せっかくファンタジー世界に転生したのだから、楽しく生きたい (オルトって美味しいのかな?)
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TSしたのなら仕方ない、楽しもう!

思いついたから、書いた。
続くかわからん。


 

 転生したら、ファンタジーな世界だった。

 魔法と魔術が当たり前のように有る世界。

 神様やその神使が存在する世界。

 魔物や巨人、ドラゴンも居る。

 ワクワクする、ドキドキする、剣と魔法(魔術)の世界にどう関ろうか? 

 前世と違う性別に生まれた事も別に悲観するべき事では無い、男と性交するとどう感じるのだろう?妊娠する感覚とはどんなの?出産する時は?興味が尽きないが、中身はいまだに極々普通の男性である自分では、男との恋愛は厳しいからどうにかしないとな。

 

 前世とは、あまりにもかけ離れた世界に感謝する。

 実際に会った事は無いが、オーディンを始めとした神々の名やドラゴン、巨人に小人etc...の存在を良く聞く事からここが北欧神話の世界であるというのは疑う余地は無い。

 

 

 あがってきた!

 

 この神話の世界で!死が身近な世界で!どこまで自分という存在を神話に刻み込めるのかが!

 その為に、全てを鍛えよう。

 魔術師だと言う母に魔術を習うのが楽しい!戦士だと言う父に、身体の鍛え方や武具の扱い方を習うのが楽しい!

 初めて魔術回路を起動した時には、その痛みに泣きわめく事は無かったが、涙がでた。

 基礎的な魔術とルーン文字を習う、前世で空想の中にのみに存在する物を学び、実際に使用できることに最高に興奮する。 

 父の鍛錬を見て驚愕する、特に魔術を使っている訳でも、魔術を付与されている装備を使っている訳でも無いのに、俊敏さや跳躍力、パワーはまるで特撮ヒーローかのようだった。

 自分は父のように成れるかと不安になったが、ちゃんとした鍛錬を続ければ近い事はできるようになると言ってくれたし、女の身と男の身では違いが大きいから全く同じには成れないと誤魔化す事無く伝えてくれたから信用できた。 

 

 魔術を習い、身体を鍛え、武術を学ぶ日々は実に充実していた。

 魔術を習い、身体を鍛える事は苦痛を伴ったけど、それに不思議と忌避感は無い。

 痛みも、苦痛も好ましい事は無い、だけどそれは確かな自分の糧となっていることなのだから、決して忌避する事では無いかった。

 そんな日々を繰り返す事、十年と少し、ある日人生の転機が訪れる。

 

 その日は休養日に当てられていた、魔術の事も武術の事も忘れて好きに過ごす日。

 そういう訳で、自分も成人が近い年齢というのもあり将来の事も考える。

 将来の夢と問われればそれは竜殺し(ドラゴンスレイ)である。あらゆる生物の頂点、最強の生命体であるドラゴン、その打倒が自分の目標であり夢だ。

 いやだって、勝てる勝てないの話は脇に置いて、ドラゴンと対峙する自分を想像すると顔がにやけてくる、だってそれって最高に浪漫じゃないか。

 と、これは個人的な趣味の話だ、いくらファンタジーな世界だからといって、ドラゴンを倒したいから探して、そんなにホイホイと簡単にドラゴンが見つかるはずが無い。

 だが夢を追うにはどの時代、どの世界も恐らく一緒で、世知辛いかなお金がいる。

 各地を巡る為の路銀を稼ぐ必要が有るから、職に就くなら傭兵家業かな?どこかしらで戦が有る世界だ、傭兵という職業も有るだろう。

 そして、一番大事な事で一番頭を悩ませている事が有る……旦那探しだ。

 

 それというのも、先日、母から魔術に関しては自分から教える事はもう無いと言われ、魔術師の一族の家宝である魔術刻印を授けてくれた。魔術刻印とは魔術師の一族が代々と受け継いでいく物で(ごめんなさい、ウナギのタレと同じかと思った)、その一族にとっての研究成果だ、そう自分はバトンを受け取った、なら今度は自分がバトンを渡さなくてはならない、ならないのだけど……

 どうにも男性と交わるの無理というか、考えられない。

 別に男が嫌いだとかという訳では無いし、普通に好ましいと思う男性もいたけど性交してもいいかと問われれば否だ、なんというか口にした事はないけど生理的に無理というやつ。

