指輪の魔法使いin麻帆良 (アルペリア)
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一話

もう一つの作品が進まない代わりにこっちが進みます。どうにかしないと………。
一話です。まだ主人公は麻帆良にはいきません。


 何もない真っ白な世界。気が付いたらそんな場所にいた。でもこの場所に来る前の事を全く覚えていない。なんかポッカリと抜け落ちたみたいだ。俺の名前は何だったっけ?

 

〔テレポート・ナウ!〕

 

 

 ん?目の前から何か出てくる。

 

 

「気が付いたか?」

「ん、アンタは?」

「私の事は今はいい。それよりも体に大事は無いか?」

「…………特におかしなところは無いな。」

「ふむ、それならばいい。」

「それでアンタは一体?」

 

 

 目の前の突然現れて声を掛けてきた男(?)に尋ねる。白いローブ姿で顔は荒くカットされた宝石みたいな仮面をしていて性別がよくわからない。

 

 

「私はそうだな……………『白い魔法使い』とでも名乗っておこうか。」

「白い魔法使い?なんだそりゃ?」

「今は分からなくてもいい。いずれ思い出す。それより今重要な事はほかにある。」

「ほかに?それは一体何なんだよ。」

 

 

 目の前の得体のしれない存在よりも重要なことがあるのか?

 

 

「ほかでもない、お前自身の事だ。」

 

 

 俺?気が付いたらこの空間にいた俺が重要な存在?疑問を感じている俺に対して白い魔法使いは何か四角いものを放り曲げてきた。キャッチしてみるとそれは中央に手のひらを象ったバックルの様なものだった。

 

 

「これは?このバックルみたいなのが重要な事なのか?」

「そうだ。そして重要なことはお前がこれを使うことが出来るという事だ。」

「これが使えて何になるんだよ?」

こんな訳の分からない物を使えるようになっているとしても一体何の得になるのだろう。

「お前は魔法使いになる資格を持っている。そしてそれはお前が魔法使いとして戦うために必要になってくるものだ。」

「だからってこれはウィザードリングが無きゃ使い物にならないだろ…う………が?」

 

 

 あれ、俺は何でこれに指輪が必要だなんて分かった?それにウィザードリングって……

 

 

「思い出してきたな。お前はこれがなんだが知っているはずだ。今は記憶が混乱していて思い出せないが、端的には思い出してきているはずだ。」

 

 

 そうだ、俺はこれを知っている。でもこれはテレビの中の話だったはずなのにどうしてこれを?

 

 

「お前がそこまで考える必要は無い。お前がするべきことはほかにある。」

「俺がするべきこと?」

「そうだ、お前の記憶よりも優先してやることがある。そのウィザードライバーを使って。」

 

 

ここで白い魔法使いは一区切りして俺を見る。俺がこのドライバーを使うという事は俺がウィザードになるということなのか。

 

 

「お前には『ネギま!』の世界でやることがある。」

 

 

え?なんでネギまの世界でウィザードに?

 

 

「お前にはネギまと言った方が分かりやすいと思ったからそういわせてもらった。あの話の中に『魔法世界』があるのは知っているな。」

「ああ、でもそれは魔力で作った世界だったはず。」

「そうだ、そしてその魔力が尽きかけていることも知っているな。」

「知っているが、それと俺が魔法使いになることの関係は一体?」

 

 

 白い魔法使いが何か投げてきた。キャッチして見て見るとどうやら何かのウィザードリングのようだが、一体何の指輪なのだろうか。

 

 

「あの世界は魔力によって保たれていたが、その魔力が尽きかけている。このままではいずれあの世界は消滅してしまうだろう。以前『完全なる世界』がそれを回避するために行動をしていたが失敗してしまった。それを見て私は思った。何かほかの手で世界の消滅を避ける手段はないものかと。その中で目を付けたのがウィザードリングだったのだ。」

「待てよ、そんな世界を消滅から救うような強力な指輪なんてあるのか?」

 

 

 そんな指輪一体どんな指輪なのだろうか

 

 

「あるだろう、クリエイト・ウィザードリングが。」

「クリエイト・ウィザードリング……ソーサラーか。でもそれでどうやって世界を救うんだ。」

 

 

 金色の魔法使いが持つ指輪でどうやってあの世界の魔力問題を解決するのだろうか。

というか俺も結構記憶が戻ってきているな。このドライバーの事やほかの魔法使いについても思い出してきた。

 

 

「詳しいことは省く、今はまだお前が知る必要はない。このクリエイト・ウィザードリングを魔法世界の核として機能させ、世界の魔力の枯渇を防ぐのだ。」

 

いきなり凄いことを言ってくるな。だけど、

 

 

「指輪があるなら早く使えばいいじゃないか。」

「そうしたいのはやまやまだが、何せ世界の枯渇している魔力の代わりに魔法世界の核となってもらうには膨大な魔力が必要だからな。世界を救うために必要な指輪の魔力集めをお前にやってもらいたい。」

「それはどうやってやれば………」

「ドライバーを付けてみろ。そうすれば分かる。」

 

 

 言われるままにドライバーを付けてみる。

 

 

〔ドライバー・オン!!〕

 

 

 腰にドライバーが装着される。ずっしりとくる重み、重みが夢じゃないことを実感させる。

 

 

「ほう、またあの白いのは性懲りもなく新しい人間を連れてきたか。」

「何!?」

 

 

 ドライバーを付けたらいきなり目の前の景色が変わり、さっきの白い空間とは真逆の真っ暗な場所にいた。そして目の前には

 

 

「ウィザードラゴン。」

「ほう、俺の名前を知っているのか。」

 

 

 ウィザードラゴン。本当の仮面ライダーウィザードである操真晴人のアンダーワールドにいる彼のファントム。それが何故ここに?

 

 

「ソウマハルトという奴など知らないが、俺はあの白い奴にこの魔法具に封じられただけだ。そしてここはその魔法具の中だ。」

「白い魔法使いに封じられた?」

 

 

 俺の知っているウィザードラゴンとは違うのか。そして、この真っ暗な場所はドライバーの中か、俺はドライバーを付けてこの中に入ってきたというわけなのか?

 

 

「そう、そしてアイツはこの魔法具を使う奴に対して俺が力を貸すようにさせたのだ。」

「それが俺になるのか。」

「お前が何人目かは忘れたが、お前は俺の力にどれ位耐えられるのだろうな。」

「おいそれはどういう意味だ?」

「それは白い奴にでも聞け。取りあえず、お前にはこれをくれてやろう。」

 

 

 話していたウィザードラゴンから何かが俺の手の中に落ちてきた。見ているとそれは丸い赤い宝石が付いた指輪。

 

 

「フレイムウィザードリング」

「ほう、知っているのなら話は早い。それは俺の力が込められた指輪の中で一番扱いやすい奴だ。それが扱えないのであればお前は俺に食われるだけだ。」

「食われるってお前!」

「前に何人いたな。素質がないのに俺の力を使おうとして俺に食われた奴が、愚かな奴らだった。」

 

 

 ドラゴンはおかしそうに言うが、聞いている俺は嫌な感じしかしない。食われるってどういう事だよ。そんな俺をドラゴンは面白そうに見る。

 

 

「それ以外にもいくつか指輪をくれてやる。その『フレイム』で使う事出来る指輪や、それ以外で使えるものだ。」

 

 

 ドラゴンから指輪が渡される。これで俺が変身することが出来たら俺がやることは確か魔力集めだったはず、そういえば白い魔法使いはドラゴンに聞けと言っていたな。

 

 

「魔力集めについてお前に聞けと言われたが、どうやればいいんだ?」

「何、魔力集めだと?そんなものは俺は知らん。俺が伝えられることは俺の力の使い方だけだ。」

「おい、白い魔法使いからはお前に聞けと言われたぞ。」

「そう言われてもな。知らんものは知らん。」

「マジかよ。どうすればいいんだよ。」

「取りあえずお前はさっさと戻って俺の力が使えるか確認しろ。」

「おいっ!」

 

 

 ドラゴンに聞きたいことはまだあったが、それよりも先に目の前が白くなり何も見えなくなっていった。

 

 

「どうだ、ドラゴンから話は聞けたか?」

 

 

 目を開くとさっきまでいた真っ黒な世界ではなく、その前にいた真っ白な空間にいた。そして目の前には白い魔法使いがいた。

 

 

