青き炎、エイリアと戦う (支倉貢)
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1話 雷門イレブン、少女と出会う

どうも、座右の銘です。懲りずにまた新作を作ってしまいました。
この作品は、ほかの作品よりもシリアスな内容になると思います。展開が多くなると思われますので、シリアス展開が苦手な方はご注意ください。


円堂達がフットボールフロンティアで優勝した後、雷門イレブンが学校に戻っていた時に、事件は起きた。

雷門中がエイリア学園と名乗る謎の集団に破壊されたのだ。

雷門イレブンはエイリア学園を倒すため、地上最強イレブンを作る旅に出る少し前、彼らは1人の少女と出会った。

 

 

 

「…………あの……雷門イレブンの皆さん……ですよね」

 

イナズマキャラバンの前に立っていた円堂達に声をかけた彼女こそが、その少女だ。

 

「え? そうだけど……」

 

気付いた円堂が答える。

少女は目を前髪で隠していて、表情が読み取れない。

 

「あの……私も、雷門イレブンに入ってもよろしいですか?」

 

突然の事に、雷門イレブンは驚きを隠せない。

それも当然だ。いきなり現れた少女が仲間にしろと言ってきたのだ。

 

「大丈夫、足手まといにはなりません。サッカーの経験はありますし、私、こう見えてとっても強いですから」

「いやいや、そういうわけじゃなくて……」

 

さっさと話を進める彼女を、一之瀬が制止する。

 

「お願いします、私も戦わせて下さい」

「……どうする? 円堂」

「…………分かった。よろしくな!」

 

円堂の判断に、雷門イレブンが驚く。

だが、円堂が決めたことだ。彼らは渋々ながらも、彼女を受け入れた。

 

「あ、えと、名前……」

穂乃緒(ほのお)。……青木穂乃緒(あおきほのお)

「そっか、よろしくな、青木!」

「はい。皆さん、どうぞよろしくお願いします」

 

青木はびた〜っと地面に頭を付けた。いわゆる土下座というやつだ。

壁山や栗松はあたふたしながら、ペコペコと頭を下げた。

 

「こ、こちらこそよろしくお願いしますッス‼︎」

「お願いしますでやんす‼︎」

「あ、青木……何も土下座までしなくても」

 

雷門イレブンは青木の頭を上げさせるのに精一杯だった。

 

青木を入れた雷門イレブンは、初めに奈良へ向かった。

 

青木side

私は青木穂乃緒。

雷門イレブンに入れてもらい、今は奈良に向かっている最中。何でも、奈良シカ公園でエイリア学園が持っていた黒いサッカーボールが見つかったそう。そして、財前総理が誘拐されたらしい……。

私の隣には、木野秋さんが座った。

 

「青木さん、何処の生徒なの?」

「何処って……雷門ですけど」

「えっ⁉︎ そ、そうなの⁉︎」

 

以外だったのか、木野さんは驚いた顔をしていた。

まぁ当然ね。私、ほぼサボってたし……。

 

「じゃあ、青木さんもやっぱり学校が壊されたのが許せなくて?」

「……違います」

「えっ、じゃあ何で……」

 

話を聞いていた円堂さんが、身を乗り出して尋ねる。

 

「……家に居たくないんです。あんな所、戻りたくない」

「……?」

「すみません。あまり、私の家の話は……」

「あ、ごめんなさい……。私、知らなくて……」

「いえ」

 

『何処に逃げるつもり⁉︎ おとなしく殴らせなさいよ‼︎』

『何も出来ないくせに、俺達に逆らうな‼︎ この足手まといが‼︎』

 

……そうよ。あんな所、誰が戻るもんですか。大っ嫌い。あんな奴ら。

 

「消えてしまえ……」

 

私の怒気を含んだ呟きは、キャラバンのエンジン音に掻き消された。




早速シリアス……w いや、完全シリアス目指してませんからね⁉︎ 多くなるかな〜って思ってたんですけど。
ここで、主人公の穂乃緒ちゃんを紹介します!
青木穂乃緒
・青い長髪。膝まである←長っ⁉︎
・真紅の目
・美人です
・格闘技めちゃ強いです
・ポーカーフェイス
・感情は一応ある
・たい焼き(クリーム)大好き
・笑わない。というか、笑えない←重要
……これくらいかな? 設定の時点でシリアス全開だ……(汗。
苦手な方、本っ当に気をつけて下さい‼︎


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2話 奈良シカ公園にて

どうも、座右の銘です!
奈良に向かった雷門イレブン。そこで起こる出会いとは?



円堂side

俺達は今、奈良シカ公園の前にいる。

外でサイレンが鳴り響いている中、俺達は瞳子監督が戻ってくるのをキャラバン内で待っていた。

総理が攫われたとなると、やっぱりそう簡単には通してもらえないらしく、瞳子監督は何度も頼んでいた。

 

「やっぱり中には入れそうにないでやんすね……」

「くそっ! ここまで来て門前払いかよ……」

 

栗松が不安そうに呟き、染岡は苛立つように言った。流石に俺も我慢できない。

このまま待ってちゃダメだ、動かなきゃ‼︎

 

「俺、警察の人に頼んでくる‼︎」

 

俺は立ち上がり、キャラバンから降りた。

外に出ると、瞳子監督と警察の人はまだ話し合っていた。すると、警察の1人に無線が入った。

 

「はい、サッカーチームなら此処に………………え、通すんですか⁉︎」

「!」

 

警察の人は予想外だったのか、驚いた表情をしていた。

突然のことに、俺も思わずポカンとしていた。

 

 

「ふぅー! 入れてよかったッス〜」

 

壁山が、安堵の息を吐く。夏未が理事長に電話してくれたおかげで、俺達は無事シカ公園に入ることができた。

見ると、シカ公園は酷く破壊されて、シンボルらしい巨鹿像も壊されていた。

俺はみんなを見渡して言った。

 

「よし、みんな! 必ずエイリア学園の手がかりを見つけるぞ‼︎」

「「おお‼︎」」

 

 

 

俺は鬼道と豪炎寺、そして青木と共に、エイリア学園の手がかりを探していた。

 

「エイリア学園の手がかりがあれば、何か分かると思ったんだけどな〜」

 

探してもなかなか見つからない。

取り敢えず手がかりを探そうって言ったけど、そもそもの手がかり自体が見つからなきゃ、何も分からない。

一生懸命探す俺に、鬼道が冷静に言った。

 

「まぁそう焦るな。そう簡単には見つからな……」

「あったッスーー‼︎」

 

そう声を上げたのは、壁山だ。

鬼道のセリフが遮られたような気がするけど、まぁいっか‼︎

 

「行くぞ、鬼道、豪炎寺、青木!」

「あ、ああ……」

 

遮られたショックか何かか、鬼道の返事が少し遅れた。豪炎寺と青木は黙ってついてきた。

 

 

壁山が見つけたのは、エイリア学園が持っていた黒いサッカーボールだった。

俺が持ち上げようと、両手をサッカーボールにかける。

 

「……くっ……ぬぬぬ……!」

 

予想外の重さに、思わずボールを落としてしまった。ズシンと重みのある音がした。

 

「重いっ……! あいつら、こんな重いものを軽々と蹴っていたのか……!」

「重力の違いかもしれん」

 

鬼道が至極真面目に答える。

すると隣で黙って見ていた青木が、ボールに片手をかけた。

まさか持つ気か⁉︎

やめとけ、と言おうとしたら、青木は何のことなく、軽々と持ち上げた。

これには俺だけでなく、全員が驚いていた。

 

「……大した重さではありませんね……」

 

青木は1回ボールを上に投げ、片手でキャッチした後、地面に落とした。

 

「? ……あぁ、いきなりすみません……。私、腕力と脚力だけは昔からおかしい、と周囲の方に散々言われ続けたので……お気になさらず」

「お、おう……」

 

思わず、上ずった声が出る。

俺が立ち上がったとき。

 

「全員動くな‼︎」

 

まるで刑事ドラマのようなセリフが聞こえた、と思った次の瞬間、俺達は黒いスーツを着た大人達に囲まれていた。

そして言われた言葉に、俺達は呆気にとられた。

 

「もう逃がさんぞ、宇宙人‼︎」

「俺達のことか……?」

 

風丸が汗を滲ませ、思わず一歩下がっていた。

 

「財前総理を何処に連れ去った‼︎」

 

先程から叫んでいた男の人が、俺達に詰め寄ってきた。

 

「え……あの……ちょっと……」

「黙れ‼︎ その黒いサッカーボールが何よりの証拠だ‼︎」

「ち、違います‼︎ これは池に落ちてて……」

「とぼける気か‼︎」

 

しまった、完全に誤解を招いてしまった。

俺が困っていると、青木がスッと前に出た。

 

「お待ち下さい。いきなり会った相手に対し、勝手に宇宙人呼ばわりするのはこちらとしては心外です。貴方方はどちら様でしょうか?」

 

敬語ながら、しっかりと不平不満を言う青木。

大人相手にすげーよ……。

 

「我々は総理大臣警護のSPだ」

「だからって、いきなり宇宙人扱いするなんて失礼じゃありませんか‼︎」

 

風丸も声を上げて抗議する。それに付け足すように青木もさらに言った。

 

「そうです、失礼極まりないです。大体貴方方は総理をお守りするのが役目なのでしょう? 人1人守れないくせにこんな所で罪のない中学生を宇宙人呼ばわりしている暇があったら、その時間を総理捜索に使ったらどうです、ヘボSPが」

「なっ……こいつ……‼︎」

 

青木の全くもってオブラートに包まれてない口撃に、SPの人がプルプルと拳を震わせる。

確かにあの口撃は辛い。もし俺がSPの人だったら、確実に泣いてる。

 

「青木……いくら何でも言い過ぎだって……」

「宇宙人は何処だ‼︎」

 

すると、今度は高い声が聞こえた。

振り向くと、そこには俺達と同い年くらいの女の子がいた。

 

「俺達は宇宙人じゃない‼︎」

 

俺も声を張って抗議する。

女の子は俺達をぐるっと見渡して、何かを確信したように、ニッと笑った。

だが俺はそんなことは気にせず、さらに声を上げた。

 

「俺達は、フットボールフロンティアで優勝した……」

「動かぬ証拠があるのに、往生際の悪い宇宙人ね」

 

詰め寄ってきた女の子は、俺にそんなことを言った。

 

「〜〜〜ッ‼︎ 何度言ったら分かるんだ‼︎ 俺達は! 宇宙人じゃなーーーーーーーーーい‼︎」




……うん、怖いね、穂乃緒ちゃん。あんなにすごい口撃……私豆腐メンタルだから泣いちゃうよ。
青木「……言って差し上げましょうか?」
やめて‼︎ 私リア友にまで言われたんだからね、豆腐メンタルって‼︎
知らねーよって? ……ですよね〜。
ていうか、私初めてですよ、2000字いったの! やった〜!
「「「「…………」」」」
無視⁉︎ お願い、おめでとうだけでも言って下さい!
「「「「おめでとー(棒読み」」」」
ありがとうございます‼︎ これからも頑張ります‼︎←扱いやすい


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3話 SPフィクサーズ

どうも、座右の銘です。やっと来ました3話‼︎
処女作より展開が早いのは気のせいか……?
ま、いいや。それではどうぞ。



青木side

どうも、SPに言いたいことを全て言い、スッキリした青木です。

だが、あの聞き分けのないSPよりもさらに聞き分けのない女が来て、円堂さん達とSPが口論になっている。何度も何度もこっちが宇宙人じゃないと言っているのにあの女は怪しいと言って聞き入れない。「宇宙人じゃない」「宇宙人だ」をさっきからずっと繰り返している。

すると、女がずっと円堂さんに近づけていた顔を離し、こう言った。

 

「そこまで言うんなら、証明してもらおうか」

「望むところだ‼︎」

 

円堂さんがオウム返しのスピードで答える。

……ん? 証明って、何でするつもりなのかしら……。

 

 

 

 

 

「……あの、証明の仕方って…………サッカー……ですか?」

 

エイリア学園かどうか調べるため、試合をするって……。

何がどうなったら私達が無実と証明されるのかしら? 色々と気になるところはあるけど……。

 

「でもやって損はないわ。大人相手に貴方達がどこまで戦えるか見てみたいの」

 

瞳子監督の言葉では私は納得しませんけど……。

でも、皆さんはやる気満々。円堂さんがみんなに喝を入れる。

 

「大人が相手だからって怯むな! ピッチに立ったら同じサッカーだ‼︎」

「ああ、どんどん決めてやる‼︎」

「だが、相手が相手だけに体力的に差がある。ペース配分に注意しないと」

 

染岡さんが気合いを入れているのに対し、風丸さんは落ち着き払って相手を分析する。

……この超次元展開についていけないのは私だけ? サッカーして何の証明になるの?

そういうことを色々含めてツッコミたかったけど、訳の分からない理屈を並べられて返されそうだったから、黙っておいた。

私が行くあてのないため息をついていると、何やら音無さんがパソコンで調べていたらしく、「あ、あった!」と声を上げた。その声に、全員が画面に食いつく。私も一応画面を覗き込んだ。

そこには、『SPフィクサーズ』と出ていた。音無さんが書いてある解説を読む。

 

「えーっと、大のサッカー好きの財前総理のボディーガードでもあるサッカーチームです!」

「サッカーで体を鍛えてるって訳か」

 

一之瀬さんは納得したように言う。

あのSPを見ると、既にボールを持ってウォーミングアップをしている。やる気満々のようだ。

……いい年した大人が子供相手に何やってるのかしら……。

ていうか、サッカーで体を鍛えるって……総理を守る人達がそれで鍛えられるってすごいわね。私なんか格闘技で鍛えてきたのに。

それを見て、みんなは少し意気消沈気味。

 

「監督! アドバイスをお願いするッス!」

 

いつも弱気な壁山さんが、監督に頼む。

全員が監督を見つめる。視線を集める中、瞳子監督はこう指示を出した。

 

「取り敢えず、君達の思うようにやってみて」

「ええ〜っ! そんなぁ!」

 

栗松さんが叫ぶ。

私は栗松さんを言い収めるように言った。

 

「監督は、皆さんがどんなサッカーをするのか見たいだけでは? 監督からしてみれば、皆さんは初めて指揮するチーム……デタラメな指示は出来ません。なのでまず、皆さんの動きを見たいのでは……」

「なるほど、確かにそうだな」

 

鬼道さんが納得して下さった。

そして、円堂さんが声を上げる。

 

「よし、やろうぜ! 俺達で戦いを考えるんだ‼︎」

「それじゃあ、フォーメーションはどうする?」

 

一之瀬さんが尋ねる。

円堂さんは考えるそぶりを見せ、言った。

 

「うーん、まずは守備を固めて……」

「「駄目だ/です‼︎」」

 

鬼道さんが言ったのと同時に、私も叫んでいた。

そして、ハッと鬼道さんと目が合う。

 

「……青木も同じことを考えていたのか」

「い、いえ……私は……守備を固めることに要点を置いてはいけないと思いまして……相手は大人です。体力や力は相手の方が有利。こういうときだからこそ、守りより攻撃に徹した方が良いかと……」

「……俺もお前と同じ意見だ」

「‼︎」

 

驚いた。天才ゲームメイカーとして有名な鬼道さんと私の意見が一致していたなんて……。

 

「今青木が言った通りだ。風丸と土門をMFに上げて、オフェンスを強化するんだ」

「そうか! 守りに入っていては、点を取るチャンスが減るんだな」

 

鬼道さんの言葉を受け、風丸さんが要点を言った。

……まあそういうことになるわね。

言葉で言う代わりに、私は頷いてみせた。さらに鬼道さんが続けた。

 

「それに、俺達のゴールは円堂が守ってるんだ。安心して攻撃に集中できる。そうだろ?」

 

その言葉に、全員が頷く。

……圧倒的な信頼感。何故こんなに人を信用できるの? ……分からない……。

私の頭の中で、そうした自問自答が繰り返された。

円堂さんがみんなを見渡して言った。

 

「よし、みんな頼むぞ‼︎」

「「おう‼︎」」

 

この声に、私は加わらなかった。

 

「……嫌いなの。"仲間ごっこ"は」

 

私の呟きは、士気上がる雷門イレブンには聞こえなかった。

 

「…………」

 

 

……………………はず。




さあ、最後の穂乃緒ちゃんの呟きを聞いていたのは誰でしょうか⁉︎
そして穂乃緒ちゃんが仲間が嫌いと言う訳とは……?
まだまだ謎だらけの彼女。心が開かれるのはいつなのだろうか?
……何だろ、書いててちょっと自分がうざくなった(泣。
頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いします‼︎


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4話 vsSPフィクサーズ1・プレイスタイル

どうも、お笑い大好きな座右の銘です。
あ、この作品ではありませんが、アンケートを行っておりますので、どうかお願い致します。
それではどうぞ。


キキィーッ‼︎

 

「⁉︎」

 

まるで急ブレーキをかけたような音が私の耳を劈き、体がビクついた。角刈りの男子生徒が立っていた。制服からして、雷門だ。

先程の音は、自転車の音らしい。茂みから飛んできた……。

 

「角間くん⁉︎」

 

知り合いなのか、木野さんが声をかける。

……あ、この人……確か、雷門サッカー部の試合実況してる人……。帝国との練習試合の時、屋上から見たわ……。

って、ん? まさかこの人……奈良まで自転車で……?

この人の根性に、少し後ずさっていた私であった。

 

 

 

私は今回、DFとなった。

円堂さんいわく、私のポジションがよく分からないから、取り敢えずここで、と……。

まぁ、私もポジションなんて関係なく動き回っていたからね……。

なので、一応このチームのゲームメイカーらしい鬼道さんに言っておく。

 

「あの……私、試合の時、ポジション関係なく動くことがありますので……そこのところ、よろしくお願いします……」

「……あぁ、分かった」

 

ホイッスルが鳴り、試合が開始される。

染岡さんがボールを豪炎寺さんに転がし、一之瀬さんにパスした。それを合図に上がっていく。

私だって……!

私は地面を蹴り、走り出した。

DFでありながら、走り出した私に、鬼道さん以外の全員が驚く。

私は気にせず、素早くSPフィクサーズを振り切り、フリーになった。

鬼道さんがみんなの困惑を解くように言った。

 

「青木は青木なりのプレイをしている! あれがあいつのプレイスタイルだ‼︎」

「なるほど……よし、頼むぞ、青木!」

 

一之瀬さんから受けとった私は加速を始めた。

回り込んできたSPが立ちはだかる。

私は前髪に隠した瞳でSPを見据え、スルッとSPの脇をすり抜けた。

私のプレイに、円堂さん達が感嘆の声を上げる。

 

「早えな、あいつ‼︎」

 

私は染岡さんにパスを出した。

すると、3人のSPがバッと出てくる。

 

「来るぞ、ボディシールド‼︎」

 

染岡さんが吹っ飛ばされる。

必殺技か……。

ボールはラインを越えてしまった。

 

 

 

 

「…………ッ」

 

あの固い守備を崩せない……。

そのことに、私はかなり苛立っていた。

シュートを打ってもキーパーに弾かれてしまう……。

そしてあの聞き分けのない女にボールが渡った。風丸さんが女のチェックにつくが、あの女は軽い動きで風丸さんを抜いた。壁山さんがさらに立ちはだかるが、必殺技・あいきどうで抜かれる。

栗松さんを抜き、円堂さんが守るゴールに必殺シュートを放った。

 

「トカチェフボンバー‼︎」

「爆裂パンチ‼︎」

 

円堂さんも負けじと必殺技で跳ね返す。

ボールを受け、私はまた走り出した。そして、あの女が回り込む。

一気に抜き去ろうとしたが、女の構えに目を奪われた。

 

「ザ・タワー‼︎」

「⁈ くっ‼︎」

 

そびえ立った塔から落ちてきた落雷に吹っ飛ばされた。

ボールをいとも簡単に奪われてしまった。

 

「ツメが甘いね、宇宙人!」

 

女の挑発するような言い方に、自然と眉間に皺が寄る。

そんな私に、染岡さんの声が飛ぶ。

 

「大丈夫か、青木!」

「……問題ありません」

 

感情を押し殺し、染岡さんに答える。

ふと見ると、染岡さんが顔を苦痛に歪めながら、走っていた。

どうしたのかしら……。

 

 

 

染岡さんにボールがまわり、シュート体勢に入る。

シュートを放ったものの、ボールの軌道は大きく逸れて、ラインを越えてしまった。

……コンディションが悪いとはいえ、こんなに大きく逸れるものかしら……?

 

「…………っ」

 

まさか、染岡さん……。

ここでホイッスルが鳴った。

前半終了、得点は共に無いまま、ハーフタイムを迎えた。




さあ楽しい試合の始まりだぁ〜♪
すみません、ちょっとテンション上がりました。
久しぶりに試合シーン書いたな〜。大丈夫ですかね⁉︎ 鈍くなってませんかね?
またご意見お聞かせください。


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5話 vsSPフィクサーズ2・財前塔子

どうも、座右の銘です。
今回試合シーン飛ばしました。
楽しみにして下さった方、申し訳ありません。
それではどうぞ。


ハーフタイム中、雷門イレブンと少し離れて休憩をしていたら、突然背後からの声に、ドリンクを少量こぼしてしまった。

 

「風丸と染岡を外す⁉︎」

 

やはり、監督は気づいていたのね。

私が見たところ、風丸さんと染岡さんは傷ついている。何で怪我したのかは知らないけど。

みんなは納得していない様子。風丸さんも染岡さんも、「まだ戦える」と言わんばかりに、監督を見つめる。それでも監督は意見を変えない。

聞くだけ無駄だと思い、私はその会話を無視し、ドリンクを飲もうとする。だが、肩を後ろから叩かれた。

振り返ると、豪炎寺さんが立っていた。

 

「……なんです。豪炎寺さん」

「……………………」

 

呼んでおいて、黙りこくる豪炎寺さん。

一体何なんだ……。

用が無いなら、と再びドリンクのボトルに口をつけようとしたとき。

 

「……"嫌いなの。仲間ごっこは"」

「⁈」

「そう言ってたな、お前」

 

その言葉は、私が試合前に言ってた言葉……!

聞かれてたのね……。

 

「そうですよ、言いました……。だから何ですか。それを彼らに伝えるのですか……?」

「何故そう思う」

「…………?」

「何故仲間ごっこを嫌う。そう聞いている」

「…………信頼できないのです。人間が」

「…………」

「誰も彼も。当然貴方方も、信用できません。というより……信用してませんので」

「……そうか」

 

言ってて自分でも驚いた。

こんな風に自分からべらべらと話すなんて……。

豪炎寺さんはそれ以上何も言わず、フィールドへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は雷門の勝利。

雷門イレブンの皆さんは監督の意図を理解し、誤解は解かれた。

そしてSPフィクサーズとの誤解も解かれ、あの聞き分けの無い女ーーどうやらキャプテンらしいーー財前塔子(ざいぜんとうこ)さんとも和解できた。彼女は連れ去られた財前総理の娘だとか。

 

「あたしと一緒に戦ってほしいんだ、パパを助けるために!」

「勿論さ! なぁ、みんな‼︎」

「「おお‼︎」」

 

円堂さんが熱く言い切り、私以外の人が応える。

すると、奈良シカ公園のテレビから音声が流れた。その音声に、円堂さん達雷門イレブンが過剰に反応する。

 

「地球の民達よ。我々は宇宙からやって来たエイリア学園である」

「レーゼ‼︎」

 

恐らく、彼が宇宙人とか呼ばれてた人だろう。何と無く髪型がそれっぽかった。

あ、髪型……抹茶ソフトみたいだなぁ……。

お腹すいた……。今日のたい焼きは抹茶ソフト入りのにしようかな……?

 

「お前達地球人に我らの大いなる力を試すため、この地球に降り立った。我々は野蛮な行為は望まない。お前達の地球のサッカーという1つの秩序において、逆らう意味が無い事を示してみせよう‼︎」

 

ハッ‼︎ しまった……。あの抹茶ソフトに見惚れてしまった……。私としたことが……。

ていうか野蛮な行為って……貴方方の学校破壊が既に野蛮な行為なのでは?

 

「探知しました! 放送の発信源は、奈良シカテレビです!」

 

……奈良の建物はシカばかりなのか。←違います

私達は奈良シカテレビに向かった。




穂乃緒ちゃんの呟きを聞いていたのは、豪炎寺でした〜!
そして、穂乃緒ちゃんの思考回路は、食べ物の事になるとそればかり考えてしまうという何とも可愛らしい……ぐほっ‼︎
青木「キモいですよ……。あ、そういえば……この作品ではありませんが、アンケートを行っているそうです。何でも、映画編でオリジナルキャラクターを出すかどうか、ということです。どうぞ、答えてやってください」
これからも頑張りますッ‼︎


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6話 vsジェミニストーム・基山ヒロトとの出会い

どうも、座右の銘です。
生台風、すごかったな……。風がびゅうびゅうごうごう吹いてて……。
あ、今回の話と上の話は関係ありません。失礼しました。
ヒロト「それではどうぞ♪」


奈良シカテレビには、屋上にサッカーグランドがある。

屋上で何するつもりなの……。

そこには、テレビで映っていたエイリア学園がいた。あの抹茶ソフトの宇宙人が私達を見ていた。

円堂さんは抹茶ソフト(←もうこの際どうでもいい)に叫んだ。

 

「探したぜ、エイリア学園‼︎」

「探した? 我らに敵わぬことが分かり、降伏の申し出か? だが、ゲームは始まったばかり。地球人は真に思い知らねばならない。我らの大いなる力をな」

「誰が貴方方などに降伏すると? 自意識過剰もいいところですね」

「俺達が探してたのは、こいつでもう1度勝負するためだ!」

 

円堂さんがボールを持って、ビシッと抹茶ソフトに指差した。

……人に指を差してはいけないのでは?

それを嘲るように、エイリア学園が円堂さん達を見下す。負けじと染岡さんと風丸さんが噛みつくように叫ぶ。

 

「学校をめちゃくちゃにされて、黙って引き下がれるか‼︎」

「マックスや半田、みんなのためにも今度こそお前達を倒す‼︎」

「聞いたか? 俺達を倒すだと」

 

エイリア学園の1人が言い、嘲笑する。

あの余裕ぶった顔……………………イラつく。

 

「フッ、我らも甘く見られたものだ。いいだろう。2度と立ち直れないよう叩き潰してやろう」

 

ズドッ‼︎

 

「「「「「⁈⁉︎」」」」」

 

全員が私の方を見る。

私は実は、あのエイリア学園の余裕ぶった顔がとてもイラついたため、奈良シカテレビの屋上にある何やら倉庫のようなものに、思いっきり足を叩きつけたのだ。

壁は壊れ、足は壁にめり込み、パラパラ……と破片が落ちていた。

ふぅ、すっきりした……。

 

「…………? あの……皆さん、如何なさいましたか……?」

 

みんなの顔が引きつっている。

あぁ……当然か。

 

「失礼。あまりにもイラついたので……」

「あ……そ、そうなのか」

 

 

 

 

 

試合前。

いつも通り、円堂さんがみんなに喝を入れる。

 

「前回は奴らのスピードに面食らって何も出来なかったが今日は2回目だ! 今度こそ俺達のサッカー、見せてやろうぜ!」

 

そして、鬼道さんが冷静に指示を出す。

これいつものパターンね……。

 

「奴らの武器はあの驚異的なスピード。ロングパスはカットされる可能性が高い。ショートパスで繋いでいくぞ」

「よし、行くぜみんな‼︎」

「「「「「おおーーー‼︎」」」」」

 

私はまた、この声に参加しなかった。

 

「さぁ、まもなく雷門中対エイリア学園2回戦の試合開始です! 実況は本日も角間でお送りします!」

 

また何処からか湧き出た角間さんに、私は驚かざるを得なかった。

この人は一体どれだけ実況に情熱を注いでいるのかしら……。

今回、私はベンチで試合を見ることにした。塔子さんがいれば私別に出なくてもいいし……。

試合開始を告げるホイッスルが高らかに鳴り、豪炎寺さんがボールに触れると、雷門イレブンは一気に攻め上がった。

染岡さん、風丸さん、鬼道さんとボールが繋がる。しかし、あっさりとボールを奪われてしまった。

エイリア学園が円堂さんの守るゴールに迫る。

 

「(来る! 奴らのシュートにマジン・ザ・ハンドは間に合わない。だったらゴッドハンドで!)っ‼︎ うわぁぁ‼︎」

 

考え事をしていたのかしら。円堂さんはシュートに素早く反応が出来ず、先制点を奪われた。

……へぇ、これがエイリア学園のスピード……。

確かにかなりのものだけど……。なんとか見える。

点が入ってからも、一方的な展開は続いた。

スコアは10-0。あーあ、こりゃダメね。

隙をついて、鬼道さんがボールを豪炎寺さんにまわす。

豪炎寺さんがシュート体勢に入る。あの構えは、豪炎寺さんの必殺技・ファイアトルネード……。

でもボールを叩く前に、豪炎寺さんは何処かを見た。

そして放ったシュートは…………外れた。

みんなは「ドンマイ」と声をかけるが……私には見えた。

あれは明らかに動揺している。あの時の豪炎寺さんの視線を思い出し、視線の先にあるものを見ると、そこには黒いローブの男達がいた。3人……。あからさまに怪し過ぎる。

私はしばらく奴らを見ていたが、ふと奴らと目が合った。すると男達はニヤリ……と笑って、私を見つめ返した。

まるで見つけた、とでも言うように。

 

私の背筋を氷がツゥ……と伝ったような感覚がした。

 

私は目をそらし、奴らとは目を合わさないようにしていたが、男達はずっと私を見てくる。

居心地の悪さがピークに達し、私は思わず立ち上がった。

 

「……すみません。先に下へ戻ってます」

「⁉︎ 青木さん⁉︎」

 

木野さんの声を無視して、逃げるように屋上から階段を駆け降りていった。階段を2段飛ばしで降り、とにかく降りることだけを考えた。

あいつら、何か私のことに関して知ってる……?

何故? あんな奴ら、知らないのに……。

 

 

 

 

 

 

 

奈良シカテレビ前まで駆け降りた私は、建物の裏で呼吸を整えていた。心拍数が、いっこうに下がらない。怖くて仕方なかった。

遠くで、タタタタ……と足音が近づいてくる。

私を探しているんだわ……!

後ずさりする私の腕を、背後から掴まれた。

近くの茂みに引きずり込まれ、口を手で塞がれる。体で私を隠すように抱きしめられた。

 

「……⁈」

「しーっ、静かに」

 

耳元で、囁かれる。

誰かは分からないまま、私は背後の人物に従った。

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、足音は消えていった。

背後の人物は、外を覗いて男達がいなくなったのを確認してから手を放してくれた。

 

「ふはっ……」

「もう大丈夫だよ」

 

振り返り、背後の人物を確認した。

赤い髪の少年だ。翡翠色の目に吸い込まれそうになる。

改めて、彼と私の顔がとても近いのに気づいた。

……ていうかいつまで抱きしめてるんですか……。

怪訝な顔をしながら、私はジッと少年を見た。

 

「そんなに見つめないでよ、照れるじゃないか……」

「いや、照れられても……」

 

何処に照れる要素があるのかしら……?

私は少し肘で彼を押し、「離れろ」と目線で示した。

 

「ん? いや?」

「はい」

「…………分かったよ」

 

彼はしぶしぶ離れた。

あからさまに不満そうだ。

 

「あ、俺の名前は基山(きやま)ヒロト」

「知る必要性ないんで大丈夫です」

「え⁉︎」

「? 何か? あ……でも、助けて下さってありがとうございます」

「ふふ、お礼なんかいいよ。未成年の女の子を追いかけるなんて、とんだロリコン野郎だよね」

「ろりこん? 何ですかそれ」

「…………うん、知らなくていい言葉だよ」

「まぁいいや。あ……一応名乗っておきます。青木穂乃緒です」

「! ……穂乃緒ちゃんだね、よろしく」

 

ヒロトさんが、ニコリと微笑んだ。

でも私はそんなことより、ヒロトさんから感じる不思議な違和感の方が、とても気になった。




はぁ、はぁ、はぁ……。いやー聞いて下さいよ、初2500字以上いったーーー‼︎
円堂「おお‼︎ おめでとう‼︎」
青木「何でそんなに……」
いやぁ、気合い入っちゃいましてね! だってヒロト出せたんですよ‼︎
青木「……これからも、この駄作をよろしくお願いします」


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7話 キスと豪炎寺の離脱と信じてみる

どうも、座右の銘です。何か題名が某ライダーモノの何時かの代の題名に似てますね……。さっき気づきました。あ、言っときますが、パクリではありませんからね⁈ ふと並べてみたら、「あ」ってなっちゃっただけですからね⁉︎ 本当ですからね‼︎←必死
それではどうぞ。


「……で、貴方は何時まで私の腕に抱きついているのですか」

「ダメ?」

 

基山さんがずっと私の腕に抱きついて、離れない。さっきは離れてくれたのに……。

私はとにかく腕を振りほどこうとするが、なかなかほどけない。

 

「暴れたってムダだよ。穂乃緒ちゃんだって女の子なんだから」

「だから何です。私には関係ありません」

「…………」

「?」

 

突然、基山さんは黙りこくった。

どうしたのだろうかと私が頭を上げると、基山さんは私の腕を離した。

 

「……君の仲間が帰ってきたみたいだ。じゃ、俺はこれで」

「……? あ、あの……」

「大丈夫、また会えるよ」

 

基山さんが、私の腰に左手をまわし、抱き寄せた。右手を私の左頬に添え、顔を近づけられる。

何をするつもりだろうか……私はポカンとして見ていると、額に柔らかい感触がした。

基山さんは私から離れ、茂みの中に消えてしまった。私は彼が消えた茂みを見つめていた。

ふと、額に手で触れる。何故か、体が自然と熱くなる。

まさか、まさかとずっと思ってた。

でも、あの景色からして……信じたくなかった。

 

「え…………まさか……い、今の……キ、キ、キ……」

 

頬がカァァッと熱くなる。

 

「あ、青木ー‼︎」

「は、はいっっ⁈」

 

思わず、変な声が出てしまった。しかも……呼んだ円堂さんに聞かれていた。もちろん、優しく脅して差し上げましたが。

……円堂さんガタガタ震えていたけど。

 

 

 

雷門イレブンが、シカの像の下で集まっていた。

真っ先に、木野さんが私に声をかける。

 

「青木さん! 大丈夫だった? いきなり飛び出したから、心配したわ」

「えぇ……少し気分が悪くなってしまって。ご迷惑をおかけしました」

「そう、ならいいわ」

 

瞳子監督が淡々と言い、全員が集まったのを確認し、豪炎寺さんに言った。

 

「豪炎寺くん。貴方には、チームを離れてもらいます」

 

この一言に、全員が困惑する。

栗松さんが震える声で尋ねた。

 

「い、今何て言ったでヤンスか、監督? 離れろとか何とか……」

「どういうことですか?」

「さあ……」

 

音無さんと木野さんが顔を見合わせる。

円堂さんと風丸さんが抗議する。

 

「ちょっと待てよ、豪炎寺! どういうことですか、監督? 豪炎寺に出て行けなんて!」

「そうですよ、監督! 豪炎寺は雷門のエースストライカー。豪炎寺がいなきゃ奴らには」

「もしかして、今日の試合でミスったからか?」

 

土門さんが理由を悟るように聞く。

私は、土門さんのようには思わなかった。

何か、豪炎寺さんは私達に隠している。少なくとも、私にはそう感じた。

 

「え? そうなんですか? それで豪炎寺に出て行けって?」

「ちゃんと説明してください!」

 

円堂さんと風丸さんは納得いかない、とさらに監督を問い詰める。

でも監督は顔色一つ変えず、言い放った。

 

「私の使命は、地上最強のチームを作ること。そのチームに豪炎寺くんは必要ない。それだけです」

「でもそれじゃあ説明に……」

「すまない、円堂。俺はお前達とは戦えない」

「豪炎寺……」

 

豪炎寺さんはそう言い、去っていった。

私は無意識の内に、豪炎寺さんを追いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「豪炎寺さんッ‼︎」

「! 青木……」

 

少し息が上がった私に、豪炎寺さんが振り向いた。

 

「本当に……行ってしまわれるのですか?」

「…………」

 

私の問いに、豪炎寺さんは答えない。

私はぐっと拳を握った。

 

「答えてください! 私は、貴方の答えを聞くまでここにいます」

「…………」

「っ……‼︎ なら、私は待ちます」

「…………?」

 

豪炎寺さんは、ハテナマークを浮かべてそうな顔で、私を見た。

構わず私は続ける。

 

「私は……信じてみたいのです。……もう一度、人を」

「‼︎」

「まだ、完全に、とは信用出来ませんが……。貴方のおかげです。私……初めてでした。信用していないと面と向かって、他人に打ち明けたのは……。だから、私は……貴方を信じて、待ちます。貴方なら……必ず、帰ってくると」

「…………ああ、俺は帰ってくる。きっと……」

 

豪炎寺さんはそう言って微笑み、夕日の中に消えていった。




……投稿してきた小説の中で初めて書きましたよ、キス。でもデコチューですよ⁉︎ 私個人的にデコチュー好きなんですよねぇ……。可愛くないですか? あ、個人的な意見なのでスルーおkです。
そして、青木さんの心象に変化が……?
これからもどうぞよろしくお願いします‼︎


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8話 北海道と少年との出会い

どうも、座右の銘です。ついに北海道キターーーーです。
吹雪くん吹雪くん吹雪くん‼︎‼︎
失礼しました。
それではどうぞ‼︎


私達は北海道へ向かっている。

何故北海道なんか……。私は寒いのが大っ嫌いだ!

聞くところによれば、北海道にある白恋中には、凄いストライカーがいるとか。

で、名前が………。

 

吹雪士郎(ふぶきしろう)って誰だ?」

 

そうそう、吹雪士郎……。円堂さん、感謝します。

白恋中サッカー部キャプテン、必殺技はエターナルブリザードにアイスグランド。1試合で1人で10点叩き出した……。彼は、ブリザードの吹雪という異名を持つ、か……。

何かよく分からないけど、凄いのかな?

だが、吹雪士郎以外の選手が弱く、フットボールフロンティアには出場出来なかったとのこと。

円堂さんは強い選手と会えるということで、ワクワクしている。

 

「よし、この目で確かめてやろうぜ! その吹雪って奴の実力を!」

 

……私にはどうでもいい。

とにかく寒いとこに行くのはイヤだ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北海道に着いたぞーーーー‼︎」

 

ついに来てしまった。

寒いッッ‼︎ 寒い寒い寒いッッ‼︎‼︎

寒さで私の体がカタカタ震える。

ダメだ……寒い……。

一之瀬さんがシカゴと比べていたが、そんなの私にはどうだっていいの‼︎

私が1人で寒さと戦っていると、突然キャラバンが止まった。

何があったのか、私は窓から外を見てみた。見渡す限りの雪景色が広がる。

その中、1人の少年が腕を両手で抱えて、ガタガタ震えていた。頭にも雪が積もっている。

遭難したのかしら……。

私はキャラバンからサッと降り、少年の元へ駆け寄った。外は中より寒かったけど、そんなこと言ってられない。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「き、ききき君は……」

「口がまわってないですよ……。あの、とにかく中へ……」

「あ、あああありが、ありがとう……」

 

とにかく彼をキャラバンに乗せる。

彼を私の席まで連れて行き、毛布をかけて、ココアを淹れる。

 

「…………あの……これ、どうぞ……」

「どうもありがとう」

 

彼はニコッと笑い、ココアを受け取る。

みんなの視線が私に集中した。

 

「青木さん、手際いいのね。すごいわ」

 

木野さんに褒められた。

何だろ。こんな風に褒められること、今までなかったもんな……。

 

「……お褒めの言葉、ありがとうございます……」

「あ、あの青木が照れてる⁉︎」

 

円堂さんが意外そうに言う。

何だその言い方は。

 

「何ですか、私が照れるのがそんなにおかしいですか」

「いや、そうじゃなくて……やっと馴染んでくれたから、良かったなって……」

「……そうですか」

 

円堂さん……私に対して、そんなこと思ってたんだ。

何か、心配かけちゃったのかな?

 

 

しばらくすると、またキャラバンが止まった。

今度は何だ……。

運転手の古株さんが、席を立つ。

 

「雪だまりにタイヤがとられた。ちょっと見てくるわ」

「あ……私もお供します」

「君もか?」

「はい。いざとなれば、私がキャラバンを押して、抜け出させます」

 

私はぐっと拳を見せて、言い切った。

後ろで土門さんが言う。

 

「大丈夫ですよ、古株さん。青木の奴、腕力と脚力は凄いですから‼︎」

 

私は土門さんの言葉に、コクっと頷く。

古株さんは、なら安心だ、と同行を許して下さった。

すると、あの少年が、私達に言った。

 

「ダメだよ、山親爺が来ちゃう」

 

山親爺……?

聞き慣れない言葉が耳に残る。

古株さんは足を止めたが、私は気に留めず、外に出た。

 

「…………っくちゅん。ぅぅっ……」

 

さ、寒いよ……。

私が凍える体を抑えながら、キャラバンの後ろにまわろうとすると、遠くから獣の雄叫びが聞こえた。

 

猛吹雪の中、姿を現したのは、大きな熊だった。

……なるほど、山親爺とは、熊のことだったのか。

私は大きく息を吸う。一回タメを作り、私は熊に向かって雄叫びを上げた。

熊よりも強く、猛々しい雄叫び。熊は私の威圧に怯んで、一歩下がった。その隙を、私は見逃さなかった。

加速し、ジャンプして、蹴る体勢をとる。そして右足を旋回させ、熊の頭に叩きつけた。

バキッという大きな音と、蹴ったという確かな感覚が右足を伝う。

熊はゆっくりと倒れ、ズゥゥン……とその体を横たわせた。

まだこいつの仲間がいるかもしれない。私は警戒してキッと吹雪を睨みつけるが、何も出てこない。

私は警戒体勢を解き、振り返った。

 

「……もういません」

「凄いね、君。山親爺を倒しちゃうなんて」

「いえ……」

 

あの少年が、私に駆け寄る。私は軽く受け流した。

キャラバンも動くようになり、私達は再び白恋中へ向かった。




吹雪キターーーーー‼︎
また穂乃緒ちゃんの凄い一面が見られましたね。
最後に吹雪から! よろ!
吹雪「相変わらずの駄文を読んでくれてありがとう。これからもよろしくね^ ^」


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9話 初めての温もりを受けた狙われる少女

どうも、座右の銘です。北海道〜はでっかいど〜☆
青木「…………(メッシャァ」←踏み割
さーせんしたーーーーー‼︎ ふざけましたーーーーー‼︎
円堂「それではどうぞ‼︎」


あの少年は、しばらくすると、キャラバンを降りると言ってきた。

円堂さんが心配そうに少年に尋ねる。

 

「本当にここでいいのか?」

 

というのも、実はまだここは大雪原の中だ。

さっき遭難してたクセに……。

 

「うん。すぐそこだから」

「さっき遭難してたクセによく言う」

「あはは……でも大丈夫。それじゃ。ありがとうね」

 

彼が降りると、キャラバンは再び発進した。

彼……本当に、何者だったのだろうか。

私は疑問を頭の隅にやって、窓の外を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白恋中に着き、私達がキャラバンを降りると、白恋中サッカー部の人達が、待っていた。白恋中サッカー部の人達は、日本一になった雷門サッカー部の皆に集まる。

皆人気ね……。ま、私には関係ないけど。

で、お目当ての吹雪士郎のことを、瞳子監督が切り出した。

 

「吹雪士郎くんは何処にいるのかしら?」

「吹雪くん? 今頃スキーじゃないかな。今年はジャンプで100m目指すって言ってたもん」

「いや、きっとスケートだよ。3回転半ジャンプが出来るようになったって言ってた」

「オイラはボブスレーだと思うな。時速100km越えたって言ってたよ」

 

……え、吹雪士郎って、サッカー選手じゃなかったの⁉︎

何でスキーやスケートやボブスレーが出てくるのよ……。

 

「彼……万能なんですね」

「そんなにスポーツが出来るなんて! 凄い奴だな! ますます会うのが楽しみになってきた!」

 

円堂さんがキラキラと目を輝かせる。おめでたいというか、何というか……。

私が内心呆れていると、廊下から微かだが、足音がした。

 

「? 誰か来る……」

「帰ってきたんじゃない?」

 

この足音は吹雪士郎のか。

やっとご対面ね。

 

「お客さん?」

 

ん? この声……何処かで聞いたことが……?

白恋中サッカー部の人達に囲まれている少年は、あの時会った少年だった。

 

「⁉︎ あ…………」

 

私だけでなく、皆も驚いていた。

 

「あれ? 君達?」

「貴方、さっきの……」

「吹雪士郎って……お前だったのか‼︎」

「お前が熊殺しか⁉︎」

 

円堂さんも染岡さんも、驚きを隠せない様子。

彼ーー吹雪士郎は、ニコッと微笑んだ。

 

「あ〜実物見てがっかりさせちゃったかな? 噂を聞いて来た人達は皆僕を大男と思っちゃうみたいで……これが本当の吹雪士郎なんだ。よろしく」

 

彼が本当に、吹雪士郎……?

すると、染岡さんが怒って私を押し退けて出て行った。すぐに秋さんが追いかけて行ったけど。

 

「あれ? 何か怒らせちゃったかな?」

「ごめん、でも染岡はいい奴なんだ」

 

円堂さんがすぐフォローする。

私には、あまりまだ仲良くできない人だけどね。

 

「気にしないで」

 

吹雪士郎はまたにこりと笑うと、今度は私に視線を投げた。

吹雪士郎は、私に近づき、手を握ってきた。

……ん? 何故手を握ったのかしら?

 

「さっきは本当にありがとう! 君のおかげで助かったよ」

「はぁ……? いえ、お礼なんていりません…………っくちゅん」

 

寒っ‼︎

忘れてた。ここは北海道だ。思わずくしゃみが出てしまった……。

 

「? 寒いの?」

「……寒いのは苦手です」

 

ガタガタと体が震える。

鬼道さんが、興味深く言う。

 

「ほう……なるほど、青木は寒いのが苦手なのか」

「んな興味深そうに言わないでください……くちゅんっ」

「大丈夫? 寒いなら僕が温めてあげるよ」

「え? 温めるってどうやって…………」

 

首辺りに絡められた腕、包まれる体、直に感じる体温…………。

 

「どう? こうしたら温かいでしょ?」

「……………………」

「? どうしたの?」

「…………ああああああああああっっっっ‼︎‼︎!」

 

抱き締められてるって分かった途端、離れて頂きました。

だって……こんなの生まれて初めてだったし……。

皆に私の恥ずかしいとこを見せてしまったけど、関係なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーエイリア学園本拠地、ヒロトside

俺は、エイリア学園マスターランクチームが集まる部屋に来ていた。

自分の椅子に座り、しばらくボーッと宙を眺める。ふと脳裏に、穂乃緒ちゃんが浮かんできた。

自然と、頬が緩む。

すると、俺を照らす白い光の他に、赤い光と青い光が現れた。

 

「…………俺に何の用? バーン、ガゼル」

「何の用? じゃねぇよ! てめえ、早速雷門に近づきやがって‼︎」

 

バーンが苛立って俺に噛み付くように言う。

 

「……俺は穂乃緒ちゃんに会いに行っただけだけど?」

「ホノオ? 誰だそいつ」

「雷門に新しく入った選手だよ。凄いスピードの持ち主なんだ。それに美人さんだし」

「最後の情報はいるのか……?」

 

俺が自慢気に言うと、ガゼルが呆れた顔で言った。

 

「貴様、そいつに近付いたのか? そいつは確か、父さんがこちら側に引き込もうとしている奴らしい……」

「……あぁ。だから彼女に近付いたんだ。どんな子なのか、見たくって」

「お前、エージェントから逃がしたんだろ⁉︎」

「何⁉︎ 貴様……何てことをしたのだ‼︎ グラン‼︎」

 

バーンとガゼルの目が、俺を睨みつける。

名を呼ばれた俺は、2人に負けないくらい冷たい目で見返した。

 

「俺はね、気に入ったんだよ。あの子のことがね。だから、こっちに引き込む。どんな手を使っても、彼女を手に入れる……!」

 

感情が高ぶるのと同じように、俺は拳を握り締めた。




うわぁぁぁぁぁ‼︎
何か凄い展開ーーーーー‼︎
穂乃緒ちゃんは一体どうなってしまうのか⁉︎
グラン「フフ……次回もお楽しみに……(ニヤッ」


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10話 赤目

どうも、座右の銘です。
9月って何でこんなに暑いんだ〜。
ちなみに今回の話とは全く関係ありません。だって北海道だし……。
それではどうぞ!


グラウンドまで、校舎から少しある。そこまで歩いて移動する。

私は寒いので、コートをお借りしました。

でも、コート着てても寒いってどういうことだ!

しかも雪が積もってるから、滑りやすい。

危ないわね……。

 

ツルッ

 

「あ」

 

滑った。私が。

周りで私を案じるような声で私の名前を呼ぶけど、何の問題も無い。

私はクルッと空中で回転し、雪の無い地面に着地した。

立ち上がると、皆が私に駆け寄ってきた。

 

「大丈夫、青木さん!」

「はい」

 

木野さんが真っ先に声をかける。

木野さん、優しいな……私なんか気にかけなくてもいいのに……。

変わって、円堂さんが明るく私に話しかける。

 

「すっげえな、青木! お前身体能力高いんだな!」

「……そうですね」

 

軽く受け流していたら、私の耳が何かが崩れる音を聞いた。しばらくして、皆も反応する。

これは、雪崩……?

いや、違う。ただ、何処かから雪が落ちただけね。

ふと、視界に蹲ってカタカタ震えている吹雪さんが映った。

 

「吹雪さん……?」

 

皆も驚いて彼に目を落とす。

何が何だか分からないけど、とにかく先程の音に怯えているのは確かだ。

落ち着かせなくては……。

 

「吹雪さん、雪崩ではありません。何処かから雪が落ちただけのようです」

「え……? 何だ……」

 

ホッと胸を撫で下ろす吹雪さんに、雷門さんと財前さんが言う。

 

「これぐらいのことでそんなに驚くなんて、意外と小心者ね」

「なよなよした奴だなぁ、本当に凄いストライカーなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

「えいっ!」

「うわっ、やったなー! それっ!」

 

……何故か雪遊びを楽しんでいる皆と外れて、私は皆よりも少し離れた場所にいた。

だって寒いの嫌いだし、何より、前髪が崩れるのを防ぐためだ。

顔を隠すように、コートのフードを被る。

私の目にも見れば、皆私を避けるようになる。必ず。

昔からそうだった。私を売った本当の両親も、今の両親も。

それだけでは無い。誰もが、私のこの赤目を怖がった。

何故私が避けられたのか。

赤目なら、探せばこの世には私の他にもいるはずなのに。

彼らは言った。

 

『お前の目、血の色だな』

 

……私の目は元からこんな色よ。

 

『やだ……呪われるんじゃない?』

 

何でそんな事言うの?

 

『気味悪い……』

 

何で?

 

『近づくな‼︎』

 

どうして?

 

『お前なんか消えればいいのに』

 

何故?

 

『忌み子じゃ……祟られるぞ‼︎』

 

私、何かした?

 

ーーーーバキッ

 

ーーーードゴッ

 

いたい、いたい。何で私を殴るの? 何で私を蹴るの?

 

『どうせあんたは死んでも誰も悲しまないわよ。だったら、精々あたし達のストレス発散道具になりなさいよ』

 

やだ、怖い。私はそんな事のために生まれてきたんじゃない。

 

『こいつはいい実験体だ。親も居なければ親戚も兄弟も居ない。非常に都合がいい‼︎』

 

イヤだ、イヤだ、イヤだ。

 

逃げたくても出来ない。

だって私は、赤目という鎖で縛り上げられているから。この憎しみからは逃れられない。

私は血の色に染まったワインレッドの闇の中、独り淋しく生きていく。

今までも、これからもずっと、永久に。




……はい、久々のシリアル……じゃなくて、シリアスきました。かなり重いな……と思ったのは私だけでしょうか。この小説は多分、私が作ったものの中で一番暗い話になると思います。シリアス展開苦手な方はbackを推奨します。
でも、こんな感じでやっていきますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。


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11話 vs白恋・吹雪士郎

どうも、座右の銘です。
何か久しぶりに更新するな〜。
それではどうぞ!


やっと練習試合が始まる。

私は今回、染岡さんとツートップで組むことになった。

つまり、FW。

指示した鬼道さん曰く、壁に穴を開ける程のキック力なら、シュートもいけるだろう、とのこと。

ポジションにつこうとすると、染岡さんが私に声をかけてきた。

 

「おい、青木」

「?」

 

正直言うと、私は彼が苦手だ。

どのくらいかというと、この北海道の温度の低さくらいかな。え、分かりにくい?

……やっぱり?

 

「俺はまだ、お前の事を認めてねぇが……今回は、よろしく頼むぞ」

 

一瞬思った。

この人、ツンデレではなかろうか。……まあそんなワケないわよね。

前を向くと、私は目を疑った。

吹雪さんが、DFラインにいたのだ。

変ね……データでは、吹雪士郎は強力なFWのはず。なのに何故?

当然ながら、染岡さんは早速イラついている。

一体、どういうつもりなのかしら……。

 

試合開始を宣言するホイッスルが高らかに鳴り、私はボールを横に流し、染岡さんに渡す。

染岡さんは、まるで猛牛の如く、白恋陣営に突っ込んでいく。私はゆっくりと、彼の後ろに続いた。

染岡さんの苛立ちがプレーにも表れる。DF陣を強引に突破し、吹雪さんに突進して行った。

だが吹雪さんは、ふわりと微笑むだけだ。

 

「そういう強引なプレー、嫌いじゃないよ」

 

吹雪さんは舞うように動き、必殺技を発動した。

 

「アイスグランド‼︎」

 

フィールドをアイススケートのように滑り、華麗にボールを奪っていった。

速い。私程ではないけれど、他の選手よりは速い。

このスピードを皆が身に付ければ、きっとエイリア学園の速さに追い付ける!

吹雪さんがパスを出すも、すぐに風丸さんに奪い返される。吹雪さん以外の選手は、あまり強くないようだ。

風丸さんが再びボールを染岡さんにまわす。すると、吹雪さんがキーパーの前に立った。

 

「防げるもんなら防いでみやがれ‼︎ ドラゴンクラッシュ‼︎」

 

染岡さんの必殺シュートが炸裂した。

竜を従えて飛んだボールは、ゴールネットへ一直線…………のはずだった。

次の瞬間、皆が驚愕の表情を浮かべる。

私もそうだった。

吹雪さんの右足が、見事ボールを止めていたのだ。

思わず、足を止めてしまった。だが、染岡さんは違った。すぐにボールを奪おうと、スライディングタックルを挑む。

その時、吹雪さんが、自身の首に巻いている白いマフラーに手をかけた。

 

「出番だよ……」

 

ゾクっと、何か変な感覚が私を襲った。

何かが変わった。

そう感じた。

すると次の瞬間、吹雪さんは染岡さんを吹っ飛ばし、雷門陣営に1人で斬り込んで行った!

 

「この程度かよ? 甘っちょろい奴らだ」

 

口調が変わった……?

だが考える間も無く、すぐに吹雪さんと競り合いになる。激しいチャージ。でも負けないっ……!

 

「ッ、はぁぁぁぁ‼︎」

 

チャージを予測し、それをかわしてすれ違いざまにボールを奪う。

だが、バランスを崩し、ボールはまた奪われてしまった。

吹雪さんはどんどんゴールへ走って行く。

このままではいけない!

私はすぐ立て直し、吹雪さんを追った。

一之瀬さん、鬼道さん、風丸さん、土門さんも抜かれ、遂に円堂さんとの1対1になってしまった。

吹雪さんはボールを回転させ、冷気のオーラをボールに収束させる。そして自身も回転し、右足をボールに叩き付けた!

 

「吹き荒れろ! エターナルブリザード‼︎」

「ゴッドハンド‼︎」

 

ゴッドハンドもエターナルブリザードの冷気に、堪らず凍ってしまい、破られた。

先制点は、白恋中から。

成る程……これがブリザードの吹雪って事ね。

あの穏やかな雰囲気から一転、荒々しくゴールを狙う……。

上等だわ。

次は必ず貴方からボールを奪ってみせる!

 

「そこまで! 試合終了よ!」

 

ベンチから、瞳子監督の声が飛んだ。

納得しないのか、すぐに染岡さんが反論する。

 

「このまま終わらせてたまるか‼︎」

 

試合は終わっているというのに、染岡さんはまだやろうとする。

 

「お前に負けるわけにはいかないんだ‼︎」

「やる気か? 面白え‼︎」

 

私は後ろから染岡さんを羽交い締めにして、食い止めた。

 

「何するんだ青木‼︎ 放せ‼︎」

「もう試合は終わりました。私的な事は後にして下さい」

 

まだ暴れる染岡さんのユニフォームの襟を掴み、背負い投げをした。

……うん、ブランクがあるとはいえ、まだいけるわね、私。

吹雪さんは、フゥと息を吐き、またあのほんわかした感じに戻った。

円堂さんがキラキラした目で、吹雪さんに詰め寄る。

 

「凄いぜ吹雪! あんなビリッビリくるシュート! 俺感動した!」

「僕もだよ。僕のシュートに触れることができたのは、君が初めてさ」

「吹雪、俺お前と一緒にサッカーやりたい!」

「僕もさ! 君となら……君達となら、思いっきりサッカーやれそうな気がするよ」

 

2人が意気投合したところで、瞳子監督が吹雪さんに言う。

 

「吹雪くん、正式にイナズマキャラバンへの参加を要請するわ。一緒に戦ってくれるわね?」

「うん、いいですよ」

 

こうして、吹雪さんの正式な参加が認められた。




遂に出せました、エターナルブリザード‼︎
かっこいいですよね〜。取り敢えず、出せたことには満足です。これからもよろしくお願いします。


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12話 綺麗

吹雪さんが雷門のユニフォームに着替え、紅白戦の練習をすることになった。

実は先程、エイリア学園が白恋中への襲撃を予告してきたのだ。

わざわざ襲撃を予告してくれるなんて、侵略者のクセして礼儀正しいものだと思いつつ、私はその襲撃予告を聞き流していた。

 

そして、私が今何をしているかと言うと、1人で格闘の特訓。

空に向かって、拳を突き出す。これをずっと繰り返す。

地味だけど、型を意識しなければならないため、かなりキツい。

 

「…………ふぅ」

 

顔に滴る汗を拭い、見渡す限りの銀世界を見る。私の中の赤黒い世界とは大違いだ。

何色にも染まらず、純白の世界。

とても美しい……。

そろそろ時間だ。私はこの美しい世界から目を背け、白恋中へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー夜。私はなかなか寝付けないでいた。私は寝袋から抜け出し、静かに外へ出た。

空は、昼間のような澄んだ青空ではなく、星が輝いていた。

……これはこれで美しい。

それに比べて、私は……体がボロボロになり、何も無い。

どうして私は…………。

少し、自分の運命を呪った。

 

「穂乃緒ちゃん」

 

誰かが、儚げな声で私を呼んだ。

まるで、愛おしいとでも言うようなその声に、私は振り返った。

彼が、立っていた。奈良で、私をあのローブの男達から助けてくれたあの人が。

 

「基山……さん……」

「久しぶりだね、穂乃緒ちゃん」

 

にこっと微笑み、私に歩み寄る基山さん。

月明かりが、彼の顔をより幻想的に照らしていた。

 

「? あの……基山さんは、此処の方なのですか?」

「違うよ?」

 

え? では何故此処に?

…………まさか。

 

「ーーーー‼︎」

「おっと、危ない危ない」

 

ストーカー、と言おうとしたら、基山さんに口を手で塞がれた。

ストーカーじゃないのかしら?

 

「じゃあ貴方は一体何が目的……?」

 

おかしい。

私は基山さんと初めて会った時、奈良に住んでいる人だと思った。

でも、北海道にいる。仮に奈良に住んでいて、此処まで来たとしても、北海道まで来るのは簡単ではない。

私が警戒しながら基山さんと対峙していると、基山さんは私の腕を引いた。

 

「⁉︎」

 

基山さんの手が、私の前髪に触れた。

そして、ぱさっと前髪を払われた。

 

「‼︎‼︎」

「……これは」

 

私の赤黒い視線と基山さんの翡翠色の視線が交差する。……見られた。私の目が。

私は基山さんの手を振り払おうと、必死に暴れる。基山さんは、私の腰に手をまわし、顎を引き寄せた。

嫌だ……見られたくない。今までずっと隠してきた、私の目。

顔を逸らそうとするが、基山さんはじっと私の目を覗くように見つめる。そして、ふと基山さんが口を開いた。

 

「…………綺麗だね」

「……へ……………………?」

 

思わぬ言葉に、マヌケな声を出した。

基山さんは、相変わらずうっとりと私の目を眺めていた。

 

「こんな綺麗な赤色……初めて見た。俺の髪と一緒かな? あ、でも……ちょっと穂乃緒ちゃんの方が濃いかな?」

「綺麗……? 何言ってるんですか。私の目は……こんな……」

「?」

 

私の目は、昔からずっと忌み嫌われていた。

何故なのか理由も分からないまま過ごしていた。

でも、この人は、私の目を……綺麗って……。

 

「ねぇ、穂乃緒ちゃん…………」

 

基山さんは、私を見つめたまま、私が耳を疑う程とんでもない事を言い出した。

 

「…………俺と一緒に、エイリア学園に来ない……?」




なんて急展開。
さて、ヒロトと青木が急接近‼︎
次回もお楽しみ下さい。


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番外編 初めての会話with宮坂

今思ったら、青木さんって第一期の時どうしてたんだろうって思われた方が多いと思います。あ、気にしてない?
今回は、第一期の時の青木さんの話を書きます。宮坂くん出ます。どうでもいいけど風丸くん、君ってホントにいい後輩を持ったね。
それではどうぞ。


青木side

皆様どうもこんにちは。青木穂乃緒です。

今の時間は、生徒達が好きなことに情熱を燃やす部活動の時間です。

私のような部活動に入ってない人は、本当は下校しなければならないのですが、この時間、私は基本的ぶらぶらと校内を歩き回っています。

家に帰りたくないのでね。

今日は何処で時間を潰そうか、そんなことを考えながらグランドを歩いていると。

 

ドン、誰かにぶつかった。

私は少しバランスを崩したが、すぐに立て直した。だが、ぶつかった相手は、尻餅をついてしまった。

よく見てみると、ぶつかった相手は男子だった。

黄色い長めのセミロングの髪に、緑の瞳。中性的な顔立ちで、人によれば女子に見えてしまうだろう。オレンジのタンクトップを着ている。恐らく陸上部だ。そして見るからに1年……。

…………って、何解説してるのよ私は。こんな事してる場合じゃないわ。

私はくるりと回れ右をして、その場から去ろうとした。

後ろに座り込んでた彼を無視して。

……今日は図書室にしよう。そこで静かに本でも読んでよう。

そう決めた私は、早足で図書室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー時間ギリギリまで図書室で本という本を読み漁った私は、下校時刻が近付いてきたので、校門を出ようとまたグランドへ出ていた。

 

「ッ、あっ、いた!」

 

1人の少年が、こちらへ駆け寄ってきた。

あれは、あの時ぶつかった彼だ。

何でこのタイミングで……。

私は彼を無視して、校門へ向かう。だが、それは彼の声によって阻止された。

 

「待ってってば、君に渡したい物があるんだ! さっきぶつかった時に落としてったよ、このマスコット‼︎」

 

足を止めてしまった。

振り返ると、彼は肩で息をしながら手を差し出した。

その手の中には、小さな子猫のマスコットがあった。確かに、私の物だ。

呆然とマスコットを見つめる私に、彼が続ける。

 

「渡さなきゃと思って、ずっと探しまわってたんだ。また会えて本当に良かった……」

 

ホッと、安堵の表情を浮かべ、ふにゃっと笑う彼。

……笑うと本当に女の子みたいだな、という言葉を呑み込み、黙ってマスコットを受け取る。

こういう時、何て言うんだったっけ。

えーと、確か…………。

 

「…………」

「あ、俺、宮坂了! 君は?」

「……青木穂乃緒」

「青木って言うんだね、よろしく!」

 

さっさと話を進めていく宮坂さん。

おかげで何言おうとしたのか忘れたじゃない!

……でも私、雷門(ココ)の生徒と初めて話したかも……。

今までずっと屋上とかでサボってたからなぁ……。

学校に行かずにぶらぶらしてた事もあったし……。

 

「青木はここの生徒……だよね! 雷門のだし……。部活だった?」

「…………いえ」

 

これが私の初めての誰かとの会話。

こうして話し合う事が、全く無かった。

何故、こんな私に話しかけるのかしら。

彼とは会ってあまり時間が経っていないというのに……。

 

「…………あの、」

「何?」

 

また宮坂さんが、私に微笑む。

私はわざとその表情を見ないようにして、口を開いた。

 

 

 

「……あ、ありがとう…………」

 

 

私はそれだけ言って、走り出した。

何だか不思議と、胸の辺りが温かくなる。

感じた事の無い温かさを振り切ろうと、私は足を速く動かした。

この時、私は気づかなかった。

彼が、私の走っていった後ろ姿を、見えなくなるまで見ていた事をーーーーーー。



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13話 恋の予感と襲撃

「……な、え…………?」

 

唐突過ぎて、言葉が出ない。

エイリア学園?

何故基山さんが、そんな事を……?

体が自分でも分かるくらい、震えていた。

 

この人は……エイリアと繋がりがある……⁉︎

 

私は基山さんを突き飛ばし、彼と距離をとった。

戦闘態勢を取り、基山さんを睨みつける。

 

「……貴方、まさかエイリア学園……⁉︎」

「さあ? どうかな」

「答えて下さい‼︎」

 

この人、一体何なの……?

何かを隠している不思議な雰囲気は、私はどうも苦手だ。

それに、私はこうして話をはぐらかされるのが大嫌い。

こうなったら何が何でも聞き出してやる!

 

「答えて下さい、基山さん‼︎」

 

もう一度声を張り上げて、噛み付くように叫ぶ。

相変わらず基山さんは変わらない笑みを浮かべていたが、考えるそぶりを見せた。

 

「んー……別にいいよ」

「は⁈」

 

あっさり過ぎる。

いいなら何故さっき話をはぐらかしたんだ⁉︎

思わずマヌケな声を出してしまった。

と、同時に私のポーカーフェイスも崩れる。

 

「へぇー、穂乃緒ちゃんってそんな顔するんだね。いっつもむすっとしてたからかな? 凄く可愛いよ」

「ッ…………話を逸らさないで下さい。貴方は本当にエイリア学園なのですか?」

「…………………違うよ?」

 

クスッと基山さんは微笑んだ。

その後すぐに、申し訳なさそうな表情をして、基山さんは私から目を逸らさずに口を開いた。

 

「ごめんね、ちょっと言ってみたかっただけなんだ。これを言ったら、君がどんな反応をするか見てみたくて……。びっくりさせたよね、あれは嘘だよ」

 

「本当にごめんよ」と言いながら、基山さんは手を合わせ、私に謝った。

そして、こう付け足した。

 

「あ、でも、君の瞳が綺麗だって言ったのだけは、嘘じゃないから。そこは信じて……?」

「ッ…………」

 

こくん、と首を傾げ、少し申し訳なさそうな笑顔の基山さんを見た途端、自然と頬が熱くなった。

しかも、胸の奥がきゅんとなる。

何だろう。

締め付けられた、という言葉が似合う。そんな感じ……。

 

「……そうですか。分かりました」

「本当⁉︎ 良かった……君に信じてもらえて」

 

ぱぁぁ、と効果音が付きそうな勢いで、今度は嬉しそうな笑顔に変わる。

ああ、まただ。

きゅんとなって苦しくなる。

貴方の顔を見られない……。

……どうしよう。このままここに居たら、私…………!

 

「わ、私……そろそろ戻りますね」

「? そう? 分かった。また君に会えてよかったよ」

「で、では……失礼、致します……」

 

ペコっと頭を下げて、その場から去る。

早く。とにかく早く。なるべく、あの人と離れる為に。

星空が煌めく中、私は走っていた。

外はマイナスを越えるくらい寒いはずなのに、私の体温は一向に下がらない。基山さんの笑顔を思い出すと、また体温が上がった。

どうしよう……。何か病気もらったかな……?

私はそんな事を考えながら、とにかく基山さんの事を忘れようとした。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。吹雪さん達と一緒に特訓をしていた。

 

「今日は、青木はこっちなのか?」

 

円堂さんが目をキラキラさせて尋ねる。私は言葉で答える代わりに、頷いた。

そしたら円堂さんは、「ぃやったあー‼︎」と言いながらはしゃいでいた。まるで子供のように。

まあ確かに、私はいつも皆とは別で特訓してるものね。

でもそんなに嬉しがられると、ちょっと照れるというか……。

染岡さんと吹雪さんは相変わらず張り合ってるし。

エイリア学園の襲撃予告がきて少し経った。

皆力を付けて、自信もあるみたい。後は、どれだけ彼らに対抗出来るか……。

ふと、何かの気配を感じた。

空からだ。

私が空を仰ぎ見ると、私の異変に気付いた人が次々に空を見上げる。

空が段々と暗くなってきた。

この感じ、私達は前にも経験した事がある。

舞い降りてきたボールがカッと光を放ち、エイリア学園が現れた!

 

「……遂に来たか……!」

 

私も皆も、ごくりと唾を飲み込む。

その中で、円堂さんが先頭に立った。

 

「待ってたぜ、エイリア学園! 勝負だ! これ以上、サッカーを破壊の道具にはさせない‼︎」

 

円堂さんを、抹茶ソフトが横目で見る。

……そういえば私、あの人の名前知らなかったわ……。

ま、どうでもいいけど。

 

「お前達、雷門か? 何故ここに居る?」

「俺達が代わりに戦う!」

「地球人の学習能力は想像以上に低いな。お前達は我々には勝てない」

「宇宙人の想像力も対した事ないね。あたし達がパワーアップしたとは思わないの?」

 

塔子さんも負けじと、エイリア学園に言う。

この2人、雰囲気がそっくりなのは気のせいなのだろうか?

 

「いいだろう。地球にはこんな言葉がある。"二度ある事は三度ある"と!」

 

宇宙人はそう言って、ボールをこちらに蹴り出した。

つまり、相手も勝負を承諾した。

 

「上等。貴方達みたいな、学習能力が低い輩に馬鹿にされるのは気に食わないですからね。自分達がどれだけ自意識過剰だったか、分からない様子なので教えて差し上げますよ。貴方達の敗退でね」

 

私も、思う丈をぶつけた。

勝つ。

既にこの時、私は確信していた。

私は彼らーーーーエイリア学園と戦わなければならない。彼らが私に近付いてきた以上、私も彼らに報復しなければ。

 

「私は、貴方達の元へは行かない。例え、"あいつら"の元へ帰らなくてよくなっても……ーーーー」

 

私の呟きは、吹き付ける風に掻き消された。




は〜長かったなぁ!
お久しぶりです。最近なかなか更新できず、申し訳ありませんでした。
評価、感想等頂けると嬉しいです。切実に。


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14話 vsジェミニストーム1・特訓の成果

「凍てつく北の大地を溶かす程の熱気! 緊急テレビ中継も行われる注目の雷門イレブン対エイリア学園ジェミニストーム! まさに世紀の決戦が始まろうとしています」

 

安定のテンションで、角間さんが実況を始める。

こんな寒いのに何でそんな元気なんだ。元気の秘訣を教えて頂きたい。私としては、もうこんな寒い所は懲り懲りなんですけど。

瞳子監督の指示は、前半吹雪さんをDFに下げること。

前線に出るのは禁止。エターナルブリザードは封印だそうだ。

因みに私は栗松さんと代わり、FWとして出場します。

またか、と思った皆様、私もです。

まあ、最初の頃と比べれば、私だってかなりレベルアップした。彼らのスピードについて行ける自信はある。

そして、今度こそエイリア学園の侵略を終わらせるんだ……!

 

ホイッスルが鳴り、私がボールを染岡さんに転がすと、両チームが動き出した。

染岡さんがあの抹茶ソフトを抜くが、すぐに後ろの2人に止められてしまう。

でも、皆の表情に別の意味での驚きの表情が浮かんだ。次々と、エイリア学園のパスをカットしていく。

どうやら、動きが見えてきたみたいね。

財前さんが取り返し、風丸さんがボールを運び、染岡さんへと渡った。

 

「ドラゴンクラッシュ‼︎」

 

染岡さんの必殺技が、竜を従えてゴールに突っ込む。

相手キーパーも、必殺技を発動した。

 

「ブラックホール‼︎」

 

キーパーが手を前に突き出すと、掌に黒いオーラが現れる。それはブラックホールのようにシュートを吸い込み、遂にはボールを止めた。

後ろから、円堂さんの声が飛ぶ。

 

「惜しいぞ! その調子でどんどん行け!」

 

私は振り返って、頷いた。

エイリア学園がまた雷門陣営に攻め込んで行き、抹茶ソフトにボールが渡る。

そのままゴールへ走ろうとしたところに、吹雪さんがあのスピードで走り込んで来た。

 

「アイスグランド‼︎」

 

見事ボールを奪い、私の方へパスを出す。

だがまた抹茶ソフトにカットされて、私との距離がほぼ1mの範囲で、シュート態勢に入った。

 

「アストロブレイク‼︎」

 

紫色のオーラを纏ったボールが、ゴールに迫る。

勿論それを放っておくわけにはいかないので、財前さんと壁山さんが、それぞれのブロック技を発動する。

だが、アストロブレイクの前にそのブロックは無に等しく、円堂さんも必殺技・爆裂パンチで応戦するも、ボールは雷門ゴールのネットを揺らしてしまった。

1点を、許してしまった。

 

ハーフタイム。

エイリア学園にリードされ、皆の空気は少し重い。その中で、瞳子監督が口を開いた。

 

「吹雪くん、シュートは解禁よ。後半はFWに上がって。点を取りに行くわ」

「でも、DFはどうするでヤンス?」

 

栗松さんが疑問を口にする。まだ気付いてないのかしら……?