 性交・妊娠・出産という前世の男では体験出来なかった事に興味が有るし、男性が嫌いという訳でも無い、ただ単に身体がやる気にならない。

 まぁ、偶々だ。

 偶々、この町の男性諸君には失礼だけど、自分の性的に好みの男性が居なかっただけだと思うから……

 世界は広いんだ、きっとティンと来るような男性や、こいつの子共なら産んでもいいって思えるような出会いがきっと有る。

 と、自分の将来設計を思案していると、母に呼ばれた。

 

 なんでも、今晩は肉が食べたいと父が言ったそうなのだが、家の備蓄の肉をきらしてしまっていたらしい。そこで、休養日を言い渡してはいるが、暇をしているなら山で食肉になる獣を狩って来て欲しいとの事。

 渡りに船とはこの事、将来設計を思案していたとは言え、これまでに何度も同じ事を考えていて良案が浮かばないのだ、気分転換がてらに山で鹿を狩に行くのもいいだろう。

 母に頷き、自分愛用の槍を片手に山に出る。

 

 鹿と一言に言っても、流石はファンタジーな世界、自分が前世で知っていた鹿とまるで違う、例えるならばサラブレッドとバンエイ馬位違う。*1一匹狩るだけで三人家族なら暫く楽しめるだろう大きさなのだ。

 

 

 そんな訳で、サクッと狩って来た鹿だけど。

 自分が小柄な事も有って、巨体な鹿を担ぐと埋もれてしまい、前が見えなくなってしまう。

 だから、時間が多少掛かってしまうけどその場で解体する事にした。

 いつもの個体より大きかったから、更に時間が掛かってしまい、急いで帰路に就く。

 山を下りる最中、地響きがした、それは地震では無い事はすぐに理解できた。

 何故なら、ズシン、ズシンとまるで何かが足音の代わりに鳴らしているから。

 それは、小さな茶色い山かと思うくらいの大きさだ。

 町の方から来たそれは、身体中に傷や攻撃魔術の痕跡を残している。

 何か大勢と戦って来た後であろうそれは、いまだに興奮状態を維持している、

 それと目が合った、それは山の様な大きさのイノシシだ。

 イノシシは自分を認識すると、突進してきた。

 山の様な巨体に似合わず、とてつもない速度で突っ込んで来た、それを咄嗟に肉体強化を施し避ける。

 避ける際に、すれ違いざまに槍で一突き足を刺そうとしたら弾かれた。

 とてつもない毛と皮膚の硬さだ、普通の方法で刺す事はまず難しいだろう。

 ならばと、魔術刻印を起動する。

 我が家の魔術刻印は様々な効果を有するが、その中でも特徴的かつとても便利な機能が有る。

 それは、自身が魔力を通せる物に魔力でルーンを刻印し、好きな時にそれを消せるという機能。

 それを使い、手に持つ槍の穂先にルーンを刻印する。

 貫通の意味を持つルーンを刻む、硬い相手にはこれがまず最初に思い浮かぶ。

 木々をなぎ払いUターンしてきたイノシシを避けようとしたら、イノシシが笑みを浮かべたような表情をした。

 急ブレーキを掛けその巨体は自分のすぐそばに止まると、両足を大きく浮かべると地面に振り落とした。

 地震が起きた、思わず尻餅をついてしまう、それが致命的な隙を生んでしまう。

 立ち上がろうとしたその時、目の前には自分より遥かに大きなイノシシの頭が有った。

 咄嗟に槍を突き刺す、毛と皮膚は貫通できたがそれよりも強固な頭蓋骨には文字通り刃が立たない。

 逆に怒りを買い、強烈な頭突きをくらい華奢な自分の身体は吹き飛ばされた。

 同時に、傷を与えた事により流れた血が目にでも入ったのだろう、イノシシが足を止めた。

 最初で最後のチャンスが訪れた。

 逃げる事は恐らく叶わない、自分が負ったダメージは甚大で相当な幸運でも無ければ、回復したイノシシに追いつかれて殺されるだろう。

 それに、逃走など性に合わない。

 逃走の上での死よりも、強大な存在に立ち向かっての死を、だってその方がカッコイイだろう。

 全力全開!今、自分に出来る全てを使い目の前の脅威に打ち勝つ!

