は、薄めの灰色を下地に、襟に黒のワンポイント入った半袖、中に紺色を覆った白のロングスカート。

 

「(……か……可愛い……)」

 

 そんな彼女を見て、蒼夜は思わず見惚れてしまう。ハッキリ言って、たきなが着ている服装とよく似合っている。

 

「おぉ〜〜めっちゃ可愛いぃ〜!!」

 

「……どうも……」

 

 千束にそう言われたのか、照れた様に顔を隠そうと背けつつ、試着室に付いてある鏡に映し出された自分を見るたきな。

 

 そんな時、たきなは鏡から視線を外し、蒼夜に向く。

 

「……どう……でしょうか」

 

「…………え……」

 

「その………似合ってます……か?」

 

 真顔で蒼夜の方を見据えるたきな。どうやら彼女は、蒼夜からの感想も聞きたいようだ。そしてそんな彼女の問いに蒼夜は……

 

「……そ……その………に……似合っ……て……いま……す」

 

「…っ、あ……ありがとう……ございます……」

 

 ——と、言葉足らずでそう答えた。

 

 その答えを聞いたたきなは、何故か自身の顔を隠そうとする。その答えを聞いて照れてしまったのか、彼女の両頬が少し赤くなっていた。

 

「うん!いいね~〜……ハッ!そうだ蒼夜君も!」

 

「…………え?」

 

「ほらほら!蒼夜君も着替えて!」

 

 そう言って千束は、手元に持っていた服装を蒼夜に渡す。

 

「………こ、これは……」

 

「たきなもそうだけど〜〜〜、私は蒼夜君のも見てみたいんだよな〜」

 

「確かに、私も興味ありますね。」

 

「え……で、でも………に、似合いま……せん……よ……」

 

「そんな事ないよ〜!ほ〜ら!着替えて着替えて!」

 

「(……はぁ、仕方ない……)……で、では……」

 

 千束に選ばれた服に着替えようと、早速試着する服装と似合う自信が無いまま、試着室に入る蒼夜。

 

「ねぇ、たきな!蒼夜君が来た時の様子はどんな感じかな〜」

 

「そうですね……少し、楽しみですね。」

 

 蒼夜の試着した姿を見るのが楽しみである千束と、なんだかだで彼女と同じく乗ってきたたきな。

 

 それから5〜6分ほど、試着を終えた蒼夜は試着室のカーテンを開けた。そして、試着姿となった蒼夜を見て、千束とたきなは……

 

「「おぉ〜〜〜」」

 

 と、同じ反応する二人。また店内にいる女性店員や、たまたま通りかかった他の女性客達も思わず見惚れてしまう程だった。

 

 薄い青色のTシャツの上に濃い青色のジャケットと濃い青色のズボン。さらに濃い赤黒色のネクタイ。どちらも少し派手だか、彼女達の視線から見ればよく似合っている。

 

「いいね~〜!全然カッコいいじゃん!」

 

「そうですね、確かに……よく似合っています。」

 

「あ………ありが……とう……ござ…いま……す…」

 

 満足げにうんうんと肯く千束と、蒼夜をまじまじと見つめるたきな。そして蒼夜も、二人の口から“似合っている“と言われ、少し照れている。

 

「うん!カッコいいし!これなら全然買うよ!」

 

「……あ、あのこれ……本当に……いい……のです…か…」

 

「え?あ〜買ってあげる事?いいって、いいって!気にしないで~私も選べてめっちゃ楽しかったし〜!」

 

 本当に買ってくれるのかと何度も確認する蒼夜と本気で彼の為に買うと決めた千束。そんな時、たきなはふと思い出した。

 

「……あの……そろそろ本来の目的を……」

 

「………あ」

 

 どうやら千束は、本来の目的である“下着を買いに行く“事を完全に忘れてしまったようだ。そんな彼女は、目的を思い出し、呟きながら服を購入する。

 

「あ、あぁ〜そっかそっか!下着だった!」

 

「(いや、完全に忘れたんかい)……あ、あの……僕は……あ…あそこの……ほ、本屋で……ま、待って……ます……ので……」

 

「え、そ…そうか!ゴメンね蒼夜君、すぐ済ませるから!あ〜後これ!」

 

 —と、蒼夜に先程買った服装が入った紙袋を蒼夜に渡す千束。

 

「あ、ありが……とう……ござ……います……その……ま、待って……ますの……で…」

 

「……あの、蒼夜さんも一緒に行かないんでs「は〜いは〜い、たきなさ〜ん行きますよ〜!じゃ、後でね蒼夜君!」………えぇ!?」

 

 一瞬、蒼夜も誘うとしたたきななだが、何故か千束が強制的に止め、たきなの腕を引っ張りながら目的地へ向かっていってしまう。そんな二人の背中を見た蒼夜は、時間潰しとして、服装が入った紙袋を持ち歩きながら、近くの本屋へ向かう事になった。

 

「(……さ、行こうか………)」

 

 ちなみに、先程たきなの発言を聞いてしまった蒼夜は、内心で“何も聞かなかった“ふりをする事にしたのであった。

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「どう〜、好きなのあった?」

 

 目的地であるショップに着いた二人。ズラリと並ぶ色とりどりの下着を前に、たきなは表情は崩さずとも難しく悩んでいた。たきなから見れば、全部同じに見えるようだ。

 

「……好きなの………選ばなくちゃいけないんですか?」

 

「………え?」

 

「仕事に向いている物が欲しいですね…」

 

「あぁ〜、銃撃戦向きのランジェリーですかぁ〜………そんなもんあるかぁ!」

 

 たきなの発言にツッコミを入れる千束。やはり彼女は、どうしても仕事優先な下着を欲しんでいるだろうか。

 

「これ良いんですけどねぇ……通気性も良くて動きやすい。流石店長だなって……」

 

「いや先生そんな事考えてるわけないだろ……大体、トランクスなんて人に見せられたもんじゃないでしょ〜?」

 

「パンツって見せるものじゃなくないですか?」

 

「いざって時どーすんのよ?」

 

「いざってどんな時です?」

 

「…………………………………」

 

 たきなに尋ねられた千束は、何を想像する。そんな中、脳内で思わず()()()姿()()()()()、千束の顔がみるみると赤く染まってゆく。そしてそんな彼女は……

 

し、知るかぁ!!

 

 —とたきなに対し、声を荒らげてながら言い放つ千束。その時だった……

 

「………」

 

 

 

 ーガッシ!

 

 

「え、ちょ、えぇっ!?」

 

 突如、たきなが千束の細腕を引っ掴み、素っ頓狂な声を上げてしまう千束。そのまま試着室の中へと連れて込まれてしまい、カーテンを閉められて逃げ場を失った。

 

 千束は鏡と背中合わせに両手を広げ、目の前で立つ真顔であるたきなに向かって、恐る恐る口を開いた。

 

「……な、何?」

 

()()()()()()()()()()。」

 

「………ふぁっ!?」

 

「見られて大丈夫なパンツかどうか知りたいんです。」

 

 そう言って、千束の前でしゃがみ込むたきな。しかし千束は、突然たきなのその行動に絶句し、固まっていた。そんな彼女は躊躇し、思わず迷いの声が漏れ出してしまった。

 

「え……あ……えぇぇ〜……」

 

「早く!」

 

「…っ!……う……うぅ……」

 

 そして、迷っていた千束は、渋々自身の履いてたショートパンツを脱ぎ、下着をたきなの前に見せつける。それをたきなは、目を細めてその柄や色合いなどを真剣に、食い入るように見つめていた。

 

「ん———…………これが私に似合うっていうと違いますよね……」

 

 

その通りだよ何で見せたのわたしっ!

 

 

 

 —と、先程の自身の行動により、後悔と同時に大声で叫んでしまった千束であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 数分後………

 

 

 

 

「お待たせ〜〜〜蒼夜く〜ん!」

 

「お待たせしました、蒼夜さん。」

 

 買って来たであろう服装が入っている袋を持ちながら、千束とたきなが歩いて来た。そんな彼女達を確認した誉は、アニメやフィギュアが載っている雑誌などを戻し、彼女達の方へ向かう。

 

「……お、お疲れ……様……です…」

 

「いや〜〜ごめんね〜蒼夜君、遅くなちゃってさ!」

 

「ぜ、全然………だ、大丈……夫…です…」

 

「さぁ〜って!これでもうトランクスとはおさらば、男物のパンツは全部処分するからねっ!」

 

「……はい」

 

 そう小さく返事をしたたきなと、これでもう後はないだろうと考える蒼夜。そんな中、千束は満面の笑みをで蒼夜とたきなへ向ける。

 

「さ〜ってと!次は千束さんお待ちかねのおやつタイムだぁー!」

 

「(…………え?)」

 

「目的は完遂しましたよ?」

 

「完遂って仕事じゃないんだからぁ〜、今日は付き合ってよぉ〜!あ!蒼夜君もお願い!もちろん、私が奢るからさ〜!」

 

「「(もしかして………これで終わりじゃないの(ですか)……)」」

 

 まだ続けるのかと内心でそう語るたきなと蒼夜。取り敢えず、千束の提案に流されるまま、彼女が行きたい店まで連れて行かれてしまった二人。

 

 そして現在、三人で同じテーブルを囲って座り込んだ。外の風を浴びながら、千束はメニューを見ながら店員へと注文を告げる。

 

「ご注文は?」

 

「フランボワーズ&ギリシャヨーグレットリコッタダッチベイビーケークとホールグレインハニーコームバターwithジンジャーチップスで!」

 

「(な、長すぎだろ……)」

 

 —と、注文した千束に対し、思わず内心で引いてしまう蒼夜。そして次に蒼夜が注文する出番だが、一体どんなのを注文を頼めばいいのかを迷ってはいるが、とりあえずメニュー表に載っている写真を目にし、早速注文する事にした。

 

「……あ、アイス……て、ティ……と……い、苺……け、ケーキ……で……」

 

「かしこまりましたー」

 

 そう言って、女性店員は頭を下げた後店の中へと戻っていく。それを眺めていると、左側に座るたきなが、向かいの千束へ呆れるように言った。

 

「千束……………名前からしてカロリーが高そうですね……」

 

「野暮な事言わない〜、女子は甘い物に貪欲で良いのだ!」

 

「寮の食事も美味しいですけどね。」

 

「あ〜あの料理長ね〜、元宮内庁の総料理長だったらしいよ〜」

 

「(………え?)」

 

 千束の口から出た言葉をこっそりと聞いてしまい、気になって素早くスマホで調べ始める蒼夜。そして調べた結果、蒼夜は驚きを隠せなかった。

 

 宮内庁の料理長……それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事である。

 

「(そんな料理長がいるの!?というかその寮って結構豪華過ぎじゃない!?)」

 

「それって凄いんですか?」

 

「凄いだろ〜。でもスイーツ作ってくれないからなぁ〜〜永久にかりんとうだか〜」

 

「私、あのかりんとう好きです。」

 

「そりゃ貴女、最近来たからだよ。十年あれは飽きるよ〜?」

 

「(か、かりんとう………だと!?)」

 

 宮内庁の料理長が調理したかりんとうが気になって仕方がない蒼夜。そんな時、先程の店員さんが料理が載っている皿をトレイの上に乗せ運びながら、蒼夜達の元へ戻ってきた。

 

「お待たせしました。」

 

「うおっほおおおぉぉぉぉぉ!!!美味しそ〜〜〜〜!!」

 

「———うわぁ……」

 

「ちょ、たきな何その反応〜」

 

 店員が運んでくれた皿の上に載っているスイーツを見たたきなは、思わず引いてしまう。そして蒼夜も同じ気持ちだろう。3皿の内の一つは、蒼夜が頼んだ普通のカットケーキであり、全く驚くことはなかった。それよりも目に入ったのは、千束が頼んだ2皿である。

 

 ハッキリ言って、ボリュームの桁違いである。どちらもパンケーキのスイーツだが、見ただけで分かるカロリー多さ。

 

「……これは糖質の塊ですね……」

 

「たきな!人間一生で食べられる回数は決まってるんだよ?全ての食事は美味しく楽しく幸せであれ〜♪」

 

「美味しいのは良い事ですが……リk……し、仕事として余分な脂肪はデメリットになります………」

 

「その分走る!その価値がこれにはある!はむ!……む〜〜〜おいひぃ〜!ほらほらたきなも食べて!」

 

 早速千束は、ナイフとフォークを手に、スイーツに入刀して一口頬張ってすぐ表情筋が緩む。そんな彼女を見たたきなはため息を出し、蒼夜に関しては、もはや彼女を眺める事しかできなかった。

 

「あ、蒼夜君も一口食べる?」

 

「………い、いえ……こ、こっち………あり……ます……ので……」

 

 そう言って蒼夜は、注文したケーキを口に入れる。すると、左手側に座る千束の後ろから、外国人らしき声が耳に入り、視線を変える蒼夜。

 

 その声に千束とたきなも気づき、二人も視線を変えると、別テーブルで向かい合ってフランス人の二人組がメニュー表を見ながら困っている様子。

 

 千束はそれに気付き、「二人とも、ちょっと行ってくるね。」と、蒼夜とたきなにそう言ってフランス人の二人の元へ向かった。

 

「あの……蒼夜さん。」

 

「は、はい?」

 

 千束が隣の席へ向かった後、蒼夜に尋ねてくるたきな。

 

「その………よかったら一口食べますか?」 

 

「……………え?」

 

 突然のたきなの発言を聞いた蒼夜は、一瞬フリーズしてしまう。

 

 そして更に驚き事に、たきなは静かにスイーツを自分のフォークで取り、蒼夜の口元まで持ってくる。

 

「え………え??」

 

 思考が追いつかない。だが、この後たきなが自分に何かしようと、蒼夜はすぐに気がついた。

 

「どうぞ、食べてください。」

 

「———(ま、マジで……)」

 

 差し出されたスイーツを前に、蒼夜の思考を迷わせてしまう。これは言わば、『はい、あーん♪』と言う、漫画やアニメに登場する彼女に食べさせて貰うシーンの一つでもある。

 

「あの………食べないのですか?」

 

「(うぅ……し、視線が………た、食べなきゃならないのか……)」

 

 たきなの視線の圧に負け、意を決した蒼夜は、彼女が出してきたスイーツを口にする。

 

 

 

 その味は……

 

 

 

「お、おいし……い……です……」

 

 ———と、恥ずかしそうに答える蒼夜。

 

「っ!……そ、そうですか……よ、よかった…です…」

 

 そんな彼の反応を見たたきなは、なぜか両頬を赤くする。そんな時……

 

あ~~~〜〜!!

 

 先程の外国観光客を手伝い終え、二人の元へ戻ってきた千束が高らかな声を上げた。千束は、先程たきなが蒼夜にやった行動を目撃し、羨ましいがっているのか、子供のように顔をむすりとふくれている。

 

「たきなだけずるい〜〜〜!」

 

「ずるいって……子供みたいな駄々を言わないでください千束。」

 

 ご機嫌芳しくない千束を見て、たきなは少し呆れていた。

 

「千束、まだ沢山あるので欲張る必要はありませんよ?」

 

「ちっがうわっ、そういう意味じゃないのもう!」

 

「(な、なんで怒っているの千束さん?)」

 

 むすっとした千束に対し、蒼夜とたきなはどう対応すればいいのか分からなかった。最終的にたきなが、適当に誤魔化した理由を千束に語りながら、彼女の機嫌を回復したのであった。

 

「ふぅ〜〜ん………なんだぁ〜そういう事かぁ〜」

 

 ようやく彼女の機嫌を回復できたのだろうか。しかし、彼女はまだ納得していないなのか、次の予定を立て始めのであった。

 

「さって、これ食べたら良いとこに行きま~〜〜す……ハム!」

 

「「(………まだ終わらないの(ですか)?)」」

 

 満面の笑みでスイーツを美味しそうに口にする千束を見て、思わず口角が緩んでしまうたきなと蒼夜。この後、一体どこへ連れて行かれるのかとそう考えるだけで、二人が食べるスピードが徐々に遅くなっているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

 

 千束が行きたい店へ到着する前、とある別の店へ軽く寄った時の事である。

 

 

「そういえばさ………蒼夜君が着てみたい服あるかな?」

 

「え……?」

 

「いやだって〜〜見てみたいじゃん!ねぇ〜たきな〜」

 

「まぁ………確かにそうですね。」

 

「え………いや………で、でも……」

 

「大丈夫、大丈夫!絶対に笑わないからさ!」

 

「えぇ………(とは言われても、僕が来てみたい服なんて……)」

 

 店に置いてある多くの服を眺めながら悩む蒼夜。そんな時……

 

「(あ、あった!)」

 

 ——と、上下が揃ってあるセットアップの服装を見つけた蒼夜。それを持って彼女達に「着替えていきます」っと言葉足らずでそう伝え、試着室の中へ入った。

 

 それから5〜6分ほど、試着を終えた蒼夜は試着室のカーテンを開けた。

 

 

「ど、どう………で……しょ……う……か……」

 

 

 上下真っ黒な配色に赤のインナー、そして所々にあるベルト。まるで、囚人を拘束する服にも見える。

 

 そんな、試着姿の蒼夜を見て、千束とたきなは……

 

 

 

 

 

「「(だ、ダセェぇぇぇ…………)」」

 

 

 

 ——と、まるでどこかの少女漫画に出てくるシーン、白目をむきながら内心で叫ぶ千束とたきな。そして何より、蒼夜が着ている服が、あまりにもダサ過ぎて割とガチで引いる。

 

 

 ※ あくまでも、彼女達の感想です。

 

 

「あ………あの………どう……で……すか……」

 

 

 

「「……………」」

 

 

 一体なんて答えればいいのか、仕事よりも大きく悩んでいる二人。しかし数分後、思わず千束が蒼夜に「に、似合ってるぜ〜」っと、苦笑いしながらそう答えてしまい、とうとう買ってしまった。

 

 

 この時、千束とたきなは内心でこう思った……

 

 

 

「「(蒼夜君(さん)の服のセンス……ヤバい(ですね)な……)」」

 

 

 

 

 






 最初にモブ主人公が試着していた服は、『閃光のハサウェイ』でハサウェイが着ていたスーツです。

 二度目に試着していた服は、『SEED Destiny』でキラ・ヤマトが着ていた“あの私服“ですw


 次回も遅れるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします!


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Episode 18 さかな〜、チンアナゴ〜、◯◯◯◯◯



 今回もまた、投稿が遅れて本当にすみませんでした!!!

 それと水星の魔女最終回を観ました。本当にハッピーエンドで本当によかった!(遅すぎ)

 水星の魔女の制作関係の方々に感謝を……今作のガンダム作品を制作してくれて本当にありがとうございます!



 あ、ちなみにキャリバーン買えませんでした……(涙)



 

 

 

 

 

 

「良いとこ………ってここですか?」

 

「うん、綺麗でしょ〜ここ!私、好きぃ〜〜」

 

「(良いとこって………ここかぁ……)」

 

 自慢気に胸を張る千束の隣り、館内の周りを見渡すたきなと蒼夜。先程の店のスィーツを食べ終えた彼らは現在、千束が以前から行った事がある()()()へ辿り着いたのであった。館内へ入った時、周りには様々な魚類が水槽の中で泳ぎ回っていた。その中、蒼夜とたきなは思わず『おぉ〜』っと口に出し、見つめてしまう程だった。

 

「……よく来るんです?」

 

「ふふ〜ん〜♪見てこれ年パスー!気に入ったらぁ、たきなと蒼夜君どうぞ〜?」

 

 自身の年間パスポートを見せ付けて自慢に笑う千束。仕事にはあまり馴染みが無いだが、こういう所へ来るのにハマるのだろうかと、少し疑問を感じるたきな。

 

 一方、蒼夜はというと………

  

「(ーーーーーうぉ〜スゲェ………これも魚……だよな?あ、あっちもいた!)」

 

 水槽内に泳いでいる多くの魚を食い入るように見つめる蒼夜。そしていつの間にか、スマホで泳いでいる魚を撮ろうとしようとしていた時、千束がこっそりと蒼夜の方に駆け寄って来た。

 

「ねぇ、蒼夜君?」

 

「(ビック!)……は、はい!?」

 

「もしかして………水族館へ来たのは初めて?」

 

「………え?」

 

「だって………さっき蒼夜君の目がさ、キラキラしていたし……もしかして水族館へ来たのは……初めてなのかな〜……って……」

 

「(………あぁ〜そういう事か……)」

 

 千束の目線から見たら、蒼夜が水族館へ来るのが初めてだろうと勘違いしていのだろう。実際、蒼夜は水族館へ来た事があるのだ。もちろんそれは、前世の世界での出来事である。

 

 まだ子供だった蒼夜は、早く亡くなった両親の代わりに自分を育ててくれた祖父母が、何回か水族館へ連れて行かれた事もあった。

 

 しかしその祖父母も亡くなってしまい、水族館へいく機会が無くなってしまったのだ。というのも、前世での生活費の為、どこかへ遊びに行く暇も無かった。

 

 つまり今日、水族館へ訪れるのが蒼夜にとって久しぶりである。

 

「そ……その………な、亡くなった……そ、祖父…母……に……つ、連れて……た、こ、事が……あり……ます……」

 

「ーーーあ………」

 

 “亡くなった祖父母“、その言葉に千束が、申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

 

「ご、ごめん……そ……その………」

 

「い、いいえ………だ、大丈……夫……です……」

 

「大丈夫って………あ〜〜〜もう!暗い話はおしまいおしまい!ほら!たきなの所へ向かうよ!」

 

「え……ちょっ!?(て、手ェェェェ!!??)」

 

 —と、突然のことで驚く暇もなく蒼夜は千束に引っ張られるようにして、その場を後にした。そんな中で、たきなはタツノオトシゴが気になったようだ。

 

「お!いたいた……って、どうしたの?」

 

「これ、魚なんですって。」

 

「まじ〜!?ウオだったのか、こいつ!」

 

「この姿になった合理的理由があるんでしょうか?」

 

「ご、合理?り、理由?え~?」

 

「何かあるでしょ………ねぇ、蒼夜さん。」

 

「………えっ!?」

 

 突然たきなに質問された蒼夜は、思わず驚いてしまう。しかし、あまり魚の知識に関して詳しくない蒼夜は困惑していた。だが、何も喋らずにはできないと、蒼夜はすぐに答えを出す。

 

 

 

 

 

「......ぺ......台座形態(ペデステルモード)……か、から……変形した………とか……」

 

 

 

 

 

「「…………な、なんて?」」

 

 

 

「…………なん……でも………あ、ありま……せん…...(くっそ恥かしぃ!!)

 

 突然意味不明な発言をした蒼夜に対し、同時に首を傾げたと共に疑問の声を上げ、少し戸惑う彼女達。蒼夜は自身の発言で恥ずかしくなってしまったのか、早くもフードで顔を隠そうとする。

 

 

 

 

 そしてしばらく進むと、特殊な形をしたチンアナゴの展示水槽にたどり着く。水中でふらりと揺れ続けるチンアナゴを不思議そうに見る蒼夜と早速スマホで調べようとするたきな。

 

「(おぉ〜〜これがチンアナゴか………ん?)」

 

「これも魚ですか………ん?」

 

 その時二人は、思わず訝しげな声を上げる。なぜなら彼らの前で、千束が水槽の近くで両手を頭上に伸ばして身体を“クネクネ“と、奇妙な動きを始めた。その動きはまるで()()()()()()()()をしているかのような動きにも見える。

 

「………あの………なにしてるんですか?」

 

 ——とここで、たきなが思わず千束に問いかける。

 

「え、チンアナゴだけど?」

 

「人が見てますよ、目立つ行動は……」

 

「ん〜〜〜なんで?」

 

「なんでって………私たちはりk……女子高生ですよ!」

 

「制服着てないときは、女子高生(リコリス)じゃありませぇ〜〜ん〜〜」

 

「……もう、蒼夜さんからも何か言ってください……」

 

「えぇ………(……そんな事を言われましても……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────その後三人は、数種類のマンタが泳ぎ回る大きな水槽の前まで移動し、蒼夜とたきなは、館内のベンチに座る。

 

 ちなみに千束は、何故か未だにチンアナゴの物真似を続けていた。

 

「はぁ……一体いつまで続けるんですか……あの人は……」

 

「で.....ですね.....(あ、やべ.....トイレ行きたくなったわ。).........た、たき....な....さん....」

 

「はい?」

 

「……す、すみま....せん....お.....お手.......洗いに.....い、行って....きます.....」

 

「あ、はい。分かりました。」

 

 ——と、そうたきなに伝えた蒼夜は席を外し、館内にある厠へ向かった。そんな彼の背をたきなが見送り、視線を戻した彼女は千束の背中を見つめる。

 

「……………千束。」

 

「んー?」

 

 その時、未だ揺らめく彼女の背に、たきなは突然疑問を千束に投げかけていた。

 

「………()()()()()()()()使()()()()()()()?」

 

「…………え、な〜に急に?てかそれ、蒼夜君に聞かれたらダメでしょその質問……ってあれ?蒼夜君は?」

 

「お手洗いだそうです」

 

「あ〜……そっか……っで、急にどしたの?」

 

 チンアナゴの真似を止め、振り返ってベンチの方に歩み寄った千束は、そのままたきなの隣りへと腰掛けた。横並びで水槽の前に座り、先ほどの会話を続ける。

 

「旧電波塔の時は?」

 

「あぁ〜……あの時、先生に作って貰ったのよ。」

 

「……何か理由があるんですか?」

 

「何、何〜、私に興味あんのぉ?」

 

「……タツノオトシゴ以上には……」

 

「えぇ〜チンアナゴよりもぉ〜?」

 

「茶化すならもういいです。」

 

 話す気は無いらしい、と諦めた様に水槽へと視線を戻したたきな。揶揄っていた千束はそれを追い掛けるように、同じ様に水槽を見上げて口を開いた。

 

「ーーーーーーー気分が良くない。誰かの時間を奪うのは気分が良くない。そんだけだよ」

 

「……気分?」

 

「そっ!悪人にそんな気分にさせられるのはもぉーっとムカつく!だから、死なない程度にぶっ飛ばす!アレ当たるとめちゃくちゃ痛いのよ?死んだ方がマシかも〜〜〜!」

 

「……ふふっ……ふふふっ……!」

 

 そう千束が苦しげにお腹を抑える真似をする。そんな彼女を見て、思わずたきなも“くすくす“と笑い出す。そんな彼女を見た千束も楽しそうに反応し、軽くたきなに肩をぶつける。

 

「なんだよぉ〜!変〜?」

 

「いえ………もっと博愛的な理由かと、千束は謎だらけです。」

 

「お、Mysterious Girl!そっか、そんな魅力もあったか私ぃ!でもそんな難しい事じゃないよ〜〜」

 

「ーーーーもしかして、“したい事最優先”ですか?」

 

「お、覚えてるねぇ〜!」

 

「もちろん………もしかして、DAを出たのも?」

 

「……えっ?」

 

「殺さないだけならDAでもできたでしょ?」

 

「…………あぁーーーーーー」

 

「それも?“そうしたい“って、全部それだけ?」

 

「…………」

 

 突然途端に歯切れの悪い反応をし始めた千束は、そのまま俯いてしまった。彼女の表情は、まるでどこか悲しげで、儚げな表情で憂いているようだった。この時たきなは、“もしかして何かまずかっただろうか“、と思っていたが………

 

「…………人探し……なんだ……」

 

「……なんです?」

 

「会いたい人がいるの………大事な……大事な人……」

 

 儚げな表情をしている千束は、自身の首へと伸ばす。そして、胸元に隠してある()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をたきなに見せる千束。

 

「……まあ、その人を探したくて………さ。ねぇ、知ってるこれ?」

 

「?」

 

 

 

 

 一旦水槽を離れて飲み物を買い、明るい場所でテーブルを挟んで向き合う。そんな場所でたきなは、自身のスマホを取り出し、千束の言葉を頼りに彼女のチャームと調べたサイトを見比べていた。

 

 そのネットの記事には、『アラン機関』と呼ばれる支援団体の事が簡単にまとめられてあった。その謎の団体は才能ある若者を見出して、様々な支援をさせ続けていた。そして、支援を受けた人には彼女が持つフクロウのチャームが贈られるらしい。

 

 つまり、千束にもそのチャームを受けるに値する“才能がある“という意味でもある。

 

「………確かに同じですね。何の才能があるんですか?」

 

「分からなぁ〜い?」

 

「……それじゃないのは分かります。」

 

 ——と、壁に貼られたグラビアの写真と同じポーズを取った千束をあっさりと一蹴するたきな。バッサリ切り捨てられた事でショックを受けたのか、千束は額をテーブルに突っ伏した。

 

「……自分の才能が何とか分かる〜?」

 

「何かあると良いですけど……」

 

「そんな感じでしょ〜?」

 

「……あ、それなら蒼夜さんは?実は“才能“あったりして……」

 

「いやいや、それは……「た、ただ……いま……も、戻り……ました……」……お!おかえり〜蒼夜君!」

 

「す、すみま………せん………その……お、遅く……なって……(あっぶねぇ〜〜〜ついさっきまで迷子になってたわ……)」

 

 初めて来た水族館ではある為、少しだけ道迷いをしてしまった蒼夜。しかしそれでも彼女達は、遅れた彼をすぐに許し、買ってきた追加の飲み物を蒼夜に渡す千束。

 

「いいって!いいって!全然大丈夫だよ!後これ、あげるね!」

 

「あ……ありが……とう……ござい………ます……」

 

「そんなに敬語はいらないって………ところで蒼夜君さ。私には何の才能があると思う?」

 

「………さ、才能?」

 

「うん、私がこれを持っていたのよ。その話になってさ〜」

 

「はい、それがこれで………って、千束これ……蒼夜さんに見せてもいいのですか?」

 

「え?あぁ〜大丈夫大丈夫。別に隠すわけでもないしさぁ〜」

 

「(なんだ………フクロウのチャーム?)」

 

 迷わず蒼夜にチャームを見せてしまったたきなは、少し焦ってはいたが、そんな事を全く気にしていないと答える千束。一方、そのチャームを見た蒼夜も自身のスマホを取り出し、フクロウのチャームについて早速調べ始めた。

 

「(確かこれって……あ、あったあった……アラン機関……“貧困や環境に苦しむ天才を見つけ出し、匿名のもとに無償の支援を行う”とされる謎の支援機関………確か昨日、テレビのニュースにも出たよな………)」

 

 ネットニュースに載ってある記事を読む蒼夜。その記事を読んだ彼は………

 

 

 

 

 

 

「(なんか、胡散臭くねぇ?)」

 

 

 

 ——と、内心で早速疑い始めたのであった。

 

 

 

 

「(無償の支援を送るって………どう考えても怪し過ぎるでしょ。後で多額の請求書とか送られ、払わなかったら強制的に労働されるんじゃないよね……それとも……サンダーボルトに登場する南洋同盟(なんようどうめい)みたいな団体なんじゃ……というか千束さん大丈夫なのか……手足が勝手に義手義足に改造されたりしてないよね!?)」

 

 早速とアラン機関を疑い始める蒼夜。前世の世界でもそうだったが、彼……暁月蒼夜はこう見えて詐欺や謎の宗教などには警戒心を強く持っている。もちろんその理由は、自身の生活と日常を守る為であった。

 

 

 

 

 

 ※ この物語を読んでいる読者の皆様も、詐欺などには絶対に気をつけましょう。by.作者

 

 

 

 

 

「……蒼夜君?」

 

「っ!……ご、ごめん……なさい……そ、それ、あ、アランの……ペ、ンダ…ントです……か?」

 

「まぁ〜ね〜。あ、蒼夜君、もしかして私の才能について知ってる〜?」

 

 そう言って千束は、先程たきなに見せたポーズを再び蒼夜の前で披露する。そんなポーズを再び披露する千束に対して「何やっているんですか、この人は…」っと、呆れた顔でため息を吐くたきな。

 

「………す、すみま…せん………分かり………ま、ません……」

 

「あぁ〜〜〜………まぁ、ですよねぇ〜」

 

「…………それで、見つけたのですか?これをくれた人は?」

 

「いやぁ〜〜全然……」

 

「……十年も探して?」

 

「……もう、会えないかもね………」

 

 たきなが腕を伸ばして、預かっていたチャームを千束へと返す。受け取った千束はそれを見下ろして、すうっと自身の瞳を細める。そして視線を変え、水槽の中で泳ぎ回る魚達を寂しげな表情で眺める千束。

 

「ーーーーーー“ありがとう”……って言いたいだけなんだけど……」

 

「「…………」」

 

 たきなと蒼夜は、何も言わずに千束を見つめた。彼女が一体、どれだけの時間でその人を探していたのか。または、どんな想いでその人の事を考えているのか。

 

 

「ーーーーーーーッ!」

 

「……たきな?」

 

「(……ん? )」

 

 その時、突然たきなは立ち上がり、何も言わず水槽の近くへと向かった。そうして水槽の前の広場で両手を重ね、身体を前へと傾けて片足を伸ばす。恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めているが、それでも彼女は、とある物真似をしようと身体を張っている。

 

 

 

「さかな〜っ!」

 

 

 

「お〜!さかなかぁ〜!よぉ〜し……チンアナゴォ〜!」

 

 

 

 それを見た千束は、再びいつもの笑顔に戻り、チャームを首に戻してたきなの横へと駆け寄る。彼女の隣に並び立つよう、今度は千束もチンアナゴのポーズを見せつけ、周りの客達に稀有な目で見られるというよく分からない空気へと辺りが変化してしまった気もした。

 

 中には、「わぁ、何あれ〜」っと、子どもにマジレスされている中、千束とたきなは阿呆らしいその振る舞い方に当てられて面白可笑しく吹き出してしまった。

 

「……くっふふ……あっはっはっはっ……!」

 

「………ふっ、……ふふふっ……!」

 

「(……………なんか………楽しそうだな………二人とも……)」

 

 お互いに笑いながらも、楽しそうな表情を見せる千束とたきな。そんな彼女達を羨ましそうに見つめる蒼夜にとって、彼女達の表情はとても眩しかった。千束に関しては、先程までの憂い顔が消え、リコリコの看板娘であるいつもの笑顔が戻った。

 

 そんな千束の姿を、たきなは瞳を細めて眺めていた。

 

「………それ、隠さない方が良いですよ」

 

「え……そう?」

 

「えぇ………めっちゃ可愛いですよ。ね、蒼夜さん?」

 

「…………えぇ……」

 

 そう言ってたきなは、次の言葉を蒼夜に託す。それを千束は視線を変え、蒼夜の方に向ける。それに気づいた蒼夜は、千束になんて答えればいいのか迷ってはいたが、彼女の瞳を見て、すぐに答えを出した。

 

 

 

 

「………に、似合って………います………す、すご……く……です……」

 

 ——と、蒼夜は答えた。そんな彼の返事を聞いた二人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「「……………」」

 

「(……………あ、あれ?)」

 

 

「…………ねぇ……今、蒼夜君……()()()()()……たきな……」

 

「………はい………確かに……()()()()()……」

 

「(………笑ってた………僕が……?)」

 

 

 蒼夜自身は気づいてはいなかったが、たきなの問いに答えた時、確かに彼女達の前で少し微笑んでいた。というのも、人と喋るのが大の苦手な彼は、笑顔を見せないどころか、どうやって笑顔を作るのかも完全に忘れてしまっていた。

 

 そんな彼の笑顔を二人は、リコリコで働く事になってから以来、初めて見たのだ。

 

「ね、ねぇ蒼夜君!もう一回!もう一回笑って!」

 

「蒼夜さん………すみませんが、私の方からもお願いします!」

 

「(え………えぇぇ……そんな事を言われても………)」

 

 蒼夜の笑顔をもう一回見たいと願う千束とたきなだが、あの時無意識にやっていたので、彼自身もどうやってあの笑顔を使ったのかも分からなかった。

 

「もう………はっ!そうだ!ほらっ、こっちきて蒼夜君!!」

 

「え………ちょっ!?」

 

 その時、突然千束が蒼夜の手を“グイグイ“と引っ張り、たきなと同じ場所までまで連れてこられる。

 

「ほらほら、蒼夜君もやって!」

 

「………な、何を……?(なんか………スゲ〜嫌な予感が………)」

 

「私とたきながやっていた真似事だよ!もしかしたら、それで蒼夜君の笑顔が見れるかも!」

 

「…………え?」

 

「もちろん!さっきみたいに私とたきなもやるからさ!」

 

「ちょっ、千束!?まさか……さ、さっきのをまたやるんですか!?」

 

「もちろんそうだよ!あ、ちなみに蒼夜君は、チンアナゴとかさかな以外にねぇ〜!」

 

「(…………ま、まさか……)」

 

「じゃ、いくよぉ〜!」

 

「(…………マジでやるの!?えぇ……ちょっとまて……えぇ……)」

 

 咄嗟に言われ、蒼夜は大きく悩む。それもそのはず、突然そんな事を言われたら悩むのは当然だろう。そんな千束の突然の提案に巻き込まれたたきなは、諦めたかのように彼女の提案に即座に釣られてしまう。

 

 しかし、肝心の蒼夜は、内心で未だに悩み続けていた。

 

「(お、落ちるけ僕!!考えろ……考えるんだ!なんとかこの場を突破しなければ……魚とチンアナゴ以外………マーメイドガンダム……いや、あれは違う……だったら、グラブロ……いやこれも魚じゃないだろ!)」

 

 悩み続ける蒼夜だが……悩んで……悩んで……そしてその時、脳内に浮かんだ“とある言葉“で実行する事した。

 

 

「(よっし!大丈夫、やってみせるさ!!……落ち着け………ハロ……皆ごめん、僕は……行くよ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、さかなぁ〜〜」

 

「チンアナゴぉ〜〜」

 

 

 

 

 

 

ユニコォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 人差し指を出した両手を自身の額に付け、一角を再現する蒼夜。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………………え?」」

 

 

 

 

 

 

 しかし、突然意味不明な言葉を叫んだ蒼夜に対し、千束とたきなの目が点になり『ポカーン』っと、開いた口が塞がらなかった。もちろん彼女達だけではなく、この水族館に来た他の客達も目が点になり、思わず蒼夜の方に視線を振り向ける。

 

 

 

 ヒューーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーー」

 

 

 そしていつの間にか館内は、微妙な空気へとなってしまった。

 

 

 

「あはは!ユニコーン!」

 

「シッ!()()()()()()の真似をしちゃいけません!」

 

 

 

 グサッ!!