 

「大丈夫ですよ。皆さん、彼らの動きに充分対応出来ていますから。円堂さんも、もう大丈夫なはず……ですよね?」

「ああ」

「青木、分かったようだな」

 

鬼道さんが腕組みしながら私に言う。

いえ、私は最初から分かっていたわ。何と無くだけど。

 

「貴方方は今までスピードに対抗する特訓をしていましたが、実際に彼らのスピードに慣れるのは時間がかかります。だから、前半は守備の人数を増やしていた……失点のリスクを減らす為にね。だから前半、1点で済んだのです。吹雪さんをDFに専念させたのは、中盤が突破されたら、あのスピードでなければ彼らを止められないから……そうですよね? 監督」

「ええ、その通りよ」

「なかなかやるじゃないか」

「やっぱお前すげぇな、青木! 何で分かったんだ?」

 

鬼道さんがニヤリと笑って、円堂さんが嬉々とした笑顔で私に詰め寄る。何で分かったって言われても……。

 

「勘」

「え?」

「だから、勘」




青木って、絶対勘で動くタイプだよね……。鋭過ぎる。


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15話 vsジェミニストーム2・新たなる脅威

えーと、次回からこの欄で私の思うことを呟きたいと思います。私個人の完全なる独り言なので、スルー可です。
それではどうぞ。


後半が開始される。

吹雪さんはアイスグランドでボールを奪うと、またあの時のように雰囲気が変わった。

1人で攻め込み、相手DFに奪われる。これが何回か続き、ツートップで組んでいる染岡さんの苛立ちが次第に募っていった。

一之瀬さんは相手のパスを出す時の癖を見つけ、新技・フレイムダンスを習得。それによりボールを奪い、一之瀬さんは吹雪さんにボールをまわす。

吹雪さんは自分が狙われると分かってワザとボールを受け、囮となって、雷門にシュートチャンスを与えた。

染岡さんのマークが少なくなったところで、吹雪さんは染岡さんにパスを出した。

染岡さんは新必殺シュートを打ち、見事得点した。

……目金さんがワイバーンクラッシュと命名してたけど。

これにより、チームの士気が高まった。

で、そのFW2人はというと……。

 

「どうだ? 決めてやったぜ!」

「まだ勝ったワケじゃねえだろ。決勝点は俺が決めてやる」

 

相変わらずのこの状況。でも、これぐらいが彼等にとっては丁度良いのかもしれない。

一方、エイリア学園の方は、失点に動揺していた。

 

「我々が失点? こんな事が……我々エイリア学園がただの人間に敗れる事などありえない。あってはならない!」

 

 

試合再開早々、エイリア学園は攻めてきた。

最大級のスピードをもって。

あっと言う間にゴール前まで攻められ、更には今まで見たことの無いシュート技を打った。

 

「「ユニバースブラスト‼︎」」

 

ザ・タワー、ザ・ウォールの二重ブロックもいとも簡単に破られ、シュートはゴールに飛んでいく。

円堂さんはボールから目を離さず、必殺技を発動した。

 

「マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

光と光のぶつかり合いに、私は思わず目を背ける。

オーラが巻き起こした風が収まってきた時、目を凝らして見てみると、円堂さんの右手はがっちりとボールを受けとめていた。

雷門の反撃が始まる。

ボールはどんどん繋がり、染岡さんに渡った。自分で行くか、と私は思ったが、染岡さんはなんと、吹雪さんにパスを出したのだ。

パスを受け取り、吹雪さんは得点した。

それと同時に、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。

 

「やった? やったぞーーーー‼︎」

 

スコアは2対1。

私達の逆転勝利だ。

皆はこれで地球は救われたとか何とか言って、喜んでいる。

逆に落胆するエイリア学園に私はトドメの言葉を刺しておいた。

 

「低脳な宇宙人さん達。これで分かって頂けたでしょうか? あ、そうそう……地球にはこんな言葉があります。"三度目の正直"……」

「くっ……‼︎」

 

エイリア学園の選手達が、悔しそうに睨んでくる。

ハッ、ざまーみろだわ。

私が彼等の前に仁王立ちして見下していると、何やら気配がした。

ジェミニストームと似て、それよりも強烈な気配。

振り仰ごうとした瞬間、紫色の光が視界に入ってきた。

光が収まると、ジェミニストームと似た格好をした11人が立っていた。

その中のゴールキーパーの男が、抹茶ソフトに向かって言う。

 

「無様だな、ジェミニストーム」

「デザーム様!」

「覚悟は出来ているな? お前達を追放する」

 

そう言って、デザームと呼ばれた奴は、ボールをジェミニストームに向かって蹴った。

抹茶ソフトは一瞬ハッと私を見ると、私を突き飛ばした。

 

「⁉︎」

「ダメだ、離れて!」

 

あの冷酷な宇宙人とは思えないほどの、優しい声。

抹茶ソフトはボールが放つ光に呑まれ、消えてしまった。私は呆然と、見るしか出来なかった。

そして、デザームが続ける。

 

「我等はエイリア学園ファーストランクチーム、イプシロン。地球の民達よ、やがてエイリア学園の真の力を知るだろう」

 

まだ、他のチームがあったのか……!

まだエイリア学園との戦いは終わってなかった。

 

イプシロンが消えた後、次の場所へ行こうとしたが……私には一つ、気掛かりな事があった。

抹茶ソフト……つまりレーゼが、何故敵であるはずの私を助けたのか。

敵に助けられるとは、私にとって何とも言えない屈辱なのだが……。

あの時の声……本当に私を気に掛けているようだった。

一体、何故……。

 

「青木ー! 早く行こうぜ!」

「! は、はい!」

 

円堂さんに呼ばれ、私は小走りで向かった。

レーゼの事を頭の片隅に置いて。




やっと北海道終わった〜。次回からは京都だな。京都大好きなんだよな〜! リアルで。歴史好きの私にとっては天国でしかありません(笑)。


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16話 京都・漫遊寺中

家庭科でホームプロジェクトの発表をした後、一人ひとりから感想を貰った。其れを一枚一枚読んでいたら、こんなのがあった。「いろいろ凄いと思った」…アバウト過ぎる。

前回の予告通り、どーでもいいことを呟きます。上記のはスルー可です。
それではどうぞ。


京都に到着しました。

明日、エイリア学園の襲撃予告が来た漫遊寺中へ行くので、今日1日は自由なんだとか。

紅葉が綺麗な街並みを、私は1人歩いていた。

理由は一つ。たい焼きを買う為。

何にしようかしら。粒あんもこしあんもいいけど、クリームも捨てがたい……。

 

 

 

「まいどー」

「…………」

 

結局、全部買ってしまった。

まあ、好きだから構わないんだけど。

食べながら街をぶらぶら歩いていると、数人の男に話しかけられた。

 

「お、おねーちゃん可愛いね。オレらとデートしない?」

「は?」

「ほら、一緒に行こうぜ」

 

そう言い、男の1人が私の肩を掴む。

私はその手を払い除け、言った。

 

「ふざけてるんですか? 気安く触らないで下さい。此方の同意も無しに無理矢理連れていくというのですか、理不尽極まりないですね。何の変哲もない、特徴の一つも無い顔のクセしてナンパとか、愚かにも程がありますよ。とんだナルシストですね。キモいです。あ、その御自慢のお顔を跡形も無く潰して差し上げましょうか?」

 

優しく、あくまでも優しく言って差し上げた。

指をバキバキ鳴らしながら。

だが、どうやら相手の方は怒ってきた。

 

「っ……んのガキィ‼︎ 調子乗ってんじゃねえぞ‼︎」

 

やる気? なら手加減はしないわよ?

右足を一歩後ろに下げ、構えをとろうとしたその時。

 

「俺の連れに何やってんの?」

「‼︎ チッ、連れがいたのか‼︎」

 

男達は声がすると、さっさと逃げていった。

何なのよ、ていうか一体誰の声?

聞いた事ある……奈良でも北海道でも……。

 

「久しぶり、穂乃緒ちゃん」

「⁈ き、基山さん……⁉︎」

 

ドキッと、心臓が高鳴る。

ああ、まただ……。また胸がきゅんとなる。自然と頬が熱くなる。

この人に会うだけで、何でこんなに胸が温かくなるの……?

 

「穂乃緒ちゃん?」

「あっ、いえ……。あの……基山さんは何故此処に……」

「ああ……ちょっと観光にね。ところで、穂乃緒ちゃんは今1人?」

「はい」

「じゃあさ、一緒に色々まわらない? 俺、1人でちょっと淋しかったんだ」

「えっ……」

 

基山さんと2人で……? 2人きりで……。

想像するだけで、更に心拍数が上がる。何で……?

 

「っ…………すみ、ません……。わ、私、そろそろ帰らなきゃ……」

「そう? じゃあ、またね。ごめんね、引き止めたりして」

「い、いえ……」

 

いつもの私なら、何も考えずに了承するのに……。

何で基山さんの時は、こうして考えて、断っちゃうんだろう……。

私は基山さんを見ずに、走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、漫遊寺中。

まるでお寺のような静かな学校。のんびりしているというか、何というか……。本当に襲撃予告が来たのか? と思いたくなるほど、落ち着いている。

サッカー部を探そう……と動こうとした時、吹雪さんが言った。しかも隣に2人の女子を連れて。

 

「サッカー部なら、奥の道場みたいだよ。どうもありがとう」

「「どういたしまして!」」

 

女子は嬉しそうにぱたぱたと走っていった。

……ま、何はともあれ、場所が分かった事だし、行こうか。

私は持ってきたたい焼きを口に運び、歩き出した。

 

道場を探しながら進むと、ようやく其れらしい建物が見えた。

円堂さんが建物に向かって足を踏み出したその瞬間。

 

「だぁっ‼︎」

「いっ‼︎」

「うっ‼︎」

「えっ⁉︎」

「おっ‼︎」

「すまん‼︎」

 

…………えーと、円堂さん、財前さん、土門さん、目金さん、壁山さん、風丸さんの順番で滑った。

うわぁ、凄い……。

恐らくここにはワックスがかかってるのね。だからこんなツルツルに……。

目金さん、壁山さんの下敷きになってるし……。とにかく、助けた方がいいわよね。

 

「あの……大丈夫で」

 

バシャアッ

 

「…………?」

 

突然、頭に冷たいものが降ってきた。それは私の全身にかかり、私の体を濡らした。

水……?

抱えてたたい焼きも濡れ……たい焼きが濡れてる?

遠くで、笑い声が聞こえた。

青髪の小さい人が、ワックスを持って笑っていた。

 

「ウッシッシッ! ざまぁみろ! フットボールフロンティアで優勝したからっていい気になって」

「お前、よくもやったな‼︎」

 

怒り心頭の財前さんが、あの小さい人に駆け寄る。

だが財前さんは落とし穴に落ちてしまった。恐らく、これも奴がやったのだろう。

でも、今の私にはどうでもよかった。

 

「私の……たい焼き……‼︎」

 

私は地面へ降りて、彼を追って走り出した。

 

「覚悟なさい。私のたい焼きを潰した罪は重いわ‼︎」

「ぅえええっ⁉︎ な、何だよこの女‼︎」

「木暮‼︎」

 

また別の所で、声が聞こえた。彼の名は、木暮というのね……。

木暮さんは素早い身のこなしで逃げてしまった。

 

「っあっ! 待ちなさい‼︎」

 

あのチビ……‼︎

今度会った時が、貴方の命日よ‼︎

許さない……私のたい焼きを潰して‼︎

 

(((((⁈ 何か青木が怒ってる⁉︎ しかもこれ絶対怖い事考えてるよ、絶対に‼︎)))))

 

皆がこんなことを考えてるなんて、勿論私は知らない。




やっと青木のたい焼き好きを出せた……。
さあ、物語は新たなる佳境へ。エイリア学園との戦い、そして敵であるヒロトに恋をした青木はどうなるのか……。彼女の過去も気になるところですね。さて、どうなることやら……。次回もお楽しみ下さい。


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17話 人間不信

課題やプリントを後ろの人が回収する時、私の席は左右に通路がありますが、後ろの人が左右何方から来るのか分からず、来た方向と反対を向いていた時、恥ずかしいです。

まあ、過去の話ですがね。
それではどうぞ。


一之瀬side

やぁ、初サイドの一之瀬一哉だ。

今、あのイタズラっ子の事を聞いてるんだけど……。

 

「…………」

 

後ろに居る青木がさっきからずっと黙ってるんだよね。ブツブツ言いながら、何やらドス黒いオーラを放ってるような気がするんだ。間違いなく。

たい焼きを潰された事を根に持ってるんだろうけど、俺に殺気を当てるのはやめてほしいな、うん。

もう怖くてガクブルなんだよ。

あのイタズラっ子は木暮(こぐれ)というらしく、周りは全て敵だと思ってるそう。

それで仕掛ける罠が何ともう悪どい。落とし穴を掘ったり靴底を床に接着剤で付けたりボールにペンキを仕組んだり……。かなり性格が歪んでる奴みたいだ。

 

「でもどうして、そんなに皆の事が信じられないのかしら?」

 

秋が疑問をぶつけると、返ってきた答えは驚愕のものだった。

 

「木暮は小さい頃、親に裏切られたようで」

「親に?」

「ええ、それ以来、人を信じることが出来なくなったようです」

 

だから、あんな歪んだ性格になってしまったのか……。

俺が1人納得していると、ふと後ろからの殺気が消えた。

振り返ってみると、青木は腕を後ろで組んで、じっと話を聞いていた。

が、くるっと回れ右して、どこかへ行こうとしていた。

 

「青木? ちょ、どこ行くんだよ」

 

俺が思わず声をかけると、青木はこちらを向かず、足を止めずに答えた。

 

「たい焼き買って来ます。すぐに戻りますので、御心配無く」

 

青木は校門の方へとさっさと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青木side

たい焼きを買って、また漫遊寺中へ戻ってきた。

え? 戻ってくるのが早過ぎるって?

要らない時間は作者が美味しく頂いたから問題は無いわ。

で、戻ってくるなりこんな事を聞いた。

彼ら……つまり漫遊寺中は、戦う気は無いと。

はぁ……話し合いで何とかなる程、奴等は甘くないわ。出来たらもうやってるわよ。

だから、今私達に出来る事は無い。

それなら、と言わんばかりに円堂さんが声を上げる。

 

「相手はエイリア学園ファーストランクチーム。こっちももっと特訓して、強くならないとな!」

「特訓……ですか。なら、練習場所を……」

「練習場所ならあるよ」

 

探そう、と言ったその時に、吹雪さんが言った。

しかも、また両サイドに女の子を連れて。

 

「この向こうに川があって、その河川敷ならサッカー出来るって。ね?」

「「はい!」」

「また何かあったら、宜しくね」

「「はーい‼︎」」

 

そう言って、女の子達はぱたぱたと走って行った。

 

「……まあ、練習場所も見つかった事ですし、行きましょうか」

「ねぇ、君!」

 

見知らぬ男子から、声をかけられた。

制服からして、漫遊寺中かしら?

 

「あのさ、一緒にお茶しない?」

「は……? 一体何のタイミングを見計らって声かけてきてるんですか。私達今から特訓するって言ってたでしょう? 先程からじっと見てたなら、聞こえたはずですよね? アホなんですか?」

「え……? え、あ、その……」

「とにかく、私にはそんな暇は無いのです。さっさと戻って修行の続きでもしたらどうですか、鍛え直しなさい馬鹿が」

 

はぁ……スッキリした。

あの男子は「ママ〜〜〜〜‼︎」と泣きながら逃げて行った。

ハッ……情けなっ。本当に鍛えてるのかしら?

私は溜息をついて、皆と一緒に歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗くなり、星の煌めく空の下、私は眠れず外に出て、空の見上げた。

近くの岩に腰を降ろし、俯く。私の頭の中では、昼間聞いた木暮さんの事だった。

親に捨てられ、人を信じられなくなった木暮さん。

私には、そんな彼の考えがよく分かるような気がする。

 

私も親に見放され、身を売られ、実験台にされ、挙句の果てにはストレス発散道具にさせられた。

 

こんな事されて、人間不信にならないワケがない。

実際、私がそうだった。

でも最近……こう思うようになった。

 

人間の中には、優しい人とそうでない人がいるという事。

 

私の親共は、そうでない人。

円堂さん達は、優しい人。

こうして分けられてるのが、醜く尊いこの世界の理なんだ。私はそう思う。

いや、そうとしか思えない。

そう思わないと、怖くて怖くて仕方ないんだ。

 

「…………ハッ。何て愚かな人間なんだろ、私」

 

過去にずっと縛られて、逃げられない。

過去と向き合って、前に進むことが出来ない。

ホント、愚かで惨めな人間だよ。

 

「…………バカみたい……」

 

そう呟いて、私はそろそろ戻ろうと、キャラバンへ向かおうとした時。

ガサッと何かが草むらで(うごめ)いた。ハッと振り返り、草むらの影に近付いた。

 

「あ……」

「こんな夜中に何をしているのですか、木暮さん」

 

草叢に居たのは、木暮さんだった。

ヤバッとでも言いそうな表情を見せて、苦笑している。

 

「……私もう怒ってませんから。出て来て下さい」

「…………そう」

 

バツが悪そうに、木暮さんが草むらから出る。

私はまた岩に座り、溜息をついた。

 

「で、何をしていたのですか」

「え、えと……」

「ま、貴方の事ですから、どうせイタズラでも仕掛けていたのでしょうけど」

「ギクッ‼︎」

 

私の発言に、ビクッと肩を揺らす木暮さん。

図星ね、分かり易い。

私は木暮さんにずっと思ってた事を言い放った。

 

「いい加減やめたらどうですか? イタズラ」

「んなっ……お前には関係無いだろ⁉︎」

「ええ、関係ありませんね。ですが、貴方のやってる事は、心の底からくだらないと思いますよ」

「なっ、何だと‼︎」

「こんな姑息な手を使わないと、奴らには勝てない。仕返しが出来ない。情けなさ過ぎますよ。それに、貴方は漫遊寺中サッカー部の方々の気持ちを分かっていない。彼らは貴方のためを思って言っているのに、貴方は彼らの気持ちを分かろうとすらしていない」

「だ、だって……」

「まぁ……私が貴方に言いたい事は一つ。貴方は幸せ者ですね」

「…………えっ?」

 

ポカンとした表情で、私を見つめる木暮さん。

私は悲しげな視線を送り、キャラバンに戻った。




う〜ん、青木の過去……何処で出そうかな……? まだちょっと先かな……?
次回、イプシロン出まーす。


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18話 vsイプシロン・更生のチャンス

希望調査に〆切が書いてあるのですが、その書き方が「〆切厳守★」…〆切を守らねばヤバイような気がした。命懸けで守ろうと思った。

あれ、脅しのつもりじゃないと思うんだけどな〜。あ、その希望調査は提出ギリギリに出しました。危なかった〜……。
それではどうぞ。


翌日、黒い霧と共にイプシロンが現れた。

戦う所は初めて見るから……注意深く見なきゃね……。

漫遊寺中のサッカー部は「戦う意思は無い」と言うが、当然奴らがこれで帰るはずもなく、学校を壊し始めた。

これには流石の漫遊寺中サッカー部も重い腰を上げた。

 

試合をしたものの、漫遊寺中はあっという間に負け、何と6分で片を付けてしまった。

……いや、奴らが宣言通りに6分で終わらせてしまっただけなのだが。

確かに、動きも速いし、パワーもある。

ジェミニストームとはやはり格段に強いな……。

イプシロンが学校を破壊しようとしたその時。円堂さんが叫んだ。

 

「待て! まだ試合は終わっちゃいない‼︎ 俺たちが相手だ‼︎」

「お前達が? ふっ、いいだろう」

 

あっさり了承。良いのね、貴方たちは。

まあ、負ける気なんか無いんだろうけど。

だがそこで、壁山さんが慌てて言う。

 

「でもキャプテン……目金先輩が!」

 

そう。今の状況では、私達は10人で戦わねばならない。

円堂さんは当たり前のように私の肩を掴み、私に懇願の視線を向けながら皆に私の存在を示した。

 

「青木が居る、大丈夫だ‼︎」

「私パスで」

「ええええぇぇぇっ⁉︎」

 

予想もしなかったのだろう。

残念……というより何故と尋ねるような顔で、円堂さんは私を見る。

もちろん、私がパスした理由もある。

今大切なのは、私のことじゃない……。木暮さんに自信を持たせること。

自信が無いから、今まであんな悪戯ばかりしていた。

なら、自信を持たせれば、もうあんな姑息なマネをしなくなる。

……多分。

木暮さんを試合に出させよう。まずそれからよ。

私が木暮さんの名前を出そうとしたら……。

 

「11人目なら居ます! 木暮くんが!」

 

私が言うよりも先に、音無さんが木暮さんの名前を出した。

当然、皆驚く。当の本人の木暮さんも驚いていた。

それでも構わず、音無さんは必死に続ける。

 

「木暮くんだって、サッカー部の一員です! 木暮くんなら大丈夫です、お願いします! キャプテン、お願いします‼︎」

 

音無さんの懇願に、円堂さんはしばらく考え込んでいたが、にかっと笑って、音無さんの頼みを了承した。

監督は「好きにすればいい」と言ってくれた。

良かった、もしダメって言ったら締め上げてやろうかと思った……。

木暮さんに話し掛けてた音無さんがベンチに戻った所を狙い、私は木暮さんに近付いた。

 

「木暮さん」

「…………あんた、まさか俺を試合に出させる為にこんな……」

「へぇ、鋭いんですね」

「何で……」

「貴方にチャンスを与えてやったのですよ。敵を見返すチャンスをね」

「お前……」

 

まだ私を見つめる木暮さんを放置して、私はクルッと踵を返して、ベンチへ向かった。

 

イプシロンのキャプテン・デザームが、私たちを破壊の対象にし、更に3分で決着を付けると言ってきた。

皆がバカにしていると不服そうにしていたが、まあ其れだけ奴らにとって、私たちはその程度なのだろう。

それに、戦い方がジェミニストームと全く違う。

ジェミニストームはとにかくスピードで押してくるチームだったが、イプシロンはFWを抑え、相手の攻撃を削いで攻めてくる。

さて、一体どれだけやれるのか……。

私は胸の前で腕を組んで、イプシロンの動きをじっと見ていた。




久しぶりに更新しました。まだまだ頑張って更新するぞー‼︎


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19話 裏切られた

こないだ、パンパンのファイルを机から出そうとしたら、ファイルの中のプリントが落ちた。どばーって。…皆さん、ファイルの整理はキチンとしましょう。

これホント大変ですからね。皆さん、気を付けましょう。
あと、試合完全に飛ばします。すみません。
それではどうぞ。


イプシロンの力は凄かった。

吹雪さんのエターナルブリザードは片手で止められるし、円堂さんが守るゴールも破られるし……。

でも、一つ収穫はあった。木暮さんが才能の片鱗を見せたこと。あの動きなら、きっと力になるだろう。

音無さんはあれこそが木暮さんの本当の実力だと言っていたが……。

イプシロンは本当に3分経ったらいなくなっていた。

だが、デザームは意味深な言葉を残して消えた。

「生き残っていれば」。

一体、何の意味だろうか……。

私はどうしてもその意味が分からなかった。

 

 

 

学校は取り敢えず守られた。もう、ここに用は無い。

私たちは、漫遊寺中サッカー部とお別れをしていた。

皆別れを惜しんでいたが、私は少し皆と離れてたい焼きを食べていた。

その中、漫遊寺中サッカー部の監督が私に向かって言った。

 

「青髪のお嬢さん、あんたは、一体何を隠しとるんかね?」

「⁉︎」

 

図星を突かれた。

何で、その事を……。

私は内心驚いていたものの、なるべく表情には出さないようにしていた。

そんな私に悟るように、監督が言う。

 

「此のままでは、何れあんたは壊されてしまう。其の前に、ちゃんと逃げるんじゃぞ」

「っ…………は、い……」

 

まるで、心を見透かされた気分だ。

少し、動揺を隠せないでいた。

私のキャラバンへ向かう足取りは、どこか重かった。

 

 

その途中、誰かの話し声がした。

盗み聞きなんて悪趣味だなぁ……と思いつつ木に隠れて耳を傾けると、声の主は音無さんと木暮さんだった。

 

「私も親居ないから」

「⁈」

 

衝撃の言葉に、思わず耳を疑った。

音無さん、親がいないなんて……知らなかった。

今までそんな感じ、全然しなかったのに……。

私の衝撃など知らず、木暮さん達は話を続ける。

 

「裏切られたのか?」

「ううん。お父さんには会ったこと無いけど、お母さんは事故で」

「じゃあ、俺と違う! いいか? 裏切られたってのは……捨てられたってことだよ‼︎」

 

木暮さんが叫ぶ。

裏切られた……親に捨てられたのが裏切られたというのなら、私の場合は……?

音無さんは黙ってしまい、木暮さんが続けて言う。

 

「大好きな人に裏切られた俺の気持ちなんか、お前には分からないよ。……あれから俺、決めたんだ……人の言う事なんか、まともに信じちゃダメだって」

「でも木暮くん、信じたいって思ってる」

「ばか‼︎ んなわけねえよ‼︎」

「いいかげん認めたらどうです、木暮さん」

 

音無さんと木暮さんの表情が驚愕に変わる。

当然だ。いきなり私が出て来たんだから。

構わず私は話す。

 

「さっきから聞いて居ましたが……木暮さん、貴方はこのように自分の気持ちを誰かに話したことがありましたか? 人相手に、信じちゃダメだと言ったことがありましたか? 無いでしょう。貴方はやはり、心のどこかで人を信じたいと思っているのですよ。そこは認めたら如何ですか?」

「ぅっ……あんただって、一体何なんだよ‼︎ 俺の事幸せだって言ったり……お前なんかに、俺の気持ちが分かるかよっ‼︎」

 

キッと、木暮さんが私を睨む。

睨まれる覚えは無いけれど、言葉を続ける代わりに、ハァと溜息をついた。

音無さんが私達の間に割って入るように、さよならを言った。

 

音無さんとキャラバンに戻る途中。

盗み聞きをしたのは事実なので、取り敢えず謝っておいた。

 

「……勝手にお二人の話を聞いてしまって……すみませんでした」

「え? あ、いえ……。でも、木暮くんに自分のこと気付かせようとしてくれたんですよね。ありがとうございます」

「別に、私は……。あの、音無さんの事も聞いてしまって……」

「あ、いえいえ! 私はもういいんです。お兄ちゃんもいますし!」

「……鬼道さんのことですか」

「はい‼︎」

 

ニコッと笑い、兄である鬼道さんの事を楽しそうに話す音無さん。私は時々相槌を打ちながら、話を聞いていた。

少しだけ、打ち解けられたような気がして、嬉しかった。

 

 

キャラバンに戻り、漫遊寺中を離れた所で、何と木暮さんが私たちについて来ていた事が分かった。結局、ついて来たらしい。

だったら素直に言えば良いのに……。

木暮さんも改心したみたいだし、これで一安心……と思った私の安息は一瞬にして崩れる事となる。

 

「あーーー‼︎ 僕のレイナちゃんが‼︎」

「俺の雑誌が‼︎」

「ウッシッシッ」

 

改心の欠片もしていなかった。

また悪戯をしまくっては、皆に怒りの矛先を向けられ、音無さんにも怒られ、逃げる。

ていうか何で私の元に来るのよ……。

 

「木暮さん」

「ぅっ……ご、ごめん」

「まあ、本人も謝ってるんだからさ」

 

木暮さんが謝り、円堂さんが場を諌めた。

キャラバンが発進する、座ろうと自分の席まで歩こうとしたその時。

 

「あら?」

 

ドテッと、円堂さんが転んだ。

円堂さんの靴紐が2足共結ばれていたのだ。

犯人は勿論……木暮さん。

 

「木暮〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

円堂さんの叫び声は、虚しくキャラバン内に響いていた。




次回から真・帝国‼︎ シリアス警報発令!
苦手な方はバックして下さい。


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20話 影山の新たな陰謀

体育の授業選択でジャンケンで負けた人が希望外れるって……テキトーだと思った。そして、みんなも其れでいいのか。そんなにどうでもいいのか? いいのか。

これ、ホントびっくりしましたよ、はい。そんなにどうでもいいことなんだね。
それではどうぞ。


瞳子監督の携帯のバイブレーションがキャラバン内に響く。瞳子監督はすぐに内容をチェックしていた。どうやら、響木さんという人かららしい。だが、その内容は雷門イレブンにとって驚愕のものだった。

 

「影山が脱走し、愛媛に真・帝国学園を設立した?」

「何だって⁉︎」

 

円堂さんや染岡さん、土門さんが驚きを隠せずに、声を上げる。勿論、私はその影山という人が何をしたのかは知らない。名前も当然、聞いた事が無い。円堂さん達は、すぐに愛媛へ方向転換した。其処でふと、財前さんが疑問を口にした。

 

「なあ、影山って中学サッカー協会の副会長だったんだろ? 何でそんな人を倒さなきゃならないんだ?」

 

財前さんの言葉に真っ先に答えたのは、円堂さんだ。

 

「勝つ為なら手段を選ばない奴だったんだ!」

「其れも、自分の手は汚さず人を使って相手チームを蹴落とそうとする」

「ああ、卑怯が服を着て歩いてるような男さ」

 

円堂さんの言葉に上乗せする形で、土門さんと風丸さんが言う。更に、鬼道さんが付け足す。

 

「其れだけじゃない。奴は勝つ為に神のアクアを作った」

「神のアクア?」

 

此れは、私が問い返した。別に此れに興味を持ったワケじゃない。ただ……名前がダサいなと思ったからだ。答えたのは、鬼道さんではなく、風丸さんだった。

 

「人間の体を根本から変えてしまうものさ。神の領域にまで……」

「……‼︎」

 

人間の体を、根本から変えてしまうもの……。私が受けたのと同じだ。あれのせいで、私の体も変わってしまった。奴も、あいつと同じ……? なら、行きたくない。私はあいつの元から脱走してきたのだ。もし其の影山に捕まれば……あいつの元に、連れ戻される……?

っ……いや、考え過ぎだろう。多分其れは無い。あるはずが無い。大丈夫だ……。そうやって自分を何とか落ち着かせた。すると、何やら叫び声が聞こえた。

 

「うわーーーー‼︎」

「壁山、どうした⁉︎」

「木暮くんが酷いッス! 此れ見て下さいよ!」

 

見てみると、壁山さんの顔に落書きがされていた。また木暮さんがやったのか……。ハァ……。

其れを見た皆は大爆笑。バカな事をやるものね……。私は呆れて、笑う気にもならなかった。

窓の外を見てたい焼きを口に運ぶ。うん、宇治金時は美味しいな。何て呑気な事を考えながら、私は1人でたい焼きを頬張るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

やっと、愛媛のコンビニに着いた。座りっぱなしでちょっと腰が痛い……。私は外で少し伸びようと、窓からキャラバンを降りた。で、ぐーっと伸びていた所、何処からかボールが飛んできた。しかも凄い球威。私は右足を旋回させ、ボールに叩きつけた。今までに無いくらいの力が、私の右足にかかる。私は其れに負けないくらいの力で、何とかボールが飛んできた方向へ蹴り返した。

其のボールを、いつの間にか居たモヒカン頭の男が受け止めた。恐らくさっきのボールも、彼が蹴ったのだろう……。私も地面にしっかりと足を付け、モヒカン頭を睨み付けた。私に並んで降りてきた円堂さんが、其奴に掴みかかるように言う。

 

「な、何だよ‼︎」

「へーぇ、なかなかやるじゃんよ」

 

モヒカン頭は円堂さんの問いに答えず、私を見て企んでいるような笑みを見せる。何だかイライラする。気のせいであって欲しい。私のイライラを遠くに飛ばし、彼に疑問をぶつける。

 

「貴方、真・帝国学園の生徒ですね?」

「え⁉︎」

「何⁈」

 

後ろに居た円堂さんと鬼道さんがモヒカン頭を警戒し、構える。勿論私も体勢を崩さない。更に私は彼についての推測を語った。

 

「……恐らく、瞳子監督に送ったメールも、貴方が送ったのでしょう。私達を此処に誘う為に」

「…………ふーん。随分と勘が良いんだな、あんた」

「貴方は、何?」

「俺の名は不動明王だ」

「貴方が案内してくれるのでしょう? さ、真・帝国学園に案内して下さい」

「へいへい」

 

私は不動明王を睨みながら、彼をキャラバンに乗せた。でも私よりも、鬼道さんの方が不動明王を鋭く睨み付けていた。でも何故、鬼道さんが其処まで睨むのかしら。其れに、鬼道さんは影山の話が出てきた時、特に反応していた……。何故かしら……。私はじっと険しい表情の鬼道さんを見つめながら、キャラバンに乗り込んだ。




来ましたね、真・帝国……!
次回佐久間達出るかな?
円堂「次回もお楽しみに‼︎」


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21話 かつての仲間が求めたモノ

よくあるセリフ。「○○だけは信じてくれると思ったのに」…他の人は信用してないのか。とんでもない人間不信だな。

此れね、よくよく考えてみたら随分酷いよ。こう考えてみたらね。
今回もくだらない話に付き合って下さり、ありがとうございます。今回はシリアスです。苦手な方はback推奨。
不動「其れではどうぞ?(ニヤッ」


「で、其の真・帝国学園とは何処にあるのですか」

「俺の言う通りに走ってりゃ着くよ」

 

不動さんに道案内をさせて、暫くキャラバンが道路を走る。暇なので私はボーッと窓の外を眺める。私はあまり興味が無いが、先程から斜め前に居る鬼道さんのプレッシャーというか、威圧が凄い。木野さんから聞いたが、鬼道さんは影山という人と因縁があったらしい。まあ、私にはどうでもいいことだけど。

 

「……あ、其処の門から入ってくれよ」

 

不動さんが行き先を促す。窓の外には、コンテナが沢山置かれていた。窓を開けると、ツン、と潮の香りが鼻を突く。海? ということは、此処は埠頭……?

キャラバンが停車し、私達は埠頭に降り立つ。海から吹き付ける風が心地良い。だが、見渡しても広がるのは海、海、海。学校も何も無い。

 

「何処にも学校なんか無いじゃないか?」

「てめえ、やっぱ俺達を騙したのか‼︎」

 

円堂さんが海を見渡しながら言い、染岡さんが不動さんに噛み付くように言う。不動さんは相変わらずニヤニヤしてるだけだ。

 

「短気な奴だな。真・帝国学園なら……ほら」

 

そう言いながら、不動さんは海を指差す。少しの間の沈黙。皆は気付いていないようだったが、私の耳には確実に聞こえた。水面下から何かがせり上がってくるような音。其の音に、視線を海に落とす。其れに合わせて、皆も海を見下ろした。

 

腹の底まで響くような重低音と共に、大きな黒い潜水艦が現れた。私もだが、皆が潜水艦を見上げて、驚いていた。揺れが収まり、潜水艦の全貌が見えてきた。潜水艦の上には、"帝"の文字が書かれた旗。あれが、真・帝国学園のシンボルみたいなものなのかしら……?

潜水艦のハッチが開く。此処からではよく見えない。私達は潜水艦から目を放さず、身構えていた。すると、潜水艦の壁が開き、階段が私達の元に伸びてきた。其処から潜水艦の中に入れるようになっているらしく、中から誰かが現れた。其の瞬間、鬼道さんの表情が更に険しくなった。

 

「久しぶりだな、円堂。其れに鬼道」

「ッ……影山ァ‼︎」

 

あの人が、影山……。私は自然と彼を見つめていた。確かに、悪人みたいな顔だ。っと、此れは失礼だったかしら?

鬼道さんの憎しみが籠った声と、影山の抑揚の無い声が、静かな埠頭に響く。

 

「……もう総帥とは呼んでくれんのか」

「今度は何を企んでいるんだ⁉︎」

「私の計画は理解出来ん。此の真・帝国学園の意味さえもな。私から逃げ出したりしなければ、お前達にも分かったはずだ」

「俺達は逃げたんじゃない‼︎ あんたと決別したんだ‼︎」

 

声を張り上げ、抗議する鬼道さん。影山は薄い唇に笑みを称えたまま、私達を見つめる。サングラスの所為で、誰を見ているのか分からない。今まで黙っていた瞳子監督が、口を開いた。

 

「影山零治! 貴方は、エイリア学園と何か関係があるの⁉︎」

「……吉良瞳子監督だね? …………さて、どうかな。ただ、エイリア皇帝陛下のお力を借りてるのは事実だ」

「エイリア皇帝陛下…………?」

 

私は気になったワードをオウム返しをする。エイリア学園に、そんな人がいるの? 私の疑問は、すぐに影山の言葉によって消えた。

 

「さあ、鬼道! 昔の仲間に合わせてあげよう」

 

そう言い残し、影山は潜水艦の暗闇に消えていった。其れを追い、鬼道さんと円堂さんが階段を駆け上がる。2人に続いて財前さんが走り出したが、不動さんが其れを遮る。

 

「お前野暮だなぁ、感動の再会にゾロゾロついてってどうするんだよ。デリカシーがあるなら、此処で待ってな」

 

フッと鼻で笑いながら、彼も階段を上がっていく。財前さんはイライラしていた。私も当然、こんな所で大人しく待てない。此処まで因縁を見せ付けられたからには、確かめないと、此方の気が済まない。私は階段を上がり、潜水艦内に入った。後ろで私を制止する声が聞こえたが、そんなのどうだっていい。私は闇に消えていった鬼道さん達の背中をとにかく追いかけていった。

 

 

静かな潜水艦内に、カツンカツンと、足音だけが響く。影山の後ろに、鬼道さん、円堂さん、不動さん、そしてかなり離れて私が歩いている。何だかやり方がストーカーみたいだけど、不動さんが行ってから来たので、バレたら外に出される可能性がある。なので、手段が此れしか無いので仕方ない。

暗い廊下を抜けると、其処にはサッカーフィールドが広がっていた。バレないように、私は廊下の陰に隠れる。

影山と鬼道さん達が対峙し、遠くの方から誰かがやって来た。しかも2人。1人は、長い髪の私と同い年くらいの少年で、眼帯で右目を隠している。もう1人は、背の高い少年で、目元にあるペイントが特徴的だった。勿論、私は彼等を知らない。鬼道さん達を見てみると、動揺した顔をしていた。

 

「源田に、佐久間……⁈」

「久しぶりだな、鬼道」

 

どうやら髪の長い方が佐久間さんで、背の高い方が源田さんというらしい。彼等の近くで、不動さんが拍手を送る。

 

「感動の再会ってヤツだねえ」

 

何かしら、あの言い方凄い腹立つ。殴りたくなってきたが、今の私の立場を思い出し、拳を抑える。すると影山が何処かへ行こうとした所、背を向けたまま言い放った。

 

「其処でコソコソしても無駄だぞ、小娘」

「⁉︎」

 

げぇっ‼︎ 気付かれてたか……。私は渋々姿を見せた。円堂さんと鬼道さん、不動さんが驚く。

 

「青木⁉︎ 何で此処に」

「何でも何も、貴方方を追って来たのですよ。デリカシーだの何だの、私には興味ありませんからね」

「何つー女だよ、此奴……」

「それと、話は大体分かりました」

 

私がそう言い、佐久間さん達に視線を投げると、鬼道さん達も向き直る。

 

「ッ……何故だ……何故だ‼︎ 何故お前達が、あいつに従う⁉︎」

「…………強さだよ」

 

鬼道さんの問いに冷たく答えたのは、源田さんだった。納得いかないらしい円堂さんと鬼道さんが2人を咎める。

 

「強さ……? 強さを求めた結果が、あの影山のチームじゃなかったのかよ‼︎」

「俺達は、其処から新たな一歩を踏み出したはずだろう‼︎」

 

其の言葉を聞いた途端、2人の顔から笑みが消え、厳しい表情になった。

 

「俺達を見捨てて、雷門に行ったお前に何が分かる?」

 

冷たい一言が、鬼道さんに突き刺さる。

 

「ッ……違う! お前達を見捨てたワケじゃない! 俺は……自分が許せなかった。チームメイトを助けられなかった自分が……」

 

傍らで聞いている私は、話があまり読めなかったが、鬼道さんは彼等を救えなかった事により、雷門に入った、という事は察せた。

だが鬼道さんの思いを、源田さんは撥ね付ける。

 

「綺麗事を言うな‼︎ ……あの世宇子に勝ちたかっただけだろう⁉︎ お前が欲しかったのも、強さだ‼︎」

 

何時も冷静な鬼道さんが、珍しく動揺する。何なの此奴ら。結局は強さが欲しいだけ? くだらない。馬鹿みたい。私は眉間に皺を寄せて、佐久間さん達を凝視した。鬼道さんも諦めず説得する。

 

「……其の為に……あの影山に付いても良いのか? 影山が何をやったか、覚えているだろう⁉︎ 源田、俺達と一緒に来い! なあ、佐久間も……」

 

そう言って鬼道さんが佐久間さんに手を差し伸べる。だが、其の手を、佐久間さんは払い除けた。そして、佐久間さんが口を開く。

 

「……あの時……俺達が病院のベッドの上で、どれほど悔しい思いをしたか……お前には分からないさ」

「雷門イレブンに入り、勝利を掴んだお前には絶対に分からない」

「お前達には勝利の喜びがあったろうが、俺達には敗北の屈辱しかなかったんだよ‼︎」

 

ああ、ああ、ああ、ああ、何て愚かな者達なんだ。私は此の光景に、思わず目眩がした。何が勝利だ。何が敗北だ。何が喜びだ。何が屈辱だ。ーーーー何が強さだ。

 

「くだらない……」

 

ついに、口に出した。今まで黙ってた私が突然口をつぐんだ事により、視線が私に集中する。特に強さを手に入れたらしいあの2人は、鋭い視線を向ける。でも私にはどうでもよかった。

 

「くだらないと言ったのよ。何が強さよ。そんな事に執着して、一体何をするつもりなの? 何がしたいの? ふざけるんじゃないわよ‼︎ 強さ強さ強さ強さ‼︎ もう頭が痛くなるわ‼︎ 確かに、強さは誰もが欲しいと思うかもしれない。でも私には要らない。だから、貴方方が欲しいと思う理由が全く分からない」

「ど、どうしたんだよ。青木……。強さが要らない、なんて……青木は充分強いだろ?」

「私は元々強くなんてない‼︎ 植え付けられたのよ‼︎ だったら、こんな偽りの強さなんて要らない‼︎ 早く消えてよぉ……」

 

ヘナヘナ、と足から崩れ落ちたように座り込んだ私。こんなに発狂したのは、初めてだった。円堂さんも鬼道さんも、座り込んだ私を見つめている。

初めてだった。

哀しみで、涙を流したのは。




お、終わった……。
え、ねえちょっと待って、何文字書いた⁉︎
こんな長くするつもりなかったのに……。
此処まで読んで下さり、誠にありがとうございました。
中途半端ですが、此処から先はシリアス真っしぐらです。大阪はまあ、恋愛要素入ると思いますが……。
とにかく、これからもよろしくお願いします‼︎


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22話 少女の過去

漢字の本に、「気楽な隠居の身分」とあった。隠居の身分が羨ましく思った。切実に。

最近体調を崩しかけた座右の銘です。皆さん、体調管理には十分気をつけて下さいね。
今回は、色々悩んだ挙句過去編です。長らくお待たせしました。ついに、青木さんの過去が明らかになります。あ、シリアス全開です。苦手な方は迷わずbackして下さい。sideは無しです。
それではどうぞ。


これは、人生、人、世界の全てに絶望した1人の少女の、誰も知らないお話。

 

 

ーーーー今から14年前、日本の山奥の村の何処かでその少女は生まれた。その地域は過疎地域であるため、子供が生まれる事は、誰の子であろうと喜ばれた。

少女の両親は、3日3晩少女の名前を考えた。少女に、どんな子に育って欲しいか。そんな事も考えながら、たくさん名前を考えた。

その中から、選ばれた名前。それが"穂乃緒"だ。

両親や隣人が彼女の名前を呼ぶと、穂乃緒はニコッと笑った。誰であろうと笑った。村の人たちは、皆みんな揃って彼女を可愛がった。

 

 

 

しばらく経ち、穂乃緒は2歳になった。穂乃緒は当然成長し、子供ならではの可愛さを持ちながら、美しい子供に育っていった。

だが、両親や村人の心は、だんだん彼女から離れていった。その理由は、彼女の目だ。

海のような青髪に、ルビーをそのまま埋め込んだかのように美しい赤目。村人や親が特に彼女を恐れたのは、赤目に"闇と血"を見たからだ。そもそも彼女の目は、赤と言ってもかなり黒に近い赤だった。この色に、村人達は"闇と血"を見た。

 

この頃、村では作物が全くと言っていいほど採れず、畑は猪に荒らされ、さらには病気の流行が加速していた。村人達は、この大災厄を全て、穂乃緒の所為にした。村人達の信頼を寄せる僧までも、彼女の所為だと言った。両親は村人達との関係を壊したくなかったため、彼女を家の地下に閉じ込めた。

穂乃緒は悲しかった。何故自分が此処に閉じ込められなければならないのか。幼い思考では、自分の今の立場が全くもって分からなかった。

光に晒されず、誰もいない空間は穂乃緒にヒステリックを引き起こさせ、狂わせた。無機質で冷たすぎる空間が、彼女の精神を壊したのだ。

 

『うああああああああいやだああああああああああ出してええええええええお外出してよおおおおおおおお』

 

何回叫んでも、誰も来てくれなかった。ドアを叩いても、爪で引っ掻いても、壁を殴っても、どれだけ泣いても、誰も来てくれなかった。

其処で、穂乃緒は2年間も過ごす事になった。

 

 

 

 

穂乃緒が4歳の頃。やっとドアが開いた。だが、ドアを開けたのは見たことのない大人達だった。穂乃緒は目隠しをされたまま部屋から連れ出され、海を渡って別の所へ行った。この時彼女に、自分は外国へ連れ出されたのだ、という認識は無かった。

穂乃緒の両親は、"彼女の身を売った"のだ。つまり、人身売買である。この売買は内密に行われ、警察に知られることなく穂乃緒はその身を売られた。

 

 

新しく彼女の父になった男は、穂乃緒に様々なドーピングを投与した。何回も何回も。彼女を、"実験体"にしたのだ。また、穂乃緒は格闘技を教え込まれた。戦い、敵を殺すことを覚えた。

穂乃緒は実験や鍛錬が終わると、鎖と枷で縛られ、部屋に閉じ込められた。

ドーピングによっては、穂乃緒の身体と激しい副作用と拒絶反応を引き起こすものも多かったため、穂乃緒の身体はボロボロにされ、時々血を吐くこともあった。

 

そんな日々の中、あるドーピングを投与されて部屋に閉じ込められた時、穂乃緒は何気無く鎖で繋がれた壁をノックした。すると叩かれた壁が崩れたのだ。これには穂乃緒も驚き、壁から後退ろうとする。鎖によって繋がれたはずが、バキンと音を立てて鎖が割れたのだ。これなら逃げられる……? 穂乃緒の中に、淡い期待が生まれた。

穂乃緒は正拳突きを壁に打ち付け、壁を完全に破壊した。幸福なことに、彼女が閉じ込められていた部屋は建物の隅にあったため、穂乃緒はすぐに外へ駆け出した。手首に嵌められた枷を振り切るように腕を振り、とにかく走った。

穂乃緒は見たことのない外の世界を当てもなく走るしかなかった。

走り疲れたその先、穂乃緒はまた別の大人に捕まり、人身売買に掛けられたのだった。

 

 

穂乃緒が12歳の時に、彼女にとって3人目の両親に会った。この時から穂乃緒は自分が売られた身であるため、良い待遇がされるとは思っていなかった。当然、彼等も穂乃緒に対して待遇をするなど微塵も考えていなかった。

彼等は穂乃緒の身体が丈夫で衝撃などに耐えられることを知った途端、彼女をサンドバックのように扱い、ストレス発散道具にした。殴られ蹴られ、時には斬りつけられたり刺されたりした。

 

 

 

 

穂乃緒の心は、既に荒んでいた。誰も信じられなかった。

生まれた時から、誰も自分に味方してくれなかった。ずっとずっと、独りぼっちだった。怖かった。心を殺して、何も感じられなくなりたかった。人生、人、世界の全てに絶望した。

 

そんな少女に差し伸べられる手はあるのか。彼女を救う人は現れるのか。それは、この物語の先にーーーー。




はい、シリアス全開でした。あー、辛かった〜……。


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23話 青木の宣戦布告

化学の提出物のOKスタンプのインクの薄さが絶妙だった。絶妙過ぎて、めちゃくちゃ綺麗だった。

因みに、別の化学の提出物のスタンプも絶妙な薄さだったという。←
見事だよ、うん。
まあ、それは置いといて……それでは、本編をどうぞ。


佐久間side

強さが要らない……? 俺は目の前で蹲っている青髪の女に鋭い視線を落とした。力を手に入れた自分を否定されたような気分だった。俺は……何のために力を手に入れたんだ? 自然と、頭の中で自問自答が繰り返される。そんな俺の脳内が、気持ち悪くて仕方なくて。その苛立ちを、青髪の女に向ける。俺はその女に向けて抱えていたボールを思いっきり蹴った。

ドシュ、と空を切る心地いい音が俺の耳に届いた。そして、あの女にボールが飛んで行き……。バシッと、激突する音が続いて聞こえた。

女の苦痛に歪めた顔を見てやろうと目を向けると、苦痛に顔を歪めていたのは、鬼道だった。

 

青木side

遠くで、ボールが飛んでくる音がする。私に怒りを覚えた佐久間さんが、恐らく蹴ったのだろう。私は大人しくそれを受けようとした。だが、それは無理だった。

鬼道さんが、私を庇ったからだ。吹っ飛ばされる鬼道さんを、私は受け止める。

 

「鬼道さんっ……」

「ぐっ……‼︎」

 

鬼道さんが顔を歪め、強打した部位に手を添える。それほど鋭い球威であったことを伺わせた。

鬼道さんはすぐに立ち上がり、また私を庇うように私の前に立った。

ボールは不動さんの足元へ転がり、不動さんはボールを足で拾い佐久間さんへ渡した。そして、再び佐久間さんが蹴り込む。また、鬼道さんにボールが打ち据えられた。

私と円堂さんが鬼道さんの元へ駆け寄ろうとしたが、鬼道さんは手で私達を制する。

 

「これは……俺とこいつらの問題だ……‼︎」

「そうそう、手は出さない方がいいぜー」

 

不動さんの言い方に、一旦静まったイライラが再び募り始める。不動さんの言葉に、私達は足を止めざるを得なくなった。ただただ、私達はここで、鬼道さんの苦しそうな声と、佐久間さん達の冷たい声を聞き続けなければならないのか。

 

「くっ……どうしても……影山から離れないのか……!」

「そうだ。総帥だけが、俺達を強くしてくれるんだ‼︎」

 

また、鬼道さんが吹っ飛ばされる。

 

「ッ……俺達の、サッカーは……!」

「俺達のサッカー? 俺達のサッカーは、負けたじゃないか‼︎」

 

再び、鬼道さんにボールが襲いかかってきたその時。

 

 

 

「いいかげんに……しなさいっっ‼︎」

 

右足に、鋭い球威が伝わってくる。でも、この程度で……私は負けないッ‼︎ 私は持てる力を持って、ボールを蹴り返した。

不動さん、佐久間さん、源田さん、円堂さん、鬼道さんが驚愕の表情を浮かべる。

それに対して、私は堂々と立った。

 

「貴方方との間に何があったか、私は知らない。でも、これ以上は見てられません。佐久間さん、源田さん……強さに固執したことを後悔しなさい。教えて差し上げましょう。強さを手に入れたことで、失うのは何か。貴方方は既に失っている……。勝利に、強さに固執するあまり、自身を犠牲にしている。失っている。そんなもの……本当の強さではありません。貴方方の目を覚まさせて頂きます」

 

私は既に、戦いの意思を固めていた。円堂さんをチラリと見、頷く。強さに取り憑かれたままじゃ、前に進めない。過去に取り憑かれるのと同じように。

私もまだまだだわ……。強さ、という単語だけで、過去に囚われてしまった……。大丈夫よ、怖くなんかない。あいつらはあんな遠くにいるんだもの。追ってくるワケないわ。だから、今は……鬼道さんの、大切な仲間をお救いする!

私はキッと対峙する佐久間さん達を睨み据えた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………穂乃緒ちゃん……。君は一体、何を抱えているんだ? 俺は、君が知りたい。だから、これからもずっと見てるよ……」

 

 




……あかん、久々に更新出来たと思ったら、スランプ脱出してなかった。
ぐああああああ‼︎ また駄作をおおおおおおおお‼︎
本当にすみませんでした……。
あ、次回は試合行きます。


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24話 vs真・帝国学園1・禁断の技

「殺す気か!」が「コロ助か!」とニュアンスが似ていると思ったのは私だけか。

いや〜、ホントびっくりした。
それではどうぞ。


しばらくして、やっと他の雷門イレブンがやってきた。鬼道さんが彼らに先程までの出来事を説明し、試合をすることを伝えた。

 

「鬼道くん、佐久間くんと源田くんは、君のチームメイトだったんでしょう?」

「……だった、ではありません。今でもチームメイトです」

 

瞳子監督の問いに、鬼道さんが毅然として答える。瞳子監督は目を伏せ、鬼道さんに任せる、と言って下さった。私は今回、木暮さんと代わって頂き、DFとして出ることとなった。

ストレッチしている途中に、鬼道さんが話しかけてきた。

 

「青木、試合が終わってから、話したいことがある」

「? はい……」

「鬼道! やろうぜ‼︎」

 

円堂さんが鬼道さんの肩を叩き、ニカッと笑いかけた。鬼道さんも頷き、答える。

 

「……だが、相手は影山だ。どんな汚い手を使ってでも勝とうとしてくる」

「上等。ならばそれなりの報復を……」

「いやいやいや……それじゃ意味ないだろ」

 

円堂さんのツッコミが私に入る。

 

「分かってますよ。とにかく、私達の目的は彼らを救うこと。やると言ったらやりますよ」

 

私が言い切ると、円堂さんがみんなを見渡して言った。

 

「どんなに汚いやり方でも、俺達は正々堂々と打ち破ってやる! なっ、みんな!」

「「おう‼︎」」

 

私はまた、この声の輪には入らなかった。

 

 

「ーーーー孤独だな、あんた」

「ッ⁈」

 

いつの間にか背後に居た不動さんが、私にボソリと呟く。振り返ってキッと睨む私に、不動さんはヘラヘラしながら続ける。

 

「みんなの輪に入らない……じゃなくて、"入っていいのか分からない"んだろ?」

「……ッッ‼︎」

「ハッ、図星みてえだな」

 

愉快そうにクックッと笑う不動さん。私はさらに眉間に皺を寄せ、不動さんを睨みつける。そんな私を見て、不動さんは「おお怖」と戯けながら真・帝国学園側のベンチへと戻っていった。

この人、嫌い。すっごくイライラする。私のこと、何も知らないくせに……知った風なことを言う……。

 

「私……貴方のことが、大っ嫌い」

 

私は頭をフルフルと振り、気分を切り替えてフィールドに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

試合開始を告げるホイッスルがけたたましく鳴り響く。そして、今回の試合にも……。

 

「さあ、ついに始まりました! 雷門中対真・帝国学園の試合!」

 

案の定、角間さんが実況を始めた。毎回のごとく何なのよ。学校とかなら人が居るのは分かるけど、今回は観客なんて居ないのよ⁉︎ 何のためにやっているのやら……。職人魂ってやつなのかしら。ホント、お疲れ様です。

ボールは、真・帝国から。

 

「佐久間! 見せてやれよ、お前の力を‼︎」

 

早速こちら側へ切り込んできた不動さんが近くを走っていた佐久間さんにパスを出した。佐久間さんはボールを受けると、円堂さんが守るゴール前で足を止めた。

 

「……はぁぁっ…………うおおおおおお‼︎」

 

ーーかと思いきや、佐久間さんは突然大声を張り上げた。一体何が始まるのか、そう思って私は出方を伺っていた。

ところが、それを見てとった鬼道さんが叫んだ。

 

「やめろッ‼︎ 佐久間ァ‼︎ それは…………禁断の技だァッ‼︎‼︎」

 

指笛を吹くと、地面から5匹の赤いペンギンが出現した! ペンギン達は高く後方に振り上げた佐久間さんの右足に噛み付き、佐久間さんが一気に振り抜き、ボールを蹴るのと同時に、ボールと共に飛んで行った。

 

「皇帝ペンギン……1号ォォォ‼︎」

 

シュートが蹴り放たれた瞬間に、佐久間さんが顔を歪めて悲鳴を上げた。

 

「うあああああっ‼︎‼︎」

 

円堂さんはボールから目を離さず、必殺技を発動した。

 

「ゴッドハンド‼︎ っ……うわああっ‼︎」

 

しかし、あっさりと破られてしまい、先制点を奪われてしまった。

佐久間さんはゴール前で自身の両腕を抱えて、痛みに耐えていた。

 

「体中が、痛いッ……! こんなシュートは、初めてだ……!」

 

荒い呼吸を繰り返す佐久間さんに、鬼道さんが駆け寄る。

 

「佐久間、お前……何故……!」

「……ふっ、見たか鬼道! 俺の皇帝ペンギン1号!」

「二度と打つな! あれは禁断の技だ‼︎」

 

禁断の技? 必殺技に、禁断とかあるの? 私は疑問に思ったが、佐久間さんが苦しがっていたのを思い出し、禁断の理由を理解した。

鬼道さんが必死に咎めるのを見て、佐久間さんは愉快とでも言うように笑った。

 

「怖いのか……? 俺如きに追い抜かれるのが……」

「違う! 分からないのか⁉︎ このままでは、お前の体が……!」

「…………敗北に価値は無い。勝利のためなら……俺は何度でも打つ」

 

佐久間さんはそう言い、ポジションに戻っていく。私は硬直して、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。自らを犠牲にするチカラ。この目で見るということが、これほど残酷だとは思わなかった。私に気付いた鬼道さんが、私の元に駆け寄ってくる。それだけではない。何故かみんな私の元に駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か、青木⁉︎」

 

鬼道さんが、私と目線を合わせるためにしゃがむ。何でしゃがんだの? と思ったが、すぐにその疑問は私の感触によって消え去る。

ああ、私さっき、腰が抜けたんだ……。足は何とか機能していたため、私はすぐに立ち上がることが出来た。

鬼道さん達に問題無いことを示し、私は鬼道さんにあの必殺技について尋ねた。

 

「鬼道さん、今の必殺技は……。禁断の技、とは……」

「…………皇帝ペンギン1号……あれは、影山が考案したシュートだ。恐ろしいほどの威力を持つ反面、全身の筋肉は悲鳴を上げ、激痛が走る……。体にかかる負担があまりにも大きいため、二度と使用しない禁断の技として封印された……」

「それが、あの技ですか」

 

私は淡々として、言葉を何とか紡いだ。勿論、衝撃はあった。だが、それを表に出さないように、私はさらに問うた。

 

「あの技……佐久間さんの様子からして、そう何度も打てないはず……使用限度はありますか?」

「恐らく、一試合に2回……3回目は……」

「二度とサッカーが出来なくなる、ということか…………うっ‼︎」

 

シュートを受けた円堂さんが、腕を抑えながら痛そうに顔を歪める。円堂さんは、自分の状況を分かっているのだろうか。それを問うためにも、私は円堂さんを見つめながら言った。

 

「貴方ももう一度まともに受ければ、立つことさえ出来なくなる。先程の威力を見れば、妥当ですね」

「「⁉︎」」

 

一気に、みんなの表情が強張る。分からなかったのね。

 

「……この試合の作戦が決まったな。佐久間にボールを渡してはいけない…………‼︎」

 

鬼道さんが言うと、円堂さんが頷き、一之瀬さんと吹雪さんが賛同する。

 

「その作戦、大賛成だ! 大切な仲間が苦しんでいる……目の前でそんな最悪な光景は見たくない」

「僕も、DFに入るよ」

 

 

 

「まーたあんた、独りになってんな」

 

あの挑発するような声。それによって私の感情が逆撫でされる。見ると、不動さんが笑っていた。私は怒りを抑え込むように返した。

 

「……何が言いたい」

「いや? 何でそんな馴染むのを拒むのかなぁ〜って」

「…………」

「お? またまた図星? 分かり易いんだよなぁ、あんた。あからさまに逃げるから」

「貴方如きが……知ったような口を聞くな」

 

私はこれまでに無いくらい、不動さんを睨みつけた。不動さんは私を見てニヤニヤしながらポジションについた。




皇帝ペンギン1号出せました‼︎
禁断の技……初めてアニメ見たときは「え、マジ⁉︎ んな怖い必殺技あるの⁉︎ 怖っ」と思っていたのを思い出しながら書きました。
そして、不動と青木が完全な険悪ムード……。もしかしたら鬼道より酷くなるかも……?
次回もお楽しみ下さい。


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25話 vs真・帝国学園2・鬼道と不動

「パクリ」という言葉があるが…言われて良い気分がするものではないと思う。人の真似をして技を盗むという手もあるのだから、何でもパクリと言って蔑むのはやめよう。…まあ、本気の完全パクリだったらそれはそれでどうかと思うけど。

ちょっと良いこと言ってみたり。
はいすみません調子乗りました。
私の思考回路は謎ってことで。
それでは本編をどうぞ。


試合が再開され、鬼道さんが敵陣に切り込んで行く。

 

「思い出せ! これが本当の皇帝ペンギンだ!」

 

鬼道さんが指笛を吹くのと同時に染岡さんと一之瀬さんが走り出す。そして、地面から5匹の皇帝ペンギンが出て来た! 皇帝ペンギンの技って、それぞれ色が変わるのかな……。

鬼道さんがボールを蹴り出すと、皇帝ペンギン達も飛んで行く。それを、前方の染岡さんと一之瀬さんが左右から同時蹴りで加速させた。

 

「皇帝ペンギンッ……‼︎」

「「2号ォッ‼︎」」

 

3人の力を受けたボールは、爆発的なスピードを持って真・帝国ゴールへ飛んで行った。ゴールで構える源田さんは、ボールから目を離さず両手をボールに突き出した。

 

「ビーストファング‼︎」

 

まるで野獣が獲物をその口で捕らえるように、源田さんはいとも簡単に皇帝ペンギン2号を止めた。

源田さんは笑みを浮かべたものの、顔を歪め悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 

「ぐ、うおおおぉぉぉぉぉおっ……⁉︎」

「まさか、ビーストファングまで……」

 

鬼道さんが苦虫を潰したように呟く。あれも、禁断の技か……。鬼道さんがすぐに指示を飛ばす。

 

「源田にあの技を使わせるな!」

 

そんなこと言ったって……。財前さんはすぐその言葉に反応する。

 

「シュートを打つな、ってことだな……?」

「……私は、彼らの考えがよく分かりません」

 

ボソリと私の呟きを雷門イレブンが聞いていた。私は気にせず続ける。

 

「彼らは、サッカーに命をかけている。あの必殺技はその覚悟の表れ。とんでもない威力を持つが、身体を破壊する。まさに、諸刃の剣……! 今のままでは、解決策はありませんね」

 

ハァ、と小さく溜息をつく。私はみんなの反応も見ずにポジションに歩いて行った。

 

 

 

 

「佐久間ッ!」

「渡すワケにはいかないよっ‼︎」

 

佐久間さんに吹雪さんがマークに入り、出されたパスを一之瀬さんがカットする。一之瀬さんは奪ったボールを染岡さんにまわす。

受けた染岡さんは一瞬ゴールを見たが、源田さんは既にビーストファングの構えをとっていた。これではシュートが打てない。戸惑ったところを狙われ、ボールを奪われてしまった。

不動さんがゴール前まで攻め込み、普通のシュートを放った。

 

「はぁっ‼︎」

「ゴッドハンド‼︎」

 

確実にシュートを阻止するためか、必殺技を発動する円堂さん。しかし皇帝ペンギン1号を止めた時のダメージがまだ抜けないのか、ギリギリで得点を防いでいた。こぼれ球は私が一応外に出して、DFの仕事をした。

見てみると、佐久間さんが肩で辛そうに息をしていた。その姿に、鬼道さんが声をかける。

 

「目を覚ませ! 自分の体を犠牲にした勝利に何の価値がある⁉︎ 佐久間、源田!」

 

だが、その叫び声も2人は拒む。

 

「……分かってないのはお前だよ、鬼道……」

「勝利にこそ価値がある。……俺達は勝つ。どんな犠牲を払ってでもな!」

 

さらに不動さんが追い打ちのように言葉をかける。

 

「説得なんてムリムリ。奴らは心から勝利を望んでいる。勝ちたいと願っているんだ」

 

ウザい……。自然と眉間に皺が寄った。

不動さんは鬼道さんに軽くボールを蹴る。

 

「シュートしてみろよ?」

 

挑発するような物言い。鬼道さんは肩を震わせ、叫び声を上げた。

 

「……ぐ、ぁあぁああ‼︎」

 

強い蹴りを入れ、ボールを飛ばす。不動さんはそれを真正面で受けてみせ、さらに器用なボールさばきをした。だから何だ、私は特に何とも思わないぞ。

小さく笑い、ボールを足元に落ち着かせた不動さんは鬼道さんを突破しようと走り出す。鬼道さんはもちろんそれに対応した。

 

「何故だ! 何故あいつらを引き込んだんだ⁉︎」

「俺は、負けるワケにはいかないんだよ‼︎」

 

どちらとも、一歩も引かない攻防を繰り広げる。2人の間で一瞬、ボールが自由になる。そこから2人一気に蹴り込んだ。ボールは2人の圧力に耐えかね、ポーンと上空へ向かっていった。

そこで、前半終了のホイッスルが鳴る。私は詰めていた息を吐き、ベンチへ行こうとした。不意に、耳障りな声が聞こえた。

 

「自分の存在意義が掴めてねえみてえだな。ま、今のあんたには一生分からねえだろうけどなぁ」

 

ザワッと肌が波立つ。感情が逆撫でされたような感覚に陥り、振り返って殴ろうとした。が、私の拳は裾を握り締めるだけで、代わりに低い声で言葉を放った。

 

「存在意義が何だとか、私にはどうでもいい。私は奴らから逃げるためにここにいる。戻るとなったら、抜け出すまでだ。そんなことより、とっとと失せろ。どうやら、私は貴方が大嫌いなようだ。今すぐ消え去れ。私の拳か足が飛んでくる前に」

「へいへい。そんな怖い子に、嫁の貰い手があるのかねぇ」

 

そんなこと貴方に心配される筋合いは無いわよ。ていうか嫁の貰い手って何?←そこから⁈

ベンチに戻る不動さんが、佐久間さんと源田さんに発破をかける。

 

「……ん? おいおい、どうした? 佐久間、源田。もうへばってるのか?」

 

その言葉に、佐久間さんと源田さんがすぐに答える。

 

「……任せろ。後半も皇帝ペンギン1号で点を取る」

「ビーストファングで、どんなシュートでも止める。そして……」

「「必ず勝つ……‼︎」」

 

それを聞いた不動さんは満足そうにニヤリと笑う。あいつ、最低だ……。

 

「2人のためには、試合を中止した方がいいのかも……」

「そうだな、そうすれば禁断の技を使わずに済む!」

 

木野さんの言葉に、土門さんが同調する。しかし、その考えを、瞳子監督がバッサリと切る。

 

「試合中止は認めないわよ」

「「えっ……?」」

 

全員の視線が瞳子監督に集まる。そんなことを気に留めず、瞳子監督は指示を飛ばした。

 

「後半は私の指示に従ってもらうわ。吹雪くんはFWに戻って。みんな、勝つためのプレイをしなさい」

「それじゃあ、佐久間くん達が……」

「これは監督命令よ! 私の目的は、エイリア学園を倒すこと。この試合にも、負けるワケにはいかない!」

 

声を荒げて言う瞳子監督は珍しかった。困惑した表情のみんなに、私は諭すように言った。

 

「…………試合を続けましょう。確かに、彼らの体を守るためには、試合を中断するのも一つの手かもしれません。しかし、このまま試合を放棄すれば、彼らはどうなります……? 彼らはこのまま、勝利に囚われ続けることとなるでしょう……」

 

私がここまで言うと、鬼道さんが後を続けて言った。

 

「やはり、この試合で救い出すしかない」

「……良いんだな?」

「構わない。何よりそうでなければ、あの2人自身が納得しないだろう」

 

これで、やっとみんな納得した。




試合展開キツイー‼︎
ちなみに私はカラオケでは最近ボカロした歌ってない……。
はい、どーでもいいですね。
それでは、また次回。


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26話 vs真・帝国学園3・必殺技

後半。ボールを受けた私はパスを出すため、周りを見渡す。

 

「こっちだ!」

 

染岡さんの声を聞き、前を見る。しかし次の瞬間、2人のDFが立ちはだかる。

邪魔だ……。私はギリッと歯を食い縛り、睨みつける。

 

「邪魔です……どきなさい‼︎」

 

ググッと、足に力を込めて、私は停止する。そこを狙って駆け寄る相手の足音が聞こえた。私は更に足に力を込める。

 

「青木‼︎」

 

遠くから、円堂さんの声が飛ぶ。やっぱり貴方の声はよく響く。染岡さんも、私に心配そうな顔を向けた。でも、心配はいらない。

私はまた更に足に力を込める。地面が崩れるような音がした。

 

「ッはぁぁぁぁっ‼︎」

 

襲いかかるDFを一気に抜き去る。私が抜き去った軌跡に、風が吹き荒れた。DF達は私のスピードが巻き起こした風により、吹っ飛んだ。

 

「青木‼︎」

「すげーな、青木‼︎ 必殺技か‼︎ いっけー‼︎」

 

染岡さんの安堵の声に、円堂さんの応援が私の耳に届く。私は染岡さんにパスを出した。

しかし、問題は残っている。ゴールで構える源田さんだ。一体、どう得点するのか。私は染岡さんを見つめる。

だが次の瞬間、染岡さんは躊躇することなく、必殺技の体勢をとっていた。

 

「ワイバーンクラッシュ‼︎」

 

染岡さんの行動に、みんなの表情が強張る。私もそうだった。分かっているはず。源田さんの必殺技は、体を壊すものだと。なのに何で必殺技なんて……!

源田さんはシュートから目を逸らさず、構えをとる。だが、シュートはいきなり右に旋回していった。これには全員、染岡さんの意図を図りかねた。

シュートが飛んでいった先には、吹雪さんがいた。

 

「まさか、シュートではなくパス……⁉︎」

 

察した私が叫ぶ。源田さんも気付いたが時既に遅し。

 

「くっ! ビースト……」

「遅えよっ‼︎ エターナルブリザード‼︎ ッはああああ‼︎」

 

雄叫びを上げながら、吹雪さんがシュートを放つ。シュートは源田さんを通り過ぎ、ゴールネットを揺らした。

1対1。同点に持ち込んだ。私は得点したことよりも、いつの間にか仲良くなっていた2人に視線がいっていた。サッカーを通じて、心を開き合う。お互いを認め合う。この関係を何と言うのか、私には分からなかった。

とにかく、得点策は出来た。これなら、勝てる。少し、希望が見えた気がした。

 

まだ時間は充分にある。ここでもう1点を取れば、確実に活路が見出せたのも同然だ。

染岡さんが一気にゴールへと切り込む。しかし。

 

「喰らえっ‼︎」

「うおっ⁉︎」

 

スライディングを仕掛けた不動さんの足が、染岡さんの足を容赦無く打ち据えた。

これには審判がファウルとしてイエローカードを掲げる。倒れた染岡さんは足首を抑え、悲鳴を上げる。

 

「ぐぁぁあっ‼︎」

「ッ……染岡さん‼︎」

 

私はあの程度を避けられないとは情けない、と頭の隅で思いつつも、染岡さんに駆け寄り、抱き起こした。そこに不動さんが嫌味たっぷりに声をかける。

 

「悪い悪い。まさかこんなのも避けられないとはねぇ」

 

全く悪びれる様子も無く、謝りの言葉をかけてくる不動さん。私は確かに、とあいつの言うことにも一理あると考えてしまったが、言い方を聞いて確実にイラッときた。

そこに来た吹雪さんが怒り心頭で声を荒げて不動さんに殴りかかる。

 

「てっめえ、今のワザとだろ‼︎ こいつーーッ‼︎」

「やめろっ……」

 

私が制止しようとしたが、染岡さんの苦しそうな声が吹雪さんを制止させた。

 

「殴ったら、お前が退場になる、吹雪っ……!」

「ぐッ……!」

 

吹雪さんが悔しそうに顔を歪める。ここで吹雪さんが退場してしまえば、活路が完全に無くなってしまう。

私は染岡さんをベンチに運ぶため、染岡さんを背負って立ち上がった。染岡さんはまだ痛みが残るのか、時たま顔を歪める。

 

「ぅっ……あ、青木……」

「?」

「あり、がと……な……」

「!」

 

礼を、言われた。私はざわつく心を抑え、ボソリと答えた。

 

「……いえ」

 

 




あーーーーッ試合辛いーーーーッ‼︎
まだ続く……この辺り結構好きだったのに、まだあるとか辛いマジで……。
頑張ります。


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27話 vs真・帝国学園4・嫉妬

染岡さんをベンチへ運び、木野さんに染岡さんを渡す。染岡さんの足首を診る木野さんは、苦そうな表情を見せた。

 

「これ以上、プレイは出来ないわ……」

 

その言葉を聞き、円堂さんは木暮さんを振り向いた。

 

「木暮と交代だ!」

「ッ……交代は無しだ……‼︎」

 

声を上げたのは、染岡さんだった。目を向けると木野さんに支えられた染岡さんが立っていた。すぐに、鬼道さんが彼を止める。

 

「無茶をするな」

 

しかし染岡さんは鬼道さんの両肩を掴み、請うように言った。

 

「役に立たねえかもしれねえが……ピッチに置いてくれ……‼︎」

 

鬼道さんは戸惑ったものの、渋々分かった、と言った。私はみんなに分かるか分からないかくらいで染岡さんを睨みつけた。

 

「……貴方、分かっているのですか? それで無茶してサッカーが出来なくなっても良いと? エイリア学園と戦えなくとも良いと?」

 

自然と声に、怒りが込もった。何で。何で私がこんな人達の心配をしなければならないの。こいつらなんて、私の逃げる足になる以外、どうでもいいのに。

自分の行動に戸惑いつつも、周りのみんなはそれに気付かなかったらしく、染岡さんが私の問いに答えた。

 

「影山なんかに負けたくねぇんだ……‼︎」

「貴方ッ……‼︎」

「……いいんじゃねぇの?」

 

私達の会話を遮ったのは、吹雪さんだった。しかも何だか声音が優しい。更に吹雪さんは続ける。

 

「要は、俺がこいつの分もプレイすればいいだけだろ?」

 

自分を親指で指しながら、監督を見、許可を促す。

 

「あんたの作戦にノッてやったんだ。これくらいいいよな? 監督」

「構わないわ」

 

吹雪さんの提案に即答した瞳子監督に、私は少々困惑した。何を馬鹿なことを考えているんだ、どう考えてもあのダメージでこの後戦い抜くことが出来るワケないのに……! しかし監督からも言われては仕方なく、私は溜息をついて諦めることにした。

 

 

後半が再開され、とにかく佐久間さんにボールが渡らないように、DFは特に注意した。

ボールが私にまわってくる。そこに、不動さんがボールを奪ってこようとスライディングタックルを仕掛けてきた。そんな簡単に奪われるワケにもいかず、私はトンッと軽く地面蹴って、不動さんの上を飛んだ。

しかし……。

 

「へっ、甘えぜ」

「っ‼︎」

 

足を上げた不動さんにボールを取られてしまった。高度が低かったか……! 不動さんはすぐに佐久間さんに繋げようとする。しかし佐久間さんには一之瀬さんと土門さんが既にマークについている。不動さんが強引に突破するかと誰もが思ったが、不動さんは足元のボールを軽く浮かせ、蹴りを叩き込んだ。ボールは目の前にいた一之瀬さんに直撃した。

一之瀬さんを倒したボールは力なく転がり、佐久間さんの足元で止まった。しまった、と誰もが息を飲んだ。

佐久間さんはニヤリと笑い、シュート体勢に入る。それを見た鬼道さんが、止めようと走り出した。

 

「皇帝ペンギンッ……!」

「……やめろォッ‼︎」

「1号ォォォォッ‼︎」

 

2回目の皇帝ペンギン1号。構える円堂さんは、ボールを見据えて、必殺技の構えをとった。

 

「マジン・ザ……」

「はぁぁぁあ‼︎」

 

鬼道さんが、皇帝ペンギン1号を打ち返そうと、足を旋回させた。だが皇帝ペンギン1号は鬼道さんを弾き飛ばしてしまった。

 

「ぐぁぁあッ‼︎」

「マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

皇帝ペンギン1号の威力は、円堂さんが誰よりも分かってるはず。円堂さんは気合いの怒号を上げながら、何とかシュートを止めることが出来た。

鬼道さんはあまりの痛みに、膝をついた。痛みに喘ぎながらも、鬼道さんが円堂さんに声をかけた。

 

「円堂、大丈夫かっ……?」

「っ……そっちこそ……!」

 

この2人が壊れては、雷門が崩れる。私の見る限り、雷門は円堂さんと鬼道さんの2人を中心に成り立っている。これも影山の狙いなのだろうか。私は立ち上がろうとしている円堂さん達を見て、そう思った。

そして次に、おそらく円堂さん達よりももっとダメージが多いだろうと思われる佐久間さんを見た。佐久間さんは両手両足をついて、ハァハァと激しく息をしていた。

これで佐久間さんが皇帝ペンギン1号を打ったのは2回目。あともう一回打てば……。佐久間さんは壊れる。それを悟った鬼道さんは、佐久間さんに叫ぶ。

 

「もうやめろ‼︎ これ以上打つな‼︎」

「やめるワケにはいかない……!」

 

佐久間さんはそう言うと、ポジションに向かって歩いていく。と、次の瞬間、悲痛な叫び声を上げた。

 

「うがァアアッ⁉︎」

「ッ……! 何故分からない⁉︎ サッカーが二度と出来なくなるんだぞ‼︎」

 

鬼道さんは佐久間さんの前にまわって、彼の両肩を掴む。鬼道さんを睨んだ佐久間さんの目が狂気に染まっていたのを見て、私は息を飲んだ。

 

「分からないだろうな、鬼道……。俺は、ずっと羨ましかった。力を持っているお前は、先へ進んでいく……。俺はどんなに努力しても、追いつけない……。同じフィールドを走っているのに、俺にはお前の世界が見えないんだ……」

 

佐久間さんは鬼道さんを突き放し、さらに続ける。

 

「だが、皇帝ペンギン1号があれば、お前に追いつける……いや、追い越せる! お前すら手の届かないレベルに辿り着けるんだ‼︎」

 

ああ、そうか。私には分かった。この人は……ただただ、この人は……。

 

「鬼道さんが、羨ましかったんだ……」

 

私の呟きは、吹き付ける湿った海風に攫われていった。




ああ〜長かった。


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28話 vs真・帝国学園5・変わることへの恐怖

日本三大随筆の一つ、「徒然草」の漢字を、私は「とぜんぐさ」と覚えている。理由は中学の頃、先生が「とぜんぐさって読んじゃダメだからね」と言っていたから。先生、書き方を教えてくれて、ありがとう。

これマジでいい覚え方です(確信)。
それではどうぞ。


試合再開早々に、財前さんがキープしていたボールを、不動さんがスライディングで奪う。そして、やはり佐久間さんへパスを出した。しかも、あまりの咄嗟の出来事に全員反応出来ず、ボールは佐久間さんに渡ってしまった。

 

「これで決める‼︎」

「やめろ佐久間‼︎」

 

再びシュートを打とうとする佐久間さんを止めようと、鬼道さんが走る。しかし、そこをまた不動さんに阻まれてしまった。

そして……佐久間さんは迷うことなく、3回目の皇帝ペンギン1号を放った。

 

「うあああああっ‼︎」

 

佐久間さんを、激痛が襲う。さらにシュートを阻止しようとした鬼道さんにペンギン達が襲いかかる。このままではいけない……鬼道さんが危ない!

