EBA 一番と四番の子供達 (アルポリス)
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αの章
こんにちは、新世界


 こちらの作品は読み手によっては不快に思われるかもしれません。もし、そう感じた場合、即刻、目をそらして忘却の彼方へ投げ飛ばしてください。


 皆さん、はじめまして、こんにちは、こんばんは、おはようございます、おやすみなさいは違うかのぅ。ちょっと、混乱しているのかもしれん。

 

 うむ、改めまして自己紹介を行いたいと思います。

 

 私の名前は綾森波尾《あやもりなみお》先月満八十八を迎えました。ええ、迎えましたとも…なのに、なのに、神様仏様、私が何をしたのですか、ちょっとこの年で孫に教えてもらったアニメにはまってしまったのがいけなかったのですか、年甲斐も無くそれらの関連商品を年金で買ってしまったのがいけなかったのですか、その中で特にゲームにはまってしまい、ボケ防止に良いという理由で私生活を省みずのめり込んでしまったからですか、それでもこれは酷いと思うのです。最愛の妻には二年前先立たれ、九十四で大往生でしたが、アニメとゲームという活力でようやく心の区切りを着けた矢先、これは無いでしょう。もしも、これが本当に神様の仕打ちならば恨みます。

 

 

 

 

 申し遅れました、私、元、綾森波尾、八十八歳。

 

 静かにお迎えを待つことなど糞食らえ、この年でアニメやゲームを嗜むお茶目な老人だったはずなのですが、ある朝起きたら、体が軽くて驚き、当にお迎えが来たのかと思ったものの、何か違うような気がして知らない殺風景の部屋をウロウロ徘徊、ようやっと、洗面台を見つけ鏡を覗き込めば今度こそ危うくお迎えが来てしまうかと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、綾波レイ 十四歳。

 

 

 エバなる巨人に乗って使徒なる化け物や同じ人類と戦う、最初の子供になってしまいましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ××年××月 

 

 

 元おじい、起動実験するの巻

 

 

 

 今日も元気にお仕事日和! などと申しましてもこの体、もとい表情がちっとも言う事を聞いてくれないのです。

 

 私は日課として朝起きたら無理やりにでも笑うようにしているのですが、一度それを鏡の前で試したら何とも不気味な光景が映し出されてしまいました。

 

「あっはっはっはっは」

 

 どこからどう見ても無表情、静かなる事山の如しなり。これは恐怖の何者でもない光景でしたとも。この体の年齢で腰を抜かすところでしたわ。

 

 とにかくこの一件から鏡の前で行うのは、やめることにしました。ただし、行為自体をやめることはしません、日課は日課ですから(キリッ

 

 さて、一応女子ですから体臭が気になるもの。私自身ではなく周囲への配慮でシャワーを浴びるとしましょう。言っておきますが、自身の体に欲情などは致しません。私は妻一筋です(キリッ

 

 浴び終えたら、次は着替えです。前の体の時の名残か何時も裸でうろついてしまうのですが、一人暮らしなので構わないでしょう。もう一度言います、しません(キリッ

 

 着替えに関してはどこかの学生服なのでしょう、その制服が沢山ありました。むしろ、それしかありません。レイちゃんはお洒落などに興味が無かったのかもしれませんね。

 

着替え終えたら殺風景な部屋に似つかわしくない卓袱台、何故かベッドと収納タンスとこれが設置されていた、に座り熱いお茶を飲むことで一日の始まりを実感できます。

 

 そして改めて理解するのです。

 

(この家で目覚めて一週間、やはり夢ではないのじゃな)

「夢…ではない」

 

 そうなのです、言葉に関しても言う事を聞いてくれないのです。かなりはしょられてしまうので現状を一週間前に出会った(私の主観では)あの男に伝えることも出来なさそうなのです。まあ、そのおかげで未だに周囲の人間にはばれていないのですが、現状どちらが良いか判断がつきかねる状態です。

 

 これからのことを考えつつ、お茶を啜っていると携帯電話の着信音が鳴り出すので少し混乱してしまいました。

 

 心を落ち着かせ、震える指で応答ボタンを押せば、先ほど言った通り一週間前に対峙したあの色眼鏡男からの着信です。

 

(もしもし)

「ハイ」

 

『レイか、一時間後に本部まで来るように』

 

(了解じゃ、私に何をさせるつもりじゃ)

「分かりました……」

 

『遅れるな』

 

「ちくしょうっ」

 

『!!!』

 

(おや、今一瞬思い通りに声が出せたような)

 

『レイ、どうした』

 

(おお、すみませんな、実は――)

「ごめんなさい……」

 

『体調が悪いのなら延期も考慮するが』

 

「神は死んだ!!」

 

『レイ、本当にどうした』

 

「何でもありません、一時間後に」

 

 そう言って私は携帯を強制的に切りました。

 

 どうやら何かの拍子に限定的でありますが私は声を表に出せるようです。しかし、どんな状況で出せるのか理解できない現状、色々試行錯誤していこうと思います。

 

 取り敢えずは、今から家を出て散歩しながら本部に行くことにしますか。はてさて、この先私はどうなるのでしょう。

 

 八割の不安と、二割の高揚感が私の心を占めているようです。

 

 

 何故、不安だけじゃ無いか、何を隠そうこの私、孫から教わり年甲斐も無くはまってしまったアニメがこの新世紀エバンゲリオンなのです。だからでしょうか、かつての子供の頃に次の日が配給日だったかのようにわくわくしているのですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++

 

 

 

 

 一週間、この第三新東京市で過ごしてみましたが何度見ても近代化の町並みに感嘆を覚えますな、つい、興味本位で立ち止まって眺めてしまうのも無理ないと思うのです、私が前に住んでいたところは田舎だったのですからね、都会に着たらおのぼりさんになるのも無理ありません。

 

 だから仕方が無かったのですよ、そんな呆れなくてもいいではないですか、皆さん。予定より、一時間遅れてしまっても……。

 

「レイ、遅れてくるのなら連絡ぐらいしなさい」

 

 確か、作戦参謀の葛城さんが渋い顔で言ってきました。

 

 そんな心配したような顔で言われてしまうと素直に謝るしかないじゃないですか。他の皆さんも安どの表情を浮かべていますからレイちゃんは案外愛されているのかもしれませんね。

 

(申し訳ない)

「……ごめんなさい」

 

「何か不測の事態でも起きたのかしら?」

 

 淡い笑みを浮かべて問いながらも、もるもっとを観察するような視線を送ってくるのは泣き黒子が特徴の赤木リツコ博士です。

 

 そのような目で見られて何を話せばよいのやら。

 

「………」

 

「何かあるなら言いなさい。この実験は万全の状態で行わなければならないの、あなたの勝手で、皆の努力を無駄にするつもり?」

 

(不躾な視線じゃ、そんなんじゃと綺麗な顔がすぐに崩れてしまうぞ)

「……若作り」

 

「それはどういう意味で取ればいいのかしら?」

 

 喧嘩を売っているのかしらと言いながら口の端をぴくぴくさせる赤木さん。

 

 うむ、言う事を聞かないにしてもこれはまずいの、ここは謝るに限る。

 

(申し訳ない、意思疎通が残念ながら取れないようじゃ)

「……残念」

 

 本当に残念です、どうしてそこだけはっきりと告げるのですか。こんなことを言われれば、赤木さんはきっと。

 

「どうやら私はすべての意味で母と同じ道を歩むのね」

 

 額に青筋を走らせ、手をボキボキと鳴らす赤木さんを葛城さんや、分厚い黒縁眼鏡をかけた、確か…ド忘れしてしもうたが、ナントかさんが羽交い絞めにして止めてくれたことによって事なきを得たようです。この体でお迎えが来るのは早すぎると言うもの。

 

 

 

 

 

 場が落ち着いたところで不貞腐れた赤木さんから説明がなされました。

 

 今回は、アニメでほんの少し描かれた、レイちゃん、つまり私のエバンゲリオン零戦の起動実験を行うようです。

 

 早速、私は葛城さんに連れられ、更衣室で着替えることになりました。

 

 白い首から下だけの全身タイツを身に纏うのに四苦八苦していれば、親切にも葛城さんが手伝ってくれます。しかし、その顔が若干、呆れ顔なのが気になりますがね。

 

 いやだって、このような全身タイツは生まれてこの方着たことが無いのですよ、だから仕方が無いじゃないですか。

 

 え? 全身タイツじゃない? だったら何だって言うんですか、ぷらぐ…横文字は弱いんですよ、全身タイツでいいじゃないですか、私、アニメは全体の流れを見ていただけで細かい部分の名称は分からないんです。さっきだって長髪のナントカさんの名前が分からず、挨拶されても一言返しただけなんですよ。失礼とは思いましたが、このレイちゃんは普段からそういう感じでいたのか特に気にされませんでしたけど、中の私としては人間挨拶を返すのが基本だと思っているので心情的に辛いものがあります。

 

「だから、レイ、これはプラグスーツというものよ」

 

「…全身タイツ」

 

「違うわよ、全身タイツなら頭まで被らなければいけないでしょう?」

 

「首から下の……全身タイツ」

 

「全然上手くないわよ!!」

 

「ぷらぐ全身タイツ」

 

「惜しいと思ってしまった私、恥ずかしい!!」

 

 内心で言い訳がましい言葉を述べていてこんなやり取りがあったことなど知る好も無く、気づいた時には葛城さんが、もう全身タイツでいいわよと慈愛に満ちた顔で言っている場面でした。もしかしたら諦めたのかもしれません。

 

 

 

 

 本当に心と体が結びつかないんですね、トホホ。

 

 

 




 如何でしたでしょうか、これが始まりとなります。




 更なる遅筆となりますがよろしくお願いします。


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2話

続きです。


 今、操縦席なう。

 

 いやはや、孫が教えてくれた言葉で現状をお伝えしようと思い、使っては見たもののお恥ずかしながら意味がよくわかっていない状態でして、これであっているのですよね?

 

 あ、合っているのですか、ありがとうございます、伊吹マヤさん。

 

 そんなわけで、これからエバンゲリオン零戦の起動実験が開始されます。私、少しドキドキですよ。アニメで見ていた操縦席と同じです、感動ものです、孫に自慢したい!!

 

 

 

 

〈これより、エヴァンゲリオン零号機起動シークエスを開始します〉

 

 

 

 

 

 

 通信が流れてきて、思わず首を傾げてしまいました。あれ、この巨人はエバンゲリオン零戦ですよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイドアウト+

 

 

 

 オペレーターの伊吹マヤはエントリープラグ内にいるレイの映像を見ていた。自分の横に座るのは尊敬してやまない先輩、赤木リツコが青筋を未だに浮かべて座っているのだが、そのギスギスした空間に怯え、少し、この席に座るのが嫌だった。

 

「まったく、あの小娘、一週間前はまだ生まれたての赤ん坊のようだったのにどこであんな言葉を覚えたのかしら。ったく、私はまだ20代だってのぅ、確かに化粧の乗りが、あれ、こんなんだったかしら? もう少し頑張れるでしょ私のお肌ちゃん、なんて思ったこともしばしばだし、徹夜明けなんかは誰にも見せられないかもしれないけれど、あの小娘が言う若作りなんて一切していないわ。あの小娘、ほんと忌々しいわね」

 

 マヤは撤回する、すごく嫌だった。

 

 そこに疲れた顔をした作戦参謀、葛城ミサトがやってくる。この人はマヤにとって尊敬に値しない。同じ女性として少し不潔に思うくらいだ。何が不潔かについてマヤは口を閉ざすが。

 

「ちょっと、リツコ。あの子どうしちゃったの?」

 

「そもそも、十四歳の洟垂れ小娘の分際で……ん? なんのことよ?」

 

「あの子よ、あの子、レイのことに決まってるでしょ」

 

「また、何かしたの? あのお小便小娘」

 

 おがついても不潔です!! と内心で思ったマヤ。ミサトは深いため息を吐いて肯定する。

 

「あの子、何度言ってもプラグスーツを全身タイツだって言うのよ」

 

「はあ?」

 

 リツコ同様、口には出さないがマヤも同時に首を傾げた。意味が分からない。

 

「だ・か・ら、あの子の着ているスーツを私が何度もプラグスーツだって言ってるのに全身タイツだと言い張るの、仕舞にはどこか誇らしげにプラグ全身タイツだって言うものだから直すのを諦めちゃったわ」

 

 げんなりした様子のミサトに日頃、不潔だと思っているマヤも同情を禁じえない。逆にリツコは何かを考えている様子だ。もしかしたら、可笑しくなったレイの原因を追究しているのかもしれない。何しろ、マヤにとって彼女は尊敬どころか崇拝の息まで達している先輩なのだから。

 

「そうね、そうなったらエヴァのコックピットもエントリー全身タイツになるのかしら」

 

 マヤは思った、先ほどの思考を今すぐ溝川に捨ててしまいたいと。

 

「私、嫌よ、号令でエントリー全身タイツなんて言うの」

 

 本当に嫌そうな顔でミサトが言った。

 

「でも少し、面白くないかしら。想像してみて、碇司令が言うのよ、エントリー全身タイツの射出を急げって……ぶふっ」

 

「ぶふっ」

 

 机を叩いてげらげら笑っている先輩方をマヤは汚物を見るような目で眺めているとレイが映る映像の方から小さな声が聞こえてきた。プラグ内の通信装置が高性能すぎてレイの独り言を拾ったのだ。

 

『……なう』

 

 それでも声が小さすぎるのか、よく聞こえない。マヤは汚物から目を放して映像の方に耳を傾けた。

 

『操縦席なう』

 

 うん? マヤは内心でそう思った。

 

『操縦席なう?』

 

 何故に疑問系なのか、マヤこそ疑問である。

 

『……操縦席ない?』

 

 何故そこで、間違うのか。マヤの疑問は膨らむばかりだ。

 

『操縦席……なう』

 

 心なしか、声に自信が無い。そこでようやくマヤは気づいた。パソコンで操作してプラグ内との通信を可能にすると彼女に自信を持ってと言った。

 

『……ありがとう、マヤさん』

 

 お礼だけに留まらず、名前まで覚えられていてマヤの心はキュンっとする。普段同期の日向マコトは黒縁眼鏡、青葉シゲルは長髪と見た目だけで呼ばれており、マヤ自身も何かしらの見た目で呼ばれると思っていたのにも関わらず、不意打ち気味で名前を呼ばれ、子供を生んだ覚えも無いのに母性本能をダイレクトに刺激された。今なら、どんな不潔なことに対しても慈愛と母性で許せるような気がする、マヤであった。

 

 未だにゲラゲラ笑う先輩二人とそんな二人を先ほどとは打って変わって母親のような目で見守るオペレーターがいるこのカオス空間が一瞬にして引き締まる。

 

 サングラスをかけた男、碇ゲンドウと初老でありながら、綾森波尾も嫉妬するぐらいダンディーな男、冬月コウゾウが部屋に入ってきた。そして席にゲンドウが座るとその横に立つコウゾウ、お馴染み、司令室での定位置が完成だ。

 

「始めろ」

 

 ゲンドウの渋い声がかかると、先ほどまでゲンドウの痴態を想像して笑っていたリツコが真面目腐った顔で実験の説明を行う。隣に立つ、ミサトも歴戦の司令官のようなキリッとした顔つきで状況を見守る。そのギャップが可笑しくてマヤは口を手元に当てて笑いを堪えるのに必死だ。運がいいのか司令官、副司令官か共にいちオペレーターの表情に見向きもしなかったようだ。

 

 説明も架橋に入ってきたようだ。今実験の懸念事案がリツコによってもたらされた。

 

「ただ、搭乗者の精神に少し不安が残ります」

 

「どの程度だ?」

 

 手を眼前で組んだお馴染みの格好でゲンドウが問う。

 

「……未知数とだけ」

 

「構わん、予定が押している、始めろ」

 

「最悪の場合、パイロットが使用不可になる可能性がありますが?」

 

「次の週には予備もくる、問題ない」

 

 ゲンドウがそう言い捨てれば、リツコは僅かに頬を上気させ、ミサトは苦虫を噛み潰したような顔、マヤに至っては、それは不味いだろうというぐらい目を吊り上げ、自分の働く場所のトップを射殺さんばかりに睨みつけていた。これも運がよく、見られることは無かったが。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、波尾が見ていたアニメでも少量しか語られていない起動実験の開始であった。

 




まだ始まらないというお話。


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3話

 驚愕の事実が!!


 

+サイド元おじい+

 

 

 

 操縦席が僅かに振動し始めたようです。そしてこれが、あの主人公君が驚きを見せた、呼吸安心、会話安心(この件についてはむしろ自分の方が不安ですが)その他諸々の異物混入安心の三拍子揃った不思議水ですね、感動を禁じえません………ん、あれ? 手が震えます、ちょっと、まって、怖いです、いや、待って下さい、思い出しました!! 私、釣りが趣味なんですが、その時、海で溺れたことがあったんです! 年齢を重ねてから克服したと思っていましたがどうやら、私の勘違いでした!!

 

この不思議水を止めて下さい。例え、肉体は死なずとも、老心が死んでしまうぅぅ!!!

 

 

 

 暗転

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 +サイドアウト+

 

 

 

 研究等では異常を示すシグナルが鳴り止まない。常備していたスタッフが忙しなく動き回るのをゲンドウは動じず見ている。リツコとマヤは画面に向かい高速でタイピングしていた。ミサトもまた、各スタッフに指示を出しながらガラス張りの先を見据えている。

 

 ガラス張りの先、エヴァ零号機と呼ばれる黄色い巨人が高速具を引きちぎって暴れ出していた。

 

「心理フラグに異常パルスを検知、パイロット意識レベル低下、先輩、綾波レイの意識低下が止まりません」

 

 マヤが焦りを見せながら言えば、リツコも表情を険しくさせて画面を睨みつけていた。

 

「こちらのシグナルが受け付けない。これでは、神経遮断が出来ないし、暴走も止まらない」

「パイロット尚も意識レベル低下」

「指令!」

 

 リツコが指令に意見を求める。

 

「プラグ内の映像を出せ」

 

 動じず、淡々とした声で命令した。リツコは端末を操作してプラグ内の映像をモニターに映しだす。

 

 そこにはもがき苦しむ、レイの姿、マヤは思わず悲鳴を上げそうになり口元を押さえ、ミサトも驚きを見せていた。

 

「起動実験は中止、パイロットの生命を優先」

 

 何を今更だと、ミサトとマヤは内心憤る。しかし、実験が中止になったのは良いことだとその怒りに蓋をした。

 

「オートエジェクションはどうした」

 

 零号機についている自動強制排出装置の作動が確認されず、ゲンドウがリツコに問う。

 

「原因は不明ですが、作動されないところを見ると誤作動を起こしている可能性があります」

「まずは暴走を止める、赤木博士」

「了解しました。特殊ベークライトをハッチぎりぎりまで流し込み、動きを止めます、よろしいですか?」

「構わん、遂行しろ」

 

 

 その時、マヤの悲鳴が室内に響き渡った。ガラス張りの先、零号機が拳を振り上げ、今にもゲンドウたちがいる観察棟に振り下ろされそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 +サイド元おじい+

 

 

 私は長い夢からようやく覚めたようです。家で寝ていたはずの私がどうやって移動したのかは分かりませんが、今は一隻の漁船の上にいました。私が溺れる前、釣りで愛用していた漁船です。自信の手を見つめればしわくちゃの慣れ親しんだもの、次いで頭上を見上げれば綺麗な夕日、空が真っ赤に染まっています。その光が反射して海も真っ赤でした。ただ、若干赤すぎないかと思われますが、そう、まるで血のように……まあ、気にしないようにしましょう。

 

 ふふ、どうやらトラウマはやはり克服していたようですね、海の上にいるのに今はとても穏やかな気持ちでいますよ。どれ、せっかく海にいるのだから釣り糸をたらして大物でも狙いますか。

 

 何故か、釣竿があるでたらして数分、どうやら大物がかかったようです。引きが凄すぎて、竿がしなります。

 

「くっ、まだまだ若いものには負けんぞ!!」

 

 痛めた腰が嘘のように軽く、これなら大物も釣り上げられると意気込んで竿を引けばその大物は顔を出したのです!!

 

「ばぁ、元綾波レイ推参!」

「きゃっちあんどりりーす」

「止めて! リリスだけにリリースは止めて!!」

 

 無表情でそう叫ばれても全然面白くも何とも無いです。面白くも何とも無いです。

 

「二度思うのは止めて、思うだけでも私の心は壊れてしまう。私の心は繊細です、キリッ」

 

 なんと、口に出しても無いのに分かってしまうとは面妖な。

 

「あれ、そこはスルーなんだ。まあ、いいけど。良い? ここはあなたの心の内面だから思ったことも私に筒抜けなのよ」

 

 は、破廉恥な!!

 

「いやいや、ご老人にそう言われても」

 

 差別反対!! 老人だろうと男だろうと心の中を覗かれて気持ちが良いものではありません。

 

「うん、そうだね、ごめんなさい」

「何じゃ、素直なお子さんじゃないかね」

「えへへ、私は素直が心情ですから。ようやくあなたと会えて少し興奮しているみたい」

「なら、もうちょっと表情を変えたらどうじゃ」

「それを言ったらお終いよ、私が私ではなくなっちゃう」

「そういうもんか?」

「うそ、私は私」

 

 この小さなお嬢さんはよほど私に説教をされたいようです。私が拳に息を吹きかけていれば尽かさず謝罪してきました。

 

「ごめんなさい。許しておじいさん。あ、今はレイちゃん」

「違うぞ、今は綾森波尾じゃ」

「うん、ここではそうだけどね。でも、それももうすぐ変わるよ」

 

 小さなレイちゃんがそう言えば私の姿が、あの綾波レイに様変わりしたのです。

 

「うん、ようやく魂と肉体が安定したようだね。これでこの世界でも生きていけるよ。いや、ホントギリギリだったよ。もう少し実験が遅ければおじいさんはこの世界から消えてしまうところだったんだから」

 

 うん、ちょっと待って欲しい。これは夢ではないのか……あれ、心で考えている声もレイちゃんのような女の子の声に変わっている。それに丁寧語を旨としていたのに口調が若い頃のものに戻っているじゃないか。

 

「そう、これは夢じゃない。口調や声が変わったのはちぐはぐだった魂と肉体が一応安定したから起きたものだよ。思考が若返っている証拠だね、あ、でも魂の方で記憶は受け継がれているから基本、あなたの思考は若返っているだけで変わらない、例えば横文字が弱かったり、釣りが好きだったり、そして深く奥さんを愛し、とても大切に思っていたりね。表の肉体は言わば入れ物だからそれも可能なわけ」

 

「なんだ、横文字は弱いままか」

「習えば覚えられると思うけど、苦手意識を持つ状態からだと覚えるのも大変だと思うよ、ほら、日本のことわざにも、好きこそものの上手なれっていうでしょ?」

「小さいのに良く知っているな。それなら苦手意識を無くす努力をすれば良いわけか」

「そうだけど、元おじいちゃんにはそのままでいて貰いたいな」

「何故だ?」

「私の好み」

「却下」

「即座に!!」

 

 冗談だ、わしもわしのままでいたいと思う。仮に新しいものを受け入れていけば、変わらずあるものが失われそうだからな。それにしてもこのやり取り、酷く懐かしい気がするのは気のせいか?

 

「うん、それでこそ私を凄いと褒めてくれた元おじいさんだよ」

 

 ちびレイは無表情ながらどこか憂いを帯びていた。どうやら、わしがこの世界に来た理由を話してくれるようだ。

 

 だが、一つだけ言っておくどのような話であってもお互い後悔はすまい。それだけは心得て話しておくれ。

 

「ありがとう、かつての綾森波尾」

 

 先ほどとは打って変わってどこか神々しい雰囲気を持ってわしを見つめるちびレイに表情筋を精一杯動かして笑みを形作る。

 

「まずはあなたがここに来た経緯を話させてもらう。それには私の存在を教えなければならない」

 

 ちびレイは胸元に手を当てる。

 

「私名前はリリス、黒き月の民と共にこの星に降り立った第一始祖民族の祖にして、あなたの知っている使徒と呼ばれるもの」

「ちょっとまて、わしはアニメを見ていたがお前のような女の子は知らん。お前はわしの昔の頃の姿じゃないのか?」

 

 わしの混乱する頭に一つの予想が降り立つ。そしてそれは正解なのか、ちびレイが頷いた。

 

「そう、綾波レイ本来の肉体には私、第二使徒リリスの魂が入れられる予定だった。いえ、それは正しくないわね、一度は入れられた。それが今の姿なの」

 

 その言葉を聴いてわしはあるシーンを思い出した。

 

「そうだ、話数は忘れてしまったがお前が出てくる話があったはず、そして……」

「殺されちゃったのよ、私は」

 

 目を伏せて辛そうに告げるちびレイをわしは抱きしめた。女の子同士だ、誰にも文句は言わせまい。そのまま、ちびレイは語り出す。

 

「本来ならそこで私の魂はリリスの肉体に還るはずだったの。ところが、この世界の神様の気まぐれか、もしかしたら元おじいさんの世界の神の気まぐれかもしれない、私の魂はリリスの肉体に還されることは無かった」

「じゃあ、何処に行っていたんだ?」

 

 ちびレイは抱きしめていたわしから一歩離れ、再び胸に手を当てた。

 

 この仕草、何処か既視感を覚える。

 

「私の魂がないからそれ以後、レイが作られることは無かった。でも、あることがきっかけで私は再びリリスの体内に戻ることになる。私の心配事が意味を成さなくなったから」

 

 何故だろう、無表情なのにとても泣きそうな表情を浮かべているような気がする。

 

「私はあの時、この世界の地球とは別の地球……あなたが生きてきた地球に魂が導かれていた。そしてある妊娠した女性の体内にいた赤ん坊に取り込まれることになる。その赤ん坊は死産するはずだった為、魂が無く、器だけだったから」

 

 その言葉でわしは目を見開いた。擦れた声が出た。

 

「まさか……」

「後にその赤ん坊は成長して綺麗な女性となり、その当時混迷する戦時下、ある若い一平卒と出会うことになる。その一平卒は兵士でありながら戦争を否定して、平和主義で…釣りが、だっ…大好きで、わたっ…私…より年下のくせ…にっ私…より先に死ぬんだって…何時も言っていて…結局、私が先に死んじゃって…とても悲しませて……あなたは……あの日…私が…出るアニメ…を見ながら…ヒック」

 

 何時の間にか姿が変わったのか、二十歳ぐらいの女性を今度こそ命一杯抱きしめて、その感触を確かめた。わしの目からも沢山の涙が出ているだろう。ああ、神様仏様、私はあなたを恨むと言った。しかし、今は違う、感謝してもしたりないくらいだ。来世にて記憶を残したまま、彼女と再会できたのだから。例え、今生にて同性であっても、絆の形が変わろうとも、愛していることに変わりは無いのだから。

 

 お互い抱き合ったまま、涙が枯れるまで泣き続け、やがて落ち着いたところで会話が再開された。

 

「良子、お前はわしが死ぬまで見守ってくれていたんだな」

「あなたは一つのことにはまると何時も不精になるから」

「わしはあの日死んだわけだ」

「そうよ、ほんといい笑顔で死んだわ。ちょうど、劇場版を見終わったころにね」

「わしには訳の分からない終わり方だったが、お前の話を聞いて少し理解できた。あの巨大なわしはお前なんだな」

「この世界では未来になるわ。私としても驚いているの。死んだ後、あなたの周りを魂だけでうろつきながら一緒に見ていたんだけど、まさかあんな未来が待っていると思わなかった」

 

 そうだな、この世界では未来の出来事、確か、この世界にもある、なんだったか、死ナントカにも書かれているはずだ。

 

「死海文書だから。ホント、細かい部分は見ていないのね」

「そう、それだ。わしらはそれよりも細かい描写を知っているわけだ」

「嘘おっしゃい、覚えていないくせに」

「そんな事ないし!!」

「あら、覚えているかどうか今後が楽しみね」

「任せておけ。ん? そう言えば肝心なところを聞いてなかったな。わしはどうしてこの世界に来ることが出来たんだ?」

「ああ、それは簡単よ。肉体から離れたあなたの魂を私が後生大事に抱えていたら、あなたの魂ごとこちらの世界に引っ張られちゃってね。あなたの魂は私の管轄外、つまり私が生み出したリリン、俗に言う人間じゃないから、時間がたつと消滅するところだったわけ、だから急遽、私が入るはずだったレイという肉体に押し込めて、私自身はこの零号機の中に入ったのよ」

「まて、再開できたから結果良かったが、どうして本当の体に入らなかったんだ?」

「このおバカさん、私がリリスの中に還っていたら、勝手に動くあなたの存在が危険に晒されるでしょうが。あの男たちは言っては悪いけど、究極の自己満足男よ」

 

 アニメを見ているから否定はしない。しかし、あの男の気持ちも分からなくはないのだ。そう思っていたら、妻に睨まれた。いや、実際はやらないからな!

 

 風当たりが悪くなりそうなのでここは話を戻すことにする。

 

「お前のことだ、居留守ぐらい出来ただろう。違うか、この場合死んだ振りか?」

「そりゃ、出来るけどさ……」

 

 妻は暗い表情を浮かべて何故か言い淀む。

 

「そう言えば、何時の話だったか、お前、赤い槍の様なものに刺されていたはず」

「そうよ!! なによあれ、私の体を好き勝手してくれちゃって。あの中にいたら私痛いじゃないのよ!! 別次元とはいえ、人間をやってたんだから諸々の感情が育まれて、とにかく尋常じゃないくらいの恐怖よ」

 

 妻の本音が炸裂して思わず笑ってしまった。

 

「笑うな!! あ、そうよ、私が零号機の中にいるんだからあなたとのシンクロが出来るようになるの。そう、その為に私はここにいるのよ」

「分かった、分かった。そういうことにしておこう」

「本当よ、本当なんだからね!! 私とあなたなら、あの私を模して作られた劣化品なんかよりも断然使えるようになるんだから。何なら今から動いてぶち壊してやりましょうか?」

「いや待て、それは駄目だ、確か、あの中には何かが入っていたような」

 

 考えるようにわしが言えば、妻は大きく舌打ちをした。

 

「そうだったわね、息子を守るために残るなんて健気な母親じゃない。だったら、夫の方をぶち殺しましょ、あれ、なんかそれで懸念事項が一つ解決する気がするわ」

 

 それも駄目だろう、これから来る主人公君の一応お父さんなのだから。

 

「DNAを検査すればあなたと姉弟になるんだから、ほら血の繋がった家族もいるじゃない。足りないなら私も表に出て家族になるわよ。私の場合殆どの人間の母になるけど」

 

 妻の悪い癖が出たな。俗に言う、悪乗りが。止めなければずっと続いてしまう。このせいで息子は母親よりわしの方に泣きついてくることの方が多かった。

 

「いい加減にしないか。二人の子供を育て上げたわしらが子供の親を殺すなんて口にも出してはいかん、出来るかどうかは別にして息子たちに顔を向ける事が出来なくなるだろ」

 

 キツメにそう言えば良子は目を見開いた。そしてうれしそうな、それとどことなく懐かしそうな表情で目元に涙を浮かべた。

 

「変わらないわね。良家の出だった私自身を心の底から愛し、常識に疎かった私の心無い言葉を本気で ってくれて、お世辞にも上手とは言えなかった私の料理をすべて食べ、その後優しく指摘してくれた、あなた。そうよね、子供たち、引いては孫たちに顔向けできなくなる。だから止めるわ。私の家族のために……だから、あなた。お願いよ、この世界でもあなたらしく生きて欲しい。その優しさを子供たちに与えて欲しい」

 

 妻が言う、子供たちとはこれから来る、第二、第三の操縦者のことだろう。もしかしたら最後に現れる、子供も含めてのことなのかもしれない。

 

 しかし、そう問えば妻は首を横に振る。

 

「言ったでしょ、私たちに関しては懸念事項の一つでしかない、と。この世界はあなたが見ていたアニメとは違う。その中であなたらしく、あってくれれば私の願いは叶うわ。もちろん、私自身もあなたと共に戦うつもりよ」

 

 よく分からんが、わしらしくあれば良いなら、それに越したことはない。わしはわしにしかなれないからな。

 

「どうやら時間が来たみたい」

 

 その言葉共に、自身が何かに引っ張られる感じを受けた。

 

「あなたはこれから綾波レイとして生きていくことになるけれど、私があなたの妻だったことに代わりは無い。私がリリスであり、良子だったように、あなたが波尾であり、レイなのと同じように。つまり形は変わるけれど、あなたを愛していることに変わりは無いということよ」

「ああ、わしもだ」

「この先、頻繁にこの場所へ来ることはない。それでも零号機に乗れば常に私はあなたの傍にいる、それを忘れないで」

「お前がいるだけで、わしは心強い」

 

 目の前が暗くなっていく。どうやら時間切れのようだ。意識の途切れる間際、妻が口を開く。

 

「私はあなたを傷つける何者も許すつもりは無い。私の想いが力となり、それはあなたを守ることが出来る最強の盾になるはず。この盾で、あなた自身とあなたが守りたいと思ったものを守ってちょうだい」

 

 

 

 

 暗転

 

 




 ありましたかね?

 次で新世界は終わりです。むしろ蛇足分?


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4話

これにて終了。


+サイドアウト+

 

 

 観察棟は静寂に包まれていた。

 

 今にも振り下ろされようとしていた零号機の拳はガラスの窓ぎりぎりで静止していた。ちょうどこの時、零号機の内部では悪乗りする妻を波尾が止めていた所である。

 

「いきなりどうして…」

 

 急に止まった零号機の様子に科学者たる血が騒ぐのかリツコがモニターを見つめ、原因を探っていた。

 

 誰もが呆気に取られているなか、流石の司令、副司令官両名は表情一つ変えない。

 

「原因解明は後にしろ、こちらの信号は受け付けるようになったのか?」

 

 コウゾウがそう下せば、リツコ以下、研究者達が一斉にモニターを睨みつけ、操作し始めた。数分後、代表でリツコが可能だと答えた。

 

その場にいた全員の視線がゲンドウに向かう。命令を待っているのだ。

 

「エントリープラグ強制射出を急げ」

 

 キリリッとした表情、無駄に渋い声でそう言えば、皆一応にして口元を手で押さえつけ悶えるように呻き声を上げ始めた、と、ゲンドウやコウゾウは思った。実際はリツコとミサトの話を盗み聞きしていたものたち、というか全員が全身タイツを想像して笑いを必死に堪えているという光景である。

 誰かが、笑いの隙間で漏らした一言を聞いたのか、ゲンドウが口を開く。

 

「プラグ全身タイツとはなんだ?」

 

 勘弁して下さい、職員やリツコ、ミサト、マヤまでが心の中で懇願しながら、笑い声をもらさぬよう更に必死で口元を抑えていた。何人かは壁に頭を打ち付け、痛みで逃がそうとしている。

 

 

 中々の混沌とした空間、そのあとの事を告げるならばレイが助け出されたのはそれから五分経った頃である。必死にエントリープラグを開けようとするゲンドウを見て、シリアスなシーンにも関わらず、彼女らは抑えていた笑いが再び解き放たれ、地面に蹲ってやり過ごし、男性職員は頭を地面に叩きつけ、やり過ごそうと必死だった。幸いなことにゲンドウとコウゾウはレイを助け出すのに目を向けていて咎められることは無かった。

 

 しかし、職員たちの本当の試練はその先に待っていたのだ。

 

 

 ゲンドウの手によって強制的に開けられたエントリープラグの扉から、レイが顔を出す。射出され、何度も壁に打ち付けられたにも関わらず、無傷のレイが登場したことでゲンドウが僅かに驚きを見せた。が、すぐさま表情を優しいものに変え、労いの言葉を掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 何度も衝撃を受けたのに傷一つないのは妻が守ってくれたのだろう。妻には頭が上がらない。まあ、真の意味で妻に頭が上がったことなど一度も無いが。

 

 せっかく、妻との思い出に浸ろうとしていたのに何かが悲しくてサングラス男、今は壊したのか掛けていないを最初に視界に移さなければならないんだ。まったくもって不愉快だ。

ふむ、どうやら本当に思考が若返っているようだな、現在の思考がレイという、若い肉体に引っ張られる証拠だ。実験前ならどんな事象に関しても寛大であれたのだが、これから先はそうも行かないだろう。

 

「レイ、大丈夫か?」

 

 サングラス男、面倒だから司令にしよう、司令が問いかけてきた。

 

(わしの体はこの通り傷一つ無いです)

「……傷一つありません」

 

「そうか」

 

 な……なんだと、言葉が思い通りに通らないだと!!

 

「しかし、心配だ。念のため救護室で見てもらえ」

 

(うるさい、見た目通り怪我はないんだ、必要ない。それよりも、今考えている最中なんですよ)

「……声が頭に響きます。話しかけないでください」

 

 まったくどうなっているんだ、わしの考えている言葉がそのまま口に出されないのは虐めか何かか? 良子の奴がわしに嘘をついたのか……いやまて、良子は冗談や悪乗りはするが、嘘はつかん……確かあいつは……それにしてもこの全身タイツは首周りがきついな。考えの邪魔だ。早く脱ぎたいぞ。あれ、そう言えばぷらぐ全身タイツだったか…まあ、どっちでもいいか。誰かに直せといわれてもわしは知らん。

 

あいつは一応の安定と言っていた…まさか、まだ完全に安定していないから言葉が通らないのか、いやしかし、これから先、わしはどうやって意思相通を行っていけばいいのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイドアウト+

 

 

 

「……声が頭に響きます。話しかけないでください」

「!!!!」

 

 いきなり言われた、レイの暴言にゲンドウが目を見開く。自分たちの良い様に扱える人形を目指したにこれでは話が違う。

 

「レイ、零号機の中で何があった?」

「………」

「レイ?」

「………」

「何か言いなさい!!」

 

 ゲンドウが声を荒げれば、笑い悶えていた職員たちの視線が一気に二人のやり取りのほうへと向かう。

 

「……全身タイツ」

「!! 何か言えとは言ったが、何故そのチョイスだ!! 私は零号機の中での出来事を聞いている!!」

「全身タイツがきつい」

「まずその話題から離れなさい!!」

「間違えた」

 

 レイの言葉にゲンドウが安堵する。

 

「ぷらぐ全身タイツだった」

「お前まで言うか!! 結局、プラグ全身タイツとは何なんだ!!」

 

 悲鳴にも似たゲンドウの叫び声に職員は轟沈、その場は笑いの渦に飲み込まれていく。

 

「私も知らない」

「お前も知らないのか!! では、何故その言葉を敢えてチョイスした!!」

「………」

「困ったら、だんまりか!!」

「……どうやって意思疎通を行えばいいのやら」

 

 

「それは私の台詞だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 頭に血が上りすぎて、眩暈を起こし、ふらふらと倒れこむゲンドウをコウゾウが支えた。どうやら、救護室が必要なのはレイではなくゲンドウと、笑いすぎて痙攣を引き起こし始めていた一部の職員たちのようだ。その中には当然、ミサトとリツコも入っていた。

 

 

 

 

 その後、グダグタの起動実験はゲンドウの強制退場によって終わりをもたらされる。だが、職員から笑われ、レイからは馬鹿にされたゲンドウの怒りは収まることは無く、あの場にいた職員は三ヶ月の減給を言い渡され、レイは一ヶ月の減給、及び自宅謹慎、もちろん学校には行くが。言い渡されることになる。それによって、主人公碇シンジとの対面はアニメで言うストレッチャー越しではなく、第三の使徒が倒された翌日の学校でのことになった。この世界本来の未来ではその日、レイは戦いに出されるはずだったのだ。

 

 少しずつ、原作と離れていく、レイはそう感じていた。

 

しかし、本当は初めから原作と駆け離れていたのである。それは奇しくもアニメではレイが戦いの場に始めて出るはずの話、ヤシマ作戦のときに凄い衝撃もって理解することになる。

 

 

 

そして何より、既にこの町を第三新東京だと思っていたレイは間違っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この町の本当の名は……第二新東京市であったのだ。

 

 

 

 

 




 作者は少し考えている状態です。原作のタグを変えるかもしれません。
 
 今後、読者の皆様に混乱させてしまうかもしれませんが、ご容赦を。


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決戦第二新東京市

 原作のタグを変えました。ご迷惑をおかけします。


 前回、何やら司令のお怒りを買いたくもないのに買ったらしく不本意ながら自宅謹慎を素直に遂行している、元おじい、現綾波レイです。

 

 学校に行く以外は食料を買うだけで、殆ど家から出ていない。一応、わし、給料を貰っている立場だからね。

 

 その間二度、使徒が襲来してきたんだけど、そのすべてを多分主人公が倒したんだと思う。どうして確信が無いかといえば、使徒襲来中も家にいたからなんだよ。甘んじて罰を受けるのがわしの吟じだからさ……うそ、本当は寝てたんだよ、だから携帯に指令や葛城さん、殆ど掛けてくることのない赤木さんの着信が異常に残っていてびっくりしたわけだ。で、寝てるところ保安部の役人に起こされ、慌てて電話を返したのはいいけど、かなり怒られてしまったよ。いやあ、お恥ずかしい。

 

 それで、一応前の罰が残っているから厳重注意で済んだのはいいんだけど、二度あることは三度あるって言うか、それなら一度あることだって二度あるわけで…。

 

 ん、二度目も寝てました。いや、家にいても暇だから、ネットで買ったアニメぼっくすを手当たりしだい見ていたら、次の日の夕方に起きることも多くて。

 その日は次の日が休みだからというわけで安心してたんだけど、まさか使徒の方が来ちゃうなんてホント、人類の敵ですな、あれは(キリッ

 

 まあ二回目は保安部が家に来る前に何とか起きられたから携帯に出ろというお小言を貰ったにすぎないから助かったよ。

 

 謹慎が終わるまで翌日に控えていたわしは学校の教室で授業を受けている。

 

 そうそう、日に日に思考が若返っているのか口調がどんどん若い頃に戻っているのも報告しておく。誰にだっていうツッコミはなしの方向で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時の時代も長ったらしく感じる午前の授業を終えてわしはふと、ある席に視線を移動した。

 碇シンジ十四歳……わしと同じくエバで戦う二番目操縦者。

 

 残念ながら、今日は欠席だ。どういうわけか、シンジ君がこの学校に転校してからわしとの接触が無い。こちらも必要以上に接触するつもりは無いが、一応、同じ操縦者なのだから話しかけてくるかと思っていたが、一向に話しかけてくる様子は無かった。もしかしたら操縦者だと思われていないのかもしれない。

 

 それはそれで悲しいが、もう、原作などは崩壊していると思った方が良いのかもしれない。

 

 そんなこと考えながら、お昼ご飯を食べようと手作り弁当、妻があまり料理上手とは言えず、自ずと料理をするようになったを取り出して、さあ食べようと手に掛けたところで携帯電話が鳴り響く。教室に残っていた生徒の視線が一気に集まる。学校での携帯使用は禁止されているのだから仕方がない。わしはエバ操縦者なので特別だ。

 

(もしもし、何事かあったのか?)

「はい……もしもし」

 

『私よ、ミサト。最近あんた、ますます可笑しくなってきたわね』

 

(こちらも意思疎通をするために大変なんですよ)

「こちらも……大変なんです」

 

『まさか、芸を磨くこととか言わないでよね』

 

(鼻で笑ってしまうくらい面白くないな)

「ふっ」

 

「あんた今、鼻で笑ったでしょ、こっちにきたら覚悟しない」

 

 というと、召集が掛かったのか。しかし、謹慎中だったはずだが。

 

「…謹慎中」

 

「そういうことを言っている場合じゃなくなったのよ。セカンドチルドレンが行方不明になったの」

 

(せかんど……外人さんか?)

 

「…外人?」

 

「私にとってはあんたが外人みたいなものよ!! あんたねぇ、一緒の学校に通っているでしょうが」

 

(そうか、主人公の碇シンジ君のことか)

「……主人公」

 

「はあ? せいぜい、ガキ大将についている腰巾着くらいよ」

 

(そこは眼鏡の冴えない少年じゃないか)

「眼鏡少年」

 

「そうね、それなら主人公になれるわね……って、そんなこといっている場合じゃないのよ、とにかく謹慎は今日付けて解いたわ。車を向かわせるからすぐに来れるようにしてちょうだい」

 

「ミサエモン」

 

「取り敢えず、あんたの願いは叶えてやらないと思うわ。早く来なさい!!」

 

 いきなり怒鳴られて切られた。それにしても、最後の言葉は覚えがないのに……解せぬ。ちなみにこの言葉も孫に教えてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 教師に事情を話して早退させてもらい、迎えに来た保安部の車で移動していると、真昼にも関わらず花火の上がる音が聞こえてきた。はて、と首を傾げて運転手にどこでやっているのですかと聞けば、運転手は何故か焦り気味の顔で急ぎますと述べて車の速度を上げた。

 

 いや、わしは花火の場所を聞いただけであって、そこまで焦る必要は無いのだと口にしたいのだが、如何せん言葉にならない。それにしても急な速度上昇により、急いで食べたお昼ご飯が口から再び戻ってきてしまう恐れが出てきた。そんな事も合って、わしは運転手に速度を落としてくれやトイレに行きたいとも告げられず、ねるふの地下基地に着くまで吐き気と戦うことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイドアウト+

 

 

 

 ジオフロント内部に併設された駐車場にて葛城ミサトは綾波レイの到着を待っていた。というのも、先ほどセカンドチルドレン、碇シンジが自ら戻ってきて第五使徒と戦闘するも敗北、次の作戦は外部の人間と共に共闘する旨を指令から承り、敗北によって悲観的になった己の気持ちを落ち着かせる意味も込めて自分から迎えることにしたのだ。

 

「シンジ君……もう乗ってくれないかもしれないわね」

 

 初号機がリフトアップした瞬間の出来事だった。

 

 予め知っていたかのように地上に出た初号機を使徒が放つ加粒子方は打ち抜いたのだ。使徒やエヴァンゲリオンだけが持つ特殊なフィールド――A,Tフィールドを初号機は展開するも、それすら打ち抜きエヴァの心臓部ともいえるコアに加粒子方を浴びせたその威力に司令部は一時沈黙、命令を下す立場にいるミサトでさえ、呆気にとられパイロットの安否など頭の片隅にも上がらなかった。

 

「参謀失格ね」

 

 碇シンジは今も救護棟で眠っている。命に別状はない。それでも心身に関してはそうは言えなかった。元々彼は、初号機のパイロットになることを好としていない。

 

「でも、エヴァパイロットが自分だけじゃないと分かれば……」

 

 それは一種の賭けの様な願いでもある。ファーストチルドレン綾波レイが彼と心を通わせてくれれば、もしかしたら立ち直ってくれるかもしれない。例えば、彼女に恋をするなど好意を持たせれば或いは自分から再び乗ってくれることも可能ではある。

 

 しかし、それは……。

 

「私自身が嫌がっていた大人のやりそうな汚い打算」

 

 それでも、ミサトはこの提案を肯定する。それで世界が救えるなら彼女自身泥にも塗れようという気迫を持ち合わせていた。他者がそれを見ればきっとこう思うだろう、私怨だと。そしてそれをミサトは否定が出来ない。

 

「決して良い父では無かったけれど、それでも私は……」

 

 長い時間、物思いに耽っていたのだろう、駐車場に保安部の車が到着した。

ミサトは思考を切り替え、車まで歩き出す。運転手が降りて、後部座席の扉を開いた。

 

「待っていたわよ、レ――」

 

「オロロロロロロロロ」

 

「レイィィィ!!!!!」

 

 車から降りてきたレイはモザイク処理が施されそうな噴水を口から放出させた。苦しそうな表情なら、まだ分かるが、その顔は通常稼動の無表情、嘔吐物だけでなくその表情もモザイクをいれた方が良い。

 

 こんなのが同じチルドレンだと知ったらシンジ君は乗るどころか即効で私たちを見捨てるだろう、ミサトは大人の汚い打算よりも汚いものを吐き出すレイを見据えて諦めることを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 いやぁ、参った、参った。残念ながら便所には間に合わなかったよ。だってさ、長いよ、地下基地。どこまでぐるぐる回るの。乗り物酔いには強いわしでもあれは我慢の限界に近かった。それで、最後のえれべーたー、あれが決定打になったね。乗り物に乗り物を重ねたら駄目だって。いかな見た目可憐なわしでも我慢せずにミサトさんの前で吐いちゃうって。

 

 すべてを吐き出し終えて気持ちすっきりした表情、あくまで気持ちである、でミサトさんに視線を合わせれば魚の死んだような目でわしを見ているではないか、失礼してしまう。女の子だって、元老人だって、生きているんだ、嘔吐もするぅんだよーって歌いたい。実際は歌わないけど。うん、あれだよ、現実逃避だよ。精神老人でも他者の前で吐いたら心が痛いんだって気づいたね。

 

 表情を引き締めたミサトさんが深すぎるため息を吐いた。そして頭痛がするのか頭を抱えながら口を開く。

 

「一応、聞くけど、どうして吐いたのかしら?」

 

(いや我慢しようと思ったんだけど、ミサトさんがいて安心したから)

「……ミサトがいたから」

 

 ああ、わしのバカ、こんなやり取りは何度も経験したのに!! ぐはっ!!

 

 ミサトさんはわしの頭を鷲掴みして力を込める。その力、このままわしの息の根を止めるかのごとし!!

 

「私のこの手が月の光に包まれる。お前を倒せと静かに告げた。月に変わ――」

「冗談です死にたくありませんごめんなさい美人のミサトさん車酔いをしただけなんです決してあなたの顔を見て嘔吐したわけではありませんむしろミサトさんの顔を見て安心したのがいけなかったのですすべてはわしの落ち度ですから殺さないで」

 

 死を前にしてわしの口はすらすらと口上が紡がれた。無表情には変わらないがどうやら、死に物狂いで話せば素直に口から紡がれるようだ。知りたくなかったが。

 

 わしの無表情弾丸口上に恐れたのかミサトさんは顔から手を離して後ずさる。

 

「あ、あんた、普段はろくなことしか話さないくせに。そんなに死にたくないのね」

 

(当然だろう、命は大事、勇者様も絶対それを選ぶはずだ)

「…命は大事」

 

「何よ、人間らしい部分も持ち合わせてるんじゃない」

 

(何を当たり前のことを…テレビでのレイちゃんも、今いるわし…私も人間だ)

「……当たり前……私も人間」

 

 その言葉を聴いてミサトさんは笑みを浮かべた。

 

「ふふ、今回はレイの本心を聞いたから先ほどの暴言は忘れることにするわ」

「ありがとう」

「それと、嘔吐についても私のお願いを聞いてくれたら忘れてあげるわよ」

「何をすればいい?」

「ちょっと、そんな喰い気味にこられたら話せないわよ。よっぽど忘れて欲しいのね」

 

 少し、引き気味のミサトさんが可哀想なのでわしは距離を置いた。

 

「実はね、あるパイロットと話して欲しいの」

 

 ミサトさんの話を聞いて、わしは一も無く頷いた。わし自身も話してみたいと思っていたのだ。口から素直に言葉が出るかは不安であるが。

 

 早速、わしは目的地の救護棟に足を運ぼうと歩き出す…前にもう一つの懸念事項を思い出してそこに足を向けて歩き出した。

 

 運転を勤めてくれた保安部の人の前で止まれば、保安部の人は顔を引きつらせていた。失礼な。

 

「運転ありがとう」

「い、いえ、私は任務を全うしただけですから」

「素晴らしい考え」

「あ、ありがとう」

 

 わしは一歩、保安部の人に詰め寄った。すぐ後ろにある車に挟まれて保安部の人は汗を滝のように流す。無表情のわしが怖いのかもしれない。

 

「忘れなさい」

「は?」

「今、ここであったことは忘れなさい」

「えっと、それは…」

「命令」

「いやあなたにその権限は」

「破れば……」

 

 保安部の人が息を飲み込む。

 

「この組織で……お前の居場所が無くなる」

 

 普段、鈴のような声色とは違う、ドスの利いた声色で淡々と告げられ、保安部の人はガクガクと頷く。

 わしの目から見てもその体は極端に震えていた。可哀想だが、仕方が無い、これでも見た目は乙女、あの人が嘔吐で…興奮を覚えて変な性癖でも目覚めたら申し訳ないという言い訳を浮かべておく。

 

「健闘を祈る」

 

 

 

 

 

 わしは保安部の人から離れて歩き出した。途中、ミサトさんの方を伺えば笑っていた。あのやり取りのどこに笑うところがあるのか疑問だが、どうやらツボに入ったらしい。

 それにしても死に物狂いではなかったからか、わしが思って口にしたことが紡がれることはなかった。わしはあくまで下出に出て、お願いするはずだったのだ、なのに口から出る言葉は威圧的な命令口調。本当にこの体は解せぬ。

 

 

 

 




次の話の触り部分でした。


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第2話

 主人公登場!!


+サイド 碇シンジ+

 

 

 二度目の天井だ。

 

 僕が目を覚まして最初に思ったのはそんな在り来りな感想だった。次に何気なく横に視線を移せばびっくりした。僕と同い年くらいの女の子がお見舞いに置かれていたのだろう、フルーツの中からバナナを取り出して無心に食べていたからだ。

 

 僕がじっと見ていたのに気づいたのか、女の子はそっと食べかけのバナナを差し出してきた。

 

 いや、食べないから。上げるにしてもどうして食べかけを選ぶわけ、それってかなり失礼だよ。

 

 心で思ったことを口に出さなかったのがいけなかったのかもしれない。女の子はバナナを僕の口元に押し付けてきた。

 

 何だよ、この子。頭が可笑しいんじゃないか。あ、バナナが鼻に入った! 痛い、鼻の粘膜が犯されて凄く痛いじゃないか!!

 

 エヴァに乗ってから碌なことが起きないよ!! 今は化石の番長みたいなゴリラ少年に殴られるし、腰銀着の眼鏡少年には馬鹿にされるわ、まあ、その後友達になったけど。今回だって凄い熱い思いして死にそうになったのに起きたら痛い思いまでするなんてもう嫌だよ!! って、まだ、バナナを押し付けてきやがるこの女!!

 

「いい加減しろ!!」

 

 久々に感情を爆発させてバナナを取り上げれば、女の子は表情を一ミリも変えずこう言った。

 

 

「あなたは死なないわ、私が守るもの」

 

 

 意味が分からない!! というか、今君に殺されそうだったよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 どうやらわしはまた無意識に行動してしまったらしい。まず、ここまでの経緯をわしなりに話そう。

 

 病室に着いたわしはベッドで眠る少年、碇シンジの具合を確かめてからベッドの横についている慣用の椅子に座った。そして暇を持て余して周りをキョロキョロと見渡せば、お見舞いに付き物のフルーツセットを発見、出すもの出して、もちろん病室に来る前にトイレに立ち寄りうがい手洗いを忘れずに行った、お腹を空かせていたわしはこの後、戦闘になることを想定してバナナを一本失敬してしまう。決して自分本位の考えではなく、腹が減っては使徒を倒せぬという想いからだ。

 

 気づいたら最後の一本になっていたバナナを食べていたら、シンジ君が目を覚ました。彼の目はわしの食べているバナナに釘付けだったのだが、残りはこの一本、わしは泣く泣くその一本を差し出したのに彼は食べようとはしない。そして唐突に思い出したのだ、あのアニメでの情景を。

 

 彼は極端に心を閉ざしていた。そして他人の心に触れるのを極端に怖がっていた。それは彼の生い立ちに杞憂するものであったが、前世、それを見てわしは年甲斐もなく涙を流してしまったのだ。もし、わしがあの場にいたら孫にするよう優しく抱きしめて頭を撫でてやれるのにと。だが、その後の話でレイちゃんと心を通わせたのをテレビで見てこれまた年甲斐も無く感動して、安堵もしたのだ。

 

 特にレイちゃんが言ったあの言葉は賞賛に値する。それをどうやら口に出していたらしい。

 

 シンジ君は何故かバナナを鼻に詰めて顔を真っ赤にして怒っているのだ。怒りの矛先はもちろん、わしだろう。

 

 困ったことになった、わしは元おじいだがレイちゃんなのだ。このままでは彼とわしが心を通わせられなくなってしまう。そうなれば、この先の使徒との戦いにも支障を来たすだけでなく、孫のような彼をもっと孤独にしてしまう。そんなことはわしがわしである限り、許せる事態ではない。子や孫ぐらいの年の子には自身がいかに大変な使命を帯びていても子供心を損なわせてはいけないのだ。つまり、甘えることが許される状況をわしら大人たちが作らねばならないということ。それが、子供に戦わせる大人の義務であり、ある意味、大人たちの心の安寧をもたらす贖罪でもあると言えるはず。

 

 わしは彼と心を通わせるために死に物狂いで言葉を紡ごう。まずは彼の怒りと心に造られた壁を少し取り除こうではないか。

 

 

 

+サイド 碇シンジ+

 

 

「良かった、怒れるのね」

 

 久々に感情を出して域も絶え絶えな自分に女の子はそう言った。

 

 言葉の意味が分からず、急速に怒りが萎んでいく。次に沢山の疑問符が浮かび上がった。先ほどから彼女の言動の理由が理解できない。逆に理解が出来なさ過ぎて彼女に興味が沸いてくる始末だ。自分の心情なのに酷く驚いた。

 

 これまで流されるように生きてきた僕が、これからもそうしていくのだろうと、漠然と思っていた自分が誰かに興味を持つなんて何年ぶりだろうか。

 

「あなた、私がいても表情一つ変えなかった」

 

 君に言われたくない、と僕は思った。

 

「その口から言葉が出ない」

 

 思っていることを素直に口から出さないだけ、それが当たり障り無く円滑に過ごせる秘訣だと僕は考える。

 

「あなた人形みたい」

 

 彼女の口から出された言葉に萎んでいた怒りが膨らんだ。

 

「人形は君だろ!! 無表情で気持ち悪いよ!!」

 

 怒り任せに言って、気づく。僕は彼女を傷つけたのではないかと。表情は変わらない、けれど纏う雰囲気は変わったような気がした。

 

「私は人形じゃない」

 

 語尾を強めて言われ、僕の怒りはまた萎んでいく。

 

「え、あの……ごめん」

「でも、人形焼は大好き」

「はあ?」

「浅草の人形焼は元妻が好きだった」

「結婚しているの!? ていうか、妻って!!」

「今のなし、忘れて」

「ホント訳が分からない!!」

 

 もう、何なんだよ。会話しても彼女が全然分からない。

 

「今の良かった」

「今度は何だよ!?」

 

 声を荒げてそう言えば、彼女は僅かに口の端を上げてこう言った。

 

「子供らしい感情……そういうあなた好き」

 

 不意打ち的に好きだと言われて僕の心臓が跳ね上がる。彼女の小さな微笑を見せられて、僕は彼女に対して淡く形容しがたい想いを抱き…。

 

「でも、元妻の方がもっと好き」

「僕のトキメキを返せ、馬鹿やろう!!」

 抱きませんでしたよ、ちくしょう!

「ときめきは古いらしい」

「今度は駄目だしか!!」

 

 感情を爆発させたせいか、僕の瞳からは涙が出ていた。それを見ていた彼女は椅子から立ち上がり僕が座るベッドの傍まで来ると頭ごと抱き込んできた。

 

 咄嗟の接触に体を硬直させていると、それを溶かすかのように背中を撫でられた。

 

「怖かったね」

 

 彼女のそんな一言がきっかけになったかのように僕の瞳から涙が次から次に流れ始めた。

 

「うううううう」

 

 父さんに呼ばれこの町に来てから僕はこんなみっともなく嗚咽を漏らして泣いたことはない。

 

「シンジ君、君は泣かなければならない。泣いて君が心に溜め込んだ思いの丈を吐き出さなければ君が壊れてしまうよ。大丈夫、わしがすべて受け止めよう」

 

 どうして僕の名前を知っているのか、どうして口調がいきなりオッサンぽくなったのか、気になることは沢山あるのにその言葉を聞いて僕は思いの丈を嗚咽交じりに吐き出した。

 

 父さんに呼ばれて嬉しかったこと。

 

 なのに、父さんは僕を見てくれなかったこと。

 

 父さんに優しくされたいと思っていること。

 

 戦いが怖いということ。

 

 怖い思いはしたくないと思っていること。

 

 彼女は他人なのに僕は血の繋がった父にも話したことのない深い想いを語ってしまった。多分、彼女の持つ雰囲気がそうさせたのだろう、僕という存在を包み込む優しい雰囲気、祖父の存在を知らないのに若干若作りのおじいちゃんに優しくされているような錯覚を起こしそうになる。もう、僕の理解の範疇には収まらないのかもしれない。それでも一つだけ彼女の事を理解できた。

 

 彼女は人形なんかじゃない。僕の想いごと包み込む大きく、暖かい心を持ち合わせているのだから。

 

 ようやく落ち着いて僕は彼女の胸元から離れた。恥ずかしさを誤魔化すように照れ笑いを浮かべる。きっと目は真っ赤で瞼も腫れているはずだ。それでも久々に泣いて、今は心の底から笑えている。

 

 彼女がそんな僕を眺めて言う。

 

「泣き顔不細工」

「今心の底から感動していた自分を殴りたい気持ちだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 声を荒げて彼女にツッコミを入れながらも僕は笑っていた。

 




 シンジ崩壊


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第3話

 第3話! 出るぞ!!

 第3話! 行きまーす!


+サイドアウト+

 

 

 

 次の戦いで行われる大体の作戦が纏まり、パイロット二名にその旨を告げるため葛城ミサトは病室の前まで来ていた。

 

 中から聞こえるシンジの笑い声にミサトは驚きを見せる。彼女の知る限り彼は自分たち大人の前でこんな無防備に笑った事はなかった。

 

「レイがやってくれたのね」

 

 ミサトは賭けに勝ったのだ。しかし、ここでミサトが部屋に入れば、シンジの笑みは消えてしまうだろう。その理由を自分は持っているのだから。腕時計を見れば、まだ作戦までに余裕がある。ミサトは部屋の前で彼らの会話を聴くことにした。束の間の平穏を彼らに与えるためにそうしようと思った。

 

「そう、あなたが守り、私が攻め」

「レイさんがあの使徒と戦うの!?」

 

 聞き耳を立てていたミサトは驚愕した。二人は既に戦う心構えを取ろうとしていたのだ。

 

「私はその為にエバに乗っているの」

「え? 今何て言ったの?」

「だから、エバ零戦に乗って」

「エバ零戦ってなに!?」

「あなたも操縦者…確か、エバ……初鰹?」

 

 扉の前でミサトがコント張りにずっこける。

 

「違うから! 初鰹に乗ってたら今もこの病室は生臭さ全快だよ!! 僕が乗っているのはエヴァ初号機! レイさんが乗っているのも何号機は知らないけど、エヴァンゲリオンだから!!」

 

 よく言った、そのまま間違いを正してやって! 立ち上がったミサトがシンジにエールを送る。

 

「エバンゲリオン」

「エヴァンゲリオン!」

「エバン……ゲリオン」

「エヴァ!!」

「エバ」

「エヴァ!!」

「エマニエル婦人」

「その人誰!?」

 

 シンジ君が知るわけ無いわよね。というか、どうしてレイは知っているかしら、ミサトは呆れながらもレイが持つ知識の奥深さに若干の恐怖を抱いた。

 

「はぁ、もういいよ、レイさんが乗っているのはエバンゲリオン零戦だ」

 

 あ、きっと慈愛に満ちた表情で言っているのだろうなと、ミサトは半ば確信を込めて予想する。

 

「それで、レイさんはあの第五使徒をどうやって倒すつもり?」

「あなたがあの機関銃で牽制」

「パレットライフルね、距離がありすぎて届かないよ」

「じゃあ、びーむ兵器で牽制」

「ポジトロンライフルね、これも無理距離的に無理かな」

「なら、狙撃びーむで牽制、これ以外は認めない」

 

 ミサトはレイの言葉に驚きを見せる。自分が持ってきた作戦はまさにそれなのだ。

 

「あれ、そんな武装あったかな……まあいいや、仮にあったとしてその後は?」

「私が使徒めがけて突っ込む」

「使徒のビームに焼かれて終わりだよ」

「避ける」

「いやいや、無理があるよ。僕はあのビームを受けたから分かるけど一瞬だったから」

「根性」

「ここに来ての精神論!!」

「意外と大事」

 

 彼らが考える作戦は纏まりそうもない。終わりそうも無い彼らの作戦会議に一筋の光を与えるため、自分の持って来た作戦内容を引き下げてミサトは病室に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事前にパイロット同士で成された作戦会議のおかげか、彼らのポテンシャルが良い様に上がっていた。懸念されたシンジの精神も落ち着きを見せ、トントン拍子で作戦が決行される事と相成った。

 

 

 そして元おじいは知る事になる、元妻、現リリスが言っていた自分たちが懸念事項の一つだという理由を。

 

 今回、ネルフ外部組織からの接触及び、共同作戦。その外部組織とは元おじいが知るアニメには決して出てこない、けれど、元おじいが生前やっていた、とあるゲームに登場した組織。

 

 独立部隊ロンド=ベル

 

 元おじいが大好きだったスーパーなロボットの大戦αである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+今はレイで元おじい+

 

 

 ミサトさんに案内された作戦本部で居並ぶ顔ぶれを見てわしは驚愕してしまう。さんぐらすに金髪、どう見てもうちの組織で踏ん反り返る奥さん大好き元祖ではないけれど、さんぐらすを外さない指令には真似できない存在感を全身から醸し出す男、ミサトさんからの紹介で出された名前にこれまたわしは驚愕する。

 

 くわとろ・ばじーな、長い横文字なので略して桑さんとする、はどう思い出してもあのアニメには出ていない。むしろ別のアニメでは主人公とは別に主役を食う勢いで出張っていた男前が違和感なく立っているではないか。そうなると、その横に立っているのが同じアニメで主人公のアムロレイ君で合っているだろう。彼の年齢は分からないが見た目二十代の前半に見えて雰囲気も幼い感じがするので君付けで呼んでしまった。心の中でだが。

 

 ミサトさんからわしたちパイロットの紹介が成されて、ひとまず、作戦の全容が説明される。わしらは、先ほどミサトさんから直接受けているので確認作業を兼ねているのだろう。

 

 今回、あの長距離びーむを打ち出す第五使徒に対してこちらも狙撃びーむで対抗するという極めて単純な作戦だ。ただ、あの使徒は強力なばりあーを持っている為、それを強引に打ち破る、えねるぎーが必要だった。それが可能となる、えねるぎーを桑さんたちが提供して下さるらしい。一つがげったーと呼ばれる莫大な力を持つ、えねるぎーを込めた動力で、もう一つが光の力が込められた動力だ。それをもう一つ別の動力で制御するらしい。わしは既にこの時点で頭が混乱していた。横文字が多すぎる。

 

 この二つの動力を狙撃銃に送り、それをエバ初鰹が打ち出して使徒を殲滅する。わしは不本意ながら守り役になった。持たされる盾もスゴイものらしいがよく分からない。とにかくスゴイ盾だ。以上終わり。

 

 説明が終わり、わしらは全身タイツに着替えるため移動する事になった。シンジ君とわしが歩き出せば後ろから声を掛けられる。

 

「シンジ君だったか、先ごろの戦いでの怪我はもう良くなったのかね?」

 

 桑さんがサングラス越しにシンジ君を見据える。その視線の意味にわしは気づいた。あれは心配しながらシンジ君の心理状態は把握するつもりだろう。

 

「はい、あの使徒から受けた怪我は軽度の火傷だけですから、もう大丈夫です」

「それは重畳というものだ。今回も君はあの使徒と対峙する事になるが、どうかね?」

 

 桑さんは核心部分を告げる。今のシンジ君が果たして使い物になるかどうかを見極めようとしているのだ。流石だよ、きゃすぱる坊や。

 

「そうですね、さっきまでだったら、嫌々ながら、それでも乗っていたと思います。でも今は、レイさんがいてくれるから」

 

 その言葉に、桑さんはアムロのレイ君に視線を合わせた。

 

「ほう、君も隅に置けないな、彼とは何時知り合ったんだい?」

「え! アムロさんじゃないですよ!」

「彼の言うとおり俺じゃない。お前の目は節穴か」

 

 怜君がジト目で突っ込みを入れる。桑さんは困ったような笑みを浮かべてシンジ君に謝罪した。彼はこうやって、おどけた表情を見せながら先ほどの質問の意図を曖昧にしたのだ。それは偏にシンジ君に余計な気負いを負わせないためだろうと当りを付けて、わしは自身に来る質問に身構えた。今度はわしの精神状態を把握しようと接触するはずだ。

 

 案の定、桑さんはわしに視線を遣した。

 

「君が二人目のパイロットで良いのかね?」

「…そうです」

「名前は綾波レイ君だったか」

「…はい」

「レイ君は今回始めての出撃らしいが、どうかね?」

 

 桑さんはサングラス越しにわしの一挙手を見逃すまいと見据える。こういう時、何を言えば彼の思惑よりも更に上をいけるだろうか。こう言った大人、内心のわしにとっては息子くらいの年齢の相手をからかうのが大好きなのだ。ふむ、ここは一つ死に物狂いで彼ら大人(笑)をからかってやろう。

 

「やってみるさ」

 

 女の子が出すには低すぎる声にサングラス越しからでも分かるくらい桑さんは驚きを見せた。だが、そこは歴戦の戦士、すぐに表情を戻す。隣に立つアムロ君は驚いたままだが。

 

「随分、自信があるようだね。だが、敵が放つ加粒子方は君たちの機体が持つシールドを簡単に貫いたんだが、それについてはどうかね?」

「当たらなければどうという事はない」

「ほう、言ってくれるな。我々の機体でも反応するのがやっとだというのに君はあれを避けるというのかい」

「坊やの発想。一度と破られたからと言って二度目が同じとは限らない」

「くっ、この私が坊やだと言いたいのかね」

 

 言葉通り、その場の空気が凍る。桑さんから物凄い威圧が発生してわしを包み込む。だが、わしは表情一つ変えずに話を続けた。

 

「あまり、子供を試すような真似をしない方がいい。本来はあなた方大人が率先して血を流す戦場にて子供が武器を持って戦うのだ。なれば、疑うような事は控え、逆に大人は子供たちの盾になろうという気概を持ち合わせてほしいものだ」

 

 わしの言葉を聞いて二人の大人が目を見開いた。

 

「あなた方の主義主張大いに結構。されど、子供が戦場に出ている時点でそんなものは意味を成さない。仮に子供本人がそれを望んでいようとも、そのような状況を作り上げたのは紛れも無くあなた方大人であり、それが罪だという事を忘れてはならない」

 

 全身の力を使って表情筋を動かし、笑みを形作れば、それはきっと彼らにとって皮肉的に見えるだろう。

 

「小娘の挑発如きで威圧するあなたは坊やがお似合いだよ」

 

 

 

 

 

 言い終わるとわしは彼らに頭を下げて退出した。シンジ君もわしの後に着いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 +サイドアウト+

 

 二人のチルドレンが退室した部屋ではきまずい空気が流れていた。彼女、綾波レイが述べた言葉がその場に残る大人たち全員にいろいろな意味で響いたからだ。ある者は小娘の癖に生意気だと思っていた。また、ある者は自身が心の底に蓋をした想いを的確に指され、改めて考えさせられた。

 

 だが、外部協力者の二人は身に詰まされる想いだった。彼らの部隊には子供が多く存在する。その殆どが本人の意思で戦場に立っている。しかし、ごく一部は数多の経緯が重なって半ば無理やり戦場に出ているのが現状だ。

 

「彼女の言葉は我々の痛いところを突いてきたな。坊や?」

 

 アムロがそう言えば、クワトロは自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「君まで私をそう呼ぶのかい」

「流石にあの少女に与えるプレッシャーはないぞ」

「だが、彼女は平然としていたよ」

「ああ、とても十四歳の子供が正常でいられるものじゃなかった」

「逆に私を子ども扱いだ。これではどちらが大人か分からないな」

 

 会話する二人に葛城ミサトが歩み寄れば、深く頭を下げた。

 

「こちらのパイロットが失礼をはたらきまして申し訳ありませんでした。彼女にはこちらで対処いたしますので何卒、ご容赦願えないでしょうか」

 

 それに対して、アムロは朗らかに笑ってみせる。

 

「別に彼女を罰して欲しいとは思っていないよ。むしろ、心強さを感じたぐらいさ」

「そうだとも、私を坊や扱いした彼女だ、次の作戦は成功するだろう」

「おいおい、その言葉含みを感じるぞ、まさかあなたほどの人が根に持っているのか?」

「君も言うようになった。それなら、彼女ら子供たちの盾役は君に任せよう」

「それはお互い様だ。俺たちは大人だからな」

「まったくだ」

 

 二人の陽気ともいえる会話のやり取りにミサトは安どの表情を浮かべた。

 

「それにしても、彼女は一体、どんな子なのかね?」

 

 クワトロが素朴な疑問を述べた。アムロも興味があるのか視線をミサトに固定する。

 

「それが、参謀の私が言うのもなんですが、私自身も先ほど彼女が言った言葉に驚いている状態でして。普段はあんなに話す子ではないんです。もしかしたら彼女なりに想う事があったのかもしれません」

 

「あなたも彼女の言葉に考えさせられるものがあった口かな?」

 

 アムロがそう言えば、苦笑しながらミサトは頷いた。

 

「我々の組織の大人は彼女たちチルドレンに世界の命運を託している身ですから」

「では、お互い子供たちに誇れる大人でありたいものだな」

 

 クワトロが最後にそう締めくくれば、ちょうど作戦開始時間が迫っていた。

 

 

 

 取り敢えず、三人は目先の戦いに目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 

 全身タイツに着替えて、エバに乗り込めば沢山の機械が取り付けられた狙撃銃が初鰹の前に設置された。

 

 自分たちの後方に空中戦艦が鎮座している。それを見てこの世界は本当にあのゲームの世界なのだと否応無く実感してしまう。

 

『ねえ、レイさん。さっきクワトロ大尉にあんなこと言って良かったの? なんだか、かなり怒っていたような気がしたんだけど』

 

 通信装置からシンジ君の声が聞こえてきた。

 

(構わないさ、子供が語る冗談を受け流すのが出来る大人の嗜みと言うもの)

「坊やだからさ」

 

『うん、何故だろう、その言葉はクワトロさんが実際言っていたような気がする!』

 

 先ほど必死でからかったせいなのか、今は全然口が思うように動かない。むしろ、自分が言った言葉なのかと疑うほどだ。これからの会話はあくまで流すような感じで行くとする。

 

『レイさんは僕たち子供が戦うのが嫌なんだね』

「戦争自体が嫌」

『そっか』

「あれはすべてを壊す嫌なもの」

『そうだね』

「あの使徒と一緒」

『!!』

「だから私はあれと戦う」

『レイさんも子供だよ!!』

「見た目は子供、心は大人その名も―」

『言わせないよ!』

「……冗談」

 

 この世界で再び生を受け、妻と再会を果たした。それだけでもう、わしは十分満たされた。後の余生はただ、この世界に生きる子供たち、引いてはすべての生きるものたちのために、わしは戦おうと思っている。

 

 そんな事を考えていたら、通信から嗚咽のようなものが聞こえてきた。

 

『レイさんのそれが……エヴァに乗る理由なんだ』

 

「聞いていたの?」

 

『口に出してたから…でも、それは何だか悲しいよ。レイさんだってこの世界に生きる人なのに』

 

「余生の部分は?」

 

『あれ、無視された。結構いいこと言ったつもりなのに……うん、聞いたけど』

 

「忘れなさい」

 

『え?』

 

「忘れなさい、それか口を噤みなさい」

 

『いや、それはまあ、いいけど』

 

「もし、約束を破ったら」

 

『………ゴクッ』

 

「あなたの人生にサヨウナラ」

 

『怖ッ!!』

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 時刻は午前零時、作戦開始。

 




 決して坊やだとは思っていません。

 素晴らしい戦士だと思っています。

 ほんとうですからね、キャスパル坊や。



 


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第4話

 ヤシマ作戦が始まる。


+サイドアウト+

 

 

 戦艦アーガマのブリッチで作戦開始の合図を送っていた艦長、ブライトノアは前方に佇む、エヴァ二機を視界に捉えながら心に溜まった不平を体から出すように深く息を吐き出した。

 

 特務機関ネルフ、キナ臭いと噂される組織との共同戦線は最初から向こうの都合に合わせさせられたものだった。そのせいで、パイロットの幾人は不平不満を溜め込んでいて艦内の不陰気も悪くなっている。その上、彼らネルフの虎の子たるエヴァ二機をロンドベルに出向させるというのだから今後の行く末を案じ、胃の痛い日々が続くだろう。

 

「あの司令は何を考えているのやら」

 

 そう愚痴りたくなるのも分かって欲しいと、誰に述べているのか分からない言い訳をして艦長席に座り込んだ。

 

 レーダーには使徒のみ、その使徒も沈黙している。正確には地下のジオフロント目指して今もせっせと穴を掘っているのだろう。

 

 このまま何も無ければト誰もが思っていたところで、ブリッチに警報が鳴り響く。

 

 ライディーンの宿敵、シャーキンの悪魔軍団がこの作戦を妨害しようと作戦中域に現れたのだ。

 ブライトはすぐさま待機していた機動兵器を順次発進させる。そして作戦の要とも言えるエヴァ二機を防衛しながら交戦するよう命じた。

 

 混戦する戦場、皆、この町で感じた鬱憤を晴らすかのように敵を殲滅していく。ビームや銃弾が交差する現場は敵の敗北的撤退で幕を引いた。

 

 その直後、二つの超エネルギーが溜め込まれたポジトロンスナイパーライフルの準備が完了した。

 敵と戦う彼らを見て、シンジは歯がゆい思いと恐怖を感じた。敵の機動兵器の一体が自分のすぐ近くに落ちてきたのだ。動きを見せない事から撃墜したのは理解したが、落下する場所が悪ければライフルを駄目にするところだった。それを自分は反応すら出来なかったのだ。隣にいたレイさんの乗る零号機は反応したのにも関わらず。

 

 不甲斐ない自分を叱咤していたシンジに作戦本部から通信が入る。

 

「シンジ君、皆が稼いだ時間と科学の結晶をあなたに託すわ」

「はい」

 

 緊張のせいで上ずった声で返事をすれば、レイさんからも通信が入ってきた。

 

「失敗しても構わない」

 

 緊張とは無縁のような酷く落ち着いた声でそう言われ、鳴り響く心臓の音が落ち着きを見せる。

 

「分かったよ、レイさん」

「いやいや、そこは絶対成功させますでしょうが!!」

 

 ミサトさんが尽かさずツッコミを入れた。

 

「絶対成功させます?」

 

 自分の心に余裕を持たせるために普段やらないボケをかませば。

 

「疑問系!!」

 

 ミサトは突っ込んでくれた。

 

「失敗しても後の事は私が何とかする」

「レイは無駄に男らしい!!」

 

 平常運転のレイだった。

 

 一連のやり取りでシンジは平常の状態に戻った。操縦桿を握る手の堅さも和らいでいる。

 作戦決行の時間だ。

 

「目標をセンターに入れてスイッチ」

 

 訓練で教わったものを繰り返すように行えば、シミュレーターとは違う想像を超えたエネルギーが銃口から発射された。

 

 

しかし、それは向こうも同じだったようだ。

 

 

「使徒から高エネルギー反応を確認!」

 

 オペレーターのマヤから言われ、ミサトは映像を確認、初号機が発射したと同時に使徒もまた加粒子方を発射、互いの高出力のエネルギーはそのまま中心で湾曲してお互いの背後に着弾した。思わず失敗の余韻で項垂れるミサトに更なる追い討ちが掛かった。

 

「そんな! 使徒から再び高エネルギー反応を確認!!」

「こちらは!!」

 

 思わず、怒鳴りつけるようにミサトが言えば、日向マコトが焦り顔で告げる。

 

「駄目です、銃口の冷却が間に合いません!!」

「シンジ君!!」

 

 無慈悲にも放たれた一撃は初号機を前にして塞き止められることになった。

 

 死を覚悟していたシンジは目の前で起こる状況に混乱していた。レイさんの乗る零号機が自分を庇い盾によってあの強力なビームを防いでいてくれているのだ。

 

しかし、盾は今にも蒸発しそうであり、零号機の装甲も所々溶けかかっていた。

 

「早く、早く、早く、ミサトさんまだですか! このままじゃレイさんが死んじゃうよ」

 

 シンジの必死な叫びが本部に木霊する。その想いは本部にいる誰もがおもっていることだ。

 

「冷却まだなの!?」

「………完了しました!」

 

 モニターを監視していたマコトが顔を上げて吉報を叫んだ。その場にいる誰もが安堵した瞬間。

 

「うあああああああああ、そんな!! このままじゃレイさんが!!」

 

 恐慌状態に陥っているようなシンジの叫び声が本部に響き渡り、その場にいた誰もが作戦の失敗と今後の絶望を予感した。

 

 壊されて煙を吐くこの作戦の要中の要とも言える砲身、それを行ったのは先ほどすぐ近くで倒れていた悪魔軍団の機体だった。その機体が急に動き出し、咄嗟に気づいたΖガンダムのパイロットカミーユビタンが迎撃に当たるも時既に遅く、砲身は壊された後だった。

 

 

 絶望がこの戦場を支配し始めた。今だ加粒子砲の勢いが止まることなく、レイを乗せた零号機は消失しそうな盾で辛うじて防いでいる状態だった。

 

 その光景を見ながら、シンジは自身の操縦桿を叩く。

 

「何でだよ! どうしてだよ! レイさんが死んじゃう。 そんなの、レイさんが死ぬなんていやなんだ。僕に優しくしてくれたんだ、僕の想いを受け止めてくれたんだ、僕に…泣かせてくれたんだ。ねえ、誰か助けてよ!! レイさんを助けてよ!!!」

 

 その時だった、誰もいないはずのプラグ内で声が聞こえてきた。 

 

 

―――大丈夫よ、シンジ。あの子は愛されているもの

 

 

「え、誰?」

 

 声はそれ以降聞こえてこなかったが、シンジは何故かその言葉を信じられるような気がした。

 

 

 そしてそれは現実となる。 




 次回 更にがっかり戦闘描写の巻


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第5話

これにて終了。


 

 

 砲身が壊され、いまなお、盾となって砲撃を防ぐ零号機をブライトはモニターで捕らえ、部隊の敗北を視野に入れた総力戦を行う決意を固める。その号令を発しようと口を開こうとした時、その通信は入ってきた。

 

 

「この領域にいる全部隊に告げる、心して聞いて欲しい」

 

 

 通信から流れてきたのは女性と呼ぶにはまだ幼い声色だった。

 

「第一次作戦は残念ながら失敗に終わった。これより、第二次作戦を遂行する。武器を持つすべての大人、守りたいものがある子供は私に続け」

 

 けれど、少女と呼ぶにはあまりにも深い言葉を紡ぐ。

 

「すべての攻撃は私が防ぐ。どうか私の後に着いてきてくれることを願う、以上」

 

 通信はそこで終わった。すると、モニターに移る光景に異変が起きた。

 

 ほぼ溶けかかった盾を捨てた、エヴァ零号機は自身の前方に巨大なATフィールド展開、その盾でビームを押し返しているではないか。

 

 

 ビームを押し返すという強引な方法で前に進む、零号機にロンドベルの部隊は驚きを見せながらも、少女の言葉に続けと使徒を補足し始めた。中でもすぐ近くにいたカミーユビタンは巨大なATフィールドを展開した頃から、零号機に意思のようなもの感じていた。

 

「あれは……怒り、使徒に対する怒りか…でも、何故だろう、俺には酷く甘酸っぱい感じがする」

 

 カミーユビタンを含め、一部の所詮ニュータイプと呼ばれる人種は全員カミーユが感じるのと同じ思いを抱いていた。

 

 

 

 

 曰く、私の愛するものに指一本触れさせるものですか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド今レイの元おじい+

 

 

 銃口が壊れた頃からわしの傍に元妻、今はリリスがいてくれるような気配を感じればそれは力となって眼前に現れた。強固な壁のおかげであの灼熱のような熱は感じなくなっただけでなく、わしの思い通りに形を変えてくれる。それはシンジ君を、この戦場で戦うすべての人を守れるような巨大な壁の出現であった。

 

 これなら勝利も望めると思ったわしは周囲で待機する部隊に通信を送った。それこそ、すらすらと言葉が出たのはそれだけわしが必死だったのかもしれない。戦場とは一分一秒でその形を変えること知っているからだ。

 

 通信を終えて、わしは強大な盾を押し出すような想像を頭で考えれば、エバはその通りに動く。操縦が苦手なわしには持って来いという代物である。歩き出したエバはやがて走り出し、建物が一瞬でわしの横を通り過ぎていく。それだけの速さをこのエバは出しているのだろう。その時、わしの横を並走するかのように一機の見た目特殊な戦闘機が飛んできた。

 

 通信が入る、横を並走する戦闘機からだ。

 

『こちら、カミーユビタン。エヴァのパイロット応答して欲しい』

 

「こちら、エバ操縦者だ、手短に頼む」

 

『君の口からこの後のプランを聞きたい』

 

 簡潔に次の作戦を聞いてきた。通信からの声を聞いて子供でありながら酷く大人びた雰囲気を醸し出す少年だと、わしは思った。

 

 わしは作戦の要点だけを纏めて話した。すると、少年はどこか怒気を滲ませて通信を入れてくる。

 

『そんなことは認められない。下手をすれば自爆だ』

 

 それは何より作戦を立案した自分が理解している、今更というものだ。しかし、それをこの少年に告げれば完全に怒るだろう。通信からでも分かるくらいこの少年は短気のような気がした。

 

「ならば、別案を今すぐ持ってきて欲しい」

 

 わしがそう返せば、通信から絶句する声が聞こえてきた。時間がないのだ。既にあの使徒から出る掘削機はねるふ本部に到達しているはずだ。

 

『それは……』

 

 ちと、少年に悪いことをしたかもしれない。彼は善意で忠告してくれたのだから。

 

「なに、この壁がある。心配せずともそう易々とやられはせんさ」

 

『な、あなたは一体……』

 

 ほう、気づいたか。聡い子だ。いや、確か彼らは新人類と呼ばれる存在だったはず、そのせいかもしれないな。

 

 答えを求めているところ悪いが、既に目標は眼前、びーむの威力も損なわれ、あと数秒もしないうちに撃ち終わりを告げるだろう、この隙を逃してやるほどわしは甘くない。

 

「牽制を頼む。以上通信終わり」

 

 そう入れて通信を途絶したと同時にびーむが終わりを続けた。その瞬間を待っていたのだ!!

 

 他の機体が牽制と敵の消耗を視野に入れた攻撃を繰り出した。

 

 零戦はしゃがみ込み、左足を軸にして右足を前に出して独楽のように回れば、渾身の回し蹴りが使徒の掘削機を破壊に成功する。

 

 だが、敵も唯ではやられるつもりが無いのか、再び、中心部で光を形成、びーむを撃ち出すつもりだ。

 

「それをさせるわけには行かんな」

 

 そう言ってリリスに願いながらエバを動かせば、零戦の一つ目が光り輝いたような気がした。使徒が展開する壁をぶち壊してその躯体を掴みあげてびーむの銃口を直線状の上空に向けさせる事に成功。いくら巨体であっても銃口の方向性を変えるだけなら出来ると踏んだが、どうやら無事に出来たようだ。その為の掘削機破壊である。仮に出来なければわし自ら盾になるまで。それをあの少年は危険だと判断したのだろう。

 

 さあ、最後の仕上げといこうか。

 

 すぐ後ろに控えていた、シンジ君を呼び出した。

 

「シンジ君、聞こえるか」

 

『はい聞こえます、レイさんは大丈夫ですか?』

 

「大丈夫だ、それよりもシンジ君、ばれーをやった経験はあるかい?」

 

『バレーですか、学校の体育でやった程度ですけど』

 

「十分だ、びーむが終わり次第、この使徒から手を離す。次に君の手でこの零戦を空に打ち上げて欲しい」

 

『な、そんな無茶な!! 第一僕にそんな力なんて』

 

「安心しなさい、やるのは実際エバだ、シンジ君自身じゃないのだから何を怖がる必要がある」

 

『で、でも』

 

「シンジ君、想像しなさい。君がこの零戦を打ち上げる瞬間を。この機体はそれを可能としてくれる素晴らしい機体なんだよ」

 

『………くっ』

 

「世界は想像によって沢山の色を奏でるんだ。良い想像をすれば良くも、その逆も然り。シンジ君が花火のように打ち上げてくれる想像をしてくれれば零戦は既に遥か上空を飛んでいるだろう」

 

『飛ぶんじゃなくて落ちるでしょうが!! 死んだら許しませんからね!!』

 

 ふむ、シンジ君も言ってくれる。わしを信用してくれた証拠だな。その信用、答えてやらねば、それはわしではない。

 

「心得た……私は死なないわ、あなたが援護してくれるもの」

 

 おや、少し気持ちに余裕を持たせすぎたか、言葉は変わってしまったが言いたいことは変わらないので好としておこう。

 

『絶対ですからね、もうすぐビームも終わります。合図は?』

 

「ひぃ、ふぅ、みぃだ!!」

 

『人のこと言えないぐらい古!! でも分かりました。行きますよ!!』

 

 シンジ君からの通信が終わった直後、使徒のビームが終わりを告げた。わしはすぐさま、使徒から手を離して後ろに振り向く。

 

 丁度良い距離にシンジ君の初鰹がとすの構えで待機してくれていた。流石、主人公と言った所か。

 他の機体から通信が入ってくるが、それを無視する。今は他の事で集中力を乱したくは無い。

 

「ひぃ!」

 

 わしが掛け声と共に踏み出せば、通信機からシンジ君の掛け声が掛かる。

 

『ふぅ!』

 

「みぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 叫び声を上げながら初鰹のトスで打ち上がれば零戦は遥か上空に突き進む、その勢いが止まれば今度は重力に従い落ちるだけ。そして落ちる場所は。

 

「使徒の上に決まっているだろう!!」

 

 宙返りで軌道修正を行えば真下にはひし形使徒の内部に見える心臓部。使徒の弱点が剥き出し状態だ。これを待っていた。

 

「かつて見たばれえの鑑賞会を思い出して閃いた必殺技」

 

 あの日、妻と見に行った、ばれえはとても神秘的であった。

 

 両手を頭上に挙げ、手のひら翼のような形にして触れさせれば上半身の完成、下半身は先の尖った掘削機のような形状を想像すれば足が爪先立ちのような格好になる。

 

 あの日の踊り手のように勢いよく回転を加えれば、見える風景は何度も行き来する星空。

 

「目にも見よ!! 必殺ばれーばれえ回転蹴りぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

『バレーバレエって、ダジャレかよ!!』

 

 シンジ君からそんな通信が来た様な気がしたがわしはもう回転によって生み出される吐き気と戦うので精一杯の状態である。

 

 

 後は天命に祈り、下り落ちるエバを信じ、競り上がるバナナとの戦いをするだけだ(キリッ

 

 

 

 

 

 

+サイドアウト+

 

 

 上空から物凄い回転で落下してくるエヴァ零号機にその場にいた者たちは攻撃の手を緩めてしまうほど見入っていた。

 

 艦長ブライトは訳も無く彼女の成功を祈る。

 

 作戦本部で事の成り行きを見守っていたミサトは成功を祈りながらも生き残った場合の説教を考えていた。

 

 Zのカミーユはあの不思議な女子を考えながらやはり、成功を祈るのだった。

 

 

 落下した零号機はどういうわけか、足元にドリルのような形状で作られたATフィールド発生させて第五使徒と衝突、見事十字架の爆煙を上げさせるのに成功した。

 

 

 その瞬間、作戦本部で、アーガマで、各機体のコックピットで歓声が沸き起こったのは言うまでもない。ところが、歓声から一転悲鳴のような声が同じ場所から上がってきた。

 

 凄まじい回転は止まることを知らず、地面をぶち抜き、あわや地下のジオフロント基地に突っ込むという、ある意味バットエンドを迎えようとしていた。それを止めたのが碇シンジの初号機だった。彼は回転して地面に潜っていく零号機の両手を掴み全身の力を込めて回転を止めに入った。摩擦で煙を上げる初号機の足と砂煙を上げながら地下に沈んでいく零号機、結局軍配が上がったのは初号機だった。

 

 その場にいたレイ以外のものたちは安堵の表情を浮かべ、地下基地の司令室にいたゲンドウとコウゾウは冷や汗を搔きながら問題ないという言葉を呪詛のように吐き出していたという。

 

 

 

 

 

 こうして決戦第二進東京市は上半身の殆どを地面に埋まらせた零号機と大根を引き抜く農家のような格好で零号機の腕を掴む初号機という、何ともシュールな情景を残して終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド碇シンジ+

 

 

 僕は回転が止まったと同時にエントリープラグから強制脱出して零号機の元に向かい、エントリープラグを外部から開けさせ、その扉を抉じ開けた。

 

「レイさん!!」

 

 言いながら中を見渡せば、青い顔した綾波レイが口元を押さえ、仕切りに唸っていた。

 流れる涙も拭かず僕はどこか怪我したのかと想像して怖くなり、レイさんを中から出そうと手を差し出したわけだが、それがいけなかったのか……。

 

「オルルルルルルルルル」

 

 発禁ものの表情で口元から大量のバナ……言いたくない、ものを僕のスーツに吐き出してくれやがった。それも盛大にな!!

 

 僕はきっと青筋を浮かべていたんだと思う、レイさんは珍しく困惑した表情で口を開いた。

 

「…こういう時、どうすればいいか分からないの」

 

 そんなの事は決まっている。

 

「謝ればいいと思うよ」

 

 ていうか、素直に謝れや!!!

 

 

 

 

 無表情で謝り続けるレイさんともう怒っていないけど心配させた罰でフリをしている僕を大きな月だけが見ていたようだ。

 




 そして話は次回に続く。


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その時、原作が外れた

 ゲストをお呼びしたいと思います。特務機関ネルフ総司令官碇ゲンドウさんです。
司「よろしくお願いします」
ゲ「問題ない」
司「さて、ヤシマ作戦において元おじいの綾波レイさんがジオフロントに穴をあけたことで、どうやら原作が、ずれていったようなのですが、ゲンドウさんはどう思いますか」
ゲ「問題ない」
司「なるほど、ネルフには些細な事だということですね。さて今日は宇宙暦××年を念頭に置いてその時系列にスポットを当てたいと思います、では、どうぞ」



                       冗談です。


+サイド今レイの元おじい+

 

 

 前回の戦いで泡や地下基地を破壊するところだった、元おじい、今はレイちゃんです。あの後、わしだけ司令室に呼ばれ、サングラス司令と渋い男冬月氏に軽く三時間の説教を受けて疲労困憊の極みになりながらも家に帰って就寝。

 

 翌日、共同作戦を行った外部部隊は出航、シンジ君は見送ったらしいがわしは見送ることは出来なかった。

 

 二週間の自宅謹慎処分を受けたからな!!

 

その後のわしは平穏無事に学校生活と深夜アニメ謳歌を一週間送ることが出来たので謹慎も悪くないと思ったものだ。

 

ちょうど一週間後の夕方、鳴り響く携帯に起こされて何事かと出れば、どうやらシンジ君が独立部隊ナントカベルに出向するから見送りにぐらいこんかい! というミサトさんからのお叱りのお電話で…それはもう、愛想が無いのだから態度くらい可愛げであれ、つまり見送りぐらい言われないでもしろと文句を言われながら目的地に向かうことになった。

 

 そして今、眠たげな顔で独立部隊ナントカベル……この際愚連隊でいいか、その愚連隊の戦艦にいるのである。

 

 ちなみに、本当はわしも出向するはずだったのだが、零戦が陥没したため、発掘作業が難航、理由は零戦の足先にえすナントカ機関が刺さっていてそれの回収作業も含まれていたからだ。殆どそれのせいで改修作業が出航まで間に合わず操縦者だけが行くのも何なので敢え無く見送られることとなった。

 

 これがホントの見送られたレイがお見送り、なんてな!!

 

「全然面白くないですから!! 何ですか、見送りの言葉がそれって!!」

 

 ヤベッ口に出していた。シンジ君の突っ込みで回想妄想を終えたわしは、ぶりっちの情景に驚いた。艦長のノア氏はわしを見てポカンと口を開けているわ、アムロ君なんかは口元に手を添えて笑っている。ミサトさんは顔に手を当てて項垂れているわ、赤木さんは若干口元を痙攣させている。ただ、坊やだけがさんぐらすで表情を隠していて分からない。が、視線はきっちりわしに向かっていた。

 

(ここは、話を戻す意味で……)

「驚いていただけましたか?」

 

 わしがそう言えば、若干思ったこととは違うが概ね合っているので良しとしよう。ノア氏は瞬きを繰り返して頷いた。良し来た!

 

「……驚いてくれました」

 

 ミサトさんたちの方を向いて言えば、赤木さんは目に見えて青筋を額に浮かべた。

 

「レイ、私たちはパイロットの年齢で驚かせようと思ったわけで、そんなダジャレで驚かそうとは思ってないわよ」

 

 ミサトさんが可哀想な者を見るような目で見ながら諭してきた。そこを尽かさず赤木さんが指摘する。

 

「何を言っているの、葛城三佐、そもそも驚かそうとは思ってないわよ、相手が勝手に驚くだけ。今回はこちらの部隊に小学生やら妖精やらがいるから驚かなかっただけでね。言葉は正確に伝えなさい。私まで馬鹿に思われてしまうわ」

 

 酷い言われようだ。可哀想にミサトさん。同僚と上手くいっていないらしい。ここは慰めなければ。

 

 わしはミサトさんの肩に手を当てて口を開いた。

 

(ミサトさんは馬鹿なわけが無いさ)

「ミサトは馬鹿……」

 

 ですよね、そうなりますよね、これで何度目だ、わし!! 取り敢えずミサトさん、わしにちょーくすりーぱーは止めて、息が吸えないから、死んじゃうから!!

 

「ミサトさん!! レイさんの無表情が土色になってきてますから!!」

「葛城三佐、ブリッチでの殺生は勘弁願い無いだろうか、気持ちは分かるが」

 

 シンジ君とノア氏の計らいでなんとか死を免れた。危うかった、岸辺で若かりし日々の妻が手を振っていた。あれは、帰れ帰れと言っていた様な気がする。しかし、帰る場所は零戦になるのだろうか。

 

「中々の意味でエヴァパイロットは驚かせてくれる」

 

 渋い声で坊やが呟いた。そこ、わしの耳にははっきり笑い声が聞こえているからな、馬鹿にしているのは何となく分かるぞ。

 

 結局、見送りはグダグダの雰囲気で終わりを告げた。

 

 空を翔る戦艦を遠めで見ながら、わしは残り一週間の謹慎を楽しむため、帰りにビデオ屋に寄ろうと心躍らせながら走り出した。ところが、最初の一歩を踏み出した直後、どこに隠れていたのやら、何人もの諜報部の人に囲まれるという事態に陥り、捕らえられた宇宙人宜しく両脇を抱えられ、司令室に強制連行されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド碇シンジ+

 

 

 出航したアーガマのブリーフィングルームで僕は同乗のパイロットたちに色々な質問を受けていた。

 

 まずはあの鉄の城と呼ばれるマジンガーZのパイロット兜甲児にエヴァとは何か聞かれた。それに知らないと答えれば、今度はコンバトラーVのメインパイロットの葵豹馬に使徒とは何か聞かれた。それについても分からないと答えていたら、次から次に質問が来る。それにどう答えていいか分からず黙っていたらゲッターロボパイロット流竜馬に庇われる形で質問攻めを止めてくれた。

 

こういった押しが強い人たちは苦手だ………と、レイさんに会うまでなら思っていただろう。残念ながらこの人たちより個性的なあの人がいたおかげで苦手意識はなくなっていた。

 

 レイさんと出会えばそんなものはゴミ箱に捨てた方がいいと思うだろう。たちの悪いことにそれを僕は感謝しているところだろうか……というのは羞恥で思った言い訳だ。本当にレイさんと会えて良かったと思う。僕にとってレイさんは頼りになるオッサンぽい姉で、手の掛かる妹のようなオッサンと言ったところだろう。

 

 あれ、結局レイさんはオッサンなのか? 

 

あの顔で中身オッサンとは何故だか勿体無い気がするが、僕はそっちの方が断然好きだ。当然肉親的な意味で。レイさん、奥さんいるらしいからそういったものは抱いたところでって話だし。

 

「シンジ君、質問攻めを止めて何だが、一つだけ聞かせて欲しいことがあるんだが?」

 

 そんなことを考えていたら竜馬さんがばつの悪そうな顔で聞いてきた。僕はそれを自然な笑みで了承する。こう言ったところが出来るようになったのもレイさんのおかげだ。

 

「先ほど、一人の女の子が奇声を上げてアーガマから降りていったんだが、彼女はもしかして、この間零号機に乗っていたパイロットではないだろうか?」

 

 はい? 奇声を上げた女の子って。

 

「あ、それ俺も聞いた。なんか、一週間休みだ、やっほぉぉいって叫んでいたかな。可愛いのにちょっと残念な感じだったよ」

 

 そう言ったのはダンクーガサブパイロットの式部雅人さんだ。

 

「え、僕が聞いたのは違う叫び声でしたよ。確か、アニメ三昧ばんざぁぁぁいって叫んでいました」

 

 考えるようなそぶりで告げたのはジャイアントロボ操縦者、草間大作君だ。

 

「ちげえ、ちげえ、俺が聞いたのは衝撃的だぜ、あの子、ロボダインエース全作が待っているぅぅぅぅぅって叫んでいたんだよ。若干叫び声が和訳訛りで聞きづらかったけど、あれは絶対ロボダイエースだった。すげぇよ、あのマイナーロボットアニメを知っているなんて俺の師匠になってもらいたいぜ。そもそも、ロボダイエースっていうのは、第二新東京テレビ、通称テレ新東の深夜二時代にやっていた、不朽の名作ロボダインのリメイク作品で、ロボダイの機体見直しで更にかっこよくなったのにも関わらず、視聴率が悪くて三十六話で打ち切りになったんだ、しかし、しかしだ!! その後、テレ新東にロボダインファンの抗議の電話があり、急遽、深夜三時代に続きが再開されたんだが、お知らせも何も無くて更に視聴率は悪くなるいっぽう、その理由がファンすらにも知られず殆ど見ていなかったという逸話がありながらもそれを全作持っているなんて凄すぎる。何が凄いって未だにDVD化されてないって事なんだよ、分かるか、シンジ! お前と同じパイロットの名前は?」

「あ、綾波レイです」

「そうか、レイ師匠か、師匠は何時ごろこちらに来られるんだ?」

「く、詳しくは分かりませんが、零号機改修が終わり次第です」

「そうか、そうか、ちゃんと出迎えなければいけないな。師匠の好きな食べ物とかはあるか?」

「…バナナですかね」

「クソッ今から、R-1に乗ってバナナを買ってこないとグバッ」

 

 先ほどから熱く語ってくれたのは、SRX計画のパイロット、ダテリュウセイさんだ。後半は何を言っているか理解できなかったが、今後ろから棒のようなもので後頭部を強打されたのは理解できた。ちなみに強打した本人は同じSRX計画のイングラム少佐だ。失神したリュウセイさんをイングラム少佐がさわやかな笑顔で引きずっていく姿を見て思わず心の中で手を合わせた。

 

 明日、会えますようにと。

 

 とにかく話を纏めるとレイさんは僕の見送りに来たにも関わらず、その後の予定を楽しみにしていたという事。あの時、ブリッチで解散して即効、走り出したところを見ているから僕よりアニメ三昧に大きく比重を置いていたという事。こんなところか。

 

「結局、あのパイロットとはどういう関係なんだ?」

 

 ニヤニヤした表情で豹馬さんが聞いてくる。だから僕は答えた。

 

「誰ですか、そのパイロットって?」

「いやだから、零号機の女の子で」

「零号機ってありましたっけ?」

「この間の戦いで…」

「目の錯覚じゃないですか。連戦が続くと錯覚まで見てしまうんですね」

「おい、それは俺を馬鹿にして」

「もう一度言います。零号機ってな・ん・で・す・か?」

 

 僕が出来る最高の笑顔でそう問えば、豹馬さんは怒りから一転青い顔して震え出す。

 

「俺、疲れてたんだな。ごめん、今のは忘れてくれ」

 

そう、ぼそりと呟いてブリーフィングルームから出て行った。その後を甲児が追いかけてお前は悪くない、皆、戦争が悪いんだと語りかけながら一緒に出ていく。

 

 僕は笑顔のまま、他のメンバーに視線を合わせれば、皆一様にして視線を明後日の方向に向けて僕の前から去っていった。最後にこのメンバーの良心だと思う、竜馬さんが僕の肩を叩き憐れみの目で見て、

 

「今度合流する時に俺からも言っておこう、不謹慎な発言は慎むように。少なくとも声には出さない方が良いとね」

 

 そう言った。僕は笑顔から一転、泣きそうな表情を浮かべて頷いたのだった。

 

 

 

 

 つまりは。

 

 

 

 レイさんの薄情者ぉぉぉぉ。

 




司「さて、このシンジ君は原作のシンジ君とは掛け離れた存在になっていくことになるのですが、それはまた別のお話でお届けしたいと思います。お時間が来ました、次回は原作から外れた綾波レイの今後にスポットを当てたいと思います、ゲストのゲンドウさん、ありがとうございました」
ゲ「問題ない」
司「それしか言えねぇのかよ!!」
ゲ「いまだ、原作の乖離は序盤、次回もお楽しみにしていたただければ幸いです」
司「それは私の台詞だよ!!」
ゲ「問題ない」
司「今あんたをぶっ飛ばしたい気分だ」



                             冗談です。


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第二話

 尋問という名の化かしあい。


 作者はゲンドウもコウゾウ氏も好きです(笑


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

「ひっくしょぉぉん!!」

 

 盛大なくしゃみをかましたわしは今、ゲンドウさんの住処と噂されている、司令室で説明という名の尋問を受けている。横には通い妻ならぬ、通い副司令のコウゾウ氏が後ろで手を組んで立っていた、これも定位置だ。

 

「やはり、赤木博士の報告は正しかったようだな、碇」

「ああ、目の前にいるレイの魂はリリスではない」

 

 オッサン臭いくしゃみが理由ではなく、彼らは既に当りを付けていたと言う事か。では、こちらも死に物狂いで答えるとしよう。そうでなければ、後ろに控える諜報部の誰がしらがわしを始末するのだろうからな。

 

「お前は何者だ」

 

 ゲンドウが率直に質問してきた。

 

「元老人だよ、碇ゲンドウ、並びに冬月コウゾウ氏」

 

 わしが答えれば、コウゾウ氏は目を細め、ゲンドウは僅かに眉を顰めた。

 

「何故、冬月には敬称を付けて私は付けない」

「格の違いとだけ言っておこう」

 

 そう言った直後、コウゾウ氏は僅かに笑みを浮かべ、それをゲンドウに見られ、わざとらしくて咳払いしていた。当然の岐路だろうが。

 

「貴様の言葉を語れば、どうして老人がその体にいる?」

 

 どうやらあちらも呼び名を変えてきたようだ。根に持っている証拠だな。

 

「それこそ、わしが知りたいものだ。わしは確かにお迎えが来ていたはずなんだが、どういう訳かピチピチの十四歳の体で再始動だ」

 

 この世界に来る理由は知っているが言うつもりなど一切無い。動揺すら顔に出さないのだ、この無表情に感謝する。時折、相手を怖がらせることもあるがな!!

 

「不明瞭なことが多すぎる。ここはこのまま様子を見たらどうだ、碇」

 

 コウゾウ氏がそのような案を出してきた。言葉の意味もそのままにきっと、わしに格の違いも見せ付けるつもりだろう。流石、コウゾウ氏。その無駄に決めた髪形が素敵です。

 

「だが、計画が狂えば戻すのに苦労することになる」

「今のところ、スケジュール通り来ている。計画が修正出来る範囲内に泳がせ、決定打を浴びせられそうになったその時に処分すればいい」

 

 眼前で手を組んで深い思考に入るゲンドウ。その隙にコウゾウ氏はチラチラとわしを見てくる。わしは親指を立て、深く頷いた。格の違い見せてもらいましたという言葉を心の中で唱えながら。

 

コウゾウ氏が満足げに頷いた直後、ゲンドウは顔を上げた。答えが出たようだ。

 

「良いだろう、貴様が何者でも構わない。我々は使徒さえ倒せればそれで良いのだ。但し、貴様が不明慮な行動を取れば処分する。無論、貴様に再びお迎えが来るという意味だ」

 

 たかが四十過ぎの若造が言ってくれる。そうは思ったが、口には出さず頷くだけに留めた。今は波風を立てている状況ではない。使徒は今後もやって来るのだ。それをシンジ君や今後来るであろう、アスカちゃんだけに任せていてはわしの名折れだ。老骨心に鞭打ってでも戦いに望もう。それがきっとこの世界に来たわしの使命なのだから。

 

 双方納得して話し合いという名の尋問が終わりを告げるまさにその時、基地が一定感覚で揺れだした。同時に司令室の電話が鳴り響く。

 

 ゲンドウは受話器を取って話を聞くと急に立ち上がり、そしてわしの方に鋭い視線を遣した。

 

「今、零号機が勝手に始動して基地を破壊している。これはお前の指示か?」

 

 元妻よ、こちらが穏便に終わらせようと我慢していたのにお前が台無しにするのか。

 

「そう言った機能が、エバには搭載されているのか?」

「質問しているのは私だ」

「だから言っているだろう。機能が無いのなら零戦自身が行動しているということだ」

 

 わしがそう言えば、ゲンドウとコウゾウは目を見開いた。

 

「ありえん、あれには魂が備わっていないはずだ」

 

 コウゾウ氏の言葉にゲンドウは思考を再開、しかし今度はすぐに戻り、驚愕した。

 

「まさか……本来の魂リリス」

「ばかな、あれに個を認識する意識は無い、あれはすべてが全であり、使徒以外のすべてが個のはずだ……いや、それならば第五使徒を倒した零号機の力、老人とのシンクロ率が急激な変動を起こしたのも辻褄が合うのか?」

 

 あれは密かにリリスを模して造られた最初の初号機だ、などと口々に暴露していく二人を見ながらもう少し泳がすかなどと考えていれば、基地を揺らす振動は更に大きくなっていく。どうやら、時間切れのようだ。元妻は一度悪乗りすればとことんまで行ってしまう、わしが死んだらきっと元妻はこの施設を枕に三回目の衝撃を起こして共に消える選択をしてしまうはずだ。それを嬉しいと思っているわしはどこか可笑しいのかも知れんな。

 

「考えているところ悪いが、このままでは基地が崩壊してしまう。わしの声を零戦がいるところに繋げてもらえないか?」

 

 基地が壊れるのは困るのだろう、渋々ゲンドウは端末を操作した。操作し終えると目線で促した。

 

「リリス、わしは無事だ。わしのことを気に入ってくれているのは良いが物に当たるのはよくないぞ。どうか静まってくれ、彼らもわしを殺そうとはこれで思えないだろう」

 

 騒音と振動がピタッと止まった。さすが、元妻。引き際を心得ている。わしは視線をこの部屋にいるすべての人間に向けて動かした。皆、一様にして怯えた表情でわしを見る。ゲンドウやコウゾウ氏ですら、苦渋に満ちた表情を浮かべていた。

 

「なに、わしが死んだら三回目の衝撃が起こるだけだ。わしは死なんよ、子供たちが戦っているんだ、わしは大人として子供たちを守る義務がある。それは碇ゲンドウ、お前の息子も入っているよ」

「………」

「あの子は良い子だよ、わしはあの子やこれから来る子、そしてあの部隊で戦う子供を守る盾になりたいと思っているんだ、そしてリリスはそんなわしを応援してくれている」

 

 元妻の話はしない。余計混乱させるだけだからな。今はただ、エバの本来の役目を全うすることを伝えられれば良い。この先、戦いは益々佳境に向かっていくだろう、これがあのゲームと同じ世界ならあれが迫ってきているはずだ。

 

「特に、宇宙怪獣は倒させばならない」

「貴様、STMCまで知っているのか」

 

 今日はよくよく珍しい表情を見せてくれる、ゲンドウとコウゾウ氏は口をあんぐり開けて驚いていた。

 

「リリスが教えてくれたよ、あれはこの宇宙の掃除屋らしいな。差し詰め、わしらは宇宙に漂うゴミといったところか。だが、我々は意思あるゴミだ、反抗も殲滅も可能だろう?」

 

 すべてはリリス頼み、リリスは何でも知っている。そういう態でこれから行こうと思う。ゲームなんですとは言えない。

 

「あなた方の望みが何なのかは知らない。しかし、今はまだ交わりの時、少なくとも共闘は出来る筈だ。そして何時か、互いに決別をしなければならなくなった時は……」

 

 ゲンドウとコウゾウ氏が息を呑む。

 

 さあ、最後の仕上げだ。持ってくれよ、わしの死に物狂い。

 

「その髭を毟り取る」

「貴様!! 私のアイデンティティーを奪うというのか、なんと非道な!!」

 

 駄目でした、持ちませんでしたとも。あれはふらぐというやつか。ふふ、理解できるぞ。孫に教えて貰って良かった。

 

 双方、話し合いは一応共闘という形で幕を閉じた。こちらにリリスがある限り彼らも手が出せない、かといって彼らがそのまま、指を咥えて見ているだけとも限らない。そんな相手なら、ねるふの指令になってなどいないはずだ。

 

 故に一応という言葉を付けることにする。今後、わしと零戦がどういう立場になってくるかは神のみぞ知るといったところであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても、碇親子は突っ込み属性という奴なのだろうか。

 




 一人、ネルフ本部に残った今はレイの元おじいは零戦改修作業を見学する事になった。そこで知る驚愕の真実、元おじいは表情筋総動員して笑みを形作りこう言った「おめどう」と。



 次回、同志心重ねて



 次の話もサービス、サービス…出来たらいいなぁ。


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第三話

 合言葉はロボダインエース!!