 

 

 そんな中、“ユニコーン“の物真似を見た通りすがりの親子がそんな事を言われたの聞こえた。その子供も真似をしようとした途端、母親が速攻で止める。しかも蒼夜の事を”不審者“と呼び、まるで矢に射抜かれたかのように精神的なダメージを負ってしまった。

 

 

「え、ちょっと何あれw?」

 

「ユニコーンて………あの人絶対やベー人じゃんあれw」

 

 

 

 グサッ!グサッ!

 

 

 また、ユニコーンの物真似を見た二人の男子学生にもそう言われ、更に追加のダメージを負ってしまった蒼夜。

 

 

「え……えっと……たきな……ユニコーンの魚なんて………あったっけ……?」

 

「えぇ……っと……ちょっと……調べてみます……」

 

 

 

 グサッ!グサッ!グサッ!

 

 

 

 話し合っている千束とたきな。もちろん蒼夜に聞こえさせないようにこっそりと話し合っているが、運悪く彼女達の会話が耳に入ってしまい、余計に蒼夜に与える追加ダメージを増やしてしまった。

 

 すると突然蒼夜は下を向いたまま、ふらっと歩きながらどこかへ向かおうとする。

 

 

 

「......ね、ねぇ……蒼夜君……ユニコーンって……あれ?お〜い、蒼夜君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーー死んできます」

 

 

「「蒼夜(君&さん)!!??」」

 

 

 

 ——っと、遠い目となった蒼夜がそう語ると、二人は慌てて彼を止めに入る。

 

 

 

 

 

 

 その後、なんとか彼を元気付けようとペンギン島へ向かう事になった。ペンギン達を見た千束が『可愛い!』とめちゃくちゃ興奮している横でたきなも千束ほど煩くはなかったが、彼女も小声で『かわいい…』と、少女らしさを持っていた。

 

 

 ちなみに蒼夜はというと…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………し……しにたい………」ブツブツ

 

 

 

 

 

 

「「まだ病んでいたの(ですか)!?」」

 

 

 

 

 

 

 どうやら彼……暁月蒼夜が回復するまで、少しかかるかも知れない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻………

 

 

 

 

「♪〜♪〜」

 

 

 蒼夜達が水族館で楽しんでいる間、とある街中で一人の黒コートを着る緑のアフロ髪の男が、口笛を吹きながら歩いていた。

 

 

 

「♪〜♫〜♩〜」

 

 

 アフロ髪の男……()()は、北押上駅の地下鉄へ向かっていた。しかしその様子は、電車に乗るような様子でもなかった。まるで、これから始めるを起こそうとしている雰囲気だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴェーダカラ緊急報告アリ。至急、ソウヤニ報告セヨ!』

 

『『『了解!了解!』』』

 

 

 

 

 






モブ主「ユニコォォォン!!」

ユニコーン「ハッ!今……誰かが自分を呼んでいるような…!」

バンシィ、フェネクス「「多分、お前の事じゃないと思うぞ兄弟よ」」


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Episode 19 まもなく電車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側にお下がりください〜



 またまた今回も、投稿が遅れて本当にすみませんでした!!!

 長い間、大変待たせてしまって本当に申し訳ごだいませんでした!今回は少し長めです。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァァァァァァ………………」

 

 

 

「(おぉ、すごいため息〜)ほ、ほらもう〜元気出してよ蒼夜君〜」

 

「(すごいため息ですね…)千束のいう通りですよ蒼夜さん。も、もうさっきの事を忘れましょうよ。」

 

「そ……そう……ですね………

 

 

 

 

 

 

 

ハアァァァァ…………」

 

 

 

「「(うわぁ、これはまだかかりそう……)」」

 

 

 つい数時間前に“ユニコーン”の物真似の後に行われたペンギン達のイベントにも参加してとても充実した時間を過ごした3人(の内の1人は少し落ち込んでいる様子)。

 

 そんなこんなで水族館を終えた後、追加の買い物もしようとデパートへ向かった3人。そして時間が経ち、いつの間にか日も徐々に暮れ、もうすぐ夜になってくる頃だろう。

 

 デパートを出たその時………

 

 

「……リコリス?」

 

「なんだか……多いですね……」

 

 ——と千束とたきなは、何らかの違和感に気づいたらしく、辺りを見渡し、険しい表情を浮かんでいた。

 

 彼女達の視線から見れば、人混みの中で白服と呼ばれる女子高生達の姿が人混みの中で異様なほど多くいた。一般人からすれば普通の女子高生にしか見えないが、彼女達が着ているベージュの制服を見れば、サードである事を千束とたきなはすぐに気づく。

 

「(あの制服……確か千束さんとたきなさんが着ていた制服と同じ……『ピロン♪』……ん?」

 

 その時、蒼夜のポケットからスマホからのメール着信音が聞こえた。スマホを取り出し、メールの内容を確認する。

 

「…………」

 

「千束……もしかしてDAで何か重要な任務があったのでは?」

 

「う〜ん………分っかんない〜先生からなん〜にも聞かされていないし〜って言っても、楠木さんはそう簡単に私達に教えてくれないからねぇ〜〜〜」

 

「そうですか………では、これは一体……」

 

「あ、あの………」

 

「「……ん?」」

 

 彼女達が話し合っている中、突然蒼夜が話しかけた。

 

「す………すみま……せん………お、お手洗……い……行って……きても……」

 

「え、トイレ?うんいいよ。」

 

「ここで待ってますので。」

 

「す、すみま……せん……」

 

 そう言って蒼夜は“すぐに戻ります“と少ない言葉で彼女達に伝え、駅近くの厠へ探しに向かって行った。

 

 

 

 

 

「あれ?そういえばさっき、蒼夜さんはお手洗いへ行かれたのでは?」

 

「え、そう〜?あ!もしかしてウn…」

 

 

「それ以上言ったら、本気でコレ()を使って千束に撃ちますよ?」ニコ

 

 

「……………ハイ、スミマセンデシタ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもしハロ?さっきのメール………そうか、分かった。じゃ、こっちにも情報を送ってーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れの頃合いになり、人気のなくなった北押上駅。そこを悠々と闊歩する一人の音がいた。黒のロングコートに似つかわしくないピンクのシャツを着こむ緑のアフロ髪をした男……真島。

 

「♪〜♪〜♪〜」

 

 口笛を拭きながらホームまで降りていくと、柱の陰や自販機の横から()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()が真島の後に続く。その者達の中、何やら大型のショルダーバッグを肩にかけ、無言のまま歩み進んでいた。

 

 

「ーーーーーハハッ……」

 

 口笛を止め、いかにも愉快そうに身体をくるりと回転させた真島。軽快なステップを踏んでホーム中央に立ち止まり、凶悪な気配を放つ群れ持つツナギの男達も止まり、肩にかけていたバッグを下ろした。

 

「スゥーーーーーーーーーーー、ハァ〜〜〜………」

 

 地下鉄の天井を仰ぎ見た真島は、瞑目してから深く息を吸って吐く。まるで何かを確かめるような深呼吸の後、言い知れぬ脅威を醸しながら口角をあげ静かに笑った。

 

 

「ーーーーー匂うなぁ……」

 

 

 ——と、そう語った真島はツナギの男達が下ろしたバッグを開け、中からPKM(機関銃)を取り出す。

 

 

「漂白されて、除菌された、健康的で不健全な嘘の匂いだ………」

 

  真島だけでなく、ツナギの男達もアサルトライフルなどを取り出し、腰だめに保持されていた。しかもその数々の武器は、以前に行われた千丁に及ぶ銃取引の一部でもあり、DAが探し求めていた物でもあった。

 

「バランスを取らねぇと.......なぁ!」

 

 アサルトを構えたツナギの男達と同じく、真島は今か今かと電車を待ち構えている。まるで、飢えた獣がこれから狩りを楽しむかのように……

 

 

 

 

《ーーーまもなく、◯◯行きの電車が到着します。黄色い線から離れて……》

 

 

 

 

 

ガタン、ゴトン〜ガタンゴトン〜

 

 

 

 その時、アナウンス音が流れたと同時に、奥から聞こえてくる電車の駆動音。

 

 真島達がいるホームへと迫る電車はその車体を揺らし、普段どおりに向かっていた。いつも通り電車は、定められた発着時刻のままにホームへと辿り着くだろう。

 

 

 

 いつもの日常なら………

 

 

 

「来るぞ………来るぞぉ………」

 

 

 電車がホームに到着する前に、部下のひとりが列車が近づいてくることを確認し、真島はPKMを手にする。同様にツナギの男達もそれぞれ持つアサルトを装備し、真島と同じ方向を向いていた。

 

 

「始まり………始まりぃ……」

 

 

 やがて、電車がホームに近づいた瞬間、口角を上げた真島は目を細め、銃口を電車に向けてーーーー

 

「始まりぃ!!!」

 

 一斉に撃ち始めた………

 

 

 

 

 

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 引き金を引いたと同時に、聴覚がまともに機能しなくなるほどの膨大な銃声が轟く。

 

 銃声は万雷の喝采であり、生じた発砲炎はスポットライト。まさに弾丸の雨。

 

 嵐のごとき銃弾の乱舞は、電車の側面鋼鉄に凄まじい数の穴を空け、瞬く間に虫食い状になり果てた。そんな無残な姿へと徐々に変わっていく電車の姿を見た真島は、腹の底から歓喜していた。

 

「ハハッハハッハハハハハハーーー!!!!!!!!

 

 

 

 

 

ハァッ!」

 

 車内の内装や窓ガラス……何もかもが砕け散り、最終的に無残な姿へと変えられてしまった電車が徐々にスピードを落とし、その場で停止。銃で撃たれることを想定して作られていない地下鉄は、一瞬でボロボロになってしまった。

 

 

「(………まだだ……あの中に乗っているリコリスは生きている……()()()()()()()()()なら、ドアが開いた瞬間、一斉に顔を出して銃撃を始めるはずだろうな……)」

 

 

 ——と、事前にハッカー(ロボ太)からの情報を得た真島は、内心でそう語っていた。そもそも、襲撃した電車からは撒き散らされた血痕、人体の内にあって最も濃い赤色が見られなかった。

 

 と言うことはつまり、電車の中にはまだ生きている人間がいる可能性が高い……と真島はそう内心で考えていた。

 

 

 

 ウィーン………

 

 

 

 電車の自動ドアが開き、再び武器を構える部下達。

 

 

「(さぁ………出てこいリコリスどもっ!)」

 

 

 真島も武器を再び武器を持ち直し、電車から出てくるリコリスを待ち構える。当然のこと、襲撃を計画した段階でこの時刻に発着する車両が回送であるか否かは確認済みである。

 

 

 そこに、()()()()()()()()()()()()…………

 

 

 

 

 

「さぁ、お前ら!もう一回撃ち方はじm……………

 

 

 

 

ーーーは?」

 

 

 ドアが開いた瞬間、再び銃撃戦を始めようと合図を出そうとする真島は、一変した。同時に部下達は、真島が突然合図を止めていた事で、慌てて構えを解いた。

 

 

「………なんだ……コイツ?」

 

 

 車内にいた“ソレ“を見た瞬間、唖然とする真島。以前、ハッカーが入手した情報によれば、リコリスの正体は日常生活の中でよく見かける普通の女子高生であった。

 

 だが、車内に乗車していたのは普通の女子高生ではなく、何より……()()()()()()()()

 

 

 

「………()()()()………だと……」

 

 

 

 

 全高3m。その形状は寸詰まりの黄色いボディに、短足に長腕、球形のキャノピー、そして大きめのプロペラントタンクの様な装備が付いたスラスター・ポッド。

 

 

 

 

TOLRO-800(トルロ800) 『武装型』

 

 

 

通称:トロハチ『武装型』

 

 

 

 

 

「お、おい……なんだ、あれ?」

 

「ロボット……だよな?」

 

「確か、女のガキが銃を構えて出てくるって…………真島さんから聞いたけど……」

 

 真島の部下達もそのロボット……トロハチを見て、驚きと動揺を隠せなかった。当然だが、今回の襲撃に事前に説明を受けてはいたが、予想よりも早くの想定外の事が起きてしまった為、部下達は次に何をすればいいのか分からなかった。

 

 一方、真島は………

 

「(おいおい、どう言うことだあのハッカー……リコリスの正体はガキじゃねーのか……まさかアイツ、俺達に偽の情報を渡したのか?)」

 

 ——と、内心で情報を頼んだロボ太に疑い始めた真島は、懐からスマホを取り出そうとしたその時……

 

 

 

 ガッシャン!!!

 

 

 

 

 

 

「ーーーーん?」

 

 

 トロハチの両腕から、()()()()()()()()()()()()()が出てきた。

 

 

 

「ーーーーーは?」

 

「「「「「ーーーーーえ?」」」」」

 

 

 そしてその様子を見た真島と部下達は、状況が理解できないまま、揃ってポカンとした顔で立ち尽くす。

 

 

 

 ウィィィィィーーーー

 

 

 

 両腕から出てきたマシンガンから徐々に大きく鳴るエンジン音。その時、真島は別の何かを目撃する。薄暗かったが、トロハチの球形のキャノピーの中にいる()()()()が見えていた。

 

 まるで、“次はこっちの番だ”と言っているようにも聞こえ、真島達を狙い撃つかのように両眼を光らしていた。

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーは、はは……………

 

 

 

 

 

ヤッベェ!!!

 

 

 

 ——と、真島の後頭部から、一筋の汗が流れた。危機感知をした真島は、急いで自身が持っていた武器をその場に捨て、素早く別の場所へ移動しようとした瞬間.........

 

 

 

 

 

 

 バババババババババババババババババババババババババ!!!!!

 

 

 

 

「うぁ!ーーーーぐへ!?」

 

「ゴッハ!?」

 

「に、にげ......オエ!?」

 

 さっきの仕返しと言わんばかりの射撃。マシンガンの銃口から放たれる弾丸が次々と真島の部下達に命中する。

 

「クソ!舐めるな!!!」

 

 その中、運良くトロハチの放射弾から逃れた1人のツナギの男は、アサルトライフルを使って反撃しようとした時.........

 

「これでも、くらってr......

 

 

 

 

 ババババ!!!!

 

 

 

 

 

ーーーーーーくは....」

 

 

 

「んな!?お、おい!もう一体いやがったぞ!」

 

「うぁあ!こ、こっちからも出てきたぞ!」

 

 

 別の車両からまた新たなトロハチが現れ、見事にツナギの男に命中。赤と青の色違いのトロハチが現れた事で、あの黄色いトロハチの仲間であるとすぐに分かった男達。反撃しようにも、トロハチ達の射撃が止まらない。むしろ、男達が反撃できる隙間もない。

 

「ーーーーチッ!」

 

 部下達が次々とやられていく中、なんとか真島だけホームの柱の後ろへ隠れる事ができたが、右腕に弾丸が掠ってしまった。

 

「クソッ!おいハッカー!どういう事だ!?」

 

 ハッカーに連絡しようとスマホを取り出した真島は、険しい表情で怒鳴るが.........

 

《ザーーーーーザザーーーー》

 

 何故かスマホの通話から砂嵐の音しか聞こえなかった。電波状況が悪くなったのか、何度電話を掛け直しても、相手からの通話が繋がらなくなってしまった。

 

「チッ!使えなぁ………あぁ〜イッテェ……」

 

 ぶちぶちと暴言を吐きながら、真島は自身の右腕を触れる。弾丸が当たった事で、痛みも感じていた。

 

「クソ………………あ?」

 

 だが、 銃創ができた右腕に触れた瞬間、違和感を感じた真島。

 

「(ーーーーー()()()()……)」

 

 もしも傷口ができているなら、皮膚などが破れているはず。しかし、傷口を抑えた瞬間、痛みどころか皮膚などが剥がれている様子も無かった。すると真島は、傷口だった所から出てきた血の様な赤い液体を手につけ、それを口の中に入れると………

 

 

 

「ーーーーーーーっ!?!? ペッ!ペッ!なんだこれ!?………()()()()?」

 

 血の正体………それはただの赤いペイント。

 

 “まさか……“と思った真島は、他の部下達の様子を見ると……

 

「い、イッテ〜………ってあれ?傷が……ない……」

 

「ウェ!なんだこれ!?」

 

「ま、前が見えねぇ!」

 

 先程まで撃たれてしまった部下達も、撃たれて死んだと思ったら、実はなんと生きていた。しかも赤色だけでなく、青や黄色などの色が見られ、中には全色ペンキだらけの姿となっていた部下達を目撃した。

 

「ま、真島さん!あのロボット共がまたペイントを………ブヘ!?」

 

「ぎゃ〜〜〜か、顔につけやがったっ!?」

 

「おぇ〜〜!!く、口に入ってきやがった〜!」

 

「…………」

 

 次々とペンキだらけとなってゆく部下達を見る真島。反撃しようと武器を取る者もいたが、トロハチ達のペンキ弾が命中し、取ろうとしたはずの武器が遠くに飛ばされ、その隙に撃ち抜かれてしまうという繰り返し。

 

 

 

 

「ーーーーーー撤退するぞ。」

 

 

 

 

 

「………………へぇ?」

 

「聞こえなかったか、撤退だ……持っている武器を捨てろ。発煙弾を使って、適当にそこら辺に投げろ……」

 

「し、しかし……リコリスh……」

 

 

 

 

 

今すぐ、やれ」

 

「へ、へい!」

 

 もはやこれ以上この場にいる必要がないと判断した真島は、部下達に撤退の準備をするよう指示をする。

 

 

 パッシュゥゥゥゥゥゥーーーーー

 

 

 真島からの指示を聞いたツナギの男が、自身の懐から発煙筒を取り出し、ピンを外した瞬間トロハチ達の前に投げ出し、発煙筒中から煙幕が展開した。

 

 つい先程まで連射していたはずのトロハチ達は一時停止し、恐らく彼らの視界を遮断される事に成功したのだろう。その隙に、やられた部下達を地下鉄の電車が走っていない反対の方へと誘導する。中には撃たれて倒れて動けない者を背負いで向かって行く者の姿もいた。

 

「真島さん!これで全員です!」

 

「おう、ご苦労さーーーー」

 

 小声で真島に伝えた部下を真島が、返事した瞬間、煙幕から一体のトロハチが現れた。

 

「おっと、ヤッベェ……………」

 

 今度こそ逃さないと、真島に命中しようとするがーーー

 

「ーーーーそういや、リコリスを見つけ出すって言ったけな………あぁ〜言った、言ったなぁ~。クッソ、やっと見つけたと思ったけどなぁーーーー

 

 

 

 

 

 

まぁ、別の収穫を入手できたから……それでいいか!!!」

 

 

 真島は、悪党らしい笑みのまま懐からスイッチを取り出す。そして、“カチリ“とスイッチを押し込んだ瞬間ーーーー

 

 

 

 

 

 ドカアァァァァァァァァァン!!!!

 

 

 

 

 

 爆破が発生し、地下鉄構内が揺れ、衝撃が密閉された空間を蹂躙した。そして天井も崩落し、降り注ぐ瓦礫。

 

 その瞬間、真島は驚異的な反射をみせ、ついさっき部下達が逃げ去った地下鉄の電車がいない線路の方へと駆け込む。

 

 

 

 

 

 一方トロハチ達は、崩れ落ちてくる瓦礫の下敷きになってしまったーーー

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 真島達が去ってから3〜4分後………

 

 

 

 

 ドォーーーーン

 

 

 

『アブナカッタ!アブナカッタ!』

 

 崩れた落ちた瓦礫から、下敷きになっていたはずのトロハチ達が現れていた。実はあの時……爆発が発生し瓦礫が落下する直前、両腕に装備してある()()()()()()()を展開し、なんとか瓦礫から身を守る事ができた。

 

 真島達がいない事を確認したトロハチ達は、ビームシールドの展開を解除し、操縦席がある球形のキャノピーを開ける。

 

『マサカ爆弾ヲツカウナンテ……予想外、予想外。』

 

『確カニ………ミンナ、無事カ?』

 

『無事ダヨ!無事ダヨ!』

 

 トロハチを操縦していた丸い何か……()()()は、それぞれ仲間の安否を確認する。爆発のせいで機体に所々汚れや小さな傷は見えるが、全員無事である事が確認できたがけで良しとした。

 

『モシモシ〜ソウヤ!コッチハ終ワッタヨ………ウン、ワカッタ!ミンナ!モウスグリコリスガコッチニ来ルカラ、速ヤカニ撤退ダッテ!』

 

『了解!了解!』

 

『撤退!撤退!』

 

 ——と通信越しで蒼夜と話していたハロとその会話を聞いたハロ達は、この場からすぐに撤退するよう再びトロハチに乗り、真島達が逃げ去って行った方向とは別の線路の方へ向かい、地下鉄から脱出するのだった。

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 ーーータタタタタターーー

 

 

 

 トロハチ達が去ってから数秒後、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 DA本部から突如命じられた任務は、至急北押上駅に向かって、その場に集うテロリスト集団の抹殺。参加したリコリスは全てサードであり、その数は大体20人弱。

 

 この任務を上手く成功させれば、セカンドへの昇進にもなる可能性が高い。そう考えた彼女達は、緊張と共に警戒心を強くする。

 

 その事を思い出しながら、ようやく目的地に着いたが………

 

 

「「「………っ!?」」」

 

 

 目的地であった地下鉄駅で見た光景は、彼女達の目を疑う。

 

 

 

 

────なんだ…………これは?

 

 

 

 崩壊された地下鉄駅。それどころかテロリストの姿が一人もいなかった。辺りを探し回っても、死体一つも見つからず、探すのに困難であった。動揺を隠さないのままに、サードリコリスの一人が慌てて指示を仰ぐために通信を開始した。

 

「ーーーーーし、司令部………応答願います……」

 

『ーーーどうした』

 

 

 

 

 

 

 同時刻:DA司令室

 

 

 

『目的地点に到着したのですが………その……テロリストの姿はどこにもありません』

 

「…………」

 

『目的地だった場所で、なんらかの爆発があった可能性があります。ですが……』

 

『誰も……おりません。し、司令、どうか指示をください!』

 

「………………総員帰投しろ。これ以上は異論は認めん……

 

 

 

 

 

 

ハァァァァ………」

 

 ———と、現場に到着していたサード達にそう指示を出した楠木は、通信を終えた途端、大きめなため息を吐くと同時に頭を抱える。そんな様子を見た秘書は、気まずそうに声をかける。

 

「し、司令……これは一体?」

 

「わからん………一体、何が起きているんだ……」

 

 そもそも楠木は、何故そこまで悩むほど頭を抱えているのか。それは、今から時を遡る事30分……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から30分前の事………

 

 

 

「状況は?」

 

「ーーーーー今の所、異常はありません。」

 

「後、10分程で現場に到着しますーーー」

 

「北押上駅での出入り口の封鎖も完了しました。」

 

「そうか………」

 

 オペレータからの報告を耳に入れる楠木。()()()()()()()()()のサードリコリス達を使い、ラジアータにより感知した居場所でのテロリスト集団の抹殺………のはずだった……

 

 楠木が次の指示を出そうとしたその時………

 

「では、次の段階n……「し、司令!大変です!」……どうした?」

 

「それが……先程サード達を乗せた地下鉄の車両が………

 

 

 

 

 

勝手に現場とは別の路線へ走っています!」

 

「…………は?」

 

「何度も操作していますが、全く言う事を聞きません!げ、現場からどんどん離れていきます!」

 

「………ラジアータからは?」

 

「そ、それが………()()()()()()()()()…」

 

「なんだと!?……(馬鹿な!ラジアータでさえ異常を感知できていないのか!?)ならば、急いで原因を確認しろ!」

 

「何度も確認しましたが……ですがそれも、異常も何も起きていません!」

 

 突然起きた予想外が発生し、次々と混乱するオペレータ達。しかも、DAのAIコンピューターでさえ感知できておらず、何故車両が勝手動いているのかも未だに原因不明である。

 

「クッ!ならば地上で現場近くで待機している全てのリコリスに通信を掛けろ!」

 

「それもやってます!ですが……向こうからの応答もありません!」

 

「なに!?」

 

「車両に乗っているサード達にも通信を掛け続けていますが……同じく、全く掛かりません!」

 

「(バカな!車両の操作を乗っ取るだけでなく、通信までも妨害されただと!?)ならば予備通信を使え!なんとしてでも通信を復帰させるんだ!」

 

 

 

 その後、結局地上や地下鉄の車両内で待機しているサード達の通信を復帰する事が無く、作戦開始の時間から大きく遅らせてしまった。仕方がなく楠木は、北押上駅より離れた場所で待機していた別のリコリス達に指示を出し、至急現場へ向かうよう新たな指示を出した。

 

 当然、現場へ向かわせる地下鉄の車両も無く、自力で向かわせて行くしか無かった。だが向かわせた直後、突如駅から爆発が発生したと、出入り口を封鎖したサングラスをかけた男達から報告を聞き、急いで現場に向かう様追加の指示を送った楠木。

 

 それから5分程、なんとか現場に到着したサード達だが………

 

 

 

 

 

「現場に到着したら、駅は既に崩壊……所々に銃弾の跡が残っていた事で、恐らく銃撃戦が起きたのは確か……それなのに死体が一つも見つからない……クソ」

 

 あまりにも多くの予想外が発生し、思わず暴言を吐いてしまう楠木。

 

「ハァァ………一体、上になんて報告すればいいんだ………」

 

 これらの出来事を上層部にどう報告すればいいのか、再び頭を抱える楠木は、深々とため息をついた。

 

 

 

 

  ※ その後、胃腸薬をまた買ってもらうよう秘書に頼んだそうであった。

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 一方その頃、蒼夜が厠から戻ってくるの待っている千束とたきなが、駅の前を通りかかった時、地下の北押上駅の前で何やら人だかりが出来ていたのに気づいた。

 

「ーーーっ! 何かあったんでしょうか!?」

 

 たきなが飛び出して行きそうになったのを千束がたきなの手を掴んで止めた。

 

「私服で銃出すと警察に捕まるよ〜制服着てない時はリコリスじゃないって言ったでしょ? あ!お〜い蒼夜君!」

 

「ーーーえ?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、す…………すみま……せん……お、遅く………なりま…した……」

 

 彼女達の前に厠へ向かっていった蒼夜は、息切れをしながら戻ってきた。様子から見て、厠からこっちに戻って来るのに走ったのだろうと思った彼女達。

 

「いいって、いいって!とにかく、今日は帰ろうたきな。ほら、戦利品も多いし………」

 

「……………」

 

 千束にそう言われたたきなは、自身の手持ちの買い物袋を見た後に少し不満そうな表情を見せるが………

 

「あ、あの………なにか……ありま……した…」

 

「…………いいえ、千束の言う通り、今日は帰りましょう。」

 

「そうそう!リコリコに帰ったらさ、みんなでボドゲーやろうよ!」

 

「は、はぁ………」

 

 そう語り、一度駅の方を見た3人は、その場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 同時刻:とあるバー

 

 

 禁忌を意味する店名を持つ会員制の“BAR forbidden”。そこは照明が薄く陰りを照らすムーディーな雰囲気を基調とした空間だった。中央のカウンター席で()()()()()が声をひそめて静かに語り合っていた。

 

 一人は、リコリコの店長であるミカと、その横に座る男……吉松シンジが座っていた。視線を合わせぬままミカは、シンジのの行動の理由を問いただす。

 

「ーーーーーーーシンジ、何故戻ってきた?」

 

「ミカに会いたかったからさ。」

 

 深刻さが伝わってくるミカの問いに対し、シンジは軽やかと取れるほど気軽に親愛を込めた返答を行う。シンジの言葉に浮きたつ心情もあるが、ミカはシンジの目的を先んじて口走る。

 

「からかうんじゃあない。どうせ()()だろう?」

 

「……私を覚えていなかったよ……」

 

「あの時に一度見ただけだ………無理もない」

 

 そこで一度、会話は途絶えた。この時二人は、同じ過去の記憶を思い出す。それは、()()()()()()()()()()の事。彼らにとって最初の出会いでもあり、同時に小さな暗殺者の終わるはずだった命運を変えた日でもあった。

 

「シンジ、何故言ってやらないんだ。千束はずっと君を捜しているんだぞ?」

 

「アラン機関は支援した対象に関わることを禁じている。話したろう?」

 

「矛盾しているじゃないか、それだったら店にも来るべきでは……」

 

 ミカにとって、二度と会うことのないはずの救った千束の前に現れ、彼女に何らか選択を迫ろうとしているのではないかと、不明瞭ながら確たる不吉な予感というものを感じ取っていた。

 

 そんなミカの口から語られた言葉を聞いて、シンジはより笑みを深める。

 

「私の支援は未だ完了していない……それにしても、ひどいな?君は、私に千束の前から消えろとでも?」

 

「……そういうわけじゃないが……」

 

「ーーーーミカ、“約束”は守れているか?」

 

 そこでシンジは真っすぐにミカの瞳を強い信念と信仰を讃えて見つめる。その視線の持つ意図を知り、ミカは感情と思考を切り離して答えを紡ぐ。

 

「ーーーああ、もちろんだ……」

 

 そうミカが答えた一言は、ある意味重い言葉でもあった。ミカの返答を聞いて、シンジはグラスを軽く揺らし、カランと氷の鳴らした音に耳をすまして独り言ちる。

 

「天才とは神からのギフト、必ず世界へと届けねばならん……」

 

 そうシンジが語った時、バーにある一台のテレビには、アランチルドレンの記事が報道されている。

 

「類い希なる、“殺しの才能“をな………」

 

 一息でそれを飲み干すシンジ。

 

 

 

 

 その時、ミカは別の話題を変える。

 

「………シンジ……アラン機関としてのお前に聞きたい事がある……」

 

「聞きたい事………もしかして、あの巨大人型兵器についてなのか?」

 

「っ!察しが早いな……」

 

「まぁな……つまりミカは、こう言いたいんだろ。あの巨大人型兵器は、アラン機関が造ったのではないかと……」

 

 ミカが問い出そうとした疑問をシンジが代わりに口に出す。謎の巨人については、既にニュースなどで世界中に知らされており、流石のシンジも既に知ってはいたのだろう。それが、アラン機関が造ったのではないかと、ミカは思った。

 

 だが、シンジの口からは、ミカにとって大外れの答えを聞く事になる。

 

「残念ながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()……むしろ、あの()()()()()()()()()()()()()()()と言われていたんだ……」

 

「ーーーーなに?」

 

 シンジの口から出た答えに、ミカは疑ってしまう程、目を見開いた。

 

「本当だ……今でも私達はあの巨人を造っている開発者を探し続けているんだ。その人物もまた、神からのギフトを授かっているはずだ。私の知り得ぬギフトを……」

 

「…………シンジ、もしもの話だ。もしその人物を見つけていたら、お前はどうする?」

 

「………その時はその時だよ、ミカ……だからこそ………」

 

 

 

 

 

 ーーーーー私達機関は、早急に接触しなければならないーーーー

 

 

 

 

 

 

 カウンター向こうのテレビで謎の人型巨大兵器についての大きく話題が聞こえてくる中、シンジの口から意味深な言葉か語られていた。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——翌日の早朝——

 

 

 

 

「(あぁ〜やっと治ったな……さ、今日も頑張りm……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キエェェ!!!ハレエェェンチィィィ!!!

 

 

 

 

 

「ーーーっ!?」

 

 店が開店し、営業している頃、カウンターにある物を鏡代わりに使って、治った頬に貼ってある湿布を取り外した蒼夜。その直後、突如店裏から響き渡る甲高い奇声に驚いてしまった。

 

「(な、なんだぁ!?)」」

 

 更衣室から聞こえ、その奇声の主は恐らくミズキであろう。“一体何事なんだ“と内心で思った蒼夜は思わず声のした更衣室の方へと恐る恐る向かうと……

 

「(…………何してんの?)」

 

「こ、コイツ!()()()()()()()()()()()()!」

 

「…………は?」

 

 そこには何故か、ミズキに首を絞められている千束がいるという現場を目撃してしまった。さらに驚く事に一瞬だったが、蒼夜は千束のスカートの下に履いている下着も見えてしまった。

 

「(っ!……なん……だと…)」

 

 それは紛れもなくトランクス。しかもその黒いトランクスは、以前たきなが履いていたものでもあった。

 

「白状なさいっ!まさかアンタ………昨日、蒼夜のとこに泊まって来たな!越えてはいけない一線を超えたわね!私への当て付けかこの野郎!!!」

 

「ーーーえっ!?あっ、や、ち、違う違う違う!というかなんでそこで蒼夜君が出てくるの!?

 

「だまらっしゃい!!!ガキの癖に不潔よ!!!不潔ぅぅうううう!!!」

 

「イダダダダ!!き、聞けって!違うのぉぉぉおおおおおお!なんっ………あっ!た、たきなの!たきなのだからぁ!」 

 

 ——と、そんな蒼夜に向かって千束が指を差した。だが、指を差したのは蒼夜ではなく、いつの間にか彼の隣りに並び立っている制服姿のたきなだった。

 

 彼女も裏の様子を見にここへ来たのだが、急に名前を挙げられて何の事か分からないたきな。そんなたきなの事など知らぬ存ぜぬで、ミズキは一旦千束からその腕を離すと、その眼鏡を光らせたきなに急接近し………

 

 

 

 ーーーーペラリ…… 

 

 

「ーーーーーえ?」

 

「っっっ!!??」

 

 なんの躊躇も無く、蒼夜の目の前でたきなのスカートを捲り上げた。

 

 そんな行動と共に蒼夜は、素早く顔を逸らす。そんな彼を気にせずミズキは、細めている目でたきなの下着を見つめ、静かにスカートを下ろす。

 

「ーーー可愛いじゃねぇか……」

 

「いやだからそれを昨日買ったの!え、あ、ちょいちょい何処へ……」

 

 

 

 

「皆さーーーん!このお店に裏切り者の嘘吐き野郎が居ますわよ〜!」

 

うおおぉぉぉおあああああ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろぉぉおおお!

 

 表に向かって千束の下着事情をミズキは、客達に暴露する。それを千束の顔が真っ赤となり、彼女も表へと駆け出した。そしてその場に残った蒼夜は、気まずい感じでたきなへと視線を戻すと……

 

「ーーーーーっ」カァ〜

 

 今までに見た事がないほど顔を赤いトマトの様に染め上げていた。

 

「………見ました……蒼夜……さん……?」

 

「ーーーへぇ!?……い、いえ!み、みみみてま……せん…(大丈夫!今回はマジで見ていない!!というかたきなさん、めっちゃくちゃ可愛い!)………」

 

「そ、そうです………か………」

 

「は……はい………」

 

「………」

 

「………」

 

「………と、とりあえず……千束の方へ行きますか……」

 

「え、あ、は……はい……(今の間は何!?)」

 

 お互いに気まずいまま、表へ向かう二人。そこにはミズキに羽交い締めにされたまま、クルミが用意した扇風機を前にスカートの中身を晒され、煽られる千束の姿があった。

 

「見ましたぁ〜?皆さん、男物のパンツですよぉ〜?」

 

「ちょ、違うってええぇ!だからたきなの!せ、先生の指示で………」

 

「え、オッサンの?それって……」

 

「いや、それもややこしい! と、とにかく違う! 本当に違うんだってぇぇぇ!」

 

「ほれ、たきなの団扇。」

 

「………え?」

 

 するとクルミが、たきなにも共犯者に成らせようと、持っていた団扇を彼女に渡そうとする。だがその直後……

 

「もぉぉぉぉ!!!いい加減に離してって!!!」

 

 

 

 ガン!!!!

 

 

 

 ミズキからなんとか逃れようとする千束の足が、近くにあった扇風機を思わず蹴っ飛ばしてしまった。蹴っ飛ばされた扇風機はカウンターから離れ、地面に落ちてしまうだろう。

 

 だがその扇風機には電源のコードが繋がっている為、電気は繋がっているまま。そして、地面に落ちる直前、扇風機から流れる風の向きが一瞬だけ変わり………

 

 

 

ーーーバッサーーー

 

 

 

「………っ!!!」

 

 

 たきなのスカートも晒されてしまった。

 

 

 すると反応が早かったのか、たきなは素早く隠す様自身のスカートを両手で防いだ。なんとか他の客達に見られてはいなかったが……

 

 

「(い、今のは………()()の……)」

 

 

 だが、運悪くたきなの後ろの方に立っていた蒼夜は、たきなの履いている下着を見えてしまった。しかも今度は、一瞬では無く、ガッツリと見てしまったのであった。

 

「ーーーー蒼夜さん……」

 

「は、はい!?」

 

「…………見ました……」

 

 たきなの下着を見て固まってしまった蒼夜の方に振り向くたきな。その時の彼女の顔は、つい先程ミズキにスカートを捲り上げた時を同じような反応で、顔を赤くしていた。

 

 この時蒼夜は、一体どう答えればいいのか迷っていた。そして、彼の口から出した答えは……

 

 

「は、はい………み、て……し、しま…いま……し……た……」

 

 

 ——と、正直に答えるのだった。

 

 

 

 

「「「(ゆ、勇者だぁぁぁぁ!?!?!?)」」」

 

 

 

 

 そしてそんな彼を見た、千束、ミズキ、クルミ、そしてリコリコの客達も、彼が誤魔化せず正直に答えるその勇敢な姿を見て思わず感激してしまった。

 

 

 

 

 だがその答えは、蒼夜にとって選択を誤ってしまった。

 

 

 

 

「ーーーーーっ!!!」カァ〜〜〜〜〜

 

 

 

 蒼夜の口から答えを聞いたたきなは、顔をさらに赤くし、勢いよく彼の方に向けて、回し蹴りを放とうとする。

 

「(…………え?)」

 

 “正直な答え“を口に出してしまった蒼夜は、目の前にたきなの足がこっちに接近していることに気づく。

 

「(あれ………これ、前にもあったような………)」

 

 

 

 

 

 ボッゴォ!!!!!