 

「ッ‼︎ 鬼道さん‼︎」

 

鬼道さんを守らねば。その思いで駆け出したその時……。

 

「ぐ、うあぁぁぁああっ‼︎」

 

ボールが鬼道さんに当たる前に、染岡さんが飛び出してきて……蹴り返そうと足をボールに叩きつけた。が、それも虚しく、皇帝ペンギン1号は容赦なく、染岡さんをも吹き飛ばしていった。

 

「ッッ…………っ、染岡さぁあぁああんっっ‼︎」

 

私の叫び声が、フィールドに木霊する。私は染岡さんに駆け寄り、彼の背を揺さぶった。

 

「しっかりして下さいっ染岡さん‼︎」

「ぐっ…………な……青、木……残しといて、良かっただろ……」

 

脂汗を滲ませ、私の方を見てぎこちなさそうに染岡さんが笑う。そして次の瞬間、フッと気を失い、倒れてしまった。

何故。無茶してるクセに。体中が悲鳴を上げて、体を起こすことさえも苦しいクセに。何故、貴方は笑うの……?

傍で、鬼道さんが拳を震わせ、彼の名を叫んだ。

 

「ーーーー染岡ぁあぁあああぁああっ‼︎」

 

ーーしかし、こうしている間にも、試合は動いている。こぼれ球を不動さんが受け、一之瀬さんを押し退けるように突破し、佐久間さんにまたボールを出した。

 

「もう一度だ、佐久間ァ‼︎」

「⁈」

 

あんなになったのに……まだ打てるというの⁉︎ 私はハッと佐久間さんを見やる。しかし、当の佐久間さんは体を震わせ、空を仰ぎながら倒れていった。

 

ピッ、ピッ、ピィィイーーーッ‼︎

 

ホイッスルの無機質な音が耳に届く。耳障りだ。私は思わず耳を塞いだ。スコアがどーのこーのっていうことなんて、どうでもよかった。

ベンチでは瞳子監督が救急車を呼び、ピッチでは染岡さんの元に雷門イレブンが、佐久間さんの元に源田さんが駆け寄ってくる。源田さんは動けずにいる佐久間さんの体を起こし、彼の名を呼ぶ。

 

「佐久間、佐久間っ!」

 

ふつふつと、何らかの感情が高まる。何だこれは。私は心を沈めようと、胸元のユニフォームを握り締める。震える足を動かし、立ち上がる。そして、佐久間さんの方を見やった。

何で私がこんな風にあの人達の心配をするのか分からない。私は、あの人達に何の感情も持っていないはずなのに。持ってしまったの? あの人達に、情を? 何だか自分がわけ分からなくなる。分からなくて怖い。

上空で、バタバタと大きな音が響く。どうやら、ヘリコプターのようだ。そこから、声が聞こえてきた。

 

「見つけたぞ、影山! もう逃げられんぞ‼︎」

 

追われていたのか、と頭の隅で思いつつ、影山の居る場所を見上げる。鬼道さんが、影山の元へ走っていくのを見たが、次の瞬間どこからか爆発音が聞こえてきた。この船艦からの爆発のようだ。

私は染岡さんを肩に担ぎ上げ、源田さん達の元へ走る。源田さんは驚いたように私を見上げるのを見て、私は彼に手を差し伸べた。

 

「逃げましょう。ここから早く」

 

私は佐久間さんを抱き上げ、源田さんを頭の後ろに寄り掛からせて担ぎ、走り出した。船艦が崩れる前に逃げなくては。周りを見渡すと、みんなもそれぞれ逃げている。私は一旦足を止め、鬼道さんが消えた入り口を見た。鬼道さんは大丈夫なのだろうか。不安に思いながらも、私は気を失っている佐久間さん達のために、再び駆け出した。鬼道さん、どうかご無事で……。

 

 

 

やがて船艦は爆発し、沈没。鬼道さんはヘリコプターに乗っていた刑事さんが助けてくれたらしい。私は佐久間さんと源田さんを救急隊員の人に預け、円堂さん達の元へ戻る。私はコンテナに寄り掛かり、腕組みをする。少し遠くで、木野さんが泣いているのを見た。

 

「穂乃緒ちゃん」

 

耳元で、透き通った声が聞こえる。ハッと振り返るが、誰もいない。私はコンテナの陰に入り、声の主であろう人物の名を口にする。

 

「……基山さん?」

 

すると、円堂さん達がいる反対側のコンテナの陰から、基山さんが現れた。赤髪を揺らし、ニコッと笑う。

 

「正解。流石だね、穂乃緒ちゃん」

「何故、こんなところに? 貴方は本当に……」

「何者か、でしょ? まだ秘密。君にはまだ教えられない」

「隠す理由が分かりません。貴方は一体何者なんですか? 何故、私の元に現れるのですか?」

 

正直言って、疑うのはイヤだ。この人はそんなのじゃない、と勝手に決めつけている私がいる。しかし、彼の目的が分からないのも事実だ。何者なのかも分からない。

 

「穂乃緒ちゃん、悩んでるの?」

「え…………」

 

唐突に見透かされ、私は言葉を失う。それに構わず、基山さんは続ける。

 

「元々君は彼らと馴染むつもりは無かった。なのに、いつの間にか馴染んでしまい、あろうことか心配までするようになった……。それが何でなのか分からないんでしょ?」

「っ……お前に言う筋合いは無い」

「てことは、図星なんだね?」

 

何なんだこいつは。いつもの基山さんと違う? 私はふと思った。いつもなら、胸がキュンとなるのに、今日はしない。むしろ怖い。私は振り返って円堂さん達の元へ駆け出した。怖い。あのままいたら、基山さんにどこかへ連れ出されそうで。私はとにかく走った。基山さんを振り返らないように、走った。

 

「…………怖いんでしょ? 自分がお人好しになっていくのが。俺、君のこと待ってるからね。ーーーーいつでも俺達のところへおいで、歓迎するから」




やっと愛媛終わりました!
次はちょっと入りますね。そしてシャドウキタシャドウ‼︎
そして、揺れ動く青木さんは心情。これから彼女はどうなっていくのでしょうか。
次回も頑張ります。


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29話 ガタガタガタガタ

生活習慣を変えるって、とても難しいんだね。

夜型人間はキツイです。ガチでw
それではどうぞ。


それから私達はイナズマキャラバンに乗り込み、再び走り出した。隣には、俯いたまま一言も発さない鬼道さんがいる。私も窓の外を眺め一切話さなかったが、ふと思い出し、鬼道さんに問うた。

 

「あの、鬼道さん……私に話があると言いませんでしたっけ?」

「‼︎ あ、ああ……」

 

鬼道さんがハッと顔を上げる。が、すぐに気のない返事をした。おそらく、佐久間さん達のことで、少し傷心気味なのだろう。私は鬼道さんに無理をさせまいと、鬼道さんが何か言う前に答えた。

 

「今は話す気分ではないでしょうが……まあ、私は待ちますので」

「………………ああ……ありがとう」

 

やはりそうだったわね。私は鬼道さんから目を逸らし、再び窓の外を眺めた。……あれ? ここ、どこかで見たことある……。私が疑問に思い、外の景色を食い入るように見つめていると、古株さんが嬉しそうに声を上げた。

 

「みんな、見えてきたぞ! 稲妻町だ!」

 

ーー稲妻町? 私の思考が停止する。

周りでは、円堂さんや風丸さん、壁山さんに栗松さんが懐かしい、と話す。その中で私はギュッとジャージを握り締め、カタカタ震える体を抑えた。

円堂さんがみんなを見渡して、言う。

 

「イプシロンとの次の試合まで、あと一週間だ! みんな、バッチリ調整して、レベルアップしていこうぜ‼︎」

「「「「おう‼︎」」」」

 

みんなが声を揃えて答える中、私は自身の肩を抱いて震えていた。イヤだ、怖い……! また……あいつらの元に戻りたくない……!

私の意思など気に留めず、キャラバンは雷門中へと河川敷を走る。そこでふと、窓から何かを見た円堂さんが、突然声を上げた。

 

「んっ……! 古株さん、止めて下さい!」

 

円堂さんと風丸さんは、キャラバンが止まるなり、ドアを開けて走り出す。みんなは窓から、円堂さん達を目で追っていた。どうやら、顔馴染みがいるらしい。その再会を喜び合っているのを、鬼道さんも見ようとしたのか、体を私の方へ向ける。そこでふと、私の異変に気付いた。

先程からの震えはだんだん大きくなり、誰から見ても分かる程となっていた。

 

「青木……? おい、青木! 大丈夫か⁉︎」

「ぅ…………ぁ、ぁ……」

 

ガタガタ、震えが止まらない。イヤだ。怖い。怖い。怖い。自分でも、抑えきれない。私がさらに強く肩を抱くと、肩に感触が走った。

 

鬼道side

杉森がいるというので、俺も窓を覗こうとしたところ、自分の肩を抱いてガタガタ震えている青木が視界に入った。何だか様子がおかしい。そう思って、俺は青木を呼んだ。大丈夫か、と声もかけた。しかし、青木の震えは一向に収まらない。俺は青木の肩に軽く触れた。

 

「っっ‼︎ いやぁっ‼︎」

 

バシッと手を払われる。青木は窓に背中を打ち付け、俺を見上げる。俺達の騒ぎに気付いた仲間達がやってきた。

 

「どうしたんだ、青木?」

「ぁっ……ぃ、ぃやっ……」

 

青木はガタガタ震え、俺達を見ていた。ふと、青い前髪の隙間から赤い目が少し見えた。赤、といっても俺の目とはまた違い、赤黒い、といった方が良い色だった。その目を大きく見開き、恐怖の色を伺わせる。

手を伸ばしても、その距離だけ青木が後ろに下がる。もう後ろは窓なのに。また青木と俺の視線がぶつかる。でもその目は俺ではなく"別の誰か"を見ていた。もしかして、青木は俺を誰かと重ねて……? 俺は青木の肩を掴み、叫ぶ。

 

「落ち着け、俺だ! 鬼道有人だ‼︎」

「…………ぁ……き、鬼道……さ、」

「そうだ、俺だ! だから落ち着け…………」

「き……ど、さ…………」

 

青木は虚ろな目で俺を見て、フッと糸が切れたように俺に倒れ込んだ。クタッと俺に身を預け赤黒い目を閉じ、死んだように気を失っていた。

 

「青木、大丈夫か?」

 

俺の後ろで、塔子が青木を覗き込む。吹雪や一之瀬もやってきた。

 

「大丈夫だ。俺も何かは分からないが、青木は何かに怯えていた……」

「何か?」

「おーい、みんなも降りてこいよ…………って、あれ?」

「あ、青木⁉︎ どうしたんだ⁉︎」

 

杉森達の元へ行っていた円堂達が帰ってきて、俺に倒れ込む青木を見て、風丸が動揺する。

 

「分からないんだ、いきなり青木が倒れて……」

「大丈夫なのか?」

「今は気を失っている。きっとまた目覚める」

 

風丸は青木の顔を覗き込み、髪を撫でる。そこへ春奈達がやってきて、青木を見る。

 

「お兄ちゃん、青木さんは私達が診るから。お兄ちゃん達は杉森さん達の元に……」

「…………ああ……頼んだぞ、春奈」

 

俺は春奈に青木を預け、外に出た。ただ、風丸が心配そうに青木をずっと見ていたのを見ないフリをして。




さて、青木さんの闇に気付いた雷門イレブンはどうするのでしょうか。それは、次回のお楽しみ。


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30話 アジト

持つべきものは、友人だと思う。一緒に頑張れる親しき友がいるからこそ、自分の力量も上がる。

ぃえすっ←
まあ、ちょっといいこと言ってみたり



ーーーーさっさと起きろ、このグズが‼︎

 

「っあっ⁈」

「青木さん‼︎」

 

目が覚めると、目一杯に音無さんが映った。私は肩で息しながら、ガタッと立ち上がり、心配そうな表情をしている音無さんを見下ろす。

今の声……夢……? あの声は……。

 

「大丈夫ですか、青木さん‼︎」

「ぁ…………は、はい…………」

 

夢か……良かった…………。私はフゥと一息つき、また座席に座り直した。音無さんの横から、風丸さんが声をかける。

 

「大丈夫か……? あれからずっと気を失っていたんだぞ」

「はい……もう大丈夫です、心配かけて申し訳ありません……」

 

私は頭を下げ、たい焼きを風丸さんに渡した。風丸さんは少し戸惑いながらも、たい焼きを受け取った。

 

「青木」

 

風丸さんの後ろにいた鬼道さんが私の目を真っ直ぐ見つめて私を呼ぶ。私もその視線に合わせる。赤い視線が2人の間を交えた。

 

「教えてくれ。お前に一体何があったんだ?」

 

質問に、息が詰まる。自分の過去を洗い出すのが、こんなに苦しいことだなんて、思いもしなかった。私は俯いたまま、目を伏せる。

 

「知ってどうするのです」

「そもそもの俺の用件がこれだ。真・帝国学園の時から、お前のことが気になっていた。お前は一体、何を抱えている? 話せるなら、話して欲しい」

「…………なら、今は話せません」

 

私は目を開け、鬼道さんに視線を戻した。さらに私は続ける。

 

「私の抱えているものは、一言で言えば闇。貴方方が知って得するものではありません。まさか、私のことを知れるだなんてくだらない理由で聞くワケではありませんよね? 言っておきますが、私は誰にも心を許すつもりはありません。もちろん、貴方方にも。貴方方が何と言おうと、これが私です。どうぞ、ご理解をお願いしたい」

 

私はそこまで言うと、窓の外を眺めた。もういい。こいつらが私をどう思おうと知ったことじゃない。

と、突然円堂さんの声が聞こえた。

 

「そっか。じゃあ、俺は無理には聞かない。お前が話してくれるのを待つよ」

 

ああ。この人は……。

 

なんて、優しい人なんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「着いたはいいけど……ここが奴らのアジト⁉︎」

 

エイリア学園のアジトがあるという情報を聞き、大阪にやってきた私達。しかし、情報の場所は、なんと遊園地、と呼ばれる所だった。改めて連絡を取っていた瞳子監督が、理事長に再度確認して、私達を振り返った。

 

「間違いないわね。再度確認してもらったけど、奴らのアジトがあるのは、このナニワランドのどこかよ」

「……つってもなぁ……」

「どう見てもただの遊園地にしか見えないでヤンス……」

「とにかく、手分けして探すわよ。ここでじっとしてても仕方ないわ」

 

土門さんと栗松さんが肩を竦めるのを、雷門さんが諌める。吹雪さんがまた女の子達に案内してもらっているのを見たけど、私はただたい焼きを頬張っていた。

 

 

 

 

 

 

ナニワランドを手分けして歩き回る。私の隣には、何故か風丸さんがいる。まあ、誰だっていいけど。私達は互いに会話もせず、ただ肩を並べて歩くだけ。

ふと、風丸さんが私に手を差し伸べてきた。

 

「……そのたい焼きの袋、俺が持つから。だから……その…………」

「? どうしたのです、風丸さん」

「その…………手、繋がないか…………?」

 

風丸さんは俯きながら、私に手を差し出し続ける。前髪であまり見えなかったが、少し顔が赤くなっていた。

私はその手を見ていた。風丸さんにたい焼きの袋を手渡し、差し出された手を握った。風丸さんは驚いたように顔をこちらに向ける。あ、耳まで真っ赤だ。

 

「何です? 貴方が手を繋げと言ったので繋いだまでです。どうしました? 熱でもあるのですか?」

「へっ⁉︎ ぁ、いや、だ、大丈夫だ! い、行こう!」

 

風丸さんはさらに顔を赤くし、グイッと私の手を引っ張った。風丸さんは止まることなくグイグイ引っ張る。一体何なんだ、と思いながらも私はそのままにしていた。

 

 

 

 

結局何も見つからず、私達は一旦集まった。木暮さんと音無さんは遊びまわっていたらしい。微笑ましいものだ。だが、ここで木野さんがある人がいないことに気付いた。

 

「あれ? 一之瀬くんは?」

 

確かに、一之瀬さんだけがこの中にいなかった。迷子にでもなったか? いや、まさかとすぐに考えを捨てる。木野さんの問いに答えたのは、吹雪さんだった。

 

「一之瀬くんなら外みたいだよ? この子達が出て行くのを見たんだって」

 

視線を向けると案の定、吹雪さんの周りには女の子が2人ほど。まあ、安定だな、と私は一人そう思った。




大阪来ましたね!
作者は力尽きたのでここらで失礼致します。
それではっ←


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31話 一之瀬存続の危機?

私はカラシ等の辛いものが苦手だ。ついでに言うと、好きなものは甘いものだ。だから太るんだよもう…。

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ((ry
はい、それではどうぞ。


女の子達の情報によると、一之瀬さんは目の前にあるこのお店に入ったらしい。何のお店かよく分からない。デカデカと看板があるが、何の看板なのか全く分からない。

円堂さんが、何の躊躇もなく扉を開ける。中には一之瀬さんともう1人、女の子がいた。2人が私達に気付き、振り返る。何をやっているんだ。私は呆れ、溜息をついて思ったことをそのまま口にした。

 

「何やってるんですか、こんなところで」

「ちょっと、色々あってさ……」

「まあいいでしょう。さ、一旦戻りましょう」

 

私がそう言い、一之瀬さんも立ち、出口に向かおうとしたところ……。

 

「そうはいかへんで‼︎」

 

女の子は一之瀬さんを止めた。ことが運ぼうとしたところの邪魔は、私の1番嫌なタイミングだ。私は自然と眉を顰める。一之瀬さんはというと、ポカンとした表情で女の子を見つめる。女の子はさらに続けた。

 

「あんた、ウチの特製ラブラブ焼き食ったやろ? アレ食べたら結婚せなアカン決まりやねんで」

「けっ…………」

「「「「結婚ーーーー⁉︎」」」」

 

と、みんなが驚きを隠せず叫ぶ。当然、私は叫ばない。そもそも結婚って何。

一之瀬さんは焦りに焦りまくっている。あ、この顔いいわね、何だかゾクゾクする。

 

「でも、そんな話一言もっ……!」

「当たり前やん! そんなん言うたら食べへんかったやろ?」

 

話を聞く限り、2人は初対面みたいだ。何だか一之瀬さんが哀れになってきた。

ラブラブムードを見せつけられ、私達は店を追い出されてしまい、中では一之瀬さんの悲痛な叫び声が響く。うん、一之瀬さん哀れだわ。

ていうか一之瀬さんお好み焼き屋さんになるのかな……? 何だろ、想像出来るな。安易に想像出来るわ。

 

「とにかく、一之瀬さんを回収しましょう」

「へ、あ、ああ……でも、扉が開かないぞ」

「壊せば問題ありません」

「いや、ダメだろ‼︎」

 

足を上げようとしたら、円堂さんに即刻止められた。だがこのままでは一之瀬さんが似合う世界に連れ出されてしまう。

私がまた扉を破壊しようとしたが、そこにまた新たな存在が割り込んできた。

 

「ちょー、どいてんか?」

「は? 何ですか貴女方」

「何ってリカ呼びに来たに決まってるやろ?」

 

やってきたのは、女子ばかりだった。せっかくの破壊衝動を止められ、イラつく私。そしてさらに続ける。

 

「キュート!」

「シック!」

「クール!」

「キュートでシックでクールな大阪ギャルズ、CCC〜‼︎」

「「「わぁぁぁぁ‼︎」」」

 

何なんだこいつら。さらにイラつく。扉を破壊するついでにお前らの顔面全部潰してやろうか。何だろう、このノリがすごくウザい。

女の子達は扉を開けて中に入っていった。ふと視線を下にずらせば、何やら破壊された鍵が。何、大阪の女子って超怖い……!

 

「何やっとんのやリカ! 練習時間、とっくに過ぎてんやで⁉︎」

 

怒鳴り込んだギャルズのメンバーが、一之瀬さんとリカさんを見て固まる。そして、テーブルに置かれている皿を見て叫んだ。

 

「えっ……ウソ⁉︎ みんな、リカが結婚相手見つけたで‼︎」

「「「結婚相手ーーーー⁉︎」」」

 

……ああ、何だか頭が痛くなってきたわ。私は溜息をつき、頭を抱える。

 

「……何か、大変なことになってきたでヤンスね……」

「やっぱり一之瀬先輩、このままここに残っちゃうんスか?」

 

栗松さんと壁山さんが嘆く。これ、一体どうするのよ。私もどうすればいいのか分からない。風丸さんも円堂さんにどうするか求めるが、円堂さんも腕を組んで悩む。だが、そこで。

 

「こうしたらどうでしょう‼︎」

 

突然声を上げたのは、目金さんだった。

 

 

 

 

 

「「「「サッカーで決める⁉︎」」」」

「試合で勝ったチームが、一之瀬くんを連れて行けるんです」

 

目金さんの発言に、全員が驚く。そんなので一之瀬さんの運命を決めていいのかしら……? そして、さらに目金さんが続ける。

 

「心配いりませんよ、相手は女子チーム。僕達が負けるわけないじゃないですか」

「その根拠は一体どこから来るのですか」

 

私はジロリと目金さんを軽く睨み、棘を含んだ声音で言う。目金さんが私のプレッシャーにたじろぐ。まあどうでもいいけどね。

大体、向こうはこんな試合承諾するのか……?

 

「……それ、おもろいな! それで決まりや! ほな、早速始めよか? 行こっ、ダーリン♪」

 

…………承諾した。




大阪きた、ギャルズきた、リカきた‼︎
はいまた頑張っていきますよ!
次回もお楽しみに‼︎


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番外編 バレンタイン

バレンタインですね。ということで番外編です。


今日は、バレンタインデー。女性が男性に愛を込めたチョコレートを渡す日だ。最近は友チョコという女子同士のチョコレート交換が流行っており、男子が貰える確率はだんだん低くなっている。そんな中、雷門イレブンの女子陣はというと……。

 

「青木さん! これ、バレンタインデーのチョコです!」

「はい、青木さん。チョコよ」

「私が直々に作ったのよ。受け取りなさい、青木さん」

「ほいっ! 青木、コレやるよ!」

「青木! ウチからのラブラブチョコや!」

「……」

 

何故か、青木がモテモテだった。青木は相変わらずの無表情をキープしつつ受け取り、両手に抱えたチョコをどうすればよいものかと悩んだ。それを見かねた秋が、青木に耳打ちする。

 

「青木さん、食べてみて」

「あ、はい……」

 

青木は丁寧にラッピングされた袋を開け、入っていたハート型のチョコレートを食べた。口に広がる、甘い味。青木はその味に少し頰を緩ませ、率直な感想を述べた。

 

「美味しいです」

「ホントですか? 良かった!」

 

青木の優しい声音に、春奈が安堵の息を吐く。青木は気に入ったのか、もう一つ口に運んだ。だがここでふと、青木は気になったことを秋に尋ねた。

 

「あの、つかぬ事をお聞きしますが……何故今日突然チョコレートを?」

「そんなの決まっとーやんか‼︎ バレンタインや、バレンタイン‼︎」

「ばれんたいん……?」

 

リカが発した聞き慣れぬ言葉に、青木は首を傾げる。夏未がその疑問に答えた。

 

「女の人が好きな男の人に告白するためにチョコレートを渡す日よ。まあ、私は仲間ということで貴女にあげたけど」

「最近では、女の子同士渡し合う友チョコが流行ってるんですよ!」

 

夏未の説明に、春奈がさらに付け足した。青木は2人(特に春奈)の勢いに圧倒され、たじたじである。青木は貰ってばかりでは何だかやりきれない気持ちになり、何かチョコレートをと探すが、突然チョコレートが出てくるわけではない。だが、ハッと思い出した。

 

「では……私からも」

 

青木はキャラバンの自分の座席に置いてあったたい焼きの袋を取り、袋からたい焼きを取り出して塔子に渡した。

 

「これ、チョコ入りたい焼きです。これで良ければ」

「え? うわぁ、ありがと‼︎」

 

青木は秋や夏未、春奈、リカにもちゃんと渡し、彼女らの輪からスッと離れた。

 

人気のない河川敷の橋の下に、青髪を靡かせ空を見上げる青木がいた。流れる雲を見つめながら、青木は彼を待つ。ふと、背後から気配がした。その背後に青木が振り向くと、青木が待っていた人物が来た。

 

「来ましたか」

 

青木は無表情ながらも何処か嬉しそうにしていた。その人物も、青木のまだ拙い笑顔に微笑む。青木は彼の元に歩み寄り、彼の胸に顔を沈めた。彼が優しく、青木の美しい青髪を撫でる。青木は持ってきていた袋からたい焼きを取り出し、彼に渡した。

 

「あの……き、今日はバレンタイン、と教わりました……。好きな人に想いを伝える日、だと……。受け取って下さいませんか……?」

 

俯きがちに、少し頰を染めてたい焼きを渡す青木を見た彼は、フッと微笑み、再び彼女の頭を撫でた。

そして青木は幸せそうに彼を見上げ、彼は優しいキスを彼女に落とした。




青木さんの幸せはいつ来るんでしょうか。
それでは、また次の機会に。


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32話 vs大阪ギャルズ1・油断?

いつから居たのか知らないアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみが可愛過ぎて辛い。そしてぬいぐるみなのに本物のように可愛がる私って一体何なんだ。

なんだか悲しくなってきた。
それではどうぞ。


試合の準備がされ、円堂さんがみんなに声をかけた。

 

「しまっていこうぜー‼︎」

「よーし、決めるぞ旋風陣‼︎」

 

どうやら今回も自分のいい所を見せようと張り切る木暮さん。そして、目金さんが自信満々に自分の眼鏡をクイっと上げる。

 

「フン、僕達に勝とうなんて五百万年早いんですよ!」

 

一体どこからそんな自信が出てくるのか。もう私を含めた全員が呆れている。いつも円堂さんと一緒に熱くなっている財前さんでさえ、気が進んでいない様子。ホントに大丈夫なのか。

 

「一之瀬さん、先に謝っておきます。ごめんなさい」

「いや、待って⁉︎ 絶対に勝ってもらわなきゃダメだから‼︎ 頼むよ‼︎」

「私には今の所駄目な予感しかしません」

 

ふと相手側のベンチを見ると、大きな旗を振り回した女の人が立っていた。なんでも、あの人は一之瀬さんの未来のお嫁さんらしい浦部リカさんの母親だそうだ。親が親なら子も子だな。ケバい。

 

「フレッ、フレッ、ギャルズー‼︎そんな東京モンに負けたらアカンでー‼︎」

「任しときー! ウチが必殺、通天閣シュートぶち込んだるでー‼︎」

 

通天閣シュート? そんな必殺技があるのか、と雷門イレブンが食いつく。そこで、背番号11の女子がツッコミ? に入った。

 

「そんなシュートあったっけ……?」

「アホやなー。そんなんテキトーに言うとったらええねん。どうせ分かれへんねんからー♪」

「じゃあ言う必要はあったんですか……」

 

私がボソリと呟くと、雷門イレブンが全員ズッコケた。

 

「大丈夫かしら、このチーム……」

 

あの温和な木野さんまでもが溜息混じりに呟く。

しかし、まさかちょっとした気持ちで始まったこの試合があんな展開になるなんて、私達は思いもしなかった……。

 

 

 

古株さんが審判を務め、ホイッスルが鳴った。あ、言い忘れてたけど、今回私はベンチです。目金さんが出る、というので。キックオフはギャルズからだ。

ボールをキープしているあの背番号11の女子選手が風丸さんにウインクをした。そして彼が動揺した隙を狙って風丸さんを抜き去る。

彼女は浦部さんにパスを出し、そこから浦部さんはシュートした。かなり距離のあるロングシュートだ。しかも狙ったのは円堂さんの真正面。円堂さんは当然、がっちりとシュートを阻止した。そして、こちらからの攻撃ーー。

 

 

 

 

「……何やってんのよ」

 

まあ、この後の状況と言えば酷いモンだったよ。オブラート? に包むとかそんなの論外。無理。あまりにも酷過ぎる。

相手は大阪人独特の少々姑息というか汚い手でボールを奪っていくし、それに惑わされる彼らも彼らだ。油断し過ぎている。

こうなれば、みんなの視線は自然とその当事者の目金さんに向くわけで。目金さんは冷や汗をかきながら必死で弁明する。

 

「ま、まぐれですよ、まぐれ! こんな地元チームがあんな必殺技、まぐれに決まってるじゃないですか……」

 

ここで、何故かこちらを見る目金さん。目があった私は、少々殺気を孕んだ冷たい視線を返してやった。これで、目金さんが涙目になって震えていたのは言うまでもない。

私はもう一度彼女達のプレイを見直した。実力はあるのは分かる。しかし、雷門からすれば、本当に大したことのない相手のはずだ。なのに何故、こんなに手こずるのか。

木暮さんが旋風陣でボールを奪い、決めポーズをとっていたところ、さらっとボールを奪われてしまった。横を見ると、音無さんが引きつった笑み。

 

「バタフライドリーム‼︎」

 

相手FWの2人が、必殺技を放つ。迎え撃つ円堂さんは、爆裂パンチで止めようとしたが……。

ボールは円堂さんが突き出した拳をふわっと柔らかく避け、ボールはゴールに吸い寄せられるように入ってしまった。

ここで、前半終了のホイッスルが悲しげに鳴り響いた。

 

 

 

相手側のベンチで呑気にお好み焼きパーティーが行われているのと対照的に、こちらのベンチでは何だか暗い雰囲気が漂っていた。

私は溜息をつき、腕を組みながら先程からずっと思っていたことを一気に吐き出した。

 

「貴方方本当に何をしていたんですか? あの程度の相手、サッカー経験が浅い私でも分かる程の大した相手ではありません」

「いや、強いよ、彼女達……」

「貴方方が本領を発揮して戦えば、普通に勝てる相手です。貴方方は奴らのペースに惑わされているだけです。ですから、貴方方は貴方方のサッカーを貫けば良いのです」

 

そうだ。いつもの雷門イレブンなら、簡単に勝てる相手なのだ。私はベンチに音を立てて座り、たい焼きを乱雑に取り出した。

そんな私の様子を見てか、円堂さんが尋ねる。

 

「何だか機嫌悪そうだな」

「そりゃ、あんな試合見せられましたからね。敢えてオブラートに包むなら、酷過ぎる。です」

「オブラート⁉︎ 青木、オブラートに包めるようになったのか⁉︎」

「まあ、少しは」

 

私もいつまでもズケズケと言ってたらみんなが辛いだろうからちょっとでも言い方を変えようとしてるのよ。

え? オブラートに包まなかったらどうなるかって?

 

ーーーーお前ら何やってんのよアホなの? あんな程度の奴らにリードされるなんてホントにバカやってるのもいい加減にしなさいよ。油断してるからこうなるんでしょ、分かったらさっさとピッチに行きなさいゴラァ‼︎




最後の方に青木さんのキャラ崩壊失礼しました。そして久々の更新。
またこれからボチボチ更新します。


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33話 vs大阪ギャルズ2・青木の必殺技

英語の例文で、たまに「どんな場面なんだ…?」ってツッコみたくなることがよくある。因みに私が今までで1番びっくりしたのが「貴方と話すことは何も無い」。マジでどんな場面よ。

これを見て何かバトルシーンを想像した私は可笑しくない。多分。
それではどうぞ。


後半、私は目金さんと交代して吹雪さんと並んだ。目金さんと交代して頂くのはかなり簡単なことだったわよ? さっきの惨状をグチグチ並べれば、あっさり交代して頂きました。

ボールを貰い、相手陣営へ走り込む。すぐさま、相手選手のチェックが入った。私は一旦止まり、足に力を込める。敵を蹴り飛ばす要領で、地面を蹴った。ほぼフルパワーで加速した私は、相手選手を一気に抜き去り、そこには風圧が現れ、相手を吹き飛ばした。

この感覚、真・帝国の時と同じ……!

 

「目にも止まらぬ速さの加速……! よし‼︎ これはソニックアクセルと名付けましょう‼︎」

 

何だかよく分からないが、命名された。これは円堂さん達が使う必殺技というものなのだろうか。そんなものが、私にも……?

私の鼓動が、自然と高なる。何かしら、この感じ……。何だか、落ち着いていられない。もっともっと走っていたい。もっともっと地面を蹴って走りたい!

鼓動が早くなるにつれて、私も加速する。もっともっと、もっともっとって。私の限界を求めていく。

いつの間にか、私の目の前にはゴールがあった。GKが私を警戒し、構える。私はトン、とボールを軽く蹴り、自分の手前に出した。

両手を交差しグッと力を溜め、一気に息を吸い、雄叫びとして解き放った。まるで切り裂くようにボールに蹴り込み、最後に私は一足飛びにボールとの距離を縮め、右足で押し込むようにシュートを放った。

 

「はぁあああああ‼︎」

 

ボールは鋭さを増してゴールを襲い、GKは必殺技を繰り出すも止められず、シュートはネットを揺らした。

 

私は肩で息をし、自分の鼓動を抑えようとギュッとユニフォームを握った。

今の今まで、自分が何をしていたか分からなかった。とにかく無我夢中で、とにかくボールを追いたくて。

落ち着きを取り戻した私は顔を上げたが、何故かシンとしているフィールドに少し不安を感じた。まさか私、何かの衝動に駆られてやらかしてしまったのではないか。だが、円堂さんと吹雪さん、目金さんの一声で私の不安は拭われた。

 

「すっげー青木‼︎ 必殺技を二つも生み出すなんて‼︎」

「凄い威力のシュート技だったね、びっくりしたよ‼︎」

「ふむふむ……野獣の如き雄叫びの力を宿した雄々しき必殺技……。これをハウリングスラッシュと名付けましょう‼︎」

 

私が、必殺技を……? 信じられない言葉に、私の鼓動はまた高鳴った。みんなからの声援を受けて、それが現実だと分かり、何だか胸の奥がジィンと温かくなった。

 

「私、が……必殺技を……」

「ああ、そうだよ‼︎」

「……何だか、不思議です……。先程から、ずっとこの辺りがどくどく言って止まらない……」

「…………嬉しかったんじゃないのか?」

 

ポソ、と風丸さんが優しげに私を見て言う。嬉しい……。その言葉は、私の心をまさに表現していた。

 

「……これが、嬉しい……」

「よーし、まだまだ攻めていくぞ‼︎」

「「「「おお‼︎」」」」

 

円堂さんの一声により、私達はまたポジションに向かって走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、ペースをこちら側に引き込めた私達は、見事4対1で勝ち、無事一之瀬さんは雷門イレブンに戻ることが出来たのであった。まあ、めでたしめでたし。




はい、今回は青木さんの必殺技初公開? です!
ソニックアクセル…足に力を極限まで溜め、バネの要領で地面を蹴り相手を抜き去るドリブル技。走った後には加速による風圧が残り、相手を吹き飛ばす。
ハウリングスラッシュ…雄叫びを上げ、ボールに野獣の力を宿し、鋭い爪で切り裂くような蹴りをボールに叩き込むシュート技。放たれたシュートは、獲物を狙う獣の如し。
青木「ちょっと待ちなさい。貴女、パクったでしょ」
え? な、何の話かな〜。ぴゅっぴゅぴゅ〜〜。(滝汗)
青木「……」←殺気放つ
はい、まさしくその通りでございますすみません‼︎ で、でも分かる人にしか分からないからいいじゃないかぁ‼︎
青木「よくない」
ぅぅ〜〜。
はい、お察しの方は分かると思いますが、私の好きな必殺技の名前を付けました。特撮もののやつですけど。はっきり言います、ネタ切れです‼︎(キリッ
これからも温かく見守ってやって下さい。次回もお楽しみに!


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34話 強さの秘密

書道の授業で使われる墨汁の容器が昔回転寿司によくあったような醤油の容器だったんだが。

いや〜あれは驚いたよ。
それではどうぞ!


「まあ、助かりましたね。一之瀬さん」

「ああ……」

「私的にはあのままでも構わなかったんですがね。貴方の表情が思いの外ゾクゾクしたので」

 

酷い‼︎ と聞こえたが無視だ無視。ところで、何故まだ浦部さんは雷門側に居るのだろう。

 

「やっぱダーリン最高やわぁ〜♥︎ あんな凄いサッカーできるなんて……もう一生離さへん‼︎」

「ちょっ、それじゃ話が……‼︎」

「……おめでとうございます、一之瀬さん」

「いや、待って‼︎ 助けて⁉︎」

 

しかし謎だ。私達はエイリア学園を倒すべく旅をしているが、そんな相手と対等に渡り合える程の実力を何故こんな地元チームが持っているのか。それなら、既に有名になるはずなのに。私はポソと呟いた。

 

「これほど強いのですから……何か秘密があってもおかしくありませんね」

「「「えっ」」」

「え?」

 

私の呟きに、何故か大阪ギャルズ全員が反応する。まさか、やっぱり何か秘密があるのか。そう踏んだ私は一気に畳み掛ける。

 

「その反応……やはり秘密があるのですか?」

「え、や……ええと……それはな……」

「あるんですね」

「………………はい……」←

 

よし、勝った。相手は白状した。私は続けて尋ねる。

 

「その秘密とは、一体何ですか?」

 

すると、ギャルズはみんなで集まって、何やら作戦会議を始めた。私が彼女らに圧力をかけたのか分からないらしい円堂さんが、私の元に来た。

 

「青木、何で秘密があるなんて思ったんだ?」

「彼女らの力量です。彼女らは日本一となり、さらにはエイリア学園と戦う貴方方と対等に渡り合った。おかしいと思いませんか?」

「それは、彼女らが元から強かったからじゃないか?」

 

円堂さんに続いて、風丸さんも問うてくる。

 

「彼女らが元から強ければ、とうに有名になっているはずです。なのに、こうして地元チームとしてサッカーをしている。なら、強くなったのには秘密があってもおかしくありません」

「なるほど、強さには裏があるということか」

 

鬼道さんが納得したところで、ギャルズの話し合いが終わったらしく、浦部さんが私達に声をかけた。

 

「自分ら! ついてきぃ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

連れてこられたのは、ナニワランドのとあるアトラクションの中。ここは見た時、何も無かったはすなんだけど……。みんなが疑問を感じる中、浦部さんは手すりのレバーに手をかけ、ぐいっと引いてみせた。すると、私達が乗っていた場所が突然降下し始めた。だんだんと見えてくる景色に、私達は息を飲んだ。

 

「これは……」

 

見えてきたのは、様々な色の機械達だった。何やらカラフル過ぎて目が……。床に降り立つと、みんなそれぞれトレーニングマシーンを見ていく。なるほど、ここで彼女らは特訓をしたのか。

目金さんが一つのマシーンを試してみたが、レベル1の時点でばてていた。そりゃすごいものよ。だって傾いたり、山なりになったり挙げ句の果てには人の足に見せかけた靴が出てきて。もう何でもありね。

 

「情けないですね」

「う、うるさいですね‼︎ だったら青木さんが試して下さいよ‼︎」

「や」

「一文字⁉︎ 一文字で断られた‼︎」

「あんたもなかなかキツいな〜。仲良くなれそうやわ」

「そりゃどうも」

 

何故か浦部さんと仲良く? なれた。ちなみに円堂さんは、というと……。

 

「おっもしろーい‼︎ 俺、ここでめちゃくちゃ特訓したい‼︎」

 

ものすごい勢いで目をキラキラさせていた。安定だわ。これを見たみんなも、ここで特訓することを望んだ。

 

「イプシロンとの戦いまで残り3日。ここなら、今まで以上の特訓が出来る。強くなれるはずだ!」

「使わせてもらっていいか?」

「え〜……」

「え、ダメなの……?」

「もっちろんええやーん‼︎」

 

風丸さん、円堂さんはダメで一之瀬さんはいいのか、浦部さん。まあ、本人は一之瀬さんにメロメロみたいね。

でも、何かしら……。人を好きになるって、こんな感じなのかしら? 私にも、何か似た感じを体験したような……。そう、胸が少し苦しくなるような……。

私はプルプルと顔を振って、特訓マシーンを見に向かった。

 

 

 

しばらく見てまわった後、とんでもない事実を知った。

 

「ここは……貴女方が作った場所ではないのですか?」

「せやで〜」

 

いや、せやで〜じゃなくて。誰が作ったかも分からない場所を貴女方は勝手に使っているのですか。

 

「大丈夫やって。今まで誰も文句言ってこーへんし、怒られたら謝ればええやーん」

 

……何、関西人ってみんなこんなノリなの。でも、こんな充実している施設なら、きっとここが例の奴らのアジトなのだろう。私はどうしても、この考えを捨て切れなかった。

 

「ですが……これだけの施設です。もしかしたら……エイリア学園のアジトだと考えても良いのでは?」

「えいりあ? ああ、あのサッカーで地球を支配するとか言うとる連中か! あはは、そないなワケないやーん! ウチら、ずーっとここ使うとるねんで? 奴らのモンやったら、すぐに取り返しに来るんちゃうんか?」

 

と、言われ、私は考え込んでしまう。しかし、風丸さんに深く考えるのはよそうと言われ、仕方なく考えるのをやめた。



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35話 vsイプシロン1・特訓の成果

ちょっと遅れましたが、バレンタインの番外編の挿絵です!


【挿絵表示】


それではどうぞ!


特訓を始めて2日が経った。イプシロンとの対決まであと1日。みんなの意気は上がっていくばかりだった。

休憩の時間になり、私が外に出ようと廊下を歩いていたところ。

 

「喰らえ、デザーム‼︎」

 

ドッガァァァンッ‼︎!

 

部屋からした大きな音に、私の足が止まった。部屋を覗いてみると、そこで一人シュートをロボットに向かって打っていたのは、吹雪さんだった。肩で息をし、目はギラギラとロボットを睨みつけていた。吹雪さんのオレンジ色の瞳は、ロボットを誰かに重ねていた。その人物は、容易に分かった。

デザームだ。京都の漫遊寺中で戦った時、吹雪さんのエターナルブリザードが全く効かなかった。それがとても悔しかったのだろう。吹雪さんは疲れているというのに、まだ練習を続けようとしていた。

何だか不安だった。もしかしたら、吹雪さんがこのまま壊れてしまうのではないかと。何かをきっかけに、吹雪さんが壊れてしまいそうで。

私は持っていた水を飲み干し、吹雪さんを横目で見つめながらも練習に戻った。

 

 

 

 

 

そして、約束の日。イプシロンがまたあのボールと共に現れた。何だか久しぶりな気がするけど、私達の本来の目的は彼らを倒すことだ。

 

「時は来た。10日もやったのだ。どれだけ強くなったのか見せてもらおう」

 

上等。私はそう言う代わりに、自分の大嫌いな赤い目を鋭くし、イプシロンを睨んだ。

 

 

私達は、特訓場のさらに地下のグラウンドへ連れられた。浦部さんもここの存在は知らなかったらしく、驚きの表情を見せていた。

やはりここはエイリア学園のアジトなのだろうか。ここを知っている浦部さんでさえ知らなかった場所を彼らが知っているのだから、そういうことになるのだろう。

 

ベンチに着くと、瞳子監督が浦部さんの正式なメンバー入りを発表した。そして、今回の試合の指示を出す。

 

「FWは浦部さん。吹雪くんはディフェンスに入って、序盤は様子を見なさい。……この一戦で全てが決まる。これを最後の戦いにするのよ、必ず勝ちなさい!」

「「「「はい‼︎」」」」

 

全員の声が揃う。この試合に全てをかける。そして、全て終わらせるんだ。誰もがそう思っていた。

 

「………………」

 

私を除いては。

 

 

 

 

ホイッスルが鳴り、キックオフはイプシロンからとなった。相手は早速攻め込んできた。FWの女子が必殺技を発動した。

 

「メテオシャワー‼︎」

 

突然のことに浦部さん、財前さん、鬼道さんは反応出来ず、突破を許してしまう。しかしここに、風丸さんがマークに入った。風丸さんは相手にぴったり張り付き、隙を見せない。彼女は別のFWにパスを出し、パスを受け取ったFWはシュート体勢に入った。

 

「ガニメデプロトン‼︎」

「マジン・ザ・ハンド‼︎ たぁあっ‼︎」

 

強烈なシュートなのに変わりはなかったはず。しかし、円堂さんは一人で見事防ぎ切った。

円堂さんはボールを高く蹴り上げ、雷門の反撃が開始された。ボールに合わせて飛んだ浦部さんが、足を後ろに振り上げる。

 

「聞いたで? あんたら、悪い奴なんやて。ウチがお仕置きしたる! ローズスプラッシュ‼︎」

 

必殺技か、と思われたが、相手を翻弄させるのは浦部さんの得意技だ。あれほど大袈裟に高々と掲げた足は振り切らず、地面に着地した。ボールはディフェンスを突破した一之瀬さんから鬼道さんへパスが渡って、シュートとなった。

 

「「ツインブースト‼︎」」

 

ゴールに立つデザームは片手でボールをがっちり掴むものの、少し体勢がぐらついた。彼が左足を退かすと、そこには地面が抉れた跡が。

みんな、特訓のおかげであの時より強くなっていたようだ。これなら……。奴らを倒して……。私は唾を飲み、フィールドを見つめた。




書いてたのにログイン画面に戻ってしまい、少し凹みましたが再開させました。
やっと来ました、イプシロン第2戦‼︎
この勢いで頑張りますよ〜!


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36話 vsイプシロン2・引き分け

「誰でもいいから付き合いたい」って思ってる男子女子諸君ー。だったら何処ぞの女または男とテキトーに付き合っとけ。どーせ一生を誓う仲にはならないんだからさ。

これ読んだ人で一生を誓う仲の方がいらっしゃればすみません。
それではどうぞ。


試合展開はまさに一進一退だ。漫遊寺中の時とは動きが全く違う。それほど雷門は強くなった。デザームは興奮して、叫ぶ。

 

「そうだ……この血の沸き立つような感覚こそ、私の求めていたものだ!」

 

しかし、このままでは勝てない。両チーム無得点のままだ。痺れを切らした吹雪さんが、ボールをキープして走り出す。

 

「吹雪っ⁉︎」

「完璧じゃなきゃ……俺はいる意味がねえ‼︎」

 

そう叫び、走る吹雪さんはまるで白恋との試合のようだった。スタンドプレーで、点を取りに行く。雷門に入って間も無い時の彼が復活していた。

ゴールで構えるデザームが、ニヤッと笑う。

 

「打たせろ! こいつが今日のメインディシュだ‼︎」

 

デザームの声に、彼の前に立っていたDFが吹雪さんに道を譲った。その声は、吹雪さんをさらに激昂させた。

 

「ふざけんなっ! このッ……! エターナルブリザード‼︎ うぉおおっ‼︎」

「待っていたぞ、このシュートを。あの時は遠距離から打って、あのパワー。この距離なら、どれだけ強烈か……!」

 

デザームは余裕を崩さず、必殺技を発動した。

 

「ワームホール‼︎」

 

デザームの両手から放たれた緑色の光が網を作り、シュートを吸い込む。再び出現したホールから、ボールが地面に勢いよく叩きつけられた。吹雪さんの視線も、さらに鋭くなる。

 

「もっと打ってこい! 私を楽しませろ‼︎」

 

そう叫ぶデザームの瞳は赤く、狂気に揺らいでいた。私はその瞳に、背筋がゾッとした。

 

 

 

その後も試合展開に動きはなく、前半は0対0のままだった。ハーフタイム、イレブンがベンチに戻って休憩を取る中で、瞳子監督が吹雪さんに注意をした。

 

「吹雪くん、攻撃に気を取られ過ぎよ。ディフェンスに集中しなさい」

 

吹雪さんは、そのまま黙って俯く。そういえば、前半の吹雪さんは少しおかしかった。

吹雪さんは何を抱えているの? 自分のことを棚に上げて、そんな疑問を抱いた。

 

後半のホイッスルが鳴る。後半も展開は変わらず。ボールが両陣営を行き来し、時間だけが過ぎていく。

吹雪さんへとボールが渡り、カウンターを開始する。

 

「吹き荒れろっ‼︎ エターナルブリザード‼︎」

 

再び放たれたシュートは、前半に打ったものよりも威力が上がっていた。しかし、これもワームホールで安安と止められてしまう。

 

「くそ、またかッ……!」

 

悔しさからか、吹雪さんの拳が震える。そして、デザームの歓喜の叫びが、さらに吹雪さんを怒りへと陥れる。

 

「いいぞ、もっと激しく蹴り込め‼︎ 我が闘志を燃え上がらせるのだ‼︎」

「ふざけやがって……‼︎」

 

吹雪さんの瞳がギラギラと輝く。点を決められず焦っているように見えた。

 

 

 

 

その後、一点が決められてしまった。一点を追う側となってしまった今、吹雪さんは余計に焦っている。しかし、決めなければという使命感からか、彼がシュートを打つ度に威力が上がっていった。

また吹雪さんの必殺技が炸裂し、デザームが迎え撃った。

 

「ワームホール‼︎」

 

シュートを止めようとした瞬間、デザームが押され気味になる。これには、あのデザームも顔をしかめた。

 

「決まれぇえっ‼︎」

「いっけぇぇえ‼︎」

 

円堂さんと吹雪さんが、シュートにパワーを与えるように同時に叫ぶ。デザームはシュートに耐えていたが。

 

ピピィーッ‼︎

 

デザームの背後にあるゴールのネットが揺れた。

 

「ぃやったぁぁあ‼︎」

「うぉおおおお‼︎」

 

円堂さんが拳を振り上げ喜び、吹雪さんは天井へと雄叫びを上げた。これで同点。試合は振り出しに戻った。

 

 

 

「「「ガイアブレイク‼︎」」」

 

イプシロンFW3人のシュートが、円堂さんの守るゴールを強襲する。円堂さんも負けじと腰を落として構えた。

胸から気が円堂さんの右手へ飛んで行き、パワーを溜める。

 

「マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

短縮化されたマジン・ザ・ハンドだ。だが、威力は今まで通り、いやおそらくそれ以上。ガイアブレイクをがっちりとキャッチした。

こちらからのカウンターだ。ボールが吹雪さんへと渡る。これで勝てる! 誰もがそう思っていた。

 

「これが最後だっ……! 吹き飛ばせ、エターナルブリザード‼︎」

「来るか……ならば、私も応えよう!」

 

突然、デザームが右手を高く振りかざす。すると、彼の掌からドリルのオーラが現れた!

 

「ドリルスマッシャー‼︎」

 

それははシュートを完全に捉え、弾き飛ばし、最終的にはデザームの手にすっぽりと収まった。

 

「私にドリルスマッシャーまで使わせるとは……ここまで楽しませてくれた奴らは初めてだ」

 

そう言うと、デザームが高らかに笑う。せっかく行けると思ったのに、奴はまだ力を隠していた……!

カウンターが来る、そう思いみんなが構えるが、デザームはボールをラインの外へ出してしまった。

 

「試合終了だ。引き上げるぞ」

 

エイリアの黒いボールが何処からか舞い降りて、赤い光を放った。イプシロンメンバーがデザームの元へ集まる。

 

「っ……ふざけんなっ‼︎」

「吹雪、よせ!」

「まだ勝負はついてねぇぞ! 逃げるなッ‼︎」

 

デザームに殴りかかる勢いで吹雪さんがデザームに掴みかかるが、円堂さんがそれを食い止める。

 

「……再び戦う時は遠くない。我らは真の力を示しに現れる」

 

それだけ言い残すと、デザーム達は消えてしまった。後に残された私達は、ただ立ち尽くすしかなかった。その中で一人、吹雪さんが小さく唸る。

 

「くっ……ぉぉ……」

「吹雪……?」

 

円堂さんの声に肩を揺らしながらも、いつもの柔らかい声で吹雪さんが答えた。

 

「なんでもないよ。……もう一点が取れなくてごめんね」

「でも、負けなかったのはお前のおかげだ! ありがとな!」

 

その場から去っていく吹雪さんの背に、円堂さんが声をかける。吹雪さんは手を軽く上げて答えた。

ベンチへ戻ってきたみんなが、マネージャーからドリンクを貰う。風丸さんがドリンクを飲みながら、悔しそうに呟いた。

 

「勝てなかった……これだけ頑張ったのに……」

 

そんな暗い声音に反応したのは、やはり円堂さんだった。

 

「何言ってんだよ、俺達奴らと引き分けたんだぜ?」

「そうか……この前はコテンパンだったんだ」

「あたし達、強くなったんだな!」

 

木暮さんと財前さんが続き、みんなの表情に笑顔が表れる。

 

「何か、勝てそうな気がしてきたッス!」

「俺もでヤンス!」

「おいおい、単純だな」

 

嬉しそうな壁山さんと栗松さんに軽く呆れた様子の土門さん。しかし彼の表情にも、笑みが浮かんでいた。

 

「……答えはシンプルさ。互角に戦えるならば、勝利の確率は50%ある。相手から1%を奪い取れば勝てる」

「お兄ちゃん……何か、キャプテンに似てきた!」

 

鬼道さんが言えば、音無さんが可笑しそうな声色で反応する。浦部さんは一之瀬さんとランデブーしてるし。←

瞳子監督も珍しく口元に笑みを見せながらも、全員に向かって声を放つ。

 

「勝つまでには至らなくても、一歩前進。でも気を緩めないで」

「そうよ。試合に勝利しない限り、エイリア学園はまた現れるわ」

 

雷門さんの言う通りだ。今回、試合は同点だったものの勝てたワケではない。まだ戦いは残っている。

 

「よーし、次は絶対に勝つぞ‼︎」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

円堂さん達が拳を高く突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私達は特訓を再開していた。私は体を動かしていない気持ち悪さもあり、グラウンドに残って走っていた。何周したか分からない。数えていない。分かることと言えば、だんだん息が上がってくるということだけ。

 

「はァッ、はァッ、……はァッ……」

 

見えてくるのは客席と芝生のはずなのに、何だか別の景色に見えてきた。夢の中で見た、真っ暗な世界。何処まで走っても辿り着けない。でも、逃げなければ。私を追ってくるあいつらから……!

 

「ッ……‼︎」

 

足がもつれ、グラウンドに倒れ込む。芝生の上を転がった私は、仰向けになって天井を見つめた。ドッドッドッドッ、と心臓の音が体の内側に響く。

 

「はァッ、はァッ、はァッ、はァッ」

 

……私は一体何をしているのだろう。あいつらから逃げ、彼らを私が逃げるためだけの足にするために雷門イレブンに入ったのに。いつの間にか私はボールを追い、フィールドを駆け抜け、彼らと共に戦っている。自分が分からなくなってきた。

乱れていた呼吸が整い、もう一走り、と息を吐いたその時。

 

「⁉︎」

「……久しぶり、穂乃緒ちゃん」

 

誰かが、私を覗き込んできた。天井からの光で少し暗くなっているが、その人物が誰かは分かった。

 

「ッ……基山さん……」

 

基山さんは小さな笑みを見せて、私に手を差し出した。しかし私はその手を払いのけ、自分で立ち上がった。

 

「何をしにここへ来たのですか」

「穂乃緒ちゃんに会いたくなってきちゃったから」

「そうですか。帰って下さい」

「えっ……」

 

残念そうな顔をする基山さんを放って、額に流れる汗を拭う。すると基山さんは私にぎゅっと抱き着いてきた。

 

「そんなに殴られるか蹴られたいですかーー」

「分かんないんでしょ」

「……は?」

 

基山さんの言葉に、硬直する私。基山さんはさらに続ける。

 

「何で雷門に力を貸すのか。そもそもは彼らなんてどうでもよかったのに。そうでしょ?」

「な……ん、で……」

「分かりやすいんだよ。穂乃緒ちゃんって、意外と嘘吐くの苦手なんだね」

「ッ……‼︎」

 

ドン、と基山さんを押し、距離を置いて身構える。キッと睨みつけても、基山さんは微笑みを崩さない。

 

「貴方……やはり、エイリア学園……⁉︎」

「…………」

 

基山さんは黙ったままで、私の問いに答えない。それどころか、どんどんこっちに近付いてくる。私は一歩後ろへ下がるが、基山さんがさらに距離を詰めて私の手首を掴み、引き寄せ、私の耳元で囁いた。

 

「辛かったら、俺がずっと側にいてあげるから。ーーーーいつでもおいで」

 

基山さんはそれだけ言うと、私の手首を放して去ってしまった。私はその後ろ姿を呆然と見ることしか出来なかった。あれは、悪魔の囁きだ。甘言だ。そう分かっているはずなのに。

 

「ッ……」

 

何で、こんなに胸が苦しいんだろうーー。




な、長かった……。そして皆様聞いて下さい。4000字行きました‼︎ ぴったし‼︎ ぃやっほぅ‼︎


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37話 狙われた青木

カップルを見て「リア充爆ぜろ」とか言ってる人ー。そこまで思うんなら彼氏または彼女作れ。私は彼氏は居ないが、どうでもいいと思ってるので気になりません。あ、でも公共の場所でイチャイチャされるとイラつく。TPOをわきまえろ。

ウチの学校でも公共の場でイチャイチャしてる奴らいます。あれマジでめんどい……。
それではどうぞ。


ーーーエイリア学園本拠地、side無し

 

イプシロンが、雷門と引き分けた。エイリア学園では、圧倒的な点差でなければその戦いが良しとは言えない。

 

「……デザーム、無様だね」

 

青い光が現れ、その光の中に立つ人物が目の前で跪くデザームに冷たい声を放つ。

 

「……分かっております」

「雷門イレブンと互角の試合だったそうだな?」

「申し訳ありません。我らエイリア学園にとって、同点は敗北と同じ」

 

さらに彼の前に赤い光が現れた。光の中に立つその人物も、デザームを見下すように言う。

彼らの背後から、白い光が現れた。

 

「ーー楽しかったかい?」

 

現れたのは、グランだ。

 

「"円堂達"と戦って」

「っ……そ……」

「グラン、あんたは黙っててくれ」

「そうだよ。いくら君でも……」

「……気に障ったのなら、許してほしい」

 

デザームが答えに戸惑っていると、赤と青が口を挟む。そして、3人の視線が再びデザームに戻された。

 

「……デザーム、後のことは我々に任せておきたまえ」

「……私達はまだ持てる力の全てを使ったわけではありません」

「わーってるよ。お前にはまだまだ利用価値があるさ」

 

次の試合でしくじれば、デザームにはもう用が無い。そういうプレッシャーなのだろう。デザームは俯いたままぐっと拳を握り締めた。

ここでふと、グランが口を開いた。

 

「そういえば……デザーム、あの娘とは戦ったの?」

「あの娘……?」

「……青木穂乃緒ちゃんだよ」

 

青木穂乃緒、という名前に赤と青が反応する。デザームは自分の記憶を思い出し、彼女の存在を確認した。思い当たる人物はいた。

さらっと流した美しい青髪に、前髪に隠れた赤い瞳。前髪の隙間から覗くその視線は、鋭くも何処か哀しげだったのを覚えている。しかし、彼女は自分と戦った時、フィールドには居なかった。

 

「……いえ、まだ彼女とは戦っていません」

「そっか。でも、あの娘は今とても揺れている。もうあと一押しできっと、こちら側に来てくれるよ。彼女自らね」

「お前、本当にそいつを引き込むつもりかよ?」

 

赤が呆れた声で言う。グランはそんな彼を見、クスッと笑いかける。どうやら、本気のようだ。

 

「元々、父さんが引き取りたかった娘らしいからね。でも引き取る前に、あの娘は人身売買にかけられてしまった」

「……だから、君が彼女を迎えに行くと?」

「ああ。父さんが救えなかった娘だ。だから、俺が彼女を救う」

「なーに言ってんだお前。俺達はそいつと一度も会ってねえんだぞ? 手ぇ出すんなら、俺達が見てからにしてくれ」

「……それは、バーンやガゼルもあの娘に気があるってことでいいのかな?」

 

グランの言葉に、赤ーーバーンと、青ーーガゼルが不敵な笑みで答える。

 

「君がそこまでこだわる娘だ。興味がないわけがないだろう?」

「面白え……だったら、俺らの誰がその女を引き込めるか賭けるか?」

「……ふっ……。いいね、やろうか」

 

グランの瞳に、光が宿った。エイリア学園マスターランクチームの中で、ついに彼女の奪い合いが始まった。誰が彼女を引き込めるか。彼女の心を救えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?(何かしら、誰かに噂されてるような気がする……)」

 

何も知らない彼女は、この時は自分がターゲットだとは知らず、呑気にたい焼きを頬張っていた。




はい、ありがとうございました!
今回は短めだったな、前回に比べれば……。
次回は福岡ですね、うわぁ、グラン登場‼︎ これからどうなるんだ……⁉︎
次回もお楽しみ下さい‼︎


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38話 福岡へ

多分さ、人間じゃなくて他の動物が発達して人間くらい賢くなっても、人間と同じようなことをすると思うんだ。知能を得たものは、愚かに歪んで枯れていく。きっとそうなんだ。多分。

……ハッ!(◎_◎;) 何を考えてたんだ、私は……!
そ、それではどうぞ……。


揺れるキャラバンの窓の外を、古い町並みが流れていく。私達が次に向かったのは、福岡だ。古株さんの情報によれば、円堂さんの祖父である円堂大介さんが残したノートがあるというのだ。

 

「じいちゃんのもう一つのノートを手に入れるぞー‼︎」

 

いつも元気な円堂さんだが、今日はやけにテンションが高い。円堂さんにとって、お祖父さんは思い入れのある人物なのだろう。その気持ちが伝わった。そして、テンションの高い人がここに増えた。

 

「よう分からへんけど、ノートやー‼︎」

「……って、何で貴女が?」

「ええやん。ウチとダーリンは一心同体や。切っても切れへん仲やねんからな〜」

 

浦部さんがこのチームに参加することとなり、よく分からないが賑やかになりそうだ。私は一つ溜息を吐くと、窓の外を眺める。

頭の中を支配するのは、あの時の基山さんの言葉だ。

 

『いつでも、俺のとこへおいで』

 

あれは一体どういう意味なのだろう。彼は、私に何を求めているの? 私を雷門から引き離そうとしているみたいなんだけど……。

 

「そろそろ着くぞ、陽花戸中だ」

 

古株さんの声に、私は基山さんの言葉を頭から離した。

 

 

 

陽花戸中に着くと、校長先生が迎えてくれた。話によれば、校長先生は雷門さんのお父さんの友人で、さらには円堂さんのお祖父さんの大親友らしい。言わばここは、円堂大介のサッカーが始まった場所。陽花戸中がお祖父さんの母校であることは、円堂さんも知らなかったそう。

円堂さんと雷門さん、陽花戸中の校長先生が話しているのをジッと見つめる。とても温かい雰囲気。私の体験したことのない。これをずっと受け続けた円堂さんや笑い合っている雷門イレブンを、少し恨めしく思った私がいた。

 

 

 

 

円堂さん達の話が終わり、陽花戸中の校長先生がサッカー部を紹介してくれた。ちょうどいいから、とのことで。

サッカー部キャプテンの戸田さんが円堂さんと握手を交わす。すると、戸田さんが後ろから誰かを読んだ。

 

「おい、立向居! どうしたんだ? 円堂くんだぞ?」

 

立向居、そう呼ばれた男子が何ともまあ固まった表情でこちらへ歩いてきた。だって手足が一緒に出てる。こんなあからさまな緊張の仕方をする人がいるわけがないと思っていたが、目の前にいる彼によってその考えは捨てられた。

 

「っ……え、え、円堂さんっ! お、俺……陽花戸中一年、立向居勇気ですっ!」

「えっ……お、おう……」

 

あまりの緊張ぶりに円堂さんも戸惑いながらも、握手をしようと右手を差し出す。

 

「あ、握手してくれるんですかっ⁉︎」

「もちろんさ!」

「円堂さんっ……‼︎」

 

な、何これすごい眩しい……。目をキラキラさせ、円堂さんの右手をガシッと両手で掴み、ブンブン振る。

 

「感激です‼︎ 俺、一生この手は洗いません‼︎」

「汚い……」

「いや、ご飯の前には洗った方がいいぞ?」

「あ、ですよね……」

 

何だこいつ……。私が彼をジトーッと見つめていたら、立向居さんと目が合った。すると、立向居さんの顔が何故かみるみる赤くなっていく。緊張したり赤くなったり忙しい人だ……。

 

「あ、あのっ‼︎」

「?」

 

立向居さんが私の手を掴み、こう叫んだ。

 

「す、すすす好きれすっ‼︎ おおおお俺と付き合って下しゃいっ‼︎」

 

真っ赤になりながら彼が放った言葉は、意味不明だった。好き? 付き合って? いやいや……本当に何の話? ……まあでも、彼が恥をかいたことは明らかだ。よし、苛めよう。

 

「…………すみません、もう一度お願いします。さっきと同じように言って下さいね。そしてさっきと同じように盛大に噛んで下さい」

「えっえぇえええっ⁉︎」

 

あ、面白い。この人面白い。退屈が無くなりそうで、私は少し嬉しかった。




立向居登場‼︎ 可愛いなぁ、こいつ! 立向居は……アレっすね、青木さんに一目惚れしちゃったかな? 可愛いなぁ、こいつ!


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39話 もう一つのゴッドハンド

夏休み中に思った事なんだけど、夏休み期間って、学校っていう日常が無いよね。いつもの友達にも先生にも会えない。何だか心にぽっかり空いたような気がするんだ。だから、皆といる日常って、大切なんだね。

たまに自分の考えてることが分からなくなる。
それではどうぞ。


「見てもらいたい技、ね……」

 

陽花戸中のグラウンドへ移動した私は、ゴール前で体慣らしをしている立向居さんへ視線を向ける。先程、立向居さんは円堂さんに見てもらいたい技がある、と言われていた。それが、一体どんな技なのか。

 

「どんな技ッスかねぇ……」

「全国レベルに通用するか、見てもらいたいんじゃないか?」

 

壁山さんと土門さんが話していると、一之瀬さんが立向居さんに声をかけた。

 

「それじゃあ、いくよっ!」

「お願いします‼︎」

 

立向居さんは腰を落とし、身構えた。その瞬間、立向居さんの目付きが変わる。それを見た一之瀬さんが、思いっきりボールを蹴り飛ばした。

立向居さんはボールから目を離さず、体勢を低くして右手を後ろへ引いた。そして、次の瞬間右手を天へと突き上げた彼は、こう叫んだ。

 

「ゴッドハンド‼︎」

「「「「⁉︎」」」」

 

現れたのは、円堂さんのものとは違う青いゴッドハンド。ゴッドハンドは一之瀬さんのシュートをセーブし、がっちりとボールを掴んだ。私だけでなく、雷門イレブン全員が驚いていた。立向居さんはニカっとはにかんでみせる。憧れの人の前で必殺技を披露できて、安堵しているようだ。

 

「……あっはは‼︎ 凄いよ立向居‼︎ お前、やるじゃないか‼︎」

「あ……ありがとうございます‼︎」

 

誰もがシンとした空気の中、円堂さんだけが声を上げ、立向居さんの手を握ってブンブン上下に振る。

戸田さんは、立向居さんは円堂さんの映像を何度も何度も見てゴッドハンドを覚えたという。壁山さんは未だに信じられないらしく、木暮さんに夢かどうかを確かめるために頰を抓ってもらっていた。しかし、力が強いため悲鳴を上げていたが。

円堂さんは立向居さんといいコンビになりそうだ。何かと似てるし。いい先輩後輩関係になるだろう。

 

「……」

 

私は何をしているのだろう。自分の立ち位置が分からない。まるで私などいないようだ。いや、実際いなくても変わらないのかもしれない。なら、ここにいる意味は? なんなら、ここでキャラバンを降りても構わない。言ってしまえば、奈良で降りても良かった。なのに、何故。何故、私は彼らについていった?

どこにいれば私は楽になるのだろう。いっそのこと、全てを捨てて楽になりたい。これ以上、傷つくのも傷つけられるのも嫌だ。

 

「っ…………」

「青木?」

 

パッと顔を上げると、風丸さんが心配そうに私を覗き込んできていた。

 

「ぁ……す、すみません。少し、ボーッとしていて……」

「……青木、大丈夫か?」

「え?」

「あ、いや……その、最近何だか元気がないなって……あ! ご、ごめんな! 余計なお世話だよな……」

 

申し訳なさそうに後頭部に手をやる風丸さん。私はいいえ、と首を振る。……情けない。誰かに心配をかけるなんて。俯く私に、風丸さんは何か言おうとしたが。

 

「おーい‼︎ 風丸、青木ー! 陽花戸中のみんなと練習、始めるぞー‼︎ 早く来いよーー‼︎」

 

円堂さんが、大きく手を振り、私達を呼ぶ。一緒に練習するのが楽しみなのか、満面の笑顔だ。風丸さんはそれに苦笑しながら、行こう、と私を促した。私はコクリと頷き、風丸さんの後を追った。

この日、太陽がいつになく眩しく感じたのは、私への導きのつもりなのだろうか。

どこへ向かえばいいのか。それはまだ分からないけど……。

 

私は、私だ。

 

これだけは絶対に守り抜こう。誰にも渡さない。

そう、太陽に誓った。




うーん……やっぱまだまだだなぁ……。
最近更新してないからか、あんま上手いこといかないです……。
お粗末様でしたっ‼︎


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40話 究極奥義

恋愛モノで王道の三角関係。王道を突っ切ってるパティーンだけど、あれって実際どんなものだろう。リアルで見てみたいよ、まったく。

ドラマや漫画だとよく見るのにな……。



あれから私達はみんなで練習をした。練習試合をしたり、一緒にご飯を食べたり。一つ分かったことは、立向居さんに辛いものは効かないということ。無論私はたい焼きを頬張ってましたが何か?

 

それから、円堂さんが新しく必殺技の特訓をし始めた。なんでも、必殺技とはまた違う、究極奥義と呼ばれるものらしいが……。

 

「……」

「ん? どうしたんだ青木」

 

円堂さんの後ろからノートを覗き見してるのがバレたらしく、私は堂々と円堂さんからノートをひったくる。円堂さんが何か言ってるのは気にしない。

 

「……? 『究極奥義、正義の鉄拳』? 『パッと開かず、ギュッと握って、ダン、ギューン、ドカン』……何ですか、この擬音語の羅列は」

「じいちゃんのノートには、他にも必殺技がいっぱい書いてあって……って、青木! じいちゃんの字、読めるのか⁉︎」

 

突然円堂さんがガバッと立ち上がり、私に向き直る。隣にいた木野さんも、大きな目をこちらへ向けていた。

 

「まあ……壊滅的に汚い字ですけど……読めないことはないです」

「すごいわね、青木さん。円堂くんのおじいさんの字は円堂くんにしか読めないのに」

「そうなんですか? しかし、他にもたくさんありますね」

 

テキトーに会話を流しながらページを見ると、隅にこんな言葉が書いてあった。

 

「『この究極奥義は、未完成』……?」

「ああ、そこに書いてある必殺技は、じいちゃんにも出来なかったらしいんだ。だから、究極奥義って言われてる」

「なるほど……」

 

未完成って、本当にそれだけの意味なのかしら? 何だかもっと、別の意味もあるような気もするけど……。パラパラとページをめくってみると、他にも気になる必殺技がたくさんあった。円堂大介の残したノートが、孫の円堂守のサッカーの原点となる。サッカーバカ一族だな、とふと思う私がいた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー翌日

「……おはようございます……? あの、いかがなされましたか」

 

私がキャラバンから降りると、みんなが円堂さんから何か聞いているところだった。私がその中に入ると、財前さんが教えてくれた。

 

「なんか、円堂の知り合いが試合やろうって言ってきたんだって」

「今日ですか?」

「そ。今日の正午」

 

円堂さんの知り合い、ね……。しかも試合だなんて……。ふと、視界に入った吹雪さんを見やる。吹雪さん、大丈夫かしら。あのイプシロン戦から、ずっとおかしい。一体何があったのか、教えてくれないだろうかと、自分のことを棚に上げて言う。

でも、この時私は知らなかった。この試合で、あんなことになるなんて。

 

 

 




今回はかなり短いです。
時間も遅いのでこの後寝ます。
お粗末様でした。


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41話 ザ・ジェネシス登場

歌とか歌ってる方ならご存知かもしれませんが、両声類って知ってます?凄いですよねー。カラオケ好きな者として、とても憧れます。

両声類とは、男声と女声どちらも使って歌える人のことです。私多分男の人と同じくらい低い自信があります。


もうすぐ正午だ。私達はそろそろアップを始めた。その中、瞳子監督は円堂さんに何か尋ねていた。私のいる場所からでは円堂さん達の会話は聞こえなかった。

しかし、円堂さんの知り合いとは誰なのか。それだけが疑問だった。まあうだうだ考えても仕方ないので、伸脚を始める。

 

「……なんか、ヤな天気」

 

空を見上げて、ボソッと呟く。朝からずっとこの曇天だった。曇りの日は、いつも気分が良くない。太陽が見えるワケでもなく、雨が降るワケでもない天気。ハッキリしなくてイライラする。

 

「12時になりました!」

 

音無さんの声が聞こえたのと同時に全員の表情が驚きのものに変わった。ふと足元を見ると、辺りに黒い霧が立ち込める。これ、エイリアの……⁉︎ 黒い霧を見た壁山さんがオロオロする。

 

「こ、これってイプシロン……⁉︎」

「来た!」

 

鬼道さんの声に顔を上げると、カッと光がフィールドを支配した。思わず光に目を伏せる。光が収まってくると、目が次第に慣れ、視線をフィールドの中央に投げる。その光景を見た私に、時間が止まったような感覚が襲った。

 

「……やあ、円堂くん」

「なっ……! まさか、ヒロト……?」

 

何故。何故。

 

「何故、貴方がここにいるの……?」

 

自分でも気付かず、口が動く。赤髪を逆立て、白いユニフォームを着た基山さんが、私の声を聞いてニコッと笑いかけた。

 

「また会ったね、穂乃緒ちゃん。久しぶり」

「えっ……?」

「青木、ヒロトを知ってるのか⁉︎」

 

ヒロトさんの言葉を聞いた雷門イレブンが動揺し、円堂さんが私に問いかける。みんなからの視線を受けながら、私は頷いた。

 

「はい。何度か会っていました。まさかとは思っていましたが……やはり、貴方はエイリア学園だったのですね」

「……俺のこと疑ってたの?」

「当然です。貴方は私達の行く先々に、必ずと言っていいほどいました。地元の人でもないのに私達の目的地を知っている。誰だって怪しむに決まっています」

「そっか……」

 

ヒロトさんはフッと悲しそうに笑い、円堂さんを見つめた。

 

「紹介するよ。これが俺のチーム。エイリア学園、ザ・ジェネシスっていうんだ。よろしく」

「ジェネシス……⁉︎ お前、エイリア学園だったのか……⁉︎」

「さあ、円堂くん……サッカー、やろうよ」

 

ヒロトさんは目を細め、笑みを崩さず私達を見据えた。

 

「くっ……!」

「どういうことなんだ……? 何で円堂の友達がエイリア学園に……」

 

歯を噛み締める円堂さんに、土門さんが声をかける。円堂さんに聞いても意味がないのは分かってる。でも、あまりもの衝撃に尋ねずにはいられないようだ。誰もが動揺する中、一人冷静に目金さんが口を開いた。

 

「まんまと騙されたみたいですね」

「騙された……?」

 

音無さんがどういう意味かと、疑問を目金さんに投げかける。目金さんはその疑問に答えた。

 

「奴らの目的は、友達になったフリをして、円堂くんを動揺させること」

「そういうことだったんですね……」

「宇宙人の考えそうなことですよ」

 

目金さんの推測に、立向居さんも納得したようだ。その会話を聞いていたヒロトさんが、口を挟む。

 

「それは違うよ。俺はただ、君達とサッカーをしたいだけ。君達のサッカーを見せてよ」

「いいのかよ、勝手にこんな試合して」

「グランがやるって言うんだ。仕方ないだろ」

 

ヒロトさんの後ろで、ジェネシスの選手が話していた。

グラン。それが、彼の名前……。

 

「それが貴方の本当の名前?」

 

私の問いかけに、ヒロトさん……グランは何も答えない。円堂さんもキッとグランを見つめ返した。

 

「お前とは、もっと楽しいサッカーが出来ると思ってた……。でも、エイリア学園と分かった以上、容赦はしないぜ‼︎」

「……もちろんだよ」

 

グランは円堂さんと試合が出来るのが嬉しいのか、相変わらず笑みを浮かべたままだ。

グラン……ヒロトさんがエイリア学園だということは薄々感じていた。でも、本当にそうだとは思っていなかった。ただ、一つの事実を知っただけなのに。何故か私の中で、何かが壊れた感覚がした。




ついに来ましたジェネシス‼︎ そして円堂と青木さんとご対面!
次回は試合ですね。試合展開は得意ではありませんが頑張ります。


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42話 vsザ・ジェネシス1・圧倒的な実力

芸能人の熱愛報道とか、私個人としてはどうでもいい。知らずの内に自分のプライベート知られるって、いい迷惑だと思うよ?