               始まります。


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 

 地下基地を崩壊に導きそうになった、元おじい今はレイです。実際行ったのは元妻、今はリリスですがね。

 

 さて、先ごろ完了寸前の改修作業中に暴れ出し、すべてを水の泡にしてくれた零戦は今目元に大量の隈をこさえた整備班と開発班が死に物狂いで作業を行っている状態だ。時折、独り言のように碇指令死ねと呟く姿がちらほらと見えているのを見ない振りしてわしは作業風景を眺めている。

 

 あの後、コウゾウ氏から零戦が暴れないよう監視して欲しいと懇願され、アニメ三昧を泣く泣く諦めてここにいるのだが、あれがゲンドウの命令だったら即効で帰路についていただろう。ゲンドウはそれを理解していたのか黙っていた。意外と人の見る目はあるらしい。

 

 わしは何気なくそこにあった改修案の資料を眺めた。

 

(なるほど、横文字ばっかりだが、何となく把握できた。装甲は青だということは、アニメの零戦改になるのはこの時か……せっかく一つ目なのだから角をつければあの、ろぼっとになるのに)

「一つ目…角…」

 

「君はザクが好きなのかな?」

 

 いきなり声を掛けられてわしは資料から視線を上げた。そこには開発班の主任らしき人がわしの言葉を聞いて問いかけてきたようだ。

 

 わしが思っていたことと若干違うが、あのアニメも好きなので頷けば主任は隈越しに目を細めた。

 

「俺も好きだ。あの一年戦争時、俺は理数系の学生だったんだがテレビでザクを見たことで小さい頃の夢を思い出してね、この道に行こうと決めたんだ」

 

 主任は過去を振り返るかのように空虚を眺めていた。旗から見たら、大量の隈と青白い顔が相まって少し頭の螺子が外れたような人に見える。

 

(小さい頃の夢か、どうな、夢だったのか)

「どんな夢」

「君みたいな少女には分からないだろうが、深夜にやっていたあるロボットアニメがあってね。それを見ていた同志は皆パイロットになりたいなどと思っていたようだが俺はその時、ロボットを作りたいと思ったんだ。そして実際動くザクを見てその頃の夢を思い出して今はここの主任をしているというわけさ」

「ろぼだいんえーす」

 

 わしが見るはずだったアニメを無意識に口にしたとき、主任は物凄い形相でわしの肩を掴んできた。

 

「君は!! かのロボットアニメ、ロボダイエースを知っているのかい!?」

 

 わしは揺さぶられながらもコクリと頷けば、その場にいた整備班と開発班の大人が口々に凄いだの、こんな少女がなど、ここにも同志がなど、言いながらわしをキラキラとした眼差しで見つめてきた。

 

「そんな、こんな近くに我々の同志がいたなんて我々の眼はどこまで節穴だったのか。それなら、君が言うモノアイと角とは試作型ロボダイのことなんだね!?」

 

 言って、主任がきらりと目を光らせた。わしもそれに習い、きらりと目を光らせて頷いた。

 

 そう、わしはこの零戦をこの世界に来て始めて見たアニメ、ろぼだいんえーすの試作型に似ていると思ったのだ。後継機は主人公が乗る二つ目ろぼだいんなのだが、試作型は過去の回想にのみ登場する主人公の兄が乗っていた機体で一つ目と天にも昇る直角の角が特徴である。残念ながら敵との戦いで死亡していて過去編の数話しか出てこない。通は何故か試作型を好む傾向がある。それは何故か。

 

「あの生臭い戦いが好き」

 

 わしがそう言えば、流石同志よ!! と大人たちに高らかに称えられた。

 

「そうなのだよ、昨今派手な武器と派手な演出が流行となったロボットアニメにおいてロボダインは人間くさい戦闘描写を行うことで有名だ、特に試作型ロボダインはそれが如実に現れている。高性能ナイフで敵起動兵器の起動系部分を切断して機能停止に追い込んだり、十キロも離れた場所から静かに狙撃で動力部分を狙い粉砕する。一個大隊との戦いでは敵基地に自ら潜入、戦闘する場所を特定してその場所に地雷などを含めた兵器を設置して大規模な爆撃を行った。唯一の派手な演出はロボダインの動力として使われたエネルギー『テレカリュイレーヴィス』だろう、それでも超加速アクセラレーションを行うことが出来る事や、ロボダインの駆動系に使われた人口筋肉リゼリクションの活性を促し、機体の予測馬力を一瞬、十倍に引き上げられる程度だ。そして知らされる最終話付近にてお約束のロボダイの秘密。あれは暴論だという意見もあるが、結構結構。ロボットアニメは暴論と御都合主義で成り立つ素敵アニメでいいのだ!!」

 

 高らかに宣言した主任を囲いながら整備班と開発班が拍手を浴びせて口々におめでとうと祝福を上げる。最後にわしも、主任に視線を合わせ、僅かな微笑を添えて拍手しながら一言おめでとうと告げた。

 

 そしてそれは彼らの終わりを告げる一つの劇だった。

 

 

 ロボダインの父という名の作者にありがとう。

 

 

 ロボダインアニメの母という名の製作者にさようなら。

 

 

 そしてチルドレンという名のロボダインファンすべてに。

 

 

 おめでとう。

 

 

「五時間の休憩を与える。その可笑しな妄想を終えて戻って来い」

 

 

 改修状況の視察に来ていた、コウゾウ氏がそう命令を下せばその場にいた私とコウゾウ氏以外がその場に倒れて失神するかのように眠りに付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩が項をそうしたのか、その後の改修作業は物凄い速さで行われた。特に開発班の主任の意気込みは鬼気迫るものがある。曰く、我らは同志の乗るエバを改修しているのだと、生半可のものでは同志が喜ばない、後に開発されたエバすら超える最高の代物を我らが創り出すのだ。という意気込みを部下や整備班に宣下して過去の改修案を破棄、新たな改修案でもって作業に当たっていた。そんな彼らを見てコウゾウ氏は。

 

「手を抜かれるよりはましか」

 

 と、ぼそりと呟いて整備室を後にした。

 

 そして一週間という短期間で怒涛の作業効率を叩き出すことに成功、エバンゲリオン零戦改は日の目を見ることになった。

 

 それは本来、かのゲームではありえない話だった。それが行われてしまったのだ、ゲームの話もまた変わってしまうということもありえなくは無いのかもしれない。

 

 

 

 

 

 シンジ君を乗せた独立愚連隊が南あたりあ島で起きた謎のわーぷに巻き込まれ地球から行方不目になったとゲンドウから説明がなされた翌日、わしは全身タイツを纏い零戦改に乗って、ある火山活動が今も行われている山に来ていた。

 

『今回、葛城三佐に変わり、作戦の指揮を執ることになりました。宜しくお願いします』

 

 若い男性参謀がわしに通信を行ってきた。わしにそれは頷いて答える。

 

『先の南アタリア島に向かう道中にて第六使徒の撃破及び南アタリア島におけるEOTにて出現した第七使徒を出向中のエヴァ二機が撃破したことを確認、その後、司令部はこの火山に第八使徒が存在することを突き止めました。今回はそれの撃破です』

 

 その話を聞いて、これがもうゲームでもアニメでもない話なのだと理解するしかない。

 

「捕獲ではなく、撃破?」

 

 一応、確認の意味も込めて尋ねれば参謀が頷き口を開いた。

 

『残念ながら三十分ほど前に羽化を確認しました。よって、撃破です。この付近の住人は退去済み、戦闘が予想される場所には既に武器を多数配置していますので思いっきり暴れて下さい。仮に武装が終わろうとこの宙域に控える戦闘機により補給武器を投下しますのでご安心を』

 

 至れり尽くせりという奴か。

 

『そして最悪敗北してもこの場所ごとN2兵器で消滅させます』

 

 そこは原作と変わらないのか、ゲンドウもここにあるリリスよりも使徒撃破を優先するつもりなのだろう。その判断に間違いは無いとわしは思う。しかしだ、それはここ作戦を見届ける彼らも巻き添えにするということだ。それをわしはわしである限り認められない。偽善といわれようともわしの目と腕が届く場所のものを壊されるのは我慢ならない。

 

「その必要は無い……あなたたちは勝利の宴の算段を決めていれば良い」

 

『あなたの言葉は何故か、心強く感じます。我が同志よ、あなたの勝利を確信して勝利の宴でも考えるようにします』

 

 お前もか、ぶるーたす君。

 

『改修された零戦の初戦です。我ら同志に存分な戦いをお見せ下さい』

 

 そう、ここにはわしの戦いを見るために整備班と開発班の皆も来ているのだ。一応、整備や開発したものの確認などという名目を歌っているが実際は野次馬だ。そんな彼らに呆れはするものの無様な戦いは見せられないというもの。こちらの気合も上がってしまう。これが、ゲームなら気合を五回も掛けた状態だ。ちなみに同志たちはこの機体を零戦と呼ぶようになった。わしとしては嬉しい限りだ。

 

 わしらがそのような会話をしていると急増で作られた作戦本部に警報が鳴り響いた。

 

『敵第八使徒、火口付近まで浮上、このまま外に飛び出すようです。零戦は戦闘中域に移動して下さい……我らに勝利を、同志パイロット!!』

 

「行って来る同志作戦参謀……同志開発整備諸君に感謝を」

 

 若い参謀はろぼだいんえーすにおいて必ず一話に一作戦を立案する主人公の親友に憧れてこの職に付いたそうだ。故に作戦参謀同志と呼ばれるようになった。開発班や整備班の皆も同じように憧れる存在がいるらしい。

 

 

 

 

 

 わしは通信を終えると、感動する彼らの声を背後に感じて戦場へと走り出すのだった。

 




 ゲームには存在しなかった第八使徒の出現にネルフ本部は浮き足立つも、ロボダインエースの同志は揺るがない。何故ならロボダインは一度として戦場から逃げなかったからだ。


 次回 見知らぬエヴァ零号機改


 
 次の話もサービス、サービス…出来るかなぁ


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第四話

 始まります。


+サイドアウト+

 

 

 戦場は火山付近ということで民家などは殆ど無い地形であった。零号機改はその場に到着するとそこいら散らばる武器ボックスの中からパレットライフル左手に専用マグナムを取り出して装備した。

 

 その様はまるで試作型ロボダイのようだとモニターで見ていた同志は興奮の歓声を上げる。それもそのはず、本来特殊装甲の塗装は青のはずだったのにも関わらず、今は濃いダークグリーンに様変わり、両肩のウェポンラッグは過去案では縦に伸びるタイプであったが、試作型ロボダインのようにウイングのような形状のものが後ろに伸びていた。後ろに伸びたそこには使徒感知センサー付き誘導ミサイル弾二百五十発が搭載。両肩を合わせて五百発、搭乗者の意思一つで撃つ数を決められる。自爆の恐れをすべてATフィールドという盾に賭けた武装だ。ウイングは取り外し可能でその時応じて別のウイング、ニードル高速連射搭載型と交代可能という凡庸制も持ち合わせている。左腕には着脱可能な申し訳程度の盾が搭載されていた。これは一応ロボダインでは盾の役割を担っていたが役に立ったことは一度としてない。そこで零号機改では盾自体にプログレッシブナイフに使われる超振動発生装置を搭載、盾の表面上を振動させ物理的なものを粉砕して防御、盾を突き出して突撃すればそれだけで強力な武器となるように仕立て上げた。それだけでなく盾の裏側には特性合金で編みこまれたロープが巻かれており凡庸制も高い。当然、自動で巻き戻せるようになっている。足元に関して過去案では触れておらずそのままになるはずだったが、今回ロボダインの隠し武器をヒントに足元にも小型のウェポンラックを搭載することになった。見た目ロングブーツのような形状の中には本来肩に搭載するはずだったプログレッシブナイフを二本搭載、両足で四本、このプログレッシブナイフは開発部が無駄な中二根性で作り上げた新型で、二本の柄と柄の先端を合わせて上下両刃のプログレッシブ暗器になるのだ。足のウェポンラッグも着脱可能である。

 

 そして何より変わり果てたのが頭部の部分であった。モノアイは変わらずともその色は血のようなダークレッドの色に変えられ、目から下の部分を覆い隠す装甲と同じ色の仮面が装着された。

なにより、額の部分には直線状の角が取り付けられているのだ。これには完成された零号機改を見て開発班、整備班は興奮の一途を辿ったほどだ。初号機が神話で語られるユニコーンのような角ならば、零号機改はただ天を目指すという意思を思わせる角である。

 

 火口からマグマが噴出してその乗じて黒い幻影が飛び出した。そしてそれは上空を悠々と飛行し始めた。

 

 見た目は腕の付いたヒラメのような形状であるが、その皮膚はマグマでも平然と泳げることからとても強固であると予測される。

 

様子見の如く零号機改はパレットライフルを上空で飛行する使徒に撃ち込んだ。当然、相手のATフィールドで無駄玉になるが、使徒の標的が零号機に定められた。

 

速度を上げて突進してくる。零号機改はマグナムを撃つことで牽制しながら僅かな動作で突進を回避しながらライフルを容赦なく発射した。中和の範囲だったのかATフィールドを貫き、銃弾は使徒の皮膚に全弾着弾するも一ミリも傷を残すことはなかった。

 

『やはり、予想通り堅いですね。それに上空の飛行も厄介だ』

 

 参謀からの通信にレイは声を出さず頷いた。向こうも返答を求めていないのか淡々と告げる。

 

『戦闘開始から三分、N2爆雷投下まで三十分を切りました。本来パイロットにはこの事を告げてはならないよう命令されていたのですが、同志の心意気のため、伝えることにしました。余裕はないとは言え時間はまだあります、威力の高い射撃武器を選択して戦闘を行うようにしましょう』

 

 通信が切られ、レイは力強く操縦桿を握った。

 

 空のライフルとマグナムをその場に捨てて零号機は走り出す。それに追随するかのように使徒が低空飛行で追いかけてきた。付近の森に無造作に置かれていた武器ボックスを開けたところで後ろから使徒が迫ってきた。仕方なく武器を取るのを中断して左腕を横に構えて突き出して盾の機能を作動させた。振動により淡い光に包まれた盾の表面上に使徒の頭部が激突、ナイフで刺したときのような金きり音と火花が散る中、押し付けてくる力と押し出そうとする力の拮抗で地面が抉れて行く。押し合いが数十秒続いた頃、使徒は突撃を諦めたのか零号機の横を通り抜けて上空に飛翔した。だが、そこ見逃すレイではなかった。

 

「背後ががら空き」

 

 ボックスの中にある武器を取る格好で肩にあるウェポンラックを開いた。

 

「全弾発射」

 

 声と共に肩に詰まれたミサイルが轟音を上げて勢いよく飛び出した。そのミサイルは使徒が飛び去った斜線軸から若干ずれていたるにも関わらず、物凄い速度で対象を追いかけていった。

打ち終えたレイの元に通信が入る。

 

『MAGIのパターン解析による追撃プロトコルは正常に作動しているようですね。あのミサイルには予め予測されたパターンをプログラムされていますから対象以外に行くことはありません。ただし、敵はATフィールドを持っていますので着弾してもどのくらいの威力になるかは予測不能です』

 

「こちらも追撃を開始」

 

 通信を終えて零号機は武器ボックスからスナイパーライフルを取り出し構えた。ミサイルから逃げるように右往左往する使徒へ標準を合わせた。

 

「目標を真ん中に合わせて引き金を引く」

 

 撃ち出されたビームは使徒の寸前を通り過ぎ去った。

 

作戦本部にてモニターを眺めていた開発班と整備班は明らかな落胆の声を上げる。しかし、参謀の若い男は笑み浮かべ深く頷いた。

 

「流石です」

 

 モニターに映し出されていたのはビームを前方に打たれ飛行を止めた使徒にミサイル郡が飛び込んでいく様だった。落胆から一気に歓声が上がった。モニターでは数多のミサイル郡に晒された使徒に対してスナイパーライフルを無慈悲に撃ちながら次の武器ボックスに向かう零号機の姿が映し出され、作戦本部は更に盛り上がっていく。

 

「そのボックスにあるものがこの中で一番の威力ですよ」

 

 参謀が通信を入れると零号機は撃ちつくした銃を放り投げてボックスから先ごろ第五使徒に使われたポジトロンスナイパーライフルの部品を取り出して素早く組み立て構えた。残念ながらあの時の威力ほどではないが、それでも十分使徒に対して効果的だというMAGIのお墨付きだ。

 爆煙に包まれて見えない使徒など関係なしに撃ち出された極太のビームは対象に被弾、貫いたとばかりに光の筋が空に突き進む軌跡を描いた。

 

作戦本部でモニターを眺めていた参謀が息を飲む。両班の誰もが結果知りたいのか前のめりになるようにモニターを凝視していた。

 

 

 

 

 

直後、光の十字が空を満たすと作戦本部はこれ以上ないぐらいの歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦本部に戻ってきたレイを皆が祝福の言葉を持って迎えた。代表で若い参謀が口を開く。

 

「勝利の宴、私たちのポケットマネーで場所を貸し切りにしますか?」

 

 それに対して通信からレイの静かな口調が響き渡る。

 

『宴の会場は私の名義でねるふの会場を押さえて』

 

「それは構いませんが、どうしてネルフで行うのですか?」

 

『会場には大規模スクリーンを設置して欲しい』

 

 レイの要望に首を傾げた参謀は一応、両班に確認を求めた。すると、二つ返事で了承を得られ、それをレイに伝えた。

 

『勝利の宴に…頑張って零戦を創り作戦を立ててくれた皆さんにプレゼント』

 

「同志よ、何を頂けるのですか?」

 

『ろぼだいんえーす、りめいく版の全話と、ろぼだいん作者自らが声を出した幻の次回予告付き』

 

 通信からもたらされた答えに一瞬静けさが支配する作戦本部、次の瞬間、割れんばかりの喝采やら奇声やらが響き渡れば、それは使徒を倒したときとは比べ物にならないほどの凄さだった。

 

 こうして撤収作業は迅速の速さをもって終わらせ、使徒撃破の疲れなど何のそのという状態で会場入り、その日は夜通しロボダインエース主題歌『君の裏拳に恋を、あなたの延髄蹴りに愛を』が会場に流れていたという。余談だが、その会場には何故かゲンドウが生り物顔で居座って人知れず映像を見て涙を流していたという。どうやらこのネルフにはまだ見ぬ多くの同志がいるようだ。

 

 

 

 

 

 特務機関ネルフ、トップを含め、数多のロボダインエースファンが仕事をする職場の採用内容にはロボダインが深く関わっているのではないかという噂がこの先立つことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ><><><><><><><><

 

 

 

 

 ジオフロントの司令室にてゲンドウとコウゾウは将棋を指していた。

 

「やれやれ、死海文書に欠番と記されていた第八使徒が現れたとなると委員会やゼーレが黙ってはいないぞ」

「………」

「それに本部の初被害が、まさか身内から出るとは思わなかったな」

「………」

「お前、レイの祝勝会に行ったらしいな」

 

 ゲンドウが僅かに肩を震わせた。

 

「話は聞いているのか。将棋に熱が入りすぎて無視されているのかと思ったぞ」

「問題ない」

「それは将棋のことか、レイに関することか……王手角取り」

「くっ…問題……ない」

「泣きそうな声を出しても待ったは無しだ」

「…………グスッ」

「弱いな」

 

 将棋も精神も、とまでは泣きそうな、元教え子泥棒には言えなかった。武士の情けである。仕方なくコウゾウは新品のハンカチを差し出して落ち着かせ、将棋は止めることにした。

 

 落ち着きを見せたゲンドウは先ほどの弱弱しい態度とは打って変わって椅子に座って何時ものスタイルを決め込む。何時も見ているはずのその姿に何故かコウゾウはイラッときた。語ろうとしているゲンドウを見て、そのスタイルでなければ真面目に話も出来んのかという気持ちだ。

 

「今冥王星にいるあの男から、あれが送られてくれば計画など何時でも修復出来る」

「なるほど、黒き月の民の祖には白き月の民の祖というわけか」

「あれは我々の希望であり、何者にも勝る武器となる代物だ」

「ゼーレ、BF団。あの独立部隊も、か。しかし、あの部隊はこの世界の命運を司る担い手だ。敵にするのは厄介だぞ」

「問題ない。零号機にリリスの魂があるのが分かったのだ。レイの出向を特務機関権限で解除させる」

「これ以上、彼らに切り札を預けない為か?」

「………」

「まさか、最近この職場で頻繁に聞く同志うんぬんを手元に置いておきたいとか抜かすんじゃないだろうな?」

「………」

「そう言えば、うちにいる整備班や開発班の連中は今出向中のメンバーよりも質の高い奴らばかりだったはずだ。何故、初号機のために出向させなかった?」

「………グスッ」

「お前、素直すぎるし、何よりメンタルが弱すぎだ。息子の方がまだ強いぞ」

「グスッ…私は…いい父親じゃ…ないから…問題…無い」

「レイの変わりようは納得できたが、お前の変わりようもまさか中身が違うからとか抜かすなよ」

「ユイ……人が怖い、助けて、愛している」

「ああ、昔から焦ると彼女に助けを求めるところは変わらないな、お前は」

 

 

 こうして司令室では毒舌を吐きまくるダンディーと妻に助けを求めるマダオという光景がこれから三時間も続くのだが幸いにそれを見たものはいなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 仮に見られていたとしても諜報部によって消される事だろう。

 




 元おじいの存在が世界に小さな波紋を残す。そしてそれは更なる混迷を迎えることになる。




 次回タイトル 原作のかたち 剥離のかたち


 次の回もサービス、サービス……石とか投げられるかも。




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原作のかたち 剥離のかたち

 オリジナル展開極める話が始まります。


 長いです


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 ゲームでは出てこない第八使徒を倒して一週間、わしの周りでは割と平穏が流れていた。時折、諜報部の役人が視界に映ってくるものの日常の一部にしてしまえば気にならなくなった。さて、割と平穏という言葉を使ったのはわしにとってはある問題が浮上したからだ。それは学校生活において発生した。

 

 一週間前、学校で普通に午前の授業を受けて、さあ楽しい昼飯を取ろうかと弁当を取り出せば教師から一枚の用紙を渡されたのだ。

 

 そこには修学旅行、おーぶ一週間の旅と書かれていたのだ。当然わしはエバ操縦者なので行けないと思って不参加にしたのだが、なんとゲンドウから、おーぶに行って実情をレポートして来いといわれたのだ。当然、諜報部に見張りはさせるが、と不敵な笑みで言われたときは正直殴ってやろうかと思ったものだ。

 

 そんなことで給料を貰っている身のわしは命令に逆らえることも無く急遽旅支度をしてねるふより支給された渡航用アイデーを貰ったのが出発の三日前、つまり今わしがいる場所は観光地おーぶなのである。ちなみに最初の二日は団体行動で観光地のはうめあ火山や庁舎などの見学を行い、今は三日目の自由行動中だ。面子はトウジ君とケンスケ君、本当は委員長も入るはずだったのだが、別の仲が良い女の子に誘われどうしても断れず回る事になったらしい。わしは誘われなかったから誘った女の子はわしのことが苦手なのだろう。わしは普段、ぼっちというやつなのかもしれないと感じていたから余計悲しくなった。

 

 ああ、そうだとも、さっきは強がりで面子といったが、元々一人席で呆然としていた、各々が仲の良いグループを作り出して内心焦っていたわしを見兼ねてトウジ君とケンスケ君と委員長が誘ってくれたのだ。

 

 ケンスケ君がわしに買ってきてくれた、とろぴかるな飲み物を飲んでいるとトウジ君はカメラ片手にため息を吐いた。

 

「それにしてもこのオーブっちゅうところは不思議なところやな、そない大きな島や無しここまで豪勢な町並みっちゅうのはある意味凄いで」

 

 街中の商店を眺めながら言った。それを聞いてケンスケ君が眼鏡を光らせる。

 

「当然だよ、ここはオーブ本島、五大氏族が納める土地だからね。このオーブが発展したのは今も活動中の火山による地熱発電でエネルギー問題をある程度解決、このご時勢エネルギー問題は政治資金を食う化け物だから」

 

 わしは飲みながら鼻高々に語るケンスケ君を眺めていた。チラチラと映る諜報部員は無視だ。というか、もう少し分かりにくくして欲しい。格好が私服になっただけで雰囲気がカタギに見えないぞ。

 

「それに……」

 

 ケンスケ君は小さな声で言いながらわしたちを手招きする。近づいたわしらに視線を合わせ、次いで周りに視線を動かして戻ってくると口を開いた。

 

「オーブはその豊富な資金で独自の軍事技術を開拓しているという噂だよ。下手すれば、今のジオン並みの技術力があるらしい」

 

 ほう、それは良いことを聞いた。もしかしたらゲンドウはその当りを探って来いと言ってきたのかもしれない。だが、中身老人とは言え、見た目少女にさせるようなことではないだろう。

 

「ほんなら、モビルスーツっちゅうやつがこの島にはあるんかい」

 

 トウジ君はそんな事を述べながら町並みを見渡す。残念だが、存在していたとしても、こんな街中には無いと思うぞ。それに今のご時勢では難しい。

 

「資源がない」

 

 わしがそう言えば、トウジ君は珍しそうな目でわしを見て、ケンスケ君はキラキラした眼差しで見つめてくる。

 

「凄いね、綾波。そう、残念ながらこの島には資源が無いんだ。殆どのものが輸入で賄っている状況、そして…」

「今は戦争時…機体を作り出せるほどの資源は…確保できない。ここは表だから」

「うん、うん、そうだね。補足するならこのオーブは表向き内外に戦争を持ち込まないという理念があるんだ。そんな国が堂々と資源を確保する事は出来ないさ、言ってる事と逆だから世論が許さない。かといって裏で手を回していても戦時下では表向きになりやすいからそれもままならない」

「何でばれるんや?」

 

 トウジ君にとっては当然の質問だ。わしが言っても良いがこの口は時に強暴だから、ここはケンスケ君に任せよう。

 

「何処の軍も資源を欲しがるからさ、そうなれば数が減る。けど、戦争は続いているから減った中からまた争奪戦が起きる。そこに名無しの横槍が入れば各国や軍がそれを調べるに決まっているよ。どんなに強固な隠蔽を行っても火の無いところに煙は立たず、ほんの少しの証拠が残ってしまったら、あっという間に表沙汰だ。それじゃリスクが高すぎる。じゃあ、何時が良いのか、簡単だよ、戦争終結寸前が一番良いんだ」

「何でや?」

「武器を放棄するからさ。そうなれば小規模な戦争商人やジャンク屋は戦争が終わってから何年後かには食っていけなくなる。そこに不明瞭な依頼があった場合どうする?」

「なるほど、食っていくために売るんやな」

「小規模なら表沙汰になりにくいというのも大きいかな。大企業となると何十年か先を見据えて証拠を残しておくらしいし。甘い汁は一生吸いたいものだろう?」

 

 そう、終結寸前がミソなのだ。終結してしまえば次の戦火に備えて大国は秘密裏に買い漁るだろう。戦争で数が少なくなった資源自体をいくら豊富な資金を持ち合わせたといえ、おーぶは小国に属する。大国には残念ながら勝てないだろう。

 

 

「へえ、学生の身分で面白い事を言うな」

 

 

 わしたちに向けられた第三者の声が聞こえ、驚きを見せるトウジ君とケンスケ君に平時無表情のわしは声の方向に視線を向けた。

 

 そこにいたのはこのおーぶの住民だろうか、極めて簡素な格好をしたわしらより一つか、二つ上の金髪の少女がわしらを見て笑っていた。ただ、目は笑っていない様子から彼女は僅かに怒っているようだが。

 

「お前ら、格好から修学旅行だろ、どこだ?」

 

 少女はわしらの制服を見てそう問いかけた。そうなのだ、わしら制服を着なければならない決まり。これには国の情勢や今の戦時下に置いて身分を分かりやすくするための処置でそうするよう決まったのだ。この国に来るときも戦闘機が護衛と称してついてきたほどである。ただ、小国とされる日本は人類戦争には関わっていないのでジオンなどの標的になりにくいからこそ、修学旅行を遂行できたとも言える。しかし、今後の情勢が不明慮なので、行ける内に行っとこうという精神でわしらは中学一年で修学旅行に行く事になったのだ。

 

「なんや、きさん! いきなり現れやがってからに、なんでわいらがきさんにそないなこと言わなあかんねん!!」

「ちっ、それは何語だよ。所々、ジャポン訛りがあるからジャポンだと思ったんだが、違うのか」

「トウジは少し黙って、彼女ちょっとやばいよ」

 

 ケンスケ君が少女とは別の場所に視線を合わせながらトウジ君を小声で嗜める。わしはケンスケ君が見ている先を不自然にならないように見据えた。

 

 そこにはわしに付いていた諜報部員のような堅気とは思えない男たちが目の前にいる金髪の少女を見守るかのように立っていた。素人のケンスケ君に知られてしまうようでは彼らの技量が無いのか、それともわしらに下手な事をさせないためにわざと分かりやすくしているのか判断がつきかねる。

 

 わしはトウジ君とケンスケ君を庇うように前に出て少女と対峙した。後ろから心配する声が掛かるもそれを無視する。彼らはぼっちのわしに声を掛けてくれるほど優しい子だ、楽しい修学旅行がこの少女にぶち壊されるのはしのびない。

 

「日本で正解」

「お、今度は笑わないお前が答えるのか? そうか、やっぱりジャポンか」

 

 この話し方、所々高圧的な態度に出る感じが前世の記憶に引っかかる。こう言った話し方をしたのは誰だったか……。

 

「日本語上手い」

「まあな、語学は一通り習ったからな」

「大変だったでしょう?」

「仕方ない、覚えろと煩かったからな」

 

 思い出した、元妻の兄がわしに対してこんな感じで高圧的だった。可愛がっていた妹貰い受ける立場だったから仕方ないと思っていたが、後々考えれば良家を継ぐ立場だからこそ、だったのだろう。つまりこのお嬢さんもそういった立場にあるのかもしれない。

 

 そしてそれはつまり。

 

「五大氏族は大変」

「お前も分かってくれるのか! そうなんだ!! アスハを継ぐ身とし…て…え?」

 

 驚愕の表情でわしを見てくる、アスハ氏。後ろの彼らも同様の表情を浮かべているだろう。相手の意表を付いてやった形だが、わしは選択を間違えた。アスハ氏の後方に控える多分、彼女を守る衛士がゾロゾロと現れてアスハ氏を囲うように立ちはだかった。

 

 これはトウジ君もケンスケ君も悲鳴を上げて縮こまる。しかし、今ならこちらが素直な態度を取ればお咎めはなしだろうと踏んだ、わしが馬鹿だった。わしという存在はわしが思うよりねるふには重いらしい。

 

 今度はわしに付いていた諜報部員が数人かがわしたちを囲うように現れたのだ。わしが把握していた人数より多いのに腹が立つ。わしに見せていた諜報員は残りを隠すための囮だったのだ。

 

「何故、出てきた?」

 

 内心の怒りを抑えて問えば彼らは衛士を見据えながら答えた。

 

「あなたを守るのが我々の最優先命令です」

「ここは街中」

「それは向こうも同じです」

「穏便に済ませたかった」

「これから交渉すれば良いのです、すべては我々が行いますのでご安心を」

 

 なるほど、向こうも痛い腹を探らせたくは無いのだと暗に告げているのか。ねるふ諜報員はわしが思っているより優秀だ。

 

「アスハ氏」

 

 直情型の性格をしているのだろう、この緊迫感など気にもせず、衛士に何で出てきたと怒鳴りつけているアスハ氏に声を掛ければ、ようやくことの状況に気づいたのか顔を引きつらせてわしを見た。

 

「ここは人が多い。会談場所の変更を」

「え? あ、うん」

 

 意外と素直に了承してきたので、こちらも内心で驚く。高圧的な態度を取りながらも素直な部分を持ち合わせているこの子は果たして政治家になった時、どうなるものやら、などと本人に告げたら怒りそうな事を考えていると、衛士が道を開けて促されながら入ってくる褐色の肌の男性が声を掛けてきた。

 

「その必要はありません。お互いここであった事は忘れましょう」

「おい、キサカ!! どういう意味だ!!」

 

 キサカと呼ばれた男は私とアスハ氏の間に立ってそう言った。アスハ氏にはそのような考えは無いらしいが。

 

「別に構わない」

 

 こちらとしてもその言葉は渡りに船というもの。わしは別にして後ろで事の成り行きを見守っている二人は組織とは関係ない唯の学生なのだ。

 

「こちらは構うぞ!! どうして一学生にこんなにも物騒な連中が付いているんだ!!」

「お嬢様……落ち着いて下さい」

「オーブに何かあったらどうするんだ!! ここは拘束してでも…」

 

 その言葉は駄目だ。懐に手を入れて構える諜報部にわしは口を開く。

 

「止まりなさい。あなたたちが行動を起こしたら余計に身動きが取れなくなる」

「おい、お前はどうしてそんなに落ち着いていられるんだ!! さっきもオーブが武装しているとか、根も葉もないことを言っていただろうが!!」

 

 アスハ氏は矛先をわしに向けてきたようだ。そして気づく、少女はそれで怒っていたのかと。少女はオーブ愛が強いらしい。

 

 どう答えようか考えあぐねていれば後ろで縮こまっていたケンスケ君とトウジ君が身を乗り出してくる。

 

「僕らは正真正銘日本の学生だよ! このぐらいの学生は妄想することが一種のステータスなんですから、一々それに目くじらをたてるのはどうかと思います!」

「そうやそうや、ホンマに何も無ければ堂々としてればええんとちゃうか?」

「おまえらぁ!! 言っていい事と悪い事ぐらいあるだろう!!」

 

 二人の言葉にアスハ氏の怒りが増す。わしは自身の言葉を紡ぐため、死に物狂いで言葉を吐き出す事にした。

 

「アスハ氏、これが現実です。自分も含めて彼らは所詮外国人なのですから、内政など分かるはずもない。知る機会などネットで流れる噂ぐらいです。そう、自分や彼らが話していたのは所詮噂という奴です。あなた方がそれに対して不快に思われたのでしたら素直に謝りましょう」

 

 言って、わしが視線を後ろの二人に向ければ、不満そうな表情を浮かべながらも彼らは謝罪を口にした。

 

「これ以上事を大きくするのはお互い無い腹を探る事になるだけですから水に流しませんか?」

 

 妥協して欲しいという言葉を含めて述べれば、アスハ氏は目を吊り上げてわしを威嚇しだした。

 

「それはそちらの方便だ!! お前たちには痛い腹があるから穏便に収めたいだけだろうが!!」

「お嬢様良い加減しなければお父上がお怒りになります」

「うるさい!! お父様は関係ない。むしろお父様の娘としてオーブを守っていかなければならないだろうが!!」

 

 ああ、彼女は自らの証明を自分の口から軽々しく告げていることに気づいていない。

 

「オーブ代表の娘としてご立派な考えです」

「な、今更煽てたって許さないぞ!!」

 

 やはり、気づいてくれない。何処まで素直な性格なんだ。けれど、そんな彼女がわしは嫌いじゃない。むしろ素直な子は元おじいとして好ましい。仕方ないか。

 

「分かりました、アスハ氏としては自分たちを一学生として見られないということでよいですね?」

「当然だ、そこにいる奴らは皆武器を所持しているだろ。この国で武器の不法所持は犯罪だ。そしてそんな彼らがお前たちを守るようにしていた。こんなの馬鹿でも分かる事だ!!」

 

 馬鹿でも分かるか、彼らが平然と武器をちらつかせる意味も理解して欲しかった。きっと、馬鹿でも分かるはずだ。

 

「良いでしょう、代表として自分が拘束されます。彼らは本当に一学生なので勘弁して欲しいのですが?」

 

 わしの言葉に自分たち側の連中が驚愕して口々に反対を述べてきた。

 

「駄目だ、ここにいる全員を拘束する」

「それは止めた方が良いでしょう。すぐにでも日本政府から正式な抗議文が届きますよ。これが表沙汰になって下手な噂が流れればおーぶの名声が地に落ちます。代表の娘が不当に拘束、現代表の支持率がどうなる事やら」

「それは……」

「ですが、自分は確かに学生としての身分だけでなくもう一つの身分もありますから拘束されても表沙汰にはなりません。こちらも都合が悪いですから」

 

 アスハが考え込む間にわしは自分たち側に説明する。

 

「穏便に済ますためだから口出し無用」

「しかし、何かあってからでは遅いのです。ここは表沙汰になってでも止めるべきかと」

「出来るだけ恨みを残しては駄目。ここには自分たちだけではなく他の学生がいる」

「我々の任務はあなたの監視及び、護衛で」

「司令に正式ではなく裏から手を回して出来るだけ穏便に済ませなさいと。出来なければ基地が崩壊するだろうと伝えなさい」

 

 脅迫染みたわしの言葉に怯えを滲ませた諜報員は頷くしかなかった。今度は不満顔の二人の方に向いた。

「トウジ君、ケンスケ君。自分のせいで申し訳ないことをした」

「な、綾波が謝ることないで!!」

「そうだよ、元々僕が変な話をしたから目をつけられたんだ」

「それでも、だ。自分がこの国に来た事自体騒動になりえる事だったんだよ。自分はあれの操縦者だからね」

 

 わしがそう言ってしまえば、彼らは口を紡ぐしかない。元を正せばそこに帰路するのは彼らも理解するだろう。

 

 しかし、トウジ君が口を開く。

 

「それでもや、綾波はワイらと同じ学生なんやで、少しぐらいの平穏があって罰は当たらんやろが」

「そう言ってくれるだけで嬉しいよ。だから、自分やシンジ君の分まで楽しんで欲しい。学生は勉学と遊びに全力を尽くすものだからね」

 

 トウジ君とケンスケ君はわしの言葉を聞くと苦笑を浮かべた。

 

「なんや、綾波はオッサンぽいねんな、知らんかったわ」

「普段一言二言なのに喋るとそんな感じなんてギャップ萌えでも狙っているのかい?」

 

 中身が老人だからですとは言えないので、苦笑を…浮かべたかった。死に物狂いでも表情までは配慮できないようだ。

 

 返答を待っているケンスケ君には悪いが、どうやらアスハ氏は選んだようだ。

 

「分かった。代表でお前を庁舎の方に拘束、学生二人は監視をつけるが自由にしていい。残りは抑留所に拘留だ」

「賢明な判断とだけ述べておきます」

 

 わしらの会話を聞いていた、キサカ氏は深いため息を吐くとアスハ氏に歩み寄る。

 

「こうなっては仕方がありません。彼らについては私が処理をしておきます。お嬢様は彼女を庁舎にお連れください。くれぐれも粗相の無いよう丁重におもてなしを」

「馬鹿を言え、こいつは容疑者だ、なぜ丁重に扱わねばならん」

「お嬢様は非人道的な対応をすることがオーブにおいて許せる行為なのですか?」

「うっ…分かったよ!! 人道的な対応を心得る!!」

 

 キサカ氏はアスハ氏の性格をよく知っているようだ。お嬢様のオーブ愛を巧みに利用している。けれど、それならば拘束自体を止めて欲しかった。

 

 

 

 アスハ氏により黒塗りの高級車に押し込められてその場を後にするのだった。

 




 本来なら行くはずがない修学旅行で、このときはまだ名前すら知らない二人の少女が出会う。これは何を意味するのか。
 そして、日本にようやく戻ってきた出向組はどうなったのか。

 次回 シンジ覚醒(笑)



 次もサービス、サービス……するのか?


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第二話

 始まります。


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 わしが拘束されたこの日、冥王星よりまくろすが帰還したそうだ。おーぶのテレビ局もこの話題を仕切に取り上げている。

 

 なぜ、拘束されているのにテレビが見られるのかといえば、人道的な対応なのか、綺麗に装飾が施された庁舎の一室で、これまた豪勢な椅子に座り、アスハ氏が入れてくれた、多分高級な紅茶を飲みながら、凄い薄型テレビでニュースを見ているからだ。当然、横にはアスハ氏が優雅に紅茶を飲んでいる。

 

 彼女は愛すべき馬鹿だとわしは思う。いくら人道的とはいえ、旗から見たらこれは招かれて楽しくお茶をする友達関係のようだ。

 

「マクロスか、異性人の船だって噂だが本当なのか?」

「今の人類にわーぷ技術は作れない」

「なんだと! あの船にはワープ技術が搭載されているのか!?」

「それの暴走で冥王星に行ったらしい」

「他者の技術を無闇に使うからそうなるんだな!」

「きっと、事情があったはず」

「外敵に襲われたとか?」

「多分」

「お前、詳しいんだな」

「アスハ氏よりは」

「おい、さっきからアスハ氏って言うけどな。それは氏名であって名前じゃないぞ! 私の名はカガリだ!!」

「カガリ氏」

「氏はいらぁぁん!!」

「カガリさん」

「まあ良いだろう、そうだ、お前の名前は?」

「綾波レイ」

「確か日本は逆だったな、つまりレイだな!!」

「そう」

「よし、今からお前をレイと呼ぶぞ!! 反論は認めないからな!!」

 

 レイ、レイ、と嬉しそうにわしの名前を言葉にしている事から、カガリさんはあまり友達がいないと思う。

 

 その後、高級そうに見える箱からくっきーが出され、食べているところを見ながら満足そうにしているカガリさんと無心に食べるわしはまったりとした時を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「何で容疑者とまったり過ごしているんだ、あたしは!!」

 

 今頃気づいたのかそう叫んだカガリさんの口元には夕食に出されたヒラメ料理に付属するソースが付着していた。今、わしは庁舎からカガリさんの屋敷に招かれたのかもしれないが、一応移され、大きなテーブルで高級料理を堪能している状態だ。

 

 とっても美味しく頂いています、ヒラメの焼き料理。心の中で感謝の言葉を述べて口には無心に料理を運ぶ。

 

「おい!! レイの料理を下げさせろ!! これから尋問を行う!!」

 

(そんな、その言葉は聞きたくなかった。こんな美味しい料理が食べられないなんて酷すぎる!!)

「……酷い」

「待て、尋問は食事の後にする。ゆっくり食べさせてやれ!」

「食後にお茶が飲みたい」

「尋問する時は紅茶を出してやろう!」

「デザートも欲しくなる」

「お、それはいいな。南国から取り寄せたフルーツがあるぞ」

「……バナナ好き」

「あたしはマンゴーが好きだぞ」

「楽しみ」

「そうだな! この後の尋問が楽しみだな!」

 

 こうしてこの日は楽しく食事を取り、談話室のような場所で南国気分を味わいながらフカフカのベッドで就寝するのだった。ちなみにカガリさんは友達とお泊まりがしたいということで客室の二台あるベッドの一つで眠っている。

 

「てっ!! 何故に容疑者と一緒に寝ているんだ、あたしは!!」

「うるさい」

「あ、すまない、って違うだろう!! 尋問が出来ないではないか!!」

「寝不足は肌に悪い」

「うっ、それは駄目だな、こんなあたしでも女の子だからな…よし寝よう!!」

 

 そう言ってカガリさんはベッドに入って眠りだした。数分もしないうちに寝息が聞こえてくる。

 ここまでさせて思うのも何だが……ちょろいな、カガリさん!! 

 

 

 

 

 

 わしは明日の朝食を楽しみにして眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド 碇シンジ+

 

 

 冥王星からようやく戻ってきた僕たちは休む暇も無く部隊を三つに分けて人類の敵に対処することになった。

 

 エヴァ組は異世界の戦艦ゴラオンに搭乗して北東支部に帰還することになった。数時間もしないうちに日本の北東支部に到着すると今度はエヴァ各機体のメンテナンスと強化武装を施すため、第二新東京市のネルフ本部に向かうことになった。

 

「もうすぐ、ネルフに帰れるんだ」

 

 考え深く呟いた僕の言葉を新しく仲間になったアスカが聞いていたらしい。声を掛けてきた。

 

「随分嬉しそうじゃない、馬鹿シンジ。もうすぐ愛しのファーストに会えるからかしら?」

「なっ……」

 

 図星を指され、僕はきっと顔を赤くしているはずだ。そんな僕をアスカはニヤニヤした表情で見てくる。

 

「そんなに可愛い子なんだ、まっ、あたしには負けると思うけど、資料を見た限りでは顔のつくりは悪くなかったわ」

「レイさんはそんなんじゃないよ、どっちかって言うとお姉さんかな?」

「同い年なのにさん付けなわけ?」

「まあ、中身はオッサンぽいところがあるから」

「なにそれ、そんなのに会いたいわけ?」

 

 そう言われると、素直に会いたいと述べられないお年頃、察して欲しいがアスカに期待するのは無駄だと思うので頷くだけに留めた。

 

 出発する時の怒りはもう心の何処にも存在しない。まさか、あの後冥王星まで行くとは思わず、レイさんは間に合わなかった。それが少し寂しいと思った時点で怒りはなくなっていた。ただ、無性に会いたかったのを覚えている。そんな僕よりリュウセイさんはレイさんと合流できなかった事に酷くショックを受けていたようだ。旗から見たら、イングラム少佐が裏切った時よりもショックを受けていたように見えたのは気のせいではない。むしろ、棒で殴られ、バナナを買わしてくれなかった事に酷くご立腹で裏切った直後にバナナの仕返しとばかりに少佐の乗る機体をボコボコにしていたような気がする。少佐が退散する時、酷く焦った声で、もう合体できるんじゃね? とか言っていたがどんな意味だろう。ミサトさんなどはその言葉の真意を考えるために会議まで開いたほどだが、詳細は分からずじまいだ。

 

「残念だけど、レイは今ネルフにいないわよ」

「え!?」

 

 驚愕の真実と共に声を掛けてきたのは我らがお姉さん的立場にして寝相が悪いらしい、ミサトさんだ。

 

「なんか、司令直々に命令が下されて外国にいるらしいわ。私ですら詳細を教えてもらえなかったからきっと諜報部扱いね」

 

 酷くショックを受け、肩を下げる僕を見てミサトさんが苦笑する。逆にアスカは眉を潜めていた。

 

「諜報部って、ファーストは特殊な訓練でも受けていたわけ?」

「そんなはずは無いんだけど、あの子だったらありえそうで怖いわ」

「だったら無謀じゃないの……あたしたちはパイロットだけをやればいいのに」

 

 後半は小さくてアスカには聞こえなかったようだ。

 

「あら、レイはパイロットもちゃんとやっていたようよ。私たちが冥王星に行っていた頃に現れた第八使徒を一人で倒したみたい」

 

 その言葉にアスカと僕は驚いた。それは当然で。

 

「ちょっと、リツコが言ってたじゃない、使徒は私たちの方に現れるって!!」

「そうですよ、レイさんがいなかったら今頃地球は誰も住んでいなかったかもしれないんですよ!!」

「ホントよ、あの泣き黒子、何がロンドベルは使徒を引き寄せる鈴になるよ、全然、引き寄せてないじゃない。これだから下手な男に泣かされる羽目になるのよ。あいつ昔から駄目男に弱いところがあってね、大学の時なんか、男のために借金を六十万もして――」

「これ以上昔話をするなら、こちらも控えてる手札をこの子達に見せるけどいいのかしら?」

「げっ、リツコ……様、お早いお帰りで、本部の方はどうでしたか?」

 

 青筋をはっきりと浮かべた、赤木さんが持っていた書類を引き千切らんばかりに力を込めながら歩いてくるのを青い顔したミサトさんが出迎える。

 

「あんたの付き合ってきた男が皆彼に似ている話でもしましょうか?」

「勘弁してください、リツコ様!!」

「高級料亭、高級フランス料理」

「すべて奢りますとも」

 

 赤木さんは書類の持つ手を緩めた。どうやら話はついたようだ。次に赤木さんは苦笑を浮かべて僕たちの方を見た。

 

「今回ばかりは釈明のしようもないわ。MAGIの予想などでロンドベルに使徒が集まる可能性が高いことから発言したけど、あくまで予想は予想でしかなかった」

「でも、レイさんがいてくれたから良かったじゃないですか」

 

 フォローの意味も込めて僕が言えば、赤木さんは複雑な表情に変わった。

 

「素直に嬉しいと思えないのはあの子だからでしょうね」

「リツコもファーストが苦手なのね」

「今後、合流したらアスカも会うことになるだろうけど覚悟しておきなさい。あの子に常識は通用しないわ。人の心を抉る一言を述べるわ、私たちの常識とはかなりずれてるから」

 

 ミサトさんが皮肉げな笑みでアスカに告げれば、僕を見て嫌そうな顔をしながら日本にはろくなのがいなのね、とか言ってきた。それって、僕も入っているのかな。

 

 おかしい、最初の出会いはそこまで悪くなかった気がするんだけど。ただ、薄情なレイさんのことで苛々していたから笑みに出ていただけだと思いたい。そう言えば二号機に乗る時、僕を乗せるはずだったのに初号機に乗ってくれって懇願されたっけ、僕は唯、レイさんの薄情ぶりを一時間淡々と口にしていただけなのに。

 

 言っておくけど僕はレイさんと違って普通だよ。うん、最近、豹馬さんと会えば必ず怯えられるけど普通だ。え、何でそんな顔をするのさ、アスカ。え、気にするなって? なら、そうするよ。

 

 まあ、でもそうか、レイさんの零号機も改修されて僕らと合流するんだ。そう思うとあの辛かった冥王星の旅が報われるような気がした。あれ、こう思ってしまう僕ってレイさんに少し依存しているのかもしれない。気をつけないと駄目だな。

 

 自分をそう叱咤していると赤木さんが口を挟んできた。

 

「ちょっと待って、今回の使徒の件で合流の話は無かった事になったわ。今後は不測の事態に備えてレイはネルフに常駐することになった……の…」

 

 あれ? どうしたんですか、皆さん。僕から視線を外して体を震わせるなんて風邪でも引いたんですか? 駄目ですよ、この部隊は体が資本なんですから。それにこれから行かなければならないでしょ? どこって、本部に決まっているじゃないですか、僕の一応遺伝子上のマダチに会いに行くでしょう。え? 武装強化とシンクロ率検査のためだって? 何ぬかしているんですか、同じ事ですよ。

最近僕、エヴァを動かすのはイメージ力が大事だって気づいて色々な格闘術やら戦闘術、果ては暗殺術を習っているんですよね。誰にって、この部隊には教えを請える人物が沢山いるじゃないですか。結構力もついてきてタッパも良くなったと思うんですよ。だから、

 

「だから、あのサングラスを血の海に叩きつける事も可能ですよね」

 

 そう言い切って、僕は歩き出した。目指すはあの趣味の悪い司令室だ。

 

 聞いてください、レイさん、僕は自分の父親と話せそうです。僕の想いを、僕の願いを伝えられそうです。突っ込み以外では口下手な僕でも話せる言語があると分かったんです。

 

 人類だけではなく異性人にも異世界人にも、使徒にすら届く万能言語、太古の昔からある最古の語源。

 

 その名も肉体言語って言うんです。知っていましたか? レイさん。

 

 

 

 

 その後、僕の行くてを阻む、第九使徒が現れたんだけど、もちろん言語をもって撃退、その足で司令室に行ったんだ。

 

 けれど、残念ながら父はどこかに出かけたようでいなかった。だから仕方なくメッセージを残す事にする。

 

 司令室にあったあの机を真っ二つに割っておいた。意味は父が勝手に考えるんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 僕は頑張って今日も生きています。だから、レイさんも元気でいると嬉しいです。そしてすぐにでも合流してくれるともっと嬉しいです。

 




 司令室に不在だった、ゲンドウは過去を思い出しながら船の旅と洒落込んでいた。


 次回 再開の価値は




 次回もサービス、サービス……こんなんどうでしょう? 


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第三話

 ゲンドウは誰と再会するのか。

 始まります。


+サイドアウト+

 

 

 オーブの庁舎の一角にある豪勢な談話室、その中で二人の男が対峙していた。

 

「よもや、お前自らこの国にやって来るとは思わなかったぞ」

「よく言う、君の娘が勝手な事をしなければ私自ら出向くことも無かった」

 

 最初に言葉を発した者、名をウズミ・ナラ・アスハというオーブ連合首長国の代表を務めている男だ。

 

 次に声を発したのは危うく血の分けた実の息子によって血の海に沈むところだったサングラスだ。

 

「経緯はどうあれ、今はただ久方ぶりの再開を喜び合おうではないか」

 

 ウズミがゲンドウのグラスに酒を注いだ。

 

「本来なら我々は再会を果たすべきではなかったが、こうなっては仕方が無い。君の言葉を借りるようでは悪いが、再開の喜びを」

 

 二人のグラスが音を鳴らせば、彼らは一気に酒を飲み干した。

 

「例の彼女が拘束されて三日、既にお前のところの学生は帰国したらしいな」

「ああ、何事もなく日本についた」

「そう言えば、お前のところには例の使徒なるものがまた現れたらしいが、どうなった?」

ゲンドウは次がれた酒をあおり、不適に笑った。

「ふっ、流石はオーブの獅子といったところか。昨日撃破したようだ」

「トップが不在でもスタッフが良いと楽だな」

「まったくだ」

 

 軽い応酬を楽しんで不適に笑いあう二人以外この場所にはいない。だからこそ両名は普段、他者に見せている仮面を外してこの場にいる。

 

 不意にウズミは遠くを見るような目で談話室の壁に視線を向けた。

 

「あのレイという子を娘から紹介されて驚きと共にあの懐かしき日々を思い出したぞ」

「君が日本に留学していた時の事か」

「留学は言いすぎだ、あれは自分を取り巻くすべてからの逃避だよ」

「婚約者との逃避など君ぐらいだろう」

「あれは私に過ぎた妻だった。代表になることを受け入れられないでいる私を叱咤することもなく、ただ共にあることだけを望んだ最高の女性だ」

「ユイには負けるがな」

「ユイ君も君には過ぎた女性だということだ」

「違いない」

 

 日本に逃避という名の留学を果たした時、ウズミは在学中のキャンパスでゲンドウと出会った。その後、時に同調し、時に反発することで何時しかゲンドウと友という関係になった。そして、すべての人間関係に不器用なゲンドウが唯一、友と呼ぶべき存在がウズミになった。その後、気持ちを固めてオーブに帰ったウズミと当時脳研と呼ばれた現ネルフに就職したゲンドウが再開したのはゲンドウの恋人としてユイを紹介された時だ。

 

「お前には勿体無いとユイ君に告げていたんだが、やはり結婚したのだな」

「そういうところは変わらんな。回りが反対する中、唯一君たち夫婦だけが私たちの結婚に祝いの手紙を認めて贈ってくれただろう、忘れてはいないぞ。ああ、言っておくが手紙は消去してある。そちらもそうしているだろう?」

 

 ウズミは苦笑で返すと残った酒を煽り、表情を真面目なものに変えた。

 

「彼女は、レイと言う少女は君の娘ではない。君の子供は息子だけだ」

「君も娘などいないはずだ。君の妻は子を産めるほど体が強くは無かった」

 

 ゲンドウもまた残った酒を煽ると核心を告げた。

 

「お互い因果な関係だな。あの頃我々はこの世界の暗部に足を突っ込むとは思いもしなかった。片割れの愛するものと共にあれば良かっただけだというのに」

 

 この世界では表向きなる事も許されないタブー。

 

 世界の裏側を支配してきた秘密結社との癒着。

 

「コーディネーターの反発は日に日に高まるか?」

「ゼーレの願いが叶う日も近いか?」

 

 ただ友の心労を思い、口にした疑問は決して第三者に聞かせられる内容ではなかった。

 

 二人の男はそれでも不適に笑って見せる。

 

「ふっ、二年はもつだろう。いや、もたせて見せよう」

「老人たちよりも先に私の望みを叶えるまで」

 

 私欲の望みを述べるゲンドウにウズミは髭を撫でながら苦笑を浮かべ、ウズミの自己犠牲に眉を顰めるゲンドウ。

 

「代表としての立場ならお前の望みを許すわけにはいかないが、今ここにいるのは友としての私、お前が本当に望むものを知っているからこそ口にはだせんな。それに心の底では私も妻に再会したいと思っているようだ」

「友としての私なら君のその無駄な自己犠牲は許せないものがある。だが、所詮私は日本の機関に所属する一指令官に過ぎない。他国に口を挟めるほどの力は無い。それに未来は可能性の数だけ存在するとユイに教えてもらった」

 

 何処となく似ている二人は、どこまでも違う立場にいながら互いを心配する。そのような関係の二人は今回の偶然が呼び込む再会を最後に今度こそ会うことはないだろう。それこそが互いに今の立場を維持するのに最良の選択だからだ。

 

「既に彼女の容疑は晴らし、今は客人として屋敷にいる。何時でも帰国できるぞ?」

 

 立ち上がったゲンドウにウズミは問う。普段部下に見せるような表情ではなく人間らしい苦笑を浮かべてゲンドウはずれたサングラスを上げた。

 

「冗談だ、兼ねてより日本政府から依頼があったアカツキ島付近の海域に行く事を許可する。これは現オーブ代表としての私が日本政府に謝罪の意味を込めて許可させた」

「感謝する。この場のやり取りは決して表に出る事はない。君は日本のダミー海洋研究所に許可を出した、それだけだ。後の事は海洋研究所が勝手に調べて勝手に帰るだけだ」

「もちろん、その時は理由を聞く気は無いが秘密裏に運び込まれたあのエヴァも忘れずに持って帰ってくれ」

「さて。本体は持って帰るかもしれないが、資材については約束できかねる」

 

 ゲンドウの言葉を聞いてウズミは目を見開かせた。

 

「これは友として私が出来る最後のことだ。どうか、このオーブで活用してくれたまえ。知っていると思うが日本という国はこのオーブよりも遥か昔から資材に乏しい国だった、故に技術だけで今の世まで渡り歩いてきたのだ。その技術力は他国から数多の資材を買い取れるほどの価値があるという事だな」

 

 言い終えると、ゲンドウは談話室を後にした。後に残ったウズミは椅子に深く凭れ掛かると静かな笑い声を上げた。そして嬉しそうにゲンドウが出て行った扉に視線を合わせた。

 

「友よ、お前の本音聞かせてもらったぞ。昔からお前は本当に口下手だな。未来は可能性の数だけある、か。それはお前が未来を望んでいる証拠だぞ」

 

 それは同時にウズミの娘やゲンドウの息子に未来を託すと言っているようなものだ。

 

「そうか、彼女が、レイという子が、未来を担う鍵の一つなのだな」

 

 椅子から立ち上がり、窓辺に立てばオーブの空に暗雲が立ち込めていた。

 

「資材、確かに受け取った。願はくは、友から授かった資材がこのオーブを守る柱の糧になることを。そして友としてお前の存在を決して表に出さない事を誓おう」

 

 談話室の扉が慌しく開き、褐色の男キサカが慌てた様子でウズミの元までやってきた。

 

「軍部より入電。アカツキ島にて正体不明の機影が現れたとの報告が」

「数は?」

「一つだという事です」

 

 なるほどとウズミは考え深げに頷いた。オーブを包みこむ暗雲はこの事かと。

 

「すぐに軍部及びすべてのものに緘口令を敷け。アカツキ島の住民はオーブ本島に速やかに避難、理由は旧時代の不発弾が多数見つかったとでも述べておけ」

「住民だけでなく、議会にもですか?」

「そうだ、黙らせる材料は用意してある。あの大量の資材をチラつかせれば下手な詮索は自身の首を絞めると気づくだろう」

 

 これからの行動を考えながらウズミは歩き出す。その後ろをキサカが追うような形で着いてきた。

 

「あの海域には海洋調査団が常駐していますが如何様に?」

「表向きは避難させたことにしておけ。決して邪魔をしてはならん。彼らは今回の機影に対するプロフェッショナルだ」

「了解しました。それからもう一つ」

「何だ?」

「お嬢様が例の少女を迎えに着た車に搭乗してしまいました」

 

 その言葉を聞いてウズミの足が止まった。

 

「どこまであの子は馬鹿なんだ。猪突猛進もいい加減にしないか」

「言ったところで残念ながらここには居ません」

「分かっている!!」

 

 頭を悩ませたウズミにキサカが同情の視線を遣した。同情するならあの子に縄を付けておいてくれ、と親として忙しく碌に構えていない自分は棚に上げて思ってしまう。

 

「仕方ない。彼らに保護を頼む。後の事は手筈通り無干渉で行く」

 

 深いため息を吐いたウズミは、駄目だとは分かっていても娘の事を後回しにして議会での説明を果たす為議会室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 この結果がとんでもない事態を引き起こす事になるのだがこの時のウズミはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 +サイド今はレイの元おじい+

 

 

 三日間の楽しい尋問が終わり、迎えの車で後は帰るだけだと思っていたらこのおーぶに使徒が発生したという。エバも無くどうするべきかと考えていれば、なんと日本からわしのエバが運び込まれているというではないか。

 

 これにピンと来たわしはこの為に修学旅行にいかされたのだと理解した。死海ナントかはホント万能だ。

 

 車は一路、港の道まで進み、その後はねるふが用意した見た目は調査船の中身軍船に車ごと乗り込んでアカツキ島に向かう。目的地到着の時間までにすべての準備を終えなければならない。車から降りると全身タイツに着替えるため用意された部屋に向かった。予備を含めた何着かある全身タイツから一着を取り出し着替え終えると零戦が横たわるドッグまで足を運んだ。

 

 そこにはゲンドウが立っていた。使徒は既にアカツキ島に上陸している、流石におふざけは許されないので死に物狂いで語る事にする。

 

「来たか。今回の使徒は第十二使徒と判明した」

「九から十一を飛ばしてか?」

「いや、第九使徒は今日本に帰ってきたロンドベルが撃破した」

「だが、飛んだ事には変わりは無いな。やはり欠番は出るか」

「貴様がどこまで知っているかは問わん。貴様は使徒を撃破すればいい」

「何時に無く使徒撃破に力を入れているように見えるな」

 

 わしがそう問えば、ゲンドウは無表情のまま僅かに視線を逸らした。図星だが語る必要性は無いと言った所か。ならばこちらも問うまい。だが、もう一方の疑問には答えてもらうぞ。

 

「何故使徒はおーぶに現れた?」

 

 そうだ、あのゲームでもこの時点では地名すら出てこなかったこの場所に使徒が何故現れたのか、その目的を知る必要がある。

 

「貴様は黙って使徒を倒せば――」

「零戦、船が沈まない程度に暴れてや―」

「分かった、話すから零号機を嗾けるな」

 

最初から素直にそう言えばいいものを。わしは改めて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるゲンドウに視線を合わせた。

 

「死海文書にはこう記されていた。太古の昔、この海域で黒き月の民と白き月の民が互いの生存を賭けて戦っていたという。その戦いでは白き月の民が優勢を誇っていたが、黒き月の民は打開策として祖に願い、ある神器を持ち出して対抗した」

 

 ゲンドウの言葉を聞いてわしはあるものを思い浮かべた。アニメでは確か、南極から運び出されたもののはずだ。

 

「おかしい、あれは南極にあるはずだ」

 

 いかに原作から外れようとも、ここがゲームの世界であろうとも、昔南極において第二の衝撃が発生したのは教科書にも載るほど有名だ。アニメとは違いそれほどの規模ではなかったが。それはつまり、あれが南極にあるという証拠になりえるはず。

 

「やはり、知っているか。それもリリスからの知識か? しかし、それならこの海域にあるものも知らされているはずだがな」

 

 ゲンドウが不敵な笑みでわしに語る。イラッときたので零戦にお願いしたら適度に船が揺れた。作業している我が同志にはすまないことをしたと思っている。が、後悔はない。

 

「わしは子供には寛容だが、大人には容赦ないぞ?」

「もう、貴様は嫌だ……。分かった、分かったから二度目は止めてくれ、船がもたない」

 

 時間が無いんだ、無駄に隠し立てしないで教えるところは教えた方が身のためだということを知って欲しい。

 

 冷や汗を自身の手袋で拭いながらゲンドウは語り始めた。

 

「そもそも、ロンギヌスの槍は一本ではない。あれは、黒き月の民の祖リリスにも与えられていたのだ。そして太古の昔それは使われ、白き月の民を退け再び南極に封印させたという。それほどの力を秘めているのがロンギヌスだ。だが、白き月の民との戦いでリリスに与えられたロンギヌスは粉々に砕け散ったとされている。無理も無い、相手は白き月の民、力を選びし存在だ。逆にそれ故に白き月の民はロンギヌスを使うという思考に至らず、それが幸いして今の我々が存在するとも言えるがな」

 

 ゲンドウが言うには砕け散ろうともロンギヌスはその力を失ってはおらず、数年前からこの海域でその所在を探そうとしていたらしい。だが、おーぶは他国からの干渉を極端に嫌う傾向があり今までそれが出来なかったという。しかし、わしが在らぬ疑いで不当に拘束されたことで事態は変わったらしい。つまり、わしはだしにされたというわけだ。その結果、この国に使徒を呼び込む羽目になった。今もあるかどうかも分からない槍のために。

 

「零戦」

「待て、あくまで今回は偶然が重なっただけに過ぎない。私がお前に行かせたのはこの国の内情を知るためだ。決してこの国を陥れようとは思っていなかった。妻に誓っても良い」

 

 焦りを見せたゲンドウの言葉を聞いてわしは零戦を嗾けるのを止めた。ここで碇ユイの名を出したとなるとこの男は本気だという事。

 

「この国は決して表に出してはならない闇を抱えている、それが今どのような状況なのかを調べたかっただけだ。私自身リリスのロンギヌスには興味は無い」

「あだむの槍が手元にあるからか?」

「くっ、貴様……ああ、そうだ。ガブには既にアダムのロンギヌスが刺さっている。あれは一つあれば良い」

 

 そうなると、考えられるのはもう一つの胡散臭い結社の存在がこの度の理由になるのか。

 

「では、今回は横槍が入ったと見て良いのだな?」

「まったく。リリスとは随分情勢に敏感とみえる。そう、今回は裏で日本政府に働きかけたゼーレの意向だ。老人たちは欠番の使徒が現れたことで酷く怯えている。言わば、藁にも縋る思いでロンギヌスを手に入れたいのだろう」

「人類補完計画とは案外脆いものだな?」

「…まったくだ」

「そこまで永遠を手に入れたい気持ちがわしには分からんよ。人間は死ぬものだ。だからこそ今日を精一杯生きるとういうに」

 

 わしが感慨深けに呟けば、ゲンドウは僅かに苦笑を浮かべた。その苦笑はわしの中身が老人だとようやく理解したように見える。

 

「良いだろう、次の問いを最後に問答は終いとする」

 

 ゲンドウが表情を戻してわしの問いに構えた。

 

「お前の妻とろぼだいんえーすに誓って真実を語ったか?」

「当然だ、同志よ」

「戦いに赴こう。同志よ」

 

 例え主義主張は違えども、同志たる気持ちにだけは偽り無く、今は共闘の意志を伝えん。

 

ろぼだいえーすの話で敵のらいばる機だった少年と主人公が一度だけ共闘する時に言われた言葉をわしなりに改造して作った言葉だ。それをゲンドウに披露すれば、目の端に涙を浮かべて力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 戦いはこれからだ。

 

 




 そろそろ、石を投げられるかもしれない話が近づいてくる。

 次回 剥離した闇の中で





 次回もサービス、サービス……どうなることやら


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第四話

 始まります。


+サイドアウト+

 

 

 

 軍船に響き渡る警報が敵の接近を告げた。ゲンドウ率いる作戦部隊は予想より早い接近に驚きながらも、船の停止を命じた。既にアカツキ島は目の前だ。これよりは零号機で島に上陸する。

 

 今回も作戦指揮を行うのは同志参謀だ。

 

 参謀はレイに零号機に搭乗を要請、レイは承諾してエントリープラグにダイブした。そして開閉口が閉められる直前、それは現れた。

 

 レイの予備のプラグスーツを身に纏ったカガリがレイと同様エントリープラグに飛び込んだのだ。作戦本部の誰もがそれに気づいたのは開閉口が閉められ、零号機に装着された時だった。本来なら思考ノイズに異常が起こるはずだったが、零号機の中にはリリスがいる。たかだが、人が一人増えたところでリリスをもってすればどうとでも出来てしまう。それが仇になったようだ。余談だが、リリスにも気づかれなかったのは船を揺らして興奮状態だったことが要因になったようである。

 

 思考に僅かな差異を感じたレイは後ろを振り向きカガリの存在に気づいた。これも余談だが、自分が述べたロボダイエースの言葉に酔っていて気づくのに遅れてしまったようだ。

 

 すぐさまレイは作戦本部に通信を行うも、敵は既に射程の範囲内に近づこうとしていてこのままでは船ごと撃沈される可能性が出てきたため、このまま出撃するようゲンドウから命令された。同志の命を守らなければならないと判断したレイは仕方なく、前屈みになりカガリを自分の後ろに座らせた。カガリには自分の腹をしっかり掴むよう厳命して零号機を起動、開かれた鋼板から立ち上がり、海に飛び込んだ。

 

 上半身まで漬かった状態で零号機は慎重に歩き出した。使徒は零号機の出現により進行を停止している。

 

 一見してゼブラ柄の球体が本体のように見えるがレイはアニメの知識で知っている。あれはデコイであり、本体はその下にある影であると。極薄の影はディラックの海と呼ばれる虚数空間、別の宇宙、空間に繋がっているそれを内向きのATフィールドで支えて存在しているのだ。もちろん、レイとしては本体が影、球体は偽者とだけしか覚えていないが一応の補足である。

 

 レイは陰の方を見据えながら浜辺で立ち止まった。これ以上行けば使徒が行う瞬間的な影の移動に対応できないと判断したからだ。

 

「おい、早くあいつを倒さないのか? あれがオーブに本島に着たら大変な事になるんだろ? それは困るぞ」

 

 当然、何も知らないカガリはそう問うてしまうのも仕方が無い。

 

「黙って、あれは単純に倒せる代物じゃない」

 

 レイは影を見据えながら短く告げた。それ対してカガリは不満を募らせる。

 

「なあ、何で下ばっかり見てるんだよ、あれが何かは分からないけどさ、敵から視線を逸らせたら駄目だろうが」

「………」

「おい、無視するのは止めろよ! 敵から目を晒すのは無謀だって誰でも分かることだぞ!!」

「僅かに鈍っている…か」

「おい! 何で話してくれないんだ!! あたしは泣くぞ!!」

 

 先ほどからカガリが苛立ちを見せるたび思考ノイズにブレが生じ、僅かな差異を訴えるのだ。そのせいでもしかしたら思うように動かせないかもしれないと思ったレイは視線をそのままに、カガリの問いに答える形で、本体は影だという事を告げ、倒すには苦労する事を述べた。すると、カガリは急に黙り込み、考え込むように唸り出した。

 

「どうしたの?」

 

 レイが問いかければカガリは顔を上げて指先を前方の映像に伸ばした。

 

「レイがいう偽者のさ、球体に変なものが刺さっているように見えるんだよな。よく見たら、このエバ零戦だっけ? それと同じような腕が刺さっているように見える」

 

 そのようなことを言われてしまえばレイとて気になってしまう。もとより、本体が分かっていようとも撃破させる作戦を考えつけないでいるレイにとってそれは打開策に繋がるものになるかもしれない。そう思ったレイはカガリに影を見張らせて内蔵されえているスコープを用いて球体のほうに視線を向けた。

 

 確かに球体に刺さった銀色の腕が見える。零号機のように装甲で覆われた腕だ。それはつまりあれもまたエヴァだと言う可能性がある。それとも、あれすらもこの使徒が作り出したデコイなのかもしれない。判断がつかないレイは映像を作戦本部に送った。すると返ってきたゲンドウの答えはレイをもってしても驚愕するものだった。

 

『あれは米国ネルフ第二支部で起動させるはずだった4号機だ。先ほど支部が謎の爆発によって4号機ごと消失したという知らせが来た』

 

 その事件についてレイはアニメの知識であった。

 

「ナントカ機関の暴走だな」

 

『ふっ…その通りだ。これはあくまでMAGIによる予想だが、S2機関の暴走により生み出された莫大なエネルギーが一時的にディラックの海を発生させ4号機を飲み込んだ、本来ならそれで終わりだったが、あれが現れた』

 

「あの使徒が扉となったか」

 

『その通りだ、ディラックの海でさ迷っていた四号機はあの扉に吸い込まれるように現れたというわけだ。ただし極端に狭い扉だったのだろう僅かに出たのは腕だけだったようだがな』

 

「だが、何故本体ではなく、あの偽者の球体だったのだ?」

 

『貴様が何時それを知ったか気になるところだが今は問うまい。そういう事はもっと早くこちらに伝えてもらいたいものだ。それとこれもあくまで予想だが、あれもまた使徒の一部だからだろう。つまり、あの球体と影は何らかの理由が揃えば繋がる事もあるということだ』

 

「さ迷っていたエバのようにか?」

 

『ああ、無限とも言えるディラックの海と繋がるんだ。自分と繋がることのほうが異かに容易いことか、単純な話だがな』

 

「信用できる情報か?」

 

『4号機に関しては賛成が二、条件付での賛成が一だ』

 

「つまり…分からん」

 

『ほぼ間違いなく、あれは4号機だということだ』

 

「了解した、引き続き観測を続行――」

「レイ!! 影が!!」

 

 カガリの怒声で瞬時に意識を戦闘モードに切り替えたレイは零号機で空中に跳んだ。直後、零号機がいた場所には影が現れていた。そして考える、このまま地面に着地したところで、同じように影が迫ってくるだけだ。ならば、このまま球体のほうに移動してあの4号機の腕を掴み、支えとして陰から逃れるしかない。そう考えたレイは肩のウェポンラックに搭載されたミサイルの目標を地面に想定して強制射出する。地面で爆発した全段ミサイルの爆風は巨体の零号機を浮かせた。ずれそうな角度は機体を水平に保つ事で維持し、球体に向けて飛翔する。

 

「熱い!! 熱いぞ!! レイ、背中が凄い熱くて痛いぞ!!」

「我慢して。オーブを守るのでしょう」

「分かっているがこれはキツイぞ!! レイは何時もこんな想いをしているのか!?」

「今を生きる人のためなら痛くもかゆくも無い」

 

 球体に刺さった腕は目の前だ、威力をなくしてすぐにでも落ちそうな機体の腕を強引に伸ばしてあと僅かな距離にある腕を掴みたい。しかし、無常にも機体は重力に従い落ちていく。右腕なのが更に痛かった、左ならば盾に内蔵されているワイヤーを作動する事も出来たのに今の体勢ではそれもままならない。

 

 その時だった。

 

「クソッ かっこいいな、だったら私も我慢してやる!! 痛くないぞ、馬鹿やろう!!」

 

 カガリの叫び声に呼応するかのように刺さっていたシルバーの腕が僅かに動いて零号機の腕を掴み引き上げたのだ。

 

「どうして…」

 

 レイが呟くままに腕はそのままの勢いで零号機を引き込み、すぐに全身が球体の中に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 シルバーの腕が動いた時、アカツキ島の海域で赤い発光が確認されたことに気づけた者は残念ながら誰もいなかった。

 




 カガリと共に虚数空間に飲み込まれた元おじい、そこで出会ったもう一人の自分

 では、カガリは?


 次回 ディラックダイバー前編


 次回もサービス、サービス……ストックが尽きる!


 


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第五話

 始まります。


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 静かな夕焼けと優しい波が繰り返される海、そして波に任せて佇む漁船、どうやらここは起動実験のおり、元妻と再開した精神世界という場所に再び来てしまったようだ。

 

 取り敢えず、来てしまったものはしょうがない。折角漁船に乗っているのだ、釣りでもするかと、何故か常備されていた釣竿を構え、釣り糸を垂らせばすぐに当りが来た。

 

「まさかな」

 

 あの時と同じような登場をするのかと思いながら釣竿を引き上げれば、そこには前世のまだ幼い少年だった頃のわしがずぶ濡れで現れた。

 

 思わずわしはどっぺる何とかの話を思い出して恐怖した。もう一人のわしに会ってしまうと死ぬんではなかったか。だが、これがもう一人のわしではなく、少し似ただけの少年かもしれない。そう思ったわしは尋ねた。お前は誰だと。

 

 そうしたら彼は端的に言った、

 

「僕は君だよ」

 

 終わった、わしはこの世で何も成せず死んでしまうらしい。すまないシンジ君たち。先立つ不幸を許しておくれ。

 

 無表情で涙を流すわしに、もう一人のわしは困惑したような表情を浮かべていたが、彼は柔和な動作でわしの首を掴もうとしていた。どうやら絞殺らしい。内心の荒れ狂う気持ちに蓋をして表面上静かにお向かいを待とうと瞳を閉じれば何処からか水しぶきが上がった。

 

「白き月の民なんか、ドオォォォォォン!!」

 

 聞きなれた声を耳に捕らえて閉じた瞳を開ければ幼いわしは元妻が放ったどろっぷきっくの衝突で遥か彼方に飛んでいってしまう。その光景を呆然と見て内心、よもや人が星のようにきらりと光る漫画のような情景を目の当たりにするとは、と思ってしまった。

 

「何やってるのよ!! ホント都市伝説とか怖い話には弱いわね、あなた。言っておくけど、あなたが乗っているエヴァだってある意味都市伝説並みに怖い代物なんだからね!」

 いや、しかしだな、あれは伝説で現実に起こらないから恐怖を感じるのであってエバは現実に存在するから怖くは無くて。

 

「しかしも、かかしもないのよ! 私が来なかったら取り込まれてそれこそ使徒の一部になっていたわ!! それはつまり私も取り込むことを意味するわけで…嫌だ、想像しちゃったじゃない。何で私があの傲慢なクソアダムの子孫と一体化しなきゃならないのよ!!」

 

 元妻はご立腹の様子だ。

 

「昔、私が生まれた時、あいつなんていったと思う!? 我が最初に生まれた、すなわち後に生まれてきたものはすべて我のもの。我のものは我のもの、そなたのものは我のもの、ですって!! どこぞのガキ大将かよって今の私なら叫んでたわね。まぁ、あの当時も全力で拒否ってやったけど!! そしたらアダム、拒否られるとは思っていなかったみたいでさ、ポカンとしてた、でもすぐに泣きそうな表情を浮かべたから迷わず思ったわね、ざまぁ!! って」

 

 元妻は昔から変わらないな。アダムが不憫になってきたよ。

 

「まあ結局その事がきっかけで、アダムは自分の言う事を聞く白き月の民を生み出したのよね…で、対抗して私が黒き月の民を生み出したわけ」

 

 元妻は罰の悪そうな顔で明後日の方向に視線を向けた。元妻がしたその動作はわしに知られたくない事を隠している証拠だ。前世、へそくりを隠していた時もこの動作をしていた。元妻は隠し事が苦手なのだ。

 

「怒らないから言ってごらん」

 

 諭すように優しく告げれば、元妻は渋々といった表情で口を開いた。

 

「太古の昔や、今行われている黒き月の民と白き月の民との戦いは元を正せばあれの延長上の喧嘩みたいなものなのよ」

 

 今聞かされる驚愕の真実! という奴か。なんとまあ、秘密結社やねるふには聞かせられない話だ。

 

「アダムの奴、私に拒絶された事が相当堪えたのね、この星に旅立つ時、私たちの創造主から与えられた選択でアダムは力を選び民に与えた。自分の民にはそんな想いはさせたくなかったのかもしれないわ。結局、何者にも犯されない心の壁はアダムのトラウマと私の拒絶が生み出した産物とも言えるのよ」

 

 後悔という二文字を背負い、皮肉げに吐き捨てた元妻の表情が次の瞬間には清々しいほどの笑みに変わる。

 

「でも、きっかけはどうあれ、この星に到着した時の衝撃で動作不良を起こしたアダムたちが繁栄できなかったのに、わざわざ起こしちゃった黒き月の民が一番悪いと私は思うけど!! ホント駄目よね、下手に知識を与えちゃうとそれに生じて欲望も際限なく増えて力を求めちゃうんだから」

「それは責任転嫁というやつか」

「…ち、違うし!! 私も悪いかなって少しは思ってるわよ」

「少しなのか」

 

 呆れてそう言えば、元妻が苦みばしった表情になり、やがて閃いたとばかりに不適な笑みを浮かべた。

 

「うっ……でも、でも、あの時私が拒絶しなきゃ、私はアダムのものになっていたんだから!! 夫婦という観念は無かったけど実質そのようなものよ!! それをあなたは許せるの?」

 

 わしは表情を真面目なものに変えて元妻に視線を合わせた。

 

 そんな事は決まっている。

 

「アダムが悪いな」

「でしょ!! あなたならそう言ってくれると思ったわ」

 

 元とはいえ、人の妻を誑かすなんて不貞野朗だ。アダム許すまじ、である。嬉しそうに抱きついてくる元妻の背中を優しく摩りながら今後、アダムに会うようなことがあれば容赦はしないと心に誓った。

 

 誓いも新たに今の自分の状況を元妻に聞けば零戦はすべてあの使徒に飲み込まれてしまったそうだ。そして先ほど危うく同化されそうになったのは言うまでもない。この使徒はそういう使徒なのだと元妻は述べた。

 

 次にあの銀色が勝手に動いた理由はなんなのか、わしは妻に問いかけた。すると、妻は言いにくそうに視線を明後日の方に向けてしまった。またか、という気持ちを顔には出さず、優しく諭せば重そうな口が開かれた。驚愕の真実を沿えて。

 

「この海域に私が嘗て持っていたあれがあるかもって言われてるでしょ? それって本当なんだよね。まさか死海文書にそんな事まで書かれているとは思わなかったんだけど。でね、黒き月の末裔はあれを凄い武器だとか、デストルドー発生装置だと思っているようだけど、確かにそういった一面もあるわけだけど、それだけじゃないの」

 

 妻曰く、人や使徒がもつATフィールドを消滅させるアンチATフィールドを発生させる力の源をデストルドーと呼ぶらしい。このデストルドーは始原回帰を促すもので人にとっては死を意味するその力が人や使徒が持つ心の壁を取り払う事が出来るのだという。それ即ち肉体という名の鎧を脱ぎ捨て原初の海に還る事を指すのだが、槍はその力を発生させる装置みたいなもの、も機能の一つとして付いているようだ。何を言っているのか良く分からなかったので妻の言葉をそのまま載せてみた。

 

「大まかに言うと、人を死に至らしめる力があるならその逆もあるわけで、一度肉体を失い原初の海に還って行った魂をもう一度こちらの、俗語で言うなら現世に連れて来る事も可能なわけよ。そしてどうやら、今回この海域でバラバラになった槍の欠片が私という存在に引かれ、力を取り戻したことで発動されてしまったの」

 

 元妻の説明の途中だがふと、そう言えばこの場所にわしは来てしまったが、一緒に乗っていたカガリはどうなったのだろうか、と思考に過ぎったところ、元妻は言いにくそうに告げてきた。

 

「実のところカガリさんは零号機に入り込んだ使徒によってディラックの海に飛ばされてしまったのよ」

「何だって!?」

 

 驚愕したわしに元妻は安心させるように笑みを浮かべた。

 

「安心して、ちゃんとカガリさんは無事だから。むしろ行くべきところに行ったというのが正しいわね」

 

 

 

 

 

 

 元妻によってその後語られた真実はわしに更なる驚愕を抱かせることになるのだった。

 




 区切りの関係で話を伸ばしてしまう、愚かな作者。どうか、石は投げないで。
 

 次回 ディラックダイバー後編  





 次回もサービス、サービス……この場を借りて感想を下さった方々に感謝を。これを励みに更なる精進をしたいと思います。


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第六話

 今日中に…今日中に……出来たのか。

 始まります。


+サイドアウト+

 

 

 レイと乗った操縦席で一度意識を失い再び目覚めれば夕日に照らされた公園の一角にあるブランコにカガリは乗っていた。

 

 カガリはこの場所を知っている。この場所はオーブ本島にかつてあった公園だ。そしてカガリにとって忘れられない思い出の一つが刻まれた公園だった。

 

 隣のブランコが揺れ、カガリが視線を向ければ幼い自分が楽しそうにブランコを揺らしていた。

 

 驚愕したカガリは言葉を発しようと口を開く、ことが出来なかった。自身がまったく動かない事に気づいたのだ。

 

 どのくらい経っただろうか、隣で楽しそうにブランコを揺らす幼い自分を瞳に映して考えていると、幼い自分が嬉しそうに声を上げた。

 

「お母様!!」

 

 幼いカガリがブランコを降りたことで視線から外れてしまったが、そんな事を気にすることなく、正確には気にも留められないほどカガリは驚愕した。

 

 幼いカガリが向かった先に死んだはずの母親がいるという真実に自ずと瞳から涙が溢れてくる。

 

 焦る気持ちを抑えてゆっくりとした動作で瞳をそちらに向ければその姿を捉えてすぐに視界は滲んでしまった。

 

 それでも、思い出と変わらない凛とした女性が幼いカガリを抱いて微笑んでいる姿を確かに見た。

 

「お母様、今日お父様は帰ってきますか?」

「どうでしょうね、あの人は忙しい人だから、帰ってくる頃にはカガリが眠ってしまっているかもしれないわ」

「なら、今日は起きてます!」

「ふふ、それがあなたの選択なら頑張りなさいな」

 

 この日は母親と初めてこの公園に来た日だった。そしてこの日が母親と出かけた最後の日でもあったのだ。

 

 カガリの母親は体が弱かった、そのせいで病院にいることも多く、それは年々歳を重ねるごとに増えていった。美しい母だったが、年齢は意外と高かったのを覚えている。カガリが産れた年には既に病院通いを繰り返していた。

 

 この公園での一幕を最後に数日後、母親は寝室で倒れているところを執事に発見され、病院に運び込まれるも助かる事はなかった。

 

 涙で視界が見えないカガリに触れてくる懐かしくも優しい手の感触に思わず声を上げて泣いた。

 

「泣いては駄目よ、カガリ。そんなに泣いたら目が解けてしまうわ、ほら、わたくしに笑顔を見せてちょうだい」

 

 零れ落ちる涙を優しく拭ってもらい鮮明になった視界に映る、幼い自分ではなく今の自分を見て微笑む母親に再び流れそうになった涙を堪える。

 

 何故か、体は動くようになっていた。

 

「お母様なのですか?」

「ふふ、第一声がそれなの? まあ、いいでしょう。あなたはあの人に似てボキャブラリーに疎いところがあるものね。そうでぃす、わたくぅしがあなたの母親でぃす」

 

 カガリの母親、カガリの母親、カガリの母親だからカガリの母親、と旧世代に活躍した偉大な芸人を真似て歌い出す母親の姿に、ああ、この人は母親だと確信した。母は旧世代に活躍した日本のコメディアンが大好きだった。それこそ、母が生きていた頃は病床の母に楽しんでもらうためにカガリは色々なコメディアンの真似をしたものだ。

 

「その後の落ちはドッフンだ!! ですね!!」

「あら駄目よ、落ちを先に言うのはGEININとしてあってはならない禁断の言葉、わたくしはあなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ」

 

 苦笑しながら諭す母親にカガリは素直に謝った。大好きな母親を悲しませるのはカガリにとって何者にも勝る苦痛だ。

 

「良いのです、あなたはまだ立派なGEININの入り口に立っただけの若輩、これから知っていけばいいのですよ」

「はい!! これからもオーブを支える立派なGEININ代表になれるよう精進してまいろうと思います!!」

「ぶふっ、これだから天然は適わない……がんばりなさい」

「はい!!」

 

 幸か不幸か、前半の呟きが聞こえなかったカガリは良い子のお返事をするのだった。

 

 もし、このやり取りを見ていた第三者がいれば、きっとこう思うだろう。あの少女は酷く不憫だと。

 

「さて、娘をからかうのはこれまでにして。カガリ、今あなたがいる場所がどこか分かりますか?」

「わかりません!!」

「天然最高! じゃなくて少しは考えましょうとか言っても無駄なのよね。カガリだものね。ここはね、あのシルバーの腕の本体、エヴァ……いえ、エバンゲリオン4号機に刺さったエントリープラグの中よ。ただしあなたの精神は4号機の中にあるコアにいるのだけど……その顔は分かっていないわね」

 

 母親に再会できて、尚且つ話せる事が嬉しいのか満面の笑顔を浮かべたカガリに母親はため息を吐いた。都合の良い言葉しか耳に入っていないのか、ちょくちょく娘を馬鹿にしている言葉はカガリの耳にはスルーされているようだ。

 

「ねえ、カガリ、よく聞いて。お友達の綾波レイさんを助けられる力があなたに与えるとしたらどうする?」

「迷わず頂きます!!」

「そうよね、頂いちゃうわよね。猪突猛進が心情のカガリだものね……きっとあの人は激しく胃を壊すのでしょうね。ゲンドウさんはもっと老けてしまうのかしら。あら、とても素敵ね。男共に任せていたらこの先の未来が不安だもの」

 

 ころころと鈴のような笑い声を上げる母親の姿を見てカガリは更に嬉しくなる。母親の言っている事は結構酷いのだが、そこはスルーの方向で行くようだ。

 

 この世界のカガリは父よりも母が好きだった。

 

「ならば、願いなさい。お友達を助ける力を、あなたに与えられるエバ4号機を信じなさい。カガリ、わたくしたちは常にここにます。それを忘れないで」

 

 そう言って指先をカガリの胸元に当てれば、その場所からカガリの姿が消えて無くなった。カガリの精神が肉体に戻ったのだ。

 

 消え去った場所を嬉しそうに眺める母親の背後に女性が現れた。その女性は複雑な表情を浮かべて今までいたカガリの場所を眺めている。

 

 そしてポツリと不憫ね、と呟いた。

 

「あら、それは聞き捨てらない発言だわ。あの子がどうして不憫なのかしら?」

 

 振り向いて見つめた先にいた女性は何故かカガリにそっくりで、カガリ自身を大人にしたような姿をしていた。

 

「ご自身の胸に手を当てて考えてください」

 

 女性がそう言えば胸に手を当てて考えるも理解できないといった様子で肩を竦める母親に、深いため息を吐き出した。

 

「あら、ヴィア。ため息を吐いては幸せが逃げてしまうわよ」

 

 ヴィアと呼ばれた女性は胡乱げな視線を母親に向けた。

 

「あなたの場合、その態度が計算だから性質が悪い。さぞ、ウズミ様はお困りになったでしょう」

「あら、このわたくしがそんなへまをするとでも?」

「性格の悪い方だ」

「ふふ、あの子はあれで言いのです。無知は恥じなれど、言って聞かせるよりも自らが体験する事こそ至高の喜び、あの子は今後、身をもって知る時が来るでしょう。そうなった時、時に苦しみながらも逸らすことなく突き進めるだけの度量をあの子は持ち合わせているわ」

「ですが、時には取り返しの付かないこともあるのですよ」

 

 ヴィアは暗い影を落としてそう呟いた。それに対して母親は強気の笑みを浮かべ、こう言った。

 

「夫の狂気に目を逸らしてしまった、あなたとあの子は違います。猪突猛進のあの子が果たしてあなたと同じ結果をもたらすでしょうか」

 

 ヴィアは少し考えて首を横に振った。

 

「……残念ながら、そうは思えませんね」

「わたくしたちが育て上げた娘ですから当然です。覚えておきなさい、時に血よりも深い絆が生まれることもあることを。あの子は正真正銘わたくしたち夫婦が誇る実の娘です」

 

 凛とした姿でそう告げる母親に一抹の寂しさ抱きながらもヴィアは苦笑を浮かべた。そんなヴィアの頭を優しく撫でて、母親は言葉を付け足す。

 

「ですが、あなたがお腹を痛めて産んだこともまた事実、だから誇りなさい。あなたはこの世に大切なものを残したのだという事を。もう一人の息子と同様に誇りなさい」

「そうです…ね。私はあの子達を産めて幸せでした。そして誇りに思います」

「よろしい。では、あの子の母親として力を貸してあげましょう」

「ええ、そうですね。既にこの場所に居座っていた仮の魂にはお帰り願いましたよ」

「随分時間が掛かりましたね。あの子に一目会えるチャンスでしたのに」

「かなり駄々を捏ねられたもので、あれは質の悪い少年のような魂でした。ジャポンに古くから伝わる中二病とはああいった子を指すのでしょう」

 

 まぁ、魂体言語で話したらすぐに消えましたが、と述べながら清々しい笑みを浮かべた姿はカガリにそっくりだった。それを見てやはり血も濃いのね、と母親は内心で呟いた。

 

 

 ヴィアが赤く染まる空を見上げ、口を開いた。

 

「あの子を乗せてこの世界を守る機体が動き出す」

 

 

 同じように母親も空を見上げる。

 

「負けては駄目よ、カガリ。この戦いだけじゃない、遥か先に待つ無限力との戦いに。そのために私たちはあの槍を道標にして戻ってきたのだから」

 

 やがて夕焼けの公園を映し出す光景が砂のように消えていく。

 

 二人の母親も消えていく。

 

 

 

 

 後に残るは青白い魂のような揺らめきが二つ、寄り添うように存在するだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使徒が零号機を飲み込んでから既に数分経っていた。その後、使徒が動く気配は無い。船に作られた作戦本部ではゲンドウたちが今後の対応を協議していた。下手にN2爆雷で刺激して中にあるリリスを失えば、ゲンドウの目的は終わってしまう。そうかと言って、リリスが無事でも中に乗るあの忌々しい元老人を失っては、この世界自体が終わりかねない。二つの末路の板ばさみに胃が切り切りと痛みだした頃、その胃が爆発しそうな事態が発生した。

 

 鳴り響く警報、部下により報告された内容にゲンドウは驚愕して映像が流れるモニターを凝視した。

 

『ウオォォォォォォォ』

 

 響き渡る雄叫びはどこかこの世界に産声を上げた赤ん坊のような感じをその場で聞いていたすべての者に抱かせた。

 

 球体がメキメキと音を立てながら血しぶきを上がる。

 

 デコイと称され、事実、実態がないそれが避け始め、その裂け目から産声を上げたそれは現れた。

 

「馬鹿な、4号機だと!!」

 

 叫びながらも内心で誰が動かしているのか残念ながら予測できてしまう。零号機があの元老人を手放すわけも無く、後残るのは友の娘だけ。

 

「君にどう謝罪すればよいか考えつかない事態だ」

 

 再び、警報が鳴り響く。今度は何事かとモニターを凝視すれば本体とされる影から零号機が這い上がるように現れる光景が映し出されていた。

 

「早急に計画を修正する必要性があるものの、STMCに対抗できる駒が増えたと考えれば……そう思わなければやっていられないな」

 

 

 

 

 

 既に勝利は目前、その場の処理を部下に任せて、一足先に本島の方に向かったゲンドウは再開する事は今後無いと思っていた友と再び顔を合わせ、事態の説明を行うことにした。

 

 話を聞くうちにウズミの表情が赤くなり、やがて青くなって天を仰いだ。しかし、腐ってもオーブの獅子といわれた男、すぐさまキサカを呼び出して娘をヘリオポリスに留学させる書類を作成させた。

 

 そして留学する娘自身は友に託す事にしたのだ。

 

「あれを私の娘と認識する必要は無い。あれは唯のカガリだ。アスハとは何の関係も無い旨をここに告げ、仮に死んだとしてもこちらは一切関知しない」

「承知した、すぐさま日本の戸籍を作らせ対応する。名は綾波カガリ、レイの姉としてネルフに迎えよう。どのように扱うかはこちらで決めさせてもらう」

「すまない、ゲンドウ」

「それはこちらの台詞だ、ウズミ」

 

 言いながら二人して同じタイミングで胸を摩る動作をした姿に、その場にいたキサカが思わず笑いそうになったと後に語っている。

 

 

 

 

 

 こうして本人のいないところで姉の存在が現れ、エヴァパイロットが一人増える事になるのだった。

 




 知らぬ間に姉が増えた元おじい。これから物語はどうなっていくのか。



 次回 ディラックダイバー終息編



 次回もサービス、サービス……燃え尽きたよ。


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第七話

 始まりやす。


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 あの後、精神世界で元妻に驚愕の真実を告げられ、それについて話し合いをしようと思ったら、いきなり元妻が使徒終わた!! などと叫び声を上げた。

 

 で、何故か視界が暗くなり、次に見えたのは操縦席の中だった。そして一面に広がる青い空が元妻の言葉に真実味を帯びさせる。

 

 操縦桿を握り深い穴から這い出れば、すぐ目の前に酷く血にぬれた銀色のエバが下りてきた。そのエバより通信が入る。

 

『おい! 大丈夫かレイ』

 

 カガリの元気な声が操縦席に木霊して大きくゲームから逸脱してしまったのだと理解した。

 

(本当に元妻が言ったとおり、カガリの母親がその中にいるのだな)

「カガリ……その中にいるの」

 

『おう、聞いてくれ! この中であたしはお母様に再会したんだ。で、気づいたら操縦席にいてさ、最初は勝手に動いていたんだけど、今はこの通り』

 

 エバが宙返りを繰り返す。その巧みな動きにわしはカガリの資質を感じた。彼女は元々思い込んだら一直線、猪突猛進なところがある。それは悪い意味で捉えがちだが、こと、エバの操縦では違う。思い込みとは即ち豊富な想像力がなせる業だとわしは思っている。そしてそれは直接エバに動作を伝える一種の原動力になるのだ。彼女は下手に細かい動作を行わなければ動かせない機体よりもこう言った意識を伝え動かす機体の方が合っているのかもしれない。

 

仕方ない腹を括ろう。わしがこの子も守って見せようじゃないか。この大きく外れた原作が悪い方向に行かないように粉骨砕身全力投球だ。

 

そんな想いを死に物狂いの気持ちに変えてわしは言葉を紡ぐ。

 

「カガリ、よく聞いてくれ。君はきっとこれから自分と同じくそれの操縦者になるだろう。戦いは遊びじゃない。それだけは忘れないでくれ」

 

『あたしだってそれぐらい理解しているさ。これでも専属の教師に色々教わってきたからな。それにお母様が何時も言っていた。世界とは自身が経験して初めて分かる事もあると、自信がした選択の行く末に待つ真実に決して目を逸らしてはいけないと。今あたしがしたこの選択に待つ結末を悪い方向に向かわせないよう努力するさ。そして仮に悪い方向に向かおうともそれから目を逸らさず、全力で良い方向に持っていって見せる!!』

 

 カガリの母親はなんと良い言葉を残したのだ。こんな良い子を守りたいと思い至り冥府から戻ってくる気持ちも理解できなくは無い。例えそれが彼女を戦争に巻き込む手段だとしても彼女自身が選択できるようにしたのだろう。

 

「君を全力で守る事をここに誓おう。だから君も誓ってくれ、おーぶだけでなくすべての生きる人々を守ると」

 

 わしがそう言えば、帰って来たのは大きな怒声だった。

 

『馬鹿を言え!! そんな事は当たり前すぎて誓いにならん。だからあたしは誓う、あたしの始めての友が望む世界を一緒に守り続ける事を!! 小さく見えて大きくも見えるレイの背中を守れる相棒になることを誓う!!』

 

 絶句した、これは大きく出たものだと。

 

このわしに、リリスが味方の、このわしの背中を守ると抜かすか、この小娘は。なんと傲慢でそれでいてなんと力強い言葉。

 

 わしの頬から一筋の涙が零れる。嬉し泣きなど何年ぶりだろうか、この世界に転生して元妻以外に守ると言われたのはカガリが初めてだ。こんなに嬉しい事は無い。

 

「ふっ、わしを守るか、小娘。中身はお前の何十年も生きたこのわしに抜かしてくれる」

 

『ふふん、言っておくが、お前が普通じゃない事ぐらい出会ったときから分かっていたんだからな!! 屋敷で過ごした三日でそれは核心になったぞ。言っただろう、お前の背中はとても大きく見えると』

 

 あの馬鹿騒ぎした三日間はとても楽しかった。上手い食事以外は殆どカガリと語らう時間。もっともカガリが一方的に喋ってわしが相槌をうつだけだったがお互い苦痛に感じたことは一度もなかった。カガリ自身からもそう言われた。

 

『だがな、今日お前が屋敷を去る時の後姿を見て同時に小さい背中だとも思ったんだ。そう思ったら居ても立っても居られず車のトランクに潜り込んでいた!!』

 

 よく見つからずに軍船に乗り込めたものだ。

 

『後は教師に教わったとおり、気配を消して船に乗り込んだというわけだ。実際見つかることは無かったな』

 

「ほう、行動はともかく、教えられた事を実践できるとは馬鹿ではないということか」

 

『いや、馬鹿だと思うぞ。お母様からもお前は馬鹿なところがあるけれどそれが原動力になると褒められた』

 

 それは褒めているのだろうか…。

 

『でだ、お前のパイロットスーツをあたしも着たんだが少しきつくてな。それでやっぱり小さい背中だと再確認した。だから言わせて貰うぞ!! いくら中身が大きくてもその体はあたしなんかよりも小さいんだ。もっと大切にしないと駄目だ!!』

 

「大切にしているつもりだが」

 

『嘘をつけ、ジャポンの男子学生を守るようにしていたじゃないか。それとお前と乗った時もあの熱さを表情変えずに往なしていたけどな、お前の背中は沸騰したかのように熱かったぞ。我慢していたのは丸分かりだ』

 

 そして極め付けに言われた、今を生きる人のためなら痛くもかゆくも無いという言葉が酷く心に刺さったのだという。そして同時にこの小さな背中を守れる力が欲しいと願ったらしい。それはつまり…。

 

「ああ、お前は正真正銘の馬鹿者だ! お前の選択は端からわしを守る事だったのか!!」

 

『ああ、馬鹿だとも、あの時は本当にそう望んだんだ!! そしてその力を与えられる選択を迷わず選び取った。後悔は無い!!』

 

「……」

 

 言い切ったカガリに不覚にも再び絶句してしまう。その力強い言葉に何の迷いも感じられないことに酷く驚いてしまったのだ。

 

何だか、カガリには驚かされてばかりだな。

 

 ならばわしも決意する。

 

 誓いを変えなければならない。先ほど言った誓いはカガリがした選択を侮辱する事になる。わし自身が子供を守るという信念を曲げてでも彼女の意思を尊重したいと思ってしまったのだ。

 

「その想い確かに受け取った。故に誓いを変えよう。わしはお前を守らん、その代わり背中を預けよう。そして共に世界を守る事を相棒に誓おう」

 

『あたしも相棒の背中を守れるよう努力を怠らず、後ろでも無く前でも無く横に並び共に駆け抜けることを誓おう』

 

 がっちりとした握手をエバ越しでおこない、互いに誓いを述べた直後、アカツキ島の海域で赤い光が発生、島は赤い光に包まれた。

 

『なんだ!!』

 

「わからん」

 

 視界が真っ赤に染まり目も開けていられないほどの輝きが襲う。しかし、光はやがて収まり、島は元の静けさを取り戻した。

 

「あれは一体」

 

『おい、頭上を見てみろ』

 

 カガリからそう言われて頭上を見れば、そこには二股の赤い槍が浮いていた。

 

「ろんぎぬすの槍か」

 

 呟くようにわしが言った直後、第三者の声が操縦席に響き渡った。

 

『おめでとう、あなたたちの誓いを聞かせてもらったわ』

 

 あ、これは元妻だな。

 

『ドッフンだ!!』

 

 通信からお母様という声を聞いてこれがカガリの母親なのだと理解した。どうやら向こうにも聞こえているらしいが、何故にその言葉をチョイスした。

 

『ロンギヌスの槍は私たちからの祝福だと思って欲しいわ』

 

 今度は誰かも分からない女性の声だった。カガリも同じく分からないらしい。

 

『いいこと、小娘、元夫の背中を守るならこの槍ぐらいは使いこなしてごらんなさい。出来なければ即刻槍は返却して相棒関係も終わりよ』

 

 槍はカガリに与えられるようだ。しかし、普通に元夫とか言っていいのか、元妻よ。わしなら冗談で済ませられるがお前は駄目だろうに。

 

『この槍は凄い力を秘めているけれど残念ながら殆どの機能は停止させているわ。それはつまり始動キーを小娘に預けるということ。小娘が槍を使いこなせるようになれば私が機能を順次開放してあげるから、せいぜい頑張りなさい』

 

 元妻の言葉を最後に声は聞こえなくなった。上空に浮かぶ槍は赤い光の粒子に変わり、エバ4号機の胸に吸い込まれた。あの場所は心臓部、こあと呼ばれる場所に槍は納まったようだ。

 

 

 

 

 

 儀式の終わりを告げるかのごとく、二機のエバが機能停止して第十二使徒との戦いは終わりを告げた。

 




 猪突猛進カガリが相棒になった。

 カガリのGEININ度が3上がった。

 カガリのウザさが2上がった……が、後悔はない!