 

 

 

 

 

「ーーーグェッ!?」

 

 記憶の中で何かを思い出す蒼夜は蹴り飛ばされ、壁に背中をうちつけるのだった。リコリコに一般の客達がいるのにも関わらず、この時たきなが蒼夜の腹を蹴った時の威力は、完全に仕事モードである。

 

 あまりにも突然の出来事により、千束達は唖然としていた。

 

「た、たきなぁ!?」

 

「……………はっ!?」

 

 無意識にやってしまったのだろうか、千束の声が聞こえた瞬間、自身が蒼夜の事を蹴ってしまった事に気づき、急いで地面に倒れている蒼夜の方に向かうたきな。同じく唖然と立つミズキの手から離れた千束も向かった。

 

「そ、蒼夜さん!大丈夫ですか!?」

 

「お〜い!蒼夜君!?」

 

 意識が薄れていく中、蒼夜は内心でこう語った……

 

 

 

 

 

 

「(に、二度も女子高生にぶたれた……ぜ、前世にもぶたれた事ないのに……)………カハッ………」チーン

 

 

 

 

 ——と、意識が朦朧としている中、彼はそう思った………

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

「おいハッカー!!!昨日のアレは一体どう言う事なのか、一から説明しろ!!!」

 

「ちょ、ちょっと待って!本当になんの事ぉ!?」

 

 

 その頃、アジトに呼び出されたロボ太に、銃口を押し付ける真島。そんな彼を時間をかけながら、なんとか誤解を解いて貰おうと必死になるロボ太であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜本編登場MS解説〜

 

 

TOLRO-800(トルロ800) 『武装型』

 

 

通称:トロハチ『武装型』

 

 

 小型MSであるプチモビルスーツ(通称:プチモビ)シリーズの一つである。原作では元々、作業用機として扱ってはいたが、蒼夜の提案によりマシンガンなどの武装をトロハチの両腕に装備した。また、相手からの攻撃を防御するよう、ガンダム界における両腕からビームシールドも展開する事が可能。全てのMSの中でも防具力としては一番低いが、それでも人間相手が持つ銃弾などの防御は有利である。

 

 操縦席にはハロにも操縦できる様に設計しており、基本ほとんどのプチモビはハロ達が操縦している。もちろん人間も操縦する事も可能。

 

 また、地下鉄の銃撃戦で使用した弾丸は、訓練用のペイント弾。その威力は、千束が使用している非殺傷弾でもある。

 

 

 

 

 

 





 久々にガンダムベースに行ったら、トロハチを買えたので、記念として本編に登場させました。

 次回の投稿も遅くなるかも知れませんが、次回もどうかよろしくお願いします!!!



 ちなみに、ようやくキャリバーン買えました(嬉しい)


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Episode 20 Let’s go to Travel in Tokyo!



 り、リアルが忙しすぎて辛い……(震)

 今回は少し短いです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六月下旬、季節は初夏となり、蒼夜がリコリコにやって来てから早二ヶ月が経っていた。

 

 リコリコの店内でカウンター席を掃除している蒼夜と、和室では寝転がりながら煎餅を食べているクルミは、テレビに流れているニュースを観ていた。

 

『ーーーーでは、次のニュースです……』

 

「お、やってるなぁ〜」

 

『地下鉄北押上駅で起きた脱線事故から、今日で一ヶ月が経ちました。事故の遭った駅は、未だに復旧できず………』

 

「この社長も気の毒ですね……」

 

 二人がニュースを観ていると、そこへ洗濯物が入っているカゴを持って2階から降りてきたきなは、画面に映っている社長に同情する。

 

『本当に……奇跡的に自動運転の回送電車だった為……幸い()()()()()()()()()()()でしたが、原因の究明と改善に早急に対応していきますので、どうか今後も引き続き………』

 

「この社長は何にも知らないんだろうなぁ〜」

 

 ——と呑気な事を言うクルミは、何か知っているような口ぶりで呟きながら煎餅を齧る。そして蒼夜も同じく、内心で語っていた。

 

「(まぁ、あんな訳の分からない人達のせいで理不尽に地下鉄をめちゃくちゃにされちゃったし……どちらかと言ったら、会社側の方が被害者なんだよなぁ……)」

 

 ニュースでは、脱線事故として報道されているが……それはあくまで“表向き”の報道。

 

「(あれからネットニュースとかで調べたけど……結局どれも事故として報道されている……)」

 

 本当は脱線事故など起きていなかった。事実を言うなら、謎の集団とハロ達が搭乗していたトロハチとの銃撃戦を起こしていた。だが、ニュースに乗っている記事の内容としては、事実と異なっていた。

 

「(リコリス………そしてその秘密結社であるDAが隠蔽した可能性は高いな……)」

 

 ——と内心で語った蒼夜。なぜ彼は、DAの存在を知っているのか。地下鉄での出来事の後、リコリスについてどうしても気になって仕方がない彼は、ヴェーダに調べるよう頼んでいた。

 

「(DirectAttack……通称DA……事件が発生する前に抹消する極秘組織。孤児である子供達に殺人技術を仕込み人を殺させる事で少女達は“リコリス“と呼ばれ、女子高生の制服を着用させる事で、街中に溶け込み密かに犯罪者などを消す……いやもうこれ、完全に0◯7の世界観じゃん……てことはだよ、今の日本はDAが裏で色々と秘密で隠蔽などやっていたって事だよね……しかもさ……

 

 

 

 

……その抹消を行わせるリコリスが、全員僕と同じ歳の子である事の方がもっとびっくりなんですけど!?そもそも未成年に実弾付きの本物の銃を使わせてあっちこっち殺しをさせるって、暗◯教室か何かですか!?)」

 

 

 

 リコリスの正体が全員自分と歳が近い少女達に日本の裏で殺しさせているというとんでもない事実を知ってしまった蒼夜。

 

 また、男版のリコリス……通称リリベルに関する情報も見つけたが。そのリリベル達の正体も、自分と同じ未成年の少年達である事にも驚きを隠せなかった。

 

「(孤児だった子供を殺し屋にするって、完全に鉄華団ができる前の組織『CGS』と同じやり方じゃん。しかも()()()、DAが女の子達を“捨て駒“にしようとしてたよな……)」

 

 あの時とは……それは以前起きた地下鉄での出来事の起きる前、“DAがリコリスを捨て駒として地下鉄に向かうテロリストの抹殺作戦を行おうとしている“と、ヴェーダからの情報を耳にした蒼夜。流石にこれは見過ごす事ができないと思い、できるだけ彼女達を現場から遠く離そうと決めた彼は、ハロ達と協力して行動を起こした。

 

 それからニュースの報道に載っていた通り、死者は一人も出なかった。ヴェーダからの報告によると、あの後車両に乗っていたリコリス達は全員無事に生きていた事が判明した。

 

「(まぁ結果的に助けたのは良かったけど……それにしてもDAがやっている事は本当にヤバいな……下手したらアロウズやブ連邦の闇と同じくらいヤバいかも知れない……)」

 

 内心で語る蒼夜は、再びテレビに映っているニュースに視線を向ける。

 

「(ーーーーそういえば、あの時地下鉄をめちゃくちゃにした人達……結局何がしたかったんだろう……)」

 

 ちなみに謎のテロリスト集団についての正体だが、地下鉄で交戦していたトロハチ達の映像データにバッチリ映っていた。地下鉄を襲撃した集団の正体は、ツナギの服装とサングラスを付けている男達である事が判明した。

 

 だが、運が良かったのか、その映像データには真島の姿が映って無かった。しかも、何故地下鉄を襲撃したのかも、未だに原因不明である。

 

 

「(もしかして、リコリスを誘き寄せる為に襲撃したんじゃ………いや、まさかな……)」

 

 

 ——と、なんとなく内心で想像した蒼夜は、再び掃除を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

ーーーそして、日が暮れた頃。

 

 

 

 

「ではでは、諸君!今回の依頼内容を説明しよう!とっても楽しい、お仕事ですよ〜!ふっふっふっ〜〜〜」

 

「…………千束の笑い方がキモいです……」ボソ

 

 

 

「ちょっとたきなさん!聞こえちゃったし、後キモいって言ったでしょ!?流石の千束さんも傷ついたよ!?」

 

 

 思わず本音が漏れてしまったたきなに対し、ツッコミを入れる千束。

 

 リコリコの営業時間が終え、蒼夜がアパートへ帰った頃。千束達は今、裏の仕事……つまりリコリスとしての仕事の打ち合わせを行なっている。もしろんそれは、一般人である暁月蒼夜には聞かせてはならない内容でもある。

 

 依頼内容の記載が載ってあるであろうタブレットを振り回しながら、気分を変えて楽しそうに笑う千束。それを見てただ眺めているミズキ。本来、いつもならミカかミズキのどちらかが依頼内容を説明するが、何故か今回は千束が説明する事になっていた。

 

 座敷に腰掛けていたたきなも不思議に思ったのだろうか。疑問を抱く彼女はミズキに声をかける。

 

「ミズキさんが説明しないのですか?私、もう読みましたけど……」

 

「今回やたら乗り気なのよ〜あの子……」

 

「ちょ、ちょいちょいちょい、そこぉ!私語はしない!そしてそこのリス!……ゲームしてない?」

 

「ーーー聞いてるよ……」

 

 ——と、二階でVRゴーグルを被りつつ、コントローラーをカチャカチャ操作しながら凭れているクルミは返答する。

 

 クルミの返事を聞いた千束は一旦咳払いすると、タブレットに記載された依頼内容を音読し始めた。

 

「オッホン!それでは説明しよう〜!今回の依頼人は72歳男性、日本人!過去に妻子を何者かに殺害され、自分も命を狙われた為にアメリカで長らく避難していた。現在は……きん……き、き、きん……?」

 

筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)

 

 難しい漢字を読むのが苦手な千束の代わりにクルミがスラスラと読み上げた。

 

 

 ※ 分からない人に簡単に説明すれば、体を動かすのに必要な筋肉が徐々にやせていき、力が入らなくなってしまうという病気の症状。

 

 

「それって、自分で動けないのでは?」

 

「そう! 去年余命宣告を受けた事で最後に故郷である日本、それも東京を観て周りたいって〜」

 

「東京を観て周りたい、つまり観光ですか?」

 

「泣ける話でしょぉ〜!要するに、まだ命を狙われている可能性がある為、Bodygaurdします!」

 

「依頼はわかりましたけど………何故狙われているのですか?」

 

「それがさっぱり、大企業の重役で敵が多すぎるのよ。でも〜その分報酬はたっぷりだから〜」

 

「日本に来てすぐ狙われるとも思えないけどね。行く場所はこっちに任せるらしくて私がバッチリプランを考えるから!」

 

「千束、旅のしおりでも作ろうか?」

 

 

 パッチン!!!

 

 

「それだ!」

 

 指を鳴らした千束は、クルミからの提案を受けた。そうして話は纏った事で、その依頼人を迎える準備を始まったのであった。

 

 

 

 それから、たきなとミズキが帰った後、千束は畳のある客間で旅のしおりを作っている最中、パソコン作業をしているクルミは、ある事に気づく。

 

「…………なぁ、千束。」

 

「ん?なぁ〜にクルミ?」

 

「この旅のしおりに載っている”雷門“なんだが………」

 

「そうだよ、なんせ東京の観光スポットですからね!あ、もしかしてクルミも行きたいの〜?」

 

「いや、ただこの雷門………()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……………あ」

 

 クルミの口から出た言葉に、千束はペン動きを止める。あの事件………それは今から二ヶ月前に起きた“10式戦車改暴走事件“。この事件が起きた事で、東京の歴史的な建造物でもある雷門までもが、被害に遭ってしまった。恐らく、歴史的な建造好きのオタク達も悲しんでいるだろう。

 

 

 

※ 詳しくは、Episode 7 世界の変化にて

 

 

 

「あの後、なんとか修復してはいるが……それでもまだ完全に直ってないんだぞ。」

 

「あーーーーーだ、大丈夫!観光客が通れるようになったし!それに、雷門だけじゃなくても、他に行ける観光がいっぱいありますからね!」

 

「そ、そうか……」

 

 ——と、千束の口から聞かされた確証のない自身に、クルミはもうこれ以上何も言う必要はないなと、作業に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 そして、任務当日。

 

 依頼主がもうすぐ到着すると聞き、それから少しして店の前で車のエンジン音が聞こえた。依頼主だと直感したのか、千束は立ち上がって出迎えの準備を始める。

 

 そして、鈴の音と共に店の扉の開閉音が聞こえて、全員で来客を出迎えると……

 

「お待ちしておりました………ぁ」

 

 ——とここで、千束の言葉が途切れる。

 

 目の前には、サングラスの黒服の男に守られながら、ゆっくりと店の中に入ってきた車椅子の一人の老人。千束やたきなが依頼主のその姿を見た瞬間に固まって動けなかったが、ミカだけは変わらずの態度で挨拶を交わしていた。

 

「遠い所、ようこそ……」

 

『ーーー少し早かったですかね?楽しみだったもので』

 

 今回の依頼主ーーー松下(まつした)という名の老人から発せられた言葉は、車椅子の端につけられた酸素濃縮器のような機械と繋がっているタブレットから聞こえた合成音声だった。

 

「あっ……いえ、準備万端ですよ! 旅のしおりも完璧です!」

 

 あまり日常で見かけないその姿に周りが何も言えずにいる中、千束は慌てて昨日必死に考えて完成させた旅のしおりを松下に見せた。

 

「千束、データで渡そうか?」

 

「え? あっ……」

 

 しおりを見せた途端、クルミの気遣いを聞いた千束。最初は何の事か分からなかったが、松下の両手を見て力が全く入っていない事に気づき、その手ではしおりを持って開く事も出来ないと理解した。

 

『助かります。後はこの方達にお願いするので下がっていいですよ。』

 

 ——と松下にそう言われたSPは、リコリコを出て車に乗って走り去って行った。その間、クルミがしおりをデータ化して車椅子につけられた端末に送信する準備をしている間に千束達は松下と会話をしていた。

 

『今や機械に生かされているのです。おかしく思うでしょ?』

 

「いえいえ、そんな事ないですよ〜なんせ私も同じですから、ここに……」

 

 そう言って千束は、自身の胸の中心に両手でハートの形を作った。

 

『ペースメイカーですか?』

 

 

 

 

「いえ、()()()()()()なんです」

 

 

 

 

「ーーーーえっ?」

 

 

 千束の口から出た言葉に、たきなは思わず声を漏らし、クルミも思わず視線を千束の方に向いた。彼女の言葉に驚きを隠せなかったその反応は、二人はリコリコに入ってから何も聞かされていなかった事が判明した。

 

『人工心臓ですか?』

 

「アンタのは毛でも生えてんだろうね〜」

 

「機械に毛は生えねぇっての!」

 

 面白半分冗談を言うミズキの反応からするに、以前から知っていたらしい。だがやはり何も知らず、驚きを隠せないたきなは、固まった表情のまま千束を見つめていた。

 

「あの……ど、どういうーーー」

 

「よし、出来たぞ。」

 

 ミズキと千束が話してる所にたきながどういう事か説明を求めようとしてした途端、クルミの言葉で遮られた。

 

『おぉ、これは素晴らしい!』

 

「では、東京観光出発!」

 

 そう言って千束は依頼人である松下さんの車椅子を押して外へ出て行った。

 

「あの、千束の今の話って……「たきな、行くよ!」……あっ、は、はい!」

 

「ミズキ、車ー!」

 

 ミカやミズキに質問をしとうとしたたきなに千束が声をかけ、結局質問する事が出来なかったたきなは慌てて駆け出す。ミズキも後から続いて二人のその背を追おうとした、その時………

 

 

 

 

 〜カラン♪

 

 

 

 

「お、おは……よう……ご、ござい……ます……」

 

 偶然にも、リコリコに入ってきた蒼夜。だが………

 

 

 

 

 

「「「「「ーーーーえ?」」」」」

 

 

 まるで、“なんでここにいるの!?”と言っているような表情で、蒼夜の事を見た千束達は、思わず疑問の声を漏らした。

 

 

「ーーーーーーえ?」

 

 

 そんな彼女達の反応を見て、蒼夜も同じ反応をする。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「(店に入ったら、急に僕の事をめっちゃ見てるんですけど……もしかして……なんかやらかしたのか僕…………と言うか、このお爺ちゃん誰?しかも車椅子にめっちゃ機械がくっ付いているし…)」

 

 いつも通りの時間に出勤した蒼夜。だが、店に入った途端、千束達が驚いた表情で蒼夜に視線を集約させていた。当然、今回の依頼者である松下についても、蒼夜は何も聞かされていなかった。

 

 その時、驚いて固まっていた千束は、蒼夜の方にこっそりと近づく。

 

「ちょ、蒼夜君!なんでここに!?」

 

「え………きょ、今日………仕事が……あ、あるの……では…」

 

「ーーーえぇっ!?だって今日は()()()だよ!?」

 

「………え(そうなの)?」

 

「………え?」

 

 ——と千束は蒼夜と同じ反応し、今度はたきな達の方に近づく。そして”ちょい!みんな集合!”と小声で蒼夜と松下に聞こえないよう、彼女達は“ボソボソ”と呟き始めたのであった。

 

「ちょ、ちょいどう言う事!?」

 

「知りませんよ!どうして蒼夜さんが来たのですか!?」

 

「私だって知らないよ!たきなが伝えたんじゃないの!?」

 

「違います!ミズキさんが伝えたと……」

 

「私じゃないわよ!てっきりオッサンが伝えたんじゃ……」

 

「残念ながら違うな………クルミではないのか?」

 

「ボクでもないぞ。そもそも千束が言ったんじゃなのか?」

 

「いやいや、だからたきなが……」

 

「「「「「……………ん?」」」」」

 

 あれこれ話し合う中、何かがおかしいと気づく。そもそも本来、今日は“表向きとして”リコリコの定休日であったはず。しかし、何故か蒼夜が来てしまい、加えて“何も聞かされていない”と答える。つまり……

 

 

「「「「「(ーーー完全に言うの忘れてたぁ……)」」」」」

 

 

 どうやら千束達は、蒼夜に定休日がある事を伝え忘れてしまったらしい。それに気がついた時、蒼夜は彼女達に近づき、相変わらず足りない言葉で疑問の声をかける。

 

「あ、あの………」

 

「えぇ!?あ、あぁ〜……え、えっと〜……」

 

「………はぁ……暁月君、そこから私が説明するよ。」

 

 疑問を問われ、なんて答えればいいのか困惑する千束。そんな彼女が嘘をつけない事をよく知っているミカは、彼女の代わりに蒼夜の問いに答える事になった。

 

 “余命宣告を受けた松下に東京の観光案内をさせる”と、答えるミカ。もちろん、“命を狙ってくる殺し屋から護るとしての護衛”については流石に答えておらず、ミカなりに誤魔化す事ができた。

 

「な……なる……ほど……」

 

「そ、そうそう!だから今日は……」

 

『あの……』

 

 “もう帰っていいよ”と千束が言う前に、車椅子の老人……松下が、突如会話の間に割って入ってきた。すると次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

『蒼夜さん……と言ったかな……()()()()()()()()()()()()()?』

 

 

 

「「「「「ーーーーーえ?」」」」」

 

 

 

 

「(ーーーえ?)」

 

 

 松下の口から出た言葉に、驚きを隠せなかった千束達。突然自分の事を呼ばれた蒼夜も少し驚いたが、松下は気にせず、会話を続けるのだった。

 

『よければ……君にも一緒に観光をお願いできませんか?』

 

「………(え、もしかして誘われているの僕?)」

 

『人数は多い方が楽しいですし、何より()()()()()()()()()()と色々と助かりますが……』

 

「……ご、ご……えい?」

 

「あ!い、いや……その………」

 

 松下の言葉に違和感を感じた蒼夜に、何かを誤魔化そうとする千束。

 

 恐らく松下は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一体どう説明すればいいのか分からない千束は、助けを求めているかのようにミカへと視線を向ける。

 

 だが、流石のミカも考える様に腕を組んで眉を寄せていた。ミカだけではなく、たきな達も“一体どうすればいいんだこれ!?“と言わんばかりな顔で慌てている。

 

 すると千束は、まだ迷っている表情いるのか、自身のない言葉で松下の提案を断ろうした時………

 

「ま、松下さん……えっと……ですね……彼は………」

 

「………ます……」

 

「………え?」

 

「ぼ、僕……も……い、行き……ま、ます……」

 

「「「「「ーーーっ!?」」」」」

 

 ——と返事を返した蒼夜に、思わず千束やたきな達は驚くほど目を剥く。

 

 

 

『おぉ、本当ですか………』

 

「……は、はい……(まぁ、帰ってもMSを造る以外暇だし……それに、観光の手伝うくらいなら大丈夫でしょ……)」

 

 アパートに帰ってもやる事がない蒼夜は、彼女達の観光案内を手伝おうと決めた。もちろん、その松下が“殺し屋に狙われている”と、まだ気づいていない。

 

 

 

「(ちょ、た、たきな!ど、どうしよう〜)」

 

「(そ、そんな事言われてもっ!)」

 

 

 だが、千束達はそれを良しとしなかった……

 

 リコリコメンバーにとって暁月蒼夜は、一人の仕事仲間でもありながら、()()()()()()。もちろん喫茶店の仕事以外でも、保育園や日本語学校の臨時講師などの手伝いをして貰ってはいるが、今回の仕事に関しては、流石に参加させる事ができない。

 

 表ではただの東京の観光案内だが、裏では松下の護衛。当然、千束とたきなの鞄には本物の銃が入っている。もしも殺し屋との銃撃戦が起きてしまったら、最悪蒼夜にも巻き込んでしまう恐れもある。

 

「そ、蒼夜君……そ、その……」

 

 だからこそ、なんとか蒼夜を今回の仕事から遠さげようとする千束だが、上手く誤魔化せる言葉が見つからない。無論、同じくたきなも困惑していた。

 

「店長……一体、どうすれば……」

 

「…………」

 

 結局、どうしたらいいのか分からなくなってしまったたきなは、ミカに助けを求める。普通なら、一般人にこのような裏の仕事を巻き込ませてはならない。だが、既に松下は蒼夜の事を護衛の人だと勘違いしており、否定すればリコリコの信用を関わる可能性だってある。悩み続けた結果、ミカが出した答えは……

 

 

 

 

 

「………..暁月君、松下さんの事を頼んだよ……」

 

 

 

 

「「せ、先生(店長)!?」」

 

「は……はい……」

 

 ミカの口から出た答えに、千束とたきなは驚きを隠せなかった。

 

「(よっし、なら頑張りますか…)で、では……お、おしま……す……」

 

『あぁ、よろしくお願いします……』

 

「あ、ちょ、ちょっと〜!」

 

「ま、待ってください!」

 

 早速蒼夜は、千束の代わりに松下の車椅子を押し、店を出ていく。それを見た千束とたきなも、慌てて後を追う。

 

 一方、監視ドローンの担当を任されたクルミと、運転手の担当であるミズキは、先程の答えを出したミカに問い出す。

 

 

「ちょ、ちょっとオッサン!いいのあれ!?どう考えてもダメだろ!」

 

「まぁ………千束とたきなに任せれば良いだろう……」

 

「千束の心臓についてもそうだが………蒼夜は良いのか?今のは流石に大人として失格だぞ……」

 

「……あぁ、心底不安になるよ……」

 

 自身が出した答えに、後悔するミカ。再び頭を抱えるミカは、彼らに最悪の事態が起こらない事を祈るしか無かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 時系列的には、原作リコリコの第5話ですね。

 いつも感想、評価、そして誤字報告など、ありがとうございます!

 次回もお楽しみに!


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Episode 21 観光や旅行に行く時は、迷子にならないように気をつけよう!




 新作ビルドシリーズ、10月に放送開始『ガンダムビルドメタバース』、いよいよ残り、一ヶ月ですね!

 一応復習しようと、過去のビルドシリーズを見返ししました。

 個人的には、ビルドダイバーズリライズがお好みですね!皆さんはどのビルドシリーズがお好きですか?


 それでは本編へ!


 

 

 

 

 

 

 

『これは予想外でしたねぇ……』

 

「墨田区周辺は何本も川に囲まれてて、都心を水上バスで色んなところに渋滞を気にせず移動できるんです!」

 

 リコリコから出発してから現在、蒼夜、千束、たきな、そして松下の四人が、東京の水辺ラインを跨ぐ船……()()()()の上に乗船している。

 

 そもそも、ミズキの車に乗っていたはずの蒼夜達は、何故水上バスに乗船しているのか。既に千束達は、ミズキの車から降りており、これも千束の観光プランの内一つであった。路上だけではなく水上での移動を利用しようと考えていた。

 

 ちなみに車の運転担当であるミズキは、万が一の為の逃走ルートを確保する為、車で別行動している。

 

 そんなこんなで、水上から眺められる浅草の下町の風景を楽しみつつ、橋げたを潜り抜けた時、とある崩壊してある塔が松下の目に入る。それは、平和の象徴として残されている塔……旧電波塔(きゅうでんぱとう)

 

 

『やはり……折れてしまってますねぇ……』

 

「折れてないのを見た事あるんですか?」

 

『いえ、東京に来るのは初めてで……娘と約束してたんです……“一緒に見上げよう、首が痛くなるまで”……って……これで、あの世で土産話ができる……』

 

「まだまだぁ〜!始まったばっかりですよぉ〜?」

 

 

 

 どこか寂しそうに語る松下に、顔を寄せて満面の笑みを見せる千束。

 

「あ、松下さん!もうそろそろ目的地に到着しますよ!たきな、蒼夜君!もう降りるy……てあれ?たきな、蒼夜君は?」

 

「………えっ?」

 

「………えぇ嘘!?た、たきな!蒼夜君を探さないと!」

 

 水上バスから降りる準備を進めようと千束が二人に声をかけようと振り返ったら、いつの間にか蒼夜がいなくなっていた。すぐに蒼夜を探そうと彼女達は、慌てて辺りを見渡すと……

 

「ど、どこに………あ!いました!」

 

「えぇ!?……あ、よかった〜」

 

 探してから数分後、すぐに蒼夜を発見した千束とたきな。ちなみに蒼夜は、少し離れた所で、興味津々な表情で旧電波塔を眺めていた。

 

「(おぉ〜、これが旧電波塔かぁ………改めて見るとなんであんな形をしているのに、残しているのかが不思議なんだよなぁ……う〜ん……気になるなぁ……後でヴェーダに調べてm…「蒼夜さん!何やっているのですか!?」…ふぇ!?」

 

「もうすぐ目的地に着きますから、降りる準備しますよ!」

 

「(……やっべ、完全にぼーっとしてた……)す、すす……みま……せん!」

 

「い、いえ……あの、そこまで謝らなくても大丈夫ですので……急いで千束達の所へ戻りましょう。」

 

「は……はい!」

 

 たきなに呼ばれた蒼夜は、慌てて千束達の方へ戻る。

 

「もう蒼夜君!黙ってどっか行かないでよね!迷子になると危ないよ!」

 

「……す……すみま…せん……でし……た……」

 

「ちょ……そ、そこまで謝らなくていいよ〜蒼夜君……」

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分くらいが経ち、場所は変わって、浅草の浅草寺……

 

 

 

 最初の目的地に到着した千束達。目の前には、“雷門”と書かれた巨大な提灯が多くの観光客を出迎えるかの如く、そこへ続く道も人混みであり、気を抜けば固まって歩いている自分達も逸れてしまいそうだった。

 

 しかし、その巨大な門の周りには、『工事中』と書かれてある立て看板が置いてあった。よく見ると、所々に工事現場用のカバーシートが被せてあるのが目に入る。

 

 ハッキリ言って今の雷門を観光として向かうという雰囲気ではない。

 

 

『おやおや、どうやら修繕工事を行なっているみたいですね…』

 

「あ、あはは……そ、そうですね〜〜〜」

 

 

「ちょっと千束……ここって、まだ修繕中じゃないですか!?」コソコソ

 

「し、仕方がないよたきな!だってこれしか思いつかなかったんだもん!」コソコソ

 

 

『あの……どうかしましたか?』

 

「い、いえいえ!何でもありませんよ松下さん!」

 

 

 たきなにこっそりと話しかけられた千束は、慌てて視線を松下の方に戻す。気を取り直して、自身が浅草寺に関する知識を松下へと披露する。

 

「正式名称は“風雷神門”。創建年数は西暦942年!左に雷神、右には風神、浅草寺を災害や争いから守ってくれる神様……あ、つまりガードマンですね!私とたきなと同じ!私達は、松下さん専属〜♪」

 

『なるほど……可愛い神様ですねぇ……』

 

 ——と、松下からのそれを聞いて嬉しそうに笑う千束。何よりたきなが驚いたのは、彼女の持つ豊富な知識。恐らく事前に予習していたのだろうが、目を丸くしながらたきなは、話し掛けよう千束に近づく。

 

「ん?どうしたのたきな?」

 

「千束……本当に凄いですね……よく知っていますね…」

 

「……凄いか……ふ、ふっふ〜!そうでしょ〜」

 

 たきなに言われ、更に自慢しようと満面な笑顔で胸を張る千束。それから雷門を通り、商店街へ向かう千束達。

 

「す、凄い人……ですね……」

 

 商店街を目にしたたきなは、観光客が多い人混みに目を見開いてしまう。ネットニュースやテレビ番組などで何度か観た事はあるが、実際の目で見ると、下手すれば千束達とはぐれてしまう可能性も高い。

 

「あちゃ〜人多いねぇ……たきな、蒼夜君。迷子にならないで……

 

 

 

 

 

……って!蒼夜君がいない!?」

 

 

 

「────えっ!?」

 

 はぐれないよう千束が二人に注意を呼びかけた途端、いつの間にか蒼夜だけがいなくなってしまった。先程の水上バスと同じく、これで2度目である。千束とたきなは、急いで慌てて彼を探すよう辺りを見渡すと……

 

「ちょ!蒼夜君どこに………あ!いた!」

 

 

 

 

 

「(おぉ……これが浅草で最も古い商店街……前世の世界でもそうだけど……店も多いし……それにやっぱり、人が多いな…)」

 

 その頃、商店街の光景を眺める蒼夜は、人混みの多さに内心で驚愕してしまう。商店街での観光を巡る人々の中には、日本人だけでなく、多くの外国人も観光を楽しんでいるのも、視界に入る。

 

「(凄いな浅草………でもこういう場所って、()()()()()()()()()()()()()……)」

 

 

 

 

 

 

蒼夜さん!

 

 

「は、はい!?」

 

「何しているのですか!?はぐれたら危ないですよ!」

 

「す……すみ……ま、ません!(ヤベェ……またぼーっとしてたぁ……)」

 

「ーーーーーはぁ……」

 

 

 

 ーガシ

 

 

 

「…………え?」

 

「とりあえず、千束のところへ向かいますよ。」

 

「た、たき…な……さん……」

 

「一応、またはぐれたら困りますので、絶対に離さないようにお願いします!」

 

「あ……あの……」

 

「確か、千束と松下さんがいるのは……浅草寺の前でしたね……少し人混みが多いですけど……頑張って行きますよ、蒼夜さん!」

 

「いや……そ、その……(て、手ェェェ〜〜〜)」

 

 今度こそはぐれさせないように、蒼夜の手を離さず、繋いだまま千束と松下のところに合流するたきな。ちなみに蒼夜は、千束に続き二人目の少女……たきなと初めて手を繋いだ時、驚愕の顔をしていた。

 

 その後、何とか浅草寺に合流する事ができた二人。その時蒼夜は、千束に「もう!迷子になったら危ないよ!」と、叱られてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に千束達が浅草で行われている祭りに向かう中、リコリコで留守をしているミカとクルミは、ドローンから映されている映像を観ている。

 

 

「あれだけ運動して問題のない人工心臓があるとは……DA技術開発部のサーバーをのぞいてみたいな……」

 

 ───と呟くクルミに対して、ミカは……

 

「………覗いても無駄だよ。あれはDAの技術じゃない……」

 

「ん………ということは………()()()()()()~?」

 

 クルミは映されている映像をズームする。画面越しに映っているのは、千束が首にかけている()()()()()()()()()()

 

 

 

「ほっほ〜……噂のアラン機関。こいつが千束の心臓を提供している……ということか……」

 

「………君に秘密は通じないか」

 

「つまり命と引き換えに、()()()()使()()を与えられたわけだ。ミカ、千束の使命はなんだ?」

 

「………それは、千束が決めることだ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

『……あれが……“延空木(えんくうぼ)”ですか……』

 

「はい!なんと11月には完成らしいですよ!」

 

『そうなのですね……実は、知り合いが設計に関わってるんです。』

 

「ええっ!?凄っ!」

 

『そう、彼は未来に凄いものを残してる……』

 

 

 浅草寺でのガイドを終え、松下の車椅子を押す係を3人で交代しながら、途中で祭りが開催している場所に向かった蒼夜達。その時に行っている射的で大人げなく多くの景品を総どりした千束は、近くにいた子供達に景品を分けたり、屋台で売っている飴りんごやお面をなどを買ったり、もはや“護衛”の仕事を忘れているのではないかと、松下との観光を楽しんでいた。

 

 そしてその後、現在彼らは再び水上バスを乗船している。沖を走っていると、建設中の電波塔“延空木”が視界に入る。新しく平和の象徴となる予定の塔は、遠目から見ると、まるで空へと打ち上がるロケットのような形を表していた。

 

「じゃあ〜完成したら見に来て下さいね!またご案内しますよ!」

 

『……ええ、またお願いします……君は素晴らしいガイドだからね……』

 

 車椅子を動かし、千束へと向けて松下がそう告げる。そんな言葉を聞いた千束は、心底嬉しそうに小さく微笑んでいた。

 

『それにしても……今日は暑いですね……少し中で休ませて貰います…』

 

「あ!じゃあ到着前に迎えに行きますね!」

 

『えぇ……ありがとう……』

 

 千束にそう感謝を述べて、松下はそのままクーラーが効いている船内へと向かった。松下が船内へ向かったのを確認した千束は、目の前にあるベンチに座り込む。

 

「どうぞ。」

 

「お!ありがとぉ〜!」

 

 “どういたしまして”、と自動販売機で買ってきた缶ジュースを千束に差し出し、軽く微笑んでから千束の横に腰掛けるたきな。

 

「ねぇねぇ聞いた!?私、良いガイドだって♪才能あるかも〜」

 

「確かに、喜んで貰えているみたいですね。ですが千束、依頼者の警護が優先ですよ……それに、蒼夜さんも……」

 

「…っ……うん、そうだね……そうだった……」

 

 東京での観光を楽しんでしまったせいか、一瞬だけ仕事を忘れてしまうところだった。たきなのおかげですぐに思い出し、水上バスから東京の街を眺める姿の蒼夜を見つめる。

 

 

 

 

 

「……千束………さっきの話なんですけど………蒼夜さん、本当に“()()()()()()()()()()()()()()()()()”?」

 

「うん……本当らしいよ……」

 

 同じく蒼夜を見つめるたきながそう語ると、千束は、蒼夜との会話を思い出す。それは、水上バスに乗る前……祭りで行われていた盆踊りを松下に見せた時の頃だった……

 

 

 

 

 

 

 数分前……

 

 

 

「ねぇ、蒼夜君……どうしてあんな事を?」

 

「(………え?)」

 

「ほら、時々どっかに行っちゃったりさ……」

 

「あ……そ、その………本当に……す、すみま……せん……でした……」

 

「いやいや、そこまで謝らなくていいよ!ただ……なんでそんな事をしたのかな……と不思議に思っちゃったからさ……」

 

 松下の車椅子を押す係をたきなと交代した千束は、先程不可解な行動をしている蒼夜に疑問を尋ねる。

 

「あ!もちろん言わなくt……」

 

 

 

 

「………ない……から……」

 

 

 

 

 

「……へぇ?」

 

「い……行った……こと……ない……から………」

 

「───えぇ!?そ、そうなの!?なんで………ぁ……」

 

 蒼夜の口から聞こえたその答えに一瞬理解ができなかった千束は、すぐに分かった。“彼には家族がいない”……その言葉が脳内に再び現れ、思わず申し訳なさそうな顔を浮かべる。

 

「ご、ごめん……その……」

 

「いえ……その……大丈……夫なの……で…(そういえば、前世の世界でも……おじいちゃんやおばあちゃんに言われたっけな……“一緒に観光や旅行でもへ行こう”……って…)」

 

 同じく蒼夜もある記憶を思い出す。それは前世の記憶であり、自分を育ててくれた祖父母の顔が浮かび上がる。“今度、どこかみんなで楽しく行こう”と、そう言われた記憶があったが、その後に祖父母は亡くなってしまい、結局観光どころか、旅行すらも行けなくなってしまった。

 

 だからこそ、旅行など行った事がない蒼夜にとって、自然にどこかへ見回ったりしていた。つまり、これが……暁月蒼夜にとって、初の観光である……

 

「(おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなった後……観光どころか、旅行へ行く機会無かったんだっけ……そういえば、学校に修学旅行も行った事すらないんだよな……)」

 

 

 

 

「(ーーーーあ、あれ……なんかすっごい悲しい顔しているけど……もしかして私、蒼夜君に嫌な思いをさせちゃったのかな!?)」

 

 

 

 どこか悲しそうな表情をしている蒼夜を見て、内心で慌てる千束。何とか話題を変えて話そうとするが、話せる内容が一つも無かったのか、結局水上バスに乗るまで、お互いに一言も喋らなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんな事を言っちゃってからさ、お互い全然喋らなくなったんだよね………はぁ〜……もしかして私、嫌われちゃったのかな……」

 

「千束……そんな事ありませんよ。それに、蒼夜さんは千束の事を嫌いになったりしませんよ。」

 

「うぅ〜……だと良いけど……」

 

 たきなに励まされた千束は、手元に持っている缶ジュースを一気に飲み干す。その時、朝から気になっていた疑問を千束に問いかけるたきな。

 

「……千束……」

 

「……ん?」

 

()()()()………本当の話なんですか?」

 

「今朝……あぁ、胸の事?うん、本当だよ。鼓動無くてビックリしたけど、凄いのよぉ〜これ!」

 

 ——と、軽く話しながら、千束は自身の胸元を指先で突く。すると気になっていたのか、“本当に鼓動が無いのか確かめたい”、と内心で思ったたきなは、思わず自身の左腕を千束の胸元へと伸ばす。すると、それに気付いた千束が、頬を赤らめて胸元を両手で隠した。

 

 

「うぇっ!?ちょ、ちょいちょいちょい!!!」

 

 

 

「確かめようと思って……」

 

 

 

「良いけど、公衆の面前で乳を触るな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(はぁ…………)」

 

 一方、東京の街を眺めながら、バスに乗る前の千束とのやり取りを思い出しながら、ため息を吐く蒼夜。あれから千束と喋らなくなってしまい、自分は彼女に何かまずい事をしてしまったのだろうかと、内心で思い返す蒼夜。

 

「(もしかして………結構まずい事言っちゃったりして……それなら千束さん……たきなさんにも……本当に申し訳ない事したなぁ………ん?)」

 

 内心でそう思いつつ、東京の街を眺めている蒼夜は、何かに気づいた。

 

 

「(…………あれって?)」

 

「蒼夜君!もう行くよ!」

 

 

 

 

「は、はい!(気のせいかな………今、向こうの道路から誰かに見られたような……)」

 

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 水上バスから降り、しおり通りに次の目的地を目指す千束達。

 

 一方、リコリコに残っているクルミとミカは、ドローンからの映像を眺めながら、彼女達を見守っている。だがその時、彼女達を遠くから追尾する黒い影の人物を捕捉した。

 

 ドローンの映像から確認すると、真夏にも関わらず全身黒の装束で覆われ、頭にはフルフェイスを被ってバイクで走行している。

 

 クルミは、急いでその人物を特定し、検索した情報を通信越しで千束とたきなに共有する。

 

「二人とも、ここで朗報だ。さっきからついて来てる奴………暗殺者・ジン。その静かな仕事振りから“サイレント・ジン”とか呼ばれてる、ベテランの殺し屋だとさ。」

 

「サイレント!」

 

「………ミカ、知り合いか?」

 

「………十五年前まで、警備会社で共に裏の仕事を担当していた。私がリコリスの訓練教官にスカウトされる前だ。」

 

「ほう………どんな奴だ?」

 

「“サイレント”……確かに声を一度も聞いた事が無いな……千束、たきな、気をつけろ……奴は間違いなく()()()()()()だ。」

 

『『……っ!』』

 

 “本物の暗殺者”……その言葉だけで、インカム越しで息を呑む千束とたきな。

 

『三十メートル先に確認。こっちは顔がバレてない、発信機付けに行くよ…』

 

 その時、別行動だったミズキから連絡が入る。クルミがドローンを操作しつつ、確認できたのは、遠くからジンを車で追跡するミズキの車。しかし、ジンの姿を確認できず、同じくドローンを操作しているミズキの方に訊ねる。

 

「……上から確認できない……ミズキの方からは?」

 

『えぇ、柱の横で止まっ…………あ』

 

 

 

 

 

 

バン!

