世界一の大剣豪になりたくて! (リーグロード)
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サムライ転生

ブシン祭でのベアトリクスとアイリスを相手にしたシドかっけぇ!
って思ったら、そうだ!同格の奴を相手させたろっと思って書きました。


 俺には夢があった。それは剣の世界で生きること。

 何を言っていると言われるかもしれないが、きっかけは些細なことで、とある漫画のキャラクターに惚れ込んでしまったのだ。

 惚れ込んだといっても恋愛的な意味ではなく、男としてそのキャラクターの魅力に取りつかれたのだ。

 いつか大人になったらこんなキャラみたいに強い剣士になりたい。幼い頃の自分は本気でそう思っていた。

 

 しかし、その夢は日常を過ごしていくうちに儚く散っていく。

 周りを見れば剣どころかナイフ1本ですら警察が駆けつけてくる平和な時代。剣で生きていくというにはあまりにも過酷な世界だった。

 勿論、生まれた国を飛び出し争いごとの真っ只中な国へ行けば剣ぐらいは手にすることは出来るだろう。

 しかし、外の世界でも剣は刃物であって武器ではない。

 

 今の時代で武器は銃やミサイルといった飛び道具。もしくは情報という形の無いモノを指す。

 俺は幼いながらに絶望した。俺の夢はどれだけ頑張ろうとも成就することはないのだと。

 

 普通ならば、そのまま日常生活を送ることで夢と現実のすり合わせをしていき、やがて平凡な大人へと成長していくものだ。

 だが、俺はそうはならなかった。

 

 せめて剣で生きられないというのであれば、あのキャラになりきって生きていきたい! そう願ったのだ。

 幸いと言っていいのか、この国は剣をスポーツとした剣道という道がある。

 俺は親に頼み込んで剣道の道場へと通うことにした。

 

 そこで手に入れられたのはスポーツマンとしての基礎能力と、現実的な剣の扱い方だった。

 ここで俺は2度目の絶望を知る。当たり前だが、人間がどれだけ素早く剣を振ろうとも斬撃は空を飛んでいかない。

 剣道をどれだけ頑張ろうとも、真剣で戦える機会には巡り会えない。

 絶望は人を強くする効率的なスパイスである。俺はこの人生を歩んでいるうちにそんな言葉を覚えた。

 

 俺には才能はない。人が1を覚えていくうちに、俺は努力で4を覚える。しかし、天才は人が1を覚えていくうちに、10を覚えてしまう。

 

 それを知った俺は神に感謝した。もしこのまま誰にも負けずに人生を過ごしていたら、夢と現実に圧し潰されるだけの日々に飽きて生きるのが苦になっていただろう。

 

 俺にはライバルと言える男達が3人いる。その誰もが才能の原石を努力で磨き上げた本物の強者だ。

 俺達は剣道の大会でぶつかり合い、誰もが優勝を争う実力の拮抗した良きライバルであった。

 

 負けるのが悔しい、だから次こそは勝ってみせる! そんな思いが今の俺の生きる指針となっていたのだ。

 

 だが、そんな充実した日々は終わりを告げる。

 

 最初は3人のうちの1人が病に倒れて剣の道を捨てた。次にもう1人が事故にあって腕を損傷し二度と剣の道には戻って来なかった。最後の1人は恋人とのいざこざで反社会的勢力と揉めて表舞台から姿を消してしまった。

 

 こうして残った俺はただ1人、剣道の大会で優勝を繰り返し、やがて大人になってその道で飯を食っていた。

 だが、その日々は酷く退屈で窮屈なものだった。

 

 喉を通る飯も美味くはなく、何の為に生きているのか分からなくなる程に虚無感に支配されていた。

 

 そんなおり、俺に転機が訪れた。なんてことのない無意味な日常を惰性で過ごしていた時のことだ。

 人通りの少ない場所で何やら争いごとの音が耳に入った。この日本で殴り合いの喧嘩か? と興味本位で現場に足を運んで見学しに見に行くと、そこではバールを振り回しながら、DQNと呼ばれる猿共と戦う少年がいた。

 ヘルメットをしているから顔こそは分からないが、その体格と声色で中学生か高校生くらいの年齢だと判別できる。

 

「そらそら! どうした? 逃げるチンピラはただのチンピラ! 逃げないチンピラはよく訓練されたチンピラだぁ!!!」

 

「「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」」」

 

 それはなんと非現実的な光景だろうか。たった1人の少年を相手に、普段喧嘩慣れしているであろう猿共が悲鳴を上げて逃げ回っている。

 確かにあの少年は戦う技術がある。それを上手く扱える身体能力も兼ねそろえているのだろう。

 

 しかし、一番の要因は相手を傷つけることに躊躇していないその精神性からくるものだろう。

 この日本で武器を渡されて相手にまともに殴りかかれる人間は一体何人いるのだろうか? 

 

 イジメなんかで拳をぶつけるのとは訳が違う。バールというのは当たり所や威力で下手をすれば容易に人は死んでしまう。

 死ななくても傷を負って病院送りなんてことも充分にある。

 

 だが、あの少年はそんな負い目なぞ一切考えずに武器を振り回している。

 そう、まるで昔漫画で見た俺の憧れた世界のキャラ達のように、相手を叩き潰す動きを見せていた。

 

 だからだろうか、俺は背中に背負っていた木刀を装備し、あの少年の目の前に立っていた。

 

「ん? 誰あんた?」

 

「俺か? なに、ガキ共が元気が余ってうるさいから説教しに来た大人。そして、君に戦いを挑む剣士だ……」

 

 そんな俺の返答に気を良くしたのか、少年は明らかに嬉しそうな雰囲気を見せ、俺に向かってバールを振り回してきた。

 常人ならば何も出来ずに終わる速度だったが、俺からしたらまだ甘い。打ち込んでくるバールに対して木刀を器用に盾にして防いでみせる。

 

 10、20と俺の木刀と少年のバールがぶつかり合う。本来ならば、木で出来た木刀は鉄のバールに対して耐久力で劣っている為、20も打ち合えばへし折れてもなんら可笑しくない。

 だが、そこは大人になるまで努力を重ねてきた俺の技術力のなせる技といってもよいだろう。折れぬように防ぐタイミングと位置を完璧に見極めている為、木刀にはダメージは少々程度にしか入っていなかった。

 

「ふむ、その歳でよくぞそこまで動けるものだ。だが、実戦経験が足りないな。雑魚を相手にいくら戦おうと得られる経験値は極僅かだぞ……」

 

「なら、あんたが俺の経験値になってくれよ……!」

 

「む!」

 

 バールを振り下ろす……そう思った瞬間、少年はバールを手から放して懐へ潜り込んできた。

 こやつ! 不意をついて鳩尾に掌底を喰らわすつもりか!? 

 

「させるか……!」

 

「っ! やるね……」

 

 俺は咄嗟に右足を上げて少年の掌底をガードする。決まったと思われたタイミングで足で防がれるという事実に少年は驚きながらも、素直に称賛の声を発する。

 動揺は少ない。実戦経験もこの一戦で確実に積み上げてきている。武器だけに頼らないその発想力も大したものだ。

 

「少年……貴様、名は何という?」

 

「名前か……。そうだな。チンピラスレイヤー……っとでも呼んでもらおうかな?」

 

「チンピラスレイヤーか……。安直でダサい名前だな……」

 

「ダサいとか言わないでよ。傷つくな……」

 

 手放したバールを拾い直し、地味にダサい名前と指摘されて傷つきながらも、こちらへの警戒は緩めない。

 一瞬でも気を抜いて隙を晒せば即座に攻め込んでくるだろう。

 

 ならその隙は作ってやる。

 

「ほれ、かかってこい!」

 

 木刀を構えず、両手を広げて前面に隙を晒し出す。

 こんな見るからにあからさまな挑発に乗ってくれるかと一瞬考えたが、その心配は無用の用だった。

 

「ヒャッハー!!!」

 

「……一体どこの世紀末愚連隊だ」

 

 どこぞのモヒカンみたく奇声を上げながら飛びかかってくる少年に、カウンターで顎を軽く横から薙ぎ払いで打ち抜く。

 

 そうすることで、例えヘルメットをしていようとも、脳が揺れて脳震盪を起こし人は容易く気絶するのだ。

 

 ドシャっと地面に倒れ落ちた少年を抱きかかえて俺はこの場を去った。

 さっきまでここにいた猿共は俺と少年の戦闘を見て怯えて逃げて去っていったのだろう。

 これに懲りて少しはマシな人種に生まれ変わることを祈ろう。

 

 少しばかり落ち着いた雰囲気のある公園のベンチで少年を寝かしつけて数分、意識を取り戻したのか、バッ! と即座に身を翻してベンチから離れ即座に戦闘態勢に移行する。

 

「落ち着け、すでに戦いは終わった。俺の勝ちでお前の負けだ。それとも、まだ勝負を続ける気か? その丸腰の状態で?」

 

「……何が目的?」

 

 普段は背中に隠し持っているであろうバールがないことに気づいた少年は諦めたように再びベンチに腰掛けてそう尋ねてきた。

 無理もないだろう。いきなり現れて剣士だ! などと自称する大人なんざマトモであるはずがないのだから。

 

「……しいていうなれば、暇つぶしだな」

 

「……あっそ」

 

 信じていないな? いや、それとは違う。これは期待外れに似た感情の返答だな。

 俺はこの感情を知っている。夢と現実に潰された者の感情だ。だからだろうか、俺と似たこの少年にふと尋ねてしまった。

 

「君はなぜあの猿共と戦っていた?」

 

「猿共? ……ああ、あのチンピラ達ね。う~ん、しいていうなら僕の夢の為……かな?」

 

「そうか。君もか……」

 

 同じような境遇の人間に初めて出会えたからだろうか、俺は不意に自身の胸中を口に出してしまっていた。

 そこからは互いに自分の夢を語って意気投合した。

 

 俺は剣の道で生きるという夢を。少年は陰の実力者になるという夢を。

 それぞれが今の現代では難しい夢に苦悩しながら、それでも諦め切れずに今を生きているという境遇がこの出会いをもたらしたのだ。

 

「……俺は決めたぞ、少年。俺はこの国を出て剣を握ることにする。ウクライナかイランか、どちらにせよ戦争が起きている国へ行けば何かしら今とは違う光景を目にすることが出来るだろう」

 

「そっか、お兄さんも夢を目指して修羅の道を歩むつもりなんだね……」

 

「ああ……、それもこれも少年、君のおかげだ。俺は気づかぬうちに心のどこかで己の夢を諦めていたようだ。これでようやく前に進める。感謝するぞ……」

 

「うん、それじゃお兄さんも頑張ってよ。僕もこれから頑張ってみるからさ……」

 

 互いに固い握手を交わし、それ以降この2人が顔を合わすことはなかった。

 

 こうして俺は日本を飛び出し紛争地帯を駆け巡る日々を送った。最初は言葉もロクに通じず苦労したが、身振り手振りと鍛え上げた技術で剣を振るうことで闇社会へと招待を受けた。

 

 最初は銃を扱えないど素人だと揶揄される日々だったが、常人離れした身体能力と相手の視線と指の動きで弾道を予測し銃弾を斬ってみせたパフォーマンスに、いつしか弾斬りサムライと呼ばれるようになった。

 

 日本で20数年、海外で10数年生きた。もはやこの界隈で知らぬ者はいないと自負してしまうほどに名の売れた剣客となった俺はある1つの依頼を受けた。

 

 それは紛争地帯で活動している特殊部隊の遅延戦闘を終わらせてこいというものだった。

 どこの誰がこんな依頼を出してきたのか? 知る気もなかったし、依頼内容を深く知り過ぎるのもタブーであるとこの界隈の暗黙の了解を心得ている俺には関係なかった。

 ただ剣を振って認められ金さえ手に入れば問題なかったのだ。

 

 

 

 廃墟の街中でとある軍人が味方へ無線機で連絡を取っていた。

 

「こちらアーチャー! こちらアーチャー! 最悪の報告とクソったれな報告がありますが、どちらから聞きますか?」

 

「こちらセイバー! 手短に簡潔に話せ。ちなみに、両方聞かないという選択肢は存在するのか?」

 

「いいえありませんね」

 

「なら最悪の報告から言ってみろ」

 

「はっ! どうやら今回の戦闘にマフィアが介入してきた模様。それもロシア勢力の……」

 

「ファック! 母国はなにをやってるんだ! マフィア? それもロシア勢力だと!? このファッキンビッチがぁ!! ……はぁ、それでもう1つのクソったれな報告はなんだ?」

 

「これはマジで尻からクソが垂れるぜ。どうやらマフィアのお偉いさん方は事態を相当に重く見ているようでな。あのサムライを戦場に投入したらしい……」

 

「オー、ジーザス。それはマジでケツからクソを垂れ流しっちまいそうな最悪な報告だな。サムライってあの弾斬りサムライのことだろ?」

 

「YES! 戦場の死神にして時代遅れの狩人よ。そいつがこの戦場に俺達の敵としてやって来るようだ……」

 

 死を宣告された死刑囚の気分になりながらも軍人は銃を手に持ち、1,2回構えを繰り返し気分を落ち着かせて作戦に戻る。

 それでも頭の中には先程聞いたサムライの参戦が脳裏にチラついて離れない。

 

 日く、時代遅れの剣で敵を殺す黒い風となる。

 曰く、真っ正面から3人からの銃弾を斬ってみせた。

 曰く、その者はかの剣豪宮本武蔵の生まれ変わりである。

 曰く、そのサムライは金だけでは動かず、興が乗らねば大金でも仕事は受けない。

 

 この戦場で長く戦い抜いていれば自然と耳にする伝説だ。

 まるで漫画の中から飛び出てきたような存在だが、事実としてそのサムライが起こした事件は存在する。

 

 イランでの大量惨殺や、ロシアでの弾道ミサイル発射阻止の為の国家の要人暗殺など、どれも戦場で生きる者にとっては眉唾物に近しい偉業とも呼べる数々だ。

 

 写真は見たことないが、聞いた話によると齢30近くの東洋人のようだ。

 ここでは滅多にいない人種であることから、見ればすぐに分かるだろう。

 

 作戦の為にこの先の角を曲がろうとした瞬間、背筋に悪寒が走った。

 

「っ!?」

 

 戦場で生きていればこういった経験は何度か味わったことはある。敵との交戦の際に銃弾の嵐に晒された時、目の前に爆弾を投げ込まれた時、中には鬼嫁に浮気がバレた時にも走ったことのある。

 

 こういった時は大抵命に関わる事態に陥る時が多い。しかし、こうして何もない時に走った記憶はない。

 

「まさか!?」

 

 嫌な予感がしてこの先の角を手鏡を使って覗き込むと男が1人立っていた。黒いローブに腰には刀剣がぶら下げられており、その顔は東洋人の特徴が浮かんでいた。

 

「ファッキンゴッド! ちくしょうめ!! 死神の貧乏クジを引かされっちまったか……」

 

 ギリ! と奥歯を嚙みしめて軍人は銃を強く握る。ドクンドクンと早鐘のように鼓動する心臓を押さえつけながら、作戦を成功させるためにはこの先の道を突破しなければならない。

 

「大丈夫だ。所詮は剣、剣は銃には勝てない。奴はまだこちらに気づいている様子もない、反応するよりも先に引き金を引きさえすれば、俺が英雄だ……!」

 

 心を落ち着かせるために自分自身に言い聞かせるように独り言を口ずさむ。

 覚悟は決まった、クソったれな神への祈りは唾を吐き捨ててやった。

 だったらあとは……。

 

「うおぉぉぉぉ!!!!」

 

「…………」

 

 銃を構えたまま走りだし、角を曲がった瞬間に雄叫びを上げながら銃をサムライに向けて乱射する。

 普通ならば銃口を向けられた相手はそのまま弾丸の嵐に撃たれて無惨なハチの巣になるのがお約束だが、サムライは違った。

 

 軍人が角から現れたと同時に斜め前に走りだし、自身に迫る弾丸を剣で受け流したのだ。

 

「オー、アメイジング……」

 

 まるで映画のワンシーンを見せられたかのような現実離れした光景に、軍人は思わずその言葉が口からこぼれた。

 しかし、腐っても軍人。そんな気の抜けたような台詞を吐きながらも、作戦遂行の為にサムライを殺すべく、銃が効かないならば爆弾をと懐の手榴弾をピンを抜いて目の前に迫ってくるサムライに投げつけた。

 

「…………ふむ」

 

 この距離では手榴弾は斬れんと判断するも、一度走り出した足は急には止まらんし後ろに方向転換しようとも爆風に追いつかれて火傷を負って銃を持った相手に距離を取ることになる。

 

「ならば!」

 

 手榴弾が地面に接触するまでの1秒足らずの間に高速で脳を働かせて対処法を考える。

 そして、俺は足を止めることなく更に地面を強く踏みしめ、走るというよりも跳躍するように前へ飛び出しす。

 それと同じタイミングで手榴弾が地面に落ちピカッと光る。

 

 ドゴーン!!! 

 

 けたたましい爆音と爆発が戦場に轟いた。

 この爆炎の中で防火装備を着用していない人間が生きているはずがない。そう思って軍人は思わずガッツポーズをした。

 

 だが、その軍人の勝利を否定するかの如く、爆炎の煙の中からボフンとサムライが空を飛んで現れた。

 

「うっそ……?!」

 

 サムライは手榴弾の爆発から逃れる術はないと瞬時に判断したと同時に活路を見出した。

 それは近くに建てられた廃墟のビルの壁を三角飛びで蹴り上げて跳躍し、耐火ローブを盾にしながら爆炎に乗って被害を最小限に抑えるというゴリ押しによる戦法だった。

 

 事実、その戦法は見事に成功し、多少の火傷を負いながらも即死を免れる。

 そして、軍人の真上を取ったサムライは自然落下しながら剣を構えて軍人の首を流れる水のごとく鮮やかに断ち切って宙へと刎ね飛ばす。

 

「これが……サムライ……!」

 

 軍人が最後に見た光景は首が無くなった己の肉体と、大小さまざまな切りキズや刺しキズに銃創や火傷と体の至る箇所に傷痕が刻まれ、爆風で脱げたローブの下から覗いた顔にも無数の傷と、その耳は銃弾が掠ったのか半分くらい千切れてしまっていたサムライの姿だった。

 一体どれだけの戦場を駆け抜けてきたのか、その傷痕を見れば分かるというもの。

 

 そしてボトリと軍人の頭が地面に落ちて戦闘が終了する。

 

「これで仕事は完了だ……」

 

 サムライは剣に付着した血を一振りで払い、そのまま鞘へと収めてその場を後にする。

 

 

 指定された成功報酬の受け取り場所へ足を運んでみると、そこには受け渡し人以外の複数の人間の気配と、銃特有の火薬の匂いが漂っていた。

 

「いや~、流石は伝説のサムライだ。この依頼を見事にやり遂げるとは!」

 

「御託はいい、さっさと要件を言え。さもなければ……」

 

 鞘から剣を抜く構えを見せると、男は慌てて依頼達成の報酬金が入ったアタッシュケースを取り出した。

 

「そっちではない。さっきからコソコソと周りを囲んでいる連中のことだ……」

 

「っ! さ……流石は伝説のサムライだ。あんたスーパーマンの親戚だったりするのかな?」

 

 そう話題を逸らそうとした男の片耳を、サムライは目にも止まらぬ居合切りで切り落とした。

 

「──っ! ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

「御託はいいと言ったはずだ……」

 

「お、お前ら! やっちまえぇぇ!!!」

 

 その言葉を合図に、建物内に隠れていた連中がバッと飛び出しサムライ目掛けて銃弾を撃ち込んできた。

 

 四方から撃ち込まれる弾丸に、さしものサムライも全てを防ぐことは出来ず、肩や腹といった戦闘への支障が少ない部位に命中する。

 

 パン! パン! と鳴る銃の音に合わせて、サムライの体から真っ赤な血が吹き荒れる。

 

「いいぞ! 殺れ、ぶっ殺せぇ!!」

 

 耳を切り落とされた男は興奮したように声を荒げ、目の前でなすすべもなく銃弾の嵐に晒されているサムライを指さしながら、銃を撃っている連中に命令する。

 

 このまま本当にあの伝説のサムライを殺せる! そう確信しながら銃の引き金を引き続ける。

 やがて、銃の弾幕によって建物内の埃が舞い散って煙幕になり、サムライの姿をかき消してしまう。とはいえ、四方から撃ち込まれている為、どう逃げようとも銃弾から逃れることは出来ない。

 むしろ、銃口を見て銃弾を弾いているサムライにとってこの煙幕は不利になる要因だと知っている彼らからしてみれば慌てるような事態ではない。

 

 そしてすべての薬莢を使い果たした連中は埃による煙幕が晴れるのを静かに待ちながら、サムライの死体を拝もうと銃を下してサムライが立っていた場所を覗き込むと、そこには赤い血だまりがあるだけで、サムライの死体はどこにも転がってはいなかった。

 

「き……消えた!?」

 

「馬鹿な! 奴は瞬間移動が使えるのか!?」

 

「そんなわけあるか!! 探せ! まだ近くに奴が潜んでいるはずだ!!!」

 

 煙のように消えたサムライに、連中は泡食ったように慌てて周囲を警戒する。

 特に、耳を切られた男は顔を真っ赤にしながら非科学的なことを口走る男の声を否定して即座に指示を出す。

 

「ん?」

 

 連中の1人がサムライが残した血だまりにピチョン、ピチョンと水滴が落ちてきているのに気づき、ふと視線を真上に上げてみた。

 

「っ! いっ……いたぼばぁ!!?」

 

「斬り捨て御免」

 

 なんとサムライは天井に剣を刺してぶら下がっており、連中が周囲を警戒してサムライが立っていた場所から注意が逸れるのを待っていたのだ。

 

 脚立も使わず銃弾が飛び交うなか、己の脚力のみで天井に届いたように思えるが、それは違う。

 

 いくら伝説と謳われようが、それでも人間。オリンピック選手といえど広い建物の天井にジャンプして届くはずはなく、サムライも例外ではない。

 ならばどうやって天井にまで張り付くことが出来たのかというと、サムライの右腕にはルパン三世やスパイダーマンみたく、強力なワイヤーの糸を発射出来る装置が装備されており、剣で銃弾を受け流しながら右手を天井に向けてワイヤーを発射させ、上へと逃げていたのだ。

 

 その後、すぐに下へ落ちれるように天井に剣を多少の事では抜けないように刺して、ワイヤーを切って待機していたのだ。

 血だまりに落ちてきた水滴はサムライが流している血で、連中の1人に気づかれてしまったが為に仕方なく天井を蹴って下に落下し、気づいた1人を一刀両断して真っ二つに叩き切ったのだ。

 

「で……出たぞぉ!!?」

 

「サムライだぁ!!!」

 

 悲鳴にも似た声を上げて銃を構えて後ろへ振り返るが、1秒にも満たない時間であろうとも、サムライにとっては絶好の隙だった。

 床を滑るような足取りで連中の動脈を切り裂き、そのまま死体に変貌した連中を盾にしながら残った連中を順に殺していった。

 

「ひっ、ひぃぃ!!!」

 

 この場に残されたのは耳を切り落とされた男のみで、他の連中は全員物言わぬ死体となって床に転がっていた。

 

「さて、これで邪魔者はいなくなったな。それで、どうして俺を殺そうとした?」

 

「あ……あんたが悪いんだ! どこの組織にも所属せず、風来坊気取りでフラフラと……、だからウチのお偉い方はあんたが邪魔だったのさ!!」

 

 俺を指さしながらそう喚く男の首を刎ね飛ばすと、首を失って倒れる男の死体を一瞥してサムライはその場から消えた。

 

 その翌日、依頼を出した組織に殴り込むサムライの姿があったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が曇って今にも雨が降りそうな嫌な天気だ。それに体がとても寒い。芯のほうから冷えていっちまっているみたいだ。

 体が指一本動きそうにもない。視線を少しずらせば辺りは血の海が広がっている。

 

 俺1人だけの血の量ではない。周りには俺以外の悪党共の死体が多く転がっており、鼻には血と火薬の嫌な臭いがこれでもかというくらいにこびりついていた。

 

 何があったのかというと、単純な話だ。先日の襲撃によるお礼参りをしに行ったのだが、それを予想していたマフィア連中が手練れの傭兵や組織の部下を使って待ち構えていたのだ。

 まんまと罠にハメられた俺は時代劇さながらの大立ち回りを演じてみせた。

 

 結果、体のあちこちに銃弾を貰いながら、相手さんが用意した戦力のおよそ7割りを殺して力尽きた。

 まさか人間相手にロケットランチャーを撃ち込んでくるとは。こっちはバイオハザードのタイラントじゃないんだぞとツッコミを入れてしまいそうになった。

 

「ふふふ……、夢に生きた我が人生もこれで終幕か。あのまま少年に出会わなければこのような心踊る日々を送れず虚無で無意味な日々を老衰するまで続けていただろうな」

 

 死の間際に走馬灯のごとくあの日の少年との出会いを思い出す。

 あの少年も夢は叶えられただろうか? ふとそれが気にかかったが、きっと同じように心踊る日々を過ごしているだろうと考えて重くなる瞼を閉じる。

 

「さらば……我が人生……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゅん、ちゅん、ちゅん

 

 鳥の鳴き声が聞こえる。瞼を通して太陽の光が眼球を焼いてくる。

 

「…………ここは?」

 