芸能人って大変だなって思う瞬間です。


今回、私は久々に前半からピッチに立った。FWは吹雪さんと浦部さんのツートップ。最近吹雪さんがFWとしてフィールドに立つ時、何かおかしい。それが何故なのか分からないけど……。

考える時間も与えられず、試合開始のホイッスルが鳴った。キックオフは雷門からだ。浦部さんがキープしていたボールが……いつの間にか消えていた。

 

「っーー⁉︎」

 

私は目を疑った。ボールを奪った動きさえ見えなかった。鬼道さんが一之瀬さんに指示を飛ばすも、間に合わない。その隙にも、相手選手がどんどん攻め込んでくる。

 

「グラン!」

 

あっという間にゴール前まで攻められ、ボールがグランへ渡る。そして、シュート体勢に入った。

 

「行くよ、円堂くん!」

「来い! ゴールは割らせない!」

 

グランが何の躊躇も無く、ボールを蹴る。必殺技を放つワケでもなく、普通のシュートを蹴り放った。

 

「マジン・ザ・ハンド‼︎ …………うわっ‼︎」

 

自身最強の必殺技を持ってしても、シュートを防ぎ切れず、まるで紙切れのようにゴールが割られてしまった。

 

「あ……入っちゃった……」

 

この言葉を口にしたのは、他の誰でもなくシュートを決めたグラン本人だった。この言動と反対に、私達は驚きを隠せない。無理もない。開始1分で点を取られたのだ。円堂さんは痛みに耐えながらも体勢を立て直し、ゴール前で構えた。

 

「なんてパワーだ……! これがジェネシスのパワー……でも負けない‼︎ ゴールは許さない‼︎」

「それでこそ円堂くんだ……!」

 

円堂さんが構え直すのを見たグランは、嬉しそうに微笑むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

あれからまだ前半は終わっていない。なのに、既に点差は10点以上だ。このままではいけない。私は何とか彼らからボールを奪おうと周囲を見渡した。

 

「円堂‼︎」

 

再びグランの足元にボールがいったのを見た風丸さんが、円堂さんを案じて叫ぶ。グランはそんな風丸さんを冷たく一瞥した。グランは円堂さんと対決すること以外に興味はないようだ。そして、またグランがシュート体勢に入ったその時。

 

「ッ、はああっ‼︎」

「⁉︎」

 

今がチャンスだと駆け込んだ私は、姿勢を低くしてグランが足を振り上げた下から、ボールを奪うことに成功した。

 

「青木!」

 

背後から、円堂さんの声がする。私は片膝をついて、グランをキッと睨む。

 

「やあ。なかなかやるね、穂乃緒ちゃん」

「……」

「君の実力をちゃんと見るのは初めてだ。さあ、もっと見せてよ」

 

両手を広げ、迎えるように私を見つめる。私はボールを足元に置きながらも、どうすればいいか考えていた。今のままでは、自分一人で突破しようとしても、誰かにパスを出そうとしても、結局は同じだ。奪われるに決まってる。なら、と私はボールをトンと軽く蹴り、一気にスピードを上げた。

 

「ふーん。一人で突破するつもり? ま、そんなことさせないけどね……」

 

クスと笑ったグランの声なんて聞こえない。一気に駆け出した先に、ジェネシスの選手達が私の周りを囲んでいた。

 

「なっ……ぐあっ‼︎」

「青木‼︎」

 

ボールを一瞬のうちに奪われた、と思った次の瞬間、身体中に痛みが走る。何が起こったか自分でも分からなかった。

ドサ、と私の体が土のフィールドに叩きつけられる。顔を上げると、青髪の女選手が私を見下ろしていた。

 

「ッ‼︎」

「この程度か……。何故グランがお前ごときを引き抜こうとするのか、理解出来ないな」

「え……?」

 

今、何て言った? 最後の方がいまいち聞こえなかった。私が起き上がると、あの女はすぐにパスを出す。

パスはグランに渡り、また奴らの攻撃に円堂さんが倒される。その様子を、私はただ見ることしか出来なかった。



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43話 vsザ・ジェネシス2・守り抜いて

真心を持って接すれば、きっといい関係が作れるんじゃない?

なんかいいこと言ってみたり。いいことなのかはさておき。


ボールが、吹雪さんに渡る。

 

「行けーっ吹雪ー‼︎」

「吹雪さんっ‼︎」

「よし、1点だー‼︎」

 

次々と吹雪さんにかけられる期待の声。だが、吹雪さんは敵GKを視界に入れると、足を止めてしまい、その隙を相手に押し込められ、ボールをラインの外へ出してしまった。これに、全員が落胆する。

一体どうしたのかしら? 吹雪さん、何だか変……。走る足を止めずに、吹雪さんを見やる。何だろう……吹雪さんが、壊れて……?

 

 

 

何とかまたパスを繋ぎ、また吹雪さんにパスがまわる。

 

「エターナルブリザード‼︎ ……うおおおおおっ‼︎」

 

雄叫びを上げてシュートを放つ姿は、何故かいつもより弱々しく見えた。

吹雪さんのシュートはGKの両手にがっちり掴まれ、止められてしまった。みんなの士気がまた下がる。

 

「気にするな、吹雪ー! 次は決めてこうぜー‼︎」

 

円堂さんの明るい声をかけるも、みんなの士気はあまり上がらない。吹雪さんの笑みも、曇っていた。

 

 

 

 

再びグランにボールが渡る。ゴールで円堂さんが構えた。

 

「来い‼︎」

「好きだよ、円堂くん。君のその目……!」

 

グランが地面を蹴って、飛ぶ。高く上がったボールに、ハイキックシュートを放った。

 

「流星ブレード‼︎」

 

次の瞬間、光がゴールへ向かって駆け抜けるのを見た。まるで光のレーザーのようだ。

しかも、そこへ吹雪さんが走り込んでいくのが見えた。

 

……このままでは本当に雷門が崩れる!

 

「やめろ‼︎」

 

 

 

ふと、視界に吹雪さんが映る。吹雪さんを庇うように押し倒す。

それと同時に、頭に強い衝撃がした。

 

 

 

吹雪side

「青木っ‼︎」

 

少し遠くで、キャプテンの声が聞こえる。そこで、僕の意識がハッキリした。僕の上に誰かが乗っている。青い髪に僕よりも細い体。

 

「穂乃緒ちゃん……?」

 

僕は何をしていたんだ……? 確か……アツヤが僕の中で……。それで……何で穂乃緒ちゃんが倒れているんだ……?

 

「穂乃緒ちゃん……穂乃緒ちゃん、穂乃緒ちゃん‼︎」

 

穂乃緒ちゃんを抱き起こし、何回も揺さぶる。穂乃緒ちゃんは僕の腕の中でぐったりしたまま、目を瞑って動かない。

 

「俺っ……救急車呼んできます!」

 

立向居くんが、焦ったように校舎へ走り出す。その間も僕は穂乃緒ちゃんを揺さぶっていた。

グランが心配そうに穂乃緒ちゃんを見ていた。まさか穂乃緒ちゃんが僕を庇うとは思っていなかったんだろう。

 

「大丈夫かな……」

「行こうぜ、グラン。こんな奴らとやっても、ウォーミングアップにもなりゃしない」

 

ジェネシスは帰るのか、一ヶ所に集まっていく。

 

「それじゃあ……またね」

 

グランは最後まで穂乃緒ちゃんを見ながら黒い霧と共に消えていった。

 

 

 

 

 

病院に運ばれても、穂乃緒ちゃんは気を失ったままだった。青い髪を白いシーツの上に散乱させ、目を閉じて眠る姿は、まるで死んでいるみたいで怖くて……。ずっと穂乃緒ちゃんの手を握っていた。

 

「何で……穂乃緒ちゃん……」

 

何で穂乃緒ちゃんは、僕を庇ったの?

 

尋ねても、誰も答えてくれない。当然だ。その本人が眠っているから。



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44話 蒼い月の決意

「…………?」

 

目が覚めて始めに見たのは、白い天井だった。

 

(あれ……? 私、何でここに……)

 

まだ少し重い体を起こすと、ズキっと鋭い痛みが頭に刺さった。思わず頭を押さえると、頭には包帯が巻かれていた。窓の外には、(あお)い月が夜空に美しく佇んでいた。

確か……吹雪さんを止めようとして……追いついて、庇って、それからの記憶が……。ああ、その時にシュートが頭に当たったのね。

くしゃりと右手で前髪を握り締める。情けないわ。こんなことで病院なんかに運ばれるなんて……。左手を動かそうとするが、何かに押さえられて動かない。ふと左手を見てみると、私の手の上に誰かの手が重なっていた。

 

「……吹雪さん……?」

 

神秘的な月光に照らされた銀色の髪。ベッドに無造作に流された白いマフラー。私の左手の上に重ねられている白い肌。間違いない。吹雪さんだ。吹雪さんは私の膝の上に頭を乗せてスヤスヤと眠っていた。

まさか、ずっと私を心配して……?

 

「………………」

 

視線が、繋げられた手に行く。手を繋ぐことは別に初めてじゃない。でも、手を繋ぐといつも思う。とても温かい、と。この時だけは、誰かの温もりを感じていられる。この温もりを、いつでも感じていたかった。なのに。

 

「……運命とは、残酷ですね……」

 

眠っている吹雪さんに話しかけてみる。返答なんて望んでないが、少しは気が楽になる。

 

 

 

「ん……」

 

月をぼんやり眺めていると、吹雪さんが目を覚ました。私を一目見ると、目を大きく見開いて私に近付いてきた。

 

「穂乃緒ちゃん……?」

「はい」

 

私が短く答えると、吹雪さんは涙をいっぱいに溜めて私に抱きついた。私の胸に顔を埋め、少し痛いくらいの力で体を吹雪さんの腕の中に閉じ込められる。そんなに心配させてしまったのか。私は吹雪さんを安心させようと、背中を撫でた。吹雪さんは相変わらず顔を埋めていて表情は分からなかったが、何の意味か、背中にまわした腕にさらに力を込めて私を抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

「……そうですか」

「うん。あの後、ジェネシスは去った。でも、風丸くんと栗松くんがメンバーを脱退して……キャプテンも……そのことで落ち込んじゃって……」

 

私が気を失った後、何があったか。あれからもう4日も経ったということ。風丸さんと栗松さんが脱退したということ。円堂さんが、円堂さんでなくなっているということ。

私はただ、吹雪さんの口から出る言葉を黙って聞くことしか出来なかった。だって、それについて私が何を言おうとも、過ぎたことは元には戻せないから。

吹雪さんはここまで話し終えると、私を見つめた。

 

「穂乃緒ちゃん……大丈夫? もう、怪我はいいの?」

「はい。大したことではありませんから。……ところで、吹雪さん」

「何?」

「貴方は何を隠していますか?」

 

吹雪side

抑揚のない、凛とした声が静かな病室に響く。それだけなのに、僕には時間が止まったような感覚に陥った。恐らく戸惑う表情をしているだろう僕に、穂乃緒ちゃんは何も言わない。ただ、何の感情もない冷たい赤い目に僕を映すだけ。

 

「貴方はジェネシスとの戦いの時、何を思ってあのシュートの前に飛び出しましたか? あの時、私の目には、貴方が苦しんでいるように見えました。貴方は何を抱えていますか? 吹雪さん」

「……っ‼︎」

 

何も答えられない。話すべきか、僕のことを。でも、どうすれば……。

 

「話せませんか?」

「えっ……あ、その……」

「無理には聞きませんが……私は、貴方のことが知りたい」

 

僕から目を逸らさず見つめてくる穂乃緒ちゃんは、月の光に照らされて、とても神秘的で美しかった。まるで、かぐや姫みたいに……。

 

「貴方は……いえ、貴方方雷門イレブンの皆さんは……こんな私に笑顔を向けてくれて……共に戦ってくれて……私は、こんなに優しくされるのは初めてで……なのに、私は皆さんから貰ってばかりで、何も返せていない。何か、返したいのです。一生をかけてでもいい。私は決めました。これからは、貴方方の為だけに、この力を振るうと」

 

ベッドの白いシーツを握り、僕を見つめる目には、決意の光が宿っていた。僕は、穂乃緒ちゃんの過去を何も知らない。でも、何も変わらず彼女と過ごした。彼女にいつの間にか惹かれて、好きになった。美人で毒舌で怒らせたらすごく怖くて、でも本当は優しく出来るのに誰かに愛されることに臆病な君。でも、君だから。そんな君だから、僕は君のことが好きになったんだ。

 

「……じゃあ、僕が話したら……君のことも教えてくれる?」

 

それと同じだ。僕も君のことを知りたい。君に何があったのか。それを知りたい。

穂乃緒ちゃんは少し戸惑ってみせたけど、少し黙って、答えを出してくれた。

 

「構いませんよ。ですが、私の過去を話す時は、雷門イレブンの皆さんの前で話します。話さなくてはならない時が来るなんて、思いもしませんでしたが……」

 

穂乃緒ちゃんはそう言うと、僕の手を握った。

 

「さあ、話して下さい」



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45話 涙と笑顔

久々の更新です。


青木side

翌朝。吹雪さんから全てを聞いた私は、陽花戸中の階段を上っていた。吹雪さんには本当に申し訳ないと思っている。自身の嫌な記憶を(えぐ)り返させてしまった。今の私には何も出来ない。みんなと一緒に練習することも、吹雪さんの心を今すぐ救うことも。改めて、私は無力なんだと感じた。

でも、これだけはやらなければならない。円堂さんの心を救うことだ。今彼があのままでは、エイリアに勝てない。エイリアと戦うには、彼という柱が必要なのだ。雷門のみんなの心の支え。私が、必ず救ってみせる。

既に、下で練習しているみんなとは打ち合わせは出来ている。円堂さんを立ち直らせるために。

古びた屋上のドアを開け、フェンスに寄りかかったまま俯いている彼の姿が目に入る。私は静かに円堂さんの前までゆっくり歩いた。

 

「……円堂さん。お久しぶりです」

「……」

 

ここまで反応を示さない彼を見たのは初めてだ。いつもなら、あの大きな声を上げて私を見て笑ってくれるのに。こういう時、どんな言葉をかければいいのか、よくわからない。でも、ここで引き下がってはいけない。私は円堂さんを見下ろして、言葉を続けた。

 

「……あの、円堂さん。アレを見て下さい」

 

私は指を指して、方向を促す。円堂さんはゆっくりと体を動かしながら、私が指差した方向ーー陽花戸中のグラウンドを見た。

 

「っ……はぁっ、はぁっ……お願いします!」

「「ツインブースト‼︎」」

「うぉおおおっ……! マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

そこには、立向居さんがマジン・ザ・ハンドを完成させようと、奮起している姿だった。これまで何回シュートを受け止めようとしてきたのか、傷だらけになっている。形は出来つつあるものの、なかなか必殺技としてのオーラは出てこない。立向居さんは立ち上がり、叫んだ。

 

「っ……もう一度、お願いします‼︎」

 

そうして、立向居さんは再び挑んでいく。必殺技を完成させるために。

私は、円堂さんに何も言わなかった。何かを言えるような立場ではなかったからだ。でも、行動は出来る。私はまだ、みんなの中では大した存在ではないと思う。でも、助けたかった。私の手で。何も出来ない、無力な私の手で。

円堂さんの指が、フェンスにかかる。じっと、立向居さんを見ていた。

 

「諦めない……! 絶対に、絶対に……諦めない! 諦めるもんかっ‼︎」

「……!」

「「ツインブースト‼︎」」

「マジン・ザ・ハンド‼︎ うぉおおおおおおおっ‼︎」

 

今までぼんやりとしていた魔神が、鮮やかな青色をして現れた。その大きな手でシュートを止める、いつか見た守護神。それが、新たに生まれ変わった。

 

「あっ……⁉︎」

「……止め、た……」

 

円堂さんと私が、小さく声を上げる。マジン・ザ・ハンドが完成したのだ。当の本人の立向居さんは、ポカンとして両手の中にあるボールを見た。

 

「出来、た……? う、わぁ……やったああああああ‼︎ 出来ましたよっ円堂さーん‼︎ 青木さーん‼︎」

 

屋上にいる私たちに大声で叫ぶ。とても嬉しいのか、ぴょんぴょんと跳ねて、全身で喜びを表現していた。円堂さんが両手でフェンスを掴んでいたのを、私は見逃さなかった。そして、譫言(うわごと)のようにボソボソと話す。

 

「世宇子戦の前……どんなに特訓しても出来なかった、マジン・ザ・ハンド……でも、今の立向居のように、諦めなかった……。だから、完成した……そうだ。大切なのは、諦めない心だ。……ありがとう。俺、諦めない。エイリア学園と戦って、大好きなサッカーを取り戻す……!」

 

円堂さんの目に、ようやく光が宿った。円堂さんは私を振り仰ぎ、立ち上がる。

 

「いつか、風丸や栗松たちが戻ってくるのを信じて!」

 

私は小さく頷き、ホッと息を吐く。それが疑問だったのか、円堂さんは私に問いかけた。

 

「? どうしたんだ? 青木」

「いえ……私なんかで貴方を救えるのか不安で……でも、良かった」

 

フッと表情が緩む。こんなに安堵するなんて、よほど緊張していたのね、私は……。

 

「さて、行きますか」

「え? 行くってどこに……」

「グラウンドですよ」

「あっ、そうだな! よし、行こう!」

 

そう言って、ドアへ駆け出す円堂さんの腕を私の手が掴んで、阻止する。

 

「どこへ行くつもりですか」

「え? だって階段降りなきゃ下に行けねーだろ」

「ここから降りればいいではありませんか」

「……えっ?」

 

ぼやぼやしている円堂さんの脇と膝裏に腕を差し込み、両手で抱きかかえる。少しフェンスから遠ざかった。

 

「え? え? ま、まさか……」

「しっかり掴まって下さい」

「うわああああああああああっ⁉︎」

 

助走をつけてフェンスの上に飛び乗り、そこからフェンスを蹴って飛び降りた。円堂さんは泣き叫びながらも私の首にちゃんと手をまわしている。防衛本能が働いて良かったですね。下からみんなの声が響いてるけど、そんなの問題ない。私は左足を伸ばし、右足を折って地面からの衝撃を殺しながら着地した。

ゆっくりと円堂さんを降ろし、私は数歩後ろに下がる。ここからは、彼がみんなに言うところだ。

 

「……みんな、迷惑かけてすまなかった。俺、もう迷わない!」

「……雷門のキャプテンは、お前しかいない」

 

鬼道さんが安堵した表情で言うと、みんなが嬉しそうに円堂さんの名前を呼ぶ。良かった。また、みんなが笑ってくれて……。

 

「すみませんでした、監督! これからもよろしくお願いします!」

「……これから先も、チームに必要ないと思ったら、容赦なくメンバーから外すわ」

「わかりました‼︎」

「俺も一緒に戦わせて下さい‼︎」

 

円堂さんの元に駆け寄ってきた立向居さんが、瞳子監督に言った。

 

「えっ……?」

「マジン・ザ・ハンドが出来るようになったら、言おうと思ってたんです!」

 

驚いてる円堂さんに、立向居さんは両手を拳にして言う。円堂さんは彼を見て、嬉しそうに両肩を掴んだ。

 

「立向居……! いいですよね、監督!」

「ええ」

「ありがとうございます! 皆さん! よろしくお願いします‼︎」

 

新たなメンバーが増えたところで、ふと、円堂さんが思い出したように私を振り返った。

 

「ありがとな、青木! お前が見せてくれたから、俺はまた立ち直れたんだ」

「……いえ、私は何も……」

 

フイ、と視線を逸らす。私は、円堂さんに感謝されるようなことは一度もしていない。それでも、円堂さんは話した。

 

「そんなことない! お前は俺たちを何度も救ってくれたじゃねーか! 俺たちに忠告してくれたり、励ましてくれたり! 少なくとも俺、お前にすっげー感謝してるんだぜ!」

「私に……?」

「お前はたまにそうやって自分を卑下してるけど、ホントはすっげー奴だって俺は知ってる。さっきまで落ち込んでた俺が言うことじゃないかもしれないけど……もっと自分に自信を持て! な?」

 

ニカっと私に笑いかける円堂さん。彼の後ろで、雷門のみんなが笑みを浮かべて私を見ていた。何かが私の中で込み上げてきて、胸の奥がジンと温かくなる。

 

「……ありがとうございます。私は、その……皆さんに何も打ち明けてもいないのに……皆さんは、こんなわけのわからない女と、一緒にいてくれて……。感謝するのは(むし)ろ私の方です……」

 

意を決して、私は俯かせていた顔を上げた。

 

「皆さんは、私が今まで生きてきた中でとても居心地のいい方々です。……私は、貴方方に何も出来ず……でも、それでも皆さんは、私の近くにいて下さって……。本当に感謝しております。そんな皆さんを……信じて……その……いつか、皆さんに私のことをお話ししていいですか? そして……これからも、ここにいさせて下さいませんか?」

「何言ってんだ、当たり前だろ?」

 

間髪入れずにそう言ったのは、やはり円堂さんだった。

 

「俺たちは、仲間じゃねーか!」

 

 

 

その一言を聞いた途端、私の中で何かが弾けた。

 

 

「えっ……あ、青木⁉︎ どうしたんだ⁉︎」

「あーっ! キャプテンが泣かしたー!」

「お、俺か⁉︎」

「何やってんだよ円堂〜‼︎」

 

思わず顔を両手で覆い、流れてくる涙をなんとか抑えようとするが、止まらない。こんなに嬉しいとは思わなかった。

 

「ありがとうございます……とても、嬉しいです……」

 

私はおそらく涙でぐしゃぐしゃであろう顔を上げ、頬を緩ませた。

 

「あっ……」

 

みんながポカンとした表情で私を見つめる。どうしたのかしら……?

 

「あの……どうなさいましたか……?」

「青木が……」

「私が……?」

「「「「笑ったーーーー‼︎」」」」

 

この時のみんなの顔が、とても明るかったのを、私は一生忘れることはないだろう。




青木さんの初笑顔、やっと出せました。


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46話 完全復活。沖縄へ

「……ただいま」

 

翌朝。円堂さんが復帰し活気を取り戻した雷門イレブンの前に、吹雪さんが姿を見せた。吹雪さんのなんともなかった様子に、私はホッとして吹雪さんに歩み寄る。

実は、私が吹雪さんから話を聞いた翌朝、吹雪さんはどこにもいなかった。ジェネシス戦から様子がおかしかったのが不安で、心配だったのだ。

 

「吹雪さん……」

「心配かけてごめんね、穂乃緒ちゃん。もう大丈夫だよ」

 

いつものようにふわりと微笑む吹雪さんに、私も安堵する。そんな彼に、みんなが安心して吹雪さんの元に駆け寄る。

ふと、吹雪さんと視線が交差する。私に気付いたのか、吹雪さんはまたにこりと笑った。

 

「あっ、そーだ吹雪! お前いなかったから、いいこと教えてやるよ!」

「いいこと?」

 

財前さんが、ニヤニヤしながら吹雪さんに話しかける。

 

「青木が、昨日初めて笑ったんだ!」

「⁉︎」

「……? それが珍しいことですか?」

「そりゃそーだろ! あのポーカーフェイスの青木が笑ったんだぞ?」

「私、そんなに笑ってませんでしたか?」

「全っ然!」

「そうですか……」

「…………っ」

 

私、そんなに笑ってなかったか……と財前さんの返事にプチショックを受けていると、また吹雪さんと視線が合う。だが、今度の吹雪さんの目は違った。オレンジ色の鋭い視線が、私を冷たく貫いた。

 

「……⁉︎」

 

吹雪さんが、何故私を睨んだのか。いや、吹雪さんはそもそも人を睨むような人じゃない。私は驚いたまま吹雪さんをただ見ていた。

 

「吹雪さん」

 

意を決して、吹雪さんに詰め寄る。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 

吹雪さんはニコ、と笑って、

 

「大丈夫だよ」

 

と静かに答えた。

そのまま、私たちの視線はお互い交わっていた。どちらとも目を逸らせない。吹雪さんは全然大丈夫なんかじゃない。絶対に何かある。私はそう確信していた。

と、ここで瞳子監督の携帯電話に連絡が入り、二言三言話してから連絡が切れた。

 

「沖縄に、炎のストライカーがいるそうよ」

「……炎の……? まさか、豪炎寺⁉︎」

 

炎のストライカー、という言葉に、雷門イレブンのみんなが反応する。本当に豪炎寺さんなのだろうか。なら、また会って話したい。貴方のチームは、本当に素晴らしいものだと伝えたい。

 

「……私も、お会いしたいです。そして、貴方にもお礼を言いたいです、豪炎寺さん……」

 

ボソ、と小さく呟き、綺麗な青空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、私たちは船に乗って阿夏遠島に向かっている。向かっているのはいいのだが……。

 

「…………暑い」

 

何なのこの暑さ。北海道は北海道で寒かったけど今度は暑いの⁉︎ もうやだこの旅! 私はハァッと溜息をつき、手すりに寄りかかる。というか、日差しも強すぎる。おかげでジャージが脱げない。焼ける。日焼けはあまりしたくないのだ。

少し手すりの向こう側を見れば、ラピスラズリのような美しい海が広がる。海を見るのは初めてなような気がするが、こんなに美しいとは知らなかった。

 

「うわああぁああああ⁉︎」

「先輩ー⁉︎」

 

目金さんの悲鳴と壁山さんの悲鳴が隣で響き、何か起こったと私は瞬時に判断した。隣を見ると目金さんが船から落ちていた。私はすぐに手すりを乗り越え、左手を手すりに引っ掛けつつ右手で目金さんの腕を掴んだ。

 

「あ、青木さぁああああん‼︎」

「暴れないで下さい。よっと」

 

目金さんを掴んだ右手を思いっきり振り上げて目金さんを甲板へ投げ飛ばし、あとで私も這い上がろうとするも、ズルッと右手を滑らせてしまった。

 

「あ」

「あ」

「あ、青木ぃぃいいぃぃいいい⁉︎」

「青木さぁああああああぁん‼︎」

 

みんなの顔がだんだん遠くなっていく。あれ? この下って確か……。

 

ドッボォォォンッ‼︎

 

「……⁉︎」

 

何、これっ……⁉︎ 息が出来ない……。苦しい……。ゴボゴボと泡が霞んで見える。私、死ぬのかな? 上手く腕が動かせない。死ぬのかな……このまま、死んでも私は……いや、まだ私は死ねない。まだ、円堂さんたちに恩返しをしなければならないんだ! なのに……。

 

「っ……っっ……‼︎」

 

ダメだ。意識が保てない……。そん、な……。

私はそのまま力尽き、意識を失った。

 



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47話 命の恩人

鬼道side

目金を助けて、青木が落ちてしまった。酸素を求めてすぐ浮かび上がるかと思ったが、青木は全く浮かんでこない。

 

「青木‼︎ 青木ーー‼︎」

 

船の上から呼んでも、青木は浮かび上がってこない。いや、もしかしたらこの声は届いてないのかもしれない。

助けなければ、と手すりに手をかけたその時、少し遠くから誰かが泳いできた。その人物は青木が落ちた辺りに着くと海に潜り、しばらくすると海面へ上がってきた。彼の腕の中には、溺れた青木がぐったりと目を(つむ)って気を失っていた。

 

「青木!」

「よかった……」

 

青木の姿を見て安堵する仲間に、俺はすぐに言い放つ。

 

「何を言っている。まだ青木の意識があるかわからないんだぞ!」

 

早く船が着かないのか、俺はぐっと手すりを握りしめた。

 

 

 

船が港に着き、みんなと港の近くで彼女を診ている少年に駆け寄る。少年の傍らにはサーフボードが置いてあり、サーファーであることが分かった。海の中にいたからか、全身びしょ濡れになっている彼女は、いつもより艶やかに見えた。

 

「おい、しっかりしろ! おい!」

 

ペシペシと少年が青木の頬を叩いて意識を確認するが、彼女はこれという反応を示さない。少年は彼女の顔に耳を近づけ、呼吸を確認する。

 

「っ……おい、こいつ息してねえぞ‼︎」

「「「えっ⁉︎」」」

 

その言葉に、全員が驚愕する。ウソだろ……? 青木……このままじゃ……‼︎ ふと、視界が揺らいだ気がした。

 

「監督‼︎ 救急車を呼んで下さい‼︎」

「分かったわ」

 

瞳子監督も緊急事態だと判断し、携帯電話を取り出す。

するとその時、ピクッと青木の手が動いた。

 

「げほっ‼︎ ごほっ、ごほ……!」

 

青木は体の中に入っていた海水を吐き出そうと、咳込んでいた。俺はやっと、安堵の息を吐く。

 

「青木! よかった……」

「大丈夫か?」

 

少年に抱き起こされ、背中をさすられる青木に、少年はバスタオルを口元に押し付ける。しばらく青木はずっと咳込んでいて、目元には苦しかったのか、若干涙が溜まっていた。

 

「大丈夫か?」

「はい……けほっ、あの……助けて下さり、ありがとうございました……」

「よせよ、礼を言われるようなことはしてねえって。それよりお前……海で泳いだことあるか?」

「え………………。ありません……」

「なっ⁉︎ バカヤロウ‼︎」

 

突然青木を怒鳴りつけた彼に、青木はビクッと肩を揺らした。

 

「海を甘く見んな。海は命が生まれるところだ。命を落とされちゃたまんねーよ」

「…………すみませんでした……」

 

俯く青木に、彼は今度はニカっと笑って青木の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 

「ま、とにかくさ! 無事で何よりだ」

 

彼は青木の頭から手を離すと、さっさと立ち去っていった。円堂が慌てて彼に手を伸ばしたが……。

 

「あっ……」

「じゃあな〜」

 

そう言うと、彼はこちらを振り向きもせず歩き去った。

青木は体にバスタオルを巻いたまま、呆然と彼を見ていた。それに気付いた浦部が青木に話しかける。

 

「なんやなんや? 青木……まさか一目惚れか?」

「は?」

「さっきからずーっと見て……脈アリか⁈」

「……あの、先ほどから一体何を(おっしゃ)っているのかよく分かりませんが……」

「も〜あんたも結構やるもんなぁ。なあなあ、誰にするん⁉︎」

「? 何のことですか?」

「運命の人や!」

「……?」

 

コテンと首を傾げる青木を見た浦部は、ハァッと溜息を吐き、何故か俺の元に近付いて肩を掴んだ。

 

「あんた、苦労してはるな」

「……………どういう意味だ」

「お? 今間があったで、間が‼︎」

 

今度は浦部がニヤニヤしてくる。からかわれるのは気に食わないが、俺の本心に嘘を吐いていることは確かだ。

またライバルが増えた気がする……。いや、本人にその気がないのは分かるが……。俺はまた行き場のない溜息を吐いた。

 



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48話 サーファーとロマンス?

どうも、座右の銘です。
今すぐに回れ右して帰りたい気分です。書いてる自分が恥ずかしい。よし、帰ろう。
青木「待て。ここで投稿するのと貴女が潰れるのどっちがいい? 選ばせてあげるわ」
投稿致しますとも(泣)
ていうか50話目ですよ! わーいわーい‼︎(≧∇≦)まだ48話だけど! 超紛らわしい!
それではどうぞ。


青木side

海で溺れていたところを助けられ、感謝の言葉を述べられなかった。私はぎゅっと貰ったバスタオルを握り、俯いた。また、あの人と会えるだろうか。

まあ、それはそれとして……。

 

「次の船は明日ぁあ⁉︎」

「まさか1日1便だとはなぁ……」

 

実は私が溺れた所為で、沖縄に向かう船に乗り遅れてしまったようだ。財前さんと一之瀬さんの困り果てたような声を聞き、私は俯く他なかった。

 

「申し訳ありません……私が溺れたばかりに……」

「えっあ……あ、青木は悪くないよ‼︎」

「そ、そうだよ。だからあんまり気を落とさないで……」

 

オロオロと私を励まそうとする財前さんと一之瀬さん。しかし罪悪感に囚われた私は、シュンとし続けていた。

 

「アンタの所為やで‼︎」

「はい、私の所為です。返す言葉もございません……」

「って、青木のことちゃう! アンタやこのメガネ‼︎」

「ちょっ、僕の所為ですか⁉︎」

「当たり前やろ⁉︎ 青木はアンタを助けて落ちてもーたんやから!」

 

何故か私を庇う浦部さんと、目金さんの間で口論が繰り広げられる。やれやれと雷門さんが肩を(すく)める。

 

「今日はこの島に泊まるしかないわね……」

「ーーよし、練習するぞ‼︎」

「ええっ⁉︎」

 

練習する、そう言ったのはやはり円堂さんだった。それを聞いた雷門さんは驚き、土門さんと財前さんが首を傾げる。

 

「練習って……」

「何処で?」

 

円堂さんは2人の疑問に答えるように、親指でビシッと砂浜を指した。

あ……なるほど。円堂さんらしいわ。私はクスッと笑い、円堂さんを見た。

 

 

 

 

練習を砂浜でやる、という初めての試みに、みんな苦戦していた。砂浜、という場所はコンクリートやグラウンドのようにしっかりとした地面ではない。いつものように走っても、砂が柔らかすぎて上手く踏み込めない。

もちろん、私も苦戦していた。足が砂にとられ、上手く動かせない。

 

「……くっ……!」

「難しいな、コレ……」

「はい……」

 

隣に来て話しかけてきた財前さんに、私は笑顔で答える。

 

「ですが、やりがいがあります。必ず、ここで軽やかに走ってみせます……!」

「……ああ! そうだな!」

「私、もう一本行ってきます」

 

手の甲で汗を拭い、財前さんを振り返る。財前さんは私を見て何故か笑っていた。

 

「あの……財前さん、どうなさいましたか?」

「ん? ああ……何か、初めて笑ってからよく笑うようになったな〜って思って。やっぱり、青木は笑ってる方がいいな!」

「…………そう、ですか?」

「もちろんだよ! ついでに言うと、前髪もバッサリ切っちゃえば?」

「………………」

 

前髪……そういえば、ずっと切ってなかったな。でも、切らないのには理由がある。だって、この赤目を見たら……基山さんは綺麗だと言って下さったけど、みんながどうなのかは分からない。みんなには、私から離れてほしくない。やっと見つけた、私の居場所なのに……それを失うのはイヤだった。

パンパンと頬を叩き、気持ちを切り替えてからまた走り出そうとすると、海の方から声が聞こえてきた。

 

「ひゃっほーう‼︎」

「あれは……」

 

見えたのは、サーファーの姿だった。あ……あの人、私を助けて下さった……。その人は波に打ち出されるようにサーフボードと共に宙を舞い、空中をくるくる回り、着地を決めた。着地すると、彼は私たちに気付いた様子で、声をかけてきた。

 

「……ん? よお、また会ったな!」

 

突然のことにみんなそれぞれ反応に困り、どうするべきか悩んでいたところ、一拍間を置いてサーフボードが彼の傍らにズンッと突き刺さった。

全員が驚いているのと対照的に、彼は何事も無かったかのようにサーフボードを持つ。

 

「ん? サッカーって砂浜でやるもんなのか? まあいっか、頑張れよ〜」

 

そう言って、例のごとく歩き去っていく彼。ハッとした私は、彼を呼び止めた。

 

「あのっ……待って下さい!」

「ん? あ、お前こないだの……何だ? 俺に何か用か?」

「あの、これ……」

 

私は俯きがちに、貸してもらったバスタオルを差し出す。

 

「この間は、本当にありがとうございました」

「いいっていいって! わざわざ返してくんなくても良かったのによ」

「ですが……貴方は私を助けて下さった恩人です。何も出来ないのが悔しいですが……本当に、感謝しております……」

「え⁉︎ おいおい、そんな土下座までしなくても……」

 

いつの日か円堂さんたちにしたように、ビターッと地に頭を伏せた。

私はこのまま頭を下げっぱなしというわけにもいかないので、立ち上がった。

 

「貴方が何と言おうと、受けた恩はどんな形であれ必ずお返し致します」

「いやいや……ホントにそんなのいいって。な?」

「………………」

「……分かった分かった、お前の好きにすればいいさ」

「ありがとうございます」

 

よし、無言で押し込んだ。←おい

彼は手をヒラヒラさせて、少し遠くのシートの上に寝転んだ。私は彼を見送り、さっさと練習に戻った。

 

 

私のランニングが終わる頃、財前さんと浦部さんが必殺技・バタフライドリームの練習をしていた。しかし、タイミングが合わず失敗。しかもボールがどっかに飛んでっちゃった。……ん? あれ、ボール何処に行って…………あ。

私がボールの行き先を見ると、落下点と予測される場所には、あのサーファーが。このままじゃ、あの人に当たる……?

そう咄嗟に判断した私は、すぐに彼の元へ走った。前なら砂に足をとられて動けなかったけど、今の私には砂浜なんて問題ではない。一気に彼の元まで行くと、彼と彼のサーフボードを掻っ攫った。

 

「うおっ⁉︎」

 

その拍子で彼が起きたらしい。ていうか寝てたのね。私が右足に力を入れて踏みとどまると、砂に私の足が沈んでしまった。

 

「あ」

 

私の沈んだ足の脛にサーフボードが当たる。痛みを堪えて何とか体勢を整えようとするも、目を覚まし、今の状況に驚いた彼を抱えるのに精一杯だった。最終的にバランスを崩し、彼もろともサーフボードの上に倒れ込んでしまった。しかし、無理矢理体を(ひね)って、彼の体を守ろうと私の体を下にした。

 

「うわっ‼︎」

「っ!」

 

ドサッと倒れ、思わず目を伏せる。上手く受け身をとれたみたいで頭は強くは打たなかった。助かったわ……。ホッとしたのもつかの間、彼の安否を確認する。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

「え? あ、ああ。なあ、一体何があったんだ?」

 

私の上に覆い被さるように乗っていた彼はすぐに起き上がった。私もそれと共に起き上がり、状況を説明する。

 

「ボールが貴方の元に飛んで行きそうだったので……その……何とか、もうちょっと上手くやるつもりだったんですが……失敗してしまい、こうなりました」

「んー、そうなのか……あんまよく分かんねーけど、まあ要は助けてくれたってことだろ? ありがとな!」

 

彼はそう言うと、サーフボードを抱えて立ち上がった。

 

「そういや、この時間帯はいい波が来るんだ! 危うく寝過ごすとこだったぜ〜。起こしてくれてサンキュな!」

 

彼はまた私の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で、さっさと海に行ってしまった。私、ちゃんと恩を返せたのかしら……? みんなの方を振り返ると、何故かみんなが固まっていた。? どうしたのかしら? 浦部さんがやたらと興奮して私の肩を掴んで揺さぶった。

 

「あ……あああああああ青木‼︎ いいいい今押し倒され……⁉︎」

「? 何のことですか?」

「何言うとるねん‼︎ あぁ〜っここから愛のロマンスが繰り広げられるんや〜〜‼︎」

「何の話ですか?」

 

何であんなに浦部さんのテンションが上がっていたのか、私のバカな頭ではよく分からなかった。




あっ……青木さんが、おおお押し倒されっ⁉︎///// ぎゃああああああああ‼︎/////
さっと書いてみたけど超恥ずかしいっ‼︎///// いや、何で私が恥ずかしがるのか全く分からんけど‼︎ のぉおおおぅううう超恥ずかしい……/////
わ、私はここで退散します! さらばっ‼︎/////


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49話 彼女は渡さない

Side無し

 

ここは、エイリア学園本拠地。一切の音をも許さないシンとした空間に、赤と青、そして白の光が差し込んでいた。光はそれぞれ、少年を照らしている。赤はバーン、青はガゼル。そして。

 

「面白かったか? グラン」

「……何のことだい?」

 

グランだ。グランは2人の反応を楽しむように、首を傾げてみせた。それが面白くないのが、バーンとガゼルである。

 

「とぼけちゃってよ……」

「雷門とやり合ったみたいだね? ザ・ジェネシスの名の元に……」

「あれはただのお遊びさ」

「ほう……?」

 

ギッとグランを睨みつけるガゼル。どうやら、グランの言動はどれも彼らの怒りに触れてしまうらしい。しかし、グランは2人の反応を物ともしない。

 

「興味深いと思わないか? 雷門イレブンは……特に、円堂守。彼は面白い」

「軽く捻り潰した相手がか?」

「フッ……君も戦えば分かるさ」

「ほう……では、君が雷門を潰しても彼女を連れてこなかった理由も分かるのか?」

 

ガゼルの問いかけに、黙ったのはグランだ。

雷門を潰したあの時、彼女は1人の選手を庇ってグランのシュートを受けた。あんなに必死に仲間を庇う姿を見たのは初めてだった。

明らかに、彼女の心が雷門に寄っているということだ。グランも、無理矢理連れていくというやり方はしたくなかった。連れ去るならイプシロン戦後のあの時にすれば良かった、と改めて思う。

自分の心に揺れていたあの時の姿はなく、雷門イレブンを仲間と認め、彼らを支えたいという意志が見えた。おそらく彼女にとって、初めて見つけた自分の居場所。それを失いたくないのだろう。

 

「……あの娘は、雷門でやっと自分の居場所を見つけたんだ。俺は……もう、あの娘に近付けない」

「それほど、彼女を想っていたということか? まさか君がそこまで女に惚れ込むとは……」

 

クスクスと、今度はガゼルが楽しそうに笑う。まるで彼の弱点を見つけた、とでも言うように。もちろんバーンも口角を上げて歪んだ笑みを刻んでいた。

 

「確かに、今は……君たちガイアが、栄光あるジェネシスの地位についているが……油断しない方がいい」

「……忠告として聞いておこう」

 

……きっと彼らは、彼女に近付く。グランは極力本心を悟られないように答えた。彼女は俺が守らなければ。

 

「フン。すぐに俺たちプロミネンスがその座を奪ってやるぜ」

「それはどうかな。我々ダイヤモンドダストも引き下がるつもりはないよ」

 

……こちらだって。彼女も、ジェネシスの称号も奪われるつもりはない。

グランは椅子に深く腰掛け、天井を見上げる。

 

「円堂守……青木穂乃緒……雷門イレブン……。へっ……だったら確かめてやるよ。この目でな」

 

バーンが目を細めながら呟いたのは、グランもガゼルも誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 

ーー俺はいつから、彼女のそばにいたいと思い始めたのだろうか。

初めて彼女と出会ったのは、奈良だった。エージェントたちに追われているところを、興味本意で助けた。彼女の第一印象は、冷めた綺麗な女の子だった。名前も聞いて、父さんに聞いてみた。そしたら、彼女はもともと俺たちの家族になる予定の子だったことが分かった。しかし、父さんが引き取りに行く前日に、人身売買にかけられてしまったらしい。そこから彼女の行方は分からなくなってしまったため、父さんは彼女のことを諦めたと言っていた。

俺は運命だと思った。父さんが助けられなかった子だ。俺が、きっと助けてみせる。

そう決意した俺は、積極的に彼女に近付いた。人との関わりがほとんど無かった所為か、彼女は少しぎこちなさそうに俺に接してくれた。エイリア学園かと怪しまれて警戒されたこともあったなぁ。まあ、合ってるんだけど。

ぎこちない彼女の話し方、仕草が微笑ましくて、か弱くて。腕っぷしはとても強いのに、どこか弱くて脆くて、壊れそうな女の子。いつか、あの娘の笑顔が見たい。そう思うようになった。

 

「……今度、俺が会いに行く時は、笑ってくれる? 穂乃緒ちゃん……」

 

ボソ、と呟いてからゆっくりと目を閉じた。君のことを想いながら。



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50話 綱海条介

サーファーが海でサーフィンをしている砂浜で、私たちは練習に励んでいた。何でも、財前さんと浦部さんが2人でバタフライドリームをするらしい。

何度目かのバタフライドリーム。今度は同時に蹴りを入れることが出来、成功かと思われたか、ボールはまたしても飛んで行ってしまった。そして、はたまた運命か、その落下地点予測地にはサーファーの彼が。

 

「あ、危ない……」

「っ……! うぉおおおおおおおっ‼︎」

 

彼はサーフィンに乗ったまま、飛んで来たボールを蹴り返した。私たちが驚いて目を見開く中、海を裂くように真っ直ぐ飛んだボールは立向居さんが受け止めようとした。

 

「ぐっ……何てパワーだ……うわっ‼︎」

 

立向居さんは受け止め切れず、ボールはゴールへ刺さった。私たち全員が呆然とする中、当の本人は飄々と歩いてきた。

 

「あー、びっくりしたぜ。急にボールが飛んで来やがってよ〜」

「君! サッカーやってるのか⁉︎」

 

真っ先に彼に話しかけたのは、もちろん円堂さんだ。相変わらずサッカーとなれば、この人はどこまでも真っ直ぐ走る。しかし、彼はあっさりと答えた。

 

「そんなもん、一回もねーよ?」

「一回も⁉︎」

 

一回もしたことがないのにあれほどのシュートを放てるとは……彼はサーフィンで培ったボディバランスと運動神経だけで蹴り返した、ということ?

円堂さんは笑顔になって、彼を誘う。

 

「なぁ、サッカーやってみないか?」

「あん?」

「あんな凄いキックが出来るんだ! やったらすっげえ楽しいぜ!」

 

今度は彼がキョトンとして円堂さんを見る。しかし、すぐに彼は大きな声で笑った。

 

「あっははは! 冗談はよせよ。俺はサーファーだぜ?」

「でもさ、ちょっとくらい……」

「悪りぃな、興味ねぇんだ」

「あ……そっか……」

 

そこまで言われたら無理に誘えないと判断した円堂さんは肩を落として頷く。

何だろうか……腑に落ちない。私は改めてこれまでのことを思い出す。確かに近くにいたから、彼は私たちと何回か接触した。しかし、流石にここまで来ると運命すら感じる。もしかしたら、また会うかもしれない。

……仕方ない。恩人にこんなことしたくなかったけど……円堂さんの為に。

 

「賢明な判断でしたね、円堂さん」

「え?」

 

私は微笑みを浮かべて円堂さんに言った。しかし、この微笑みには皮肉を込めている。

 

「貴方も賢明な判断をしましたね。やらなくて正解です。所詮、彼はド素人なのですから」

「……何?」

 

その言葉を待っていたわ。私はクスリと笑い、さらに続ける。

 

「いくら身体能力が優れていても、ド素人には簡単なものではないでしょう? サッカーとは」

「はっ! さっきの見ただろ⁉︎ ちゃんと蹴り返したじゃねーか!」

「たった一度だけ、ですがね。よくもまあ、たった一度の偶然でそんな余裕が出てくること」

「ぐっ……!」

 

私はクスクスと笑いながら、手を口元にやった。それがさらに癪に触るようで、彼はギッと私を睨む。

ん……やっぱり、人を虐めるとは楽しいわね(※青木さんはドSです)。

 

「……よし、決めた! ……おい、サッカーやってやるぜ!」

「本当か⁉︎」

 

隣でこの状況を見ていた円堂さんの表情が明るくなる。

 

「……その言葉、二言はありませんね?」

「ああ! この俺様に二言はねえ‼︎」

「よく言いました」

 

皮肉の笑顔から変わったからか、彼は今更()められたと分かったらしい。逃がすと思ってるのかしら?

 

「もし逃げようとしたら、貴方のサーフボードをへし折ります」

「んなっ⁉︎ き、汚ねえぞ!」

「汚くて結構」

 

久しぶりだからだろうか。凄く楽しい。

 

「そうか! 歓迎するぜ! えーっと……名前は……」

 

ここで、円堂さんが名前を聞くのを忘れていたことを思い出し、言い淀んだ。彼はニカっと明るい笑顔で自ら名乗った。

 

「俺は綱海(つなみ)! 綱海条介(つなみじょうすけ)だ!」



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51話 新しい好みを見つけた化け物

「さあ、練習再開だ!」

「すみません。私、少し離れます。たい焼き買ってきます」

「え⁉︎」

 

綱海さんを練習に引き込んだ時点で、私の仕事は終わったようなもんだ。ということで、たい焼きを買いに行く。最近たい焼きを補充してない。早く食べたいな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 無い?」

「おー。この島にはたい焼きなんてねぇよ。残念だなぁ、嬢ちゃん」

 

何と。この島にはたい焼きが無かった。待て。おかしいでしょ。ふざけんな‼︎

内心憤慨していると、お店のおじさんが私に袋を渡した。

 

「悪いな、これやるから」

「?」

 

中身を見てみると、甘い匂いがした。

 

「サーターアンダギーっつってな、沖縄の名物なんだよ。美味いぞ〜!」

 

甘い匂いに負け、思わず口に入れる。

 

「……! 美味しい」

「だろ? もっといるか?」

「はい。頂きます」

 

新しい好物が出来た。せっかくだから、皆さんの分も買っていこう。私の顔は、自然と綻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーターアンダギーを摘みながら海岸を歩く。いつの間にか太陽は水平線に沈みかけ、夜の訪れを告げる。紫と赤のコントラストがとても美しかった。空を仰ぐと、星が輝き出している。

 

「……綺麗」

 

ボソッと小さく呟く。心が澄み渡っていくみたいで、気持ち良かった。一つ深呼吸してから、また歩き出そうと足を動かした次の瞬間。

 

「お前が……青木穂乃緒か?」

 

前方からした低い声に、足を止める。少し睨みながら、声の主を見た。

いつか見た、あのボウズサングラス。しかも3人。エイリア学園のエージェントだかなんだか、そんな感じの奴らだった気がする。

 

「何の用だ」

「我々と共に来てもらおう。言っておくが、拒否権はない」

「なら、作らせてもらおう」

 

私はサーターアンダギーの袋を抱え、戦闘体勢をとる。一歩踏み込んで、走り出した。

 

「悪いが急いでるのでね、通してもらう!」

 

腹が立って仕方なかった私は、このイライラを奴らにぶつけることしか頭に無かった。

 

「はあああああっ‼︎」

 

振り上げた拳は、一瞬でエージェントの1人の顔面に打ち付けられる。力を込めたから、かなり痛いと思う。が、相手が相手なので気にしない。力任せに打ち付けたから、少しはこっちも堪える。ぶっ飛ばして、次のターゲットに狙いを定める。

体を回転させ、足を振り上げる。足の甲でエージェントの顎を確実に仕留め、蹴り上げる。そして、倒れかけたエージェントの胸倉を掴み、乱暴に砂浜に叩きつけた。

そして、最後の1人。首を掴み、これまた砂浜に押し付けて押し倒す。そして、馬乗りになった。

感情なんて、あまり無かった。ああ、苦しそうだねって。ただそれだけ。

 

「一つ言っておく」

 

酷く、冷たい声。何処までも闇を捉える冷淡な赤い瞳に、エージェントの苦しそうな顔が映る。

 

「私に挑むのはいい。何度でも返り討ちにしてやるさ。だがな、私の大切な人たちに手は出すな。もし手を出せば……」

 

エージェントに顔を近付け、首を掴む手に力がこもる。

 

「私は、容赦はしない」

 

ゆっくりと手を離し、彼から降りた。ジャージの砂を少し払ってから、歩き出す。サーターアンダギーを取り出して、口に運んだ。

 

「けほっ……フン……。いつまでそうやっているつもりだ? 自分でも気が付いているだろうに……」

 

何か奴が言っている。

 

「お前は、人ではない。人の皮を被った化け物だと、自分で分かっているはずだ……」

 

しかし、それに私は耳を傾けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました」

「あっ、おかえりなさい! 青木さん!」

 

木野さんが私を振り返る。木野さんから連絡を貰い、民宿の場所を聞いていたのだ。

 

「青木さん? それは……」

「たい焼きの代わりに買ってきました」

「え⁉︎ 青木ってたい焼き以外食べれたのかよ⁉︎」

 

意外! とでも言うように、財前さんが目を向く。失礼な。私だってたい焼き以外も好きになれます。

 

「ようっ!」

「「「「ひぃぃいいぃい⁉︎」」」」

「っだ⁉︎」

 

何だか硬い尖ったものが、私の後頭部に直撃した。手を後ろにやり、振り返ると、魚の顔が見えた。

 

「‼︎⁉︎⁇⁈」

「おっ。よぉ、お前か! さっきどっか行っちまったからな〜」

 

それから見つけたのは、綱海さんだった。ポカンとした私を見て、綱海さんは笑う。

 

「はっはっは! 何だよその顔! つーか、お前そんな顔するんだな〜」

「なっ……な、何をしに……⁉︎ 何故魚を抱えているのですか⁉︎」

「ああ、これ、食わせてやろうと思って、釣ってきたんだ」

「あ、ありがとう……」

 

先程の衝撃が抜けきらないのか、円堂さんは頬を引きつらせながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「何だよ、食わねえのか?」

「……食べたことがありません」

「まー食ってみろよ!」

 

赤い身を口に含んでみる。…………美味しい。何だか今日は、新しい好物に巡り会う日だなぁ……。



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52話 土方雷電

1日挟んだものの、ようやく沖縄に着いた。響木さんの情報によれば、ここに、炎のストライカーがいるとのこと。炎のストライカーが、果たして豪炎寺さんなのか。

私は島で既に買っておいたサーターアンダギーを頬張りながら、ふと視線を他所へやる。すると、サッカーボールがポーンと飛んでいるのが見えた。

 

「あれは…………」

「どうしたんだ? 青木……あっ」

 

私の視線の意味を意図したのか、円堂さんの目にも、ボールがとまる。

 

「もしかしたら、何かヒントが得られるかもしれませんね」

「よし、行ってみようぜ!」

 

私は円堂さんと鬼道さんの背中を追いかけ、ボールが飛んでいる辺りを見に行った。

 

来てみると、そこには小さな子供が5人、サッカーボールで遊んでいた。見た目が似ているから、兄弟だろう。1人の男の子がトラップミスをして、ボールがこちらへ飛んでくる。円堂さんはそれを軽々と受け止めた。円堂さんは彼らを楽しませるつもりだったのか、笑顔を浮かべながらリフティングを続ける。

しかし、1人の男の子が目を潤ませ、涙をいっぱいに溜める。それに気付いた円堂さんはギョッとして、ボールを手に取った。

男の子はついに泣き出し、周りの4人の子供たちも、つられて泣き出す。

 

「……何やってるんだ、円堂」

「な、なんにもしてないよ〜……」

「円堂さん、そのボール貸して下さい」

「え? あ、ああ……」

 

円堂さんからボールを頂き、子供たちの元に歩み寄る。子供たちと目線を合わせるためにしゃがんで、泣いている子にボールを差し出した。

 

「はい。これ、ごめんなさい」

 

1人の男の子にボールを持たせ、何とか泣きやませようと頭を撫でる。しかし、子供たちは泣きやまない。どうしたものかとオロオロしていると、女の子がくんくんと鼻を動かした。

 

「何か、いい匂いがする……」

「?」

 

もしかして、と思い、私はサーターアンダギーを取り出した。

 

「あの、これ……食べますか?」

「「「「「食べるっ‼︎‼︎」」」」」

 

子供たちの勢いに気圧されながらも、子供たちにサーターアンダギーを渡す。これで一件落着か……と思われたが。

 

「こらぁぁぁあぁあ‼︎」

 

遠くから聞こえてきた怒号に、ビクッと肩を揺らす。声の低さからして、男だと分かった。ドスドスと大きな足音と共にこちらへ向かってきた人物の姿に、私たちは唖然とした。

だって……割烹着(かっぽうぎ)を着て、(ほうき)塵取(ちりと)りを持っていたから。何かの趣味なのか? 今回はお母さんコスなのか?

子供たちは彼を見て、彼の元に駆け寄る。

 

「「「「「あんちゃんー‼︎」」」」」

 

……は? え、この人お兄さん⁉︎ でもよく見れば、似てる……。

 

「誰だ、俺の弟たち泣かしたのはぁ⁉︎」

「あのお兄ちゃん、ボール取ったぁ!」

 

1人の男の子が、円堂さんを指さす。どうやら、子供たちから完全に敵に見られてしまったらしい。今度は、女の子が私を指さした。

 

「あのお姉ちゃんがおやつくれた!」

 

……それ報告することでもないような気がする……。子供たちの兄は、ジロリと円堂さんを睨む。円堂さんはたじたじで、弁解を試みる。

 

「え、あ、ごめんごめん! そんなつもりじゃなかったんだ!」

「……本当だろうな? 大体! お前‼︎」

 

彼は信用出来ない、と言うように今度はビシッと箒で鬼道さんを指す。

 

「怪しすぎだろ! そのメガネ……」

「……失敬な奴だな」

 

……ぶはっ‼︎ 怪しい! 怪しいだって! 確かにそれは怪しいよね、ゴーグルかけてる人なんて! はははっ‼︎ これは笑える‼︎

私は必死に笑いを堪え、クククッと肩を震わす。それを鬼道さんに見つかり、睨まれた。まあ、やると言うなら上等だけど。

男はしばらく私たちを睨んでいたが、警戒を解いたように視線を外した。

 

「あ、ちょっと待ってくれよ!」

 

それを呼び止めたのは、円堂さんだった。

 

「俺たち、みんながサッカーやってるのを見て、少し聞きたいことがあったんだ。君もサッカーを知ってるんなら、分かるだろ? 雷門中サッカー部!」

 

彼はピクリと眉を動かし、円堂さんを見つめ、目を伏せた。

 

「……フッ。ハッハッハッハッハ‼︎ いやぁ、悪りぃ悪りぃ! お前らか、宇宙人と戦ってるサッカーチームは!」

 

豪快な笑い声を響かせ、彼は自ら名乗った。

 

「俺は土方(ひじかた)雷電(らいでん)! お前らと同じ中学生だ。サッカー部に所属している」

「俺、円堂守! 雷門中サッカー部のキャプテンだ! よろしく!」

 

円堂さんは彼ーー土方さんと握手を交わす。

 

「で? 何だ? 沖縄で宇宙人の襲撃予告でもあったのか? だったら、力貸すぜ。地元荒らされるなんて……」

 

そう言いながら、土方さんは弟からボールを受け取り、それを宙に投げ……。

 

「我慢ならねぇからなっ‼︎」

 

高く蹴り上げられたボールは遥か空高く舞い、風圧を私たちに残して行った。その威力に、円堂さんは感嘆の声を漏らす。

 

「何てパワーだ……!」

「あんちゃん、蹴っても止めてもスゲーんだぜ!」

「……凄いのか。だったら、これはどうだ⁉︎」

 

ニヤッと笑みを浮かべた鬼道さんが向かう先は、ボールの落下地点。ボールをトラップした鬼道さんは、土方さんに仕掛けていく。対する土方さんは、いわゆる相撲の四股踏みの動きをしてみせた。

 

「スーパーしこふみ‼︎」

「! 必殺技……」

 

必殺技で出現した大きな足が、鬼道さんを潰そうとする。鬼道さんは寸でのところで、バク宙してかわした。結構ギリギリだったらしく、鬼道さんも苦笑している。

皆さんが楽しんでいるところで、私は本題を切り出した。

 

「あの……貴方は、炎のストライカーをご存知ですか?」

「炎のストライカー?」

「私たちは、炎のストライカーが沖縄にいる、との話を聞き、ここへ来ました」

「知ってる⁉︎ 今、俺たちの探してる仲間かもしれないんだ‼︎ 聞いたことないかな?」

「……いや、聞いたことねぇな?」

 

記憶を辿るように視線を外す。どうやら、知らないらしい。円堂さんも、残念そうに肩を落とした。

 

「あの……少し、雷門の皆さんと会いませんか? せっかく出会ったのですし……これも、何かの縁です」

「いいのか?」

「あ、ああ! もちろん! 大歓迎さ! 行こうぜ‼︎」



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53話 南雲晴矢

「よろしくな、雷門イレブン!」

 

早速、最初にみんなと別れた場所に一回集まり、雷門イレブンのみんなと顔合わせをしてもらった。

 

「……で、何で割烹着? 炎のストライカーって、この人……?」

「いや、そうじゃないんだけど……」

 

木野さんの問いに、円堂さんは苦笑する。

 

「土方は、すごいディフェンス技を持ってるんだ!」

「雷門の円堂にそう言ってもらえるのは嬉しいね! ハッハッハッ!」

「それで、みんなに紹介しようと思ったんだ! 俺たちのチームに入ってもらおうと思ってさ!」

「おっと、そいつは出来ない相談だ」

 

円堂さんの提案を、あっさりと否定する土方さん。それに、鬼道さんが問う。

 

「何故だ?」

「さっき見たろ? 俺には兄弟がいっぱいいる。あいつらの面倒見なきゃいけないんだ。だけど、もし……ここが襲われたら、俺は戦うぜ」

「だから力を貸すって言ったのか……。お前の強さの秘密は、守りたいものがいっぱいあるからだったんだな!」

「みんなだって、そうだろ?」

「へへっ……ああ!」

 

円堂さんが笑う横で、私は土方さんの言葉を反芻していた。

守りたいものがあるから、強くなれる。今まで、そんなの考えたことなかった。じゃあ、何故私は強くなった?

いや……私が力を求めた理由は、円堂さんたちのお力になりたかったから。今なれてるのかは分からないけど、いつかきっと……。

守りたいもの……それだけは、絶対に違えないようにしよう。

私が守りたいものは、この先何があっても円堂さんたちのみだ。

 

「じゃあさ、一緒に練習しようぜ!」

「おうっ、掃除が終わったらな」

「分かった!」

 

なるほど、だから初めて会った時、箒と塵取りを持ってたのね。

一人で勝手に納得し、もぐもぐとサーターアンダギーを食べていると、今度はまた別の声が聞こえた。

 

「おーい!」

「炎のストライカー、見つけたぜー‼︎」

 

聞こえてきたのは、吹雪さんと土門さんの声だ。しかも、炎のストライカーを見つけたとのこと。

豪炎寺さん……⁉︎ 期待する私の心は、すぐに沈められた。

 

「豪炎寺さんじゃないッスよ……?」

「なんや、違うの?」

「ああ……」

 

問いかける浦部さんに、一之瀬さんが答える。私もショックだったが、すぐに吹雪さんたちを見た。が、ずっと視線を感じる。視線の元を見てみると、あの炎のストライカーだった。

真紅の髪を自由に跳ねさせ、挑戦的な黄色い目を私にずっと当てていた。

何なのかしら……?

横で土門さんたちに土方さんを紹介しているため、この視線に気付いているのは私だけ。

 

「……でも、もうその必要はなくなったよ? 炎のストライカーは、この南雲だ」

「つーわけだ、俺は南雲晴矢。キャプテンの円堂だろ? よろしくな」

「……ああ! よろしく!」

 

期待を見事裏切られ、円堂さんも複雑な笑顔。

 

「こいつ、俺たちがあちこち探してるのを聞きつけて、自分から売り込んできたんだぜ?」

「この辺に住んでるの……?」

「まあね」

 

土門さんが笑みを浮かべながら言い、財前さんの問いに南雲さんは肩を竦めて言う。ところが、突然睨むような目つきで南雲さんを見据える土方さん。

 

「本当かあ?」

「いっ……⁉︎」

 

睨まれると思ってなかったらしく、少々驚いていたが、すぐにニッと笑みを見せる。

 

「見ねえ顔だな……」

「俺もあんたを見たことねえな……?」

 

睨み合う2人に、私たちの間にも不穏な空気が流れる。

一体、何なんだ彼は。私はどうも、彼のことを好きになれなかった。むしろ、ここから出て行けと言いたかった。

 

「見せてやれよ、さっきのシュート!」

「強力なシュートだったよね」

「……ただ見せるだけじゃあつまんねえな……」

 

彼はそう言って、右足の爪先でキープしていたボールを上げ、片手でキャッチする。その言葉に、鬼道さんが問うた。

 

「……と言うと?」

「俺をテストしてくんねーか? あんたらのチームに、相応しい強さかどうか、その目で確かめてほしいねぇ。雷門イレブンVS俺! どうよ? あんたらから1点取れば俺の勝ち。テストに合格だ」

「……テストしてくれ、と言うわりには随分と仕切るのね。大した自信だわ」

 

私が腕を組みながら、少し嘲るように声をかける。どうも気に入らない、こいつ。さっきから私をずっと見てくるし。テストなんて、ただの口実なのではないか。どちらかと言えば、雷門と戦いたいだけだろう。

 

「自信があるから言ってんだよ」

「そう」

 

私は短く切り、南雲さんから視線を逸らした。

円堂さんは嬉々として、このテストを承諾していた。

 

「あっ、そうだ! そこの青髪の女! お前は絶対にこのテストに参加しろよ」

「は……?」

「俺はお前の実力が見てみたい」

 

南雲さんに突然言われ、睨みながら返す。断る、そう言いかけたが……。

 

「いいじゃないか! な、青木!」

「……はい」

 

円堂さんに言われては、断れない。私は渋々承諾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はMFの位置につき、南雲さんをずっと睨み据える。さっきからも言っているが、彼に腹が立って仕方ない。どうも好きになれない。

古株さんのホイッスルと共に、南雲さんがボールを蹴り出す。それを見た私たちも動いた。南雲さんはそんな私たちを見て取って、ボールを軽く蹴ったかと思うと、さらにボールを蹴り、高く飛ばした。そして、自身も飛ぶ。

 

「すげえな……」

「空中戦が得意なんでしょうか?」

 

土方さんと立向居さんが感嘆して南雲さんを見上げる。私はしばらく南雲さんを見上げていたが、膝を折って屈んだ。

 

「その程度の高さで……敵うと思うな!」

 

足をバネにして、南雲さんとほぼ同じくらいの高さまで飛ぶ。私の方が、少し高いけどね。

 

「なにっ……⁉︎」

「はあっ‼︎」

 

南雲さんがキープしていたボールに鋭く蹴りを入れ込み、ボールをサイドラインの外へ飛ばした。

 

「くそっ!」

 

お互い地面に降り立つと、睨み合う。ベンチに跳ね返ったボールを片手で受け止め、スタート地点に戻す。

その時、また南雲さんと視線が合う。私は不敵に笑ってみせた。それが気に食わなかったのか、南雲さんは怒りながら笑みをこちらに向けた。

 

「やるじゃねえか」

「褒め言葉としてもらっておくわ。……これじゃあ貴方の目的は果たせないわね……。諦めて帰るなら今のうちよ? 尻尾巻いて大人しく帰りなさい、南雲さん」

「ああん? んだよ……何なら、このままあんたを連れてってもいいんだぜ? 俺は」

「っ⁉︎」

 

その言葉に、動きが止まる。相手に驚愕を悟られないように、ぐっと拳を握った。相変わらずニヤニヤしながら私を見る南雲さんに殺気を孕んだ視線を送る。

 

「……やっぱり、貴方のこと嫌いだわ」

「褒め言葉としてもらっとくぜ。安心しな。手を出さなきゃあんたには何もしねえよ」

 

クックッと歪んだ笑みを刻み、楽しそうに笑う南雲さんにまた苛立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく私はこのテストに手をつけず、ただ見守っていた。雷門のディフェンスを難なくかわし、円堂さんの守るゴールへと走る。

 

「紅蓮の炎で焼き尽くしてやる! アトミックフレア‼︎」

「よし、来いっ! マジン・ザ・ハンド‼︎ ……うわっ⁉︎」

 

マジン・ザ・ハンドもすぐに吹き飛ばされてしまい、ボールがゴールに入りかける。

ふざけるな。奴は絶対に入れさせない……!

 

「はぁあっ‼︎」

 

ゴール前まで戻り、右足を旋回させてボールに足を叩きつけた。ボールにはまだ必殺技の威力が残っていたが、私の全力を持ってすれば、どうってことない。

ボールを弾き飛ばし、南雲さんが背にしているゴールポストに当たる。ボールはまたサイドラインを越えた。

 

「……っ、サンキュー! 助かったぜ、青木!」

「大丈夫ですか?」

「ああ!」

 

私は円堂さんに手を貸し、彼を起き上がらせた。また、南雲さんの鋭い視線を感じる。

 

「チッ……邪魔しやがって……」

 

この際、奴に連れて行かれようがどうでもいい。円堂さんたちを守れるのならば、それでいい。

私の重々しい雰囲気を感じ、鬼道さんが問うた。

 

「どうした? お前が人が苦手なのは知っているが、やけに奴に食いつくな」

「……彼は、宇宙人です」

 

ボソ、と言い放った私の言葉に、周りに集まっていた雷門イレブンが驚く。

 

「宇宙人……って、ことは……」

「エイリア学園……⁉︎」

 

吹雪さんと土門さんの言葉を聞き、みんなの視線が南雲さんに集中する。彼はすこぶる機嫌が悪いらしく、ずっと私を睨みつけていた。

 

「おいおい、もう終わりだって言うのかよ? 面白くねえなぁ?」

「……はっきり聞くぞ、南雲晴矢」

 

ツカツカと彼に歩み寄り、彼との距離を、なるべく近く置く。そして、彼の胸倉を掴んで顔を近付けた。

 

「お前はエイリア学園か?」

「…………」

 

南雲さんは黙ったまま、私を見つめ返す。しばらく、沈黙が続いた。

 

「……エイリア学園だよ。君の言う通り」

 

答えたのは、南雲さんではなかった。空から降ってきた声に、私たちは空を仰ぐ。高い塔の上に、誰かがいた。南雲さんとはまた違う赤髪に、翡翠色の目が私を見据える。

 

「ヒロトッ!」

「待て、円堂!」

 

駆け寄ろうとした円堂さんを、鬼道さんが制止する。私は視線を基山さんに向けつつ、南雲さんの胸倉は離さなかった。

 



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54話 プロミネンスキャプテン・バーン

「どういうつもりだ、ヒロト!」

 

円堂さんは、大声で基山さんに問いかける。しかし、基山さんは何も答えない。

南雲さんも、塔の上に立つ基山さんを見上げ、眉は寄せながら言い放った。

 

「……あーあ‼︎ ったく……邪魔すんなよ、グラン‼︎」

「雷門イレブンに入り込んで……何をするつもりだったんだ?」

 

南雲さんは私の手首を掴み、胸倉から離させると、私の手首をグイッと引いた。

 

「俺はグランのお気に入りがどんな奴か、見に来ただけだよ」

「……騙されちゃダメだよ? 円堂くん。……穂乃緒ちゃんは騙されなかったみたいだけどね」

 

すると、南雲さんはニッと人の悪い笑みを浮かべ、私を引き寄せ、自身の前に立たせた後、私の首に手をまわした。それを見た基山さんが、眉を寄せる。

 

「っ……‼︎」

「なぁ、こいつだろ? お前がずっと言ってたのは。随分と可愛いじゃねーか。ん?」

「……彼女から離れろ」

 

耳元で囁かれ、体が凍りついたように動かない。こいつ、基山さんを煽ってるの……? でも、私を人質にするよりは円堂さんにした方が良いんじゃないかしら?

考え込んでいると、耳に何か熱いものが当たった。今までに無いほど、体が震えた。

 

「ひゃっ……!」

「っっ‼︎‼︎」

 

基山さんは、足元に置いていたらしいボールを、こちらに蹴りつけた。反射的に、南雲さんは私を後ろへやり、円堂さんたちの方へ突き飛ばす。

 

「っ!」

「青木!」

 

鬼道さんに抱きとめられ、南雲さんを見ようとした瞬間に、小さな竜巻が起こり、思わず目を伏せる。竜巻が収まり、視線を南雲さんに向けると、南雲さんは、エイリア学園のユニフォームを纏っていた。彼はボールを蹴り返すが、基山さんも右足で蹴り返し、もう一度南雲さんが片足で受け止めると、地面に叩きつけるようにして、着地した。

 

「南雲、お前っ……?」

「……俺か? こっちが本当の俺……バーンってんだ。覚えときな」

 

首をボキボキと捻って、土門さんの問いに答える。

聞き慣れない名前……やはり、新たな敵だったか。

円堂さんが、彼の名前を復唱する。

 

「バーン……?」

「エイリア学園、プロミネンスのキャプテンだ」

「プロミネンス⁉︎」

 

冷静な瞳子監督も、驚いたように眉をひそめる。

 

「グランよぉ! こいつらはジェミニストームを倒した。イプシロンとも引き分けた。……お前らとやった後、まだまだ強くなるかもしれねぇ。だから、どれだけ面白い奴らか、近くで見てやろうと思った……。俺は俺のやりたいようにやる。もし、俺らの邪魔になるようなら……潰すぜ」

 

そう言って、指を指したのは……円堂さんだった。

 

「お前より先になぁ!」

 

再び、バーンと基山さんの視線が交わる。困惑しながら、私は2人を見つめ返した。基山さんは塔から飛び降り、静かに地面に着地する。

 

「……潰すと言ったな?」

 

冷たい声が、バーンに向かって飛ばされる。

 

「それは得策じゃない。強い奴は、俺たちの仲間にしてもいい……違うか?」

「仲間? こんな奴らをか?」

 

2人はサッカーボールを中心に、お互いに間合いをとるように動く。一方が動けば、もう一方も動く。こうしているうちに、基山さんが私たちの前に立った。基山さん越しに、バーンが私たちを……いや、私だけを見ていた。その視線に思わず怯えてしまう。

何故……? 何故、貴方たちは、私に執着するの……?