 

 

 

 

 

 

 

 

ザ─────

 

 

 その時、ミズキが使用しているドローンのカメラに向かって銃を突き付けるジンの姿が映った。だがその直後、銃声音と共にカメラの視界が突如ブラックアウトしてしまう。

 

『クソッ!バレてる!』

 

「ジンはマズイな……」

 

「マジか……二人とも、予定変更だ。避難させて此方から一人打って出るべきだ。予備のドローンとミズキでジンを見付け次第……攻撃に出る。」

 

『そっちが美術館出たら車回すよ!』

 

『……うん分かった。ミズキ、気を付けて……』

 

 二人の指示を聞いた千束は、真剣な声で返事を返す。そしてクルミは、再びミズキへと通信を飛ばす。現在ミズキは、予備のドローンが置いてある場所に向かっている。クルミは“もしもの為”にすぐ使用できるようにと、車の停車位置の近くに置くように設置しておいた。

 

「ミズキ急げ、ドローンが無きゃ何もできないぞ〜」

 

『はぁ!はぁ!……あ、アンタも、現場に来てサポートしなさい……うぐっ!?

 

「……おいミズキ、どうした?」

 

『じ、ジンだ!ジンが────誰か!──い!──』

 

「ミズキ………おいミズキ、返事しろ!」

 

『──────』

 

 

 バキ!!!

 

 

 

 すると突如、通信越しからひび割れ音が響き、ミズキとの通信が完全に途絶えられてしまった。恐らくミズキは、ジンに見つかってしまい、向こうで何かあったに違いない。

 

 

「っ……クルミ、予備のドローンは!?」

 

「……電源が入ってない…………チッ!」

 

 舌打ちをしながらクルミは、その場から飛び降り、手元のドローンに電源を入れる。そしてそのまま店の客間へと駆け出し、窓からドローンを放り投げた。

 

 投げられたドローンは、そのままプログラミングされた方角へと浮上していく。それを見届けたクルミは、急いでモニターの方へ戻る。

 

「クルミ!チャンネルを変えて二人に連絡だ!」

 

「あぁ、分かってるよ!」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『……ミズキと連絡が途絶えた……ジンが仕掛けてくるぞ……』

 

「……っ」

 

 美術館に到着し、インカム越しから聞こえたミカからの報告で、千束とたきなは気を引き締める。本当は今すぐにでも探しに行きたいが、今はそんな事をしている場合ではないとすぐに思い出し、彼女達はミズキの無事を祈るしかなかった。任務はまだ続いており、暗殺者が今どこにいるのかも不明である。

 

「……あ、あの………どうか……し、しま…した?」

 

「っ……う、ううん、何でもないよ!」

 

「そ、そうです!」

 

 自分達の事を心配してくれたのか、千束とたきなは、誤魔化しながら慌てて返事を返す。彼女達にとって蒼夜を戦いに巻き込ませたくない。

 

 だが、いつジンがこっちにやってくるのかも分からない。それに、ミズキが車を持って来れない以上、護衛対象である松下を放って置く訳にもいかない。一体この状況をどうすればいいのか、と千束が内心で思案していた時………

 

「………千束、私に任せて下さい。」

 

「えっ?ちょ、ちょっとたきな!?」

 

 すると、何か思いついたたきながどこかへ飛び出す。その時、蒼夜と松下も気になったのだろう、千束に疑問の声を掛ける。

 

「……あ、あの……」

 

『……どうしました?』

 

「えっ……えっと……あ!と、トイレに行ってくるみたいです〜」

 

 

 

 

 

 

「クルミ、ジンは?」

 

『まだ見つかっていない……屋内の監視カメラの映像を顔認証にかける。野外は予備のドローンを向かわせたから、十分後には解析を始められる…』

 

「あの……ミズキさんは?」

 

『五百メートル離れた場所で連絡が途絶えたままだ。美術館の入口はデパートの通路側だから、館内のカメラで確認する。たきなは出口側に向かって目視で見張ってくれ。』

 

「目視で確認してますが、まだ何も…」

 

 千束達と離れたたきなは、クルミの指示を従いながら出口側の窓に到着する。窓からジンを探しているが、出てくる客が多いせいで、ジンらしき姿が確認できない。

 

 たきなは、鞄を盾の様に抱えながら待機していると、インカム越しかたら驚いたかの声で、再びクルミからの通信が入る。

 

 

 

『ちょっと待て……ミズキの奴、ジンに発信器をつけていたようだ!反応を拾えた、死んでもこっちに情報残したぞ!』

 

 

 

『まだ死んだと決まったわけではないんだが……』

 

「(このリス……人の心を持っていないのですか……)」

 

 ミズキに対して、あまりにもひどいクルミの言い草に、ミカと一緒に思わず内心でツッコミを入れるたきな。気を取り直し、クルミに状況を確認させる。

 

 

 

「それで……位置は?」

 

『もう美術館に来てる』

 

「っ……外ですか、中ですか」

 

 早過ぎる……流石、“サイレント・ジン”の異名通りの暗殺者。まさに殺しのプロと認めざるを得ない。

 

 額から汗が止まらない……いつでも鞄から拳銃を取り出せるように待機し、クルミの指示を待つと……

 

 

 

 

 

『────後ろだ、たきな』

 

 

 

「─────っ!?」

 

 

 

バン!

 

 

 

 その瞬間、たきなが咄嗟に頭を下げたのと同時に、銃声が響いた。

 

 先程まで自分の頭があった位置が銃弾で粉砕し、砂色の煙が舞うその隙に、回避しながら銃を構え、背後にいた存在……ジンに向けて躊躇無く引き金を引いた。

 

 

キン!キン!キン!

 

 

「……なっ!?」

 

 三発連射で、ジンの右腕に被弾した。だが、その全てがまるで金属に弾かれたかのように、火花を散らす。

 

「───っ!」

 

 ジンは舌打ちしつつ銃を向けながら、たきなと自身の間にある通路へと逃げ込む。

 

「コートが防弾です!」

 

『了解、そのまま千束達から引き離せ……今、扉を出て右に走って行ったぞ…』

 

「はい!」

 

 インカム越しでクルミの指示に従いながら、追いかけるように駆け出すたきな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『千束、朗報だ。ミズキは無事だぞ…』 

 

「本当!?よ、よかったぁ〜」

 

『今ミズキはそっちに向かっている。千束、迎えがきたら、暁月君と松下さんと一緒に店に戻ってこい。』

 

「うん、分かった。」

 

 たきながジンを追っている頃、千束は電車を使って店に戻ろうと、二人を護衛しながら東京駅のホームに辿り着いた。

 

 その時、インカム越しから連絡不在だったミズキが無事であるとクルミ達からの報告を受けた千束は、一安心する。

 

「ち、千束……さん……も、もう……すぐ……電車……きま……す……」

 

「そっか……うん、ありがとう蒼夜君。」

 

 ミカ達と連絡をとっている間に、電車が来るのを確認してくれた蒼夜に礼を言う千束。“後はリコリコに戻るだけだ”、と思った彼女は、松下にも伝えようとしたら………

 

「松下さん、もうすぐ電車がきm……………あれ……松下さん……」

 

「…………え?」

 

 二人が振り返った瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()。恐らく、二人が目を離していた隙に、松下はどこかに移動してしまったのかもしれない。

 

「松下さん………ど、どこに……」

 

「す、すみま………せ、せん……ぼ、僕……が……み、みて……な…い……」

 

「だ、大丈夫だよ蒼夜君!全然攻めないから!と、とにかく、一緒n………っ」

 

 

 

 “一緒に探そう”……そう言おうとした瞬間、その場で佇む千束。

 

 

 

 

「…………」

 

「ち、千束………さん?」

 

「…………ごめん蒼夜君………先に帰ってくれる……」

 

「…………え?」

 

「松下さんの事は、私に任せて………」

 

「で、でも………」

 

 

 

 

 

 

「お願い!!!」

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 

「ありがとう……でも!本当に大丈夫だから!とにかく、先に帰って!」

 

 一般人である蒼夜を巻き込ませたくない……そう思考した千束は、自分でなんとか松下を探しに駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

「(どこだ………どこに行った!?)」

 

 

 一方その頃、ジンを追っていたはずのたきなは、険しい表情で探し続けている。

 

 ついさっきまで、ジンをようやう追い付いたと思い、相手に気取られないよう隠れていた場所に向かって、すぐに銃を突きつけた。

 

 だが、そこには肝心のジンがおらず、来ていた防弾コートのみが残されていた。“まさか!”、とたきなは、慌ててそのコートを確認すると、襟元には小さく点滅する発信器。それが、ミズキが付けていた物だと、すぐに分かった。

 

 

 ────やられた!

 

 

 

 そう語ったたきなは、完全にジンを見失ってしまったのだ。

 

 

 

「(このままでは……千束達が危ない!)」

 

 クルミからの新たな連絡が無く、未だにジンを見つけていない。もしかしたら、既にジンは千束達に接触してしまったのかもしれない……考えるだけで、恐ろしく感じたたきなは、慌ててジンを必死に探し続けている。

 

 

「(一体、どこに………ぁ)」

 

 

 

 ーーとその時、たきなは“それ”を目撃する。

 

 東京駅の屋根の上。改修工事途中の足場の先に、巨大な時計の真上で、風で長髪を揺らしながら、サプレッサー付きの拳銃を下に向けて構えるジンの姿………

 

 

 

 

 

 その拳銃の先には………千束と松下の姿が見えた……

 

 

 

 

 

「───だめっ!!!」

 

 

 目を見開き、何も考えず足を動かすたきな。一気に走りだし、ジンの元に向かいながら、叫ぶように彼女を呼ぶ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千束、逃げて!!!!!」

 

 

「────っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

バン!

 

 

 

 

キン!

 

 

 

 狙い撃とうとするジンの拳銃をたきなが一発で命中させ、同時に放ったジンの弾丸はズレてしまい、松下の車椅子の取っ手に直撃する。

 

 そして、そのまま体勢を崩さないままの勢いで、ジンに体当たりするたきな。だがその勢いを付けてしまったせいで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

た、たきなああああぁぁぁぁああ!!

 

 

 

 その時、千束はたまらずたきなに叫んでいた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドォォォォン!!!

 

 

 

 

「うっ、………けっほ…!」

 

 ジンと共に工事現場へと落下したたきなは、背中の痛みによって、まともに声が出せず、むせてしまう。どうやらたきなは、工事でよく使われる土嚢を積み上げていた所に落ちたらしく、土嚢がクッション代わりのおかげで、幸いにも酷い外傷は見当たらない。

 

 何とか体勢を立て直そうと、体を起こそうとした時………右手に握っていたはずの拳銃が無いに気づく……

 

 

「しまっ…!」

 

 

 

 パシュッ!パシュッ!

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

 拳銃を探そうとした瞬間、空気の抜けるような発砲音が数発聞こえた。

 

 

 

ーーーーー間違いない……ジンだ。

 

 

 

 そう思い、自身の拳銃を探すのを諦めたたきなは、必死に逃げる。急いでコンテナに紛れる様に駆け出し、坂を下ってその身を隠す。

 

「(恐らく……ジンは私を殺す気だ………なら!)……千束!松下さんを避難させてください!」

 

 インカムで千束にそう伝えると、その場から走り出すたきな。

 

 松下の暗殺を邪魔した自分を標的に変更し、殺しにかかるだろう……そう考えたたきなは、千束達がこの場から撤退する為の時間稼ぎとして、自ら囮として、ジンを引きつけようとしていた。

 

 ジンの銃撃を回避しながら、建築途中の改修部分の物陰に隠れ続けながら、再び移動するの繰り返し。だがそれでも、銃撃は止む事なく更に激しくなってきた。

 

 

 

「(よっし!このまま引きつれば……後はっ!)」

 

 

 

 今の所、順調…………と思ったその時………

 

 

 

 

 

 

 パシュッ!!!

 

 

 

 

 

 再び銃声を耳に聞こえた瞬間、弾丸の一つが、()()()()()()()()()()………

 

 

 

「────うぐっ!」

 

 

 急にやってきた痛みで足が縺れ、その場で体勢を崩してしまった。敵からの容赦の無い銃弾の雨は止まず、たきなの息の根を止めに来る。痛みを我慢しながら体勢を起こし、動かない足を引き摺りながら、なんとか近くのコンテナの物陰に隠れる事に成功した。

 

 

 

「(…………い、痛い……)」

 

 

 

 このままでは……殺されてしまう……

 

 

 その時、足の痛みを感じながら、たきなは思った。もしもここでジンを再び見失えば、今度こそ千束達が狙われる。それに、そこにミズキや蒼夜が近くにいたら、彼らも危ない……

 

 “それだけは絶対に阻止したい”っと、ジンを引きつける為たきなは、無理に立ちあがろうとした時………

 

 

 

 

 

カン!

 

 

 

 鉄骨を駆け抜く音が聞こえた………

 

 

 

 

 

「──────ぁ」

 

 

 

 

 その音に反応したたきなは、見上げた瞬間………そこには、ジンの姿が見えていた……

 

 

 

 ジンは、工事によって組み立てられた鉄骨によって敷き詰められた床を利用して上に登り、物陰に隠れたたきなを見つけた瞬間、銃口を向ける。

 

 逃げようにも隠れようにも、ジンの射程距離から推測すれば、もう間に合わない。

 

 その銃口が、ジンが、たきなの頭蓋を狙い撃とうとする。

 

 追い詰められたと思い込むたきなに、ジンは引き金を引こうと…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………したその時………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───っ!?」

 

 

 

 

 

 

 銃声と共に、ジンの足元に火花が散らす。それに反応したジンは、素早くたきなから視線を変え、銃声が聞こえた方に目を向ける。

 

 

 

 その時、ジンが立っていた地面から……()()()が出てきた……

 

 

 

 

 

「(あの赤いのは………千束の!)」

 

 

 

 

 “千束が来てくれた!?”……そう思ったたきなは、ジンと同じ方向に目を向けると…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────え?」

 

 

 

 

 

 予想外な表情を出すたきな。なぜならそこには、“千束ではなかった”………

 

 

 

「(な、なんだこいつは……?)」

 

 

 

 同じく、全く予想外な事が起きた事で、内心で困惑するジン………

 

 

 

「(なんで………どうして“あの人”が……ここに!?)」

 

 

 

 

 状況が読み込めないたきなは、赤い煙が出てくる弾丸…非殺傷弾を使う人物を思い出す。

 

 

 

 一人は……リコリスで優秀(?)なファーストであり、たきなにとって今の相棒でもある、錦木千束。

 

 

 

 もう一人は………目の前にいる、全身黒いライダースーツに、ジンに向ける一丁の拳銃………

 

 

 

 

 

 

 

「(なんで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……カボチャ頭がここに!?)」

 

 

 

 

 

 そして、未だに正体不明である、顔にカボチャを被っている謎の不審人物………

 

 

 

 

 

 その姿を見たたきなにとって、“10式改暴走事件”以来であった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ど、どうしょう………この後……どうすればいいの僕!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、その正体が暁月蒼夜である事も、まだ知らない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 






たきな「なんでカボチャ頭がここに!?」

ジン「(なぜ頭に……カボチャを?)」

モブ主「(どないしよ!どないしよ!どないしよ!)」ガタガタ



次回もよろしくお願いします!


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Episode 22 Be Careful for the small bear

 
 最新話の投稿が遅くなって、本当にすみません!!!

 最近のガンプラは凄すぎですよね〜!

 ビルドメタバース、いよいよ明日ですね!正直どんな物語なのか楽しみです!


 それでは本編へ、どうぞ!!!


 

 

 

 

 

 

〜時は、たきながジンを見失ってしまった時まで遡る〜

 

 

 

「ハァ……ハァ……松下さん………どこに行ったの〜〜〜」

 

 

 つい先程、東京駅のホームで蒼夜と一旦別れる事になった千束は、近くにいたはずの松下を探しに向かった。それから駅中にある商店街やコンビニなども探したが、結局松下らしき姿が見つからなかった。そしてそれから数分後、駅から出て千束は外の方にも探し向かうと………

 

 

「松下さん……どこに────あ!」

 

 

 探し回るその先には、東京駅の赤レンガ駅舎の側でポツンと止まっている松下の姿を見つけた。何故こんな所にいるのだろうか……と疑問に思った千束は、近づきながら松下に話しかける。

 

 

 

「松下さん、どうしたんですか!?もしかして、他に行きたい所があったんですか───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────ジンが来ているんだね?』

 

 

 

 

 

 

「──────え?」

 

 

 

 ───と、千束の方に振り向いた松下の口から出た言葉に、千束は硬直する。

 

 

『アイツは私の家族を殺した………確実に私を殺しに来るはずだ……』

 

『おい千束、悪いニュースだ。たきなが撒かれた……気をつけろ、おそらくジンは近くにいるかもしれない……』

 

「──っ」

 

 松下が話していると同時に、インカム越しからクルミの通信が入る。

 

『日本にいる限り………アイツは絶対に殺しに来る……』

 

「な……なら、一度店に帰りましょう松下さん。避難してから、今後どうするかを考えましょう?」  

 

『私には時間がないんだ……』

 

 

 

 その時…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千束! 逃げて!!」

 

 

 

 

 

 

 

キン!

 

 

 

 

「────っ!?」

 

 

 

 

 松下と会話し、近くからたきなの声が聞こえてきた途端、松下の車椅子の取っ手に銃弾が当たったのに気づいた千束。すぐに視線を声が聞こえた方に振り向いた時、近くの工事現場の上の方でたきながジンに体当たりし………

 

 

 

 そのままジンと共に、下へと落下してしまった………

 

 

 

「た、たきなぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 それを目撃した千束は、思わずたきなを呼び叫ぶ。たきなの安否を確認する為、すぐにインカムで呼ぼうとするが、彼女から返事が返ってこなかった。

 

『千束! 松下さんを避難させてください!』

 

 ───と思ったその時、たきなから返事が返ってきた。それに聞いた千束は、一安心する。

 

「(良かった、たきなが無事で……)うん、分かった……たきなも気をつけて!松下さん、たきなが惹きつけてくれている内に急いでここから離れましょう!」

 

 

 千束は、松下の車椅子を押しながら、どこかへ避難させようと急いで移動したその時……

 

 

 

 

 

『私の本当の依頼は、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「────ぇ?」

 

 松下の口から衝撃的な言葉を聞いた千束は、零してしまったような小さな声を出し、驚きを隠せなかった。

 

 

『君のペンダントの意味を私は知っている………君には使命がある筈だ……』

 

「(な、なんで……)」

 

 

  

「ゼェ〜!ゼェ〜!───や、やっと………づいたあ゛〜〜〜」

 

 ───とここで、ヘロヘロになりながらも、前からミズキが走って来た。

 

「………ミズキ、松下さんをお願い!」

 

「ハァ……ハァ……りょ、了解〜〜〜」

 

 合流できた事で、松下をミズキに任せた千束は、急いでたきなの所へ向かう。

 

「(どうして松下さんは、これを知っているの………うぅん……それよりたきなを助けなきゃ!)」

 

 何故松下は、自身のペンダントの事を知っているのだろうか……、そう思った千束だが、今はたきなの援護へ向かわなければならないと、急ぎながら自身のインカムを使って呼びかける。

 

「たきな!松下さんはミズキに任せてあるから、そっちに向かうね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザ───────

 

 

 

 

 

 

 

 ───が、たきなからの通信が途絶えられてしまったのか、返事が返ってこない。通信越しから砂嵐の音しか聞こえない。

 

 

「たきな………たきな、聞こえる!?」

 

 

 “もしかして既にジンにやられたのか”……そう思い込んだ千束は、たきなの安否を急いで確認しようと、慌ててミカとクルミにも通信を繋げるが……

 

 

 

 

ザ───ザザッ────

 

 

 

 なぜか、ミカ達の方にも通信が繋がらなかった。

 

 

「先生……クルミ!?もう〜〜〜なんで繋がらないの〜!?」

 

 どちらにも通信が繋がらないと分かった千束は、戸惑いを隠せなかった。だが、それでも千束は、急いでたきなの所へ向かう事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、リコリコでも……

 

 

 

 

「どうだ、クルミ!?」

 

「ダメだ……全然復帰しないぞ!?」

 

 同じくミカとクルミの方でも、突如千束達との連絡が繋がらなくなってしまった。しかもそれだけでなく、電波妨害されたのか、ドローンのカメラ映像から共有されている画面に白黒の砂嵐が現れ、千束達がいる現場からの様子が観れなくなってしまった。

 

「クルミ急げ!ジンが何をしでかすか分からない!」

 

「言わなくても分かってるよ!……(クソッ!どうなっているんだ!?これだけシステムをいじっても、全くびくともしない……こんな事初めてだ!)」

 

 クルミ……“ウォールナット”は、サーバー攻撃やセキュリティの突破などのシステムをいくか行った事がある。だが、自身のドローンに襲ってきた電波妨害に関して、今まで以上苦戦している。

 

 

 

 一体誰が、これほどの強力な妨害を……

 

 自分と同じ凄腕のハッカーなのか………

 

 ジンには協力者がいるのか………

 

 

 

 

 

「────っまさか!」

 

 

 

 

 クルミが、復帰作業と同時に内心で色々と思考する中、一つだけ思い当たる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜同時刻:工事現場〜

 

 

 

 

 

 

「(なんだ………コイツ……)」

 

 

 暗殺者────“サイレント・ジン”は、目の前に立っている不審者に対して、異質さと不気味さを感じていた。

 

 対象の暗殺を邪魔したたきなを狙い撃とうとしたが、突如目の前に現れた不審者に邪魔されてしまった。

 

 一体何者なので、どこから現れたのか………だが、それよりよりもジンは、不審者が頭に被っている“ソレ”が気になって仕方がなかった。

 

 

「(なぜ……()()()()()()()()()()()()()()?)」

 

 

 もちろんジンは不審者……カボチャ頭とは初対面であり、何故頭にカボチャを被っているのかも分からない。“悪ふさげでもしているつもりなのか”と思ったその時……

 

 

 

 

 ───カボチャ頭は無言のまま、動き出した。

 

 

 

 

「………っ!」

 

 

 カボチャ頭が動き出す瞬間、ジンは自身の銃を構えながら更に警戒する。

 

 “右か……それとも左から向かってくるのか……”と、脳内で敵からの攻撃をどう対処すればいいのかを予測しながらジン警戒するジン。また、怪我を負ったたきなも、カボチャ頭の方に視線を向ける。

 

 同じ視線を向く二人。そんな視線を受けながら、カボチャ頭は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「(……………え?)」

 

 

 

 

 そして………

 

 

 

 

 

 

 

 ───()()()()()()()()()()────

 

 

 

 

 

 

 

「────は?」

 

 

 

 

 

 突然の出来事に唖然としてしまい、“サイレント”と言われた異名を持つジンも、思わず声を出してしまった。

 

 

『───』←ダンス中のカボチャ頭

 

 

「(・Д・)」ポカーン

 

 

 状況が追いつけないジンの前に、たったの1分程度の踊りをするカボチャ頭。やがて、ダンスを終えたカボチャ頭は、最後に手をお辞儀のようにゆっくりと頭を下げる。そして何事もなかったかのように、元の位置に戻った。

 

 それから数秒後、カボチャ頭のダンスを眺めていたジンは………

 

 

 

 

 

 

「(ふざけているのか!?)」

 

 

 

 

 ──と大声で叫びたい程、内心で押さえつつ、批判と共にカボチャ頭にぶつけた。

 

 

 

 

「(突然現れて、一体どんな奴かと思ったら、頭にカボチャを被っている……しかもこの場で踊っただと!?ふざけているのも大概にしろ!完全に私を舐めているだろあのカボチャは!?)」

 

 15年前までミカと共に警備会社での裏の仕事を行ったり、これまでの暗殺を何度も経験した事があるジン。時には自身を殺そうとやってくる者を多く相手した記憶もあった。だが、カボチャ頭に関しては別だ。ジンにとってカボチャ頭は“命取りを行っている場所で悪ふざけをする愚か者”としか思っていない。

 

「(チッ、さっきのふざけた踊りを見たせいでこっちまで頭がおかしくなる!もはやあの少女は後回しだ!さっさとこのカボチャをここで始末する!)」

 

 ──と、完全にキレたジンは、自身の手に所持している銃でカボチャ頭を狙い撃とうと銃口を向けた………

 

 

 

 

 

 

 ……その瞬間─────

 

 

 

 

 

 

 

 カラン───

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 

 同時にジンの足元に何かが当たった。それに気づいたジンは、自身の足元に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 そこには、『B()O()M()B()』と表示が載せてある空き缶の様な形をした物が置いてあった。

 

 

 

「(っ!?───し、しまっ………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 パッシュゥゥゥゥゥゥゥゥ────

 

 

 

「(なっ!……え、煙幕だと!?)」

 

 

 手榴弾かと思ったジンは、急いでその場から離れようとした途端、突如中から大量の煙が溢れ出てきた。

 

「(なぜ発煙弾が近くに……いやそれよりも、いつの間に私の足元に置いてあった──ハッ!まさかあのカボチャ………私の気を逸らす為、わざとあのふざけた踊りを……まさかその隙に発煙弾を投げ出したのか!?)」

 

 ジンが思考した通り───あの謎の踊りをしている最中、ジンがその踊りに視線を向けているその隙に、カボチャ頭は懐から発煙弾を取り出し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──ゴッホ!ゴッホ!───くっ!」

 

 煙のせいでむせてしまったジンは、煙を吸わないよう腕で口を防ぎ、急いでその場から離れる。もちろん相手からの警戒心を忘れず、銃を構え続けている。

 

「ゴッホ!ゴッホ!(不覚!私した事が………奴は……どこに──!!)」

 

 警戒しながら、銃を構えるジン。外さないよう狙いうとうとするが、煙が周りに広がるせいで視界の先にいたはずのカボチャ頭とたきなの姿が見えなくなってしまった。

 

「(煙のせいで見えん………やむをえまい……ここは、一度引くべきだな……)」

 

 ───と内心で考えながら、敵からの攻撃や状況から考えたジンは、カボチャ頭とたきなを無理に追撃する事をやめ、一度この場から静かに立ち去っていた………

 

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

 

 

 

「(どうして、こうなった)」

 

 

 

 

 工事内で煙が広がる中、()()()()()()()()()()()()()()()()たきなは、これまでの出来事を思い出す。

 

 ジンに追い詰められ、狙い撃たれそうになる寸前、突如やってきたカボチャ頭に邪魔され、撃たれずに済んだ。そして、二ヶ月前の任務に向かった廃工場で見覚えがある“謎の踊り”を何故かジンの前で踊り始めた。ちなみにたきなもその時のダンスを見ていたが、ジンと同じく彼女も唖然としていた。

 

 謎の踊りを終えた後、完全にキレたジンはカボチャ頭を撃とうと動いたが、その瞬間突如ジンの足元に転がっていた発煙弾から大量の煙が周りに広がった。

 

 コンテナの物陰に隠れていたたきなは、足の怪我で上手く立てず、煙を吸わないよう口を手で防ぐ事しかなかった。だがその時、突然やって来たカボチャ頭が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ※ ちなみにカボチャ頭がたきなを抱えていたやり方は、世間で言う“お姫様抱っこ”である。

 

 それから目的として決めた場所についたのか、たきなを抱えたカボチャ頭は、その場でたきなを下ろし、懐から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を取り出す。

 

 この時たきなは“──は?”と思わず困惑する表情を出してしまった。しかしそんな彼女の反応を気にせず、カボチャ頭は、彼女の前にしゃがみ、無言のまま彼女の足の治療を行なっている。

 

「あ……あの……どうして………私を助けたのですか……」

 

『………』

 

 

 何故助けてくれるのか、一体目的はなんなのか……

 

 警戒心を持ちながら、無言のまま足の治療を進めるカボチャ頭に疑問を問いかけるたきな。

 

 だが、やはり何も喋ってくれない。

 

 

「……もう一度いいます。どうして、私を助けたのですか……」

 

『…………』

 

「………あの、聞いていますか?」

 

『…………』

 

「………………」

 

『…………』

 

「………〜〜〜〜」

 

『…………』

 

 

 

 

 

 

「いい加減、本当にそろそろ喋ってくれませんか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ──と、カボチャ頭に対しツッコミを入れるたきな………

 

 

 

『…………』

 

 

 

 ──が、それでもやはり何も喋ってくれない。

 

 

 

「(な、なぜ喋らないこのカボチャは!?)」

 

 

 内心でもツッコミを入れるたきな。ちなみに、無言のまま治療を進めるカボチャ頭はというと───

 

 

 

 

 

 

 

「(ヤバいよ!ヤバいよ!出◯哲郎さんじゃないけど、色々ヤバいよ!さっきの人ってほ、本物の暗殺者だよねぇ……めっちゃくちゃ怖いんだけど〜!!アニメや映画とかで見た事があるけどざ……実際に見ると結構怖いな!マフティーダンスした隙に、発煙弾を使って正解だったぁ〜!なんとか逃げ出せたけど………思わずたきなさんを抱えちゃったよ!しかもあれって……あれだよね……世間で言う“お姫様抱っこ”!これってわいせつ行為になって、捕まってしまうんじゃないのか僕!?それにたきなさんの足、怪我してるじゃん!と、とりあえず応急処置しないと!確か、小学校で習った保険の授業で────)」

 

 

 

 

 

 ──と、外形のイメージとは真逆、内心ではかなり焦っていた。また、外からは見えないが、緊張しすぎたせいで仮面の下に隠された顔から大量の汗が流れている。

 

 そもそも駅のホームにいたはずの蒼夜は、なぜここにいるのか。それは、駅のホームで千束と別れた後の時間に遡る………

 

 

 

 

 

 

〜数分前〜

 

 

 

 

 

 

「(たきなさんが急にどっかに行って……その後何も聞かされず電車に乗ろうと時間を調べてたら、いつの間にか松下さんもいないし……その後、千束さんに“帰れ”って言われたしどっか行っちゃったし……

 

 

 

 

 

 

 

 

いやこれ絶対なんかあったでしょ!?)」

 

 状況から考えて流石におかしいと感じた蒼夜は、千束の後を追ったが、人混みが多いせいで、完全に見失ってしまった。それから蒼夜も一旦駅を出て、人通りが少なそうな通路に移動し、懐からスマホを取り出す。

 

「もしもし、ハロ!」

 

『ハイハ〜イ!聞コエテイルヨ!』

 

「ハロ!今から探して欲しい事があr…『錦木千束、井ノ上たきな、ソシテ松下ノ3人ガイル場所ナラ、モウ既二見ツケタヨ!』……いや早すぎだろ!?」

 

 電話をかけ、ハロに千束達を探すよう頼もうとした途端、まだ何も言っていないもにもかかわらず、既に3人がいる場所を特定済みであると伝えたハロ。これには流石の蒼夜も、驚きを隠せなかった。

 

『チナミニ、見ツケタノハヴェーダ君ダヨ。ソレト、今彼女達ガ危ナイ。』

 

「(マジか、流石ヴェーダだな……ん?)…ハロ、今彼女達が危ないって……どう言う事?」

 

『ソレガネ、ナント暗殺者二狙ワレテイルンダッテ。』

 

「………ちょ、ちょっと待って……暗殺者って……マジ?」

 

『ウン、マジ。』

 

「(………もしかして、突然千束さんとたきなさんがいなくなたって……そう言う事なん?まぁ……彼女達はリコリスであるのはもう知っているけどさ───)」

 

 

 

 

 

 

 

『チナミニ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

────は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞かされたと同時に、蒼夜の内側にある“何か”が響いた……

 

 

 

 

『今カラ10分13後二、暗殺者ジン二ヨッテ撃タレ、ワズカ数秒後二死亡スル……ト、ヴェーダカラソウ予測サレタヨ。』

 

「…………たきなさんを助ける事ができるのか?」

 

『今カラ5〜6分クライナラ、マダ間二合ウヨ』

 

「……………」

 

『ソウヤ?ドウスルノ?』

 

「……………そんなの決まってんだろ……」

 

 誰にも聞こえないくらい小声で吐く蒼夜。そして…………

 

 

 

 

 

「今から作戦を言う!これより、たきなさん救出&暗殺者撃退作戦を行う!」

 

『了解!了解!』

 

 通信越しでハロに指示を送った蒼夜。それから周りに人がいないのかを確認した後、背中に背よってある鞄を下ろし、中から着替えを取り出す。

 

「ハァ………また“これ”を着ると思わなかったな………」

 

 鞄の中から取り出した被り物……カボチャのマスクを見た蒼夜は、小さなため息を吐く。

 

 

 

 

 

 

〜それから時は、現在へと戻り〜

 

 

「(よっしこれで完了っと!………やっぱり応急処置のやり方を事前に練習しておいてよかったな……とりあえずたきなさんが無事でよかったけど……問題はあの暗殺者さんなんだよなぁ……)」

 

 たきなの治療を終えたカボチャ頭は、内心でジンについて考える。煙幕を展開しなんとか逃れたが、ジンはここで自分達を逃すわけないだろう。仮に逃れたとしても、次に千束達を狙って向かうに違いない。

 

 だが、()()()()()()()()()である……

 

 

 

 

「(さて……後は、()()()が上手くやってくれるだけだ……)」

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

「(ここから降りられば……対象に接触するはず───)」

 

 工事内で広がった煙が徐々に消えていくの確認したジンは、再びカボチャ頭達を探しに向かった。最初はたきなが隠れていたコンテナに向かったが、既にいなかった。

 

 “やはり先程の煙を利用して逃げたのか”とすぐに察知したジンは、二人を追うとしたが……

 

「(これ以上、あの二人を追いかけた所で、今度こそ対象を見失ってしまう。)」

 

 冷静に思考したジンは二人を追う事をやめ、今度こそ暗殺対象である松下の元へ向かう。もちろん、あの二人が再び向かってくる可能性もあると思い、向かう最中にでも警戒し続けるジン。

 

「(しかし………結局あのカボチャは一体何者なんだ……さっきの銃の立ち回りや動き……素人のではないが、まだ戦闘経験が浅いようにも見える。)」

 

 “意味不明な踊り”を除けば、ライダースーツを身に纏っているカボチャ頭のその姿と雰囲気は、異様と言わざるを得ない。更にサイレント・ジンの眼から見れば、カボチャ頭の生身での戦闘経験は、自身よりも短いと感じていた。だが、未だに理解できていないのは、この地にやってきた目的が不明である事。

 

「(私を復讐しに来た者なら分かるが……奴からは()()()()()()()()()()()()()()。それにあの行動……どちらかと言ったら、先程私の邪魔をした()()()()()()()()()()()()()()……)」

 

 カボチャ頭の行動をもう一度思考するジン。暗殺対象の護衛をしていた二人の少女のうちの一人....たきなを助けに来たかのよう雰囲気に見えていたが、やはりカボチャ頭が一体どういう目的でそうしているのかは、正直よく分からなかった。

 

「(だが、あの少女の反応を見る限り、仲間ではない事は確かなはず。ならば、何故あの場に来たのか──)」

 

 

 

 

 

 タタタタ───

 

 

 

 

 

 

「────っ!?」

 

 カボチャ頭を内心で考察しながら向かう最中、鉄骨を何度も軽く叩くかのような足音が聞こえた。

 

 

──あの黒髪の少女か、カボチャ……それとも二人か!?──

 

 

 そう語り、ジンはすぐに銃を構え直し、相手の視線から隠すよう反射的にコンテナの物陰に隠れる。

 

「(さっきの足音……()()()が、かなり近いな……)」

 

 足音までの距離を考えれば、すぐ目の前。足音がギリギリ近づいた時、相手の動きに対処できると踏んで銃を構え、待ち構えるジン。

 

「(3………2…………

 

 

 

 

 

今!)」

 

 

 足音がギリギリ近づいた事で、銃を構えながら思いっきり振り返る………

 

 

 

 

 

 

 ………が、そこには()()()姿()()()()()()()()()()────

 

 

「(な、何!?バカな……確かに足音は聞k………)」

 

 

 

 

 

 

 ボッコォ!!!!