 元おじいが泣いた。涙もろさが1上がった。


 次回タイトル せめて使徒らしく




 次回もサービス、サービス……感想を見ているともっとやれ的なニュアンスに感じてしまう今日この頃。


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せめて使徒らしく

 教えて! コウゾウ氏。

コ「早速、お便りが来ている。エバ4号機のS2機関どうなっているのか。なるほど、エバと言う言葉が浸透してきたな……私たちとしては困るが、まあ、いいだろう」

コ「実際のところ、4号機にS2機関は搭載されていない。あれは起動の折、消滅しているからだ。その時に出た膨大なエネルギーがディラックの海を誘発、搭載された4号機だけが飲み込まれ、その他は余波によるエネルギーで残念ながら消滅という形になった」

コ「例えるなら、コンビニで買った弁当をその場で食って満足していたら、一瞬にして自宅に飛ばされ、尚且つ空腹状態に逆戻りと言った感じだろうか、ん? 例えが分からない? そんな事は知らん!!」

コ「以上だ、私が考えた例えを参考にしくれたまえ」



                       後半は冗談です。


 短いですが、始まります。





 軍船に機体ごと回収され、待ち受けているはずだったゲンドウの不在にひとまず安堵を浮かべていたカガリは同志参謀から告げられた命令に大きく驚きを見せた。

 

 綾波カガリ 十五歳、綾波レイの姉にして血縁上異母姉妹。長く闘病生活を過ごしていたが完治したことでまるナントカ機関から五番目のパイロットとして選ばれる…というシナリオを受け入れろという旨を伝えられた。これに拒否権は無く強制であるとも。

 

 驚いたのは最初だけで、カガリは参謀より次々と告げられる命令に対して素直に頷いていく。そして最後に。

 

「分かった!! 今日からあたしは綾波カガリだ!! よろしくな、妹」

 

 満面の笑顔で自己紹介されるものだから内心苦笑の表面無表情で頷いた。

 

 こうしてカガリ・ユラ・アスハは綾波カガリとなってわしと同じく日本に帰ることになった。残念ながらこのままこの船で出立するので父親たちに挨拶は出来ないと言われたときは暗い表情を浮かべていたが、船が出港してすぐに始まった4号機の改修作業を見学しているうちに本来の元気を取り戻して、あれこれと作業に口を出していた。それを同志たちは苦笑交じりに見ていたのだが、カガリが告げた次の言葉で改修魂に火がついてしまう。

 

「あたしの機体にもレイと同じようなウイングと盾が欲しい」

 

 で、同志たちは目を輝かせて口々に呟き始めた。

 

完成型ロボダインエースはVの角と二つ目なり、機体の塗装は銀色、この4号機は完成型になるために生まれてきたに違いない、アニメでは適わなかった夢の競演、彼女たちは主人公と同じ兄弟、この際性別など知った事か、などなど。

 

 俄かに興奮してきた同志たちを開発主任が腕を掲げて止めた。次いで、その場に居るすべての同志の顔を見ていき、最後に天に向けて吼えた。

 

「みぃなぁぎぃるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 その叫び声が合図となり同志たちは怒涛の勢いで作業を開始した。それもう人間の動きとは思えない作業姿に、同志たちが何を言っているのか理解できずポカンとしていたカガリも異様に興奮し始めて掛け声と共に応援し始めた。先ほど初戦を終えたばかりなのに元気なものである。楽しそうなのでこのまま応援させてあげたいのだが、この後、同調率検査が待っているのだ。顔を赤くして叫ぶ姉を強引に引き連れて休憩室に押し込み、数時間の仮眠を一緒に取った。

 

 その後、船に作られた検査室に向かい一緒に検査を受けたところ、わしは変わらず一定の同調率を出したが、カガリは何故か一定という言葉を何処かに捨ててしまったのではと思うほどブレを見せてきた。ところが、ブレを見せるものの、エバの操作に何の障害が無いのだ。これには検査を担当していた役員も頭を抱えてしまった。しかし、その後何回か検査を行うことである一つの仮説に辿り着いた。

 

 カガリのブレは一定感覚で起きていた。このブレこそがカガリにとっての一定同調の証なのではないか、役員たちは一応の結論を付けることにした。ある役員が冗談でエバの中に二つの意思があるようだと言っていたのを聞いたとき、わしとカガリはこの仮説が正しいのだろうと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブを出航して二日、既に日本の海域に入ったことを同志から告げられ、わしは部屋でゆっくりとした時間をアニメと共に過ごしていた。カガリはきっと日課にしているとれーにんぐを行っている頃だろう。

 

 部屋に常備されていた緑茶を入れ、飲みながらアニメを見ていれば慌しく扉が開かれ、姉のカガリが汗だくで飛び込んできた。折角入れたお茶を零され、少しショックだったわしに何も言わせず連れ出して走り出した。そして、鋼板に辿り着くとある場所を指で示した。

 

 船の進む先、約三十キロの地点に立ち込める雷雲だった。

 

「あれが…どうかしたの?」

 

 カガリにはわしが言葉を上手く伝達できないこともあると教えているので安心して好きなことが言える。それと何故かカガリはわしの言葉の真意を本能で嗅ぎ取れるらしい。自分以上に不思議な存在だ。

 

「凄いだろ!!」

「その為に」

「慌てるな、唯の雷雲じゃないぞ!! あたしが鋼板でストレッチしていたらいきなり発生したんだ!!」

「天気予報」

「でも、それもテレビだろ? 実際見るのとは違うさ」

 

 このようにわしが言いたい事が何となく分かるのだ。おーぶでの屋敷で過ごした三日で磨き上げたものらしいのだが、これが出来るのはカガリだけだとわしは思う。

 

「それとな」

 

 急に真面目な表情に切り替え、顎に手を当てて考えるような素振りで雷雲を凝視するカガリにわしは首を傾げた。

 

「あの雷雲、動きが妙なんだよな。風向きと雷雲の動きが妙にずれている気がするんだ」

 

 わしが見たところで雲の動きなど分かるはずもなく、視線を凝視するカガリに向けた。そして気づく、カガリの瞳の変化に。僅かだが瞳孔が開いて目に光が無いのだ。旗から見れば集中力が切れているような状態に見えるが決してそうではなく表情は至って真面目そのものであるから酷くちぐはぐに感じた。

 

「あれは唯の雷雲じゃない気がするんだ」

 

 声を低くして呟いた。わしはもう一度、雷雲を見た。やはり、カガリの言った違いが分からない。それでも、相棒からの言葉を信じる意味も込めてこの事を報告しておくことをカガリに告げた。

 

 

 

 

 思えば、この時に思い出せればよかったのだ。情けない話だが、この世界に来て過ごすうちに頭の螺子が緩みすぎていた。

 

 

 

 わしが深く思い出していればもっと早く対応出来ていたかもしれない事態は既に発生していたのだ。

 




 



 次回 嘘と前フリ



 次回もサービス、サービス………次も短いと思います。


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第二話

 普通でした。けど、あまり話が進んでいませんね。




    始まりんす。


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 翌日の昼ごろ、自室で昨夜の雷雲について考えていると外が俄かに騒がしい事に気づいた。同時に昨夜と同じくカガリが慌しく部屋に入ってきた。

 

 そして告げられた、松代で行われたエバ三号機起動実験の失敗と基地崩壊、正体不明の機影が今現在ある場所に進行中だという報告。

 

 ようやくそれで昨夜の雷雲の正体を思い出したのだ。

 

 わしを呼ぶカガリに目もくれず、急いで部屋を飛び出して同志参謀に面会、ことの説明を行った。

 

「つまり昨晩報告された雷雲に使徒が潜んでいたという事ですね」

 

 頷くわしに同志参謀は考え込む。きっと、正体不明の機影のことを推測しているのだろう。そして同時にわしが何故知っているのか、それに信憑性があるのか、考えているのだろう。

 

 同士参謀が顔を上げる。

 

「何番目の使徒なのか、分かりますか?」

「十三番」

「では、あの機影は使徒だと?」

「違うけど……そう」

 

 口惜しい、こっちは必死で話そうとしているのにどうしても口が動いてくれない。死に物狂いの基準が分からない。

 

 怪訝そうにする同志参謀にわしは内心で舌打ちした。いくら同志とはいえ、あちらもプロ、わしが知りえない情報を鵜呑みにするほど愚かでない。

 

「ようやく追いついたぞ! あたしが話しているのにどっかにいくなよな」

 

 追いかけてきたカガリが文句を言いながらわしの顔を見た。すると、急に眉を潜めた。

 

「レイ、泣きそうだぞ? なにがあった」

 

 無表情であろう、わしにそう言ってきたのだ。

 

「カガリ……」

「大丈夫だ、あたしに言ってみろ。全部拾ってやる」

 

 優しく諭すように言われ、不覚にも涙が出そうになった。対等な相棒が出来て肉体に精神が引きずられているとでも言うのか、わしは最近涙もろい。決して、年のせいだと思いたくない、察して欲しい、そういうお年頃なのだ。

 

 わしは出来る限り、必死な想いを抱いてカガリに語った。

 

 雷雲に潜んでいた使徒は寄生型の使徒だと言う事。

 

 それがエバ3号機寄生して使徒化した事。

 

 使徒化したエバがある場所に向かっている事。

 

 わしの拙い言葉をカガリは拾い集め、同志参謀に伝えていく。その言葉は本当にわしの言葉を拾い上げたもので、これなら同志参謀もあくまで予想の範囲内であるが、一つの予想として受け入れてくれるであろうものだった。

 

 しかし、同志参謀は表情を変えない。

 

「カガリさんが言う、ある場所とは浅間山にあるゲッター線研究所で?」

 

 わしとカガリが頷いた。それの何処に引っかかるのだ。ゲームではそうだった。

 

「ですが、正体不明の機影はその方角と違う方角に向かっているとの報告があります」

「はあ!? どうなっているんだ、レイ」

 

 カガリがわしにそう問いかけるも、わしだって理解できなかった。ゲームではげったー線を求めて研究所に向かうはずなのだ。

 

「確かに昨日ゲッター線研究所にて謎の大爆発が起きてあの区間は今立ち入り禁止の状態です。ゲッター線濃度が通常の三百倍では仕方がありません。ですが、今日現れた機影は最初から別の方角に向けて移動を開始しています」

 

 言って、話を切ると参謀は一枚の書類を提示した。

 

「ネルフ本部は進行方向を新潟と断定、そして先ほどMAGIによる詳細の進行方向が割り出されました。賛成三つで正体不明の機影は新潟港に向かっているようです」

 

 まさか、あの使徒は…。

 

「ええ、使徒は確実に私たちが乗る船の目的地に向かっています」

 

 それを聞いてこれはもう、ゲームの未来は一先ず捨てた方が良いのかもしれないと思った。それに囚われすぎれば状況判断に支障が出そうだ。現にいらぬ情報を与えてしまったのだから。

 

 それにしても、どうして使徒はわしらの方に向かっているのだろう。それを考えているとカガリが唸るように頭を抱え出した。

 

「うぅぅん……まさか…でもなぁ…もしかしたら」

「カガリ?」

「う、うん。あのな、もしかしたらだけど、本来はその浅間山? ってところに行ってたんじゃないかな…うん、だからレイは悪くない。悪いのは多分、あたしだ!!」

「どういうことでしょうか、詳細の説明をお願いします」

 

 冷静な声で参謀が問うとカガリは明後日の方を向きながら語り出した。

 

「えっと、昨日レイとあの雷雲を見ただろ、その後レイが報告しに行って、あたしはあれが何なのか知りたくて雲に向かって結構酷い言葉を叫んだんだ。そしたらさ、雷雲が凄い雷を落としたもんだから面白くなって、もっと叫んで…そしたらまた雷落として…最後にお前の父ちゃん、ボッチだぁぁって叫んだら、凄い稲光と共に何十もの雷を落として……もうそれが、許さん!! 後で覚えてろよ!! って言っているような気がして……うん、そんな目であたしを見るな、分かってる…あくまでそんな気がしただけで信憑性はない」

 

 わしらの痛いものを見るような目に耐えられなかったのか、後半は涙混じりに呟いた。

 

 参謀はどう思ったかは知らないが、元妻の話を聞いていたわしはありえそうなことだから視線を鋭くしたのだ。カガリよ、ぼっちはいかん、あれは心に嫌な意味で響いてしまう。いかに力を選んだ使徒でも自分たちの親とも呼ぶべき存在がぼっちだと言われたらきっと怒るだろう。実際リリスに拒絶されているからな。リリスが産れたばかりの頃はぼっちだったはずだ。

 

「まあ、カガリさんの貴重な助言は心の隅の隅に置いておき、後で捨てる事にして使徒がこちらに向かってきている事は確かです」

 

 言ってやるな、同志参謀。その言葉でカガリはもう普通に涙を垂れ流しているぞ。こんな馬鹿…ゴホ、ゴホ、純粋な子を泣かしてはいけない。

 

 やさしく頭を撫でてあげるとぎゅうっと抱きついてきた。もちろん、やましい気持ちは無い。純粋に妹が姉にしてあげる親愛の抱擁である。わしは元妻一筋です、久々(キリッ

 

「眼福ゴホ、ゴホ……とにかく、時間と使徒の移動速度を考えると私たちはちょうど敵が待つ港に止まる事になります」

 

 今サラッと本音を出しそうになったぞ、同志参謀。思っていても口に出さないのが紳士だろう。

 

「ですが、浅間山でゲッター線調査任務に当たっていたロンドベルに特務機関命令が下されました。今は目標を追っている状態ですが、距離的と搭乗している戦艦の速度から見て港の手前付近で目標と接触、そのまま戦闘が開始される予定です。よって我々は速度を変えないまま待機、パイロットの両名は一応機体待機になりますが出撃はありません」

「それは命令か?」

 

 カガリがわしに抱きつきながら聞いた。

 

「はい、碇司令よりそう命令されています」

 

 同士参謀は厳しい表情で頷いた。その表情を見て同志参謀も腑に落ちない命令なのだろうと思った。

 

「分かった、命令は守るためのものだからな。エバで待機する」

 

 神妙な表情で頷いた。次いで悪戯っ子のような顔に変わり、けどな、という言葉をカガリは続けた。

 

「お母様がこの世にはフリという尊くも厳しい掟があると言っていた。それは命令された言葉と逆の行動をしなければならない辛いものだ。碇司令はあたしたちにそれを下されたのだろう、聞きしに勝る厳しい方だな」

「はい?!」

 

 カガリの言葉に同志参謀が素っ頓狂な声を上げて驚いた。

 

「もし、命令違反で処罰されそうになったら、そう言ってあたしのせいにすればいい」

「ちょっ……ですが!」

「大丈夫だ!! あくまで待機はする。だが、状況とは刻々と変わるものだ。もしも、これから出会う仲間たちが危機に陥ってしまったら、あたしは迷わず出撃するだろう。それを忘れないでくれ」

 

 宣下するように言うとわしを連れて部屋を後にした。ズンズと廊下を進んで行くカガリに引かれる形で歩いていると急に立ち止まり振り返った。

 

「これでいいか?」

 

 わしは内心キョトンとした心情で言葉の続きを聞く。

 

「レイなら、きっと迷わず出撃するだろうと思った。だから、あたしが変わりに宣言したぞ」

 

 わしの心情を図ってくれたのか。ホント、この子はいい子だ。

 

「ありがとう」

「あたしはお前の姉だからな、当然だ!!」

 

 

 

 

 

 

 こうしてわしとカガリは破る前提の命令を受けて各機体で待機するのだった。

 




 次回 シンジの選択を





 次回もサービス、サービス……フリ、頂きました。


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第三話

 私はここで告白しよう。

 見栄をはって嘘を吐いたことを。

 NO 指令
 YES 司令

 今後も気をつけたいと思います。

 NO 渋いサングラス
 YES 弱メンタルサングラス

 今後もこんな人です。



  
              短いですが、始まるでゲス。
 


+サイドアウト+

 

 

 

 新潟港付近に突如現れたエヴァンゲリオン3号機は先刻を持って第十三使徒と改められ、ロンドベル別働隊ゴラオンは特務機関命令を受け、搭乗するエヴァ二機による迎撃を遂行する事になった。

 

 夕暮れをバックに所々変わり果てたエヴァ三号機が前進してくる。それに対してオフェンスを受け持つエヴァ弐号機がもうすぐ戦闘領域に突入、ディフェンスを受け持つエヴァ初号機は遥か後方に待機していた。

 

 初号機パイロット碇シンジは自身の内にとてつもない怒りを宿していた。自分が次の任務でゴラオンに搭乗した直後に連絡が、正確には命令が行方不明だった己の父から下されたのだ。当然、反発心が沸くものの状況がそれを許してくれなかった。

 

 自分たちと同じエヴァ3号機の撃墜命令、それを聞いて初めに思ったのはパイロットの安否だった。次に同行していたはずのミサトとリツコの安否。最後にパイロットの救出が出来るか否かだ。

 

 彼に戦わないという選択肢は無かった。取り敢えず、父に対しての怒りに蓋をして、いかにしてまだ生存しているパイロットを安全に取り出すことができるか、遥か先で対峙する弐号機を見ながら思考する。

 

『これより救出を開始する。いいこと、馬鹿シンジの役目は無いわよ!!』

 

 アスカからの通信が戦闘開始の合図となった。

 

 ライフルの銃撃音とバズーカの爆音が響き渡る中、通信からアスカの雄叫びが木霊する。

 

『なめるんじゃ、ないわよぉぉ!!』

 

 ロンドベルで共に戦ってきた仲間の活躍にシンジのポテンシャルも上がる。

 

『オラ、オラ、どぐされ使徒がぁぁぁ』

 

 最近、アスカは日本の任旧映画にはまっていたからな、とシンジは苦笑する。

 

『このタマがぁ、いい加減死にさらせやぁぁぁぁ』

 

 アスカは本当に助ける気があるのだろうか、シンジはまだ知らぬパイロットが心配になってきた。それでも、アスカ宣言したのならやる奴だと知っているからアスカ自身は心配していない。

 

 今だ、戦闘音はこの区域まで響き渡る。シンジはもしかしたら自分の出番は本当に無いのかもしれないと思った時、その声は通信越しに聞こえた。

 

『なんですっとぇ!! 腕が伸びるなんて反則じゃないの!! きゃあああああああ』

 

「アスカ!!」

 

 つんざく様な悲鳴にアスカの名前を叫ぶも通信からアスカの声が聞こえることは無かった。聞こえてきたのはゴラオンでオペレーターをしている伊吹マヤからの弐号機沈黙という無情な報告だった。

 

「ごめん、アスカ……フラグだったみたいだ」

 

 自分があんな事を思わなければ、そう後悔しているとネルフ本部から通信が入った。

 

『……シンジ、あれと戦え』

 

 憎き父親の声に蓋をしていた怒りが僅かに漏れてくる。

 

「言われなくても、パイロットを救出するよ」

 

『誰が救出と言った。あれの破壊が最優先だ』

 

「僕にとってはどちらも同じだよ」

 

『シンジ!!』

 

「それより父さん、僕のメッセージは理解してくれたかな?」

 

『………』

 

「その様子だと考えあぐねている様だね。酷く単純なのに」

 

『お前は実の父親を殺すというのか?』

 

「違うよ」

 

『………ほっ』

 

「四分の三殺しだよ」

 

『殆ど殺しているようなものだ!! お前はそんなに私が憎いのか!!』

 

「ふっ」

 

 思わずシンジが鼻で笑うと通信からでも分かるくらいゲンドウが絶句していた。そうこうしているうちにすぐ目の前にはエヴァ三号機が迫ってきた。

 

『……許さん。親を馬鹿にして……お前には行動すらさせてやらん!!』

 

 通信から恨みがましい声が聞こえた直後、起動停止音が操縦席から聞こえ、明かりが消えた。

 

 次の瞬間、操縦席が赤い光に包まれると初号機の咆哮が付近に響き渡った。

 

「なっ!! 父さん!! 何をしたの!?」

 

 暴走したような状態の初号機が狙いを定めたかのように深く腰を据える。

 

『命令は破壊だ。お前はそこでダミープラグの威力を垣間見るが言い』

 

 ゲンドウの無慈悲な宣告のもと、初号機は普段の動きとは違う獣のような動きで3号機に眼前に飛び込むと、張られたATフィールドをいとも簡単に崩壊させ、右手を引き千切り、次いで左足をもぎ取った。

 

 鮮血が噴出して荒れ狂う初号機を染める。その姿を見てシンジの顔が恐怖に歪む。

 

「何だよ、これ……こんな!! パイロットを殺しちゃうよ!!」

 

 慈悲など獣になく、振り下ろされる拳、肉の潰れる音、何度も宙を舞う血しぶき、それが何度も繰り返される。まさに一方的な暴力にシンジは悲痛な叫び声をあげる。

 

「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!  止めてよ、父さん!! パイロットが!! パイロットが!!」

 

 背後に回った初号機が無理やりエントリープラグを引っこ抜いてその手に乗せた。

 

「ああああああああ、駄目だ!! それだけは止めて!! 止めてよ!!」

 

 シンジが望まなくとも勝手に下される行動、もう止められない自身は誰かに託すしかない。いないと理解しながらも心の底で思い浮かべた人物に助けを求めた。

 

「助けて、レイさん!!」

 

 初号機の手が閉じられていく刹那、

 

『任せて』

『任せろ!!』

 

 一人は会いたくて仕方が無かったものの声、もう一人の声は知らないけれど、何故だかとても心強くさせてくれる声が通信から響いた。

 




 

 次回 ゲッター線 心のむこうに




 次回もサービス、サービス……お話も後半に差し掛かってまいりました。既にラストまでは頭の中で出来ています。字におこせるかどうかは別にして……別にして。

 今後も皆様が少し笑える話を作れれば幸いです。 


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第四話

 




    始まるです。


 

 後方から4号機と並走してきた零号機が左手を掲げ、盾に収納されたワイヤーを飛ばした。それはエントリープラグを持つ腕に巻きつくと物凄い速さで巻き取られる。それによって手から滑り落ちるエントリープラグを4号機はキャッチして初号機から素早く離れた。

 

「来てくれたんですね、レイさん」

 

 安堵の表情でシンジが呟いた。しかし、操縦席は今だに赤い光を発している事に気づいたシンジはすぐさま通信に語りかけた。

 

「レイさん! 逃げてください。こいつはまだ動きます」

 

『…それは無理…みたい』

 

 何故かと、問いかけようとして目の前の状況に目を見開いた。先ほど腕と足を使えないようにした3号機が立ち上がったのだ。そして引き千切られた場所から人が持つ肌色の腕と足を生やし始めた。 

 その光景にシンジは眉を潜めて内心で気持ち悪いと呟いた。

 

 初号機がワイヤーを強引に引き千切り、再び3号機に飛び込むも、今度は巨大なATフィールドに阻まれ衝撃と共に倒れこむ。ところが3号機は無防備の初号機には目もくれないで一定のものに視線を合わせたままだ。

 

 3号機の口が大きく開き、

 

『ころろろろろろす』

 

 憎悪が篭った低い呻き声を発すると4号機目掛け駆け出した。

 

『やっぱりな!! レイ見たか、こいつはあたしをどうやら殺したいらしい』

『馬鹿……自業自得』

『うっ……分かってるよ! あたしが悪かった。きっちりあたしが止めを刺してやる。それがせめてもの情けだ。というわけで、レイ、パス』

 

 ひょいっと手に持つプラグを零号機に投げ渡し、難なくキャッチする零号機の姿を倒れた初号機から見ていたシンジが『軽いな、おい!!』と突っ込みを入れる。

 

 3号機が空中に飛翔して4号機の眼前に下りるとその長い腕を伸ばすもそれを軽くいなして新しく装備された肩ウェポンから太いニードルを発射させた。それはフィールドに阻まれる事なく3号機の胸部に深く突き刺さる。

 

「どうして」

 

 動き出そうとしたところ零号機に踏みつけられた初号機の中で見ていたシンジが不思議そうに呟いた。暴走状態の初号機ですら阻む壁をいとも容易く中和する4号機、中にいるパイロットはどんな人なのか、と考えているとレイから通信が入った。

 

『姉さん』

 

「へ?」

 

『入院していた……私の姉さん』

 

「え!?」

 

『という設定の相棒』

 

「どっち!? ていうか、設定って何だぁぁぁぁぁぁ」

 

 そう叫び声を上げながらも、あ、レイさんの関係者なら理不尽なのも仕方ないか。と酷く納得してしまうシンジだった。

 

 刺さったニードルの衝撃で体勢を崩した3号機の懐に飛び込んだ4号機が首元と股下を掴み持ち上げ、勢いよく付近の平地に向けて投げ飛ばした。直後、3号機の胸部に刺さったニードルの一本閃光を上げて爆発、残り四十本分の刺さったニードルが誘爆してそれは大爆発に変わった。その凄まじさに流石のカガリも驚きを見せる。

 

『おい、開発部はどんな代物を作り上げたんだ!! あたしがあいつを投げなかったらここいら一体更地になっていたぞ!!』

 

 まったくだ、シンジはその威力を垣間見て頷いた。

 

『けど、何だか癖になるな!!』

 

 あ、この人もボケ属性になるのか、裁ききれるかな、と、シンジは無駄に不安がり。

 

『快感?』

 

『これが快感か!! 性感帯の一種だな!!』

 

 違う、この人は天然だ、どうしようと未知の恐怖に変わった。

 

 シンジの恐怖はさておき、3号機はあの爆発からも生き残ったようだ。胸部などは陥没し、肌色の腕と脚は再び失って見るも無残な状態ながら執念のような気迫を身に纏い4号機に迫ってくる。ただ、片足が無くて這っている状態なので酷く遅い。

 

『凄い執念だ。そんなにお父上をぼっち扱いしたのが嫌だったんだな』

 

 何言ってんだ、この人、あ、天然だから仕方ないのか、怖ッとシンジは通信から流れる声を恐怖しながら聞く。

 

『謝罪と……』

『ああ、心中では謝っているさ』

『声……』

『うっ…声に出して謝罪しながら攻撃するのか……不器用なあたしには難しいぞ』

『墓』

『あいつの墓石の前で謝る想像をしながら倒せって言うんだな。よし、やってみる!!』

『健闘を祈る』

 

「いや、どうして分かるんですか!? どんだけエスパー!?」

 

 戦いが佳境に差し迫っているのにも関わらず、突っ込まずには居られなかった。

 

『うおおおおおお』

 

 4号機が走り出して這いずる3号機の眼前で立ち止まると徐に右足を上げた。

 

『ごめんなさぁぁぁぁぁい』

 

 背中の剥き出しになったコア部分を思いっきり踏みつけた。

 

「今後、お目にかかれないほど最低な謝罪だよ!!」

 

 シンジが突っ込んでしまうほど見事な一撃だった。

 

 コアがぐしゃりと潰れて3号機が絶叫を上げる。

 

『ユルルルルルルルルルル…ス』

 

 そのまま3号機は機能停止、使徒は消滅した。

 

「おおぉぉぉい、あれで許しちゃうのかよ!!」

 

 最後の最後までシンジは突っ込みを全うしてこの戦いは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浅間山にてゲッター線濃度が通常の三百倍を出していたのはある新型ゲッターの実験によるものだった。新型ゲッター、その名も真ゲッターは最初、動力たるゲッター線を吸収しなかったのだ。それによって大爆発が起こり浅間山は危険地区に指定されたわけである。ところが、松山でのエヴァ起動実験失敗時刻に真ゲッターは急に三百倍の濃度だったその地区のゲッター線を吸収、それによって起動し始めたのだ。

 

 その後、意志があると言われるゲッター線の声を聞いた流竜馬は使徒化したエヴァが向かう新潟に向けてゲッターが誇るスピードの十倍以上で飛んで行った。

 

 しかし、着いた頃には決着がついており、ゲッター2パイロット神隼人は竜馬に問いただした。

 

 すると竜馬は喉を鳴らして言葉を発した。

 

「ゲッターが言っている。遅かったみたい、てへぺろっと」

「おい、冗談はよせ」

 

 隼人が呆れた声で言うも、竜馬は酷く真面目な顔で続ける。

 

「ゲッター線が謝っている。出番をなくしてごめんちゃいっと」

「もういい、竜馬、お前は疲れているんだ」

「ゲッター線が意味深な事を言っている。無限力もびっくりですなっと」

「ああ、そうだな。帰ってゆっくり風呂でも入れ、そしてぐっすり眠るんだ」

「ゲッター線が労っている。お疲れちゃぁぁん、歯を磨いて寝るんだぞっと」

「そうだな、早く研究所に帰ろう」

 

 

 

 

 

 こうして原作では三号機を消滅させるほどの活躍を見せるはずだった真ゲッターは研究所にとんぼ返りしたのだった。

 




 次回タイトル 男のタタカイ、元おじいのタタカイ





 次回もサービス、サービス………そしてシンジは相方を得る。


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男のタタカイ 元おじいのタタカイ

 シンジのポテンシャルをなめるなよ(笑)とだけ言っておきましょう。彼のツッコミ力は…いや、止めておきましょう、無粋でした。




                  始まります!


+今はレイの元おじい+

 

 

 助け出されたトウジ君と共にわしらエバは異世界の戦艦ごらおんに収容された。そこでようやく、三人目のパイロット、アスカちゃんと会えたのだが、先の戦いで敗北したため、わしらに挨拶することなく自室に閉じこもってしまった。同じく、シンジ君も3号機に乗っていたのがトウジ君だとこの時知らされ、危うく己が友達を殺してしまうところだったと自責の念に囚われてしまい自室に篭ってしまう。カガリとわしは仕方なく、彼らの心が落ち着くまで接触は止める事にした。その代わり、ごらおんに乗っている一部の愚連隊所属機動兵器の操縦者と挨拶することになった。

 

「お二方、ようこそおいで下さいました。この艦の艦長を勤めさせていただきます、エレ・ハンムと申します。そしてこちらが副官を務める」

「エイブ・タマリと申します」

 

 なんとこのエレさん、いやエレ様と呼ぶべきこの方は異世界の女王なのだ。確かに全身から何処となく高貴な雰囲気が溢れている気がする。カガリに至っては目が点といった感じで見つめていた。自分との違いを思い知らされているのだろう。まあ、わしはカガリのようなお転婆姫も好きだぞ。

 

 それを雰囲気で感じ取ったのか、カガリがウルウルとさせた瞳でわしを見つめてきたから取り敢えず頷いておいた。

 

「では、次に我がヴァイストンウェルが誇る聖戦士をご紹介致しましょう」

 

 エレ様がそう言うと、二人の男女とちっさい少女が前に出てきた。

 

「ショウ・ザマです、かつての東京都武蔵野市で産れた日本人ですが、今は聖戦士としてビルバインに乗っています」

 

 黒髪で日本人らしい顔だと思っていたら、どうやら当たっていたらしい。武蔵野市出身とは中々、いいところに住んでいたようだ。で、今回異世界から逆輸入されてきたらしい。

 

「私の名前はマーベル・フローズンよ。元はアメリカのテキサス州出身だから、私もショウと同じね」

 

 こちらも外国系の顔をしていると思っていたが、テキサス州か、中々米国らしい都市の出身ではないか。よし、シュウ君とマーちゃんだな、覚えたぞ。

 

 というか、カガリよ、わしも気にはなるがそんなに見ていたら小さい少女に穴が開いてしまうと思うぞ。まあ、分からなくもないが……凄いな、妖精さん。

 

「今度はあたしね! チャム・ファウよ、先に言っておくけど妖精とかじゃないからね。種族はミ・フェラリオだから!!」

 

 小さい少女はきっと散々、妖精と言われてきたのだろう。ボソリと妖精だ、と呟いたカガリの眼前に飛び出して念を押して告げていた。カガリはそれにコクコクと頷いていた。

 

 次に紹介されたのはこんばとらーぶいとぼるてすぶいの操縦者だ。この時もう、カガリは名前を覚える事を諦めていたが、わしはなんとか覚えた。ただ、第五使徒の折、盾を用意してくれた件についてお礼を言った時にこんばとらーぶいの操縦者葵豹馬君がわしを見て驚き、すぐに視線を下に向けてそれ以後視線を合わせてくれなかったのは何故だろうか…気になる。小学生の小介君と唯一の少女操縦者ちずるちゃんが震える背中を指すって励ましていたがわしは知らぬ間に何かしたのだろうか…気になる。

 

 続いて、げったーの子達とでっかいろぼっとを操る草間大作君たち、このゲームの主役、どうやらこの世界ではタスク君らしい、は別件で居ないらしく名前だけ教えてもらった。そして最後に獣戦機隊と呼ばれる何とも野性味溢れる人たちが紹介してくれた。

 

 その中で、式部雅人君と呼ばれる子が初対面にも関わらず。

 

「君って、ホント可愛いよね。でも、君って残念なんだよね……はぁ、ホント残念だよ」

 

 とか、抜かしてくれたのですぐさま背後に回って腕三角絞めをお見舞い、残念ではない、わしに夢で会えるかもしれないので眠らせてやった。それを暢気に見ていた忍君に雅人君の代わりに獣戦機隊に入らないかと本気のような声で誘われた時は、失神させたことを後悔してしまうほど雅人君に同情してしまった。

 

 ちなみにその時カガリが何をしていたかというと、ちゃむちゃんに一生懸命ドッフンだ、でお馴染み変なおいちゃんのフリを教えていた。ちゃむちゃんはそれが楽しいのか一生懸命見ながら真似ているのだがショウ君はドン引きしていた。その光景を目にしてわしは姉妹関係を改めて見直そうかと思い立つもすでにわしらは最初に姉妹だと紹介しているので後悔先に立たず、である。

 

 何時の間にか目覚めた雅人君が、お姉ちゃんの方が残念だねと言って来た時は素直に頷いてしまったのも仕方が無い。

 

 愚連隊にはまだ沢山所属するものたちがいるらしいが今は部隊が分かれているらしく、他の子達も機会があれば紹介してくれるそうだ。

 

 その後、ねるふ本部に着くまで空の旅を楽しむようエレ様より心使い頂き、わしらは宛がわれた部屋で休む事になった。

 

 簡素なべっどに座り、静かに目を閉じているとドアを静かに叩く音が聞こえた。この時点でカガリではないことが分かった、カガリにのっくする気遣いは無い。

 

「どうぞ」

 

 それらしく言葉にして促せばドアがゆっくりと開かれ、項垂れたシンジ君が部屋の前で立っていた。わしは手招きして、べっどの横を示した。すると、シンジ君は躊躇しながらも部屋に入ってきてわしの横に座った。シンジ君は座ってから視線を下に下げ黙って地面を見ている。わしも今は多くを語れる口ではない、死に物狂いになるのもかなり疲れるのだ。戦闘の後なら尚の事である。

 

 お互い黙ったまま飛行音だけを耳に感じて過ごしていれば扉が大きく開かれた。案の定のっくなど知った事か、という態度でカガリが入ってきた。バナナを持って。そう、バナナを持って。

 

 カガリはわし以外にいるとは思ってなくて一瞬驚いた表情を浮かべたがすぐに何時もの笑顔になって備え付けの椅子に深々と座った。

 

 

 バナナの一つをわしに手渡してきたので素直に頂いて口をつけた。カガリはもう一つをシンジ君に手渡したようだが、シンジ君は要らないと拒否したらしい。わしは無心でバナナに食らい付いていたから情報は耳でしか入らないのだ。

 

「ホントにいらないですから」

「そんなこというな、戦闘の後は疲れるだろう? 甘いものは疲れを取るぞ!」

「いえ、だから今は食欲が無いんです」

「うん? それは駄目だぞ、パイロットは体が資本だ。よし、あたしが食べさせてやろう」

「え!? ちょっと、そんなバナナを押し付けてこないでくださいよ! あ、くそまた、鼻に入ってきやがった!! ちくしょう!! あんたら本当に姉妹なんだな!! 攻撃の仕方がそっくりだよ!! 痛いっ!! 鼻がっ!! 鼻がぁぁぁぁぁ!!」

「すごいな!! 至高の存在GEININばりのリアクションだ!!」

「こんなに苦しいのにこの女、笑っていやがるだと!!! レイさん!! あなたのお姉さんは使徒やエアロゲイターなんかより断然恐怖です!! …ってぇぇぇぇ! レイさんが無心でバナナ食っていて僕らのやり取りなんか見てねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 いや、見てはいないが、耳には入っているぞ。それにしてもこのバナナ美味しい。この完熟バナナ女王は人が生み出した文化の極みだな。

 

 そんなことを思いながらもわしの耳には歓喜に沸くカガリの声が聞こえる。

 

「凄いツッコミ力だ!! ツッコミ力四十八万ぐらいだな!!」

「基準が分からない!!」

「ツッコミ力の1はバナナ一房分だ!!」

「余計、分からなくなったうえに天然という存在が更に怖くなった!!」

 

 ふむ、なるほど四十八万だとするとバナナ一房が大体五本だとして……バナナ二百四十万本……だと……凄い、圧倒的ではないか!! 何かに対して。

 

「どうだ、あたしとGEININの頂点目指してコンビを組まないか?」

「えぇぇぇぇぇぇ」

「お前とあたしならきっと遥か頂にも手が届くような気がする!!」

「えぇぇぇぇ」

「了承さえしてくれれば今から行くネルフ本部でネタ披露をしたいところだ」

「えぇぇ」

「ネタはそうだな…組織のトップに居るこんな父親は嫌だ、でどうだ?」

「え……」

「きっと、ネタを耳にしたどこかの父親はサングラスをぶっ飛ばすほど驚いて考えさせられると思うぞ」

「………」

 

 さすが、カガリ。天然でありながら、シンジ君の内心にある今の状況を的確に抉ってきやがる。きっと当人は本気でネタ披露したいと思っているのだろうが、それはそれでいいのだ。要はシンジ君の内心に溜まった鬱憤を吐きだせれば、それだけで心が軽くなる。

 

 バナナを食べ終えて幸せの余韻に漬かりながら顔を上げれば、キラキラとした瞳でカガリを見つめるシンジ君の姿があった。バナナを鼻に詰めて。

 

 苦しくないのだろうかバナナを鼻に詰めて。

 

「出してみたら?」

 

 鼻のバナナをと言いたかったが、口が動かなかった。それをどう解釈したのか、シンジ君はポツポツと今まで愚連隊で何があったのか話し出した。バナナを鼻に詰めて。

 

 まくろすという戦艦のわーぷで冥王星に行く前、異性人の巨人と戦った事、冥王星から自力で岐路に着こうとして多くの敵と戦った事、特に木星付近に帝国を作り上げた木星人が同じ人間だったという事、いんぐらむ少佐という仲間が裏切った事、ダテ君がわしの師匠になってほしいといっていた事、薄情なわしに怒っていたのに火星に着いた頃には会いたくて仕方が無かった事、そして地球につくまで格闘技を習っていたという事、最後に今回のトウジ君に関する父親との事、それらをゆっくりと時に楽しそうに、時に悲しそうに話す姿は沢山の経験を経たからこそ浮かぶいっぱしの男の顔であった。何度もいうがその表情でも鼻にバナナを詰めている。

 

 話し終えたシンジ君は部屋に入ってきた頃と比べて幾分表情が明るくなっていた。シンジ君は何かを思い出したのか、表情を改めてカガリに顔を向けた。

 

「吐き出したら、何だかとても楽になりました。あ、自己紹介がまだでしたね。セカンドチルドレンエヴァ初号機パイロット碇シンジです」

 

 ああ、そう言えば自己紹介をお互いしていなかった。

 

「フォースチルドレンエバ4号機パイロットの綾波カガリだ。未来の相方でもあるからな、覚えておいてくれよ!! ちなみに姉妹とは別にレイとは相棒でもあるが、それはエバパイロットとしての相棒だ。GEININ相棒はお前だけだから不安がるなよ?」

「全然不安に思いませんから!! むしろ、まだそのネタ続いていたんですか!?」

「何だ? ネタなんかじゃないぞ。あたしは何時でも本気だ!!」

 

 胸を張って宣言するカガリを眺めて僕の感動を返せよ、ちくしょう、こんなところも似ている姉妹だな!! と突っ込みながら、わしに視線を向けてきた。これは助けを求めている雰囲気だ。よし来た、任せておけ。

 

「楽しみにしている」

 

 駄目でした。内心で平謝りしているとカガリが勢いよく立ち上がり、シンジを強引に連れて部屋を出て行こうとする。

 

「ど、何処に連れていくつもりですか!?」

 

 当然、シンジ君は行くまいと必死に抵抗するのだが、このカガリ、頭は少しゴホゴホだが、力は並みの成人男性より強いときたものだから、まだ発展途上の上、元々がひ弱なシンジ君には歯が立たない。

 

「そんなのもん、GEININ道もネタの一本からというお母様からの教えを全うするため、これからネタを考えるに決まっているだろう!!」

 

「何ですか、そのお母さんの教え!! つまりはレイさんのお母さんでもあるんですよね!? あれ、何か納得している自分がいる……というか、力強いなカガリさん!! 父親の事より今のこの状況の方がよっぽどショックだよ!! 僕の鍛えた期間は何なんだったんだぁぁぁぁ」

 

 必死に泣き叫び抵抗するもカガリにズルズルと引きずられ、部屋を後にした。その際、視線をわしに遣し目力で止めてくれと必死に懇願するシンジ君から、そっと視線を外してしまった。

 

 何故なら……泣き叫んでいるのに最後までバナナを鼻に詰めている姿が面白すぎて直視出来なかったからだ。

 

 すまない、シンジ君。

 

 

 

 

 そう心で謝りながらわしは残されたバナナに手を掛けるのだった。

 

 




 次回、ネタ、誕生






 次回もサービス、サービス……バナナ二百五十万本分のポテンシャル。


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第二話

 





 始まり、始まり。


+サイドアウト+

 

 

 一路、ゴラオンは第二新東京市に到着、エヴァ四機と未だに意識が戻らないトウジをネルフ本部に搬送すると次の任務のため本部を後にした。ネルフ医療スタッフがトウジを病院に搬送し、残った四機はパイロットの操縦でドックに向かう事になるのだが、そこで事件は起きた。

 

「シンジ君、あれは仕方が無かったんだ。君を守るためにもあの選択はなされたんだよ?」

 

 そう言ったのはオペレーターの一人日向マコトだった。

 

『そんな事は関係ないです』

 

 通信越しから聞こえてきた声は先ほど名前の呼ばれたシンジだった。彼は初号機から降りることを拒否してエントリープラグの中に立て篭もっているのだ。外部から発信された強制射出信号を内部から拒絶して手の施しようが無い。しかし、それはシンジにとってやらなければならない事があったからだ。

 

「シンジ君、こんな事をしてもあなたの立場が悪くなるだけよ」

 

『黙って! そんな事は関係ないんだ!!』

 

 伊吹マヤが諭すように言うもシンジは頑なに聞き入れようとはしない。しかし、それは内心で復唱する言葉を必死に忘れないため叫んだだけだ。決してマヤに怒っているわけではない。それを知らないマヤが困り果てていると青葉シゲルが傍によってきて耳打ちする。

 

「このままじゃ、まずいぞ。友達の事でシンジ君興奮している」

「そうね、今の彼ならこの施設を壊す事も厭わないと思うわ」

 

 二人がこそこそと話すその場所に包帯を頭に巻いたリツコが腕に包帯を巻いたミサトと共にやって来た。

 

「内部電源が残り二分、彼ならこの施設を十分崩壊させられるわね」

 

 自嘲気味に呟くリツコに対してミサトは痛々しい表情を浮かべる。

 

「私のせいね……最後までパイロットの名前を伏せていた事が裏目に出たわ。私たちの問いかけにも応えてくれない……シンジ君、裏切られたと思っているのよ」

 

 治療を受けていた二人が通信で語りかけてもシンジ君は声すら掛けてくれなかったのだ。居ても立っても居られずミサトが初号機の元に向かうのをリツコは止めなかった。状況が変わらなくとも施設が壊される様を見過ごせなかった。案の定ミサトとリツコが来てもシンジからの応答は無かったが。

 

 しかし、それはとにかく、シンジには目的があって通信の声すら聞こえないほど必死だったのだといことを明記しておく。

 

 やがて初号機内部電源が一分三十秒を切った頃、唐突にシンジから全施設に向けて通信が入った。

 

『緊張する……えっと、初号機パイロット碇シンジです。これからネタをやりたいと思います。本当は嫌ですが……相方の強制命令なので泣く泣くやります。聞いてください』

 

 通信から聞こえるわけの分からない宣言にネルフ全スタッフ、一部パイロットを除くが、頭上に疑問符の嵐を漂わせていた。

 

 そしてそれは唐突に始まる。

 

『組織のトップに立つ、こんな父親は嫌だ!!』

 

 ジャカジャンっという効果音が鳴らされたような幻聴が聞こえたスタッフは数え切れない。

 

『髭が濡れると力が半減する』

 

 ぼそりと呟かれた言葉に笑ったものは残念ながらいなかった。シンジは通信越しでそれを感じて泣きそうになった。どんな、拷問だ。しかし、相方からの強制命令に逆らえず続ける。

 

『問題ないという口癖は赤ん坊の頃からだ』

 

 なんと一部のスタッフから笑い声が聞こえてきた。

 

『実のところサングラスが本体だという噂がネットで流れている』

 

 別の箇所から笑い声が聞こえてきた。いけると思ったシンジは相方に教わった一つの技を披露する。

 

『本当にサングラスが本体だ』

 

 かぶせという技を披露したところ、中々の高評価だった。気を良くしたシンジは声を弾ませて続ける。

 

『お決まりのポーズを二十年続けていると願いがかなうと思っている。実際叶ったのは男らしい髭が生えたことだ』

 

 日向マコトがブッと吹いた。

 

『渋い声を生かして副業にナレーターをやっている。そしてそちらの方が稼げてしまい内心で司令を辞めようか今も悩んでいる』

 

 青葉シゲルが辛抱堪らんといった感じで笑い出した。

 

『難しい話をしている時に内心でゲンドウが難しい言動をしているとか考えて後で一人笑っている。副司令官に見られて失笑を貰った』

 

 伊吹マヤが顔に手を当てて笑いを堪え始めた。

 

『副司令官の方が尊敬されるので密かに副司令官の頭がカツラだとネットで流している。そしてそれを知った副司令官にサングラスを砕かれて生死をさ迷った』

 

 もうどこか分からないほどスタッフの笑い声が通信越しから聞こえてきた。

 

『母さんが生きていた頃、家に帰ると母さんに向かって赤ちゃん言葉を駆使しながらコミュニケーションを取っていた。プレイも化』

 

 今まで呆れた様子だったリツコが腹を抱えて笑い始めた。その様がとても嬉しそうに見えるミサトだった。

 

『元々、碇ゲンドウがこの組織でトップなのがそもそもクジ引きなどで決まっただけの運によるものだった。僅差で三丁目の田所さんが落ちた』

 

 遂には先ほどまで悲痛にしていたミサトまでもが苦笑を浮かべるに至った。

 

『メンタルが弱すぎて三日に一度は泣く。というか、泣け』

 

 司令室にてネタにされた本人と一緒に事の成り行きを見守っていたコウゾウが咳き込んだ。内心で当たっていると思いながら笑いを咳で誤魔化すことに専念した。

 

『最後に…これは僕が小さい頃の唯一覚えている思い出で真実だと思うことを一つ』

 

 ここにきて最後に予定に無かった真実を織り交ぜたシンジの思い出が語られる。既にネルフスタッフ一同は心を一つにしてその話に耳を傾ける。

 

『小さい頃、僕が見ているのも知らないで洗面台の鏡の前に立ち『俺の名前は一堂広軌、ロボダインのパイロットをやっているシガナイ傭兵さ』とポーズをつけながら言っていた時は小さいながら思わず見てはいけないものだと認識してそっと見ないフリをした……母さんの事は覚えてないのにどうしてこれは覚えていたのだろう……泣きたい』

 

 大爆笑が響き渡るスタッフルームの中で何故か抗議するような怒声が響き渡っているのもあったが概ね大爆笑で閉められ、ゲンドウのLCL内圧を限界にしろという命令で碇シンジワンマンショーは終わりを告げたのだった。失神したシンジがエントリープラグより強制的に運び出されるとき、その顔を見たミサトは苦笑を深め、眠るシンジの頭を優しく撫でる。その顔は達成感のようなものを感じさせる清々しい笑顔を浮かばせていた。

 

 

 

 趣味の悪い司令室にてこの話でもお決まりのポーズとなった格好で座るゲンドウと諜報部に連れてこられ立たされる息子シンジが対峙していた。ちなみに同じ場所に対峙したのはこの時が始めてだ。

「エヴァの無断使用による単独ライブ開催を初め、数々の違約違反を犯したが、何より私の心に多大の被害を与えた罪は重い」

「ふっ」

 

 渋い声で、自分が一番傷ついていますというアピールをする父親にして総司令のゲンドウ。そんなゲンドウを鼻で笑う息子にして一パイロットのシンジ。横に立つコウゾウは思った。旗から見たらどちらの立場が上かよく分からんなと。

 

「くっ……反論はあるか?」

「無断使用やその他諸々については素直に非を認めます。でも、父さんの心が傷ついた件については、ざまぁ、と思っていますので反論ありまくりです」

「あくまで私の心については認めないか、もういい……他については認めるというのだな、それが何を意味するかお前に理解できるか?」

「はい、元々パイロットになりたくてなったわけではないので後悔はありません。父さんを四分の三殺し出来なかったことについては後悔しまくりですが」

「安心安全置いておいて良かった諜報部……そうか、では帰れ。そして二度と戻ってくるな」

「はい、非常に残念ですが帰ります」

 

 怪しく目を光らせゲンドウを一度見据えるとくるりと振り返り司令室を後にしようとする。その足取りは確かなものだった。逆に睨まれたゲンドウの足元はガクガクと震えていた。しかし、そこは父親としての威厳を保たせるため、腹に力を込めて後ろ姿の息子を比喩するかのように語りかけた。

 

「逃げるのか?」

 

 足がピタッと止まり、ゆっくりとシンジが振り返る。

 

「それは息子の僕に対する遺言と取っても?」

 

 どこか、夫婦喧嘩した時の妻が浮かべていた微笑を息子から見せられ、ゲンドウの心はどこか懐かしさ感じながらもポッキリ折れた。

 

「先生のところに帰れ……帰ってください」

 

 後半は聞こえないくらいの声で懇願した。彼にもプライドという文字は一応あったらしい。シンジは舌打ちして司令室を素早く出て行った。その後を諜報部員が慌てて着いていく。最後まで横柄な態度は変わらなかったようだ。

 

 ゲンドウは隣に立つコウゾウに目を合わせた。

 

「すまないが、一人にしてくれ」

「ああ、何時もの泣き時間だな。分かった」

 

 コウゾウが頷いて部屋を去ろうと歩き出せば、物陰からこの場に居てはいけないはずの男が罰の悪そうな表情で現れた。コウゾウは一瞥してため息を吐くと顎で出口を促しながら再び歩き出した。

 

「すまないが、内のトップはメンタルが弱い。これ以上は勘弁してくれ、破嵐万丈」

 

 万丈と呼ばれた男は頬を掻きながら僅かに苦笑を浮かべると頷いて共に歩き出した。部屋を出る際、振り返った万丈が口を開いた。

 

「本当はここで人類補完計画の詳細を聞こうと思ったのですが…無理そうですね」

「………」

「僕としても、己の欲のためにメガノイドを作り上げ、妻と実の息子すらも実験台にする父親は好きではなかった。だから、彼の気持ちも分からなくもない。けれど、あなたはあの男とは違う部分も持ち合わせていることを知っている。あの時本当は息子の安全を守るため強制的に主導権を握ったのでしょう……息子のシンジ君は気づかないようですが、あんな態度ではそれも仕方ない事です」

「………グスッ…破嵐創造の息子である君が無断でこの場所に来たことはこの場のやり取りを忘れてくれたら不問としよう」

「いや…言いませんけど……不憫すぎて」

「グスッ…ぼんだいない…」

「日輪があなたにも輝くよう祈っておきます……でも、息子に対して愛情を持っている父親がいたことに関しては少し羨ましいですよ、シンジ君が」

「ヒックッ…グスッ」

「すいません……帰ります」

 

 万丈が司令室を後にするとゲンドウがティッシュ片手に盛大の嗚咽を漏らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の午後、アニメでも語られた最強の拒絶タイプの使徒が第二新東京市に現れた。

 




 次回 あの男、侵入





 次回もサービス、サービス……今後物語の性質上シリアス部分が出てきてしまう。もうこれは己との戦いです。


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第三話

 ギャグ要素が殆どない…だと!?



            始まりますです。


 

 ネルフ本部に緊急を告げる警報が鳴り響いた。広々とした構造の作戦命令施設では各スタッフが慌しく動き回り情報を伝達していた。そして統括した一報が参謀のミサトに告げられた。

 

 使徒から撃ち出された一撃がジオフロントに繋がるすべての装甲を破壊した。第一から第十七まである装甲がたったの一撃。ミサトは内心で驚愕しながらもエヴァ弐号機をジオフロント内にある森林に配置するよう伝えた。バックアップに急遽存在を公表されたレイの姉が乗る4号機を据えて待機状態にするよう言葉を添えて。ミサトの心情としてはいきなり現れ、禄に似ても居ない姉という不審な存在より長く共にしたアスカを選ぶのも無理は無かった。

 

 ここで、何故レイの存在が出ないのか。これは碇指令より下された勅命によるものであった。今回の使徒との戦いにレイは出してはならない、それ以外は好きにしてよいという酷く不信感を滲ませた命令にミサトは頷きながらも内心で指令に悪態をついた。

 

 モニターには堂々とした貫禄でジオフロント内に降り立つ第十四使徒の姿が映し出されていた。弐号機の射程に入った使徒に数多のミサイルと銃弾が浴びせられる。雄叫びを上げながらライフルやバズーカを撃ち出すアスカには鬼気迫るものがある。やがて爆煙によって視界から映らなくなった使徒にすべての武器を撃ち終えた弐号機が近づいていく。その手に握り締めたソニックレイブを構えながら何時でも反応が出来るよう慎重に歩みを進めていたその瞬間、一見布のような触手が爆煙から飛び出してきた。咄嗟にソニックレイブで防御体勢するも意図も容易く武器を持っていた右腕ごと切断した。

 

 作戦本部にアスカの悲鳴が響き渡る。一瞬の事態にモニターを見ていたミサトも気づけないばかりか外部からシンクロ率カットの命令すら出せなかったのだ。当然その他人間にも目視は難しく遂行される事は無かった。

 

 使徒はもがく弐号機に向けて進み、止めを刺すべく二本の触手を動かした。今度は始動からの時間差でミサトも確認できたことにより命令を伝えようと声を発するところでモニターに変化が起きた。

 使徒に向けて一条の光が撃ち込まれたのだ。それを放ったのはシルバーの装甲を持つエヴァ4号機だった。

 

『これより使徒と戦闘を開始する。弐号機の回収を急いでくれ!!』

 

 元気が良い声が作戦本部に響き渡るとモニターに映し出された4号機はポジトロンライフルを投げ捨て走り出し、その勢いのまま使徒に突貫した。

 

 唖然とするミサト含め、その場に居た一同も呆然とモニターを眺めていた。何故なら使徒が発生させたATフィールドに阻まれ見るも無残に激突したのだ。だが、そんなことでリツコも驚かない。むしろ当然だと自嘲の笑みを浮かべるだけだ。

 

 その後に迫り来る触手を4号機は紙一重で避けていくのだ。僅かに装甲を掠める程度には被弾しているものの致命傷は一度も無い。しかも装甲に掠める時は4号機が攻撃に転じた時だけで、避けるだけなら掠めもさせないのだ。

 

『クソッ、堅いな、こいつ。こっちの攻撃がビクともしないぞ!!』

 

 足元のウェポンラックから取り出した通常よりも長めに設計された後期形プログレッシブナイフで切り込もうとしてもフィールドが邪魔で本体に届かない。悪態を付きながらも触手の動きを覚え、攻撃に転じる時でも被弾しなくなった4号機にモニターを見ていた一部から感嘆の声が上がる。

 

 紙一重の攻防を繰り返していたその時、沈黙していた弐号機が立ち上がった。そして片手でナイフを取り出すと使徒に向け突貫したのだ。

 

『まて!! 今の状態のお前ではやられてしまうぞ!!』

 

『うるさい、うるさい!! これ以上誰にもあたしの邪魔はさせないんだからぁぁぁ』

 

 4号機からの指摘をアスカは憮然と拒絶し、弐号機を走らせる。

 

 勢いよく突き出されたナイフは残念ながら使徒本体に到達することなく触手によってもう片方の手も切断され、4号機が止める間もなく、もう片方の触手によって首が切断された。

 

 これ以上ないくらいの血飛沫が上がって弐号機は血の海に沈んでいった。唯一の救いは、ミサトの状況判断により腕と首が切断される寸前にシンクロ率カットはなされてパイロットの精神負担は軽減されたことだろう。

 

『くそぉぉぉ、よくも大切な仲間をやってくれたな!! あたしは怒ったぞ!!』

 

 共感するかのように4号機のツインアイが輝きだす。すると、あんなにも頑なだった使徒のATフィールドを中和する事に成功したのだ。これにはモニターを見ていたリツコも驚愕して非科学的だわと呟いた。科学者としての立場ならそうだろう、しかし、全スタッフの命を預かるミサトにしてみれば棚から牡丹餅である。あの叫び声を聞いて信用できないと思ってしまった自分を恥じた。

 

 これでようやく勝てると踏んだ矢先、事態は思わぬ方向に進んでいった。

 

「これは! 重力場反応を確認、何者かがこの場所にワープアウトしてきます」

 

 事態を観測していた青葉シゲルが声を張り上げたのだ。反応があった場所で空間が歪む。そこに現れたのは全身が黒い装甲に覆われた正体不明の起動兵器だった。それは物凄い速さで使徒と4号機の元に辿り着き、4号機のほうに攻撃を仕掛けてきたのだ。使徒も目標を4号機に定めていた事から苦戦する。フィールドで黒い起動兵器の攻撃を防ぎながら使徒の攻撃を避けるものの、猛攻に晒され無常にもケーブルが切断される。それでも尚攻撃が続き、やがて内部電源が終わりを告げると4号機は沈黙した。

 

 使徒から離れた黒い機動兵器から作戦本部に通信が入る。

 

『これでエヴァンゲリオンの可能性、そして人類補完計画の要が顔を出すというものか、碇ゲンドウ』

 

 名指しで呼ばれたゲンドウが僅かに眉を吊り上げ、声の主の名前を告げた。その名前にミサトが驚愕する。

 

 イングラム少佐。

 

 かつてはSRX計画に深く関わりながら共に戦う仲間だったが、敵の異性人エアロゲイターのスパイだった裏切り者にして戦闘のプロがこの場に現れたのだ。

 

『先ほど戦っていたエヴァは本来ありえない存在。故に退場願っただけ。よってこれ以上戦闘の意思はない。もちろん信用するかしないかはお前たち次第だ。ただし、生半可な気持ちで挑めばこのアストラナガンで殺す事になる』

 

 先ほどの戦いから強力な機体だということは理解できる。万事休すといったころか、と言いながら状況打破を考えているとそれは現れた。

 

「世のため人のため、子を愛する親のため、悪の希望を打ち砕くダイターン3! この日輪の輝きを恐れぬなら掛かって来い!!」

 

 ダイターン3が本部上空に飛来してきたのだ。

 

「今はイングラム少佐より使徒撃破が優先これ以上本部に近づけないためにもここは僕がお相手しよう」

 

 

 

 

 ダイターン3が使徒の下に飛翔する様をモニターから見ていたゲンドウが同志たちに指示を出す。初号機をダミープラグで発進させようとしていた。

 

 ところが、何度繰り返しても拒絶信号を出してしまうのだ。

 

「やはり、未熟なレイのダミープラグの方ではこの前の一回が限度か」

 

 ダミープラグはレイの精神を基に作られている。これはまだ、赤木リツコの母が生きていた頃に製作された言わば試作型である。今のレイは中身が老人であり、協力などしてくれるわけもなく完成型を作ることが出来なかったのだ。

 

「忌々しい、あの老人は多方面で支障を来たすな。もう一度、A800からやり直せ」

 

 同志たちに指示を出して後方に振り返るとそこには碇シンジが静かな眼差しで自分を見ていた。音もなく忍び寄られ、驚愕したゲンドウはサングラスを落とす。それを難なくキャッチしたシンジが勢いよく握りつぶした。

 

「……シンジ」

「これで四分の三殺しは済ました。道を開けて父さん、初号機には僕が乗る」

「……何をしにきた。お前はパイロットを外された」

「嘘はよくないよ……あの使徒が来るまで時間は無かったからそんな暇は無かったはずだ」

「……それは」

「何をしていたかは問わないよ。父さんにもプライドのぷの字ぐらいはあると思うしね」

「………」

「僕はさ、これでも父さんを嫌いにはなれないんだよ。たった一人の家族じゃないか。四分の三殺しても死んだ事にはならない。つまり最初から父さんを完全に殺す気なんて無かったんだよ」

「シンジ」

 

 瀕死にはしていたと告げているようなものだが、内心で感動していたゲンドウは幸いにも気づく事はなかった。

 

「僕は皆を守りたい。ねえ、父さん、僕はこんなことを思えるようになったんだよ。自分でもらしくないとは思うけど、それでも誇りに思う自分がいる。だから父さん道を開けてくれないかな」

 

 思慮する事もなくゲンドウは道を開けた。シンジは僅かに笑みを浮かべて歩き出すと、父親に問いを投げかけた。

 

「ねえ、父さん。僕は何者だろう?」

 

 ゲンドウは少し考えるそぶりを見せながら口を開いた。

 

「お前はエヴァンゲリオン初号機パイロット碇シンジだ」

「うん、そして父さんの息子だ」

 

 歩みはやがて走りに変わり、初号機エントリープラグに飛び込んだ。

 

 

 

 皆の命と自分の誇りを守るために。

 




 次回 縛られる世界






 次回もサービス、サービス……雰囲気が重い、重いよ。


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第四話

ゲ「ゲンドウがデレた言動を呟いた……ぷぷっ」

 それを影から見ていたコウゾウは……失笑した。






            始まります。


 

 シンジが初号機に乗り込んだ頃、出撃停止の零号機に搭乗するレイの姿があった。サポートするのは同志主任率いる開発班と同志参謀だ。

 

『本当によろしいですか?』

 

 同士参謀の問いにレイは頷いた。

 

「構わない……相棒をやられて黙っていたら…自分が許せない」

 

『分かりました。始末書で済むことを祈ります』

 

「…敵を倒すだけ」

 

『なるほど。我々は間違っていないというわけですか。強引ではありますが萌える展開でもありますね』

 

「…萌え」

 

『零戦は第三リフトに搭乗してください。後に第四リフトから武装を射出します。傲慢な物言いをする敵に対して目にもの見せてやりましょう』

 

 通信が切られ、零号機が動き出す。開発班の同志による誘導で第三リフトに乗り込むとそれは動き出す。

 

 

 

 

 それは奇しくも初号機と同じタイミングであった。

 

 

 

 

 本部に新たな事態が起きた時の警報が鳴り響く。オペレーターのマヤは画面に映し出された表示を視界に捉え参謀のミサトに告げた。

 

 初号機及び、零号機リフトアップ。

 

 同時にメインモニターに映し出された初号機と零号機の姿を捉えミサトは思わず首もとに掛かった十字架のアクセサリーを握り締めた。

 

 シンジは雄叫びを上げながら使徒に突貫、ATフィールドを紙のように切り裂き、力任せに殴りこむ。その凄まじさは本部の人間が息を呑むほどだった。

 

 時を同じくして零号機はスナイパーライフルを構えるとアストラナガンに照準を合わせて撃ち出した。

 

 互いにケーブル接続はされていなく内部電源の残り時間が本部で点滅する。

 

「レイ! アストラナガンと戦うのを止めなさい!! 今は使徒撃墜が最優先よ!!」

 

 残り時間を視界に捉えながらミサトが命令する。それに対して返ってきたのはシンジの声だった。

 

『必要ありません!! 僕が必ず倒して見せます!! レイさんは裏切り者をお願いします!!』

 

「そんな!? シンジ君!!」

 

『任せて……どんな理由があろうとも相棒に手を出して唯で帰れると思うなよ、いんぐらむ・ぷりすけん』

 

 何時になく強気なシンジの言動もそうだが、レイの声から発する怒気のようなものにミサトは驚きを見せ、彼女にとってあの綾波カガリは相棒と呼ぶくらい信頼していて、怒りを出すほど大切にしている姉なのだと理解してしまう。故に、これ以上言える事はなかった。もっとも、素直に命令を聞くようなタマでもないというのも理由に挙げられるが。

 

 使徒の光線で初号機の左腕を吹き飛ばされて尚、残りの腕で殴りつけ始めた頃、零号機はナガンが放つリボルバー式遠隔誘導兵器多数を僅かな足裁きで避け、左手に持つパレットライフルで着実に撃ち落していた。右手に持つ拳銃の照準はナガンに合わしてあり、何時でも撃てるよう牽制。

 

自身の動きを封じて機用に撃ち落す零号機の姿にコックピットに座るイングラムの背中には汗がひしめき合っていた。

 

「この私が押されているだと……まさか、先ほどのパイロットも含め、エヴァンゲリオンだけでなく、そのパイロットすらも特殊な……念動力者のような者たちなのか」

 

 先ほどの4号機を相手にしていた時、使徒がいなければ長い時間、4号機と戦闘を続ける事になっていたと、イングラムは推測している。裏切る前共に戦った少年少女とは違う、パイロットに興味を抱いた。その時、イングラムは合流した頃の事を急に思い出した。

 

「そうか…あれのパイロットはリュウセイが師匠と仰ぐものが乗っている機体か。バナナを買わせなかっただけで裏切る前から俺の事を鬼のような目で睨みつけ、事あるごとに舌打ちされ、最後はゴミ屑のように前の機体を破壊した、その元凶」

 

 クツクツと可笑しそうに笑い出したイングラムはある兵器を作動させる。

 

「あの時は死ぬかと思ったぞ。ならばそれ相応の返礼をしなければならない、か」

 

 ナガンの前方に黒光りするエネルギーが収束しだした。この時点で、本部にある重力センサーがマックスを振り切っていた。

 

「ティプラー・シリンダー出力安定、暗黒の彼方グレートアトラクターに飛び去れ、アキシオン・キャノン」

 

 太い黒光りの筋が零号機に向けて放たれた。丁度、すべての誘導兵器を撃ち落した零号機が気づくもそれは既に眼前に迫っていた。本部にいる誰もが目を覆いたくなる状況で唯一ミサトとリツコだけがモニターを凝視する。零号機はATフィールドを発生させながらワームホールに飲み込まれ跡形もなく消失してしまった。

 

 ところが、次の瞬間には上空に浮かぶナガンの後方に装甲を傷だらけにして現れ、ナガンに装着されているウイングを掴み引き千切って水面に着地したのだ。

 

 突然現れ、ウイングを損傷させられたナガンもまた水面に落ちていく。

 

「馬鹿な、巨大重力圏に飛ばされたにも関わらずそこまでの損傷で生き残り、尚且つワームホールに干渉して出口を操作しただと!?」

 

 内心で驚愕しながらも姿勢制御に尽力するイングラムの元に通信が入った。

 

『なめるな………第十二使徒が作り出したあれに比べたら何と狭き空間か……重力如きでこの零戦を落とせると思うなよ、小童が』

 

 先に動き出した零号機がナガンに掴みかかりATフィールドを発生、ナガンをそのフィールドで包み込み身動きを封じる。

 

「くっ…貴様がそれのパイロットか」

 

『いかにも』

 

「何故一思いにやらない!?」

 

『良いだろう、ここは死ぬ気で語る事とする……わしはお前が裏切ったとは思っていない。理由は明かせないが、お前がリュウセイ君たちのために敵として立ちはだかるよう仕向けているのを知っている』

 

 断言するような物言いにイングラムが息を呑む。裏切ってから敵意が大半だった事と、何かしらの理由があるのだろうという勘ぐりを持つ相手が殆どだったのにこの可笑しな言動の少女は確信していると、イングラムは思った。例えそれが心の奥底からの本心であろうと口にするのは否定である。だが、それを目の前の少女に言ったところで自身の言など求めていないのだ。故に否定するのも馬鹿馬鹿しいというもの。

 

「……」

 

『沈黙は肯定と取らせてもらおう』

 

 この少女は本当に手厳しい。そして底意地の悪い老人のようだ。遠い惑星にいるであろう、あの者たちのように。とイングラムは内心で苦笑した。

 

『先ほども言ったが、お前を嫌いではない、が、わしの相棒をやったことについては許せんものがある。だからお前の機体を少々壊させてもらった』

 

「これで少々か……この機体が本気を出せばシラカワ博士が作り上げた、かのグランゾンとですら互角に戦えるというのに」

 

『負け惜しみではなく事実としてこちらも本気ではなかったと告げておく。その中にわしの機体も付け加えておけ』

 

「そうさせてもらおう」

 

『さて、わしらの戦いはこれまでだ。これから起きる事についてはお前との共犯だ』

 

「あれを見過ごすのか?」

 

『内部電源はもう終わる。それにこれから先を戦うために必要なものだ』

 

「ふっ、子供の懸命な思いは無視してか?」

 

『わしは子供に優しいが、それだけでは駄目だという事も理解したよ。仮にわしがあれを倒した先の未来、わしという存在がいなくなったらどうする。その後も世界は続き、戦いも終わらないだろう、それを痛感した』

 

「敢えて谷に落とすか?」

 

『お前のようにな』

 

 リラックスした様子で互いに会話を交わしているが、これを第三者に聞かれることは無い。今本部では両機が折り重なって沈黙しているように見えるだろう。通信や信号も遮断しているので詳細が知らされることは無い。

 

『お前という存在が、わしにこの想いを抱かせた』

 

「理由はなんだ?」

 

『聞きたいか……そうだな、時の放浪者にして因果の鎖に囚われし者と呼ぶべき存在よ』

 

「!?」

 

 少女から告げられた自分を比喩する名称が的を射すぎていて、この時初めて少女に恐怖した。

 

『お前は4号機を見て本来ありえないと言った。うちのように死海ナントカのような情報があったわけではないはずだ。知っているんだよ、お前が死ぬまでの事象を繰り返す存在だという事を……ある女性が告げていたからな』

 

「それは……誰、だ?」

 

『この機体の中にある意志とだけ言っておこう』

 

「そう、か。そうだったな、その機体には意思が…あったな」

 

『わしのとって最高の存在だ。そやつが言っている、終わりは必ず来ると』

 

「!?」

 

 二度目の絶句は歓喜によるものか。混乱するイングラムには分からなかった。

 

『後どのくらいかは残念ながら分からんようだが、始まりがあれば必ず終わりが来るのはどんな事象でも必然だ。何時か、お前の意思を告ぐものが必ず現れる。その存在こそがお前の鎖を断ち切る存在らしい』

 

「…そうか」

 

 考え深げに頷いて思考する。例えこれが戯言であろうと今まで自分の生い立ちに気づいたものは同じ存在だったあの女性だけだ。けれど彼女は何回繰り返そうともリセットされているようで、イングラムの存在を悲しそうに見つめるのだ。そこに来て第三者が気づいてくれた、それがどんなに嬉しい事か。

 

『お前の記憶の中でわしという存在はいたか?』

 

「……いや」

 

『それこそが今回の理由だ。わしという存在が何時までもいられる保障はどこにもない。始まりと終わりは誰にも、もちろんわしにも必然だ』

 

 不思議な少女だとイングラムは先ほど感じた恐怖を払拭してどこか、優しさを抱かせていた。

 

『どうやら、始まったようだ』

 

 ナガンのモニターに咆哮する初号機の姿が映し出された。包帯のような触手を強引に引き千切り、それを寄り代にして腕を再生させると両腕で使徒の肉体を裂いてかぶりつき、また裂いてはかぶりつく、それを何度か繰り返すと目的のものが見つかったのだろうか、犬のように使徒を食い始めた。やがて十字架の爆煙が上がり、初号機の装甲が体積に耐えられず弾け飛んでいく。

 

「S2機関を取り込む様は何度見ても圧巻だな」

 

 何度か繰り返された初号機の覚醒と今回初めて四号機の生存とアストラナガンを倒した目の前の少女、終わりが分かっていても突き進んでいけるのはこう言った差異を確認できるからだ。

 

 イングラムは本部に通信を送りつけ、前にも言った言葉の羅列をなぞる様に告げると強制的に通信を遮断して少女にだけ分かるよう、通信を送る。

 

「お別れだ、少女の身に宿る不確かな存在よ。願わくは、再び合間見えることを」

 

『さらばだ、お前がすべての鎖から解放されることを草葉の陰から祈らせてもらうよ』

 

 等にATフィールドから開放されていたアストラナガンは重力波を発生させて長距離ワープを行い、壊されたウイングごとその場から退却した。

 

 残った零号機の中でレイは僅かにため息をついた。

 

「初号機の覚醒は済んだか、秘密結社が黙ってはいないだろうがまあいい、今はシンジ君を目覚めさせなければならないからな」

 

 零号機のモニターには今にも暴れ出しそうな初号機の姿が映し出されていた。だが、これはシンジの意思ではない。今、シンジはコアの中にある意思に抱かれ、夢を見ているはずだ。

 

「さて、形を無くしてしまったシンジ君をいかにして戻せばよいのやら……ん?」

 

 そう呟いたレイの耳にリリスの声が響いた。

 

「そうか、連れて行ってくれるか。そうだったな、これとあれはお前の肉体の模造品だったな。ミサトさんたちの手を煩わせるのも忍びない。宜しく頼むぞ」

 

 直後、レイの体がLCLに溶け込むように消えていく。

 

 エントリープラグの中にはスーツだけが残され、レイの姿はどこにもなくなっていた。

 

 

 

 

 

 本部ではATフィールドに酷似したエネルギーが零号機より確認され、それと同じくして初号機が沈黙するのをモニターが映し出していた。

 

 

 




 次回 間幕 夢、逃げ出した後






 次回もサービス、サービス……腹筋を痛ませる笑い、プレッシャー(笑)…頑張るけど、頑張るけどね!!


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間幕 

ミ「ねえ、リツコ、合コンを開いてあげるわ」

リ「はあ?」

ミ「選り取りの駄目男を集めるのに苦労したのよ?」

リ「ぶち殺すわよ」




                 始まります。


+サイド???+

 

 

 ふむ、ここはどこかの海辺のようだ。青い空に青い海、骨休めには最高の場所だな。

 

 砂浜を歩きながら風景を楽しんでいると前方に体育座りして海を眺めるシンジ君を発見した。第一心人発見という奴か。

 

 わしはあまり言う事を聞かない足を無理やり動かしてシンジ君の方に向かった。すると、足音に気づいたのか、シンジ君が視線をこちらに向けて驚いた表情を浮かべた。

 

「だ、誰ですか」

 

 それに応えず、ゆっくりとした足取りでシンジ君の隣に立つと、これまたゆっくりとした動作で座ろうとする。その時、シンジ君が支えてくれたおかげで難なく座ることが出来た。優しい子だ。

 

 わしはシンジ君に笑いかけ、口を開いた。

 

「ここは良いところだ。ずっといたいと思ってしまうな」

 

 シンジ君はわしから視線を海に変えて頷いた。

 

「しかし、旅行には打ってつけの場所だが他に誰もいないのは少し寂しい」

 

 わしも習って海に視線を合わせた。

 

「でも、心静かにいられる場所だと僕は思います」

「そうか、今は休みたいのかい」

「少し……結局僕は何も出来なかったから」

「なるほど、ならば次、出来るようになるといいね」

「………」

「なんだ、自信がないのかい?」

 

 シンジ君がコクリと頷いた。

 

 そうか、自信喪失によってこの場所に閉じこもってしまったのだな。ここは一つ、わしの昔話でもしてやろう。ふむ、そうだ、あれが良い。

 

「少し、わしの昔話に付き合ってもらおうか。そうさな、わしが大切な人に結婚を申し込んだ時の話だ」

 

 わしは語り出した。

 

 その日は酷い雨でな、電車が止まって待ち合わせの喫茶店に一時間も遅れてしまったんだ。喫茶店に着いた頃にはめかし込んだ服もずぶ濡れで中に入ったら店員に驚かれてタオルを貸してもらったほどだよ。

 

「それで、どうなったんですか?」

 

 うん、それで拭きながら待ち合わせの席に行ったんだが、彼女は既にいなかった。わしは呆然として誰もいない席に座ったよ。彼女は怒ってしまったのか、どうしてもう少し早く家を出なかったのか、色々と自己嫌悪に走っていると店員が暖かい紅茶と一枚の紙を渡してきたんだ。そこには彼女の字で次の機会に取っておくと、そう書かれていたんだ。

 

「良かったじゃないですか」

「ふふ、そう思うだろう。わしもあの時はそう思ったよ。しかしな、話はそこで終わらないんだ」

「え?」

「その後、彼女に八回も結婚の申し込みをしたのに、それらすべてが失敗に終わっているんだよ」

「八回も!?」

「ああ、二回目はわしの妹が産気づいて病院に着いていき、そのせいで帰られてしまい。三回目は父親が急に倒れて失敗、四回目は彼女側の問題でわしは待ちぼうけ。五回、六回と失敗が続き、七回目が待ち合わせの場所の勘違いと来たもんだ。そして最後の八回目、例えどんなことが起きようとも行ってやろうと、場所も確認して家の外を出た瞬間、車に跳ねられてしまったんだ」

「泣きたくなるくらい災難!?」

「いや、実際わしは運び込まれる車の中で泣いたよ。ああ、年甲斐もなく泣き崩れたよ。常駐していた看護師に痛みで泣いているのかと思われて大人のくせにと引かれてしまったよ。それはそうさ、検査の結果ただの捻挫だもの」

「踏んだり蹴ったり!!」

「わしの顔が今にも死にそうに見えたのだろう、すぐに退院できたのにも関わらず、検査入院という名目のもと強制的に入院させられ、鎮静剤を打たれて寝かされてしまったんだが……まあ、遠からず、医者の診断は当たっていたかもしれん。あの時、わしは酷く高いところに行きたい気分だった」

「ナイスお医者さん!!」

「それで次に目覚めた時、わしは考えてしまったんだ。ここまでしてさせてもらえない結婚なら、いっその事止めてしまった方が良いのではないかとね」

 

 その当時を思い出して俯きながらわしが自嘲的に呟けばシンジ君も一緒になって俯いた。きっと、今自分の決めた事を振り返り、同じように止めてしまおうかと思っているのだろう。

 

 シメシメという奴だ、彼の心が手に取るように分かるぞ。ここでその後の顛末を話せばきっと、シンジ君は自信を取り戻すはずだ。

 

 わしは内心で自分を自賛しながら口を開こうとすれば、シンジ君は勢いよく立ち上がった。そしてわしを見て。

 

「そうですよね!! たった一度や二度の失敗が何だって言うんですか。僕はまだ死にたいと思ったことはありません。なら、まだ頑張れる自分がいるはずです。いや、いました。おじいさんの話を聞いたら哀れすぎて自分がまだまだだと痛感しましたよ。ありがとうございます!!」

 

 そう告げてきた。そうか、わしは哀れなのか……あれ、涙が出そうだ。

 

「いや、うん……参考になったのなら良かった……どうだろう、わしが哀れではない続きの話を…」

「早速、帰りたいと思います。きっと、皆が待っている筈ですから。おじいさんもゆっくりしたらちゃんとあるべき場所に帰って下さいね? また、会いたいですから」

 

 シンジ君は先ほどまでとは違った清々しい笑顔を浮かべて海とは反対方向に走りだした。そしてその姿は跡形もなく消えていった。

 

 残されたわしは消えた場所を眺めながらこう呟くことにした。

 

「シンジ君……君の心は繊細とは無縁になってしまったね。きっと彼ならそう言うだろう……立派になって」

 

 成長した姿に感動してなのか、己の心が痛いからなのか、分からないが鼻を啜りながら立ち上がるとわしの傍に元妻とシンジ君やレイちゃんに似た女性が佇んでいた。

 

「あの子、気づいちゃったみたいね。せっかくばれないよう私が懐かしい老人の姿で会わせてあげたのに」

「おかげでわしは座るにも一苦労だったぞ」

「あら、あの子に手伝ってもらったじゃない。ホント、いい子よね。あなたも鼻が高いんじゃないかしら?」

 

 元妻は女性の方に向けて語りかけた。女性は淡い笑みを浮かべて頷く。

 

「でもね、いくら息子を守るためとはいえ、ずっとこの場所に居続けるのはよろしくないわ。記憶になくともあなたはあの子の母親なのだから」

 

 子や孫を持つ元妻だからこその言葉に女性は悲しそうな、それでも苦笑と呼べるものを浮かべた。

 

「子にとってどんなに駄目な父親でも、記憶に無い母親でも、親は親なのよ。あなたは幸いにも肉体ごと取り込まれた。私たちからすればそれは死ではない、眠っているだけ。なら目覚めるものよ。今は無理でも何時かはサルベージさせてやりなさいな」

 

 そう言って元妻が指を鳴らすと女性は砂粒のように消えていった。

 

「ホント、あの母親は頑なでね、あの子には会わないって聞かなかったのよ。ここに連れてくるのに苦労したわ。まあ、あの模造品が覚醒したからコンタクトも取れたのだけど」

 

 元妻はやれやれと首を横に振りながらため息を吐いた。どうやら相当説得に苦労したようだ。

 

「でも、一方的とはいえ、再開できたからよしとしますか」

「そうだな」

「うふふ、あなたがプロポーズの話を持ち出したときはどうしてそれをチョイスしたのか疑問に思ったわよ?」

「最後はわしとお前が結婚した。初志貫徹、わしは結局お前しか考えられなかったし、お前もそうだっただろう?」

 

 一度決めた事は貫いて見せるのが男というものだ。まあ、そういう女性もいるが。

 

 シンジ君にはそれを分かって欲しかった。

 

「ええそうね、でも、プロポーズの場所は病室、プロポーズの言葉は、もう嫌だ、何者にも邪魔されたくないから今すぐ結婚しようだったわね、あれはどうなのかしら?」

「わしらにとって最高の言葉じゃないか」

「神にさえ邪魔はさせないという意味だったかしら」

「あれは神がかり的な出来事だった」

「確かに、私という存在がいたのだからそれもありえるのかもしれないわね。何しろ、あなたがそれを私に告げた直後からそういった邪魔がパタリと無くなったのだから」

 

 まったくだ、今だから思うがあれは宇宙の意思的なものが関わっていた気がする。

 

 元妻はくすりと笑いながら手を差し出してきた。わしはその手を握り締め、ゆっくりと歩き出す。老人のわしと見た目は二十代の元妻、これでは祖父と孫のような関係に見えてしまうだろうな。

 

「もう少し歩きましょう、あなた」

「ああ、そうだな。一時の夢、もう少し楽しんでも罰は当たるまい」

 

 そう言ってわしは元妻と共に心行くまで景色を楽しむことにした。

 

 浜辺を一歩、一歩踏みしめて歩けば足と腰に響く。この姿だと生前の年と共に悪くなった場所を思い出して何だか考え深げに過去を思い出してしまう。そう言えば、元妻とは最後まで海に行くことはなかった。元妻は日焼けするのが大嫌いだったのだ。

 

「ここなら、その白い肌が焼ける事はないな」

「ふふ、そうね。ここは夢と精神の世界、本来生きる人がその意識を保ったまま来ることの構わない場所。ここであった事は意識が目覚めれば夢と散る定め。それを愛おしいと思うか儚いと思うかはその人次第」

「わしは愛おしいぞ」

「私は、リリスとしてなら儚いと感じて、あなたの妻としてなら愛おしいと感じるわ」

「なるほど、お前らしい」

「もっとも、これもすべてあなたの世界に生まれ育ち、あなたの妻となって感情を育んだからこそ、感じられる想いなのよ。もしも、それすらなかったら私は多分、この情景も唯過ぎ行く事象の一つとしか認識しなかった」

 

 長い時を生きるものは本能に忠実でそこに至る感情を認識したりはしない。そんな事をすれば、きっと時に置き去りにされ、寂しさで壊れてしまう、元妻は歌うように述べた。

 

「お前は寂しいのか?」

 

 ふと、疑問を投げかければ、元妻は優しい笑みを浮かべながらも首を傾げた。

 

「あなたと言う存在がいなければ、寂しいと思っていたかもしれない」

「では、寂しくはないか?」

「それもまた、どうなのかしら。私はあなたも愛しているけれど、自分が産んだ子供たちも愛しているのよ。リリスとしてこの世界に生きていく数多の子供たち、元妻としてあなたとの間に生まれた子供たち、同じ子供たちには二度と会えない。私に比べたらこの世界の子は瞬きの間で死に逝き、あの子たちは世界が違うのだから会うことはもう無い。まあ、向こうでも私が死んでしまったから言葉を交わすことは無かったけれど見守る事は出来たから」

 

 そう言えば、わしも自身のことで精一杯だったからか、自分の子供たちを思い出すこともなかった。あの子たちは、そして孫たちは元気にしているだろうか。

 

「あなたも、私たちの子に会いたい?」

 

 どうだろうか、既に所帯を持っているあの子らに会ったところで邪魔に思われるかもしれない。まあ、孫には会いたいと思うぞ。

 

「ふふ、薄情なお父さんだこと」

 

 馬鹿言え、お前と共にいたいという男心を理解しないか。

 

「あら、それは失礼しました。私は女なもので」

 

 元妻は嬉しそうな表情を浮かべて笑った。それにつられ、わしも笑う。

 

 どのくらいの時を歩いたか、浜辺の風景は変わらないのに何故か心が落ち着いてきた。まるで、帰る場所に帰れたという安堵がわしの中に現れたのだ。訳も分からず、首を傾げていると元妻は言った。

 

「どうやら、私たちの機体の方まで歩いてきてしまったみたいね。やっぱり、自分の場所だと落ち着くわ。あなたもそう感じない?」

 

 なるほど、わしらは何時の間にか零戦に戻ってきたのか。それはつまり、わしにとって零戦は帰るべき場所と言うわけだ。それならもう、前の世界に未練が残っていない証拠ではないか。わしがそう言えば、元妻もゆっくりと頷いて海のほうに視線を向けた。わしもそれに習う。

 

「ねえ、あなたはこれからも、あなたらしくありたいと思うのでしょう?」

 

 海を見ながら元妻がそう問いかけてきた。

 

「ああ、わしがわしであるために、お前に誇れるわしであるためにこの老骨に鞭打って子供たちの未来を目指そうと思うよ」

 

 わしも海を見ながらそう答えた。

 

「そうよね、あなたはそういう人だわ。なら、私も覚悟を決めないといけない。あなたも薄々気づいているのでしょう、この場所に至極簡単にこられた理由を、それも他人の心とも言える初号機のコアに入り込めた理由を」

「確かに、何となくだがお前の力だけではないような気がしていた。わしのこの姿も本当はお前が理由ではないのだろう?」

 

 わしの皺くちゃの手を元妻は優しく撫でてくれた。それがとても愛おしい。

 

「先に待つのが終わりであってもわしは動き続けるよ、それこそ、愛するお前が死んだ時も、わしは生きることを止めなかったのだから」

 

 粒子のようにわしの細い足が消えていく。どうやら時間切れのようだ。わしの魂が体に戻るのだろう。元妻が泣きそうな顔でわしを見つめてくる。

 

「あなた、無理だけはしないでね」

「ああ、無理をしない程度に頑張るよ」

「絶対よ、私が迎えに来るまでがんばりなさい」

 

 心配性な元妻の泣きそうな顔を見ながら、わしの意識は闇に飲み込まれた。その寸前わしはシミジミと思い返した。

 

 

 

 やはり一人で行く散歩よりも愛するものと一緒にする散歩は格別だ。

 




 次回タイトル 惣流再来日






 次回もサービス、サービス……ふふ、ストックが終わりに近づいてきたよ。


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惣流再来日

 






          始まりますのよ。


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 妙に体が重く感じて、旗とここはまだ夢の中なのかと思っていたら、わしの顔に水滴が落ちてきた。その感触に夢ではない事に気づいたわしは瞳を開けた。

 

 顔の穴という穴から水分を垂れ流している不細工なカガリの姿が眼前に映り込み、わしは思わずアニメでも有名なあの言葉を告げてしまう。

 

「知らない…カガリ」

「なに!? 記憶喪失だと!? 医者だ、医者を早く!! レイが目覚めたのに知らないあたしとか言い出したぞ!! それはどんなあたしなんだ!!」

 

 わあわあ、騒ぎ出したカガリを横目にわしは自分の今を把握しようと試みる。腕には点滴が何本も刺さっており、清潔にされたべっどに寝かされているようだ。

 

 通常稼動のカガリの声に呼ばれて医者らしき男が入ってきた。そしてわしの脈拍などを測り、正常なのを確認すると二つ質問してきた。

 

「この泣いている女性は誰だか分かりますか?」

「……カガリ」

「特徴は?」

「バ…ゴホゴホ、元気」

「記憶も正常、判断能力も良好と。安心して下さい、カガリさん。妹さんは至って正常です」

 

 固唾を呑んで見守っていたカガリにそう告げる。しかし、カガリは不安そうに口を開いた。

 

「でもな、先生、レイの奴は知らないあたしを知っているらしいんだ。あたしも知らないのに何で知っているんだ?」

「ああ、カガリさんは天然なんですね。困ったな、私の周りにはあまりいない存在だからどう対処すればいいのか」

「先生! どうか真実を伝えてくれ! 覚悟は出来ている」

「真実はカガリさんが、バ…ゴホゴホ、だという事なんですが…」

「あたしの事じゃないぞ! 先生!!」

「もう嫌だ、この天然」

 

 嘆き苦しむ医者に涙混じりのカガリは尚も詰め寄る。その姿が哀れでわしは口を挟む事にした。

 

「知っている…カガリだった」

 

 そう修正して述べたらカガリは容易く安心してくれた。チョロすぎるだろう、カガリ。それを見ていた医者は呆気に取られながらも去るのは今だと思ったのか足早に退室した。

 

 その後、ニコニコと笑みを浮かべながらバナナの皮を剥き、差し出してきたので食べさせてもらった。バナナを租借している間、わしが寝ていた間の詳細をカガリは教えてくれるようだ。

 

 あの戦いの後、操縦席でわしは意識不明の状態で発見され、病院に運び込まれるも意識が回復することは無かった。その間に操縦席からシンジ君が吐き出されたらしい。検査を受けたシンジ君にもわしの事は伝えたらしいのだが、シンジ君は驚く事も嘆く事もせず意味深に休んだら戻りますよと一言述べただけに留まった。当然、ミサトさんやリツコさんは科学的根拠が無いので信じてはいなかったが、後ろ髪を引かれながらも戦いはまだ続くという事でエバ二体とその操縦者を連れて愚連隊に出向したという。カガリは一応本部所属扱いだったので共に行く事はなかったようだ。

 

 それから約一週間、わしは眠り続け、その間甲斐甲斐しくも世話をしてくれたのはカガリだった。訓練の合間のすべてをわしに付き添い、体を拭き、寝返りをうたせ、病室に寝泊りしてくれたらしい。だからこそ余計に目覚めた時、感動して泣いてしまったそうだ。

 

「一週間は長かった。仕方ないだろう!!」

 

 わしがじっと孫を見るような目で見つめていたらカガリは顔を赤らめてぶっきら棒に叫んだ。可愛い奴である。

 

 わしに関した話が終わると今度は世界の情勢をカガリが、あのカガリが、何度も言うが、あのカガリが……ぷぷ。

 

「おい! 今なんか、失礼な事を考えただろう!!」

 

 もうその能力は桑さんや、アムロ君のような新人類のようではないか。わし限定でなければもっと活用できたのにもったいない。

 

「もう話さないぞ!!」

 

 おや、これ以上はカガリがへそを曲げるのでやめるとしよう。素直に謝って許してもらい、改めて話を聞く。

 

 あの後、愚連隊は再び三部隊に分けられて各陣営の対処に当たっていたようだ。そのおかげか、地上は落ち着きを見せたようだ。異世界から侵略も対処されたらしい。それが四日前。

 

「それで、部隊は再び合流、戦場を宇宙に移して戦う事になり、辛くも宿敵ジオンを打倒し、その勢いのままジュピトリアンを退けたんだが……」

 

 木星にあった天使の輪という人の精神を支配して操り人形のようにしてしまう装置が行き成り空間転移を行い地球上空に現れたのが一昨日前、それは大気圏を突入して伊豆沖に沈没、その影響で津波が起きて日本近海は多大な被害に陥った。

 

 しかし、いくら木星人とはいえ、元は同じ地球人、そんな独自の技術があるのなら今頃地球圏は更なる被害を被っていたはずだ。

 

「レイもそう思うよな、で、スタッフに聞いたところジュピトリアンとエアロゲイターは大戦前から接触がなされていたのではないかと言う見解がネルフでは有力視されているらしい。実際、エンジェル・ハイロゥのワープ技術に使われたエネルギーはこの前あたしたちが戦ったアストラナガンの使ったワープに酷似していたことから見てほぼ確実だ」

 

 そうなると天使の輪が地球に落ちたのは故意によるものかもしれん。

 

 駄目だ、最近トンとゲームの知識が思い出せなくなってきた。確か理由があって落ちたはずだ。そしてそれはエバに関係したものだったような、なかったような。

 

「そうなのか?」

 

 理解できないのか、カガリがそう問いかけた。故意については何となく予想できるので伝えてみれば感心して頷いた。

 

「なるほど、エアロゲイターの目的を隠すためジュピトリアンを隠れ蓑にしてエンジェル・ハイロゥを作らせたわけか。そうだよな、早々自分たちの技術力を他人には渡せないよな。そんで目的を果たすために作動されたわけだ」

 

 あくまで予想だとカガリには告げておく。

 

「そうなると、敵の目的は日本だよな」

 

 予想が当たっていればの前提だが、わざわざ伊豆沖に落としたんだ、日本に何かしらの行動を起こすだろう。

 

「それって、うちなんじゃないか?」

 

 カガリもそう思うか?

 

「うん。うちってなんか他の研究所より秘密主義だろ。それに技術力も他とはなんか違う気がするし、エアロゲイターって数年前から地球の技術力に目をつけて監視していたって言うからようやく動き出したうちをこの際だから調べつくしたいとか思ってるのかも」

 

 だが、結局はすべて予想から成り立つものであって真実とは限らない。そう思っていたら、カガリが眉を潜めて呟いた。

 

「だから、指令は零戦と初号機を凍結処分にしたのか」

「戻ってきて?」

「言うのを忘れていた、初号機と弐号機がさっき戻ってきたぞ。で、シンジには会えたけど弐号機パイロットには会えなかったよ。シンクロ率検査を行っているらしい」

 

 そうなのか、他の部隊はどうなっているんだろうか。

 

「戻ってきたのは二人だけだ、シンジが言うにはネオジオン側に動きがあったとかで部隊が分けられたらしい。シンジたち以外は宇宙とエンジェル・ハイロゥの調査で出払っているみたいだ」

 

 この時期に凍結する意味、確かゲームでもエバ三機が戻ってきて、いきなり初鰹が凍結されて……この地下施設に……倒せなくて…あれは、あれは、そうだ!! 

 

 わしは重い体を無理やり起き上がらせて点滴を引き抜こうとするもカガリが慌てて止めに入ってくる。

 

「まて、レイ。いくら意識が正常でも体は衰弱してるんだぞ!!」

「最悪の敵が…来る」

「無理だ、エバに乗れる状態じゃない」

「それでも……あれは駄目だ」

 

 あの敵はわしが止めなければならない、でないと、このままではアスカちゃんが壊れてしまう。あんな兵器を使わせては駄目だ。

 

「馬鹿、自分の体を大切にしろと言っただろう!!」

「すぐに準備を」

「駄目に決まっている!! レイの代わりにあたしが何とかすれば良いだろう!?」 

「危険」

「そんなもの、あれに乗っている時点で分かっていた!!」

 

 得意の馬鹿力でカガリは無理やり私を寝かすと医者を呼び、駆けつけた医者に鎮静剤を打たせた。

数分もしないうちに意識が混濁し始める。

 

「あたしが必ず何とかして見せる。だからレイはゆっくり眠っていろ」

 

 こうなっては仕方ない。わしは力を振り絞って口を開いた。

 

「槍…を」

「あれが必要なほどの敵ってわけだな。分かった、出し惜しみはしないから安心してくれ」

 

 

 

 

 その声を聞いてわしの意識は闇に飲まれた。

 




 次回 黒幕、襲来






 次回もサービス、サービス……もっとやれ、頂きました。ハイ、喜んでぇぇ。


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第二話

 






 始まります。


+サイドアウト+

 

 

 ネルフ本部では平時でありながら総司令官の命令により第二種戦闘配備状態で勤務していた。これにより、多くのスタッフは本部作戦部に缶詰状態、パイロットのアスカ、カガリ両名もエントリープラグ内で待機している。

 

 作戦参謀の葛城ミサトは指令の命令に不審なものを感じながらも、先の戦闘でアストラナガンが空間転移してきた事実があることから表面上は素直に従っていた。それでも行き成り本部に連れ戻され、言うも言わせず初号機と零号機を凍結処分された時は抗議したのだ。受け入れられなくともせめて理由を聞かせて欲しかった。結局、指令は体を以上に震えさせながらも教えてはくれなかったが。

 

 こちらとしてもあの場では食い下がるほか無かった。一緒に聞いていたシンジ君から発せられる黒い靄のようなものが指令を捕らえようと管を巻いているような気がして、脳裏に司令室が血の海になるというビジョンが浮かび上がり、すぐにその場を後にする他なかったのである。帰り際に鳴らされた盛大な舌打ちは指令を更に震え上がらせ、流石のミサトも引いてしまった。後で、アスカのシンクロ率検査を行っていたリツコにそのことを話してみれば、ため息を吐きながら駄目な男よねと独り言を呟いていたので、親友の恋は相変わらずなのだと内心で呆れてしまう。

 

 親友の恋が成就してはいけないような気がして心中で失敗しろと呟いているとリツコがデータを見せてきた。アスカのシンクロ率グラフである。そこには緩やかに下がっていく線グラフが映し出されていた。

 

 リツコが言うにはこのまま下がり続ければ処分もありえるという厳しいものだった。ミサトの心情としては共に戦ってきた仲間が切り捨てられるのは苦しいものがある。それでも、このままではエヴァを起動させるのも間々ならないとなれば、参謀として決断しなくてはならない。アスカもシンジ君のように変われるきっかけがあれば、などと他人任せな、正確にはある少女任せな、考えに苦笑してしまう。あの少女にすべてを託すのは酷というものだ、現に少女は意識不明からようやく回復したばかり、零号機の凍結処分に関しては指令の考えがどんなものであれ、まだ許せるだろう。少女にはゆっくり休んで欲しいのだ。 

 

 数時間前のやり取りを思い出しながらミサトが部下に命令を送っていると、モニターを監視していた青葉シゲルが声を張り上げた。

 

「ジオフロント内に強力な重力波を確認! 何者かがワープアウトしてきます!!」

 

 その場にいたスタッフ全員がモニターを凝視、歪まれた空間からエアロゲイターと思われる機動兵器が堂々と現れた。

 

「第一種戦闘配備」

 

 碇指令による、厳しい声が掛かるとモニターを見ていた全スタッフが慌しく動き出した。

 

「ようやく黒幕のお出ましだな」

 

 何時もの格好で座るゲンドウの横に立つコウゾウが呟いた。

 

「ああ、この場所に現れた時点で奴の所属する惑星にも我々と同様、死海文書が存在するとみて間違いないだろう」

「すべての祖の始まりがこの惑星か、それとも奴らの惑星なのか。奴がどの程度こちらの事を理解しているかによるな」

「問題ない、始動キーはすべてこちらで握っている。仮にこの時点で黒き月の民より与えられるはずの無い力を持って産れてしまったナシム、そのナシムをコアとした人造神が現れようとも我々の邪魔はもはや出来まい」

「始まりのサイコドライバーか、その力を受け継ぐものが産れてきているようだが、それは」

「ああ、それ即ちナシムの復活を意味する。それこそ、今のこの戦いが終わった後も戦いは続くという事を示唆しているようなもの。だから、その前に我々で補完を行わなければならない」

「終焉の銀河、アポカリュプシスが本格的に始まる前に、か?」

「その通りだ、我々は無限力と対峙することなど出来ん」

「だが、お前の息子が所属するあの部隊なら我々とは違う選択をするのだろうな」

「………」

 

 無言のまま、サングラスを反射させゲンドウが僅かに口の端を上げた。

 

「現にあの部隊にはサイコドライバーだけでなくその心に強いATフィールドを持ち合わせた者たちが数多く存在する。そして何より、人類の先駆けと呼ばれるニュータイプが産れているのだ、まるで銀河が先の世も存在したいと思っているようではないか」

「………」

「そんな彼らにとって我々の選択は悪でしかないのだろう」

「………未来は可能性とそれに突き進でいける生者の意思の数だけ存在する」

 

 空調設備が整ったこの場所にも関わらずコウゾウは腕を摩る。

 

「碇……随分とロマンチックな言葉を」

「ユイの言葉だ」

「それを早く言え、寒イボが立ってしまっただろう」

「………酷い」

 

 ぼそりと呟いた言葉をコウゾウは無視した。可愛い教え子ならまだしも可愛くないメンタル弱いオッサンの非難など心の端にもかからない。

 

 モニターには未だ沈黙を守るエアロゲイターの機体とバックアップとして出撃した弐号機が命令を無視して4号機を遮り攻撃を仕掛けようとしているところだった。

 

 再び、本部に警報が鳴り響く。

 

「未確認の精神波が伊豆沖から経由して正体不明の機体に集まっています!!」

 

『な、なによこれ!! あたしの中に誰かが入ってくる』

 

 オペレーター伊吹マヤがそう伝えるのと同時に通信よりアスカの悲鳴が聞こえてきた。すぐさま、ミサトはエヴァのATフィールドの有無を確認させるも、結果は正常に作動しているとのこと、しかし、精神波はそのATフィールドを中和しながら直接パイロットに掃射されているようだ。

 

「まさか、パイロットを介してエヴァを調べているとでもいうの!?」

「伊豆沖にはエンジェル・ハイロゥが沈んでいる。もしかしたら敵はこれが目的であの場所に落としたのかもしれないわね、相手は三万人分のサイキックウェーブ、今のアスカじゃ一たまりも無いわよ……パイロットの変更も考えておくわ」

 

 驚愕するミサトに反して冷静な意見でリツコが付け加える。

 

 このままではアスカの精神が壊されてしまうと判断したミサトが撤退を勧告した。しかし、当のアスカはそれを拒否、どうせパイロットを外されるなら死んだ方がマシだと吐き捨てる。まだ伝えていないはずなのに理解してしまったアスカに対して言葉が見つからずミサトは口を継ぐんだ。

 

 本部に同行していたシンジはそれに対して必死に言葉で撤退を促すが、アスカは聞く耳を持たない。そのやり取りを見ていたリツコが呆れたようなため息を吐き出したとき、別の通信から怒りにも似た絶叫が本部に響き渡った。

 

『ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 声量の大きさに殆どスタッフが耳を塞ぐなか、シンジやミサト、リツコなどは驚愕の表情を浮かべてその声に耳を傾ける。

 

『簡単に死ぬとかいうなぁぁ!! 死んだらそこで終わりなんだぞ!! もう二度と大切な者に会えないんだ!! 残されたものはどうする!! お前の死を止められなかったことを悔いて悲しみに暮れるんだぞ!! それをお前は分からないのかぁぁ』

 

 カガリが放つ必死の叫びにゲンドウが僅かに苦笑を浮かべた。それを見ていたコウゾウが驚きを見せる。フォースチルドレンはゲンドウの独断で連れて来た存在なのでどういう関係かコウゾウは知らないのだ。ただ、少なくとも僅かに心許せる存在なのだと言う事は先ほどの苦笑で理解できた。

 

 反論するかのようにアスカが通信を入れた。

 

『うるさい、うるさい、うるさい!! あんたなんかに何が分かるっていうのよ!!』

『当たり前だ!! あたしはエスパーじゃないんだぞ! 禄に話したことないのに分かるか!! 逆にあたしを馬鹿にしているのか!!』

 

 逆切れするカガリにミサトとリツコは絶句、シンジは戦闘中に関わらず苦笑を浮かべた。心に届く言葉を告げているのに様になっていないのだ。

 

『でもな!! 心にも思っていないくせに死にたいとか抜かしているのは分かるぞ!!』

『な、何でそんなことが分かるのよ!!』

『未だにATフィールドが張られているのが言い証拠だ!!』

 

 通信から絶句する声が聞こえてアスカは沈黙する。そう、死んだ方がましと思いながらも自身を守るようにしてフィールドが張られているのだ。

 

「そうね、心が死んでいればエヴァが動くことは無いわ、あの子、馬鹿っぽいのに見ているところは見ているのね」

 

 リツコがポツリと呟いた。ミサトもシンジも同意する。

 

 やがて通信から小さな弱々しい声が届いた。

 

『……それでも、エヴァに乗れないあたしに何の価値があるというの』

 

 それはアスカが述べた初めての弱音だったのかもしれない。それに対して、カガリは事も無げにこう言った。

 

『禄に関わっていないお前の価値をあたしが知るわけないだろう!!』

『へ?』

 

 アスカが間抜け極まりない声を上げるのとシンジが、ぶっちゃけた!! というツッコミを上げたのは同時だった。

 

『でも、価値とか関係なくお前はあたしの大切な仲間だ!! 死んだら悲しいに決まっている!!』

『……何よ、禄に知らないのに仲間とか言って悲しむわけ?』

『当然だ、あたしだけでなくレイやシンジだって悲しむさ!! だってそうだろう!! あたしたちは見も知らぬ誰かが悲しまないようにこの機体で戦っているんだ、なら録に知らなくとも同じ仲間が死んだら酷く悲しいに決まっているじゃないか!!』

『!?』

『エバに乗れなくなった? なら、また乗れるようになればいい! 価値が見出せない? なら、新たにGEININという価値を生み出せば言い! GEININになりたい? なら、なればいい!!』

『GEININ!?』

 

 あ、この人ちゃっかり、芸人に誘っていやがる、最低だ!! シンジは本部に響き渡るほどのツッコミを叫んだ。

 

『そうだ、GEININにはコンビと呼ばれる二人一組だけでなく、トリオという三人一組の特殊な連携を組むグループも存在する。ボケ、ツッコミ、ツンデレ……いけるぞ!!』

 

「やっぱりな!! 的確すぎて僕が入っているのも理解してしまったよ、ちくしょう!!」

 

 

 シンジのツッコミは今日も冴え渡った。

 




 次回 母、帰郷






 次回もサービス、サービス……ふふ、アスカも崩壊の危機が迫ってきたよ。


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第三話

 

 始まり、始まり。


 弐号機の中、カガリのわけの分からない絶叫に何故かアスカは感銘を受けていた。未だ精神攻撃を受けているのにも関わらず、そんな事をお構いなしに気分が高揚しているのが自分でも分かった。

 

 事も無げに乗れなければ、また乗れるように成ればいいと言った、正確には言ってくれたカガリの言葉が死ぬほど嬉しかった。誰もがパイロットを外すことでしか対処を考えてくれなかったのに彼女だけはまた乗れるようになれと言葉にして告げてくれた。それが無知から来るものでもよかったのだ、唯、誰かに、シンジやミサト、リツコにそう言って欲しかった。でも、言葉にするのは否定的なものばかり、撤退もまたアスカにとって己を否定する言葉でしかなかったのだ。仮に言った本人にそんな思いが無くともそう聞こえてしまうほどアスカの精神は追い込まれていた。

 

 それを共に戦った誰よりも先に彼女が死ぬなという言葉と共に肯定してくれた。

 

 彼女に怒られるかもしれないが、それが死ぬほど嬉しかった。

 

「何よ、これ……涙?」

 

――まだ生きてなさい。

 

「泣いているのは、あたし?」

 

――まだ死んでは駄目よ。

 

「暖かい、久々ね、涙を流すなんて」

 

――まだ死なせないわ。

 

「ママが死んだ時以来かしら?」

 

――生きる事を望みなさい。

 

「なによ、あいつ、ゴリラみたいに叫んで…なのに嬉しい言葉、サラッと言ってくれちゃって…あたしを久々に泣かせて」

 

――生きて、生きて、生きて。

 

「この戦いが終わったら、よくも泣かしてくれたわねって怒鳴ってやる」

 

――生きて………。

 

「そんで…感謝の言葉を述べなきゃ」

 

――グスッ……そろそろ気づいて、アスカちゃん

 

「え?」

 

――ママ泣いちゃうわよ。

 

「は?」

 

――4号機のコアにあるあれのおかげで欠けた魂が戻ってきたのに酷いわ、アスカちゃん。

 

「…ママなの?」

 

――そりゃあ、悪いとは思っているけどね。仕方なかったのよ、ドジって半分しか魂が込められなかったからアスカちゃんに嫌なトラウマ植え付けちゃったけど、ママだって好きでああなったわけじゃないのよ。

 

「ママ、そこにいたんだ」

 

――軽っ、アスカちゃん軽いわよ!! もっとそこは、ほら、感動の再開的な、涙ぐむような…。

 

「泣いてるわよ」

 

――うん、そうよね。言うと思った。でもそれ、私に対する涙じゃないもの。

 

「我侭ね」

 

――言っちゃった! この子、はっきり言っちゃった!!

 

 アスカの母、キョウコが声だけでオヨヨと泣き崩れる。それに対してアスカは酷く面倒くさそうな表情を浮かべながらも話題を変えて立ち直らせようと試みる。

 

「でも本当だったんだ、エヴァには心があるって資料で書いてあったけど、まさか、ママの魂が込められているなんてね」

 

――そうね、少なくとも初号機から3号機まではチルドレンの母親が入れられていると思うわ。4号機に関しては私にも分からないけど、多分いると思う。

 

 簡単に泣き止んだキョウコに内心で軽いわね、と思うアスカだったが、表面上は話を続ける。

 

「零号機は無いんだ」

 

――残念ながら、あれに関しては私にも分からない、けど、もしかしたらとんでもない魂が込められているかもしれないわね。

 

「そっか……今度聞いてみようかしら?」

 

――アスカちゃんにも友達が出来て、ボーイフレンドもいるみたいだし、ママ嬉しいわ。

 

 浮き浮きした声にアスカの顔が朱を帯びる。

 

「ちょっ!! あんな笑顔で他人を黙らせるような男なんか、こっちから願い下げよ!!」

 

――まあ、いいじゃない。さて、私たちのやり取りはフィールドのおかげで見られていないと思うけど、何時でも垣根越しから覗こうとしている痴漢のような視線が気に入らないわ。

 

 先ほどまでの明るい声色と違う、酷くドスの利いた声色でキョウコがそう言った。

 

「あ、やっぱりママのおかげなんだ。嫌な気分が無くなっているし」

 

――このやり取りもほんの数秒の感覚だから、相手には抵抗力が強まったぐらいにしか感じてないでしょうけど、はっきり言って……邪魔ね。

 

 邪魔と言った部分が酷く殺意が篭っているなとアスカは感じるも、母親の存在が強みとなり、気持ちに余裕が出来たのか、殺意を肯定する。

 

「乙女の心を覗くなんて最低な異星人よ」

 

――ふふ、これはもう家訓でもって相手をしてあげなきゃ、収まらないわね。

 

 そうと告げられた瞬間、アスカは目を全快に見開き、心臓が強い鼓動を上げた。

 

「家訓……そう、か。あたしには家訓があったんだ」

 

 普段ドイツ軍人のような冷静さで持って対応してきたアスカの心の奥に封印された想いが顔を出し始めたのだ。それはとても激しい感情であり、アスカが惣流の血を引くからこそのものである。

 

「分かったわ、ママ。惣流家の意味……心を覗いた駄賃に相手をぶち壊してやる!!」

 

――さすが我が娘、やられたらやり返すが惣流家の家訓よ、惜しみない暴力で持って叩き伏せなさい。

 

「惣流家家訓!! やられたらやり返せ、地獄の沙汰も暴力次第!!」

 

――よろしい。アスカちゃん、私はエヴァの中で常にあなたを見ています。怯えて心を閉ざす者など惣流家には必要ありません。惣流の名を名乗りたければ覚えておきなさい。

 

「あたし、ドイツ生活が長くて忘れてたわ……あたしは旧世代日本の裏世界で己の暴力のみで駆け抜けた惣流家最後の末裔」

 

――戦って私の元まで逝きなさい。あなたはラングレーであり、古き任侠道を継承してきた惣流なのだから。

 

「惣流・アスカ・ラングレー様なのよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ここで追記するならば、彼女は忘れながらも無意識に戦う時、言葉が荒くなっていた。そして、無意識に見る映画がすべて任侠ものになってはいたことから、心の底ではそうなりたいと、戻りたいと思っていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 母親と心を交わしたアスカが復活の雄叫びを上げた同時刻、アスカのシンクロ率を監視していたマヤが驚愕して声を上げる。

 

「そんな、アスカのシンクロ率が急激に上昇!! 100…240…390、まだ上がるの!! まさか……シンクロ率427% この前の初号機を超えています!!」

 

 ミサトと協議していたリツコがその声を聞いて慌てながらマヤの元まで行くと同じくモニターを見て驚愕し、次いで怯えたような声を上げる。

 

「そんな……弐号機には欠けた魂しか備わっていないのに、どうしてあの方まで目覚めてしまうの」

 

 普段、冷静な姿しか垣間見ないリツコの生理的に震える肩を落ち着かせるように己を抱きしめる姿にミサトやシンジは驚きを見せる。

 

 ミサトはそんなリツコにどうして怯えるのか問いかけた。すると、リツコは怯えを含む眼差しでモニターに映る六つの目を爛々と光らせた弐号機を見ながら語り出した。

 

「惣流・キョウコ・ツェッペリン……あの方はシンジ君の母親の良き理解者にして最強の親友、私の母親や碇指令が際も恐れた女傑博士。一研究者でありながら、例えどんな大物スポンサーに対しても決して退かず、まして媚びる事など一切せず、またスポンサーを怒らせ、スポンサーを下りられてもそれを道端の小石のように省みない。愚かにも彼女の前に立ちはだかる敵対研究者を拳一つで地に這いつかせ、心を許した親友が泣いていればどんな困難な場所からでも駆けつけ元凶を叩き伏せる。シンジ君、あなたのお父様もそんな一人よ」

 

 話を聞いていたミサトが、どんだけ世紀末!! と突っ込みを入れてしまうのも無理は無い。逆にシンジの方は目を輝かせ、尊敬の眼差しで弐号機を見つめていた。

 

 リツコが端末を操作した。すると、モニターの映像が変わりエントリープラグの中を映し出した。そこには肉体を残し、荒れ狂うように叫び散らす、茶髪から黒髪に、青い瞳から漆黒の瞳に変貌したアスカの姿があった。シンジが400%の時は肉体がLCLに溶け込み物理的にも精神的にもダメージを与えない領域に至らしめた状態だったが、アスカは違うようだ。

 

「やっぱりそうなのね。シンジ君の時とは違い、あの方は決して娘を安息の場所に誘わない。その痛みすらも己が突き進む糧にするのがあの方の特徴よ。そして、色素変化は脅威のシンクロ率がなせる、言わば先祖返りでしょうね」

「何言っているのよ!! 400%の物理的接触は人の精神の限界を軽く超える代物よ、これではアスカの精神が壊れてしまうわ!!」

 

 ミサトの言はもっともなのだ、リツコとて理解していないわけではない。それでも昔、母親が科学では説明できない事柄がキョウコにはあると独り言のように呟いていたことを知っているからこそ冷静でいられるのだ。

 

「そうね、理論上400%の接触は人差し指で肌を触る程度の接触でもトラックに突っ込まれるような衝撃を与えてしまうとされているわ。でもね、あの子はあの方の娘なの。科学者でありながら科学の範疇を逸脱してしまったあの方の魂が弐号機にはいるのよ」

 

 リツコは思い出していた、母親が怯えを含み語ってくれたあの方の逸話。その際たるものが、昔、まだここが脳研だった頃、初めて作り出されたエヴァを操作していた碇ユイが間違って暴走させたとき、逃げ惑う研究員の中、あの方だけは暴走するエヴァに悠然と歩み、その拳で黙らせた。『人』が、神を模して作り出された始まりのエヴァを地に叩き伏せたのだ。

 

 それ以降、エヴァの強化案は続々と提案、製作されていく。今のエヴァがあるのはある意味、あのお方のおかげかもしれない、母はそう言って酒を飲み干していた。今だからこそ、その様が酒で忘れたいという足掻きのようなものに思えてしまうのはリツコが酒を嗜める年齢を越えたからだろう。

 

 リツコはようやく震えから落ち着いた体から手を離してミサトとシンジを見据える。

 

「ミサト、シンジ君……覚えておきなさい。あの方は人の皮を被った化け物で、あの子はその娘で同じくその力を秘めている。この戦い勝ったわよ」

 

 

 その力強い言葉にシンジとミサトは呆気に取られながらも内心で、どこぞのマスターか!! というツッコミを叫ぶのだった。

 




 次回 死に至る恐怖、そして





 次回もサービス!! サービス!! ……うん? 何か違うが、アスカ覚醒(笑)


 プルルル、プルルル、ガチャ


ゲ「私だ、司令室に白い布を頭から被った露出狂がいる、すぐ諜報部を寄越してくれ、それか警察を呼んでくれ」

 数分後。

サ「ぎゃああああああああ……サービス……」


ゲ「問題ない」



                    冗談です。


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第四話

 ヒマラヤにて

ゲ「……ここはどこなんだ」

登「!? 大丈夫ですか。どうしてこんな薄着で!?」

ゲ「あなたは?」

登「私はそこに山があるから登りたい。そんな登山家です」

ゲ「では、行って下さい」
登「ですが、それ以上に困っている人は助けたい人間なのです」
ゲ「…グスッ…ありがとう。あなたの優しさは問題ない」



  始まります。


 

 同時刻、本部全体を見渡せる遥か高みの席に座るゲンドウ、その隣に立つ、コウゾウは生理的に産れる震えを抑えられないでいた。

 

「い、い、碇……まずい事になったな……まさか、彼女まで目覚めてしまうとは我々だけでなくゼーレにとっても由々しき事態だ」

「も、も、も、もももも問題ない」

 

 重ねられた手が尋常じゃないくらい震えている。

 

「分かるぞ、お前の怯えを。お前はユイ君とのいざこざでキョウコ博士に危うく殺されそうになった事があるからな。しかも、四回ほど。しかし、こちらの介入でドイツ支部での実験が失敗するよう手配して、実際失敗したはずなのに、何故、彼女が完全に覚醒してしまったんだ」

「ユイ…ユイ…ユイ」

 

 反射によって光り輝くサングラス、見た目は渋いのに呟いている言葉は現実逃避に近い。

 

「ああ、そうなってしまうのも無理は無い。お前との結婚を一番反対していたのは彼女だからな。結婚前日、お前を拉致した彼女がヒマラヤにお前を置き去りにしたと聞いた時はすぐにお前の墓石を注文しようとしたものだ。ただ、唯一の救いは我らだけでなくゼーレのとっても彼女は厄災だということか……ネルフ本部がありながらこの日本が未だにゼーレに…いや、他のどんな秘密組織が牛耳れていないのは日本の裏を司るといわれている、二大組織、北東支部の岡長官も所属していると言われている諜報暗殺組織忍軍と、人情と暴力を武器とした化け物揃いの惣流家筆頭任侠一家が目を光らせていたからな」

「…あの時は心優しい登山家に助けられました。少し人間が怖くなくなりました」

 

 ヒマラヤがある方角に視線を合わせ、過去を振り返るさまは現実逃避そのものだった。

 

「しかし、結果はメンタルが弱い人間不信男の出来上がりだ。お前の心は優しい登山家程度では救えなかったようだな。さて、零号機のリリス、キョウコ君の覚醒、お前が連れて来た少し頭の螺子が緩いながらもエヴァパイロットセンスは抜群の少女と、私の見立てではとんでもないからくりが潜んでいそうな4号機………対してこちらは初号機の覚醒と不完全なダミープラグに抜け殻アダムとロンギヌス……どうする、碇?」

 

 その問いに対してゲンドウは不適に笑ってみせ、口を開いた。

 

「我々は詰んだな!!」

 

 コウゾウは右手を大きく振りぬいた。

 

「いい加減現実逃避から戻って来い」

「あべしっ!!」

 

 机に顔を押し付けられた、ゲンドウは昔懐かしい奇声を上げながら突っ伏した。次いで、ゆっくりと顔を上げながらヒビの入ったサングラスを押し上げた。

 

「サングラス以外問題ない。後で、弁償しろ」

「完全に割られたいか?」

「冗談だ、いや、ホント冗談だから、腕を振り上げないでくれ」

 

 再び振り上げられた腕に縋りつく四十過ぎのオッサンという図、幸いにも弐号機の猛攻に皆釘付けで見ていたものは皆無だった。

 

 腕が下ろされたことでゲンドウはお決まりの構えを取った。

 

「問題ない……事はないが、こちらにも切り札がある。あれを出さずに済めばよかったが、こうなっては仕方が無いだろう。早急にあれを使えるよう赤木博士に伝える」

「だが、不完全ではどうにもなるまい?」

「だからこそ、だ。私には分かる。あれは酷くご立腹しているようだ」

「馬鹿な、あれに魂は無い」

「意思は時に肉体も凌駕する、なればその逆もありえるのではないか?」

「死海文書にも記されていない太古の記憶だけで肉体が動くというのか」

 

 呆然とした様子でコウゾウは呟き、それを耳にしたゲンドウが今度こそ不適に笑みを浮かべた。

 

「禁じられた融合は不完全であっても十分リリスの脅威になり得るということだ。故に初号機の凍結を解除する、今は全力で敵を殲滅してもらわねば、な」

 

 モニターにはエアロゲイターに対して奮戦する弐号機と新たに現れた敵に対して戦闘を開始する4号機と初号機の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 遡る事数分前、脅威のシンクロ率で三万人のサイキックウェーブを完全に遮断して敵のほうに歩み始めた弐号機のATフィールドに異変が起きていた。本来、ATフィールドはオレンジの壁のような文様が何枚あるかでその強さが伺えるのだが、弐号機が作り出したATフィールドはまるで相手を突き殺すかのような鋭い傘状に変形してしまったのだ。これを見たリツコは卒倒してマヤに介抱され、ミサトやシンジも驚き慄いた。酷く攻撃的なATフィールドを作り出した弐号機は突貫した。当然、敵の機動兵器は空中で回避を試みるも、その脅威のスピードについて行けず右腕を犠牲にする事となった。

 

 エアロゲイター副司令官、ユーゼス・ゴッツォは自身の機体、アンティノラの負傷及び、ウェーブの遮断に対して仮面の内側で酷く驚きを見せていた。そして、やはりと言う核心も得た。彼は自身の操り人形、イングラム・プリスケンを通してこの星にある死海文書の解読方法を碇ゲンドウに教えていた。それはこの星にあるとされる始まりの場所、ガブの部屋の存在とその中にある神にも等しき存在を手に入れるため、地球人にお膳立てさせたのだ。

 

 そして今ここで現れたのは熟したからだと判断したためである。あるのだが。

 

「よもや、エヴァンゲリオンにこのような力が隠されていようとは、我々の母星にある死海文書は私の予想通り、欠けているのではなく書き換えられたと見た方が良いようだ」

 

 一瞬にして思考を遮り機体を大きく旋回させる。上空に飛び上がった弐号機の振り上げられた拳がアンティノラの機体を掠めた。だが、絶妙なタイミングで後方に待機していた4号機から放たれたポジトロンライフルが胸部装甲を溶かす。

 

「忌々しい、一機だけでなく、あの機体もまた私の予想を上回る機能性だ。そうなると出し惜しみする残る二機にも興味が沸いてくると言うものだが……うん? これは、これは…どうやら私に運が向いてきたようだ」

 

 エヴァ二機による波状攻撃を掠めながらも避け、尚且つ操作盤で何か、操作するユーゼスの巧みな技量は副司令官だけの事はある。やがて操作し終えると仮面の奥で不適な笑みを浮かべた。

 

「重力場展開、座標ポイント入力完了。さて、大気圏に現れたあれを呼ぶとしよう」

 

 ジオフロント内上空に歪みが発生して先ほど日本上空の大気圏に現れた光り輝く鳥のような物体が飛び出してきた。

 

 本部に鳴り響く警報、スーパーコンピューターMAGIはあれのパターンを即座に青と断定、ここに第十五使徒が現れた。

 

 これに対して、ゲンドウは即座に初号機凍結を解除、既にシンジは言われる前からエヴァに乗り込み待機状態だったので即座に戦場に立つ。

 

 ここまでは一つを除いてユーゼスの思惑通りに運んだ。彼らが何故にもう一体を出さないのかユーゼスは疑問に思うも人類補完計画の要とも言える初号機を見られただけで、今は十分と考え直した。

 

「私と白き月の民、果たして地に這い蹲るしかない貴様らは魂の座を守れるかな」

 

 ジオフロント内という酷く限定された空とは言え、エヴァに飛行能力は無い。仮に弐号機にそのようなものが搭載されてでもいたら、いかなユーゼスでも即座に撤退していただろう。彼が未だ余裕なのは上空を悠々と飛行できるからだ。

 

 ところが、ユーゼスの考えには誤算があった。確かに彼らは空を飛べない。しかしながら、それを押してでも上回る機体性能と原作ではありえない攻撃性が彼らに備わっていたのだ。弐号機の脅威のシンクロ率と惣流の血、初号機のS2機関による半永久的な活動と繊細さの欠片も微塵に感じさせない強い心、4号機に乗るカガリは頭の螺子が緩くとも抜群のパイロットセンスを持ち合わせ、何よりアニメに置いて第十五使徒に止めを刺したあれが備わっていた。

 

 ユーゼスは身を持って知ることになる。副司令官の立場では浮かんでもいけない、彼らに手を出してはいけないという恐怖と決して拭えない後悔を。

 

 

 

 

 カガリの野生的な勘の元に下される指示をアスカとシンジは的確に遂行した。その様をモニターから見ていたミサトはその頼もしさと同時にトリオで漫才を披露する三人のビジョンを浮かばせていた。

 

 四号機から放たれたポジトロンライフルで飛行する使徒の前方を撃ちぬき、回避行動で移動した場所に今度は初号機のポジトロンライフルが撃ち出された。光りの筋が使徒のATフィールドを貫通、光り輝く翼に傷をつける。

 

 同時間、アンティノラに向けて弐号機が傘状のATフィールドを射出、よもや飛び道具として使われると思っていなかったユーゼスは内心で驚きながらも避けて見せた。途端、視界に4号機が映りこむ。誘導されていたとも知らず、フィールドを撃ち出した瞬間、4号機が弐号機を飛び台にして上空に飛翔、その場所で待ち構えていたのだ。4号機はプログレッシブナイフを杭のよう装甲に打ち込み、それを支えに上空に留まった。これには流石のアンティノラも危険と判断、剥がそうと残った腕からフォトンソードを展開、振り下ろすも届く前に初号機が撃ち出した光りの筋が残りの腕を吹き飛ばした。狙いを定めた瞬間など的にしてくれと言っているようなものである。腕が吹き飛ぶ少し前、飛び台になった弐号機は後ろのケーブルをパージ、使徒を殲滅すべく走り出していた。

 

 本能がそうさせるのか、翼をやられ低空飛行となった使徒は弐号機から逃げ惑う。それをシンクロ率が成せる脅威のスピードで追いかけ、遂に輝く両翼を掴み上げるとアスカの怒声と共に引き千切った。声のない悲鳴のような音がジオフロント内に響き渡る。

 

 それでも地面を這い蹲るように逃げる使徒を放置して何を思ったか弐号機は拘束具たる胸部装甲引き剥がした。そして翼が捥がれた使徒を再び掴み、剥き出しのコアに押し込めたのだ。瞬間、十字架の爆煙が上がり使徒は消滅、中からS2機関を無理やり取り込んだ新生エヴァンゲリオン弐号機が顔を出した。

 

 これには本部にいた誰もが声を無くしてモニターを凝視する。ようやく起き上がったリツコがこれを見てまた卒倒したのは言うまでもない。何故なら初号機に続き、スケジュールにない弐号機までもがエヴァに産れる事のない永久機関を手に入れたのだから。

 

 これに焦ったのは本部のスタッフだけでなく敵対するユーゼスも同じだった。唯でさえ、脅威の弐号機が半永久的に動くという恐怖、使徒の存在も無くなり彼に選択できるのは撤退だった。パネルを動かして即座に座標を打ち込もうと手を伸ばした時、機体に衝撃が走った。そう、まだ4号機が取り付いていたのだ。恐怖から来る混乱が天才と称されたユーゼスの思考を鈍らせ、判断を見誤らせた。

 

 そしてそれは致命的なものとなる。

 

 掴んでいた手に力を込めアンティノラを踏み台にして更に飛び上がった4号機は上空で体勢を整えすぐさまアンティノラを蹴り落とした。

 

 エヴァの重量に重力が重なってアンティノラは墜落していく。だが、機体は損傷しようとも設計上操縦席には衝撃吸収作用が施されており計器が破壊される事はなく、空間転移は可能と思われた。しかし、落とされる場所には既にカガリの指示で二対のエヴァが待ち構え、まるでアンティノラを包み込むようにフィールドを展開したのだ。

 

「馬鹿な、転移が出来ないだと!?」

 

 これは先の戦いでレイが行った手法を行動不能となった4号機の中でカガリは見ていたことから思いついた戦法だ。絶対領域たる空間は何者にも犯されない。それは即ち転移行為すらもその範疇に入る。ただ、これはリリスを備えた零号機だからこそ行えた言わば力技、残念ながら残りの機体にそんなことは出来ないはずなのだ。しかし、それがもし二機なら、それも傘状のフィールドを展開できる今の弐号機がいた場合、話は変わってくる。

 

 傘状の展開を反転させればアンティノラのある一定方向の一面以外は包み込む事は出来るのだ。後は初号機が残った一面を塞いでしまえば包囲は完成する。

 

 これで逃げる事は適わないのだが、しかしてこれには一つの欠点が存在する、ATフィールドで包み込むと言う事は絶対領域で守られるということでもあるのだ。

 

「ふ、何年ぶりかで焦らせてもらったわ。こんなに焦ったのはシヴァーに殺されそうになった時以来か……ふふ、撤退が出来ないとはいえ、この状況貴様らはどうするのだ?」

 

 4号機が地面に着地した。そしてビシッとアンティノラに向かって指差した。

 

「当然、倒させてもらうに決まっている。あたしの勘が告げているんだ。お前を野放しにしていたら駄目な気がするとな!! それにお前からは嫌な気配が纏わり付いている。むしろ、お前なんかよりそれの方が危険だとお母様があたしに囁くんだ。よって、お前はここであたしに成敗される。恨んで構わん!! これがあたしの選び取るべき選択だ!!」

 

 そう宣言して4号機は両手を空に掲げた。それに呼応するかのようにツインアイが光り輝き、胸部から赤い粒子が掲げた空に放たれる。粒子はやがて形を成していくと本来の姿を取り戻した。それを4号機は握り締める。

 

 本部でモニターを監視していたコウゾウは目を見開いて、嫌な意味で正解した!! と声を張り上げ、ゲンドウは机に突っ伏して今度こそサングラスを粉砕させ、ようやく、ようやく、あらゆる衝撃から立ち直ったリツコはその神々しい槍を見て泡を吹きながら倒れた。資料でしか見たことの無いミサトは行き成り現れた槍について驚いたものの、あの槍は存在が何を意味するのか理解できなかった。だから取り敢えず、武士の情けとばかりに親友の口元を拭う事にした。その他スタッフは槍の出現に驚きながらもミサトと同じくそれだけだった。

 

 ユーゼスはその槍がどういうものか理解していなかった。それは改竄された死海文書には記されていなかったからなのだが、その槍から発生する禍々しい力については肌で感じていた。ここにサイバスターと呼ばれる機体が搭載しているとされるラプラスコンピューターがあればこう予測していただろう、どの側面から予測しようとも待っているのは絶対的な死と敗北だと。

 

「私が高々武器一つに恐れるだと……何なんだ、あれは!? ゴッツォ家にも知らされていないものがこの宇宙に存在するとでもいうのか!?」

 

 操縦桿を握り締め、無駄と分かっていようとも本能が逃げようともがき出す。動かない機体に更なる絶望が増した。

 

「まさか、改竄される前の死海文書には書かれていたというのか!? だが、誰が改竄をしたという………まさか…あのお方が……真なるあのお方が……改竄を行った!?」

 

 投擲のように構えた4号機はよく狙いを定めながら勢いよく投げつけた。

 

「消えろ、エアロゲイター、その嫌な気配もろとも!!」

 

 二股のロンギヌスは音速を超える速度で飛んでいく。

 

「そんな、私は、私は、あのお方を超えなければ、真なる霊―があああああああああ!!」

 

 アンティノラを包む込むフィールドを力技ではなく機能で持って貫くと形状が螺旋のようなものに変化して回転、アンティラノの操縦席に突き刺さった。

 

 黒幕と言われた男の呆気ない死、ユーゼス・ゴッツォはこの時点で戦いの舞台から姿を消したのだった。

 

 4号機の中、カガリは辺りを伺うように視線をさ迷わせた。そう、嫌な気配がまだ途切れていないと心が自身に告げているのだ。

 

 そしてそれは現実になる。

 

 

――人形如きが、愚かなものよ。

 

 

 不気味な声がカガリの耳を捕らえ、嫌な気配が濃くなっていく。その声の元凶を探さなければ危険だと心が警告を呼びかけた。

 

 カガリは声の主を探すように視線を槍が突き刺さった操縦席に向けた。すると、その場所から黒い靄が勢いよく噴出、それは少しずつ形を成して長い髭蓄えた老人の顔のような形状になって目的のものを探すように瞳を動かし始めた。やがて目的のものに行き当たったのか、何者も映さない漆黒の瞳は4号機を捕らえると鋭く睨み上げる。

 

 それをプラグ越しで感じたカガリはすぐ先に待つ己の死を予感してしまう。

 

 あれは、駄目だ。あれと戦えばあたしが死ぬ。普段の思考からは考えられないネガティブな想いがあふれ出し、本能で恐怖し震えだす腕が、己の首を絞めようと動き、交差する瞬間。

 

 力強い声は聞こえた。

 

『去れ、亡霊よ、貴様が現れるべきはこの時ではない。まして僅かな分身体で相棒をやれると思うな、身の程知らずが』

 

『これ以上、あの人の相棒に手を出すなら、この私が相手になるわ、かつての子よ』

 

『娘に手を出すとはいい度胸です、目を食い縛りなさい、この私が相手になりましょう』

 

『いくらなんでも、あなたには無理ですよ、自重して下さい!! それとわざとだと思いますが目ではなく歯です』

 

 四者四用の声がカガリの心を守るような壁となり、恐怖から来る負の思考を飛散させ、体の震えが収まった。

 

 同時にアンティラノの操縦席に突き刺さるロンギヌスが淡い輝きを放ち、その光りは黒い靄を払拭したのだった。

 

 払拭される間際、エヴァに乗っていた彼らは耳にした。歓喜に震えながらも酷く憎悪に満ちた声を。

 

 その声はこう言っていた。

 

 

 

 

――我らにとって忌むべき始祖、それを模したものと共に歩む者たちよ。覚えておくがよい、再び合間見えた時、それらすべてを取り込むことを。

 




 次回、間幕 ゼーレ、魂の叫






 次回もサービス、サービス……伏線、なのか? 拾えない、いや拾って見せるさ!!