「ドラゴンからは魔力集めについては何も聞いていないぞ。」

「何?なら仕方ない。これから実際に見てもらうとしよう。」

「おい、言っている意味がよくわからないが。」

「言葉通りの意味だ。これから私が魔力集めをする。それをお前は近くで見ているといい。ところでドラゴンから指輪は貰ったか?」

「ああ、『フレイムウィザードリング』なら貰ったぞ。それより、俺は変身できなかったら食われるってどういうことだよ?」

「そんなことは気にしなくていい。どうせ変身できるのだから。それよりも移動するぞ。つかまれ。」

「移動ってどうやって」

 

 

〔テレポート・ナウ!〕

 

 

 足元に現れた魔法陣によって俺と白い魔法使いは真っ白な空間から移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとございました。


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二話

二話目です。よろしくお願いします。


佐倉愛衣side

 

 

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 

 

 私は今麻帆良学園の外れの森の中を必死になって逃げています。

 

 

「まさかっ!あんなに魔物がいたなんて、事前にお姉様と確認したときはいなかったのに!」

 

 

 周期的に弱まる麻帆良の結界。そのタイミングをついて学園を襲撃する魔物を退治するのが私のような魔法生徒の仕事の一つなんです。

 今日もいつも通りの魔物退治のはずだったんですが、予想外の敵の増援があったようです。数が少ないからお互い単独行動にして早く終わらせようとしたのが裏目になってしまいました。

 

 

「ゲゲゲッ!グゲゲッ!!」

 

 

 後ろから魔物の声が聞こえる。人語でないぶん魔物としてのランクは高いとは思えませんが、何があるか分かりません。

 そこで、私一人で戦うのは避けた方がいいのかなと思い、さっきお姉様と念話で集合場所を決めて、そこで撃退しようという事になりました。そこに早くたどり着かないと!

 

 

「あっ!!」

 

 

 地面から出っ張った木の根に躓いて体制を崩し、倒れてしまった。後ろから魔物迫ってきているのが聞こえる。お姉様との集合場所までまだ距離があるから、助けを読んでもお姉様が来てくれる可能性は少ない。どうしましょう。絶体絶命です。

 

 

「追い付きましたね。ギーグ、この少女が逃げないように見ておいてくださいね。」

「ゲゲッ!」

 

 

 相手は一人だと思っていたら後ろからもう一人出てきました。しかもソイツは人語を話しているから、ランクもある程度の存在。

 本当に私一人では相手が出来る状態じゃなくなってきました。どうしましょう。お姉様、私ここで魔物にやられてしまうのでしょうか?人語を話すどことなく人に似た姿の魔物が近づいてくる。ギーグと呼ばれた獣の魔物は後ろに控えているけれど、ここから脱出できる隙はない。

 

 

「さて、名前も知らない魔法使いのお嬢さん。あなたには私たちに捕まっていただきましょうか。」

「捕まる?」

「簡単に言えば人質という奴ですね。」

 

 

 倒れた状態で後ろに下がるが、人型の魔物は「逃げられませんよ」と笑いながら手を伸ばしてくる。これじゃ捕まってしまう。助けてお姉様!誰か!!

 

 

〔テレポート・ナウ!〕

 

 

「え?」

「っ!どちら様ですかね?」

 

 

 突然聞こえてきた音声。目の前の魔物が手を伸ばしたまま音のした方向を見ている。つられて私の音のした方向に顔を向ける。

 視界の先にいたのは腰に手の形をした大きなベルトをした白いローブ姿で顔は荒くカットされた宝石みたいな仮面の人と、同じようなベルトをした黒髪のどこにでもいそうな感じの男の人でした。

 

 

Sideout

 

 

 白い魔法使いに連れられてテレポートした先はどこかの森だった。そして目の前には倒れている制服を着た女の子と、人型と獣型のなんかよくわからない奴らがいた。

 

 

「おい、これってどういう状態なんだ?」

「これから、お前に魔力の集め方を見せてやる。」

 

 

 白い魔法使いはそう言うと、前にいる集団の方に歩いていく。俺はどうすればいいんだよ?

 

 

「お前はまずそこで見ていろ。先に私がそこにいる魔物で実践してやる。」

 

 

 ああ、あのよくわからない奴らは魔物だったのか。という事はここはすでに『ネギま!』の世界に来ているのかな?

 それによく見たらそこで倒れている女の子も良く見たら漫画で見たような感じの制服を着ているし、女の子の方も見たことあるような感じの子だ。俺がそんなことを考えていると、白い魔法使いと魔物が対峙していた。

 

 

「先ほど私たちを倒すと言っていましたが、冗談がうまいようで。」

「冗談など言った覚えはない。」

「そうですか。ギーグ、この白いローブの人をさっさと食ってしまいなさい。」

「ギャゲゲッ!」

 

 

 人型の魔物の指示に従って獣型の魔物、ギーグが白い魔法使いに襲いかかる。思わず叫びそうになるが、魔法使いは何なく避けると、後ろに下がりつつ右手の指輪を変え、パームオーサーを左、右と変えて手をかざす。

 

 

〔エクスプロージョン・ナウ!〕

 

 

 音声とともに現れた爆発によってギーグは一撃で跡形もなく消え去った。

 

 

「一撃って強すぎるだろ……。」

「魔物を倒すやり方は任せるが、私たちに重要なのはこれからやることだ。」

 

 

 白い魔法使いは魔物がいた場所を見ながら、俺に向かって話す。話しながらまた右手の指輪を変えている。

 

 

「敵を倒したら、すぐにこの指輪を使って、敵の残った魔力を集めろ。」

 

 

〔ホープ・ナウ!〕

 

 

 前にかざした右手に魔法陣が現れ、そこにさっきまでギーグがいた場所から何か光る粒子見たいなものが吸い込まれていく。現れた粒子を全て吸い込むと白い魔法使いは俺の方を向いた。

 

 

「今のがお前にやってもらう魔力集めの方法だ。敵を倒したら必ず行え。さっきお前に渡した指輪・『ポープウィザードリング』に魔力を集めろ。」

 

 

 そう言われてさっきの白い空間で渡された指輪を見る。これは『ポープウィザードリング』だったのか。

 

 

「なるべく多く魔力を集めておくことだ。期待しているぞ……そう言えば。」

「なんだよ。」

「お前の名前は何だ。聞いていなかった気がしたな。」

 

 

白い魔法使いの指摘に俺もそう言えばコイツとあってから名前を言った覚えがない。

 

 

「辰連拓人(たつつれたくと)。」

「そうか、では拓人魔力集め任せたぞ。」

 

 

〔テレポート・ナウ!〕

 

 

 白い魔法使いはそれだけ言うといなくなった。後に残ったのは俺と女の子と人型の魔物。俺にどうしろと?女の子は意識はあるようでこっちを見ているが倒れたままだし、魔物もさっき相方のギーグがやられているからこっちの出方をうかがっているみたいだし。

 

 

「さて、どうすっかね。こりゃ。」

 

 

 俺の呟きに魔物が反応する。大きく後ろに跳び下がった後、目の前の地面に魔法陣をだし、何か呟いている。

 

 

「何をする気だアイツ?」

「!?気を付けてください!アイツ新しい魔物を召喚するつもりです!!」

「え?」

 

 

 倒れている女の子が叫ぶ。教えてくれてありがたいのだけれども、君は大丈夫なのか?女の子の声に続いて魔物が叫ぶ。

 

 

「おや、そこのお嬢さんは聡明ですね。しかし気づいてももう遅いですよ!」

 

 

 魔物の言うとおり魔法陣からは身の丈が俺たちの倍以上ある巨体の一つ目の魔物が現れていた。召喚を終えた人型の魔物は笑いながらこちらに向かって言う。

 

 

「この場はコレに任せて私は退散させて頂きますよ。少々予定外の事が起こりましたし、時間もかかってしまいましたから。」

 

 

 人型の魔物の足元に魔法陣が現れる。その魔法陣に魔物は沈んでいく。

 

 

「待ちなさい!!」

「それではまた何れ。」

 

 

 女の子が叫ぶが、それに反応せず魔法陣の中に消えていく。残ったのはついさっき召喚した一つ目巨体の魔物。ソイツは俺たちの方を見ると一つ目を歪め笑うとこっちに向かって歩き出す。距離は大体十メートル。倒れている子もいるし、逃げ切れる距離じゃないな。

 

 

「そこの嬢ちゃん、君歩ける?」

「すみません、足を挫いてしまってまだ歩けません。あと私の名前は佐倉愛衣です。」

 