 目が覚めて周囲を見回すと、そこは鬱蒼と茂る森の中だった。

 自身が着ている服を見るとボロボロになった子供服で、自身の手や体もそれに合った子供サイズに変化していた。

 

「ここはあの世なのか? それとも……」

 

 訳の分からないまま、俺は森の中を彷徨い歩いた。子供故に当然なのだが、歩く一歩が大人の頃よりも小さく、いつもならとっくに辿り着いている距離も遠くに感じる。

 

 やがて頭上の太陽が少し傾き始めた頃、森の中でも開けた場所に出た。

 そこには崖から転落したような馬車と周囲に散らばる荷物が落ちていた。

 

「事故か……。それにしても、このご時世に馬車とは珍しい」

 

 多少の警戒をしつつ周囲を見渡すと、潰れて真っ赤なトマトになっている人が倒れていた。

 あの様子では即死だろう。ならば、ひとまず先立つものもない状態では話にならないため、落ちている荷物の中で役に立ちそうな物を物色させてもらおう。

 

 俺は落ちている荷物を漁りながら装備を整えていると、森の中から人の声が聞こえてきた。

 

「ひっひっひ、やっぱここは穴場だな。いちいち襲わずともお宝のほうが落ちてやがるからな」

 

 見れば薄汚い格好の連中が現れた。聞こえた内容からして盗賊などの類なのだろう。

 俺は落ちた荷物の中に紛れていた短剣を手にして連中の前に立った。

 

「あん? 商人のガキか? 運良く生き延びたようだが残念だったな。俺達に見つかっちまうなんてよ!」

 

「へっへっへ、面構えは良さそうだし男色好きの変態に高く売れそうだぜ!」

 

 どうやら連中は俺を奴隷か何かにして売り飛ばそうとしているみたいだ。

 さてどうするか? 今は大人とは違う子供の体だ。森の中を少し歩いてそこそこの体力があるのは分かったが、剣を振り回せるだけの筋力がちゃんとあるのか不安でもある。

 しかし、そんな不安を消し飛ばしてしまうような何かを体の中に感じる。

 

 これは直感であるが、この何かを上手く使いこなせば以前よりも更に強くなれる。そう確信するものが俺の中にあった。

 

「くっくっく、大人しくしてれば俺らも手荒な真似はしねえからよ……」

 

 連中の1人が無警戒にこちらに近づいてくる。その手にちゃんとした剣が握られていた。

 刃物をチラつかせれば大人しくすると思ったのだろう。

 

「他愛ない」

 

 その一言で男は容易く切り裂かれた。

 

「っな!?」

 

 それに驚いたのは周りの連中だ。まさか、こんな年端もいかないガキが抵抗、それも殺しを行うなんて考えてなどいなかったのだから。

 

 だが、内心で驚いていたのは俺の方でもあった。自身の中にある得体の知れない力を何となく漫画で読んだ力に似た何かだと仮定して短剣に纏わせるイメージで切り裂いてみれば想像以上の切れ味を見せたのだから。

 

「……これは、いい退屈凌ぎになりそうだ」

 

 ガキが浮かべていい笑顔じゃない顔をしながら、残った盗賊共に目を向ける。

 その目を向けられた盗賊達は一瞬逃げるかと考えたが、その直後にガキに舐められたまま引き下がれるか! という思いで剣を構える。

 

「いいだろう。精々この俺を楽しませてみろ」

 

 そこから先は戦闘とは程遠い殺戮だった。そもそも、ハイエナみたく事故を起こした商人の荷物を盗み来た連中ごときが、子供になったとはいえ戦場で伝説のサムライと呼ばれた男に勝てる筈もなく、1人また1人と切り捨てられる。

 

「あ……ああ……」

 

「さて、残るはお前1人だけとなった……」

 

 辺りは仲間の死体が転がっており、地面には血の海が広がっていた。この状況でまだガキ相手にと強気になれる訳がなく、目の前の存在がガキの皮を被った怪物だとようやく理解したのだ。

 そして、生き残った男はその後幾つかの質問を繰り返され、その全てに懇切丁寧に答えていった。

 

「なるほど、どうやらここはあの世というものではなく、昔読んだラノベ小説で出てくる転生した世界ということか……」

 

 ここでようやく自身が死んで転生したという事実に気がついた。そして、この自身の中にある得体の知れない力がこの世界では魔力と呼ばれる力であると知った。

 そして閃く、ここでならばかつて憧れながらも諦めた夢を実現することが出来るのではないかと! 

 

「ふふ……、神がいるというのならば粋なことをする。死んでも尚夢を追いかけられるとは……」

 

 漫画で見た飛ぶ斬撃や全てを切り裂く一太刀など再現してみたい技が次々と脳裏に浮かび上がってくる。

 今すぐに試してみたいと子供のようにはしゃぐ心を落ち着かせながら、質問に答えた盗賊を逃がすことにする。

 

「聞きたいことは聞けた。もはや貴様に興味はない。どこへなりとも失せるがいい」

 

「は、はい! ……あの?」

 

 森に入る手前で盗賊が振り返って何かを訊ねようとしてきた。

 

「なんだ? まだ用があるのか?」

 

 手にした短剣の刃先を向けながら睨みつける。

 

「い、いえ、その……あんたの名前を聞いてもいいでしょうか?」

 

「名前……?」

 

 何故そんなことを聞いてくるのか理解出来なかったが、俺は気にせず答えようとしたところ、ふと答えに詰まる。

 別に前世の頃の名前を使っても良かったのだが、折角新たな人生を始めたのだから今度はなりたかったあのキャラの名を名乗っても良いのではないかと考えたからだ。

 

「…………ジュラキュール。我が名はジュラキュール・ミホークだ!」

 

 そう、これが今世で新たに始まる俺の新しい人生で名乗る名前だ。

 

 

 

 

 

 



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波乱のブシン祭

書ける!書けるぞ!!ミホークムーブが止まらない主人公のシーンがぁぁぁ!!!


 この世界に転生して僕は念願の魔力を手に入れ、充実した陰の実力者生活を満喫している。

 

 シャドウガーデンという同じく陰の実力者ムーブを楽しむ仲間も出来た。

 

 学園では冴えないモブを演じつつ、日々を過ごしながら、ここ最近では満足のいくイベントが盛り沢山だった。

 

 そこに加えてブシン祭といういかにも陰の実力者として活躍出来そうな舞台があるじゃないか! 

 乗るっきゃないこのビッグウェーブに!! 

 

 そうと決まれば早速出場の手続きをしたいけれど、ここで問題なのが僕がそのまま出場しては陰の実力者にはならないということだ。

 

 モブとしてのシド・カゲノーでも、陰の実力者としてのシャドウでもないおいおい、アイツ絶対に死ぬわみたく、いかにも雑魚っぽそうな人間が実は強者だったという王道にして憧れの展開へと持っていきたいのだ。

 

 そうなれば、ここで頼れるのはやっぱり……。

 

「お待ちしておりました、シャドウ様。どうぞこちらへ……」

 

「うん。ありがとう、ガンマ」

 

 そう、我がシャドウガーデンの頭脳とも呼べるガンマが経営しているミツゴシ商会へとやって来た。

 僕はここで偽りの顔と経歴を手に入れにやって来たのだ。そんな僕の期待通りにガンマはジミナという仮面を用意してくれた。

 

「主さま……、やはり急遽ブシン祭に出る理由は、あのジュラキュール・ミホークが出場することを決めたからでしょうか?」

 

「へぇ……、彼の大剣豪がブシン祭に出場するんだ」

 

 ガンマの口から出たジュラキュール・ミホークの名前に僕は驚いた。

 だって前世で一番有名と言っても過言ではない漫画に出てくる強キャラだからね。

 

 一応、ミホークの噂話なら僕も聞いたことがある。

 今回、僕が出場するブシン祭で5連覇を果たし、女神の試練では古代の戦士を前代未聞の複数人呼び出してみせ、その中には英雄オリヴィエの姿もあったそうだが、ミホークはかすり傷1つ負うことなくその全てを斬り伏せたという。

 

 他にも幾つもの眉唾物に近しい噂話はあるけれど、原作の彼の強さを知る僕からすれば納得に近い話ばかりだ。

 

「これは……、面白いことになりそうだ」

 

 頭の中で決勝で戦う自分とミホークの姿を想像しながら、ふっと不敵に笑うシドにガンマはあの大剣豪を相手になんと勇ましいと心の中で讃えていた。

 

 

 

 

 

 ここ最近は前世と変わらず酷く退屈な日々が過ぎていく。この世界に転生して数年は充実した日々を送れていた。

 魔獣と呼ばれる前世では存在していなかった凶悪なモンスター。自身と同じく魔力という超常の力を纏って戦う魔剣士と呼ばれる使い手との戦い。前世では会得し得なかった技の数々に高揚を覚えた。

 

 だが、いくら強い技を身に着けようと、今では俺の前を行く者どころか、横に並び立つましてや後ろに追いつこうとする者すらいない。

 だからこそ、ブシン祭も5連覇した後は表舞台から姿を消して人知れぬ秘境にて剣の腕を伸ばしていた。

 

 既に俺の剣は地を裂き、雲を割り、海を断ち切るまでの境地へと到達していた。

 すでに今の俺の剣技は原作のミホーク並みであると自負してもよいと言えるレベルまで高まっている。

 

 故に苦痛なのだ。この世界にはゾロもいなければ四皇も七武海も存在しない。

 今の俺の我が愛刀どころか、予備の武器すら抜く必要すらない戦いにしか巡り会えない。

 原作みたく玩具のナイフですら国家の精鋭騎士団を制圧できてしまうほどの武力を身に着けようとも、それを振るう相手がいなければまさに宝の持ち腐れというものだった。

 

 一体いつからだったろうか? この世界で剣を振るうことなく対峙しただけで相手が負けを認めて頭を下げだしたのは……。

 一体いつからだったろうか? 下げた頭を見下ろして落胆のため息を吐かなくなったのは……。

 一体いつからだったろうか? この剣を闘いのためではなく、自己満足の為に振るうようになったのは……。

 

 地位も名誉も金も全てを捨て去り、剣の道のみに没頭し魔獣が蔓延る秘境に身を隠し表舞台から去って数年の月日が経った。

 ふと、剣士としての勘か? 獣としての嗅覚か? 何かしらの転機が起こる。そう直感が働いて久方ぶりに秘境から人里へと降りてきた。

 

 まずは秘境でボロっちくなった身なりを整える為にそこら辺に生息している盗賊から金品の強奪を計る。これは普通はしてはいけない悪いことなのだが、世の中の浄化という立派な理由があるから世間ではわりと正当化される。

 

 そうして、俺はいつもの黒の一張羅を身に着けそこら辺を目的もなく出歩く。それだけでいい、それだけで目の利く商人や権力者は俺の剣を目的に砂糖に群がるアリのごとく集まってくる。

 そのまま俺は集まった奴に招待されるまま、食客として呼ばれた屋敷で秘境では味わえない高級なワインに舌鼓をうちながらここ最近の出来事を聞いてみる。

 

 すると、やはりその事でしたか! と興奮したように商人は1から10まで懇切丁寧に教えてくれた。

 

 ここ最近の盗賊の出現数が激減したこと。

 王都にてシャドウガーデンなる極悪非道な集団が暗躍していたこと。

 女神の試練にてその頭目シャドウが古代の戦士を相手に勝利したこと。

 

 様々な事を聞けたが、シャドウガーデンか……。恐らくはその集団の出没こそが俺の勘が働いた相手なのだろう。

 俺は情報と飯代の代わりとして一太刀だけ商人の為に振るうと約束した。

 

 それを聞いて商人は大層喜びながら、ここ最近の商品の流通ルートに出没する凶悪な魔獣の退治を依頼してきた。

 実際に現場に行ってみると、そこには1体だけではないかなりの数の魔獣が近くに縄張りを作っていた。

 

 正確な数を気配で察知すると恐らくは100を超えるだろう。それも1個体の強さも並みの魔剣士では少々手を焼く程の厄介さだ。

 

「とはいえ、このレベルならば一太刀で充分だ……」

 

 ギン!! と殺気を飛ばすと魔獣は一匹の例外なくこちらへ視線を向けて突然のことで体を硬直して固まった。

 その刹那の隙を狙って横に一太刀を叩き込む。それだけで事が終わる。

 俺の目の前に広がる魔獣の群れはその一太刀による斬撃で胴体と首が()()()()に分かれた。

 

「っなぁ……!!?」

 

 後ろで見届け人としてついてきた商人は目玉を飛び出させながら、今目の前で起こった現象に理解出来ないとばかしに口をパクつかせて驚きまくる。

 これで礼は返したので俺は自身の勘を頼りに、そろそろ開催時期となるブシン祭へと足を運ぶことにした。

 

 

 久方ぶりのブシン祭だったが、俺が出場すると言い出すと周りは狂喜乱舞しながらあっさりと手続きを完了させた。

 いきなりやる事が無くなった俺はこの街に強者、あるいは俺が鍛えるに足る原石でもいないかと散策をしているとだ、本当に俺はこの気まぐれ好きな神に愛されているのだと実感する。

 

 

 

 

 

 最高だ。僕は今最高にツイている!! 

 もしもこの世界に神様という存在が実在しているというのならば僕は確実にその存在に愛されていると断言できるだろう。

 

 僕はブシン祭にジミナ・セーネンという偽りの存在で出場を果たすために会場に向かって街を歩いていると、突然歴戦の魔剣士といった感じのお姉さんが僕の望んでいる反応を見せてくれた。

 更にそこからイカついおじさんも加わって、僕に殴りかかってきてくれたのだ。

 

 これぞまさに僕が望んだ。おいおい、アイツ絶対に死ぬわ! のシーン!! 

 これだけでも僕は満足感で一杯だったというのに、そこに加えてあの男が路地の先から現れたのだ。

 

「俺の通る道の邪魔をするか、弱き者どもよ……」

 

 その眼は猛禽類を思わす程に鋭く、その眼光を前に先程まで僕を殴っていたおじさんも戦慄し恐怖で動けなくなっていた。

 見れば解る。この人は間違いなく僕に匹敵しうる最強の剣士だ。

 

 この世界は魔力頼りの魔剣士が多い。事実として、この僕を殴ってきたおじさんもただの筋力頼りのテレフォンパンチで受け流し程度は簡単に出来る。

 でもこの男は違う。自然な足運びに加えてその肉体。このおじさんの膨らんだ筋肉が風船で膨らませたものとするなら、この男のは鉄の塊を重機で圧縮してヒトの形にしたものと表現していいほどに次元が違う。

 前に聖域でアウロラから魔力無しの人間トーナメントがあれば僕が優勝とお墨付きをもらったけども、この人と戦ったら果たして勝てるかどうか? 

 

 再びジロッ……いや、ギロッ! の方が合ってるかな? とにかくこの人が少し目を細めて睨みつけると、僕を殴っていたおじさんは弾かれたように壁際に移動して道を開ける。

 周りの人達も同じように邪魔にならないように壁際に立って微動だにせずにいた。まるで統率された軍隊のようだな~と思っていると、先ほどのお姉さんが肩を震わしながら口を開いた。

 

「…………ジュラキュール・ミホーク。ブシン祭に出場するという噂は本当だったのね」

 

 ああ、やっぱりこの人がミホークさんだったんだ。まあ、漫画で見た通りの容姿に服装だったからそうだろうなとは思ったけど。

 カツカツと独特の足音を鳴らしながらミホークは路地を通り過ぎようとして倒れる僕の前で立ち止まる。

 

「ミホークさんが立ち止まった?」

 

「おいおい、アイツ絶対に死んだわ……」

 

 なんかモブの中の1人が僕の欲しかった台詞を言ってくれたが、今はそれどころじゃない。

 立ち止まったミホークさんが僕に視線を向けた瞬間、僕は倒れていた姿勢を正して即座に立ち上がった。それも無意識に近いレベルで……。

 つまり、感じたということだ、本能的なレベルでの死を……。

 

「……貴様、名はなんという?」

 

「…………ジミナ・セーネン」

 

 僕はカッコつけるのも忘れて今の仮の名前を口にする。あの眼光を前にさしもの僕も演技をする余裕はなかった。

 

 ほんの数秒程の時間、僕とミホークさんは視線を交わしていた。そして、ミホークさんから先に視線を外しそのまま何も言わずにこの場を去っていった。

 

 周りからは流血沙汰に発展しなくて良かったといった感じのほっとした空気が流れていた。その中で、先程僕に声をかけてきたお姉さんが僕に何者かと聞いてきた。

 

「あなた……、一体何者なの?」

 

「ジミナ……ただのジミナさ……」

 

 そうニヒルに返して僕もブシン祭出場の為にこの場を後にした。

 

 決まった! まさに完璧な弱者を演じる強者ムーブ!! 

 

 思わず嬉しさでスキップしてしまいそうな気持ちを抑えて、僕は会場へと向かったのだった。

 

 

 

 

「本当に何者だったのかしら、あのジミナっていう青年は?」

 

「おいおい、あれはあの男がただ無様に倒れていたからミホークが興味を持っただけだろ? あれはどっからどう見てもただの雑魚だぜ?」

 

「いいえ、気付かなかったの、クイントン。あいつ、あんたにあれだけ殴られてたというのに、まるで目立ったダメージがなかったわよ」

 

「っな! マジかよ……!?」

 

「ええ、とにもかくにも、今年のブシン祭は例年よりも大きく荒れるわよ……」

 

 そう予言してアンネローゼは腰の剣の柄を握りながら、世界最強を相手に己の剣がどこまで通用するのか試したい衝動を抑えるのであった……。

 

 

 

 

 久々にいい剣士を見た。どういった理由であのような弱者を演じているかは知らんが、その身の内に秘める魔力は強大な渦を巻いていた。

 俺が視線を向けた際の身のこなしも武芸者の技が見え隠れしたものだ。

 

「ジミナ・セーネンか……。久しく見ぬ強き者であることを願うぞ……」

 

 静かに闘う闘志を燃やしながら、ミホークはブシン祭の開始を楽しむのだった。

 




感想さへくれたらよ……、俺は止まんねえからよ……!


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ミホークとゼータ

ブシン祭を書きたい!でもその前にシャドウガーデンとの関係も作りたい!!
そうだ、ゼータを使おう!


 ブシン祭5連覇という履歴もあり、予選を免除したシード枠として出場することが決定した。

 暇つぶしに予選を遠くから見物するが、どれも見るに耐えん内容の試合ばかりだ。

 

 あのジミナとかいう男ならばと思ったが、雑魚を相手に手を抜いた試合だった。

 まあ、一定以上の実力者にしか分からない高速戦闘は余興としては面白かったが。

 

 俺がいない間のブシン祭優勝者のアイリス・ミドガルという女魔剣士も遠目で確認したが、あれは駄目だ。

 才能があるだけでこの世界の連中と技術の差で言えばどんぐりの背比べとしかいえん。

 

「やはりこの祭りで俺の剣を振るうに値するのは、ジミナ。お前くらいなものか……」

 

 落胆した感情のまま、俺はさっさと宿屋へ帰り上等なワインを堪能して眠りについた。

 だが、ここで問題が起きた。

 

「…………寝るのが早すぎたか」

 

 昼に飲んで寝た為に、起きた頃には陽が沈んだ真夜中だった。

 これは流石に反省せねばなるまい。今の俺にとってブシン祭がいくら程度の低い子供のチャンバラ大会に成り下がってしまっていたとはいえ、いい大人が生活リズムを崩すハメになるとは。

 

「散歩にでも行くか」

 

 ジミナとの出会いも会ったのだ。今夜の散歩も俺の退屈を散らしてくれるような存在とも出会える可能性もなきにしもあらず。

 早速外へ出て夜風を浴びる。それだけで体の中のアルコールが抜けていき、肉体が歓喜しているような気がする。

 

 とはいえ、あてもなくただフラフラと歩くだけでは人と出会うどころか、開いている店すらない。

 現代社会でならばこういう時はネットや漫画などで時間を潰すことができるのだが、あいにくとこの世界ではそういった類の物は存在しない。

 小説などは売ってはいるが、あいにくと俺の趣味嗜好に合うジャンルのものは置いてはいない。

 

 本格的にやる事もないので宿屋に戻って剣でも振るかと考えたが、それよりも面白そうな事があったのを思い出す。

 

「…………」

 

「……あれ?」

 

 俺は何気なく道の角を曲がった。それと同時に自慢の脚力を生かしてその場から空へ飛んだ。

 そのすぐ後に俺が消えたのに気づいた追跡者が隠れていた場所から身を乗り出す。

 

「……動くな」

 

「…………っ!!?」

 

 建物の煙突の陰に隠れていた者の背後に気配なく近づき、その首筋にナイフを当てる。

 

 追跡者は女スパイのようなライダースーツを着た獣人の女だった。

 この街にやって来てから後ろから観察される視線をずっと感じていた。とはいえ、俺は剣士以外の人種には基本的に興味を持たないので別に放置していたのだが。

 

 このまま宿屋へ戻っても日課の素振りしかすることがないので、多少の暇つぶしになるだろうと相手をすることにした。

 別にこの女は剣士ではないのだろうが、そこそこの強さを持っているのだろう。

 

 現にこうして背後を取ったというのに、心臓の鼓動はすぐに平常に戻り呼吸も安定している。

 隙あらばすぐさま逃走を選択しようとしているな? 敵意や悪意といった感情が見受けられないから個人的なものによる追跡ではなく、仕事か組織によるものか? 

 

 だが、こいつの装備には見覚えのある。魔獣の一種であるスライムを利用した装備。

 

「貴様、ジミナの関係者か?」

 

「…………」

 

 あの時に出会ったジミナも服の下に同じような装備を身に着けていた。つまり、ジミナとこの女は何かしらの繋がりがあると見て間違いないだろう。

 

 しかし、女からの返事はなし。呼吸も心臓の音も安定しており、汗1つかいていない。普通ならばここで無関係なのだと判断しているところだが、今は俺の持つナイフが首筋に当たっている状態だ。

 

「見事なものだ。汗どころか、呼吸や心臓も何一つ動揺はみせなかった。しかし、ナイフから伝わる血液のほんの僅かな変化が貴様の心境を教えてくれたぞ」

 

「……化け物め」

 

 口からの誤魔化しは通用しないと判断したのか、観念して素直な心境を口にする。

 あのジミナの強さと、この女の組織に所属している者特有の動き、それら2つを加味して考えると、今の俺の知っている情報の中から答えは自ずと出てくる。

 

「お前たちがシャドウガーデンなる組織に属する者どもか……」

 

「はぁ……、そこまで分かってるんだ。っで、私を殺すつもり?」

 

「いや、別にそんなつもりは一切ない。これは俺のただの暇つぶしだからな」

 

 首筋に当てていたナイフを仕舞い込み、そのまま解放された女は立ち上がって逃げることなく俺に向き直る。

 

「あんたは知ってるの? この世界で暗躍するディアボロス教団のことを?」

 

「昔、そう名乗る連中から勧誘を受けたことはある。まあ、興味が無かった故に断ったがな」

 

 その際にならば死ね! と襲ってきた者がいたが、その全てを剣の錆にしてやったりもしたが。

 俺の返答に噓は無いと感じ取ったのか、女はそうと安堵したような声で消えていった。

 

「……シャドウガーデンか。存外、俺を満足させてくれる集団やもしれんな」

 

 やはり俺は神に愛されているのだと感じながら宿屋へ戻り、再び上等なワインを堪能してもう一度眠りについた。

 

 




短いですが、シャドウガーデンとの関係作りの為にしゃーなしです。
感想待ってるんで、評価もして送ってね。


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圧倒的!これが世界最強の剣豪!!

圧倒的戦闘シーン!それが僅か半日で書き上げられるとは……!?
ミホークの潜在能力が恐ろしい!!