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間幕

 高級ホテルの合コン会場にて

A「えーと、今日は彼女に黙って参加してますぅ、ちょっと飽きててやっぱ新しい恋でしょう」
B「三日、何も食べていません。今日はタダで飯が食えると聞いて参加しました」
C「いやはや、一人だけ老人だが、これでも金は持っている。何故なら裏ではカルト教団を運営しているからな、ところで、この会合は外に漏らさないでくれ、粛清されてしまうからね」

ゲ「……何故か、代表として葛城三佐に連れて来られたが、何の集まりなんだ?」

リ「………え?」
ミ「言っておくけど、あのサングラスは駄目よ」
リ「ならどうして連れて来たの!?」
ミ「代表だからよ」
リ「分かりやすいけど!!」
ミ「でしょ」

ゲ「小声で話していてもニュアンスで悪口を言われているのは何となく理解できるぞ!」




 始まります。


 黒幕の死は多方面で影響を与える事になる。エアロゲイター総司令官 ラオデギア・ジュデッカ・ゴッツォは自身の出生を、ユーゼスによって生み出された複製人間だという事実を今後知る事はない。最後まで副司令官の安否を憂うだろう。

 

 同じく、イングラム・プリスケンは自身を縛る鎖の二つ、それも片方は切れないと思っていたものがこの戦いで切れたことに酷く驚きを見せた。もう一つの方は元凶が死ねば自ずと切れることを理解していたので特に気にはしない。

 

「時の呪縛が解かれた。俺にも先の未来があると言うのか」

 

 残る鎖は際も困難とされる因果の鎖だけだが、それに関しては元老人が語った夢物語を信じていられる自分がいるので取り敢えずは構わない。

 

「それでもやる事は変わらない。リュウセイたちの敵として立ちはだかり、そして死のう」

 

 死のうとも自分はもう先の未来を抱けるのだ。それがどんなに嬉しいことか。

 

 この選択が後に因果の鎖すらも断ち切る芽を作り出すことになるのだが、これに関して語る事は無い。少なくとも今は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーゼスの死はとある秘密組織にも伝わっていた。六体ほどのモノリスを見据えながら人類補完委員会の議長にしてゼーレのメンバー、キール・ロレンツはバイザーを布で拭きながら、次いでに滴り落ちる顔の汗をも拭いていた。

 

「随分と数が少ないようだが残りのメンバーはどうした?」

 

 キールの問いに02と表示されたモノリスが答える。

 

「三人は欠番とされた使徒の出現に怯え、出席するのが嫌だそうだ。一応、風邪、腹痛を引き起こしたことにしてくれと言われたが…」

「小学生か!!」

 

 03と表示されたモノリスが尽かさず突っ込みを入れた。キールは深いため息を吐いて残りのメンバーの所在を聞いた。

 

「一人は今年最後の幸運な出来事が起きるから行くのは勘弁らしい」

 

 04と表示されたモノリスが答えれば、02と表示されたモノリスが同意する。

 

「ああ、あいつか。今頃、若いハニーを落とそうと必死になって高いホテルで食事しているのだろう。大丈夫だ、次の会合では絶望をその背に下げて戻ってくる」

「リア充撲滅!!」

 

 03が高らかに叫べば、残りのメンバーが拍手を送る。国は違えども今ここにいるメンバーの心は一つだ。

 

「もう一人は今病院の個室で生死をさ迷っている」

 

 06と表示されたモノリスが告げれば、キールがそれに付け加えた。

 

「奴に関してはこちらにも連絡が来ていたようだ。忘れていたよ、若い女に受けが言いとはいえ、精力剤の飲みすぎで死の淵をさ迷うとは、何と嘆かわしい」

「本音は!?」

 

 03が叫ぶように問いかければ、キールは深い笑みを浮かべた。

 

「むろん、粛清されればよい!!」

 

 滴る汗も何のその、キールが盛大に叫べばしゃがれた老人たちの雄叫びがその場所に響いた。ゼーレの結束力ここにあり、であろう。

 

「さて、最後の一人についてだが、皆知らぬようだな」

 

 手を掲げ、興奮するモノリスたちを制してキールが問えば、返ってくるものは皆一様にして存ぜぬという言葉だった。だが、今まで叫んだりつっこんだりしていた03がポツリと呟いた。

 

「あいつは日本人だ」

 

 その言葉を聞いてモノリスたちが別の意味で慌てふためき、口々にニンジャー、ニンキョーと叫びだした。場はもう混乱状態である。

 

「そ、そうか、いやきっと、どこかに潜伏しているのだ……そうに違いない。そうであってくれ……せめて、老い先短い人生、キツイ拷問は止めてやってくれと願うばかりか」

 

 ゼーレの存在が明るみに出ることよりもメンバーの安否が気になる割とアットホームな秘密組織であった。

 

 その後は恒例のお茶会、モノリスなので雰囲気だけだ。と近況報告、いかにしてリア充を壊滅させたかの自慢大会に移り、最後の締めとしてキールが宣言する。

 

「これからも来るべき人類補完計画の発動まで粉骨砕身リア充を許さず邪魔していくことをここに宣言する」

 

 もう、何の秘密組織だか分からないが、これでも人類の存続と永遠の命を手に入れるために様々な非道を行ってきた組織なのである。余談だが、特にリア充の個人、リア充が多い組織には容赦しなかった。だが、それは自身のメンバーに対しても同じである。メンバーにリア充がいれば粛清という嵐で抹殺してきたくらい厳しい組織なのだ。

 

 会合も終わりを告げてモノリスが去っていく間際、キールは今思い出したかのように言葉を発した。

 

「あ、忘れていた。碇を解任するから。あいつがリア充か否かを今まで探っていたんだが、先ごろ金髪の若い女性と食事をしているところを写真に収める事が出来た。物的証拠は手に入れたので、確実性を高めるため今度は状況証拠が欲しいところだ。何か、案はあるか?」

 

 メンバーはそれ対して金髪の女を連れて来いという案を出した。決して羨ましいわけでもなく、単に見てみたいという欲求もあるわけではない。純粋な尋問のためである。

 

「なるほど、そのように手配しよう。理由は先の戦いで零号機凍結の理由に関するパイロットの尋問に隠しながら、いかにして連れてくるかだが、この際パイロットの方でも構わんか」

 

 JC、JC、JC、とメンバーが騒ぎ出した。それを手で制して黙らせる。

 

「碇、我々を謀るとどうなるか、その身で味合わせてやろう。美人の先妻、若い金髪女性、JC、碇を解任するには最適の理由だ」

 

 そして旗ともう一つの事案を思い出してキールは告げた。

 

「すまない、もう一つ忘れていた、秘密裏に碇と接触していたエアロゲイター副司令官、ユーゼス・ゴッツォが先ほどエヴァによって消されたが…まあ、あの仮面だ、リア充ではなかっただろうから謹んでお悔やみ申し上げると言った所か」

 

 メンバーは口々に仮面を付けるとはそれほど醜かったのか、分かるぞ、その気持ち、我らモノリスと同じ顔を晒せなかったんだ、と言いながら涙ぐむ始末、もちろんモノリスなので実際涙を流しているわけではないが、発する声が泣いている。キールに至ってはバイザーが壊れるのでは思わせるほど滝の涙を流していた。

 

「きっと、彼の母星では悲劇的な非リア充だったに違いない。迸る欲の暴走故に過ぎた力を求め、そして無残にも非リア充のまま死ぬ事になった。我らは彼の死を教訓にしなければならない、過ぎたリア充を願望すればその先に待ち受けるのは己の破滅だ」

 

 モノリスたちが涙交じりの雄叫びを上げながら同意していく。キールはその一つ、一つに相槌をうって応えた。そして最後に述べる。

 

「非リア充が存在するのは偏にリア充が存在するからだ。我らは決してリア充に屈してはいけない。我らの願いが妨げられれば世界の、いや宇宙全ての非リア充が不遇の明日を生きることになり、やがて迫り来る終焉の銀河によって非リア充の烙印を押されたまま消え去り、そんな存在がいた証すら残せなくなるだろう。それではあまりにも悲劇的過ぎる」

 

 嗚咽がその空間を満たしていた。モノリスたちが過去を振り返り、その不遇さに涙しているのだ。そうしているうちに一つ、また一つとモノリスがフェードアウトしていく。

 

 そして最後に残ったキールはバイザーを鈍く光らせた。

 

「我らゼーレ、リア充を許すまじ」

 

 

 

 

 

 その空間はキールの声を最後に暗闇に閉ざされるのだった。

 




 次回タイトル 最後の食事






 次回もサービス、サービス……書いといてなんだが、こんなゼーレは嫌だな……でも、シンパシーを感じるのは何故だろう。


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最後の食事

 委員会所属、キールの元に一本の電話が掛かってきた。

キ「私だ、なんだ06か、何事だ。あまり、こちらに電話をされると証拠を残す事になるのだが……なに!?」

 キールは怒りのあまり立ち上がった。

キ「12がわしをリア充だと言いふらしていただと!? 何を馬鹿なことをそんな根の葉も無い噂を信じると言うのか……ん、お前なら信じてくれると思っていた……他のやつにも言っておいて欲しい……なに、12はそんなに言っているのか? どのくらいのリア充度で言っているんだ? ……それはまた、わしが喜んでしまうぐらいのリア充度だな……いや、別に真実ではないのだから嬉しくはないが……すまない、少し本当なら良かったと思った……すまない、すまない」

 四個目のバイザーが涙でショートした。

キ「うむ、うむ、頑張っていこう、12にはわしから話を付けるとしよう……そうだな、我らが心の奥底で望んでいるリア充を具現化させた少年をネルフに送るよう手配した……我らの願いが叶う日も誓いな、06。うむ、また会合で」



 短いですが始まります。








+サイド元おじい+

 

 

 キツイ鎮静剤が体からようやく抜けて目覚めれば、何故かエバ操縦者が勢ぞろいして、わしを囲んでいた。どうやら戦いは完全勝利で終わりを告げたようだ。元気にしているアスカちゃんを見れば一目瞭然だ。しかし、このアスカちゃん、原作とかなり違うのは何故だろう。あの子は、孫が言っていたつんつんでれとか言うやつだったはずなのだが、挨拶の時、どう考えても堅気とは思えない自己紹介をされてしまった。

 

「あんたが、ファーストチルドレン、綾波レイってわけね、まずは自己紹介をさせてもらうわ」

 

 アスカちゃんは一歩べっどから引いて右手を差し出して前かがみの格好になると口を開いた。

 

「お控えなすって、ドイツはドナウ川の産湯を使い、性は惣流、名はアスカ・ラングレー、セカンドチルドレンであり、惣流の名にしがみつくチンケな女でさぁ、以後お見知りおきを」

 

 わし、無表情ながら内心でポカンとしてしまった。カガリがお前も自己紹介しろと言ってくれなければ、時は動かなかっただろう。わしは慌てて、無表情だが、自己紹介するとアスカちゃんはとても堅気とは思えない凄みのある笑みを浮かべて握手を交わした。中身老人のわしですら、凄みを感じるのだ、きっとカガリもシンジ君もそうだろうと思って視線を合わせればシンジ君は苦笑を浮かべ、カガリに至っては満面の笑みを浮かべて何かに対して頷いていた。意外とエバの子供たちは将来大物になるかもしれないと思ったものだ。

 

 世間話はわしが眠っている間の戦いに移行していくのだが、実はわし、眠りながらそのときの戦いを夢として見ていたのだ。俗に言う、幽体離脱になって零戦のコアにいる元妻と会うことになったわけだが、どうやら元妻がわしを呼んだらしい。その理由がこの世界の元凶が顔を出すかもしれないというものだったからだ。

 

 元妻曰く、あの異星人の副司令官はある行動だけ元凶に操られていたという。その行動とはわしたちねるふの監視及び、この地下と南極にある魂の座を崩壊させるというもので、元妻は副司令官がこの場所に現れたことでそれを感知、わしを呼んだようだ。感情を育んだ代償としてその元凶に恐怖を抱いてしまう恐れをわしと言う存在で克服しようとしたらしい。結果は見事に元凶の滓のような部分だが退けられた。危うくカガリまでも連れて行こうとするものだから、わしと元妻は怒りの方が増して恐怖など感じる余裕すらなかったとも言えるが。

 

 元凶の滓をろんぎぬすが消滅させた事で、なんと、いんぐらむを縛る鎖の一つは断ち切れたそうだ。何故元凶の滓が理由で縛られたのか元妻に聞くところ、可能性の芽を潰させるためだと言う。決められた歴史の差異は可能性となり、元凶にとって都合の悪い方向に行くかもしれない、それを防ぐため、生きた死海何とかの役割をあの元少佐は担わせられたようだ。だが、今回それを差異の一つ、カガリが消滅させた事で元凶本体の怒りはカガリに集中、もしかしたらこの先、カガリは狙われるかもしれないと元妻は提言した。そんな事を聞かされれば相棒としてカガリの行く末が心配になってしまうというもの。あの元凶は滓とはいえ、わしですら不快に思ってしまうほど強力な悪意を、いやあれはもう負そのものと言った方が適切かもしれないを全身から溢れさしていた。もちろん、わしはあれがどういった存在かはゲームを通して理解している、しかし、今それを話したところでカガリには理解できないだろう。何せ対になるもう一つの存在がまだ現れていないのだ、現状、この事を知っているのは黒幕の星に住む一部の者たちと、もしかしたらゲンドウやコウゾウも死海ナントカで理解しているのかもしれないが、それだけだろう。いんぐらむに関しては予想が出来ないので知らないものとする。取り敢えずはカガリにそれとなく注意を促すことにしよう。

 

 わしのお見舞いを終えた三人が帰ろうとしたとき、わしはカガリだけを呼び止め、そのことを話した。最初は難しい顔をして聞いていたが、最後は笑みを浮かべてこう告げてきた。

 

「いいさ、これもあたしが選択した結果だ。あの時は恐怖で頭が可笑しくなってたけど、今度はそんなヘマはやらかさないつもりだ。大丈夫、怖い元凶なんて、このあたしが返り討ちにしてやるさ!!」

 

 頼もしいお言葉を頂いた。それでも、槍を決して手放さない事を付け加えた。元妻が言うにはあの槍を使いこなせるようになれば、エバと共に強力な切り札になるだけでなく、自身すらも守れるようになるらしい。

 

「あと……あの子たちも」

 

 カガリはわしの忠告を聞き、素直に頷いてくれた。そして苦笑気味に口を開く。

 

「任せておけ、仮にお前がいなくなったとしてもあたしはあの子たちと共に戦っていくよ、だから、レイ。お前は安心してくれ」

 

 わしは内心で驚いた。カガリはわしの旨のうちを気づいていたのか。

 

「悪いとは思ったが、この前の黒い機動兵器との通信を聞かせてもらった。あ、もちろん、あの会話を知っているのはあたしだけだ。お前がどんな理由でいなくなるのか、もしかしたらいなくならないのかもしれないが、少なくとも死ぬとかじゃなければ良いんだ。でも、忘れないでくれ、お前という存在があたしをこの道に導いてくれたが、選択したのはあたし自身だ。お前が気負うことじゃない、だから安心して去ってくれ。これは相棒としての約束だぞ?」

 

 まったく、お前と話すと涙がもれなく付属するようだ。やはり、中身の年齢のせいかもしれないな。

 

「カガリ……戦わなければならない、ものがいる」

「ああ、何となくお前はこの先の事が分かるのだろう?」

 

 わしは涙を拭きながら頷いた。

 

「けど、死ぬわけじゃないんだろう?」

 

 再び、わしは頷いた。それは願望かもしれないが、そうでありたいと思うから頷くのだ。

 

「よし、ならいい!!」

 

 満面の笑みでわしの頭を撫でてきた。少女に撫でられる中身元おじい。かなり恥ずかしいが、ここは気の済むまで撫でさせよう。

 

「勝ち取れよ、お前が望む世界を」

 

 カガリ最後にそう言って、気の済むまで撫で続けたのだった。

 

 

 翌日、予備操縦者として六番目がねるふ本部にやってくる。

 

 

 

 

そしてそれは最後のシ者(笑)だ。

 




 次回 最後のシ者カヲル






 次回もサービス、サービス……ストックが尽きました!! 少しお時間を頂きます。


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第二話

 少し貯まったので投稿します。






 始まります。


+サイドアウト+

 

 

 委員会からのゴリ押しで予備という形ではあるが新たなチルドレンが迎えられた。ネルフは一応この少年を歓迎するも、殆どのものが必要かという疑問符を浮かべる事になった。まあ、エヴァも無いのだから尚更である。

 

 ネルフ本部司令室にシクスチルドレン、渚カヲルが挨拶も兼ねてやって来た。

 

「始めまして、委員会より推奨されたシクスチルドレン、渚カヲルです。何も知らぬ若輩ではありますが、どうぞ良しなに」

 

 女性が見たら惚れ惚れするような笑みで挨拶をすればゲンドウとコウゾウの視線が突き刺さる。

 

「チッ…ああ、こちらも歓迎しよう。これからこの場所で過ごすのだ。後で同じパイロットに案内させよう。年が近い方が何かと話し易いだろうからな」

 

 表情を変えることなく刺すような視線は健在でゲンドウが告げた。

 

「……ありがとうございます」

 

「チッ…碇、彼も長旅で疲れているだろう、挨拶もこれくらいにしておいてやれ」

 

 コウゾウが渋い表情で付け加えるとゲンドウはカヲルに視線を向けたまま頷いた。

 

「……あの、僕は気に障るようなことをしたでしょうか?」

 

 表情を曇らせたカヲルがおずおずと質問すれば、ゲンドウとコウゾウは互いに視線を合わせ、首を傾げた。

 

「彼は何を言っているんだ?」

 

「私にも分からんよ、今日が初対面だ。気に障るも何もないだろう」

 

 ゲンドウの問いにコウゾウは理解できんと答える様を見てカヲルは安堵の表情を浮かべた。コウゾウは視線をカヲルに向けて口を開く。

 

「チッ…とにかく、君は疲れているようだ。十分休むように」

 

 ゲンドウも視線をカヲルに合わせた。

 

「チッ…ああ、疲れているなら案内は無理にされなくても構わないぞ」

 

「………はい」

 

 酷く怯えた表情を浮かべたカヲルは肩を落として司令室を後にするのだった。

 

 

 司令室の二人は先ほど出て行った少年について語り始めた。

 

「委員会から横槍が入ってきたな。今、MAGIが全力で彼の素性を調べているが、恐らく彼は…」

「ああ、老人たちが欠番の使徒が現れたことに対して酷く恐れている証だな。自ら時計の針を進めたようだ。あの少年が現れてから、例のあれが酷くざわついている」

「決まったな。よもや、委員会自ら最後の使徒を作り上げ、送り込んでくるとは。相当恐れていると見える」

 

 言ってコウゾウが苦笑を浮かべると、先ほどのやり取り思い出して眉を潜めた。

 

「それよりも、あの使徒は中々に礼儀正しいじゃないか、白き月の民も最後は黒き月の民の末裔の姿になるとは、とんだ皮肉だが酷く私たちに怯えていたようだ。碇、お前何かしたのか?」

「知らん、使徒という以外興味ない」

「そうだな、お前はそういう男だ。私もそれ以外無いのだが…使徒が人間サイズになると、やはり長旅は酷なのだろうか」

「知らん、大半のユイ、少し息子以外は興味ない」

「それでこそ、お前だ。ようやく、元のお前に戻ってきたな。黒幕が消え、切り札が使用可能になって、安心したか?」

「知らん、もう自分がどういった状態なのか、私自身が知りたい」

「ああ、一週回って平常になったのか。私としても安心だ。しかし、あの少年はどうして」

 

 こうして、司令室ではゲンドウが我慢できずトイレに立つまでエンドレスに続く会話が成されていくのだった。

 

 

 ちなみに同じ男として無意識に劣等感を抱いた末の舌打ち。

 

 ゲンドウとコウゾウ、彼らも年を取ろうと男なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 司令室を後にしたカヲルがスタッフ専用の通路を歩いていると見た目、ハンチングと作業服のツナギを着た整備班と思われるメンバーが白衣を着た開発班と思われるメンバーとなにやら、言い争いをしていた。人の営みに興味があったカヲルはそのやり取りが気になった。少し離れたところから聞き耳を立てる。

 

「おい、この武装は何なんだ、デュアル・ソーだと? 何時から内は林業になったんだ。森林伐採は別のところでやってもらおうか」

 

 整備士の一人が言いながらデータと思われる書類を投げつけた。残りのメンバーも口々に批判を叫ぶ。すると今度は開発班の一人が反論する。

 

「うるせぇ、これは上から降りてきた案件だ、俺たち含め下っ端が口に出せる代物じゃないんだよ!!」

 

 開発班の残りメンバーが憤りの声を上げる。一触即発の事態を眺めていたカヲルは自嘲的な笑みを浮かべる。

 

「やれやれ、悲しいね、人同士ですら分かり合おうとはしないなんて、僕は彼らに託す事が出来るだろうか」

 

 これ以上、見ていても仕方が無いと思ったカヲルが踵を返して歩き出そうとすれば、その声は聞こえた。

 

「同志諸君!! 待ちたまえ、我らが争う事などないんだ!!」

 

 第三者の登場で争いの音が静かになった。おや、と思ったカヲルが振り返ると、多分、互いの班の上司なのだろう、二人が一枚の紙を掲げて語っていた。

 

「かつて、旧ロボダインの設定資料、通称ブラックボックスにこんな文言が書かれていた。製作中、作者がどうしても武装に電動のこぎりを使いたいと製作者たちに力説したという」

「しかし、実際のアニメではその武装にお目にかかることは無かった。そして残念ながらリメイク版ロボダインエースにも出てこなかったことは、先の上映からも知ることとなった。ならば、作者の意を汲み取り」

「我々が作ってやろうではないか!!」

 

 二人は声高々に宣下した。それを見ていた両班は、互いに目配せして拳を握り締め、声をそろえて天に吼えた。

 

「みぃなぁぎぃるぅぅぅぅぅぅぅ」

 

 堅い友情で両班は握手を交わして作業に戻って行く。

 

 そのやり取りを見終わったカヲルは一言

 

「なにこの茶番」

 

 と呟いて先ほどスタッフに教えてもらった二人のチルドレンがいるというトレーニングルームに向かうことにした。カヲルは思う、まったくもって不思議な組織である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩いて十五分、トレーニングルームに着いたカヲルを出迎えたのは、それはもう暑苦しいほど青春をしている二人の少年少女だった。もっとも甘酸っぱい方ではなく、熱気が溢れる方である。

 

「バカシンジ!! 踏み込みが甘いわよ!!」

「さすが、アスカ。軍隊仕込みの冷静な判断だ、ねっ」

 

 シンジと呼ばれた少年が中段蹴りを浴びせるもアスカと呼ばれた少女は最低限の動作で回避、その反動を利用して裏拳を繰り出した。が、シンジの方も右腕でガード、お互いは一端距離を取る。

 

「やるじゃない、バカシンジ。相手にとって不足なし、惣流の血が騒ぐわ」

「アスカこそ、名だけじゃないわけだ。僕もうかうかしていられないな」

 

 一瞬、お互いが不適に笑うと相手を打ちのめさんという気迫の表情を浮かべて再び拳や足の応酬を繰り返す。

 

「それにしても、あたしたちはまだまだなのよ、ねっ!」

「そうだね、レイさんとカガリさんは僕らなんかよりも断然強い、よっ!!」

「バカシンジ、いえ、シンジ。あたしたちは強くなるわよ、くっ!!」

「ああ、何時までもおんぶに抱っこ状態じゃ情けないから、なっ!!」

 

 下に恐ろしきは旗から見ても凄い運動量にも関わらず、普通に会話をしているところだろう。わき目も振らず、組み手をしている二人の姿に疎外感を感じたカヲルはそっとトレーニングルームを後にするのだった。

 

 本部に来てから寂しさが募るカヲルは無性に海が見たくなってきた。

 

 委員会により作り出されたカヲルはこのネルフ本部に向かう前、他のチルドレンの資料を見せてもらっている。

 

 惣流・アスカ・ラングレー、彼女は傲慢な態度で人を見下し、エヴァに乗る事を何より誇りに思っている一方で他者に必要とされていなければという強迫観念に駆られている。母親の死がトラウマで自身を強く見せなければ禄にコミュニケーションも取れないという心の弱い少女。

 

 碇シンジ、他者との接触を極端に嫌う傾向があり、己に自身を持つことの出来ない臆病な少年、父親との確執でその傾向は更に強くなっていく。総じて自分以外の人間を心に住まわす事、信用する事に絶対的な恐怖を抱いている。

 

 アスカは別にして、カヲルはシンジという少年に深いシンパシーを感じていた。それは自身も同じだからだ。カヲルは使徒である。使徒とは単体で無限の時を生きれる存在、他者との疎通という概念は基本持ち合わせていない。第十三使徒は何故か、ある少女に怒りという感情で疎通、謝罪に感謝するという奇特な行為をしたが、あれは特例で、使徒らしくない。

 

 矛盾するようだが、別の種族でありながら自分と同じく他者を心に住まわせないシンジに興味を抱いだいてしまったのだ。使徒の自分が何と滑稽かと呆れたりもしたが、何故か心は高揚したのを覚えている。それはまるでリリンが他者に恋をするかのような甘酸っぱい気持ちに似ていた。

 

 だから彼になら殺されても良いと思った。委員会の悲願よりもシンジの心に深く残りたいと思ってしまったのだ。

 

 なのに。

 

「君の心はBBQで定番のヤキソバを炒める鉄板のように分厚いね………ふふ、失恋ってことか」

 

 儚い笑みを浮かべ、少年、カヲルは歩き出す。だからだろう無性に海が見たかった。

 

 古来より、失恋には夕日の海を見るものだと人間を知る上で渡された資料の少女マンガに書かれていた。それを実行する機会がすぐに巡ってこようとはあの当時、ウキウキと読みふけっていた自分には想像できなかっただろう。

 

 

 

 

 覚束ない足取りで廊下を歩く美少年の姿に女性スタッフは残念そうな表情を、男性スタッフはニヤリと笑みを浮かべて、ざまぁ、といった表情で眺めるのだった。

 




 次回 恋の選択を






 次回もサービス、サービス……申し訳ない。不定期更新、です。


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第三話

 





 ストック分が始まります。


 夕焼けに照らされた海は酷く物悲しくさせる、カヲルはそんな感傷めいた想いを抱いて砂浜で体育座りをしていた。使徒たる自分がリリンの肉体に落されただけでこうも弱くなるのか、自嘲的な笑みで沈み行く太陽を見据えた。そう言えば、とカヲルは遥か昔、それもリリンや使徒など存在しない気の遠くなる過去、同じような想いをしたなと思い出した。本当は思い出したくも無かったことだが、夕日がそうさせたのかもしれない。今の状況はあの時と同じ、いや、リリンの器に堕とされたのでそれ以上に悲しみに満ちていた。

 

 このまま、海に飛び込もうか、いや、そんな事をしても死ぬ事の出来ない自身の体、中途半端に頑丈な体に恨み言を呟いていると、何処からか、

 

「どうもぉぉ、綾波カガリです。いやね、最近、急にバイトの面接がしたくなったんだけど……ここで、シンジのツッコミ、急な展開だな、が入ると。そんで、あたしがお前ら、あたしが面接官やるから、バイトの面接にきたカップルの設定で来てくれと言う……そしたらシンジが、いや、面接にカップルでは来ないだろう! というツッコミが入りいの、アスカの、何であたしがこんな男とカップル役やらなきゃいけないの、でもどうしてもと言うならやらなくも無いけど、というツンデレが入る。よし、後はここからショートコントが入るわけだな。流れはこんな感じか」

 

 ネタ練習が耳に入り、カヲルは自身の心に点るフワフワとした感情に従い、声のする方に歩き出した。そこには夕日に照らされた金髪が煌く、資料でも詳細不明とされたフィフスチルドレン、綾波カガリが端末片手にコントの稽古をしていた。一応、勉強で日本のお笑いも勉強していたので面白いかは別にして理解は出来るのだ。

 

 砂浜を踏みしめる音が聞こえたのだろう、端末に目を通していたカガリが顔を上げてカヲルを認識すると笑みを向けてきた。邪魔した事を咎められるかと思っていたカヲルはその笑みを認識して心を暖かくさせる。

 

「お笑いはいいよなぁ、お笑いは人を笑わせてくれて少し幸せにしてくれる。お笑いは人が生み出した文化の極みの一つだよな!!」

「えっと…僕は歌が…」

「そうは思わないか? シクスチルドレンパイロット、渚カヲル」

「!?」

 

 悪戯が成功したかのような笑みでカガリは笑った。

 

「あたしが案内する役目を仰せつかったフィフスチルドレン、綾波カガリだ」

 

 紹介されながらもカヲルは疑問を口にした。

 

「でも、どうして海にいたのですか?」

 

「ん? レイの奴が、あ、妹のことな。そいつがカヲルは海にいるはずだって言うから三時間前からここで待っていた!!」

 

 胸を張って答えられてもカヲルは呆れるしかない。もしもこの場所に来なかったらどうするのだと疑問が浮かび、口にすればカガリは事も無げに言った。

 

「その時はその時だろう。現にお前はここに来たからな、結果オーライだ!!」

 

 リリンにしては堂々たる物言いに対してツボに入ったのか、カヲルは腹を抱えて笑い出した。

 

 笑ってくれたことが嬉しかったのか、実際には笑われると言うGEININには不名誉な事なのだが、天然なカガリは気づきもせず、嬉しくなり一時間に渡って浜辺の単独ライブを開催、ネタには笑わないカヲルに落ち込み、それを笑われるといった負のスパイラル現象を起こしたが、最後の方はネタにも笑ってくれてお互い、ほっこりした気持ちで閉幕と相成った。

 

 楽しませてくれたお礼と称してカヲルは一つの石版のようなものをカガリにプレゼントする。それをネタ帳と勘違いしたカガリが酷く興奮するも、実際は昔の歌の歌詞書かれた楽譜だった事に酷く落ち込んだ。その人間らしい感情の揺れとそれを大げさなリアクションで体現する姿にカヲルはまた笑い声を上げ、笑ってくれたと勘違いしたカガリを再び喜ばせた。

 

「覚えていますか、目と目が会った時を、覚えていますか、手と手が触れ合った時…それは愛の始まりでした」

 

 カヲルはその一説を歌い上げるとカガリの手を握り締め、自身の胸に触れさせる。心臓の鼓動が凄い速さで繰り返されていた。

 

 カガリとの出会いから一時間と少し、さきまで溢れるほど増えていた悲しみが、今は出会いの喜びに満ちている。そしてシンジに抱いていた想いを彼女にも抱き始めていた。節操の無い自分に呆れてしまうがこればかりは仕方が無い、少女マンガにも恋に落ちるのは一瞬だと描かれていたことから、これは正当な思考なのだと自分に言い聞かせる。

 

 使徒であるカヲルは内心の想いを正直に言葉にした。それが、どんなに怖いか、目の前の少女は知らないだろう。でも、きっと彼女の答えは裏切られる想いを抱かせないはずだと、カヲルは信じてみようと思った。

 

「僕は君と出会うために産れてきたのかもしれない」

「不整脈か?」

「………」

「違うのか、高血圧の方?」

 

 勘弁して欲しい、心はもう赤色の瀕死状態だ。それでもカヲルはなけなしの勇気を振り絞り、口を開く。

 

「……君が好きってことなんだけど、カガリ」

「禄に知りもしないで好きになれるものなのか? あたしがもしドメスティックバイオレンスだったらどうするんだ、それに浮気性だったら?」

 

 カヲルの心は御なじみ十字架の描かれた棺桶に飛び込んだ。早く教会という名のベッドで涙を流して復活したい、二度の失恋がカヲルに委員会の願いを叶えることを決意させた。決して振られた腹いせでの逆恨みではない……多分。

 

 日は沈み夜の闇と静寂に包まれていたが、それだけではない静寂が場を制していた。

 

 

 その後、お互い無言のまま、本部に向けて歩き出すのだった。

 

 

 このカガリ、妹とは血が繋がらなくともやっている事は似てしまうものなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ++++++++

 

 

 

 昼の喧騒とは違った夜の静かな廊下をレイはリハビリも兼ねて歩いていた。病室から出て二分もしないうちに息が荒くなる。

 

約一週間のベッド生活は体を大いに鈍らせていたようだ。いや、そうであって欲しいと言う願望に過ぎないのかもしれない、レイは内心で自嘲した。

 

 廊下の壁に寄りかかり、息を整えていると向こうの通路から涙と鼻水を垂れ流したカヲルが嗚咽を漏らしながら歩いてきた。

 

 視線の先、レイの存在を認識したのか慌てて垂れ流していたものを拭き取ると一転、淡い笑みを作り出して悠然と歩み寄って来る。けれど、鼻と目が赤いので様になっていない。

 

「やあ、君がファーストチルドレン、綾波レイだね」

「………」

「君は僕と同じだね。お互いこの星で生きてくうえでリリンと同じ形へ行き着いたか。僕にとっては皮肉そのものだよ」

「………」

「遥か昔から僕の魂は君に勝てた例がない。古代の生存競争、その遥か昔に君から与えられた最初の拒絶。思えば、僕の魂はトラウマだらけだ」

「あなた……中二病」

 

 レイがそう言えば、カヲルの微笑が僅かに引き攣りを見せる。

 

「違う……僕は使者さ、君が作り出した古のまつろわぬ黒き民により遥か時空を超えてこの世界に送り込まれた使者にして、生贄だよ。これもまた白き月の民の始祖たる僕の魂にとっては皮肉でしかない」

「中二病が発症」

 

 更に付け加えられて、カヲルの微笑が怪しくなってきた。

 

「……だから、因果律の歪みによって構成されたこの偽りの世界へのシ者さ」

「もう、駄目なのね」

 

 勝手に決められ、尚且つ絶望的な雰囲気を醸し出され、遂に微笑が崩れた。

 

「だから!! 僕はシ者なんだって!! 決して中二病とかじゃないから!! もう嫌だ、ここに着てから僕の繊細な心はガラスのように砕け散ったよ!!」

 

 顔を歪ませてその瞳から涙を溢れさせ、通路に倒れこむと体を丸めてワンワンと子供のように泣き出してしまった。時折、リリスの馬鹿とか、あの頃の子供みたいな僕を許してよとか、もう昔の事じゃないかとか、などなどの戯言を並べ立て、その都度、チラッとレイに視線を合わせてはその無表情の顔に絶望して、また丸まって泣き崩れた。

 

 レイが、あなたアダムなのと問いかけた時は、もうこのままLCLに溶け込んでしまうのではないかというぐらい絶望した表情を浮かべ、嘘、気づいていなかったの? と逆に問いかけ、頷かれると漫画のように口から魂が抜け出て行き、白い顔と髪が更に白くなった。

 

 

 これは流石にまずいと思ったレイは取り敢えず表面上謝り倒してカヲルの魂を肉体に押し込める姿を廊下で繰り広げられていたが幸いに見ていたものはいなかったようである。

 

 

 余談だが、カヲルの口から魂が抜け出た時、MAGIがアンチATフィールドを探知、警報を鳴り響かせ、夜勤のスタッフや仮眠中のスタッフを大いに慌てさせてが、護身と判断され、カヲルにとっては事なきを得た。もしこの本部にリツコがいたなら、それはありえないと事態を追求してカヲルに行き着いただろうが、まこと世は間々ならないものである。

 

 少し落ち着きを見せたカヲルだったが、今度はシンジ君よりもカガリが好きだとか、諦めきれない自分がいるとか、そんな自分がちょっと誇らしいとか、やっぱりカガリの殺してもらいたい、とか叫びながら泣き始めた。イケメン形無しである。本部も一応安全になったので泣き崩れるカヲルを放置して歩き出そうと思っていたレイはカガリと言う名前を耳にして足を止める。

 

「あなた……姉が好きなの?」

 

 レイからの問いかけに素早く顔を上げたカヲルは涙や鼻水を振り乱しながら何度も頷いた。

 

「やっぱり彼女は君の姉なのかい。道理でサディスティックな感じがしたと思ったよ。そうか、それなら仕方が無いよね。君の姉だもんね……グスッ、でも、諦めきれないよ」

「好きなのに殺されたいの?」

「この世界に置いては決められた定め、通過儀礼だよ。二つの末裔が住むにはこの世界は小さすぎる」

「中二病、乙」

「酷い、リリス。君なら分かるはずだよ、正統なる後継者たる白き月の民が繁栄できなかった訳を」

「……知らん」

「どうしたんだい、リリス。まさか、肉体に馴染みすぎて魂の記憶を忘れたのかい」

「……気づかないものだ」

 

 レイはボソリと呟いたが自己陶酔気味の中二病には聞こえなかったようだ。

 

「まあ、それなら仕方が無いかな。結局、あの時は世界が広すぎたと感じたのさ、それを本能で恐怖に感じた。いくら力があろうとも本能に勝てる知恵と理性が備わっていなかったんだ。そしてオズオズと南極に引きこもって震えていたら、何時の間にか黒き月の民が繁栄、世界は賑わい、恐怖と言う本能は消え去り、気づけば卑しくも黒き月の民を破滅させる本来の本能が表に出てきた。それが古代の生存戦争の始まりだ。その末路、白き月の民が勝ち残れば再び恐怖が巡るのにも関わらず戦い続け、結果は敗北したから今があるとも言えるけど、脳筋はやっぱ駄目だね」

 

 髪をかきあげ、カヲルはフッと垂れ流しの顔を笑みに変えた。どうやら自分はその脳筋とは違うと言いたいらしいが、涙や鼻水でカピカピとなったその顔はいじめられっ子のモヤシのように貧弱に見える。

 

「白き月と黒き月は争うしかない。いがみ合っていた始祖たる僕らが彼らを作り出したときに産れてしまった言わば根本的な本能だ。そしてこの世界は互いに見てみぬフリが出来るほど大きくはない。唯一知恵を与えられた黒き月の民だけがこの世界を手に入れられる権利を得たのはもしかしたら必然だったのかもしれない」

「……あなたは知恵ある中二病」

「君は最後まで僕を中二病にしたいんだね……確かに本能を押さえ込む事は出来るよ、知恵あるからこそ、シンジ君やカガリを好きになれた、カガリを大好きになれたんだから。大事なことなので二度言いました…うん、その無表情なのに中二病を蔑んでいる様な視線は勘弁してください。本当なんです、カガリが好きなんです。あ、これで三度目だ」

 

 スラスラと口上を述べるかの如く紡がれた言葉は、でも、と続けて一旦止まるとカヲルは暗い表情を浮かべた。

 

「この体は所詮仮初、目的遂行のために人の一生よりも儚い時間しか与えられていないんだ。彼らにとっても僕と言う存在は諸刃の剣でしかないからね」

 

 そして今度は、だから、と続けて暗い表情から一転、光悦とした表情を浮かべる。

 

「僕は好きな人に殺されて、その人の心に残りたい。僕はカガリの心に残りたいと思ったんだよ。使徒である、この僕が」

 

 そんな言葉を聞いて、レイは無表情ながら鋭い瞳でカヲル睨み付け、口を開く。

 

「傲慢な…子供…質が悪い」

「リリスが言うならそうかもしれない、結局僕は変わっていないようだ。それでも、僕は目的を遂行するために人形の役割を担うだろう。そして願わくはカガリにそれを止めてもらいたい」

 

 最後は瞳を伏せて噛み締めるように告げてきた。そしてレイに視線を戻し苦笑を浮かべる。

 

「君の末裔を残したければ全力で掛かって来てくれ」

「…選択するのは…カガリ」

「あくまで願望だ。君やシンジ君でも構わないよ」

「愚か」

「悲しいね、結局僕らは分かり合えない。元が同じなのにどうしてこうも違うのだろうね」

「……私は…あなたじゃない」

 

 レイがそう言えば、カヲルは笑みを深くした。

 

「そうだね、なら、リリン式でこれからお互いを知ろうじゃないか、どうだい、これから僕の部屋に来て禁じられた融合でもして見るのは…なんて冗談! え!? 冗談だって言っているのにその足は、ガハッ、ゴホッ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 リハビリ中とは思えない素早い動きで足が軟体動物のように撓る。上段蹴りで鼻を打ち、中段蹴りを腹にめり込ませ、最後に男の尊厳を思いっきり蹴り上げると、レイは静かに息を吐き出して汚物を見るような瞳で痛みに蹲るカヲルを見据えた。特に下半身の痛みに耐えられないのか股間を押さえ込み、心の壁は尊厳を守ってくれなかった!! と叫びながら廊下を転がり痛みを逃がそうとしている。

 

「どの口で……カガリを望むか?」

 

 ドスの聞いた声で告げれば、冗談だって言ったのに! 場の雰囲気を変えようとしただけなのに!! と弁解しながら今度は立ち上がって仕切にジャンプする。

 

 そんなカヲルの顔に唾を吐きかけるとそのままレイは立ち去った。その足取りは先ほどの覚束ないものとは違い確かな強さを秘めていたようだ。

 

 痛みが治まったカヲルは顔にかけられた唾を拭き取るとレイが去っていった方向に視線を合わせて僅かに喜びを噛み締めた笑みを浮かべる。

 

「君は僕と違い、まだ時間は残っているようだね」

 

 

 

 良かったと最後に告げてカヲルは自身に宛がわれた部屋まで歩き出すのだった。

 

 




 次回 せめて、ラブコメらしく






 次回もサービス、サービス……ラブコメってラブリーコメディアンの略語……つまりカガリのことですよね!?


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第四話







 ストック分お待ち! もう終わりだ、チクショウ!!

 始まります。


 

 翌日の予備パイロット機動実験において渚カヲルは弐号機に乗っていた。モニターを見ながら計測するマヤとマコト、本部にいないリツコの代わりにコウゾウが数値をみて問いかけた。

 

「この数値に間違いは無いな?」

「すべての計測システムは正常に作動しています」

 

 マコトがモニターを一度見てそう告げ、マヤも補足を付け加える。

 

「はい、MAGIによる誤差及び改竄は認められません」

「そうか」

 

 数値の実証性が浮き彫りにされてコウゾウが唸る。同じく、マヤやマコトも苦笑気味に互いに見合わせ頷きあった。

 

 コウゾウは結論を出す。

 

「やはり、コアの交換なくして起動は難しいか…………全然駄目だな」

 

 シンクロ率0%、絶望的というより、まるで相手にされていないような数値である。

 

「やはり、キョウコ君相手ではいくら使徒でも荷が重かったようだ」

 

 独り言のように呟きながら別のモニターを見れば、カヲルがエントリープラグ内で体育座りして顔を埋め嗚咽を漏らしていた。大方自分の駄目さ加減にショックを受けているのだろう。使徒とは言え、少年には悪い事をしたなと内心で憐れみ、カヲルに実験終了を告げた。

 

 その後、傷心気味でプラグスーツから着替え終えたカヲルが更衣室から出ると、まるで待っていたかとばかりにカガリとシンジが出迎えた。笑顔で話しかけてくるのだが、何処と無くその瞳が可哀想なものを見るような眼差しだったのでカヲルの心に更なる傷を負わせるのだった。

 

 酷く落ち込んだカヲルの気持ちを盛り上げるためにシンジはエンジェル・ハイロゥの調査から戻ってきたロンドベルに足を運ばないかと提案、絶望しすぎて声も出せない状態のカヲルの変わりにカガリが賛同して向かう事になった。

 

 なのに、とカガリはカヲルが不憫になった。

 

 ロンドベルの戦艦に着いた途端、兜甲児が乗るマジンカイザーが謎の起動を始めて今にも動き出しそうになり、それだけならまだしも真ゲッターまでもが動き出していて、彼らが着いた頃にはメンバーは大慌てだった。とてもカヲルやカガリの紹介をしていられる状態では無い。ダメ押しでタスクと呼ばれる、普段は明るく気さくな、(シンジ談)少年に痴漢野郎、心を覗いてんじゃねぇとカガリには訳も分からない理由でカヲルに喧嘩を売ってきたときは流石に不憫すぎて、慌てて仲裁に入り、即座に戦艦を後にした。踏んだり蹴ったりである。

 

 遠い目をして海に逝きたいと不穏な言葉を口にするカヲルを引きずってネルフ本部に着いた頃、シンジはトレーニングがあるとかで別れ、食堂で遅い昼食を取る事にした。

 

 混んでいた時刻から外れていたのか人が疎らな食堂で二人は各々注文、受け取った料理を持って向かい合わせで席に座った。そしてお互いのメニューを見て、カガリは眉を潜め、カヲルは苦笑を浮かべた。カガリのお盆には大盛りのカツカレーとこれまた大盛りラーメンという思春期の少年が食べるような量が置かれ、逆にカヲルのお盆にはサラダとパンが一切れ、後はコーンスープと痩せたい女子か!! というメニューが置かれている。

 

 カツを一気に三切れも租借して飲み込むとカガリが口を開いた。

 

「量が少なすぎないか、そんなんだとこれから先、戦えないぞ?」

 

 パンを一口代にして食していたカヲルが、苦笑で答えれば何を思ったか、カガリが一切れのカツをフォークに刺してカヲルの口元に伸ばした。その行動にキョトンと目を瞬かせていたカヲルに痺れを切らしたのか無理やり口に入れる。咄嗟の行動で驚きを見せるも租借して飲み込めば、カガリは笑みを浮かべて頷いた。

 

「よし、ちゃんと食べたな」

「えっと…カガリ、どうして?」

 

 カヲルにしてみれば当然の疑問にカガリは少年のような笑みを浮かべた。

 

「エバを動かしたいなら肉を食え!!」

「はい?」

「すぐに血肉になる肉を食えば、きっとエバは答えてくれるぞ!!」

「うん、意味が分からない。そして何ゆえ、エバなのか、エヴァじゃないのか……リリンが分からないよ」

「あたしの持論だ!!」

「それはエバとエヴァについて、あ、違うっぽいね、そうか、エバに関しては今更論点にもならないわけだ、まあいいけど……て、事は起動の。いやいや、単純すぎると思うよ、僕が起動できなかったのはコアに拒絶されたからであって……まあ、僕を拒絶出来る事が凄い事なんだけど、パイロットのアスカさんを見ていると、仕方が無いような気もするし…うん、そうなると僕のせいじゃないよね、何しろあのコア、なんか威圧感が半端ないから…」

 

 ボソボソと自分の世界に入り込むカヲルの眼前で手を叩いて強制的に意識を戻すと、カガリは話を続ける。

 

「お前はごちゃごちゃ考えすぎる癖があるようだな。ここにはお前とあたししかいないんだから、無視するのはよくないと思うぞ? あたしはこれでも無視とかされたら泣いてしまう恐れがあるからな、分かったか?」

「え? あ、うん」

「そうか、分かったならいい。あたしもお前に妄想癖があることを知ったぞ」

 

 子供が宝物を見つけて嬉しがるように妄想癖、妄想癖というから、カヲルは慌てて訂正する。

 

「ちょっと、カガリ!! 僕は妄想癖でも中二病でもないからね、なんか、ここに来てから僕のスペックが可笑しなものに塗り替えられていくけど、これでも僕って結構凄いんだからね? 高スペックなんだから!!」

「まあ、人には誰しも言えない性癖があるって言うからな。あたしは碌なことじゃなければ、何でも受け入れるキャパを持ち合わせていると自負しているぞ?」

「え、訂正しているのにこの子手ごわい。それに話が性癖とか変な方向に行っている気がするよ」

 

 内心で、僕の好きになった子はもしかして天然なのか? と恐怖する。

 

「妄想なら誰にも迷惑をかけないからな!! 存分に妄想に耽ってくれ!! 但し、実践は良心的なものにしろよ?」

「やっぱりね!! 僕の妄想が何時の間にか下ネタになっている!! いや、妄想もしていなけれど!!」

 

 話の方向性が変な方向に行く天然が怖い、それでも、好きだ! とカヲルは再確認した。

 

「うん? けど、今日レイに会ったら、お前は頭の中でエロい妄想を繰り広げているから気をつけろと言われたぞ?」

「くそ、あの女のせいか!! ホント、昔から僕の嫌がることばかりしてきやがる」

 

 余計なことを言いやがってと内心で舌打ちしていれば、それでもカガリは嫌がる素振りは見せなかった。

 

「あたしとしては頭の中なら問題ないと思うから、大丈夫だとレイには言っておいたぞ!! なんせ、あたしの頭にも舞台で繰り広げるショートコントの妄想でいっぱいだからな」

「複雑だ…好きな人に受け入れられて喜ぶべきか、誤解を受けて悲しむべきか」

「昨日、お前に好きだといわれたからな、お互いを知るためにこうやって食事でもして会話をすれば、あたしもお前を好きになれるかもしれないと思ったんだ」

「そもそも、僕はこんな三枚目に甘んじるスペックじゃないはずだ。それなのに、リリスには馬鹿にされるわ、リリンの男にある絶対領域を突破されるわ……え?」

「あたしもお母様とお父様のような関係になれたら幸せだ。何より好きな人がお笑い好きなら、言う事はないぞ!!」

「え、え、え?」

「ん? どうした」

 

 リリスに対して恨み辛みを呟いていたカヲルの耳に自身の心をポカポカさせるワードを拾い上げ、カガリを凝視した。あ、いい笑顔。可愛いと心で思いながらも口を開く。

 

「さっき、何て言ったの?」

「え、お前がエロい妄想を」

「戻りすぎ!! そして何故そのチョイス!! 違うよ、その後」

「あたしもショートコントの妄想を」

「妄想から離れて!! 違うから、僕の事を好きになるって」

 

 天然には自分から告げなければ理解できないと思ったカヲルが自意識過剰気味に言えば、そんな事かと言いたげな苦笑でカガリは頷いた。

 

「ホント? 僕の事好きになってくるの?」

「少なくともお前に好きだといわれて嫌な気はしなかったぞ。むしろあたしも好きになれるようお互いを知ろうと思った。だから、今は好きではないが今後は好きになるかもしれない予定だ!!」

「そこは好きになりかけてるぐらい言って欲しかった!!」

 

 机に突っ伏してカヲルが叫べば、カガリは苦笑を浮かべてその頭を優しく撫でた。

 

「我侭だな、すべてはこれからだろうが」

 

 顔だけを上げて優しく撫でてくるカガリを見つめ、内心の荒れ狂うような想いを隠し、綺麗な笑みをカヲルは肯定した。少なくともこの場では肯定するしかなかった。彼女の笑顔が曇るのはカヲルにとって苦痛だからだ。この先、確実に曇ると分かっていても、今この時だけは彼女の笑顔を目に焼き付けたかった。

 




 次回、せめて、ラブコメらしく2





 次回もサービス、サービス……うん、ラブコメって何だろう?


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第五話

 



 出来上がったばかりのストック分お待ち!!


 始まります。


 食後、カガリはシンクロ率検査でスタッフに呼ばれたことから、カヲルとは食堂で別れることになった。次も一緒に食べようと言う約束を交わして。

 

 去っていくカガリの後姿を愛おしそうに見つめて、その姿がなくなるとカヲルは自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「君は不思議な魅力があるね、僕は君と話せば話すほど、君を好きになる。そして同時に君にだけは殺されたいとは思わなくなってしまったよ。酷い話だ、この世界に生み出され、僕が僕である証を残すため、僕自身が唯一望んだ目的を簡単にぶち壊してくれた」

 

 胸に手を当てクシャリとシャツを掴むと見知らぬ天井を見上げた。

 

「食事の約束は守れそうに無い、かな」

 

 そう呟いてカヲルの意識は闇に飲み込まれていく。

 

 次に目覚めた場所は、限られた暗闇の空間だった。カヲルの目の前にスポットライトのような光りが落されるとそこにはバイザーを光らせたキールが現れた。次いで順々に光りが落ちて人無きモノリスが十一体現れた。

 

 モノリスの一体が厳かに告げる。

 

「ネルフ、我らゼーレの実行機関として作り上げられた組織、我らのシナリオを実行するために用意されたもの」

 

 次のモノリスにスポットライトが当たり話を続ける。

 

「だが、今は一人の隠れリア充候補の占有機関と化している」

 

 また、別のモノリスが語り出す。

 

「その通り、我らはリア充を許すわけにはいかない。我らのシナリオにリア充はあってはならないのだ。故にリア充候補が女を好きにしている占有機関を取り戻さなければならない」

 

 新たなモノリスが感情を込めて告げる。

 

「約束の時、裁きの時が来る前に、我らがリア充を見て悔しさのあまり泣いてしまう前に」

 

 ようやっと、キールが口を開いた。

 

「ネルフとエヴァシリーズを本来の姿に、決して顔が良いとは言えない碇を本来の非リア充に戻さねばならない」

 

 バイザーが鈍い輝きを見せる。カヲルはそんな彼らを見つめながら口を開いた。

 

「人は無から何も生み出せない。人は誰かに縋らなければ自身すらも認識できない。当然です、人は神ではないのだから」

 

 キールが深く頷いて肯定する。

 

「左様、神ではないからこそ、この世界は不公平であり、非リア充、リア充が生まれる。例を挙げよう、好きな女がいながら、その女は決して振り向いてくれない悲しき恋をする眼鏡がいる。一見軽そうに見えて堅実な恋を求めるあまり婚期を逃しそうなチャラ男がいる」

「日向マコト、青葉シゲルですね」

 

 即座にカヲルが無駄に凛々しい表情で答えた。

 

 キールは頷く。

 

「顔が下の上でありながら、それに隠して美人の先妻を娶り、美人親子研究者を侍らせていた愚かなサングラスがいる。見た目はゴリラのような少年でありながら素朴とはいえ、中々の可愛い委員長に惚れられているチルドレンがいる」

「碇ゲンドウ、鈴原トウジ」

 

 またもや、即座に答えキールは頷く。

 

「最後だ、見た目は極上、なのにある場所で三下同然の扱いを受けながらも愚かにリリンを好きになり、可能性として好かれるかもしれない、クソ野郎がいる!!」

 

 言葉を述べるうち、段々と抑圧的な話し方になり、最後の方は怒りのこもった叫び声になる。それを耳にしたカヲルはそこで初めて言いよどむ。しかし、キールは追撃をやめない。

 

「分からぬか? この世界の正統な後継者たる白き月の民の始祖アダム、その魂をサルベージしてリリンの肉体に落された渚カヲルよ?」

「……なんのことでしょう」

 

 あくまで白を切るカヲルにキールは追撃の手を一旦止めた。

 

「なるほど、あくまで理解できぬか。そう言えばアダムの肉体は碇が持っているはずだったな。面白い、そうは思わないか、渚カヲルよ」

 

 不適に笑うキールにカヲルは内心で舌打ちした。

 

「シンジ君の父親、彼と僕は同じ穴の狢と言いたいのですね」

「認めるか……左様、このリア充が!!」

「しかし、僕はまだ好かれていない。好かれるかどうかも分からない」

 

 言い訳ではなく真実としてカヲルは彼らに訴えかけた。しかしながら、キールは鼻で笑いそれを即座に切り捨てた。

 

「これだから顔面偏差値が高い奴は駄目だ。その顔がいかに己を高める武器になるか理解していない。好かれるかどうか分からない、だと。仮にそれを私が述べたとしよう。それこそ、頷かれて終わりだ。しかし、しかしだ、貴様がそれを言えば、周りは必ずそんなことはないと否定してくれ、当然その本人も悪くは思われない。万が一好かれていなくとも、あわよくば、慰めてくれた相手と付き合えるかもしれないという、特典まで付いている。それが貴様だ、渚カヲル」

「どんな、想像しているんですか!!」

「想像? 抜かせ、真実と言ってもらおうか」

「ですが、カガリはそんな子じゃ……ハッ!!」

 

 手で口を慌てて塞ぐも時既に遅し、キール他、すべてのモノリスたちが不敵な笑い声を上げてカヲルに視線を集中させる。

 

「リリンの名前は、カガリ…か。なるほど、碇が連れて来たという4号機パイロット、思えばあの少女も我々のスケジュールには無い存在だ……さて、どうしたものか」

 

 それもう、脅しでしかなかった。

 

「待って、今更過去に戻る必要はない。あなた方は時計の針を進めるのでしょう?」

 

 苦渋に満ちた声でカヲルが告げればキールは口の端を僅かに上げる。

 

「ならば理解していよう。我らの願い、お前に託す。決して高望みなどせぬようにな。貴様は限られた時間を我々の願いに費やせばよいのだ」

 

 その言葉を最後にカヲルの意識は再び闇に飲まれ、閑散とした食堂に意識が戻ってきた。

 

「……分かっていますよ、すべてはリリンの流れのままに、流れの……カガリ」

 

 ポツリと好きな人の名前を呟いて項垂れながら歩き出す。その姿を食堂でバナナを食べていたレイが見ていたことにも気づく事はなかった。レイはバナナを食べ終えるとカヲルが去った方向に向けて呟く。

 

「とても少年らしい思春期の悩み、人間そのもの……困った、わしはあの子が持つ本当の願いを叶えてやりたいが、どうしたらよいのやら……ふむ、元妻に相談してみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ++++++++++

 

 

 

 

 

 

 深夜、誰もいない4号機格納庫に渚カヲル、改め第十七使徒タブリスが服を血だらけにして立っていた。

 

「今度こそ、行こうか。おいで、アダムの分身、そしてリリンのしもべ」

 

 先ほど、弐号機の前でも同じことを言ったのだが、コアに意識を傾けた瞬間、猛獣のような迫力の鋭い瞳で睨みつけてきた女性に、土足で女性の心を触れようとする不埒物は死あるのみと言われた瞬間、心をズタズタにされ、それが肉体にフィードバックされ思いっきり吐血した。使徒である自分がここまでダメージを負ってしまったは偏に何度も謝っているのにそれを故意に無視して容赦なく心を壊しに来たあの女性のせいである。命からがらコアから意識を戻して、駆け足で弐号機の前から退散した。使徒生で二番目に屈辱的な撤退である。もちろん一番はリリスに拒絶されたことだ。

 

 危うく何もせずに消滅するところだった事と自分の血塗られた姿は一旦忘れ、使徒の証たるS2機関で体は正常、気持ちを新たに4号機のコアに意識を傾ければ、そこには二人の女性がタブリスに関してヒソヒソと会話している姿に出会った。チラチラとタブリスをガン見しては口元に手を当てながら会話されるので意識に入ってしまう。彼女らの力ではこちらが本気をだして一気に乗っ取るのなど容易いのだが、ぶっちゃけ話の内容が気になって仕方がないのだ。

 

 タブリスは乗っ取るフリをして彼女らの耳に傾けた。

 

「ええ、あの魂、前にこの機体に搭載されていた擬似魂に似ています」

 

 そう言ったのは何処と無くカガリに似た女性だ。もしかしたら、母親の魂なのかもしれないと、タブリスは思った。

 

「そうなのね、ヴィア。もしかしたら戻ってきてしまったのかしら。嫌だわ、私、どうにも電波のような殿方は好きではありませんのよ」

 

 そんな失礼な発言をしたのは少し年老いた、それでも綺麗な女性だ。

 

「ですが今回は私の力では勝てるかどうか分かりません。もしかしたら本物なのかもしれませんよ」

「ヴィアでも駄目なの? なら私でも駄目ね。嫌だわ、本物も電波なのかしら」

「そうですね、本物の中二病なのかもしれません」

「ここでも中二病扱いかぁぁぁぁ!!!」

 

 聞き耳を立てていたタブリスはキレた。二人の悪口を許さんと言った様子で二人の下に歩み寄る。

 

「いい加減にして下さい。僕は中二病じゃない!!」

 

「あら、では電波少年でいいのかしら、まあ、それだと旧日本で流行ったバラエティーに聞こえて好感が持てますわ」

「いらない好感だ!! それより、あなたは何者ですか!? そちらの女性はカガリの母親だと分かりますが、あなたの存在が理解できない。いや、それよりも一体のエヴァにどうして二つの魂が混在しているんだ」

「ちょ、ちょっと待ちなさい、その方は――」

 

 ヴィアが話そうとするのを女性は手で制して気品溢れる笑みを浮かべた。その様を見てヴィアが頭を抱える。あれはきっと、面白い玩具を見つけたと思っているのだ。

 

「別に二つ魂があっても問題なく動くのですからよろしいのではないですか?」

「例え今はそうでも今後、カガリに何か悪影響を及ぼすかもしれない」

「そう、あなた、随分とカガリを気にしている様子ですが、何故です? 私からしたらあなたの存在の方こそ、カガリに悪影響を与えているように思えるのですが?」

「な、僕は…ただ…そんな、悪影響なんて」

「そうでしょうか、最近の殿方は好きだというだけで何をしてもされても良いという考えを持ち合わせているように思えます。あなたはその典型ですね」

 

 女性の迫力にタブリスが一歩下がる。それに追随するかのように女性が歩み進めた。

 

「な、何を言って」

「好きだという気持ちを一方的に伝え、あなたは今何をしているのですか、この行為がカガリを悲しませないと、あなたは胸を張って言えますか?」

「そ、それは」

「言えないでしょうとも、最初から死に行く者と決め付けているものに好かれるなど百害あって一利なし。悪影響では済まされません。カガリの深い想いに対する冒涜です」

「何故知って」

「あなたが相対するはあの方が乗ったリリスです。あなた如きに勝ち目は無いでしょう。そしてそれを頭の良いあなたは理解している」

「僕はリリンじゃ―」

「言っておきますが、あなたが何者かなど、ましてどういう存在かなど、この話に関係ありませんよ。なら、初めから口にしなければ良かったのです。安易に口にしたからカガリは真面目に考え、答えを出そうとした。あの子はそういう子です。禄に知りもしないで軽々しく好きなどと。あなた、本当にあの子が好きなのですか?」

 

 蔑むように言われ、タブリスは目の前が真っ赤になった。これは怒りだ。使徒たる僕が感情任せに怒りを爆発させている。

 

「リリンが!! お前に僕の想いの何が分かる!! 僕のこの気持ちを冒涜するならば、例えカガリの機体にいる魂だろうと容赦はしないぞ!!」

 

 力の本流が渦巻いてタブリスの周りで稲光を発し出した。これに触れればいくら魂とて無事では済まないだろう。けれど、女性は涼しい顔を浮かべてタブリスを見据え口を開いた。

 

「ほう、その力で私を消しますか、面白い、やって御覧なさい」

「駄目です、奥様!!」

 

 ヴィアが女性を庇うように立つ。力の本流はすぐ目の前に来ていた。

 

「どけ、カガリの母親。お前がいればこの機体は動く。しかし、その魂だけは許さない。高が、リリンの分際で始祖たる僕の想いを否定した」

「ふふ、あなたはそのリリンに恋をした愚かな月の民の始祖ですね。私も言いましょう、高が始祖たる貴様は臆病者にして愚か者です」

「奥様!! これ以上挑発するのはおやめ下さい!!」

「リリンがぁぁぁぁぁ」

 

 怒り任せに放たれた力がヴィアに届く寸前、庇うように女性が立ちはだかりその力を受け止め、魂は粉々に粉砕、女性は塵のように粒子が舞いその姿を消した。

 

 それをマジかで見ていたヴィアは顔を歪め、短い悲鳴を上げる。そして粒子となった魂を掻き集めようと地面に蹲って手を動かすも、粒子はその空間に溶け込むかのように消えていった。

 

 肩で息をして落ち着きを取り戻したタブリスは消えていく粒子を無表情で見つめていた。その姿にヴィアは鬼の形相で立ち上がり詰め寄る。

 

「あなた!! 何てことをしてくれたの!!」

「………」

「これがどういう事態を招くかを理解しているのか、と聞いているの!!」

「………リリンの魂が一つ消えただけだ」

 

 何のことは無いという態度で呟かれ、ヴィアは勢いよく頬を叩くもATフィールドに阻まれ衝撃すら与えられなかった。そして苦虫を噛み潰したような顔でタブリスを睨みつけた。

 

「ええ、そうね。あなたにとってはそうでしょう。でもね、これでカガリは4号機を動かせなくなった。あの子を守る鎧が意味を成さなくなったのよ」

 

 憎悪に満ちた声で呟かれた言葉にタブリスは怪訝な表情を浮かべる。それも仕方が無いことだ、彼は知らない、絆がもっとも深い相手が今消え去った魂なのだということを。

 

「私だけではこの機体は動かせない。あの方がいたからこの機体は命が吹き込まれていた。これで、あの子はもう元凶たるあの者になぶり殺しに会うだけだわ。あなたのしてしまった事はカガリを殺すことになる」

「何を言って……」

「あの方こそが正真正銘カガリの母親なのよ!!」

 

 思考が止まりタブリスの瞳が大きく見開いた。それでも口は何かに縋るように紡がれる。

 

「うそ、だ」

「私は単なる生みの親というだけの付属品でしかない、あの子をあそこまで育て上げたのは奥様なのよ!! いくら私があの子を思ってもあの子はその想いを返さない、何故なら、あの子は私の存在を知らないから!!」

 

 真実を告げられタブリスは呆然とする。思考が付いてこないのだ。その様を見てヴィアは苦しげに訴えた。

 

「今更、私の存在を知ったとところで、あの子はもう心を開かない。その末路は死でしかないの」

「どう、して、カガリが…死ぬの」

「あの子は無限力の一つに喧嘩を売ったの。そして、まつろわぬものに目を付けられてしまったのよ」

 

 その絶望的な言葉にタブリスの精神がぷつりと切れた。自身が取り返しようも無いものを壊したのだ。カガリの愛するものの大切な絆をこの手で。

 

 何より、リリスが生み出したあの最悪な存在に命を狙われていたという更なる絶望と愛するものが死する未来。

 

「うああああああああああ」

 

 哀哭、その言葉に相応しい感情を吐き出してタブリスは蹲った。自身の極限まで震える肩を抱きしめて泣き叫ぶ。

 

「僕は!! 僕は!! カガリの…カガリの大切な人をころ、殺したぁぁぁぁぁぁ」

 

 先ほどとは打って変わって酷く幼そうな背中を眺めてヴィアは力なく首を横に振った。時は戻らない。彼女の魂はこの場所から消え去ったのだ。

 

「すべてが遅く……私は我が子すら守れなかった……何故です、奥様、どうしてこんな事を為さったのです」

 

 ヴィアは天を見つめ、そう呟くと自身の姿を本来の物言わぬ魂に変えてコアの奥底に沈んでいく。これでもう4号機は本当の意味で物言わぬ人形に成り下がったのである。

 

 どのくらい立ったのだろうか、この場所では時間は関係ないが、それでも体感時間として丸一日、タブリスは泣き叫び続けた。

 

 やがてゆっくりと立ち上がったタブリスの目は既に死んだように濁っていた。それでも最初の目的どおり4号機を乗っ取り始める。

 

 魂が閉ざされたエヴァの何と無防備な事か、数秒もしないうちにすべてを支配し終え、意識を外の体に戻した。

 

 戻ると泣き叫んだせいで喉が焼け付くように痛いが、それもすぐに修復されて何も無かった状態に戻った。しかし、あの場所で行われたことは消える事のない真実だ。

 

「行こうか、僕の分身………本体を手に入れなきゃ。そして、カガリを守るんだ。大丈夫、大丈夫だよ、僕は本能すらもこの記憶と想いで抑えて見せる」

 

 ふわりとタブリスは浮かび上がり、それは動き出した。

 

「誰にも邪魔はさせない。リリス、君が来たとしても僕を抑える事は出来ない。僕はカガリを守るためならどんな存在も消して見せよう」

 

 そう言って、目的の場所まで移動し始めた。後ろに愛する女性を守る鎧を連れて、目指すはジオフロント最深部、ガブの部屋、魂の座と呼ばれるアダムが十字に貼り付けにされた使徒にとって回帰するべき場所。

 

 

 

 

 けれど、タブリスは知らない。

 

 ゼーレすら知らないことをタブリスが知る好もない。

 

 

 その場所はタブリスとって希望など残されていないパンドラのような場所でもあるのだ。

 

 




 次回 せめて、ラブコメらしく3






 次回もサービス、サービス……いじめではないんです! 本当ですよ、カヲル君!! 


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第六話

 次のストック分、お待ち!!





 始まります。


 

 本部に警報が鳴り響く。丁度、当直を担当していた、リツコ以外の何時ものメンバーは慌しく確認作業を行っていた。監視モニターを見張っていた日向マコトが異変を捉えミサトに声を掛ける。

 

「4号機が起動、ジオフロント最深部目指してルート移動を開始しています!!」

「4号機パイロットは!?」

 

 声を張り上げてミサトがパイロット所在の確認作業を行っていたマヤに問いかけた。

 

「4号機パイロット以下、すべてのパイロットがプラグスーツに着替えて零号機格納庫に集まっています」

「なんですって!?」

 

 所在が確認できた事から4号機は無人か、あの新たに来たシクスチルドレンが操縦している予測は立った。しかし、何故残りのメンバーが零号機のある格納庫にいるというのか。

 

 考え耽っていたミサトに新たな報告が入る。同時にけたたましく新たな警報が鳴り響いた。

 

「パターン青、4号機の傍に使徒の反応を確認」

 

 青葉シゲルが告げれば、監視モニターで4号機の行方を追っていたマコトが更に付け加える。

 

「映像から4号機の肩にシクスチルドレンを確認、MAGIの反応からしてあの少年が使徒のようです」

「ちっ、当たって欲しくない予想が当たったわね」

 

 苦悶の表情を浮かべるミサトに対してマコトが声を細めて告げる。

 

「このままではまずいですよ」

 

 ミサトは頷きながら同じように小声で喋り出す。

 

「ええ、サードインパクト起これば地球は終わりよ、宇宙から飛来してくるSTMCに対抗する組織の大半が壊滅することになるわ」

「これ、MAGIについている、この施設の自爆装置です」

「悪いわね、こんな事につき合わせてしまって」

「構いませんよ、サードインパクトよりはマシです……それにあなたと死ねるなら、――」

「零号機始動!! 拘束具を引き千切って移動を開始! ルートから4号機を追っているようです」

「なんですって!?」

 

 マコトの言葉を遮ってミサトは告げたシゲルが監視しているモニターに移動した。後に残ったマコトは何とも言えない哀愁が漂った表情を浮かべてオズオズと監視を再開する。

 

「乗っているのは?」

「どうやら、ファーストとフィフスです」

「あの子たち、何を考えているのよ。初号機か弐号機じゃないと電源が持たないのよ!! すぐに連れ戻して」

 

 命令を下され、マヤが通信を試みよう端末に触れたところで威厳だけはありそうな声が掛けられた。

 

「構わん、そのまま零号機に追尾させろ。残りは各エヴァに待機」

 

 ゲンドウがコウゾウを引き連れて現れた。それに対して、ミサトは反論する。

 

「ですが、司令!! 内部電源はどうにもならないはず。最深部まではギリギリ、中での戦闘は到底行えません」

「必要ない、君は私の命令を遂行すれば言いだけだ。復唱はどうした、葛城ミサト三佐」

 

 高いところから告げられて、ミサトは内心苦虫をかみ殺して命令を復唱する。

 

「……了解しました。零号機を追尾任務に付かせ、その他をエヴァ待機させます。よろしいでしょうか、クソ髭サングラス」

「何か言ったか、葛城行き遅れ三佐」

「!? 何も言ってませんよ、まるで駄目な父親司令」

「そうか、それなら良い。葛城ゴミ屋敷三佐」

「何で知っているのよ!! ストーカーか、この泣き虫司令!!」

「私は泣き虫じゃない!! ただ、目から水が流れやすいだけだ!!」

「いい加減にしないか、二人とも。子供か!!」

 

 コウゾウが一喝して二人を黙らせるとやけに迫力のある眼力で二人を睨みつけた。二人のどうしようもない口論がピタッと止まった。

 

「貴様ら、これ以上グダグダ抜かすならクビだからな」

「いや、私は司令であってクビには出来な―」

「あん!?」

「すいません、冬月先生」

「申し訳ありません副司令」

 

 膝をガクブルと震わせながら、二人は素直に謝った。直後、また警報が鳴り響く。

 

「最深部より、強力なATフィールドを確認、司令部の機器に作用して一部の操作が行えません。これでは、隔壁も作動できないどころか、誰も辿り着けない」

 

 マヤが悲鳴のように報告してきた。コウゾウは自嘲的に笑みを浮かべて口を開く。

 

「ガブまで障害物なしの一直線か、やってくれるな、あの使徒は」

 

 サングラスを反射させたゲンドウが僅かに口の端を上げて頷く。

 

「ああ、しかし、こちらにはまだ味方といえるリリスがいる、問題ない」

 

 そう告げた直後、再び強力なATフィールドが発生、モニターには中和相殺され零号機が最深部に潜り込むところを映し出して途切れた。相殺した力が消えて再び機器の扱いが出来なくなったのだ。

 

 そしてまた鳴り響く警報、今度は何事かとコウゾウはため息を吐いて報告を聞けば、僅かに眉を顰めて事の成り行きを見守ることにした。ゲンドウも右に同じらしく命令を出すことは無かった。

 

 

 

 しかし、ミサトにとっては問題らしく、必死に通信が再開できるよう指示を与えていた。

 

 

 

 ロンドベル所属戦艦ゴラオンより飛来してきた三つの機体、その三体が進むのを遮るかのように相対するエヴァ初号機と弐号機という映像を最後にそのモニターも途切れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイドシンジ+

 

 

 

 深い穴の入り口に僕とアスカはエヴァで待機していた。これは、レイさんとカガリさんからお願いを叶える為だ。

 

 あの渚カヲル君が使徒だと聞いたときは少し寂しい気持ちになったけど、それよりも人間のような使徒が現れたことに対する驚きの方が勝っていた。そしてこれは予想だがレイさんは初めから彼が使徒だと知っていたような気がする。なんせ、彼女は使徒が現れる前から僕らをスーツに着替えさせて本部に待機させていたからだ。だから、誰よりも早く行動を開始できた。

 

 初号機越しに穴の方を見た。肉眼でも確認できるほど分厚いATフィールドが放たれている。これを突破するのは僕とアスカでも容易ではないのと思う。実際、アスカも難しい顔をしていた。レイさんは言っていた、これはカヲル君の想いそのものだと。

 

 

 

 

 そのときの情景を僕は振り返ってみる。

 

 

 

 

 

 零号機の格納庫で僕らは作戦会議を行っていた。

 

「ねえ、レイ。それはどういう意味かしら、使徒が現れたのにあたしとシンジに留守番をさせるつもり?」

 

 そう、レイさんは僕らにこれから来る別の相手をしてほしいとお願いしてきたのだ。これには僕も内心では不満を抱いた。使徒はどんな事をしても倒さなければならないと僕らは教えられてきたのだから。それでも口に出さなかったのはそれをアスカが言ってくれたからである。

 

 レイさんはゆっくりとした仕草で頷いた。

 

「お願い……必ず……終わらせる」

「そんな事は当然のことよ、あたしが言っているのは理由を教えなさいってこと」

 

 アスカがそう聞けば、レイさんは邪魔をされたくないからと告げた。

 

「それはあたしたちの事? それともこれから来る相手?」

 

 アスカが纏う雰囲気が変わる。酷く刺々しい殺気にも似たものをレイさんに向け放ち始めた。けれど、レイさんはそんな雰囲気など気にもしないで両方と言い放った。

 

 次の瞬間、アスカが拳をレイさんに向けて放つも僅かな動作でそれを回避して逆にアスカの首筋に指を添えた。あれがもし、ナイフならアスカは致命傷を負っていただろう。二人はお互いの視線だけで何やら会話していたらしく、アスカが拳を収めた。

 

 それを見納めてレイさんも指を戻す。僕には彼女たちが視線で何を語ったのか細かくは理解できなかったが、何処と無くアスカが嬉しそうだったのでレイさんのことを認めたのだろう。危険な雰囲気を収めてアスカは視線を何処か遠い目をしたカガリさんに向けた。

 

「じゃあ、姉御を一緒に乗せる理由は教えてくれるんでしょうね?」

 

 そう、アスカはあの戦い以降、カガリさんを姉のように慕い始めたのだ。そして、親しみと尊敬、そして畏怖を込めて姉御と呼ぶようになった。姉御と呼ばれる意味にカガリさんは理解しているのか、していないのか、そんなアスカを可愛がっている。どうやら、お笑いは好きでも仁侠映画には興味はなかったらしい。

 

「……姉さんは、あの少年に言いたいことがあるらしい」

 

 チラッと、カガリさんに視線を移してレイさんはそう答えた。相変わらず、カガリさんは遠い目をしたまま何処に視線を合わせているのか分からない。どことなく元気が無いように僕は見えた。アスカももしかしたら同じような事を察したのだろう、それ以上の追求をすることは無かった。

 

 カガリさんを連れて零号機に乗り込むレイさんは最後に僕らに言った。

 

「今回の使徒は別にして残りは一つ。最後の使徒は皆が力を合わせて戦って欲しい。そして勝ち残れば、未来は必ず手に入る……あと、謝罪は後で必ず行う、彼らを絶対中に入れないで」

 

 

 

 

 

 過去を振り返り、最後に告げてきたレイさんの意味深な言葉について考えているとアスカから通信が入ってきた。

 

『シンジ、あんたこのATフィールド見て何か感じない?』

 

「アスカも感じたんだ。うん、僕も感じたよ。これは深い絶望と後悔」

 

『あと鬼気迫るほどの拒絶、まるであたしたちに自身の行動を止められたくないという現われに思えるわ』

 

 あのカヲル君はどんな想いで拒絶しようとしているのか、それをきっとレイさんは知っていてカガリさんを連れて行ったのだろう。何故なら、カヲル君と一番長く過ごしたのは誰でもないカガリさんなんだ。

 

『シンジ!! 前方から機影を捉えたわ、三体よ』

 

 アスカの声で僕も前方を見据えた。凄いスピードで僕らの視界に現れたのは驚きと、少しの納得を抱かせる相手だった。

 

 マジンカイザー、真ゲッター、そしてヒュッケバインMk-Ⅲ、ロンドベルの中でも指折りの高出力機体にして乗り手もまたエース級のパイロットたちだ。そして僕らの大切な仲間でもある。

 

 三体の出現にアスカは呆気に取られていた。当然だ、僕もその気持ちは痛いほど分かる。けれど、レイさんの言葉から僕は少し予想はしていたのだ。仲間を止めるのは苦労しそうですよ、レイさん。謝罪だけじゃ足りないかもしれない。

 

 早速、通信が入ってきた。これはMk-Ⅲのタスクさんからだ。

 

『おい、シンジ。何こんなところでボサッとしてやがる。敵が来てるんだろうが、お前らも早く行こうぜ』

 

 何時も気さくなタスクさん、きっと僕の言葉を聞いて怒るのだろう。もしかしたら嫌われるかもしれない。ロンドベルの皆は掛け替えない仲間だ、当然嫌われたら悲しい。けど、すみません、僕はそれでも最初に手を差し伸べてくれたレイさんの方が心中では高いようです。そしてそれはアスカも同じだと思うから。アスカの場合は自身を認めてくれたカガリのために動くのだろう。きっと、今頃、甲児さんに啖呵を切っているはずだ。

 

 僕も負けられないと内心で気合を入れる。気持ちで負けたらエヴァはすぐに反映してしまう。そんな状態で彼らと対峙するなど命知らずの行為だ。

 

「すみません、タスクさん。僕らがここにいるのはあなた方の邪魔をしなければならないからです」

 

『はあ? どういう事だよ、シンジ、敵は使徒なんだろう?』

 

「ええ、あなたが喧嘩を売った彼が使徒ですよ」

 

『なら、尚の事倒さなければヤバイじゃねえか、何を悠長な事してやがんだ!』

 

「安心して下さい、中には既に零号機が向かっています。彼女がいれば解決はしますから、邪魔をしないようお願いします」

 

『彼女って、零号機のパイロットの子だろ。それも一人って、何でお前がそんな事を許したんだ。お前は男だろうが、女の子一人で戦わせて恥ずかしくないのかよ』

 

 痛いところを吐いてくる。僕だってそう思う気持ちがないわけじゃない。それでも僕は選んだんだ。

 

「旗から見たらそう思うでしょうね。タスクさんは彼女を知らないからそう言えるんですよ。これは彼女の願いです、それを叶えてやらないのは男としてどうなんでしょう?」

 

 レイさんをそう言った意味で見たことはないが、タスクさんの言葉を引用して比喩すれば、タスクさんは呻き声を僅かに上げて口を継ぐんだ。言い負かされて困っているのだろう。

 

 おっと、アスカの乗る弐号機がプログレッシブナイフを取り出した。マジンカイザーも両腕を構えて臨戦状態だ。あの二人は血の気が多いので大方予想は出来ていた。ここは、僕も本気だという事を見せるために抜いた方がよいのかもしれない。

 

 初号機の肩ラックからカウンターソードを抜いて構えた。当然、タスクさんが乗るMk-Ⅲも攻撃態勢に入る。

 

『シンジ、最後通達だ、そこを退け、これは俺だけの意思じゃねえ、あいつからは使徒というだけじゃない何か得体の知れないものを感じるんだ。それを、ゲッターやマジンカイザーも感じてやって来た。この意味、お前に理解できないわけはないはずだ。下手すれば世界の危機、その命運を少女一人に任せられるほど俺は楽観視し出来ねえよ。例えその子の願いでもな』

 

「そうですか、分かりました。これより僕らはロンドベルを脱退、あなた方に対して反抗行動に出させて頂きます。これが僕の、アスカの覚悟です。下手な同情は止めて下さい、こちらも全力であなた方を止めます」

 

『シンジ!! この馬鹿野朗が!!』

 

 

 

 

 タスクさんの怒声で僕らと彼らの戦いは始まった。

 

 




 次回、せめて、ラブコメらしく4






 次回もサービス、サービス……戦闘描写に過度の期待は勘弁してください(笑


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第七話





 始まります。


+サイドアウト+

 

 

『行け、ファング・スラッシャー、あの石頭をぶちのめせ』

 

 Mk-Ⅲの腕に搭載された、ブーメランの形状をした武器を取り出して初号機に向け放たれた。それはビームの粒子を纏い高速で回転して迫ってくる。それの照準を見定める想像を頭に描き、シンジはそれに合わせてソードに搭載された機銃を発射、撃ち出された弾は見事に照準をずらすことに成功、初号機は避ける動作を行わず、まっすぐMk-Ⅲの眼前まで飛び込み、ソードを振り下ろした。

 

「取った!! え?」

 

 しかし、相手はエース級、こちらの予想以上の反応でそれを避け、何時の間にか異空間から出現させたグラビトンライフルを撃ち出した。

 

「うあ!?」

 

 重力が備わった銃弾は初号機に着弾、するまえにATフィールドに阻まれその力を失った。並みの威力武器では掠らせもしないほど、彼の想いが強いのだ。

 

 初号機は肩ラックからプログレッシブナイフを取り出すと片方の手でそれを装備、シンジは深く息を吐き出して想像力を働かせる。これによりシンクロ率は見る見る上昇、先ほどの動作よりも早く、それでいて洗礼された動きでMk-Ⅲに肉薄する事に成功した。

 

 それでも即座に展開したロシュセイバーをMk-Ⅲが振り下ろすも、それすらもカウンターソードで受け止め、もう片方のナイフで動力部に狙い定め、突くように伸ばした。

 

「今度こそ、貰った!」

 

 直後、Mk-Ⅲの周りに歪みが発生、それは壁のようにしてナイフを阻んだ。かの機体にはグラビティ・テリトリーと呼ばれる重力フィールドがあることをシンジは思い出す。

 

「ちくしょう!」

 

『甘いぜ、シンジ、バリアはお前の専売特許じゃねえ!』

 

 懐の無防備な初号機にツインバルカンが火を噴いた。ただ、この程度の攻撃ではATフィールドを阻む事は出来ない。それはタスクも理解しているはず。そう予測したシンジの前でMk-Ⅲが横に動いた。それによって初号機の眼前に現れた粒子を撒き散らしながら高回転するブーメラン。

 

 先ほど放たれたファング・スラッシャーが大きく旋回してMk-Ⅲの背後に戻ってきた、それをタスクは理解しつつ、自身の機体を目隠しにしてわざと初号機に肉薄させ、無防備な状態を曝け出させる。後は後ろから迫るファング・スラッシャーを念動力で操り僅かな動作も許さずぶつければ良いのだ。

 

 ATフィールドを突破して、ファング・スラッシャーは不規則な動きを繰り返しながら全身の装甲を切り裂いた。

 

「くうぅぅぅぅ」

 

 シンクロ率により痛みがフィードバックされ、失神しても可笑しくないぐらい精神が疲弊する。それでもシンジは前を見据えた。

 

「負けるもんか!! 僕らはレイさんのお荷物なんかじゃないんだ!!」

 

 初号機のツインアイが輝き見せれば更なるシンクロ率の上昇を促す。尚も追撃してくる不規則な動きのブーメランを見定め、カウンターソードで一刀両断した。ファング・スラッシャーは爆散する。

せめてもの反抗としてその爆発に乗じて鋭い速さでナイフを投げればそれはMk-Ⅲの右肩に見事刺さり、それに伴う超振動が駆動系をショートさせた事でその腕を使用不能とさせた。

 

 互いに被弾した事で距離を取ると次の攻撃に備えて初号機は構えを取る。

 

「ふう、アスカは大丈夫かな」

 

 シンジは何時でも動けるようMk-Ⅲを見据えながらも、アスカの様子が気になるのだった。

 

 

 

 

 

 一方、弐号機は回転しながら撃ち出された二本のパンチをその両手で真っ向から対抗、衝撃音と共に、互いのパンチは弾かれ、半ば胸を晒す様な無防備な状態となった。ところが、マジンカイザーはその胸にある赤いそれを輝かせ強力な攻撃をその状態のまま繰り出してきた。

 

『ファイヤーブラスター!!』

 

 独特の抜けるような声で紡がれた技名の後に撃ち出された赤い龍のような力の本流は生き物のようにトグロを巻いて弐号機に迫る。フィールドは破られ装甲に当たると思われたとき、弐号機は体を外側に剃るようブリッチを作り上げ、擦れ擦れで回避した。それでも高威力だったのか装甲はバターのように溶け始める。これにはカイザーに乗る甲児も驚きを見せて動きを止めた。それを逃す、アスカではない。そのまま逆立ちして立ち上がるとプラグ内でアスカは感情を爆発させた。

 

「惣流をなめんじゃないわよぉぉぉぉ」

 

 怒声と共に六つの緑眼が鈍く輝き始める。すると、フィールドの表面に僅かではあるが、棘のようなものを発生させ弐号機の前に現れた。肉眼でも分かるほどのフィールドをまるで盾のようにして突撃、全身でカイザーに体当たりを行う。

 

 轟音が奏でられ爆煙を撒き散らして二体の機体を覆い隠す。やがてそれが晴れると、互いに手を取り、力比べをするように対峙する二体の機体があった。

 

「くっ、流石鉄の城と言った所ね、あの威力で装甲の表面を破壊しただけってわけ」

 

『おい、アスカ!! もう止めろ、何で俺たちが戦わなきゃならねえんだ!!』

 

 接触通信によって紡がれる甲児の言葉にアスカは鼻で笑う。

 

「あんたバカァ!? 既に戦いは始まってんのよ、今更鞘を収める事なんて出来るもんですか!!」

 

『何でだよ! 何でお前らはあいつらの我侭を叶えようとする!!』

 

「我侭ですって!?」

 

『そうだろうが、俺たちは遊びで戦ってるんじゃないんだ、人々の明日の未来のため、世界を守るために戦っているんだよ!!』

 

「ふざけるんじゃないわよ!! 姉御たちの想いとあんた達の想いのどこに違いがあるっていうのよ!! 姉御たちはあたしたちがいなくなった地球を使徒から守っていた。そんな姉御たちをあんたは我侭の一つで片付けるっていうわけ!?」

 

『そうだろうが、今までカイザーが勝手に動くことはなかった。それが動いたんだ、並みの危機とは思えない事態が発生したも同然だ、なら力を合わせて戦うのが筋ってものだろうが、それを仲間に足止めさせるあいつらが我侭じゃなければ何だって言うんだよ!!』

 

「言ったわね!! 言質取ったわよ」

 

 カイザーの胸元を蹴り上げ、強制的に離れた弐号機が傍に置いていた武器ボックスから組み立て式の新装備、デュアルソーを持ち出して構えた。

 

「甲児、あんたは結局、その機体が勝手に起動したから危険だと判断した。なら、仮にその機体が間違っていたらどうするつもりなの!?」

 

『な!! おじいちゃんが作り出したマジンカイザーに間違いはねえ!!』

 

「あたしにはあんたがマジンガーの我侭を聞いているとしか思えないわ」

 

『てめぇ、幾らなんでも言いすぎだ!! マジンガー侮辱するなら許さねぇぞ!!』

 

 カイザーが両腕を上げて発射体勢に入った。弐号機もデュアル・ソーを起動させた。けたたましい音を奏でて刃が回転する。

 

「それはこちらの台詞よ、あんたは同じことを姉御たちに向けて言い放った。あんたの言葉は初めから姉御たちを信じようともしない。あんたがマジンガーを信じるのは勝手よ、なら、あたしらが姉御たちを信じるのも勝手にさせてもらう!!」

 

 再び、二体の機動兵器はぶつかり合うその光景を決して高くはない天井擦れ擦れで飛んでいた真ゲッターは見守るように沈黙していた。正確には沈黙せざるおえなかったのだ。

 

 この場所に来て、対峙するエヴァ二機を視界に収めた頃から真ゲッターは操縦を受け付けなくなった。意思あるゲッター線がそうさせているというのは乗っているパイロットは少なくも理解している。しかし、理由に関しては解らず仕舞いだった。

 

「おい、竜馬。ゲッターは何か言ってないのか?」

 

 動かす事の出来ない操縦桿から手を離してゲッター2パイロット隼人が問いかけた。それに竜馬は瞳を閉じて答えない。コックピットが沈黙に包まれた。やがて、竜馬は瞳を開いて大きく息を吐き出した。

 

「ゲッターは何も語らなかった。だが、意思のようなものは感じた。これは俺の主観だが新たな可能性を待っているような、もしかしたら見定めているような……そんな気がする」

「つまり、あの先にゲッター線が行かないのはその必要が無くなった可能性が高いからというつもりか?」

「ああ、俺は少なくともそう感じた。だが、これはあくまで俺の意見であって」

「いや、俺も信じるぜ」

「隼人」

「これが始めて起動した日も、ゲッターの行動は無駄になった。これはそれと同じなのかもしれん」

「しかし、お前はそれを俺の疲れだと思って信じなかっただろう」

「……二回も同じ事が起きれば信じるさ。これは俺の予想だがゲッターはある程度の未来に起こる事象を知っているのだろう。だか、それらの道筋とは違った可能性が浮上、先に待つものを見定めるためゲッターは動かない。前回、動いた結果は骨折り損だったからな」

「面白い解釈だ、隼人が言うなら俺もそんな気がしてきたよ。ゲッター線は人類にとって未知なものだからそう言った未来視も出来るのかもしれない。ところで、弁慶はどうした?」

 

 ゲッター3パイロットが言葉を発していないことに不安を抱いた竜馬が問うと隼人は至極簡単な答えを述べた。

 

「あいつならいびきを搔いて眠っている」

「……弁慶」

「どっちにしろ動かないんだ、別に構わないだろう。それよりもあいつらはどうする?」

 

 パレットライフルを撃ち続け、それを華麗な動作で避けてみせるMk-Ⅲ、反撃として撃ち出されたフォトンライフルをATフィールドで相殺する初号機。

 

 肉弾戦のように互いの武器でカチ合う弐号機とマジンカイザー、エヴァに関しては乗り手が男女なので逆のような気がするものの、未だ両チーム致命傷を負っていない。

 

 隼人の問いに竜馬は首を横に振って答えた。あくまでこれはゲッターの中での話で今更彼らが聞くとは思えないのだ。甲児は見た目どおり熱くなりやすいタイプで、タスクも普段は気さくだが、一度感情に火が点いてしまったら止めるのは難しい。

 

「報告には使徒との戦いで被弾したことにしてやるか」

「そうだな、隼人」

 

 真ゲッターは傍観という立場に最後まで収まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 赤い水、LCLに満たされた原初の海を模した神秘的な空間、魂の座、神の座とも呼ばれる、ガブの部屋にタブリスは4号機を伴い降り立っていた。

 

「この感覚、懐かしい…場所が変わってもその本質は変わらないと言う事か…ふふ、もうすぐだよ、カガリ、待っていてね」

 

 厳かな儀式のように宙を浮遊していくタブリスと赤い水を跳ねながら豪快に歩み進める4号機、十字架に貼り付けられた自身の体はもうすぐだ。

 

 少なくともタブリスはそう理解していた。ところが、目的の場所に近づいていくうちに眉が下がっていく。

 

「可笑しい、肉体が反応しないのは何故だ」

 

 本来なら、己の剥き出しの魂が現れれば肉体の方が取り戻そうと反応を見せてくるはずなのだ。タブリスは自身の魂を既に戻そうと決意している。肉体に覆われようとそれは剥き出しの魂と変わらないはずだ。それなのに、先のほうに見える本来の肉体は一切反応を見せてこないどころか、回帰を促す肉体と魂の共鳴すら発現しない。

 

「本当にどうなっているんだ。まさか、肉体が僕の魂を求めていないとでもいうつもりか」

 

 十字架に括られた肉体に近づけば近づくほど、タブリスの中で不安が膨らんでいく。

 

「槍のせいで休眠状態なのかもしれない。そうだ、そうに違いない…まずはロンギヌスを抜いてしまおう」

 

 それでも、僅かな希望に縋って、4号機に槍を抜かせようと動かした時、自身が発したATフィールドを中和、突破される感覚を捕らえた。それが出来るのはエヴァの機体だけ、タブリスが渾身の想いで作り上げたそれを意図も容易く中和して見せた力を持つもの。

 

「待ってはいなかったよ、リリス」

 

 振り返り、その濁った瞳で見据えた先、悠然と降りてくる零号機の姿に語りかければ、槍に手を掛けようとしていた4号機は翻して標的に向けて走り出しだす。零号機もまた習うように走り出し、互いの巨体は赤い水の中で戦闘を開始した。

 

 突き出されるナイフに対して首を傾げることで避けた零号機はナイフの持つ腕を掴み上げ背負い投げを繰り出した。水しぶきが上がり4号機が倒れこむ。ただ、倒れこみながらも零号機の足に手を伸ばして掬い上げたことで、零号機もまた仰向けで倒れこんだ。

 

 上空からその様を眺めていたタブリスが腕を掲げた。すると、呼び動作なく4号機は立ち上がり、腕を支えに起き上がろうとする零号機の支えを足ではらい再び水面に倒れこんだところを力の限りで踏みつけた。

 

「僕の人形だ、操る事に造作もない。リリス、君はそこで地に這い蹲っていればいいんだ。そして僕がこれからする行動を黙って見ていろ」

 

 終わりを示す機械音がプラグ内で鳴り響く。内部電源が終わりを告げ、零号機はその機能を停止した。

 

「なんだ、ここに来るだけで精一杯だったわけだ」

 

 言って、腕を動かせば踏みつけていた足を退かして4号機が槍の元に歩き出した。そして今度こそ槍を引き抜き投げ捨てる。

 

 それにより十字架に括りつけられた使徒の下半身が再生するかのごとく生え始めた。

 

「さあ、今度こそ僕を受け入れておくれ、アダム。白き月の民、その始祖たる僕の半身」

 

 白い使徒に向けて全身を投げ出したタブリスが近づいてく。刹那、二十はくだらない拒絶の壁がタブリスの前に立ちはだかりそれ以上の進入を拒んだ。拒絶の壁に込められたあの肉体の記憶か、始まりたるあの時のような絶対の拒絶はタブリスの瞳に光りを取り戻す。

 

 そして絶望が全身を飲み込んだ。

 

「あああ、これは、リリス……リリスの肉体だ」

 

 この部屋に来たときから頭の片隅で理解していたことをようやく受け入れて苦悶に満ちた表情を浮かべた。

 

「分かっていたよ、ここはリリスの座だ。リリスなくしてこの場所が開放されるわけもなく、これがアダムでない事は……理解……したくなかったな」

 

 呟いた直後、タブリスの右腕がその役目を終えたかのように千切れ、赤い水の中に落ちて小さな水しぶきを上げた。

 

「時間切れだ、僕の体も、僕のたった一つの望みも…何もかも」

 

 後は自身の体がATフィールドを保てなくなって消滅するのを待つだけである。けれど、その前にタブリスは行動に移す。

 

「己を殺すことで少しでもカガリに懺悔を捧げよう、絶望と後悔を胸にして使徒らしく苦しんで死のう」

 

 残った左腕を動かして4号機をこちらに向かわせると、己の体を巨大なその手に握らせた。後は力を込めさせれば使徒らしく絶命する。最後の使徒の終わりが自殺だとは何とも滑稽か、他の使徒たちに示しがつかないけれど、リリンの肉体に落された自身らしい結末だ、そう自嘲的に思いながらタブリスは死刑台で待つ囚人のように身を捧げた。後は4号機に命じるだけだ。

 

「ごめんね、カガリ。君の大切な人を殺した僕をどうか許さないで」

 

 嘘だ、タブリスは内心で呟いた。許されたい、もう一度彼女の声を聞きたい。そして、そして、本当は彼女と共に。酷く人間らしい感情が渦巻くも、それに蓋をして口からは別の言葉を紡ぐ。

 

「そして、願わくは君がこれから先も生きられるように……僕の願いでは聞き届けられないかもしれないけどリリス、どうかカガリを守っておくれ」

 

 力を込めろ、タブリスは4号機に命じた。

 

 直後、その声は聞こえた。

 

「駄目だ、エバ!! そのまま動くな!!」

 

 タブリスにとって、何時までも聞いていたい声であり、今の自分には語りかけてほしくない声が4号機を止めよとしている。

 

 しかし、無駄なのだ、これはもう物言わぬ操り人形で、仮に人形の糸を切り裂く奇跡があったとしてもその声に応えてくれる絆は自身が壊してしまったのだから。

 

 




 次回 せめて、ラブコメらしく5






 次回もサービス、サービス……敢えての敵対は次への布石なのです。


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第八話

 始まります。


 深い、深い闇の底、バラバラとなった粒子が再び形をとる時、あの優しい子の望みを叶えようと動き出す。

 

 同じく眠るよう沈んでいた青白い炎が僅かに揺らめいてその存在に歓喜する。 

 

 ホラ、愛する子の声が聞こえるよ、あの子の選んだ子が死にそうだよ。

 

 さあ、いきましょう。わたくしのさいごのやくめをまっとうするために。

 

 

 

 

 

 命令に従い4号機の手がゆっくりと力を込め、タブリスは苦悶の表情を浮かべた。

 

 何時の間にか立ち上がった零号機がエントリープラグを出して、そこから飛び出したカガリが腕を伝って滑り落ち、零号機の手のひらで必死に声を張り上げた。

 

「止めろ!! カヲル! カヲル!! 使徒だから何だ、体が持たないからなんだ!! あたしに何も言わずに、あたしに謝りもしないで死ぬなんて許さないぞ!! このばかやろうぅぅぅぅ!!」

 

 ガブの部屋に響き渡るカガリの叫び声、呼応するかのように4号機の鼓動が跳ねた次の瞬間、込められた力がスッと抜けていく。次いでタブリスの意識に介入してくる声を聞いて目を見開いた。

 

『その通りね、このお馬鹿さん』

 

 悪戯が成功したかのように上気した声は確かに自分が壊した絆の一つだったはずだ。

 

『ふふ、臆病者に卑怯者、私が弱者たる魂だったのならあの攻撃で存在自体を消していたでしょう。でも、私はウズミの嫁です、そこいらの脆弱な魂とは訳が違いますのよ。槍を通して現世に舞い戻った私の魂は伊達じゃない、キリッと自分で言ってみる』

 

「そんな、馬鹿な」

 

『あら、スルーは駄目よ、すべての笑いに関する事象を拾うのがGEININですって、今は無理そうね』

 

「これは夢だ…僕の都合の良い夢」

 

 呆然としながら呟くタブリスに声はコロコロと笑い声を上げる。

 

『まったく、よくお聞きなさい。そもそもあのコアの場所において魂を砕かれたところで再び一つに戻れば言いだけの話、あなたは存在自体を消し去ったと思っていたでしょうが、人に落されたあなた程度の力で魂の消滅が出来るはずはない。始祖の魂を持つあなたがそれを一番理解していないと可笑しいのではないでしょうか?』

 

 純然たる事実のように言われ、ようやく思考が正常に戻り始めたタブリスは古い記憶の中で思い出す。

 

 始祖たるアダムとリリスは自らが生み出した魂の番人でもあるがゆえ、自らが生み出した末裔の魂自体を破壊することは可能だろう。しかし、その末裔に落された自分が肉体を破壊して原初の海に返すことは出来ても魂自体を消滅させられるはずがない。それこそ、自身たちへの反逆に等しい行為を末裔に与えるはずがないのだ。

 

 今度は絶句するタブリスに声は続けた。

 

『あなたの覚悟、しかと見届けました。あなたは確かに我が子を深く愛しています。ごめんなさいね、あなたの想いを侮辱したのはあなたの覚悟を知りたかっただけ、他意はないのですよ。もともと私は恋とは自由であるべきと思っていますから、コーディネーターだろうが、使徒だろうが、化け物だろうが、あの子を心から愛してあの子自身が心から愛していれば誰でもいいのです』

 

「でも、僕は……好かれてなど」

 

『本当にお馬鹿さん、あの子をよく見なさい。必死にあの子は叫んでいる。それが、どういう意味か分からないほど、使徒とは無粋なのですか?』

 

 今も必死に叫んで自分を死なすまいとするカガリの姿から目を放せない。確かに彼女はタブリスを、いや、渚カヲルを求めてくれている。

 

『後はあなたが自身の本当の望みをカガリに告げれば言いのです。あの子とあの方、そして我らが始祖はきっと応えてくれる』

 

 タブリスは一度きつく目を瞑ると泣きそうな表情を浮かべて叫び続けるカガリに視線を合わせた。

 

「言って…いいのかな」

 

 小さく呟かれ、それに返すよう大声でカガリが問う。

 

「カヲル!! 何か言ったのか!?」

「望んでも良いのかな」

「聞こえないぞ、もっと大声で喋れ、この馬鹿野朗!!」

「僕は…僕の本当の望みは……」

「言ってみろ!!」

「……にたくない」

「もっと大きく!!」

 

 一喝しながら手のひらでカガリは必死で手を差し伸べようと腕を伸ばす。それに応えるよう張り裂けんばかりに声を上げた。

 

「僕は死にたくない!!」

 

 握り込められた巨大な腕から左手を出して求めるようカガリに掲げて叫ぶ。

 

「もっとカガリと一緒に生きていたいんだ!!」

 

 タブリスの、渚カヲルの、アダムの望みがその口から発せられた直後、まるで示し合わせたかのように零号機と4号機の腕が伸ばされる。距離はやがてゼロになり、カガリの手のひらとタブリスの手ひらが重なり合わさった直後、二人の前に半透明の女性が姿を現した。

 

 その女性はタブリスを皮肉げに見つめて口を開いた。

 

『あの傲慢だったアダムが慎ましくも黒き月の末裔と共にありたいと願うなど酷くリリンらしくなったじゃないか』

 

 カガリや自分にとっては面識が無いはずの女性、けれどタブリスの脳裏には懐かしき記憶が沸きあがる。

 

「君は……リリスの魂」

 

 その記憶に従い口にすれば、リリスは不適に笑った。

 

『いかにも、アダム。我ら永遠なるものに時の概念はないが、共に人として生きてきた時間があるからこそ今は再開を喜ぼうではないか』

 

「けれどその姿……前とは違う」

 

『愚かにもお前はあの少女を我と勘違いしただけだ。我の魂はこの零号機の中に存在する。今は少しだけ、貴様の前に現れたに過ぎぬがな』

 

「じゃあ、僕は見も知らぬ彼女にべらべらと思い出を話していたと言うのかい?」

 

『失笑を通り越して哀れに思ったものだ』

 

「それは僕の事を中二病扱いにするわけだ」

 

 納得といった感じで頷いているとリリスは鼻で笑った。

 

『それは貴様のデフォだろうが、あれが私であっても中二病扱いをしていた』

 

「零号機の中にいたくせに随分と人間らしいじゃないか」

 

 ムッとした表情を浮かべながら皮肉を込めて言った。しかし、たかだが数日程度人間になったタブリスでは、何十年も人間をやって死んだリリスに勝てるはずもなく、一を言えば十返ってくるかのように悪口を言われ、仕舞には一目も憚らず泣き出した。遥か昔の再現である。

 

 流石にそこまでされればカガリも黙っているわけにもいかないと抗議を上げたが、末裔の言葉は耳に入らないとばかりに無視をする始末、そんなやりたい放題のリリスに一喝が入った。

 

「悪乗りも大概にしないか。お前はこんなことの為に出てきたわけじゃないだろう」

 

 エントリープラグの中から唯一暴走を止められる存在の登場にリリスの笑みが固まった。

 

「唯でさえ、この場所に剥き出しのお前がいれば肉体に引きずられてしまうだろう。それに彼の時間も残り少ないんだ、その辺にしときなさい」

 

『ご、ごめんなさい』

 

 素直に謝罪する姿とそれをさせた少女に軽い畏怖を抱いたタブリスがおずおずと問いを投げかけた。

 

「あの、じゃあ、結局彼女は何者なのかな…」

 

 すると、リリスは嬉しそうに、それ以上に誇らしげにレイの傍まで行くとその小さな肩に手を掛けて紹介する。

 

『私の夫よ、アダム。私、結婚して子供もいるの』

 

「え、でもリリンは同性で子供を作ることは…」

 

 何処となく白い頬を染めたタブリスが言いにくそうに口を濁す。思った以上に勉強しているようだ。逆にカガリは意味が分からないのか、文字通りポカンとしていた。要勉強と言った所であろう。

 

『ホント、馬鹿。あんた、リリンに落されてどこか螺子が抜けたんじゃないの。魂を見れば理解できるでしょうに』

 

 呆れながらもレイと呼ばれる少女が何者なのか、リリスは語ってみせるとタブリスは見る見る驚愕を浮かべていく。最後は驚きすぎて口を半開きにしたたま固まってしまう。その姿を見て折角のイケメンが台無しだな、ざまぁっとリリスは内心で思った。

 

『と言うわけで、あんたよりより人間らしさを手に入れたってわけよ』

 

「リリスを人間にしてしまう世界で生み出された魂」

 

『ようやく分かったみたいね、この世界の魂とは質が違うでしょう?』

 

「ああ、異質だね、これでは原初の海に還れない。きっと異物として弾かれてしまう」

 

 そう、だからリリスはレイの体に押し込めたのだ。そうでなければ今頃魂は消滅してリリスは嘆きながらサードインパクト起こしていただろう。

 

『ふん、私がそんな事をさせないわ。言いこと、アダム、よく聞きなさい。私は愛するものが望むなら妥協なんてしないわよ。太古の昔からの常識とだって戦ってみせる』

 

「!?」

 

『アダム、あんたはその小娘にそんな想いを抱けるかしら?』

 

「僕は……」

 

『生半可な気持ちなら止めなさい。所詮、あんたは白き月の民の始祖、黒き月の民の末裔を愛すると言う事はわたしが与えたトラウマから発生した本能とも戦っていかなければならない』

 

 実際タブリスの記憶には黒き月の民の末裔を排除しようとする記憶がこびりつき、それが本能に訴えかけてくる。それを理性とカガリを愛するという感情で蓋をしているだけだ。

 

 けれど、あの時叫んだ本心に偽りはなく、今でも心が渇望していた。

 

「僕はカガリと共にあれるなら、どんな困難でも打ち勝ってみせる」

 

 力強い声でそう宣言すると次いでカガリを見つめる。

 

「カガリ、もし可能なら僕と共にあってくれるかい」

「うん? 良いに決まっているだろう。あたしの気持ちがお前に死んで欲しくないと告げている、人類の敵でも、使徒でもない。渚カヲルに生きて欲しい!!」

 

 力強いカガリの宣言にタブリスは、いやもう、カヲルと呼ぶべき、一人のリリンは幸せそうに笑った。

 

 やれやれと言った様子でリリスが苦笑するとその指を鳴らした。

 

『いいでしょう、アダム。遥か昔のよしみで手伝ってあげるわ。ここにアダムの槍と私に与えられた槍がある。これを道しるべにしてあなたをリリンから別のものに再び落すわよ』

 

 鳴らされた指に共鳴して四号機のコアに搭載されていた槍と、先ほど水没した槍が宙を舞って4号機の両隣に鎮座した。

 

『幸いにも小娘が乗る機体はあんたの肉体ベースで作られているから拒絶反応も起こしにくい。でも、このまま遂行すればコアに三つの魂が混在する事になるから、コアの許容範囲を超えてしまう』

 

 厳かに告げたリリスの傍にふわり現れたもう一人の女性を見てカガリが目を輝かせ、カヲルは苦しげに視線を落した。

 

『ふふふ、構いませんよ。始祖殿、私の役目はどうやら終わりのようです。娘にも守られるべき相手が出来た。それがあなたと同じ始祖ならばウズミも文句はありますまい。そして、あの無限力からも守ってくださるはず、そうでしょう、渚カヲル殿?』

「っ……傷つけてごめんなさい、あなたの居場所を奪うような真似をしてごめんなさい」

 

 まさしく懺悔の言葉を繰り返すカヲルに母親はふわりと近づくとその頭を優しく撫でた。

 

『言いのです、先ほども言ったとおりあなたの覚悟を試しただけであり謝罪される言われはありません。それと…元々ね、私には役不足だったのよ。いくら機体を動かせるほどの絆が強くともカガリとは結局血の繋がりが無い。あのヴィアという子がいたから機体の機能を十分発揮できていたの……でも、これからはあなたがその役目を担って欲しい。あなたは白き月の民その始祖たるアダムなのだから、それも可能でしょう?』

 

 撫でられた頭が温かい、それと同じように心もポカポカと温かくなってきた。まるで母親に撫でられているような感じで、カヲルの心を愛しさと切なさで満たしていく。

 

「…お母さんみたい」

 

 ポツリと呟かれた言葉に母親はコロコロと笑い声を上げた。

 

『あら、そうね、カガリの旦那になるのなら私のとっても息子になるのよね』

 

「…それはカガリの夫と言う意味、夫、妻……リリンが生み出した恋人の極み」

 

『私の息子よ、どうか娘をお願いね』

 

「はい……母さん」

 

 はにかむ様にカヲルが笑えば母親はもう一度撫でて今度はカガリのほうに視線を合わした。言葉の端々から母親との別れを理解したのだろう、目を輝かせながらもカガリは涙を浮かべていた。ところが、母親は鋭い眼差しをカガリに向けて口を開く。

 

『カガリ、応えなさい。至高のGEININとは!?』

 

 その鋭い問いかけに涙を浮かべていたカガリの目が見張り、同じように鋭い睨みを母親に向けて応えた。

 

「大笑いの風よ!!」

 

 意味、どんな場所でも笑いの風を巻き起こせ的。

 

『前進!!』

 

 意味、常に新しい笑いを思考せよ的。

 

「系列!!」

 

 意味、コント、漫才、モノマネ、物ボケ、エトセトラ、すべての系列の笑いを認め、決して蔑ろにしてはならない的。

 

『天破笑乱!!』

 

 意味、天を張り裂けんばかりの笑いは相手の凝り固まった常識すら乱される的。

 

「見よ!! GEININの星が!?」

 

『笑いを生み出せと輝いているぅぅぅぅぅ!!』

 

 最後は二人、上空にあるのであろう架空の星に指をさして大笑い、その場にいた残りのメンバーが絶句するのにも構わず、二人は笑い続けた。

 

 やがて二人の笑いが収まると我が子を憂う優しい笑みを浮かべ、カガリに背を向けた。

 

『これからも精進なさい、カガリ。私はまた原初の海に還るけれど常にあなたを見守っていますよ』

 

 体が粒子のように分解されて足元から消えていく。

 

『ヴィアをよろしくね、あの子はあなたのもう一人の母親なのですから』

 

 その言葉を最後に母親の魂はすべて粒子となって4号機のコアの中からも、現世からも消えていった。

 

 もう会うことは出来ない、ようやくそれを全身に浸透させたカガリは人目も憚らず大粒の涙を何度も零していく。

 

「お母様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 母を二度も失ったカガリが張り裂けんばかりに泣き叫ぶ。4号機がゆっくりと手を広げ身動きが取れるようになったカヲルはそんなカガリを片方の腕だけで抱きしめた。縋るようにカヲルの背中に手を合わせるカガリ、その背を不器用ながら片手だけで撫で続けるカヲル。そんな光景をレイとリリスは静かに見守るのだった。

 




 次回、せめて、ラブコメらしく6






 次回もサービス、サービス……カヲル生存フラグ立ちました。アダムベース万歳!