 

 佐倉愛衣、確か魔法生徒の中にそんな名前の子がいたな。あんまし覚えていないけど。

 

 

「ええと、佐倉さんね。俺は「辰連拓人さんですね。さっきのやり取り聞こえていました。」あっそうですか……。」

 

 

 なんて自己紹介してたら、もう半分くらいの距離に魔物が来ちゃった。どうしよう、もうこれ絶対逃げられないよ。佐倉さんは動けないから、俺がやるしかないのかね。

 

 

「グルル……。」

 

 

 考え事をしている間にも魔物は近づいてくる。…………やるしかないか。

 

 

「佐倉さん、危ないから俺の後ろの方に下がってくれないかな?」

「分かりましたけど、辰連さんは戦うことが出来るんですか?」

「まあ一応ね。(これが初陣ですけどね)」

 

 

 右手になっているハンドオーサーを左手に変える。

 

 

〔シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!〕

 

 

 これ本当にうるさいし、出しているのが自分だとかなり恥ずかしい。操真晴人はこんな音が自分の腰から聞こえていて、良く平気だったな。

 

 

「え?シャバドゥビ?」

 

 

 後ろにいる佐倉さんの唖然とした声が聞こえる。初めて聞くなら当然の反応かな

 

 

「ふざけているわけじゃないよ。音は気にしないで。」

 

 

 後ろの佐倉さんに一言言っておく。その間にも魔物は近づいてくるわけで、ポケットから出した『フレイムウィザードリング』を左手にはめて指輪のカバーを下して、ハンドオーサーにかざす。

 

 

「変身。」

 

 

〔フレイム・プリーズ!…ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!!〕

 

 

 横に伸ばした左手の先から赤い魔法陣が現れて俺の体を通っていく。自分の体だから見えないけど、今俺はちゃんとウィザードになっているのだろう。

 ちらりと見た左腕は黒い服に変わっていたし、後ろで佐倉さんが「姿が変わった!?変身魔法?」とか言っているから変身は成功だろう。ドラゴンの言っていた素質のない奴じゃなくてよかった。

 

 

「グググゥ………!!」

 

 

 一人感傷に浸っていたら目の前の魔物を忘れていた。奴は俺の姿が変わったから警戒しているのか、背を低くしてこちらの様子をうかがっている。俺の変身がいつまで続くか分からないし、ここはさっさと戦った方がいいかな。俺は左手を相手に見せるようにかざして。

 

 

「さあ、ショータイムだ。」

 

 

 魔物に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。
感想・ご指摘お待ちしております。


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三話

三話目です。


 

佐倉愛衣side

 

「さあ、ショータイムだ。」

 

 

 辰連さんはそう言うと一つ目の巨体の魔物・サイクロプスに突っ込んでいった。サイクロプスはギリシャ神話にも登場する古代から存在するものですが、今回は魔物として召喚されたようです。本来は神族の一員なのだそうですが。

 そして、今回は召喚したあの魔物が高位の存在ではなかったので、それほど強力な個体として現れなかったみたいです。これが強力な個体だったら、魔法先生が何人も必要になる大事態になっていました。

 

 

「おっとっ!こりゃぁ一発食らったらヤバいかねぇ。」

 

 

 目の前では辰連さんがサイクロプスの攻撃を難なく避けています。あの姿になると身体能力が上がるのでしょうか、常人では回避不可能な速度の攻撃を避けているのを見ると、私たち魔法使いが使用する『戦いの旋律』と同じ位能力が上昇しているように見えます。

 私はすべての魔法を知っているわけではありませんが、辰連さんの魔法は見たことありません。不思議な魔法ですが、なんだか見ていると不安が無くなっていく気がしました。

 

 

「おらっ!」

 

 

 辰連さんの戦い方は何か流派のような感じはせず、何か喧嘩をしているような素人の戦い方に見えますが、それでもサイクロプスと互角に戦っています。このままなら倒すことは出来なくてもお姉様が来るまでの時間は稼いでくれそうです。辰連さんが相手をしてくれている間にお姉様に何とか連絡しないといけないですね。

 

 

「辰連さん!頑張ってください!!」

「了解!佐倉ちゃん!!」

 

 

 思わず応援してしまった私に対して返事を返す余裕があるなんて、凄いとしか……………今、私ちゃん付けされてました?

 

 

 

sideout

 

 

 

 思わず彼女の事をちゃん付けしてしまったけど、特に問題ないよね?とっさに出てきたものだったから確信犯じゃないからさ。

 

 

「おっと!コイツの攻撃は分かりやすくて避けることが出来るけど、怖いなぁ。」

 

 

 変身してから身体能力が上がったのだろう。自分の体だとは思えないほど動けている。変身前の俺は軽いジャンプで二メートル程飛ぶことは出来ないし、手を使わずに宙返りなんて出来ない。

 それが出来るようになってはいるが、本来のウィザードのように華麗に戦う事は出来ない。ただ闇雲に殴る、蹴るを繰り返すだけだ。

 

「痛ぁ!?」

 

 サイクロプスを殴ったら指輪が指にめり込んで痛かった。特に考えもしないで戦っていたから当然かもしれないが、指輪。しかも普通よりもデカい奴つけていたまま殴れば当然のことだった。

 

どうしてウィザードがパンチを使わなかったのか、身をもって理解した。

 

 

「でもこの魔物と戦えるのは変身してるからなんだろうけどなぁ………っと!!」

 

 

 突進してきた一つ目を避けて背中を思いっきり蹴飛ばす。だが、蹴っ飛ばした方向が悪かった。俺は佐倉ちゃんがいる方向に一つ目を蹴っ飛ばしてしまった。

 吹っ飛ばされた一つ目は背中を蹴った俺の方を見ていたが、自分のすぐ近くに動けない相手を見つけて、そっちの方が倒しやすいと思ったのかニヤリと笑うとそっちに向きを変えて歩き始める。

 

 

「げ……ってヤバ!?」

 

 

 まぁつまり佐倉ちゃんが標的になってしまったという事で、標的にされた佐倉ちゃんはまだ動けないようで、地面に座った状態で後ずさりをしながら、何か呟いている。俺も急いで彼女のもとに走る。一つ目よりも俺の方が足が早いけど、間に合うか!?

 

 

「っ!魔法の射手!炎の5矢!!」

 

 

 佐倉ちゃんの魔法で一つ目の歩みが一瞬止まるが対してダメージを与えることは出来なかったようで、一つ目は魔法が当たる前と変わらず歩き始めるが、一つ目の動きが止まった隙に俺は距離を詰める。

 走りながら右手の指輪を変えて佐倉ちゃんに対して腕を振りかぶった一つ目と動けない佐倉ちゃんの間に飛び込んで魔法を発動させる。

 

 

〔ディフェンド・プリーズ!〕

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 防壁を張って攻撃を防いだが、それでもかなりの衝撃が来た。思った通り一発でも食らったらどうなるか考えただけでも恐ろしいし、それを生身の佐倉ちゃんが受けたらひとたまりもない。一つ目を彼女の方に吹っ飛ばした自分を殴ってやりたい。

 攻撃が防がれてバランスを崩した奴を蹴り飛ばし、距離をとる。幸運にも当たり所が良かったのか一つ目は倒れたまま起き上がる気配がない。

 この隙で佐倉ちゃんの状態を確認する。

 

 

「佐倉ちゃん大丈夫?ゴメンね。さっきは危ない目にあわせちゃって。」

「いいえ、大丈夫です。辰連さんが攻撃を防いでくれましたから、問題ないです。」

「ならよかった。そう言えばさっきアイツに攻撃してたけど、あまり効果がなかったね。」

「アレは無詠唱でしたから威力が通常より落ちていましたし、何よりあの魔物、サイクロプスは魔法に対する防御力が高いんです。高位のサイクロプスには普通の魔法は通用しません。」

「マジか。魔法使いにとって相性最悪だな。」

「幸いにもあのサイクロプスはそれほど高位の個体ではないので、しっかり詠唱すれば大抵の魔法は通用します。」

「それを聞いて安心したよ。」

 

 

 一つ目・サイクロプスを吹っ飛ばした方を見ると、アイツは起き上がり、こっちに向かって歩いてきている。さっきもそうだが、あの魔物は走ることが出来ないのか?