 ついにブシン祭予選が終了し、僕は無事に本戦に出場することが決定した。

 ここに至るまで僕の真の実力は一部の人間以外にはバレてはいない。誰もが僕のことを運だけで勝ち上がっている謎の男という認識だ。

 

「でもま、あの遠くで見物していたミホークって人には完全にバレてるんだろうけどもな~」

 

 試合中にふと感じた視線の先を辿っていくと、そこには鋭い目で僕の試合を見物していたミホークさんが立っていた。

 あの様子からして僕の動きを完璧に見切ってただろうな。

 

 本選でのトーナメント表では僕の一回戦の相手はあの時のお姉さん、アンネローゼって人みたいだ。そんで、ミホークさんの相手はアイリス王女様か……。

 僕的には決勝戦で当たりたかったのだが、これじゃあ2回戦で戦うことになりそうだ。

 

 僕の見立てではミホークさんが100だとするなら、アイリス王女は精々が10か20といったところだろうか? この予想は結構当たっていると僕は自負している。

 世間からはアイリス王女は成長すればミホークさんとも肩を並べる魔剣士に至ると評判だが、あいにくと魔力や才能はどうかは知らないが、剣技や体捌きなどはこのまま成長していては一生手の届かない所のまま終わるだろう。それが今の僕の見解だ。

 

「さて、そろそろ試合の時間だ。アンネローゼさんには是非とも頑張ってもらわないとね♪」

 

 その後は僕はアンネローゼを相手に圧倒してみせた。あれは実にいい試合だった。

 観客達からのどよめきの声が僕に心地よい優越感を与えてくれた。

 このままどこか高めのレストランでワインでも一杯堪能したいところだけど、この後に続く試合こそが今日のメインディッシュといっても過言ではない。

 

 世界最強の魔剣士ミホークVS前回のブシン祭優勝者アイリス王女の一戦。オッズは圧倒的にミホークさんが上だが、王都ブシン流の門下生たちはアイリス王女に賭けているようで、中々に悪くない塩梅となっている。

 僕は勿論、ミホークさんの勝利に手持ちのお金を全額ベットした。ヒョロではないけれども、僕だって陰の実力者を演じる為に軍資金が入用なのだ。

 

 

 

 

 

 ブシン祭で今回ぶっちぎりに注目されているミホークVSアイリスの試合は観客、魔剣士問わず試合会場に詰め寄っていた。

 

「…………」

 

 大歓声の聞こえるなか、闘技場内で俺は静かに目を閉じて試合が始まる時を待つ。

 この試合に対して俺は一切興味も関心も抱いていない。この背中に背負う我が愛刀どころか、腰に下げた予備の短剣すら抜く必要性すら感じない試合となるだろう。

 

「お待たせして申し訳ございません。ミホーク様」

 

 今回の俺の対戦相手となるアイリス王女がようやく闘技場内に姿を現した。

 それと同時に、周りの観客共の歓声がより一層騒がしくなる。煩わしさはあるが、剣の腕によってこの場に立てているという事実は少しだけ俺に満足感を与えてくれる。

 あとは、俺が全力を振るえる強者に出会いさえすれば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名はアイリス・ミドガル。王国最強の魔剣士である。

 

 今回の私の対戦相手は歴代ブシン祭優勝者のなかで1番の強さを誇る。まさに最強の称号を持つにふさわしい男、ジュラキュール・ミホーク。

 今までの私の人生のなかで間違いなく1番の強敵になるであろう相手を前に私は慣れない緊張をしてしまっている。

 これまでの試合で感じたことの無いほどに心臓がバクバクと鼓動を鳴らしている。

 

 けれども、私は負ける訳にはいかないのだ! ここ最近、とある事件の為に王都ブシン流に対する風当たりが強い為、なんとしてでもここで私が優勝してイメージを少しでも回復させなければいけない。

 それに……、私は1人で戦う訳じゃない。

 

「アイリス様! 期待しております!!」「アイリス様ならば、かの大剣豪にもかならずや!!」「アイリス様! 頑張ってください!!」「アイリス様!!! ご武運を!!!」

 

 この歓声こそが私の力であり、私の使命なのだ。

 いかに相手が世界最強であろうとも、我が剣は一歩も劣らないのだと、この会場にいる皆に見せつけなければならない。

 このアイリス・ミドガルがいる限り、王国は安泰なのであると示すのだ。

 

 闘技場内に続く階段を登るにつれ、外の歓声が段々と鮮明に聞こえてくる。その中の多くはミホーク殿の剣に期待、あるいは興味を示すものばかり。

 しかし、よく聞けばこの私を応援する者の声もチラホラと聞こえてくる。きっと王都ブシン流の門下生達の者の声だろう。

 その声を耳にして私の緊張はようやくほぐされていく。手に震えはないし、心臓も平常運転へと戻る。

 

 これならば全力を出せる。そう確信し、先に闘技場内で待っていたミホーク様に声をかける。

 

「お待たせして申し訳ございません。ミホーク様」

 

「…………」

 

 こちらからの挨拶に返事はなし。噂通り寡黙な人物のようだ。

 無礼であると感じられなくもないが、相手はあの世界最強の魔剣士ジュラキュール・ミホークだ。あるいは、それくらいの態度でなければ最強は務まらないのかもしれない。

 

 返事が返ってこなかったことにより、会場内に気まずい雰囲気が漂ってしまう。

 それに耐えきれなかった審判が、多少試合時間を早めて試合開始の合図を宣言する。

 

『第二試合! ジュラキュール・ミホーク対アイリス・ミドガル!! 試合開始!!!』

 

 審判の腕が振り下ろされ、試合が始まる。それと同時に私は鞘から剣を抜くが、対するミホーク様はまるで試合開始の合図が聞こえていないかのように、背中に背負う剣を抜く気配を一切見せようとはしない。

 

「抜かないのですか? それでは私から攻めさせて貰います!!」

 

「…………はぁ、0点だ」

 

 私が攻めに走り出した途端、ミホーク様はため息を吐いて見下したような目で私を見た。

 

「っ!!?」

 

 近距離に接近し、振るった私の剣に対しミホーク様は一歩足を下げながら紙一重といえるほどギリギリの距離で避けてみせた。

 しまった! 斬られる!? そう思い急遽後ろに下がったのだが、ミホーク様は避けるだけでなおも剣を抜こうとはしてみせなかった。

 

「っ! 一体どういうおつもりですか?」

 

「どういうつもりか……。それはこちらの台詞だな」

 

 ここで初めてミホーク様が返事を返した。しかし、今の言葉は一体どういうことなのだろうか? 

 

「貴様は一体どういう考えでここに立っている? この俺に対してまるで胸をかりるようなその態度、まるで気に食わん。魔剣士同士が目の前に立ち塞がったというのなら、いい試合をしようなどという心づもりで挑もうとは笑止千万よ。敵を倒すというのであれば、いかなる状況であろうとも、首を刎ねる心構えでなければならん」

 

「……っ!?」

 

 そう言うと、ミホーク様は首にぶら下げていた十字架のネックレスを外して手に取る。それはどうやら仕込みナイフのようで、一部を取り外し玩具のようなナイフが現れる。

 そんな爪楊枝程度の大きさのナイフで相手をされるのは酷い侮辱である。

 だが、ミホークは更に剥きだしの刃の方を指ではさみ、持ち手である柄の方をこちらに向けてきた。

 

「殺し合いではなく、いい試合がしたいのであろう? ほれ、遠慮なくかかってくるがいい」

 

「──―っ!! 私を!! 舐めるなぁ!!!」

 

 玩具の刃先さえ向ける必要のない相手だと愚弄する奴に、私は激昂するまま魔力で高めた一撃を振り下ろしにかかった。

 観客席で見守る誰もが、この先に起こる凄惨な未来を予感して悲鳴が上がる。

 そんな彼らの予想はあっけなく裏切られることになる。

 

「なんとも単純。そして、酷く退屈な剣技だ」

 

「──っがは!!?」

 

 あと一歩踏み込めば私の剣が届く間合いに入る。そう確信したと同時に、棒立ちで待っていた奴が電光石火の動きで私よりも早く動いてみせた。

 それだけだ。そこから先は何が起こったのかまるで理解出来ない衝撃が私を襲い吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 僕は目を疑ってしまった。これでも僕は前世を含めて剣技の修業を疎かにしたことはない。

 陰の実力者としてスタイリッシュな剣さばきは必須と考え、様々な剣術に精通していると自負している。

 

 多分、この会場で誰もミホークさんの動きを目で追えた者はいないだろう。対戦相手であるアイリス王女も含めてだ。

 今のはレイピアによる突きの一撃に似た動き。それも相手を殺さないために魔力を込めていないものだ。

 

 普通ならば、魔力を使用した魔剣士を相手に魔力無しの剣士は勝てないのが道理。

 前に学園を襲ったテロリスト達を相手に僕は魔力無しに身体能力で勝ってみせたが、油断していない魔力全開のアイリス王女を真っ正面から叩き潰すのは流石の僕でも難しいだろう。

 

 しかし、ミホークさんはそれを何でもないかのように(こな)してみせた。

 どうやったのか、その種は単純なものだ。僕も予選で金ぴかの人相手にしてみせたカウンターの一撃。

 猛突進してくるアイリス王女の攻撃に合わせて、もっとも無防備で相手の動きを止めやすい喉仏を柄で突いてカウンターを決めたのだ。

 

「言うは易く行うは難し、まさにその通りの動きだ」

 

 ピンチはチャンスという言葉があるように、人がもっとも油断するのは相手にトドメを刺す瞬間だろう。アイリス王女が攻撃が決まると無意識に油断していたところを、彼は攻撃してみせた。

 まさに攻撃は最大の防御なりという言葉を実践してみせたのだ。

 

「それにしても、あの相手を煽る台詞といい、あのお手本のような舐めプといい。彼は非常によく分かっている!!」

 

 うんうんとシドは妙なところで感心して頷き、その後の試合展開を楽しんだ。

 

 

 

 

「ゲホゲホ! この痛み……、喉をやられたというの?」

 

 まるで目に見えなかった攻撃に、体の痛む箇所から攻撃の食らった部位を特定する。

 今の攻防で決定された彼我の戦力さにアイリスは絶望を覚えた。それは先程までの激昂を容易くかき消してしまうほどの絶望を……。

 

「理解出来たか、弱き者よ? 今の俺と貴様の間にある差は実力の差にあらず。魔剣士としての格の差と知れ……」

 

「人を馬鹿にするのもたいがいにしてください……!!」

 

 王国最強の魔剣士たる私をこれ以上侮辱するのは許さない! これは私だけの問題ではない。私の後ろに続く王都ブシン流の門下生を侮辱するも同然なのだ。

 例えこの剣があなたに届かなくとも、せめて剣は抜かせてみせる! 

 

「うおぉあぁぁぁぁ!!!」

 

「なんと獰猛で凶暴な剣か……。まるで理性のない獣だな。それ故に容易い……」

 

 まるで幼い子供を相手するかのごとく、私の連撃を玩具のナイフの柄で捌いてみせる。

 本来ならばできる筈の無い不可能な芸当。しかし、目の前の奴は自身に当たる寸前の剣の側面を横から柄で叩いて自分に当たらないように逸らしていっている。

 

 ありえない! ありえない!! ありえなぁいぃぃ!!! 

 

「こんなにも……、こんなにも私の剣が頂点よりも遠いなんてぇ!!」

 

「自身の剣が頂きの麓まで辿り着いていると過信していたか? 愚かな……」

 

 ふっと目の前から奴の姿が消える。それと同時に首の後ろを殴られたような痛みが走り、前傾姿勢になっていた私はあっけなく前へつんのめってしまう。

 そしてそのまま私は無様に地面に転がり倒れてしまう。

 

「これで2回だ。貴様が舐めるなといったあの言葉、訂正するのなら今のうちだぞ?」

 

 ミホークがいった2回の意味。それは刃先を向けていれば私が死んでいた回数のこと。

 ここにきてふと脳裏にあの事件のあった日の事を思い出す。

 

『観客は観客らしく、舞台を眺めているだけで満足していなさい』

 

 あのシャドウガーデンのアルファと名乗る女が吐き捨てた台詞を急に思い出したのだ。

 この男もあの女も、今の私を見下す圧倒的な強者だ。

 

 だがそれが何だというのか、私の中に今まで感じたことのない強い怒りが込み上げてきた。

 弱者だと侮蔑されたこと、全力を出すまでもない取るに足らない存在だと見くびられていること、そしてそれが全て事実であることが認められ無いほどに腹立たしい。

 

「あああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

 私の中の怒りに呼応して魔力がどんどんと昂っていく。それは天井知らずのように沸き上がり、周囲に可視化できるほどの密度の魔力が纏わりつく。

 もはや並みの魔剣士ならば近づくことさえ困難な今の私に対して、奴はそれでもなお刃先を私に向けてこなかった。

 

「あなたが言いましたよね? 敵を倒すというのであれば、いかなる状況であろうとも、首を刎ねる心構えでなければならないと……」

 

「勿論、一言一句違わぬな」

 

「なら、私の剣で自身の首が刎ね飛ばされる覚悟もおありですわねぇ!!!」

 

 魔力で極限まで強化されたその脚力は、地面を陥没するほどの威力で蹴飛ばし、ロケットのような速度でミホークの首を狙って飛んでいく。

 

「ようやく殺気を見せたか。しかし、全てが遅い……」

 

 アイリスの突進を前に、ミホークは避けるどころか前へと飛び出す。

 だがもうアイリスは驚かない。この男が剣の勝負で逃げることは無いのだと体で覚え込まされたのだ。

 あとはこの男よりも速く剣を振り下ろすだけ、それだけなのだ! 

 

「うおぉぉぉぉ!!!!」

 

「…………未熟」

 

「────っ?!!」

 

 勝負はあっさりと決まった。

 

 魔力有と魔力無ならば身体能力を魔力で強化しているアイリスの一撃の方が速かった。

 しかし、ミホークはただ冷静に自身に迫る刃の動きを見極め、ほんの少し魔力を込めた左手の指で優しく自身の首を狙う刃を摘まみ取った。

 

 それだけ、たったそれだけの動作でアイリスの剣はミホークの指の中に納まって動きを止めてしまう。

 そして、その次の動作で無防備となったアイリスの額にミホークのナイフの柄がゴン! と鈍い音をたてて当たった。

 

 その衝撃で脳が揺れて意識が一瞬飛んだのだろう。決して離したりはしないといった意思が籠った両手の握力が消えてゆき、ミホークの指に納まったまま剣はアイリスの手から離れ、ドサっとアイリスは背中から地面に倒れ落ちてしまい、大の字で寝転がる姿勢になった。

 

 そして、倒れた衝撃で失った意識を取り戻したアイリスが自身の今の現状を判断するのに数秒の時を要した。

 

「負けた……私が……? 相手に剣すら使わせることなく……?」

 

 ぼやけた思考のまま、自身が負けたのだという事実を認識していく。

 背中に感じる地面の感触がこれは夢ではない現実だと酷く冷酷に教えてくる。

 

「貴様はまだまだ未熟だ。剣の腕も、技の冴えも、肉体の練度も、……そして何より、その精神性こそが弱者たる貴様の最大の欠点だ」

 

「…………」

 

 先程から聞こえてくる言葉の棘が私の胸を抉りとっていく。

 彼の言う言葉は全て正しい。それ故に、今まで一度たりとも敗北したことのない私にとって、これほどまでに堪えることはない。

 

「…………っ」

 

 駄目だ。泣くな私! ここで涙を流せば、今までの私は……私は……! 

 

「うっ……、うわぁぁぁぁん!!!」

 

 もう自分の理性では止められないほどに感情が溢れ出し、大粒の涙を流しながら私は泣き叫んだ。

 悔しい。悔しくて仕方がない。この私がこんなにも無様に負けてしまうなんて……。

 

『しょ……勝者! ジュラキュール・ミホークぅぅぅ!!!!』

 

 慌ててアイリス王女の泣き声を観客に聞こえさせまいと審判が大声で何度もミホークの勝利を宣言する。

 しかし、それがアイリスにとって自分は負けたのだと強く突きつけられているようで余計に悲しくなってきてしまう。そして同時に自分が情けなく思えて仕方がなかった。

 

 私は一体何をしているんだ? こんなところで泣いている場合じゃないだろう!? そう思っていても、一度流れ出した涙を止めることができない。

 

「時間の無駄だったな」

 

 手にしていたナイフを仕舞い込み、再びネックレスとして首にかけて自身の控室に戻る。

 

「…………流石ね、ミホーク」

 

「ベアトリクスか、久しいな……」

 

 どうやって忍び込んだのか、剣聖ベアトリクスが控室前でマグロナルドのハンバーガーを口にしながら、ミホークの帰還を待っていた。

 

「あの子、もう魔剣士として立ち直れないんじゃない?」

 

「それならば、奴はそれだけの器であったということだろう。真の強者は敗北者の中から生まれる。たった1度の敗北すらも糧に出来ずに終わるというのならば、奴は真実、ただの弱者であったというだけのこと……」

 

「相変わらず厳しいのね」

 

 コテンと可愛らしく首を傾げながらベアトリクスは袋に入っていたハンバーガーの1つを差し出してきた。

 

「なんのつもりだ……?」

 

「……? お腹が減ってるかなと思って」

 

「……いただこう」

 

 相変わらずの天然な対応に呆れつつも、差し出されたハンバーガーを手に取って腹を満たす。

 

「それで、何故今更になってあなたがブシン祭に出場する気になったの?」

 

「ただの暇つぶしだ。それと、俺の勘がこの大会で俺を満足させる奴に出会えると言った気がしたからだ」

 

 なんとも適当な理由であったが、ミホークがそう言うのならばそうなのだろうと納得したベアトリクスはそれ以上は追求しなかった。

 けれど、今のミホークが満足出来る相手が本当に存在するのだろうかと疑問を覚え、その相手は見つかったのかと問うてみる。

 

「ああ、1人だけ良さそうな奴を見つけた。もしお前も気になるのなら明日の俺の試合を見に来るがいい。退屈凌ぎにはなるやもしれんぞ?」

 

「ん……、なら楽しみに待ってる」

 

 そう言ってベアトリクスは去っていった。

 

「やれやれ、自分勝手な奴め……」

 

 なんともマイペースな奴だと思いながら、ミホークも自身が泊まる宿屋へと帰っていく。

 

 

 




これで格付けチェックは終了。

原作の「あいにくこれ以下の刃物は持ちあわせていないのだ」以上の煽りを見せた今作のミホークさんでした。

感想と評価お願いしゃっす!ランキングで1位取れたらますます頑張れるんで!!


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戦慄走るブシン祭!!大剣豪の脅威の一振り!!!

仕事が忙しかったのと、書いている内に無駄に文章量が多くなった。
投稿遅れたけど、ゆるしてクレメンス。


 ここ数日、シャドウガーデンのメンバーはとある人物の情報を手に入れる為に奔走していた。

 

 事の発端は数日前、とある信頼できる筋からの情報で、世界最強と名高き魔剣士、ジュラキュール・ミホークが表舞台に躍り出たらしい。

 

 その目的は何か? 教団と繋がりがあるのかどうか? シャドウガーデンと敵対関係にならないか? 

 

 様々な可能性を調べて潰すべくメンバーは周辺諸国から情報を手当たり次第に集めていった。

 その結果として、ミホークの目的がブシン祭に出場することだということが判明した。

 

 だが、そこで新たな疑問が浮かび上がる。

 ブシン祭優勝5連覇を果たし、自身に匹敵する魔剣士は存在しない。そう確信したからこそ、ミホークは表舞台から姿を消したのだ。

 そんな彼が何故今更ブシン祭に出場することを決めたのか? 

 

 秘境にて手に入れた新たな力を試すためなのか? 自身に匹敵するような相手を見つけたからなのか? 新たな情報は新たな謎を呼んだ。

 

 そんな中、我らが主であるシャドウが顔と身分を偽ってブシン祭に出場するとガンマから報告が入る。

 まさか、シャドウはミホークの狙いを暴いている!? 

 

 即座に私は命令でゼータを派遣し、ミホークの情報を得るべく足取りを追跡し、その目的を調べ上げようとした。

 しかし、後日ゼータからミホークに追跡がバレたとの報告が入る。

 

 シャドウガーデン内で最も隠密能力に特化しているゼータですら見破られる気配察知能力は流石の一言だろう。

 ゼータからは本人と直接言葉を交わし、目的は暇つぶしで、教団との繋がりはないと言われたそうだ。

 ゼータからは噓を言っているような感じはしなかったと報告はされたが、それを馬鹿正直に信じる訳にもいかない。

 

 ならばと、剣の国『ベガルタ』出身であるラムダをここへ呼んだ。

 

「失礼します、アルファ様!」

 

「急に呼び出したりしてごめんなさいね、ラムダ。あなたに聞きたい事があったの、かの大剣豪、ジュラキュール・ミホークについてよ」

 

「あの御仁のことですか、申し訳ありません。私もかの御仁とは直接的な面識はなく、精々があの方とベガルタの精鋭達との決闘試合を見た程度でして……」

 

 本当に申し訳なさそうに謝るラムダに私は宥めるように優しく声をかける。

 

「それでも構わないわ。それで、あなたの目から見て、ジュラキュール・ミホークの実力はどの程度のものなのかしら?」

 

「はっ! 了解しました。っと言っても、あの頃の私はまだまだ未熟者で、理解出来たことといえば、彼の剣が消えたと思った瞬間に敵が吹っ飛んだということぐらいでして……」

 

「なるほど、つまり当時のあなたでは見ることすら出来ない領域の強さだったということね?」

 

「はい、まさにその通りです。その……すみません。あまり役に立ちそうな情報ではなくて。こ……これからも精進し、シャドウガーデンの為に尽くすことを約束します!」

 

 ラムダを傷つけないように言葉を選んで問いかけると、ラムダは申し訳なさと気遣ってくれたことへの照れと嬉しさが入り混じったような表情を浮かべて答えてくれた。

 そのままラムダへ通常業務に戻るように命じると、彼女はすぐに今担当している新人育成の為に訓練場へと戻っていった。

 

「シャドウ。あなたには一体何が見えているというの?」

 

 窓の外から見える空を眺めながら、アルファは事件の核心に近づいているであろうシャドウの姿を思って言葉を独り言を漏らす。

 

 

 

 

「はっくしょん!」

 

 ズビッと鼻水をすすりながら誰か僕の噂でもしているのかな? と首をかしげる。

 

「大丈夫ですか、シドさん?」

 

「ええ、ちょっと鼻がむず痒かっただけですよ、アイリス王女」

 

 そう、今の僕の隣には昨日試合で負けたアイリス王女が座っている。

 僕はてっきり昨日の試合で負けたから公務に戻るものだとばかり思っていたが、どうやら彼女はこのブシン祭でのミホークさんの試合を見学して雪辱を果たすリベンジに燃えているようだ。

 

「僕よりもアイリス王女の方が心配ですけどね。ほら、その目とか……」

 

「あらやだ、みっともない顔を見せてしまって申し訳ありません」

 

 王女様の目には思いっきり泣いた後に出来るまぶたの腫れが浮かんでいた。

 そりゃ、昨日あんだけ派手にボコスカにやられちゃってたしな~。

 けど、あの強者ムーブはかっこよかったな~。武器を使わないじゃなく、あえて使った上で刃の方を持ち手にして柄の方を相手に向けるとはね~。

 あの煽りは今後のシャドウの参考として取り入れるのも有りだな。

 

 うん? なにか向こうが騒がしいような? 

 

「あのっ、お客様。失礼ですが、こちらの特別席に武器の持ち込みはちょっと……」

 

「! あ……いいのです! その方は私がお呼びしました。こちらです『武神』ベアトリクス様」

 

「ベアトリクス様……? あの伝説の剣聖の!? 」

 

 あの人は確かベアトリクスさんだったっけか? へぇ~凄いな、あの人武神やら剣聖やらだなんて呼ばれてるんだ。

 僕もそういう2つ名とか欲しいな。例えば奴があの伝説の!? だとか、あれが噂に聞く!? なんて呼ばれてみたいな。

 

 まあ、そんな風に呼ばれている有名な人と僕は今から戦うわけなんだけどもね……。

 

「それでベアトリクス様。例の件はお考えいただけましたでしょうか?」

 

「例の件?」

 

 おっと、つい気になって口を挟み込んでしまった。けどまあ、メインキャラの意味深なやり取りに、ついうっかり口を挟むモブとしてはいいタイミングだったのではないだろうか? 