 

 「大神よ、貴方様を真似るのをどうか許したまえ」

 

 集中力を高め、トランス状態に入るための呪文を唱える。

 自分は魔術の徒であり、槍を持つ戦士である。

 ならば、大神であるオーディンに習い、それを模倣するのが魔術を学ぶにしろ槍を扱うにしろ最適なのだ。

 

 「強大なる巨大魔猪よ……」

 「お前に相応しいルーンは決まった!」

 

 「鋼の如き硬さの肉体に負けない、鋼鉄より更に硬い金属」

 

 頑強のルーンが、穂先に刻印される。

 

 「あらゆる防御、加護を貫く」

 

 貫通のルーンが、穂先に刻印される。

 

 「そして、絶対に狙いは外しはしない」

 

 必中のルーンが、穂先に刻印される。

 

 三つのルーンが刻印され、魔力が流れた槍は脈動した。

 今か、今かと放たれるのを待っていた。

 

 「貫け、ガングニール!」

 

 全力の投擲、大神オーディンの持つ象徴的な槍、グングニールを模したガングニールは真っすぐに一直線に自分が最初に付けた傷に吸い込まれるように飛んで行った。

 そして槍は命中して、魔猪は……魔猪は……

 元気に暴れまわっていた、いや大分苦しんでいるから大ダメージは与えているんだろうけど……

 

 「いや、そこは倒れていてよ!」

 

 仕方ないので、暴れている魔猪に近づいて、強化した拳で槍を殴って押し込む。

 それでようやく、魔猪は絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぇえ、槍が深く刺さって抜けないよぉ」

*1
そりゃね、鹿じゃないものトナカイだもん




かっこいいよね黒き風の魔銃。


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私これからバカな事をします、これで死んだら大バカ者と笑って下さい

衝動的に書くのってやっぱり難しいっすね。
プロット作れって話なんですけどね。


 

 穴があったら入りたいと言うのは正にこの事。

 あれだけ、大見得を切って、自分の考えていたカッコイイ必殺技をぶっ放したのにそれが決め技にならないとか……

 締まらなすぎる……

 まぁ、くよくよしても仕方ない。

 むしろ感謝しなくてはならない。

 自分が、あらゆる面で足りないという事が理解できた。

 こんな事では竜殺しなぞ、夢のまた夢。

 修練あるのみ、幸いまだ成長期は終わっていない、まだまだ先はあるはずだ。

 

 

 なんとか巨大魔猪から槍を引っこ抜き、改めてそれを観察する。

 色々言いたい事はあるが、どうしてコイツの牙は金属なの?

 牙なんて当たるとアウトなのはわかりきっていたから、躱す事しか考えていなかったけど、マジマジと観察していなかった。

 が、手触りといい槍で突いた感触といい、絶対金属だ、何を食べたらそうなるんだ。

 せっかくだから、一部をお持ち帰りして何かしらの素材にしよう。

 

 

 自分の故郷の成れの果てを見る。

 先日まで活気のあった町も、今では見る影も無い。

 帰路の最中に想像していた事だ、衝撃は無い、自分と戦った魔猪は満身創痍には程遠くても全身に傷を負っていた、何よりも自分が帰る路から現れたのだ、そりゃそうだと言う感想だ。

 あの魔猪は町を襲ったのだ、そして町の戦士や魔術師と戦ったのは間違いない、でもだとしたらあの魔猪のダメージ量が少なすぎるし、町の人口から考えると遺体の数が少なすぎる。

 成程、非戦闘員を町から逃がしたのか、そう考えると納得できる、護衛もそれなりに要るだろうし、そう考えると納得ができる。

 

 自宅への帰路の最中に、戦いの跡を何となく観察すると、武器が無いという事実に気が付く。

 正確には、槍や剣で言う所の穂先や刀身のみが無くなっていた事から、前世の常識では考えられない事を考え付いた、あの魔猪にとって金属が餌だったのだろう、だとしたら、あの硬い身体と牙にも理解が及ぶ。

 

 前世の常識が通用しない世界に来たなと、常々思っていたけど、こういう発見をすると、自分がまだまだ前世の常識に囚われていることを痛感する。転生して十数年も経って、この世界に馴染んだなと思っていたが、まだまだだったようだ。何かしらの方法で殻を破らないと、この世界で名を残すなんて夢のまた夢だ。

 

 そんな事を考えていると、あっという間に自宅に到着した。

 半ば覚悟していた事だけど、当然のように父と母の出迎えは無い。

 

「すぅーはぁー」

 