 

 

「辰連さんも何か魔法で攻撃するんですか?」

「まぁ、一応手段はあるから何とかしないとね。」

 

 

 話しながら、右手の指輪を変える。これから使うのは魔法って言っても半分以上物理攻撃だから問題はないと思うんだが、ちょっと不安もある。

 

 

「それと、俺がアイツを何とかするから、そっちで応援とかって呼べない?」

「あ、そうですね。さっきお姉様に念話が通じたので、あと少しで来てくれると思います。」

「………お姉様ねぇ………。」

「?何かまずかったですか?」

「いやそういうわけじゃないんだけどね。」

 

 

 お姉様とか呼ぶのって実際にいるんだな。聖母様にでも見られてるの?漫画の中だけだと思ったよ。

 っと、話していたらサイクロプスもいい距離まで来ている。さて、使ってみますか。

 

 

「よっと。」

 

 

〔ビッグ・プリーズ!〕

 

 

 目の前に現れた魔法陣を通り抜けるようにサイクロプスに向かってパンチを繰り出す。魔法で作られた腕だから、指輪で指が痛くなることはないから安心だ。

 

 魔法陣をくぐって巨大化した俺の拳がサイクロプスにあたり、もう一度吹っ飛ばす。後ろでは佐倉ちゃんが「う、腕が大きくなってる!?」なんてびっくりしていた。耳が大きくなるのとは違ってこれはちゃんとした魔法だよ。

 

 

「さっきから結構攻撃当ててるから、そろそろ決めてもいいかな?」

 

 

 多分もう平気な気がするから、終わりと行きますか。右手の指輪を再度変えて、ハンドオーサーをもう一度右手側にする。相手が来るまで余裕があるから、ゆっくりやれる。

 

 

〔ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!〕

 

 

後ろで佐倉ちゃんが「る、ルパッチ?」なんて言っているのが聞こえる。初めて聞くと変な感じがするのはよく分かるよ、俺もそうだったから。まぁそれよりも

 

 

「フィナーレだ。」

 

 

 指輪をハンドオーサーにかざす。

 

 

〔チョーイイネ!キックストライク!サイコー!〕

 

 

「はああああああぁぁぁ」

 

 

 足元に魔法陣が現れてそこから俺の右足に炎が集まっていく。これをサイクロプスに叩き込めば倒せるハズなんだが…………

 

 

「(ストライクウィザードを叩き込む前にやってたあの回転ってどうやるんだ?)」

 

 

 テレビでは見たことあるけど、自分がやるとなると分からない。あの回転とか無理な気がする。いくら変身して身体能力が上がっていても何だか失敗しそうでやりたくない。

 そんな事を考えて動かない俺に対して、サイクロプスはどんどん近づいてきているから、そろそろ決めないと、こっちが攻撃をされてしまうし、後ろにいる佐倉ちゃんも危険な目にあわせてしまう。

 

 

「(仕方がない。もうこれでいいや。)だああああああぁぁ!!」

 

 

 近づいてきたサイクロプスに少し助走して跳び回し蹴りを当てる。蹴りが当たったサイクロプスは吹っ飛んだあと、魔法陣が現れて爆発した。何とか倒すことが出来たようだ。爆発後を見ながら指輪を変える。白い魔法使いに言われたとおり、魔力を集めなくては。

 

 

〔ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! ホープ・プリーズ!〕

 

 

 向けた右手の先から魔法陣が現れて、魔法陣に向かってサイクロプスの爆発跡から粒子が魔法陣へ吸い込まれていく。すべて吸い込んだ後魔法陣は勝手に消えた。

 

 

「ふぃー。」

 

 

どうなる事かと思ったけど、一応倒すことが出来た。初陣にしては上出来だと思う。

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。


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四話


更新できましたが、話の時間が全然進みません。
スミマセン。


 

 

「ふぃー。」

 

 

 魔力を集め終わり一息つく。何とか倒すことが出来た。初戦にしては上出来かな。

 

 

「凄いですね辰連さん。まさか倒しちゃうとは。」

 

 

 佐倉ちゃんがこっちに歩きながら話しかけてくる。足は引きずっているが歩けるまでは回復したみたいだ。大事にならなくてよかった。

 

 

「何とかね。でも佐倉ちゃんさっきはゴメンね。危ない目に合わせちゃって。」

「でも辰連さんが守ってくれましたから、大丈夫ですよ。」

 

 

 うーん。あれもギリギリ間に合った感じなんだけど、佐倉ちゃんがそう言っているのならいいのかな。しかし、ここで魔物は倒したけど、次はどうすればいいのだろうか。白い魔法使いはさっさといなくなってしまったし、白い魔法使いを追える手段は俺にはない。

 これからどうすりゃいいのかねぇ。でもそう言えば

 

 

「確か佐倉ちゃんのお姉様だっけ?その人はあとどれ位でこれそう?」

「どうでしょう、さっき念話が通じたときはもうこっちに移動しているって話していたので、もう来てもいいと思うんですけど。」

 

 

 辺りを見回す佐倉ちゃん、あと少しで来ると言ってもいつになるか分からないしまだ変身はとかない方がいいかな。周りは森だし、暗い。

 また何か来る可能性もあるかもしてない。初戦で二連戦は勘弁してほしいが。それに佐倉ちゃんがお姉様といった人はどんな人なのだろうか気になるな。

 

 

「佐倉ちゃん、君が言っていたお姉様ってどんな人なの?」

「お姉様ですか?」

「そう、どんな人なのか気になったし、これから来る人の事を少しは知っておきたいから。」

「そうですね、どこから話せばいいか「愛衣!!」あ。」

 

 

 佐倉ちゃんに話してもらおうとしてところで佐倉ちゃんの後ろの森から人が二人出てきた。佐倉ちゃんの呼んだのは佐倉ちゃんより少し年上の女の子。黒いワンピースみたいな服を着ている。そしてもう一人

 

 

「愛衣君、無事だったかい?」

 

 

 黒人の男性が森の中から出てきた。この女の子が佐倉ちゃんの言っていたお姉様かな。来た二人は佐倉ちゃんの無事を確認して安堵したように息を吐いていた。

 

 

「愛衣、ケガはしてない?念話では襲われていると言っていたけど。」

「大丈夫ですお姉様。」

「愛衣君、君を襲っていた魔物はどうしたんだい?姿が見えないようだけれども。」

「魔物なら辰連さんが倒してくれました。」

「辰連さん?君の事かな?」

 

 

 佐倉ちゃんの説明を聞いていた黒人の男性が俺の方を向く。俺を見る表情は警戒をしている。

 まぁ見たこともない仮面をつけた人物がいるのだから当然か。お姉様の方も俺を警戒しつつ、佐倉ちゃんを庇うようにしながら、こっちを何時でも攻撃出来るようにしている感じだ。これじゃあ話が進まないので、こちらに攻撃の意志が無い事を見せるために変身を解く。

 

 

「初めまして。辰連拓人です。」

 

 

 こっちに攻撃の意志がないことが伝わったのか黒人の人は警戒を解いてくれたけど、お姉様の方はまだ警戒したままだ。

 

 

「こちらこそ、私はガンドルフィーニという。生徒を助けてくれてありがとう。」

 

 

 そう言って手を差し出してくる。握手をしながら彼と話をする。

 

 

「いえ、こちらも佐倉さんには助けられましたから。そう言えば佐倉さんを生徒と言ったあなたは。」

「ああ、私は教師なんでね。」

「なるほど、そうでしたか。」

 

 

 ガンドルフィーニ先生からここに来た経緯を簡単に聞く。今夜の仕事は敵の量も少なくそれほど強くないためにいつもなら二人で行動させている佐倉ちゃんとお姉様の別行動を許可したらしい。

 

 

「そしたら、愛衣君からの念話だ。任務を始める前の自分を叱ってやりたいよ。」

 

 

 ぼやく先生。佐倉ちゃんからの念話を聞いた後急いでここに来たそうだ。

 

 

「本当に君には感謝しているよ。高音君も挨拶位しなさい。」

 

 

 先生の声に反応したのはお姉様だった。こっちをまだ警戒しているようだが、さっきに比べたら警戒を解いてくれているようだ。

 

 

「愛衣を助けてくれて感謝いたします。私は高音・D・グッドマンと言います。」

 

 

 お姉様は高音さんという人だったのか。固さは抜けていないけど。

 

 

「辰連さん本当にありがとうございました。」

 

 

 佐倉ちゃんからもお礼を言われる。この子が無事でよかった。

 

 