 

「ええ、昨日この子に剣の腕を磨いて欲しいってお願いされたの」

 

「昨日の負けは私の未熟が招いた結果。決して王都ブシン流のせいではない。それを皆に示さなくてはなりません!! その為には、今の私がより強くなってミホーク様に認めてもらわなければ!!」

 

 へぇ~、昨日の負けで剣の道を諦めるものかと思ってたけど、随分と熱い人だったんだな、アイリス王女って。

 

「無駄よ。今のあなたでは何をしたって彼には勝てないし、届かない」

 

「っ! 何故!?」

 

 ガタンと椅子を蹴倒して立ち上がるアイリス王女に、ベアトリクスは冷めた目を向けながら落ち着いて話をしだす。

 

「正直言って、あなたがここまで早く再起するのは驚いた。でも、その精神性はあまり変わっていない。そのすぐ激情する性格は直しなさい。ミホークからも言われてたでしょ?」

 

「っ!!」

 

 悔し気に唇を嚙みしめるアイリス王女。まあ、人の性格なんて1日そこらで変化することはそうそうないからね。

 それを見抜いたからこそ、ベアトリクスさんはアイリス王女のお願いを蹴ったのだろう。

 

 おっと、そろそろジミナに変装しなければ試合の時間に間に合わないぞ。

 折角だし、この気まずい雰囲気に耐えられなくて逃げ出したモブでも演じるとしようか。

 

「あ~、僕、お腹が痛くてトイレに……」

 

 飲んでいたティーカップを置いてそそくさとこの場から退場する。

 よし! 周りの人たちの目が逃げやがったなこいつという冷めた視線を向けてくる。どうやら僕の演技に見事に騙されたようだな。

 

 さ〜て、ブシン祭での最大のお楽しみといきますか。

 

 

 

 

 

 シドが去ったことにより、場の雰囲気を悪くしたというのに気づいたアイリス王女は、頭を下げてベアトリクスに修業の打診を再び願いでる。

 

「お願いします。この性格を直せというのであれば精一杯の努力はさせていただきます。なのでどうか、私に剣のご指導を!!」

 

「…………、確かにあなたは才能がある。剣の腕も魔力もこのブシン祭に出場している魔剣士のなかではトップクラスの実力者でしょうね」

 

「でしたら!!」

 

「でもそれだけよ、私やミホークの求める強さとあなたの思い描く強さは全くの別ものよ……」

 

「?? それはどういう……」

 

 ベアトリクスの言い分が理解出来なかったアイリス王女は首をかしげながら問いただそうとすると、部屋に入ってきた男が先程までシドが座っていた席に着席する。

 

「これはこれは、アイリス王女。どうやら、昨日の試合で折れてしまったかと心配しましたが、そのお姿を見れば無用の心配だったようですな」

 

 そう隣に座るドエムがニヤリと笑いかけるのに対し、アイリス王女は若干眉をひそめると、すぐさまいつもの笑顔を貼り付けて返事を返す。

 

「昨日はお見苦しい様をお見せして申し訳ございませんでした」

 

「いえいえ、かの大剣豪を相手にすれば仕方のなきこと。アイリス王女ならば、リベンジを果たすと信じております!」

 

「そうですね。私もより一層の精進をみせ、次こそはかの大剣豪を相手に剣を抜かせてみますわ」

 

 なんとも胡散臭い笑みを浮かべながら思ってもいないことを口にするこの男の態度に、アイリス王女はにこやかに返す。

 

「なるほど。実に心強いお言葉だ。ところで、そちらのお嬢さんはどなたでしょうか?」

 

「ああ、この方は『武神』ベアトリクス様なのです」

 

「っな! まさかこの地にかの大剣豪と剣聖が揃うとは……。このような歴史的瞬間に立ち会えたことを光栄に思えます。そういえば、ベアトリクス様はかの大剣豪と旧知の仲であると噂で聞いておりますが?」

 

「それは本当。最初の出会いは確か、目が合ったから殺し合いをしたのがきっかけだったかな?」

 

「「こ……殺し合い!?」」

 

 まさかのとんでも発言に、アイリス王女とドエムが異口同音の声を上げる。

 

「うん。お互いにあっ! この人強いってなんとなく気になったから口より先に剣が出たの……」

 

 なんてことない風に口にしているが、アイリス王女は「ははは……」と渇いた笑みを浮かべ、ドエムはひきつった顔で「どこの蛮族だ!」と内心でツッコミを入れていた。

 

「そ……それで、その殺し合いの結果はどうなったのでしょうか?」

 

 かの大剣豪と剣聖の殺し合いの結果、そんな特ダネを聞かずにはいられなかったドエムが恐る恐ると尋ねる。

 

「う~ん、結果から言うと私の事情で勝負は中断しちゃったから、引き分け……かな……?」

 

「引き分け……ですか……」

 

「うん。あっ、でもそれ以降も出会ったら戦ったりしていて、現在は12戦11敗1引き分けで負け越してる」

 

「ベアトリクス様が11回も負けているのですか!?」

 

「そう。彼、会う度に別人かと疑うくらい強くなっていくから……」

 

 ちょっと悔しそうに頬袋を膨らまして剣を握る手を強め、用意されたティーカップの中身を一気に飲み干す。

 

 だが、実際にミホークはベアトリクスと出会う度に飛躍という言葉では片付けられない程の成長をしている。

 それは彼自身の天賦の才能もあるが、何より彼の努力の賜物だろう。

 剣以外の全てを捨てたような生活と空想のフィクションとはいえ、今の自身よりも格上の剣士をイメージしながら剣を振るい続けている。

 決して自身にとって都合のいい偶像ではない。自身の経験と歩んできた現実、そして何時間と読み込み、見続けた憧れのキャラの動きを完璧に覚えている記憶によって裏打ちされたイメージは虚像ではなく、現実となる。

 それこそが、ミホークが強くなり続けられる1番の理由なのだ。

 

「彼が見ている世界は私が知る闘いの世界の遥か上をいっている。だからこそ、彼は世界最強の魔剣士と呼ばれるほどに強くなった」

 

 ごくりとアイリス王女とドエムは唾を飲み込む。

 ミホークがまだ成長を続けているというのであれば、あれ以上強くなるというのだろうか? 

 

「そういえば、ミホーク様の剣の腕……というより、伝説は聞き及んでおりますが、その……」

 

「……? ああ、彼の剣ってデタラメ過ぎて噂話とかじゃ理解出来ないのものが多いからね……」

 

 ドエムが聞きたいのはミホークの剣技についてなのだと察したベアトリクスは、自分の目から見たミホークの剣を説明する。

 

「そうね。彼の剣は私が知る魔剣士の中で最も優しい剣の使い手ね……」

 

「彼の剣が優しいですか……?」

 

 昨日の試合で見せた圧倒的な戦闘からは、優しさとは無縁の人物に思える。

 

「勘違いしないで欲しいのだけれど、彼は敵に対しては決して優しくも甘くもないわ。私の言う優しさとは“柔”を指す。その言葉の意味を真に知りたければ、彼が次の試合で剣を抜くことを祈ることね……」

 

「「…………」」

 

 王国最強のアイリス王女ですら剣を抜くことさえしなかったミホークに、一体誰が抜かせられるというのだろうか? と半ば諦めた気持ちのアイリス王女とドエムは静かに次の試合が始まるのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別席から抜け出した僕は早速ジミナへと変装し、ミホークさんの待つ闘技場へと歩を進めようとしたその時、僕の背後に誰かが近づいてきた。

 

「何の用だ、アンネローゼ?」

 

「っ! こっちを振り向きもせずに気がつくなんて流石ね、ジミナ」

 

「なに、簡単なことさ。俺は一度戦った相手の気配と足音は絶対に忘れないタチなんでね」

 

 決まった~!! 気配察知で格の差を見せつけ、ニヒルな台詞で振り返る。いかにも強者の風格を滲ますこの一連の動作!! 

 ま・さ・に! 僕の思い描く陰の実力者として完璧じゃないか? 試合開始前にこんな貴重な体験をさせてくれるだなんて、やっぱりアンネローゼは最高だ!! 

 

「それで、一体何の用で俺の後ろに立った? 俺はこれから試合なんだが?」

 

「私が来たのはそれよ!」

 

 ビシッ! と指を指してくるアンネローゼに、僕は首をかしげる。

 これから始まる試合にアンネローゼが何か関係しているのだろうか? 

 

「あなたがこれから戦おうとしている相手は、剣の国ベガルタで『剣神』とすら崇められ畏怖される剣の頂点に立つ存在なのよ!」

 

「知ってる。俺の知り合いにベガルタ出身の者がいるのでな。その称号を持つきっかけになった試合を見たそうだが、何も理解出来ない次元の戦いだったそうだな……」

 

 これは確かラムダに聞いた話だったかな? 昔、ミホークさんの噂を聞いて色々と調べ上げてたっけかな。

 結局、分かったことといえば、ミホークさんがとんでもない魔剣士で物凄く強い! ってことくらいだったけど。

 

「ええ、彼の強さは昨日の試合でも見たように常軌を逸してるわ。その上で聞いて! 今からでもいいから、彼と戦うのは止めておきなさい。これは一度剣を交えた友人としての言葉よ!!」

 

 なるほど、アンネローゼがここへ来たのは純粋に僕を心配してのことだったのか。

 まあ、昨日のあんな試合を見たのならそれも仕方のないことだろうけれども……。

 

「生憎と断らさせてもらおう。俺は敵に対して背を向けない主義なのでな。それに、1つお前に聞くが、戦う前から負けることを想定して戦う魔剣士がいるか?」

 

「……はぁ、それもそうね。ならここからあなたの活躍を見せてもらうとするわ。精々無様に負けないように気張って頑張ってきなさい!」

 

「…………」

 

 そう背中を押してくれるアンネローゼの激励に対して僕は無言で親指を立てて闘技場へ入場する。

 

「…………ニィ」

 

 実力を認めた同士が試合開始前に友情を確かめる。なんて王道的なスタイル! 僕の思い描く陰の実力者ムーブとはちょっと違うが、こういう演出も悪くないな。

 

 感無量とばかりに浮かれた気分で闘技場の土を踏んだ瞬間、僕の気持ちが一気に引き締められる。

 

「っと、こうして戦いの場で対峙すればよく分かるな。奴の気迫と強さというやつが……」

 

「…………」

 

 ただそこに立っているだけ。武器を構えているわけでも、殺気を放っているわけでもない。

 先程、僕がアンネローゼにしたみたいな強者ムーブをせずとも、そこに立つ。たったそれだけの動作が彼という本物の強者を強者たらしめる。

 

「嬉しいねぇ……」

 

 僕がこの世界に転生してかなりの月日が経った。

 

 前世で恋焦がれ続けていた魔力! 同じ志を持つ同士! 陰の実力者として活躍できる舞台! 

 

 前世であれほど欲しかったものが今の僕の周りには溢れている。

 でも、1つだけ手に入っていないものがある。それは、陰の実力者としてのライバルの存在!! 

 つまるところの主人公の有無だ。

 

 王都の学園に入学し、それなりの時を過ごした。モブとしての友人ができ、王女との偽りの恋人を強制され、強者に倒れるモブ技を試し、王女をテロリストから庇うモブを身を張って演じてみせた。

 非常に濃い学生生活を送ってみたが、未だこの世界の主人公ともいえる存在には出会ったことがなかった。

 

 でも、僕は今日この瞬間に確信した。彼こそが僕のライバルたる存在。すなわち、主人公になりえる存在足りえると!!! 

 

「「…………」」

 

 互いに口上の挨拶を交わすことなく、闘技場の中央で接敵する。

 

 緊張した空気が闘技場内外に張り詰める。昨日のアイリス王女との試合でもここまでの緊張感は漂ってこなかったというのに、あのジミナとかいう魔剣士は何者なんだという声が観客席中からざわめきだっている。

 

 本来の僕ならば、この観客達の反応に満足感で満たされているのだろうが、それ以上に目の前に立つこの人の視線が気になり過ぎてそれどころではなかった。

 

 全身の鳥肌が逆立つような気迫の圧に押されてしまう。今すぐにでも剣を抜いて戦ってみたい衝動に駆られるが、まだ押さえろ! メインディッシュを焦って喰らうだなんて勿体ない、じっくりと味わいつくそうじゃないか。

 

『両者準備はよろしいか? それでは2回戦、ジュラキュール・ミホーク対ジミナ・セーネン!! 試合開始ッ!!!』

 

 審判の試合開始宣言と動くと思われた両者だったが、現実はその真反対に両者は動きをまるで見せなかった。

 

 微動だにしていないわけではない。ジミナはほんの僅かに視線や重心を移動させながらミホークの動きを観察している。

 それに対してミホークは、アイリス王女の時に使った玩具のナイフではなく。腰にさしている予備の武器である短剣を抜いた。

 

 あのアイリス王女にさえ剣を手にすることがなかったあのミホークが短剣とはいえ、剣を抜いてみせた。その事実は観客を含め、特別席に座っている者達も驚きの声を隠せないでいた。

 それに対して、対戦相手のジミナはというと……、

 

「…………?」

 

 おかしい? 俺は視線や重心移動でイメージではあるが、何度もミホークさんの体を斬っている。

 だというのに、ミホークさんは一切の挙動を見せてはこない。気がついていない? いや、そんな筈はない。

 今はイメージだけだが、実際に俺が動いていればイメージ通りにその体を斬り刻まれていただろう。

 

 もしや、僕の虚を完全に見切っているからこそ動かないのか? 

 

「試してみるか……」

 

 ゆったりとした体の動きから、力を籠めて剣を握る。

 そして、踏み込みと同時にその体を斬り裂く!! 

 そう思って地面を蹴り上げようとしたその瞬間、ミホークさんの鋭い眼が僕を捉えた。

 

「生憎と俺はその手の小細工は好かん。ゆえに、避けてみせろ」

 

「っっっ!!!?」

 

 ミホークさんが握っているのはただの短剣だ。抜いた時から観察していたが、そこらの武器屋に置いてある程度のどこにでもある、業物とも呼べぬ普通の代物と何ら変哲は無かった。

 

 頭ではそう理解している。だというのに、ミホークさんがその短剣を天高く掲げたその時、全身の細胞が死の恐怖を……あの日、前世で死んだときの光景を思い出す。

 

 未来の現実が、予感として僕に警告してくる。

 

『避けねば死ぬぞ!!!』

 

 その言葉が頭に響くと同時に、前へ出る為に踏み出そうとした足は真横に飛んだ。

 

 ズバッ!!

 

 そのすぐ後に、ミホークが短剣を振り下ろせば、斬撃が先程まで僕が立っていた場所を斬り裂き、地面にはけして小さくはない斬撃の跡が出来ていた。

 

「飛ぶ斬撃とは、恐れ入ったな……」

 

 まさか、試そうとしたつもりが試されるハメになるとは……。

 

 首筋に流れる冷や汗を拭いながら、もう油断や慢心はしないと誓って剣を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 特別観客席で試合を観戦していたドエムは目を見開きながら身を乗り出し、今の現象に困惑を隠さずにいた。

 

「なんだ今の攻撃は!? 振り下ろした短剣から斬撃のようなものが飛び出たぞ!! まさか、あの短剣はアーティファクトの類いの物なのか……!?」

 

「そんな筈は……!? あれはどう見てもただの短剣のようにしか見えませんが……?」

 

 人が短剣をただ振り下ろしただけで斬撃が飛んだ。

 どこのホラ吹きが吐いた嘘だ! と笑われるかもしれないが、事実として目の前でミホークがそれを成してしまったのだ。

 

 これには大会では禁制であるアーティファクトの存在を疑ってしまうのも無理はない。

 しかし、純粋な魔剣士であるアイリス王女の目にはあの短剣がアーティファクトのようには思えない。

 

 そもそも、世界最強の魔剣士であるミホークがアーティファクト頼りの戦いをするだなんて信じられないのだ。

 

「アイリス王女の言う通り、あれはただの何処にでも売っている短剣よ。ただその使い手が異常なだけ……」

 

 騒ぐ2人を落ち着かせる為にベアトリクスは言葉を紡ぐ。そして、その細い指を真っ直ぐにミホークへ指す。

 

「運がいいわ2人共、彼が剣を抜く事なんて私以外じゃ滅多にないもの。ほら、見なさい。あの闘技場の地面に出来たあの跡こそが私の言う彼の強さの1つよ」

 

 そう言われてミホークが放った斬撃の跡を見てみるが、別段特に変わったようなものは見受けられなかった。

 いや、ドエムは何も気付かなかったが、アイリス王女は何か違和感のようなものを感じ取る。

 

「なにか……魔剣士としての勘ですが、あの跡には私が学ぶべきことが詰まっている。そんな気がします……」

 

「そうね。昨日の試合で見たかぎり、あなたの剣に足りない物がアレにはあるわ。分からなかったとはいえ、それに気付きかけたのは及第点をあげる」

 

「あの……ベアトリクス様。アレがなんだというのでしょうか? すみませんが、私にはただの斬撃で出来た破壊痕にしか見えませんでしたが?」

 

 魔剣士でないドエムは何度見ても理解出来ないといった感じで、根負けしたかのようにベアトリクスに答えを尋ねた。

 

「そうね。あまり長々としてたら2人が動き出しそうだしね。アレの破壊跡には一切の無駄が発生していない」

 

「あっ!」

 

「……?」

 

 ベアトリクスの答えともヒントとも取れる発言に意図を読み取れたのはアイリス王女だけで、ドエムは未だに? を浮かべている。

 これには答えを言ったつもりになっているベアトリクスも? を浮かべる。ベアトリクスの真意を読み取ったアイリス王女が未だ理解出来ていないドエムに理解出来るようにちゃんと説明する。

 

「つまり、ベアトリクス様はミホーク様の斬撃が余計な破壊を生まない正確無比な剣技であることを仰りたいのだと思われます」

 

「ああ……、なるほどそういうことですか」

 

 これでようやくドエムも理解出来た。空を走るほどの斬撃を飛ばす力を持ちながらも、その破壊跡には小さなヒビ1つ出来ていない。

 つまるところ、ミホークはただ身体能力にモノを言わせただけの魔剣士ではないという事を意味している。

 

「ミホークが言うには、最強の剣とは、守りたいものを守り、斬りたいものを斬る力……らしい」

 

「なんとも、彼が言うには違和感がある言葉ですね……?」

 

「実際、この言葉はとある御仁からの受け売りらしい。でも、それこそが魔剣士を1つ上の段階に登らせる真髄に通ずる言葉らしい……」

 

 ベアトリクス自身もこの言葉の真意は半ばまでしか理解出来ていない。この守りたいと斬りたいは1()()()()()に通ずるものがあるというのは漠然と理解できた。しかし、それがどう魔剣士を1つ上に登らせるのだろうか? 

 

 もしその答えがこの試合で分かるのならば、私はきっと……。

 

 ぎゅっと自身の剣を握りしめながら、2人の戦いを食い入るように観戦する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どちらも互いに動こうとはしなかった。否、動けなかったのだ。

 それは傍から見ていた審判や観客達も分かっていた。この状況は所謂先に動いた方が負けるという場面だと……。

 

 しかし、実際は違う。空想……とは少し違うが、ジミナは幾度も視線や重心移動などを駆使しながら自身の未来の動きをイメージとしてミホークにぶつけていっている。

 しかし、その全てが悉く返り討ちに合わされる。

 

(真っ正面からの特攻は……ダメだな。薙ぎ払いからの連撃で殺られる。ならば、スピードで後ろに……これも防がれて返し刀で一刀両断か……)

 

 先程から何十回と攻め入っては失敗していっている。本当に強い! ここまでやられるのは前世を含めても数える程度しかない。

 いつの間にか口に溜まった唾液をゴクリと呑むと、ミホークさんが痺れを切らしたのか、一歩足を踏み出す。

 

「気は済んだか? 生憎と俺はイメージよりも剣で撃ちあう方が性に合っているのでな。今度はこちらから攻めさせてもらうぞ!」

 

 世界最強の魔剣士が今大会でついに初めて攻めへと転じた。

 

 




日間ランキング2位に躍り出たのはマジで嬉しかった!
これからもお気に入りと評価、それと感想をドンドン送ってね♪


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笑う大剣豪!!謎の魔剣士ジミナの正体!?

ようやく完成したぁぁぁ!!!ファンの方々、お待たせしました。

マジでシャドウとミホークの戦闘シーンが難しかった。
普段から無双シーンばかり書かないからほぼ互角、というよりかはミホークの強さを改めて認識させるシーンの書き方に悩んでました。

感想で次回を楽しみにしていてくれた方々に改めて言いましょう。

大変、お待たせしました!!!!


 それはあまりにも次元の違う闘争であった。互いに接近しての剣の撃ち合いは腕の動きがまるで見えず、されど凄まじい速度で火花を散らす様からその速度が尋常ならざることは容易に察せられる。

 ミホークとジミナの剣がぶつかる度に響く金属音は決して鳴り止むことはなく、連続して響くそれは1つの奇怪音となって闘技場に鳴り広がる。

 

 ギャギィギィギィギィギィ!!!! 

 

 途切れる事なく剣が撃ち合うせいで音が重なり、上記のような音が発生している。

 そんな闘技場の中央で戦う2人の剣戟(けんげき)だが、遠目から見ている者達の目には微かな残像しか見えないでいた。

 

 だが、見えないながらもその戦闘の凄まじさを本能で理解し、その場を立ち替わり入れ替わりを繰り返す2人の高速戦闘に、観客達の目は釘付けになる。

 

「今はどっちが勝ってんだ?」

 

「知らねえよ! とにかく目ん玉かっぽじってよく見てろ! こんな闘い、もう2度と拝めねえぞ!!!」

 

 今はどちらが優勢なのかすら分からないまでも、このレベルのバトルなぞ、果たしてこの先の人生でもう1度目に出来るかどうか? ということは理解している為、誰も目を背けようとはしなかった。

 

 

 

 

 

「っく! 流石は世界最強の魔剣士か……」

 

「…………」

 

 苦戦しているジミナ、当然のことながら振るう剣の速度はジミナよりもミホークの方が速く上手かった。

 

 短剣というリーチの差を突こうと絶妙な距離で戦っているというのに、剣がぶつかる度に距離を詰めてくるし、態勢を立て直そうと思って距離を離そうとしても荒ぶる鷹のように追従して、決して逃がしてくれないミホークさんの剣がそれを阻む。

 

「どうした? その程度では楽しめんぞ?」

 

 退屈そうな声色で振るう短剣の風圧ですら、ジミナにとっては死神の鎌のように感じてしまう。とはいえ、このまま追い詰められてばかりはこっちとしても面白くない。

 

「なら、俺も少し本気でいかせてもらう!」

 

 体内で練り上げた魔力を身体能力向上に注ぎ込む。それは通常の魔力による身体強化の更なる上位互換。

 僕はこれを『オーバードライブ』と命名した。

 

 ただし、これは身体への負担が大きく、幼少の頃に使用したが技の反動で血を吐いて倒れてしまった経験がある。

 今は成長して肉体も出来上がっているとはいえ、ミホークさんを相手にどれだけ持続させていられるか? 

 

 身体能力を大幅に向上させたことにより、剣の速度を増したジミナは果敢に攻め立てながら、足を使ってミホークの死角へと周り込む。

 

「ほお、身体強化が大幅に上がったか。これなら楽しめそうだ……」

 

「おいおい、噓だろ……」

 

 オーバードライブ状態の僕の攻撃を全て反射で弾いていっている。しかも、死角からの一撃もまるでそこにくるのが分かっているかのような動きで見事に防がれた。

 こっちは、ミホークさんでは追いつけないスピードで四方八方から剣を叩き込んでいるというのに、その全てを短剣で流水のごとく受け流していく。

 なんという高い技術と適応力なのだろうか!? スピードの()()なら僕が上をいく。しかし、動きの()()ならミホークさんの方が断然早い!! 

 

 攻め続けるジミナであるが、その(ことごと)くを予め知ってるかのように動きを合わせてくるミホークの短剣に全て阻まれてしまう。

 このまま勝負は平行線となって終わらないかと思えたが、2人の戦いについていけないものがあった。

 

 それは剣だ。普通ならば剣というものは頑丈で戦いの最中に折れるのはよっぽど硬いものに当たるか、使い続けてヒビなどの無視できない損傷があった場合だ。

 だが、常人以上のスピードで動き回り叩きつけられるジミナの剣には、その負担に耐えられずに決壊する予兆が見えてきた。

 対して、ミホークの短剣はジミナの剣を受け流しているだけなので、その負担はジミナの剣よりも遥かに少なく、このままいけば先に剣が折れるのはジミナの方だろう。

 

「もはやリスクを怖がっている場合じゃないな……」

 

「勝負を決めにくるか? ならばいいだろう。俺もこの剣で受けてみせよう!」

 

 ジミナが勝負を仕掛けに来ることを察したミホークはそれを正々堂々と正面から迎え撃つと宣言する。

 

 それをジミナも信じて距離を取った。そして行う綿密な魔力操作、全身の細胞1つ1つに魔力を纏わすイメージで覆い、剣が途中で折れぬように魔力で強度を一時的に強化させる。

 それに対してミホークは、静かな凪のように洗練された魔力を短剣に満たしながらも、その眼は荒ぶる鷹を思わせるほどに鋭くジミナの挙動を射抜いていた。

 

「「…………」」

 

 両者の間に無言の沈黙が流れ、その間を渇いた風が吹きすさぶ。

 観客席の観衆も次の一撃が最後のものになると確信していた為に、声も出せずその時をただ静かに見守っていた。

 

 会場内の誰かがその場の緊張感のあまりにゴクリと唾を飲み込む。それは決して大きい音では無かったが、静寂が支配するこの場において、その音はやけに大きく聞こえた。

 そして、それをスタートの合図に遂に両者は動き出す──

 

ガキィン! 