 深呼吸を一度。

 覚悟はしていた、あの人達の事は十数年だが毎日接していたから、どういう人達なのかは理解している。

 父は戦士であり、母は魔術師、両者とも違いはあれど、普段から死を覚悟している点では同一だ。

 父はその職務を果たし、母は魔術刻印を自分に継承した時点である種の役割を終えていたから、父と共に逝く事を選ぶのは容易に想像できた。

 自分が帰宅するのは、分かっているはずなのに、出迎えが無い時点で、どういう事なのかを察する。

 色々な事がこみ上げてくるのに、不思議な事に涙は流れない。

 

 町中の形を残している遺体を集め、埋葬する。

 残念ながら両親の遺体は見つからなかった、代わりに見つけた父の剣と母の杖を埋めた。

 

 それから、再び実家に戻って、地下室の魔術工房に入って価値のある魔術礼装と貴金属や金銭的価値のある物品を持ち出す。

 自分はここに留まらない。

 自分はこの町を復興しない。

 ここに留まってしまえば、自分は停滞してしまう。

 それは、父と母、そして自分が望むべきものでは無いと思う。

 考え方を反転させる、決して今日この日は忌むべき日では無い。

 今日この日は、自分がこの町から旅立つ祝日となる日なのだ。

 そう考えた方がきっと素敵。

 両親を亡くした日と思うより、生まれた町から自分が旅立つ日なのだと記念するべき日。

 これはきっかけなのだ、悲しむべき日では無い。

 新たな門出。

 そう夢想する事で、両親の死を悲しむという傷むべき日から、新たな自分への門出とする日にへと変換する。

 

 まずは小人が居るとされる、北部へ。

 採取した魔猪の金属の如き牙の精密加工は自分では不可能、加工技術に秀でた小人の技能が要る。

 そして、その最中にあると噂される、人界の世界樹と言わる大樹の観察が目的だ。

 流石に、本物の世界樹であるはずは無い。

 本物の世界樹はこの北欧世界の要、あるいは北欧世界を内包する宇宙そのもの。

 そんな物が、人界に有るはずが無い。

 だがそんな事は、北欧世界に居る人には周知の事実。

 そうでありながら、そう称されるのには理由があるはず。

 自分は魔術の徒にして、槍を持つ者、北欧にて最大の魔術神を模倣する者。

 そんな自分にとって、世界樹という存在の重要性は語る必要は無いだろう。

 オーディンは嘗て、世界樹に首を吊り、槍で串刺しにして、魔術の神である自分自身に自身を生贄とする事でルーンの秘密、ルーンの深奥、すなわち原初のルーンを知った。

 これもまた北欧世界では周知の事実だ、だが何故、そうなったのかを考察する人や神は居ない。

 オーディンは、北欧世界では最大の魔術師の名であり神の名、すなわち魔術神である。そんな存在が、自分を生贄にする事でしか得られれない知識とは、そもそも、そんな苦行をしなくても最初から知っているのでは……と考察を続けて、ある一つの仮説を思い浮かべる。

 

 そして、実際に人界の世界樹と言われる大樹を見て、その仮説を検証しようと決心した。

 確かに、この大樹は人界の世界樹と称される事はあるだけはある、それ程の大きさのトリネコ木だ。 

 これを見て、自分の内側からインスピレーションが沸々と湧きだしてくる。衝動的に、そうしろと命じてくるかのように、その衝動に自分は抗う事をせずに準備を始めた。

 

 「人払い、獣払い、魔物払いの結界良し!縄の魔術措置良し!槍の魔術措置良し!自分自身への蘇生・回復魔術の予約措置良し!ふぅ、失敗したら母に叱られるな」

 

 大樹の枝の上で、縄を首にかけて、槍を手にして準備完了。

 ぴょい!と枝から飛び降り、降りきった瞬間に、槍を自分に突き刺す。

 その瞬間、この儀式は成り立った。

 

 

 その儀式を遠くから見ていた隻眼の老魔術師は、口角を上げて笑う。

 

 「ふむ、まさかあの儀式を真似する大バカ者が現れるとはな。問わねばなるまい、何を見て、何を得たのかを」




今まで、主人公の名前出てこない事に気が付いた。
次回に出てくるけど、古ノルド語は私にはさっぱり理解出来そうに無い。
だから、適当に付ける事になるけど許してね主人公。


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その日、自分は運命(狂人)に出会う。つ鏡(前)

ブレイカーが突然落ちて、途中まで書いていたのが消えてモチベ消失。
ある程度復旧して、キリの良い所までで投稿しますので短いです。<m(__)m>
本当なら、前後編にしたく無かったんだけどね。
おのれ、ホットプレートめ!