「辰連君、この後はどうするつもりなんだい?」

「特に予定はありませんけど。」

 

 

 ガンドルフィーニ先生が聞いてくる。この後は何もやることもないし、何をやればいいのかも分からない。

 

 

「それなら私と来てくれないか?学園長が君と話がしたいそうなんだ。」

 

 

 先生の提案に頷き了承する。学園長か、何を言われるのかねぇ。指輪の事を聞かれても詳しいことは分からないからどうなる事やら。それにしても学園長は俺がいるってことがよく分かったな。

 

 

「高音君、愛衣君。君たちはもう夜も遅いから先に帰りなさい。」

 

 

 先生が二人を返している。確かにもう結構いい時間だ。女の子が外にいる時間じゃないな。

 

 

「分かりました先生。それじゃ辰連さんおやすみなさい。」

 

 

 そう言って佐倉ちゃんは高音さんと一緒に歩いて帰っていった。

 

 

「さて辰連君、私たちも行こうか。」

 

 

 先生に促されて俺も森を後にする。しばらく森を歩くと広場に出た。噴水があって中々にきれいな場所だ。これが昼の時間だったらたくさんの人で賑わっているのだろう。昼の時にでも一回行ってみようかな。

 

 

「それじゃ私は車をとってくるからここで少し待っていてくれるかな。」

 

 

 ガンドルフィーニ先生に「分かった」と告げると先生は車を取りに走っていった。

 

 

「まぁ初戦にしてはまぁまぁと言ったところか。」

「……………ドラゴンか。」

 

 

 目の前にあった広場が真っ暗闇の空間に変わる。そして声が聞こえ、ドラゴンが俺の周りを飛んでいた。ドラゴンは口の端を歪める。恐らく笑っているのだろう。

 

 

「俺の力を初めて使うにしてはまぁ妥協できる戦い方だったな。」

「お前は俺が戦っているのが見えるのか?」

「当然だ。何せお前が使っているのは俺の力であり、魔力なのだからな。」

 

 

 俺に魔力は存在しないと思う中で何故魔法が使えるのか、最初から不思議に思っていたことだが、どうやら全部ドラゴンのおかげという事なのか。

 

 

「それで、俺に何の用だ。まさか魔力を使ったことに対しての感謝の意を示せとか言うんじゃないだろうな。」

 

 

 俺の言葉に対してドラゴンはそれを鼻で笑う。

 

 

「そんなものは何の足しにもならん。俺がお前を呼んだのはお前に新しい力を渡すためだ。」

「新しい力?ついさっき指輪を貰ったばかりなのにもう次の力か?」

 

 

 ドラゴンに『フレイムウィザードリング』を見せる。

 

 

「前にも言っただろう。それは一番扱いやすいだと。それを扱いえない奴は俺に食われるが、お前は残った。次のステップに進むのは当然だろう。」

ドラゴンから『フレイムウィザードリング』に似た三つの指輪が飛んできた。

「ウォーター、ハリケーン、ランド。」

「ほう、それらも知っているのか。ならそれらについての説明は不要だな。」

 

 

 手の中にある指輪を見る。一個ずつ来るかと思っていたが、まさか三つ一気に来るとは予想が外れた。

 

 

「この三つも適合しないと俺はお前に食われるのか?」

「それは無い。一度俺の指輪に耐えることが出来たからな。今渡した三つの指輪は最初に渡した奴とそう対して変わらない。ただバランスが少し違う程度だ。」

 

 

 ドラゴンの言葉を頭の中で繰り返す。確かにこの三つウォーターは魔力、ハリケーンはスピード、ランドはパワーと特化している方向が違う。

 一度ウィザードに慣れた俺なら大丈夫という事なのだろう。

 

 

「これからは最初のフレイムを含めて四つの指輪を使い分けていく事になるが、相手との相性を考えて戦うことになる。精々頑張ることだ、俺に呑み込まれないようにな。」

 

 

 ドラゴンはそう言い残すと暗闇の中に飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 





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五話

学園長の口調が正確にわかっていない部分があるので、不安定です。ご指摘があればよろしくお願いします。


 

 

「夜遅いのに申し訳ないね。学園長が必ず連れてきなさいと言っていたらしいから。」

「大丈夫ですよ。これからの予定なんてありませんでしたから。」

 

 

 ドラゴンがいなくなった後すぐに真っ暗な空間は無くなり、広場に戻った。

 そのあとすぐにガンドルフィーニ先生が戻ってきたので、先生の車に乗って移動することになった。

 これから学園長のところに行くらしい。深夜、さっき時間を確認したら十二時近くだった。先生の車は人気のない道路を走っているが、学園長の居る場所が分からない俺は車がどこに向かっているのか分からない。

 

 

「学園長ってどこにいるんですか?」

「学園長は女子中等部の学園長室で待っているって連絡が来ていたね。」

「………なんでそんな所に部屋があるんですか?」

「それは私にも分からないなぁ。」

 

 

 ガンドルフィーニ先生は苦笑いしながら運転をしている。

 

 

「それでその女子中等部には、あとどれくらいで着くんですか?」

「もう着くよ。今はくらいから見えないけど、明るい時なら校舎はもう見えている距離だからね………ん?誰かいるみたいだ。」

 

 

 先生につられて前を見ると、確かに前方にライトをつけながら停車している車があり、その前に誰か立っているようだ。

 先生は速度を落として停車している車の近くに自分の車を止めた。こっちの車が止まったのを見て立っていた人が声を掛けてきた。

 

 

「ガンドルフィーニ先生、お疲れ様です。」

 

 

 声を掛けてきた人物が誰かわかったみたいでガンドルフィーニ先生は警戒を解いて近づいていく。

 

 

「これは高畑先生。こんなところで何をしているんですか?」

 

 

 二人が話しているところに俺も近づいていく。近づくにつれて高畑先生と呼ばれた人の姿がはっきりと見えていきた。

 見た目は三十代で無精髭を生やした眼鏡をかけた男性だった。とてもダンディな人だった。ガンドルフィーニ先生は知り合いのようで二人で何か話している。さっきお互いを先生と呼んでいたから教師仲間なのかな?

 

 

「ゴメンね辰連君、少し高畑先生と話し込んでしまったよ。」

 

 

 暫くして先生たちがこっちに歩いてきた。何を話していたかは知らないけど、何か二人の間でやり取りがあったようだ。

 

 

「辰連君、紹介するよ。こちらはタカミチ・T・高畑先生私と同じように魔法使いで教師をして居るんだ。」

「初めまして、高畑です。君の事はガンドルフィーニ先生から聞いたよ。どうぞよろしく。」

「こちらこそよろしくお願いします。辰連拓人です。」

 

 

 差し出された手を握り、簡単に自己紹介を済ます。

 

 

「ここからはガンドルフィーニ先生に変わって僕が案内するね。」

「ガンドルフィーニ先生はどうするんですか?」

 

 

 案内すると言ったのはガンドルフィーニ先生なのにどうしたのだろう?

 

 

「私が案内しても良かったのだが、高畑先生が変わってくれたんだ。」

「ガンドルフィーニ先生は家庭をお持ちだからね、もう夜遅いから早く帰った方がいいからね。」

 

 

 成程、そう言う事だったのか。家族がいてこんなに遅くまで仕事とは大変だと思うが、その仕事の原因なのは俺なので申し訳ないな。

 

 

「そう言うわけだから私はここで失礼させてもらうよ。辰連君今日は本当にありがとう。」

「いえ、ここまで送ってもらってありがとうございました。」

 

 

 そう言ってガンドルフィーニ先生は車に乗って帰っていった。

 

 

「さて、それじゃ行こうか。」

 

 

 車が完全に見えなくなった後、高畑先生が話しかけてきた。

 

 

「分かりました。学園長室って女子中等部にあるんですよね?」

「そうだよ、そして暗くて見えづらいけどここがその中等部だよ。」

 

 

 先生が俺の後ろを指差す。そこには暗くて見えづらいけど、確かに建物があった。結構いい感じの建物だった。

 

 

「凄いですね。」

「はは、そうだね。僕もこの外観は気に入っているよ。」

 

 

 笑いながら門を開けて敷地内に入る先生を追って俺も敷地内に足を踏み入れた。

 

 

 

…………。

 

 

……………。

 

 

 

「学園長、辰連君を連れてきました。」

 

 