 

 気がつけば両者の立ち位置が入れ替わり、互いにその背を見せ合う形になっていた。

 決着はどうなったのか? どっちが勝利したのか? 観客達は気づかぬうちに拳を握りしめ、闘技場内にいる2人の様子と審判の宣言に耳を傾けていた。

 

 その当の審判でさえ、あまりのスピードの速さゆえに目で追うこともできず、その影すら視認することすら許されずに勝負は終わっていた。

 

 1秒……2秒……3秒……と時間がゆっくりと過ぎていくなか、ミホークが持っていた短剣をその場で小さく一振りすると同時に、時が動き出したかのようにジミナの持つ剣がパリーンと音を立ててひび割れ砕け散った。

 そして何が起こっていたのか理解出来なかった審判も即座に理解した。この勝負の勝者は誰なのかを……。

 

『勝者!! ジュラキュー「ふはははは!!!!」──??』

 

 審判が勝者の名を叫んでいる途中、その勝者からの突然の高笑いでその宣言を中断されてしまう。

 

 見れば、ミホークは己の短剣の刀身を見つめながら愉快そうに笑みを浮かべている。

 審判の目から見てもその短剣は何ら変化は起きていなかったが、ミホークの眼から見ればほんの僅か程度であるが、その刀身に刃こぼれが出来てしまっていた。

 

「まさかこの俺に()()()()()()()()()()がまだいようとはな……」

 

「恥か……、こっちは剣を粉々に砕かれたというのにな」

 

 砕けた剣の残骸を見せつけながら、皮肉げに笑うジミナはその残骸を放り捨てる。

 

 既にシドは世界最強の魔剣士とこうして戦えただけで内心では充分に満足していた。ジミナでの戦いはこれで終わり、次に戦うのはシャドウでの姿の時だと。

 

 しかし、そんなシドの思いはミホークには関係無かった。

 

「そろそろ本気を出して戦り合うとしよう」

 

「本気って……、俺の獲物はあの通り壊れてしまったんだが?」

 

 そう親指でクイッと指した先にある元剣と呼べる残骸を見れば、これ以上の戦闘は不可能だと誰もが分かるだろう。

 だが、ミホークの眼は誤魔化せない。その懐により強力な武器を隠し持っているということを……。

 そして、それを引き出す為ならば、ミホークはどんな無茶も相手に対して吹っ掛ける蛮族モドキである。

 

「そうか……、やはり俺が本気を見せねば懐を開かぬか……」

 

 短剣を鞘にしまうと、その背に背負っている自らの愛刀を抜き放ち、殺気と闘気をジミナに対してぶちまける。

 

「隠し通すというのならば、斬り殺すまでのこと……!」

 

「マジかよ……」

 

 打ち付けられるミホークからの気迫に、シドはその頬に冷や汗を流しながら覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 

 特別席で観戦していたベアトリクスはジミナの実力に驚きながらも、結果は予想通りにミホークの勝利という結末で終わり、そのまま席を立とうとしたその時、今まで聞いたことの無いミホークの高笑いに何事かと闘技場に向き直ると、そこには滅多なことでは抜かない愛刀を抜くミホークの姿があった。

 

「……っ! まさか、ミホークがアレを抜くなんて!?」

 

 慌てるように観客席のガラス前まで駆け寄ると、驚愕の声と表情で事の成り行きを見守っていると、ベアトリクスと同様にアイリス王女とドエムも同じようにガラス前までやって来た。

 

「まさか、アレが噂に聞くミホーク様の数々の伝説を作り上げた立役者の1つ。黒刀『ノワール』だというの……!?」

 

「大地に振れば地は裂かれ、天を突けば雲を貫き、海へ薙ぎ払えば大海をも割るといわれる、あの伝説の……!?」

 

 ガラス越しに見えるミホークが背負っていた鞘から抜き放たれた黒い刀身の剣。

 それが、この世にただ一振りしか存在されないとされる黒刀『ノワール』と呼ばれる代物。

 2人はそれに釘付けになりながら、ベアトリクスからその剣の詳しい説明を聞く。

 

「ええ、昔ミホークが古代遺跡から発掘した古代武器。折れず曲がらずの絶対の強度を誇り、古代の製法で造られた故に現代では再現は不可能とされる一品。世界で唯一の不壊属性(デュランダル)を持つその剣をミホークが抜いたということはつまり、ここが戦場になるということ……」

 

「せ……戦場にですか!?」

 

 これに慌てたのがアイリス王女で、ベアトリクスが言った戦場になるという言葉を比喩的な表現ではないと感じ取った。

 

「今すぐに観客達を避難させることをオススメするわ。さもなければ、確実に死人が出る」

 

 その眼からは噓を言っている気配は微塵もなく、その言葉は真実であると悟ったアイリス王女は即座に部下たちに命令を下す。

 

「ただちに観客席の者達を避難させる準備……いえ、行動を取ってください!」

 

「「「はっ!」」」

 

 そのまま部屋を出て行き、観客席の方まで駆け出していった。

 そうなると、他の貴族や商人もここが危険であると認識し、そそくさと部屋から出て行って外へと逃げる。

 

「ドエム・ケツハット様は逃げなくてよろしいのですか?」

 

「確かに逃げ出したい気持ちはありますが、かの大剣豪が全力で戦う場面を見逃す手はないでしょう。それに、私の護衛の騎士達も中々の実力者揃いですので、多少の危険からは私を守り抜いてくれますよ」

 

 そうしてこの部屋に残ったのはベアトリクス、アイリス王女、ドエム・ケツハット、そしてドエムの護衛とそれに守られるオリアナ国王のみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠然とした態度で愛刀『ノワール』を構えたミホークは、ジミナが本当に自身と対等に戦える器であるかどうか、

 

「まずは推し量らせてもらおう、貴様がこの俺と本当に闘えるだけの実力者かどうかを……」

 

「っっっ!!!」

 

ドンッ!!! 

 

 それは最初に短剣でみせた飛ぶ斬撃とは規模がまるで違っており、振り抜いたその剣の一撃は闘技場の地面を斬り裂きながらジミナの方へ走っていった。

 これに慌てたのはジミナの後ろの方で観戦していた観客達であった。

 いきなり、世界最強の魔剣士の斬撃が飛んで来たのだ。それも無理のないことだろう。

 

「「「「「ぎゃあああああああ!!!」」」」」

 

 叫び声を上げながら、逃げ惑う観客達の脳裏には自分達の悲惨な末路が浮かんでいた。

 

 だが、そんな未来はやっては来なかった。何故なら、観客達の前にはあの男が立っていたのだから。

 

 観客達の悲鳴をBGMに、ジミナは服の下に纏っていたスライムスーツから剣を生成すると、目の前に迫る巨大な斬撃を真っ向から受け止める。

 瞬間、闘技場内に響く轟音と衝撃波は観客達を襲い、ジミナは斬撃に押されるがまま地面を削り後ろへと後退させられる。

 やがて、ジミナの背中が闘技場の壁にぶつかる直前になって魔力を大量に纏わせたスライムソードの一振りでその斬撃を斜めに斬り裂き、両断された斬撃がジミナの後ろの壁に衝突した。

 そのおかげで観客席への直撃は避けられたものの、壁には巨大な斬撃の跡とジミナを包み込む程の土煙が立ち込める。

 

「ふう、随分と手荒い試験だな? それで、俺は合格か?」

 

「ああ、十分にな……」

 

 立ち込める土煙の中からジミナの声が聞こえてきたと同時に、土煙が完全に消え去り、そこから見えた人物はくたびれた装備と血色の悪い青年ではなく、漆黒のローブと漆黒の剣を手にしたシャドウがそこには立っていた。

 

 それに慌てたのは特別席にいたアイリス王女とドエムだった。

 まさか、ブシン祭に犯罪者であるシャドウが堂々と参戦していたとは夢にも思わず、目の前のガラスに拳を叩きつける。

 

 そんな特別観客席の騒ぎなど我関せず、シャドウは目の前に対峙するミホークの迫力に内心で圧倒される。

 

 今の攻撃を防いだことで本格的な敵になり得ると判断されたのだろう。

 先程以上の強力な気迫がぶつけられる。

 

「これはまた……」

 

 僕は以前から戦いとは対話であると考えていた。体の些細な動きから意味を読み取り、相手と会話するものだと。

 

 だが、この人からは対話だなんてぬるいものは感じなかった。最初は完全なる無言、そして最初の斬撃を避けた次の斬り合い時は一方的な会話のドッジボール。

 最後に、今のノワールを抜いて立ち会うミホークから感じられるのは強烈な闘志と殺気にほぼほぼ近しい敵意だった。

 

 僕も闘志や殺意に敵意など、盗賊共から何度も受けたことはあるが、こんなにも暴力的なものは初めてだ。

 この人の前では、対話ですら暴力にすらなり得るということか……。

 

「はは……、生きた心地がしないな……」

 

 背筋に走る悪寒を抱えながら、渇いた笑みを零してシャドウは魔力を高める。

 

 だが、そんなことはお構いなしとばかりにミホークはフッと笑うとシャドウに剣先を向ける。

 

「それが貴様の剣か。中々に面白い工夫をしているようだな」

 

「それはどうも、世界最強の魔剣士から褒めてもらえるとは光栄だ!」

 

 先程の斬撃のお返しとばかしにスライムソードをムチのように伸ばしてミホークに斬りかかる。

 

「甘い」

 

「なっ……!?」

 

 その一言で自身に迫るスライムソードを容易く斬り裂いてみせた。これに驚いたのはシャドウだった。

 スライムソードの魔力伝導率は脅威の99%を有している。これは高級品のミスリルソードの2倍近い数値で、先程まで装備していたナマクラとは訳が違う。

 精々が弾かれる程度だろうなと予想していたシャドウはその切れ味の高さに戦慄する。

 

「……想像以上だな。とはいえ、負けてやるつもりもないが!」

 

 シャドウは魔力で底上げした身体能力でミホークの背後を取ると、そこへもう一本のスライムソードを生成して二刀流で更に手数を増やして襲い掛かる。

 だが、その程度の策でどうにかなるほど世界最強の称号は安くない。

 

 背後に回ったのだと気配で察したミホークは振り返り、次々に振るわれる剣の連撃に見事に対処する。

 その方法は、短剣の時とは違い受け流すのではなく斬り裂くことでシャドウの攻撃を防いでいた。

 

 それはまさしく怒涛の連続であった。身体能力で劣るミホークが手数の差を苦にすることもなく、次々と再生するスライムソードを斬り裂いていく姿はまさに剣神と呼ぶに相応しい剣筋であった。

 

 こんなにも剣技の差があったのだと軽く絶望すると同時に、この男ならばどこまで自分の本気についてきてくれるのだろうかと興奮を覚える。

 

「今度はこちらから攻めさせてもらうぞ!」

 

 自身の身の丈とほぼ同等の馬鹿デカイ剣を、まるでうちわで扇ぐように振り回しながら、幾つもの斬撃を飛ばしてくる。

 

 それをシャドウは避けながら、時にスライムソードで斬り返すが、ミホークのようにあっさりと斬ることはできず、ギギィ! と僅かに拮抗してようやく斬ることが出来るレベルだ。

 それをそよ風を送る感覚でポンポンと飛ばしてくる辺り、ミホークの実力の高さが推し量れるというもの。

 

「身体能力のお陰で拮抗しているとはいえ、このままでは先に力尽きるのはこちらか……」

 

 パワーとスピードによるゴリ押しでなんとか勝負という体裁を保っているが、オーバードライブ状態はそう長くは持たない。

 ならばと覚悟を決めて赤く輝く瞳がミホークを捉えると、そのまま激突覚悟の特攻を仕掛けていく。

 

「勝負を焦ったか?」

 

 常人ならば視認することすら不可能な領域の速度であるが、ミホークの眼にはシャドウの姿がしっかりと映っていた。

 目前に迫るシャドウを前に、ミホークは冷静に剣を振り払う。通常ではシャドウのスピードでも避けられない絶好のタイミングと速度。

 これで勝敗は決したかと若干の落胆を覚えるミホークに、シャドウは魔力の障壁を張って約1秒もの間、ミホークの斬撃を止めてみせた。

 

 音速に迫る速度で動くシャドウにとって、1秒もの時間があれば回避するのは容易いこと。

 即座に斬撃の進行方向から逃げたシャドウはミホークの懐まで侵入することに成功する。

 

「とった……!!!」

 

「随分と器用なことをする、だが!」

 

 振り抜いた剣から片手を離し、自身の腹目掛けて剣を突き刺そうとするシャドウの腕を掴み、その動きを止めた。

 

「最後の詰めが甘いな。雑魚との戦いはともかく、強者との実戦経験は少ないと見える」

 

「なら、これはどうだろうか!!」

 

 射殺すような視線を送ってくるミホークに、シャドウはスライムソードの長さを変えて突き刺しにかかる。

 

「やはり面白い仕掛けの剣だ。だが、強者を相手に通用する類ではないな……」

 

 スライムソードが変化する予兆を読み取ってか、ミホークは即座にシャドウの腕を離し地面を滑るように攻撃を避けた。

 再び開いた両者の距離、だがその距離は互いの攻撃範囲内であり互いに必殺の距離であった。

 

「正直、あの攻撃を避けられるだなんてショックだな。流石は“鷹の眼の男”なだけはある」

 

「っ!? そうか、貴様もまた俺と同じところから来た者だということか……」

 

 この世界で俺は『大剣豪』や『剣神』と呼ばれることはあるが、原作で呼ばれている2つ名である鷹の眼とは一度たりとも呼ばれたことは無かった。

 それを知っているということは、つまるところこのシャドウという男もまた、俺と同じ地球から転生した者なのだろう。

 

 あの面白武器も漫画知識か現代科学によるものだというのだろうか? 

 だが、そんなことどうでもいい。この男は俺と対等に闘える。それだけ分かりさえすればいい……。

 

「ならば、もっと! この俺の渇きを潤してくれ……!!」

 

 ドン! と更にミホークから魔力の高まりを感じる。それはただ単純に高まっただけじゃない、まさしく魔剣士の理想像とも呼べる無駄のない魔力操作に目を奪われる。

 そして、それはシャドウも同じであった。魔剣士として理想的な魔力操作に加えて、高密度に圧縮したスライムソードを作り出し、肉食獣のような笑みすら浮かべている。

 

 互いに待っていたのだ。好敵手になりえる存在の出現を……。

 そして、その願いはついに叶った。欠伸まじりに殺せる雑魚ではない、退屈凌ぎに剣を振るう稚魚でもなし、敵意と殺意で戦っても折れることも壊れることもない。

 まさに、自身が心から欲した玩具()と出会えたのだ。

 

「この俺が満足するまで死んでくれるなよ!」

 

「自惚れるなよ、世界最強! 俺は陰の実力者だぞ、精々この俺に屠り殺されぬように剣を振るうことだな」

 

 互いの挑発に気力を昂らせ、剣を握る。

 そこでミホークさんが手遊びでノワールを振り回す。

 

「…………」

 

 無言ながらに、()()()()()()()()そう初めてミホークさんが僕に対話を投げかけてくれた。

 それが途轍もなく僕には嬉しかった。やっと僕をちゃんと見てくれた。

 いや、僕が最初から貴方の敵になれると示していればもっと早くにちゃんと対話してくれていたのだろうな。

 

「…………」

 

 だから僕もミホークさんに無言で返事を返すのだ、OK! だと……。

 

 互いに無言の対話を終え、楽しむための剣を交わらせる。

 早く速く疾く────、ただひたすらに己が魂の奥底に秘めていた力を剝き出しにしていくかの如く、両者はギアを上げていく。

 既にオーバードライブ状態だったシャドウも、剣を交えるごとに少しずつ身体が馴染んでいくかのように、シャドウの身体能力が上がっていっている。

 

 別に怪我を負った訳ではないが、疲れてはきている。足や腕にも疲労は蓄積されていっている。

 最初に比べたら万全ではない、疲労は身体能力を著しく落とす原因の1つだ。

 

 でも、今はこの疲労こそが僕が強くなるエネルギーになる! 

 

 これまで感じたことのないような高揚感と充足感にシャドウは過去最高の動きを見せていた。

 まるで自然と一体化したかのような動きと、常識外れの魔力運用に並大抵の魔剣士は勿論のこと、トップクラスの魔剣士でさえ今のシャドウの影を踏むことの出来る実力者はそうはいないだろう。

 

 だが、目の前に迫る男は世界最強の魔剣士。影を踏むどころか、その首を叩き斬らんとばかしに追従してくるのは流石の一言だろう。

 闘技場内で高速移動する両者は、あちこちに残像をバラまきながら、剣と剣をぶつかり合わせ火花を散らしていく。

 

 その様は特別席で見物していたベアトリクスやアイリス王女とドエムの度肝を抜かし、観戦すらまともに出来な程に実力差が開いているのかと、アイリス王女の胸に絶望がのしかかる。

 それはベアトリクスも同じで、初めて剣を交えた頃よりも遥かに強くなっているミホークの姿に憧憬すら抱きながら、何故自分は今あの場に立てないのだろうと悔しさを募らせていく。

 

(……あぁ、私もあんな風になりたい)

 

 そう思う2人の視線を受けながら、ミホークとシャドウの剣戟は激しさを増していき、遂に決着の時を迎えることになる。

 

 ミホークの動きが段々とシャドウの速度に速さで追いついてきたのだ。

 今までは動きの早さで負けていたのを、スピードの速さで食い止めていたシャドウにとって厳しい状況になっていた。

 

「お楽しみはここまでにしておこうか……」

 

「よかろう……。ならばそろそろ本気をみせるとしようか!」

 

 ミホークの魔力が更に高まり、それに比例してノワールの刀身の色味がより夜空に近い漆黒にへと変貌していく。

 なるほど、本日何度目か分からない()()だな。

 

 これで確信した。戦闘技術や経験だけではない。僕とミホークさんの間には確かな格の差が生じている。

 真っ正面からの戦闘では決して勝ちは拾えない。いや、拾えないこともないのだが、アレは規模がデカすぎる。それ故に隙も生じやすい。

 ミホークさんを相手に使うのは現実味がなさすぎるからな。

 

 やるなら姑息に卑劣な不意打ちを! 勝つ道筋は朧気ながら見えている。

 少々自身が思い描く陰の実力者像とはかけ離れてはいるが、無様な敗北よりかは全然マシだ。

 

 ミホークさんがノワールを顔の横まで持ち上げて突きの構えをとる。よく聖騎士とかが取るあのカッコイイポーズだ。

 

 対する僕は2刀流で構えてスライムソードの硬度を更に上げる。これは斬られない為の苦し紛れの対策だ。

 いくら硬度を上げようとも、あの人の剣武の前には豆腐がこんにゃくに変化した程度だろう。

 

 だがそれでいい、別に剣で勝とうだなんて思いあがってなんかいない。

 一瞬でも拮抗する下地さえ出来上がれば、速さで勝つ僕の方が上に立てる!! 

 

 そう確信しているからこそ、シャドウは地を蹴り飛ばしミホークの元へと肉薄する。

 それを待ち構えるミホークは近付いてくるシャドウに対して睨みつける。

 

「…………!!!?」

 

 突如としてシャドウはその身を翻し肩を盾にするような構えへと態勢を変えた。

 その直後に不可視に近しい速度で振るわれたミホークの剣が斬撃を飛ばし、コートの上からシャドウの肩を斬り裂いた。

 

「ぐっ……!!?」

 

「特攻か……、あまり賢い選択とは思えんが、何か考えがあるのだろう」

 

 剣を振るう直前で感づいたシャドウの行動に多少の疑問を持ちながらも、ここからどうしてくれるのだろうかと期待を込めた目でシャドウを睨む。

 

「……痛てぇ……斬られたが肩が全部抉られたわけじゃない……」

 

 魔力で斬られた箇所を癒しながら、ようやく剣が届く位置まで肉薄することが出来た。

 斬られた肩も一瞬ではあるが、魔力で回復した為に剣を振るうには何ら問題は無かった。(激痛はメッチャ走るが!)

 

 シャドウの剣はまさに鬼神が宿ったかのように苛烈で鮮烈なものだった。たった1秒に数十近い乱舞を叩き込む双剣の嵐はまさしく竜巻のような荒々しさがあった。

 

「ほぉ……、中々いい攻撃だ」

 

 だが、そんな攻撃もミホークは微笑みを浮かべながら完璧に対処してみせた。

 シャドウの10の手数による攻撃もたった一太刀で防いでみせ、20の手数による攻撃は返す太刀で薙ぎ払う。

 

 これはただ単純に考えるならばミホークの一太刀はシャドウの10倍の力を秘めているということ。

 だが、剣の威力で勝負が決まる訳ではない。勝負は時の運と言われるように、様々な要因で決着がつく。

 

 そして今から僕がやろうとしていることは博打同然の行為だ。

 でもこれが今一番勝率が高い戦法だと自負している。というか、それぐらいしないとミホークさんから虚を突くイメージが湧いてこない。

 

 さ~て、死ぬかもしれないけど、いっちょやってみますか! 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 シャドウが更に剣速を増して連撃の数を増やしていく。それに合わせて腕からピキピキと嫌な音が骨を伝わって頭蓋に響くのを感じる。負荷が肉体の限界を超えかけているのだろう。

 だけども、これだけやってもミホークさんは至極あっさりと剣と体術の合わせ技で見事に対処してくる。

 

 けれども、この程度は予測済みだ。問題はここからだ。生死を分かつ分水嶺、一瞬の判断の差で勝負は決まる! 

 

「うおおぉぉぉ!!!!」

 

「ふんっ!」

 

 右手で振り下したスライムソードを、ミホークは剣の一撃でへし折った。これで連撃によってミホークの攻撃を封じていた乱舞は半減する。

 そうなればどうなるか? 当然、空いた隙を突きにミホークさんは動くだろう。

 僕だって剣がへし折られたんだ。スライムソードだから再生は可能だが、ミホークさんが攻撃するより速くは無理だ。

 それはミホークさんだって理解しているだろう。だから、彼は迷わずに攻めてくる! 

 

「────っ!」

 

 ほらきた! 実質、今の僕の手札じゃミホークさんの斬撃は防げない。得意の格闘技でも僕がミホークさんの剣を避けて腕を掴むイメージが一切湧いてこない。

 だから、僕はミホークさんの斬撃をあえて受けようと身構える。

 

「っ!?」

 

 シャドウを貫き刺そうとした剣先をミホークは体ごと突然逸らした。そのおかげで、剣はシャドウの顔面ではなく頬を斬り裂くという結果に終わる。

 

「まさか、これにも反応するとは……」

 

「ふふ、姑息だが、いい手を使うな……」

 

 顔を逸らしたミホークの頬に、ツーっと赤い血が流れていた。

 

 何が起こったのかというと、ミホークがシャドウへのトドメの一撃を決めようとしたその瞬間、へし折れたスライムソードを弾丸へと形成し、ミホークの脳天目掛けて発射したのだ。

 

 火薬を使用せずに放った弾丸は音が出ない魔力で撃ったスライム弾だ。これを敵にトドメを刺すという人が最も油断しやすいだろうタイミングに、不意打ちで飛ばして避けられる訳がないと確信していたのだが、この人は未来でも先読みしていたかの如く、弾を発射させるタイミングと同時に避けてみせた。

 

「まったく、強いうえに油断も隙もないとか、普通に反則だろ」

 

 ぼんやりと見えていた勝ち筋をこうも容易く潰されたことへの嫌味もミホークは微笑み1つ浮かべて受け流す。

 

 そして、頬に出来た傷口を親指で拭い、指に付着した自身の血を舐めとる。

 

「オレ自身の血の味は……随分と久しぶりだ……」

 

 そうニヤリと笑う大剣豪は満足そうな顔をしながら、僕の顔の横に添えていた剣を離すと、ゆっくり距離を取った。

 

「最初は気がつかなかったが、随分とデカく……いや、強くなったな少年……」

 

 

 




ここまで書いて思ったのが、アニメ勢だからこの時点でのシャドウの強さが合っているのか不安なので、感想お願いします。

あと、ミホークの原作での戦闘シーンが少なすぎるのも書くのに時間が掛かった原因です。
あと何巻したらミホークはガチで戦うんやぁ!!!


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世界最強とは核を超える者

仕事とアニメの消化で忙しくて全然更新できずにスマンかった!


 

「最初は気がつかなかったが、随分とデカく……いや、強くなったな少年……」

 

 突然のその言葉にシャドウは首を捻りながら、自身とミホークとの接点があったか思い出そうとする。

 

「……? 何処かで会ったことが?」

 

「覚えていない、もしくは気付いていないのか?」

 

「ん~~~???」

 

 多分、噓は言っていない。というよりも、噓を言う必要もなければ、噓をつくような人でもない。

 ならばやはり何処かで出会っている? しかし、世界最強の魔剣士と名高い人物に出会っていれば覚えている筈だ。

 それが例え赤ん坊の頃とはいえど、転生者である為にその頃の記憶だってある程度は覚えている。

 

 だとするならば……、ミホークさんは気付いていないとも言っていた。

 ならば、今世ではなく前世……。それも、転生しても僕のことが分かる人物……。

 けれど、誰だ……? 隣りの席の……西村さん? ……じゃないよね? あれ、西谷さんだったけか? 

 

 いや、違うな。アレは彼女だったし、ミホークさんとは似ても似つかない存在だ。

 なら一体……あっ! 

 

「辻斬りの木刀お兄さん?」

 

「酷い呼び方だが、ようやく思い出したか……」

 

 僕の前世で決定な敗北を教えてくれた僕と同類のイカレた狂人さんだったのか。

 前世での繋がりが今世でも繋がるとは、陳腐な言い回しになるけれども、これはまさしく運命というやつなのではないだろうか? 

 

「っで、いつから気付いてたの?」

 

「ふむ、お前がシャドウなる珍妙な姿になって戦ってすぐだな。下手な演技を止めたお陰で分かりやすかったぞ。なにせ、俺は一度斬りあった相手の剣は雑魚でなければ大抵は記憶しているからな……」

 

 そう頭をお茶目にトントンと指で叩いて自慢する。

 

「なるほどね。それで、前世での一応知り合いであった僕の顔面を殺す気で狙ったのは?」

 

「貴様が目指していたのは陰の実力者とやらであろう? ならば、アレくらいで死ぬような実力なら、また転生してやり直させてやろうという俺からの親切心だ」

 

「それはまた、随分と物騒な親切心もあったもんだね?」

 

 そう肩をすくめて皮肉を込めて言い放つと、フッと笑い返される。

 

 さて、これからどうするべきか……。僕としては形だけなら引き分けみたいなこの現状に満足は一応しているし、帰っちゃってもいいのだが、この人は絶対に追いかけてくるだろうしな~。

 

 この人が満足するまで戦うことになったら、まず間違いなく僕の体力は尽きてぶっ倒れるだろう。

 そんな情けない姿はシャドウの状態では晒したくないしな、モブのシドの場合ならば大歓迎なんだけども。

 

 そんな困った僕に救いの手を差し伸べるかのように、特別観客席で何やらひと騒動が起こっていた。

 

「……あれもお前の目的か? 確か、名はローズ・オリアナと言ったか? 行くのならばさっさと行って用事を片付けろ。ついでに、その間に負った傷も多少は治癒しとけ」

 

「…………ああ」

 

 何を勘違いしたのか、特別観客席に殴り込みよろしくやって来たローズ先輩を見て、ミホークさんが手に持った愛刀を背中の鞘に納めて腕を組んだ。

 

 ここで隙ありモンスターズ!!! と斬りかかってもいいが、すぐさま斬り伏せられる光景が脳裏に浮かぶ。

 ここは素直に特別観客席に乱入するとしようか、ローズ先輩が何であんな真似したのか分からないけど、シャドウとして参加するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は自国であるオリアナ王国を救うために自分の父親を殺してしまった。

 もはやこの身はどう言い繕うと咎人だ。ならば、最後にこの首を刎ねる処刑人の役割は私自身が──、

 

 剣を首に携えて斬り落とそうとする私の行動を止めようとドエム・ケツハットが護衛の騎士に阻止するように命令を下す。

 だが、もう遅い。彼らが私を押さえつけるよりも早くこの剣は私の首を刎ね落とす。

 唯一の心残りはシド君……貴方にさよならのお別れを告げれなかったこと。

 

 私の最初で最後の愛しい人、来世があるならばまた出会いましょう。

 

 頬にツーと涙が流れ落ちるのを感じながら、剣を持つ手に力を入れようとしたその瞬間、観客席のガラスが粉々に砕けて闘技場内で戦っていたシャドウが現れ、私を取り押さえようとしていた護衛の騎士達を瞬きの間に斬り伏せてしまう。

 

 あの流麗のような剣さばき、見間違える筈がない。昔、私が盗賊に捕まえられた時に助けて頂いたあの御方の剣だ! 