 

 

 

 

 

「──グッハ!?」

 

 相手がいない事に驚愕した瞬間、突如ジンの左頬に急激に走し、そのまま吹き飛ばされてしまった。しかもその痛みは、まるで野球のボールが左頬に命中したかのような痛みだった。

 

「(な、なんだ!?どこからの攻撃だ!?)」

 

 左頬から痛みは感じるが、相手は一体どんな者なのかを知る為、すぐ立ち上がったジン。

 

「(さっきの足音はブラフだったのか!?一体……何者なんd────

 

 

 

 

 

 

……は?」

 

 

 自身を吹き飛ばした相手の姿を目にした瞬間、驚愕したジンは自身の目を疑った。

 

 ジンの目の前にはいる相手の身長は、ジンよりも小さく……別の視線から見れば()()5()0()c()m()()()()()()である。そして何より、その正体は()()()()()()()()()

 

「(な…………なんだ………こいつ……は?)」

 

 全身の色は薄青と白の二色で、短い手足と体より大きな頭部には、動物のような両耳が付いてある。更に背中には、女子がいかにも着けそうな()()()()()()()()()()()が付いてあった。

 

 その姿は動物……熊のようにも見え、小さな子供達が喜びそうなマスコット的な要素も持っていた。

 

 

 

 

 

KUMA-FC(Family Child)

 

 

プチッガイ(水色ver)

 

 

 

 

「(く、熊の人形だと……ならさっきの足音は…………いや、そんなバカな……)」

 

 目の前にいる熊の人形を目撃したジンだが、未だに自身の目を疑っている。“そもそもこの場に熊の人形がいるなんありえない……もしかしたら、自分の警戒を揺るがす為の仕掛けなのかも知れない。”そう語るジンは、一息を吐く……

 

「フゥ──(そうだ……そうに違いない。そもそも人形が動くなんてありえn───)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───っ!?」

 

 

 その瞬間、目の前にいた熊の人形……プチッガイが、突如ジンの元へ接近する。そしてその場から飛び上がり、ジンの顔面に蹴りを入れようと向かってくる。

 

「シッ───!!」

 

 だが、殺しのプロとして多くの経験を持つジンは、素早く自身の身体を動かし、プチッガイの蹴りを反射的にギリギリで回避する事に成功した。

 

「(ば、バカな!?動いただと!?)」

 

 なんとか相手からの攻撃を回避したが、ジンはプチッガイが人間のような動きをする光景を見て、驚きを隠せなかった。だが、プチッガイの攻撃はこれで終わらず、視線をジンに固定して再び迫り始めた。しかもその動きは、格闘技のような動きをしていた。

 

「なっ──(は、早い!?)」

 

 更に迫りくるプチッガイに回避するジンだが、明らかに動きが速くなっている。一歩でも遅ければ、今度こそ狙い当てられてしまうに違いない。

 

「(こ、こんな……人形ごときに!!!)」

 

 

 

 BAN!BAN!BAN!

 

 

 いつまでも相手からの攻撃を避け続けるのをやめたジンは、反撃に向かった。“まずは、奴の両足を行動不能にしてやる”と、その引き金を引き、銃弾を弾き出す………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───が、その銃弾を放った直後、プチッガイは右足をずらして躱されてしまった。躱された銃弾が所々に弾かれ、広範囲に小さな火花が飛び散る。

 

 

「(な、なんだと!?)」

 

 突然の出来事に驚愕するジン。だが、そんな事を全く気にせず、プチッガイは容赦なくジンの方に迫りくる。しかもその動きは、まるで格闘技の様な動きをしていた。

 

「(ダメだ!これ以上は弾の無駄遣いだ……ならっ!!)」

 

 迫りくるプチッガイに銃は使えないと判断したジンは、懐からサバイバルナイフを取り出した。そして自身もプチッガイを迫り、ナイフで斬りかかろうとする。

 

 だが、プチッガイが小さすぎるせいなのか、ナイフの先からプチッガイに当たる感覚がない。それどころか、斬りかかろうとしても、またすぐ避けられるの繰り返し。

 

「(クソ!クソ!この………熊もどきが〜!!!)」

 

 銃だけでなく、ナイフまでも避け続けるプチッガイ。それが何度も続いたせいで、明らかにキレる寸前となったジンは、冷静を失いつつもある。もはやジンは、暗殺対象である松下の存在を忘れてしまったのか、今は目の前にいるプチッガイを確実に沈めようと目の敵をしていた。

 

 相手からの攻撃を避けたり、反撃しようとしたらすぐに避けられるの繰り返し。

 

「ゼェ………ゼェ………く……クソ……」

 

 それからどのくらい経ったのか、未だに無傷のまま健全であるプチッガイとは真逆、ジンは自身の体力を徐々に削られてしまい、息切れと共に全身から汗が流れ出ている。

 

「(このッ!すばしっこいこの熊!!)」

 

 今度は上の方に向かったプチッガイに、ナイフで斬りかかろうとするジンだが、またも避けられた。

 

 

 

 だがその直後………

 

 

 

 ──ザッシュ──

 

 

 

 

 

 

 

 ドバァァァァ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────っ!?」

 

 

 ジンが向けたナイフの先が、工事でよく使われる土嚢に掠めてしまった。そのせいで切り口が出来てしまい、土嚢の中に詰めてあった土がジンの顔面に降りかかってきた。

 

「むぐ───オェ!!

 

 ジンの顔全体が土だらけとなり、加えて口の中にも入ってしまった。急いで口から吐き出し、顔面を拭いたジンは………

 

「(オノレェ〜〜〜〜あの熊めぇ……!!!)」

 

 ───と、プチッガイを鋭い目で睨むジンは、激昂な表情を出しながら必死に探す。“次こそ必ず仕留めてやる!”と決心し、辺りを探し回ったが………

 

「(い、いない………どこに行った!?)」

 

 突然プチッガイの姿が見当たらず、加えてどこに行ったのかも分からなくなってしまった。辺りを見渡したが、プチッガイらしき姿が見えない。

 

「(まさか、逃げたのか………いや、どこかに潜んでいる可能性もある!)」

 

 そう語ったジンは、先程懐にしまっていた銃を取り出し、左右の手にナイフと銃を持ち構えながら、プチッガイを探し回るジン。

 

「(どこだ……どこにいる!今度こそ……仕留めてy───)」

 

 

 

 

 

 

 カン!

 

 

 

 

「───っ!?」

 

 

 

 するとその時、鉄骨を強く踏む大きな音が一瞬聞こえた。しかもその音はかなり近い。その音に反応したジンは、辺りを見渡す。だが、どこにもプチッガイの姿がいなかった。

 

「(どこだ………どこにい───

 

 

 

 

 

 

 

 

…まさかっ!?)」

 

 

 何か違和感に気づいたジンは、()()()()()()()()に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 そこには、拳を握り締め、狙いを定めるかのように構えるプチッガイの姿が、目に映っていた。

 

 

 

 

 

 

 ───ポチャン───

 

 

 

 

 

 

 一度、眼を閉じたプチッガイの脳内に、()()()()()()()()()()()()()()()()───

 

 そして──再び眼を見開いた瞬間、一気に飛び上がる──

 

 

「(ま、まずっ──)」

 

 

 危機を察知したジンは急いで回避しようとするが………既に遅かった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次元覇王流

 

 

 

 

 

 

蒼天紅蓮拳

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴッ、キンッ!!!!!!

 

 

 謎の必殺技と共にプッチガイは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

〜〜〜〜〜っ!?!?!?

 

 

 

 

 声にならない絶叫を上げ、ジンは両手に持ってある銃とナイフを手からこぼして、股間を抑える。尋常ではない痛みが電流のように走り、ジンの脳天を貫く。

 

 

%$#@;%〜〜〜〜!!!!

 

 

 言葉が出ない程の痛みに耐えられず、ジンはその場で転ぶように床へ仰向けとなったり、うつ伏せになったりの繰り返しをしていた。

 

 何が起きたのか思考が追いつく事ができず、ただ股間に激しい痛みだけが走っている現状に加え、思わず涙目となった。

 

 ※もしもここに他の男性がいたら、痛い思いをするだろうby作者

 

 今のサイレント・ジンは、今までの戦いの中で、敵の前で情けない姿を見せてしまったのは初めてであり、ジンにとって屈辱でもある。

 

く、クソォォォ…………

 

 脂汗がじんわりと滲み、未だの治らない痛みが股間から腹部へと重くのし上がてくる。それでもジンは、股間の痛みをなんとか抑えながら立ちあがろうとする。

 

「(こんな………こんな熊の……人形如きに……負けるなんt……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───あ」

 

 

 

 なんとか立ちあがろうとした寸前、プチッガイが拳を前に出し、自身に向かってくるのを視界に入ったのだ……

 

 

 

「───クソ」

 

 

 

 

 もはや避ける事をやめたジンは、たった一言の暴言を口から吐き出し………

 

 

 

 

 

 

 

 意識が消えると共に、気を失った───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜本編登場MS解説〜

 

 

 

 

 

 

KUMA-FC(Family Child):プチッガイ(水色ver)

 

 

 

 

 

 ガンダムビルドビルドシリーズの作品の一つである『ビルドファイターズトライ』の第10話に登場する機体であり、カミキ・ミライが操縦していた機体でもある。

 

 本来、ベアッガイF(通称:ママッガイ)の背部に装備してある『チェアーストライカー』に座り、小型MSとして使用できるが、暁月蒼夜はハロ達と同じく“自立型マスコット”として、開発した。ちなみに蒼夜は、前世の世界でもプチッガイの可愛らしさを忘れず、このこの様な開発を以前から行ったのだ。

 

 ※また本編では今後、様々な種類も登場する可能性もある──

 

 

 

 

〜技・必殺技〜

 

 

次元覇王流(じげんはおうりゅう)蒼天紅蓮拳(そうてんぐれんけん)

 

 この技に関しては、()()()()()()()()()()()()

 

 また、何故出せたのかは、プチッガイ本人も理由不明である。

 

 

 

 

 





 ようやくガンプラのマスコットであるプッチガイが登場!

 本当は最初、モブ主とジンの戦闘を書こうとしましたが、十何年のベテランな殺し屋相手に、転生してから僅か3年たらずのモブ主が相手するのは不可能かと思って途中でやめました。

 ちなみに、プチッガイが出した技は、ビルドファイターズ第10話と同じ展開です。

 久々に観てたら“これはやるしかねぇ!”と、思わず書いちゃいましたw

 それでは次回も、お楽しみに!


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Episode 23 本当の依頼…


 数ヶ月も投稿が遅れてすみませんでした。

 だんだんと遅くなりますが、今年もどうかよろしくお願いします。





 それと、SEED FREEDOMを観てきました………

 初日に観に行った時、予想外の事が100%以上に起こりすぎて、自分もスーパーコーディネイターにならなければ、理解が追いつけなかったです。

 何より観た後、思わずHGのライフリとイモジャスを買っちゃいました。

 最高に良かったです!




 ありがとう、ガンダムSEED……




 

 

 

 

 

 

 

 プチッガイが暗殺者ジンを撃退した頃、足に軽く傷を負ってしまったたきなは、状況を伝えようと千束やクルミに連絡する。だが、なぜかスマホやインカムからはノイズ音などしか聞こえておらず、通信機能は使い物にならなくなってしまった。

 

 今すぐにジンの元へ追いかけなければならないと、たきなは無理にでも立ち上がろう。だが、ついさっきカボチャ頭に寄って足の治療を終えたばかりで、上手く立ち上がる事ができなかった。

 

 どうしよう悩んでいたその時、突如たきなにとって予想外な出来事が起きてしまっていた………

 

 

 

 

「(どうして、こうなった)」

 

 

 

 ──と思わず内心でツッコミをしてしまったたきなは現在、自身の足の治療をしてもらった不審者(カボチャ頭)に松葉杖の代わりとして支えてもらえながら、別の場所へ向かって移動している最中だった。しかも、()()()()()()()()()()()()()()、“自分の足で歩ける”と、何度も助けを否定し続けた。

 

 だが、彼女が否定しているのが全く聞こえていないのか、特になんの返事を返す事も無く、ただ無言のまま肩を貸しながら、焦らずに移動し続けていた。

 

「(正体どころか、目的も不明………それにこのカボチャ───)」

 

 

 

 

 “どうして、私を助けたの?”と、内心で疑問を感じたたきな。

 

 

 

 自分を助けたのは、何か別の目的があるのか………

 

 それとも、暗殺者ジンを狙ってきたのか……

 

 だとしたらこのカボチャは、何故ジンを追わずに自分の足の治療を優先したのだろうか……

 

 

 などなど、内心で様々な考察を思い浮かぶが、結局どれも思い浮かべる事もなく、逆にカボチャ頭は一体なにを考えて自分を助けたのかも、疑問が大きくなるだけだった。裏の仕事を今まで行ってきたたきなにとって、今回だけはいつも以上に頭を使っているかもしれない。

 

 もはやあれこれ思考しても思い浮かぶ点が見つからないたきなは、今まで内心で抱いていた疑問をカボチャ頭に対して思わず口に出してしまった。

 

 

「…………あの……カボチャさん……」

 

『………』

 

「どうして……私を助けたのですか?」

 

『………』

 

「それとも……私を助けたのは、別の目的があるからなのですか?」

 

『………』

 

 だが、結局一言も喋る事無く、移動してからわずか数分でようやく青空が見える所まで到着していた。そんな時たきなは、もう一度カボチャ頭に声をかけようとした時……

 

 

「あの、せめて一言だけd…たきなぁぁぁ!!!…ッ!?ち、千束!」

 

「はぁっ……はぁっ……よ、よかっだあぁぁぁ!もう心配したんだよ!通信も電話も出なかったからさぁぁ──」

 

『………』

 

 

「………え、えぇ〜!?ちょ、ちょいちょいちょいたきなどういう事!?なんでカボチャ君がここにいるの!?もしかして通信ができなかったのって………て、てかその怪我はどうしたの!?いつ!?どこでぇ!?

 

 

千束、まずは落ち着いてください。後で説明しますから……それより今はジンを追わなければ!」

 

 状況が読み込めない千束に対して一旦落ち着かせるように語るたきな。そんな彼女の口からジンの事を聞かされた千束は“あぁ〜そうだ!”とジンの事を完全に忘れてしまっていたんだろうか、すぐに思い出した。

 

「そうだよジンだよジン!早く探さないとミズキも松下さんも危ない………って、何やっているのカボチャ君?」

 

 ジンを探しに向かおうと駆け出そうとした途端、カボチャ頭が何やら不審な行動しているを千束の視界に入ってしまい、思わず声を掛けてしまった。しかもその行動は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なになに?もしかして誰かを呼んでいるの……………え?」

 

「千束?どうしたのですk………え?」

 

 カボチャ頭が手を上げながら向いている方向に、千束も同じ視線で向き、たきなも気になって同じ視線で振り向いたら、彼女達はソレ目にした途端、その場で固まってしまうかのように思わず目が点になっていた。

 

 

 

 

テクテクテク

 

 

 

 それは、まるで小動物のような小さな足音。

 

 だが、彼女達が目にしたのはその姿は、動物でもなかった。

 

「…………千束、一応聞きますが………()()()()()()()?」

 

「うん………なんなら、()()()()()()()()()……」

 

 ──と、目の前にいる()()が幻覚ではないのかと疑っているたきなは、思わず千束に声をかける。それに対して彼女は事実であると返した。

 

 何故なら目の前には、()()()()()()()()()()が自力で動きながら、こっちに向かっていく光景が目に入ってしまったからである。しかも見た目は自分達よりも小さいサイズと可愛らしい見た目で、もはやどこにでもいそうなマスコットキャラ的な姿をしていた。

 

 熊のぬいぐるみ……プチッガイは、何故かこの工場に置いてあったであろうロープを引っ張りながら、歩いていた。しかも驚いたのが、掴んでいるロープの先には大の男が全身ぐるぐる巻きの状態で縛られている姿み目に入ってしまった。

 

 千束達の元まで近づいたプチッガイは、手に持っていたロープを手放し、千束達に見せたいのか、男から少し距離を離れようとしていた。そんな時たきなは、先に縛られていた男の顔を確認した途端、驚くかのように目を見開く。

 

「この男………ジンです!

 

「ジンって……松下さんを狙っているって、えぇっ!?嘘、マジで!?」

 

 ちなみに千束は、暗殺者の顔をまだ確認できていないので、驚きを隠せる事ができなかった。一方たきなは、念の為に男の方の顔を確認しようと恐る恐る覗くと……

 

 

 

 

 

「」チーン

 

「…………完全に気絶していますね。」

 

 白目を剥いた状態で気絶している男の顔を確認したたきなは、それが依頼者である松下を狙ってきた暗殺者ジンであると断定するのだった。そんな時彼女は、この状況からどうすればいいのかと、千束に相談しようと視線を元の位置に戻そうとする。

 

「通信もできませんですし…………千束、これからどうしまs───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きゃぁぁぁ何これ!超激カワイイんですけどぉぉぉ〜〜〜〜」

 

 

 

「…………」

 

 振り向いた瞬間、いつの間には千束はジンをここまで連れてきたプチッガイを軽く持ち上げながら、小動物を触っているかのような感覚で抱き抱えながら可愛がっていた。そして何よりその表情は、とても嬉しそうな表情で喜んでいる様子も見えていた。

 

 そんな様子を目にしたたきなは、ジド目で見つめながら、彼女に声をかける。

 

「あの…………なにをしているのですか?」

 

「何って……この子を見てよたきな!小さいし、軽いし、何より可愛いよ!!!しかも触った感じ全然固くないし……むしろ動物みたいに柔らかいよ!!このVery Cuteなクマちゃんを可愛がらないで何が悪いのさ!!」

 

「いや……でも勝手に触るのは、流石にダメだと思いますけど……」

 

『…………』

 

 この時たきなは、一瞬だけカボチャ頭の方にチラッとだけ覗いた。だが、特に何も気にしていないのか、ただその場で千束がプチッガイを可愛がっている様子を眺めているだけだった。

 

「(もしかしてあんまり気にする必要がないとか……いや、でも流石にそれはありえn──)「ほらほら、たきなも触ってみてよ!」…ちょ、ち、千束!?」

 

 内心で思考していた時、突如千束はたきなにもプチッガイを持たせようと手渡しする。それにに気が付かなかったたきなは、子猫を持たせるかのような感覚で思わずプチッガイを両手で持ってしまった。

 

「(お、落ち着いて私……警戒心を持って………でもなんだろうこの感触……生き物みたいに柔らかいし、軽い。それにこの見た目……なんというか、どこかで見た事があるような……それにこの子───)」

 

 

 

 

 

 プルプル←たきなに手を振るプチッガイ

 

 

 

 

 

…………かわいい」ボソ

 

 

 ──と、思わず口で呟いてしまったたきなは、“は…!?”と顔を赤くしながら気づき、慌ててプチッガイを手放す。解放されたプチッガイは、まるでリスのように走ってカボチャ頭の方に戻り、彼の肩に乗る。それを目にしたたきなは、()()()()()()()()()()()()()()()()をしていたが、すぐに誤魔化すかのように表情を変えようと、咳払いをする。

 

 

いいなぁ……はっ!お…オッホン!と、とにかく!カボチャは一旦後回しで……千束、まずはこの状況をd…「えぇ〜何それ!?その子って、普通に肩に乗っちゃうの〜!?」…千束!?」

 

「もしかしてなんだけど……そのクマちゃんって、カボチャ君のお友達だったの!?」

 

「ちょっと………その前にまずはこっちを優先してください。」

 

えぇ〜いいなぁ〜!超可愛いんですけど!」

 

あの……聞いていますか?

 

ねぇ、ねぇ、カボチャ君!ちょっとそのクマちゃんの写真を撮っていいかな!?

 

「…………」

 

「きゃぁぁ〜羨ましいぃぃぃ!!!ねぇ、もうちょっとだけ触っても───」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グエェ!?ちょ、たきなさん!首が……首が取れちゃう〜〜〜」

 

 プチッガイに夢中になってしまった千束を呼ぼうとするが、全く耳に入っていないと気づいたたきなは、彼女の襟首を掴み、強制的にカボチャ頭から少し離れた。そんな時千束は、突然何事なのかと思い、思わずコソコソとたきなに話しかける。

 

「イテテ……ちょいちょいたきな、危うく首を絞められそうになったんだけど〜?」

 

「千束………いくら何でも、あの不審者とは馴れ馴れしすぎです……」

 

「えぇ〜大丈夫だよ!だってほら、全然私達を襲って来ないんだよ。」

 

「そういう問題ではありません!それに、もしも私達がリコリスである事を知っているのなら……」

 

「大丈夫だって〜危険もなんもないし……ほら、カボチャ君だっt──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……って、いない!?」

 

「えぇっ……!?」

 

 敵意がないと口に出そうとした千束が振り向いた途端、その場にいたはずのカボチャ頭とプチッガイが、いつの間にかいなくなってしまった。ちょっと目を離した隙に、音もないまま突然いなくなていた事に驚きを隠せなかった2人は、慌てて辺りを探すように見渡すが……

 

「こっちにもいない……ダメです千束、完全にいなくなりました。」

 

「そんな〜……あぁ〜もう一回あのクマちゃんを触りたかったぁ〜!」

 

「どうやら、私達が目を離した隙に去ってしまいましたね……はぁ、もっと触りたかったなぁ……」

 

「ん?今なんか言った?」

 

「い、いえ!それより、これからどうしましょう?」

 

「うぅ〜ん見た感じまだ起きないし………もう一回クルミ達に連絡しよっかな〜」

 

 ──と、そう語っていながら千束は、未だに起きる様子が見られないジンの頬をつついでいた。しかも見たところ目立った外傷が無く、頬に殴られたかのような跡以外の大きな怪我も見えない。

 

 もしかしたら、あの不審者と子熊が何かをしたのではないにかと、思わず内心で思考するたきなと、とりあえず今は誰一人死んでいない事を喜ぼうと、千束が安堵の息を吐こうとしたその時………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺すんだ!』

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、離れた所から機械音声の声が響いた。

 

 

 

 

「松下……さん?」

 

 

 

 

 声が聞こえた方に顔を向けた千束は思わず口に出してしまい、それに続いてたきなも振り返る。そこには、たった一人でここまでやって来たであろう松下が此方に向かって車椅子を動かしてきていた。しかもその後ろの方には、松下を必死に追いかけていたミズキが、疲弊で座り込んでいる姿も目に入った。

 

 

 だがそれより、ついさっき松下の口から出た言葉が気になって仕方がなかった。

 

 

『そいつは私の家族の命を奪った男だ……殺してくれ!』

 

「……え」

 

 初耳であるたきなにとって、驚きと共に目を丸くする。一方千束は、何も言わずに近付いてくる松下を見て悲しげに目を細めていた。

 

 そんな彼女の反応を目にしたたきなは、何となく察知する。ジンと交戦している間に、松下の口から聞かされた()()()()()を……

 

『本来なら……あの時私の手でやるべきだった。家族を殺された二十年前に……!』

 

 彼の家族を殺したのも、目の前で意識を失っている暗殺者である事は、既に頭に入れてあった。もちろんそれが真実かどうかは、未だに分からないが、家族の仇を討つのが松下の本当の目的だったという。だからこそ松下は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()と、内心で思考するたきな。

 

 

『君の手で殺してくれ……君はアラン・チルドレンのはずだ!

 

 

「………ッ」

 

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、たきなは自身の記憶を振り返した。

 

 

 アラン機関

 

 

 世界に隠れた才能を持つ者達を見つけ、無償で支援しているという支援団体。

 

 その証拠である梟のチャームを持っている千束もまた、何かの才能を見いだされ、支援していた。そしてそれはおそらく、つい1時間くらい前に乗っていた水上船でたきなに話してくれた心臓の事だろう。

 

 

『何のために命を貰ったんだ!その意味をよく考えるんだ!』

 

 

 だが、そもそも何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 確かにあの時……店から出発する前に千束が松下に心臓が機械である事を話していたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう思い出したたきなは、なぜか不気味さを感じるようになってきた。

 

 

「…………松下さん」

 

 そんな時千束は、小さな慈愛を持った笑みで、彼の名を呼ぶ。

 

 

 

 

「私はね………人の命は奪いたくないんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………は?』

 

 

 “何を言っているんだ…”と、呆けた声を漏らす松下。それでも千束は気にせず、会話を続ける。

 

「私はリコリスだけど……誰かを助ける仕事がしたい。これをくれた人みたいに……」

 

「千束……」

 

 胸の上にかけられた梟のチャームを見せながら、松下にそう告げる。

 

 いつものように柔らかな笑みを浮かべる表情をする彼女だが、どこか悲しみを表しているようにも見えていた。だけど、そんな彼女の様子を目にするたきなは、何故か言葉が出なかった。

 

 

『何を言って……()()………それではアラン機関は君を………その命を───』

 

 松下が言葉を遮っていると同時に遠くからサイレンの音が響いてくる。しかもそのサイレンは、パトカーのものである可能性が高い。恐らく此処でのやり取りを目撃した一般人からの通報が入って、駆けつけてくるだろう。

 

 それに察知したミズキは、焦った様子で千束達を呼び掛けた。

 

「うわヤバ〜、面倒な事になる前に逃げちゃお〜ほらほら!」

 

「うん…分かった!あの松下さん、取り敢えず場所を変えて、それから一度落ち着t……」

 

『────』

 

「……あ、あれ……松下……さん?」

 

 松下に呼びかけようとする千束だが、返事が一言も返って来ない。それどころか、ゴーグルの電源は切れ、車椅子に装着されていたモニター画面もいつの間にか真っ暗になっていた。

 

 

 その様子はまるで……………()()()()()()()()()()()……

 

 

 

「松下さん………松下さんっ!?

 

 

 千束が何度話し掛け、身体を掴んで揺すっても………

 

 

 

 

 松下が起きる様子が無かった……

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 それからクリーナーに連絡を入れた千束達は、捕縛したジンを連れ、警察に見つからないように東京駅を後にする。今回の護衛の依頼に加え、暗殺依頼を受けたジン。

 

 しかもその護衛の依頼の中には、暗殺者を殺すという本当の目的が潜んであった事。どちらにしても、彼女達にとっては一件落着とは思えないくらい、不可解すぎる終わり方だった。

 

 だからこそ、捕縛したジンに一体誰が依頼したのか、またはどうして松下を狙ったのかを聞き出そうと、面識のあるミカがついさっき目を覚ましたジンと交渉し、今回の一件に関する情報交換と確認が行われる事になった。

 

 

 

 

「ジン………そちらの依頼人は誰なんだ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()……しかも、気前のいいことに現金先払いでな。」

 

「一応念の為に聞くが…………二十年前に松下の家族を殺したのか?」

 

「……その頃はお前といただろう?」

 

 ジンの話に嘘がないことを確認したミカは、安堵の息を吐いた。そしてミカも、リコリコ側の依頼の事を説明し、それを聞いたジンは知らぬうちに松下などという面識のない人間に家族の仇になっていた事に驚きを隠せなかった。

 

 それから、ミカへ自分の連絡先を教えたジンは、バイクで走り去る前に、もう一つの疑問を思い出す。

 

 

「そういえばミカ………あのカボチャの被り物を被った者も、お前の部下なのか?」

 

「カボチャ?いや違うが……それが?」

 

「………いや、何でもない……うぅ、まだ痛みが……」

 

 古い戦友から返事を聞けて満足したのか、ジンは特に追加で問い出す訳でも無く、()()()()()()()()()()()()()、今度こそその場からバイクを加速させながら走り去ったのであった。

 

 

 

 

 

 それから日が暮れ、護衛に使っているバンに乗る千束達はリコリコへ帰って行く。後部座席に座る千束とたきなは、両隣から何かを言いたげな表情を伺われていた。

 

 だがその時、ミズキは新たに分かった情報を皆に話そうとする。

 

「さっきクリーナーから連絡があったわ~。指紋から身元が判明したんだけど……()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()だって。もう自分で動いたり、考えたりなんてできないらしいわよ〜。おまけに資産家でもなければ、松下って名前ですら無いんだと〜」

 

そんなっ!だって……みんなと喋って、今日いっしょに観光してたんだよ!?」

 

『ネット経由で第三者が千束達と話してたんだよ。ゴーグルに、車椅子の移動はリモート操作。おまけに音声はスピーカーだよ。』

 

「つまり()()()()()()()()()()()...?」

 

 いくつか情報を見つけたクルミが通信越しで語ると、眉尻を下げたたきなが、まだどこか信じられないといったような声色で言う。つまり、今まで千束が気合を入れた観光案内や、褒め言葉をしてくれたのも、全て名の知らない患者を操っていた松下を名乗る何者かの()()だったと言う。

 

 そんな事実を未だに理解ができない千束は、思わず口を挟む。

 

「え……じ、じゃあ誰が……なんで殺さようとしたの?なんのために?」

 

「………ッ」

 

 その瞬間、ミカが何かを察知していたように見えていたが、その反応を誰も気づいていなかった。

 

 クルミの報告を聞いた千束は、ついさっきまでの出来事が演技である事を未だに信じられる、徹夜で作っていた観光のパンフレットを強く握りしめる。そんな彼女の様子を見にしたたきなは、心配そうに眺めていた。

 

「千束………」

 

「………」

 

 

『落ち込んでいる所で悪いが……お前達が頼んでいた不審者についても言わなければならない。』

 

 報告が終わったと思ったその時、クルミが突如そう言い出した途端“はっ!”と思い出した2人。実はあの時、ミカがジンと会話している間に2人は、クルミに“カボチャ頭がどうやって東京駅に現れたのか”について調べて欲しいと頼んでいた。

 

 そもそも何故あの場にいたのか、またはどうしてたきなを助けにやってきたのか。

 

 色々と予想していた時、クルミから予想外の答えが出てきた。

 

『あの場にある防犯カメラを全て調べたが……残念ながら、()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()。』

 

 

 

「「…………え?」」

 

 クルミの口から出た答えを耳にした2人は、思わず疑問の声を出してしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!だったら、他の防犯カメラは!?例えば、遠いところから…」

 

『もちろんそれも既に調べ済みだ。だが、どこを探しても、その姿すら確認できなかったぞ。おそらく既に監視カメラの位置を把握しているかもしれんな。』

 

「そんな………」

 

「つーかさぁ、ぶっちゃけその姿をまだ見ていないアタシが言うのもあれなんだけど……そもそもそのカボチャは何の目的でたきなを助けたわけ?」

 

「「…………」」

 

 運転中であるミズキがそう語るが、その理由が未だに分かっていない千束とたきなは、2人揃って黙る事しかできなかった。

 

 それから結局、謎が解決しないまま、リコリコに到着したのであった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 やがて空が暗くなった頃。

 

 不審者(カボチャ頭)の正体である暁月蒼夜は、一体何をしているのかと言うと……

 

 

 

 

「(いやぁぁぁ〜〜〜〜〜よかったぁぁぁ〜マジで!あの時、小型医療箱を持ってきて良かったぁ〜!おかげでたきなさんの足を治療できたし、後はお医者さんに見てもらえればいいんだけど………ってか何あの髪の長いおじさんは!?しかも本物の暗殺者だし、めっっっちゃ怖かったぁぁぁぁ〜〜〜マジで怖すぎで声が出なかった!ってか何あのツラ構え、シクラーゼ・マイアーと同じくらい怖かったぁ〜!)」

 

 ──と、夜道を歩く蒼夜はその時までの記憶を思い出し、内心でたきなが無事である事を安心すると同時に、暗殺者の恐ろしさに驚愕するのだった。

 

「(まぁ……一応あの黒髪の暗殺者は、プチッガイのおかげでなんとかなったけど………あれから千束さん達から全然連絡来ないし………なんかあったのかな?)」

 

 ちなみに蒼夜は現在、リコリコへ向かっている最中である。もちろん連絡する手段もあるが、直接会った方がいいだろうと考えていた彼は、自分の足で行く事にしたのだった。

 

「(……………てか、何話せばいいのかな……)」

 

 

 リコリコで千束達に直接会おうと決めていたが、そもそも何を話せばいいのか、まだ考えていなかった。何を話そうかと考えている内に、いつの間にかリコリコに着いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 〜カラン♪

 

 

 

 

 

 

 

「(よっし……まず先に顔を合わせよう…)こ、こんばんは───」

 

 

 

「「そ、蒼夜君(さん)っ!?」」

 

 

 

「(……………え、何やってんの?)」

 

 

 

 リコリコに入った瞬間、目の前の光景を目にした蒼夜は、思わず目を丸くする。

 

 

 

 

 何故なら目の前には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その光景を目にした蒼夜は、正直状況が読み込んでいなかった。

 

「「……………」」

 

「…………」

 

「「……………」」

 

「………あの……何を……している…のです……か?」

 

 

「「………はっ!!」」

 

 

 相変わらず相手と喋る言葉が少ない蒼夜は、目の前の状況について思わず彼女達に尋ねる。そしてそれに対して彼女達もそれに気づき、慌ててお互いから距離を離れ、すぐに畳から立ち上がる。

 

「な、なななんでもないよ!ね、ねぇ〜たきな〜!」

 

「そ……そうです!ほっんとうに、なんでもありませんからね!」

 

「………は、はぁ……」

 

 “あの時の様子を見られてしまった蒼夜が誤解しているかも”と勘違いする彼女達は、焦って誤解を解くような口調で蒼夜に語る。ちなみに蒼夜にはそれがなんの事なのかは分からず、とりあえず適当に返答するしかなかった。

 

「それより蒼夜君の方は大丈夫!?怪我とかしてない!?」

 

「(ち、ちか…っ)ぼ………僕は……大丈夫……でし…た」

 

「そうか……良かった〜」

 

 いきなり蒼夜の方に近づく千束は、彼の口から無事であると聞いて、安堵の息を吐いた。そしてその問いに答えた蒼夜は、突然自分の方に近づいて来た時に少し驚いてしまったが、ずっと気になっていた疑問を思い出し、彼女達に尋ねようと声をかける。

 

「あの…………松下……さん……は?」

 

「「………ッ」」

 

 蒼夜が松下の名を出した瞬間、2人の表情が曇るかのように一変する。

 

 ついさっきの松下が存在しない人間やそれを操っている第三者などの情報を知った彼女達は、蒼夜にどう答えればいいのか迷っていた。だが、一般人である蒼夜の疑問に答えなければ逆に怪しまれると思い、口を開こうとするも、逆になんて答えればいいのか、言葉が出なかった。

 

「「………」」

 

「(………あれ…もしかして、なんかまずい事を言っちゃったのか?)」

 

 自身が尋ねてた途端、突然沈黙になってしまった彼女達の様子を見て、蒼夜は内心で少し困惑する。自分は何かまずいことでも言ってしまったのだろうかと内心で申し訳ない気分を感じてしまった。

 

 そしていつの間にか、よくわからない微妙な空気が広がる中、今まで黙っていた千束はようやく自身の口を動かそうとする。

 

 

「あ………あの蒼夜君………松下さんは……その───」

 

「“今日は楽しかった……また次の日に、是非またガイドをお願いしたい”って言っていましたよ。」

 

「……ッ!?」

 

「ちょっとのトラブルがありましたけど……それでも楽しんでくれましたよ。」

 

 ──と、無理にでも柔らかい表情を作るたきながそう語ると、千束も“うん……そうだね!”と彼女も今まで通りの表情で返答するのだった。

 

「そう……です……か……」

 

「……………ねぇ、蒼夜君。」

 

「は………はい……」

 

「今回の観光案内………松下さん……喜んでくれたかな……」

 

「………」

 

「千束………」

 

 その疑問を口に出した時、何故こんな事を蒼夜に言ったのか………千束自身にも分からなかった。

 

 今までの観光や会話の流れ、さらに千束の事を“良いガイト”と言ってくれたのも、全て松下を名乗っていた何者の演技。そんな疑問を出した千束を目にするたきなも考えていた。

 

 この事をまだ知らない一般人で蒼夜はどう答えるのか………

 

「…………」

 

「も、もちろん答えなくていいよ!その……聞いてみたくて……「…れた……かも…」…え?」

 

「よろ……こんで……いた……と思い……ます。だ…って……千束さん……を……その……“良いガイド”………って、言って……いました……」

 

 蒼夜の口から出た返答に、千束とその言葉を聞いたたきなも思わず目を見開く。相変わらず言葉足らずで時々言葉が途切れているが、それでもの口から出た言葉を聞こえた彼女達は、すぐに理解ができた。

 

 それはまさに一般人の答えである。だがそれでも、その言葉を聞いただけで千束は、ついさっきまで暗かった表情が明るくなり、いつものように微笑んだ。

 

「…………うん、そうだよね…………そうだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシッ(手を掴む音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───フワッ!?

 

 

 するとその時、千束にいきなり手を掴まれ、思わず蒼夜は間抜けない声を出してしまった。

 

「あ………あの………」

 

「いいから、いいから!ちょっとリラークス!」

 

 そう言いながら千束は、先ほど座っていた畳の所へ連れて行き、今度はその場に蒼夜を座らせようとする。そして、蒼夜を座らせる事ができた千束は、今度は彼の右横にちょこんと座る。

 

 一体何をする気なんだと内心で困惑すると共に理解ができなかった蒼夜は、彼女に尋ねようとした時………

 

「あの………なんd…「ごめんちょっと、肩借りるよ」

 

 

 

 

トゥッ!?

 

 隣で座っている千束は、突如自身の頭を隣にいる蒼夜の右肩に乗せる。それに反応した蒼夜は、驚きと共に思わず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を思わず出してしまった。

 

「(な、なななななんで〜!?ってか顔が……顔がめっちゃ近すぎなんですけどぉぉ〜!?)」

 

 何故彼女が、突然自身の右肩に頭を乗せるのかは理解ができない蒼夜は、内心で驚愕するほど動揺するのだった。

 

「あ……あの……「ありがとう」……え?」

 

「なんだか……少しだけ気分が楽になったよ……本当にありがとう。」

 

「(ち、近い……も、もうちょっと顔を左によs……)「私もいいですか」

 

 

 

 

 

ヘァー!?