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第九話







 始まります。


 

 

 二人が落ち着きを見せた頃を見計らい、リリスは4号機に乗るようカガリに告げた。泣き腫らした顔そのままに頷くと軽い動作で腕を伝いエントリープラグの中に乗り込んだ。内部からの操作でプラグが装着される。

 

 それを確認したリリスが今度こそ告げた。

 

『これより、槍を通してアダムの魂を落す』

 

 述べた直後、二本の槍が淡い輝きを放った。それは時間が立つ連れ輝きが増していく。

 

『始祖たるアダムよ、太古の時より紡がれた魂の根幹を新たな器に落したもう。我らの抑止力たるロンギヌスを媒介に魂道が開かれん』

 

 目を開けられないほどの輝きが槍から放たれ始めると魂の道は開かれた。

 

 人間の魂と違いアダムやリリスのもつ魂とも呼ぶべきコアは一度サルベージさられた状態から新たな器にサルベージするのは難しい。仮に原初に漂う状態をサルベージする瞬間だった場合はそこにあるコアのすべてを掬い取るかのようにすれば良いので取りこぼしもなく意外と簡単だ。しかし、一度何かの器に入った状態から別の器に注ぐのは慎重にならなければ零してしまう恐れがある。それが極端に難しいとされる理由だ。リリスが零号機に簡単に入り込めたのは魂の状態でさ迷っていた、言わばサルベージされる状態だったからである。

 

 同じく槍と呼応するかのようにカヲルも前進が淡い光りに包まれていた。これは開かれた道にコアが導かれた証拠である。

 

『道は開かれ、アダムは導かれた。小娘、手のひらにいるアダムを四号機で食べてしまえ』

 

『はあ!?』

 

 リリスの言葉にカガリがうろたえる。それも仕方が無いだろう。しかし、リリスは焦り声を上げた。

 

『急げ、道が閉じてしまう!!』

『でも、食べるって、口はあるけど…』

『早くしろ、馬鹿者!! これが一番コアの情報を零さない方法なんだ!! もう時間がない仮の器たるリリンの肉体が保たん!!』

 

 その言葉通りカヲルの左腕が4号機の手のひらにボトリと落ちた。それをモニター越しで見てしまえば、カガリも腹を括るしかない。

 

 

『生きろ、カヲル!! 頂きまぁぁぁぁぁす!!』

 

 

 4号機がカヲルを握りこみ、その手を口元まで持っていくと口を開けた空間に押し込んだ。その刹那、頂くって、カガリ大胆と頬を染めたカヲルが呟く様をレイは、ばっちり見ていた。後で教育的指導を行おうとレイは心に決める。

 

 カヲルを飲み込んだすぐ直後、4号機の胸を覆う装甲、もとい拘束具が弾け飛び、むき出しになったコアが心臓の鼓動のように動き出す。

 

 それは収縮を何度も繰り返していたが、やがてそれは収まりを見せて鼓動は完全に止まった。

 

 

 無事完了した、そう内心で安堵していたリリスに今まで黙ってみていたレイが声を張り上げる。

 

「いかん!! 良子、逃げろ!!」

 

 自身の名前を叫ばれて咄嗟に十字架の方に視線を合わせたリリスは驚愕する。

 

 眼前に広がる白い景色、いや、リリスの肉体であるその腕が貼り付けされた場所から剥がれ、自身の魂を取り戻そうと伸ばしてきていたのだ。

 

『時を掛けすぎた。これじゃあ戻れない、あなた!!』

 

 悲痛な叫び声でレイに手を伸ばすもゆっくりしながら逃がさないよう握りこまれる白い手のせいで必死にリリスを求めて手を伸ばしているレイの姿が視界に映らなくなっていく。

 

 リリスの肉体に魂が還る、リリスは悲痛な表情で己の終わりを嘆いていた時、

 

『良子さん、そのままでいて』

 

 声と共にアダムの槍を握りこんだ4号機がリリスの肉体に向けて投げつけていた。

 

 槍は今まで刺さっていた場所と寸分違わぬ所に勢い良く刺さる。丁度心臓、魂があるとされる場所だ。

 

 リリスにとっての抑止力たるアダムの槍が心臓の部分に刺さった事で肉体は止まり、リリスを握りこもうとする状態のまま動きは止まった。

 

 ふわりとリリスの傍に半透明のカヲルが現れる。

 

『君が僕をリリンの肉体ごとコアに取り込んでくれたお礼だよ』

『……アダム』

『僕はもうカヲルだよ。君がそうしてくれたからリリンの肉体を分析再構築も可能となった。時間制限はあるけれど、再びコアに戻れば同じことを繰り返せる。でもどうして、こんな面倒な事をしたの? 道が開かれていればすぐにでも僕の魂をコアに取り込めたのに』

『ふん、私たちのように何十年も肉体を持って連れ添った夫婦と違って、あんたたちはまだ蜜月も過ごしていないだろうが。それは小娘にとって可哀想だろう』

『じゃあ、君は初めからこうするつもりだったわけ、アダムたる僕の為に?』

『勘違いしないでもらおう。すべてはあの人の望みだったからさ。そうじゃなきゃ、私自身がアダムや小娘のために動くわけない』

 

 そう言って、リリスは愛おしそうに無表情ながら肩で息を吐き出すレイを見つめた。その横顔を眺めていたカヲルが小さく羨ましいと呟く。それを聞きとがめたリリスはカヲルを睨みつける。

 

『ホント、愚か。あんたたちには肉体で触れ合える時間があるんだから、すべてはこれからだろう』

『!? ……うん、そうだね』

 

 そう言って四号機のエントリープラグから飛び出した笑顔のカガリをカヲルは愛おしそうに見つめるのだった。

 

 

 

 

 こうして、最後のシ者は4号機に食べられるといった形で生きながらえることとなった、けれど、名目上は消滅させた事になる。

 

 ゲームのシナリオも終盤に差し掛かり、ネルフ本部も最後の使徒を残すのみ。

 

 

 宇宙から飛来するすべてを破壊するものSTMC、宇宙怪獣。

 

 異性人ゼントラーディとメルトランディとの戦い。

 

 地球を狙う異性人、エアロゲイター。

 

 

 

 そして、ネルフを本来の姿に戻そうと暗躍する第十八使徒リリンとの戦い、元おじいはこの戦いが一つの終わりだと考えていた。終わりに近づいてく足音を自身の体で感じて、それでも尚、元おじいは歩き続ける。

 

 

 

 先に待つものがどんな事象であろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 がぶの部屋での戦いが終わり、わしとカガリは使徒を倒した態で戻ってきた。丁度入り口の所に差し掛かれば、装甲をボロボロにさせたエバ二機とゲームで選択した、出家ばいん、だったかそんな名前の機体と魔神皇帝が同じく数多の被弾を受けた状態で対峙していた。そんな所に戻ってきたものだから、わしらは中での説明を追求された。おもに出家ばいんのタスク君と魔神皇帝の甲児くんに。けれど、シンジ君とアスカちゃんはわしらの無事を確認できたことで安堵し、追及は成されなかった。

 

 取り敢えず、自分たちのトップに報告をしなければならないので、タスク君たちの説明はお座なりに使徒を倒したとだけ告げて愚連隊に帰ってもらい、わしらは機体を元の場所に戻すと揃って司令室に向かった。

 

 御なじみの悪趣味な司令室にてゲンドウに説明したのはカガリだった。口下手なわしよりも確実だ。説明といっても、まさか使徒を残したとは言えず、零戦率いるわしが軽く消滅させたとカガリが報告すればゲンドウは素直に聞き入れた。ところが、シンジ君やアスカちゃんに関してはそうも行かず、特にシンジ君は出向している部隊からの離反宣言を口にした事が、初鰹の録音機から判明、アスカちゃんも同じくそれに加担したとされて、特務機関命令により二人の出向を解除、本部預かりに戻って二週間の謹慎処分となってしまった。

 

 一見して理に叶った処罰に思えるが、わしには別の思惑があると思っている。ねるふにとって、戦いはまだ終わっていないのだ。この先に待つ戦いを見据えてすべてのエバを本部に残したいのだろう。わしはこれでもアニメだけではなく、まあ、よく理解できなかったが、映画も見たからよく分かる。マヤさんの人間が最後の敵とはよく言ったもので、元妻が作り出した末裔も広い括りで使徒と呼ばれ、本当の意味で第十八使徒りりんという人間がこの本部に牙を剥いて来る。

 

 そう言えば、映画を見ていて気持ち悪いと思った、あの白うなぎたちも現れるはず、あれはアスカちゃんの弐号機を破壊して尚且つ食うという懸念があった。そう、過去形なのだ。それに関しては今のアスカちゃんを見ると逆に白うなぎが蒲焼にされそうな勢いなので特に心配していない。元妻も弐号機の中にある末裔の魂は異常だと認識していて、その娘であるアスカちゃんもその素質を受け継いでいるようだと述べていた。まさか、元妻が若干恐怖を抱いているとは思わなかったが、仲間ならこれほど心強いものはない。

 

 逆に心配なのはシンジ君だ。彼の初鰹は確かに特別だろう、だがそれはゲンドウやコウゾウにとっての認識であって、初鰹自体元妻の模造品であり、シンジ君も多少同調率がやり易いという、言い方は悪いがそれだけの少年。多少は訓練で格闘術を学び、それを初鰹に生かしているものの、総合的には見劣りしてしまう。何せ、永久機関という能力は今や、アスカちゃんやカガリにも付いているのだ。

 

 だが、彼には根の素直さと運動神経は悪くない、むしろ中々の才能を持ち合わせていると思う。でなければ、冥王星から帰ってくるまでの短期間で内公的な性格から攻撃的な性格に様変わりして机を割るような技術を学べるはずが無いのだ。

 

 ここは一つ、二週間の謹慎期間に乗じてカガリやアスカちゃんに鍛えてもらうよう提案してみるとするか。あの白うなぎは再生力が並ではないのだ、それが九体も存在して、それら全てをエバ三機で破壊しなければならないだから強化することに越した事はない。

 

 頭の中でこれからの事を算段していると何時の間にか報告が終わり、カガリたちが退室していた。それに習いわしも退室しようとすれば、ゲンドウが呼び止めてきた。わしは先に行くようカガリたちに告げて司令室に残る事になったのだが、ゲンドウは引き止めておきながら一言も言葉を発しない。コウゾウ氏は居ないのでゲンドウと二人机を挟んで対峙する形となっているのだが、向こうは椅子に座り、わしは直立不動、理不尽である。いい加減、足も疲れてきたのでわしは呼び止められた理由を聞いた。

 

「さて、わしをここに残した理由を話してもらおうか」

 

 そう、わしは最近自身の言葉を素直に出せるようになったのだ。しかし、それをシンジ君たちに披露するのも今更な気がして彼らの前では言葉少なめにしている。カガリには思ったことを汲み取ってくれるのでなお更だ。

 

「……全ての使徒が倒された今、残るは人間だけだ」

 

 ゲンドウはようやく言葉を口にした。

 

「貴様は我々の願いを知っているのだろう?」

 

 もちろん、奥さんに会いたいという想いだけでここまでしてきたのだろうことは理解している。

 

「そうか」

 

 それに宇宙怪獣の脅威やその先に待つ、終焉の、確かナンたらぽかすの脅威から人間、強いては息子や奥さんを守ろうとしている事も理解しているぞ。

 

「ならば、話は早い。即刻リリスを説得してガブの部屋を開かせろ」

「お断りだ、ゲンドウ」

「何故だ?」

「人類は、いや、お前の息子を含めたあの部隊の人間は終焉をただ見ているだけで済ますほど達観してはいない。まして人類補完計画のよう今の生を終わらせて、終焉をやり過ごすほど大人しくもない。結局彼らは戦うだろう、これは予言でもなんでもない、人が闘争本能を剥き出しにすれば、同じ種だけに限らず、全ての事象にすら戦いを挑む、人間にはそれだけの可能性が秘められているとわしは思うよ」

「所詮戦いは避けられないと言う事か」

「闘争だけではない事を理解していれば人類同士で戦う必要も無いのだが、こればかりは仕方が無い。人には多種多様の主義主張があるからな。それこそが人間だ」

「私のとっての主張、貴様にとっての主張か」

「然り」

「ならばこれ以上は意味を成さない、か」

 

 サングラスを外してゲンドウは立ち上がり、わしを鋭く見据えた。

 

「私は私の求めるモノのため、貴様を葬る覚悟が出来た。例えリリスがお前を守ろうとそれすらも打ち砕いてガブの部屋を開かせてみせよう」

「戦線布告大いに結構、わしは人類や子供たちの、強いてはこれから産れてくるであろう、明日を望むすべての生物のため、ある意味で尊くも悲しきお前の願いを打ち砕く」

 

 もう一度愛する者と再開したいという望みはわしにも理解できる。幸いにもわしは再会できた。だからこそ、ゲンドウの望みを笑うことも否定する事も出来ない。ただ、わしはこの世界の未来をシンジ君やカガリの未来を望み、ゲンドウは人類の存続と愛するものが居た過去を望んだに過ぎないという極めて両極端の選択。故にこの世界にわしという異物が現れた時点で互いを掛けてぶつかるのは必定なのだろう。

 

 お互いこれ以上語ることは無い、わしは踵を返して司令室を後にする。そんなわしの背中に投げかけるようにゲンドウは言った。

 

「その体は持って二週間だ」

 

 わしが何も告げることなく扉は閉められた。

 

 

 

 

 当に理解していたよ、ゲンドウ。

 

 既にこの体はわしのもの、だからよく分かる。初鰹のこあから帰ってきた頃から、わしはわしの終わりを見据えているのだ。

 




 次回 間幕 原作知識、おぼえていますか






 次回もサービス、サービス……これでシンジもネルフ待機です。そうでなければ、ロンドベルと一緒に行きそうですから。


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間幕



 始まります。


 翌日、宇宙で戦っていた愚連隊と合流するため、地上の愚連隊がねるふを後にするらしい。わしとカガリはあまり関わってこなかった部隊だが、シンジ君たちとっては大切な仲間である。当然見送りに行くようだが、何故かわしらも誘われたのでそれならばと、カガリはある提案を上げ、それにシンジ君たちは賛同、わしも否はなく、エバ部隊によるお見送り会なるものを開催することになった。と言っても出発の時間まで残り少ないので大掛かりなものは出来ないため、本部にある食堂で作られた出来合いのものを運びこむなどをして割りと小規模な見送り会を行うことに決めた。

 

 会場はエレ様のご好意でごらおんの休憩室をお借りする事が出来た。そこに食堂で頼んでおいた軽食や飲み物を運びこめばお見送り会の開始である。

 

地上部隊の皆が思い思いに食事を楽しむ中、カガリたちは何時の間に練習していたのか、三人組の芸人エバーズなるものを作りコントを披露していた。最初はポカンとしていた皆もカガリやシンジ君のネタに対する必死さ、アスカちゃんの必死すぎるつんでれにネタを笑うと言うよりも必死すぎる彼らを微笑ましく見えて笑い声を上げていた。

 

 その中で、ごついがんだむの操縦者、でぃお君は腹を抱えて馬鹿にしたように笑い、かとる君ととろわ君に窘められていた。逆にひいろ君とうーふぇい君は一ミリも笑っていなかったのが印象的だ。

 

そうなるとカガリたちのコントは面白くないように思えるが、これがまた小さな子供たちには高評価を得ていた。ぶいがんだむの操縦者うっそ君やその仲間である、おでろ君は涙を浮かべながらちゃんとネタについて笑い、大作君も子供らしい笑い声を上げて楽しんでいた。妖精さん、と言うと怒る、ちゃむちゃんなどは前に面白い踊りを教えてくれたことでカガリのふぁんになったらしく、人間に負けないくらい笑っていた。時折、変なおっちゃんの踊りを披露した時は、カガリもそれに返すように踊りを披露して笑われていた。しかしながら、子供たちはその踊りが気に入ったらしく一緒になって踊り出し、最後は変なおいちゃんの踊りを子供たちと妖精さんで披露、会場をほのぼのとさせてコントは終わりを告げたのだった。

 

裏方を知るわしが言うのもなんだが、彼らはネタに集中しすぎて自分たちが笑われているとは露とも知らず、手ごたえを感じていたようである。わしは優しい眼差しを向けながら彼らに肯定も否定もしなかった。勘違いしながらも、正されて恥ずかしい想いをして大人になっていくのだから。

 

 

 

 

さて、わしは今、主人公のタスク君と話をしていた、と言っても、一方的に彼が話していてわしが相槌を打つという形であるが、カガリに似ているのか苦痛には感じない。

 

「でよ、シンジがお前のためならロンドベルをやめるとか本気で言い出すし、まあ、あの時は頭にきてスルーしたけどよ、後で冷静になったところでよくよく考えてみればシンジの奴はあんたに惚れてんだなって思ったわけだ」

「…へぇぇ」

「おいおい、感想はそれだけかよ、俺ほどじゃねえけどシンジもイケメンだと思うぜ?」

「…ほぉぉ」

「実際、あんたはシンジの事どう思ってんだ? あんたの願いをかなえてやろうとする男気に惚れたりしないのか?」

「……」

「それとも、他に大切な奴がいたりするのか?」

 

 わしの反応が鈍いと思ったのか、タスク君はそんな事を聞いてきた。隠す事でもないのでそれに頷けば、タスク君は一瞬痛みを伴う表情を浮かべ、すぐに何時もの笑みを形作ると、そうかと述べて、ニヤニヤとした口元を作り、かとる君と楽しそうに会話しているシンジ君を見つめた。

 

「じゃあ、シンジの奴は茨の恋ってやつをしているんだな。けどよ、想いってのは、変わることもあるからなぁ」

 

 言葉の最後にニヤニヤした目でわしを見つめてきた。わしはその面白がる目と先ほど浮かべた一瞬の悲壮を内心で思い浮かべ、逆に聞き返した。

 

「あなは、どうなの?」

「は?」

「あなたの思いは変われるの?」

 

 そう問いかけた瞬間、彼はあからさまに苦悶の表情を浮かべて項垂れた。そうだ、彼の隣にいてもおかしくない想い人が存在しない。それはきっと、彼が選択を誤ったのだろう。

 

これはゲームであるが現実でもある、この世界に来た瞬間からわしはそれをレイちゃんという肉体で感じていた、つまりそれはゲームのような選択をその人自身で選び取らなければならないと言う事、けれど人は選択を強いられ、その結果が返ろうとも戻る事は叶わない。それこそがゲームではなく現実を生きるということでもある。

 

「俺は…」

 

 彼は特殊な能力を有してわしの雰囲気が変化した事を感じ取ったのだろう。酷く辛そうな表情で言い淀む。

 

「人は過去に戻れない。あなたがどんなに凄い能力を持ち合わせようとも無理なものは無理でしかない……あなたは人間なのだから」

「……あんたは一体何者なんだ、どうして俺の心のうちを知って……誰にもリュウセイたちにすら話した事なんてないのに」

 

 思考が酷く混乱しているのだろう、怯えた眼差しをわしに向けてそう言ってきた。わしはその視線に合わせるようにタスク君の顔を見つめる。

 

「……それでも人間は未来を望み勝ち取れる生き物。あなたが本当に忘れられない想いを抱えているのなら決して手放してはいけない。そしてそれが生きる者ならば尚の事」

「!?」

 

 隠していた本心を暴かれたからか、怯えから一転幼い、子供が泣き出しそうな表情で浮かべてわしを見つめる。そんな彼の頭を布越しで撫で付けると僅かに目を見開かせ、次いで目を細めてそれを受け入れてきた。自分より小さな少女に撫でられ、それを素直に受け入れる青年など旗から見れば異様な光景だろうが、幸いにも他の仲間たちは話に夢中でわしたちを見ていない。存分に撫で終えるとわしは彼から手を離した。思いのほか気持ちよかったのか、タスク君は頭から手を離すとき不満そうに眉を潜めていたのが可笑しくて内心で笑ってしまった。きっと彼はこの時のことを後から思い出して悶絶するだろう。

 

「タスク君、君たちは明日を生きる人々のために戦い続けるのだろう。けれど、その中に自分自身を入れてやりなさい。君は君の心の中にいる存在と再び出会うために戦っている。それを忘れてはいけないよ」

「……あんたは超能力者か何かなのか?」

「君のような念動力なるものや新人類のような力は持ち合わせていないよ。唯少し、先のことを知っているだけの役立たずな老いぼれにすぎない。それでも、君たち若い者にこの先を明るく生きてもらいたいというお節介で話をさせてもらった。君には辛い想いをさせてしまったな」

 

 そう言って謝罪すれば、彼は慌てたように首を横に振った。

 

「謝る必要は無いぜ、あんたから不思議な波動と言うか、他者を優しく包み込むようなものを感じるんだ。可笑しな話、何か会ったことない祖父ちゃんと話しているような、そんな気がするんだよ。ぶっちゃけ、肯定されて嬉しかった。俺は諦めなくて良いんだって言われた気がしたんだ」

 

 これはまた直球でわしの魂を感じたということだろう。さすがは念動力者という奴なのかもしれないが、さすがにそうなのだとは言えず、小さく笑みを形作るのに留めた。

 

「さて、辛い話をさせた代わりと言っては何だが、君の…いや、君たちの未来を繋げる鍵のようなものをあげたいんだが、受け取ってもらえるだろうか?」

 

 そう言ってわしは懐からある一枚の石版の様なものを取り出してタスク君に手渡した。興味深そうに観察するタスク君が聞いてくる。

 

「文字のようなものが書かれているけど、これってなんだ?」

「それは太古の昔に紡がれた歌の歌詞だよ。ある少年が姉にあげたものを譲ってもらった。その石版はこれから先の戦いで必ず必要になるものだ。大切に持っていて欲しい」

 

 カガリから譲ってもらった例の石版を渡した事で本当の意味で彼との接触は果たされた。これで彼らは巨人たちを救う事が出来るだろう。

 

「見るからに古そうだけど、どこか懐かしい感じがする」

「それがあれば無駄な血が流れなくて済むだろう。君たちの仲間のうち誰かが行き詰った時にでも渡してやってくれ」

「ホント、あんたは不思議な感じがするな。けど、俺の勘が信用できるって告げているから素直に貰うよ。使いどころは自ずと分かるんだろう?」

 

 その問いにわしは頷いた。彼はそうかとだけ述べてそれを懐に仕舞う。

 わしはそれを見届けると幾つか思い当たる事を彼に伝言してもらうため言葉にした。彼は快く承ってくれたので安心だ。きっと、然るべき時、然るべき存在に告げてくれるだろう。

 

 その後、艦長のエレ様が閉会の挨拶を告げて彼らを見送る会は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして彼らは宇宙に飛び立った。

 




 次回 間幕2 原作知識 おぼえていますか、いいえ、うろ覚えです。






 次回もサービス、サービス……間幕をもう少しお付き合い下さい。 


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間幕2





 始まります。


+サイドアウト+

 

 

 宇宙に上がった地上部隊は宇宙部隊と合流、これによってエヴァチームを除くすべての部隊が揃った事になる。

 

 マクロスとエクセリヲンを中心としたロンドベルは今後の対応のため、意見交換が行われることになった。

 そこで出された議題には裏で暗躍していると思われるユーゼス・ゴッツォの目的について語られることになる。

 異世界を含めた五人の艦長、そしてDC代表としてシュウ・シラカワは互いにユーゼスの目的について意見を交し合うものの全てが予想の域を出ない中途半端な予想ばかりで半ば暗礁に乗り上げてしまう。

 シュウに関しては全ての手札を出していないと五人の艦長は理解しているが、そこは暗黙として無視している。彼に求めたところではぐらかされるのが落ちだからだ。

 

 その中でエアロゲイターはユーゼスの思惑によって動かされているのではないかという予想に関しては六人の共通の認識で一致していた。

 これ以上話し合っても決定的な意見が出ない為、次の議題に移ろうとする最中、会議場の扉が開かれ、タスクがサイバスターのパイロット、マサキを伴い入ってくる。

 一パイロットでしかないタスクの登場に皆困惑するも、レイによって託された伝言を告げれば六人は目を見開いて驚きを見せた。

 特に普段冷静さを崩す事のないシュウなどは口を半開きにして驚くものだからタスクは内心で笑いを堪えるのに必死だった。レイの助言通り面白いものが見れるということでマサキ・アンドーを連れて来て正解だったが、肝心のマサキもシュウの姿に驚きすぎて口を半開きしにしていたので残念ながら笑う余裕は無かったようだ。

 

「タスク君、君の言っている事は本当なのかね?」

 

 そう問いかけてきたのはエクセリヲン艦長のタシロ・タツミだ。タスクはそれに対して素直に頷いた。

 

「ああ、ネルフは敢えて報告してないみたいだが、実際撃墜したパイロットにも話を聞いたから確実性は高いぜ」

「しかし、何故ネルフが敢えて隠した事実をあなたが知りえたのでしょうか?」

 

 不信がりながら問いかけてきたのはシュウ・シラカワだ。

 

「パイロットの一人から託された伝言を俺は告げただけだぜ。俺も聞いたときは驚いたが、まあ、あの人が率いるチームなら何となく納得しちまった」

「それが、誰か聞いてもよろしいですか?」

「ああ、あの人も構わないって言ってたから良いぜ。かつてはこの部隊に配属されるはずだったエヴァパイロットで今はネルフ所属の綾波レイだ」

 

 面識が無い四人、タシロやグローバル、シーラは眉を潜め、問いかけたシュウに至っては益々不信感を募らせる結果になったようだ。逆に面識のあるブライトとエレは驚きを見せながらも苦笑を浮かべながら頷いてみせる。

 

「タシロ艦長、タスクの言っている事は正しいでしょう。彼女とは一度だけ面識がありますが我々を混乱させるような嘘を吐く様な子ではないはずだ。まあ、別の意味で驚かされはしますがね」

「ええ、ブライト艦長の言うとおりですわ。わたくしも面識があります。彼女はとても良い子ですわ。それに不思議な子でもあります……なんと言えばいいのでしょうか、あの子はとても十四歳とは思えない思慮深さがあります。そんな彼女が悪戯に混乱させるような事は申しますまい」

 

 二人の意見を聞いてタスクはその通りだと頷いた。

 

「そうだぜ、会ったら誰でも不思議な想いをしちまうような子だ、俺も度肝抜かれたからな」

「そんな、不思議な奴なのかよ?」

 

 驚きから回復したマサキがそう問いかけてきた。タスクはそれに頷きながらも信じてもらえない時に告げろと言われていた伝言を言葉にする。

 

「あの人曰く、ユーゼス・ゴッツォはエアロゲイターの実質的な黒幕だ。俺たちを裏切ったイングラムもレビとか言う女の子もすべてはユーゼスが仕組んだ事らしい。そんで驚け、あの人はここにかつてエアロゲイターに所属していた女性がやって来るとか言っていた。で、俺とマサキはその人に会ってきたんだが、俺の勘もあの人とは敵としてあった事があると踏んでいる」

 

 その言葉に六人が更なる驚きを見せた。当然である、この戦艦にスパイがいる事になるのだから。

 

 特に自分も面識があるマサキの驚きようは六人より大きい。

 

「おい、さっき会ったって、まさかマオインダストリーから来たヴィレッタ・バディムの事かよ!?」

「ああ、そうらしいぞ」

「そうらしいぞって、スパイなんだろう!」

「んにゃ、あの人が言うには人類を助けるためこちらに寝返ったんだと。実際俺だって鵜呑みに出来ないからな、結構きつくヴィレッタに問い詰めさせてもらった。そしたら割と素直に告白してきたよ。後、判断は皆に任せるとも言っていたな」

「何だよ、俺はてっきり馬鹿みたくナンパでもしているのかと思ったぜ」

「クソッ、忘れてたぜ!!」

 

 タスクはそう叫ぶと部屋を出て行こうと反転するも、マサキによって肩を掴まれ止められた。

 

「馬鹿言うな、言うだけ言って逃げるんじゃねぇ!! 俺だけじゃ収集が付かないだろうが!!」

「あ、やっぱり駄目?」

「駄目に決まってるだろう!!」

「何だよ、俺からはもう伝える事はないぜ。あの人の言葉を伝えるのが目的だからな。それに真意がどうあれ、俺たちのやる事は変わらない。この地球やコロニーに住む人類のため立ちはだかる敵を倒すだけだろう?」

 

 その言葉を聞くとその場に居たシュウ以外は苦笑を浮かべながら肯定した。そう、例えどんな困難が降り注ごうとも自分たちのやる事は変わらない。明日を生きる人々の為に戦うだけだ。

 

「確かに君の言はもっともです。が、信憑性のない根拠を信じられるほど私は楽観出来ない性格でして。何故、彼女がそのような事実を知りえたのでしょうか? 可笑しな話だ、彼女は一度もこの部隊に所属した事などないのにまるで内情を知っているかのような口ぶりで告げてきた。彼女が現状を把握するため、この部隊にスパイを送り込んでいるのか、それとも未来を予知する能力を有しているとでも言うのか、どちらにしても彼女の伝言とやらは不自然な事に代わりはない」

 

 シュウの言葉を聞いていたタスクは堪えられないといった感じで笑い出した。それを不快に思ったのか、眉を顰め冷笑を浮かべたシュウが威圧をタスクに放ちながら口を開いた。シュウの攻撃性などを垣間見た事のあるマサキなどは答え次第では本気でタスクを潰すだろうことを理解して背筋を凍らせる。

 

「何がそんなに可笑しいのでしょうか?」

 

 しかし、当の威圧を向けられたタスクなどは目に浮かんだ涙を拭き取って笑いを抑えると怯えた様子も無く軽い口調で悪いと告げる。

 

「いやさ、あの人の言ったとおり、この話をすればあんたが突っかかってくるだろうことも予想していたからさ、で、笑ったのはあんたが言った未来予知やスパイ行動を理由に上げてくるかもしれないとも言われていたから、当たりすぎだろうと思って笑ったわけ。別にあんたに対して笑ったわけじゃないからその威圧を何とかしてくれると助かるんだが?」

「ほう、綾波レイという少女は私のことを良くご存知のようですね」

 

 突き刺さる威圧感を消し去りながらシュウは言った。どうやら、満足はしないものの取り敢えず答えとしては許される範囲だったようだ。

 

「ああ、理由はよく分からねえけど、あんたの事は良く知っていたな。人に使われるのを良く思わないくせに自分は率先して使うとか、頭が切れるからこそ物事の結末を端的に定めがちとか…って、俺が言ったわけじゃないから威圧感をまた出すのは勘弁してくれよ!」

 

 タスクの言葉を聞いているうちに目が据わり始めたシュウが再び威圧感を放ち始めたので止めるよう懇願すれば、深く息を吐き出してそれを止めた。

 

「まったく、今からでも彼女に会いたくなってしまいますね、興味が沸きました。他に何か私について言っていましたか?」

「えっと、多分だけど伝えるつもりは無かったんだろうな、独り言で呟いていたのを偶然耳にした言葉があったけど、俺にはよく分からなかった」

「構いません、教えて下さい」

「鳥篭は何時か壊されて、やがて自由の翼を羽ばたかせるとか……後、お喋りインコがどうとか言っていたから、あんた鳥でも飼っているのか?」

 

 シュウの目が見開いた。それはもう、先ほどユーゼスの死を知るよりも驚愕した表情を浮かべてタスクを凝視するものだから、インコを飼っている事はシュウにとって最大の秘密なのかと予想して、確かに目の前の男がインコを大事にしていたらドン引きするな、などを内心で思い浮かべ、地雷を踏んでしまったのではないかと冷や汗を搔いた。

 

「……なるほど、益々彼女に興味を抱いてしまいました。私が飼っている鳥を知っているとは面白い少女だ。どうやらその子は沢山の知識をお持ちのようです、私も信じることに致しましょう」

 

 僅かに目を細めて微笑を浮かべるシュウの姿を旗から見ていたマサキは即座に思った。奴は嘘を吐いていると。

 

 タスクの言葉は確かにシュウが信じるに値する価値があるのだろう、しかしそれは言葉通りの意味ではなく、シュウの思惑の何かに引っかかったからだ。

 

 それでもマサキは追求する事を止めた。いや、出来ないといった方がいい。彼には思惑の予想すら出来ていないうえにシュウ自身の考えなど理解出来ないのだ。それに加え言葉でシュウに勝てたためしがない。だからきっと自分が知るときは奴が行動を起こしてからだろうとマサキは理解するのだ。

 

 シュウが信じたことにより、話を丸まる鵜呑みにはしなくとも一応一つ懸念事項が去ったと言う方向で話は終わりを告げた。そして、ヴィレッタに関してレイより齎された伝言を付け加えるとタスクとマサキは退室した。

 

 

 

 

 

 

 二人と入れ替わるようにヴィレッタやリアル、スーパーロボの各チームのリーダーが集まり、議題は対異性人についての話が始まる。しかし、その前にタシロ艦長より皆に向けて伝える言葉があった。

 

「諸君、我々は先ほどある者より情報を貰い、マオ社より出向してきたヴィレッタ・バディムに付いて知りえたことを伝えたいと思う」

 

 その言葉に各リーダーが耳を傾ける中、ヴィレッタは採決を待つ囚人のような気持ちで瞳を閉じた。

 

 タシロの口から語られた内容に各リーダーは冷静さを持って聞くもの、憤りを露にしてヴィレッタを睨みつける者と別れ、その場所は混迷を見せた。だが、最後にタシロ含め五人の艦長の想いを代弁したことで一応の混乱は収まりを見せることになる。

 

「皆、憤るももっともな話だ。しかし、我々は彼女を快く受け入れることにした。それは我々が闘争本能だけではないという証を立てるためでもある。我々は異世界人を受け入れた、ならば敵の異星人を受け入れられるはずだ。今後、多くの異星人と相対するだろうその中で我々に味方してくれるものも現れるはずだ。遺恨ありとも受け入れる姿勢、今回はその始まりにしたいと我々は考えている」

 

 淡々と告げたタシロはヴィレッタに鋭い視線を向けた。

 

「さて、我らは思わぬ方向から君の素性を知った。仮に我らが気づかなかった場合、君はどのような行動をとっていたのかね?」

「私の行動は変わらない。この知識を人類、果てはすべての生きる存在のため扱う所存です」

「なるほど、それが、君自身とイングラム元少佐の願いというわけか」

「!?」

「言っているだろう、情報は得ているのだよ。彼が裏切りの汚名を受けてまでSRXチームを大切に思っていることはね」

「一体どのような手段で手に入れた情報か気になるところですが教えてくれないのでしょうね」

「いや、本人は構わないと言っているので告げよう」

 

 そう言ってタシロは先ごろネルフ本部に現れたイングラム元少佐と対峙した綾波レイのやり取りを詳細に述べた。これはヴィレッタを素直に受け入れさせるためにレイがタスクに託した伝言の一つである。これを聞いたSRXチームのリーダー、マヤは涙を浮かべて安堵したような表情を浮かべた。その他、各チーム複雑な表情をしながらその話を受け入れた。特にその場に居たダイターン3の万丈が見ていたことを証言したことでそれは真実味を帯びる形となる。

 

 これにより各チームのリーダーたちはヴィレッタ・バディムに対する態度を軟化させた。

 

「ふむ、どうやら君たちは彼女を受け入れてくれるようだな。感謝する。どうか、他の皆にも我々の想いを告げて受け入れてくれるよう配慮して欲しい。何、ヴィレッタ君はとても別嬪さんだ、必ず受け入れられ……どうしたのかね、この場にいる女子のわしを見る視線が一斉に汚物を見るような目になったのだが」

 

 タシロに向けられる女子の視線が変わったことに驚きそう告げれば、男子たちは皆明後日の方向に視線を向けて黙り込んだ。

 

 その中でタシロの隣にいたエレ様が汚物を相手に口を開いた。

 

「その言葉を聞いていると仮に彼女が別嬪さんでなければあなた方男の人は受け入れられないとそう仰っているように聞こえます。最低ですね」

「いや、そ、そんな事は…」

「それに先ほどの発言、この世界で言うところのセクハラになるのではないでしょうか、最低ですね」

「わしにそんなつもりは…」

「女性をそのような目線でしか見ていないとは嘆かわしい。つまり最低ですね」

「……何ってこったい」

 

 帽子を深々と被り突き刺さる視線から逃げるように項垂れたタシロの代わりにマクロス艦長グローバルがその後の議題を進行することにった。以降、エクセリヲン艦内でタシロの女性人気は一気に下落していくことになる。

 




 次回間幕3 愛、うろおぼえですか。






 次回もサービス、サービス……次で終わります。 


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間幕3




 始まります。


 木星圏内でゼントラーディ軍の先遣艦隊とエアロゲイター軍が戦闘を解したことが報告されたのはタシロが項垂れた直後だった。

 

 これにより議題はすぐにそれに対しての対抗策に変わる。まず懸念されたのはこの戦いが何れ地球圏に飛び火するのも時間の問題ということ、これに対してロンドベルは非常警戒態勢を取る事に決定され、すぐさま実行に移された。

 

 その後、二つの軍を出し抜く形で女性巨人メルトランディ軍がロンドベルを急襲、すぐにバルキリー部隊を先行させ展開して対応に当たった。その数分後、エヴァチームを抜いたロンドベル精鋭が出撃、一気に敵の先行部隊を壊滅させるも後続部隊が即座にその宙域に展開され、半ばジリ貧となっていく。いかに精鋭とはいえ物量で押されれば堪ったものではない。出撃したメンバーの気持ちに暗雲が経ちこめた頃、それは現れた。

 

 場違いな静かな歌声が戦闘宙域に奏でられる。その歌はメルトランディの戦意を喪失させ、撤退に追い込んだ。三百はくだらない敵の小部隊が一斉に撤退するなか代わりのように展開し出す大部隊、ゼントラーディ軍がロンドベルに接触、休戦協定を結びたいと申し出てきた事によりこの戦闘は終わりを告げた。

 

 

 ロンドベルのメンバーが自身の戦艦に戻る最中、ヒュッケバインMk-Ⅲの中で苦笑を浮かべるタスクは呟いた。

 

「ホント、どんだけ未来を知っているんだよ、あの人は…これも予想通りという奴ですかい」

 

 脳裏にレイから渡されたプレート思い浮かべ、一路タスクは着艦した。

 

 

 

 

 

 ゼントラーディ、ロンドベルによる休戦協定は宇宙アイドル、リン・ミンメイの帰還により恙無く行われ、共にメルトランディ軍をリン・ミンメイのプロトカルチャー、要は文化の一つとされた歌で排除しようとする旨で合意することになった。プロジェクトリン・ミンメイのプロディースチームは曲作りを開始、それよって曲事態は完成するもその歌に付ける歌詞作りに難航してしまう。

 

 それを耳にしたタスクはレイに託されたプレートを控えてスカル小隊の一条輝に面会、丁度その時、三角関係の縺れなのか、痴話喧嘩なのか定かではないがリン・ミンメイと口論になっていた場面に出くわした事で残念ながら輝自身に手渡す事は出来なかった。その代わり付注のもう一人の女性、マクロスの航空管制主任、早瀬未沙にタスクはプレートを託す事にした。彼女はそれを受け取ると大きく驚きを見せるも手に入れた経緯については敢えて言及はしてこず、タスクとしては拍子抜けしてしまう。レイからはそれに関しての説明も貰っていたのだが無駄になったようだ。ちなみに彼らがその後どうなったかについてはタスクの知るところではないので言及はしなかった。むしろ、タスクの内心では一条輝もげろと、言ったところだろうか。

 

 プレートの出現により急ピッチで歌詞が完成に近づくもその僅かな時差でメルトランディがロンドベルに対して再び部隊を展開、歌なしでロンドベルは戦闘を開始した。迫り来る女性部隊、ロンドベルエース級のパイロットが文字通り死に物狂いで戦ったおかげでこの宙域に展開する主力艦隊を残した殆どの部隊を壊滅する事に成功した。ところが、歌が完成しなかった事でゼントラーディ軍トップは休戦協定から一転してプロトカルチャー、文化を持つ人類を殲滅せんと大艦隊を展開、残された僅かなメルトランディ軍の主力を物量で殲滅するとそのまま、ロンドベルに襲い掛かってきた。

 

 唯でさえメルトランディ軍との戦いで疲弊したメンバーは絶望的な大艦隊の前に成すすべも無く後退していく。

 

 人類の敗北という結末が各メンバーの心に過ぎりだした頃、マクロス戦艦に設置された特設会場にてリン・ミンメイが太古の昔異性人の間で流行ったと思われるラブソングをその歌声で披露した。

 

 

 

――おぼえていますか、目と目があった時を、

 

――おぼえていますか、手と手が触れ合った時、

 

――それは始めての愛の旅立ちでした、

 

――Ilove you so。

 

 

 

 紡がれる旋律、その優しい歌声は巨人たちを魅了させ、また恐怖させた。

 

 

 

 これにより形成は逆転、プロトカルチャーを守るため自軍を裏切り人類に味方する部隊が現れ、怯える艦隊に攻撃を仕掛け始めた。ロンドベルの部隊も歌の効果か一気に活気が溢れ、最後の踏ん張りを見せて見事ゼントラーディとの戦いに勝利する。

 

 戦いが終わり事後処理を行っていたマクロスに長距離通信が入ってきた。その内容にグローバルを始め、格戦艦の艦長は眉を潜める。

 

 連邦より命令されたマクロス及びエクセリヲンの地球圏追放、それと同じくして日本の北東支部から齎された情報、ネルフ本部通信不能及び外部の接触が一切絶たれたというものにこれが何かしら繋がっているのではないかと予想したグローバルはすぐさま対策会議を開いてロンドベルのメンバーに意見を求めた。すると、またもやタスクが立ち上がり意見を述べる。

 

「あの人が言うにはもし、ネルフが外的との接触を一切絶たれていた場合、それは連邦を裏で操るある秘密組織が関わっているはずだと言っていたぜ。俺たちは無理することなく情勢を見守っていて欲しいとか言っていたけどよ、それってどうなんだろうな」

 

 タスクの言葉に付け加えるかのように万丈が口を開いた。

 

「レイ君はゼーレの存在を知っているようだね。すると、連邦からの命令もキナ臭いものがあるな。あそこは虎の子のティターンズやOZを失ってそんな命令を出せるほど力を持っていない。そうなると、ゼーレが裏から手を回して命令させた事も考えられる」

 

 冷静な意見交換に剛を煮やした甲児たち若いパイロットなどは助けに行こうと憤る。それ対してグローバルは命令違反が行われた際にN2兵器を自分たち部隊に撃ち込むこという脅迫があったことも付け加えた。

 

「とにかくよ、少ないとはいえまだ時間はあるんだ、俺たちは俺たちで出来る事を考えればいいんじゃねぇか?」

 

 タスクが締めるように言えば、皆は頷いて意見の交換をしあうことになった。

 

 

 

 

 

 宇宙に置いて戦いを終えたロンドベルが如何にして地球に向かうか、議論している頃、話題に中心たる地上のネルフ本部では人間との戦いが開始されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 密閉されたような暗闇の空間、その場所に碇ゲンドウは立たされていた。その周りを囲うように無機質なモノリスが鎮座していた。ただ、若干数が少ないのはご愛嬌である。そして唯一ゲンドウと同じ有機物のキールがバイザーを光らせていた。

 

「約束の時は来た」

 

 厳かな声色でキールが告げる。

 

「STMCの襲来は近い……人にとって遍く悠久の揺り篭リリス、その覚醒は唯一リリスの分身たる初号機で持って行わなければならない」

 

 ゲンドウは眉を潜めた。

 

「それではゼーレのシナリオとは違います」

「愚かな。貴様が我々を出し抜いてアダムをその手中に抑えているのは把握している。本来、我らはリリスのみでシナリオを遂行しなければならなかった。それが今や、リリスはお前の私物と化している。これを愚かと言わずしてなんとするか。貴様はアダムとリリスの禁じられた融合を望んでいるのだろう。だが、それは貴様が王となるだけだ。全ての群体を一つにしようとも貴様が王になるのだけは許さん。全て遍く平等にして永遠、これこそ我らが望むべきシナリオだ……いや、シナリオだった言うべきか」

 

 キールの語りにゲンドウはサングラス越し目を細めた。決して愉快だったわけじゃない。むしろ、悲しかった。誤解なのだと声を出して言いたい。そんな気持ちであったが、口を紡いだ。言えない、リリスがある老人に心酔している事も、これから自身の願いが具現化したリリスに悲しいかな、命を掛けて挑まなければならないということも。

 

「アダムを…それに属するものを使う事はそれを行ったものを王にする禁断の儀式、死海文書に記されていた究極の支配。そんなものを認めるほどゼーレの理念は甘くは無いぞ、碇」

「我らとて王になるためにシナリオを遂行したわけではありませんよ」

「そうだとも、貴様は王になる器ではない。では何を望むか、我の口から告げてやろうか?」

「どうやら、あなた方老人は私の真の望みを既にご存知のようだ」

 

 偽りの忠誠心を脱ぎ捨てたゲンドウが不敵な笑みを浮かべた。それを見てキールも口の端を上げる。

 

「ふふ、ここに来てようやく本性を出したか、碇よ。それこそが貴様だ。故に気の強い金髪娘も気に入ると言うものか……かなり怒らせてしまったが」

「?」

「いや、こちらの話だ。さて、貴様の望み、我らは愚かを通り越して哀れに思ったものだ。が、貴様らしいとも残念ながら思えてしまうのだよ、何故なら我らもまたそれを望んだ時期があった」

 

 遠い過去を思い出すかのようにキールは一転を見つめる。モノリスたちも思い思いに過去に浸っているのかその空間は静寂に包まれた。

 

 やがてその静寂を破るようにゲンドウは口を開いた。

 

「ならば話は早いというもの。覚えておくといい老人たちよ、何者もあなた方の願いたるリリスすらも私を止める事は叶わないということを」

 

 ゼーレのメンバーが一斉に視線を向けてくるもゲンドウは表情一つ変えない。ただ、その視線が何処と無く憐憫に満ちたものが多分に含まれているような気がした。

 

「憐れなものだ。所詮、貴様の望みなど幻想に過ぎない。今からでも遅くは無い現実を見据えるのだ、碇」

「こちらにはアダム及び、リリスがあり、生命の樹の触媒たるロンギヌスすらある。望みは叶う」

「叶わんよ、碇。それは誰もが一度は望み、そして絶望する幻想の理、人に過ぎない我らでは望み得ない欲望の権化。力ある使徒ですらそれは叶わないだろう。使徒もまた神ではないのだから」

「それならばリリス、アダムそしてエヴァを使いきってでも私は神に至るまで」

「無駄だよ、碇。あれは神ですら叶わないのかもしれない。神話の時代、それを唯一行えたものがいたかもしれないが、その先に待つ破滅は逃れられなかった。それが今の世界だ」

 

 苦虫を噛み潰したかのような表情でゲンドウはずれ落ちたサングラスを上げる。

 

「あなた方はそうまでして私に絶望を与えたいのですか。それともそうやって脅せば私が止めるとでも?」

「絶望でもなければ脅しでもない、歴然とした事実だ」

「話にならないようだ。もう戯言は止めましょう、あなた方は行動を起こす、私はその前に己の願いを叶えるだけだ」

 

 その言葉に何処と無くゼーレメンバーが落胆するような雰囲気を醸し出していた。その中で唯一モノリスではないキールが涙を零してバイザーが火花を上げる。

 

「ここまで言っても理解できぬか、碇よ。そこまでしてあれに至りたいと言うのか、碇よ。ふふ、逆にお前のその鋼鉄のような願望に敬意を表したいほどだ、碇よ」

「………」

「そこまでの想いがあるならば、我らの妨害を止めて見事叶えて見せよ、我らすべての人間が辿り着けぬ『リア充神』の頂へ」

 

その空間が静寂に包まれる。

 

「ふっ………え? ……は?」

 

 唯一人、混乱を極めるゲンドウの言葉にならない声だけが響く。

 

 

 リア充神――リア充のその先、リア充王をすらも超えた存在だけが名乗れる称号である。リア充王ならば人の身でも十分なりえる称号であり、今の世が世ならばサンクキングダム正統後継者たるミリアルド・ピースクラフトはそれに最も近い存在だった。しかし、残念ながら国は落ちてしまい王となれなかったミリアルドはそれを手にする事が遂に出来なかったのだ。

 

 これらの事実から今の世でリア充王の称号を得るということは夢のようだと非リア充からは信じられている。

 

 そして、それを超えるリア充神、まずそれを名乗るためには人間が神に至らなければならないという中二病も真っ青な条件が前提である。そして万が一、いや億が一、兆が一、京が一、極が一、もう那由多が一、神に至れたとしてもそこから今度はリアルを充実させなければならないという過酷な試練が待ち受けているのだ。神に至ることすら幻想のような事なのに更にリアルを充実させなければならないという条件にかつて人間だった存在に果たして出来るものなのだろうか、ゼーレのメンバーは考えながらもその無謀な夢を死海文書によって本気で叶えようともした。しかし、結果は先に待つ絶望と神話の時代、それに近い存在が非リア充という破滅を招いていてしまった事実を知っただけである。

 

「ふふ、久々に意気の良い願望を持つものに会えたようだな、お前たち」

 

 キールの言葉にモノリスたちが野太い雄叫びを上げた。それはもう歓喜に震えるようなものだった。

 

「えぇぇぇぇぇ」

 

 勝手に望みを決め付けられ、こちらとしては勘違いされたゲンドウの絶句と共に紡がれる驚きなど何のその、ゼーレメンバーは勝手に盛り上がる。

 

「我らゼーレとは非リア充なる存在が集いし秘密結社」

「えぇぇぇぇぇ」

 

 02のモノリスがそう言えば、ゲンドウは今知った真実に驚きを見せた。

 

「我らは一部のリア充を望まない。全ては平等を目指すのがその理念」

「えぇぇぇぇぇ」

 

 05のモノリスが語る理念に従っていたのかというと呆れを抱きながらもゲンドウは驚きを見せた。

 

「そう、それは隠れリア充もまたその標的である事を忘れてはならない。いかに隠そうとも我らの目によって暴いて見せよう」

「えぇぇぇぇぇ」

 

 04のモノリスが声高らかに宣言した、くだらない言葉にゲンドウは驚きを見せた。

 

「そしてこの度、我らの目は隠れリア充を発見する事に成功した」

「えぇぇぇぇぇ」

 

 06のモノリスが言った言葉に、見つけられた人可哀想だな、だと人事に思ったゲンドウがお馴染みの声を上げた。

 

「隠れリア充碇!! 隠れリア充ゲンドウ!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 03の自分を指す叫び声にゲンドウは驚愕して声を上げた。

 

 そして最後にバイザーをショートさせたキールが不気味な雰囲気を醸しながらも不適に笑ってみせる。

 

「我ら非リア充よりも隠れリア充たる、貴様が望めばもしかしたら叶うかもしれない」

「えぇぇぇぇぇぇぇ」

「我ら個人としては貴様がリア充神になる様を見てみたいような気もする」

「えぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 もう、本当の望みを正せない雰囲気にゲンドウはどうしてこうなったのかというツッコミを内心で行いながら声を上げた。

 

「だが、それはそれ、これはこれ、我らが悲願、全てを遍く平等にすることを成就させるために」

「えぇぇぇぇぇぇぇ」

「神と人は死を持って一つとなるべき時がきた」

「えぇぇぇぇぇぇ」

「うむ……すまない、碇。だから死を君たちに与えるしかない」

「!? えぇぇぇぇぇ」

「仕方が無いのだ、隠れリア充は許せん。もしも貴様が本気で望みを叶えたければ」

「えぇぇぇぇ……」

「抗って見せよ、碇。我らゼーレに……いや、かつて神にまで至らしめた憐れな非リア充体ゲベルの……そのおぞましき思念に」

「!?」

 

 

 

 ネルフが所持する死海文書に記されていない不明の名を聞いて驚愕するゲンドウを最後にその空間は閉じられた。

 




 次回 終わりの始まり






 次回もサービス、サービス……これにて、間幕は終わりです。次回から再びストーリーが始まります。


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第一話




遅くなりました、始まります。

ただ、今後もゆっくりとした投稿になります。


「皆、本当にいいのね?」

 

 各々のエヴァが格納されている格納庫前の廊下でミサトは問うように、そしてどこか憂いを帯びた眼差しで言った。

 

「構いません、僕らは死にたくない。そしてミサトさんたちにも死んで欲しくない。だから同じ人間とでも戦います」

「そうね、あたしはエヴァに乗ることに誇りを持っているの。それを他の誰にも穢されたくないわ。なら戦うしかないでしょ」

 

 シンジとアスカが力強く頷いた。その姿にミサトは申し訳なさそうな表情を浮かべて謝った。

 

「ごめんなさいね、私たち大人が不甲斐ないばかりにあなたたち子供が嫌な思いをする。使徒ならまだしも人間を相手にするなんて、私たちは何のために戦ってきたのかしら」

「おいおい、そんなの明日を生きる人のために決まっているだろう?」

 

 項垂れるミサトにプラグスーツを着たカガリが声を掛ける。

 

「あんたはこのネルフの参謀なんだろう、だったら悲壮感を漂わせてないで景気良く送り出してくれなきゃ困るぞ」

「え、カガリさん。もう着替えたんですか!?」

「さすが、姉御。もう戦闘態勢に入っているのね、あたしたちも負けてられないわ、シンジ、行くわよ!!」

「あ、待ってよ、アスカ」

 

 一目散に走り出したアスカに続くようにシンジも駆け出した。残されたミサトは苦笑気味にそれを見送ると件のカガリに振り向いて先ほどと同じような憂いの表情を浮かべる。

 

「カガリさん、あの子たちをお願いね」

「ああ、任せろ。レイからも頼まれているからな、必ずこの戦いに生き残らせてやる」

「それで、レイの奴は今回も単独行動するつもりなの?」

 

 この場にいなければならない姿が見当たらず、そう問えば、カガリは苦笑気味に頷いた。

 

「あいつは内部の敵と戦わなければならないからな。本命の動向を見守っているんだろう」

「そう……碇司令が行動を起こすとき、彼女は動くのね」

 

 カガリが僅かに驚きを見せれば、ミサトは不敵な笑みを浮かべた。

 

「こっちだって情報は得ているのよ。碇司令はセントラルドグマにあるリリスを使って独自の人類補完計画を起こすつもりね?」

「ああ、レイが言うには悲しくも尊い願いを叶えるため、この世界を犠牲にするつもりらしいが、それは―」

「今を生きる者にとってはた迷惑な願いというわけよね」

 

 その最たる存在がロンドベルに在籍しているものたちだろう。彼ら決して戦う前から逃げ出す補完計画認めない。そしてそれはチルドレンたちにも言えることだ。

 

 ミサトは強い眼差しでカガリを見据え告げる。

 

「いいわ、カガリ。命令を告げます。この先、ネルフ本部に楯突く全てのものをエヴァによってなぎ払いなさい。けれど決して無理はしないこと、最優先はあなたたちの命だと言う事を忘れないで」

「了解、これよりあたしたちはエバに待機、敵が現れ次第掃討作戦を開始する」

「ネルフ内部での白兵戦に関しては私たち大人に任せなさい。あなたたちは外の敵だけを考えて」

 

 最後は苦笑で言い終えた。それ対してカガリは笑顔を浮かべる。

 

「なら絶対死ぬなよ!!」

「……それ、フラグになりそうだから止めてよね、縁起でもない」

「そうか……なら、絶対死ねよ!!」

「それこそ縁起でもないから止めなさい!! フラグの意味分かっているの!?」

「我侭だな」

「なによ、私が悪いわけ!? 違うでしょ、天然のあんたが悪いのよ!!」

 

 ツッコミが久々で肩を上下に動かしながら荒い息を吐き出すミサトとツッコミ力に感動して目をキラキラさせているカガリの耳に警報が鳴り響いた。

 

「はぁ、はぁ……どうやら、始まったようね。何で私は始まる前から疲れているのかしら…まぁ、いいわ。カガリさん、後はお願いね」

 

 そう言うと、ミサトは司令本部に向けて走り出した。それを見送ったカガリも4号機格納庫に向けて歩き出す。

 

「外と内……すべてを終わらせて未来を勝ち取るぞ、レイ」

 

 

 拘束具に押さえ込まれた4号機に乗る際、ここにはいないレイに想いが伝わるよう願いながら呟いてカガリはプラグに乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++

 

 

 

 

『今朝、連邦政府及び日本政府によりA801が発動されてから三時間たちます』

 

 廊下を歩くミサトに内線端末でマコトから伝えられる。

 

『特務機関ネルフの特例による法的保護の破棄、指揮権の連邦政府への委譲がその内容ですが、既に発令されていると思われます。最後通達ですね』

 

「そう、概ね予想通りの展開ね」

 

『午後零時丁度を持って地上及び外部との連絡が一切絶たれました。職員の携帯も含めてのようですから特殊なジャマーによるものと予想されます、これにより作戦行動は開始されたと見て間違いないでしょう』

 

「本命はここの要となるMAGIオリジナルの奪取が目的よ、それについてはどうなの?」

 

『そんな! 今ちょうどMAGIに対して五カ国に配置されていたMAGIタイプによるハッキングが開始されました!』

 

「一対五なんて分が悪いにも程があるじゃない!」

 

 端末を耳に当てて親指を噛みながらこれ以上事態の悪化を防ぐすべを考え込んでいるとマコトの焦る声とマヤの感激する声が聞こえ、何故か次に聞こえたのは同じくマヤの悲鳴だった。

 

「どうしたの!?」

 

『葛城三佐、大変です!! 先輩が、リツコ先輩がご乱心です!!』

 

「何ですって!?」

 

 端末から何かを奪い取るような音が聞こえると低い憎悪に満ちたようなオドロオドロしい声が耳に入る。

 

『……ねぇ、ミサト……あのクソ野朗は何処にいるのかしら……』

 

「り、リツコ、何があったの!? と言うか、今までどこに行っていたのよ!」

 

『ねぇ、教えなさい、ミサト……教えてくれたらMAGIに第666プロテクトを掛けてあげる。あれなら、本部直接占拠までの間くらいは保たせられるわ、どうする?』

 

 それは悪魔に魂を売るような選択にどこか似ていた。それほどにリツコの声は恐ろしかったのだ。きっと教えたら最後、我らが総司令はリツコによってきっと地獄に落されるだろう。クソ野朗という言葉だけですぐさま総司令に辿り着くミサトもまた酷いが、それならば導き出される応えは簡単である。

 

何て素敵な選択だ。そう瞬時に判断したミサトは司令がいると思われる場所を即座に回答した。

 

『そうなのね、あの場所に…気の早いこと……待っていなさい、クソサングラスが……私のこの手で息の根を止めてくれる』

 

 

 端末を強制的に切られ、ミサトは身震いしながら司令本部に向かう。

 

 

 

 

 

 

 司令本部の何時もの場所、第一発令所に辿り着いたミサトは震えながら作業するこれまた何時ものメンバーと顔を思いっきり腫らしたコウゾウが出迎えた。

 

「あの、副司令……その顔はどうしたのですか?」

 

 最初に一番目に付くコウゾウに問いかければ何時もの渋い表情を浮かべたいのに浮かべられない間抜けな表情で明後日の方向に視線を合わせた。言いたくないらしい。その他のメンバーに視線を向ければ皆一様にして思い思いの場所に視線を合わせて目を合わしてくれない。

 

「……リツコがやったんですね」

 

 リツコというワードを告げた瞬間、目に見えて彼らが怯え出した。

 

「それで、当のリツコはどうしたの?」

 

 この場所にはもうリツコの姿は無かった。

 

「えっと、赤木博士はMAGIにプロテクトを僅か二十秒で掛け終えるとゲームのような部屋を徘徊するゾンビの歩き方で出て行きました」

 

 眼鏡を何度も押し上げる仕草を行いながらマコトが告げてきた。

 

「そう……今回の事が終わったら皆で総司令に線香でも上げに行きましょう。副司令もそれでよろしいですね?」

「ああ、かつてのキョウコ君を彷彿とさせる闘気だった。碇も年貢の納め時だな。私もこれだけで済んだのが奇跡的だよ」

 

 やはり、顔の腫れはリツコによるものだったらしい。そして何気にゲンドウの終わりを見据えるコウゾウは割りと酷いだろうが、この場所に居るものたちにそれを指摘するものはいなかった。

 

「さて、戦況はどうなっているの、マコト君」

 

 切り替える意味も込めて明るい声色で戦況を聞くミサトに皆も忘れるようにして明るい表情を浮かべる。これでも本部を占拠せんと白兵戦が仕掛けられている最中なのだ。

 

「第六、第七、第八リフトよりエヴァ三機が浮上、命令通りジオフロントに配備させました。それと外部との連絡は未だに取れませんが、センサー類は先ほど回復させました……赤木博士が」

 

 最後の方は小声で告げたマコトの肩に優しく手を添えてミサトは笑みを浮かべ頷いた。それだけでマコトの恐怖は緩和する。

 

「センサー類の回復により地上に展開する部隊を補足、モビルスーツ部隊と思われます」

 

 シゲルがデレ顔のマコトの変わりに告げた。

 

「OZは壊滅、ティターンズも解散しているのに。何処にそんな余裕が」

「その通りだ、今の連邦に力は無い、だからこそ考えられるのはゼーレの介入で再編されたティターンズによるものだろう」

 

 コウゾウの言葉にミサトが眉を潜める。

 

「ゼーレにはそこまでの力が?」

「ああ、老人たちは金だけは溢れるほどにあるからな、失墜した議員を買収して再編させるのも難しくは無い、まして我々ネルフは独自の権限を持つことから連邦政府にとっては眼の上のたんこぶのような存在だからな」

「ホント、ろくな金の使い方をしない連中ね。その金で余生を過ごせばそれなりに充実したでしょうに」

「まったくだ」

 

 仮にミサトの言葉を聞いたゼーレメンバーがいれば反抗しただろう、それはリア充ではないと、それでは駄目なのだと。

 

「外はあの子たちに任せましょう。それで、歩兵部隊に関してどうなっているの?」

「考えられる予想経路には既に武装した職員及び、開発班整備班の合同開発で作られた強力な兵器が配置されています」

 

 マヤによる報告にミサトは再び眉を潜めた。

 

「うちの連中、仲が悪いはずなのにどうして。それに強力な兵器なんて何時の間に作ったのよ。私ら予算を抑えられたでしょう」

 

「それが、彼らによると同志の言葉に従ったまで、という言葉の一点張りで要領を得ないんです。その後、『こんな事もあろうかと』と言う言葉はロボダインのロマンだとか叫びだして収集が付かなくなり断念しました」

「分かった、整備班主任に通信繋いで」

 

 命令を受けてマヤがパネルを操作すれば主任と繋がる。

 

「私です、端的に兵器開発の経緯を教えなさい」

 

『同志に願いを叶えたまでだ』

 

「同志とは誰?」

 

『同志パイロット綾波レイに決まっているでしょうが。俺らにとってあの人は総司令官より尊いお方なんだよ!』

 

「つまり、レイはこの事態を予測して予算があるうちにコツコツと開発していた、それで間違いないわね?」

 

『ああ、そうだよ!! いい加減通信を終えさせてくれ、まだ職員に渡していない兵器や配置しなければならない決戦兵器があるんだよ。そっちにも渡しただろう? プラズマ小銃やガトリング砲、ロケットランチャーや高電磁地雷なんかをよ』

 

「分かりました、無理しないで戦闘が始まったら退避しなさい」

 

 通信を切るとミサトは改めて司令本部を見渡して入り口になりそうな箇所に設置された物々しい武装に頭を抱えた。自動集準のガトリング砲や近未来万歳とツッコミを入れたいプラズマ兵器、職員が持つ武器も正規の兵士が持つ武装の軽く上を行く品揃えだ。

 

「これじゃ、ここに攻めてくる部隊が皆殺しに合うだけじゃない。どんだけ強力な武装を用意しているのよ」

「ここで働くものたちは皆一級品だからな、資金や資材があれば容易い事だろう」

 

 コウゾウの言葉にミサトはもう乾いた笑みを浮かべるしかない。白兵戦闘経験という陳腐な差では埋められない武装の豊富さに内心、命令で攻めてくる部隊に合掌を行った。

 

「ホント、レイには驚かされるわね。未来予知でも出来るのかしら」

「言いえて妙だな。それもありなんと言ったところか。彼女には驚かされるばかりだ。しかし、これで職員の無駄な死体は見なくて済む。攻めてくる向こうの部隊の死体は積みあがりそうだが、まずは地表を壊す――!!」

 

 コウゾウが呟いた直後、警報と共に凄まじい衝撃が本部に響き渡る。

 

「どうなっているの!?」

「地表推積層、融解、これによりジオフロントが地上に露出!! N2兵器によるものと思われます!!」

「予想通りとはいえ……無茶をしてくる」

 

 マコトがモニターを見ながら報告すれば、コウゾウは呆れたようにため息を吐いた。

 

「あの子たちは!?」

「エヴァ三機、本部を守るように展開、ATフィールドで衝撃を遮断してくれたようです」

 

 マヤが嬉しそうに報告してきた。

 

「ホント、あの子たちは優しいのに……そんなあの子たちの大切なエヴァを欲しがろうとする奴らは死ねばいいんですよね!」

「そ、そうね……随分アグレッシブな発言をするようになったわ、伊吹マヤ」

 

 ロケットランチャーを構えながら鼻息荒くも宣下するマヤの姿にミサトは内心ドン引きする。ここに敵が攻め込めば、今のマヤならば躊躇無くミサイルを撃ち込むだろう。仲間としては心強いものの違う意味で逞しく成長した後輩が少し怖い。マコトやシゲルも若干顔を引き攣らせていた。

 

 再び警報が鳴り響く。

 

 むき出しの地上から数十体にも渡るモビルスーツが降下してくる警告が立体パネルで映し出され、同時にミサトの元に侵入部隊と先発隊に所属する職員の戦闘が開始されたとの報告が入った。

 

 ミサトは全職員に向けて通信を繋げる。

 

「これより白兵戦を開始します。皆、外で戦う子供たちの憂いにならないよう敵は必ず殲滅しなさい。それが子供に未来を託す事しか出来なかった我々大人のけじめです。以上、通信終わり。最後に……皆、奮闘を期待する」

 

 

 

 通信が切られた直後、各所の重要な施設で武装した職員たちが次々に戦闘に参戦していく様がモニター映し出された。

 




 次回 決戦 モビルスーツ部隊






 次回もサービス、サービス……ひぃぃぃ、前回から一週間以上も経っている。そして、今後も遅くなるというかんじ……申し訳ないです、ホント。


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第二話

Qカヲ「やれやれ、この世界の君は憐れだね」

中二カヲ「な、何だい、いきなり現れて!?」

Qカヲ「君の心は中二病に犯されてしまっている」

中二カヲ「ドキッ! ど、どうして分かった!?」

Qカヲ「いや、逆に分かりやすいだろう」

中二カヲ「はっ! 本当だ!!」

Qカヲ「……君は憐れだけでなく、馬鹿なんだね」

                
                 続く?




 始まります。


 

  

 

 順々にリフトアップされたエヴァ各機に搭乗するチルドレンは自分たちより先にリフトアップされた武器庫を抉じ開けて、思い思いの武器をその手にすると本部の周りを囲うようにして待機する。

 

 4号機の中、カガリは瞳を閉じて静かな息づかいを心がける。自分の役目はシンジたちを生き残らせつつ、敵を殲滅する事、その為には自分が冷静でなければならない。こういった状況では熱くなりやすい自分を理解したうえでの配慮だ。操縦桿を握る腕が震えているのはご愛嬌である。

 

 ふと、背後に気配を感じて瞳を上げれば、色白のそれでも男の腕がカガリの腰を掴むようにして重ねられていた。それ以上に主張するのは背中に感じる確かな重みと人肌。こんな事をするのは、

 

「カヲル」

 

 自分に好意を持つ奇特な元使徒しかいない。

 

「大丈夫だよ、カガリ。シンジ君たちは弱くない、それにアスカさんの乗る機体は僕以上に化け物だ。ゼーレ如きにやられるはずないじゃないか」

「…そう、だな」

「だから、カガリはカガリらしく猪突猛進であればいい、彼らはきっとそれに付いて着てくれるよ」

「私らしく」

「そう、僕が好きになったカガリらしくあってほしい……それに僕も応えて見せるから」

 

 ぎゅっと腰に重ねられた腕の締め付けが僅かに強くなる。それがカヲルの想いの強さに思えて安心する。

 

「……うん、そうだな、ここにいる皆できっちり殲滅して本部に帰ろう!!」

「それでこそ、カガリだよ。安心して、僕は最後まで君の味方さ」

 

 その声と共に首筋に落された柔らかい何かの感触を最後に背中の温もりが飛散する。コアに戻っていったようだ。

 

 カガリに燻る不安感を取り除いて颯爽と還る彼氏に愛おしい気持ちと、それ以上に恥ずかしい気持ちが折り重なってプラグ内で悶えていればアスカから通信が入った。

 

『もうすぐ向こうの作戦が開始されるはず……って、姉御大丈夫なの!?』

 

 ちょうど羞恥がマックス状態でブリッチするような格好で悶える姿を見咎め驚きの声を上げた。

 

「だ、大丈夫だ!! ああ、大丈夫だとも!! こんなのはあたしのキャラじゃない!! すぐに不死鳥の如く復活して何時もの天真爛漫カガリさんをあなたの目の前に!!」

 

 不安定なプラグ内の中で完璧なブリッチの形態を取ったカガリの姿を見て綺麗な形と内心で冷静に判断しながらもアスカが叫ぶ。

 

『姉御が壊れた!? どうしよう、シンジィィィ!!』

 

 悶えるカガリ、焦るアスカ、そんな二人に向けてシンジの怒声交じりの通信が入る。

 

『何やってるんですか、二人とも!! ジオフロントの天井が!!』

 

 告げられた事実に二人は瞬時に真面目モードを展開、ジオフロントが融解する様を視界に捕らえるとカガリが声を張り上げる。

 

「頭上にATフィールド展開!! 本部を衝撃から守るぞ!!」

 

 エヴァ三機が淡い赤い光りを発生させると本部上空に三機分の巨大なフィールドが現れる。それは融解の次に発生した衝撃波とそれにより崩壊したビル群から本部ビルを無傷で守り通した。

 

 直後、アスカから緊急通信が入る。

 

『姉御!! ジオフロントに開いた穴から機影を確認したわ、やばいわよ、総勢五十のモビルスーツタイプ!』

 

「開いた穴に向けて長距離射撃武器で牽制、少しでも数を減らすぞ!!」

 

 カガリは即座に作戦を告げた。

 

『了解、弐号機はこれより攻撃を開始するわ』

 

 両肩で支えていた大型バズーカ砲を構えると気合の声を上げながら全弾撃ち出した。これによりジオフロントの穴が爆煙で隠れると今度はその爆炎を掻き消すようにビームの筋が放たれる。初号機が肩ラックにコードを接続させた長距離改良型ポジトロンライフルだ。S2機関搭載だからこそ可能となった高威力のポジトロンを発生させることに成功、これにより従来よりも距離と威力を伸ばす事に成功した。これもまた開発班、整備班の血潮に掛けた結果だ。理論上、段数制限なしの決戦兵器と呼べる。

 

『アスカ、次の武器を!!』

 

攻撃が止まないようビームの筋を撃ち出してアスカを促すと心得たとばかりに武器庫目指して走り出す。

 

 ところが、幾重にも放たれたビームはやがて止まってしまう。

 

 そう、残念ながら砲身の強度上、エネルギーは無尽蔵でも段数制限が設けられているのだ。この隙に残存のモビルスーツ部隊が爆煙から飛び出してくる。

 

 しかし、今度は先ほどよりも太い光りの筋が上空に展開するモビルスーツを薙ぎ払う。4号機が設置したこれまた改良型ポジトロンスナイパーライフルである。

 何重ものコードを独特の肩ウェポンラック――この武器のため作られた――にあるエネルギー変換機に接続して物々しい砲身が煙を上げながら上空に伸びている。

 

 最初に登場した馬鹿にエネルギーを必要とした問題を威力低下によって解決した従来のポジトロンスナイパーライフル、それを威力底上げの部分だけ改良、S2機関のおかげでそれも可能となり、従来の三倍、最初のものの半分の威力まで底上げされた代物だ。

 

「シンジ、あたしたちの隙を突いて地上に展開し始めた部隊をお前は相手してくれ、アスカが最後にデカイ一発を撃ち出したら、あたしたちもそのまま参加する」

 

『了解、これより初号機は残存勢力と戦闘を開始します』

 

 ライフルのコードを引き抜いて初号機がマゴロクとカウンターソードを構え、地上に続々と降り立つモビルスーツ部隊に向けて駆け出した。

 

 それを見送りながら四発目のビームを撃ち出すとプラグ内で警報が鳴り響く。どうやらポジトロンスナイパーライフルの砲身がどろどろに解けて使用不能になったようだ。

 

『丁度いいわ、姉御。最後の花火上げるわよ!!』

 

 弐号機が構える一見して唯のミサイルランチャーに見えるそれは射撃武器の中で一番の威力だ。砲身というより、その中にあるミサイルが敵に決して優しい代物ではないことを自分たちは知っている。

 

『惣流家訓、目には目を、歯には歯を、暴力には暴力を!!』

 

 噴煙を撒き散らし撃ち出された小型のミサイルは誘導されるかのごとく穴に一直線に飲み込まれた、直後、凄まじい光りと共に衝撃波が発生、ジオフロントの天井はこれにより意味を成さないほど崩壊した。もちろん、衝撃波に関しては4号機がきっちりと本部を守る形でフィールドを発生させ、無傷である。

 

『汚い花火、これだからN2兵器は嫌いだわ』

 

 向こうの部隊もまさかネルフが密かにN2兵器を所持して使われるとは思ってもいないはずだ。これもまた、レイが同志に指示したことによるものである。

 

「そう言うな、これで少しは仲間を守れると思ったら安いもんだぞ」

 

『それは理解しているのよ、姉御。でもね、惣流は拳一つで仲間を守り、裏の世界で成り上がったの、あたしはその血を誇りに思っているから』

 

「なら話は簡単だ、今度はその拳でシンジを手助けしてやれば良い」

 

『な!? ど、ど、どうしてそっちの話になるのよ!!』

 

 映し出されるアスカの顔が一瞬にして沸騰する。それを見てケラケラと笑ったカガリが内心で意趣返しできたと喜んだ。自分の悶える姿を見られたのだ、こちらもアスカの慌てる姿を見せてもらわなければフェアじゃない。

 

「さて、あたしたちも残存部隊を相手にするか」

 

『ちょっと、姉御!! 聞いているの!?』

 

「はいはい、聞いてるよ、シンジだけじゃない、あたしもアスカの力を頼りにしている」

 

『そ、そう、そうよね。あたしの力は姉御のためでもあるんだから。そりゃ、あいつがやられそうになったら死んでも駆けつけるけど…って何言ってるの、あたしは!!』

 

 顔を赤くして捲くし立てるアスカに向けて不意にカガリが真面目な声を上げる。

 

「アスカ、急ぐぞ。どうやらシンジは有人タイプのモビルスーツ、それもエース級の相手に手間取っているようだ。所々、フィールドを貫かれて被弾している――」

 

『シンジィィィィ!!! 待ってなさい、今助けに行くわよぉぉぉぉ!!』

 

 アスカの叫び声と共に弐号機が勢い良く駆け出した。その際、フィールドを展開、それを衝撃波のように打ち出していた。

 

「ように見えたが、あたしの勘違いだったらしい……と聞いていないか、もう」

 

 初号機と共にエース級のパイロットが操縦するモビルスーツを千切っては投げ、フィールドを展開しては打ち出して一方的に破壊するという、言葉通り蹂躙している様を眺めながらカガリがポツリと呟いた。

 

 ちなみに先ほどのやり取りは本当にそう見えていたから言っただけであってカガリに他意はない。むしろ、置いていかれて寂しい気持ちを抱いていたくらいである。

 

 

 

 やがて、やけに抵抗する一機のモビルスーツ、バウンド・ドッグを初号機のマゴロクソードが仕留めるとすべてのモビルスーツ部隊が壊滅、束の間の平穏がチルドレンたちに与えられた。

 




 次回 Air/その辺りの話を君に 1






 次回もサービス、サービス……その辺りの話をお届けします。お時間は頂きますが…申し訳ない。






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第三話

中二カヲ「馬鹿にして! 君こそ、言葉の端々が中二臭いよ!!」

Qカヲ「僕の言葉は純然たる事実さ。人間が神になれないのと同じようにね」

中二カヲ「クサッ!! 中二クサッ!!」

Qカヲ「別に構わないよ、僕にはある子を幸せにすると言う崇高なる目的があるんだ。君如きに中二病扱いされても痛くも痒くも無いよ」

中二カヲ「ぐぬぬぬぬ、同じ顔なのに負けた気がする!!」

Qカヲ「勝ち負けに拘る時点で君の器のでかさが知れてしまうよ?」

中二カヲ「うわぁぁぁぁぁん(泣)」

 何処からか駆けつけてくる足音が聞こえる。

カガリ「誰だ!! カヲルを泣かした奴は!!」

Qカヲ「僕は君を知らない……誰だ?」



               続く? 






 始まります。


 

 

 闇に閉ざされた何も無い空間、その場所に集う十二のモノリスたちにスポットライトのような光りが当たる。先のネルフ本部襲撃の戦況を聞き及び、集結していたのだ。

 

『やはり、モビルスーツでは荷が重かったか』

 

 11と記されたモノリスが告げると、他のモノリスたち、毎回集まっているほうの連中、が一斉に良いとこ取りするな、この仮病野朗と文句を上げた。

 

『仕方がないこと、我らは恐怖を感じる不完全な群体にすぎないのだから』

 

 10と記されたモノリスが厳かに告げるも、カッコ良いこと言ったつもりでもやっている事は小学生のずる休みに使う理由を述べて布団の中、震えていただけだから、というツッコミが尽かさず入った。

 

『くくっ、それでも我らは再び舞い戻ってきたのだ。人は弱くもあり、強くもある、そうだろう?』

 

 07と記されたモノリスが、先ほどからあらぬ空間に12の数字を向けているモノリスに対して忍び笑い含めながら言い放った。しかし、馬鹿にしたようなあからさまな言葉にも12と記されたモノリスは沈黙を貫いている。

 

『止めてあげなさい、07、彼は――』

『てめぇは黙っていろ、09!! この裏切り者め、生死をさ迷ってそのまま死ねば良かったものを!!』

 

 窘める様に09が言葉を放つも、01のキールが遮るように怒鳴り散らして黙らせた。

 

 発言をさせてもらえない09が嗚咽を漏らしながら言い訳染みた言葉を吐き出すも、その声を拾うものはこの場所にいない。この場所にリア充は不必要なのだ。

 

 そんな中、沈黙を貫いていた12がポツリと呟き声を上げる。

 

『金髪の年増も青髪の年増も無理だった……もういい、死にたい』

 

 先ごろの合コンで失敗した奴だった。

 

 死にたいと呟いたりするもの、09を糾弾するもの、ずる休みをしたモノリスにネチネチと嫌味を聞かせるもの、中々のカオス空間に一つのモノリスが言葉を発した。それは全てのモノリスに一瞬で浸透して静寂させる。

 

『もう良いじゃないか、生きていればなんでもよい。我はそれをあの地獄から学んだよ』

 

 08と記されたモノリスの言葉は深く、そして重い。

 

『良くぞ、還ってきた』

 

 01を始め、全てのモノリスが再開を喜んでしまうのも無理は無い。08のモノリスは先ほど、ゼーレに従う信者によって命からがら監禁及び拷問部屋から助け出され、この場所に集う事が出来たのだ。

 

『さて、これで我らは揃った。なれば祝音を盛大に鳴らさなければならん。その為には立ちはだかる忌むべきエヴァを排除せねばなるまい。我らが悠久の平穏と平等、空から飛来する災厄から人の存在を残すため、毒を持って毒を制止するだろう』

 

 代表のキールがそう宣言すれば粛々とそれを受け入れるモノリスたち。

 

『いささか、数は少ないが致し方あるまい。これよりエヴァ初号機を人柱として人類補完計画を発動させる。ただし、09、てめぇは駄目だ!』

『!?』

『冗談だ、最後は所詮一つとなるのだから』

『ほっ』

 

 モノリスたちが機能を止めるかのように次々とフェイドアウトしていく。そして最後に残された01、キールもまたこの空間の闇に溶け込むかのようにフェイドアウトしていく。その寸前、キールの口が僅かに開いた。

 

『もしも我らの願いが叶わなかった暁には…あれに寄生してしまった悲しき怨念が顔を出すかもしれん』

 

 すべてのモノリスが消え去りその空間は闇が支配するだけの場所となる。

 

 最後にキールの声が響く。

 

『しかし、それもた、我らに相応しい終わりかもしれんか……何者!?』

 

 

 

 荒げるキールの声とそのすぐ後に聞こえてきた鈍い打撃音を最後にその場所は完全な無音になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 ミサトからネルフ本部を急襲してきたモビルスーツ部隊及び、侵入部隊が撤退した旨を4号機の中で聞いたカガリはぽかりと開いた上空を見上げた。晴れ渡る空が眩しい。

 

「これから、か」

 

 最後にレイと会話した時、彼女は警告していた。これから先、この場所に現れるエヴァが自分たちにとって最大の敵になるのだと。九機にも及ぶ量産型エヴァンゲリオン、飛行機能を搭載した軽量型のそれは装甲が薄くも非常に優秀な再生機能を持ち合わせているらしい。

 

「決して油断せず、確実にコアを潰すこと」

 

 これに尽きるとレイは口を酸っぱくしながら告げてきた。その助言を無駄にしないためにも気合を入れなおす。

 

 警告音と共に上空に現れた九機の奇怪な戦闘機、その下腹部に埋まるようにして存在する白い何か、戦闘機はそのまま上空を移動しながらその白い何かを躊躇無く落した。

 

九つのそれは落下しながらも天使のような白い翼を広げ、悠々と上空を飛び始める。やがて地上で見上げるエヴァ三機を嘲笑うかのように規則的な動きで上空を旋回しだした。

 

『エヴァシリーズ……完成していたの』

 

 通信からアスカの憤りを孕む低い声が聞こえてきた。それにカガリは頷いて肯定する。

 

「最後の総力戦だ。あたしたちだけであれを消滅させる」

 

 自分と同じようにレイの助言を二人に伝えるとそれぞれ了承した。

 

『でも、僕たちだけで大丈夫かな』

『あんた今更何言ってんのよ、ロンドベルはまだ木星圏内で立ち往生、あたしたちでやるしかないじゃない』

 

「来るか分からない部隊を当てにして戦えば、油断を招く。大丈夫だ、シンジ。お前はこの二週間で強くなった。あたしやレイのお墨付きだ、アスカもそう思うだろう?」

 

『そうね、あたしも油断できないくらいには強くなったと思うわ。所詮、エヴァを動かすのはイメージ力、それを養うには身体も鍛えないと駄目なわけだけど、それさえ培われれば、後はママたちが応えてくれるはずよ』

 

 この二週間、シンジはレイの監修の元、カガリとアスカによって身体を鍛えられた。むしろ拷問に等しい扱きだったとシンジは断言している。

 

 たかが二週間、されどその二週間で体に刻み込まれた苦痛は逆に相手を破壊するイメージとなってそれを糧にするエヴァにフィードバックされるだろう。

 

 

「あたしたちは強い、例えそれが想いだけでも、言葉だけでも、このエバに乗っていれば可能にしてくれる」

 

 4号機のツインアイが鈍く光る。

 

 

『きっと、独りだったら心細かったかもしれない。ううん、最悪やられていたかも。けど、今は大切な仲間がいる。だから見ていてママ、あたしは勝つわ』

 

 弐号機の六つの瞳が怪しく光り輝き始める。

 

 

『……レイさん、僕は……僕は、あなたに誇れる男でありたい。だからこそ負けません、きっと勝ってみせる』

 

 初号機のツインアイが淡い光りを灯す。 

 

 

 上空を旋回していた量産型が三機を囲うよう地上に降り立つと翼を収納して血の様な唇を開いて卑下した笑い声にも似た声を上げる。瞳がないのにも関わらずその表情は獲物を狙い定めているようだ。

 

「一人三体だ、いくぞ!!」

 

 

 カガリの掛け声と共に本部を守護する三機のエヴァは九体の量産型に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++

 

 

 

「老人は切り札を出してきたか、こちらも急がなければならないようだ」

 

 ゆっくりとした歩みでガブの部屋と呼ばれる場所を踏みしめながらゲンドウがその場に佇む巨人の手のひらを見据えた。

 

 その視線に真っ向から対峙するかのように見下ろすのは零号機の手のひらの上に凛とした姿で立つレイだ。

 

「丸腰で来るか、ゲンドウ。それではお前に勝ち目は無いぞ?」

 

 リリスの魂が込められた零号機を有するレイの言葉は事実だ。この組織のトップであろうとも唯の人にエヴァを止める事は無理な話である。それでもなお、ゲンドウは歩みを進めて零号機に近づいてくる。

 

「そう思うならばさっさと零号機で丸腰の私を排除すれば良い」

 

 レイの格好から出来ないと理解しているからこそ、そんな挑発をしてくる。

 

自分の甘さに内心自嘲的な笑みを浮かべ、零号機に指示を出して手のひらを下げさせる。適度な場所に下げられた手のひらから地面に降り立った。

 

「お前の事だ、切り札の一つぐらいは用意していると思ったからこそ、わしは零号機と共にこの場所へやって来たというに、これでは弱いものいじめだな」

 

 プラグスーツではなく何時もの制服を着ていることからも零号機に乗るつもりなど選択肢の中には無いのだ。幾ら敵とはいえ、唯の人間にエヴァを嗾けるほどレイは落ちぶれていない。何より、あくまでレイにとって零号機は何かあったときの抑止力として連れて来ただけで、初めから嗾けるつもりは微塵も無かった。

 

「切り札か、お前の言うとおりそれは存在する。だが、今はその時ではないようだ」

 

 そう言うとゲンドウから今まで歩いてきた背後を振り向いて口を開く。

 

「どういうつもりだ、赤木博士」

 

 その言葉にレイもゲンドウの背後に視線を合わせる。そこには幽鬼のような歩みでこちらに近づいてくるリツコがいた。

 

 リツコの口元がゆっくりと開き、視線を下げていた顔を上げる。

 

「どういうつもり……ですって……クソサングラスの分際で生意気ね」

 

 狂気を宿した瞳がゲンドウを射抜く。

 

 その眼光の鋭さに思わず恐怖したゲンドウは本能から即座に正座をして頭を下げた。何故か、睨まれていないレイですら土下座をしてしまうくらいの迫力がリツコにはあった。

 

「何が理由で怒っているかは知りませんがごめんなさい、あなたのお母さんがうざくて色ボケババアと言ってごめんなさい、キョウコ君にそっくりな雰囲気は止めて下さいトラウマですからごめんなさい」

 

 ゲンドウが呪詛のように謝罪を繰り返す。レイは黙って頭を下げたままだ。

 

「お前の軽い謝罪如きで私の心に負った傷が癒えるとでも思ったか、このクソが」

 

 もう、サングラスの部分すら外して吐き捨てたリツコがゲンドウの頭を踏みつける。

 

「お前は、この私を、小便小娘の代わりとしてゼーレに売った。そして連れて行かれたあの場所で、あの色ボケクソ老人どもは私の逆鱗に触れた」

 

 足に力を込めたことでピンヒールの角が後頭部に突き刺さるとゲンドウが悲鳴を上げた。レイは下げながらもその様が目に入り、内心で悲鳴を上げる。

 

「分かるか!! 老人たちの前に現れただけで、これ見よがしにため息を吐かれ、まるで私の存在など待っていなかったような雰囲気を醸しだす。呼んだのはてめぇらだろうが、何で私が空気読めよとか、思われなきゃならない!! で、よくよく理由を問いただしてみれば、小便小娘の女子中学生が良かったですって舐め腐るのも良い加減にしろ!!」

 

「ひぃっ、後頭部が痛い、痛すぎてユイとの再開が出来そうですぅぅ!!!」

「まあ、色ボケロリコンクソ老人は私のリークで今頃、日本の暗部に拷問されているだろう。これで一つ、私の傷は癒えた。次はお前らだ、クソと小便小娘」

 

 標的の中に自分も入っているのか、内心で驚愕したレイは頭を勢いよく上げた。

 

「お待ち下さい、リツコ様。わしはあなたが素敵な女性だと常々思っておりました。ただ、わしの事を実験動物のような目で見ておりましたからこそ、あの時は反発してあんな思ってもいない言葉を吐いただけに過ぎません!!」

「あ、ずるいぞ!! 抜け駆け――ぐふっ」

「黙りなさい、クソが」

 

 足に更なる力を込めてゲンドウの言葉を強制的に黙らせた。リツコの狂気を宿した瞳がレイを射抜く。逸らしてなるものかと腹に力を込めてリツコを見つめる。やがてリツコの宿していた狂気が幾分和らいだ。

 

「そう、それは私も悪い事をしたわ。そうね、あんな不快な目は嫌よね、私もクソ老人の視線に晒されて理解したわ。ごめんなさい、レイ。あなたを許すわ」

 

 内心でガッツポーズを作りながらも表面上は無表情でこちらも謝罪を口にすれば、晴れて標的からレイは外された。

 

「さあ、残りはお前だ、いかに懺悔の言葉を述べようとも許すつもりは無いが、な」

 

 懺悔の言葉を封じられ成すすべが無くなったゲンドウの頭から足を退け、髪の毛を鷲掴みにして強制的に顔を上げさせる。

 

「血祭りの時間よ、お祈りは済ませたかしら碇総司令官?」

 

 世界の終焉の前にゲンドウの終焉を告げる言葉が放たれた直後、溜め込まれたLCLの赤い海が水しぶきを上げる。

 

 その様にゲンドウが畏怖にも似た驚きの声を上げた。

 

「馬鹿な、私はまだ命令を下していない!?」

 

 その場所に隠されたゲンドウの切り札がリリスの存在に我慢できず本能に従い浮上する。それを目で捕らえたレイは僅かに目を見開く。それも仕方が無い、目の前の存在は今頃、地上で量産型を相手に奮闘しているはずだからだ。

 

「初……鰹」

 

 

 ツインアイを赤く光らせた初鰹、ではなく初号機が今にも零号機に襲い掛からんと雄叫びを上げていた。

 

 




 次回 Air/その辺りの話を君に 2






 次回もサービス、サービス……思ったよりも早くできてびっくりです、自分が。


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第四話

カガリ「カヲルが二人……これはオーブ都市伝説に伝わる、ドッペルサンダーと言うやつか!?」

中二カヲ「カガリ、あいつが僕をいじめるよ!! 後、ゲンガーだと思う」

 カガリに抱きつく中二カヲ。

カガリ「うん? ゲンガーサンダーだと思ってよく見たら似ていないぞ!!」

中二カヲ「そっちに付けちゃんなんて流石、天然カガリ……でも、違いを見抜いてくれた僕の愛するカガリ!!」

カガリ「抱きついてこない方がイケメンだな!!」

中二カヲ「辛辣だよカガリ!!」

カガリ「けど、あたしの好きなカヲルはお前だけだぞ!」

中二カヲ「うわぁぁぁん、男前カガリ、僕も大好きだ!!」

Qカヲ「あれ、同じ顔なのに凄いイラッとくるんだけど、あいつ」

 Qカヲは中二カヲの顔に唾を吐きかけたくなった。
 

                   続く?


 始まります。


 振り切られるマゴロクソード、初号機にとって三体目となる量産型の首が跳ね、血飛沫が舞う。返す手で白い胸部に向けてソードを突き出すと的確にコア部分を貫いた。パキッという鈍い音を最後に量産型は完全なる機能停止に陥る。

 

 初号機の背後では巧みに量産型の攻撃を避ける4号機がカウンターとしてパレットライフルを撃ちつくし確実に装甲を潰していく。4号機もまたこれが三体目だ。装甲をつぶされ、剥き出しになるコア、しかして既に再生が始まりコアが隠れそうになるのを見逃すカガリではない。足の武器ラックから高性能プログレッシブナイフを二本取り出してコアを貫いた。ナイフから発生した高威力の超振動がコアを直撃、装甲とは違い脆さを残すコアは形を保てず融解する。

 

 二体のエヴァから離れた場所にある湖畔では弐号機が雄叫びを上げながら三体目に暴虐の限りを尽くしていた。惣流の名の通り、武器などは使わず、その腕で量産型の両腕を引き千切り、しゃがみながら繰り出される回し蹴りは足を竦ませるどころか、恐ろしい回転と威力に太ももから下を吹き飛ばす。足を無くした量産型が崩れ落ちる次の瞬間にはその手で頭を握り締め強制的に立たせ、もう一方の腕を胸部に向けて撃ち出した。

 

『これどぇ、ラストォォォォォ』

 

 アスカの雄叫びと共に貫かれた腕は白い背中を突き破り、確実にコアを握りつぶすと同時に頭も握りつぶされた。初号機のときとは比べられないほどの血飛沫が舞い上がる様は圧巻だ。最後の量産型は一切の攻撃が出来ずに沈黙する。

 

 時間にして九分、カガリたちはエヴァ量産型のコアを完全に破壊することに成功した。

 

 その場には引き千切られた白い腕や目の無い顔、あばら骨を剥きだしにした胴体などが転がり落ちて宛ら地獄絵図のような有様であったが、その中央に凛として立つ三機のエヴァは逆に神々しくあった。

 

「終わったな」

 

 4号機の中、カガリはホッと息を吐き出して笑みを浮かべる。彼女らは何度も再生する量産型を相手に力の限りを尽くしたのだ。

 

 初号機は最大の武器とも言えるマゴロクソードで三体目の量産型を破壊した時、その役目を終えたかのように折れた。

 

 弐号機は操縦者の血が成せる技か、敵に一切の攻撃を与えず破壊し終えると、それによって出た返り血を避けることもせず堂々と浴び続ける。

 

 4号機もまた、敵の攻撃を巧みに避けながらATフィールドを中和、残りの武器庫にあった武器をすべて使い尽くし量産型を破壊することに成功した。

 

 満身創痍の状態とはいえ全てを出し尽くし、仲間も欠けることなく勝利できたのだ。こんなに嬉しい事はない。

 

『姉御、本部から連絡よ、量産型の破壊に伴い本部に侵入していた敵はすべて撤退したわ。職員の死傷者も予想していた範囲を下回ったそうよ』

『そんな、やっぱり死んだ人が……』

 

 報告を聞いていたシンジが声を詰まらされた。そんなシンジにアスカが語りかける。

 

『シンジ、あたしたちは彼らと同じ人間で神様じゃない。人に出来る事は限られているのだと思うわ。あたしは偶々エヴァに乗れた、ただそれだけの人間。上手くいかなくて、嘆いて、心配してくれた人を拒絶して、自分の殻に篭ってしまう弱い人間で、この戦いで死んでしまった人間と変わらない』

『アスカ』

『でもね、人は大切なものと心を通わせれば何倍にも強くなれると思うの。あたしの場合のあんたや姉御、ミサトやリツコ、このエヴァのために尽力してくれた全ての人、その人たちが一丸となったからこそこの結果を得られたのだとあたしは思うわ』

『これは喜ぶべき、ことなのかな?』

『少なくともあたしはそう思うわ。言っておくけど、あんたもそう思えとは言ってないわよ、シンジにはシンジの感じ方があるからね。あたしが言いたいのは仮に悲観しても最後は前を見据えなさいって言っているのよ。あんたの根本にはネガティブ要素が満載だから』

 

 通信から聞こえる苦笑にそれを静かに聴いていたカガリは満足げに頷く。彼女はこの戦争を通して強くなった。そして人らしくなったと思う。では、シンジはどうだろうか。

 

『………うん、僕は悲しい。僕らは人だ、使徒のような力も無いし、神様のように全てを守る事も出来ないけれど、それでも僕はそんな不器用な自分を……人間を嫌いじゃないかな』

 

 ああ、レイ。彼らはもう心に一つの折れる事のない芯を通した。それはやがて大人になろうとも決して折れないものを手に入れたのだ。

 

 そしてそれはカガリも同じである。

 

 レイと出会い、あたしはきっと本来辿る事のない経験をしているのだろう。出会わなければ今もオーブで世間知らずの娘をやっていたはずだ。それをこのような形で世間を教えてくれたレイには、相棒には感謝してもたりない。

 

 使徒と言う言葉も通じない理不尽な存在がこの世の中にいることを知った。本部を襲ってきた同じ人間、それを前にしてこの世の中が綺麗事だけではないことを知った。

 

 それでも、使徒だった存在と心を通わせることもできて、反発していた仲間に言葉を尽くし姉御と慕ってくれるようになった。そんな事実があるのだから綺麗事大いに結構、口には出さなくとも心には常に綺麗事を考えていたい。最良を選択していくそのために何かを犠牲にしないよう考え続ける。それがカガリの見つけた大きな芯。

 

「レイ、安心してくれ。あたしたちはお前がいなくなっても大丈夫だ」

 

 

 

 彼らに聴かれないよう静かに呟いたその直後、通信に割り込むかのようノイズが走る。

 

 

 やがて呟かれるその声はカガリたちの耳に木霊した。

 

 

――始祖を模した人形を扱う矮小なる人の子よ、貴様らに再びの絶望を与えよう。

 

 

 それはユーゼスを倒したときに現れた声と同じだった。

 

 

――我の操りし人形の呪縛は神を射殺す槍であってもすべてを消し去る事は叶わなかったようだな。

 

 

 憎悪を具現化させたようなその声は人が人である限りその根源たる生を脅かす。

 

 

――人の中にはそれに気づくも敢えて見過ごした輩も存在したようだが、そのものたちの望みを我と一つになることで叶えるとしよう。

 

 

 

 陰と負、憎悪と死、声は人にそれを刻みつける。

 

 

 

――すべては我より上の存在を消し去るため、今、死の儀式を行わん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不快な声が止まり、静寂に包まれたジオフロントに響く怪音、その音は主張するほど大きくも無い。しかし、確実にカガリたちの耳に残っていく。特にカガリは自身の勘が最大警戒を告げていた。

 

「くっ、何が起きるんだ!」

 

 三名のチルドレンは周囲を警戒するも、見渡す限りに変化は無い。けれど、その音の元凶は静かに動き出していた。

 

 量産型が持っていた独特の剣――諸刃の剣と呼ばれるそれが九つ、呼び動作もなく浮かび上がる。

 

 まるでポルターガイストのようだとカガリは場違いな想いを抱いた直後、その形状を瞬時にロンギヌスのようなものに変えた。

 

「しまった!! ATフィールドが効かない!!」

 

 その槍の特性を思い出して叫ぶも、九つのそれは標的を目指して凄い速さで撃ち出された。

 

『逃げなさい、シンジ!!』

 

 根源の恐怖から無理やり立ち直ったアスカがそう叫ぶも同じように竦み上がるシンジにそれは刻であった。

 

 槍の標的となった初号機に向けて九つの槍が迫る、その刹那。

 

『駄目、これは罠だよ、カガリ!!』

 

「あたしはもう負けない!」

 

 コアからカヲルの静止する声を無視して既に動き出していた4号機をさらに加速させる。それがあの声の目論見どおりでも構わなかった。ただ一つ、レイとの約束を守るため、シンジやアスカを守るため。

 

 壁となるため、初号機の前に躍り出る。

 

 直後、肉を突き刺す鈍い音が続けて九つ響き渡り、次いで鮮血が舞う不快音が奏でられた。

 

『あぁぁぁぁぁ、カガリさん!!!』

『そ、ん、な、姉御、あねごぉぉぉぉ!!』

 

「がぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 通信から聞こえる悲鳴が、カガリに届くも、それに応えられる口は苦悶の音を紡ぎ出すだけ。

 

 脳を突き破るような痛みが同調率を通してフィードバックされ、体が痙攣を起こす。すぐに生命維持の緊急信号がレットゾーンを越える。普段、レイ以外で誰よりもシンクロ率の高いカガリだからこそ仇になったのだ。そして悲しいかな、カガリは意志が強い。故に失神すすることも出来ず、槍が刺さり続ける限りその痛みを拷問のように受けるしない。

 

 

――その強き心が他者を守る、故に愚か。そしてそれは既に供物、始めよう。

 

 

 愉悦を孕んだ声がそう告げるとその場に異変が起きた。

 

 確実にコアも壊され、理論上死を意味するそれが動き出す。所々欠損した九体のエヴァ量産型が翼を広げて飛び上がる。その中で両腕が健在な二体が宙を浮きながら痙攣を起こす4号機の両腕を掴み共に空へ飛び上がった。それに続く残り七体。

 

 動けない4号機は九体の量産型と共にジオフロントを抜けた。

 

 

――我は遥か太古の戦いに置いて負と死の念を取り込んだ。なれば、死体を動かす事も造作ない。

 

 

 声はそれ以降、シンジとアスカに届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 地上を飛び出した量産型はゆっくりとした羽ばたきで空に舞う。それを見送るしかないシンジは声に対する恐怖と何も出来ない自分に対する憤りが相まって人知れず嗚咽を噛み殺していた。

 

「くそ、くそ、くそ、どうして恐怖した。どうしてあの時動けなかった。ちくしょう、僕は、僕は悔しい。悔しいのに何も出来ない!!」

 

 今になって動き出した腕が操縦桿をひたすら動かすも、空を飛ぶすべが無い初号機は立ち尽くすしかなかった。

 

「くそぉぉぉ!!」

 

 後悔、懺悔、怒り、恐怖、頭の中でごちゃ混ぜになって咆哮を上げたプラグ内、アスカの低い、それでいて怒気を最大に込めた声が通信から響く。

 

『あの声を許さない、恐怖した自身を許さない。何も出来なかった愚かな自信を何より許さない。許さない、許さない、許さない』

 

 その一言、一言に憎悪を込めて吐き捨てられる。

 

 やがてそれはシンジの願望と同じものに変わっていく。

 

『翼が欲しい。つばさが欲しい。つばさがほしい。ツバサガホシイ……』

 

 ピタリと声は止まった次の瞬間、映像に映し出された弐号機の目が眩い光りを溢れさせる。

 

『翼が、欲しいぃぃぃぃ!!!』

 

 アスカの絶叫、その後に紡がれるアスカを包み込むような声をシンジは聞いた。

 

 

――アスカちゃん、惣流は決して諦めない、特に心を許した友に危害が加えられるならば、その身を犠牲にしても助けに行く。かつての私が親友のユイを守ろうとしたように、あなたに翼を与えましょう。

 

「アスカのお母さん……まさか、そんな」

 

 呆然と呟いて目の前に広がる弐号機の異変に驚愕した。

 

 弐号機の背にある拘束具が弾け飛び、その場所から何処かで見たことのある光り輝く二対の翼が生えたのだ。それは力強く羽ばたいて弐号機を浮かび上がらせる。

 

「あれは使徒の翼だ」

 

 シンジは思い返して呆気に取られた。仮にそれが可能ならば、弐号機があの翼を生やせるのも頷ける。

 

 第十五使徒が持ち合わせていた光り輝く翼、それを弐号機は取り込んだS2機関に残るデータを元に再現して見せたのだ。それは有り得ない事象、不可能とも呼ぶべき事をアスカはやって見せた。

 

「不可能を可能にしてくれるのが、エヴァンゲリオン」

 

 第五使徒との戦いの折、レイが告げた言葉をシンジは思い出していた。

 

 それならば、とシンジは操縦桿を握り締めコアに語りかける。

 

「今ここでやらなきゃ、僕は後悔するんだ。もう、そんなの嫌なんだよ、僕のせいで傷ついたカガリさんを助けたい、だから、僕に空を飛ぶ力を与えてよ!!!」

 

 この初号機にも同じようにS2機関が搭載されているのだから。

 

「お願いだよ、初号機!!!」

 

 慟哭の叫びに応えるよう初号機のコアが鼓動を刻むとシンジの耳に優しい声が木霊する。

 

 

――それが、シンジの願いなのね。

 

 

「この声、前に」

 

 これもまた第五使徒の時に聞いた声だ。

 

 

――キョウコの想い、嬉しかったと同時に自身の力の無さが不甲斐なかった。シンジ、あなたはそんな想いをしたくないのね。

 

 

 声を聞きながら先ほどのやり取りを思い浮かべ一つの結論に至る。

 

「僕の母さん」

 

 

――男の子だもの、キョウコの娘のアスカちゃんを守りたいわよね。良いわ、あなたにも空を翔る力を与えましょう。

 

 

 初号機の肩ラック辺りから生え始めた見た目布のようなそれは生き物ように初号機の胸部に巻きついて背後に伸びていく。それは初号機が取り込んだ最強の拒絶タイプが持ち合わせていた触手に似ている。そして二本の布は自ら四つ、計八つに分かたれ背後に広がった。

 

 分かたれた布は翼のように羽ばたかせ、初号機を念願の空に導き始めた。

 

「……初号機が飛べた」

 

 

――行きなさい、シンジ。あなたが望む事を。

 

 

「うん、ありがとう、母さん」

 

 

 先に飛び出した弐号機に続くよう、初号機もまた空へと羽ばたいていった。

 

 

 

 

 




 次回 Air/原作から離れた話を君に 






 次回もサービス、サービス……想いを形にする機体エバ、きっと、空だって飛べるはず!! 


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第五話

カガリ「それで、そっちのカヲルは誰なんだ? あたしは綾波カガリだ」

Qカヲ「!? まさか、君は綾波タイプだと言うのか……だが、姿かたちが違いすぎる」

中二カヲ「おいてめぇ、何カガリのこと見つめてんだ!!」

Qカヲ「まさか、この世界は本筋の世界から派生した分岐世界、俗に言うパラレルワールドなのか」

中二カヲ「何時までも見つめてんじゃねぇ、ぶち殺すぞ!!」

カガリ「キャラが変わってる、変わってる」

Qカヲ「分かったよ、煩いな。というか、君は彼女の何なんだい?」

中二カヲ「え、そんなの、あれだよ、カガリの彼氏に決まっているだろ!!」

Qカヲ「は!?」

カガリ「恥ずかしいな。けど、最初言葉を詰まらせたのは何故だ、まさか今まで認識していなかったのか?」

Qカヲ「そんな……君も……僕ならば、彼を第一に……考えるはず……この世界は一体どうして」

中二カヲ「大体、僕と君の本質が同じだとしても思考のすべてがシンジ君に結びつくとどうして思うわけ。言っておくけど、崖に落ちそうなシンジ君とカガリが居たら、僕は絶対カガリを選ぶよ!」

カガリ「いや、使徒なんだから二人とも助けろよ。余裕だろ」

中二カヲ「それに、シンジ君とカガリなら、絶対カガリの方をぺろぺろしたい!!」

Qカヲ「な!? 僕は断然シンジ君をプルプルしたい!!」

カガリ「ああ、こいつら両方とも駄目な奴らだったんだな、片方は彼氏なのに」

 遠い目をしたカガリは無性に泣きたくなった。



                       続く?