突然鬼道さんが私の前に立ち、サッと私を隠した。ただそれだけなのに、ホッとする私がいた。

 

「……おい。まさか、まだ狙ってんのか?」

「何の話だ」

「とぼけんなよ。あいつの話だ」

「…………バーン」

「ハッ……」

 

言葉で返す代わりに、鼻で笑い捨てるバーン。円堂さんが、彼らの会話に入る。

 

「仲間って、どういうことだよ?」

「教えてやろうか? 例えば……そこの青髪の奴」

 

バーンは、私をはっきりと指さした。私が突然出てきたことに、みんなが私に注目する。

 

「お前、グランに最初からずっと目をつけられてたんだろ? あのエージェント共にもな。お前のその人並外れている腕力や脚力のせいで」

「!」

「えっ⁉︎」

 

みんなが目を見張る。その先は、もちろん私だ。私は黙れと言わんばかりにバーンを睨んだ。バーンは戯ける様子もなく、私を見てニヤニヤするだけ。こういう顔は実に殴りたくなる。

 

「あ、それと豪炎寺って野郎もな……」

「……お喋りが過ぎるぞ‼︎」

 

基山さんは、怒り混じりの声を放った。おそらく重大な秘密なのだろう。だが、何故豪炎寺さんが絡むのか。

 

「っ……お前に言われたかねぇな‼︎」

 

どうやら、基山さんの制止が癪に触ったらしい。基山さんは言い返すこともなく、ボールに向かって走り出した。バーンが身構える中、基山さんはボールを蹴り込んだ。と、同時に強い光が放たれ、視界が奪われた。

光が収まり、顔を上げた時には、基山さんもバーンもいなかった。

 

「っ……あいつら! ふざけやがって……」

「青木……」

 

彼らが消えた場所に駆け込んだ私は、強く地団駄を踏んだ。ゴシャゴシャと地面が割れる音がしたけど、気にしない。

 

「……決めた。今度奴に会ったらぶっ潰す‼︎」

「青木! ちょっと待ってくれって‼︎」

「ちょっとそこまで行くだけ! お気になさらず!」

 

イライラで仕方ない時は、どこかに行くのが私のやり方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し町の方まで行き、サーターアンダギーを買って食べていた。機嫌は最高に悪い。こんなにイライラするのは久しぶりだった。

 

「っあー……誰かぶっ飛ばしたいなぁ……まぁ、無理なんだけど」

 

いや……ぶっ飛ばさなくてもいいから、何か投げたいまたは蹴りたいまたは潰したい……。

ハァッと溜息をつき、コロ、と地面を転がってきたものを見た。

 

「サッカーボール……?」

「さっきはゴメンね、穂乃緒ちゃん」

「‼︎」

 

基山さんが、私の前に立っていた。ギッと鋭く基山さんを睨む。

 

「……ねぇ、穂乃緒ちゃん」

「近寄るな」

 

低く冷たい声で、基山さんを咎める。基山さんは、悲しげな表情で私を見つめる。

 

「……さっきは本当にゴメン。まさかバーンが雷門に……君に近付くなんて、思ってなかったんだ。君をちゃんと守れなくて……本当に」

「守れなくて、だと? お前に守ってほしいと頼んだ覚えは一度もない」

「………………ゴメンね……」

「謝るのならとっとと失せろ。私はお前が……大嫌いだ」

「っ‼︎‼︎」

 

基山さんはしばらく黙っていたが、いつの間にか静かにこの場を離れていた。

私が放った冷たい言葉が、どんなに彼を傷付けたかも知らずに。




※追記


【挿絵表示】


女海賊青木穂乃緒、描いてみた


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55話 大海原中サッカー部

グランside

「……はぁ…………」

 

自室のベッドに体を横たえ、俺は行き場のない溜息を吐いた。

 

『大嫌いだ』

 

穂乃緒ちゃんの冷たい声が、俺の脳内で何度もリピートされる。思い出す度に込み上げる嗚咽を何度も飲み込む。

俺はただ、彼女を救いたかった。俺に笑顔を見せてほしかった。それだけなのに。

 

「……情けないな、俺……」

 

拒絶された。愛した人に。これがこんなに辛いものだと思わなかった。嗚咽が飲み込みきれず、堰を切ったように涙がボロボロとこぼれてくる。

 

「……っく……ぅう……」

 

馬鹿なのは俺だった。彼女の気持ちなんて何も考えずに寄り添って。迷惑なだけだったんだ。

 

「……………」

 

俺は彼女に必要とされたかっただけなんだ。なのに、空回りしてばかりで……。

彼女は……俺なんか必要としなかったのか。

 

「なら……なんで、あの娘は俺と関わったの?」

 

いや、関わったのは俺からなのだが。

 

「なんで……君はあんな仕草を俺に見せたの?」

 

考える度に、おかしくなっていく俺の頭。やめろ、やめろ。

 

「手に入らないなら……」

 

手に入らないなら、いっそ。

 

「攫っていこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青木side

今、私たちは大海原中に向かっている。まったく……つい最近までサッカーに興味ないって散々言ってたクセに。ノリで入りやがって……。行き場のない溜息をつく中、海からの風に髪をそよがせる。

大海原中は全国中学少年サッカー大会、いわゆるフットボールフロンティアに出場するほどの実力らしい。程度が全く分からんが、強いということなのだろう。

だが、その後の話には呆れた……。地区予選決勝前に、監督が村祭りにうつつを抜かしていたために、忘れていたと……。沖縄の人たちはどれだけ能天気なんだか……。

 

「着いたぜ! ここが大海原中だ!」

 

綱海さんが示した先には、学校というよりもリゾートのような施設だった。校舎と校舎が橋で渡されており、その下には沖縄の綺麗な海が広がっている。

 

「綺麗……」

「だろ? 気に入って良かった!」

 

私がボソリと呟くと、綱海さんは二カッと笑って、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。これ何回目だろう……。

しかし、肝心のサッカー部がいない。キョロキョロと辺りを見渡すが、全く見当たらない。匂いを知らなければ、私の鼻は使えない。

また探そうとして後ろを振り返ったその時。

 

「サプラァ〜イズ‼︎」

 

パァンパァンパァン‼︎

 

びっくぅぅう‼︎

 

小さい花火が上がり、『歓迎! 雷門中』と書かれた絵をバックに、お目当ての大海原中イレブンがいた。

……びっくりしすぎて、腰を抜かした。へたりと座り込んで大海原中イレブンを見上げる私に、監督らしき男性が話しかける。

 

「驚いた? 驚いた?」

「…………」

 

上手く言葉が出ず、ポカンと監督を見つめる他なかった私。黙っていると、今度は一人一人に驚いたかどうかを聞いてまわる。わ、めちゃくちゃ鬱陶しい……! どうしよう。今すぐにでも回れ右して帰りたい! でも立てない……。

くっ……こんなに情けないことはない。

ハァッと溜息をつくと、吹雪さんが私に気付いた。

 

「大丈夫? 穂乃緒ちゃん」

「……あまり大丈夫ではありません」

「手を貸そうか?」

「…………ありがとうございます」

 

あぁ……情けないところを見られてしまった。



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56話 救出作戦開始

なんだかんだで何故かサッカー試合をすることになった。

……納得出来るか! いきなりドッキリされて、試合だと⁉︎

 

「私帰ります」

「え⁉︎ ちょ、青木‼︎」

 

円堂さんの制止を無視して、私はさっさと元来た道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ツカツカと歩いていた私は、もちろんサーターアンダギーを摘んでいた。波風に髪を(なび)かせ、岩に腰掛けた私は、水平線を眺めていた。

ああ。なんて美しい。ふと、頬が綻んだ。

ここに来てから何度そう思っただろう。しかし、その心はすぐに、深海に沈むように落とされる。それほど深い闇を、私は抱えていた。

 

「話すって言ったけど……やっぱり、苦しいな」

 

辛い。……悲しい。

 

「…………」

「あの……」

「‼︎」

 

声をかけられ、ハッと振り向く。そこには、若い1人の男が立っていた。顔立ちが幼く、制服を着れば高校生と言っても間違えられないだろう。しかし、彼はスーツを着込んでいた。この暑いのに大丈夫なのかしら?

 

「何だ」

「えと……君が、青木穂乃緒ちゃんだよね? 俺、警察官をしている滝野真月(たきのまつき)と言います」

「警察官が私に何の用だ?」

 

冷たく、はねつけるような声を放つ。やはり、知らない人が相手になると、どうしてもこうなってしまう。

 

「あの、実は俺、鬼瓦さんの部下で。穂乃緒ちゃんに会えって言われてきたんだよ」

「は? ……誰だそれ」

「豪炎寺くんの妹さんを助けるんだ」

 

ピクリと、体が反応する。豪炎寺さんの妹を助ける……?

 

「……どういうことだ」

「時間がないんだ。俺と、来てくれるかな?」

「…………分かりました。いいでしょう」

 

岩から立ち上がり、サーターアンダギーを口に含む。黙って、滝野さんの後ろをついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行機に乗って、東京まで戻った私は、空港でその鬼瓦さんと会った。

 

「君が青木穂乃緒、だね」

「はい」

「俺は鬼瓦源五郎。刑事をしている。話は移動しながらしよう」

「……あの、豪炎寺さんの妹さんを助けるって」

「ああ。そのこともちゃんと話すよ」

 

そう言われては、黙ってついていくしかない。この人は、豪炎寺さんのことを何か知っている。そう確信した。

 

車に揺られながら、私は鬼瓦さんの話を聞いていた。

 

「豪炎寺くんは、実は妹さんを人質にとられていたんだ」

「⁉︎」

「奈良でエイリア学園と戦った時のことを覚えてるか?」

「! まさか、あの黒ローブの男たちが?」

「ああ」

 

鬼瓦さんが、頷く。あいつら、私じゃなくて豪炎寺さんの監視のために来ていたの? 私を狙ってきたわけじゃなかったのか! なら何故、私を追ったんだ? 私を狙っておいて、豪炎寺さんまで狙っていたというのか! ふつふつと、怒りが湧き上がってくる。その怒りを鎮めようと、ジャージを握りしめた。

 

「豪炎寺くんは雷門に協力すれば妹がどうなるか、と脅されていたんだ」

「っ‼︎」

「俺たちは、奴らから妹さんを救い出す。そのために、是非君に協力をしてほしいんだ」

「…………何故?」

「すまないが、君のことを、いろいろ調べさせてもらったんだ。この件が解決すれば、君の保護者のことも、俺が何とかしよう」

「お断りします」

「え?」

「な、何でですか⁉︎」

 

鬼瓦さんと、滝野さんが同時に驚く。私は2人の反応など気にせず、サーターアンダギーを食べ……ようとしたが、袋が空になってることに気付いた。

 

「………………たい焼きか、サーターアンダギー」

「は?」

「それをたくさん買って下さるなら、協力しましょう」

「え……あ、ああ。わかった。金はこいつが出すから、好きなだけ食え」

「ちょっ! 酷いですよ鬼瓦さん‼︎」

「ありがとうございます」

「ああっ‼︎ 穂乃緒ちゃん酷いよ‼︎」

 

涙目で私に抗議する滝野さん。とても面白いわ。私はクスクスと笑いながら、滝野さんを見た。

 

「……豪炎寺さんの妹さんは、どこにいるんですか?」

「奴らの監視下にある。我々は、そこから彼女を奪還し、安全な場所に移動させる。彼女は、つい最近まで昏睡状態だったんだ。君には、彼女を安全な場所まで連れて行ってほしい。場所は、こちらでまた指定する」

「私は、妹さんを奴らの元から(さら)えばいいんですね」

「簡単に言えば、そういうことだ」

「分かりました」

 

簡単に答えたが、これは敵陣にたった1人で乗り込み、誘拐してこい、ということだ。自分1人で動くならまだしも、誰か足手まといを連れて逃げるなど、とても難しい。しかも、その相手は豪炎寺さんの妹。傷付けてはならない人だ。なおさら難しい。

だが、やらなくては。

 

「妹さんがこちらへ戻れば、豪炎寺さんも安心して雷門に戻れるのですね」

「ああ」

 

豪炎寺さんのため。雷門のため。

 

 

 

 

 

 

連絡機器を受け取った私は、妹さんがいる建物の付近に降り立った。耳に当てたインカムから、鬼瓦さんの声が聞こえてくる。

 

『それでは、始めるぞ。何かあったらすぐに連絡してくれ。こちらも対策は万全だ』

「了解」

 

短く切り、木々の隙間に隠れながら建物を目指す。

上等。やってやろうじゃないの。

私は赤い目を光らせ、歩き出した。



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57話 救出作戦終了

警備の男たちを叩きのめし、全員を地に伏せさせた私は、相手の通信機器を全て破壊してから、自分のインカムのボタンを押した。

 

「……潜入を開始します。どのルートを辿れば?」

『先に渡しておいた地図があるだろう。その赤い線を辿ってくれ。安全なルートを模索したが……何があるか分からない。気を付けろ』

「了解」

 

ブツン。機械的な遮断音が耳にまとわりつく。その感覚を振り切って、気絶した男のポケットからカードを抜き取り、扉の傍らにある機械にかざす。すると、やはり扉が開いた。

 

「感謝するわ。こんな優れものをくれてありがとう」

 

叩きのめした男たちを見下しながら、皮肉を込めて言った。

ポケットから地図を取り出し、現在地を確認する。今さっき入り口を征圧したから……次は右行って左行って……。

ブツブツ呟きながら歩いていると、誰かの足音が聞こえた。私は咄嗟に、天井に張り付いた。……誰よ。忍者みたいって言った奴。

2人の黒ローブが通り過ぎたのを見ながら、静かに廊下に着地する。そういえば、ここの連中はみんなあんな格好をしていた。分かりやすいったらありゃしない。

監視カメラに気を付けながら地図の通りに歩いて行くと、一つの部屋に辿り着いた。

 

「ここが……」

 

ここに、豪炎寺さんの妹さんがいるはずだ。息を呑み、カードをかざす。ドアが、ウィンと小さな音を立てて開く。その時間が、やけに長く感じた。

奥に、1人の女の子がベッドの上に座っていた。女の子は小さく(うずくま)り、怯えていた。ドアが開く音に、ビクッと肩を震わせ、こちらを見た。豪炎寺さんと同じ、少し鋭さが残る目。その目には、涙が溜まっていた。間違いない。彼女は、豪炎寺さんの妹だ。

 

「誰……?」

「怖がらないで下さい。私は、貴女のお兄さん……豪炎寺さんの…………友人です」

 

正確には友人と言えるかどうかも分からない。でも、信じてもらうには、こう話すしかない。私は心の中で、豪炎寺さんに謝った。

 

「お兄ちゃんの……?」

「貴女を助けに来ました。さあ、行きましょう。きっとお兄さんも、貴女をとても心配しています」

「……本当に? 本当にお兄ちゃんの友達なの?」

「はい」

 

早くしなければ。でも、妹さんの了承が得られないまま連れて行っては、それこそただの誘拐だ。

私は妹さんと目線を合わせて、しゃがみ込んだ。

 

「私は、青木穂乃緒といいます。貴女は?」

「夕香……。豪炎寺、夕香」

「夕香、ですね。夕香、貴女は今自分はどんな状況か、分かりますか?」

「……怖い人がたくさんいるの」

「そうですね。私は、そこから貴女を救い出すためにここに来ました」

「え……? お姉ちゃんは、大丈夫なの?」

「大丈夫です」

 

夕香さんの頬をそっと撫で、彼女の涙を拭う。そして、優しく微笑んだ。

 

「私、こう見えてとっても強いですから。貴女を必ずここから出させます。信じて下さい」

「……うんっ!」

 

夕香さんは私の首にしがみついてきた。私は彼女の背中を撫でながら、立ち上がった。

 

「で」

 

声をワントーン低くして、振り返る。

 

「いつまで見ているつもりですか?」

 

入り口に、大勢の黒ローブが立ち塞がっていた。

 

「まさかお前がここに忍び込んでいるとは思わなかったぞ、青木穂乃緒」

「ふーん。だから何?」

「豪炎寺夕香は返してもらう」

 

そう言って、黒ローブはニヤリと怪しく笑う。夕香さんにはなんとか隠したつもりだったが、抱きついた時に、見えてしまったのだろう。夕香さんはガタガタと震えて、私のジャージを握った。

 

「お姉、ちゃん……!」

「全然大丈夫よ」

 

夕香さんの頭を一撫でしてから、彼女を降ろし、隠れさせる。

夕香さんを追おうとする黒ローブの1人を、視線で咎めた。

 

「彼女を追うなら、私を潰してからになさい。それだけいるんだから、余裕でしょ?」

 

余裕なのは、私の方だった。相手は大人だといえ、戦いにおいては私の方が先輩だ。くいくい、と人差し指で挑発する。自然と、余裕の表情が浮かんだ。

 

「手加減なしでいいわ。かかってきなさい」

 

それを見た黒ローブが、次々と襲いかかってきた。一人一人、たまに2人まとめて叩き伏せる。1人に、飛び蹴りを放った。

 

「はあっ‼︎」

 

見事顔面に直撃し、吹っ飛ばされる。まあ、私がやったんだけど。飛び蹴りは空中からの攻撃であるため、体勢が少し無防備になる。その姿勢を崩すまいと力を込めようとしたその時。

 

バチィッ‼︎

 

「‼︎」

 

ドサッと床に倒れ込んだ。何があったか分からなかった。分かるのは、体が痺れて動けない、ということだけ。しかし、視線を上に投げると、その理由はすぐに分かった。

 

(スタンガン……‼︎)

 

しまった。このままでは、私もろとも夕香さんが捕らわれる……! 必ず救い出すって……約束したのに!

 

(くそっ……くそぉっ‼︎)

 

もう終わりだ。ギュッと目を瞑ったその時。

 

「ふんっ‼︎」

「うわあっ‼︎」

「な、何だ⁉︎」

「やあやあどうも、エイリア学園エージェントの皆さん」

 

聞き覚えのある声に、私は顔だけを上げた。そこには、あの滝野さんが立っていた。

 

「滝野……さん……」

「もう大丈夫だよ」

 

滝野さんが、私に微笑みかける。ホッとした私は、ポロポロと涙を零して泣き出した。

ふと、滝野さんの背後が暗くなる。ハッと見上げると、黒ローブが拳を振り上げていた。滝野さんを守らなければ、そう思った次の瞬間、黒ローブの体は吹っ飛ばされていた。滝野さんの振り向きざまに放った拳が、黒ローブにクリーンヒットしていたのだ。

 

「あ……え……?」

「へへっ、驚いた? あ、その前にここから逃げようか」

 

滝野さんは私を抱え、走り出した。滝野さんと一緒に来た人に、夕香さんは抱えられていた。よかった、夕香さんも無事で……。

緊張が抜け、私はゆっくりと瞼を閉じた。



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58話 誰かを守れる力

夕香さんを無事に救い出し、東京へ送り届けた私たちは、次に沖縄に身を隠している豪炎寺さんの元へ向かっていた。

 

「豪炎寺さん……本当に、沖縄にいらしたのですね」

「そうだよ。円堂くんたちと離れるためにね。妹さんが人質にとられて、雷門から離れた豪炎寺くんは、ずっと君たちの元に帰りたがっていたよ」

 

滝野さんが、微笑んで私を見下ろす。私は彼と、目が合わせられないでいた。

悔しい。私はあの時、何も出来なかった。結局、夕香さんを救ったのは滝野さん。私じゃない。

助けたかった。この手で、誰かを。壊すだけじゃない。誰かを守りたかった。

自然と、ジャージを握りしめてしまう。滝野さんに、この思いがバレてしまう。

 

「ねえ、穂乃緒ちゃん」

「っ……何ですか?」

「君、今までどんな戦い方をしてきたの?」

「え……?」

 

戦い方……? どう答えたらいいのか分からなかった私は、黙ってしまった。問うてきた滝野さんは、ジッと私を見つめながら続ける。

 

「君の戦い方は、ただ敵を殲滅し破壊するだけのものだ。誰かを守るためには、それではいけない。常に守るべき存在のことを考え、自分も相手も無事で逃げられるには、どうすればいいかを考えて動かなければならない」

「っ…………何が言いたい」

「……簡潔に言おう。今の君の戦い方では、誰も守れない‼︎」

「‼︎‼︎」

 

私の中で、何かが音を立てて崩れた。誰も守れない。私では誰も。

滝野さんは、私を哀れむような目で見つめる。その視線に腹が立って、睨んだ。

 

「……何だと」

「君が今まで、どんな気持ちで人生を送ってきたのか、俺には分からない。何故、そんなに悲しい目で睨むのかも」

「……‼︎」

 

何なんだ、こいつは。分かりきったように、口を動かす。お前に私の何が分かるというんだ。私の、この深い恐怖と絶望が、お前に分かるというのか⁉︎

滝野さんはさらに視線を鋭くする私に、ポツリと呟いた。

 

「……俺も、そうだったよ」

「え……⁉︎」

 

意外な言葉に、驚愕の表情を浮かべる私を見ないで、滝野さんは続ける。

 

「俺もね、とある大きなマフィアの一員だった。でも、鬼瓦さんが俺を逮捕してくれたおかげで、今の僕があるんだ」

「はっはっはっ。逮捕してくれる、なんて……相変わらず面白いことを言うな。お前は」

「それくらい、俺は鬼瓦さんに感謝してるんです! 貴方が俺を逮捕してくれなかったら、今頃俺はまだ、あんなことを続けていたでしょう」

 

滝野さんの発言に笑う鬼瓦さん。そして、感謝を述べる滝野さん。何があったのか私にはよくわからないが、きっと2人の間には強い絆があるのだろう。それは、感じられた。

私にも、誰かを守る力を持てるだろうか。円堂さんや、雷門の皆さん。彼らが大切に思う全てを、この手で守れるだろうか。

 

「あっ、そろそろ着くよ! 穂乃緒ちゃん!」

 

滝野さんが、前の景色を見て、私に声をかける。

今の私には、誰かを守れる力はない。

なら、これから身につけていく。大切なものを守れる力を。



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59話 vsイプシロン改・吹雪の喪失

「ここからは、俺たち警察に任せてくれ。必ず、豪炎寺くんを自由にさせてみせる!」

「……お願いします」

 

そう言って、サムズアップをして笑う滝野さんたちを見送り、私は回れ右して円堂さんたちの元へと走っていた。鬼道さんからの連絡で、大海原中にイプシロン改がやってきたと聞いた。

街に並ぶ屋根をトントンと飛び回り、大海原中に急ぐ。どうか、間に合って……!

 

 

 

 

 

 

ザザッ‼︎

 

「あっ、青木さん‼︎」

「青木! 戻ったのか!」

 

木野さん、鬼道さんの声を聞き流し、大海原中のグラウンドに立つ。顎に滴る汗を手の甲で拭い、荒い呼吸を整える私に、円堂さんが駆け寄ってきた。

 

「青木、今までどこに行ってたんだ? ていうか、連絡が取れなくて困ってたんだぞ」

「……すみませんでした。円堂さん」

 

そうだった。私は、連絡先をこの雷門イレブンの誰にも教えていない。知ってるはずがない。私は小さく謝ることしかできなかった。瞳子監督も、「一応私と連絡先を交換してくれないかしら?」と名乗り出る程だ。……なんか申し訳ないわ。

 

「それより……」

 

チラ、とイプシロン改を見る。どこがどう違うのか見た目だけではわからないが、雰囲気がまったく違う。大阪で戦ったイプシロンとは、さらにパワーアップしたようだ。

 

(今度こそ、決着をつける……!)

 

これで、お前たちとの戦いを終わらせるんだ。お前たちよりも上の存在を知ったからには、もうお前たちには負けられない!

私はギッと赤い目を光らせ、彼らを睨んだ。

 

 

 

 

 

前回は選手以外誰もいなかったが、今回は大勢の人が大海原中グラウンドの周囲の席に、たくさん入った。大勢が見守る中、前半開始のホイッスルが鳴り響いた。

私はベンチで、みんなの戦いを見守った。やはり、自然と目にとまるのは……吹雪さんだ。吹雪さんは、弟のアツヤさんの人格と自分の人格との間で揺らいでいる。……デザームは、吹雪さんに執着していた。きっと……この試合でも、何かしてくるに違いない! 私はジッと、吹雪さんを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

案の定、デザームは吹雪さんを挑発してきた。吹雪さんはその挑発に乗り、エターナルブリザードを放つ。しかし、やはり止められてしまう。ドリルスマッシャーからワームホール、最終的には片手で止められてしまった。ダメだ! このままじゃ、吹雪さんが……!

そして、ついにデザームは吹雪さんに向ける目を冷たくした。

 

「……楽しみにしていたが、この程度とはな。お前はもう、必要ない」

 

この言葉を境に、吹雪さんは固まったように立ち尽くした。

 

「……吹雪さん? 吹雪さん⁉︎」

 

何度も、名前を呼んでみる。しかし、彼は動かない。そして、ゆっくりと膝が崩れ、尻餅をつくように倒れてしまった。

 

「吹雪さん‼︎」

「吹雪‼︎」

 

私は一目散に吹雪さんに駆け寄り、円堂さんたちも吹雪さんの元に集まる。私は彼の肩を掴んで、揺さぶる。

 

「吹雪さん……吹雪さん! しっかりして下さい! 吹雪さん! 吹雪さん‼︎」

 

何度呼んでも、反応を示さない。まるで死んだようだ。いや、これは……完全に吹雪さんの心が死んでいる。アツヤさんと士郎さんの人格のバランスが、ついに崩れてしまった……。

悔しさに、思わず顔を歪める。自然と、彼の肩を掴む手に、力が込もる。彼を、救えなかった。こんなになるまで……彼はムリをし続けたんだわ。

 

「吹雪さん……後は任せて下さい。貴方の分まで……戦い抜いてみせます」

 

私は吹雪さんを抱え上げ、戦意喪失した吹雪さんをベンチに座らせた。そして、瞳子監督を見上げる。瞳子監督も、私を見下ろして頷いた。

 

「選手交代よ! 青木さん、行けるわね」

「……上等」

 

私は吹雪さんと交代してFWに入り、浦部さんの隣に立った。

 

「行くで、青木!」

「はい!」

 

試合再開のホイッスルが鳴り、私が浦部さんへボールを流す。ドリブルで浦部さんが上がるが、すり抜けた時に相手に奪われてしまった。

 

「……っ、くそっ‼︎」

 

吹雪さんがいなくなったことで、今の雷門には決定打が完全になくなった。このままじゃ、負ける……! こんな時、こんな時に……高いボールのキープ力を持つ、エースストライカーがいれば……! 私の頭に、ふと彼の顔が浮かぶ。

豪炎寺さん……!

 

 

 

 

守備に徹するしかない私たちは、どんどんと体力を奪われていった。イプシロン改の強烈な絶え間ない攻撃に、防戦一方だ。このままじゃ……‼︎

 

「やあっ‼︎」

 

イプシロン改のパスをカットして、ボールをキープする。私が動いたのを見た鬼道さんが、攻撃を仕掛けるため、号令を放った。その声に、私と鬼道さん、浦部さん、一之瀬さんが、相手陣営に走り出す。

ボールを奪おうと、敵DFが阻んできた。

 

「ここで取られるわけにはいかない! ソニックアクセル‼︎」

 

必殺技で相手を抜き去り、前線を走る浦部さんと財前さんに向かってパスを出した。2人は飛び上がり、手を繋いだ。

 

「「バタフライドリーム‼︎」」

「ワームホール‼︎」

 

シュートをあっさりと止めたデザームは、今度は鬼道さんに向かって、ボールを投げてきた。鬼道さんはすかさず上空にいた一之瀬さんにパスを出し、さらにそれを一之瀬さんが返した。

 

「「ツインブースト‼︎」」

「ワームホール‼︎」

 

これも、デザームによって軽々と止められてしまう。そして、デザームは一之瀬さんにボールを投げた。一之瀬さんは土門さんと円堂さんに声をかけ、2人を呼んだ。

 

「「「ザ・フェニックス‼︎」」」

「ワームホール‼︎」

 

翼を広げた不死鳥も、吸い込まれて止められてしまった。雷門のシュート技が、まったく通用しない……! 愕然とデザームを見つめる私の赤い目と、デザームの赤い目が交差した。

 

「お前が、青木穂乃緒だな。今度は、お前がシュートを打て‼︎」

「⁉︎」

 

私は、デザームに投げつけられたボールを足元に落ち着かせ、キッとデザームを睨む。こいつ……一体何を考えているの⁉︎ この試合だって、あのザ・ジェネシスの指示じゃないっていうじゃない! 一体……何を考えているの? とにかく、ここは何としてでも点を取らねば。

 

「っ……‼︎ 分かりました。お望み通り、打って差し上げますよ‼︎」

 

ダン‼︎

 

強く地面を足で叩きつけ、雄叫びを上げる。絶対に、点を取る‼︎ 強い想いと共に、私はボールを蹴りつけた。

 

「ハウリングスラッシュ‼︎」

 

ズバッ‼︎

 

切り裂くような音を率いて、ゴールへ一直線に飛ぶ。デザームは顔色一つ変えずに必殺技を発動した。

 

「ワームホール‼︎ ……っ⁉︎」

 

ゴシャァッ‼︎

 

強く、地面を破壊するかのような地響きが体を揺らす。シュートは止められてしまったものの、地面にかなりめり込んでいた。

 

「ほう……これはまだまだ少し、楽しめそうだな」

 

ニヤリとほくそ笑むデザームに、鋭い視線を送る。

 

「何……?」

「よし、決まったぞ。今度はお前だ! 私を楽しませろ、青木穂乃緒!」

「貴方ッ……‼︎ そうやって、吹雪さんも壊したのか‼︎」

 

許さない。吹雪さんの仇……必ず取ってみせる! 見ていて下さい。吹雪さん。私はチラリとベンチで項垂れる吹雪さんを見つめた。



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60話 vsイプシロン改2・青木の焦燥

猛攻してくるイプシロン改。その雨のようなシュートの連続を、正義の鉄拳で凌いでいる円堂さんたちの負担を減らすために、自身のスピードでボールを雷門陣から遠ざける。

 

「ハウリングスラッシュ‼︎」

「ワームホール‼︎」

 

ドオンッ!

 

また地面にボールがめり込み、シュートが封じられる。なかなか得点できず、私の苛立ちは募っていた。

 

「くそっ……!」

「期待していたが……この程度とはな。まだ、ドリルスマッシャーを出すまでもない」

 

デザームはキャッチしたボールを、ポイとラインの外に放り出した。

 

「何⁉︎ 何のつもりだ、貴様‼︎」

「審判。FWのゼルと交代する。ポジションチェンジだ」

 

そう言うと、デザームは胸のボタンを押して、ユニフォームを変えた。私は数歩下がって、同じく驚愕の表情を浮かべている鬼道さんに問うた。

 

「鬼道さん……GKとFWが交代なんて……」

「ユニフォームを交換すれば、ルール上問題は無い……だが、実際にそれを行うことは……滅多に無い」

「あいつ、一体何考えてんだ?」

 

財前さんも、私と並んでデザームを睨み据える。こちらへ歩み寄ってきたデザームは、不敵な笑みを浮かべて円堂さんの前に立った。

 

「あの男がいない今、興味はお前だ」

「俺?」

「宣言する。正義の鉄拳を破るのは、この私だ!」

 

雷門イレブン全員に、衝撃が走った。冗談じゃない。何としても、守りきる。私はジッと、デザームを睨みつけた。

 

 

 

 

 

試合が再開された。雷門の守備はあっという間に突破され、デザームにボールが渡ってしまった。なんとか防ごうとして追うものの、速くてあと少しで追いつけない。

 

「くそっ……!」

 

こうしてる間にも、デザームはどんどんとゴールに迫っていく。そして、ついに、ディフェンスラインを突破され、円堂さんと一対一になった。

 

「グングニル‼︎」

 

見たことのない、必殺技。しかも、他のイプシロン改メンバーの必殺技とは桁違いのパワーだ。円堂さんは、片足を高々と揚げ、負けじと必殺技を放った。

 

「正義の鉄拳‼︎ うぉおぉおおおっ‼︎」

 

グングニルの威力に押されかけるも、気合いで押し返そうとする円堂さん。しかし、その努力もむなしく、正義の鉄拳のオーラは消え、シュートはゴールに突き刺さった。

私たちは、愕然とした。あの、究極奥義と呼ばれた正義の鉄拳が、通用しない。その動揺は、円堂さんも同じようだった。

 

 

ここで、前半が終了。私たちは、重い足取りでベンチへ戻った。

 

「っ……‼︎」

 

何もできなかった。豪炎寺さんを守ることも、吹雪さんを救うことも、円堂さんたちの力になることも。私には……誰かを守れる力が、なさすぎる。

悔しさに、ボトルを握りしめた。もちろん、壊さない程度に。

ふと、円堂さんを見やると、ジッと大介さんのノートを見ていた。究極奥義が破られたもの……きっと、とても動揺してるはず。

そして、吹雪さんに視線を移す。吹雪さんは相変わらず項垂れていた。あれから、何の反応も示さない。あんなになるまで……吹雪さんは、自分を追い詰めていた。私に自分の過去を話してくれた時も……とても辛そうで、誰かに助けてほしくて、でも誰にも言えなくて。彼の目には、光が宿っていなかった。

チームのムードが暗くなっていく中、綱海さんが、そのムードを破壊するように声を上げた。

 

「なーに! 正義の鉄拳が通用しねぇなら、その分俺たちが頑張ればいいだけだ! だろ⁉︎」

「そ、そうッスよ! 俺、頑張るッス!」

 

壁山さんが綱海さんに同調すれば、財前さんも力強く頷く。しかし、一之瀬さんは俯きがちに言った。

 

「でも、点を取らなければ、勝てない……」

 

一之瀬さんの暗い声を聞き、私はまた吹雪さんに視線を移す。私が、救いたかった。なのに、私では救えなかった。

円堂さんたちも、豪炎寺さんも、吹雪さんも。悔しくて、悔しくて、悔しくて。

 

「…………私……何も、できなかった……」

 

ポツリと、誰も聞こえないほど小さい声で呟く。もちろん、これは誰にも聞かれることなく、大海原中の潮風に掻き消された。

鬼道さんが、この空気を変えるように私たちを見渡して言った。

 

「チャンスがあれば、積極的にシュートを狙っていこう。今、GKをしているゼルが、デザームより劣るとすれば……」

 

確かに、ゼルのGKとしての実力はまだわからない。でももし、デザームより上だったら? そんなマイナスなことを、頭の片隅で考えてしまう。

しかし、今そんなことをくよくよ考えても仕方ない。私は鬼道さんの言葉に同調し、立ち上がった。

 

「鬼道さんの言う通りです。まだ、きっとチャンスはあります。必ず点を取りましょう。そして、勝つんです!」

 

こんなこと、みんなの前で初めて言った。みんなは私を見上げて、力強く頷いてくれる。まだだ。まだ、私たちは諦めていない。必ず、勝ってみせる! 私は一度深く呼吸をし、フィールドへ戻っていった。



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61話 vsイプシロン改3・復活の爆炎

後半開始早々、デザームは再びシュートを放ってきた。財前さんと壁山さんのダブルブロックも虚しく、円堂さんの正義の鉄拳も破れてしまう。このまま得点か、誰もがそう思ったその時。

 

「うおおおおおっ‼︎」

「⁉︎ 綱海さん‼︎」

 

綱海さんがゴールポストとクロスバーを利用して、シュートを腹で受けた。なんとかシュートを防ぎきり、綱海さんはフィールドに倒れ込んだ。私は綱海さんの元に駆け寄り、体を起こさせた。

 

「綱海さん、大丈夫ですか⁉︎」

「ああ……何てことねえよ。みんなで守って……勝とうぜ!」

「……はいっ」

 

力強く頷き、綱海さんを支えて立ち上がらせる。

……しかし、今のままでは状況は危うい。今の円堂さんには、グングニルを防ぐ術がない。それに、雷門には……エースストライカーがいない。今のこの空気を打開するには、どんな状況でも点を決められるエースストライカーが必要なのに……!

 

(豪炎寺さん……)

 

ふと、胸中で彼の名前を呼ぶ。お願い。鬼瓦さん、滝野さん……どうか、間に合って……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、円堂さんはグングニルの強襲に遭い、ゴール前に倒れ伏してしまう。円堂さんの負担を減らそうと、奮闘する私たちのディフェンスも虚しく、デザームに攻め込まれてしまう。

後半、試合の点差は相変わらず開いたまま。みんなの体力がジリジリと削れていく。

 

悔しい……。私では……何もできない。仲間を守れない。救えない。力となり、支えることもできない……! 悔しい……悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい‼︎

 

ザッ‼︎

 

風に髪を靡かせ、私はデザームの前に立ち塞がった。そして、高々と右足を振り上げた。

 

「⁉︎ 何のつもりだ!」

「もう……こんな想いは、したくない‼︎」

 

私は振り上げた足を、思いきりフィールドに叩きつけた。

 

「デッド……スパイクッ‼︎」

 

ダンッ‼︎‼︎

ビキビキビキィ‼︎

 

地面に足がめり込み、そこから触手のようにトゲが伸びて、デザームに襲いかかる。容赦なくデザームを突き刺し、ボールを奪うことに成功した。これで、気を緩めるわけにはいかない。加速して、イプシロン改陣内に攻め込んだ。阻んでくるイプシロン改の選手を抜き去り、さらにアクセルをかける。

 

「どけぇええ‼︎ ソニックアクセルッ‼︎」

 

ズビュウッ‼︎

 

風を孕み、突き進む先に立つ敵を吹き飛ばした。しかし、また別の相手が現れた。

 

「ヘビーベイビー‼︎」

「何⁉︎」

 

ボールが突然重くなり、何度蹴っても動かない。

 

「くそ……くそっ‼︎」

 

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ。

何かに呪われたように、ボールを蹴り続ける。やらなきゃ。その強い使命感だけが、私を突き動かしていた。

 

「この程度で……っやられるかぁあぁああ‼︎」

 

ガッツン‼︎

 

「ああああああああああああああ‼︎」

 

ドッガァン!

 

狂気に駆られた絶叫を上げた。ボールに本気で蹴り込み、無理やり動かした。そして、そのまま、ドリブルで駆け上がる。キーパーと一対一に持ち込んだ。

 

「ハウリングスラッシュ‼︎」

「ワームホール……ぐわっ‼︎」

 

決まった! と思った次の瞬間。

 

ガンッ!

 

シュートはゴールポストを歪ませ、ラインの外へ出てしまった。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ……」

 

ガクガクと足を震わせ、髪を振り乱し、赤い目だけは爛々(らんらん)と輝かせた私は、肩を弾ませてうつ伏せに倒れ込んだ。

少し……久々に飛ばし過ぎた。限界を超える力を使うと、いつもこうなる。ドク、ドック、ドックンと不規則な心拍が響く。

すぐ近くにデザームが歩み寄ってきて、私を見下ろしていた。顔を少し上げ、横目にデザームを見上げる。

 

「これほどの力を隠し持っていたとは……なかなかだな。しかし、それがもう一度できないのなら私が動くまでもないな」

「はっ……はっ……」

 

何も言い返せないほど、私の体力は限界だった。手をついて体を起こそうとしても、手に力が入らない。

私では、ダメだった。どうすればいい……? 自問自答を繰り返していると、ふと誰かの気配を感じた。

 

見てみると、フードを被った少年が、フィールドに現れていた。誰……? フードを被っているため、顔が見えない。少年はフードを自ら脱ぐ。その顔を見た時、私たちは驚愕の表情を浮かべた。

 

「なっ……!」

 

彼の名を呼ぶ声が聞こえ、私も少し首を上げて顔を上げ、少年を食い入るように見つめる。

 

「……待たせたな、円堂!」

 

そう。現れたのは、私たちがずっと待ち続けたエースストライカーーーーー豪炎寺さんだった。

 

「いつもお前は遅いんだよ!」

 

そう言った円堂さんは、心から嬉しそうに微笑んだ。

 

「っ……豪炎寺さん……‼︎」

 

震える体を動かし、立ち上がる。しかし、すぐに力が抜け、倒れかける。そこを、豪炎寺さんに抱きとめられた。

 

「後は任せろ、青木」

 

その声を最後に、私は意識を手放した。



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62話 炎の闇

円堂side

試合が終わり、結果は豪炎寺の爆熱ストームのおかげで、俺たちの逆転勝利に終わった。

俺にはまだ、デザームに伝えることがある。俺は膝をついて、拳をフィールドに打ち付けるデザームの元に歩み寄り、手を差し伸べた。

 

「地球では、試合が終われば敵も味方もない。お前たちのしてることは許せないけど……サッカーの楽しさをお前たちにもわかってほしいんだ!」

 

これは、デザームたちにも言いたかったことだけど……いつか青木にも言いたいことだった。

サッカーは、戦いのための道具じゃない。お互い全力でぶつかりあって、そこから生まれる何かを掴む。それが、サッカーだと俺は思うんだ。

デザームは、差し出した俺の手を呆然と見ていたが、ふと微笑みを浮かべ、ゆっくりと俺の手を握ろうと手を伸ばした。

 

「次は、必ず勝つ」

 

そうして、俺たちが握手を交わそうとしたその時。

 

カッ‼︎

 

突然、青い光がフィールドを支配した。あまりの眩さに、思わず目を伏せる。光が収まってきて、光の元に視線を投げると、そこには青いユニフォームを(まと)った少年が腕を組んで立っていた。デザームがその少年を見て、驚愕の表情を見せた。

 

「ガゼル様⁉︎」

 

ガゼル、と呼ばれた少年が、俺たちに目を向ける。

 

「……私はマスターランクチーム、ダイヤモンドダストを率いるガゼル」

 

ガゼル。また新しい敵だ。エイリア学園には、まだ他にもチームがあったのか……! ガゼルが俺たちに向けていたその視線が、ふと外れた。その視線の先には……ベンチに横たわり、眠っている青木がいた。

 

「‼︎」

「…………なるほど。彼女が青木穂乃緒か」

 

ガゼルが青木を見、ニヤリとほくそ笑む。……まただ。何であいつらは青木を狙うんだ? 青木に、何か秘密があるのか? エイリア学園のやつらと……何か、関わりがあるのか?

ガゼルが俺たちの方を向き、淡々とした表情で、口を開いた。

 

「……君が円堂か? ……新しい練習相手が見つかった。今回の負けで、イプシロンは完全に用済みだ」

 

ガゼルが右手を上げ、デザームに指先を向けていた。黒いボールが、俺たちから少し離れたデザームたちの元へ飛んでいき……。

 

「うわっ……!」

 

再び青い光が放たれ、そして次の瞬間、光と共にデザームたちは消えていた。

 

「そんな……! くっ!」

「……円堂守。君と戦える日を楽しみにしているよ。……そこの彼女にも伝えておいてくれ。君は、必ず私のモノにしてみせる、と……」

 

ガゼルがいるはずのそこには、既に奴は消えていた。後味の悪い中、俺は青木を振り返った。何も知らない青木は、静かに寝息を立てている。

……バーンも、青木を狙ってるみたいだった。ヒロトも。何で……あいつらは青木を狙うんだろう。確かに、青木はサッカー初心者にしてはかなり上手い方だと思うし、力は……普通の女の子とは桁違いに強いけど……。それだけで……青木が狙われる理由になるのだろうか? 一体、あいつらの目的は何なんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青木side

「……? ぁ……ん」

 

目が覚めた私は、少し怠い体をゆっくりと起こした。

 

「青木!」

「良かった、目が覚めたんですね!」

 

すぐに、鬼道さんと音無さんが私の元に駆け寄ってくる。私は今の自分の状況を確認した。どうやらベンチの上に横になっていたらしい。

 

「あの……試合は?」

「勝ちましたよ! でも、また新しいマスターランクチームが現れて……」

「……そうですか」

 

新しい……つまり、バーンやグランの他に、まだチームがあったということか。

 

「青木、もう大丈夫か?」

「はい。ご迷惑をおかけしました」

 

私はベンチから降り、雷門イレブンのみんなに歓迎されていた豪炎寺さんの元へ向かった。

 

「……豪炎寺さん、お久しぶりです」

「青木…………ありがとう」

「え?」

 

豪炎寺さんは私に頭を下げていた。それに、みんなが驚く。そして、豪炎寺さんは次に瞳子監督に頭を下げた。

 

「監督、ありがとうございました。あの時、監督が行かせてくれなかったら……俺はあいつらの仲間に引き込まれていたかもしれません」

「さあ、何のことかしら」

「あいつらって……?」

 

一之瀬さんが、訳がわからないというように、みんなを見渡す。その疑問に答えたのは、第三者だった。

 

「そいつは俺が説明しよう!」

「刑事さん! ……と、誰だ?」

 

現れたのは、鬼瓦さんと滝野さん、土方さんだった。そうか。みんなは滝野さんのことを知らなかったか……。

 

「初めまして、雷門のみんな。俺は滝野真月。鬼瓦さんの部下だよ」

「刑事さんの……。あ、あの、さっきのって、一体どういう……?」

 

円堂さんが、話を元に戻す。それを、鬼瓦さんが説明した。

 

「豪炎寺が姿を消したのには、訳がある。……妹さんが、人質状態になっていたんだ」

「えっ……夕香ちゃんが⁉︎」

「エイリア学園に賛同する者と自称する奴らが、妹さんを利用して……仲間になるように脅してきたんだ」

「そうだったのか……でも、一言言ってくれれば……!」

「言えなかったんだよ。……口止めされてたんだ。もし話せば、妹さんがどうなるか……ってな」

 

そう付け加えた鬼瓦さん。そして、さらに続ける。

 

「だから我々は、チャンスを待つことにした。時が来るまで……豪炎寺をそいつに預けてな」

「……土方に……⁉︎」

「おやっさんってきたら酷いんだぜ? 人を隠すには人の中とか言ってさ! まあ、ウチは家族の1人や2人増えたってどうってことないけどな」

「我々はまず、妹さんの身辺を探った。敵の実態が分からんし、人質のことがあったんで、慎重にな。調査にはかなり時間がかかってしまったが、ようやく妹さんの安全が確保できた。……それに手を貸してもらったんだ。青木にな」

「え⁉︎」

 

円堂さんの視線が、私に向けられる。私は目を伏せ、溜息をついた。

 

「……私は、何もしてません。いや、できませんでした」

「違うよ、穂乃緒ちゃん。君が妹さんを保護してくれたから、俺たちも突入できたんだ」

 

君のおかげだよ。そう言って笑う滝野さんに、私は俯く他なかった。

円堂さんと豪炎寺さんは、鬼瓦さんや土方さんに感謝を述べていた。そして、練習を始めようとしている雷門イレブンの輪から少し離れ、滝野さんを見上げた。

 

「……滝野さん。約束、お忘れなく」

「ゔっ……わ、分かってるよ……」

「ハッハッハッ。まあ、取り敢えずは一件落着だな」

 

鬼瓦さんは豪快に笑いながら、走っていく円堂さんたちの背中を見た。そして、私を見下ろす。

 

「さて、今度は君の番だ。青木」

「…………」

「俺や滝野の独自捜査で、様々な疑惑が浮かび上がっているんだが……まだ、逮捕状を貰うにはあと1歩足りない。そこで、君の証言が欲しいんだ」

「私の?」

「ああ。実際の被害者の証言があれば、被害届として堂々と奴らを捜査できる。証拠は、奴らの家にあるはずなんだ」

「……そうですね。確か、私を刺すのに使っている包丁があります」

「それに残っている血痕か何かがあれば、鑑定で確定するはずなんだ」

「……分かりました。話しましょう」

 

……これで、彼らがいなくなってくれれば。私の心は、少しでも軽くなってくれるのだろうか。……それとも、この闇は、永遠に晴れることはないのだろうか……?



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青木さんと作者のトーク【おつきあいください】

青木「一体何ですかこれは」

作者「いや〜……ホラ、青き炎ってまったくこういうの書いてないじゃないですか。だから、たまには息抜きでどうかな〜なーんて……」

青木「こんなことしてる暇があったらとっとと更新しなさいよ……」

作者「……さーせん」

 

作者「えっとですね、青木さん。今回は青木さんについて、いろいろ教えて頂きたいなと思いまして」

青木「はぁ……ま、変な内容でなければ構いませんよ」

作者「ありがとうございます!」

青木「ただし、私の気に食わない質問をした場合は、問答無用で殴るから」

作者「だ、代償が……」

 

作者「えーと、ではまず、青木さんの誕生日っていつですか?」

青木「紅葉さんにも同じこと聞いたらしいわね。そして私にも同じようなことをするのね」

作者「まあ、そんな感じです」

青木「誕生日……確か、12月7日です」

作者「12月生まれなんですか⁉︎ え、なんか意外……」

青木「質問はそれだけ?」

作者「あ、いえ、まだあります。えー、血液型は?」

青木「…………えっと、B型……かしら」

作者「あの……先ほどから、何か曖昧というか……」

青木「ええ。だってそんなの気にしないで生きてきたから。知る由もないわ」

作者「あ……そ、そうでしたね……。し、失礼しました」

青木「……別に構わないわ」

作者「ありがとうございます。では、次に、好きな食べ物……まあ、これはお察しの方も多いと思われますが」

青木「愚問ね。たい焼きに決まってるじゃない」

作者「何故、たい焼きが好きなんですか?」

青木「……まだ、私が幼い頃、父がよく買ってきて食べさせてくれたの。その時は、地下に閉じ込められていたけど……食べ物は、欠かさず運んできてくれたわ」

作者「そ、そうだったんですか……。うう、また過去の傷を抉ってしまったような……」

青木「いちいち気にしなくていいわ。早く次いきなさい」

作者「了解です」

 

作者「えー、次の質問は、円堂たちについてです。青木さんには、事前にアンケートをとってもらって、信頼度とその人に対して思ってることを教えて頂きたいと思います。それでは、いきましょう。まずは……円堂から。おっ、さすが円堂。信頼度100%です」

青木「まあ、円堂さんにはたくさん救われましたから。こんな私を、仲間として必要として下さって……本当に感謝しています」

作者「その円堂に次いで、信頼度が高いのは……って、え⁉︎ 宮坂⁉︎ しかもこちらも100%⁉︎ 次いでどころの話じゃない⁉︎」

青木「そりゃそうですよ。了には大変お世話になってます。それに、了は苛めると本当に可愛いですからね」

作者「本編ではあまり出ていないので、なかなか宮坂は登場しませんよね……。寂しくないんですか?」

青木「私が? そんなわけないでしょう。(むし)ろ、寂しがるのは了の方よ。毎晩連絡が来るもの」

作者「え⁉︎ 毎晩⁉︎ ちょ、それ初耳ですよ‼︎」

青木「まぁ……大体の内容は私が怪我をしてないかとか、無理をしないでといった心配の声だけど」

作者「宮坂は、青木さんのことが大好きなんですね〜。あはは。可愛い」

青木「? そうなのかしら……」

作者「あ、えと、じゃあ次に進みましょうか。青木さんに心惹かれていると噂される、鬼道、風丸、吹雪のことについてはどう思われてますか?」

青木「風丸さんは……急にいなくなってしまって、少し寂しいとは思いますね。せめて、お別れの言葉だけでも言いたかったけど……。でも、私のことをいつも気にかけて下さったみたいで。この戦いが終わったら、風丸さんにお礼を言いたいと思っています」

作者「そうですね……言えるといいですね! じゃあ、鬼道は?」

青木「鬼道さんは、風丸さん同様私のことを気にかけて下さってます。少し、過保護ではないかと思ってしまうことがありますが……でも、鬼道さんが庇ってくれたりすると、ホッとします」

作者「ふむふむなるほど……。では、吹雪は?」

青木「吹雪さんは、私が初めて助けて差し上げたいと思った方です。あんなに崩れそうなのに、笑顔で隠し通して……今では、それができなくなってしまったけど……。でも、私は彼に寄り添ってあげたいのです。たとえ彼が自分を失ってしまっても、私は、吹雪士郎の隣にいる、と……」

作者「優しい……優しいですね、青木さん!」

青木「私がこんなに変われたのも、円堂さんたちのおかげです」

作者「よかったですね、青木さん! あ、そうだ! ヒロトのことについてはどう思われますか?」

青木「………………彼とは、仲良くはなれそうです。でも、今彼はエイリア学園……つまり、私たちの敵です。敵でなければ、きっといい友達になれたのに……」

作者(あー、あくまで友達ラインか……。この分じゃ、おそらく風丸も鬼道も吹雪も同じラインかな。宮坂はちょっと違うみたいだけど……うん、みんなドンマイ)

 

作者「では、最後に一言お願いします‼︎」

青木「シリアスながらも、皆さんに楽しんで頂けるようなものになりたいと思ってます。これからもどうぞよろしくお願いします。あ、あと私に虐められたい方はこのまま残って下さい。思う存分食べてあげます」

作者「いや、ちょっと待って! 最後の最後に何言ってんですか‼︎ さらりとドS発言すな! イヤな予感しかしないわ‼︎」

青木「チッ……」

作者「舌打ちしないでください‼︎ まったくもう……これからもよろしくお願いします!」




シリアスばっか書いてたので限界がきました。もう無理。ギブです。あ、次回からは本編に戻ります。ご安心ください。
これからも何卒よろしくお願いします。


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63話 ゆっくり行けばいいのです

陽はまだ落ちず、雷門イレブンは練習を開始していた。私は鬼瓦さんたちとは別れたものの、練習にも入らないまま静かに彼らを見守っていた。

私の証言は、役に立ったのだろうか。いや……私は、本当に奴らからの解放を望んでいたのだろうか。私が自由になるなんて、ただのワガママなのではないのだろうか? 自分の心が、全然分からない。……少し、怖い。

……いや、私よりも、もっと怖い思いをしているのは……吹雪さんだろう。彼に目を向けてみる。吹雪さんは私と同様、ピッチの外でフェンスに寄りかかり、空を見上げていた。私は黙って彼の隣に近付き、彼と同じようにフェンスに寄りかかった。気配を消さずに近付いたため、吹雪さんはあっさりと私に気付いた。

 

「穂乃緒ちゃん……」

「…………」

 

先のイプシロン戦が、まだ彼に後ろめたさを感じさせているのだろう。吹雪さんは申し訳なさそうに俯いた。私は何も言えなかった。ただ、小さく。

 

「……すみませんでした」

 

こう謝る他なかった。

吹雪さんも、黙ったまま何も言わない。私たちの間に、ぎこちない空気が流れる。彼とは、ずっと昔に会ったはずなのに。長い間一緒にいたはずなのに、何故こうも上手く話せないのか。

それでも、何か話さなくては。私の口は、不思議と動いていた。

 

「貴方の苦しみを……聞いていたのに。私は、貴方に手を差し伸べることが、出来なかった。私には……やはり、誰かを救える力がないのでしょうか……」

「……穂乃緒ちゃん」

「滝野さんにも言われたんです。私の戦い方は、誰かを傷付け、破壊するだけのものだと。……それなら、そんな戦い方しか、私には出来ないのなら……もう、私はキャラバンを降りよう……」

「‼︎」

「そう、考えていました」

 

私の発言に、吹雪さんが目を見開く。私は彼に構わず続けた。

 

「でも……円堂さんたちは、きっとそんなの関係ないって言ってくれそうで……。それが、嬉しいはずなのに……何だか、私には守れるものが少ないんだ。そう、言われてるような気がしてならないんです。こんなの、おかしいって分かってるんですけど……」

「………………」

「……すみませんね。こんな話をしてしまって。もうちょっと、貴方を少しでも助けられるようなことが言いたかったんですけど……」

「ううん……。いいんだよ。ありがとう、穂乃緒ちゃん」

「おーい‼︎ 青木ー! 吹雪ー‼︎」

 

大声で名前を呼ばれる。円堂さんが、こっちを見て大きく手を振っていた。私は吹雪さんを一目見、小さく笑いかけた。吹雪さんはまた大きく目を見開いて私を見つめていたけれど、しばらくすると笑い返してくれた。そんな小さなやり取りをしてから、私と吹雪さんはピッチに入っていった。

 

 

 

 

 

 

復活した豪炎寺さんは、あの時の威力から更にレベルアップしていたようで、立向居さんは豪炎寺さんのシュートを受けられるのが嬉しいのか、感動していた。

ボールは鬼道さんが受け、そこから吹雪さんに上げられる。しかし、吹雪さんは硬直してしまい、ボールは虚しく音を立てて落ちた。

円堂さんたちの表情が、彼の心配をするように曇る。吹雪さんは苦しそうな声で呟いた。

 

「……僕……このチームのお荷物になっちゃったね……」

 

彼の傍らに落ちているボールを拾い上げ、私は彼を真っ直ぐ見つめて言い放った。

 

「そんなことはありません」

「‼︎」

「ゆっくり行けばいいのです。……私も、貴方も。どれだけ時間がかかったっていい。必ず、解決します」

「青木……」

「穂乃緒ちゃん……」

 

私は上手く出来たかどうか分からなかったが、柔らかく笑ってみせる。それが通じたのか、吹雪さんも笑顔を返してくれた。

 

「よーし、みんな! もうひと踏ん張りだ! ボールはいつも、俺たちの前にある‼︎」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

キャプテンの声に、みんなが答える。こんな、たくさんのいざこざを抱えたチームなのに……何でこんなに強いのかしら?

それは、愚問だった。答えは、目の前にあったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様ーっ‼︎」

 

陽が傾き、そろそろ練習も終わりかと思われたその頃、マネージャーの3人と土方さんがドリンクを抱えて持ってきていた。

 

「ドリンクがあるわよ」

「土方くんの差し入れ、沖縄特産、シークヮーサードリンク!」

 

みんなはそれを見るとすぐにドリンクに飛びついた。さっきまで練習していたのに、まったく元気なものだ。小さく、笑いが漏れる。

私もありがたく受け取り、口を付けてみる。

 

「っ‼︎ ……うっ」

「はははっ‼︎ 青木さんが変な顔してるー‼︎」

「……取り敢えず殴らせて下さい良いですよね?」

「わーっ‼︎ ごめんなさーい‼︎」

 

からかってくる木暮さんを、1発本気で殴ってやろうかと思った。まあ、面白いから後でたくさんからかい返してやろう。少し円堂さんたちから離れ、砂浜まで来た。傍らにある大きな流木に腰掛け、星空を見上げながらドリンクを飲んでいた。

 

「……お前も笑うようになったな、青木」

 

豪炎寺さんが、シークヮーサードリンクを片手に私の隣に座った。豪炎寺さんとこうして2人で語り合うのは、奈良で別れる時以来だ。何だか、懐かしく感じる。

 

「はい。円堂さんたちのおかげです」

「そうか……」

 

私を心配して下さったのか、豪炎寺さんの声音は優しかった。夜空を見上げると、満天に星が煌めく。こんなに静かな気持ちで星空を眺めることは、今までなかったとだろう。海からの風が、私の髪を撫でるように吹き抜けていった。その風を受けながら、私は口を開いた。

 

「……人を信じることが、こんなにも安らかな気持ちになるなんて、思ってもみませんでした。私は……それを、ずっと遠ざけていた……。人の温かさに触れようとしませんでした。……怖かったんです。だって、私の体は、他の誰とも違うから。私の意思など、関係なく変えられてしまったから。もう、戻れやしない……」

「……そうだな。過ぎたことは、戻れやしない。だから、俺たちは前に進むしかないんだ」

 

ポツリと、豪炎寺さんも夜空を眺めながら呟いた。

過ぎたことは、戻れない。だから、前に進む。

豪炎寺さんのその言葉を噛み締め、私も夜空を見上げた。



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64話 vsダイヤモンドダスト1・凍てつく闇の冷たさ

翌日の早朝。沖縄を正にこれから出ようというところで。

 

「ちょっと、行ってくるわ!」

 

そう。綱海さんのキャラバン参加が決まったのだ。見送りに来てくれた大海原中イレブンに、軽いノリで。まるでどこか遊びに行ってくる! みたいなノリで。私は半ば呆れていたが、まあ、これが綱海さんか、と思い直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってきたぞー!」

 

円堂さんの大声で、ハッと目が覚める。どうやら、ずっと眠っていたらしい。窓の外を見てみると、みんなが河川敷に出ていた。私も彼らの後を追い、キャラバンの外へ足を踏み出す。

 

「ここは……稲妻町か」

 

また、戻ってきた。でも、今度はあの時みたいにはならない。あの後、鬼瓦さんたちに私のことを話したから、きっと奴らは捕まってる。あの家には、もう誰も住んでないはず……。

そんなことを考えていると、私の警戒網に何かが入り込んだ。その意識が、飛来してきたボールに向けられた。

あれは、まさか……!

私が目覚めたと同時に私の異変に気が付いたのか、円堂さんが私の視線の先を追う。全員がそれの正体を理解したのかは知らないが、ドンッという大きな音と、青い光が炸裂した。

光が収まり、私は一目散に落ちてきたものを確認した。

 

「これは……⁉︎」

 

そう。エイリア学園の所持する、黒いボールだ。円堂さんたちも、それを見て身構える。そのボールから、聞き慣れない声が聞こえてきた。

 

『雷門イレブンの諸君。我々ダイヤモンドダストは、フットボールフロンティアスタジアムで待っている。来なければ……黒いボールを、無作為にこの東京に打ち込む』

「なんだって⁉︎」

「無作為だと……⁉︎」

 

どうやら、エイリア学園からの挑戦状らしい。しかし、来なかった時の代償が大きすぎる。首都壊滅となれば……これこそ、日本は終わりだろう。

ボールは、音声が消えると、その形を崩してしまった。

 

「……仕方がないわ。直ちにスタジアムに向かいます」

「「「「はいっ‼︎」」」」

 

瞳子監督の指示が飛ぶと、雷門イレブンは間も開けずにすぐに返事を返した。そして、キャラバンに乗り込む。私は、疑問に思っていたことを、みんなにぶつけた。

 

「あの、つかぬ事をお聞きしますが……先程の声は、一体……」

「あ……そっか。あの時青木は気を失ってたもんな……」

 

円堂さんが、知らなくて当然か、とひとりごちる。そして、円堂さんと鬼道さんが私に説明してくれた。

 

「さっきの声は、マスターランクチームのキャプテン、ガゼルの声だ」

「マスターランクチーム……? ジェネシスやプロミネンスの他にもあったのですか?」

「ああ。気を付けろ、青木。奴は何故だか、お前を狙っていた」

「私を……?」

 

ガゼルが私を狙ってる? なんて迷惑な話だ。私は確かに基山さんと面識があるけど、それだけで連れて行かれるとかめちゃくちゃ迷惑だ。バーンもそうだったが、だいたい、何故私に執着するのか……。もはや呆れるレベルだ。まあ、何かあるのなら私が力尽くで潰すけど。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

で、そのスタジアムに来たのはいいものの、誰もいない。ふざけるな。お前たちが呼んだんだから、先にスタジアムに着いてなさいよ‼︎ 思わずツッコミが漏れそうになる。それをグッと堪えて、私は円堂さんたちと同様、瞳子監督を見た。

 

「相手はどんな連中か、まったく謎よ。どのような攻撃をしてくるのか分からない……。豪炎寺くん、早速だけどFWを任せるわ」

「はい」

「青木さん、貴女も今回はFWについて」

「!」

 

私が……? 口で問う代わりに、視線を向ける私に、瞳子監督が頷いて答えた。

 

「貴女のその俊足で、豪炎寺くんの手助けをしてほしいの。もちろん、チャンスがあれば、積極的にゴールを狙って」

「……はい」

 

私は、力強く瞳子監督を見つめ返した。豪炎寺さんのサポート……必ず、その役目を果たします。私の決意を見た瞳子監督は、さらに全員に指示を出した。

 

「豪炎寺くんは、間違いなくマークされる。彼にボールをまわすのも大事だけど、チャンスがあれば、ゴールを狙いなさい」

「「「「はいっ‼︎」」」」

 

みんなの士気も高まり、私たちはこれから来るダイヤモンドダストを迎え撃とうと決意していた。

……と、ここまではいいものの、やはりまだ奴らが来ない。

 

「来いって言っておきながら、奴らが来てないじゃないッスか……」

「この僕に恐れをなしたんでしょうよ」

「安心して下さい。それは絶対にありません」

 

目金さんの勘違いを、一応訂正しておく。しかし、壁山さんの言う通り、ダイヤモンドダストが来る気配かしない。私の警戒網にも、何らかが入ってきた様子もない。

だが、突然相手ベンチ側に、目も眩むような青い光がその場を支配した。毎度毎度、大層なご登場だ。光が収まると、そこには青いユニフォームを(まと)った少年少女が立っていた。そして、彼らの中心に立つ人物が、自らチーム名を名乗った。

 

「……エイリア学園マスターランクチーム。ダイヤモンドダストだ」

「マスターランク……?」

「円堂。そして、青木穂乃緒。君たちに、凍てつく闇の冷たさを教えてあげるよ」

 

不敵な笑みを浮かべ、雷門イレブン……いや、私に向けて右手をかざすように伸ばす。その手に腹が立ち、チッと舌打ちをする。円堂さんは拳を握りしめ、睨みつける。

 

「冷たいとか熱いとかなんて、どうでもいい! サッカーで街や学校を壊そうなんて奴らは、俺は絶対許さない!」

 

円堂さんと同じように、私も彼を睨みつける。その視線に、彼は不敵な笑みを崩さず、見つめ返してきた。久々に、めんどくさい奴に会ったみたいだ……。

 

「よし! 行くぞ、みんな‼︎」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

私はまたこの声に入らず、黙って目を閉じていた。

 

 

 

 

 

 

試合開始のホイッスルが鳴り、私はボールを豪炎寺さんに流す。と、その瞬間に、私はダイヤモンドダストの布陣がおかしいことに気付く。なんと、ゴール前まで、相手選手が誰もいないのだ。つまり、ゴール前まで、無人。これは打ってこいとのことなのだろうか。

私は相手の考えを探りながらも、豪炎寺さんにシュートを促す。豪炎寺さんは私の視線に頷き、ノーマルシュートを放った。ボールは綺麗な弧を描き、ゴールポストギリギリを狙った。しかし、シュートは相手GKに止められ、更にはボールをこちらへ投げ返し、円堂さんの構えるゴール前まで飛んで行った。

 

「円堂さん‼︎」

 

振り返った私は円堂さんを案じて叫ぶ。円堂さんは、驚きつつも、しっかりとボールをキャッチした。

 

「ゴールからゴールへ投げてくるなんて……! 何て奴だ……! よし‼︎」

 

円堂さんはボールを投げようと大きく振りかぶり、近くにいた土門さんにボールを渡す。そこから一之瀬さんにパスを出そう……としたが、相手選手にカットされ、ガゼルにボールが渡る。シュートをまた円堂さんがキャッチする。

今度は一之瀬さんから鬼道さん、そしてまた一之瀬さん、浦部さんへと繋がった。ゴール前付近に上がり、シュートかと思われたが、相手DFが走り込んできたのが見えた。

 

「フローズンスティール‼︎」

「きゃあっ‼︎」

「浦部さん‼︎」

 

必殺技をモロに喰らい、浦部さんはピッチに倒れ込んだ。浦部さんの元に駆け寄り、彼女を起こす。そんな私を見下ろして、ガゼルが嗤う。

 

「……それが、闇の冷たさ」

「……っ?」

 

言葉を反芻する間もなく、試合は続行される。相手DFはボールを高く上げ、その落下地点にはガゼルが。それを見た浦部さんは、私に噛み付くように叫んだ。

 

「何しとんねん、青木! 早よお行かんか!」

「は、はいっ!」

 

浦部さんの叱咤を受けて、スピードを上げて走り出す。渡すわけにはいかない。必ずボールを奪わなければ。しかし、時は既に遅かった。ガゼルはボールをキープすると中盤を突破し、さらに再びシュートを放つ。

 

「ザ・タワー‼︎」

「ザ・ウォール‼︎」

 

財前さんと、壁山さんのダブルブロック。財前さんは吹っ飛ばされてしまったが、壁山さんが何とか弾き、ボールは観客席へ出て行った。

まさか、これほど強いとは思っていなかった。以前、同じマスターランクのグランとやった時は、手も足も出なかった。しかし、今回のガゼルは、グランと比べればもしかしたら大したことないとは思うが、それでもやはり強い。どうすれば……?

 

……トンッ

 

ふと、ボールが地面に叩かれる音が聞こえた。その音に振り向くと、先程飛んで行ったボールが。一体何が……? 私の思考が停止し、ただ目の前の状況を見る他なかった。

ボールを追いかけるように、誰かが1人ピッチに降り立った。金色の髪をふわりと(なび)かせ、赤い目を私たちに向ける。女性のような顔立ちが特徴的だった。

 

「貴方は……?」

「あっ……‼︎ アフロディ……‼︎」

 

アフロディ、と呼ばれた人は、ボールを人差し指でクルクルと回転させたまま、私たちを見渡した。

 

「……また会えたね、円堂くん」

 

アフロディさんは、ニコリと微笑んで円堂さんに語りかけた。円堂さんはゴールからこちらへ駆け寄ってきており、アフロディさんと視線を交えたままだ。

私は傍らに歩み寄ってきた鬼道さんに尋ねる。

 

「あの、あの方は……?」

「……世宇子中のキャプテンだ。今年のフットボールフロンティアで俺たちと戦ったんだ」

「はぁ……」

 

誰にでもフレンドリーなはずの円堂さんの表情が、何故か固い。何か、彼らとの間に確執があったのだろうか。私は黙って、円堂さんたちを見つめた。

 

「……何しに来たんだ?」

「戦うために来たのさ。君たちと」

「っ……‼︎」

 

円堂さんの表情が、歪む。宣戦布告、ということか? でも……わざわざこんなところに来るなんて、何か別の用件なんじゃないのかしら? しかし、次のアフロディさんの発言で、私たちは再び驚くことになる。

 

「……君たちと共に……奴らを倒す‼︎」

「何っ……⁉︎」

「僕は、君たちの力になるためにここに来た」

 

そう言い切ったアフロディさんの表情は、正に決意という言葉が似合った。アフロディさんは、更に続ける。

 

「雷門とエイリア学園の戦いは見ているよ。そして……激戦を続ける君たちの姿に、湧き上がる闘志を抑えられなくなったんだ。僕を……雷門の一員に入れてほしい」



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65話 vsダイヤモンドダスト2・アフロディ参戦

「ちょっと待ってくれ!」

「いきなり何言ってんだ……⁉︎ わけわかんねえよ!」

「あの、世宇子中の選手が仲間になるなんて……」

 

一之瀬さん、土門さん、壁山さんが納得いかない、と言うように叫んだ。一体、雷門とアフロディさんの間に何があったのだろうか。私の知らない話。これをできるみんなが、少し羨ましくなった気がした。私は、この人たちのことを、何も知らなかったんだと改めて実感する。

 

「……疑うのも無理はない。でも、信じてほしい。僕は、神のアクアに頼るようなことは、もう二度としない。僕は君たちに敗れて学んだんだ。再び立ち上がることの大切さを」

「!」

 

この人には……迷いがない。私はアフロディさんの目を見て、そう実感した。私は、円堂さんたちとこの人の関係は知らない。でも、彼らの話を聞いている感じでは、おそらく関係は良好だったとは言えないだろう。円堂さん……貴方は、どうしますか?

円堂さんは、アフロディさんを真っ直ぐ見つめて問いかけた。

 

「……本気なんだな」

「ああ」

「……わかった。その目に嘘はない!」

 

円堂さんはアフロディさんに手を差し出し、アフロディさんは微笑んで彼の手を握り返した。

 

「……ありがとう、円堂くん」

 

 

 

 

 

 

アフロディさんは、雷門のユニフォームを着てピッチに立った。私はその姿を前線から見つめ、前を振り返った。そんな私が気になったのか、豪炎寺さんは私に声をかけた。

 

「気になるのか? あいつが」

「……まあ」

「あいつは、俺たちがフットボールフロンティアの決勝戦で戦ったチームのキャプテンだ。奴らは影山から神のアクアというドーピングで力を与えられ、俺たちと戦ったんだ……」

「……そんなことが」

 

私はその時、多分サッカーなんて興味がなかった。それどころか、そんな大会の存在すら知らなかった。

円堂さんたちとアフロディさんの間にある確執はこれだったのか。と、1人で理解する。

 

「……ですが、円堂さんが認めたのです。きっと、大丈夫です」

「青木……」

 

豪炎寺さんとの対話を断ち切り、同じFWの位置に立つガゼルを睨みつける。ガゼルは相変わらず不敵な笑みを浮かべながら、私たちの様子を見ていた。

 

「世宇子中の敗北者か……。人間に敗れた神に、何ができる」

「…………」

 

そう言われた本人は、特に気にしてない様子。私は集中しようと一つ深呼吸をしようとしたが、ふと視界に記憶がある二つの赤が見えた。私の視線に気が付いたのか、その赤たちは私に目を向ける。

 

(グラン……バーン……)

 

グランは私の視線にニコリと微笑み、バーンは挑発的に口角を上げた。彼らの相変わらずな態度に少し腹が立ち、チッと一つ舌打ちをする。何故あいつらがここにいる? ガゼルの試合を見に来ただけなのか……? その証拠に、彼らはあのエイリア学園のユニフォームを着ていない。

 

(あいつら、何が目的なのかしら……?)

 

いや、そんなことを考えるより前に、試合に集中しなければ。私は先程しかけていた深呼吸を、もう一度ちゃんとした。

 

「頼むぞー! アフロディー!」

 

円堂さんから、エールが贈られる。アフロディさんはその声に応えるように、しっかりと頷き返した。

 

 

ダイヤモンドダストのスローインから試合が再開される。そこからパスが繋がるが、土門さんが止めに入る。

 

「ボルケイノカット‼︎」

 

見事ボールの奪取に成功した土門さんは、誰かにパスを出そうと、周囲を見渡す。しかし、私も豪炎寺さんも、相手にマークされて動けない。

 

「こっちだ!」

 

アフロディさんが、土門さんを見ながら駆け出して言った。だが土門さんは、すぐにはパスを出さず、何か迷っているように見えた。その隙を突かれ、ボールを奪われてしまった。

私や豪炎寺さんはどうしたのか、と眉を寄せる。やっぱり、まだアフロディさんを信用できてないのだろう。今は、そんなことしてる場合じゃないというのに……!

 

 

相手からボールを奪い返し、壁山さんがボールをキープする。しかし、他の選手は再びマークされ、パスが出せない。オロオロと戸惑う壁山さんに焦れたのか、鬼道さんが叫んだ。

 

「壁山! アフロディがフリーだ‼︎」

「えっ、でも……」

「パスするんだ‼︎」

「は、はいッス‼︎」

 

鬼道さんに急かされ、壁山さんはアフロディさんにパスを出す。しかし、ボールはアフロディさんの前を通り過ぎてしまい、サイドラインを出て、転がっていった。

 

 

 

その後も、チームの連携はバラついている。ダメだ。このままでは、勝ち目はない……! 私はFWの前線から走って下がりに行った。こうなったら……私が動く!