 暗い、暗い、空間、そこに自分は居る。

 現実空間では無い、いくら自分が居る世界がファンタジー満載だからと言って、ここで魔術を使った訳でも無いのに、自分は空中に浮かんでいるはずが無い。

 しかも、今の自分は美少女である今生の姿では無く、前世の特に特徴の無いのが特徴のアラサー男性では無いか!

 

 どこだろう?ここ。

 どうして、自分はここに居るのだろうか?

 何故自分はこの姿になっているのだろう?

 

 うーん……

 そうだ!自分は確か、オーディンの行ったとされる魔術儀式の再現をして、トネリコの大樹で首を括って、槍で串刺しになったんだった。

 この儀式により、かの魔術神オーディンは、通常のルーンとは格の違う原初のルーンを得た、という事はだ。

 魔術神なら、魔術の事ならば元々知っていてもおかしくは無いのに、何故こんな手の込んだ自殺を行わなくてはならなかったのか?

 自分はこの儀式を、自分自身の内面のより深い所に潜る儀式だったと睨んでいる。

 

 そして、自分がこの暗黒空間にやって来たという事はだ。

 儀式が成ったという結果。

 無様に死んだ、という結果も有るが、その時はその時だ今は考えない。

 

 しかし、本当に何も無い空間だ。

 黒という印象も、自分が勝手に決めているだけに過ぎないのかも知れない。

 そう思うだけ、何も無い空虚な空間がここだった。

 これは、本当に自分の内面なのだろうか?

 そう疑ってしまう。

 取り合えず、潜ろう。

 底の底に、何か有る気がする。

 上も下も無いような所、だけど今の自分は浮かんでいる。

 なら潜れるはずだ、潜水の要領で自身の直観に導かれるままに沈んでいく。

 

 どれくらいの時間が、経ったのだろう。

 時間の感覚がまるで無い世界を、黙々と潜行する。

 そして、人影を見つけた。

 近づいてすぐに理解する。

 

 ブロンドのショートヘアー。

 雄大な蒼空を思わせる碧眼。

 黄金律の眼鼻の配置。

 個人的な趣向で採点するなら100点満点中140点。

 だがしかし、身長が低すぎる事と、胸と尻の肉付きが悪いからマイナス40点である。

 個人的な趣向で言うなら更に60点加算しても良いのだが、世の男性諸君の趣向ならそうだろう。

 そんな女性が、満面の笑顔で俺を見つめていた。

 

 彼女の名はイルルーン、仲の良い人や両親からはイルルと呼ばれていた今生の俺だ。

 彼女は俺を視認すると、自分がした事が無い喜色を浮かべる。

 

 「ようやく会えた、私の愛しい人」

 

 前世の俺が、浮かべるような顔では無い。

 

 今生の自分が、するような顔では無い。

 

 只の女、恋する人に、愛する人に浮かべる女の顔がそこには有った。

 

 絶句。

 そう称する他は無い。

 何故、自分自身が、俺という平々凡だと称される俺にそんな発情した雌のような表情をする。

 何故、抱き着いてくる?

 何故、口づけをする!?

 

 確かに彼女……今生の体は、前世の俺の理想的な女性だ、欲を言えばあと5~10年歳を取っていたら完璧だ。

 だが、彼女は今生の俺自身なのだ、何がどうして二人に分かれているのかは定かではないにしろ、自分自身と俺自体が認識している。

 自分自身にキスされても、なぁんにも嬉しくとも無いし、ましてや欲情するなんてもってのほかである。

 というか、彼女はどういう立ち位置なのだろうか?

 パッと思いつく限りだと、彼女は俺のもう一つの人格か、あるいは本来のこの身体の人格か……

 いや前者は考えたくない、もう一つの人格が俺に発情した雌の顔を見せてくるなんて、ちょっとなぁ。

 それに、医学的に二重人格なんて無くて、多重人格が本来症例として云々かんぬんって聞いた事が有る、って事は他にも人格が有るかも知れない。

 後者の事も考えたくない、それだと俺が彼女の人生を奪って、好き勝手に生きてきた事になるからな。

 もし、そうだとしたら素直に身体を返上しよう、元々降ってわいた第二の生だ、諦めもつく。

 

 さて、いい加減人の口内を舐めまわしている彼女に話を聞こうかな、なんだか凄く怖いけど。




作者の初めて書くヤンデレって奴。
取り扱いが難しそうだなぁー(他人事)


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