転生したら轟焦凍くんの幼馴染みだった。 (室賀小史郎)
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どうやら今世は忙しくなりそうです。

ゆるくて平和なヒロアカ世界が見たかった。


 

 俺の名前は地毒白刃(ぢどく はくば)。

 年齢は5歳。

 

 5歳と言っても、産まれた時から前世の記憶を持つ所謂転生者ってやつ。

 前世は平和な日本でのうのうと暮らし、ニートのまま病気で苦しんで亡くなった。

 ぶっちゃけ楽な人生で、死ぬ間際までニートをさせてくれてた前世の両親には感謝しかない。

 両親が亡くなってから『もっと親孝行すればよかった』なんて在り来りな後悔もしたが、感謝の気持ちは忘れたことない。これだけが俺の自慢かな。自己満とか自惚れだけど。

 だから前世は満足だった人生だ。

 

 なのに俺は転生した。

 何故? そんなの神のみぞ知る。

 

 転生とか前世の記憶とか、それはまあいいんだよ。

 前世でこれでもかってくらいそういったラノベやマンガを楽しんでいたんだから。

 

 でもなんでもっと平和な世界に転生させてくれなかったかなぁ。

 ここあれだよ? 僕のヒーローアカデミアだよ? 訳分かんない超能力者ばっかりの世界よ?

 ヴィランっていう敵が蔓延ってて、それを倒すヒーローなんて職業がある世界よ?

 

 ならこの世界で自分は平和なところで暮らしていけば良くないか、と思ったそこのあなた!

 そうは問屋……というか神が卸してくれない訳だ。

 何故って?

 何故なら、

 

「何の真似だ、小僧?」

「…………」

 

 ヒロアカ世界のナンバー2ヒーローのエンデヴァーから、あの轟焦凍を庇いながら対峙しているからさ!

 

 それは少し前のことだ―――

 ――――――

 ―――

 

 5歳になって早々、焦凍の稽古が始まった。

 マンガやアニメで見た通りで、エンデヴァーは容赦なかった。

 分かるよ。エンデヴァーのどうしてもオールマイトを越えられずに絶望して、自分の悲願を子どもに託すってのは分かるよ。

 でもさ、ヒーローがここまで家族内めちゃくちゃにするのって、正直どうかと思うんだ。

 

 だからさ、やっちゃったんだよね!

 俺の個性、毒で!

 いや、やっちゃったって言っても、そういうやっちゃったじゃないぞ!

 産まれてからずっと個性を扱う特訓をしてたんだ!

 危ない個性だからこそね!

 大人が目を離している間とか、みんなが寝ているすきに、落ち葉とか庭に生えてる雑草とかに個性使って調節したり出来るようにしてきた。

 転生特典って感じなのか、俺は毒を自分の考えた通りに生成出来るっぽい。

 

 ―――

 ――――――

 

 なので今日はとうとう俺の我慢も限界だったから、稽古場へ忍び込んでエンデヴァーに俺特性の麻痺毒を塗った針を転んだと見せかけて脚にプスッとやってやったんだ。

 

「おじさん、俺言いたいことある。おじさんに。だから悪いけど個性使わせてもらったんだ」

「……何だ?」

「おじさんって本当にヒーローなの?」

「は?」

 

 俺の質問の訳が分からず、間の抜けた声を零すエンデヴァー。

 でも俺は言いたいことを言う。そうじゃないと轟家は崩壊するから。

 だって嫌じゃんそんなの。

 

 俺はそもそも、出来ることならヒロアカの世界でも平和に暮らしたいと思ってた。

 まあ誰だって平和に暮らしたいと思うよな。

 でもさ、多分神様かなんかが前世の俺に楽して暮らしてきた分、試練を与えたんだと思う。

 

 だって俺の両親はナンバー2ヒーロー:エンデヴァーの家、轟家のお抱え医師だから。

 原作にそんなのいなかったのも、俺がこの世界に転生したのも、きっとこういうことなんだと思う。

 

 だって思いっ切りお家騒動というか、家族問題に思いっ切り巻き込まれる前提じゃん。

 最初はふざけんなよって思ってたさ。だって赤ん坊の頃から、あのヒロアカ1、2を争うイケメンである轟焦凍が基本俺の隣にいる状態だったんだから。

 

 俺たちは同い年。誕生日は俺が5月で、焦凍が1月だから、数ヶ月先に俺が産まれてる。

 んで赤ん坊の頃から轟家にはお世話になってる。

 両親は轟家のお抱えとはいっても、地毒病院っていう地域で一番デカい病院の医院長と副医院長だから。

 因みに父が内科医でありつつ、その界隈じゃトップレベルの麻酔医。母は外科医でこっちも界隈でトップレベルの腕を持ってる。

 医者ってのはどの世界でも忙しく、俺の両親もそれは同じ。ヒロアカの世界だから怪我人も多いしね。

 だから、俺は轟家に預かってもらってて、焦凍の母親である冷さんや焦凍の兄弟に面倒を見てもらってる。

 

 そして何故か焦凍は俺にべったりだ。

 まあイケメンってさ、赤ん坊の時だとクソかわいいんだわ。

 だからなんていうの? 弟みたいに構ってたら、めっちゃ懐かれたんだよ。

 

 そんな子、守れるなら守りたいじゃん。

 

「自分の子どもをナンバー1ヒーローにしたいのは分かるよ。ずっとナンバー2だったのは悔しいだろうし、オールマイトの強さを知ってるなら余計にその絶望とか壁の大きさに限界を感じたのも理解する」

 

 でもさ、

 

「だからって自分の家族を守らないヒーローが、ナンバー1のヒーローを作り出そうとかバカげてるんだよ。オールマイトは違うよ。自分の手の届く全てを守れるように強くなったんだよ? そんな人に敵う訳がない。自分の家族を平気で傷付ける人がさ。俺から見れば、しょうちゃんたちや冷母さんを傷付けるエンデヴァーは敵と同じだよ」

 

「貴様に何が分かる!!!!!」

 

 めっちゃキレてるー!

 そりゃあキレるわな。でも俺は言うぞ。エンデヴァーに何を言われたって!

 だって焦凍……しょうちゃんの笑顔は最高だからな! 冷さんもめっちゃ優しいし、燈矢兄や冬美姉、夏雄兄だってみんなみんな優しい。

 なのに笑わなくなった。

 家族の笑顔を奪うヒーローなんて聞いたことない。

 

「分かんないよ。俺はエンデヴァーじゃないもん」

「なら――」

「――しょうちゃんだって分かんないよ。というかみんなエンデヴァーじゃないもん。分かるはずがない。全部家族に押し付けて、自分本意で行動してる。敵だよ。何が違うっていうの? ヒーローは人々の笑顔を守る職業なんだろ? 家族の笑顔は奪っていいんだ?」

 

 ふざけんなよ

 

 子どもながらに本気で低い声が出たと思う。

 片膝を突いてるエンデヴァーは俺の視線から逃れるように視線を逸らした。

 

「燈矢兄はサポートアイテムさえ使えばいくらだって強いヒーローになれる。自分の理想と違うからって勝手にはしご外してんなよ。冬美姉や夏雄兄だってそうだ。自分の子どもだからって勝手に評価下すな。なんだよハズレとか。自分がどれだけ偉いと思ってるんだ。自分だってオールマイトに届かないハズレのくせに、棚に上げて語るなよ。今の地位や、財産とかだって、全部エンデヴァー一人で得てきた物じゃないはずだ。代々受け継がれてきたものだ。こんなことじゃエンデヴァーの代で轟家は終わりだよ。それも自分のせいで。自分のことしか考えてないせいで!」

 

 それからエンデヴァーは麻痺毒の効果が切れたのか、立ち上がってきた。

 こうなったら!と依存性のない幻覚を見せる毒をエンデヴァーに浴びせて、しょうちゃんたちのトラウマを味わわせてやる!

 と思ったが、エンデヴァーは何も言わずにその場を去っていった。

 

「はくくん……」

「手当てしに行こう」

「でも……」

「また守ってやるよ」

「怖くないの?」

「怖いよ。でもしょうちゃんや他のみんなが傷付いてるの見るのはもっと嫌だ」

 

 俺はそう言ってしょうちゃんの手を引いて、冷さんのところへ連れて行って、手当てした。

 両親から手当ての仕方は教わってたし、前世でも傷の手当てくらいは自分でしてたから。

 

 その後、エンデヴァーは暫く家に帰って来なかったけど、帰って来たと思ったらしょうちゃんの稽古も、燈矢兄たちにも冷たく当たるようなことはしてこなかった。

 後々分かったけど、俺の両親にしこたま説教受けて、今後は家族に自分の考えを押し付けないと言ったそう。

 俺の父さんはエンデヴァー……炎司さんの幼馴染みで親友なんだと。

 なんでも『白刃に言われても分からんのなら、お前の家族は全員こっちが預かるぞ!』とまで言ったらしい。

 父さんも母さんも前々から注意してたみたいで、子どもにまで言われたと聞かされて我慢の限界突破をしたんだろう。

 まあうん。エンデヴァーが悪いよ。

 これから頑張って家族サービスしてくれ。

 

 という訳で、俺はこんな世界で、今世を頑張って生きていこうと思ってます。

 

 エンデヴァーサイド

 

 俺は愚か者だ。

 前々から親友に言われていたことを聞かず、家族を苦しめてきた。

 それを焦凍と同じ、5歳の親友の子どもに現実を叩きつけられた。

 

 愚か者だ。

 本当にどうしようもないほどに。

 

 でも親友は、

 

『分かったなら、変えろ。そして態度で家族に示せ。どうせ炎司は言葉足らずなんだから』

 

 と言われた。

 正直殴りたくなったが、事実なので何も返せない。

 寧ろ返したところで、また親友の子に『やっぱり敵じゃん』と言われるだろう。あの心底俺を蔑むような、哀しい眼で。

 

 家族にこれから俺がすることを見てもらい、許しを請うしか道はない。

 責任を取るんだ。でなければ、俺は英雄になんてなれないのだから。

 

 焦凍サイド

 

 お父さんが怖い。

 お父さんが嫌い。

 いつも僕だけを特別に扱ってくるし、他のみんなを無視するから。

 

 どんなに痛いって言ってもやめてくれない。

 もう嫌だ。なんでこんなことされないといけないの? 僕が悪いの?

 

 そんな時、

 

『おじさん、俺言いたいことある』

 

 はくくんは僕を守ってくれた。

 はくくんがお父さんと話してることは全然分からなかったけど、お父さんは起き上がってから何日も帰って来なかった。

 帰って来たと思ったら痛いことしない。今まで悪かったって謝ってくれた。

 その時も僕ははくくんの後ろに隠れてたけど、はくくんが『良かったじゃん』って笑顔で頭を撫でてくれたから、安心して泣いちゃった。

 

 それからお父さんはお母さんたちとも少しずつお話しするようになった。

 まだはくくんのお家みたいにみんなが笑顔で過ごすことは出来ないけど、前みたいな嫌な感じはしてない。

 はくくんが守ってくれたから。

 

 だからはくくんは―――

 

「僕の一番のヒーロー」

 

 ―――かっこいい。




読んで頂き本当にありがとうございました!


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ヒロアカ世界なのにヒロアカ世界と違う。

ご都合主義炸裂です。ご注意ください。


 

 ヒロアカの世界に転生してから、俺は10歳になった。

 

 今は冬休み。これまでで色々と分かったことや発見があったので、改めて家族のことや自分自身、俺の周りや原作と違う点についてまとめたいと思う。

 

 まず家族。 

 父親の地毒修作(しゅうさく)。

 個性は『毒物を自在に操れる』というもの。

 既存の毒物を意のままに扱えるため、その個性を活かして医者の道に進んだ。

 例えばマムシに噛まれてもその毒を抜くことが可能。抜く際は水や血液を抜くみたいに注射器を使い、個性を発動させると毒が出てくる。

 しかし完全に血液と混ざり合ってしまったら全てを取り除くことは不可能。

 なので基本的には麻酔医として個性を発揮している。

 エンデヴァーこと轟炎司と幼馴染みで同い年。

 幼馴染み故に少年時代の炎司さんの恥ずかしいエピソードやら、言葉足らずで周りと誤解を生むことの多かった炎司さんのフォロー役だったので、父さんにだけは頭が上がらないらしい。

 

 母親の地毒刃子(やいこ)。旧姓は鋭(するど)。

 個性は『自身の指先を様々な刃物に変えられる』というもので、医者の道に進んで外科医になった。

 自身の指先を刃物に変えられるため、医療ドラマとかの手術シーンにある「メス」「はい」というやり取りをしなくて済むし、刀身の微調整も出来るので手術時間がかなり短縮出来ているとか。

 年齢は父さんより2つ年下。

 

 実は両親も炎司さんたちと同じく個性婚。んでもって両家共医師を排出してきた名門らしい。毒にしろ刃物にしろ、使い方次第で敵になることも簡単な個性だからこそ、ヒーローも敵も関係ない医学に活路を見出したんだと思う。

 問題だったのは両親の両親。つまり俺の祖父母が互いの子どもを結婚させて、もし2つの個性を持つ子が産まれれば世界最高の医師に出来る。なんていう野望で結ばれた縁らしい。

 しかしそんな祖父母も多忙な医者だったために婚期が遅れ、40手前になってやっと子どもを授かった。

 そして父さんたちも医者という職業柄結婚は二人が30過ぎてからで、その頃にはもう祖父母は70代後半。

 そのため俺が産まれてすぐにどっちの祖父母も他界してしまったため、当初の目的はなくなってしまった。

 でも幸いお互い見合いの席で一目惚れしたとかで、夫婦仲は円満だったという。

 

 そして俺、地毒白刃。

 小学校に通うようになったが、相変わらず俺の隣には基本的にしょうくんというイケメンオプションが付いている。まるでモン〇ンのオトモアイ〇ーみたいに、トイレ以外俺から離れない。仮にトイレでも俺は扉の前にいないと無言の圧力で訴えられるので、いてあげる以外選択肢がない。

 

 そんな俺自身にも色々と変化があった。

 

 実は俺、ずっと個性は父親の個性から発展した毒生成だと思ってたんだけど、母親の個性も受け継いでいたことが6歳になる頃に分かった。

 個性の発現は4歳までってのが通例なんだけど、その人が持つ個性によっては発現が遅れて出ることもあるらしい。極めて珍しい例だが、前例はあると父さんが話してくれた。

 よって俺の今の個性は――

 

 毒生成:自身の体液を思い浮かべた通りの毒に出来る

 デメリット:加減しないと簡単に人を死なせてしまう

 

 刃物:指先を刃物に変えられ、最大刃渡り15センチまで変えられる

 デメリット:変化させた刃が傷つくと戻した指も傷つく

 

 ―――ってな感じになってる。

 父さんや母さんに個性の手解きは受けているので、小学校にいる同世代よりも扱い方は慣れてる感じだ。

 しょうくんなんかは『2つの個性。俺と一緒』なんて言って抱きついてきた。かわいいなこのイケメン。

 

 また学業の方も特に問題ない。所々忘れてしまった部分もあるが、一度は習ったことなので復習として丁度いいし、何なら数学や理科は得意だったのもあって高校生と同じレベルでも余裕だった。

 唯一問題なのは現代史くらい。だって俺がいた前世とヒロアカの歴史ってかなり違うからね。

 

 そして俺の容姿は父さんから強く受け継いだらしく、顔は父親譲りのツリ目キリ眉のしょうゆ顔で、左目の下にホクロではなく海賊とかのシンボルマークみたいな3ミリくらいのドクロマークがポチッとある。地毒家で強い個性が発現した者に出るらしいある種の後継者の証っぽい。父さんにも同じ物がある。

 でも首の左側……左から見て耳から首に視線を下にやると、頸動脈を跨ぐ形で10センチくらいの大きなドクロマークがある。俺の喉元へ向いて口を開けているドクロマークで、口からは鋭利な刃物と毒を表しているような煙を吐いてる。タトゥーみたい。

 でもこの世界じゃ珍しいことでもないらしいし、より強い個性の証ということで周りからは凄いなんて言われる。そして無駄に少年やちょっとヤンチャな青年たちの目を引く存在だ。精神年齢高い俺からすれば気恥ずかしくて仕方ない。

 次に髪の毛は毒々しい紫色で、所々メッシュみたいに母さんの髪色がある。

 母さんの髪色はなんていうか難しい。黒っぽいのに銀で……うーん、刀の色って言えば伝わるかな。いや伝わってくれ。俺自身もどう説明すればいいのか分からん。

 髪質は母さん譲りのきめ細やかなストレートヘア。因みに父さんはパーマかよってくらいかなりの癖っ毛。

 髪型は家訓により伸ばしていて、毛先は腰辺りまである。邪魔なので髪紐かヘアクリップで項が見えるように一纏めにしている。

 なんでも昔、地毒家は武家だったらしく、男は子どもでも戦になると戦場へ行くため、髪を伸ばして女の子に見せて跡取りを守っていたそうだ。

 もうそんな時代じゃないからやめてもいいだろうに、父さんから『父さんも子どもの頃は長かったから』と俺の髪を伸ばすことを推し進めた。

 いいですよ。俺の次の代から(出来れば)この家訓は消えますんで。

 

 そして身長は今のところしょうくんとほぼ同じで、俺の方は家事や育児とか手伝ってるからそこそこ筋肉もついてる。しょうくんも俺の真似をしてお手伝いしてくれるけど、前世の記憶がある分俺は手際がいいから、簡単なことを頼んでるんだ。タオルをたたむとか雨戸を閉めるとか。

 それに冬休みになってからはしょうくんと一緒にエンデヴァーから筋トレという稽古をつけられているため、周りの同い年と比べると段違いだ。

 

 次に俺の周りのことや俺がいることによって生じた(のかもしれない)変化。

 7歳の時に妹の黒刃(くろは)が産まれた。

 相変わらず母さんも育休は最低限しか取れなかったので、産休明けは轟家で預かってもらい、学校から帰ってきたら俺が面倒を見ていた。

 母親譲りの別嬪さんだからお目々クリクリでめっちゃかわいい。あ、目の色は俺も黒刃も同じで母親譲りの刀色。光りの加減で黒や銀に見える。

 前世一人っ子だったからめちゃくちゃ甘やかしてしまうんだよな。かわいいもん。かわいいは正義だ。

 その結果、家にいる時は基本俺の背中に張り付いてたり、抱っこしている状態なので、しょうくんが嫉妬して引っ付いてくる。

 うん、かわいいに囲まれるって死にそうになるね。マンガのネタだと思ってたけど、実際になってみると分かったよ。

 今は3歳で舌っ足らずにも『にぃた』と呼んでくれるし、抱っこもおんぶも自分からせがんでくる。因みに抱っこの時は『だ!』でおんぶの時は『ぶ!』。

 母親譲りの刀色の毛先癖っ毛の髪の毛を俺が毎朝編んだり、結ったりしておめかしするのが日課。

 対抗してしょうくんが『俺の髪も弄っていい』なんて言ってきた時は胸を押さえてしまった。

 ほんとなに? このかわいいいきもの。

 

 そして原作ではオールマイトがオールフォーワンとの死闘を繰り広げて大怪我を負うんだが、そんなことはなかった。

 オールフォーワンはヒーローたちの連合組織で見事に倒されて絶命。

 今もオールフォーワンの信者たちが毎日のように逮捕されている。

 まあニュースではってだけだから安心はしてないけどね。だって原作じゃあんだけ強かったんだから、楽観視していけないと思うの。

 

 あと轟家はこの5年でかなり再構築されたと思う。

 最初はぎこちなかったけど、炎司さんはいつも家族のことを考えて行動するようになったし、燈矢兄に最適なサポートアイテムをスポンサーに開発依頼して稽古を再開。

 今18歳で雄英高校3年生で主席だ。それも圧倒的な。

 卒業後は現在もインターンでお世話になってるエンデヴァー事務所にサイドキックとして正式採用される予定。

 でも将来的には自分の事務所を立ち上げたいって言ってた。

 

 冬姉も夏兄も順調に明るい生活を送れているし、冷母さんに至っては毎日炎司さんから花束を贈られて幸せそう。

 でも俺はしょうくんたちを守るために敢えて炎司さんには冷たく当たっている。冷たくと言っても弄る程度だ。だってあれだけのことをしてきたんだから、俺にそれくらいされても自業自得だと思う。

 あ、ちゃんとおじさんって呼んでるよ。

 ちょっと前に炎司さんから『そろそろ炎司おじさんと呼んでくれないか? 冷のように炎司父さんでも……』なんて恥ずかしげもなく言ってきたから、照れ隠しに『天下の元児童虐待DVマンに、父さんと呼べと?』って豪速球返したら見るからにしょんぼりされた。大型犬がしょんぼりしたみたいで不覚にもかわいいと思ってしまったのは秘密だ。

 

 しょうくんに至っては天然さは原作通りだが、人当たりはいい方。多少人見知りではあるが、挨拶されれば返すし、ヒーローらしく困った人がいたら手を差し伸べる王子様系イケメン。

 俺の真似をして一人称を『僕』から『俺』にしたが、背伸びしてる感があってかわいくて心臓に悪い。

 

 またヒーローのエンデヴァーは活動のし方が大きく変わった。

 元々事件解決件数はオールマイトを抑えてダントツトップだった上に、態度や雰囲気が優しくなったとして国民からかなり慕われるようになった。

 あれだけ拗れていたのに今はオールマイトと頻繁にチームアップするようになったし、ファンサービスも増えて、結果的にランキングはオールマイトと僅差の2位でナンバー1も夢じゃない。

 オールフォーワンの撃破にも大きく貢献している。

 

 ということで今のところ、ヒロアカ世界でも俺の周りは比較的平和だ。

 相変わらず敵はいるけど、ヒーローがいるから安心感が大きい。

 しょうくんに至っては火傷負ってないからイケメンまっしぐらだし、茶毘になるはずの燈矢兄が炎司と仲直りしたので敵になる未来が消えた。

 良かった良かった。

 

 の、はずなんだけど―――

 

「うっ、ぐすっ、えぐっ」

「どうした? 怪我したのか?」

 

 ―――今俺の目の前に血だらけの同い年くらいの女の子がいるんだががががが。

 

 エンデヴァーサイド

 

 思えば白刃くんに言われてから、俺の人生は好転した。

 目が合う度に怯えられていた家族たちから、温かく迎え入れられるようになったし、一度己の執着を取り除いてしまえば、世界はこんなにも温かいものなのだと思い知った。

 子どもたちがまだ怯えつつもまだ俺のことを『お父さん』と呼んでくれることが、どれだけ俺の救いになったか。

 あれだけのことをしたのに妻がまだ『あなた』と出迎えてくれることに、どれだけ感謝したことか。

 親友とその奥方にも本当に助けられた。二人には『お前の家族が受けてきた分だ』と思いきり張り手を食らったが、耐えた。親友の奥方に至っては今思い返しても脚が震えるくらいに怖かった。

 ええい、震えるな俺の脚!

 

 またヒーロー活動においても切羽詰まって活動することがなくなり、それ故余裕が生まれたことでいい方へ進んでいる。

 前のストイックな俺を惜しむファンもいたが、みんな今の俺を応援してくれている。

 そしてあれだけ遠く感じていたオールマイトの背中も見えてきた。

 

 しかし実際のところ、もうオールマイトを追い越そうとかはあまり思っていない。

 自分の家族にしてきた非道。そんなことをする自分がオールマイトを越えられるだなんて思えない。

 

 でもそれでいい。妻や子どもたちの笑顔が戻ったのだからそれで。

 

 だから本当に白刃くんには感謝している。

 しかしまだまだ彼には許されていない。

 親友一家にはとことん弱いんだな、俺は。

 でも俺はこれからの行動で示していくしかない。

 見ていてくれ、白刃くん。

 そしていつか、私にも妻のように『炎司父さん』と呼んでくれ。

 

 焦凍サイド

 

 白が俺と一緒で2つの個性を持ってた。

 嬉しかった。

 髪の毛も一緒に伸ばそうとしたら、止められた。

 白が言うには、俺は今のままが一番かっこいいんだって。

 嬉しい。

 

 白は俺のヒーローだ。

 オールマイトよりも好きだ。

 白がいたから、俺たち家族はまた家族になれた。

 最初は怖かったけど、父さんも俺たちに怯えられるのが怖かったんだと思う。

 

 燈矢兄が雄英でトップなのも、冬姉が母さんと毎日楽しそうに台所で料理してるのも、夏兄が自分の夢に向かって勉強してるのも、全部全部白が守ってくれたからだ。

 

 冬休みになってからは父さんに稽古をつけてもらってる。

 父さんが言ったんだ。ヒーローになりたいなら俺に言えって。

 ヒーローになんかなりたくないって思ってたけど、家族を守りたいしオールマイトがかっこよかったからヒーローになりたいと思った。

 でもまた痛くて怖いのは嫌だ。

 だから白に相談した。

 そうしたら白は笑顔で、

 

『言ったろ。俺が守ってやるって。俺も一緒にやるよ。そうすればおじさんだってむちゃくちゃなことしないだろうし』

 

 って言ってくれた。

 嬉しかった。

 

 最近、白はいつも家にいる時は俺じゃなくて自分の妹の黒刃を構ってる。

 ズルい。

 だから俺も白にくっつくと、白は困った顔をしても俺の頭を撫でてくれる。

 嬉しい。

 でも黒刃に足を踏まれる。

 痛い。

 黒刃より俺の方がずっと白と一緒にいたのに。

 ぽっと出のくせに。

 

 でもいいんだ。

 稽古中は白と一緒だから。

 圧倒的に俺の方が白と一緒にいる時間は多い。

 学校だって一緒だ。

 

 頑張ってヒーローになって、今度は俺が守りたい人たちを守るんだ。




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世間って狭いのね。

ご都合主義が通りますよー。


 

「うっ、ぐすっ、えぐっ」

 

 俺は図書館に宿題の読書感想文の本を返しに行き、轟家に帰る途中だった。

 当然のように俺の後ろにはしょうくんがいる。

 

 そもそも最初に声に気がついたのはしょうくんで、まだ昼下りとはいえ敵がいる場合だってあるから、すぐ逃げられるように注意しながら二人で路地へ入った。

 そして見つけたのは血だらけの女の子。

 路地の中心で蹲り、嗚咽しながら、カッターナイフを片手に何かを刺している。

 

 あまりの光景にしょうくんは顔面蒼白。対する俺も同じだけど、しょうくんのリアクションのお陰で少しだけ落ち着いていられた。

 辺りを見る限り敵の気配はない。擬態とかの線も疑ったけど、そもそもここらの地域はすこぶる調子がいいエンデヴァーの管轄区域なので犯罪率が日本でもトップレベルで低い。

 それでも念の為いつでも個性を発動出来るようにしながら、

 

「どうした? 怪我したのか?」

 

 と平静を装って声をかけてみる。

 

 ピタリと動きを止め、暫くした後、くるりと上半身を俺たちの方へ向けた女の子。

 

「普通ってなんですか?」

 

 ん?っと訳が分からず小首を傾げてしまう。

 しょうくんの方を見れば、しょうくんも俺と同じだった。かわいいなくそぅ。

 

 改めて目の前の女の子に視線を戻す。

 女の子は鳥を刺していた。

 残酷だ。けれど、明らかにこの女の子は何かしらの問題を抱えているのだろう。

 

「普通ってのが俺にはよく分からないけど、取り敢えずその格好をどうにかしよう。君の家はこの辺?」

 

 俺の問いに女の子はただ首を横に振った。

 マジかと思ったけど、今の世の中、子を捨てる無責任な親はいる。悲しいけどその子が持つ個性が自分の手に負えないとなると、育児を諦めて施設や協会に置いていく人がいるし、酷い場合は置き去りなんてこともある。理由は経済的とか親子間の問題や家庭事情だったりと様々で、一概にどちらが悪いとも言い切れないのが厳しい現実。子ども産んだなら責任持てよとも思うが、子どもを産んだからってその人が親になれる訳じゃない。子どもみたいな大人はいくらでもいてしまうのだから。

 

 俺が先に上げた施設は児童保護施設で、協会は児童保護協会。

 どちらも大きなくくりで見れば同じカテゴリだけど、施設は民間団体で協会は公的機関だ。入り易さと数の多さから施設の方が身近で選ばれがちだけど、入り易い分職員の数が足りず、年中アルバイトやパートを募集してて、でもそんなにいい時給ではないので人員確保が厳しいみたい。

 一昔前には児童保護施設を装って人身売買をしていた敵組織がいたくらいだ。

 今ではそんなことが出来ないように施設という看板を立てる以上、毎日警察が子どもの身の安全のため確認にやってくる。

 それでいて施設を設けるにもその施設を運営する側や職員になる人が適切であるか国から厳しい審査を受ける必要があるので、悪質な施設はなくなっているのだとか。協会になると国家公務員試験が必要らしい。

 

「じゃあ、俺たちと行こう」

 

 このまま置いていくなんてとても出来ないため、俺は手を差し出すと女の子はコクリと頷いて、俺の手を握った。

 

「あ、でもその前に」

「?」

「どうしたの、白?」

 

 女の子としょうくんが首を傾げる中、俺は徐ろに手提げ袋からいつも何かのために入れてあるビニール袋を2枚取り出して、1枚を広げ、もう1枚はビニール手袋代わりにして、鳥の死体を片付ける。

 

「ちゃんと埋葬してあげないとね」

 

 俺が言えばしょうくんはコクリと頷き、女の子は不思議そうにしながらも特に何を言うでもなく、俺の空いている手をまた握った。

 必然的にしょうくんは俺と手を繋げなくなったが、俺の服の袖を掴んでいたので満足そうだった。

 

 ―――――――――

 

 俺は女の子を自分の家に連れてきた。

 いつもなら黒刃が待ってるから轟家に帰るのだが、こんな状況では帰れない。

 

「服、脱いで。洗濯するから。その間にお風呂入って。あれがシャンプーで、その左がリンス。ボディソープはあそこの青いボトル。体洗うタオルはこれ使って」

「……うん」

「俺としょうくんはここにいるから、何かあったら呼んで」

「分かりました」

 

 女の子はもぞもぞと服を脱ぎ始めた。

 慌てて俺はしょうくんと共に女の子に背を向け、女の子が浴室に入ったのを音で確認してから、洗面台に水を溜めた。

 

「しょうくん、ぬるま湯にして」

「うん」

 

 しょうくんの個性で(本当は蛇口を捻ればすぐにお湯出せるんだけど、頼らないとしょうくんが不機嫌になっちゃうから)ぬるま湯になった水に、女の子の服を浸し、洗剤でついてしまっていた血を生地を痛めないように擦って落としていく。幸いそんなに時間が経ってなかったらしく、それはすぐに落ちた。

 あとは洗濯機で濯ぎから乾燥までをお願いする。

 

「しょうくん、俺はあの子の着換え持ってくるからここで待ってて」

「分かった」

 

 ―――――――――

 

 取り敢えず洗濯機が止まるまでは俺の長袖長ズボンを女の子に着てもらうことにした。

 そして二人を連れて庭に移動し、鳥を庭に掘った穴に埋め、黙祷する。

 

 再び家の中に戻り、俺は取り敢えず二人に温かいココアを出して、まずは轟家に電話した。

 出たのは冷母さんだったので事情があって女の子を保護したことを伝えると、父さんに連絡してくれるということでお礼を言ってお願いしておいた。

 

 電話を終えた俺がやっと女の子に集中すると、

 

「おい、それは白のだ。汚すなよ」

「ふひっ、いひひ、ごめんなさい、ごめんなさいぃ」

 

 カオスが広がっていた。

 

 女の子は何故だが余った俺の長袖の袖口を口に含み幸せそうに笑っていて、それを引っ張りながら注意するしょうくん。

 

「……あのさ」

「はい、ふひひ……」

「遅くなったけど、俺の名前は地毒白刃。10歳。それでそっちは俺の幼馴染みで轟焦凍。同い年ね。君の名前を教えてくれ。出来れば歳も」

「…………渡我被身子。12歳です」

 

 んんんんん?

 とがひみこ?

 え、あのトガヒミコ?