私は進撃を続けるガゼルの前に立ちはだかる。対するガゼルは、ニヤリと笑ってみせた。

 

「君に私が止められるとでも? さあ、私に敗北してその顔を歪めろ‼︎」

「悪いが……そのつもりはさらさらない!」

 

私は足を高々と振り上げ、地面に叩きつけた。

 

「デッドスパイク‼︎」

「⁉︎ くっ‼︎」

 

必殺技に阻まれたガゼルは、私のことを悔しそうな顔で見つめる。それを無視しながら、私はある人を探していた。周囲を見渡し、その人にボールを蹴る。

 

「お願いします、アフロディさん!」

「!」

 

私のパスは誰にも阻まれることなくアフロディさんの足元に吸い付いた。アフロディさんは驚いた顔で私を見ていたが、頷いて走り出した。アフロディさんが走り出したのを警戒し、ダイヤモンドダストDFがチェックに行く。アフロディさんは彼らを見て、右腕を上げた。

 

「ヘブンズタイム‼︎」

 

アフロディさんが指鳴らしをした途端、相手チームの選手が、まるで時が止まったかのように停止した。アフロディさんがその中を悠々と通り過ぎ、それが解除されると突風がDFを襲う。すごい必殺技だわ、これなら……。いける、と思った次の瞬間、アフロディさんの前に、ガゼルが立ちはだかった。アフロディさんはボールをキープしたまま、ガゼルと対峙した。

 

「……フン。堕落したものだ。君を神の座から引きずり下ろした、、雷門に味方するとは……」

「……引きずり下ろした? ……違うよ。彼らが……円堂くんの強さが、僕を悪夢から目覚めさせてくれた。新たな力をくれたんだ」

「君は、神のアクアが無ければ……何も出来ない‼︎」

「そんなもの、必要ない……!」

 

ボールを奪わんと走り出したガゼルをかわし、アフロディさんはゴールを見据えた。

 

「見せよう……。生まれ変わった、僕の力を‼︎」

 

アフロディさんはボールを上げると、必殺技の体勢に入った。

 

「ゴッドノウズ‼︎」

 

眩い光を放ちながら、シュートはGKに止める隙を与えずに、ゴールネットに突き刺さった。

先制点。私たち雷門が、マスターランクチームから、先制点を奪ったのだ。

私の意識は、ずっとアフロディさんに向けられていた。この人は、強い人だ。一度打ちのめされても立ち上がり、さらなる力を得た。とても、強い人だ。

この得点に喜んだのは私だけでなく、みんなも同じ気持ちだったようだ。ベンチやピッチ内で、歓喜の声が飛び交う。円堂さんも、嬉しそうに声を上げた。

 

「いいぞ、みんな! このユニフォームを着れば、気持ちは一つ! みんなで、同じゴールを目指すんだ‼︎」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

険悪だった雰囲気が、アフロディさんの得点によって、明るくなる。一方のガゼルは、前髪を指に通しながら、ボソボソと呟く。

 

「……やるじゃないか……。これが雷門と……円堂と戦って得た力だと言うのか…………潰してやるよ……!」



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66話 vsダイヤモンドダスト3・雷門の弱点

試合再開。鬼道さんがボールをキープして、ドリブルを仕掛ける。

 

「見せてやろう……。凍てつく闇の冷たさを!!」

「フローズンスティール!!」

 

ガゼルが呟いたのをきっかけに、ダイヤモンドダストが動き出す。突然のディフェンスに不意を突かれ、鬼道さんはボールを奪われてしまう。

 

「止めてみせるッス!! ザ・ウォール!!」

「ウォーターベール!!」

 

壁山さんのディフェンスも虚しく、突破されてしまう。しまった。このままでは……ボールはガゼルに渡ってしまう!!

案の定、ボールはガゼルに渡り、円堂さんと一対一になってしまった。

 

「凍てつくがいい……!」

「来いッ!!」

 

ガゼルがシュート体勢に入るのを警戒して、円堂さんが身構える。今まで普通のシュートしか打ってこなかったガゼルが、初めてシュート技を見せた。

 

「ノーザンインパクト!!」

「はぁあああっ!! 正義の鉄拳!!」

 

円堂さんも、自身の最強技で対抗する。しかし。

 

「ぐっ……うわっ!!」

「「「!!」」」

「円堂さん!!」

 

立向居さんが円堂さんを案じて叫んだ瞬間には、正義の鉄拳は完全に破られ、シュートはネットを揺らしていた。円堂さんはすぐに体を起こし、悔しげに転がるボールを見つめる。

 

「ぐっ……」

「この程度とは……がっかりだね」

 

冷たく笑ったガゼルは円堂さんに背を向け、歩き出す。その時、私の隣まで来ると立ち止まった。

 

「……君はこの試合で必ず私のものにしてみせる。決して、逃がしはしない」

「……一体、貴方の目的は何なのですか」

 

私の問いに、ガゼルは薄く笑う。その態度に腹が立ち、キッと睨む。

 

「君を私のものにする。ただそれだけだが?」

「それだけで私に執着する理由が分かりません。それに、貴方だけじゃない……。バーンも、グランも。貴方方の目的が分かりません」

「奴らの考えることは私も知らん。ただ、私は君が欲しいだけだ」

 

ガゼルはそれだけ言うと会話を断ち切り、スタジアムの出入り口に消えていった。やはり、彼の態度は嫌いだ。私は一つ舌打ちをした。

彼が出て行ったということは、ハーフタイムに入ったということだろう。雷門イレブンは皆、円堂さんの元に集まった。

 

「くっそー……ものすごいシュートだったぜ……」

「円堂さん……」

「心配すんな! 究極奥義に完成なしだ! 次は止める! そして勝つんだ!!」

 

円堂さんの明るい声に、私も静かに頷く。このチームなら、きっと、エイリア学園にいつか勝てる。こんなに強いんだもの。あの人が……円堂さんが、いるから。

私も……奴らに屈しない。決着をつける。……必ず。小さな誓いと共に、私は空を見上げた。そんな私に気付く者は、誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、後半戦が始まった。正に、一進一退の攻防が続く。立向居さんがフローズンスティールに襲われてボールを奪われる。そして、そこから再びガゼルにボールが渡った。またこのパターンだ。ガゼルと円堂さんがまた一対一となり、必殺技を放った。

 

「ノーザンインパクト!!」

「正義の鉄拳!! っ……うわっ!!」

 

円堂さんは再び吹っ飛ばされ、ゴールのネットをまた揺らす。追加点だ。

 

「勝つのは我々、ダイヤモンドダストだ!!」

 

強く言い切ったガゼルの表情には、翳りが差しているように見えた。先程の余裕とは打って変わって、何だか焦っているようだ。ハーフタイムの間に、一体、彼に何があったのか。あの焦りは、確かにおかしい。何故、あんなに焦る必要があるのか。

私は少し考え込んでいたが、目の前を飛んできたボールに即座に反応し、ボールを受ける。そうだ。今は、試合に集中しなければ。私は足に力を込めて走り出す。私を阻もうと突っ込んできた4人の選手を視界に捉えた。私は無理やり突破しようと、少し体勢を屈める。

 

「ソニックアクセル!!」

 

4人を一気に抜き去り、さらに駆け上がる。このまま持ち込んで、絶対に決めてやる!

私はさらに加速し、GKと一対一に持ち込んだ。そこに、ガゼルの声が飛ぶ。

 

「止めろ! そいつのシュートはまだ弱い!!」

 

イラッ。イライラ。

弱いだと?

今史上最高にムシャクシャした。めちゃくちゃ腹が立った。イラついた!!

決めた。絶対にそのゴールをこじ開けてやる!!

私は足を高く振り上げ、踵でボールを蹴り上げる。ボールを踵でキープしたまま、地面に強く叩きつけた。ボールに青い炎の力を宿し、フワッと浮かせたそれをローリングソバットで蹴っ飛ばした。

 

「デモンズファイア!!」

「何⁉︎ 新たな必殺技……!」

 

まさかここで新必殺技が出るとは思ってなかったのだろう。相手GKも必殺技を放つ間もなく、心の宣言通りにゴールをこじ開けた。私は嬉しくて、小さくガッツポーズをした。

 

「すっげえ‼︎ いいぞ、青木ー‼︎」

「ナイスシュート! 青木さん!」

 

円堂さんやアフロディさんが大きく声をかける。私は彼らに小さく笑いかけ、手を軽く上げた。

ガゼルを見ると、彼はワナワナと体を震わせ、小さく呟いた。

 

「こんな、ことが……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行けっ‼︎ 我々は勝利以外許されない‼︎」

 

余裕が最早見られなくなったガゼルの声に、私は勝利を確信した。しかし、FW陣が完全にマークされ、動けない。状況としては、こちらが1点さえ取れば勝てる。1点さえ取れば……!

その考えは円堂さんや鬼道さんと同じだったようで。一之瀬さんが動いたのを見て、円堂さんがゴールから駆け出した。綱海さんがゴールはどうすんだと叫んでいたが、それは完全にスルーされる。

円堂さんと一之瀬さん、土門さんが走り出し、このままシュートに持ち込める……と思ったその矢先。

 

「フローズンスティール‼︎」

「あっ……⁉︎」

 

ボールを奪われ、またボールをガゼルにパスされる。しまった! 今、円堂さんが前線に出ているから……雷門のゴールには、GKがいない‼︎ 私は急いでゴールへと駆け出したが、私も前線にいたため、ボールとの距離が離れ過ぎている。このままじゃ、間に合わない!

 

「くそっ……‼︎」

 

こうなったら、限界を超えた力を使うか。そうすれば、私の体は一歩も動けなくなるほど体力を消耗してしまうが……。それでも、構わない。雷門を守るためなら。覚悟を決めた私は、加速をかけようと体勢を少し低くしたが。

 

「うおおおおっ‼︎」

 

綱海さんが空高く跳躍し、ガゼルの前まで来ていたボールを蹴り飛ばした。

 

「綱海さん!」

「サンキュー、綱海!」

「へっ、礼なんか要らねえよ‼︎」

 

私の安堵の声に続き、円堂さんから感謝の声が飛ぶ。綱海さんは余裕げに手を振り返す。

取り敢えず、危機は脱した。しかし、ピンチの状態は未だ続いている。今のは完全に、雷門の最大の弱点を見せてしまったようなものだ。FWがマークされている時、代わりの強力なシュートを打つためには、円堂さんが前線に出ていくしかない。GKである円堂さんが、ゴールから離れるということは、ゴールを守る最後の砦がいなくなってしまうということになる。つまり……FWを封じ、円堂さんが出てきたところでボールを奪えば、雷門にはGKがいないも同然となる。

……やはり、このやり方は危険だわ。

 

「鬼道さん。まだこれを続けるのですか? 今までなら、まだなんとかなったかもしれませんが……もうそろそろ、このやり方も無茶になってきましたよ」

「……わかっている。しかし、時間がないんだ。時には、危険を背負わなければならない時もある……」

「……………………」

 

円堂さんが攻撃に転じることができるからこその、大きなデメリット。確かに、今すぐに打開策を立てることは難しい。一体、どうすれば……。

 

「……………?」

 

待てよ? 円堂さんがGKにいるから、円堂さんは前線に出られない……。なら……それなら……⁉︎

私の中で一つのありえない打開策が弾き出されようとした瞬間、試合が再開されていることに気付く。鬼道さんがボールをキープして上がっていくと、豪炎寺さんと円堂さんに呼びかけた。これは、イナズマブレイクの体勢だ。鬼道さんが必殺技を発動しようと、ボールを上げた瞬間……。

 

ガッ‼︎

 

ボールは相手選手にカットされてしまった。つまり、ゴールはガラ空きだ。

 

「くっ……! 円堂くん、戻れ! 早く!」

 

アフロディさんは時間を稼ごうと、ボールを持った選手と競り合う。しかし、ガゼルにパスを出されてしまった。

 

「思い知れ! 凍てつく闇の、恐怖を‼︎」

「くそっ‼︎」

 

私は彼のシュートを阻止しようと彼の前に立ちはだかる。ガゼルはそんな私など気にも留めず、必殺技を放った。

 

「ノーザンインパクト‼︎」

「デッド……‼︎」

 

まだブレーキをかけている途中だった私は、必殺技を発動するには無理な体勢から防ごうとした。私は必殺技を発動する間もなく、ボールを腹で受けた。

 

ズキィッ……‼︎

 

「ぐ、がぁあぁあ⁉︎」

「青木‼︎」

「くくくっ……いい顔だ」

 

ボールの勢いに吹っ飛ばされ、私の体は宙を舞い、フィールドに容赦なく叩きつけられた。痛む腹を抑えながら、ゴールを見る。円堂さんはペナルティエリア外で、必殺技を使おうとしていたが、鬼道さんの制止に戸惑う。痛みに耐え、私は円堂さんに叫んだ。

 

「止まってはいけません‼︎ 貴方ももうちょとは頭を使って下さい‼︎」

「頭っ……⁉︎」

 

円堂さんにそう叫んだものの、私自身も円堂さんの立ち位置からあのシュートをどう止めればいいかなんて、思い浮かばなかった。だから、円堂さんの判断に任せる他なかった。

 

「っ、だぁあああああ‼︎」

 

もうどうにでもなれとばかりに、円堂さんは文字通り頭を使ってシュートを止めようとした。

……頭を使って下さいって、そういう意味じゃなかったんですけど⁉︎ 大体頭なんかで止めるなんておかしいでしょ! 貴方石頭ですか!

しかし、本当に頭で止めようとしたのが功を記したのかどうかは知らないが。円堂さんの額から、拳の気が発現し、なんとシュートを弾き飛ばしたのだ。

そこで、試合終了のホイッスルが鳴り響く。結果、私たちはダイヤモンドダストと引き分けたのだった。

私も痛む腹を抱えて立ち上がり、ゴール前でシュートを止めてみせた円堂さんを遠くから見つめていた。と、不意に腕を誰かに引っ張られる。振り返ると、ガゼルが私の腕を掴んでいた。

 

「今回は引き分けだが……君は連れて行く」

「断る。大量得点で私たちを潰したならまだしも、ダイヤモンドダストの実力がこの程度と分かったからには、私はお前に攫われる理由もない」

「……ここだったな。君があの悲鳴を上げた場所は」

 

そう小さく呟き笑った後、ガゼルは何の躊躇もなく、私の腹に拳を入れた。

 

「⁉︎ ぁぁっ、ぐっ……」

「いい顔だ……もっとその顔を見せろ。苦しみ、喘ぎ、私の元に跪け!」

「くっ……! 貴様っ……!」

 

足に力が入らなくなり、思わず膝をついた私の顔を、無理やり上げさせて笑うガゼル。この性悪野郎がっ……! ガゼルの手を払い、殴り返してやろうと思った次の瞬間。

 

「そこまでだよ、ガゼル」

 

聞き覚えのある声が、耳に届く。その声に振り返ると、基山さんがこちらへ歩み寄ってきた。私はまた立ち上がり、基山さんを睨みつける。基山さんはそんな私を見て、まるで可愛がられるしかできない哀れな愛玩動物を嗤うような笑顔を見せた。その笑顔が癪に触り、目付きを鋭くする。

 

「見せてもらったよ、円堂くん。短い間によくここまで強くなったね」

「エイリア学園を倒すためなら、俺たちはどこまでだって強くなってみせる‼︎」

「いいね。俺も見てみたいなぁ……地上最強のチームを」

 

まるで他人ごとのように言う彼に、私は眉を寄せて基山さんに詰め寄った。

 

「本当にそう思っているのですか?」

「……!」

 

図星だったのだろうか。基山さんは一瞬表情を厳しくしたが、すぐにあの笑顔に戻り、いつの間にかそこにいたバーンや、ダイヤモンドダストと共にボールの元に集まった。基山さんは目を閉じながら、小さく呟く。

 

「……じゃあ、またね」

 

ガゼルは鋭い目で私たちを睨み、私に言い切った。

 

「青木穂乃緒……! 次こそは必ず、君を連れて行く……‼︎」

 

そして、また光を放ちながら、ダイヤモンドダストたちは消えていった。

次。それは、一体いつになるのだろう。

それでも。

 

「私は……このチームを離れない」

 

ポソリと呟いた私は、空を見上げた。空は少し雲がかかり、これから起こる何かの予兆のように見えた。



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67話 リベロ

ダイヤモンドダストとの戦いを終えた後、私たちは一度キャラバンの前に集まった。そこで、アフロディさんの正式な参加が決まった。

 

「感謝します、監督。失礼ながら、今の雷門は決定力が不足していますからね」

「ふっ……。言ってくれるじゃないか」

「君たちの強さは、こんなものではないはずだよ。僕は、君たちを勝利に導く……力になりたいと思っているんだ」

 

豪炎寺さんの言葉に、アフロディさんは微笑んで答える。

しかし、アフロディさんが男だと聞いた時は本当に驚いた。一生の不覚だわ……。あんなに女っぽい男がいるもんなのね。いや……これはさすがに失礼か。

アフロディさんが仲間に加わり、円堂さんは笑顔で仲間たちに呼びかけた。

 

「よーし! エイリア学園を完全にやっつけるまで、頑張るぜ!」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

円堂さんの鼓舞に、仲間たちが答える。私はまたこれには加わらなかったが、彼らを見て微笑みを浮かべた。

 

「……円堂くん」

「はいっ!」

 

不意に、瞳子監督が円堂さんを呼ぶ。監督はしばらく黙って円堂さんを見ていたが、口を開いて紡いだ言葉は、全員を驚かせるものだった。

 

「貴方には、GKをやめてもらうわ」

「えっ……⁉︎」

 

衝撃の発言に、言われた円堂さん本人も、雷門イレブンも驚きが隠せない。

 

「監督……今、何て……」

「キーパーをやめろと言ったのよ」

「そんな……! 急にそんなこと言われても……!」

「あたしは反対です、監督! このチームのGKは、円堂しかいません‼︎」

 

すぐさま、財前さんから反対の声が上がる。そして、それに続くように綱海さん、一之瀬さん、壁山さんも反対した。

 

「だよな。むちゃくちゃだろ?」

「どういうつもりでそんなこと言うんですか!」

「俺も嫌ッス‼︎」

 

まあ、確かに今までずっと、雷門のゴールは円堂さんが守ってきた。それを見れば、当然の反応と言えるだろう。瞳子監督は、彼らの反応を物ともせず、続けた。

 

「勝つために、GKをやめてほしいの」

「勝つ、ため……?」

 

円堂さんは、未だにわけがわからないと監督を見つめ返す。私は一歩前に出て、瞳子監督の意見に乗せるような形で話し出した。

 

「私は、瞳子監督の意見に賛成です」

「青木⁉︎」

 

雷門イレブンの視線を一身に受けながら、私は続ける。

 

「私は、かねてから思っていたのです。私たちはさらに強くなるために、このままでいていいのかと」

「それってどういうことだ?」

「地上最強チームを名乗るためには、弱点は克服しなければなりません。このチームには、致命的な弱点があります」

「それで、円堂にどうしろって?」

 

財前さんが私に問いかける。私はそれに頷いて答えてから、円堂さんを見つめた。

 

「円堂さんには、変わっていただくのです」

 

みんなはまだ、わけがわからないとでも言うように首を傾げる。鬼道さんだけは肯定の意を表して、頷いていた。

 

「俺も、それは以前から問題だと思っていた」

「鬼道……?」

 

鬼道さんの賛同を得て、私はさらに続けた。

 

「FWが封じられた時、私たちにはMFが打てる3人技があります。一之瀬さん、土門さん、円堂さんのザ・フェニックス。鬼道さん、豪炎寺さん、円堂さんのイナズマブレイク。これらのどちらにも、円堂さんが参加しなければなりません。ですが、円堂さんはGKです。ゴールを守るのが仕事で、本来フィールドに出て点を取ることは仕事ではありません」

「……確かに、そうだよな」

「先程のダイヤモンドダスト戦でも、それが仇となって点を奪われそうになりました。私も、円堂さんの攻撃参加には賛成です。でもそれは、円堂さんがフィールドプレイヤーになった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ら、の話ですが」

「フィールドプレイヤー……⁉︎」

 

円堂さんが驚くのを見て、今度は鬼道さんが口を開く。

 

「俺も、青木と同じ意見だ。試合終了間際に見せたあの技……あの技が完成すれば、円堂は……攻守に優れたプレイヤー……リベロになれるはずだ」

「リベロ……?」

 

ポジションについては、私はあまり考えていなかった。確かに、円堂さんが試合の最後に見せたあの技なら……シュートを打つだけでなく、ブロックも可能だ。さすが天才ゲームメイカーだ。見るところが違う。

 

「エイリア学園に勝つために、俺たちはもっと大胆に変わらなければならない……。そのカギになるのが、円堂だろう」

「円堂くんが、リベロに……」

 

木野さんが驚いたように円堂さんを見つめる。私はここで、一つの疑問にぶつかった。

 

「リベロとは、何ですか?」

「リベロとは、自由という意味のイタリア語で、DFとして動きながらも、前に出て攻撃もするプレイヤーのことです」

「そうですか」

「ふふん! サッカーのことで分からないことがあれば、何でも僕に聞いて下さいよ!」

「…………」

「なんとか言って下さいよ‼︎」

 

目金さんの説明を一応聞き、後はすべてスルー。何か言ったような気がしたが、気のせいだ。うん。

リベロか……。簡単に言えば攻撃的DF、ということか。確かにそうすれば、円堂さんはフィールドで縦横無尽に動くことができる。なんだかんだ言って、あの人ジッと我慢出来なさそうだもの。

で、当の本人はどうするか。円堂さんはしばらく黙り込んでいたが、決意の表情を浮かべた。

 

「……決めた! 俺、やるよ。勝つために、強くなるために変わる……。リベロになる!」

「リベロ円堂、か。面白いじゃないか」

 

円堂さんの決断に、豪炎寺さんは小さく笑う。私も小さく微笑み、立向居さんを振り返った。

 

「GKは、立向居さん。貴方が適任だと思います」

「えっ……お、俺が⁉︎」

 

突然話題を振られた立向居さんが驚き慌てふためき、自分を指差す。みんなはあまりそれに頷きは出来なかったようだが、私は彼を見て続ける。

 

「確かに、立向居さんはキーパーとしての実力は不足しているかもしれません。ですが、私は貴方しかいないと思っています。今、雷門のゴールを守れるのは、貴方だけなんです」

「俺が……雷門のゴールを守るんですか⁉︎」

「大丈夫だ!」

 

未だオロオロする彼に、円堂さんが肩を叩く。

 

「俺さ、うまく言えないけど……立向居からは、可能性を感じるんだ! なんか、ものすごい奴になる……そんな気がするんだよな!」

「私からもお願いするわ、立向居くん」

 

瞳子監督からも頼まれ、立向居さんは困惑している。最後に、鬼道さんと私、円堂さんが背中を押すように言った。

 

「ゴッドハンドも、マジン・ザ・ハンドも覚えることが出来たお前だ。円堂の後継者には、最も相応しいと言えるだろう」

「私も、貴方のレベルアップのためにお力添えをします」

「なっ! 俺たちのゴールを守ってくれ!」

 

私たちの言葉を受けた立向居さんの表情は、みるみる明るくなっていった。

 

「……はいっ‼︎ やります‼︎」

 

立向居さんの笑顔を見て、私も微笑みながら頷いた。

やっぱり、大丈夫だ。このチームは、雷門イレブンはどこまでも強くなれる。

私が、いなくても……。彼らは、きっと……。

私は後ろ手に組んだ手首を、ギュッと握りしめる。何だろうか。活気付く彼らを見て、少し距離があるように感じた。この感覚が、一体何なのか。今の私には、答えを導くことが怖くて出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからみんなは一度それぞれの家に戻った。家への帰路、重い足取りで私は自分の今の家へ向かっていた。

お願いだから、誰もいないで。お願いだから、誰もいないで。

恐怖心から、私はなるべくゆっくり、ゆっくり歩いた。

 

「…………」

 

ついに、家に着いてしまった。ゆっくりとドアノブに手をかけ、開ける。鍵は開いていたらしい。玄関で靴を脱ぎ、電気をつける。物音どころか、気配すらしない。

誰も、いない……? ホッと安堵の息を吐いたその時に私は油断した。

 

ズブッ

 

「がふっ……」

 

痛い。腹が痛い。何かが私の腹を突き刺していた。キラリと光るもの。包丁だ。その銀色に輝く綺麗な包丁に、私の吐いた血が飛び散った。

何故。何故。

誰か、いた……。あいつらが、いた……。

私は痛みに耐えかね、ドサリと床に倒れ込んだ。



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68話 vsカオス・激突

Side無し

それからカオスの襲撃予告を受けてから数日後。円堂たちはカオスを迎え撃つため、練習を重ねていた。ただ、その練習の中には青木の姿がなかった。雷門イレブンはおかしいと薄々思いつつも、彼女がたい焼きを買いに行っているかもしれないという考えの元、気にかけてはいたものの、そこまで気にしていなかった。こうして、青木は帰ってくることがなかった。

しかし、この時彼らは気付けなかった。彼女が、今この瞬間に苦しんでいることを。助けを呼んでいることを。仲間である彼らは、気付くことが出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

そして翌日。ついに、決戦の日がやってきた。

場所は、帝国学園グラウンド。観客席には、帝国イレブンがその戦いを見届けようと、雷門イレブンを見守っていた。

円堂たちがアップを終えた直後、黒いボールがフィールドに落ちてきた。紫色の霧から姿を現したのは、バーンとガゼル、そしてそれぞれのチームからの選抜メンバー……いわゆる、チームカオスだった。

 

「……おめでたい奴らだ」

「負けると分かっていながら、のこのこ現れるとは」

 

強者の余裕、と言ったところか。バーンとガゼルは、出会い頭に嫌味をぶつけてくる。ところが、ガゼルは雷門のある選手を探して円堂たちを見ていたものの、その姿がないと知ると、円堂たちに問うてきた。

 

「青木穂乃緒はどこだ? 彼女はどこにいる?」

「青木は、あれからまだ帰ってきてないんだ」

「お前、また青木を連れて行くとか言うつもりだろ! 青木は、お前らなんかに絶対に渡さないからな!」

 

円堂の冷静な返事に、塔子は闘争本能むき出しでガゼルを指差す。ガゼルは、そんなことなどどこ吹く風だ。

 

ーーまあいい。奴らを潰した後に、彼女をゆっくり探せばいい。

 

ガゼルは小さく溜息をついた後、円堂たちに言った。

 

「円堂守。宇宙最強のチームの挑戦を受けたこと、後悔させてやる!」

「負けるもんか! 俺にはこの、地上最強の仲間たちがいるんだ!」

「ーー勝負だ!」

 

バーンが円堂たちを鋭く睨みつけ、大声を放った。ここに、雷門イレブン対宇宙最強のチーム・カオスの戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

今回、雷門イレブンは円堂がリベロ、立向居がGKと新体制での初試合となった。

そして、試合開始のホイッスル。キックオフは雷門からだ。豪炎寺がアフロディへと蹴り出し、そこからバックパスを出して、塔子へとボールが渡る。

 

「行け行けーっ‼︎」

 

円堂の声が雷門イレブンを鼓舞する中、ドリブルする塔子の前に、ダイヤモンドダストの選手・ドロルが立ちはだかる。

 

「お前なんかに取られるかよっ!」

 

以前の試合で、ダイヤモンドダストと戦っている雷門は、彼らの実力を知っている。その時はボールを取られることがなかった塔子だが……今回は違った。

こちらが身構える前に、ボールはドロルの足元に吸い付いていた。まさに一瞬の出来事だった。これにより、雷門イレブンの表情が、驚愕の色に染まる。ボールを奪われた塔子も、信じられない様子だった。

 

「どういうことだよ……⁉︎ この前はかわせたのに!」

 

そして、ボールはどんどん雷門陣営へ運ばれ、さらにガゼルへと渡ってしまった。

 

「しまった! あいつ、いつの間に……!」

「今度こそ教えてあげよう……凍てつく闇の冷たさを……!」

 

ガゼルは冷たい笑みを見せ、シュート体勢に入った。

 

「ノーザンインパクト‼︎」

「立向居っ‼︎」

 

円堂の声が飛ぶ中、シュートを前に立向居は身構えた。しかし、立向居のムゲン・ザ・ハンドはまだ完成していない。ならば……と、立向居はマジン・ザ・ハンドの構えを取った。

 

「マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

しかし、それもまるで紙切れのようにあっさりと破られてしまった。カオス、先制点。試合開始数分程度の出来事だった。これが、マスターランクのチームが融合した力か。圧倒的とも言える実力に、雷門イレブンは驚愕する他なかった。

 

「……これぞ、我らの真の力」

「エイリア学園最強のチーム、カオスの実力だ」

 

ガゼルとバーンがそう吐き捨て、ポジションへと戻っていく。ガゼルのシュートを受けて、倒れてしまった立向居を案じ、円堂たちが彼の周りに駆け込む。

 

「立向居、大丈夫か……?」

「は、はいっ……。すみませんでした、止められなくて……!」

 

円堂と綱海に肩を貸してもらい、なんとか起き上がった立向居が、悔しそうに顔を歪める。そんな彼に、円堂と綱海は笑顔で応える。

 

「気にするな! まだ試合は始まったばかりだ!」

「俺たちがすぐ追いついてやるからよっ」

 

円堂たちの笑顔に背中を押され、悔しさで歪んでいた立向居の顔に、笑顔が浮かぶ。そして、今度こそは止めてみせる、という決意の光が彼の目に宿った。

 

「よし、みんな! 点を取っていくぞ!」

「「「「おう‼︎」」」」

 

鬼道が全員を鼓舞すれば、雷門イレブンが応える。まだ、始まったばかり。彼らの目には、諦めの色がなかった。

 

立向居は、もう一度しっかりとグローブをはめ直すと共に、気合いを入れ直す。こうしてグローブを見ていると、立向居はダイヤモンドダスト戦後に、GKとして自分を推してくれた青木の笑顔を思い出した。

 

(青木さん……俺、どうすれば……?)

 

グローブを見て心の中で問うてみても、答えが返ってこないのは分かっている。しかし、立向居は問わずにはいられなかった。

青木なら。彼女なら、こんな自分を心配して何か言葉をかけてくれただろうに。だが、その肝心な少女は、今はいない。

 

(ダメだ……! 今は俺がなんとかしなきゃ! 青木さんばっかりに頼っちゃダメだ!)

 

立向居は自分の頬を叩き、相手の動きを注意深く見始めた。

 

 

 

 

試合再開。雷門がカオス陣営に攻め込み、点を狙う。

豪炎寺からアフロディへと渡る。そこへ、ネッパーが行かせまいと彼を阻む。

 

「ヘブンズタイム‼︎」

 

相手が突っ込んできたところを、アフロディの必殺技が動きを止める。そこを、アフロディが悠々と歩き去っていく……はずだったが、なんと動けないはずのネッパーが、突如として動き出し、ボールを奪ったのだ。

 

「ヘブンズタイムが、破られた⁉︎」

 

土門の驚きの声が飛び、アフロディ自身も驚きを隠せないようで、呆然と立ち尽くしていた。動揺で、瞳が揺れる。

再び攻め込まれようとしたところを鬼道が奪い、豪炎寺がマークされているのを見て取ってから、アフロディにパスを出した。

アフロディはボールを受け取ってから、また突っ込んでくるネッパーを見据えながら、再び必殺技を発動した。

 

「ヘブンズタイム‼︎」

 

しかし、これもまた破られ、ネッパーにボールを奪われてしまった。

 

「ヘブンズタイムが、通じないっ……‼︎」

 

アフロディの表情が、驚愕の色に染まる。そんな中で、雷門イレブンはまた攻め込まれ、まだフィールドプレイヤーの動きの慣れない円堂も突破を許し、今度はバーンにボールが渡った。ゴール前は、完全にフリーだ。

 

「ジェネシスの称号は俺たちにこそ相応しい‼︎ それを証明してやるぜ!」

 

ボールを持ったバーンが、猛然とゴールに迫る。迎え撃つ立向居も、身構えた。

 

「アトミックフレア‼︎」

「マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

まだ、究極奥義は完成していない。立向居は再びマジン・ザ・ハンドを発動したが、また破られてしまった。

 

 

 

 

 

こうして、為す術のないまま、点差はどんどん開いていき、10対0。既に何度もゴールを守ろうと立ち向かってきた立向居の息は上がり、その体勢はよろめいている。しかし、ゴールを守らねばという強い使命感が、今の彼を突き動かしていた。そんな彼を嘲笑うかのように、バーンがゴールに迫る。

 

「これで終わりだ! 紅蓮の炎で焼き尽くしてやる!」

 

これ以上シュートを受ければ、立向居がもたない。そう判断した円堂は、突然バーンの前に躍り出た。

 

「アトミックフレア‼︎」

「はぁあああっ‼︎ メガトンヘッド‼︎」

 

円堂が苦労の果てに生み出した、必殺技。メガトンヘッドは確かにアトミックフレアを捉え、拳で殴り返すようにシュートを弾き返した。しかし、力の相反を受けて、円堂の体は吹っ飛ばされてしまった。ボールはサイドラインを転がり出て、取り敢えず危機を脱したことを示した。

彼の身を案じて、雷門イレブンが円堂の周りに集まる。

 

「円堂っ‼︎」

「大丈夫か、円堂‼︎」

「キャプテン‼︎」

「う……大丈夫だ、これくらい……なんでもない!」

「円堂さん……」

 

円堂が仲間の心配を解こうと笑顔を見せるが、立向居はかなりのショックだったらしく、不安げな表情は消えない。円堂のこのディフェンスに、綱海と壁山は発奮した。

 

「よし! 俺たちも負けてられないぜ!」

「これ以上、点はやらないッス!」

 

 

 

 

これを機に、雷門DF陣の動きは良くなっていき、それに影響されてか、前線のFW・MF陣にも気合いが入る。

雷門の勢いが盛んになっきてきたのを見て、ガゼルが小さく呟く。

 

「これが、円堂の力……グランを惹きつけた、円堂の力か……!」

「だが、所詮は悪足掻きだ」

 

それに対照的に、バーンは余裕の笑みを見せる。まだ、得点差はある。雷門が追い付こうとしても、絶対に自分たちは越えられない。

 

 

 

 

 

確かに、雷門の活気がついたのは良かったが、実際の状況はさして変わらなかった。MF陣を上げ、DF陣を下げている所為で、中盤が手薄になってしまい、さらには相手DFのディフェンスで、なかなかゴール前へと突破できない。

鬼道も、なんとか突破口を見つけようと考えを巡らす。一体、どうすれば奴らを攻略できるか。ゲームメイカーとして、この試合を支配するためには、ここで奴らの落とし穴を見つけなければならない。鬼道は、焦っていた。

こんな時、青木がいれば……きっと彼女なら、あの雄叫びを上げてこんな不甲斐ない自分たちを鼓舞してくれるだろう。理由も分からないまま、ふと彼女の言葉が脳裏に反響する。

 

『ゆっくり行けばいいのです。……私も、貴方も。どれだけ時間がかかったっていい。必ず、解決します』

 

本来は吹雪に対しての励ましの言葉なのだが、何故か自分の背中を押してくれる。彼女が放った言葉だからだろうか。ここでふと、鬼道は大海原中戦後に語り合った音村の言葉を思い出した。

 

『この世は、みんなリズムの調和でできている』

 

リズム。それは一定の長さで常にビートを刻み、決して崩れることのない絶対のもの。鬼道は小さくブツブツとリズムを取りながら、カオスの動きをじっくりと見始めた。

円堂がボールを奪おうとネッパーに突っ込んでいく。ネッパーの傍らには、元ダイヤモンドダストのドロルと元プロミネンスのヒートがいた。円堂をかわすために、どちらかにパスを出す。ドロルがパスを貰おうとアピールをするが、ネッパーがパスを出したのはヒートの方だった。

 

「……!」

 

閃いた鬼道は、今度は自分でネッパーに仕掛けていく。また、ネッパーがドロルを無視してヒートにパスを出したところを、鬼道が読み、ボールをカットした。

 

「何……⁉︎」

 

まさか奪われるとは。ネッパーが驚きの表情を浮かべ、ドロルがジロリとネッパーを見る。その内に、鬼道がボールを奪ったのを見て、土門と円堂があの必殺技を放つために走り出す。

 

「いくぞ! 円堂、土門!」

「「おうっ‼︎」」

 

鬼道の合図で、3人が一気に跳躍した。

 

「「「デスゾーン2‼︎」」」

「バーンアウト‼︎ うぉおおっ……!」

 

カオスのGKがシュートを止めようとしたものの、デスゾーン2は確かな威力を持って、ついにカオスのゴールをこじ開けたのだった。



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69話 vsカオス2・青木の帰還

カオスボールから、試合再開。カオスはまたパスを繋いで攻め込むかと思われたが、今度はバーンが単独で走り出した。

 

「立向居‼︎」

 

バーンに突破された円堂が、彼を振り返って叫ぶ。今の立向居の力では、アトミックフレアは止められない。ゴールで構える立向居は、ゴールに迫るバーンの動きを見極めようと、彼の動きに注目する。

 

「アトミックフレア‼︎」

 

予想通りアトミックフレアを放ってきたバーンは、余裕の表情だった。誰もが、またゴールを決められる、そう思っていた。

しかし、立向居は違った。彼はダイヤモンドダスト戦後……円堂の家に向かう前、青木に話された言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「立向居さん、急に貴方をGKにするだなんて、強引に薦めてしまってすみません」

 

あの青木から話があると言われて緊張していた立向居は、いきなり青木から謝罪され、拍子抜ける。

 

「え? いや、その……」

「円堂さんの問題を解決するには、これしかなかったんです。本当は、ちゃんと貴方に話をしなければならないと思っていたのですが……」

 

青木は下げた頭を上げ、立向居の目を真っ直ぐ見つめる。

 

「でも、私は貴方がすごいプレイヤーだと知っています。ゴッドハンドも、マジン・ザ・ハンドも習得した……きっと、貴方ならまだまだ強くなれると。貴方なら、必ず雷門のゴールを守れると。そう、思ってます」

「……!」

「……頑張って下さい」

 

にこり、と優しく微笑む彼女に、頬を赤らめる立向居。この人、やっぱり綺麗だな……。ぼーっと自分を眺めていた立向居に、青木は今度はニヤリと怪しい笑みを浮かべる。

 

「まあ、せいぜい足掻いて下さいね」

「ぇっ……」

 

ああ、そうだった。この人はこういう人だった。立向居はガクッと肩を落とす。それでも、自分は何故この人にこんなに心惹かれるのだろうか。最後に青木は立向居の頭をポンポンと軽く叩いてから、背を向けて歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

(青木さんとも、約束したんだ。雷門のゴールは……俺が守るんだ‼︎)

 

立向居の気が、両手に集中される。それを合わせると、彼の背後から手の形をしたオーラが複数現れた。

 

「ムゲン・ザ・ハンド‼︎」

 

ムゲン・ザ・ハンドはしっかりとアトミックフレアを掴み、見事キャッチに成功した。カオスイレブンも雷門イレブンも、同様に衝撃が走った。一方、当の本人は究極奥義の成功に、喜びのあまり自然と笑顔が溢れた。

 

「で、出来た……!」

 

ピィッ、ピィーッ‼︎

 

ここで、前半終了のホイッスルが鳴り、一応チームの緊張が解けた。ついに究極奥義を完成させた立向居に、円堂と綱海が駆け寄る。

 

「立向居……!」

「やったな!」

「はいっ‼︎」

 

まだ嬉しさが抜け切らないのか、立向居の声は快活そのものだ。やっと、いつもの彼らしくなってきた。ここに青木がいれば、喜んでくれただろうか。彼女の笑顔を思い出しながら、立向居は小さく笑った。

 

 

 

 

ベンチで後半の作戦会議をしているのを、1人の少女が観客席付近の入り口から見下ろしていた。その姿には、観客席で試合を見守る帝国イレブンも、気付かない。少女は、実は試合開始からずっと、雷門イレブンを見つめていた。だが、その視線は鋭く、冷たい。

 

「…………そうか」

 

ずっと雷門イレブンを見ていて、悟った少女は、ポツリと呟いた。雷門には、やはり自分の居場所がないのかもしれない。彼らを案じて駆け付けたものの……案外、心配しなくても大丈夫みたいだ。

もう、このまま見ていようか。少女は自身の肩に手を添える。そのジャージの下には、包帯が巻かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

後半が開始され、雷門は早速鬼道が指摘した穴を突き始めた。穴とは、ネッパーのことである。ネッパーは、この圧倒的な点差から、プロミネンスだけでも勝てる相手だと思い始めたのだ。後半、雷門イレブンはそこに付け込み、ボールを奪う。

そして、豪炎寺の爆熱ストーム。アフロディのゴッドノウズ。綱海のツナミブースト。鬼道、土門、円堂のデスゾーン2。円堂のメガトンヘッド。次々と、雷門のシュートが決まっていく。これに焦りを感じ始めたガゼルが、険しい顔付きで周りを見渡した。

そして、スコアは10対7。再び、カオスからのスタートだ。だが、ツートップでポジションについていたバーンとガゼルが、2人だけでどんどん雷門陣営に斬り込んでいく。凄まじきスピードで、あっという間にゴール前まで攻め込まれてしまった。

 

「バーン‼︎」

「ガゼル‼︎」

 

2人同時に空高く跳躍する。この試合で初めて見る動きに、鬼道は足を止めて怪訝にそれを見る。

 

「何をするつもりだ……⁉︎」

「これが、我らカオスの力!」

「宇宙最強チームの力だ!」

 

叫んだ2人の足に、炎と氷のオーラが纏われた。

 

「「ファイアブリザード‼︎」」

 

そして、2人同時に蹴り出したボールは、炎と氷の力を纏って、ゴールを守る立向居に襲いかかる。対する立向居も、究極奥義で挑んだ。

 

「ムゲン・ザ・ハンド‼︎ ……うわあっ⁉︎」

 

しかし、ムゲン・ザ・ハンドは破られてしまい、ゴールは再び雷門ゴールのネットを揺らした。

雷門イレブンが立向居を案じ、彼の元に集まる。

 

「立向居……!」

「円堂さん、すみませんでした……」

 

やっと習得したムゲン・ザ・ハンドが破られた。その動揺も大きなものだろうに、立向居は申し訳なさそうに肩を落として、謝る。円堂は、そんな彼を励ます言葉を送る。

 

「謝ることはない。次止めればいいんだ!」

「でも……」

「究極奥義に完成なし、だ!」

 

それは、円堂大介の裏ノートに書かれていた言葉だ。それはまるで魔法の言葉のように、立向居の落ち込んだ心を立ち上がらせた。

 

「……円堂さん……はいっ!」

「よーし、気合い入れ直していくぞ!」

「まずは4点、取っていこうぜ!」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

みんなの心を合わせて、再び一つになった雷門イレブンは、それぞれのポジションに戻っていった。そんな雷門イレブンの姿を、観客席で見る少女は安心したように微笑んだ。

 

 

 

 

ところが、試合再開で、カオスの動きが一転した。先程のバーンとガゼルのシュートが彼らを後押ししたのか、プロミネンスとダイヤモンドダストが本当の意味で一つになった。鬼道もリズムが変わったことに困惑し、その隙にどんどん攻め込まれる。一気にディフェンスラインを突破され、再びバーンとガゼルにボールが渡った。そのボールを空中へ運び、2人が跳躍する。

またファイヤブリザードか、と誰もがシュートを決めさせまいとゴール前に立ちはだかろうとする。そんな雷門の様子など気にも留めず、シュートを決めることだけを考えていた2人の目の前に、突然一筋のシュートが飛んできた。

シュートはファイヤブリザードを決めるはずだったボールを弾き飛ばし、サイドラインから出ていった。

突然の邪魔に、着地したバーンが鋭く叫ぶ。

 

「誰だ‼︎」

 

ボールが飛んできたのは、フィールド付近の入り口からだった。暗がりの奥から、小さく足音が聞こえてくる。光が差し込んでいるギリギリの辺りに立ち、それが誰かは分からない。その人物が、その場所からフィールドに立つ円堂に向かって言った。

 

「遅くなって、申し訳ありませんでした」

「え……?」

「何⁉︎ まさか、お前は……」

 

聞き覚えのある声に、円堂は笑顔を、バーンは驚愕の表情をそれぞれ見せる。バーンの隣に立つガゼルは、意味ありげにニヤリと微笑んだ。

 

「来たか。…………青木穂乃緒‼︎」

 

名を呼ばれた彼女は、暗がりからゆっくりと歩み寄った。青い髪をサラリと流し、その赤い目を隠していた前髪は、目が見えるように切り揃えられていた。

 

「青木‼︎」

「青木‼︎」

「青木さん‼︎」

 

雷門イレブンが一斉に彼女に駆け寄る。円堂は彼女に微笑みかけながら、変わらない様子の彼女を見た。

 

「今までどこ行ってたんだよ! 心配してたんだぞ?」

「……私を? 貴方方が?」

「え? 何言ってんだよ、仲間を心配するのは当たり前だろ?」

 

青木は円堂の笑顔を見て、小さく笑みを浮かべる。そして、フィールドから自分を見つめる視線に、意識を向けた。

 

「状況は、何となくですが把握しました。私も、お力添えしたくここへ来ました。……どうか」

「ああ! 監督、良いですよね!」

「ええ。青木さん、木暮くんと交代よ」

 

青木は数日ぶりのユニフォームに腕を通し、スパイクの紐を結び直す。フィールドに立った青木の後ろ姿を見た立向居は、嬉しそうに彼女を見つめた。

 

(青木さん、無事で本当に良かった……。よーし、頑張るぞ‼︎)

 

グローブを打ち鳴らし、気合いを入れた立向居を、青木も横目で優しい視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスからの試合再開、スローインされたボールを、パスを受けようとしたガゼルの前を、一つの蒼い影が駆け抜けた。すぐにガゼルがそれの正体を見ようと振り返る。

 

「青木穂乃緒……!」

「…………」

 

青木はガゼルを一瞥すると、すぐにドリブルに転じる。そのスピードも健在で、阻もうとする前に、突破されてしまう。

 

「ソニックアクセル‼︎ ……ッ」

 

必殺技を決めた青木は、一瞬小さく顔を歪めたものの、すぐに前線にいる豪炎寺にパスを出す。円堂が、ボールをキープした豪炎寺の背中を押すように叫ぶ。

 

「いけーっ! 豪炎寺!」

「こっから先は行かせん! イグナイトスティール‼︎」

 

もちろん、そう簡単に攻めてもらえるわけではない。豪炎寺はこれをギリギリでかわしたものの、次の瞬間に今度は氷が豪炎寺を襲う。

 

「フローズンスティール‼︎」

「ぐあっ……⁉︎」

 

なんと、ほとんど間を置くことなく相手DFの必殺技がボールを弾き、ボールを奪われてしまった。

 

「豪炎寺!」

「っ……大丈夫だ……!」

 

カオスのダブルディフェンスを見た青木は、チッと舌打ちを立てた。どうやら、かなり厄介な壁に当たったらしい。あのディフェンスは、最初の炎のスライディングをかわしても、すぐさま氷のスライディングが襲いかかってくるため、間がほとんどない。

どうしたものか……頭を抱える青木を、遠くから見る目がある。バーンとガゼルだ。

 

「やはり現れてくれたか、青木穂乃緒」

「そうじゃなきゃ面白くねーだろ? あいつがグランを揺する手になるんだからよ」

 

グランを揺する手。彼らの狙いはこれだった。もちろん、サッカープレイヤーとしても、ほぼ初心者から自分たちと渡り合えるほどの実力者に成長した彼女を、仲間として引き入れることは、彼らにとって重要だった。

雷門には、限界がない。だから、ジェミニストームやイプシロン、そして自分たちと互角に渡り合えるほどの力をつけてきた。それは、彼女もまた然り。

しかし、バーンとガゼルにはそれ以外にも彼女を手に入れたい理由があった。それは単に彼女のことを2人が気に入っただけなのだ。だが、雷門を潰してまで手に入れたいと思うのは、何故なのだか分からない。

 

「青木穂乃緒……今度こそ、お前を私のものにしてみせる!」

「グランなんかには渡さねえ……。絶対、俺のもんにしてやる!」



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青木さんの誕生日

青木さん、happy birthday‼︎


宮坂side

皆さんどうも初めまして。宮坂です。

突然ですが、俺は今自分の部屋を片付けています。別に年末の大掃除が少しでも楽になるからとかそんなワケでなく。

実は、今日は青木さんの誕生日なんです。ちなみに知ったのは今日の朝。電話で、青木さんが……。

 

『了、私、今日初めて年を重ねたと感じたわ』

「へ⁉︎ あ、青木さん今日誕生日だったんですか⁉︎」

『? ああ……そういえばそうだったわね。あ、でも今回のこれは特に関係ないわ。ちょっと筋肉のせいで体重が増えただけなんだけどね』

「…………そ、そうですか」

 

と、いうことで今自分の部屋を片付けて、青木さんを招く準備中です。あ、青木さんどころか……お、女の子を家に上げるなんて初めてだけど……青木さんなら……大丈夫、かな! うん!

あらかた片付いたところで、家のインターホンが鳴った。

 

「あっ! は、はい!」

 

ドアを開けると、そこには普段見たことのない私服姿の青木さんが腕を組んで立っていた。

 

「あ……」

「久しぶりね、了」

「お、お久しぶりです! あの、どうぞ」

 

青木さんを部屋に連れてから、俺はドリンクを持ってくる。あれ? そういえば青木さんって何飲むんだろ?

そういえば……俺、青木さんのことについて、何も知らないな……。

……そうだ! 青木さんと、出かければ何か分かるかも!

 

「? 了?」

「……あ、あの、青木さん‼︎」

 

俺は青木さんの手を引き、立ち上がらせた。

 

「俺と、か、か、か……買い物行きませんか⁉︎」

「買い物? 別に買いたいものはありませんが」

「いいから! 行きましょう!」

「はぁ……」

 

俺はとにかく青木さんを連れ出し、なんでも売ってるショッピングモールに向かった。せっかく上がってもらったのにわざわざ連れて行くのはちょっと失礼だったかな……と思ったのはショッピングモールに着いてからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、青木さん! 欲しいものがあったら、何でも言って下さい!」

「そうね。あれとあれとあれとあれとこれとそれと……」

「いや、いやいや‼︎ ちょっと多すぎませんか⁉︎」

「冗談よ」

「も、もう……」

 

相変わらず俺をからかう青木さんに、俺は溜息を漏らす。まあ、この人はドSだって知ってるけど……しばらく会わない間に変わったかと思えば全く変わってない。まあ、久々に会ってめちゃくちゃ変わってたら、それはそれで何か嫌だけど。

もし俺の知らないところで、青木さんが他の男のことを好きになっちゃったら……そう思うだけで、胸が苦しくなる。青木さんが美人だってことは、俺もよく理解してるつもりだ。だからこそ、心配なんだ。青木さんが、どこかへ行っちゃいそうで。そんなの嫌だ。俺だけを見ていてほしい。こんなの我儘だって分かってる。でも、それでも絶対嫌なんだ……。

 

「……了?」

「へっ……⁉︎」

 

青木さんの驚いたような声を聞いて、俺も一緒に驚いてしまった。俺の手が、自然に青木さんの手を掴んでいた。

わああああああああ‼︎ な、な、何してるんだ俺⁉︎ あ、でも青木さんの手って、意外と柔らかいんだな……。いつも鍛えてるって言ってたから、筋肉質なのかなって思ってたけど、ちゃんと女の子みたいに脂肪つくんだ……って、何考えてんだ俺はぁあぁああ‼︎

 

「了」

「は、はいっ⁉︎」

「了の手……温かい」

 

青木さんは小さく微笑みながら、俺の指に自身の指を絡めるように握った。突然の青木さんの大胆な行動に、俺の心拍数は上がりっぱなし。

青木さんの笑顔……やっぱり、綺麗だな……。普段無表情だから、時折見せる笑顔が、いつもよりも輝いて見える。いつも、この笑顔を俺だけに向けてほしい……なんて、恥ずかしくて言えないから……。俺は、ゆっくりと繋いだ手に力を込めて握った。

 

「了」

「はい……?」

「私は、別にほしいものなんてないわ。ただ、貴方とこうしているだけで。それで充分。今日は、とても嬉しい誕生日になったわ。……ありがとう、了」

「青木さん……」

 

その言葉が嬉しくて、俺も笑顔で頷いた。

 

「はい!」

 

 

 

 

 

それから、俺たちはたい焼きを一緒に食べながら帰った。

青木さん、誕生日おめでとうございます!







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70話 vsカオス3・アフロディの奮闘

Side無し

それから、豪炎寺が再びカオス陣営を突破しようと試みるが、失敗に終わってしまう。確かに、あのダブルディフェンスを攻略するのは側から見ても困難だと分かった。そんな雷門の様子を見たバーンとガゼルはほくそ笑んだ。

 

「勝負あったみたいだな」

「お前たちに宇宙最強のダブルディフェンスは破れねえ!」

 

その余裕げな表情を見て、もちろん気に食わないと感じるのは、青木だ。青木も、あのディフェンスを自分のスピードで何とか突破出来ないものかと頭を悩ませていた。

と、ここでアフロディが円堂たちの元にやってきた。

 

「あのディフェンス……僕に攻略させてくれないか?」

「アフロディさん……?」

「あのディフェンスは……僕が破る‼︎」

「や、破るって……そんな簡単に破れる技じゃないぞ⁉︎」

「大丈夫さ。だから、僕にボールを集めて」

 

土門が反論するも、アフロディは何故か自信ありげに微笑む。青木も、彼を怪訝に見つめて詰め寄る。

 

「何か、策でもあるのですか」

「……とにかく、大丈夫だから。心配しないで、青木さん」

「別に貴方の心配はしてません」

 

ズバッとアフロディの心に槍が突き刺さるような感覚が彼を襲った。

ーーああ、この娘は人を信用しない娘なんだな……。

青木の冷たい態度に全員が苦笑いを浮かべつつ、その中で鬼道がアフロディの策に乗る形で言った。

 

「……よし! みんな、アフロディにボールを集めるんだ!」

「「「「おうっ‼︎」」」」

 

青木は未だに、彼の提案に乗れずにいた。まあ、あれを本当に破れるというのなら、それはそれで……。といろいろ考えていたが、青木は鬼道に促されたため、ポジションについた。

 

 

 

 

 

アフロディは、自他認めるスピードの持ち主だった。だが、そのスピードを持ってしても、カオスのダブルディフェンスを破ることは難しい。幾度も挑戦するが、ことごとく吹き飛ばされてしまう。

しかし、彼は仲間に明るい声をかけて、ボールを集めようとする。円堂たちも青木も不安げだが、今のうち打開策はないので、とにかくやるというアフロディにボールをひたすら集めるしかない。

もう、何度挑んだだろうか。アフロディの体は傷付き、足取りもおぼつかない。それでも、彼は挑もうとした。すべては、ベンチで試合を見守る……サッカーが好きで、諦めたくない吹雪のため。それだけが、今の彼を突き動かしていた。

 

「これで終わりだ!」

「アフロディ……!」

「イグナイトスティール‼︎」

 

もはや、今の彼には最初の必殺技すら避ける体力すらない。ボールは弾かれ、空高く飛び上がった。その、一瞬フリーになったボールをキープしたのは、ジャンプしてきた青木だった。まるで背中に羽があるかのように高く跳ぶ彼女に、全員が釘付けになる。

 

「すみません、アフロディさん。このチャンス、利用させて頂きます‼︎」

「青木さん……!」

「決める……‼︎ デモンズファイア‼︎」

 

卒然とした空中からのロングシュートに、誰もが息を呑んで行く末を見守った。キーパーは構えるが、そのシュートはポストに弾かれてしまった。

 

「ッ……‼︎」

 

青木が悔しさに顔を歪め、地面に着地した次の瞬間、ピッチに強烈な光が叩きつけられた。

その光の圧力に、アフロディが吹っ飛ばされてしまう。

 

「アフロディさん‼︎」

 

それに気付いた青木が、彼の背後に回り込み彼を抱きとめる。お姫様抱っこのような形になったが、今それを気にする者はあまりいなかった。

光が収まると、そこには黒いボールがポツリ。それをフィールドにいる全員が理解する前に、上空から声が降り注いできた。

 

「……みんな楽しそうだね」

「ヒロト‼︎」

 

帝国学園の建物の上に、グランが立っていた。グランは円堂の声を聞き届け、フィールドに降り立つ。

 

「やあ、円堂くん。穂乃緒ちゃん」

「お前……一体何しに?」

「今日は君たちに用があって来たんじゃないんだ」

「では、何のために」

 

一歩前に進み出た青木は彼を問い詰めるが、グランは答えず、キッとバーンとガゼルを睨みつけた。

 

「何、勝手なことをしている」

「俺は認めない! お前がジェネシスに選ばれたことなど‼︎」

 

バーンがグランを指差して吠えるが、グランは相変わらず彼らを鋭く見据えるだけだ。完全に外野の雷門はただその会話を聞いているしかなく、その間にも彼らの間で言葉が交わされる。

 

「我々は証明してみせる! 雷門を倒して、誰がジェネシスに相応しいのかを!」

「……往生際が悪いな」

 

あの冷静なガゼルが、声を荒げて叫ぶ。グランもそれに態度を変えず、冷ややかに突き返す。

そして、黒いサッカーボールから光が放たれた。

 

「っ……一体、何なの……待ちなさい‼︎」

 

珍しく、青木が去ろうとする彼らについていくかのように前に出る。それを驚いた様子で見たグランはにこりと微笑み、口を開いた。

 

「……また、迎えに行くよ」

 

その言葉を最後に、光がさらに強くなり、視界が奪われる。光が収まった頃には、彼らはフィールドから姿を消していた。

青木は睨みつけるようにその空間を見つめていたが、ふと自分の抱えているものが重く感じ、それを見る。アフロディが、目を閉じてぐったりと彼女の腕の中で気を失っていたのだ。

 

「アフロディさん……? アフロディさん‼︎ アフロディさん‼︎」

「アフロディ‼︎」

 

青木がどれだけ揺さぶっても、雷門イレブンが名を呼んでも、彼が目覚めることはなかった。




青き炎も、皆様のおかげで70話突破。ありがとうございます‼︎


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71話 頼み

青木side

あの後、入院したアフロディさんに呼ばれた私は、彼がいるという屋上へ向かっていた。体を動かす度に少し痛みが走るが、何度も経験しているので大したことはない。

屋上に出る扉を開けると、フェンスに背中を預けるように座っている彼がいた。

 

「ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって」

「いえ」

 

彼とはあまり話したりしたことがないからか、言い方が固くなってしまう。どうしても柔らかく言えない。

円堂さんたちと関わって、変われたかと思ったのに、案外そうでもなかったみたいだ。

 

「あの、話とは何ですか」

「……あの、吹雪くんのことなんだ」

「吹雪さん?」

 

何故いきなり吹雪さんが出てくるのだろうか。

私が軽く首を傾げると、アフロディさんはクスリと笑った。

 

「カオスとの戦いで、僕が伝えたかったことを彼は感じてくれた。だけど、彼が立ち直るにはまだ足りないみたいなんだ。だから、君に頼みがある」

「頼み……とは?」

「彼のことを支えてあげてほしいんだ。彼は今、自分とその中にあるもう一つの人格とで悩んでいる。だから、何があっても、吹雪くんを……"吹雪士郎"を求めてくれる人が必要なんだと思う」

「……それを、私になれと?」

 

問いかければ、アフロディさんは頷いて答える。

吹雪士郎を求める。

それは、吹雪アツヤではなく、吹雪士郎の力を必要とするということなのか。

私には、愛情がどうのっていうのは分からない。

だけど、それで彼が、少しでも楽になってくれるのならば。

 

「……分かりました」

「青木さん……ありがとう」

「吹雪さんは私に任せて下さい」

「……頼んだよ、青木さん」

 

アフロディさんは、よろしくと言う代わりに、手を差し出す。

だが私はその手を握ることなく、頭を下げてその場を去ろうと歩き出した。

 

「……青木さん」

「すみません。私には、貴方の手は握れません。……それは握手、というものなのでしょう? 今の私には、握手をする資格がありません」

「……? 君は、一体……」

「……それでは」

 

彼を振り返ることなく言葉を交わした私は、そのまま屋上のドアを開き、階段を静かに降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

病院の窓口付近に行くと、そこには見たことのある大人の姿があった。

 

「……鬼瓦さん、滝野さん……」

「一体、何のつもりだったんだ?」

 

棘の含まれた鬼瓦さんの声に、思わず体が固まる。それを隠すように、後ろで組んだ、腕を掴む手に力を込めた。

 

「何のつもり、とは?」

「とぼけても無駄だぞ。何故いきなり俺たちに連絡なく家に向かった」

「…………」

「分かってたはずだよね? 君の家は危険だったんだよ。だから、俺たちと一緒に行かなきゃ……‼︎」

「……すみませんでした」

 

頭を下げて、滝野さんたちに謝る。迷惑をかけたことは事実だ。それは悪かったと思うし、非は認める。

 

「でも何で貴方方がここにいらっしゃるのですか」

「それは、君がこのまま雷門イレブンに合流するのを止めるためだよ」

「は?」

「これから雷門中に行こうとしたでしょ」

「げっ……」

「げっじゃないから」

 

何故バレていた? 確かに、私は雷門イレブンと合流するつもりだったが。意外とバレるものなのだろうか?

 

「あのね、君は怪我をしてるの! しかも本来なら立ってることが不思議なくらいの大怪我! 分かってる⁉︎」

「……なんとなく」

「分かってないでしょ⁉︎」

 

呆れた滝野さんは私を無理矢理担ぎ上げ、病室に連れて行こうとした。

 

「待って下さい。何してるんですか」

「君は病院抜け出してるんだから。これからは絶対、ここから出て行っちゃいけないよ」

「は? 何を仰っているのですか。この程度、どうってことありませんし」

「ダメなものはダメなの‼︎ ほら、行くよ」

 

滝野さんが私を担いだまま病室へ連れて行こうとすると、鬼瓦さんが組んでいた腕を解いた。それに、振り返った滝野さんの腕が、少し緩む。その内に、パッと離れる。

 

「あっ⁉︎ ちょ、穂乃緒ちゃん‼︎」

「それでは」

「ちょっと待て」

 

病院を出ようとした矢先、鬼瓦さんに呼び止められ、それと同時に足を止める。私は彼を振り返らずにその声を待った。

 

「お前の恐怖の対象だった奴らは、既に逮捕した。それだけ言っておく」

「…………ご報告、ありがとうございます」

 

ただこれだけの会話を交わして、私はそのまま病院を後にした。

 

 

 

 

 

Side無し

青木が病院から姿を消した後、滝野は彼女を行かせた鬼瓦に詰め寄っていた。

 

「鬼瓦さん、本当にあの娘を行かせてよかったんですか? このまま戦い続けたら、あの娘が……」

「今、エイリアと戦えるのは、雷門だけだ。あの娘も、その一員だろう。あの娘が戦いたいと願うならば、それを尊重してあげるのが、今のあの娘にとって良いと思ってな」

「……あの娘はまだ子供ですよ⁉︎ しかも14歳だ! まだ未来があるあの娘に、そんな無茶を……‼︎」

 

滝野が普段尊敬する彼に強い口調で攻めるのも、無理はなかった。

 

夕香を救ってから、鬼瓦と滝野は青木の証言の元、捜査を続けていた。証拠の物品は見つからなかったものの、彼女の壮絶な過去が充分な証拠となり、容疑をかけるのは簡単だった。

青木は今、血の繋がりが全くない夫婦に引き取られている。しかし、彼らはストレス発散道具として、今までずっと青木を痛めつけていた。殴る蹴るはもちろん、刺すこともあった。

だが、青木が雷門イレブンに参加してから、夫婦は血眼になって彼女を探していた。というのも、青木は彼らに連絡一つ残さず、家を後にしたのだ。

それは彼女の置かれている立場からすれば、もはや当然と言っていいものであり、自然でもあった。

 

そして、彼らがやっと逮捕状を得て駆け付けたその時には、もう遅かった。

逮捕はしたものの、青木は意識がほとんど無い状態だった。急いで病院に搬送された青木は、意識こそなんとか回復したが、彼女が病院のベッドでゆっくりしているはずがなかった。

青木は隙を見つけて病院を抜け出し、帝国学園のグラウンドへ1人向かっていたのだ。

その体が、限界に近いことを知っていて。

彼らはそれを、止めることが出来なかった。滝野は特に、自責の念に駆られていた。

だが、鬼瓦はそんな彼に対し、諭すように口を開く。

 

「そうして、彼女の自由を奪うのか? 確かに、あの体で戦うのは無茶があるとは思うが……。やっと自由を、自分の居場所を手に入れたんだ。あの娘は」

「…………」

「あの娘は、大怪我を負っている。……止めなければならないことは、俺もよく分かってる」

「なら‼︎」

「だから、苦しいんだ」

 

鬼瓦は拳を強く握り締め、耐えるように声を絞り出した。

 

「自由に、行かせてやりたい。でも、本当は止めなければならない。……俺も、この判断が正しいのかどうか分からない。それを決めるのは……あの娘だけだ」

「鬼瓦さん……」

 

滝野にはそれ以上、何も言えなかった。

鬼瓦も滝野も、思いは同じ。

青木を救いたい。

本当に、ただそれだけだった。

鬼瓦は組んでいた腕を解き、歩き出した。

まだ、戦いは終わってない。エイリア学園と、真の決着をつけなければならない。

鬼瓦の表情にも、その色は滲んでいた。それを見た滝野も、決意の表情を浮かべて頷いた。



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72話 崩壊

私はみんなと合流するために、雷門に戻ってきた。だが、何やらキャラバンの前で雷門イレブンが集まっていた。

 

(? 一体、何をしているのかしら……)

 

怪訝に思った私は一瞬足を止めるが、確かめる必要があるとすぐに再び足を動かした。

だが、私の耳が拾った彼らの会話により、再び私の足は止まることになる。

 

「そんなん、信用出来ひん……!」

 

浦部さんの声だった。どこか怒気を含んだ声。それに続いて、今度は彼女の隣にいた一之瀬さんが呟くように言う。

 

「結局、監督は……俺たちの質問には何も答えなかった」

「ダーリン……」

「俺だって……今度の戦いには疑問がいっぱいあった。それでもついてきたのは、エイリア学園の攻撃で傷付いた、みんなの思いに応えたかったからだ……」

 

一之瀬さんの表情が、険しい。怒りを込めるように、拳を強く握りしめた。

 

「今日のカオス戦だって、アフロディが倒れている……」

「一之瀬くん……」

「だけど監督には、みんなの思いは何にも届いてない……! 俺はこんな気持ちじゃ、富士山になんか行けない!」

「俺も一之瀬と同じだぜ……もう我慢の限界だ」

 

一之瀬さんの言葉に、土門さんも賛同する。と、ここで土門さんは鬼道さんにも意見を求める。

 

「鬼道はどうよ?」

「……どちらに転ぶにしても、判断材料が少なすぎる」

「……らしい答えだよ」

 

みんなが口々に不安を漏らす。いつも、あんなに強く見える彼らが、今日ばかりは何故か弱々しく見えた。その理由はすぐに分かった。

チームの士気が下がっているから。

……やはり、所詮こんなものか。

どんなに強く硬いものでも、必ず破壊できる場所……(コア)がある。(コア)を集中して攻撃することで、たとえどんなに完璧に見えるものでも簡単に崩すことができる。

彼らの(コア)は、仲間。仲間のために、雷門イレブンは彼らの思いを背負って、今日この日まで戦い続けていた。

今、その(コア)を突かれ、まさに雷門が崩れている。

やはり、こんなものだったか。人間など、所詮一枚岩になれるはずがない。雷門崩壊は、こんなに呆気ないものだったのか。

私は呆れて、その場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも、私は雷門に何を求めていたのか。

何を感じて、何に惹かれて雷門に居続けたのか。

分からない。私は……一体何故、雷門に居続けたのかしら……? これから、私は一体何をすればいいの?

 

「っ……エターナル、ブリザードッ‼︎」

 

河川敷を歩いていた足を止め、声の聞こえた方に目を向ける。

吹雪さんが、ユニフォーム姿でボールを蹴っていた。必殺シュートは途中で勢いを失い、ゴールポストに跳ね返ってしまった。そのボールは私の方に飛んで来た。

 

「!」

「‼︎ ……穂乃緒ちゃん」

 

そのボールを受け止め、吹雪さんと視線を交差させる。私は階段を降り、吹雪さんにボールを手渡した。

 

「穂乃緒ちゃん……アフロディくんのところに行ってたの?」

「はい」

「……雷門のみんなに、会った?」

「いえ」

「瞳子監督のことは?」

「何かあったのですか」

 

私の淡々とした物言いに彼は戸惑いつつも、何があったのか詳しく説明してくれた。

瞳子監督が、グランに姉さんと呼ばれ、もしかしたらエイリア学園のスパイかもしれないこと。そして、明日の朝、瞳子監督と一緒に富士山麓に行けば、エイリア学園の真実が分かるということ。

 

「……そんなことが」

「穂乃緒ちゃんは行く? 富士山麓へ……」

「…………私は……」

 

もう、ここにいない方がいいのかもしれない。ふと、そう考えてしまう自分がいた。言い淀んでいると、ポツリと雨が頭に当たった。

それに空を振り仰ぐと、黒い雲が空を覆い、雨がポツリポツリと降ってきていた。

 

「雨……」

「……ホントだ」

 

空を見上げていたが、遠くで雷が落ちたのだろう、大きな音が響いた。

 

ーーゴロゴロゴロッ‼︎

 

「……?」

「ううっ……!」

「吹雪さん……⁉︎」

 

隣を見てみると、吹雪さんがその場で蹲っていた。

 

「吹雪さん……? どうなさったのですか?」

「ぅ……ぁ、あぁ……」

「っ……」

 

完全に怯えきっている。このまま外にいれば、風邪を引いてしまう。そう判断した私は、彼を抱き抱えて橋の下に避難することにした。

吹雪さんを地面に下ろし、膝を抱えてガタガタ震える彼の隣に座る。

未だ怯えている彼に、なるべく優しい声音を作る。

 

「大丈夫ですか?」

「あ……あの音が……」

「音?」

 

音……? 音って……まさか、さっきの雷が? 首を傾げていると、今度は雷の音がさらに轟然と聞こえてきた。

 

「うわぁあぁああっ‼︎」

「⁉︎」

 

雷が鳴り終わらない内に、悲鳴を上げた吹雪さん。やっぱり……この人は、大きな音が苦手なんだ。北海道での、あの時みたいに……雪崩の音が、家族を奪ったから、トラウマになってるんだ……!

とにかく、今は彼を落ち着けさせなければ。私は彼の震える肩に手を置いた。

 

「吹雪さん、落ち着いて下さい。あれは雪崩ではありません」

「イヤだッ……みんないなくなっちゃうんだ‼︎」

「っ……私はここにいます! いなくなりません! だから、落ち着いて……」

 

彼の震える肩を強く掴み、こちらに向けさせる。吹雪さんの瞳は揺れていて、恐怖の色に染まっていた。私が強く訴えかけると、吹雪さんはだんだん落ち着きを取り戻していった。

吹雪さんは縋るように私の手を掴み、俯いたままボソボソと話し出した。

 

「……僕には、アツヤが必要だった……」

「吹雪さん……?」

「ひとりぼっちが……怖かったんだ。僕は、寂しくて寂しくて……どうにかなりそうだった。それで……強くならなきゃって思った」

 

雪崩は、一瞬で彼の家族を奪った。その事実は、幼い彼にとって、到底受け入れられるものではなかったはずだ。

それでも、生きていかなければならない。だから、彼は強くなることを志した。でも……それは、一人では出来なかった。彼には、どうしても自分は支えてくれる……アツヤが必要だった。

 

「その時……あの声が聞こえたんだよ……」

「声?」

 

 

 

それは、小学生の頃。サッカーチームでプレーしていた時のことだった。プレーも上手くいかず、足を止めたその時。

 

『兄ちゃん、全然ダメだよ‼︎』

 

その声は、弟の遺品であるマフラーから聞こえてきたような気がした。そのマフラーに手を触れたその瞬間、アツヤの人格が生まれたのだ。

 

 

 

「アツヤに委ねると……心の底から力で満たされるようで、気持ち良かった。……いつの間にか頼ってしまうようになって……」

 

吹雪さんは目を閉じて、再び目を開けてから、さらに続けた。

 

「でも、それがだんだん怖くなってきた……。アツヤでいればいるほど、本当の僕が……吹雪士郎がどこかに行ってしまいそうになる」

 

吹雪さんの声は、微かに震えていた。彼の元気のない姿に、私は固まる他なかった。こんな時に、何か声をかけてあげるべきなのだろう。だが、私には何も言えなかった。

 

(やはり、私は弱い……)

 

私は彼の隣に座り、雨の止まない空を見た。黒い雲に覆われ、太陽を見せる隙がない。

彼の心も、きっとそうだろう。悩んでいるのに、みんなに心配をかけたくなくて、抱え込んでしまっている。人格の問題は、吹雪さんにしか解決出来ない。

私なんかが、助けられるはずがない。

でも……それでも、私に出来ることは……吹雪さんの隣に居てあげて、彼の心を支えること。

 

「……! 穂乃緒、ちゃん……?」

 

私は吹雪さんの震えを止めるように抱きしめ、頭を撫でた。

 

「吹雪さん……貴方が怖いというのなら、私が貴方をこうして抱きしめます。貴方を、決して独りになんかさせません。絶対にです。貴方を必要とします。貴方を守ります。貴方を……離しません」

「穂乃緒ちゃん…………」

 

吹雪さんは驚いたように私を見ていたが、それからまた私の背中に手をまわして、強く私の背中を掴んだ。

少し痛かったが、これくらいどうってことない。私より痛いのは、きっと吹雪さんだから。

 

「穂乃緒ちゃん……独りは……独りはやだよっっ‼︎」

 

痛烈な叫び。ずっと、吐き出したかったのだろう。私は彼を宥めるように、黙って吹雪さんを抱きしめ続けた。



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73話 好き

雨がなんとか止み、吹雪さんを送り出してから私は家への帰路……ではなく、たい焼き屋へ急いでいた。この時間では閉まっていただろうか。久々に行くから、忘れてしまった。

あと2つ角を曲がれば着く。そういうところで、気配がした。

ふと見上げれば、急に白く光り始めた。

 

「くっ……⁉︎」

 

視界が奪われ、思わず目を伏せる。光が収まってくると、慣れた目が映した光景に身構えた。

 

「……貴方は…………」

「また会ったね、穂乃緒ちゃん」

 

目の前に、グランが立っていた。何度も私の前に姿を現した、あの私服姿で。私は驚きで言葉が出ず、しばらく黙って彼と対峙していた。

だが、すぐに睨むように彼を見据え、冷たく声を放つ。

 

「何故貴様がここにいる」

「何故……? そんなの決まってるじゃないか」

 

グランは私に手を差し出し、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「君を迎えに来たんだよ」

 

そう言って、グランは微笑んだ。私は睨み据えるその視線を変えず、勢いよくその手を振り払った。叩いたからか、パァンと乾いた音が響く。

グランはそれが意外だったのか、驚愕の表情を見せる。

 

「くだらん。私は貴様に迎えに来てほしいと頼んだ覚えはない。とっとと去れ」

「……やだよ。君は必ず俺が連れて行く」

「ならば、理由を聞かせろ。前から思っていたのだが……貴様だけではない。バーンも、ガゼルも。何故私に執着する。私にはまったく理解出来ん」

「………………」

 

グランは私の問いに答えず、私を見つめる。それがひたすら気に入らなくて、私の苛立ちは増すばかりだ。

 

「どうした。今すぐ答えろ。私は待つのが嫌いだ」

「……穂乃緒ちゃんって、意外と鈍いんだね」

「は?」

 

待ってやって、返ってきた答えがこれだ。私は思わずポカンとしてしまった。

鈍い? 私が? どうして? 自分でも、あまり意味が分からず、首を傾げる。それが思い通りの反応だったのか、それとも別の意味なのか。グランは私に微笑んだ。

 

「まあ、そういうところも可愛くて良いんだけど」

「?」

「……何も知らされないままじゃイヤなんでしょ? 教えてあげるから、俺と一緒に来てくれる?」

「内容による」

「うーん、厳しいな……」

 

そう言って、グランは優しい笑みを浮かべる。それが、私を理解してくれた人……了と似ていて、少し心がざわついた。

でも、こいつは敵だ。了は、別のところにいる。私には……まだ、雷門でやり残したことがある。吹雪さんに寄り添ってあげることだ。

だから、私は内容がどうであれ、奴についていくわけにはいかない。

グランが、ついに口を開いた。

 

「俺が、君のことを好きだからだよ」

「……?」

「君のことが好きだ。どんな時も、君のことを考えてしまうほど好きだ。君のことを考えていると、君がここにいないことに気が狂ってしまいそうになるくらい好きだ」

 

グランが何やらボソボソと呟き、私の手を握る手に、だんだんと力が込もる。

そして、私を引き寄せ、背中が温もりに包まれる。抱きしめられてると分かったのは、それからしばらくかからなかった。

 

「本当に、好きなんだよ……」

 

グランの目が熱を帯び、私の体を絡め取る腕に力がさらに加わる。私にはあまりよく分からなかったが、私自身が強く求められていることは分かった。だが、それと同時に恐怖を感じた。

このまま彼の腕の中にいたら……どこか別のところへ連れて行かれそうで……。

 

「ッ……離、せ‼︎」

「‼︎‼︎」

 

強引にグランの腕を外し、グランを突き飛ばした。驚いたグランの顔が、遠くなっていく。トンッと後方に飛んで、屋根の上に飛び乗った。

尻餅をついたグランが立ち上がり、私に駆け寄ろうとするが、私とグランのいる場所では、高度が違う。それでも、グランは私をジッと見つめた。

 

「穂乃緒ちゃん……‼︎」

 

私は彼の視線を無視して、別の屋根の上に飛んで逃げた。彼からとにかく離れようとして。

だって、怖かったから。あんな風に見つめられるのが初めてで、怖くて。とにかくあの視線を忘れようと、私は冷たい夜風を受け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない自分の家に着いた私は、ドアの前に背中を預けて、荒い呼吸をしていた。何とか呼吸を整えたところで、家に入ろうとドアノブを回す。だが、ここで背後からの気配を感じて、振り返った。

 

「……今度はお前か、バーン」

「よお。また会ったな」

 

背後に立っていたバーンは、いつもの挑発的な笑みを浮かべて、軽く手を挙げた。

 

「何故ここにいる。一体何の用だ」

「時間がねえんだ。とにかく、俺たちと一緒に来てもらうぜ」

 

私に理由を説明せず、放った言葉は"一緒に来てもらう"。

おかしすぎるだろ。

もちろん、それだけでついていくわけにはいかない。だが、バーンがあの余裕のある態度ではないことに、少し違和感を感じた。

 

「……随分と余裕がなさそうに見える。一体どうした。話せ」

「話す時間がねえんだよ。とにかく来い」

「お前の事情など知るか。話せ。話さなければ蹴るぞ」

 

バーンは淡々とした私の態度にイラついたらしい。噛み付くように叫ぶ。

 

「時間がねえっつってんだろ‼︎ とにかく、俺たちと来い!」

「俺たち……?」

「……待て、バーン」

 

家の塀の陰から、今度はガゼルが現れた。今日は、本当に忙しい日だ。こんな立て続けにエイリア学園マスターランクのキャプテンに出会うとは。私の日頃の行いは良い方だとは思うが。

現れたガゼルは、私に苛立つバーンを宥めるように言う。

 

「彼女のことだ。そう簡単についてくるわけがないだろう」

「分かっているじゃないか。なら、話せ」

「話すのは、向こうに着いてからではいけないか?」

「向こう? どこのことだ」

「我々エイリア学園の本拠地だ」

 

エイリア学園の本拠地。そこには、明日みんなで行く予定だ。私は溜息をつき、彼に返す。

 

「生憎だが、そこへは明日雷門全員で行く。既にグランから招待されている。私は彼らと共に行く。同じところへ行くのなら、今ここで話せ。私はお前らに付き合ってやれるほど、暇じゃない。やらなければならないことがあるからな」

「そんなこと言ってる場合じゃねえんだよ! お前は自分の置かれた立場っつーもんを理解しろ!」

「その台詞をそのままお前らに返す。今まで敵対していたお前らの言葉を、簡単に信じる奴がどこにいる。顔を洗うなりなんなりして出直してこい。いや、二度と来るな」

「だからな……っ‼︎」

「待て、バーン。青木穂乃緒、君もだ」

 

私とバーンの言い合いに割って入ったガゼルが、私の肩に手を置く。話を聞け、ということか。聞く価値もないと思うが。

 

「聞いてくれ。君は、このままではエイリア学園に連れ去られてしまう。我々は君を守るためにここに来た」

「エイリア学園? お前らもそうじゃないか」

「バーカ。俺たちはもう何も出来やしねぇよ。グランがお前を狙ってんだよ」

「グラン?」

 

彼らがグランの名を出すということは、もはや彼らにはエイリア学園の中での立場はほぼないということなのだろうか。しかし、グランなら先程既に会った。

 

「グランなら、先程私の前に現れたぞ」

「何⁉︎」

「何でそんな重要なこともっと早く言わねーんだよ‼︎」

「聞かれなかったからな」

 

こんなくだらない応酬をする私とバーンを放って、ガゼルはひとりごちる。

 

「まさか、こんなに早く君に近付いていたとは……。まだ、この近くにいる可能性は高い。話を続けるぞ、青木穂乃緒」

「ああ」

 

私が頷いたのを見て、ガゼルは続けた。

 

「少し話を戻そう。グランは、君を狙っている。君を守るために、私たちは来た。ここまではいいな?」

「ああ」

「私たちは君を守る。その代わり、君の力を貸してほしい」

「は?」

 

いきなり協力を迫られた。待て。話が繋がらない。何故彼らが私の力を欲しがるのかしら?