 始まります。


 そもそも、死海文書は残し手が数多いるように複数存在する。その内容は往々にして似たり寄ったりではあるが、その残し手の特色から僅かな差異が見られることもあるのだ。それを我々は外典と呼んでいる。

 

 ネルフが所持する死海文書、その外典には始まりのサイコドライバー、ナシムと呼ばれる存在が記されていた。それは遥か昔、持って産れたその特異な能力から人造神を作り出し、自らがその乗り手となって災厄と呼ばれる宇宙の危機から黒き月の民を生き残らせたとある。すべては母なるこの地球を守りたいという想いからの行動だったらしい。

 

 そして、ゼーレが所持する死海文書の外典には別のサイコドライバーの存在が記されていた。始まりのサイコドライバー、ゲベル。ナシムと同じく人造神を作り出すも、ナシムとは違い己が神の座へと至り、自身を神と同種になる事で災厄から黒き月の民を守り、導こうとした存在だった。しかし、そんなゲベルを二体の始祖の子たる黒き月と白き月は許さなかった。神に至るとは即ち二つの種族の祖をその身に取り込むことを意味する。

 

 反発していた二つの種族はこの時初めてにして最後の共闘を示す。祖を守ろうとする本能からくる白き月、自分たちと同じ存在が神になることに我慢ならなかった黒き月、厄災の降りかかる際に行われたこの戦いはゲベルの敗北で終わりを告げたようだ。その後、ゲベルがどうなったかは記されていないが、外典の最後にはこう記されていた。

 

 二つの民とその祖を酷く恨んだゲベルは決して諦める事をしない。仮に後世にこの書が残るならばゲベルに関するすべてに危惧するべきであろう。あれは厄災との戦いに置いて、二つの祖とその子孫を取り込むすべを確立する事に成功していたのだから。

 

 

 

 

 

       トップシークレット ある秘密結社のトップを拷問した末に語られたもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 ネルフ本部、第一発令所にて部隊と応戦していたミサトたちは部隊の撤退により各部の被害状況を確認しながら事態の収拾に奮闘していた。そんな中、外で戦う彼らの状況をモニター越しで見守っていたマコトがその変化に気づき、コウゾウを始めその場にいたミサトたちに報告をする。

 

 そこに映し出される状況に皆声を出さず驚愕する。ただ、いち早く我に返ったコウゾウが深く思考したのち、何かに思い至ったのか、驚愕していたマヤに命令して、とある情報を調べさせた。マヤが端末を操作して表示された情報を元にモニターに映し出される事象と照らし合わせるとコウゾウが僅かに息を呑んだ。

 

「当たって欲しくない事は往々にして当たってしまうものだな」

「そんな、十五年前のセカンドインパクトに状況が似ている」

 

 諦めにも似た呟きをコウゾウが告げれば、マヤの悲鳴のような報告を聞いたミサトたちがそのデータを凝視する。

 

 データを見る限り、アンチATフィールドの数値が凄い速さで降下していた。このままではすぐにでもマイナスに転じるだろう。もう一つのモニターには上空を舞う4号機、その周りに集う量産型は抜けたコア部分からS2機関を解放し始める様が映し出されていた。どうやら量産型のコア部分とS2機関は別々に設置されていたようだ。

 

「残念ながら似ているようで、少し違う。これはもうサードインパクトという言葉を使うのはおこがましい事態だ」

「どういうことです?」

「それを君が聞くかね、葛城三佐。君は加持監察官により情報を貰い、自らも独自に調べていただろう」

「!?」

「今更、それを咎めるつもりは無い。しかし、君なら今のこの事象の矛盾に気づくのではないかね?」

 

 ミサトは歯噛みしながらモニターを睨み思考するとリョウジにより知らされたゼーレのシナリオを思い出した。

 

「リリスの覚醒が未だに成されていない」

 

 その言葉を聞いてコウゾウは不適に笑ってみせる。

 

「その通りだ、詳しく言えばリリス覚醒によるガブの開放が今も成されていないのにも関わらず、いや、それは仕方が無い、何しろアダムベースたる4号機を媒介に死と再生の儀式が行われようとしているのだ、これでは正常な状態でもリリスは覚醒しない。では、この場合に儀式が進めば我々の魂はどこへ向かうのだろうか」

「ガブという受け皿が無ければただ、垂れ流しになるだけ」

 

 世界が赤い海に支配される様が頭に映し出され、呟いたミサトや想像してしまったマコトたちが身震いする。

 

「それか、ゼーレがお膳立てした儀式を乗っ取った元凶が我々人の魂を取り込もうとするかだな。私としてはそちらの方が的確な気がするよ。どちらにしろ、我々この地に住む人々にとっては終わりを意味するだろう」

 

 その時、警報が鳴り響いた。モニターを確認していたマヤが報告する。

 

「量産型のATフィールドが反転……そんな!! 量産型から不可思議な意識体を確認、パターン予測できません。その意識体が自我境界線を突破して4号機を侵食し始めました。このままでは4号機パイロットの自我が乗っ取られてしまいます」

 

 映像には何時の間にか白が特徴の量産型がドス黒く染まり元々の姿など見る影も無くなった姿が映し出されていた。そしてその直後の精神汚染、コウゾウが難しい顔で唸る。

 

 元々はゼーレが量産型を動かすため取り入れたアダム式のダミープラグに死と再生の儀式プログラムを組み込みこんでいたそれを理論上死んだはずの量産型を何らかの力で操り発動させたのだろう。後はゼーレが辿るはずの儀式を遂行するだけで良い。ただ、この儀式には難点がある。パイロットの意志の問題だ。パイロットが儀式の遂行を望まなければ最終的な発動は成されない。

 

 しかし、と思考から戻りコウゾウは口を開いた。

 

「なるほど、自我を乗っ取ることでこの儀式の最終的な決定権を持つパイロットを操るつもりか。これで難なく最後の儀式を発動できるというものだ」

 

 仮にこれがリリスを模した初号機によるものならその決定権はやはり碇シンジになるだろう。今のシンジならば、肉体を開放させ魂をガブに封印させようと思わないだろうが、かつてのひ弱だった少年だったならば、ゼーレ、はたまた父親の補完計画が発動していたかもしれない。

 

 再び警報が本部に響き渡ると同時にモニターには地を這うエヴァ初号機と弐号機がその背に翼を羽ばたかせ儀式の最中の4号機たちのもとに近づいていく映像が映しだされた。

 

 当然、驚愕の表情を浮かべる職員たち、しかし、コウゾウだけは僅かに微笑を浮かべた。

 

「今更、我々人は魂の座に帰ることを望まぬか。そしてそれはユイ君やキョウコ君の願いでもある…碇、私たちは仮に正常の状態で儀式が発動されても失敗するかもしれないぞ。お前の息子はお前が思った以上に強くなった……む!? 来るか」

 

 警報と共に司令本部が地震のように揺れ響く。慌てふためく所員にコウゾウは声を上げた。

 

「狼狽えるな、儀式の始動を告げる衝撃波だ。本部のアブソーバーを最大にすれば耐えられる!」

 

 普段、物静かなコウゾウの叱咤に所員は落ち着きを見せる。しかし、状況は益々悪い方向に向かっていた。

 

 上空で四方に佇む量産型、その中央に鎮座する4号機、儀式の発動を意味する生命の木を描く光りの法陣、死海文書に描かれた再生の始まりを告げる福音、けれどそれは今を生きる人間にとっては終わりを示す死に神の鎌とも言える。

 

「ここまではサードインパクトの予定調和に過ぎないか、しかし、還る先が開かぬ限り最後に待つのは果たして……」

 

 先ほど地上から飛び立った二機が四号機の鎮座する上空に辿り着いた。

 

 初号機と弐号機は示し合わせたかのように移動を開始、4号機を中心に左右へと分かれると量産型と同じようにS2機関を解放させた。

 

「なるほど、碇の息子たちも考えてくれる」

 

 コウゾウの呟きから来る予想通り、自身を赤い光りに纏わせると巨大なATフィールドを発生させ、光りの文様の中央に位置する4号機に向けてぶつけ始めた。

 

「初号機及び弐号機、今までに無い強力なATフィールドを発現、アンチATフィールドの発生源たる4号機に向けて照射し始めました。これにより、数値のマイナス化が減速、我々人類の時間的余裕が出来ましたよ!」

 

 マコトが数値を見ながら喜びの声を上げる。しかし、そこにコウゾウが冷静に言葉を挟む。

 

「しかし、相手は4号機を含めた10、こちらは2、減速させても失速は無理か。まして、プラスに転じるなど奇跡に等しい。MAGIに確率を調べさせて更なる絶望を抱きたくは無いものだ」

「ですが、我々にはまだこの星の守護の要、ロンドベルが存在します」

「葛城三佐、もっともな意見だがそれは難しいだろう。あの老人たちが彼らを野放しにするはずがない。未だに彼らが現れないのが良い証拠だ」

 

 皮肉な言い回しでコウゾウが述べた時、また警報が鳴り響いた。

 

「今度は何事だ?」

 

 何度も鳴り響く警報にやれやれと首を振りながらコウゾウが問えば、第二新東京市周辺を監視していたシゲルが報告する。

 

「東京湾周辺に突如現れた三体の飛行物体が物凄い速さでこちらに向かっている模様。この速度で行けば数秒後に4号機がいる上空に到達します」

 

 ミサトたちが上空を映すモニターを凝視した。

 

 そこに映し出される今までに無い異型のアンノウン兵器にコウゾウは目を見開いた。そして小さく呟く。

 

「まさかこの星の正統なる守護者、その眷属が現れたか。やはりこの事態をナシムは見過ごせなかったようだな。……碇、我々はもしかしたら外典にある彼女すらも敵に回したかもしれんぞ」

 

 モニターに映し出される。鳥を模したような機体、魚を模したような機体、獅子を模したような機体が、初号機、弐号機、そしてこの事態の根源たる4号機を器用に避けて量産型に攻撃を開始する様が映し出されていた。

 

 正体不明の三機、そのうちの鳥型が自在に宙を舞いながら確実性をもって一体の量産型を跡形も無く消滅させた。そのすぐ後に獅子のような機体が稲光を発生させて一体の量産型に突撃、その凄まじい威力に量産型は跡形も無く消え去った。残りの魚型の機体は強力な光りの筋を撃ち出して一体の量産型を細切れにしていく。形を保てなくなったのか量産型は爆散して消滅した。

 

 九体のうち三体が完全に消滅した事でマイナスを示していく数値が更に減速するとマコトたちが喜びの声を上げた。

 

「アンノウンは私たちの味方の様ね」

 

 変わって複雑な表情で呟くのはミサトだった。彼女の場合、参謀という立場上、そして心理的に素直な喜びを見出せないのだろう。下手すればすべての量産型を破壊した後、自分たちに危害を加えるかもしれないという懸念を抱いてしまうのは彼女が若くして参謀という立場になれた先見の明を持つ一種の才能だ。そしてそれは大いに有り得る事をコウゾウは知っている。

 

 あれはこの星の守護者ではあるが酷く融通が利かないのだ。弊害となるものは例え守護すべき存在でも容易く消滅させようとする残虐性を持ち合わせている。

 

「それこそ、神話に語られる神のような存在だ」

 

 皆に聞こえないよう呟きながら次々と量産型を消滅させていく様を見つめた。

 

 

 

 

 時間にして数分、全ての量産型を消滅させたアンノウンは役目を終えたかのように移動を開始、その姿はモニターから消えた。

 

「どうやら、その対象にならなかったようだ……が、楽観は出来まい。私の予想では今も封印された本体の守護に戻ったと見るのが妥当だな」

 

 コウゾウは映し出される数値を見据えた。マイナスに転じていた数値は少しずつではあるが、プラスに向かっていた。それでもまだ、十分儀式の発動可能なマイナスを示している。

 

 そしてそれ即ち、

 

「最後は碇が連れて来たあの娘の選択に託されるのか」

 

 

 




 次回 Air/とある独りボッチの話を君に






 次回もサービス、サービス……ギャグが殆ど無い…だと!? 次回こそは、きっとあるはず。


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第六話

中二カヲ「な、泣かないでカガリ、しょうがないんだ、だって男の子だもの!」

カガリ「……怖いのは嫌だ」

中二カヲ「安心して、あくまで想像の範囲で抑えてるからね! ちゃんと段階は踏むから!」

カガリ「……分かった、何時かは……応えて見せるから待っていてくれ」

中二カヲ「カガリ!!!(喜)」

Qカヲ「………ふふ」

中二カヲ「!? 何笑ってるんだ!!」

Qカヲ「すまない、君を馬鹿にした笑いではないんだ……そうだな、微笑ましい…そう思えたら笑っていたよ、そして少し羨ましいかな、僕はもう彼と共に在れないから」
 
 Qカヲの首筋から赤い液体が流れ出していた。

中二カヲ「お前…」

Qカヲ「最後にリリンと共に生きられる可能性を見れて良かった。この邂逅は僕らでも計り知れない神が与えた贈り物なのかもしれないね」

中二カヲ「僕にとっては違うけどな!!」

Qカヲ「ふふ、最初君に言った言葉は撤回しよう。君はとても幸せものだ。その幸せが続くよう祈っているよ」

中二カヲ「別にお前が祈らなくても僕は幸せが続くよう努力するさ!!」

Qカヲ「それで良い、与えられた幸せな日々も、持続するよう努力しなければ何時の間にか怠慢な日々に変わり果ててしまうだろう。努々忘れない事だ……うん? どうやらお別れだね」

 Qカヲの体が砂のようになって消えていった。

中二カヲ「最後まで偉そうに……お前の方がよっぽど中二病だ」

カガリ「消えちゃったな……何だったんだろう?」

中二カヲ「さあね、僕らには関係ない世界の僕だったんだよ、きっと。さあ、そろそろ現実世界に還ろう。アスカさんやシンジ君が待っているよ。行こう、僕のカガリ」

カガリ「うん、カヲルが言うならそうなんだろう。行こうか、カヲル」

 こうして彼らは互いに惚気合いながら現実世界に還って行った。

                       
                       終わり。



 始まります



 

 潮風が香る島国オーブ、その本島に創設された公園。そこには沢山の子供たちが思い思いに遊んでいた。その中で遊具の一つであるブランコに幼い姿のカガリが座っていた。

 

 時刻は夕刻、小さな子はそろそろ家に帰らなければならない。一人、また一人と母親の迎えで帰っていく様をカガリは見つめていた。母親が死んでから自分はもうずっとその光景を見ていた気がする。父親は仕事が忙しくカガリに構う事は殆ど無かった。母親が死んでからは特に忙しくしている。それを今なら寂しさから来る忘却行為だと理解できるが、幼いあの当時は理解できなかった。そして母親が死んだ事も認めたくなくて屋敷から抜け出してはかつて母親と一度だけ遊んだ公園に行っては迎えに来るのを待っている。

 

 けれど、迎えに来るのは何時も年老いた乳母だった。

 

「だから、あの時はとても嬉しかった」

 

 ポツリとカガリは呟いて4号機に始めて乗った時の事を思い出していた。あの時は本当に心の底から嬉しかったのだ。

 

 そして今回は絶対に迎えに来ないことも理解していた。母親は娘と今生の別れを告げ、既に還って行ったのだから。

 

 故に。

 

「その姿を見せてもあたしは惑わされない。あたしとお母様の絆を汚すな、反吐が出る」

 

 目の前に佇む母親に向かって吐き捨てた。母親は軟い笑みを浮かべている。

 

「お前の目的が何なのかは理解できないが一つだけ言える事があるとすれば、決してお前の望みをあたしが叶えることは無い」

 

 強い拒絶を持って示せば、母親の姿を模した何かはクシャリと表情を歪めその姿を本来の者に変えた。髭を蓄えた老人、その姿はかつて見た姿と変わりない。黒衣のローブに身を包み、鋭い眼光を携え何処と無く神々しいオーラを溢れさせる姿は一見して神なのではという錯覚を生み出すが、カガリの脳裏に告げる勘は表面上に溢れた神々しさに隠される恐怖と死を連想させてしまうオーラを嗅ぎ取っていた。

 

「あの黒幕を操っていたのがお前だな」

 

 鋭く見据えて断定すれば、老人は口の端を僅かに上げて笑みを形作る。

 

「矮小なる人の子よ、いかにも。我の名はケイサル・エフェス。貴様たち地球人がエアロゲイターと呼ぶ異性人の頂点に君臨するもの」

「異性人にしては纏う空気が禍々しすぎるな。あたしの勘が告げている。それが全てではないはずだ」

 

 ケイサルは僅かに目の端を動かして驚いて見せた。

 

「愉快、貴様は人の子に過ぎた直感を持っているようだ。しかして、我らサイコドライバーとも、新人類と呼ぶ力とも違う。言うなれば我らとは違う可能性の種を持って生まれし黒き月…そんな貴様から人工的に生み出された存在はきっと大いなる可能性を持つだろう。まこと、楽しみだ」

 

 理解できないカガリを置いてケイサルは一人自己完結する。

 

「実に良い……貴様を取り込むことで、我は更なる力を手に入れる。これで我の計画は更なる飛躍を見せるだろう。アポカリュプシスの先に待つ宴、それらすべてを食らうわ、我のみ。二つの月の祖に邪魔などさせぬ」

 

 老人から浮かび上がる神々しいオーラが瞬時に死のオーラに塗り代わる。溢れ出る黒いオーラは今にもカガリを飲み込もうとしてトグロを巻いていた。

 

「いかに貴様が力を持つものだろうと負の無限力をこの手にした我に勝てるはずも無い。貴様を取り込み、儀式の完了としよう。それによって溢れ出る魂をこの身に取り込み、この星に住む黒き月の末裔、その末裔が持つ可能性を搾取する。これで我の存在に気づいた重力の魔神は鈴の箱舟に乗った申し子たちを消し去ることは出来まい」

 

 禍々しいオーラがカガリを取り囲う。いかにカガリが勘に優れようと所詮は人間、不可思議な力に対処する術は持ち合わせていなかった。自身が取り込まれる様を想像しながら何も出来ない悔しさに歯噛みする。

 

 しかし、彼女を愛するものはそれを許さない。この精神世界の外、現実世界に置いて量産型が全て破壊されたことで、反転していたマイナス数値の動きを抑えていたコアの主に余裕が出来たのだ。それにより彼女を誰よりも愛する人ならざるものが動き出す。

 

 飛散する黒いオーラ、カガリを守るようにして具現化する拒絶の壁、それを発現させた少年がカガリの前に降り立った。

 

「僕がいる限り、カガリを取り込ませないよ」

 

 少年の登場でケイサルの眼が見開いた。

 

「久しぶりだね、ゲベル。なるほど、これが時の概念を持つということか。かつての僕ならばそのような感傷を抱かなかった」

「その膨大な魂の波形……アダム…か」

「君がゲベルではなくケイサルと呼ばれているように僕もまた今はカヲルと呼ばれているよ。残念ながら力はアダムほど無いけどね。それでも、本体の一部である君を消し去る程度の力は持ち合わせているつもりさ。なにせ、君の本体たる魂は今もこの星に近づけない。過去、二つの月の民は君にそのようなトラウマを植え付けるほど凄まじかったからね」

 

 苦笑気味に告げられ、ケイサルは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。遥か過去の事象を思い出しているようだ。

 

「君、あの頃からボッチだったもんね。太古の戦いでは君に味方するものなんて君の作り出した眷属だけだったし。挙句、唯一対の存在だったナシムと共に生命を紡ぎ出すためこの星から逃げ…じゃなくて、旅立つも途中で見捨てられた君は偶然見つけたその星で生命を紡ぎ出して、それらから崇拝されるもボッチ生活が長すぎたせいか、逆にそれが怖くて今も本体は不貞寝…じゃなくて封印されているんだもの」

「ぐぬぬぬ、何故それを知っている……まさか、ナシムの奴が…」

 

 ナシムは昔から我の嫌がることをしてくれる、と呪詛のように呟くケイサルをカヲルは憐れみの込めた瞳で見据えた。

 

「僕は君の気持ち、よく分かるよ。ほら、僕もリリスに拒絶されてボッチになったし、まあ、僕はその後すぐに白き月を作り出したら慕ってくれたけど……今は愛するカガリがいて…俗に言うリア充だけど!」

 

 後半の言葉を紡ぐ様は明らかに見下していた。そのような視線を向けられればケイサルも黙っていない。

 

「おのれぇ、言葉の端々に嫌味を感じるぞ、アダムよ! 貴様など我らが祖に泣かされて引き篭っていた分際だろうが!」

 

 溢れ出す黒いオーラがその怒りを象徴していた。カヲルに向けられたそれを尽かさずATフィールドできっちり防ぐのだから怒りのボルテージも更に上がるというもの。

 

「ここに来て、貴様の存在が我の儀式を阻むか……許さん、許さんぞ、アダム、そしてそれに守られた人間よ。何時か、遠くない先に置いて我の本体が裁きを持って貴様らを下そう。それまで精々今生を生きるが良い」

 

 既にケイサルの中では儀式の失敗を見据えていた。

 

 自身が負の無限力を操ろうとも所詮、自身は思念の一つに過ぎない。アダムの魂である目の前の少年は別のものに落され力を弱めても今のケイサルを消し去れる力を十分有していると遥か過去から知る自分は理解できてしまう。

 

 それだけアダムとリリスは自身にとって脅威なのだ。下手をすれば本体の自身にすら。

 

 カヲルは普段見せる事のない残虐性を秘めた笑みを浮かべ、思考するケイサルを見据えた。その笑みは白き月の祖に相応しい。

 

「ゲベル、君がこの世界を存続させる力の一つ、負の無限力を手にした事は理解できる。けれど、この世界はそれだけで支配できるほど甘くはない。賢い君はそれを理解しているからこそ、リリンが持つ可能性の種を刈り取りたいと思っているのだろう。でもね、かつての僕のようにそれを達観していれば愛する子を失ってしまう。今の僕はそれを許せそうにない。だから覚えておくんだね、この先君はこの世界に置いて始まりの生命体と呼ばれた僕を敵に回すんだ。君の計画通りにはならないよ」

「やはり、貴様はこの時点で我の計画を感知していたか」

「ふふ、僕だけではないけどね。ある一人のリリンもまた君に気づいているよ。彼はパンドラの底に存在する君ごと箱を閉じようとしていたくらいだからね。それもまた一つの選択だ。けれど、きっと彼の選択もなされない、そんな気がするよ」

 

 彼――重力の魔神を操るリリンはケイサルの存在、そしてその目的を予期してその根源に当たる鈴の名を持つ部隊を消滅させようとしていた。それが何時なのか、如何なカヲルとて正確な時は分からない。しかし、何時かそれを成そうとするだろう。それを感知したケイサルはユーゼスの呪縛に干渉して彼を消滅させようとしたもののそれも失敗したはずだ。彼には神が憑いている。邪神と呼ぶべき、ケイサルやカヲルと同じリリンより上位に位置する存在が。

 

 そんな強者たる彼にも天敵と呼ぶ風の名を有する存在がいる。その風はきっと彼の目的を許さないだろう。もちろん、鈴の名の部隊もまた同じく。

 

 もっとも、敗北したところで彼の真に望む目的が叶うのだから恐れ入る。とてもリリンとは思えないポテンシャルだとカヲルは感嘆する。

 

 彼は誰よりも自身を使われることを嫌悪する、それが例え、神と呼ばれる存在でも許せないはずだ。

 

「さて、世間話も飽きた。もう良いだろう、ゲベル。消えなよ」

 

 純然たる事実を告げれば、ケイサルは不適に笑う。

 

「良かろう、今は引く。されど、この世界は貴様の言うとおり柔軟に出来ている。それ即ち誰にでも可能性があるということ。この我にも……貴様こそ覚えておけ、太古の戦いの経験が我を強くした事を後悔――」

 

 カヲルは右腕を横に振りぬいた。攻撃に転じた拒絶の壁が言葉を残すケイサルの思念を一瞬にして飛散させる。

 

それは呆気ない幕切れであった。

 

「無駄に長いよ、ゲベル。ホント、ボッチ生活が長いと昔なじみに再会しただけで話が長くなる」

「それ、自分に当てはまるから理解できるのか?」

 

 今まで達観していたカガリがそう問えば、先ほどの弱者を見下したような表情から一転してカヲルは情けない表情を浮かべた。

 

「酷いよ、カガリ。確かに僕はボッチだったけど、あんな奴よりは短かったからね!!」

「分かった、分かったから捨てられた子犬のような表情を浮かべるな、何だか撫で回したくなるぞ」

「わん!!」

「カヲル……可愛いな!!」

 

 取り敢えず、カヲルの要望どおり頭を撫で回せばイケメンとは思えないだらしない表情を作り心行くまで堪能するのだった。

 

 

 

 

 

 

「それで、元凶のあいつが消えた事で危機は去ったんだな?」

「そうだね、これで反転したマイナスもプラスに転じるよ。現実世界では既にそれが現れている頃だよ。あと少し遅かったらカガリは乗っ取られて儀式が完了するところだったから間一髪だったね」

 

 ホント、ナシムの眷属、一応ありがとうって感じ。カヲルは心の中で呟いた。

 

 トリガーの役割だったカガリが乗っ取られてしまうと後に待つのは地上にいるすべての人間の融解。どんな強度のATフィールドを持ち合わせていようとも無駄なのだ。この儀式はそれほどの強制力なのである。

 

 何故、一応の感謝なのか、簡単に言ってしまえばナシムの眷族、最初は初号機や弐号機、果ては元凶の4号機ごと消し去ろうとしていたのだ。それを止めたのがマイナス数値を抑えていたカヲルである。自身が発生させるフィールドを眷属に向けて放射、自身の考えとちょっとした脅しとも言えなくはないお願いをしたことにより量産型だけを相手にしてくれたのだ。まあ、即座に帰って行ってしまったのは脅しの効果かもしれないが。

 

 曰く、もし彼女らに手を出したらてめぇらの楽園をぶち壊すぞ、と小さく呟いただけ。

 

 カヲルは内心で自身を良いように肯定する。

 

「あ、既にシンクロはカットさせてもらったからこれ以上の痛みは感じないと思う。けど、今は空だから地上に落ちるかもだけど」

「おい!?」

「多分大丈夫、シンジ君たちが支えてくれるはずだから」

「エバは飛べないだろ!?」

「彼らの機体は普通に飛んでたよ。もちろん、この機体も飛ぼうと思えば飛べるし。何しろ僕がいるからね!!」

 

 無駄なイケメンスマイルで自身の凄さをアピールする様は残念としか言いようがない。しかし、残念なのは彼氏だけではないようで。

 

「凄いぞ、カヲル。そんな恋人をもてたあたしも鼻が高いな!! けど、あたしはピノキオじゃないけどな!!」

 

 彼女もまた残念な天然だった。あざとい様に見えてこれが本心なのだから恐れ入る。

 

 その後、少し別の世界の存在との邂逅があったりしながらも結局は互いに惚気あっていれば、何時の間にか精神世界から現実世界のエントリープラグの中に戻っていた。当然、エヴァ自体機能を停止させているので肉体を具現化させたカヲルも一緒だ。槍が刺さったままなのでコアにいれば痛みを感じ続けなければならないからこその策である。カヲルはMではない。一部限定に対してなら進んでなりそうだが、平時ではMではない。二度言っておくが大事かと聞かれれば頷けない情報だ。忘れて欲しい。

 

『姉御にバカヲル!! 何時までも惚気てないでさっさと返事しなさいよ!!』

 

 機能停止しても僅かに残る通信から聞こえてくるアスカの怒声に惚気、本人たちは思っていない、から意識戻した二人は応える。

 

「カヲルから聞いたぞ、あたしを助けるためにカヲルを手伝ってくれたんだな」

 

『なっ、と、当然でしょ!! あたしは親友を見捨てたりなんかしないわ。べ、別にバカヲルは助けたわけじゃないけど』

 

「ふふ、これがツンデレだね」

 

『うるせえ、てめぇは黙らないとぶち殺す』

 

「声が本気すぎる!?」

 

 ガクガクとカヲルの全身が恐怖で震えだす。

 

「アスカは何時でも本気だからな、でもカヲルを殺されるのはあたしが困るぞ」

 

『チッ』

 

 心の底からの舌打ち。それにカヲルは更に恐怖する。

 

「彼女なら本気で戦っても負けそうだから怖いよ……正直今にもちびりそうだ」

 

『はっ!』

 

「鼻で笑われた! もうホント泣いて良いですか!?」

「それは困る……よし、口で笑えば泣かないで済むな!!」

 

『三人とも、いい加減にしてください!!』

 

 後も続きそうなグダグダな会話に割って入ったのはシンジだ。

 

『アスカ、先に話す事があるでしょ!!』

『あ、そうだった』

『カガリさん、カヲル君。よく聞いて、本部からジオフロントの退去命令が出ているんだ。第一発令所及び本部所員は既に撤退を開始している。既に七割の職員が先ほど到着したロンドベルの戦艦に搭乗しているから、僕らも合流するよう通達が来ているんだ。と言うか、既に向かっている状態かな』

 

 命令が告げられたのはアンチATフィールドが完全に解除された直後、何故か今まで行方不明だった赤木リツコから発せられたものだった。当然、シンジやアスカは理由を求めたが、酷く焦っている状態なのか碌な説明は成されなかった。それでも命令を遂行しようと思ったのはリツコからレイの願いだと聞かされたからだ。つまりは退去命令の発端は綾波レイによるものだということになる。

 

「あの人に何かあったのか、それともリリス、じゃなくて良子さんに何かあったと見るのが妥当かな」

 

 シンジからの詳細を聞いてカヲルは予想を口にした。それにカガリは頷く。

 

「あの冷静なリツコ博士が焦っていたんだ。よっぽどの事が起きたんだろう」

「カガリが望むなら4号機を起動させるよ、行って助けたいんでしょ?」

 

 本音を言えば、今すぐにでも助けに行きたいと心が告げている。きっと、カヲルはその心情を汲み取って提案してくれたのだろう。だが、機体の損傷は酷い。行ったところで足手まといになるのは目に見えて明らかだ。何より痛みから来る精神疲労は限界だった。カヲルにもこれ以上痛みを抱いて欲しくはない。

 

「どうする?」

 

 あくまで優しくカヲルは助ける方向に促してくる。全てはカガリのためだ。

 

 それでも。

 

「このまま、ロンドベルと合流する」

「良いのかい、カガリ?」

「構わないさ……外はあたしが、内はレイが、そう約束したんだ。それに……」

 

 レイは戻るつもりはないのだとカガリは思っている。理由までは分からないが、この戦いを最後としてレイは見据えているとカガリは予想していた。

 

 二週間のシンジ強化の折、レイは殆どを病室で過ごしていた。シンジたちには検査入院だと思わせて怪しまれないようにしていたが、病室に寝泊りしていたカガリは知っている。夜中、無表情の顔を歪ませてベッドから起き上がる姿、カガリが眠っていると思っていたのだろう、それは酷く痛々しかった。

 

 だからきっと、レイは……自分の命を掛けて自分たち人間の未来を守ろうとしているのだ。そんな姿をみたらきっと。

 

「あたしはレイの想いを踏みにじっても止めたくなる」

「泣かないで、カガリ」

 

 カヲルの手が頬に触れるとその手で優しく拭う。その手に縋りながら後は無言でシンジたちに機体を預け、ロンドベルに合流することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++++++

 

 

 

 

 職員及び、エヴァ各機を乗せたロンドベル所属の戦艦が第二新東京市の遥か上空まで退避を完了すると、それを待っていたとばかりのタイミングでピラミッド型の本部があったジオフロントの地面を掘り起こすように巨大な漆黒の球体が現れた。

 

 あれこそが、この星に降り立つためリリスに与えられた箱舟にして黒き月の魂の座。ネルフやゼーレがガブの部屋と呼ぶ、それの覚醒した姿だ。

 

 覚醒したガブの部屋が剥き出しになると戦艦に搭載された魔神皇帝や真ゲッター、ヒュッケバインなどは今にも動き出そうと動力を上げる。それを止めようと格パイロットが必死にコックピットで格闘していた。

 

 ニュータイプと呼ばれる人種は球体の中に存在する何かが醸しだす優しい波動を感知、その波動に身を任せそうになるのを抑えるのに必死だった。

 

 霊力などを感知できる異世界の姫たちはその球体を見て顔を青ざめさせる。同じように風の精霊を身に纏う機体の搭乗者は隣に立つ宿敵にして重力の魔神を操る者の戦慄する姿に顔を青ざめさせた。

 

 野生に目覚めた操縦者たちは黒い球体に対して生の放棄の象徴だと無意識に感じ取り、溢れんばかりの怒りを見せる。逆に球体の登場で頭痛に悩まされ、頭を抱えていた高位の念動力者はあの中にいる師匠と呼ぶべき存在の想いを感じ取り、何故か涙した。

 

 そのほか、戦艦に搭乗するあるメンバーを除いたすべての人間が黒い球体を見て懐かしい望郷の念に駆られる事になる。そしてそれに身を委ねてはならないということも。

 

 除かれたメンバー、エヴァのパイロットはこの先に何が起こるのか、結末がどうなるのか、決して目を逸らさず見据えようとしていた。

 

 

 

 

 

 一つの終わりはすぐそこまで来ている。

 




 次回タイトル 終わる元おじいの世界






 次回もサービス、サービス……次の話でこの章は終わりです。


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終章 終わる元おじいの世界



 始まります。


+サイド今はレイの元おじい+

 

 

 

 浮かび上がる初鰹はその標的をすぐさま、エバ零戦に定めると赤い飛沫を上げながら突貫してきた。零戦もまた、近くにいるわしらが邪魔にならぬよう、駆け出して両者は赤い海の中でぶつかった。

 

 何度も振り上げては降ろされる紫の拳は零戦の発現させた壁を容易く中和して装甲に減り込んだ。

 

「零戦の壁が容易く」

 

 わしの呟きを聞いたのか、リツコさんの足に踏まれていたゲンドウが立ち上がり、ずれたさんぐらすを上げる。

 

「いかにあれのコアにリリスがいようとも、今のプロトタイプ初号機には造作も無い。これが私の持つ切り札だ」

 

 ゲンドウから訳の分からない言葉が出て混乱するわしにリツコさんが悔しそうな表情で教えてくれた。

 

「あれは今ある初号機の前に作り出されたリリスを模した二体目のエヴァなのよ。つまりはシンジ君の乗るエヴァは三体目になるわ。でも、あれには魂が宿らなかった。ユイさんとのシンクロテストの折、その危険に気づいたあのお方、キョウコ氏が強制的に止めたのよ。そのせいで廃棄処分になったあれを、私が修理したの。幾ら、キョウコさんでも肉弾ではコアを完全につぶす事は出来なかったから」

 

 どうやらゲンドウの命令で修理させられたようだ。今はそれを悔やんでいるからこその表情なのだろう。リツコさんの足は的確にゲンドウの足を踏んでいるのが何よりの証拠だ。

 

 だが、そうなるとあれは動かせないのではないか、そう疑問に思ったわしの表情、まあ、御なじみの無表情だが、雰囲気を感じ取ったのかリツコさんが付け加える。

 

「そう、本来ならあれは動く事はない。今はあなたのおかげになるのか、ダミープラグも不完全、起動すら間々ならないはずなのに予備動作も無く動き出し、尚且つあの零号機を圧倒する力を持ち合わせている」

 

 リツコさんは鋭い瞳でゲンドウを睨みつけた。

 

「あれのコアにアダムを……アダムの肉体を植え付けましたね、碇司令」

 

 ゲンドウは肯定を意味するのか不適に笑って見せた。

 

「その通りだ、赤木博士。模した物とは言え、これもまたアダムとリリスの融合と言えよう。不完全ではあるが、リリスの魂を有した零号機を圧倒している」

 

 力押しで振り下ろされた拳は何度も零戦を強打する。酷く単純な動きではあるが、動かしているのが良子なのだから避けるのも難しい。あいつは良家のお嬢様だったのだ、肉弾戦などやった事があるわけが無い。何より良子は運動神経が悪いのである。

 

 大きく振り上げられた足が膝をつく零戦の後頭部目指して振り下ろされようとしている。

 

「良子!!」

 

 何も出来ないとわかっていても手を伸ばさずにいられなかった。零戦に向けて伸びたはずの右腕が地面に落ちると同時に勢い良く降ろされた足が後頭部を直撃、零戦が赤い海に倒れた。

 

「レイ、そんな!」

 

 リツコさんが驚愕しながら駆け寄ってくる。

 

 無常にも時が来てしまったようだ。興奮していて先ほどまで分からなかったが、わしの体は既に形を保てなくなっている。前の世界、死ぬ時に感じた魂が肉体から離れる感覚を今、ヒシヒシと感じている状態だ。まったく、情けない夫だ。妻が苦痛に苛まれているのを見ていることしか出来ないのだから。

 

「時間だ、貴様の体がATフィールドを保てない。後は肉体から魂が離れるのを待つだけ。呆気ないものだな」

 

 淡々と事実を述べるゲンドウ、それに対して怒りを再発させたのは以外にもリツコさんだった。

 

「碇ゲンドウゥゥ!!」

 

 靴を脱ぎ捨てて駆け出すとゲンドウに肉薄、腹に向けてキツイ一発を食らわすと体を回転させて見事な回し蹴りを顔にお見舞いした。さんぐらすを飛ばしながらゲンドウの体が地面に倒れこむ。

 

「こんな男に人生を掛けていたなんて腸が煮えくりかえそうよ。でも、一番許せないのは自分自身だわ」

 

 低い、苦悶に満ちた懺悔は彼女の心からのものだと理解させる。まるで今にも自殺しそうな勢いにわしは一時、妻の事を置いておいておくことにした。

 

「リツコさん、人間、その殆どがやり直せることなのだとわしは思う。あなたの行動はその全てがその範囲だ。だからどうか、短慮はせず、生きる事を諦めないで欲しい」

「レイ……私はあなたに対しても酷いことをしてきたのに」

 

 わしの体のことを言っているのだろう。それなど今更だ。

 

「何もかも過ぎた事だ。わしはこの体に産れてきて感謝しておるよ」

 

 彼女がこの体を管理してくれたからこそわしの魂が生き残れたのだから。

 

 ミサトさんや本部の皆、わしを取り巻く全ての人に感謝してもしたりない。妻ともう一度再会できた。短いとは言え、共にあれた。夢の中だが妻と海辺を散歩も出来た。そして、大好きだった、あにめやげーむを体感できた。もう、十分だ。

 

「リツコさん。この場所はもう持たない。上の本部もそうだ。君は急いで本部に向かい、退去命令を出してくれ」

「!?」

「わしはこれから命を掛けて子供たちの未来を、あなたたちの未来を守ろう」

「何をするつもり!?」

「何、簡単だよ。わしはこれからも妻と共にあるだけだ。それがきっと未来を守る事に繋がると信じている」

 

 碌な内容も言わないのにリツコさんは頷いてくれた。そしてチラッと倒れたゲンドウに視線を合わせたが、何も言わず駆け出して行った。さすが、リツコさん。ゲンドウを連れて行けば時間が掛かると即座に判断したようだ。

 

「そうだな、残り時間は少ない」

 

 わしの眼前で初鰹は倒れた零戦を無理やり起き上がらせ、雄叫びを上げながら首を絞め始めた。

 

「すまない、良子。苦しんでいるお前を助ける事が出来そうにない。だが、約束は守るぞ」

 

 既に言う事の殆ど聞かない体を引きずりながら歩き出す。目指すべきは赤き海に浮かぶゴムボートだ。

 

 ボキッという音が部屋に響き渡る。もがき苦しみ締め付ける紫の腕を外そうとしていた零戦の両腕がだらんと下がった。

 

 前を見据えていた視界が行き成り地面に変わる。どうやら倒れてしまったようだ。分かってはいるが、確認のために足元を見れば、あるはずの左足が無く、少し後方に置いてかれたように一本佇んでいた。

 

 初鰹が完全に動かなくなった零戦を引きずりながら赤い海を渡る。目的の場所など分かりきっていた。十字架に貼り付けにされた良子の肉体目指してゆっくりとした動作で移動している。

 

 さて、これで歩く事はもう無理だ。ならば、這ってでも行くまで。先ほどよりも速度は落ちるが根性で何とか、ゴムボートの場所まで辿り着いた。役目を終えたかのように右足が体から引き剥がされる。

 

 どうやら初鰹も目的の場所までついたようだ。引きずる反対の腕で良子の体に刺さる赤い槍に触れば勝手に槍は抜けて赤い海に落ちる。さすが持ち主と言ったところか。そして今回はあのカヲル少年とは違い拒絶の壁は現れなかった。仕方が無い、あだむを覆うのは妻の体から作られたものだ。本能ではそれを見抜けないだろうと納得する。

 

 急がなければならない。しかし、左腕だけでは不安定のゴムボートに乗るのは苦労する。何とかして乗り込もうと四苦八苦していれば背後に人の気配を感じた。

 

「貴様はそのような姿になってもまだ諦めないのか」

 

 まあ、ここにいる人間はわしかお前くらいか、ゲンドウ。

 

「何故そこまでしてガブの部屋の覚醒を止める?」

「わしがそれを望まず、妻がそれに応えてくれたからだ、ゲンドウ」

「妻?」

「お前には言ってなかったな。お前が言う、りりすはわしの妻だ」

「!?」

 

 驚きに声を無くすゲンドウに構わず、わしはゴムボートに乗り込もうと必死に動きながら口は妻との馴れ初めやこの世界に来た経緯を紡いでいた。きっと、この男も妻を愛すると言う意味ではわしと同じだから心情を語りたくなったのだろう。そういうことにしておいて欲しい。

 

「何より、妻が、良子が、あの肉体に還ってしまえば、また一人で長い時を過ごさなければならない。そんな寂しい想いを夫であるわしがさせたくないのだよ!」

 

 言葉と共に勢いを付けて飛び込めば体はゴムボートに到着した。左腕を置いて。

 

 芋虫のように這いずりどうにかしてエンジンまで辿り着くも腕が無く足も無ければ起動などさせられるわけが無い。絶望感がわしを襲う。その時、ゴムボートが大きく揺れ、水面を勢い良く走り出した。エンジンを動かして舵を取っているのはもう一人しかいない。

 

「ゲンドウ」

「私の目的は貴様たち夫婦の絆に潰えるのか」

「何故」

「貴様の愛する妻を求め、もがいた様が、私にそっくりだった。そう思った時点でエンジンを動かしていた……素直に失神していれば良かった」

「今からでも遅くは無いぞ?」

「私は良い父親でも良い夫でもなかった。それでも、私なりに妻や息子を愛していたつもりだ。顔向けなど当に出来ない身だが、これで止めてしまえば本当の意味で息子や妻と顔向けできないような気がするのだ」

「ようやく……それを理解したか」

 

 そうだ、お前が行ってきたことを自身が肯定しても人は心のどこかで罪悪感を持つ生き物なのだ。その罪悪感はきっと無意識に心を蝕み、再開すらも曇らせる。

 

「思えば再開のその先を考えてなど居なかった。私は本当に愚かだな…私はきっと息子は当然……妻の顔を……真っ直ぐ見ることが出来ないだろう……」

「自業自得だ」

「グスッ……まったくだ……グスッ」

「泣くが良い、わしは止めんよ。人は弱いものだ」

「グスッ……はじめで、言われだ……嬉じい…グスッ」

 

 武士の情けでゲンドウの泣き顔は見ないよう進む先に視線を合わせれば動き出した良子の肉体が零戦を取り込もうと手を伸ばし始めていた。それは結局、傍にいる初鰹も取り込むことを意味する。

 

「あれごと取り込まれたらどうなるのだ?」

「グスッ…このままではアダムの肉体が王となってしまう。しかし、魂の無い肉体を取り込んだところで王になれるはずもなく、結局はリリスの本能に従い、ガブの部屋が覚醒、後に待つのは人類の魂の補完だ」

「人の未来が強制的に閉ざされる、か」

「そうだ、そしてお前の妻は気の遠くなる時間を独りで過ごす事になる。一度人の一生を過ごしたリリスはそれに耐えることが出来るとは思えんな」

 

 これはゲンドウなりの心配なのだろう。この男、どうやら素直に口に出せたいらしい。

 

「心配してくれるその気持ち、感謝する」

「!?」

「ふふ、わしもまた人の一生を終えたのだ、その中にはお前のような人間も身近にいたよ。まあ、わし以外に見せる妻の態度がお前にそっくりだったから理解できたんだが」

「……そうか」

 

 この男、やはりとんでもなく不器用なのだ。それが他者に対して如実で出てしまうのだから、さぞかし誤解されてきたのだろう。そうして出来上がった人格は悲しみたくないという拒絶を最初から前面に押し出した、中身唯のへたれと言うやつだ。

 

「無駄話はそこまでだ、急ぐぞ」

 

 そうか、嬉しかったのか、ゲンドウ。だから張り切ってエンジンを上げたのだな、ゲンドウ。一度、この男の性格を理解したら酷く単純だと分かる。

 

 響き渡るエンジン音、赤い海を颯爽と渡るゴムボードは着実に目的の場所に近づいている。既に零戦のほとんどを白い体に取り込まれ、引き連れた初鰹も取りこもうとしていた。

 

 やがて零戦も初鰹も全てが取り込まれると良子の顔に付けられた仮面が役目を終えたとばかりに零れ落ちていく。上がる水飛沫、丁度その当りを移動経路にしていたわしらは危うくそれに激突するところだった。ゲンドウが機転を利かせ早くから大回りしていてくれなければ巻き込まれていただろう。

 

 お世辞にも健康体とはいえない太った体が、どんな原理なのか引き締まっていく。わしらは変形する良子の体の足元にボートを止めた。

 

「この先は死海文書に描かれていない。リリスの肉体がどのような変化を遂げるのか、ガブの部屋がどんな形で覚醒するのか」

 

 ゲンドウは四肢損失したわしを抱え変形する様を見上げながら告げてきた。わしも首を上げる。

 

 白い体は若い女性のような体型に変わり、頭の部分から長い白髪を腰まで伸ばしていく。その様を見てわしは声を上げた。

 

「あれは若き日の良子そのものだ」

 

 初鰹の中で会った時よりも幾分若くした、丁度、向こうの世界での戦争末期時代、始めて出会った良子の姿がそこにはあった。あの頃は腰まで伸ばした黒髪を振り乱してわしに会いに来てくれたものだ。

 

 良子が変形を終わらせると部屋自体が揺れ始める。

 

「これは……ガブの部屋が覚醒するのか」

 

 ゲンドウが恐怖に上ずった言葉を発しながら周囲に視線を動かし始めた。わしもまたそれに習い視線を動かせば、若き日の良子が部屋全体に現れ、引き締めあうようにして宙に浮かんでいた。どの良子も淡い微笑を浮かべていてそれがどうにも良子らしくないとわしは思う。まるでこれは――

 

「人形だ」

「あれはきっと、お前の妻の形をしたアンチATフィールド発生装置だ。今の姿はまだお前の妻だが、一度発動されれば、相手が心を許す際も効率の良い存在に変わるのだろう」

「なるほど、故に人形のような姿というわけだな」

「お前が何をするのか検討も付かないが、やるならば急いだ方が良いだろう。あれが動き出せば最早取り返しがつかないことになる」

 

 ゲンドウの上擦った声から察するに本当に時間が無いようだ。とは言っても、わしがこれから行うことなど特に特別なことではない。

 

 部屋がまた振動する。体感からこの部屋自体が地上に向けて浮上しているようだ。

 

「最終段階だ、ガブの部屋が地上に現れるぞ」

 

 ゲンドウが最後通達とも取れる言葉を告げてきた。わしはそれに頷き、今にも白い翼を生やしそうな良子の本体に視線を強く合わせる。両腕があれば大きく広げて迎えたいところだが仕方が無い。格好は悪いが良子には我慢してもらおう。

 

「良子、約束の時は来たぞ?」

 

 自分の想いを込めるように語り掛ける。

 

「良子は昔から待ち合わせに煩かったからな。ギリギリだから怒るかもしれんが、大目に見て欲しい。ほら見ろ、わしはもう四肢がない中で、それでも間に合ったんだ。怒るのは勘弁して欲しい」

 

 ゲンドウは黙ってわしの行動を見守ってくれていた。有難いものである。

 

 良子は未だに何の動きも見せない。それでもわしは語り続ける。

 

「初鰹の中で約束しただろう、良子、お前はわしを迎えに来てくれるのだろう? 忘れるにはその姿、若すぎると思うぞ?」

 

 巨大な良子の頭が僅かに下がり、その黒に覆われ瞳の無い目がわしを捉えた。

 

「そうだ、良子。わしだぞ、お前の夫、綾森波尾だ」

 

 良子の口が開く。

 

 

――ア、ナ、タ

 

 

「うむ、うむ、そうだ、お前の愛する夫だ、そしてお前はりりすという名前ではなく」

 

 

――ワ、タ、シ、はリョ、ウ、コ

 

 

「そう、向こうの世界でわしと共に人の一生を共にしてくれた伴侶、綾森良子だ」

 

 空洞のような瞳に赤い眼が産れて完全にわしを捉えると人形のようだった表情が生き生きとしたものに変わる。それはもう、ただ巨大な良子だった。

 

『危なかった、あなたが声を掛け続けてくれなかったら、このまま本能に従って行動していたところだったわ』

 

 わしにとって何時でも聞き続けていたいと思わせる鈴のような声がガブの部屋に響き渡った。

 

『もうホント嫌ね!! 全部クソアダムとマダチのせいだわ…って、そこにいるのはマダチではありませんか……ぶち殺す!!』

 巨大な白い腕がのそりと動き出せばゲンドウが声にならない悲鳴を上げてわしにしがみついてきた。それを見て良子は眉を吊り上げる。

 

『おいコラ! まさか貴様、私の夫が見た目美少女だからって欲情してんじゃないでしょうね!! ホント、捻りつぶすわよ!!』

 

「ひぃぃぃぃ、自分は妻一筋です!!」

 

『そのせいで私が取り込まれたんだろうが!! どっちにしろ、貴様は死刑じゃ、クソが』

 

「結局何を言っても無駄じゃないですかぁぁぁ!!」

 

 オッサンが涙を飛ばしながら首を横に振って、嫌々し始めた。それにしがみ付かれる、美少女……犯罪臭いな、これでは。

 

 わしの心情としてもオッサンにしがみ付かれるのは勘弁して欲しい。

 

「これ、良子。既にゲンドウは補完を行おうとは思っておらんよ、どうか静まっておくれ」

 

 部屋に響き渡る舌打ち、良子の腕がピタリと止まる。

 

「ゲンドウ、お前も落ち着け。良子はわしや家族以外には冷たい印象を与えるが、決して嫌いだからそうしているわけではないぞ。お前のように不器用なだけだ」

 

 諭すように言えば、ゲンドウも落ち着きを見せ始め、しがみ付くのを止めてくれた。

 

「さて、良子。時間は残っていない。早速始めるぞ」

 

『初号機のコアの中で話し合ったあれを本当にするのね?』

 

「もしもの時のために考えていた作戦が役に立つのだ。あれが行えれば一石二鳥だろう」

 

『そうだけど……』

 

「今更この身を惜しむ事はない。残念ながら時間が無いことでゲンドウを地上に返すのは無理だが、まあ、実から出た錆だと思って諦めて欲しい」

 

 こればかりは仕方が無い。ゲンドウを人のまま地上に返すにはこの部屋が覚醒しすぎた。最早、この部屋に肉体のまま地上に返す出口は無いのだ。あるのはもう魂を迎える入り口のみ。

 

「私は既に覚悟を決めているが、お前たちは何をするつもりだ?」

 

 ゲンドウの問いにわしは答える意味も込めて初鰹の中で良子と話し合った作戦を伝えた。それを聞いて、ゲンドウは驚きを見せ、次いで苦笑を浮かべる。

 

「なるほど、お前だからこそ行える作戦だな。それならばここまで遂行された補完を止める事が出来るかも知れん。しかし、如何にお前が特別だからと言って所詮は私たちと同じ人間だ。何時かは終わりを迎えるぞ?」

 

 流石と言うべきか、すぐにこの作戦の穴を指摘してきた。わしもそれは理解しているつもりだ。わしはわしをそこまで信用していない。

 

「その時は外にいる相棒に全てを任せるさ。あの子には心強い仲間と、不本意だが、愛するわしの妻と同じ存在が共にあるからな」

 

 相棒と言う言葉と、妻の同じ存在という言葉でゲンドウは理解したのか苦笑を深めた。

 

「お前はまた、私に偽りの報告を残したというわけか……落されたアダムの魂はまだ存在して尚且つ親友の娘と共にいる。お前たちにとってこれほど心強いものは無いな」

「あの子の父親には悪いと思っている」

「構わないだろう、私と違ってウズミは娘の選択を妨げるほど理解無い父親ではないからな。何より、そんな事をすれば亡くなったあいつの妻が夢枕に立って恨み言を述べるというもの……しかし、そうなると逆に止めるかもしれないが」

「カガリの父親は妻を愛しているのだな」

「私とは違う形で、私と同じくらい、だ」

 

 あいつの妻への想いは全て娘に向かっている。そう、ゲンドウは呆れた表情で告げてきた。おーぶの代表であり続けるのは国民と半分はカガリを次の地位次がせるためらしい。まったく持って親馬鹿である。

 

 と、脱線はこのくらいにして早速始めようと思う。良子の白い巨大な両手がわしとゲンドウを優しく掴み上げる。

 

『もう良いのね、仕方が無いからマダチも共にする事を許可するわ。ここに放置で死なれるのも寝覚めが悪いから』

 

「か、感謝する」

 

 掴み取られた事でゲンドウはまた体を震わせ、声も上擦らせる。

 

『さあ、始めるわ。古の儀式、そこに新たなる供物を捧げん。反発する魂を糧に覚醒したガブの入り口を封鎖する』

 

 わしとゲンドウは白い手のひらに飲み込まれていく。このまま、飲み込まれればゲンドウは儀式通りそのままガブに封印されるだろう。しかし、わしの魂はそれに含まれない。何故ならあのあだむにして、異質だと言わしめた魂だからだ。つまり、その性質を逆手にとって取り込もうとする魂の入り口をわしの魂で封鎖すると言うのがこの作戦の要である。

 

 肉体からわしの魂が這いで出てゆく。幽体離脱のように空中に浮かび上がり、ゲンドウが取り込まれていく様を見つめる。

 

『勿体無いけどあの男は魂の揺り篭に取り込んで置いたわ。さあ、次はあなたの番』

 

 良子の白い手が宙に浮くわしに伸びる。わしもそれに習い透き通る腕を伸ばす。

 

「わしは所詮人間、どの程度の時間を稼げるか見当もつかんが、あの子等の為、気張って行こう。着いて来てくれか、良子?」

 

『ふふ、当然ですよ。私はあなたの妻ですから。あなたも、私を独りにしないでね?』

 

「それこそ、当然だ。わしはお前の愛する夫だからな」

 

 互いの手が触れるとわしの意識がスウッと遠のいていくのが分かった。

 

 

 

 

 

 わしは自身の終わりを、二度目の生の終わりを迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+サイドアウト+

 

 

 

 ジオフロントに剥きだしとなった巨大な球体はその動きを止めて以降再び動きを見せる事はなかった。これによりロンドベルは第一警戒態勢を解かれることになる。それでも監視の意味を込めてその場に滞在する事数時間、連邦及び日本政府によりネルフ組織の解体が可決された。そして旧ネルフがある第二新東京市は特別警戒地区に指定され、その後半径二十キロ圏内は立ち入り禁止となった。

 

 旧ネルフスタッフ及びパイロットに関しては暫定措置としてそのままロンドベル所属とることが決定される。未だ外敵の存在が居る事による先送りであった。

 

 ロンドベルにその通達が成されるとそのまま最後の戦いに赴くため、エヴァパイロットと一部のスタッフを乗せて宇宙に旅立った。

 

 数日後、数々の異性人との戦いに勝利、その後地球圏に迫り来るSTMC、宇宙怪獣を第四世代航宙艦エクセリヲンに搭載された縮退炉の暴走で作り出したブラックホールで、数億ともいえる宇宙怪獣を飲み込む。その際、艦長と副長が犠牲になったが、一先ず宇宙怪獣の脅威は無くなったといえよう。蛇足だが、これによりタシロ艦長の女性不人気は一気に好転することとなった。

 

 その後、すぐに異性人の親玉とも言えるエアロゲイターの戦いが開始されたが、数多の試練を乗り越えてきたロンドベルの絆に死角は無く、総力を持って戦いこれに勝利した。これにより後にバルマー戦役と呼ばれる戦いは終わりを告げたのだ。

 

 人類は束の間の平穏を手に入れることになる。

 

 ロンドベル所属扱いだったパイロット及びスタッフ各メンバーが帰るべき場所、所属するべき場所に戻る最中、先送りにしていた旧ネルフメンバーの進退だけが不透明だった。

 

 日本政府はネルフの中枢に関わっていた職員の殆どを監視と旧ネルフ本部の調査団という名目で囲う旨を決定していたが、パイロットとその機体については頭を悩ませていた。

 

 世界政府からはエヴァ本体を廃棄処分、パイロットを保護観察処分するよう進言してきたが、日本の裏を司る二つの組織はそれに否を唱え、表の日本政府に拒否するよう打診していた。どちらも取れない日本人特有の優柔不断さが遺憾なく発揮された案件である。ズルズルと時間だけが過ぎる中、当然情報とは漏れてしまうもので、この時は当事者のパイロットにも耳に入ってしまう。だが、これにより事態は一気に加速する事になる。

 

 その話を耳にした4号機パイロット綾波カガリは決断した。

 

 その決断を耳にした弐号機パイロット惣流アスカ・ラングレーは賛同する。

 

 その二人の盛り上がりを耳にした初号機パイロット碇シンジは苦笑を浮かべながら従う。

 

 三人のパイロット、三機のエヴァンゲリオンの進退はその後トントン拍子に決まり、それは遂行される事と相成った。

 

 

 

 

 

 こうしてエヴァパイロットにも平和が訪れようとしていた。

 

 

 

 そう、悲しいかな束の間という名を付けなければならない平和が。

 

 

 

                                 αの章 終わり。




 これにてスパロボαが終わりを迎えます。元々、元おじいの行く末を一応の終わりに見据えていたので、最後の話は『まごころを君に』に決めていました。中途半端な形ではありますが、ご容赦ください。

 さて、αの章と設定させて頂いたことから、次章があります。

 主人公も変わります。ですが、既存のキャラ、元おじいの想いを最後に託した存在に代わるだけですので新たなオリ主は出ません…たぶん。

 と言うわけで、もう少しお付き合い下さい。


 

 次回は次章に続く幕章をお送りしたいと思います。


 それでは次回もサービス、サービス。


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幕章としてのαⅡ
封印の始まる頃に 前編


 この話は幕章のお話です。








 始まります。


 慌しく数多の人種の行きかうオーブ本土国際空港、その場所に二人の少年少女がトランク片手に降り立った。少年の見た目は純粋な日本人と呼べる黒髪に黒い瞳、少女の方は茶髪に青い瞳だが、顔立ちは日本人のものである。

 

 二人は迷いの無い足取りで入国手続きの場所まで行くと少女の方が徐に懐から一枚の書類を取り出して監査官に差し出した。それを見た監査官は目を見開かせ、二人と書類を見比べ、手元にあった通信機で誰かと会話し出した。やがて、通信で呼び出されたのだろう空港関係者の男性が二人を丁重に連れて行く。

 

 本来向かうべき審査場所とは違う、俗に言うVIP対応の通路を男性の先導で歩き続け、近代的な空港に似つかわしくない豪勢なヨーロピアンな扉の前で止まるとその扉は開かれ中に促される。

 

 中もまた豪勢な装飾の施された旧時代の貴族が住んでいるような部屋だった。その場所に立つ、金髪の少女は二人の登場に心からの笑みを浮かべ、金持ちが持っているような豪勢なソファーに座るよう招いた。

 

 二人と金髪の少女が豪華なソファーに座ると音も無く扉が開き、空港スタッフが飲み物などを持って現れ、綺麗な動作でテーブルに置くと深くお辞儀して立ち去っていく。部屋に三人だけとなると金髪の少女が改めて二人を見つめる。

 

「久しぶりだな、二人とも。戦艦と違う空の旅はどうだった?」

 

 金髪の少女――オーブ代表の娘にして対外的には先日某コロニー留学を終えて帰ってきたとされる、カガリ・ユラ・アスハは太陽のような笑みを浮かべてそう言った。

 

「ファーストクラスなんて、中々体験できないものでしたよ。僕が日本人だからなのか、至れり尽くせりで逆に緊張してしまいました」

 

 黒髪の少年――対外的には日本で一般的な中学に通うごく普通の男子中学生、碇シンジが苦笑を浮かべて感想を述べた。

 

「バカシンジったらオドオドしっぱなしで、終始笑わせてもらったわ。まあ、あたしは快適に空の旅を楽しませてもらったけど。ホント、姉御のおかげよ」

 

 茶髪の少女――対外的には日本で少年と同じ中学に通うごく普通の女子中学生、惣流・アスカ・ラングレーは隣の少年を鼻で笑いながら感想を告げた。それにシンジはジド目で睨む。

 

「酷いよ、アスカ。笑ってないで助けてくれればよかったのに」

「あんたも男なら女に頼るんじゃないわよ」

「そこは助け合いだから」

「都合の良い言葉ね」

「その言葉、そっくり返すよ。そんな時ばかり自分を女の子だと引き合いに出す」

「言ってくれるじゃない、バカシンジ」

「素直に言葉に出せないアスカとは違うから」

 

 旗から見れば不穏な会話に聞こえ、そのままケンカに発展しそうな雰囲気に見える。だが、カガリはそれを止めることなく見守っていた。カガリに言わせればこれが二人のじゃれ合いのようなものだと理解しているからだ。

 

「懐かしいな、あの戦いから一年か」

 

 バルマー戦役と呼ばれる戦争から役一年程が過ぎていた。そして三人が再開するまでの期間でもある。

 

 カガリが述べた言葉に驚きを見せるアスカは口を開いた。

 

「ちょっと、姉御。この部屋大丈夫なの?」

「盗聴や監視、その他丸々全て調査済みだ。当然部屋は防音、外に立っているスタッフもあたしが選別したからな、安心しろ。むしろ、あたしの屋敷やホテルの方が危険だろう。ここオーブでは姫だからな、あたしは」

 

 顔を晒した覚えは無いが、それでも何処に目があるか分からない。自分も含め、かつてエヴァパイロットだった三人は一人を除いて平穏な生活を送る、そういう設定なのだ。

 

 普段日本で生活するシンジやアスカには監視がついている。一年経った今でもそうだ。今回、この国に来るのときも、監視者がついている。今は別室で大人しくしているだろう。

 

 そうなるとこの秘密裏の会談は三人にとってよろしくない状態なのだが、そこにはからくりがある。二人を監視する存在は日本の裏を司る存在、惣流家の配下がこれに当たっているのだ。これによりその殆どのことに目を瞑ってくれている。もちろん、世界政府に報告する書類も改竄済みだ。あくまで彼らは私的な旅行を楽しむ、と言うのが今回の目的だ。

 

 もっとも、彼らが一年ほど日本で大人しくしていたからこそ、今回の旅行が許可されたのである。流石に数ヶ月での接触は日本政府も許可してはくれなかった。

 

「綾波カガリは以前行方不明、ですか。この様子だと日本では既に死亡扱いになっているかもしれないですね。僕としてはまた現れて欲しいところですが」

「残念だが、もう半年ほど様子見するつもりだ。下手に現れてこの国に要らぬ疑いを掛けられたくない」

 

 この国、オーブはカガリが思っていた以上に闇を抱えている。きっと、彼らと一つの戦争を経験していなければ気づけたかどうかも分からない。仮に気づけたとしても姫と言う立場を忘れ、碌な配慮もせず、旗から見たら短慮な行動をしていただろう。それ即ち、この国の首を絞めることになるのにも関わらず、だ。

 

「けど、あたしの選択とお前たちの意思は別だ。今回この国に呼んだのは再会だけでなく、お前たちの意思を確認するためでもある」

 

 そう言ってカガリはテーブルに置かれた端末を手に取ると部屋の正面に掲げ、ボタンを一つ押した。

 

 天井から自動で降りてくる大きなスクリーン、部屋が僅かに暗くなり、そこに光りが反射される。

 

 映し出されたのは国営放送だった。アナウンサーが声を詰まらせながら状況を世界に伝えている。望遠カメラが捕らえていたのは、大気圏上空に突如現れた大きな大陸だった。

 

「あれが現れたのは今から十分前、もう少し早ければあたしたちの再会は成されなかっただろう」

 

 飛行機が既にオーブ圏内に入っていたからこそ、この国に降り立つことが出来たのだ。現にシンジたちを乗せた飛行機を最後に全ての便が先ほど運休になった。

 

「大気圏に現れたあの大陸はこの星の守護防衛の根幹となる空中要塞。名をバラルの園と言うらしい」

 

 かつてアダムと呼ばれたある少年がそう教えてくれたことによると、あれは外敵からこの星を守るために存在すると言う。一見して地球人にとって喜ぶべき代物であるが、早々美味しい話は落ちていないと言うもので、あれは酷く守備範囲が狭いらしい。

 

「そして、あれを動かす正統な操者は傲慢だとカヲルが言っていた。あたしもそう思う」

 

 カガリが神妙に告げる。それに対してシンジやアスカは眉を顰めた。何が傲慢なのか、理解できないようだ。その時、緊急速報の音が流れ、怯えたアナウンサーが驚愕の事実として大陸から謎の攻撃が発生、コロニーや新たに現れた異性人の宇宙要塞を攻撃し始めたと告げてきた。これにより二つのコロニーが壊滅状態に陥ったようだ。

 

「あれにとって、宇宙を拠点とする人類や共存の意思を持つ異性人は排除すべき存在というわけだ。それを唯一人の人間が決めている。これを傲慢と言わずして何とするか、と、言うのがあたしとカヲルの共通する見解ってわけ」

「その、唯一人の人間って言うのは誰なのよ?」

 

 アスカ問いかけた。シンジもそれが気になるらしく、頷いて問う。それに対してカガリは再び端末を操作する。映像が切れて部屋が明るくなった。

 

「ま、当然それを聞きたくなるわな。そこで、先ほどの意思確認を必要とするんだが」

「なるほどね、読めたわよ。姉御も粋な計らいをしてくれるじゃない」

「え? どういう意味さ」

 

 理解できないのか、シンジが首を傾げる。

 

「数ヶ月前、旧ロンドベル隊が突如行方不明になった折、あたしはもちろん、お前たちも心配しただろう?」

 

 エヴァチームが最後に所属したロンドベル隊が行方不明になったのは割りと有名な話だが詳細は世間にあまり知られていない。彼らには宇宙怪獣との戦いで創ってしまった負の遺産、巨大な重力波から地球圏を守るという使命があった。特機、俗に言うスーパーロボットの動力をエネルギーにして巨大な盾を作り出し、迫り来る重力波から地球圏を守るという作戦遂行前に部隊ごと失踪してしまったのだ。

 

 その後、月で開発中のムーンクレイドルに突如現れ、箱を閉じようとする重力の魔神と戦いを繰り広げ勝利、後僅かで迫り来る重力波から何とか地球圏を守ることに成功する。

 

 全てが終わってから詳細をカヲルの口から聞いたとき、カガリは自分の不甲斐なさに歯痒い想いをした。それはきっと、彼らも同じのはずで。

 

 カガリから語られた先の行方不明の詳細を聞かされ、シンジやアスカはカガリと同じような表情を浮かべていた。

 

「あたしは別として、お前たちは今回こそ、と思わないか?」

 

 悪戯っ子のような表情でカガリが問いかければシンジとアスカは不敵な笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

 端から意思は決まっていたようなものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 オーブアカツキ島の最下部には密かに作られた基地が存在する。これを知るのはオーブ五大氏族の中でもアスハ親子とその部下たちだけだ。本来ならそこにはオーブと愛する娘を守護するべきモビルスーツを開発、それを安置するはずだった。しかし、当の姫が既に最高の守護を手にしたことでその予定は頓挫することになった。地下基地が作られた直後の話である。

 

 カガリはその話を父ウズミから聞かされ、何処に隠すか模索していたエヴァ三機をその場所に安置することに決めた。バルマー戦役直後の話である。

 

 その後、世界政府の要望を叶えるべく、ダミー機体を乗せたロケットを太陽に向けて打ち上げ、秘密裏に三機をこの場所に持ってきたのだ。それだけでなく、レイを同志と呼んでいた旧ネルフの腕利きスタッフを挙って買収、この地下基地のお抱えスタッフとして向かい入れることに成功した。全てカガリのポケットマネーで賄われている。流石は姫と呼ばれるだけの資産を持っているようだ。

 

 高速エレベーターで地下に降り立つ三人を懐かしい面々が向かい入れた。その筆頭は泣き黒子の博士であろう。

 

 彼女は立場上、旧ネルフでも深い位置にいたこでその進退が危うかった。世界政府は旧ネルフの行ってきた罪を全て生き残りの冬月コウゾウと赤木リツコに被せようとしたことを察知した日本の暗部はエヴァの整備、研究に関して貴重な存在である赤木リツコを表向き暗殺することを決定する。旧ネルフに反感を持っていたとされるダミー組織をでっち上げ、その組織の犯行に見せかけて暗殺、裏ではオーブに亡命させ、この場所で日陰の生活を送らせる事にしたのだ。

 

 残念ながら二人とも暗殺すれば怪しまれると言う事で冬月コウゾウについては本人の了承の下、デコイになって貰うべく、暗殺阻止という設定で世界政府に身柄を拘束させてもらった。

 

 三人の姿を見つめ、ネルフ時代に考えられない朗らかな笑みを浮かべる。

 

「そう、この場所に来たということは意思を固めたのね?」

 

 その言葉に三人は頷いた。

 

「なら、行きましょうか、私たちの新たなる戦いの拠点に」

 

 

 そう言って三人を促し歩き出す。複雑な通路を迷い無く歩くと地下基地にしては巨大な施設に到着した。

 

「こ、これは……」

 

 その場所に鎮座するものを見て言葉にならない驚きを見せるシンジや、目を輝かせて興奮するアスカ、そんな二人を見てリツコは苦笑を浮かべて同じく苦笑を浮かべるカガリを見た。カガリも最初見た時は同じような反応を見せたのだ。

 

 そこにはアメリカ政府が所持するフォード級空母より巨大な空母艦が静かに、しかして圧倒的な迫力で鎮座していた。

 

「驚いているようね。これが私を含め旧ネルフ、いえ、今は新組織エバーズのスタッフが心血を注いで作り上げたエヴァ運用空母艦Lilinよ」

 

 リリンと呼ばれた空母艦を前にしてリツコが説明を開始した。

 

 全長、約680メートルを誇り、空母としては世界最高峰の大きさを持つLilinはかつて特務機関で培った技術を余すと来なく盛り込んだ代物である。

 

 すべての制御を新たに作り出した第四世代型コンピューターMAGI・Secondによって行う事で最少の人数で運用が可能、しかし、操作に関しては特殊な方法で行われる。それの主な理由が動力源だ。

 

「この艦はね、エヴァにも搭載されているS2機関が三基搭載されているわ。これによって本来海上移動が当然の空母艦を対宇宙運用に成功したの。姿勢制御から重力制御なんかはMAGIの範囲内だし、そう難しいことでもなかったわ。けど、宇宙運用となると空間把握の問題から当然剥き出しのブリッチが無防備に晒されることになる」

 

 そう言いながらデッキ最後部にあるブリッチに視線を合わせた。三人もそれに習う。

 

 確かに宇宙という空間ではあの場所は狙ってくれと言っているようなものである。当然、宇宙でも稼動できるのだから装甲などは最高クラスのものが使われているが、それでも狙い撃ちにされれば何時かは破壊されるだろう。それはこの空母の終わりを意味する。

 

「だから、私たちはこの艦がATフィールドを発動出来るよう、あるものを搭載させることにしたのよ」

 

 そう、Lilinにはエヴァの心臓とも呼ぶべきコアを搭載したのだ。

 

「ちょっと待って、リツコ。エヴァは量産型を最後にどの国も開発はされていないはずよ。一体何処から持ってきたわけ!?」

「あら、アスカ。その答えは酷く単純なものよ。こ・の・わ・た・し・が、ここにいるのよ。それが答えにならないかしら」

「まさか、新たに作ったわけ!?」

「ええ、そうよ。ここには三機のS2機関搭載のエヴァがあるのだからそれを模して作り出すことは可能でしょう」

 

 作り方は内緒よ、とウインク付きで言葉を締めた。当然のようにエヴァを作り出す目の前の博士の凄さにシンジとアスカは呆気に取られるしかない。カガリも苦笑を強める。

 

「まあ、それはいいとして、そうなるとこの空母はエヴァと同じくチルドレンが必要になるわけよ。でも、今存在するチルドレンは三人、トウジ君の登録は既に抹消されているから数に入れないとして、あなたたちが仮に戦闘に出たらこの空母艦は盾を失う。そこで考え付いたのが完全なダミープラグを作り出すこと。そこで役に立ったのが――」

「僕と言うわけだね」

 

 リツコの言葉を引き継ぎながら三人の前にカヲルが歩いてきた。

 

「元々量産型には僕のダミーシステムが使われていたからね。施設さえあれば新たなダミーシステムを作り出すことは可能だった。まさか、本当にその施設を作り出すとは思わなかったよ。それも一ヶ月でね。ホント、リリンには叶わないな」

 

 苦笑を浮かべ、カヲルは清ました表情を浮かべるリツコに視線を合わせた。

 

「彼のおかげでMAGI直結での完全制御可能、加えて暴走の心配の無い安全なダミーシステムを作り出せたわ。これでMAGIに登録されたスタッフなら順位による区別で操作が可能になったことになる。ちなみに空母操作の第一位はカガリさん。この施設を含め、多くの意味でのパトロンだし、エヴァの操作に関しては右に出るものはいないもの。第二位は僭越ながらこの私が勤めさせてもらうわ。事実上の艦長と言う立場ね」

 

 残念ながらシンジやアスカは順位に入っていない。彼らはエヴァを動かすと言う大きな立場があるからだ。では、同じ立場のカガリを何故入れたかと言えばこの空母を最高の状態で動かせるのがカガリだからである。

 

「まあ、そういった細かい部分に関しては追々教えていくわ。さて、説明の続きを行うわよ」

 

 ATフィールドが発生できるようになり、大気圏突入などに必要な諸々が必要なくなった。もっとも空母に使われているほぼ全ての装甲はエヴァを押さえ込む強制具の改良版であり、厚みと強度が増したものである。不測の事態でフィールドが発生できなくても大気圏突入可能なぐらい頑丈だ。

 

 次に武装についてはエヴァ運用甲板の両端に五基の陽電子砲が搭載、逆に対空火器などはATフィールドがあるので搭載されていない。あれは全てを拒絶出来る代物だからである。そして最大の武装は甲板デッキに収納された巨大ポジトロンスナイパーライフルだ。発射体系になると甲板が開き、全長100メートルの巨大な砲門が現れるようになっている。一時的に三基のS2機関を直結、そこから繰り出される膨大なエネルギーから撃ち出される一撃は最大級の攻撃力を誇れるだろう。ただ、強度の問題で連続掃射は不可とされている。

 

 そして最後にどうして支流の宇宙船艦ではなく、モデルを空母艦にしたかという理由だ。

 

「そこはやっぱりこの艦がエヴァ運用を旨としているからよ。そうね、実際見てもらった方が早いでしょう」

 

 そう言ってリツコは携帯でどこかに電話し始めた。やがて、旧ネルフ本部で聞いた警戒音のようなアラームが鳴らされた。

 

『これより、エヴァ三機を発艦させる。甲板にいるものは作業を止めて指定の位置に待機せよ。これより、エヴァ三機を発艦させる。エヴァ、リフトアップ』

 

 甲板の一部が開きレールが延びるとエヴァ初号機、弐号機、4号機の順でリフトアップされた。甲板という大地に堂々と立つ三機のエヴァ、大地のように揺ぎ無いLilinの姿は壮観である。

 

「もしかして、エヴァのリフトアップのためだけに空母艦にしたとか……」

「その通りよ、シンジ君!! エヴァと言えばリフトアップ、あの大地に始めて立つような姿はエヴァの醍醐味と言っていいわ。だからこそ、私たちは敢えて広い甲板のある空母艦を選んだのよ!!」

 

 先ほどからの説明などモノともしない声を張り上げ、シンジに迫るリツコの姿にアスカは口を半開きにして呆然する。迫られたシンジは顔を引き攣らせながら同意するよう取り敢えず頷き、そんな三人をカガリとカヲルは微笑ましそうに見つめるのだった。

 

 

 

 こうして、秘密裏に創られた彼らの新たな活動拠点、新生エバーズがこうして日の目を見ることに相成った。

 

 




 次回は封印の始まる頃に 後編をお送りします。





次回もサービス、サービス……カガリ姫のポケットマネーに夢を見た話でした。


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後編








 始まります。


 

 警戒音が地下基地に響き渡る。

 

 基地にいるスタッフは空母艦Lilinに登場するようアナウンスが成されると、残っていたスタッフが慌しく搭乗し始めた。

 

 数分の後、カガリ以外全ての乗組員が搭乗するとその場所に海水が流れ込む。この空母艦、深海移動もお手の物である。

 

 さすが、赤木リツコの魔改造と思わせる行為を平然と行えるLilinが動き出す。深海に作られた通路を通り、そのままオーブ領域から離れると浮上し始めた。

 

 水しぶきを上げて海面に出れば空母艦本来の水上移動を開始、Lilinは悠然と航海に出た。

 

 移動を促す操作盤を動かしているリツコが、時折、指定された席で計器を調べながら端末を操作するスタッフ、周囲を探査、監視するスタッフに命令を下しながら海の旅は続く。

 

 ブリッチにはシンジやアスカ、カヲルを初め、艦長の赤木リツコがいて、後は三人ほどのスタッフが常駐していた。

 

「周囲の三キロ圏内に機影は確認できません」

 

 スタッフの一人がリツコに報告する。

 

「了解、このままの航路を維持、目的の場所まで後どのくらいかしら?」

 

 リツコの問いに別のスタッフが答える。

 

「五分後には目的海域に到着、その後、残りS2機関二基を起動、浮上した後、航路そのままにバラルの園へ向かいます。このままなにも無ければ十五分後に視界に入る予想です」

 

 それを聞いてリツコがパイロットに視線を合わせる。

 

「思っていたより時間は掛からないようね。シンジ君とアスカはパイロットスーツを着用後、エヴァ各機で待機、カヲル君は悪いけれど今回はダミーシステムの制御を手伝ってもらうわ」

 

 頷いた二人は即座にブリッチを後にした。残されたカヲルはダミーシステムの制御のため開いている席に座ると端末を操作する。

 

 時間して三分が経った頃、アナウンスによりパイロット二名がエヴァに登場した旨が告げられた。

 

 目的海域が目の前に迫る中、リツコが艦内全てに総通信を入れる。

 

「これよりLilinは飛行を開始する。艦内の所員は衝撃に備えよ。繰り返す、艦内の所員は衝撃に備えよ」

 

 通信を終えるとリツコは操作盤にある端末を物凄い速さでタイピングし始めた。その他スタッフもせわしない動きを見せる。

 

 一通りの操作を終えるとリツコは最後の端末を力強く押した。

 

「Lilin、浮上開始」

 

 言葉と共に580メートルの空母艦が轟音を奏で、揺れ始める。

後方下舷にある二基のロケットエンジンが火を噴くと僅かに上へと向く艦が空に進み始めた。

 

「姿勢制御、正常に作動。動力60パーセントを維持」

 

 スタッフの一人が現状を報告した。次いで別のスタッフが報告する。

 

「この速度を維持すれば、予定より三分早く到着する模様」

 

 モニターにはエヴァに使われるプラグよりも一回り大きい専用のプラグがLilinの中枢部に設置されているコアに差し込まれる映像が映し出されていた。

 

「Lilin専用Xプラグもコアに装着された。ダミーシステムも正常に稼動、MAGIを介して制御が僕に移行したようだ。これでフィールド発動も可能だよ」

 

 最後に締めくくるようカヲルが告げればリツコは一先ず、緊張から来る息を吐き出した。

 

「了解、どうやら正常に起動しているようね。細かい部分を入れれば六割の完成で起動可能、この戦いが終わったら完成させないとね」

「大丈夫だよ、カガリや、あなた、そして多くのリリンが想いを込めて作り出したんだ。きっとこの艦に搭載されたコアはそんな想いに応えてくれるはずだ」

「ありがとう、使徒に慰められるなんて貴重な体験ね」

 

 緊張を解すよう茶目っ気で告げれば、カヲルが苦笑で返してきた。

 

 

 

 

 

 

 予定通り上昇しながら進むこと十三分、ブリッチからの目視により大気圏に不釣合いな巨大大陸を捉えた。

 

「さあ、私たち新生エバーズの初戦よ、皆、覚悟は良いかしら?」

 

 艦内通信でリツコが問えば、帰ってきたのはスタッフの心強い雄叫びだった。

 

「これより作戦行動に移る」

 

 リツコの宣言の下、艦内全てのスタッフが慌しく動き始めた。ブリッチに常駐するスタッフも表情を引き締める。

 

「了解、動力を80パーセントに上昇」

「策敵開始……どうやら既にバラルの園では戦闘が開始されている模様、MAGIによる検索で旧ロンドベルのメンバーを多数確認」

「前方の目標周囲から不可思議なフィールドエネルギーを探知、MAGIによる予想では大陸を守る一種のバリアではないかと推測されます」

「うん、でもこのままの速度を維持で進んで大丈夫だよ、こちらも前方にフィールドを形成して突破できるはずだ」

 

 次々に上がる報告をリツコはその都度的確に返していく。そして最後にリツコは命令を告げる。

 

「大陸内部に到達後、彼らを支援、同時にエヴァのリフトアップを行う。各自、油断せずに」

 

 空母艦Lilinは速度を上げながら遂にバラルの園に突入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++++

 

 

 

 スクールと呼ばれたパイロット養成学校出身のアラド・バランガは自身の搭乗機ビルトビルガーを操作しながら焦りの表情を浮かべていた。

 

 今まで共にしていたある少女を助け出さなければならないという気持ちの焦りが操縦に伝わり、相棒である同養成学校出身、ゼオラ・シュバイツァーの苦言すらも聞き入れないでかなり突出してしまったのだ。

 

「くそっ、完全に囲まれたぜ。最後の最後で撃墜され王の復活かよ!」

 

 クストースと呼ばれる鳥型の神僕カナフ、その量産型種およそ十五機に囲まれ防戦一方であった。幾重にも撃ち出される光り筋を今のところ被弾することなく避けながらも攻撃に転ずる事が出来ず、精神だけが疲労していく。

 

 彼はスクールでよく撃墜されていたことから撃墜され王と呼ばれていた。それでも、今の仲間たちと共に戦い抜き、自身も成長したと思っていた矢先の失態に内心で落胆する。

 

「これじゃあ、被弾も時間の問題だぜ」

 

 仲間たちは溢れ出てきた神僕の量産種や神僕自らを相手にしていて頼るのは無理、相棒のゼオラも何とかこちらに向かおうとしているようだが、やはり量産種に邪魔をされて近づけない。

 

「!? やべぇ!!」

 

 一筋の光りが僅かに肩を掠ったことで規則的に避けていたビルトビルガーの動きが鈍る。幸いにも駆動系にエラーは見られず、操作自体に影響が出なかったものの、今までの感覚が狂いだす。それが操作に影響してか、立て続けに三発ほど被弾してしまった。

 

「幾らビルガーが頑丈に出来てるからって、限度があるぜ」

 

 コックピットからエラー音が響き渡る。途端、操作と機体の動きに差異が出始めた。

 

「嘘だろ、駆動系がやられた!?」

 

 万事休す、その言葉に尽きるとは事ことか。

 

 狙いを定めるかのように光りのエネルギーを溜める量産種、モニターからそれを見たアラドは自身の撃墜を脳裏に想像する。次いで浮かび上がったのは金髪の少女が泣き出しそうな表情を浮かべる姿だった。

 

 終わりを確信したその時、コックピットから見知らぬ女性の声が響き渡る。

 

『そこのパイロット、死にたくなければその場から動かないで』

 

 声の直後に響き渡る轟音、一条の太い光りの筋が狙いを定めていた量産種の多数を飲み込んだ。その後、立て続けに四発の光りの筋がビルガーの周りを囲う量産種を捉えると跡形も無く消し去った。

 

「な、何だ! 増援か!?」

 

 モニターに映し出される空を駆ける空母艦にアラドが驚きの声を上げた。空母艦はそのままビルガーの下方を悠然と進んでいく。

 

『そこのパイロット、動きが鈍いようね。機体に問題でもあるのかしら』

 

 通信からくる指摘にアラドはどう答えて良いか迷いを生じさせる。自分たちの知らない戦艦、そしてその声の主、当然疑うのが筋と言うものだ。それでも、助けてくれたのは確かで、今も自分を心配する声色は確かなものだった。

 

『安心しなさい。私たちはあなた達の部隊の味方のつもりよ。何なら所属名を明かしても良いのだけど』

 

 それならば安心だ、と思っていたら、話には続きがあったようで。

 

『残念ながら私やこの艦に居るものたちはあまり表沙汰になると困る人ばかりで、それを知らせるとなると、あなたやこちらもそれ相応の覚悟が必要になるわ。それでも知りたいかしら?』

 

 酷く返答に困る問いを投げかけてきた。頭で考える事を苦手とするアラドとしては先ほどよりも更に迷わせる。

 

 それでも、このまま立ち往生していれば的になるだけで、駆動系の問題から戻る事も出来そうにないとなれば、結局取れる選択は限られているのだ。

 

「αナンバーズ所属、アラド・バランガ。機体の駆動系に問題が生じている模様、救援願えますか?」

 

 不安を滲ませた声色で問えば、すぐさま了承の声が上がった。

 

『エバーズ所属、空母艦Lilin艦長赤木リツコが承認したわ』

 

 Lilinと呼ばれた空母艦が突如浮上し始めると空中で立ち往生していたビルガーが広い甲板に着地する。

 

『これよりリフトを開きます。但し、中では監視が付きますから悪しからず。ですが、すぐにでも動けるよう修理班を遣しますから安心しなさい』

 

 通信が終わるとビルトビルガーの足元が開き、内部へと収納されていく。その時、ビルガーから僅かに離れた距離の場所から見たことも無い紫と赤の巨人が浮上してくるのをモニターは映し出していた。

 

 

 

 リフトによって内部に通されたビルガーから降り立ったアラドを待ち受けていたのは修理班と思わしき多数のスタッフと年齢の近い銀髪の少年だった。

 

 不安そうに当りを伺うアラドに目もくれず、スタッフは機材と共にビルガーへ向かう。

 

 その行動を見て得体の知れない組織に自分の愛機を触られるは困ると慌てて止めようとしたアラドに銀髪の少年が声を掛ける。

 

「旧ネルフ、今は新組織エバーズとして活動する空母艦Lilinにようこそ。僭越ながら僕こと渚カヲルが君の監視を行わせてもらうよ。スクール出身アラド・バランガ君」

 

 その声にアラドの警戒が跳ね上がる。自身の出身と名前が知られているのだ、それも仕方が無い。けれど、警戒するアラドなど見通した上で疑問に答えてくれた。

 

「これでもこの組織は前組織から培った情報網があってね。君たちαナンバーズの動向は調べさせてもらっていたんだ。だから君の事もその範疇だったわけだけど、詳しい君の個人情報は調べていないから安心して欲しい。好きな人が居るとか、恋人がいるとか、僕らは知らないよ」

「な、な、何で敢えてそこを抜粋したわけ!?」

「おや、その慌てよう、もしかしたら誰かさんを思い浮かべたのかな。もしかして相棒の子?」

「やっぱり調べているんじゃないか!!」

「ふふ、駄目だよ、それは答えを言っているものだ」

 

 慌てて手を口に持っていくも既に遅い。ケラケラとカヲルが笑い声を上げるのとは対照的にアラドは顔を真っ赤にして湯気を上げる。

 

「ブライト艦長も君のその素直なところを買っているのかも知れないね」

「え?」

「先ほどうちの艦長が通信で連絡しておいたよ。君の機体を修理するのに必要だったし、今まで不義理をしていたお詫びも含めてね」

「ブライト艦長を知っているのか?」

「僕はある理由から直接面識無いけど。うちの艦長や所属パイロットはとてもお世話になっていたよ。そうだね、言ってしまえば共に戦った仲というやつかな」

 

 そう言って、懐から写真を取り出して見せてきた。証拠としてなのだろう、そこには見知らぬ三人の少年少女と仲間であるプリペンダー所属のガンダム乗り五人組が映っていた。金髪の少女を真ん中に左右を黒髪の少年と茶髪の少女がしゃがみ、その後ろには満面の笑顔でピースするデュオ、微笑みを浮かべたカトルとトロワ、デュオに肩を組まれ嫌そうな顔を浮かべるヒイロと敵でも居るのかというぐらい睨み付けているウーフェイが特徴的だ。

 

「これはしゃがみ込んだ三人組が始めてお笑いライブを開催した記念に撮ったものなんだ。どうやら彼らがファンになったようで、その記念でもあるみたい」

「あのヒイロやウーフェイが笑ったの!?」

「さあ、直接は知らないから分からないけど、聞くところによれば、一番気に入ってくれたのがヒイロ君らしいよ。ただ、一ミリも笑っていなかったようだけどね」

「意味が分からない!?」

「うん、僕も。けど、金髪の少女曰く、握手を求めてきた時、笑い方が分からないから笑わなかったが、心がほっこりしたって言ったらしい。それでファン第一号になったみたいだよ」

「前半がヒイロらしいけど、後半のほっこりがヒイロらしくない!! そしてヒイロを虜にした金髪の少女たちがスゲェ!!」

「ちなみに金髪の少女は僕の恋人だよ」

「自慢かよ!?」

「うん」

「抜かしよる!!」

 

 最大級のツッコミを上げた頃にはもう既にアラドの仲で不信が払拭されていた。年齢の近さもあってカヲルとの会話がとても楽しいと感じるほどだ。

 

 その後も会話の応酬を続けていれば修理が完了していた。時間にして八分程、とても優秀だと言うことが伺える。そして何より、艦の外から度重なる戦闘音が響き渡っていて丁度良いタイミングであった。

 

「サンキュウ、これでまた戦える。あんたたちが何者かは知らないけれど、ここでの事は一応黙っているつもりだ。まあ、上官に聞かれたら黙っていられるか分からないけどよ」

「構わないよ、既にブライト艦長には僕らの事を黙っているようお願いしたからね。向こうも了承してくれたよ」

「そっか、なら良かった」

「けどね、君には修理の請求をしなければならないんだ」

「おい、ちょっと待て、タダじゃないのか!?」

「この世の中にはタダより高いものは無いらしいよ。良かったね、僕が良心的で」

「いやいや、鬼畜の所業だよ!! 今は何も持っていないからな!!」

 

 それに支給される資金は殆どが食料に消えてしまうので貯蓄も無い。修理費がどの程度なのか知らないが、自分の一食分より高いのは理解できる。アラドにとってそれこそ鬼畜の所業だ。

 

「大丈夫だよ、お金を請求するつもりは無いから。ただ、君には僕のお願いを聞いてもらうだけだからね」

 

 

 そう言って、カヲルは何を考えているのか分からない淡い笑みを浮かべ、逆に顔を見る見る青くしていくアラドはそのお願いを叶えるしか道が無いと悟り、項垂れるのだった。

 




 次回 彼らに再会を、バラルに女神を



 





 次回もサービス、サービス……ルートはリアル系男子、アラド君でした。これにより、その先もまた然りです。


 実はこの為だけに幕章として第二次を書かせてもらいました。第二次αのストーリーを楽しみにしていた方々には物足りない思われるでしょうがご了承下さい。


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彼らに再会を バラルに女神を

 






 始まります。


 アラドが泣く泣く願いを聞き入れている頃、外ではLilinとその所属する機体の登場で、それらを知るメンバーが活気付いていた。

 

 丁度敵が多い場所に現れたことで標的がLilinに集中すれば、突破口が開かれ、続々と見方機が敵の包囲網を突破していく。五基の砲門から撃ち出される陽電子方が容赦なく敵を撃ち落し、迫りくる何百という敵の攻撃が不可思議な赤い壁に阻まれてしまえば量産種に成すすべなど無い。

 

 新たな存在を認識してそれが危険だといち早く感知したサメのような姿のクストース・ケレンは主を守るため、単独でLilinに飛び込むも、甲板で迎え撃つ初号機と弐号機の砲撃によって量産種と同じように阻まれてしまう。

 

 これを重く見たのだろう、カナフや獅子の形をしたザナヴまでもが狙いをLilinや二機のエヴァに定め始めた。流石に神僕たる三体を相手にするには厳しいものがある。

 

 しかし、その頃には続々とかつての仲間たちが集まってきていた。

 

 その中で特に親しい五人組がLilinを守るよう周囲を旋回して警戒に当たる。

 

『よう、お前ら、日本で大人しくしていれば良いものをホント悪ガキだな!!』

 

 デュオのお茶らけた通信を皮切りに続々と通信が入ってくる。

 

『お久しぶりです、シンジ君、アスカさん。あなたたちが来てくれて心強いですよ』

 

 本当に嬉しそうな声を上げるカトルにシンジは知らぬうち笑みを形作る。

 

『ふっ、バルマー戦役以来の共闘か、お前たちの強さを知る俺らにとっては最高の増援だな』

 

 冷静さの中に気遣いを滲ませるトロワにアスカは懐かしさを覚える。

 

『貴様らの強さを俺たちは知っている。だが、新参者は知らないだろう。ならばお前らの全力を持って知らしめてやれ!』

 

 力強い叱咤を与えてきたウーフェイはよくカガリと衝突していたが、お互い認め合う仲だ。

 

『……今回あいつはいないのか……やはり、立場のせいか……残念だ』

 

 端的に問いかけ、自己解決したヒイロは声の中に僅かな落胆が伺えて、きっとファン心理からくるものなのだろう。

 

 彼らだけでなく他の仲間からも次から次へと通信で語りかけてくれてシンジやアスカは喜びを噛み締める。

 

 二人は通信機に向けて声を張り上げた。

 

「あんたたち!! あたしらが来たからには大船に乗ったつもりでいなさいよ!!」

「露払いは僕たちに任せて、皆さんは目的を果たしてください!!」

 

 彼女らの通信を聞いて殆どの機体が目的地のバラルの搭に向かう中、五機のガンダムだけは変わらず周囲を旋回する。

 

 意図に気づいたアスカやシンジは苦笑を浮かべながらも内心で絆の強さに嬉しさが込み上げていた。

 

「まったく、あたしも舐められたものね…あんたたち、残るんだったら、きっちりあの三体と残党を仕留めるわよ!!」

 

 声と共に地面を蹴り上げた弐号機が飛翔、対角線上に丁度飛んでいたカナフに張り付くと赤い右手で勢い良くなぎ払う。

 

「喰らいなさい! あたしの拒絶は痛いだけじゃ済まないわ!!」

 

 直後、ATフィールドが羽ばたく翼に直撃、衝撃でカナフから離れてしまうものの爆音と爆煙を奏で終えれば、翼を捥がれた鳥のような状態に。

 

 当然動けないカナフを挟んだ位置に武装をフルオープンさせたヘヴィーアームズが待ち受けていた。

 

 ニヤリと捕食者のような笑みを浮かべるアスカ、きっとトロワも静かな笑みを浮かべているだろう。

 

「良い位置よ、トロワ!! 鳥は焼き鳥にするのが一番ってね!!」

 

 背負っていた二丁のロケットランチャーを構え、次いで肩ラックを開き、かつて4号機が搭載していた爆発ニードルの発射体勢に入る。

 

『俺は煮込みが好きだが、な』

 

「それもあり、でも今回は焼き鳥にしかならないわ!!」

 

『いくぞ、フルオープンアッタク』

 

「全弾喰らいなさい、シュート!!」

 

 二機から繰り出される無慈悲な実弾とニードルがカナフに降り注ぐ。爆音は当然のこと、爆発による衝撃は凄まじく、爆煙が晴れた頃には全体的に黒こげになった哀れな焼き鳥カナフの出来上がっていた。

 

『ならば、後は串を刺すまでよ!』

 

 投擲のように投げ込まれたツインビームトライデントがカナフに突き刺さり、それが止めとなってカナフが爆発、その身を消滅させた。

 

『珍しいな、お前がこのような掛け合いに参加するのは』

 

『フン、戯言もたまに嗜むのが、強者の余裕だとあのアホ姫が言っていたからな、それを遂行したまで』

 

『なるほど、彼女らしい理論だな、それを素直に聞き入れるお前も淀みない』

 

『鍛錬の一環だ!!』

 

 トロワの言に半ば苦しい言い分けを叫び、ナタクを量産集の残党に向けて移動を開始した。その態度に笑い声を上げながら弐号機とヘヴィーアームズが続く。

 

 

 一方、サメ型のケレンを相手にするのは初号機やサンドロック、デスサイズと言った格闘戦を主力とするメンバーだ。

 

 空を海のように縦横無尽に動き回るケレンを追い込み漁のように後ろから追いかけるのは際も短距離の機動力に特化したデスサイズである。

 

『おら、シンジ、そっちにいったぞ!』

 

「了解です、まずは動きを止めます」

 

 居合いのような構えで待つ初号機の元にケレンが飛び込んだ次の瞬間、鞘から抜かれたマゴロクソードが鋭い切れ味でもって背ビレを切り裂いた。

 

「カトル君!」

 

『分かりました、シンジ君、行きますよぉ!!』

 

 背ビレを切られ動きに鈍さを見せ始めたケレンの尾ビレに突出したサンドロックが二本のヒートショーテルを振り下ろした。これにより、完全に動きを止めたケレンに死神の鎌が待ち構えていた。

 

『おら、この俺の姿を見たら死ぬぜってなぁ!!』

 

 ビームサイズが幾重にも振り下されて切り裂き、

 

「カトル君、僕らも」

 

『畳み掛けますよ!』

 

 ダメ押しに初号機やサンドロックが追撃に回れば、既にまな板の鯉状態のケレンが勢いよく爆散する。

 

「ふう、これで一つ。これより残存勢力の殲滅に移ります」

 

『こちらも、初号機に続きます。デュオもちゃんと働いて下さいね』

 

『おいおい、真面目君たちは人使いが荒いぞ!』

 

 通信から恨み節が放たれる。それをシンジがさわやかな笑みで返す。

 

「なら、そこで指を咥えて見ていてください。すぐに片付けますから」

 

『言うようになったじゃねえか、シンジ』

 

「褒め言葉ですね」

 

 皮肉をしれっと返せば、カトルの通信が入ってくる。

 

『頼もしい限りではありませんか、デュオ』

『あの頃はまだ、可愛げがあったのによ』

『最後の戦いの時は既に今のようなシンジ君でしたよ。だからこそ、僕らは彼らに背中を預けられる』

『まったくだ。しゃあない、もう一働きしますかね!』

 

 既に量産種と戦い始めていた初号機に続くよう、デスサイズが行動を開始すれば、カトルは成長が嬉しいくせに、と内心で思いながらサンドロックも敵の殲滅に動き出すのだった。

 

 

 神僕二体が文字通り消滅、最後の一体となったザナヴもまた終わりを迎えようとしていた。ヒイロの操るウイングゼロのビームサーベルによって切り刻まれたザナヴ、その合間を漏らさないように五発の陽電子砲が絶妙のタイミングで撃ち込まれる。立て続けに食らったダメージは大きく、ザナヴもまた動きを鈍らせていた。

 

 更なる追撃を加えようと動き出す、ウイングゼロのコックピットに空母艦Lilinから通信が入る。

 

『こちら艦長の赤木です。これより本艦は主砲発射体勢に入ります』

 

 中央の甲板が物々しい音を響かせて開かれると巨大な砲門が現れた。先ほどの通信で意図を察したウイングゼロはマシンキャノンを盛大に噴かせて牽制、ザナヴの動きを留めている。

 

『本艦との同時射撃を提案、目標及び、その周囲の残存勢力を一気に片付けます。返答を』

『任務了解した。こちらもツインバスターライフルの発射体勢に入る』

 

 天使のような白い翼を羽ばたかせ、Lilinの位置する場所から更に上の空域に移動すると二対のバスターライフルを一対にして構え、エネルギーを溜め込む。

 

『ゼロシステム発動、予測による誤差修正範囲検知』

『MAGI予測システム連動、誤差修正完了、S2機関全基バイパス直結、ポジトロンスナイパーライフル出力最大』

 

 巨大砲門の先に眩い光りが溢れ出して行く。同時期ツインバスターライフルの先端からも漏れ出るエネルギーの光りが臨界突破を物語っていた。

 

『ターゲットロック、ツインバスターライフル発射』

 

『対閃光、対ショック防御、目標をセンターに入れて、スイッチ!』

 

 鼓膜が破れそうなぐらい巨大なビーム発射音と共に極太の輝きが二本の砲門から発射され、巨大なザナヴを飲み込み、勢いの残る二本の光りの筋はその背後に蠢く量産種すらも巻き込んで消し去った。危機を感じてビームの当たる前に逃げ出した量産主も今度はその光りが分かたれた事で捉えられ、その空域に居た敵は最終的に全滅する。

 

『任務完了。これより、残り残存勢力に当たる』

 

 乗り手の特徴か、全滅させた余韻に浸ることも無く淡々と次の敵に狙いを定め移動を開始、Lilinは五機のガンダムと二機のエヴァが戦う空域の少し離れたところまで移動するとその動きを止め、未だに戦う彼らに向けて通信を行った。

 

『了解、こちらはこれよりこの場所を拠点として移動を止めるものとします。機体に不具合などがあった場合はすぐさま着艦するように』

 

 通信を終えて、巨大な砲門が再び甲板に収まると今度は修理を終えたビルトビルガーが浮上してきた。

 

『付近に敵は掃討しました。これであなたを阻むものは居ない。あなたは目的を果たしなさい。これはあなたたちの戦争です』

 

「修理ありがとうございます。ビルガー、もう一度俺と共に行くぜ!」

 

 

 甲板を滑るように低空飛行を行うビルガーがそのまま大空に浮上していくとスピードを更に上げ、前方に待つ相棒の下へ翔けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++++++

 

 

 

 αナンバーズの殆どが大陸に上陸するとそれは現れた。

 

 塔の真上、虹色の輝きを背に数多の翼を羽ばたかせた女神、この地球の正統なる守護者にして始まりのサイコドライバーの意志をコアに持つ機械仕掛けの神――ナシムガンエデン。

 

 新たに強力なサイコドライバー、名をイルイと称する少女をマシヤフとして向かい入れたガンエデンが神々しい佇まいと巨大なプレッシャーをαナンバーズに惜しげもなく与えてくる。

 

『私はイルイ……イルイ・ガンエデン。遠くない未来に迎える終焉からこの星を守るため、私は再び舞い降りました』

 

 通信から皆に優しく語り掛けるようかつて少女の声だったものより大人びた声と威厳ある別の女性の低い声が響き渡る。

 

『この星の剣となったあなた達ならば、私の憂いを理解してくれると思っていたのですが、どうやら見込み違いだったようですね。私はこの星を守護するもの、既にこの星を離れた者はその範疇ではありません』

 

 女神の天上に浮かぶ輪が光り輝き始める。この時点で各機のエネルギー測定器は高出力を叩き出していた。

 

 各部隊の機体に乗るパイロット、特にイルイと接点が深かったものが口々に説得をするもガンエデンの背に輝く虹色はその光りを増すばかり。

 

 かつて旧ネルフの冬月コウゾウが述べたとおり、この星の守護神は酷く傲慢だった。

 

『楽園に住まう者達にガンエデンの加護を……仇なすものに煉獄にも勝る苦痛を』

 

 塔の周りに転がる岩石がガンエデンの元に集まっていく。その一つ一つが紫の輝きを放つと、岩だったそれが魚、鳥、獅子と言ったクストースの量産種に様変わり、その数、約3万弱ほど。それら全てが攻撃態勢に入る。

 

 未来を憂い、成すべきことを割り切れる大人たちはその手に武器を持ち攻撃を開始するも、その攻撃は焼け石に水と言った状態であった。

 

『守護の光りをあなた達に……歌声は天に……マヴェット・ゴスペル』

 

 この瞬間、戦艦に乗る全ての艦長が各部隊に防御を命令、各部隊がそれらを遂行した直後、女性が奏でる歌声と共に何万と言う光りの雨がαナンバーズに降り注いだ。

 

 その雨が止むと部隊の機体は所々焼け焦げたものの防御したおかげで撃墜したものは現れなかった。それでも、流石は古の守護神と思わせる攻撃に各々がイルイの説得、及び救出を無謀だと思わせてしまう。

 

『流石は私が選んだ剣、この程度では苦痛にもなりませんか……なれば、今度こそ地獄の業火にその身が焼かれるよう、ガンエデンの聖霊を呼びましょう』

 

 再び数多の翼が羽ばたき、背に輝く虹色が増す。各機は今度こそ、本体たるガンエデンに狙いを定め攻撃を放つ。特機やリアル系の頂点に立つ部隊の攻撃は凄まじく流石のガンエデンに乗るイルイも眉を潜めた。

 

『私は敵ではない……神なのです。致し方ありません、神の力をここに……バラルの動力を一時的にガンエデン中枢経路に直結、古に封印した機能の一部を開放します」

 

 イルイの宣言の下、塔から溢れ出る光りがガンエデンに降り注ぐ。すると、ガンエデンを守るように薄い光りの膜が現れた。その膜状のものはαナンバーズの攻撃をおよそ半減させていく。これには彼らも唖然とするしかない。

 

『これこそ、ガンエデンが誇る神の盾、太古の昔に自らの手で封印を施しましたが、あなた達の抵抗がその封印を解かせたのです。これで私は安心して聖霊が呼べると言うもの。今度こそ、神罰を持って業火をあなた達に与えたもう』

 

 ガンエデンの胸部から現れた大人びたイルイが大地に落ちていく。

 

『テトラグラマトン』

 

 言葉と共にイルイの姿が猛々しい西洋の伝承に出てくる竜の姿に変わり果てる。その巨体から大地を壊しながら立つ姿に、雄叫びに、すぐさま回避行動をとるαナンバーズ、先ほどまで居た場所は振り乱される巨大な尾によって見るも無残な場所に変わり果てていた。

 

『行きなさい、ガンエデンの聖霊ルアフよ、新たなマシマフを守護し、立ちはだかる愚かな者達に等しく神罰の裁きを』

 

 イルイとは違うどこか機械的で低い声、イルイと重なっていた方の声がバラルに木霊する。その命に従うように聖霊――ルアフはその牙を誇る口からこれまでにないエネルギーを収束、慈悲無く放たれた。超巨大なエネルギーの筋は大地を焼き、彼らの機体を飲み込んでいく。それでも威力は収まらず、ルアフは口を天に持っていけば筋はバラルを貫通して地球とは反対方向の空間に伸びて行った。

 

 撒き上がる黒煙、その中には駆動系や格動力をやられた特機が大地に膝を付き、それら特機に守られていたはずのリアル系の機体すらも装甲を溶かされ間接部分が火花を上げている。

 

『素晴らしい…その強さ感嘆に値します。ですが、そのような状態では次の攻撃に耐えられないでしょう。どうしますか、あなた達が剣になると宣言すればこれ以上の苦痛は与えません。共に終焉からこの星を守りませんか?』

 

 言葉に宿る狂気、それは神の傲慢、すべてがそれに集約された問いかけに皆が口を噛み締め言葉を吐き出すのを止めるしかない。決まりきった返答を言葉にしたところで機体がボロボロの自分達に攻撃を止める術はなく、仮に最後の力を振り絞って攻撃を繰り出しても神の盾がある限り、攻撃は半減される。打開策を考えなければ、誰もが思った時、その返答は遅れてやって来た際もイルイと親交のある存在によって成された。

 

 

「答えは端から決まってらぁ!!」

 

『ええ、そうよ、私達はあなたの守護などに頼らない』

 

「この世界を守るのは俺達一人一人が行うことだ! 即ち、答えは守りませんだ!!」

 

 高速で飛び出した二体の機体、ビルガーとファルケンはウイングを展開する。

 

「ジャケットアーマーパージ、ウイング展開!」

 

 ビルガーを守るアーマーが外され、広がるウイング、真の姿が晒され更にスピードが上がる。ファルケンもまた出力を上げてそれに続く。

 

 凄い速さで翻弄するかのようにソードで切り刻むビルガー、その後すぐにファルケンから撃ち出された銃弾が隙を埋めるようガンエデンに被弾、それが何度も繰り返され、その都度ガンエデンを中心に飛び交う。

 

「ツインバード!」

 

『ストラァァイク!』

 

 最後は両機が交わるよう突出、ガンエデンを中心にクロスを描いて離れて行った。

 

 二人の合体技、ツインバードストライクが神の盾に触れることなく発動され、ガンエデンに完璧な威力でダメージを食らわせる。

 

 これにはイルイだけでなくその場に居た皆が驚きを見せた。それもそのはず、彼らの中には合体攻撃を繰り出したものもいたのにも関わらず、やはり神の盾によって威力を軽減されてしまったのだから。

 

「よっしゃぁ!! 攻撃を食らわさせてやったぜ!!」

 

『ホント、嘘みたいだけど、阻まれなかったわ』

 

 驚きで動きを止めてしまったガンエデンに追撃として撃ち込んだオクスタンランチャーの銃弾も神の盾に阻まれる事はない。

 

『何故……どうして……神の盾が……発動されない』

 

 驚きと未知なる恐怖に上擦った声を上げるイルイにその元凶となる存在がコックピットの中で不適に笑う。それを背後から聞いていたアラドが苦笑気味に、それでも内心ではその凄さに感嘆していた。

 

「ふふ、知りたいかい、教えてあげても良いよ、ナシム・ガンエデン」

 

 

 全方位の周波数で紡がれた少年の声にある特定の特機に乗る二組は驚きを見せ、ある二人の少年少女は驚きながらも笑い声を上げ、ある五人組のガンダム乗りは納得の笑みを浮かべた。

 

 

 

 遥か昔、互いに敵同士だった者達の再会が今成されたのだった。

 




 次回 ナシムの憎悪と説得コマンドを持つ元アダムさん


 *注 この話でのナシム・ガンエデンはOG使用となっています。間違いではありません。


 



 次回もサービス、サービス……次で幕章は終わりです。


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終わる幕章










 始まります。


 神の盾を失ったガンエデン、その元凶を乗せたアラドは修理金代わりにしてはこちらに利がありすぎるな、と内心で苦笑していた。

 

 

『あなたは何者ですか……そして私のガンエデンに何を行ったのです』

 

「そうだね、まずは君たちの機体に施したものだけど、簡単だよ、ガンエデンに繋がれたバラルの動力を一時的に絶たせてもらっただけさ」

 

 いや、いや、とアラドは内心でツッコミを上げる。そんな事を普通の人間が生身で出来るはずも無く、つまりはこの少年が人間ではない証でもあって。

 

「そこはほら、僕は自身が人間だと言った覚えが無いから勝手に想像した君が悪いよ」

「ちょっと!! 普通はそう思うだろう!」

 

 少年の姿をしていればそう思うのも仕方が無い。同じような声を内心で上げていたのはバルマー戦役の時代、まんまと騙されてしまった面々だ。

 

『あなたは本当に何者ですか……意思のような力が壁のように阻む。この私ですらそれを排除できないとは…』

 

「そうだね、新たに選ばれたマシマフの君では僕の存在を知らない。けれど、もう一人の人格の方なら思い出せるはずだよ、そうだろう、ナシム」

 

 名指しで呼ばれ、ガンエデンの中枢部に存在する制御装置、そこに存在するものの意思が強まる。それによって僅かに呻き声を上げたイルイが意識を失うともう一つの人格とも呼べる女性が表に出てきた。

 

『古き記憶の中に埋もれる我らとは違う可能性にして始まりの生命体、第一使徒アダム』

 

「やあ、ナシム。まさか君とも再会できるとは思わなかったよ。数えるのもバカバカしいぐらいの年数ぶりだね」

 

 ナシムと呼ばれた女性はイルイを通して少年の正体を明かすと使徒と言う言葉を知る面々、ガンダム五人組とエヴァのメンバーを除く、は驚愕する。

 

 使徒を知らない面々の中でオツムが弱い方々は首を傾げ誰それ状態に陥り、逆に切れる面々は始まりの生命と言う言葉に驚愕していた。

 

 ちなみに五人組が何故少年の生存を知っているかと言えば最終決戦の折、ラーカイラムで他の面々から隠れてエヴァメンバーと会っていたところをカトルに見られ芋ずる式に残り四人に伝わったからだ。もちろん、害が無いことを前提に秘密にする事を了承してもらっていたので他の面々の驚きに繋がる。

 

「僕らにとって忘れられないあの戦いに置いて君の神僕に伝言を述べた通り、君の楽園をぶち壊しに来たよ。まあ、それをするのは今まで戦ってきた彼らだけどね」

 

『あなたの力ならば、私達の念動力を遮る拒絶の壁を作り出すことが可能と言うわけですか……ですが、あなたは…』

 

「黒き月のリリンに興味の無い僕が動いたか、だろう? 簡単だよ、僕の愛する子が未来を勝ち取る選択を選んだからさ」

 

『まさか、白き月の祖が黒き月を選び取る…それだけの為に』

 

「それだけで十分なんだよ。現に君の選んだ剣は自身の力で未来を勝ち取る事を選択した。僕や愛するあの子はそう選択されるだろう予想をしていたよ」

 

 だからこそ、カガリは敢えてエヴァだけでなく未完成のLilinまでこの場所に行かせたのだ。それは同時にカヲルと言う切り札を行かせる意味でもあるから。

 

『ですが、あなたは知っているはず。この先に待つ絶望の巨大さを…その際たる現象、終焉のアポカリュプシスは既に始まっていることを』

 

「ねえ、ナシム、思い出してごらん。かつて君も彼らと同じように終焉と立ち向かうべく、その身を戦いに投じていた頃があっただろう。何故、彼らの想いを分かってあげない」

 

『あなたこそ、何故あの惨劇を繰り返させる。あなたこそ思い出しなさい、あの頃のリリンが無慈悲に殺されていく様を……私は忘れない、この星から逃げ出したかつての同胞の裏切りを』

 

 恨みの篭った声がその憎悪を物語る。それを聞いて彼女がこの星の外に出たものにこだわる理由をカヲルは理解した。

 

「そうか、君はあの頃の彼らが許せないんだね。だからこそ、この星から出た存在は排除すべきだと思ってしまう」

 