 

 右肩に乗っている千束の頭に当たらないように、蒼夜は自身の顔を左側に寄せようとした直後。突如たきなは左横に座り、彼女と同じように自身の頭を蒼夜の左肩に乗せる。

 

 その感覚で即座に反応した蒼夜は、思わずさっきの声を再び出してしまった。

 

「(た、たたたたたきなさんまでぇ〜!?な、なんで……なんでこんな事になったん!?というか、近い〜!!)」

 

「ちょいちょい〜どうしたの、たきなまで〜?」

 

「…………なんとなくです」

 

「そっか〜……それなら仕方がないよね〜」

 

「(じゃないでしょ〜!!!できればあれなんだけど、早く肩から離れてくれると嬉しいんですけど〜!)」

 

 内心でツッコミが止まらない蒼夜は、思考が追いつかなかった。何より蒼夜がいた前世の世界では、千束達と同じ年齢の女子と触れた事もなく、むしろ自身の肩に女子の頭が乗っている状態という……ラブコメ的な展開をした経験も無かった。

 

 そして今、その展開を始めて体験している蒼夜は、緊張と共に心臓がはち切れそうになる程、動揺していた。そしてこの状況からどう脱出しればいいのかを考えているが、その答えが全く見つからなかった。

 

 

 ※ ちなみに蒼夜は、彼女達の頭に当たらないように、自身の顔を真ん中に固定している。

 

 

 

「(ハロ!プチッガイ!なんならヴェーダでもいいから……

 

 

 

 

 

誰か……

 

 

 

 

 

 

 

 

誰か助けて〜〜〜〜〜!!!!)」

 

 

 

 もはや蒼夜は基地で留守番している仲間達に助けを求めるが、残念な事にその返事が来なかった。

 

 それから数時間後……ようやく自身のアパートに帰った蒼夜は、ついさっきの出来事を忘れる事がなく、眠れる事ができなかったのは……また別のお話…………

 

 

 

 

 

 

 

 

〈おまけその1〉

 

 

「そういえばたきな!あのクマちゃん達可愛いかったね〜!」

 

「…………私も、もっといっぱい触りたかったなぁ……」

 

「あれ?たきなさん?」

 

(当たるな当たるな当たるな)」←彼女達の頭に当たらないように必死になる蒼夜は、2人の会話を全く聞いていない様子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈おまけその2〉

 

「ジン、ちょっといいか?」

 

『どうしたミカ?早速電話をかけて………まだ何か聞きたい事があるのか?』

 

「お前が気絶した事について聞き忘れたが………あの場で何があったんだ?」

 

『…………』

 

「………ん?もしもし、聞こえt『ミカ……』……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞かない方が、良い事もあるんだぞ』

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 そう答えたジンは通話を切るが、それがどういう意味なのかはミカは全く予想ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 もう一度言いますが………




 SEED FREEDOMは本当に最高に良かったです!!!


 この映画こそ、20年間待っていた人の夢!

 人の望み!

 人の業!!




 あまりネタバレはしませんが、これだけはいえます……


 キラ&ラクスは最高でした!

 シン・アスカも本当に最高でした!!!!

 そしてアスランは……………いろんな意味で最強でした!!!


  ガンダムSEEDが放送されて20年以上も待ち望んで……やっとこの日を迎えて、良かったです!!全ての製作者さんとスタッフの皆様に………SEEDという作品、そして映画を生み出してくれた事を……本当に感謝申し上げます。

 ちなみに私は、一回観たその次の日に、もう一回観ちゃいました!

 まだ観ていない方は、本当に観に行ってください!






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Episode 24 Creeping into the city at Night



 SEED FREEDOMに登場するディステニーガンダムSpecIIが最高すぎて、メタロボ魂版のフィギュアを予約してしまったぜ(震)




 

 

 

 それは、松下の依頼を終えた後の事だった………

 

 

 

 

 

 時は、既に空が暗くなった頃……

 

 東京の街並みから明かりの大半が既に消えており、大半の人々も既に寝静まっているだろう。

 

 だが、そんな暗くなった街でも、()()()()()()()()()()()()()()()()………

 

 

 

 

「コンテナは四つ隠しておいた。」

 

「また指示がある………上手く行けば、半分渡す。」

 

 

 旧電波塔がよく見える場所で、夜陰に紛れて二人の男が何らかの取引を行なっていた。しかもその姿は、以前()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 黒髪の男は、赤髪の男に札束の入った封筒を渡す。それを受け取った仲間は、“分かった…”とだけ返答し、背を向けながらその場から去っていくのだった。そして黒髪の男も別の方へ向かおうと、夜の街の方へと歩いて行く。

 

 

 その直後、()()()()()()()()()()が居た。

 

 

 

 ベージュ色の制服を着るボーイッシュの少女………女子高生(リコリス)だった。

 

 

 

 

 今回、DAから与えらた任務はターゲットの確保。もちろん相手に不審な動きが見えたら、捕獲もしくは抹殺する事も許可されていた。それを聞かされた少女は“この任務が成功したら、セカンドに上がる事もできるかも知れない”と、内心で昇進する事ができると思い込んでいる。

 

 だからこそ彼女……サードリコリスは、この作戦を成功させなければならないと、怪しまれないよう慎重に動きながら尾行を続ける。

 

 それから数分後、男は暗くなった街の歩道を渡った途端、サードはゆっくりと自身の銃を抜いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キィィィィィィ!!!!!

 

 

 

 

 

「………ッ!?」

 

 

 突如、車のエンジン音が聞こえたと同時に光が照らされ、それに気づいたサードは思わず振り向くと……

 

 

 

 

 

 

 ドオォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 突如、猛スピードでやってきたスポーツカーが容赦なくサードの少女を跳ね飛ばした。車に衝突されたサードは、全身の身体に衝撃の痛みが走ると同時に受身も取れず宙を舞い、硬いコンクリートに叩きつけられるかのような感覚を感じた彼女は、道路のド真ん中に倒れる。

 

 倒れたサードの身体が動かなくなり、意識が朦朧としている。そんな時、回りから少女を囲むようにゾロゾロとツナギの男達がやってくる。そしてその光景を眺めようと少女をはねた張本人である緑色のアフロの男……()()は、自身が乗っていたスポーツカーから降りて、薄っすらな笑みを浮かべていた。

 

 

「まずは1人目だ………リコリス。」

 

 ──と、真島がそう口に出すと同時に、ツナギの男達は平然と手に持っている()()()()()()()()()()()()()()()。道路のど真ん中に倒れるサードは、思考が朦朧とするも目の前に広がる光景がハッキリせず、加えて身体に力が入ってこない様子が見えていた。

 

 

 そんな状態となった彼女を、男達は銃の引き金を引こうと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ガッ!?

 

 

 

 

 ──()()()()、突如一つの悲鳴が響いた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()、一番近付いて発砲しようとした一人のツナギの男だった。

 

 ついさっきまで男は、余裕を持って一番最初にサードを撃とうと銃の引き金を引こうとした直前、突如銃を持っている手に何かが当たった。しかもその後、まるで火に焼かれるかのような痛みがじんわりと徐々に感じてくる。やがて痛みが大きく広がり、小さな悲鳴と共に手に持っていた銃をその場に落としてしまった。

 

 

 

 そして…………

 

 

 

 「──ヅ……あ゙ぁぁッテェェ!!??

 

 

 ついに痛みに耐えれなくなった男は、大きな悲鳴を上げる。

 

 その悲鳴を聞こえたツナギの男達は、全員で声が聞こえた方に振り向くと目の前には、自身の手を押さえながら、地面に仰向けな状態で倒れているのが男の姿が目に入った。しかもよく見ると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 痛みで苦しんでいる男の様子を目にしたもう一人の仲間が近づこうとした時………

 

「おいどうs………ガッ!?

 

「なんだ……何が起k…イィッ!?

 

あ゛………イッテェェ!?

 

「お、おいお前ら!大丈夫か!?」

 

 まるで病気が移るかのように、次々と男達は手や足に痛みが広がると当時に、悲鳴を出してしまう。また、無事だった者達もいるが、仲間が突然悲鳴を上げたり倒れたりするのを目の当たりにし、驚愕する。

 

 

「(今のは……狙撃か!?)」

 

 一方、()()()()()()()()()()()()()は、周囲を見渡す。だが、不運な事に夜の街全体の明るさが少なく、暗すぎて狙撃手がどこにいるのかも分からない。しかも不幸な事に暗視ゴーグルなどを持ってきておらず、真島は車のドアを盾代わりとして身を守りながら、懐から銃を取り出す。

 

 今回の作戦で、()()()()()()の指示通りに動いていた。だが、最初の部下の悲鳴に続き、3〜4人の部下達も同じ痛みと悲鳴を上げている。当然そんな事を聞かされてはいなかったし、むしろそのような事が起きるなら事前にインカム越しで伝えてくるはずだ。

 

 そう考え込む真島は、急いで耳に付けたあるインカムを使って協力者(ハッカー)を呼ぼうとした時……

 

 

 

 

ザ──────

 

 

 

 何故か、協力者からの通信が途絶えられてしまったのか、返事が返ってこない。それどころか、通信越しから砂嵐の音しか聞こえなかった。

 

 

 

「………おいハッカー、聞こえt───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラン

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 

 相手からの通信が聴けず、インカムを弄ろうとした時、足元の近くに()()()()()()()()()()()が聞こえた。しかも真島だけでなく、他の部下達も遅れてその音を聞こえており、彼らの近くに数十個以上の小さな缶状の物が地面に転がっていた。

 

 “なんだ、なんだ?”と部下達が遅れて反応する中、その音を一番最初に反応した真島は、自身の視線を地面の方に向けると………

 

 

 

 

 

 

 

 そこには『SMOKE』と表示されてある小さな缶状……煙幕弾が目に入った。

 

 

 

 

 

 

「────シッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パッシュゥゥゥゥゥゥゥゥ──── 

 

 

 

 

 

 真島が自身の目を見開いた瞬間、突如地面に転がってきた煙幕弾から大量の煙が溢れ出てきた事により、真島の視界が完全に塞がれてしまった。しかも彼だけでなく、ツナギの男達の足元近くに転がってきた他の煙幕弾からも大量の煙が溢れ出てきた。

 

「ブウァ!?な、なんだこれ!?」

 

「敵だ……敵がいるぞ!」

 

「ゴッホ、ゴッホ!!ち、ちくしょう……何にも見えねぇ!!」

 

「クソどこだ!こうなったらこっちも反撃しt───」

 

馬鹿やめろ、撃つな!味方に当たったらどうするんだ!」

 

 突然襲いかかってくる大量の煙により、慌てるツナギの男達。敵襲であると気づくも、視界が煙で塞がれているせいで、視認する事もできない。当然彼らは、銃で反撃しようにも、まだ見えない仲間に弾が当たってしまう可能性もある為、むやみに撃つ事も動く事もできなかった。

 

 視線の先には煙だけしか見えない男達は、一歩も動けずただ所持してある銃を構えながら、いつどこからやってくる敵に警戒するしかなかった。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(インカムどころか、スマホの通信も使えねーってことは、敵のジャミングか……チッ!肝心なハッカーは使えねーし、おまけにまだあのリコリスを殺していねーんだぞ。)」

 

 おそらく敵襲の正体は道路に倒れているリコリスと同じ物であると内心で思考する真島は、懐から自身のリボルバー……チアッパ・ライノを取り出し、周囲の警戒をしながら銃を構える。

 

「こういう感じ………1()0()()()()()()だったかな……」

 

 ──と、この状況を懐かしむ真島は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。部下と敵の位置や動作を把握し、さらに筋肉の動きにも特定する。また、部下とは別の足音や銃声が聞こえれば、それが敵である事も分かるだろう。

 

「(さぁ、何処から仕掛けてくる………リコリス!!)」

 

 この時真島は思った、襲いかかって来るのはリコリスだろうと………

 

 

 

 

 

 

 それが、()()()()()()()()()()だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガッシャン

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ッ!」

 

 

 聴覚でその音を捉えた瞬間、真島の表情が一変すると同時に、内心で思考し始める。

 

「(なんだ……機械の音なのか?いやそれだけじゃねー、これは()()()()()()の音か……ってことは、相手はヘリでも使ってんのか?いや待て、そもそもここは街のど真ん中だぞ。しかもヘリじゃね()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それに距離は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ッ!あのリコリスの方かぁ!!!」

 

 

 部下達に向けた狙撃や大量の煙を巻いたのも、この音を出した何かであると思考する真島は、その音が聞こえた方に全速力で向かう。おそらくあの場に倒れているリコリスを救助しに来たのか、それとも別の何かが彼女を連れ去るのか……と真島は内心で思考する。

 

 そう考えている内に、彼は自身のリボルバーを取り出し、即座に構えた瞬間………

 

 

 

 

 

BAN!BAN!

 

 

 

 

 

 

 

キン!キン!

 

 

 

 

 銃口から弾丸を二発放ち、何かに直撃する。だが、直撃したその音はまるで()()()()()()()()()()()()()だった。それに聞いた真島は目を見開き、思わず“ニヤリ…”と、不気味な笑みを出してしまう。

 

 

「(間違いねぇ……やっぱりだ!向こうに()()()()()!!!)」

 

 

 自身の聴覚に間違いがないと分かった真島は、さらに加速する。

 

 向かっている先には、敵がいる……それがリコリスなのか、または別の勢力なのか……

 

 どちらにしろ、真島はただ向かう事しかできなかった。

 

「(……エンジン音が近い……あそこに間違いなく何かが飛んでいる!走れ……走るんだ俺!例え捕まえなくても、せめて敵の正体を目にするだけでいい………ここで絶対に逃すな!!!)」

 

 内心で自分自身にそう言い伝えながら真島は、音が聞こえた方へただ突っ走るのだった。やがて、煙がどんどんと薄くなって行き、ついには煙の中から抜け出す事ができた。

 

 それに気づいた真島は、相手の正体を確認しようと、視線を向けた瞬間…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

「────は?」

 

 目の前の光景がただの暗い街にしか見えない真島は、唖然とする。急いで辺りを見回すが、それらしき姿が見えなかった。加えて、道路に倒れていたはずのボーイッシュのリコリスも、いつの間にか消えていた。

 

「おいおい、マジでふざけんなよ……(ならさっきのはダミー……いや違う、あれは間違いなく航空機のエンジン音だったはずだ。ましてやヘリでもねぇ………それになんだ最初の機械の音は……まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()が──)」

 

 一体何をどうやって倒れているリコリスを救助し、この場から素早く撤退したのか。真島は内心で深く思考していた時、煙から部下である2人のツナギの男が現れる。

 

「真島さん大変です!さっきのリコリスって女のガキがいつの間にか消えていました!!」

 

「さっきから探したんですが……見つけたのは、あのガキが持っていた物です!」

 

 そう語りながらツナギの男は、つい先ほど発見したリコリスの装備である銃と鞄、そして彼女が所持していたスマホを真島に見せる。

 

 それを目にした真島だが、何故か一言も喋らず、沈黙したまま眺めていた。

 

「…………」

 

「ど、どうしましょう……今から探しに行きますか!?」

 

「…………」

 

「……あ、あの……?」

 

「…………おいお前ら。」

 

「「は、はい!」」

 

「撤退するぞ。」

 

 

 

 

 

 

「「…………へぇ?」」

 

「聞こえなかったか、()退()()。他の奴らにもそう伝えろ。」

 

「し、しかし……リコリスはどうするんですか!?」

 

「そうですよ!まだ何処かに隠れているとk───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいからさっさと行け」

 

 

 

「「は、はいぃぃぃ!!!」」

 

 ようやく口を動かす真島は、今度は部下達にこの場から撤退するよう指示を出す。真島から指示を受けたツナギの男達も、急いで慌てて他の仲間達に伝えようと向かうのだった。

 

 そしてその場に残っていた真島も向かおうとした時、ふと夜空を見上げる。

 

 「………さっきの音は、飛んでいるようにも聴こえたが──

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかぁ、宇宙人に連れ去られたとかねーよな……」

 

 

 ──と、口角を上げながら不気味な笑みで冗談半分で言い放つが、額からは一筋の汗が流れていた。

 

 リコリスの殺害や情報を奪う事もできなかったが、それよりもまだ見ぬ勢力がこの地に存在すると分かっただけで良しとした真島は“とりあえず、あのハッカーに説教しねぇとなぁ〜”と、未だに連絡が来ない協力者に睨むような口調を語りながら、闇夜に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからわずか三日が経った頃、DA本部では……

 

 

 

 

 

「司令!2時間前に通信不明だったリコリスが見つかりました!」

 

 リコリスの司令官である楠木が、秘書の報告を聞きながら歩いていた。しかも秘書の表情は、今までにないくらい、困惑している様子だった。

 

「それで……場所は?」

 

「今度は◯◯病院で入院しているのを発見されました!ですが……今月に入ってから、もうこれで4人目です! しかも、クリーナーからの報告だと、()()()()()()()()()()()()()と……」

 

「またか………チッ

 

 秘書の口から語られた報告を耳に入れた楠木は苦痛の表情を浮かび、思わず舌打ちを出してしまった。楠木自身も何が起こっているのか未だに原因が分からず、内心で困惑しながら指令室に入る。

 

 

 

「何がどうなっている!?」

 

「クソッ!もうこれで四度目だぞ!」

 

「監視カメラにも映っていないんだぞ!」

 

「そんなバカな!?も、もう一度調べてみろ!!」

 

「ダメです!原因が分かりません!」

 

 

 指令室に入った瞬間、DAの職員達が手を動かしながら、原因不明の問題を探すのに焦っていた。そんな中、楠木の姿を見つけた1人の職員が思わず自身の口を閉じると、他の職員達も気づき一斉に同じ視線を向ける。

 

 そんな彼らの前に立った楠木は、職員達に新たな指示を出す。

 

 

 

 

「全隊員にモードSで警戒態勢!」

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 それから翌日……

 

 

「え……リコリスが?」

 

『はい………4人とも、単独行動中に襲われたらしいです。』

 

 ──と、電話越してたきながそう語ると、千束は彼女の言葉に自身の耳を疑った。

 

「な~んで特定されてんだ〜?」

 

『わかりません…例のラジアータのハッキングと関係あるのかも……それに、()()()()()()()()()()()()()()……』

 

「そっか〜生きているのか〜………って!え、4人とも生きていたの!?」

 

『確かにそう聞かされました……しかも全員、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』

 

「病院………え、どういう事?」

 

 彼女の口から語られた言葉に、千束はさらに理解ができなかった。

 

 一応、たきなが事前に聞いてきた報告を簡単に説明すると………

 

 単独で任務に向かった4人のリコリスは、なぜか通信不明のままそれぞれ何者かに襲われていた。だが、わずか2〜3時間後にラジアータによって発見され、同時に生存している事も分かった。しかも、発見した場所は何故か一般人が通うであろう病院の病室で入院していたらしい。

 

 その時、DAの関係者である者達が発見した病院の医師達に、当時に何があったのかを尋ねると……

 

『実は……それが不思議なんです。あの日……突然緊急搬送されたという連絡が入ったんです。“10代の少女が車に轢かれた”と、そこから何の説明もなく、救急車が到着したんです。そして扉を開けると、なんとそこには、身体中に包帯だらけの10代の少女が運ばれてきたんです。幸い、事前に誰かが緊急治療をしてくれたおかげで、命に別状はありませんでしたが……念の為に救急車を運転していた者に事情を説明してもらおうと聞きに行ったら………それがなんとびっくり、()()()()()()()()()()!』

 

 ──と、目撃した医師達も何故リコリスが病院に運ばれたのかも、原因不明のままだった。しかも何故か、彼女達が常に持ち運んでいる鞄や装備などは、無くなっていた。

 

「なるほど〜つまり……倒れているリコリスを病院へ連れたけど、それが誰が連れたのかは分からないと……で、その救急車には運転手が最初からいない。いや何それ怖ぁ……もしかして幽霊〜?」

 

『幽霊かどうかは分かりませんが、恐らく遠隔操作かもしれませんね。しかも、一体どんな目的で襲われたリコリスを助けたのかも、未だに不明ですし……』

 

 

 “えぇ〜何それ全然わかんな〜い!”と流石のファーストである千束も、何が原因なのか分からなかった。そんな疑問を抱いている彼女に、たきなはとある人物からの伝言を伝えようとする。

 

 

『そういえば、山岸先生から伝言を預かっていました。“しばらく、単独行動は控えなさいよ。それと今月の検診昨日よ”と……』

 

「………あ、あぁ~そ、そうだった〜……」

 

『……………行かなかったんですね』

 

「だ、だって~」

 

 歯切れが悪い千束は言い訳しようとするが、自身のテーブルを目にする。

 

 テーブルの上には、乱雑に広げられた大量の映画のDVDやお菓子の数々。もはやそれは、子供の散らかし放題のような有様だった。

 

『………はぁぁ、もういいです……そろそろ到着しますので、今日からペアで行動しようと思います。』

 

「いやペア〜って毎日お店で一緒じゃ………ん?ちょっと待って、今なんて───」

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン♪

 

 

 

 

 

 疑問を尋ねようとした時、玄関からチャイムの音が鳴る。こんな朝早く誰だろうと思いつつ、千束は玄関のドアを開けると、そこには予想外の人物が立っていた。

 

 何と目の前には、左足に包帯を巻いている状態のたきなが立っていたのだった。

 

「ですから………夜は2人で交代で睡眠をとりましょう。」

 

「.………へ?」

 

 未だに状況が呑み込めていないのか、扉を開けたまま固まった千束。そんな彼女の横を通り抜けて、たきなは部屋へ堂々と中へ入って行く。

 

「夜は交代で睡眠をとった方がいいですし、安全が確保されるまで24時間一緒にいます!

 

 ──と、そう告げた彼女を見て、千束は思わず喜色満面になる。

 

 

 

「一緒にてことは…………うちに泊まんの!?

 

 今の状況が緊急事態でありながらも、何故か彼女はたきなが部屋に泊まる事を喜んでいるみたいだ。

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 その頃、開店前のリコリコでは………

 

 

「いくら安かったからって…………仕入れ過ぎじゃない!?」

 

「ジュースにすればいい……流行っているんだよ。」

 

 店のカウンターでミズキが思わず声を張り上げるくらい、一本の包丁だけで仕入してきた大量のスイカを切り分ける作業をしている。これらのスイカは全てミカが注文したらしく、何でも最近の流行りのスイカジュースを作ろうとしているらしい。

 

 それを聞いたミズキは、店長の思いつきに頭を痛めていると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかもそのスイカを取った犯人は、世界一の天才ハッカー……リス(クルミ)であり、今からこっそりと食べようとする寸前を見てしまった。

 

 

「おいこら何してる……さっさと働け」

 

ギクッ……ぼ、ボクは電脳戦専門だから〜」

 

「な~に誇っているらしい言い方してんのよ!ゲームして遊んでるじゃねーか!つーかスイカ返せぇ!

 

 ──と、スイカを取り返そうと動くミズキと抵抗するクルミ。2人がじゃれ合っていると、ちょうどそこへミカがやってくる。

 

「クルミ……手伝ってもらいた事がある。」

 

「いやだから、ボクは──」

 

「もちろん………電脳戦だよ。」

 

「……ッ!」

 

 それを聞かされたクルミは、“また面倒な事をやらされるな”と何となく予想しながらも、今の自分を匿ってくれるリコリコの為にひと働きでもしようと、スイカをかぶりつきながら、ミカの方へ向かって行く。

 

「あぁ!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」

 

 やがて2人が店の奥へ向かって行くと、残されたミズキは目の前にある未だに減らない大量のスイカを再び目の当たりにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ〜〜〜〜もう!蒼夜はどこにいるんのよぉぉぉ!!!!!

 

 

 

 

 

 ちなみに、蒼夜はどこで何をしているかというと………

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 

 

 リコリコの店の前に生えている雑草を抜いてくれとミカに頼まれた蒼夜は、作業しながら深く大きなため息を吐いていた。雑草を抜く作業に疲れたため息を吐いていたのではなく、むしろそこまで疲れていなかった。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ…………(マジで何が起きてんだ……この街は……)」

 

 

 ──と、再びため息を吐くと同時に疑問を抱いていた蒼夜は、今月から始まって4()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を遡る事、4日前の深夜。

 

 リコリコで千束達と別れた蒼夜は、そのままアパートへ帰ろうとした後の事だった……

 

 

 

 

 

「ねぇ………これはマジでどう言う事?」

 

 ──と、現在彼は、人気がいない廃工場にある物置に腰をかけてながら、目の前で“ぴょんぴょん”と跳ねている二つの丸い物体……ハロ達に疑問と共に声をかける。

 

『イッタハズ!緊急事態ダ!』

 

『ソウダ!ソウダ!』

 

「いや………だからって……」

 

 揃って返答するハロ達に対して、曖昧な口調で語る蒼夜は視線を横の方にずらす。何故なら、彼の隣には……

 

 

 

 

 

 

「スー……スー………」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな彼女の様子を眺める蒼夜は、頭を抱える。

 

 そもそも何故彼は、こんな場所にいるのか。

 

 今からほんの数分前に、アパートへ帰ろうとした時、蒼夜のスマホにヴェーダからの報告通知が送られていた。しかもその内容は“襲われたリコリスの少女を保護し、現在東京都内の廃工場にて治療を行なっている。”と書かれており、それを目にした蒼夜は驚愕しながらも急いで廃工場の所まで向かった。

 

 それから到着した頃、丁度その時ハロ達は既にリコリスの治療を終えていたのだった。幸い命に別状がなく、身体中に骨折などもあるが、リハビリすれば普通に生活する事ができるとハロ達が報告する。それを聞いた蒼夜は、一安心する。

 

 だがそれよりも、もっと大きな疑問を抱えていた。そもそも何故ハロ達は、名も知らぬ女子高生を助けたのか、そして何故この少女は、襲われたのか……

 

「はぁぁぁぁ………これを使って助けたって事は………相当な問題があったんだよねぇ……」

 

 ──とため息を吐きながら、蒼夜は目の前で膝立ちの状態で待機している()()()()()M()S()を目にする。

 

 本来そのMSの装甲などの色は、黒を基調としたカラーリングだったが、今の見た目は全身モノクロの状態で待機していた。ちなみに、装甲の色が変わったのはMSの特殊な装甲である……フェイズシフト装甲(通称:PS装甲)の電源を切っている為、電圧を無駄遣いする必要もなくなっていた。

 

 そして何より、額には『V』の文字が載ってあった………

 

 

 

 

 

GAT-X207

 

ブリッツガンダム

 

 

 

 

 

「一応僕が頼んどいて言うのはあれなんだけど……グゥルの操縦テストをしていた時に……なんでこうなった訳?というか、そもそもその子に、一体何があったの?」

 

 ──と、黒いMS……ブリッツガンダムとその隣にある飛行物体……大気圏内飛行用のサブフライトシステム……“グゥル”も眺めながら蒼夜は、いまだに理解が追いついていない疑問をハロ達に尋ねる。

 

 本来、元々蒼夜がMSを乗せた状態でグゥルの操縦テストを行うはずだったが、リコリコでの仕事が増えた事であまり行う時間がなかった。だからこそ彼は、忙しい日に操縦テスト代わりとしてハロ達に任せようと、時々頼んでいた。

 

 そして今回も、蒼夜に操縦テストを任されたハロ達は、高度600〜700メートルの高さで、テスト飛行を行なっていた。しかも、基地からの遠隔している訳ではなく、それぞれが操縦するグゥルとブリッツガンダムの操縦席で実際の操縦を行なっていた。もちろん人に見られないよう、深夜の時に行なっていた。

 

 ちなみにブリッツガンダムに関しては戦闘訓練する必要がない為、メイン武装である“攻盾システム『トリケロス』”と“ピアサーロック『グレイプニール』”は基地で保管する事になっていた。

 

 そんなMSを乗せながらグゥルの飛行テストが終了した後、たまたま街中で女子高生……リコリスが襲われているのを発見してしまった。その時のハロ達は、自分達の指揮官である蒼夜に連絡しようとしたが、状況から考えて彼女は謎の集団に殺されてしまうと、ヴェーダからの報告を聞かされた。

 

 ちなみにその時の場には蒼夜がおらず、どうしようかと悩んでいたハロ達は、()()()()()()()()()()()()()……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど......それで考えた結果……殺されかけそうになった彼女を助けに向かって、でそれから何やかんやあった後、無事に救出に成功。そして僕がここへ到着するまで、彼女の怪我の治療もやったって事か………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、なんで?」

 

 ハロ達からこれまでの出来事を聞かされた蒼夜は、思わず疑問の声を出してしまった。ちなみにその時に救助に向かったハロ達は、襲われていた謎の集団に見つからないようブリッツガンダムに()()()()()()()()()を使ったおかげで、無事にリコリスを救出する事ができたのだった。

 

 

 

ミラージュコロイド・ステルス

 

 

 

 機体表面に特殊なコロイド粒子を磁気で定着させてカモフラージュする技術及びシステム。また、莫大な電力が掛かる為、バッテリー駆動での使用時間に制限があり、加えて微粒子ガスによって視覚、電波、または赤外線における自機の存在を隠匿する事も可能であり、ステルス機能を搭載するMSとしては使用できる。簡単に説明できれば、MSが透明化になるって事である。

 

 ただし、ブリッツガンダムがステルス機能を使用した際、ミラージュコロイドを展開すると同時にPS装甲が展開できない為、防御力が低下する。ちなみに、ミラージュコロイドはPS装甲同様に電力消費が著しく、本機の場合は連続で約80分間という使用時間しかなかった。

 

「(先念の為に調べたけど……()()()()()()()()()()()()()()()()()……まぁ〜ブリッツのステルス機能を使ったら、装甲の防御が下がるの分かってたけどなぁ〜。それよりも、さっきからずっと気になっていたけど………)」

 

 ブリッツの装甲を確認した蒼夜は、ある疑問を思い出す。何故自分の確認を取らずに、ハロ達は名も知らぬリコリスである彼女を助けに向かったのか………それが気になって仕方がない蒼夜は、その事について思わずハロ達に尋ねようと再び声をかけたら………

 

 

『…………分カラナイ』

 

「………え?」

 

『ドウシテ救助シタノカ………理解ガ不明デアル。』

 

『分カラナイ!分カラナイ!』

 

『ダケド……何故カ、ソウシタ方ガ良イト思ッタ。』

 

『思ッタ!思ッタ!』

 

「……………ハロ……」

 

『モシカシテ………私達二不具合ガ起キテイル?』

 

「……え?」

 

『ヤッパリ、ドコカガ壊レタトカ?』

 

壊れたって……いや全然そんな事ないよ!ハロ達は何にも間違ってないし!むしろ僕がいない間に、よく頑張ったよ!うん、本当に!」

 

 不具合が起きていると思い込むハロ達に否定と共に褒め言葉を送る蒼夜。実際、名も知らぬリコリスを助けに向かっただけで、良くやったと思っている。だが、内心には一つだけ疑問が残っていた。

 

「(いつもは僕の指示で動いてくれるけど………もしかして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だとしたら、それはすごい……って事でいいのかな?)」

 

『ネェ、ネェ、ソウヤ!コノリコリス、ドウスル?』

 

『ドウスル!?ドウスル!?』

 

「え………あ〜そうだった。すっかり忘れてた〜」

 

 ハロ達に疑問の声をかけられた蒼夜は、未だに寝ている女子高生の存在を思い出す。もちろん自分達の存在を知らす訳にもいかず、加えてここで置き去りにする訳にもいかない。どうしようかと悩み込む蒼夜は、すぐに思いつく。

 

「病院………うん、そうだ病院だ!ハロ、近くに病院がないのか調べて欲しい!こっちはヴェーダに救急車をハッキングし、遠隔操作で運転できるように伝えるから……よろしくね!」

 

『『了解!了解!』』

 

 色々と分からない事もあるが、とりあえず今は目の前にいるリコリスを病院へ連れて行こうとハロ達に指示を送った蒼夜は、早速ヴェーダにも指示を送ろうと自身のスマホを懐から出した。

 

 

 

 

 それから数分後、ハッキングした救急車を遠隔操作でリコリスを病院まで送る事ができた蒼夜は、安堵の息を吐き、今度こそそのままアパートへ帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あれで無事に解決………なんて思ったけど、まさかその次の日から昨日までの3日間に同じ出来事が起き続けていたなんて……流石の僕も想定できなかったよ……)」

 

 ──と、4日間の出来事を思い出した蒼夜は、頭を抱える程、深く大きなため息を吐いてしまった。

 

 最初の謎の集団に襲われる寸前のリコリスに続き、昨日まで同じような出来事をたまたま発見したヴェーダが蒼夜に報告した事で、同じようなやり方で救出に向かった。ちなみにその日でもなんとかバレずに救助する事も成功できたし、もちろん彼女達を病院まで連れて行く事もできた。

 

 だが、連日でリコリスを問答無用で襲ってくるのはおかしいだろうと、流石の蒼夜もそれに気づき、今まで謎の集団が行ってきた行動を思い返しながら深く考え込む。

 

 

「(確かリコリスって、日本に潜む秘密組織的な存在なんだよねぇ。もしかしてリコリスに復讐………とか、それともどこか別の組織の敵対なのか……それならこの前千束さん達と一緒に買い物に行った時にあった地下鉄で銃撃を起こしたのも、あの集団なのか………だけど何故?そもそも相手は自分と歳下で、しかも女の子なんだよ。しかも目的も分からないし………

 

 

 

 

 

 

 

───はっ、まさか!!)」

 

 考え込んでいたその時、突如蒼夜の脳内にある答えが浮かび上がる。

 

 

 

「(まさか………あの集団の目的って───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達にいやらしい事をするつもりなのかぁ〜!?)」

 

 

 

 

 ※違います

 

 

 

 

「(そうか……だからなのか!4人を襲ってきた男達の顔がずっと“ニヤニヤ”と怖い笑みをしていたから……大怪我を負っている彼女達をどこかに連れて行き、その後いやらしい事をする気満々だったのか!!)」

 

 

 

※違います

 

 

  

「(た、確かにあの4人の女の子……可愛いかったし……それなら集団で襲撃する理由も分かった。つまりあの謎の集団は……ど、同人誌みたいな事をする……女子高生を狙う変態集団だったのかぁ!!!)」

 

 

 

※ただ貴方の勘違いです

 

 

「(なんてことだ!!まさか現代にそんなヤバい変態がいるなんて!恐らくその集団のリーダーは、よっぽどのど変態で、ヤバい奴だ!うんそうだ……絶対に間違いない!!!)」

 

 

 ──と、内心で色々と勘違いする蒼夜は、どうすればいいのか考え込んでいた時に……

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと蒼夜〜!!!!手を貸して〜!!!!

 

 

 

 突如、ミズキが助けを求めるかのような声が店の中から響いた。その声に反応した蒼夜は「は、はい!」と慌てて返事を返しながら、店の中へ戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 その後、大量のスイカに悩まされたミズキは、蒼夜が助っ人として加えた事で、開店時間前までにどうにかスイカの切り分け作業を成し遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 

「おいハッカー………テメーマジでいい加減にしろよ……」

 

「ちょ、ちょっと待って!一回待って!!せ、説明させて……いや、させてください!説明するから……だから、銃を頭に押し付けないで〜!!!

 

 

 一方その頃、冷たい表情をする真島は、銃の引き金を引く寸前の状態のまま、協力者(ハッカー)の頭に銃口を押し付けている。

 

 そして、突然アジトに呼び出された協力者………ロボ太は、いきなり自身の頭に銃が押さえられている事に驚愕すると同時に、どう説明すれば納得してくれるのか、涙ながらも必死に考えていた。

 

 

 





 か、カタカナが難しかった……途中でひらがなが残っていないのかをチェックするのに、苦労しました。

 感想と誤字報告、ありがとうございます。

 次回もお楽しみに。


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Episode 25 夜道にご注意を…


 ガンブレの新作、ガンダムブレイカー4が2024年に発売決定!!!

 ガンブレ3をずっと遊んでいたので、まかさ4が出てくれるなんて最高!!!

 今年のガンダム祭りは熱いぜ!!
 










 え、NEW……何それ美味しい?(棒)



 

 

 

 港に留めた一隻の大型貨物船。

 

 そしてその中………()()()では、2人の密談が行われていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時は明治政府樹立以前に設立された裏の組織………暗殺部隊、“彼岸花”!その学名にちなんで現在では、“リコリス”なんて呼ばれている!」

 

 

 

 

 ──と、声を大仰に張り切る協力者(ロボ太)はモニターに映っている()()()()()()()()()などについて、目の前にいる男………真島に解説を行っている。その場にいる真島の身体の上半身には服を着ておらず、これまで行われていた4人のリコリスの襲撃中に傷を負ってしまった為、治療として包帯が巻かれていた。

 

 そんな状態となっていた真島は、ロボ太の解説に耳を傾けながら黙々と手に持っているハンバーガーを食べているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかしそんな彼の表情を全く気づかないロボ太は、自信たっぷりな調子でパソコンを操作しながら、モニターの画面に次の新たな画像を送る。

 

「そして………コイツが()()()()()()()だ。」

 

 モニターに写し出されたのは、金髪よりの白髪に赤いリボンを付ける少女………()()()()()()()だった。パソコンを操作したロボ太は、そこから話を更に続けようとする。

 

「基本、リコリスは都市迷彩服としての制服を──」

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

「………え?」

 

「違うよな?」

 

 次のターゲットであるリコリスの解説を行おうとした途端、たった一言でロボ太の話を強制的に止めた真島は、相手を睨むような視線でロボ太に向ける。真島の口から出た疑問と共に殺意を思わせる迫力を感じたロボ太は、“これはまずい…”と危機を察知し、慌てて弁解しようとする。

 

待て待て待て!一旦落ち着いて聞け!?コイツは普通のリコリスとは違うんだ!しかもコイツは、リコリスの中でもトップクラスの───」

 

「捨て駒はどうでもいい………オレの目的を……おまえが理解してるか確認していいか?」

 

「に、日本に入国した雇われテロリスト達全員が忽然と姿を消す………その原因の究明と解決………」

 

「分かってんじゃねえか………そのDAとやらをぶっ潰す」

 

 

 

 

 

 

 

 

ビッシャ!!!

 

 

 

「───ッ!?」

 

 

 

 ロボ太が自身の目的を理解しているのを確認した真島は、手に持っていた食べかけのハンバーガーを机の上に叩き潰し、飛び散った具とソースで汚れるその机の上には4()()()()()()()()()()()()()。しかもそれらは全て、襲撃してきたリコリス達から奪い取った物だった。

 

「お前がガキどものスマホからDAの本拠地が分かるっていうから持ってきたんだぞ……」

 

「そ、そのスマホからIPアドレスを探したけど、民間回線と違って時間がかかるし………」

 

「…………ハァァ………オイ

 

「えっ……ちょっ!なになになに!?