 高畑先生の案内で学園長室までやってきた。高畑先生が学園長室の扉をノックしなが、ら来たことを伝えている。

 深夜遅くに学校の中を歩くのは正直怖かったが、先生がいる前でビビるわけにもいかず、平気な顔をして歩いてきたが、結構怖かった。前を歩いていた先生は平気なのか平然と歩いていた。

 

 

「御苦労じゃった、入ってくれ。」

 

 

 中から入室の許可が出たので、先生は「着いてきて。」と言いながら扉を開けて中に入る。続いて入った俺の目に飛び込んできたのはやたら後頭部が長い老人だった。

 元の世界で漫画で見たから覚悟はしていたが、実物を見ると凄いとしか言えない。あんなに長いのはもう何と言うか凄いとしか言えない。目の前の老人、恐らくこの人が学園長なのだろう。

 

 

「高畑先生、御苦労じゃった。そして辰連君、よく来てくれた。」

 

 

 俺が固まっている間に高畑先生は学園長の机の隣に移動していた。学園長は高畑先生を労った後、俺に向かって話しかけてきた。

 

 

「あ、いえ、そんなことないです。はい。」

 

 

 いきなり話しかけられて、変な受け答えをしてしまった。しかし、学園長はそれを気にする様子はなく、「楽にしてくれ。」と言いながら、自分は椅子に座った。

 俺が学園長の机の前に立つのを確認した後、口を開いた。

 

 

「さて、まずは我が学園の生徒を助けてくれて感謝するよ。ありがとう。」

「あ、いえ、そんなことないです。」

 

 

 どうにも、なんかへんな感じに畏まってしまう。偉い人の前に立つというのは変な感じだ。

 

 

「お礼についてはまた後日という事にしておいて、本題に入ろうかのぉ。」

 

 

 学園長の顔が引き締まる。(学園長は糸目なので、良く分からなかったが、はそんな気がした)

 

 

「君がどんな人間で、君が使う魔法は一体どんなものなのかを説明をしてほしいのぉ。」

「それは…………。」

 

 

 やっぱりその質問が来た。この世界の魔法と、ウィザードの使う魔法は異なる部分がある。見知らぬ魔法について説明をするのは当然予想されていたが、俺はこの魔法について完璧には理解していない。

 大雑把に指輪を用いて使用する、系統の異なる魔法といった漠然としたイメージしか持っていない。それで、どうやって説明をしたらいいのか。

 

 

「………と言いたいところじゃが、もうすでにそのことについては説明をされていての。」

「………え?」

 

 

 なんて説明しようか考えていたら、いきなり学園長がそんなことを言ってきた。

 

 

「一体誰が説明をしたんですか?」

「君の仲間?いや、上司と言った方がよいかの?確か自分の事を『白い魔法使い』と言っておったの。」

 

 

 アイツか。俺をあの森に置いていった後、まさかここに来ていたとは。

 

 

「ちょっと前にいきなりこの部屋に転移してきての。最初は迎え撃とうと思ったが、話を聞いてみると、どうやら大きなことをするらしいの。」

「そう言っていましたけど、学園長は良かったんですか?」

「こちらの生徒たちに危害を加えないというのが大前提じゃが、こちらの防衛にも配下の者を出してくれると言ってきての、しばらくは様子見という事で話が落ち着いたわい。そして、その配下が君の事じゃな?」

 

 

 俺が戦っている間にそんなことをやっていたのか。だが、俺はあいつの配下になった覚えはないのだが、俺がウィザードになっている以上、俺はアイツの配下になるのかな?

 

 

「はい、そういうことになりますね。それで、俺はここで何をやればいいんですか?」

「大まかに言えば、今日みたいな迎撃がメインじゃな。それ以外にも細々した事があるが、それは明日にしようかの。今日は色々あって疲れたじゃろう。明日また、ここにきてくれないかの?その時に色々と決め事を使用ではないか。」

「決め事ですか?」

「そうじゃ。一つ言えば、君のこの麻帆良での平時の仕事とか、生活面でも色々とあるからの、時間をとって話合うとしよう。」

「分かりました。…………俺はこの後は………」

「高畑君に男性職員用の寮に案内させよう。今日はそこで休むと良い。」

「ありがとうございます。」

「うむ。明日の放課後、4時くらいにそこに使いの者を行かせるから、寮で待っていてくれんか?」

「分かりました。よろしくお願いします。」

「うむ、それではまた明日。」

 

 

 学園長に頭を下げて、高畑先生について、学園長室を後にする。

 

 

 

…………。

 

 

 

……………。

 

 

 

………………。

 

 

「それじゃあ今日はここで休んでくれ。お疲れ様。」

「お疲れ様でした。」

 

 

 高畑先生の案内で俺は職員寮の一室に来ていた。高畑先生は俺を送り届けると、そのまま帰っていった。高畑先生を見送った後、部屋に入る。1kだが、一人暮らしには十分な感じの部屋だった。こういった部屋で一晩でも過ごせるのなら、助かる。

 

 

「…………色々な事があったなぁ。」

 

 

 ベッドに腰掛け、一人呟く。いきなり『白い魔法使い』からドライバーを渡され、そのまますぐに戦う羽目になった。今まででは考えられない。前の記憶も大分戻ってきているし、そのうち何とかなるかな?

 

 

「……あぁ、何か怠いな。」

 

 

 戦いの後から怠さはあったが、ここにきてピークになってきた。

 これが戦いによる怠さか、それ以外の物から来るのかは分からないけど、とりあえず今日はもう休もう。着替えもせずにそのままベッドに横になると、すぐに睡魔がやってきて、すぐに意識がなくなった。

 

 

 

 

 

 

 




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六話

 

 

 

「――!――!!」

 

 

 

………。

 

 

 

 

…………。

 

 

 何か音が聞こえると思って、目を開けると、知らない天井が見えた。

 

 

「……………あぁ、そっか。職員寮だったっけ?」

 

 

 しばらくベッドの上で何もせずにただ横になっていると、段々と昨日の事を思い出してくる。確か4時になったら、迎えの人が来て、また学園長室に行くことになっていたんだっけ。

 

 

「――!―――!」

 

 

 さっきからなんかドアを叩いている音が聞こえているけど、この部屋に用がある人なんて限られているから、部屋間違っているんじゃないのかな。なんて思いながら寝返りをうつ。このベッドフカフカで気持ちいいんだよなぁ。

 そういや、今何時だ?壁に設置されている時計を見て確認する。時計が表示している時間は午後4時5分だった。

 

 

「…………うそぉ。」

 

 

 さっきドアを叩いているのは部屋間違っているとか言っていたけど、そんなことはなかった。絶対俺を迎えに来た人たちだ。ヤバい、さっきからずっと音がなっていたから、ずっと待たせてしまったことになる。慌ててドアに向かい、引き開ける。

 

 

「すみません!遅くなってしまって………あれ?」

「もしもーし!辰連さ……。」

 

 

 急いでドアを開けて、相手に向かって謝ると、そこには佐倉ちゃんと、もう一人同じ制服を着た生徒がいた。

 

 

「やっと出てくれましたね、辰連さん。さっきからずっと呼んでいたのに反応がなかったので……。」

「ゴメン、さっきまで寝ていてさ。佐倉ちゃんがドアを叩いている音で目が覚めた。」

「半日以上寝ていたんですね。」

 

 

 佐倉ちゃんは驚きつつ、ちょっと呆れた感じの顔をしていた。俺は「ちょっと待ってて。」

と言って一度部屋に戻り、寝癖と服装を直して部屋を出る。

 

 

「ゴメンね、お待たせしちゃって。」

「まぁ、そんなに遅れるわけじゃないから大丈夫だと思いますよ。」

 

 

 佐倉ちゃんと話しながら職員寮を後にする。学園長室のある女子中等部までの道順は覚えているし、案内役がいるから迷う事は無い。時間は大体十分程だったと思った。歩きながら隣の佐倉ちゃんに尋ねる。

 

 

「佐倉ちゃん、君と一緒に来た彼女はなんていう子なんだい?」

 

 

 俺の問いで、自分と一緒に来た人を、紹介していなかったことに気付いた彼女は慌てて、自分の後ろを歩いていた少女を俺の隣にして、紹介をし始めた。

 

 

「えっと、この人は私と同じまh……違う違う。クラスは違うんですけど、知り合いの桜咲刹那さんです。」

「桜咲刹那です。話は佐倉さんから聞いています。」

 

 

 佐倉ちゃんと一緒に来ていた生徒・桜咲刹那はそう言って俺に向かってペコリと頭を下げた。この子は確か結構物語の中心にいた生徒だった気がする。しかし、この二人はそんなに仲の良い関係だったっけ?