 遥か昔、ナシムがコアになる前のリリンだった頃、白き月との戦いが佳境に差し掛かっていて尚且つ宇宙ではアポカリュプシスが迫っていた時にリリンから数百名の離反者が出た。その離反者達は戦いで荒廃するこの星から逃げ出したとナシムは認識しているのだ。

 

「けれど、それもまたあの頃の君達リリンの選択だ。そしてそれを逃げだと思うか、新たな可能性を手に入れるための旅立ちと取るかは君次第だ」

 

『何を……言って』

 

 アダムであったカヲルはあの出来事の顛末を知っている。そして今のカヲルならあれを正しく認識できる。あれは裏切りではなく、リリンだからこそ可能である他者を信頼するという想いの果てにあった出来事だと。

 

「僕から見た観点ではこの星を飛び出した彼らは君にこの星を任せ、繰り返される終焉から逃れるすべを探し出すために旅立ったように思えたよ。彼らは決して君を裏切ったわけではない。何故なら、彼らは世代を重ね遂に正の無限力、イデを作り出したのだから」

 

 第6文明人などと呼ばれるようになった彼らは自身を魂の器にして無限力を手に入れた。それはこの地球から気の遠くなるほど離れた星系でのことだ。それをあの頃アダムだったカヲルは距離の関係ない魂の世界から覗いてそれを知ったのだ。

 

『そんな……まさか…』

 

「確かに一つの観点からではそう思ってしまうのも仕方が無かっただろう。でもね、あの頃既に君と言う最強の守りを手に入れた事で猶予が出来た。だから彼らは旅立ったんだ。あるかも分からない術を探す気の遠くなる絶望の旅に、君達が心配をしないよう黙って」

 

『……彼らは私を裏切ってはいない』

 

「リリンだからこそ紡げた素敵な真実じゃないか、そうだろう、黒き月の民、ナシム」

 

 ガンエデンの中、イルイの体を借りたナシムが涙を流していた。

 

『彼らは私を信じてくれていた。恐怖に怯えながらも強くなろうと足掻いていたあの頃の私を信頼して任せてくれた……それが、とてつもなく嬉しい』

 

 機械的な人格から酷く人間らしい感情を出したナシムはもう、かつて人であった頃の人格に戻っていた。

 

 それを肌で感じたカヲルは穏やかな笑みから一転、悪戯っ子のような笑みを浮かべて口を開く。

 

「それに君、彼と一緒に他の星系で生命を紡いできたじゃないか。それって矛盾してる行為だと思うよ」

 

 彼というワードを聞いて先ほどまで穏やかだったナシムの感情が高まる。

 

『あれはあの愚か者が私にみっともなく縋り付いて来たから仕方が無く共に旅立っただけです。本当は行きたくなかったに決まっているでしょうが!』

 

 そう言って吐き捨てて、ナシムの思い出に存在する端正な顔立ちの少年、それに今なら唾を吐きかけてやりたいと、言葉を続けた。

 

「あ、やっぱりそうなんだ。君も一緒に行くなんて可笑しいと思ったんだ」

 

『泣いて引き止めるあの愚か者を引き離してゲートを封印しながらすぐこの星に帰ってきましたけどね。ゲベルざまぁ!! と言うか、ゲベル死ね!! あいつなんて一人ボッチ野朗で十分ですよ!!』

 

 最後の方は聞くに堪えない悪口が満載で、よほど腹に据えかねているのが伺える。先ほどまで威厳あるやり取りを聞いていた皆は呆気に取られるしかない。

 

「まあ、それには賛成だけど。それでも彼は独自に強さを求め、それを手に入れた。仮に君がこのままこの星を封印しても……」

 

『どういう事ですか、詳細早よ!!』

 

 食いつき方が凄い。

 

「はっきり言うよ。彼の本体が本格的にこの星に狙いを定めたら封印は壊されるだろうね。それだけの力を彼は手に入れた。人造神を必要としない力だよ、君ならその脅威を理解できるんじゃないかな?」

 

『……』

 

 カヲルの言葉を聞いたナシムが無言になる。彼女の中で大きな葛藤があるのだろう。心なしか、ナシム・ガンエデンがプルプルと震えているように見える。

 

 そして。

 

『あのクソ一人ボッチがぁぁぁぁ、愚かにも私より強くなったですってぇぇぇぇ!!』

 

 それは魂の咆哮だった、後にこの戦いを勝利に導いたとされるアラド少年がそう語るほど凄まじい声がバラルに響き渡った。四方八方に放たれる恨みの篭った念がニュータイプだけでなくオールドタイプに届くほどの強い感情。尋常ではない怒り、憎しみがナシムの心に渦巻いていた。

 

『おのれ、おのれ、ゲベルの分際で!! くそ!! くそ!!』

 

 暴走人造神とはこのことか、聖霊を呼んでも居ないのにそれに匹敵するほどのエネルギーがガンエデンにより撃ち出され、バラルを貫通して空に飛んでいく。

 

 慌てふためくαナンバーズだが、カヲルは冷静な表情で静かに、それでいてナシムに聞こえるくらいの声で呟いた。

 

「……君が選んだマシマフも取り込まれてしまうかも」

 

 攻撃がピタリと止まった。

 

「そして最終的には君も」

 

『い、言わないで!!』

 

「ゲベルに取り込まれてしまうかもね」

 

『そんなのいやぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 そんなに嫌なのか、とαナンバーズの誰もが思うほどの悲鳴を上げて怯え始めた。次いで翼を羽ばたかせ、どんどん上昇していく。

 

『あの男に取り込まれるくらいならアポカリュプシスに飲み込まれてやるぅぅ』

 

 そう捨て台詞を吐いて。

 

「ちょっと待て!! その体はイルイのものだろう!! 行くならあんた一人で行ってくれよ!!」

 

 ここまで来て最後は自殺でイルイを失うなんて許せないというアラドの主張に上昇を続けていたガンエデンが止まった。そしてゆっくりと元の位置に戻ってくる。

 

『私としたことが、取り乱しました……この子はマシマフに選ばれただけ。あのクソ野朗との因縁関係のない子を道ずれになど出来るはずも無い』

 

 ナシムにとってマシマフはわが子も同然、イルイがαナンバーズに接触してからもずっと見守ってきたのだ。

 

 そんな人間らしさを取り戻した今の彼女ならば、αナンバーズの想いに答えてくれると確信してカヲルは薄い笑みを浮かべた。

 

「ナシム、彼らは強大な力を前にしても心を折らない。そんな彼らだからこそ君は剣に選んだはずだ」

 

『………ええ』

 

「彼らは想いの数だけ強くなる。今が終わりじゃない、これから先も可能性を秘めているんだ。君がここで封印を選んでしまえばそれが閉ざされてしまう。それは即ちゲベルに対抗できる存在を失うのと同意義だよ」

 

『!!』

 

「かつてアポカリュプシスの到来で絶望したリリンの中、希望を抱き未来に想いを馳せていた君がガンエデンの操縦者に選ばれたように、自分たちで未来を選び取ろうとしたαナンバーズを信じてみないかい?」

 

『…アダム』

 

「知っているかい、君の祖たるリリスもまた未来を彼らに託すため、愛する者と共に封印の床についたんだ」

 

『我らの祖が託した者達…』

 

「彼女に出来て君に出来ない事はないと思うけどな」

 

『……』

 

 沈黙して幾ばくの時が経った頃、静かに大地が揺れ始めた。

 

『……私は選びました……未来をあなた方に託します』

 

 微弱の念波がバラルの園に居る全ての者に響くと力強く大地がうねる。

 

『あなた方が行く道はとても険しい道でしょう。それでも始まりの生命たちが選んだあなた方ならばきっと終焉の銀河を切り抜けられると信じています』

 

 揺れ動く大地はその役目を終える為か、崩れ落ちて大気圏から消えていく。αナンバーズの各機はすぐさま退避して戦艦に搭乗する。残ったのはビルガーに乗ったアラド達とファルケンに乗ったゼオラだけだ。

 

『この星から旅立った同胞の為にもどうか未来を』

 

 ガンエデンが光り輝きその身が塔に吸い込まれる。そして塔を残した大地も崩れ落ち跡形も無く消えていった。

 

 ガンエデンと共に消えてしまったイルイの名を叫ぶ二人の元に念波が送られる。

 

『愛しい子をお願いします』

 

 囁くように告げられるとファルケンのコックピットに意識を失ったイルイが現れた。一瞬驚きを見せたゼオラだが、すぐさま体調確認を行い、問題ないと分かると通信で無事を伝えた。これには心配していたアラドも安堵の笑みを浮かべ、後ろに控えるカヲルに感謝の言葉を告げたのだった。

 

 こうして後に封印戦争と呼ばれる最後の戦いはナシムの説得という割と穏便な形で終わりを告げた。

 

 本来ここに居てはいけないエバーズの存在は後々困るという判断からカヲルを回収するとかつての仲間達に碌な説明や挨拶も無くすぐさま離脱、バラル消失の騒ぎに託けてメディアなどから逃れるようにアカツキ島に帰還した。

 

 仮にエヴァの存在が公になろうともその肝心のエヴァの所在が分からなければ意味が無い。かつてのパイロットは私的な旅行でオーブに滞在、いくら連邦や世界政府でもおいそれと閉鎖的なオーブに介入が出来ず、逆に出来た頃にはパイロットが日本に帰還しているので詳細を知ることは出来ないだろう。

 

 

 そして帰還した三人の子供達はオーブの姫の出向かいを受け、本来の観光を二週間楽しむと日本にお土産をいっぱい持って帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の少年少女は再び一般の生活を送る事になるのだが、それもまた短い時に過ぎなかった。彼らは数ヵ月後、在る機関の要請を受け空母艦と共に宇宙に上がる事になるのだ。

 

 平凡な生活は終わりを告げ、新たな戦いに赴く少年と少女はその行く末を見据えながら突き進む。

 

 そして時を同じくして一人の姫はこの数ヵ月後、父親の書斎で偶然にも一つの書類を見つけ目を通す事になる。その内容を知った姫は驚愕、今まで静かにしていた反動か、元来の性格を思わせる行動に出た。

 

 エバーズを艦長に一任、恋人の制止も振り切って単身、かつて留学していたコロニーに出向く事になるのだ。

 

 

 

 

 大人しい姫の終わり、そして行方不明だった活発な少女の復活に繋がって物語は進み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 最後に今この時も危険地区に指定されている旧ネルフ本部跡地もまた変わらず、各国の調査団が幾ら調べようと全貌は愚か、何一つ調査できなかった。元おじいとその妻良子、ついでのゲンドウが今どうなっているのか知る者はいない。

 




 これにて幕章は終わります。

 次回から次章をお送りしたいと思いますが、時間を掛けたいと思います。

 理由につきましてはもう一つの小説を進めたいという事が一つ、まだ次章に着手していないのが一つです。



次回を気長にお待ちいただければ幸いです。 


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主人公達紹介録

 本編とは関係ないものです。飛ばしていただいても構いません。


 それでも読みたい方はどうぞ。


α編実質的主人公 元おじいで綾波レイ

 

 前の世界でアニメ鑑賞後ぽっくり死ぬも何の因果かスパロボの世界に飛び込んでしまった元おじい。姿は可愛いらしい少女綾波レイであるが、その中身は少女とはかけ離れているためダンクーガのサブパイロット式部雅人からは残念な感じなどと称されていた。

 

 戦闘能力は元のレイより遥かに高く、冷静な判断とエバ操縦はネルフスタッフから神掛っていると思われているが、それに関してはコアにいる妻の影響も少なくない。

 

 生前の妻は第二使徒リリスにして黒き月の始祖である。妻の愛は無限大、夫がピンチになれば世界を壊すことも厭わない豪胆な女性であるがその姿は美しい黒髪の清楚な女性。嬉しくなると少し調子に乗るのが玉に傷、それでも時にリリス然とした神秘的な雰囲気を醸し出すので夫にはそこがギャップ萌えに値するらしい。

 

 *元おじいで綾波レイの能力

 

 精神コマンド

 

 Lv1 愛 Lv4 集中 Lv25 必中 

 Lv38 狙撃 Lv48 かく乱 Lv74 加速

 

 加速を覚えるのが異常に遅いくせして初めから愛を覚えている元おじい、だがそれは妻に向けられた絶対の証なので仕方がない。最後まで元おじいが使えないので実質最後の精神コマンドは余程レベルを上げない限り見れないうえ、覚えたら覚えたでがっかりすることこの上ない。

 備考としてαの時はLv1に魂が入っている。

 

 元おじいの個人特殊技能として妻との絆がある。

これはコアに妻がいる時のみATフィールドのダメージ限界がプラス2000になる。本来は3000なので合計5000ダメージまでならATフィールドが破れない。これを消すことは絶対にあり得ないので上書きは出来ないようになっている。ニュータイプ能力が消せないのと一緒。

 

 αに無かったが、もしも元おじいがαⅢに出るとすれば、の小隊長能力

 

 気力130以上になるとコアにいる奥さんから「あなた、愛しているわ」と囁かれる。もちろん、小隊にいるメンバーもこれを聞かされるので一定の非リア充はリア充爆発しろっと憤る。実質的な効果は一切ない……が、妻の愛ともいうべき、元おじいの精神コマンド 愛に付属する熱血が以降魂に変換される。表示はされないなので気づかないものも多い。

 

 

 戦闘時の会話、被弾編のみ。

 

 

 *ATフィールドでの防御成功時

 

「無駄……エバには届かない(ホント、口が勝手に動いてしまうのは困りものだ)」

 

 

 *フィールドを破られ、被弾するもダメージが少量

 

「……ミサトの厚化粧は伊達じゃない(エバの装甲は伊達じゃないぞ……あれ?)」

 

 ここで間髪入れず、指令室からミサトの声が木霊する。

 

「あんたが無事に帰ってきたら、私の手でぶち殺すわ」

「………(わしは言ってないのに!!)」

 

 

 *ダメージ中破程度

 

「私は死なないわ……だってバナナが食べられなくなるもの(わしは死なんよ、バナナは至高の一品じゃからな)」

 

 ここでもミサトが挟む。

 

「馬鹿言ってないで、真面目にやりなさい!! 後でたっぷり買ってあげるから!!」

 

 何だかんだ言って、優しいミサトさん。

 

 

 *ダメージ瀕死

 

「わしもそろそろ、年貢の納め時か……妻の元に逝くのならバナナはおやつに入るのじゃろうか?」

 

 当然ミサトのツッコミ入る。

 

「あんた、今死にそうなのよ!! こんな時までバナナを考えるんじゃありません!! 後、あんたはどっちかって言うと妻になるほうでしょうが!!」

 

 そこははっきり物申す、ミサトさん。

 

 

 

 *撃墜

 

「諸行無常……されど生きとし生けるもが死に至るは不変なり、か……今逝くぞ、良子」

 

 ミサトの焦りを滲ませた通信。

 

「レイ!! レイ!! 声を聞かせて頂戴!! 普段の下らない言葉でも良い、私を馬鹿にする言葉でも良い、お願いよ、レイ!!」

 

 

 その後、再起動……奥さんの良子さん激オコプンプン丸状態発動

 

「クソガァァァァ、ダンナヲヤッタヤツハドイツダァァァァァァ」

 

 初号機の暴走が生温いと思わせるほど凶悪で、その猛攻は味方以外全てに及ぼす。傍から見れば零銭の方が悪い奴に見えてしまうような猛攻ぶりに敵が哀れに思えてしまう。

 つまり、敵さんオワタ!! 状態である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾波カガリ αⅢの実質的主人公

 

 オーブ連合首長国の正統なお姫様、本名をカガリ・ユラ・アスハ。

 

 ひょんなことから元おじいと出会いを果たし、数奇な運命に翻弄され、戦いに身を投じていく。一国の姫という立場を隠すため元おじい改め綾波レイの姉として身分を偽り、綾波の姓を名乗る。

 自分を育ててくれた母親が大好きで、その母親が大好きだったお笑いを勉強していくうちに自身もお笑い道に目覚め、姫という立場から最初は密かにGEININの道を目指していた。しかし、綾波の姓を与えられると悪い意味ではっちゃけ、全力投球でもってGEININ道を直走り始める。

 

 戦闘能力はレイと互角に渡り合えるほどの技量(エバの操縦に関してのみ)を持ち合わせているが、モビルスーツなどの細かい操縦に関しては目も当てられないほど下手。レイと出会いを果たしてから自身の体が異常に強くなり、鍛えた成人男性を軽く失神させるほどの馬鹿力を手に入れた。理由に関しては詳細不明だが、某始まりのサイコドライバー曰く、カガリ自身の魂とその肉体、二つのポテンシャルは取り込みたいと思わせるほど高いらしい。

 

 恋人は第一使徒アダム改め、渚カヲル……またの名を変態という名の犬紳士。

 ハァ、ハァ、言いながら恋人に抱きつくことからその名が付けられた。傍から見ればただの変態やないかい! とツッコミを入れたくなるが、まさしくその通りである。残念なイケメンの代表格で下手をすればヤンデレになる確立が高くなるというメンドクサイ恋人。だが、カガリの深い愛は寛大でそのような事柄は些細なことでしかないらしい。可愛いあたしの犬のような恋人―――という言葉を時折カガリは述べるが、カヲルを示す褒め言葉のようである。

 

 *綾波カガリの能力

 

 Lv1 魂 Lv3 直感 Lv10 脱力 

 Lv38 情熱  Lv48 覚醒 Lv71 加速

 

 血は繋がらなくとも似てくるもの、の典型。最後にがっかり精神コマンドが入る以外は特に特筆すべきものはない……のだが、情熱が入っている時点で特殊なのかもしれない。

 カガリの情熱は熱気のバサラのものと少し変わる。本来は歌エネルギーを増幅する効果なのだが、カガリの場合、別のモノが上がる。

 備考としてα時、情熱は鉄壁に、魂は捨て身。

 

 カガリの個人特殊技能としてGEININというものがある。

 この能力はギャグ補正という特殊な確率論で、カガリの持つお笑いエネルギーが350万以上の時に撃墜されると、そのうちの300万を消費して「あー死ぬかと思った」と言って無傷で戦場に舞い戻れる。はっきり言ってスパロボを舐めている能力といえよう。

 もう一つの効果としてツッコミ補正というものがある。お笑いエネルギーが数えるのも馬鹿らしくなるほど溜まると発動する能力で、驚異の100パーセントクリティカルになるというもの。これの恐ろしいところは魂などにも適応されるので驚異のダメージを叩き出せるも、ほんとうに膨大なお笑いエネルギーでなければ発動しないのでお目に掛るのは難しい。

 

 戦闘開始時は基本100万から始まり、上限は天元突破、下限は撃墜を意味するという恐ろしいお笑いエネルギー、どのような行動でエネルギーの上げ下げを出来るかは残念ながら不明である。気付いた時には目玉が飛び出てるほど上がっていることもしばしばあるが、逆に戦闘もしていないのに撃墜扱いされることもあるので使い勝手は悪い。ただ、レベルを上げて覚える情熱を使えば少なくとも行き成りフェードアウトは無くなる。情熱を使うとお笑いエネルギーが200万上がるがコスト50と中々手痛い。

 

 

 小隊長能力は元おじいと同じく気力130以上でコアにいるカヲルから「僕のすべてはカガリのために」という愛の囁きを与えられる。当然小隊にいるメンツは強制的に聞かされ、非リア充は殺気を漲らせながら呪詛の言葉を吐く。この行為が行われると小隊の攻撃が0.5倍に跳ね上がる。正しリア充、てめぇは駄目だという原則から公式で恋人がいる、あるいわそれに従属する存在がいると発動されない。つまり主人公クラスの奴らでは殆ど発動しないだろう。

 ちなみに小隊長はお笑いエネルギーの上昇率が高くなる。

 

 

 戦闘時の会話? 被弾編のみ α編とαⅢ編合わせて。

 

 

 *ATフィールドでの防御成功時

 

 α編

 

「駄目だ、駄目だ!! お前のツッコミは全然なっちゃいないぞ!!」

 

 その戦闘にリツコがいると発生。

 

「あの子……もう駄目なのね」

 

 αⅢ編

 

「ふっ……残念だったな……まさか、ツッコミだったとは言わないよな?」

 

 その戦闘にリツコがいる場合通信が入る。

 

「真面目にやりなさい。あなたは私達のトップなのだから」

 

 信頼度がαに比べて格段に上がっている。

 

 

 *フィールドを破られ、被弾するもダメージが少量

 

 α編

 

「あー、早く次のコント考えないと……ん、誰かにツッコミを入れられたか?」

 

 そこにリツコいれば…。

 

「………非常識だわ」

 

 酷く冷めた声で呟かれる。

 

 αⅢ編

 

「おいおい、お前は優しいツッコミに定評のある旧世代GEININのヤハーギさんなのか?」

 

 そこにリツコ……。

 

「敵が可哀そうだからやめてあげなさい……まあ、私もオギーさんのボケは嫌いじゃないけど」

 

 少しGEININにはまり始めているリツコさん。

 

 

 *中破

 

 α編

 

「くぅぅぅ、かなりのツッコミ力だな!! ぞくぞくしてきたぞ、きっと良いツッコミGEININなれるはずだ!!」

 

 そこに……。

 

「……なら、中和できる使徒は最高のツッコミGEININになれるのかしら………はっ!?」

 

 リツコさんはお疲れなのかもしれない。

 

 αⅢ編

 

「やってくれたな、中々のツッコミだが、まだまだ、あたしのGEININと書いて心と読む場所には響かないようだ……出直してこい」

 

 ……。

 

「カッコよく言っているつもりでも如何ともし難い内容だわ…………もう駄目なのね」

 

 信頼の中にも適度な辛辣さを持つとの定評があるリツコさん。

 

 

 *瀕死

 

 α編

 

「へへっ、この戦闘が終わったらあたし、たくさんのコントを作りたいんだ…」

 

 もうセットに扱いのリツコがいると。

 

「私はあなたのフラグを拾うつもりはないわよ。だから意地を見せなさい」

 

 辛辣さの中に優しさを滲ませるリツコさん。

 

 αⅢ編

 

「くそっ!! 死ぬわけにはいかない! いかないんだよ……GEININになる…ゴホゴホこの星を守りきるまでは!!」

 

 もうお前ら結婚しちまえよ、のリツコがいると。

 

「ツッコミはいれないわ……いれて欲しければ無事に帰ってきなさい」

 

 言葉の中に強い親愛を込めるリツコさん。

 

 

 *撃墜

 

 α編

 

「……あたしの舞台が終わる……渾身のツッコミをありがとう」

 

 それでもリツコは通信入れる。

 

「子供達に戦闘を行わせている私達こそ罰せられるべきなのに……不甲斐ない大人でごめんなさい」

 

 絆されまくりのリツコさん。

 

 αⅢ編

 

「ごめん、カヲル……ずっとお前を愛しているよ…どうか、この世界を…守って――」

 

 最後の瞬間もはずさないのが、リツコである。

 

「それは酷な約束というものよ……まあ、いいでしょう、あなたと同じ場所にいけるなら」

 

 そこはかとなく危険な香りを醸しながら意味深な発言をするリツコさん。

 

 

 *結果

 

 カヲル君大暴走でヤンデレルート世界オワタの強制終了。

 

「君がいない世界なんて滅んでしまえばいい。大丈夫だよ、新世界でもきっと僕は君を見つけてみせるから……少しだけ待っていて」

 

 世界が暗転するなか光り輝く巨人がルーツを終わらせる。人の心を手に入れたアダムの本気は如何なリリスでも防ぎきれるかどうか……ゲームオーバーは必須である。

 




 
 尚、本編には一切反映されないのでご了承ください(笑


 


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αⅢの章
綾波カガリ再び


 
 
 










 始まります。


 

 

 我はまつろわぬ霊の王にして遍く世界の楔を解き放つものなり。

 

 

 全ての剣よ、我の下に集え。

 

 

 かの者達の意思を、そのしもべ達を…あまねく世界から消し去らんが為に。

 

 

 我が名は霊帝。

 

 

 全ての剣よ、我の下に集え……されど、我は決して独りボッチにあらず。

 

 

 ただ、我は……我は……我を見下す対の存在と始まりの生命体を滅ぼしたいだけなのだ。

 

 

 本当にそれだけだ、本当に……本当に……神とは孤高でなければならない。

 

 

 そう、つまりは独りは最高!!

 

 ……だから全ての剣よ、我と一つになればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、某国発進の宇宙船に乗ってL3宙域にあるコロニーに向かっている。

 

 数ヶ月前、大気圏内に現れた大陸、そこでの戦いに勝利したことで加速度的にこの地球は新たな戦いに突き進もうとしていた。

 

 まず、人類の砦イカロス基地が建設されているアストロイドベルト宙域に突如として現れた全長三十キロに渡る人工物、後にクロスゲートと呼ぶようになったそれはバルマー戦役に置いて犠牲になった仲間の帰還を促した。

 その人工物を調査していくうちに一種のワープ装置と判明、異なる星系を繋ぐ扉の役割があるようでバルマー戦役中幾度も現われた異性人エアロゲイターの軍団を地球圏に呼び込むことになってしまう。

 エアロゲイターと呼ばれた異星人は自身達をゼ・バルマリィ帝国観察軍と称してクロスゲートを占拠、軍を展開して地球圏に宣戦布告を行った。

 

 次にそれらと同じくして地球の地下層から新たな敵、妖魔軍団が現れて地上を混乱に陥れ始めた。これに対して地球の特機と称されるスーパーロボットが進攻させないよう各地で奮闘するも退けるまでには至っていない。

 慢性的な戦力不足、前対戦時に置いて地球に飛来していた地球外生命体ゾンダリアンを壊滅させる事に成功するも本体と言える機界31原種が地球圏に現われ猛威を振るい始めたことがその大きな理由だ。

 

 最後に世界政府が歴史の闇に埋もれさせた事実、それらを有する存在が人類に牙を剥いた。

 彼らは同じ人類でありながらその成り立ちが違う。

 母なる体内から自然に生まれる人類は俗にナチュラルと呼ばれ、遺伝子を操作、強化されて生み出された人工生命体、俗にコーディネーターと呼ばれる者達。

 彼らは歴史の闇の中で下隠しにされ、尚且つ虐げられていた。しかし、彼らの中の一部、通称ザフト軍はそれを好とせずナチュラルに宣戦布告、同じくナチュラルの中でも一部の者達がコーディネーターという存在を宙に巣くう害悪と定め、殲滅せんと動き出す。

 

 太古の昔、互いの種族を掛けて生存戦争を起こした白き月の少年の観点からすれば、彼らは同じ黒き月でありながら互いの生存をかけて争う事を選択したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗船した宇宙船の強化窓から除く漆黒の宇宙を眺めながらこの先の行く末のようだと深いため息を吐いた。せめて夢の中では明るくあれと目的地まで瞳を瞑る。

 

 けれど、瞳が閉じても闇は晴れることはなかった。

 

 

 眠れぬ航海を終え、私はオーブコロニーヘリオポリスに降り立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情勢のせいで人が疎らな宇宙港からホテル街まで有料車、俗に言うタクシーで移動、数分の移動の後、歓楽街に建てられたヘリオポリスの中では高級と称されるホテルにチェックインする。

 

 教育の行き届いたスタッフの案内の下、豊富なポケットマネーで選んだ部屋に通され一通りのレクチャーを受けると部屋には私一人となった。

 入り口からすぐのバルコニー付きの部屋にはウェルカムフルーツや多種多様の飲料、高級アメニティーグッズが常備され、空調も適温に設定されている。寝室はふかふかのダブルベッドが二つ、巨大なジャグジー風呂がある部屋にはヘリオポリスの町並みを一望できる窓が設置されていて壮観な景色を楽しめるよう工夫されていた。他にも色々な用途で使える部屋が二つ設けられていて一人でいるには少し物寂しい想いを抱いてしまう。

 

 常備している監視の類を調べる装置を使い全ての部屋を確認、何も感知されなかった事で取り敢えず安堵の息を吐いた。

 

「どうやらヘリオポリス内部は一応の平穏を保っているようだな」

 

 呟いて過剰な自分に苦笑を浮かべる。

 

 タクシー内部から外を眺めていれば平和そうな人々が日々を懸命に生きている様が映し出されていた。それが矛盾に感じるほど外は戦争に向かおうとしている。本来は平和なその光景こそが当たり前でなければならないのに。

 

「情報規制は完璧ですよ、父上」

 

 このヘリオポリスは多くの爆弾を抱えているような場所だ。自ずと規制を厳しくなるのは分かる。しかし、一部の人類が歴史の暗部として隠してきたコーディネーターを初め、今回の渡航目的を決定的にした最重要機密がこのコロニーを戦火に巻き込むかもしれない。

 それを確認するために私は行方不明でなければならない少女の名前を再び使うことにしたのだ。

 

 部屋に付いている内線電話が鳴った。

 

『綾波様、ご夕食の方ですが如何なさいますか?』

 

 時刻的には妥当と言える催促だ。本当ならすぐにでも行動したいところだが、時機にコロニー内部が暗転して夜の帳が落ちるだろう、そうなれば目的地に向かったとして夜の警備は厳重にされているはず。

 

「部屋で食べる、すぐに用意してくれ」

 

『了解しました』

 

 短い会話を終えて受話器を置くと普段オーブでは執事に御小言をもらう行為、ベッドにダイブしてゆっくりと息を吐き出した。

 

「せっかく偽名を使っているんだ、明日直接乗り込むことにするか」

 本当は工業カレッジに教授として在籍しながら目的の会社でエンジニアの職務についているカトー教授にアポイントを取るつもりだった。けれど時間も限られている今、悠長に回り道するよりも直接目的地に向かう方が多くの時間を割けるだろう。

 

「昼間のモルゲンレーテならそこまで警備は厳重じゃないだろうし」

 

 表向きオーブの公営企業モルゲンレーテ、私の予想と父上の所有していた重要機密を照らし合わせればあそこにはヘリオポリス、引いてはオーブを戦火に巻き込む火種があるはず。

 

 もしも予想通り本当にあるならば父上の考えが少しだけ理解できるのだが。

 

「私自身が証拠を掴み、告発。上手く父を失脚させればプラントに申し訳が立つか…」

 

――いや、遅すぎたな…コロニーに滞在するプラント工作員から情報が行っている筈だ。父上はそれを見越してこのコロニーで火種を起こそうとしている。もっとも資料から逆算して火種は完成しているかもしれないが。

 

 そうまでして今の連邦に巣くうある『組織』を父上は潰したいのだ。

 父上はナチュラルとコーディネーター双方が手を取り合い外敵と立ち向かって欲しいと望んでいる、それ故にその『組織』が邪魔なのだ。同時にプラントの一部過激派も邪魔でしかない、それならば双方共倒れになればいいと連邦に開発場所を提供、敢えて工作員を見逃していたのだろう。父上の事だ、仮にオーブが戦場になる事も見越しているかもしれない。

 

 すべては終焉から生き残り、人類がこの先も繁栄していくために父上は御立ちになられたのだ。

 

 けれど、それは大多数の下に引かれる少数の犠牲になりかねない。

 その少数もまた、一歩間違えれば考えられない規模に膨れ上がる可能性がある。

 

――だから、私は私の道を行く、その為の第一歩がこの場所に立つ私だ。

 

 けれど、それはそれ、これはこれということで。

 

「まずはこのホテル自慢の料理を堪能させてもらおう」

 

 宇宙では珍しく他のコロニーとは違いオーブのヘリオポリスでは食事に人工物を一切使っていない天然物を扱っているところが多い。

 この高級ホテルもまたその一つなのだ。

 

 

 インターホンが鳴らされ、運び込まれる高級食材をふんだんに使った料理の数々に目を輝かせているであろう私は再び一人になるとマナーなどクソ食らえ、精神でがっつく事にする。

 少しずつお嬢様の私が剥がれていく予感を抱きながら料理に舌鼓を打つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ><><><><><><><><><><><><

 

 

 

 コロニーの照明が夕暮れの情景を映し出す時間帯、また高級ホテルでカガリが飯をがっついている頃、ヘリオポリスの住宅街、その中で留学などで単身やって来る学生が多く住まう寮が建てられた地域を一人の少年が歩いていた。

 

 そんな少年に声を掛ける二人の少年と一人の少女が居た。

 

「すんませーん、工業カレッジに在学している学生さんですか?」

 

 男にしては珍しく茶髪の三つ編みを下げた少年に声を掛けられ、紫の瞳を大きく見開きながらも頷けばもう一人、ボーイッシュな感じの少女が僅かな安堵を見せて口を開いた。

 

「良かった、ねぇ、少し聞きたいんだけどそのカレッジにカトー教授って人は在籍しているのかしら?」

「はい、いますけど、それが何か?」

 

 警戒心を与えない優しい声で問われ、素直に頷きながらも理由を問いかければ次に無表情の少年が答えた。

 

「俺達は地球の工業系カレッジで学生をしている者だ。今回は私的な旅行のつもりだったのだが、ここのカレッジにその手の分野で有名なカトー教授がいると耳にして是非アポを取りたいと思っている」

 

 言いながら鋭い目つきで射抜かれ、元来コミュニケーション能力が低い学生にとってそれは恐怖でしかなく、身を竦ませて後ずされば、今度は三つ編みの少年が前に出て警戒心を抱かせない笑みで言葉を繋ぐ。

 

「怖がらせてワリィな、こいつ無愛想で見た目は怖いかもしれないが、案外いい奴なんだぜ? 何しろ、こいつの趣味はとあるお笑いGEININのおっかけだからな」

「そ、そうなんですか?」

「おうよ。でだ、俺達は明日の午後ここを発つんだけども、その前に何とか会いたい訳だ。聞きたいのは一つ、カトー教授は明日もカレッジで講義か?」

「いえ、明日はモルゲンレーテ社で課外授業を行う予定です」

 

 学生がそう言うと三つ編みの少年は浮かべていた柔和な笑みの瞳に険を宿すもそれを感知する事はなかった。

 

「そうかい、そりゃ残念だ。なら、またの機会にさせてもらうかねぇ」

 

 一転して苦笑を浮かべ肩を下げたことに、僅かばかりの罪悪感を抱いてしまった学生は、それでも一生徒の自分がモルゲンレーテに招待出来る筈もなく、辛そうな表情を自然に浮かべてしまう。

 

 そんな学生の表情に僅かな驚きを見せた三つ編みの少年は朗らかに笑ってみせる。

 

「おいおい、別にあんたが悪いわけじゃないんだ、そんな顔しないでくれよ」

「でも、遥々地球から来たのに…」

「俺達の言い方が悪かったな、心情としては逢えたら儲けものってスタンスなんだよ。次の長期休暇にでもまた来るさ」

「そう、ですか」

「あんた見ず知らずの俺達に親身になってくれるなんて優しい奴だな」

 

 その言葉に紫の瞳が優しく笑みの形に変わる。

 

「こちらこそ、御役に立てなくてすみません」

「ホント、気にするなよ。んじゃ、俺達はもう行くからな、長々と時間を取ってもらって悪かったな」

「いえ、後は帰るだけだったんで構いませんよ」 

 

 二人の少年と少女は別れの挨拶もそこそこにその場から立ち去っていった。

 

「個性的な人たちだったな……また逢えるかな?」

 

 そんな三人組を見えなくなるまで見送った学生は小さく呟いて歩き出す。明日の課外授業に想いを馳せながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が下りる時間帯、また腹を満たしたカガリが早々に眠りに付いた頃、夜の歓楽街がある地区で二人の少年と一人の少女が人気のない路地裏に立っていた。

 

「で、どうするよ、ヒイロ?」

「明日は予定通りモルゲンレーテに潜入する」

「ばったり、あの学生に逢っちまったりしてな」

「ちょっと、デュオ!?」

「冗談だって、ヒルデ、俺達が向かうのはあくまで裏からだ、一般の学生が立ち寄れる場所じゃない、それに」

 一旦止めて人工的な夜空に視線を合わせたデュオは口を開いた。

「うちの組織とお姫様んところの組織で照らし合わせた予想が正しければ、少なくとも明日以降ヘリオポリスは戦場に変わる」

 無表情のヒイロがそれに同意して頷く。

「シャトルに残した俺達のモビルスーツが必要になるかもしれない」

「そうなったら少なくともあの優しい学生や一般人がシェルターに逃げ込めるくらいの時間は稼いでやらないとな」

 

 

 

 それぞれの想いが明日のモルゲンレーテに集う時、元相棒の物語は動き出す。

 

 




 美味しい食事に舌鼓を打ったカガリは英気を養い、翌日モルゲンレーテに単身潜入する。
 そこでカガリは何を見るのか!?
 

 次回 その名はガンダム(怒)


 次回も駆け抜けろ、カガリ!!


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第二話

 






 始まります。


 翌日コロニーの照明がまだ暗い時間に起きると早々に身支度してホテルをチェックアウトする。その時に対応してくれたホテルの受付係はまだ暗い時間でのチェックアウトに怪訝な表情を一瞬浮かべられたが、そこはプロ、すぐに表情を戻すとなにも検索せず送り出してくれた。

 

 タクシーで商業地区手前まで向かうとそこで降り立ち、歩き出す。まだ暗いこの時間に商業地区を歩く者などほとんどおらず、何だか世界で一人になったような気分だ。徒歩で進むこと十五分、モルゲンレーテの建物を視界に収められる場所に付くと辺りを見渡す。そしてあまり人目の付かない路地裏を見つけるとそこで身を潜めた。

 

 そこで朝日が昇るのを確認すれば路地先の大通りには仕事に向かうのか、続々と人々の姿が現れた。もっともそのほとんどがその先にあるモルゲンレーテに所属する社員なのだろう。あそこはオーブでも一二を争う公益会社だ、社員も相当の数だろう。

 

「まあ、一般社員だけがいるとは思えないが」

 

 そう独り言を呟いて立ち上がると大通りを歩く彼らにそれとなく交じりながら目的のモルゲンレーテに向かう。やがて入口付近で彼らの波から離れ、備品などを搬入する裏口に足を運んだ。そして丁度作業を行っている作業服姿のスタッフ一人を物陰から掻っ攫い眠らせて、着ていた服を拝借すれば堂々と内部に潜入する手段を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 首尾よくモルゲンレーテ内部に入り込めた作業服姿の私は巡回する連邦兵に眠ってもらいながら頭に叩き込んだルートを辿っていた。順調すぎて逆に怖く、更に鍛え上げられた兵士が少女の拳一発で眠ってしまうのはいかがなものだろう。もう少し鍛え治した方が良いのではないかと要らぬお節介を抱いてしまった。

 

「それか、あたしの一発が強すぎるのか?」

 

 お嬢様としての口調から綾波カガリとして口調――こっちが素なのだが、呟く。

 

「もしそうなら今後ツッコミとして叩くのはもう少し抑えた方が良いかもしれないな」

 

 今は無理でも何時かまたあの二人と共にコントを繰り広げたいという気持ちをずっと持っている。その為には今の情勢をどうにかしなければならない。

 

 途中、碌な説明もせず飛び出すように出てきた自分を多分文句を言いながらも見て見ぬふりして送り出してくれたリツコや組織の為、モルゲンレーテに残されたデータなどを出来る限り収集しながらも進んでいけば地下格納庫に続くエレベーター前に辿り着いた。

 兵士から奪い取っていたカードキーを使い施設エレベーターに乗り込むと地下に降りていく。

 

 

 扉が開き中から外の情景を確認、人の気配が無い事に安堵すると地上の施設より薄暗い廊下を進む。薄い外灯が示す長い地下施設の廊下をひた走っていると急に建物が揺れ始め、まるでコロニー全体が揺れているかのような大きさに思わず地面にしゃがみ込んだ。

 

「コロニーの地下施設にまで響くということは只事じゃないな…………まさか!」

 

 考えられる可能性を脳裏に浮かべ、その中で際も高い確率の事態に思い至れば無意識に舌打ちを繰り出していた。

 

「くそ、ザフトは行動が早いな」

 

 頭の中のルートではもうすぐ大規模の格納庫に辿り着く、尚且つコロニーの立地関係上、少し先に避難シェルターもある。

 

「急がないと下手すればヘリオポリスが壊滅する」

 

 今のあたしにそれを止める力は無い、何より綺麗事で全てが叶う訳が無いことを前の戦いで理解した。だからこそ、今は自分の出来る事をする――悔しいけれど自分は死ぬ為に来たわけではない。

 父の真意を確認した後、さっさとシェルターに潜り込もう算段を付け、あたしは再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ひたすら走り続け、格納庫内の通路に辿り着く。

 

 そしてそこに広がる光景にあたしは内心の怒りを叫ばずにいられなかった。

 

 

「父上……ガンダムタイプが五機なんて芸が無さ過ぎますぅぅぅ!!」

 

 

 形状の違う、それでも何処と無く似通った五体のモビルスーツは前対戦で大いに戦果を上げた多くのガンダムにそっくりだった。はっきり言ってお腹一杯です。

 

「そりゃあ、父上は施設を貸しただけでしょうが、それでもどうして連邦のガンダム主義を容認したんですか!」

 

 ここには居ない相手に一見的外れなことを叫びながら、どうせデータ引渡しを要求して同じようにガンダムタイプのモビルスーツをお作りになるつもりだろうから決してこの想いは間違ってはいないはずだ。結局少し先の未来ではオーブも量産型のガンダムで溢れるのだから。

 

「これだから母上に貴方は面白みのない男ね、なんて言われるんですよ!!」

 

 揺れが酷くなる一方の格納庫内で両親の夫婦間に関する暴露話を叫んでいると自分の肩に第三者の手が添えられる。それによって我に返ったあたしは瞬時に意識を切り替え戦闘態勢で思いっきり振り返ると添えられた手を捻り上げた。

 

「くっ!!」

 

 自分と同じくらいの少年――格好からして一般人と思われる――が苦悶の声を上げながら私に非難の目を向けていた。何故このような場所にいるのかという疑問を抱きながらも警戒は怠らず口を開く。

「これから手を離すが怪しい行動はしないでくれ、出来るか?」

 問いにコクコクと頷きを見せるのでゆっくりとした動作で手を外す。少年は痛みの残る腕を摩りながら涙目であたしを睨む。けれど少年の顔立ちが幼すぎて少しも怖くは無い。

 見た目からしてもモルゲンレーテで働いているような感じには見えないのでこの場所にいる理由を少し高圧的な態度で問いただしてみた。すると、少年は怯えながら理由を語り始める。

 

 少年は工業カレッジの学生で今日は受講しているゼミ担当教授が課外授業と称してモルゲンレーテで講義を行っていたようだ。実践的な授業を受けていると建物が揺れ始めてモルゲンレーテの建物がある商業地区にザフトのモビルスーツが現われたという。

 同級生と避難シェルターに向かっていた所、近場で戦闘があり同級生と離れ離れになったようで、迷いながらも地下に向かうあたしの姿を見かけて連れ戻そうと追いかけたら何時の間にかこのような場所まで来たらしい。

 

 だが語られていく少年の足取りに私は眉を潜めた。

 

「迷うとして何故、地下に行く必要がある?」

「地下にも避難シェルターがあるかと思って……それに君がいたから」

「確かに避難シェルターはあるがモルゲンレーテのスタッフ用で一般には公表されていないはず。だから目的もなくこのような場所までくることはない」

 

 そう指摘すればこちらが罪悪感を抱くほど顔を真っ青にさせる。けれど仕方がない、神経を研ぎ澄まして潜入中、彼の気配を感じたことなど一度もないのだ。仮に彼があたしの姿を見つけたとしたらその時点で第三者に気づけるくらいには訓練している。ちなみに先ほど肩を叩かれるまで気づけなかったのは父上のことで興奮していたからだ、要反省を掲げて開き直ってみる。

 

「この際だ、はっきり言おう。これでもあたしは第三者の気配に敏感なんだが、この場所で初めてお前に気づいた。つまり、お前があたしを追いかけたという言葉に矛盾が生じるんだよ。なら、避難でもなくあたしを追いかけるとも違う、別の理由があるはずだ」

 

 そう断言すれば少年は私の視線に耐えかねたのか目を伏せて本当の理由を語り始めた。

 

「……ザフトの兵士の中に友達がいたんだ」

 

 学生仲間と避難している最中、ザフトと思わしき兵士が連邦の兵士を射殺するところに出くわし皆で隠れていたという。幸いにもザフトには目的があったようで自分達に気づかず地下に向かって進み始めたが、その時自分の知っている声を聞いたらしい。その声と真面目な話し方が昔の幼馴染にそっくりで、考えるより先に仲間から外れて別ルートから地下を目指したらしい。

 

 そして今度こそ今に至るのだが、あたしは呆れすぎて口も開けない。

 

「お前、馬鹿だろう」

 

 実際は簡単に口が開いて本音を漏らしたけれど。

 

 あたしのど直球の言葉に少年も頭では理解しているのだろう、バツの悪そうな表情を浮かべて唸っている。

 

「うぅぅ…」

「いくら声が似ているからって本人かどうかも分からないだろうが」

「でも、本当にそっくりで」

「万が一本人だとして向こうは兵士、お前は一般人、下手すりゃ殺されても仕方が無いぞ」

「アスランはそんな事はしないよ!」

「そりゃ、アスランとか言うやつがしなくても他の奴は分からないだろう。お前がコーディネーターだからって仲間じゃないのと同じで」

「どうして!?」

「お、やっぱりお前もコーディネーターなんだな」

 

 絶句する少年にあたしはニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

「素直すぎるのも考えようだぞ」

 

 あたしから一歩下がって全身で怯えを見せる少年の姿に今の情勢を物語らせた。いくらヘリオポリスが、引いてはオーブが共存の道を推奨しているとは言え、両者の衝突は未だ絶えないのが現状、彼はきっと自分の出生を隠して来たのだろう。

 

 これまでに無い少年の怯えようを見てわざとらしく咳払いすると自分らしい――恋人に言わせると何も考えていない楽観的な笑顔を浮かべる。

 

「まあ、そんな怯えるなよ。あたしは別にお前がコーディネーターだろうが気にしないからな。異性人が地球圏に移住するこのご時勢、出生なんて些細な事だとは思わないか?」

 

 背中に翼を持つ異性人などが火星に移住する計画を進行させているのだ。試験管から生まれ、能力を初めから授けられたと言うだけで差別する認識に至るほどあたしの頭は固くない。

 

「でも、化け物だって言われるから…」

 

 少年が悲観にくれた表情で呟いた。

 

「たかだが、生まれながら少し能力が秀でただけだろう。生かさなければ宝の持ち腐れになるだけのもので、そんなのはナチュラルも同じなんだから怯える事も羨ましがる事もない」

 

 仮にお笑いの才能を与えられると言われれば少し誘惑に駆られるかもしれないが、才能だけでお笑い道を渡れるほどGEININは簡単ではない事を理解しているので実際に手を出す事ないだろう。

 

「……そうかな?」

 

 僅かに希望を込めた問いかけにあたしは即座に頷き、少年に対する第一印象を述べる。

 

「少なくともあたしはお前を化け物なんて思わない、悲観的でウジウジしているところなんてはっきり言って初期頃のシンジみたいな奴だと思ったぞ」

「えっと…初対面なのに随分とはっきり言うね……て言うか、シンジって誰?」

「あたしの大切なパートナーだ」

 

 お笑いトリオの、と続ける前に少年が問いかける。

 

「それって恋人みたいな事?」

 

 何を想像していたのか先ほどとはうって変わって顔を赤くする少年。しかし、それ違うので否定する。

 

「あたしの恋人はある意味化け物染みている奴だ」

「化け物って自分の恋人に対して…」

「いや事実だから。あたしの恋人に比べればコーディネーターなんて実に人間らしくて可愛いもんだぞ? ぶっちゃけ生身ならどんな屈強のコーディネーターでも勝てない」

 

 全部ATフィールドで防いでしまうからな、と今度は心の中で呟いた。生身でそんな事が出来るあいつの方が化け物だと誰しもが頷くだろう。柔和な笑みで全てを拒絶する様は旗から見て恐怖でしかない。まあ、あたしにとっては可愛い犬のような恋人だが。

 

「何か聞いていると人間じゃないみたいだけど…」

 

「うん? あたしの恋人が人間だって何時言った? あたしの恋人は人間でも異星人でもない犬みたいな奴だぞ」

「犬!?」

 

 あ、心に思っていた事を口に出してしまったようだ。

 

「いや…犬みたいな態度というか…見た目は人間だけど…でもなぁ、尻尾をはち切れんばかりに振っている姿が時折見えてしまうから…やっぱり犬っぽいか……うん、可愛い私の犬だな!!」

「断言されると何か別の卑猥な言葉に聞こえる!!」

「抱きついてハアハア言ってくるところなんて犬そのもので―」

「それはもうただの犬じゃなくて変態という名の犬だと思うな!!」

「ホント可愛いんだ」

「そして普通に受け入れる君の方がよっぽど凄いと思うのは僕だけかな!?」

 

 この少年もまた気弱だった頃のシンジ同様突っ込み属性を持ち合わせていたようだ。内気な奴は皆ツッコミ力を持っているのか、お笑いに夢中な自分としては是非調査してみたいものだと考えていればこちらに向かっているような足音があたしの耳に飛び込んできた。

 

 僅かに遅れて少年の方もその足音に気づいたようで、声を上げそうになるところを咄嗟に右手で塞ぎ、左指で足音とは別の方向を示し移動するよう促せば少年は頷きを返してきた。

 

 

 私と少年は出来るだけ足音を立てずその場を後にする。シェルターがある方向とは別のルートだという事実は取り敢えず二の次にして今はザフト兵に見つからないよう進むしかなかった。

 




 モルゲンレーテの地下施設で出会った少年――既に誰かは理解出来てしまっただろうが、今は名も知らぬ、その少年と共に逃亡を図った先、待ち受けるものとは?


 次回 分かたれた道、蚊帳の外のカガリ



 次回もぐいぐい関わって行け、カガリ!!


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第三話










 始まります。


 

 

 そこらかしこからザフト軍と思われる兵士の声を耳に取り込みながら気配を消してやり過ごす。今は格納庫のコンテナがある場所の背後で動向を伺っている状態だ。オーブでの戦闘訓練及び、ネルフ時代の訓練が役にたったようで、彼らは自分達に気づいていない。

 残念な事に彼らの目的が五機のガンダムなのですっかり囲まれてしまったのはある程度予想していた自分の失態とも言える。

 

 彼らは着々と作業を進め既に三基のガンダムを強奪、格納庫から飛び出して行く。それを歯がゆい思いを抱きながらも一般人を連れた自分では幾らなんでも対処できないとしてやり過ごすしかなかった。そして今、兵士の数は二人、その内の自分たちと同い年くらいの一人が四機目のガンダムに乗り込んだところでもう一人の見た目が少し年上に見える兵士が言葉を発した。

 

「早くしろ、アスラン。隊長たちが相手しているとは言え、敵は歴戦の部隊だ」

「分かっている。お前も急げよ、ラスティー」

 

 アスランという名称を聞いてあたしの後ろで息を殺していた少年が動き出した。あたし自身もアスランとやらの声が恋人の声に似ていて動揺してしまい少年の動きに気づけず、気づいた時には留めようとする自身の気配を漏らしてしまった。

 

 そんな僅かな気配でも流石コーディネーターと言うべきか、ラスティーと呼ばれたザフト兵が銃を構えて振り向いてくる。

 

「誰だ!!」

「アスラン!!」

「この馬鹿!!」

 

 三者三様の叫び声の中から幼馴染らしきアスランと呼ばれる少年はコックピットの中からちゃんと聞き分けられたようだ。

 

「…キラ、どうして」

 

 少年――キラは向けられた銃など気にも留めないで悲しみに満ちた表情を浮かべてアスランを見つめる。

 

 アスランもまた驚きに満ちた表情でキラを見つめていた。コンマの沈黙を破ったのはラスティーだった。

 

「何をやってる、アスラン!! 早く命令を遂行しろ!!」

「だが、そいつは俺達と同じ――」

「俺達ザフトの目的を忘れたのか!!」

 

 躊躇して機体を動かさないアスランに対してラスティーが叱咤の声を上げればコックピットが閉まる。その一瞬、彼はキラを見つめ確かに苦悶の表情を浮かべていた。それが少し先に待つ自分達の末路を予想させる。

 そして互いに動けない自分達から離れ、四機目のガンダムはバーニアを噴かすと飛び立っていった。

 

 あたし達から視線を逸らさずそれを見送ったラスティーは銃をキラの方に構えた。

 

「さて、俺にも目的がある。悪いがここで死んでもらう」

 

 アスランとやらのあの表情からもこれは当然の選択、ここでようやく自分の立場を思い出したのかキラが顔面蒼白で怯え始めた。けれど全てはもう遅い、いくらキラがコーディネーターでも隙の無い相手が放つ弾丸を避けられるほどの俊敏性は無く、それはあたしも同じで、如何に馬鹿力を自負しても弾丸を食らえば致命傷になりかねない。よって、ここでキラの盾になる案も却下される。一般人のキラに隙を突いて立ち向かえと言うのも無理な話で最後は結局、同胞の手によって殺される…が、もしかしたらこれは使えるかもしれない。

 

「待ってくれ」

 

 あたしの制止に、しかし彼は無視してトリガーに指を置く。けれど僅かな隙を作り出すためにあたしは声を張り上げる。

 

「そいつはコーディネーターだぞ!!」

 

 ちらりと視線があたしに向いたことで隙は出来た…出来たのだがこれでは駄目だ。仮に銃を突きつけられたのがあたしだった場合はその隙を付いて動けるが銃はキラに向いたまま、これでは動いた途端キラが弾丸に倒れてしまう。

 

「だから何だ、ヘリオポリスはオーブの所有するコロニーでコーディネーターがいるのも把握済みだ」

 

 まったく持ってその通りの言葉を頂いて完全に作戦は失敗。だが、僅かに時間稼ぎになれると踏んだあたしは必死な表情を作って言葉を紡ぐ。

 

「あんたは同胞の、それも一般人を殺せるのか?」

「事情があれば仕方が無い」

「けど、こいつはただの学生なんだ。無抵抗な人間を殺すのがザフトのやり方か!?」

「黙れよ!!」

 

 イラついた声色で叫び、銃の照準があたしの方向に動き始めた。その隙を逃すあたしではない。背後に回していた腕の中、コンテナから失敬した置忘れのスパナを銃に向けて素早く投げつけた。銃弾が放たれた衝撃音と共に銃が地面に転がり落ちる。既にあたしは驚きを見せるラスティーに肉薄、渾身の拳を叩き込む。ところが、そこは軍の厳しい訓練を受けた兵士、あの一瞬のやり取りで即座に腕を重ね守りの体勢に入ったことから鳩尾に届くことは無かった。それでも馬鹿力は伊達ではないのか、衝撃で背後にたたらを踏む。

 

 あたしは視線をそのままに叫ぶ。

 

「キラ!! この隙に五機目に乗り込め!!」

「え!?」

「どうせシェルターはもう一杯だ。なら、少なくともモビルスーツの方が安全だ。コックピットを占めてロックすれば時間稼ぎになる!」

 

 彼が工業系カレッジの学生だということ、五機目は四機があったこの格納庫の隣にあることも視野に入れた提案だ。

 

「させるかよぉ!!」

 

 サバイバルナイフを取り出して応戦する構えを取った相手にあたしも気合を入れる。

 

「素人がいると邪魔だ、早く行けぇぇ!!」

 

 キラを促す言葉を含めた気合の怒声を上げながらナイフを迎え撃つ。背後から聞こえる駆け音に軽い安堵を抱き、即座に思考を戦闘モードに切り替える。

 振りぬかれたナイフの軌道を読みながら避け、決して地面の銃に近づけさせまいと誘導すれば頭に血の上った相手は見事に引っ掛かった。それでも丸腰の自分は避けるだけで手一杯の状態、何時までも対峙しているのは難しい。

 

 言葉ない命のやり取りを数分続けているとこれまでにない建物の揺れを感じてお互い倒れないよう地面にしがみ付く。すると天井を支える鉄板やライトが落ちてきた。次に聞こえたのは五機目であろうモビルスーツのバーニアを吹かせる音。

 

 相手も聞いていたようで途方に暮れた表情を浮かべていた。

 

「おい、どうしてくれんだよ……確実に任務を遂行する為に皆二人乗りで着たんだぞ」

 

 つまり潜入する為に乗ってきた五機のモビルスーツは既に無く、こいつは置き去りにされたということ。いい気味だと言えないのはあたしも同様だからだ。

 

「こっちだって既にシェルターは一杯で同じようなもんだ。それにさっきの揺れで地上に上がる部屋が潰されたようだぞ」

 

 視線を僅かに逸らし促せば戦闘態勢を解いたラスティーも習い部屋の出入り口に目を向ける。完全に瓦礫で塞がれた二箇所の出入り口を認識して絶望した表情を浮かべた。

 

「地下のここがこれだけやられたとなると地上はもっと酷いかもしれない」

 

 あたしが独り言のように呟けば聞いていたのだろう相手からの返事が返ってきた。

 

「お互い笑えない状況だな……唯一残っているのはモビルスーツ搬入のエレベーターだが、非常電源だけで果たして動くかどうか」

 

 落ちなかったライトの一部が正常に稼動していることから電源自体止まったわけではない。だが、殆どの機器が正常なのにも関わらず稼動されていないところを見ると主電源は落ちたと見るのが妥当だろう。

 

「くそ、これからだって時に俺の人生終わりかよ」

「まったくだ、恋人の意見は聞いて置くべきだったな。あいつがあたしの死を悲観して人類を抹殺しないか心配だ」

「…おい、こんな状況でよく冗談が言えるな」

「これが冗談なら良かったんだが、あたしの恋人は本気と書いてマジと読むぐらいやりそうなんだよ」

「たかだかナチュラルの男に何が出来るってんだ……まあ、コーディネーターでも無理だけどよ」

「普通はそうだよな……けど、あたしの恋人は人間じゃないから…な」

 

 あたしの言葉にネタでは致命的に為りかねない間が開く。

 

「え、それ冗談だよな? 冗談は俺の顔だけにしてくれって、俺の顔のどこが冗談なんだよ!!」

 

 この男、出来ると思わせる鋭いツッコミを行いながら、ちゃんとあたしの真剣な言葉に対して律儀に問いを投げかけてきた。

 それにあたしは乾いた笑みを浮かべて首を横に振りながらも内心では目の前のザフト兵に戦慄する。

 

 多分あたしだげ感じる戦慄だろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

><><><><><><><><><><><><><>

 

 

 

 金髪の少女の助言通り、扉から一つ向かいの格納庫に鎮座するモビルスーツの元へ駆け寄る。するとそこにはザフトとは違う軍服を身に纏った女性が、そのモビルスーツに乗り込もうとしていた。軍服から連邦軍だと当たりを付けたキラはその背に声を掛けるため近づく。直後、大規模な地響きが聞こえ、自分の通ってきた扉の前には天井から落ちた瓦礫が積み重なっていた。

 コックピットに乗り込もうとしていた女性は揺れに耐えきれず、ロープを手放してしまい重力に従って落ちてくる。それをキラは全身を使って女性を支えるも、コーディネーターとは言え普段鍛えていない学生に抱きとめるのは難しく、共に尻もちをついてしまった。

 

 背後からの接触に女性は一瞬身を固めたが、すぐさま懐から銃を取り出すと支えてくれたキラにその銃口を向けた。二度に渡り、銃口を向けられ、キラは既に半泣きである。

 けれど、その涙目姿が功を奏したのか、女性はキラを一般人と判断、モビルスーツに乗って脱出するよう勧められ、金髪の少女からの要望は叶えられた。だが、あの揺れでは彼女もまた脱出を困難にさせているかもしれないと思い浮かべたキラは女性の提案に二の足を踏む。

 女性は乗り込もうとしないキラを見て怪訝な表情を浮かべるも内心で怯えているからだろうと判断して無理やりコックピットに乗せ、言うも言わせず発進させた。

 

 

 地下に残った金髪の少女やザフトの兵士を途方に暮れさせたバーニアを奏でて、地上までのシャフトに何度も機体をぶつけながらも脱出に成功すると、そこでは既にザフト軍の保有するモビルスーツが三機、赤い新型のガンダムが一機、何時でも攻撃が出来る体制で待ち構えていた。どうやら定期連絡が為されないまま地上に出てきた新型を捉え、強奪の失敗と判断したようである。

 

 その中の一機、赤い新型から通信が入るも操縦しているのは女性でそれに応えることはなかった。キラの心情としては通信を返したいと思っていたが、それを行えるほど女性の操縦に余裕は無いようである。何度目かの通信を最後にキラの親友―――アスランが操縦する赤い新型は本来の目的を思い出したかのようにヘリオポリスから離脱していった。

 

 離脱を確認した三機のザフト軍モビルスーツ―――ジン残りの新型――ストライクに向けて一斉に攻撃を開始する。重斬刀を構えバーニアを吹かすと多方面から斬撃を繰り出した。コックピットに乗る女性は短い悲鳴を上げながら回避行動に移るも未完成のOSでは碌な動きも出来ず、的のような状態で何度もその斬撃を装甲に届かせる。

 だが、この新型は特殊な装甲を持ち合わせていた。一定のエネルギーの消費で物理的衝撃を受け流す相転移装甲―――俗に言うフェイズシフト装甲である。従来のモビルスーツよりも動力消費は大きいが、日本が誇る特機などから紙装甲と言われ続けたモビルスーツの欠点の改善に成功したストライクはジン如きの斬撃を何度浴びようともその装甲に傷は一切つかない。

 ただ、機体自体被弾しなくともコックピット内の衝撃は凄まじく―――如何に衝撃吸収装置が備わっていても、そう何度も攻撃されれば衝撃は伝わる―――結果、操縦桿を握っていた女性は白目を剥いて失神してしまった。

 

 衝撃に耐えていたキラはこのままでは自身の死を明確に感じて身震いすると一転して行動に出る。渾身の力でその女性を退かして操縦席に座ると常人とは思えない早さで端末を操作していく。

 

「くっ、こんな状態で碌な操作も出来るはずないじゃないか」

 

 自身の得意とするパソコン技能、またの名をハッキングでストライクのOSにアクセスすると思う存分変更―――別名、僕の考えた最強のOS(笑)にしていった。

 

 黙々と作業を行い最後の端末を弾くとキラは安堵の笑みを浮かべた。

 

「これで僕の思うように動かせる!」

 

 コックピット内に重低音が響き渡る。しかし、それはキラが望む音ではなかった。

 

「あれ……」

 

 端末上部にある画面にエマージェンシーという単語とエネルギー系統のダウンを報せるものが点滅していた。その直後、フェイズシフトダウンという単語が画面に描かれるとストライクは機能を半停止してしまう。何度も物理攻撃を食らえば辿る当然の岐路であった。

 

「うそーん」

 

 普段このような言葉を口にしないキラが茫然と吐き出した心の底からの想いを残念ながら聞いていた者はいない。女性は未だに白目を剥いているのだから。

 

 鮮やかな彩りだったストライクの装甲はキラの心情を表わすかのような灰色に変わっている、次の攻撃を回避するのも物理衝撃を受け流すのも不可能というこの緊急事態はキラにとって死を意味していた。

 

 モニターに映し出された振り上げられる三つの重斬刀、キラはそれでも必死に全方位の通信を送る。

 

――助けて――誰か――僕は――死にたくない。

 

 この際目の前の敵でもいい、捕虜になって理不尽な扱いをされても構わない、死にたくない、そんな思いで通信を送るも敵の三機は動きを止める訳もなく、三つの刃は無情に落とされた……自分の機体を庇うようにいきなり現れた漆黒の機体に。

 

「え?」

 

 そんな間抜けな声を上げるのも無理はない。いきなり現れた機体に驚くのは当然としてその漆黒の―――死神のような機体は長い棒状のようなもので難なく刀身を受け止め、その棒から高出力のビーム刃を発生させ一瞬して一機のジンを切り刻んだ。

 

「まずは一体ってな、次!!」

 

 どこかで聞いた覚えのある声がスピーカーから流れた直後、漆黒の機体がぶれる様にその姿を消すと二機目のジンの胴体と足が離れていく。

 

 第三者の参戦に勝機を欠いた残り一機のジンはバーニアを吹かせながら後退するもその場所には既に死神とは正反対にあるような白銀の翼を羽ばたかせた天使のような機体が佇んでいた。神々しい見た目の天使はその手にビームサーベルを持って死神に負けない無慈悲な動作で切り裂くと、スピーカーからこれまた聞き覚えのある声が響き渡った。

 

「任務完了」

 

 数分も掛らずザフト軍を蹴散らした二機は悠然とキラ達の前までやって来る。

 そして映像通信が送られ、それを開けば自身を火消しの風と称する昨晩出会った少年達の姿が映し出されていた。

 

 

 

 キラは助けてくれた礼よりも先に自身の口からとある願いを声に出すのだった。

 




 瓦礫で閉鎖された空間、互いに脱出路を失ったカガリとザフトの少年兵は己の死を感じながらも言葉を交わしあう。
 
 それによって変わる未来とは。

 次回 ラスティーさんの前座


 次回も欲望に負けるな、カガリ!!


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第四話

 始まります。


 

 モビルスーツ搬入用エレベーターの起動に失敗したあたしは落胆する気持ちを隠させず、顔に出してしまったようで、警戒しながらもこちらを窺っていたザフト軍兵士―――ラスティー・マッケンジーも肩を落として落胆の意を示していた。

 そうなってしまえば、お互いの立場など今は関係なく、それ以上に諦めムードが漂い始め、警戒など意味をなさなくなるのも仕方がない。

 

 あたしと彼は先ほどまで敵対関係だったことなど微塵も感じさせず、落ちた瓦礫に座り込み世間話を繰り広げていた。

 中々どうしてこの男はノリもよく、話術も上手い、何より旧世代のお笑いにも詳しいところがあたしの好感に際も触れてくる。

 

「そっか、お前は変なおいちゃんを代表とするケン・シムーラが大好きなのか」

「ああ、あのお方は旧世代コントの神と言われた方だからな」

「俺はどちらかと言うとトークの神と言われるサン・マ・アカシャを尊敬する」

「流石だな、王道を外さない。そこに痺れる」

「憧れるってか? 俺もお前に感じる思いは一緒だ。プラントじゃ殆ど理解してくれる仲間がいなくてな、寮生活では一人寂しく映像を見るだけだった」

「ちなみにあたしは仲間たちとトリオを組んで初舞台も経験済みだ」

「マジかよ!? すげぇなおい、何が凄いかよくわからねぇけど、とにかく凄いな!!」

「褒めておいて結局よく分からないのかよ!!」

 

 あたしの手を添えた突っ込みにラスティーは同志を得た喜びを噛み締めていた。涙まで流して喜んでいる姿については流石にあたしもドン引きしたという感想は心の中で閉まっておく。

 

「全部口に出てるから!! そして何気に酷いな、オイ!!」

 

 涙声でもツッコミを入れるラスティーにあたしは感嘆のため息を吐きだす。この男の笑いに貪欲なところは賞賛に値する。

 

「ああ、これであんたがコーディネーターだったら完璧なのになぁ」

 

 この男、何を言うかと思えば笑いの根本的なところが理解できていないようだ。内心で呟いていたはずの独白を口にしていたようでそれを聞き取ったラスティーが理由を求めてくる。流石にここまで来てお互い不快な想いはしたくないので言葉を濁していればその都度要求してきた。根負けしたあたしは不快感を与える覚悟で口を開いた。

 

「笑いに人種も国境も関係ない。笑いの前では全てが平等だとあたしの大好きな母は言っていた。それと、それこそが真のGEININに通ずる道だとも言っていたな。あたしはこの話を聞いたとき、笑いの根本を見たと同時に目から鱗が落ちる思いだったんだが……」

 

 少し前の嬉し泣きなど比べるべくも無い滝のような涙を流す目の前の男に驚いて言葉を止めてしまった。

 

「おい、どうした!?」

「……涙が止まらねぇ」

「何ゆえ!?」

「俺は……この瞬間まで笑いを語るだけでなく楽しむ資格さえ持ってなかったんだって気づいちまった」

「お前、まさか」

「はは、やっぱ分かるか? お前の話を聞いて俺がザフトとして戦う理由を見失っちまったんだよ。あれだけナチュラルを恨んでいたのに今はその遺恨も薄れちまって、情けなさやら仲間に申し訳が立たないやらで、涙が止まらない」

「お前の心にそこまでお笑いが深く根付いていたのか」

「元々離婚して笑わなくなった母親を笑わせようとして幼少の頃始めたことだったんだけどよ、俺の拙いギャグで母親が笑ってくれた時はビームライフルにでも打たれたような衝撃だった。それからはもう転がるような感じでのめり込み、時に貪るかのように旧世代の映像を求め続けた成れの果てが今の俺なんだ」

 

 同じだ、母親を笑わせるという共通点から今の自分に至るまでの通過点までも一緒、それはもう鏡を見ているような感覚を抱いてしまうほどで、だから複雑な心境を持ちながらもラスティーの想いが本物だと理解できてしまう。だが、このままでは彼自身中途半端な状態で死を待つことになる。それは余りにも悲しい。

 

「どうして笑い合える人類同士で血を流さなければならないのか、この先に待つ終焉はそんな人類に等しく降り注ぐと言うのに」

 

 恋人を中心に一部の者達が知っている未来の真実の一欠けらをあたしは彼に語った。連邦やプラントも知りえないこの先の末路、それに立ち向かう為にも人類が一丸となって望まなければならない事をあたしは淡々と語り続ける。

 

「……」

「だからあたしの恋人は人ではないんだ。そしてそんな彼からすればナチュラルもコーディネーターも同じく人類でしかない。争うは種の生存という大義名分に隠された人の欲望を具現化した愚かな行動に過ぎないなんて辛らつに語っていたな」

 

 それでも最後は白き月の祖として人は他者との絆を深められる生き物で在れるはずだと願いにも似た言葉で締めくくっていた。太古の昔、種を賭けた生存戦争を繰り返してきたアダムだからこその言葉はあたしを初めシンジやアスカも深く心に刻まれたのを覚えている。

 

 突っ込みどころ満載の語りに沈黙を貫いていたラスティーがチクショウっと吐き捨てた。

 

「死ぬ間際で裏切りか、ホント俺は最低だな……けど、そんな最低な俺自身が嫌いじゃねぇんだ、これが」

 

 何時の間にか涙は止まりどこか晴れ晴れとした表情で笑っていた。

 

「連邦の中で蓑隠れした一部の奴らは許せねぇ、けど、ナチュラルだからって罪も無い一般人に手を掛けた俺らも同じようなもんだ。そう感じちまった俺はもうザフト軍に籍を置けない」

 

 そう言って座っていた瓦礫から立ち上がるとラスティーは大きく伸びをする。

 

「まあ、先に待つのは建物による圧死か、窒息死か、どちらにしろ、死ぬんだから関係ないよな。よし、俺ザフト軍やぁぁめたぁ!」

 

 投げやりとも違うどこか清々しい宣言にあたしは苦笑を浮かべるしかない。

 

「けど、万が一生き残ったらどうするんだ?」

「ふ、このラスティー・マッケンジー、嘘は何度も吐いて来たが宣言した言葉を撤回したことは無いんだぜ!!」

「つまり宣言した言葉が実は嘘だったら撤回できるわけだな!!」

「ちょっ!! そりゃ無いぜ、折角カッコよく決めたのに!」

「いや、全然カッコよくないぞ」

「ガラッと変わって淡々とした口調で言われるとホントっぽいから止めて、心が抉れそうです!!」

 

 自虐的な突っ込みを吐き出すと不意に真面目な表情に変わる。

 

「冗談抜きで俺はもうザフト軍には居られないだろう。今も戦い続ける仲間に申し訳が立たないからな。仮に生き残ったとしても連邦に投降するのは心情的に無理だ」

「どうするつもりだ?」

「だから生き残ったらあんたに付いて行く」

「はあ?」

「死亡扱いなら名誉除隊できるし、国にいる母親に危害が加えられることもない上、結構な額の金が支払われるから心配も無い。情勢が落ち着けば何時か会いにいけるし」

「ちょっと待て!」

「あんたが一般人じゃないことはさっきの話や身のこなしで理解できる。けど、連邦に巣くう奴らのようなナチュラルでもない。どちらかと言えば、それを好と思わないだろう?」

「そりゃあ許せないが……いや、話の論点が変わっているぞ!?」

「かといってどこかの組織に縛られていたらこんな所にわざわざ単身で乗り込むことも無いはずだ。ほら、俺にとって都合が良いだろう?」

「まあ、どちらかと言えば小さな傭兵部隊のような組織を指揮している方だけど……」

「え、マジかよ。だったら尚更都合がいいじゃねぇか、あんたなら仲間を売るような命令は下さないだろうし」

 

 理解できるものの何故か腑に落ちない。まるであたしがこいつの面倒を見なければならない所が特に。

 

「いいじゃねぇか、俺結構働くよ、操縦から整備、雑用なんかもそつなくこなせるし」

「……もう一つ欲しいところだな」

「なら、最後に取って置きを出してやるぜ!」

 

 やけに自信満々な表情に取り敢えず耳を傾ける。

 

 

「俺のトーク技術で客席を暖める前座を担ってやろうじゃないか!!」

「よし採用、今日からお前もエバーズの一員だ」

 

 採用だ、ああ、採用だとも。こんなトークも出来る人材を見て見ぬ振り出来るほど目は曇っていないつもりだ。

 

「あざーす。よっしゃ、同じ旧世代のお笑いを分かってくれる上司なんて嬉しいぜ。となると、あの仮面かぶった胡散臭い上司ともオサラバ出来るわけで……うわ、最高の職場ゲットって感じだな。そう言えば、あんた名前はなんてんだ?」 

「綾波カガリだ。言っとくがあくまでこの場所から生き残れたらの話だからな?」

 

 余りの喜びように未だ危険な状態だと言う事を指摘すれば理解しているのかお座なりに返事を返してパイロットスーツを脱ぎ出した。流石に下はパンツだからか、上の部分を腰に巻きつけタンクトップ姿を披露する。そして身分を証明するものを全て投げ捨てた。

 

「服は後で何とかするとしてこれで何とか偽れるか。カガリも金髪だし、オレンジの髪くらいじゃ分からないよな」

 

 もう助かる気満々の行動に苦笑を通り越して呆気にとられているとラスティーの想いが通じたとしか思えないタイミングで二機の見慣れた機体が地下のこの場所に下りてきた。即座に警戒してあたしを守るよう前に出るラスティーに知り合いだと告げて近づけば死神を司るガンダムからおさげの少年が笑みを携えて降りてくる。もう一方、天使のような純白の羽を持つガンダムからは無表情の少年が降りてきた。

 

「新型に乗る坊ちゃんから救助を依頼されて来てみれば懐かしの姫さんがいるじゃねぇか」

「おい、今のあたしは綾波カガリだぞ、そのあだ名で呼ぶな、デュオ!!」

 

 睨みつけながら言えば、おどけた表情で肩を竦める姿を見て思わずあたしの心に懐かしさが広がる。

 

「お前の姿をモニターで見つけた時は正直驚いた、怪我はないか?」

「大丈夫だ、ヒイロ。救援感謝する」

 

 驚いたようには見えない無表情で淡々と語る姿も懐かしい。本当に心配していたのだと分かるから素直に感謝の言葉を述べられる。

 

「それで、そちらサンはどなたな訳? もしかして浮気か、お転婆お嬢様」

「お前と一緒にするな。こいつはあたしの護衛として連れて来たエバーズのメンバーだ。冗談でもカヲルの前で言うなよ、悲観に暮れて泣き続けられたら厄介だ」

 

 自然な嘘を心がけて言ったつもりだったが、どうやらプリベンターのエースには誤魔化しきれなかったようだ。無表情から鋭い目つきでラスティーを睨みつけている。

 

「その格好で誤魔化せると思ったか、貴様はザフト軍の兵士だろう?」

「さっきまではね、今はカガリの護衛で部下なんだよ。そんな殺気だたないでくれ、今にも手を出しそうだ」

 

 飄々とした態度を見せながらも隙を作らないラスティー、一触即発の雰囲気がその場に流れ始めた。

 

「ヒイロ」

 

 取り敢えず静止の声を上げて今まであった出来事を掻い摘んで伝える。それによって警戒は残るものの一応殺気は抑えてくれた。変わってデュオの方は呆れたようにため息を吐き出す。

 

「ホント、お嬢さんは厄介な奴に好かれるタイプだねぇ。でも、どうすんだ? 実際身分証明が無いと今の時代動きにくいぜ?」

「そこはあたしのもう一つの顔を使うから大丈夫だろう。今の問題はザフト軍をどう切り抜けるか、こんな状態でシャトルは運行していないだろうし、エバーズに連絡するにも時間的に難しい」

 

 高確率でヘリオポリスは戦場になって壊滅するだろう。父上のシナリオにはそれも考慮されているはずだ。

 

「そこは安心しろ、エバーズ艦長から不測の事態の折にはお前を保護するようプリベンターを通して依頼が着ている。それをうちは了承、任務扱いとしてお前を保護するつもりだが」

 

 そう言ってヒイロはラスティーに視線を合わせた。

 

「あくまで対象はカガリ、俺達を含めてレディから新造艦に乗るよう指示を受けている。ザフト軍の兵士を保護対象として迎えるのは難しい」

「どうせ、こんな場所で作業するような所詮末端の軍人が例の組織と通じているはずは無いと思うが?」

 

 エバーズが独自に調べ上げた連邦に巣くうある組織を仄めかして問えばヒイロは小さく頷きを見せる。つまり、プリベンターもその情報を持っているということ。うちの組織が依頼の報酬として情報を横流したのかもしれない。

 

「なら、組織のトップとして改めてプリベンターに依頼しよう。あたしと部下のラスティーを保護し、無事Lilinまで護衛して欲しい」

「お嬢様よぅ、無理が過ぎるぞ!?」

「そうだ、カガリ。捕虜ならまだしも保護扱いは出来かねる。いくら末端とは言え直属の部下に変わりは無い」

 

 二人が揃って否を唱え、捕虜として扱うよう説得してきた。けれど、こちらも折れるつもりはない。あたし自身も一度迎えると了承したならばそれを貫き通すつもりだ。

 

「もちろんタダでとは言わない。エバーズが所有する国際犯罪組織の情報を優先的にプリベンターに開示しよう。うちの情報網は他の追随を許さないほど優秀なのはお前達がここにいることからも十分理解しているだろう?」

 

 彼らがここの調査をするに至る情報はうちが厚意に彼らの組織に流したからだ。

 

「くそ、中々良い札を出してきやがったな。確かにここを調べる時の情報はお嬢さんの組織からの報酬を元に検討したからだけどよぅ」

 

 デュオが悔しそうに歯噛みする。こちらとしても目に余る犯罪組織は潰れた方がよいので情報開示は実質痛手ではない。

 

 もう一押しと言ったところか。少し考えて浮かんだ、取って置きを出すとしよう。

 

「それだけじゃないぞ、オーブの内情、その一部であるサハク家の情報を開示しよう。あたしが言うのも何だが、あそこは今キナ臭いぞ?」

「オーブの軍事を司る五大氏族の一つか。しかし、そんな事をすれば国が弱体化するぞ」

 

 確かに軍事は国の要とも言える第一級の情報であり、おいそれと開示できる代物ではない。けれど、今回開示する情報はあくまで一部、オーブ全体関わる事ではなくサハク家が独自に暗躍している部分だ。

 

 今の今までエバーズでも全容を把握出来なかったが五機の新型を見たことで推測が立った。そしてその推測が正しければオーブにとって要らぬ争いを増やす火種になる可能性がある。

 

 時間的に計画自体を潰す事は難しいが他組織、それも世界を又に掛ける巨大組織に情報を与える事で牽制の役割を担ってもらおうという打算的な意味合いも兼ねたものなのでこの際多少の漏洩は目を瞑るつもりだ。

 

 プリベンターとしては破格の報酬だと思うが、ダメ押しにもう一つ付け加える。

 

「最後に保護された場合、監視として常にあたしと共に行動してもらうつもりだ。寝食も当然一緒にする」

「いや、それこそ駄目だろ!」

 

 デュオがここ一番の叫びを上げて反対した。

 

「別に上司と部下なんだから構わないだろう」

「おい、ヒイロ。お前なみに鈍感だぞ、このお嬢様」

「俺は訓練で常に感覚を尖らせている」

「こいつも駄目だった!!」

 

 頭を抱えて唸るデュオの隣で黙って聞いていたラスティーがボソリと呟く。

 

「あれ、俺って異性として見られてない系?」

 

 それを聞いていたデュオが哀愁漂う表情を浮かべてラスティーの肩を叩いて慰め始めた。男はすぐに仲良くなれるというがどうやら本当らしい。

 

 

 その時、またしても建物が大きく揺れ始めた。流石にこのままでは全員が危険と判断、ゴリ押しで了承を勝ち取ると二機のガンダムに乗り込みその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、あたしとラスティーはプリベンターの保護対象として紹介され新造艦に乗り込むことに成功する。その際、デュオから服一式を借りた事でラスティーが怪しまれる事はなかった。ところが、艦内でキラと再開した時は流石に冷や汗をかく事になる。

 

「あ、あなたは――」

「キラじゃないか!! 無事だったんだな!!」

 

 最後まで言わせず、カレッジの仲間と思わしき人物達に怪しまれながらも抱擁を無理やり行いながら耳元で黙っていて欲しい旨と後で説明する旨を懇願すれば一応頷いてくれた。

 

 キラ達と別れ、待たせた形となった黒髪の雰囲気がきつそうな女性軍人に自分たちの泊る部屋まで案内されるとようやく人心地がついた。同じように共に部屋で過ごすラスティーもまた安堵の息をはきだしている。

 結局、部屋数の関係上、ラスティーと寝食を共にすることになったが、そこまでに至る一悶着はあまり思い出したくない。

 

――デュオは煩く反対するのは分かっていたけど、ヒイロもムスッとした顔を作っていたのが印象的だったな。

 

 あたしは簡素なベッドに倒れこむと瞳を閉じる。

 

――やれやれ、これからの船旅がどうなる事やら……無事にあたしはあいつの元に帰れるのか?

 

 悲観的になったわけではないが、何だか無償にあいつの笑顔が見たくなった。

 

 

 

 




 エバーズに新たな仲間――ラスティーを加え、新造艦は動き出す。その旅路に待ち受けるのは果たして……。

 次回タイトル 再開への旅路



 次回の話も何だかんだ突っ走れ、カガリ!!


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再開への旅路

 始まります。


 

 

 無数に飛び交う光の筋たち、荒れる戦場にガンダムタイプの白いモビルスーツ。

 今の今まで戦場のせの字も知らない学生が乗り込んだ新型モビルスーツは性能こそ引けを取らなかったが、如何せんパイロットの知識は乏しい。巨大な砲撃機を持ちだした新型は敵の大将機に狙いを定め、躊躇することなくトリガーを引いた。

 

「止めろ、坊主!!」

 

 その叫び声は誰の通信だったのかなど今更知る必要は無い、既に力の本流は解き放たれ撃ち出されてしまったのだから。

 一つ目の角を持った敵モビルスーツは撃ち出された光の筋を意図も容易く尚且つ嘲笑うかのように避けて見せた。その背後に佇むのは今しがたパイロットが生活していたコロニーヘリオポリス。

 新型から撃ち出された力は巨大なコロニーに穴を開けるほどの威力を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 ><><><><><><><><

 

 

 

 

 結局ヘリオポリスは一般人のキラが乗る新型モビルスーツ、ストライクのランチャー使用の武装『アグニ』によって崩壊した。もっともヘリオポリスには多額の保険が掛けられていてオーブの資金に喪失は無い。父上は結構ちゃっかりしている。

 

 ヘリオポリスから脱出を果たした新造艦――アークエンジェルは当座の目的としてアラスカ基地を目指して航行していた。その間幾重にも渡ってザフト軍と衝突、戦闘中は部屋の中で待機しているものの、その都度複雑な表情を浮かべるのはラスティーだ。あたしが声を掛ければ必ずそれでも自分はもうザフト軍としては戦えないとぎこちない笑みで返すのが痛々しかった。

 

 この頃、アークエンジェルのクルーが落ち着きを見せ始め、キラとラスティーを交えて話が出来た。銃を突きつけたことに対する謝罪をキラが受け入れ、ここにいる経緯を話せば驚きながらも理解を示し黙っていることを約束してくれた。

 代わりにラスティーがアスランについての個人情報、私生活の部分を語ってみせれば、母親が亡くなった経緯を聞いてキラは悲しそうに目を伏せた。彼はアスランの母親を知っていたようだ。その後、沈痛な面持ちで別れたがキラの心情を考えるとあたし達は口を出せなかった。

 

 キラとの会話の後に起きた戦いでどうにかザフト軍を退けた直後、エアロゲイターと思われる異星人が現われ場は混乱したようだ。援軍として駆けつけたブライト艦長率いるラーカイラムの部隊が先陣を切って戦い続けどうにか切り抜けられたらしい。しかし、アークエンジェルの面々は異星人との初戦闘に気後れして禄に動く事が出来なかった。不甲斐ない想いを抱き気持ちが沈んでいたアークエンジェルクルー、だが、歴戦の艦長ブライトの叱咤で気持ちを浮上させることに成功する。更に目的地をロンデニオンに変更、そこで補給した後、改めてアラスカ基地に向かう事になった。

 ちなみにこの一連のやり取りはラスティーからの聞かされて知ったのだが、その時あたしは急な頭痛で意識を失っていたのだ。

 

 次に意識が浮上するとそこは医務室でラスティー初め、歴戦の仲間達が見守っていてくれていた。診断の結果何事も無いことを軍医に告げられ医務室を後にする途中、ある機体の前で再び頭痛を引き起こして立ち止まった。

 

「この機体……」

 

 心配するラスティーに肩を借りてふらつく体を支えてもらいながら見上げた機体はどこか禍々しさを持つ黒と茶色のコントラストを奏でたものだ。

 その機体から発せられる何かをあたしの勘が最大限の危険として告げている。どうやらそれが頭痛の原因らしい。

 

「一般人が俺の機体に何のようだ?」

 

 声を掛けてきたのは丹精な顔立ちと鋭い目つきの少年だった。

 

「これはお前の機体か?」

「そうだが、一般人がこのような場所にうろつくのは感心しない」

「本当にお前がこれを操縦しているのか?」

「くどいぞ、そうだと言っている」

 

 少年はタダでさえ鋭い目つき更に釣り上げて吐き捨てた。

 

「お前、名前は?」

「……」

「名前は無いのか?」

「……クォヴレー・ゴードン」

 

 渋々と言った形で告げてきた。名前を聞いたところで情報が現われるわけじゃなし、どうしてこのような危険な機体に乗っているなどと聞いて素直に答えるとも思えない。先ほどからの対応からそれをヒシヒシと感じる。

 

「そうか……クォヴレーというのか……」

「何だ、言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ?」

「いや、不快にさせたのならすまない。すぐにでも去ろう」

 

 それだけ言ってあたしは痛む頭を抱えながら歩き出す。しかし、格納庫から出る扉の前であたしは再び止まると振り返った。

 

「その機体に乗るなら気をつけろ」

 

 余計だとは思うが黙って見て見ぬ振りは出来なかった。混乱させると分かっていても、自身の勘に基づく私的な意見を述べる。

 

「何故そんな事を言う?」

 

 当然そう返されることも分かっていたが言葉にするのは難しい。何せこの感覚は前対戦である戦いに赴いた時に感じたものに似ているだけで、後は全て勘から来る予想なのだ。

 

「その機体に意識を委ねすぎればお前自身の自我が飲み込まれてしまうかもしれない」

「!? おい、それは――」

 

 扉は閉められ、声は途切れた。

 

 あたしはそのまま与えられた自室に向けて歩き出した。途中、クォヴレーの相棒仮だと言う少女――ゼオラにも会い、それとなく気をつけるよう促した頃には既に頭痛は綺麗さっぱり消えていた。

 

 自室に戻りベッドに入ると瞳を瞑り、機体の前で感じた懐かしさを思い出す。

 

――あの頃はまだ、あいつがいた頃だったな。ネルフのジオフロントに突如として現われた漆黒の機体――アストラナガン。

 

 あれと戦闘していた時に感じた感覚を二年ほど経った今、あの機体の前で感じた。つまりそれはあの機体にアストラナガンのパイロットの意思が在ることになる。

 

「既にいないはずの存在を感じるなら……あいつが良かったな」

 

 独り言のように小さく呟くと水色の髪の少女を思い浮かべながら瞳を閉じた。そしてそれは意外な形でこの先叶えられる事になる。しかし、それはとても歓迎されるものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 行き先をロンデニオンに変更してからザフトとの戦闘も無く順調な航海である。

 

 暇を持て余したあたしはラスティーを連れて廊下を歩いていた。するとゼオラと思わしき怒鳴り声が聞こえ、横を凄い速さで通り過ぎていく。あたしはその元凶と思わしき相手に話しかけた。

 

「おい、あの子が酷く落ち込んだ表情で走って行ったぞ?」

 

 元凶、もといデュオはあたしの姿を捉えここぞとばかりに意見を求めてきた。隣に立つカトルは呆れ顔だが黙っていることから彼も意見を欲しているのだろう。

 

 曰く、あのクォヴレーというパイロットとその機体が怪しい、現われた場所がクロスゲート付近で尚且つ危険な機体に乗っているからスパイの可能性がある。お前の意見はどうなんだというものだった。

 

「そうだな、あの機体ベルグバウだっけ? あれに関してはあたしも危険だと思うが、パイロットに関しては分からん」

「分からんってお前……」

「なんて言えばいいか、勘が働かないんだよな。それってつまり今は危険が無いってことなんじゃないかと思う」

「カガリさんの勘は当たりますからね。ニュータイプや念動力者とは違う感じ方ですから分かると思ったのですが、なるほどそのような解釈もありますね」

 

 そう言ってカトルは頷いた。

 

「けど、監視を付けるのは賛成だ。但し、あのパイロットを守る意味で」

「おいおい、何で俺が守らなきゃいけねぇんだよ!」

 

 いきり立つデュオにあたしはこの前倒れた経緯を話した。聞いているうちデュオもカトルも真剣な表情を浮かべ始める。

 

「つまり、お前はクォヴレーの意思が乗っ取られる危険性が在るって言いたいんだな?」

「あくまで勘から来る予想だから確実じゃないけど、あの機体には確かに懐かしい気配を感じるんだ」

「そこでイングラム・プリスケンに繋がるわけですか」

 

 カトルの言にあたしは頷いた。それだけは確かだからだ。

 

「たくっ、お前に意見を聞いたら余計混乱したじゃねぇか、どうしてくれんだ!?」

「あたしのせいか?」

「いえ、全面的にデュオのせいです」

「ひでぇぜ、カトル様」

 

 がっくりと項垂れるデュオにあたし達は笑顔を浮かべる。先ほどまでのギスギスした雰囲気から抜けたようだ。

 

「だからさ、監視はするけどあくまでクォヴレーを守る為だってことをゼオラにも言ったらどうだ? それなら心情的にもお互い楽になるだろう」

「まあ……それならブライト艦長からの役目も全うできるか」

 

 どうやらブライトから言われていたようだ。あの人も要らぬ苦労を背負い込むタイプと言えるだろう。

 

「では、僕は直接話して見ようと思います」

「おい!?」

「直接話して見えてくることもあるか、そうだな、あたしも賛成だ」

「カガリさんもご一緒にいかがですか?」

「無視すんなよ!?」

「悪い、あたしはこれでも一般人としての立場があるし、ラスティーもいるから遠慮するよ」

「そうですか、では、行ってきます」

「二人とも無視は良くないと思いマース!!」

 

 カトルは宣言どおりスタスタと歩いて行った。あたしも手を振って見送る。

 無視されたデュオはその後、ザフト軍による追撃が開始されるまでラスティーに慰められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ><><><><<><><><><><><

 

 

 

 既に機体を展開させたザフト軍に迎え撃つアークエンジェルも機体を展開させる。その中にはカガリが危険視したベルグバウもあり、そのすぐ近くに展開したのはデスサイズだった。

 

 デュオはコックピットの中からベルグバウに通信を行った。

 

「よう、調子はどうだい」

 

『問題ない』

 

「俺が監視していることは分かっているな?」

 

『ああ、不躾でない程度の範囲だから気にはならなかった。上手いな』

 

「そりゃあ、お褒めに預かり光栄だな。じゃあ、監視される理由は分かるか?」

 

『当然だ、記憶喪失の得体の知れない俺にスパイ容疑が掛かっているんだろう?』

 

「……」

 

『俺としては本当に記憶喪失なので、その可能性もあるとだけ言っておく…が、何故笑う?』

 

 笑い声を上げたデュオに不信を抱いたクォヴレーが問いかけてきた。

 

「いや、見事に騙されてくれたんでな、残念だが、監視はお前のスパイ容疑じゃねぇ。お前がその機体に飲まれないよう陰から守っているってのが、正解だ」

 

 通信から息の詰まる音が聞こえ、デュオは更に笑い声を上げる。

 

『お前はお人好しのカトルと違うと思っていたんだが?』

 

「もしかしたら記憶を失う前のお前はそうだったかもしれねぇ、けど今は違うと言う在る意味お墨付きを貰ってるんでな、監視理由を変更した。俺だって好きで疑いたい訳じゃない」

 

『……出来れば変更した理由を聞きたい』

 

「そうだな、とあるお嬢様の良く当たる勘といったところだ」

 

『そんな不確かな事で……誰だ、そのお嬢様はと言う奴は』

 

「残念、時間切れだ。戦闘が始まる」

 

『おい!?』

 

「聞きたけりゃ、これからも良い子で居るんだな、そしたら何時か話してやるぜ」

 

 言ってデュオは通信を切るとデスサイズを戦場に向かわせ、同じく少し遅れたベルグバウも続く。

 

 カガリの旅は始まったばかりであった。

 




 新造艦に連れてこられた三人目のコーディネーター、ピンクの髪を持つザフトの姫と我らが金髪の姫、二人が出会う時何かが起きるといいなぁ。

 次回 前座だけでは収まらないラスティーさん


 次回もゆっくりとだが進んで行け、カガリ!!


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第二話

 始まります。


 今回も何とか追撃を退け、アークエンジェルはロンデニオンに向けて航海を再開させた。

 その後ロンデニオンに付くまでザフト軍の追撃は無かったが、艦内ではちょっとした騒ぎが起きていたようで……。

 

 

 食事の時間帯になり、本来ならばデュオかカトル辺りがあたしとラスティーの分の食事を持ってきてくれるのだが、今日は一向に現われず不測の事態でも起きたのかと危惧したあたし達はアークエンジェルの食堂に向かうことにした。

 足早に食堂の中に入ればそこで繰り広げられる光景にラスティーが歓喜の声を上げ、あたしは己の浅はかさに嘆くことになる。

 

 何故か連邦の戦艦にプラントの歌姫にしてプラント議員の父を持つラクス・クラインが赤髪の少女に一方的に攻められていたのだ。ラスティーがファンだということは知っていたが、それならこの状況に文句の一つでも言うのかと思えば興奮しすぎた彼は残念ながらラクスしか目に入っていなかった。キラを始め、学生仲間はオロオロしているだけの状況、残念ながら配慮の出来る古巣の連中は皆出払っているようで止めるものは皆無である。

 

 取り敢えず役に立っていないキラを連れ出し、ラクスが居る理由を問いただせば、先の戦いでキラ自身が救命ポットを発見、南極条約に乗っ取り救助して連れて帰ればそれがラクスだったようだ。三ヶ月前、かつての農業用プラント・ユニウスセブンが連邦の核によって壊滅、二十四万人の死者を出した凄惨な事件の慰問に来ていたところをエアロゲイターとは別の異星人に襲われたらしく、慰問団は壊滅するも国の歌姫を逃がそうとラクスだけが逃がされ難を逃れたようだ。

 

 赤髪の少女は余程コーディネーターが嫌いらしい。今度はラクスからキラに矛先を変えて差別発現ギリギリの罵声を浴びせ始めた。これにはキラの仲間達も黙っては居られなかったらしく赤髪の少女を口々に責め、場は混乱の一途を辿り始めていく。

 

 あたしは手のひらを思いっきり叩き、自分の存在知らしめると未だ熱い眼差しでラクスを見つめているラスティーの脇腹を肘で突きながら口を開いた。

 

「どーも、アークエンジェル一般人代表にしてナチュラルの綾波カガリです!」

 

 自己紹介を述べ、ラスティーに目配せすれば心得たとばかりに頷く。

 

「ハイパーコーディネーター、ラスティー・マッケンジーでっす!!」

 

 その自己紹介にコーディネーターがキラ以外にもいたという事実を彼らに示し大いに驚かせた。キラやラクスなど口をポカンと開けてあたし達を凝視している。既に彼ら彼女らはあたし達の術中に嵌り始めている……多分。

 

 エアーセンターマイクを思い浮かべラスティーの隣に位置を移動する。

 

「というか、ハイパーってなんだよ」

「そりゃ、スーパーより凄いコーディネーターって意味です」

 

 酷く真面目な表情でラスティーが言った。それを見てラクスがクスリと笑う。

 

「いや、無駄にキリッとした顔されても意味が分からないから」

「え、分からないんですか? カガリさん、貴方中卒ですか?」

「ハイパーが分からないだけで中卒扱い!?」

 

 あたしのツッコミに丸眼鏡を掛けた少年が噴出した。

 

「だってそうでしょう、あのハイパーですよ、スーパーなんて目じゃないんですよ。 ぷっ、お可哀想なカガリさん、中卒カガリさん」

 

「おい、それだと世間の中卒の人を馬鹿にしているぞ、取り敢えず殴られろ。……そこまで言うなら、ハイパーコーディネーターのラスティーさん、コーディネーターは生まれながらに才能を持ち合わせているらしいじゃないですか、あなたどんな能力を秘めているんですか?」

 

 あたしがそう問いかけるとラスティーは不適に笑う。

 

「一時間でドミノを三万個並べられます!!」

 

 ドヤっと勝ち誇った表情で言えば、場にパラパラと笑いが広がる。渾身…だと思うボケを笑いに変えられてラスティーは全身から喜びを見せていた。

 

「え…それだけ?」

「まだまだ、ハイパーは凄いですから!!」

「後は?」

「熱々のおでんを一切リアクションせずに早食いできます」

「凄さの位が分からない!?」

「服の上から女性の下着の色を見分けられます」

「おまわりさーん、ここに犯罪者予備軍がいますよー!!」

「ちなみにそちらの赤髪のお嬢さんは意外と大胆な黒の――」

「ぎゃあああ、どうして分かるのよ、この変態コーディネーター!!!」

 

 この叫び声を上げたのは赤髪の少女だ。というか、ホントに当てやがったよ、この男、侮れないものがある。

 

「え、マジで当たっちゃったの!? 俺すごくねぇ!!」

 

 ラスティーが同意を求めるようキラに視線を向ければ顔を赤くして目をキョロキョロさせていた。想像したんだな、キラ、素直な反応ありがとう。

 

「はいはーい、この子、ミリアリアが付けてる今日の下着はなんですか?」

「ちょっ、トール!! なに聞いてんのよ!!」

「お任せあれ! 今日の俺はハイパー冴えているぜ……ふむふむ、これはまた、あなたにピッタリ、清純そうな水色ですかな?」

「ホントに当てよったぁぁぁ、すげぇぜ、ハイパーコーディネーター!!」

 

 何故、濃い茶髪の少年――トールは答えを知っているのか。

 

「いや、何で少年が答えを知ってるのかな?」

 

 ラスティーも疑問に思ったようだが、どうしてそんなにニヤニヤしながら聞くんだ。

 

「そりゃあ、恋人ですから、下着の――ぐはぁっ」

「それ以上言うとお別れしないと駄目ね、トール……今生から」

「ひぃぃぃぃ、ごめんなさい!!」

 

 薄い茶髪の少女――ミリアリアの迫力にトールが即座に土下座する。古今東西、究極の謝罪は土下座に限るようだ。父上もよく母上に土下座を行っていた。

 

 食堂は笑いの渦、頭を何度も打ち付ける謝罪、変態、変態と叫ぶ声などが木霊してより混乱し始めた。流石にこれ以上混乱したら何事かと艦のお偉いさんが駆け込んできそうなので締めに入る。

 

「それで最後に聞きたんだが、あたしを『中卒』扱いしたんだ。ハイパーコーディネーターのラスティーさんはさぞかし『高学歴』なんでしょうね?」

 

 落ちに向けてのキーワードを強調して告げればラスティーが頷いて汲み取ってくれた。

 

「永遠の中学二年生です」

 

 どうやらちゃんと把握してくれたようだ。やるじゃないか、ラスティー、あたしと世界が狙えるぞ……多分。

 

「結局、中二病かよ!! もういいよ!!」

「どうもありがとうございました!!」

 

 二人してお辞儀すると小さめな拍手喝采を頂いて即興漫才は終わりを告げた。その中で赤髪の子が呆れ顔ながらも拍手する姿を見てお笑いの凄さを再確認した。

 

「改めて、とある事情で保護されている綾波カガリだ、ここで言うならナチュラルだぞ」

「始めまして皆さん、カガリの護衛を任されているラスティー・マッケンジーです。先ほども言った通りコーディネーターですから」

 

 そう言ってアルカイックスマイルで赤髪の少女に対して自己紹介する。頬を引き攣らせた彼女は別の意味で恐怖に感じているようで、苦笑する丸眼鏡の少年の後ろに隠れた。

 

「えっと、自分はサイ・アーガイルと言います。そうですね、ナチュラルです」

 

 丸眼鏡の少年――サイの自己紹介に端を発して皆が自己紹介しながら自身の出生を明かしていく。

 

「お嬢さんはコーディネーターがお嫌いのようですね、理由をお聞きしても?」

 

 安心させるようなゆっくりとした口調で赤髪の少女――フレイにズバリ切り込んだのはラスティーだ。

 

「……だって、コーディネーターは私達に比べて力も能力も高いから怖いわ」

「なるほど、確かにお嬢さんと比べれば強いですね。ですが、俺より強い奴は沢山いますよ。それもナチュラルに」

「え!?」

 

 その発言にフレイを始め学生らやラクスまでもが驚きを見せる。ラスティーはこの子です、などと言ってあたしに視線を真っ直ぐ合わせた。

 

「女性なのに力が強すぎなんですよ、うちの雇い主は。いやはや、これがまた、護衛の意味が分からくなりそうなほどで」

 

 当然彼らの視線も私に注がれ、そんな近場に居た事に驚愕の表情を浮かべた面々に呆れれば良いのか、人を腕力馬鹿のような扱いにしたラスティーに憤ればいいのか。

 まぁ、当然憤るわけで、ラスティーに恥を搔かせる意味とその証拠を兼ねて予備動作も無く軽々とラスティーを姫抱きしてやった。

 

「!?」

 

 これにはあたし以外の全員が呆気に取られたようだ。その中でフレイがいち早く立ち直り怪しむように聞いてきた。

 

「あなた、本当にナチュラル?」

「ああ、そうだぞ。けど、力だけは強いみたいで、ここに居る連中なら一分も掛けないで倒せると思うが……やってやろうか?」

 

 ご期待に応えようか、そう言いながら酷く好戦的な笑みをわざとらしく浮かべてやればラクスとラスティー以外の学生組みは酷く怯えて首を横に勢いよく振る。

 完全に怯えられたがラスティーにとってこの状況が望ましいはずなので敢えて放置した。

 

「とまぁ、こんな感じでナチュラルにもお嬢さんが言う化け物染みた奴はいます。ですから、どうか偏見だけで相手を決め付けないでください。あなたの言うように戦争を求めるコーディネーターもいますが、逆に戦争を求めるナチュラルもいるのです」

「……でも、戦争を始めたのはそっちじゃない」

「ええ、そしてその切欠を作ったのは一部の連邦、この艦が所属する地球連邦です」

「…血のバレンタイン、か」

 

 サイがポツリと呟き、補足としてナチュラルのあたしが詳細を語ると彼らは皆沈痛な表情を浮かべた。

 

 私は彼らに私の想いを、この世界の現状を伝えるため、口を開いた。

 

「お前達はあたし達の拙い漫才に笑ってくれた、その事実は出生が違おうとも悲しい時には泣いて、嬉しい時は笑う同じ人間だと言う証拠じゃないか。このご時勢、地球侵略を企む異星人や妖魔軍団だっているんだ。よっぽど、そっちの方が怖いと思うぞ。あいつらにとって人類は等しく抹殺対象だ、ナチュラルもコーディネーターも関係ない」

「……随分と詳しいんですね、綾波さん」

 

 ミリアリアの言に皆同意するよう頷く。

 

「そこはコーディネーターを護衛にするような酔狂な奴だから、察してくれると助かります。これでもお忍びって奴なんでね」

「おい、ラスティー」

「はいはい、黙っていましょうね、カガリ。我が物顔で戦艦に乗っている時点で怪しさ満点なんですから多少は口止めしておかないと」

「口止めってあたしはそんな大層な者じゃないぞ?」

 

 少なくとも今の立場は綾波カガリなのだから。

 

 

「ねえ、何時まで抱えられているの?」

 

 小さく、それでいてはっきりとした意見に皆がその事実に今気づいたかのよう目を見開き、あたし達を――正確に言えばあたしの腕の中の人物を凝視する。

 

「護衛は護衛対象にお姫様だっこされるのが仕事なの?」

 

 発言した黒髪の少年――カズイの言は顔に似合わず辛辣だ。腕の中のラスティーが顔を赤くさせて放心している。偉そうに語っていた今の今まで姫抱きされていたことに気づいて耐えられなくなったのだろう。

 

 その場は漫才以上の笑いの渦に包まれ、騒ぎを聞きつけた副官のナタル・バジルール中尉に怒られてその場はお開きとなった。

 

 

 皆が持ち場に帰るそんな中、キラが彼ら同級生達と少し距離を置いていた事に対してあたしは疑問に思い、彼に問いかければあからさまに表情を歪めた。次いで無理やり笑顔を作って話をはぐらかすものだから、この場でこれ以上追及するのを止めておく。

 その後、キラとはタイミングが合わず話せないままだったが、もう一方のフレイとラクスの関係は改善されているようだ。ロンデニオンに付くまでフレイと度々自室から抜け出したラクスが拙いながらも穏やかに会話を交わすところを見かけ、あたしとラスティーその都度は静かに見守るよう心がけながら内心で安堵した。

 

 

 けれど時代は戦争の一途を辿っていて、それは人類同士だけとは限らないことを彼女らに刻みつけ。それでも辿る末路は等しく争いから出る悲劇となって誰にでも降り注ぐことを彼女らは身を持って知ることになる。

 




 束の間の平穏の中で小さな、それでも大きな絆が育まれた。そして一行は新たな戦火に向かう。

 次回 急襲、復活の赤いイカ(怒)


 次回も突き進め、カガリ。


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第三話

 始まります。


 

 ><><><><

 

 

 

 アークエンジェルが到着した時には既にロンデニオンが戦場と化していた。

 

 ロンデニオンまで追撃が無かったのは奇襲攻撃を仕掛けるためであった。しかし、ロンデニオンではジュドーのジャンク仲間が部隊を率いて応戦に当たっていた為、十分な時間稼ぎとなり奇襲に繋がることは無く、十分な警戒で持って戦場に臨むことが出来たようである。

 光学迷彩を搭載したブリッツガンダムに多少の苦戦を強いられたが多くのニュータイプを戦力に持つジャンク屋などが見事場所を言い当て撃破。途中、イサムとガルムが搭乗するバルキリーがエアロゲイターの偵察機を引き連れ空間転移してきたことで再び対異星人との戦闘に突入したが、二度目ともありアークエンジェルクルーは冷静に対処して見せた。

 中でもやはり機動力だけでなく出力の高い武器を内包するベルグバウは戦闘の要となって敵を撃破していく。時折撃ち漏らしもあるが、それをフォローするように小隊を組んだビルトファルケンとデスサイズがきっちり撃破していく姿は戦場に出る彼らにとって見慣れた光景だ。

 

 全ての偵察機を撃破すると連邦所属の戦艦が一隻、戦場を移動しながらアークエンジェルに向けて航行してきた。

 通信からフレイ・アルスター父親、連邦議員にしてコーディネーター排除を訴える組織ブルーコスモスの一員ジョージ・アルスターを乗せた護衛艦の役割を担っていることを告げられた。同時に娘とヘリオポリスからの救助者保護の任務も与えられているようで行動に移るも、時を同じくして先ほど退けたザフトの大艦隊が戦場に舞い戻り部隊を展開、30を超えるザフトのモビルスーツ及び五つの戦艦が一斉攻撃を開始する。

 

 雨のように降り注ぐビームライフルの光りと戦艦が放つメガ粒子砲、大艦隊の威圧感は日の浅いアークエンジェルクルーを恐怖に飲み込み、古株もまた二度に渡る戦闘で疲弊しきったことで防戦一方を強いられていく。そんな中、戦艦の位置上戦場の真ん中に鎮座する連邦の戦艦はザフトにとって態の良い的と成り果て撃沈は時間の問題だった。

 

 これにはブリッチで父親と通信を交わしていたフレイも恐怖を滲ませ、泣き叫びながら救助を艦長のマリュー・ラミアス大尉に懇願する。その時、ブリッチの扉が開き、監禁部屋からまたも抜け出してきたラクスが現われた。

 

「わたくしをお使い下さい、フレイ様」

「何を言って」

「わたくしはプラントの重要人物です。わたくしを盾にザフト軍を退けてください!」

「ラクス…あんた…」

「さあ、お早く!!」

 

 うろたえるフレイから視線を外して艦長のマリューに向けて言い放つ。

 

 誰もが言葉を止めてラクスを凝視する最中、いち早く我に返った副艦長のナタルが通信機器に向けて南極条約に基づき救助者としてラクス・クラインを保護している旨を伝えた。同時にこれ以上の攻撃を行えば相応の考えがあることも付け加える。国際チャンネルでの通信は瞬く間にザフト軍を駆け抜け、特に最後の脅しのような物言いが聞いたのか、これにより即座に戦闘は中止され、両者睨み合いという状態に陥った。

 

 連邦の戦艦も撃沈一歩手前で踏み止まり、ジョージも負傷は負ったものの命に関わるものでは無いらしく、ラクスの機転でフレイはザフト軍によって父親を失わずに済んだ。

 

 だが、一先ず安堵する彼らは気づいていなかった。この世界は人類同士だけの争いという単純な構造ではなく、そこには人智の超えたものが確かに存在することを。

 

 

 そしてそれを人々は今後アカシックレコードに導かれた亡霊と称する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時折閃光が迸る漆黒の宇宙にふわり浮かぶ異質な存在。

 

 人の姿をしていながら全身が透けた水色の髪の少女は戦場に立つ誰にも感知されることなく佇んでいる。

 彼女の表情に色は無く、精巧な人形の様に思えるが、その赤い瞳は爛々と輝きに満ちて真っ直ぐとある場所を見つめていた。

 

 戦艦アークエンジェルに設けられた一室。彼女の瞳はそこにいるはずの少女を確かに捉えていた。

 

 

 

 

 与えられた自室でラスティーと共に戦場の成り行きを見守っていたカガリは急に立ち上がると備え付けられた窓の方に駆け寄った。

 突然の行動にラスティーが声を掛けるもそれには答えず、漆黒の宇宙を見つめ然も誰かと会話するかのように喋り出した。

 

「レイ、レイなのか!?」

 

 人名と思われる言葉を吐き、カガリは酷く泣きそうな表情を浮かべていた。

 

「……無限力……アカシックレコード……まさか、そんな事も出来るのか、レイ」

 

 ラスティーには理解できない言葉が続く。

 

「そんな……会えないのか……アダム……活発に……自我の芽生え……奴らは偽りを許さない……鎖となるあたしを……黒き月を……消し去る為に」

 

 カガリは涙を流して何かに縋るよう窓枠に張り付いた。

 

「待ってくれ、行くな、レイ!! また、また再開の約束を!?」

 

 その問いに答えが返って来たのか、ラスティーには分からない。しかし、己を抱きしめて嗚咽を漏らすカガリの姿を見る限り、良い答えは帰ってこなかったようだ。

 

 普段活発な雇い主の憔悴しきった姿を見ているだけしか出来なかったラスティーは気を取り直し、取り敢えず先ほどの出来事は頭の隅に置いて慰めようと手を出したところで、その手は空振りに終わった。

 憔悴していたはずのカガリは険しい表情を浮かべ走り出していたのだ。

 

「おい!? この手の行方は!? と言うか、どこに!?」

「ブリッチだ!!」

 

 部屋を飛び出したカガリに驚きを見せていたラスティーも我に返り続く。

 

 廊下の壁に何度かぶち当たりながらブリッチに転がり込むよう飛び込んだカガリは後に続いてやって来たラスティーの文句も無視して艦長のマリューにこの宙域から即座に撤退するよう進言する。

 丁度攻撃が停止して今後の対応を考えていた時に現われた新たな登場人物、それもプリペンダーからの依頼で保護し、禄に人物説明もされていないカガリの言を素直に聞くはずもなく、逆に一般人の立ち入りに関して注意される始末、それでもカガリは声を大にして伝える。

 

「お願いだ、艦長。この宙域に敵が迫っている。ナチュラルもコーディネーターも関係ない。全ての部隊に通信して撤退を促してくれ」

 

「待ちなさい、カガリさん…でしたっけ、何故敵が来るのが分かったのかまずはそこを教えてちょうだい」

 

 どこかミサトに似た声で諭すように言われ、カガリは僅かに冷静さを戻した。

 

「こんな事を言えば、正気かと疑われるかもしれない。けど、あたしは確かに元相棒の声を聞いたんだ。通信とかじゃない、あれはきっとディラックの海を通して危険を伝えたんだと思う」

「突っ込みたいところは沢山あるけれど、まずその相棒という人は今何処に?」

「地球にいるが会える状況じゃない。けど、お願いだ、艦長、あたしの言葉が信用できないなら、せめて通信でヒイロたちと会話させてくれ!!」

 

 切羽詰ったどこか必死の懇願にマリューは溜息を吐くと通信を開くようナタルに伝える。艦長の無駄な優しさに眉を潜めたナタルがそれでも指示通り通信機に手を掛けたその時、艦に搭載された警報が鳴り響いた。

 このご時勢ワープ技術もあって、どの艦にも重力の変動を探知するシステムが搭載されている。その探知システムに異常が見られたのだ。

 

「重力波反応を感知、重力の波形から何者かがワープアウトしてくるもよう!」

 

 策敵担当のトノムラの報告を聞いた、カガリは絶望する。

 

「遅かった…か」

「おい、カガリ。何が来るんだ!?」

 

 ラスティーの問いにカガリは答える。

 

「敵が一体だった場合、今の状況じゃ到底手の打ちようのない敵だ」

「その数、1……そんな、ワープアウト場所、連邦戦艦前方!」

 

 トノムラの報告にフレイの表情が見る見る籠り始める。

 

 カガリは目を伏せて己の非力を嘆きながらも、願望を口にせずにいられなかった。

 