 よく見れば髪型は違うけど、確かに女の子はトガヒミコだ。

 にやけて開いた口から見える鋭く尖った犬歯に、腫れぼったい目元。黄色い瞳と縦長の瞳孔はまさに本人。原作で見てた通りだ。

 

「あの……」

「あ、ごめん。年上なんだ。ならタメ口でいいよ。な、しょうくん? あ、俺たちもタメ口でいいかな?」

 

 しょうくんに振ると、しょうくんはなんか納得してない面持ちながらも頷いてくれる。

 被身子ちゃんもタメ口でいいということで頷きを返してくれた。

 

「い、いいよ」

「ありがとう。それで、確認ね。被身子ちゃんは帰るお家がないってことであってる?」

「はい。今日お家から出て来ました。私は普通じゃないから」

「……なるほど」

 

 12ってことはまだ殺人犯になる前。ならここで引き止めれられれば、この子が堂々と日の下で生活出来るようになるってことか。

 

「普通じゃないってどんなこと? 俺たちに話せる?」

「私、血が好きなんです! グチャグチャのドロドロのボロボロの人が大好きなんです!」

 

 うわお。めっちゃいい笑顔。

 

「そ、そっか。確かにそれは普通じゃないってなっちゃうね」

「ですよね……」

 

 しょんぼりと項垂れてしまった被身子ちゃん。

 少しでも力になれることはないかと思案しつつ、被身子ちゃんの頭を撫でる。

 

「あ、あの……?」

「え、あ、ごめん。なんか癖で……」

「なでなで、してください」

「あ、ああ……」

 

 目を細めて気持ち良さそうに頭を撫でられている被身子ちゃん。年相応でかわいいな。

 なんて思ってたら案の定来ましたよ。嫉妬しょうくんが。

 

「ん!」

「はいはい、しょうくんもな」

「ん♪」

 

 しょうくん、ちゃんと喋ろうよ……かわいいけれども。

 

「好きな物を我慢するのって辛いよなぁ」

「はい……」

「そういうのが好きなのって被身子ちゃんの個性によるもの?」

「分かりません」

「個性聞いてもいい? あとタメ口でいいからね?」

「その人の血を舐めると、その人に変身出来ま……出来るよ」

「あ〜、それでかもね」

 

 原作じゃもう手遅れレベルだったけど、今ならまだ間に合うと思う。というか思いたい。あの壊れ具合は個人的にマンガのキャラとしては好きだったけど、現実になると話は別だ。なんとかしてあげたい。

 後に敵になったり、連続殺人犯になったりするのは悲し過ぎるもんな。

 

「じゃあ、好きな物見つけようよ」

「好きな物を見つける?」

「うん。血とかじゃない、別の好きな物。血が好きなのは個人の自由だからとやかく言えないけど、それだけだと友達と会話続かないかもしれないから、他に好きな物見つけよう。例えば、俺は料理が好き」

「お料理?」

「うん」

「白の料理は美味しいんだ。特にオムレツ!」

 

 しょうくんは目をキラキラさせて言うと、オムレツを思い出したのかお腹がくぅと鳴る。

 原作同様ざる蕎麦が好物だが、俺の料理も好物で特にオムレツがお気に召したようだ。

 

「お腹減った……」

「そういやなんだかんだもう夕方だもんな」

 

 色々やってて時間はあっという間に過ぎていた。

 洗濯機もとっくに止まっている。

 

「被身子ちゃん、服乾いたから着替えよう」

「え」

 

 被身子ちゃんは小さく声をあげた。

 心なしか残念がってるように見える。

 

「……その服気に入った?」

「うん。いい匂いする♪ きっとあなたの匂いだから♪」

 

 わぁ、いい笑顔。でも原作じゃ惚れっぽい性格だしその通りなんだろうな。

 

「ん〜、じゃあそれあげるよ」

「ホント!?」

「うん。だけど、下着はちゃんと履いて」

「わかりましたー!」

 

 ドタドタと洗面所へ走っていく被身子ちゃん。

 凄いな。もう俺ん家の間取り把握したのか。

 しょうくんはなんか被身子ちゃんが向かった方をマジマジと見てるけど、うん、俺は気にしないぞ。

 

 それから下着を履いてきたであろう被身子ちゃんが戻ってきたので、ココアを飲み干し、コップを洗い、今度はみんなで轟家へと向かった。

 

 ―――――――――

 

「あなたが焦凍たちが連れてきた子ね?」

「俺は焦凍の兄で夏雄。よろしく!」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 玄関で出迎えてくれた二人に、被身子ちゃんは俺の背中に隠れながらも挨拶を返す。

 二人共優しいからね。大丈夫だよ。

 ただ問題は、

 

「………………」

 

 被身子ちゃんを見つめたまま何も言わない我が愛しい妹、黒刃だ。

 でも仕方ない。自分で言うのもアレだけど、黒刃はお兄ちゃん子だ。

 そして今、被身子ちゃんは俺の服を着ていて、俺が知らない女の子を連れてきたのだから戸惑うのも当然だろう。

 

 俺は内心肩をすくめながら、

 

「黒刃、挨拶は?」

 

 と言えば、不服そうにしながらも「ちゃ」と挨拶した。

 すると夏兄の腕からスルスルと降りて、俺に「にぃた、だ!」と抱っこをせがんでくる。

 核兵器級のかわいさよ。マジで。

 俺は即時抱っこを執行する。

 

「この子、白刃くんと同じ匂いがする」

「妹だからな。世界一かわいい、俺の妹」

 

 頬と頬を付けながら被身子ちゃんに黒刃を紹介すると、黒刃は恥ずかしそうにしながらも、嬉しさが勝ってくしゃりと破顔した。

 

「……かぁいいねぇ♪」

「だろ? 俺の妹は世界一だ!」

「うんうん! かぁいい、かぁいいねぇ!」

 

 やはりかわいいは世界共通なんだな。誇らしいぞ、我が妹よ。それに俺は同担バッチコイだ。

 一方、

 

「ん! ん! ん!」

 

 しょうくんが語彙力をなくして自分のことを指さしながら『俺は!? ねぇ、俺は!?』と求めてくる。

 

「しょうくんは世界一かっこいいぞ!」

「むふん♪」

 

 俺の言葉に満足したのか、しょうくんは鼻の穴を膨らませて胸を張り、俺の背中に抱きついた。

 当然、それが気に入らない黒刃が「め!」と叫びながら、しょうくんの頭をどかそうと小さい手でしょうくんを押すが、しょうくんは一歩も退かない。

 

「かぁいいねぇ……みんなかぁいい〜!」

 

「白刃くんは相変わらず人を惹き付けるわね」

「実は人たらしの個性もあるのかもな♪」

 

 夏兄、そんなこと言ってないでしょうくんどかしてくれ。

 俺は三人に引っ付かれながら、冷母さんに「取り敢えず中へいきましょう」と言われて、居間へ向かった。

 

 焦凍サイド

 

 白がまた一人救った。

 小学校に通うようになってから、色んな人と出会う。

 白は気がつくと弱い人の味方になってる。

 かっこいい。

 流石俺のヒーローだ。

 

 みんな何かしら個性を持ってるのが当たり前な世の中でも、個性を持たない無個性の人がいる。

 そういう人は周りから浮いたりするけど、白はそんなの関係なく話しかけるし、困ってたら助ける。

 

 今日だってそうだ。

 俺は怖かったのに、白は相変わらず落ち着いてて、声をかけて、優しく手を差し伸べたんだから。

 知らない子なのに。そんなのお構いなしに。

 

 被身子って女の子は自分の個性や趣向で悩んでたみたい。

 俺にはそういうの分からないけど、血が好きってのが変わってるってのは俺だって分かる。

 

 でも白は被身子のそういうところを「普通じゃない」と言いながらも、否定はしなかった。

 優しい。

 

 何か考えながら被身子の頭を撫でてる。

 ズルい。

 

 俺もって頭を白に向けたら撫でてくれた。

 優しい。

 

 そのあとで白は他の好きな物を探そうって提案した。

 やっぱり白はヒーローだ。

 俺ならどうしたらいいか分からなくて何も提案出来なかった。

 

 白の料理は好きだ。

 俺は和菓子が好きだけど、白の作るクッキーとか蒸しケーキとかホットケーキとか大好きだ。

 特にオムレツは最高だ。

 何も入ってないのも美味しいけど、納豆を入れてたり、チーズが入ってたり、色んなのがある。

 

 お腹空いた……。

 白のことだから、このあときっと何か作ってくれる。

 白は俺のヒーローだから。

 

 被身子サイド

 

 私は普通じゃない。

 いつも周りから変な目で見られてた。

 

 普通ってなんですか?

 普通だと愛してもらえて、普通じゃないから私は愛してもらえないんですか?

 

 お母さんが家に全然帰って来なくなって、もういいやって思って朝から宛もなく彷徨ってたら、鳥の死骸を見つけて、血が見れるから嬉しくて、持ってきたカッターナイフでザクザクした。

 

 血が見れて嬉しいのに、満たされなくて悲しくて、気がついたら私は泣いてた。

 

 そんな私に声をかけて、手を差し伸べてくれた人。

 思わず見惚れてしまうくらい、毒々しい紫色の髪にナイフが散りばめれたような黒っぽい銀色の髪。

 私が持ってるカッターナイフみたいな綺麗な目。

 目の下と首に見えてる骸骨の模様。

 

 かっこいい。って思った。

 手を握ったら、バチバチって電気が走った。

 この子の個性なのかなって思ったけど、もう一人の子はなんともなさそうだから違うんだろう。

 

 じゃあこのバチバチは何?

 

 訳も分からず、手を差し伸べてくれた子のお家に案内されて、お風呂貸してもらって、その子のお洋服を借りた。

 袖を通した瞬間、分かった。

 この子は私の運命の人だって。

 まるで彼に全身を抱きしめられてるみたいで、とっても幸せな気持ちになれの。

 

 なんか紅白帽子みたいな頭をした子が何か言ってくるけど、どうでもいい。

 私はやっと自分の幸せを見つけたの。

 

 これから末永くよろしくね―――

 

 地毒白刃様♡

 

 ―――私の運命の人(ヒーロー)。




読んで頂き本当にありがとうございました!


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被身子ちゃんをなんとかしよう。

今回も楽しくレッツご都合主義!


 

 慣れ親しんだ轟家の居間で少し落ち着いた後、冬姉も帰ってきたので一緒になって晩飯の用意をするのにキッチンにやってきた。

 当然のようにしょうくんも俺の隣にいるが、被身子ちゃんも反対側にいる。

 何? この二人? いつの間にポジション決めたの?

 

 ともかく黒刃は夏兄に任せ、俺は俺でしょうくんからのリクエストでオムレツを作る。

 俺が料理するのも珍しくないので、キッチンには俺のためにお立ち台まで置いてくれているくらいだ。

 それでもまだ火を使う時は冷母さんか冬姉、夏兄の立ち会いが必要。

 

「いつも食材使わせてもらってすみません」

「気にしなくていいのよ。白刃くんは焦凍のお兄ちゃんみたいなもので、私たちの家族も同然なんだから」

「ありがとうございます。卵貰いますね」

 

 俺の言葉に冷母さんは「どうぞ〜」と言ってくれたので、冷蔵庫から卵を一パック取る。

 前世は一人暮らしだったので一回で一パックを使うのに未だ抵抗があるけど、一パック使わないと圧倒的に足りなくてオムレツの取り合い戦争が勃発する。

 

 パックを開ければ、しょうくんが何も言わずともボウルを持って待機してくれていた。ほんといちいち行動がわんこみたいでかわいいんだよな、このイケメン。

 

「そのまま持っててね、しょうくん」

「任せろ」

 

 はい、かわいい。

 

 しょうくんが持ってくれているボウルに俺は卵を割って落としていく。

 全部入れたら塩と牛乳を加えて一先ず溶き卵にしていった。

 あとは、

 

「冷母さん、賞味期限が切れそうな食材何かある?」

 

 オムレツの中身だ。

 

 冷母さんは「ちょっと待ってね」と言って冷蔵庫の中を確認。

 すると余っていた鳥挽き肉を出してくれた。

 

 俺はお礼を言ってそれを受け取り、耐熱ボウルに挽き肉を移して電子レンジで加熱する。

 こうすれば生焼け防止になるからだ。

 

 レンジから挽き肉を取り出して、しょうくんが持ってるボウルに移し入れて、塊を崩すようにかき混ぜる。

 

「ねぇ、かき混ぜるの私やりたい」

 

 そこで被身子ちゃんが興味を持ったので交代。

 グチャグチャとかき混ぜる被身子ちゃんは心なしかとてもいい笑顔だ。

 

「被身子ちゃん、もういいよ」

「分かった! お料理って楽しいね!」

「そりゃ良かった」

 

 いい笑顔だ。思わず被身子ちゃんの頭を撫でる。待ってしょうくん。無言で『俺もお手伝いした』って目で訴えて頭を寄せてこないで。撫でます。撫でますから。

 

「しょうくんもありがとう」

「むふん♪」

「じゃあ俺は焼くから、しょうくんと被身子ちゃんは居間でお茶碗とか出しといて」

「分かった」

「はい!」

「焦凍、被身子ちゃんのお茶碗は取り敢えずお客様用のを使ってね。夏雄が知ってるから」

「分かった」

 

 そして俺は冬姉の立ち会いの元、オムレツを慣れた手付きで上手に焼きましたー。

 

 ◇

 

 料理を居間に運んでいると、ガラガラと玄関が開く音がする。

 

 ただいまとこんばんはの声がすることから、轟家の家主と燈矢兄。そして俺の両親だろう。

 その証拠に黒刃がとてとてとお出迎えしにいった。

 

「おかりー!」

 

 まだちゃんと「おかえり」って言えないけど、かわいさは天下一品だ。

 

「黒刃ちゃん、ただいまー♪」

「黒刃ー! ただいま! お父さんだぞー!」

「ただいま、私たちのかわいい黒刃♪」

 

 黒刃のお出迎えに喜ぶ両親と燈矢兄。炎司さんも黒刃の可愛さにやられて微笑んでることだろう。睨んでたら殴る。

 

 それから被身子ちゃんをみんなに紹介し、晩飯を終えてから、炎司さんの書斎に俺と被身子ちゃんは呼ばれた。当然のようにしょうくんも付いてきたが、炎司さんは特に何も言わない。

 

「さて、改めて自己紹介しよう。俺は轟炎司。焦凍たちの父で、エンデヴァーというヒーロー名でヒーロー活動をしている」

「私は白刃と黒刃の父で、地毒修作だよ。医者をしている」

 

「……渡我被身子です」

 

 二人の大人を前に被身子ちゃんは俺の背に隠れつつも、自分の名前を告げた。

 俺は被身子ちゃんを安心させるように頭を撫でてやる。

 

「急に大人に呼び出されたら不安だよね? ごめんね。でも怖いことはしないから安心してほしい。私たちの質問に答えられる範囲で答えてほしいんだ」

 

 父さんが優しい声色で被身子ちゃんに語りかけると、被身子ちゃんの表情が少し和らいだ。流石小児科も受け持つ医者だ。

 それから父さんは被身子ちゃんに様々な質問をし、手帳にその答えを書いていく。

 両親の名前、年齢、職業。通っている小学校の名前と通っていた期間。そして個性。

 

「ふむ。随分と遠くから来たんだね。疲れたでしょう」

「いいえ」

「ではこれが最後の質問ね。お家に帰りたいかい?」

「いいえ」

 

 迷いなく返した被身子ちゃんは俺の服の裾をギュッと握りしめる。

 それを見た父さんは柔らかく微笑んだ。

 

「分かった。じゃあ取り敢えず、暫くは私の家にいなさい。今は白刃たちも冬休みだからね。その間に今後のことを私と決めよう」

「いいんですか?」

「子どもをこんな遅い時間に追い出すほど、私は外道ではないから安心してほしい。それに私は自分の病院の敷地内に君のような子を守るために児童保護施設を経営しているからね」

「父さん、そんなことしてたんだ」

「ああ、白刃には話してなかったね。白刃が産まれる前からやってるんだ。因みに炎司は出資者で、季節ごとのイベント事にはエンデヴァーとして子どもたちにサービスしてくれているよ」

「自分の家族にはあんなことしてたのに、他所様の子どもたちには優しいヒーロー出来るんだ?」

「やめてくれ白刃くん。俺のメンタルをえぐりにこないでくれ」

「いいぞもっと言ってやれ白刃。父が許す。忘れないように少量の毒でジワジワと攻めるようにやってやらないとな」

「修作!」

 

 すがるように父さんの名前を叫ぶ炎司さん。

 しょうくんめっちゃ笑うやん。ええで、最高やでイケメンショタの笑顔は。

 

「こほん。とにかく、被身子ちゃんは何も心配せずに今は取り敢えず自分のことを大切にしなさい。大人のことは大人に任せて、ね?」

 

 父さんが被身子ちゃんの近くまでやってきて同じ目線になって言うと、被身子ちゃんは泣きながら何度も何度も頷いて返した。

 それだけ今まで周りから優しくされることがなかったんだと思う。

 

「さ、子どもはもう寝る時間だよ」

「事情が事情なだけに遅くまですまなかった。今晩は泊まって行きなさい。焦凍、お前の部屋には既に白刃くんの布団はあるが、被身子ちゃんのがないから、お母さんに言って出してもらえ」

「分かった」

 

 ◇

 

 それから俺としょうくんは冷母さんに伝えて、布団を出してもらい、一緒にしょうくんの部屋まで運んだ。

 

 そして俺としょうくんがお風呂に入ってる間、被身子ちゃんはまだまだ寝る気配のない黒刃や母さんたちと一緒にいてもらい、俺たちが出たあとで冬姉が被身子ちゃんをお風呂に入れてくれた。

 

 今日は色んなことがあったから疲れたな。

 早く寝よう。

 因みに俺が泊まるということは黒刃も泊まる。

 

「くぅ……くぅ……にぃたぁ……」

「癒やされる。俺の妹マジ天使」

「白、俺は?」

「しょうくんは俺のヒーロー」

「むふん♪」

「かぁいい〜♡」

 

 俺を真ん中にして右にいつものオプションしょうくん。同じ布団のすぐ左に黒刃で、その隣に被身子ちゃん。

 

「まさか父さんが児童保護施設運営してるとは思わなかったな」

「その児童なんとかってどんな施設なんだ、白刃?」

「被身子ちゃんに悪いけど、親に育児放棄されちゃった子たちを保護するところだよ。子どもが一人で生活するのは難しいし、敵に捕まったりしたら大変だからね」

「じゃあ被身子ちゃんはそこに行くのか?」

「……多分」

「私、もう白刃様に会えなくなるの?」

「いやいや、そんなことないと思うよ。そんな収容所みたいな施設じゃないから、安心して」

 

 顔面蒼白の被身子ちゃんに俺がそう言えば、被身子ちゃんはほっとしたように息を吐いた。

 暗い雰囲気を紛らわせるため、俺は明日あれしようこれしようと色んな案を出していくと、二人は楽しそうに頷きながら寝落ちしたので、俺も眠りにつくのだった。

 

 エンデヴァーサイド

 

 渡我被身子ちゃんという育児放棄された少女を焦凍たちが連れてきて数日。

 まだ親の庇護下にいなくてはいけない少女を疑うようで気が引けるが、ヒーローとして敵が送り込んできた構成員または擬態か操られている可能性を入れて冷や燈矢と共に見守っていた。

 しかし敵らしい素振りも、怪しい動きも見せないのでホッと一安心だ。

 

 少しばかり変わった趣味趣向を除けば、コミュニケーション能力もあるし、既に俺の家族たちに溶け込んでいる。人見知りの気もあるにはあるが、それは焦凍や妻も同じだし許容範囲内だろう。少々白刃くんを焦凍と取り合うものの、その姿は年相応だ。

 

「うちの弁護士が被身子ちゃんの親と接触し、こちらが踏むべき手続きは終わった。あとはどうするつもりだ? 施設に預けるのか? それともお前か俺が里親にでもなるのか? 俺はどちらでも構わん」

 

 被身子ちゃんの件で大人のやるべきことは終わった。

 あとは親権を施設にするか、轟家や地毒家にするか、はたまた信頼出来る家に持ち掛けるか。

 ちょうど所属ヒーローたちの健康診断でうちの事務所に来ている親友へ問うと、親友は少し悩む仕草をする。

 昔から何か考える時は必ずする顎を擦る癖。

 しかしその癖をする時は決まって何かを企んでいる時が多いため、俺は思わず身構えてしまった。

 

「明日、施設でクリスマスパーティーするよね?」

「そうだな」

「オールマイト呼ぶんだよね?」

「頼んだら快く引き受けてくれた」

「ならそのパーティーに被身子ちゃんも参加させてみるのはどうだ? 勿論、お前のとこの子どもたちも都合がつくなら参加させれば、被身子ちゃんも安心だろう。白刃も参加させる。それで施設に馴染めそうなら、本人に最終確認をしてから話を進めよう」

「分かった。しかし冬美と夏雄は友人たちとのパーティーがあると冷から聞いている。燈矢は夜になれば上がれるから、燈矢は参加出来るだろう」

「そうか。なら私があとは引き受けよう」

「すまないな。俺も仕事が終わればすぐに向かう」

「ナンバー1とナンバー2が一箇所に集まるだなんて、子どもたちも喜ぶだろうよ」

「あの男には敵わんさ」

 

 昔より大分若い層からの支持が増えたといっても、まだ奴に敵う気がしない。

 弱気になっているとかではなく、現実を受け止めることが出来ているからこその思いだ。

 

「なぁに気にすることはないだろう。白刃なんか普段はお前にあんな態度を取ってはいるけど、筆入れはエンデヴァーのを使ってるぞ? 小学校に上がって最初に買ってほしいって言われたのはエンデヴァーの筆箱だったしな」

「そ、そうなのか!? 何故もっと早く言わない!? 言ってくれれば――」

「――全部お前の写真付き文房具で一式揃えて持ってくるだろ? 白刃は好きな物ほどその一つを大切に使う性格なんだ。全部が全部お前のになると流石に嫌がられるぞ。何の嫌がらせだって」

「うぐっ」

 

 確かに言われてみればそうだ。俺はいつも良かれと思って一番大切な相手に確認を入れるのを忘れて、行動してしまう。だから親友も敢えて俺には伝えなかったんだろう。流石だ。

 

「大丈夫。お前はお前が思ってるよりも白刃に嫌われてない。寧ろ応援されてる。オールマイトと僅差だったのを見て、俺よりも悔しがってたぞ?」

「そ、そうか……」

「その顔やめなよ。笑うか照れるかどっちかにしてくれ、暑苦しい」

「元々こんな顔だ」

「そうだな。私じゃなきゃ喜んでいる顔だと分からない、分かりにくい顔をしてる」

「……うるさい。黒刃ちゃんには怯えられたことはないぞ」

「黒刃は熊さんが好きだからな」

「そろそろ本気で火炙りにしてもいいか?」

「私の身に何かあれば、刃子と白刃を敵に回すがいいか?」

「……こいつ!」

「ははは、ナンバー2ヒーローのこんな顔を見れるなんて、いいポジションを持ったな私は♪」

「本当にいい性格をしているな、お前は」

 

 だが、だからこそお前とは親友になれたのだと思う。

 それから俺たちはそのまま少し明日のクリスマスパーティーの打ち合わせをして、解散した。

 家に戻る前に事務員に言って俺をモデルにしたぬいぐるみを白刃くんと黒刃ちゃんの手土産にしよう。




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色々踏まえて進路を決めよう。

ご都合主義のバーゲンセール!


 

 あれから俺は平和な日々を(しょうくん、被身子ちゃん、黒刃に揉みくちゃにされながら)過ごしてきた。

 

 今は6月で、俺としょうくん、被身子ちゃんは中学3年生になって、俺は晴れて15歳になった。

 

 なので一旦状況を整理しようと思う。

 

 まずようやく分かったのが、俺が転生したヒロアカ世界が、俺が原作で知ってたヒロアカ世界と全くの別ルートにあるということ。

 

 そもそも原作ではヒーローが飽和状態になっていて、活躍の場を取り合うという本末転倒なことが解消されている。

 大きいのはオールマイトがオールフォーワンを本当の意味で倒し、それによりオールフォーワン側に寝返っていたヒーローたちがごっそりと逮捕されたことが大きい。

 また公安がお抱えの直属ヒーローの数を大幅に増やし、今後そんな邪な思いで動くヒーローを監視することになったので公安のスカウトに応じたヒーローも多かった。給料がいいらしい。

 

 これによってオールマイトたちのようなヒーローたちの数が激減して治安悪化が懸念されたものの、代わりに警察が人員を全国各地に派遣。

 警察官たちも常日頃から敵に対しての捕縛術や対策アイテムの適切な使い方を訓練していたので、往生際悪く暴れる敵を無力化することに成功したのだ。

 また地域ごとに自警団も設立し、警察と連携し、訓練してその練度を上げたことで人々は安心した。

 因みに自警団はこれまで警察や公安と敵対していた指定暴力団とされる組織が名を変えたもの。

 政府も国の危機を乗り越えるため、思い切って過去のことは水に流し、現段階で違法行為をしていない暴力団限定で手を結んだそうだ。

 暴力団の方も暴力団員というだけで肩身の狭い思いをしながら続けるのにも限界があったし、国が動けない時に陰ながら地域住民たちを手助けしたのもあって国と手を結ぶことにしたみたい。

 手を結んだばかりの頃は互いに歪み合ってしまっていたが、日本がめちゃくちゃになれば自分たちも生きてはいけないと考えを改めて少しずつ連携をしていった。

 

 今のように互いを尊重し、歪み合うことなく事がスムーズに運べるようになったのは、闇組織を大きくまとめていた死穢八斎會が先頭に立って国と足並みを揃えたのが大きい。

 原作では主人公たちの障害として登場したのだが、原作で寝たきりだった組長を俺の父さんと母さんが治療したことで組は一大勢力を維持し続けることが出来たそうだ。父さんや母さんにとって、ヤクザであれ誰であれ患者を救うのが医者なのだ。

 オーバーホールこと治崎廻は組長を助けてくれた恩を返すため、父さんの児童保護施設を真似て育児放棄された子どもたちを保護する活動を始めたそう。

 相変わらず潔癖症ではあるが原作ほど酷いものではなく、組長の影響を受けて仁義を重んじる青年になっているのだとか。

 

 よってヒーローは減ったものの、日本は平和で様々な組織が新たに手を組んでその平和をオールマイトたちヒーローと一緒に守っているのだ。

 オールマイトもオールフォーワンとの闘いで怪我はしたが、原作にあったような致命的な怪我をしていないから元気そのもの。入院こそしたが、入院中も元気にインタビューを受けている場面がテレビで何度も放送されていた。

 ただワンフォーオールがどうなっているのかは分からない。こればかりは確認のしようがないから。

 

 次に俺の周りの状況。

 まず渡我被身子ちゃんは俺たちの冬休みが終わったと同時に、父さんが運営する児童保護施設に入った。

 でも小学校の授業をほぼ受けていなかったので、俺や焦凍が中学生になるまでは施設で初等部教育を受け、俺たちと同じ学年で同じ中学校へ通うようになった。

 

 被身子ちゃんを施設に入れるかどうかの前に、一緒に施設のクリスマスパーティーに参加したんだけど、その時にみんな被身子ちゃんが変わった趣味趣向を持ってても引かなかったし、普通に接してくれたのが大きかったみたい。

 

 被身子ちゃんのことはそれで良かったんだけど、その時一番驚いたのはヒーロー殺しステインである赤黒血染と敵連合のトップになる死柄木弔こと志村転弧や原作で連合に入っていた重要キャラたちがいたことである。

 

 赤黒血染は『ヒーロー観の根本的腐敗』で絶望し、私立のヒーロー科高校を中退。

 そのあとに『英雄回帰』を訴えているところに、俺の父さんが「子どもたちのヒーローになってみないか?」と声をかけたことで、心理カウンセラーになったんだって。

 

 そんな血染が心理カウンセラーになって少しした頃に連れてきたのが死柄木弔こと志村転弧だった。

 ヒーローに憧れる転弧に対し、父弧太朗はヒーローを否定し、そんな中自分に個性が発現しない現実。

 そして姉である華からの裏切りというのもあって家から飛び出し、泣いてたところを血染が声をかけた。

 それによって施設に入った転弧は俺の父さんから「無個性でもヒーローになれるさ」と希望をもらい、元ヒーロー科であった血染からの手解きを受けて強靭な身体能力を得て、雄英高校初となる無個性合格者にして主席卒業生となり、無個性初のヒーローとなった。

 因みに元の家族とは決別しているそう。

 

 トゥワイスこと分倍河原仁に至っては両親を敵犯罪で亡くした際にこの施設にきたそうで、高校を卒業してからは施設の職員として働いている。

 話した感じ原作みたいな支離滅裂な感じはなく、個性を使って施設で壊れた玩具や遊具とかを複製してくれているので、いつも子どもたちに頼られていて幸せそうだった。

 

 他にも催し物のひとつであるマジックショーで出て来たのが、敵連合にいるMr.コンプレスだったりして本当に開いた口が塞がらなかった。

 というか、本当に父さんとこの施設、原作で敵堕ちしたキャラ救い過ぎな件。だからこそ俺っていうイレギュラーがあるのかなとも思った。

 

 そして次に轟家。

 あの頃の殺伐とした空気はすっかり消え、家庭円満だ。

 冷母さんは編み物という趣味に目覚めて楽しんでいるし、燈矢兄はエンデヴァーのサイドキックとして活躍中。

 冬姉は大学4年生で小学校教諭になるために頑張ってて来年卒業を控えているし、夏兄に至っては燈矢兄の代わりに轟家の家業を継ぐために今は地元の高校に通って今年大学受験を控えている。志望しているのは東京の経済学部か経営学部なんだって。

 

 という訳で、原作とは全く違う方向へ進んでる。

 

 俺に至ってはしょうくんの稽古に付き合ったりしたし、エンデヴァー事務所にあるトレーニングルームで他のヒーローたちに色々教わったお陰もあって、俺としょうくんは個性の扱い方が大人顔負けの実力を身につけた。これにはエンデヴァーからも太鼓判を押してもらっている。

 被身子ちゃんも施設に移ったとはいっても、定期的に轟家にやってきてエンデヴァーから護身術を教わったりしてた。

 

 そして今俺は、

 

「白、冗談か? いつもの冗談なんだよな?」

「なんでそんな深刻そうなの? そんなの白刃様の自由なんだから、焦凍には関係ないでしょ」

「被身子、黙っててくれ。これは俺と白の問題だ」

 

 お昼休みに学校の屋上でしょうくんに問い詰められています。

 俺らの仲を知らない人がこの状況を見れば、俺が被身子ちゃんをしょうくんから奪ったとか、被身子ちゃんがしょうくんを捨てて俺とくっついたみたいな修羅場に見えるだろう。

 だって俺が座ってる左隣には俺の腕にしがみついてる被身子ちゃんがいて、右隣にはこの世の終わりみたいな顔をしてるしょうくんがいるんだから。

 

 きっかけはほんの少し前のこと―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 給食を食べ終えた俺は、いつものように昼休みは屋上で日光浴をしていた。

 当然、しょうくんと被身子ちゃんも一緒。

 そして話題は今日担任の先生から渡された進路希望書のこと。

 

「白、進路希望の欄に何て書いた? 俺、雄英以外考えてなくて……」

「しょうくんはヒーロー科だよな? なら第二、第三は適当にサポート科とか普通科あたり書いときゃいいんじゃない?」

「お、そうか。ならそうするか」

「うんうん、そうしときな。しょうくんなら推薦とかも簡単に取れるだろうし」

「んな簡単に言うなよ。うちの中学推薦枠1つしかねぇんだぞ? 俺、白に勝てる気しねぇ」

「なんで? 俺雄英行く気ないんだが?」

「…………は?」

 

 ―――

 ――――――

 ―――――――――

 

 という訳で今に至る。

 だってそうじゃん。

 被身子ちゃんは敵になってないし、原作で敵になるようなキャラはみんな幸せルート一直線。

 なら別に俺が雄英行かなくてもいいと思うんだよね。

 確かに原作キャラを生で見てみたいとは思うけど、あんな鬼畜カリキュラムがデフォの高校なんて行きたくない。

 俺は平凡な普通科高校に通って、前世ではしようとも思えなかったアルバイトして、両親や黒刃に自分で働いて得た金で何かしてやりたいんだ。

 

「冗談も何も、端から雄英行く気なんて全くないよ、俺」

「じゃあ、なんであんなに父さんの稽古一緒にやってきたんだよ?」

「自分の個性上手く扱えて損はないだろ? 俺の個性は間違えると簡単に人を死なせちまう危ない個性だし。それに俺はおじさんが暴走しないか見張ってたってのもある」

「…………やだ」

「わっつ?」

「白と別々の高校行くとか絶対にやだ」

 

 やだって……駄々っ子かよ!

 

「いやいや、大人になったら嫌でも別々の道進むんだから」

「俺は白のサイドキックになるのが夢なのに……」

「え、何それ初耳なんだが?」

「今初めて思いついたからな」

「やめて……だからそもそも俺はヒーローになる気ないって」

「じゃあ俺がサイドキックにスカウトすれば……」

「しょうくん、俺の話聞こえてる?」

 

 そもそもなんでしょうくんにとって俺と離れるっていう事が頭にないのさ。君頭いいはずよ?

 

「私は白刃様がいるところに行くから心配しなくていいよー♡」

「被身子ちゃんはそうだろうね……」

「うん♡」

 

 犬みたいに俺の胸板に顔を押しつけてすーはーしてる被身子ちゃん。

 被身子ちゃんも被身子ちゃんで大分まともになったけど、俺がいる前提なんだよな。

 血以外の趣味が料理になったらしく、中学では調理部入って何を作っても必ず俺のとこに持ってくるし……。

 

「白の夢ってなんだ?」

「俺の夢?」

「ああ。いつも白は俺のヒーローになりたいっていう夢を応援してくれる。でも今更気がついた。俺、ずっと白と一緒にいたのに、白の夢知らねぇって……だから教えてくれ」

「俺の夢、ね……」

 

 言われてみれば自分の夢なんて全く考えてなかった。

 前世でもこれと言って何か夢があったとかじゃない。

 今の夢を強いて言えば―――

 

「みんなの幸せな姿を見ること、かな」

 

 ―――だな。クサいというか、キザというか……むず痒くなる台詞だけど、これは俺の本心に変わりない。

 両親が隠居する際には両親が安心して隠居出来るような人間になりたいし、黒刃も(めっちゃ嫌だけど)素敵な花嫁さんになってほしいし、しょうくんや被身子ちゃん、関わってる人たちが笑顔でいられるように見守ることが一番の夢だ。

 

「白……」

「白刃様……♡」

「え、ちょ、何? 何何何? 急に二人して抱きついてこないでくれよ」

「やっぱ、白はヒーローになるべきだ」

「私、もう既に幸せだけど、もっともっと白刃様と一緒にいてもっともっとも〜っと幸せになるね♡」

「いっぺんに言われても困るっつーの!」

 

 二人の肩を少々強めに押す。しょうくんは「悪ぃ」と退いてくれたが、被身子ちゃんは相変わらずだ。

 

「白、俺とヒーローになろう」

「どして?」

「じゃなきゃ白の夢、叶わねぇ」

「いや、そんな間近で見ていたい訳じゃ……」

「俺が見ていてほしいんだ」

「しょうくん……」

「俺は昔から白からもらってばっかだ。恩返ししたいのに、次から次へと白は俺を救ってくれるヒーローなんだ」

「…………」

「俺が幸せになるとこ、その目でちゃんと見てくれ」

「……分かった」

「っ! 本当だな!? じゃあ絶対ヒーロー科だからな! 俺は推薦なんて受けない! 一緒に一般入試受けに行って、一緒に合格しような! 約束だ!」

「え」

「なら私もヒーロー科行くぅ♡ ずっと一緒だよ、白刃様ぁ♡」

「えー!?」

 

 こうして俺は半ば絆された感じで進路が決まった。

 でもしょうくんや被身子ちゃんの幸せな姿を見るなら、俺も努力しないといけない。

 ヒーローになりたいって気持ちが俺にはまだまだ足りないけど、ヒーロー科に行くなら覚悟を決めよう。

 

 焦凍サイド

 

 白からヒーローになる気がないって言われた時、俺はショックだった。

 それと同時になんでだよって思った。

 

 子どもの頃からいつも白はヒーローだったのに、俺が今まで見てきて一番ヒーローになってほしい人間なのに。

 

 今まで一緒に父さんの厳しい稽古をしてきて、父さんだって白がヒーローになるのを期待してるんだ。母さんだって、燈矢兄も冬姉も夏兄も。

 白はそれだけ多くの人を救ってきたヒーローなんだ。

 なってくれなきゃ困る。

 

 俺らが別々の道を行く?