 

 

「桜咲さんも佐倉ちゃんと同じ………その……。」

 

 

 周りに人がいるので、「魔法生徒なの?」とストレートに聞くことが出来ないが、桜咲さんは俺の言いたいことを分かってくれたようで、頷いた。

 

 

「ええ、私も佐倉さんと同じです。異なる部分もありますが、同じと考えてください。今後、ご一緒することもあると思いますので、その時はよろしくお願いします。」

「あ、はい。こちらこそお願いします。」

 

 

 丁寧に頭を下げてきたので、こちらもそれにつられて畏まって返してしまう。そんな俺たちの姿を道を歩いていたほかの生徒たちが「何やってんだろう?」という感じの顔をしながら通り過ぎる。

 

 

「ほら、二人とも早くいきましょう。」

 

 

 佐倉ちゃんに促されて学園長室へ急ぐ、なるべく早く着いた方がいいしね。それにしても、桜咲さんとは夜の防衛の仕事くらいでしか会う機会がなさそうだけど、うまくやっていけるといいな。なんて思ったりした。

 

 

 

………。

 

 

 

…………。

 

 

 

「辰連君、昨日に引き続き悪いの。」

 

 

 学園長室につくと、佐倉ちゃんと桜咲さんは帰っていった。学園長室まで連れてくるのが二人の役目だったらしい。二人に別れを告げて部屋に入ると、昨日と同じように学園長が目の前の机にいて、その隣に高畑先生が立っていた。

 

 

「いえ、遅れてすみません。」

「いや、遅れてはおらんよ。思っていたより早く来てくれたので、話し合いが早く終わりそうじゃ。」

 

 

 学園長は笑いながら話してくる。

 

 

「さて、昨日も言った通り、まずは君の立ち位置などを決めておこうかの。」

「そうですね。それで、俺はここで何をやればいいんですか?まさか先生とか?」

「いや、教師はやめておこう。この後、一人教師として麻帆良に来る予定の者がいての。もう一人増やすとなると、ちと面倒での。」

 

 

 学園長が言う。その教師として来る人物って恐らくネギ君の事なんだろうなぁ。ここで名前を言うと面倒なことになると思うので、そんなことは言わない。

 

 

「そうなんですか。なら俺は何をすれば?」

「もっと自由度の高い職の方がいいじゃろう。その方が君も動きやすいじゃろ?」

「それはそうですけど………そう言えば、魔法関係の仕事って、給料出るんですよね?」

「まぁ、それは出るか。それがどうかしたかの?」

「別に職に就かなくてもその給料があるのなら俺は構わないんですけど。」

「君がそれでいいのならこちらとしては構わないのじゃが。」

「スイマセン。無理を言ってしまって。」

「いや、気にする必要な無いぞい。君が表向きの職を希望しないのなら、それはそれで書類を用意しなくてよいからの。」

 

 

 笑いながら学園長が言うが、この世界の住人でない俺の書類なんてどうやって用意するのだろう。あまり深く関わらない方よさそうだ。

 

 

「なら、魔法生徒、先生の皆には儂が個人的に雇った魔法使いという事で説明をつけるとしよう。」

「分かりました。それでお願いします。」

 

 

 それに関しては意見を言う事もなく、すんなりと決まった。個人的な契約ならあまり縛られることなく、行動できそうだ。

 

 

「次に住まいじゃが、昨日泊まった部屋をこれからも使ってくれんかの?」

「俺としては全然問題ないですけど、いいんですか?あそこは男性職員用の寮だって昨日言ってましたけど。」

「そのことなら問題ないぞ。今あそこに暮らしているのは魔法関係の者だけじゃからの。」

 

 

 問題ないと学園長は言う。まぁ、学園長が言うのなら、大丈夫なのだろう。しかし、あそこには魔法関係者しかいないのなら、気持ち的にも楽だな。

 

 

「後必要なのは、身分証明書かのぅ。辰連君は何か必要な物があるかの?」

「身分証明ですか?」

「うむ、一通りのものはこちらで用意するが、君から何か用意してほしいものがあれば、可能な範囲で用意しよう。」

 

 

……身分証明か。基本的なものが用意できているのなら、何かと言われても…………そう言えば。

 

 

「あの身分証明なんですけど。」

「ん?それがどうかしたかの?」

「これがあるので、最低限度のもので大丈夫です。」

 

 

 そう言いながら、ポケットから免許証と保険証を見せる。これらがあったのは、さっき起きた時に気づいたのだが、上着のポケットに入っていた。

 一緒に紙切れが入っていて、そこには「作り直しておいた。」とだけ書かれていた。名前は書かれていなかったが、恐らく『白い魔法使い』がやっておいてくれたのだろう。

 

 

「これは………承知した。後はこれに基づいて、用意しておくことにしよう。」

 

 

 そう言って学園長は高畑先生いくつかの書類を渡した。

 

 

「さて、辰連君。もう一度確認したいのじゃが。」

「はい。」

「きみの目的は魔力を集めることと聞いておる。そして、その理由も聞いた。そのうえで、君は魔力集めと言って、学園の生徒を襲う事はしないと言えるかね。」

「言えます。」

 

 

 学園長の問いかけに、すぐに答える。一番よく受け取られるタイミングとかがあったのかもしれないが、俺はすぐに答えた。

 ここの生徒たちを襲う事なんてないと確実に言えるからだ。学園長は暫く俺を見ていたが、やがて頷き、口を開く。

 

 

「よろしい。それならば、儂等は君を歓迎しよう。それと……。」

「なんですか?」

「今日から早速、夜の見回りに参加してもらうとしよう。夜11時くらいに迎えをよこすから、まっていてくれないかの?」

「分かりました。今日も何か出るんですか?」

「それは分からんが、常に見回りはやっておるのでな。君にも早く慣れてほしい。」

 

 

 そう答える学園長の顔は「そう、何度も来られたらたまったもんじゃない。」と言っているようだった。

 

 

「了解です。」

「うむ。それでは夜に。」

「はい、失礼します。」

 

 

 学園長と高畑先生に挨拶をして、学園長室から退出する。後のことは二人に任せれば、問題はないだろう。それが完了すれば、俺はこの世界での行動が可能になるわけだ。

 

 

「まぁ、とりあえずは今夜11時か……………今度は寝過ごさないようにしないとなぁ。」

 

 

 

 

 

 




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七話

 

 

・夜十一時、世界樹広場

 

 

「というわけで、これから君たちと共に仕事をしてもらう辰連拓人くんじゃ。皆、よろしく頼むぞ」

 

 

 斜め前にいる学園長に紹介された俺は、学園長の前を囲むように立っている魔法先生や、魔法生徒に頭を下げる。

 皆さんからの反応は訝しげな眼で見てくる人もいるが、学園長が個人的に雇ったという点で、ある程度の信用を得ているようだ。俺を見ている人たちの中にはガンドルフィーニ先生や、桜咲さんたちがいる。先生は目が合うと、笑みを返してくれ、桜咲さんはペコリと頭を下げてきた。桜咲さんの隣にはついさっき知り合った龍宮さんの姿もあった。

 彼女と知り合ったのはほんの少し前、桜咲さんと龍宮さんの二人が俺を迎えに来てくれた時の事だ。

 

 

 

 

………。

 

 

 

……………。

 

 

 

 

「………ん、もうこんな時間か」

 

 

 ドアをノックされる音で読んでいた本から顔を上げて、壁の時計を確認する。時間は十一時十分前。

 これから移動するにはちょうどいい時間なのだろう。と言っても、これからどこに行くかを聞かされていないので、何ともいえないのだが。なんて思いつつドアを開ける。

 

 

「こんばんは。辰連さん」

「こんばんは桜咲さん。君が迎えの人なのかな?」

 

 

 ドアの前にいたのは昼間にもあった桜咲さんともう一人の女子学生。俺の質問に桜咲さんは頷いて肯定した。まず最初に桜咲さんに挨拶をした後、女子学生に顔を向ける。彼女は褐色で長身の女性だった。

 

 

「初めまして。辰連拓人です」

「こちらこそ、私は龍宮真名。よろしく」

 

 