 

「お前らの地位向上のために力を貸せと? 断る」

「違う!」

 

冷たく言い放った私の言葉を、ガゼルが強く撥ね付ける。冷静な彼にしては、意外な行動だった。

 

「私たちは地位など望んでいない! 私たちは、ただ仲間を救いたいだけだ!」

「仲間……?」

「ああ。ジェミニストームとイプシロンのメンバーを、救うんだ」

「⁉︎」

 

もう、話が見えなくなってきた。ジェミニストームとイプシロンに、一体何があったのか。何故、彼らを救わなければならないのか。

私は怪訝な顔をして彼らを見つめる。私の疑問の意を察したのか、ガゼルは口を開く。

 

「実は……」

「ッ‼︎」

 

ガゼルが説明しようとしたところで、ゾクッと背筋に寒気が走った。

この感じ。さっきと同じ……!

察したのは2人も同じなのか、私の腕を引き、こちらへ引き寄せた。

 

「っ⁉︎」

「行くぞッ‼︎」

 

ガゼルが私を抱きしめ、それを見て取ったバーンがボールを蹴り上げる。それと同時に、光が周囲を支配した。目が眩みそうになり、私は反射的に目を強く瞑った。



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74話 笑顔

「よっ」

「くっ!」

「うおっ‼︎」

 

突然瞬間移動をしたせいか、バーンとガゼルが転ぶ。私はなんとか着地し、転びかけたバーンとガゼルを仕方なく服を引っ張って支えてやる。

 

「ほら、しっかり立ちなさい」

「お、おう。悪いな……」

「この私が立たせると思うな」

「ぐえっ‼︎」

 

支えた途端、両手を離してやる。何故離したかって? 逆にずっと掴んでやる筋合いがない。

着いたところで辺りを見回してみると、どこかの部屋らしい。ベッドや机、椅子もある。私の様子を見て、バーンが声をかける。

 

「ここは俺の部屋だ」

「……私を稲妻町に返せ。どうやら最悪の場所に着いてしまったらしい」

「おい! 青木てめえどーいう意味だよ!」

「そのままの意味だ」

「おい、やめろ」

 

ガゼルが私とバーンの肩を掴んで制止する。そうだ。今は、こんなことをしている場合ではなかったのだ。

 

「で? ジェミニストームとイプシロンを助けるってどういうことだ」

「ああ……そうだったな。まず尋ねるが……ジェミニストームやイプシロンが、君たちに負けた後どうなったか知っているか?」

「いや……」

「実は、あの後……彼らは追放なんかされてなかったんだ。この施設の中にある部屋に閉じ込められ、再び使えるようにしているらしい……」

「……? どういうことだ?」

「つまり、特訓させられてんだよ。それこそ、拷問みてーな」

「何だと……⁉︎」

 

バーンが言い放った結論に、私は愕然した。何故……そんなことをするのか。彼らは知らなかったのだろうか。それを、問うてみる。

 

「お前らは何一つ知らなかったのか?」

「ったりめーだろ。だからこうして焦ってんだよ」

「……それで、私に彼らを救出するために協力してほしいと」

「そういうことだ。理解してもらえたか?」

 

まあ……話はだいたい理解したので、ここは頷いておく。私はすぐにガゼルに尋ねた。

 

「いつ始める?」

「………………」

「決めてなかったのか? 意外と考えが浅いな」

「いや……ジェミニストームとイプシロンを助けて……君を雷門に返さなくてはならない。そう考えると、やはり早朝に行くしかないと思ってな」

「へえ……わざわざそんなことまで考えてくれてたのか」

 

私はそれだけ聞くと、床にペタンと座り込んだ。

 

「? おい、何やってんだよ」

「寝る」

「はあ⁉︎ そんなとこでか⁉︎」

 

何故バーンが驚く? 私はポカンとした表情を浮かべて彼らを見つめ返していた。突然、ガゼルが溜息をつき、こちらへ歩み寄る。私の前に立つと、腕組みをして私を見下ろした。

 

「風邪を引くぞ。ベッドで寝ろ」

「断る。私には必要ない。お前ら2人で寝ろ」

「男2人が同じベッドで寝て誰が喜ぶんだ」

「知るか。画面の前の腐女子じゃないか?」

「腐女子って言葉知ってたんだなお前」

 

バーンが首を突っ込んできた。話を続けるのがめんどくさくなり、私は体を横たえた。

それが気に食わなかったのか、ガゼルが私の脇と膝の裏に手を入れ、抱き抱えた。

 

「⁉︎ おい、下ろせ‼︎」

「大人しくしろ」

「ああっ‼︎ おいガゼルてめー何やってんだよ‼︎」

「なんだバーン。羨ましいのか」

「そう……って、ちげーよ‼︎」

 

バーンは何故か真っ赤になってガゼルに叫ぶ。まるでキャンキャン吠える犬だ。可愛いことこの上ない。ガゼルは私をベッドに落とし、起き上がろうとする私を組み伏せる。

 

「どけ」

「大人しく私の命令に従え」

「ふざけるな」

「……お前はこの状況を分かってないな」

 

ガゼルは一つ溜息をつくと、私から降りた。一体何を言いたかったのかしら、彼は? ガゼルは私の隣に体を横たえ、バーンも私の隣に、体を投げるようにベッドに横になる。

 

「おい。お前逃げんなよ青木」

「チッ」

「やっぱ逃げようとしてたな。いーから、ベッドで寝てろ」

「はいはい……」

 

もはや逃げることは出来ないらしい。私は仕方なく諦めて、仰向けになって天井を見た。天井はガラス張りになっているのか、夜空と静かに佇む月が見える。

 

「…………綺麗」

「ん? 空がか?」

 

ボソリと呟いたのを聞き付けられたのか、バーンが私と同じように仰向けになる。隣でガゼルも仰向けになったのが分かった。ガゼルがふと、感慨深そうに呟く。

 

「子供の頃、こうやってみんなで空を見上げたな」

「みんな……?」

「ああ。私とバーンと、レーゼ、デザーム、そしてグランとでな」

「え?」

「俺たち、あんなことやってたけど……ホントは家族みたいなもんなんだ」

 

バーンも、両手を後頭部の下に敷き、懐かしそうに目を細める。

エイリア学園の選手たちは、家族。そこには、ランクも何も関係ない。彼らの口から、そんな言葉が出るなんて意外だった。

 

「青木も、こんな風に夜空を見たことあるだろ?」

「いや……」

「は? どういうことだよ」

 

バーンに問われ、私は静かに目を閉じる。もう一度ゆっくり目を開き、夜空を見つめたまま口を開いた。

 

「私の覚えている範囲では、少なくともこうして夜空を見上げたことはない。ただ、暗くて冷たい天井しかなかった。それは地下だったり、私に与えられた部屋だったり。だけど、光はなかった。だから、こうして何も考えず、ただ夜空に瞬く星が美しいと思えるようになったのは、ここ最近だ」

「そうなのか……?」

「ああ」

「……なんか、悪かったな。変なこと聞いちまって」

「いや……別にいい」

 

こんなことを他人に話すのは、もしかしたら初めてかもしれない。

円堂さんたちと関わって、エイリア学園と戦って、たくさんの人と出会った。その中で、ただただ絶望を背負ってしか生きられないと思っていた私が、こうして誰かのために戦おうと、この力を振るおうとするなんて、思いもよらなかった。

 

「私がこんなに変われたのは……雷門と、貴方方のおかげですね」

「は? 何だよ急に」

「……何でもありません」

 

ガラにもなく、ポツリと呟いてしまう。それが本当にらしくなくて、自分でも笑ってしまう。

 

「……ふふ」

「!」

「……!」

 

思わず、笑い声が漏れてしまった。それを聞きつけた2人が、ガバッと起き上がる。

 

「なあ、今笑ったよな?」

「……何のことかしら」

「今笑ったよな! な、笑っただろ⁉︎」

「空耳でしょう」

「いーや、絶対笑った!」

 

バーンが笑った! とうるさいので、軽く受け流しておく。これはこれで面白いかもしれない。隣で見下ろすガゼルも微笑んでいた。

そういえば、円堂さんたちも、私が初めて笑えた時は、とても喜んでくれた。何故、他人の笑顔を見て喜ぶのだろう。人間という生き物は。

今、円堂さんたちはどうしているだろうか。そんなことを考えながら、静かに目を閉じた。

明日。全てを終わらせる決戦が、始まる。




☆追記☆

あけましておめでとうございますm(_ _)m


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75話 私のやりたいことを

翌朝。特に何も起こらなかった夜を過ごし、2人より先に目覚めた私は黙々とストレッチをしていた。久々に、戦う準備をする。そもそも私の体は戦闘用に仕立て上げられているため、ストレッチはあまり必要ではないのだが。片手逆立ち腕立てを繰り返していると、2人が目覚める気配を感じた。

 

「あ……おはよう、ございます……ッ」

「ああ……って! 何やってんだよお前!」

「トレーニング、……ですッ……くっ!」

 

私は一度腕を曲げてから、それをバネにし勢いをつけ、飛び上がった。着地し、上半身を起こした2人を見つめる。

 

「さて、行きましょうか」

「あ、ああ!」

「……」

 

バーンとガゼルはベッドから降り、黒いサッカーボールを小脇に抱えて部屋を駆け出した。青木は彼らの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と長い廊下ですね」

「ああ……」

 

長ったらしいめんどくさい廊下をひたすら走る。私の隣にはバーンとガゼルが並走する。2人ともさすがエイリアのトップと言うべきか、私に追いついている。走りながら、ガゼルに問いかける。

 

「しかし、どうするんですか? ジェミニストームやイプシロンを救うためには」

「ジェミニストームやイプシロンは、とある部屋に閉じ込められている。まずはその部屋を見つけ出す。開けられそうなら開ける。もし無理なら……」

「ぶっ壊す。ですね」

「そうだ」

「わかりました」

 

ぶっ壊すのなら、簡単だわ。私の得意分野だし。

 

「見えてきたぞ! あそこだ!」

 

バーンの声に前を向く。そこには何やら黒い大きな壁が見えてきた。壁はどうやら引き戸らしく、取っ手はない。エイリアの施設には一度侵入したことはあるが、ここには鍵穴らしきものもない。

 

「こいつはどうやら、ぶっ壊すしかないみたいですね」

 

扉をコンコンと叩き、扉のコアを探す。数回に分けてくまなくチェックする。一箇所だけ、音が違う場所があった。

 

「……ここね」

「え? お前、どうするんだよ」

「どけ、青木穂乃緒。私が蹴る」

「はあ⁉︎ 俺だっつーの!」

 

傍で口喧嘩を繰り広げる2人を無視し、コアを確認するように拳をぶつける。

しかし、破壊した時に、扉のすぐ後ろにジェミニストームらがいたら大変だ。私は一応、ガゼルに確認をとった。

 

「このすぐ後ろに彼らはいますか?」

「は? いや……すぐ後ろではない。もう少し遠くだ」

「わかりました」

 

扉に当てていた拳を大きく後退させる。そして、渾身の力で拳を叩きつけた。

 

「はぁあああっ‼︎」

 

ガァアアァン‼︎

 

ピシッ……

 

大きな鈍い音が響き、扉にヒビが入った。

よし、これなら……! と思ったが、扉を殴った腕がビリビリと痺れてきた。

 

「うぐっ……!」

 

痛みが走り、思わず腕を抑えてしまう。

そういえば、この腕は、あの時たくさん刺されて傷がまだ完全に治っていない。そんな腕で物を……しかもこんな硬いものを殴るなんて、無謀だったかしら?

いや、そうでもないみたい。扉は壊すことは出来なかったが、ヒビを入れることは出来た。もう一度殴ればいけるだろう。

 

「おおぉおおおぉおぉ‼︎」

 

扉を殴ろうと、腕を振り被る。痺れた腕を無視しながら、もう一度同じ力で壁を殴った。

 

ゴォォン!

 

扉は再び低い音が鳴り響いた。そして……。

 

ガラガラ……

 

「マジかよ……本当にぶっ壊しちまった……」

「ふん……これくらいどうってことありません」

 

扉にぶつけた手をぶらぶらと振る。少し痺れるが、動かせないことはない。

次の瞬間、けたたましい警告音が鳴り響いた。扉を破壊したことによるものだろう。

 

「早く行きましょう」

「ああ」

 

私たちは奥へと足を進めた。中に入ってみると、そこは暗く、文字通り一寸先は闇だった。私たちの短くリズムを刻む足音だけが、暗闇に響く。

 

「何も見えねーな。懐中電灯ねーのかよ?」

「バカなことを言うな。そんなものを使えば、すぐにバレる」

「真っ直ぐ進めばいいんですよね。なら、簡単です」

 

警告音が鳴ってから、私は少し焦っていた。いつ、敵がここに来るかわからない。あの時みたいに、またスタンガンにやられたら……私は本当に動けなくなる。そうなれば、私は今度こそ捕まるだろう。それだけは、何としても避けたかった。

私には、まだやるべきことがーーいや、やりたいことがあるのだ。

 

 

目がだんだん暗さに慣れてきて、歩くスピードを速める。すると、目の前を鉄格子が遮った。

 

「!」

 

鉄格子に手をかけ、その向こうを覗いてみる。牢屋か何かに閉じ込められていたのは、レーゼ、デザームをはじめとするジェミニストーム、イプシロンの面々だった。

 

「レーゼ、デザーム!」

「おい、大丈夫か! しっかりしろ!」

 

私の両隣で、ガゼルとバーンが中にいる2人に呼びかける。こちらから見て一番近くに倒れていた2人は、私たちの気配を感じ、ゆっくりと体を起こした。

 

「ぅ……」

「レーゼ!」

「ぐっ……なっ……バーン様、ガゼル様……っ⁉︎」

 

目を開けたデザームが、私たちを見る。そして、私を見た途端、目を見開いた。私はデザームの視線を受けつつも、鉄格子を破壊しようと手をかけた。

その背後に、気配を感じる。私は振り返らずに声を発した。

 

「どうやら、追っ手が来たみたいですよ」

「え?」

 

私の言葉に反応したバーンが、背後を振り返る。そこには、およそ20体程のロボットが並んでいた。

 

「⁉︎」

「なっ……‼︎」

 

同様に振り返ったガゼルも、息を飲む。

私は鉄格子から手を離し、数歩ロボットたちに歩み寄った。首をゴキゴキと鳴らし、指の関節を伸ばすように動かす。

こいつらを、このまま放っておくわけにはいかない。私たちは言わば、見つかったという状態なのだ。たとえ、それがエージェントでもロボットでも関係ない。

彼らに任せることは、もちろん出来るかもしれない。しかし、彼らはサッカーボールで敵を攻撃することしか出来ないのだ。それでは、こんな大勢を相手に出来ない。

ならば、ここは私が奴らを殲滅するのみ。それが最善だと判断した。

 

「お二方。その檻を壊しておいて下さい。こいつらは、私が片付けます」

「はぁ⁉︎ 何言ってんだよ‼︎」

「いいから、とっととやれ。私は私のやりたいことを。お前たちはお前たちのやりたいことをやれ」

 

バーンの制止を振り切り、睨みつける。バーンは何か言いたげだったが、私の威圧を受け、渋々下がっていった。

バーンたちを下がらせてから、トンッと軽く地面を蹴る。それから何度かその場で軽いジャンプを繰り返し、戦闘態勢に入った。

 

ドスッ‼︎

 

一瞬で一体のロボットとの間合いを詰め、顔面に膝蹴りを浴びせた。顔面はぐしゃぐしゃに大破し、倒れ込んだ。

膝を入れた私は、ゆっくりと地面に降り立つ。その周りを、ロボットたちが囲んだ。

 

「青木穂乃緒‼︎」

 

ガゼルの声を皮切りに、ロボットが一斉に襲いかかってきた。

私は左足を一歩下げ、両足にグッと力を入れて跳んだ。一周回転するように、ロボットたちの首を狙って足を叩きつけた。

頭と胴体が私の蹴りによって、二つに切り離される。こうして倒れたロボットを見下ろして、周囲にいる他のロボットたちに、ニヤリと怪しく笑ってみせた。

 

「どうしたの? この程度では、私は止められないわよ。さあ、私を倒したければ、どんどん来なさい!」



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76話 共闘

私の背後には、牢屋を破壊しようとしているバーンとガゼルがいる。彼らに被害が及ばぬよう、私は足を振り抜き続けた。

私の腕は、足は、何物にも負けない武器だ。これを最大限に使い、敵ロボットを砕き、四肢を引き千切り、破壊する。

踵でロボットの頭を蹴り落としたり、膝を入れて穴を開けたり、数体まとめて蹴り伏せる。

 

「っ……はぁっ、はぁっ」

 

こんなに暴れたのは久しぶりだ。少し、息が上がる。

1体、私の横をすり抜けてバーンたちの元へ向かうロボットが、私の視界の隅に映った。

 

「っ……行かせるかッ‼︎」

 

右腕を力強く旋回させ、ロボットにラリアットを喰らわせる。ロボットは吹っ飛び、後ろにいるロボットたちを巻き込んで倒れた。

 

「青木! 全員出したぞ‼︎」

 

背後で、バーンの声が聞こえた。それと同時に、最後の1体を地面に殴り倒した。

一つ、深呼吸してから、バーンたちを振り返る。お互い支え合い立つ、ジェミニストームやイプシロンの面々を率いるように、バーンとガゼルが立つ。

ガラクタと化したロボットたちの残骸を踏み付ける私に、ガゼルが声をかける。

 

「……終わったか」

「はい。ここに来たロボットは殲滅しました」

「随分とめちゃくちゃな潰し方だな、お前」

「うるさいですね」

 

バーンの言葉を一蹴して、入り口から出ようと足を向けた。

 

「行きましょう。走れない人は、言って下さい。私が担ぎますから」

「は? ムリだろ。てめえのそんなほっそい腕で男担げるわけねーだろ」

 

バーンの人を小馬鹿にするような発言に苛立ち、壁に拳で穴を開けてやった。

 

「何か言ったか?」

「言ってません」

 

これで黙るんだから、こいつはからかいやすい。よし、これから脅迫はこの手でいこう。

私は足を引きずって立つ選手たちを抱え上げる。数えても5人くらいかしら。

あっさりと5人を抱え上げる私に、バーンは引き気味に言った。

 

「お前ホントに化け物かよ……」

「ほら、早く行きますよ」

 

私たちは部屋から脱出し、前方を走るバーンとガゼルについていった。それにしても、この部屋は施設の奥に作られていたらしい。窓すらも無かった。こんな暗闇の中で、子供を監禁するなんて……こいつら、本当に何なの?

そんな疑問を頭の片隅に残しながらも、出口を探して走り続ける。

前方に、私たちを遮るようにロボットが現れた。

 

「!」

「チッ! こんな時に……」

「ハイジョ、ハイジョ」

 

片言のロボットは、足元にサッカーボールを置いていた。足を振り上げ、ボールを蹴ろうとする。

仕掛けてくるなら、その前にカタをつける。私は怪我人を抱えたままバーンとガゼルの前に躍り出て、ロボットを蹴り飛ばした。

突破口を切り開いた私は、そのまま直線に走り抜ける。その後に、バーンたちが続いた。

 

「青木‼︎ このまま真っ直ぐ進めば、出られる‼︎」

「はいっ‼︎」

 

バーンの言葉に後押しされ、さらにスピードを上げる。だが、そこには光が見えなかった。いや、光どころか、その先には扉も何もない。ただの壁が広がっていた。

これにはバーンも予想外だったらしく、驚愕する。

 

「何⁉︎」

「隔壁が降ろされている……私たちの動きを予め予想していたというのか!」

 

脇道も何もない。行き止まりだ。私は一度担いだ選手たちを下ろし、壁を叩く。鈍い音がするだけで、かなり分厚い構造であることが伺われた。これほど厚くては、私の拳も蹴りも届かない。このままでは、逃げられない!

 

「青木、壊せそうか?」

「……ダメです。こんなに厚くては、破壊出来ません」

「チッ……どーすりゃいーんだよッ!」

 

焦る私たちの背後には、ロボットたちが迫ってきているはずだ。何とかここから脱出しなければ、私たちはおしまいだ。冷静に考えようとすると、黒いボールを中心に、バーンとガゼルが並んでいた。

 

「どいてろ、青木」

「ここは、私たちが道を切り開く!」

「待ってくれ」

 

突然の第三者の声に、バーンとガゼル、そして私も振り返る。そこには、ボロボロのレーゼとデザームが立っていた。

 

「私たちも、この扉の破壊に協力しよう」

「そして、みんなでここから逃げ出すんだ!」

「貴方たち……でも、傷は……」

 

私が彼らを案じて制止しようとする。しかし、レーゼは笑って返した。

 

「これくらい、何ともないよ。それに、出来れば一発で破壊したいからね。俺の力は2人に比べたら微々たるものだけど、出来ることは何でもやりたいんだ」

「…………」

「青木穂乃緒。お前はあのロボットたちから我々を守ってくれないか」

 

デザームからの要求に、私は迷うことなく頷いた。それを見たデザームは、ジェミニストームやイプシロンの面々を振り返る。

 

「皆も聞け! 我々には時間がない。このままでは、間違いなく全員が捕捉されるだろう。何としてでもこれを破壊しなければならない! 動ける者は、我々と共に扉の破壊に努めろ!」

 

ジェミニストームやイプシロンの面々は、互いに頷き合って、立ち上がった。

ボールは2つ。まず最初に蹴り込んだのは、バーンとガゼルだった。

 

「「ファイアブリザード‼︎」」

 

カオス戦で雷門を苦しめた、宇宙最強の必殺シュート。渾身の力を持って蹴り放たれたボールは、壁に強かに打ち据えられた。

次に、レーゼが右足を振り上げる。

 

「アストロブレイク‼︎」

 

かつて何度も雷門ゴールを強襲し、円堂さんを地に伏せさせたシュート技。紫のオーラを纏ったボールが、床を抉りながら隔壁にぶつけられる。

しかし、まだ足りない。今度はデザームが前に出た。

 

「グングニル‼︎」

 

あの正義の鉄拳さえ打ち負かした、デザームの必殺技。

3本のシュートを持ってしても、隔壁は少し凹むだけで破壊には至らない。

 

「まだだ‼︎もう一度行くぞ‼︎」

「今度は私たちが‼︎」

「マキュアもやる‼︎」

「俺たちもやるぞ‼︎」

 

ジェミニストーム、イプシロン、そしてバーンとガゼル。多くの力が一体となって、隔壁を壊そうと奮闘する。

私はそんな彼らを横目で見ながら、ロボットたちを倒しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

必死に走り抜けた道を戻っても、ロボットの姿は見当たらない。一体、どういうことなのかしら……?

足を止めて、キョロキョロと辺りを見回す。誰かの気配があるというわけでもない。それでも、彼らを害する者を排そうと、意識を張り詰めて敵の姿を探した。

……本当に、何もない…………?

 

「見つけたよ」

「‼︎‼︎」

 

聞き慣れた声が、背後から聞こえた。振り返ると同時に、バックステップで距離を取る。

そこには、白いユニフォームを纏った少年がいた。

まさか。まさか。動揺に、私の瞳が揺れる。

そこには……

 

 

 

エイリア学園最強チーム、ザ・ジェネシスのキャプテン……

 

 

 

 

 

 

 

グランが、いた。

 

「……やあ。また会ったね……穂乃緒ちゃん」

 

彼の翡翠色の目に、私の姿が映る。その中の私は、驚きと恐怖の感情に縛られていた。



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77話 貴方はバカですか?

私とグランは、お互い距離を詰めるわけでもなく、ジッと見つめ合っていた。私は戦闘態勢を決して解かず、グランを睨みつける。

 

「昨日ぶりだね。穂乃緒ちゃん」

「…………」

「バーンとガゼルが君のことを攫ったみたいだったから、心配したよ。大丈夫? 怪我はない?」

「……ええ。まあ」

 

私は小さく答える。

攫った、なんてよく言う。貴方が言えた義理なの? 貴方だって私を無理やり連れて行こうとしたクセに。

と、思うが口に出さないでおく。

グランが、一歩足を前に出した。

 

「!」

 

グランがゆっくりと近付いてくる。

 

「っ……‼︎」

 

ジリジリと後退る私に、さらに距離を詰めるグラン。

差し伸べられた手を、私は思い切り払った。

 

「触るな‼︎」

「穂乃緒ちゃん……」

「私はお前に用はない」

「穂乃緒ちゃん……」

「帰れ」

 

冷たく拒絶する。この人には、こうするしかない。

グランは一度哀しげな視線を私に向けたが、すぐにまた私に手を差し伸べ、私の肩を掴んだ。そしてそのまま、私を廊下の壁に押し付ける。

 

「‼︎」

 

ぐっと、グランと私の距離が近くなる。彼の儚げな翡翠色の視線が、より近くで覗けるようになった。

グランは私の顎を掴んで無理やり顔を上げさせ、そしてさらに顔を近付けた。

 

「んむっ⁉︎」

「んっ……」

 

唇が触れた。強引に、押し付けるように。

突然のことに、私の頭はフリーズして、何も考えられなくなった。

足にも力が入らなくなり、ガクガクと震える。その間にも、グランからのキスはどんどん深くなっていく。

怖くなった私は、グランを突き飛ばそうと手を上げるが、ふと止める。

これでは、前回と一緒だ。ここに連れてこられる前と。

これから先、私が何にも縛られず生きていくためには、こんなところで男に負けるわけにはいかない。ここで抵抗すれば、負けを認めたのと同じだ。

だが、この状況から逃れるためにはどうすれば……?

ようやく動いた頭を必死に働かせようと意識を集中させるが、口内に何かが滑り込んできた。

 

「⁉︎ ぁ、っ……」

 

ビクッと体が反応した。カッとなる頭を、冷静に抑え込む。へなっと体から力が抜け、壁に凭れながら座り込む。その時に、唇が離れた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

俯いて、乱れた息を整えようと肩を弾ませる。座り込んだ私と視線を合わせるように、グランもしゃがみ込む。

 

「大丈夫……?」

「…………」

「……ごめんね」

 

グランは、突然私に謝ってきた。それに驚いて顔を上げると、ツゥッ……と頬に冷たいものが伝った。

私……涙を……?

グランは私の顔を見て、泣きそうに顔を歪めていた。

 

「ごめんね、穂乃緒ちゃん。俺、本当に君が好きだったんだ。君のことが好きで、いつも君のことしか考えられなくなっていた。でも、こんなの初めてで……どうすれば君が俺に笑ってくれるのかって……そんなことばかり考えてて……でも……でも……」

 

ボソボソと語り出すグランは、いつの間にか私の隣に座って、膝を抱えていた。

 

「……本当にごめんね。俺、結局君が嫌がることしか出来ない……。今だって、君を泣かせてしまった。……俺は君を好きになっちゃいけないのかな? そう思えて……」

「………………」

 

涙を拭いながら、グランの話を黙って聞いていた。グランは膝に顔を埋めて、肩を震わせていた。

その姿を見ていると、ふと思う。どうして私は、この人を見捨てられないのだろう。

昔の私なら、普通に放ってその場を去れたのに。どうして、ここから動けないんだろう。

 

その答えは、案外簡単に出た。

私は、円堂さんたちと出会って変わったんだ。

過去の恐怖に縛られ、何もかもが嫌になって、いっそ死にたいと何度も思った。

なのに。今は過去を乗り越えようとして。大切だと思える仲間がいて。救いたいと心の底から思える人も出来た。

こんな私にも、助けたい、一緒に戦いたいと思える仲間が出来るなんて、思ってもみなかった。

円堂さんたちと旅に出て、たくさんの人と出会ったことが、こんなにも私を変えることとなった。

 

この胸のわだかまりも、きっとそうだ。苦しんでるこの人を、放っておけなくなったから。

確かに、グランは私たちの敵だ。彼らのことについて、私は何も知らない。

でも、円堂さんなら、きっとこう言う。

そんなの関係ないって。

私は立ち上がって、グランを見下ろした。

 

「グラン」

「……穂乃緒ちゃん?」

 

グランも、私を見上げた。

 

「貴方はバカですか?」

「っ…………」

「何故言って下さらなかったんですか」

「そんなのっ……」

「言って下されば、私は貴方に何かしてあげられたのに」

「え……?」

 

グランが、どういう事かと視線で問う。何だか道端に捨てられた子犬のように見えた。

 

「私と貴方は、敵対しています。でも、恋愛……というものには、そんなの関係ないのでしょう? ……今だから言いますが、私は貴方に、恋をしていた時期があります」

「⁉︎」

「自分でもわからなかったけれど、きっと、私は貴方が好きでした。恋を、していたのだと思います」

「……穂乃緒ちゃん」

「でも、今はよくわかりません。貴方に対するこの想いが何なのか。それはまた、じっくり考えるとします。……それでは、失礼します」

 

私はそう言い切り、歩いてきた廊下を戻ろうと足を進めた。

 

グランside

初めて聞いた、穂乃緒ちゃんの気持ち。俺のことが好きだったなんて。まったく知らなかった。

穂乃緒ちゃんは、俺の返事を聞かずにさっさと歩いていく。青い髪を靡かせて歩く後ろ姿が、どこか遠くへ行ってしまいそうで。

 

「穂乃緒ちゃんっ……‼︎」

 

彼女を引き止めようと、手を伸ばす。

 

「待って……」

 

フラつく覚束ない足取りで、それでも彼女を引き止めるために俺は動いていた。

 

「待ってよ‼︎」

 

俺の叫びが、廊下に木霊する。

それでも、君は。

君は、歩みを止めてくれなかった。





【挿絵表示】


リクエストで頂きました、青木さんとグランのキスシーン。Procreateで描きました。
「完成したー!」と思って全レイヤー統合して画像を保存した瞬間、色の塗り間違いを発見し絶望。数日立ち直れませんでした。

2019.2.12


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78話 ありがとう

青木side

「壊せましたか?」

 

バーン達が隔壁を壊し終わっている頃だろう、と私は何事も無かったかのように現れた。

隔壁は、案の定無残な形で壊されていた。しかし、たかがサッカーボールで分厚い隔壁がこんなボロボロになるなんて。日本のサッカー界は大丈夫なのだろうか。

バーン達は何度も全力でシュートを打ったせいか、呼吸は乱れ、肩で息をしている。

 

「あ、ああ……なんとかな」

「……随分お疲れですね」

「ったりめーだろ! コレと格闘してりゃ汗だくにもなるっつーの‼︎」

「近寄るな。汚い」

「うるせえ‼︎」

 

バーンと軽口の叩き合いをし、私は隔壁を背にした。

 

「え? おい、どこ行くんだよ青木!」

「帰る」

「はぁ?」

「帰って、円堂さんたちと合流します」

 

肩越しに、バーンやガゼル、ジェミニストームとイプシロンの連中を見る。

 

「私は、ジェミニストームとイプシロンを救ってほしいと頼まれたから手を貸しただけです。それは達成された。もう協力する必要はありません。では」

 

一方的にそう押し切って、とっとと帰ろうとした。

早く戻らねば。昨日の吹雪さんの話によれば、もう雷門中を出発しているはず。もしかしたら既にここに着いているかもしれない。どこで合流出来るかわからない。とにかく、一分一秒が惜しかった。

だが、バーンとガゼルが私を呼び止める。

 

「青木! 待て‼︎」

「最後に一言言わせろ」

「……」

 

私は黙って、また振り返る。バーンとガゼルは、私を真っ直ぐ見つめて言い放った。

 

 

 

「「ありがとう」」

 

 

 

「……いえ」

 

ボソッと短く答えて、私は駆け出した。

胸の奥が、むず痒い。この感覚が何なのか。答えも出さぬまま、私は加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………どこ、ここ」

 

エイリア学園の施設は、壁と廊下だけしかなく、どこがどこなのかがまったくわからない。私は完全に迷子になってしまった。

バーン達に出口まで案内してもらえばよかった。後悔して、溜息を一つ吐く。

どうすればよいものか……途方に暮れていると。

 

ーータッタッタッタッ……。

 

「……?」

 

人間の足音……? 走ってる。しかも、何だが音の数が多いような……。バーン達か? それとも……?

意識を音に集中させ、全神経を張り詰める。私の前方から音は聞こえてきた。そして、どんどん大きくなってくる。

こっちに来る……?

見えてきた大勢の見覚えのある人物たちの顔に、私は思わず動揺した。

 

「……⁉︎」

「えっ……青木⁉︎」

「青木さん‼︎」

「青木……? 何故ここにいる⁉︎」

「み、皆さん……」

 

駆け寄ってきたのは、雷門イレブンのみんなだった。ホッとした私の背後に、別の気配が忍び寄る。それに気付いた私は、振り向く勢いで足を突き出した。

私の足が捉えたのは、あの警備ロボットだった。その後ろに控えていた警備ロボット達に向かって飛んでいき、ドミノ倒しのように綺麗に倒れていく。しかし、すぐに立ち上がってきた。

 

「ハイジョ、ハイジョ」

「……うるさい」

 

警備ロボットが足元にあるボールを蹴ろうと前屈みになった一瞬で私は距離を詰め、足を叩きつけた。それから、拳で殴りつけ、潰し、破壊する。

相手はロボット。装備や武器を使わずに戦えば痛いはずなのに、何度殴っても何度蹴っても痛みを感じなくなってきた。

慣れたのだろうか。そうなのかもしれない。でも、今はそんなの関係ない。

最後の一体を潰して、私は円堂さんたちを振り返った。

 

「皆さん、ご無事ですか」

「あ、ああ……」

「それよりも青木、どうしてここに……?」

 

豪炎寺さんの問いに、私は黙って彼らの元へ近付いた。

 

「…………皆さんよりもお先に、着いていました」

「へ? 何だよ、それ……」

「あまりっちゅーか、全然答えになってへんで?」

 

財前さんと浦部さんがポカンとする。私はそれらを無視して先を急ごうとみんなを先制した。

 

「……多分、こっちが正解の道だと思います」

「た、多分⁉︎」

「勘なので」





【挿絵表示】


皆様のおかげで、青き炎2周年! 応援ありがとうございます!
青き炎が始まったのは7月なので、7月といえば……祭り! ってことで。


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79話 エイリア学園の真実

その後、私たちはエイリア学園の全てを知った。

 

エイリア学園の親玉が、瞳子監督の父親ーー吉良星次郎だということ。

エイリア学園の選手たちは、皆エイリア石という石の力でパワーアップした普通の人間だったということ。

彼はエイリア石の力で、ハイソルジャーという強化兵士を作ろうと計画していたこと。

それを提案するが財前総理に断られてしまい、総理の好きなサッカーで、エイリア石の力を見せしめようとしたのが、エイリア学園だということ。

そして……今までの私たちの戦いが、エイリア学園の作戦に組み込まれていたこと。

 

瞳子監督は、父の計画を止めるために私たちを率いてきたという。エイリア学園さえ倒せれば、このバカげた計画も潰せる、と。

しかし、それは裏目に出てしまった。私たちを強く育ててきた結果が、結局はエイリア学園のためだと言われてしまったのだ。

 

「……ごめんなさい、みんな」

 

あの瞳子監督が、私たちに謝罪の言葉を述べている。この時、私は初めて本当のこの人と話せたような気がする。

娘として、父の暴走を止めなければならない。その一心で、この人はきっと動いてきた。私たちに厳しい言葉をかけてきたのも、円堂さんにGKをやめろと言ったのも、全ては強くなるため。チームを強くさせるため。

でも、この戦いは決して一筋縄ではいかなかった。

妹さんを人質にとられ、チームを去る他なかった豪炎寺さん。

旅の途中で負傷した染岡さん。

エイリア学園の強さに敵わないと感じ、自らキャラバンを降りた風丸さんと栗松さん。

そして……2つの人格のバランスが崩れ、今も苦しんでいる吹雪さん。

父の目を覚まさせるために、巻き込んでしまった少年たち。彼らを見る度、きっとこの人の心は傷付いたに違いない。この人は、とても優しい人なのだ。

 

「顔を上げて下さい、瞳子監督」

 

私は一歩進み出て、瞳子監督に言った。瞳子監督が顔を上げるのを見た私は、彼女を睨み据えるような目で見つめた。

 

「貴女はバカですか?」

「っ…………」

「おい、青木……」

 

土門さんが私を咎めようとするのを無視して、続ける。

 

「何故言って下さらなかったのですか」

「……えっ?」

「貴女が、お父様をお止めになろうとしていることを、何故私たちに話して下さらなかったのですか」

「それは……」

「これは自分の問題で私たちには関係ない、と?」

「っ!」

 

図星を指され、瞳子監督は言い淀む。

 

「貴女が雷門イレブンを率いると言った時点で、私たちは既に貴女に巻き込まれているのです。巻き込むなら、最後までちゃんと巻き込んで下さい。中途半端は嫌いです」

「……青木さん」

「そうですよ、瞳子監督!」

 

私の言葉に、円堂さんが同調した。

 

「俺たち、瞳子監督のおかげでここまで来れたんです! 一緒に戦いましょう‼︎」

「円堂くん……みんな……」

 

瞳子監督は、決意したみんなの目を見る。そして、小さく「ありがとう」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、案内された控え室で、私たちは試合前のウォーミングアップなどの準備を進めている。

私の隣に座っていた円堂さんが立ち上がり、みんなを見渡して鼓舞した。

 

「いくぞ、みんな! この試合は、絶対負けられない。俺たちの戦いが、地球の運命を決めるんだ!」

「……今度こそ、最終決戦というわけだな」

 

鬼道さんの言葉に、私も頷く。

そうだ。これが最後の戦いなんだ。必ず、グランとの決着をつける……!

円堂さんが、控え室の入り口に立つ瞳子監督を見た。全員の視線が、瞳子監督に向けられる。強い眼差しで、瞳子監督も私たちを見つめ返した。

エイリア学園の真実を知り、瞳子監督の真意を知った。雷門イレブンの結束力は、おそらく今までにないほど高まっているだろう。この控え室の雰囲気から、そう感じられた。

そしてついに、瞳子監督が最後の指示を出した。

 

「貴方たちは、地上最強のチームよ。……だから、私からの指示は一つ…………勝ちなさい!」

「「「はいっ‼︎」」」

 

この輪に私は最後まで入らなかったものの、力強く頷いてみせた。



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特に意味のない超短編11連続

スミマセン、ギブです。
シリアスばっか描いてたんでこんなアホらしい短編を書きたくなりました。話数が11になったのは偶然です。
目的が最早何かわからなくなってますがご了承ください。


*青木&基山*

ヒロト「はぁあ……」

青木「どうしたんですか、基山さん」

ヒロト「ああ、実は……どうすれば穂乃緒ちゃんのコスプレを見れるかなって……」

青木「……取り敢えず右頬を出して頂けますか?」

 

(ムカついたら殴るが青木さんのモットーだそうです)

 

 

*青木&基山part2*

ヒロト「……痛いんだけど、穂乃緒ちゃん…………」←結局殴られた

青木「お前が全て悪いだろうがこの変態め」

ヒロト「穂乃緒ちゃん。この世に純粋な男なんて居ないんだよ」

青木「円堂さんはどうなるんですか」

ヒロト「………………」

 

(ノーカウントでお願いします)

 

 

*青木&凉野*

青木「貴方って暇さえあればアイス食べてません?」

凉野「そうか? そうでもないがな」

青木「ああそう……」

凉野「………………」

 

(話が続かない)

 

 

*青木&凉野part2*

青木「そういえば貴方ってかなり変態よね。基山さんといい勝負だわ」

凉野「ふん。あいつと一緒にするな」

青木「私の痛めている腹を躊躇なく殴りながら笑った奴のどこが変態じゃないと言い切れるのよ……」

凉野「それを言うなら君も私と同じようなものだろうが。人を貶めて笑う奴が私のことを言えるか」

青木「ハッ。お前と一緒にされてたまるか」

凉野「私はお互い様だろうと言ったんだ」

 

(似た者同士)

 

 

*青木&南雲*

青木「南雲さん。これ」

南雲「あ? 何で赤いチューリップ?」

青木「あげるわ」

南雲「……⁉︎ なっ、おまっ……まさか⁉︎」

青木「何で赤くなってんのよ気持ち悪い」

 

(南雲が赤面した理由はチューリップの花言葉を調べてみよう)

 

 

*青木&南雲part2*

南雲「青木ー」

青木「何ですか?」

南雲「いや、呼んでみただけ」

青木「…………」

 

(この後生死をかけた鬼ごっこが始まった)

 

 

*青木&宮坂*

宮坂「青木さん! 今日は七夕なので、一緒に短冊書きましょう!」

青木「いいわよ」

宮坂「青木さんは何を書いたんですか?」

青木「『これからも了と一緒にいられますように』って」

宮坂「青木さん……(トゥンク」

 

(リア充爆発しろ)

 

 

*青木&宮坂part2*

宮坂「そういえば俺たちって付き合ってないですよね?」

青木「ええ、そうね」

 

(何、だと……⁉︎)

 

 

*青木&鬼道*

青木「もぐもぐ……んむ? あ……」

鬼道「青木、たい焼き無くなったんじゃないのか?」

青木「え? あ……はい」

鬼道「ほら、買いに行くぞ」

青木「はぁ……ありがとうございます」

 

(財閥の息子 金の無駄遣い)

 

 

*青木&鬼道&音無*

音無「それでですね、青木さん!」

青木「そんなことがあったんですか」

きゃっきゃっ

鬼道「…………」

 

鬼道「なあ、青木……」

青木「はい、何でしょうか?」

鬼道「……まさか、春奈に惚れてないよな?」

青木「……は?」

 

(シスコン)

 

 

*青木&豪炎寺*

豪炎寺「そういえば青木、夕香と会ったんだよな?」

青木「はい、まあ」

豪炎寺「夕香はどうだった?」

青木「? どうだった……とは?」

豪炎寺「可愛いだろう?」

青木「……は?」

 

(シスコン再び)




お粗末様でした。

次回はいよいよジェネシスとの最終決戦‼︎


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80話 vsザ・ジェネシス1・最終決戦開始

フィールドには、既にザ・ジェネシスが並んで立っていた。その中心には、グランがいる。

 

「……とうとう来たね、円堂くん。穂乃緒ちゃん」

 

私たちを認めたグランの口が、弧を描く。円堂さんは数歩彼に歩み寄り、大声で返した。

 

「ああ! お前たちを倒すためにな!」

「俺はこの戦いで、ジェネシスが最強の戦士であると証明してみせるよ」

 

相変わらず、グランは余裕を崩さない。その態度が少しイラついて、意地悪な言葉を放った。

 

「最強だけを求めたサッカーの、どこが楽しいのですか?」

「!」

 

明らかに、グランの表情が変わった。しかし、彼は私の言葉に反論する。

 

「……それが……父さんの望みなのさ」

「?」

「父さん……?」

 

私は眉を顰め、円堂さんは疑問を持った単語を復唱する。

 

「俺は父さんのために最強になる。……最強にならなければならないんだ」

「誰のためとかなんて、関係ない! ヒロト、お前自身はどうなんだ⁉︎」

「円堂くん。お互いの信じるもののために、全力で戦おう」

 

円堂さんの問いには答えず、ジェネシスはポジションについていった。

私はそれを見て、円堂さんに向き直った。

 

「円堂さん。私たちもポジションにつきましょう」

「……青木」

「私も、彼の真意はわかりません。なら、この後に知ればいいだけです」

「…………ああ、そうだな! よし、みんな! みんなもポジションについてくれ!」

 

円堂さんを促してから、背を向けてポジションにつくグランを見つめる。

あの時見た弱々しい彼は一体何だったのだろうか。私だけに見せた弱みなのか。それとも、あの姿はまやかし……? いや、戦いにそんなことを考える必要はない。余計なことを考えすぎては、命取りになる可能性だってある。……まあ、サッカーでそんなことはありえないが。

エイリア学園最強にして最後のチーム、ザ・ジェネシス。彼らを倒せば全てが丸く収まる。私はそう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門イレブンもポジションにつき、全ての準備が整った。円堂さんはリベロとしてフィールドに立っている。私も、FWのポジションにつき、豪炎寺さんと並んでいた。

 

ーーピィィィィッ‼︎

 

最終決戦の始まりを告げるホイッスルが鳴り響き、ジェネシスのキックオフで試合が動き出した。

相手はパスワークを利用して、次々と雷門イレブンをすり抜けていく。流石、エイリア学園最強を名乗るだけあって、なかなかこちらの流れに乗らせてくれない。まあ、当たり前か。

相手が遠くからロングシュートを放つが、飛び出してきた円堂さんのメガトンヘッドで止められる。すっかりリベロが板についたようだ。私は少し笑みを浮かべてから、前線へと攻め込んだ。

鬼道さん、一之瀬さんとパスが繋がり、さらに私へとボールがまわった。

 

「……!」

 

必ず、点を取る。決意を込めて足を動かした。

だが、もちろんそこにDFが阻んでくる。私は体勢を低くした。

 

「邪魔をするな」

 

グッと地面を強く蹴り付け、駆け出した。

 

「ソニックアクセル‼︎」

 

進化して更に強くなった必殺技。巻き起こした風でDFを蹴散らし、シュート体勢に入った。

 

「行くぞッ! デモンズファイア‼︎」

 

渾身の力で蹴り飛ばしたボールが青い炎を纏い、GKに向けて飛んでいく。しかし、相手の小さいGKは余裕の表情を浮かべてキーパー技を発動した。

 

「プロキオンネット‼︎」

 

三角形のオーラの中にシュートが吸い込まれ、GKの手中に収まってしまう。

 

「‼︎ くそッ……」

 

悔しさに、奥歯をギリッと強く噛み締める。豪炎寺さんも驚いた様子で相手GKを見た。

ボールは気付けば中盤まで運ばれ、私はバッと振り返る。私よりも淡い青髪を靡かせた少女が、ゴール前にいるグランにパスを送った。

しまった。だが、時既に遅し。

 

「流星ブレード‼︎」

「止めろ、立向居‼︎」

 

円堂さんの激に応えようと、立向居さんは究極奥義を放つ。

 

「ムゲン・ザ・ハンド‼︎」

 

黄色く輝く4本の手が、流星ブレードを食い止めようとがっちりボールを抱える。しかし、その威力はやはり並ではなく、流星ブレードはムゲン・ザ・ハンドを粉砕しゴールネットを揺らした。

先制点は、ジェネシスからだ。

 

「くっ……!」

「……わかっただろう? 最強はどっちなのか」

 

グランは余裕の笑みを浮かべて、ポジションへ戻っていく。そんな彼の姿を苦々しく見つめながら、私は拳を握り締めた。

苦戦は、覚悟していた。恐らく、今まで以上に激しい戦いになるとは。

しかし、グランが私たちに与えた先制点の衝撃は、私たちを揺らすのに充分だった。



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81話 vsザ・ジェネシス2・選手交代

超久々の更新です。長らくお待たせしました!


ジェネシスの先制点。最強と思われていた究極奥義ムゲン・ザ・ハンドを破られ、雷門陣の士気が一気に下がる。ジェネシスの力を目の当たりにして、皆意気消沈しているのがわかった。

まずい。敵に対して萎縮してしまっては、勝てるものも勝てないのに。鬼道さんも、仲間の暗い表情を見て、汗を浮かべる。

 

「まずい……究極奥義が破られ、みんな動揺している……」

「っ……、皆さんっ」

「顔を上げなさい‼︎」

 

フィールドに木霊した、凛とした声。その声を振り返ると、ベンチから瞳子監督が私達に鼓舞を送っていた。

 

「今までの特訓を思い出して! 貴方達は強くなっている……。諦めず、立ち止まらず、一歩一歩積み重ねてここまで来た! 自分を信じなさい! そうすれば、貴方達は勝てる……私は、信じているわ!」

「監督……」

 

自分を、信じる。瞳子監督の言葉を反芻し、ぎゅっと胸元のユニフォームを握りしめる。

そうよ、監督の言う通りだわ。いつだって、最後に信じられるのは、自分。その自分を信じないで、何を信じるというの?

一つ息を吐いてから、隣のポジションに立つ豪炎寺さん、そしてその後ろにいる仲間達を振り返る。彼らを信じて、最後まで戦う。そのために私は……今ここに立っているんだ‼︎ お互いの顔を見て、頷き合い、闘志を確認する。まだ、終わらない!

 

「監督の言う通りだ! みんな、絶対勝つぞ‼︎」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

円堂さんの声に、みんなが応える。私も頷いて、決意の表情をみんなに見せた。

 

 

 

 

 

 

 

試合再開のホイッスルが鳴る。豪炎寺さんに軽く流し、豪炎寺さんが上がったのを見て、追随する。

ゴール前までワンツーパスで駆け上がったが、私を警戒してか、ディフェンスに二人がマークしてきた。私は豪炎寺さんに、シュートは打てないとアイコンタクトを送る。豪炎寺さんは頷いて、シュート体勢に入った。

 

「爆熱ストーム‼︎」

 

しかし、炎を纏ったシュートはコースを変えた。その先には、上がってきた円堂さんが。

 

「行けっ円堂‼︎」

「うおおおおおおっ‼︎ メガトンヘッド‼︎」

 

豪炎寺さんの爆熱ストーム、円堂さんのメガトンヘッド。二つの必殺技の威力を掛け合わせたシュートが、相手GKを襲う。しかし彼はこれも、プロキオンネットで難なく止めてしまった。

そしてすぐさま、攻撃に転じられる。

 

「グランに渡すな‼︎」

 

鬼道さんの指示が飛び、上がる彼に円堂さんがマークにつく。だが、グランの余裕は崩れない。

10番の青髪の少女が中盤を突破すると、グランは円堂さんのマークを振り切り、ゴール前でパスを受け取った。

 

「流星ブレード‼︎」

 

追加点を決めようと、容赦なく放たれた流星のシュート。財前さんと壁山さんのダブルブロックも破られ、さらにはムゲン・ザ・ハンドも破られてしまう。またも得点か……と誰もが思ったその時。

 

「とりゃああああああ‼︎」

 

綱海さんがボールに片足を伸ばして、蹴り返そうとしたのだ。綱海さん自身は吹っ飛ばされてしまったものの、ボールは勢いを失い、ラインを転がり出ていった。

 

「綱海さん……」

 

綱海さんのファインプレーのおかげで、追加点は免れた。ゴールネットに寄りかかって逆さまになっている、ちょっとカッコ悪い救世主に、私は安堵の表情を浮かべる。

しかし、私達がせっかく攻め込んでも、カウンターでこうもあっさり攻め込まれ返されると、元も子もない。ゴール前まで辿り着いたからには、点を取らねばならないのに……。

今は防戦に徹した方がいいのだろうか……。私の焦りを感じたのか、豪炎寺さんが顔を覗き込んでくる。

 

「青木」

「!」

「行くぞ」

 

顔を上げて豪炎寺さんを見やる。鋭い目が、どこか心配そうな色をしていた。

 

ーー豪炎寺さんも、私と同じ気持ち……?

 

並走しながら横顔をしばらく見つめていると、その視線が豪炎寺さんのそれと交差する。

 

「……どうした?」

「いえ……。豪炎寺さんも、私と同じ気持ちだったんですね」

「…………ああ、そうだな」

 

豪炎寺さんは私の言葉に、一瞬キョトンとしたような表情を浮かべてから、フッと小さく苦笑した。それにつられて、私も笑みをこぼす。

 

ーー昔の私じゃ、考えられないわね……。

 

そんなことを考えながら、私は思わず自嘲した。しかしそう思えるのは、円堂さん達のおかげ。そんなにも、私は変われたのだ。彼らのためにも、自分のためにも。この勝負、勝たなくては。決意を新たに、私は加速する。

その時、ベンチからもどかしげな視線を感じた。そこに目を向けてみると、吹雪さんが。

 

(吹雪さん……)

 

私達の苦戦を見て、ハラハラしている。今すぐにでも飛び込みたい気持ちを抑えているような、そんな目だった。しかし私はすぐに目を逸らし、自陣へ駆け戻る。

そして、今まさにシュートを打たんとするグランの前に回り込んだ。

 

「させるかッ‼︎」

「‼︎」

 

スライディングで飛び込み、ボールを蹴り飛ばす。ボールはそのままサイドラインを転がり出ていった。グランの驚いたような顔を一瞥してから、立ち上がる。

……危なかった。

 

「青木さん‼︎」

 

ゴールから、立向居さんの声が聞こえる。私は彼を振り返って、小さく手を振った。それを見て、立向居さんも快活な笑顔を見せてくれた。

グランの視線が、背後から刺さる。それに気づかないふりをして、私はフィールドを歩き出した。その時、ベンチから勢いよく立ち上がる吹雪さんの姿を見た。

 

「!」

 

吹雪さんが、真っ直ぐこちらを見つめてくる。吹雪さん……何か、掴んだのかしら? 自分が立ち直れるような、何かが……。

ベンチの吹雪さんはフィールドを見据える瞳子監督に声をかける。

 

「監督っ! 僕を試合に出して下さい‼︎ 僕は、みんなの役に立ちたいんです……‼︎」

 

試合を見守る木野さん達も、驚いて彼を見上げる。瞳子監督の目には迷いの色があったが、吹雪さんの強い視線に頷き、選手交代を告げた。

 

「選手交代! 壁山に代わってーー」

「待って下さい」

 

瞳子監督の宣言を、遮る声があった。私だ。

 

「私が下がります。私のポジションに、吹雪さんを」

「穂乃緒ちゃん……?」

「青木さん……でも」

「監督」

 

選手交代を申し出た私に、みんなが注目する。その全てを無視して、私は監督に頼んだ。

 

「お願いです、監督。私を吹雪さんと交代させて下さい。……残念ながら、少々ガタがきてしまいまして」

「え?」

 

私は苦笑を浮かべると、思わず膝をついた。

 

「青木⁉︎」

「穂乃緒ちゃん!」

 

私を案じて、近くにいた吹雪さんが駆け寄ってくる。フィールドにいたみんなも、私に集まってきた。

そう。私はここに来る前に、様々な無茶をしてきた。厚い鉄壁を壊したり、ロボット達を粉砕したり。おかげで手足は完全にボロボロ。それでも懸命に力を振り絞り、なんとかここまでやってきたが、ついに、両足に力が入らなくなってきてしまったのだ。

少し赤みを帯びている手の甲を見て、吹雪さんは目を見開く。どうやら、私の事情を察したらしい。

 

「まさか、あの時……⁉︎」

「っ……はい。ここに来るまで、ロボット相手に素手で挑んできた自分がバカでした。……不覚です」

 

私は瞳子監督を見上げて、もう一度懇願する。

 

「お願いです、瞳子監督。下げるなら私を下げて下さい。フィールドにケガで使えない選手を残すよりも、今は戦える人を残した方がいいでしょう……?」

 

瞳子監督はしばらく黙っていたが、突如声を張り上げた。

 

「選手交代! 青木に代わり、吹雪!」

 

私は吹雪さんと円堂さんに支えられ、なんとか立ち上がる。マネージャーの三人に私を預けると、円堂さんが私を見つめて怒ってきた。

 

「何でもっと早く言わなかったんだ! 無茶するな!」

「すみません。今回ばかりは私の力量不足です。これからはロボット相手でも打ち負けない、強靭な肉体作りを心がけます」

「そーいうことじゃなくて!」

 

あら? 違うの?

 

「青木は自分自身に嘘を吐きすぎだ! そのせいで身体が壊れちゃったら、それこそ意味がないだろ? もっと自分を大事にしろ!」

「そうだな、確かにお前は自分の剛力に頼りすぎている。力任せだけが、解決の道じゃないぞ」

 

円堂さんに加わり、鬼道さんまで私を怒る。いや……これは怒るというか。

 

(心配……して下さっているのかしら)

 

私がいつも無茶をして、突っ走っていると、彼らは言う。その後ろにいるメンバーも、うんうんと頷いていた。吹雪さんに至っては、苦笑で誤魔化している。

……私自身は、あまりそんな自覚はないのだけれど……でも、皆さんに心配をかけてしまったことに違いはない。

 

「……すみませんでした」

「気をつけろよ?」

「はい、気をつけます」

 

私が頷いたのを見て、みんながポジションに散っていく。最後に残った吹雪さんが、チラリと私を振り返った。

 

「……吹雪さん」

「穂乃緒ちゃん、僕、頑張るよ。見ててね」

「はい。見させていただきます。……ベンチ(ここ)で」

 

私は吹雪さんの背中を見送りながら、木野さん達に誘導されてベンチに座らされた。すると木野さんは突如私のスパイクを脱がせて、レガースまで取ってしまう。

 

「⁉︎ あの……木野さん?」

「……青木さん」

 

晒された私の足は、赤みを通り越して紫色になっていた。どうやら、内出血していたらしい。

しかし、木野さんの雰囲気がいつもと違う。ていうか、何だかおどろおどろしい……。

次の瞬間、木野さんは私をキッと睨みつけてまくしたてた。

 

「もうっ! 女の子がこんなになるまで戦うなんて、おかしいでしょ⁉︎ しかも赤くなるどころか内出血なんて‼︎ 青木さんだって力は強くても女の子なんだから、もっと自分の身体を大切にして‼︎ このまま無茶し続けたらサッカーどころか歩くことさえ出来なくなっちゃうわよ! いい? 今度大怪我したら、試合に出るの私が許さないからね‼︎ わかった⁉︎」

「………………は、はい……」

 

木野さんの気迫に負けた私は、しどろもどろになりながらコクンと頷いた。……木野さんって、意外と怖い。



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82話 vsザ・ジェネシス3・吹雪の復活

一方、フィールド。私に代わり、久々にピッチに立った吹雪さんの姿に、一之瀬さんは少し心配そうな表情を浮かべた。

 

「……本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫さ、アイツなら。吹雪は自分で決めて、グラウンドに戻ってきた。俺達に出来ることは、アイツにボールを繋げることだ!」

 

きっぱりと言い切ったのは、もちろん円堂さんで。戸惑う様子は一切なく、仲間を信じるその目が輝いて見えた。きっと、嬉しいのだろう。少なくとも私も嬉しかった。また、立ち直ろうとしてくれて。私は貴方には何も出来なかったけれど、少しでも……貴方を、吹雪士郎を必要としていた一人として、認識してくれただろうか。

頑張れ、吹雪さん。私の小さなエールと共に、試合再開のホイッスルが鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの青髪の少女のスローインから、再び両者が動き出す。しかしボールを奪い返し、見事前線に走り込んでいる吹雪さんにパスが通った。

 

「吹雪さんっ!」

 

思わず、声を上げる。彼は"士郎"から、"アツヤ"へと人格が入れ替わっていた。

 

「吹き荒れろ、エターナルブリザード‼︎」

 

久しぶりに見た、"アツヤ"の必殺技。しかし、それは最も容易くプロキオンネットで止められてしまう。そしてすぐさま、カウンターを仕掛けられる。今度は"士郎"の必殺技が発動された。

 

「アイスグランド‼︎」

 

しかし、それもボールを持っていたグランには、全く効かず。吹雪さんの表情に、焦りが生まれる。

ダメだ。完璧にならないといけないのに。きっとそう思っているのだろう。絶望、とも取れるその横顔が痛々しくて、私は目を逸らしそうになった。

お願い、気づいて。貴方は……貴方は……!

グランの姿が視界から消えて、ハッと視線をゴール前へ移す。グランはもう既に、ゴールに立つ立向居さんに迫っていた。彼も、ムゲン・ザ・ハンドが効かなくて、焦っている一人。そんな彼に、檄が飛ぶ。

 

「情けねえ顔すんな、立向居! 俯いてるだけじゃ、何も解決しねえんだよ!」

 

その声の主は、綱海さん。立向居さんの前に、綱海さん、財前さん、木暮さんが並び立った。何? 一体何を……?

グランが、無駄だとばかりに、流星ブレードを叩き込む。しかし三人はそれに怯まず、強い決意の目で迫り来るシュートを見据えた。

 

「ここはあたし達で止める!」

 

財前さんが中心となって、三人は今まで見たことのない動きをする。もしかして、新しい必殺技を……⁉︎

 

「「「パーフェクトタワー‼︎」」」

 

財前さんの作り出した塔から、綱海さんと木暮さんが落雷の如く飛び降り、ボールを蹴り付ける。そして見事、シュートを弾き飛ばした!

 

「やった!」

「……!」

 

ピッチに立つ雷門イレブンだけでなく、ベンチに座る私達の表情も綻ぶ。テンションの上がった浦部さんに首を絞めかけられたが、まあそれはいいとする。

やった。少しだけ、希望が見えてきた。たかがシュートを弾いただけでここまで喜ぶなんて、私もだいぶ円堂さん達に感化された証だろう。でも、それでも。

 

「……悪い気はしないわね」

「ん? 何か言うたか、青木?」

「いいえ、何も」

 

こんなにも胸が熱く、心踊るのは何故だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

財前さん達の活躍で、みんなの動きもよくなってくる。四人がかりで奪ったボールを、鬼道さんが吹雪さんへとパスを出した。

 

「吹雪っ!」

「えっ……あっ!」

 

何か思い詰めた様子で俯いていた彼は、鬼道さんの呼びかけで我に返る。気付いた時にはもう遅くて、片足を上げたものの、足がボールを弾いてしまい、サイドラインを転がり出た。いわゆるーートラップミス。

 

「……吹雪さん」

 

これがさらに、吹雪さんを落ち込ませる。どう声をかけたらいいかわからず、口を開けたら閉じたり。情けない。こんな時に、普段あまり働かない口がさらに役に立たなくなる。

その時、不意に、威力を持ったシュートが、吹雪さんに飛来した。

 

「え……うわっ‼︎」

 

避けることも叶わず、吹き飛ばされる吹雪さん。私は思わず目を見開いた。だって、ボールを蹴った人物は。

 

「豪炎寺……さん……」

 

豪炎寺さんは、苦痛に顔を歪めながらも、体を起こして見上げてくる吹雪さんと視線を交える。

 

「……本気のプレイで失敗するならいい。だが、やる気がないプレイは絶対に許さない‼︎」

 

困惑した表情のまま、吹雪さんは立ち上がる。

 

「やる気がないなんて……僕は本気で」

「お前には聞こえないのか? あの声が……」

「え……?」

 

豪炎寺さんはそう言うと、背を向けてポジションへと戻っていく。

一人取り残される吹雪さんは、私の視線に気がついたのか、私を見てきた。私は何も語らず、目を伏せる。……私からは、もう何も言えない。これからは、貴方が自分で気付かないといけない。大丈夫。私は貴方を……信じています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、激しい試合展開が繰り広げられる。吹雪さんは前線で、仲間から送られてくるボールをただ待っている。

 

「流星ブレード‼︎」

「「「パーフェクトタワー‼︎」」」

 

先程シュートを止めてみせたパーフェクトタワーも、今度は破られてしまう。構える立向居さんの表情も険しい。しかしその時。

 

「たぁぁあああっ‼︎ メガトンヘッド‼︎」

 

かわされたはずの円堂さんが、流星ブレードの前に立ちはだかる。三人のブロックを意にも介さない強烈なシュートに、円堂さんは顔を歪めて耐える。

 

「ぐっ……負けるかッ……いっけぇええぇえええ‼︎」

「「「「吹雪ッ‼︎」」」」

 

みんなの願いを込めたボールが、吹雪さんに一直線に飛んでいく。それを胸でトラップした吹雪さんは、目を見開いてそれを見下ろしていた。

 

「……聞こえる……ボールから、みんなの声が……‼︎ みんなの思いが込められたボール……みんなの……!」

「吹雪さんッ‼︎」

 

ブツブツと何か呟いている吹雪さんに、私は周りを見ろと注意を促す。敵が吹雪さんを囲んで、スライディングを仕掛けてきた。吹雪さんは顔を上げると、相手の足がボールに届く前に、高く跳躍した。

 

「‼︎」

 

私は驚いて、吹雪さんを仰ぐ。まさか……吹雪さん……!

私の衝撃をよそに、吹雪さんの表情は、初めて会った時みたいな爽やかな笑顔。そして空中でいつも巻いている白いマフラーを取った。

着地した吹雪さんは、先程とは打って変わって、見違えるような身のこなし。素早い動きで敵DFをかわし、ゴールへ迫った。

 

「これが完璧になることの答えだ!」

 

そうして、必殺技の構えを取る。これは、新しい必殺技……!

 

「ウルフレジェンド‼︎ うぉぉおぉおぉおお‼︎」

「プロキオンネット‼︎」

 

GKが、何ら変わらない表情で、必殺技を放つ。しかし。

 

「……っ、何ッ⁉︎」

 

吹雪さんの必殺技は、ついに鉄壁の防御を崩した。ついに、雷門が1点を返したのだ。こうして同点となり、試合は振り出しに。

ベンチでも、歓喜の声が上がる。私も浦部さんに捕まって立ち上がらせられたが、その頬が緩んでいる自信がある。吹雪さんが私に手を振ったのに、私も小さく手を振り返した。そんな彼に、円堂さん達が一斉に集まる。

ようやく、一歩追いついた。だがまだ前半。戦いはまだ、終わってないーー。



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83話 vsザ・ジェネシス4・いい加減にしろ

吹雪さんの得点がみんなの背中を押したのか、全員の動きがよくなる。立向居さんのムゲン・ザ・ハンドも進化して、グランの必殺技を止められるほどになった。グランも予想外だったらしく、眉を寄せる。ふっ、いい気味だわ。私も久々に性格の悪い所を見せつつ、雷門の流れが良くなっていることを実感した。

 

「立向居‼︎」

「いいぞ! ついに取ったな!」

「はいっ‼︎ 究極奥義は進化するんだ! 俺が諦めない限り、何度でも‼︎」

 

随分頼もしくなった雷門の新たな守護神に、私は目を細めた。本当、貴方方はすごい。その時、小さな地響きの音が私の耳に入った。

と、次の瞬間、大きな揺れが来て、みんなが驚く。まるで地震のようだったそれは、すぐに引いた。

何だったのかしら……? ていうか、さっき爆発音みたいな音も聞こえて……何なの……?

私の疑問に答えるように、機械を通して吉良星二郎の声が聞こえてきた。

 

『ご苦労様、鬼瓦警部』

「っ⁉︎」

 

鬼瓦さんが、ここに来ている……? 私は驚いて、天井を仰ぐ。

 

『しかし貴方方の苦労も、残念ながら無駄だったようです』

「何……?」

『貴方達の考える通り、エイリア石の出るエナジーには人間を強化する効果があり、エナジーの供給が途切れると元に戻ってしまう』

 

……もしかして鬼瓦さんは、あの大きなエイリア石を破壊しようと? ここに来る前に見た、聳え立つ巨大な紫の石を思い出す。あれのおかげで、グラン達は並外れたパワーを持っている、と……。それでさっきの地響きは、それを爆発した時の衝撃が……。なるほどね、そういうことか……。

でも……何だかおかしいわ。エナジー供給が切れたのならば、彼らはもっと焦っているはず。なのに何故、そんなに落ち着き払っているの……?

私の訝しげな視線に気付いたグランが、微笑みかける。

 

『では、そのエイリア石で強くなったジェミニやイプシロンを相手に、人間自身の能力を鍛えたら……』

「…………? …………っ、まさかッ‼︎」

『ほう、察しが早いですね。その通り……ジェネシスの力は、真の人間の力……。弱点などない。最高、最強の人間たちなのです』

「そんな……それじゃあ、レーゼたちはそんなことのために……あんなにボロボロになるまで、特訓させていたというのか⁉︎」

 

私の脳裏に、レーゼやデザームたちの姿がよぎる。あの見るに耐えない痛々しい姿は、私の胸を締め付けた。

 

『ジェネシスこそ、新たなる人の形。ジェネシス計画そのものなのです』

「貴様ッ……‼︎」

 

ギリ、と奥歯を噛み締める。許せない。あの男は、堂々と彼らを捨て駒だと言い切りやがった。

 

ーー俺たち、あんなことやってたけど……ホントは家族みたいなもんなんだ。

 

昨夜、バーンが呟いていた言葉を思い出す。エイリア学園は、家族同然だと。それなのに、こいつは……‼︎ こいつは、ただの外道だ! あいつらのことを……何にも考えちゃいない!

私の怒りを代弁するように、円堂さんが吠える。

 

「お前の勝手でっ‼︎ みんなが大好きなサッカーを、悪い事に使うなッ‼︎」

「君たちに……崇高な父さんの考えを理解できるわけがない‼︎」

 

両者、相容れずと言ったところだろう。グランが流星ブレードを放つが、パーフェクトタワーに弾かれ、こぼれ球を円堂さんが拾う。

 

「吹雪!」

 

再び吹雪さんが、ゴールを狙う。ボールを貰ってすぐに振り返った吹雪さんは、必殺技を放った。

 

「ウルフレジェンド‼︎」

 

しかし、今度は先程のように上手くはいかない。敵GKが、今まで見たこともない動きをした。

 

「時空の壁‼︎」

 

ゴールをこじ開けたウルフレジェンドが、効かない。衝撃に固まったみんなは、弾き返されたボールに即座に反応出来ず、ボールは再びグランの元へ。彼の傍らに、また二人選手がやってきた。

 

「「「スーパーノヴァ‼︎」」」

「ムゲン・ザ・ハンド‼︎」

 

フィールド中央からのロングシュートにも関わらず、ジェネシスの必殺技は雷門ゴールのネットをいとも容易く揺らした。追加点が入る。私たちの表情が、翳った。

 

「そんな……! 進化したムゲン・ザ・ハンドを破ってしまうなんて……⁉︎」

 

動揺で、木野さんの声が震える。私も唇を噛んで、この試合状況を見守っていた。どうすればいい……? 何か、突破口は……!