 有り得ねぇ。

 

 物心ついた頃から、白は俺のヒーローで、俺たち家族のヒーローで、被身子にとってもヒーロー。

 ほら、どう考えたってヒーローになるしかねぇじゃねぇか。

 

 ただ、白はどこまでも周りを優先する。

 初めて聞いた白の夢。

 なんだよ、『俺たちの幸せな姿を見ること』って。

 これ以上俺たちを幸せにしてどうすんだよ。

 

 だったら責任取ってもらわねぇと割に合わねぇ。

 俺たちが幸せなら、白も幸せなんだ。

 見せてやるよ。

 一緒に雄英通って、一緒にヒーローになって、一緒に闘って、俺のすぐ隣で、俺が幸せに笑ってるとこ。

 

 そうすれば俺だって白の本当のヒーローになれるから。




読んで頂き本当にありがとうございました!


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雄英高校受験に行きました。

あんなこといいな〜。あったらいいな〜。


 

 進路が決まってから、俺はしょうくんたちと雄英高校の受験に向けて忙しくも穏やかな日々を過ごした。

 

「じゃあ、行くか!」

「おう」

「はい♪」

 

 そして今日は雄英高校の入試試験に挑む。

 

 緑谷くんとか爆豪くんとか麗日ちゃんとか原作に出てきたキャラに会えるかな〜♪

 なーんて思ってる半面、実技試験がガチで怖い。

 

 雄英側から既に受験者へは諸注意書きや細かなルールが知らされている。

 怪我する可能性もあるため同封されていた同意書にはサインと印鑑をして送付済み。

 

 ただルール違反に当たるかとか細かい点の確認のため、俺は何度か雄英に電話で尋ねていたりする。

 対応してくれたのは誰か分からなかったけど、とても親切だった。

 

 ―――――――――

 

 筆記試験は前世の記憶もあったから現代史以外問題なかったが、俺としてはここからが本番だ。

 幸い俺たち三人共に同じブロックでの実技試験になるので、それだけで心強い。

 

 ジャージに着換え、所定の位置に集まり、注意事項等の説明をされ、唐突なスタートの合図で試験が始まった。

 原作じゃプレゼントマイクだったのに、そうじゃないキャラの声だったな。

 

「しょうくん、周りの人巻き込むなよ?」

「分かってる。でもそこら辺のフォローは任せた」

「私ずっとこのままでもいいー♡」

「被身子、白のまま喋んな」

「はーい」

 

 被身子ちゃんは俺の血を飲んで俺に変身してこの試験に挑んでもらっている。

 雄英にはこれで得点を稼いでもちゃんと被身子ちゃんに得点が加算されるか尋ねて、問題ないと回答をもらっていたので、雄英を受験すると決まってから被身子ちゃんには俺の血を飲んでもらって俺の身体に慣れてもらっている。

 未だに俺の声と姿で被身子ちゃんらしい振る舞いや言動をされると違和感しかないが、しょうくんの血より俺の血を被身子ちゃんが懇願したので仕方ない。

 因みに原作だと変身の個性を使うのに裸になる必要があったけど、エンデヴァーからの猛特訓を受けた末に相手の服まで変身するしないのコントロールが可能になった上に、原作でキュリオスとの戦闘で覚醒したように、現時点で摂取した相手の個性まで使えるようになった。ただ変身で使う個性はオリジナルとは見劣りしてしまうし、相手の服まで変身するしかない場合は原作通り裸になる必要がある。

 

「しょうくん、そっち! 怪我人がいる!」

「分かった!」

「ささ、危ないですよー。救護スペースまでエスコートしますねー」

 

 仮想敵ロボを三人で手分けして破壊しつつ、怪我した受験生は救護スペースへ搬送。

 連携も難なく取れてるし、最初に感じていた不安感は全くない。

 原作を知っているからこその立ち回りだが、合格するためなら有効活用する他ないからな。

 

 そんなこんなで時間が経過していくと、轟音と共にあの0ポイントの巨大な仮想敵ロボが現れる。

 いやぁ、生で見るとマジででけぇ。原作知らなかったら周りの受験生みたいに俺も逃げ一択だったわ。

 

「っ!? しょうくん、氷壁!」

「おう!」

 

 やっぱ逃げ遅れてしまう人がいた。

 だから俺はしょうくんに指示して氷壁を出してもらい、被身子ちゃんと一緒に逃げ遅れた受験生たちを逃していく。

 

「白! 崩れるぞ!」

「おうよ!」

 

 思ってたより0ポイントのパワーが強くて、あと一人ってところでしょうくんの氷壁が崩壊。

 

「ごめんね! 君、悪いけど頭ガードしてしゃがんでて!」

「あ、う、うん! でも、あれ0ポイントだよ!?」

「大丈夫! ヒーローならどんな理不尽にでも立ち向かうんだから! しょうくん!」

「いつでもいけるぞ!」

 

 俺はしょうくんに合図を出して地面を蹴る。

 するとしょうくんが氷で足場を作ってくれる。

 左右の親指以外の指を全て今自分が到達出来る最長の刃物に変化させ、0ポイントの両腕を切り裂いた。

 イメージ通りの切れ味。続いて落下するのと同時に両脚の骨組みも切断すれば、完全に無効化出来た。

 

「被身子ちゃん、建物への被害は!?」

「問題ないよー! 焦凍が氷でガードしてたから! 女の子も無事ー!」

 

 ホッと一安心したところで終了を告げるアナウンスが響く。

 

「お疲れー、しょうくん、被身子ちゃん。助かったよー」

「お疲れ。俺は白の指示のお陰でそんな疲れてねぇ」

「私もそんなに疲れてないよー♪」

 

 元気だな、二人は。俺は精神的に疲れた。精神年齢が上だからか、はたまた緊張してたからか。

 何はともあれやれることはやったし、あとは合否判定の通知が届くのを待つだけだ。

 

「あの……さっきはありがとう」

 

 そんなことを考えてると、背後からお礼を言われたので振り返る。

 するとそこには先程咄嗟に指示してしまった女の子が立っていた。

 あれ、この子って確か―――

 

「いやいや、こっちこそ急に指示なんかしてごめんね」

「ううん。本当に助かった。ウチ、耳郎響香って言うんだ。お互い合格するかまだ分かんないけど、よろしく」

 

 ―――耳郎響香ちゃんだぁぁぁ!

 うわぁ、しょうくん以来のA組のキャラじゃんか! 本当にイヤホンジャックある! 三白眼かわ! 小柄でかわ!(この間1秒)

 

「ああ、よろしく。俺は地毒白刃。こっちのおめでたい感じの紅白髪が轟焦凍で、こっちは――」

「渡我被身子です!」

「うぇ!? 双子じゃなかったの!?」

「あははー、私の個性なんですー」

「へぇ、すご……」

 

 そんな話をしていると、俺は耳郎ちゃんが膝に怪我をしているのが目に入った。

 

「膝擦りむいてるけど、大丈夫?」

「ああ、大丈夫大丈夫。それに救護スペース行けばすぐ治してもらえるっぽいし」

「でもあそこまで距離あるし……あ、ちょっとジッとしててね」

「え、うん」

 

 俺は耳郎ちゃんの膝に作り出した毒(麻酔)を数滴垂らす。

 

「どう、まだ痛む?」

「あれ、痛くない」

「良かった。あとは……」

 

 持っていたハンカチを巻いてこれ以上傷が空気に触れないようにすればオーケー。

 

「ありがとう。でもハンカチ……」

「余計なお世話はヒーローの本質、って言うじゃん? 怪我治してもらったら返してくれればいいから」

「……分かった」

 

 それから俺たちは耳郎ちゃんを救護スペースに連れてって、ハンカチを受け取り、それぞれの更衣室で着替えて雄英高校をあとにした。

 

 その帰り道。

 同じ駅に向かうので、そのままの流れで耳郎ちゃんとも一緒に駅へ向かう。

 

「へぇ、三人同中なんだ。変身って個性もチートだけど、そっちの二人は個性2つ持ちとかますますチートじゃん」

 

 俺の右にしょうくん、そして後ろに被身子ちゃんでその隣に耳郎ちゃんと歩道を歩きながら、改めて自己紹介してからの耳郎ちゃんの言葉。

 確かにチートだよな。俺もそう思う。

 でもチートにはチートなりに苦労もあるのよ。

 

「個性2つ持ってるってお得感あるけど、慣れるまでがな〜。1つに集中するともう1つの制御が出来なくなるってのはよくあった」

「ああ。いいことばっかじゃねぇな」

 

 しょうくんにとっては特にね。

 でも原作みたいに拗れてないし、コントロールの特訓も一緒に頑張ったし、しょうくんが努力してきたのを俺はよく知ってる。

 だから耳郎ちゃんの前なのに、ついついいつものように「頑張ったもんな」って言ってしょうくんの頭を撫でてしまった。

 

「ん、ありがとな、白」

「いえいえ〜」

 

 微笑ま〜♪ うちのしょうくんは癒やし系イケメンになってしまった。なんか兄目線になってしまう。

 すると当然背後から軽い衝撃が来た。被身子ちゃんの『私も頑張ったよ!? 褒めてよ!』の合図である頭突きだ。

 

「被身子ちゃんもよく頑張りました」

「んへっ、んひひひひ♡」

「……仲いいな」

 

 あ、若干でもなく耳郎ちゃん引いてますやん。

 でも仲良しなのは事実なので、

 

「ずっと三人でいたからな♪」

 

 ついありのまま返してしまった。別に隠す必要とかないしね。

 するとしょうくんも被身子ちゃんもほわほわ〜っとした雰囲気をまとった。しょうくんに至っては相変わらずポーカーフェイスのままだが、被身子ちゃんと同じく両手で頬を押さえている。

 

「(かわいいだろ、この二人?)」

 

 耳郎ちゃんにこっそり訊ねると、耳郎ちゃんは「確かにね」と返してくれた。やっぱ耳郎ちゃんもいい子や。

 

「ほら、お二人さん。いつまでもトリップしてないで、さっさと帰ろうぜ〜。みんな待ってるだろうから」

「お、そうだな」

「はーい♡」

 

 それからその場の流れで耳郎ちゃんと俺たちは連絡先を交換し、ホームで別れ、被身子ちゃんを施設まで送っていってから轟家に帰った。

 

 ―――――――――

 

「ただいまー」

「ま」

 

 俺の声に続いてしょうくんがぽつりと言う。

 すると廊下からとたとたと足音がした。

 

「お兄ちゃん、おかえりー!」

「ただいまー、黒刃ー!」

 

 8歳になったラブリーマイエンジェルシスター黒刃のお出迎えに、俺は今日の疲れを忘れて抱きしめる。

 最高。ホントに最高。

 

「黒刃、焦凍兄ちゃんにもおかえりーって」

「あ、おかえり、しょうと」

「おう」

 

 んー。なんでしょうくんにはこんなにもスンッて顔するのか。イケメンぞ? あ、イケメンだから恥ずかしいのか?

 

「早くあっち行きなよ。あたし、お兄ちゃんとまだぎゅうしてるから」

「こらこら、なんてこと言うの。兄ちゃんだってもう冷母さんたちのとこに行くよ」

 

 そう言って俺は黒刃を抱き上げる。

 流石に大きくなったから大変だけど、まだまだ余裕だな。

 

「いつまで経っても兄離れ出来ねぇな」

 

 しょうくん、それ特大ブーメランよ。

 

「しょうとだってあたしのお兄ちゃんから離れてない。邪魔」

「抱っこしてもらって白の両手を使えなくしてる黒に言われたくねぇ」

 

 まるで猫のケンカだな。相変わらず。俺としてはもう少し仲良くしてもらいたい。被身子ちゃんとはこんな険悪にならないのに……謎だ。

 

「ほらほら、ケンカしない」

「してねぇ。事実を教えてる」

「分かってないから教えてあげてるの」

 

 もうケンカするほど仲がよろしいってことで。

 ツッコミも程々に居間へ行くと、

 

「おかえり、焦凍、白刃君。試験お疲れ様」

「お疲れ様、二人共。試験お疲れ様ってことで、今日は二人の大好物を用意しておいたからね」

「俺も作ったぞー♪ 黒刃ちゃんもお手伝いしてくれて、な?」

「うん!」

 

 冷母さんたちがご馳走を用意して待っていてくれた。

 因みに夏兄は秋に推薦入試で東京ではなく家から通える県内の名門大学に合格。燈矢兄が勧めてくれたそうだ。

 そして冬姉は隣町の小学校教諭になることが決まっている。

 

「みんな、ありがとう」

「ありがとう」

 

 俺としょうくんがみんなにお礼を言えば、みんな笑顔を返してくれた。

 本当なら被身子ちゃんもこの場に参加させたかったけど、被身子ちゃんは被身子ちゃんで施設のみんなからお疲れ様会をしてもらうみたいなので、被身子ちゃんは明日誘ってる。

 だから今日も明日もパーティーみたいで、なんか嬉しい。

 

「じゃあ二人共、手洗いうがいをして着替えてきなさい」

 

 冷母さんに促され、俺としょうくんは洗面所へ。

 俺の着替えは今朝しょうくんを迎えに行った際に置かせてもらったので、準備万端だ。

 

 こうして俺としょうくんはみんなに労ってもらい、穏やかな食卓を囲んで過ごした。

 

「白、唐揚げ美味いぞ」

「お兄ちゃん、このハンバーグあたしがこねこねしたんだよ!」

「順番。順番でオナシャス」

「なら俺からな」

「空気読めない人ってどうかと思う」

「なんだやっと自覚したのか黒」

「は?」

「お?」

 

 穏やかな食卓を囲んで過ごした。

 

 教師陣サイド

 

「いやはや今年も粒揃いで嬉しい限りだね!」

 

「そうですね。特にZ区域の轟くん、地毒くん、渡我さんは筆記試験は勿論ですが、実技試験の時は周りの子たちと段違いの実力でした」

 

「それぞれの持つ個性が素晴らしいのもありますが、その分扱い方が難しい。なのにあそこまでコントロールし、且つ周りを気にしながらという行動は模範的なヒーローそのものです」

 

「まだ中学生ですし、こういった試験だからこそ、自分が自分がとなってもおかしくないのに、あそこまで冷静な判断が出来るのはいいことです。将来が今から楽しみですね」

 

「何より轟くん、渡我さんを上手く指揮していた地毒くんはリーダーになれる素質を持ってます。判断能力もさることながら、状況把握の早さと順応性もピカイチでした」

 

「流石はあの地毒家の人間、と言うべきですかな。今からが楽しみですよ、本当に」

 

「では、みんなこの三人は合格で問題ないね?」

 

 会議室に異を唱える者は誰もいない。

 

「うん! じゃあ三人は文句なしの合格だ!」

 

 響香サイド

 

 0ポイントの巨大仮想敵ロボットが出てきた時、怖過ぎて足が竦んだ。

 こんなの無理だろ!って思わず叫んだ。

 

 ヒーローになりたくていたウチのことを、両親は笑顔で背中を押してくれたのに、あんなに練習したのに、動けなかった。

 

 ああ終わった、って諦めた時、いきなり目の前に氷の壁が現れた。

 状況が理解出来ずにいたら、今度は地響きで前のめりに転んで、膝を擦りむいた。カッコ悪過ぎるなウチ。

 

 ウチがそんなことしてる間に一人の男子が叫ぶ声がしたと思ったら、そっくりな二人の男子の内の一人がウチの前にウチを守るように立っていた。

 

『ごめんね! 君、悪いけど頭ガードしてしゃがんでて!』

 

 なんだよ、それ。

 みんな必死になって逃げてるのに、そいつはウチに向かって笑顔を向けた。

 毒々しい紫色に銀色みたいなメッシュの長髪。

 チラリと見えた首にあるドクロマークとか。

 指が刀みたいになってるとか。

 

 思わず見惚れちゃった自分がいて、でも氷の壁が壊れたことで我に返った。

 頭を守るように伏せたけど、どうしても気になってその男子の背中を目で追うと、あんな無理ゲーまがいの巨大仮想敵を簡単に倒した。

 なんだよ、それ。レベチどころじゃない。ホントに同い年なのかよ。

 

 試験が終わって安心したけど、助けてくれた男子が気になったし、お礼も言わないとって思って声かけたら、すごい話しやすくてイイ奴だって思った。

 他の二人も変だけど面白くてイイ奴らだった。

 

 あの三人と比べたらぶっちゃけ合格出来る自信ないけど、もしも合格出来て同じ学校に通うなら、もっと色んな話をしたいな。

 合格出来なくても連絡先は交換したし、その時は雄英の授業の感想とか教えてもらお。

 

 それにしても―――

 

 地毒白刃

 

 ―――本物のヒーローみたいだった。




読んで頂き本当にありがとうございました!


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入学準備とショッピング。

今回もご都合主義でPlus Ultra!


 

 中学を無事に卒業し、進学までの準備期間的な時期に入った。

 

 俺、しょうくん、被身子ちゃんは無事に雄英高校に合格。

 順位は首席がしょうくん、次席が俺、3位が被身子ちゃんという123フィニッシュでみんな揃ってA組になれた。

 あれ、じゃあ爆豪くんどうなんちゃったんだ?

 

 まあ既にもう色んなことが原作通りじゃないから、気にするだけ無駄だよね!

 

 雄英高校に至ってもそれは同じで、既に雄英生用の寮が敷地内に立っている。

 全寮制ではなくて希望制。またアクシデントによって帰宅困難になった生徒も即時利用可。

 

 そして驚いたのは誰でも閲覧可能な雄英高校ホームページの教師陣にイレイザーヘッドとプレゼントマイクの二人の名前がなく、リューキュウやウォッシュの名前があったこと。

 そもそも受験対策で去年の下半期ヒーロービルボードチャートJPを聞き流していたが、しょうくんが録画していたのを改めて確認すると、10位に無個性初のヒーロー志村転弧こと∞(インフィニティ)が名前を連ね、8位にラウドクラウドがいたことが分かった。

 ざっと挙げてしまえば、

 

 1位:オールマイト

 2位:エンデヴァー

 3位:ホークス

 4位:ベストジーニスト

 5位:ミルコ

 6位:クラスト

 7位:シンリンカムイ

 8位:ラウドクラウド

 9位:ヨロイムシャ

 10位:∞

 

 である。

 原作ではラウドクラウドこと白雲朧は相澤先生と同じインターン先で亡くなって、その死体から黒霧という敵連合の幹部にされていたが、この世界では存命のようだ。

 ならば原作で約束していた通り、ラウドクラウドの事務所にイレイザーヘッドもプレゼントマイクもいるのだろう。

 相澤先生を生で見たかったのもあるけど、相澤先生が親友たちと夢の事務所経営をしてるなら嬉しい限りだ。

 

 ただ担任がどうなるのか全く分からん。

 しかしまあそんなの誰だって一緒だ。

 それに分からない方が楽しみが増えると思えばいい。うん。

 

「白、被身子来たぞ」

「お、じゃあ行くかー」

 

 そして今日、俺たちは雄英高校に入学するに当たって必要になる物をショッピングモールへ買いに行く。

 制服とか教科書とか指定されている物がとにかく多いので、ショッピングモールならほぼ全部揃っているから楽だ。

 

「じゃあ行ってきます、冷母さん」

「行ってくる」

「行ってきまーす!」

「はーい。何かあったら電話するのよ? 黒刃ちゃん、お兄ちゃんたちから離れちゃダメだからね?」

「はい!」

 

 冷母さんの言葉にビシッと手をあげて返事をする黒刃。

 そう、今日の買い物には黒刃も連れて行く。

 本当ならお留守番していてほしいんだが、行きたいと言って聞かないので連れて行くことにした。まあ基本的に俺から離れることはないし、俺の他にしょうくんたちもいるから大丈夫だろう。

 

 ◇

 

 そしてやってきた例のショッピングモール。

 原作だと緑谷くんが死柄木とお話しする場所だが、私服警官やら私服ヒーローが常時パトロールしているのもあって安全性はかなり高い。

 だから来ている人たちはみんな平和な日常を過ごしている。

 

「待ち合わせ場所ってここであってる?」

「あってるはずだ」

「もう少し待ってみようよ。私たちが先に着いたのかもしれないし」

 

 俺たちの会話に俺と手を繋いでいる黒刃が「誰か来るの?」と訊いてきたので、被身子ちゃんが「お友達が来るんだよ♪」と答えると、黒刃は「お友達!」とワクワクし出す。

 俺たちの友達=自分の友達という感覚なので、黒刃的にはまた一人お友達が増えることが嬉しいみたいだ。施設ではみんなとお友達になっててアイドル的存在だし。

 流石は仏頂面の炎司さんを前に泣くどころかヒゲを引っ張って遊び出した強靭メンタル持ちのコミュ力お化けである。

 

「ごめん、お待たせー」

 

 そこへ待ち人である響香ちゃんがこちらへ手を振って小走りでやってきた。

 響香ちゃんも無事に合格し、メッセージアプリでやり取りして仲良くなって、今ではみんな名前で呼び合うまでになってる。

 てか思ってた通りロックな私服や。なんだ、あの斜めカットのチャックの革ジャケット。スキニーデニムパンツにも音符のプリントとかベースギターのプリントが施されてるし。チョーカーとかトゲトゲしてるし。

 パンクファッションとロックファッションの違いがいまいち分からないけど、いかしている、クールだってのは分かる。

 被身子ちゃんなんてもろ地雷系ファッションしてるし。かわいいし似合ってるけれども。

 俺としょうくんが浮いちゃうなー。いや、ごめんなさい。しょうくんはイケメンだから白のワイシャツにジーパンでも最高にカッコいいです。

 黒と紫のチェック柄の長袖パーカーとドクロマークがデカデカ入った黒のサルエルパンツの俺が一番浮いてます。パーカーの背中にもドクロマークあるしね。なんか地毒白刃になってからドクロマーク好きになってんだよな。中学卒業したばっかなのに指輪も中指にスカルのやつ嵌めるの癖になってるし。

 あ、因みに黒刃は黒の長袖Tシャツ(左胸にワンポイントのドクロマーク)に淡いピンクのロングフレアスカート。うわっ、俺の妹天使過ぎ!

 

「大丈夫だよー、私たちもさっき着いたとこだから」

「なら良かった。あ、この子が白刃がいつも言ってる天使ちゃん?」

「そ、妹の黒刃。黒刃? 俺たちの友達の耳郎響香ちゃんだ、ご挨拶」

「こんにちは。地毒黒刃、8歳です。空気の読めない焦凍がいつもご迷惑お掛けしています。頭にきたら遠慮なく頭叩いていいですよ」

「ぶふぉ!!!!」

 

 黒刃の言葉に盛大に吹き出す響香ちゃん。

 妹よ。兄はそんな自己紹介をするとは全く思っていなかったぞ。しょうくんもしょうくんで相変わらずスンッてしてるし。

 

「白刃、アンタの妹、最高にロックだね……」

「ツボ浅過ぎだろ、響香ちゃん」

「いやいや、マジで油断してたとこに豪速球来たから……うははっ」

「黒刃ちゃんの自己紹介は焦凍くんを落としていくスタイルですからねー」

「やめて、被身子……お腹痛い……」

「響香、お前もそっち側だったのか」

「ご、ごめ、焦……ぶふふっ!」

 

 しょうくんがこれ以上やると拗ねて泣いてしまうので、俺はしょうくんの頭をヨシヨシする。

 そうすればしょうくんのご機嫌は戻るから。

 本当に犬っぽくなってしまったな、しょうくん。

 

「黒刃、そういう自己紹介のやり方、お兄ちゃん嫌いだなー」

「お兄ちゃん、ごめんなさい。焦凍もごめんね」

「おう」

 

 うんうん。素直で大変よろしい。

 ということで響香ちゃんも加えて、まずは一番面倒な制服を頼みに行く。

 細かく採寸しなきゃいけないから一番面倒なのよ。

 

 ◇

 

 取り敢えず比較的採寸が早い俺としょうくんが先に済ませ、奥の方へ被身子ちゃんと響香ちゃんが採寸しに行ってしばらく経った。

 

「黒刃、喉乾いてない?」

「大丈夫!」

「そっか。でも一応一口だけ飲んどこうな」

「はーい!」

 

 エンデヴァーの写真がプリントされた水筒から麦茶を飲む黒刃。

 ずっと轟家でお世話になっていたから、黒刃はジュースとかよりお茶が好きなのだ。

 

「お待たせー」

「やっと終わったよ……」

 

 そこへ戻ってきた二人。

 被身子ちゃんはいつも通りだけど、響香ちゃんはちょっと疲れた感じに見える。

 

「響香ちゃん、大丈夫?」

「あ、うん。ウチ採寸とか滅多にしないイベントだから慣れてなくて」

「ああ、なるほどね。女の子なら採寸も俺らより細かくやんないとだしな」

「そーそー、はー……」

「響香ちゃん、お茶飲む?」

 

 お疲れ気味の響香ちゃんに黒刃が自分の持っていた水筒を渡そうとすると、響香ちゃんは胸を押さえて「大丈夫」と返した。

 分かるよ。かわいいだろ、うちの妹の上目遣いの首傾げは。

 

「じゃあ次は書店行って教材頼んでくるか。それが終わったら、少し早いけどフードコートで一休みしよう」

「あんま食わねぇハンバーガー食いてぇ」

「バーガーヒーローは入ってたな、確か」

「お、いいな」

「私はフライドチキン食べたいなー」

「ならウチもそうしようかな」

「あたしお兄ちゃんと同じのがいいー!」

 

 教材のことよりお昼の話ばかりだったけど、まあ仕方ないよね。勉強よりは食の方が楽しいもの。

 

 ◇

 

 フードコートへやってきた俺たちは、取り敢えず俺と黒刃以外に先に注文してくるように言って、確保したテーブルで待機。

 その間に入ってるテナントを見て、黒刃が好きそうなテナントを絞る。

 

「黒刃、お魚食べたい?」

「お兄ちゃんも?」

「うん、ほらあそこに海鮮丼とかやってるお店あるから」

「食べたーい! イクラ丼!」

 

 黒刃はイクラが大好物。よく分からないけど、前世で俺も小さい頃はイクラ好きだった。

 決まったところでしょうくんが戻ってきたので、交代して俺と黒刃も注文に行った。

 

 ―――

 

 みんなそれぞれ頼んだ物が出来上がり、早めの昼食。

 しょうくんはチーズバーガー2つに何か卵やらトマトやらが挟んであるデカいバーガーとポテト、チキンナゲット、お茶。

 被身子ちゃんと響香ちゃんはフライドチキン2つとポテト、フライドチキン2つとビスケット2つのセットをシェアするらしい。

 黒刃はイクラ丼で、俺は穴子丼。

 

「黒刃ちゃん、ポテト食べる?」

「食べるー! 被身子ちゃんはイクラいるー?」

「じゃあ交換しようか」

「いいよー!」

 

 和むなぁ、この空間。

 仲良くシェアして食べさせ合う黒刃と被身子ちゃんに、黙々とハンバーガーをリスとかハムスターみたいに食べてるしょうくん。

 

「白刃って本当に黒刃ちゃんたちのこと好きだね」

「え、そう?」

「そりゃあそんだけ微笑んでれば付き合いの短いウチでも分かるよ」

 

 マジか。そんなバレバレだったか。仕方ないよ。こんなかわいいに囲まれてる空間にいたら、表情筋だって仕事忘れるよ。

 

「あたしもお兄ちゃん大好き!」

「私も白刃様命だよー!」

「白刃は俺らが幸せだと幸せだもんな」

 

 三人に言われて嬉しいけど気恥ずかしい。

 仕方ないじゃん。精神年齢はもうおじいさんなんだし、こんな青春前世でも味わったことなかったんだから。

 

 照れ隠しに俺は穴子丼を掻き込んで、周りからの生温かい視線から逃げた。

 

 ◇

 

 その後は個人での買い物。俺に至っては黒刃が欲しがったエンデヴァーの消しゴムとか鉛筆を買ってあげたりした。

 

「あ、ウチちょっと寄りたいとこあるんだけどいい?」

 

 響香ちゃんの言葉にみんなでいいよと頷くと、響香ちゃんはお礼を言って目的地へ。

 着いた場所は楽器店。

 あー、響香ちゃんだもんなー。

 俺も前世ではビー〇ルズとかロー〇ング・ストーンズとか英語も分かんないのに洋楽にハマって、ギターとかベースとかやったっけ。

 指が短くてコード押さえられなくて続かなかったけど。

 唯一楽器で続いたのはハーモニカと地元のお祭りで演奏していた篠笛くらいだ。

 

「何買うの、響香ちゃん?」

「ピック。いつも使ってるやつがそろそろヤバいから」

「響香ちゃんってどんなピック使ってるの? サムピックとかフィンガーピックとか?」

「お、白刃結構知ってる口? ウチはこのブランドが今のとこ一番好みの音出してくれるから好きなんだよね」

「お〜、エイジド加工されてるやつか。ここのってヴィンテージ風でいいよな」

「マジか。話通じてくれて超感激なんだけど。周りに音楽やってる人少なくて」

「俺は前(前世)にかじった程度だ。ハーモニカと篠笛なら今でもたまに吹くよ」

「へぇ、いいじゃんいいじゃん♪ 篠笛ってのも渋くていいね♪」

 

 二人で思わず盛り上がっていると、当然話の内容がさっぱり分からないしょうくんたちが宇宙の猫みたいになっていたので、みんなは何か興味のある楽器がないか訊いてみる。

 すると、

 

「俺は……音楽自体あんま興味ねぇな。でも白の笛は落ち着くから好きだ」

「私は白刃様の笛になりたい♡」

 

 しょうくんも被身子ちゃんも楽器には興味がないみたい。まあ普段から楽器の話なんて一度も出てこなかったから分かってたけど。

 

「黒刃は何かあるか?」

 

 黒刃に振ると、黒刃は「あたしは……」と言いながら店内をキョロキョロする。

 そして何か見つけたのか、俺の手を引いてある場所へ。

 

「これ!」

「…………見る目あるね、黒刃ちゃん」

 

 響香ちゃんが感心しながら言葉を零す。

 でも俺も贔屓目とか抜きにそれをチョイスするのは凄いと思った。

 だって黒刃が指さしたのは、

 

「ホワイトファルコンってなんだ?」

「うわぁ、0がいっぱい……」

 

 世界一美しいと言われるギターだから。

 

「黒刃ちゃん、ギター弾いてみたい?」

「うん!」

「じゃあこれは大きいからまだ弾けないけど、あっちの子ども用のはお試し出来るからやってみようか」

「やるー!」

 

 そして店員さんに言って子ども用のギターを弾かせてみることに。

 するとどうだ。響香ちゃんが一度音階のドレミを教えただけで黒刃はすぐに一本ずつだが、今日初めて触ったとは思えないくらいスラスラときらきら星を弾いてみせた。

 俺がたまにハーモニカで吹いてたのを覚えていたらしい。

 これには俺も他のみんなもいい意味で言葉を失った。ヤバ。俺の妹は音楽の天才かもしれない。

 

「黒刃ちゃん、本気で音楽やってみない?」

「んー、お兄ちゃんが一緒ならいいよ!」

 

 ギュインッてめっちゃ勢い良く俺の方を向く響香ちゃん。怖い。怖いよ!

 

「いやぁ、俺、ギターは挫折したから……」

「いいじゃんもう一度やりなよ大丈夫ウチが教えてあげるよそれに趣味だっていいウチだってヒーロー目指しながら音楽活動する気でいるし一緒にやろうよもう一度ウチとそれに黒刃ちゃんほどの才能持ってる子は珍しいし音楽やることは教育にもいいってウチの両親言ってたし」

「響香ちゃん! 響香ちゃん息継ぎ忘れてるよ!? 落ち着いて!」

「……あ、ごめん」

 

 恥ずかしそうに俯いた響香ちゃん。いやかわいいけれども。

 んー、どうしたものか。

 

「黒刃」

「なぁにお兄ちゃん?」

「ギター好き?」

「うん!」

「じゃあこの響香お姉ちゃんに教えてもらう? お兄ちゃんはギターはやらないけど、見学ってことで一緒にいるよ」

「ならやるー!」

 

 黒刃が元気に手をあげて言えば、

 

「よし、決まり! 子ども用のギターはウチが用意するから大丈夫だよ! 白刃、あとでスケジュール確認していつから始めるか決めよう! あ、黒刃ちゃんはまだ小学生でウチの家に通うのは大変だろうから、ウチが白刃の家に行くよ!」

 

 あれよあれよと言う間に話が進んだ。

 響香ちゃん、本当に音楽好きなんだな〜。好きなことへとことん一途なのって微笑ましい。

 

「ちょ、ちょっと、そんな目で見ないでよ……」

「え」

「だからその、焦凍とか被身子にするような、目……恥ずいから」

「かわいいなおい」

 

 照れる響香ちゃんに思わず俺はつぶやいて頭を撫でてしまった。

 うん、なんだろうね。歳の近い妹がいたらこんな感じだったのかな。被身子ちゃんは妹というか、しょうくんタイプでペットっぽいから。

 

「や、やめろ!」

「ごめんごめん」

「まだ撫でてる!」

「いいじゃん、撫でるくらい」

「恥ずいっての!」

 

 そうは言いながら逃げないのね、響香ちゃん。素直じゃないのぅ。

 

「白……」

「白刃様ぁ」

「お兄ちゃん」

 

 Oh……マイフレンズとマイシスターまで対抗心バリバリで頭を寄せてきよる。かわいいに囲まれて幸せだなぁ。

 てことでしょうくんたちの頭も順番に撫でて、楽しいショッピングは終わりましたとさ。

 

 被身子サイド

 

 今日は白刃様とショッピング!