 

 私は自身の首を刎ね落とす手を止めて、感動で在らん限りの声でその人の名前を呼んだ。

 

「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別観客席のガラスをぶち破り、陰の実力者らしくカッコ良く登場した僕ことシャドウは、ローズ先輩に襲い掛かろうとしていた連中を斬り伏せ、堂々と部屋の真ん中に陣取った。

 その間に、ミホークさんから受けた傷を魔力で誰にも悟られないように治癒していく。

 そして、主役の登場だと言わんばかりに、僕が名乗りを上げようと口を開いた。

 

「我が名シャ……「スタイリッシュ盗賊スレイヤーさん!!!」え?」

 

 突如、僕の名乗りを邪魔するようにローズ先輩が大声で昔僕が名乗ったことのある名前を叫んだ。

 

「「スタイリッシュ……」」

 

「……盗賊スレイヤー?」

 

 その場にいる誰もがその場違い染みた名前に啞然とした声を上げる。ただ一人を除いて。

 

「クククッ、貴様まだそんなフザけた珍妙な名を名乗っているのか」

 

 後からやって来たミホークさんが俯きながら口元を隠して、心底愉快そうに笑っている。

 

 にゃろー! 失礼だな、今はシャドウってカッコイイ名前があるんだぞ!!! 

 っく! それにしても、流石はローズ先輩だ。僕のカッコイイ登場シーンをあっさりと無に帰すとは……。

 

「行くがいい。貴様の選んだ道を突き進む覚悟があるのならば……」

 

「っ! はい、ありがとうございます! スタイリッ……シャドウ様!!」

 

 途中でまた前に僕が名乗っていた名前を言いそうになっていたけど、すぐにシャドウと言い直してローズ先輩はこの場から去っていった。

 

「ま、待て! 逃がすものか……っ!」

 

「そこまでだ。そこから一歩でも動けばどうなるか……試してみるか?」

 

「──―っぐ!」

 

 ローズ先輩の後を追いかけようとしたドエムの行く手をシャドウが塞ぐ。

 既にシャドウの実力を嫌と言うほど見せられたドエムは悔し気に唇を噛んで踏みとどまる。

 

 傀儡に仕立て上げたオリアナ国王を失い、そのままローズ王女にもむざむざと逃げられでもすれば帰った際にどの様な叱咤の声を上げられるか、想像するだけで胃が痛む。

 

 そこでドエムの視線はミホークの方に向く。この場でシャドウを抑え込める者などミホークもしくは剣聖ベアトリクスぐらいしかいまい。

 そこで一縷の望みを賭けてドエムはミホークに助けを求める声を上げる。

 

「ミホーク様! お助けください!! 奴は国家指名手配犯のシャドウです。今ここで奴を倒さねば未曾有の被害が出るやもしれません!!!」

 

 迫真の演技で助けを乞うドエム。いや、実際にここでシャドウを抑えてもらわなければ教団に戻った際にどうなるか、いやそれ以前にシャドウガーデンに捕縛されたらどの様な悲惨な末路を辿るものか。

 

 だからこそ、顔中に汗をびっしょりと浮かべて必死になってミホークに救援を求めるのだが、当のミホークはすました顔で棒立ちを決め込んでいる。

 

「ど……どうしたのです!? 何故動いて下さらない!!!」

 

「見くびるなよ三下。この俺が戦いながら周りを見れない程に愚かだと思ったか?」

 

「ひっ!」

 

 ギロリ! と鋭い眼光がドエムを貫き、戦士でないドエムはその恐怖に短い悲鳴を漏らす。

 

「そこに転がっているゲールク国王の死体から香水に紛れて漂う臭いに加え、ローズ王女の攻撃から本来守るべき国王を迷うことなく肉壁として扱う始末。余程の馬鹿でない限り、これが王女の駆け落ちによる事件ではなく、貴様の暗躍によるテロ行為への反抗の為であると察しが付く……」

 

(えっ! そうだったの!?)

 

「そんな……」

 

 シャドウ(馬鹿)は内心でミホークの推理に驚き、ドエムは道は途絶えたと言わんばかりに絶望の表情を浮かべていた。

 

「ふむ……」

 

 さて、この一応は決着が着いたこの空気の中、どうしようかとシャドウが悩んでいると、ミホークがおもむろに項垂れているドエムに近付いて首筋の辺りを柄で殴り気絶させた。

 

「ぐぉ……!?」

 

「さて、貴様の用事は済ませてやったぞ。続きを始めようか……」

 

「いいよ、こっちもこの間にあんたの強さの理由の一つが何となく分かっちゃったし」

 

 気絶して地面に寝かされたドエムを放って、ミホークとシャドウが互いの剣を持つ手に力を籠める。

 2人の雰囲気が変わったのを察したベアトリクスは無意識に鞘に手が伸びるが、ミホークが真剣勝負に横槍が入るのを嫌う人間だということを思い出して、溜め息まじりに残念そうに鞘から手を離す。

 

 しかし、それを知らないアイリス王女はこの騒動のどさくさに紛れて王国のアーティファクトである天賊の剣を持って2人の間に割って入る。

 

「助太刀致します、ミホーク様。この男は王国の敵、故に私も……」

 

「いらぬ」

 

「えっ、キャア!?」

 

 鞘から剣を抜いて近づくアイリス王女に対して、ミホークはそれを峰打ちの返答で返す。

 まさか攻撃されるとは思っていなかったのか、アイリス王女は無防備にその一撃を喰らって壁まで吹き飛ばされた。

 

「言っておくが、俺は真剣勝負の横槍を嫌う。特に、自分と相手の実力差を理解出来ない弱者、もしくは正義感に溺れて現実の見えない愚者の横槍は特にな……」

 

「ううぅ……」

 

 峰打ちとはいえ、無防備な状態で壁際まで吹き飛ばされる威力の攻撃を受けて痛みに唸るアイリス王女。

 

 これで邪魔者は消えたとばかりに構えるミホークの行動にシャドウも「え~……」っと呆れたような視線を送る。

 

「さて、ここでは俺達が戦うには狭すぎる。少し場所を移すとしよう」

 

 そう言ってミホークはシャドウがぶち壊したガラスから闘技場へと戻っていった。

 それを追いかけてシャドウも闘技場へと戻る。ただし、ただ戻るだけではなく、シャドウは飛び降りて未だ地面に着地していないミホークの背中を奇襲せんが為に、飛び降りるというよりかは突撃するという勢いで突っ込んでいった。

 

 それに対して、シャドウの殺気を感じ取ったミホークは振り向きざまに背中に迫るシャドウの攻撃をカウンターで剣を振るう。

 

 それでシャドウのスライムソードは真っ二つに……斬られはしなかった。

 

「っ! ほぉ……」

 

「やっぱり、僕の予想ドンピシャ!!」

 

 今まで簡単に斬られていたスライムソードが、今度は斬られずに拮抗したことから、シャドウの予想が的中したことに喜ぶ。

 

 そのまま拮抗した状態で地面に着地すると同時に2人は鍔迫り合いを解いて距離を取った。

 そして、互いに剣は構えたまま、殺気を抑えて軽く会話を始める。

 

「どうやら、俺の剣の秘密に気づいたようだな」

 

「まあね。僕も最初は魔力だけじゃなく、あんたの演じているキャラみたく武装色の覇気でも使ってるかと思ったけど、実は違った」

 

「ほぉ……、見る目があるな。続けてみろ」

 

 暗に武装色は使用していないことは正解だと伝えるミホーク。それに気づいたのか、気づいていないのかは不明だが、シャドウは話を続ける。

 

「最初はずっとあんたの剣術に目を奪われて見逃していたが、その剣に纏った魔力は2つに分割して擦り合わせて流し込んでいたんだ。まさか、ワンピースのキャラがNARUTOの技術で戦ってるだなんてね」

 

「お見事、その通りだ。この剣には風の性質変化と同様のやり方で魔力を纏わせ切れ味を上げている。とはいえ、こうもあっさりと会得するとは……。随分と魔力操作に長けているようだな」

 

「まあね。こっちの世界に転生してから魔力の扱いはずっと努力し続けてたし、これくらいならコツとイメージさえ掴めば簡単に出来るよ」

 

 論より証拠とばかりにシャドウはスライムソードに2つに分割した魔力を擦り合わせて切れ味を大幅に上げる。

 

 これで互いの剣の強度は互角になったといえる。

 ようやく対等な勝負の舞台に立てたシャドウ。とはいえ、慣れていない風の性質変化に加えてさっきまでのオーバードライブによる魔力の消費は大きく、あまり長々と戦闘を楽しむ猶予は残されてはいない。

 

 だから、ここでシャドウは賭けに出る。

 

「一か八かの勝負だが、やってみせようか……」

 

「くるか……」

 

 一気に空気が変わった。それと同時に、天がこの2人の戦いの始まりに恐怖を覚えて泣いてしまったかのように大粒の雨がザーザーと降り始めてきた。

 

 雨に打たれながらも、両者は微動だにせず、決定的な瞬間が来るのをジッと待っている。

 極限にまで研ぎ澄まされた意識は、やがて降り落ちる雨粒の1つ1つを可視化できるほどに高まり、シャドウのコートに垂れた水滴がポツリと地面に落ちたと同時に、両者が動き出す。

 

 加速する両者はゆっくりと流れ落ちる雨粒の合間をすり抜けるような足捌きで互いの距離を詰め合いながら、互いの急所を狙って攻めと受けを交互に繰り返す。

 

 僅か数十秒の間で闘技場内に落ちた雨粒はほとんど2人の斬撃に巻き込まれて切り裂かれ、やがて2人のバトルフィールドは闘技場を抜け出し、市街地にまで及んだ。

 

「ふむ、付け焼き刃かと思えば、存外中々にやるものだな」

 

「そりゃどうも、こっちも伊達に陰の実力者を名乗ってはいないもんでね!」

 

 どちらも剣に殺気を込めて斬りかかっているというのに、その表情はどこまでも少年のような晴れ晴れとした笑顔だった。

 

 とはいえ、ミホークはまだその表情に余裕があるのは読み取れるが、シャドウはその笑顔を浮かべている口角が疲労で地味にピクピクと引きつっているのが伺える。

 

 シャドウに残された決め手はあと1つ。

 確実に決めにかからなければ、ミホークは下手をすれば僕の首を切り落とすぐらいしてきそうだしね。

 

 とはいえ、賭けだなんて言っても至極簡単なものだ。ミホークは僕に匹敵するイカレ具合の剣術馬鹿だ。

 ここで僕の実力を更に示した上で、とっておきの切り札がある。興味があるならばその身で受けてみろと挑発するだけ。

 

 本当に単純な作戦とも賭けとも呼べない代物だ。

 だが、結果としてミホークはあっさりとその提案に乗ってくれた。当然だ、彼が欲しているのはただの勝利ではなく、全力を尽くしてもなお勝てるかどうか、そんな相手との真っ向からの1対1(サシ)の勝負による勝利を欲しているのだから。

 

「よかろう。何をするつもりかは知らんが、その挑発に乗ってやる。精々、つまらぬ幕引きにはしてくれぬなよ……」

 

「安心するといい、これは流石のあんたもただじゃ済まない。なにせ、前世での俺が知る最強の攻撃方法の1つだからな……」

 

 そう自信満々に宣言するシャドウに期待の色を見せるミホーク。

 約束通り、ミホークはその場から一歩たりとも動かず、魔力を練り上げていくシャドウをジッと見つめる。

 

「…………」

 

 そして、シャドウはこの街で一番高い建物である時計塔の上に陣取った。

 そこで、街全体を覆い隠す程の圧倒的な魔力の奔流がシャドウの肉体から解き放たれた。

 

 暗雲漂う王都の黒い空を青紫色の光で塗り替えたのだ。

 

「刮目するがいい! これこそが、我が生涯の集大成!! 至高にして究極の必殺技!!!」

 

 

 かつて、世界最強の爆弾たる核に挑もうとした男がいた。

 

「アイ……」

 

 男はあらゆる方法を……修行を……研鑽を積んでいった。

 

「アム……」

 

 だが、そのどれもが机上の空論にすらならない遥か遠く離れたちっぽけなものでしかなかった。

 やがて、その男が追い求めたのは現実には有り得ない空想上の力……すなわち魔力を欲した。

 

 願い、そして追い求めた末に、男は死して別の異世界に転生することでようやくその力を手に入れた。

 そして考えた。どうすれば核に勝てるのかを……、悩みに悩み込んだ末に出した結論は、核に勝てるのは同じ核だけであると。

 

「……アトミック!!!」

 

 シャドウから放たれた一撃は音を消し去り、強烈な光の奔流が時計塔の下に立っているたった1人の男目掛けて襲い掛かった。

 

 それは世界最強の魔剣士たるミホークをも蒸発させ、王都の大部分を纏めて塵すら残らずに消し飛ばす威力であった。

 

 後に残ったのは、底の見えない奈落のような大穴のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「感嘆に値する一撃だ」

 

 それが、ミホークの魔力探知と長年の戦闘によって得た経験による直感の合わせ技である疑似・見聞色の未来視で覗いた未来の光景だった。

 あれはまさに核兵器と呼ぶに然るべき技だ。

 

 まさに死を具現化したような恐るべき技。だが、ミホークの眼からはそれは己の全力を引きずり出させてくれる至高の宝のように映った。

 

 あと2秒。それが何を意味する時間なのかは言うまでもないだろう。

 

(受けに回るは愚策。ならば、真っ正面から叩き斬るまでのこと)

 

 それは今までミホークが見せたことのない剣の構えだった。

 それと同時に、今まで剣にしか纏わせていなかった魔力を自身にも付加していく。

 

宿業断罪──────」

 

 ミホークが構えを取って2秒が経過した。

 それと同時に、シャドウが未来で見せた核兵器と同等の一撃を叩き込む。

 

「……アトミック!!!」

 

 未来視で見た光景と全く同じものがミホークの両目に映り込む。

 だが。

 

「────太刀斬刃娑魅(たちきりばさみ)

 

 ただの一撃だけではシャドウのこの技は斬れるだけで防ぐことは叶わなかったであろう。

 そして、いくら達人といえど、剣での振り下ろしは1つの斬撃しか作り出せぬは道理。

 

 しかし、この男はその道理を蹴飛ばすことが出来るという確信を持って今世で何年もの研鑽を積み重ねることで、ついには多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)という領域にまで足を踏み入れた。

 

 これは簡単に説明すれば1つの次元に複数の並列世界から異なる剣筋を呼び出すもの。(作者もあまり詳しくは理解出来なかった)

 

 ただ同じ剣筋が増えただけと侮ることなかれ、世界最強の魔剣士の一撃は大地を裂き、二撃は雲を貫き、三撃は大海をも割る威力を秘める。

 それは誇張なく全てが真実であると同時に、まだ全力ではないとここに記しておこう。

 

 事実、これまで単純な剣技しか使って来なかったミホークが、始めて使用した必殺の技は同時に生み出した2つの斬撃は天地を穿つ程に強力で、2つの斬撃は互いに重なることで技名に恥じぬ巨大なハサミのような形状となる。

 その威力はただ威力が倍になっただけではなく、技の威力を何倍にも増幅して、迫りくるシャドウのアイ・アム・アトミックへ衝突した。

 

 ミホークとシャドウの技の一瞬の拮抗、その隙を縫うようにミホークは更なる一手として、自らが撃ち込んだ斬撃の重なり合う地点に渾身の突きを叩き込む。

 

 これにより拮抗した関係はあっけない程に容易く消え、ミホークの技が最後の突きの後押しでシャドウの技を斬り裂いて撃ち破った。

 

 斬り裂かれたアイ・アム・アトミックの魔力は霧状となって霧散し、それを成した宿業断罪・太刀斬刃娑魅(たちきりばさみ)は、天を覆う暗雲を全て散らし、雨によって出来た虹を真っ二つに斬り裂いて、遥か天の彼方へと消えていった。

 

 後に残るは時計塔の上で驚愕の表情で固まるシャドウと、それを見上げて勝ち誇った笑みを浮かべるミホークだけだった。

 

 

 

 

 

 

 あれは……アイ・アム・アトミックは僕が考えうる最強の技だった。過大評価なく、まさしく核にも匹敵する究極の奥義だと自負もしていた。

 だがそれを、ミホークさんはいとも容易げに撃ち破ってみせた。

 

 ここで普通の人ならばその胸中にあるのは絶望か困惑、もしくは夢であると思い込んでの現実逃避に走るだろう。

 

 でも僕は違う。今の僕の胸中で巻き上がっているのは驚喜と興奮、そして渇望だ。

 

 かつて核へ挑むことを決意し、魔力を手に入れた僕は核に匹敵するだけの力を手に入れた。

 けれど、匹敵する力を手に入れただけで、これで僕は核に勝利できるのかは分からなかった。

 

 でも……、

 

「僕の核に打ち勝ち、斬り裂いたアンタを倒せば! 僕は正真正銘、核に勝ったと断言することが出来る!!!」

 

 狂気乱舞とはまさにこのことかと言ってしまいたくなるような歪んだ笑みを浮かべて襲い掛かるシャドウ。

 既に身体も魔力もボロボロといった状態だ。だがそれに反比例してシャドウのテンションは天井を吹っ切れ、疲労を感じさせぬ動きを見せていた。

 

 まさに、精神が肉体を凌駕していると言わざるを得ないだろう。

 

「その気概や良し! しかし、精神論だけで勝てるほど俺は甘い敵ではないぞ」

 

「そんなこと、最初から承知の上だ!!!」

 

 既にシャドウの持つ最大の切り札は斬って伏せられた。

 ならば、後に残る勝利の手立てはあるのだろうか? 

 

 Q世界最強に勝つにはどうすればいいか? 

 

 Aならば、世界最強になればいい。

 

 この戦いで刹那の間とはいえ、幾度となく彼の大剣豪の剣筋を見た、受けた、この身で味わった。

 なればこそ、たった1度の戦いしかしていないとはいえ、模倣出来ぬ道理などある筈がない! 

 

「むっ!?」

 

 シャドウの剣を受けてミホークが目を見開く。

 それは完璧とは言えないまでも、紛れもなく自身が幾年もの戦いの中で作り上げてきた剣の型だったからだ。

 

 ミホークの剣は我流だ。その元となる基本は前世で培った剣道をもとにしているとはいえ、王都ブシン流のような誰にでも扱える剣ではなく、真なる強者にしか扱えない代物へと昇華させたのが彼の剣だ。

 

 例えるなら、格ゲーで必殺コマンドの入力が難しいが、決まれば大逆転も夢ではないキャラと言えば理解出来るだろうか。

 

 そんな自身の剣を模倣されたミホークは驚愕するでもなければ、憤慨することもなく、ただその目を閉じてシャドウの操る剣の呼吸に耳を傾ける。

 

 雨上がりの冷えた空気に、それに紛れて隠れている複数の何者かの気配、そして襲い来る我が模倣の剣。

 その全てがミホークの感覚に捉えられている。

 

 ドクン……ドクン……と自分とシャドウの鼓動がデカく聞こえる。

 もう見る必要はない。ただ感じたままに斬ればいい……。

 

「あんたを倒して俺は真の世界最強になるんだ!!!」

 

 そして一閃──ー

 

「……まだまだ未熟なり」

 

 一刀両断……シャドウの放つ世界最強を模倣した剣は、その世界最強の手によってあっさりと斬り捨てられてしまった。

 

 Q世界最強になるにはどうすればいい? 

 

 A世界最強を斬ればいい。

 

「──っ!? これは……ジョーカーを引いたか……」

 

 肩から腰にかけて斜めに斬り裂かれたシャドウは、大量の出血を吹き出し、地面に倒れる。

 

「生憎と、その剣は俺が一番よく斬った剣だ……」

 

 ミホークがこれまでの生涯で強くなり続ける為にしてきた修業の大半は強者との斬り合いだった。

 そして、世界最強となった現在では誰よりも己自身がイメージトレーニングとして自らの剣を相手に斬り裂いてきたのだ。

 

 そんなミホークを相手に生半可な剣の模倣など、まさしくジョーカーを引いたも同然だろう。

 

 地面に倒れたシャドウを見下ろしながら、ミホークは刀身に付着した血糊を一振りで払いあげる。

 

「「「シャドウ様!!!」」」

 

 会場内で隠れていたシャドウの仲間と思える黒一色の服装の女性が駆けつけてきた。

 その中でも一等実力の高い女がミホークへと斬って掛かりに来た。

 

 その剣から殺気は感じないことから、シャドウの敵討ちではなく撤退までの殿(しんがり)役といったわけか。

 それにしても、このエルフの女の顔……ベアトリクスの奴に似ている。

 いや、もう少し年齢を重ねれば瓜二つになると言っても過言ではない。

 

 もしや、こいつがベアトリクスの奴が探していた身内か……? 

 ならば、奴に負けず劣らずの才能を持っているやもしれん。

 

 ふふ……、今日は本当にツイている日だ。

 あやつには悪いが、少し味見させてもらうとしよう。

 

「はあぁぁぁ!!!」

 

「ふむ、剣筋はあやつとはまるで別物、されど才能という点では同等……あるいはそれ以上か……」

 

 師の教えが良かったのだろう。魔力の操作も剣術の高さもどちらも申し分ない。

 王国最高の腕を持つアイリス王女と比較しても余程いい出来だ。これならばベアトリクスにも勝てるやもしれんな。

 まあ、今のあいつがどれだけ剣の腕を上げているかは知らぬから断言は出来ぬが……。

 

 やがて、女の実力を測り終えたと同時にシャドウに魔力による回復を施していた女の撤退の声と共に逃げていった。

 別にミホークからすれば彼女らは倒すべき敵というわけでもないし、その背に背負われているシャドウも好敵手なだけであって殺す対象ではないので、剣を鞘に納めて見逃すことにした。

 

 その直後に特別観客席からベアトリクスが慌てた様子で駆け下りてきた。

 恐らく、というよりかは十中八九あのエルフの女のことだろう。

 

「今の子はまさか……」

 

 呆然としたまま立ち尽くすベアトリクスにミホークは声を掛けることなく、そのままこの場を去っていく。

 別にベアトリクスは剣を交える間柄なだけであって、友人でもなければ恋人ですらないのだから、そういった家族関係の面倒な厄介事には深入りしたくはないのだ。

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

「……断ると言ったら?」

 

「その時は……貴方に無理やり孕まされたと言いふらす」

 

「やめろ!!!」

 

 それはミホークのイメージを大きく削がれる。

 剣では勝てずに俺との交渉出来ないと踏んでイメージ戦略でくるとは……。一体いつからこいつにそんな悪知恵がつくようになった!? 

 

「全部貴方が悪い……」

 

「頬を膨らますな。見た目はともかく、貴様の実年齢は「黙れ、それ以上口を開くな」……分かった」

 

 不貞腐れたようなベアトリクスの態度に苦言と共に実年齢を口にしかけた瞬間、喉元に剣を突き立てられる。

 流石のミホークも今のは女性に対して失言だったと素直に認める。

 

「とにかく、私は今逃げたエルフに会ってみたい。だから、探すのを手伝ってくれ」

 

「はぁ、あまり面倒事には首を突っ込みたくはないのだがな……」

 

 こうして、俺とベアトリクスはあのエルフの行方を探る為に、手掛かりとなるであろうシャドウガーデンの本拠地を探る旅に出ることになった。




これで一応の完結かな。

これ連載やなくて短編小説やし、オマケで何話か作るけどもな。

とりあえず、高評価や感想あざざます!


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戦慄するシャドウガーデン!吠えるデルタと大剣豪!!