 

 “コイツ、本当に使えねぇな…”と内心で語ると同時にため息を吐いた真島は、自身の部下である2人の大男に目配りをする。すると男達は2人がかりでロボ太の両腕を拘束し、その場から逃げないよう机に押さえつける。突然の事で動揺するロボ太だが、そんな彼の様子を気にしない真島は自身の銃をロボ太の額に押し当てる。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「お前………本当に俺の目的に協力する気あんのか?もう一ヶ月だぞ……お前の指示で、俺の仲間が26人やられたんだぞ?」

 

「で、でも!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!まぁ、アンタの部下が大怪我でしばらく動けなくなったのは想定外だけど……それでもまだ何人かいるし!もちろんこの方法なら最速だし……こっちのリコリスだっておもしr──」

 

ダメだ………こっちはテメーの指示通りに動いた…このままじゃバランスが悪い。それにそっちは見つけたのか……()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「───(ギック!?)

 

 

 真島が冷たい口でその疑問を尋ねた瞬間、ロボ太は自身の仮面の中で額からさらに汗が溢れ流れたり、動揺をしている様子が見られていた。

 

 作戦を邪魔した存在と言う事は………以前真島達が銃撃を起こした地下鉄や、今まで行い始めたリコリスの襲撃を妨害した何者かの仕業。前回の地下鉄に続き、今回の襲撃作戦で本気でリコリスを殺そうと行動に出た。だが、未だにその正体が明らかにしていない存在に妨害された事に加え、殺害する事もできなかったリコリスを何処かへ連れ去ってしまった。

 

 襲撃したリコリスが所持していたスマホをなんとか強奪したものの、未だにDA本部の居場所も見つけていない。しかも、襲撃作戦に向かった部下達の犠牲は出なかったものの、大怪我で身体が動けない者達が続いていた。

 

 これまでの出来事や作戦の失敗を思い出した真島は苛立ち、目の前にいる協力者の腕があまりにも使えないとガッカリしながら、再び別の疑問を出そうと口を動かす。

 

「まずは最初の地下鉄だ………あの黄色いロボットはなんだ……DAにはそんな兵器があるなんて聞いてねーぞ。」

 

「だ、だから最初に言っただろ!あれはマジで想定外だ!あれから色々と防犯カメラの映像とか、様々なセキュリティに侵入して探したけど……それっぽいのは一つも見つかってない!」

 

 黄色いロボットとは、地下鉄で現れたプチMS……トロハチの事だろう。その場でリコリスを殺す事ができなかった真島は、早速その事をロボ太に調べさせようと仕事を任せた。だが、驚く事にその場にあった防犯カメラには何故か映ってなかった。

 

 当然その現場に行かなかったロボ太は、真島や他の部下達が目にした出来事を手掛かりの頼りとして探す事しかできなかったが、あれから一ヶ月経っても結局見つける事もできなかった。

 

「後!これまでの作戦でアンタらの邪魔をした存在なんだけども、正直言ってまだ探している最中なんだよ!通信ができなかったのも、恐らくなんらかの電波妨害を使った可能性もあるし……」

 

「だけどこれまでの作戦や指示を出したのも、お前だよなぁ……しかもほとんど失敗してるし。つーかよ、DAの居場所もそうだけど………あの巨大人型兵器の存在もまだ見つからねぇのか?」

 

「──ッ……そ、それは……」

 

「………はぁ〜お前……()()()()()()()()使()()()()()()

 

「なっ!そ、そっちだって……いきなり僕に無理な仕事を押しつけたからだろ!言っておくけど、侵入や逃走ルートを作ったのは、全部僕のおかげなんだぞ!!いい加減少しは僕の感謝してもいいじゃnあぁん?……い、イエ…ナンデモアリマセン……」

 

「…………3日だ。」

 

「───は?」

 

()()3()()()D()A()()()()()()()()()……じゃないと、お前を殺す

 

「3日って、いやそれh……お、おい何を──!?」

 

 目に感情を載せないまま淡々とそう告げた真島は、再び男達に指示をするかのように目配りをし、そのままロボ太をアジトから放り出した。

 

 

 だかこの時、真島は知らなかった……

 

 

 

 

 

 

 後に彼は……つい先ほどモニターに映し出された()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 それから時が過ぎてから、3日後……喫茶リコリコにて。

 

 

 

 

「この前の地下鉄襲撃事件にリコリスの襲撃犯……どうやら例の銃が使われているそうだ。」

 

「例の銃……もしかして、()()()()()?」

 

 店内の裏側にある押し入れの中で、PCを操作しているクルミは、千束に話しかける。この時彼女達が話しあっている内容は、以前からミカに頼まれたクルミがDAから入手した情報についてだった。

 

 ちなみに千束が語っていた“取引”と言うのは、以前ストーカー被害で相談していた篠原沙保里(しのはらさおり)が偶然撮ってしまった取引現場の写真である。

 

「う〜ん、リコリスを助けた人物も気になるけど………未だに解決できていない銃の取引の方も気になるんだよねぇ〜………もしかして、あの時DAハッキングしたのも同じ仕業なのかなぁ〜?」

 

 

 

「──(ギック!)」

 

 

 

「……ん?」

 

「あ、あぁ〜それは……ど、どーかなぁ〜………いや、もう少し調べてみるよ。」

  

「にしても、どうやってリコリスって識別してるんだろ?」

 

「さあなぁ………その制服がバレてんじゃないのか〜?」

 

 ──とそう言いながらクルミは、リコリスの制服を着ている千束に目を向ける。それを聞いた千束も「おぉ〜なるほど!」と納得して手を軽く叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜〜〜〜〜」

 

 店の営業が終了した後、リコリコの座敷席で難しい表情をするたきなが座りながら、何やら深く考え込んでいた。考え込む彼女の姿を初めて目にした蒼夜は、気になって仕方がないのか、店内の掃除をしている最中に思わず眺めてしまう。そんな時、カウンターの近くの席に座っているミズキが、気になって思わずたきなに声をかけようとする。

 

「どったのアンタ?」

 

「……………勝てないんですよ。」

 

「……へ?」

 

「家事の分担をジャンケンで決めてるのですが……一回も千束に勝てませんね……」

 

「(勝てない………あぁ、そう言うことか)」

 

 家事の分担と言うのは、現在彼女達が住んでいる千束のマンションで毎日行う家事当番の事である。ちなみに今回の家事の当番もたきなが行う事になった……というより、彼女達が共同生活を始めてから、ほとんどの家事はたきながずべてやる事になっているらしい。

 

 何故家事を全てたきなだけに任せているのかというと……それは以前彼女達が共同生活を始めた時、毎週の家事の当番の分担をジャンケンとして決めようと勝負していたが、結果は千束が全勝していた。ジャンケンで全敗してしまったたきなは、千束が不正な手を使っているのではないのかと最初は疑っていたが、そのような手を使っている様子が一切見られなかったらしい。

 

 その時の出来事を聞かされた蒼夜も少々驚いていたが、同時に違和感を感じていた。そもそも何故2人が、千束のマンションで共同生活を始めたのかと、彼女達に尋ねたら……

 

 

『あぁ〜実はリコr……じゃなかった!え、えっと〜……ほ、ほら!痴漢の被害に遭わないようにするたm──』

 

それは普通に電車でやる妨害方法でしょ……んん゛っ!実は学校のテストがもうすぐ行われるので、千束と一緒に勉強をする為、泊まらせているんですよね千束。』

 

『え………あ、あぁ〜そうだった、そうだった!!』

 

 ──と、一瞬千束が何かを誤魔化そうとする直前、それがまずいと感じたたきなはすぐに別の言葉で返答した。

 

 ちなみに本当の理由は、リコリスの襲撃が起きた事により単独での行動は危険である為、安全が確保されるまで現在は2人で行動しているのである。

 

 

「(ジャンケン………そういえば、僕もやってたよなぁ───)」

 

 そんな時蒼夜は、千束とジャンケンをしていた時の記憶を振り返る。

 

 

 

 

 

 

『はい私の勝ち!じゃ、買い出しお願いね〜』

 

『よっしゃ〜私の勝ち!蒼夜君、皿洗いお願いね〜!』

 

『またまた私の勝ち〜!それじゃ〜』

 

 

 

 

 

 

 

「(あれ?そういえば僕も、千束さんに勝った事が無くねぇ?)」

 

 ──と、記憶を思い返す蒼夜は、ジャンケンで彼女に一度も勝った事が無いのを思い出す。最初はそこまで考えていなかったが、店の買い出しや皿洗い、さらにボドゲの順番決めでジャンケンした時の記憶を改めて思い返してみると、確かな違和感を感じた。

 

 “そもそも勝てる確率が3分の1しかないジャンケンで、連続で勝てるのか…”と蒼夜が内心で施行している時、たきなの話を聞いたミカとミズキは一度お互いの顔を見合せ、納得したような表情を浮かび、2人揃って再び視線を戻し、たきなに何かを告げようとする。

 

 

 

 

 

 

「たきな………アンタ“最初はグー”でやってるでしょ〜?」

 

「それじゃ()()()()()()()()()()。」

 

「「………えっ?」」

 

 

 そう告げられた瞬間、それを聞いたたきなと、近くにいた蒼夜も、思わず疑問の声を重なってしまった。そんな彼らの反応を見たミカは、2人にも分かりやすく説明しようとする。

 

「まず千束が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは知ってるだろ………って、暁月君は初めてだよな。」

 

「(………え、そうなの?)」

 

 千束が何故ジャンケンで連勝できる理由を聞く前に、彼女が服と筋肉の動きから次の行動を予測についての方が、蒼夜にとって驚きを隠せなかった。

 

 そして次にミズキが、ミカに変わって千束のジャンケンについて説明を続けようとする。

 

「だからグーから始めちゃうと、次の手を変えるかどうかを読まれちゃう。変えずにグーだと当然パーを出されるし、変えると分かれば千束はチョキを出せば絶対負けないでしょ?なので、あいこにできる確率が3割〜」

 

「つまり……勝つ確率はゼロだ。

 

「「───」」

 

 この時2人は、“マジか…”と言わんばかりな表情で驚愕し、自然と開いていた口が塞がらなくなった。そんな2人の表情を目にしたミズキは、煽るような笑みを浮かべながら、再び何かをたきなに告げようとする。

 

「だ・か・ら〜千束をジャンケンに勝つには“最初はグー”をやめて、最初のジャンケンで勝つしかない。あいこになったらもう勝てないし〜、ましてあいこから始めたら一生勝てないよぉたきな〜?」

 

「(………えっと………要するに、簡単にまとめると……千束さんは人間の動きを予測する事ができるから、相手が次に何をどう動くのも分かる……って事だよな。あ〜なるほどね〜はいはい───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや全知らん何それ、めっちゃ怖いんだけど………ってか人間の動きが読めたり、予測できるなんて……もう完全に後ろに目を付けているアムロ・レイと同じみたいな感じじゃん!千束さん、もしかしてリアルニュータイプなのかぁ!?)」

 

 ──と、内心で思わずツッコミを入れると同時に、千束の人間離れした能力に驚きを隠せなかった。一方たきなも千束の能力を今初めて知って唖然としており、何とも言えない表情をしていた。確かに不正な手を使っていないが、それでもそんなカラクリを隠し持っているのなら、不正だと疑っても仕方がないだろう。

 

 

 

 

「組長さんとこに配達しに行くわ〜…………って、何?

 

 

 

 

 そんな時、店の裏に続く扉から千束が現れる…………しかも何故か、黄色いポンチョを身に着けていた。

 

「……いいえ別に」

 

 千束のジャンケンのカラクリを知ってしまったたきなは、自身の不機嫌そうな顔を見せないと、“プイッ”と拗ねるかのように彼女から視線を逸らす。

 

「え〜、なになにどうしたの〜?」

 

「い〜から、早く配達行ってきな〜」

 

「……すぐ支度します。」

 

 ミズキにそう促され、未だに不機嫌そうな表情をするたきなは座敷から立ち上がり、二つ縛りの髪ゴムを外しながら、そのまま更衣室に向かおうとするが……

 

「あぁ〜大丈夫。制服がバレてるんだろうって、クルミが──」

 

「……あ、あの……何が……ば、バレる……です……か?」

 

「ふふふ〜それはねぇ蒼夜君、リコリスの襲g「千束!」…はっ!じゃ、じゃなくて!そ、その〜……ストーカー……そ、そう!悪質なストーカーから身を守る為の最新な妨害対策だよ蒼夜君!!ほら!ウチの学校で最近ストーカー被害が起きているから、これを着ているだけでぜ〜ったいに分かんな〜いよ〜♪」

 

 蒼夜の疑問に答えようとする千束だが、思わずリコリスについて口から漏らしてしまう直前に、たきながすぐに注意をしてくれたおかげで、なんとか漏らす事も無く慌て別の言葉で返答した。

 

「(今一瞬、なんか誤魔化したよね……)な、なるほど……」

 

 ──と、蒼夜が納得してくれた事に千束は、安堵の息を吐いた。その直後、ミズキが慌てて引き寄せた彼女の耳元でぼそぼそと呟き始める。

 

「ちょっとアンタ、いくら嘘をつくのが下手だからって……さっきのは危なかったわよ!たきなが気づいてくれたから、なんとなかったけどさぁ〜!!」 

 

「まぁミズキ、なんとかなったからいいじゃないか……それと千束、分かっていると思うが、私服じゃ銃は使えないんだぞ。」

 

「そうだそうだ、ついでに警察に捕まっちまぇ〜」

 

ちょ、さっきの悪かったって〜……ってか、ちゃんと制服は下に着てますぅ〜、ほらぁ!」

 

 ミズキとその後やってきたミカの2人は、蒼夜に聞こえないような声で彼女に話しかける。すると千束は、自身が来ているポンチョをたくし上げると、その身にはいつもの赤い制服を着ていた。

 

「なるほど……では、私もそれで──」

 

「あ〜大丈夫!たきな、今日も夕飯楽しみにしてる〜♪じゃ、行ってきま〜す!」

 

 そう言いながら千束は、軽やかな足取りで外に出て行ってしまった。本当はたきなも一緒に向かいたかったが、今の彼女は店の着物を着ており、彼女を見送る事しかできなかった。

 

 そして同時に内心で“このまま何事も起きないように…”と、願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

 

 ────そしてさらに時間が経ち、残りの仕事を終えた蒼夜が先に帰宅した後の頃だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

 

 

 

 その瞬間、店の奥から突如の叫び声が店内中に響いた。店内のカウンターに座っていたたきなとミズキ、そしてカウンターの向こうで作業をしていたミカも反応し、驚きと共に大きく肩を震わせた。

 

 しかもその叫び声が聞こえたのは、店の奥にある和室の押し入れで部屋として使っているクルミの声だった。するとその時、たきな達の方に足音が近付いて来る。

 

 やがて足音の正体は……クルミであり、何やら慌てた様子でタブレット端末を抱えてたきな達の近くに駆け寄ってきた。

 

「み、見てくれ!これは銃取引の時のDAのドローン映像!しかも殺されかけたのはこの4人だ!これが犯人に流出して顔がバレてたんだ!」

 

 ──と汗まみれになったクルミは、持ってきたタブレットの画面に映っている映像の一部をたきな達に見せる。画面に映っている4人の人物をよくよくと凝視すると、彼らも驚きを隠せなかった。

 

 何故ならその画面には、今月から襲撃されていた4人のサードリコリスが、顔までしっかりと映し出されていたのだった。

 

「ちょ、これ………なんでそんなもんが流出してんのよ!?」

 

「……()()()()()()()()()か。」

 

「──ッ!」

 

 ミカの口からその言葉が出た瞬間、たきなはふと思い出す。それ以前、千束の健康診断に同行して本部に行った時、千束から聞かされた話だった。

 

 そもそもたきながリコリコに異動になった理由は、先日のDAの任務中で先の銃取引現場にて独断行動をした事で、命令違反をした事によって部署を異動する事になった。

 

 ()()()()()()()()。実際は、DAが偽の取引時間を掴まされ、未だに見つからないハッカーによってラジアータがハッキングされたという失態をさらしてしまった。このような失態を上層部に隠匿する為、独断専行を作戦失敗という原因を造り、たきなを左遷するという形でリコリスの面子を守ったのだった。

 

「そういえばDAもまだそのハッカー見つけられてない様です!」

 

「てことは……アンタの仲間じゃないの!?さっさと調べなさいよ!」

 

「───ッ」

 

「何よ………なんとか言いなさいよ!?」

 

 DAにハッキングできるのはクルミの知人か、もしくはハッカー仲間なのではないのかと思い込むミズキは、早くその原因を調べようにと、彼女に言及するのだった。

 

 しかしそれを聞いたクルミは、()()()()()()()()()()()()()()()()を見せながら、口を噤みバツの悪そうな顔で眉を寄せる。もはやこれ以上彼らに誤魔化す事ができないと察知したクルミは、曖昧ながらもようやく自身の口を動かそうとする。

 

 

 

 

「…………あの時のは………ボクだ……」

 

 

 

 

 

 

「「「───は?」」」

 

 

 

 

「だから……銃の取引現場の時にD()A()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?」

 

 

「ハァッ!?」

 

 

「どういう事だ!?」

 

 

 彼女の口から出た衝撃的な言葉を聞いた3人は驚愕し、思わずクルミの方に視線を向ける。まさか、DAをハッキングをしていた犯人が、目の前にいる天才ハッカーが起こしていただなんて……誰も想像できなかったのだろう。

 

 3人からの強い視線を向けられたクルミは、耐えながらも慌てて彼らに言葉を返そうとする。

 

「い、依頼を受けてDAをハッキングした……その依頼主(クライアント)に近付く為には仕方無かったんだ!」

 

「ちょ……ちょっと待って……つまりアンタが武器をテロリストに流した張本人って訳!?

 

「──ッ!それは違う!指定の時刻にDAのセキュリティを攻撃しただけだ!」

 

 叫び声を上げながら問い詰めるミズキと、即座に否定するクルミ。そもそも彼女が言う依頼主に近付く為の目的は、なんなのかは分からない。だが、それでも彼女がやっていた事は、結果として最悪な方向へ向かってしまった事には、変わらなかった。

 

「あぁ〜そうですかぁ〜!おかげで正体不明のテロリストが山ほど銃を抱き締めて〜、そしてたきなはクビになりましたぁ!

 

 

「もういい!やめろミズキ!」

 

 

「映像はそれで全部ですか!?」

 

 愚痴をこぼすミズキをミカがすぐに制止する。もちろんたきなも色々と言いたい事もあるが、今は他に対象となっているリコリスが狙ってくるのかどうかを彼女に問い出す。

 

 するとその時、クルミはふと店内の辺りを見渡し始め、まるで誰かを探している。

 

「……………おい、千束はどこだ!?」 

 

「配達に行きましたが……」

 

「──ッ………全部じゃないんだ……」

 

 千束が店にいない事を知ったクルミは、再びタブレット操作し、画面に写っている別の映像を3人に見せる。

 

 しかもそれは、以前たきなが初めて千束と共に行動した時の出来事であり、ストーカー被害で悩んでいた篠原沙保里が誘拐されそうだった時の映像だった。千束の合図でたきながドローンを撃ち抜いた記憶があり、おそらくその画面に出ている画像は、その時飛んでいたドローンの映像の一部だったものだろう。

 

 何故ならそこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「「……っ!」」

 

「いかんな、これは……」

 

 

 つまり、千束が次の標的となっているのである。しかも運の悪い事に彼女は今、たった一人で行動している。

 

 それが分かった時、たきなはその場から即座に立ち上がり、リコリスの制服に着替えようと急いで更衣室の方へと走る。そしてミカも急いで携帯を手に取り、千束に連絡しようと通話を繋げる。

 

『もしもしもしもし〜?』

 

「千束、敵はお前を狙っているぞ!」

 

『……え?』

 

 事を知らない千束は、いつも通りの彼女らしい呑気なトーンで電話の通話を受け取る。今の所、彼女は無事だが、今は事実を伝えなければならないとミカは、慌てて口を開こうと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────するその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えっ、あ、ちょいちょいちょいちょいちょいちょぉ────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッシャン!!!

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、車のタイヤがすり減る音とエンジン音が近付く音と、何かに衝撃した音が聞こえた。

 

 嫌な予感を感じたミカは、急いで千束の安否を確認しようと呼びかけ続ける。

 

 

「──千束………千束っ!?

 

 何度も千束に呼びかけ続けるミカ。

 

 だが、突然彼女の声が……聞こえなくなってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい!今回は被害ゼロだぞ、これで文句はないだろ!?』

 

「あぁ〜分かった分かった。良い作戦だ、ハッカー」

 

 ──と、耳元に付けてあるインカムから聞こえる協力者を適当に言葉を返しながら、車から降りた真島は、道路に倒れている千束の方へ近づこうとする。もちろん彼だけでなく、後からやってきた2〜3台のバンが到着し、乗ってきたツナギの男達も真島の後をついていくのだった。

  

 ロボ太の作戦通りに車で轢いたリコリス………千束が動いている様子が見えず、ただうつ伏せの状態で倒れていた。“死んだのか…”と思った真島は、足を使って千束の身体を仰向けの状態する。

  

「あぁ?」

 

 千束の生死を確認しようとする真島は、彼女の首元に身につけてある()()()()()()()()()()()()()()()()()()………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間……

 

 

 

 

「────っ、オラァ!!」

 

 

 

 

 倒れているフリをしていた千束は、隙を見て勢い良く立ち上がると同時に、目の前いる真島に自身が身に付けていたポンチョを覆い被せ、視界を塞ぐ事ができた。

 

 そしてその直後に懐から銃を取り出し、ツナギの男達に方に乱射する。

 

 

 

 

 

BAN!BAN!BAN!BAN!

 

 

 

 

「ぐぁっ……!?」

 

「うぁあ!?」

 

「オエェッ!?」

 

 何人かを非殺傷弾で撃退する事ができた千束は、反対方向へと全力疾走する。自身を轢き殺そうとする集団は、他のリコリスを襲った犯人だろうと思い浮かぶが、とりあえず今は全力でこの場から逃げなければならないと強く意識する。

 

 

 

「───クソッ!!!行け行け行けぇぇぇ!!!

 

 

 

「ちっくしょう〜……ポンチョ盗られたぁ〜!

 

 

 ポンチョを被せていた真島が、今度こそ逃すわけにはいかないと千束を追うよう部下達に次の指示を出すように叫ぶ。それを聞いた千束は、全力でこの場から離脱しようと走り続けるが、気に入っていたポンチョをあの場で脱ぎ捨てた事に悔やんでいた。

 

 

 

 

 こうして夜の街では、命懸けの追いかけっこ(チェイス)が始まったのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、別の場所では……

 

 

 

 

 

『作業終了!!作業終了!!ハッチオープン!ハッチオープン!』

 

『武装、機体の整備、安全確認モヨシ!』

 

()()()()()、発進スタンバイ完了。』

 

 どこから聞こえる放送音から、機体の確認や作業などを報告を行なっている。そんな中、パイロットスーツに着替えた1人の男が戦闘機………()()()()()()()()のコックピットに乗り込む。

 

「(急げ!このままでは千束さんも危ない!!)」 

  

 千束の安否を気にしながら、コックピットにある画面を操作するパイロットは、機体の設定や作業などを焦らず確認し続ける。

 

『モジュールハ、フォース二選択。シルエットハンガー1号ヲ開放。シルエットフライヤー、射出スタンバイ──』

 

 機体の設定作業を終えたと同時に、これから使う機体の確認をしていたハロ達も、終えたのだった。

 

 その時、目の前に広がる発進通路に光が灯る。

 

 

『ハッチ開放、射出システムノエンゲージヲ確認、カタパルト推力正常………

 

 

 

 

 

 

進路クリアー、コアスプレンダー発進ドウゾ!!!』

 

 

 

 すると、目の前にある地下倉庫のハッチが開かれ、ハロから発進許可が出る。

 

 それを聞いたパイロットは、機体を発進しようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暁月蒼夜!コアスプレンダー、行きます!!!!」

 

 

 

 

 

 

 パイロット………蒼夜が駆る戦闘機が、ハッチから飛び出して行く。

 

 

 

 それに追従する形で、()()3()()()()()()()も発進して向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び夜空へと飛び立つ4機、その行き先は……

 

 

 

 

 

 

 






 次回、ようやくMSの戦闘描写に入ります。

 ここまで待たせてしまい、大変申し訳ありません!

 それでは次回もお楽しみに!!


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Episode 26 地に駆け付ける『衝撃』




「また戦争がしたいのか、アンタ達は!」



シン・アスカ(機動戦士ガンダム SEED DESTINY)


 

 

 

 

「DAはまだ敵の素性が分からないの!?」

 

『あぁ………あぶりだすためにリコリス達を囮に使ったが、返り討ちに遭ったみたいだ。まぁ、まだ見つかっていない誰かが助けたおかげで命に別状はないがな……』

 

 千束を探しながら赤い車を運転するミズキは、通信越しで以前DAのセキュリティをハッキングしたクルミに襲撃した相手の素性が分かっているのかを尋ねる。クルミが独自で入手した情報によると、DAがリコリスを囮として敵の正体をあぶり出そうとしたが、結果は失敗。

 

 車の後部席に乗車するミカも、クルミから語られた情報を耳に入れ、とても聞き捨てにはならなかった。

 

「リコリスを囮に………馬鹿なことを……」

 

 ──と、DA側としての作戦をとても気に入らなかったミカは、絞り出すような口調で語る。ちなみのその車にはたきながおらず、彼女は別の場所で千束を探しに向かっていた。しかもつい先ほど、通信越しで道路に千束のスマホと彼女が着ていたポンチョを見つけており、今はクルミが全力で町中の監視カメラや事前に飛ばしたドローンで捜索を行い続けている。

 

 

 

『おい、千束を見つけたぞ!急げ、 かなりやられてるぞ!』

 

『そんな!?』

 

「「……っ!!」」

 

 そんな時、クルミからの通信が入ったと同時に、千束の位置も特定する事ができたと伝えられた。しかも、今彼女がやられていると聞いたミカとミズキ、そして通信越しのたきなも驚きを隠せなかった。

 

「場所はわかった。急いで現場に急行する! クルミ、千束の所へ行けるようそっちからナビしてくれ!」

 

『さっき千束のスマホとポンチョが置いてあった場所からそう遠くへ行ってないはず!それなら多分、私の方が早く到着できると思います!クルミ、急いで!!』

 

『わかった!場所はこっt……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザ──────

 

 

 

 クルミが千束の位置情報を語ろうとした途端、突如通信が途絶えてしまった。しかもクルミだけでなく、なんとたきなからの通信も、いつの間にか聞こえなくなってしまった。

 

「どうしたクルミ………クルミ?おいクルミ!たきな!」

 

「ちょ、嘘でしょ!?こんな時に故障!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クルミ!店長!ミズキさん!………なんで!?」

 

 一方たきなの方も、スマホ越しから繋いでいたクルミ達からの通話も、いつの間にか途切れていた。だが、運良かったのか、千束の位置情報はメールで送られていた。

 

 何故通話が切れたのかは分からないか、とにかく今は千束を助けにいかなければならないと、送られた位置情報を頼りにするたきなは、自身の足でそのまま向かうのだった。

 

 

 

 

 

「(この状況……()()()()()()()()()………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クルミのドローンが、千束の居場所を特定する前の時間に少し遡る。

 

 国道から芝が広がる公園の方へ逃げ込む事ができた千束。だがその背後には、真島を乗せた一台の白いワゴン車が猛スピードで迫って来ていた。もはや逃げるのには難しいと判断した千束は、この場で応戦しようと乱射し始めた。弾丸の内の一つが真島の脳天を直撃した衝撃により車から落とし、地面の上に転がる。同時にワゴン車もコントロールを失い、そのまま横転してしまった。

 

 なんとか無効化する事ができた千束は、銃を構えたまま地面に転がっていた真島の方へと近づく。

 

 

 

 

「アンタが一連の襲撃犯?」

 

 

 

 ──と、銃を突き付けながら警戒する千束は、真島に問いかける。すると、彼女の声を反応した真島はゆっくりと上半身だけで起き上がり、ふと顔だけで千束の方に振り向ける。

 

「イッテェ〜…………酷ぇじゃねぇか」

 

「うっわ」

 

 振り向いた()()()()()()()()()()()で、街灯に照らされたガラの悪い人相がさらに壮絶な姿となってしまった。そんな状態となった彼の姿を目にする千束は、思わず声を出してしまう。だが、流石にこのままにしてはおけないと思った彼女は、これからこの男をどうしようと内心で考えて始める。

 

 このまま真島を無力化してDA本部に突き出すか、またはクリーナーに回収を頼むか……どちらにしても、リコリスを襲撃した一連の騒動は、目の前にいる男を拘束さえすれば、ほぼ解決となるはず。

 

 そう考えた千束は銃を向けたまま、真島の背後を回り込もうと…………

 

 

 

 

 ───するその瞬間だった……

 

 

 

 

 ベチャ…

 

 

 

 

「───っ!?」

 

 

 

 

 拳銃を持っている両手首を掴まれた瞬間、真島の口から()()()()()()()()()()()()()と同時に、千束の視界が突然塞がれてしまった。

 

 しかもその赤黒い正体は、千束が警戒している隙に真島が自身の口の中で血液を含んだ唾だった。相手の視界を塞ぐ事ができた真島は自身の瞳を閉じながら、その場から立ち上がった後、千束の頬を思いっきり殴った。

 

「がっ!?」

 

「くっははっ……!」

 

 笑いながら殴り続ける真島と、殴られた勢いで身体がよろけてしまう千束。それでも彼女は、なんとかして立ち直ろうとするも、真島は容赦なく襲いかかってくる。足のバランスを崩れると同時に地面へと打ち付けた途端、身体に激痛が走る。急いで起き上がるも、再び真島の拳が向かってくる。

 

「かはっ──!」

 

 目元に血液が付いている唾が付着してしまったせいで、視界が塞がれ、まるで見えない敵と戦っているような感覚をする千束は、今までにない危機感を感じていた。

  

「(や……ヤバい……なぁ、これ──)」

 

 状況が更に悪化する中、いつの間にか他のワゴン車が集結してきた。車からヘッドライトに照らされ、千束と真島の様子を目にしようと、ツナギの集団が野次馬のようにぞろぞろと集まっていく。

 

 

「はっはは──!引っ掛かりやがったぞ!」

 

「いいぞー!真島さーん!」

 

「やっちゃってくださーい!」

 

 

 少女を容赦なく襲う青年…………その出来事を目にするツナギの男達は、まるで闘技場のように笑いと楽しみ、そして自分達のリーダーである真島を応援しながら観戦している。一方千束は、視界を塞がれた血をどうにか拭き取ろうとするも、襲いかかってくる真島が邪魔してくる。

 

「ゴム弾じゃなく、実弾にしとけば良かったなぁ!」

 

「ぐぁっ!」

 

 次の瞬間、今度は真島に軽く蹴り飛ばされ、背中から地面へと叩き付けられた。それを目にしたツナギの男達は、思わず“おぉっ!!”と、大きく反応してしまう。

 

「い…………つぅ──」

 

 久しぶりに感じる痛みの連鎖に、思わず歯を食いしばる。それでも千束は立ちあがろうとした時、ふと顔を上げると……………目の前には銃口が向けられていた。

 

「──ッ!」

 

 真島は、自身の瞳をゆっくりと開き、ただ千束の方をじっと見つめていた。それに対し千束は、この体勢でこの状況からどう抜け出せばいいのかを必死に考えていた。

 

 だが、頭を何度も殴られ続けたせいで、脳が揺れているような感覚で思考が追いつけず、身体を思うように動けなかった。この状態で、逆転できるのかと不可能を思い込んでしまう。

 

 もしかしたら今日、殺されるかも知れない………そう考えていた時………

 

 

 

 

 

 

 

「お前の“使命”は何だ?」

 

「………………え?」

 

 ──と、急に話し掛けられ、思わず疑問の声を出してしまった。問われた言葉の意味が分からず固まっていると、真島は千束の首元を銃で指差ししながら、再び問いかけようとする。

 

「それだよ、それ」

 

「………?」

 

 真島の目線の先を辿り、自身の胸元を見下ろす。真島が目にしていたのは、千束の首元にかけてある梟のチャーム………アラン・チルドレンの証だった。

 

「アランのリコリスか………面白いなぁ〜」

 

 

 見覚えのあるペンダント見て、“ニヤリ”と不気味な笑みを見せる真島。

 

 “万事休すか……”と内心で思い込む千束は、絶体絶命な状況となった……

 

 

 

 

 

 

 

その時───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドカァァァァァン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「うあぁぁぁ!?」」」」」

 

 

「───ッ!?」

 

「…………は?」

 

 

 突如、一台のワゴン車が爆発する。突然の爆発音が響いいて、思わず思わず大きな叫び声を出してしまったツナギの男達。千束もその爆発の光景を見開き、声が出ないほど驚きを隠せなかった。真島も一瞬の事で唖然としていたが、すぐ我に返った後、辺りを見渡す。だが、周りにはそれらしき姿が見当たらず、目の前で追い詰めたリコリスの仲間らしき姿も見えなかった。

 

 

 

「………ッ!上かぁ!!!」

 

 

 

 その時、ふと真島の耳に飛行エンジン音が捉えた瞬間、真島は迷わず夜空の方へ視線を向けると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、戦闘機らしき飛行物体……コアスプレンダーが、夜空を飛行している様子が、目に入ってしまった。

 

 

 

 

 

「「「「───ッ!?」」」」

 

 

 

 先ほどのワゴン車の爆発は、恐らくコアスプレンダーに装備されている二つ兵装のうちの一つ“MMI-GAU19 20mm機関砲”を使って、狙撃したのだろう。突然の事で全く予測ができなかった千束と真島、そして他のツナギの男達も驚きを隠す事なく、この場にいる全員が唖然としていた。

 

 だがそれよりも、何故この場に戦闘機がやってきたのか………この場にいるツナギの男達は、事前に聞かされた作戦が予定よりも大きくズレた事で困惑し、何がどうなっているのかも分からず、焦っている様子も見られていた。地面に座り込んでいる千束でさえも分からず、ただコアスプレンダーを眺めることしかできなかった。

 

 この中、真島は目の前で追い詰めたリコリスの仲間なんじゃないかと疑い、こっそりとインカム越しでロボ太に通信を繋げよう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 カァン!!!