 焦凍と黒刃ちゃんも一緒!

 響香ちゃんも来るんだ〜!

 楽しみ〜!

 楽しみ過ぎて夜中まで笑ってたら、隣の部屋の子たちに「もう寝なよー」って言われちゃった。

 

 私が普段過ごしている地毒児童保護施設の「地毒園」は広い。

 幅広い年代の子どもたちが寮生活をしてる。

 病院の敷地内にあるけど、4棟も男女別になってて、幼児期〜小学生と中学生〜高校生で別れてるの。部屋は10畳くらいの個室で鍵付き。

 私なんかは小学生の頃に入ったけど、最初から中学生の子たちが入る棟に入ってる。でも新しく入園した子がいるとみんなで歓迎会したり、お誕生日会したり、週に一度はみんなでお食事会したり、何かとみんなと過ごす時間は多いかな。

 中には付き合ってるカップルもるし。

 あと当然だけど、門限とか食事とか消灯とか各棟ごとに違いはあるけどみんな決まってる。キッチンはいつでも利用可能だから、お料理する子もいるね。

 

 あと他の施設のことは行ったことないから分からないけど、地毒園だと中学生になると専用のスマートフォンが贈られる。通信料とかも地毒園が払ってくれるけど、当然利用上限は決められてるから好き勝手には使えない。私はそもそも電話とメッセージアプリしか使わないけどね。パソコンだってリビングに5台あるから、予約しとけばいつでも使えるし。

 高校生になればアルバイトが出来るようになるから、あとは自分でお小遣い貯めて自分で好きな機種に変えたり、料金設定も自分なりに出来るから、みんな基本的にそうしてるみたい。

 私は雄英入るからアルバイトしてる暇なさそうだし、このまま甘えちゃうことにしてる。卒業したら考える予定。

 あ、でもその前に壊れちゃったりしたら買い替えないといけない。中学生の間なら地毒園が面倒見てくれるけど、高校生になると自由な時間が増える分、そういうところは自己責任になるから。

 

 因みに今回のショッピングは高校へ通うにあたって必要となる教材とかを買うんだけど、そういうのは地毒園に後払いしてもらえるので心配なし。文房具とかも地毒園特製のICチップ付き所属カードを提示すればいいだけ。流石に高額になる場合は職員さんに相談してからじゃないとダメだけど。

 お洋服とか下着とかは毎月個人個人に支給される生活維持費でやりくりするから、本当にお金には困らない。

 

 私の場合は度々白刃様が文房具とかお洋服とかプレゼントしてくれるんだけど、もったいなくて使えない!

 

 ってことで、今日はお気に入りの服でショッピング♪

 白のレース丸襟リボンブラウスで、長袖のところにいっぱい黒いリボンが付いてて、チラッと素肌が見えててかぁいいの!

 スカートは黒のティアードスカートで白のハート型のベルトに、黒の丸いローヒールパンプスを合わせればオーケー!

 あ、白刃様みたいなドクロマーク入った白ニーハイソックス履いてこー♪

 

 そしてショッピングを一日中楽しんだ!

 

 えへへ〜、みんなかぁいかったなぁ♪

 お買い物楽しかったなぁ♪

 今日は本当に最高の一日だったぁ♪

 

 白刃様は素敵だったし、黒刃ちゃんと響香ちゃんはかぁいかったし、焦凍はいつも通りだったし、幸せだったなぁ♪

 

 でも改めて知ったけど響香ちゃん楽器弾けるの凄いなぁ。

 私は興味ないけど、弾いてるとこ今度見せてもらお〜♪

 黒刃ちゃんもギター弾けて凄かったから、響香ちゃんに教わったら今度聴かせてもらお〜♪

 

 はぁ、それより私は白刃様が吹いてる笛になりたい。

 そうしたら私死んでもいい!

 でもそうなったら白刃様に私が幸せになるとこ見せられなくなっちゃうから我慢我慢。

 だからせめて夢の中で白刃様に息を吸ったり吐いたりしてもらおー♪

 夢の中でまた会おうね、

 

 私の運命の人(ヒーロー)♡

 

 響香サイド

 

 うわぁ、男子に頭撫でられたー!

 恥ずいー!

 

「でも、白刃の手……優しくて、温かかったな……」

 

 って、何考えてんだウチはー!

 というか、白刃はアレだよ! 

 そうアレ!

 えぇと……たらし!

 じゃなきゃあんな自然に頭撫でてくるなんて有り得ないし!

 

「でも、またして欲しいかも……被身子たちがしてもらいたがるの分かっちゃった」

 

 だってあれ気持ちいいもん。

 

 

 

 

 だから何考えてんだウチはーーーーー!




読んで頂き本当にありがとうございました!


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雄英高校初登校。

すっごい原作と変わってしまってますがご了承を。まあ今更ですよね?
てことで今回もご都合主義が暴威を振るう!

初登校の際の席順は成績順?っぽかったのですが、ここでは最初からあいうえお順にしてます。


 

 今日からとうとう雄英高校で俺の高校生活が始まる。

 俺、しょうくん、被身子ちゃんはA組。響香ちゃんも勿論A組。

 合格通知のあの妙にハイテクな映像レター……俺は校長先生だった。

 しょうくんはセメントス先生で、被身子ちゃんは13号先生だったらしい。因みに響香ちゃんは俺と同じだったみたい。

 あれって先生たちで担当してるんだな。

 というか、原作だとオールマイトが今年から教師になるはずだけど、どうなってんのか分からんのよな。受験勉強の合間にニュース番組だけは欠かさずチェックしてたけど、爆豪くんが捕まって緑谷くんが奮戦するヘドロ敵ニュースもなかったし、それこそオールマイトが雄英高校の教師になるってニュースもなかった。

 

 ともあれ俺はしょうくんと被身子ちゃん、響香ちゃんと一緒にA組のクラスへ来た。

 ここでいきなり飯田くんと爆豪くんが口論してるシーンを見れるんだよなぁ。てか生のA組メンバーをやっと全員拝めるのが嬉しい。

 

 ガラガラと扉を開けると、

 

「おい、デク! てめぇ、さっさとそのナードノートしまえや!」

「かっちゃん、そんなこと言わないでよ! 今聞いたみんなの個性をちゃんとメモしないと気が済まないんだよ!」

「だぁから! そんなもん家でやれってつってんだよ! このクソナード!」

 

 あれれれぇ?

 爆豪くんが爆豪爆豪してないぞぉ?

 ちょっと口の悪い世話好きヤンキーくらいだぞぉ?

 いやまあそれも爆豪くんなんだけど、なんというか緑谷くんに対して当たりが火の玉ストレートからストレートくらいの甘さがあるぞぉ?

 てか緑谷くんと普通にお喋りしてる時点でおかしいぞぉ?

 二人の間に何があったのぉ?

 おじさん気になるなぁ!

 にしても緑谷くん可愛いな。こう、何ていうかぼの〇のに出てくるシマリス的な、小動物系。ピンクじゃないけど緑は目に優しいからね!

 

 ってあれ?

 

「おはようございまぁぁぁぁぁすッ!」

 

「うぉっ、うるさっ!?」

「……うるせぇな」

「誰ですか? 響香ちゃんの知り合い?」

「いや、ウチも知らない……」

 

 俺がふと思った瞬間に大声で挨拶されて仰け反ると、

 

「すんませんッス! 俺、夜嵐イナサって言うッス! よろしくお願いしますッ!」

 

 大声の正体が謝ってから自己紹介してきた。

 そう夜嵐くんだよ夜嵐くん。なんで雄英にいるんだ?

 あ、エンデヴァーがファンサービスもするようになったからか。

 原作だとしょうくんより個性の使い方が上手で、推薦入試受けて受かってたんだもんな。エンデヴァーから塩対応されてないから、素直に雄英入ったのか。

 

「君はエンデヴァーの息子さんッスよね!?」

「あ、ああ……」

「俺、エンデヴァーの大ファンなんッス! その息子さんと同じクラスとか夢みたいで感激ッス!」

「お、おう」

 

 うわぁ、あのしょうくんが引いてるよ。

 でも確かに名前の通り嵐みたいでビビるな。

 

「そっちは地毒先生の息子さんッスね!」

「え、俺のことも知ってるの?」

「勿論ッス! 実は俺、個性暴走させた時に大怪我して、その時に先生に助けて貰ったッス!」

「そう。てか父さん、母さんどっちに? 地毒先生って言われてもどっちも地毒先生だから」

「両方ッス!」

「ああ、よっぽど凄い暴走したのね」

「はいッス! でもこの通り! 元気ッス! 改めて! 先生に! お礼! 言っておいてほしいッス!」

「ああ、うん。分かった」

 

 まさか俺の両親とも面識あるとか、よく分からんね世の中。

 それから夜嵐くんに言われて、黒板に貼られてる席順を元に俺たちも自分の席についた。

 

 というか、席順見てビックリした。

 だってさ、A組の人数24人もいるよ?

 原作だと20人だったのにだよ?

 確かに俺と被身子ちゃんとか夜嵐くんがいれば増えるだろうけどさ。

 原作よりも教室広い感じがするし。

 

 因みに席は廊下側の縦一列が前から青山くん、芦戸ちゃん、蛙水ちゃん、飯田くん、麗日ちゃん、尾白くん。

青山くんの隣の縦一列が上鳴くん、切島くん、口田くん、砂糖くん、障子くん、響香ちゃん。

上鳴くんの隣の縦一列が心操くん、瀬呂くん、俺、常闇くん、被身子ちゃん、しょうくん。

心操くんの隣の縦一列が葉隠ちゃん、爆豪くん、緑谷くん、峰田くん、八百万ちゃん、夜嵐くん。

 

 そう! 心操くんまでヒーロー科のA組にいるのだ!

 いやぁ、うん、もうほんとどうなってのんかさっぱり分からん。

 てか、後ろに常闇くんおりゅぅぅぅ! かわっ! 鳥ヘッドかわっ! 目の前には瀬呂くんだし、右隣口田くんだし、左には緑谷くんだしぃぃぃ!

 ああ、今日俺は幸せの過剰摂取で死ぬのかもしれない。

 

 周りの子たちに軽く挨拶しつつ、時計を見れば普通の学校ならチャイムが鳴る頃なので、わざわざ俺の方へ向いて声をかけてくれている瀬呂くんに「そろそろ時間かもよ」って前を向いてもらった。

 

 すると他の子たちも席について私語をやめたので、一気に教室内が静かになる。

 原作じゃ相澤先生が入ってくるんだけど、この世界だと誰になるんだ?

 そんなことを考えていたら前のドアがガラリと開いた。

 A組担任の先生は、

 

「あら、もっと時間を忘れてきゃいきゃいと初登校のドキドキワクワクを謳歌してるのかと思ってたのに、静かに席についてるなんてお利口さん揃いじゃないの。鞭の打ち甲斐がないじゃない」

 

 ミッドナイトこと香山睡先生かよ!?

 いや確かに原作の企画当初はA組の担任に設定されてたっぽいけどさ!

 いいの!? 担任がこんな破廉恥なヒーロースーツの人でいいの!?

 ほら、峰田くんがもう怪しい笑い声出してるよ。

 

「はい、では改めて注目。私はこのA組の担任、香山睡よ。ヒーロー名はミッドナイト。担当教科は現代ヒーロー美術史。ヒーロー美術史は主にコスチュームのことになるわね。そのヒーローコスチュームが造られた社会背景や宗教、哲学といったものを知る手がかりになる学問って感じね。私の呼び方は通常時は香山先生。ヒーロー科の授業ならミッドナイト先生と呼ぶように。面倒なら先生でいいわ」

 

 みんなして『はい』と返事をすれば、香山先生は「熱い視線と青臭い感じが……」とかつぶやきながら頷いてた。本当にいいの、この人が担任で?

 

「で、今日やることなんだけど、本来なら始業式に参加するとこなんだけどぉ、ヒーロー科はそんなことに時間を使う暇はないの。それにここだけの話、始業式は拷問みたいなものだから」

 

 拷問……? ああ、校長先生の特に意味もない長くて有り難いお話があるからか。

 

「では香山先生、ヒーロー科の生徒はこれから何をするのでしょうか!」

 

 飯田くんがビシッと手をあげて質問すると、

 

「ヒーロー科は毎年恒例、個人の実力把握テストを行うわ。なのでみんな、今から配るジャージを持って更衣室で着替えて、校舎から一番近くのグラウンドに集合。青山くんから順番に取りに来て」

 

 香山先生はそんな言葉を返し、みんなジャージを受け取って更衣室へと向かった。

 というか相澤先生方式が普通に採用されてるんだな。不思議だ。

 

 ―――――――――

 

「おい、毒野郎」

「ん?」

 

 更衣室で着替えていると、爆豪くんから声をかけられる。

 何故だ?って思ったと同時に原作で読んでたみたいな荒々しい刺々しさがないとも思ってしまった。なんていうか、爆豪くんが爆豪くんしてないって感じなんだよな。

 

「てめぇと隣の半分野郎。それと目つき悪ぃ団子頭の女。三人まとめて俺がぜってぇブッ殺す」

「んんんんん?」

 

 イミガワカラナイヨ?

 

「刺々ボンバーヘッド。俺の白に手を出してみろ。一生消えない火傷を全身に刻んでやる」

 

 しょうくん!? なんて物騒なことを言うの!? というか俺のって何、俺のって! 俺は誰のでもないからね! そもそもお兄ちゃんはそんなこと言う子に育てた覚えはなくてよ!?

 

「ご、ごめんね、二人共! かっちゃんは負けず嫌いだから、二人と……あと君たちと一緒にいた女の子がかっちゃんより入試の成績良かったから、ライバル視してるだけなんだ! 言葉はアレだけど、本当に殺そうとしてるとかじゃないから!」

 

 緑谷くんが必死にフォローを入れるが、案の定爆豪くんは「てめぇは黙ってろ、デク」とさっきよりは落ち着いて言い放ち、しょうくんと睨み合う。

 うーん。イケメンが睨み合うって本当に目の保養になるけど、更衣室の空気が氷点下になっちゃったな。

 というか、エンデヴァーのせいか精神年齢おじいさんのせいか、爆豪くんがどんなに凄んでも小型犬が威嚇してキャンキャン吠えてるイメージなんだよね。失礼だから言えないけど。

 

「ほらほらしょうくん。睨まない。ライバル宣言というか、打倒宣言って緑谷くんが教えてくれたでしょ?」

「……悪ぃ」

「一定評価を下回れば除籍処分だって当たり前の雄英高校ヒーロー科だ。成績を争うのだって日常茶飯事なんだし、爆豪くんみたいな人がいれば気を抜かずにいられるじゃん」

「そうだな」

 

 うん、分かったなら、良し。なので俺はいつものようにしょうくんの頭を撫でてやる。

 するとしょうくんは嬉しそうにまぶたを閉じて撫でられてるけど、爆豪くんは思い切り舌打ちして更衣室を出ていった。

 そのあとを追う緑谷くんに「本当にごめんね!」って謝られたけど、別に言葉が物騒だっただけだからね。そもそも俺は気にしてない。

 しょうくんに至っては俺に撫でられてご満悦だし。

 

 てことでミッドナイト先生の立ち会いの元、A組は実力把握テストが始まった。

 少し離れたところでB組も同じことしてるのが見えたけど、B組は原作通りにブラドキング先生だね。真面目で熱血教師ってイメージしか残ってないんだよな。でも確実にミッドナイト先生より思春期な子たちの目の毒じゃない。

 

「教室で言ったように、これから実力把握テストを行うわ。今の自分の実力を知ってもらうためにね。種目は50メートル走、握力、立ち幅跳び、反復横飛び、ボール投げ、上体起こし、前屈よ。記録は今から渡すタブレット端末に記入していくこと。壊したら反省文よ」

 

 ミッドナイト先生は説明しながら端末を配っていく。

 

「それと個性の使用許可は取ってるから、使える子は好きに使っていい記録を打ち出すこと。出し惜しみしても何も意味ないからね。また私の個性みたいに使いどころが敵への妨害や捕縛を得意とする個性の子もいるでしょうけど、記録が悪いからと除籍にはならないから、そこは安心していいわ。あくまでも今回は今の自分の実力を己が把握するためのテストだからね」

 

 それじゃあ順番に測定していくわね、とミッドナイト先生は鞭をしならせ、俺たちは配置についた。

 

 ―――――――――

 

 把握テストは無事に終わった。

 俺も被身子ちゃんも特に個性を使ってブッパするみたいなことはなかったけど、しょうくんはボール投げでブッパしてたね。氷で冷やしたボールを真上に投げて炎を浴びせて水蒸気爆発みたいにしてふっ飛ばして、麗日ちゃんみたいに∞って記録出したもの。ボールって本当にキランって飛んでくのね。夜嵐くんも凄かったけど、しょうくんの方が個性の扱いが上手なようだ。

 そんな記録出したあとに、俺のとこまでとことこ小走りしてきたしょうくんが「ん」って頭を差し出してきたから、俺にはその頭を撫でるしか選択肢がなかった。

 テストの結果も炎司おじさんから鍛えられてたから、俺も被身子ちゃんも上位には食い込めたよ。

 

 というかですよ。

 たまたま緑谷くんのタブレットの画面が見えて分かったんだけど、普通に個性持ってたよ!

 しかも2つ!

 お母さんの物を引き寄せる個性とお父さんの火を吹く個性!

 そして相変わらず持参してたノートにみんなの個性の分析メモしててかわいかった。その都度爆豪くんに「やめろクソナード」って頭叩かれてるのもかわいかったし、それに対して「えへへ」って笑って誤魔化してる緑谷くんもかわいかった。というかそんな二人のやり取りがかわいかった。

 

 そして教室へ戻ろうとしていた時、

 

「なぁ、あれ入学式に行ってた他の科の奴らだよな?」

 

 峰田くんがそう言って指さした方をみんなして見ると、そこにはどんよりとしたような、明らかに疲れ切ってげっそりしている生徒たちがとぼとぼと歩く姿が見えた。

 

「……のっけからテストで驚かされたけど、あれ見ると良かったって思っちまうな」

「だなぁ」

 

 切島くんのつぶやきに上鳴くんが同意すれば、他のみんなも同様に頷いている。

 校長先生の話って本当に無意味な話が多くて長いからなぁ。ハイスペックなのに。

 それから教室に戻ったA組は香山先生に言われてみんなの前で一人ずつ自己紹介し、明日の連絡を受けて解散となった。

 実力把握テスト以外は至ってどこの学校でもするような時間だったな。

 

「白、帰ろう」

「帰ろ、白刃様♡」

 

 香山先生が教室をあとにしてすぐ、しょうくんと被身子ちゃんが荷物を持って俺の席までやってくる。

 

「被身子、良かったらウチらと帰らない? 親睦深めるのに女子は駅前で食事しようかって話になってるんだよね。ほら女子は人数少ないし」

 

 そこへ響香ちゃんが被身子ちゃんに声をかけた。

 

「被身子ちゃん、行ってきたら?」

「えー、でも私は白刃様と……」

「じゃあ帰る頃になったら連絡してよ。それまで俺としょうくんもどっかで飯食ったりして時間潰すから。しょうくんいいよな?」

「ああ。駅前でどこの蕎麦屋が一番美味いか知りてぇしな」

 

 すると被身子ちゃんは表情を輝かせて「じゃあ連絡するね!」と返して、一度俺に抱きついてから響香ちゃんと共に女子たちの輪へ向かう。

 俺としょうくんが被身子ちゃんたちを見送っていると、

 

「なんだぁ? 地毒てめぇ? いきなりリア充見せつけていいご身分だなぁ?」

 

 峰田くんが凄い形相で俺を見上げてきた。

 ちっさくてかわ! 頭のもぎもぎかわ!

 

「リア充って……まあリアルは確かに充実してるかな」

「もう彼女持ちでマウント取ってきやがった!」

「いや、被身子ちゃんとはそういう関係じゃないぞ。仲がいいってだけ」

「本当か?」

「うん、本当」

「抱きつかれた感想は?」

「かわいいなって」

「キィィィィィッ! これだからイケメンはよォォオオ!!!!!」

 

 そう叫ぶと峰田くんは走って帰ってしまった。

 何かしら彼の癪に触ってしまったんだろうな。

 

「飯食いに行くなら俺もお供していいッスか!?」

「俺も行きてー!」

「女子だけ親睦会ってのもズルいしな! 俺らも親睦会しようぜ!」

 

 夜嵐くん、上鳴くん、切島くんに声をかけられたので、俺もしょうくんもいいよと頷けば、上鳴くんたちが教室に残ってた男子たちに声をかけて用事がない子たちで食事をしに行くことになった。

 因みに昇降口で峰田くんがまだ帰ってなかったので誘うと、嬉しそうに参加してくれた。ぴょんぴょん飛び跳ねててかわいかった。

 

 また食事はしょうくんが蕎麦屋巡りだと言って譲らなかったけど、みんなはそれでもいいということで4軒の蕎麦屋をはしごした。

 俺とか口田くん、常闇くん、峰田くんは四人で一つの蕎麦を分けて食べたけど、他のみんなは余裕で一人前食べてた。流石食べ盛りの男の子たちだと思ってしまった。

 

 被身子サイド

 

「ここがファミリーレストランというもの、なのですね……まあ! 安いですわ! こんなに安くて経営は出来ていますの!?」

 

 席に通されてメニューのタブレット端末で値段を見て、八百万ちゃんっていう子が何やら叫び出した。

 口調やら仕草からしてお嬢様っぽかったけど、正真正銘のお嬢様だった。お店に入る前に「ここはドレスコードはありませんの?」って言われてみんな思わずポカン顔しちゃった。

 

「八百万ちゃん、チェーン店なりの戦略がちゃんとあるのよ。取り敢えず食べたい物を頼んで、それからお喋りしましょ」

 

 蛙水ちゃんがまとめてくれると、みんな好きに自分の食べたい物メニューを選んでいく。

 私はどこのファミレスでもハズレが少ないミックスグリルとパンにした。

 

「それじゃあまず私から」

 

 ドリンクバーでみんな飲み物を持ってきて、揃ったところで蛙水ちゃんが小さく手をあげて口を開く。

 

「私は蛙水梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで。私の家は両親が共働きで帰りが遅いから、私が下にいる弟と妹の面倒を見ているの。だから家族を優先させてもらうことが多くなるけど、仲良くしてほしいわ」

 

 蛙の個性の子だからあんまり表情は変わらないけど、声色で優しい人って分かる。

 

「私は麗日お茶子! 三重から来て、寮に入ってまーす! よろしく!」

 

 麗日ちゃんは元気いっぱいな女の子。ニコニコしてて、でも使ってるケータイ電話がガラケーだったりして物を大切にするタイプの子。ほっぺがもちもちしててかぁいい。

 

「寮に入ってるなら私もだよー! 千葉から来た! 芦戸三奈ね! よろしくー!」

 

 ピンク色でお目々真っ黒の芦戸ちゃん。麗日ちゃんみたいに人懐っこい子。角もあってかぁいい。

 

「見た通り透明人間の葉隠透だよー♪ その内私も寮に入るかもー♪ 実家は東京だけど朝早いんだぁ」

 

 透明人間だから表情とかさっぱり分からないけど、葉隠ちゃんも人懐っこい子って感じ。声がかぁいい。

 

「それじゃウチね。ウチは耳郎響香。実家暮らし。よろしく」

 

 響香ちゃんは相変わらずクールでかぁいい。

 すると隣に座ってる響香ちゃんに肩を叩かれた。

 私の番みたい。

 

「渡我被身子です。みんなより2つ歳上ですけど、お気になさらず。地毒園から通ってます」

 

 初対面でちょっと緊張したけど、ちゃんと言えたよね?

 

「最後は私ですわね。八百万百と申します。実家は愛知ですが、近くに別荘がありますので、そこから通うことになりますわ」

 

 別荘……。お嬢様だ。

 あれ隣にいる麗日ちゃん、手が止まってる。そのジュース美味しくなかったのかな?

 改めて自己紹介が終われば、

 

「はいはいはいはーい! 被身子ちゃんに質もーん!」

 

 葉隠ちゃんが元気に私に質問だと手をあげる。

 

「なんでしょう?」

「地毒くんとはどこまで行ってるんですかー!?」

 

 どこまで? どこまでとは?

 

「あー、私も気になってた! なんていうか、被身子ちゃんって地毒くんには好き好きオーラ全開だもん! 轟くんには普通なのにさ!」

「仲良しで微笑ましいわ。ケロケロ」

「こ、これが恋バナですのね!」

「ここここ、恋バナ!? うわっ、え……うわぁぁぁ!」

 

 みんなはしゃいでてかぁいい♪

 そんな雰囲気にぽわぽわしてると、響香ちゃんに脇を小突かれた。

 

「ウチもある程度三人の仲は知ってるけど、実際のとこは訊いてなかったよね? どうなの? いつも白刃様白刃様って隣にいるじゃん?」

「? 白刃様は私の運命の人(ヒーロー)だよ?」

 

 前にも話してるのに変な響香ちゃん。

 

「私たち知らないから教えてー!」

 

 葉隠ちゃんにせがまれたので、私はそのまま白刃様と知り合った経緯をみんなに話した。別に隠すこともないから。

 すると、

 

「んぁ〜! 何それ! 超ヒーローじゃん! そりゃあ夢中になるわ!」

「甘酸っぱ〜い♪ ときめく〜♪」

「惚れてまうやん、そんなん……」

「白馬の王子様じゃなくて、白刃が王子様ね……ケロ♪」

「地毒さん、素晴らしい殿方ですわね! やはり地毒家の長子たる御仁ですわ!」

「え、地毒ってそんなに有名なの?」

 

 私の素朴な疑問に八百万ちゃんは「ご存知ないのですか!?」って言われた。目がクワッてなった。クワッて。

 

「地毒家は超常黎明期の前から今まで医師を排出してきた名門。個性が発現して混乱期の最中でも、差別をせずに敵味方関係なく患者を救い続け、あのオールフォーワンですら彼らに味方になってほしくても中立的立場を貫いたほどです。個性を悪用するより有効活用し、個性で悩む人々には手を差し伸べ、個性を嫌悪する人たちには医療行為以外何もしなかった、と私はお父様から教わりましたわ。今でこそ地元の大病院というスケールに収まってますが、当時は病院といえば地毒病院が代表だったとも。しかしスケールが小さくなった今も渡我さんのような方々を支援しているというのは、地毒家が代々受け継いてきた志によるものかと。本当に尊敬いたしますわ!」

 

 八百万ちゃんの説明にみんな『ほわぁ』ってなってるけど、私は『だから?』って思っちゃった。あ、ご飯きた♪

 

 白刃様のご両親には感謝してるし、尊敬もしてる。

 でも白刃様だから、私は運命を感じたのであって、白刃様が地毒の家の人じゃなくても白刃様は白刃様だから運命の人(ヒーロー)なの。

 

「地毒家が凄いってのは分かったよ? でも白刃様が地毒白刃っていう人間じゃなくても、白刃様は私を救ってくれる運命の人(ヒーロー)だったと思う。それが白刃様だから」

 

 私が感じているままを言うと、

 

「家とか関係なく貴方が好き!ってことか!」

「駆け落ちしても幸せになれるねー♪」

「愛って偉大だわ」

「す、すごい……」

「被身子らしいなぁ」

「確かに、家柄だけでその人が決まる訳ではありませんものね! 渡我さんの言う通りですわ!」

 

 なんかみんな納得してくれた。

 

「でで、結局のところ被身子ちゃんは地毒くんとどこまで行ってるのー?」

「どこまでってどういうこと?」

「だーかーらー! チュウとかした? それともお手手繋いだ? ハグはしてたもんね!」

「チウチウは何度もしてるよ?」

 

 私が隠すことでもないから言うと、みんなお顔を真っ赤にさせて悶絶し始める。何なの? あ、私普通じゃないからか。

 

「待って、みんな誤解してる。被身子のチウチウって血を飲むことだからね?」

 

 響香ちゃんが訂正してくれると、みんなピタッと止んだ。

 

「え、どういうこと?」

「私の個性、相手の血を飲むとその人に変身出来るの。私普通じゃないから、その人の血を飲んでその人その者になれるのが幸せなの」

「ああ! だからチウチウ吸うってこと!?」

「はい」

「なーんだー! じゃあ甘々の方じゃないのかー!」

「白刃様の血は甘いよ?」

「そーじゃなーい!」

 

 葉隠ちゃんは何を私に期待しているの?

 

「もうここまで聞いちゃったからぶっちゃけて訊くけど、被身子は白刃と付き合いたいとか結婚したいとか思ってないの?」

 

 響香ちゃんの質問に私は「ん?」と首を傾げる。

 カップルになりたいか、なりたくないかってことだよね?

 んー、

 

「別に思わないし、思ったことない」

 

 だってずっと一緒にいるもん。付き合うとか結婚とかしなくたって白刃様が生きてる限り、私はその側を離れないもん。

 

 するとみんな『えー!?』って驚いた。

 

「私普通じゃないから、そういうの思ったことない。でも白刃様も私もお互いを大切に思ってるならそれでいいし、満足」

「じゃあ地毒くんがこの子と結婚するっていきなり女の子紹介されたら?」

「白刃様のお嫁さんと仲良くする。だって白刃様が決めた人だもん。きっと優しい人だから」

「こういう形も愛の形かー♪ 思ってたのと違うけど、これはこれで甘ーい!」

「被身子、あんた凄いよ。感服したわ、私」

「愛って本当に偉大ね。ケロ」

「わ、わわ私、そんなん考えたことあらへん……大人やね、被身子ちゃん……」

「私は渡我さんの幸せを祈ってますわ!」

 

 みんな変なの。私はそのまま思ってることを言ってるだけなのに。

 

「被身子」

「何、響香ちゃん?」

「今夜電話する」

「ん? 分かった」

 

 響香ちゃんに小声で電話の約束をされたけど、どうしたんだろう?

 

「てかさ、私思わず被身子って呼び捨てにしちゃったわ」

「気にしなくていいよー、芦戸ちゃん」

「私のことも三奈でいいよ!」

「わぁ、三奈ちゃん!」

「私も透で!」

「私もお茶子でええよ!」

「あ、あの……私も名前で呼んでもらっても……そして私も皆さんをお名前でお呼びしたく……」

『いいよー!』

 

 こんな感じで思ってたよりもみんなと仲良くなれた気がする。

 それに、

 

「ていうかさ、被身子って自分のこと『普通じゃない』って言うけど、全然普通じゃん」

「そうだよ! 血が好きっての以外は地毒君ラブな乙女だもん! 気にすることないよー♪」

「そのことで地毒ちゃんが迷惑していないなら、普通と言っていいと思うわ。愛の伝え方は人それぞれで、愛にもそれぞれあるもの。それに普通じゃないと言ったら、私だって見た目はみんなと違って普通じゃないから、一緒ね。ケロッ♪」

「それ言ったら私も透も普通じゃないから一緒じゃんねー!」

「それに普通じゃなくたってこうしてお友達になれたんだし、ええやんか! 個性持ってる時点でみんな普通やないんやから!」

 

 三奈ちゃんと透ちゃんと梅雨ちゃんから『普通』って……『普通』って言ってもらえた!

 それに『一緒』って! それにお茶子ちゃんは『普通じゃなくたっていい』って!

 嬉しい! 雄英入って、白刃様と出会って、本当に幸せの連続!

 

「私……ひっぐ……みんなと出会えて、えぐっ……良かったよぉ……っ!」

 

 涙が堪えきれなくて、でもどうしても伝えたくて、なんとか言葉にすると、響香ちゃんが頭を撫でてくれた。

 他のみんなも優しい言葉をかけてくれたり、肩を叩いてくれたり、本当に幸せ。

 でも、

 

「白刃様のなでなでテクには及ばないね!」

「おい!」

『あはは♪』

 

 ここだけは伝えとかないと!

 白刃様のなでなでは世界一!

 

 そのあとは梅雨ちゃんの時間が迫ってたから、みんなで急いで残りのご飯を食べて、連絡先を交換して解散した。

 百ちゃんが「ここは私にお任せくださいませ!」って黒いカードで支払ってくれた。みんなで悪いよって言ってるのに、ぷりぷりして「私、一度お友達にしてみたかったのです!」って言われちゃったら、みんな何も言えなかった。お茶子ちゃんはマナーモードみたいに震えてたけど寒かったのかな?

 今日のお礼に今度みんなで百ちゃんに何か手作りのお菓子あげようって決めた。

 

 それからは白刃様と焦凍と合流して、地毒園に送ってもらって、幸せな時間を満喫した!