何カ月ぶりかの投稿、ハルヒの方も完結し終えたので時たまこっちも投稿します。


 ブシン祭から翌日、ここはシャドウガーデンの表の顔であるミツゴシ商会の保有する店舗の一室。

 そこにはシャドウガーデン最強の7人である七陰が傷を負ったシャドウの元へ集合していた。

 

「むぅ~!!納得いかないのです!ボスは最強なのです!負けるだなんてありえないです!!こうなったら、デルタがその大ナントカって奴の首を狩ってきてやるのです!!!」

 

「やめときな、バカ犬。あんたなんかが挑んだところでその耳と尻尾をぶった切られて終わりだよ。あとそれと、大剣豪な。それくらい覚えときな、バカ犬」

 

「ガゥルゥゥ!!!デルタを馬鹿にするなです、メス猫!デルタは強いんです。ボスの敵はデルタが取るのです!」

 

「だ~か~ら~、それがあんたじゃ無理だって言ってるじゃん。このバカ犬!!」

 

 いつもみたくデルタの我儘にゼータが嚙みついて喧嘩になるが、アルファが床を足でカツン!と音を鳴らし、ギロリ!といつもよりも鋭い眼つきで睨みつけると2人は「「あうっ!」」と怯え、即座に謝罪して大人しくなった。

 

「ごめんなさいね、シャドウ。それで傷の方は大丈夫なの?」

 

「ああ、問題ない。デルタも心配してくれてありがとう。それで、今こうして僕はここにいる訳だけど、姉さんの方はどうなっているの?」

 

「はっ ただいまニューがシド様に変装してどうにか誤魔化しています」

 

「それ大丈夫?姉さんって僕に対してだけはえらく暴力的だし……」

 

「問題ありません。現在、ニューが変装しているシド様は先の事件に巻き込まれて病院へ搬送されたという形で隔離しております。更に、事件の参考人としてクレア様には事情聴取という名目でシャドウガーデンのメンバーが騎士に変装して足止めしておりますから」

 

 ガンマの説明を聞いたシャドウはそうかと納得して安堵のため息を吐く。流石に自分の身代わりでニューが姉さんにボコられるのは気まずいのだ。

 続けてガンマから密かにミホークの素性調査していた結果報告を聞く。

 

「ひとまず、彼の大剣豪の素性を調べ上げましたが、教団との繋がりは確認できず、恐らくは白だと思われます」

 

 ふむ、あの人は教団とは無関係という設定か……。

 まあ確かに、あの人は孤高の強者って印象の方が強いし、結構いい設定だな。

 ここは僕もノッてあげるか。

 

「だろうな。あの男が教団と繋がる筈がない……」

 

「流石はシャドウ様、たった一度戦っただけで相手の事をそこまで理解するなんて!」

 

 ガンマ恒例のさすシャドを前に気分をよくしていると、突然部屋の扉が勢いよく開かれてナンバーズの1人が慌てた様子で報告にやって来た。

 

「どうしたの?今はシャドウとの会議中なのだけれど……」

 

「そ、それが、アルファ様!大変な事態に!!シャドウガーデンの本拠地である古の都アレクサンドリアが襲撃を受けました!!」

 

「「「「「「「────っ!!?」」」」」」」

 

「なんだと……?」

 

 七陰がその報告に絶句するなか、シャドウは僅かばかしに眉をひそめる程度だった。

 これは認識の違いからだった。古の都アレクサンドリアは霧の龍による毒の吐息によって守られており、何人たりとも侵入を拒む結界となっている。

 それを七陰は周知しているが、シャドウはいい場所を見つけたな程度にしか思っていないのだ。

 故に起きた差なのだが、その事情を知らない七陰からはこんな状況でも冷静沈着な対応をみせていると勘違いしている。

 

「それで侵入者の数と被害状況は?敵は教団と考えていいのね?」

 

「いえ、それが……」

 

 アルファからの問いに、報告を伝えに来たナンバーズの彼女は何とも答えにくそうに報告を続ける。

 

「敵の数は1人!被害状況は……建物などに被害はありませんが、ラムダ教官や訓練中のナンバーズが負傷した程度で、死人または重傷者は出ておりません」

 

「「「「「「はぁ?」」」」」」」

 

「…………」

 

 その報告を聞き、七陰である彼女らは間の抜けた声を出してしまい、シャドウは無言のまま目を閉じる。

 てっきり、奇襲によって死屍累々の血に染まった戦場になっていると勝手に想像していたというのに、実際は負傷者数名のみという事に拍子抜けた声が上がる。

 

「待ってちょうだい。その報告は確かなものなの?」

 

「はい!ナンバーズから、イータ様が開発した長距離連絡用の魔道具での報告でしたので間違いはないかと……」

 

 彼女自身も今回の荒唐無稽のような報告に自信なさげな返答を返す。

 それを聞いて何が何やらとアルファが頭を痛くしていたが、それでも本拠地を特定されて襲撃されたという事実は重い。

 

「それで敵の正体とその目的は分かっているの?」

 

「はい!それも報告にありました。敵はジュラキュール・ミホーク、目的はアルファ様とのことです!!」

 

「なに?ジュラキュール・ミホークだと!?それに……」

 

「私?」

 

 まさかの襲撃犯が先日戦った大剣豪ということに驚くシャドウと、その目的が自分ということに意表を突かれ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になるアルファ。

 それは他のメンバーも同じ反応で、一体どういうことだと慌てていた。

 

 そんな中、最初に驚いたシャドウが顎に手を添えて、この状況を整理してみる。

 ミホークの設定を決めている最中に本拠地がその当人であるミホークから襲撃を受けている。

 

 ははぁ~ん、これはサプライズイベントというやつか?あれだな、序盤はいきなりの急展開なトンデモイベントだが、後の後半でそれが伏線になるっていう、FG○のトンチキイベント的なアレだ。

 知っているぞ、ハロウィンやらぐだぐだも最初や途中まではネタだけど、ラストではBGMをバックにカッコいい展開になるということを!!! 

 

「再戦か、はたまた別の目的か、どちらにせよ面白いじゃないか」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、シャドウはこの流れに乗っかることにした。

 

「……そうね。相手の目的がなんにせよ、単身で乗り込んできたのなら好都合。私たち全員で力を合わせれば、いくら世界最強の魔剣士といえど倒せるはずよ。ねえ、シャドウ……」

 

「ああ、そうだな」

 

「グルルルルッ!!そんなの必要ないのです!デルタがいけば敵なんて狩ってみせるのですぅぅぅ!!!」

 

「ああ、こらデルタ!?」

 

 敵が攻めてきたという報告に興奮したデルタは指示を受けるよりも早く、ミホークが襲撃をかけてきたアレクサンドリアに向かって駆け出していった。

 止める暇もなく走り去ったデルタを追って、シャドウを筆頭に戦闘に長けたアルファ、イプシロン、ゼータの3人が後を追おうと立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 ブシン祭が終わり、ベアトリクスからの頼まれごとを嫌々ながらに聞くハメになってしまったミホーク。

 例の妹の忘れ形見に似ているというシャドウガーデンのエルフを探す為にあてもなく彷徨い歩いていたのだが、魔剣士の勘からなのか、人の出入りなど有りそうにない鬱蒼と茂った森へ足を運んでいた。

 

「……っ!これは」

 

 森の中を進むこと数時間、突如として発生した謎の霧に足を止める。

 これがただの霧ではないことは直感で察することが出来た。

 

「……よかろう。形なきモノすら斬ることが出来て一流の剣士というもの」

 

 自身の歩みを妨害するように立ち込めた霧に対して、ミホークは意欲に燃える。

 背中に背負った剣を抜き放ち、眼前で滞留する毒の霧に向けて剣を振るう。

 ただ漫然と振るうのではなく、その霧の中心ともいえる元凶、それを見極めてそこに斬撃を叩き込んだ。

 

「ふんっ!!」

 

 その斬撃は嵐の如く、空間が揺らぎ森中に広がっていた霧が周辺の木々ごと纏めて一掃された。

 

 この異変は森の奥に存在する古の都アレクサンドリアに拠点を構えるシャドウガーデンにも届いた。

 

「なんの騒ぎだ!?」

 

「大変です、ラムダ教官! 森の方から侵入者が!? どうやら、今の騒ぎは霧の龍の毒霧を吹き飛ばした際の衝撃のようです!」

 

 突然の騒ぎに古の都アレクサンドリアは蜂の巣をつついたような騒ぎに陥る。

 ただし、騒ぎになっているだけで混乱などはなく、普段からの訓練の度合いを窺わせる。

 

「「「キャ──ー!!!」」」

 

 森付近で訓練をしていた訓練兵が吹き飛ぶ姿が見えた。

 それは傍から見たらギャグ漫画などで吹き飛ぶ悪役のような飛び方だが、ラムダが手塩に掛けた訓練兵の実力はそんじょそこらの騎士よりも遥かに実力が高い。

 決してあのような雑魚が一掃されるような表現で倒されるような実力ではないのだ。

 

 だが、現実にはそんな光景が遠くの方で起こっていた。

 つまり、ここに侵入してきた者は生半可な実力者ではないということだ。

 

 まさか、下手をすれば七陰クラスが出張るほどの実力者か!? 

 

「私が行こう。お前たちはアルファ様へ連絡を急げ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 迅速に指示を出すと、私は即座に侵入者がやって来たであろう場所へ足を急がせる。

 

 敵は恐らく教団の連中、ここ最近シャドウガーデンも表舞台に立ち始めたが故にこの場所を特定したのだろう。

 もしかすれば、敵の幹部クラスの者が軍を引き連れてやって来たのやもしれない。

 

「ここが死に場所になるやもしれんな……」

 

 敵に近づくにつれて肌を刺すようなピリついた圧が強くなる。戦わずとも感じてしまう相手の強さ。

 そして、幻視する自らの死。しかし、不思議と恐怖はなかった。

 

「ふっ、元々悪魔憑きとして死する運命だったのだ。ここまで生き延びれた恩を返す時が来ただけのこと……」

 

 強い覚悟を決めたラムダはついに敵の元に辿り着く。

 そこにいたのは予想だにしていない人物だった。

 

「なっ!何故貴方が!?」

 

「…………」

 

 ラムダの目に飛び込んできたのは短刀を握ってナンバーズを地に伏せさせている大剣豪の姿だった。

 彼がやって来たラムダを一目見るも、すぐに興味をなくしたのか、視線を外してラムダの横を何でもないかのように通り過ぎようとした。

 

「……っ」

 

 一瞬、敵意が無いことにほっとした。このまま戦わずに済むと。

 されど、ラムダの立場からそれを許すわけにはいかない。

 

「まさか、貴方様がここに来るとは思いませんでした。目的はシャドウ様ですか?」

 

「……答える義理もないが、まあいい。俺の目的はシャドウではない。奴とはまた強くなった時に再戦を果たすのみ。今回の目的は貴様らの仲間にいるエルフの女……俺を相手に殿を務めてみせた者を探している」

 

「……っ!そうですか。残念ですが、あの御方はここにはいません。ですのでお引き取りを……と言いたいところですが、私もこの地を任されている者。どうやってここを知ったのか、是が非でも吐いてもらいます!」

 

 パシンッ! と自らの獲物である鞭を地面に叩き付け、戦闘の構えをとる。

 

「ほう、中々珍しい武器を使う。いいだろう。暇つぶしにはなりそうだ」

 

 その立ち振る舞いから今地面に転がっている者どもよりも楽しめそうだと判断したのだろう。

 その鋭い眼光をラムダに向けて短剣を握りなおす。

 

 たったそれだけの所作にラムダの本能が最大限の警告音を鳴らすが、それを理性で以て押さえつけ、戦う意思を奮い立たせる。

 

「いかせてもらう!!」

 

「かかってこい……」

 

 覚悟を決めたラムダがミホークへと特攻を仕掛け、開戦の火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 デルタに難しいことは分からない。だが、群れのボスに手を出した敵を許してはいけないということだけは理解している。

 

 ミツゴシ商会からアレクサンドリアに向かって駆けるデルタ。その速度は下手をすれば新幹線にも匹敵するスピードで通り過ぎていく為、道行く人々は新種の魔獣か幻覚でも見たと一部騒ぎにもなった。

 

 だが、当の本人はそんなこと露知らず、その頭の中はボスであるシャドウを倒してみせたというミホークのことしか入ってなかった。

 既にミツゴシ商会に連絡が入ってかなりの時間が経っている。もうその場にいないかもしれないが、獣人の鼻を利用すれば後を追い掛けて辿り着くことができるだろう。

 

 そう意気込んで目的地へと全力の猛ダッシュを決め込む。

 やがて周囲の景色が街から森へと切り替わり、シャドウガーデンの本拠地であるアレクサンドリアに辿り着く。

 

 そこでデルタの嗅覚に血の匂いを嗅ぎ取った。

 その瞬間、デルタの頭に血が昇る。

 この先に自分のシャドウガーデン(群れ)に仇なす敵がいる。

 

 それだけでデルタが怒り狂うには充分だった。

 

「があああああぁぁぁぁ!!!」

 

 血の匂いがする方へ吠えながら走り出す。そしてすぐにその視界に捉えたのは、包帯を巻きながらも日常生活を送っているナンバーズ達の姿だった。

 

「がうぅ???」

 

「あれ、デルタ様?」

 

「お前ら、襲われた筈じゃないのです?」

 

「あははは……、お恥ずかしながら」

 

 確かに怪我を負って包帯を巻いているし、着ているスライムスーツも若干損傷しているように見受けられる。

 ここに敵襲があったことは確かだろう。しかし、周りを見渡しても戦闘の被害がありそうな場所はなく。

 こうしてナンバーズ達が無事とは言い難いが、それでもこうして普段通りに動けていることに頭の弱いデルタには理解しきれなかった。

 

「うぅぅ……?考えても分からないことは分からないのです!お前ら、ここにボスを倒した奴がいる筈です。そいつは今どこにいるです!」

 

「ミホーク様ですか?それならば向こうの方に……」

 

 そう指を指して位置を教えると、デルタは風のごとくその場から走り去っていった。

 その行き先は当然のことながら、敵であるミホークの元だった。

 

 女しか存在しないシャドウガーデンの本拠地にはいないはずの男。

 この男こそがボスを倒してこの場所を襲ってきた敵!!! 

 

「見つけたのです!!」

 

「……これはまた、生きのいい獣が迷い込んできたものだ」

 

 やって来た獣人への俺の感想は猛獣というしかなかった。それほどまでに目の前で荒ぶる獣人は威圧感を放っていたのだ。

 それはただ単純に強者の放つオーラのようなものなのか、それとも本能的な何かによるものなのか……。

 まぁ何にせよ、今の俺の暇つぶしになる程度の力は持っているようだ。

 

「よかろう。この(くわ)の試し斬りがてら遊んでやろう」

 

「……ふざけてんのかです!?」

 

 何故に鍬を持ってるのかというと、現在のミホークはシャドウガーデンで待ち人(アルファ)を待つまで居候として畑仕事に従事していた。

 そこへデルタが乗り込んできたというわけだ。

 

 無論、このままデルタを鍬で相手をするというのは本気のことだ。

 一流の剣士であれば扱う武器は選ばなくとも相手を倒せる。超一流ともなれば日常品でさえ武器と化して敵を葬る。

 つまるところ、ミホークが持てばただの鍬とて立派な武器へと変貌するのだ。

 

「まずは小手調べだ、──天地返し」

 

「ぬあっ!?」

 

 地面に鍬を振るっただけ、ただそれだけで地中の土がひっくり返りその延長線上にいたデルタもそれに巻き込まれて宙へ吹っ飛ばされる。

 それはもうコミカルにピョ~ン! と擬音が付くほどに呆気なく飛ばされた。

 

 突然の異常現象に流石のデルタも反応することができず、ひっくり返された土と共に空中に飛ばされたが、デルタはシャドウガーデンでもトップクラスの戦闘力を誇る。

 ただ吹き飛ばされただけならば1秒とかからず空中でも態勢を整えて反撃の構えを取ることなど造作もない。

 

「っグルルル!!よくも──っ!?って、いないですぅ!!」

 

 素早く空中で態勢を立て直したデルタが先程までミホークが立っていた場所を睨みつけるが、そこには既にミホークの姿はなかった。

 

「どこにっ!?」

 

 ふと嫌な予感が背筋を走り、その予感を信じて後ろを振り返ると、そこには鍬を振り下ろそうとしたミホークがいた。

 

「ふん!」

 

「がぁっ!!?」

 

 咄嗟にガードできたが、本当にただの農具なのかとツッコミたくなる硬度の鍬で叩き付けられたことで地面へと真っ逆さまに撃ち落される。

 一般人ならば間違いなく即死レベルの威力、されど巻き起こる土煙の中から無傷のデルタが姿を現した。

 

「ガアァァァァ!!!!デルタを!!舐めんじゃねえですぅ!!!」

 

 怒り心頭のデルタが未だ空中で佇んでいるミホークを睨む。その眼力は猛獣もたじろぐほどに鋭く、濃厚な殺意と敵意が含まれていた。

 しかし、その程度の殺気はミホークにとってはそよ風程度にしか感じない。

 

「どうやら貴様はその程度らしい」

 

「──ッ!調子に乗ってんじゃねぇです!!」

 

 軽い挑発に簡単に乗ったデルタは着地の瞬間を狙い撃とうと爪を尖らせて攻めにいく。

 その速度は弾丸かと見紛うほどのもので、並みの相手ならばまず避けられないだろう。

 だが、ミホークには通じなかった。

 

「っぐぅ!」

 

「速度と魔力だけならば合格点は出してやってもよかろう。しかし、その他がまるで不合格だな」

 

 あっけなくデルタの攻撃を鍬の棒部分で防ぐと、そのまま棒の先端部分を巧みに操り隙が生じたデルタの胸元を突く。

 

「がぁっ!?」

 

 不意打ち気味に放たれたその突きに息を吐いて動きを止めたデルタに追撃だといわんばかりに鍬の端っこを握って振り払う。

 たったそれだけのことなのに、デルタは凄まじい衝撃を受けて地面を転がりながら吹き飛ばされてしまう。

 

「突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀、この言葉を知っているか? まあ、知らずともよい。所詮は獣なのだからな……」

 

「ぐぅっ!クソォがぁ!!っですぅ!!!」

 

「はぁ……」

 

 吹き飛ばされ、木に激突して止まったデルタは怒りの声と共に立ち上がる。胸に走る痛みを無視して突っ走るデルタにミホークは溜息を吐いた。

 それはデルタの短絡的過ぎる行動への呆れからくるものではなく、心底失望したという失意に近しい感情から出たものだった。

 握り構えていた鍬を地面に突き刺し、自身に向かってくるデルタに向き合う。

 

「──止まれ!!!」

 

「──っっっぎぃ!!?」

 

 ただの一睨みの威嚇のみ、ただそれだけの行為だというのに、デルタの本能が全力で止まれと足にブレーキをかけた。

 心臓の鼓動が不規則に跳ね上がり、全身から冷や汗が滝のように流れ落ちた。

 ただ一言命じただけで放たれる異常なまでの威圧感に、デルタは気圧されて動きを止めて立ち尽くす。

 

 ここで初めてデルタは目の前の男が自身のボスを卑怯な手や偶然で倒した存在ではないと確信した。

 

 これはシャドウの実力の高さを知りすぎているがゆえに、デルタの脳が言葉では実感出来ずに辛うじてこれならば納得できると無意識に相手の実力と状況を頭の中で勝手に変換してしまっていたのだ。

 つまるところアホの子なのだから勝手にミホークを運だけのクソ野郎と思い込んでいたのだ! アホの子だから!!! 

 だが、先程までの攻防戦と今の威圧により、ようやくデルタの中でこの男が真っ正面からボスに勝ったのだと理解できた……いや、出来てしまった。

 

 戦意喪失してしまったデルタは真っ先に逃走の手段を模索したが、目の前でただ睨みつけている男に背を向ければ終わるという確証なき確信がデルタの足を地面に縫い付ける。

 そんな今のデルタの胸中にあるのは諦めだった。

 

 本来ならば負けん気の強いデルタが素直に諦める筈はない。ないのだが、弱肉強食の世界を生きるデルタにとって目の前の男は鷹で自身はひ弱な鼠に成り下がってしまったように感じてしまっている。

 

 デルタの不幸を上げるとするのならば、悪魔憑きから解放されて世界でもトップクラスの実力者集団であるシャドウガーデンで鍛え上げられ、教団との戦いにもガンマの策によって常勝無敗の戦果を取り続けたことによって起きた自身の油断と慢心。

 そして、相手のミホークが握っていたのが武器ではなく農具であったことであろう。

 

 どこの世界に農具を握った剣士を警戒する戦士がいるだろうか? 傍から見ればただの農業に勤しむ青年にしか見えないのだ。

 しかも、その上で戦いを始めるのだから、これで怒らずに相手の様子を伺って警戒しろだなんて短絡的なデルタには不可能なことだ。

 

 そんな2つの不幸が重なって起きたのが今のこの現状だ。

 

 デルタへの興味を失ったミホークと戦慄し恐怖で動けずにいるデルタ。

 両者互いに硬直状態になって数秒、気まずい空気が立ち込めてきた。

 

「…………」

 

 さて、どうしたものやら? 

 

 この目の前で固まってしまっている獣人の娘の対応に悩みながら思案する。

 元々、ミホークからしてみればデルタは敵という訳ではなく、ただ単純に遊び相手にはなるだろうと期待して相手していただけに過ぎない。

 

 無論、最初は普段は戦わない獣人特有の獣らしい動きに期待を込めて相手をしていたが、技量の極致に立つともいえるミホークにとって、愚直なまでの荒々しい戦い方では負ける方が難しいとすら言えた。

 ただ身体能力と戦闘センスのみが特化しただけの攻撃ではミホークは傷つけられない。そこに相応の技量が伴って初めてミホークと戦える舞台に上がれるというものだ。

 

 シャドウガーデンのメンバーだというから期待していたのだが、蓋を開けて見ればただの鎖の繋がれていない猛獣であっただけ。

 無論、一般人どころか並や強者と呼ばれる類の魔剣士でもデルタの戦闘は充分に通じるレベルどころか、そのままぶっ倒せる破壊力なのだが、それをまるで寄せ付けないミホークの実力がデタラメなのだ。

 

 さて、話が逸れてしまった。今の現状で問題なのは、互いにもう戦う気が全くなくなっているというのに、ミホークムーブのせいでコミュニケーション能力にやや難があるミホークと、格上の敵を前に固まってしまっているデルタ。

 どちらからも戦闘終了の提案を口に出せないでいるのが、この空気を作り出している原因なのだ。

 

 このまま日が暮れるまで睨み合いを続けるのかと思ったその時、天は2人を見捨てなかった。

 

「そこまでにしてもらおうかしら、2人共!」

 

 突如としてこの最悪な空気を切り裂くように割って入ってきたのは、デルタの後を追ってきたアルファだった。

 

「ア……アルファ様!!」

 

 今にも泣きそうな面でこの場に現れたアルファの名を叫ぶデルタ。

 それを無視してアルファはミホークの方へ視線を向ける。敵意や殺意といったものは飛んでは来ていない。

 送られてきた情報通り、あっちはこちらに対して本当に敵対の意思はない? 