 

『ジェネシスこそ、世界を支配する真の力を持つ者たちなのです』

「っ……、大好きなサッカーを汚すな‼︎」

『どういう意味ですか?』

 

空中に、吉良の映像が映し出される。私も円堂さんたちと共に、苦々しく彼を見上げる。

 

「力とは……みんなが努力して付けるものなんだ!」

『忘れたのですか? 貴方たちも、エイリア石でパワーアップしたジェミニやイプシロンと戦うことで、強くなってきたということを』

「ッ!」

『そう……。エイリア石を利用したという意味では、ジェネシスと雷門も同じなのです』

 

思いもよらぬ図星を突かれて、ハッと目を見開く。そうだ。それじゃあ、私たちとジェネシスのやってきたことは、完全にと言っていいほど同じ。流石の私も反論出来ず、ギリッと吉良を睨みつける。

 

『雷門もすっかりメンバーが代わり、強くなりましたね。ですが、道具を入れ替えたからこそ、ここまで強くなれたのです』

「……ッッ‼︎」

 

(はらわた)が煮えくり返るとはまさにこのことか、と思うくらい腹が立った。言うなれば、マジでキレる5秒前、とか言う奴。奥歯が潰れるかってくらい強く噛んで、眉の間に皺が出来る。

 

『我がエイリア学園と同じく、弱いモノを切り捨て、より強いモノへ入れ替えることで……』

 

うるさい、黙れ。お前なんかに何がわかる。本当はまだまだ戦いたいのに、怪我で戦えなくなったみんなの気持ちが。限界を感じて、チームを抜ける他なかったみんなの気持ちが。お前なんかにわかってたまるか‼︎ 何も知らないくせに、知った風な口をきくな‼︎

私の口が開きかけた瞬間、先に声帯を震わせて叫んだのは、円堂さんだった。

 

「ふざけるな‼︎ 弱いからなんかじゃない‼︎」

『いいえ、弱いのですよ。だから怪我をする。だからチームを去る。実力がないから、脱落していったのです』

「違うッ‼︎」

『彼らは貴方たちにとって、無用の存在……』

「違う……違う、違う‼︎ あいつらは弱くない‼︎ 絶対に違う‼︎」

「……円堂さん……?」

 

何だか、彼の雰囲気が変わった。そう、喩えるなら炎獄。罪人を許さない、火の海地獄。それくらいの、激しい怒り。

 

「俺が証明してやる……‼︎」

 

円堂さんの目に、怒りの炎が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからというものの、試合展開はほぼ止まっていた。理由は簡単。円堂さんが、ボールをキープしているグランから、ボールを奪還せんと右往左往に走っているから。

 

「円堂くんが、あんなプレイを……」

「まるで、怒りをぶつけているだけ……」

 

隣で試合を見守る雷門さんと木野さんも、信じられない、とでも言うような声音だ。私は黙って、彼のプレイをジッと見つめていた。

やがて、円堂さんの息が切れかけ、動きが鈍くなってきたその時。グランが、円堂さんに声をかけた。

 

「円堂くん、キーパーに戻りなよ」

「……⁉︎」

「君がキーパーじゃないと、倒し甲斐がないよ」

「黙れぇっ‼︎」

 

円堂さんが再びグランに迫ったが……当然かわされ。またあの三人が、シュート体勢に入る。

 

「「「スーパーノヴァ‼︎」」」

「っ……どうすれば……‼︎」

 

ムゲン・ザ・ハンドを破られた立向居さんは、迫り来るシュートに固まってしまう。土門さん、財前さん、綱海さん、木暮さんが一つの壁となってシュートを阻止しようとするが、敢え無く吹き飛ばされる。立向居さんがムゲン・ザ・ハンドで挑むが……それも破られ、ついにボールがネットを揺らそうとしたその時。

 

「っ! 豪炎寺さん、吹雪さん……」

 

FWの二人がフォローに来て、同時に足を旋回させて蹴り飛ばそうとする。しかし、シュートは二人を弾き返すには充分な力をまだ蓄えていた。

 

「「うわっ‼︎」」

 

その時、交差するように出していた足に何かオーラのようなものを感じ、そのせいか、ボールはクロスバーに当たって、何とか追加点を阻止出来た。

 

「……全員でカバーしなければならないキーパーは……君たちの弱点であり、敗因となる……」

 

相手方の余裕綽々な様子に、私は舌を打った。確かに、あのシュートを立向居さん一人で止められないのならば、フィールドにいるみんなでゴールを守らねばならない。しかし、それでは一方的にやられるだけで、勝機など永遠に見えてこない。何より……チームの精神的支柱である円堂さんがあの様子では……。

 

「……………………」

 

私が溜息を吐いたのと同時に、前半が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………円堂さん」

 

ハーフタイム。私はタオルを肩にかけ、ドリンクを飲んで座り込んでいた彼の前に立った。肩で息をする彼はすぐには気付いてくれなかったが、まぁそんなことは気にしない。私はいつものように腕を後ろに組んで、円堂さんを見下ろし、呟いた。

 

「……情けない」

「……は?」

「聞こえませんでしたか? 情けない、と言ったのです」

「なっ……⁉︎」

 

吉良への怒りも相まって、円堂さんは私を睨み上げた。私は黙って彼の胸倉を掴み、無理矢理立たせる。

 

「あっ、青木さん⁉︎」

「青木っ!」

 

周りの動揺した声が聞こえてくるが、そんなの気にも留めない。私は円堂さんの驚いたような顔を見つめて、極力冷静を装った。

 

「あの程度の挑発にまんまと乗せられ、怒りに任せて一人突っ走り、結局何も出来ず……。貴方は一体何をしていたのですか? そもそも、貴方は何をしにこの富士山へやってきたのですか?」

「そんなの、決まってるだろ! エイリア学園からサッカーを、みんなを守るために……!」

「あら、ご存じではないですか。ならば、先程のあの不甲斐ない展開は何だったのですか? 情けなさすぎて逆に笑えるような、あの試合は」

「なっ……‼︎」

 

ついに円堂さんもカチンときたらしく、私のユニフォームを掴み返す。

 

「円堂‼︎」

 

鬼道さんが止めに入ろうとしたのを視界に入れつつ、私は右手を振り上げーー

 

 

 

 

パァン!

 

 

 

彼の左の頬を、平手で打った。

円堂さんは人工芝の地面に倒れ、尻餅をつく。私は頬を押さえる彼を見下ろした。

 

「っ、何すんだよ!」

「いい加減にして下さい。貴方はその程度のお人だったというのですか。私の知る円堂守は、あんな力で相手に理解を強要させるような方じゃない」

「でもっ……‼︎ あいつらは弱くなんかない! 俺が証明する! しなきゃならないんだ……‼︎」

「いい加減にしろと言ったのが聞こえなかったか‼︎」

 

冷静でいようとすればするほど、感情が猛り狂う。ついに抑えていたものが爆発して、まるで八つ当たりのように喚き散らしてしまう。それでも、私の愚かな口は止まらない。

 

「わかっているだろうが‼︎ 何のためにお前がここに立っているのか‼︎ お前はそれを、たった一時の怒りで全て無にしたんだ‼︎ 馬鹿かお前は⁉︎ お前が今すべき事はこんなことではないだろう‼︎ ここに立っているなら、やるべき事を見失うな、周りをよく見ろ‼︎ お前は一人じゃないって私に教えてくれたのは、他でもないお前だったじゃないか‼︎」

「……‼︎」

「怒ってるのはお前だけじゃない。私だって、人生最高に腹が立った。何も出来ない手前に腹が立った! 共に戦って私を受け入れようとしてくれた優しい彼らを馬鹿にされたことにも腹が立った! だが何より気に食わないのは、フィールドに立つ仲間のことを考えずに、自分勝手に動くお前という阿呆だ‼︎ だから殴った。……少し頭を冷やせ。お前には仲間がいる。お前は……チームを率いる、キャプテンだろうが」

「っ‼︎ 青木……」

 

最後まで言いたかった事を全て言い切り、私も肩を弾ませた。私たちの間を、沈黙が流れる。それを破ったのは、吹雪さんだった。

 

「……そうだよ、キャプテン。僕を間違った考えから解き放ってくれたのも……雷門のみんなだ!」

 

円堂さんが吹雪さんにつられるように、仲間たちの顔を一人一人見る。みんな、円堂さんを真っ直ぐ見つめ返した。

 

「……みんな……」

 

円堂さんは泣きそうに顔を歪めると、視線を地面に落とす。そして不意に、自分を叱咤するようにパチンと頬を叩いた。みんなが突然の行動に驚く中、円堂さんは立ち上がって深く頭を下げる。

 

「……ゴメン‼︎」

 

それに答えたのは、彼の行動に動揺しなかった豪炎寺さんと鬼道さん、そして私。

 

「青木の言う通りだ、円堂……怒っているのは、お前だけじゃない」

「俺たち全員、ここに来れなかった奴らの気持ちを引き継いでいるつもりだ」

「だから今度は、彼らが弱くないということをあの知能の低い馬鹿どもに証明してやって下さい。……みんなで、一緒に」

「豪炎寺……鬼道……青木……」

 

みんなを見渡して、ようやく円堂さんの表情も明るくなる。それでいい。それが、貴方なのだから。

小さく息を吐くと、円堂さんがまた私を振り返った。

 

「こんな言い方変だけど……殴ってくれてありがとな、青木。おかげで目が覚めたよ」

「……いえ。私の方こそ、申し訳ありません。いくら目を覚まさせるためとはいえ、貴方に手を上げてしまうなど……」

「いや、いいんだ。お前が怒ってくれたから、気付けたんだ! ありがとう!」

「……はい」

 

少し気恥ずかしい気持ちになって、私は頬を緩めて頷いた。

私にも出来たんだ、誰かを助けるってことが。それがただ嬉しくて、私は微笑んだ。



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84話 vsザ・ジェネシス5・勝利の確信

もうそろそろ、後半が開始される。そんなタイミングで、みんなは円陣を組んでいた。

 

「絶対に、勝つ‼︎」

「「「「おう‼︎」」」」

 

ここにきて、雷門は再び一つのチームとなった。私も表情を綻ばせて、ピッチに向かうみんなの背中を見送る。私は知っている。貴方方がどれほどお強いかを。だから、貴方方の勝利を信じてやまない。頑張れ、みんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後半がスタートされ、こちらからのキックオフで試合が始まる。立ち直った円堂さんが、早速相手陣営に切り込んでいく。彼の前に、グランが立ちはだかった。グランは円堂さんが前半のままだと思っているのか、余裕の表情だ。しかし。

 

「ーーッ⁉︎」

 

円堂さんはバックパスを出して、鬼道さんに後を託した。予想外だったのか、彼の顔が歪む。みんなの動きはとても良くなって、迫ってくる相手選手を次々抜いていく。当然だ。私は意地悪い笑みを浮かべた。

まったく、何のために私が円堂さんを叩いたと思っているの? この試合に勝って……貴方方の間違いを認めさせるため。私の最上級に苛つかせた、あの発言を撤回してもらうためなんだから。

そのためには……フィールドに出て戦うのが一番。だけれど、生憎今の私は足を軽く故障しているため、ピッチに立っても足手まといになるだけ。……それだけは、御免なのだ。だから、みんなに私の想いを託す。彼らなら、きっと私の願いを果たしてくれる。そう、確信しているから。

 

「俺には仲間がいる……! ここまで一緒に戦ってきた仲間がいる! 新しく加わった仲間がいる、いつも見守ってくれた仲間が……!」

 

繋がったパスは、再び円堂さんの元へ。そして、前線を走る鬼道さんと土門さんにボールを蹴る。

 

「俺達の強さは、そんな仲間達と共にあるんだ‼︎」

「「「デスゾーン2‼︎」」」

 

三人の同時蹴りが、一つのボールに集約される。絶大な威力を持ったボールは果たして。

 

「時空の壁‼︎ ……ッ、何っ⁉︎」

 

抗えない壁にぶつかったとしても、ボールはまるで円堂さん達のように止まらない。そして見事、ゴールをこじ開けてみせた。雷門、2点目。

ピッチもベンチも関係なく、歓声が上がる。私も心の中で、小さくガッツポーズをした。

 

「ジェネシスが……2点を失うなんて……‼︎」

「まだわからないのですか」

 

呆然と呟くグランに、私はベンチから立ち上がり、鋭く見据える。

 

私達(・・)、雷門の強さが」

「……⁉︎」

「私達は確かに、個々の力はそれぞれかもしれない……。でも、それがたくさん集まることで……仲間がいることで、強くなっているのです。仲間がいるから、心が支えられる。だから……私達は、貴方達に負けない!」

「そうだ! 仲間がいれば、心のパワーは100倍にも1000倍にもなる‼︎」

 

円堂さんも力強く叫び、私に笑いかけてくれた。私も頷いて応える。

……思えば、初めてかもしれない。私が、雷門の一員であるような発言は。雷門のことを、"私達"と言ったのは。私はガラにもなくフッと笑って、フィールドを見た。

既に試合は再開していて、グラン達がまたスーパーノヴァを放つ。立向居さんは歯が立たないと思いつつ、ムゲン・ザ・ハンドを繰り出すが……破られてしまい。しかしそこへ。

 

「メガトンヘッド‼︎」

 

円堂さんの必殺技が、威力の弱まったシュートを弾く。しかしさしもの円堂さんも、まだスーパーノヴァの力には打ち勝てなくて、よろめいた。ボールは再びグランの元に転がり……。

 

「これも……仲間を想う力だと言うのか! ありえない‼︎」

「「「スーパーノヴァ‼︎」」」

 

二人の体勢が戻る前に、グラン達のシュートが雷門ゴールを強襲する。私は咄嗟に叫んでいた。

 

「立って下さい、立向居さん‼︎ 雷門のゴールを守れるのは……キーパーは、貴方しかいない‼︎ 立って‼︎」

「あ……青木さん……!」

「そうだ、立て‼︎」

「立向居‼︎」

 

みんなの声が、立向居さんに届く。立向居さんが両手をフィールドについて、立ち上がった。

 

「みんなの、ゴールを……! 俺が、守るッ‼︎ ムゲン・ザ・ハンド‼︎」

 

雄叫びと共に、立向居さんは再び必殺技を放つ。彼の強い想いが神に届いたのか、ムゲン・ザ・ハンドは進化し、あのスーパーノヴァを食い止めた。

 

「何だと……⁉︎」

 

グランの表情が、驚愕に染まる。対して雷門(こちら)側は大はしゃぎだ。立向居さんの成長に、私も頬を緩ませる。

よし、これなら行ける。これなら……きっと、勝てる!



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85話 vsザ・ジェネシス6・決着

「……このままでは……」

 

今まで散々余裕そうだったジェネシスの空気が変わってくる。あら、いい顔してるわね。ニタリと、心の中でほくそ笑む。

その時、電子音が混ざった吉良星二郎の声が響く。

 

『グラン、リミッター解除を』

「…………! リミッター解除……⁉︎ 父さん、そんなことをしたら、みんなが……!」

 

ハッと我に返ったグランの様子が、明らかに何かおかしい。父に口ごたえした、とグランはすぐに口を噤んだが、私には正直そんなことどうでもよかった。

どういうこと? リミッター解除とは、あのグランが父と崇めるあの男に意見するほどのものなのかしら? 何か危険なものなのか、それとも……とにかく、嫌な予感がする……。言葉の持つ意味が読み取れなくて、それでも体が訴えている。ヤバいのが来る、と。

試合再開のホイッスルが鳴って、円堂さんがボールと共にジェネシス陣営に上がる。

 

「リミッター解除……!」

 

ジェネシスが、胸元にあるスイッチらしきものに手を当てる。するとスイッチが光と共に一回転して、そのまま元に戻った。

何なのかしら……? 一見何もないように見えた私の目。しかし、背筋に冷たい何かが素早く駆け上った。

間違いない。私の直感が叫んでる。これはおかしいって!

 

「円堂さんッ‼︎」

 

私が喉を震わせた刹那、円堂さんがキープしていたボールを、背番号10の女ーー確か名をウルビダといったかーーが目にも留まらぬスピードで奪い去っていった。

速い。さしもの私も、動きが何とか見える程度。瞬く間に中盤が突破される。驚愕に支配された中、吉良が再び口を開く。

 

『人間は体を守るために限界を超える力を出さないよう、無意識に力を制御する。では、その全てを出し切れるとしたら?』

「‼︎」

 

単純な計算だ。体を顧みずに、本当の全力を出したなら。

 

「ふざけるなッ‼︎ 貴様は彼らを破滅に導くつもりか⁉︎ そんなことをすれば……筋肉は悲鳴を上げ、体はボロボロになってしまう!」

 

こういう時、無駄に働く自分の脳が恨めしい。私の絶叫を聞いて、瞳子監督も父に訴えた。

 

「父さんッ! 今すぐやめさせて‼︎」

『そうさせたのは瞳子、お前なんだよ』

「貴様ッ……自分の子供達に、なんてことを‼︎」

「お父様の望みは私達の望み……! これが、ジェネシス最強の必殺技だ‼︎」

 

なんて連中だ。私は怒りでどうにかなりそうだった。

ゴール前まで、スーパーノヴァを打った三人が駆け寄る。そして今度はウルビダを中心にシュート体勢に入った。

 

「「「スペースペンギン‼︎」」」

 

ジェネシス最強を自負するだけあって、進化に進化を重ねた立向居さんのムゲン・ザ・ハンドもぶち破ってしまった。

こうして追加点を許してしまった私達。せっかく追いついたのに。また、追い越せない……! 歯痒さが、私の中に燻る。

 

「っぐ……⁉︎ うぅっ……!」

「‼︎ 基山さんッ?」

 

呻き声を上げ、グランが膝をつく。彼だけじゃない。シュートを打った三人が、体を抱えて倒れ込んでいた。

こんなの……こんなのって……!

 

「やめなさい、貴方達は馬鹿なのですか⁉︎ 何でこんなっ……」

「ふんッ……お父様の子供になり損なった、お前などにはわかるまい……! これくらい……お父様のためなら……!」

「そう……父さんのため……!」

 

傷つく体を引きずって、それでも立ち上がろうとする二人に、私は愕然とした。そして、彼らを道具のように扱う吉良に、再び心の端に怒りの炎が灯った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホイッスルが鳴り、今度は雷門ボールから。ウルビダがボールを奪おうと阻んでくる。

しかし、それを察していたかのように、円堂さんは飛んでかわす。

グランが出てきても、円堂さんは鬼道さんにボールをまわし、ワンツーパスでグランを抜き去る。

 

「リミッターを解除した私達をもかわすだと……⁉︎ 何が起こっている⁉︎」

「……まさか、これも……⁉︎」

 

基山さんが呟く。まさかこれも、仲間を想う力か。そういうことだろう。貴方は何もわかっていない。わかろうとしていない。そして……吉良も。私も、かつてはそうだった。

人の心に怯え、わかるはずなどないのに、全てわかったように彼らーー雷門イレブンのことを見ていた。彼らは、私が今まで見てきた人間とは違った。私はかつて、人とは口で嘘を吐き続けるものだと思っていた。現に、今の私がそうであるように。

でも……彼らは、違う。サッカーという一つのスポーツに真摯に向き合い、受け止め、こんなに真っ直ぐになれる……。彼らを通じて、私は人を信じる強さを学んだ。

だから、負けるはずがないのだ。お前達ごときに、彼らが。

 

「「うおおおおおおおおッ‼︎」」

 

フィールドでは、豪炎寺さんと吹雪さんが並んでゴール前へ迫っていた。豪炎寺さんが炎のオーラを、吹雪さんが氷のオーラをまとう。二人がすれ違ったかと思えば、体を反転して二人同時にボールを蹴った。

二つの相反するエネルギーを纏ったシュートは、相手GKに必殺技を出させる間も無く、ゴールを貫いた(ゴールネットは破れていないが)。スコアボードに、3−3という嬉しい数字が表示される。この新たな必殺技は、目金さんによって「クロスファイア」と名付けられた。

いける。これから勝てる。再び、私は確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらが突き放すほど成長するからか。ジェネシスに焦りが見え始める。そういう時に限って、意志の強さか全力を出したりするのだ。現に、グランとウルビダがそうで、ボールをキープしながら雷門ゴールへ駆け寄ってくる。

 

「「「スペースペンギン‼︎」」」

「ムゲン・ザ・ハンド‼︎」

 

対する立向居さんは、怯むことなくボールを掴みにいった。豪炎寺さんと吹雪さんのシュートに触発され、彼の目には諦めの二文字はない。

思いが形となり、究極奥義はこの状況でも進化を遂げた。そして見事、ジェネシス最強の必殺技を止めてみせたのだ。

 

「ジェネシス最強のシュートが……⁉︎」

 

ボールは立向居さんからDF陣へ、そして中盤へ運ばれていく。みんなの想いを繋ぐように、紡ぐように。

その想いが込められたボールを円堂さんが受け、そこに豪炎寺さんと吹雪さんが続く。

そして……地上最強の、究極奥義が生み出された。

 

「「「ジ・アース‼︎」」」

 

11人の力が集約されたシュートは、ジェネシスのゴールを強襲する。DF陣もGKも物ともせず、ゴールへまっしぐら。

しかし……そこへグランとウルビダが駆け込んで、シュートを蹴り返そうと足を掲げた。

 

「お父様のために……‼︎」

「負けるわけにはいかない‼︎」

『止めるのです! 何としてでも……!』

 

吉良の切羽詰まった声も重なり、光がフィールドを満たしていく。この光は、何者も止めることはできない。サッカーを愛し、仲間を思いやる……私達(・・)最強のシュートだから。

そして……。

 

ーーピーッ‼︎ ピーッ、ピーッ、ピィイイイーーッ‼︎

 

耳に入るのは、けたたましい追加点と試合終了を告げるホイッスルの音。

 

「〜〜〜〜っっ、やっったぁぁああぁぁあぁあああ‼︎」

 

試合は、雷門の勝利。私達はついに、エイリア学園に勝ったのだ。




青木さん、超喋るようになったな……。いい変化なのかな、コレ。

ようやく苦境(試合シーン)を乗り越えました。早く世界編いきたい。
これからもボチボチ頑張っていきます。


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86話 父

お気に入り、125件⁉︎ ありがとうございます!

これからもどうぞ、よろしくお願いします。


歓喜の声が上がるその横で、ジェネシスの面々は肩を落とす。

その中で、グラン……基山さんだけが、何かを悟ったような、清々しい表情。小さな笑みを浮かべて、フィールドに出てきた私の元に歩み寄る。

 

「……穂乃緒ちゃん」

「はい」

「……仲間って……すごいんだね」

「……はい」

 

ようやく彼もわかってくれた。それが嬉しくて、頬を緩める。

基山さんは一瞬目を見開いてから、プイと視線を逸らした。横から見た耳が、少し赤く染まっているのが不思議だったけれど……。

 

「……良かった。貴方にも伝わって」

「う……うん……」

 

何故か少しぎこちない様子の基山さんに、どうしたのかと首を傾げる。

……あ。そうだった。基山さん、私のことが好きだったんだ。……ごめんなさい、忘れていたわ。

私はそんな基山さんに静かに手を差し伸べる。

ん? 惚れられている相手にすることじゃない? ええ、わかってやっているもの。だってそうしたら、基山さんの恥ずかしがるようないい顔が見られるでしょう?(※青木さんはドSです)

 

「…………」

 

基山さんは黙って、私の手をしっかりと握りしめる。

……チッ。想像通りの反応が返ってこなくて、私は心の中で舌打ちをする。

そこへ、いつもより穏やかな表情の瞳子監督がやってくる。

 

「……ヒロト」

「……姉さんが伝えたかったこと……これだったんだね、姉さん」

 

……これでよかった。家族はやはり、仲良くしている方がいい。家族がどんなものなのかを知らない私が言えたことではないけれど。

その時。

 

「…………ヒロト……」

「!」

 

機械越しにしか聞こえてこなかったあの声が、直接耳に入る。私がそこに視線を投げると、吉良がそこに立っていた。

あの憎たらしい様子はどこへやら、弱々しい声音で基山さん達に口を開く。

 

「……ヒロト。お前達を苦しめて、すまなかった……」

「…………父さん……」

「瞳子。私はあの、エイリア石に取り憑かれていた」

 

吉良はそう言って、俯く。

 

「お前の……いや、お前のチームのおかげで、ようやくわかった」

「父さん……!」

「そう、ジェネシス計画そのものが、間違っていたのだ……」

「……………………」

 

まったく、人騒がせな奴ね。ここまでしなければ、気付かないとは……年寄りになると頑固になるというのは、まさにこのことかしら。私は嘆息しながら、後ろで腕を組んで吉良の旋毛を見下ろす。

その時、一人の空気が変わった気がした。バッと振り返ると、そこには体を震わせたウルビダが。

 

「……ふざ、けるな……! これほど愛し、尽くしてきた私達を、よりによって貴方が否定するなぁああッ‼︎」

 

引き裂かれるような悲痛な叫び声と共に、ウルビダが足元にあったボールを蹴り飛ばす。その先には……父と呼び慕っていた、吉良が。

 

「なッ‼︎」

「お父さん‼︎」

 

吉良の方を見やると、襲来するボールを見据えて真っ直ぐ立っている。

彼女の怒りを受け止める覚悟なのか……でも、そんなのっ……!

見てられない。私は憎いはずの吉良を守ろうと走り出した。しかし私の横を、一人の影が抜き去った。

 

ーードォッ!

 

その光景に、私は目を見開く。

ボールを受け止めたのは、吉良を庇った基山さんだった。

 

「基山さん‼︎」

「グラン……! お前……⁉︎」

「……くっ、うっ……」

 

彼女ほどのプレイヤーのシュート力はかなりのものらしい。基山さんは痛みに耐えかね、ドサリと倒れ込む。

私と円堂さんがすぐに彼を介抱しようと駆け寄った。

 

「ヒロト! ヒロト、大丈夫か⁉︎」

「基山さん、しっかり……!」

「っぐう……‼︎」

 

顔をしかめる基山さんを、ウルビダは驚愕の表情で見下ろす。

 

「何故だ、グラン……何故止めたんだ⁉︎ そいつは私達の存在を否定したんだぞ⁉︎ そいつを信じて戦ってきた、私達の存在を‼︎」

 

愛していた故の怒り、か……。私には到底理解できそうにない事だ。

私は今まで、人を愛した覚えは一度もない。そもそも、愛することがどういうことか、全くわからない。

それでも、ついつい口を挟みたくなってしまう。私の悪い癖だ。でも今回はそれを堪えて、成り行きを見守る。この状況で、私に口を出す権利はない。

 

「私達は全てをかけて戦ってきた! ただ……強くなるために……! それを今更、間違っていた⁉︎ そんなことが許されるのか、グラン‼︎」

「……確かに……確かに、ウルビダの言う通りかもしれない。お前の気持ちもわかる……でも……それでも、この人は……!」

 

痛みを引きずって立ち上がった基山さんが、ウルビダに言い放つ。

 

「俺の大事な、父さんなんだ!」

「……‼︎」

「……もちろん、本当の父さんじゃないことはわかってる。ヒロトって名前が、ずっと前に死んだ、父さんの本当の息子だってことも」

「……本当の、息子……?」

 

一体、どういうこと?

疑問を投げかけようとしたが、基山さんが体勢を崩したのを見て、慌てて円堂さんと共に彼を支える。

 

「それでも、構わなかった……! 父さんが、俺に本当の"ヒロト"の姿を重ね合わせるだけでも……!」

 

ポツポツと語る基山さんの言葉に、私達は耳を傾ける他ない。

私は、貴方と吉良の間に何があったかなんて知らない。今まで、どんな気持ちでいたかも……何も。

それでも、彼が父を愛していることは、痛いほど伝わった。愛するなんて知りもしない、私にも。

吉良が、両足を踏ん張って立つ基山さんを見て、驚いたように呟く。

 

「ヒロト……おまえはそこまで、私を……」

 

悔やんでも悔やみ切れないような、そんな表情。足元にあるボールを拾い上げ、それを見下ろして呟く。

 

「……私は間違っていた。私にはもう、お前に父さんと呼んでもらえる資格などない……」

 

そのボールを、蹴り込んだ張本人ーーウルビダの足元へ投げ、両腕を広げる。

 

「さあ打て! 私に向かって打て、ウルビダ‼︎」

「父さん……⁉︎」

「こんなことで、許してもらおうなどとは思っていない。だが、少しでもお前の気が収まるのなら……! さあ、打て!」

 

今度は吉良が基山さんの前に出て、両腕を広げる。

対するウルビダは、姿勢を低くして吉良を見つめた。そして、足元のボールに視線が向けられる。その目は明らかに迷いの色を映していた。

 

「っ……うぉおおおおおっ‼︎」

「ウルビダっ‼︎」

 

怒号と共に右足を上げたウルビダに、円堂さんが叫ぶ。私も一瞬身構えたが、その時彼女の目に、涙が滲んでいた。

それから脱力して、地面に崩れ落ちる。

 

「……打てない…………打てるわけ、ない……! だって、だって貴方は……私にとっても、大切な父さんなんだっ……!」

「……ウルビダ」

 

涙を流す彼女を見て、吉良も腕を下ろす。

ジェネシスの選手達の悲しいすすり泣く声が、ひどく耳に響いた。



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87話 罪の償い方

吉良がフィールドに崩れ落ちるように膝をつく。

 

「私は人として恥ずかしい……。こんなにも思ってくれる子供達を、単なる復讐の道具に……」

「復讐……?」

 

吉良の言葉に引っかかりを感じた私は、すぐに聞き返した。そこへ歩み寄ってきたのは、鬼瓦さんと滝野さん。

 

「話してもらえませんか、吉良さん。何故、ジェネシス計画などというものを企てたのか……。どこで道を誤ってしまったのか……巻き込んでしまった、あの子達のためにも」

 

ようやく、吉良の口から真実が語られる時が来た。私は吉良から目を離さず、黙って話を聞いた。

吉良には、ヒロトという息子がいた。彼はサッカーが大好きで、夢はプロのサッカー選手。しかし海外でのサッカー留学中、その地で謎の死を遂げた。吉良は事件の真相解明を求めて何度も警察に掛け合ったが、なんでもその事件には国の政府の要人の息子が関わっていたとかで、彼は事故死として処理された……。「あの時の悔しさは、今でも覚えている」と呟く吉良。息子に何もしてやれなかった悔しさ、息子を失った悲しさで、彼は生きる気力さえも失くしていた。

そんな時、瞳子監督が提案したのが、親を無くした子供達のための施設「お日さま園」だ。はじめは娘の頼みとして作ったその場所だったが、子供達と触れ合うことで、次第に吉良の心の傷も癒えていった。

 

「……本当にお前達には感謝している。お前達だけが、私の生き甲斐だった。……そして、5年前……」

 

5年前。富士山の麓付近に、隕石が落下した。それこそがーーエイリア石。エイリア石の研究を進めていた吉良達は、その恐るべきエナジーを発見する。そして、取り憑かれていった……エイリア石の、魅力に。

それと同時に、吉良の中で忘れかけていた復讐心が目覚め始めた。息子を奪った連中に、この石の力で復讐を……。……いやそれどころか、この石さえあれば、世界をも自在に操れる……!

 

「すまない……本当にみんな、すまなかった……。私が、愚かだった」

「……父さん……」

 

いつの間にか、瞳子監督が吉良の隣に立っていた。私は罪悪感に苛まれる彼を見下ろして、溜息を吐いた。

これがようやく見つけた真実か。案外、馬鹿らしいものだった。でも、馬鹿らしいほど、虚しい話。この人は……ただ、不幸だっただけだ。大切な息子を奪われて、それを乗り越えようとした時に……押し殺していた復讐心に屈服してしまった。ただ、それだけの人。己の心の弱さを嘆いても悔やんでも、こいつが引き起こした一連の騒動の責任はこれから先も付いて回るだろう。でも……。

その時、私の耳に小さな音が入る。この音は……地響きみたいな……? まさかと思った次の瞬間、突然地面が大きく揺れた。

 

「っ、何だ……⁉︎」

「地震か⁉︎」

 

一体何が起きているのか。みんなが動揺している中、とにかく冷静を保とうと私は天井を見上げる。遠いそれが、所々ヒビ割れているのが見えた。辺りを見ると、壁にも似たようなヒビが。

 

「まずい‼︎ 崩れるぞッ‼︎」

 

咄嗟に叫んだ私は出口を振り返るが、そこにもすぐに瓦礫が落ちてきた。これじゃあ、逃げようにも逃げられない。どうする。これを壊して進むか。グッと拳を握りしめたが。

 

「みんな、早く乗るんだ‼︎」

「古株さん‼︎」

 

反対側にある出入り口から、古株さんの運転するイナズマキャラバンが飛んでくる。みんなはすぐにキャラバンに乗り込んだが……。

 

「……貴方はここで何をしているのですか」

 

私は、その場に座り込んだままの吉良に声をかける。最後に乗ろうとしていた基山さんも、私達に気づいたらしく、円堂さんが呼ぶのにも関わらず、こちらへ駆け寄ってくる。基山さんが私の隣に立って、吉良に手を差し伸べる。

 

「父さん、逃げるんだ! 早く……‼︎」

「……私のことはいい……。私はここで、エイリア石の最期を見届ける。それが、お前達に対するせめてもの償いだ」

「馬鹿を言え」

 

基山さんが言葉を紡ぐより早く、私が声を発する。また敬語の抜けた、怒りの色を含む私の声に、吉良は驚いたように私を見上げた。

 

「罪を償う? お前はふざけているのか? そんなもの、誰が望んだ」

「…………」

「お前がここで一人死ぬことを、誰が望んだと言っているんだッ‼︎ お前が自らの罪から逃げたいだけだろう、それのどこが償いだ‼︎」

 

あぁもう。何で今日はこんなにも腹立たしいことだらけなのだろう。円堂さんに散々怒鳴ったというのに、まだ張り裂けるように叫んでいる。それでも、私の口は止まらない。

 

「いいか、お前の償いはここで死ぬことじゃない。生きて、お前の子供達を見守ることだ。お前には、あんなにもお前のことを思っている子供達がいるだろう。そいつらを残して、無責任にもお前は死ぬのか? この騒動を起こした責任は、全てあいつらに降りかかるぞ。それから愛する子供達を守るのが……父親ってやつの、役目じゃないのか」

「…………‼︎」

「たとえ父親だと思われていなかろうと、子を守るのがお前の役目だろう。かつてお前が、自分の息子の死の原因を明かしてほしかったように……お前は子供のためなら、何でもしただろう。それは、血が繋がっていようがいまいが、関係ない。……違うか?」

 

ーー……まぁ、こんなこと、まともな親に育てられなかった私が言えるような内容ではないがな。

 

最後にそう呟いて、私は溜息を吐く。基山さんが、片膝をついて、吉良と視線を合わせる。

 

「……行こう。父さん」

 

柔らかな声でそう言えば、吉良は涙を滲ませた。

 

「……こんな酷い事をした私を……ヒロト、お前が許してくれるというのか……っ」

 

基山さんも、瞳を潤ませて頷く。

 

「邪魔をして非常に申し訳ありませんが、早く逃げないと……」

「あぁ……」

 

私と基山さんに促され、吉良はようやく立ち上がり、キャラバンへ向かった。私達も乗り込むと、すぐに扉が閉まる。キャラバンは急発進して、瓦礫やら爆風やらが迫る中、全速力で走っていた。

キャラバンの中、窓の外を眺める私に基山さんが近寄る。

 

「……穂乃緒ちゃん」

「はい」

「…………ありがとう。君に助けられちゃったね」

「……いえ……ようやく借りが返せましたから」

「借り?」

 

どうやら覚えていないらしい。キョトンとする基山さんの顔を見て、思わず吹き出してしまう。

 

「覚えていらっしゃらないのですか? 私と貴方が、初めて出会った時のことを」

「え……?」

「私が追われていた時、助けてくださったのは他でもない貴方ではありませんか。……だから今度は私が、貴方を助ける番。……まぁ、助けられたのはどっちだかよくわかりませんが」

 

フッと頬を緩ませると、基山さんも優しく微笑む。私は不意に、彼の頬に指を滑らせた。

 

「やはり、貴方には穏やかな笑顔が似合う」

「っ‼︎ なっ……」

「真に受けないでください。冗談です」

「……そんなこと言わないでよ」

 

「本気にしちゃったじゃん」と口を尖らせて、赤らむ顔を隠す。見ているだけで愉快だ。

……敵だったこの人と、またこうして笑い合えるなんて、思ってもみなかった。これも全て、私が変われたおかげなのだろう。そして、私を変えてくれたのは……他でもない、円堂さん。

 

礼を言うのは、私の方だ。まだ鈍く痛みを引きずる腹に手を当て、再び窓の外に視線を移した。




あともう少しでエイリア学園編も終わり。頑張ります。


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88話 守らせて下さい

こうして無事脱出できた、私達。麓には既に警察の車が手配されていた。

吉良は当然警察に連行され、その子供達ーーつまり基山さん達は、警察に保護されることになる。瞳子監督は「ヒロト達の傍にいてやりたい」と言って、私達と別れた。

基山さん達を乗せた車が、遠ざかっていく。終わったか、と肩の荷が下りたような感覚を覚えていると、その肩に重みが。振り返らなくても、滝野さんの怖いオーラが感じられる。

 

「さぁ穂乃緒ちゃん、次は君の番だよ」

「……何のことですか?」

「とぼけないの。君、重傷のくせによくここまで来たね?」

「私を連れていったのは他の連中です。彼らに言ってください」

 

さりげなく、バーン達に罪を擦りつける。

だって本当のことだ。私はこれっぽっちも悪くない。

 

「重傷⁉︎ それってどういうことですか、滝野さん!」

 

あぁ、聞かれてた。肩に置かれた手を払って、溜息を吐いた。

滝野さんの言葉に即座に反応したのは、円堂さんだ。こういう時の彼は地獄耳なのか。私はこちらを見てくるみんなの視線に、再び息を深く吐いた。

 

「穂乃緒ちゃんは本来なら絶対安静の大怪我を負わされていたんだよ。……親によって、ね」

「えっ⁉︎」

「親に、よって……⁉︎」

 

復唱した吹雪さんの声が、震えていた。私が口を挟むこともなく、滝野さんと鬼瓦さんが続ける。

 

「この子は、実の両親によって人身売買にかけられたんだ」

「人身売買⁉︎ そんなこと……‼︎」

「知っての通り、人身売買は犯罪だ。我々警察も目を光らせているが……今でも水面下で行われていることもあってな。彼女はその被害者だ」

 

円堂さん達の視線が、私に刺さる。彼らにはいつか話すと決めていた。でも、いざその話をするとなると、少し心苦しい。みんなに、私の抱えるものが負担になっているんじゃないか、と不安になる。

 

「穂乃緒ちゃんは一度、海外に売り飛ばされてから、再び日本に戻ってきた。だが、穂乃緒ちゃんを買った二人は、ストレス発散の道具としてしか見なかった。だから穂乃緒ちゃんは、君達に接触したんだ。今の保護者である彼らから、逃げるために」

「……青木…………」

「………………」

 

みんなの視線を受けて、何か言おうと、口を開いた。

 

「別に……全て、過ぎた過去の事です。今更覆せないし、取り戻すつもりもありません。それを悲観したことも、一度もありません」

「穂乃緒ちゃん……」

「こんな話をしておきながら、気にするなと言うのも、虫が良過ぎますよね。でも……本当に、気にしないでください。私は、皆さんと一緒にいられるだけで……皆さんが皆さんでいて下さるだけで、満足ですから」

 

不器用に、フッと笑ってみせる。彼らに言った事は私の本心だ。私がこうして変われたのも、雷門のみんなのおかげ。私の心を受け止めてくれた、彼らのおかげ。だから私は、みんなを守りたいと強く思った。みんなを守るためなら何でもするし、この平和を崩す輩がいるなら、全力で排除する。それくらいの覚悟なのだ。

でも。それでも。

 

「青木……」

 

円堂さん、貴方は……。

 

「お前が何を抱えていようと……俺は、俺が今まで見てきた青木穂乃緒を信じる。不器用でイジワルだけど、本当は誰よりも優しいお前のことを信じてる! だから青木……」

 

スッと手を私に差し伸べて、快活な笑顔を浮かべる。

 

「これからも、よろしくな!」

「……はい。もちろん」

 

それを受け入れて、私も彼の手を握り返す。

円堂さん、私は何があっても、貴方へのご恩だけは忘れません。恩返しなんておこがましいこと、私には一生かけてもできないと思いますが……せめて、貴方達の隣で、これからも守らせて下さい。

 

「私……何があっても、このご恩は一生忘れません。これからはこの命をかけて、貴方方をお守りします」

「えっ、や、そんな大げさな……」

「フッ……いいんじゃないか? 青木らしい」

「それに青木は、一度決めたら絶対折れてくれないだろ?」

「そうです。ですからどうぞ諦めて私に守られて下さい」

「でも穂乃緒ちゃん、無茶だけは絶対しないでよ? 穂乃緒ちゃんすぐ怪我するんだから……」

「…………なるべく努力します」

「あはは、穂乃緒ちゃんでも木野さんには敵わないんだね」

 

あはははは……と笑い声が、空に響く。この幸せが、どうかずっと続きますように。この時の私は、そう願っていた。

その時、ふと財前さんの携帯が鳴る。すぐに財前さんが携帯を開き、通話を開始した。

 

「ーーええ⁉︎ ……あ、わ、わかった!」

「どうしたんだ?」

 

円堂さんが問いかけると、財前さんが振り返る。

 

「うん……。パパがみんなに、感謝状を贈りたいんだって」

「「「「感謝状⁉︎」」」」

 

財前さんのお父さんーーそれはつまるところ、総理大臣。国の代表を務める人から感謝状……あまり実感がわかないのは私が賢くないせいだろう。でもみんなは事の大きさを理解して、ざわついていた。

そこに、響木監督が口を開く。

 

「いや、お前達の活躍は、充分感謝状に値する。……本当にみんな、よく頑張ってくれた」

 

驚きの反応も一旦止み、それぞれ顔を見合わせる。とにかく、キャラバンは一度稲妻町に帰り、それから総理から感謝状を受け取ることになった。



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89話 青木穂乃緒が笑った日

お気に入り150件突破致しました! ありがとうございます!


稲妻町に帰る道中。

 

「なぁ、みんなはこれからどうするんだ?」

 

ふと、財前さんがそう問いかける。私はハッとした。

そうだ。エイリア学園との戦いは終わった。元々この中には、東京に住んでいない選手達がいる。これが終われば、もう離れ離れ……? そう思うと、少し寂しくなった。

みんなはワイワイと、これからの事を話している。

 

浦部さんは、一之瀬さんと一緒にお好み焼きを焼きながら幸せな家庭を築くとか(本人は勘弁してくれと言いたげだったが)、

 

立向居さんは陽花戸中に帰り、さらに技を磨くとか、

 

綱海さんも沖縄の海が恋しく感じ、帰ることを決意し、

 

財前さんは、浦部さんのお隣で円堂さんとたこ焼き屋をやろうとか(冗談)。

 

そしてそんな中、吹雪さんは。

 

「そうだなぁ。僕も穂乃緒ちゃんと一緒に、北海道で暮らそうかなぁ」

「「「「ええっ⁉︎」」」」

「は?」

 

思わず、私も隣に座る吹雪さんに聞き返す。吹雪さんはみんなの反応を見て、くすくすと笑っていた。

 

「冗談だよ。一緒に暮らしたいっていうのは本音だけど」

「私の方からお断りさせていただきます」

「えっ……ちょっと傷つく……」

「だって、私などと暮らせば、貴方に迷惑をかけてしまうではありませんか。私は最悪、野宿でも構いませんので……」

「えっ、そういう意味?」

 

なら良かった、とホッとした様子の吹雪さん。それ以外に何の意味と捉えたのだろうか。人の考えとは千差万別で、不思議なものね……。

私達の会話を聞いて、財前さんが「あっ、」と零す。

 

「でも青木、これから本当にどうするんだ?」

「どう……とは?」

「だって……仮にも親が逮捕されたんだろ? そしたら、青木は……」

 

……ああ、そのことか。私は小さく溜息を吐いて、話す。

 

「滝野さんによれば、私の身は警察の元で保護されるそうです。まぁ、私は一応被害者ということになっているらしいですから……そんな悪い待遇ではないと思います。それから先は……まだわかりませんね」

「そうか……」

「あっ! それならさ、ウチに来いよ!」

 

ふと明るい声を上げて提案したのは、円堂さん。私もみんなも、驚いて彼を見た。

 

「行く宛ないんだろ? だったらウチに来いよ! 母ちゃんもきっと喜んでくれるし!」

「で、ですが……」

「ちょ、ちょい待ちちょい待ち!」

 

私が返答に困っていると、浦部さんが何やら興奮した様子で割って入る。

 

「そそそそ、それってつまり……同棲ってことやろ⁉︎」

「「「ど、同棲ぃぃ⁉︎」」」

「え?」

「は?」

 

みんなの驚きの声を受けつつ、私と円堂さんはキョトンとした表情で互いの顔を見る。

 

「いやー、まさか円堂がそんな積極的な男やなんて思わんかったわ〜‼︎ 大好きな青木と一緒に暮らして、イチャイチャライフを満喫するつもりなんやろ?」

「「いっ……‼︎」」

 

浦部さんの至極楽しげな様子に、木野さんと雷門さんが反応する。いつも冷静なはずの鬼道さんが、珍しく声を上ずらせて円堂さんに話しかけた。

 

「え、円堂、お前……」

 

恐らく、鬼道さんとしては、あのサッカーバカの円堂さんに限って、そんな事を考えて提案したわけじゃないと信じたいのだろう。しかし、それは人の心。見抜けるわけじゃないし、完全にわかるわけでもない。だから、万が一の可能性も捨てきれなくて、名前を呼ぶことしかできなかった。……といったところかしら。

しかし、当の円堂さんは、キョトンとしたまま答えた。

 

「どーせー? 何だそれ?」

 

……そこからか。キャラバン内の、みんながズッコケた。あの豪炎寺さんまでもが、ズルッと椅子から滑っている。安定の彼に安心しつつ、みんなが苦笑する中、円堂さんだけが「え? え?」と私達をキョロキョロと見回している。

 

「……だよな、そうだよな。円堂ならこうなるよな」

「あー、びっくりしたー……いや、ちょっと残念だったかも」

「それどういう意味ですか、土門さん」

 

あはは、と乾いた笑い声の一之瀬さんと、少し期待の目を向けていた土門さん。彼には私のツッコミが入った。

 

「前に青木の事を母ちゃんに話したんだけどさ、そしたら一回会ってみたいって。だから、青木さえ良ければウチに来ないか? 歓迎するぜ!」

「……円堂さんがそう仰るなら、私は貴方に従います」

「じゃ、決まりだな!」

 

私が答えると、にかっと円堂さんは笑った。何やら複雑そうな鬼道さんと、呆れて溜息を吐く豪炎寺さんを視界の隅に捉える。こうして一連の騒動(?)が一応幕を閉じたその時。

 

バフンッ‼︎

 

「うわっ⁉︎」

「な、何だ⁉︎」

 

突然、大きな音と共にキャラバンが揺れ、停止する。音の位置からして、ボンネットの辺りだろうか。しかもこの音ーー。

ふと、古株さんが運転席から降りて、外に出る。それを追って、私達もキャラバンから降りた。

 

「……もしかして、ショートしたのですか?」

「ははは……どうやらそうらしいわい」

 

古株さんがこちらを振り返って苦笑すると、さらにバン‼︎と先程より大きい音がボンネットの中から聞こえてきた。

 

「こりゃ直すのにしばらくかかりそうだ」

 

古株さんの言葉に、一同が笑いに包まれる。キャラバンが直るまでの間、円堂さんがサッカーをしよう、と提案した。みんながそれに乗り、近くの草地へ降りていく。

みんなの背中を見届けてから、私はイナズマキャラバンを振り返った。私達がここまで強くなれたのも、ここまで戦ってこれたのも、全てこのイナズマキャラバンがあってこそだ。キャラバンが無ければ、私達は日本中を転々とできなかったし、何よりキャラバンがあったから、私達はエイリア学園の本拠地から無事生還できた。イナズマキャラバンは、私達を支えてくれた立派な立役者だ。

少し汚くなった鉄の上に、そっと手を乗せる。

 

「……お疲れ様。貴方もよく、頑張ってくれたわね。…………ありがとう」

 

ポツリと零すと、「おーい‼︎」という元気な声が耳に届く。

 

「青木ー‼︎ 早くこっち来いよー‼︎ 一緒に、サッカーやろうぜ‼︎」

「ーー…………はい! 今行きます!」

 

それに私も大声で応えて、坂を駆け下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつから、忘れていたのだろうか。こんな、心が踊るような感覚を。ただ、ボールを蹴っているだけなのに、何故こんなに、胸が熱くなって仕方ないのだろう。みんなと笑い合っているだけで、それを見るだけで、どうしてこんなに心が安らぐんだろう。

 

ああ、これが「楽しい」か。

 

心の赴くまま、ボールを蹴り上げる。心と体がリンクしているかのように、私の蹴ったボールは空高く飛び上がった。

 

「あーっ‼︎ 飛ばしすぎだよ、青木さん‼︎」

 

木暮さんが、空に上がったボールを見ながら、後ろに退がる。しかし、退がったそこには壁山さんと目金さんがいて。木暮さんは二人にぶつかって、三人仲良くもつれて転び、そこに落ちてきたボールが三人の頭の上をてんてんてん、と跳ねていった。

そのザマが滑稽すぎて。みんなから、どっと笑い声が上がる。

 

「いったー⁉︎」

「何するんですか、木暮くん‼︎ ちゃんと前を見てくださいよ‼︎」

「そうッスよ、危ないッス!」

「だ、だって! 青木さんがあんなに高くボールを飛ばすか……ら……」

 

木暮さんの声が途切れたのにも気付かず、私はーー。

 

 

 

 

 

 

「ーーあはははははははっ‼︎ ははっ……ふっ、くく、ひひっ……ふははっ、はは……!」

 

 

内から込み上げてくる、笑い(・・)が止まらない。くくく、と何とか抑え込もうとするほど、余計ひどくなるような気がする。堪えてたものも吹き出して、私はまた声を上げて笑った(・・・・・・・・)

 

「は、はは、はぁー……」

 

ようやく収まってきた頃、みんなが固まっていたことに気付く。皆一様に、私の事を見つめてくるのだ。どうしたのか、と首を傾げる。

 

「? あの……何か……?」

「あ……青木……お前…………」

「?」

「うわあああああ‼︎ やったーー‼︎ 青木が、青木がまた笑ったぁぁぁ‼︎」

 

円堂さんの大声と共に、みんながワッと私に詰め寄る。私は呆然としたまま、その場を動けないでいた。

笑った……? 私が……また……? 胸の奥でポツリと零してみると、嬉しい気持ちがじわじわと込み上げてきて、また頬が緩む。

 

「……はい。私……また、笑いました」

 

にこ、と目を細めて笑ってみる。するとみんなも笑顔になって、草地に笑い声が響く。

早く稲妻町に帰りたい。そして、彼らに会いたい。

あそこに帰れば、日常が取り戻せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう、思っていた。




今年もうあと1ヶ月もありませんね。
紆余曲折しながら走ってきたこの小説ですが、もう終わりに近づいてきました。もちろん、FFI編に入ったら、また突っ走ることは目に見えてますが……。

ここまで来れたのも、この小説を読んで下さる皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。
これからも皆さんの小さな暇潰しになれるような作品作りを目指します。


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90話 最後の戦い

古株さんが、イナズマキャラバンの修理を終え、再び走り出す。東京の雷門中に着いた頃、晴れていた空は、いつの間にか黒々とした曇天に包まれていた。

嫌な霧が、辺りそこらに蔓延している。生徒達の気配もない。その代わり……12人、こちらを見ている気配を察知した。その中の一人が、こちらへ歩み寄ってくる。円堂さんが校舎に向かって歩み出したのを、私が左手を横に伸ばして制した。

 

「……青木?」

「…………来る」

 

ポツリと呟くと、霧の中から見覚えのある男が現れた。奴は確か……吉良の秘書の……研崎、と言ったか。それにしても、何故奴が雷門中に? エイリア学園の関係者は皆、警察に連行か保護されたはずでは……?

研崎の姿に驚く私達を見て、彼は口角を上げた。

 

「お待ちしておりましたよ、雷門の皆さん……皆さんにはまだ、最後の戦いが残っていますからね」

「最後の、戦い……?」

 

その言葉の意味を反芻していると、さらに奥から黒いローブを纏った11人が現れる。その真ん中に立つ一人が、ゆっくりとフードを取った。

 

「⁉︎ なっ…………‼︎」

 

その素顔を見た私達は、呼吸が止まったかのような感覚に陥った。

だって。何故。

 

「っ、風丸……⁉︎」

「……⁉︎」

 

そこにいたのは、風丸さんだったのだ。しかし、以前と何かが違う。なんか、こう……とにかく、嫌な雰囲気のオーラを感じる……。

すると、奥にいたメンバーが、次々とフードを取っていく。

 

「染岡くん⁉︎」

「嘘だ……!」

「影野、半田……⁉︎」

「栗松、少林……!」

 

最前列でみんなを庇うように立つ私の背中で、みんなが動揺の声を上げる。途中参加の私は、元々の雷門メンバーの名前と顔を全て覚えているわけではないが、みんなの反応から彼らが仲間であることは察することができた。

風丸さんが、冷たい声で語りかける。

 

「……久しぶりだな、円堂」

「ど、どういうことなんだ……⁉︎」

「ようやく私の野望を実現する時が来たのですよ」

 

たった一人、愉快そうに笑う研崎を視界の端に捉える。私は静かに腰を落とし、円堂さん達を守るべく、戦う構えを取った。

風丸さんがローブの下から取り出したのは……なんと、黒いボール。エイリア学園が使っていた、あのボールだ。

 

「どうして……⁉︎ 風丸くん……!」

「……再会の挨拶代わりだ」

 

木野さんが震える声で呟くと、風丸さんはボールを下に落とし、蹴り飛ばした。向かう先はーー円堂さん。

 

「‼︎」

 

反射的に私は動いていた。円堂さんに向けて蹴られたそのボールを、まだ痛みを引きずる足で受け止める。

 

「ぅ、ぐッ‼︎」

「青木ッ‼︎」

 

背後に円堂さんの声を聞きながら、なんとかそれを受け止めた。しかし、元々傷ついていた足にさらに負担をかけたため、足に力が入らなくなった。思わず、片膝をつく。

 

「青木、何で……‼︎」

「……貴方を守るためなら、この程度……どうってことありません」

 

心配そうに覗き込んでくる円堂さんに、笑って応える。そうだ。この程度で倒れてはいけないのだ。大切な人達を守るために、私はこの身の全てを犠牲にすると決めた。円堂さんはすぐにやめろと言うかもしれないが……これが、私の信条だ。誰だろうと、私の決意を否定する者は許さない。

私達は、風丸さんを見やる。

 

「風丸……」

「……俺達と勝負しろ」

「は……? 何故、そのような……………………!!!」

 

言葉の意味を図りかねた私が問おうとした時、風丸さんの首元に、紫色に光る物を見つけた。

ああ、そんな。誰か嘘だと言って。私の見ている光景は、全てまやかしだと言って。

だって。だって、何で。

 

「エイリア、石……‼︎」

 

何であんな物を、風丸さんが持っているの。アレは確か、基地が破壊されたのと同時に根絶させたはずなのに……!

戦慄く私の声に、みんなが反応して、私と同じ方向を見る。

 

「エイリア石⁉︎」

「何だって⁉︎」

「エイリア石は、研究施設と共に破壊されたはずじゃあ……⁉︎」

「フッ、フフフ……皆さんにはお礼申し上げます」

 

研崎の怪しげな笑みが、静寂の中に響く。胸に手を当てて、彼は再び口を開けた。

 

「おかげで、あの無駄極まりないジェネシス計画に固執していた旦那様……吉良星二郎を片付けることができたのですからね」

「……! まさか、あの爆発は⁉︎」

 

鬼道さんの言う爆発とは、研究施設を破壊したあの爆発のことだろう。もう私は全てを理解していた。全ての諸悪の根源は、あの男だと。

恐らく研崎は、エイリア石の存在を最も歓迎していた男だろう。だが、あくまで彼は吉良の秘書。主人の決定には従わなければならない。だから、吉良の失脚を狙った。その後……エイリア石を自分のものにして、己の欲望のままに使うために。

 

「旦那様は、エイリア石の本当の価値をわかっていなかったのですよ……何一つね」

 

だから……自分が正しい、ハイソルジャー計画を遂行させる。そのための実験台として……奴はあろうことか、風丸さん達を使った‼︎

 

「貴様ァ!!!!」

 

私が激昂するには、それだけで充分だった。痛む足を無視して、研崎に飛びかかる。円堂さん達の目の前にも関わらず、奴を殴り飛ばそうとした。

しかしーー。

 

ザッ‼︎

 

「‼︎」

 

研崎の前に、風丸さんが庇うように立ちはだかる。私は反射的に拳を止めた。怒りからか、呼吸が荒い。今すぐにでもあの憎たらしい男を殴りつけたいのにっ……‼︎

 

「風丸さんッ……!」

 

ハッとしたのも束の間、目の前に黒いボールが飛んでくる。咄嗟に腕をクロスして防ぐが、勢いに負けて、後方へ吹っ飛ばされる。

 

「ぐあッ‼︎」

「青木‼︎」

 

背中が地面を滑り、仰向けに倒される。すぐに体を起こすと、そこに円堂さんが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫か?」

「はい……」

 

私の無事を確認すると、円堂さんはキッと風丸さん達ーー研崎は『ダークエンペラーズ』と名付けたーーの中央に立つ、風丸さんの元へ近寄る。木野さんが止めようとしたが、それでも円堂さんは風丸さんの肩を掴んで揺らした。

 

「お前達は騙されてるんだろ……? なあ、風丸……!」

 

信じたくない、と思っているのだろう。正直私もそうだ。こんな気持ちで、仲間と戦いたくない。

対する風丸さんは、黙って円堂さんに手を差し伸べる。まるで握手のようにもとれるそれに、円堂さんは戸惑いながらも手を差し出した。

ーーすると。

 

「……‼︎」

 

風丸さんは、その手を払い除けた。

 

「…………風丸……」

「……俺達は、自分の意志でここにいる!」

 

動揺を隠せない私達に、さらに残酷な現実が突きつけられる。風丸さんの首元に光る、あの紫色のものは……エイリア石。それを手に取ると、風丸さんは恍惚の色を含んだ声で続ける。

 

「このエイリア石に触れた時……力が漲るのを感じた……。求めていた力が……!」

「求めていた、力……?」

「……俺は強くなりたかった。強くなりたくても……自分の力では超えられない限界を感じていた。でも、エイリア石が……信じられない程の力を与えてくれたんだ……!」

 

風丸さんが、羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。

 

「俺のスピードとパワーが、桁違いにアップした! この力を、思う存分使ってみたいのさ……!」

「ッッ……‼︎ こ、のッ……‼︎」

 

滾るような怒りが、私の中で燃え上がる。こうなったのは、紛れもなくあの男のせいだ。あいつのせいで……あいつの、せいで……!

 

「ちょっと待てよ……! エイリア石の力で強くなっても、意味がないだろ⁉︎」

「それは違うでヤンス。強さにこそ意味があるでヤンス」

「俺はもうこの力が気に入ったぜ。もう豪炎寺にも吹雪にも負けやしねえ」

「染岡くん……‼︎」

 

円堂さんの声も吹雪さんの声も、もう届かないというのか……!

 

「俺達は誰にも負けない強さを手に入れたんです」

「エイリア石の力がこんなに素晴らしいなんて思わなかったよ」

「いつまでも走り続けられる。どんなボールだって捌くことができる」

「全身に溢れるこの力を見せてあげますよ!」

「どうしちゃったんだよ、みんな……!」

 

円堂さん達の動揺が増す中、私はずっと研崎を睨んでいた。一発でいい。一発でいいから本気であの男を殴りたかった。

 

「円堂くん、貴方にももうじきわかりますよ……誰もが取り憑かれる魅力……それが、エイリア石……!」

「ふざけるなッ‼︎ 貴様は甘い飴で彼らを釣った、ただの詐欺師だ‼︎」

 

私が言い返すと、風丸さんが私達に指をさしてきた。

 

「雷門イレブンは、ダークエンペラーズの記念すべき最初の相手に選ばれた。さあ……サッカーやろうぜ、円堂」

 

その手を、差し伸べるように伸ばす風丸さん。今度は円堂さんが、その手を払い除けた。

 

「嫌だ……! こんな状態の……お前達と、試合なんて……‼︎」

「そうッス、嫌ッス‼︎」

「お互いに得る物は何もない‼︎」

 

みんな、気持ちは同じだった。私とてそうだ。こんな試合、受ける理由もなければ義務もない。さっさとあの男の潰れた顔を見られれば、私はそれで満足なのだから。

それに対し、研崎は小さく笑う。

 

「試合を断ればどうなるか……お教え致しましょう」

 

脅しか……。研崎が目配せすると、染岡さんがローブを脱ぎ、足元の黒いボールを見やる。

 

「まず手始めに、雷門中を壊します」

「「「⁉︎」」」

「ダメだ‼︎ やめろ、染岡‼︎」

 

私達の動揺を見て、研崎は再び笑みを深くした。

 

「お分かりですか? 貴方達に選択肢はないんですよ」

「こんの、下衆が……‼︎」

 

ギリッと奥歯を強く噛み締める。とことん卑怯な奴だ。殴るだけでは、私の怒りは収まらないかもしれない。それくらい腹が立った。

円堂さんがくるっと響木監督を見る。監督が頷いたのを見て、私も決意を固めた。

 

「……わかった! 勝負だ‼︎」

「…………やっとその気になりましたね」

「円堂。人間の努力では、限界があることを教えてやるよ」

 

……風丸さん達とは戦いたくない。彼らは、私がまだ人を信じきれていなかった時、手を差し伸べてくれた人達だ。私の信じた雷門イレブンの仲間なのだ。だから……何があっても助け出す。今度は私が、彼らの目を覚まさせてあげる番だ。

取り敢えず、研崎は後でめちゃくちゃに殴るか踏みつけるか。どちらにしようか考えることにした。



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91話 vsダークエンペラーズ1・苦しい戦い

それぞれが重い足取りのまま、ベンチへ集合した。まだ足が完治していない私はすぐにそこに座って、みんなを見守る。

ショックなのだろう。私だってそうだ。ようやく全てが終わって、みんなで笑い合ってサッカーができると思った矢先にこれだ。しかも戦うのは、エイリア石を受け入れる仲間達。機嫌が悪いとか、そういう問題じゃない。でも、心が重いのだ。

 

「壁山、それは……」

 

ふと、円堂さんが壁山さんに話しかける。その手には、雷門中サッカー部の看板が。

 

「……みんな、忘れちゃったんスかね……?」

「……………………」

 

ゆっくり立ち上がって、壁山さんの元に歩み寄る。そっと木製の看板に手を添えた。

 

「……忘れてなんか、いません」

「青木さん……?」

「忘れてなんかいません。忘れるワケありません。きっと……」

 

グッと込み上げてくる何かを堪え、拳を握りしめた。

 

「たとえ部室が無くなっても、貴方達はサッカーを捨てなかった……。その魂は、エイリア石なんかで奪われるほど、柔じゃありません……だから……だから!」

「そう、だな……あんなに頑張って……俺達はサッカーを続けてきたんだ……。だから、エイリア石に潰されるはずがない!!」

 

自分を落ち着かせるための譫言が、円堂さんに聞かれていたらしい。私は顔を上げた。

 

「仲間は、いつまでも仲間なんだ!!」

「!」

 

力強く断言した彼に、私の心はまた震えた。ああ、貴方はどうしてそんなに強いの。そして、その言葉に励まされている自分がいることに気がつく。私だけじゃない。前を向いたのは、他のみんなも同じだ。

 

「取り戻そう、本当のみんなを!」

「……あいつらは、俺がサッカーを諦めかけた時、側にいてくれた仲間だ! 今度は、俺達が……!」

 

一之瀬さん、豪炎寺さんをはじめとした初期メンバー、更にはこの旅で新たに仲間に加わったみんなも、気持ちを一つにする。

試合を指揮する響木監督が、私達を見渡す。

 

「お前達、準備はいいか」

「響木監督……!」

「あいつらに見せてやれ! お前達のサッカーを!」

「「「「はい!!」」」」

 

声を揃えて答えた私達は、今度は円陣を組んだ。中心で手を重ね合わせる。

 

「さあ、いくぞ! みんな!」

「「「「おおっ!!」」」」

 

この戦い、必ず勝つ。そして、みんなでまたサッカーをするんだ。強い決意が束ねられ、一つの大きな塊になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足を負傷している私は、今回もベンチで見守る。キックオフは雷門(こちら)から。ボールを受けてドリブルする鬼道さんが、上がってくる円堂さんにパスを送る。

すると、すぐさま風丸さんが駆けつけた。円堂さんもボールを奪われまい、と気を引き締める……が。

 

「!」

 

私は思わず、自分の目を疑った。すれ違いざまに、風丸さんがボールを掠め取ったのだ。あのスピード……人間じゃない……!

土門さん、鬼道さんがフォローに入る。それを認めた風丸さんがニヤリと笑うと、胸元が紫色の光を放った。

 

「疾風ダッシュ‼︎」

「なにっ……!?」

「なんだあの速さは!」

 

かつて見たスピードを遥かに超えている。これも全て、エイリア石の力だというの……? せっかく……富士山まで行って、その根本を破壊できたと思ったのに……! 忌々しさが込み上げてきて、膝の上に作った拳を強く握りしめる。

中盤は風丸さんが一人で突破し、残るは壁山さんと立向居さん。普通のシュートだけでザ・ウォールを突破し、ムゲン・ザ・ハンドで阻止する。しかし、その威力はかなりのものらしい。

 

「……まだ、ほんの小手調べさ」

 

風丸さん達は強い。必殺技無しで、ここまでだなんて。きっとみんな、エイリア石の力無しでのレベルも上がっているのだろう。

 

「爆熱ストーム!!」

 

豪炎寺さんが必殺技を放つ。GKの杉森さんは、影野さんとの連携技・デュアルスマッシュで軽々とシュートを止めてみせた。雷門ベンチの横……つまりダークエンペラーズ側のベンチでは、研崎が嬉々とした声で言う。

 

「ダークエンペラーズの強さは圧倒的……! 勝敗は火を見るより明らかだ!」

 

みんなも、私も悔しさのあまり歯噛みする。パッと視線をピッチに向けると、杉森さんがボールを前線に投げ、染岡さんに渡った。ゴール前には、円堂さんと壁山さんが立ちはだかる。

 

「通すわけにはいかないッス……!」

 

二人のマークの動きに注目しつつ、染岡さんは高らかに笑った。

 

「ッはッはッはッは!! 今の俺はどんなディフェンスだって突破することができるんだぜ?」

「それは本当の力じゃない!!」

「だったら俺を止めてみろ!!」

「染岡……ッ!」

 

染岡さんの胸元に光る、紫色の鉱石。

 

「エイリア石を否定するなら……それ以上の力を……俺に見せてみろ!!」

 

意を決して二人が前に出ると、染岡さんはこれを強引に突破。しかし……そこに、吹雪さんが。

 

「染岡くんっ……! アイスグランド!!」

 

上手く隙をついた守備だった。ボールはサイドラインを出て、一瞬試合が止まる。舌打ちをして戻ろうとした彼の背に、吹雪さんが声をかけた。

 

「染岡くんっ!! ……僕は忘れてないよ……! 君がどんな悔しい思いで、チームを離れたか……どんな思いで、僕に後を託したのか!!」

「…………フン。そんなこと覚えてねぇな……」

「な…………、染岡くん……」

 

そう吐き捨てられ、吹雪さんも愕然とする。……どうやら、今の彼らには何を言っても無駄らしい。

……私が口を挟むか? 私からすれば、架空の力に縋り、それに頼りたい気持ちがわからない。エイリア石を使って、それで力を手に入れて、その力を何に使うのか。

……そもそも研崎は、エイリア石を軍事利用しようとしているわけだ。エイリア石でパワーアップした人間を、兵器として使うために。まるで私のように。少なくとも、私と同じ存在を作るのだけは、絶対に許せない。実験の駒として用いられ、モルモットとしてただただあらゆる薬を投与される日々。脳裏に苦い思い出が蘇り、唇を噛んだ。

形は違えど……私のような思いをする人間は、もう要らない。私だけが知っていれば、それでいい。

だから円堂さん、どうか彼らを救ってください。私個人の願いを、貴方達の戦いに重なるのはとても身勝手だとは思うけど…………でも、これ以上、力に翻弄される人を見るのは嫌なの。だから、どうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー私の切なる願いを嘲笑うように、その後も圧倒的な力の差を感じられた。一之瀬さん達のザ・フェニックスは西垣さんのスピニングカットで止められ。闇野さんのダークトルネードは、ついに雷門ゴールをこじ開けた。

ベンチでただプレイを見ることは、私の目にハイソルジャーの身体能力を、まざまざと見せつける結果となった。ザワザワと心が波立つ。

嫌だ。やめろ。やめろ。こんなの……私はもう、見たくない……ッ!

 

「今度は俺が決めるぜ!」

 

これまでの試合の中、チームメイトとしての彼が言ったであろう台詞。それが、敵として聞くとここまで苦しいのか。

攻め込む染岡さんを追いかけ、吹雪さんが走る。

 

「染岡くんは、僕が止める……! 止めなきゃいけないんだ!!」

「やれるもんならやってみろ!!」

 

染岡さんへの思いが強い吹雪さんが、必死になって食らいつく。

 

「ワイバーンッ……!」

「っぐぅぅっ……!!」

 

足が振り抜かれようとした瞬間、吹雪さんが真正面から蹴り防ごうとする。しかし威力は並々ならぬものなのか、吹雪さんの表情が歪んだ。

 

「テメェッ……さっきから俺の邪魔ばっかしやがって!!」

「染岡くん、僕と風になろうって約束したじゃないか!! ……忘れちゃったの!?」

「だから……覚えてねえって、言ってんだろオオ!!」

 

染岡さんの怒号と共に、エイリア石が輝きを増す。そしてーー吹雪さんごと、ボールを蹴り飛ばした。

 

「うわあああっ!!」

「吹雪さんっ!!」

 

宙を舞う彼に、思わず叫んだ。ゴールを強襲するシュートに一歩も引かず究極奥義を放った立向居さんだが……これも破られ、ボールはネットを揺らした。

 

「見たか……! 最強のストライカーは俺だ!」

 

奥歯を噛み締めて、ピッチを見る。今私の表情は、きっと険しいだろう。険しくならない方がおかしい。

……それから攻めてもすぐに止められ、攻められてなんとか防いでという状態が続いた。そして、0対2で前半は終了した。



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92話 vsダークエンペラーズ2・光

ハーフタイム、みんながベンチに戻って休憩する中、円堂さんが悔しげに呟いた。

 

「ダメだ……どう攻めても止められてしまう……!」

 

そう。今回の相手は、雷門イレブンを知り尽くしたメンバーで構成されている。長年一緒に戦ってきた仲間のクセも戦術も、全て彼らは把握している。

ならば、それを逆手に取ればいい。私と響木監督の意見は一致した。

 

「相手が“知っている”ことを武器にしているなら、こちらは“知らない”ことを武器に戦えばいいのです」

「青木の言う通りだ。鍵は綱海だ」

「えっ、俺?」

「貴方以外に誰がいます?」

 

私がさも当然という風に言うが、綱海さんはピンとこないらしい。

……あぁ、そういえば綱海さんってバカだったわね。溜息を吐いて説明を加える。

 

「……わからないなら訊き方を変えます。貴方は彼らの事を、プレイスタイルやその傾向について全てご存知ですか?」

「ふむ……いや、知らねえな」

 

顎に手を当てて考え込む綱海さん。さて、貴方に考え込めるほどの知能がありますかね?

 

「ならば、逆もまた然り。同じ事が言えるということです。貴方の動きだけは、相手は計り知る事ができない。つまり貴方の動きには、即座に対応できないんですよ」

「なるほど……要するに、俺が動けばいいってことだな!」

「だからといって闇雲に動くのはやめてくださいよ、馬鹿の一つ覚えじゃないんですから。綱海さん以外の全員が先に動いて、相手の隙を作らせる。そこを突くんです」

「流石青木……絶妙な加減で綱海をバカにしている」

「はっ、えっ!? 今俺、バカにされてたのか!?」

 

あら、バレちゃった。やっぱり、鬼道さんにはわかっちゃうか……。

そっと視線を逸らすと、「青木ぃぃ!!」と抗議の声が飛んだ。何よ、悔しかったら私を言い負かせるような口撃をしてみなさい。返り討ちにしてやるわ。

 

「よしっ、みんな! なんとしても勝つぞ! エイリア石の力は必要ないってことを見せるんだ!!」

「「「「おおっ!!」」」」

 

まだ試合の前半が終わっただけ……2点ならきっと返せる。チャンスはある。フィールドに戻るみんなを見届けて、私もベンチへ腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後半戦が始まった。細かくパスをまわして繋げるも、風丸さんにカットされ、ボールを奪われる。

 

「どうした……? 攻めることもできないのか!!」

「行かせるか!!」

 

すぐさま円堂さんがマークについて、通すまいと立ちはだかる。エイリア石の力で、また風丸さんが彼の横をすり抜けるも……円堂さんがもう一度、風丸さんの前に現れる。その粘り強さに、風丸さんが苛立ったのかーー。

 

「邪魔だぁぁあああ!!」

 

怒りに満ちた声。円堂さんの腹に、容赦なくボール越しに蹴り込んだ。

思わず目を疑った。なんて酷い事を……!

倒れた円堂さんを吹雪さんが支えて起こす。円堂さんの前に庇うように立った綱海さんが、風丸さんに抗議の声を上げる。

 

「てめぇっ、何すんだ!! お前ら仲間だったんじゃねぇのかよ!! 円堂をボールで吹っ飛ばして……なんとも思わねえのか!! そんなにエイリア石が大事なのか!!」

「お前に何がわかるッ!!」

 

叫んだ風丸さんが、ボールを奪われようとしたところを押し返す。持ち前のフィジカルの強さか、綱海さんは蹌踉めきながらも立ち上がる。

 

「いや……僕達だからこそわかる!!」

 

そこへ、吹雪さんをはじめとした、私達(・・)が次々に声を上げる。

 

「俺、このチームが好きだ!」

「そして、サッカーを心から愛する円堂が好きだ! アンタ達と、同じなんだ!!」

「……同じ……?」

 

木暮さん、財前さんの言葉に、風丸さんが反芻するように呟く。私と吹雪さんも声を張り上げた。

 

「そうです! 円堂さんのおかげで私は変われた……皆さんのおかげで、私は救われました!!」

「キャプテン達に出会えたから……今の僕があるんだ!!」

 

風丸さんは、戸惑いに瞳を揺らす。そっと手を当てた場所は、胸元。そこにはーーエイリア石。

 

「「「パーフェクト・タワー!!」」」

 

その隙に、三人のブロック技が炸裂する。ボールは綱海さんに渡り、鬼道さんが指し示した先には、ゴールが。

 

「っしゃあ……波が引いたぜ!!」

「いけっ、綱海!」

「ツナミブースト!! でぇりゃあああああああっ!!」

 

ゴール前からの超ロングシュート。真っ直ぐ飛んできたボールを、杉森さんが迎え撃つ。

 

「ダブルロケット!!」

 

二つの拳のオーラが、波の力を纏ったシュートを弾き飛ばす。ゴールを抉じ開けることはできなかった……が、まだだ。

弾かれたボールへ駆け寄るのは……駆け上がってきていた、吹雪さん。

 

「ウルフレジェンド!!」

 

続けざまに叩き込んだシュートに、杉森さんはすぐに反応できず、ゴールネットに突き刺さった。

 

「やったぁ!」

「よしっ!」

 

ベンチでガッツポーズをする。やっぱり人は、予測外の事にはすぐに対応できない。それを使えることがわかったからには、もう負けない。

特に、エイリア石の力を絶対と考えている今の風丸さん達には大きく響いたことだろう。ただの人間が、エイリア石の力に対抗し得ることを示したのだから。

 

「……こんな……筈が……」

「何をしているんです! 何の為にエイリア石の力を与えてやったと思っているのですか!!」

 

……駄目だ。あの石の呪縛は、思っていたより風丸さん達の心を支配しているらしい。エイリア石の輝きを見つめた風丸さんの表情が、少し落ち着いたものになった。

 

「そうだ……俺達の力は、こんなものじゃない!!」



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