 

 響香サイド

 

 女子だけの親睦会が終わったその日の夜。

 ウチは被身子に伝えた通り、電話した。

 理由は、

 

『白刃様の好みの女の子?』

 

 白刃について。

 

「あと出しみたいでごめん。ウチさ、付き合いは短いけど白刃のこと異性として好きになっちゃったみたいでさ……でもウチ、ずっと被身子は白刃と恋人になりたいんだと思ってて、この気持ちは閉まっとこうって思ってたんだ。でも今日そうじゃないって分かったから……」

 

 自分でも穢いなって思った。

 でも恋をするのに順番なんてない。

 それに自分のこの気持ちに嘘はつきたくないから。

 

『んー、かぁいい人が好み、かな? 焦凍とか私とか、「かわいいな」ってよく頭なでなでしてくれるから』

「え〜、ウチには無理ゲーじゃん」

『響香ちゃんだって白刃様になでなでされる時あるでしょ?』

「いや、あるけど……あれは妹とかペットとかに対するソレというか……私が求めてるものじゃない気がする。嬉しいのは嬉しいんだけど」

『んー、たぶんなんだけど……』

「うん」

『白刃様って女の子にはちゃんと女の子として扱ってくれるから、響香ちゃんも男の子扱いすればいいんじゃないかな?』

「ごめん、意味わかんない……」

『なんて言えばいいのかなー? こう、思ったことはちゃんと口にする、みたいな? カッコいいよーとか、素敵だよーとか』

「…………無理」

『今度私が変身して練習してみる?』

「それはそれで恥ずい」

『もー! じゃあどうしたいのー!?』

「出来れば白刃の恋人になりたい、です」

『じゃあさり気なくアピールするとか?』

「例えば?」

『ほら黒刃ちゃんにギター教えに行った時とかに、白刃様の手料理ご馳走になったりするよね?』

「うん」

『その時に美味しいとか、白刃様の手料理が毎日食べたいとか伝えるって感じで……』

「それ普通男女逆じゃない?」

『普通がいいなら普通の子に相談して!』

「ごもっともです、ハイ」

 

 でも本当に白刃って基本的に何でも出来ちゃうから、ついつい躊躇っちゃうんだよね。

 唯一ウチが白刃より出来るのって楽器くらいで……ん? そういえば母さんから、父さんによくラブソングのプレゼントされてたって話聞いたな……じゃあ、ウチも―――

 

「だからそれって逆じゃん!」

 

 ―――ちがーう! てか父さんと同じかよ、ウチは!

 

『え、何の話!?』

「あ、ごめん。こっちの話」

『とにかく、逆とか気にしなくていいと思う。普通じゃなくたっていいって今日私にみんなが言ってくれたでしょ?』

「うん、そうだね」

『いひひ、普通じゃなくても幸せになれるんだよ♪』

「被身子が言うと重みが違うなー」

『ふひひひひ、白刃様とみんなのお陰だよ♪』

「相変わらず白刃命だね、被身子は」

『当然!』

 

 被身子に相談して正解だった。

 恋に正解なんてない。

 だって世の中、普通じゃないのが当たり前なんだから。

 ウチはウチらしく、白刃にアピールすればいいんだ。

 

「ありがとう、被身子。アンタが友達で良かったよ」

『私も響香ちゃんが友達で幸せだよー♪』

 

 本当にありがとう、被身子。

 ウチ、頑張ってみるよ。




長くなりましたが読んで頂き本当にありがとうございました!


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エリート校って半端ない。

もう大丈夫!
何故かって?
ご都合主義だからさ!


 

 はいどーもー。

 てことでね。昨日の今日で雄英高校生活2日目を送っていくんですけれども、相変わらずエリート校なだけあって普通の授業も淡々と進んでいくんですよー。

 いやぁ、わかります。わかりますよー。

 だってヒーロー科は午後からの授業は基本的にヒーロー関連の科目が目白押しですものねー。

 ヒーロー科に至っては7限目まであるし、土曜日でも6限目まであるからねー。

 一般科目はこうした時間に注ぎ込まれるからそりゃあハードモード一択っすわー。

 

 俺なんか人生2周目だからなんとかなってるけど、他のみんなは本当に偉いよ。

 前世の俺なら速攻で除籍だわ。寧ろエリート校なんて目指さんわ。

 んでもって、

 

「白、腹減った」

「はい、おにぎり」

「サンキュな」

 

 なんでしょうくんは当然のように三限目終わったら俺のとこに飯貰いにくるのよ。

 いや、中学の頃からそうだったから俺も俺でおにぎり用意しちゃってるのもいけないんだけどさ。

 でもね、言い訳させて? お腹空いて捨て犬みたいな目をするしょうくんに「腹減った……」って俺の上着の袖をクイクイってしながら縋られたらさ、用意するしかなくね?

 中学の時なんて他の奴らの分まで握ってたのもあって、ついつい今日も握ってきちゃったよ!

 どうすっかなって思ったものの、

 

「口田くん、おにぎり好き? 良かったら食べる?」

 

 普通に今まで通り他の子にあげちゃえばいいやってなって、早速しょうくんの後ろにいる口田くんに尋ねてみた。みんな食べ盛りだし余裕でしょ。

 でも口田くんはブンブン首を横に振る。しかしおいちゃん聞き逃してないよ。君の腹の音を!

 

「気にしないでいいよ。俺、中学の時みんなにおにぎり持ってきてたから、その癖で今日も握ってきちゃったんだ。食べてくれると有り難いんだ」

「あ、ありがとう……」

「うんうん、たんとお食べ」

「うん」

 

 口田くん笑った。かわいいなぁ。

 

「中味は昆布だけどいい?」

「うん、昆布好き」

「良かった♪」

 

 2つの大きなお手手でおにぎり持ってもひもひしてる口田くんかわわ。和みが深い。

 

「地毒〜、余ってんなら俺にもくれよ〜!」

「おお、瀬呂くん。お食べお食べ」

「やった、サンキュな♪」

 

 瀬呂くんも細身だけど男子高校生だね。

 

「常闇くんも腹減ってるならどう?」

「いいのか?」

「いいともよ」

「かたじけない」

 

 見た目は鳥でもやっぱり人間なんだな。あ、啄んでるのめっちゃかわいい。

 

「緑谷くんも食べない?」

「え、ぼ、僕!?」

「うん。お隣さんだし、まだあるから」

「そ、そんな……悪いよ……」

「あ、爆豪くんの分もあるよ?」

「え、本当? なら貰おうかな」

「あはは、幼馴染みが食べないのに自分だけ食べるってのは緑谷くんは出来ないタイプか。優しいね」

「そ、そんなことないよ……」

 

 頬を赤くして照れてる緑谷くんにはきっと病を浄化する作用がある。直視したらふぁ〜ってなるもん。

 

「俺は別にいらねぇ。食うなら勝手にしろクソナード」

「かっちゃん……」

「爆豪くんって辛いの大丈夫? 一個だけ半端に余ってた激辛明太子入れてきたんだけど」

「…………はよよこせや」

「おお、ありがとう、爆豪くん」

「くん付けやめろ。キメェ」

 

 素直じゃないなぁ♪ まあ原作で辛い物よく食べてたから明太子チョイスしてきたんだけどね。

 昨日はあんなこと言われたけど、同じクラスなんだから仲良くなりたいもの。さあさあおいちゃんのおにぎりをお食べお食べ。

 

「わぁ、美味しいよ、地毒くん! 塩加減も海苔の香りもお米の炊き具合も! それに保温性の高いお弁当箱に入れてあるみたいだね! まだ温かいもん!」

「……うるせぇ、黙って食えデク……おい、毒野郎」

「ん?」

「この明太子のメーカー教えろ」

「お、気に入った?」

「さっさと教えろや。殺すぞ」

「白に――」

「はい、しょうくんストップ。はいもう一個お食べ。爆豪、明太子のメーカーは◇△ってとこだよ」

「……フン」

 

 しょうくんが爆豪くんに昨日みたいに立ちはだかろうとしたので、もう一個食べさせて落ち着かせたあとで爆豪くんの質問に答えた俺。

 爆豪くん、素っ気ないけどしっかりメモってるのおいちゃん見てたよ。かわわ。

 それから切島くんやら上鳴くんやらも「俺もくれ!」「俺にも!」ってきたから問題なくおにぎりははけた。みんな食べ盛りだもんな。寄ってくるとこなんて犬みたいでほんとかわいい。これが母性か。

 

「良かったら今後もしょうくんの作るついでに用意してくるけど、食べたい人いる?」

 

 俺の周りにいる子たちに尋ねてみると、みんな手をあげた。あ、口田くんと常闇くんもあげてくれてる! 嬉しいなぁ! おいちゃん張り切ってにぎにぎしてきちゃうね!

 ていうか、芦戸ちゃんと葉隠ちゃんも知らぬ間に手をあげてるんだが!?

 いいよ、いいよ。おいちゃん頑張っちゃうから!

 

「地毒くん! そうやってみんなを甘やかすのは良くないぞ! そもそも食事というのは決められた時間に取る方が健康的だ!」

 

 するとここで飯田くんのお叱りを受けてしまった。

 うーん、流石は真面目飯田くん。

 でも俺は敢えて汚い手を使わせてもらうよ。

 

「飯田くん、前歯に青のりついてるよ?」

「何!? それは本当かい!?」

「うん。ちょっと口開けてくれない? 取ってあげるよ」

「ああ、ありがと……むごっ!?」

「飯田くんも高校生なんだから、お食べ♪」

「むぐっ、むぐぐ、むぅ!!?」

 

 反論してるっぽいけど、ちゃんと飲み込むまで口を開けない飯田くんはとても偉いと思う。

 

「オレンジジュース飲む?」

「むっ、んんぬ!」

「はい、どうぞ」

「……ごくん! ぷわぁ、酷いぞ地毒くん!」

「ごめんね。でも美味しかったでしょ?」

「うっ、確かに美味しく頂いたが……」

「休み時間なんだから大目に見てよ。それにお腹減って授業中に集中切らすよりは合理的だと思うんだよね」

「むっ、確かにそう言われてみれば……」

「美味しかったなら飯田くんの分も明日から持ってこようか? 別に悪いことでもないし、授業中に食べてる訳じゃないんだから、許してよ。不快なら場所移したりするから」

「いや……そうだな。堅過ぎるのもクラスの雰囲気を悪くするだけだし、休み時間で何をするかは本人たちの自由だ」

「分かってくれて嬉しいよ、飯田くん」

「ああ! それで、地毒くんが負担でないのなら、明日も頼みたいのだが……」

「お安い御用だよー」

 

 俺がそう言うと飯田くんはぱぁってなった。

 どんなに真面目でもこういうとこは年相応でかわいいな。

 

「じゃあ改めて、中味のリクエストは特例を除いて受け付けません。特例はこれは苦手とかアレルギーとかね。無理って食材がある人は今言ってねー」

 

 するとみんな案外何でもいいらしい。常闇くんはコソッと「梅干しは好かん」って教えてくれた。かわいいなぁもうっ!

 

「了解。それじゃあみんな予鈴鳴るから席につきなー」

「はーい、お母さーん」

「よしよしいい子ね、我が娘よ」

「あはは、地毒くんノリいいねー♪」

「白母さん」

「白刃お母様!」

「しょうくん、被身子ちゃん、変な対抗意識燃やさなくていいから」

「そうか」

「はーい」

 

 このわんこ系イケメンと天使が! いちいちかわいいんだよ!

 

 ―――――――――

 

「はい、それじゃあみんなお待ちかね、ヒーロー基礎学の時間よ。この授業は各教師が交代で教鞭を執るわ。1年生の内にヒーローのなんたるかを叩き込まないといけないからね。だからその前に担任である私から現実的な話をしないといけないの」

 

 午後から始まったヒーロー科特有のヒーロー基礎学の授業。

 原作ならオールマイトが担当するけど、この世界じゃミッドナイト先生や他の先生たちで担当するらしい。

 というか原作と違ってヒーローそのものについて教えてもらえるのはいいかも。いきなり実践だってなっても戸惑うしな。

 

「みんなも知っての通り、ヒーローは一般市民を凶悪な敵から救う仕事よ。己の個性を使い、いかに一般市民の生活の安全を守るか、いかに事故や災害から一人でも多くの一般市民を救うか、いかに自警団や警察と協力するかよ」

 

 みんないつもは気怠そうにしてるけど、流石ヒーロー基礎学ともなるとやる気満々だな。

 

「だからこそ、敢えて言わせてもらうけど個性ブッパして『俺すげぇ!』ってやりたいからヒーロー科にきたのなら、その人はヒーローに向かないから改めなさい」

 

 冷たく鋭いミッドナイト先生の言葉に生徒の誰もが息を飲む。

 

「この中に個性の発現によって周りから『ヒーロー向きだ』とか『勝ち組個性だ』とか言われて、周りからもてはやされてきた子とかもいるでしょう? でもヒーローってのは個性がすべてじゃない。現に今ナンバー10の∞がそれを証明している。よってどんな個性だろうと、無個性だろうと、その人がどういう行動を取るかでヒーローという存在になれるのよ」

 

 ミッドナイト先生の言う通りだ。包丁や狩猟ライフルだってそれを扱う人の行動次第で凶器になるのだから。

 

「夢を壊すようで悪いけど、それが現実であり、ヒーロー飽和状態に陥った理由の1つでもあるの。理想と現実のギャップに絶望した結果、ヒーローを引退するならまだしも、世間を裏切るという選択肢が生まれてしまった。ヒーローという職業こそ未だ存続しているけど、ヒーローを信用していない人も確かにいるからね」

 

 確かにそうだよな。原作じゃ、努力してヒーローになっても活躍する機会が限られてて、それでいて大して稼げないとなると余計に辛いだろう。

 

「現実的な話ばかりで悪いけど、半端な夢を追わせるほど残酷なことはないからしっかり聞いてね? 例えば……地毒くん」

 

「はい」

 

「あなたの個性は?」

 

「毒生成と指先を刃物に変えられることです」

 

「そうね。それがどれだけ危険な個性か分かる?」

 

「はい。自分の思った通りの毒が作れますから、簡単に人を殺めてしまうこともそうですし、下手をすれば大量虐殺も可能になってしまいます。刃物も同様です」

 

「そう。当然地毒くんだけじゃなく、みんなにも言えることね。だからヒーローは個性を悪用しない。他者のために使うこと」

 

 みんなミッドナイト先生の話をしっかり聞いて頷いている。

 

「でも凶悪な敵が現れたら、被害を最小限にするためにも個性をフル活用しないといけない。そこが街中だと仮定しましょう。それも商店街とかね。そしてその敵と地毒くんが対峙し、地毒くんの個性によって商店街の半分が止むを得ず壊滅してしまった。みんなはこれをどう思う?」

 

「半分の壊滅で済んだとポジティブに捉えた方がよろしいかと」

 

 八百万ちゃんが手をあげて言えば、他の子たちもうんうんと頷いた。

 

「そうね。現にオールマイトやエンデヴァーもビル1つ丸々ダメにしただけで済んだ、なんてよくあるものね。それで話を戻すけど、みんながそこの商店街でお店を営んでいて、その崩壊に自分のお店が巻き込まれたらどう感じるかしら?」

 

 この厳しい問いに誰もが口を閉ざす。

 そりゃそうだ。ヒーローの活躍で命が救われたとしても、明日からの生活はどうしたらいいってなるんだから。

 

「勿論、そうした被害は政府がきっちり無償で建築し直してくれるし、十分とまではいかないけど家族構成を考慮した上で支援金も再建期間中は支払われるし、近くの避難施設にも入れてくれるわ。でもだからって敵との戦闘の度に壊し回っていたら敵と大差ないのよ。それにね、世の中って複雑で汚い人間もいるから、わざわざ敵に賄賂を渡して建て直し費用を浮かせるために暴れさせて、ヒーローに介入してもらってって手法まであったの」

 

 うーん。確かにそういう手法も取れるよな。

 敵は拘束されて逮捕されるにしても、服役期間や釈放後のこととかも含めてしっかり取り決めてたら、お互いいいとこ取りも余裕でやれそうだし、そういうのを斡旋するビジネスも出来そう。

 

「そういった手法があったのもあって政府も即時再建に着手はするけど、審査委員会が調べつつ、今後10年は警察官が常時監視って感じになるわ。勿論私服警官も含めてね。警察官が配備されることによって一般市民は治安のために配備しているなんて思われるけど、それは事実ではあるけど根本は違うの。大人って難しいでしょ?」

 

 みんな顔色悪いね。高校生の1年で大人のこういう部分知ると何とも言えないよな。

 ある意味これがミッドナイト先生の優しさなんだろうけど。

 

「次に給金ね。ぶっちゃけた話、ヒーローは歩合制よ」

 

 ああ、だから原作だとヒーロー同士で区域区分明確にしてたのか。

 給料に関わるならそうなるのも仕方ないよな。生きていくためだもの。

 

「ヒーローは警察からの依頼でパトロールをしているの。だから言い方は悪いけどパトロールをするだけでも月に最低でも20万は入るわ。そこから年金やら何やら引かれるから振り込まれる金額は少なくなるけどね。パトロールとはそもそも、敵犯罪をいち早く見つけて無力化するのもあるけど、一番の理由は一般市民に安心感を与えること。『ああ、ここはヒーローがいるから安全だ』ってね。守る側と守られる側の信頼関係がないと成り立たない。ご機嫌伺いだなんだって思う子もいるだろうけど、それが社会よ。救いを求める際、安心感のある人とない人でどちらに救いを求めるかということね」

 

 ベストジーニストが原作で爆豪くんに教えてくれていたことだな。

 

「あの、ミッドナイト先生!」

 

「はい、麗日さん」

 

「ヒーローになるとどれくらい儲かりますか!?」

 

「いい質問ね。ヒーローの給料はさっき言った通り歩合制。逮捕協力や人命救助等の貢献度を申告し、専門機関の調査を経て金額が決まるわ。仮にパトロールだけをして、それなりの区域を任されたとすれば月の給料は年金等々を引いて約30万くらいね。これは事務所に属していない個人事業ヒーローを例としての金額よ」

 

 ミッドナイト先生の答えに、麗日ちゃんは「こ、高収入や……」って零してるけど、他の子たちは意外そうな顔をしている子もいる。

 

「意外そうな顔をしてる子もいるわね。でもそれが現実。またサイドキックになると雇われた事務所の規模によって給料も違うわ。事務所を持たないミルコなんかは丸々自分の懐に入るけど、確定申告とかそういった管理も自分でする必要がある。また事務所を持ってサイドキックを雇うとなれば、警察から支払われる依頼料や協力料も事務所の規模で変わってくるし、そこから雇ってるサイドキックたちに支払う形になるから数をこなさないと経営は常に火の車よ」

 

 なるほどなぁ。じゃあ独立しても軌道に乗るまでは自転車操業って感じか。

 

「そこでヒーローに許されているのは副業。自分のグッズを売ったり、個性を活かしてヒーローとは別の事業を起こしたり。そういうのも上手くいけば年収1000万も夢ではないわね。ウワバミなんかがいい例でしょ? タレント活動でがっぽり儲けてるんだから」

 

「やっぱ、一番稼いでるのってオールマイトなんすか?」

 

「切島くん、いい質問。グッズ販売数やグッズの数でがっぽり儲けてるイメージもあるでしょうけど、実際のとこ一番稼いでるのはエンデヴァーよ」

 

 俺はミッドナイト先生のさっきまでの話を聞いてなんとなく分かったけど、みんな『えぇ!?』って驚いてる。しょうくんもだ。

 

「エンデヴァーの事件解決数はオールマイトよりも多いし、その分警察から上乗せで給金が発生してる。事件解決の派手さならオールマイトでしょうけど、数はエンデヴァーの方がダントツなの。それにさっき言った公共への損害も関わってるわ」

 

「損害によって報酬額が減るのね?」

 

「蛙水さんの言う通り。だってそうでしょ? そのヒーローが壊したんだから、そのヒーローが責任を負う。大人なのだから当然のことよ。ビル1つ破壊してしまったことによって生じた経済的損失を考慮し、寧ろオールマイトやエンデヴァーは国にお金を支払っているんだから」

 

「だからヒーローの副業を認めて個人としてのヒーロー活動による給金がマイナスになってもなんとか生活出来るようにしているのか。それにそれだけ大きな事件を解決すればヒーロー活動における給金はマイナスでも必ずニュースやネットにあがるからグッズを売ったりすればマイナス分は軽く出来るし寧ろ黒字に出来る可能性もあるということに」

「緑谷くん、ミッドナイト先生の話まだ終わってないよ?」

「え、あ、すみません、先生!」

 

 ブツブツモードに入っちゃった緑谷くんを止めると、緑谷くんはミッドナイト先生に謝ってブツブツモードを解除した。

 

「(ありがとう、地毒くん。ごめんね)」

「(構わんよ)」

 

 俺が返すとえへへって緑谷くんは笑った。はぁぁぁぁぁ、かわいい。

 

「人は大きな事件に目を奪われる。でもそういう時こそヒーローは冷静でないといけない。それに感化されて活発化する敵もいるから、それを未然に防ぐことが大切なのよ。自己顕示欲を優先させたらヒーローとはいえそれは敵と同じこと。そうしたことを踏まえ、あなたたちには立派なヒーローになってほしい。皆を指導する立場として、そして先輩ヒーローとして心から願ってるわ」

 

『はい!』

 

「うん、いいお返事ね。じゃあ話はここまでにして、次は実際にヒーローとして活動演習を行うわね。入学前に送ってもらった個性届とそれぞれの要望によって用意したコスチュームに着替えてもらった上で、6・7時限を使っての戦闘訓練よ」

 

『おぉぉぉぉぉっ!!!!!』

 

 うわぁ、原作通り壁から出席番号が入ったコスチュームケース出てきた。本当に無駄に金かかってるなぁ。根津校長、金持ち過ぎてマジで怖い。

 

「コスチュームに着替えたら、グラウンドβに集まるように」

 

『はい!』

 

 焦凍サイド

 

「白のヒーロースーツ、いいな」

「そうか? ほぼしょうくんと変わらないけど?」

「だからいいんだ」

「そう」

「ん♪」

 

 これから本格的なヒーロー科の授業だってのに、俺は別の意味で思わず気持ちが昂ぶってる。

 何せ俺と白のヒーロースーツがお揃いだからだ。

 まだ実際に個性使ってないからこのスーツがどれだけ耐えられるか分かんねぇけど、俺は全身白色のヒーロースーツ。白の名前の色だ。本当なら紫にしたかったが、白に『無難で白でよくね?』って言われたから。

 白に至っては俺と同じデザインで黒色のヒーロースーツだ。

 白とお揃いなのに喜ばねぇ方がどうかしてる。

 

「今日の授業次第で改良点も見つかるだろうし、そういうのも見とかないとなー」

「改良、しちまうのか?」

「しないといけないもんだろ。動き難かったり、個性使ってダメにしちゃったらさ」

「むぅ」

「なんでむくれるの?」

「せっかくお揃いなのに……」

「ああ、はいはいお揃いで嬉しいのね。相変わらず小さい頃からそういうとこ変わんないね、しょうくんは」

 

 宥めるように俺の頭をポンポンと撫でる白は困ったような笑顔を浮かべてた。

 悪ぃな、白。その顔さえ見れれば、俺は満足だ。

 だって、

 

「まあ出来るだけデザインは変えないよ。てか俺はそういうセンスないから、安心しろ」

「分かった」

 

 白のその顔は俺の願いを叶えてくれる顔だから。

 

 被身子サイド

 

 眼福! まさに! 眼・福!

 白刃様のヒーロースーツ姿!

 神々しい! 尊みが深い!

 焦凍とお揃っちなのがちょっと引っ掛かるけど、白刃様の方が断然似合ってるからイイ!

 夢にまで見た運命の人(ヒーロー)のスーツ姿……ああ、私このまま今日幸せの過剰摂取で死んじゃうかも。

 

 ええい、ダメ。ダメダメ、被身子!

 そうしたら白刃様が悲しんじゃう!

 それに私なんて白刃様の色のヒーロースーツにしちゃったもんねー!

 まあ私の場合はヒーロースーツというか、ほぼ服なんだけど。

 

 響香ちゃんとかエンデヴァーさんに相談して、リューキュウ先生みたいなドレスタイプのにしたの。あ、でもちゃんとスパッツも着用してるよ。私基本は体術戦法だから、これで走ったり飛んだりしたら下着見えちゃうもん。白刃様になら何を見られても嬉しいだけだけど、その他の男の子たちに見られるのはちょっとね。

 

 あ、勿論スーツの色は白刃様色で紫♡ 襟の縁は灰色に近いシルバー♡ それとエンデヴァーさんが案をくれたサポートアイテムの刺されても気付かれ難い針ストローと足音を限りなく立てない素材で作られたブーツ。

 

 今は私のことより白刃様だよ。

 はぁぁぁぁぁ、もうちゅき♡ いっぱいちゅき♡

 今日はこれだけでいい夢見れそう♡

 白刃様、今日もありがとう♡

 私は今日も貴方様のお陰で幸せです♡




読んで頂き本当にありがとうございました!


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ヒーローって難しい。

さーいーしんーわをー投稿だ!
ご都合主義を添えて!


 

 仮のヒーロースーツを身にまとい、グラウンドβの前に集まった俺たち。

 ゲート前には既にミッドナイト先生が待ち構えていて、モニタリングが出来る場所まで案内してくれた。

 

「ここが待機所よ。指定しない限りは基本的に授業開始時はここに集まるように」

 

『はい!』

 

「それでお待ちかねの演習なんだけど、今回は救助活動訓練よ」

 

 原作みたいにヒーローと敵に別れてやる実技演習じゃないのか。

 でも人を救うのがヒーローなんだから、救助活動から教えるのが大切だよな。

 

「普段、グラウンドβは雑居ビルの街並みをイメージしているけど、見ての通り今はボロボロでしょう?」

 

 ミッドナイト先生が言うように、確かにボロボロだ。

 崩れてるビルなんかもあるし、本当に災害があったあとみたいに見える。

 

「いつもならさっさと直してしまうんだけど、今回のためにそのままにしておいてもらったの。それでこのビル群の中に救助者を模したダミー人形が紛れてるから、それを探し出し、仮設救護スペースまで搬送すること」

 

「救助者は何名なのでしょうか!」

 

 飯田くんの質問にミッドナイト先生は不敵な笑みを浮かべた。

 

「今回は災害が起こった際の救助活動を想定しているから、救助者が何名なのかは敢えて明かさないわ。多いのか、それとも少ないのか……あなたたち次第ね」

 

 これ結構ハードだな。

 それにどうせ、

 

「はい、では始め!」

 

 やっぱ即始まりますよねー。

 災害が起こる時に『今から災害起きますね』なんて予告されないもんな。

 

 急なことで慌てる子たちもいるけど、冷静な子たちもいる。俺も予想はしていたのでどちらかといえば落ち着いていられた。

 

「みんな、まずは複数のチームになってくまなく救助者を探していこう。グラウンドβを縦に三等分して3チーム……いや、中央は大きな建物が多いから2チームを割いて、計4チームになって行動しよう」

「何勝手に仕切ってんだ、毒野郎」

「今授業中。そしてリアルな災害現場なら言い争ってる暇はないし、既に駆けつけてるヒーローと協力することになるから、んなこと言ってられないぞ。爆豪、何人か連れて左側を頼む」

「チッ……行くぞ、デク! あとクソ髪とアホ面、しょうゆ顔! それと丸顔もさっさと来い」

「クソ髪って俺かよ!?」

「アホ面!? なぁ、俺アホ面なの!?」

「しょうゆって! 俺どっちかと言えば塩じゃね!?」

「丸顔って私ぃ!?」

「黙ってついて来いや、クソモブ共が!」

「かっちゃん、そんな言い方ダメだよ! ごめんね、みんな! かっちゃん、言葉が荒いだけで心は優しいから! 捨て猫を放っておけなくて拾ってきちゃうヤンキータイプだから!」

「てめぇは黙ってついて来いや、クソナード!」

 

 舌打ちはされたけど、爆豪くんは俺の言葉に従って緑谷くん、切島くん、上鳴くん、瀬呂くん、麗日ちゃんを連れて行動を開始してくれた。何気に24人を4で割った人数を連れてってくれるとこが爆豪くんの頭の良さを感じる。

 

「八百万ちゃんと飯田くんも、何名か連れて中央の探索をお願いしてもいい?」

「分かりましたわ!」

「分かった!」

「あ、なら俺は八百万のとこに……」

「峰田くんは俺のとこね」

「何ぃ!?」

 

 峰田くん、ごめんね。でもエロとヒーローは授業中くらいは切り離してほしいのさ。

 八百万ちゃんは青山くん、蛙水ちゃん、芦戸ちゃん、常闇くん、葉隠ちゃんを、飯田くんは尾白くん、砂糖くん、障子くん、口田くん、夜嵐くんとそれぞれ連れて行動を開始。

 

「んじゃ、残りの俺たちで右側な。行こう!」

「ああ」

「行きましょう行きましょう! 白刃様♡」

 

 因みに俺のところはいつもの二人に加えて、響香ちゃん、心操くん、峰田くんだ。

 

 ―――――――――

 

「自分で言うのもアレだけど、救助者は人形だからウチの探知には引っ掛からないと思う。ごめん」

「大丈夫大丈夫。あんまりそうなってほしくないけど、実際の災害時には響香ちゃんの個性はかなり必要とされるから」

「そうだよ。私なんて変身することしか出来ないんだから!」

「俺もどっちかと言うと救助活動には向かない個性だからな」

 

 謝る響香ちゃんに俺やしょうくん、被身子ちゃんが声をかけると、ちょっと自信を持てたのか笑顔を見せた。

 

「こういう場合は峰田くんの個性が活きるだろ。そのもぎもぎって何でもくっつくんだよね?」

「おうよ!」

「なら仮に倒壊しそうな場所でもそれで繋ぎ止められるし、それを使って救助者を固定することも可能だよね」

「おお! んなこと考えたことなかったぜ!」

 

「あと心操くんの個性も救助者を落ち着かせるのに良さそうだよね」

「……そんなこと初めて言われたよ」

「そう?」

「ああ、どっちかって言えば敵向きだろ、俺は」

「それはその個性を使う人によるよ。俺だって個性だけ見れば敵向きだ。でも心操くんはヒーロー科にいるんだから、敵になることなんてないでしょ。それに言い方は悪いけど救助者を洗脳して強制的に黙らせることも可能でしょ?」

「……まあ、そうだな」

「ほら。特に災害時は救助する側もされる側も冷静になってほしい場面ってあるだろ? そんな時に言うこと聞いてもらえなかったら心操くんがいれば万事解決な訳よ」

「……そっか」

 

 あ、心操くん照れてる? そっぽ向いちゃって、かわいいんだからぁ♪

 

「響香ちゃん、念の為片っ端から探知してってくれない? ダミー人形がどんなのか分からないし、もしかしたら本当に救助を求めてる人みたいに何かしらアクション起こす仕様だったりするかもだから」

「分かった」

 

「あ、おい、あのビルの窓にダミー人形あるぜ!」

「おお、よく見つけたね峰田くん。じゃあもぎもぎ使ってよじ登って確保してきて」

「それは出来っけど、確保したらどうすんだよ?」

「しょうくんが氷で滑り台作るから、一緒に滑っておいで。俺と心操くんでキャッチするから」

「楽しそう!」

「いや、頼むから楽しまないで。これ訓練だから」

 

「白刃、なんかこっちのビル内から発信器っぽい音する」

「了解。発信器の音はどんな感じ?」

「ピーピーピーって平坦な感じ」

「切羽詰まってる感はないから、取り敢えず先に見つけたダミー人形を優先しようか」

 

 こんな感じで俺たちはダミー人形を一体ずつ丁寧に確保していき、計17体を救護スペースに搬送した。

 因みに搬送の際はしょうくんの作った氷の道を使って、俺に変身した被身子ちゃんがスケートするみたいに素早く運んでくれた。被身子ちゃんって身軽だからこういうの得意なんだよね。

 

 ―――――――――

 

「はい、みんなお疲れ様! 最初にしてはいいチームワークだったわよ! 明日には私や他の先生たちで訓練の様子を見た総評を渡すからしっかりと目を通すこと!」

 

『はい!』

 

「それじゃあ着替えてきなさい。あ、緑谷くんはリカバリーガールのところに行って怪我を治してもらいなさいね」

 

「は、はい!」

 

 あれ、緑谷くんどうしたんだ?

 

「ごめんね、デクくん。私がどんくさいせいで……」

「いやいや、気にしないでよ、麗日さん。ちょっとかっちゃんが張り切り過ぎただけだから」

「聞こえてんぞ、デク?」

「あ、いや、かっちゃんのせいじゃないから!」

「当たり前だ! あれくらいてめぇなら丸顔抱えて避けられただろうが!」

「で、でも女の子に、ふふふ、触れるのはははは……」

「災害時にんなこと考えてヒーローやってられっかクソが!」

「いやー、かっちゃん怒らないでー!」

「デクくん、そんな女の子扱いされたら……私まで恥ずかしくなってまう……」

 

 ほほーん? 爆豪くんが張り切った結果、爆発に巻き込まれそうになった麗日ちゃんを緑谷くんが身を呈して守った、と。

 女の子扱いされて麗日ちゃんもまんざらでもなさそうだし、甘酸っぱいねぇ。

 ミッドナイト先生なんて「これはアオハルの予感!」って怪しい笑いしてる。

 

「白、更衣室行こう」

「おお、行くか」

「私も行くー♪」

「いや、被身子ちゃん、もう変身解いてよ」

「えー」

「えーじゃありません」

 

 ナチュラルに男子更衣室にまでついてきそうな被身子ちゃんを注意して、響香ちゃんに預け、俺はしょうくんや他の男子たちと着替えに行った。

 

 それからは普通に帰りのホームルームで香山先生から明日の連絡事項を聞いて解散となったが、みんなでそのまま教室に残って今回の救助活動の反省会。

 主に次からこうしたらいいんじゃないか、こういう時は誰の個性がいいとか、そういうのを話しあった。

 一番役に立ったのは緑谷くんのヒーローノート(爆豪くん曰くナードノート)で、早速みんなの個性の活かし方や既存ヒーローの使うサポートアイテムでその子に合いそうなアイテムの考察とかがみっちり書かれてて、みんな緑谷くんを絶賛してたね。

 緑谷くんはお顔真っ赤にして照れてたけど。爆豪くんに至ってはキレ散らかすのかと思ったら、幼馴染みがみんなから褒められて小さく笑ってた。

 んもぉ、何さこのデク勝! 尊みが深いんだけど!