「せめてカヲルがいれば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 重力波から浮かび上がってきた巨体、バルマー戦役を戦い抜いたメンバーは驚愕し息を飲む光景であった。逆に今回初見の者達はイカのような形状の生き物に興味を抱き始める。

 

 紫に輝く二本の触手の様なものがウネウネと生き物のように動く。そのイカのような物体は二本の触手で目の前の得物を容易く刈り取る。

 あれにとって自分達以外の種は敵でしかなく、そこにナチュラルもコーディネーターも関係ない。

 呆気なく沈められた連邦の戦艦、フレイの父は人類の敵によって無慈悲に命を奪われたのだった。

 

 

 

 

 アークエンジェルのブッリチに響き渡る娘の悲鳴などお構いなしに巨体の中央に埋め込まれたコアが輝き、頭部にある仮面のような場所から光りの筋が放たれた。

 それは雨のように降り注ぎ、多くのザフト軍モビルスーツ――ジンを撃墜していく。即座に反撃を開始するザフト軍の攻撃は幾重にも重ねられたバリア――拒絶の壁によって意図も容易く阻まれる。如何に新型のモビルスーツであろうとその壁を突き抜けるほどの火力は持ち合わせておらず、それは一種の通過儀礼のようなものであった。

 再びコアから光りが放たれると30機もあったジンは二撃目の攻撃で壊滅、ザフト軍は撤退を余儀なくされた。

 

 

 

 ザフトが攻撃されている最中、ヒイロはアークエンジェルのブリッチに通信を行っていた。

 

「そうだ、あの敵は第四使徒シャムシエル、バルマー戦役で現われた人類の敵で連邦のデータバンクにも僅かに記載されているはずだ」

 

『ええ、こちらでも詳細をカガリさんから伺ったわ。率直な意見を聞くわよ、あれは倒せるかしら?』

 

「可能性はゼロに等しい。こちらは三度の戦闘を行い疲弊、使徒の持つATフィールドは並みの攻撃をもろともしない防御性能を持つ。何より高い再生能力は戦術核如きでは消滅させられないほどだ」

 

『そう、では撤退を…』

 

「待て、その場にカガリがいるのなら変わってもらえるか?」

 

『貴方がそう言うのなら構わないわ、但し、私達も拝聴するわよ』

 

 少しの沈黙の後、通信からカガリの弱弱しい声が響く。

 

『変わったぞ』

 

「カガリ、質問がある。あれは本当にシャムシエルなのか?」

 

『質問の意図が分からない。姿を見る限りはそうだとしか言えないが』

 

「バルマー戦役時代、俺はシンジと共にあれと対峙した経験がある。あれは触手だけの攻撃とあの当時のウイングで破れるほどのATフィールドだったが、その時と比べると強化されているように見える」

 

『直接戦ったお前が言うならそうなんだろう……なら、レイの忠告はこのためでもあったのかよ、くそっ』

 

 カガリは自室での出来事をヒイロに語って見せた。

 

「つまり、あれは復活強化された使徒と言う訳か?」

 

『ああ、レイ曰く、アカシックレコードに触れたことで既に失われたはずの亡霊が終焉に導かれて復活を果たしたものらしい』

 

「目的はやはり人類の殲滅か?」

 

『そうだ、そして……』

 

「どうした、カガリ?」

 

『……白き月の祖と共にあるあたしを彼らは許さない。あれが現われたのはあたしを標的にしているから――』

『っ、止めなさい、フレイさん!!』

『あんたが、あんたのせいでパパが死んだ!! あんたがこの船にいるから!!』

 

「おい、ブリッチ、どうした!?」

 

 通信が一方的に切られた直後、壊滅に追い込まれたザフト軍が撤退していく。

 

 使徒はザフト軍を捨て置いてゆっくりとした仕草でアークエンジェルの方向に舵を取り始めた。

 状況は限りなく不味い、しかし、ヒイロは残り少ない動力でゼロカスタムを飛ばしながらも絶望感は抱いていなかった。むしろ強制的に通信が切られた事に対して心配する余裕もある。この通信を聞いていた古参の連中は皆同じ心情だろうと予測を付ければ、デスサイズやサンドロックなどの古参がアークエンジェルに近づけさせまいと攻撃を開始、ATフィールドに阻まれながらも着実に速度を減速させていた。

 

「そうだ、レイがこの事を知らせたのなら必ず、活路を用意しているはずだ」

 

 ヒイロの言葉にディォの同意が篭った通信が聞こえる。

 

『まったくだ、カガリの奴、相棒のくせしてあいつの用意周到さを忘れてやがるぜ』

『多分、カガリさんは自分を責めているのでしょう。自分の存在がこの悲劇を呼び込んだと思っている』

 

 カトルのフォローが入れば、通信から明るい女の子の声でプルプルプルという何とも気の抜けた掛け声が聞こえた。

 

『カガリお姉ちゃん、元気なかったよ。この戦いが終わったら元気付けなきゃ』

 

 バルマー戦役時代、小さな子供に人気だったカガリの例に漏れずプルも彼女が大好きだった。そんなカガリの為、起動ギリギリの状態で対峙しようとしていたプルに対して待ったを掛けたのがジャンク屋の中心的人物ジュドーである。

 

『こら、プル! お前は俺達より消耗が激しいんだから下がってなさい!!』

『ジュドーの馬鹿!! あたしまだやれるもん』

『駄目だ!! プルが無理したらカガリさんが悲しむぞ!!』

『うぅぅぅぅ、分かったよ、その代わり絶対近づけさせないでよね!!』

 

 そうまで言われてしまえば心優しいプルは我侭を通せない。紫のキュベレイMkⅡが使徒から離れていく。これで最初からフルで戦っていたジャンク屋のメンバー全員がアークエンジェルの近くに待機することになった。

 

『ホント、あいつらも逞しくなったな』

 

 騒がしい通信を終えて、デュオが呟けば同意の通信が各機から入ってくる。その中でこの場にはいない、しかし、古参の待ち望んだ通信が飛び込んできた。

 

『その通りだわ、子供の成長は早いと言うけれど……うちのトップはそれの範疇に入らないようね』

 

 通信直後、一条の巨大な光りの筋がシャムシエルに向けて放たれ、三枚程のATフィールドを突き破る。

 

 

 攻撃を放った空母艦Lilinが不在の主を迎えるため戦場宙域に現れた。

 






 次回 お怒りフレイさんと始めての共同作業



 次回も行け、カガリ。


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第四話

 始まります。


 

 

 マリューの静止も聞かず怒りに身を任せたフレイが手を振りかぶる。パチンッという威勢のよい音がブリッチに響き渡った。

 護衛と言う役割を忘れていなかったラスティーが対応しようとするもそれを手で制してカガリは素直に頬を叩かれることを望んだのだ。

 

「返してよ!! 私のパパを返してよ!!」

「……」

「あんたが!! あんたが!!」

 

 言われるがままカガリはその攻めを受け、謝罪や反論、何より釈明の一切を口にする事はない。ただ、粛々と罵声や暴力を受け入れる。

 

「パパを……パパを……うあぁぁぁぁ!!」

 

 何度目かの平手打ちの後、フレイは崩れ落ちるよう地面に膝を付き慟哭した。その姿を見つめるカガリは苦悶に満ちている。

 

 その時、管制から未登録の通信が入った事を告げられ、マリューはラクスにフレイを伴って外に出るよう頼み、通信を開かせた。

 

 モニターに映し出されたのは金髪の女性――赤木リツコである。先ほどからレーダーに映り始めた大型艦からの通信にマリューは居住まいを正して対応にあたる。

 

『こちらは私設艦隊組織通称エバーズの赤木リツコです』

 

「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです」

 

『この度は我が組織エバーズの代表である綾波カガリを保護してくださり感謝いたします』

 

「礼には及びませんわ、人道的な処置の一環ですから。ですが、貴公の組織を我々は認識していません、不勉強で申し訳無く思いますが、何処の組織に属しているのかお教え願えないでしょうか?」

 

『申し訳ないのですが、事態は急を要するようでその話は後ほどに願います。今はあの敵を倒さなければなりません。我々の代表がそちらにいるのであれば通信に出して頂けないでしょうか?』

 

「そのようですね、分かりました……カガリさん、どうぞ」

 

 フレイがブリッチからいなくなりようやく苦悶の表情を浮かべたカガリにそう言えば僅かに頷きを見せてモニターの前に立つ。

 

「……ああ、すまない。私だ」

 

『随分と意気消沈しているようね。でも、今は再開を喜んでいる状況ではないわ。そんな状態でいけるのかしら?』

 

「大丈夫だ。“あいつら”は乗っていないんだろう?」

 

『ええ、何分急だったものだから迎えにも行けなかったわ。これでも超特急いで来た方よ? ホント、貴方の相棒はこちらの予測を上回る難題をつきつけてくれたわね』

 

「後で小言はいくらでも受け付けるよ」

 

『そうね、勝手に飛んで行ってしまった分も含めて覚悟しておきなさい』

 

「うっ……お手柔らかに頼む」

 

 目を吊り上げて睨みつけられ僅かに苦笑を作ったカガリが懇願すればリツコが深いため息を吐き出して優しく目を細めた。

 

『仕方が無いわね。貴方らしくなってきたから好としましょう。いいこと、不甲斐ない戦いなんてしていたら、それこそ許さないわよ。貴方はあなたらしくありなさい』

 

「……あたしらしく」

 

『この際、多少の無茶にも目を瞑ります。何があろうともあれに勝ちなさい』

 

「…無茶を…………そうか、ありがとう」

 

 苦笑から一転、不敵な笑みを浮かべたカガリがブリッチを後にするとリツコはアークエンジェルのハッチを開くよう要請する。それに怪訝な表情を浮かべるマリューに補足として敵に対応しうる戦力を遣すと言ってきた。そしてそれを扱えるのがカガリだけだと言う事も付け加える。副艦長のナタルなどが危険を示唆する中、マリューはハッチを開くよう決断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦内部の食堂でラクスによって連れてこられ必死に慰められているフレイ、そんな中、閉められたドアが開き厳しい表情を浮かべたカガリが駆けつけると強引にフレイを立たせ引きずるように歩き出す。最初は呆気にとられていたフレイも条件反射から後に続くラクスも我に返って抵抗を示し始めた。けれど、そこはカガリの馬鹿力、芋ずる式に二人を連れて豪快に格納庫ハッチに向かう。

 

「ちょっと!! 何処に連れて行くつもり!!」

「そうですわ、綾波様。彼女は今傷心です、もう少しデリケートな対応を…」

 

 そんな彼女らの言などお構いなしに歩き続け、やがて格納庫に続く扉の前まで辿り着くと立ち止まった。

 

「今回の事に対して言い訳をするつもりはない」

 

 振り返り、どこか鬼気迫るような雰囲気を纏い真剣な表情で述べたカガリに二人は呑まれ言葉が出ない。

 

「それでも実際直接お前の父親を死なせた敵は未だに生存していてこのあたしを執拗に狙っている。外にいるキラ達も疲弊していて壊滅は時間の問題だろう」

 

 不意に身に詰まる雰囲気が和らいだかと思えば逆にカガリの表情は獲物を刈り取ろうと心待ちにする獣のように瞳を爛々と輝かせている。

 

「お前にとって恨みを持つ存在は二つ、そのうちの一つを倒せる術がたった今、来た。ここはあたしに対する恨みを一時的に忘れ、もう一つの遺恨を叩きたいとは思わないか?」

 

 答えを望まれていることは理解できる、だが、問われた内容をフレイは理解できなかった。

 

「え……何を……言っているの…」

「端的に言えばお前の手で敵を討たないかと言っている」

「……でき、るの?」

「フレイが望むなら」

「……やる」

 

 小さくその言葉を告げた直後、フレイの体が大きく反転、カガリによって横抱きにされながらも自分が口にしてしまった言葉の重要性を理解できていなかった。代わってようやくその意味に気づいたラクスが顔を真っ青にして止めに入ろうとするが、三人を追いかけてきたラスティーによって制されてしまう。

 既に彼女の存在はザフトに公表されているのだ、このまま危険に晒せば終極は更に泥沼化してしまうだろう。元ザフト軍だからこそ、それを見逃すことなど出来ない、そして同時に主の意を汲むのも部下となった自分の役目だとも思っている。

 

 格納庫の扉によって二人の姿がなくなると制していた手を離して深々と謝罪するラスティーにラクスは力なく首を横に振った。

 

「元々わたくしに止める資格などないのです。元を正せばナチュラルコーディネータの遺恨がこの悲劇を起こしたようなもの。コーディネーターのわたくしが傍にいてもフレイ様には何の慰めにもならなかったでしょう」

「そのようなことはありません。自分はここ数日の貴方とあの少女の会話風景を眺めて自分の選択が間違っていなかった事を再確認しました」

 

 その言葉にラクスは確信する。

 

「やはり貴方は元ザフト軍なのですね。確かアスランの同期だったように記憶しています」

「ええ、その通りです。今頃は本国に死亡通知が送られている頃でしょうが」

「貴方は新たな選択をなしたのですね。少し羨ましく思います」

「死亡扱いされたまま放置する親不孝もので、裏切りの同族ですが、ね」

「それでもザフトとして…いえ、コーディネーターとして全てのナチュラルと戦う事に疑問を持ったからこそでしょう。ならばどうか最後まで貫き通して下さい。もしかしたらそれこそがこの戦いの良き未来に繋がるのかもしれません」

 

 そう言って彼女は自分がいるべき自室に向けて歩き出した。ラクスもまた己の立場を思い出してこれから先の行く末を案じながら前を向く。その後ろ姿を黙って見送るラスティーは次いで自分の主の安否を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 普段、忙しなく整備班が動き回るアークエンジェル格納庫ではLilinから運び込まれた在る機体というものに興味津々と言った状態で興奮気味に眺めていた。その中で整備班長のマードックが赤髪の少女を横抱きにしてやって来たカガリを認識して声を掛ける。

 

「おい、お嬢ちゃん。この機体と言っていいのか、とにかくこれのパイロットはあんたで良いのか?」

 

 それにカガリが頷きを見せるとそれを示すかのよう機体が勝手に動き出してカガリの前まで来る。そして肩膝を付いてシルバーの装甲に覆われた手をカガリ達の前に差し出した。

 

 勝手に動き出した事、そのどこかメカとは違う動きに整備班はその驚きで静まり返る。先の戦いで乗り手のクォヴレーの元に転移するという不可思議な現象を起こしたベルグバウを調べていた班長のマードックでさえこのような現象を目の前にして声が出せない。フレイに至ってはその巨体に恐怖してようやく自分の発言の不味さに気づき現実逃避気味に抱き寄せるカガリに縋りつく始末だ。

 

そんなフレイにカガリは優しく安心するよう、大丈夫だと告げて手のひらに飛び乗った。

 慎重な仕草で手のひらが動き出して首筋まで導くとこれまた筒状の物体が勝手に飛び出した。筒状の物体――エントリープラグの入り口が開かれ、フレイを伴い飛び込むとそれは閉まり機体に収納される。

 

 そしてその機体――エヴァ4号機は主の帰還に喜びを表すように気高き咆哮を上げるとアークエンジェルのカタパルトデッキから飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘に関して日が浅い事と未知なる敵に対する心構えが見積もれないという理由で戦艦と使徒の間に待機していたキラは自分と殆ど代わらない歳で果敢に挑む古巣の彼らをモニター越しから見つめて歯噛みしていた。

 

 キラは仄かに好意を抱いていた少女、フレイの父親を助けられなかったことに悔しさを滲ませながらも、ザフト軍のモビルスーツをものの数分で壊滅させた力、どんな攻撃でも傷一つ付けられない脅威のバリア、その全てを体感したキラは今までにない畏怖を抱いた。そんなキラが禄な対応など出来るはずもなく、それをすぐに看破したフラガ大尉にこの場所で待機するよう言われてようやく、恐怖を緩和させられたのだ。

 

「僕は……何も出来なかった……やっぱり、僕なんて」

 

 独白のように呟いたその時、後方より聞こえてきた獣のような咆哮に気を取られ、使徒の異変に気づかなかった。

 

『坊主!! あの化け物の攻撃が来るぞ!!』

 

 通信から聞こえる切羽詰ったフラガ大尉の切羽詰まった声に慌ててモニターを確認した頃には既に雨のような光りの筋が自ら目掛けて降り注ごうとしていた。

最初から確認していれば、包囲される前に回避可能だったかもしれない。しかし、それはコンマ数秒の分岐―――この時、キラは確かに己の死を確実に認識する。頭に浮かんだのはあの力が物理的なものならばストライクの特殊装甲も役に立つと言う無意味な願望だった。そしてそんな愚かな考えしか浮かばない自分に嫌気が差して自嘲の笑みを浮かべた。

 

 刹那、

 

『間に合えぇぇぇ!!』

 

 普段聞きなれた、けれど聞いた事のない焦りを滲ませた少女の声がストライクのコックピットに木霊すれば次いで壁に阻まれる雨粒のような音が響き渡った。

 

「え、あの化け物と同じ赤い壁」

 

 モニターにはシルバーの巨人とその巨人から発生していると思われる何層にも渡った赤い壁のようなバリアによって降り注ぐ光線を防ぐ光景が映し出されていた。それを行っているのがこの場所に自分を導いたと言っても過言ではない少女によるものだと言う事も恐怖で鈍くなった頭が認識する。その頃には使徒の攻撃が完全に防がれていた。

 

 通信からお帰りや、待っていたという、緊迫したこの場に不釣り合いな温かみのある声がカガリと言う少女に降り注がれているのを聞きながら、逆にキラは凍える様な想いで震え出す体を抑えていた。

 

――別に彼女を一般人だという枠組みで認識していたつもりはない。

 

 どちらかと言えばザフト軍の彼と対等に渡り合える戦闘能力を持ち、自分と歳が近いのにも関わらず世間の事情に詳しく、護衛を雇える立場やガンダム乗りの彼らと親しげに会話していたことから特殊な環境に身を置く少女だと思っていた。次に本来なら守られるべき立場なのだと認識する。身体能力が高くとも戦闘が行われれば自室に引きこもる事からも相まってキラは完全にそう断定したのだ。

 

 同時に守られるべき存在、無意識にそう位置づけて自分が守られねばと言うある意味優越感に浸っていたと言っても良い。

 

 自分と同い年の少年少女、果ては自分より幼い子たちが確たる意志を持ち戦っている姿を見つめ続けたキラの中に生まれた劣等感がそうさせていた。

 

 彼らは戦えるが、自分をこの場所に導いた彼女だけはその力が無くて僕が守らなければならない、そう思い込むことで戦い続けていた。そう思わなければキラはもう戦えなかったのだ。度重なる戦闘で自分が出来た事は幼馴染の有無と僅かな戦闘と支援のみ、古参と呼ばれる彼らが何時も戦陣を切って戦っている姿を見るたび心が軋んでいく。

 

――自分は本当に必要とされているのだろうか。

 

 ムウ・ラ・フラガは言った、キラという戦力を頼りにしていると。しかし、実情は古参の彼らを頼りにするムウの姿を幾度も垣間見ることになり、実際それは正しい選択だろうが、それでもキラは腑に落ちない。

 

――戦うよう望んだのは彼なのに、恐怖に負けまいと今まで歯を食いしばって戦っていたのに。

 

 それがキラの負担を軽減させる優しさであったとしてもそれを知らないキラには見捨てられたという心情を抱かせるには十分な理由だ。

 

 そんなキラが次に心の拠り所にしたのが、同級生でも無く、好意を抱くフレイでも無く、何故かカガリだった。必要とされていない自分が肉体的に強い彼女を守れる、そう思うことで戦う自分の存在理由を勝手に作り出して心の均衡を保つ事にしたのだ。カガリが時折、戦闘に出る自分達を見て不甲斐ない想いをそのまま表情に浮かべていた姿を何度か見掛けたことも、もしかしたら理由の一つだったかもしれない。

 

 これがもし同級生達と同じくキラが最初から保護対象扱いならばこんな想いは抱く事なかっただろう。キラは同級生と笑顔で会話しながらも内心でこんな想いを抱く必要の無い彼らを妬ましく思い始めていた。そしてそんな思い抱いてしまう罪悪感から同級生やフレイを心の拠り所に出来なかったのだ。

 

 純粋な気持ちとは違う、何処か歪な依存に近いことをキラ自身気づいていたが、自分に自信が持てるまでと先送りしていた結果、彼女もまた戦う術を持ち、挙句守られると言う情けない今の状態を作り出したことになる。笑みに隠して第三者に心情を吐き出さなかったことも含めて自業自得としか言いようが無い。

 

「結局、誰も僕を必要としていないんだ」

 

 無意識ながらここに来てようやくドロドロになって淀んだ心情を吐き出せばそれを聞いていたのか、カガリが通信越しで問いかけてきた。

 

『あいつらが何時お前を必要としていないと言った』

 

「あ…聞かれて…」

 

『逆に聞くが、お前はあいつらを必要として見ていたか?』

 

「それは…」

 

 自分の事で精一杯だったキラに周りの事を気にする余裕は当然無いにも等しい。

 

『あいつらは一般人のお前に戦わせるという選択を敷いたことの負い目を感じている。だからあいつらの出来る精一杯でお前の想いを汲み取ろうとしていた。戦闘中お前は気づかなかったか?』

 

「何を…」

 

『ザフト軍の中で赤いモビルスーツが出るとお前があからさまにうろたえる事を。そんなお前をさり気無く彼らがフォローしていた事をお前は気づいていたか?』

 

 言われて、キラは改めて今までの戦闘を振り返る。

 

 幼馴染――アスランと戦場での再開で心痛めながらもどうにかして会話を試みようとしていた気がする。そんな時は何故か彼らのうちの誰かが共に付いて来ていた。キラはそれを不甲斐ない自分のお守りをしているのだと思い込んでいた。けれど、カガリの言っている事が正しければ彼らがキラの思い通りにしてくれていた事になる。

 

『戦闘が終わった後、内心で落ち込んでいるお前をあいつらがさり気無く励ましたり、話しかけたりしていなかったか改めて思い出してみろ』

 

 カガリの観点から思い出せば笑顔で隠していたはずなのに彼らは明るく話しかけてきたりしてくれた。それを役に立たない自分に対する嫌味だと思っていたキラはそれを笑顔で受け流す事で一人殻に篭っていたのだ。その行為は誰が見ても…。

 

「僕こそが彼らの想いを切り捨てていたのか」

 

 次々と沸き起こる記憶のどれもが彼らの優しさから来るものだと気づけば己の言動の何と恥ずべき事か。

 そもそも、自分から離れていったにも関わらず一つの観点からでしか物事を捉えないで、結果見捨てられたと思い込むなど気に掛けてくれた彼らとって恩を仇で返すようなものだ。

 

 つまりは、

 

「彼らを表面上でしか見ていなかった僕こそ最低だったわけか………そうだ、彼らだって必死に戦っていたじゃないか、それを態度に出さないからと言って当たり前に思い込んで悔しがるなんて僕は何て愚かなんだ……」

 

 誰が好き好んで戦争をしたがると言うのだ。少なくともキラに優しくしてくれた彼らはそんな事を思うわけが無い。戦争で悲しい想いをする人を少なくする為に歯を食いしばって戦っている。僕が彼らの強さに劣等感を抱いて歯を食いしばるとは訳が違う。

 

『ホント、お前は初期シンジのようにネガティブ思考だよ…………なあ、キラ、考えても見ろよ、お前は今まで一般人として普通の生活を行っていたのにも関わらず、一度でその機体をモノにして生き残ってきた』

 

「え…」

 

『それが如何に凄いかお前は理解していない。あいつらと比べても謙遜しないぐらい誇れることだとあたしは思う。だから敢えて言おう、キラ、お前は凄い奴だよ』

 

「僕が…凄い?」

 

『そうだ、そして心根が優しいやつだ。お前が抱くそのドロドロとした想いも突き詰めていけばあいつらと並んで戦いたい、あいつらの負担を和らげたいという優しさから来るものだとあたしは思うぞ』

 

 その暖かい言葉に感極まったキラの瞳から一滴が流れ落ちる。誰かに認められることがこんなにも心を軽くするものだとは思わなかった。カガリの言葉だからこそ、自分を導いた人だからこそ、こんなに嬉しいと感じる。まるで親に認められた子供のような心情を抱いくキラは泣きながら笑う。何時の間にか心の底から出る笑顔を浮かべていた。

 

「ありがとうございます」

 

 素直な気持ちから紡がれた感謝の言葉は、しかし、カガリとは違う酷く不機嫌な声によって返される。

 

『ちょっと、そんな事はどうでもいいから早くここから出しなさいよ!!』

 

――え、僕の心情がどうでもいいって酷くない!? と言うか、この声は僕のよく知る彼女の声なんだけど!! いや、決してストーカー宜しく声を聞いていたわけじゃないからね、あくまで友達として聞き慣れたって意味で、まあ、フレイの声だけが何故か澄んで聞こえる時があるけれど、罵声で何だか、興奮する時もあるけど…待て待て、僕の隠された性癖的なんて今は関係ないじゃないか。どうして戦場でフレイの声が聞こえるのかが問題だ!!

 

 混乱思考の中、何を言いたいのかというと。

 

「どうしてそこにフレイがいるんだ!!」

 

『やべぇ! ばれちまった、テヘぺろ!! 悪いな、キラ、こっちはまた別件だ。あばよ!!』

『馬鹿力女!! 混乱している時に頷かせるなんて詐欺よぉぉ!!』

 

「な、フレイは本当に素人なんですよ、何連れて来てんですか!!」

 

 シルバーの巨人がキラの制止も振り切り、宇宙を駆け抜けるように走り出す。物理的に有り得ないが走るようにして移動している様をコックピットから見つめていたキラが慌てて追いかける。

 

 その様は使徒に対して恐怖していたことなど忘れたかのような勢いだった。

 

 

 

 

 

 

 モビルスーツなどの機体とは違う独特のコックピット――通称エントリープラグの中で危うく溺れそうになったフレイは未知の恐怖よりも先に怒りを露にして先ほどからカガリを詰っていた。それでも独特の創りの座席に対して安定しないからという言い訳を浮かべながら、ちゃっかり腰に手を回しているのはご愛嬌だ。それをカガリは理解しているので詰られても笑みを浮かべている。

 

「どうやらキラの奴、怒りで恐怖を克服したようだな」

「ねえ、ちょっと聞いているの!?」

「こんな近距離なんだ、聞こえているに決まっているだろう」

「だったら、早く戻りなさいよ!」

 

 そう言われても今更無理な話である。敵を引き付けてくれているヒイロ達の負担を考えるとこれ以上時間を掛けるのは好ましくない。それは結局、自軍の壊滅に繋がりかねないのだ。その事を告げれば、流石にフレイも理解したのか黙り込む。

 

 だが、今度は腰に回された腕や背中に付く上半身が震え始めたようでカガリは静かに問いかける。

 

「怖いか?」

「と、当然でしょう。私はまだ死にたくないもの!」

「そうか、なら安心だな。あたしはてっきり父親が死んで自暴自棄にでもなっているのかと思ったぞ」

 

 提案した件を素直に了承した彼女にカガリは提案した本人でありながら内心で驚きを見せていた。そしてある予想が浮かんだのだ。

 

 フレイは死にたがっているのか、と。

 

 しかし、彼女の口から死にたくないと告げられ、本当に混乱中の頷きだったようでカガリは安心した。

 

「だからと言って、今更引き帰せないがな!」

「あ、あんた、帰ったら覚えてなさいよ!!」

「もちろんだ、恋人以外で4号機に乗ったのはお前が初めてだからな!!」

「あんたなんかに恋人がいるなんて生意気よ!!」

 

 そう悪態を吐けるぐらいには恐怖していないらしい。流石に目の前のモニターに映し出されたシャムシエルを捉えた時は思わず悲鳴を上げたが、そこはご愛嬌だろう。

 

「安心しろ、この4号機に乗っている限りお前を死なせない。だから直接フレイの父親を死なせた使徒の断末魔を聞いてやれ!!」

 

 カガリは操縦桿を握る手を強めた。それに呼応するかのように4号機の動きも滑らかになる。本来なら異物となるはずのフレイが乗っていても4号機にブレはない。これが初号機や二号機なら別である。全てはコアに存在する恋人が規格外だからだ。

 

 エヴァ4号機の出現にシャムシエルの動きが活発になった。標的を4号機に定め、二本の触手を器用に動かしてなぎ払う。その様がまるで求めていた存在を見つけ出して喜んでいるようにも見えるし、憤怒を迸らせているようにも見えるのはカガリの気のせいとは思えない。現にヒイロやデュオたちには目もくれていないようで、フレイも怯えながらその事を指摘してくる。

 

「あれ、あからさまにあんたを狙ってるじゃない」

「ほんとだな、あたしを殺してまでアダムを取り戻したいわけだ」

 

 なぎ払われた触手を掴み上げ、全身を使って回転させれば遠心力でシャムシエルが吹き飛ばされる。使徒から引き離された事で余裕が出来たのか、フレイが問いかける。

 

「アダムって何よ?」

 

 それに対してカガリは簡潔に恋人だと告げた。

 

「つまりなに、あの化け物はあんたの恋人を手に入れるためにやって来てパパを殺したって言うの!?」

 

 端的には言えばそうなるので頷けば、腰に回された腕の力が強まった。フレイの体が再び震え始めたのだが、背後の雰囲気はどう考えても恐怖に怯えているようには見えない。むしろ背中が嫌な意味で熱い。

 

「痴情の縺れでパパが死んだなんてふざけんじゃないわよ!! それもお互い好き合っている者同士なのに付回すなんてストーカーじゃない!!」

 

 憤慨するフレイに振り向いたカガリは一応、いや、別に痴情ってわけじゃ…。などと告げて見るものの完全に血を上らせて目を据わらせるフレイには聞こえるわけもなく。

 

「殺りさない、カガリ。愛する恋人を守りたければ時に残酷な手段を取らなければならないと死んだママは言っていたわ。幼すぎた過去の私は理解できなかったけれど、ママに愛されたパパはとても幸せだった。そんなママが死んだとき、それはもう悲しそうだったわ。そうよ、確かに私はパパが死んで悲しい。けれど、これでパパはようやくママと再会できるのよ。なら、娘の私が出来る事はそんな二人の手向けとしてあのふざけた化け物ストーカーを地獄に落してやる事だわ!!」

 

 言っているうちにボルテージが上がったのか、首筋に粗ぶる鼻息が当たって気持ち悪いとは言わないでおくのが、同じ女としての情けである。

 それに折角恐怖から怒りにシフトチェンジしてくれたのだ、このままにしておく事に越した事はない。心なしかコアにいる恋人も同意するような思考をカガリに送ってきていた。

 

 そのせいで4号機の動きは更に飛躍し始めた。ムチの様に撓らせて高速で振りかぶられた触手を何の躊躇もなく掴むと簡単に引き千切れたのだ。

 

 後方では率先してキラのストライクが援護のビームライフルを撃ち込んでいた。ATフィールドに阻まれるはずのそれも4号機の中和でシャムシエルの肉体に被弾する。そこに恐怖は微塵も感じなかった。通信からはキラの変わりように驚くムウの声とその原因をいち早くカガリと断定させた古参のメンバーが口々に原因を求めてくる。事実かもしれないが、古参の対応にどこか腑に落ちないカガリであった。

 

 

 彼らはそれでも援護と言う名の追撃を止めずジャムシエルは既に再生を超えるダメージを負い始めていた。

 

「そろそろ終わりにするぞ」

 

4号機は足の武器ラックから高性能プログレシッブナイフを取り出して構えると剥き出しのコアに向けて突き上げた。

 ところが接触する直前コアを覆うかのように肉体が盛り上がり、内部に取り込まれてしまう。

 

「嘘だろ、こんな知識も蓄えているのかよ!!」

 

 確実に知能を高めたシャムシエルの行動にカガリが驚愕、その時、通信からキラの声が響き渡る

『援護します!』

 

 ストライクはビームライフルを撃ちながらブースターを吹かせるとシャムシエルに肉薄、ビームサーベルを抜いて的確な動作でコア部分の肉を削ぎ落としていく。それでも再生能力により中々コアまで辿りつかない。

 

『任せろ、次は俺が行く』

 

 次に通信から聞こえてきたのはベルグバウに乗ったクォヴレーだった。背中に装着された蝙蝠型の無線誘導兵器が四機放たれて無尽蔵に、しかし、的確にコアの位置だけを狙って銃弾が撃ち込まれていく。更にその合間を縫うようにしてキラが駄目押しのビームライフルを打ち込めば数秒もしないうちにシャムシエルの胴体が抉れてコアが剥き出しになった。

 

「やってくれたな、キラ、クォヴレー」

 

『必ず、フレイを無傷で返してくださいよ!』

 

『はぐらかされたがディオに少々問いただした……親身な対応に感謝する』

 

「ああ、後は任せろ!!」

 

 今度こそ、と4号機の持つプログレッシブナイフは再生し始めた剥き出しのコアに突き刺さった。

「フレイ、操縦桿を握れ、このまま消滅させるぞ!」

「任せなさい、ストーカーは断罪よ!!」

 

 カガリの手の上にフレイの手が重なると4号機のコアが呼応、この僅かな間だけフレイの精神が接続され、二人の力が加わる。それはコアを破壊するだけの威力であった。

 

 パキリという音を最後に第四使徒シャムシエルはその肉体を融解させて十字の爆煙を上げて消滅した。

 爆煙に巻き込まれた瞬間、4号機のコア部分が赤く輝きを示すとエントリープラグの中にいたフレイは着衣していた服を残し、突如として消えた。

 その様を最初から見ていたカガリは、けれど焦る事もなく体を後ろに預けて戦闘終了の余韻に浸る。

 

「あたしの望み通り槍はフレイに父親と会わせてくれるのか」

 

 背後に恋人の体温を感じてそう言えば肯定の声が返ってきた。

 

「無関係な僕がいては無粋だと思ってこちらに避難させてもらったよ。今頃、4号機コア内部で再開を果たしているんじゃないかな」

「なら、時間を掛けて戻らないとフレイに怒られるな」

「そうだね、なら、戦艦に帰るまで恋人の時間を取らせてもらおう」

 

 そう言って銀髪の少年――渚カヲルは全ての通信を遮断してカガリを抱き込むとフレイが戻ってくるまで宇宙空間を眺めながら恋人同士の時間を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ><><><><><><><><><><

 

 

 

 

 

 

 

 優しく包み込まれた腕が放され、時間切れと告げてきたカヲルがコアの中に還って行けばエントリープラグに涙を止め処なく流すフレイが現われあたしに抱きついてきた。

 

「ありがとう、カガリ」

 

 一言、礼が述べた直後今度はあたしの頬を摘み上げる。

 

「これでチャラにしてあげるわ。パパもママも許してあげてほしいって言われたし、二人とも幸せそうだったから」

 

 そう述べたフレイはどこか憑き物が落ちたかのように穏やかな表情であたしを許してくれた。

 





 次回 合流。


 次回も突き進め、カガリ。


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第五話

 始まります。


 本来ならば自分の母艦に帰るところだがリツコの指示によりアークエンジェルに収納された4号機の中からフレイと共に降り立てば学生組み及び、マリュー艦長やムウ大尉、ナタル少尉などが出迎えてくれた。

 学生組みの一人、サイはフレイを危険な目に合わせた張本人のあたしに酷くご立腹のようだったが、フレイの庇う発言でどうにか落ち着いてくれたようだ。眼鏡の奥の瞳から、俺の婚約者に何してくれてんだという無言の訴えは絶えず来ていたが。

 

 その視線に耐えて沈黙を貫いていれば空母艦Lilinから艦長の赤木リツコと何故かカヲルがやって来て――誰にも見られないよう4号機から降りてきてちゃっかりリツコの隣に現われたのだろう。黙っているあたしを見て二人とも怪訝な表情を浮かべた。

 

「何を黙っているよ、気持ち悪いわね」

 

 酷い言われようだが、苦笑で返せば初見の者達は驚きを見せていた。組織のトップとその部下のやり取りとは思えなかったのだろう。もっともこれこそが普段あたしとリツコのやり取りなのでカヲルは何も言わないで淡い笑みを浮かべるだけだ。

 

「うわ、凄いイケメンねぇ」

 

 その笑みに思わず口に出したミリアリアの言葉は隣の恋人さんを不快にさせたようだ。それもそのはず、カヲルは二年前の中性的な姿に比べ、身長も伸び、顔もシャープになったようで、俗に言うイケメンのようになったらしい。

 元々の素体をあたしに合わせて成長させるという器用な事をカヲルはやってのけたのだが、あたしには細かな違いを理解できないようで、その事を本人に告げたら泣かれてしまった。あたしの印象は成長したなという認識だけで、その時は思わず解せぬという言葉を吐き出したものだ。

 

 そんなカヲルが初見組に口を開いた。

 

「初めまして、私設艦隊エバーズ代表補佐の任についています、渚カヲルと申します。この度は代表である綾波カガリの保護及び、ここまで連れて来ていただいたこと誠に感謝申し上げます」

 

 補佐の任に付かせているからこそ、リツコより先に挨拶するのは妥当と言ったところなのだが、どうやらまだ青年の域を待たさない少年の位に彼女らは驚きを見せているようだ。代表が少女で補佐も少年では仕方がないとは思うが、驚きすぎではないだろうか。

 

「私は先ほど挨拶を済ませましたのでお礼だけを述べさせていただきますわ。部下を含め代表の保護、感謝いたします」

 

 あたしの横にいるラスティーを視界に入れただけで思惑を感じ取りそう付け加えて感謝を述べたことに少し薄ら寒いものを感じるが、良い意味で捉えれば頼もしい限りである。隣のラスティーも僅かに表情を変えただけですぐさま当たり前のように受け入れて平然としているのだから元軍人は伊達ではないのだろう。

 逆に理由は分からないが代表補佐のカヲルは部下と告げられた時に盛大に表情を歪めたのには驚いた。危うく不信感を抱かせてしまうところをリツコが思いっきり頭を叩くことで事なきを得たのだが、普段飄々としているカヲルには珍しい現象だ。

 

「あの、代表補佐である方をぞんざいに扱ってよろしいのですか?」

 

 そのやり取りにギョッとした面々の中、代表でマリューが問いかければ威圧感のある良い笑顔を浮かべたリツコが問題ありませんときっぱり切り捨てた。次にカヲルの方に視線を向けて目で問えばコクコクと首が取れるのではないかと思わせるほど頷かれ、これ以上の追求はしてくれるなという想いが伝わったのかこの問答は終わりを告げたようだ。

 

 互いの挨拶が済めばリツコから組織の説明が成された。

 

「さて、先ほど望まれた所属についてですが、言ってしまえば我々エバーズは出資者個人が所有する組織であり、現連邦政府及び関係各国との繋がりは一切ありません」

「このような不明瞭な機体を所持し、高性能の戦艦を作り出せる出資者と一体どのような方なのですか?」

 

 マリューの問いかけにリツコは用意していたのだろう説明を続ける。

 

「我々の殆どは先のバルマー戦役に置いてとある国の特務機関に所属しておりましたが、戦争終結の折その機関が解体、一部を残して多くのスタッフは行き場を失っておりましたところ、その出資者がもつ財力で我々を雇い入れて下さったのです。言わば我々の恩人とも言うべきそのお方は自身の名が表に出る事を好としません。故に如何な連邦政府特使団所属の軍の要求であってもお教えできかねます」

「連邦上層部直属配下の我々であっても同じであると思ってよいのですね?」

 

 目を僅かに吊り上げたナタル少尉が脅迫染みた強めの言い回しで告げるも我が艦長は凛とした表情を見せる。

 

「我らが恩人の願いを無碍にする者はこの組織におりません」

 

 そう断言した直後場の雰囲気がガラリと変わる。次いでナタル少尉によって集められたのであろう連邦兵が格納庫に押し寄せてくるとあたしやラスティー、リツコとカヲルに向けて一斉に銃を構え始めた。

 

 知らされていなかったマリューがナタルに詰め寄る。

 

「何のつもり、ナタル少尉!? この方達は命の恩人なのよ!」

「不明慮な組織に所属する者達を拘束する為です。我らの任務はこの新造艦とストライクをアラスカ基地に持ち込むことが第一、今後の憂いを立つという意味でも必要でしょう」

「カガリさんたちはプリペンダー直々の保護要請があるのよ!? こんな事をしては遺恨が生じてしまうわ!」

「それは既に果たされている。彼らの要求はあくまで組織までの返還が対象です」

「屁理屈を! では、人として貴方の判断は正しいというの!?」

「軍人は命令が最優先されます。そこに一々人道を挟めば命令自体が立ち行かなくなる恐れがあるのなら切り捨てることも必要です」

「ナタル少尉!!」

「艦長、貴方こそ理解していないようだ、高性能の戦艦や先ほどの敵と同じバリアを有する巨人、これらを所有するのが一個人というのは可笑しな話ではありませんか。彼らの裏に大きな組織が関わっているのは誰でも予想できることでしょう」

 

 二人の押し問答の最後、苦悶の表情を浮かべたマリューは口を開いた。

 

「それでもカガリさん達はこの艦に滞在中、一度として不審な行動をしていなかった。むしろ不安なキラ君達を懸命に励ましていたわ。露骨な監視の目を欺くことせず私達に対する配慮も心がけていた…そして何より、カガリさんを心の底から信頼する彼らが貴方の暴挙を許すとは思えない」

 

 そう言って、視線を向ければ開かれた扉から古参と言われるヒイロ達や、カミーユ、そして何故かジュドーに手を掴まれながらも懸命にこちらに来ようとするプルが波の如く押し寄せてきた。緊張から息を呑む事しか出来なかったキラやフレイの学生組が彼らの登場に強張った肩を下げ、安堵の息を吐く。

 

 掴まれていた腕から抜け出したプルがマリューの前まで躍り出ると声を上げた。

 

「カガリお姉ちゃんたちは悪い事なんてしないよ! 私達に面白いマンザイだってしてくれるんだから! 酷い事しないで!!」

「プルの言うとおりだ。こいつらの身の保障はプリペンダーがしてやるよ、な、ヒイロ!」

「デュオにしてはマトモな意見だ」

「テメェ、ヒイロ!!」

「この先も彼女らの笑いと言う奴が見られないのは寂しい。俺の心は笑いを欲している」

「無視かよ!!」

 

 どんな状況でもデュオとヒイロやり取りは変わらないようだ。

 

「ヒイロさんってホント、シンジたちのお笑いが好きですよね。まぁ、僕も彼女らが黙って裁かれるのを見ているつもりはありませんが」

「ええ、共に戦ってきた仲間を見捨てるような事を僕らがするわけない」

「そうそう、カミーユさんやカトルの言うとおりってね、何ならカガリさん達の保障、俺からブライトさんに聞いてあげてもいいよ?」

「何よ、ジュドー! 最後にカッコいいこと言って! 私がここに行くの、渋ってたくせに良いとこ取りは良くないぞ!」

「プルの言う通りだな、情けないぞ、ジュドー」

 

 キリリッと構えた表情でジュドーが告げるも、即座にプルやプルツーの俗に言う妹組の鋭いツッコミを入れられ、それをあとからやって来たシャングリラチームにばっちり見られると格納庫は沢山の笑い声に包まれた。

 やる時はやる少年、けれど普段は弄られキャラがデフォであるジュドーは、そりゃないよ、と情けない声を上げながら肩を下げ項垂れる。

 

 格納庫は一転して暖かい空気が漂い始め、雰囲気も明るくなっていく。流石古参メンバー年少組だ。

 これからも戦いが続く中、仲間内で不穏にならないよう殺伐とした場を敢えて和ませてくれた彼らの配慮を汲むため、リツコに視線を送って目配せする。

 それを的確に理解したリツコは心得たと頷き、口を開いた。

 

「分かりました、出資者個人の情報を出す事は出来かねますが、我々の母体となっていたとある組織についてはお話しましょう。このような兵器を有するのです、確かに一個人だけでは無理な話というもの。ええ、確かにナタル少尉の言うとおりですわ。バジルール家の末子は不出来だと実しやかに囁かれているようですが、得てして噂とは当てにならないという典型でしょうか」

「な!?」

「失礼、決して皮肉ではなく純粋な賞賛ですのでどうかお怒りはお鎮めくださいな。さて、我らの母体となっていた組織はバルマー戦役の折一度解体されたのです、しかし恩人でも在る出資者が解体された組織を再び纏め上げ復活させました。あくまで我らは恩人の所有ですが、その恩人は復活させた組織の代表と言う顔も持っているのです」

 

 一つ息を吐き出してリツコは真実味を纏わせた雰囲気を醸しだす。

 

「その名をゼーレ、一時期は地球連邦の中枢部に深く関わっていた時期もあり、解体復活後の今も各国に少なからず影響力を与えられる秘密組織です」

「ゼーレ、ですか」

 

 マリューやナタルは言葉を繰り返しながら記憶を遡っているようだが、あの当時日本政府の暗部すらもその詳細を掴むのに苦労したのだ、末端の彼女らではその名すら聞く事はなかっただろう。

 

 リツコが言ったゼーレの話は一部本当の事を話しているが、その他は真っ赤な嘘だ。

 二年前暗部によってゼーレの代表が捕まり組織は解体されたものの、ゼーレの所有する死海文書のデータバンクを求めてあたし達はアスカの伝手で秘密裏に解体された組織幹部達に接触を試みた。その過程で得たデータは今もLilinに保管されている。その後は自然に消滅するのを待つばかりだったゼーレだが、当時の影響力ほど無くとも未だ各国に太いパイプを持ち合わせていた伝手に目を付けたリツコは今後の戦いに役立つという予想の下、一つに纏め上げ、再利用することを提案、代表のあたしの許可の元、それは為された。

 しかしながら、再びゼーレを復活させたはいいものの、代表の地位に置く人材については頭を悩ませた。

 二つの通り名があるあたしは物理的にこれ以上無理であったし、リツコも研究開発の任で忙しい。日本で学業に勤しむシンジには荷が重く、アスカは学生の傍ら暗部の組織の代表におさまったばかりで余裕なし、カヲルは端から当てにはしていないという八方塞の中、エバーズ情報網に適切な人物が浮かび上がった。

 

 地球連邦によって逮捕軟禁されていた冬月コウゾウである。ネルフの実質的代表の立場に収まっていた彼ならば私欲に走ることなく組織を纏め上げられると踏んだリツコは早速、ゼーレの名を使い、当時の地球連邦に対して残る影響力を犠牲にすることで冬月コウゾウを釈放する事に成功、その任を願い出れば快く引き受けてくれた。

 よって、ゼーレは過去の秘密組織としてではなく、あくまで組織名の影響力と情報収集の目的のみで存在、真の代表は変わらずあたしになっている。但し、一応という言葉の名の下にあくまで組織の顔という立場でしかないが。

 

「これは善意の忠告ですが連邦上層部に報告するならば公にするのは止めておいた方がいいでしょう。ゼーレは当時の連邦に多大な影響力を持っていました。当然、上が公表されたくない情報も共有していたようで、下手すれば共倒れなんてこともありうる。そんな危険が孕んでいるのなら上は事前に排除したがるもの、十分な注意を払うようお気をつけてください」

 

 捉え方によっては脅しにも似たリツコの善意が効いたのか、すぐに兵は引かれ安全が確保された。さすが天才にしてドSの鬼畜博士様、最後に場を違う意味で恐怖に陥れ、今後のあたし達に降りかかる組織関連の枷になりそうなものに楔を打つ形となったようだ。

 目の前の安全はもちろんのこと、今の連邦政府に巣くうとある組織の台等によって浮かぶエバーズ存続の危機に対しても予防線を張ることに成功したということになる。

 

 




 次回タイトル 三つ目のルーツ。


 次回も頑張れ、カガリ。


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三つ目のルーツ

 始まります。


 格納庫での一件が収束したことであたしとラスティーはアークエンジェルからLilinに戻る事になった。

 しかし、何となく愛着が沸いたようで離れがたい気持ちを抱かせる。かつての仲間達もさることながらキラやフレイ、学生組と碌な挨拶もなく別れなければならないのがその気持ちに拍車をかけていた。

 

 そんなあたしの心情が顔に出ていたようでリツコはマリューにある提案を上げた。

 曰く、代表保護の御礼としてLilinが持ち合わせていた物資の提供をしたいというものだ。ヘリオポリスの避難民を抱え、物資の数が圧倒的に足りないアークエンジェルとしてはこの申し出に一もなく頷きを見せた。

 話はトントン拍子に進み、パイロットについては物資搬入の時間を自由時間とする旨が伝えられた。マリューとリツコの粋な計らいにあたしは素直に感謝すると少ない時間ながら別れを告げる為既に格納庫から去った彼らを探し始めた。

 

 スタッフなどに尋ねながら向かった場所、ソファーや給水機などが置かれた休憩室の一角、人の殆どいない時間帯なのに学生組と古参の一部、デュオやジュドーがこそこそ端っこのほうで固まりなにやら雑談とは思えない会話を行っていた。

 あたしは気配を消して近づき、聞き耳を立てる。すると声を荒げたフレイを窘めるサイ、ミリアリアの会話が聞こえた。

 

「このままじゃ、あの子が捕虜扱いになるじゃない!!」

「落ち着いて、フレイ」

「声を抑えなさい、誰かに聞かれたらどうするの」

「ラクスが連邦に捕まっても良いって言うの!?」

 

 どうやら会話内容はラクスの今後について語られているようだ。先ほどの戦闘でナタル少尉がザフトに告げた内容を後聞きしたフレイが、眉を潜め、加えて格納庫での人道云々の話を聞いて怒りに火がついたらしい。コーディネーター嫌いのフレイが庇うような発言を発した事でキラが嬉しそうな表情を浮かべて聞いていた。

 

「いくら人がいないからって連邦の戦艦でその発言は不味いぜ」

 

 デュオが窘めるもフレイは聞き耳を立てない。それどころか、目を吊り上げラクスを逃がすよう詰め寄る始末だ。

 聞き手に回っていたジュドーがフレイの変わりように疑問が生じたのか、理由を問いかける。

 

「ねえ、フレイさんさ、どうして彼女を助けたいの? 彼女ってフレイさんの嫌いなコーディネーターだよ?」

「……確かに今でもコーディネーターは苦手だけど……コーディネーターとしてじゃない、私のパパを助けようとしてくれたラクスという一人の少女を助けたいと思ったの」

 冷静に問いかけられ幾分落ち着きを見せたフレイが顔を赤くして呟く。その言葉に彼らは言葉なく感動しているようだ。

 ただ一組の対人関係が良好になっただけの出来事――それでも人は言葉を尽くせば分かり逢えるのだという証でもあった。特にコーディネーター嫌いが筋金入りとされる彼女の言葉は強く印象に残るというもの。

 

「それにこの戦艦ってコーディネーターより強い子が一杯いるんだもの、何だがコーディネーターだけ怖がるなんて馬鹿馬鹿しいじゃない……あの子を怖がっていた私が馬鹿だったわ、あの子、目を輝かせて『お、御友達になってくださしゃい!』なんて噛みながら叫ぶのよ? ……開けてはいけない扉を開きそうになったわ……って言うか、あざとさのない天然なんて可愛すぎるでしょう!! ……うん、決めた、開けちゃっても良いかな、いいよね!?」

 

 鼻息荒く、そう宣言するフレイに感動していた学生組が一転して急に慌てふためいた。

 

 若干、いや、好意から大分突き抜けたような感じで暴走するフレイを涙目で止めに掛かっているキラとサイが憐れに思えるもジュドーにとっては納得できるうえ喜ばしい言葉だったらしく、満面の笑みでフレイの言葉に賛同し始めた。

 賛同を得て暴走し出すフレイをキラやサイはもう泣きながら止めるよう懇願し始めたが、もちろん、あたしや背後に控えるラスティーにとってもフレイの言葉は喜ばしいので、言葉の意味は理解できないが出来るなら賛同したい想いだ。

 

「やべぇ、ラクス様ファンの俺としては危機感を抱かなきゃいけないのに嬉しさが勝って何も言えない」

 

 何てことをラスティーは呟いたので、その開けてはならない扉とやらは危ないということだけは理解した――後でカヲルに聞いてみてから改めて賛同するか検討しようと思う。

 

 益々暴走する、何か豪華ホテルで甘い一時を過ごし、夜は強引に押し倒すギャップ性にラクスは落ちるはずと断言したフレイをまずはお友達から始まって交換日記をするという―――内容については所々分からないが、理解出来る部分もある、態の良い先送りだ―――を終着点にして落ち着かせ、話は最初の議題に戻り始めた。そして何時の間にかラクスをザフト軍に返すという軍法上拙い話になっていく。

 これに学生組が賛同すると本来窘めるべきデュオやジュドーまでも異を唱えないばかりか助長する始末、あたしはその後、彼らの処遇を考えて眉を潜めた。

 

 軍規は詳しくないものの、確か捕虜の無断解放は下手すると銃殺刑に処されてしまう可能性があったはずだ。まして彼ら学生組は先ごろ軍に志願して、マリュー艦長よりそれを受理されている。たかだが一平卒に捕虜開放などされては殺してくださいと言っているようなものだ。

 

「けどよ、ここの艦長は随分と甘いと思うぜ? 成りたての、それも未成年を銃殺することはねぇんじゃねぇの?」

 

 あたしの懸念に対してラスティーが小さくそう告げてきた。

 

「それに古参の連中はあくまで客分でしかないからな、仮に止む終えない事情で単独行動になったら当てになるのはキラの坊主だけって訳だ。そんな戦力を見す見す消す事は出来ないって」

 

 確かにこれで学生組が銃殺されるとキラは確実にこの戦艦を見捨てるだろう。つまり、学生組の彼らも命の保障がなされる確立が高いという事だ。

 

「プラントにとってラクス様は人々の心の支えでもあるわけだが、そんな彼女を連邦の上層部に巣くう奴らに渡したらそれこそ戦争は泥沼化になるほどの……言い方は悪いが爆弾でもある。でだ、多分だがデュオの奴はそれを理解しているからこそ反対しないんじゃないか? まあ、もう一人のお子ちゃまは素直に可哀想という気持ちからくる純粋なものだろうが、はっきり言えば今の状況での開放は悪くない」

 

 他の組織に準じている古参が手を出せば国際問題になりかねないものの、自身の組織からならばいくらでも庇い立てを行えると言う単純だが、理に叶った理由だ。更には艦長の優しさを利用することも考慮されているのだから、流石プリペンダーのエージェントだとあくまで声に出さず内心でデュオを褒め讃えた。

 

 するとそんなあたし達の背後に声が掛けられた。

 

「あいつはそこまで計算高くない。せいぜい、あの副艦長が気に食わないという理由だろう。ナタル少尉の通信を聞いて酷く憤りを見せていた事からも間違ってはいないはずだ」

 

 音もなく背後に現われたヒイロはそう言ってラスティーに視線を合わせた。

 

「だが、お前の意見は最もと言える。俺達は人類で争っている場合ではない。その言葉とお前自身が今まで示してきた態度から本当に離反したという認識に至った。今まですまなかったな」

 

 後半の謝罪を理解できなかったあたしにラスティーが告げる。

 

「あー、なんだ、カガリがどうしても俺から離れなきゃならない時とかにこいつがあからさまで尚且つ高圧的な監視を行ってたんだわ。俺、高圧的な監視なんて初めてで結構堪えたんだけど、多分その事じゃねぇ?」

 

 あたしが目線で真意を問えばヒイロは頷いて見せた。

 

 高圧的な監視などという器用な事が出来るヒイロに感心すればいいのか、そもそも監視は悟られないようにするのが鉄則だろうと呆れればいいのか、悩むところだ。

 

 そんなあたしを他所にヒイロは淡々と言葉を続ける。

 

「もしもあいつらが銃殺になるような事があればもちろん俺達は止めるつもりだ。だからカガリは安心して見守っていて欲しい」

 

 そう言われてしまえば頷くしかなく、あたし達は作戦を立てる彼らを視界から外して休憩室を後にする。挨拶はまた後で交わすことにした。

 

 三人で会話を交わしながら廊下を歩いていると思い出したかのようにヒイロが口を開いた。

 

「それにしてもバルマー戦役時代のカガリなら率先してあの輪に参加していたことだろう。二年という月日は猪突猛進が心情のお前をここまで成長させたようだな」

「そりゃ、本音を言えばあそこに加わって手助けしてやりたいさ。けど、この世の中、道理だけで渡れるほど甘くわないってことをあの場所やヘリオポリスで学んだからな、思慮深くもなる」

 

 あの場所――オーブでの姫という立場は考え深かった。国の中枢に携われない空しさと己の考えなさに何度苦渋を舐めた事か。

 あの国の政治は五大氏族の為だけでしかなく、如何にトップの娘とは言え、発言権は無いにも等しい。ウズミの娘は短慮の性格で粗暴も悪く嘆かわしいなどと何度も陰口を叩かれた。その度に怒りを静めなければならない自分が酷くちっぽけに見えて、つくづく政治に向かない性格なのだと逆に開き直れば少し心が軽くなってそんな自分に落ち込む。その繰り返しの二年間だったように思える。

 

「だから少しでも落ち着けるよう、これでも我慢しているんだよ」

「そうか」

「体が動きそうになった時なんかは頭の中にいるもう一人の自分みたいなのに話しかけたりしてさ、これがまた口論になるんだ、動け、駄目だって言い合うみたいに」

「それは面白いな」

「いやいや、無表情で言われてもって……ヒイロはそれが通常だったな」

「だが、カガリ」

 

 言って立ち止まるとヒイロはあたしを真っ直ぐ見つめる。

 

「お前が政治に向かないことで落ち込み元気を無くすくらいなら、俺は迷わずこう言うだろう『政治家などならなければいい』と」

「へ?」

「あの頃の生き生きとしたお前を見ると心が温かくなる。それはつまりお前に好意を持つという意味でもある」

「おいおい、それって!!」

 

 ちなみにこの好色な声を上げたのはラスティーだ。

 

「俺は元気なカガリが好きだぞ」

 

 淡い笑みを浮かべたヒイロは言い終えたとばかりに再び歩き出す。しかし、数歩進んだ先、振り返り何時もの無表情で小さく呟くように付け加えた。

 

「もちろん友情として、だ」

 

 辛うじて聞き取れたあたしは歩き去っていくヒイロの背中にその言葉の真意を問うため声を上げる―――前に廊下の曲がり角から子供のような泣き声を上げたカヲルがこちらに向かって走ってくる姿を視界に捉え、ここでようやくヒイロの真意に気付いた。

 

 ヒイロは曲がり角で聞き耳を立てるカヲルを見つけ、わざと最後の言葉を聞こえないようにしたのだ。

 

 涙や鼻水を撒き散らしてカヲルは勢いよくあたしにダイブした。本当ならここで一緒に倒れるのだろうが、生憎と体が頑丈なものでがっしりと支えきって抱き上げるとカヲルは顔を首筋に埋めて、嫌だ、嫌だと子供の我侭みたいに言葉を繰り返す。

 そんなあたし達のやり取り旗から見ていたラスティーは大声で「いや、立場が逆だろう!!」と渾身のツッコミを入れてくれたが、拗ねられると面倒……ではなくこの勘違いを早く正して安心させなければならない。

 

 晴れて監視が解けたからなのか、はたまたこの状況に居た堪れなくなった末の行動なのかは定かでないがラスティーは一人別行動をすると告げてこの場から離れて行った。

 残されたあたしは中々の締め付けで今も抱きついてくるカヲルの背を優しく撫でながら勘違いを正すことにする。

 

「大丈夫だ、大丈夫だぞ、どんな理由があろうともあたしはお前を嫌ったりしないから」

「…グスッ…ホント?」

「ああ、お前が嫌だって言っても離れてなんかやらないつもりだ」

「……絶対?」

「もちろんだ。絶対嫌いにも離れる事も無い。覚えておいてくれ、それくらいあたしはカヲルの事が好きなんだ。今更離れることなんで出来るわけが無い」

 

 オーブの二年間、腐らずにやってこれたのは偏にカヲルが傍で支えてくれたからだ。コアに還る時間を除けばその全てを余すことなくあたしの為に使ってくれたカヲルを、恋人を、どうして嫌えるというのか。

 

「……カガリを信じる」

「そうしてくれ、あたしもお前の想いを信じ続けられるように」

 

 嫉妬深く、時に単純な勘違いですぐに泣いてしまうような脆さがあっても全てが愛おしく、自分から別れる事など考えも付かない。

 

「信じるから、もっと撫でて欲しい」

「今日は一段と甘えん坊だな。オーブに留守番させたのがそんなに堪えたか?」

 

 素直に頷かれ、あたしは笑みを深める。

 

 だから、もしこの関係が終わるとするならば、それは――あたしからではなく、お前から離れる時なのだろう。

 

 口には出さず心の中でそう呟いて、後はただカヲルの機嫌が治るまで背中を撫で続けた。

 

――口に出したら、何だかそれが本当になりそうで怖い。

 

 そう言い訳を浮かべてしまうほどあたしも存外臆病なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機嫌が治ったカヲルや頃合を見て合流してきたラスティーを連れてラクス返還作戦の内容を話し終えた彼らの元に向かうと当初の予定通り別れの挨拶を交わす。

 

 皆が別れを惜しんでくれている中でキラだけが驚きの表情でカヲルを見つめていた。格納庫でもカヲルの自己紹介で驚きを見せていたはずだ。どうやらカヲル自身も気になっていたようで視線をキラに合わせた。

 

「やあ、キラ・ヤマト君だね、先ほどから僕を凝視しているけれど何か言いたいことでもあるのかな?」

「やっぱり格納庫でも思っていたけど……アスランに声が似てる」

 

 そう言えば、ヘリオポリスの時に少し聞いた彼の親友の会話は何処と無くカヲルの声質に似ているなと思い出す。細かく言えばカヲルの普段滅多に見せない堅い声にそっくりかもしれない。

 

「ふふ、そんなに僕の声は君の親友に似ているのかな?」

「え? あ、はい」

 

 あれはきっと、親友だって言った事無いのにどうして知っているのか、という疑問を抱いているからこその曖昧な返事なのだろう。ちなみにあたしは教えていない。

 

「そうなんだ調べておいて良かった……ふふ、どうやら君やラスティー君より要注意人物らしい」

 

 その言葉にキラだけでなく名前を出されたラスティーは困惑の表情を浮かべてあたしに視線を合わせてきた。目で理由を乞われても残念ながらあたしも理解不能なのでそう見つめられても困るのだが。

 

「君達、どうして僕のカガリをそんなに見つめているのかな…」

 

 目が笑っていない微笑を浮かべるカヲルに指摘された二人は表情を青くする。

 

「この世とお別れしてガブの部屋に行くかい?」

 

 言葉自体理解出来なくてもカヲルから湧き出る黒いオーラ、見えなくてもその雰囲気を理解できるのか、恐怖で顔を引き攣らせる二人はお互いに抱き合い小さく悲鳴を上げた。

 

 逆にデュオやジュドーは変わらないカヲルの態度に呆れた笑みを浮かべ、フレイやミリアリアなどは目を輝かせながら「病んだイケメンキター!!」などと興奮しながら見守っていて、そんな恋人と婚約者を持つ二人はそっと流れ出る涙を拭い慰めあう。

 

 あたしは一つ溜息を吐き出すとこのカオス状態を作り出した元凶の頭を背後から思いっきり叩いた。それだけで黒いオーラは飛散して変わりに涙交じりのカヲルが振り返る。

 

「痛いよ、カガリ!?」

「バカヲル、お前の言葉は洒落にならんから止めろ」

「本気と書いてマジだよ」

「尚悪いわ!! そんなくだらないことでレイや良子さんの封印を無下にするな!!」

「大丈夫、南極の方だから……若干壊れているけど」

「……放置する気満々じゃないか」

 

 呆れるあたしにカヲルは頬を膨らませ、唇を尖らせた。成長したカヲルには実に似合わない仕草だ。

 

「だって、彼らリリンの中でもイケメンって部類に入るんだよ」

「つまり、お前はあたしが靡くと思っているわけか。先ほどの約束をお前は信じていない訳だな……」

「そ、そんな事ない!! カガリは信じているよ!! で、でもね、男は狼なんだ、いくらカガリが強くても薬とか使われたりしたらぱくりと食われちゃうよ!!」

「お前も男だろうが……」

「僕は男の前に紳士の使徒ですから!!」

 

 鼻息荒く、そんな卑怯な真似は致しませんなどと言葉を続けて無駄に真面目な表情を作るカヲルに二度目の溜息を吐き出して項垂れていれば先ほどの面子の中で唯一名前を呼ばれていない少年が万を辞して口を開いた。

 

「おい、それは俺に対する当て付けか」

 

 恨み嫉みを凝縮させた低い呟きに誰もが肩を震わせ、その発信元に顔を向けた。

 

 そこにはカヲルから滲み出た数倍の黒い靄を全身に纏わせた細目の少年――カズイの姿があった。

 

「イケメンでもなければリア充でもない、おまけに影が薄くこの話でもオチ要因としてしか出演出来ない俺に何か言う事は無いのか、ええイケメンさんたちよぉ?」

「待てよ、MANIZAIでもオチは大切な――」

「あんっ!? ここで原作通り死んどくか、オレンジイケメン?」

「メタ発言!?」

 

 影の薄いという言葉は撤回して欲しい。今は溢れんばかりの存在感を醸し出して、生理的な恐怖にあたしの体はガクガクと震え、それは皆も同じである。ラスティーは何故かカズイの言葉が心の涙腺に響いたのか離脱。

 唯一細い目が見開かれた状態を直視したと思われるカヲルなどは口から泡を吹きそうな勢いで、負の無限力が、負の無限力がここにと呟きながら崩れ落ちた。

 

 すぐさま全員で日本独自の作法――DOGEZAをしたのは言うまでもなく、事の発端であるカヲルなどは失神状態なのであたし達が無理やりDOGEZAの恰好をさせ、誠心誠意謝罪した。

 

 教訓、普段目立たない奴が持つキャパは半端なく、決して逆鱗に触れてはならない。

 

 

 

 尚、正気に戻ったカズイ様は先の発言を覚えておらず、最後に本編とは関係ないよ、あくまでオチ要因ですからと告げて爽快に去っていた。

 

 




 本当にオチ要因です。誰かの憑依、転生、成り変わりの類ではありません。


 次回 依頼。

 次回も駆け抜けろ、カガリ。


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第二話

 始まります。


 

 

 物資の搬入が終わりあたしとラスティーを搭乗させたLilinが発進する。

 

 心情としてはラクスの返還まで見守りたかったが何時までもアークエンジェルと共にあれば要らぬ戦闘を招きかねないというリツコの苦言を聞き入れた形となった。

 この宙域にはまだ多くのザフト軍が陣を構えている、機動兵器が四号機のみのLilinでその大軍と戦闘するのは得策ではない。言葉は悪いがアークエンジェルを囮にすることによって自分達の安全を確保しなければならないのだ。

 

 高域警戒態勢のもとMAGI策敵システムをフル稼働してザフト軍の隙を縫う形で航行すれば一度の戦闘を行わずこの宙域を脱出することに成功する。

 

 途中、ザフト軍モビルスーツ数機に目視出来る距離まで近づかれたもののLilinがデコイとして発したコロニー間専用の運送会社、その公式電波を流せばラクス奪還の作戦行動中ともあって攻撃されることは無かった。

 それどころか全てのモビルスーツが即座に反転して勢いよくブーストを噴かせるのでキラたちは無事に行動を起こしたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフト軍の宙域を抜け、警戒態勢を解かれるとあたしはブリッチに呼ばれた。

 

 一緒についていたラスティーはスタッフ登録の為、カヲルに連れられ艦の中枢とも言えるMAGIが鎮座する箇所で素っ裸になっているはずだ。この戦艦で働くスタッフはチルドレンやカヲルを別にして皆、同じ手順を踏んでいる。

 MAGIやこの戦艦に搭載されたコアに登録しなければならないDNAを詳細に調べ上げる為、人が入れるくらいの試験管の中に素っ裸で入るとLCLに浸かるのだ。その様はカヲル曰く、ダミープラグを作り出す工程に似ているらしい。

 

 管制塔型のブリッチに辿り着くとリツコや数名のスタッフが落ち着いた様子で出迎えてくれた。

 笑顔でお帰りなさいなんて言われるとホームに帰ってきたという安堵が沸き起こる。甲板下層の格納庫やその他施設からの通信でも帰還の喜びが伝えられた。

 

「皆、あたしの我侭で留守にするだけでなくこのような場所まで来てくれたこと、感謝する。ヘリオポリスでの詳細はリツコに渡した通りだ。かつてのジオンが開発した核融合とは違う形で生み出された連邦の新型ガンダム、残念ながら一部のブルーコスモス過激派が既に連邦軍中枢を掌握していると見てよいだろう」

「地球に打ち込まれたニュートロンジャマーのせいで連邦は新規の核融合式モビルスーツの開発を行えなくなった。皮肉な話ね、バルマー、封印、二度に渡る対戦での疲弊はブルーコスモスの大台に一役かった形になったわ」

 

 そう、ニュートロンジャマーは既存のモビルスーツや戦艦に効力を発揮する事は無いが、新たな開発に関しては大打撃を与えている。月にあるアナハイムでの開発が追いつかないほどに連邦は弱体化しているのだ。

 そこに現れた新たな動力で動くモビルスーツを開発したブルーコスモス――その盟主のムルタ・アズラエルはアズラエル財閥の代表という顔と戦争商人という二つの顔を使い分け連邦に影響力を隙間なく浸透させていった。

 弱体化した連邦軍など豊富な資金とその手腕で一年も掛けず掌握してしまったのも頷けるというもの。

 

「カガリの持ってきたデータを拝見する限り流石に証拠は残していないようね。新型ガンダムの開発データだけでムルタ・アズラエルに繋がる物的証拠は無い。ゼーレからの圧力は掛けられないわ」

「少しでもアズラエルの行動を止められる材料があれば良かったんだが、調べる時間も無くて、ホント無駄足ですまない」

「いいのよ、元々は突発的な行動だったわけだし、あれば幸運だったくらいのもの、あの盟主が自分の弱みになるようなものを残しておくはずは無いわ。それに掘り下げすぎて私達の拠点であるオーブにまで火の粉が掛かってしまう恐れもある」

 

 リツコはサハク家の事を言っているのだろう。あたし達が行った独自の調査ではアズラエルとサハク家は何らかの密約がなされていることを調べ上げた。このことでオーブが危険に晒される懸念も飛躍的に上がることになり、更なる慎重を期した調査を心がけなければならない。

 

「まあ、オーブに危険が迫るようなら父上はサハク家を容易に切り捨てると思うぞ」

「そこに至ることはつまりオーブにとって最悪の事態だわ。そうなるくらいならプリペンダーにリークした方がよっぽどマシよ」

「なら、報告通りあくまでサハク家個人の情報を詳細に」

「既にリークしておいたわ」

 

 ホント、有能な艦長を持つあたしは幸せものだ。

 

 これでサハク家が少しでも自重してくれれば良いのだが、あそこは旧世代後期、独立国となったオーブの時代から裏の武門を司っており、その流れで今は裏の軍事を司っている。歴代当主は血の気が多く、争いごとを好む性質があって現在の双子当主もその血を受け継ぎ、弟の方などはサハク家そのものを引き継いだような性格だ。他国に不干渉とする今のオーブでは酷く息苦しい想いをしている事だろう。そんな彼をリークだけで留めるのは難しいかもしれない。

 

「頼むからオーブを戦場にする火種は作ってくれるなよ、ロンド・ギナ・サハク」

 

 幼少の頃、五大氏族の集いで見せた、そのギラつく目つきで父やあたしを睨みつけていた少年を思い浮かべ、そう呟かずにはいられなかった。

 

 

 

 あたしの報告が終わると今度は不在中に関しての活動報告を告げられる。エバーズは、リツコ主導で地球の各地に蔓延る妖魔軍団の脅威に晒された一般人の救助に当たっていたようだ。

 パイロット不在の戦力低下を考慮して救助活動優先を第一に考え戦闘には極力参加せずにすんだらしい。

 

「そう言えば、救助活動中に甲児君たちや竜馬君たちの機体整備を行うためにこの艦に招いたわ」

「リツコの判断だろ?」

「ええ、明らかに機体の過剰使用で何時止まってもおかしくない状態だったのよ」

「別に隠すようなものは無いから構わない、それよりもどうなんだ?」

「残念ながら出来たのは応急処置ぐらいね、そう遠くないうちにオーバーホールの必要があると思うわ」

 

 地球の現状は予想以上に悪いようだ、彼らの機体が悲鳴を上げるほどの激戦など一般人にしてみれば地獄のような光景なのだろう。

 

 その時、ブリッチの扉が開かれラスティーを伴ったカヲルが入室してきた。前までとは別の私服姿からカヲルに借りたのだろう。エバーズでは制服のようなものは配布されていない。この艦にはMAGIの職員認識システムが目を光らせている。これにより部外者の存在はいくら職員の姿を似せたとしても登録されたDNAの関係上すぐに弾き出されてしまうため必要ないのだ。

 

「終わらせてきたよ、これで彼もエバーズのメンバーだ」

 

 何時もの淡い笑みで言ったカヲルの隣には疲労感を全身から醸し出すラスティーの姿があった。

 

「なんでこの艦の登録に公開全裸ショーをしなきゃならないんだ。すげぇ、恥ずかしかったぞ」

「仕方がないさ、通過儀礼のようなものだよ。それにうちの女性スタッフは嬉しがっていたじゃないか」

「いやいや、あれは失笑に近かったね、おもに下半身を見られて」

「そう言えばコーディネーターなのに(笑)とか言っていたかな、あれって喜んでいた訳じゃないのかい?」

「ちげぇよ! ここのスタッフはコーディネーターを何だと思って……そりゃ、奇怪な目で見られるよりマシ……いや、どっちもどっちだな」

 

 げんなりとした表情で呟きながらもその雰囲気は決して嫌悪を発していない。あたしは内心で安堵した。ラスティーの強引さに負けて今に至るも、いざ所属するならば他のスタッフとの摩擦は少ないほうが良いだろう。

 

 ブリッチの端末を操作していたリツコが口を開いた。

 

「あなたの遺伝子データは不備なく登録された様ね。それにしてもこの遺伝子配列は中々のモノだわ、主に身体的な面は素質あるナチュラルが長年の鍛錬で到達する域を生まれながらに備えている」

「おいおい、配列版を見ただけで分かるのかよ?」

「当然だろ、うちの艦長は天才だぞ」

 

 あたしが心からの称賛を込めて言えばリツコは照れたのか、ほんのりと顔を赤く染めた。それを微笑ましそうな表情のカヲルに見られて咳払いすると言葉を続ける。

 

「けど、言ってしまえばそれだけなのよ、つまり遺伝子を操作されただけの人間に過ぎない。私達の観点からすればあなたも立派なナチュラル――人間よ」

「俺が…ナチュラル?」

「ええ、データを見た限り根本的なヒトゲノムは変わらないわ、それは結局人間ってことなのよ」

「……俺が人間」

 

 初めて言われたのだろう茫然とした表情で聞くラスティー。そこに更なる爆弾が投下される。

 

「そうだね、魂の観点からも彼は正しく黒き月の末裔だよ」

「魂……黒き月…末裔?」

「君は僕から生まれた白き月ではないってことさ。君たちコーディネーターと呼ばれる者は等しく、その魂をリリスのガブに補完されるよ。あってはならないことだけどね」

 

 そう、あたし達が観点にするのはガブに補完されるか否かその一点に尽きる。バルマー戦役時代、リリスが完全に覚醒してガブが開かれていれば彼らも一つになっていただろう。

 バルマーから今まで、この艦に所属する者たちならばそのほとんどが知っている事実を聞かされ、ラスティーは逆にすっきりとした顔を浮かべていた。

 

 その表情を見てリツコはわざとらしく不敵な笑みを作る。

 

「おめでとう、これであなたも完全にうちのメンバーになったわ」

「俺は感謝すべき立場なのかね?」

「必要ないわ、あなたがすべきことはこの艦の艦長職よ」

「何だ、そんなことか………うぇ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げてリツコを見る、次いであたしに視線を合わせながら真意を窺うような瞳で見つめられた。

 

「いや、この艦に関しての全権はリツコに一任しているから」

 

 あたしがそう言うと、リツコが理由を語る。

 

「Lilin通常稼働による艦長職はMAGIを頼りながらも操舵をこなさなければならないのよ。私はどちらかと言えば研究職という立場でこの艦に携わっていたいの、常時ブリッチ勤務ではそれがままならない。だからあなたに艦長を任せ、私はサブに付くことでその時間を作ろうと思ったわけ」

「いや、ちょっと待てよ!?」

「カガリ、どうかしら?」

 

 リツコの提案に否はない、即座に頷いて見せれば尽かさず、ラスティーの口から即答かよ!? というツッコミが吐き出された。

 

「待て待て……そうだ、俺は元ザフトだぞ!」

「この宇宙が終わろうとしているのに今更ザフトに寝返るつもりもないでしょう?」

 

 そこに関してはあたしも信頼しているので理由にはならない。

 

「けどよ!?」

 

 意外と足掻くラスティーにリツコから最後通達がなされた。

 

「四の五の言わずやりなさい。これ以上駄々を捏ねるならあんたの素っ裸動画がMAGIを介してネット上に流出させるわよ」

 

 もちろん、ラスティーは涙交じりの笑顔でこれを承諾、さっそくLilinの次の目的地までの移動を操作訓練と称して行うようである。

 

 

 

 腹を括ったのかラスティーはリツコ指導で移動を開始、そんな彼女らにあたしは純粋な質問を述べた。

 

「それで、次の目的地はどこなんだ?」

「あら、一番に報告しなければいけない案件を忘れていたようね。目的地は宇宙開発機構GGGの衛星基地―――オービットベースよ」

 

 ゾンダリアン壊滅後、機界31原種の到来によって地球にある基地が壊滅されたのは誰もが知るところだ。けれど、宇宙に基地があることは知らなかった。あの組織にはプログラミングの天才が在籍していて、あたし達の組織でも容易に情報を手に入れられなかったのだが、よもや新基地を極秘に開発していようとは思わなかった。ちなみにデータを採取できなかった時のリツコは子供に見せられない顔を浮かべて――あたしでも少し泣きそうになるくらいだから相当だ――呪詛の言葉を口から吐き出していた。

 その後、逆探知され情報を奪取されそうになった時は親の敵を目の前にしたような顔を浮かべていたが、きっちり撃退したようだ。勝ち誇ったあの高笑いは忘れられない思い出の一つである。

 

「場所は?」

「地球軌道上よ」

「目と鼻の先で誰にも知られず作り出すなんて凄いな」

 

 素直に感心していると今まで黙っていたカヲルが真剣な表情で口を開いた。

 

「その組織が持つ力は僕ら白き月や黒き月から派生したものじゃない。力を与えた星の生き残り、確か天海護君だったかな? 彼はその魂の波形上リリスの子孫ではないよ」

 

 何を言うかと思えば、カヲルや良子さんは始まりの生命体のはず。それ即ち全てがこの二人から派生したものじゃないのか。

 

「確かに僕らはまだ生命体が存在しないこの宇宙に生まれ、そこから派生していった黒き月は進化しながらその姿を変え、数多の星系で繁栄してきた。けど彼は違うよ、彼の発する緑の力は生命すらも生み出せる言わば僕らと同等の力を持ち合わせているんだ。これは予想でしかないけれど、彼の失われた故郷の惑星には僕らの後に生まれた、僕らと同じような始まりの生命体が生み出され、そこから派生したのが彼なんじゃないかな」

 

 白き月や黒き月の祖と同じ生命体。使徒とは違う存在。

 

「うん、けど根本的な部分は似ていると思うよ。何せ、獅子王凱君は緑の力をその身に宿しているけれど、彼は黒き月の子孫だからね」

 

 けれど、苦労しながらも辛うじて侵入できたGGGデータバンクによれば彼の故郷は失われたとあったはずだ。

 

「そうだね、今となってはそのルーツは知れないだろう。いくら僕でも派生が異なる魂のルーツは調べられないよ」

 

 自嘲的に呟くカヲルにあたしは笑って見せた。

 

「良いじゃないか、彼は今この星で生きている。それに凄いとは思わないか?」

「え?」

「大概の事は知りえるお前が知ることの出来ない事実がある。それってこの世界はまだまだ未知数なことがあるってことだろう?」

「う、うん」

 

 何が言いたいのか理解できないのか曖昧に頷くカヲルの背中を思いっきり叩いて見せれば力が入りすぎたのか前かがみに倒れた。そして顔だけ上げて恨みがましい表情を作る。

 

「酷いよ、カガリ」

「ごめん、ごめん。でさ、何が言いたいかというとだ、わくわくしてこないか?」

「え?」

「お前でも知らない前例が浮上してドキドキしてわくわくしてこないか? あたしなら未知のお笑いが発見されただけでそうなるぞ?」

 

 あたしの言葉に最初ポカンとしていたカヲルだが、少しずつキラキラとした眼差しを持つ少年のような顔つきに代わる。

 

「そうだね、それはきっと素晴らしい出来事なんだ、アダムの僕が知れないこの高揚感は恐怖でもあるし、未知に対する探求心から来るものなのかもしれない、まさしくリリンのようだ」

 

 実に人間らしい感情を抱けたカヲルはもの凄く嬉しそうだ。

 

「僕はまた人に近付ける、カガリと同じようになれるんだ」

「カヲル!!」

「カガリ!!」

 

 お互い抱き合い喜びを噛みしめていれば二つの冷めた視線があたし達を射抜く。一人はリツコ、もう一人は操舵に余裕が出来てきたラスティーのようである。

 

「そこのバカップル、茶番はもう、お終いかしら?」

「何て言うか、うん、取り敢えず爆発しろよ、お前ら」

 

 辛辣な物言いに理由は分からないが怒らせたと理解したあたしとカヲルは素直に謝った、なのに更に視線がきつくなる。

 

「このような状況で謝れると独り身は怒りを覚えるものよ、学んでおきなさい」

「いやホント、日本円で三百円ほどやるから、爆発してくれ」

 

 謝罪は駄目だったらしい。

 

「もういいわ、報告を続けるわよ」

 

 そもそもオービットベースに向かうのはGGGから依頼があったからだ。

 

 内容については到着後教える旨を伝えられ、リツコはカヲルとの協議の結果、その依頼を受けることにしたらしい。それに対しては異を唱えるつもりはないが、依頼内容の詳細を知らされていないのはどこか腑に落ちないところがある。

 

「大丈夫なのか?」

「GGGの大河長官は信用の置ける人柄よ。けど、それとは別に最近になって木星宙域で大規模なエネルギーが確認されているの。そして時を同じくして原種と呼ばれるあれが活発化している、もしかしたらこれに関する依頼ではないか、と私は踏んでいるわ」

「下手な憶測で依頼は出してしまえば信用問題に関わるからの処置か」

 

 聞いていた話と違えば真っ先に不審に繋がるのがこう云った他組織との共闘である。封印戦争時代、GGGとは表向き直接関わってきていない。

 それは向こうも同じで信用に値するものをお互い何一つ持っていないのだ。まして裏では巧みな情報戦を行っていた事実も相まって普段の状況なら依頼したい組織として思いつかないだろう。

 

「ええ、それだけ状況は詰まっているのかしら、依頼内容に関してはその場で拒否する旨を伝えても良いそうよ」

 

 そう言えばアークエンジェルからこの艦に移る時、デュオから面白い情報を貰っていたのを思い出す。

 

 確か、ブライト艦長からの命令でアラスカ行きは一先ず中止されるというものだ。もしかしたらこの状況に通ずるものがあるのかもしれない。

 

「とにかくまずは行ってみないことには情報も与えられないでしょう。虎穴に入らずんば虎児を得ず、よ」

 

 リツコはそう言って締めくくると報告会は終わりを告げた。

 

 

 

 果たしてそれが虎児となるか、それともあたし達の組織にとって邪となるものか、不安を抱きながらもあたし達一行は地球軌道上に浮かぶオービットベースに向かう。

 




 次回 緑の星の子共


 次回も進め、カガリ。


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第三話




 始まります。


 

 地球の軌道上に独特な形、見ようによってはハンマーの形状を思わせる宇宙基地――オービットベースのドックにLilinが誘導される。

 

 無事ドックに固定されたLilinから代表のあたしや副代表のカヲル、艦長としてリツコとその護衛にラスティーという面々が降り立つとスタッフによって指令室に通された。そこで前大戦でカヲルとリツコのみ面識のあるサイボーグ戦士―――獅子王凱の姿や小学生ぐらいの少年―――推測だが、天海護君だろう―――の二人だけに出迎えられる。

 

 依頼した肝心の長官がいなということで露骨にリツコが不審がれば慌てて獅子王凱が口を開いた。

 

「遠路遥々お越しくださり、ありがとうございます…今この基地の代表を務める大河長官はブライト艦長との打ち合わせで遅れております。も、もう少しお待ちください」

 

 明らかに馴れていなさそうな丁寧口調で語る、彼の姿にあたしは思わず微笑ましい気持ちを込めて笑った。

 映像で知る彼はもっと、真面目で熱血漢のような、ぶっちゃけて言えばあたしと似たような猪突猛進のタイプだったように記憶している。そんな彼のたどたどしい丁寧語はオーブの姫として過ごしていたあたしにそっくりだ。きっとあの時周りの人物には酷く滑稽に思われ、内心で笑われていたのだろう。

 もっとも、あたしが浮かべたような笑みではなく、深く蔑んだような笑みだろうが。

 

 あたしが我慢できず笑ってしまい、何か粗相してしまったと思ったのか明らかに焦り気味の獅子王凱を不憫に思ったのか、隣に立つカヲルが柔和な笑みで口を開く。

 

「そんな畏まらなくても構わないよ。君はそんなタイプじゃないのは理解しているから。そうだろう、カガリ?」

 

 あたしが笑いながら頷けば獅子王凱は安堵の表情を浮かべた。それを確認したカヲルは次にリツコに視線を合わせた。

 

「艦長もわざとらしく不審がらないでください。からかうならもっと別の相手にしなければ。彼のような真面目なタイプに駆け引きは向かないですよ」

「そのようね」

 

 リツコはそう言って表情を和らげた。

 

「安心して、先ほどはわざとなの。ごめんなさいね」

 

 リツコはきっと単純にうちのデータを持って行かれた腹いせにからかっただけなのだろう。それを彼に言っても仕方がないので笑みを収めたあたしが今度は口を開く。

 

「うちの艦長がすまなかった。ちょっとからかっただけなんだ。大目に見てくれると助かる。あたしがエバーズ代表の綾波カガリだ、よろしく頼む」

 

 理由を聞かれないうちに手を上げて握手を求めれば彼の血の通わない手がそれを掴んだ。

 

「なるほど、冷たい手だな――」

「すいません」

 

 苦笑しながら謝られ、手を離そうとするのをあたしは力の限り抵抗する。

 

「あの……」

「だが、一度戦いに赴けばこの手は熱を持ち数多の敵を粉砕するのだろう。あたし達が握れないほどの熱を持って」

「…何が言いたいんですか?」

 

 困惑する彼にあたしは笑みを浮かべた。

 

「ん? 別に深い意味はないぞ。ただ、この手で多くの人を守ってきたのだなっと思っただけだ」

「ありがとうございます、この体は誇りですから」

 

 彼らしい満面の笑みに体だけでなく、その心の強さを見せられた気分だ。

 

「体はサイボーグでもその心は誰よりも人間らしく、それで居て体にも負けない強さを宿している……羨ましいくらいに」

 

 あたしの心はそこまで強くない、などと訳もなく内心で愁傷気味になりながら手を離して素直にそう呟く。すると彼は顔を赤くして鼻を掻いて目線をキョロキョロさせている。どうやら照れているようだ。

 

 彼の素直な態度に再び笑いを堪えていると少し焦ったような声を上げる天海護君の声が聞こえてきた。

 

「が、凱兄ちゃん!」

 

 名指しされた彼を始め、あたしやリツコ、ラスティーも視線をそちらに向けた。するとそこではうちのバカヲルが護君を抱き上げたり、下したりして困惑させていた。それを何度か繰り返すと今度は頬を摘まんだり、息が掛るほどの至近距離で見つめたり、とにかく意味不明な行動を繰り返していた。

 

「あの、護が困っているので止めてくれないかな?」

 

 頬を引き攣らせながら獅子王凱が言うとカヲルは意味不明な行動を一応止めるも、その視線は未だ天海護君に向かったままだ。しかし、そこは前大戦を過ごした小学生である、普通なら無言で意味不明な行動をされれば恐怖するのにそれを困惑に留め、しっかりと見つめ返して口を開く。

 

「僕の名前は天海護です」

 

 親の躾のたまものか、はたまた大物なのか、まずは自己紹介を口にするとカヲルも心得たとばかりに口を開いた。

 

「僕はエバーズ副代表の渚カヲルだよ、天海護君」

「あの、どうして僕を抱き上げたり、見つめたりするんですか?」

「それはね、君が僕にとって人間に近づけてくれた尊い子だからだよ」

「えっと…うんと、よく分かりません」

 

 それはそうだ、流石にそれだけじゃ彼に分かるはずもない。

 

「ふふ、これはお礼だよ、天海護君。これから君を悲しませるかもしれないけれど、どうか最後まで真実に目を逸らさないでほしい」

 

 今まで柔和な笑みを浮かべていたカヲルは言って表情を引き締める。そしてその手を護君の胸に押し当て言葉を発した。

 

「君は僕にも知りえない別の場所で生まれた緑の子、その魂が僕には見えない。それはとても凄いことなんだ」

 

 その言葉に護君や獅子王凱君の表情が一瞬にして驚愕に彩られる。護君に至っては驚きを通り越して怯えが含まれていた。

 

「ど、どうして…それを」

「緑の力を有する子、君の力は特別だ」

「ぼ、僕はお父さんとお母さんの子…だよ」

「そうだね、けれど君自身は失われたルーツの最後の子でもある。本来ならこの星とは縁も所縁もない存在だ、違うかい?」

「あ、あ……」

 

 前大戦、彼は自分がこの星の生まれではないことを知ったはず、それでも旨を張ってこの星の子として過ごしてきた強い子だ。けれど、今それが揺らいでいるのはきっとカヲルの言葉だからだろう。

 

 例えあたし達が良子さんの子孫であっても始まりのルーツは結局カヲルである。そんな彼に違うと言われてしまえば、それが真実でしかなく、きっと護君は本能で認めてしまっているのだ。それは幼い彼にとって何とも残酷な仕打ちに見える。現に目の前の獅子王凱は険しい表情で今にもカヲルに飛び掛りそうな気配を醸し出していた。

 飛び出そうと動き出す彼の元に素早く近づいて彼の肩を強引に掴む。例え本気でなくともサイボーグの彼を女のあたしに止められ驚きを見せた彼は、けれどすぐに険しい表情に戻り、今度はあたしを睨みつけてきた。

 

「あいつの、カヲルの真意を見届けてほしい」

 

 真剣な表情を作り、厳かに言葉にすると彼は歯を食いしばって耐えるよう目を瞑る。

 

「あいつは子供を悲しませたままにするような奴じゃない、あたしが、恋人のあたしが保証する。だからもう少しだけ待ってくれ」

 

 獅子王凱の体から力が抜けた。あたしは彼の肩からそっと手を離すと彼らのやり取りに視線を戻す。

 

 怯えながらも護君は口を開いた。

 

「……僕はギャレオンと共にこの星に着ました」

「そう、それで?」

「赤ん坊だったからその頃の記憶はなくて分かりません。でもこの星で育った記憶は大切だから、お父さんやお母さん、皆が大好きだから……あっ」

 

 目に涙を溜めて今にも流れそうな護君に合わせてカヲルはしゃがむと彼を包み込むよう抱き寄せた。そして彼の耳元に語りかける。

 

「君というルーツが僕らのルーツに出会い惹かれあう。それはとても素敵なことで、同時に僕にとってはとても嬉しいことなんだ」

「え、あ、あなたは…」

「この星を愛してくれてありがとう、この星を守ってくれてありがとう。君の魂を君の言葉によって確かに感じさせてもらったよ」

 

 カヲルの全身から淡い光が輝き始めればそれが護君を包み込む。するとそれに呼応するかのよう護君からも緑の輝きが発生し始め、緑と白の輝きが重なり合う。

 

「護の力が戻った!?」

 

 驚きの声を上げる獅子王凱に説明を求めれば、彼が端的に語ってくれた。

 

 曰く、ゾンダリアン劣兵パスダーの消滅以降、あることがきっかけで彼は緑の力を失ったかのように使えなくなったらしい。その後、原種が到来するもその力を発現させることもなく、彼らは機界昇華―――ゾンダリアンのコアを消滅させる行為が出来なかったようだ。機界昇華をしなければゾンダリアンは再び復活するのだから一大事である。

唯一それを行える護君の不調にGGGのスタッフは態度に出さないまでも困り果てていたらしい。感情に機敏な護君はそれに気付いて己の不甲斐なさに嘆きながらも決して顔には出さず何時も笑みを浮かべていようだが、小学生とは思えないくらい聡い子だ。

 

「僕、力が戻って……」

 

 獅子王凱と同じように驚きを見せる護君の頭を優しく撫でたカヲルは既に自身の輝きを止めていた。

 

「君は無意識化の領域、言わば魂から己のルーツを拒絶していた。それが力の発現を妨げていたんだよ」

「そんな…僕はこの力を認めていたのに?」

「でも、君は一度でも思ったことはないかな、この星で生まれていれば、と?」

 

 護君は少し考え込むと控えめに頷いた。

 

「そこから一旦肯定しても、何かの拍子で不満や不安が生まれてしまう。例えば育ててくれた両親を心配させたり、君の同級生たちが無邪気に遊んでいたり、そんな場面を見ると心の奥底でそれが生まれ、積ってしまう。やがてそれが許容範囲を超えて決壊すると無意識化で力の拒絶を促してしまった」

「じゃあ、どうして今、力が?」

 

 その問いにカヲルは赤い眼を細めた。そして自身の雰囲気を一転させる。あたしやリツコは馴れたものだが、ラスティーや獅子王凱、護君はその圧倒的なオーラのようなものに意識を飲み込まれそうになっていた。

 

「僕が君の魂に刻みこませてもらったから。君が別の星のルーツであろうと、この星に受け入れられるべき存在だという証を、この僕自身が、ね」

 

 そう言って護君の頭をまた撫でれば彼の瞳から一粒の涙が零れる。

 

「白き月の祖たる僕が認め、黒き月の祖たる彼女はきっと君のような幼い子が悲しむのを許さないだろう。ならば誰に何を言われようとも、仮にその魂が別のルーツとして何者かに拒否されようとも、緑の星より生れ、この青き星で育った我が子に変わりなく」

 

 カヲルは護君を抱き上げ、真正面に視線を合わせる。

 

「地球人でもあるという事実を持って堂々と胸を張れ、天海護!」

 

 別のルーツの証でもある緑の輝きが最高潮に達しながらも彼は満面の笑みで声を上げる。

 

「はい!!」

 

 それはとても彼の年齢らしい良い子のお返事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後GGG長官の大河氏がやって来て護君の力を目の当たりにして僅かに驚きながらも納得の笑みを浮かべて依頼完了の旨を告げられた。

 どうやら依頼はエバーズというより、カヲル本人に向けられたもののようだ。白き月の祖たる彼ならば失われた力を取り戻せるのでは、と思ったらしい。何故その理由に至ったかと言えば、護君が力を失った原因の心当たりとしてカヲルが関わっていたかもしれないというのだ。

 

 護君は地上のGGGベースが破壊され、このオービットベースに連れてこられた時、何の偶然か、データベースから白き月の祖カヲルの姿を映像として見たようだ。

 ちなみにうちの最重要項目に値するデータなのだが、まんまと抜き取られていたらしい。大河長官からその話が語られた時、リツコの表情がヤバかった。抜き取ったと思われる、見た目は少し無精でありながら天才的なプログラマーにして陰ではハッカーとして有名な猿頭時氏を射殺さんばかりに睨みつけ始めたのだ。可哀そうに彼はメガネを掛けた浅黒い肌の美人さんの後ろに隠れてしまうほど怖かったのだろう。

 話を戻すが、その直後、護君は体を硬直させて意識を失ってしまったようだ。そして、目覚めたときにはその力を使えなくなっていたという。

 

 そこまで経緯が語られるとおもむろにカヲルが口を挟んだ。

 

「僕の姿をデータに残すのはあまりお勧めしないかな。データの海は魂の還る海に良く似ている。もしかしたら要らぬ災厄を招く恐れがあるよ?」

「そのようだな、現に護君は力を失った」

 

 低めの渋い声で大河長官が同意すると猿渡氏に削除を命じた。すぐさま行動に移す猿頭時氏、それを食い入るように見つめるリツコ様、その二人を見ないようにしてカヲルは話を続ける。

 

「僕はこれでもこの星のルーツの一つだからね、きっと映像でも護君の魂に影響を与えてしまったんだ。要は負の蓄積が崩壊するきっかけを与えてしまったことになるのかな。その崩壊が力の拒絶に繋がった」

 

 抱き上げたままの護君にカヲルは笑いかける。エバーズ内で人たらしにも使えるともっぱら評判のカヲルの笑顔で護君は顔を少し赤らめたようだ。

 

「けれどもう大丈夫だよ、護君は僕の子として認めたからね。けど、別に緑の星の自分を捨てる必要はない、それもまた君を君に至らしめる要素だ……そうだね……リリンの言葉にある養子縁組をしたようなものかな」

「僕はカヲル兄ちゃんの子供になったの?」

「ふふ、アダムの子でもあるし、リリスの子でもある。そうなると君は三つのルーツに見守られた子になるのか……ん?」

 

 それって凄いな、なんて小さく呟きながら、あたしは二人の心温まるやり取りを眺めていると、カヲルの奴は主にGGGのスタッフを凍らせる爆弾発言を噛ましやがった。

 

「さっきからギャレオンに宿る護君の実の父親が、息子をかどわかすなって煩いんだけど、どうにかならないかな?」

「え?」

 

 護君がキョトンとする。

 

「はあ!?」

 

 これは獅子王凱の驚き。

 

 その他、大河長官を始めその場にいたスタッフが表情を凍らせて言葉を失くす。そんな中、カヲルだけが誰もいない宙に向かって会話を重ねていた。

 

「え? ……まだこの時点では知らされていないって? こっちこそ知らないよ、君の予定なんて……もっと感動的に再開したかった? そんなの僕には関係ないじゃないか……さっきからラティオ、ラティオって煩いよ、誰の事だい……ああ、護君のもう一つの名前なのか……いや、君が教えてきたんだろう、どうして僕がバラした形になるんだい」

 

 あたし達には見えないが、カヲルの視線の先にはどうやら血の繋がった護君の父親がいるらしい。カヲルはぶつぶつと呟いて空中に向かって一つ頷くとあたし達の方向に視線を向けた。そしてあまり浮かべないへらりとした笑みを作り、口を開く。

 

「今の無かったことにしてくれるかな、今後護君の父親が出てきたら壮大に驚いて上げてほしい」

 

 

 

 今更身も蓋もない提案を、それでもカヲルが「彼は号泣だよ、不憫だね」という言葉を更に付け加えられて受け入れるしかなかった。

 




 今年中に何とか一話投稿できました。



 次回 人形とクロスゲート


 次回も早めに投稿出来たらいいなぁ、カガリ!!


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第四話

始まります。


 広大な銀河、その半分ほどを支柱に収める惑星バルマー。

 

 その惑星の中心都市に建つ巨大な神殿―――。

 厳かな雰囲気を醸し出すその神殿内の中央部に謁見の間と呼ばれている場所があった。

 

 バルマーの国民から霊帝と称され、畏怖の象徴として君利する金髪の少年が一段高い場所から部下を見下ろす形で佇んでいた。

 

 部下―――仮面の男とどこか高圧的な赤髪の女性が霊帝に一礼すると定例報告を行われる。

 

「既に辺境銀河方面監査軍総司令ハザル・ゴッツォは地球圏に現れたクロスゲートを占拠することに成功致しました。今後はゲートを守備しつつ部隊を展開、地球の勢力との戦闘を開始させます、尚、侵攻の任に当たるのはバルマーに深い忠誠心を持つエペソ・ジュッデカ・ゴッツォに当たらせるつもりでおります」

 

 仮面の男―――シヴァ・ゴッツォの後を引き継ぐように赤髪の女性―――エツィーラ・トーラが続ける。

 

「同時に地球の技術力及び資源の搾取にも着手するつもりです。偵察機の増強は既に終え各区域に飛ばし、工作員の地球組織内部に潜り込ませることにも成功。全てが終わった暁には再びバック・クランとの戦にも赴けましょう」

 

 報告を終えてシヴァ、エツィーラの両名が深々と頭を垂れれば今まで沈黙していた霊帝―――ルアフ・ガンエデンが口を開いた。

 

「報告、大義であった。これより僕は神霊の間にて瞑想を開始するつもりだ。後の事は帝国宰相シヴァに一任する。次に瞑想から覚めた時の報告を楽しみにしているよ。下がれ」

 

 表情を一切変えず何処か機械的な言動で告げられるも部下の二人は黙って玉座の間から辞した。

 

 一人残ったルアフは大きく息を吐き出すと先ほどの無表情から一転情けなさを前面にだしたような表情を浮かべた。

 

「まったく、あの仮面は謀反を隠すには打って付けだな。ハザルも哀れなものだ、己の出生も知らず実の父親と慕うもその父親は駒としてしか考えていない。いや、それは僕も一緒か……むしろこの玉座にしがみ付く僕は哀れみではなく滑稽がお似合いだ」

 

 血のつながりも無い人口サイコドライバーのハザル・ゴッツォとこのバルマーを真の意味で支配する始まりのサイコドライバーが作り出した人形ルアフ・ガンエデン。

 

 どちらも同じく作り出されたという意味では一緒だが、その役目は大きく異なる。

 

 片方のハザルはシヴァの悲願―――偽りを消し去り玉座奪還成就の礎に、もう片方のルアフは完全に道化でしかない。

 

 ルアフは玉座の隣、何も無い空間に視線を向けると誰にも見せたことの無い泣きそうな表情で口を開いた。

 

「僕は目覚めるのが遅すぎた、いや、本来目覚めるのは僕では無い僕だったはずだ」

 

 自嘲気味な言葉を吐きだしながら、未だ何も無い空間を見つめ淡い笑みを浮かべた。

 

「何もかも中途半端な存在でしかない僕に何の価値があるのかな………でも、安心してよ、絶対君には危険を及ぼさないから」

 

 そう告げた次の瞬間、何も無いその場所から淡い光りが放たれる。その光は人型に形作られ、やがて人間の少女と思わしき人物を作り出した。

 

 少女は淡い笑みをルアフに向けたていた。

 

「せめて君の肉体があれば僕もこの苦痛を和らげられるのに……」

 

 その言葉に少女は緩く横に首を振った。

 

「うん、分かっているよ、言ってみただけ。むしろこの場所では好都合だろう。その姿なら全ての元凶―――真の霊帝にも気づかれにくいし、下手に肉体を持てばシヴァ達に見つかって言い訳が立たない、僕の権威などこの頃には失墜しているようなものだからね。所詮張りぼての霊帝さ」

 

 少女は何事か話すように口を動かし、ふわりとルアフに近づくと金髪の頭を撫で始めた。

 ルアフはそれを甘んじて受け入れる様に瞳を閉じる。

 

「うん、僕は僕だったね。君のおかげで僕は人間だった頃を思い出した。僕はただのバルマー星人として生きていた過去を持ちながらも君と同じ魂を持つ地球人だよ」

 

 次いで懇願するかのようその透けた手に己の手を重ね言葉を紡ぐ。

 

「だからどうか、君はいなくならないで、卓巳」

 

 タクミと言う名前で呼ばれた少女は力強く頷き、何事かを喋るとその姿を空気のように溶かし消え去った。

 

 卓巳の言葉を聞き終えたルアフは本来の目的通り、瞑想の行われる間に向けて歩き出す。

 

「うん、忘れないさ、僕はルアフという過去を持つ卓巳の双子の兄―――綾森卓磨だ」

 

 小さく、それで居て己を力強く肯定するかのような口調で呟くと後の玉座には誰もいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ><><><><

 

 

 

 

 依頼料の確認及びGGGの好意で行われる補給終了までの時間をオービットベース内部の客室で過ごすあたし達は獅子王凱の恋人である卯都木命の淹れてくれた紅茶を飲みながら、同じく滞在中のブライト艦長と今後の話をしていた。

 

「やはり木星付近で観測された未知のエネルギーは今後の戦いに作用するものだと艦長は判断しているんだな?」

「そうだ、カガリ。だからこそ今宇宙での主力となる彼女らアークエンジェルを呼び寄せている。同時に木星付近での原種活性化は連邦としても見過ごせない。何よりあの宙域はその先に出現したクロスゲートのことも含めて必要な航路でもある」

 

 ブライト艦長は長年の勘と称してこの戦いにクロスゲートが深く関わっていることを匂わせる。艦長としてはエバーズの持つ情報を少しでも引きだしたいのだろう、それを無下にするほどあたしは鬼では無い。

 

 あたしはカヲルに目配せすると心得たように頷かれた。

 

「そうだね、あれは確かに今後重要になって来る代物だよ。あれはこちらの武器になると同時に地球圏に危機を運ぶ諸刃の武器でもある。太古の昔ガンエデンと同時期に作り上げた異なる星系を一瞬にして安全に渡れる航路のようなものだ」

「入口があれば出口がある。なるほど、正しく諸刃だな」

「それだけじゃない、あれの動力は当時でも画期的なものが使われたんだ。それ故にもしかしたら他の星系だけでなく、世界すらも跨ぐことが出来るかもしれないんだよ。ここでの世界とはあのシュウ・シラカワが生まれた異世界とも違うもの、極めて近く限りない遠い世界のことだよ」

 

 もしもあたしがエバに乗らない世界、もしもこの世界で生きたレイとは違うレイがいる世界、そんなifの世界のことをカヲルは言っているのだろう。

 

「その動力は何だったんだ?」

 

 その質問は最もで、当時聞かされたあたしも驚いたものだ。

 

「その当時は名も付けられていなかったけど、あれは正しくこの宇宙を作り出し、支える力―――無限力だよ」

「な!?」

「当時、その力の存在と運用の仕方は理解出来ても、その力の本質にまでは及ばなかった。故に古代リリンは扱うことを決定したんだ。もしもその本質―――宇宙創造の力だと理解できていれば今この世界でクロスゲートは現れていないはずだよ。そうだろう、無限力は僕らルーツですら扱いかねる力だ、その力を扱ったゲートなんて終焉を近づけさせる格好の入口でしかない。つまり己の首を絞める様なことを当時のリリンは遂行したんだ。ガンエデンという盾が無かったら今の世界はどうなっていたか……」

 

 繰り返される終焉は等しく世界に注がれるが、クロスゲートの完成運用によって少ないながらも存在した猶予を縮める結果になったとそれを見てきたカヲルは言う。

 

「ならば一刻も早く破壊すれば……」

「無駄だよ、あれの本体は僕でも容易に辿りつけない無限力の中に、今現れているものは所詮イミテーションだ。仮に破壊することが出来てもすぐに次のイミテーションが現れるだけだ」

「やはり我々人類は問題を一つ一つ解決していかなければならないのか」

「そしてそれを出来るのがリリンなのだと僕は思うよ。大丈夫、君たちは二度の対戦と何より重力波で壊滅した未来を変えた歴戦の戦士だ、今回も必ず終焉を変えられる」

「君に言われると何だか出来る様な気がしてくるな」

 

 あたしもそう思う。今回の戦いでは彼らαナンバーズ同様カヲルやレイ、良子さんの存在も現状を打破するカギになっているような気がするのだ。

 

「それで、ブライト艦長は私達エバーズにどう言った依頼を求めているんだ?」

 

 あたし達を補給で足止めしているのは最初から理解していた。情報を引き出す目的もあっただろうが、それだけでは無いだろうとあたしは踏んでいる。

 

 案の定ブライト艦長は僅かに驚きを見せ、苦笑を浮かべた。

 

「話が早くて助かる。依頼は二つ、一つはその他の組織に働きかけているが、今連邦に巣くう組織に圧力をかけて貰いたい」

 

 ブルーコスモスか、それならば家も必要としているので否はない。だが……。

 

「残念ながら家の母体―――まどろっこしいから言ってしまうが、ゼーレは当時の様な影響力を残していないことを理解してほしい」

「了解した。あくまで圧力だからな、それで止まるとはこちらも思ってはいない。あくまで動きを鈍らせれば御の字と言ったところだな」

「こちらも了解した。代表としてその依頼受諾しよう。それでもう一つの依頼は?」

 

 あたしが問いかけた直後警戒を促すサイレンが鳴り響く。次いで客室の扉が開き、珍しく焦り気味のアムロ大尉が入って来た。

 

「ブライト、不味いことになったぞ。アークエンジェルが到着した途端オービットベースが原種によって囲まれたようだ。同時に原種の一部が内部に侵入してここの動力室に向かったとの知らせが入った。今は大河長官の指揮の元、外の敵に対する展開と中の白兵戦を展開している」

「やはりここを狙ってきたか……大河長官の予想は正しかったようだな。もう一つの依頼は君達にオービットベースの護衛を依頼したかったんだが、敵の行動は思っていた以上に早かったようだ」

 

 ブライト艦長はそう言って立ちあがるとすぐにアムロ大尉と共に客室を後にする。

 

 それを見送る形となった私達は今後のことも含めて一度母艦に戻ることにした。

 

 

 カヲルに促され、椅子から立ち上がった瞬間、あたしの視界が暗転する。

 

 

 一面真黒な空間に私は立っていた。

 

「ここは……あのディラックの海に似ているな」

 

 あたしの言に答えるように煌びやかな粒子が突然出現して形を為していく。

 

 それは人の形を作り出して懐かしくも少し寂しさを滲ませる存在を生み出した。

 

「……良子さん」

 

 レイの中に存在した人の奥さんにしてカヲルと対を為すルーツ―――リリスが良子という人間の形で目の前に現れた。

 

「フン、あの人の望みで無ければ姿まで現れるつもりは無かったのよ。まあ、でも久しぶりね、別に私は会いたくなかったけど、それはあんたも同じでしょう?」

「そんなこと―」

「無いとは言わせないわよ、あんたが真に望んだのはあの人なのだから」

 

 どうやら完全にその身の内を見透かされていたらしい。確かにあたしはレイの出現を待っていた。前は声だけしか聞こえなかったのだから尚更だ。

 

「悪いけど、いえ、悪いと思っていないけど、あの人は来れないわ」

 

 その言葉に嫌な想像が脳裏に浮かび上がる。

 

「まさか!?」

「勘違いしないで、今のとこ封印は完璧よ、今はあのマダオと将棋でも打っているわ」

 

 力強い否定に安堵の表情を見せれば良子さんはフンっと鼻で笑った。

 

「人為的に結ばれた姉妹のくせにまだその絆を大事にするのね」

「それだけレイの奴が魅力的なんだよ。良子さんにとってもそうだから結婚したんだろう?」

「その割には未だ本名で呼ばないのね、後、当たり前の事を聞かないでちょうだい、時間の無駄よ」

「あたしにとってあの人の魂が込められた妹のレイこそが真実だからな。今後もあの人をレイと呼ばせて貰うよ。それに別の女があの人の名を呼びながら親しくすれば良子さんは嫌だろう?」

「それこそ愚問と言うものよ」

 

 バッサリとあたしの問いは切り捨てらると、時間が無いのか早速この場に現れた理由を語りだした。

 

「一度の襲撃で理解しているとは思うけどアカシックレコードによって復活した白き月がこれからもあんたの前に現れるわ。理由はあの人が言った通り、アダムを縛っている元凶だから」

 

 ここまでは夢に出たレイの言葉とあたしやカヲルの予測通りである。

 

「次にどうやら死海文書に記された欠番の使徒も現れる可能性が出てきたこと。それにも警戒しなさい。残っている欠番は三体で、どれも一筋縄ではいかない奴らだし、例によってアカシックレコードの恩恵から強化されているはずよ」

 

 言葉は悪いが一応心配をしてくれているらしい。それを指摘すれば見る見る顔を真っ赤に染め上げてあたしに対する罵倒が降り注ぐ。

 

 一通りの罵倒を甘んじて受け終えると本題は佳境に入った。

 

「良いこと、絶対にアダムを白き月に奪われては駄目よ。幾ら私やあの人でもアダムまでガブに連れてこられたら封印は破られてこの世界が補完されるわ。それも僅かとは言え知恵を付けた白き月の思い通りの補完が遂行されてしまう」

「それを阻止する為には使徒を全て破壊する必要があるわけだな」

「救いと言えば向こうからやって来ると言うことだけ、何時現れるかは流石の私でも直前まで分からないわ。最初に現れたあの時は運が良かったに過ぎないことを覚えておきなさい」

 

 言い終えると良子さんの体が少しずつ消えていく。

 

「最後に終焉はこれからあなた達の目に見える形で現れるわよ。現にもっとも厄介なSTMCが再びこの星を目指してやって来ている。今は気の遠くなるほど離れた宙域に集結している状態だけど時間は限られているわ。まあ、逆を言えば残されていると言ってもいい」

「宇宙怪獣が……」

「それに合わせてあの男も動き出しているけれど、微々たるもので今は何もしなくても構わないわ。ゲベルは全てを見極めた直後、あなた達の前に現れるはずよ。昔から慎重すぎる性格を……言ってしまえば弱虫なの。ホント負の無限力を手にしてもそれは変わらないなんてある意味情けないわ」

「……霊帝を弱虫発言」

「事実よ、あの頃のあいつを見せてやりたいわ。小さい頃は何時もナシムの後ろに隠れていたんだから」

 

 あの髭がナシム―――多分綺麗な女性だろう、の後ろに………シュール過ぎて笑えない。

 

「時間ね、先に言っておくけど今後こういった形であっても姿を現わせないわ。封印の近くならまだしも宇宙では遠すぎるのよ。距離が離れればそれだけ封印に綻びが生じやすくなる。だからあなた達人間はその時その時の選択を自分たちで決断して未来に進んで行きなさい。それこそが正しい世界の在り方よ」

 

 既に良子さんは殆どその姿を消滅させていたが、それでも最後、その瞳があたしを捉えると何とも形容しがたい感情が伴った視線を寄こしてきた。

 

「ああ、そうだ、これは私から小娘に送る忠告よ。あのアダムを――カヲルを信用し過ぎるのはよしなさい、でないと手痛い裏切りに合うわよ」

 

 そんな不穏な言葉を残して良子さんはその空間から消えた。時を同じくしてあたしもその空間から解放されるかのように意識を失った。

 

 

 

 




 ギャグが……ないです。

 次回 欠番の使徒


 次回も早めに投稿……出来るかな……カガリ!!


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