 彼女の名前は龍宮さんと言うのか。

…………彼女も確かよく見る女性だったな。それにしても彼女、俺より身長高いんじゃないかな?なんて考えていたら桜咲さんから「それでは行きましょう、辰連さん。」と言われ、移動を開始した。移動中は特に話すこともなく、前を桜咲さん、後ろを龍宮さんに挟まれながら移動した。なんか護送されている気がした。

 そうして、世界樹広場についたが、着いたときには人の姿はなく、しばらくしてから人が集まりはじめ、学園長が来た時に俺は学園長に呼ばれ、彼の斜め後ろに立ち、紹介を受けていた。

 

 

「さて、これから各自見廻りりに行ってもらうことになるが、昨日襲撃があったからの、十分に警戒しつつ行ってくれ」

 

 

 学園長の指示でそれぞれ複数名で班を作って、移動を開始する。その中で学園長に声を掛ける。

 

 

「あの、学園長。俺はこの後どうすればいいですか?」

「ん?おお、そうじゃの。どこかの班に入って見廻りをしてくれんか?」

「分かりました」

「では、どこの班に入ってもらうかのぉ…………おーい刹那君、ちょっと来てくれんか?」

 

 

 学園長に呼ばれた桜咲さんがこちらにやってくる。彼女の後ろには龍宮さんが付いてきていた。

 

 

「何でしょうか、学園長」

「君たちは二人組じゃったな。今日は辰連君を一緒に行かせてやってくれんかの?」

 

 

 学園長の頼みに二人は顔を見合わせた後に頷く。

 

 

「そう言うわけじゃ。辰連君今日はこの子たちと行動してくれ。見廻りで聞きたいことがあれば、道中でこの子たちに聞いてくれんか?」

「分かりました」

「それでは辰連さん、行きましょう」

「了解」

 

 

 桜咲さんに言われて、広場から移動を開始する。

 

 

 

 

………。

 

 

 

…………。

 

 

 

 

「そう言えば、さっきの広場で佐倉ちゃんの姿を見なかったけど、なんでだろう?」

「佐倉さんは今日は見廻りが無いんです。お休みです」

「そうなんだ」

「ええ、私たちも毎日やっているわけではないです。当番制ですから」

「へぇ、そうだったんだ」

 

 

 広場を出て二十分程、俺たち三人は広場から少し距離のある商店街に来ていた。この商店街は外国の風情にあふれた外見で、昼間ならこの学園の生徒を含めて多くの人がいると思われる規模の商店街だ。

 でも、こんな所を見廻る必要があるのだろうか。敵が現れそうな感じが全くしないのだが。そのことを桜咲さんに聞くと

 

 

「商店街の大通りではそういう事は無いですが、過去に路地裏から敵を召喚された事があるそうで、それから見廻る対象になったそうです」

 

 

 と答えてくれた。なるほど。そう言われると、路地裏がなんかそういう感じみ見えてきてしまう。桜咲さんと龍宮さんと三人で商店街を見て回る。基本的には大通りを歩くが、以前召喚があった所は実際にその場所まで路地を入って確認する。

 このルートでのチェックポイントは決まっているらしいが、敵がそう何度も同じ場所を使うのだろうか。この大通りにはほかにも路地裏はいくつも存在するし、見てきたポイントよりも見つかりにくい場所もあった。それなのに何故そっちは見に行かないのだろうか?

 

 

「確かにそういったポイントはありますが、召喚には適する場所とそうでない場所があります。見廻りで除いている場所は基本的にそういった召喚に適さない場所です」

「基本的にはって事はそうでないこともあるって事?」

「ええ、それは巡回ルートが違う場合ですね。見て分かる通りこの大通りはかなりの規模です。これだけの規模を毎回すべて確認するのには時間が足りません。そこでいくつか巡回ルートが決まっているんです。それをローテーションで回っています」

「見廻らないルートについてはどうしているの?」

「次にそのルートを見廻るまでは、前回回った時に妨害用の魔法を掛けておきます。それが完璧という訳ではありませんが。一定の効果が数日間は続くので、魔法を行使しようとしている相手には有効です」

 

 

 隣を歩く桜咲さんが教えてくれる。それを聞きながら大通りの見回りを続ける。俺たちの後ろを龍宮さんが辺りを注意しながら歩く。特に何か起きることもなく、大通りの端に着いた。

 着いたらいまきた道を戻ってもう一度ルート通りに確認したら今日の見廻りは終了だという。

 

 

「一応ここまでは問題ないようですね。さて、戻りましょうか」

 

 

 桜咲さんの声に頷いて今来た道を戻っていく。

 

 

 

 

………。

 

 

 

…………。

 

 

 

 

「あぁ、来ましたね。待ちくたびれましたよ」

 

 

 来た道を戻っていた俺たちの前に見知らぬ白スーツの男が立っていた。さっきまで通っていた場所にいきなり見知らぬ人がいる。怪しさは満点だ。それに身に纏う雰囲気がなんとなく、昼間に会う人とは違う気がする。

 近くで物音がしたと思ったら、桜咲さんと、龍宮さんがそれぞれ武器を構えていた。二人にならって、俺もドライバーを出そうと思ったら、耳に付けていたインカムから知っている声が聞こえてきた。

 

 

「辰連君!君たちの方に何か異常はあったかい!?」

 

 

 このインカムは見廻りに出る前に学園長からもらった物だ。これがほかの魔法使いの人たちが使っている通信魔法の役割をしてくれるらしい。

 このインカム自体が通信魔法を使用しているので、魔力のない俺でも使用できるというのだ。

 先生からの質問にドライバーの準備をしながら答える。

 

 

「目の前になんか人間とは思えない空気を持った白いスーツの男がいます」

 

 

〔ドライバーオン・プリーズ!〕

 

 

「別の見廻りのチームから、悪魔が召喚されたという知らせが入ったんだ。その悪魔、今君たちの前にいるという男と特徴が一致している。我々も現場に急ぐから、それまで生徒を頼んでもいいかな?」

「了解です。なんとかしてみます」

 

 

 通信を切って男の方を見る。相変わらずただ立っているだけだが、どこか余裕の様なものを感じさせる。隣の二人はそれぞれの得物を構えながら様子をうかがっている。

 

 

「久しぶりに呼び出しを受けたら、こんな極東だったとは。御嬢さんエスコートをお願いできるかな?」

「ふざけるな!貴様何者だ!!」

 

 

 話しかけられた桜咲さんが言い返す。男は「連れないなぁ」とばかりに肩をすくめる。

 

 

「やれやれ、お誘いはダメか。何やらご立腹のようだしね」

「貴方の事情は関係ない。早く正体を教えてくれるかな?」

 

 

 今度は龍宮さんが質問をする。桜咲さんと違って口調は穏やかだが、銃を突きつけながら言っているのでこっちの方が穏やかじゃない。

 

 

「こちらのレディもせっかちの様だ。だが、そこまで女性に言われたら話さなくてはいけないね」

 

 

 男は優雅に一礼をする。

 

 

「初めまして、私は悪魔だよ。本名については君たちに理解できる名前ではないので省略させていただく。まぁ悪魔と言うだけで十分かな?」

 

 

 男が悪魔と言った瞬間、龍宮さんの銃が火を噴くが、それが男・悪魔に当たることはなかった。悪魔の目の前の地面から突然飛び出してきた物にぶつかって、遮られたのだ。

 遮る物の後ろから声が聞こえる。

 

 

「いきなり、撃ってくるとは物騒だ。それならこちらからも行かせてもらおう」

 

 

 指を弾く音が聞こえると、地面からさらに複数の物体が出てきた。

 

 

「マジかよ」

 

 

 現れたのはウィザードに出てくる使い魔(グール)にそっくりだった。驚く俺を見て隣の龍宮さんが素早く教えてくれる。

 

 

「アレは低級の悪魔で、上級の悪魔の使い魔みたいなものだ。姿は使役する悪魔によって変わるみたいなんだ」

 

 

 龍宮さんの説明を受けて理解する。アレはたまたまあの形をしているだけで、ウィザードとは関係があるわけではないのか。

 俺が納得している間に、向かってくる使い魔に桜咲さんが切り込んで行ってしまった。離れ離れになると危険だと思った俺は龍宮さんと頷くと、桜咲さんを追う。

 

 

〔シャバドゥビタッチヘンシーン!フレイム・プリーズ!…ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!!〕

 

 

「変身!」

 

 

 目の前に出した魔法陣を通り抜けて変身する。隣で龍宮さんが驚いた顔をしているが、話は後だ。今は桜咲さんを追い懸けないと。

 

 

 





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