 

 てことで俺はほくほくして過ごしましたとさ。

 

 人使サイド

 

 夢だった雄英のヒーロー科に入れたまではいいけど、正直ついていけねぇだろって思ってた。

 なんたって俺の個性は『洗脳』。

 自他共に認める敵向きの個性だし、身体能力も下から数えた方が早い。

 

 今日は初めてヒーロー科の授業。

 ミッドナイト先生のリアルな話で余計に俺はヒーローに向いてないと思った。

 そんでもって救助活動訓練とくれば、俺に出来ることは何もない。

 

 クラスの中心的人物らが行動を開始する中、俺は最後まで残ってた。

 当然だよな。お荷物なんていらねぇだろ。

 

 俺を連れてくことになった地毒たちには悪いと思った。役立たずだから。

 

 すると地毒と親しいっぽい耳郎って子が地毒に謝り出した。

 そいつも今回の授業で自分の個性は意味ないって思ったみたいだ。

 でも地毒は気にしてないらしい。寧ろ実際の時にこそ活きる個性だって励ましてた。

 

 地毒白刃。

 第一印象はいいとこのお坊っちゃんでお人好し。

 ほしいものは全部持ってる勝ち組。

 俺とは雲泥の差だ。

 

 そんなこと考えてたら地毒に俺の個性も災害時に使えるなんて言い出した。

 正直驚いた。確かに自己紹介の時に個性のことは伝えたが、俺以上に地毒は俺の個性の使い方をいい方に考えてくれてる。

 自分の個性なのに、地毒に言われるまでそんな使い方があるのなんて考えもしなかった。

 

 そういえば、地毒は自己紹介で『敵向きの個性だけど、両親を見倣っていいことに使えるように生きてきた』なんて言ってたな。

 個性の使い方次第。なんで今までそれに気が付かなかったんだろう。

 

 地毒白刃。お前のお陰で、少し自分の個性の可能性ってのが見えてきたよ―――

 

 ありがとう、ヒーロー

 

 ―――お前みたいになれるように、絶対ヒーロー科に残ってやる。

 

 勝己サイド

 

 俺がライバルとして認めてる人間は二人いる。

 一人はデクだ。ガキの頃から俺の隣で、この俺様についてこれたヤツ。

 

 そしてもう一人は毒野郎こと地毒白刃だ。

 見た感じはフツー。んでもって別に頭がいいタイプでもねぇ。

 ただどんな時でも冷静で頭がキレる。

 要領がいいタイプの人種だ。

 

 今回の授業でも一瞬固まっちまった俺より先にアイツが動いた。

 仕切りやがったのはムカつくが、アイツみたいなタイプは司令塔にちょうどいい。

 何より一番倒壊してる左側に俺を向かわせるくらいだ。

 お人好しに見えて周りの人間をよく見てやがる、底が知れねぇ。

 

 アイツがヒーローになるなら、俺のサイドキックに雇ってやってもいい。

 それになにより―――

 

 おにぎりが美味い

 

 ―――こういうヤツに悪いヤツはいねぇ。

 久々にババアの次に美味いと思えた。

 あとで強引にでも連絡先交換させてやる。

 

 ミッドナイトサイド

 

 今年のヒーロー科1年A組は、担任としての贔屓目ではなく、黄金世代と言っても過言じゃない。

 特に地毒くんなんかは本当に。

 彼が動くことでどこの子も冷静さを取り戻すし、彼の言葉で己の個性の可能性をより深めていく。

 それに加えて緑谷くんなんかもいい着眼点を持ってるから、そういう子が二人もいるだなんて最高以外の何ものでもないわ。

 

 ああ、頑張って根津校長にA組の担任やりたいアピールしてよかったわ!

 あのつまらな……んんっ! 有り難くて長ーいお話に何時間も、累計数十時間も耐え忍んだ甲斐があるってもんよ!

 

「失礼します。1のA、地毒白刃です。香山先生はいますか?」

「同じく心操人使です」

 

 あら、珍しい組み合わせね。

 でも何か青臭いアオハルのかほりがするわ!

 

「はーい、先生はこっちよー」

 

 手をあげれば、二人は他の先生たちにも挨拶をしながら私のところへやってくる。

 

「要件は何かしら?」

「はい。心操くんのサポートアイテムについてです」

「サポートアイテム?」

「はい。心操くんの個性をより有効にするために必要なので、緑谷くんと話し合って案を出したので、先生に検討してもらいたくて」

「なるほど。で、その案っていうのは?」

 

 私が促すと心操くんが「これです」と言って案が書かれたルーズリーフを渡してくる。

 ザッと目を通したけど、

 

「……面白いわね」

 

 本当に何なの今年の1年A組は。

 

 簡単に言えば、どこぞの小さくなった名探偵が使ってるような変声器ね。精度の良い物を作ればそれだけ心操くんの個性に掛かりやすい。

 

「こういうのがあれば、心操くんの返事をされないと洗脳出来ないっていうデメリットを少しでも軽減出来ると思うんです」

「可能性が広がるなら試してみたいんです。なのでこういうサポートアイテムを得意とするメーカーか、興味を持ってくれそうなメーカーを教えてください」

 

 うわぁ、なんて情熱的な眼差し! いいわ! すっごくいい! 青臭くて、貪欲で!

 

「なら私がパワーローダー先生に掛け合ってみるわ。これだけいい案だもの。試さないのはもったいないものね!」

 

 私が言えば二人は大きな声で『ありがとうございます!』なんて言ってくる。

 くぅ、これよ! これ! 私が求めていたアオハル! こういうのが見たくて教師になったんだもの!

 

 二人が職員室から去っていくのを見送ったあとで、

 

「ねぇ、今の見た? 見てたわよね!? 最高じゃない!? まだ入学ホヤホヤのくせに、もう己の個性を高めようとしてるガキ共の青臭さ!」

 

 前のデスクにいるセメントスに興奮気味に言っちゃったわ!

 

「え、ええ、ああいう向上心はいいことですよね……」

「でしょう!? ああ、ほんっとに教師になってよかったわ!」

「ミッドナイト先生、分かりましたから早くパワーローダー先生のところにそれを持って行った方がいいのでは?」

「はっ! そうね! それじゃ行ってくるわ!」

 

 パワーローダー先生だってこれを見れば興味が湧くはずだから、上手くいけば数日後には勝手に自作した試作品を持ってきてくれるはずだもの!

 待っていなさい心操くん! あなたの青臭いアオハルを先生がもっと輝かせてあげるから!

 

 ああ、もう! 本当に今年の1年A組は黄金世代よ!




読んで頂き本当にありがとうございました!


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相変わらず平和です。

かなり間が空いてしまってごめんなさい。
お話考えてる時間がなくなってました^^;

取り敢えず今回もご都合主義をサービス!




 

 時が過ぎるのは早い。

 入学してもう5月ですよ。

 え? クラス委員長は誰に決まったのかって?

 飯田くんだよ、飯田くん! 当然じゃん!

 でも香山先生は推薦形式だった。

 俺は当然、原作通りに飯田くんを委員長に推薦したら、みんなも『地毒が言うなら飯田が適任だな』ってなって決まっちゃった。

 しょうくんと被身子ちゃんのせいで副委員長になりかけたけど、推薦する側は一人だけ推薦するなんてルールもなかったから、八百万ちゃんを副委員長に推薦したら、飯田くんの時と同じになっちゃった。

 いや原作通りだしいいんだけどさ。飯田くんも八百万ちゃんも俺にすげぇ目を輝かせて『期待に応えるぞ(ますわ)!』ってやる気に燃えてた。

 精神年齢おじいちゃんの俺には若い子のフレッシュさは眩し過ぎるよ。

 

 やっぱり俺が転生したこのヒロアカ世界は、俺が転生前に読んでた原作と違って、雄英高校にマスゴミが侵入するなんて騒動もなかったし、13号先生が手掛けたUSJでのレスキュー訓練もなかった。

 ひたすら色んなグラウンドでチームに分かれて仮想敵ロボの鎮圧とか個性を高める訓練がメイン。

 あ、心操くんのサポートアイテムは俺が失念してたのもあって当初のやつは使い物にならなくて、バワーローダー先生が考えたサポートアイテムに落ち着いた。

 まんまペルソナコードだったし、心操くんも笑顔になってたし、よし!

 

 んで、今日から雄英高校に入って初めてのゴールデンウィークなんだな。

 日頃ハード……いやヘルモードの学校生活だから、こういう大型連休って本当に最高すっわ。

 宿題は多いけど、初日にしょうくんや被身子ちゃん、響香ちゃんと済ませちゃったもんね!

 てことでゴールデンウィークを満喫する気満々ですよ。

 

「お兄ちゃーん!」

「ぐふかすたむっ!」

 

 昼まで寝る気満々だったのに、天使のフライングボデープレスで強制起床させられる俺。

 

「……妹よ、疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだか、とても眠いんだ……」

「あたし疲れてない! お兄ちゃんがいるもん! 起きて遊ぼー!」

「今何時?」

「6時!」

「いつも通りではないか、妹よ。休日ということを忘れているのか?」

「お休みだから遊ぶの! お兄ちゃんはあたしのだもん!」

 

 なんというジャイアニズム。兄は妹の将来が心配だ。

 でもぶっちゃけ黒刃には俺しかいないんだよな。

 当然、父さんや母さんが黒刃に愛情を注いでいないなんてことはないし、寧ろ溺愛してる。

 でも医者という職柄、あまり家にいれる時間がない。休日でも祝日でもうちの両親じゃないと手に負えない急患が搬送されて来たら、両親は必ずその人を救うために病院へ向かう。

 だから基本的に轟家で預かってもらってて、俺が学校から帰れば俺が出来る限り黒刃の世話をしてた。

 なので黒刃にとって兄(俺)は両親よりも大好きな存在で、唯一無二なのだ。

 前に母さんが『私の料理より白刃の料理が食べたいって言われた時はショックだったわ』なんて言われた。

 黒刃にとってはおふくろの味は俺の味になってしまっている。

 かくいう俺もおふくろの味は冷母さんの料理の味なのだが……。

 

 母親としては悲しいのかもしれないけど、俺も黒刃も両親から愛情を注がれてないなんて思ってない。

 小学生の時に一度だけ父さんから『もっとわがままを言ってもいいんだぞ?』なんて言われたことがある。

 聞き分けがいいのはそれだけ我慢させていることでもあるんだと。

 ごめん、父さん。それは俺がただ単に精神年齢おじいちゃんだからです。我慢してないし、寧ろ無邪気に甘えられるメンタル持ってません!

 だから『じゃあ、ハグして』って精一杯甘えてみたら、泣きながらめっちゃ抱きしめられて焦った。

 変に前の記憶がある上で甘えるって本当に難しいんだよね。

 

「黒刃はお友達連れてきたり、お友達の家に遊びに行ったりしないのか?」

「今日はしない!」

 

 良かった。黒刃はボッチじゃなかった。何気心配してたんだよな。普段からヒーロー科のことで忙しくて黒刃の話を聞くより、黒刃が俺に色々と訊いてくる方が多いから。

 

「まあ取り敢えず起きるか……朝飯は何食べたい?」

「ごちゃごちゃたまご!」

「はいよ」

 

 俺が返事をしつつ黒刃の頭をポンポンと撫でれば、黒刃はにこーっと満面の笑みを浮かべて俺の上から退いた。因みにごちゃごちゃたまごとはスクランブルエッグのことだ。

 てことで俺は適当な服に着替えて黒刃と共に1階のリビングへ向かう。

 

 ◇

 

「おはよう、白」

「おはよう、しょうくん」

 

 当然のように我が家のリビングでソファーに腰を下ろして新聞を読んでいる幼馴染み。

 もうナチュラル過ぎて慣れてしまっている自分がいる。

 というか、俺の隣にいないことの方が年に数回あるかないかだからね。

 

「いつ来たんだ?」

「ついさっきだ。おじさんとおばさんは病院行ったぞ。午後には帰るみたいだ」

「番犬がいるなら家空けても安心だもんな」

「俺はいつの間にか白のペットだったのか。その割には可愛がってくれねぇな。ペットは責任持ってお世話しないといけないんだぞ?」

「うん。今日のしょうくんも天然ボケキレキレでお兄さん泣いちゃいそう」

「俺はキレてないぞ? 寧ろ喜んでる」

「はいはい。朝飯食うだろ?」

 

 俺の質問にしょうくんはコクリと頷いて返した。

 犬だったら絶対尻尾ブンブンなんだろうな。

 

「焦凍はお兄ちゃんに何か用事?」

 

 俺が台所で朝飯を作っている中、黒刃はしょうくんの隣に座って質問する。

 

「用事がねぇと来ちゃいけねぇのか?」

 

 対してしょうくんはイケメンだけが許されるセリフを決めた。

 普通の女の子なら胸キュンするだろうけど、

 

「うん。用事ないなら帰って。朝ご飯は食べてってもいいから」

 

 黒刃にはそんなもん通じないんだよなぁ。

 黒刃にとってはしょうくんは幼い頃から兄を自分から攫っていくから、敵認定してる節がある。

 

「なんでそんなこと黒に決められなきゃならねぇんだ?」

「今日のお兄ちゃんはあたしだけだから。焦凍に構ってる暇ないの」

「白がんなこと認める訳ねぇだろ。妹なんだし俺より白と過ごせる時間あるんだから譲れ」

「学校も一緒なんだからあたしに譲るべき。年上のくせに」

「んなこと言ったら年下のくせに先輩の言うこと聞けよ」

「焦凍は年上っぽくない」

「黒だって年下とは思えねぇ」

 

 火花バチバチで静かに言い争う幼馴染みと妹。

 ねぇ、やめて? 朝っぱらから殺伐とした雰囲気出さないで? 僕は平和の中で朝飯食べたいの。

 

「白!」

「お兄ちゃん!」

 

 ほらね。結局俺が決めないといけなくなる。

 やめてよ。どっちの味方しても俺にメリットないんだもん。誰かヒーロー呼んでくれ。

 

「おはようございまーす♪」

 

 信じる者は救われる。

 そうさ。信じてさえいれば、必ずヒーローが救いに来てくれるんだ!

 

「被身子ちゃん、会いたかったよ!」

「ひゅい!?」

「ありがとう。(救いに)来てくれて本当にありがとう!」

「ど、どういたしまして……いひひひひ♡」

 

 俺の心からのお礼に被身子ちゃんは緩んだ頬を両手で包んでくねくねする。被身子ちゃんの喜びの舞だ。

 

「被身子ちゃん、おはよー! 焦凍を追い返すの手伝って!」

「ふぇ?」

「被身子。お前なら俺の味方してくれるよな? 黒が白と俺の仲を引き裂こうとしてくるんだ」

「…………」

 

 しょうくんの言葉に被身子ちゃんはスンッと表情を落とし、無言のまま黒刃の隣に移動。つまり、

 

「焦凍、白刃様は焦凍だけのじゃないよ?」

 

 被身子ちゃんは黒刃の味方になったということ。

 

「被身子、てめぇ……」

「あのさ、昼ドラ展開?みたいなとこ悪いんだが、朝飯出来たから食べようよ」

 

 こうなるともう収集つかないので、俺は朝飯に逃げる。

 そうすれば黒刃もしょうくんもご飯にまっしぐらだ。欲望に忠実で実に結構。

 

「被身子ちゃんは……施設で朝飯食べてきたか」

「はい♪ あ、食べさせてあげようか?」

「大丈夫。気持ちだけ受け取るね」

「口移ししてみたかったのに……」

「俺にそういうことしなくていいから……」

 

 なんか年々被身子ちゃんの俺に対する扱いが重たくなっていくな。過保護どころじゃない。

 というか、被身子ちゃんが俺の家に当たり前のように上がってきてるのもデフォと化してるなー。

 

「それで、被身子ちゃんもしょうくんと同じように俺と一緒に過ごしたい感じ?」

 

 言っててかなり自意識過剰マンで嫌なんだけど、しょうくんも被身子ちゃんも基本的に用事があろうがなかろうが俺の側にいたがるからね。

 

「あ、ううん。今日は用事があるの」

「おぉ、どんな?」

「白刃様じゃなくて焦凍になんだぁ。ごめんね、白刃様」

「謝る必要ないよ」

 

 そう言って被身子ちゃんの頭を撫でると、被身子ちゃんは「うひひ♡」と破顔した。

 

「俺に何の用だ、被身子?」

「今日焦凍暇でしょ?」

「暇じゃねぇ。白といる」

「暇だね。実は今日お茶子ちゃんと単発でアルバイトするの。それでもう一人連れてこれないかってアルバイト先の人に昨日言われたんだぁ」

「それでどうして俺なんだよ?」

「お蕎麦屋さんのアルバイトだから」

「まかない飯は?」

「いや、しょうくん。そこ仕事内容聞こ?」

「お蕎麦食べ放題」

「いく」

 

 しょうくん……。ホント君お蕎麦大好きっ子だね。瞳輝いてますやん。かわいいなぁもう。

 

「やった♪ じゃあ服装はそれでいいから、ご飯食べたら行こ!」

「ああ。今食い終わる。白、悪いが行ってくる」

「気にせず行ってこーい」

「でも俺は白との友情より蕎麦を取ったんじゃないからな?」

「分かってる分かってる。お蕎麦と俺どっちが大事なの?みたいなカオスなこと聞かないから」

「白に決まってる。蕎麦はいつでも食えるが、白との時間は限られてるからな」

「イケメンスイティーボイスで囁かないで。お耳が幸せになっちゃう!」

 

 俺の言葉にしょうくんは満足したのか、フッと得意げに笑った。

 当然のように被身子ちゃんや黒刃も張り合ってきたので、お耳が幸せになって浄化しかけた。

 

 ◇

 

 ということで、被身子ちゃんがしょうくんを連れ出してくれたので、俺は洗い物を終えて黒刃と共に縁側へ。

 黒刃は特等席であるあぐらをかく俺の脚の隙間に腰を下ろして、上機嫌に足をパタパタさせてる。

 

「焦凍はちゃんとアルバイト出来るのかな?」

「注文受けて伝えるのと、料理運ぶのと、食器下げるのくらいだったら問題なく出来るだろう。そもそも洗い物係かもしれないし」

「そっか!」

 

 なんだかんだしょうくんのことは心配してるんだよな。子どもに心配されてるしょうくんもしょうくんだが……。

 

 そんなことを考えながら俺が上半身を後ろに倒すと、黒刃もそのまま倒れる。

 

「いい天気だなぁ」

「いい天気〜♪」

「おっす、お二人さん」

 

 突如聞こえてきた声に俺と黒刃が同時に頭だけをあげて声の主を見ると、

 

「あはは、ホント二人ってそっくりだね……ははは♪」

「あ、響香お姉ちゃん!」

「響香ちゃん、やっほー」

 

 響香ちゃんがいた。

 肩にはいつものようにギターケースがある。

 

「あれ、今日って午前中にレッスンだった?」

 

 俺の質問に響香ちゃんは「ううん」と首を横に振る。

 

「レッスンは午後からなんだけど、ウチ今日特にやることもなかったから。お邪魔だったかな?」

「響香お姉ちゃんならいいよ!」

「ホント、黒刃ちゃん? 嬉しいなぁ♪」

 

 黒刃はギターを習い出してから響香ちゃんに凄く懐いた。

 まあ被身子ちゃんにもよく懐いてるから、やっぱり同性ってなると接しやすいのかな。

 

「白刃、せっかくだしセッションしない?」

「ハーモニカと篠笛、どっちやればいい?」

「この前ハーモニカやってもらったし、今日は篠笛で♪」

「はいよー」

「あたしが持ってくる!」

「ありがとな、黒刃」

「うん!」

 

 そうやってすぐに黒刃が篠笛を持ってくると、俺は響香ちゃんのアコースティックギターに合わせて、篠笛に息を吹き込み、黒刃は楽しそうに手を叩いて穏やかな休日を過ごした。

 

 被身子サイド

 

 響香ちゃん、少しでも白刃様との仲を縮められたかなぁ?

 

 私は昨日の夜に今日のアルバイト先から連絡をもらった時点で焦凍を連れて行くことを決めていた。

 だってそうすれば響香ちゃんが誰にも邪魔されずに白刃様と過ごせるもん。

 あ、ちゃんと黒刃ちゃんも響香ちゃんが白刃様のこと好きなの知ってて、協力してくれてるよ。

 響香ちゃんみたいなお姉ちゃんが欲しいんだって。かぁいい♡

 でも響香ちゃんって意外と奥手だからなぁ。白刃様は響香ちゃんの好意に気づいてなさそうだし、まだまだ道は遠いかも……。

 

 というか今は、

 

「被身子ちゃん! 5番テーブルの天盛りと野菜天盛り出来たで! それと7番テーブル空いたから次のお客さんご案内して!」

「はーい!」

 

 すっごく忙しいんだけど!

 焦凍は愛想笑いも出来ないから接客も出来ないし、洗い物も素早く出来ないから、お店の前で客引きしてるんだけど、あの顔に釣られてくる女性客がいっぱいなんだよ!

 お茶子ちゃんも『イケメンってすごいわ』って感心してた。

 

「いやぁ、うちの店にこんなに女性客来るの初めてだ」

「嬉しいわねぇ♪」

 

 お蕎麦屋さんのご夫婦は嬉しそうだけど、動かしてる手はめちゃくちゃ早い。

 

「お会計お願いしまーす」

「はーい! 只今ー!」

 

「お次のお客様、6番テーブルにどうぞですー!」

「はーい」

 

「忙しそうだな。俺も何か――」

『焦凍(轟くん)はそのままで!』

「お、そうか」

 

 授業とはまた違う疲れを感じたけど、終わった時にお給金に色つけてもらえて、お茶子ちゃんは喜んでた。そして『やっぱりイケメンってすごいわ』ってつぶやいてた。分かるよ、その気持ち。

 でも忙しかったけど初めてのアルバイト楽しかった!




読んで頂き本当にあございました!


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平和っていいよね。

ご都合主義がご都合主義を呼ぶ!


 

 ビッグイベントである雄英体育祭が終わった。

 1位はしょうくん。2位は爆豪くん。3位は緑谷くんと常闇くん。

 俺は最後のトーナメント戦で常闇くんに負けちゃった。

 毒を使って相手の行動を無効化!なんて考えたりもしたけど、それじゃ流石に……ってなったから肉弾戦で真っ向勝負した結果だ。悔いはない。

 そもそもトーナメント戦まで行く予定もなかったのに、しょうくんが捨てられた子犬みたいな目で『一緒に1位目指さないのか?』って訴えてくるから抗えなかったんだよ!

 

 まあとにかく俺のことはいいんですよ。本作のキャラたちが活躍してくれればそれで。

 メダル授与式に呼ばれたヒーローはオールマイトとエンデヴァーだった。

 エンデヴァーがしょうくんに試合内容のことで嫌味や文句でも言ったら、控室行ってスネにローキックかますつもりだったけど、普通に公私混同せずに「おめでとう」って言ってたし、しょうくんも「おう」って普段通りに返してたから俺はホッとした。家に帰っても「特に何もなかった」ってしょうくんから聞いたし。

 

 あと原作であれだけヤバかった爆豪くんは本気のしょうくんと戦って負けたから、悔し涙は流してたけどどこかスッキリした表情をしてたから、なんか親の気持ちみたいな気分でほっこりしたよ。いいよね、若い子の成長って。

 

 つーことで今日も今日とて、

 

「爆豪、早くゴールしてくれ」

「指図すんな、紅白頭! そもそもてめぇが初っ端ハワイなんて引き当てっからこうなってんだろうが! ゴールしてくれとか言ってるが、てめぇ東京のとこくるくる回ってるだけじゃねぇか!」

「馬鹿だな爆豪。誰かがゴールすれば次の目的地が決まるだろ? そうしたらハワイ付近だと次が面倒じゃねぇか」

「なぁに得意げに言ってんだよ! それを全員で目指すゲームだろうが! つか一度もゴールせずに決算来るとか初めてだわ! そもそもたった5年の設定にしといて見据える先遠過ぎんだよ!」

「ご、ごめんね、かっちゃん……僕がサイコロの運が悪いばかりに……」

「てめぇはてめぇで勝手に自己嫌悪に陥ってんじゃねぇ! んでもってぶっ飛びして自滅してんだからサイコロ関係ねぇだろが!」

「あっ、あたしゴール出来た!」

「やったね黒刃ちゃん♪」

「運いいねぇ♪」

「チビは人のゴールを横からかっさらってんじゃねぇぇぇぇぇっ!」

 

 平和(?)に休日を過ごしてますよー。

 あ、因みに今いつものように轟家に来てる。俺と黒刃、しょうくん、被身子ちゃんに加えて、響香ちゃん、爆豪くん、緑谷くんがいるお。

 響香ちゃんは被身子ちゃんが誘って、爆豪くんと緑谷くんはダメ元で俺がお誘いしたら『首洗って待ってろ!』ってことで遊びに来たの。

 2連休だから被身子ちゃんも響香ちゃんも轟家にお泊まり。いつものことだけど俺も黒刃もだ。

 

「いやぁ、やっぱり面倒見のいい爆豪いると楽でいいわぁ」

「あ"ぁ"ん"?」

「あ、つい心の声が」

「毒野郎……元はと言やぁ、てめぇが遊び来いって言っといてノープランなのが元凶だろう?」

 

 わぁ、いい笑顔。精神年齢がおじいちゃんじゃなかったらちびってたわ。

 

「だからゲームしてんじゃん」

「てめぇはしてねぇだろ! つかなんでこんなレトロゲーなんだよ!」

「え、かっちゃんレトロゲー出来ないの? ざっこざこなの?」

「あと4年で一番金稼いで他の奴ら地獄に叩き込んで爆殺してやるわ! つかかっちゃん言うな!」

「あ、ごめんかっちゃん。妨害のカードの相手、ランダムにしたらかっちゃんになっちゃった」

「デェクゥゥゥッ! ゲームの中で地獄に落としたらぁ!」

 

 うわぁ、緑谷くん。ランダムとはいええぐっ。爆豪くんとこの金ごっそりもってった。

 爆豪くんは爆豪くんで相変わらずキレ散らかしてるけど、報復はゲーム内でするってのが優しい。まさに優しさの権化。勝デク最高っすわ。

 そんな感じで爆豪くんはついてなかったのか、散々な結果でマイナス50億でぶっちぎりの最下位。

 当然ムキになった爆豪くんがリベンジマッチすることになって、今度は50億稼いで1位を取った。

 

「爆豪っていつも怒鳴ってるけど、喉枯れないの凄いよな」

「あ"ぁ"ん"?」

「ねぇ、爆豪くん、今日ゲーム始めてから俺との会話で俺への最初の返事が絶対『あ"ぁ"ん"』から始まるのは何か拘りがあるの?」

「んなもんねぇよ、クソが! あとくん付けやめろ!」

「かっちゃんは集中してる時に話しかけると基本「あ"ぁ"ん"?」なんだ。でも放っておいて欲しい時は「あ"?」で、機嫌がいい時は「あぁん?」だから慣れれば分かりやすいよ」

「てめぇは何得意げに俺様のこと語ってんだ、クソデク! つかキモいんだよ! 寒気したわ! 鳥肌立ったわ!」

「……焼き鳥食いてぇな」

「人の鳥肌で焼き鳥食いてぇとかどんだけめでてぇ頭してんだよ、紅白頭! めでてぇのは髪色だけにしとけや!」

 

 爆豪くんツッコミ担当って感じでいいなぁ。というかしょうくんも緑谷くんも天然だから、ツッコミたくなるんだろうなぁ、彼の性格的に。

 

「そういやもう夕方だもんな。爆豪たちも飯食ってく?」

「おい、毒野郎。てめぇの家じゃねぇだろ」

「何言ってんだ爆豪。白は俺ん家の子も同然だ。ずっと俺と一緒に生活して来たんだからな」

「てめぇはてめぇでなんで得意げなんだよ……!」

 

 あの爆豪くんがツッコミ疲れていらっしゃる!

 いやまあ仕方ないか。13時から今までずっとツッコミ通しだったもの。おかげで俺はかなり休日を満喫出来たよ。ありがとう、爆豪くん。

 

「てめぇ、今なんか腹立つこと考えてなかったか?」

「そんなはずがございません」

「チッ」

 

 舌打ちされたけど、なんか爆豪くんからの舌打ちって嬉しいんだよな。友達になれたんだなって感じがして。

 

「白、焼き鳥……」

「ああ、はいはい。ちょっと待ってね。んで、話逸れちゃったけど、爆豪くんたちは飯食ってく?」

「今ババアに連絡入れる」

「あ、僕も」

「はいなー」

 

 てことで二人が連絡を入れ、お許しが出たので早速近くの商店街に行って焼き鳥を買い、轟家で夕飯を食べたとさ。

 緑谷くんは炎司さんと燈矢兄が帰ってきた瞬間に感涙してサイン貰ってたのが可愛かったまる。

 

 被身子サイド

 

 今日は響香ちゃんと黒刃ちゃんと私でお泊まり会♪

 本当なら私も白刃様のお部屋で一緒にいたかったけど、今日は響香ちゃんのためのお泊まり会だから我慢!

 爆豪くんと緑谷くんが遊びに来たのは驚いたけど、みんなでわいわいゲームしてて普通で楽しかった♪

 二人はお泊まりしないで帰っちゃったけど、私たちはここからが本番なの!

 

「響香お姉ちゃん、あたし、ガッカリだよ」

「…………」

 

 うわぁ、黒刃ちゃん激怒だぁ。

 まあ仕方ないかも。

 

 今日のお泊まり会はお泊まり会でも、本当の狙いは少しでも白刃様と響香ちゃんをお近づきにすること。

 だから白刃様が爆豪くんと緑谷くんを遊びに誘った時点で雲行きが怪しくなったんだけど、

 

「私も黒刃ちゃんと同じ意見かなー」

「…………」

 

 今日チャンスいっぱいあったのに、響香ちゃん何もしなかったんだよ!

 

 例えばみんなゲームに熱中してる時。

 男の子たちは当然ゲームに夢中で、白刃様だけは長座布団に寝転がってそれを楽しそうに眺めてたの。

 だから私も黒刃ちゃんも何度も『おやつ買いに行くとかで二人で行ってきて』って提案したのに、響香ちゃんが恥ずかしがり屋さんなばっかりにチャンスを掴めなかったんだぁ。

 

「二人には悪いと思ってるよ? でもさ――」

「デモもストもないよ! 響香お姉ちゃんが動かないとお姉ちゃんの気持ち、お兄ちゃんじゃ分からないもん!」

「……はい」

 

 黒刃ちゃんが大きく見える。かぁいい。

 響香ちゃんも小さく見えて、かぁいい。

 

「あのね、お兄ちゃんはあの天然ボケ焦凍のせいで自分が女の子からモテてるってことを知らずに生きてきたんだよ?」

 

 ああ、確かにそう。中学時代は私も知らない子からクラスメイトの子まで何人にも白刃様の好みとか訊かれたなぁ。なんか怖い子に『あんた"白刃様"とか言ってるけど、付き合ってるの!? 私の王子様と! ねぇ……ねぇ!』って問い詰められたこともあったっけ。

 

「焦凍は中身は手の施しようもないけど、見た目だけは高得点でしょ? それにお兄さんも焦凍のことイケメンだって言ってるし」

 

 確かにそう。白刃様って自分のこと全く分かってない。

 とってもかっこいいのに、白刃様目線のイケメン像の焦凍が基本隣にいるから気づいてないの。

 

「だからバレンタインデーとかラブレターとか基本的に貰ったり、靴箱の中とか机の中に入っててもまずは『しょうくん宛』って思ってるんだよ!? 自分が一番焦凍と仲良しだから橋渡し役にされてると思って!」

 

 確かにそうなんだよねぇ。それでもっと悲惨なのは、手紙の内容とかに『白刃さんへ』みたいな個人名が1つも書いてないから、焦凍も勘違いして『俺は別にお前のことなんとも思ったことねぇ』なんて差出人に告げちゃうとこね!