 

 デルタがミツゴシ商会から飛び出してすぐさま後を追ったはずのアルファが、ここに来るまで時間が掛かったのは1つの理由があった。

 あの時、シャドウを筆頭に戦闘に自信のある七陰を連れてアレクサンドリアに向かおうとした途中、再び慌てた様子で駆け付けた別のナンバーズの1人がある連絡を持ってきたのだ。

 

 その内容はミホークに敵対意思が無いという報告というものだった。

 今回の衝突は誤解によるものだと説明され、それを聞いたアルファが頭を痛くしながら、とりあえずは先に出ていったデルタの確保は自分がすると言って後を追い掛けたのだ。

 

 勿論、勝手な単独行動を行ったデルタには後で厳しいお説教&お仕置きを施すつもりだ。

 

「ひぃっ!?」

 

 ブルっと謎の悪寒に襲われるデルタ。どうやら少しばかりアルファの怒りが漏れてしまったようだ。

 そのことにアルファも気づいたのか、漏れ出た怒気を抑えて沈黙を続けるミホークに会話を試みる。

 

「さて、御機嫌ようとでも言っていいのかしら?私は貴方のことをあまり知らないから挨拶のしようがないわね」

 

「ああ、別に構わん。俺も貴様と別段深く親睦を深めたいという理由でここへ来た訳ではない」

 

「なら、単刀直入に訊ねようかしら? 貴方は何故私を探してここへやって来たの?」

 

 目の前の男に下手な言い回しや遠回しな腹の探り合いは無用と判断してとの言葉だったが、少し性急に迫り過ぎたかと考える。

 だがそれは無用の心配だったようで、ミホークはあっさりとその目的を話してくれた。

 ただその内容がアルファにとって好ましいものではないものだったが。

 

「というわけだ。今回はそれだけだ……」

 

「そう……、残念だけど人違いよ。私はシャドウガーデンのアルファ。生憎とそれ以外の名は持ち合わせていないわ」

 

 ファサ~っと髪をかきあげる仕草で誤魔化してはいるが、その内心が酷く荒れているのをミホークは見逃しはしていない。

 かと言って、それで何かフォローすることもなく、所詮は他人と切って捨てるミホークは何も言葉にしない。

 

 それをするのはきっと……

 

「なるほど、そういう事情か……」

 

「っシャドウ!? いつからそこに?」

 

「おぉ~!ボスも来ていたのです!?」

 

 いつからそこにいたのか、木陰の後ろからシャドウが姿を現した。

 アルファとデルタはシャドウの登場に驚いていたが、ミホークだけはその気配を察知していたのか、突然現れたシャドウに対して驚きはしていなかった。

 

「アルファよ、お前は誰が何と言おうとシャドウガーデンの一員のアルファだ。だから、お前はお前の自由にしろ」

 

「シャドウ……」

 

 ポンとアルファの頭に手を置いて慰める。後アルファがなんか乙女みたいな顔で恥じらって可愛かったです。

 ちなみに、この時のシャドウの心情は「アルファよ、お前は(ベアトリクスとかミホークとか)誰が何と言おうとシャドウガーデンの一員のアルファだ。(だって実質シャドウガーデンのメンバーの把握とか管理とかお前任せだし)だから、お前はお前の自由にしろ(断って僕と一緒に陰の実力者ごっこ続けよぜ!)」だ。

 

「さて、ブシン祭以来だな。といっても、そうあまり時間は経ってはいないのだが。それで良ければ、どうやってこの場所を突き止めたのか教えてもらえないか?」

 

 ここはシャドウガーデンのメンバー以外は誰も知らない隠された秘境。どのような術をもってこの場所を特定したのか知らなければ、今後の秘密基地としての役割は務まらない。

 

「大した理由はない。ただの()だ……」

 

「勘って、つくにしてももう少しまともな噓を「分かった。信じよう」っな、シャドウ本気なの!?」

 

 この場所を勘で探し当てたというミホークの言い分を否定しようとするアルファの台詞に被せてシャドウがその言葉を認める宣言をした。

 

「だって、相手はミホークだしね。勘でこの場所を探り当てたとしても不思議じゃないよ」

 

 やれやれと言わんばかりに肩をすくめるシャドウに、アルファはまだ納得がいっていない様子だったが、それ以上何も言うことはなかった。

 

(それにしても、まさか本当にそれで場所を探り当てるとは……。流石はミホークといったところか……)

 

 そう呆れながらも納得したシャドウの内心を他所に、ミホークは踵を返して去ろうとする。

 

「おや、もう帰るのか?」

 

「ああ、既にこちらの用事は済んだ。あいつには直接自分の口で正体を聞けと伝えておく」

 

 そう言って去っていくミホークの姿を見送ると、シャドウの隣にアルファが寄り添うように並び立つ。

 

「俺は何も口は出さない。だが、己の進む道は自分で決めるべきだ」

 

「……、そうね。いずれあの人が私の前に来た時は、ちゃんと向き合うことにするわ」

 

 少し悲しげで儚げな表情を浮かべ、アルファはそっとシャドウの肩に頭を傾ける。

 それをシャドウは避けようとはせず、アルファのしたいままに体を貸した。

 

 ちなみに、その後落ち着いたアルファから勝手な行動をとったデルタへの罰がキッチリ行われたのは言うまでもない。

 

「ごめんなさい!アルファ様~!!!」

 

 




久しぶりの1万文字投稿はしんどかった。
この小説のミホークを異世界に飛ばすつもりのアンケートで予想外に、ダンまちとFGOが接戦してるのでちょっと驚いた。
てっきり、英霊剣豪一強やと思ってたからな。ってか、ダンまちの方が微妙に勝ってる。
あと1話書いたらダンまちの方で書くかも。


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異世界へレッツゴー!(お試し)前編

アンケートで募集したミホークが行く世界の内容をちょっとだけ見せます。
いうなればPVってやつですな。


 鋼の錬金術師

 

 血と硝煙、そして弾丸飛び交う戦場のなか、とある1人の軍人が剣を携えて走り抜ける。

 その軍人こそ、後のアメストリス国軍の最高指導者となるキング・ブラッドレイであった。

 

 今の年齢は人間の全盛期ともいえる20代のなかば、皺ひとつない若々しい姿で、戦場にて数々の武勲を上げている最中だった。

 今回もそんないつもと変わらない戦争となる、そんな筈だった。

 

「ふう……」

 

「よお、流石のお前もこの戦場では息が上がるか」

 

 現れたのは同期で軍に入隊した男、ベルク・ジュドー。

 他の仲間からは口から産まれてきた男とも呼ばれている。

 

「なあ、知ってるか?今回の戦争にあの大剣豪とかいう剣士が参加してるらしいぜ!」

 

「そうか」

 

 ジュドーはお前とどっちが剣の腕が上だろうなと笑いながら残敵がいないかを戦場を散策していた。

 

「くだらんな」

 

 正直、大剣豪の噂は耳にしている。

 だが、そのどれもがホラ吹き小僧の出した嘘と言われるくらい荒唐無稽な話ばかりだった。

 

 曰く、錬金術を用いずに山を斬って崩落させた。

 曰く、短剣1つで敵部隊を壊滅させた。

 曰く、その眼は千里先の敵すら射抜く。

 

 他にもまだあるが、そのどれもが上記に記したものと大差ない内容のものばかりだ。

 

 こんな信憑性もない噂話に踊らされているジュドーに呆れた目線を送るブラッドレイ。

 まあ、ジュドーも話のネタ程度にしか思っていないのだろう。

 その証拠とでもいうべきか、ジュドーは陽気なまま敵のいなくなった戦場を闊歩していた。

 

「おーい!こっちは敵の生き残りなし!そっちは?」

 

「こちらも同じく問題無しだ。では帰還するとしようか」

 

 殺し損ねた敵がいない事を確認し終えると、自軍の本拠地へと帰還しようと戦場を後にしようとしたその時だった。

 

「っ!?待て!ジュドー!!!」

 

 突然首筋に刃物が通り過ぎたような悪寒が走り、咄嗟にジュドーへ警告の声を飛ばす。

 それを受けてジュドーも即座に腰の剣を抜いて戦闘態勢に入った。

 

 それと同時に、少し先にある建物がまるで切り裂かれたように斜めに崩れ落ちた。

 

 ドゴゴゴォォォ!!!

 

「っ!?」

 

 緊張からゴクリと唾を飲み込んだのは果たして自分かジュドーか?

 どちらでも構わない。この先にアレをやった化け物がいる。

 我が父と同類か、はたまた別種の類いの化け物かは知らないが、気を抜けば死は確実か……。

 

 鞘に納めていた剣を再び抜き取り、冷や汗を浮かばせながらやって来る化け物に構える。

 

「ふむ、先に向かった部隊は全滅か……」

 

 色白肌に黒髪、羽飾りのついた大きな帽子に、赤と黒のロングコートを羽織った出で立ち。

 なにより、その鷹のような鋭い眼光と、背中に背負う巨大な十字架を思わせる一眼見ただけで業物と判断できる剣を持った男。

 

 あれが、噂に聞く剣豪……ジュラキュール・ミホーク!?

 

「っ!?伏せろ!!!」

 

 背中の剣を抜いたミホークはその場から動くことなく、ただ剣を振るった。

 傍から見れば一体何を?といった行動だが、そこから溢れる闘気をその眼で読み取ったブラッドレイが声を張り上げてその場に倒れ伏せる。

 

 対するジュドーはブラッドレイの声に反応し動こうとした時には既に時遅く、ミホークの振り払われた斬撃によってその胴体は泣き別れとなった。

 

「は……?」

 

 ジュドーの人生最後の景色は綺麗に切り捨てられた己の下半身だった。

 痛み、熱さ、迫る死による寒さ、色んな感覚がぐちゃまぜになりながら、ジュドーはその人生の幕を終えた。

 

「……これが剣豪の力か。なるほど、馬鹿げた噂話が流れるわけだ」

 

 たった一振りで生み出した惨状にブラッドレイは冷静さを失わずに状況を見極める。

 錬金術の類ではない。だが、超常の類であるのは間違いない。

 

 そうでなければ、ただの剣の一振りで遠く離れた人間の胴体を一刀両断なんて出来る筈がない。

 だが、そのネタが分からない。この眼は他の兄弟の最強に匹敵する力を持つ。

 その眼でも今の攻撃がただの斬撃以外の情報を見抜けなかった。

 

 本気を出すべき相手であると認識したブラッドレイはその左目を隠している眼帯を外す。

 

「まったく、本来なら今頃本拠地に戻ってコーヒーの一杯でも嗜んでいた頃なんだがな……」

 

 不測の事態、普段であれば悪態でもついてほんの少しの苛立ちのまま敵を殺す。

 それが今までの自分だった。が、何故だろうか?今まで出会った事のない類の敵。

 

 まさしく、強い敵と書いて強敵と呼べる存在との出会いに嬉しさを感じている自分がいる。

 立ち上がりながら腰に携えている2本の剣を引き抜く。逃げるという選択肢は最初(はな)から存在しない。

 

「ほお、立ち向かうか。ならば、多少の退屈凌ぎ程度には役立ってもらおうか」

 

 既に戦場であれば目と鼻の先といえるの距離まで近づいてきたミホークは傲岸不遜な態度でその剣先をブラッドレイに突きつける。

 

 その眼からは自身が負けるなどと微塵も思っていないのだろう。事実、ミホークとブラッドレイの力の差は覆すのが果てしなく困難極まる。

 それでも、ブラッドレイの眼からも自身が敗北することなど微塵たりとも考えていない強い光が宿っていた。

 

 開戦の合図は崩れ落ちる建物の瓦礫が地面に落ちる音と共に始まった。

 

 先手を取ったのは剣豪こと、ジュラキュール・ミホーク。

 自身の背丈を遥かに上回る大剣を軽々と片手で持ち上げると、そのまま横薙ぎに振るってブラッドレイを斬り裂こうとする。

 

「ぬん!」

 

 常人では知覚するのも困難な速さで迫るミホークの攻撃にブラッドレイはその自慢の眼で見切り、どこぞの手刀でスパスパ斬る水鳥がモチーフの拳法家みたく宙返りで回避する。

 だが、そのまま獲物を逃がすミホークではなく、すぐさま大剣の軌道を変えて追撃を行う。

 

 その攻撃にブラッドレイも地面へ着地すると同時にバックステップで後ろに跳ぶ。

 着地狩りはできずとも、逃げたブラッドレイを追ってミホークも更に前へ跳んで追撃を仕掛けるが、それもブラッドレイは自身との間に剣を挟み込んで防ぐことに成功する。

 2人の顔の距離は少し顔を前に傾ければくっつきそうになるほどに近い。

 

「なるほど、いい眼をしているな。俺の攻撃をこうまで華麗に避ける者はそうはいないぞ!」

 

「ははは、お褒めの言葉をどうも、礼をくれるというのならば大人しく殺されてくれることを願うよ」

 

「残念だが、俺は勝負事には手を抜かないタチでな……」

 

「そうか……、それは残念だ!!」

 

 ブラッドレイは力任せに剣を押し込み吹き飛ばそうとするが、ミホークはビクともすることなくブラッドレイを睨む。

 

「どうした、まさかその程度ではあるまいな?」

 

「っ!」

 

 ブラッドレイはアメストリス国家の大総統の地位を手に入れる為にホムンクルスが用意した人形だ。

 その人形役は誰でも簡単に選ばれるわけではない。ホムンクルスとそれに協力する研究者たちの非人道的とも呼べる実験や研究を乗り越え、賢者の石に適合出来たブラッドレイだからこそ任された役だ。

 

 だからこそ、ブラッドレイはその眼だけでなく、肉体面においても常人を遥かに上回るスペックを有している。

 そんな彼の全力の膂力をもってしても小動(こゆるぎ)もしないミホークに驚愕する。

 

 この細腕の一体どこにこれ程までの力が隠されているのか?

 そんな疑問が浮かぶが、ブラッドレイはそれを即座に捨て去り、鍔迫り合いの状態からバク転して距離を取る。

 

「どれ、もう少しだけ実力を見せてもらおうか……」

 

「っっ!?」

 

 5つの斬撃が瞬きほどの一瞬の間にブラッドレイに襲い掛かる。それをギリギリ致命傷にならずに避けられたのは今日まで育て上げた肉体、それになにより最強の眼による見切りがあったからだ。

 もしこれが最強の盾であれば構える前に斬られ、最強の矛であるならば撃ち合う前に叩き折られていただろう。

 

「……っ、化け物め!」

 

「よく言われる」

 

 体に5つの傷をつけて血を垂れ流すブラッドレイが憎々し気に化け物と罵るが、ミホークからは笑みを浮かべて涼し気に受け流される。

 

 あの斬撃を避けられるのであれば、少なくとも退屈な暇つぶしにはならないだろうと上機嫌になるミホーク。

 

 すぅ~、ふぅ~、と命の危機を脱して高まる心臓の鼓動を落ち着かせようと短く深呼吸を行う。

 剣豪ミホーク、噂以上の怪物だ。剣の腕もさることながら、その身体能力もまた尋常ではない。

 

 一撃でもまともに喰らえば致命傷、掠っただけでもこの重傷だ。

 久しく……いや、もしかすれば初めて感じる命の危機に興奮しているのだろうか?

 

「なるほど、これが血が疼きだすというものか……」

 

 かつての軍学校の教官から教わった時の言葉を思い出す。

 この眼をもって挑む戦場からは(つい)ぞその感覚を味わうことはなかったが、確かにこれは……。

 

「少々、病みつきになりそうだ……!」

 

「くるか……」

 

 その顔に鬼が……殺人鬼宿る。お父様が持っていた7つの原罪の1つである憤怒の罪が騒ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀魂

 

 

 

 キーンコーン!カーンキーンコーン!!

 

 江戸一番のカラクリ技師である源外の工房から鉄を打つ音が響く。

 

「おーい!爺さん。言われた通りに来てやったぞ~」

 

 死んだ魚の方がまだ生き生きしているような濁った眼をした銀髪天然パーマの侍が気怠そうな声でやって来た。

 

 実はこの数日前、お登勢経由で源外から自身の工房に来るようにと依頼を受けた。

 源外は江戸一番のカラクリ技師であると共に、発想が斜め上過ぎてただのボケにしか見えない発明品を作ることも多い。

 そんな発明品の後始末というか巻き添えをよく食らっている銀時は嫌な顔をするが、家賃を盾に半ば強制的にこの依頼を受けさせられたのだ。

 

「お~、銀の字!よく来たな。ん?なんだ、ガキ共はお留守番か?」

 

「あいつらはほれ、あそこ」

 

 指差した方を見てみると、河原の方で神楽が外に出してあった源外の発明品である三郎で遊んでいた。

 

「ひゃほーい!いけー!三郎!!!」

 

「おわー!神楽ちゃん!!?なんで僕の方にぃぃぃ!!!」

 

「うんが──!!」

 

 神楽を肩車した状態の三郎が新八を追い回しており、遊んでいるというよりも、獲物を追い回す狩人といったところか。

 

「おーい!お前ら、いつまでも遊んでんじゃねえぞ、それで源外の爺さん?今日は一体どういう用件で俺らを呼び出したんだ?」

 

「ふふふ、そう焦るな銀の字……。実はな、お前さんらを呼んだのは他でもない。この発明品を試して欲しいからだ」

 

 そう言って奥からゴソゴソと何かを探しに行き、やがて「あった!」と声を上げて何やら見覚えのある物を持ち出してきた。

 

「おいおい、爺さん。これって……」

 

「あれ、それって前にスケットダンスとのアニメコラボの時に使った物じゃないですか?」

 

「ああ、懐かしいアルな!スケット団の連中元気にしてるアルかな?」

 

 いつの間にか外ではしゃいでた新八と神楽がやって来て、3人は源外の持つある物に注目する。

 それは以前、銀時達がスケット団の部室へお邪魔した時に使用した源外の発明品だ。

 

「ちょっくら前に発明品の片付けをしてた時に出て来たもんでよ、そんでふといいアイデアが思いついて改良したのがこの『次元転送装置WTマークIIセカンド』だ!!!」

 

「って、WTマークIIセカンドてなんだぁ!!!」

 

 ドドーンッ!!!!という効果音でも付きそうな程自慢げに発表した源外のネーミングに新八がツッコミを入れる。

 

「何ってお前、ボーボボのネタ知らねえの?俺達ギャグ漫画界にとっての明石家さんま的な存在だぜ」

 

「そうアルよ。これだからメガネは……」

 

 呆れ果てる銀時と神楽から非難の眼を向けられて、新八は「もういいです」と言って引き下がった。

 

「で、その次元転送装置WTマークIIセカンドとかいうのは何が変わったんだよ?」

 

「まあそう慌てんなって……まずは実際に使ってみるこった」

 

 源外に促されて早速起動してみるとキュイーンと起動音を立ててガタガタと機械が動き出す。

 次にガターン!ガガガ……!!と不穏な雰囲気が醸し出される。

 

「おい、爺さん。これ本当に大丈夫なのか?」

 

「うぅ~ぬ、この次元転送装置WTマークIIセカンドは前回のと違って使用者ではなく相手をこっちの次元に転送する機能だ。それもランダムではなく、あらかじめに入力していた条件。今回はお前ら万事屋に用がある奴を連れてくるって設定なんだが……ぬお!?」

 

 源外の説明中、ついにピー!!とヤカンが沸騰したような音と共に機械がボン!と煙を上げて爆発した。

 

「ごほごほごほ、なんだ?ぶっ壊れたのか……、ん?」

 

 周囲を覆い隠す程の煙に咳き込む銀時。

 手をパタパタと振って顔周りの煙を散らして目を開くと、未だモクモクと立ち昇る煙の奥から見慣れない人影が見えた。

 

「誰だ?こんなところに……」

 

「どうしましたか、銀さん?」

 

「およ?あそこに誰かいるアルよ、新八」

 

 やがて煙が晴れるとそこには見覚えのある西洋のドラキュラ風の装いを着た鋭い眼をした剣士と思わしき男が立っていた。

 

「……ここは?」

 

 キョロキョロと視線のみ動かすが、その姿勢や立ち回りから油断や隙は一切感じられなかった。

 その立ち振る舞いに新八は無意識に緊張、神楽は本能的に警戒、銀時は戦場を駆け抜けた経験から木刀に手を添えて様子を見ている。

 

「さて、ここがどこかお前達に聞けばわかるだろうか?」

 

「「「っっっ!!?」」」

 

 真っ正面から現れた者の顔を見た銀時達3人はびっくり仰天し思わず──

 

「「「た、タイム!!」」」

 

「……よかろう」

 

 ほんの少し考え込んで、その要求に許可を出す。

 それを聞いた途端、3人は背を向けてヒソヒソと会議を始めた。

 

(おいィィィイイ!!なんで急にワンピースのミホークが現れてんだ!?)

 

(知りませんよ!?そんな事は源外さんにでも聞いてください!!)

 

(ってか、あの爺さんは何処に行ったんだ?さっきから姿が見えねえぞ!!)

 

(源外の爺さんなら、さっきデカイのがきたから用を足してくるってトイレに行ったね)

 

(なにしてんだァァアアアア!!この非常事態にあのクソ爺はぁぁ!!)

 

(どうするんですか銀さん!?相手はあの大剣豪ミホークですよ!!もし僕達の勝手でここへ連れてきたって知ったら?)

 

(そりゃ、お前。あの背負ってる剣でズバッとされるんじゃねえか?)

 

 恐ろしい未来に戦々恐々としていると、先程から会話に参加していなかった神楽が何やら視界の端で不穏な動きを見せていた。

 

「ん、アイツ……」

 

「いくね、三郎!!ファイア!!!」

 

「んががが!!!」

 

 ドゴーン!!と神楽が三郎に指示を出して両腕からバズーカ砲をミホークに直撃させる。

 

「「…………」」

 

 そのまさかの行動に、銀時と新八は口を閉ざして目の前で起きた惨状に目から光が消えて呆然と立ち尽くす。

 

「よーし!続けて第2射発っぶべ!?」

 

「させねえよ。ねえ、何やってのバカなの?バカなんですか、このチャイナ娘は?」

 

 慌てて銀時が神楽の口を鷲掴みしてその愚行を中断させる。その顔には怒りの感情がありありと浮かんでいる。

 

「何って、銀ちゃんいつも言ってるアルよ!喧嘩は先手必勝だって!!」

 

「……しょうがねえ、こうなったらこっちも、殺られる前に殺るしかねえ!!」

 

 覚悟を決めた銀時は肩にバズーカ砲を担いで未だ爆炎で見えないミホークに狙いを定める。

 

「いくぞ、神楽軍曹!」

 

「ラジャー!」

 

「ラジャー!じゃねーよ!!何やってるんですか銀さんまで一緒になって!?」

 

 あまりに自然に攻撃態勢に入る2人に新八がツッコミを入れる。

 

「何って、分かんねえのか新八二等兵?」

 

「いや、なんで僕もナチュラルに兵隊入りしてんですか?しかも二等兵って、新兵じゃないですか僕……」

 

「んなの、オメェがメガネだからに決まってるアルよ」

 

「んだとぉ!!テメェら喧嘩してぇのか!!!」

 

「落ち着け新八、いいかよく考えろ。なんで急にミホークが俺達の漫画の世界にやって来たのか、それはな──ー」

 

「「ゴクッ!」」

 

「尾田っちの野郎が戦争仕掛けに来たからだ!!」

 

「「ええぇぇぇ!!?」」

 

 銀時の衝撃発言に新八と神楽が驚愕の声を上げて驚きに目を見開く。

 だが、新八が即座にそれを否定する。

 

「いやいや、何言ってるんですか銀さん。尾田栄一郎さんが何で銀魂なんかに戦争を仕掛けてくるんですか?」

 

「そうアルよ。ずっと前の大銀魂展でもコラボ拒否なんて言いながらも、実質コラボしてくれたアル!」

 

「バッカ!んな学生のサプライズパーティーじゃねえんだぞ。いいか、俺達ジャンプで連載している作者にとって他の作者なんて人気投票で自分達の票を奪う害虫なんだよ。それを表立って非難すれば炎上になるから、当たり障りないことを言いながら、コラボっていう大義名分の元、こっちの土俵にズカズカと入り込んで侵略しに来たって訳だ!!」

 

「なるほどアルね!つまり、作者同士が喧嘩すれば金を運ぶアリ(ファン)共が減ってしまうから、わざわざ自分の強いキャラをコラボで送り込んでボコボコにして人気票を奪うって魂胆アルか!!」

 

「そのとおーり!」

 

「んなわけあるかぁ!?」

 

 あまりにも飛躍した解釈に、新八が全力のツッコミを入れた。

 そんな会話で時間を潰していた3人の背中に背筋が凍りつくような悪寒が走る。

 振り向けば煙の中から短剣を握ったミホークが出てきた。

 

「ふぅ、初手で殺意もなく砲撃とは、ギャグ漫画らしい一撃だな。しかし、この俺を殺りたければ核兵器は持ってこい。まあ、核ですら一度は切り裂いたこともあるから、有効打になるかは微妙だがな」

 

 その服装は多少の焦げが見受けられるが、平然と歩いてくる姿はまさに不死身の化け物。

 その姿に銀時達は恐怖で顔を引き攣らせていると、ミホークは握っている短剣を鞘にしまい込み銀時の顔をジッと見つめる。

 

「ここが何処かは今思い出した。お前達のくだらん雑談を聞いてな」

 

「いや~、それはあのですね……。何と言いうか~、銀魂らしい演出というか、お茶目なイタズラみたな?」

 

 顔から冷や汗をダクダクと垂れ流しながら言い訳を並べる銀時をミホークは無言で睨み続ける。

 

(おいぃぃぃ!!なんで俺が悪者みたいになってんの?やったのは神楽の奴だぞ!?そりゃ俺も、後から殺られる前に殺るしかねえなんて言ったけどもぉ!!そんな眼で睨むの止めて、お願い300円あげるから!!)

 

 心の中で必死に抗議するが、目の前の男にはそんな気持ちなど伝わるはずもなかった。

 ズカズカと遠慮容赦ない足取りで銀時の前まで歩を進めるミホーク、それを嫌な顔をしながら後ろに下がる銀時。

 

「最近、骨のある剣士と戦えずに暇をしていたからな。ちょうどいい、俺の暇つぶし相手になってもらおうか」

 

 ギロリと鋭い視線と同時に戦闘狂特有の笑みを浮かべたミホークの言葉に、ヒュッ!と銀時が息を飲み込む。

 そんな窮地の中、どうしたものかと視線を後ろに向けると、まるでコソ泥の如く抜き足差し足で逃げようとする新八と神楽の姿を視界に捉える。

 

「ちょっと待て、お前ら!俺を置いて何処に逃げるつもりだ!!」

 

 急いで逃げる2人の腕を掴んで逃がさんと引き止める。

 それを必死な顔付きで引き剝がさんと抵抗を強めるが、生命の危機を感じている銀時の握力がそれを許さないでいる。

 

「僕はちょっと道場の復興がありましてぇぇ!!」

 

「私は定春の散歩がぁぁ!!」

 

「噓つけ!新八、お前のその道場設定なんてビームサーベ流篇とマカデミアナッツの回以外は使われてねえ設定だろうが!それに神楽、お前定春の散歩なんざいつも俺か新八に押し付けてるだろうが!!!」

 

 そう叫びながら2人を力づくで引き寄せる。

 っが、それで素直に抵抗を止める2人ではない。

 

「ふざけんな!こちとら連載開始当初から頑張ってきてんだよ!!」

 

「こっちだって、OPとかじゃお前らよりも定春の散歩シーンに出演してるね!!」

 

「ざっけんじゃねえよ!お前らだけ逃がしてたまるか、銀さんだってさっさとトンズラしてえんだよ!!」

 

 そう言ってさらに力を込める銀時に、ついに根負けした2人が抵抗虚しくも引っ張り寄せられて捕まえられる。

 

「ぐへへへへ、こうなったら死なばもろともじゃい!お前らも道連れになってもらうぜ!!」

 

「あんたそれでもジャンプ漫画の主人公か!?」

 

「は、離すね銀ちゃん!あたしこんな所で死んだら定春が悲しむアルよ!」

 

「うるせぇ!!俺を置いて勝手に逃げようとした奴らのいう事なんざ聞くか!!逃げたかったらな、まずはこの銀さんを逃がしてから逃げやがれ!!!」

 

 新八の言う通り、ジャンプの主人公にあるまじき発言を連発する銀時。

 そんな銀時の肩をポンとミホークが叩いて銀時の視線を2人から自身に向けさせてこう言い放った。

 

「ん?」

 

「生憎、俺は女子供を相手する気はないが……。お前は逃がさんぞ」

 

イヤアアアアァァァァ!!!!

 




次回はダンまちのPVですけど、ちょっと本気出して書きます。


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