 

 

 

 

 

 ──とする直前、突如金属同士がぶつかり当たるような音が響いたと同時に、真島の右手に持っていたはずの拳銃がいつの間にか手放されていた。

 

 

 

「ぐはぁ!?」

 

「ぎゃぁ!?」

 

「あ………足がぁぁぁっ!!」

 

「じゅ、銃声だ!!!」

 

「クソ!どっからだぁ!?」

 

 

 

 次の瞬間、突如ツナギの男達が悲鳴と共に倒れ始めた。それに反応した千束と真島は我に返り、悲鳴が聞こえた方へ視線を向ける。そこには、身体から血が流れ出ている傷を押さえながら、小さな悲鳴と共に歯を食いしばっている様子が見られていた。

 

 また、無事だった者達は狙い撃ちされるとすぐに察知し、倒れている仲間を引き連れて車の影へと逃げ込むように素早く移動をする。だが、何処からともなく襲ってきた銃撃の場所も分からない為、今は警戒をする事しかできなかった。

 

 しかもその射撃が誰がやったのかは、見覚えのある千束は辺りを見渡すと………

 

「(………たきな!)」

 

 茂みの陰から男達を次々と無効化するたきなの姿を発見する。しかも今の所、真島達はまだたきなの存在に気づいていない。ならばと千束は、地面に転がっていた自身の銃を回収し、即座に真島の方へ銃口を向けた。

 

「ッ───チィ!」

 

 乱射しようとする寸前、すぐに気づく真島は、車の影に逃げ込むように走り出した。

 

 結局、真島を命中する事ができなかったが、何人か残っている男達に銃弾を見舞う事ができた千束は、真島が車の影に隠れたのを視認し、この隙にこの場から立ち去ろうとする。

 

 するとその時、見覚えのある赤い車がやってくる。その車はリコリコ運転席側にはミズキが運転しており、千束の近くで車を止めると同時に、後部座席の側の扉が開く。そこには心配や焦りを出している表情するミカが、千束をこちらに誘導させようと腕を伸ばしていた。

 

「千束、早く乗れ!」

 

「と〜りゃあぁっ!!」

 

 それに察知した千束は、迷わず頭から後部座席の方へ飛び込む。そしてたきなも、茂みから飛び出し、車の反対側の方へと向かっていく。後部座席の反対側の扉が開くと同時に、たきなは千束同様に頭から乗り込み、確認したミカは、素早く扉を閉める。

 

「むっ!?」

 

「せ、狭い〜」

 

「詰めてください……って千束!さっきの戦闘機らしき物体は一体なんなのですか!?」

 

「……あ!そうそうそれだよ!ってか私も全然知らないんだけど、皆なんか知ってる!?」

 

「私達が知っているわけないでしょ!それにさっきから、クルミとの通信が繋がりませんし……」

 

「えぇっ、そうなの!?でもなんd──」

 

「今そんな事を言っている場合かぁ!」

 

「ミズキ、とにかく出してくれ!」

 

「あぁ〜もう!バッチこい!」

 

 

 後部座席が詰め詰めの状態のまま、あれこれ気になっていた事を語り続けたが、今はこの場から脱出しなければならないと、ミカの掛け声と共にミズキが車のアクセルを全力で踏む。車から出されているスピードは、もはや公園内で出してはならないくらいの速度で、走り出した。

 

 だが、ツナギの男達が簡単に千束達を逃すわけにはいかないと、一斉に車の方に向かって銃撃を繰り返し始めた。所々から向けられてくる弾丸を避けながら、運転技術を持つミズキは必死だった。

 

「逃がすかよっ…………アランリコリス!!!おい、ハッカー!!!」

 

 “せっかく追い詰めた、ここで逃すわけにはいけないと”怒声を出す真島は、インカム越しでハッカーを呼ぼうとするが………

 

 

 

 

ザ─────

 

 

 

 

 

 何故か通信が繋がらず、砂嵐の音しか聞こえなかった。

 

 

「クソッ!こんな時に、使えねぇ………いや待て、前にもこんな事が──「ま、真島さん!あ……あれ!!!」あぁん!?今度はなんd───」

 

 再びロボ太との通話が途切れた事に苛立つ真島は何かを思い浮かぼうとする。だが途中で部下の1人が、夜空の方に指差しながら、驚いている様子で呼ばれていた。

 

 協力者との連絡が繋がらない事で苛立つ真島は、部下が指している様子を見て、“あの戦闘機がまた何かを仕掛けてくるのか”と思い、空の方を見上げると………

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、先ほどの戦闘機とはまた別の3機の新たな飛行物体………チェストフライヤーレッグフライヤー、そしてシルエットフライヤーが、コアスプレンダーの方へ向かって行く様子が、目に入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………マジか?」

 

 新たな3機が現れた事で、驚愕すると共に唖然とする真島。もちろん彼だけでなく、千束達が乗っている赤い車を狙っていたツナギの男達も目撃し、目を見開くほど驚きを隠せなかった。自分達が射撃を止め、銃を下ろしている事を気付かず、呆然と立ち尽くしていた。

 

「ちょ、ちょっと!あいつら、なんか急に静かになったんだけど!?」

 

「分かりません………それよりも、上の方を見てください!!」

 

 ついさっきまで聞こえていた銃撃音が自然と静寂となり、いつの間にか男達は銃を下ろし、上の方を見上げていた。突然の事で千束達は少し驚くが、それよりも飛行している4機の方が気になって目が離せなかった。特に、運転していたミズキも気になり、思わずその場で車を止めてしまう。

 

 リコリコメンバーに、真島一派。それぞれの視線が上の方を眺めていた時………

 

 

 

 

 

 

 

 飛行したまま、コアスプレンダーの形態が変形を行い始めた。

 

 変形したコアスプレンダーの上下にはそれぞれ、空中でチェストフライヤーとレッグフライヤーがドッキングし、背後からシルエットフライヤーから自動的に分解された『フォースシルエット』が装着される。

 

 それぞれがドッキング終えると、今度は人型へと変形する。両腕と両足が出現し、隠れていた頭部が現れる。しかもその両腕には『MA-BAR72 高エネルギービームライフル』と『MMI-RG59V 機動防盾』が装備されていた。

 

 更に驚く事に、変形した人型の装甲が灰色から赤、青、そして白へと色味が帯びていく。

 

 トリコロールカラーとなった人型は、空中で浮きながら千束達の前へと姿を現した………

 

 

 

 

 

ZGMF-Z56S/a

 

 

フォース・インパルスガンダム

 

 

 

 

 

 突如として現れた4機の飛行ユニットが合体し、巨大人型ロボットへとと変形した光景を目撃したツナギの男達が声が出ず、見惚れてしまうほど驚きを隠せなかった。

 

「「が、合体したぁ………」」

 

「…………マジか」

 

「あれが………巨大人型兵器……」

 

 一方、赤い車から眺めていた千束とたきなも合体や変形をしたインパルスを目撃し、彼女達も思わず見惚れてしまった。何より、映像だけしか観た事がないミカとミズキも彼女達と同じ気持ちで眺めていた。

 

 

 

 しかもその場にいる者達だけでなく、飛んでいる二つドローンの映像から観ている2人が存在する……

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい嘘だろ………さっきの戦闘機だけでなく、しかも合体した後に変形したって───

 

 

 

 

 

 

 

ふざけんなぁぁぁぁ!!!なんなんだその未知な合体技術は!?しかもこいつ、普通に人型へと変形したぞ!そんなのありか……いや、そもそも空港の時に変形したヤツもいたんだが……こいつは違う!空中で合体だぞ、合体!!!そんな未知の技術(テクノロジー)がこの世に存在するのか!?クソ!千束達との通信を復帰しなければならないのに………あぁ〜ダメだ!どうしてもこっちの方がもっと気になる〜!!!」

 

 現場に向かわせたドローンからの映像を確認するクルミは、リコリコにある押し入れでいつも以上に大きく興奮していた。途絶えられてしまったたきな達との通信をなんと復帰しなければならないと分かっていながらも、再び謎の巨大ロボット……インパルスが乱入してから、状況が一変する。しかもその機体が持つ新たなる未知な技術を見惚れてしまい、通信を復帰する事を時々忘れてしまいそうになる。

 

 

 ちなみに、もう一つのドローンの映像から観ているロボ太というと…………

 

 

 

 

 

 

「また通信が使えなくなったら今度は戦闘機がやってきて………そしてなぜか合体して、あの巨大人型ロボットになったんだとぉ───

 

 

 

 

 

 

 

ふっざけんじゃねぇよ、クソがぁぁぁあ!!!今はそれどころじゃねーんだよ、マジで来んなよ!!!つーか合体してから更に変形したって……もう完全に戦隊ロボじゃねーか、そんなのありかぁ!?陸、空、海、そして宇宙!今度は何が来るのかと思ったら、空中で合体して変形したんだってぇ〜!いい加減にしろよマジで、世界観をぶち壊すなぁ!!!」

 

 ドン!ドン!と、乱暴ながらもデスクを強く叩きながら、絶叫するロボ太は怒り狂い、現場に向かわせたドローンの映像に映るインパルスに向けて怒鳴り声を上げていた。クルミと同様、新たな未知な技術(テクノロジー)を見せつけられたロボ太も興奮するが、同時に今回の作戦を邪魔される事にも怒りを表していた。

 

 多くの者達が見惚れたり、驚きを隠せなかった中、いつの間にかインパルスは地面へと降り立った。

 

 

 

 

 

「何でこんな事…………

 

 

 

 

 

 

また女の子を襲っているのか、アンタ達は!?」

 

 

 ──と、現れたインパルスに搭乗するパイロット………暁月蒼夜は瞳に怒りを表すと共に、ツナギの男達に向けて叫んでいた。

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 インパルスガンダムに搭乗している蒼夜は、現場の様子を見渡す。

 

 

「フゥゥゥ………まさかあの変態集団が、今度は千束さんも狙われるなんて………ヴェーダに聞かされたから、急いで向かったけど……なんとか間に合ったみたいだな。しかも、何故かたきなさん達の姿も見えたけど……まぁとりあえず今は、この後どうすればいいんd────

 

 

 

 

 

 

って!!千束さんの顔がめっちゃ血だらけになってる〜!?嘘、もしかして間に合わなかったの!?しかも結構頭から大量の血が流れているですけど〜!!た、たいへんだぁ!は、早く絆創膏を貼らなくては……じゃなくて!きゅ、救急車を呼ばなきゃ────」

 

 

 

 

 

 安堵の息を吐きながら、千束の様子を確認しようとした途端、彼女の顔の目元に血が付着しているのが目に入った蒼夜は、焦りと共に驚愕する。ちなみにその血は、真島の血液で混ぜた唾である事を知らず、変態集団が彼女に血が出る程の怪我を負わせたと勘違いしている。

 

「(ハッ!まさかあの変態集団……アイツらの目的って───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲うだけじゃなく、暴力で痛めつけた後に、胸糞の悪いいやらしい事をするつもりなのかぁ〜!?」

 

 

※ 違います。

 

 

「な、なんて事だ……この変態集団、そんな気持ちの悪い趣味までも持っているのか……趣味悪すぎだろ!?」

 

 

※ ただの勘違いです。

 

 

「やばいぞ……このままだと千束さんだけでなく、たきなさんも危ない!もしも彼女達が、奴らに捕まったら……無理やり“アレをさせたり”、“コレをさせたり”など……同人◯みたいな何かをさせる可能性も………って!まさかそんな事をあの2人にさせるつもりなのかぁ〜!!!」

 

 

※ ただ貴方の妄想です。

 

 

「クソ、そんな事を絶対にさせないぞ!この変態集団どもめ!!!」

 

 自身の勘違いである事を未だに気づかない蒼夜は、怒りをような口調で語りながら、戦闘態勢に入ろうとする前に、空いている手でインパルスの装備であるビーム威力の設定を行う。

 

「落ち着け僕!とにかく今は千束さん達をこの場から脱出させなければ………だったら!!!」

 

 そう言いながら蒼夜は設定を終えた後、すぐさま操縦桿を強く握り、ワゴン車に命中しようとする。

 

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 

バキュ─ン!!!!

 

 

 

 

「「「「「───は?」」」」」

 

 

 インパルスが降り立った直後、いきなりビームライフルを使ってワゴン車に向けて見事に命中する。緑色に光るビームの威力により、見事に爆散する車体。その光景を目にするツナギの男達は、突然の事で思考が追いつけず、思わず間抜けな声を漏れてしまった。

 

 もちろんそのビームライフルの威力は、ついさっき蒼夜が威力の設定を最大までに低下した事で、原作のような大爆発は起こらなかった。だが、それでもツナギの男達や近くで目撃する千束達にとっても、たったの一撃で鉄くずにしてしまい程の威力を目にし、驚きを隠す事ができなかった。

 

 突然の爆発で唖然とするツナギの男達だが、その内の1人の男がすぐ我に返り、再び自身の視線をインパルスに向ける。

 

「……ヒィっ!?」

 

 視線を向けた瞬間、思わず小さな悲鳴を漏らしてしまった。それに反応した男達も同じ視線を向き、自然と体が震え出してきた。

 

 男達の視線から見るインパルスは、殺気のような何かを感じていた。今までリコリスを襲ってきた自分達を今度はあの巨大人型ロボットが、自分達を容赦なく殺しにかかろうとする殺意が見えていた。

 

「あ………あぁ……」

 

 震え声を漏らし、“ここままでは、殺されてしまう!”と内心で思い込む。そんな中、1人の男が所持しているアサルトライフルをインパルスに向けた瞬間………

 

 

 

 

「う………うぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

 叫び声と共に思わず引き金を引いて、インパルスに乱射し始める。仲間の1人がいきなりの行動を目にした他のツナギの男達も、それに釣られるかのように次々と持っている武器をインパルスに向けて、攻撃し始めた。

 

「く、クソがぁ!!!」

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

「おいバカ、やめろ!!」

 

 考えもなしに乱射する者。

 

 弾を全て使え切ってでも、インパルスを撃ち落とそうとする者。

 

 そして、勝てないと思っていたのか、すぐに仲間達を止めるようとする者。

 

 などなど……様々な行動を起こす者達が次々と現れるが、特に攻撃しようとする者の方が多かった。そんな数々の銃撃を受けられているインパルスは銃弾を防ごうともせず、むしろ銃撃を受けられてもなんの外傷もなく無傷であった。

 

「く、クソ!だったらこれならどうだぁ!!!」

 

 乱射し続けていた集団の内の1人が、拳銃やライフルでは役に立たないと気づき、無事だったワゴン車から別の武器を取り出した。しかもそれは今まで使っていた銃とは違い、筒状の物………ロケットランチャーを肩に担ぎ、インパルスに向けて照準を合わせた。

 

「これでも…………くらえぇ!!!」

 

 ──と、やけクソにそう叫ぶと同時に引き金を引き、ランチャーを放てた。空中を翔るロケット弾がインパルスに向かい、見事に命中し大爆発が起きた。

 

 1人の仲間が見事に命中する事に成功した光景を目撃したツナギの集団は“おぉ〜!!”と思わず感嘆する。その際、命中されたインパルスの頭部から舞い上がる煙が徐々に消えてゆく……

 

 

 

 

 

 

 

 そこで目にしたのは、()()()()()()()()だった。

 

 

 

 

「「「「「────は?」」」」」

 

 

 “そんなバカな…”と言わんばかりな表情をする集団は、再び間抜けな声を漏れてしまう。

 

 

 

 ヴァリアブルフェイズシフト(通称:VPS)装甲

 

 「ガンダムSEED Destiny」に登場する架空の装甲であり、フェイズシフト装甲の改良型でもある。装甲に流す電流の量を装備や状況に応じて調整、またはのエネルギー配分を最適化しエネルギー消費を更に抑える事も可能。しかもそれだけでなく、装甲の強度としてはMSの実体剣やミサイル、または銃火器などの物理攻撃を無効化する事もできる機能が付いている。つまり、先ほどツナギの集団が使っていた銃などで攻撃しても、ほぼ無意味なのである。

 

 もちろん使用する際に使うエネルギーも消費するが、現在蒼夜が搭乗しているインパルスのエネルギーはそこまで多く使っておらず、加えて残量も余裕で残っているのだった。

 

 当然そのような機能を全く知らないツナギの集団は、いつの間にか銃を下ろし、ひどく絶望していた。仲間の1人がロケットランチャーを使っていても、インパルスに傷一つも負わす事ができないという事実を突きつけられた事で、“もうこれ……勝てなくね?”と内心で思い浮かぶ者達が多くいた。

 

 その時、今までの銃撃を受けてむ無傷だったインパルスは、反撃しようと動き出した。

 

 

 

 

 

バババババババ!!!!!

 

 

バキュ─ン!!!!

 

 

 

 胸部に搭載されている 2門の機関砲……MMI-GAU25A 20mmCIWSをツナギの集団に向けて乱射しながら、ビームライフルも使って、ワゴン車を命中する。ちなみに機関銃を使っている際に、男達に命中しておらず、ギリギリの所で威嚇射撃を行なっていた。

 

「うあぁ!?う、撃ってきやがったぞ!!」

 

「逃げろぉ!」

 

「おい!もっと武器をよこs───ッ!?」

 

 インパルスの機関砲の射撃に巻き込まれていないが、殺されると思い込む男達は必死に逃げ続けていた。もちろん反撃を行おうととする者もおり、追加の武器を取りに行こうとした瞬間、突如として巨大な足が男達の視界を影で覆うかのようにやってきた。

 

 

 ドォン!!!!

 

 

 そして次の瞬間、集団が乗っていたワゴン車を踏み潰してしまう。向かおうとしていた男達は無事だったものの、自分達が乗っていた車がぺしゃんこに押し潰された光景を目の前で目撃し、恐怖のあまりに足がすくんでしまった。

 

「あ………あぁ………」

 

「クソがぁぁぁ!!!」

 

「に、に………逃げろぉぉぉ!!」

 

「勝てるわけねーだろ、あんなバケモノ相手に!?」

 

「いいから撃ち続けろ!!」

 

 自分達が所持している武器では役に立てず、加えて乗ってきた車も破壊し続けられてしまった。再び攻撃を行なってもインパルスに敵わないと知った者達はその場から逃げようとしたり、考えなしに乱射し続ける者もいた。

 

 しかしそんな中、1人だけが違っていた………

 

 

 

「…………」

 

 ツナギの集団が困惑している中、1人の緑髪の男……真島は、ただその場で立ち尽くしていた。

 

 次々と破壊されていく車が鉄くずとなり、相手に敵わないと逃げ回る部下達が増えていく。もはやこっちが追い込まれているという状況になっていながらも、真島は目の前で武装を使い続けているインパルスの姿をただ眺めているだけだった。

 

 しかもその表情は相手に対する敵対や怒りではなく、好奇心を抱いていた。

 

「……………はは……」

 

 そんなインパルスを眺める真島は、思わず()()()()()()()()()

 

「そうか………そういう事かぁ───

 

 

 

 

 

 

あの時の地下鉄、そしてリコリスの襲撃を邪魔したのも…

 

 

 

 

 

 

 

全部………

 

 

 

 

 

全部、お前の仕業だったのかぁ!!!!」

 

 

 インパルスに向かって叫び出す真島。だが、その時の表情は笑っていた。

 

 自分達がこれまで失敗していたた作戦を邪魔してきた事に対する怒りよりも、目の前に存在する謎の巨大人型兵器の方が気になって仕方がなかった。

 

 

 目の前に現れた巨人が、どうやって造られたのか……そして、誰が造ったのか………

 

 知りたい…

 

 もっと近づきたい!

 

 そしてこの手で、直接触りたい!!!

 

 

 などなど………内心で様々な感情が激しくなり、目の前で起こっている出来事を目にした真島は、喜びと同時に大きく興奮していた。そんな時、1人の部下が焦っている様子で真島に近づいてくる。

 

「ま、真島さん……もうダメです!このままじゃ、俺達が先に全滅しちゃいそうです!は、早くてっt「撃ち続けろ」───は?」

 

「弾は無くなるまで、あの巨人を撃ち続けろ。それと怪我している仲間がいたら、運んでここから撤退しろと伝えろ。もちろんまだ万全な奴らにも、ありったけの武器を使って撃ち続けろと伝えてくれ。」

 

 ──と、新たな指示を出した真島は、偶然にも近くの地面に落ちてあったアサルトライフルを拾い上げ、リロードを行う。だが、突然真島の口から語られた指示を受けた部下は理解ができず、恐る恐ると再び尋ねようとする。

 

「撃ち続けろって………まだあの巨大ロボットと戦い続けるんですか!?」

 

「当たり前だ……いいか、ここで奴を絶対に逃すな。もしも逃げられたとしても、部品の一つか二つを落とすだろ……とにかく、どんな手を使ってでも奴を攻撃し続けろ。」

 

「で、ですが………それでh──」

 

 

「いいからさっさと行け」

 

 

「は、はいぃ!!!」

 

 未だに伝えた言葉が理解ができない部下があやふやになると、真島は思わず圧力がかかるような言葉で強制的に指示を出す。それを聞いた部下が、慌てながらも他の仲間達にも伝えようと急いで向かったのだった。

 

「ふぅ…………さて、始めますか───

 

 

 

 

 

 

 

巨人狩りをなぁ!!!」

 

 ──と、再びインパルスの方に視線を向けた真島は、叫び声を上げながらアサルトの引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、リコリコメンバーはというと………

 

 

 

「………な〜んかアタシ達、とんでもねぇ現場に来てしまったんじゃーね?」

 

「あぁ………同感だ……」

 

 ──と、赤い車から目の前で起きている出来事を眺めるミズキとミカは語り合っていた。車をその場から動かしていないとはいえ、圧倒的な武装を持つインパルスに目が離せなかった。

 

 もちろん2人だけでなく、同じ車に乗っている千束とたきなも眺めており、唖然としていた。

 

「…………とんでもない事になってますね。」

 

「うわぁ〜………なんかあの人達が可哀想に見えたよ。」

 

 

 

 ついさっきまで千束を追い詰めた集団が、一瞬の事で形勢が逆転する。突然と現れたインパルスが容赦なくツナギの集団は瞬く間に蹴散らして様子も守られ、男達の口から漏れ出す悲鳴の声も聞こえていた。

 

「ひ、ヒィィ──!!!」

 

うわぁぁ!!!こ、殺されるぅ!!」

 

「誰か、助けてくれぇ!!!」

 

「いやだ………死にたくない!!」

 

やられ千葉ぁ!!!

 

 千束達の視線から見れば、それは巨像と小さな蟻だった。

 

 映画のアクションシーンように爆風で人間が軽々と宙に弾き飛ばされてしまったり、車に乗って逃げようにも次々と破壊された事で、その場から自分の足で逃げる事しかできなかった。

 

 

 

 

 もはやその光景を目のするリコリコメンバーは、ただ眺める事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ていうかさ、このまま逃げれるんじゃね?」

 

「「「───あ」」」

 

 ──と千束が思わずそう口にすると、たきな達が反応する。

 

 未だに銃撃を行い続けている真島やツナギの集団は、リコリスである千束を狙うのを止めたのか、それともインパルスに集中しすぎて完全の彼女の存在を忘れてしまったのか………だが、自分達の存在を気づいていないのであれば、今ならこの場からすぐに撤退する事ができるんじゃないのかと、千束はそう思い浮かんでいた。

 

 それ聞いたたきなは、急いで車を出すようミズキに声をかける。

 

「確かに…………ミズキさん!!!!」

 

「え………いやいや私もそうしたいけど、そもそもこの状況でどうやったら逃げられるのよ!?」

 

 だが、状況的には最悪だった。

 

 インパルスと真島達の銃撃のせいで地面が荒れてしまい、加えてそこら辺にあった草木には火が燃え広がっていた。今からこの場から車を動かそうにも、銃撃の流れ弾に当たってしまうかもしれない。しかも、たったの一撃でワゴン車を鉄くずにまで破壊してしまうインパルスが持つ謎の大型の光線銃にまで巻き込まれば、一発で丸焦げになってしまうという恐れもあるかもしれない。

 

「えぇ〜じゃ、じゃ………こっそりと逃げるとか〜」

 

「あぁ、なるほどね〜……ってアホ!それだったらあの集団に見つかって、またアタシらを狙うかもしれねーんだぞ!」

 

「大丈夫だよ!ワイ◯ピみたいなカーアクションすれば、なんとかなるって〜!」

 

「アクション映画見たいにできるわけねーんだよ、この映画好きの小娘がぁ!!」

 

 ──と、あれこれ言い合う千束とミズキ、そしてその出来事を目にするミカは頭を抱える。そんな中、たきなが2人の間に割って入ろうとする。

 

 

 

「2人とも、いい加減にしてください!今は言い争っている場合でh───」

 

 

 

 

 

 

 

 ガシ!!!

 

 

 

 

「「「「───ッ!?」」」」

 

 するとその時、いつの間にか千束達の方へと近づいてきたインパルスが、彼女達が乗っている赤い車を掴んだ後、持ち運ぼうとしている。車体が激しく揺らさないように、落とさないようしっかりと両手で抱えようとするインパルス。突然の事で思考が追いついておらず、千束も思わずその場で叫び声を上げてしまう。

 

「ちょ、ちょいちょいちょいちょい!何してんの〜!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?アイツ………何しているんだ?」

 

 それから場所が変わって、銃撃戦を繰り返し続けてている真島も、インパルスの不審な行動を目にする。あれから何度も反撃し続けていたが、結局インパルスにダメージを負わせる事ができず、むしろ真島達の方がダメージを負っていた。

 

 銃撃戦をしている時、何人かの部下が怪我をしてしまい、ついには最後の一台のワゴン車が破壊されてしまった。爆破した車を確認したインパルスは、装備してあったビーム・ライフルを腰部に仕舞い始めると、今度は別の場所………リコリコメンバーが乗っている赤い車の方へと向かうのだった。

 

 それを見た真島が一瞬目が点となっていたが、すぐに我に帰る。

 

「おいおい急になんだ………まさか!?」

 

 疑問を抱くと同時に何を気づいた真島だったが、既に遅かった。目の前でリコリスの少女が乗っている赤い車を持ち運ぼうとする様子が見えていた。恐らくインパルスは、あの車を持ち運びながら、この場から撤退しようとするだろう。

 

「クソッ!さっきから俺の部下を殺さず、ただ車を破壊しているだけ………ということは、ただのブラフってことかぁ〜?おいおいふざけんなよ……あんな漫画に出てくる武器を持っているのに、まるで俺達を最初から殺す気もなく、そのままリコリスのガキを連れて帰る気なんじゃねーよなぁ?」

 

 ──と、自身や部下達を殺さないという意味不明な行動をするインパルスに、あまり気に入らない真島は愚痴るかのような口調で語っていた。

 

 ちなみにインパルスの操縦者……暁月蒼夜は、そもそも最初から真島一派を殺すつもりはなかった。今までの攻撃はあくまでも威嚇射撃で、集団が乗っていたワゴン車を破壊するだけだった。そして何より、今回の目標としては、リコリコメンバーをこの場から脱出させる事。

 

 だがその時、なぜか千束達が乗っている赤い車がその場から動いていなかった。“もしかして、車が故障したのか?”と内心で思い込む蒼夜が、最後のワゴン車を破壊し終えた後、彼女達の車を揺らさないよう抱えながら持ち上げ、その場から脱出しようとする。

 

 しかし、そんな彼らを真島は簡単に逃してくれる事はなかった。

 

「おいおいおいまだ帰るには早すぎんだろ…………つーか、ここで逃すかよぉ!!!!」

 

 ──と、そう叫びながらロケットランチャーを構える真島は、引き金を引こうとした瞬間………

 

 

 

 

 

 

 ゴオォォォォォォォォォオ!!!!!

 

 

 

 

 

 インパルスの背部に装備してあるフォースシルエットのスラスター部分のエンジンが展開する。機動力のエンジンから出てくる風やそこら辺にある土や砂などが広がると、集団の動きを止めてしまった。突然起きた風の影響でツナギの男達は軽々と飛ばされてしまったり、草木を掴みながら耐えようとする様子も見えていた。

 

「───クソッ!」

 

 ついさっきまでロケットランチャーを構えようとしていた真島も、地面に貼り付けていた。立ちあがろうにも、風圧が強すぎるせいで立ち上がれなかった。その隙にインパルスは、千束達が乗車している赤い車を抱えながら、そのまま飛び去ろうとスラスターの出力をさらに上げた。

 

「うぁあ!?」

 

 するとその時、1人のツナギの男が肩に抱えていたランチャーの弾を思わず放てしまった。だが、風圧の影響で感覚がブレてしまい、宙に浮かぶランチャーの弾はインパルスに向かっておらず、自分達の組織リーダーである真島の近くの地面に着弾したのだった。

 

 

「───は?」

 

 

 その時の音を反応をした真島は、ランチャー弾が自身の近くで着弾したのを目にしたと同時に、疑問の声を漏らしてしまった。だがしかし、すぐに我に返った真島は“やべぇ…”と言わんばかりの表情をしていた時…………

 

 

 

 

 

 

BooooooooooM!!!

 

 

 

 

 

 盛大に響く爆発音と共に炎が広がり、一瞬で地面が荒れてしまった。ギリギリのところでなんとか回避する真島は、爆風によって近くの川の方へ吹き飛ばされ、そのまま沈んでしまった。

 

「「「ま、真島さ〜ん!?」」」

 

 自分達のリーダーが川に沈んでいるという光景を目撃した部下達は叫び声を上げながら、急いで川の方へ向かっていく。その隙にインパルスは、振り返らずにその場から脱出しようと、上空の方へ飛び去っていった。

 

 

 

 ちなみに、車に乗車しているリコリコメンバーはというと………

 

 

 

「〜〜〜ッ!!!」

 

「ヒィィィイ〜〜〜!?」

 

「「ほんぎゃあぁぁぁ!?」」

 

 

 ジェットコースター以上の速度を持つインパルスの飛行機能に追いつけない彼らは、意識を失わないように小さな悲鳴を出している。ちなみに千束とたきなに関しては、驚きのあまりに思わず変な叫び声を出してしまった。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 場所が変わって、リコリコでは………

 

 

「クソ!何がどうなっているんだ!?」

 

 そう言いながらクルミは、激しくキーボードを操作し続けていた。相変わらず彼女は店の押し入れの中にいるが、千束達との通信が途絶えてしまった事で焦っていた。つい先ほど現場へ向かわせたドローンからの映像を観れたおかげで、現場がどんな状況になっているのかを確認する事もできた。

 

 だが、インパルスが乱入してから、現場はさらに激戦となっていた。しかもその途中で銃撃の流れ弾がドローンに命中してしまったせいで、映像までもが途絶えられてしまった。そして現在クルミは、彼女達が所持してあるスマホのGPSや街中の防犯カメラを調べ続けているが、未だに見つけていなかった。

 

 それでもクルミは、諦めずに捜索し続けていると………

 

「こっちは………ダメだ、全然見つからない………まさか、あのロボットが何かをしたのk───」

 

 

 

 

 

 

 ドォォォォン!!!

 

 

 

 

 

「オワァ!?」

 

 突如、まるで小さな地震が起きたかのような揺れが響いていた。しかもその揺れが現れたと同時に、店の外から戦闘機のエンジン音が聞こえた気がしていた。驚きを隠せなかったクルミは、例の襲撃犯の仲間と考えながら、急いで店の外に近くにある防犯カメラを確認するが……

 

「なっ……映ってない……だと!?」

 

 ──と、なぜか映像にはそれらしき姿は見当たらなかった。

 

「…………あ〜もう!仕方がないな〜!」

 

 するとその時、クルミは押入れから降りた後、途中で店内にあるヘルメットや箒を持っていきながら、外に出ようと扉の所までへ向かった。今の店にはクルミしかおらず、加えて自分を守ってくれる者もいない。ならば自分でなんとかしなければと、そう思いながらクルミは頭にヘルメットを被り、武器としての代わりの箒を構える。

 

「(クソ………ボクは千束とたきなみたいに戦闘ができるわけでもないんだぞ!!)」

 

 ──と、内心で愚痴を言うかのような口調をするクルミだったが、それでも行かなければならないと決心し、ようやく扉を開けた。

 

「えぇ〜い!!もうどうにでもなれぇぇ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………あ」

 

 

 外に出ようとした瞬間、目に前には赤い車を地面に下ろしているインパルスの姿が見えていた。しかもその時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……………」

 

 “カラン”と思わず箒を落としてしまったクルミは、その場から一歩も動けなかった。驚いた表情をする彼女は、目の前で現れた人型巨大兵器を黙って見つめていた。その姿を今までテレビやドローンの映像などで確認していたが、実際に目の前で見るとかなりの巨人だった。

 

 そして、もうこの場に用はないのか……インパルスはそのまま飛び去っていった。

 

 信じられないと言わんばかりな表情をするクルミは、飛び去るインパルスの姿を目を逸らさずに、黙って眺めている事しかできなかった。

 

 するとその時、車から千束達が降りてきた。

 

「……ッ!千束、お前ら!無事d───」

 

 

 

 

「すすまないクルミ………水を……ウゥッ!

 

「気持ちわり〜……もう酒はいらn…オエェ〜

 

「これは……流石に……想定外です」

 

「や、やばい………マジで出ちゃいそうかも……」

 

 

 

「…………じゃなかったみたいだな。」

 

 ──と、まるで初めてジェットコースターを乗った後の表情をする千束達は、猛烈な吐き気に苦しんでいた。ちなみに心配していたクルミは、彼らが苦しんでいる様子を目にし、少しドン引きしていた。

 

 

 

 

★☆★☆★

 

 

 

 その後、店に戻ってからすぐ、DAをハッキングしたのはウォールナット………クルミであると、何も知らぬ千束に全て話していた。その時クルミは、自分のせいでたきながDAをクビになってしまったと思い、申し訳が無くてすぐ彼女に謝罪する。

 

 しかし、そんな彼女をあっさりと許してしまうたきな。

 

 もちろん銃の取引を行っていた主犯、またはリコリスの衝撃犯でもある緑髪の男を捕まえように協力して欲しいと、クルミに伝えるたきな。それを聞いたクルミはなんの迷うもなく“もちろんだ!”と明るい表情で協力する事を決めてから、タブレットを手にし千束達に見せる。

 

 そこに映っていたのは、現場に向かったドローンが撮影した録画映像。その映像に映っているツナギの集団が、『真島さーん!』と声を掛ける様子が目に入った。

 

 残念ながら映像には緑髪の男の姿は映ってなかったが、千束とたきなはその男……真島の顔を覚えていた。一体何者なのかはまだ不明であるが、それでもその主犯の正体が分かっただけで、情報としては有力だった。

 

 

 

 

 

 

 だがここで、一つだけ理解ができない疑問が残っていた。もちろん誰もがその疑問について頭から離れず、いち早くその事についてミズキが口を開いた。

 

 

「ずっと気になったんだけど……何であのロボットがやってきたのよぉ?」

 

 

 

 ───と彼女がそう口に出すと、その場の空気が一気に引き締まった。

 

 そもそも何故、あの謎の人型巨大兵器が介入してきたのかは、未だに分かっていなかった。たまたま通りかかって乱入してきたと言う様子には見えず、まるで最初っから乱入しようとする雰囲気に見えていた。そして何より、あの巨人は千束を助けようとする様子も見えていた。

 

 思い返せば先月の依頼(仕事)……松下の護衛の時にも、暗殺者であるジンに命を狙われそうになったたきなを救出したカボチャ頭の行動を思い出す。ついさっきまで現れた人型巨大兵器を操縦していたのは、あのカボチャ頭であるかも知れない。

 

 だがそれでも、奴の行動には理解ができなかった。誰もがその事について考えているが、あの場から自信を助けてくれた事に感謝している千束は、思わず立ち上がった。

 

「良いじゃん別に!あのロボット君は私を助けてくれたんだし……今回は何事も無かったんだからさぁ……」

 

「何を言っているんですか千束。そもそもあの人型巨大兵器が、千束を助けた理由すらも未だに分かっていませんよ。下手したら、連れ去る可能性だってある………」

 

「そ、それは〜……「いや、もしかしたら千束の言う通りかも知れねーと思うぞ。」……え?」

 

「クルミ……つまり、どう言う事だ?」

 

「恐らくなんだが……襲撃に遭ったリコリスを助けたのは、このロボットを操縦するカボチャ頭の仕業だと思うんだ。」

 

「「「「…………はぁ!?」」」」

 

 ──とクルミがそう口に出すと、千束達は思わず反応する。もちろんその理由を尋ねてくるだろうと予測する彼女は、手に持っているタブレットを操作しながら、再び千束達に見せようとする。

 

 画面に映し出されたのは、真島一派とインパルスが戦闘していた時の映像だった。

 

「襲撃に遭ったリコリスの状況と、今回の出来事で起きた状況………どちらも同じだった。通信不能、追跡不能、そして何より防犯カメラの映像に映らないという事もできる存在だ。正直、人間ができるってレベルじゃねーぞこれ。」

 

「ちょ………だったらなんとか探しなさいよ!アンタ、凄腕のハッカーなんでしょ!?」

 

「もうとっくに探してたよ!だけど正直悔しいけど………今の所何一つ見つかっていないんだ!」

 

 ──と、クルミがミズキの疑問を答えると、周りにいる皆も驚きを隠せなかった。DAも未だにその存在を見つけておらず、加えて世界一の凄腕ハッカーであるウォールナットと呼ばれているクルミでさえも、見つける事ができなかった。

 

「………つーか、千束もそうだけど、他のリコリスを助けているコイツの目的って……結局なんなの?」

 

「さぁーな。だが、一つだけわかった事があるぞ」

 

「──っ!本当ですか!?」

 

 何か有力な情報を掴んだのかと思い込むたきなは、思わず反応する。その時クルミは再びタブレットをイジると、また別の新たな映像を見せようとする。それが有力なのかはどうかはまだ分からないが、それが役に立ちと期待する彼女達は、早速その映像を目にすると………

 

 

 

 そこに映っていたのは、インパルスの合体&変形シーンをしていた時の映像だった。

 

「「「「……………」」」」

 

「これを見てくれ!空中で合体した後に、人型に変形したんだぞ!!もはや今の時代では造れないどころか、SF世界に登場してもおかしくないくらいのテクノロジーを持っているぞこのロボットは!!しかもそれだけじゃない!なんとコイツは──」ぶつぶつ

 

 

 映像を見せた途端、興奮しながらも解説するかのような口調で語り始めたクルミ。それを見た千束達は、期待外れだとばかりに冷酷な視線で見つめながら、“コイツは、本当に反省しているのか?”と言わんばかりな表情をしていた。

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 一方その頃、別の場所では………

 

 

 

「やばい………やばい……絶対に殺される!」

 

 

 ──と、PCモニター以外の光源が一切皆無の部屋であっちこっち歩き回っているロボ太は、焦っていた。

 

 インパルスが介入してから真島達とのレンカクが途絶えてしまった上に、向かわせていたドローンもいつの間にか破壊され、現場の状況が見れなくなってしまった。

 

 仮に真島があの場から生きていたとしても、今回の作戦も失敗してしまったことで、今度こそ殺されるかも知れない………と、そう深く思い込むロボ太は、真島と再び会った時にどう説明すればいいのかを必死に考えていた時──

 

 

 

 ドガアァァァァァン!!!!!

 

 

 

「ま、またドアァァァ!?」

 

 

 突然、破壊する音が響くと共に、出入り口の扉が派手に吹き飛ばされた。

 

 しかもその扉を蹴破ったのは、全身びしょ濡れとなったいた真島だった。しかも無言のまま、なんの躊躇もなく土足で部屋に入ってくる。ちなみについさっき扉が破壊された時にロボ太が“また”と口に出していたのは、以前にも真島の部下である2人のマッチョな男達に扉を壊された記憶があった。

 

 それから真島は、ロボ太の目の前へと近づき、後から入ってきた部下達も逃さないように周りを囲もうとする。あっという間にその場の主導権を握られた真島の前に、ロボ太は思わず正座してしまう。

 

「あ………あの………み、皆さん……」

 

「……………おい、ハッカー」

 

「(あ、これ……殺されるn…「あの映像はどこだ?」………へぇ?」

 

「だから………映像だ。お前があの場に向かわせたドローンには、映像が残っているんだろ?そいつを今すぐ、俺に見せろ。」

 

「あ、あぁ……破壊する寸前の映像なら残っているが………それがどうs……「いいからさっさと見せろ、じゃないと殺すぞ」……は、はいぃぃぃ!!!」

 

 おどしの言葉をかけてくる真島の声を聞いたロボ太は、慌てながらもPCのキーボードを操作しながら、送ったドローンの映像をモニターに映し出した。そして映像を再生した途端、真島はその映像を凝視するかのようにピタリと動きが止まった。

 

「………………」

 

「………お、おい……」

 

 そんな彼の様子を近くで目にするロボ太は、思わず真島に尋ねると……

 

 

 

 

「…………ハハハ……」

 

「……ま、真じm──」

 

 

 

ハハハハハハハハハハハハ!!!!すっっげー、すげーよアレ!!!もう完全にSF世界どころか、空中で変形合体したんだぞ!んだよあの変態技術は、戦隊ロボのパクリかよ!クソッ!もう少しだった………後もう少しのところで、アイツに近づけられたんだぞ!!」

 

 初めて自身の目で謎の巨大人型兵器をすぐ近くで目にし、圧倒的な武装を持つ戦力差を見せつけられた真島は、大きく興奮していた。ちなみにそんな彼の様子を眺めていたロボ太は、割とガチで引いていた。

 

「よくやったハッカー、面白れぇヤツを見つけたなぁ!あれじゃなきゃ俺とはバランスがとれねぇ!」

 

「お、おう………(なんだろう、なんかあんまり嬉しくねーな…)」

 

「リコリスの本拠地もそうだが………こんなイレギュラーが存在するなら、これからはもっと忙しくなるぞ!それに、次の目標も今決めたんだからなぁ……」

 

 “次の目標”という言葉を聞いた瞬間、ロボ太はなんとなく嫌な予感をしていたが……すでに遅かった。

 

「もちろん、お前にも手伝わせてもらうぜハッカー……

 

 

 

 

 

 

 

コイツを手に入れる為によぉ!!!」

 

 ──と、そう言いながら真島は、画面に映っているインパルスに銃口を当てる。それを聞いたロボ太は、“どうしてコイツの依頼を引き受けてしまったんだ…”と、ひどく後悔していた。

 

「さぁ、始めようぜ………本当の巨人狩りを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘックシュン!!な、なんだ……ものすごい寒気を感じたんだけど………」

 

 

 

 

 

 

 





 当時、ガンブレ4の体験版を予約をしたかったですが、リアルで忙しかったためで時間がなく、すでに敗北してしまいました(泣)。早く正式日、来てくれ!!!

 最近投稿が遅くなってすみません、次回もお楽しみに。

 


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