 差出人からすれば白刃様に告白したのに、その友達……親友の焦凍から"お断り"されるっていうところまであるから。

 だから『白刃様に告白するにはまず焦凍に認めてもらわないといけない』みたいなことになって話がややこしくなっちゃったもん。

 

「響香お姉ちゃん……あたし、響香お姉ちゃんが本当のお姉ちゃんになるの楽しみにしてるんだけどなぁ……」

「え、えーと、急にそんなこと言われても……その……」

「じゃあ何? 響香お姉ちゃんは飽きたらお兄ちゃん棄てるの? そんな人を弄ぶような最低な人間なの? ねぇ……ねぇ!?」

「ストップ! 黒刃ちゃんストップだよー!」

 

 黒刃ちゃんが死んだ魚みたいなお目々で響香ちゃんに詰め寄るのを、私は止めた。

 だって黒刃ちゃん、自分の個性で指先を刃物に変化させて響香ちゃんに刃を向けてるんだもん。

 

「被身子ちゃんも響香お姉ちゃんに言ってよ! 恥ずかしがり屋なのは知ってるけど、ここまでくるとさぁ!」

「私もだけど、響香ちゃんは高校1年生だよ? ヒーローになることを目指してヒーロー科に通って、まだその夢が叶うかどうかも分からないのに、結婚のことまで考えられないと思う」

「被身子ちゃんも?」

「私? 私は……うーん……」

 

 私はそういうの気にしないなー、響香ちゃんみたいにヒーローにどうしてもなりたいってわけじゃないし。仮に私が白刃様と結婚したら……

 

「うへへへへ……♡」

 

 毎日幸せ過ぎて白刃様に毎日鉄分・葉酸・タンパク質が豊富な料理を作って毎日チウチウしちゃうと思う……はっ! つい想像しちゃった。

 

「ほら、響香お姉ちゃんも被身子ちゃんを見倣って」

「いや、どこをどう見て見倣うのさ」

「これくらい逞しく妄想するくらいじゃないと、お兄ちゃんを落とせないでしょ!?」

「そんなことは……」

「お兄ちゃんと音楽やってる時はあんなに楽しそうなのに、それ以外だといっつももじもじしちゃって……今世は様子見か準備に使って来世で結ばれる気なの?」

「いや流石にそこまで見据えてないよ……今世でちゃんと付き合いたい」

「はぁ……」

 

 わぁ、大きなため息だなぁ。

 

「じゃあもう私たちが直接動くしかないみたい」

 

 そっちの方が確かに確実かも。

 私が頷くと、黒刃ちゃんはニッコリ笑った。かぁいい♡

 その反対で響香お姉ちゃんは「え!?」ってとても驚いてるけど。そのお顔もかぁいい♡

 

「明日、お兄ちゃんと何が何でもデートよ。お兄ちゃんは世界一優しいから、私が言えば響香お姉ちゃんを連れ出してくれるはずだもん」

「え? え……え?」

 

 ああ、その方が確実だね。

 

「今ちょうど新作の恋愛映画上映されてるし行って来なよ。焦凍のことは私と黒刃ちゃんで押さえとくから」

「被身子まで……」

「だって今のままじゃいつまで経っても進展しないと思うから」

「うっ……」

 

 私も言えば、響香ちゃんはやっと覚悟を決めたのか、私たちに力強い眼差しで「分かった」って頷いた。だから私たちもしっかりと頷いて返した。

 

「あ、でも初デートなのに服とか……」

「いつものかっこいい系で大丈夫! そんなことより作戦会議するよ!」

 

 こうしてこの場で最年少なのに一番頼りになる黒刃ちゃんに響香ちゃんは寝るまで攻略法を叩き込まれてた。

 私? 私は当然そういう知識はないから何もアドバイスなんて出来ないから、響香ちゃんが少しでも白刃様と距離を縮められることを願いながら、響香ちゃんの背中を励ますように優しく撫でてた。

 

 どうか、白刃様と響香ちゃんが幸せになりますように。




読んで頂き本当にありがとうございました!


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デデデデデ!?

 

 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!

 俺は黒刃に言われて今朝家に帰った響香ちゃんの忘れ物を届けに来た。

 そしたら響香ちゃんに「お礼に映画行こうよ」って誘われたんだ。

 な、何を言っているのか分からねぇと思うが、俺もどうしてこうなったのか分からねぇ……頭がどうにかなりそうだ……お礼だとか、感謝だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

 だってさ、

 

「ね、ねぇ……そんな顔しないでよ」

「え、あ、ごめん……こういうの初めてだから」

「そ、そっか……ウチが初めてなんだ……へへへ」

 

 はにかんでる響香ちゃんに手を引かれて街中を歩いてるんだぜ!?

 これじゃあまるで……まるで……!

 

「そういうウチも初めてなんだよ? で、デートするの……」

 

 デートだって! デートだってよ!

 え、え、え? マジで? 俺、今デートしてんの?

 前世でもこんな展開経験したことなかったからどうしたらいいのか分からねぇんだが!?

 DTはその手のお店で卒業証書貰っただけだからな!

 

「ちょっと……黙んないでよ」

「あ、う、ごめん」

「謝り過ぎ」

「…………」

「でも知らなかった。白刃って女慣れしてるんだと思ってたのに、こんなに動揺するなんてね」

「で、デートなんて経験したくても、経験出来るものじゃない。相手もいないし」

「被身子がいるじゃん」

「被身子ちゃんと二人きりで過ごしても、デート感はないんだよな……こう妹感が強いというか」

「ウチはそうじゃないんだ?」

「そりゃあ……まあ……」

 

 ああ、やめて! 恥ずかしくて死にそう!

 精神年齢おじいちゃんでも、前世でそんな甘酸っぱい経験したことないもん! 前世の俺にとってはギャルゲーとか恋愛漫画とかだけのイベントでしかなかったもん!

 

「素直に嬉しいよ、ウチは。ウチも初めてだから、初めて同士だね」

「お、お手柔らかに……」

「いやいや、意味分かんないし」

「で、ですよね……あはは……」

 

 ああ、会話続かねぇー!

 意識すると何話していいのか分かんねぇー!

 

「ねぇ、ウチが映画誘ったけどさ、白刃的にはどうなの?」

「どうとは?」

「だから、その……本当にウチと観てくれるのかってこと。義務感とかじゃなくて、一緒に観たいって思ってくれてるかなって」

「え……そりゃあもちろん」

「そ、そっか……へへ」

 

 うわーん! 響香ちゃんがかわいいよー!

 今日、俺の命日かもしれない……。

 というか、うん。冷静になろう。もちつけ……ちゃうちゃう落ち着け俺。

 お互い初めてなんだし、そもそもデートプランなんて人によって違うんだし!

 ふぅ、うん。難しく考えずに会話しよう。

 

「響香ちゃん」

「な、何?」

「映画何観るの? 俺、今上映されてるタイトル知らないんだ」

「え、あ……ええと」

 

 そんなこんなで最初はどうしてもギクシャクしてしまったものの、お互いに会話する内にいつもの感じに戻っていったので、映画館に着くまでには緊張も解けていた。

 

 ◇

 

「…………」

「…………」

 

 映画を観終えた俺たちは、映画館内にあるカフェに入って、無言のままでいる。

 何故かって? そりゃあ―――

 

「とんでもなくつまらない映画だったな……」

「お金を溝に捨てた気分ってこういうことを言うんだろうね……」

 

 ―――観た映画がB級映画にも劣る駄作映画だったからさ! 寧ろ定番のゾンビとかサメが笑えるくらいに改造されたB級映画の方が見応えあるよ!

 

「恋愛映画ってなんだろうな……」

「さぁ、ウチにもさっぱり……」

「まずさ、恋愛描写あった?」

「ウチの知ってる恋愛描写は見当たらなかったかな……」

「うん。俺もそう」

「序盤で男の主人公が何の説明もなく唐突に彼女欲しいってなって片っ端からナンパしていくのは百歩譲っていいとしてさ……」

「どうしてどの子も無理難題ふっかけてくるんだろうな。普通に断ればいいじゃん。主人公もどうして『できらぁ!』みたいなノリで挑戦すんのかもアホらしいし……」

「ウチが男だったとして、あんな意味分からんこと強いられたら恋人になりたいなんて思わないわ……」

「俺だって無理だ」

 

 もう映画の愚痴しか出て来ない。

 甘酸っぱさの欠片もない。

 あの映画の記憶だけ消える都合のいい記憶喪失になりたい。

 というか、こんな意味分かんねぇ映画で前世から数えての初デートを終わりに出来ねぇよ!

 

「響香ちゃん!」

「うぇ!? な、何!?」

「場所移そう。ここにいてもあのアホ映画の記憶が蘇るだけだ」

「それもそうだね。じゃあモール見て周ろうか」

「オッケー♪」

 

 こうして俺は響香ちゃんと共にショッピングモールへ向かった。

 

 ◇

 

「相変わらずここのモールはなんでもあるねー」

「来る度に品揃えも変わってるしな。唯一変わってないのはヒーローグッズ店くらいじゃないか?」

「あぁ、分かる。でも前に比べたらエンデヴァーの増えてない?」

「まあ次こそナンバー1獲れそうって報道されてたしな」

「そしたらやっぱお祝いすんの?」

「すると思うぞ? 炎司おじさんは『そんなことしなくていい』って言うだろうけど、冷母さんたちが準備しちゃえば内心喜んでるくせに渋々ってスタンスで祝われてるはずだ。あの人素直じゃないから」

「流石は長年側で見てきただけのことはあるねぇ」

 

 まあ昔に比べたらかなり丸くなったけどね、炎司さん。会う度に『呼びたいなら、炎司父さんと呼んでもいいぞ?』なんて言ってくるから、基本的に『呼びたくなったら呼びますね』って返してる、ホントそういうとこしょうくんの父ちゃんだなって思うよ。

 

「あ……」

「響香ちゃん?」

 

 急に立ち止まった響香ちゃんに声をかけたけど、なんか恥ずかしそうに耳のイヤホンジャック弄ってる。

 急かすのも悪いから俺は待つことにした。

 

「え、えっと、さ……」

「うん」

「ちょ、ちょっとここで待っててくんない?」

「? 分かった」

 

 俺が頷くと響香ちゃんは足早にとある店舗へと入っていった。

 ぱっと見た感じ雑貨屋っぽい。恥ずかしがらなくてもいいのに。

 

 それから暫くして響香ちゃんは買い物を終えて戻ってきた。手には雑貨屋で買ったであろう品物が入った白い紙袋を持ってる。

 

「小腹減ってきたし、何か腹に入れる?」

「そうだな。フードコート行くか? それともどっか別の場所行く?」

「白刃は何食べたい?」

「ジャンクな物かな」

「言うと思った♪ なら、駅前のとこに行こうよ。ここよりは空いてるだろうし」

「じゃあそうしますか」

 

 ということで今度は駅前にあるバーガーヒーローに向かった。

 

 ◇

 

 店についた俺たちはそれぞれ食べたい物を注文して、店内ではなく近場の公園で食べることにした。今日は天気もいいから、そっちの方がいいという響香ちゃんの判断だ。

 

「どこもベンチ空いてないな」

「別にいいじゃん。芝の上だって」

「あ、なら俺の上着敷いて座りなよ」

「え、白刃の上着汚れるじゃん」

「洗えば済むから。それに、えっと……初デートだから格好くらいつけたいな、と……」

「……バカ」

「うっ」

「は、早く上着敷いてよ……」

「あ、うん!」

 

 また妙な空気になったけど、響香ちゃんは素直に俺が脱いで敷いたパーカーの上に腰を下ろしてくれた。

 

「いただきます」

「いただきまーす」

 

 取り敢えず食事で妙な空気を誤魔化す俺と響香ちゃん。

 ごめんよ。人生2度目でも女の子の接し方は全くなんだ。

 

「白刃、ほっぺにケチャップついてるよ」

「え、どっちに?」

「こっち」

「むぇ」

「あ」

 

 ついたケチャップを拭いてくれた響香ちゃんだったけど、ふと俺の唇に響香ちゃんの人差し指が触れて響香ちゃんの顔が真っ赤に染まる。

 たぶん、きっと俺も同じだろう。めちゃくちゃ暑い! 熱い? どっちでもいい! とにかくあつい!

 

「……響香ちゃん」

「なに?」

「そういうかわいい反応されると、どうしたらいいのか分からなくなる」

「え……」

「ごめん。本当に余裕ない」

「…………」

 

 俺が本音を吐露すると響香ちゃんは暫く黙ったあとで、持ってたハンバーガーをガツガツと食べ出した。

 唖然とする俺をよそに、ハンバーガーを完食した響香ちゃんは、何か決意したみたいな眼差しで俺に一冊のノートみたいな物を押しつけるように手渡してくる。

 

「これは?」

「白刃」

「あ、はい」

「好きです。ウチと付き合ってください」

「……」

 

 唐突な告白に俺が戸惑っている中、響香ちゃんはしっかりと俺の目を見て続ける。

 

「最初はどんな時でも冷静で余裕があって、そういう同い年なのに年上みたいなとこに惹かれた。でも近くで接して距離が縮まる度に、白刃はウチにも焦凍や被身子に見せるような隙きを見せてくれるようになって、もっと惹かれた」

 

 響香ちゃんにそういう風に思われてるなんて思いもしなかった。

 俺はただ好きな漫画の世界に入って、原作のキャラが現実でワチャワチャしてるのが見てて楽しかった。

 たぶん、どこか自分とこの世界を線引きしていたのかもしれない。

 

「白刃はそういうの鈍感だから知らないだろうけど、アンタけっこー女子に人気あるからね? 今日だってウチと歩いてて何人もアンタのこと振り返ってて、『隣の子羨ましい』とか『いいなぁ』ってつぶやいてた」

「知らなかった……」

「白刃は自分のこと過小評価し過ぎ。まあ常に焦凍みたいなのがいればそうなるのも分かるけど……ウチは焦凍より白刃の方がタイプなんだ」

「……ありがとう」

「じゃあ付き合ってくれるってことでいいの?」

「響香ちゃんみたいなかわいい子が彼女になってくれるなら本望です……」

「……やった」

 

 小さくガッツポーズをとる響香ちゃん。

 それを見て俺は『ああ、自分に人生2度目にして初の彼女が出来た』となんか他人事みたいに思ってた。

 でも今あるのが現実なんだから、何も難しく考える必要ないんだよな。

 そもそもが原作と全く話の方向性違ってるわけだし、夢じゃないんだから。

 なら俺のことをこんなに真剣に好きだと言ってくれる響香ちゃんと幸せになりたい。

 

「じゃあ早速、これね」

「これは?」

「カップルノート。お互いのことを書いてくやつ」

「そんなのあるのか……」

「うん。恋人記念ってことで今日から始めよ」

「あ、あぁ」

「あとさ」

「うん?」

「ウチ、隠す気ないから」

「ん?」

「白刃はウチの彼氏だってこと周りに隠さないから! ゼッタイ!」

「え、あ、うん」

「じゃあ早速ノート書いてこ。まずは、ウチらのプロフィールから」

 

 こうして俺は響香ちゃんに言われるがまま、ノートに書き込んでいく。

 それを響香ちゃんは嬉しそうに眺めてて、なんだか俺まで嬉しくなった。

 同時にこの笑顔を守りたいなって心から思えた。

 

 焦凍サイド

 

「で、俺を置き去りにして白は響香とよろしくやってたってのか」

 

「しょうくん言い方……」

 

 被身子と黒にオールマイトの新作グッズを買いに行こうって誘われて、ついそれにホイホイとついて行った俺。

 白がいないのは寂しいが別に別行動するのは初めてじゃないから違和感もなかった。それに白はオールマイトよりエンデヴァーが好きだから、オールマイトグッズを買いに行こうって誘っても『俺はいいけど心配だからついてくだけついてくよ』ってくらいだ。

 

 俺がグッズを買って帰ってきても白はまだ帰って来てなかった。

 暫く白の家の玄関で待ってたら、白が帰ってきた。

 俺が近寄ると白から『彼女出来た』って打ち明けられた。その瞬間、俺は被身子と黒に殺意が湧いた。

 だってそうだろ? 白が響香に告白されたっていうビッグイベントをアイツらのせいで見逃したんだぞ? 白のことだから響香を幸せにするのは分かってるし、別れるとかはない。てことは俺は被身子と黒のせいで白の人生で最初で最後の告白されたシーンを見逃したことになるし、白が響香から告白されてどんな反応してたか一生分からねぇってことだ。ああ、考えただけで腹が立つ。

 

「白、俺たち親友だよな?」

「え、うん。もちろん」

「なら今夜家に泊まれ。んでどういう経緯で響香と付き合うことになったのか聞かせろ」

「しょうくん、プライバシーって知ってる?」

「白と俺の間にないものだってのは知ってる」

「あるよ! 親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!?」

「俺はちゃんと白の帰りを待ってた!」

「お利口さんと礼儀正しいは別だよ!」

 

 珍しく俺の願いを聞いてくれない白だったけど、ちゃんと最後は話してくれた。かなり割愛された感があったが話してくれたことの方が俺は嬉しかったから満足だ。

 響香、白を悲しませたら地獄を見せてやるからな。幸せにしてくれよ。俺のヒーローを。

 

 響香サイド

 

『良かったねぇ、響香ちゃん♪』

「ありがとう、被身子。自分でも夢みたいだよ」

 

 夜、ウチは被身子に電話でお礼を伝えた。

 強引だったとはいえ、被身子や黒刃ちゃんに背中を押されなかったら、ウチはいつまでも片想いしてただろうから。寧ろ片想いで終わってたかもしれないし。

 だから勇気をくれた二人には本当に感謝しかない。

 

『でも観た映画はハズレだったんだね』

「やめて。思い出したら気分悪くなるから」

『あ、ごめんね』

「うん……でさ、ちょっと被身子に確認したいことがあるんだけど」

『なぁに?』

「被身子は白刃に恋愛感情的な好きを向けてるんじゃないんだよね?」

『うん。白刃様は私の運命の人(ヒーロー)だもん。大好きで尊くて崇めてるよ』

「宗教じゃん……」

『あはは、そうかも。でも安心してよ。私が白刃様にくっつくのも好き好き言うのも血をチウチウするのも、恋愛的意味はないから! 黒刃ちゃんにも響香ちゃんにもみんなにも同じ気持ちで好きって伝えてるよ! もちろん白刃様への好きは特別大きいけど!』

「まあそこは……もう見慣れたというか、そういう形の絆だと思ってるよ」

 

 羨ましいなって何度か思ったことはあるけど、今はウチも白刃の特別になれたから。

 

『ただ焦凍くんは面倒かも。あの人同担拒否みたいなとこあるから』

「あ〜、なんとなく分かるかも」

『白刃様のこと悲しませないようにね。そうなったら焦凍くん面倒だよ、絶対に』

「ハイ、キモニメイジマス」

『あはは、とにかくおめでとう』

「ありがとう。今度何か奢るよ」

『うん、それじゃあまた明日!』

「うん、おやすみ」

 

 色んなことがあったけど、白刃と恋人になることが出来たし、悲しませないようにウチなりに頑張ろう!



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気持ちが一番大事。

さぁ、今回もご都合主義の時間だ!


 

 はい、てことでね。

 体育祭も終わったことだし、次はいよいよ職場体験になりますよ。

 ヒーロー殺しステインがいないという絶対的安心感。

 これだけでかなり平和だと思う。

 

 そもそも敵も原作とは違ってかなり減ってて、敵による凶悪犯罪そのものがなくなってきてるけど、交通事故とか火災といった不慮の事故はどうしてもあるから、今のヒーローたちの仕事は救助活動がメインって感じ。

 

「地毒と轟はやっぱエンデヴァーのとこ行く感じ?」

 

 昼休みになってすぐ、俺の前の席にいる瀬呂くんが振り向いて訊いてきた。

 

「うーん、どうk――」

「そうだ。燈矢兄もいるしな。そもそも親父に白と俺と被身子の3人で来いって体育祭前から言われてる」

 

 俺の言葉を遮ってしょうくんが返せば、瀬呂くんは「なら気楽でいいな」なんて笑って返す。

 

「いやぁ、そうでもないだろ。エンデヴァーって次のチャート1位取るのに必死なんだし、そこに遠慮のいらねぇメンツが行ったら即戦力で色々やらされんじゃね?」

 

 横から上鳴くんがそんなことを言えば、瀬呂くんは「有り得そうだな」と苦笑い。口田くんもコクコクと頷いてる。

 

「つか、どうして地毒は毒の個性使わずにやったんだ? トーナメント戦もそうだけど、体育祭で毒の個性一度も使わなかったじゃん」

「いやね、上鳴くん。毒の個性は加減間違えると取り返しつかないだろ? 扱い方に慣れたって攻撃手段として使うのは躊躇ってしまうというか……」

「正直、地毒に毒の個性まで使われてたら勝てたか分からん。授業で地毒が優秀なのを知っているからこそ、毒の個性がいつどういうタイミングでどういう風に襲いかかってくるのか怖かった」

 

 背後から常闇くんにそんなコメントをされると、俺自身何て返せばいいか分からない。

 

「んなことよりよぉ。俺は地毒に言いたいことがある」

 

 いつの間にか俺のすぐ横まで来ていた峰田くん。

 まるで俺を親の敵かのように睨んでる。

 いやもう何を言われるのか分かってるんだ。

 

「地毒てめぇコノヤロー! 体育祭終わった瞬間に彼女拵えるたぁいい度胸だな!」

 

 そう。このことだ。

 今朝は雄英高校の最寄り駅から響香ちゃんと手を繋いでーしかもあの指を絡めるやつで!ー登校したもんだから、香山先生が来るまでみんなから質問の嵐だった。

 響香ちゃんも響香ちゃんで恥ずかしがり屋なはずなのに、昨日のことでもうかなり吹っ切れちゃってるのか顔を赤くしていても『ウチら付き合うことになったから!』って宣言して、男子も女子も大興奮。

 飯田くんは真面目だから『不順異性交遊は良くない!』とか言われちゃうかなって思ったけど、飯田くんからは『恋人同士で切磋琢磨し、救け合うというのも美しいものだな!』なんて真っ直ぐに言われて言われた方が恥ずかしかった。

 

「んなこと言われてもな……いいじゃんか、お互い好き同士なんだし……」

「かぁぁぁぁっ! これだからイケメンはよぉ! 下々のことなんかこれっぽっちも分かってない!」

「下々って……俺は峰田くんのことそんな風に思ってないよ」

「なら別れろ!」

「え、やだ無理」

「ならお前は俺の敵だ!」

「えぇ……」

 

 理不尽な怒りをぶつけられるが、正直俺も前世ではいちゃついてるカップル見る度に『爆ぜろ』って思ってたから、峰田くんの言いたいことは分かる。言われる側ってこんな気持ちになるのね。おいちゃん知らなかったよ。

 

「峰田、アンタうっさい。てかアンタが白刃の敵ならウチもアンタを敵だと思うから」

「俺もだ」

「私もー」

 

 俺が前世のことを反省していると、響香ちゃんやしょうくん、被身子ちゃんと俺を庇ってくれた。

 それに峰田くんは「リア充がイキってんじゃねぇ!」と返したかったと思うんだけど、言い切る前に響香ちゃんのプラグが峰田くんの目にブスリしたので、打ち上げられた魚みたいに床を転げ回った。

 

「つかつい話し込んじまった! おい学食!」

「ああ、そうだった! またあとでな!」

 

 一方で上鳴くんの言葉に瀬呂くんも立ち上がって軽く俺たちに手を振って教室から出ていった。(転げ回ってた峰田くんはちゃんと瀬呂くんが回収して)

 因みに俺たち4人は弁当持参なので学食は行かない。ランチラッシュの料理はそれはそれでべらぼうに美味いし安価なんだけど、こういうザ学生時代の昼食が青春って感じで好きなんだよな。

 

「ウチらもお昼にしようよ。教室で食べる? それとも場所変える?」

「今から移動するのもあれだし、教室でいいんじゃないか?」

「俺はどこでもいい」

「私もー♪」

「ん。じゃあ机寄せよ」

 

 こうして俺、しょうくん、被身子ちゃん、響香ちゃんはそれぞれ持ってきた弁当を広げる。

 しょうくんに至っては俺が用意するのがデフォなので、いつものように俺から弁当を受け取った。

 

「焦凍っていつも白刃に弁当作ってもらってるけど、そんなんで卒業後どうすんの?」

「? いつも通りだろ、普通に」

「え」

「ん?」

 

 驚愕する響香ちゃんと何に驚いているのか理解出来ずに首を傾げるしょうくん。

 そうしている横で被身子ちゃんは「白刃様、玉子焼き上手に出来たからあげるね、あーん♡」なんて俺に玉子焼きを食べさせてくれる。素直に口開けて食べる俺も俺なのだが……まあこの空気にも慣れている。

 

「いやいや……焦凍ってホント白刃のこと好き過ぎでしょ……」

「何当たり前のこと言ってんだ?」

「あ〜、うん。ソウデスネ」

「?????」

 

 首を傾げつつも俺お手製弁当を食べることはやめないしょうくん。疑問に思うか食べるかどっちかにしなさい。

 

「白刃はそれでいいの?」

「んー、しょうくんを安心して任せられる人が出来るまでは俺が責任取らないと、とは思ってる。こうなったの俺のせいでもあるし」

「……友情もここまでくると怖いわ」

「俺と白刃はずっと一緒にいるからな」

「あーはいはい」

 

 渾身のドヤ顔にツッコミを入れるのすら疲れた響香ちゃんは適当にあしらう。

 

「でも前にしょうくんには伝えたけど、雄英卒業したら俺は医師免許取るのに大学行くからね?」

 

 俺の言葉にしょうくんは見るからにしょんぼりと眉尻を下げた。

 一方で被身子ちゃんは「凄いね!」と満面の笑みで、響香ちゃんは「え、そうなの?」と目をぱちくりさせている。

 

「そりゃあ俺の両親医者だし、俺の個性の性質上、医師免許持ってないとヒーロー資格持ってても法律違反になるじゃん」

「あ、確かに。校内ではギリギリで許されてるけど、外だと何の資格も持ってないのに毒なんて扱えないもんね」

 

 俺の説明に被身子ちゃんがポンと手を叩いて言った。

 そう。俺の個性である毒は使い方次第で簡単に人の命を奪えるヤバい個性。

 例えば卒業後にヒーローとして活動している中、災害とかで痛みを訴えている救助者がいた場合、毒の個性を使って救助者に麻酔毒を生成して投与するなんてことは出来ない。したら法律違反で即逮捕の上ヒーロー資格の剥奪だ。

 使わないって手もあるにはあるけど、使わざるを得ない可能性がある以上、後悔しないために資格は持っていて損はない。

 雄英高校から大学進学するのって基本的に普通科や経営科の子なんだけど、ヒーロー科の生徒は受けられない訳じゃないから。

 幸い実家から通える範囲に医科大あるし、雄英高校みたいな超エリート校で学問も学んでるから問題はない。あとは俺の頑張り次第だ。

 

「だから雄英を卒業すれば嫌でも俺としょうくんは別々の道に行くんだよ。忙しくなければ弁当は作っとくから、朝取りにくればオッケー」

「……それだけだなんて寂しいな」

「しょうくんは俺の彼女なの? 俺の彼女は響香ちゃんなんだが?」

「いいだろ、別に」

「良くはないよね」

「白が大学卒業したら速攻で俺の事務所に採用してやるからな」

「え、選択の自由は?」

「俺のとこ以外見向きも出来ない高待遇にするから白は自動的に俺の事務所に来る」

「いい笑顔でサラッと怖いこと言うね」

 

 まあしょうくんが本当にヒーロー事務所設立してたらちゃんと雇用されに行くけれども。

 

「私は?」

「被身子もいいぞ。というか白がいる時点で来ると思ってる」

「当然♪」

「将来の目標が決まってていいね。ウチなんてヒーロー資格のこととか学校生活のことで手一杯なのに……」

「え、響香ちゃんはもう将来決まってるんじゃないの?」

 

 被身子ちゃんの言葉に響香ちゃんは「ん?」と首を傾げる。

 すると、

 

「白刃様のお嫁さんでしょ?」

「はーーーーー!!!!!!?」

 

 顔を真っ赤にして盛大に叫び声をあげた。

 いや、まあ……うん。そりゃあ俺も別れる気ないからずっと付き合っていくことにはなる訳で、そうすれば当然そうなるという訳で被身子ちゃんの言うことも分かるんだけど、流石に気が早いというか……ヤバい、俺まで恥ずかしくなってきた。

 

「なら響香も俺の事務所に入るってことでいいな」

「え、ちょ、何勝手に……!」

「? 白の嫁さんなんだから当然じゃねぇか? ちゃんと産休と育休もやるぞ?」

「そもそもヒーローになれるかもまだ分からないんだけど!? てか飛躍し過ぎなんだけど!?」

「白刃様のお嫁さんになるってとこは否定してないね!」

「被身子!」

 

 しょうくんの天然ボケと被身子ちゃんの的確なツッコミにてんやわんやする響香ちゃん。

 うん、美しい。でもあんまり俺の彼女イジメないでくれ。二人きりになった時に色んな意味で空気がぎくしゃくしそうだから。

 

 と思っても、こういう戯れ合いも今でこそ出来るものだから、俺は特に止めなかった。

 

 響香サイド

 

 学校が終わって放課後。

 被身子が気を遣ってくれて焦凍を連れて先に帰ってくれたから、ウチは白刃とゆっくり帰ってる。もちろん手を繋いでね。恋人繋ぎで! 憧れてたのもあるけど、実際やってみるとなんか安心すんだよね、この繋ぎ方。

 

 それにしても、お昼は被身子のせいで酷い目にあった……。

 いや、酷いって言っても、恥ずかしくて酷いってことで……ああ! 誰に言い訳してんだウチは!

 

 もう! 全部被身子が悪いんだ!

 う、ウチが白刃のお、およ、およよ、お嫁さん……だなんて……!

 

 そりゃあウチだって白刃のお嫁さんになりたいし、なるつもりでいるよ。でもさ、こう……自分で言うのも変だけど、決定事項って訳でもないじゃん。そりゃあ白刃と別れるつもりなんて全くないけど、ウチがフラれる可能性だってある訳だし……。

 あ、ヤバい。考えたらフラれる未来しか浮かばないんだけど。

 だって白刃は大学行くから、そこでモテる訳じゃん? ウチよりかわいい子なんていくらでもいるんだからさ。

 

「―――香ちゃん?」

 

 そんで白刃は押しに弱いから猛アピールされたらウチのことなんて……。

 

「響香ちゃん!」

「は、はい!」

 

 しまった。白刃に話しかけられてたのにシカトしちゃってた。

 

「大丈夫……でもないか。しょうくんたちがあんなこと言ってたんだし」

「ま、まあね……」

「ちょっと真面目な話していい?」

「え、うん」

 

 なんだろ……もしかしてもう? 怖い……。

 

「俺たち付き合って間もないし、これからお互いに相手の見えてなかったとこも見えてくると思うんだ」

「そうだね……」

「相手の嫌なとこも見ちゃう時だってあると思う。でも結婚したらそれが普通になるってことだと思うんだ、俺は」

「まあそうだね。プライベートの時間をお互い作るにしても、一緒に生活とかしてたらそうなるよね」

「この先どうなるかなんて誰にも分からないし……いや、もしかしたらそういう未来予知を持った個性があるかもだけど、二人でなら乗り越えられると思うんだよね」

「…………え?」

 

 つまり、そういうこと? え、待って。ウチが考えてるのが白刃の言いたいことなら、それってもうプロ―――!

 

「まあその時が来たらちゃんと俺から言うから、待ってて。あ、もちろん俺に『ここは直して』ってのあれば遠慮なく言ってよ。響香ちゃんに嫌われたくないからさ」

「そんなのウチだって同じだよ」

「そっか……うん。ならお互い、何かあればちゃんと話そう。そうしよう。一人で抱え込まない!」

「うん、それが一番かもね」

 

 白刃を好きになって良かった♡

 

「じゃあさ、抱え込まないって決まったから、早速ウチから1個いい?」

「うっ、何でしょう?」

「ウチ、白刃のことだぁい好き♡」

「っ……そういう不意打ちやめて……」

「いや〜、だって抱え込まないって決めたじゃん? ならこの気持ちも抱え込まない方がいいでしょ?」

「ああ、もう! かわいんだよ、いちいち!」

「褒めるか怒るかどっちかにしてよ♪」

「どっちもだよ! 俺は欲張りだから!」

 

 ああ、幸せ。さっきまでの不安なんてどっかいったわ。

 そうだよね。先のことを今からくよくよしてても意味ないもんね。

 だったらもっとちゃんとウチの気持ちを白刃に伝えればいいんだ。

 ずっと大好きだよ、って。




読んで頂き本当にありがとうございました!

次回までまたちょっと空いてしまうかもしれません。
気長にお待ち頂けると幸いです。


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学期末試験の勉強をしよう!

ご都合主義の袋小路!

遅くなってごめんなさい!


 

 はい、ビューンと時が進みまして、期末試験が近付いてきました!

 え? 職場体験? やったよ?

 俺はせっかくだから原作で見たことないヒーローの事務所にお願いしようとしたのに、しょうくんが捨てられた子犬みたいに訴えてくるもんだから仕方なくエンデヴァー事務所行きました。

 事故に遭った人の救助補助だったり、高所作業が出来ないお年寄りの代わりに庭の木の剪定をしたり、エンデヴァー事務所のシュレッダーが壊れたからって俺が代わりに切り刻んだり……まあ色々とやりましたよ。

 後半はもうヒーロー関係なくね?って思ったけど、まあヨシ!

 

 あ、因みにクラスのみんなは原作通りのプロヒーローのとこへ職場体験に行ったけど、緑谷くんは爆豪くんに連れられてベストジーニストの事務所行ってた。

 夜嵐くんはラウドクラウドの事務所行って、心操くんは雄英高校で職場体験受けたみたい。心操くん、ヒーローになりたいけど将来はヒーローを育てる先生にもなりたいんだって。素敵だよね、そういうの。そう伝えたら心操くんはめっちゃ照れてて、それがまたかわいくてかわいくて……もう浄化されちゃいそうだったよ。あ、されてたわ。

 

 んで雄英高校生活初の期末試験が迫ってます。

 原作だと敵の襲撃とかで敵が活性化したことから、教師であるプロヒーローを相手に実技試験やったけど、この世界ではそんなことない。だって全然平和だもん。

 というか、香山先生が普通に実技試験の内容を教えてくれたんだよね。

 実技試験は昨今のヒーロー事情を踏まえた上で、救助活動試験になるらしい。

 

 それはいいんだよ。それは。

 ただ筆記試験の方が問題なのよ。

 範囲クソ広いからね。流石エリート校って感じ。前世の記憶があるっていうチートなかったら完全に赤点取ってた自信あるよ。ガチで。

 

「んぁー! どうしよう! 筆記マジでやべぇ!」

「私もヤバーい!」

 

 上鳴くんと芦戸ちゃんはもう阿鼻叫喚って感じ。

 分かるよ。勉強難しいもんね。

 

「仮に実技試験の結果が良くても、筆記試験で赤点取ってしまえば、合宿では地獄の勉強会だものね」

 

 蛙水ちゃ……梅雨ちゃんの言う通り。

 なんでも、夏休みに入ったらすぐに夏合宿というものがあるそうだ。

 原作でも林間合宿ってのがあったけど、俺たちの行き先はワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのところじゃなくて、13号先生が手掛けたUSJでの夏合宿らしい。

 香山先生曰く、

 

『今のヒーローに求められているのは災害時等の救助活動。よって夏合宿では様々な災害を想定しての救助活動訓練を行うから、覚悟しておくこと!』

 

 だとか。

 どんなに敵が減ったとしても、日本なら地震災害はいつでも起こり得るし、火山噴火や津波被害だって起こり得る。

 そんな時に駆けつけて救助にあたるのがヒーロー。

 ヒーローが駆けつけて最前線に行くからこそ、消防隊員やレスキュー隊員たちが職務を全う出来るんだ。

 

「あー! もうオシマイだー! 俺はみんなが合宿でワイワイキャッキャしてる中で勉強地獄の時間を過ごすんだー!」

「大丈夫だよ、上鳴! 私もその隣にいるから!」

 

 うーん。上鳴くんも芦戸ちゃんも諦めるの早いなぁ。

 んでもって、

 

「白……ん」

「おー、はいはい。よしよし」

「ん♪」

 

 しょうくんはしょうくんでさっき抜き打ち小テストで満点取ったからって俺に褒めてもらいに来てる。

 おいちゃん、わんこなイケメンってマジでズルいと思うの。かわいいんだもの。

 

「白刃様ー♡ 今度またお勉強会しよー♡」

 

 その横で被身子ちゃんは相変わらず俺にべったりだ。

 まあこうなってもう数年になるし慣れてるからいいけどね。

 ただ背後から峰田くんの嫉妬の眼差しが背中に刺さる刺さる。舌打ちと貧乏ゆすりの音が半端ねえ。

 

「勉強会やるならウチも参加していい?」

 

 そこへ響香ちゃんが顔を出してきた。

 当然、恋人を拒む理由はない。被身子ちゃんも響香ちゃんにすごく懐いてるし。

 

「なあなあ、勉強会するなら俺も参加していいか?」

 

 すると瀬呂くんも訊ねてくる。

 うーん。被身子ちゃんと響香ちゃんに加えて瀬呂くんもってなってると、流石のおいちゃんでもちゃんと教えられるか不安になるな。当然のようにしょうくんオプション付きだし。前世が教師とかだったら出来たかもしれないけど、如何せん前世はただの引きこもりニートだったんでね。

 

 あれ? というか、この流れって原作だと八百万ちゃんに教えてもらう場面じゃんか。

 ただでさえ原作と流れがかけ離れてしまってるんだから、今更感もあるけど個人的に八百万ちゃんがみんなに頼られてぷりぷりしてるの見たいやん?

 

「八百万ちゃーん」

 

 なので俺は八百万ちゃんに声をかけた。

 

「は、はい! 地毒さん、どうされました?」

 

 ビクッてしたよ。そんなに意外だった感じ? 授業で何度もチーム組んだりしてその都度意見交換とかして、それなりに打ち解けてると思ってたんだけどなぁ。

 まあでもヒーロー科の授業でもないのに男子から声をかけられるのって慣れてないかも。お嬢様校であんまり同世代の異性と接したことってなかっただろうしね。

 

 驚いてる八百万ちゃんに俺は手招きした。

 八百万ちゃんは首を傾げながらも、ちゃんと来てくれた。

 なんか地味に嬉しい。

 

「八百万ちゃん、中間テスト1位だったよね?」

「は、はい。それが何か……?」

「期末の勉強会するんだけど、俺だけじゃみんなを教えてられないから八百万ちゃんに助けてほしくて……お願い出来る?」

「い、い……」

「?」

 

 なんか俯いて肩震わせてるんだが? 正直表情見えなくて怖いんだが?

 

「いいですともー!」

 

 あ、良かった。原作通り……いや、ここは作品違うけどどっかの新世界の神になろうとした人みたいに計画通りって思うべきか。

 おーおー、めっちゃぷりぷりしてるやん。かわいいなぁ。

 あ、これ浮気じゃありませんよ? 犬や猫の仕草を見てかわいいって思うとの同じですよ。

 

「では今度の土日に私の別荘へ、参加をご希望される方々をご招待致しますわ♪ 私の別荘がどこにあるのかご存知ない方もおりますでしょうから、雄英高校の最寄り駅に集合ということに致しましょう♪ あとは我が家の使用人たちが安全に、皆様をお連れしますわ♪」

 

 わぁ、話がトントン拍子に進んでいくー。

 お嬢様ってすげぇ。というかお迎えまでしてくれるのマジで優しい。

 

「ちょ、ちょっと待ってヤオモモ!」

 

 盛り上がってる八百万ちゃんに待ったを掛けたのは響香ちゃん。

 響香ちゃんの言葉に八百万ちゃんは「どうかされまして?」と首を傾げている。

 

「いや、ウチらとしては至れり尽くせりでとてもありがたいんだけどさ……ヤオモモのえっと……使用人さん?たちとかの都合もあるんじゃないの?」

「あら、そんなお気遣いは無用ですわ。使用人たちだってそれが仕事ですもの」

「でも……」

「確かに私の家の別荘は雄英高校よりは狭いと認めますわ。けれどヒーロー科の全員をご招待してもまだまだ余裕はありますから、ご心配はいりませんわ」

 

 八百万ちゃんがそこまで言うと、響香ちゃんは「なら、いいのかな?」と疑問系だったけど無理矢理に納得することにしたみたい。違う、違う。そうじゃなぁい。って思うけど八百万ちゃんが楽しそうならそれでいいと思う。

 それにダメだよ、響香ちゃん。超セレブなお嬢様の感覚は常人とは違うんだから。

 

 その後は芦戸ちゃんやら葉隠ちゃんやら、クラスの大半が八百万ちゃんの別荘での勉強会に参加するということになり、みんなに頼られて八百万ちゃんはとってもぷりぷりしてた。

 

 響香サイド

 

 ヤオモモの別荘で勉強会をすることになった。

 本当は学生恋愛モノのドラマや映画みたいに、白刃と二人きりで勉強会して二人きりなのを言い訳にして……みたいな展開を妄想してたりはして痛い自分がいたけど、フツーに考えればそんなことないよね。

 勉強会を白刃の家でするにしても黒刃ちゃんはもちろん、被身子と焦凍も参加するに決まってるんだし、そんなドラマみたいな甘い雰囲気にはならない。

 

 ってことでヤオモモの使用人さんたちがわざわざリムジンで駅まで迎えに来てくれた。

 もうこの時点でウチを含め、参加することになったメンバーはみんな驚いたけど、別荘に着いたら着いたでそのスケールの大きさにまたみんな驚いた。

 

 別荘ってなんだろう?

 これ豪邸の間違いじゃない?

 ここ売ったらその後の余生まで余裕で暮らしていけそうなくらいのお屋敷なんだけど?

 

「……大きい……」

「…………博物館や」

 

 被身子とお茶子はもう目の前の現実を受け入れるのがやっとっぽい。

 

「大きいー!」

「大豪邸だー!」

「流石は八百万ちゃんね。ケロケロ」

 

 こっちの3人はいつも通りっぽいな。

 なんか羨ましいんだけど、そのメンタル。

 

「ようこそ、いらしてくださいました、皆様! ささ、遠慮なくお上がりになってくださいまし!」

 

 ヤオモモ、今日は一段とテンション高いなぁ。よっぽど嬉しいんだな。普段は大人びてるのに、かわいい。

 

「行こうぜ、響香ちゃん。ほら、荷物」

「あ、ありがとう、白刃……」

「カレシだからね」

「うん♡」

 

 白刃はホント、付き合ってからウチを女の子扱いしてくれる。

 こういうさり気ない優しさはズルいと思うんだよね……ますます好きになっちゃうじゃん。

 

「地毒くんってスパダリだねー!」

「勉強会ってこと忘れてなーい?」

「二人共幸せそうで、見ていて微笑ましいわ。ケロ♪」

「そういうのいいから!」

 

 ウチは照れ隠しで思わず三奈たちに怒鳴っちゃったけど、3人はニヤニヤしてくるだけ。というか、梅雨ちゃんに至っては寧ろお母さんみたいな、母性あふれる微笑み浮かべてるから余計に恥ずかしいんだけど!

 

 ◇

 

 それからも結構からかわれたけど、勉強会が始まればみんな真剣になった。

 ヤオモモがわざわざ参加者全員の不得意な科目の問題集のプリントまで用意してくれて、躓けば噛み砕いて教えてくれるしで、本当に助かってる。

 ただ、

 

「うーん……分からん」

「響香、分かんないの?」

「うん」

「オッケー。ダーリンさーん、ハニーさんがヘルプだってよー!」

「ちょ!?」

 

 こんな感じでウチが躓くと周りが勝手に白刃を呼ぶんだよね!

 そんで白刃も白刃で、

 

「おーう、今行くー」

 

 なんて恥ずかしげもなく返して、平然と来るし!

 ウチばっか恥ずかしい思いしてる気がするんだけど!

 表情は見えないけど透のやつめっちゃ笑ってる! めっちゃクスクス笑ってる声するし! 勉強どころじゃないんだけど!

 

「はーい、来たよ、響香ちゃん」

「あ、う、うん……ありがと……♡」

 

 くぅ、来てくれたのは純粋に嬉しい。

 というか、ウチしか気付けないと思うんだけど、白刃ってウチと話す時だけ声のトーン若干柔らかくなるんだよね。本人は自覚してないと思うけど、思い遣りがあって優しい人だから無意識にやってるんだと思う。

 こういう微かなところでも優越感というか、恋人として接してくれてるんだって感じてドキドキするんだよね。

 ああ、もう好き!♡

 

「響香ちゃん、聞いてる?」

「あ、ごめん……ちょっと飛んでたわ」

「……苦手なのは分かるけど、頑張って。もう一度教えるから」

「う、うん……♡」

 

 ああ、耳が幸せ。

 だけどすぐ隣で透が未だにクスクス笑ってるから、そのお陰で浮かれ過ぎずに済んだよ。

 あと峰田が無駄に切れ散らかしてくれたから余計に。

 

 ホント恥ずかしかったけど、勉強会に参加出来て良かった。




読んで頂き本当にありがとうございました!


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夏休みって控えめに言って最高じゃね?

めちゃくちゃ遅くなってごめんなさい!
そして遅れましたが明けましておめでとうございます! 今後もよろしくお願いします!

てことで、ご都合主義のお通りですよー!


 

 夏休みです。

 学生の頃の夏休みって最高だよね。特に自由度が増えた高校生の夏休みってさ!

 なんかこう……最高だよね!

 

 てことでね、そんな夏休みももう後半になってますよ。

 え? 期末試験? 合宿?

 無事に終わりましたよ?

 期末試験の筆記の方は勉強会のお陰で赤点は0。実技試験も問題なく、個性を活かせない子もチームメンバーと協力して救助者を想定したダミー人形を運んだり、避難経路を確保したりで頑張って、みんな無事に合格判定をもらったよ。

 

 夏合宿は死ぬほど疲れたね。

 原作のような敵の活性化に伴って自衛のために2年生前期に行うワイルド・ワイルド・プッシーキャッツたちによる合宿で、ヒーロー活動認可資格の仮免を1年生後期に取らせる必要性がないから、USJでの救助活動訓練合宿だった。

 初日は普通にUSJ内の見学をしつつ、水難事故エリアにあるデカいウォータースライダーみたいなやつ乗って遊ばせてもらった。あれはマジで楽しかった。

 ただ次の日からの救助訓練がアホなほど過酷で『あ、これ死ぬ』って思ったのが何度もあったね。そもそも5時起きってのが辛かった。

 でもみんなで知恵を絞って協力したりして本当に掛け替えのない思い出がたくさん詰まった合宿になったよ。

 

 それに施設内の宿泊スペースも快適だったし、朝昼晩と食堂でバランスの取れた最高のメニューや災害時の支給食料の味も堪能出来たし、合宿らしくみんなで昼飯を作ったり、バーベキューしたり花火やったりって青春らしい思い出が盛りだくさん。

 あと13号先生とハグ出来たのはマジで感動した。あのヒーロースーツ結構抱き心地良かった。

 まあそのあとで何故か対抗心を発揮したしょうくんと被身子ちゃんに引っつかれたけれども……。

 

 ? その時の響香ちゃん? かわいかったよ。

 二人と離れたあとで、俺の服の袖を引っ張ってきて、『ん』って両手広げてきてさ……かわいいの権化かよって言って、ハグしたよ。

 峰田くんにスネ蹴られたの痛かったけど、悔いはない!

 

 んで、今は合宿も終わったってことで残りの高1の自由な夏休みを謳歌している。

 いやぁ、何度も言うけど最高だよね、夏休み。特に高1の何にも囚われないでいられる夏休みって。

 2年になれば個性強化合宿やら進路を意識して準備を始めないといけないし、3年になればそれこそ夏休みなんてほぼインターンに捧げるか受験に捧げるかだ。当然俺は後者。

 だから俺はこの何もせずに気持ち穏やかに過ごせる高1の夏休みを全力で楽しむぞ!

 

「…………しょうくん、相変わらずだね」

「用がなきゃ来ちゃいけねぇのか?」

「いえ、構いません」

「ならいいじゃねぇか」

 

 って思ってたのに相変わらず俺の家に我が物顔でいるしょうくん。

 いやまあそれはいいのよ。何せずっとそうですしお寿司。

 今は昼過ぎ。黒刃は学校の友達と遊びに行くってことで留守。昨日はお兄ちゃんと遊ぶ日だったらしくずっとべったりだったけど、今日みたいにちゃんとお友達と遊ぶことが出来る妹がいるという安堵感は兄として嬉しかった。

 

「しょうくん」

「お?」

「アイス食う?」

「まんじゅうアイスかあずきバーあるか?」

「ありますよー」

 

 夏といえばアイス。

 前世の頃の晩年は歳のせいもあってアイスなんて食う気にもなれなかったが、若い体の今は何個でも食えるんだよな。

 個性使ったりするとカロリー消費するのか食っても食っても太らないし……若いって最高だな!

 

「どっちもあったからどっちもお食べ」

「白は神だな」

「大袈裟で草生える」

「そんな個性もあるのか?」

「天然ご馳走さん。とりあえずまんじゅうアイスから食べなよ。あずきバーは凶器だから」

「分かる」

 

 まんじゅうアイスをもひもひするイケメン……眼福やわ。

 俺は前世から大好物のチョコモナカのジャンボだ。

 というか転生してある程度自由に歩き回れるようになった頃、ヒロアカ世界にも俺の世界のアイスがあって感動したな。他にもお菓子とかもあって、転生前のガキの頃のように駄菓子屋にはよく通ったし、今でも通ってる。

 そんな前世と今世の似てる部分で感動したのも、今ではいい思い出だ。

 

「白は響香とデートとかしねぇのか?」

「…………んほ」

 

 しょうくんらしからぬ質問に俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。

 だってそうだろ? あのしょうくんが俺に恋愛絡みの話題を振ってきたんだ。明日は……いや、今からヒョウが降るかもしれない! しかもテニスボールサイズの!

 

「どうした、急に?」

「? いや、夏兄が夏休みはどこに行ってもリア充共が幸せそうにしてるって昨日言ってたから」

「ああ、そういえば夏兄に響香ちゃんとのことでちと妬まれてたな……」

「ん。で、どうなんだ?」

「何でそんな訊いてくるん?」

「白が幸せじゃないなら、響香に白はやれねぇって言わないといけねぇから」

「しょうくんは俺の父親かよ……」

「俺は白の幼馴染みで、家族だ。俺の家族を幸せに出来ない人間に任せられない」

 

 んー、相変わらず思いが重いお。このイケメン。まあ前からだけどさ。

 というかさ、

 

「響香ちゃんと結婚するにしても、俺はしょうくんからお許しをもらう必要なくね? もらうなら響香ちゃんのご両親でしょ?」

 

 冷たいかもしれないけど結婚するのにしょうくんの意思は関係なくない?

 だからいくらしょうくんが反対しようが関係ないと思うの。

 

「駆け落ちする気か」

「駆け落ちする気はないよ? というか、本当にしょうくんとこういう話題(恋バナとはまた違うけど)しないから訳分からんのだが……」

「……まあとにかく俺は白の幸せを願ってる。それだけだ」

 

 やめてよ、そんなイケメン発言しないでよ。柄にもなくお耳が幸せになっちゃう。メスになっちゃうじゃない。

 

「んなこと言われなくても俺は幸せだよ」

「今は俺といるんだから当たり前だろ?」

 

 コイツ、俺のこと落としに来てる? イケメンムーブがエグいんだが?

 

「そんなことより白は宿題終わったか?」

 

 良かった。いつものしょうくんだ。天然のイケメンムーブだった模様!

 

「合宿前に貰った宿題は終わらせたし、残りも少ないからほぼ終わってるかな」

 

 前世ブーストもあってこういうのは寝る間も惜しんでさっさと終わらせてるんだよね。若いから完徹しても仮眠取れば問題なく日中も活動は出来るから。

 

「早ぇな。まあ俺も似たようなもんだけど」

「ほぼ一緒にやってるしな」

「おう」

 

 誇らしげに胸を張るしょうくん。小学生の頃から俺たちは宿題やるのもほぼ一緒にやってきたから、ペースも同じなんだよね。

 だから今日もこんな風にのんびりと過ごせているということだ。

 

「じゃあアイス食い終わったら残りの宿題終わらせちまうかー」

「そうだな。終わらせちまえばあとの休みは存分に白といれるからな」

「相変わらずだね、しょうくんは」

「?」

「こっちの話。それより食っちまおうぜ。あずきバーも食い頃だし」

「おう」

 

 こうして俺たちはアイスを食べ、残りの宿題を揃って終わらせるのだった。

 

 被身子サイド

 

 今日はクラスの女の子たちと百ちゃんの別荘でお泊り会。

 三奈ちゃんと透ちゃんが『遊んじゃって、宿題が進まない!』って言うから、みんなでこのお泊り会で終わらせちゃおうって話になったの。

 ご両親の代わりに家事や下の子の面倒を見てていつもは参加出来ない梅雨ちゃんも、今回はご両親がお家にいるってことで参加してる。みんな揃うのって嬉しい。

 それでお泊り会だから、今日は特別に百ちゃんが使用人の人たちにお願いして、わざわざ広いお部屋にお布団を敷いて寝るの。

 

「やっと終わったー!」

「シャーペンの握り過ぎで手が痛ーい!」

 

 梅雨ちゃんと百ちゃんの手綱捌きもあって、三奈ちゃんたちも日付を跨いだ頃に全部の宿題を終えた。

 もうお風呂も済ませてあるから、みんなパジャマ姿。

 百ちゃんはお高そうな赤いネグリジェ?っていうパジャマで、シルク?って生地でとってもスベスベ。

 透ちゃんとお茶子ちゃんと梅雨ちゃんはボタン掛けの半袖半ズボンのパジャマ。透ちゃんが白でお茶子ちゃんは薄ピンク。梅雨ちゃんは黄緑色の生地に、カエルマークが水玉模様みたいについてる。

 三奈ちゃんと響香ちゃんはタンクトップに短パン。三奈ちゃんは黒のタンクトップにクリーム色の短パンで、響香ちゃんは紫のタンクトップと黒の短パン。

 私は白刃様のお下がりの黒のTシャツとドクロマークが左腿のとこに描かれてるハーフパンツ! 宝物! 本当は使わないで永久保存しようと思ったんだけど、使わないと白刃様が「使わないなら捨てていいんだよ?」って悲しんじゃうから、使うようにしてるの!

 

「やっぱこのメンツだと捗るー! 寮だと他のクラスの子もいるから、なーんか遊んじゃってさー!」

「家でも一人でやってるとつい違うことしちゃうんだよねー♪」

 

 三奈ちゃん、透ちゃんがそんなことを言うと、お茶子ちゃんも響香ちゃんも『分かる』って頷いてる。私もちょっと分かるかも。地毒園にいると基本的にみんな集まって宿題やるけど、宿題とは別のお話しをしちゃったりするもん。あ、これって普通っぽい!

 

「では時間も遅いですし、そろそろ就寝しましょうか」

 

 百ちゃんがニッコリと笑って言う。かぁいい♡

 でも、

 

「えー! せっかくのお泊り会なのにー!?」

「ガールズトークしたいしたーい!」

 

 三奈ちゃんと透ちゃんが揃って駄々をこねた。かぁいい♡

 

「ガールズトーク……申し訳ありませんが、私はしたことがなく……」

「百ちゃん、謝ることではないわ。ガールズトークって言うのは、ただ女の子同士で楽しくお喋りをするだけだもの。私たちがいつもしているのと変わらないわ。ケロ」

「まあ、そうなのですね!」

 

 梅雨ちゃんの説明に百ちゃんは笑顔でポンと手を叩く。そのあとでベルを鳴らすと、使用人の人たちがお茶とお菓子を用意してくれた。凄い。お茶子ちゃんも「やっぱセレブや」ってつぶやいてる。

 

「合宿でみんなとお泊りはしたけど、疲れてガールズトークしてる場合じゃなかったもんねー!」

「うんうん! やっぱり、こういうのはお泊り会の定番!」

「夏休みだし、こんな風に夜ふかしするのも学生ならではの楽しみ方よね。ケロケロ」

 

 みんなで円卓を囲んでソファーに座ってガールズトーク。まだ何もお話してないのに普通で楽しい!

 

「で、ガールズトークと言えば〜……?」

「恋の話ー! 略して恋バナー!」

 

 三奈ちゃん、透ちゃんが揃って『いえーい♪』って手を叩くと、百ちゃんと梅雨ちゃんと私は拍手して、お茶子ちゃんと響香ちゃんは顔を赤くした。なんでだろう?

 

「とりあえず今彼氏持ちは響香だけだけど、それから彼氏とはどう?♪ 進展報告よろー♪」

「惚気ばっちこーい♪」

「私も普段聞けないから、なんだか楽しみだわ。ケロケロ」

「あ、あんまり過激なお話はせんといて!」

 

 ああ、こうなるから響香ちゃんは顔を赤くしてて、お茶子ちゃんは恋愛のお話聞くのが恥ずかしいんだね! どっちもかぁいい♡

 

「ほらほら〜、唯一の彼氏持ち〜? みんな待ってるよ〜?」

「三奈、うっさいっ! 惚気ろって言われて惚気るかっての!」

「まあ確かに地毒くんってハイスペスパダリさんだから、独り占めしたいよねー!」

「他のクラスの女の子たちが轟ちゃんと地毒ちゃんの話をしている時があるものね。私としても地毒ちゃんは優しくて、本物のヒーローみたいなところ好きよ。ケロ」

「梅雨ちゃん!?」

 

 梅雨ちゃんの大胆な発言に響香ちゃんはびっくりしたみたいだけど、梅雨ちゃんは「ライクってことよ♪」って舌を出してお茶目に笑った。かぁいい♡

 

「地毒くんは飯田くんほど真面目でもないけど、上鳴くんみたいにチャラチャラしてないし、切島くんほど熱くないから、ちょうどいいんだよねー。轟くんみたいな天然ボケもないし、お料理も上手だし! 授業中も頼りになるし、お世話上手って感じ!」

「職場体験で活躍していたものね。事故に遭った人は可哀想だけど、地毒ちゃんも轟ちゃんも、そして被身子ちゃんも救助の補助をしているのをニュースで見て誇らしくなったわ。この頑張ってる人たちは私のお友達なのって。地毒ちゃんに至っては変わらず冷静にエンデヴァーへ指示を仰ぎながら、二人にも指示を出していて……流石だと思ったわ」

 

 透ちゃんや梅雨ちゃんがそんな話をするとみんなも『確かに』って頷いて、響香ちゃんはみんなに白刃様が褒められてちょっと嬉しそうにしてる。かぁいいなぁ♡ あと梅雨ちゃんに褒められたのが嬉しい♪

 

「実際、地毒は体育祭終わってからファンクラブ出来たっぽいもんね! 本人の全く知らないところで!」

「聖愛学院に進学した同級生の方が、学院に熱狂的なファンがいらっしゃるみたいですわ。この前教えて頂きましたもの。既に2桁は超えているとか……」

「私もたまに寮で地毒くんのこと聞かれることあるなぁ」

「ああ……そう……」

 

 三奈ちゃんと百ちゃんのファンクラブ発言やお茶子ちゃんの発言に、響香ちゃんは遠い目をして言う。

 

 体育祭で白刃様はレクリエーションの借り物競走に出て、出たお題がモノクルだったらしくて、観客席にいたモノクルを掛けた女の子を見つけて、その子にモノクルを借りに行って見事に1着を取ったの。

 それからモノクルを返しに行った時に握手求められてたし、周りの子たちとも写真撮ったりしてた。

 私やA組の女の子たちはすっかり慣れてるけど、白刃様と関わったことのない女の子は白刃様の見た目が怖いんだって。なのに教材を運ぶのを手伝ってくれるとか、落としたハンカチを拾って届けてくれるとか、優しい性格をしてるからそのギャップが凄くて、そういうところにみんなやられちゃうみたい。流石私の運命の人(ヒーロー)だよね!

 そういうギャップが体育祭で分かったから、もう既に一部で熱狂的なファンがいて、響香ちゃんはちょっと悩んでる。攻撃まではされてないけど、視線が痛いらしい。

 でもでも白刃様は響香ちゃん一筋だし、ファンクラブのことも知らないから安心していいと思うけどなー、私は。

 

「いやぁ、そんな人が彼氏で響香は幸せですな〜?」

「……幸せですけど、何か問題でも?」

「べっつに〜♪」

「あー! もう! うるさいなー! こうなるの分かってたから嫌だったんだよ!」

 

 響香ちゃんはそう叫ぶとみんなから逃げるように私に抱きついてきた。かぁいい♡

 

「三奈さん、透さんも……響香さんが可哀想ですわ」

「私もからかっちゃったから人のことは言えないけれど、やり過ぎはよくないわ。ケロ」

 

「でも響香ちゃん、地毒くんといる時めっちゃ幸せそうに笑っとるから、からかいたくなるのはちょっと分かってまうかも、私」

「お茶子、仲間ー♪」

「幸せ者は弄られても仕方ないよねー♪」

 

「そんなこと言われても……白刃と付き合えて幸せなのは当然じゃんか……こんなにこんなに好きなんだし……」

 

『っ!』

「お砂糖を入れてなくても紅茶が甘く感じるわね。ケロケロ♪」

 

 響香ちゃん乙女ー♡ とってもかぁいいー♡

 みんなも私と同じ気持ちなんだろうなー♪ だってみんなお顔赤いもん♪

 

「女として負けた気がする……」

「こういうかわいさが地毒くんを夢中にさせてるのかなー?」

「響香ちゃんかわいいわ♪」

「なんだか、こちらまで火照ってしまいますわね……」

「恋って偉大や……」

「響香ちゃんかぁいい♡」

「だからやめろ!」

 

 その後も私たちは朝方まで響香ちゃんに白刃様との甘々エピソードを訊ね続けた。

 なんだかんだ文句を言いながら、結局響香ちゃんも嬉しそうに白刃様とのことを話して惚気ててとってもかぁいいかった♡

 

 響香サイド

 

「てなことがあってさ、ホント大変だった……」

「いい思い出が出来たようで何より」

「随分と他人事みたいに言ってくれるじゃん?」

「いやそんなことはないよ。だって今しか出来ないような過ごし方だろ? 今は恥ずかしいが強いだろうけど、大人になれば『あ〜、高校生の頃にそんなことあったな〜』って思えるし、本当にいい思い出だと思うのだよ」

「白刃ってたまにおじさん染みたこと言うよね」

「昔からよく言われる」

 

 ヤオモモの別荘でお泊り会をしてから数日後。

 ウチは白刃の家にお邪魔させてもらって、あの時の愚痴を聞いてもらってる。まあ愚痴ってほどでもないんだけどさ。なんだかんだ喋ったのもウチだし。

 

 今日は焦凍が冷おばさんの実家に家族で顔を見せに行ってるから、珍しく最大の邪魔者がいない。黒刃ちゃんも被身子もウチに気を使ってくれて、こうして二人で過ごせてる。

 別に何かするって訳でもなく、ただ白刃の自室で隣り合って座ってるだけだけど、それだけでウチは幸せ。白刃もウチと同じ気持ちだと嬉しいな。

 だからこそ……重い女だって思われても、白刃がウチと別れて違う人と結ばれるなんて嫌だ。絶対に嫌だ。

 

「ねぇ」

「? どうした?」

「好き」

「え、お、おう」

「好き」

「本当にどうしたの?」

「……伝えないと後悔するから、かな」

 

 正直、自分でも何言ってるのか分からない。

 でも気持ちはしっかり伝えないとウチの気が済まないんだよ。

 

「……なんか不安なの?」

「……そんな感じ。ごめんね、めんどくさい女で」

「響香ちゃんとしか付き合ったことないから、この状況がめんどくさいのかも分からないんだよね、俺」

 

 正直にそんなことを言って苦笑いする白刃。

 それがウチに対する気遣いじゃなくて、ウチにちゃんと今の本音を言ってくれてるって分かって、余計にウチは好きって気持ちが膨らんでくる。

 

「ハグ、してくれない?」

「えらい唐突だな」

「いいじゃん。減るもんじゃないし」

「甘えん坊な響香ちゃん」

「彼氏に彼女が甘えて何が悪い」

「何も」

 

 白刃はそう言うと優しくウチを抱き寄せてくれた。

 背中に両手を回して、ウチが苦しくないように、優しく優しく。

 それでいて白刃の心臓の音が速いビートを刻んでて、ウチはそれが心地よくて聞き入ってた。

 

「……白刃」

「ん?」

 

 ウチが見上げれば、必然的にウチの方を向いた白刃の顔が目の前にくる。

 お互いの息が当たる距離。いつもは反らすはずの目線も、今は白刃の瞳にホールドされたように離せなくなってる。

 もういいや。欲張っちゃえ。

 

「……んっ」

「っ!?」

「…………」

「ん」

「っ……ん……へへへ♡」

 

 ファーストキス、しちゃった!

 白刃の心臓の音が更に速いビートを刻んで、ウチとのキスを喜んでくれてるみたいで、気分がアガる。

 

「……えっと、その、ありがとう」

「なんでお礼? ウチからお願いしたのに」

「いや、なんとなく?」

「あはは、何それ……あははは♪」

「ハハハ……」

「愛想笑い下手くそか♡」

「こういうの本当に免疫ないんだよ……」

「顔真っ赤♡ いつもは逆なのに♡」

「…………」

「ねぇ」

「……今度は何?」

「そう警戒しないでよ……ただ……」

「ただ?」

「もう一回、キス……したいなって」

「彼女が俺の息の根を止めに来ている件」

「そうなったら心臓に直接爆音響かせて強制蘇生ね」

「うわお」

「いいからしてよ……ほら、んっ」

「……んっ」

 

 今度は白刃も余裕が出たのか、心臓は穏やかなビートになってた。

 さり気なくウチの腰に手を回して支えてくれてるのも、ウチの頭を優しく支えてくれてるのも、全部全部白刃の優しさが伝わってきて、とても嬉しい。

 ウチも最初こそはちょっと強張ってたけど、今はリラックス出来てる。

 だって白刃の胸元に両手を置くのをやめて、白刃の首に両手を回せる余裕が出たもん。

 

「んっ……ん……ん〜っ」

「っ……んっ……!?」

 

 へへ、ビクッてした。ほらほら、口を開けろ。

 

「っ……っ……んぅ!?」

 

 いつもリードされっぱは悔しいもんね。というか、白刃の吐息が色っぽくてドキドキするし、いつもカッコいいのに、今はめっちゃかわいい。

 

「ん〜……れるっ……はむっ……♡」

「……っ……はむっ!」

「んむぅ!?」

 

 舌噛まれた! あ、待って……え、白刃の舌がウチの舌に巻き付いて……ウソ、何これナニコレ!? 腰が勝手に動くのに、白刃にガッチリ押さえつけられて……やっば、これ……!

 

「んぅ……はぁ、ぁ……んむぅ♡」

「はむっ……ちゅるっ、ぢゅるる……んぅ〜……」

「ぉ……ほぉ……んぅ♡ んっ、あっ……んん〜っ♡」

「ぷはぁ……はぁはぁ、はぁ……」

「はーっ、はーっ、はーっ♡」

 

 白刃とのキス、凄い……ヤバッ、飛んだ……。

 ウチ、今絶対情けない顔してる。見られたくないけど、体が言うこと聞かない。

 どっちの涎だか分かんないくらい糸引いてて恥ずいし、口の周りベトベトだ……。

 

「ごめん、なんか歯止めが……」

「ううん、ウチこそ……でも全然嫌じゃないから♡」

「ティッシュ、いる?」

「……いる」

 

 お互いティッシュで口元を拭く。

 そうしている内に段々自分が何をしたのか分かって、顔から火が出るくらい熱くなった。

 

「何やってんだろうね、ウチら……」

「キスだろ……恋人同士の……」

「そ、そうだよね……へへへ♡」

「凄い満たされた感じ……キスって凄いんだな」

「うん……凄かった……♡」

 

 またしたいって言えばしてくれるかな?

 変態って思われないかな?

 

「また、してもいい?」

「え」

「あ、いや……響香ちゃんとまたキスしたいなって……思って……」

「へへへ……ウチもしたい♡」

 

 好き……大好きだよ、白刃♡

 これからもずっと……♡

 

 それからウチらは何度も何度もキスをして、気が付いたら夕方になってた。

 帰りは白刃がわざわざウチの家の近所まで送ってくれて、外なのに別れのキスまでしちゃった……でも恥ずかしさよりも、幸せの方が断然上だった。




読んで頂き本当にありがとうございました!

今後ものんびり更新ですが、楽しんで頂けたら幸いです!


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